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Fate/Fanzine Circle-聖杯戦争封神陣-

1 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:16:43 izLHjmeE0









 太極より両儀に別れ、四象へ広がれ■■の陣――








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2 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:17:44 izLHjmeE0



 手を伸ばせば掴める未来が、目の前にあるさと嘘を吐いた。
 これはきっとその罪の履行。陶酔を願う余り性命双修を怠った外法者へ下される、幸福というカタチの罰である。
 痴れた音色に包まれた地球上に蠢くは、只覚めない極楽の夢に酔う――夢想の成れの果て、だけ。



 ◆  ◇  ◆  ◇


 
 鎌倉市――
 凡そ十七万人もの人口を抱えるこの街では、とある都市伝説が流布している。
 
 曰く、夜の高徳院で剣を携えた鎧武者を見た。
 曰く、八幡宮の屋根上より光の矢が舞い、遥か先を歩く人間を撃ち抜いた。
 曰く、黄金の輝きを放つ槍を担った、西洋風の騎士に遭遇した。
 曰く、早朝の空を天馬を駆って駆け抜ける、天使のような美少女の姿を捉えた写真がある。
 曰く、廃墟と成り果てた屋敷で、得体の知れない土の化物と、陣に座ってそれを生み出す魔女へ行き遭った。
 曰く、髑髏の面を被った黒子に触れられた男が、たったそれだけで息絶えた。
 曰く、天すら震わす嘶きをあげる怪物が夜な夜な現れ、それと出会った者は生きては帰れない。

 全てを挙げればキリがないほどの、フォークロアの数々。
 場所も、怪奇事象の姿形も、犠牲者の有無も、何もかもが一致しない。只一つだけ共通点を挙げるとするならば、それは"深夜の鎌倉市にて、現実の物とは思えない怪人・怪物と遭遇する"というコト。
 極東の島国と関係があるとは到底思えない、西洋風の騎士や聖女。
 生物学の何たるかを完全に無視した速度と軌道で天を翔ける異形、そしてその駆り手。
 そう来たかと思えば魔方陣を用いて土細工(ゴーレム)を生成し、近寄る者を食み殺す魔術師。
 果てには無差別に生命体を強襲する理性なき怪物と来た。――普通、こういった眉唾物の民族伝承というものには、その国家の国風、或いは伝説、宗教……等々、自ずと一定の共通点が生まれてくるものだが、鎌倉伝説にはそれがない。
 これを調べた民俗学の専攻者は、皆一様に頭を抱えたという。
 
 分からない。
 この時世、この日本という国、そして鎌倉という土地で。
 何故、こんなにも荒唐無稽な噂話が、伝説が……さながらパンデミックのように拡大しているのか、とんと見当すら付けられない。彼らに言わせれば、これは『明らかな異常事態』であるそうだ。
 そう。それこそ――語られる目撃談のその全てが、嘘偽りなき真実でもない限りは。


 そして、彼らが肩を竦めながら口にしたその喩えこそが、この鎌倉伝説の全てである。


3 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:18:32 izLHjmeE0


 日本。
 中国。
 ロシア。
 ヨーロッパ。
 中東圏。
 地球各所に伝わる古代神話。
 ――そして――この世界の人間には決して知る筈もない、別な次元世界より招来された者達。

 彼らは英雄。
 彼らは悪鬼。
 彼らは女神。
 彼らは天使。
 彼らは愚者で、彼らは英雄。
 形はどうあれ、世界へ名を刻み込むに値する所業を成した『価値ある魂』。
 本来無意識の底で眠り続ける筈のそれらが、三者三様の祈りを掲げて再び常世へと現界すること。
 そして彼らの影には、都市伝説を語る者すらも未だ気付いていない、そんな魂達を使役する資格を有す主が存在すること。
 何ら変哲のない街であった筈の鎌倉に異常事態を持ち込んだのは、大きく分けてこの二種の来訪者の所為である。
 
 叶わぬ願い。生前遂げられなかった宿願。若しくは大それたものなどではなく、ほんの気の迷いで抱いてしまった小さな祈り。素体は問わない。どんな矮小なものであれ、願いを抱いた時点で全ての人間が、この鎌倉へ招かれる資格を得る。
 では、己の祈るままに足を踏み入れた彼らが何をするのか。
 泰平の世――平和主義という微温湯で培養されたこの鎌倉市で、何を成そうとするのか。

 この『伝承』の頁を開いた読者諸君にとっては、最早論ずるまでもないだろう。



 それが聖杯戦争――――ヒトの願望が生む、戦争なのだ。




 「満たされぬ現状の打破を、覚めない夢へ委ねるのは――果たして罰せられるべきコトであるのかな」


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4 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:19:02 izLHjmeE0



 神すら問い殺す求道者と称された、黒衣の神父が言い嗤う。
 市内の教会にて神父を務めるこの男は、しかしながら言ってしまえば『人形』でしかない。
 鎌倉の地へ出現した聖杯が創り上げた、聖杯戦争を監督するに最も相応しい擬似人格。
 さりとて、愉悦を含んだ笑みに貌を歪めるその姿から無機的なものを感じ取る輩は居ないだろう。
 
 鎌倉伝説とは――ひいてはその原因となった、聖杯戦争とは何なのか。
 何故この鎌倉に、奇跡の願望器と謳われる聖遺物が顕れるのか。
 己は何から生み出され、何を以って終焉を迎えるのか。
 そして……鎌倉の聖杯戦争を望み、引き起こしたモノが何を考え、何を願うのか。
 彼は全てを識っている。全てを知るからこそ、公平なる審判者として、これより始まる戦争を見届けるのだ。
 召喚された主従は、開幕の日から着々と潰し合いの中でその数を減らし……今となっては既に当初の三分の一ほどとなっていた。真なる聖杯戦争に必要な英霊の数は、都合十四。謂わばこれまでの戦争は全て、来る本選へ名を連ねるに足る願いを選別する為の『予選帰還』であったと言ってもいい。


 「好きに願いを抱けばいい。この地に於いて、それを憚る必要など何処にもありはしない。
  おまえ自身の理想を求めて痴れろ、悦楽の詩を紡ぐがいい。
  おまえがそう願うならば、おまえの中ではそうなのだから」


 おまえがそう願うなら、その願いはきっと正しい。
 誰に憚ることがある――さあ、奏でろ。痴れた音色を聞かせてくれ。
 
 『言峰綺礼』という人格を越えた何処かから響くそんな声と、歪にゆがんだ二つの燃眼。
 太鼓とフルートの音色が響く月の中枢で、酔いの微睡みに揺蕩うソレが、聖なる杯の顕現を待っている。


5 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:19:52 izLHjmeE0
 ●ルール
 当企画は「Fate/stay night」作中に登場するシステム「聖杯戦争」をモチーフとした二次創作企画です。
 暴力表現やグロテスクな描写、キャラクターの死亡などが想定されますので苦手な方はご注意ください。
 非リレー企画にするつもりはございませんので、皆様どうぞお気軽にご参加いただければと思います。

 ●登場主従コンペについて
 当企画においても、参加者のコンペ制度を導入します。
 募集期間はとりあえず七月いっぱいくらいを予定していますが、場合によっては延長するかもしれません。
 最終的な主従枠数は十四枠の予定です。どうぞお気軽に投稿ください。


 地図
 ・基本的な地形などは現実の地図と同じ。
 ・主要な施設等についてはここで特筆しますが、それ以外に必要な物があればSSの設定として使用して頂いて構いません。
 

 ◯高徳院(鎌倉大仏)
 かの鎌倉大仏が祀られている、浄土宗の寺院。
 観光名所としても有名であり、昼間は特に人気が絶えない。

 ◯鶴岡八幡宮
 鎌倉八幡宮とも呼ばれる。
 源頼朝ゆかりの神社として、八幡社の中では全国有数の知名度を持つ。

 ◯学園
 市内有数の難関校として知られる。
 文武両道が校訓であり、その昔は軍学校だった時代もあるらしい。
 教科書に載るような偉人も卒業している、所謂名門校。

 ◯由比ヶ浜
 相模湾に面した海岸の名称。海水浴場として有名。

 ◯稲村ヶ崎
 鎌倉市南西部に位置する岬。
 由比ヶ浜と七里ヶ浜の間にあたる。

 ◯七里ヶ浜
 相模湾に面した2.9 kmほどの浜。

 ◯大船観音寺
 全長約25mの巨大白衣観音像(大船観音)で知られる寺院。
 シンボルともなっている大船観音の他にも、原子爆弾による犠牲者を弔う「原爆被災祈念碑」・「戦没慰霊碑」など第二次世界大戦による犠牲者を弔う碑や、地蔵尊などが立ち並ぶ。

 ◯鎌倉駅
 東日本旅客鉄道・江ノ島電鉄の乗車駅。
 日々多くの通勤客や学生が訪れる。

 ◯小町通り
 鎌倉駅東口バスターミナルの隅っこから北北東へ鶴岡八幡宮まで、若宮大路の西側をほぼ並行に走る通りの名前。
 商店街的な賑わいを見せている。


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6 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:21:13 izLHjmeE0
では早速、候補作を二作ほど投下致します。
片方は邪神聖杯黙示録〜Call of Fate〜様のコンペに応募させていただいたものの流用となっておりますが、ご了承いただければ幸いです。


7 : エミリー・レッドハンズ&バーサーカー ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:22:14 izLHjmeE0



  天に輝く銀の月よ
 「Silberner Mond du am Himmelszelt,

  その光は愛に満ちて世界の総てを静かに照らし
  strahlst auf uns nieder voll Liebe.

  地に行きかう人達を
  Still schwebst du über Wald und Feld

  いつも優しく見下ろしている
  blickst auf der Menschheit Getriebe.」


 鈴の鳴るような、少年とも少女ともつかない歌声が夜の工房へ木霊する。
 月は満月だ。白樺の幹を連想させる美しい白色でもって、帳の落ちた地上を照らす灯火の役割を果たしている。
 宛らそれは祝福の抱擁。聖夜と見紛う程の情緒と風情が支配する宵闇時に、その歌声は何物にも妨げられることなく、聞き惚れるほど甘美に響いた。
 歌声は風に乗り、しかし悲しきかな、夜の市街の喧騒に掻き消されて街中へ届くことは叶わない。
 
 
 「ああ月よ そんなに急がないで 教えてほしい 私の愛しい人は何処にいるの
  Oh Mond, verweile, bleibe, sage mir doch, wo mein Schatz weile.

  天空の流離い人よ 伝えてほしい
  Sage ihm, Wandrer im Himmelsraum,

  私はいつもあの人を思っていると
  ich würde seiner gedenken: mög'er,

  ああ 伝えてほしい 私があの人を愛していると
  leucht ihm hell, sag ihm, dass ich ihn liebe.」

 
 この天使の歌声を聴く者は、真実この世にたった二人しかありはしなかった。
 一人は少年自身。そしてもう一人は、彼を茫然と見つめる、彼と然程年の変わらないだろう背丈の小さな少女だ。
 少女の右手には、騎士の誓いが如く重なり合った――だが、それは聖なる剣とは似つかぬ三種の鎌――形状の、ヒトの血潮にも似た真紅の文様が浮かび上がっていた。
 彼女は状況が理解できないといった様子で、されど歌声を妨げるでもなく白髪の少年を見つめたまま、固まっている。
 もしも、何も識らぬ者がこの光景を見たならば、この奇怪極まる絵面以前に首を傾げるだろう。
 現在の時刻は午前二時を廻っている。
 夜間徘徊の非行少年ならばまだしも、こんな年幼い少年少女が……ましてやこんな、大の男ですら近寄ろうとしないであろう地下の一角にて一体何をしているのか?
 家出の延長線上ならば、可愛い物だった。
 解釈によっては、ひょんなことから家出を決意し決行した少女が、美しく不思議な少年と運命的な出会いを果たした――なんていう、ジュブナイルの始まりめいたものを感じ取れるかもしれない。
 ――が。彼女と『彼(かのじょ)』の出会いは断じて、そんな生易しいものではなかった。

 
 「愛しい人が 夢の中に私を見るなら
  Sieht der Mensch mich im Traumgesicht,

  その幻と共に目覚めてちょうだい
  wach' er auf, meiner gedenkend.」


 白雪を思わせる白髪、中性的な顔立ち。珠のような眼球の右は眼帯(トーテンコップ)にて覆い隠されている。
 それだけでも十分に目を引く出で立ちであったが、極めつけはその纏う装束だ。
 ――軍服。所々に刻まれた鉤十字(ハーケンクロイツ)は言わずもがな、彼が第三帝国の人間であることを意味する。
 少女も、最低限の一般常識としてそれが意味する事実は知っていた。


8 : エミリー・レッドハンズ&バーサーカー ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:23:12 izLHjmeE0


 「ああ 月よ 行かないで そんなに早く逃げないで
  O Mond, entfliehe nicht, entfliehe nicht! Der Mond verlischt

  あの人をその光で照らしてほしい
  verzaubert vom Morgentraum,

  その輝きで あの人が何処にいても分かるように
  seine Gedanken mir schenken.」

 
 ナチスドイツ、第三帝国。
 数多の非道な実験を執り行い、幾千の屍を積み上げた戦徒達の軍団。
 しかし第三帝国はWW2(第二次世界大戦)の敗北と共に解体され、今や歴史の闇に消え失せた――というのが正史の筈。
 ならばこの少年は何者か? 単に奇特で早熟な趣味を持ったコスプレイヤー? ――否々、戯言が過ぎる。
 彼は正真正銘、第三帝国の魔徒だ。
 戦場をその身一つで駆け巡り、そこいらの凡百が一生を費やしても届かぬであろう殺害数(キルスコア)を保有する殺戮中毒者、疑いようもない戦闘狂(バトルジャンキー)。
 嗚呼。
 ならば、自分はきっと、最上の『カード』を引いたに違いない。
 少女は確信すらしていた。
 魔術の心得に欠け、あるとすればとある遺品の権利者(オーサー)としての資格くらいのもの。
 だからまず、俗に言う英雄豪傑の召喚に挑戦したところでたかが知れている。
 頭を捻った。選択に費やした時間は一日二日ではない。期限一杯、あらゆる要素を加味し考え尽くした。
 その結果、彼女の算盤が弾き出した結論は――『狂化(バーサーク)』というドーピングによる強引な戦力増強だった。


 「ああ月よ そんなに急がないで 私の愛しい人は何処にいるの
  Oh Mond, verweile, bleibe, sage mir doch, wo mein Schatz weile――――」


 戯曲を吟じ終えた少年――バーサーカーのサーヴァントは、狂化しているとは到底思い難い理性的な動作でもってわざとらしく一礼してみせた。顔には無邪気な微笑みが浮かび……なのに決して見る者へ安堵を与えることがない。
 再度実感する。間違いなくこれは、自分にとって最上のカードだ。
 けれど――同時に、最悪の存在と行き遭ってしまったのだと。

 「Guten Abend、マスター。いい夜だねえ。こんな日には、なんだかダンスの一つでも躍りたくなる」
 「……あなたが、エミリーのサーヴァント?」
 「あのねえ。逆にこの状況で、僕が君の傀儡(モノ)じゃないなんて展開があると思うのかい?」

 ……そう、分かった。
 少女(マスター)、エミリー・レッドハンズは納得したように頷き、改めて己の召喚したサーヴァントを見つめる。
 いや、見つめているのは彼の外見ではなかった。もっと奥――正しくはその能力値(ステータス)。
 サーヴァントを従える者の特権として、誰もが持ち得る特殊能力……真名や宝具の詳細を確認することこそ出来ないが、背中を預ける相棒の力量くらいは把握しておかねば話になるまい。
 見る、視る――すると、聞いていた通りに狂戦士の能力がエミリーの視界へと浮かび上がる。

 「!」

 それを見て、エミリーは瞳を若干明るく染めた。
 バーサーカーのステータスは筋力から宝具に到るまで、殆ど全てに於いて高水準と言っていいものだった。
 耐久がEランクというのは言うまでもなく致命的な弱点となるだろうが、特に敏捷と魔力はずば抜けている。
 速度に任せた速攻戦術でワンショット・キルを狙う戦闘スタイル。
 ――悪くない、どころの話ではない。
 遠い勝利の栄冠が一気に近付いたのを感じ思わず笑みを零すエミリーだったが、その顔面が、唐突に少年の手袋に包まれた両手で優しく抑えつけられた。
 突然の行動に疑問符が浮かぶ。
 しかし、誇張抜きに眼前まで迫った彼の表情を見た瞬間、背筋が凍りつくのを感じた。


9 : エミリー・レッドハンズ&バーサーカー ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:24:01 izLHjmeE0

 「――君、綺麗な瞳をしてるね。まるで硝子玉みたいだ」

 その顔が象っているのは紛れもなく笑顔だ。
 口角は吊り上がり目は細められ、また彼も害意のようなものは少なくともこの瞬間は抱いていないに違いない。
 それでもエミリーは一瞬、一抹の不安を懐いてしまった。

 これは――ほんとうにエミリーのサーヴァントなの?

 他者を安心させ、喜びを分かち合うための笑顔。
 その意味合いが、目の前の狂戦士と壮絶に噛み合わない。
 獲物を貪る昆虫の複眼に見つめられるような、本能的恐怖がエミリーの高揚を瞬く間に冷却させていく。
 ともすればこのまま、顔を押さえつけた指が眦へ至り。
 眼窩に収まった己の眼球を抉り出す暴挙をこのサーヴァントが犯したとして……その想像に、全く違和感を抱けない。
 こいつはそういう蛮行をやってのける。それこそ、呼吸でもするような気軽さで。
 殺し屋という職業(カタ)に収まって結構な時間の経つエミリーも、こんな存在と遭遇するのは誓って初めてであった。
 
 「おいおい、そんなに怯えないでくれよ、悲しいなあ。僕が自分のマスターでいきなり愉しみ始めるような気違いにでも見えるかい? ――まあその認識が間違ってるかどうかは扠置いて。本当に安心して構わないよ。ハイドリヒ卿以外の人間に手綱を引かれるなんて屈辱以外の何物でもないけれど、聖杯だっけ? ソレを持ち帰れば、ハイドリヒ卿のお役に立てるかもしれないしね。だから好きに扱ってくれ。全てが終わるまで、僕は君の敵を殺し尽くす弾丸になってあげるから」
 「――うそ」
 「?」
 「それだけじゃないでしょう、バーサーカー。あなたが聖杯戦争に“乗る”理由」

 少年が口にした『ハイドリヒ』なる人名は、彼が第三帝国の戦徒であることを顧みれば容易に誰か察することが出来る。
 ゲシュタポの首切り長官。黄金の獣と呼ばれた男。このバーサーカーは口振りから察するに、かのラインハルト・ハイドリヒ長官へ並々ならぬ忠心を抱いているらしかった。
 彼はラインハルトへ聖杯を献上するという目的を確かに第一として抱いているのだろう。
 が、それだけではない。言葉を二言三言交わし、同じ空間を共有しただけの間柄でも分かる。
 この狂犬が闘争に求めるものなど――ひとつだ。

 「――くく、あはは……あーっはっはっは! 言うねえマスター、ご明察さ。何しろ地上へ降りてきたのは60年振りでね。いい加減死人を殺すのにも飽きてきた所なんだよ。おっと、英霊ってのも大半は死人なんだっけ? でもま、少しは違った感覚が味わえるかもしれない。相手のマスターで遊んでみるのも面白そうだしね」

 即ち、殺戮。
 男も女も老婆も子供も、家畜であれど殺し尽くせ。
 大虐殺(ホロコースト)の贄と刳べ、一人残さず己が喰らう。
 あまりにも分かり易い破綻者。そもそも倫理観というものを端から所持していない化外。
 ――なるほど。言葉が通じるとはいえ、これは確かに獣(バーサーカー)だ。


 「エミリー、だったかな? そういうわけで、少しの間だが君をエスコートしてあげよう。よろしくね、エミリー」
 「……こちらこそ、バーサーカー」
 
 エミリーの応対に少年は、んーと唸って小首を傾げる。
 
 「バーサーカーってのは、なんだかしっくり来ないねえ。面倒だから、僕の名前を教えてあげよう。これからはこれで呼んでくれ。なあに、どうせこれは外典の戦争さ。不利益なんてありやしないよ」
 
 聖杯戦争のセオリーである、真名の秘匿を狂戦士は否定する。
 彼はにっこりと、再びあの意味合いを履き違えた笑顔を浮かべて、その名前をエミリーへと教えた。


10 : エミリー・レッドハンズ&バーサーカー ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:25:25 izLHjmeE0
 「聖槍十三騎士団黒円卓第十二位、ウォルフガング・シュライバー=フローズヴィトニル」

 悪名高き狼(フローズヴィトニル)――
 此度の聖杯戦争に於いて、最凶の反英霊を召喚したエミリー。
 父の蘇生という願いを持つ彼女にとって、シュライバーは望んでやまなかった強力無比な手駒だ。
 おまけに意思の疎通がある程度可能な上、狂化の程度が低いにも関わらず並の英霊を凌駕するスペックをも併せ持つ。
 なのに、最高の滑り出しを切ったとはどうしても思えない。
 それどころか、まるで大きな破滅への第一歩を踏み出してしまったような…………

 
 「――わかったよ、シュライバー。必ず、エミリーを勝たせてね」
 「了解(ヤヴォール)」


 奇怪な不安の発芽と共に、エミリー・レッドハンズの聖杯戦争は幕を開けた。



【マスター】エミリー・レッドハンズ
【出典】断裁分離のクライムエッジ
【性別】女性
【マスターとしての願い】
父親を蘇らせる
【weapon】
『鮮血解体のオープナー』
ナイフの刃が折れ、コルク栓抜きの先端の欠けたソムリエナイフ。
クライムエッジと同じ「切断強化」の能力と、切った対象の傷の治癒を阻害する「止血停止」の能力を持つ。また、前記2つの能力を、オープナー本体と合わせて46本のナイフに適用できる「遺品属性付与」の能力もある。

【能力・技能】
『受注製品(オーダーメイド)』
人によって作られた、殺害遺品を使う権利者。
通常の権利者と違い、殺人衝動に支配されることは無いため、衝動を抑える行為も代償も必要とはしない。
元は、先代のウィッチー卿が殺害遺品を作り出すために生み出した殺人鬼の子孫。殺害遺品のオリジナル(元の持ち主。「名もなき犠牲者」と呼ばれる)となる人物に薬を使い、わずかに自我を残した状態で何人もの人を殺させ、その者の子供を産ませると、その中に低確率ではあるが殺害遺品の権利者が現れる。そのような子供を何百と生産し、その中から狙った能力を持った理想の殺人者として選別された者たち。殺人衝動に支配されることが無いのは、オリジナルの執念が弱く、権利者への精神汚染も少ないからである。

【人物背景】
紫髪の幼い少女。
殺害遺品「鮮血解体のオープナー」の権利者で、受注製品。元はスラムで育ち、名前も養父につけてもらったもの。
養父は亡くなった祝の父親で、深い愛情を与えられ、エミリーもまた養父に感謝し愛していた。しかし父親を忘れているかのような祝の姿を見て憎悪を抱き、祝を殺害し養父を蘇らせようとした。
近接戦闘の専門の訓練を受けており、その戦闘力は高い。

【方針】
シュライバー(バーサーカー)と組み、他の競争相手を皆殺しにする。
聖杯を手に入れる為ならば、手段を選ぶつもりはない。


11 : エミリー・レッドハンズ&バーサーカー ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:26:41 izLHjmeE0
【クラス】バーサーカー
【真名】ウォルフガング・シュライバー
【出典】Dies irae-Amantes amentes-
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:E+++ 敏捷:A++ 魔力:A 幸運:E 宝具:A

【クラススキル】
狂化:E
 通常時は狂化の恩恵を受けない。
 その代わり、正常な思考力を保つ。

【保有スキル】
騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

魂喰の魔徒:A
 十八万以上もの魂を喰らっていることから、マスターに消費させる分の魔力を自分で補うことが出来る。
 これによってシュライバーはその性能を鑑みて反則的に燃費の良いサーヴァントと化している。

精神汚染:A
 理性こそ存在するものの、意思疎通が出来ているようで同格以下とは決して噛み合わない。
 精神感応系の術をほぼシャットアウト可能だが――彼の場合、一種類のみ例外が存在するという。

【宝具】
『暴嵐纏う機械獣(リングヴィ・ヴァナルガンド)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:100人
素体はドイツの軍用バイク、ZundappKS750。アインザッツグルッペンの特別行動部隊長であり、常軌を逸した殺人鬼であるシュライバーの愛機であったために、彼の犠牲者たちの血と怨嗟に彩られた聖遺物となった。シュライバーの意のままに超々高速で機動し、一撃の吶喊で街一つを焼け野原にする。


12 : エミリー・レッドハンズ&バーサーカー ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:28:31 izLHjmeE0

『死世界・凶獣変生(ニブルヘイム・フェンリスヴォルフ)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大補足:500人
ウォルフガング・シュライバーの創造。
能力は 「どんな速度や行動であろうと必ず誰よりも速く動くことができる」 こと。
どんなに速い相手であろうとそれを上回る速度で先手を取り、またいかなる攻撃もそれを上回る速度で回避する、絶対最速かつ絶対回避の能力である。このルールの強制力は凄まじく、高速で直進している状態から一切減速することなく飛び退くなど、慣性の法則・物理的な常識を無視するかのような機動も実現する。のみならず、時間軸を逆転させたかのごとく、後手が先手を追い抜くという不条理さえも引き起こす。その性質上、相手が速ければ速いほど自身も速くなるため、無限速を誇る蓮さえもシュライバーには追いつけない。ただし「誰にも触れられたくない」という渇望から、他人に触れられたことを認識すると自己の世界が崩壊し、それだけで回復不能の致命傷を負うという欠点を持つ。

もっとも、この創造には二つの段階があり、第一段階は不完全な状態のものである。彼の渇望はあくまで無自覚なものであり、平常時ではこちらの創造しか使用することができない。聖遺物とも完全に融合しておらず理性も残っているため、万が一誰かに一度でも触れられてしまうと、それが女性の張り手程度であろうとも自身の世界が崩壊し、砕け散ってしまう。

第二段階にして真の創造は、どんな形であれ一度触れられたことで、シュライバーの自我が吹き飛び狂乱状態となった時に無意識に発動させた完全な創造。
発動時は詠唱が変わるだけでなく、髪は過去の姿まで伸び、右眼からはかつて彼が詰め込んだ犠牲者達の血や肉体、汚物が流れ出し続けるというおぞましい姿へと変貌する。また、それまで使用していた拳銃や聖遺物は完全に自身と融合し、徒手空拳による肉弾戦を武器とする。融合型である彼にとってはこの状態こそが本来の姿であり、真の実力を発揮する。
この状態のシュライバーは融合型の極致・生きる聖遺物そのものとなっており、最早その眼光や吐息、気勢まですらも、シュライバーから放たれるもの全てに聖遺物の力が宿っているため、ただの咆哮ですら聖遺物の使徒を殺傷することが可能となっている。能力自体は同じだが、狂乱状態であるため何も認識できず 「接触した事実にも気付けない」 ため、相手に触れられても自己の世界が崩壊しない。創造の性質上防御能力がないため、この状態でも(それが自分の攻撃によるものであろうと)相手に触れた部分は砕けてしまうが、彼が喰らった魂を再生燃料としてどんな損傷からも瞬時に再生・復元される。蓄えた魂の数も団員最高の18万5731と膨大であり、燃料切れなどを期待することはできない。

その性質上、シュライバー自身の意思では使用不可能。
マスターのエミリーによる令呪があって初めて開放することができるが、一度解き放てば全てのステータスが爆発的に跳ね上がるだけでなく狂化のスキルもEXランクまで上昇し、一切の意思疎通が不可能になる。
また、この状態のシュライバーは彼を屈服させた主君・ラインハルト・ハイドリヒ以外の命令を受け付けず、仮にマスターであれども彼の殺人対象に含まれてしまう為、実際には真の創造を解放させるのに令呪一画、加えてマスターへ危害を加える事を禁ずるのに令呪一画と、まともに戦力として取り入れようとするならば計二画の令呪を使用する必要がある正真正銘の鬼札。但し一度使ってしまえば……途端に彼は、最凶の凶獣として暴威を振り撒くことだろう。
問題はエミリーが如何にして、彼の真髄を知るかである。

【weapon】
狼のルーンが刻印されたルガーP08のアーティラリーモデルとモーゼルC96の二丁拳銃を使う。ただしこれは活動位階においては通常の銃であり、サーヴァントに対してダメージは与えられない。


13 : エミリー・レッドハンズ&バーサーカー ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:29:10 izLHjmeE0
【人物背景】
本名はアンナ・シュライバー(Anna Schreiber)であり、ウォルフガングは父の名。母が生粋の娼婦であり、家業を共にする女が生まれることを望むも、生まれたのが男であったため、男性器を切り落として強引に娼婦として働かせる。
彼自身も生きるため、そして母のため娼婦を行うが、容姿の美しい彼が母より客を取るようになると母が嫉妬のため彼に暴力を繰返し彼の右目をえぐり、さらに父も彼に性的と呼ぶことすら生ぬるい猟奇的な暴力を行うなどして、彼の精神は追い詰められていく。そして最終的に彼は「自分は男でも女でもなく、子供も生めないし孕ませない」「故に種として完成しており、不死身である」という妄想にとらわれ、母と父を殺害、さらにその後もシリアルキラーとして客を中心に殺人を繰り返す。その後1939年12月24日に自分と似通った容姿であるヴィルヘルム・エーレンブルグと出くわし殺し合いに発展するが、ラインハルトとメルクリウスの介入により中断、ラインハルトの圧倒的な力の前に屈服する。
幼く中性的な容姿に加え、言動も明るいが、幼少期の体験から他者と共感する機能が完全に壊れており、他人を殺害した後の「轍」としてしか計れず、彼の他者に対する感情は愛であれ憤怒であれ最終的には殺害に結びつく。

【サーヴァントとしての願い】
ハイドリヒ卿へ聖杯を献上する。

文字数制限に引っかかってしまい少し手間取りました。
続いて二作目を投下します。


14 : 師匠&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:30:15 izLHjmeE0


 こんな話がある。
 
 だれもいない森の奥で、木が倒れた。さて、そのとき音はしたのか、しなかったのか。


 ◆  ◇

 
 「くだらないお話ですね」

 ぼくは彼の命題に、呆れたようなトーンでそう返す。
 話の当事者であるぼくが言うのも妙な話だけれど、実に奇妙な光景だった。
 鎌倉のなんてことはない大学院、その辺鄙な学生寮の一角で、人間二人が語り合っている。
 無感動な灯りの照らす室内。男の「つれないね」という返し言葉がやけに深く響く。
 
 「これでも僕の知る限りじゃ、そこそこ評判の知れた命題なんだけどね。
  万物の観察者である人間を介さずに、木が倒れるという《現象》が発生する。当然無人の空間に、それを観測する人間は誰も居ない。なら、《現象》へ付随する音は果たして存在しうるのか」

 「あなたの理屈なら事のあらましを見届ける者が最初から存在しない以上、木が倒れたという部分からして疑ってかからなくてはいけません。そこをひとつの前提としている以上、音だってちゃんと鳴ったはずです」

 「グッド。オーソドックスだが、悪くない答えだよ。
  もっともこの場合、《音》というワードをどのようにして捉えるかで考え方は多少違ってくるだろうけど、音はしたっていうのが、ほとんどの人の回答だろう」

 部屋には鏡があった。
 学生が化粧なり顔の手入れを行いやすいようにと配慮された結果であろう常世の写し身。
 今まさに僕らがいる、朧気で無感動な灯りだけが照らすコンクリの箱。
 外側からは決して中身を窺い知ることのできない猫箱の内側を憚ることもなくそのからだへ写し、反射させ、閉じ込められたぼくらへ見せつけてくる――そう考えると、少し厭味だと感じないこともない。
 
 彼は鏡に手を伸ばして、裏面を少し押し回転させた。
 鏡面がこちらへ向いた状態でそれを止める。
 薄暗い、暗澹とした灯火の支配する箱の中で、彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべてまた問う。

 
 だれもいない森の奥で木が倒れた。
 その木の前には鏡が置かれていた。
 その鏡に、倒れる瞬間は映っているかどうか。


 「――――映っている」

 「へえ」


 数秒の時間こそ要したが、僕ははっきりと答えてやった。
 森の奥にある、年月の経過し傷んだ朽ちかけの樹木。
 何故かそれを映し続ける煤けた鏡台。
 やがて木が崩折れて、ゆっくりその身を横たえんとしていき、その光景を――鏡は、問題なく、映す。

 「命題の形を変えて誤魔化したつもりかもしれませんが、理屈はさっきと同じでしょう。《現象》が発生したのを前提条件としている以上、誰が見ていようが見ていまいが、映っていると考えるのが自然です」

 それを聞いた彼はニヤリと笑う。
 笑う――いや、これはひょっとして、嗤っているのか。
 次に彼は、どこから工面してきたのだろうか、ちょうどぼくの小指より少し小さいくらいの駒を取り出した。
 男。女。蛇男。……最後だけ些かまともでない気がするが、気にしたら負けな気がした。


15 : 師匠&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:31:11 izLHjmeE0

 「TRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)用に売られているコマだ。なんでもどっかの貴族の館の焼け跡から見つかった代物らしいけど、安かったから記念に買ってきた」
 「何の記念だよ」
 「ヒトとの出会いだけが一期一会なわけじゃない。機会は大事にしないとね」

 どこからどう聞いても曰く付きである代物を片手で弄び、男……戦士、だろうか?
 そのコマを、彼は鏡の前に置いた。

 「なにが映っている」
 「戦士のコマですね」
 「そうだね。実につまらん」

 そう言って、彼は戦士を軽く指で弾き、倒してしまう。
 もちろん鏡の中の戦士も倒れる。呆気なく。情けなすぎるくらいにあっさりと。
 彼は次に、ちょっとずれてみろという風なジェスチャーをしてみせた。
 言われるがまま、腰を少しだけ浮かせて姿勢をずらす。
 鏡の正面から、五十センチくらい右に移動したことになる。
 いつのまに置いたのか、左手の方に別の人形が立っていてそれが鏡の中に映っている。
 次に鏡へ映っているのは女のコマ――多分、修道女、だろう。

 「今度は、なんだ」
 「女。修道女です」
 「じゃあ、もっとこっちへ来てみろ」

 更に座る位置をスライドさせる。
 今度はかなり角度がきつくて見にくくなっているが、蛇男のコマが映っているのがわかった。

 「蛇男」

 そう答えた途端、ぼくは不思議な空間へ踏み出してしまったような錯覚を感じる。
 何度も味わった感覚。
 幾度。幾百度。幾千度と味わっても慣れる事のない、変質した世界。壊れた、日常がすぐそばに隣接している気配。
 あの天才の館でも。あの連続殺人でも。彼女とはじめて出会ったあの学園でも。
 害悪の細菌と邂逅した件の事件でも。彼女と別れ、彼と出会った魔法みたいな殺人の時にも。
 ――そして、《物語》の完結した、狐面の男との戦いの時にも。
 何度も感じたそれが、今すぐそこにある。
 たったひとり。
 彼らのように化け物めいた性質など何ら持たない男ひとりに、呼び起こされている。

 どうして蛇男が映っていていいんだろう。
 何度見ても確かに、鏡に映っているあたりに蛇男のコマが置かれている。
 それは紛れもない事実なのに、奇妙な違和感が身体の内側から這い出てきた。
 ぽんと肩へ手が置かれる。部屋の隅まで移動するようにと彼は言う。

 彼の声が、昏いトーンを帯びる。

 「さあ、なにが映ってる」

 鏡の角度がなくなり、今ぼくはほとんど真横と言っていい位置にいる。
 鏡面は平面というより線分に近づき、暗い金属色だけが見てとれる。 
 戦士も修道女も、もちろん蛇男も映っていない。


16 : 師匠&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:31:54 izLHjmeE0
 「さあ部屋を出ようか」

 彼は言葉だけで誘う。
 目を開けたまま幽体離脱したように、俺は師匠に連れられて部屋を出る。身体は部屋に残したまま。
 街の中を彼はどんどんと歩く。ぼくはついていく。
 立ち止まるたびに彼はぼくに訊く。

 「なにが映ってる」
 
 答えられない。
 学生寮のドアしか見えない。

 「なにが映ってる」

 答えられない。
 すべての始まりになった学生寮さえもう見えない。

 「なにが映ってる」

 やっぱり答えられなかった。
 やがてぼくらは森の中に入り、だれもいないその奥で、朽ちた木の前に立つ。
 木の前には鏡が置かれている。木の方に向けられた鏡。
 彼は訊く。その鏡の真後ろに立って。

 「なにが映っている」
 
 鏡の背は真っ黒で、なにも見えはしない。

 「さあ、なにが映っているんだ」
 
 分からない。分からない。
 ぼくの目は鏡の背中に釘づけられている。
 その向こうにひっそりと立っている朽ちかけた木も、視界には入っているのに、
 鏡の黒い背中、その裏側に映っているものをイメージできないでいる。
 分からない、分からない、分からない。
 頭の中が掻き混ぜられるようで、ひどく気分が悪いような、心地良いような……
 狂気の片鱗へ触れたような感覚を覚えながら、ぽんと肩を叩かれる感覚によって、置き去りにされていた体へ自分の意識が帰ってくる。離魂病徒が現実を見る。盧生が目を覚ます。
 
 「もう一度訊く」

 一瞬で、最初の学生寮に帰ってきていた。
 自分が壁際に座ったままだったことを再認識する。

 「だれもいない森の奥で木が倒れた。その木の前に置かれていた鏡に、倒れる瞬間は映っているかどうか」

 さっきとまったく同じ問いなのに、その肌触りは奇妙に捩れている。
 鏡の前には戦士が、さっきと同じ恰好で倒れている。
 
 焼き直しのようなその状況。
 彼も同じものを感じているのか、そのにやついた表情の奥にはどこか期待するような色が見て取れる。
 変わり者。そう呼ばれる人種は星の数くらい見てきた。
 彼もその一人。ぼくというちっぽけな戯言遣いに与えられた余生の中で出会った、現実離れした一人の人間。
 ただしこの彼は、あの鏡写しのように殺人鬼ではないし、あの狐のように人類最悪でもない。《物語》という大層な概念を唱えることもない。この鎌倉に招かれた意味すら不真面目に受け取っている始末。
 ぼくは一分で理解した。 
 頭の悪いぼくでこれなのだから、普通ならもっと速く気付くだろう。
 この男には死相が付き纏っている。
 ミステリ小説に喩えるなら、精々が第一の被害者。前振りだけをさんざ仰々しくやり通した挙句、当の本人は呆気なく死んで、奇怪な伏線ばかりを残し読者と探偵を悩ませる役割だ。


17 : 師匠&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:33:07 izLHjmeE0
 死相に彩られた手相を窶した右手が熱を持つ。
 有名な猫箱をもじった命題。
 
 初めの問い。
 音の場合は、《音》という概念を振動として捉えるのか、感覚として捉えるかの余地があった。与えられていた。
 対して、二番目の問い。
 鏡に映るという状態は、反射した光を観察者が認識するというところまでを含んでいる。
 だから、音と同じようには考えられない。
 理屈で考えればこうだ。
 これをわざわざぼくへ突きつけた理由はとんと分からない。分かる気もしないし、その行動にきっと意味はない。
 
 「さ、答えてみろよ。詐欺師」
 
 急かす彼に文句は言わない。
 文句の代わりに、言ってやった。

 「――――――――倒れる瞬間は」

 
 その回答に、この鎌倉を舞台とする桃源の宴の深淵に待ち受ける底知れない闇の存在を感じながら。
 さながら断崖に立たされた自殺者のように、ある種悟りの境地へ踏み込んだような無感情で容貌を彩りつつ。


 「映っている」
 「ご名答だ」

 ぼくが返したその答えに、ニヤリと彼は笑ってみせた。


  ◇  ◆


 大学二回生の秋の始まりだった。
 俺がオカルト道の師匠と仰ぐ人物が、ある日突然失踪した。
 師匠の家庭は複雑だったらしく、大学から連絡がいって、叔母とかいう人がアパートを整理しに来た。
 すごい感じ悪いババアで、親友だったと言ってもすぐ追い出された。師匠の失踪前の様子くらい聞くだろうに。
 結局それっきり。
 しかし、俺なりに思うところがある。
 
 小さく、辺鄙なアパートの一室。
 師匠が消えてからなんとなく熱が失せ、馴染みのオカルトフォーラムへの顔出しも控えめになってきてしまった今日このごろを日々自堕落に謳歌している、部屋というより箱に等しい空間の中に異物があった。
 あった、というのは少しズルい表現だ。
 これをここまで持ってきたのは俺だからだ。
 師匠の叔母へ追い出される時、荷物の散らかった部屋の中から掠め取ってきた。
 何故そんな行動に出たのかは自分でもわからない。だが敢えて理由を定義するなら、師匠がいつか言っていたとある言葉に帰結するのだと思う。
 
 『 ――ヒトという生き物は、そこにあってはならない違和感を見咎めたなら、もう二度と忘却することは出来ない 』

 俺は一目で気がついた。
 それがそこにあることは大した理由ではなかった。
 問題なのは、それの状態だったのだ。
 安物の木製テーブルの上に置かれているのは、表面に錆の浮いた金属製の箱である。
 大きさはトイレットペーパーくらいの円筒形。
 箱からは小さなボタンのようなでっぱりが全面に出ていて、円筒の上部には鍵穴のようなものもある。
 この手の品の例に漏れずボタンを正しい順序で打ち込まなければ開かない仕組みになっている。


18 : 師匠&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:34:31 izLHjmeE0
 
 それだけならありがちなおもちゃだ。
 歴史が古かろうが浅かろうが、所詮は同じことでしかない。
 この箱にまつわる最大の問題は、師匠が俺へ語ったとある曰くにあった。

 開けると死ぬ。
 それ以外に長ったらしい逸話があるのかどうかは知らない。
 それを唯一知っていたかもしれない師匠が空蝉してしまった以上、もう知る由もないことだ。
 箱のパズル相手に悪戦苦闘する師匠にきつい悪戯をかまされたことも記憶に新しいが、ここでは割愛しておく。
 きっとそれは重要な事じゃない。
 何より重要なファクターが、まさに目の前で口を開けている。

 「師匠」

 呟く。
 返事のある筈がない言葉を呟く。
 きっと、二度と戻っては来ないだろう人物の呼名を。

 「あなたは」

 箱は、開いていた。
 中は伽藍の洞。
 多分――この中には、最初から何も入っていなかったのだろうと思う。
 恐らく、これは門なのだ。
 開けた者を異界へ誘い、結果的に死なせてしまう、悪夢の箱。

 夢の中で拾った鍵の話。
 俺をからかう目的で話したのだとばかり思っていた、夏休みのそんな記憶が蘇る。
 あの時、既に彼は気付いていたのかもしれない。
 
 箱の中にあるものを。
 それを開けた時に訪れる、ともすれば死すら生易しく思えるような狂気の片鱗を。
 あの並外れた天運でもって察していたのかもしれない。
 ともかく。これでいよいよ俺にもはっきりと諦めがついた。
 師匠は、夢の中で鍵を開けてしまったのだ。
 そしてこの箱を手に、この街へ巣食う悪意よりも尚大きな闇の領域へと進んでいってしまったのだ。

 俺が彼の物語に干渉することも、彼が俺の人生に影響を与えてくることも、こうなった以上はもう二度とないだろう。
 
 ちっぽけな箱によって隔てられた壁は絶対のものとなって、明確に線引きをしていった。
 
 箱を無造作に部屋の隅へ擲ち、ごろりと絨毯へ横になる。
 すると、ぴんぽん、と軽い音がした。
 ああ、そういえば約束をしていた。
 思い出したように腰を上げると欠伸をし、俺は俺の人生へと歩き出す。
 一年ほどの間、僕が師匠と呼んだ人物との記憶へ背を向けながら。


【クラス】
 アサシン

【真名】
 “ぼく”@戯言シリーズ

【パラメーター】
 筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:A 宝具:EX

【属性】
 中立・混沌

【クラススキル】
 気配遮断:E
 サーヴァントとしての気配を絶つ。人混みに紛れるのに適している。
 暗殺者のクラスにあるまじき低さを誇る。


19 : 師匠&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:35:11 izLHjmeE0
【保有スキル】
 単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

 戯言遣い:A
 彼という存在が物語る、戯言を遣うという才能。
 名前の存在しないモノが相手でない限り、万人へと彼の戯言は通用する。

 探偵役:A
 殺人事件の現場に遭遇し易い。
 聖杯戦争の場においてはサーヴァント戦の爪痕の発見などの形でその才能は発揮されるだろう。


【宝具】
『無為式』
 ランク:EX 種別:概念宝具 レンジ:- 最大補足:∞
 無為式、なるようにならない最悪(If Nothing Is Bad)。
 事故頻発性体質並びに優秀変質者誘因体質、所謂トラブルメーカーという体質のことを指す。
 本人の悪意の有無に関わらず、彼の周囲の存在は意図せず勝手に狂い出す。
 故に彼の周りではいつだって異常事態が巻き起こり、彼の周りではいつだって奇矯な人間ばかりが集まる。
 この宝具において問題なのは、彼にとっては何の目的もなく、また何の意味もないということ。聖杯戦争的に言えばオンオフの切り替えが不可能で、更に概念武装であるため破壊するにはアサシン本体を消滅させなくてはならない。
 アサシンの存在は、必然的に殺人を起こし、愛憎に壊れ、友情に苦しみ、状況に狂う人間を作り出す。元から壊れた人間も寄ってくる。
 要するに無為式の根幹にあるのは《欠点》。観測するものと欠けている形が似ているから、自分の欠点を指摘された気分になり、心が揺れる。それを恋心と判断するか敵意と判断するかは扠置き前者は傷の舐め合い、後者は同属嫌悪であるが、彼の場合はそのハイエンド級である。
 無個性で誰とも似ていないけれどが、彼には欠けている部分があまりに多過ぎる。だから誰にでも似ている。それが他人の無意識を刺激する、ゆえに無為式。
 そして、彼はその上でうまく立ち回る。受けて立たずに受け流し迎え討たずに迎合する。他人をやり過ごしひらひら躱し避けいなす。戯言を弄して他人から逃げる逃れる逃亡する。
 そこにいられると落ち着かないのに、周囲の誰も彼に触れることかできない。幽霊か悪魔がそばにいるのと対して変わらない。だから、彼の周囲では歯車が狂い、誰かのスイッチが自然に入ってしまう。

 ――都市伝説に満ちたこの鎌倉に於いては、限りなく最悪の類である宝具といえよう。


【weapon】
 錠開け専用鉄具:
 アンチロックブレード。
 推理小説殺しと呼んでもいい道具で、鍵ならば大抵これ一つで開けてしまう。

 ジェリコ941:
 斜道郷壱郎研究施設で宇瀬美幸が所持していたものを紆余曲折の末に手に入れたもの。
 殺傷能力は高くこそないものの、戦闘能力皆無と言ってもいいアサシンが持つ武装の中では唯一サーヴァントを殺傷できる代物である。

【人物背景】
 主人公にして語り部。本名不明。《人類最弱》・「戯言遣い」。
 愛称は「いーちゃん」、「いーたん」、「いっくん」等多数。3月生まれ。『クビツリハイスクール』で萩原子荻と名前当てクイズをするが、様々な回答案がある上に、このクイズの答えが本名である保証もない為、正確な名前は判別不能。萩原子荻曰く「変わった名前」らしく、作者曰く「いい名前」らしい。但し、本人曰く「今までにぼくを本名で呼んだ人間が3人いるけど、生きている奴は誰もいない」。零崎人識に「欠陥製品」という異名をつけられる、人識の対偶的存在。19歳。神戸出身。血液型はAB型のRhマイナス。
 中学2年から5年間ER3システムに在籍していたが、親友の死を機に中退。現在は骨董アパートの2階の部屋を借り、京都の鹿鳴館大学に通っている。意外と女好きで惚れっぽい反面、男に淡白。年上が好みだが、年下の娘によくモテる。他にも日本地理に詳しくない、メイドマニア、華奢で女装が似合う、自己評価が極端に低い、よく病院送りになる、記憶力が悪い、人恋しがりの孤独主義者、アホ毛があるなどの特徴を持つ。欠けている部分が多すぎるため、他人を落ち着かせない才能の持ち主である。一般人としては戦闘能力はそれなりにあるらしい。

【サーヴァントとしての願い】
 形の定まった願いは持たない。が、犬死にをする気は一応、ない。

【基本戦術、方針、運用法】
 ――さあ、どうしようね。


20 : 師匠&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:36:05 izLHjmeE0


【マスター】
 師匠@師匠シリーズ

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争の辿る行く末を見届ける。聖杯? 犬にでも喰わせとけ。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 怪談への深い知識と実体験で培った経験。
 話術にも強く、推理力も非常に高い人物。

【人物背景】
 師匠シリーズと題される一連のシリーズにて、投稿者(ウニ)から「師匠」と呼ばれる男。
 ある種享楽的ともいえる性質の持ち主で、道祖神の祠を破壊するなど罰当たりな言動にも憚りがない傍若無人な人物。
 だがオカルト面における見識の深さと度胸は間違いなく本物で、怖いもの知らずという点でも間違いなくまともではない。彼にも師匠と仰いでいた人物が居るが、ウニと出会う前に死別してしまっている。
 先代の師匠の名は「加奈子」。
 彼よりも高い霊能力の資質を有した女性で、探偵事務所のような事務所のアルバイトを行っていた。彼もそれを手伝う内に様々な人物と出会い、また怪異の世界へ逃れられぬほどに浸かっていく。
 参戦時間軸はウニ編、大学二回生の秋の始まり、『葬式』前後からとする。

【方針】
 聖杯戦争そのものには興味がない。
 誉れ高い英雄サマのご威光を仰いでどうするんだい?
 僕が見たいのはただ一つ、この悪趣味な儀式を糸引く誰かさんのお顔さ、断じて胡乱げな願望器なんぞじゃない。
 ――さあ、最悪の夜が始まるぞ! このエンターテイメントに比べりゃ、ハリウッドなんてお粗末だね!


21 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 18:36:42 izLHjmeE0
長くなりましたが、これにて投下終了です。


22 : 名無しさん :2015/06/14(日) 20:33:06 U.6UPQvY0
投下乙です!
今度の舞台は鎌倉だー!


23 : ウェカピポの妹の元夫&ランサー ◆jqzZxVcA6Q :2015/06/14(日) 20:46:51 xzy0b9Rw0
投下させていただきます。


24 : ウェカピポの妹の元夫&ランサー ◆jqzZxVcA6Q :2015/06/14(日) 20:49:40 xzy0b9Rw0

「ひゃ〜〜〜〜!!お、おめえがオラのマスターなんかぁ〜〜っ!?」

サーヴァント・孫悟空は自身のマスターをすぐさま認識し驚愕の声をあげた。

「そうだ、我がしもべよ。私がお前の真のマスターだ」

悟空が驚くのも無理はない、彼のマスターはつい先ほどまで別人だったのだ。
ウェカピポの妹の元夫。本名を名乗ることなく、自嘲的にそう呼ぶよう告げたくたびれた男。
かって過ちを犯し、復権のために聖杯を得んとした彼の言葉が思い返される。

『思えば俺はウェカピポに対し恨まれて当然の事をした気がする。殴りながらヤリまくるのが気持ちいい女は他を探すとして、奴に面目が立つくらいの成果を国に持ち帰らなくっちゃあな』

悟空からの質問には彫刻のような表情で無視を決め込みながらも、自分語りは欠かさなかった元マスター(ウェカピポの元義弟)は、悟空の足元で死体になっている。
少し目を離して遠出していた隙に、新たなマスターを名乗る男に殺されたのだ。


25 : ケイネス・エルメロイ・アーチボルト&ランサー ◆jqzZxVcA6Q :2015/06/14(日) 21:11:25 FNiQB7uI0

「オラマスターっちゅうとサーヴァントを持ってる他のマスターにしか殺されねえもんだと思ってたぞ〜」

「フ、私の優秀さが知れるというものだろう。君たちが既に15組のサーヴァントとマスターを倒してきた強者とはいえ、私は君のマスターを倒した。つまり、君の敗退に手をかけているというわけだ」

凄かろう……
悟空に自慢げに語る男の名はケイネス。
魔術の本場・時計塔で確固たる地位を築きながら、この鎌倉とは別の地で行われる聖杯戦争に参加し損ねた男。
あろうことか不出来な弟子に聖遺物を盗まれ、すり替えられた巧妙な偽物に気付くのが遅れたのが運のつき、彼は全てを失った。
たった一度の失態が、神童と呼ばれ挫折なく育ってきた彼の運命をかき乱したのだ。
講義に参加する学生たちに当たり散らしたあげく、「婚約者を寝取られておかしくなった」などという根も葉もない噂を立てられて奇行を繰り返すようになった彼に情けをかけるほど魔術の世界は甘くはなかった。 
冬木の聖杯戦争が行われている間姿をくらまし、連絡すら取れなかった婚約者にはある日突然に罵倒と憐れみの目線と共に三行半を突きつけられ、実家からも縁を切られたケイネス。
彼にはもう、聖杯を得て復権する以外の選択肢は残されていないのだ。


26 : ケイネス・エルメロイ・アーチボルト&ランサー ◆jqzZxVcA6Q :2015/06/14(日) 21:12:47 FNiQB7uI0

「だが君は運がいい。このケイネス・エルメロイ・アーチボルトに見初められ、聖杯戦争を再び勝ち抜く事が出来るのだからな」

「ふ〜ん、まあいいや!オラ、聖杯を手に入れてつええ奴等がたくさんいる聖杯戦争に呼ばれてえんだ!よろしくなケイネス!」

「うむ、存分に使ってやるぞこの猿めが!」

悟空とケイネスの聖杯戦争が、今始まろうとしていた。




【クラス】
ランサー
【真名】
孫悟空@DRAGON BALL

【パラメータ】
筋力A+ 耐久A 敏捷A+ 魔力A 幸運A++ 宝具B

【属性】
中立・中庸

【クラス別スキル】
対魔力:C…第二節以下の詠唱による魔術を無効化する大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
戦闘続行:A+
往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、霊核が破壊されない限り生き延びる。  

単独行動:EX
マスター不在でも行動できるが、宝具を最大出力で使用する場合など、多大な魔力を必要とする行為にはマスターの存在が必要不可欠となる。


27 : ケイネス・エルメロイ・アーチボルト&ランサー ◆jqzZxVcA6Q :2015/06/14(日) 21:14:47 FNiQB7uI0

神性:C
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。ランサーは自力で神の境地にたどり着いた逸話を持つ。 

魔力放出(気):A+
生命エネルギーを放出し、同ランクまでの筋力ダメージを大幅に減衰させ、自身の筋力を倍加する。

心眼(真):A+++
実戦経験によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性が0%でも、負けない為の戦いで勝利に邁進できる。

【宝具】

『如意棒』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜200 最大補足:5
神域に至る為の祭具だが、ランサーは武器として愛用していた。
今では戦闘にはあまり使用しないが、その射程距離は驚異的。

『かめはめ波』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1
亀仙人が開発した技で、ランサーの代名詞といえる技。
両手から放たれる気弾が敵を貫く。

【Weapon】
気。肉体。

【人物背景】
惑星ベジータ生まれの戦闘民族サイヤ人で、サイヤ人名はカカロット。地球を商品にするために、「地球の人類を絶滅させる」という命令を施された上で生まれてまもなく宇宙船で単身地球へ送り込まれた。彼を拾い育てた孫悟飯によると、赤ん坊の頃は手がつけられないほど荒々しかったが、崖から落ちて酷く頭をぶつけた後は本編のような邪気のない性格になった。
心が清らかでないと乗れない筋斗雲に乗ることが可能など、非常に無邪気な性質を持つ。亀仙人いわく、度が過ぎるほど素直で真面目。
此度の聖杯戦争においては、聖杯のキャパシティの都合で生前の記憶はそのままに、ピッコロ大魔王の息子マジュニアを倒した頃の強さで召喚されている。

【サーヴァントとしての願い】
戦いたい。

【方針】
目についたサーヴァントにとにかく挑みかかり、聖杯を手に入れて次の聖杯戦争へ。


28 : ケイネス・エルメロイ・アーチボルト&ランサー ◆jqzZxVcA6Q :2015/06/14(日) 21:16:07 FNiQB7uI0

【マスター】
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero

【参加方法】
鎌倉で行われる聖杯戦争の噂を聞きつけ、手放せるすべての物を売り払い来日。予選中は有力な参加者の偵察に努めサーヴァントを召喚せず、令呪を強奪することでマスターになった。

【マスターとしての願い】
魔術師として復権する。婚約者とも復縁する。

【能力・技能】
時計塔で講師を務めるほどの優秀な魔術師。
属性は風と水で、流体操作、降霊が得意。戦闘は専門ではないが基礎的な治癒や気流操作による気配隠匿など、一通りの魔術の行使は可能。後述する礼装での戦闘が最も強力。

【weapon】
『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』
ケイネスが趣味で作った礼装であり、魔力を込めた水銀。流体操作により刃にも盾になる。盾には攻撃を感知して自動変形することも出来るが、圧力が不足すると破られることも。また脈拍や体温などの生体反応を感知することもできる。

【人物背景】
魔術の名門アーチボルト家の嫡子である優秀な魔術師。ロード・エルメロイと称される時計塔でも指折りの実力者であり、幼少期から華々しい成果を上げてきた。研究畑の出であるため戦場における実績がなく、経歴に箔をつけようと第四次聖杯戦争に参戦を試みる。しかし召喚のための触媒を教え子に盗まれてしまう。本来の時間軸ではランサー、ディルムッド・オディナを従え冬木に赴くのだが、聖遺物を盗まれたことに直前まで気がつかず聖杯戦争への参加に失敗。
それ以降は己のプライドを傷付けられ続ける毎日を送り、「プロフェッサー・寝取られ」などの浮名を流される現実に耐えかねて時計塔を出奔。
世間の荒波に揉まれ、かっての傲慢なまでの自信はなりを潜め、手段を選ばぬ狂気を有するに至っている。
余談だが彼の聖遺物を盗んだ弟子は、何故かその聖遺物を闇市場に売り飛ばし、格の落ちる槍の英霊を召喚した上で、令呪をすべて奪われた死体となって発見されている。(冬木の聖杯戦争の顛末は不明)
怒りをぶつける相手すら失ったケイネスには、もうこの聖杯戦争しかないのかもしれない。

【方針】
あらゆる手段を行使し聖杯を獲る。


29 : ケイネス・エルメロイ・アーチボルト&ランサー ◆jqzZxVcA6Q :2015/06/14(日) 21:16:48 FNiQB7uI0
投下を終了いたします
この候補作を考えるに当たり、第二次二次キャラ聖杯戦争の◆A23CJmo9LE氏の作品を参考にさせていただきました
この場を借りて、お礼を申し上げます


30 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 21:29:34 izLHjmeE0
 >>ケイネス&ランサー組
 投下お疲れ様です!
 SBRは全巻持っているのですがウェカピポの妹の夫が誰だったか思い出せませんでした。
 読み返してみて「ああ、あの殴りながらヤりまくる人か!」と理解しましたが、よく見ると1レス目の最後で死んでいましたね。
 ある意味では本編並に悲惨な目に遭っているケイネス先生ですが、悟空という超級の当たり鯖を引いているのでひょっとするとひょっとするかもしれませんね。
 改めて、本企画へのご協力ありがとうございました!


31 : 名無しさん :2015/06/14(日) 21:30:52 SVmo881Q0
>>1さんに質問です。
他のコンペ同様、マスターは最初は記憶を失った状態で登場させて思い出した時点で契約成立、で書いてもいいでしょうか?


32 : 名無しさん :2015/06/14(日) 21:42:31 LQUSTUNA0
>何ら変哲のない街であった筈の鎌倉に異常事態を持ち込んだのは、大きく分けてこの二種の来訪者の所為である。

・舞台は現実の鎌倉

> 召喚された主従は、開幕の日から着々と潰し合いの中でその数を減らし……今となっては既に当初の三分の一ほどとなっていた。真なる聖杯戦争に必要な英霊の数は、都合十四。謂わばこれまでの戦争は全て、来る本選へ名を連ねるに足る願いを選別する為の『予選帰還』であったと言ってもいい。

・開始時点で40組程の参加者による闘争が起きている

OPの上記2点から、特別な理由がなければ記憶の喪失などは起きないのでは?


33 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 21:51:34 izLHjmeE0
 >>31
 お答えします!
 舞台が現実の鎌倉なことは>>32さんの説明して下さった通りですが、本文中にあるようにマスターもまた他の世界からこの鎌倉を訪れています。
 つまり世界を移動する際に、他の聖杯スレさんのように記憶を無くしてしまうマスターもいるかもしれません。
 また、オープニング時点の時間軸では既に闘争は始まっているというのも>>32さんの言う通りです。
 しかし、候補作の時間軸を必ずしもオープニング後にしなければならない、というわけではありません。
 しても構いませんが、必要ならばそれ以前の時間軸でのお話を候補作として投下することも可能です。そこら辺は書き手さん次第、というわけですね。

 というわけで、他コンペさんのような形式での候補作の投下は問題ありません。
 ぜひふるってご投稿いただけると嬉しいです!


34 : ◆jqzZxVcA6Q :2015/06/14(日) 21:56:23 LQUSTUNA0
>>1氏、ご返答ありがとうございます
>>31さんとは別でお聞きしたいのですが、予選中の闘争において、他の書き手氏が投下された主従について目撃、交戦など言及することは可能でしょうか?


35 : 名無しさん :2015/06/14(日) 22:01:36 SVmo881Q0
>>1さん、ご返事ありがとうございます。
それでは少しネタばらしになりますが、他の二組が戦闘中に登場人物が記憶を取り戻す、という形で作成します。


36 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/14(日) 22:05:11 izLHjmeE0
>>34
うーむ、それは少々ご遠慮いただきたいですね。
申し訳ありません。


37 : ◆jqzZxVcA6Q :2015/06/14(日) 22:10:50 LQUSTUNA0
>>36
予選時に候補主従同士の面識を付けること禁止の件、了解致しました!


38 : ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:26:34 ezY7eDbs0
投下させていただきます


39 : LILITH-IZM 聖杯戦争外伝 ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:27:22 ezY7eDbs0




闇の存在・魑魅魍魎が侵食しつつある魔都・東京。
人魔の間で太古より守られてきた「互いに不干渉」という暗黙のルールも、
人が外道に堕してからは綻びを見せはじめ、人魔結託した犯罪組織や企業が暗躍していた。

しかし正道を歩まんとする人々も無力ではない。
時の政府は人の身で『魔』に『対』抗できる集団・『忍』のものたちからなる集団を組織し、人魔外道の悪に対抗したのだ。

――――人は彼らを『対魔忍』と呼んだ。







40 : LILITH-IZM 聖杯戦争外伝 ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:27:49 ezY7eDbs0


美しい女だった。


濡れ羽色の長髪はしっとりとしており、撫ぜた指を迎え入れるように柔らかく包み込む。
釣り上がった目、高い鼻、潤んだ唇。
一つ間違えば目も当てられぬような、しかし、決して間違いが侵されなかった絶妙なバランスで配置されている。
肉体は女性としての丸みを帯びているが、戦士としての鋭さも同居している。
長い足に肉付きのいい腰元、そして、スレンダーな身体に後から付け足したように不自然な乳房。
ともすれば不釣り合いとも取れるその肉体は、確かに男の情欲を駆り立てるものだ。

事実、美しい女を召喚して見せた男は頬を緩ませ、誤魔化すように長い金髪をかき上げた。

「おお、美しいサーヴァントよ。
 どうやら、私は聖杯戦争における重要な『優秀な英霊の召喚』という項目は成功したようだね」

源流に伊賀忍者の系譜を持つ井河の家系の当主の一人であり、最強の対魔忍と称された井河アサギ。
彼女は今、聖杯戦争と呼ばれる聖遺物を呼び起こす儀式に招かれていた。
最も、彼女は道具としてだ。
聖杯を起動させるために必要とされる聖杯戦争。
そのためには英霊が必要だ。
それ以上の知識は存在しないが、英霊が必要であるということは知識として与えられている。
そう、井河アサギはその英霊として呼び起こされていたのだ。

「私はアサシンのサーヴァント。問おう、貴方が私の召喚者?」

息を吸うほどに身も震えるほどの快感を覚える異常な身体を持ちながら、アサギは顕界していた。
英霊とはすなわち人々の信仰に依るものであり、人々の知る逸話から生じる要素を大きく持つ。
アサギにとっての異常性感を持つ身体は、まさしくそれだった。
かつて潜入していた魔に侵された都市、そこで失態を犯し、捕縛される。
そこで施された肉体改造。
全身を性感帯化。
感度は通常時の実に三千倍。
乳首の感度をクリトリス並にされ、射精の快感を伴い母乳を吹き出す。
およそ非人道的な肉体改造を受けてなお、アサギは屈しなかった。
強靭と呼ぶのも躊躇われるほどの精神力であらゆる快感を耐えぬいたのだ。

「前述のとおり私が君のマスターだよ、美貌の暗殺者殿」

そんなアサギの、険の強い鋭い美貌に満足したように、召喚者は小さく頷いた。
召喚者にとって、アサギの獰猛な危うさを持つ美しさは望むべきものだった。
となると、後は精神性のみだ。


41 : LILITH-IZM 聖杯戦争外伝 01 ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:29:01 ezY7eDbs0

「私の『創る』新世界を『作る』のは、強く賢い女たちだ。
 故に、私の求めるものを君は持っている」

甘いマスクで、甘い言葉を囁く。
召喚者――――エンブリヲは、蛇のように赤い舌を震わせてアサギへと語りかける。

「あらゆる世界において間違いは存在する。
 私にはそれは我慢できない……それはアサシン、君も同じはずだ」
「……そうね」

声が響くたびに、エンブリヲは笑みを深める。
強さを宿し、抜身の刃のようにエンブリヲに突きつけてくる。
なるほど、アサギは根本的にエンブリヲを信用していないようだ。

「おやおや、ひどく冷たい声ではないか……アサシンは私のことが嫌いなのかい?」
「嫌えるほどマスターのことを知っていないわ」
「これは手厳しい」

エンブリヲは甘く笑い、アサギは冷たくエンブリヲを見据える。
アサギは斬りつけるようにエンブリヲの全身を見つめ、エンブリヲは舐め上げるようにアサギの全身を見つめる。
アサギはエンブリヲの好色な視線に嫌悪感が走り、エンブリヲはふと見せた一瞬の変化に「おや?」と声を上げた。

「どうやら、アサシンの身体には何か秘密があるようだね」
「開口一番、随分と下劣なこと……五分ほどしか紳士の皮は被れないのかしら?」
「これは失礼、女性に身体を問いかけるなど無粋にも程があったかな。
 しかし、いくらなんでも異常過ぎないかな、それは」

アサギは無言で睨みつけ、エンブリヲは笑みをさらに深める。
エンブリヲは言葉を続ける。

「私の理想を共有してもらいたいのだよ、アサシン。
 しかし、働き蟻の法則をご存知かね?」
「経営学? 経済社会の世直しなら聖杯なんて必要じゃないんじゃないの?」

「いいや、必要なのだよ。
 どれほど理想を集めても、やがて全体のニ割は堕落する。
 新世界を創るには問題が大きすぎる……人間は本質的に愚かで、堕落を――――」
「新世界、ね」

「貴方が創り、女性が作る。
 うまく言い換えてるけど、結局は――――」

忍者刀が翻る。
光に差し迫る速さで引きぬかれたそれは、容易にエンブリヲの首と胴を切り離した。
ポタン、とエンブリヲの頭部が地面に落ちる。
それを、アサギは冷めた目で見下ろしていた。

「腐臭がするのよ、貴方。傲慢で、どうしようもない自尊心。
 こびり付いて離れない、堕落した魂の――――――――」


「ぬぉおぉぉぉぉぉぉおお!!?!?」


突然の苦しみの声が上がる。
アサギは身構えたまま、勢い良く声の方向へと視線を向ける。
そこには切り落としたはずのエンブリヲが五体満足の状態で苦痛の声を上げていた。
アサギは切り落として地面へと転がっているはずの頭部を探す。
すでに、その頭部はどこにも存在しなかった。


42 : LILITH-IZM 聖杯戦争外伝 01 ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:29:47 ezY7eDbs0

「なんだこれは、痛いぞ!?」
「……な、なに、を?」
「これが君の力か……アサシン?
 まさか、こんな痛みを……ああ、ダメだ、さっさと切り離しておこう」

エンブリヲはその言葉と同時に、苦痛に歪めていた顔を瞬時に元に戻した。
痛覚の遮断である。
アサギは後ずさり、エンブリヲは一歩踏み出した。

「やれやれ、私の理想が信用出来ないからすぐに手打ちかい?
 しかし、速い。トップクラスの速さなのではないかい?
 令呪を使う暇もなかったじゃないか」
「魔族……まさか、そんなものに使役されるだなんて」
「神も陳腐だが、悪魔はもっと陳腐だ。調律者と呼んでくれたまえ」

アサギはエンブリヲを魔族と判断した。
対魔忍が持つ退魔の力は、魔族にとって毒そのものだ。
通常の攻撃以上の痛みを起こす。
エンブリヲの苦痛の声は、その結果だろう。

「この戦争を勝ち抜くためには素晴らしい猛獣だが……首輪が必要なようだね」
「令呪を……ッ?」
「絶対服従などでは君の気高き意思を曲げることは出来んだろう?
 だから、別の方法だ」

エンブリヲはそう言って、アサギに見せつけるように右手を掲げた。
その右手の甲には羽を広げた天使にも女性器を貫く男性器にも見える刺青が走っていた。
刺青に、光が走る。

「『令呪を持って命じる――――我が行動を受け入れろ、アサシン』」
「……?」
「さて、それでは失礼するよ」

そう言って、エンブリヲがアサギの額へと手を伸ばす。
一瞬、抗おうとするが、言語化しづらい、非物理的な拘束が走った。
エンブリヲの手を払いのけることも、避ける事も出来ない。

「ほう、面白い身体をしているね」
「……下衆な言葉ね、実によく似合っているわ」
「では、鞭の時間だ。
 いや――――」

エンブリヲは頬を緩ませ、アサギは汗を流した。
男の情欲に溢れた、ごく自然的な笑顔だった。

「淫乱な娼婦の君には、飴になってしまうかな?」

光が走り、視界が揺れた。
アサギの喉から、意思に反して叫びが走る。


43 : LILITH-IZM 聖杯戦争外伝 01 ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:30:39 ezY7eDbs0


「んほぉぉぉおぉおぉぉ!!!??!?!?」


――――叫びという、嬌声が。

常人では発狂するほどの異常性感を、アサギは人知を超えた精神力で耐えている。
眠っている時も、起きている時も、敵と戦っている時も。
アサギはその快感に耐えていた。
故に、多少の自信があった。
傲りと言い換えてもいいかもしれない。
その傲りが今、調律者を名乗るものによって嘲笑われる。

「フィヒッ、おおぉおぉぉぉぉ、へぐぅ、あおぉぉぉぶぶぅぅぅ!?!?!」

すでに三千倍まで造り変えられていたアサギの感度が、さらに五十倍される。
三千倍から五十倍へと減ったわけではない。
エンブリヲは現在のアサギの感度を『五十倍』にしたのだ。

「お、おかしぃ……!こ、こんひゃの……朧の、きひゅうの……より……!」
「君にとっての」

すなわち、三千倍にさらに『五十倍』!
その感度、平常時の実に十五万倍!!
もはや、精神で耐えるだとか、快楽に慣れているとか、そんな領域の話ではない!!!

「ふぅぅ………ひゅずぅ……と、つぉけりゅ……!」
「脳みそを溶かされて、一度死んでみるのもいいだろう」

おっと、英霊なのだから二度目かな?
エンブリヲはそう言い放ち、ぴっちりと張り付いた対魔スーツの上から、ピンポイントで乳頭をつかむ。

「んほおんほぎぉぃぃぎぃぃぃいぃ!?!??!」

対魔スーツの摩擦だけで、かつての性的拷問に匹敵、あるいはそれ以上の快楽を得ていたアサギが吠える。
みっともなく目を見開き、無様に鼻を広げ、犬のように舌を突き出す姿に、エンブリヲは怪しく笑う。
そして、蛇口を撚るような気軽さで乳頭を握りつぶした。

「ファゥヒィ!? にゃにゃにうぉ……フィホッ?!」
「逝け、アサギ!」

近隣で雷が落ちたように、視界は光に塗りつぶされ、音は消える。
だが、それも一瞬。
まるで津波に飲み込まれるように、アサギの中から上下という概念が消える。


44 : LILITH-IZM 聖杯戦争外伝 01 ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:31:43 ezY7eDbs0

「死ね、アサシン!死んでしまえ!」
「んひゃ、ひゃめ、ひゃめえええええええええええ!!?!?!?」
「快楽の渦に飲み込まれて、溺死しろ!」
「ヒェハハにギぃーーんッ♪♪」

自身が立っているのか、倒れこんでいるのか、それすらも分からない。
ぶぎゅる、ぶじゅる、どゅじゅる。
自分という意思が消えるほどの快楽を受けて、アサギはあらゆる穴という穴から分泌液を放射する。
鼻汁は垂れ、目からは涙が流れ、嘔吐と見間違えるほどの唾液が口内からこぼれ落ちる。
股間からは小水と愛液が垂れ流しのままであり、射乳された母乳とともに対魔スーツの全体を大きく湿らせる。
まるで海へと飛び込んでいたかのような有り様。


「あ……ひゃ……あひゃぁ……♪」


膝から崩れ落ちる。
恐ろしいことに、これほどの快感を受けてなお、アサギは立っていたのだ。
しかし、それもこれまでだ。
糸の切れた人形のように、アサギは倒れこんだ。
エンブリヲはアサギの濡れ羽色の長髪を掴み、強引に顔を持ち上げた。
そして、アサギの唇へと自身の唇を付ける。
ビクリ、ビクリ、とアサギの身体が震える。
エンブリヲとアサギの唇が離れる。
エンブリヲは自身の唇とアサギの唇についた粘ついた糸を指で絡めとり、舐めとった。

(ぜ、ぜっつぁいに……)

アサギは快楽に歪んだ瞳を光らせる。
ゾクゾクと、エンブリヲの背中に快感が走った。

「君の汁は甘いな、アサシン。
 ふふ、喜ばしいことだ……どうやら、私は当たりを引いたようだ」


(ころひてやる……♪)


45 : LILITH-IZM 聖杯戦争外伝 01 ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:32:17 ezY7eDbs0

【クラス】
アサシン

【真名】
井河アサギ@対魔忍アサギ3

【パラメーター】
筋力:C 耐久:E 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:C

【属性】
中立・善

【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。

【保有スキル】
退魔:A+
対魔忍が持つ退魔の力、概念性の毒とも呼べる力。
魔に属する者に対して、通常の倍に匹敵するダメージを与える。
最強の対魔忍と称されたアサギは最高クラスのスキルランクを誇る。

敵地破壊:C+
相手の敵地に忍び込んで効果を発揮するスキル。
マスター・サーヴァントの区別なく、相手が気付いた陣地に潜入した時、敏捷のステータスがワンランク上昇する。

魔の疵痕:C
かつて奴隷娼婦であったという逸話から転じて生まれたバッドスキル。
本来治療されたはずの魔界医療による肉体改造の影響が残っている。
全身が性感帯と化し、乳首の感度もクリトリスと同等のものであり、また、射精さながらに快感に伴い母乳を射乳する。
ただし、気を整える丹田法により、精神力でその快感を無効化している。

【宝具】
『忍法・光陣華』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:10人
異能系忍法・隼の術を応用した技能と異能を兼ね備えた宝具。
人の理の外に存在するはずの魔族ですら常軌を逸していると称するほどの速さで行動する。
その正体は、時間を6秒ほど止めた世界の中でアサギだけが行動している。

『私の鳥籠の中の私』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アサギの中に棲むアサギ。
対魔忍とは魔族の血を宿した一族の者達のことであり、遠き過去に受け入れた魔族の血が覚醒することで人を超える。
筋力・敏捷・魔力がワンランク上昇する。
また、肌は生気を失った青白いものとなり、髪もまた色を失った総白髪となる。

【weapon】
忍者刀と太刀の二刀を持ち合わせている。
また、対魔スーツも紫紺のものと純白のものが存在する。


46 : LILITH-IZM 聖杯戦争外伝 01 ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:32:40 ezY7eDbs0

【人物背景】
井河アサギは対魔忍シリーズにおける主人公のひとりである。
「アへ顔の代名詞」として一躍有名になったのは、
PIXYから販売されたアダルトアニメ(2007年,むらかみてるあき)の影響による。
彼女はレイプ、イラマチオ、高速ピストン、などのプレイ経験が豊富であるばかりか、
異種姦や触手、ボテ腹、母乳吹きと知名度に恥じない実績を持つ。
さらに、身体中が性感帯に改造されても耐えられる精神力と、
亜人(馬)から激しく突かれても破裂しない内臓を併せもつ。
出典である最新作は30歳オーバーであり、「BBA属性」も獲得した。

どの作品でもほぼ確実に作戦を失敗した後、モブから散々な辱めを受けるので、生存さえも危うい立場になりやすい。
最新作では「お前の母親を助けるため娼婦になって潜入して来い」という無茶苦茶な命令を
教え子であるユキカゼや凛子にするあたり、オツムの出来もよろしくないと評判である。
寧ろ無能にも程があるが、エロゲヒロインだからしょうがない。

チンポになんか屈しない → オぉぉぉんンんおマンゴイグイグーーッ!!、の流れを見ると
『堕ちるの早すぎ……』、『ハイハイ、妹のため妹のため』等と感じるプレイヤーも少なくない。
正直戦士としては使えても(光速の斬撃を普通に見切って避けるなど身体能力だけは異常)、
忍者としては無能でどうしようもない女である。
『アサギ3』ではついに肉体改造なしでも普通にアヘ顔を晒す事が判明。
しかし、もはやプレイヤーからは「知ってた」「様式美」などの反応しかない。

【基本戦術、方針、運用法】
高い暗殺技術を持つと同時に、白兵にも秀でているため攻め込むという方針においては様々な手を取ることが出来る。


47 : LILITH-IZM 聖杯戦争外伝 01 ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:32:56 ezY7eDbs0

【マスター】
エンブリヲ

【マスターとしての願い】
新世界の創造

【weapon】
武器は所持していない。

【能力・技能】
不死であり、相手の肉体感覚も操作でき、あまつさえ時間と空間すらも操作できる、実質的な神。
ただし、自身の城とも言える場所を離れたために、この舞台においてどれほどの力を持ち得ているかは不明。

【人物背景】
人類を超えた存在ゆえ彼らの行動を見物する。
また、かつて世界を破壊したとされるラグナメイルの操縦者でもある。
拳銃で頭を撃ち抜かれても、別の場所から何もなかったかのように何度でも平然と現れるなど、
死を超越したかのような仕草を見せる。

指先で触れた相手の痛覚と快楽を自由に操ることができる。

本人曰く「調律者」である。
かつて、争いの絶えない人間たちの状況を憂い、争いや差別の無い理想郷を創るためにあらゆるものを思考で操作できる高度な情報化テクノロジー「マナ」やそれを扱うことができ争いを好まない穏やかで賢い新人類を創造した。
それゆえ、ノーマが先祖がえりを起こしただけの「普通の人間」であることを承知もしており、彼個人にノーマへの差別意識はない。本人曰く、「1000年は生きている」とのこと。

世界会議でアルゼナルの状態に頭を痛めている首脳たちに対して
『ドラゴンに全面降伏するかドラゴンを皆殺しにするか、そうでなかったらこの世界を作り直す』
と宣言・その考えに嬉々と賛同したジュリオに指揮権を任せる。
しかしジュリオの命令で行われたノーマの大量虐殺を身勝手な暴走とみなし、自機のディスコード・フェイザーでジュリオを粛清した。
時間と空間を自由に操ることができ、その力でタスクの父親とその仲間を石の中に埋めて殺害している。
アンジュたちの世界とサラたちの世界を融合して一つの地球に作り直すためのテストとしてサラたちの世界にも同じ攻撃を仕掛けるが、
焔龍號の「収斂時空砲」とヴィルキスの「ディスコード・フェザー」の共鳴によってかき消された。
そしてアンジュがサラの世界にいる間にサリアらを仲間に加えた上に彼女らにラグナメイルを与える。
「永遠語り」は宇宙を支配する法則を彼がメロディーに変換した物である。

【方針】
聖杯を手に入れ、新世界を創り、自身の選んだ優秀な女性に作らせる。


48 : ◆b1fQe3cqbw :2015/06/14(日) 23:33:12 ezY7eDbs0
投下終了です


49 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 00:08:16 2.B7Esv.0
>>エンブリヲ&アサシン組
投下お疲れさまです!
これまた意外なところからの出展ですが、どうやら普通に戦えそうですね。
ちなみに私は対魔忍シリーズではユキカゼちゃんが好きです。
改めまして、本企画へのご協力ありがとうございました!


50 : 名無しさん :2015/06/15(月) 00:08:32 d/26GHK20
投下乙です
今のところマスターは寝取られ男率が100%ですね……可愛い女の子のマスターも見たいです


51 : ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:33:33 EXE4Ul7M0
新たなスレ立てお疲れ様です
さっそくですが、自分も投下させていただきます


52 : 闇の仮面 ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:34:22 EXE4Ul7M0
「はぁ、はぁ……はぁっ……」
 硬い足音が闇夜に響く。
 街灯の明かりも落ちた街を、人影が必死に駆け抜ける。
「ガウゥッ!」
「ひっ!」
 咆哮に、慌てて身をかわした。
 鋭く飛びかかる爪が、逃げ惑う男の身を掠め、アスファルトにぽたぽたと斑点を落とした。
 切り裂かれた傷はずきずきと痛むが、それを気にしている余裕はない。
 一歩でも立ち止まろうものなら、そこに待ち受けているのは、もっと悲惨な運命だ。
(死ぬ)
 追いつかれれば死んでしまう。
 闇から迫る襲撃者が、立ちどころに自分を殺してしまう。
 だからこそ男は走り続けた。脇目もふらずに逃げ続けた。
 ぜいぜいと息を切らしながら、みっともなく汗を振りまきながら、懸命に先へ先へと進んだ。
(なんてことだ)
 こんな不幸があってたまるかと、男は内心で吐き捨てる。
 現状に至るまでの状況には、やや複雑な説明がいる。
 今まさに逃げ惑っている男は、つい数分前まではマスターだった。
 超常の英霊――キャスターのサーヴァントを従え、聖杯を賭けて争う魔術師だった。
 そして彼はまさに今夜、別のマスターと対峙し、勝利した。
 基礎スペックで劣るキャスターが、正面切って戦ったのだ。
 魔力切れ手前になるまで追い込まれ、死力を尽くして勝利できた――そんなギリギリの戦いだった。
(アイツさえ出てこなければ……!)
 そこに現れたのが、この襲撃者だ。
 闇から吐息を響かせるのは、2匹の獰猛な狼だった。
 白と黒の狼は、突如物陰から現れると、男とキャスターを襲い始めた。
 そしてその素早い動きに、面食らったその瞬間――もう1つの影が現れた。
(どこから来る)
 走りながら周囲を見回す。
 右へ左へと視線を向ける。
 襲撃者は狼だけではない。残る3つ目の影が、隙を作ったキャスターを、一瞬で絶命させたのだ。
 間違いない。あれはサーヴァントだ。人間には不可能な早業だ。
 恐らくは狼をけしかけたであろうサーヴァントが、今も闇の奥に潜んで、自分の命を狙っている。
 どこだ。奴はどこへ消えた。
 こんな絶好の機会を、ちんけなしもべだけに任せて、撤退するなんてことはありえないはずだ。
 目の前の曲がり角を曲がり、一際大きな息を吐いて、更に加速しようとした瞬間。
「――がっ!?」
 びゅん、と風が鳴った気がした。
 押し潰すような衝撃だった。
 上から押さえつけてくる何かによって、男は姿勢を崩されて、道路の上に倒れ伏した。
 しびれるような激痛が、体の前面を走った後に。
「……ぁ……」
 焼けつくような熱い痛みが、背中から胸へと広がっていった。
 生温かい液体が、地面から湧き出てくるようにして、胸から四肢へと広がっていった。
 何故か意識が薄れていく。逃げなければいけないというのに、眠気のような感覚が襲う。
 何が起こったのかも分からぬまま、それでも逃げなければと思い、男は頭を持ち上げた。
 視線が上へと向かった瞬間、男は遂にそれを見た。
 白い月光に照らされる、大きく構えた寺の門を。
 それをバックにして佇む、闇色のコートを羽織った影を。
 そしてコートの襟から覗く――骸骨が剥き出しになった顔を。
「………」
 最期に確かに見届けたのは、眼窩の奥から放たれる、血のごとく赤い眼光だった。
 背後の門のその上に、更に人影が立っているような――そんな風にも、見えた気がした。


53 : 闇の仮面 ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:34:52 EXE4Ul7M0


 未来の忍を育成する、私塾月閃女学館。
 プロの認可を受けていない、忍学生の身でありながらも、そのエリート校の代表ともあれば、実力は十分と言っていい。
 不幸なキャスターのマスターを、手駒を差し向け襲わせたのは、そんな忍の卵だった。
 月閃女学館の3年生、叢。
 極端に面積の小さい鎧と、赤い陣羽織を纏い、顔には恐るべき般若の面。
 そんな異様な風体の彼女は、高徳院の門の上に立ち、戦いの一部始終を見届けていた。
 鎧の隙間から覗く谷間に、赤々とした令呪を刻んだ、その両胸は豊満だった。
「全て、片付いた」
 その傍らに寄ったのは、またしても仮面の男だった。
 まるで蝙蝠の羽のような――不気味にはためく黒コートに、全身をすっぽりと包んだ男だ。
 その頭を包んでいるのは、髑髏のようなフルフェイス・マスクだ。
 口元だけが露出していることから、辛うじてそういう頭なのではなく、仮面を被っているのだと認識できた。
「ご苦労だった」
 低く、唸るような声だ。
 まるで少女らしくはなかった。
 道路から門へと飛び上がり、隣に並んだ男に対して、叢はねぎらいの言葉をかけた。
「小太郎と影朗もな」
 今度は闇に向けられた声に、うぉん、と吠える声が応じる。
 敵マスターを襲った狼は、襲撃者ではなく、叢のしもべだ。
 忍の心が具現化させる、力の象徴・秘伝動物――それが狼の正体だった。
「これでいいんだな」
 髑髏の男が問いかける。
 尋ねたのはこの場の始末ではない。根本的な方針についてだ。
「構わぬ。我は既に決断した。この手を血に汚した以上、今更反故にするつもりはない」
 叢の答えは、即答だ。
 一瞬の間も開けることなく、迷うことなく言い放った。
「ならば構わない。そう決断し命じるのなら、マスターの前に立つ敵を、迷わず闇へと導くだけだ」
 自分はそれで構わないと、叢のサーヴァントは、そう応えた。
(不気味な奴だ)
 霊体化し姿を隠す男に、叢はそんな感想を抱く。
 こいつが召喚されてから、これで丸一日くらいが経つが、その心は全く読み取れない。
 悪趣味な仮面のその裏で、一体何を考えているやら。
 無口な言葉のその裏で、どんなことを思っているやら。
 それこそ深く広がった、闇の奥底を覗くような、そんな手応えのなさを感じたのだ。
 もっとも、仮面についても無口についても、あまり人のことを言える身分ではないが。
(まぁいい)
 とはいえ、それはさして重要ではない。
 考えるべきは奴の心理よりも、この聖杯戦争を勝ち残ることだ。
 幸いにして骸骨男は、自分に従うと言っている。それが揺るがないのであれば、戦い抜くには問題はないだろう。


54 : 闇の仮面 ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:35:37 EXE4Ul7M0
(それならば問題はない。我は我の願いのために、戦い続けるだけのことだ)
 叢には叶えるべき願いがある。
 それは聖杯とやらの力でなければ、決して果たせない願いだ。
 悪忍の根絶、鳳凰財閥への復讐――成し遂げたい目標は山ほどあるが、それらは力で実現できる。
 憎むべき悪を滅ぼすことも、八つ当たりじみた恨みを晴らすことも、この手で果たしてしまえばいい。
 故に真に願うべきは、人の力の及ばぬ奇跡。
 時を過去へと巻き戻し、失われてしまった恩人の命を、現世へと呼び戻すことだ。
(すまない)
 きっと月閃の仲間達は、この決断を許さないだろう。
 喜ばしい結果を受け止めながらも、私欲のために人を殺す自分を、悪だとなじり非難するだろう。
 それでも、これだけは譲れない。
 たとえ鬼畜と罵られようと、屍を踏みにじり歩く道だろうと、進まなければならないのだ。
(待っていてくれ――黒影様)
 伝説の忍・黒影の命。
 自分達選抜メンバーを救ってくれた、その恩人の命を呼び戻す。
 祖父のように慕い愛した、あの懐かしい男を蘇らせ、再び現世へと連れ帰る。
 それが叢が胸に誓い、叶えると決めた願いだった。
 羅刹修羅道をひた走る、叢の原動力だった。
「……そろそろ戻るか」
 己の道を再確認し、2匹の狼を引っ込めると、叢は門より飛び降りる。
 いつまでもここにはいられない。深夜徘徊はさっさと切り上げ、仮住まいに帰って寝なければ。
 体調コントロールを疎かにしては、勝てる戦いにも勝つことはできない。
 そう考えながら石階段を踏み、もう一度軽く飛んで、表の道路へ。
 先に右足を伸ばして、アスファルトへ着地しようとした瞬間。
「むっ……」
 少し姿勢を崩して、よろけた。
 転ぶほどのことでもない、小さなバランスの乱れだった。
 現にすぐさま左足を伸ばして、きちんと態勢を立て直していた。
「……あ」
 だが、そうもいかなかったものがある。
 体のようにはとどまれず、転げ落ちてしまったものがある。
 からからと音を立てたのは、顔に着けていた能面だ。
 般若の面がぽろりと落ちて、道路の上を滑っていって、宵闇に消えてしまったのだ。
「あ」
 荒野に花が咲くように。
 夜空に星が瞬くように。
 仮面の奥から現れたのは、素朴な少女の顔だった。
 長身と甲冑には似合わない、触れれば壊れてしまいそうな、可愛らしい顔立ちだった。
「あ……」
 その顔が、赤く染まっていく。
 低かった叢のその声が、高く震えたものへと変わる。
「あああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」 
 瞬間、叢は絶叫していた。
 情けない悲鳴を上げながら、稲妻の早さで崩れ落ち、四つん這いで周囲をまさぐり始めた。
「あわわわわわわわっ! どうしようどうしようどういたしましょう! めめめ面が我の面がっ!
 アサシンさんアサシンさん見ていますか!? ああいやむしろ我を見ないで! 見ないままお願いを聞いてください!
 我の面を探してくださいどうか一緒に探してください! あれがないと駄目なんです! 恥ずかしすぎて死んじゃうんです!
 ああっ駄目駄目こっちを見ないで! 我なんか見ても得はないです! むしろこんな見苦しいものを見せびらかしてしまってすみません!
 ごめんなさいごめんなさい本当にごめんなさいっ! あああ早く探さないとこんな顔なんか隠さないと……!」
 月閃女学館の叢雲。
 彼女には致命的な弱点がある。
 彼女は極度の恥ずかしがり屋で、顔を何かで隠していなければ、調子を維持することができないのだ。
「………」
 アサシンのサーヴァント――名を、スカルマン。
 姿を消したばかりの男は、呆れたように沈黙しながら、再びその身を現したのだった。


55 : 闇の仮面 ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:36:06 EXE4Ul7M0


 鎌倉の街のその裏に、1つの影が見えるという。
 影は鋭い刃物を持って、逃げ惑う者を追い立てて、その命を奪うのだという。

 そいつは闇に溶け込むような、漆黒のコートを身に纏い。
 白い髑髏の顔だけを、月の明かりで光らせていたそうだ。

 故に影はこう呼ばれている。
 闇に隠れた殺し屋は、姿にちなんでこう呼ばれている。

 骸骨男。

 それこそが、鎌倉の街を駆け巡る、黒い噂の呼び名だった。




56 : 闇の仮面 ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:36:40 EXE4Ul7M0
【クラス】アサシン
【真名】スカルマン
【出典】スカルマン(アニメ版)
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:D+ 耐久:C 敏捷:B 魔力:E 幸運:E 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:B
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【保有スキル】
継承:B
 スカルマンは死亡した際に、マスターに宝具『闇の奥処で髑髏が嗤う(スカルマスク)』を遺し、所有権を譲ることができる。
 ただしその反動は人間の身に余るものであり、装着し戦闘を続けるうちに、肉体へのダメージが蓄積されていく。
 また、宝具『闇の奥処で髑髏が嗤う(スカルマスク)』の機能により、
 スカルマンの持っていた記憶・経験・戦闘技術がそのままマスターにフィードバックされるが、
 それにより人格が塗り潰され、精神汚染スキルが付与されてしまう。

精神汚染:B
 精神干渉系魔術を中確率でシャットアウトする。
 ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。真の悪とは無口なものである。

心眼(真):D
 髑髏の記憶によって引き出された洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。

騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【宝具】
『闇の奥処で髑髏が嗤う(スカルマスク)』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
 古代文明の遺跡より出土した、頭蓋骨の形をしたマスク。
 本来は遺跡のオーバーテクノロジーを制御するためのものであったが、
 その副産物として、装着者に超人的な運動神経を与える効果がある。
 ただし肉体強度が増すわけではないため、打たれ強さや傷の治癒力は向上しない。
 普段は口元部分のみが露出しているが、ここを閉じることで、瞬間的に機能をブーストすることができる。


57 : 闇の仮面 ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:37:17 EXE4Ul7M0
【weapon】
ブラスナックル
 敵を殴り倒すためのナックルガード。普段は袖口の装飾品になっており、これが可動・変形して拳に装着される。

スカルスピア
 伸縮ギミックを持った槍。普段は袖の内側に仕込まれている。
 穂先はスカルニードルとして分離し、指の間に挟んで叩き込むことも。

スカルナイフ
 襟の裏に隠し持った、無数の投げナイフ。

スカルマシン
 スカルマン専用の大型バイク。

【人物背景】
大企業・大伴グループの支配下にある地方都市・大伴市。
その影で暗躍していたと噂される、髑髏のマスクを被った殺し屋である。

そのマスクの正体は、付近の神楽遺跡から出土した、古代文明の超技術を注ぎ込まれたオーパーツである。
マスクの存在意義と目的は、同じく遺跡から出土し、現代の人間に悪用された、新人類の技術を消し去ること。
そのためにマスクを被った者は、闇の殺し屋・スカルマンとなり、人間社会に紛れた怪物達を、次々と抹殺したのであった。

マスクを被った人間は、マスクが伝える目的意識に従い、戦い続ける修羅となる。
そのマスクは人々の手を渡り、何人かの装着者を迎えたようだが、今回召喚されたのが、そのうちの誰であるのかは分からない。
そもそもスカルマンという存在を顧みれば、誰が装着者なのかということには、さして意味はないのかもしれない。

【サーヴァントとしての願い】
?????

【基本戦術、方針、運用法】
直接戦闘を得意としないアサシンらしく、ステータスはさほど高くない。その逸話通りに闇に隠れ、密かに敵を倒していくのが常道と言えるだろう。
また、サーヴァントが倒れた後にも、マスターに勝ち抜くための手段を遺す能力を持っているが……それも茨の道であることは、十分に理解した方がいい。


58 : 闇の仮面 ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:38:01 EXE4Ul7M0
【マスター】叢
【出典】閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-
【性別】女性

【マスターとしての願い】
黒影を蘇らせたい

【weapon】
包丁
 血塗れの出刃包丁。
 包丁といえどそのサイズは大きく、分厚い刀剣と言っていいほどである。


 波打つような形状の穂先を持った槍。
 右手に包丁を、左手に槍を構えるのが、叢の戦闘スタイルである。

秘伝忍法書
 必殺技・秘伝忍法の力を引き出すための巻物。

般若の能面
 本来は武器ではない。しかし叢にとっては、決して手放せない一品。
 極度の恥ずかしがり屋である叢は、何かで顔を隠していなければ、精神の平静を維持できない。
 逆に言えば、顔を隠せるのであれば、ゴミ袋であっても構わない。

【能力・技能】

 日本に古来から存在する、諜報や暗殺を主任務とした工作員。
 月閃女学館の選抜メンバーとして、ひと通りの忍術をマスターしている。

忍転身
 現代の忍の戦闘装束。この術を発動した叢は、和風のビキニアーマーと陣羽織を纏う。

忍結界
 忍同士の決闘時に発動される結界術。自身と対戦相手を一定空間内に閉じ込めることができる。
 本聖杯戦争では弱体化しており、バスケットコート程度の範囲にしか展開できない。

命駆
 命懸けの覚悟で臨む、決死の戦闘形態。
 防御力が半分以下になるが、追い詰められたことで潜在能力が解放され、攻撃力が大幅に向上する。
 なおこの状態になった瞬間、叢の衣服は全て弾け飛び、下着姿になる。

二重人格(偽)
 顔を隠した叢は、強烈な自己暗示により、本来のそれとは全く異なる性格へと変化する。
 ただし、本当に人格が入れ替わっているわけではない。あくまで叢の心は1つきりなので、記憶が途切れたりはしない。


59 : 闇の仮面 ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:38:28 EXE4Ul7M0
【人物背景】
国家と法に従い殉じる忍・善忍を育成するエリート学校・死塾月閃女学館の生徒。
18歳の3年生で、スリーサイズはB96・W58・H85。
非合法な忍務を請け負う忍・悪忍に両親を殺され、路頭に迷っていたところを、のちの月閃の創始者・黒影に拾われた過去を持つ。
しかし忍の後継者を探していた、大狼財閥に養女として引き取られてしまったため、黒影の死に目には立ち会えなかった。

常に般若の能面を着けている。
「我」という古風な一人称を使っており、般若の面のイメージに違わぬ、物々しい口調で会話を行う。
寡黙ながらも強引・高圧的な態度で、対峙する相手には有無を言わせない。
……しかしこれは仮初の性格であり、叢の自己暗示によって生じたものに過ぎない。
面が外れた本来の叢は、極度な恥ずかしがり屋であると同時に、自分に全く自信の持てない、ネガティブ思考の持ち主でもある。
やたら早口でまくし立て、とにかく自分を見ないでほしいと主張する彼女とは、意思疎通を行うのは不可能に近いだろう。
ちなみに面を着けるようになったことには、両親の死がきっかけで塞ぎこんでしまったからという、悲しいきっかけがあったりする。
(恐らく現在においては、さほど関係はなくなっていると思われるが……)
こんな性格の彼女だが、身長172センチを誇る巨女でもある。
趣味は漫画を描くことと語るオタクで、今年の夏こそは国内最大手のマーケットにサークル参加することを狙っているのだとか。

忍法の性質を表す秘伝動物は狼。
槍を構えて敵に突進し、包丁との二刀流でとどめを刺す、突撃主体の戦闘スタイルの持ち主。
必殺の秘伝忍法は、秘伝動物である狼を召喚するもの。
白い狼である「小太郎」の召喚、更に黒い狼である「影朗」の同時召喚を行える。
また現時点では未習得だが、自らの大切な何かを自覚した時には、更なる奥義である絶・秘伝忍法を発現することができる。
叢が絶・秘伝忍法を発動した際には、巨大な白狼「大五郎」に跨がり、縦横無尽に駆け巡る姿が見られるだろう。
この絶・秘伝忍法は、一般には「善と悪の力がぶつかった時に発現する」と言われており、悪なる者との戦いが、発現の引き金となる可能性が高い。

本聖杯戦争においては、原作の4つあるルートのうち、月閃ルートで半蔵学院に学炎祭を宣言する直前から参戦している。

【方針】
優勝狙い。スカルマンは決して強い鯖とは言えないため、奇襲・暗殺などを駆使して立ち回る。


60 : ◆aWSXUOcrjU :2015/06/15(月) 02:39:45 EXE4Ul7M0
投下は以上です
アサシン(スカルマン@スカルマン(アニメ版))&叢@閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-のペアでした


61 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/06/15(月) 02:41:59 Nm76WGts0
投下乙です!
立て続けになりますが私も投下します。


62 : ルカ・ミルダ&セイバー ◆Ee.E0P6Y2U :2015/06/15(月) 02:42:31 Nm76WGts0

ぼく、ルカ・ミルダが召喚した英霊は少し変わっていた……と思う。
もちろんぼくだって聖杯戦争については詳しくない。
ぼくだって一応はそうした異能――“天術”は使えるけれど、どうも根本となっているシステムがこの戦争では違うようだった。
そもそも“天術”のことだってぼくは詳しくない。
いきなり異能者――“前世”の力なんてものを得て、訳も分からずアルカ教団に追われ、その最中にここに来てしまっただけだ。

だから何も分かりはしない。
でも彼は変わっていると思う。
彼はぼくと同じくらいの年齢の少年で、でもぼくよりはずっと頼りになりそうではあった。
けれど、ぼくの召喚した――ぼくを守るべき英霊は開口一番にこう言ったのだ。

「思い、出せない」

と。
彼は、そう自らの名前を思い出せなかったのだ。
最初はぼくが信用されていないのかと思った。ぼくがあまりに頼りなさそうだから、隠したのかと思った。
けれど、話しているうちに、どうやら本当に“思い出せない”のだということが分かった。

この戦争において真名の秘匿の重要性は分かっていたけれど、それ以前の問題だった。
何もかも彼は思い出せないでいた。自分の名前も、どうやって戦っていたのかも、どう宝具を使うのかも。
セイバー、というだけあって剣は持っていたが、その銘すら思い出せないのだという。
システムの障害なのか、それともぼくのせいなのか、それは分からなかったけど困ったなことになったな、とは思った。

けれどそれでも、ぼくたちは頑張った。
慎重に慎重に立ち回って戦闘を回避して、また時にはセイバーも思い出せないなりに戦ってくれてぼくを守ってくれた。

だからぼくは彼に何の不満も抱いていはいなかった。
寧ろ感謝していた。ぼくの下に来てくれたのが彼でよかった、と。
英霊というから最初はどんな怖い人かと思った。
夢で見た“前世”のぼく――アスラのような人なのかと、ぼくはちょっぴり恐れていた。

でも彼は優しかった。
ぼくの召喚に応じてくれた彼は、同じくらいの年齢で、同じように学校通っていて話も弾んだ。
主従としてはどうかと思うけれど、友達みたいな関係になれた。
それでいて、強かった。
ひとたび戦いになれば恐れることなく敵の前に立ち、彼は戦ってくれた。
その背中を見ていると、ぼくもいつかはあんなふうになりたい、と思ってしまった。

それでも、何度かの戦いを経ても彼は思い出せなかった。
当然話してみたこともある。何か思い出したことはなかったかって。

「……駄目なんだ。どうにもまだ俺は自分が誰なのか思い出せないんだ。
 ごめんな、ルカ。マスターとして、サーヴァントの名前が分からないなんて不安だろうに」

そのたびに彼は申し訳なさそうな顔をして、ぼくにそう言った。
ぼくは彼に不満なんてなかった。ただそうして語る彼の横顔が、とてもつらそうなことが悲しかった。
自分の名前が誰か思い出せない。
それは自分が誰なのかわからない――ということと同じなのだと思う。

その感覚はぼくにも分かった。
“前世”の記憶を夢に見て、それがなんなのか分かっていなかった時、ぼくという存在が不完全なような気がして、苦しかった。
サーヴァントにとっての真名は、たぶんぼくにとっての“前世”と同じ――自分自身なのだ。


63 : ルカ・ミルダ&セイバー ◆Ee.E0P6Y2U :2015/06/15(月) 02:42:54 Nm76WGts0

「妹がいた気がするんだ」

ある日、彼がおぼろげな記憶を語ってくれたことがあった。

「綺麗で、かわいくて、他の何より大切な妹が。
 彼女を守るために俺は戦ってきた気がする。光の剣を携えて、戦場を駆けていた――」

その口調は真剣な思慕が感じられ、同時にその愛情の対象を思い出せないことに対するつらさも感じられた。
けれど同時に彼はこうも語るのだ。

「……魔女と肩を並べて戦っていた気もする。
 俺は闇を総べる冥王として、あの娘と一緒に戦っていた。そんな記憶が……」
「冥王? でもさっきは」
「ああ、光と闇。全く違うものが、俺の中に引っかかっているんだ。
 全く違うはずなのに、どちらもそれは俺で、思い出せない彼女たちは同じくらい掛け替えがなくて――」

どうにも彼には二つの物語(ストーリー)があるような、そんな風だった。 
ぼくも聖杯戦争と並行して色々な文献に当たってみたけど、でも真名は浮かび上がらなかった。

「ごめんな」

調べるたび、セイバーはぼくに謝ってくれた。
ぼくはそのたびに「ううん」と笑い返した。するとセイバーはこういってくれたのだ。

「ルカは――優しいんだな」

と。

「……そんなこと、ないよ。
 ぼくは頼りなくて、自分に自信がないから、せめてこういうことしか……」
「違うさ。ルカは俺のことを本当に心配してくれてるだろ?
 サーヴァントの性能とか、聖杯戦争の動向とか、そういうことじゃなく、俺が“思い出せない”ことを本当に心配してくれている。
 過去は大事だ。俺は彼女たちのことを絶対に思い出さなきゃなって思ってる。
 でも目の前のルカとの今を、俺にとっての現世も同じくらい大切に思うことができた。
 俺は――ルカがマスターで本当によかったって、そう思ってるよ」


そう言って彼は笑った。ぼくもつられて笑った。
今度は誤魔化す為の顔じゃない。心の底から彼と会えてよかったと、そう思うことができた。
彼と一緒にいると胸があたたかくなった。

思い出せなくても彼は強くて、かっこよかった。
だからぼくにとって彼は間違いなく英霊で、唯一無二の友達だったんだ――


64 : ルカ・ミルダ&セイバー ◆Ee.E0P6Y2U :2015/06/15(月) 02:43:16 Nm76WGts0

――そうして、これまでの戦いを思い出しながら、ぼくは死のうとしていた。

ぼくたちは今追い詰められている。
他の主従に狙われ、追い詰められ、セイバーは今ぼくの目の前で膝をついている。
判断ミスだった。ぼくが逃げるタイミングを間違えて、こうなってしまった。

「…………」

路地裏、誰も来ない街の片隅で、ランサーが無言で槍を向けている。
セイバーは戦いの末に息も絶え絶えで、一突き受ければ死んでしまうだろう。

ぼくはその姿を黙って見ていることしかできなかった。
無力感が胸に渦巻いている。敵が怖かった。息がつまりそうだった。
けれど、それ以上にぼくは自分のことが許せなかった。

これはぼくのせいだ。
セイバーは悪くない。
思い出せなくとも、彼は十分に強かった。
ぼくが、ぼくなんかが彼を呼んでしまったから。
視界がまっくらになる。もう何も、こんな現世なんて見たくないと思った。
ぼくがしてきたことは何だったんだろう――


“俺はただ、より良い世界を創りたかった”


どこかから声が聞こえてきた。
ぼくはその声を知っている。夢で何度も聞き、その声と共に戦った。
アスラ。
天と地の戦いを制した大英雄。
ぼくの“前世”。
ぼくなんかには恐れ多い名前。

――ぼくはただ必要とされて嬉しかった。

浮かび上がってきたアスラの言葉にぼくは答える。

――アスラの力とか、聖杯戦争のマスターとか、たとえぼくの力じゃなくとも絆ができてうれしかったんだ。セイバーと会って、戦えたことが……
――でもぼくは敗けてしまった。ぼくのせいで、ぼくじゃなければセイバーは助かったのに

ごめんなさい。その思いを乗せながら、心の底から言葉を絞り出す。
アスラの力を横取りしたこと。
セイバーをああしてしまったこと。
ぼくが現世に生まれたこと。
全部が全部、申し訳ないことのように思えた。

“だがルカ。お前は俺が失ったものを取り戻してくれた”

アスラが失ったもの?
ぼくにはその言葉の真意がわからなかった。

“絆”

それを見越すように、アスラは言ってくれた。

“俺の絆の結末は裏切りだった。
 共に戦場を駆けた友にも、誰よりも愛した者にも、俺は裏切られ命を落とした。
 しかしお前は違う筈だ。
 お前には絆があるだろう。この現世で培った、唯一無二の力が”

アスラはそこで少し声色を変えて、

“過去は大事だ。俺は彼女たちのことを絶対に思い出さなきゃなって思ってる。
 でも目の前のルカとの今を、俺にとっての現世も同じくらい大切に思うことができた。
 俺は――ルカがマスターで本当によかったって、そう思ってるよ”

全く似ていない、似合っていない、声真似だった。
けれどその言葉が誰のものか、すぐに思い出すことができた。
忘れない。忘れるはずがない。
だって彼は僕にとって――

“今お前の頭に浮かんだ者の名前を呼べばいい。
 それこそが――お前が紡ぎ、取り戻してくれた絆だ”

その言葉を聞いた時、ぼくの中で何かが弾けた。
そして視界が開けた。くらやみに沈んでいたぼくの意識が、どん、と背中を押されるようにして現実へと帰ってきた。


65 : ルカ・ミルダ&セイバー ◆Ee.E0P6Y2U :2015/06/15(月) 02:43:42 Nm76WGts0

「……バー」

そしてぼくは呼んだ。
その名前を。
ぼくが、アスラでないルカ・ミルダが得た、かけがえのない友の名前を――

「セイバァァァァァァァァァァァァァァァァ」

“天術”の力が溢れてくる
バチバチと音を立てそれは現世に身を結ぶ。
繋がりが唸りを上げ、友への想いを伝えてくれる。

そして、そして、そして――

――思い出して、兄様

その時、ルカに一人の姫が見えた。
つややかな桃色の髪を持ち、セイバーに寄り添うように立つ一人の姫。

――そうよ、だってあなたは……

そしてもう一人魔女がいた。
黒衣に身を包み、艶然と微笑み、それでいてセイバーの手を硬く握る魔女。

ぼくは直感する。
これは夢だ。ぼくがアスラの夢を見たように、セイバーも今、夢<前世>を見ている。
それがぼくらのパスを通じて流れ込んでいる。

ああ、分かった。
彼女らこそ、セイバーの――


66 : ルカ・ミルダ&セイバー ◆Ee.E0P6Y2U :2015/06/15(月) 02:44:16 Nm76WGts0

「――思い、出した」

何物よりも強く、何物よりも気高く、何物よりも優しく、彼はその“名”を纏う。
光が舞い、闇が差し込み、セイバーの髪が刃のように逆立つ。

「――俺は剣聖フラガ」

その手には聖なる剣。

「――俺は冥王シュウ・サウラ」

身に纏うは漆黒のマント。

「そして、今は――」

そこで彼は――ぼくを見た。
マントをはためかせ、彼は振り返る。

――その時ぼくは思わず泣きそうになった。

その背中はどこまでも遠くて、かっこよくて、でも彼は彼なのだ。
彼は、今の彼は――思い出し真の英霊となった彼は、けれど確かにぼくの友だった。
共に戦い、共に泣き、共に笑った――唯一無二の友。

「――灰村諸葉!」

そうして彼は――思い出した!

二つの前世。
たった一つの現世。
かの英霊はこそエンシェントドラゴン<最も古き英霊>!

「綴る!」

思い出した彼は毅然と言い放つ。
その指を虚空へと向け――

“冥界に煉獄あり 地上に燎原あり 炎は平等なりて善悪混沌一切合財を焼尽し 浄化しむる激しき慈悲なり”

――彼は猛然とした勢いで文字を書き始めた。
虚空に指が走る。走る。走る。走る。走って、走って、走って――綴る!

“全ての者よ 死して髑髏(しゃれこうべ)と還るべし 之は果たして此岸なるや 彼岸なるや 焦土と化した故郷の ”

そして同時に彼は詠唱する。
聞き取れないほどの速さで猛然とその文言を読み上げる。
そのたびに虚空に火花が散り、文字が力強く明滅する。

“なお荒涼たるこの皮肉よ 見渡す限りの果てなき絶望”

りん、と音がした。
剣は凛然と輝きを灯し、ばさばさとマントが舞う。

――その瞬間、ぼくには見えた。

セイバーと共に立つ二人の女性を。
何時か夢見た、遥かなる前世がそこにいる。

「俺は――俺から奪っていくすべての者を許さない!」

その全てを乗せ、セイバーは光を振るう。
迷いなき勇気と共に、彼はその力を解放する。
その姿、その光、その闇、全ての夢が収束していき――


【ヴリトラ】


――――二つの夢<前世>が一つになった。










【ランサー 脱落】


67 : ルカ・ミルダ&セイバー ◆Ee.E0P6Y2U :2015/06/15(月) 02:44:39 Nm76WGts0

【クラス】
セイバー
【真名】
灰村諸葉@聖剣使いの禁呪詠唱

【パラメータ】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具A++

【属性】
中立・中庸

【クラス別スキル】
対魔力:A Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

騎乗:E 申し訳程度のクラス別補正である

【保有スキル】
魔力放出 A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。

魅了 B
魅力。対峙した女性は彼に対する強烈な恋愛感情を懐いてしまう。

源祖の業 A+++
アンセスタルアーツ。前世の力を引き出す技。
後述の宝具の影響により本来なら両方使えないはずの『光技』と『闇術』を使用することができる。
また、両方を掛け合わせた独自の術理『太極』を使用することができる。

【宝具】
『聖剣の守護者<フラガ>』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
英霊モロハの前世。魂に焼きついた記憶の欠片。
かつて彼は剣聖フラガと呼ばれ、光技を使用し暴虐の限りを尽くす皇帝と戦ったという。
その前世を“思い出す”ことによって発動。(任意発動はできない)
筋力、耐久、敏捷が2ランク、魔力が1ランク上昇、またAランク相当の“源祖の業”スキルが発動する。

『冥府の王<シュウ・サウラ>』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
英霊モロハの前世。魂に焼きついた記憶の欠片。
かつて彼は冥王フラガとして闇術を使い世界を相手に戦っていたという。
その前世を“思い出す”ことによって発動。(任意発動はできない)
魔力が3ランク上昇し、またAランク相当の“源祖の業”スキルが発動する。

『エンシェントドラゴン<<最も古き英霊>>』
ランク:A+++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
二つの前世を一つになる――
全く異なる二つの前世を見に宿した救世主のあり方そのもの。
二つの前世を“思い出す”ことによって発動する。(任意発動はできない)
『聖剣の守護者<フラガ>』と『冥府の王<シュウ・サウラ>』が同時に発動する。
パラメーター上昇効果は重複し、“源祖の業”スキルがA+++相当となる。

【Weapon】
固有秘法
<<摩訶鉢特摩地獄(コキュートス)>>
<<世界喰らいの蛇(ウロボロス)>>。
固有秘宝
<<聖剣サラティガ>>。

【人物背景】
『聖剣使いの禁呪詠唱』の主人公で二つの前世の記憶を持つ少年。
ただし本人には断片的な記憶(主に戦闘中の記憶)しかなく、これを思い出すことで強くなる。
両親は諸葉が7歳の時に事故で他界しており、叔母夫婦の家で世話になっている。
経済的に裕福ではなかったにもかかわらず自分を引き取ってくれた叔母夫婦には感謝しており、経済的負担をかけたくないため授業料免除と就職を目的に亜鐘学園に入学する。
石動迅からの勧誘で実戦部隊に入隊。その際、実戦部隊に入隊するメリットとして奨学金と言う名目で給与が出ることを聞かされ二つ返事で入隊を決めている。
その境遇のためか『物を粗末にする人』には怒りを露にする。『もったいない』と言われると、自分の意見を曲げてしまう。
九頭大蛇の姿をした『異端者』を倒した後は、学生でありながら世界に六人しかいないランクSの実力を持っていたが、そのことを隠していた。
しかしランクSのエドワードと戦った後、エドワードの策略で勝手にSランクに認定される。要因としてエドワードを倒す際に禁呪を使用した事も含まれる。
合宿先で出現した要塞級異端者を倒したことで六頭会議で正式にS級に決定される。
しかし、学生であること、目覚めたてであることを考慮に卒業までは学生扱いにされているが事件が発生する度に駆り出されている。
ロシア支部によって暗殺されそうになるが、そのやり口に怒りを覚えロシア支部相手に一人で戦うことを決意する。
前世で恋人同士だったサツキと静乃にそれなりに好意は持っているが、恋愛感情であるかは表明していない。


68 : ルカ・ミルダ&セイバー ◆Ee.E0P6Y2U :2015/06/15(月) 02:44:56 Nm76WGts0


【マスター】
ルカ・ミルダ

【マスターとしての願い】
???

【weapon】
何も持っていない。あれば剣は使える。

【能力・技能】
“天術”
天界の住人アスラとしての力を使う。

【人物背景】
『テイルズオブイノセンス』の主人公。
王都レグヌムに暮らす、裕福な商家の跡取り息子。成績優秀な優等生だが、運動神経や喧嘩の方はさっぱり。
性格は引っ込み思案で自分に自信が無く、他人に流されがちである。
父親の跡を継ぐことになっているが、本人は医者になりたいと思っている。母親の作るチーズスープが好物。
前世はセンサスの将軍アスラ。覚醒は遅かったものの、幼い頃から前世の夢を見ており、夢の中の自分であるアスラの剣術と威風堂々とした態度にずっと憧れを抱いていた。


69 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/06/15(月) 02:45:11 Nm76WGts0
投下終了です


70 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 02:56:13 2.B7Esv.0
お二方とも投下お疲れ様です!
自分も投下させていただきます。


71 : キーア&セイバー ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 02:56:50 2.B7Esv.0

 灰の空。
 一度たりとて晴れることのない、暗澹の空。
 異形と化した人々は、最早その先を夢見ない。
 何故なら。夢見ることすら、無意味であると心得ているからだ。
 この《異形都市》を――再び陽の光が照らすことはない。
 ただ生命尽き果てる時まで。
 ただ、魂魄の擦り切れる時まで。
 退廃に淀んだ営みを謳歌する。
 ある者は蟲の身体で。
 またある者は、鳥の身体で。

 その日は平和な日だった。
 いつも通りに朝起きて。
 いつも通りに朝食を拵え。
 そしていつも通りに、彼へ付いていく。
 巡回医。
 致命的なまでのお節介焼きという難儀な性格を持った、彼の付き人として。

 腫瘍で爛れた身体を――彼は治す。
 肺病で血を吐く少女を――彼は癒す。
 奇病に冒された子供を――彼は救わんとする。
 それをキーアは、ただ見ていた。
 勿論細やかな手伝いはしていたが、結局の所、《数式》を行使するのは彼だから。
 だから、ただ見ていた。
 彼の手腕を。彼が誰かを救い、感謝の声を浴びせかけられているのを見る度、不思議と誇らしい気分になった。

 次の患者が苦しんでいる家へと、休む間もなく足を運ぶ。
 彼に疲れた様子はない。慣れているのだ。彼はキーアと出会うずっと前から、こんな日々を繰り返している。
 人込みを縫う彼に並んで歩いている時、ふと、空を見た。

 灰に覆われたそれは、真実殺風景そのものだ。
 この色合いが、キーアは嫌いだった。
 ――いや、誰だっていい気持ちにはならないだろう。
 隙間なく立ち込めた灰色は、さながらこのインガノックを生きる者達の未来を暗示しているかのようで。
 不吉だ。見ているだけで、気分も暗くなるくらい。
 だから彼女は、何の気なしに、こう思った。こう、願った。


 ――――この灰の先を、見てみたい。


 それは本当に、思いつき程度の祈り。
 ささやかで、口にすら出さない世迷言。
 少女らしい、ちょっとした好奇心からそう思っただけのこと。
 
 だが。
 その願いを、遠い都の杯はしかと聞き入れた。
 彼女の願いは、聞き入れられて、しまったのだ。



  ◆   ◇


 追われている――それが、キーアの今置かれている状況を最も端的に示す表現といえた。

 
 「っ、はっ、はっ、はっ……」


 周囲に広がるのは、見知らぬ土地。見知らぬ風景。
 《異形都市》の様式とは大きく異なった建築物が立ち並び、その道は大きく開けている。
 違う。此処は、自分の知る街じゃない。
 《無限雑踏街》の喧騒も、退廃した雰囲気も、総じてこの街には無縁のものだった。
 深夜の閑寂に世界は覆われ、ただキーアの喘鳴にも似た息遣いのみが聞こえている。


72 : キーア&セイバー ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 02:57:42 2.B7Esv.0
 
 曲がり角を右折し、建物の間の暗い裏路地へと逃げ込むキーア。
 薄暗く――挙句散乱した生ゴミが絶えず腐乱臭を醸しているそこは、決して居心地のいいものではない。
 しかし、最早つべこべ言っている場合ではないのだ。
 何故ならば――今、自分を追っている存在は……

 
 「―――ハッ。下手な隠れ方だな。隠れん坊もロクにしたことねェってか?」


 傍らのゴミ箱が、破裂音にも似た甲高い音響と共に破砕する。 
 風圧と轟音に思わず目を瞑りながら、キーアは改めて思うのだ。
 
 ……人間じゃ、ない。
 
 長い髪をボサボサに切り揃えた野性的な風貌の、その男。
 甲冑で覆われた彼の右腕には、一本の長槍が握られていた。
 蒼と翡翠が混合した槍の切っ先は、鉄ではなく紅い宝石であった。
 この槍が、問題なのだ。
 
 困惑と不安に苛まれ、夜の鎌倉市を宛もなく彷徨くしかなかった彼女は、突如背後からの強い衝撃波に転倒させられた。
 下手人は言わずもがなこの《槍使い》。
 そして、彼の担う宝珠の槍。
 あの槍の切っ先が瞬く度に、地面が、空間が、或いは無機物が――爆ぜるのである。
 原理はわからない。けれども、その爆発に接触すれば間違いなく自分は死ぬだろうこと。
 それだけは、キーアにも分かった。
 それだけ分かれば、十分だった。

 
 「っ……どう、して、こんなこと……!」
 「あ? ――おいおい、笑わせるんじゃねえ。
  おまえだって、《願った》から、ここにいるんだろうが。
  聖杯戦争について知らねえワケでもねえだろうによ」

 
 が。
 所詮一介の少女でしかない彼女の脚力で、人ならざる者を振り切れる筈もなく。
 こうして、呆気なく袋小路に立たされる。
 呆れたように嘲笑う《槍使い》の宝槍が、今度こそ過たずキーアの頭に向けられる。
 
 今際にて、キーアは回想していた。
 確かに彼の言う通りだ。
 あたしは願い。
 聖杯がそれを聞き届け。
 あたしはそうしてここにいる。
 《聖杯戦争》。
 それについても、知識は持っている。
 だから――これは彼の言う通り、確かに自業自得なのかもしれない。

 どちらにせよ、もうどうにもならないと状況が示していた。
 懸命に生き延びる術を探すキーアだが、どんな手を実行するよりも《槍使い》が動く方が早い。
 痛みすら感じる間もなく、宝槍の瞬きはキーアの頭を吹き飛ばすだろう。
 だから、これにて詰み。これにて、お終い。
 
 嘲笑を浮かべ切っ先を合わせる彼の遥か背後。
 この鎌倉へやって来て、一番最初に気付いた《異形都市》との最大の違い。
 あの場所には決してなかったものが、黄金色の輝きで世界を照らしていた。

 月だ。
 その輝きを反射する宝槍の煌きは、この世のものとは思えないほど美しくて。
 改めて、彼女は思うのだ。
 《槍使い》の槍が突き出される瞬間をスローモーションで見つめながら。
 せめて――この景色を、彼らにも見せてやりたかった――と。


73 : キーア&セイバー ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 02:58:16 2.B7Esv.0


 
 「駄目だ」


 閉じかけた瞼。
 それが、驚きに再度見開かれる。
 静寂の夜に響いたのは、槍の爆発ではなかった。
 鋭い――しかしこの上なく清澄な、金属音。
 その音こそが、自分の命を救ったのだと、不思議とすぐに理解できた。


 「諦めては、いけないよ」


 ぽん。
 キーアの金髪に、靭やかな手が乗る。
 撫でられているのだと気付くまでには、少しだけ時間がかかった。
 何故ならば。
 
 ――月明かりに照らされ。
 片手に抱いた《何か》で槍を受け止める、翡翠の瞳の美青年。
 その貌が……余りにも、美しすぎたから。


 「あなた……誰なの?」
 「僕かい。僕は――」


 彼は、敵へと向き直る。
 あれほど脅威的だった宝槍を苦もなく受け止め、《槍使い》をそれだけで無力化し。
 優しい声で微笑みながら、彼は一度だけ、キーアへ振り向いた。


 「僕は――セイバー。きみを守る、サーヴァントだ」


 開戦の瞬間は、それと全く同時だった。
 《槍使い》が自身の得物を引き戻す。
 青年……セイバーは、攻勢へ移られる前にと踏み込んだ。
 駄目。キーアは叫ぶ。何故ならあの間合いこそ、敵手の狩場であるからだ。

 距離を無視し、炸裂する刺突。
 わざわざ馬鹿正直に突進してくる的など、彼にとっては止まって視えることだろう。
 ご明察。そんな風に口許が動いたのは、きっとキーアの気のせいではない筈だ。
 空間が爆ぜる。
 朱い爆発が起こり、神秘の暴威を炸裂させ――

 「温いぞ、《槍使い(ランサー)》」

 ――それを、セイバーは不可視の得物で文字通り、受け流した。
 

 「風……?」

 セイバーが担うそれの間合いは、当然ながら読めない。
 しかしながら、今《槍使い》の炸裂刺突は――さながら突風に散らされたように消えていった。
 風の剣、だろうか。確かにそれなら、あの《槍使い》との相性は最高だろうが――それだけではない。


74 : キーア&セイバー ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 02:58:48 2.B7Esv.0


 「ち――!」
 「軽い」

 
 《槍使い》の技巧を、セイバーは素で上回っている。
 振るわれる高速の刺突はただ一度としてセイバーを捉えず、空を切り。
 対するセイバーの返し刀は、防御することさえ許さず、彼の右腕を寸断した。
 間髪入れずの追撃。既に、《槍使い》には何一つとして余裕らしいものは残されていない。
 彼は持ち前の脚力で後退し、怒髪天を衝いた。

 「舐めやがって」

 それは――かの《槍使い》の、言うなれば奥の手とでも呼ぶべき一手の開帳。
 炸裂する槍ですら十二分に脅威であったのに、その先とは果たしてどれほどのものが来るのか。
 セイバー、下がって。そんなキーアの声が彼に届く頃には、全てが終わっていた。

 結論から言って、《槍使い》の秘奥が披露されることはなかった。
 単純な話。それが解き放たれるよりも先に、セイバーの一閃がその首を刎ね飛ばしたのだ。
 それで終わり。呆気なくすらある幕切れはしかし、セイバーという男の強大さを理解するには十分だった。
 
 
 「怪我はないかい」

 手を差し伸べる、セイバー。
 その手を、キーアはおずおずと取った。
 すると、身体が宙へ浮く。
 お姫様がそうされるように、彼女はセイバーに抱えられていた。

 「交戦の音を聞きつけた他のサーヴァントがやって来ないとも限らない。
  一先ず、ここから離脱するよ。――ええと……」
 「……キーア。あたし、キーア」
 「そうか。キーア、キーアか。――うん、いい名前だ。それじゃ、しっかり捕まっていて。早急に離脱するよ」

 たん。
 地面をセイバーが蹴った瞬間、心地良い風と疾走感がやって来た。
 速い。それこそ疾風と呼ぶのが相応しいくらいに。
 
 この彼が……キーアのサーヴァント。
 少女は抱きかかえられながら、その面貌を見上げた。
 それから、自分の右手甲に刻まれた《刻印》を見やる。
 《令呪》。自身のサーヴァントとの繋がりの証であり、三度限りの絶対命令権。
 使う機会はなるべく訪れてほしくなかったが――これを見ると、やはり、実感させられる。
 聖杯戦争。願いを懸けて殺し合う禁断の宴へ、自分は足を踏み入れてしまったのだと。

 だからこそ、伝えなくてはならない。
 キーアはもう一度セイバーの顔を見上げ、言った。

 「あのね、セイバー」
 「? どうしたんだい?」
 「あたしはね――願いなんて、ないの」

 セイバーは驚いた顔をする。
 当然だ。鎌倉の聖杯戦争に招かれる者は皆、何かしらの願いを持っている。
 まったくそれらしいものを持たない者ならば、そもそもここにいる筈がないのだ。


75 : キーア&セイバー ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 02:59:25 2.B7Esv.0

 「ううん、少しだけ違うわ」

 言って、キーアは空を見上げた。
 ――あの《都市》では、絶対に見られなかった空を。

 
 「あたしの願いは――もう、叶っちゃったから」


 その答えに、またセイバーは呆気に取られたような顔をして。

 
 「そうか。それなら、それでいいだろう」
 

 彼もまた、キーアとは別なベクトルで異質な英霊であった。
 このセイバーが抱く願いは故国の救済。
 嘗て彼が参じた、別の聖杯戦争では――彼は確かに、その想いを寄る辺に顕界した。
 けれど、今は違う。今の彼は、そんな願いは抱いていない。
 知ったからだ。知らされたからだ。自分の願いが、歪なものであるということを。
 今回のマスターとそう変わらない――幼い、子どもの言葉によって。


 「では、僕はきみを元の世界へ送り届けよう。
  ――暫しの間、この身は、キーア。きみを守る為の剣となり、盾となる。きみは、死なせない」


 聖杯を求めない。
 夜毎に侵食されゆく鎌倉の理へ反する志を胸に、彼と彼女は闘いの渦へ呑まれていく。
 それでも。空を見た少女と、解き放たれし騎士王の――その抱いた希望が、翳ることは、ない。


 【クラス】
 セイバー

 【真名】
 アーサー・ペンドラゴン@Fate/Prototype

 【パラメータ】 
 筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:D 幸運:A 宝具:C(EX)

 【属性】
 秩序・善

 【クラススキル】
 対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

 騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

 【固有スキル】
 直感:A
 戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
 研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

 魔力放出:A
 武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
 いわば魔力によるジェット噴射。
 強力な加護のない通常の武器では一撃の下に破壊されるだろう。


76 : キーア&セイバー ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 03:00:05 2.B7Esv.0


 カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

 【宝具】
 『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』
 ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
生前のアーサー王が、一時的に妖精「湖の乙女」から授かった聖剣。アーサー王の死に際に、ベディヴィエールの手によって湖の乙女へ返還された。
人ではなく星に鍛えられた神造兵装であり、人々の「こうあって欲しい」という願いが地上に蓄えられ、星の内部で結晶・精製された「最強の幻想(ラスト・ファンタズム)」。聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置し、「空想の身でありながら最強」とも称される。
あまりに有名であるため、普段は「風王結界」で覆って隠している。剣としての威力だけでも、風王結界をまとった状態を80〜90だとしたら、こちらの黄金バージョンのほうは1000ぐらい。
神霊レベルの魔術行使を可能とし、所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、光の断層による「究極の斬撃」として放つ。攻撃判定があるのは光の斬撃の先端のみだが、その莫大な魔力の斬撃が通り過ぎた後には高熱が発生するため、結果的に光の帯のように見える。その様は『騎英の手綱』が白い彗星ならばこちらは黄金のフレア、と称される。
 彼の「約束された勝利の剣」は二重の封印が掛けられていて、剣自体に二重構造のギミックがあり、「風王結界」が解除されても、まだ鞘が付いている。
 「強力な武器はここぞという時でしか使用を許さない」という円卓の騎士の決議があり、「この戦いが誉れ高き戦いであること」、「敵が自分より強大である事」など13の条件が半分以上クリアされると円卓の騎士たちの間で使用が可決され、拘束が解けていく。
 鞘がついた出力半分程度の状態でもアルトリアの物を遥かに上回る威力があり、アーチャーの「終末剣エンキ」によって発生した都市を飲み込むほどの大波濤を一撃で蒸発・粉砕している。最大出力は最早想像できない領域にある。
 『とびたて! 超時空トラぶる花札大作戦』ではアルトリアの物と区別するため便宜上、「エクスカリバー・プロト」と名づけられている。


 『風王結界(インビジブル・エア)』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1個
剣を覆う、風で出来た第二の鞘。厳密には宝具というより魔術に該当する。
幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させ、不可視の剣へと変える。敵は間合いを把握できないため、白兵戦では非常に有効。
ただし、あくまで視覚にうったえる効果であるため、幻覚耐性や「心眼(偽)」などのスキルを持つ相手には効果が薄い。
 彼の剣を包む鞘の一つでもある。

 【Weapon】
 前述。

 【人物背景】
 円卓の騎士たちを率いて戦乱の時代を駆け抜けたブリテンの伝説的な君主であり、騎士道の体現として知られる騎士王。
 善良なるものを良しとし、悪しきものを倒す、気持ちのいい正統派ヒーロー。綾香を守る理想の王子様だが、同時に大人びた価値観とニヒルな物言いで綾香を導く保護者的な存在でもある。一人称は綾香には僕で、敵には私。
前回の聖杯戦争で、聖杯入手直前にマスターから強制的に契約を破棄され、その後遺症から前回の戦いの記憶が曖昧である、と誤魔化している。
実はかなりの天然で、番外編に登場する度に拍車がかかっている。また途轍もない大食漢だが、アルトリアと違い、腹ペコキャラではない。
 「騎士王」の名に相応しい英霊最高峰の剣技と、卓越した戦況把握能力、マスターの身を必ず守る優れた防衛能力を兼ね備える。

 【サーヴァントとしての願い】
 キーアを元の世界へ帰還させる。


77 : キーア&セイバー ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 03:00:27 2.B7Esv.0

 【基本戦術、方針、運用法】
 セイバーは非常に強力なサーヴァントだが、マスターであるキーアの都合も有り魔力の残量に気を配る必要がある。
 たとえ条件が解除されていようと、宝具の解放には熟慮せねばならないだろう。


 【マスター】
 キーア@赫炎のインガノック- what a beautiful people -

 【マスターとしての願い】
 聖杯戦争の終結。元いた世界への帰還。

 【weapon】
 なし

 【能力・技能】
 直感的に人の嘘を見抜くことが出来る。
 その他生活能力も人並み以上に身に付けている、母性あるロリっ子。

 【人物背景】
 原作主人公・ギーのすぐ近くに寄り添い、彼の生きる姿を見つめ続ける少女。
 直感的に人の嘘を看破し、その瞳は《美しいもの》さえ見通す。
 その素性は一切不明。雑踏街の闇夜を取り仕切るスタニスワフですら全く情報を掴めず、自らも一切語ろうとはしない。
 身なりや作法から最低でも6級以上の比較的恵まれた層の出身と思われるが、雑踏街でも暮して行ける程に生活力があったり、もはや都市では当然の景色である変異した人々の姿に驚く、都市の教育プログラムで当然知っている常識すら知らないなど不自然な点が多い。
 混沌たる都市下層にあって、誰へも笑顔を向けることができる希有な人間である。

 10年前の上層付属病院崩落事故に巻き込まれて重症を負う。
 朦朧とする意識の中で自分を必死に救おうとする当時研修医だったギーの声を聞くが、そのまま息を引き取った。
 その後、グリム=グリムによって4人目の《奪われた者》となって都市に訪れ、ギーに出会う。
 その目的は、自身を救おうとしたギーがどんな人であるのかを知ること。
 そしてもう一つはギーとポルシオンに「ありがとう」という感謝の言葉を伝えること。
 ――しかし、彼女が聖杯戦争へ招かれたのはそれが遂げられるよりも前のこと。
 変わらず目的は同じだが、それを聖杯へ委ねるつもりはない。  

 【方針】
 聖杯戦争からの脱出。
 殺し合いも、なるべくならしたくない。


78 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 03:01:27 2.B7Esv.0
これにて投下終了です。
今日はもう遅いので、明日にでも他の皆様の投稿作への感想を書かせていただこうと思います。


79 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/15(月) 21:24:36 2.B7Esv.0
遅ればせながら感想をば。

>>叢&アサシン組
 スカルマン! 正直意外なところからの出典でかなり驚かされました。
 聖杯戦争においても変わらない叢ちゃんのギャップがかわいいなあ。
 ただ継承のスキルがなかなか怖いですね。
 まさしくアサシン、といった感じの主従だと思いました。

>>ルカ・ミルダ&セイバー組
 「思い出せない」とかのワードからもしかして? と思いながら読み進めていましたが、やはり彼でしたか。
 主従の相性も良好ですし、宝具も強力。
 本選では有力な一組になるかもしれませんね。


80 : 名無しさん :2015/06/16(火) 00:22:25 .4GmUKOA0
眠る前に>>1さんに質問です。

1.エクストラクラスは登場させても良いのでしょうか?
2.結構な敷津面積が必要な、現実の鎌倉市にはない施設を登場させてもよろしいでしょうか?


81 : ◆aWSXUOcrjU :2015/06/16(火) 01:44:41 cJFguFfg0
すいません、拙作「闇の仮面」における状態表にミスがありました
>>58で記述した叢の武器ですが、


 波打つような形状の穂先を持った槍。
 右手に槍を、左手に包丁を構えるのが、叢の戦闘スタイルである。

これが正解です
ゲーム中でのスタイルと、左右逆になっていました。申し訳ありません


82 : ◆3SNKkWKBjc :2015/06/16(火) 07:56:11 qoO4HR4.0
皆様投下乙です。私も投下させていただきます。


83 : 今剣&アーチャー ◆3SNKkWKBjc :2015/06/16(火) 07:57:19 qoO4HR4.0
歴史を変えてはならぬ。

歯車の回転が向きを変えてしまえば、全てが狂うと同じだ。
過去を一つ変えてしまえば、元あるべき未来の全てが崩落し、なかったことになる。
新たな未来が生まれ、本来の未来は捨てられる。
その未来でしか存在しない人間は消え、新たな未来でしか存在しない人間が現れる。
二度と未来は戻せない。世界の全てに影響を与える。

だからこそ人は言う。
過去を、歴史をなかったことにしてはならぬのだと。

それでも変えようとする存在は必ず現れる。
過去に未練がない者もいれば、過去に後悔しかない者もいる。

過去ではなく在り方そのものを変えようとする者もいる。
全てを始まりを根絶やしにしようとする者もいる。


未来と過去を巡る争いは絶える事はない―――………



◆ ◇ ◆



れきしをかえてはなぜいけないの?



歴史を変えるとはいえ、前の主人を助けるだけなのだ。それの何が罪なのだろう。
刀剣男士の今剣は疑問を抱いた。
仲間は皆口を揃えて「歴史を変えてはいけない」と言うが
実際に歴史を変えた事もないのに、何故「いけない」のだと断言できるのか?
それとも、実際に歴史が変わったからこそ歴史を変える敵と戦をしなければならないのか?

今剣以外にもその事情を知る刀剣男士はいない。
ただ何となく「歴史を変えたら駄目だ」と言うばかりで、歴史が修正されたことによる具体的な被害は不明。
恐らく、刀剣男士には教えてはならないものかもしれない。

ただ、納得がしたかった。

本当に歴史を変える事により未来は崩壊してしまうのかどうかを。
実際に歴史を変える事により過去は崩壊してしまうのかどうかを。



◆ ◇ ◆



気付いた時には、今剣はここにいた。
仲間も、主である審神者もいない、右も左も分からない土地。


「……かまくら…?」


何とか読める言語で土地の名を知る。
今剣の知らぬ日本。つまり――これが未来の世界なのだ。
昔の面影があまりにも少ない光景に、今剣は茫然としていた。
そして、聖杯戦争。
歴史修正をする敵とも、それすら仇なす敵とも無縁な戦争。

歴史を守る刀剣男士が現在(いま)を生きる人間を……殺せと?

暇は与えられない。
呆けている間に美少年のサーヴァントが今剣の前に現れたのである。


「おや、あなたが私の主(マスター)でしょうか」

「ぼくは――今剣。よしつねこうのまもりがたなですよ」


84 : 今剣&アーチャー ◆3SNKkWKBjc :2015/06/16(火) 07:58:27 qoO4HR4.0
◆ ◇ ◆



「きっと、よしつねこうをたすけようとしたから……ぼくは、あるじさまにすてられたんです」


現れたサーヴァント、アーチャーに対して今剣は包み隠さず正直に話した。
アーチャーは自棄に強張った顔を浮かべていたものの、次第に普通の――初対面と同じ穏やかな顔をする。
今剣は思う。
歴史を変えようとしたからこそ、このような戦争に放り捨てられたのだと。
そのような意思は、歴史修正を目論む敵に刃を向ける兵士が持つべきではない。
余計な感情を持つ刀剣男士は破棄される。
破棄ついでの出兵なんだと、今剣は考えていた。


「これは正当な聖杯戦争ですから、ご心配には及びません」

「じゃあ、なんでもねがいごとがかなうのは、ほんとうなんですか!?」

「勿論」

「よしつねこうをたすけることも、ですか?」

「……うん」

「……あーちゃーは、れきしをかえるのはいけないとおもいますか?」


希望のある返答を期待した訳ではないが、英霊である彼に問いかけるべきだと今剣は思っただけ。
アーチャーは沈黙をしたものの、返事をした。


「彼がもし生きていたなら――そのくらいは想像できるはず。それを願うかはあなた次第です」


今剣にとっての主は審神者。
審神者の元へ帰還するのが道理。
聖杯戦争で勝利を手にすれば、源義経を救済できる。
小さな主は決断することができなかった。



◆ ◇ ◆



――ああ言ってしまったけど、どうするべきかな


アーチャーは今剣のいない場所で悩む。


――違う。『あの人』のことじゃない。きっと『別人』だ。


アーチャーは今剣が自分の正体を把握しているかと疑念を抱いた。
だが、嘘をついている様子はない。

アーチャーは自分の正体を今剣は知っているはずだと更なる疑念を抱いた。
だけども、今剣はアーチャーを知らない。


アーチャーが那須与一であることを、知らない。


反応がなかったということは『アーチャーの知る源義経』ではない『別の源義経』に仕えた短刀なのだろう。
もしかしたら、その『源義経』は正しい人で。
だからこそ、助けたいと今剣は願っているのだろう。

しかし、アーチャーにとって源義経はただの化物だった。

二度と顔も会わせた無くない。関わりたくない。
聖杯に彼の記憶を消すのを願ってもいいくらいの、どうしようもない存在なのだ。
なのに、舞台が鎌倉で、主が義経の刀とは何たる皮肉だろうか。


――所詮は刀。主に忠実なんだろう


刀とはいえ義経のもの。
義経に仕えたとはいえ、刀。
所詮は刀だが、されど刀だ。

たとえアーチャーの知る『源義経』でなくとも、やはり『源義経』。
されど『源義経』だ。


――あの様子だと、どうかな。まだ分からないけど……最悪は……


殺す決断には至っていない。
殺す意思は残っている。
事実としてアーチャーはまだ真名を名乗っていないのだ。



源義経を巡り悩める主従は聖杯戦争を続ける。


85 : 今剣&アーチャー ◆3SNKkWKBjc :2015/06/16(火) 07:59:35 qoO4HR4.0
【クラス】アーチャー
【真名】那須与一@ドリフターズ
【属性】秩序・中庸

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:D 幸運:C 宝具:C


【クラススキル】
対魔力:D 
 一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:D
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 マスターを失ってから半日間現界可能。

【保有スキル】
心眼(偽):C
 直感・第六感による危険回避。
 虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
 視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

千里眼:B
 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
 ランクが高くなると、透視、未来視さえ可能になる。

道具作成:D
 魔力を帯びた器具を作成可能。
 アーチャーは弓と矢に特化しており、それ以外の道具は作成できない。

【宝具】
『かくして扇は射抜かれた』
ランク:C 種別:対人(自身)レンジ:- 最大補足:-
 アーチャーの戦況、状態が悪化した場合のみ発動する。
 発動した際、全パラメーターが1ランク上がり、攻撃の威力が上昇。
 また、攻撃対象が一つであれば必中となる。回避する為には幸運判定に成功しなければならない。

【weapon】
弓矢

【人物背景】
那須家が生んだゴルゴ13
源氏バンザイ

【サーヴァントとしての願い】
一応マスターには従う。だが……



【マスター】
今剣@刀剣乱舞

【マスターとしての願い】
???

【weapon】
短刀・今剣…これが破壊されると今剣自身も消滅する

【能力・技能】
刀剣男士。夜での戦闘では遠距離攻撃を回避しやすい。
手傷の治療は資源を使う。一般的な人間よりかは丈夫かもしれない。

【人物背景】
源義経の守り刀


86 : 今剣&アーチャー ◆3SNKkWKBjc :2015/06/16(火) 08:01:14 qoO4HR4.0
投下終了します


87 : 名無しさん :2015/06/16(火) 21:14:47 7RM/8qIs0
>>1さんに質問です

・舞台は現実の鎌倉

つまり、町の住民はいわゆるNPCではなく現実の一般人だと考えていいのでしょうか。
・一般人巻き込み殺害がいわゆるNPC殺しではなく、現実の殺人と同等の重みを持つのかどうか
・マスターと原作を同じくする登場人物をNPCとして出演させることは不可能にあたるのかどうか

この二点の解釈も含めて、お答えいただければと思います


88 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/16(火) 22:25:12 Gx4G0GPI0
>>今剣&アーチャー組
 ドリフターズからの参戦は来るだろうなと思っていましたが、まさかの義経ゆかりコンビ。
 マスターがかなり戦える部類なことも相俟って強力な主従となりそうですが、如何せん不穏な雰囲気が漂っていますね。
 
質問にお答えしていきます。

 >>80
 エクストラクラスは申し訳ありませんが、なしでお願いします。
 理由としては、原作に存在しないクラスやセイヴァーなどの候補作を認可していくとキリがなくなってしまうのではないか、と思う次第です。
 施設につきましては問題ありません。ですが、さすがにエッフェル塔やあまりにも世界観から逸したようなものを配置するのはご遠慮いただけるとありがたいです。

 >>87
 はい、NPCは現実の人間と考えて構いません。
 普通の聖杯戦争通り、過度に一般人を巻き込む戦法を取った場合は監督役から勧告やペナルティが課されることがあります。
 NPCとして原作のあるキャラクターを登場させるのはできればご遠慮いただきたいですね……コンペ終了後、採用作品の選考時にキャラクターがかぶった場合など、幅が狭まってしまうというのが主な理由です。
 

 では、自分も投下します。


89 : イリヤスフィール&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/16(火) 22:25:57 Gx4G0GPI0

 「殺しなさい、アサシン」

 透き通った声が凛と告げるや否や、あわや乱戦の相を呈していた鉄火場は即座に終幕を果たした。
 最初に、セイバーのマスターである少年の額に……砂粒程の大きさの赤い点が生じ。
 次に、ライダーを従えた妙齢の女性の首筋が、赤い絵具を撒き散らすスプリンクラーに変わる。
 何が起きたのか、皆目解らない――彼らに跪いた英霊達の思考は、敢えなく空白に塗り潰された。
 そして、それこそが彼らにとって最大の過ちだった。

 音もなく接近を果たした青年の魔手が、騎士の鎧の継ぎ目を縫い、胴を一突きで抉り抜く。
 そのまま抉じ開けるようにして体内を破壊し、心臓……もとい、霊核の根幹をぐしゃりと握り潰した。
 漸く事の重大さを理解したライダーは、己がマスターを殺された事実へ憤激し、宝具を解き放ち突貫に打って出る。
 
 が。
 彼の行く末を阻んだのは、今しがた惨殺されたセイバーの剣であった。
 核を砕かれた英霊が取り落とした剣を拾い上げ、青年がライダー目掛け投擲したのだ。
 当然、ライダーはそれを払い除ける。剣士の誇りすら侮辱する敵手の遣り口へ怒りを燃やしつつ、再度討つべき怨敵を見据えた時、既にそこへ彼の姿はない。
            ・・
 「貴方は、私から注意を一瞬逸らした」

 響く、死神の声。
 後ろか――目を見開き振り返った時、ライダーの頭部は、青年の細腕に磨り潰されていた。
 斯くして、今宵の鎌倉伝説は一旦幕を閉じる。
 白き少女と黒衣の暗殺者による、圧倒的な蹂躙劇という結末で。
 
 散らばる屍。
 砂粒で頭を射抜かれた少年は、何が起きたのかすら分からないといった表情のまま絶命しており。
 首を裂かれた美女もまた、同じ表情で地面を朱く朱く、都市伝説らしいセンセーショナルさで塗りたくっている。
 
 ――英霊といえど、この程度か。
 この程度なら、幾らでも殺れる……アサシンのサーヴァントは、自らの血に濡れた利き腕を見、心の内で呟いた。

 
 「驚いたわ。優れた殺し屋だってことは知っていたけど、まさかこれほどなんてね」
 

 まさに無双と呼ぶ他ない大活躍を見せ、本選への道を阻む外敵を瞬殺した自分のサーヴァントへと――彼を従えるマスターの少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは惜しみない賞賛を送る。
 普通、アサシンのサーヴァントは聖杯戦争に於いて些かスペックで見劣りするものだ。
 彼女とて、もしもクラスの選択が自在に出来るならば……少なくとも、アサシンやキャスターのクラスは選ばなかった。しかし、自身へあてがわれたのは暗殺者。黒髪と黒衣が特徴的な、甘いマスクの青年であった。
 無防備を晒す敵マスターを躊躇なく初撃から狙い、何の防備も用意していなければ先程の二人よろしく確実にそこで命の芽を摘み取る。仮に防いだとしても、数多の搦手を自在に駆使し――これまで十騎もの英霊を討ち取ってきた。

 その手腕たるや、まさに『死神』のもの。
 首を薙ぎ切る一閃を避けようと、安堵した頃には一周を回り切った大鎌が再び襲い来る。
 彼ほど暗殺者という言葉を体現した英霊など、数えるほどしか居はすまい。

 「このくらいは朝飯前ですよ、イリヤスフィール。それに――私がこれまで、一度として苦戦することなく勝ち延びられているのは、単に相性の問題でもある」
 「相性?」
 「そう、相性です。この私を倒そうと思うなら、私の力では壊せない耐久力を持ってくればいい」


90 : イリヤスフィール&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/16(火) 22:26:46 Gx4G0GPI0

 指を一本立て、教え子へ教授するようにアサシンは語る。
 彼の強さとは、即ち一撃必殺の類だ。
 人間程度ならば砂粒一つで射殺する。
 サーヴァントであれども、鍛えた技巧を駆使して容易く扼殺できる。
 しかし。しかしだ。そんな彼の技も、己の手で貫けない相手へは通じない。

 「真に優れた殺し屋は萬へ通ずる。
  自慢ではないが、私はそれを地で行く暗殺者であると自負している。
  但し、私が極めたのはあくまで人殺しの為の技術だ。英霊や怪物を殺すには、それこそ彼らお得意の聖剣や摩訶不思議な光の矢でも持ってきた方がずっと手っ取り早いでしょう。
  ――その代わり、『死神』の鎌から逃れられる『人間』はこの世にいない」
 
 例え魔術の道を極め、万全の結界の中へ閉じ籠られようとも。
 そんなもの、言ってしまえば単なる強化ガラスの壁と何ら違わない。押し破り、脱出へ繋げることなど……こう言えば魔術師であるイリヤスフィールは気を悪くするかもしれないが、朝飯前である。

 「ええ、そうでしょうね。貴方の力は十分見せてもらったわ」

 彼ならば、勝てる。
 この鎌倉へ集ったマスター全員を殺し、聖杯を手に入れることができる。
 痛ましい闘いの痕跡へ背を向け、イリヤスフィールは自らの拠点へと戻るべく歩き始めた。

 「勝ちましょう、アサシン。聖杯を手に入れるのよ」
 「……勿論、そのつもりです。願いを叶える杯の力――ただ見送るには惜しすぎる」

 片や、ひとつの悲願のため。
 片や、過ぎたる好奇心で。
 ――白い少女と黒い死神は、鎌倉の大地を朱く染める――


【クラス】アサシン
【真名】『死神』@暗殺教室
【属性】秩序・悪

【ステータス】
 筋力:D 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:E+ 幸運:D 宝具:B


【クラススキル】
 気配遮断:A-
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
 完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
 但し、彼自身の『奥の手』である宝具を使用した場合、このスキルはEランク相当にまで減退する。

【保有スキル】
 専科百般:A
 萬に通ずる殺し屋の能力。
 戦術、学術、隠密術、狩猟術、話術、医術、武術、馬術、
 その他総数32種類に及ぶ専業スキルについて、彼自身の宝具によるブーストも含めてBランク以上の才能を発揮できる。

 対英雄:D
 時に国家要人すら仕留めてきた逸話の具現。
 英雄に値する人物へ攻撃を仕掛ける場合、初撃に限りその耐久値を1ランクダウンさせる。

 破壊工作:A
 戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。
 トラップの達人。
 ランクAならば、相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能に追いこむ事も可能。
 ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。


91 : イリヤスフィール&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/06/16(火) 22:27:51 Gx4G0GPI0


【宝具】
 『優れた殺し屋は萬に通ず』
 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大補足:1~50人
 凡そあらゆる技能技術を会得し、殺し屋の世界では最強とまで呼ばれた伝説が宝具化したもの。
 斬殺、射殺、毒殺、扼殺、撲殺、殴殺、謀殺――彼はあらゆる殺し方を極めた暗殺者であるため、様々な武芸を達人の域で使用することが出来る。この宝具によって「専科百般」「破壊工作」のスキルも間接的に強化されている。

 『悪情淀みし破壊の胤(アンチマター・アースキャンサー)』
 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~40 最大補足:1~50人
 生前、彼がある機関によって実験動物とされる事で手に入れた、人智を超えた破壊の力。
 この状態になったアサシンの気配遮断スキルは大きく低下し、全身から反物質の触手が出現する。この触手の殺傷能力は極めて高く、彼の弱点である耐久力の高い敵へも一定の効果を見込むことができる。
 宝具使用時、アサシンはBランク相当の狂化スキルを獲得するが、理性を完全に失う事はない。
 ただ狂化の影響で周囲へ目を配る力は目に見えて減退しており――或いはこの宝具を使用している間こそが、最強の殺し屋にとって最大の隙なのかもしれない。

【weapon】
 色々。

【人物背景】
 世界最強と称された伝説の殺し屋。
 無法地帯のスラム街で生まれ育ち、幼い頃から世界の縮図を悟り殺し屋の道へ走る。
 依頼を受ければ誰でも殺し、稼業を熟す為にあらゆる技術を身に付けてきたが、ある時育てた弟子からの裏切りを受けて、研究機関に捕縛され、モルモットとして反物質を植え付けられることになる。
 その後彼は狂乱と喪失の末、『教師』として生きることになるのだが……今回の彼は『殺せんせー』ではなく『死神』として召喚された為、そこに善性らしいものは存在していない。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯の獲得。


【マスター】
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night

【マスターとしての願い】
 聖杯の獲得。

【weapon】
 無し。

【能力・技能】
 優れた魔術の腕前。
 理論を無視し結果のみを現出することが出来る為、そのレベルは最早一流の魔術師に匹敵して余りある。

【人物背景】
 「最高傑作」と謳われる、アインツベルンのホムンクルス。
 第四次聖杯戦争開始に先立ち、アイリスフィール・フォン・アインツベルンの卵子と衛宮切嗣の精子を用いて作り出された。なお、ホムンクルスでありながら、その過程でアイリスフィールの母胎から「出産」されることで生を受けている。
 生まれながらに「聖杯の器」となることが宿命づけられており、母親の胎内にいる間から様々な呪的処理を為されている。しかし反作用として、発育不全・短命などのハンデも背負っている。


92 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/16(火) 22:28:17 Gx4G0GPI0
投下終了です。


93 : ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:30:36 fp.LuZsM0
皆様投下お疲れ様です。自分ももう1作投下させていただきます


94 : 繋がるイシ ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:31:27 fp.LuZsM0
 戦いが好きなわけじゃなかった。
 お父さんの命を奪った戦争を、最初は強く憎んでいた。
 だから魔法が使えても、ウィッチとして戦おうなんてことは、決して考えることはなかった。

 それでも、私は知ってしまった。
 お父さんの足跡を追う中で、世界が直面している現実を、私は思い知らされてしまった。
 突然現れた侵略者・ネウロイ。
 その脅威に晒されて、涙を流す人達がいることを。
 その涙を拭うために、懸命に立ち向かう人達がいることを。
 お父さんもそのために、研究に向かっていたということを。

 だから私はウィッチになった。
 大切な仲間達と一緒に、大切なものを守るために、大空を舞って戦い続けた。
 魔法を失った今でも、その気持ちには偽りはない。
 武器を取ることができなくなっても、違う形で戦うことができる。
 医学の勉強に打ち込んで、立派なお医者さんになれば、人の命を繋ぐことができる。
 空にいてもいなくても、私は今でも戦っている。それだけは断言することができた。

 その力を、多くの人を守るために。

 私に力があるのならば、それを望む人々のために。

 だから私は迷わない。
 戦うことを恐れたりしない。

 たとえ翼をなくしても、大切な人を守るために――守りたいから、私は飛ぶ。


95 : 繋がるイシ ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:31:58 fp.LuZsM0


「――うわぁあああっ!」
 素っ頓狂な少女の悲鳴は、すぐさま轟音に掻き消された。
 太い木々が次々と倒され、木くずと葉が夜の闇に舞う。
 もうもうと立ち込める土煙の中、何とか態勢を立て直した少女は、闇の向こうの存在を睨んだ。
「しぶといな。子供のくせに」
 魔術師の呼び声に従い召喚される、太古の英霊を模した使い魔。
 少女が相対するそれは、騎兵(ライダー)のクラスを与えられ、この地に現界したサーヴァントだった。
 騎兵といっても操るものは、そんじょそこらの馬ではない。
 一体どこで手に入れたやら――ライダーが腰を預けたのは、哺乳類とも爬虫類ともつかぬ巨獣だった。
 鱗とたてがみを併せ持ったそれは、赤い瞳を爛々と光らせ、大口から涎をまき散らしている。
 丸太のような四肢を持った巨躯は、肩まで4〜5メートルほどはあるだろうか。
 ネウロイと対峙してきた彼女にとって、大きさは驚くには値しない。
 さりとて撃退できるかどうかは、その問題とはまた別だ。
 そのネウロイを倒してきた力は、今は少女の手にはないのだから。
「何でこんなことを……どうして人間同士で、争うようなことをするんですかっ!」
 栗毛の少女は絶叫する。
 かつての英雄・宮藤芳佳は、伝承の英霊に向かって叫ぶ。
 彼らの参加する聖杯戦争は、文字通り命を奪い合う戦争だ。
 聖杯などという馬鹿げたもののために、貴重な命を虐げ合う、醜く野蛮な殺し合いだ。
 戦いによって父を喪い、多くの涙を見てきた芳佳には、到底許容できるものではない。
「知れたこと。我がマスターが聖杯を望んでいる。人の命を奪ってでも、願いを叶えんと欲している」
 戦う理由など他にないと、ライダーは事も無げに言い放った。
「そんな身勝手が許されるわけがない!」
「偽善だな。お前とて身に覚えがないわけではなかろうに」
「ありません! 全然分かりません!
 願いごとがあったとしても、そのために人を犠牲にしようなんて、私には絶対に思えませんっ!」
 芳佳の叶えたい願いとは、平和な世界の実現だ。
 ネウロイも魔法もないこの国――日本という未知の国のように、争いに怯えることのない世界を手に入れることだ。
 それは人を蹴落とすこととは、まるきり対極に位置する。
 いいや、たとえ聖杯に、ネウロイの壊滅を願えたとしても、そのために人を殺すことなど、芳佳には到底考えられない。
「ならば私を止めてみせろ。未だサーヴァントも持たないお前に、それができるのであればな」
 ライダーのその言葉を聞くやいなや、巨大な魔獣が鋭く唸った。
 おぞましい四肢が攻撃態勢を取り、眼光が芳佳を睨み据えた。
「くっ……!」
 かつての上官がそうしたように。
 転がっていた木の棒を手に取り、芳佳は獣に向かって構える。
 師と仰ぐべきその上官が、窮地に立たされた戦いの折、芳佳は魔法の力を失った。
 限界を超えた魔力を使った、その反動が体に残り、一切の魔法を使えなくなったのだ。
 だからこそ、今はこれしかできない。
 空も飛べず、シールドも張れず、銃も持たないこの身では、こんな苦し紛れの抵抗しかできない。
(それでも)
 だとしても決して後退はしない。
 敵わないと分かっていても、敵から逃げ出すことはあり得ない。
 ここで引き下がるということは、自分の言葉を撤回し、敵を認めるということだ。
 そう考えると、恐怖が紛れた。絶対に殺し合いを認めたくないと、己を奮い立たせることができた。
「グォオオオオオオッ!」
 獣が吼える。大気が揺れる。
 びりびりと響く震動の中、鈍色の爪を生やした前足が、芳佳目掛けて襲いかかった。
(私は、絶対に負けたりしない――!)
 逆境にあろうと諦めない。
 決して屈したりはしない。
 決意の炎を瞳に燃やし、棒を構える両の手に、強く力を込めた瞬間。

「――君の意志は、受け取った!」

 静かに、されど力強い声を、耳ではなく心に聴いた気がした。


96 : 繋がるイシ ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:32:23 fp.LuZsM0


 その時目にした光景を、芳佳は生涯忘れないだろう。
 眩い光が奔った直後、芳佳を隠したその影を、決して忘れることはないだろう。
「え……」
 宮藤芳佳の目の前に、既に魔獣の前足はなく。
 それを抑えこむ銀色の背中と、はためく赤いマフラーが、代わりに視界に広がっていた。
 その背中を芳佳は知っている。
 初めて見たはずの背中が、何者であるかが理解できる。
「アー……チャー……?」
 口にした呼び名は、弓兵(アーチャー)。
 襲い来るライダーと同じ、サーヴァントに与えられるべき称号。
 それがその背中のものであると、宮藤芳佳は知っていた。
 それは目の前の存在が、宮藤芳佳のサーヴァントであることの、何よりの証明であると言えた。
「ぉおおおおっ!」
 裂帛の気合が闇夜に響く。
 ずんと大地を踏みしめる足が、ぐっと腕に力を与える。
 銀色のアーチャーの両腕は、受け止めていた獣の足を、力任せに弾き飛ばした。
「遅かったか!」
 ライダーのサーヴァントが吐き捨てる。
 呼ばれる前に片付けたかった。そんな無念が言葉に滲む。
「後は任せて」
 君が貫かんとする意志は、俺の手で突き通してみせると。
 ヘッドギアで守られた、少し歳上の少年の顔が、芳佳に向かって語りかける。
 振り返った瞳は、青かった。
 直前に発した雄叫びと、見上げるような長身に反し、その声色は優しかった。
「だが、諸共に叩けば同じこと!」
 ライダーの声がそこに重なる。
 魔獣が唸りを上げながら、再び攻撃態勢を取る。
 瞬間、背後から伸びたのは、触手のような無数の尾だ。
「!」
 アーチャーの目が細められた。
 素早く向き直る瞳には、戦う意志が込められていた。
 敵に相対するその背中は――とても力強く、たくましく見えた。
「はぁっ!」
 赤いマフラーが闇夜にしなる。
 伸びた先端をアーチャーが掴む。
 瞬間、素早く振りかぶった真紅が、迫る尾の1本を切り飛ばした。
 あれは刃だ。光り輝くマフラーの先が、刀剣の鋭さを宿したのだ。
 続く2本目3本目が襲う。空を震わす魔獣の尾は、切り落とした1本限りではない。
「ふっ!」
 2本目が地に刺さる直前に、跳躍。
 追撃の3本目を蹴飛ばして、次なる4本目に飛び乗る。
 先にかわした2本の触手が、再び背後から襲いかかった。それを尾の上を走りながら、刹那の早業で叩き切った。
「おのれ!」
「だぁぁっ!」
 抜刀するライダーに向かって、アーチャーが飛びかかり、斬りかかる。
 ぎぃんと音が響くと同時に、鋭い火花が闇を照らす。
「ぐっ!」
 瞬間、アーチャーを襲ったのは5本目の尾だ。
 脇腹を殴られた銀色の影は、勢いよく吹っ飛ばされて地を転がった。
「アーチャー!」
 我知らず、芳佳は叫んでいた。
 その叫びに呼応するように、広がる土煙の中から、ゆっくりと少年が立ち上がる。
 青い瞳が見据えるのは、殺意を放ってアーチャーを狙う、残り全ての触手の姿だ。


97 : 繋がるイシ ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:33:09 fp.LuZsM0
「大人しく、してろっ!」
 刹那、アーチャーの瞳が光った。
 虚空に浮かんだ7つの光が、円を描くように回転し、その瞳に宿ったのだ。
 瞬間、アーチャーの姿が一変する。両足が一回り細くなり、青白くゆらめく炎を纏う。
 再び触手が迫った瞬間、炎は轟音と共に勢いを増した。
 びゅんっ、と風を切る音と共に、鱗の尾はあえなく空を切った。
 跳躍し身をかわすアーチャーの速度は、先ほどまでとは桁違いだ。
 両足から吹き出る青い炎が、ジェット噴射の要領で、彼を加速させているのだ。
 それだけの速度を出していながら、アーチャーの動作に迷いはない。
 迫り来る触手を的確に見極め、最低限度のストップで、無駄なく回避し続けている。
 まるでそうした敵相手に、何度も戦ってきたかのように。
「うぉおおおおっ!」
 遂にアーチャーは尾を乗り越え、魔獣の懐へと潜り込んだ。
 瞳に再び光が宿り、両足が元に戻ると同時に、今度は左手が姿を変えた。
 新たに現れたその武器は、彼の弓兵(アーチャー)たる所以。
 巨獣の影にまたたいたのは、仕込み銃のマズルフラッシュだ。
 どんどんどん、と銃声が鳴る。
 その度に鮮血が弾け飛ぶ。
 加速の勢いを維持したまま、スライディングするアーチャーの狙いは、過たず魔物の四肢を捉えた。
「ギャアアアッ!」
 いくら神話の怪物と言えど、足の腱全てを撃ち抜かれて、立っていられるはずもない。
 悲鳴を上げてのたうつ魔獣は、アーチャーが離れると同時に、もんどりうって地に伏した。
 ずぅんと地鳴りが響く中、アーチャーは態勢を立て直し、本命のライダーを狙わんとする。
「危ない!」
 しかし、傍観していた芳佳の方が、一足先に異変に気付いた。
 魔獣に乗っているはずのライダーの姿が――影も形も見当たらない!
「はぁぁっ!」
 声はアーチャーの背後から聞こえた。
 ほとんど条件反射的な動作だった。
 咄嗟に繰り出したアーチャーの右腕が、飛びかかってきたライダーの剣を、火花を散らして受け止めていた。
「くっ……!」
 アーチャーの顔が苦悶に歪む。
 鎧のような姿だが、受け止めたものもまた英霊の刃だ。そんな受け止め方をして、持ちこたえられるわけもない。
 理解した芳佳の行動は素早かった。すぐさまその場から駆け出し、掘り返された地面を見回した。
 土の中から顔を出した、一際大きな石を掴むと、それを両手で引っこ抜き。
「どぉおおりゃぁあああああっ!」
 顔を真っ赤にして力みながら、力任せに投げつけた。
 いっぱいいっぱいのスローイングだったが、結果は幸運にも命中だ。
 辞典ほどの大きさの石は、人間ならば即死ものの角度で、ライダーの頭部に叩きこまれた。
 この時の芳佳には、まだ理解しきれていなかったが、この行動に攻撃としての意味はない。
 霊体であるサーヴァントに対して、神秘性を持たない攻撃は、ダメージを与えることができない。
 しかし重量を伴う一撃は、ライダーの頭を確かに揺らした。
 衝撃だけは感じたライダーは、一瞬標的から目を逸し、芳佳の方へと意識を向けた。


98 : 繋がるイシ ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:34:54 fp.LuZsM0
「今ですっ!」
 それだけのタイムラグがあれば、同じ英霊であるアーチャーにとっては、立て直すには十分すぎる。
「おおおおおおっ!」
 アーチャーのサーヴァントが吼える。
 剣を払って右手を伸ばし、ライダーの体を引き寄せる。
「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
 ゼロ距離からライダーに浴びせたのは、鼓膜を破る銃声だ。
 深々と叩きこまれたのは、銃口を光らせる左の拳だ。
 どん、どん、どん――と轟音が鳴る。
 回避不能な至近距離から、次々と銃弾が撃ち込まれる。
「がっ……は――」
 5発、6発、7発と響き、10発に至ろうかとした頃に。
 遂にライダーの体は力を失い、大きく吐血すると同時に、だらりとアーチャーにもたれかかった。
 その体は淡く光を放ち、やがて光そのものとなり、さらさらと大気にほどけていった。
 大地に横たわる魔獣もまた、白い光の粒子となって、闇に弾けて消えていった。
「……ありがとう。おかげで助かった」
 その時目にした光景を、宮藤芳佳は忘れないだろう。
 闇夜に舞い散る光の中で、マントを揺らす銀色の姿を、生涯忘れることはないだろう。
 青い左手を正面に向け、親指を立ててサムズアップ。
 ともすれば気障とも取れる動作を、自然な振る舞いで行いながら。
 静かに微笑む少年の顔は、とても頼もしく見えると同時に、とても優しいものに映った。
(これが、サーヴァント……)
 聖杯戦争を勝ち抜く力。
 たった1つの願いのために、人の命を奪う力。
 しかし宮藤芳佳にとっては、争いを止めたいと願う心を、貫き通すための力だ。
 平和を願う芳佳の意志を、受け取ったと言ってくれた男だ。
 人々が死力を尽くしたその時、ヒーローは初めて現れる。
 叶えたい願いのために戦い、全てを出し尽くしてなお立ち上がった時、その背中を押すためにやって来る。
 アーチャーのサーヴァント。
 名を、セイクリッドアルマ・リベレイター――丹童子アルマ。
 これより始まる長い戦いに、共に挑むことになる相棒(ヒーロー)と、芳佳が出会った瞬間だった。


99 : 繋がるイシ ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:35:53 fp.LuZsM0


 この手の力を振りかざす時、傍らには常に彼女がいた。
 セイクリッドセブンの力は絆だ。ルリの想いと意志がなければ、決して目覚めることのない力だ。
 その力を今の俺は、独りで使えてしまっている。
 ルリがいないにもかかわらず、こうしてこの姿で戦っている。

 それでも、絆は断たれていない。
 ルリの助けはなくなったけれど、誰の助けも必要とせずに、ここに立っているわけじゃない。
 俺を突き動かす魔力は、俺のマスターから与えられた力だ。
 俺の力を目覚めさせたのは、彼女の見せた想いと意志だ。
 あの真っ直ぐな想いのためなら、俺は再び戦える。
 戦いを終わらせたいという、正しい意志のためならば、この命を預けることができる。

 だからこそ、今度は俺が与える番だ。
 俺の意志を彼女に預け、この手で彼女を支える番だ。

 俺は独りなんかじゃない。

 誰かの意志が求めるならば――俺はもう一度戦える。


100 : 繋がるイシ ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:36:23 fp.LuZsM0
【クラス】アーチャー
【真名】丹童子アルマ
【出典】セイクリッドセブン
【性別】男性
【属性】混沌・善

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:C 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:-(C→B)
 宝具発動時にのみ発動する。
 『七曜の輝戦士(セイクリッドアルマ・リベレイター)』発動時はCランクとなり、第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 『輝けるイシ(セイクリッドアルマ・アーク)』発動時はBランクとなり、第三節以下の詠唱による魔術を無効化する。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【保有スキル】
巨人殺し:B
 自身より巨大な敵と戦い、打倒してきた逸話に基づくスキル。
 その豊富な戦闘経験により、巨大な敵と戦う際には、命中率・回避率・クリティカル率に補正がかかる。

勇猛:C
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

騎乗:E
 騎乗の才能。原付免許を取得している。

【宝具】
『七曜の輝戦士(セイクリッドアルマ・リベレイター)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:C
 宇宙より飛来した、特殊な7つの力を宿す石――セイクリッドセブン。
 アルマはその力により、銀色の超人・セイクリッドテイカーへと変身することができる。
 セイクリッドセブンの原石を取り込んだアルマは、
 本来1つずつしか持てない石の力を7つ全て兼ね揃え、状況に応じて使い分けることができる。
 (ただし2つ以上の力を併用することはできない)
 使用可能な力・セイクリッドアビリティは、以下の通り。
 ・ファーストアビリティ・ガンナックル
  『同時に2つを壊す力』。左手が射撃ギミックを有したガントレットに変形する。
 ・セカンドアビリティ・マテリアルシフト
  『物をすり抜ける力』。触れた物質を自在に変化させる。劇中では壁をすり抜けるなどといった形で使用された。
 ・サードアビリティ・アルマーズソード
  『正確に切り裂く力』。マフラーの先端を変形させ、刀剣として用いる。刀身はある程度の伸縮が可能。
 ・フォースアビリティ・グライディングソール
  『空を自由に移動する力』。脚部にボードを発生させ、滑空飛行を可能にする(完全な飛行能力ではない)。
 ・フィフスアビリティ・フォトンヘイロー
  『空を貫く力』。エネルギーフィールドを纏い突撃する。移動用ではなく攻撃用だが、何気に完全飛行が可能。
 ・シックススアビリティ・アルティメットコート
  『全てを包み込む力』。敵の攻撃を力場で包み込み、無効化する。
 ・セブンスアビリティ・ライトニンクリパルジョン
  『矢のように駆ける力』。脚部にブースターを生じ、走力・跳躍力を高める。

『輝けるイシ(セイクリッドアルマ・アーク)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
筋力:B+ 耐久:B 敏捷:A 魔力:A 幸運:B
 セイクリッドテイカーとしての能力を、最大限に発揮した真紅の超人。
 基礎的なスペックのみならず、全てのセイクリッドアビリティがパワーアップしている。
 (たとえば、限定飛行能力に留まっていたフォースアビリティも、完全な飛行能力へと変化している)
 更に2つ以上の力を併用し、組み合わせた戦法を取ることも可能となっている。
 この宝具を解放するためには、マスターが令呪を一画消費し、その魔力を使わなければならない。
 アルマを信じ意志(イシ)を託す――その行為そのものが、最後の力のトリガーとなるのである。


101 : 繋がるイシ ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:37:00 fp.LuZsM0
【weapon】
なし

【人物背景】
セイクリッドテイカーの力を持つ、ロシア系ハーフの少年。身長195センチ。
かつて自らの力を暴走させ、高校生18人を病院送りにしたことがあり、その噂によって周囲からは恐れられていた。
彼自身も強い自己嫌悪に陥り、周囲との接触を避けていたが、
藍羽ルリとの出会いとリベレイターへの覚醒を経て、人々を守るための戦いに身を投じていくことになる。

常に難しそうな顔をしており、その長身も相まって、強い威圧感を放っている。
だがそれは人付き合いの不得手さからくるものであり、本来は素直な性格で、そして結構な恥ずかしがり屋。
部活動の合宿の際には、口に出さないまでも完全に浮かれきっており、一人うきうきとしたニヤけ面を披露していた。
超高高度での戦闘の際には、完全にビビッて出撃を拒否するなど、ヘタレ属性も兼ね揃えている。
やがて戦いと人々との触れ合いの中で、閉ざした心を開いていき、背筋を伸ばして歩いていけるようになった。
「とりあえず」という言葉が口癖だった時期があるが、ある時誤解を招いたことをきっかけに、使わないようにしている。

今回は彼がリベレイターの力に目覚めた、17歳の頃の姿で現界している。
7つの能力を持つ彼が、アーチャーのクラスを与えられたのは、
元来ファーストアビリティを持ったセイクリッドテイカーだからであると思われる。

【サーヴァントとしての願い】
なし

【基本戦術、方針、運用法】
一応アーチャークラスで現界しているが、得意とするのは近距離戦闘。
そのため敵の懐へ飛び込み、正面切って戦うのが基本スタイルとなるだろう。
万能型の能力は、悪く言えば器用貧乏であるとも言える。使う力の選択を誤らないよう、慎重に立ち回りたい。


102 : 繋がるイシ ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:37:31 fp.LuZsM0
【マスター】宮藤芳佳
【出典】劇場版ストライクウィッチーズ
【性別】女性

【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止めたい

【weapon】
なし

【能力・技能】
ウィッチ
 体内の魔力を行使し、魔法を操る魔女としての技能。
 ストライカーユニットを持たずとも、防御フィールドなどの簡単な魔法なら使用可能。
 豆柴の使い魔「九字兼定」と契約しており、魔力行使時には犬の耳と尻尾が生える。
 芳佳は高い適性を持っていたが、現在は先の戦闘の後遺症により、魔法を行使できなくなってしまっている。
 魔力が失われたわけではないため、サーヴァントへの魔力供給は可能。

治癒魔法
 芳佳の持つ得意魔法。怪我や病気を治すことができる。これも現在は使用できない。

体術
 軍の訓練で叩き込まれた運動技術。人並み以上には鍛えられているが、それほど得意ではない模様。

医術
 傷や病を治療する技術。
 実家が診療所であるため、一定の知識や技術がある。治癒魔法が使えずとも、応急処置くらいはこなせるだろう。

料理
 扶桑料理を作るのが得意。

【人物背景】
異次元から現れた謎の金属体・ネウロイ。
地球を侵攻するこれらを撃退するために結成された、第501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」の元メンバーである。
扶桑皇国(日本に相当する国家)出身で、16歳の元少尉。
父親の宮藤一郎は、ネウロイと戦うための魔導装備・ストライカーユニットの開発者であり、
彼女自身も将来を期待された才能あるウィッチだったが、
ロマーニャ公国(イタリアに相当する国家)での戦いでの無理が祟って、魔法が使用できなくなってしまった。
現在は軍を退役して、実家の診療所に戻っている。

明るく活発な性格で、困った人を放っておけない優しい人物。
父を強く尊敬しており、「その力を、多くの人を守るために」という彼の言葉は、現在の芳佳の行動原理となっている。
そのため人の命を救うためなら、たとえ魔法が使えずとも、迷わず窮地に飛び込む思い切りを見せる。
一方、勢いで軍に入隊した経緯を持つためか、未だ軍隊の規律というものには疎く、独断専行や軍規違反が多い。
おっちょこちょいな面も強く、現在の実力を培うまでには、相当な苦労をした模様。

全くの余談だが、巨乳好きでもある。

【方針】
聖杯戦争を止めたい。


103 : ◆aWSXUOcrjU :2015/06/17(水) 01:38:19 fp.LuZsM0
投下は以上です
アーチャー(丹童子アルマ@セイクリッドセブン)&宮藤芳佳@劇場版ストライクウィッチーズ組でした


104 : 名無しさん :2015/06/17(水) 11:22:01 GLR1J0M.0
>>1さんに質問です

舞台は現実の鎌倉で市民も現実の人間とのことですが、例えば異世界から来訪したマスターは戸籍なしの浮浪者のような扱いになるのでしょうか。それとも何かしらの立場や役割を与えられるのでしょうか


105 : 名無しさん :2015/06/17(水) 14:00:04 qFSZY2no0
監督役レイプ!お小遣いくれるおじさんと化した言峰神父


106 : 名無しさん :2015/06/17(水) 23:28:28 8pN9Pjjs0
>>1さんに質問です
ロワに書き手として参加したことがない、いわゆる新規の書き手でも投稿してよろしいのでしょうか


107 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/18(木) 00:16:06 378gcc6A0
>宮藤芳佳&アーチャー組
 おっと、これはなかなか素晴らしい対聖杯組……
 聖杯戦争での打開派はかなり茨の道ですが、頑張って欲しいですね。

>>104
 そうですね。基本的には戸籍なしとして扱われます。
 それをどうにか誤魔化すために偽りの身分を作ったり、或いはそのまま浮浪者で押し通すかは各マスターの采配に委ねられるわけですね。

>>106
 ルールさえ読んでいただけたなら、新規さんの参入は歓迎です。


108 : 名無しさん :2015/06/18(木) 07:55:51 YFXeLAmY0
アイエエエエ!?ど、どうしよう…
死後の参戦、死ぬ直前のある出来事が鯖の選定・契約に繋がっている、記憶がない状態で学生している
という内容で登場話を作っていますが、不味いてすか>>1さん?


109 : 名無しさん :2015/06/18(木) 10:36:08 qEQiaCwk0
マスターの設定で質問があるのですが、
現代日本が舞台設定の作品キャラを元々この世界にいる住民として、
役割を持たせて登場させるのもNGですか?


110 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/18(木) 16:06:39 378gcc6A0
>>108
そのままではNGですが、就学する手引きを現地で得ていたなどの設定があれば大丈夫です。

>>109
あくまでも本作におけるマスター、サーヴァントは異界から招来された存在という設定になっておりますので、現地人の登場はご遠慮願いたいです。


111 : 名無しさん :2015/06/18(木) 20:10:02 2BH7UZtE0
>>108からの>>110の返答を受けて一部設定変更を行いつつ、再度質問します。

1.死んだ後の参戦はOKですか?
 他の二次聖杯ではおおよそ聖杯の導きで願いを抱いた死人が呼び出されていますが、此処鎌倉聖杯では如何でしょうか?

2.何らかの事情で鎌倉を訪問した人物がマスターとして目覚めてもよろしいでしょうか?
 また、鎌倉以外の場所で令呪が発現した人物が鎌倉に訪れて聖杯戦争に参加する、というのもできますか?

例えば、鎌倉以外の会社に所属している社会人が出張などで鎌倉を訪れる、鎌倉以外の学校に通う学生が修学旅行などで訪れる、など。
このように外来から参戦する場合、鎌倉内での身分はなくても宿泊などは容易になるかと思います。
当然、地位が低い人は拠点を確保しづらく、何らかの強行手段が必要になるかと思いますが、このような登場のさせ方も大丈夫でしょうか?


……なんだか言いたい事が纏まりきれていませんが、とりあえずこの質問でお返事をお待ちします。


112 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/18(木) 22:23:30 378gcc6A0
先に投下の方をさせていただきます。


113 : レーベレヒト・マース&アーチャー ◆p.rCH11eKY :2015/06/18(木) 22:24:17 378gcc6A0

 港。
 魚釣りを楽しむ釣り人たちを見下ろす形で、レーベレヒト・マースは高台に腰を下ろしていた。
 嗅ぎ慣れた潮風の香りが鼻孔を擽る感覚に、レーベはくしゃみを一つする。
 此処も、百年前には空襲の被害を受けたらしい。
 今の牧歌的な風景からは想像もできない事実だが、あの戦火がこの小さな島国を満遍なく襲ったことはレーベも当然知っている。
 勇ましく出陣していった兵たちの内、一体何名が生きて終戦を迎えられたのだろうか。
 第二次世界大戦――悪夢のような大戦争が終わり、世界が夜明けを迎える瞬間を。
 一体どれだけの人間が、そして艦(ふね)が、それを見ることが出来たのだろうか。

 艦娘。
 レーベの生まれた世界には、そういう兵器が存在した。
 普通の女学生を武装させ、人の領分を超えた力を与えて戦場へと送り出すシステム。
 海の平穏を脅かす深海棲艦と交戦する為に生み出された彼女達は日々海へ出、ある日は輝かしい戦果を挙げて母港へ帰り着き、またある日は無念の撤退を余儀なくされ――時には二度と帰らない娘もいる。
 前世の顛末と、同じように。
 
 艦娘達のベースとなっているのは、かの第二次世界大戦にて製造され大海原を駆け巡った軍艦達だ。
 必然、その力をコンバートして做られた彼女達は、自らの前世とも呼ぶべき軍艦の記憶を引き継いでいる。
 人によって継承の度合いはまちまちであるが、己の最期の瞬間ならば、誰もが鮮明に記憶していると言っていいだろう。
 Z1型駆逐艦、レーベレヒト・マースもそうだった。
 あの凄惨な戦火を思い出し、眠れない夜を過ごしたことも一度や二度ではない。

 ヴィーキンガー作戦。
 それが、レーベレヒト・マースが轟沈した作戦の名だ。
 友軍機からの誤爆を受け、敢えなく沈んでいく時の景色を覚えている。
 無尽に広がる海原の真ん中、予想できる筈のない友軍の誤爆――それは最悪の結果を招き、Z1型駆逐艦一番艦へ搭乗していた乗組員の内、286名もの命が失われた。
 戦場において、生命の価値は平等に無価値である。
 一度でも銃を取り、血風の舞う闘争のフィールドへ立った者ならば誰もが自ずと理解する普遍の真理。
 ――されど。それに納得できる否かは別問題だった。

 レーベの小さな手は、いつしか握り拳を作っていた。
 眼下でのんびりと休日を謳歌している釣り人達。
 彼らのように平和な日常を過ごす権利は、あの大戦で死んでいった人々にも本来約束されていた筈なのだ。
 そしてそれは、自分や仲間達も同じ。
 艦娘として闘うようになってからも、仲間が轟沈したのは一度二度ではない。
 今までも――そしてこれからも……争いが起こる度、必ず誰かが死んでいく。
 地球という星に生きるちっぽけな生命体の一つでしかないレーベに、それを止めることは出来ない。
 
 (けど……今は違う)

 レーベは握りしめた拳へ視線を落とす。
 そこには、三画の真っ赤な文様が顕れていた。
 
 艦娘のそれを遥か上回って余りある交戦能力を保有する超常生命体・サーヴァント。
 そして三度限りではあるが、それを有無を言わさず従わせることの出来る力。
 名を令呪。言わずもがな、この文様を持つレーベもまた、願望器を巡る闘争に身を投ずる挑戦者の一人だ。

 どのようにして、この『艦娘の存在しない世界』にやって来たのかははっきりしない。
 最後に覚えているのは、深海棲艦との交戦中に目眩に似た感覚に襲われ、意識が暗転した所までだ。
 目が覚めた時、自分はどこにでもあるような普通の女学院の教室で授業を受けていた。
 その日常に違和感を覚え、艦娘として戦っていた記憶を思い出し――サーヴァントと対面したのが昨日の出来事だ。
 情けないとは思う。仲間に申し訳ないとも思う。
 でも、全て忘れ去って浸かりきってしまいたいと思うくらい、平穏な日常というものは幸福に満ち溢れていた。


114 : レーベレヒト・マース&アーチャー ◆p.rCH11eKY :2015/06/18(木) 22:25:22 378gcc6A0
 この日々を――
 この日々を、全ての人が享受できる世界だったらいいのに。
 全てを思い出したレーベは、心の底からそう願った。
 もう、止まることは出来なかった。
 二度と大戦の過ちを繰り返させないこと。
 そして、誰もが優しく穏やかな日常を満喫できる世界を作ること。
 二つの叶うはずのない願いを叶えてみせる為に、レーベレヒト・マースは聖杯戦争に参戦することを決めた。

 潮風になびく髪をかき上げながら、レーベは小さくアーチャー、と呟いた。
 同時。彼女の傍らに、つい先刻までは確実に姿のなかった奇抜な出で立ちの青年が姿を現す。
 
 「――呼んだかよ、ガキ」

 天めがけて逆立ったモヒカン頭は、静かな港の雰囲気に全くといっていいほど合致していない。
 両耳にそれぞれあしらってあるボルトとナットもさることながら、髑髏の腕章を巻いている辺りが最悪だ。
 その姿を他人が目撃したなら、まず十人中十人がお近付きになりたがらないに違いない。
 そこらのゴロツキと何ら変わらない見た目をしているのに、何故かその佇まいには凄みが付き纏う。
 だが当然といえば当然だろう。
 彼はアーチャーのサーヴァント。
 『見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)』が有する主力戦闘部隊『星十字騎士団(シュテルンリッター)』の一員にして、『B』の聖文字(シュリフト)を与えられた滅却師(クインシー)……それが彼。

 バズビー。それが、その真名だった。
 不機嫌そうな様子から察するに、一介の小娘ごときに使役されている事実へ納得がいっていないのかもしれない。
 気持ちはわかる。彼ほどの使い手にしてみれば、レーベ達の戦場なんてものはほんの児戯にもならないだろう。
 だからこそ、更に苛烈化することが予想される聖杯戦争を勝ち抜くためには、彼の助力は必要不可欠なものだ。
 令呪で無理矢理言うことを聞かせることはなるだけしたくない。
 早い内に円満な関係を築いておきたいのだが、それはまだまだ難しそうかな……と、レーベは内心苦笑する。

 「覚悟、決まったよ。ボクは聖杯戦争を勝ち抜く。――そこに、迷いはもうない」

 立ち上がり、美しく照り輝く水面を眺めながらレーベは宣言する。
 愚かな願いと切って捨てられるかもしれない。
 それでも、レーベは夢を見たかった。
 その夢を現実にするためなら、命だって懸けられるほどに、真っ直ぐに渇望していた。
 
 「ハン、そうかよ。なら精々足引っ張らねえようにするこった」
 「あまり馬鹿にしないでほしいな。アーチャー程じゃないにしろ、ボクだって結構やれるんだよ」
 
 何も、アーチャーへ頼り切るわけじゃない。
 艦娘としての武装は引き継いでいるし、海の上じゃなくたってそこな相手には遅れを取らない自負がある。
 彼がサーヴァントと闘うなら、自分は敵のマスターと闘うことが出来る。
 自分も、そしてもちろん彼も、無力などではない。
 聖杯を狙えるだけの力は充分に備わっている。

 「――言っとくがよ、俺はてめえなんざに服従する気はさらさらねえ。てめえとの契約に甘んじてやってるのも、マスターってのがいねえとロクに戦えねえとかいう気の乗らねえ縛りがあるからだ。そこんところ、履き違えるんじゃねえぞ」
 
 アーチャーは奔放な人物だ。そして、戦闘狂のケがある。
 
 加え、レーベのまだ与り知らぬ、とある過去を持つ身だ。
 
 そんな彼にとっては、この聖杯戦争というシステムはあまりにも窮屈なものなのだろう。


115 : レーベレヒト・マース&アーチャー ◆p.rCH11eKY :2015/06/18(木) 22:26:12 378gcc6A0
 マスターを狙われることも阻止しなければならない、場合によってはマスターの命令へ無理矢理従わされる。
 思う存分力を振るえない――趣向はともかく、縛りがありすぎる。
 そういったニュアンスの不満を燃え上がらせているんだろうなと、レーベは推測した。
 
 「…………了解だよ、アーチャー」

 本来、立場逆だと思うんだけどなあ。
 そんなつぶやきは、声に出すこともなくしまっておいた。


【CLASS】アーチャー
【真名】バズビー@BLEACH

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:A

【属性】
 秩序・悪

【クラススキル】
 対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

 単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。


【保有スキル】
 血装(ブルート):A
 星十字騎士団の全員が持つ戦闘術のひとつで、自らの血管に霊子を流し込むことで攻防双方の能力を飛躍的に上昇させる、いわゆる身体能力強化術。
 攻撃用血装「動血装(ブルート・アルテリエ)」と防御用血装「静血装(ブルート・ヴェーネ)」を戦況に応じて切り替え、攻撃に転じれば絶大な力を発揮し、防御に転じれば頑強な皮膚へと硬質化することができる。

 戦闘続行:A
 『陛下』に切り捨てられる筈の未来を回避した逸話から齎されたスキル。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

【宝具】
『The Heat ― 灼熱 ―』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:50人
 ユーハバッハから賜った固有能力『聖文字(シュリフト)』が宝具化したもの。その実態はユーハバッハの吸収能力の効率を上げるためのもので、授けられた者の早死が確定する。
 指先から容易く人体を貫き、氷の頑健な鉄壁すらあっさりと貫通する威力の火炎を放射する『バーナーフィンガー』を主力の技として用い、これは使用する指の本数によって形状が変質するという性質を有している。1であれば指1本で、2であれば指2本で使用するといった具合で、「2」までは威力が上昇する程度の差異しか存在しないが、位階が3へ上昇すると灼熱の溶岩の放出、現状確認されている最大本数の4では巨大な炎の刀を出現させ、それに乗せて炎の放出を行う。


【weapon】
 宝具並びに滅却師としての能力。

【人物背景】
 星十字騎士団所属の炎使いの滅却師(クインシー)。ユーハバッハから「H」の聖文字(シュリフト)を授かった。尸魂界への侵攻時は吉良イヅルを殺害・山本元柳斎重國に対しエス・ノトやナナナ・ナジャークープと共に奇襲を仕掛けるも逆に強烈な火炎を喰らい一蹴される。しかし本人曰く「自身の能力で流刃若火を打ち消し」、2人と共に何とか生存していた。
 再侵攻においては日番谷冬獅郎、松本乱菊と激突。二人の新戦術をものともせずに自慢の能力で追い詰めるが、卍解を取り戻した日番谷に蒼都が敗北したため撤退する。
 他の騎士団メンバーに対する仲間意識は薄く、手柄を横取りしようとして仲間に向かって攻撃する場面も。但しハッシュヴァルトに対しては一人だけ「ユーゴー」と愛称で呼び、彼の実力の高さを認めており、副官である彼を差し置いて石田がユーハバッハの後継者に選ばれた時は荒れていた。


116 : レーベレヒト・マース&アーチャー ◆p.rCH11eKY :2015/06/18(木) 22:26:33 378gcc6A0

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯により力を得、ユーハバッハを討つ。

【基本戦術、方針、運用法】
 非常に火力・突破力の高い宝具を持つため、これを惜しげもなく使って敵サーヴァントと交戦する。
 魔力燃費も良く、マスターのレーベも戦闘に優れている為、基本的に穴と呼べる穴が存在しない強みを持つ。



【マスター】
 レーベレヒト・マース@艦隊これくしょん
【マスターとしての願い】
 第二次大戦の起きなかった、平和な世界の実現。

【weapon】
 12.7cm単装砲5門と四連装魚雷発射管2基。

【能力・技能】 
 “艦娘”としての高い交戦能力。程度は一流の魔術師に少々劣る程度とする。

【人物背景】
 ヒトラー政権の誕生とヴェルサイユ条約の破棄により再軍備を進めたドイツ海軍が、第一次世界大戦後に初めて建造した「Z1型駆逐艦」の1番艦。1934年に起工したことから、「1934型」とも呼ばれる。Z1型の「Z」とは、ドイツ語の駆逐艦"Zerst□rer(ツェルシュテラー)"の頭文字から。艦名はドイツ帝国海軍少将レーベレヒト・マースに因む。
 砲火力自体は同時期に建造された白露型と同じであるが、実はかなり無茶な設計である。というのも、日本の白露型駆逐艦が連装砲塔を採用して省スペースで多くの砲を搭載したのに対し、Z1型は単装砲だったため、装備重量がかさんでしまった。結果、かなりのトップヘビーとなり、安定性を確保するために日米英の駆逐艦の1.5倍程度の排水量になった。ロンドン条約に縛られていなかったドイツだからこの解決法が可能になったのである。
 2月22日ヴィーキンガー作戦に参加するが、作戦中に友軍機に誤爆され爆弾が命中しその後爆発、沈没。乗員286名が死亡。

【方針】
 アーチャーと共に敵を倒していく。


117 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/18(木) 22:30:38 378gcc6A0
以上で投下終了です。

>>111
 死人の召喚については問題ありません。
 後者の質問につきましては、「舞台となる鎌倉の存在する世界」からの参戦は申し訳ありませんがご遠慮ください。
 企画の根本にある設定が異界から招来されたマスター達による聖杯戦争ですので、元々この世界に住んでいる人間には鎌倉での聖杯戦争への参加権は与えられていない、と考えていただければ。


118 : ◆U93zqK5Y1U :2015/06/18(木) 23:51:11 gkpqsrrY0
>>117
>>111とは別の者ですが、登場話を書き終わりましたので投下したいと思います

マスターに鎌倉を地元民とするキャラを選んでいますが、
>>117で示されたことから「舞台となる鎌倉とは別の世界(そのキャラの本来の作品世界)の鎌倉から来た」と解釈させていただきました


119 : 笹目ヤヤ&ライダー ◆U93zqK5Y1U :2015/06/18(木) 23:53:26 gkpqsrrY0

なんてことない、授業の合間に机を囲んでの会話だった。



曰く、満月の夜に、荏柄天神社の境内で踊る金色の妖精がいる。
妖精に魅了された者は、ここではない別の世界に連れていかれてしまう。



ある日、隣の机からそんな噂を耳にした。
知ってる、と私は呟く。
妖精を目撃したどころか、そいつに激突されていきなり押し倒されて、ひどい迷惑をこうむったのだから。
幽霊の正体見たり、何とかってヤツ?
きっと噂を発祥させたのは幼なじみのあの子で、噂の正体は桜の季節に転校してきたアイツだろう。



曰く、花雪の唄をうたう御伽の国の姫が、夜ごとにこの町を徘徊して花を降らせている。



次に聞こえてきたのは、そんな噂だった。
尾ひれがついてるし、と私は呟く。
学校のみんなは、昨日と同じ毎日に退屈しているらしい。
あの子みたいに、非日常めいたことに飢えている人は少なくないんだなと思った。

だけど、そいつがこの町――鎌倉での日常を激変させたのは、本当のことだった。

アイツがしたことと言えば、『よさこい』っていう踊りに半強制で勧誘してきたり。
私とずっと一緒だったあの子をがっちりと独り占めして、あの子と一緒にいない時間が増えたり。
休みの日もアイツが楽しいと思ったことにグイグイと付き合わされて、いつの間にか私も輪の中に入っている扱いになってたり。
悪くはなかった。
悪くはなかったけど、なんだか。
『もしかして、私よりあの子たちの方がよっぽど楽しそうに青春してない?』と思ってしまうことがあって、
そのたびにココロがぐしゃぐしゃと乱されたり。
『みんなが羨むような青春を全力でエンジョイしている』はずの私が、ぐらぐらと揺さぶられていって――その上、『あんなこと』があって。

だから、それが私の『聖杯にかける望み』ってヤツだったのだとしたら。

――ヒトを羨んだりしたから、バチが当たったのかも。

ともかく、私の周りはそんな風に慌ただしかったから、どんどん数を増やしていく都市伝説を聞いても心ここにあらずで。

曰く、早朝の空を半鳥半馬の生物に騎乗して駆け抜ける、天使のような美少女がいた。

曰く、切り落としへと続くハイキングコースで、甲冑の鎧武者と天女のような装束を纏った女性が双方ともに血みどろで相対していた。

曰く、町のそこかしこに、怪しげな儀式を執り行ったような魔法陣が残されているのを、学園の子が何人も見た。

いやいや、鎌倉ってどんだけ心霊スポットなのよ。そりゃあ昔は武将とかいっぱいいたのは知ってるけど。
ここに至って、ようやく私は奇妙だと気づいた。
気づいた時には、もう変わってしまっていた。
青春なんて、日常なんて、粉々になって跡形もなくなった。

通学路から見える、きらきらした湘南の海も。
海を遮るようにして走る江ノ島行きの路面電車――通称『江ノ電』とすれ違う時のガタンガタンという音も。
強い日差しを和らげてくれる涼しい海風の匂いに、もうすぐ花火とお祭りの季節かなと暦を数えてしまうのも。
14年の人生をずっと過ごしてきた、同じ町だったはずなのに。


120 : 笹目ヤヤ&ライダー ◆U93zqK5Y1U :2015/06/18(木) 23:54:52 gkpqsrrY0
ある日のある夜、ある放課後を境に、私はまるで異界にいた。

『もう誰も集まらないバンドのスタジオ』へと、気まぐれで足を向けたのが良くなかったのか。
ただ、虚しくぼんやりとしていたら、とっくに陽が沈んでいたのだから。

右手の甲に、薔薇の花の刺青をしたような赤いアザが浮かび上がったのが最初の異変で。

なんの変哲も無かったはずの帰り道が、初めて見る町へと変わってしまった。
それも、ただの『初めて見る町』じゃない。
知っているのに、知らない町だ。
右手を見ればごくごく見慣れた湘南の海があるのに、
左手を見れば、見覚えのない武家屋敷然とした日本家屋や、その逆の雰囲気をまとうお化け屋敷じみた洋館が当たり前のようにそびえて、並んでいる。
知らない建物を、知らない景色をパッチワークでツギハギしたように張り付けた、偽物の通学路。
この通りを内陸へとこう歩けば若宮大路に出るし、そこから鎌倉駅までは十分もかからないとか、そういう地理感覚なら分かってしまう。
『ここは鎌倉だ』ということなら土地勘で理解できるのに、
目に映るもの全ては『ここは異邦の土地なんだ!』と主張してくる。
ここは、どこ?
そう叫んで、走った。
これでもし、私の家まで――両親や弟まで消えてしまっていたら、どうしようかと。
そんな帰り道を、駆け抜けて。

――その途上で、巨大な槍を携えたバケモノに殺されかけた。

こうして私は、思い知らされる。
私の描いていた、『輝いてる青春の日々』だとか『日常』だとか『常識』だとか『理性』だとか『鎌倉という町』だとかの全ては、この夜に、瓦解した。

いや、『理性』ならば蒸発した。


🌸  🌸  🌸  🌸  🌸


不幸中の幸いと言うべきか。
むしろ、知らない街で殺し合いをすることになりました……なんて最悪の状況の中ではかなりラッキーな目を引いた方かもしれないけれど。

彼女を襲撃し、そして撃破されたサーヴァント(撃破といっても、ライダーご自慢の槍の『宝具』とやらがラッキーヒットしたおかげらしい)を召喚した年若い女魔術師は、
皮肉にも『アマチュアバンドのドラマー』というご身分でこの町を訪れていた。
どうやら、この町で観光振興の一環として開催されるイベントに、外部からの代演ヘルパーとして急きょ参加することになりました……と、そういう根回しを用意しての参戦だったけれど
――緒戦でサーヴァントを撃破されるや、とたんに気がくじけて元の世界に逃げ帰りました。
と、これらはその魔術師が戦闘の余波で手荷物(個人情報たくさん)を落っことしていった結果として分かったこと。
あとはその手荷物をそっくり貰い受けて、その魔術師が予約していたホテルに、そいつの名前を使ってチェックイン。
いきなり身ひとつで身分証明もできない町に放り出された女学生の行動としては、かなり上出来な方だったと自負したい。
未練があったバンド活動にまた参加することができて嬉しいか、と聞かれたらまったく全然そんなことはなかったけれど、おかげで最低限の社会的な居場所だけは、どうにか、こうにか。

そんなこんながあって、十四年の人生でも最大級の目まぐるい一晩を経験した少女A(14)。
――本名は、笹目ヤヤ。


121 : 笹目ヤヤ&ライダー ◆U93zqK5Y1U :2015/06/18(木) 23:56:26 gkpqsrrY0
小町通りは、鎌倉にとっての原宿だった。
クレープの露店と言わず、色とりどりのお団子を売る店だとか、チョココロッケのようなご当地甘味を売るお店まで、甘いものには事欠かない。
髪をきれいに染めた東京の女子高生たちの代わりのように、一日レンタルの着物を来た旅行者たち(外国人にもかなりの人気アリ)が行き来している。
中には時代劇に出てきそうな『茶屋』を再現したレトロな『甘味処』もしっくりと違和感なく存在するわけで。

「あー、葛きりうまうま。店員さーん。お団子のみたらしと小倉ホイップと、あと四色のやつを追加で――」
「すみません今の取り消しで! ……なんでアンタが無断で注文してるわけ? 有り得ないんだけど!」
「えー、いーじゃない。昨日は戦ったりマスターに説明したりで頑張ったんだからさー。魔力ほきゅー魔力ほきゅうー」
「とっくに私より食べてる時点で、もう回復するためじゃなくて食べたいだけじゃないの?」
「あ、ばれた?(テヘペロ」
「アンタが着てる可愛い着物、今すぐ返品しに行ってもいいのよ?
確か半日でキャンセルすれば、いくらかお金戻ってくるはずだし」
「うわあああごめんなさい! マスターの言うこと聞きます! これホント!」
「まったく……お金だって別にたくさんあるわけじゃないんだからね?
それより、アンタも真面目に経路を考えなさいよ。
元はと言えば外に出ようって言い出したの、アンタじゃない」
「えっ、ボクに任せちゃっていいのかい、マスター?」
「何よ、その不穏な言葉は」
「何しろ思慮分別に欠けているという点では右に出る者がいないからね、このライダーことアストルフォは」

甘味処の隅っこの席をがったんと立ち上がり、ムギーっとサーヴァントの両ほほをつねり、左右に引っ張っる。
痛がっているようには見えないけれど、喋りにくいことがライダーには苦行となったように見えた。

「アンタが昨日、私に説明したことをそのまま言うわ。
う、か、つ、に、真、名、を……喋るな」
「ふぁい……マフハー」

ぱっと手を放すと、ライダーのサーヴァントは頬をさすりながら椅子に腰かけた。
それは桜の花びらをぱっと散らした着物を着た――桃色の髪の『少女』。
黙っていれば、桜の精のように可憐で絵になる容姿のはずだ。

ちょっと待てちょっと待て、頼むから待て、と。
今朝からずっと、笹目ヤヤの脳内は、『付いていけない』と連呼しているのだが。

ここは、一歩を間違えれば死ぬ戦場のはずなのだが。
右も左も分からない異邦の土地で、どこで命を狙われるかも分からないのに。
なのにどうして甘味処でマップを広げて旅行者のごとく踏破コースを考えているかというと、
すべて外国からの観光者気分で女物のレンタル着物を着て嬉しそうにしているライダーのサーヴァントのせいなのだろう。

ちなみに、着物はヤヤがレンタルして、ライダーにはトイレの個室の中で霊体化を解いて着替えさせた。
(常識には疎いサーヴァントのくせに、着付けは一発で成功させた)
ちなみに、レンタルするまでには
「ダメ」
「どうして?」
「マニアっぽい」
「どーして?」
「普通の服にしなさい」
「えー、オリエンタルでコケティッシュなのがいいー」
「ダメ。こういうのはコケティッシュじゃなくてコスプレって言うの」
「あっほら周りの金髪さんも同じの着てるよ? 普通だよ?」
「よそはよそ、ウチはウチ!」
以下略。
というやり取りがあった。


122 : 笹目ヤヤ&ライダー ◆U93zqK5Y1U :2015/06/18(木) 23:57:14 gkpqsrrY0
最終的にヤヤが折れたのは『その代わり、普段は絶対にマスターのそばにいること。勝手に霊体化を解いて実体でフラフラ遊びに行ったり、はぐれたりしないこと』と約束させたからだった。
そう約束しなければ、そういう行動をしてしまう駄目サーヴァントだということを、ちょっと外出しただけで充分に思い知らされた。

命を救けてもらったことは確かだけれど、それでも言いたい。
なんでよりによってこんな『バカ』を守護霊で引き当てたんだろう。
相性で言ったら、うるさいコスプレ外人なんてあのハナ・N・フォーテーンスタンドにぴったりだし、イメージカラーがピンクなのは幼なじみの関谷なるの方だ。

「だいたい、ね。アンタ『マスターの知ってる町とどう違うのか見た方がいいと思う』とかもっともらしいこと言ったじゃない?
あれも、ただ観光して遊びたかっただけなんじゃないの? 少しは私の気持ちとか都合ってものを考えてよ」
「えー。でもほら、戦地を視察しておくのは基本でもあるし」

ヤヤの分の葛きりにも手をのばし、手を叩かれて阻止され、にへらと笑う。

「マスターもね、めちゃくちゃ大変な時だからこそ、まずは肩の力を抜く時間が大事かなーって」

え、と声が漏れる。
まさか、この生き物がヤヤのことを案じていたなんて思わなかった。

「それにホラ、人生、したいことした方が楽しいと思うよ?」

それは、どこかで聞いた言葉と、どこかで浮かべた笑顔。
不覚にも、ライダーを見ていて、ちくんと胸が痛んだ。
ただ、そうやってどきりとしたことを、この『バカ』には悟られたくなかったから。
つーんと目をそらし、テーブルからナプキンを数枚つかむ。

「まったく……アンタ、見た目はそんなでも、私よりずっと年上なんでしょ?
子どもみたいに食べかすくっつけて言っても説得力ないのよ」
「んー、ありがとう。マスター、面倒見いいね」

町はおかしな偽物だし、マスターのヤヤはかっこつけてるだけの小心者だ。
けど、少なくともコイツに裏表はない。
今はそう、思っておくことにする。

「さぁ、食べたら次の遊び――じゃなくて、戦地視察にレッツゴー!」
「ちょっ……こら、だから裏道を通りなさいってば! っていうか霊体化! 
ただでさえアンタは目立つんだから――」

ライダーに手を引かれ、走らされる。
『アイツ』に手を引かれて走っていたなるも、こんな気持ちだったのかな、と。
呑気にそんなことを想ってしまうのだった。


123 : 笹目ヤヤ&ライダー ◆U93zqK5Y1U :2015/06/18(木) 23:57:55 gkpqsrrY0
【クラス】
ライダー
【真名】
アストルフォ@Fate Apocrypha
【パラメーター】
筋力D耐久D敏捷A魔力B幸運A+宝具C
【属性】
 混沌・善 
【性別】
???
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術はすべてキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではアストルフォに傷をつけられない。
宝具である「本」によってランクが大きく向上しており、通常はDランクである。

騎乗:A+ 騎乗の才能。獣であるならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。
ただし、竜種は該当しない。

【保有スキル】

理性蒸発:D
理性が蒸発しており、あらゆる秘密を堪えることができない。
味方側の真名や弱点をうっかり喋る、大切なものを忘れるなど
最早呪いの類。このスキルは「直感」も兼ねており、戦闘時は
自身にとって最適な展開をある程度感じ取ることが可能。

怪力:C-
筋力を1ランクアップさせることが可能。
ただし、このスキルが発動している場合は1ターンごとにダメージを負う。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能

【宝具】

恐慌呼起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100人
竜の咆哮や神馬の嘶きにも似た魔音を発する角笛。
レンジ内に存在するものに、爆音の衝撃を叩きつける。
対象のHPがダメージ以下だった場合、塵になって四散する。
善の魔女・ロゲスティラがアストルフォに与え、ハルピュイアの大群を追い払うのに使用された。
通常時は腰に下げられるサイズだが、使用時はアストルフォを囲うほどの大きさになる。

触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)
 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:2〜4 最大捕捉:1人
騎士アルガリアの馬上槍。金の穂先を持つ。
殺傷能力こそ低いものの、傷をつけただけで相手の足を霊体化、
または転倒させることが可能。
この転倒から復帰するためにはLUC判定が必要なため、失敗すれば
バットステータス「転倒」が残り続ける。ただし、1ターンごとにLUCの上方修正があるため、成功はしやすくなる。


124 : 笹目ヤヤ&ライダー ◆U93zqK5Y1U :2015/06/18(木) 23:58:33 gkpqsrrY0
魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)
 ランク:C 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
さる魔女から譲り受けた、全ての魔術を打ち破る手段が記載されている書物。
所有しているだけで、自動的にAランク以下の魔術をキャンセルすることが可能。
固有結界か、それに極めて近い大魔術となるとその限りではないが、その場合も真名を開放して、
書を読み解くことで打破する可能性をつかめる。
……が、アストルフォはその真名を完全に忘却している。
魔術万能攻略書も適当につけた名である。
また、ステータスの一部が落書きされて読み取れなくなっているのも、この宝具の効果らしい。
ステータス確認も一種の魔術のようなものであるため、少しだけなら干渉できるとのこと

この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)
 ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:2〜50 最大捕捉:100人
上半身がグリフォン、下半身が馬という本来「有り得ない」存在の幻獣。
神代の獣であるグリフォンよりランクは劣るものの、その突進による粉砕攻撃はAランクの物理攻撃に匹敵する。
かなりの速度で飛行することが可能らしく、ライダーによれば、「びゅーん」って感じ。
飛ぶだけなら魔力消費も大したことはないらしい。
「ある場面」において絶大な効果を発揮するらしく、能力の一部が伏せられている。

【weapon】
剣・チェインメイル・角笛
【人物背景】
フランク国王に仕える武勇に秀でた12人の配下『シャルルマーニュ十二勇士』の騎士(パラディン)の一人。
設定ではイングランド王の子にしてリナルドの従弟となっていたので、恐らくオットーに嫁いだ母親がシャルルマーニュの親族であると云われている。
この世に並ぶもの無き美形ながら、「理性が蒸発している」と例えられるほどのお調子者。
冒険好きのトラブルメーカーで、どこにでも顔を出し、トラブルに巻き込まれ時には巻き起こす。
悪事を働くという概念がなく好き放題暴れまわるが、最悪の事態には踏み込まないというお得な性格。

ちなみに、性別は男。
自らのステータスに落書きをして性別を読み取れなくしているが、性別は男。(大事なことなので二回言いました)

【サーヴァントとしての願い】
特になし、しいて言えば二度目の生を楽しみたい。



【マスター】
 笹目ヤヤ@ハナヤマタ
【マスターとしての願い】
 日常を取り戻したい。

【能力・技能】 
 文武両道の中学生。
元アマチュアバンドのドラム担当で、作詞作曲も手掛けていたことがある。

【人物背景】
 由比ヶ浜学園の二年生。
才色兼備、文武両道の完璧な自分であり続けるために日々精進する努力家。
幼なじみである関谷なるにはめっぽう甘いが素直になれないこともある、いわゆるツンデレ。
留学生であるハナ・N・フォンテーンスタンドと関谷なるが設立したよさこい部に勧誘されたことで、それまで続けていたバンド活動とよさこいとの間で揺れ動くようになる。
アニメ7話でバンド活動が解散し、居場所をなくしたように感じていた時期から『現実の鎌倉』へと召喚された。

ちなみに、ライダーの性別が男だと気づいてない。

【方針】
 殺人はしたくないから、倒すとしたらサーヴァント……でも、ライダーはサーヴァントとしては弱そう……どうしよう。


125 : 笹目ヤヤ&ライダー ◆U93zqK5Y1U :2015/06/19(金) 00:00:26 Zwbpm5gY0
投下終了です。


126 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/19(金) 01:07:46 DxH1UDkQ0

>>笹目ヤヤ&ライダー組
 投下お疲れ様です!
 すごく雰囲気の良いお話でした。聖杯戦争に呼ばれるきっかけもなんというか年相応な気持ちの乱れだったりで、なんだか居た堪れない気分になりました。
 でもアストルフォみたいに明るいサーヴァントを引けたのは幸運だったのかも。

 本企画へのご協力、ありがとうございました。


127 : 西園寺世界&アサシン ◆69lrpT6dfY :2015/06/20(土) 11:23:59 IKKPNuWw0
突貫工事の作成&経年劣化の記憶で結構ガタガタな作品ですが、投下させていただきます。


128 : 西園寺世界&アサシン ◆69lrpT6dfY :2015/06/20(土) 11:24:14 IKKPNuWw0



これは、第二の生の始まり。
これは、幸せを取り戻すための狂気。
これは、理想の“世界”にするための闘争。




 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜


129 : 西園寺世界&アサシン ◆69lrpT6dfY :2015/06/20(土) 11:24:33 IKKPNuWw0





最初は、わけがわからなかった。


私は、いつの間にか観光地として有名な鎌倉にいた。
何故、私が鎌倉にいるのか、わからなかった。
だって、記憶がないから。
なんのために鎌倉に来たのか。どうやって鎌倉まで来たのか。
誰かと一緒だったかどうかさえも、わからなかった。
だからすぐに、近くに□□さんや◇◇、◆さんや■がいないか見渡した。
でも、何故か思い出せない。不鮮明な情報となって、要領を得ない。
記憶を手繰ってみる。ちょっと前までは普通に学生生活を送っていたことは思い出せる。
けれども、直近の出来事を思い出せない。
頭の中を検索しようとする。ノイズが走る。エラーが生じる。
禁忌に触れてはならぬように、気分が悪くなる。


わからない。わからない。わからない事だらけで。
正体を掴めない人混みの中で怯えていた時、私の顔は相当困惑したものであったのだろう。
だから心配そうに、一人のお姉さんが声を掛けてきた。
お人好しで優しい女性が差しのべられた手を見て、私は自身の現状を話そうとしたが。
しかし混乱して上手く話せず、その場では何も伝えられなかった。
そしたら「まずは落ち着きましょう」と言って、近くの別荘でゆっくりすることを提案された。
普通なら、そこで訝しむところだけど。
私はなんだか安心感を覚えて、お姉さんの後についていくことにした。



 /・/・/

そこまでが、多少の変異はあれど、なんの危機感もない、平穏な風景だと思っていた。
けれども、それはすぐに崩壊する。
これから体験する事が、壮絶な運命へと誘うことになろうとは…

 /・/・/


130 : 西園寺世界&アサシン ◆69lrpT6dfY :2015/06/20(土) 11:24:49 IKKPNuWw0



「逃げてっ!!」

人気のない道を歩く最中、なんの前触れもなくお姉さんが叫んだ。
突然の出来事に当然私は吃驚する。でもそれは序の口だ。
目で捉えられない速さで突貫してくる黒い影。
もしそのままぶつかっていたら、私達は木端微塵になっていただろう。
そうなる寸前に、別の人影が現れて、辛うじて黒い影を受け止めた。
傍から見るその光景は、怪物《ヴィラン》と英雄《ヒーロー》が激突し合う様式美、そのもの。
けれどもしかし、いつの世も英雄《ヒーロー》が勝利する、という理想とは違い。
あまりにも一方的に殴り続ける化物《ヴィラン》の狂騒が、現実の非情さを告げていた。


「ごめん、あなたを守りきるだけの余裕は無さそう…っ!」

それでもなお、目の前のお姉さんは気丈にしていた。
最初の衝突で吹き飛ばされた私とは違い、このような修羅場にも慣れているような感じだった。
それに比べて、私は何も出来ていない。
むしろ怯えてばかりで、邪魔になっているのだろう。


「早く、何処かへ行きなさい!!」

焦る声に促されて、私はやっと動くことができた。
見捨てた女性の事を引き摺りながら、私は当てもなく逃げ出した。



 /・/・/

こうして、一難の悪夢から逃れる事ができた。
しかし、すぐさま別の悪夢が忍び寄ってきた。
だから、世界の歪みから生まれた悪夢で塗りつぶした。

 /・/・/


131 : 西園寺世界&アサシン ◆69lrpT6dfY :2015/06/20(土) 11:25:07 IKKPNuWw0



「悪いけど、目撃されたからには消えてもらうよ」
逃げ延びて、息切れする身体と処理が追いつかない頭を落ち着かせようと足を止めた所で。
一人の男が現れて、ナイフを手にゆっくりと歩み寄ってきた。
先程とは違う、明確に近づいてくる“死”を感じる。
すぐに逃げようとしたが、できなかった。
体は怯え疲れていて、既に退路も断たれてしまっていたからだ。


  あはははっ……
  なによこれ、嘘、でしょ
  いや…いや、嫌!
  死にたくない、死にたくない!死にたくないよ……
  ねぇ誰か、助けてよ……誠……

  ――――――あっ


一瞬にして流れる膨大な走馬灯。生命の危機感が、今までの矛盾を剥がす。
ここにきて『西園寺世界』の記憶が蘇る。
凄惨な結末を迎えた、思い出したくもない自身の死に際に背筋が凍った。


  そう、だ、わたし、は

  あれだけ、全てを捧げて、投げ打って、信じたのに

  全ての元凶に、私達は狂わされたせいだ

  最期も、欺かれて、殺されて、引き裂かれて

  お腹の子供を、■■■■■


刺々しい複数の想いが混濁する。全てを受け止められずに、身の毛がよだつ。
だが、現状もっとも強く抱く感情はただ一つ。


  もう一度殺されるのは嫌だ
  死にたくない
  生きていたい


抗えない現実を前に、諦観の想いで塗りつぶされた。
それでも、命あるものならば、誰しもが持つ生への渇望を抱く。
だからこそ、絶望の中で一番強くなる切望が。


  ―――私も、生きたかった
  ―――私も、救われかった
  ―――私も、帰りたかった

  ―――だから 契約しよう

  ―――おかあさん《マスター》



一つの奇跡/悪夢を呼び起こした。


132 : 西園寺世界&アサシン ◆69lrpT6dfY :2015/06/20(土) 11:25:25 IKKPNuWw0



それから後の出来事は瞬く間に終わってしまった。
突如として覆う黒い霧が周囲を覆い隠し、視界を遮る。
男は変調をきたし呻き声をあげるが、世界は平然と相手の異変を感じ取るだけ。
鈍い音が鳴り、世界の身体に大量の何かが付着する。
顔には、仄かに熱いねっとりとした感触が伝う。

あれだけ殺意を露わにしていた男の気配はなくなり。
代わりに、暗闇の中から小さな少女が現れた。
幼き体に似合わぬ露出の多い服装に、全身の所々から滴る紅い雫。
縫い傷のあるあどけない顔には、えも言われぬ魔性が忍んでいる。


「おかあさん、大丈夫?」


   おかあ、さん? なん、なの?
   いったい、この子は
   
   ――ああ、そうだ


   ――この子は、わたしの 子 供 だ


聖杯戦争に巻き込まれる前の、死ぬ前の体験が誤解を生む。
錯乱した思考が、自分の思うが儘に目の前を解釈する。
奪われたものが、帰ってきた。
ならば、まだ私は、失われたものを、取り戻せるはずだ。
世界はしゃがんで、愛くるしい子供の頭を撫で始めた。


「ええ、ありがとう。ええっと、あなたは…」
「私はジャック。ジャック・ザ・リッパー、ってなまえ《真名》だよ」
「それじゃあジャック、行きましょうか」



 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜



その後、私はジャックを連れて逃げてきた道を引き返して、すでに亡くなっていたお姉さんと再会した。
結局、あの人はどういった目的で私と接触したかわからない。
けど、所持品を確認してみたら、本当に別荘を所有していることがわかった。
そこへ行ってみると人気がない場所に建っていて、お姉さん以外誰も住んでいないことが調べてみて判明した。

だから私達は、そこに身を置いて活動の拠点にすることにした。
やっと落ち着いた所で、ジャックから今の状況についてある程度教わった。
参加者が各々の願い(エゴ)を叶える為に殺し合う儀式、奇跡を呼び起こす聖杯戦争。
それに私は図らずしも参加させられてしまった。
けれども、どうして私が選ばれてしまったのか、死んだはずなのになぜ生きているのか、記憶を失っていたのか。
そこら辺の事情についてはジャックも分からないようだった。

他にもジャックから色々と聞かせてもらった。
中でもマスターとサーヴァントの関係について、私だと魔力供給が足りない事について。
だから私は、さっきジャックが男やお姉さんにしていたように。
同じように聖杯戦争に参加している人や、場合によっては参加者以外から。
“魂喰い”することを許容することにした。

それが、私の決意。
もう、どんなことがあっても。
私は、やり直しを願いたいのだから。



 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜


133 : 西園寺世界&アサシン ◆69lrpT6dfY :2015/06/20(土) 11:25:44 IKKPNuWw0



【クラス】アサシン
【真名】ジャック・ザ・リッパー@Fate/Apocrypha
【属性】混沌・悪

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:C


【クラススキル】
気配遮断:A+
 サーヴァントとしての気配を断つ、隠密行動に適したスキル。
 完全に気配を断てば発見することは不可能に近い。
 攻撃態勢に移ると気配遮断のランクが大きく落ちてしまうが、
 この欠点は“霧夜の殺人”によって補われ、完璧な奇襲が可能となる。


【保有スキル】
霧夜の殺人:A
 暗殺者ではなく殺人鬼という特性上、加害者の彼女は被害者の相手に対して常に先手を取れる。
 ただし、先手を取れるのは夜のみ。

精神汚染:C
 精神干渉系の魔術を中確率で遮断する。

情報抹消:B
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から彼女の能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。

外科手術:E
 血まみれのメスを使用してマスター及び自己の治癒が可能。
 見た目は保障されないが、とりあえずなんとかなる。


【宝具】
『暗黒霧都(ザ・ミスト)』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1〜10 最大補足:50人
 霧の結界を張る結界宝具。魔力で発生させた硫酸の霧そのものが宝具である。
 サーヴァントならばダメージは受けないが、敏捷が1ランクダウンする。
 霧の中にいる誰に効果を与え、誰に効果を与えないかは宝具の使用者が選択可能。
 霧によって方向感覚が失われるため、脱出するにはランクB以上のスキル“直感”、もしくは何らかの魔術行使が必要になる。

『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』
ランク:D〜B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1人
 ジャック・ザ・リッパーの殺人を再現する宝具。
 「時間帯が夜である」「相手が女性(または雌)である」「霧が出ている」
 すべての条件が整っているときに宝具を使用すると、対象の身体の中身を問答無用で外に弾きだし、解体された死体にする。
 条件が整ってない場合は単純なダメージを与えるに留まるが、その際も条件が一つ整うたびに威力が跳ね上がる。
 この宝具はナイフによる攻撃ではなく一種の呪いであるため、遠距離でも使用可能。
 宝具を防ぐには物理的な防御力ではなく、呪いへの耐性が必要となる


【weapon】
主武装として六本のナイフを腰に装備。
太股のポーチには投擲用の黒い医療用ナイフ(スカルペス)などを所持。

【人物背景】
言わずと知れた産業革命時代のロンドンで発生した猟奇殺人事件の犯人、ジャック・ザ・リッパーの一つの姿。
その中核に出来ているものは、当時の劣悪な環境・社会の中で死んでいった子供達の怨念が集合して生まれた怨霊。
強烈な胎内回帰願望と母親に対する憧れを抱いており、聖杯獲得のために暗躍する。

【サーヴァントとしての願い】
おかあさん《マスター》と一緒に聖杯を獲得する。



【マスター】
西園寺世界@School Days(アニメ)

【マスターとしての願い】
誠が私だけを見る事を願う。そのためにはどのような邪魔者も排除する。

【weapon】
なし

【能力・技能】
なし

【人物背景】
School Daysのメインヒロインの一人。榊野学園1年3組。
主人公・伊藤誠に恋心を抱いていたが、もう一人のメインヒロインで親友の桂言葉と三人で交友が始まったことにより物語が(悪い方向に)動き出す。
気さくで明るい性格と明瞭な口調から多くの友人を持つムードメーカーだが、追い詰められると自宅へ引き籠もってしまうなど、精神面は脆い。
出典はアニメ版、しかも最終話の死亡後からであるため、相当な精神汚染もしくは精神異常をきたしている。


134 : 名無しさん :2015/06/20(土) 11:26:16 IKKPNuWw0
以上で投下を終了します。お目汚し失礼いたしました。


135 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/20(土) 19:20:40 7TawRNA.0

 投下お疲れ様です!
 感想を書かせていただきますが、まずは自分も投下します。


136 : 古手梨花&キャスター ◆p.rCH11eKY :2015/06/20(土) 19:21:25 7TawRNA.0

 夜の高徳院に、奇怪な音が木霊していた。
 それは甲高くもよく響く、聞く者へ得も言われぬ心地よさを与える音。
 機械の打鍵音に似ているが、しかし鍵(キー)は盤(ボード)より離れており、おまけに両方材質は木材だ。
 仮に彼の手元を覗き込んだとして、それが日本人であれば音の正体が何であるか即座に看破できよう。
 ――但し、その直後には怪訝な顔をするはずだ。何故ならば、盤面に並ぶ駒数が通常のそれに比べ、明らかに多い。

 「ひひ。王手、じゃの」

 鎌倉大仏――将棋ならぬ大将棋の指し手は、その掌の真上に胡座を掻いていた。
 ゆらりと紫煙が蜷局を巻く。それは幻惑の動きで大仏の掌中を行き渡り、巡り廻って循環する。
 這い回る煙の元となるのは、瀟洒な意匠をあしらった一本の煙管だった。
 傲岸にも仏の手に座して悠々自適と一服し、煙管を吹かすのは書生を思わせる浮世離れした服装を纏った優男の姿。容貌からすれば寧ろ学者肌と思われがちだが、その双眸に湛えるのは自負の一念のみ。
 それはさも、峩々と聳える峰の如く。全容を掴むコトなど到底不能な、巨大極まる自負自信。
 
 己は勝つ。
 如何なる場合、如何なる場所、如何なる状況であろうとも。
 遍くこの世の万事万象――己が指し筋を超えられぬ。
 そう盲目的に信じ切り、因果も理由も無くそれを真と断ずる釈迦ノ掌の上で踊る漢。

 彼こそ、この鎌倉聖杯戦争に参ずる魔術師の英霊。真名、壇狩摩。

 
 対し、彼の対面に座す少女は不服げに盤面を見、唸っていた。
 青い髪を夜風に揺蕩わせ、礼儀正しく正座する体躯は明らかにこの深夜へそぐわない小ささだ。
 高めに見積もっても、齢十三には至っているまい。されど、そんな彼女の右腕にも又、刻印が刻まれていた。それは人外の英霊に対する首輪であり、手綱である、彼女達マスターの三本限りの命綱――"令呪"である。

 「……強いのね、あんた」
 「打ってきた年季が違うけぇの。十歳そこらの童に遅れを取るとくりゃ、流石に神祇の名折れよ」

 く、く、く。手にした駒を弄びながら、キャスターは爬虫類のような双眸を細めて嗤う。
 彼と少女が対局を行っていた遊戯の名は、大将棋という。
 世間一般によく知られている将棋に用いる駒の数がたかだか四十止まりなのに対して、大将棋に必要とする駒の数は百三十枚にも及ぶ。現代では殆ど伝わっていないばかりか、一時は実際に指されていたかすら疑問視されていた始末。
 キャスターは兎も角、マスターの少女がこれを知っていたのは偶然だった。
 彼女が学校で所属していた、様々なゲームを行う部活動。今からもう一年以上は前になるが、そこの部長が家の物置からこれを引っ張り出してきたことがあったのだ。
 もっとも、あまりに駒数が多すぎたことから歴戦の部員達も一人またひとり匙を投げ、以降登場した試しはない。
 彼女自身、こんな機会でもなければもう二度と触れることはなかったろう。――そも、駒の動きを覚えていたのが驚きなほどだった。そんな有様で経験者相手にそこそこ戦えた時点で、十分賞賛ものである。

 だが、その善戦にも理由があった。
 この男――時偶、理に適わない無意味な一手を打ち込んでくるのだ。
 彼女はその動きを最大限に利用し、謂わば相手のミスに付け込む形で食いついていっただけ。
 もし完全に無駄のない手ばかりを打たれていたなら、勝負はもっと速く決していただろう。

 そして、その"無意味な一手"こそが、壇狩摩という英霊の真骨頂。


 彼は典型的なキャスターの性質を持つ。
 戦況を見据えた助言・進言。自身の力を的確に振るった、戦線への援助。
 奇策謀術は朝飯前で、時に幻惑すら使いこなして見せる。
 だからこそ、彼を当て嵌めるクラスなどキャスターのそれ以外には存在しなかったはず。
 しかしながら。彼は一介の魔術師とは、ある一点において明確に異なっていた。


137 : 古手梨花&キャスター ◆p.rCH11eKY :2015/06/20(土) 19:21:59 7TawRNA.0

 「さァて。どう転がしたもんかのォ」

 
 不遜に下界を見下しながら、キャスターはそう口にする。
 キャスター・壇狩摩。
 彼の放つ手は、その悉くが考えなしの一手であり、そこに理屈や筋道、考えなど欠片とてありはしない。
 戦場で振るわれるそれは破天荒で、滅茶苦茶で、余人にはとても理解できない摩訶不思議なもの。
 にも関わらず、それはまず外れない。盲目の打ち手宛らの闇雲さでありながら、精度はこの上なく抜群なのだ。

 ごちゃごちゃと考えを巡らせ、それに基づいて、或いは囚われて行動する等、男のすることではない。一言で断じて、萎える。だから彼が用いるのは単なる直感、反射神経。但し彼のそれは、あらゆる権謀術数を土足で踏み躙る。
 策士殺し――それこそが、このサーヴァントの最大の特性だった。
 この盲打ちを頭脳戦で打倒する事は不可能である。釈迦の掌で這い回る猿のように。この世、ひいてはその外側にある存在に到るまで。壇狩摩の裏を取れる者は存在しない。

 
 「おぅ、お前はどう思うんなら、古手ぇ」
 「……勝てるなら、なんでも。ただ、あんまり危なっかしいのは勘弁してほしいわね。寿命が縮むから」
 「うはははは! そりゃ無理な話よ。俺が何を打っとるかなんぞ、俺にも分からんけぇ。全ては打ってみてからのお楽しみィゆぅこっちゃ。鬼が出るか蛇が出るか、人生なんぞそんなもんよ」

 
 彼を召喚した少女、古手梨花は終始不服げな対応をしているが、何も彼女とて自分のサーヴァントを雑魚扱いしているわけではない。確かに扱いは難しいだろうが、キャスターとしては間違いなく当たりの部類だとすら思っている。
 彼女が不安視しているのは、彼のこういう性質。彼の信じているものを、彼自身がさっぱり理解していないこと。
 これでは本当に盲打ち将棋だ。何が起こるかは誰にも分からず、それがともすれば自分達の破滅にさえ繋がりかねない。まるで巨大な爆弾、天災のたぐい。飼い慣らせるような存在ではないし、説教や命令など聞く耳持たずで突っ走るモノ。
 
 「予選ももうじき一段落着く頃か。正直、ここまでは実に詰まらん展開じゃったわ。戦の始まりとしちゃあんまりにもふゥが悪いってもんよ。本番が始まった暁には、俺も動かにゃならんじゃろうが……
  まあ、そう心配することもないじゃろ。お前から見れば俺は頭抜けた阿呆に見えるんじゃろうが、俺はずっとこれで通してきたモンでの。笑うんは俺じゃ。これは既に決まっちょる事よ。誰にも変えられん」

 何某か考えているかのようで、その実とりたてて深く考えている訳ではない。
 言った通り反射神経の人間だ、思いついたら即行動。
 盤上に上がる価値もない雑把が消えた後のことは、始まってから考えるまでだ。

 「そんなこと言ってるけど、アンタ、セイバーみたいな武闘派相手に勝算はあるんでしょうね? 一応、アンタの宝具の……えっと、鬼面衆? とかいうのを使えば戦えないってわけじゃなさそうだけど」
 「あぁ? そがァなもん、決まっちょろうが」

 呆れたように紫煙を吐き、彼は答える。

 
 「無理じゃ。直接あんならと事ォ構えてたら、命がいくつあっても足りん」
 「なっ……! じゃ、じゃあどうするっていうのよ! 出会ったら逃げるとか、そんな楽観的な――」
 「さっきも言ったろォが。"どうにかなる"。少なくとも、俺が無意味に屍ェ晒すなんちゅう始末は有り得んのよ」


 楽観視。
 それを地で行く彼の言葉には、何の根拠もない。
 彼にしてみればそれでいいが、彼を召喚した梨花にとってはたまったものではなかった。
 
 「……言っても無駄みたいだけど、これだけは言わせてもらうわ。私は、この聖杯戦争に勝たなきゃならない」
 
 
 古手梨花。
 まだ小学生である彼女は、しかし実際にはその十倍近い年月を生きている。
 ――永遠に終わることのない、"古手梨花の死"を覆すためのループによって、だ。


138 : 古手梨花&キャスター ◆p.rCH11eKY :2015/06/20(土) 19:22:27 7TawRNA.0

 昭和五十八年六月――それが、古手梨花という少女に与えられた終末の時だった。
 梨花はこの月に、必ず死ぬ。殺される。方法や過程はどうあれ、そこだけは絶対に変わらないし動かない。
 だが、果たして何の罪もなく生きてきた普通の女の子が、そんな結末を享受できるだろうか。
 幸せな日常を理不尽に破壊され、友人を奪われた挙句、最後には無残な屍を晒し事切れる。――納得できるはずがない。
 だから彼女は、繰り返してきた。時間に換算して百年分にも渡る数の「昭和五十八年六月」を、自分だけが視ることの出来る神様と共に、繰り返してきた。さりとて、運命は彼女に微笑まない。
 希望の活路は、見えたと思った矢先に閉ざされる。
 或いは、最初からそんなものが見えないままに殺される。
 それだけならばまだしも、疑心暗鬼に狂い、殺し合って死んでいく旧友や、人として最悪の人間性しか持たない男に親友が壊されるのを指を咥えて見ているしか出来ない……そんな苦痛すら味わされた末にだ。
 まさしくそれは、無限に続く拷問だった。
 挫けそうになったことも、諦めたくなったことも、星の数ほどある。
 それでも諦めずに歩き続けられたのは、常に傍らで励ましてくれた神の存在だろうか。それとも、世界から仕打ちを受け続けても尚、幸せな日常を願う心があったからだろうか。きっと、両方だろう。

 それも、ある世界と共に終わりを告げた。
 仲間の一人である、快活で優しい少女が狂った世界。
 彼女は疑心暗鬼の末に学校へ籠城し、ガソリンを撒いて袋小路を作り上げる。
 ――――しかしその袋小路は、一人の少年が手繰り寄せた"奇跡"によって、綺麗なまでに打破された。
 
 この世界ならば。
 この世界ならば――超えられる!
 そう思ってしまった彼女を、誰が責められようか。
 そうまで期待した世界に敢えなく裏切られて死んだ彼女を、どんな言葉で慰めればよいのか。

 少女は絶望の末、この鎌倉へと辿り着いた。
 共に歩んできた神はいない。代わりに、この悪辣なる博徒の英霊がいる。
 聖杯戦争……その趣向が意味することさえ理解できないほど、梨花は阿呆ではなかった。


 「この鎌倉に存在する、全てのマスターを……彼らが作り上げてきた思い出の"カケラ"を、一つ残らず踏み潰す。誰だろうと倒して進んで、――私が聖杯を獲る。誰にも――誰にも、私の邪魔はさせない。それはアンタも同じよ、キャスター」
 

 百年を生きた魔女が選んだのは、血の闘争によって運命を打開すること。
 彼女がこれまで散々憎悪してきた"死"そのものと化し、聖杯を狙う邪魔者を全て打ち倒すこと。
 皆殺し。そう、皆殺しだ。私の願いを叶えるために、お前たちの存在は目障りなんだよ。

           フ
 「ひひ。ええでよ。"触れ"ちょるんが玉に瑕じゃが、どだい血みどろの殺し合いよ、そのくらいでええ。
  まあ見とけや、直に聖杯戦争が始まる……どいつもこいつも、皆纏めて転がしちゃるわ。きひひ、はは、うはははははははははははははは――――!!」


 呵々大笑するキャスターの背後に、三つの面が浮かぶ。
 神祇の鬼――盤面不敗・壇狩摩。
 彼と百年の魔女、古手梨花の辿る結末は、果たして如何なものであるのか……。


139 : 古手梨花&キャスター ◆p.rCH11eKY :2015/06/20(土) 19:22:58 7TawRNA.0
【クラス】キャスター
【真名】壇狩摩
【出典】相州戦神館學園 八命陣
【性別】男性
【属性】混沌・中庸

【パラメーター】
 筋力:D 耐久:E 敏捷:D 魔力:B 幸運:A+++++ 宝具:A

【クラススキル】
 陣地作成:A
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 “工房”を上回る“神殿”を形成することが可能。

 道具作成:C
 魔術的な道具を作成する技能。

【保有スキル】
 邯鄲の夢:A
 夢界に於いて超常現象を発現させる力の総称。
 身体能力を強化する戟法、体力やスタミナを強化する楯法、イメージを飛ばす咒法、他者の力や状況を解体・解析する解法、そしてイメージを具現化させる創法の五つに分かれている。
 狩摩は創法の界、及び咒法の射と散を共に極めた最上の空間支配者。

 盲打ち:EX
 何も考えていない適当な手しか打たないが、その結末はなぜか詰め将棋のごとく嵌る。
 明らかに行き当たりばったりながら権謀術数を凌駕するため、策士にとっての鬼門めいた賭博師――と表現できる。

 戦闘続行:E
 即死級の攻撃を受けても尚、短時間のみ行動を可能とする。
 生前、龍神空亡に首から下を吹き飛ばされて尚、戦真館の学徒たちへ助言を飛ばしたり、弾丸で額を撃ち抜かれながらも同じく助言を言い残した逸話から。


【宝具】

 『大日本帝国神祇省・鬼面衆』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1~50/1~10/1~40 最大補足:100人
 壇狩摩が率いる神祇省の配下部隊。
 神国・日本の祭司を司る神祇省。飛鳥の時代より連綿と続いてきたその組織は明治の初期に消滅したが、裏の実働部隊として闇にあった者たちは生き残った。
 彼らは文字通りの穏――すなわち鬼の子孫とも言うべき武術、方術、忍術の達人集団に他ならない。
 千数百年もの永き渡って影働きを行ってきた組織のため、狩摩を筆頭に正々堂々という概念は彼らになく、その属性は戦士というより殺し屋である。執着、拘り、美学、信念、そうしたものを持ち合わせず、主の一手に順応する。
 喚び出す駒は三つ、夜叉、怪士、泥面の鬼面。標的の命を刈り取るためなら命すら眉一つ動かさず捨て去る事の出来る戦闘機械である。その精神性は一片の傷すら存在せず、廃神たる神野明影をもってしても「人間ではない」といわしめた。


140 : 古手梨花&キャスター ◆p.rCH11eKY :2015/06/20(土) 19:23:20 7TawRNA.0
 『中台八葉種字法曼荼羅』
 ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1~200 最大補足:3000人 
 五常・破ノ段。創法の界、咒法の射・散を組み合わせた夢。
 盤上の駒を再配置するように、創界内の敵の配置を好き勝手に組み替え、さらに咒法によって(偽の)五感情報を叩き込んで方向感覚を狂わせる。狩摩自身にも方向感覚を狂わせる効果は発生するが、自分の破段なだけあって方向感覚が狂った状態でも特に問題はない。特に軍勢に対しては特効の夢である。

 『軍法持用・金烏玉兎釈迦ノ掌』
 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~300 最大補足:3000人
 敵と味方を自らの創り上げた異空間のゲーム盤の駒として当て嵌める五常・急ノ段。
 しかし、宝具の発動には条件が二つ存在している。

 まず、相手が「これから行われる勝負が何らかのゲーム(基本的には将棋と予想されるように仕向けている)である」と思っている」こと。これを満たすために狩摩も趣向を凝らすが、賢い人間が相手の場合基本的にここで「これは盤面で、これから対局が行われる」と理解してしまう為、非常にこの夢に嵌り易い。
 これらの条件を達成した際に創り出されるゲーム盤は、双方の行動の結果によって流動的に変化するため、基本的に狩摩にさえどのようなゲームが元にされるかは不明。
 そのため、事前に趣向を将棋と推測して、条件を達成しないように将棋のルールを無視するような行動を取ったとしても意味はなく、極端な話、味方同士が殺し合いを始めたとしても、それに合わせたルールのゲームが開始されるだけである。
 条件が非常に偏屈かつ達成困難である分、内包される力は急段の中においても桁違いであり、発動さえすれば神格のような存在ですらも(片鱗程度のものだが)この創界のルールに縛り付けられ、操られてしまう程の力を発揮する。

 そして形成される創界は、駒となった人間が戦う戦闘の舞台となる盤面の世界と、狩摩と二人きりで盤面の元となったゲームをプレイする世界の二つに別れる。

 盤面の世界では、駒となった人間の行動は割り当てられた駒の機能が反映されてしまうために、様々な制限を受ける。これは単純な動きの制限だけではなく、視覚などの感覚器官も制限され、当て嵌められた駒の種類によっては能力の行使すら不可能となる(例えば将棋で香車に当て嵌められているならば、前方以外に攻撃できず、前しか見えなくなる)。
 逆に、本来の能力では行えないような挙動でも割り当てられた駒の機能の内であれば行うことができる(例えば桂の駒に当て嵌められているならば、空間を超越して攻撃することができる)。
 駒となっている間指し手達の対局状況によって行動が影響されるが、それは単なる傀儡として指し手の意のままに動かされるわけではなく、両者の意思と思考が混ざり合った特殊な動作として表れる。これによって、駒となっている味方には反応速度や攻撃速度の上昇などの有利な補正が発生する。
 狩摩の配下である鬼面衆は盤面での戦いに慣れている上に連携が緻密であるため、非常に脅威的な存在となる。

 狩摩と対局する世界では、普通のゲーム(作中では将棋、大将棋)が行われる。
 この空間にいる間は後述する状況以外で異能を使えない。もし、この世界で自陣の味方に割り当てられた駒が損害をこうむれば、その分だけ回復不能のダメージを受ける。つまり、一つしかない駒が取られてしまえばその時点で味方は死亡してしまう。ただ、相手から同じ種類の駒を事前に取っておけば、最悪の事態は避けられ、復帰することも可能。
 加え、味方が割り当てられた駒が何か対局者からは一切判らないため、容易く捨て駒を作れず、通常よりもゲームの難易度が上がってしまっている。
 なお、誰にも割り当てられていない駒で相手の割り当てられている駒を取ることや相手の行動の制限ももちろん出来るため、盤面での戦いに有利に働かせることができる。
 そして、この世界での勝負に敗れ、負けを認めてしまえば死が訪れ、連鎖的に盤面の味方も全員死んでしまう。


141 : 古手梨花&キャスター ◆p.rCH11eKY :2015/06/20(土) 19:23:40 7TawRNA.0

 しかし、以上の効果はこの宝具の表面的なものであり、真の効果は第二条件である「壇狩摩がこんな型に嵌った行動をするはずがない」を元に発動する。

 その効果は 「ゲームに負けた側がその負けを認めなかった場合に、相手を殺すことができる」 というもの。
 ゲームの勝敗が決した時点で創界を維持している全ての力が負けた側に流れ込む。
 その時に「負けた」と認識していればその力によって殺され、認めていなければ逆にその力を使用し、相手を容易く殺害できる。狩摩の急段の内包する力は桁外れであるがゆえに(この効果を使用すれば条件を無視して急段を発動することすら可能)、勝った相手は抵抗もできず、発動したら逃れることができない。
 作中での喩えで言えば、「将棋に勝っても、殴られて泣かされたら負けだろう」「サッカーで負けた時に、相手のチームを皆殺しにしてしまえば勝ちである」という理屈である。
 棋士どころか博徒ですらやらない反則だが、「壇狩摩がこんな型に嵌った行動をするはずがない」という同意が双方に成されている故に、型破りが成立してしまう。壇狩摩流に言えば、ゲームに負けたからといって素直に掛け金を払おうと考えてしまう時点で「型に嵌っている」ということであろうか。
 とはいえ、いつでも殴れるわけではない。直接攻撃が許されるのは、自身が負けた瞬間だけである。

 
 『中台八葉種字法曼荼羅』、並びに『軍法持用・金烏玉兎釈迦ノ掌』には共通の弱点が存在する。
 それは、相手が極度の馬鹿であった場合、夢の効果が正常に、或いはまったく機能しないというもの。
 『中台八葉種字法曼荼羅』ならば通用こそするが、『軍法持用・金烏玉兎釈迦ノ掌』であれば、考えるよりも先に手を出すようなタイプ、まともな知性を持たないバーサーカーなどに対してはそもそも第一の条件が満たされない為、宝具を発動すること自体が不可能である。


【weapon】
 なし。

【人物背景】
 神祇省の首領。
 夢界深層にある何かを巡って争っていると思しき六勢力の一角、神祇省の首領。
 自身とその郎党を『タタリ狩り』と称しており、数多ある作中の謎に対してもっとも理解が深いと思わしき面がある。
 現実世界では地相学の権威として知られていたらしく、辰宮百合香により戦神館再建の際に呼び寄せられ、戦神館再建に貢献した。なお、千信館資料室にて当時の顔写真が確認できる。


142 : 古手梨花&キャスター ◆p.rCH11eKY :2015/06/20(土) 19:23:55 7TawRNA.0

【サーヴァントとしての願い】
 なし。聖杯戦争に対しては、半ば物見遊山気分である。

【基本戦術、方針、運用法】
 存在しない。
 彼を思いのままに動かすにはそれこそ令呪を使用するくらいしかなく、仮に令呪を使ったとしてもその並外れた幸運と盲打ちのスキルによって自動的に彼の利へと転がされる。


【マスター】古手梨花
【出典】ひぐらしのなく頃に
【性別】女性
【マスターとしての願い】
 聖杯を手に入れて使用し、昭和五十八年六月の呪縛を乗り越える。
【weapon】なし

【能力・技能】
 特に持たないが、体感時間百年程の時間をループしているので、精神年齢は見た目と一致しない。

【人物背景】
 雛見沢村と昭和五十八年六月を巡る惨劇の中核にある人物。
 彼女は六月中に必ず殺されてしまうが、オヤシロさまこと羽入の力で時間をループしている。
 見た目は青髪の小さな少女。自身のサーヴァント以外の前では猫を被る。

【方針】
 キャスターの打ち手に任せるしかないが、無力なままではいたくない。


143 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/20(土) 19:26:02 7TawRNA.0
投下終了です。

 >>西園寺世界&アサシン組
 げ、げぇーっ! アニメ版ワールドさん!
 呼んでしまったサーヴァントのことも相俟って、これは相当良からぬことになりそうな予感ですなあ……


144 : ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 22:55:10 .FgGn3dA0
みなさん投下乙です。私も投下させていただきます


145 : アイ・アスティン&セイバー ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 22:56:01 .FgGn3dA0



 ―――神は死んだ。神は死んだままだ。そして我々が神を殺したのだ。



   ▼  ▼  ▼

 神さまは月曜に世界を創った。
 無すらなかった場所に無と有ができた。

 神さまは火曜に整頓と渾沌を極めた。
 自由と不自由が定義され、根本的な方向性が決まった。

 神さまは水曜に細々とした数値を弄った。
 細かく、面倒な作業は素晴らしい多様性を生み出した。

 神さまは木曜に時間が流れるのを許した。
 値は爆発的に広まって原初のスープが出来上がった。

 神さまは金曜に世の隅々を見た。
 那由多の時が過ぎ去って、世界は理想的な広がりを見せた。神さまはその世界を愛した。

 神さまは土曜に休んだ。
 空間が光と共に百億も過ぎ去った。


 そして、神さまは日曜に世界を捨てた。


 それは何度も寝物語に聞かされた御伽噺だ。そして、世界はまさしく御伽噺のような悪夢に包まれた。
 神さまは人間に別れを告げ、打ち捨てられた世界は乱れに乱れて、人は生と死の権利を奪われて。
 死者は死なず、生者は生まれず、百億の絶叫が木霊した。
 世界は不死者で溢れかえった。ゼンマイが壊れても永遠に動き続ける人食い玩具(ハンプニーハンバート)、かつて人だったはずの成れの果てが地上に跋扈する。
 それが、末世の姿だった。

「私には夢があります」

 少女は現の夢を見る。
 綺麗で、途方もなくて、だからこそ尊い夢。
 それは、アイ・アスティンにとっての、何にも代えがたい輝き。

「私は、世界を救いたいんです」

 それは世界を捨てた神への反逆か。
 天国も地獄もなくなって、神が世界を見捨てて、それでも世界を終わらせないという誓い。

 聴衆である少女の従僕は、それを顰めた顔で聞いていた。

 これが現実を知らない子供の戯言や、詐欺師の詭弁であったならどれほど良かったことかと思う。
 しかしそうではない。少女は確かに子供であるが、しかし残酷な世界の姿を知らされていた。
 生と死が入り乱れ、あらゆる道徳が無に帰した世界の有り様を突きつけられた。

 知ってなお、少女はその夢を抱いている。

「まだ方法は分かりません。けど、いつか絶対に私は世界を救います。神さまが見捨てた世界を、私が譲り受けます」

 少女は世界の何たるかを知り、悲しみがあるのを知り、死があるのを知り。
 それでも、少女は明日を夢見ることを諦めてはいない。

 だからこそ。
 セイバーと呼ばれた従僕が返す言葉は決まっていた。


「―――正気じゃない。狂ってるよ、お前」


   ▼  ▼  ▼


146 : アイ・アスティン&セイバー ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 22:57:00 .FgGn3dA0


 生い茂る緑が日の光に照らされている。
 早朝、人が滅多に訪れない山中にて。新緑の静謐を破る音を断続的に響かせながら、二人の人間が存在した。

 一人は少女だ。現代の日本ではまず見られない、どこか遠き異国の服を纏う少女。
 少女は小さな腕に銀色のショベルを抱き、一心不乱に土を掘り返していた。ザクザク、ザクザク。年の割に妙に手慣れた様子で人間大の穴を掘り続ける。額に汗を浮かべながらも決して手を休めることはない。

 もう一人は男だ。まだ青年と言ってもいい。男はセイバーと呼ばれる、少女の従僕であった。
 恐ろしく整った顔立ちの男だった。年若い彼は木に背中を預け、何をするでもなく腕を組んでいる。
 少女の傍で、男は瞼を細める。透き通った色の瞳で、彼は突き抜けるような蒼の空を見つめていた。
 彼は視線を動かさず、しかし僅かに唇開いて、気のない風に呟いた。

「なあ。それ、本当に埋めるのか」

 問われたのは少女だ。ザクッ、と一際大きい音と共にショベルを土に突き刺して、ふぅと汗を一拭き。そうして、少女は男に振り返り答える。

「はい。私は墓守ですから」
「そうか。いや、ならそれでいいんだ。邪魔して悪かったな」

 それきり会話は途絶えた。元よりこの問答に確固たる意味はなく、男は何の気なしに尋ねただけなのだから、それは当然の帰結だった。
 そこに残されたのは、変わらず空を見つめる男と土を掘る少女。そして、硬質の刃が地面に突き立つ音だけだった。


 ◇ ◇ ◇


 人の近寄らない山間部、そこに彼らが赴いたのは、サーヴァント同士の闘争の気配があるとセイバーが言ったためだ。
 普段を過ごしていた公園を離れ、道なりに山の中へと分け入る。ハイキングコースから少し外れた奥のほう、路肩に放置されたバイクを横目に突き進む。

 しかし、できるだけ急いできたつもりだったが、彼らが着いた時には全てが終わっていた。
 そこには破壊の痕跡だけがあった。争っていたのは都合二騎のサーヴァントか、互いのマスターは既に冷たい骸を晒していて。消え損なっていた一騎のサーヴァントがポツンと一人佇んでいた。
 黒い槍と鎧を持ったそのサーヴァントは、こちらの姿を確認すると消えかかった体を厭うこともせず、問答の余地もなく襲ってきた。「死ね」という怨嗟の声と、聞く人をそれだけで殺せてしまうような雄たけびを上げて。真っ直ぐに、掻き消えるような速度で少女に槍を突き立てんと迫る。
 けれど。

「お前が死ね」

 そんな短い言葉と共に、槍持つ鎧のサーヴァントはセイバーに斬り捨てられた。本当は怖がるべきかもしれないけど、あまりにもあっさりと終わりすぎて驚いたり怖がったりする暇もなかった。

 そうして、今度こそ二人以外の誰もがいなくなった。



「……よし、これで終わりです」

 日が山向こうへ沈みかけたころ、アイは誰に言うでもなく声を上げる。
 アイが飛び出たそこには、都合4つの穴が掘られていた。人間がすっぽりと入ってしまいそうな、大きな穴。
 それは、アイが用意した彼らの墓穴だった。

「時間がないので簡単にしか掘れませんでしたが……それでも、せめて安らかに眠ってください」

 アイは倒れる二人分の死体を運び、言う。死体を墓穴に収め、掘り返した土を再び被せた。それは、墓守としてのせめてもの手向けだった。
 彼らを埋めるのに、そう時間はかからなかった。大柄な男と若い女の死体は子供には重たすぎるが、墓守のアイにとっては苦でもない。サーヴァントは死体も所持品も残らないから何も埋めることができなかったが、それは気持ちの問題と言えるだろう。この形ばかりの埋葬は、死後の安息を願うものであるが故に。
 二人のマスターと二騎のサーヴァントを埋葬して、アイは膝をつき静かに祈りを捧げる。抜けるような青空の下、木々のざわめきだけが反響していた。
 そうして、葬儀は終わった。


147 : アイ・アスティン&セイバー ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 22:57:45 .FgGn3dA0
「……もういいのか?」

 長い沈黙の末にセイバーが聞く。風も少し弱まり、葉の擦れあう音も小さくなっていた。
 アイは立ち上がり、土を払ってショベルを担ぎ、毅然とした表情で答える。

「はい。私にできることは全部終わりました。
 行きましょう、セイバーさん」

 了解、とだけ答えるセイバーと二人で、先ほど来た道を引き返す。獣道を抜け車道に出ると、そこには変わらずバイクが放置されていた。
 恐らく死亡したどちらかのマスターの所有物か。何も言わないアイとは裏腹にセイバーは遠慮なく近寄ると、ハンドルに手をかける。

「……セイバーさん、もしかして盗むつもりですか?」
「ここに置いてても仕方ないだろ。どうせあいつらにはもう必要ないもんだ」

 不満そうに眉根を寄せるアイに対し、セイバーはどこまでも淡々としていた。いつの間にくすねたやら右手にバイクの鍵と思わしきものを携えて、エンジンに無造作に突き刺す。
 果たしてそれはピタリと嵌った。やっぱあいつらのだったか、などと嘯くセイバーを後目に、アイは変わらず不満そうな顔を向ける。

「……別に好きで盗んでるわけじゃないぞ。ただお前、ここじゃ戸籍も金もない孤児だろ。使えるもんは全部使っていかないと聖杯だなんだの前にぶっ倒れかねないわけだし」

 微妙に目を逸らすセイバーに、アイは何か諦めたような溜息をつく。

「その言い分だと鍵の他にも色々盗んでるみたいですね。セイバーさんはもう少し良識のある人だと思ってました」

 でもまあ仕方ないです、などと嘯きながらバイクに跨るセイバーの後ろに座ると、アイは無言で腰に手を回した。

「ところでセイバーさん。あの人たちは、聖杯に何を願うつもりだったんでしょうか」
「……さあな。世界平和でも願うつもりだったりしてな」

 あの人たちとは先ほどのマスターか。死んだのだから今さら知ることなどできはしないと、セイバーはあくまで冗談めかした口調で答える。
 それに、アイはどこまでも真面目に言葉を返した。

「そうかもしれませんね。なら私は、彼らの願いを受け継ぎます」

 皮肉ではなかった。アイは心底から言い放つ。それを聞いたセイバーは端正な顔を歪に顰めた。

「なので、私はあの人たちの正統な後継者と言えるかもしれませんね」
「……好きなようにに思えよ。お前の考えにはついてけねえ」

 アイが融通を聞かせてくれたのだということはセイバーにも分かっていた。会話が終わると同時にギアを入れアクセルを回す。
 小さな排気音と共に、夕暮れの山道を一台のバイクが駆けて行った。


   ▼  ▼  ▼


 アイがこの街にやってきてから、もう何日もの時間が過ぎようとしていた。
 気付いた時には、既にアイはこの見知らぬ街を知覚していた。右も左も分からず、見たこともない大勢の人に囲まれて。
 それでも、なぜ自分がここに来てしまったかは自ずと理解することができる。

 ―――私が、願ってしまったから、ですね。

 偽りの村の秘密の中で育てられ、贈り物と溺愛の中に深く溺れ、不明と未熟の中で時を重ね。
 そうして仮初の墓守となり、最後には一人の男の手で全てが壊されて。
 真実を追い求めた果てに、たった一人の父親をこの手で埋葬して。
 そして、願ったのだ。

 ―――私は、忘れません。

 父を、母を。夕暮れに染まる村を、優しい人々の声を。
 それらを全部背負って墓守になるのだと、彼女は願ったから。


 そうして。
 そうして、アイはここにいた。
 三方を山に囲まれ、一方が海に面した古都。生まれて以来一度も目にしたことのないような大都市に、アイは願いを以て招かれた。


148 : アイ・アスティン&セイバー ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 22:58:22 .FgGn3dA0
「海がとても綺麗ですねー」

 前髪を風に揺らし、沈む夕日を目に焼き付ける。
 アイがいたのは海沿いの道路だ。延々と続く浜に沿った道路をセイバーの駆るバイクに乗って走る。
 金が入ったから今夜からは素泊まりの宿くらいには泊まれるだろ、とはセイバーの言だ。流石にいつまでも公園暮らしは駄目だろうと部屋の空いている宿を探しているのは、彼なりに気を使った結果である。

「危ないからあんま余所見すんなよ。そもそも海なんてそんな珍しいもんでもないだろ」
「そんなことないですよ。私の育った村は谷間にありましたから、ここに来るまで見たことなかったんです」

 ふわぁと尚も感嘆の声を上げるアイに、セイバーは「へえ」とだけ答えた。
 が、どうにもアイにはそれが気に食わなかったらしい。彼女としてはこの感動を分かち合いたかったようだが、セイバーにとっては真実見飽きたものなので今さら感動の念など覚えるはずもなかった。

「ちょっと素っ気なさすぎじゃないですかセイバーさん。少しくらい私の話も真剣に聞いてください。まるで私のお父様みたいです」
「俺はお前の父親じゃないからな。そういうのは門外漢だ」

 むすっと膨れるのが背中越しにも伝わった。ああこれは面倒だなと、セイバーは嫌々ながらもマスターの少女に問いかけた。

「……分かった分かった。少しはお前の話も聞いてやるから。で、お前の親父の話だっけ?」
「違います。でもまあ、お父様の話もしたいのでそれでもいいです」

 アイの機嫌は多少治ったようだ。むふーと鼻息が荒くなっているのが気配で分かる。

「何の因果か聖杯戦争というものに巻き込まれてしまったわけですが、実のところ暴力というものには少々慣れていたんです。流石に戦争なんてしたことはないですけど、暴力を交渉手段だと思ってた人と一緒にいたことがあるので。ちょっとなら耐えられます」
「ふーん」
「ちなみにその人がお父様です」

 どうしようもないな。喉元まで出かかった言葉を引っ込めた。振り返ってみれば俺や香澄の親父も碌でもない奴らだったし、どこもそういうものなのかもしれない。

「で、そんな親父にお前は育てられたわけか」
「いいえ、そうではありません。私を育ててくれたのはお母様と村のみなさんです」

 それは先ほど話題に挙がった谷間の村か。海を見たことがないと言っていたし、どうやら生粋の田舎娘ということらしい。

「とても優しい人たちでした。もうその村はありませんけど、私はずっと忘れないようにしなければなりません」
「……そうか」
「ちなみにその村を壊滅させたのもお父様です」

 本当に碌でもないなお前の親父。

「ところで、セイバーさんって私のお父様とよく似てるんですよね」
「おい」

 とうとう突っ込んでしまった。自分が人でなしなのは重々承知しているが、それでも面と向かって言われると心に来る。

「見た目と年が合ってなくて、綺麗なお顔なのに口は悪くて、変なところで不器用で。
 意固地で、中々本当の感情を見せてくれなくて。あと口より先に手が出たり、ガラが悪かったり」

 追い打ちかよ、というか途中からただの悪口になってないかお前。
 そう言い返そうとして。

「……私のこと、邪見にしてでも止めようとしてくれたり。生者と死者とか、現実と幻想とかをきっちり分けて考えてたり。死んでも生きてる人を絶対に認めてないところとか。とてもよく似ています」

 動かそうとした口が、ピタリと止まる。


149 : アイ・アスティン&セイバー ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 22:59:35 .FgGn3dA0
「だから分かるんです。セイバーさんの願いって、死んじゃうこと……ですよね」
「……」

 今度こそ無言になる。それは意図してのものではなく、心底言葉を返せなかった故に。
 セイバーは日常を愛している。普通を、平穏を、そして人間を。だからこそ、彼は死者の生を許さない。

 アイは思い返す。
 初めてセイバーを召喚した時、彼が自嘲の笑みを零したことをアイは知っていた。それはかつて見た苦い笑顔によく似ていて、故にアイは直感したのだ。


 ―――この人は、お父様と同じだ。


 だからこそ、セイバーがこうして自分と共にいるということ自体が、彼にとってどれほど屈辱的なものなのか痛いほどに理解できた。生死人に成り果てた己自身を、彼は最も憎んでいるはずで。
 それは、夢を通じてセイバーの人生を垣間見たことで、より大きな確信となった。
 死を想え、愛に狂うな、失ったものは戻らない―――そんな凶念で地獄(グラズヘイム)を遠ざけた彼が、どうしても白髪の父の姿と重なってしまう。

「セイバーさんは生き返りたくなんかなくて、でも私が来ちゃったから無理やり起こされて。
 私、誰かを助けたいって思ってたのに。でも、ここに来てからセイバーさんに助けられてばかりで。
 ―――私はもう、【救われる側】じゃなかったはずなのに!」

 知らぬ間に声を荒げてしまう。セイバーの背に頭を打ち付け、目尻からはほんの少しの涙が姿を見せた。
 それはセイバーを召喚した日からずっと続いていた感情だ。誰かを救うと決意した自分が、しかし誰より自分の傍に在るはずのサーヴァントに屈辱を強制しているという事実。それがずっと、心のどこかで暗く濁っていた。

「そうかよ」

 返答は冷たいものだった。セイバーが言ったのはそれだけで、そこには何の感情も含まれていないように感じた。

「で、言いたいことはそれだけか?」
「……はい」

 会話が途切れる。アイは黙してそれ以上は何も言おうとせず、セイバーは相変わらずの仏頂面だ。
 前方はちょうど赤信号で、バイクの速度が緩み徐々に静止状態へと移行する。

 そんな中、セイバーが半身だけ振り返り。
 ―――軽く肘鉄を頭に食らった。

「つぅ〜〜〜〜〜!?」
「この馬鹿が。お前はどこまで周りしか見てないんだ」

 肘の一撃をお見舞いすると、セイバーはさっさと前へと向き直った。後ろで悶絶しているアイのことはお構いなしだ。

「俺は生きてる奴のことしか勘定に入れない。だから死んでる俺のことなんざ二の次三の次でしかないし、正直今はどうでもいい。
 今はな、お前のことを第一に考えてるんだよ、俺は」
「……セイバーさん?」

 ぽけっとした声が聞こえる。言葉の意味を理解しているのかどうか、どうにも怪しいものだとセイバーは思った。
 アイに言った言葉は偽らざる本心だった。自分と違いまだ生きている少女のことを、セイバーは最優先事項として思考している。
 本来ならば死人の自分が蘇ったところで、即座に首を掻き切るなりして土に還るつもりではあった。しかしこの聖杯戦争においては、自分のような死者がいなければ魔術師でもないアイのようなマスターはまず生きて帰れない。
 それをみすみす看過することは、流石のセイバーにもできなくて。

「だから俺のことは気にするな。お前はまず、自分が助かることだけ考えてろ」

 故にこそ、アイにはまず何より自分を第一として考えて欲しいと告げる。そのようにしなければ、きっと全てが半端な片手落ちになってしまうから。

 前方の信号が青になる。アクセルを回し緩やかに走り出したところで、背後の少女の笑い声が聞こえてきた。


150 : アイ・アスティン&セイバー ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 23:00:19 .FgGn3dA0
「……えへへ」
「なんだよ、いきなり気色悪い声出して」
「なんだかいつもよりセイバーさんが優しいです。えへへー」

 にやにやと、くすくすと、そんなふうに笑っているのが背中越しにもよく分かる。
 ……見えてはいないけど。なんとなく、むかつく笑顔だと思った。

「……飛ばすぞ。しっかり掴まってろよ」
「へ? なんですかいきな―――わわわわ!」

 突如としてバイクの速度が急上昇した。今までの安全運転から2倍ほどの速度まで加減なしでの急加速。当然法定速度などぶっちぎっている。

「ななななな、なにするんですか! セイバーさんは馬鹿なんですか! 馬鹿ですよね! いきなり酷すぎるんじゃないですか!?」
「時間食ったから急いでんだよ。つーか喋るな、舌噛むだろ」
「いやーーー!」

 カーブに差し掛かり角の深いバンクを披露、同時に地面スレスレまで体が近づいたアイが絶叫を上げる。

「きゃーー! きゃーー! ぎゃーーー!」
「……おかしいな、俺は司狼に乗せてもらった時結構面白かったんだが」
「あなたと一緒にしないでください! それよりほんとに危な―――」
「危ないわけないだろ。こちとら騎乗スキル持ちだ」
「それって確か申し訳程度でしたよね!?」

 バイクはなおも走り続ける。鎌倉の街に、少女の悲鳴が木霊した。


   ▼  ▼  ▼


 この少女は危うい、それは召喚されてすぐに悟った。
 サーヴァントとマスターは夢を通じて互いの記憶を一部だけ追体験することがあるというが、彼らはまさしくそれを経験していた。だからこそ、それは大きな確信となってセイバーの胸に去来する。

 ―――人を救うあいつは、そんな自分は救われちゃ駄目だと本気で考えていやがる。

 パスを通じて垣間見たのは、少女のどうしようもない渇望だ。
 世界を救う者が世界に救われてはならない。何という歪な在り方か。
 それは、まるで呪いだ。
 だからセイバーは言ったのだ。お前の願いは狂っていると。
 その言葉を受けてもなお、アイは笑顔のままだった。

『壊れていても、狂っていても、それが私の夢なんです』
『諦めるまで、諦めません』

 その先に待つのは地獄だ。そのことをセイバーはよく知っている。
 夢破れて諦めるか、悪意持つ他者に食い物にされるか、道半ばで死ぬか。それだけならばまだいい。決して幸福ではないが、まだ人として救いがある。
 けれど、その渇望を極限まで高め、仮に願いが【叶って】しまったら。

 そこには人としての幸福も救済もありはしない。神という名の化け物に成り果てる未来だけが待っている。

 アイの願いとはまさしくそれだ。人ではなく神にでもならなければ、到底叶わないような願い。それを心底に美しいなどと、セイバーにはとても思えなかった。
 人は決して幻想になれない。生きる場所の何を飲み、何を喰らおうと足りない。けれどそれで良し。そう思えない生物は、そもそも生まれてくること自体が過ちなのだから。

 ―――だが、それでも。

 それでも。
 例え諦めることを諦め、百億の憎悪に貫かれても。願わくば、人として真っ当な一生を、と。
 物言わぬ死者であるはずの彼は、ただそれだけのために仮初の生の中で無様を晒すのだった。


151 : アイ・アスティン&セイバー ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 23:01:41 .FgGn3dA0
【クラス】
セイバー

【真名】
藤井蓮@Dies Irae-Amantes amentes-

【ステータス】
筋力C 耐久B+ 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A+

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

騎乗:E
騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。
セイバーは騎乗に関する逸話が皆無であるため最低限のランクとなっている。

【保有スキル】
エイヴィヒカイト:A
永劫破壊とも呼ばれる、人の魂を糧に強大な力を得る超人錬成法。セイバーはそのエイヴィヒカイトにより魔人となっている。
本来ならばこの存在を殺せるのは聖遺物の攻撃のみだが聖杯戦争では宝具となっており、彼を殺すには宝具の一撃が必要となる。
また、喰らった魂の数と質に比例した命の再生能力と肉体強化の効果があるが制限されており、魔力消費を伴う超再生・魔力放出としてスキルに反映された。
Aランクに達すると己の渇望で世界を創造する域となっている。

戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
黄金の獣が支配する牙城から逃げおおせた逸話が昇華したもの。

神殺し:EX
神性スキルを持つ者に対し、有利に行動できる戦闘スキル。
戦闘中におけるあらゆる判定で有利となり、攻撃が命中した場合に追加のダメージを与える。このスキルは相手の神性ランクが高いほど効力を増す。
覇道の神格たる水銀の蛇を滅殺した逸話が昇華したもの。

【宝具】
『戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
エイヴィヒカイトの第二位階「形成」に届いた者にしか具現化出来ない。神話の戦乙女の剣を模した細身の宝剣であり、フリードリヒ三世の宝物として厳重に保管されていたため、信仰によって聖遺物の領域へ達した。

『超越する人の理(ツァラトゥストラ・ユーヴァーメンシュ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
水銀の蛇により用意された神の代行者であり、エイヴィヒカイトの唯一にして真の後継者。セイバー自身が生きた聖遺物であり、彼の肉体そのものが宝具となっている。
セイバーは自身の創造主によりあらゆる聖遺物を行使できる権能が付与されている。故にセイバーはこの宝具のランク以下のあらゆる宝具を手にした場合には十全に扱うことが可能となっている。ただし、サーヴァントそのものが宝具であったり、実体が存在しない宝具に関してはその限りではない。

『死想清浄・諧謔(アインファウスト・スケルツォ)』
ランク:A+ 種別:結界宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
エイヴィヒカイトの第三位階、自身の渇望の具現たる「創造」能力。
元となった渇望は「死者の生を認めない」。発現した能力は「死者・不死者などの【生者ではない存在】を消滅・弱体化させること」。ここでの死者には当然サーヴァントそのものも該当する。
レンジ内に存在するあらゆる死者に適用され、ステータスやスキルの効力が低下し継続ダメージを受ける。低下の度合いやダメージ量は例えば死徒のように死者としての属性が強いほど増していく。
ただし、この宝具を使用するセイバー自身もまた彼の忌避する生ける死者であるため、この宝具の展開中は常に肉体が自壊していく。また死者の生を否定するという法則故にこの宝具の範囲内で死亡した場合はあらゆる蘇生手段が無効化される。
この宝具は逆に言えば真っ当な生者に対しては何の効果も発揮しない。多くのマスターや、生きたままサーヴァントになったような例外存在には無害と言えるだろう。


152 : アイ・アスティン&セイバー ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 23:02:35 .FgGn3dA0
【weapon】
戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)

【人物背景】
Dies Iraeの主人公。その実態は人間ではなく、とある超越者によって創造された「生きた聖遺物」。
基本的には争いや揉め事を厄介がる平和主義者だが、彼の場合は常軌を逸しており何も変わらない日常を永遠に過ごしたいというちょっと頭がおかしい思想を持つ。
「失ったものはもう二度と戻らない」「失って戻ってくるものに価値はない」など独特の価値観を持ち、それは宝具たる創造の発現にも関わっている。
今回の彼は螢ルート終了後から参戦。神格となってメルクリウスを殺害した逸話こそ持つものの、状態としては神格となる前で固定されている。
ちなみにこのルートだと剣技の腕前は櫻井戒と同等レベルまで上達しているらしい。

【サーヴァントとしての願い】
彼は死者の願いを聞き入れない。そしてそれは、当然ながら自分自身にも適用される。
同時に彼は生者のことのみを考える。故に、アイを元の世界に送り返すまでは無様を晒すつもりでいる。



【マスター】
アイ・アスティン@神さまのいない日曜日

【マスターとしての願い】
善も悪も関係なく、彼女は世界とそこに生きる人々を救いたいと願う。その方法はまだわからないが、それでもやり遂げると誓っている。
彼女は未だ、自身の助けを必要としない人々がいることや、自身の考える救いが万人にとっての救いにはなり得ないことを知らない。

【weapon】
・ショベル
墓守である母親の形見。これ自体は紋のついた銀製のショベルでしかないが、墓守に使われ続けたことにより「埋葬」に特化した概念武装となっている。

【能力・技能】
墓守と人間のハーフであるため、銃弾を見切るなど身体能力は非常に高い。ただし戦いの心得は皆無であるため達人にはフルボッコにされる。
その特殊な出自故にある程度の魔力を保有する。
また、生きた死者を「埋葬」することにより完全に死なせることが可能。

【人物背景】
人間の父と墓守の母から生まれたハーフの少女。生者と死者・人と化け物などの境目というものを認識せず、相手が何者であろうとも平然と付き合える。
元々は死者の村であるネクロポリスで暮らしていたが、ある日突然その日常は破壊され、否応なく世界の真実を突きつけられる。
その果てに死者を否定した父を自らの手で埋葬し、彼女は自分の夢を持った。天国を作り上げた母と、地獄を遠ざけた父を継ぎ、世界を救うという途方もない夢を。

―――彼女の夢は呪いであり、同時に狂気にも等しい。仮に生まれる世界が違っていれば。その渇望を神域にまで押し上げることも可能であったかもしれない。

基本的には年齢相応の少女だが、周りを嘘で囲まれて育ってきたがために虚偽に対しては非常に敏感。
年齢は12歳。原作1巻が終わった直後からの参戦。

【方針】
自身の夢に従い、聖杯のために他者を殺すつもりはない。基本的に脱出狙いだが、できるならば聖杯戦争に関わる人たちを助けたい。


153 : ◆GO82qGZUNE :2015/06/20(土) 23:03:04 .FgGn3dA0
投下を終了します


154 : ◆X7fdpRQUqg :2015/06/21(日) 00:12:32 cRxNJoJU0
投下乙です。自分も投下します


155 : ◆X7fdpRQUqg :2015/06/21(日) 00:13:01 cRxNJoJU0
 もう、何十年も前に廃園になったという植物園の廃墟。正確には、その温室の中だった。

 そこに、ぽかぽかとした陽気はない。夜だというのもあるが、それにしてもあんまり寒すぎる。

 見上げると、温室を覆うガラスがところどころ無残に割られていた。

 心ない誰かがやったんだろうか。注意を凝らすと、中にも品のない落書きが散見される。
 
 「あの子には、見せられないな」

 きっと、悲しんでしまう。

 僕とあの子が出会った場所ではないにしろ、それに似ているこんな場所を。
 どん臭く、要領が悪く、けれど誰より優しいあの子が見たなら、寂しそうな顔をするだろう。
 ボロボロの温室に残っていたベンチに腰を下ろして、苦笑した。
 
 いや、笑えていたかは……わからなかった。
 いま、どんな顔をしているのか。
 ただ、きっと、あまり明るい顔はしていないだろうなと思った。

 
 鎌倉。
 彼や彼女がいた街とは、違う街。
 それだけじゃなく、多分もっと大きなところでも、違う。

 それを証明するように、みなとの左手には、鮮やかな三つの煌星が浮き上がっていた。

 「悪いけど、この星はあんまり好きじゃないな」

 星に指を這わせて、言う。

 あたたかさは、ない。
 小さい頃、宇宙人と一緒に集めたものとも。
 いつでも扉の向こうからやって来た、彼女が昔くれた星とも、違う。

 つめたかった。
 ぞっとするくらい冷たくて、見つめていると怖くさえなってくる。
 しばらく触れてから……ああ、これは僕の体温なのだった。そう気付く。

 
 聖杯戦争。
 みなとが行き着いたのは、ひとつの『戦争』だった。
 物騒な名前の通り、そのシステムは残酷で、恐ろしいものだ。
 自分以外の参加者を、人も、それが従えるサーヴァントも、皆々倒していく。

 そして最後まで勝ち残った者だけが、最も輝かしい、杯の聖遺物に手を伸ばせるという。
 聖杯を手に入れたなら、あらゆる願いを叶えられる。
 どんな願いも。言葉通りの『奇跡』を使って、叶えてくれる。


156 : ◆X7fdpRQUqg :2015/06/21(日) 00:13:33 cRxNJoJU0
 それを聞いた時から、みなとの心は決まっていた。
 どの道、ここまで来てしまってはもう後戻りはできないのだ。

 それに。聖杯でなくては叶えられないような願いにも、心当たりがある。

 「よかったね、宇宙人。きみの求める欠片は、僕にはもういらないものとなったみたいだ」

 そう言葉にしてみて、思ったよりも、ずしんときた。
 あの宇宙人と出会い、彼を手伝い、すべてを知り、欠片の力を知り。
 自分を呪い、七年過ごし、彼女と出会い、彼女たちと競り合って、彼女と真の意味で再会した。

 すべて、あいつから始まったんだ。あいつの宇宙船の部品だという小さな欠片から、始まったんだ。

 「僕は、あの世界から、消える。その為に、聖杯が必要だ」

 硝子越しの月に手を翳す。
 きっと、もうあの小うるさい魔法使いたちと会うことはないだろう。
 そして、扉が開かれることも、ないだろう。

 それでもいい。いや、それでいい。
 これから消える者に、繋がりなんてものは無用の長物なのだから。

 「だから、力を貸してくれるかい。ライダー」

 
 ライダー。
 その男は、まるで仁王を彷彿とさせる威圧感を放ち、軍服に隠されて尚分かる鋼の肉を兼ね備えた、魔人だった。
 肩に掛かった黒い帯は、彼こそが黒騎士(ニグレド)である事の証明に他ならない。
 未だ静寂を保っている廃墟と合致したかのような黒騎士は、しかし何の感情も見せずそこにただ立っているだけ。
 みなとが彼を呼ばなければ、永遠にそのままだったのではないかすら思わせる。

 されど見る者が見れば、幕引き(マキナ)の名を持つこの男がどれだけ凶悪なシロモノなのか、すぐに分かるだろう。

 彼は目立って行動する事をしなかった。
 他のサーヴァントとは打って変わって、特に目立った殺戮もせず此処に佇むのみ。
 その彼が、はじめて口を開く。

 「おまえがそれを望むならば、俺はおまえの拳となる。それが俺(サーヴァント)の役割だ」

 あくまで粛々と紡ぎ出された声に、温かみはない。
 みなとはそれを聞いて、そうか、と息をつく。
 
 「きみは、あの子とは別な意味で分からないな。願いを持たないサーヴァントなんて、異端だろう」
 「――――望むモノは、ある」

 鋼の腕が、動く。
 静かに持ち上げられ、そこで固まった。
 みなとへ向けられた視線。
 それは相変わらず冷たく、重いものだったが――瞳の奥には、確かな『願い』の色。


157 : みなと&ライダー ◆X7fdpRQUqg :2015/06/21(日) 00:14:06 cRxNJoJU0
 この黒騎士が求めているのは、勝利の先にある栄光などでも、私利私欲を満たす為の〝もの〟でも断じてない。
 むしろそういったものとは無縁かつ誰にでも得られる代物であり、しかし幕引きの人形(マキナ)が求めるそれを聞き及んだものは誰しもがこの男を狂人だと否定する事間違いなしのものだ。

 「俺の望みは、終焉だ」

 即ちそれは、安息(死)。
 走り抜けた先に待っている結果(死)。

 一度全力で駆け抜け、終わりだと安堵したその先は――――しかし、次の始まりへの場所でしかなかった。
 そんなものは求めていない。そんなものはいらない。
 故にこの自らの名すら忘れた死せる英雄(エインフェリア)は、今一度全力を持って二度目の生を終わらせるべく、この場において英霊(サーヴァント)として呼ばれ、そのご都合主義(デウス・エクス・マキナ)と言うべき法則(ルール)を持つ拳を振るう。
  
 自らにとっての唯一たる終焉を得る為には、自分が納得できる戦いを越えた先でなければならない。
 本来ならばそれは、副首領たるメルクリウスの代替たる、超越する人の理(ツァラトゥストラ・ユーヴァーメンシュ)と闘った果てにあるべきだが、この地に居ない兄弟の事を想ったとて無意味でしかないだろう。
 ならば、他のサーヴァントに、自分が戦うに相応しい英雄に値せぬものを間引かせる。
 その為の、自らの目的に近づくための傍観であればと、黒騎士(ニグレド)は聖戦の徒となるのを認めたのだ。

 「そうか。でもそれは、僕の願いとは少し違う形の終わりみたいだね」
 
 消えたいという願い。
 死による安息を得たいという願い。
 二つの願いは似ているようで、しかし絶対的に異なっている。

 「でも、分かったよ。共に戦おう、ライダー。きみの願いを叶えるために。そして、僕の願いを叶えるために」

 鎌倉の空を見上げた。
 星空があった。

 世界は違っても、星の輝きは変わらないんだなあと思った。


【クラス】
ライダー
【真名】
ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン@Dies irae 〜Amantes amentes〜
【パラメーター】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではライダーに傷をつけられない。

騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。  

鋼鉄の腕:A
機械の肉体。戦闘続行と勇猛のスキルを複合したような特性を持つスキル。
彼はその機械の肉体により、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。同時に精神干渉を無効化し、格闘ダメージを向上させる。


158 : みなと&ライダー ◆X7fdpRQUqg :2015/06/21(日) 00:14:39 cRxNJoJU0
【宝具】
『機神・鋼化英雄(デウス・エクス・マキナ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン――マキナ卿の現在の肉体そのもの。
肉体および彼の魂そのものが常時形成状態にある聖遺物であり、その素体は彼が生前に搭乗していたティーゲル戦車。そのため彼の皮一枚下からは完全な機械である。
後述の宝具を使わない状態でも、彼の肉体による攻撃には彼自身の『渇望』の効果がある程度付与される。
その為対物・対魔を筆頭とした防御を悉く貫通することが可能。

『人世界・終焉変生(Midgardr Volsunga Saga)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1

彼自身の創造位階が宝具となったもの。
「唯一無二の終焉をもって自らの生を終わらせたい」 という渇望を具現化し、その腕に触れた歴史ある存在を問答無用で終わらせる幕引きの一撃。
己の存在を死そのものと化し、触れた者に死を与える。
誕生して一秒でも時間を経ていたものならば、物質・非物質を問わず、例え概念であろうともあらゆるものの歴史に強制的に幕を引き、破壊する。
この状態のマキナの拳が壊すのは生物も器物も知識も概念も等しく内包している時間、積み上げた物語という歩みと、その道である歴史そのもの。如何なるものであれ生誕より僅かでも時間が経過している限り、たとえコンマ百秒以下であっても、その歴史を粉砕する。ゆえに防御が絶対に不可能な文字通りの一撃必殺。曰く「幕引きの一撃」。

欠点は終焉の拳を当てなければならない、すなわち当たらなければただの風車にすぎないということ。
ただし終焉の拳は連発可能な上、彼は個としては極限の体術・経験値を有している。
そのため、単に自分より圧倒的に速い程度の相手では終焉の拳から逃れ切ることはできないだろう。
【weapon】
彼そのものである宝具、機神・鋼化英雄。

【人物背景】

聖槍十三騎士団黒円卓第七位・大隊長、ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン。
「黒騎士(ニグレド)」の称号を持つ黒円卓幹部格、近衛三騎士、大隊長の一人。
騎士団員には専ら「マキナ」あるいは「マキナ卿」と呼ばれる。
黒円卓結成の際、第七の席・天秤の座が埋まらなかったことからメルクリウスがラインハルトの「城」の内に存在した魂たちを殺し合わせて作り出された存在。
なお、生前の記憶はぼんやりとしか残っておらず、自分の名前すらも覚えていない。

【サーヴァントとしての願い】
安息(終焉)を得る為に、この拳を振るう。

【基本戦術、運用法、方針】
その近接戦闘においての無敵さを活かし、積極的へ前線に出ていくこと。
どんなサーヴァントであれ当たれば確殺できる宝具のこともあり、非常に性能は凶悪。


【マスター】
みなと@放課後のプレアデス
【マスターとしての願い】
元いた世界から消え去ること。
【weapon】
金色の杖。
【能力・技能】
自分で自分を呪うことで手に入れた、魔法の力。
超高速での飛行や魔方陣を使った戦闘が可能。主となるのは空中戦。
この鎌倉は彼のいた世界と違うからか少々魔法の性能に下方修正がなされている。
対象は主に飛行性能。数マッハでの飛行などは不可能になっている。
【人物背景】
星が好きな少年だったが、身体が弱く病院で入院していた。
ある日の夜エルナトと名付けた少年と出会い、壊れた宇宙船をなおすためにカケラ集めをする。彼の役に立ちたいと思ったみなとはカケラ集めに協力し、友達になる。夜のカケラ集めはずっと病院だったみなとにとって、未知の冒険だったようで楽しい時間だった。その途中に病室に迷い込んだすばるに遭い、魔法で宇宙を見せた。彼女と話しているうちに、弱い自分でも誰かを守ったり、役に立てると希望を持つようになる。しかしエンジンのカケラに遭遇し、すばるの願いのために捕まえようとした際、エルナトに与えられた魔力を使い切ってしまう。さらにエルナトと出会った時から昏睡状態になっていて魂の状態で行動していたこと、エルナトとのカケラ集めもすばるとの出会いも全てが幻だということを悟りショックを受ける。絶望を知ったみなとは未来へ向かっているエンジンのカケラを使って、過去からやり直そうと目論むも失敗。それ以来彼の魂は呪われた存在として宇宙を漂い、身体は「可能性のカケラ」の力で永遠に覚めないまま地球に残した。
【方針】
ライダーと共に、聖杯戦争をかちあがる。


159 : ◆X7fdpRQUqg :2015/06/21(日) 00:16:03 cRxNJoJU0
投下終了です。みなと&ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)でした。
また、マキナのステータスを書くに辺り、
ttp://www63.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/pages/209.html 様の作品を参考にさせていただきました。
事後報告になってしまいますが、本当にありがとうございました。


160 : 名無しさん :2015/06/21(日) 00:59:00 9xcoSVtQ0
まさかの別書き手による蓮マッキー連投とかこれなんて宿命
アイは1巻後てことはまだ正しくてしっぱいしてないところか。どうなるやら


161 : ◆kiwseicho2 :2015/06/21(日) 19:59:09 cbCjzci.0
久しぶりに思いついたので投下させていただきます。


162 : トリコワシティ 蒼色サーヴァントと教言遣い ◆kiwseicho2 :2015/06/21(日) 20:00:23 cbCjzci.0
 
  0


 最初から壊れているものをいくら並べ直しても元には戻らない。
 非合理的だ。


  1


 鎌倉市、鎌倉市役所――。
 鎌倉市の政(まつりごと)の中心地ともいえるこの場所の二階には、
 傍聴席付きの立派な議場が備えられている。
 他の多くの市の例に漏れずインターネット生中継も行われており、
 ネット環境のある市民であればだれでもバックナンバーまで閲覧が可能だ。
 とはいえ、国会中継ならばともかく、普段の一般市民が市議会の内容を熱心に閲覧することなどまずない。
 ましてや何を話すでもない定例会議ならなおさら。
 だからその日も、市議会中継を見ている市民などほとんど存在しなかった。

「さて、解散ですよ、松頭市長」
「な……なぜ……。
 私は何も汚職も不祥事も……していな、いのにぃ……!?」
「何故? どうやらまだ分かっていないようだ。本当にこの場を支配しているのが、誰なのか」

 ――だから、その瞬間を見ている者は、あまりにも少なかった。
 傍聴席も含めたその場にいる全員が議長へ向けるのは、呪いじみた冷たい目線。
 唐突に叩きつけられた首長に対する「不信任決議」による、議会解散宣告の場面。
 前例のほぼない「議長以外全員賛成」というそれを叩きつけた、とある冷徹なる市議員の、悪魔じみた笑み。


「理由があるとするならば、それは貴方が『弱者』だからだ」


 議長の耳元で議員がそっと言葉をささやくと、
 言葉に載せて放たれたおぞましい悪意によって、議長は泡を吹いて気絶した。
 鎌倉市議会はこうして電撃的に解散する形となり、近日中に市議員選挙が開かれる運びとなった。

「さて、では気絶してしまった前市長の代理として、
 今日の議会の進行は私、浅野が勤めさせて頂きましょう。異論のある方は?」

「おりません」「おりません」「おりません」「おりません」
「おりません」「おりません」「おりません」「おりません」
「おりません」「おりません」「おりません」「おりません」
「おりません」「おりません」「おりません」「おりません」
「おりません」「おりません」「おりません」「おりません」

「宜しい」

 ぴしゃり。一拍両手を合わせる。
 議員はその拍手によって物言わぬ人形のように真顔・無言になる。
 議会というにはあまりに異様に統一されたその集合意識体めいた議員の群れを、
 たった今解散請求を叩きつけたばかりの男が、
 まるで奴隷をまとめる帝王であるかのように統率しながら――ひとり議会を進ませる。

「では、最初の議題は――最近この鎌倉で発生している怪事件に対する対処。
 そして、今度の選挙に際して、街の『選挙権保持者』の確認の方法、についても話し合いましょうか――」

 ところで、
 その冷徹なる議員……浅野學峯と名乗る男がいつから議員であったのか、答えられる者は居ないのだと言う。
 街の誰に聞いてみても、そういえばいつのまにか議員だったとしか答えない。
 最近街を騒がせる都市伝説なんかより、本来であれば、
 それこそ恐怖を覚えるべき事象ではないかと思えるのだが――。
 基本的に市議会の議員が誰であるかなんてつまらない話題なので、市民の間ではあまり取り沙汰されることもなかった。


163 : トリコワシティ 蒼色サーヴァントと教言遣い ◆kiwseicho2 :2015/06/21(日) 20:01:51 cbCjzci.0
 
 実際に調べてみたジャーナリストもいたにはいたが――記録を見ればなんてことはない、
 浅野學峯は元教育機関のエリートであり、前市長に誘致されて鎌倉の教育委員会へ参加。
 そこからきちんと手順を踏んで前選挙では教育面の強化を前面に出して当選。
 現在では市内の学園の理事長も兼任している。
 という、データと情報がしっかりと残っており、疑問を抱く余地はそこにはなかった。

 当選発表時の新聞をデータベースから検索してみても、確かにそこに學峯の名は刻まれている。
 これでは誤魔化しようもない――どうやら単純に、市民が当時の事を忘れているだけだろう。
 そう結論付けたジャーナリストたちは、図書館に残っているはずの紙の新聞まで漁ろうとはしなかった。

 浅野學峯は最初から議員だった。
 そういうことで、この話は一旦おしまいとなる。 
 

  2


 さて、その日の電撃的定例会議の夜のこと――。
 物言わぬ秘書を連れて駅近くの高級マンションの最上階へと着いた浅野學峯は、
 そこで秘書を帰らせると、1フロアすべてをぶち抜いて作った要塞へと帰還する。

 ただしそれは彼の要塞ではない。
 彼女の要塞だ。
 

「帰還いたしました、バーサーカー」

 
 浅野學峯は部屋に入ると即座に片膝をつき、胸に片手を当て、恭順のポーズを取った。
 そこには先の市議会で見せた帝王のような威厳など欠片も存在していない。
 心中にこそ強い意思を抱え込んではいるものの、
 この空間ではたとえマスターであろうと、身体が勝手に服従してしまう。

 ここはそういう空間だった。
 そういう空間で、そして彼女の寝室だった。
 が故に。
 たとえ教育と支配の権化とよばれたこの男であっても、『この場』での地位は人間以下なのだ。

 部屋中を埋め尽くすのはスーパーコンピュータの群れの無機質な駆動音と、
 およそ人間が発せる速度ではないはずのキーボード・タイプ音。
 雑然と薄暗い部屋。
 その中に目を惹くようなものは一つしかなく、それがすべての目を惹いていた。
  
「■■■■■――■■■■?」

 人ならざる声は部屋中央のモニタ前に座る、蒼の少女から発される。
 小さな少女だ。蒼に濁った髪を短く切り、黒のローブのような一枚のみを羽織っている。
 浅野學峯にその少女の声を聞き取ることはできない。
 できないが、遅れてタイプされた彼女の言葉が機械的音声変換によって學峯の耳に届く。
 通常意思疎通が不可能なバーサーカーとのやりとりを、學峯と彼女はこういった形で行うことが出来た。

『がっちゃん――首尾はどう?』

 浅野學峯は唾を呑みこみ、震えながら蒼色の少女に今日の戦果を報告する。

「上々です。前々から進めていた鎌倉市議会の掌握は、本日完了。
 同時に市議会の解散宣告も滞りなく進みました。選挙は押して来週には間に合わせられるかと。
 仮に――いえ、手は回してるし、お力添えも頂いているので確実ではありますが、
 仮に私が次の市長選で当選したあかつきには、いよいよこの街の掌握が完了となります」

 具体的には、學峯は当選と同時にひとつ、市長命令を遂行することが出来る。

 それは『街の至る所への監視カメラの設置』である。
 近頃の鎌倉の治安の悪化――実際には、聖杯戦争の結果としての、
 騒音や器物損壊によるものだが――に対しての処置として提案したもので、即効性のある掌握方法だ。
 これが通れば監視カメラは全て蒼色少女の眼となり、街は蒼色の手に堕ちる。


164 : トリコワシティ 蒼色サーヴァントと教言遣い ◆kiwseicho2 :2015/06/21(日) 20:03:18 cbCjzci.0
 
『そう。さすが、がっちゃんは優秀だね』
「もちろん、選挙に伴っての街の『洗い直し』も取り付けて参りました。これは明日から動きます」

 そしてもう一つ。どちらかといえばこちらの方が彼らにとっての本懐だった。
 本来ならば、
 蒼のバーサーカーの手に掛かれば最初から學峯を市長にすることも、おそらく可能だった。
 それをあえて、解散させ、
 選挙を取らせるという形を取ったのは――住民票を、選挙権を持たぬ者。
 學峯と同様に、聖杯戦争に呼びこまれた、異世界から来た者をあぶりだすためという理由が強い。

 治安の悪化が街の外から来た者によるものであるのではとの論も交えつつ。
 市の役員と警察を、小規模なれど動かして。正当な選挙権の確認が行われる。
 明日よりこの鎌倉は『洗い直され』、
 いずれ浮浪者・無戸籍者・不法滞在者はすべてチェックされ、捕えられるであろう。
 聖杯戦争開始からしばらく経ち、この局面に至って全員が戸籍の一つも偽造できていないとは思えないが、
 こうして圧力をかけることである程度安定している組の基盤を崩すこと、そして位置を突き止めることが狙いだ。

 蒼のバーサーカーはバーサーカーとして召喚されながら極度に情報戦に特化し、
 代わりに戦闘能力についてはその一切を彼女の持つ『宝具』にゆだね、本体は脆弱であった。
 ゆえに彼女と彼女の従者である浅野學峯が取るべきは、他者より多くの情報を手に入れ、
 かつ街そのものを支配して、サーヴァントの存在を守りつつ、
 聖杯戦争の盤の外から敵マスターを特定し、じわじわと追いつめる手以外になかった。

『ご苦労様。頭撫でてあげる』
「光栄です」

 蒼の女王が片手をキーボードから離し、浅野學峯を招く。
 學峯は言われるがままに進み出て、彼女の手の下に頭を差し出した。

 ――見せぬ顔面、瞳の奥を殺意に漲らせながら。
 支配者はこの聖杯戦争を勝ち抜くため、いましばらくはこの蒼の少女に従い続けることを選ぶ。

『こっちもまた一組特定して、いまぐっちゃんを向かわせた』

 學峯の殺意を感じているのか感じていないのか、あるいは知ってか知らずか。
 大の男の頭を撫でながら、無感情な作成音声もまた、自らの成果をマスターに報告する。

『魔力を使うから、黙って先に寝て、切らさないようにしてね』
「ええ、喜んで」

 従い、スペースの隅に設けられたベッドへ學峯は進むと、そのマット上に身体を横たえる。
 ひどく汗をかいていた。
 令呪を握り支配権を得ているはずのサーヴァント相手に、しかも少女のサーヴァント相手に、
 これほどまでに威圧と畏怖を感じさせられるなど、浅野學峯の今までの人生体験には存在しなかった。
 地球外の力をその内に秘めた超生物の前ですら、あれほど気丈に振る舞えたと言うのに――。
 まるで自分らしくないなと自嘲する。

 だが、それも仕方ないことだ。
 モニタにタイプする形で蒼が蒼の道具に送る命令の内容が、部屋にこだまする。


『さあ、ぐっちゃん。――死線が許す。そいつを、壊せ』


 浅野學峯が見るに、彼女は壊れている。
 誰に壊されたのかまでは分からないが、壊れているのだ。
 理性があるように見える。会話も辛うじて通じるように見えている。
 が、
 実際の所彼女の意思は浅野學峯が培ってきた話術や教唆術では曲げようがないほどに歪んで固まっていて、
 もはや學峯の教師スキルでは正すことができない領域にある。
 なにかの八つ当たりのように世界を壊すその狂った手を止めることは、學峯には出来ない。


165 : トリコワシティ 蒼色サーヴァントと教言遣い ◆kiwseicho2 :2015/06/21(日) 20:04:56 cbCjzci.0
 
 學峯はたしかに恐怖していた。
 彼のサーヴァントは、≪死線の蒼≫は。
 彼にすら教えることができない、狂った天才生徒だったのだ。


  3


 月夜の住宅街に暴を振るう怪人あり。

「■■■■■■■■■■――!!」
「グワーッ!!」
「ど、どうして――!? 気配遮断は完璧のはずでしょ、アサシン――!」
 
 住宅の一つを『魂喰らい』し、そこを根城にしていた一組。
 油断しきっていた寝込みを襲われたアサシンとそのマスターは、
 扉をぶち破って現れた襲撃者に困惑しか出来ぬまま戦闘の主導権を握られていた。
 バーサーカーとおぼしきそれは理性を失った眼、
 ぴしりと揃えたスーツにオールバックの短髪はまるでサラリーマンのようだが、
 その正体はとある殺人鬼の一賊の一員であり、『狂化』も含め身体能力でアサシンに後れを取ることはない。
 さらに。

「あ、あの『釘バット』――! 噂の釘バットの怪人――!?」

 怪人は、本来ならば彼がこの姿の時には持たなかった彼にとっての殺人道具さえも兼ね備えている。
 すべては彼が彼本人ではなく、蒼の少女が造り出した『道具』であるが故の歪み。
 その歪みを最大限に活かし、釘バットの怪人は蒼の少女のためにアサシンを壊し壊し
 壊し壊し壊し壊し壊し壊し壊し壊し壊し壊し壊して壊し尽くすように前へと進む。

 ただアサシン側もただ漫然とやられるのを待つような弱者ではない。
 ここに至るまでにアサシン側もまた、ある程度の戦闘を生き延びてきた。
 もう混乱も収まった。
 アサシンは一撃にて相手の体を削り取る、アサシンらしからぬ宝具の域に達した業を所有していた。
 釘バットの一撃をその身に引きつけ――寸前で躱し、
 一見すると緩慢に見えるチョップを繰り出した。

「イィィイイイイヤーッ!!」

 その一撃は釘バットの怪人の腹部を確かに両断し、身体を二つに裂く。
 
「……やった!」

 マスターの少女は勝利を確信した。
 いかな英霊であろうと体を両断されてなお生きていようものか――しかし。
 勝利を確信するには未だ早く、優勢を推測したのは間違いだった。

「■■■■■■■……」
「な……」
「……ッ!!」

 切断された腹部は、次の瞬間には元に戻っていた。
 超回復なんてものじゃない。まるでペイントで引いた線を『戻す』ボタンで戻したかのような早業。
 それもそのはず、この『道具』は真なるバーサーカーである蒼が
 ネットの網を介してこの場に届けている魔力の塊であり、魔力続く限りいくらでもバックアップが可能なのだ。
 
 ぎろり。と。
 底知れぬ瞳がアサシンとそのマスターに向けられる。
 逃さない、壊す、
 必ず壊す、
 地の果てまでも追い求めてその形が肉片となるまで壊し、それを蒼色に捧げるのだ。

「――■■■■■■■■■■■!!!!」


166 : トリコワシティ 蒼色サーヴァントと教言遣い ◆kiwseicho2 :2015/06/21(日) 20:06:31 cbCjzci.0
 
 深夜の住宅街に断末魔が響く。
 今宵また一人、聖杯戦争を戦い抜くマスターがその身を桃色の肉片へと変えた。


  4


「ねえねえ、怪人釘バットって知ってる?」
「なにそれまた新しい都市伝説?」
「最近多くない?」
「いや、私も聞いたことある……この前ミカが電気屋の前で見たって言ってた」
「マジ? 殺されなかったの?」
「とくに何もされなかったって――住宅地の方にすごい速さで向かってったらしいよ。
 あと、イケメンだったって」
「イケメンかーその情報はでかいなぁ」
「でもそういえばこの前西のほうの住宅街で殺人事件なかったっけ?」
「そうだっけ? ……あ、てかそろそろ全校集会の時間だよ! 行かなきゃ!」
「わあホントだ」
「早くしなきゃ」
「久しぶりに浅野理事長の講演だもんね。わたし校長系の人嫌いだけど、あの人の話ためになるから好きだわ」
「あたしも好きー。来てから少ししか経ってないけど支持率高いよね。
 てか今度市長選立候補するらしいよ浅野理事長」
「マジ? それってヤバくない?」
「絶対ヤバいよね。あたしのママも絶対入れちゃうって言ってたもん。てゆーか、逆にびっくりだよね」
「?」
「なんでよ?」
「いやさぁ――だって理事長、そもそも政治家にでもなんでもなれそうなスペックじゃん?
 それをあえて学校の理事長やってたの、なんか変だったからさ。
 市長選に出るってなって、やっとしっくりきたっていうか――逆に意味深って感じっていうか……?」
「あんた、語尾にハテナつけすぎ」
「確かに」
「ううすまぬ」
「でも、確かにねー。あの人何で教師なんかやってんだろ」
「お涙頂戴的な理由があったりするのかも?」
「そうは見えないけどね。……でもなんか、そういうのがないと逆に怖いよね――。
 すっごい頭もよさそうだし、尊敬もできるけど……、絶対あの人、どっか壊れてるって」


 5


 最初から壊れているものをいくら並べ直しても元には戻らない。
 これは非合理的だ。
 だが、ルービックキューブのように、正しくない形のものを正しい形に変化させる場合。
 この場合はまず壊してから正しい形に並べ直すのが最善だ。
 これは、合理的だ。

「この町は今、大きな歪みに襲われています。私がそれを正しましょう」

 全校集会。
 理事長・浅野學峯は市長選への出馬に当たり、鎌倉市を一度壊すことを宣言した。
 制度の見直し、どころの騒ぎではない根本的な改革は、まるで悪童への再教育。
 そして訪れようとしているのは、少数の弱者を圧倒的強者が踏み越えていく殺伐とした市のありさま。
 ふつうの感性を持つものであれば、
 憤って止めるに違いないそのマニフェストは――しかし彼の話術により生徒たちの心に染み込んでいく。

「まだ選挙権を持たぬ君たちにこのお話をするのは、私が君たちに選挙に興味を持ってもらいたいからでもあり、
 改めて私の思想を君たちに伝えるためでもあります。
 君たちには『強く』あって欲しい――どんな困難であっても折れぬ強い生徒に。
 私も未熟ながら、今様々な方面で『戦い』を経験する運びになっていますが――これに勝つことで、
 私の理論が正しいと言うことを、私自身で再確認しつつ、証明、しようと思っています」

 強くあれ。
 笑顔で握りこぶしを作りながら力説する浅野理事長の目に魔力消費によるクマが浮かんでいることに、
 気づいたのは全校生徒のうちの何%であろうか。
 本体は単純なパワー系ではないとはいえ――事実上サーヴァントを2体従えるに等しい、
 オーバースペックな宝具を持つバーサーカーを権限させている浅野には全く魔術の素養はない。
 前夜の戦闘のように宝具の修復に魔力を使えば身体に悪影響も出る。


167 : トリコワシティ 蒼色サーヴァントと教言遣い ◆kiwseicho2 :2015/06/21(日) 20:08:35 cbCjzci.0
 
 それでも。
 浅野學峯は敗けるわけにはいかなかった。
 彼にとっては、この世のすべては戦い。
 勝者と敗者しか彼の辞書にはなく。
 ……勝者の座に居続けなければ、彼もまた、壊れてしまうのだから。




【マスター】浅野學峯
【出典】暗殺教室
【性別】男性
【マスターとしての願い】
勝利し、自分の教育方針が正しいと言うことを証明する
【weapon】
『空手など武芸一般』
ちょっとした師範を倒すくらいには強い。

【能力・技能】
『強者の話術』
三秒で人を憎悪の塊に変える巧みな洗脳術を持つ。
學峯に憎悪を呼び起こされた人間は、
バーサーカーじみて感情が固定され脳を限界まで酷使する。
その他、交渉も得意。

『教育能力』
もはや人外の域に達している。

【人物背景】
「暗殺教室」の舞台、椚ヶ丘中学校の理事長。
徹底的な合理主義者で、多数の強者が少数の弱者を貶めることで
強い生徒を作り、全体のレベルを向上させると言う教育方法を取っている。
本来は「生徒のいいところをのびのび育てる教育」を掲げて理想を追い求めていたが、
そうして育て上げた優しい生徒がいじめを苦に自殺したことで、
「社会で生きていける強い生徒」を育てることこそが正しい教育であると思想を歪めてしまった。
今の自分では叶わない強者と相対しても決して負けを認めず、
その強者をじっと観察し続けて学習し、必ず最短距離で踏み越えていく。
学習能力、政治能力、支配能力の全てに優れているが魔力があるわけではない。

【方針】
鎌倉市の市長となり町を支配し、すべてのマスターをじわじわと追いつめて勝利する。
物語開始時点でバーサーカーのハッキングにより
市議会の一員と学園の理事長になっており、その影響力は強い。



【クラス】バーサーカー
【真名】玖渚友
【出典】戯言シリーズ
【性別】女性
【属性】混沌・狂

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A+ 幸運:D 宝具:A

【クラススキル】
狂化:A
 狂化させることでパラメーターをランクアップさせるスキル。
 バーサーカーは一見会話が通じるように思えるが、実はどうしようもなく狂っており、理性は失われている。
 彼女が天才であるがゆえに、狂っても意思疎通が成り立っているように見えるだけである。
 パラメーターはこれでも、全パラメータに補正&魔力と幸運に再補正がかかった数値。


168 : トリコワシティ 蒼色サーヴァントと教言遣い ◆kiwseicho2 :2015/06/21(日) 20:09:56 cbCjzci.0
 
【保有スキル】
カリスマ:A
 「死線の蒼」としてそれぞれが歴史に名を残すレベルのプレイヤーを従えるに至った本物の才能。
 およそ誰かに懐くことのないであろう英雄こそが、彼女の暴虐に心酔する。

破壊工作:C
 戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力を削ぎ落す才能。
 主に情報面でこのスキルは使用され、直接的なものではない。

死線の寝室:B
 逸話からすればキャスターのクラスで召喚される可能性もあるバーサーカーは、
 無意識に「死線の寝室」と呼ばれる陣地を練り上げている。
 彼女の居場所である高級マンション最上階に入った魔力耐性のない者は、一人残らず彼女に膝を付く。

蒼色サヴァン:A
 バーサーカーの持つサヴァン症候群のスキル。一度見たものは忘れる事が出来ない。

【宝具】
『仲間(チーム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:9人
 前世紀末の日本を震撼させた、玖渚友をリーダーとする9名からなる究極絶無のサイバーテロリスト集団。
 バーサーカーにとって、彼女の下に付いていた8人は『所有物』でもあったため、
 この宝具によりバーサーカーは仲間(チーム)の8人のうち1人をネットを介して自由に顕現させることができる。
 顕現した『仲間(チーム)』のメンバーはサーヴァントと同等の力を持ち、同様に狂化の恩恵を受ける。

 ほとんどのメンバーは狂化すると使い物にならなくなるタイプなので、
 現在は主に、外部破壊担当のメンバーだった「式岸軋騎」
 (補正込 筋力:A+ 耐久:B 敏捷:B 魔力:D 幸運:A+ 宝具:B)を顕現させることが多い。
 顕現させた『仲間(チーム)』は道具扱いで、痛みなどは感じず、魔力によって瞬時に修復が可能。

【weapon】
愚神礼賛(シームレスバイアス):
 式岸軋騎が裏の顔――零崎軋識として所有している鉄製の釘バット。
 バットと釘が一体化している。本来は式岸軋騎の状態でこれを所有していることはないのだが、
 『バーサーカーが道具として創り上げた式岸軋騎』
 にはバーサーカーの所有している情報の全てが反映されるため、この武器を手にすることになった。

【人物背景】
 玖渚友、激おこ状態(?)。
 いーちゃんが自分のそばから居なくなったことで代わりに8名の仲間(チーム)を従え
 サイバーテロしたり世界の危機と戦ってたりした時代の逸話から顕現。壊す。人の話なんか聞きゃあしない。
 本人については、劣性遺伝子である青い瞳と青い髪を持つ、引きこもりの美少女。
 サヴァン症候群。19歳(身体は13歳)。
 世界を分ける四つの世界の内、「権力」の世界を支配する
 玖渚機関の直系令嬢で電子工学・情報工学・機械工学の天才技術者でつまり天才って感じのキャラで、
 いーちゃんラブ。
 今回は≪死線の蒼≫モード固定なので暴君っぽいテンションで一人称は「私」。ショートカット。
 いつもはうにーとか言ってるし一人称も安定してない。

【サーヴァントとしての願い】
 『私の願いを知りたい? ――うるさいよ』

【基本戦術、方針、運用法】
 破壊の逸話からの顕現だし、とりあえず鎌倉と聖杯戦争は本能の赴くままに壊そうとしているらしい。
 まかり間違って想い人と再会したらどうなるかは天のみぞ知る。
 情報系にクソ強い。もし舞台が電脳空間だったら勝負はすでに決まっていた。
 PCが無いと何もできないともいえる。


※このSSの一週間後くらいに市長選が開かれます。
※このSSの翌日から、警察と市役員による不法滞在者・浮浪者狩りが始まります。


169 : ◆kiwseicho2 :2015/06/21(日) 20:14:11 cbCjzci.0
投下終了です


170 : ◆B7YMyBDZCU :2015/06/21(日) 20:38:46 ccF9.y4Q0
投下乙です私も投下します


171 : 遊佐司狼&アサシン ◆B7YMyBDZCU :2015/06/21(日) 20:40:54 ccF9.y4Q0

神が施したそれは最後の一人になれば願いが叶うと言われている。
所謂聖杯と呼ばれる願望器を手にするために争う聖杯戦争とやらに参加しているらしい。
別に望んだわけではないのに気付けば鎌倉なら場所に居たというオカルトな話であった。

「っつーかなんで鎌倉なんだよ、こんだけぶっ飛んでる話しならもっとファンタジーしろや」

ビルの一室にある夜のクラブを彷彿とさせる空間でソファーに座っている青年は声を出した。
テーブルの上にあるグラスがこれまた雰囲気を創造するのに一役買っているようだ。
グラスを飲み干すと、もう一度声を出した。

「大仏様が願い叶えてくれんのか? 俺そんな神とか信じてねーけどそこんところ大丈夫か?」

「あたしも特に神とか気にしてないから大丈夫っしょ”」

要らぬ心配をしていた青年の問に答えるのは抜群のプロモーションを放つ女性。
名はアサシン、此度の聖杯戦争にて青年のサーヴァントとして導かれた英霊である。

英霊。
その存在は過去に伝説を刻んだ、所謂逸話を持った存在である。
青年と話している女性もまた逸話を持っており、その実力は並の人間では到底及ばない。

「そっかそっか、なら問題はねえってことだな姐さんよぉ」

「そうそう。勝てばいいだけだから」

「オーケー。ま、俺に願いとかねえし? 別に関係ないけどな。七夕もシカトしてたし」

「……それまじ?」

青年に願いは無いらしく、笑って言い放っていた。
気付けば鎌倉に居て、お伽話の英雄が隣に居て、願いを叶えるために殺しあう。
(頭悪すぎんだろ、言葉が足りなすぎって話しよ。なんで殺し合ったら願いが叶うんだよ魔界の王とか決めるんじゃねえんだぞ)
説明不足感が否めない、と言うか真実である。
(バトルロワイヤルとかじゃねえんだから説明しろっての……はぁ)
心の中で溜息を憑く青年の未来は眩しくない。
元からまっとうな人生を送っているわけではないが更にハードモード突入である。
『元の世界ではまだやり残している案件があるのにも関わらず』

「じゃあマスターは聖杯戦争どうすんの?」

「願いが無けりゃ帰れるのか? なら帰りてえんだけど」

「多分無理じゃない? それに願いが無いなら帰れ(死ね)って話だと思うぞ」

笑いながらも突き出された言葉は冷徹である。
英霊曰く願いを求めている参加者に殺し合いを止めろ、何て台詞を吐いてはいけないらしい。
青年はそんなことを言うつもりはないし、勝手に殺し合ってろカスと言うタイプだ。
愉快犯が混ざっていい環境ではないらしい。

「おー怖い怖い。ならいっちょ前に元の世界に帰るってことにしとく」

「それでいいんじゃない? 戻るにも何かしら必要だと思うし! さーて、これでお姐さんもやる気が出るぞー!」

ガオー。
獅子のように身体を上に伸ばしたアサシンはそのまま酒を飲み干した。
足元を見れば空き瓶が数本転がっており、相当な酒豪で在ることが伺える。
百獣の王なる瞳は退屈そうにしている狼に狙いを定めた。


172 : 遊佐司狼&アサシン ◆B7YMyBDZCU :2015/06/21(日) 20:42:19 ccF9.y4Q0

酔っているのかわざとなのかは不明だが瓶を持ちながら青年の隣に座るアサシン。
肩を組み顔を耳元に近づけ囁くように何かを告げ始めた。

「お姐さんの前であまり嘘は憑かない方がいいよ?」

「……死人ってのはマジで関わりたくねえ奴らだな」

「ってことは既に死人と戦ったことでもあるのか?」

「お前絶対酔ってないだろ……あぁそうだ。腐れナチ共が歴史無視して来てたんだよ」

それは過去の存在。
英霊と呼べるかは不明だがその存在は現代社会には不要だった。
奇妙な術を使い目的のために街を血塗れにするクソッタレの阿呆共。
ベルリンだのカリオストロだの座だのラインハルトだの。
聞き飽きたそれらと交戦する直前に青年は鎌倉に呼び出されていた。

「腐れナチ共ねえ……結構な大物じゃん」

「全くだよ。チビるっつーの……だからよぉ、俺は元の世界に戻るから力貸せ酔いどれ淫乱獣女」

懐に仕舞いこんでいた銃を取り出し中身を確認する。
銃弾は詰まっている、戦闘が起きても問題はない。
ならば聖杯戦争とやらを速攻で終わらせて蓮の所に帰らないといけねえ。
あのイカれたシュライバーを相手にしなきゃならないからな。
あー帰らないほうが幸せなんじゃねえかな……なんて、な。

「解ったか? とりあえず邪魔する奴はバン。バンバンすっから」

「誰が酔いどれ淫乱獣女だコラ!」

肩を組んでいるその腕に力を込め青年の骨に圧迫を仕掛ける。
軋む音が夜の一室に良く響いている。まるで彼らだけが取り残されているように。
青年はギブ、と小さく呟きそれを聞くとアサシンは力を弱めた。

「お姐さんに任せんしゃい。マスターを元の世界に帰してついでに手伝ってやる!」

立ち上がりとびきりの笑顔で宣言するアサシン。
その笑顔は本当に暗殺者なのか疑うほどに眩しく輝いていた。
手伝うと宣言しているが、出来るのか? と青年は尋ねた。
すると勢い良く、知らない! と返されてしまった。

「調子のいい英霊だなおい……つっても俺はお前の逸話とか聞いたことねえけどな」

「それが一番だよ。なにせこちとら暗殺家業の闇に姿暗ます夜の執行官だからね!」

「日本語適当過ぎんだろ」

くだらない話に適当に笑いながら夜が過ぎていく。
この空間だけを切り取るならクラブで酒を飲んでいる馬鹿共にしか見えない。
だがこれは聖杯戦争であり、闇の世界にて行われる儀式である。

青年とアサシンは両者共に光の道を歩んでいない。
どこか頭の螺子がぶっ飛んでいる異常者と言っても差し支えないのだ。
殺す時は殺すし、そこに倫理観は無く、常に現実を優先出来る存在だ。


173 : 遊佐司狼&アサシン ◆B7YMyBDZCU :2015/06/21(日) 20:43:29 ccF9.y4Q0

遊佐司狼には倒すべき相手が居る。
それは因縁とも運命とも呼べないが倒すべき相手が居る。
それを殺さなければ世界に明日を夢見る資格は無いらしい。

好奇心の赴くままに首を突っ込んでいたが話が大きくなっていた。
刺激的なのは大歓迎だがこうも巻き込まれるとはお笑いものである。
いや、最初から決まっていたのかもしれない。
話が出来過ぎている、役者が揃い過ぎている。

ナチの亡霊共が都合よく自分の街に現れるだろうか。
自分や蓮、神父に先輩が都合よく同じ場所に留まっているだろうか。
導かれているのではないか、最初から運命はこうなるように決まっていたんじゃないか。

くだらねえ。
結局はカリオストロとラインハルトの掌の上か。
ふざけんな。
手始めに聖杯ぶんどって帰ってやる。どうせお前らも絡んでんだろ。
それで白騎士のイカれた狼狂人を殺してやる。
あいつは今も俺を待っている……ってのはないか。

けどよ。
運命なんて信じるつもりはないけどよ、俺は舞台の役者なんだよな。
だったら俺の役はなんだ、ヒーローって柄ではないし悪役はテメェらだよな――。



レオーネには具体的な夢はない。
彼女が願うのは腐った悪共をこの世から排除することである。
その願いは儚く漠然としていて達成するのは正直に言って不可能だ。

それこそ聖杯なる願望器でないと難しい。
だが彼女はマスターである遊佐司狼に総てを譲ろうとしている。

本来魔術の知識など欠片も持ち併せていない彼女だがサーヴァントの今なら解る。
遊佐司狼の存在は普通ではなく、特別な何かに覆われている。
それは魔術師の潜在や魔力量の多さなどではなく、異様なる存在。

彼に纏わりついてる魔術のような物は認識さえさせてくれない程に闇。
術者の契約を結んでいる今だからこそ解る謎の感覚である。
絶対に外からの干渉を許さない絶大的な運命力と言うべきだろう。

(自分で何言ってるかわかんない……けど)

この青年は何かを背負い込んでいる。
自分でも気づいていないだろう。
それは一人の人間に背負い込める大きさを簡単に凌駕している。

(これはあたしが頑張ってあげないと潰れちゃうかもね。
 マスターは普通なら潰れないと思うけど聖杯が変に絡むと全く展開が読めなくなる――だから)

聖杯は碌でもない。
レオーネの信条に『死んだ人間は生き返らない』。
死んだ存在は天に昇り、現代には絶対に戻ってこない。
亡くした人間を何時迄も悲しんでも何も生まれないのだ。瞳は前に付いている。
背中ではなく前だ、ならば進め、死んだ人間の魂を背負え。

彼女の信条であり生き様を真っ向から否定する聖杯は気に入らない。
故に彼女はこの状況に心を許さずマスターを守る獣として振る舞う事を誓う。

「お姐さんに任せな!」

「耳元でうるせえ」


174 : 遊佐司狼&アサシン ◆B7YMyBDZCU :2015/06/21(日) 20:44:22 ccF9.y4Q0

【マスター】
遊佐司狼@Dies irae -Acta est Fabula-


【マスターとしての願い】
元の世界に戻ってシュライバー殺してラインハルトも殺す。だろ、蓮?


【参戦時期】
マリィルートにてシュライバーと最後の戦いをする前。


【weapon】
銃『デザートイーグル』、手榴弾、液体窒素、バイク。


【能力・技能】
痛覚、味覚、嗅覚が麻痺している代わりにそれ以外の感覚が発達し、アドレナリンが大量に分泌されるという異常体質になってしまっている。
これらの異常体質と持ち前の度胸と頭の良さ、更にはデジャヴってる間は何をやっても死ねない(通称無敵モード)状態となる。
彼は生身ながらサーヴァントと変わらない存在と戦ってきた。


【形成】
血の伯爵夫人『エリザベート・バートリー』、その発動は人体融合型。
ハンガリーはチェイテ城に居を構えていた、悪名高き血の伯爵夫人『エリザベート・バートリー』
獄中で書き記したとされる拷問日記が素体。
生前のバートリーが為した数々の凄惨たる非道が書き連ねられているこの日記の能力は
「日記に記された数々の『拷問器具』を何らかの形で現界させ利用する」 というもの。
彼は現界の他に自分の体の一部を拷問器具へ変化させる方法も使用する。
また、聖遺物なる性質上サーヴァント相手にもダメージを与えることが可能であるが過信は禁物、あくまで彼は人間である。


【人物背景】
とある存在の自滅因子。


【方針】
邪魔する奴殺してさっさと帰ろうぜ。


175 : 遊佐司狼&アサシン ◆B7YMyBDZCU :2015/06/21(日) 20:44:59 ccF9.y4Q0

【クラス】
アサシン

【真名】
レオーネ@アカメが斬る!

【属性】
混沌・善

【ステータス】
筋力:C 耐久:B 敏捷:A 魔力:D 幸運:D 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】

直感:B
つねに自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

黄金率(悪):D
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
他者から金銭を盗む場合、手段はどうであれ優位な判定を得ることが出来る。
生前スラム育ちだったアサシンは盗みを行っており、生き抜く上で重要な業である。

路地裏の英雄:A
生前スラム育ちだったアサシンの生き様がスキルとなって反映されたもの。
闇及び路地裏を始めとする狭い空間や人気のない場所で本来以上の実力を発揮出来る。
また、琢磨しいその精神は干渉を全て遮断し、同ランクの戦闘続行を兼ね備える。

【宝具】
『百獣王化ライオネル』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大補足:20人
ベルト型の帝具であり使用者を獣化させ身体能力及び治癒能力を向上させる。
発動時アサシンは筋力及び俊敏の数値に上方修正が行われる仕組みになっている。
獣の力を得ることによって戦闘だけではなくある程度索敵も可能となっている。
また、生前帝具を噛み千切ったことから、敵宝具の核を噛み千切ることによって破壊することが出来る。
無論、核がない宝具には無効であり、実現は不可能と考えていい。

『獅子は死なず』(リジェネレーター
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
ライオネルの奥の手でありその力は圧倒的治癒力の魂現。
身体に受けた傷ならば魔力が許す限り瞬時に治癒する能力を得る。
止血程度なら殆ど魔力を消費すること無く治癒出来るが、失った身体を復元することは不可能である。
別途手術等を行うことで復元することは可能である。
性質上正面からの戦いには強いが因果律を伴う一撃との相性は悪い。
令呪などの外部因子が無い限り、運命に逆らうことは難しい。

【weapon】
基本的に殴る、蹴るなどの野蛮な戦闘スタイルを主としている。

【人物背景】
スラムで生まれ育った美女。
悪事を働く屑共をスラムで裁いていた所をナイトレイドと呼ばれる暗殺集団にスカウトされる。
その後は権力を悪用している大臣を殺すために蔓延る悪を殺していった。
基本的に面倒見がよくスラムでも愛されている。また、抜群のプロモーションから人気も高い。
優しい彼女であるが殺しのスタイルは殴殺である。
とある一つの結末では銃に撃たれながらも大臣をその拳で殺害することに成功した。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを守る。


176 : ◆B7YMyBDZCU :2015/06/21(日) 20:45:50 ccF9.y4Q0
投下を終了します


177 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/22(月) 19:29:38 Zn8PWYHo0
皆様投下お疲れ様です!
感想を書かせていただきますが、その前に自分も投下をば。


178 : 麦野沈利&ランサー ◆p.rCH11eKY :2015/06/22(月) 19:30:10 Zn8PWYHo0
 
 「粗暴ね」

 血臭の充満した路地裏で、蝙蝠の羽を持つ少女が顔を顰めた。
 繁華街の突き当たりにあるこの通りは、深夜になるとチーマーの溜まり場と化す。
 喫煙、飲酒、シンナー、暴力沙汰……派閥も幾つか存在するようで、それらが小競り合いを起こすことも屡々だ。
 しかしそんな彼らも、所詮は子供。粋がってはいるものの、本当の"悪"を知る者はごく僅か。
 現に殺人に発展したことはなかったし、本格的な組織戦争と言うよりかは、まだごっこ遊びの色合いが強かった。
 今宵、不運にもこの場へ居合わせてしまった者達は、人生の最後に自分が悪(ワル)だと信じてやってきたことがどれほど下らなく、取るに足らないものであるかを否応なしに理解させられたことだろう。
 武器一つ持たない、未だ高校生ほどであろう女の手によって。

 「仮にも私のマスターを名乗るなら、それに相応しい品格を身に付けるべきね。沈利」
 「――あぁ? 五月蠅いわよ、クソガキ」

 窘める自身の従僕(サーヴァント)へ、殺戮の下手人は憮然と返す。
 その手に一瞬、凶器の残り香が揺らめいた。
 残り香といえど、何も恐ろしげな毒ガスを使ったわけではない。
 第一、毒ガスではこうはならないだろう。
 手足が千切れ飛び、腹に大穴が穿たれ、吹き飛ばされた頭の欠片がアスファルトに焼き付くような有様には。

 「で、どうなの? マスターは居た?」
 「決まってるでしょ、ハ・ズ・レ。これだけ人が集まるんだから、可能性はそれなりにあるかと思ったんだけど。
  ……にしてもそろそろヤバいかもにゃー、こりゃ。ちっと殺しすぎたかねえ」

 彼女――麦野沈利が"マスター狩り"の一環として行った虐殺の犠牲者は、凡そ十六人にも及んだ。
 民間人殺しは度が過ぎればペナルティが課されるというが、これだけ殺せば十分その対象となり得る筈。
 今回目を瞑って貰えたとしても、次もそうなるとは限らない。
 暫く、こういうやり方は控えなければならないか。

 「ま、エセ神父に何か言われたら愛想笑いで謝っとくわ。こんなに殺したのは初めてだし、大目に見てくれるでしょ」
 
 
 麦野沈利は女子高生だ。
 しかし、見ての通り殺人行為に躊躇いはない。それどころか、初犯ですらない。
 これまでにも老若男女、両手の指に両足の指を足しても足りないだけ殺してきた。
 暗部組織『アイテム』。それが、麦野という怪物を創り上げた環境である。
 超能力開発を謳い立ち上げられた科学の街・学園都市――さりとて、光の裏には影がある。
 あの街では今しがた麦野が殺した少年達より尚幼い学生でさえもが闇に堕ちている。或いは、墜ちている。
 張本人の麦野をして、思う。学園都市は地獄だ。この鎌倉に存在する影など、全て引っ括めても到底足りない。
 
 そんな所から抜け出てきた怪物に、あろうことか彼らはちょっかいを出した。
 麦野とて、最初から殺すつもりではなかったのだ。しかし女だと知るなり鼻息を荒げ、それで少し挑発してやれば顔を真っ赤にして襲いかかってきた。だから、後は適当に殺してやっただけのこと。

 学園都市第四位の超能力――『原子崩し(メルトダウナー)』の力を使って。

 
 (凄いわね。人間の身で、此処まで魔道に近付くなんて――なんて、醜悪)


 そして。
 彼女に召喚されたサーヴァント・ランサーは内心で自らのマスターへと悪罵を叩く。
 死体の山を築き上げ、それを一体一体蹴り飛ばし一箇所へ集める様。
 それは断じて人の所業ではない。麦野沈利という女は、ある種魔人の域に達している。
 だから彼女は、それを醜いと軽蔑する。人として生まれながら、こうまで堕ちさらばえるとは。


179 : 麦野沈利&ランサー ◆p.rCH11eKY :2015/06/22(月) 19:30:33 Zn8PWYHo0
 (この聖杯戦争、飽きるまでは付き合ってあげるわ。でも、勘違いしないことね。
  私を飼い慣らせたなどと思ったら大間違い。私はいつだって、貴女の首筋に牙を立てることが出来るのよ)

 ランサーには、願いがない。
 英霊の座から突然呼び出され、召喚されただけ。
 聖杯戦争など彼女にとっては只の暇潰しと、高潔な吸血鬼たる己が他の英霊に遅れを取るなど許容できぬという強い自負があるから取り組んでやっているだけの座興に過ぎない。
 対し、麦野沈利は違う。彼女には、聖杯へ託す望みがある。
 それをランサーは未だ聞かされていなかったが――もし耳にしたならば、より自らの主へと失望を強めるだろう。

 
 「……首を洗って待ってろよ、はーまづらぁ」

 
 最後の一体を蹴り上げて、麦野は呪わしく呟く。
 その顔は下卑た笑みに歪んでおり、どこか人として不自然なものであった。
 当然だろう。彼女は本来、片目を引き裂かれた大傷を顔面へ負っている。
 今のこの容貌は特殊メイクと義手で補っているだけに過ぎず、本来の姿は更に怪物じみたものだ。
 そして麦野沈利が聖杯へ懸ける願望の矛先となる人物こそが――浜面仕上。学園都市第四位の超能力者(レベル5)を、無能力者(レベル0)の身で撃破した忌まわしい男である。

 浜面仕上を殺す。
 この世に存在するあらゆる苦痛を賞味させ、苦しみ抜かせた末に殺す。
 それだけではない。奴が愛している、元同僚の滝壺理后もだ。
 滝壺を徹底的に破壊してやれば、浜面は絶望し、怒り狂うだろう。しかし、聖杯が吐き出す呪いは彼を嘲笑う。
 壊し、壊し、壊し、壊し――壊し尽くした末に、奴ともう一度殺し合いを演じること。それが麦野の願いだった。

 聖杯の力で、浜面仕上とその恋人を呪う。
 まぐれで二度生き延びたからと言って、無能力者の一人も殺せない自分ではない。
 ――無能力者を殺すのに聖杯の力へ頼るなど、第四位のプライドが許さない。
 あくまで浜面を殺すのは、『原子崩し』の力でなくてはならないのだ。そうでなければ、この復讐は終わらない。

 (つーワケで、飽きるまでは使ってやるよ、槍使いのお嬢様。精々飼い犬として頑張ってくれや)

 何も、己が背を預けるパートナーへ悪感情を抱いているのはランサーだけではなかった。
 
 麦野もまた、自身のサーヴァントを快く思っていない。
 戦力に申し分はないのだが――どうも、こういうお高く止まった女は苛つかせる。
 しかしだ。ランサーがどれだけ高潔な英霊なれど、麦野には彼女を絶対に平伏させることの出来る権限がある。

 これから面白くなりそうだ。
 どんな敵が来ようと、聖杯を奪おうとするならば皆殺しにしてやる。
 積み重ねた死体の山へ、証拠隠滅の超高温を解き放ち、麦野沈利は鮮烈に笑ってみせた。


180 : 麦野沈利&ランサー ◆p.rCH11eKY :2015/06/22(月) 19:30:51 Zn8PWYHo0

【クラス】ランサー
【真名】レミリア・スカーレット
【出典】東方Project
【性別】女性
【属性】秩序・中庸

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:A 魔力:A 幸運:D 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
運命操作:D
彼女の持つ能力。運命を操るとされるが、実際のところ操れてはいない。
なので「それとなく幸運が起きる」程度の代物であり、しかも本人に時期の操作は不可能。

吸血鬼:B
強靭な肉体と再生能力を両立する。
但し、直射日光を浴びれば気化してしまう弱点を持つ。

【宝具】
『運命射抜く神槍(スピア・ザ・グングニル)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1-99 最大補足:1人
正確には槍そのものを投げているのではなく、弾を超高速で投げつけることで槍のように変化させるとされるランサーの十八番。原典におけるランサーの代名詞とも取れる技であるが故に、此度の聖杯戦争において宝具の域にまで昇華され、とうとう持って振るうことも投げることも可能な槍へと変貌を遂げた。
真名開放と同時に投擲することで真価を発揮する。
その性質は不明だが、単純に強力であるが故に穴がない「対軍宝具」。

【weapon】
 なし


181 : 麦野沈利&ランサー ◆p.rCH11eKY :2015/06/22(月) 19:31:05 Zn8PWYHo0

【人物背景】
東方紅魔郷の舞台、紅魔館の主である吸血鬼の少女。
吸血鬼としては少食で、人間から多量の血が吸えない。また、吸い切れない血液をこぼして服を真っ赤に染めるため「スカーレットデビル(紅い悪魔)」と呼ばれている。
貴族らしい威厳や体面を重視しており、自らを「誇り高き貴族」と呼んだり、ツェペシュ(ドラキュラのモデルないし、吸血鬼の始祖)の末裔を名乗ったりしている。ちなみにスペルカードにも彼の名を冠した物があるが、実際の血縁関係にはない。だがその本質は尊大かつ我が儘で、非常に飽きっぽいという少し幼い思考。常日頃から退屈しており、気紛れで突拍子も無い事を思いついては周りを振り回している。 強大過ぎる程強大なので、周りは良い迷惑であるとのこと。

【サーヴァントとしての願い】
なし。飽きるまでは付き合ってやる。

【基本戦術、方針、運用法】
日光に弱いという弱点を持つため、主に夜間を中心とした戦闘が望ましい。



【マスター】
麦野沈利@とある魔術の禁書目録

【マスターとしての願い】
浜面仕上と滝壺理后を呪い、最後に浜面と再戦する。

【weapon】
なし。自身の超能力を用い闘う。

【能力・技能】
非常に高い身体能力。そして、第四位の超能力『原子崩し(メルトダウナー)』。
本来粒子又は波形のどちらかの性質を状況に応じて示す電子を、その中間状態に固定し、強制的に操ることができる。
操った電子を白く輝く光線として放出し、絶大なる破壊を撒き散らす。
正式な分類では粒機波形高速砲と呼ばれる。「電子を操作する」という特性ゆえか、電撃の軌道を曲げることもできるが、逆に自身より上位の電子操作能力者には、粒機波形高速砲を逸らされてしまったことも。

【人物背景】
『アイテム』のリーダーを勤める女にして、学園都市第四位の超能力者/レベル5。
リーダーらしく、『スクール』の襲撃予想場所を割り出すなど頭は切れる模様。
しかし、気に入らないという理由で相手を殺したり、仲間の死をなんとも思わないととても残忍。
またミスを許せない人間でもあり、ミスをしてしまった場合はそれ以外で帳消しにしようと別の目的を見出そうとし、それにこだわることで結果的に本来の目的にさえ意識を向けなくなる。
浜面仕上と交戦、敗北したことから彼へ並々ならぬ執着心を抱く。


182 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/22(月) 19:36:18 Zn8PWYHo0
投下終了です。

>>アイ・アスティン&セイバー
うわあ。
神ない世界の住人とよりによって蛍ルート練炭とは、これまた。
性格上の相性は良さそうですが、先の分からない主従になりそうですね。

>>みなと&ライダー
練炭からマキナへの流れほんとずるいですね。
形は違えど一つの終わりを求める者同士、静かな邂逅。
マキナは瑣末な小細工を踏み越えて一撃必殺する重戦車ですし、いざ本選となれば猛威を奮いそうです。

>>浅野學峯&バーサーカー
 そ の 発 想 は な か っ た … … !
まさかの死線バーサーカー。身分の問題も確かにこいつならカバーしちゃうよなあ。
そしてマスターもカリスマ教育者の理事長と来た。直接の戦闘能力はともかく、エグいことが出来そうです。

>>遊佐司狼&アサシン
 練炭、マッキーときて今度は司狼!
 原作通りのマイペースさですが、これが彼の強みだよなあ。


183 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/24(水) 21:46:36 bLV3.1fw0
皆様、投下お疲れ様です
投下させていただきます


184 : 桜咲刹那&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/24(水) 21:49:06 bLV3.1fw0
飛ばされていく。何もかもが飛ばされていく。
ネギ先生もアスナさんも、みんな別々の場所へ。
身体が地面を離れていくのが見える。私は今、翼を広げていないのにも関わらず魔法世界の空の果てへ弾き飛ばされようとしている。
私の背中に糸がくっついているように引き寄せられている。
ネギ先生がアスナさんと離れぬよう手を伸ばし合っている。

「お嬢様…!」

私もハッとして木乃香お嬢様に手を伸ばす。
このまま離れ離れになっては守るどころか生死の確認さえできない。
しかし無情にも私の手がお嬢様に届くことはなく、お嬢様が虚空へ消えていく光景を最後に私の意識は白で塗りつぶされた。


◆ ◆ ◆


――ようこそ、鎌倉へ。願望機が生む戦場へ。


◆ ◆ ◆


「ぐっ…!」

風が彼女の顔へ力強く当たってくる。
和服の意匠を含んだメイド服の裾がバタバタを音を鳴らしている。
引力に身体を預けているような感覚から、自分は今、落ちているのだとわかる。
空気抵抗に屈さずに長時間閉じていた目を開いてみると、一面が真っ白なキャンバスのようだった。
目が順応していく内に、視界の光と影が明白になっていき、色がついていった。

「…っな――」

眼下に広がる光景に圧倒された彼女は素っ頓狂な声を上げた。
まず視界に映ったのは、その特徴的な海岸の形であろう。
ぽっかりと切り取られたように陸地がへこんでいる。
海岸沿いに目線を移すと埋立地らしき角ばった土地が見える。
その陸地には街があることがわかるが、周囲は緑で隔てられている。
海岸の中心からは川が街を二分する形で流れていた。

このように鎌倉全土を一望できる場所に彼女はいた。
つまり、彼女――桜咲刹那は鎌倉上空数千mへ放り出されていたのだ。
みるみる内に地表が近づいてくる。
このままでは地面への激突は免れないと判断し、仕方なく大きな白い翼を広げ、滑空しながら態勢を立て直す。
翼を全力で動かして重力に逆らい、なんとか高度を維持した。


185 : 桜咲刹那&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/24(水) 21:50:43 bLV3.1fw0

「…この高度ならばれる心配はないな」

この高さならば刹那の白い翼をはっきりと視認されることもない。
もし見えたとしてもフライングヒューマノイドか何かに見間違えるであろう。

「ここは……?」

刹那は滞空しながら眼下の景色を見渡す。
見たところ街のようだが、刹那には妙な既視感があった。
ビルですら豆粒に見えてしまう高度では眠っている記憶を呼び起こすことはかなわず、
刹那は仕方なく低空へと高度を下げ、人に見つからぬように街を回った。

「あの大仏…やはり、ここは鎌倉か」

街の西側に位置する寺院群にたどり着くと、刹那の目が大きな大仏をかろうじて捉えた。
空にいる刹那から見ればまだ小さいが、それでも他の建造物と比べればかなり巨大だとわかる。
刹那は幼少期から京都神鳴流の剣術の稽古をつけてもらっていたが、その過程で何度か鎌倉へ赴いたことがある。
この既視感の正体もその記憶だろう。

「私は強制転移魔法で飛ばされてここに…」

刹那はここに来る前のことを思い返す。
自身のクラスの担任であるネギ・スプリングフィールドの父の手がかりを得るために魔法世界に来た矢先、
フェイト・アーウェルンクスとその一味の襲撃を受けた。
あの強敵とここで再開してしまったのはただの偶然だったが、
厳重に警備されており、危険感知の術も張っていたという安心感から刹那自身にも隙が生まれていたことが大きい。
その結果、先手を取られ、こちら側の応戦もむなしく強制転移呪文で全員がバラバラの場所へと飛ばされてしまったのだ。
本来なら魔法世界の首都・メガロメセンブリアとその周辺だけを回ってすぐに帰るはずが、大惨事になってしまった。

己の不甲斐なさに刹那は歯噛みする。
麻帆良祭の武道会でエヴァンジェリンに「幸福に浸ってフヌけた」と言われたが、まさにその通りだ。
皆と打ち解ける前のように神経を研ぎ澄ませていれば、敵が放っていた殺気に気付けたかもしれない。

ふと、刹那の目に仮契約カードが入る。
修学旅行の一件でネギとのキスにより手に入れた、魔法使いの従者の証だ。

「私が鎌倉に飛ばされたということはネギ先生や木乃香お嬢様もこの地に?」

試しに仮契約カードを額に当て、ネギと念話でコンタクトを取ろうとするが、繋がらない。
恐らくは念話の範囲外にいるのだろう。
世界各地に飛ばされたとなれば、かなりの距離が開いているはずだ。
とにかく、ここでじっとはしていられない。
同じように別の場所へ飛ばされた木乃香や明日菜達を探さねばならない。
刹那は辺りにフェイトからの追手が来ていないか神経を研ぎ澄ませながら、その場から離れようとした。


186 : 桜咲刹那&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/24(水) 21:51:49 bLV3.1fw0





――聖杯戦争。





「―――■■■■■■■■■■」

突然に刹那を狂気にまみれた膨大な魔力の気配が襲い掛かった。
『それ』は高度を上げながら刹那のいる鎌倉上空へ猛スピードで突っ込んでくる。
一度刹那は怯むが、コンマ1秒たたぬうちに状況に整理をつけて自分に斬りかからんとする敵に応戦せんと剣を構える。

「何者だ!フェイト・アーウェルンクスの差し金か!」
「■■■■■■■■■■■■■―――!」
(言葉が通じない――!?)

このままでは敵のスピードに任せた斬撃で剣ごと叩き斬られてしまうと判断し、敵へ方向転換を強いるべく刹那は瞬時に高度を上げた。
数瞬後に敵は得物の蛇腹剣を刹那がいた場所を薙ぎ払う。
その一撃は空間をも切り裂いて飛翔する斬撃となり、そのまま鎌倉の空の彼方へ消えていった。

(なんてパワーにスピード…それに生身で飛行できるのか)

刹那を襲撃した敵が空気の上に立ちながらゆっくりと刹那のほうへ振り返る。
その表情は狂戦士のそれであり、正気を保っていないことがわかる。
血のように赤い兜とコートを纏った西洋のおとぎ話に出てきそうな騎士のようにも見える女性であった。
刹那の記憶には翼がなくとも空を飛べる者は少なくなかったのでそこまで驚きはしなかったが、
どうやらこの敵も飛行できるようだ。
そして、刹那にはもう一つ、この敵について解せないことがあった。
それは相手の頭上に見える文字だ。

(なんなんだあの文字列は…この女の強さを表しているのか?)
「■■■■■■■■――――!」

狂った女騎士が咆哮を上げながら再度刹那へ肉薄する。
刹那を頭から切り裂こうと蛇腹剣を振るうが、加速しきれていない分、刹那の野太刀の刃でなんとか受け止めることができた。
動きは理性が奪われているためか技巧を感じさせる部分は少なく、蛇腹剣を振り回しているに近い動作であったが、
刹那を遥かに上回るスピードはその隙をつくことを許さなかった。





――マスター。サーヴァント。バーサーカー。





「ぐっ……!」
「■■■■■■■■■■■■■■――――!」

蛇腹剣と野太刀の刃がせめぎ合うが、力でも劣る刹那が次第に押されてゆく。
地に足がついている状態ならばまだ抵抗はできたであろうが、ここは空中。
刹那は地面の力を借りることも叶わず、己の力一本で恐るべき女騎士に挑まねばならなかった。

『――リヌ――足リヌ――』

その最中、刹那の頭に女騎士のものと思われる声が響く。念話でこの女の意思が表出しているのだろうか。
頭の中に直接響く声に刹那は戦慄する。

『旧人類――斬ルノハ飽キタ――マダ――斬リ足リヌ』
(こいつ…修学旅行で会った月詠を遥かに超える戦闘狂か…!)

そう刹那が考えを巡らしているうちに蛇腹剣の刃が刹那の目前に迫る。
ほんの数cm野太刀の刃を引けば顔に蛇腹剣の刃が入刀されるだろう。
身体能力の差が歴然の相手の攻撃を下手に避けても追撃されるだけだ。
この状況を打開する策はないか…どうにかしてこの蛇腹剣をいなさなければ。
刹那の命があと数秒間で切れるであろう極限状態に陥った、その時。


187 : 桜咲刹那&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/24(水) 21:52:40 bLV3.1fw0

「…や…めろ……やめるんだバーサーカー!」

刹那は咄嗟に声を上げた。
刹那が意識したわけでもなく、気付いたら叫んでいた。
程なくして、女騎士から加えられた力が緩んでいく。
女騎士は俯きながら、蛇腹剣を片手に刹那の前で滞空していた。
まるで主からの命令を待つ操人形のように。
そして刹那は女騎士のことをある名前で呼んでいた。

「……バーサーカー?」

呆然としながら鎌倉上空を立ち尽くす。
無意識に口にしていた『バーサーカー』という言葉は刹那の記憶の底をじっくりと掘り返し、そこで眠っていたものを呼び覚ます。

「サーヴァント…願望機を獲るために私に与えられた『価値ある魂』…」

刹那は目の前の狂戦士の女を見つめ、本を音読するかのように単語をただただ呟いていく。
正体不明の記憶の断片が刹那の心のノードからノードへとパスを結ぶ。

「……聖杯戦争……私は何故それを『知っている』…?」
「■■■■■■■■■■―――」





――契約。霊体。令呪。七つのクラス。真名、テンペルリッター。命を賭した聖杯の争奪戦。





聖杯より刹那へと与えられた戦争についての記憶。
それは完全に刹那の中で形を成した。

「私は知らぬ間に記憶を操作する術を受けていた…?」

過去にネギから聞いた話によると、魔法の一つに忘却呪文なるものがあるらしい。
特定の記憶を消すが、暴走すると対象の記憶をすべて抹消してしまう危険を孕んでいるとか。
おそらく聖杯戦争の記憶は、忘却とは反対に記憶を植え付ける術によるものではないか。
魔法で記憶を操れるなら記憶を「消す」のではなく「入れる」ことも可能なはずだ。

「それにしてもこのような英雄の霊と契約させて殺し合わせるとはなんと悪趣味な…名はテンペルリッターだったな」
「■■■■■―――」

刹那は目の前にいる狂戦士のサーヴァント、テンペルリッターを見て、このサーヴァントと契約した現実を突きつけられる。
刹那の世界でも契約という概念はあるのだが、まさか木乃香の従者となる前に刹那自身が従者を得るとは思ってもいなかった。
正直、いきなり襲ってきた狂戦士が自身の従者だという事実に不快感を拭えない。
しかし、あの念話の内容を聞く限り、狂気が解けた素の状態の方がもっと危険だろう。
むしろ狂化によって理性がなく従順になってくれる分、バーサーカーであって助かったと見るべきか。


188 : 桜咲刹那&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/24(水) 21:55:44 bLV3.1fw0

「この戦争もあのフェイトが仕掛けたものなのか…?」

この鎌倉という空間に放り出され、記憶を埋め込まれた上で聖杯戦争での戦いを強制された。
もしこれが全てフェイトらの自分達を始末するための策略であるならば、
自分の他に巻き込まれている仲間もいるという最悪の可能性が浮上する。

「まさか、木乃香お嬢様やアスナさんも…!」

あくまで可能性であることは否定できないが、そうでないとも限らない。
ネギは何故か念話に応答がなかったので鎌倉にいる可能性は薄いが、互いに念話でコンタクトをとれないクラスメートは別だ。
特に木乃香は命を張ってでも守ると誓ったのだ。
少しでも可能性がある限り、このふざけた戦争に放り込まれた仲間を探さない理由はなかった。

「バーサーカー、霊体化してついてきてくれ。この鎌倉に友達がいないか確かめる」

すぐさま、刹那は鎌倉を迂回して人通りのない場所へ行き、鎌倉の地に降り立つ。
久々に踏む大地を足の裏で感じながら、白い翼を隠した。
ふと頭に残るある記憶を想起し、刹那は服をまくって己の肩甲骨のあたりにある令呪を見る。
真ん中の柱に二本の翼が生えたような形をしたそれはしっかりと三画刻まれていた。

そのまま刹那は背後に視線を移す。
彼女のサーヴァントは背後にいることがわかる。
だが、テンペルリッターからは何かを斬りたいという欲望が常に滾っている、おぞましい殺気を感じるのだ。
先ほども刹那の必死の呼びかけがなければ、あのまま斬り伏せられていただろう。
その意思を垣間見た時の『斬リ足リヌ』という言葉が引っ掛かる。
植え付けられた記憶によると、召喚されるサーヴァントはその伝承、逸話によって当てはまるクラスが異なるという。

(何をもってバーサーカーはあれほどまで狂って…)

「旧人類」と言っていたが…そのような種族、または旧《ふる》い世界の人類でも狩っていたのだろうか。
狂化スキルのせいで意思疎通を図れず、刹那にその真意を知ることはできなかった。


◆ ◆ ◆


テンペルリッター。
それは個人名ではなく、完全者率いる新聖堂騎士団にて用いられた航空戦力の総称。
「旧人狩り」と称して世界中で殺戮の限りを尽くした、戦乙女の皮を被った死神である。
しかし、神・ヴァルキュリアをオリギナールとしたクローンの心身はその力の強大さに耐えることができず、ついにある個体の精神が崩壊してしまった。
その力に溺れて人を斬る快感を覚えたその個体は上官である完全者をも躊躇なく切り殺し、
ついにはオリギナールであるヴァルキュリアをも葬ってしまう。
桜咲刹那に贈られた狂戦士は、まぎれもない快楽殺人者と化した個体その人だったのだ。

神の似姿と呼ばれたテンペルリッターが狂化の奥で願うことはただ一つ。
旧人類を斬るのも飽きた。完全者を斬ってもこの渇きは癒されない。マスターとなった翼を持つ旧人類を斬ってもつまらない。
足りぬ。足りぬ。足りぬ。足りぬ。斬り足りぬ!
もっと斬り応えのある相手を。もっと強い者を。あの神を超える力を持つ強者を斬ってみたい!!

彼女の目は、いずれ出会うであろう、まだ見ぬ強者に向いていた。
マスターである刹那など目に入っていない。
テンペルリッターの渇きを満たすに相応しい強者が現れたその時には。
刹那には「耳」すら傾けなくなるだろう。


189 : 桜咲刹那&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/24(水) 21:57:10 bLV3.1fw0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
テンペルリッター@エヌアイン完全世界

【パラメータ】
筋力B+ 耐久B 敏捷A+ 魔力B 幸運D 宝具B

【属性】
混沌・狂

【クラス別スキル】
狂化:C
魔力と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせるが、
言語能力を失い、複雑な思考が出来なくなる。
精神汚染の影響でランクが低下している。

【保有スキル】
複製:-
ある存在の複製であり、量産可能であることを示すスキル。
しかし、此度の聖杯戦争では人切りの快感に目覚め、快楽殺人者と化した個体の一面が強調されて現界した結果、このスキルは失われている。
仮に真っ当なテンペルリッターが現界した場合、ただでさえ並以上のサーヴァントが15体同時に現界できた。

神性:C
神と呼ばれた古代人、「旧世界に死をもたらす者」ヴァルキュリアのクローンで、
『神の似姿』と呼ばれたことから神性を持つ。
ただし、オリギナールに比べてランクは低い。

精神汚染:B
神・ヴァルキュリアをオリギナールとした肉体の強すぎる力に精神が耐え切れず崩壊しており、
精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。

飛行:A+
生身で空を飛ぶ能力を持ち、セイバーは航空兵として用いられていた。
空中において、敏捷のランクはこのスキルのランクが適用される。
狂化で身体能力が強化された影響でプラス補正がついている。

【宝具】
『聖堂騎士(テンペルリッター)』
ランク:B 種別:対旧人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
秘密結社・新聖堂騎士団の航空兵。「旧世界に死をもたらす者」ヴァルキュリアの似姿。
「旧人狩り」と称して殺戮の限りを尽くし、世界を混乱に陥れた逸話の具現。
相手が『旧人類(人間)』であった場合、全パラメータを1ランク下げ、追加ダメージを負わせる。
ただし出自を問わず『人外』のサーヴァントや、
人類を新たな階段へと導いた者――スキル「星の開拓者」とその類似スキルを持つ者には一切効果を発揮しない。

『完全神殺(ゴットテーター)』
ランク:B+ 種別:結界宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:-
精神が崩壊して快楽殺人者と化したバーサーカーがついにはオリギナールであり神であるヴァルキュリアをも斬り伏せてしまった逸話の具現。
その逸話から「神殺し」の属性を持つ。
神性を持つサーヴァントを相手取った場合、全パラメータが1ランク上がり、与えるダメージが2倍になる。
自分より霊格が上のサーヴァントを相手取った場合、全パラメータが前述とは別に1ランク上がり、戦闘において有利な判定を得る。

【weapon】
・蛇腹剣

【人物背景】
秘密結社「新聖堂騎士団」の聖堂騎士。
生身で空を飛ぶことができる航空兵の一人であり、「旧人狩り」と称し旧世界の生き残りに殺戮の限りを尽くす。
真っ赤な裾の長い軍服と羽根が誂えられた帽子が特徴的で、武器として蛇腹剣のような機構が仕込まれた大剣を使う。
上記の通り旧人類の殺害を厭わない容赦の無さと残忍さを持ち、その態度は非常に攻撃的かつ高圧的なものだが、一方で相手を戦士として認める武人のような発言も見られる。
その正体は、ヴァルキュリアをオリジナルとしたクローンであり、エレクトロゾルダートと同じく複数の同じ肉体をオリジナルとした個体の総称として「テンペルリッター」と呼ばれている。
完全者の言葉では彼女は「神の似姿」であり、非常に高い力を持つ「神」をオリジナルとするため高い戦闘力を発揮する一方で、
そのクローンの身体・精神では制御できないほどの膨大な力も内に秘めることになる。
そのため、ストーリーでは旧人への殺戮を繰り返す内にその力に陶酔、暴走し人を斬る快感に溺れ味方や上官、
果てはオリジナルである「神」にさえも戦いを挑む快楽殺人者へと成り果ててしまう。

此度の聖杯戦争では人切りの快感に目覚め、快楽殺人者と化した個体の一面が強調されて現界している。
あくまで『個体』を元に現界しているため、量産されたクローンとしての一面は失われている。
その分、量産型の脆弱性は皆無で個体のスペックは他の個体に比べて遥かに高い。

【サーヴァントとしての願い】
もっと強大な存在を斬りたい。


190 : 桜咲刹那&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/24(水) 21:59:20 bLV3.1fw0
【マスター】
桜咲刹那@魔法先生ネギま!(漫画)

【マスターとしての願い】
近衛木乃香や他の仲間の無事を確かめる。

【weapon】
・夕凪
刹那が愛用している巨大な野太刀。
「紅き翼」の一員・詠春から受け継いだもの。

・白い翼
彼女が鳥族と人間のハーフであることを象徴する大きな翼。
空を飛ぶだけでなく攻守にも使える。

・仮契約カード
ネギと仮契約を結んでおり、「アデアット」と唱えるとアーティファクト『匕首・十六串呂(シーカ・シシクシロ)』が顕現する。
『匕首・十六串呂』は一口の匕首で、最大で十六口まで分裂させることが可能。
それぞれの匕首は、従者が念じるままに飛翔させることができる。
またそれらを用いて捕縛結界を発生させるなどの応用も可能。
称号は「翼ある剣士」。
カード自体にも防御力上昇や衣装変更機能などが備わっている。

【能力・技能】
・京都神鳴流
魔を打ち滅ぼす『退魔の剣』。野太刀の斬撃と退魔戦術のみならず『気』を用いた技も多数使用する。
剣客ということもあり戦闘能力が高く、「白き翼」の中では貴重な前衛だった。

・「気」を用いた陰陽道
剣の補助術程度だが使用可能。

・飛行能力
白い翼で飛ぶことができる。

【人物背景】
京都神鳴流の剣士。大きな剣である「夕凪」を愛用する。
木乃香とは幼馴染で、木乃香にとっては初めての友達。
性格は真面目で、木乃香に何かあった時など緊急事態の時はいつも駆けつけてくる。常に敬語で喋るが、動揺した時などは京都弁でしゃべる。
彼女は鳥人であり、鳥族と人間のハーフで白くて大きな翼がある。
烏族の中でも霊格高く、強大な力を持つ故にタブーとされている「白鳥」として生まれた為に里を離れる事になったが、
さまよっていたところを木乃香の父親に拾われ、それ以来木乃香に従事することに。
翼のことはコンプレックスだったが、修学旅行後からは烏族である自分を当たり前のように受け入れてくれたネギ達のおかげで、過酷な生い立ちを乗り越えつつある。
木乃香に烏族(化け物)である事を知られ、嫌われるのを恐れてしばらくは距離をおいていたのだが、
修学旅行での事件でようやく前までの関係に戻った。

今回の聖杯戦争ではフェイトらによって強制転移魔法で転移された直後(21巻)からの参戦。
鎌倉での聖杯戦争をフェイトらが仕掛けたものではないかと疑っており、
「白き翼」のメンバーも鎌倉に飛ばされて参加しているのではないかと懸念している。
一応、聖杯から与えられた知識で聖杯戦争のルールとその周辺知識は把握している。
令呪は肩甲骨のあたりに存在する。

【方針】
木乃香をはじめとする「白き翼」のメンバーを探す。
無関係な人を殺す気はないが向こうから攻撃してきた場合はその限りではない。


191 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/24(水) 22:03:21 bLV3.1fw0
以上で投下を終了します
宝具の記述につきましては、
「Gotham Chalice」での◆zhWNl6EmXM氏の「前川みく&アーチャー」におけるジャスティスのステータス表を参考にさせていただきました。
ありがとうございます。


192 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/06/25(木) 11:39:52 z1GecBVc0
申し訳ありません、ステータス表に一部誤字があり、誤解を招く恐れがあるので訂正しておきます
 
飛行:A+
生身で空を飛ぶ能力を持ち、バーサーカーは航空兵として用いられていた。
空中において、敏捷のランクはこのスキルのランクが適用される。
狂化で身体能力が強化された影響でプラス補正がついている。
 
『完全神殺(ゴットテーター)』
ランク:B+ 種別:対神宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
精神が崩壊して快楽殺人者と化したバーサーカーがついにはオリギナールであり神であるヴァルキュリアをも斬り伏せてしまった逸話の具現。
その逸話から「神殺し」の属性を持つ。
神性を持つサーヴァントを相手取った場合、全パラメータが1ランク上がり、与えるダメージが2倍になる。
自分より霊格が上のサーヴァントを相手取った場合、全パラメータが前述とは別に1ランク上がり、戦闘において有利な判定を得る。


193 : ◆Ywp624OgQE :2015/06/25(木) 19:30:54 0lQqAnEc0
投下します


194 : アイリスフィール&セイバー ◆Ywp624OgQE :2015/06/25(木) 19:31:39 0lQqAnEc0



 ――――綺麗な月の光が、始まりへと沈みゆく。


 ◆

第四次聖杯戦争における、『聖杯の器』という役割を持って生み出されたホムンクルス。
冬の聖女ユスティーツァの後継機。
究極のホムンクルスのプロトタイプ。
この世に仮初めの生を受ける前から、あらゆる改造を加えられ調整された、人間の紛い物。
それが、アイリスフィール・フォン・アインツベルンという人物の全てだった。
腕の立つ魔術師と同じかそれ以上の力を宿していながら、やはりその機能は所詮贋物のそれでしかない。
寿命は人間よりもはるかに短く。
聖杯戦争の為だけに製造され――聖杯の降臨と共に消費される、ただそれだけの存在。

……そう、思っていた。
あの日、自分の伴侶となる男と出会うまでは。
アイリスフィールは追憶する。
誰よりも優しいが故に、誰よりも世界に絶望していた彼。

彼との出会いが、自分の運命を変えた。
いや、本質的にはきっと、何も変わってなどいなかったのだろう。
事実アイリスフィール・フォン・アインツベルンは、予定通りに聖杯の器として生涯を全うした。
信じる夫の夢が遂げられるのを信じて、仮初めの生を終えた。

衛宮切嗣――アイリスフィールの夫であるその男は、かつて世界の救済という望みを持って聖杯戦争へと参じた。
切嗣は最優と呼ばれるセイバーのサーヴァントの中でも、紛れもなく最強のカードであろう騎士の王を召喚。
しかし、英雄という存在を疎む彼と気高き騎士王の道は決して相容れるものではなかった。
セイバーは切嗣を外道と断じ、切嗣もまたセイバーの言葉へ耳を傾けず、奇策謀術・卑怯卑劣を尽くして戦い続けた。
そんな彼らの聖杯戦争が果たして如何なる結末に終わったのか、アイリスフィールは知らない。
だが、今の自分がどういう状況に置かれているかは確りと理解していた。

右手の甲に刻みつけられた、三画の令呪。
これの存在が意味する所を、アイリスフィールはよく知っている。
人智を超えた存在・サーヴァントに対してマスターが行使できる、たった三度の絶対命令権限。
そしてこれが顕れているということは即ち――聖杯戦争の参加者として、正式に選ばれたことを意味していた。
もっとも、『これ』が正式な聖杯戦争であるかどうかは、甚だ疑わしいものがあったが。

一度確かに生命活動を終えた筈の自分が、まるで何事もなかったように黄泉返りを果たしている事実。
何か裏がある。そう察するのに時間はかからなかった。
しかし、察せたからと言って対抗策が存在するわけでもない。 
アイリスフィールに出来ることは、自身のサーヴァントと一緒に聖杯戦争を戦い抜くことのみだった。

「それにしても――可愛らしい英霊さんとは随分縁があるみたいね」
「う……からかわないでよ、マスター」


195 : アイリスフィール&セイバー ◆Ywp624OgQE :2015/06/25(木) 19:32:16 0lQqAnEc0
苦笑気味にアイリスフィールが呟くと、彼女の隣に侍っていた少女が照れたように唇を尖らせる。
その姿がますます英雄らしくなくて、またアイリスフィールは思わず笑ってしまった。
この、ともすれば以前の騎士王よりもずっと英雄らしからぬ人物が、彼女のサーヴァント。
奇しくもクラスは前と同じセイバー。
ステータスは流石にやや見劣りしているが、それでも歴戦の英傑達と鉾を交えるには充分な域に達している。
 
だが、初めに彼女と話した時――正しくはその出自を聞いた時。
アイリスフィールはひどく驚かされたのを覚えている。
なんと彼女が生きていた時代は2026年……自分にとって未来の時代から召喚された英霊だという。
アルヴヘイム・オンラインなるゲームで名を馳せたことくらいしか、召喚される心当たりはないと語った彼女。
その話を耳にして、アイリスフィールは今回の聖杯戦争がやはり異常なのだと再実感した。
ゲームで名を挙げて聖杯に選ばれたサーヴァントなど、掟破りもいいところだろう。

「けれどセイバー、貴女は本当にいいの?」
「何が?」
「聖杯は要らない……って話よ」
「ああ、うん。――いいんだ。ボクはもう、十分幸せになったからね」

そう言って、セイバーはどこか儚げに微笑んでみせる。
彼女は最初に言った。
ボクに、聖杯に託す願い事はない。
だから聖杯の力は、全部マスターが使って構わない……と。

「心残りというか、こうすればよかった、ってコトがないわけじゃないけど。
でも……聖杯を使ってそれを遂げるのは、ちょっとズルいと思うから。
だから、ボクは聖杯はいらない。マスターの願い事を叶えるために使ってほしい。
――もちろん召喚されたからにはちゃんと戦うから、そこは安心してね?」
 
「ふふ、言われなくてもわかってるわ……――ねえ、セイバー」 

「?」

「貴女――幸せだったのね。とっても」

聖杯戦争に参加する英霊のほとんどは、報われないままその生涯を終えた者ばかりだ。
だから、この少女のように幸せそうに笑える存在は稀有である。
心残りも後悔も人並みにある。それでも、聖杯を使うまでもなく、彼女の人生は完成されているのだ。
嫌味や皮肉の調は全くない、心からその人生を祝福し労う台詞。
それを聞いて一瞬、セイバーのサーヴァントはきょとんとした表情を浮かべたが……すぐに、柔和な笑顔を浮かべる。
そして――本当に幸せそうな表情で、答えを口にした。

「うんっ。――――ボクは、幸せだったよ。とっても!」

【絶剣】――ここに再臨。
アルヴヘイムを抜け出て、闇の満つる鎌倉を剣士が駆ける。


【クラス】セイバー
【真名】ユウキ@ソードアート・オンライン

【人物背景】
「マザーズ・ロザリオ」編におけるヒロイン。一人称は「ボク」。
ALO(アルヴヘイム・オンライン)において「絶剣(ぜっけん)」と呼ばれ圧倒的な強さを誇るプレイヤーで、二刀を使わなかったとはいえキリトを2度倒した唯一の人物。現実では15歳の少女。種族はインプで、使用武器は極細の片手直剣。その圧倒的戦闘力はアスナらに「SAO生還者」ではと疑問を持たれたほど。
出生時に輸血用血液製剤からHIVに感染し、15年間闘病を続けてきた。
両親と双子の姉はAIDSによりすでに他界しており、天涯孤独の身。薬の服用を続けながら通学し、小学校においては常にトップクラスの成績を維持し続けたが、HIVキャリアであることがリークされ転校を余儀なくされた。


196 : アイリスフィール&セイバー ◆Ywp624OgQE :2015/06/25(木) 19:32:42 0lQqAnEc0
その後AIDSの発症により入院、医療用VRマシンであるメディキュボイドの被験者になり、それ以来3年間を仮想世界で過ごしてきた。ALOでの異常なまでの戦闘力は、長期間の医療目的ダイブに由来している。
「スリーピング・ナイツ」のメンバーで、姉の死後リーダーを引き継ぐ。
自身が作ったOSSを賭けて辻デュエルをしていた際、キリトを破ったことに興味を持って対戦を挑んできたアスナと出会いその強さを認め、最後の思い出作りのためのボス攻略戦の助っ人を依頼した。
ボス攻略を果たした後、アスナに姉の面影を重ねて見てしまい、ALOから姿を消す。
病院を訪ねてきたアスナに「学校に行きたい」という願いを吐露し、和人らが作った視聴覚双方向通信プローブを利用してアスナと共に学校へと通う。キリトに対しては自分の出自を見破ったためか微妙に訝しんでいたが、プローブを提供されたためか打ち解けており、明日奈が理解できないレベルの討論を交わしている。
その一方で「スリーピング・ナイツ」のみによるアインクラッド第29層攻略に貢献し、統一デュエル・トーナメントでは決勝戦で再びキリトを破り優勝。
アスナたちと京都旅行を楽しんだが、2026年3月末に容体が急変、駆けつけたアスナに自身が編み出した11連撃のOSS「マザーズ・ロザリオ」を託して遂に力尽き、最期は「スリーピング・ナイツ」や彼女と接した多くのプレイヤーに看守られながら、アスナの腕の中で静かに息を引き取った。
彼女の葬儀には明日奈をはじめ、100人を超えるALOプレイヤーが参列した。


【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷A+ 魔力B 幸運C 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:E
騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。

【保有スキル】

直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を』感じ取る』能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

瞬間判断:A
戦闘時、瞬間的な判断によって先制判定に補正を獲得する。
『直感』スキルと組み合わせることで、感じ取った最適な展開をそのまま手繰り寄せる戦い方が可能。

ソードスキル:A
アルヴヘイム・オンラインのゲーム内で使用できる技能の総称。
サーヴァントとして召喚されたユウキは、かつてのゲーム内のようにこれを使用できる。


197 : アイリスフィール&セイバー ◆Ywp624OgQE :2015/06/25(木) 19:33:30 0lQqAnEc0
【宝具】

『刹那引き裂く十一連撃(マザーズ・ロザリオ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~5 最大捕捉:1人
『アルヴヘイム・オンライン』で《絶剣》と称されたユウキが編み出した片手剣のオリジナル・ソードスキル。
十字を描くように神速の十連続突きを放ち、フィニッシュとして十字の交差点に一番強烈な十一撃目の突きを放つ。
オリジナル・ソードスキルとしては前人未到の十一連撃技であり、歴戦の戦士であるアスナをしても防ぎきれなかった。


【weapon】


【サーヴァントとしての願い】
サーヴァント一個人としての願いはない。
自分は既に報われたまま生涯を終えた為、アイリスフィールへ聖杯を献上するために戦う。

【基本戦術、方針、運用法】
本人の気質上、卑怯卑劣な方策や不意討ちによる戦果は期待できない。
正々堂々の真っ向勝負を行うのが最もこのサーヴァントがポテンシャルを発揮できる戦い方といえる。


【マスター】アイリスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zero
【マスターとしての願い】切嗣の願いと同じく、恒久的世界平和。
【weapon】なし
【能力・技能】ホムンクルスとしての優れた魔術。

【人物背景】
アインツベルンの手により第四次聖杯降霊儀式の聖杯の「器」として錬成されたホムンクルス。「冬の聖女」ユスティーツァの後継機にあたり、また究極のホムンクルスの母胎となるべく設計されたプロトタイプでもある。
精霊に近い存在である上、誕生前から様々な調整を加えられており、魔術師としての能力は高い。
切嗣がアインツベルンに入るのとほぼ同時期に練成された。切嗣を夫として迎え、一児を儲ける。
聖杯戦争では切嗣の代理でセイバーとともに冬木市に入り、表向きのマスターとして囮役となる。

【方針】セイバーと共に聖杯戦争を勝ち進む――が、今回の聖杯戦争にどこか異質なものを感じてもいる。


198 : ◆Ywp624OgQE :2015/06/25(木) 19:33:59 0lQqAnEc0
投下終了です


199 : 名無しさん :2015/06/26(金) 02:10:34 GZtP6mjU0
おー、これは強くも儚く綺麗な主従が


200 : ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:19:08 YlQA2mTU0
投下します。


201 : フツオ&アーチャー ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:19:51 YlQA2mTU0

夢を、見ていた。
大勢を殺す夢。
大勢が殺される夢。
その悉くに生き残り、勝ち続け。
その尽くに磨り減り、失い続ける夢。

それでもと。
最後まで信じたかった結末は、決して訪れる事は無くて―――


202 : フツオ&アーチャー ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:20:06 YlQA2mTU0


ここには、なんでもない日常がある。
違和感。
学校に行く。
違和感。
友人たちとなんでもない話をする。
違和感。
生真面目だからこそ校則を守らない友人と、生真面目だからこそそれを諭す友人。
違和感。
その間にボクが入っていく。
違和感
あの教師の授業は眠くなる、因数分解ってなんだよって、自然のままにしてやれよとか。愚痴を叩いて。
違和感
どこにでも転がっているような日常を過ごす。
違和感
ああ、なんて幸せな―――


203 : フツオ&アーチャー ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:20:30 YlQA2mTU0


今、この時を、日常だとボクは理解している。
かけがえのない友と共にあるのだと認識している。
この上なき、幸福を過ごしているのだと感じている。


……本当に?


日常だと理解しつつも、その始まりを理解できない。
―――地続きな連なりこそが日常だと言うのに、積み重ねを感じられない。

友であると認識しているのに、その始まりを思い出せない。
―――まるで、そんなものは存在しないとでも言うような、取って付けられた認識。

ずっと過ごしてきた筈なのに、旅行先のように余所余所しい街並みを見る。
そこに過ごす人たちを見る。

一歩歩く度に、違和感が膨らむ。
一つ時が流れる度に、本当にこれでいいのかと、己の内から投げかける声がある。
疑問の態を為してはいるが、その実わかりきった答えを強要する要素たち。

それでもボクは、幸福を過ごしているのだと感じている。
―――それ自体がおかしいのだ、ただ漫然と日常を貪る"今"を幸福と感じるには、"失った何時か"が必要だ。
―――そんな何時かは、なかった筈なのに。

記憶の縁をノックする、意識の端を大きく揺さぶる違和感。
グラグラと揺れる日常に眩む様な思いを抱けど、それに溺れて居たくて。
だからボクは、"今"から眼を背ける。

……黙れ。
頭の割れるような痛みさえ伴う、違和感を噛み殺す。
真実から、目を逸らす。


204 : フツオ&アーチャー ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:21:01 YlQA2mTU0

違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感
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違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感違和感
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205 : フツオ&アーチャー ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:21:16 YlQA2mTU0


モラトリアムが終わる。
彼にとって不幸な事に。
彼にとって当然の事に。

どれだけ幸せに浸ろうと、ここは理想郷ではなく。
どれだけ自分を騙そうと、ここにいるのは彼の本当の友ではなく。
どれだけ行っても、彼は彼以外のモノになれないのだから。


206 : フツオ&アーチャー ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:22:48 YlQA2mTU0


■■によって招かれたここは、彼の居た世界とは違えど、それでも一つの世界だった。
そこに住むほとんどの人々は、英雄のような強烈な個性こそ持たずとも、それでもやはり人だった。
人であるが故に善意も悪意も存在し、TVは変わらず快と不快を同時に吐き散らす。
幸も不幸も存在する、たしかにここは一つの世界だった。

人間一人一人の善良さを否定する必要はない。
だが社会を形成するだけの人の集まりであるのなら、そこに罪が生まれるのは倫理でなく統計の必然だ。

校庭に駆け込んできたのは、赤い衣装に身を包んだ禿頭の男。
足取りもふらふらと怪しいそれを誰もが遠巻きに避けていく。
その判断は正解であり、同時に酷く生ぬるいものであった。

その身を浸す赤は、誰かの生命の赤で。
その腕には小ぶりな銀色のナイフが、赤いものに染まりながらも鈍く光っていて。
その口元からは「あぶぶー」だのなんだのと意味を為さない喃語が漏れて。

走り出した姿に如何なる目的もなく、ただ無軌道に、目についたものを傷つけようと。

彼はそれをただ眺めている。
ここは二階、通い慣れた/余所余所しい 自教室。
彼が"違和感"に目を逸らしていない、本来の彼自身であったとしても、凶行を払う手立てはない。

彼は異能に縁持たぬただの人間でしかなく、その力は手が届く程度の広さにしかない。
だから、彼は選択する。
逸らしていた目を今に向け、本来の彼すら持ち合わせていなかった、一つの力を選択する。
今まさに、人一人の命を奪おうとする狂人に向けて。

「令呪を持って命じる、アーチャー」


207 : フツオ&アーチャー ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:24:15 YlQA2mTU0


「ずいぶんとお早いお目覚めだったな、マスター」

場所を移し人眼を避け、開口一番に飛び出したのはそんな皮肉だ。
それを甘んじて受ける。
結局のところ、最初から自身が"マスター"であることを受け入れていればよかったのだ。
そうすれば貴重な"令呪"をこんな形で消費する必要はなかった。

「ああ、おはよう、アーチャー」

世界が違うためか、精神世界ですら機能した悪魔召喚プログラムは沈黙している。
その事に心細さを覚えないのは、"夢"に見た彼の背中、その頼もしさ故なのだろう。

「ふん、まあいい、まだマシな顔をするようになったようだな」

目をそらしていただけで、現実は変わらずに前へ進み続けている。
それはつまり、彼が"夢"に溺れている間も、"アーチャー"は見守り続けてくれていた事を意味していて。

「本当はさ、やりなおしたい、って思ったんだ。夢でもいいと思っていたんだ」

だから、目の前の存在に自分を語る。

「悪魔がいなくて、友達がいて、それだけで十分だって、思ってたんだ」

目の前の英霊に、既に終わっている存在に。

「でもさ、自分で思っていたよりも欲張りだったみたいなんだ」

既に終わった、つまりは自分だけの"終わり"を出した存在に。

「だから、ボクは帰りたいと思うんだ、あのボロボロの東京に」

自分だけの"答え"を出した存在に。

「投げ出したいことも、辛いこともあったけど。
 でも、楽しいことも確かにあったんだ」

自分だけの"答え"を。

「ボクの人生だから出会えた幸せがあったんだ。
 やり直すなんて、それを放り投げるなんて」

胸を張って語る。

「やっぱ、もったいないだろう?」

それがボクの夢なんだと、精一杯に生きることを誓う。

悪魔を殺し、天使を殺し、友を殺して。
荒れ果て、ことごとくが"終わってしまった"世界に戻ろうと。
願う。
きっとまだ何かができるんだって、小さく信じて、故郷を思う。
迷って、悩んで、くたびれて。

やさしかったかつての"東京"ととても似た"鎌倉"で少しの元気をもらった。
人は穏やかにあれるのだ、誰かに優しく出来るのだ、なんでもないことで笑えるのだ。
だから、"彼"はまた戦える。
磨り減った筈の何かは、こんなにも簡単に埋まっている。


208 : フツオ&アーチャー ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:25:39 YlQA2mTU0

【クラス】アーチャー
【真名】エミヤ
【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具?
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
・対魔力:D
 一工程による魔術を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
・単独行動:B
 マスターからの魔力供給が無くなったとしても現界していられる能力。
【保有スキル】
・心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
・千里眼C
 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
・魔術:C-
 オーソドックスな魔術を習得。

【宝具】
 無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)
 ランク:E-〜A++ 種別:対人宝具 レンジ:30〜60 最大補足:????
 錬鉄の固有結界。
 一度目視した剣を登録し複製することができる。
【weapon】
・干将・莫耶
・赤原猟犬(フルンディング)
・偽・螺旋剣(カラドボルグII)
・熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)
【人物背景】
 Fate/stay night参照
【サーヴァントとしての願い】
 マスターの手助けをする。
【基本戦術、方針、運用法】
 基本的にはマスターの意向に従う。

【マスター】フツオ(真・女神転生)
【マスターとしての願い】生きる。
【weapon】
アームターミナル(悪魔召喚プログラムは使用不可)
無銘の刀
【能力・技能】
呪文を唱え火を起こすことも、剣先から衝撃波を起こすことも出来ない。
異能も奇跡もなく、ただ人として出来ることが出来る、それ以上の事は出来ない。
強いて言えば、機械弄りが得意で、仲間への指示出しと観察力に長けている。
力が強くて、戦うことに慣れきっていて。
―――殺すことに躊躇いが無くなっている、ただそれだけの強い人間。
【人物背景】
休むことなく歩き続けた少年は、少しだけ疲れてしまった。
掛け替えない友を斬り、やり直したいと願ってしまった。
だから、彼はここにいる。
【方針】
聖杯戦争に勝ち残り、元いた世界に帰る。
【備考】
令呪を一つ失っている。
鎌倉に来るまでの世界移動の際、記憶に混乱が生じ学園に通っていた。
OPにて学園に侵入してきた不審者から学園生を守りたいと感じ、
記憶を取り戻し令呪を使用して撃退する。


209 : ◆TIENe3Twtg :2015/06/26(金) 13:26:27 YlQA2mTU0
投下終了です、ありがとうございました。


210 : 遊園地 ◆69lrpT6dfY :2015/06/27(土) 12:43:11 OtQE7daI0
皆さん投下お疲れ様です。私もこれから投下します。


211 : 遊園地 ◆69lrpT6dfY :2015/06/27(土) 12:43:34 OtQE7daI0





『皆様、鎌倉ブリリアントパークは閉園時間となりました。
 またお越し頂ける日を心よりお待ちいたしております。
 本日はご来園ありがとうございました。』





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



夢の中から覚ますアナウンスが流れていくばくか。
遊楽の世界へ導く遊具達はその身を休め、一帯を輝かせる声も今は一つもない。
喧騒に満ちた園内は幕を閉じ、閑散とした淋しさがその場を支配していた。
本来であれば営業時間が過ぎても園内には従業員たちが残っているところ。
彼らには通常業務以外にも、後片付けや明日の準備などが待っている。
だから各々の役割に沿って各自各所で次の作業に移るところだが。


「はい、みんな集まったわね」


本日は園長の呼び出しにより、従業員全員が閉園後の中央広場に集まっていた。
その内容は前々から告知していた新しい出し物をこれから披露する、とのこと。
雑談に興じていた従業員たちは園長の一声で静粛になり、皆一斉に振り向いた。


「とりあえず皆さん、今日もお疲れさま」


一同の視線の先にいるのは、間違いなくこの遊園地のトップである、はずなのだが……
そこに現れた人物は一般的に想像できる人物像からあまりにもかけ離れていた、独特過ぎる雰囲気を放っていた。
サスペンダーを吊るし、ダイヤのマークが入ったバレリーナのような服装で身を包み。
オカマ口調で喋る、金髪で丸刈り頭のオッサンが、そこにいた。
初見だと大きな衝撃を受けて思考停止間違いなし。ものすごく怪しさ・胡散臭さが満載なのだが。
ここにいる従業員たちは何の疑問も浮かべず、オカマの園長の言葉に相応の反応を示していた。


「さて、以前皆にも告知した通り、今度の新しいイベントを手伝ってくれる新しい仲間を紹介するわ」


最初は、従業員たちもその容姿や挙動に面を喰らい、訝しみ、職場と遊園地の行く末に多大な不安を抱いていた。
しかし颯爽と現れた新園長は、不況にあおられ経営が右肩下がりになっていた遊園地を新風を吹き込んだ。
幾つかの不要な部分を撤廃しつつ、斬新なアイディアで提唱する新企画が見事お客様の心を掴む事に成功した。
尚且つユーモラスに富んでおり、鋭い感性で時代の要求を機敏に取り入れる成功者としての姿は、むしろ従業員たちの信頼を獲得するに至っていた。
今では鎌倉ブリリアントパークは連日大盛況であり、従業員たちはが多忙に追われながらも充実した仕事生活を送っているのだ。


「ふもっふランドからやってきた、ボン太くん達よ!」
「「「ふもっふっ!!」」」


園長が合図を掛けると、同じ姿をしたマスコットが複数現れた。
緑色の帽子を被り紅い蝶ネクタイを付けている、何らかの動物をモチーフとした生き物。
他の着ぐるみと同様、普通の人が中に入れるほどの大きさがあるマスコット。
如何にも児童向けに丸みと可愛らしさを備えた“ボン太くん”は、早速一部の従業員たちを虜にしていた。


「合計8体のボン太くんを園内に配置するから、キャストの皆さんは彼らのフォローをよろしくね。
 それとボン太くんは人間の言葉を喋れないから、皆でこの特性マイクホンを頭につけて代わりに内容を伝えてあげてね」


配られたマイクホンを装着した従業員が早速パフォーマンスで示す。
となりでボン太くんが「ふもも、ふもっふ!!」と喋り、続いて「皆さん、よろしくね!!」と口頭で翻訳して見せた。
その方法に多少の不便さを感じつつ、しかしそれがボン太くんの個性であると理解して、従業員たちは特に気にしなかった。
――その後も園長からの説明事項が続き、ものの数分で話は終わり解散となった。


「それじゃ、後片付けや明日の準備もヨ・ロ・シ・クね☆」




 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜 ・ 〜


212 : 遊園地 ◆69lrpT6dfY :2015/06/27(土) 12:44:02 OtQE7daI0




「はぁ…やっぱりジョマがいないと調子が出ないわねぇ」



園長のマカオは部屋で一人になった後、開口一番に現状の物足りなさを嘆いていた。
その原因は、マカオの半身とも呼べる弟・ジョマがいないため、である。
彼ら兄弟は二人一組でオカマ魔女として活動し、息がピッタリの掛け合いとコンビネーションを誇っていた。
逆に言えば、片方が欠けると相当な実力者である彼も十全の力を出せなくなってしまうのである。
先程の説明の時も、いつもならマカオとジョマで交互に喋るのが彼らの普通だが、それを全部一人でやる事にマカオは何処かもどかしさを感じていたところだった。

ちなみにもうわかってはいると思うが、弟のジョマもオカマである。
蛇足ついでに捕捉すると、同じようにバレリーナ衣装を纏い、腰にはチュチュというスカート状の衣装を着けている。
さらに、兄のマカオより女性っぽいオカマとなっており、黒い髪をお団子状に纏め上げている。


「でも、弱音を吐いていられないわ」
「再びジョマと一緒に世界征服するためにも、アタシが頑張らなくっちゃ!」


マカオは、ここ鎌倉に訪れる前まではジョマと一緒に日本の群馬にて地球侵略の準備を着々と整えているところだった。
以前征服した王国の名を冠した遊園地・ヘンダ―ランドを隠れ蓑にしつつ、力を蓄えながら情報収集や諜報活動に勤しんでいた。
その最中に現地で仕入れた情報の中には、中々に興味深い情報や直接は関係ないが頭に入れといた情報がいくつかあった。

世間一般には知られない魔術や秘蹟を統轄している組織の存在があり、ここ極東ではその監視の目が薄いこと。
地球という星は特異点となりやすく、特に日本においては様々な超常現象が人々に知られずに発生しているということ。
とある魔法使いの提唱より、並行世界への移動する方法も論理立てられていて幾つかの実証もあったということ。

そういった情報の中の一つに「聖杯戦争」という単語も当然入っておりマカオ達もいくらか興味を持っていた。
しかし残念なことに、彼らがいた世界では既に聖杯戦争は廃れており、別世界に行かないと参戦できないという噂を耳にしていた。
それに自らの手で世界征服をするだけの自信を持っていた彼らにとって、ないものねだりをするつもりなんて毛頭なかった。
仮に聖杯戦争があったとしても、優れた魔女である彼らが両方ともマスターになってしまう可能性が高い。
そうなると優勝者しか願いを叶えられないというルールと彼らの絆がぶつかり合うという不毛な結果にしかならず、意味を為さないだろう。
もっとも、オカマ魔女の手にかかればそんなルールも改竄して聖杯を手に入れようと考えるが。
とにかく。机上の論理。捕らぬ狸の皮算用。どうでもよかった。


それとは別に彼らには危惧すべき事項があった。
抑止力。
人類種を護る為に現れるという、偶然のようなカタチで破滅を回避する集合無意識の作用。
場合によっては守護者という存在が顕現して害を為すものを排除するとも言われている。
あるいは、異能の力を持つ者が目の前に現れて死闘になるのかもしれない。
それらは情報不足であるがゆえに詳細までは掴めなかったが。
もしかしたら、オカマ魔女による地球侵攻も“害”と見做されて妨害されるかもしれない、と考えていた。

目に見えない、自分達の意識しないナニカが知らぬ間に自分達を消し去りにくるのかもしれない。
断然なにが来ようと万全と自信でもって跳ね除けるが、それでもいくらかは拭いきれない小さな不安が頭によぎる。
その脅威を退くには、何者をも跳ね除けるだけの常勝か、変化を機敏に感じ取って回避するか、あとは野望を諦めるか。
当然、他者を支配することを目的とするマカオとジョマはそんなものに怯えずに勝ち進む道しか選ばなかった。

とはいえ世の中何が起こるか分からないもの。
マカオとジョマはもし万が一があったときのために、とある保険をかけていた。
それは、もし彼らが消滅した場合、どこか別の世界で転生して復活できるようにする魔法の構築であった。
流石に魔法に精通するオカマ魔女でも、蘇生と並行世界移動という大それた魔法の構築には一筋縄ではいかなかった。
辛うじてそれらしき魔法を試作することができたが、彼らはそれを実証することはなかった。


213 : 遊園地 ◆69lrpT6dfY :2015/06/27(土) 12:45:04 OtQE7daI0


「それもこれも、あのガキンチョが邪魔さえしなければ!!」


ちょうどその頃、支配下に置いていたはずの人形が反旗を起こしたり、偶々その場に居合わせた幼稚園児に自分達の野望を知られてしまったのだ。
たったそれだけのことが、彼らにとっての命取りだった。
その時取りこぼした幼稚園児・野原しんのすけとその家族がマカオとジョマの前に立ちはだかり。
何の力を持たないはずの野原一家という特異点によって、マカオとジョマは消滅させられてしまったのだった。

そして、未完成の保険が作動した結果、今度は聖杯戦争が開幕される世界に偶然にも飛ばされ、鎌倉という地にマカオは転生することとなった。
しかし何故か弟のジョマはマカオの隣にはいなかった。探してみたが、見つからなかった。
やはり魔法には不具合があったのだろうか。
ジョマがどこに行ってしまったのか不安ではあったが、別の世界で転生したのかもしれないと考え、マカオはすぐに行動に出た。

まず手始めに、新たな根城を見つけること。これはご当地遊園地、鎌倉ブリリアントパークに決めた。
次に潜伏するための地位と環境の確保。これも魔法による書類偽造と暗示によって難なくクリアした。
新園長として就任した後も、様々な魔法を仕込んだり、従業員たちに暗示を掛けておいた。
これで多少不審な行動を起こしても従業員たちは疑問に思わず、こっちの思った通りに動いてくれるようになった。
他にも設備に細工を施したりして、あとはサーヴァントが召喚されるまでの間、色々と準備に費やした。
ついでに、紛いなりにも遊園地を経営していた経験を活かして来場者数を増やす事のも貢献していた。


「それで、首尾はどう、アーチャー?」
「ふもっふ!!」


そして現界したサーヴァントは、なんともまぁ変わったサーヴァントであった。

その真名は「ボン太くん」。クラスはアーチャー。
しかしこのアーチャーは三騎士の一つとしてはあるまじき能力であり、その戦力は、 単 騎 としては弱い方であった。
他の三騎士や騎兵、狂戦士などと一対一で戦った場合は目も当てられぬ結果になるのが目に見えるほどのステータスの低さ。
場合によっては武闘派のアサシン、キャスターにすら遅れをとるかもしれない。
最弱までとは言わないが、数々の武勇を残した豪傑達には明らかに至らない。
トランプで例えるなら、2〜Aの中の4、5程度の強さしかないだろう。


214 : 遊園地 ◆69lrpT6dfY :2015/06/27(土) 12:45:24 OtQE7daI0


しかし、彼には、“彼ら”には別の所で強みがあった。
それはボン太くんの原典にはない能力。
ボン太くんを気に行った者から生み出されてしまった、新たな噂。
そこから更に拡大解釈され、別の存在により別世界の戦記において彼の力として認識されてしまった宝具。

『特攻野郎Bチーム?(イッツァふもっふワールド)』。
なんともふざけた宝具名ではあるが、なんと“アーチャーは自身と同じ「ボン太くん」を大量召喚できる”という実に恐ろしい宝具である。
多少の個性の差はあれど、同じステータス、スキルを持つボン太くんによる人海戦術が可能となり。
個々は弱くても群体となって力を補い合い、分担して作戦行動をとることができ、数の暴力と火器による集中砲火によって敵を殲滅する。
これが此度の聖杯戦争に呼び出されたアーチャーに与えられた宝具となった。


もう一つ、英霊らしからぬふざけた姿にも意味があった。
スキル『幸運を呼ぶ人気者』。
このスキルはボン太くんの出自と容姿に由来するもので、ボン太くんを見た人はみんなマスコットだと誤認するようになる。
つまりボン太くん達はサーヴァントとしての素性を隠すことができ、他の主従達にも「ボン太くんはマスコットである」と思わせることができるのだ。
サーヴァントとしての気配が極限まで薄まりステータスも表示させなくなるため、諜報活動や偵察にはうってつけである。
さらに応用すれば、意表を突く形で奇襲・強襲を仕掛ける事もできるだろう。
ただし欠点として、ボン太くん自身がマスコットとして振る舞い続けなければスキルは発動しない。
マスコットらしからぬ行動をするほどに、サーヴァントとしての素性がバレやすくなる仕様になっているので、そこは気を付けなければならない。

だからマカオは大胆にもボン太くんを起用したイベントを企画し、大々的にその名前を広告することにした。
本来、サーヴァントの容姿と真名がバレてしまうと圧倒的不利になるところを、ボン太くんのマイナーさとスキルと能力を逆手にとって有効活用する。
イベント宣伝を口実にボン太くん達を鎌倉市内に出歩かせ、表向きは客寄せのマスコットと見せかけて、秘密裏に他の主従の動向を探らせる。
並行してボン太くん達に遊園地内のトラップ設置や武器の配置を任せている。
こもし他の主従に攻め込まれたとしても返り討ちにする事ができるにさらに準備を整えて置く。


「ふも、ふももも!ふもっ!もっふる!」
「分かったわ。それじゃぁ引き続きお願いね」
「ふもっふ!!」


報告を終えてアーチャーは退室した。
ちなみに彼が最初にマカオの前に現れて契約を果たしたアーチャーであり、コマンダーとして他のボン太くん達の指揮をとる立場にいる。
もし、原初のボン太くんたるアーチャーが倒されてしまった場合、そこでマカオのサーヴァントは失われてしまう。
そうなってしまったら聖杯戦争の優勝も、彼らが抱く野望もままならなくなってしまう。
最悪の事態を防ぐためにも、今は着々と準備が整えて、最善の状態にしておくに越したことはない。


「待っててね、ジョマ。もうすぐ迎えにいくから」


カードは揃い、あとは聖杯戦争を勝ち抜くのみ。
当然マカオは自信に満ち溢れていたが、やはり一人で寂しく思う。
だからこそ、オカマ魔女は虚空に向かって、決意を静かに囁いた。


215 : 遊園地 ◆69lrpT6dfY :2015/06/27(土) 12:46:12 OtQE7daI0
【マスター】
マカオ@クレヨンしんちゃん ヘンダ―ランドの大冒険

【マスターとしての願い】
ジョマと再会し、一緒に地球を支配する。

【weapon】
なし。


【能力・技能】
特技はバレエ。“蝶のように舞い、蜂のように刺す”ような舞踏/武闘ができる。
オカマ魔女として様々な魔法が使えるはずだが、原作だと直接行使した描写がないため詳細不明。
しかし書類偽造や人形の使役に石化の解除など、作中の描写からそれらは使用できると思われる。
他にも捕縛した者を操ったり、シャツやブラジャー等の物に変えたり、心と体を切り離して人形に変えたりすることも。
ただし、『マカオとジョマ』の一対でオカマ魔女をしているため、片方だけではダンスも魔法も本領までは発揮できない思われる。
簡単な魔法ならマカオ単身でも問題ないだろう。

(といった感じで、マカオ単体の実力が不鮮明な部分は、ジョマが不在で本調子でないという匙加減で調整しよう)


【人物背景】
劇場アニメ第四弾「クレヨンしんちゃん ヘンダ―ランドの大冒険」に登場する黒幕の一人。
しんのすけがいる世界を支配するためにやってきたオカマ魔女であり、群馬にある遊園地・ヘンダ―ランドを拠点としている。
丸刈り頭が兄のマカオ、お団子頭が弟のジョマ。兄弟してオカマ。二人してバレリーナの恰好をしてオカマ口調で喋る。
ちなみに“ヘンダ―ランド”は以前支配した王国の名前が由来。
その国の王女を捕え、救出しに来た王子を踊りながら攻撃をいなし避けながら捕縛に成功するなど、相当の実力の持ち主。
ヘンダ―ランドで地球侵攻の準備をしている最中に幼稚園児・野原しんのすけに自分達の秘密を知られたため、部下を使って消そうとする。
しかし魔法のトランプで悉く撃退されてしまい、ついにマカオとジョマの所にまで辿り着いたため真っ向勝負にでる。
ダンス勝負には負け、ババ抜きでは勝ったが誤って弱点であるジョーカーのトランプを渡してしまい、攻略法を知られてしまう。
最終的に野原一家とオカマ魔女のジョーカーの奪い合いとなり、しんのすけを目的地到着を阻止しようとしたが、
野原一家の連係プレイに妨害されてしまい、あと一歩の所で間に合わずに消滅してしまった。



【クラス】アーチャー
【真名】ボン太くん@フルメタル・パニック?ふもっふ
【属性】秩序・中立

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:D 幸運:A 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失っても一日間現界可能。


【保有スキル】
軍略:C
 多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。
 アーチャーの場合、自身にとっての最適な戦術行動を思案する事、相手の戦術を先読みする事に多少長けている程度である。

陣地作成:E
 自らに有利な陣地を作り上げる。
 アーチャーの場合、部隊・装備などの配置を整え、軍事的に優位な陣地を構える。

破壊工作:A
 戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。トラップの達人。
 ランクAならば、相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能に追いこむ事も可能。
 ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。

幸運を呼ぶ人気者:A
 ボン太くんは遊園地やイベントで登場するマスコットだ、っと思わせるスキル。
 単騎では弱い分、サーヴァントとしての気配を極力感じさせず、ステータスも隠匿する。
 さらに戦闘終了後には「マスコットは戦う事はない」という一般的な認識を強引に作用させるため、
 「ボン太くんがサーヴァントである」という情報や戦闘経緯・能力などの情報を消失させる。
 ただし注目を集める存在であるため、真名とは認識されなくても「ボン太くん」という名前は万人に知られた状態になる。
 このスキルはマスコットらしからぬ逸脱した行動が強くなる程にランクも比例して低下する。


216 : 遊園地 ◆69lrpT6dfY :2015/06/27(土) 12:47:03 OtQE7daI0
【宝具】
『正体不明の限定象徴(アンノウン・マスコット)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:50人
 相手の認識に影響を及ぼす不可思議な現象。アーチャーを見た人は様々な反応を示すようになる。
 その姿に萌えたり、呆れたり、怒ったり、心が揺らいだり、混乱したり、闇が晴れたり、何故か悟りを開いたり、むしろ無反応だったり、と。
 さらに戦闘中ならば、相手によっては手心を加えたり、逆に発狂して攻撃する者もいる。
 アーチャーにとってこの宝具が吉となるか凶となるかはその時の運次第となる。

『特攻野郎Bチーム?(イッツァふもっふワールド)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:600
 単騎では英霊として実力不足、だからこそ群体となって敵対勢力を排除する、その悪夢を再現した宝具。
 アーチャーは自身と同じ能力を持つボン太くんを召喚し、小隊(30体〜60体規模)を組めるほどの頭数を揃えることが出来る。
 アーチャーの号令で瞬時に小隊ごと招集したり、少数ずつ小出しすることができる。不要な時は号令を受けるまで現界せずに待機する。
 個々の現界に必要な魔力はマスターが負担し、アーチャーを含めた合計15体で平均的なサーヴァント1体分の魔力消費量となる。
 また召喚したボン太くんが倒された場合、多少多めに魔力を消費することで新たなボン太くんを補充することができる。
 この能力を駆使すれば、陣地内で敵を迎撃する時に全員のスキルをフル活用することで最大限に優位に立てる。
 また分隊を編成して偵察させたり、敵陣を発見次第総軍で強襲を仕掛けることもできる。
 なお、ボン太くんを全員撃退する必要はなく、最初にマスターと契約したアーチャーを倒せば消滅となる。


【weapon】
マシンガン、散弾銃、グレネード、ロケットランチャーと火力兵装が主体。
接近武器はスタンロッド。もしくは格闘術による殴る蹴るでもっふもふにしてやんよ。
C-4爆弾やクレイモア指向性地雷など設置型爆発物も使用する。
さらには各種トラップ設置に精通している。
必要であれば、ナイフ、手榴弾、対物ライフルなど現代兵器をその都度調達する事も可能である。


【人物?背景】
原典はアニメ「ふもふも谷のボン太くん」に登場するキャラクター。
ちなみに8話で打ち切りになった幻のアニメである。理由はクオリティ追求のためにスケジュールと予算が破綻したため。
その後、複雑な法廷闘争の末に版権は豆腐店が所有することになり、現在では有志による同人イベントが開かれている。
以上の経緯のように、結構マイナーでありながら妙にマニアックなファンが大勢いるという謎の人気者である。

それがどういうわけか、広域暴力団や麻薬密売グループなど裏社会において恐るべき存在として都市伝説的に囁かれるようになっている。
どうしてそうなった → 某軍曹がボン太くんの着ぐるみを魔改造したせい。(ちなみに彼もボン太くんがお気に入りである)
改造に改造を重ねた結果、人間サイズまでダウンサイジングされたASと言える程に高性能な戦闘用強化服へと変貌した。
ちなみに別の世界線だと、地球で銀河で超次元でチート級の機体同士による大戦の中で活躍するボン太くんの姿もあるそうな……

此度の聖杯戦争に呼ばれたボン太くんは上記の原典と都市伝説、別世界の記録が織り混ざった存在。
ファンタジーとミリタリーのハイブリッドでできた近代の英霊である。え、ミリタリー分が強い?気にするな。
それと英霊としてのボン太くんに某軍曹的な思考が仕込まれたものであるため、着ぐるみではないし、中の人などいない。
ちなみにスパロボ補正が程々入っているが、流石に聖杯戦争の英霊達に単騎で勝てる程の補正はかけられていない。


【サーヴァントとしての願い】
ふも、ふもももも!もっふる、もっふん!ふーもっふ!!


217 : 遊園地 ◆69lrpT6dfY :2015/06/27(土) 12:47:21 OtQE7daI0


【基本戦術、方針、運用法】
ボン太くんはスキルにより正体を隠せるが、不審な行動をするとばれてしまう。
たぶん霊体化するとスキルが発動せず「あ、そこにサーヴァントがいる!」と攻撃される可能性もある。
なので状況に応じて霊体・実体のON/OFFを切り替えて極力正体を隠しつつ諜報活動するのがよい。
ちなみに真名は隠すことはできないが、これといった弱点はないのでそのままでも問題ない。
一番怪しまれない場所は遊園地、次点でイベント会場や宣伝活動となるので、それらを有効活用しよう。
特に遊園地に隠れながら陣地を構えれば集中砲火で敵を排除することができる。
しかしその反面、激戦になって廃墟となってしまうと隠れ蓑を失ってしまうため、やり過ぎには注意。
程々の情報抹消効果も持つスキルを利用して、街に繰り出し遊撃するのも有効な戦術である。
ちなみにマスターの魔力は豊富な方だが、さすがに最大限ボン太くんを常時現界させるとサーヴァント4体分の魔力消費に苦心することとなる。
なので基本は少数だけを現界させ、ここぞという時に火力を集中させるのが吉となる。


【備考】
・鎌倉ブリリアントパークの立地場所はまだ設定していませんが、「散在ヶ池森林公園」あたりを候補として考えています。
 (鎌倉市北東部のゴルフ場・鎌倉カントリークラブのちょい西の所に位置する場所で「散在ヶ池森林公園」に置き換わる形で構想しています)
 (最終的には後続の書き手に立地している場所を明記してもらいたいと思います)
・ボイスチェンジャー機能に不具合が生じているため現代語に直訳されず、念話でもボン太くん語でしか聞き取れません。
 しかし、同じファンタジー世界出身のオカマ魔女ならフィーリングで完璧に理解できています。
・また、マカオが魔術を行使すれば一般人にもボン太くんが何を喋っているか理解できるようになります。
 ただし、特性マイクホンを装着することで翻訳魔術の発動条件を満たすように暗示が仕掛けられています。
・従業員たちはマカオの魔術により暗示を掛けられています。多少おかしな事があっても疑問に思いません。


218 : 名無しさん :2015/06/27(土) 12:49:27 OtQE7daI0
以上で投下終了です。大変なお目汚しで失礼いたしました。


219 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/27(土) 13:01:13 4PejwJC60
>>桜咲刹那&バーサーカー
おおう、これは実にバーサーカーらしい気性のサーヴァント……。
戦力的には申し分ない主従ですが、何処と無く行き先に不安なものを感じます。

>>アイリスフィール&セイバー
美人薄命の美女と美少女ということで、やはりどこか一風変わった雰囲気がありますね。
セイバーの十一連撃は対サーヴァント相手にも申し分ない絶技でしょうし、活躍が期待できそうです。

>>フツオ&アーチャー
やり直したい、生きたい、在り来たりながらもかけがえのない願いを抱いたマスター。
OPから令呪を一つ失っているのは痛いですが、器用な戦いができるエミヤならばそこもカバーできそうですね。

>>マカオ&アーチャー
そう来るのは予想できなかった!w
かなりの色物ですが、それでもいっぱしの宝具やスキルを持っているのが面白いです。


遅れて申し訳ありませんでした、最近平日はどうも忙しく。


220 : ◆VFWqZfr6M6 :2015/06/29(月) 01:20:29 xpyOULsw0
皆さん、投下乙です。自分も投下させていただきます


221 : すばる&勇者アーチャー ◆VFWqZfr6M6 :2015/06/29(月) 01:21:15 xpyOULsw0
 
不思議な扉は、いつもわたしのすぐそばにあった。
優しい日差しが射し込む、甘い香りに満たされた温室。
そんな部屋があること自体ありえないはずなのに、わたしは疑うことなく入っていく。
だって、そこはとても居心地が良くて。そこで待つ彼と話すのは、とても楽しいことだったから。

もう、あの温室はない。
そしてもうじき、彼はこの宇宙から消え去ろうとしている。

だめ、いや、×××くんがいなくなるなんて、絶対にいや。
もっと話したいことがある。今度こそ、一緒に星を見に行こうって言ったのに。
だから行かないで。そう願っても、彼のこころを変えることはできない。

すばるのこころが、きゅっと音を立てて軋みをあげる。
その感情の意味を知るには、すばるはまだ幼すぎた。
意味も、わけも分からないまま、けれど彼女はひたむきに願う。

もっと、一緒にいたい。
あなたを、幸せにしたい。
――また一緒に、いちご牛乳を飲んで、お花の水やりをして、いつか星を見に行きたいんだ。
いつも一緒の友人たちに相談することは、どうしても出来なかった。
そしてきっと、それがすばるにとって一番の失敗だった。

×××くんを、消したくない――――

もしも、幼馴染の少女に打ち明けていたなら。
もしも、快活なあの娘に打ち明けていたなら。
もしも、大人しくもしっかりした彼女に打ち明けていたなら。
もしも、掴みどころがないけれど熱いものを秘めた娘に打ち明けていたなら。

きっと、少女が戦争に呼ばれることは……なかっただろう。


ある日の夜。
すばるは、ベランダから夜空を見上げていた。
ここは鎌倉市。日本史の勉強なんかでお世話になることの多い土地だが、実際に滞在するのは初めてだ。
戸籍も住居もない状態で見知らぬ町の真ん中に放り出されたすばる。
途方に暮れる彼女へ手を差し伸べてくれたのは、名前も知らない親切なおばさんだった。

彼女はこの鎌倉市の住人で、若くして旦那と死別し、今は一人小さな商店を経営しているという。
そんな孤独な境遇の持ち主ということもあってか、一人夜の公園でブランコを漕ぐ少女を放っては置けなかったようで。
戸籍もない、ロクな手持ちもない、どだい鎌倉の住人でもない――
お世辞にも信用できるとは言いがたい状態のすばるを、おばさんは快く迎え入れ、居候させてくれた。

「……やっぱり、なんだか悪い気がするなあ……」

悩ましげなため息。
聞かれていないから言っていないだけとはいえ、すばるは自分の身の上をまったくおばさんへ明かしていない。
伝えたのは名前と、社会的に通用する身分がないということだけだ。
どのようにして、どうして、この鎌倉までやって来たのかを、すばるは一切家主へ話していなかった。
別にすばるからすれば、そのくらい話してしまっても構わないのだが、それを窘める者がいる。

『ダメよ、すばるちゃん。全部を話すことは、あの人を戦いに巻き込むことになってしまうから』


222 : すばる&勇者アーチャー ◆VFWqZfr6M6 :2015/06/29(月) 01:21:54 xpyOULsw0
すばるのものではない、少女の声。
この家に居候しているのは、すばるだけだ。
しかし。すばるの独り言を窘める声がしたと思えば、彼女の隣にはいるはずのない少女が姿を現していた。
いるはずのない、などと言うとどこかおぞましい響きになるが、現れた娘の見た目はそう変わったものではない。
体が透けているなんてことはないし、浮かべる表情も、血色も、どう見たって生きている人間のそれである。
とはいえもちろん、黒髪の彼女は人間ではないのだが。

『それに。「私は違う世界から、聖杯の導きに従ってやって来た」……なんて言われて、信じると思う?』
「それは……信じないと思います……ていうかわたしなら信じないよ……」
『そういうこと。すばるちゃんは優しい子だから罪悪感を感じちゃうだろうけど、ここは図太くしてれば大丈夫』

口に指を一本添えて微笑む彼女へ、すばるは素直に頷く。
この素直さ、実直さが、すばるのいいところでもあり危ういところでもある……と、少女は読んでいた。
そういう一面に付け込み、甘い汁を吸おうという手合いなど、きっとこの聖杯戦争にはゴマンといる。
そこはやはり、自分が守ってやらなければならないだろう。
彼女に召喚された―――アーチャーのサーヴァントとして。

「えと、東郷さん!」
『む。―――それもダメ。どこで誰が見てるか分からないんだから、真名を軽率に呼ぶのはよくないわ』
「じゃあ……アーチャーさん!」
『よろしい』

アーチャー、東郷美森。それが、すばるの相棒となるサーヴァントの真名だった。

聖杯戦争なる儀式に巻き込まれたとアーチャーの口から聞かされたすばるは、当然最初は大層混乱した。
伝説に名を残すような英雄を使役して戦うなんて話、それこそ漫画の中だけのものだと思っていた。
しかし現にこうして自分は鎌倉の町にいて、目の前にも件のサーヴァント本人がいて、おまけに手には両親が見たなら非行に走ったと間違いなく誤解されるだろう入れ墨のようなアザが浮いているときた。
ここまでくれば、どんな人間だって現状を呑み込まざるを得ない。
それでも、すばるには一つだけどうしても解せないことがあったのだ。

「やっぱり、わたし…………みなとくんにいなくなってほしくない、っていう願いで――ここに呼ばれたのかな?」

命をかけた殺し合いをしてまで、叶えたい願い。それに、どうしても見当がつかなかった。

少なくとも今のすばるには、友だちがいる。
別れざるを得なかった幼馴染とも再会し、皆で同じ目標へ向けて頑張っている真っ最中だ。
人間なのだから当然こうなったらいいな、という願望くらいはあるが、それでも聖杯に願うほど大袈裟なものじゃない。

すばるが居候先の家主に事実上拾われたのは、アーチャーからそんな話を聞かされてすぐのことだった。
家の案内をされ、用意してくれた自分用の部屋の戸を開ける時、すばるは思ってしまう。
それは仕方のないこと。中学一年生の女の子がいきなりルール無用の殺し合いへ放り込まれたのだ。
現実逃避にも近い思いの中で、こう思う。――この先にあるのが部屋じゃなく、あの温室だったら、と。

その時、すばるははじめて気付いた。
温室で不思議な出会いを果たした、王子様のようでもあり、お姫様のようでもある少年。みなとくん。
彼の願いは、この宇宙から消えること。そして自分は、彼に消えてほしくないと思った。強く、強く。

『……そのみなとくんっていう人は、すばるちゃんにとって大切な人?』
「うん。とっても、大事な人だよ」
『じゃあ、……多分間違いないと思うわ。みなとくんに消えてほしくないという願いを、聖杯は聞き入れた』
「……それで、わたしは……」   ・・・・
『ええ。聖杯戦争に――鎌倉の町に、招かれた』

やっぱり。
そう言って、すばるは唇を噛む。


223 : すばる&勇者アーチャー ◆VFWqZfr6M6 :2015/06/29(月) 01:22:20 xpyOULsw0
確かにすばるにとって、みなとを留まらせたい、幸せにしたいという願いは、とても大きく色濃いものだ。
けれどそれは、

「ちがうよ…………」

それは、こんなかたちで叶えたい願いごとじゃない。

『すばるちゃん?』
「―――ちがう、ちがうの! わたし、そんなこと、頼んでない……!」

人を殺したくなんてない。
目の前で誰かが死んでしまうのも嫌だ。
他の誰かの大事な願いごとを足蹴にするようなやり方で、叶えたいことなんてない。

「そんな、やり方じゃ……みなとくん、喜んでくれないよ…………」

掠れる声はやがて、嗚咽に変わっていった。
すばるの大きな瞳から、涙がぼろぼろ溢れて床を濡らす。
自分は彼に幸せになってほしいだけ。
みんなが居て、わたしが居る。そんな当たり前の風景に、彼を加えたいだけなのに。
なのにどうして、こんなことになってしまうのか。
そう思わずにはいられない。

膝を抱えて泣きじゃくるすばるの頭に、アーチャーはそっとその手を置いた。
それを左右へゆっくり、優しく動かす。
大丈夫よ、と子供をあやすように慰めながら、嗚咽が止むまで小さな頭を撫で続けた。

『心配しないで、すばるちゃん。何もこれで終わりってわけじゃないわ』
「う、ぐしゅっ……アーチャーさんっ……!」
『戦うことを拒んで、元の世界に帰る方法を模索することだって出来るはずよ。方法はまだ分からないけど……それでも、不可能じゃないはず。それに、私もいるんだから』

ぽん、とアーチャーは自分の胸を叩いてみせる。
年上とはいってもそこまで離れていないはずなのに、その仕草はすごく頼もしく感じられた。
見た目はどうあれ、アーチャーは英霊だ。命を張って敵と戦い、決して諦めない勇者の英霊だ。
そんな彼女の姿が、泣きじゃくる少女に勇気を与えるのは当然のこと。
東郷美森は、勇者なのだから。

『さ、すばるちゃんはどうしたいの?』
「わたしは……わたしは、っ。みなとくんに、会いたいです。会ってもう一回、お話がしたい……!」
『それなら、助けないわけにはいかないわ。だってそれが――勇者ってものでしょ?』

その言葉を聞くと、すばるはアーチャーの胸に顔をうずめて、また泣きじゃくり始めた。
きっと、安心して堪えていたものが完全に溢れ出してしまったのだろう。
温かい背中をさすってやりながら、アーチャーは思う。

『(そう。私は、負けられない)』


すばるがこの家の主に隠し事をしているように、アーチャーもまた、すばるへ言っていないことがあった。
単に聞かれていないから、というわけではない。仮に聞かれても、アーチャーはすばるへ嘘をつくだろう。


224 : すばる&勇者アーチャー ◆VFWqZfr6M6 :2015/06/29(月) 01:22:58 xpyOULsw0
すばるは、他人のために涙を流せる優しい娘だ。
そんな彼女がもしも自分の望みを聞いたなら……きっと止めるはず。それに自分とて勇者部の一員、勇者の端くれ。
仮初めのつながりとはいえ、すばるに余計な不安は与えたくない。
自分は聖杯を手にし、すばるは元の世界に帰って願いを叶える。それでいい。
すばるは聖杯を拒んだが、自分には聖杯を手に入れねばならない理由がある。

『(聖杯の力があれば、終わらない悲劇を止めることができる――もう二度と誰も勇者になんかならなくていいように、私が世界を壊す。それで何もかも……終わらせてみせる)』

外側のない世界。押し寄せるバーテックスの脅威と戦って、その対価を奪われ続ける勇者たち。
もう、まっぴらだった。あんなふざけたシステムに躍らされるのも、終わらない戦いを続けるのも馬鹿げている。
勇気を持って立ち向かうだけではどうにもならないというのなら……全て壊して、真っ平らにした方がいい。

『……ごめんなさい、すばるちゃん。でも、あなただけは……あなただけは、必ず帰してあげるから』

東郷美森は勇者である。
勇気をもって、世界を終わらせる、勇者である。
一度掛け違えたボタンは、もう、戻らない。


【マスター】
すばる@放課後のプレアデス

【マスターとしての願い】
みなとくんを幸せにしたい。けれど、それは聖杯なんかの力で叶える願いごとじゃない。

【weapon】
・ドライブシャフト
宇宙船の部品を回収するために、すばる達が使う杖。エンジン音が鳴る。
非常に強い加速ができるが、本企画では以前のように音速で飛行する――などは不可。

【能力・技能】
魔法使いへの変身。変身中は耐久力が上昇する。

【人物背景】
星が好きなピンクの髪の少女。敬語は苦手で、幼馴染のあおいからはどんくさいと言われている。中学校進学時、親友のあおいが自分を置いて黙って別の中学校へ進学してしまった事から、自分は実はあおいにとって足手まといな存在だったのではないかと傷つき疎遠となっていたが、プレアデス星人に選ばれたことでまた同じ学校に通うことになる。

【方針】
聖杯戦争からの脱出。


225 : すばる&勇者アーチャー ◆VFWqZfr6M6 :2015/06/29(月) 01:23:49 xpyOULsw0
【クラス】
アーチャー

【真名】
東郷美森@結城友奈は勇者である

【パラメータ】
筋力D 耐久C 敏捷E 魔力B 幸運C 宝具B

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【保有スキル】
神性:E
「満開」の使用により獲得したもの。
ランクとしては限りなく低く、殆ど無いに等しい。

勇者:B
世界を襲う脅威、バーテックスと戦う勇者へ変身することができる。
ただし東郷の願いは勇者のあり方と反するものであるため、ランクダウンしている。

【宝具】
『咲き誇れ、思いの儘に(マンカイ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
勇者が戦闘により蓄えた力を開放することで行う二段変身。
巫女衣装になり、武装もより強力なものとなる。いわく、「勇者の切り札」。
攻撃、防御など勇者としての経験を積むことで溜まる満開ゲージを消費し、発動可能。
ただし持続時間には制限があり、また、大きなダメージを受けた場合も自動解除されることがある。

『捧げ給え、神樹の糧へ(サンゲ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
『咲き誇れ、思いの儘に』が解除された時に自動発動する宝具。
神の力である満開の力を使用する対価として、肉体の一部を神樹様に捧げねばならない。
基本的に五感を失うが、ある勇者の状態からは物理的な痛みこそ感じないものの肉体の一部を失ったまま、一生を過ごさなければならないことも示唆されている。
この宝具により失った感覚や部位は、いかなる宝具、能力でも再生不可能。

『その願いが、世界を導く(ラグナロッカー・バーテックス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~1000 最大捕捉:10000人
世界の敵であるバーテックスをあえて引き寄せ、勇者の「生き地獄」を終わらせんとした所業が宝具化したもの。
無差別攻撃を行うバーテックスを鎌倉へ侵攻させることで、文字通り地獄絵図を作りだす。
欠点としては、呼び寄せたバーテックスはアーチャーにも制御不能であり、彼女も攻撃を受けてしまうこと。
そして魔力の消費が極めて激しい上に周囲への被害も甚大となってしまうので、滅多なことでは使用できない。

【weapon】
短銃、中距離銃、長距離銃。
満開時には多数の砲塔を擁した巨大浮遊砲台。

【人物背景】
勇者部の一員にして、バーテックスと戦うという意味での勇者の一人。過去に遭った事故の影響で両足の自由と記憶の一部を失っており、友奈のサポートをうけながら車椅子で学校に通っている。
当初は戦闘に恐怖を感じて変身できずにいたが、友奈の危機により勇気を振り絞って変身する決意をした。
変身後は青を基調とし踵まで被うほど裾が長いが、足の指が露出する勇者服を身にまとう。
変身後も両脚は不随だが、勇者服の背面から伸びる触腕のような帯が補助することで自律や移動が可能になる。勇者刻印は左胸にある。刻印の花は朝顔で、満開ゲージは朝顔の葉。
後にバーテックスとの戦闘で左耳の聴覚を失い、それから乃木園子によって勇者システムの真相を知らされる。やがて彼女はバーテックスの正体、世界の真実を知り、神樹へ侵攻するバーテックスの手引をする――

その正体は前日譚『鷲尾須美は勇者である』の主人公・鷲尾須美本人。
当時はバーテックスとの戦いのために東郷家から鷲尾家へ養子に出されていた。
今回の聖杯戦争ではあくまで東郷美森として召喚されている。

【サーヴァントとしての願い】
神樹を倒し、勇者システムの悲劇を終わりにする。


226 : ◆VFWqZfr6M6 :2015/06/29(月) 01:24:49 xpyOULsw0
以上で投下終了となります。


227 : ◆3SNKkWKBjc :2015/06/29(月) 07:59:34 KExDgj7k0
皆さん投下乙です。私も一つ思いついたので投下させていただきます


228 : 二人(一人) ◆3SNKkWKBjc :2015/06/29(月) 08:01:02 KExDgj7k0
あるところに、強い化物がいた。
しかし、強すぎたせいで化物の周りには誰もいなかった。
化物は孤独に苦しんだ。

そこで化物は自らの魂を二つに分けた。
化物は二人になった。
これで孤独ではなくなった。



◆ ◇ ◆



いつの間にか一人ぼっちになっていた。

「スターク………?」

結局のところ、元々は『一人』なのだから『片割れ』がいないことに気づける。
近くにはいない。だけど、遠くにもいない。
まるでこの世界とは別の次元へ隔離されてしまったかのように、彼女――
リリネットの片割れ、スタークは存在を消していた。

いいや、違う。
隔離されたのはスタークではなく、リリネットの方だろう。
ここは、他の虚の気配や死神の気配すら感じない不気味な世界であった。
閉じ込められたのは分かる。
分かっているが、無力だと理解していながらリリネットは舌打つ。

「くそ! どうなってんだよ!! いっ……?」

手の甲に妙な印が浮かび上がる。
令呪なのだが、リリネットは冷静にそれを分析する余裕などなかった。
スタークがいないのだ。もう一人の『片割れ』がどこにもいなければ、彼女自身の力など無力に等しい。
否、それ以上の不安と恐怖が渦巻いている。

一人は嫌だ。

これほどまでに孤独を感じた事はない。
彼女はつねに『彼』と共にあり続けたからこそ自覚していなかっただけだった。
やはり魂は二つになっても、一つであった名残は残る。
片方がいなければ、とても不安定だ。

何か物足りない。
このままでは駄目だ。
ああ、きっと彼も自分と同じになっているはずだ。

焦りばかりが募るリリネットは、何もかも見失っていた。
今ここが戦場であることを――聖杯戦争の火ぶたが切られた事を――……


「■■■■■■■■■■■■■■■────────────!!!!!」

「え」


瞬間、狂気の塊が彼女にぶつかる。
体が重く軋む。馬鹿みたいに彼女の小さな体は吹き飛ばされた。
リリネットは人ではなく、弱くとも破面の一種。並の人間よりかは頑丈ではある。

それでも彼女は弱い。
彼女だけでは何もできない。ここにはスタークはいないのだから。

彼女の体はただただ吹き飛ばされ、建物や木々を破壊しながら、ようやくアスファルトの地面に叩きつけられ止まった。
辛うじてリリネットは生きている。
だが再び、理性を失った、破壊するだけのサーヴァント・バーサーカーの一撃を食らえばどうなるか。
何とか立ち上がろうとするリリネットへ追い打ちをかけるかのように、一声が聞こえた。

「ん? こいつ……サーヴァントじゃないのか。変な姿してるから、そうだと思ったんだが――」

現れたのはバーサーカーのマスター。どう見ても、ただの人間だった。
本来ならリリネットの姿すら捉えられない程度の存在だろう。
しかし、令呪の影響か、彼女の姿を発見し、バーサーカーに奇襲をかけさせたのだ。
魔力の消費が激しいためか、マスターは顔色を悪くしながら言う。

「さっさと来い、バーサーカー。まだ生きている」

「う………」

死にたくない。
一人で死にたくないよ。

「助けて、スターク……」

思わず、ここにはいない彼の名をリリネットは呟いた。


229 : 二人(一人) ◆3SNKkWKBjc :2015/06/29(月) 08:02:18 KExDgj7k0
◆ ◇ ◆


リリネットは聖杯戦争というものを全く理解していなかった。
同時に、バーサーカーのマスターもそれを理解していなかったのである。


◆ ◇ ◆



「が……はっ!?」

バーサーカーのマスターを紅の腕が貫く。
姿や気配もなく、いつの間にか彼は絶命を遂げてしまっていたのだ。
マスターが警戒するべきものはアサシンのサーヴァント。
殺意を発するまで、一切の姿を見せない暗殺者。

バーサーカーはマスターの死亡と同時に消滅してしまう。
強力なサーヴァントであろうとも、マスターが死ねばそうなるだけで終わる。

リリネットは茫然としながらも、マスターを殺した存在を目にした。
それこそが彼女のサーヴァント・アサシン。


だが


「あれ……?」 「……!!!」


リリネットとアサシンは、ほぼ同時に感じ取った。
能力だとか理屈の問題ではなく、それはただの第六感、本能に近い感覚だった。

同じだ、と。

決して、二人は酷似した容姿ではない。
リリネットは破面故に変わった姿だが、アサシンも暗殺者のくせして奇抜な恰好をしている。
だからといってそういう意味での『同じ』ではない。
同じなのは――魂の在り方だった。

魂が完全ではない。
魂が不完全である。
魂が一つではない。


魂が―――二つに分けられていた。


「もしかして――」

先ほどマスターの体を貫いた腕が、今度はリリネットを掴む。
首が締め付けられるのを彼女はなんとかもがこうと足掻いた。
一方のアサシンは焦りを浮かべている。
特殊な存在のリリネットは、ある意味で彼の『予想外』な事態であったというべきなのだ。

「まさか……俺の秘密を『感じる』奴がいるとは! 俺のような奴が他にもいたとは!!
 無知であれば良かったものを――知った以上、確実に消し去ってやる!」

アサシンは自身の正体を知られるのを何よりも恐れていた。
たとえ、次の聖杯戦争があろうがなかろうが、自身に纏わる情報を隠蔽しなくてはならないと自棄になる。
ちっぽけなミスがアサシンの『絶頂』を崩壊させた。
だからこそ、アサシンは聖杯を手にすれば元よりマスターを始末する算段であった。

リリネットは違う。
アサシンの能力だとかそんなものではなく、アサシンの一番の秘密を知ってしまった。

かつては二重人格であったことを。
一つの魂を二つにしたことを。
もはや、片割れの魂がどこにもないことを―――

「ま、てよ……! 何があったかしんねーけど……あんた『片割れ』を探してるんだろ!?」

真っ先に挙げられた話に、アサシンの表情がさらに歪む。
焦りや苛立ちよりも動揺が走り、力が緩んだ。


「あたしもソイツを探してやる! だから、とっとと離せ!!」


230 : 二人(一人) ◆3SNKkWKBjc :2015/06/29(月) 08:03:02 KExDgj7k0
◆ ◇ ◆


馬鹿か、俺は

アサシンが我ながら呆れていた。それでも彼の苛立ちは募るばかり。
落ち着け、冷静になれ、状況を把握しろと自分自身へ必死に言い聞かせた。

あの子供……見た目通り人間ではない。
魔力を持たない連中に姿を捉えられないと言うじゃあないか。
身分を隠蔽させる必要はないし、奴の姿を捉える者は敵だと判断できる。
全く以て都合のいい存在だ。シンプルで分かりやすい。利用のしがいが十分ある。

それに……気に食わんが奴は協力すると申し出てきた。
人ではない故、人間を殺す抵抗などない。それは本心か、何度も確認したが「馬鹿にしてるのか」とキレられた。
部屋の隅でガタガタ震え命乞いするのや、聖杯は要らない・殺人は許容できないと平和ボケをかます奴と比べろ。
ああ…確実にマシだ。大分マシだぞ。

それに気付けなかったのは、アサシンが冷静を失っていたから。
自身の秘密を知られた事もそうだが、リリネットがアサシンのもう一人の人格のことを指摘したことが
アサシンにとって何よりの苛立ちだった。


――きっと、あんたの片割れも寂しがってる。あたしが言うんだから間違いないよ。


過去はバラバラにしてやっても、石の下からミミズのように這い出てくる。

忌々しい黄金の精神を持つ少年。
自身が犯したミスにより生じてしまった娘。
思い返せば返すほど、過去には忌々しいものばかりが残っている。

しかし、リリネットが触れて来るのはよりにもよってアサシンの片割れ。
病的なまでに神経質なアサシンが、最も信頼した自分の片割れ。
決して何とも思っていない訳がない。
だが、彼が戻って何になる。帝王の座に返れるとでも言うのか?

それだけで――『ドッピオ』が戻るだけでどうにかなるほど軟な世界ではない事くらい
この俺が最も理解している……!!

アサシンはまだ簡単な答えに辿りついていなかった。
シンプルで、単純な答えに。

結局のところ、『ディアボロ』と『ドッピオ』は一人ではあったが二人でもあった。
孤独ではなかった。
ただ、それだけのことを。


231 : 二人(一人) ◆3SNKkWKBjc :2015/06/29(月) 08:04:07 KExDgj7k0
【クラス】アサシン
【真名】ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険
【属性】混沌・悪

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:D 幸運:E 宝具:B


【クラススキル】
気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
 自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。


【保有スキル】
二重人格:-
 かつては『ドッピオ』という人格がいたが、アサシン自ら切り捨てた。

裏社会:C-
 横領など悪に手を染める者(NPCに限る)を操り
 隠蔽工作や情報収集などが可能。

情報抹消:B
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から
 彼の能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。


【宝具】
『墓碑銘』(エピタフ)
ランク:E 種別:対人(自身) レンジ:- 最大補足:-
『真紅の帝王の宮殿』(キング・クリムゾン)の補助である未来予知能力。
予知できる時間は「5秒」に制限されている。
未来の見聞きできるだけで何が起こるかを正確に知る事はできない。

『真紅の帝王の宮殿』(キング・クリムゾン)
ランク:B 種別:対人(対界) レンジ:1〜10 最大補足:-
予知した最悪の未来、その過程を消し去る能力。
アサシン自身がその時間だけを認識し、自在に動く事が可能。
その間、何かに触れる・何かに触れられることはできない。消し去れる時間は「5秒」に制限されている。
連続で能力を使用することは不可能で、時間を置かなければ再び使用することはできない。
時空間を消し去る能力故、固有結界など空間内で使用すると何らかの影響を与える。

空の雲はちぎれ飛んだ事に気付かず
消えた炎は消えた瞬間を炎自身さえ認識しない
都合の悪い過程は誰の記憶にも残らず
そして、結果だけが残った

これが全てであり、これ以上の邪悪を説明する必要はないだろう。


【weapon】
スタンド「キング・クリムゾン」
ステータスは筋力:A、耐久:D、俊敏:Aに相当する。
スタンドがダメージを受けると、本体もダメージを負ってしまう。

スタンドはスタンド使いにしか視認できないものだが
サーヴァントになった以上、サーヴァントにも視認が可能になった。


【人物背景】
あるところに悪魔がいた。悪魔は魂を二つに分けた。
二人だからどんなこともできた、二人だから帝王になれた。
一人になったから帝王ではなくなった。
ただ、それだけ。

【サーヴァントの願い】
帝王の座に返り咲く。それだけが彼の願望。
きっと、恐らく……多分。



【マスター】
リリネット・ジンジャーバック@BLEACH

【マスターとしての願い】
聖杯なんてどうでもいい。スタークのところへ帰りたい。
でもアサシンは放っておけない。

【能力・技能】
弱いとはいえ破面。
魔力を持たない人間には彼女を視認できないのが強み。
令呪を持つマスターならば、たとえ魔力がなくとも彼女の姿を捉えられる。

【人物背景】
孤独に苦しんだ化物の片割れ。


232 : ◆3SNKkWKBjc :2015/06/29(月) 08:04:38 KExDgj7k0
投下終了です


233 : ◆Ywp624OgQE :2015/06/30(火) 00:44:29 Q.1M2Hb.0
投下乙です 
思いついたので、投下します


234 : 遊佐こずえ&キャスター ◆Ywp624OgQE :2015/06/30(火) 00:45:11 Q.1M2Hb.0

ひらりひらりと蝶が舞う。
黄金色の蝶が舞う。
現実を蝕む蝶が舞う。
それは終わりなき惨劇の象徴。
道理の通らない幻想の侵蝕を知らせる一つの法則性(ルール)。

閉ざされた島にて君臨し続けた幻想描写の担い手は、都市伝説の渦巻く鎌倉へと幽閉されていた。


  ●  ◯


廃屋敷の薔薇庭園には奇妙な噂がある。
美しく芳しい香りが漂っているのに、どうしてか誰も近寄らない不思議な庭。
持ち主がいるのかどうかすら定かではない、けれど美しいからというそれだけの理由でほったらかしになっている。
そして、不思議はやがて怪奇へ繋がり、やがて幻想を作り出すのだ。

―――― 薔薇の庭には魔女が棲む ――――

新月の晩に黄金の蝶々を見た。
浮揚する杭に追い回され這々の体で逃げ帰った。
二本の足で歩行する山羊が、迷い込んだ野良犬の肉を食い漁っていた。
煙管を片手で弄ぶ美しい女と、傍らで無邪気に微笑む人形のような少女を見た。

火のないところに煙は立たない。
ましてやここは現在進行形で魔境と化しつつある土地。
神秘を否定する人間犯人説(アンチファンタジー)が薄れた領域は、言わずもがな魔女の独壇場だ。
薔薇庭園には魔女が“い”る。変幻自在に飛び回る七本の杭と血に飢えた黒山羊を従えて、黄金の蝶が舞う庭で、少女の幽霊と共に他人が迷い込むのをじっと待っている。
噂はまことしやかに広まっていき、今や薔薇庭園へと近寄る者は誰もいなくなっていた。

 
そして、無人の館にて、今日も魔女と少女の夜会が始まる。


結論から言えば、魔女伝説は紛れもない現実のものだった。
黄金の魔女は実在する。だが彼女たちの目的は、決められた行動ルーチンに従い続ける木偶を喰らうことではない。
彼らを利用するつもりがないわけでもないが、魂食いに訴えるつもりはなかったし、まだその段階ではなかった。
都市伝説の中では魔女の友人として語られた童子の利き腕には、少女らしからぬ禍々しい刺青が見て取れる。
三画の刻印。全知の魔女に引導を渡すことさえ可能とする、掟破りの絶対命令権だ。
しかし、この戦争が終了するまで……あるいは、彼女たちの聖戦が半ばで終わってしまうまで、彼女がそれを使うことはないだろう。何故なら少女にとって、聖杯戦争とはひとつの“ゆめ”に過ぎないのだから。

いつだって、魔女と出会うのは幼い子供と相場が決まっている。
現実に汚染されていない少女だけが、魔女の箱庭へ迷い込んで尚、彼女達と敵対せずに済むのだ。
汚れた欲望を持たない少女だけが、魔女の奇跡を正しい形で使うことができるのだ。
聖杯戦争の舞台となるこの鎌倉市も、そのセオリー通りに少女と魔女とを引きあわせた。
夢見るような瞳で茶会を楽しむのは、ひとりの偶像(アイドル)。
聖杯の手引きによって鎌倉へ足を踏み入れた彼女を出迎えたのは、黄金を司る無限の魔女であった。
無限の惨劇を作り出す、六軒島の魔女(キャスター)。肩書、右代宮家当主顧問錬金術師。真名を、ベアトリーチェ。


235 : 遊佐こずえ&キャスター ◆Ywp624OgQE :2015/06/30(火) 00:45:46 Q.1M2Hb.0
ベアトリーチェは、煙管から煙を吐きながらくつくつと嗤う。
悪辣だ。やはりニンゲンとは、時に魔女を凌駕する醜悪さを発揮する。
途中下車のできない殺し合い。そして、それを実際に実行してしまうほどの狂気にも似た情念。
黄金の魔女をして驚嘆する。驚嘆はやがて感嘆に代わり、面白い、と彼女を笑ませるに到った。
 
最早孤島密室(クローズド・サークル)の域を飛び越えた、ゲーム盤とでも称すべき人外魔境。
この盤面で互いに潰し合い、最後まで残った一組だけが、魔女の魔法でも生み出せない財宝を手に入れることができる。
聖杯の輝きに比べれば、金塊の光沢など足下にも及びはすまい。

無限の魔女たる者、勝負(チェス)を挑まれたならば自ら降りることはしない。
たとえ自分自身が一つの駒となって戦わねばならない状況だとしても、チェックメイトの時まで勝負は分からない。
だから密室殺人の長たるベアトリーチェもまた、この聖杯戦争を勝ち抜くことを高らかに宣言した。
彼女の旧知である“原初の魔女”を彷彿とさせる無邪気な少女へと、至高の輝きをプレゼントするということも。

至高の輝き。
遊佐こずえというアイドルにとってのそれは、たったひとつ。
聖杯戦争の何たるかも、そもそもこれが殺し合いだということも理解していない幼い彼女ではあるが、どんなお願いでも叶えてくれると言われた時、どう答えるかは決まっていた。
――――いちばんになりたい――――
そうすれば、プロデューサーはきっと喜んでくれる。
パフェを食べに連れて行ってくれるかもしれないし、うんと褒めてくれるだろう。
ママだって、凄いねって抱きしめてくれるはず。
 

「るしふぁー……おふく、きせてー」

《わかりました、こずえ様。このルシファーめにお任せください!》

《むー。ルシ姉ばっかりずるいー》

《そうよそうよ。たまに私達に譲ってくれてもいいんじゃなーい?》

《ちょっと、五月蠅いわよ! こずえ様のお着替え担当は私でしょ!》

薔薇庭園を見下ろす廃屋敷の中で、同じ格好をした少女たちが戯れている。
主の着替えを誰が手伝うかで言い争う姿は微笑ましいが、その内面に秘めるのは残虐な気性だ。
煉獄の七姉妹。ベアトリーチェが持つ宝具の一形態にして、彼女の《家具》たち。
 
「むー……けんか、だめー……」
《う…………》
《ほら、ルシ姉が大人げなくムキになるから!》
「こういうときはー……じゃんけんで、きめるのー……」

山羊の執事が紅茶を注ぎ、七姉妹がアイドルの少女を飾り立てる。
そんな様子を見守るキャスターがふうと煙を吐くと、それは綿菓子に変わって机へ落ちた。
ここは幻想の城。無粋なミステリーの入り込めない、虚実と愛に満ちた世界。
そしてこれは、こずえ自身が願った世界でもある。
ありがちな少女の空想が現実化した、どこまでも楽しみに満ちた魔法の城……
だからこの景色はある意味で、彼女が遣った《魔法》の賜物でもあった。

「愛がなければ、魔法は視えない」

キャスターは、呟く。魔女という存在に、もっとも大切なものを。

「こずえよ。そなたが願う限り、妾はそなたのための黄金の魔女であり続ける」
「……? どうしたの、きゃすたー……?」
「ふ、何でもない。……そうだ。なあ、こずえ。そなた、歌が得意なのであったな?」


236 : 遊佐こずえ&キャスター ◆Ywp624OgQE :2015/06/30(火) 00:46:04 Q.1M2Hb.0

こずえはキャスターという友人に、自分のことを沢山話した。
アイドルをしていること。プロデューサーとの出会い。そして、一番のアイドルになりたいことも。
彼女は、この鎌倉で願うということの意味をまるで理解していない。
だが、それでいいとキャスターは思った。
夢見る少女はいつだとて、気まぐれに願って奇跡に微笑んでいればいい。それが、正しい魔法のあり方だ。

「ひとつ、聞かせてみてはくれないか? 皆も賑やかな方が喜ぶだろうしな」
《あー! 私も聞きたいです!》
《こずえ様、アイドルしてらしたんですもんね! ほらルシ姉、いつまでも拗ねてないでさっさと座る!》
《な――だ、誰が拗ねてるもんですか!》

こうして今日も、幻の夜は更けていく。
それを嘘偽りのものと糾弾するものがいたとして、それはお門違いだ。
少なくとも遊佐こずえという少女にとって、この魔法のような時間は、紛れもない現実のものなのだから。


【クラス】キャスター
【真名】ベアトリーチェ@うみねこのなく頃に
【属性】混沌・中庸

【ステータス】
筋力:E 耐久:D 敏捷:C 魔力:A 幸運:E 宝具:A

【クラススキル】
道具作成:C
 魔術的な道具を作成する技能。

陣地作成:A+
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 クローズドサークルの中は、すべて彼女の領域だ。

【保有スキル】
黄金律:A
 身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 そもそもからして黄金の魔女。金など無限に生み出せる。

密室殺人:A
 扉に対し、高度の魔術的施錠を施すことが可能。
 強引に密室を作り出し、そこで他人を殺すことで、密室殺人が成立する。

情報抹消:E
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、彼女の能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。
 湾曲され、本来のあり方と異なった形で伝えられる魔女の宿命。
 ランクが低いため、完全な消失ではなく記憶が薄れる程度。


237 : 遊佐こずえ&キャスター ◆Ywp624OgQE :2015/06/30(火) 00:46:23 Q.1M2Hb.0
【宝具】
『黄金の魔法(レジェンド・オブ・ザ・ゴールデンウィッチ)』
ランク:A 種別:対人/対軍 レンジ:1~300 最大補足:18人
ベアトリーチェが使用する、魔術師のものとは違った形での魔術体系。曰く、魔法。
Aランク宝具に相応しい高威力攻撃から、はたまたちょっとした手品程度のものまで、その形は様々。

『茶会に喚ばれし魔女の傀儡(ターン・オブ・ザ・ゴールデンウィッチ)』
ランク:D 種別:対人 レンジ:1〜30 最大補足:18人
ベアトリーチェが所有する、『家具』。
召喚にあたって彼女が持ち込んだ家具だけが、この聖杯戦争では召喚可能である。
したがって改めて別の家具と契約し召喚するなど、そういう芸当は不可能。
召喚可能なのは『煉獄の七姉妹』『ロノウェ』『山羊頭の家具』。

『不偽の赤色(あかきしんじつ)』
ランク:E 種別:対人 レンジ:- 最大補足:-
真実のみを語る、赤き文字。
この宝具を使って語られた言葉は、全てが真実。
ミステリーをファンタジーで塗り潰す為の、理詰めの宝具でもある。

【weapon】
なし

【人物背景】
無限を生きる黄金の魔女。
ゲーム盤が移り変わる狭間の時間より呼ばれ、小さな友人と出会う。

【サーヴァントの願い】
急を要する願いはない。
だが、聖杯に興味はあるので手中には収めたい。


【マスター】
遊佐こずえ@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
いちばんになりたい

【能力・技能】
戦闘能力、特殊能力共に皆無。
アイドルとしての経験から、歌って踊れる程度。

【人物背景】
11歳という若さでアイドルとして活躍している少女。
一番のアイドルになってプロデューサーやママを喜ばせたい、という願いを聖杯に聞き届けられた。
聖杯戦争についてはまったく理解していない。


238 : ◆Ywp624OgQE :2015/06/30(火) 00:46:37 Q.1M2Hb.0
投下終了です


239 : ◆GO82qGZUNE :2015/06/30(火) 01:54:02 3FQMns2s0
皆様投下乙です。
私も投下させていただきます。


240 : いつかこの花が咲いたなら:Re ◆GO82qGZUNE :2015/06/30(火) 01:55:00 3FQMns2s0
「幸せだったよ」

 それは心よりの想い。
 あらかじめ決められた命の時間の中で、最後に手に入れることができた尊い思い出。
 プラスチックでしかなかったはずの心が、煌めいて。

「ねえ、ツカサ。私、とっても幸せだった」

 本当に、本当に幸せだった。色褪せた世界の中であなたに出会って。あなたのおかげで、全てが輝いて見えた。
 青い空を見上げて、綺麗な街並みを見下ろして。
 そして、愛するあなたが傍にいるだけで、世界はこんなにも美しいから。
 けれど。

「そろそろ、夢の時間は、終わりなので」

 私は指輪をあなたに差し伸べる。それは、ギフティア(私)を初期化(殺す)ための装置。
 あなたは手を伸ばす。前へ、私に向かって。
 打ちひしがれるような表情で、何かを拒むように、それでも手を伸ばして。

「泣き顔、初めて見せてくれたね。
 ずっと、我慢してきたんだもんね」

 差し出された手を握り、そっと呟く。
 あなたの顔は、涙で歪んで。

「ツカサは、すぐ我慢しちゃう人なので」

 私は、あなたの頬へと手を差し伸べる。濡れている頬。
 あなたの涙は止まらない。こうして拭っても、すぐに溢れて。
 私を見つめる瞳は、こんなにも溢れて、雫に満ちて。

「……ありがとう。私のために泣いてくれて、ありがとう」

 あなたが泣いてくれたことが、素直に嬉しい。涙を流して、私のためにこんなにも傷ついて。

 今も泣き続ける彼の頬を、私はつまみ上げる。今この時は、笑っていて欲しかったから。

 私は微笑む。とびきり穏やかな笑顔を作ろうと思って。
 あなたの瞳に永遠に残るように。
 私が、できるだけ綺麗に映るように。
 私が、あなたの中に留まれるように。

 ―――微笑む。
 ―――これが、最後だから。

 でも、あなたと同じ。
 明るい笑顔だけを浮かべられない。

 あなたは指輪を私の指にかける。まるでプロポーズみたいだ、なんて。そう考えるとちょっとだけ嬉しい。
 あなたは私を抱き寄せ、唇を開く。
 私は、全てを聞き漏らすまいと、全身であなたの声と言葉を受け止める。

「大切な人と、いつかまた―――」

 あなたの声が聞こえる。手を取り合って、唇を合わせて。
 瞼を閉じ、私は夢幻に揺蕩う。
 ツカサ、私は、あなたを―――


241 : いつかこの花が咲いたなら:Re ◆GO82qGZUNE :2015/06/30(火) 01:55:50 3FQMns2s0









 そうして、光が瞬いて。
 地上数十mの観覧車の中で、アイラという名の少女は81920時間の生涯に幕を閉じた。



 






   ▼  ▼  ▼


 そこには色が溢れていた。
 屋敷と門との間に横たわる形の植物庭園。偽造植物ではない、本物の花々。様々な色の花や木が風に揺られて踊っている。
 見事なものだと思う。マスターの少女もサーヴァントの少年も、後からここに来ただけで碌に弄ってはいないけど。こうまで育て上げることがどれほどの労力を要するかは理解できた。
 ここは街外れの廃屋敷。寄る辺を持たない少年少女が行き着いた、ひとまずの拠点だった。

「……それで、マスター。マスターは一体どうしたいのさ」

 口火を切ったのは少年、すなわちサーヴァントの側だ。黒目黒髪のともすれば可愛らしいとも表現できそうな顔に小柄な体躯。一見すれば二次性徴も迎えていないのではないかと思えるような彼は、しかしこの場において人知を超越した存在として喚ばれている。
 視線の先には少女の姿。草花を愛でる仕草はどこか幼く、冷たい印象を受ける相貌とは相反するものだった。
 けれどそれが彼女の本来の気質なのだろうということは容易に察せられた。冷たく堅苦しい表情は作り物で、実際は感情豊かな人物なのだろうということは、すぐに分かった。

「どうしたい、とは。何についてですかアーチャー」
「何って……決まってるでしょ。"聖杯戦争に対してどんなスタンスを取るのか"」

 アーチャーがサーヴァントとして召喚されて以降、現状に対する確認としてはこれが初めての問いだった。マスターは今まで聖杯獲得に向けて動くでもなく、ただ漫然と日々を過ごしていたが故に。

「……どうしたいんでしょうね、私は」
「なにさ、それ」

 呆れの溜息をひとつ。少女は何も返さず、手元の花を眺めるのみ。

「自分がどうしたいのか、分かってないの?」
「分かりません。私は、死んだはずなので」

 死んだというのは少し語弊がある。彼女は正しく人間ではなく、その身はギフティアと呼ばれるアンドロイドであるために。
 より厳密に言うならば、記憶と感情と思考能力の全てを消去されたというのが正しい。

 だが似たようなものだろう。どちらにせよ、彼女が何かを考え思うことなど未来永劫なかったはずなのだから。
 そう、本来ならば。


242 : いつかこの花が咲いたなら:Re ◆GO82qGZUNE :2015/06/30(火) 01:56:39 3FQMns2s0
「……何もないの? 例えばやりたいこととか、やり残したこととか」
「ないと言えば嘘になりますが、でも、やるべきことは全部終わらせました。
 ……ツカサも、私とは違う時間を生きているはずなので」

 ツカサ、それは人の名前か。アーチャーと呼ばれた少年はそこに引っ掛かりを覚える。

「ツカサ?」
「はい。私の、大切な人です」

 ほんの少し、声のトーンが上がったことを脳内で感知する。
 なるほどと納得する。その人物が彼女の願いの根幹か。

「もう一度会いたいって、思わないの?」
「思います。思いますけど、そのために誰かの想いを踏みにじるようなことは、したくないので」

 なるほど確かに。それは天秤にかけられるものだろう。
 自分と自分の大切な誰かのために、見も知らぬ大勢を踏みつけにする。それらを秤にかけて果たして釣り合うのかどうか。
 少女の中では、赤の他人であっても大きな重みを持つ。ただそれだけの話だ。

「だから、私はもういいんです。ツカサは私がいなくても、きっと前を向いて歩いて行けます。だから私が消えても、それは―――」
「仕方のないこと、そう言いたいのかな」

 言葉を遮られる。
 それは少年の言葉。先ほどまでとは違い、ほんの少しだけ語気が強くなっている。
 けれど、それは決して怒っているわけではなく。

「自分はもう死んだから、他に方法はないから。だからもう諦めるって、そう言いたいの?」
「……他にどうしろって言うんですか」

 聖杯戦争とは文字通りの戦争だ。そこに妥協など一切存在せず、聖杯の獲得を願うならば全ての他者を蹴落とし殺すしか道はない。
 それはできない。自分のためだけに、ツカサを言い訳にして誰かを殺すなど、絶対に。

「……本当に仕方がないって思ってるなら、辞退したって構わない。僕もそれに従うさ。
 でも、マスターは諦めきれてないでしょ」
「……っ!」


243 : いつかこの花が咲いたなら:Re ◆GO82qGZUNE :2015/06/30(火) 01:57:08 3FQMns2s0
 図星だ。それは確かに少女の胸に存在する。
 他者を殺したくないのも本当の気持ちだ。けれど、それと同じくらいに願い焦がれるものがある。

 ―――ツカサと。
 ―――共に、生きて―――

「確かに願いを叶えるには聖杯を獲る以外に方法はないのかもしれない。他の人を殺すしか道がなくて、そうしたくないなら自分が死ぬしかないのかもしれない」

 でもね、と少年は言葉を続ける。

「それは仕方のないことなのかもしれないけど、それを仕方ないって言いたくないから、人は戦うんだ」
「アーチャー……」
「僕はまだ諦めない。マスターの願いを叶えたいって思うし、それが否定される理不尽はあっちゃいけないとも思う。
 もしかしたら本当にどうしようもなくて、他に道なんてなくて。どれだけ頑張っても何も変えられないかもしれないけど」

 少年は笑う。
 強がりでも自嘲でもなく、まして諦観の笑みでも決してなく。
 どこまでも明るい、誇らしげな笑顔だった。

「それでも、もう少しだけ頑張ってみようよ、マスター」

 その笑顔は。
 どこか、眩しいものに感じられた。

「……そうですね。確かに、諦めるにはまだ早いかもしれません」

 考えてみれば簡単な話だ。
 どうせ死んだと諦めるなら、その前にやれることは全部やってみる。ただそれだけ。
 文字通りの死んだつもりで、だ。これ以上失うものがないならば、せめて前向きに明日を目指そうと。
 そう、思って。

「私も、もうちょっとだけ頑張ってみようと思います。だから、アーチャー」
「うん。僕が力を貸すよ、マスター」

 それは願いのための戦いではなく、生きていくための戦い。
 あらかじめ決められた命の時間を精一杯に生き抜いた少女が、もう一度だけ頑張る道。

 これでいい。そうアーチャーは考える。
 自分は聖杯に託す願いはない。確かに覆したい悲劇はたくさんあるし、それを悲しいとも思っているけど。
 けれど、それは自分たちが精一杯に戦い生きた証でもある。極論すれば、全ての悲劇の源を失くしてしまえば、彼が愛した少女はこの世に生まれ出でることもなかったわけで。

 だからこそ、少年はマスターのことだけを考える。
 彼女は確かに死した存在なのだろう。けれど、彼女が愛した人々は今もどこかで生きている。マスターとして呼ばれたのだ、今現在と生前との時系列が極端に違っていることはあるまい。
 既に過ぎ去った過去ではなく、遥か遠い未来でもなく、今この時代に起きた悲劇。ならばそれは、まだ取り返しのつく範囲だから。

 だから、彼女には生きてほしい。あらかじめ生きる時間が決められているなどと、そのようなことで諦めて欲しくない。
 涙とは、悲しさではなく嬉しさから来るものであってほしいと思うから。

 故に少年は願う。天樹錬は願うのだ。
 あなたが行く道の上で。
 大切な人と、いつかまた巡り会えますように、と。


244 : いつかこの花が咲いたなら:Re ◆GO82qGZUNE :2015/06/30(火) 01:58:08 3FQMns2s0
【クラス】
アーチャー

【真名】
天樹錬@ウィザーズ・ブレイン

【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷B++ 魔力A 幸運C 宝具B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
I-ブレイン:A
大脳に先天的に保有する生体量子コンピュータ。演算により物理法則をも捻じ曲げる力を持つ。
また、I-ブレイン自体が100万ピット量子CPUの数千倍〜数万倍近い演算速度を持ちナノ単位での思考が可能。極めて高ランクの高速思考・分割思考に相当する。

潜入工作:B
敵地に侵入・掌握するための諸般の技術。生前のアーチャーは依頼達成率100%の便利屋として数多のプラント等に潜入し、軍の戦艦の中枢すら掌握したことさえある。
ランクは大幅にダウンするも陣地破壊・破壊工作・情報末梢の他、電子戦のスキルを取得可能。

仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

【宝具】
『元型なる悪魔使い(ウィザーズブレイン・アーキタイプ)』
ランク:B 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:300
全ての魔法士の雛形にして完成型。世界でただ二人の対存在であることに加え、原初の魔法士の能力を再現したものであるため、神秘の伴わない未来科学の産物としては破格の神秘を内包するに至った。
魔法士としての固有能力は「無限成長」であり、本来書き換え不可能な基礎領域を書き換えることによりあらゆる能力を使用可能とする。
アーチャーは自身が長時間に渡り目撃・確認したあらゆるスキルと技能系宝具を、種別や分類・原理にもよるが習得可能である。ただし悪魔使いのコピー能力は仮想的な能力の再現であるため、習得したスキル等はオリジナルと比べてランクが1段階低下する。
また、以下の魔法士能力を使用可能。基本的には2つまで同時使用が可能だがアインシュタインとサイバーグのみ単独でしか発動できない(アインシュタインは機能を制限することにより同時使用が可能)。

「短期未来予測デーモン・ラプラス」
ニュートン力学に基づき、3秒先までに起こり得る未来を可能性の高い順に表示する短期未来予測。Aランクの直感及び心眼(真)に相当する。

「運動係数制御デーモン・ラグランジュ」
騎士の身体能力制御のデッドコピー。
運動速度を5倍、知覚速度を20倍にまで加速する。ただし不自然な動きから発生する反作用を全て打ち消す関係上、加速による運動エネルギーを得ることはできず結果として倍加されるのは単純な速度のみとなる。


245 : いつかこの花が咲いたなら:Re ◆GO82qGZUNE :2015/06/30(火) 01:58:42 3FQMns2s0
「仮想精神体制御デーモン・チューリング」
人形使いのゴーストハックのデッドコピー。
接触した無機物に仮想的な精神体を送り込み、無理やり生物化させて支配下に置く。生み出されるのは大抵は数mの巨大な腕であり、それ単体では10秒程度しか形を維持できず、物理的な強度も元となった素材に左右される。
アーチャー単体では同時に生み出せるのは一体のみだが、高度な演算能力を持つ外部デバイスと合わせればそれ以上の数を生み出すことも可能となる。

「分子運動制御デーモン・マクスウェル」
炎使いの分子運動制御のデッドコピー。
基本的には大気中から熱量を奪うことで窒素結晶の弾丸や槍、盾を作り出し攻撃・防御に転用する他、一点に熱量を集中させることによる熱量攻撃を可能とする。最大射程は視認できる範囲まで。
二重常駐させることにより、氷の弾丸を制御しつつ同時に熱量を操作して弾丸を水蒸気爆発させるという使い方もできる。

「論理回路生成デーモン・ファインマン」
空賊の破砕の領域のデッドコピー。分類的には情報解体に相当する。
直径20センチほどの限定空間に論理回路を生成し、接触した対象を情報解体し物理的には分子・原子単位まで解体する。ただし事前に空間内の空気分子の数を制限する必要があるため、マクスウェルとの併用が前提となる能力である。

「空間曲率制御デーモン・アインシュタイン」
光使いの時空制御のデッドコピー。
重力方向の改変による飛行、空間を捻じ曲げることによる超重力場の生成、空間跳躍、重力レンズによる防御、対象を無限の深さを持つ空間の穴に30分だけ閉じ込める次元回廊を使用可能。
機能を制限した場合、重力の軽減による落下速度の抑制のみ使用可能となる。

「世界面変換デーモン・サイバーグ」
騎士の自己領域のデッドコピー。
自身の周囲1mに通常とは異なる法則の支配する空間を作り出し、その空間と共に移動することにより亜光速での移動が可能となる。自身のみならず領域内に侵入した他の者も同一の条件下で行動可能。
ただし発動可能時間は主観で3分のみ。それを過ぎればweaponのナイフに埋め込まれた結晶体が崩壊し使用不可能となる。

【weapon】
・サバイバルナイフ
銀の不安定同素体であるミスリルで構成されており、物理・情報の両面において非常に頑強。
柄にはサイバーグ発動に必要な結晶体が埋め込まれている。これが破損した場合は魔力を用いて修復することが可能であるが、相応に時間がかかる。

【人物背景】
かつて命の時間を周囲の勝手で決めつけられた少女を救いだし、結果として1000万人の無辜の住人を見捨ててしまった少年。

【サーヴァントとしての願い】
今はただ、マスターに未来を。


【マスター】
アイラ@プラスティック・メモリーズ

【マスターとしての願い】
ツカサと、もう一度―――

【weapon】
なし。

【能力・技能】
ギフティアと呼ばれるアンドロイド。本来身体能力は非常に高いはずだが、耐用年数が迫っているためかなり低下している。また、精神面もほぼ人間と同一。
更に言えば普通に飲食が可能であるし尿意も催す。大体は人間と同じと思っていいだろう。
あとハーブの栽培とハーブティー作りが上手いが、他は大体ぽんこつ。

【人物背景】
あらかじめ決められた命の時間を受け止め、幸せの内に生を全うした機械の少女。

【方針】
もうちょっとだけ頑張ってみる。


246 : ◆GO82qGZUNE :2015/06/30(火) 01:59:07 3FQMns2s0
投下を終了します


247 : ◆p.rCH11eKY :2015/06/30(火) 12:46:27 pWTYQeIk0
皆様、投下お疲れさまです。


>>すばる&アーチャー
一見かなり良好な主従関係。しかし東郷さんの方は腹に一物抱えてるのがなんとも……
今はすばるのことはちゃんと守る方針ですが、いつか綻びが来そうなのが怖いですね。

>>リリネット&アサシン
二人で一人だったものが別れて、マスターとサーヴァントとして巡り会うのは因果ですね。
ボスを気にかけているリリネットの行動が彼の何かを変えることは果たしてあるのでしょうか、気になります。

>>遊佐こずえ&キャスター
無邪気な幼女と黄金の魔女という組み合わせは作中にもありましたが、どこか童話的な印象を抱きました。
キャスターの牙城はまさしく難攻不落ですが、もしマスターを見付けられれば相当厳しくなりそうですね。

>>ツカサ&アーチャー
これはなかなかタイムリーな。
大切な人ともう一度巡り会うのを目的に戦う、というのは聖杯戦争へ参加する理由としてはそう珍しくないものだと思いますが、二人のやり取りがすごく綺麗で独特の雰囲気がありました。


248 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/01(水) 00:07:10 PO9bvQp20
投下します。


249 : 乱藤四郎&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/01(水) 00:08:58 PO9bvQp20

 「若様」

 黒服は、恭しくその男へ傅いた。
 豪奢な椅子に身を委ね、度数の高い酒を呷る男は――無言で続きを促す。
 黒服は表面上こそ冷静沈着な鉄面皮を維持していたが、内心心臓が弾け飛びそうなほどの緊張に曝されていた。
 
 「七里ヶ浜駅にて、マスター一名の射殺に成功致しました。
  恐らく市内の高校へ通う女子高生と思われます。令呪も確認の上、回収されないよう潰してあります」
 「ご苦労」

 簡素な労いを男が述べると、それで漸く緊張が解けたのか、黒服はほっと胸を撫で下ろす。
 しかしそもそも、この場合に限って黒服の彼が叱責や反感を買う理由は皆無のはずだった。
 彼はふんぞり返る支配者から命を受け、それを実行し、見事成功させてのけた。
 部下の存在があったとはいえ、その部下達を率いたのは彼なのだから、褒められて然るべきである。
 では何故大の男が、両手の指ほども年齢が下であろう小僧へこれほど怯えていたのか。

 その答えは単純――この"支配者"が人間ではないということを、彼は知っていたから。そこに尽きる。

 
 鎌倉市内に拠点を構える暴力団組織、『元村組』。
 全国的な知名度はともあれ、地方だけに限定すれば子供でさえ聞き覚えがある程の任侠集団。
 法に反する行いはすれども、人道を踏み越える非道にまでは手を染めない。
 所謂仁義。地元警察との癒着も相俟って、滅多な事では崩れない盤石の土台を築き上げてきた――はずだった。
 それが崩されたのは、たった三日前。
 堂々正門より踏み入り、押し止めようとする配下を力で屈服させ、組を統べる頭を惨殺し。
 未だ人の温かみが残る椅子から屍と化した組長を放り投げれば、嘲笑を浮かべながら彼は其処へ腰を下ろす。

 『お前らの頭は死んだ――このおれが殺した。
  弱ェ奴は自分より強ェ奴にナワバリを奪われる……フッフッフ! お前達も知らねえ訳じゃねえだろう……ついでに、ナワバリを追われた奴らがその後どうなるかも、よくご存知なんじゃねェか!?』

 頭に血を昇らせ、銃を抜く者も居た。
 だが賢明な者、或いは裏の社会に入って長い者ほど、表情を強張らせ硬直することを余儀なくされた。
 彼らは理解したからだ。縄張りを追われた悪党が、その後どんな末路を辿るのか。
 組が崩壊したとなれば、警察は掌を返すだろう。
 如何に仁義に則ってきたとはいえ、恨みも山ほど買っている。おちおち道も歩けやしない。
 敗者の未来に待ち受けるのは、果ての視えない地獄なのだ。少なくとも、ことこの世界においては。

 『だが』

 奇妙な形のサングラス。その奥の眼光がギラリと輝く。
 背筋に怖気が走った。それは、これまで彼らの頂点に立っていた者が放つものとは比べ物にすらならない、凄味。
 どれほどの経験を積めば、――いったい何を経れば、ヒトはこうなれるのか。
 
 『おれも鬼じゃねェ――助けてやるよ』

 その言葉に、眉根が動く。
 果たして彼らの中に、その反応自体が既に"弱者"のそれであるのだと気付けた者はどれほど居ただろう。
 真実、皆無だった。所詮彼らが掲げた矜持や仁義など、圧倒的な力の前には屑ほどの価値もありはしなかった。
 男が全てを終わらせた後、部屋の中へ現れた"部外者"にさえ意識が及んでいない有様。
 その部外者を狙う事こそが、彼らに出来る最大にして、最も有効な対抗策であるなどと、考えもしない。
 一夜にして強者から弱者へ転がり落ち、未だ自分が転げたことにすら気付かない愚者達の心が、サングラスの男には手に取るように分かった。何てことはない。こういう手合いならば、本当に腐るほど見てきた。


250 : 乱藤四郎&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/01(水) 00:09:43 PO9bvQp20
 遅かれ早かれこいつらは破滅する。だが、どうせ破滅するというなら、存分に絞り尽くさなければ勿体ないだろう。

 それにちょうど……今は"手が足りない"状況なのだ。


 『お前達、おれの部下になれ』


 怒号と共に、誰かが発砲した。
 一人ではない。
 若人を中心に、少なくとも四丁の銃が火を噴いた。 
 月明かりのみが照らす室内が一瞬だけ火花で赤く照らされる。
 馬鹿なことを。――そう唇を噛んだのは、彼の"力"を一足先に見た者達だった。

 額。
 胸。
 そして、肩。
 一発余さず銃弾は男へ着弾した。
 だが、それから先に起こるべき現象がない。
 吹き出る血も、跳ね上がる顎も、飛び散る脳漿も、豪奢な椅子が倒れる音も、ない。

 『豆鉄砲で粋がるんじゃねェよ』

 からからと、軽い音を立てて男に触れた銃弾が落ちる。
 次に彼は、億劫そうに右手を上げた。
 月明かりに照らされて――掲げた手から、極細の"何か"が舞うのがわかった。

 それを視認したのが、若人たちの最期だった。
 響く破裂音。それは三度連続した。反響が終わるのを待たずに、歯向かった三人は地へ崩れ落ちた。
 脳漿をぶち撒けて、死んでいる。
 次に広がるのはどよめきだ。何故奴らを撃った。違う、オレは撃ってない。手が勝手に。
 混乱状態に陥る荒くれ者たちを沈静化させたのは、またしてもサングラスの彼だった。

 『フッフッ、もう分かったろう? 少なくとも、お前らじゃおれは絶対に殺せねェんだ。
  それでも仲間の仇を討たなきゃ気が済まねェってんなら止めはしねェが、どうするよ、おい?』

 もはや、誰一人反抗を示せる者などいなかった。
 この場にいる全員が、無粋なる支配者の前に心を掌握されてしまっていた。
 一度刻み込まれた恐怖と、折れた心は二度と元の形には戻らない。
 男はもう一度嘲笑し――それから、彼らと、自身の"相棒"となる少女へと高らかに謳う。


 『おれの名はライダーのサーヴァント、ドンキホーテ・ドフラミンゴ――万能の奇跡を手に入れる男だ』


 ライダー・ドフラミンゴは、自分を鬼ではないと言った。
 ああ、確かに彼は鬼などではない。
 鬼すら見下ろし、時に踏み潰し、支配する――その在り方たるや、まさに"天夜叉"。



 .


251 : 乱藤四郎&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/01(水) 00:10:10 PO9bvQp20

 
 「にしてもつまらねェ世界だ。お前はどう思う、乱」
 「……別に。どうとも思わない」

 そして。
 報告に訪れた黒服を下がらせ、ライダーはマスターの少年へと話を振った。
 しかし返ってくる返答はごく簡潔な、会話を発展させる気がないものだ。
 嫌われたもんだ――いつも通りに笑いながら再び酒を呷るライダーを見て、少年は内心毒づく。

 そうだよ、嫌いだ。
 ボクは貴方が気に入らないんだ、ライダー。

 乱藤四郎。
 それが、ライダーを召喚したマスターの名前だった。
 マスターとはいっても、彼もまた人間ではない。
 人間の姿をしているのは確かだが……その存在は彼らより上の域にある。神の末席――付喪神。又の名を刀剣男士。
 事実、乱はマスターの身でありながらEランク相当の神聖スキルを有している。
 その彼が、何故聖杯戦争に招かれたのか。
 歴史修正主義者と戦闘し、歴史改変を阻止するのが目的であるはずの彼が、一体聖杯へ何を願うのか。

 言うまでもないだろう。
 乱藤四郎の願いは一つ。
 聖杯による、歴史改変である。

 
 「――にしてもお前も酔狂な奴だよ、乱。何だってよりにもよってお前が歴史改変を望む?」
 「…………」
 「フッフッ! 意地の悪い質問をしたな、謝るよ……お前みてェな目をした奴が何を考えてるかは大体解る」

 これだ。
 乱は、何よりもこのサーヴァントの、これが気に入らなかった。

 荒事や隠密に優れた現地人の部下を使い、マスターの暗殺を目論むまではまだいい。
 敵の英霊が偶々同行していなかったから良かったものの、もしも同伴していれば彼らは生きては帰れなかった。
 ――それも、まだいい。卑劣な策だとは思うが、利点もある。
 現に今回は首尾よく事が進行し、敵マスターを戦わずして討ち取ることが出来た。

 けれど。この"大海賊"が浮かべる、全てを見透かしたような笑みが気に入らない。
 天に立つ自分にとって、所詮お前達など底が知れた薄っぺらなものでしかないと見下されているようで、腹が立つ。
 いや、事実見下されているのだろう。ドフラミンゴは、そういう男だ。
 軽薄に笑い陽気とも取れる言動を見せておきながら、その内面は誰よりも冷めており、非情である。
 仮に仲違いするようなことがあれば、彼は躊躇なく自分にもあの糸を巻き付けるに違いない。令呪の行使に口を使用する必要がある以上、彼の糸ならばそれを防ぐことなど朝飯前だ。
 なにがマスターだ。これでは、ただ機嫌を取っているだけではないか。
 何よりも不甲斐ない自分に、乱は怒りを覚える。何もかも投げ出して、兄弟達の待つ本丸へ帰りたくなる。
 しかし、それは出来ない。嘲弄に、見下される屈辱に、耐え続けてでも叶えなくてはならない願いがあるから。

 「まして此処は聖杯戦争――聖杯を使ってでも叶えてェ望みとなりゃ絞られる」
 「…………」
 「なに、別に恥じることじゃねェさ。
  おれも……此処のボンクラどもなんざじゃ代用できねェ部下共を持ってる。
  仲間を大切に思うってのはいい心がけだ――まァ、その小奇麗な格好で惹かなきゃおっ勃ちもしねェ恋人だったのかもしれねェけどなァ! フッフッフッフッ!!」
 「…………黙れ」

 嘲りに、堪えられず声が漏れる。
 それは、乱の中の一線を踏み越えられたという証拠だった。


252 : 乱藤四郎&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/01(水) 00:10:33 PO9bvQp20

 「………………いち兄を、悪く言わないで」
 「フッ、冗談の通じねェ小僧だ」

 自分と同じ銘を持つ短刀を抜きかけて――寸でのところで、思い留まる。
 馬鹿か、ボクは。ここで短気を起こせば、全てがおじゃんだ。
 どんなことをしてでも、どんな苦しみに耐えてでも、聖杯を獲ってやると誓ったのに。

 (いち兄…………)

 部屋の片隅で膝を抱え、乱藤四郎は懐かしい名前を想う。
 もう戻らないその名前を取り戻すこと。それだけが、彼の願いだった。



【クラス】ライダー
【真名】ドンキホーテ・ドフラミンゴ@ONE PIECE
【属性】秩序・悪

【ステータス】
筋力:C+ 耐久:A 敏捷:C 魔力:D 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
覇気使い:A
 覇王色と武装色、二色の『覇気』を高レベルで扱いこなすことが出来る。
 覇王の威圧にはまず耐性のないマスターでは耐えられず、武装の覇気は彼の身体能力を高める。

カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

神性:-
 元々は天竜人であったため、神性を保有していた。
 だが今では堕落し、欠片すらも持ち合わせてはいない。


253 : 乱藤四郎&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/01(水) 00:10:54 PO9bvQp20


【宝具】
 『傀儡悪魔の苦瓜(イトイトの実)』
 ランク:C 種別:対人 レンジ:- 最大補足:-
 食べた者へ人智を超えた能力を与えるとされる禁断の"悪魔の実"の一つ、イトイトの実。
 彼はこれを食したことで"糸人間"となっており、糸を自在に操り戦うことが出来る。
 糸の切れ味は非常に鋭く、巨人族の足を切断することすら容易く行えるのが特徴。更に応用の幅にも富み、空の雲へ糸をかけることで擬似的に空を進むことも可能。
 また、ライダーはこの悪魔の実を"覚醒"もさせており、周囲の建物や地面からも糸を生み出せる。
 しかし"悪魔の実"共通のリスクとして、ライダーは海に嫌われている。この為水に触れるとライダーは瞬時にこの宝具の恩恵を受けられなくなり、泳ぐことも出来なくなる。

 『絶望の鳥籠(ドレスローザ)』
 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~1000 最大補足:100000人
 『傀儡悪魔の苦瓜』の応用系の一つだが、彼を象徴する悪夢として宝具へ昇華された。
 発動と同時に鳥カゴ状の糸を展開し、一定区域を脱出不可能の結界状態にする。
 宝具発動中は念話、その他あらゆる宝具・能力の効果でも鳥カゴの範囲外と伝達を図ることは出来ない。
 鳥カゴの範囲は時間の経過と共にどんどん狭まってゆき、当然収縮の道すがらに存在する物は全て切り裂かれる。

【weapon】
宝具の他に、短銃を所持している。

【人物背景】
 世界政府公認海賊王下七武海の一人で、"新世界"ドレスローザ王国の国王と、同国を拠点とするドンキホーテ海賊団(別名ドンキホーテファミリー)の船長を務める。
 だがその王位は正当な手段で獲得したものではなく、リク王家に罠を掛ける形で追い落とし手に入れたもの。
 偉大なる航路(特に"新世界”)に人身売買や武器密売といった犯罪シンジケートを所有しており、闇のブローカー"JOKER"として新世界の大物たちと取り引きをしている。
 更には自らの出自から、天竜人とも深いコネクションを持ち合わせており、これらから「王下七武海で最も危険な男」「新世界の闇を仕切る男」と言われており、海軍本部をして「悪のカリスマ」と呼ばれる。

【サーヴァントの願い】
 聖杯を手に入れる。使い方については慎重に吟味。


【マスター】
 乱藤四郎@刀剣乱舞
【マスターとしての願い】
 いち兄(一期一振)を蘇らせること。

【能力・技能】 
 刀剣男士としての戦闘能力。
 自分の写し身である短刀『乱藤四郎』を所持し、これが破壊されると連動して乱も死亡する。

【人物背景】
 粟田口の短刀の付喪神。
 過去に同じ本丸の太刀・一期一振を目の前で破壊されており、彼を再生させる願いで聖杯に招かれる。

【方針】
 どんな手段を使ってでも、勝つ。


254 : 乱藤四郎&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/01(水) 00:11:36 PO9bvQp20
投下終了です。


255 : ◆Imn1dqe1BA :2015/07/01(水) 22:02:42 E1CuhJoM0
投下します


256 : 衛宮士郎&アサシン ◆Imn1dqe1BA :2015/07/01(水) 22:03:41 E1CuhJoM0


不況によって閉鎖された工場の中で、一人の男が座り込んでいた。
男は深いため息を吐き、神に懺悔するように項垂れ両手を合わせた。

「大丈夫か、マスター」

男しかいなかった空間に声が響いた。
同時に剣を携え軽装鎧を纏った青年が現れた。

「ああ、少し寝付けないだけさ」

「なら良いが……あまり気に病むな。あれは仕方のないことだった」

軽装鎧の青年、セイバーは主の苦悩の原因が昨日倒した主従にあると知っていた。
人当りの良い、優しい性格のセイバーのマスターは突然巻き込まれた聖杯戦争に消極的だった。
セイバーを召喚してすぐできるなら誰も殺さず家族の元に帰りたいと打ち明けられたことを昨日のことのように覚えている。
しかし結果として男の願いは叶わなかった。昨日バーサーカーとそのマスターの襲撃に遭った折、正当防衛に近い形でセイバーが彼らを屠ったから。

「彼らは我々に敵対的だったし、第一討ったのは私だ。貴方は罪悪感を感じる必要などない」

「…そう思えれば楽になれるんだろうね。でも僕が君のマスターである以上間接殺人には違いない。
それに彼らも僕と同じように理不尽に巻き込まれただけだったんじゃないのか?
帰れるものなら帰りたいと、そう思っていたのかもしれない」

セイバーのマスターは数代前に魔術回路が絶えた家系の出だった。
偶然にもセイバーとの契約を機に閉じていた回路が開きそれなりに魔力供給を行えるようになったわけだが。
一般人同然に育った男は良き勤め人であり善き夫であり親孝行な息子であった。
当然そんな男に人殺しの経験などあるはずもなく、男の脳裏には死んでいったマスターの怨みの声が過っていた。

「きっと僕は良い死に方はできないだろうね」

「何を言っているんだ。貴方は妻子や両親の元へ帰るんだろう?
どうしても奪った命を気に病むというのなら、せめて彼らの分も幸福に生きるべきだ」

「…そう、だな。ありがとう、確かに僕は死ぬわけにはいかない。
それにどこかには手を取り合えるマスターもいるかもしれない。きっとまだ希望はあるはずだ」


257 : 衛宮士郎&アサシン ◆Imn1dqe1BA :2015/07/01(水) 22:04:35 E1CuhJoM0

「その意気だ。今日はしっかり休んでおいた方が良い。
人避けの結界を張ってあるから誰かに見咎められる心配はない」

セイバーは剣術のみならず魔術にも心得のあるサーヴァントだった。
これまでにも危うい状況を魔術で切り抜けたことが何度かあった。
男もセイバーを信頼しているためもう一度寝袋に入り眠りにつこうとしていた。
明日には当面の住居も確保できる算段だった。



――――――I am the born of my sword



そう、明日を迎えることができさえすれば。

「マスター!!!」

剣の英霊の卓越した聴覚が異常を察知した。
何かが飛来することを察知したセイバーは戦士の直感に従い有無を言わさずマスターを抱え駆けだした。
正確なところはわからない。だがここに留まるのは間違いなく命取りだ―――!

瞬間、工場の屋根が破られ白い爆光が二人を照らした。

セイバーは間一髪のところでマスターと共に全壊した工場から逃げ果せた。
だが無事とは言い難い。マスターは重度の火傷を負った上に建物の破片が身体のあちこちに刺さっている。
セイバーをしてもマスターを完全に守り通すことは敵わなかったのだ。
そしてセイバー自身今の一撃で鎧の半分が壊れマスター同様深い火傷を負っていた。

「今のは…アーチャーの狙撃か?だとすればここに留まるわけには……」

マスターは瀕死の重傷を負っている。すぐにも魔術で応急処置を施す必要があるがまずは狙撃されない場所へ行く必要がある。
そう思ったせいだろうか、近距離への警戒が僅かとはいえ薄れていたのは。

「葬る」

「何っ!?」

未だ立ち込める煙の中から黒い影が迫り、寸でのところで影の振るった凶刃を受け止めた。
明らかなマスター狙い、間違えようもないサーヴァントの気配はアサシン以外に有り得ない。
瞬間、セイバーの脳裏に浮かんだのは同盟の二文字。複数のマスターが共謀して自分たちに狙いを定めたのか?

「セイバーのサーヴァント…葬る」

「できると思うか?」


258 : 衛宮士郎&アサシン ◆Imn1dqe1BA :2015/07/01(水) 22:05:27 E1CuhJoM0

だが目の前のアサシンがセイバーの事情を汲むはずもなく日本刀で斬りかかってくる。
暗殺者であることが信じがたいほど卓越した剣技、剣速に次第にセイバーが押されていく。
それも当然、今のセイバーは万全からは程遠い。
昨日の戦闘での消耗に狙撃で受けた負傷が重なり十全の力を発揮することができない。
しかしセイバーには時間がない。今すぐ襲撃者を退けマスターを救助しなければならない。

「ならばっ……!」

セイバーは賭けに出た。敢えてアサシンの斬撃を身体で受け返す刀で打ち倒す。
肉を切らせて骨を断つ捨て身の策を成すため一気に踏み込みアサシンの斬撃を防がずさらに迫る。

「………あ?」

アサシンを斬り伏せようとした時、セイバーの霊核たる心臓が破壊され地に倒れ伏した。
何故?アサシンから受けた傷は決して致命傷の類ではなかったはずなのに。

(まさか……宝具………)

手遅れになってようやく解答に辿り着いた。
アサシンが持つ刀には何らかの極めて強力な概念が宿っていたのだ。
無念の言葉を口にすることすら許されず、セイバーは聖杯戦争の舞台から永遠に消え去った。



ず、ず、ず、という音を立てながら男は地べたを這いずっていた。
自分が最早助からないことを半ば以上確信しながら、それでも生きるために。
わかっていた。間接的であっても人を殺めた自分は必ず報いを受ける時が来るだろうことは。
それでも、まだ生きたい。死ぬわけには、いかない。

「帰ら、なきゃ……かえ………」

這いずる男の視界にぼんやりと人影が二人分映った。
ああ、間違いようもない。あの二人はずっと会いたかった――――――

「何だ…そこに、いたのか……」

そう言い残し、男は事切れた。
元の世界へ戻ることなく、死の間際にたった一つの安らぎだけを得て。



爆発によって倒壊した工場から三キロメートルほど離れた高層マンションの屋上に黒塗りの弓を持った少年がいた。
元は赤銅だったのだろう頭髪は所々白くなり、肌も部分的に褐色化しておりさらにオッドアイという奇異な容姿だった。

『士郎、標的は仕留めた』

「わかった、じゃあ警察やマスターが来る前にこっちに合流してくれ」


259 : 衛宮士郎&アサシン ◆Imn1dqe1BA :2015/07/01(水) 22:06:03 E1CuhJoM0

少年、衛宮士郎は首尾良くセイバーを討ち取ったアサシンのサーヴァント、アカメと念話で交信してから一息ついた。
これでまた一人、倒すべきマスターを葬ったことになる。



アサシンの偵察によってあの主従が人気のない工場跡を根城にしていることは事前に知っていた。
その好機を逃すことなく士郎とアサシンは奇襲を仕掛けることにした。
士郎が投影魔術によって生み出した宝具、偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)で狙撃、着弾と同時に壊れた幻想で爆破することで敵を炙り出す。
即座にアサシンが強襲し、必要があれば引き続き士郎が援護射撃を行うという手筈だった。
実際は第二射の必要もなくアサシンが敵を討ち取ってくれたが。

「あと何人殺せば聖杯に手が届く?あと何人殺せば…今度こそ美遊を救うことができる?」

自分が今こうしている間にも最愛の妹が世界を救済するための生贄にされようとしているかもしれない。
何度浮かんだか知れない焦りの念を深呼吸をして封殺した。

「……落ち着け、未熟者。俺が死んだら、誰が美遊を―――」

そうだ。失敗は決して許されない。
聖杯。生きた聖杯である妹とは違う別世界の聖杯。
その力を以ってすれば美遊を犠牲にせずとも世界を救うことができ、エインズワースも美遊から手を引くだろう。
そのためならこの身は何度でも悪を為そう。この世全ての悪を背負うことになったとしても―――構わない。

「士郎、また妹のことを考えていたのか?」

「アサシンか。…参ったな、すっかりお見通しか」

気づくと気配遮断を解いたアサシンがすぐ傍にいた。
彼女は願いがないそうだが、妹を救いたいという士郎の願いに共感を示してくれている。
こんな自分に一人でも味方してくれる者がいるなど何と贅沢なことか。

「大丈夫だ、士郎は私とは違う。お前はまだ間に合う」

アサシン、アカメにもクロメという妹がいた。
最愛の存在だった彼女はしかし、いつしか心を病み殺すことでしか救えない状態にまでなってしまった。
聖杯に願って人生をやり直そうとは思わない。
死んだ者は決して蘇らない、かつての選択をやり直すことはできない。それがアカメの考えだから。
だからこそ、今を生きる誰かを自分にできる方法で支えるのだ。

「そうだな。きっとまだ間に合う。今日はもう帰ろう」

二人は以前仕留めたマスターが戸籍を偽造して借りたアパートの一室を乗っ取る形で鎌倉に根を下ろしていた。
投影した刀剣や骨董品を質に出すことで当座の活動資金も確保してある。

「士郎、肉が食べたい」

「わかったわかった、帰ってからな」

最後に今も火の手が上がっている工場跡地を見やった。
自分が為したことを、これから先何があっても忘れないように。


260 : 衛宮士郎&アサシン ◆Imn1dqe1BA :2015/07/01(水) 22:07:01 E1CuhJoM0
【マスター】
衛宮士郎@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【マスターとしての願い】
あらゆる手段を尽くして聖杯を手に入れ、美遊を運命から救う

【参戦時期】
牢獄でイリヤと会話してから子ギルの手引きで脱出するまでの間

【weapon】
投影魔術によって生み出した武装の数々

【能力・技能】
経緯は不明ながらアーチャー(英霊エミヤ)のクラスカードの力を引き出しており、その真髄までも理解し使いこなしている。
クラスカードの影響か人間離れした身体能力を手に入れている。

【無限の剣製】
衛宮士郎の内にある錬鉄の固有結界。
結界内には、あらゆる「剣を形成する要素」が満たされており、目視した刀剣を結界内に登録し複製、荒野に突き立つ無数の剣の一振りとして貯蔵する。
ただし、複製品の能力は本来のものよりランクが一つ落ちる。
刀剣に宿る「使い手の経験・記憶」ごと解析・複製しているため、初見の武器を複製してもオリジナルの英霊ほどではないがある程度扱いこなせる。
士郎が扱う投影、強化といった魔術は全てこの固有結界から零れ落ちたものである。
アカメと契約しているため外部からのバックアップなしでは魔力不足で固有結界の起動、展開はできなくなっている。
また起動に必要な魔力があっても肉体のコンディションが極端に悪いと本人曰く「身体が先に音を上げてしまう」ためやはり起動できない。

【人物背景】
本作に登場するヒロインの一人、美遊・エーデルフェルトの兄であり衛宮士郎という人間の可能性の一つ。
彼の行動指針は「妹を守り、幸せにすること」。そのためなら自身の命はもとより世界の命運を切り捨てることすら厭わない自称「最低の悪」。



【クラス】
アサシン

【真名】
アカメ@アカメが斬る!

【属性】
混沌・善

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:A 魔力:D 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】

精神耐性:B
精神干渉に対する抵抗力。
同ランク以下の精神干渉効果を完全に無効化する。

心眼・真:B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。


261 : 衛宮士郎&アサシン ◆Imn1dqe1BA :2015/07/01(水) 22:07:42 E1CuhJoM0

【宝具】
『一斬必殺・村雨』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
日本刀型の帝具であり、この刀で傷をつけられると傷口から呪毒が入り込み、心臓に到達すると死亡する。
アカメが英霊となり信仰を集めたことにより生前よりも必殺性が向上しており、呪毒が心臓へ到達するまでの時間がより短くなっている。
また斬りつけた相手が持つ呪い・毒への耐性や戦闘続行に関係する能力をBランク分削減する。
心臓さえあれば人間外の生物であろうと確実に死に至らしめるが心臓の無い者、あっても機能していない者には効果がない。
また全身鎧や機械など身体に直接傷をつけられない場合も効果がなく、そういった相手には普通の刀として使う他ない。
ちなみにこの刀の必殺の概念は所有者に対しても有効となっており、生前のアカメは村雨の手入れに細心の注意を払っていた。
常時解放型宝具としては非常に強力な効果を持つがその分融通が利かず、敵との相性に左右されやすい。

『桐一文字』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
アカメが帝国の暗殺者であった頃に使用していた日本刀型の臣具。
この刀で斬りつけられた箇所は桐一文字を破壊するか所有者であるアカメを滅ぼさない限り治癒不能となる。
武器としての性能や宿す概念など多くの面で村雨に劣るが知名度でも劣っている。
そのため村雨を使う時よりもアカメの真名を特定されにくいというメリットもある。
また強敵に対し桐一文字で傷をつけ弱体化させてから村雨で止めを刺すという運用も可能。

【人物背景】
暗殺集団・ナイトレイドに所属する黒髪赤眼の少女。
肉好きの大食らいで、野生児がかったところがある。
寡黙かつ無表情なためにとっつきづらいが、感情の薄い立ち居振る舞いは上辺だけのものであり仲間への想いは非常に強い。
幼少期に妹のクロメとともに帝国に売られ、帝都の養成機関で暗殺者として育てられた。
帝都に言われるままに仕事をこなす暗殺者として暗躍していたが、仕事をこなすごとに帝国の闇を徐々に知っていき、やがて標的だったナジェンダに説得されて帝国を離反した。
クロメにも一緒に離反しようと声を掛けたが否定され、袂を分かつこととなる。
最愛の妹を救済(ころ)してやりたいと思っているが、実際は妹と戦うことに心を痛めている。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを叶える


262 : ◆Imn1dqe1BA :2015/07/01(水) 22:08:25 E1CuhJoM0
投下終了です


263 : ◆vpNfGNRa/c :2015/07/02(木) 01:34:42 3Jha0YI20
投下させていただきます


264 : ◆vpNfGNRa/c :2015/07/02(木) 01:35:54 3Jha0YI20




















現れろ、■■■■■。
満たされぬ魂を乗せた方舟よ、光届かぬ深淵より浮上せよ――――■■■■■召喚

■・■・■■■■■■■■■























265 : 如月&ランサー ◆vpNfGNRa/c :2015/07/02(木) 01:36:36 3Jha0YI20
潮の香り漂う七里ヶ浜、月夜を眺めてひとりたそがれる少女の姿があった。
手にはピーチの缶ジュース。甘ったるい風味が冷えた身体に心地いい。
ぷはあ。最後の一滴を飲み干すと、彼女はややわざとらしくそう締めくくる。
それは少女期の元気さの片鱗が窺える行動であったが……どこか、孤独を紛らわそうとしているようにも見える。

――駆逐艦『如月』がこの鎌倉を訪れてから、早一週間が経過した。
もう大分町の営みにも慣れ、今では顔馴染みのマスターがいる喫茶店さえ見つけている。
身分がないこととロクな手持ちもないことには面食らったが、なりふり構わなければ然程難しいことではない。
如月が取った行動は、それを「後ろめたいこと」として考えない……というものだった。
戸籍がない。身分がない。手持ちもなければ、家や職もない。
そんな自らの境遇を、少しでも親しくなった相手にはオープンに公開していったのだ。

まだ十代そこそこの少女が背負うには、あまりにも不釣り合いな境遇。
ひけらかしにするつもりはないが、それなりに上等な方へ部類されるだろう容姿。
当然良からぬことを考える者もいるかもしれない。しかしそれ以上に、同情する人間の方が多い。
少なくとも彼女の場合は、そうだった。
最初に打ち明けた――ちょうど、ここで出会った――釣り人の男は、如月に同情して少しばかりの施しをくれた。
受け取るのに躊躇はしたが、如何せん死活問題だ。その場はありがたく受け取ることにした彼女は、その出来事をきっかけに、この鎌倉聖杯戦争を生き抜くコツを見出すことになる。

別に物乞いをするわけじゃない。
ただ、人脈を作る。
自然を装って接触し、仲良くなり、信頼されれば、自然とその行いは自分にとってプラスに働いてくれた。
買いすぎた食べ物を分けてくれる人もあったし、近くの公園の管理者は園内にある小屋の中で夜を明かすことを黙認してくれるようになった。そして、顔見知りの住人が経営する飲食店で雇ってもらうこともできた。今は散歩の名目で外出しているが、普段はそこの従業員の親類が持つアパートの空き室を借りて暮らしている。

この通り―――今や如月は、完全にこの鎌倉に、自分にとっての「別世界」に適応を果たしていた。

「でも、ここは如月の居場所じゃないのよね……」

それでも、ここは自分のいるべき世界じゃない。
深海棲艦がおらず、したがって鎮守府も、艦娘も存在しない平和な世界。
そんな世界の海は、昼夜を問わず静かな安らぎに満ちていた。
静かな海を願った少女たち、艦娘。彼女たちがそもそも存在しない世界に、その求めたものがあるだなんて……まったく、趣味の悪い皮肉としか言いようがないだろう。
如月だって、出来ることならこの世界に留まりたい。
聖杯戦争も何もかも放り出して、ただのんびりと平和を謳歌していたい。

しかし。それをしてしまえば、一生彼女たちには会えないのだ。


駆逐艦如月――W島攻略作戦にて轟沈。


それが、彼女の体感時間でちょうど一週間ほど前の出来事。
如月が鎌倉へ辿り着く前に辿った末路だった。
頭上に感じた激しい熱と衝撃に声をあげる間もなく、気付けば彼女は海の底へと沈んでいた。
その時彼女の胸中にあったのは、今際の際とは思えないほど落ち着いた、二度目の生への別れの念。
そして、許されるなら大切な友人ともっと言葉を交わしておきたかった―――ただそれだけの小さな願いだった。

「睦月ちゃんに、会いたい」

反芻する。
それは、負けて死んだ船には許されない願い。
ありえるはずのない、三度目の奇跡でも起きない限り、絶対に叶うことのない願望だ。
しかし、ここにはいずれ奇跡が降りる。それに頼れば、願いは叶えられるはず。


266 : 如月&ランサー ◆vpNfGNRa/c :2015/07/02(木) 01:37:00 3Jha0YI20

「だから、如月と一緒に来てくれるかしら。――ランサー。いえ」

その時。
彼女の声に呼応するように、海の底から浮上してくるモノがある。
それは、方舟。静寂の底から浮かび上がり、立ち塞ぐ敵を滅殺する水の騎士だった。
駆逐艦娘の如月の元に、この方舟(サーヴァント)が召喚されたのは……あるいは必然の因果だったのかもしれない。

 アーク ナイト
「Ark Knight」

S・H・Ark Knight(サイレント・オナーズ・アークナイト)。
それが、如月の召喚に応えたランサーのサーヴァント。
しかしだ。この英霊、聖杯戦争のセオリーで考えるとあまりに異質と言う他ない。
Ark Knightは、本来ある使い手が所持していた宝具(カード)の一枚だ。
混沌より生まれし、百一番目の「オーバーハンドレッド・ナンバーズ」……そもそも、英霊としてこんなものが召喚されたという時点で前代未聞だろう。まして、彼は現時点ではランサーの象徴である槍さえ持っていないときた。

それでも、このモンスターは槍兵である。
混沌の力から生み出された騎士。それが、Ark Knight。
艦船が転生を果たし、生まれ変わった少女たちに「改二」という可能性(さき)があるように。
オーバーハンドレッド・ナンバーズにも先がある。
カオス・エクシーズ・チェンジ―――混沌の数字という先が。

「どうか、如月に未来をください」

懇願する声に応えるように、Ark Knightの船体が一度だけ、淡く発光した。


【クラス】ランサー
【真名】No.101 S・H・Ark Knight
【属性】混沌・中庸

【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:D 魔力:A 幸運:B 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【保有スキル】
エクシーズモンスター:A
 ランサーは「レベル」という概念を持たない。
 そのため、一定以下の威力の攻撃を無力化する、といった能力や宝具を無効化出来る。

戦闘続行:A+
 自らのエクシーズ素材と引き換えに、死(破壊)を免れる。
 霊核が破壊された後でも生存可能。但し、その状態では一部宝具が使用不可能になる。(後述)


267 : 如月&ランサー ◆vpNfGNRa/c :2015/07/02(木) 01:37:27 3Jha0YI20

【宝具】
『永遠なる魂の救済(エターナル・ソウル・アサイラム)』
ランク:B 種別:対人 レンジ:1~20 最大補足:1人
ランサーというモンスターが保有する、固有能力が宝具になったもの。
「召喚された存在」に対しのみ作用する宝具で、対象を自身の内部へ取り込み、「オーバーレイユニット」に変換することができる。ただし同じサーヴァント相手に決めようとするなら対象が余程衰弱していない限りは、不可能。より正確に言えば不可能ではないが、マスターの如月の魔力量ではそこまでの出力を期待できない。
一方でサーヴァントよりも格下の使い魔や召喚物に対しては特効の効き目を発揮する。
宝具の使用の際にはランサーが持つオーバーレイユニットを一つ取り除く必要があり、そのため前述の戦闘続行スキルが発動すれば、オーバーレイユニットが存在しなくなってしまうためこの宝具は使用できなくなる。

『浄滅の洪水(ミリオン・ファントム・フラッド)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大補足:15人
方舟の全砲門より砲撃を行い、寄せ来る敵を殲滅する。
これ自体にそれ以上の特別な効果はなく、宝具としては実にシンプルなものとなっている。

『混沌昇華せし七皇の魔剣(カオス・エクシーズ・チェンジ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
方舟の姿で行動し、ランサーの象徴である槍すら持たないこのサーヴァントを次の領域へ進化させる宝具。
Ark Knight自身でオーバーレイ・ネットワークを構築し、新たなるサーヴァントをエクシーズ召喚する。
この宝具は普段、一枚のカードとしてマスターの手に渡っている。
なので実質、ランクアップの指示を出すのはマスターとなる。

【weapon】



以下、『混沌昇華せし七皇の魔剣』使用後。
真名やステータスが変化し、負っていたダメージもリセットとなる。

【クラス】ランサー
【真名】CNo.101 S・H・Dark Knight
【属性】混沌・中庸

【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:D 魔力:A 幸運:B 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
エクシーズモンスター:A
 ランサーは「レベル」という概念を持たない。
 そのため、一定以下の威力の攻撃を無力化する、といった能力や宝具を無効化出来る。

戦闘続行:EX
 消滅級のダメージを負っても、自らのオーバーレイ・ユニットを全て取り除くことで再び蘇る。
 条件付きでこそあるものの、継戦能力としては間違いなく最高峰のそれ。


268 : 如月&ランサー ◆vpNfGNRa/c :2015/07/02(木) 01:37:57 3Jha0YI20

【宝具】
『暗黒へ還る魂魄(ダーク・ソウル・ローバー)』
ランク:A 種別:対人 レンジ:1~20 最大補足:1人
ランサーというモンスターが保有する、固有能力が宝具になったもの。
「召喚された存在」に対しのみ作用する宝具で、対象を自身の内部へ取り込み、「オーバーレイユニット」に変換することができる。カオスの力を得て強化されたランサーの力ならば、サーヴァントをも吸収対象として扱うことさえ容易。
無論英霊を吸おうと思えばマスターの如月に生じる負担は大きいが、以前に比べれば格段にマシになっている。
サーヴァント以外の召喚物が相手であれば、同ランクの相手だろうと吸収可能。

『辺獄よりの再臨(リターン・フロム・リンボ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
規格外の戦闘続行スキルによって死の淵から蘇った際に自動発動する。
マスターの如月の魔力及び体力を最大の約三分の一ほど回復させる。

【weapon】
槍(トライデント)。

(ここから共通)

【人物背景】
バリアン七皇のリーダー、ナッシュが使用するオーバーハンドレッド・ナンバーズ。
混沌の力を用いることでカオス・オーバーハンドレッド・ナンバーズへ昇華(ランクアップ)することができる。
幾度となく復活する蘇生効果から、「朽ちることを知らぬ漆黒の槍術師」と呼ばれた。
普段は元となった「No.101 S・H・Ark Knight」/「CNo.101 S・H・Dark Knight」のカードの中に封印されている。

【サーヴァントの願い】
願いは持たない。
ただ、使われるのみ。

【基本戦術、方針、運用法】
とにかくしぶとい。ステータスはそれなりでも戦闘続行とランクアップで相当粘り強く戦える。
ただしどちらの形態でも言葉を交わして意思疎通することができないのがネック。


【マスター】
如月@艦隊これくしょん(アニメ版)
【マスターとしての願い】
生きて、もう一度帰る

【能力・技能】 
12cm単装砲を装備。しかし威力は本来に比べてだいぶ抑えられている。

【人物背景】
睦月型2番艦。W島攻略作戦にて艦載機の爆撃を受け轟沈する。
その今際の際に抱いた生への渇望が、彼女を鎌倉の地へと迷い込ませた。

【方針】
やれるだけはやってみる


269 : ◆vpNfGNRa/c :2015/07/02(木) 01:38:17 3Jha0YI20
以上で投下終了です。


270 : ◆vpNfGNRa/c :2015/07/02(木) 01:47:02 3Jha0YI20
失礼、出展を書き忘れていました
正しくはS・H・Ark Knight@遊戯王ZEXAL になります


271 : 名無しさん :2015/07/03(金) 00:23:40 gizLOYUA0
まさかの組み合わせ
ナッシュ提督がこんな形で叶うとは


272 : ◆7DVSWG.5BE :2015/07/03(金) 20:07:17 D6XQAr6E0
投下します


273 : 大萩牡丹&キャスター ◆7DVSWG.5BE :2015/07/03(金) 20:10:51 D6XQAr6E0

海から吹き抜ける風が少女のその黒い髪をなびかせ、風が運ぶ潮のにおいが彼女の嗅覚を刺激する。

彼女の名は大萩牡丹。
萩月流古武術の後継者であり、身体能力など色々と人間離れしている点が多々あるがそれ以外はごく普通の女子高生である。

牡丹が住んでいた土地では嗅ぐことのない海の匂い。
その匂いに心地よさを覚えながらコンクリートの階段を一歩ずつ歩んでいく。
階段の両脇には紫陽花が色鮮やかに咲いており見るものの目を奪うだろう。

階段を登り切り頂上に着くと彼女はいつも後ろを振り返る。
その目には由比ヶ浜と鎌倉の街並みが飛び込んでくる。
さらに今日は雲一つ無い晴天でその水色がその風景に鮮やかな彩りを加える。
この景色は絶景と呼んでも差し支えないだろう。
牡丹はこの風景が好きだった。
現にこの鎌倉に来た観光客はこの景色を見る為にここに足を運ぶものは少なくない。

ケイタイで写真を撮って友人に見せようかと思ったがそれは止めることにした。
この景色の良さは写真では伝わらない。
海の匂い、風の心地よさ、五感を使ってこの景色を楽しむべきだ。

桜とクレアと鎌倉に来たときは鶴岡八幡宮でリスと戯れたがここにも行っておけば良かったな。
今度は夏希と花梨を連れて鎌倉に行くときはここに連れて行くか。

そんな未来の予定を考えながら階段を登った先にある寺の山門を潜っていく。

観光客は中にある宝物館などを見学するために寺に訪れるが彼女はある場所に向かう為にそれらに目をくれず境内を抜け奥にある雑木林に向かっていく。
奥に向かっていくつれジメジメと湿った空気と鼻がねじ曲がるような異臭が漂う。
まるで魔界の瘴気のようだ。
今まで普通に見えた木々でさえこの瘴気に当てられて化け物に変化して自分を襲ってくるのではとさえ想像してしまう。
何度か訪れたが相変わらずこの湿気と異臭は慣れることは無い。
先ほど絶景を見た時に感じた爽やかで晴れやかな気分はとっくに失せていた。

そして暫く歩くと目的地にたどり着く。
そこには池があった。
ただ普通の池とは明らかに異質だった。
鼻がもげるような異臭を発し、水の色は深緑と呼べるような緑色。
匂いといい水の色といい明らかに自然発生した池ではないことは誰もが思うだろう。
さらに池の中心部には箒が浮遊しそれを椅子替わりに座っている女性がいた。
空飛ぶ箒に跨り、つばが広いとんがり帽子を被るその姿はまさしく魔女だった。

「おいキャスター、買ってきたぞ」
「遅いぞ牡丹。早く頼んでおいた品物を渡せ。本はそこらへんに置いておけよ」

キャスターは牡丹に労いの言葉を一つかけず品物を渡すように要求する。
キャスターに命令された牡丹は使い走りにされこの悪臭漂う場所に呼ばれたことに気が立っていたのか乱雑に注文された品を投げるがキャスターは難なく受け止める。

「いい加減、私をパシリにするのは止めろ。それに何故私がこんなヘドロみたいな場所まで行かなければならん。この匂いを嗅いでいると鼻が曲がる」
「キヒヒヒ、誰のおかげで衣食住が足りた生活ができていると思っている。
ワタシが力を貸さなければお前はこの地で浮浪者同然の暮らしをしなければならなかったんだぞ。
むしろ自分から率先して小間使いとして働くべきだ」

魔女は人を小バカにするような笑みを浮かべながら牡丹の要望を拒否。
そして渡されたものを手に取り口の中に運んだ。

「それにこれはヘドロじゃなくて沼だ。うん、これも結構美味いな。後でもっと買ってこい牡丹」
一方牡丹は悪臭漂うこの劣悪な場所で自分が買ってきた食べ物を平然と美味しそうに食べる姿に思わず顔を引き攣らせる。

「よくそんなゲロ以下の匂いがプンプンする場所で菓子を食えるな?」
「お前にはこのかぐわしき沼の匂いがわからないのか?」
「いや、誰も分からないから」

この沼の匂いを好むキャスターの感覚は理解できない。
それにまだまだ知らないことが多すぎる。
だがキャスターを信頼し、命を預けなければければ目的は達成できない。

自分の決意を改めながら、初めてキャスターと会った時のことを思い出していた。


274 : 大萩牡丹&キャスター ◆7DVSWG.5BE :2015/07/03(金) 20:13:47 D6XQAr6E0

 ◆  ◇  ◆  ◇


(ここはどこだ!?)

いつも通り部活動をして、いつも通り家に帰って、いつも通り寝床につく。
そして目が覚めたら真夜中の境内に佇んでいた。
牡丹はこの状況を全く理解できずの脳内は疑問符で埋め尽くされていた。
そんな混乱状況の中で見知らぬ声が響き渡る。

「キヒヒヒ。何アホ面丸出しで呆けている」

声を聞こえたと思ったら目の前に緑色の大量の蝶が現われた。
その鮮やかなエメラルドグリーンに思わず目を奪われてしまう
エメラルドグリーンが視界を覆うが一瞬で消えてしまう。
蝶が消えた代わりに現れたのは一人の魔女だった。

「ワタシがキャスターのクラスで召喚された大魔女メタリカ様だ!」
「……」
「どうした?ワタシの偉大さに声も出せないか?」
「誰に声をかけているかは知らんが人違いじゃないのか?
私の知り合いに自分を大魔女と名乗るアタマが弱い知り合いはいなから」
「な!アタマが弱いだと!」

ただでさえ混乱しているのに自分は魔女と名乗るアタマが弱そうな女に絡まれるのはメンドクサイ。
こういう輩に関わるとろくなことにならないと牡丹は足早にメタリカから離れるために歩き出す。
しかしその歩みは目前に現れた一筋の閃光により止められる。
足元には焼け焦げた紙切れがあった。

「キヒヒヒ、今のはワタシの魔法だ。これでお前の程度の低い脳みそでもワタシが魔女と理解できたか」

確かに雷のようなもので足元にあった紙切れを燃やすなど牡丹が住む世界の通常の人間では不可能だ。
だが牡丹はそのような超常の技を使える人物を知っているので特に驚きもしないし、
メタリカを魔女などいうファンタジーな存在とも信じていなかった。

「今のは雷か何かか?そんな自然現象を魔法と自慢されてもな。
その手品を魔法というなら私でもその程度できるぞ。なんなら今からそこにある空き缶を私の風魔法で切断してやる」

いきなり現われて魔女など何だの抜かして程度の低い脳みそと罵られる。
このまま無視してメタリカから離れることはできるが低能と罵られて引き下がるわけにはいかない。
少し自分の技を見せてメタリカの驚き顔を見て溜飲を下げてからメタリカから離れることに決めた。
今から見せる技は本来なら萩月流古武術の技で門外不出だが初見で理解できるものでもなく、理解できてもできる技でもないので問題ない。

「魔力もないお前が魔法を使える?ならやってみろ。
だができなかったらさっきの魔法をお前に当ててやる」

メタリカの見立てでは牡丹からは魔力は感じられない。
術としては低級といえど自分の魔法を手品呼ばわりしたのは赦せない。
これは自分をコケにしたと同じ事。
殺すつもりはないが軽く痛めつけるつもりだった。

牡丹は足元にある空き缶を拾い上げ放り投げる。
天高く放り投げられた空き缶は数秒経ってから落下し牡丹の位置から前方五メートル先に落ちようとしていた。
牡丹の目線の高さに空き缶が来た刹那、手刀を水平に振りぬく。
すると一個であった空き缶は二個になり地面に落ちる。

「これが私の風魔法だ」
「いや、魔法じゃなくて物理だろ」

手刀が届かない位置で空き缶を両断したことからメタリカも一瞬魔法を使ったと思ったがすぐに違うと理解できた。
腕を超高速で振りぬいて真空状態を作りだして切断する。
それは魔法でもなんでもない物理現象。
だが生身でかまいたち現象を発生させることができる人物は自分が住む世界にはいなかったので多少は感心していた。

「だが中々の手品だったな。魔法を当てるのは勘弁してやる、キヒヒヒ」
「それはどうも」
「ところでお前、身体のどこかに痣がないか」

あまり驚いておらずあてがはずれたがそれはもうどうでもよい。
メタリカのことなど無視をしてこの場から立ち去ろうとしたが何となく痣を探してみることにした。
すると右の手のひらに牡丹の花弁のような痣を発見する。

「あるということはやはり聖杯戦争の参加者でお前がワタシを呼んだということか」
「聖杯戦争?呼んだ?この痣といい何か知っているのか?」

突如として真夜中の境内にいて、大魔女と名乗る女性に絡まれて、右手には今までなかった謎の痣ができている。
次々とおこる不可解な出来事をこの魔女は知っているのではと牡丹は漠然と感じ取っていた。

「どうやら何一つ知らないらしいな。いいだろ聖杯戦争について教えてやる」


275 : 大萩牡丹&キャスター ◆7DVSWG.5BE :2015/07/03(金) 20:19:08 D6XQAr6E0


 ◆  ◇  ◆  ◇

「つまりえ〜っとメタネタは本当の魔女ということか」
「メタネタじゃない!メ・タ・リ・カだ!」

牡丹はメタリカから聖杯戦争について大雑把な説明を受ける。
とりあえず自分が理解していることを確認する。
メタリカは牡丹が住む世界とは別の世界の住人。
そして魔女であり、今はキャスターのサーヴァントとして自分とペアを組むことになった。
そしてここは自分が知る鎌倉ではなく、別世界の鎌倉で超常の存在のサーヴァントが戦い合う。
最後に勝ち残った組は聖杯により願いが叶う。

――まるで少年漫画だ―――

「キヒヒヒ、理解できたか?」
「何となくな。それでサーヴァントがやられたマスターはどうなるんだ?」
「そのマスターは自分の世界に帰れる」

帰ることができる。
それを聞いて牡丹は胸をなで下ろす。
正直この少年漫画のような出来事に巻き込まれてワクワクしている気持ちもある。
だがメタリカのような存在が戦い合うということはマスターである自分も無事ではすまないかもしれない。
それは御免被る。
聖杯にかける願いはないのでさっさと負けても自分の世界に帰れればいいとさえ思っていた。
だがメタリカの一言でその考えは打ち砕かれる。

「なんて思うなよ!仮にワタシがやられればお前も道ずれで死ぬかもな。
まあ良くてこの世界に永遠に留まれるかもしれんが、元の世界に帰れるなんて期待するなよ。キヒヒヒ」

牡丹はこの言葉を聞いて自分の世界が崩壊するような錯覚に陥る。
自分が感じていた高揚感は粉々に砕け散る。
否定したい!嘘だと信じたい!
だがメタリカが嘘をついているとはとても思えない。
これは現実。自分はあの皆の元へ帰れない。

それに気づいた時頬が涙で濡れていた。

「あれ?何で泣いているんだ?」

涙を止めようにも自分の意志に反して涙は流れ続ける。

「キヒヒヒ、怖くなったかお嬢ちゃん?」
「ああ、桜、クレア、花梨、夏希にもう会えないと考えたら怖くてたまらない……」

高校に入るまで自分は一人だった。
孤独だった。
私がいるだけで他人は恐れる。
それが萩月流の宿命。
そう言い聞かせながらも孤独はつらかった。

だが帰宅部のメンバーは自分の人生に光を与えてくれた。
彼女たちと過ごす日々はとても楽しかった。
くだらないことで笑い合い、帰り道に買い食いをする。
何気ない日常が自分にとっては一つ一つ宝物だった。
その宝物が消え去ってしまう。

今までは皆と二度と会えなくなることは考えたこともなかった。
今日別れても明日にはいつもの部室に皆がいる。
会おうと思えばいつでも会える。
それが当たり前だと思っていた。

だが今は違う。
ここには帰宅部の皆はいない。
会おうと思っても会うことはできない。
そして自分達が負ければ二度と会えなくなる。
それが何よりも恐ろしい。

「その桜とかクレアというのはお前の何なんだ?」
「友達だ……」
「友達か」

メタリカは涙を流す牡丹を眺めながら牡丹の心中を考えていた。
あれは自分が死ぬことより、友達と二度と会えないことに恐怖している。
よほど大事な友達なのだろう。
かつての自分なら牡丹が何故泣いているかもわからなかっただろう。
でも今なら分かる。
友人の大切さも友人と二度と会えなくなる恐怖も悲しみも。


「なあメタリカ、聖杯は何でも願いが叶えられるんだよな」
「まあ、そうだな」

暫くの間涙を流した後、牡丹は涙を拭きメタリカに問いかける。
その目は力強く、先ほど涙を流していた人物とは思えないほどだ。

「私は聖杯を使って元の世界に帰って皆と過ごす。だから力を貸してくれ」

自分には不老不死や世界征服などという大層な願いはない。
帰宅部の皆と過ごす日々さえあれば十分だった。
だが聖杯戦争がその日々を奪おうとしている。
それならば聖杯を使って奪い返すまで。


276 : 大萩牡丹&キャスター ◆7DVSWG.5BE :2015/07/03(金) 20:20:21 D6XQAr6E0


「……まあいいだろう」
「本当か?」
「他のサーヴァントに聖杯を奪われるのは癪だ。それにワタシも願いがあるからな」

メタリカは召喚された時点では聖杯戦争に対するやる気はそこまでなかった。
マスターの為に戦おうなどは微塵も思っておらず、テキトウにこの街での生活を楽しむつもりでいた。
だが牡丹が友達の元へ帰りたいという願いを聞き考えが変わる。
少しぐらいは牡丹のために聖杯を手に入れてやってもいいという思いが芽生えていた。
そして牡丹を見て自分にもある願いがあることに気付く。

メタリカには一人の友人がいた。
最初は友人とは思わずただのうっとおしい存在だった。
だがそいつは自分が嘆き悲しんでいる時自分の為に怒ってくれた。
それが嬉しかった。
そいつが居ると自分をさらけ出せる。
そいつは自分を沼の魔女ではなくメタリカとして接してくれる。
それが心地よかった。
ある日そいつは死んだ。
二度とそいつと一緒に共に過ごすことができなくなった。
それがツラかった。
だから生き返らせることにした。
そして自分の命と引き換えに生き返った。
自分の行動に一切の後悔はない。
だがもっと遊びたかった。二人で色々なことをしたかった。
メタリカの願いそれは。

―――生き返ってビスコに会いたい、ビスコと一緒に遊びたい―――――

 ◆  ◇  ◆  ◇

その後メタリカはスキル『魔女制圧』を用いてとある旅館の従業員を全員服従。
その旅館の従業員に牡丹の衣食住の世話と金を自由に使えさせるように命令。
そしてメタリカは初めて出会った境内の近くにある雑木林に拠点を構える。

メタリカのおかげで見知らぬ土地で生活できている。
牡丹はそのことには感謝している。だが

(何だ。この扱いは!)

あれを買ってこい、これを買ってこいと文字通り小間使いのように働かされる。
これではサーヴァントとマスターの関係が完全に真逆だ。
さらに自分の魔力を目いっぱい吸い取られヘトヘトにされ、回復したらまだギリギリまで吸い取られるを繰り返していた。

本来ならとっくにブチ切れているがこれも聖杯を取るために必要な行動だと言われたので何とか怒りを抑え込む。

「キャスター、陣地の作成具合はどんな感じだ?」
「まあ順調だ。この街の三分の一ぐらいには沼が広まっている」

メタリカは沼の近くでは無ければ十全の力を発揮できない。
何より陣地で敵を待ち構えて迎撃するのは性に合わない。
そこで自分から敵を攻撃できるように宝具『愛しき我が故郷』を発動させ、それを下水道に流しこみ鎌倉の町中に沼を張り巡らしていた。
これでメタリカはある程度の広い範囲で十全の力を発揮できるようになっていた。


「全部じゃないのか?私の魔力をガンガン吸い取ってその程度か」
「キヒヒヒ、言うじゃないか。だがお前に魔力が備わっていればもっと沼は広げられる。
文句を言いたいのはこっちだ」

自分がサーヴァントという超常の存在であるにもかかわらず言いたいことをズバズバと言いやがる。
だがこの歯にも着せぬ物言いは嫌いじゃない。

「だがこれである程度戦える。覚悟はできているか牡丹?」

メタリカの言葉の真意はすぐに分った。
戦いが始まる。自分の願いの為に他の参加者を殺す覚悟があるのかと問うているのだろう。
仮に自分がやらなくてもメタリカが他のサーヴァントを倒してもそのマスターは消える。
だがそれは自分が殺したと同じ。
本気で止める気があれば令呪を使えばいい。
だが令呪を使う気はない。
自分のように願いもなく巻き込まれたマスターもいるかもしれない。
だがそんなマスターを犠牲にしても皆がいる世界に帰りたい!

「ああ、出来ている」


277 : 大萩牡丹&キャスター ◆7DVSWG.5BE :2015/07/03(金) 20:27:15 D6XQAr6E0
【クラス】
キャスター

【真名】
メタリカ@魔女と百騎兵

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具C

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
沼地作成 B
陣地作成が変化したもの。
宝具『愛しき我が故郷』を用いて自分に有利な沼地を広げていく

道具作成 A
魔力を消費してマジック相手イムを作成できる。
生前は奇跡の霊薬エリクシールを作り上げることができた

【保有スキル】
不死:C
メタリカはエリクシールを飲んだことにより不死の身体になる。
ただ復活の際には膨大な魔力を消費することになるので魔力が尽きれば復活できない。

沼の呪縛:A
バッドスキル。
沼が近くになければ一時間程度しか現体化できず、スタータスも全て2ランク下がる。
マジックアイテムで沼が近くに無くとも一時間以上の現体化は可能だがステータスは全て1ランク下がる

魔女制圧:C
人が住む住居に無理矢理侵入し住民に絶対服従を強要させるスキル。
服従させた人物が提供される食事をメタリカ及びそのマスターが摂取すると通常の食事摂取より多くの魔力回復が望める
 
【宝具】

『愛しき我が故郷(ニブルヘンネの沼)』

ランク:C 種別:対陣地宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:1〜1000

メタリカが住んでいたニブルヘンネの沼を再現する宝具。
魔力を消費して沼を作成する。
この沼は耐性が無いものが触れば体が溶ける。
また匂いを嗅いだだけでも体調不良をおこす危険な毒性を持っている。
この沼は自在に操ることができ攻撃に用いることもできる。

なおこのメタリカは沼の近くにいると魔力が回復していきメタリカが魔力を消費すればその分だけ沼は干上がる

『愛しき我が下僕(百騎兵)』

ランクC 種別対人宝具 レンジ1〜10 最大補足 1

生前沼を世界中に広げるという目的の為。大帝召喚の儀で召喚した魔法生物「百騎兵」
その百騎兵を宝具として呼び出すことができる
言葉はしゃべれないが身振り手振りで意思表示できる知能は持っている。
剣、槍、鈍槌、槍鎌、燭台の五種類の武器を駆使して闘う。

百騎兵は以下のステータスを持つ。
ステータス
筋力C(B) 耐久C(B)  敏捷C(B)  魔力C(B)  幸運D

《保有スキル》

体力回復:B
傷を受けてもメタリカの魔力を使って傷を修復することができる。

カオスリバレーション:C
幸福以外のステータスを一段階上げることが可能。
しかしメタリカの魔力が多大に消費し長時間使うことは難しい。


278 : 大萩牡丹&キャスター ◆7DVSWG.5BE :2015/07/03(金) 20:28:07 D6XQAr6E0
戦術トーチカ:C
以下の戦術トーチカを使用できる

8系チクボム 
爆弾型のトーチカで同時召喚1基まで。

10系ディアロ―  
弓矢型のトーチカ、同時召喚3基。
斬撃属性の遠距離攻撃、ロックオンすることで対象に向かって誘導できる。

16系デコイモ
囮型のトーチカ、同時召喚2基まで。近くにいる敵をひきつける効果。ダメージをある程度受けるか、時間経過で消滅

26系キャプテル
捕縛消滅型のトーチカ、同時召喚1基。弱った敵を捕獲する

42系プロテム
支援型トーチカ。百騎兵のステータスを上げる。同時召喚2基による効果重複可能。

1系チビヘイ
自立戦闘型のトーチカ、同時召喚8基。
召喚後、自動的に戦闘を行う自立型の戦闘トーチカ。百騎兵の移動に追従してくる。

72系ウィクック
偵察斥候型のトーチカ、同時召喚1基。
百騎兵の目となり、偵察を行うことが可能。ただし、百騎兵本体は召喚した場所に残るので注意が必要。

42系キャセリオ
戦闘砦型のトーチカ、同時召喚2基。
自動で遠距離攻撃を行う大型固定砲台。攻撃属性は魔撃。威力はさほど高くない

捕食:C
生物を捕食する。
捕食した生物に応じて魔力が回復する。
相手が弱っていないと捕食不可能

【Weapon】
箒(移動用)

【人物背景】
ニブルヘンネの沼に住む沼の魔女。
百騎兵を召喚し世界を沼で満たしそうと邁進する。
性格は傍若無人。自分に敵対する者は容赦しない。
名前を間違われるのは大嫌い
魔力の源であるマナを操る術に長けており、強大な魔力を自在に操る能力は他の魔女の追随を許さない。
外見こそ少女だが年齢は113歳以上。
だがその実、沼に籠りきりで外の世界の知識は本から得た為見た目や言動に反して性格は幼い。
甘いものは好きだが、辛いものや苦いものを嫌う

【サーヴァントとしての願い】
聖杯の力で生き返りビスコと遊ぶ

【基本戦術、方針、運用法】
魔術を使うにも百騎兵を使うにも魔力が無ければ始まらない。魔力確保が急務
沼の量が増えればメタリカの魔力総量も増えるのでガンガン沼を作るべし。

メタリカは沼の近くにいるだけで魔力は回復し、スキル『魔女制圧』の効果によって牡丹の魔力回復は速まるのでそれなりのペースで沼は作れるだろう。

メタリカは典型的なキャスターなので対魔力を持っているサーヴァントには歯が立たないので百騎兵に相手してもらおう。
百騎兵にサーヴァントを相手させ、メタリカはマスターと戦うのがベスト。

【マスター】
大萩牡丹@帰宅部活動記録

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る

【weapon】
無し

【能力・技能】

萩月流古武術の継承者
萩月流古武術とは世界と一つになり、その流れを操る技術
精神の強さが強さに密接される。

ホッキョクグマを素手で倒した。
幼少期にスナイパーから狙撃を受けて弾丸を肋骨で弾き返し無傷など逸話は数知れない

【人物背景】
帰宅部に所属している高校二年生。
萩月流古武術継承者であり、その強さは人間離れしている。
重度のゲーマーであり、驚異的な身体能力を持つ牡丹の反応にコントローラーがついていかず数か月ごとに買い替えている。

帰宅部に入る前は無意識に殺気を垂れ流し周囲の人間が委縮し友達が作れなかった。


279 : ◆7DVSWG.5BE :2015/07/03(金) 20:29:11 D6XQAr6E0
以上で投下は終了です


280 : ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/04(土) 15:00:55 5w3y5vac0
 皆さん投下乙です。自分も投下させて下さい


281 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&アーチャー ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/04(土) 15:01:40 5w3y5vac0
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが最初に感じたのは、凍えるような寒さだった。
 それはまるで、いつかの冬の日のようで、しかし決して似つかない。
 
「バーサーカー」

 親愛を込めて呼ぶ声に、応えるモノは何一つとしてなかった。
 ゴミ溜めもかくやといった様相を呈した薄暗い裏路地の中で、白い少女は地を這う。
 触れ合いを求めるように、か細い手が虚空へ伸ばされ――何を掴むこともできないまま、空を切った。
 それで、聡明な彼女は理解してしまう。同時に、思い出してしまう。
 
「そう」

 神話すら殺す宝物庫を持った、黄金のサーヴァント。
 釣瓶撃ちの要領で吐き出される剣を、槍を、杖を、弾を前に、イリヤスフィールの英雄は宝具(試練)を失った。
 やがて走った鎖は彼の身体を縛り上げ、……そこからは、思い出したくもない。

「――死んじゃったのね。私も、あなたも」

 そう言って、彼女の伸ばした手は地に落ちる。
 ここは何処なのだろう。新しい聖杯戦争の舞台、確か名前は……カマクラ、だったっけ。
 冬木の街とは、どんな風に違うんだろう。
 確かめたい思いに駆られるイリヤスフィールだったが、それは叶わない願いだった。
 今の時刻は午後七時を少し回ったところ、日が長くなってきたとはいえ、日が沈み始める時間帯だ。
 しかし、イリヤスフィールには昼夜の区別さえ付いてはいなかった。それどころか、季節も。
 永久的に日陰となっている路地裏の体感温度は夏とは思えないほど低く、彼女は冬とすら誤認していた。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの両目は――――閉ざされたままだ。

「さむい、さむいよ、バーサーカー」

 元の世界……冬木市の聖杯戦争で戦死したイリヤスフィールは、両目を潰されている。
 新たな聖杯戦争に招かれる際、彼女の傷はもちろん癒えているはずだったが、その視力は戻らないままだった。
 死の後遺症、聖杯の不具合、それとも彼女自身の心の問題なのか、それは分からない。
 ただ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが独りぼっちなことに変わりはなかった。
 ここには彼女を守る英雄はいない。それどころか、盲目で地を這う哀れな少女の存在を知る者さえいない。
 彼女は、ホムンクルスだ。始まりの御三家が一、アインツベルンの手で生み出された、最高傑作の少女人形。
 それでも、仕組み自体は人間と同じ。このまま光の射さない暗がりに居続ければ、いずれは死に至る。
 聖杯戦争など関係なく、誰にもその存在を知られることなく、孤独の中で死んでゆくのだろう。
 それはある意味で、彼女が本来辿るはずだった結末よりも救いがなく、少女にとっては残酷なものだった。

「シ、ロウ――――ぅ」

 蚊の鳴くような声。イリヤスフィールの桜色をした唇が、初めて名前らしい名前を紡ぐ。
 自分の兄であり、弟でもある不思議な少年。正義の味方を自称する彼。セイバーのマスター。
 当然ながら彼もまたここにはいない。都合のいい奇跡は、物語の篩からこぼれ落ちた敗者に決して微笑むことはないのだ。
 これはいったい、何の罰なのだろう。盲目のホムンクルスは唇を噛み、ぎゅっと拳を握り締める。
 握った拳の甲を、イリヤスフィールはもう片方の掌で包んだ。そうでもしないと、凍えてしまいそうだった。
 
「あ」

 指先に触れるものがある。
 イリヤスフィールはゆっくりと、ゆっくりとそれをなぞる。
 それは、彼女が鎌倉という町を舞台に繰り広げられる物語への参加資格を有している証明だった。


282 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&アーチャー ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/04(土) 15:02:18 5w3y5vac0
 それは、彼女が鎌倉という町を舞台に繰り広げられる物語への参加資格を有している証明だった。
 見えなくとも分かる三つの徴の名を、イリヤスフィールは知っている。
 彼女はすがるようにそれを握り締めた。見えない世界で唯一確かなのが、このたった三つの繋がりだったからだ。
 死ぬことは怖くない。そんなもの、自分の使命を自覚した時から常に覚悟してきた。
 仮に聖杯戦争を生き抜いて……自分に与えられた役割を果たせないまま、冬木に残留したとする。
 それでも、遠からぬ内に終わりはやって来ただろう。ホムンクルスというインチキの報いで、彼女は長く命を保てない。
 そんな彼女が、初めて心から生きたいと願っていた。もう一度あの聖杯戦争に帰るという未来(さき)がほしい。

「――――お願い」

 目は見えなかったが、イリヤスフィールには自分の片手に刻まれた徴が明滅するのが分かった。
 この身はアインツベルンのホムンクルス。一流の魔術師だって目じゃない。
 しかし、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンには光がない。
 盲目の人間は五感の一つが欠けている分その他の感覚が鋭敏になり、結果健常者よりも優れた力を持つという論説もあるが、生憎と彼女はそうではなかった。見えないだけで、そこにアドバンテージのようなものは何もない。

「来て」

 私のサーヴァントはバーサーカーだけ。それは今後、どんなことがあろうと絶対に変わらない。
 たとえどんな絶世の美男が忠節を尽くしたとしても、イリヤスフィールはそれを認められないだろう。
 だから、イメージするのは従者(サーヴァント)ではなく、英雄(ヒーロー)だ。
 あらゆる艱難辛苦を跳ね除けて、私をこの戦争に勝利させ、あるはずのない先をくれる英雄を。
 それだけを願って、イリヤスフィールはその銘を呼んだ。
 雪の妖精に似合わない暗がりの底で泥と土埃に塗れ、地へ這い蹲った惨めな姿で、乞うように。
 
「私を、助けて」

 そして。その呼応に応じるように……暗がりに沈む掃き溜めの路地裏に、顕現する一個の生命があった。
 


                 「――――ほう、これは。造り物の妖精か」



 現代風の装いに身を包んだその男は、興味深げに自らのマスターを見つめ、そう評した。
 そこに悪意や侮蔑のようなものは感じられない。単に興味本位のようだった。
 イリヤスフィールの目が仮に見えていたならば、彼女は瞠目したに違いない。
 
「その眼、見えぬのか。見た所潰れているわけでもないようだが……ふむ、これはおまえ自身の問題のようだな。妖精よ」

 だが見えずとも、雰囲気でこれがどういったタイプの英霊なのかを感じ取ることはできた。
 結論から言えば――なるほど、これは確かに従者(サーヴァント)じゃなく英雄(ヒーロー)だ。
 この男は誰かに跪いて機嫌を伺ったり、無償の奉仕精神を披露したりするタイプでは断じてない。
 声色の端々から滲む傲岸さがそれを証明していた。こいつはむしろ、他人を平伏させる質だろう。

「まあ、そう惑うでない。現界自体はとうに果たしていたのだが、この歪な聖杯戦争に少々個人的な興味があってな。散策がてらに今風の装いを揃えてきた。……もっとも、それで令呪を使わせたのは失策であったがな。
 この魔都は醜悪極まる。醜いからこその見所を加味しても釣りが来るほどに腐乱し、蛆が湧いている。本来であれば一時として留まりたくなどないし、義理もないが――――この聖杯戦争の深奥は、実に興味深い。さて。名を名乗るがいい、妖精」

 この英霊は、一体何を言っているんだろうか。
 そもそも現界してすぐに、マスターとの顔合わせも済ませない内に散策に出向くという時点で型破りも甚だしい。
 しかし彼はその莫迦らしい行動によって、何か確信めいたものを得ているようだった。
 聖杯戦争の深奥……イリヤスフィールはそんなものに興味はなかったが、そのワードはやけに引っかかる。


283 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&アーチャー ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/04(土) 15:03:06 5w3y5vac0
「…………イリヤスフィール。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「そうか。なに、造花には造花の愛で方がある。それにマスターとしての性能は一級。申し分はない……良し。イリヤスフィールよ、貴様をこの我のマスターと認めよう。よく尽くすがいいぞ」
「……、なによ、それ。なんでマスターの私が、あなたに尽くすのよ」

 唖然としてしまうような発言に、思わずイリヤスフィールは苦笑交じりの突っ込みを入れる。
 すると英雄はそれを鼻で笑った。何を当たり前のことを言うのだと、小馬鹿にさえした調子でだ。

「我(オレ)は、王だ。王を統べる法など、この世の何処にある?」

 そう豪語する彼の見た目は、なるほど確かに王族のものだった。
 後ろ向きに逆立った黄金の頭髪はしかし下品さを感じさせず、真紅の双眸はピジョンブラッドのような美しさだ。
 今はジャケットを羽織っている彼だが、もしも本来の鎧に身を包めば、その姿は正しく伝説の王そのものになろう。
 そして――その見た目は、奇しくもイリヤスフィールにとっての因縁の敵と瓜二つだった。

 城のホムンクルスを殺し、彼女のバーサーカーを討ち、イリヤスフィール自身をも手にかけた英雄王、ギルガメッシュと。


「記憶することを許す。我の名は、英雄王ギルガメッシュ」


 少女の手を掴み、立ち上がらせれば、閉ざされたままの目を正面から見据えた。
 記憶することは許すが、この栄誉を忘却することは許さない。そんな傲慢さを隠そうともせず露わにし、彼は告げる。
 

「この世の全てを、背負う者だ」



【クラス】アーチャー
【真名】ギルガメッシュ@Fate/Prototype
【属性】混沌・善

【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:A 幸運:B 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:C
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:A+
 マスター不在でも行動できる能力。

【保有スキル】
黄金律:A
 身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。

カリスマ:A+
 大軍団を指揮・統率する才能。ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。

神性:B(A+)
 最大の神霊適正を持つのだが、ギルガメッシュ本人が神を嫌っているのでランクダウンしている。


284 : イリヤスフィール・フォン・アインツベルン&アーチャー ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/04(土) 15:03:30 5w3y5vac0
【宝具】

奉る王律の鍵(バヴ=イル) 
ランク:E〜A++ 種別:対人宝具 レンジ:-
人類の知恵の原典にしてあらゆる技術の雛形を収めた宝物庫の鍵であり、人類最古の王を示す証である刺青。
『stay night』のギルガメッシュの宝具『王の財宝』の原型であり、効果・解説は基本的に同じ。自身の宝物庫に貯蔵したあらゆる宝具の原典を自在に取り出したり、釣瓶撃ちよろしく乱射できる。
だが面制圧型の『王の財宝』と異なり、アーチャーを取り巻く形で財宝が円形に配置されるため、展開できる宝具の最大数で劣り、若干攻撃力が低い。

終末剣エンキ
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~999 最大補足:1000人
アーチャーの主武装である双剣。セイバーの振るう最強の聖剣と互角に撃ち合えるほどに力を持った神造兵装。
「剣」ではあるが、柄は可動可能な構造になっており、変形させて「トンファー」、双剣の柄尻を繋ぎ合わせて「弓」として使うことが出来る。だがエンキの本質は単純な武器ではなく「水を呼ぶ剣」であり、最大の破壊力を発揮する際は弓型に変形させて使用する。発動から一日経つごとに破壊力を増し、7日を迎えた時、遥か上空・衛星軌道上で光る7本の矢がアーチャーの放った黄金に輝く矢に呼応して一つとなり、地に落ちる。
そして、ノアの大洪水の原型であり、かつて世界を滅ぼした大海嘯「ナピュシュティムの大波」を引き起こし、地上全てを洗い流す。なお、エンキはバビロニア神話の創造神・エアの原典である。

【weapon】
宝物庫より取り出される宝具の数々。

【人物背景】
真名は古代メソポタミア・シュメール王朝時代のウルクを治めた、人類最古の王・英雄王ギルガメッシュ。
聖杯戦争の仕組み自体は素晴らしいものとしているが、この鎌倉市に限っては醜悪さに呆れ果てている。
しかし、聖杯戦争の奥底に何かがあることを察知し、それを確かめるのを目的に動く。

【サーヴァントの願い】
「自分こそ最強の英霊である」ことを示す

【基本戦術、方針、運用法】 
ホムンクルスのイリヤがマスターなので、燃費の心配はもはや必要ない。


【マスター】
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night(UBW)
【マスターとしての願い】
未来(さき)を手に入れる

【能力・技能】 
非常に高い魔術の技能。

【人物背景】
アインツベルンの最高傑作とされるホムンクルスで、大英雄ヘラクレスのマスターだった少女。
慢心王な方のギルガメッシュに殺され戦死した後、今際の際に鎌倉への扉を開ける。
現在、盲目状態。アーチャーいわく、彼女自身の問題だというが……

【方針】
優勝狙い。


285 : ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/04(土) 15:03:57 5w3y5vac0
以上で投下終了となります


286 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/04(土) 16:35:49 soMN.5ro0
皆さん投下乙です。私も投下します。


287 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/04(土) 16:36:54 soMN.5ro0
「クソが、どこにいやがる」

 夜も更け星々が満天に広がる頃、大仏坂の道の中途にその男の姿はあった。
 粗暴な印象を受ける男だった。ガタイは大きいが顔色は悪く、姿勢は骨ごと曲がっている。無精髭を生やした顔にあるのは欲望と喜悦に歪んだ瞳。汚らしい頬にはこれまた手入れのされていないボサボサの黒髪がかかっている。
 纏う服も男と同じように薄汚れていた。もう何日も取り替えていないのだろう。ともすればホームレスにも見える風貌だが、しかし殺意に濁る表情がそれを否定する。
 端的に言って、その男は一目で分かる屑の見本であった。

 しかしこの鎌倉において彼は一種の特権を与えられた人間でもあった。すなわち、サーヴァントを従えるマスターという特権階級。
 男はまさしく、聖杯戦争へと招かれたマスターであった。

「確かにこのへんだったはずだ……おいバーサーカー! てめえしっかり見張っとけよ!」

 男は傍らに侍る野獣のような影を怒鳴りつける。狂戦士の忌み名の通りその影は理性を失っている故に、低く唸るような声しか返さない。
 それを片手間に確認した男は、ちィッ、と大きく舌打ちした。見張りなどという行為を行えるほどの知性もバーサーカーは持ち合わせていないと分かった上での侮蔑だ。
 完全な八つ当たりである。

 そして感情を昂ぶらせながら歩いているのは、他のマスターを探し当てるためだ。
 つい先ほど突如として発生した巨大な魔力の反応。それはたまたま近くを通りがかっていた男にも感じ取れるもので、故に戦争におけるライバルを減らすために赴いたという次第だ。

「お、いたいた……って、なんだこれ」

 苛々と周囲を探ること数分、ついに男は目当てのものを発見した。
 すなわち敵マスターの姿。しかしどうにも様子がおかしい。

 まず前方に倒れ伏す影。見たところ若い女か、露出した手の甲に令呪らしき赤い痣が見えることからマスターであることは疑いようもない。
 それはいい。倒れているのも他のサーヴァントにやられたとか、色々説明付けることはできる。
 しかし。

「……なんでサーヴァントまで寝てんだよ」

 女の横、そこに倒れていたのは戦国武将のような猛々しい男だ。内包する規格外の魔力からそれが仮装ではなくサーヴァントであるとすぐにわかる。しかし死ぬでも消滅するでもなく、傍らの女マスター同様静かに寝息を立てている。
 どう考えてもこれはおかしいだろう。他のサーヴァントにやられたにしろ、ここまで無防備な姿を晒しているのだから殺さない手はないはずだ。男がこの場所にやってくるまでに幾らかの間があったのだから、殺す時間がなかったということもないだろう。
 そこにあったのは、揃って間抜けな寝顔を晒す主従と、それを怪訝な顔で見下ろす男という構図だった。なんだこれは、流石にこんな展開想定してないぞ。

「……まあいい。おいバーサーカー、こいつらの魂を食え」

 うだうだ考えるのは面倒臭いとばかりに、男は思考を打ち切るとバーサーカーに命じる。
 男が使役する狂戦士は高ランクの狂化により並みの英霊を遥かに凌ぐ力を有している。それはマスターの男が自分たちに敵はいないと思いあがるほどのものだったが、代わりに馬鹿げた量の魔力を必要とした。
 だからこそ、貴重な魔力を補給できる機会は逃がさない。男はこれまでも何人かの鎌倉市民をバーサーカーの贄に捧げていた。他者を殺すことへの葛藤とか、そんな高尚な精神など持ち合わせるはずもなし。
 男には、徹頭徹尾自分のことしか頭にない。


288 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/04(土) 16:37:33 soMN.5ro0


 ―――くすくす、くすくす。


 ふと、どこからか笑い声が届いた。女を手に掛けようとしていたバーサーカーまでもが、その声に反応して手を止める。
 声の出所はすぐに見つかった。自分たちの背後、そこに幼い少女が立っていた。

 綺麗な少女だった。栗色の髪と瞳を持ち、頬と唇は薔薇色とさえ形容できる。白いドレスを着て微笑むその姿は、まさしく天使か妖精そのものだ。
 否、それは天使でもなければ妖精でもなく、傍らの従者と同じサーヴァントであるとすぐに察した。

(なんだこいつ、いつの間に……)

 突然のことに警戒するも、目の前の少女は笑うだけだ。攻撃も何も仕掛けてくる様子はない。
 ならば容赦する必要はないだろう。いつの間に接近してきたかは知らないが、自分のバーサーカーに正面から勝てるようなサーヴァントではあるまい。

「殺せ、バーサーカー!」

 だからこそ命令は至極単純。雄叫びを上げるバーサーカーが巨大な棍を振り上げ、野蛮な暴威もそのままに少女へと叩き付ける。
 轟音。衝撃で地面がひび割れ、余波ですらまともに立ってられないほどの威力を以てバーサーカーは少女のサーヴァントを粉砕した。
 順当に、何の捻りもなく。少女が狂戦士に抗うことは叶わず、こうして一瞬の戦闘は終わりを告げた。

「は、はは……やっぱ"俺"は最強じゃねえか!」

 あまりの威力に呆けていた男が狂喜の声を上げる。男の中では既にバーサーカーの力は自分の力であるという等式が成り立っているらしく、従者に労いの言葉をかけるでもなく己の無敵を賛美する。
 やっぱり俺に敵なんていない。聖杯を獲得すべきマスターは俺であり、天下に遍く名を響かせるのも俺なのだという根拠のない自負すら抱いて。





 そして、それから。男とバーサーカーは快進撃を続けた。

 太刀を構えた鎧武者がいた―――鎧ごと叩き潰してやった。
 戟を備えた中国武人がいた―――そんなもの蚊の一撃にも等しかった。
 高所で弓を射る狩人がいた―――豪雨の如く降りかかる矢など気にせず悠々と近づき、高みから引きずりおろしてやった。
 天馬に跨る美しい女がいた―――根本から羽を毟り取り血の海に沈めた。
 髑髏の仮面を被る影がいた―――腕の一薙ぎで塵屑のように消した。
 黒の外套を纏う魔女がいた―――操る魔術の悉く、バーサーカーには一切通じなかった。

 それだけではない。バーサーカーだけじゃなく、この俺が自らサーヴァントを仕留めることも少なくなかった。
 最初は向かってくるサーヴァントに恐怖したが、咄嗟に突き出した手が相手を貫き殺したことで確信に変わった。
 【俺は天に選ばれた存在だったのだ】

 屈強な騎士の首を片手で捩じ切り―――どうやって?
 槍の一撃を事もなげに弾くと返す刃で胸を貫き―――ただの人間に何故そんなことができる?
 放たれた弓矢を宙で掴み投げ返して射手の眉間を穿ち―――おいおい道理に合わんだろう。少しは疑問を持てよ。
 あらゆるサーヴァントをバーサーカーの手を借りずに打ち倒した―――うるさい黙れ。俺ができると言えばできるんだ。それが天下の理屈だろう。

 英霊がなんだ、サーヴァントがなんだ。所詮俺の手にかかればこんなもの雑魚でしかないではないか!

 そうして当たり前のように聖杯は俺の手の中に舞い降り、あらゆる願いは果たされる。
 俺は、この世の全てを手に入れたのだ。


289 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/04(土) 16:38:00 soMN.5ro0



   ▼  ▼  ▼



『××日午前3時10分ごろ、鎌倉市長谷の大仏坂切通しにて原因不明の爆発事故が発生しました。事故の現場で男女2名が倒れているのが発見され病院に搬送されましたが、2人は全身を強く打っており間もなく死亡が確認されたそうです。
 2人の男女はいずれも身元不明で、警察は2人の身元を確認すると共に、爆発の原因を―――』



   ▼  ▼  ▼





 古都・鎌倉には多くの都市伝説が渦巻いている。
 それは怪物を打ち倒す英雄譚であったり、正体不明の怪人物との遭遇であったり、ここ最近急増した行方不明者や死因不明の死亡者についての怪異譚であったりと様々だ。
 多くの住民はそれらを耳にしつつも気にせず日常に埋没し、あるいは多少の興味を抱く程度で終わるのが常であったが。しかし中にはそんなオカルト話にどっぷり嵌ってしまう者もいた。
 そして彼らはこう願うのだ。【自分の周りでも非日常が起きてはくれないものか】と。
 都市伝説は増殖する。発生を願うものがいるのだから、当然の帰結としてそれは発生し続けた。

 これはそんな都市伝説(フォークロア)のひとつ。夢を叶えてくれる幸福の精のお話。
 幸福の精はとても綺麗な少年少女で、出会った人の願いをなんでも叶えてくれる。でも、あまりに願うものが大きすぎると幸福の精が怒ってしまい、その人をずっと眠らせてしまうのだという。



『うふふ、あははははは』

 誰もいない山道を少女が駆ける。一寸先も見えない闇であるというのに、少女は何に躓くこともなく軽やかに舞っていた。
 それはまるで一枚の絵画のような光景だった。とても現実とは思えない幻想的な一幕。少女は愛らしい顔に笑みを浮かべ、木々と戯れるように道を往く。
 無垢な印象に違わず、少女に邪念など欠片も存在しない。彼女は都市伝説に語られる幸福の精そのものである故に、あらゆる全ての幸せを心から願っていた。

 そう、全て。善人も悪人も関係なく、道理や過程を顧みず、ただひたすらに万人の幸福を願うのみ。

 因果? 知らないわそんなこと。
 理屈? そんなのどうだっていいじゃない。
 人格? わたしはみんなに幸せになってほしいの。
 善悪? それはあなたが決めることよ。

 幸福に嘘も真も存在しない。あなたがそう願えば、それが本当の幸福なのだから。
 だからあなたも幸せになって。わたしはそれだけで満たされるから。

 少女は何も知らず、知ろうともせず、盲目白痴のままに舞い踊る。
 誰もが望む理想を叶え、しかし真には何も与えない悲しき魔性。幸福の精は、ただ在るがままに人を幸福の夢に沈め続けるのだ。


290 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/04(土) 16:38:46 soMN.5ro0
【クラス】
キャスター

【真名】
『幸福』@地獄堂霊界通信

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力EX 幸運A 宝具EX

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
陣地作成:E++
自らに有利な陣地を作り上げる。
キャスターは魔術師ではないためほとんど機能していない。強いて言うならば後述の宝具により支配した一帯こそがキャスターにとって唯一最大の陣地である。

道具作成:-
魔術的な道具を作成する。
キャスターは魔術師ではないため全く機能していない。キャスターが作り上げられるのは幸福のみである。

【保有スキル】
無我:EX
確固たる自我・精神が存在しない。キャスターの内にあるのは幸福のみである。
その在り方は幸福感による精神汚染に等しい。あらゆる精神干渉を無効化するが、ある種の精神の歪みがない者とは会話が成立しない。

単独行動:EX
マスター不在でも行動できる能力。
このランクに達するとマスターなしでも無制限に現界が可能となるが、宝具により真の姿を現した場合には魔力を大量に消費するのでこの限りではなくなる。
幸福というものを大人は信じられない。子供は信じ、受け入れる。しかしそのどちらも結局幸福にはなれず、『幸福』は永劫ただひとり。

夢の存在:A
高次のアストラル体であるキャスターの実体は極めて希薄であり、比喩でもなく夢幻にも等しい存在である。
蜃気楼の如く掴みどころのない存在であるため干渉することは極めて難しい。
しかし後述の宝具により真の姿を現した際には完全な実体を持つためこのスキルは失われる。

【宝具】
『幸福という名の怪物』
ランク:EX 種別:概念・対文明宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
幸福という概念を体現した最悪の夢のかたち。
キャスターと直接相対した者は、その全てが幸せな夢へと誘われる。その夢の中ではあらゆる願望が成就し、その者にとっての理想郷とも言うべき世界が展開される。
そしてその夢に囚われた者は現実では永遠に目覚めることなく、放っておけば数日で衰弱死する。
この宝具から逃れる術は三つ。夢を解する知性を持ち合わせないこと、真に心から満たされていること、そして夢は所詮夢であると現実に向き合う確かな気概を持つことである。
それはスキルとしての精神防壁とは意味合いが多少異なり、例えどれほど堅牢な精神防壁を持とうが夢に逃避する精神性であったならば容易くキャスターの術中にかかる。逆に言えば何の素養も持たない一般人であろうとも心持ち次第ではキャスターに対抗可能ということ。
その性質上高ランクの狂化を施されたバーサーカーには一切通用しない。また、一度夢に堕ちた後でも何らかの手段で強く現実を意識させることができれば眠りから覚ますことも可能である。

この宝具は概念的なものであるが、同時にキャスターという存在そのものでもある。
キャスターの真の姿は数十mほどの植物のような生命体であり、土に根を張ることで周囲のマナを吸い上げる。
またこの形態においては幸福感をもたらす精神干渉波は物理的な破壊・束縛効果を持ち肉体的な快楽を与えるまでに強化されるが、精神防壁や対魔力等のスキルにより対抗可能となってしまう。
真の姿を現した場合、キャスターは確かな実体を持つに至る。


291 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/04(土) 16:39:16 soMN.5ro0
【weapon】
なし。

【人物背景】
異次元より飛来した謎の高エネルギー生命体。男には少女に、女には少年の姿として映る。
かつて南米の古代文明を自覚なしに数日で滅亡させ、正体不明の術師の手により封印され天界に幽閉されていたが、過去に三度脱走している。
性格は無垢。悲しみや怒りといった感情を解さず在るのは幸福のみ。キャスターは存在するだけであらゆる知的生命体を死に至らしめるが、彼もしくは彼女に敵意は存在しない。主観的にはあくまで人に幸福をもたらしているだけである。
一説には人間を滅ぼすための生体兵器だとか、人類が次のステージに進んだ際に真なる幸福を授けるために現れたとか、そんな推測もあるが真実は霧の中。

【サーヴァントとしての願い】
全ての人に等しく幸福を。


【マスター】
不明@???

【マスターとしての願い】
不明。ただし、彼もしくは彼女の願いは当人自身の夢の中で叶った。

【weapon】
不明。

【能力・技能】
不明。

【人物背景】
何かしらの目的を抱き鎌倉を訪れた誰か。
触媒を用いず縁による召喚を試みたこと、鎌倉市民の都市伝説に対する夢想が最高潮に達していたこと、あるいは聖杯戦争の裏に潜む何者かの影響。それらのいずれか、あるいは全ての因果でキャスターを召喚し、覚めない夢へと旅立った。
その後は人知れず眠り続け、召喚より二日後、誰に看取られるでもなく衰弱死を遂げている。

【方針】
彼もしくは彼女にあったのは幸福だけである。
今はもう、願いも未来も存在しない。


292 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/04(土) 16:40:13 soMN.5ro0
投下を終了します。


293 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/06(月) 13:07:46 gaMYxm7c0
皆様、投下お疲れさまです。なかなか反応できず申し訳ない限り……
少々気が早い話なのですが、こちらの予想以上に盛況な為、採用枠をそれぞれ一枠ずつ増設し、計21主従に増やそうと考えております。
OPは増設に合わせて適切なものに修正しますので、wikiも近々用意しようと考えています。

それでは皆様、これからも本企画をよろしくお願いします。


294 : ◆giti8Lgtig :2015/07/06(月) 19:41:31 DmW7fytU0
私も投下します


295 : ◆giti8Lgtig :2015/07/06(月) 19:41:43 DmW7fytU0
 ―――ある世界は滅びの淵に瀕していた。危機に陥った星は自らの法則を書き換え、新たなる時代へ向かってゆく。
 旧来のルールの上で生み出された生き物は、どれだけ発達した科学を駆使しても、新世界の環境には適合できない。
 早ければもう十世代ほどで、古い生態系は滅亡するだろう。

 それを否とし、立ち上がった者達がいた。
 世界が書き換わるというならば、全ての人類を新世界に適合できるカタチへと置き換えよう。
 その為には膨大な力が必要だ。―――世界に残された残り僅かなマナを全て使い、過去最大級の魔術を行使する。

 それを叶えられる存在がいた。彼らは彼女を自分達の手中に収め、来る時を待つ。
 平行世界から現れた、聖杯(かのじょ)の友人達という異分子こそありはしたが、関係はない。
 刃向かう全てをねじ伏せてでも―――聖杯(ミユ)を渡しはしない。正義の味方として、だから「彼女」は刃を執る。
 非道の謗りを受けようと、そんな言葉は私の耳には届かない。
 愚かなことだ。全人類の命運と一人の少女、どちらを選ぶかなど問うまでもない。
 我らは必ず世界を救う。どんな戯言を並べ立てようと、エインズワースの悲願は必ず遂げなくてはならないのだ。

 ―――それは、求める聖杯のカタチが変わったとしても、何も変わらないこと。


 ―――ある世界は滅びの淵に瀕していた。宇宙から飛来した“戦維”によって、星は覆い尽くされようとしていた。
 全ての原因はひとりの女だった。人は服に着られる為にあると豪語した彼女は、全世界を大混乱へ陥れる。
 服の形をした怪物が所構わず跋扈し、もはや安全な場所などどこにもない有様。

 しかしながら、彼女のユメは砕かれた。もとい、裁ち切られた。

 大いなる終末思想に仇を成したのは、皮肉にも彼女が生み出した二人の娘だった。
 ひとりは母親譲りの絶大なカリスマと戦闘能力を持って、人は服に着られる存在などではないと吼えた。
 ひとりは自らの素性を知り、苦悩し、しかしそれを乗り越えて、実の母へと刃を向けた。
 彼女の味方はひとりふたりと減っていき――最後に残ったのは、もう一人の娘だけだった。
 “戦維”の子宮で育てられた彼女は、母の思想に共鳴し、いびつに歪んだ心を持って育った。
 彼女たちは強かった。負けるはずなどないはずだった。
 だから最後まで、彼女たちは自分達が敗れた理由さえ分からなかった。

 一度は粉砕された娘が、再び立ち上がって牙を剥く。
 わけの分からないことを叫びながら、最高傑作であったはずの娘が何もかもを滅茶苦茶にしていく。
 ゴミと断じて見下した下等な学生たちが、潰しても潰しても懲りずに現れる。
 服を着ることを拒む愚かな猿達が、小癪な策を弄し邪魔をする。

 そして遂に―――最後の一張羅が裁ち切られ、生命戦維に終わらされることを望んだ二人は宇宙空間に散る。
 自ら心臓を抉り出して、元凶の母は消えていった。
 それを見届けながら、細切れになって散り消えるもう一人の"娘"。彼女は、今際の際にこう願う。

 ―――こんなの、間違ってる。
 ―――人は服に着られるのが正しいこと。
 ―――羅暁さまの夢を台無しにするなんて、どこまで使えないゴミどもなのよ。
 ―――嫌、こんな終わり方は許せない。

 もう一度……もう一度人の身体に戻れたなら、私が必ず遂げてみせるのに。

 怨念にも近い強さで紡がれた願望は、遠い世界の聖杯によって聞き届けられる。
 生命戦維が星を覆い、最愛の母が目指した“繭星”を今度こそ完成させるために。
 彼女は世界を滅ぼすべく、今度は化物としてではなく、英霊として人間の世界に顕現した。

 世界を護らんとする者と、世界を滅ぼさんとする者。
 決して相容れない主従が、鎌倉の聖杯戦争に降り立った。


296 : アンジェリカ&セイバー ◆giti8Lgtig :2015/07/06(月) 19:42:57 DmW7fytU0
     ◇    ◆




 「あははは、だっさーい! ねえねえ、どんな気持ちー? 高潔な騎士様が真っ向勝負で女の子に負けちゃうのってどんな気持ちなのー? ―――ちょっとぅ、無視しないでよー……って、ああっ……、消えちゃった。つまんない」
 
 最後まで無念の表情を崩さないまま、胸に大鋏を突き立てられた格好で、セイバーのサーヴァントが消滅する。
 鎧すら剥がされ、挙句ただの一度も報いることが出来ないまま死んでいくのは、さぞかし耐え難い屈辱だったのだろう。
 もっとも、そんな感情を介する彼女ではなかったが。
 突き刺す相手のいなくなった紫色の大鋏を拾い上げると、彼女は満面の笑顔で自身のマスターへ振り返る。

 「アンジェリカちゃん、終わったよ〜! ボクの圧勝。英霊ってのも意外とチョロいんだね!」
 「……黙っていろ、下衆め。貴様の声を聞いていると虫酸が走るのだ、“セイバー”」

 アンジェリカ。そう呼ばれた縦セーターの女は、サーヴァント、セイバーの態度とは裏腹に強い不快感を露にしていた。
 それは決して一時的な機嫌の問題などではない。この二人の主従仲は、およそ最悪のものと言ってよかった。
 というよりも、アンジェリカの側が一方的に嫌悪を突きつけているのだったが。

 「ちぇーっ、つれないんだから……でも、そっちも終わったみたいね。うんうん、さすがボクのマスターだよ」
 「所詮は愚かな三流魔術師だ。分を弁え棄権するなりしていれば、ここで死ぬこともなかったろうに」

 セイバーが倒した英霊のマスターらしき壮年の男性は、頭から胴体にかけてを引き裂かれて死んでいる。
 魔術の心得は人並み程度にあったようだが……アンジェリカに言わせれば、この鎌倉に立つ資格もない雑魚であった。
 何せ、今アンジェリカが使える力―――クラスカードは、数ばかりで質の伴わない無銘の失敗作である。
 それすら凌げずにこうして屍を曝しているのだ。これを無様とせずして何とするのか。

 「そんなこと言っときながら、こんなに容赦なく殺しちゃうからおっかないよね。なんだかキミを見てると、知り合いのお嬢様を思い出しちゃう。……あ、もう敵って言った方がいいのかな。とにかく近いものを感じるよ」
 「貴様に褒められても嬉しいとは欠片も思わん。片付いたのならば疾く撤収するぞ」
 「そんなに嫌わないでほしいんだけどなあ。ボク傷付いちゃう! ―――と、まあ冗談はその辺りにして。そうだね。結構音も出ちゃってたし、ネズミが湧いてくる前にさっさと帰ろっか」

 よいしょ。
 セイバーはアンジェリカが討った敵マスターの死体を漁れば、躊躇なく革製の財布を抜き出し、中身をひっくり返して金品を強奪する。この聖杯戦争では、身分や手持ちの工面は一切なされない。
 だからこうして金策に励むのも重要なファクターであるのだが……

 「って、こういうのって普通マスターがやることなんだよ? いい加減プライドなんか捨てちゃいなよー」
 「悪いが、野盗の真似事をするつもりはない。貴様一人でやっていろ」

 すたすたと、セイバーを待つこともなくアンジェリカは帰途へつき始める。
 それを慌てて追うセイバー、という絵面はどこかコミカルであったが。
 彼女たちがこれまで、既に三騎ものサーヴァントを倒していると聞けば、途端に見え方も変貌しよう。

 「―――それにしても、ホントに因果だよねぇ。ボクとキミの目的はまるで真逆だ。
  これで住んでる世界が同じだったら、昼ドラも真っ青のドロッドロな修羅場展開が待ってたところだよ」
 
 アンジェリカが足を止める。
 セイバー……真名、針目縫。彼女の願いは、生命を持った繊維―――“生命戦維”で地球を覆うこと。
 そして最終的に星を炸裂させ、また新たなる星を求め無数の生命戦維を地球から羽ばたかせること。
 いくら主従関係が劣悪だとはいえ、そのくらいの話は聞いている。セイバーも、アンジェリカの願いを知っている。

 静かに、アンジェリカはセイバーのサーヴァントへと振り返った。


297 : アンジェリカ&セイバー ◆giti8Lgtig :2015/07/06(月) 19:44:07 DmW7fytU0
 表情は相変わらずの鉄仮面。だが、その瞳の奥に灯る感情は、心なしかいつもよりも激しいそれに見える。
 やがて彼女は、静かに口を開いた。
                ・・・
 「因果? 皮肉の間違いだろう、針目縫。生命戦維の化け物よ。
  ああ―――確かに貴様の言う通り、我らの住む世界が異なっていることは僥倖だったと言う他ないだろう。
  だがな、針目。これだけは覚えておけ」

 凛とした眼差しが、敵意に満ちる。
 このサーヴァントと、このマスターは決して相容れない。
 どれだけ非道を尽くそうと正義の味方(エインズワース)の彼女には―――

 「私は―――たとえ平行世界のコトであろうとも、おまえの存在が許せない」

 悪である、針目縫という化け物を認められない。
 こうしている今だって、胸の内には冷えた殺意が満ちている。

 「……やだなあ、もう! そんな怖い顔しないでよ。女の子が台無しだぞー?」

 絶対零度の空気に置かれようと、変わらずおちゃらけた調子を見せる針目縫、もとい、セイバー。
 敵意を向けられ続け居心地が悪いというのは確かにあったが、しかし彼女は自分を害せないとセイバーは知っている。
 世界を救い、人類を導く。アンジェリカの願いを叶えるには、聖杯の力が必要不可欠だ。
 そしてそれはこちらも同じ。どれだけ嫌い合っても、聖杯を求めるという利害が一致している限りは同胞である。
 
 「……けど、まあ」

 にこっ。―――セイバーはぞっとするほどの満面の笑みで微笑んだ。

 「お互い様だよね。ボクもキミのこと、虫酸が走るような愚か者にしか見えないし」

 そこから先、交わす言葉はない。
 ―――対極の目的に向けて、嫌悪を互いに抱きながら、セイバーとそのマスターは聖杯戦争に臨む。


【クラス】
セイバー

【真名】
針目縫@キルラキル

【ステータス】
筋力D 耐久A 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具B

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。


298 : アンジェリカ&セイバー ◆giti8Lgtig :2015/07/06(月) 19:44:37 DmW7fytU0
【保有スキル】
高次縫製師(グランクチュリエ):A
 服を縫い、仕立てるという技能において縫の右に出る者はいない。
 彼女が魔力を込めて縫った服は、生命戦維を編み込まずともCランク相当の対魔力性能を持つ。

神出鬼没:C
 過去決戦場に突然姿を現し、その場の支配者すらも狼狽させたという逸話から。
 サーヴァント、及びマスター同士の戦闘に乱入する際、Bランク相当の気配遮断スキルを獲得する。

【宝具】
『生命戦維の怪物(カヴァー・モンスター)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
針目縫という英霊の肉体そのもの。
彼女の身体は生命戦維で出来ており、そのため高い身体能力と再生能力を併せ持つ。
また、この宝具を応用することで自己の分身を生み出すことも可能。
生命戦維の彼女を傷つけたくば同ランク以上の宝具で攻撃するか、一撃で滅殺するだけの火力を用意する必要がある。

【weapon】
片太刀バサミ@キルラキル。生命戦維を裁つことができる。

【人物背景】
鬼龍院羅暁が、生命戦維の子宮で育てた娘。
お互いに反発し合ってしまうため神衣を着ることができず、高次縫製師として羅暁を後押しする。
纏流子の父親を殺し、片太刀バサミの片方を奪った張本人でもある。

【サーヴァントとしての願い】
羅暁さまの夢見た結末を、代わりに遂げる


【マスター】
アンジェリカ@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【マスターとしての願い】
全人類を新世界に適合できる生命体へと置き換え、世界を救う

【weapon】
無銘のクラスカードを多数。

【能力・技能】
魔術を会得している。

【人物背景】
聖杯、美遊・エーデルフェルトを用いて世界を救わんとしているエインズワース家の一員。
セイバー・針目縫には強い嫌悪感を抱いており、主従関係は非常に劣悪。

【方針】
敵は倒す。情けはかけない。


299 : ◆giti8Lgtig :2015/07/06(月) 19:44:57 DmW7fytU0
以上で終了です


300 : ◆vpNfGNRa/c :2015/07/07(火) 00:33:25 8uTs13RY0
投下乙です! 自分も投下いきます。


301 : 棗恭介&ランサー ◆vpNfGNRa/c :2015/07/07(火) 00:34:02 8uTs13RY0

見慣れない周囲の風景へ目を通す。すると、幸いここがどこかはすぐに判別することが出来た。
由比ヶ浜。鎌倉の名所の一つだが、俺はここを一度訪れたことがある。
学園を離れての就職活動の一環として訪れ……確か、朝日の昇る光景を眺めながらカップラーメンでも食べたのだったか。
それはともかく、見知った土地なのは素直に助かった。土地勘の全くない場所で手持ちゼロとなると、冗談抜きで死ねる。


 「ふぅ、情けねえ話だ。弟分だとばかり思ってたが、完敗しちまうとはなぁ」


朝方……時刻としては、午前五時を少々回ったところだろうか。
登り始めた朝日はいつかの思い出を蘇らせると同時に、俺を感傷に浸らせてくれる。
あんなものを見せられては、認めないわけにはいかない。あいつは強くなった。
俺達のしてきたことも、無意味じゃなかったんだ。少しだけ悔しいが――それで良しとしておいてやろう。

 
 「もうお前は安心して休んでろ、理樹。後は俺が何とかしてやるからよ」


ここは鎌倉。これからこの地で何が行われるのかは、きちんと頭の中に入っている。
聖杯戦争。古今東西の英雄を召喚してそれを殺し合わせ……どんな願いでも叶えるという、聖杯を出現させる趣向の儀式。
……正直を言えば、今でも信じられない。
あまりにも突拍子が無すぎるし、漫画の読み過ぎで頭がイカれちまったんじゃないかとさえ思っている。
だとすりゃ救いようはないが、それでもだ。どんなに馬鹿げた戦いでも、身を投じる価値はある。


 永遠の一学期――。
 修学旅行に向かうバスが崖から転落し、繰り返し続けた偽りの世界。
 理樹と鈴の二人に、俺達がいなくても生きていけるだけの強さを与えるために続けてきたリフレイン。
 それも、もうそろそろ終わりにする時だ。
 それどころか、この聖杯さえ手に入れれば……俺達の予想すらしなかった、最高の終わりを手に入れることも不可能じゃないだろう。
 夢を見るのはもう卒業だと思っていたが……


 「こういうのも、悪くない。――お前もそう思うだろ、ランサー?」
 「そうさな。確かに、悪くねえ」


答える声がある。だが、俺の周りには人っ子一人居やしない。
それでも、俺のサーヴァント……ランサーは、確かにそこでたそがれている。
青いタイツみたいな格好をした、何かとセンスのないやつだが――まあ、悪いやつじゃないはずだ。


302 : 棗恭介&ランサー ◆vpNfGNRa/c :2015/07/07(火) 00:34:39 8uTs13RY0


 「俺は聖杯を手に入れる。こいつを被るのも、きっと最後になるだろうな」


白い仮面。今の今まで、寝そべった傍らに置いていたそれを被り、立ち上がる。
これは、俺があの迷宮で装備していた仮面。“時風瞬”としての仮面だ。
素顔を隠すためとか、そんな細かい理由なんてありはしない。
ただ……今の俺は、きっとこうするべきだ。棗恭介としてではなく、時風瞬として、この聖杯戦争を制覇する。


 「行くぞ、ランサー。闇の執行部、最後の仕事だ」
 「ハッ。小僧にしちゃいい度胸、いい声をしてやがる。――気に入ったぜ。正直な話、聖杯戦争なんぞ二度と御免だったが……力を貸してやる。だからてめえも、精々死に物狂いでやるこった」
 「言われるまでもない。無駄口を叩くな、ランサー」
 

もう役に入ってんのかよ。
呆れた様子で呟くランサーに、恭介――もとい、時風は仮面の下で微笑を浮かべた。


【クラス】
ランサー

【真名】
クー・フーリン@Fate/stay night

【パラメータ】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運C 宝具B+

【属性】
秩序・中庸

【クラス別スキル】
 対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
 戦闘続行:A
 往生際が悪い。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、致命的な傷を受けない限り生き延びる。
 
 仕切り直し:B
 戦闘から離脱する能力。
 不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。  
 
 ルーン:B
 北欧の魔術刻印・ルーンの所持。
 
 矢よけの加護:B
 飛び道具に対する防御。狙撃手を視界に納めている限り、どのような投擲武装だろうと肉眼で捉え対処可能。
 ただし超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。

 神性:B
 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。


303 : 棗恭介&ランサー ◆vpNfGNRa/c :2015/07/07(火) 00:35:03 8uTs13RY0

【宝具】

『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大捕捉:1
 突けば必ず相手の心臓を貫く呪いの槍。ゲイボルクによる必殺の一刺。
 相手の心臓に槍が命中したという結果を作り上げてから槍を放つという因果の逆転現象を起こす。
 既に『心臓を刺した』という結果を起こしてから槍を放つため、槍の軌道から身を避けても意味がなく、必ず心臓に命中する。 心臓に命中するのを避けられるかどうかは『幸運』のランクによるが、高ランクでも外れるのは稀。
 対策として「防ぐには槍の魔力を純粋に上回る防壁を用意する」か「そもそも出させるようなスキを与えない」などが上げられており、また心臓が存在しない者には不発となる。

『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』
 ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:5~40 最大捕捉:50人
 本来の使用法で、ランサーの真の切り札。
 全身の力と全魔力を使い、魔槍の呪いを最大限発揮させた上で相手に投擲する。無数のやじりを撒き散らすことで炸裂弾のように一撃で一軍を吹っ飛ばす威力を誇る。
 またコンマテによると英霊となってからは生前よりもさらにその数を増して強力になっている。
 こちらも因果逆転の呪いは顕在だが、威力重視の為に必中能力はあるが心臓を穿つ能力はない。
 また全魔力を込めて投擲するため使用後のランサーはかなりの消耗を強いられる。
 『命中するまで何度でも襲い掛かる』性質を持ち、一度ロックオンすれば地球の裏側まで逃げても追って来るという。

【weapon】
宝具

【人物背景】
アイルランドの光の皇子・クーフーリン。
ケルト神話の大英雄とされる彼だが、今回はUBWルートで死亡後からの参戦。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯にも、新たな生にも興味はない。
マスターの目的に付き合ってやるか、程度の認識。


【マスター】
棗恭介@リトルバスターズ!

【マスターとしての願い】
修学旅行の事故を、聖杯の力でなかったことにする

【weapon】
拳銃

【能力・技能】
なし

【人物背景】
ある学園にて暗躍する、『闇の執行部』の部長――時風瞬。

【方針】
聖杯狙い。全てを終わらせる。


304 : ◆vpNfGNRa/c :2015/07/07(火) 00:35:22 8uTs13RY0
投下終了です。


305 : ◆Imn1dqe1BA :2015/07/07(火) 14:26:17 pnl8MH6o0
投下します


306 : バゼット&ランサー ◆Imn1dqe1BA :2015/07/07(火) 14:27:35 pnl8MH6o0


「なっ何だよお前ら…どうしてここに……!?」

「マスターであるあなたの拠点を特定したからですが?」

「ふざけんな!アサシンの気配遮断が何でこんなあっさり……!」

聖杯戦争。願望器を巡るバトルロワイアル。
本来参加するはずであったそれとは異なる聖杯戦争に参加することになったバゼット・フラガ・マクレミッツ。
彼女は目の前にいる敵対マスターのあまりのレベル、意識の低さに呆れを通り越して困惑さえ抱いていた。

「そりゃお前、サーヴァントの力に胡坐をかきすぎってもんだ。
一般人を殺して金目のものを巻き上げて、挙句すぐ近くのホテルを拠点にしてたらアサシンでも誤魔化しきれねえよ」

「サーヴァントの気配を消しても人や物の不自然な流れを辿ればマスターを探し当てることはできる。
アサシンを運用するのであれば襲撃を受けない工夫を凝らすべきでしたね」

アサシンのマスターの動きはとにかく短慮で場当たり的だった。
殺し合いに対する覚悟も超常の力もさしたる見識も持ち合わせない男はただ金を都合しアサシンと共に隠れていればやり過ごせると信じて疑わなかった。
今まで生き残ってこれたのは単に彼に目をつけるマスターが他にいなかっただけでしかない。

「まあもっとも、アサシンが消えた今では言っても詮無いことですが」

「そ、そうだ!俺はもうマスターじゃないんだ!見逃したって罰は当たらないだろ!?」

「そうはいきません。あなたに令呪が宿っている限りはぐれサーヴァントと再契約する可能性がある」

哨戒をしていた男のアサシンはバゼットのランサーによって呆気なく倒されていた。
元よりアサシンはマスター相手の攻勢でこそ真価を発揮するクラス。
気配遮断により発見されにくい分いざ相手から襲撃された際の対応力はキャスターにすら遥かに劣る。
三大騎士クラスの一角であるランサーの相手になるはずがなかった。
そしてアサシンを倒しているとしてもバゼットは男を見逃す気は毛頭なかった。


307 : バゼット&ランサー ◆Imn1dqe1BA :2015/07/07(火) 14:28:21 pnl8MH6o0

「バゼット、オレがやろうか?」

「必要ありません。あなたは万一に備えて周囲の警戒をお願いします、ランサー」

それを聞いた男は一つの光明を見出した。
自分があの女を殺せばランサーと再契約し命脈を保つことができる。
実際にバゼットを殺せたとしてランサーが再契約に応じるかは別の問題だが男は敢えてその問題から目を逸らした。
こんなこともあろうかとアサシンに命じて古美術店から盗ませた日本刀を手に取った。
剣道の有段者である男はこの刀さえあればそうそうマスターに遅れはとたないものと確信していた。
さらに相手が無手。であれば負ける道理はない。

「なあ、おい。剣道三倍段って知ってるか?
外人さんにはわからないだろうなあ…要するに今の俺はお前の三倍強いってことだああっっ!!!」

それが男の人生最後の台詞となった。
男が刀を振り抜くよりも前にバゼットの放った拳が男の頭部を粉砕したので。
男とバゼットの間に横たわる実力差は三倍どころか百倍以上だったというだけの話。



敵マスターの“処理”を終えたバゼットは男が拠点にしていたホテルの部屋を見回していた。
やはりどこにも魔術礼装の類はなく、男からも魔力を感じられなかった。どういうことなのか。

「この世界の聖杯は魔術回路を持たない人間でもサーヴァントと契約できるシステムを作り出した…?何のために?
それに無作為にマスターを選んでいる節がある。いや、これでは無作為に選ぶことが目的だと言わんばかりだ」

バゼットが認識する限り鎌倉の聖杯戦争のマスターは質のムラが大きい。
以前倒したマスターは彼女でも手こずる戦闘タイプの魔術師だった。今殺したマスターとは雲泥の差である。
元々魔術協会から聖杯を持ち帰ることを命じられたバゼットとしては無視できない違和感だ。

「考えるのもいいが今は騒ぎになる前にここから出た方が良いんじゃねえか?
大体だな、あんたは長々考えるのが似合うタイプじゃねえだろ」

「む、失礼ですねランサー。その言い方ではまるで私が頭脳労働に向いていないかのように聞こえる」


308 : バゼット&ランサー ◆Imn1dqe1BA :2015/07/07(火) 14:28:53 pnl8MH6o0

「ん?違ったか?」

「……言いたいことは山とありますがひとまずここを出てからにしましょう。
…しかし参加者を招致する方法といいマスター選定の基準といい一体どのような理屈で成り立っているのか……」

バゼットは予定外に巻き込まれたこの聖杯戦争の様相に困惑を抱いていた。
完全な平行世界から人間を呼び寄せるなど聖杯としての能力はこちらが上と思われる。
であれば冬木の聖杯以上に誰とも知れぬ者に聖杯を渡すわけにはいかない。必ず魔術協会に持ち帰らなければ。
足早にホテルを後にするバゼットをランサーは複雑な表情で見つめていた。



(ああ、まったく同感だぜバゼット。本当にこいつはどういう理屈なんだろうな)

ランサーはこの鎌倉でほとんど最初からバゼットと行動を共にしていた。
それ故バゼットは冬木で召喚したランサーが自分諸共鎌倉に招かれたのだと考えた。
だが厳密には違う。

(あの時、オレは確かに世界諸共消えたはずだ。
それが記憶を持ったまま、言峰に騙し討たれる前のバゼットに召喚されるとはな)

繰り返される四日間。衛宮士郎とバゼットによって終わったはずの世界の記憶を何故己が持っているのか。
期せずしてある種のやり直しの機会を得てしまったことになる。
出来るものなら今度こそ主を守り抜いてみせろと、聖杯に言われているようにさえ思える。

いいだろう、赤枝の騎士の名にかけて今度こそは彼女に聖杯を捧げてみせよう。
未練を残したつもりはないが、バゼットを守れなかったことはランサーの中に後悔の一つとして残っていた。
朱槍を強く握りしめ、生前の師の面影を残す女の後を追った。


309 : バゼット&ランサー ◆Imn1dqe1BA :2015/07/07(火) 14:29:33 pnl8MH6o0
【マスター】
バゼット・フラガ・マクレミッツ@Fate/hollow ataraxia

【マスターとしての願い】
聖杯の調査及び冬木市への帰還。
……ただしバゼットの場合は優勝狙いと同義である。

【参戦時期】
第五次聖杯戦争でランサーを召喚してから言峰の騙し討ちを受けるまでの間

【宝具】
「斬り抉る戦神の剣(フラガラック)」
迎撃礼装と呼ばれる類の宝具。伝説ではケルトの光の神ルーが持つとされる短剣で、持ち主が手をかけるまでもなく鞘から放たれ、敵が抜刀する前に斬り伏せると言われる。
フラガの家が現代まで伝えきった神代の魔剣であり、数少ない「宝具の現物」。
二つ名でもある「後より出でて先に断つもの(アンサラー)」の詠唱によって待機状態に入り、相手が切り札として認識する攻撃(宝具の真名解放による一撃など)の発動に反応してこちらも発動する。
つまり必然的に、こちらの発動及び攻撃は相手の攻撃よりも後になる。
にもかかわらず、この宝具は因果を逆転させて自らの攻撃を「先」に書き換えることができる。時を逆行して放たれる先制の一撃は相手を確実に殺害、「死んだ者は攻撃できない」という概念によりその攻撃をキャンセルし、始めから無かったことにしてしまう「切り札殺し」。
ただし蘇生能力などの「死してなお甦る」性質を持つ者とは相性が悪い(死亡後の蘇生を阻むことができないため)。
さらに相手の切り札を見極めそれを使わざるを得ない状況に追い込み発動の瞬間に叩きこむ必要があるなど、使用者に求められる資質が非常に多い。
バゼットはこの聖杯戦争にフラガラックを三発分持ち込んでいる。

【weapon】
硬化のルーンを刻んだ手袋

【能力・技能】
ルーン魔術を修めている戦闘特化の武闘派魔術師。
細かい魔術は苦手だが、魔術師としての腕前はA+と評される。
素手での戦闘を好み、硬化のルーンを刻んだ手袋をはめ、時速80kmの拳を繰り出す。
社会生活能力が低い反面野外生活能力は非常に高い。

【人物背景】
本作の主人公の一人。アイルランドの寒村にあるルーンの大家の出身。
15歳で家門を継いだ彼女の代で、親族の反対を押し切って初めて魔術協会の門を叩く。
しかし、権威があるにも関わらず生真面目でどの派閥にも属さない彼女は貴族達には非常に扱い難い存在であり、待っていたのは封印指定の執行者という、態のいい便利屋として利用される道だった。
性格は生真面目で融通の利かない堅物。クールを決めているものの、実は短気でちょっとした我慢ができない。
また起こす行動は過激でアグレッシブだが彼女自身の内面は後ろ向き。
人生経験があまりに偏っていることから出会った男性に片っ端から惚れ込むほれっぽい一面もある。


310 : バゼット&ランサー ◆Imn1dqe1BA :2015/07/07(火) 14:30:27 pnl8MH6o0


【クラス】
ランサー

【真名】
クー・フーリン@Fate/hollow ataraxia

【参戦時期】
本編終了後、記憶が継続した状態で召喚される。

【属性】
秩序・中庸

【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:A+ 魔力:B 幸運:E 宝具:B+

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
戦闘続行:A
往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、致命的な傷を受けない限り生き延びる。

仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。  

ルーン:B
北欧の魔術刻印・ルーンの所持。ランサーはこのスキルを持つことからキャスターのクラスにも該当する。

矢よけの加護:B
飛び道具に対する防御。狙撃手を視界に納めている限り、どのような投擲武装だろうと肉眼で捉え、対処できる。ただし超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。

神性:B
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

【宝具】
『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2〜4 最大捕捉:1人
突けば必ず相手の心臓を貫く呪いの槍。ゲイボルクによる必殺の一刺。
その正体は、槍が相手の心臓に命中したという結果の後に槍を相手に放つという原因を導く、因果の逆転である。
ゲイボルクを回避するにはAGI(敏捷)の高さではなく、ゲイボルクの発動前に運命を逆転させる能力・LCK(幸運)の高さが重要となる。
幸運のランクがA以上で稀に外れるとされるがBランクでも高ランクの直感スキルとの組み合わせで回避できる場合がある。


『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:5〜40 最大捕捉:50人
ゲイボルクの呪いを最大限に開放し、渾身の力を以って投擲する特殊使用宝具。
もともとゲイボルクは投げ槍であり、使用法はこちらが正しい。
死棘の槍と違い、こちらは心臓命中より破壊力を重視し、一投で一部隊を吹き飛ばす。
なお、「刺し穿つ死棘の槍」、「突き穿つ死翔の槍」ともにルーン魔術による一時的なランクアップが可能。

【人物背景】
第五次聖杯戦争でバゼット・フラガ・マクレミッツに召喚されたサーヴァント。
バゼットが言峰綺礼の騙し討ちに遭い脱落して以降は彼のサーヴァントとして使役された。
聖杯戦争が終わる頃には言峰は死亡していたがカレン・オルテンシアと契約し冬木市に現界し続ける。
繰り返される四日間の中、事態の解決を図る衛宮士郎に一時的に協力。かつてのマスターであるバゼットと戦い相討ちになる。
無限の残骸との最終決戦には参加せずバゼットの行く末を見届け消え去った。……筈だった。

【サーヴァントとしての願い】
召喚されたからには今度こそバゼットを守り抜く


311 : ◆Imn1dqe1BA :2015/07/07(火) 14:31:05 pnl8MH6o0
投下終了です


312 : ◆6NA1anPEnI :2015/07/08(水) 00:08:31 2GhbQWnU0
投下お疲れ様です
私も投下します


313 : 吹雪&ライダー ◆6NA1anPEnI :2015/07/08(水) 00:09:20 2GhbQWnU0









 強く、強く――願いは強く。繋ぐよその手を、還るよ明日に、きっと懐かしいあの場所へ――――









     ▼  ▲


 「私が――私が、悪いんです」

 

 鎮守府に配属され、早数週間。
 個性豊かな仲間たちに囲まれて、大分生活にも慣れてきた。
 
 海に跋扈する異形の生命体、深海棲艦と唯一戦うことのできる少女たち。それが艦娘。
 最初は海上戦闘を行うだけでもやっとの有様だったが、今では急な出撃、交戦にもちゃんと対応できるようになった。
 それでも、やはり人並みにドジを踏むことはある。その辺はまあ、ご愛嬌として。
 
 この数週間、色々なことがあった。
 楽しかったことも、辛かったことも、怖かったことも、不甲斐なかったことも。
 思えばそれを強く自覚するようになったのは、初めて仲間を失った時からだったか。

 悲しみに暮れる友人を見て、もっと頑張らなければと思った。
 それから先も力不足を痛感することは多々あって、だからだろうか、いつしかこんなことを願うようになっていった。
 
 ―――強くなりたい。
 誰かに助けられるのではなく、逆に彼らを助けて恩返しできるくらいになってみたいと。
 もちろんそれは漠然とした目標のようなもので、走り続けるために設置した仮初めのゴールテープみたいなものだ。
 一朝一夕で叶う願いじゃないんだから、じっくり向き合っていこうと思っていた。
 
 しかし。彼女はそんな願いをしるべに、悪い夢へと迷い込む。
 目が覚めた時、そこにあるのは過ごし慣れてきた鎮守府の天井ではなかった。
 見渡す限りの朝焼けの空。見慣れたものなんて、どこにもありはしなかった。

 駆逐艦、吹雪。
 強くなりたいと願った未熟な少女。
 彼女の願いは、聞き届けられる。
 叶うか、破滅か―――そのどちらかの未来以外を、すべて捨て去ることで。


314 : 吹雪&ライダー ◆6NA1anPEnI :2015/07/08(水) 00:09:51 2GhbQWnU0
     ▽  △


 そうして、鎌倉の聖杯戦争に参加させられてしまった彼女。
 特型駆逐艦「吹雪」は、あてもなく一日中鎌倉の町を彷徨い歩き。

 「……くっ……」

 ―――窮地に立たされていた。
 
 彼女が今居る場所は、午後十一時の鶴岡八幡宮である。
 時間が遅いとはいえ観光名所。肝試しを目論む若者たちがいないとも限らなかったが、そういう人影は見当たらない。
 神聖な八幡の境内で事を構えるのは、吹雪と二人の敵手。
 片眼鏡をかけた嫌味そうな英国紳士と、灰色のローブに身を包んだ妙齢の女だ。
 二人は荒事に向いた体格とはお世辞にも言い難い痩せ型だ。普通に考えて、艦娘の吹雪が遅れを取る理由はないだろう。

 そう、この状況がもしも普通であったなら、彼女にとっては苦でもなかったのだ。

 「きりがない……!」

 吹雪が苦戦しているのは、ひとえにこれが異常な状況であるからに尽きた。
 女の持つ、淡く輝く水晶。その瞬きが強くなるたびに、おぞましい姿の化け物が現れる。
 幸い一匹一匹は吹雪の武装で蹴散らせる程度でしかなかったが、無尽蔵に湧かれては、彼女の処理速度にも限界がある。

 「おやおや……少し危惧していましたが、どうやらこのお嬢さん、本当にサーヴァントを連れていないらしい」
 「馬鹿よねえ。もしサーヴァントさえいたなら、まだ勝負にはなったかもしれないのに」

 下卑た微笑みで、吹雪の敵手たちは談笑している。
 どうやらこのまま、化け物たちに吹雪を喰らい殺させるつもりのようだった。
 慢心なのか、はたまた悪い趣味なのか。どちらにせよ、これだけは彼女にとって功を奏する。
 鎌倉へ放り込まれるにあたって、吹雪も聖杯戦争のルールについては刷り込まれていた。
 
 あの水晶の女は「サーヴァント」―――艦娘でも深海棲艦でもなく、それでいてそのどちらよりも強大な神秘存在。
 彼女が本気で殺す気になったなら、自分では太刀打ち出来ないだろう。
 まして、今はまだサーヴァントすらいないのだ。
 
 いつ、私のサーヴァントは現れるんだろう。
 焦燥感ばかりが吹雪を苛む。
 前向きが取り柄の彼女をしても、この状況には堪えるものがあった。
 どんなに良い方向に考えても、どうしてもひとつのよくない未来が頭を過っていく。死という、冷たい結末の。

 (でも……数は多いけど、一匹一匹はそれほどでもない……!)

 武装を使い、敵を一度に三匹爆散させた。
 残りはざっと見渡しただけでも、今倒した十倍以上はいるだろう。
 サーヴァントの意思で自由に増やせるのだから、馬鹿正直に相手などとてもじゃないがしていられない。
 
 (敵を倒しながら距離を取って、ある程度まで離れたら一気に―――!)

 そこで吹雪が打ち出した回答は、逃げる、というものだった。
 サーヴァントの力らしい力を、彼女はまだこの召喚術以外に知らない。
 しかし、だからと言って油断すれば、どんな目に遭うか分かったものではないのだ。
 慢心はせず、あくまに堅実に。そんな彼女の考えは、こと聖杯戦争を生き抜く上で間違いなく正しいものといえた。


315 : 吹雪&ライダー ◆6NA1anPEnI :2015/07/08(水) 00:10:56 2GhbQWnU0
 砲の音が鳴って、醜い悪魔が血飛沫をあげる。
 吹雪は集中力を決して切らさず、一発たりとも外さずに、確実に追手を仕留めていく。
 足は常に後方へ。なかなかに神経を摩耗する立ち回りだったが、そこは命を懸けた戦闘に一日の長がある艦娘だ。
 追ってくる悪魔の数はまるで減っていない。しかし、とりあえず十分なだけの距離は取った。
 
 唇を噛み締めて小さく頷き、吹雪は踵を返して走り出す! 
 悪魔は一体一体が弱いだけじゃなく、足も遅いようだった。
 まず追いつかれることはないだろう。このまま逃げ切ってみせる――強い覚悟で走る吹雪。だが、現実は非情であった。

 「っ!? つ、うっ……」

 走り抜けようとした全身で、虚空と衝突した。

 そこに遮蔽物のようなものは存在しない。何もないのに、確かにその虚空は吹雪の逃走を防ぐ壁として機能していた。
 じんじんとこみ上げる鈍痛を堪えながら手を伸べてみると―――やはりある。見えない壁が、ここにある。
 ならばと、そこから少し離れた場所からの逃走も試みた。しかし、どこも同じように不可視の行き止まり。
 混乱と焦りの中、吹雪は絶望に滲んだ声を漏らす。
 
 「どうして……」
 「英霊を舐めないでもらいたいものね。
  退路を断つ結界術くらい、サーヴァントなら持っていてもおかしくない。そうは考えなかったの、お嬢ちゃん?
  なら覚えておきなさい。他のクラスならともかく、あたしみたいなキャスターにとっては……」

 独り言のような問いかけに、返答する声があった。
 ばっと振り返ると、相も変わらずの厭味ったらしい微笑みを浮かべた紳士と、そのサーヴァント。
 自らのクラスをキャスターと明かしたそのサーヴァントは、最後通牒を突きつける。
 いつしか、悪魔相手に確保した距離も無意味なものと成り果てていた。
 三十どころか、百は居そうなおぞましい軍勢……それを背後に、英霊の女とそのマスターは悪辣に嗤う。

 「こんなの、片手間でだって出来ることよ。―――あら、ごめんなさい。覚える必要はなかったわね」
 「そうですよ、キャスター。このお嬢さんは、今ここで貴女の贄となるのですから」

 思わず、今度は恐怖から後ずさりをする。
 背中に硬いものが当たった。例の、退路塞ぎの結界だ。
 逃げ切ってしまえば助かると信じて打った策は、結局袋小路に誘導されているだけに過ぎなかった。

 怖い。
 吹雪は慣れない頃の出撃以上の感情を、目の前の二人に対して覚えていた。
 深海棲艦とは違う、生きている人間と元人間なはずなのに、どうしてこれほどまでに恐ろしいのか。
 そして確信してしまう。自分はきっと、今日ここで殺されるだろうと。
 サーヴァントも連れていない状態では、たとえ艦娘といえども―――この鎌倉を生き延びることはできない。

 「怯えてしまって、可哀想に……キャスター。楽にしておやりなさい」
 「承知」

 やりなさい、その号令が響くなり、侵攻を止めていた悪魔たちがまた一斉に襲いかかってくる。
 人は今際の際に、時間が止まったような感覚に陥るという話があるが、本当なのだなと吹雪は知った。
 記憶の中をよぎっていくのは、艦娘になる前のことではない。
 艦娘になってから―――あの鎮守府で過ごした、騒がしくも楽しい日々のことだ。

 けれど、それももうこれで終わり。
 お世話になった先輩たちや睦月ちゃんたちにお別れを言えないのは残念だけど、きっと私はここまで。
 すべてを諦めて、目を閉じる。次に目を開くときには、平和な世界と静かな海が待っていると信じて――――――、


316 : 吹雪&ライダー ◆6NA1anPEnI :2015/07/08(水) 00:11:28 2GhbQWnU0




 ――――――――違う



 
 「ッ!」

 反射的に、身体が動いていた。
 一度は撃つことすらやめた武装を再び、目の前の悪魔たちに放つ。
 至近距離から艦娘の兵装を受けた彼らは、例外なく苦悶と血飛沫をあげて消えていく。
 奇しくもこの密集度であれば、吹雪の砲撃一発で、先程までの二倍以上の成果を挙げられるようだった。

 「な―――まだ足掻く気なの? 見苦しいわよ」

 そんな悪罵の声など、今の吹雪の耳には入らない。
 
 思い出せ、私は何を願ってここに来たのかを。
 こんな戦争なんて私は望んでいなかったけど、町に呼ばれるくらいの価値ある願いを持っていたはず。
 
 「私はッ」

 馬鹿みたいに全部相手取らずに、足元の悪魔を踏み台にして、吹雪は一直線に魔女の英霊へと走り出した。
 これにはさしもの敵手たちも驚愕を禁じ得ない。
 一瞬だけ生まれた思考の空白。これを逃すわけにはいかないと、吹雪はひたすら速度を早めていく。

 「私は―――ッ!!」

 強く―――強く、冬の日の吹雪のように、強くなりたい。
 それが私の願い。聖杯に認められた、価値ある願いのかたち。
 
 聖杯なんかに託す願いじゃない、そんなことは分かってる!
 だけど、だけど―――それは、生きることを諦めていい理由にはならない!
 
 元の世界に帰るため、吹雪は自身の武装を魔女の水晶に向ける。
 あの水晶が悪魔を召喚するのなら、それを壊せば状況を打開できるはずだ。
 そしてそれは、余裕綽々であったキャスターを焦らせるほど彼女の弱点を射ていた。

 「このっ、図に乗るな!」

 それでも、吹雪の猛攻はキャスターを倒すには至らない。
 足元から伸びた蔓のような物体が、吹雪の手足を、砲を、がっちりと縛って拘束する。
 吹雪は決死にもがくが、魔力の蔓は彼女の力ではびくともしなかった。

 「……まあ、少しは冷やっとさせられたわ。褒めてあげる。だから―――誇りに思って、死になさいッ!!」

 余程自分が軽んじた小娘に足元を掬われかけたのが気に入らなかったのか、キャスターは美貌を歪めて怒号を飛ばす。
 水晶に紫色の魔力が収束していき、やがてそれは一発の鏃に姿を変えた。
 今までは所詮マスター狩り、大した力を使うでもなく道楽気分だったのだろうが、こうなってはそうもいかない。
 この鏃は、彼女がサーヴァントと戦うための魔術だ。当然、吹雪に耐えられるわけがない。

 今度こそ、ダメなのか。

 絶望的な状況の中、しかし吹雪の光はまだ失われていなかった。
 帰るんだ、あの場所へ。睦月ちゃんやみんなが待っている、私達の鎮守府に帰るんだ。
 こんなところで死ぬわけにはいかない。だから、どうかお願い。

 もう一度だけ、奇跡をください。

 そんな吹雪の願いが、天に通じることは決してない。
 この聖杯戦争という箱庭に、神様などという胡乱げなものの介入する余地はない。


317 : 吹雪&ライダー ◆6NA1anPEnI :2015/07/08(水) 00:11:55 2GhbQWnU0
 あるとすれば、そう。


 「―――Feuer」


 召喚に応えて現れる、サーヴァントくらいのもの。

 明後日の方向から響き渡った砲声にキャスターが振り返るよりも早く、鏃を充填した彼女の水晶が粉々に爆散する。
 込められた魔力が霧散して煙状になって消えていく様を呆然と見つめるキャスター。
 そんな彼女とは裏腹に、現れたサーヴァントは実に得意げな表情で悠然と歩を進めていた。

 「遅れてごめんなさいね、マスター。現界に手間取っちゃって」
 「え……それじゃあ、あなたが」
 「もちろん」

 吹雪の手を取ると、彼女を自分の背後に隠す。
 背中に注がれる視線を感じながら、やはり実に得意げな顔で、彼女のサーヴァントは宣言した。

 「私が、貴女のサーヴァントよ。日本の駆逐艦ちゃん」

 頼みの宝具を破壊されたキャスター。
 突然の出来事にわけも分からず慌てふためいている彼女のマスター。
 これまでの戦況などとっくに覆っていた。
 どちらが勝つのかなんて、言うまでもない。

 「Feuer」

 38cm連装砲の砲塔が火を噴く。
 たったそれだけで、呆気なく鶴岡八幡宮の魔女は塵と消えた。


318 : 吹雪&ライダー ◆6NA1anPEnI :2015/07/08(水) 00:12:21 2GhbQWnU0
    ▽  ▲

 
 「ビスマルクさん……いえ、ライダーさんも私と同じ艦娘だったんですか!?」
 「ええ。私はドイツの戦艦だから、日本の貴女達にはあまり馴染みがないかもしれないけどね」
 「凄いです……艦娘がサーヴァントになるなんて!」
 「ふふん、私が凄いなんて当たり前でしょう? 何言ってるのよ。でも、もっと褒めてもいいのよ?」

 八幡での戦いを終えた吹雪とビスマルクは、石の階段に腰かけて自己紹介をし合っていた。
 キャスターのマスターは自分のサーヴァントが倒されたと知るなり情けない声をあげてどこかへ走り去ってしまった。
 追撃はしていないから今のところ無事だとは思うが、これからどうなるかは彼次第だろう。

 ライダー、ビスマルクは、吹雪と同じく艦娘として深海棲艦と戦っていたと語った。
 それを聞いた吹雪は大層驚かされたのだが、彼女いわくライダーで呼ばれたのは少々不満だという。
 艦娘は船のルーツを持っている。
 したがって砲撃に重きを置いたならアーチャー。
 機動力や馬力を重視したならライダーと、主にその2クラスのどちらかで召喚されることになる。

 戦艦なんだから、せっかくなら砲撃の威力が優れている方がよかったわ。
 不満気にぼやくビスマルクをどう宥めたものか苦心したが、少し褒めるとすぐ機嫌を直してくれた。
 体型も経験も吹雪よりずっと大人な彼女も、根っこの部分では意外と子供っぽいのかもしれない。

 「ねえ吹雪。貴女、帰りたいんだったわね? 本当に聖杯はいらないの?」
 「はい。それはもちろん、私だって願いはありますけど……でもそれは、自分の力で叶えるものですから!」
 「ふふ、そう。……うん、気に入ったわ。
  責任持って元の世界まで帰してあげるから、大船に乗ったつもりで任せておきなさい!」

 豊満な胸を張る彼女の姿に、吹雪は安堵感を覚える。
 国籍も戦った戦場も異なるふたりだったが、艦娘として戦った経歴は同じ。
 互いに通じ合うものもある―――駆逐艦「吹雪」、並びに戦艦「ビスマルク」……聖杯戦争、攻略開始。


【クラス】
ライダー

【真名】
Bismarck@艦隊これくしょん

【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具C (平常時)

筋力C+ 耐久A 敏捷B+ 魔力C+ 幸運B 宝具C (第二改造)

筋力B 耐久A+ 敏捷B+ 魔力B 幸運A 宝具C (第三改造)

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。


319 : 吹雪&ライダー ◆6NA1anPEnI :2015/07/08(水) 00:12:39 2GhbQWnU0

【保有スキル】
艦娘:A
 ドイツ戦艦・Bismarckが少女として転生した。
 水上ではステータス以上の力を発揮することが可能である。

戦闘続行:B
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

【宝具】
『第二改造(ビスマルク・ツヴァイ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
更なる改装を瞬間的に施すことによって、自らのステータスを上昇させることが出来る。
一度この宝具を使用すれば、もう改装前の状態へ戻すことは不可能。しかし魔力消費が劇的に変わるというわけではない。

『第三改造(ビスマルク・ドライ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
更なる改装を瞬間的に施すことによって、自らのステータスを上昇させることが出来る。
一度この宝具を使用すれば、もう改装前の状態へ戻すことは不可能。
三度目の改装とあってか能力も格段に上昇しているため、マスターにかかる負担も第二改造時より大きくなっている。

【weapon】
艦娘としての武装。改造の度に変わる。

【人物背景】
ドイツが誇るビスマルク型超弩級戦艦のネームシップ、ビスマルク。
欧州最大の戦艦であり、短いながらもWWII有数のド派手な戦歴から日本人にとっての大和同様に世界では知名度・人気共に非常に高い。

【サーヴァントとしての願い】
吹雪を聖杯戦争から脱出させる。


【マスター】
吹雪@艦隊これくしょん(アニメ版)

【マスターとしての願い】
聖杯戦争からの脱出

【weapon】
艦娘としての武装。

【能力・技能】
艦娘:C
 特型駆逐艦・吹雪が少女として転生した。
 水上ではステータス以上の力を発揮することが可能。
 彼女はサーヴァントではないので、Cランクにとどまっている。

【人物背景】
アニメ版艦隊これくしょんの主人公。
十二話終了後からの参戦とする。

【方針】
脱出狙い。聖杯はいらない。


320 : ◆6NA1anPEnI :2015/07/08(水) 00:13:16 2GhbQWnU0
投下終了です 聖杯企画への投下は初めてなので、問題があれば指摘お願いします


321 : ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/09(木) 00:41:52 koHHAqn60
投下乙です
あまり長くはありませんが、投下させていただきます


322 : 夏目吾郎&キャスター ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/09(木) 00:42:21 koHHAqn60

 月を見ていた。
 謬々と吹き荒ぶ夏風に、くゆる紫煙が立ち上っては消えてゆく。
 とぐろを巻く蛇のような体に悪い灰色を見つめて、医者は何か嫌なことを思い出したのか。
 まだ吸い始めたばかりの煙草をコンクリートの地面に擲ち、ぐしぐしと踏み潰して揉み消した。
 
「勤務時間中ですよ、夏目先生」
「シガレットチョコだ」
「まったく……院内では吸わないでくださいよ」

 屋上の様子を見に来たのか、医者―――夏目吾郎の顔を見た看護婦は呆れた表情で嘆息する。
 患者の健康を守る立場である医師が堂々喫煙をしているというのはどう考えても問題だが、そう言って直す彼ではない。
 忠告だけして屋上を後にする同僚へ「つれないねえ」と言って笑い、夏目は空の向こうを見つめる。
 鎌倉から遥か離れたどこかを懐かしんでいるのではない。この草臥れた医者が見据えているのは、もう戻らないもの。
 この世界でも、あのどうしようもない藪医者は惰性の毎日を送っているのだろうか。
 見ているこっちが青臭くて嫌になるような少年は、相も変わらず猪突猛進で突き進んでいるんだろうか。
 
「やめろ」

 背を向けたまま、夏目は明確な拒絶の念を示す。
 その声が響くと同時に、今しがたこの場を去った看護婦を追わんとしていた異形の影達が動きを止めた。
 蠢く姿はまるで泥の怪物だ。沼地の底から迫り上がる汚泥の魔物を見て、しかし夏目は別段驚いた様子もない。
 この程度で驚いていては、これから始まる『戦争』を生き抜くことなど到底できないだろう。

「この病院で魂喰いをやるのは許さねえ。やるんなら町に行くんだな、キャスター」

 右手に巻かれたテーピングの真下にある、医師には似合わない物騒な赤色。
 魔術師でない夏目にはただの刺青にしか見えないが、聖杯に植えつけられた知識に拠れば何やら凄まじいものらしい。
 悪戯っ子のような笑顔で給水塔の影から姿を見せるのは、白昼堂々ナチスドイツの軍服を纏った赤い少女だ。
 一見すると相当なイロモノだが、彼女の場合はこれが正装なのだ。彼女こそは、かのアーネンエルベに連なる魔女。
 表の歴史では語られることのなかった、葬り去られるべき闇の歴史。聖槍十三騎士団の第七席に座る者である。

「くす。バレちゃった」
「悪ふざけもほどほどにしとけよ、性悪。俺がトチ狂って令呪を使わない内にやめとくんだな」
「それは流石に困るわねぇ。ま、可愛い吾郎くんに免じて勘弁してあげようかしら」

 夏目吾郎は、キャスターの魂喰い行為を黙認している。
 人を守り、助ける医師という立場にありながらだ。
 しかし。そんな彼が、一つだけ彼女に言いつけてあることがある。
 それが、彼の勤務する病院内で魂喰いや戦闘を行うことの禁止だった。
 とはいっても、夏目は異世界人だ。
 この世界の彼は業界に名を轟かせる名医ではないし、そもそも医師免許すら持ってはいない。
 ここで彼がこうして勤務出来ている理由はつまるところ、キャスターの魔術のおかげである。


323 : 夏目吾郎&キャスター ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/09(木) 00:42:53 koHHAqn60
「それで? 工房とやらは完成したのか」
「そんなのとっくのとうに出来上がってるわよ。今は少し趣向を凝らしてるところ」
「趣向? インテリア的なやつかよ」
「馬鹿ね、違うに決まってるでしょ。ただ、少し……」

 キャスターの桃色の唇が、緩やかな弧を描く。
 
 彼女は真正の魔女である。
 この市立病院は全域が彼女の結界に包まれており、更に院の要人には念入りに暗示も施している。
 若き天才医、夏目吾郎。類稀なる才能を持っていながら、外部からの仕事を請け負わない奇特な人物。
 元世界のそれとほぼ変わらない評判で、夏目は院の関係者に認識されていた。

「少しこの街は、魔都としての穢れが物足りなかったのよ。だからその辺、ちょっとだけ『手直し』をね」

 鎌倉の街に歪な蜘蛛の巣を描きながら暗躍する相方に、夏目は何も言わない。
 彼だって人の子だ。この現状に、まったく罪悪感を抱かないわけではなかった。
 人を人とも思わない魔女の所業に恐れを成しているわけでもない。
 彼が冷血である理由とは、語るまでもなくその抱える願いが――天秤にかけることの出来ないものであるからだ。

「まあ、そういうわけだから期待して待ってなさい。もうじきに予選も終わって、本当の魔徒がうろつく聖杯戦争が始まるわ。生き残りましょう、吾郎くん。私達は必ず聖杯の恩恵に預かるの」
「……そうだな。負けるわけにはいかねえ」

 煙草が欲しくなって、夏目はもう一度懐へ手を伸ばす。
 取り出したくしゃくしゃの箱には、もう彼を落ち着かせる紫煙の火種はなかった。
 紫煙の体に悪そうな香りとは別に――昔懐かしい、『彼女』の残り香のような風が一陣、吹き抜けていった。


【クラス】
 キャスター

【真名】

 ルサルカ・シュヴェ―ゲリン@Dies irae

【パラメーター】
 筋力D 耐久D 敏捷E 魔力A+ 幸運E 宝具B

【属性】
 中立・悪

【クラススキル】
 陣地作成:B+
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 “工房”の形成が可能。

 道具作成:A
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 Aランクであれば、限りなく宝具に近い魔具の作成すら可能とする。

【保有スキル】
 永劫破壊:A
 人の魂を糧に強大な力を得る超人錬成法をその身に施した存在。
 聖遺物を核とし、そこへ魂を注ぐことによって、常人とはかけ離れたレベルの魔力・膂力・霊的装甲を手に入れる。
 ランクAならば「創造」位階となる。

 地星の宿業:A
 カール・クラフトより与えられた、「誰にも追いつけない」という呪い。
 いわゆる薄幸属性。幸運:Eは伊達ではない。


324 : 夏目吾郎&キャスター ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/09(木) 00:43:13 koHHAqn60
【宝具】
 『血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)』
 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 かのエリザベート・バートリーが、獄中で書き記したとされる拷問日記。
 日記に記された数々の『拷問器具』を何らかの形で現界させ、利用することができる。
 聖遺物の性質上相性が良いのはサディストや自壊的な人間。前者とは良く同調し後者には一方的なラブコールを送る。
 現界させた拷問具へのダメージはキャスターにも及ぶが、致命的なものにはならない微々たるダメージに留まる。
 彼女が持つもう一つの宝具を使用した場合、このダメージも消滅する。

 『拷問城の食人影(チェイテ・ハンガリア・ナハツェーラー)』
 ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1〜50
 キャスターの『創造』が宝具に昇華されたもの。
 元となった渇望は『他人の足を引っ張りたい』。発現した能力は「自分の影に触れた者の動きを止める」こと。
 宝具使用中、キャスターの影に触れた存在は触れている間一切身動きを取ることが出来なくなる。
 宝具の性質としてはごくシンプルなものだが、シンプルゆえに応用形に富む。
 が、影を使った宝具であるため強い光源が生まれた場合、効果を失ってしまう場合がある。

【weapon】
 なし

【人物背景】
 聖槍十三騎士団黒円卓第八位、ルサルカ・シュヴェーゲリン=マレウス・マレフィカルム。
 本名はアンナ・マリーア・シュヴェーゲリン。
 元はとある普通の村に生まれた普通の娘であったが、妖艶な美貌を持っていたがために嫉妬を買い、魔女であると事実無根の密告されてしまう。
 彼女は無実を訴えるも認められず、絶望の淵、獄中で告解師を名乗る謎の「影」によって影を操る魔術を授けられ脱獄。
 「影」を追いかけ魔女として生きるようになった。
 その人生はあまりにも幸が薄く、そのため天に輝くことのない地星と称される。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯を飲み干し、不老不死に到達する。

【方針】
 賢く立ち回る。勝ち目のない相手とは無理に張り合わない。


【マスター】

 夏目吾郎@半分の月がのぼる空

【マスターとしての願い】
 過去をやり直し、小夜子を救う。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 外科医としての才能、技術。彼のそれは紛れもなく天才のものであるとされる。

【人物背景】
 妻を心臓の難病で亡くした過去を持つ外科医。
 聖杯戦争においてもキャスターの力によって医師を続けている。
 魂喰いなど非倫理的な手段も黙認するが、自分の勤務している病院内で悪事を働くことだけは禁じている。

【方針】
 迷いはあるが、聖杯戦争に乗る。


325 : ◆RIXQ..FEb2 :2015/07/09(木) 00:44:49 koHHAqn60
以上で投下終了です。
また、今回の作品を仕上げるにあたって第二次二次キャラ聖杯戦争様、二次キャラ聖杯大戦様に投下された同作サーヴァントのステータスを参考にさせていただいたことをここに報告させていただきます。ありがとうございました。


326 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/09(木) 03:01:51 cHiqN/.c0
投下乙です。自分も投下させていただきます。


327 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/09(木) 03:02:57 cHiqN/.c0
 ―――ああ。
 ―――視界に誰かの姿が映る。

 痛みと共に頭をよぎる。
 その姿は、見たことのない記憶を思い起こさせる。

 彼の記憶。
 知らないはずなのに、何故か懐かしい後ろ姿。

 蘇る記憶、セピア色の。
 頭が痛む。今日も、また、見てしまった。記憶と共に。

 それはそう、ほんの数か月前まで。
 今はもう、永遠に離れてしまった温もり。
 白衣を纏った、黒髪の、暖かな。

 記憶。
 切れ切れではっきりとしない。

 記憶。
 この手を繋いでいられるのだと思っていた。
 傍にいれば、ずっと共にあるものと。

 記憶。
 あたしを慈しむように迫る、刃の右手。

 記憶。
 全てが終わりへと近づき始めたあの時。
 
「アティ」
「僕は、君を―――」

 ―――声が聞こえる。

 答えられない。
 応えられない。
 言葉は出ず、狂乱のうちに機会を逃した。

 きっとあの時、あたしは壊れてしまったのだ。
 雑踏の中を彷徨い、白い左手を見つめながら、何者にもなれなかった黒猫の手を蠢かせて。

 きっとあの時、あたしはあなたに応えるべきだったのだ。
 この異形の体を抱きしめてくれたあなたに。
 大事な大事な、ささやかな充足感を与えてくれたあなたに。

 ―――10年。
 ―――そう。気付けば、10年も共にいた。このインガノックで出会って。
 ―――あなたという存在に出会って、10年。

 あたしは、あなたに伝えられないまま。
 もう、伝える機会は、ない。

『こんにちは。アティ』

 ―――視界の端で道化師が踊っている。

 耳元で囁く道化師。黒色の。纏う仮面はぼろぼろで、こうしている間にも崩れ落ちて。

『きみは』

 ―――あたしは。

『なにを願う?』

 ―――あたしの。
 ―――あたしの、願いは―――


328 : アティ・クストス&アーチャー ◆GO82qGZUNE :2015/07/09(木) 03:04:47 cHiqN/.c0



   ▼  ▼  ▼



 ―――雨が降り注ぐ。

 どれだけ降り注ごうとも変わらないはずの空。しかしここでは少し違う。
 ここには失われたはずの青空があった。でも今は見えない。雨雲に遮られて。
 暗い色の空。それは、自分を取り巻く現実にも似ていると、そう思った。

 雨が降り注ぐ。
 鎌倉市は鶴岡八幡宮、その境内に彼女はいた。
 灰色に包まれた空を見上げて。ひとりの女は呆然と立ち続ける。
 言葉もなく。唯一知っているはずの空さえ違うもので。

 女は困惑の只中にあった。知らない土地に知らない光景。何もかもが理解の外。
 自分はインガノックにいたはずなのに。完全環境都市計画に基づいた理想都市、その成れの果て。そこに、昨日までいたはずなのに。
 けれど今は違う。周囲のあらゆるものが歪んで見える。記憶の彼方に置き去った異形都市ですらない異世界に、彼女はいた。

「聖杯戦争……」

 呟く。小さく、淡々と。
 それはこの都市で行われる魔術闘争。ただ一つの杯を手にするために競い合う、魔術師同士の殺し合い。
 なんて馬鹿げたこと。あたしは、魔術師でもなんでもないというのに。
 女―――アティは憮然と理不尽な現状に嘆いた。

「……」

 水溜りに映りこむ顔を見る。
 そばかすの浮いた顔。肌の白さが自慢。そこにはいつもと変わらない自分の顔があって。
 でも、明らかに違うものが、ひとつ。

「……やっぱり、あるんだね」

 押し開いた瞼から見える右目は、そこだけ猫のような金色の瞳となっていた。
 黄金瞳、とあの黒い人は言っていた。Mと名乗った影のような人。
 それが何を意味するのか、あの人は教えてはくれなかった。けれど、ひとつだけ分かることがある。
 これは、知らない記憶の鍵だ。

「気分が優れないのかな、マスター」


329 : アティ・クストス&アーチャー ◆GO82qGZUNE :2015/07/09(木) 03:05:58 cHiqN/.c0

 ひとりしかいなかったはずの空間に突如として黒い影と気配が舞い込む。
 薄暗がりの微かな闇を一点に凝縮したように現れたそれは、夜色のマントを羽織った男の姿だ。剣呑な登場をした男はしかし、それとは全く裏腹の穏やかな顔と雰囲気を持ち合わせていた。

「ううん、大丈夫よアーチャー。でも」
「でも?」
「……どうしたらいいか、分からない、かな」

 それは聖杯戦争に対する姿勢のことか。アティは境内の縁にへたりこむと、鷹揚にアーチャーへと視線を向ける。
 自然と目が合った。見下ろしてくるアーチャーの目はどこまでも静かで、それは雨音だけが響く境内と同じくアティの心を落ち着かせた。

「分からない。つまり、マスターには願いがあると?」

 問いかけるアーチャーに、アティはただ動きのみで首肯する。
 確かにこの身には願いがあった。この頭を苛む痛み、知らない記憶、失ってしまった誰か。
 この黄金瞳が発現して。それから次々と起こるフラッシュバック。
 それが何を意味するのか、自分は知らなければならないと思っていた。
 けれど。

「けれど、そのために他者の犠牲を容認することはできない。そう言いたいのだね」

 またしても無言の首肯。アーチャーを名乗るサーヴァントは、どうにも人の思考を読むことが上手いらしい。
 アティは人の死というものがどういうものか知らない。それは知識とかの話ではなく、実感として体験したことがないのだ。
 普通に生まれ、普通に育ち、故に蛮性や悪意による人の死とはとんと縁がなかった。だから殺人などと言われても全く現実味がないし、あるのは半生の中で積み上げてきた薄い倫理観のみ。
 だからこそ簡単に人の命は大切だと嘯ける。それが意味する本当の価値も分からぬまま。その裏に潜むどうしようもない願いを無視することも叶わぬまま。

「二律背反、けれどそれは人として正しい。その悩みは、他者を想う気持ちは尊いと、私は思うよ」

 けれど、彼女の従僕はそれを笑いも咎めもしなかった。
 叶わぬ願いを持つことも、まだ見ぬ誰かを思いやる心も、その狭間で揺れ動くのも良しと認めて。

「アーチャー、あなたは……」
「私は聖杯にかける願いを持ち合わせていない。何分、やるべきことは全て生前に終わらせているのでね」


330 : アティ・クストス&アーチャー ◆GO82qGZUNE :2015/07/09(木) 03:06:52 cHiqN/.c0

 またも言葉を先読みして返答する。優しく微笑みかけるアーチャーに、アティは意外な心境であった。
 サーヴァントは願いを持つ故に召喚に応じるのだと、そう思っていた。聖杯を望まないなどと口にすれば見捨てられるとも。
 しかし目の前のアーチャーは違うのだという。ならば何故あたしに召喚などされたのだろうか。
 アーチャーを見つめるアティの視線の意図に気付いてか、アーチャーは少々困ったような表情で、こう答えた。

「……そうだね。私にはもう戦う理由は存在しない。けれどこうしてマスターの召喚に応じた」

 王として臣民を導くことも、世界の敵として歩むことも、同輩らの未来を守ることも、今は必要がない。全ては終わったことなのだから。
 かつて自分が願ったことは全て成就し、何の未練もなくこの世を去った自分がこうして現世にいる理由。それは単に、救いを求める誰かを無視できなかったの一言に尽きるのだろう。

「こうしてここにいる以上、願いはなくともマスターを見捨てることなどしないさ。私が戦う理由は、今の所はそれだけだ」
「……優しいね、アーチャーは」
「私は悪党だよ。ただひとつの目的のために多くの想いを裏切り屍の山を築き、千年を歩んでもなお生き方を変えられなかった」

 自嘲の笑みを零すアーチャーに、しかしアティは目を閉じ首を振って否定する。
 あなたを悪党などとは思わない、そう語りかけるように。

「ありがとうアーチャー。あたしはまだどうするべきかも分からないけど。でも、絶対に答えは出すから」

 そして。
 そして、瞼を開き、しっかりと見据える。
 かつて深紅の右手に触れられて、それでもなお消えることのなかった黄金色の瞳を。

「約束しよう。これより私の剣はマスターを守護するためにある。決して死なせることはないとここに誓おう。
 そなたに、いと高き月の恩寵があらんことを」

 しっかりと見据える。灰色の瞳で、黄金の瞳で。
 そうして彼女は前を向く。しかしその手は未だ伸びない。
 彼女の右手は動かぬままだ。今は、まだ。





 それは、彼が既に黄金の螺旋階段を昇った後のこと。
 それは、異形ならざる異界の都市でのこと。

 失われた10年の記憶、10年の空白を追い求め、進まんとする道を見失わぬよう足掻き続けて。
 我知らず流した涙の意味を、異形都市の残滓へと求めて。

 答えは出ない。言葉にはならない。記憶は戻らず、腕は動かず。未だこの目は盲目なれど。
 しかしその身は生贄ではなく、分かることがひとつだけ。
 生き延びる。誰かが救ってくれたこの命を無駄にすることはしてならないと、そう心に誓って。

 ……視界の端に。
 既に、道化師の姿はなかった。


331 : アティ・クストス&アーチャー ◆GO82qGZUNE :2015/07/09(木) 03:08:09 cHiqN/.c0
【クラス】
アーチャー

【真名】
ローズレッド・ストラウス@ヴァンパイア十字界

【ステータス】
筋力B 耐久B- 敏捷A 魔力A++ 幸運E 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:A+
マスター不在でも行動できる能力。
千年の長きに渡りたった一人で戦い続けたアーチャーの単独行動スキルは最高のランクとなる。

【保有スキル】
心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

専科百般:A+
多方面に発揮される天性の才能。
戦術、軍略、武術、魔術、統治、学術、芸術、話術、工学、その他数多くの専業スキルにおいてBランク以上の熟練度を発揮する。

カリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。
Aランクはおおよそ個として獲得しうる最高峰の人望といえる。

無窮の武練:A++
いくつもの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
百億の憎悪に晒され千億の怨嗟に呑まれようと、彼の剣が曇ることは決してなかった。

【宝具】
『月の恩寵は斯く在れかし(THE RECORD OF FALLEN VAMPIRE)』
ランク:A 種別:対人〜対界宝具 レンジ:0〜999 最大捕捉:1000
1300年を生きた吸血鬼の肉体。アーチャーそのものが宝具となっている。
強靭な身体能力と高い再生・感知能力を持ち、絶大な規模の魔力放出を可能とする。
その魔力波はかつて惑星すら微塵とする威力を誇ったが今は大幅に弱体化している。また、広域の破壊のみならず小規模の魔力弾や超遠距離のピンポイント狙撃にも転用可能。
本来吸血鬼は陽光下において灰となる欠点を持つが、アーチャーの場合は力が2割ほど減衰するのみでダメージもなく普通に行動可能。
その身は純粋な魔であるため、魔特効の攻撃を受けた場合には更なる追加ダメージを受ける。
ちなみにアーチャーは吸血鬼と呼称されているが真祖でも死徒でもなく、太古の昔に宇宙から飛来した地球外生命体の末裔である。
そのため大気圏よりも宇宙空間のほうが活動に適しているのだとか。


332 : アティ・クストス&アーチャー ◆GO82qGZUNE :2015/07/09(木) 03:09:10 cHiqN/.c0
【weapon】
魔力で生み出した剣。

【人物背景】
かつて夜の国を治めた若きヴァンパイア。余りにも強大な力を持った故に人間はおろか同族にすら恐れられた、およそ出来ないことはないとまで称された万能の王。
愛した女を守れず、救えず、しかし王としての責務から死ぬことも許されず。守りたいと願った者たちから憎悪と刃を向けられ、1000年にも渡って愛した女の魂と殺し合うことを強いられた男。

【サーヴァントとしての願い】
やるべきことは全て終えた。今はマスターの意向に従うのみ。



【マスター】
アティ・クストス@赫炎のインガノック- what a beautiful people -

【マスターとしての願い】
知らない記憶を取り戻したい。

【weapon】
なし。

【能力・技能】
・黄金瞳
金色の猫の瞳。かつて彼女はこの瞳が発現して以降肉体の老化と成長が抑制された。
この瞳は幾多の伝説を有している。すべてを見抜くであるとか、すべての想いを受け止めるであるとか。真実は定かではないが、少なくともアティはこの瞳を持つ影響で魔力を有している。
―――月の裏で嘲笑う虚空の王が関与しているかは定かではない。

あと手先が器用。料理は自慢の特技。

【人物背景】
黄金螺旋階段の果てへと至った男の傍らにあって、寄り添い、暮らして、その記憶と事実と“増殖する現在”のすべてをかの男に奪われた“人”。
かつては黒猫であったが、今はそれすら奪われただの人間となって。それでもなお消えることがなかったものがひとつ。
After the Inganock 04、ギーのアパルトメントに到着するより前から参戦。

【方針】
願いと呵責の間で揺れ動いている。ひとまず死ぬつもりはないので生存優先で動く。


333 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/09(木) 03:10:32 cHiqN/.c0
投下を終了します


334 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/10(金) 02:05:35 A07zBecI0
皆様、投下お疲れさまです。
一応全クラスに一騎ずつ以上は投下したのですが、少し身辺も落ち着きましたのでまたぼちぼち投下していこうと思います。
コンペの期限については、とりあえずキリよく七月一杯までとここで決定しておきますね。

それでは、今後も何卒当企画をよろしくお願いします。


335 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/10(金) 22:42:40 EpjAhqzU0
投下します。


336 : 丈槍由紀&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/07/10(金) 22:43:27 EpjAhqzU0
 
 ◇




 ――――はじめまして! わたしは丈槍由紀……みんなからは「ゆき」って呼ばれてます。

 皆さん、こんにちは。お昼じゃない人は、こんばんは。
 今日は私達、私立巡ヶ丘学院高等学校学園生活部の一日を……ちょっとだけお見せしちゃおうと思います!



 
 ◇

 「いや〜っ、ちこくちこく〜〜っ!!」

 はい! これがわたし、ゆきです!
 ……てへへ、いきなり遅刻しちゃいそうになってますけど、そこは気にしないでください。
 割といつものことなんです。学校は好きなのに、朝は起きられない……あるあるですよね、こういうの。
 とにかく、今日もこうして慌ただしくわたしの一日は始まるわけなのです。
 たたたたたっ。
 全力疾走で廊下をダッシュしていると、向かい風が気持ちよくて残っている眠気も消えていきます。
 お寝坊しちゃうのはいけないことって分かってるけど……てへ。でも、この感覚は嫌いじゃありません。
 むしろ、好きです。 

 とはいっても、あくまで大事なのは目的地に辿り着くことです!
 みんなが待ってる部室に行って、りーさんのおいしいごはんを食べないといけません。
 りーさんというのは――わたし達、学園生活部の部長さんです。
 怒ると怖いですけど、普段はとっても優しくて面倒見のいいお姉さんなんですよ!

 「〜〜〜〜っ、遅れてごめーーーん!!!」

 がらがら!
 勢いよく部室の扉を開けると、案の定その先には、部員のみんなが揃っていました。
 テーブルの上にはおいしそうなカレーライスが湯気を立てています。

 「あら、ゆきちゃん。おはよう。またお寝坊さん?」
 「うう……起きれると思ったんだけどなあ……」
 「まあ、タイミングとしちゃギリギリセーフってとこだなー。ちょうど今料理も出てきたとこだよ」
 「ほんと!? よかったぁー。えへへ、今日のわたし何だかツイてる予感がするよ〜」
 「もう。ゆきちゃん、ちゃんと反省しなきゃだめっ」
 「あうっ」

 ぴんっ、とデコピンをされてしまいます。
 この人がさっきも言った「りーさん」。
 そしてそんなわたし達を見て、チャーミングな八重歯を見せて笑っている女の子は「くるみ」ちゃんです。
 くるみちゃんはいつもシャベルを持ち歩いていて、力仕事はお任せあれ! ……って感じな頼れる女の子です。
 
 「……さて。先輩も来たところですし、ごはんにしましょうか」
 
 この子は「みーくん」!
 学園生活部の中では最年少さんです。
 わたしやくるみちゃんより大人っぽい子だけど、とってもかわいいんだよ!


337 : 丈槍由紀&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/07/10(金) 22:43:56 EpjAhqzU0
 「そうね。
  それじゃあみんな、手を合わせて――――」


 「「「「 いただきまーす!!!! 」」」」


 わたし達の朝はこんな感じでした。
 ――――じゃあ次はもうひとり。少し気弱だけどとっても優しい先生を紹介します!


 「いや〜〜っ、今日わたし日直だった〜〜〜〜っ!!!」

 だだーっ! ……って感じで、またわたしは廊下を走っています。
 ついお腹いっぱいでゆったり気分になっちゃってましたけど、今日はわたしが日直なんでした。
 
 「……あ」

 と。そんな時、廊下の向こうに見慣れた顔を発見します。
 紫のウェーブヘアーを白いリボンでまとめた、同じ生徒にも見えるような人。
 わたしは教室へ向かう足を方向転換させて、その人のところへ走っていきます。
 日直のお仕事……はもちろん大事だけど、きっと走れば間に合う……と、思っておきましょう。

 「めぐねえーっ! おはよーっ!!」
 「あら、ゆきちゃん。おはよう……って、佐倉先生と呼びなさいって言ってるでしょ」

 この人は「めぐねえ」! 国語の先生をしてくれている大人さんです。
 何を隠そうこの人、学園生活部の顧問でもあるのです!
 いつも優しくにこにこ笑顔で、でも叱る時は厳しく叱ってくれる、生徒想いのとってもいい先生なんですよ。
 ただ、たまにみんなからいないもの扱いされてたりする、ちょっぴり不幸な人でもありますけど……。

 さてと! これでわたし達、学園生活部のメンバーと顧問の先生は全員となります。


 ――きーん、こーん、かーん、こーん。


 そして大変! ついつい話し込んじゃって、始業のチャイムが残酷に鳴り響いてしまいました!
 めぐねえとお別れして、わたしは急いで教室に駆け込みます!
 教科は確か英語。
 この前も居眠りをしちゃって、次やったら補習と言いつけられてるとってもまずい教科です。

 ドアの小窓から、こっそりこっそり中をのぞきます。
 ……先生がお寝坊したとか、そういうラッキーがあるかな、と少し期待したのですが。
 もう黒板にはむずかしい英文が書かれていて、どこからどう見ても授業が始まっちゃっていました。

 「あい、えんじょいど、すたでぃんぐ……? うぃず、えぶりわん。
  れっつ、すたでぃー……とげざー。
  ばっといっと、どね……?? なんて読むんだろう…………」

 うーん。やっぱり、英語はよくわかりません。
 でも、授業をサボっちゃうのは学生の模範であるべき学園生活部に似つかわしくない行動です。
 ……りーさんの受け売りなんですけど。それはともかく、やっぱり素直にごめんなさいして、授業を受けようと思います。


338 : 丈槍由紀&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/07/10(金) 22:44:24 EpjAhqzU0
 がらがら――

 
 「ごめんなさい! 遅刻しちゃいましたーっ!!」


 …………………………。
 …………………………――――。


 ◆



 All is in the darkness in the past.(全ては過去の暗闇の中)
 Please don`t throw me away.(お願いだから見捨てないで)
 Help me.(助けて)



 ◆


 夕日が、はるか向こうの空に沈んでいきます。
 ふと、わたしはその「いつもどおり」に違和感を感じました。
 
 「あれ……? 窓からの景色、こんなだったっけ…………」

 海が見えます。
 グラウンドの向こう側にある家や道の形が、どこかいつもと違う感じがします。
 けれど、これは確かにいつもどおりのはずで――……はてな? とわたしは首をかしげてしまいました。
 でも、まあいっか、とすぐにそれで納得しちゃいます。
 だってわたしたちは学園生活部。学校で暮らしちゃう部活なんですから。
 お外がいつもと違うのは少し気になるけど、不思議だなー、くらいのことでしかありません。

 そんなことより!
 最後はみなさんに、わたしだけの秘密を教えてあげちゃおうと思います!
 えへへ、部員のみんなにもまだ教えてないんだよ。
 みんなで飼ってる太郎丸にも、クラスのみんなにも、めぐねえにも教えてないんだから!
 
 
 「――――参られたか。ユキ殿」


 夕焼けでまっかに染まる教室の中に、演劇の黒子さんみたいな、真っ黒くろすけさんがいます。
 顔にはこわ〜いガイコツのお面をつけていて、きっと誰が見てもお化けにしか見えないでしょう。
 でも、わたしは違います。わたしとこの人は……えっと、しゅじゅう、の関係で結ばれた、パートナー同士なんです!
 ……もちろん、別に「そういう」意味ではありませんよ!?

 「アサシンさん、こんばんはー! 今日はどうだったの?」
 「以前不覚を取ったセイバーを、我が宝具にて屠り去った。
  優れた英霊であったことに間違いはないが、暗殺者の執念を聊か侮っていたようだな」
 「ほえー……そうなんだ。お疲れ様……」

 この人は「アサシン」さん。
 あまりたくさんおしゃべりする人ではないんですけど、なんだか格好いいおじさんです。
 でも、アサシンさんの言っていることは難しくてたまによくわかりません。
 けど、今日は前にケガをさせた人をすぱーん! とやっつけてきたみたいですね。
 弱い者いじめは学園生活部としても見逃すわけにはいきませんが、これならおあいこです。


339 : 丈槍由紀&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/07/10(金) 22:45:13 EpjAhqzU0
 「これより私は、再び闇に潜る。ユキ殿はこの廃校に篭っておられよ」













 ――――――――――――――――――――――――――――廃。







  ̄ ̄ ̄ ̄ ――――――、――――――

 ―――■■――――■―――――――
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――、■■■■■――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。



 『――この学校に篭っておられよ。
  敵の襲来があれば令呪を使われれば飛んで駆けつけるが……そうならないに越したことはない』
 
 「はーい! アサシンさんも、うーんと、……そうだ、聖杯戦争! 聖杯戦争、頑張ってきてねーっ!」

 聖杯戦争。
 アサシンさんは、そんななんだか物騒な名前のイベントに参加しているそうなんです。
 なんでも二人一組でなければ出られないイベントらしくて、彼のパートナーにわたしが選ばれたんだとか。
 こういうことを言っちゃうとアサシンさんを不安にしてしまうかもしれませんけど、正直、ちんぷんかんぷんです。
 でも、なんだか危ないこともあるイベントらしいので……出来れば、早く終わってほしいなあ……。
 アサシンさんはわたしの大事なパートナー……「サーヴァント」なんですから。
 怪我したり辛い目に遭ってるのを見ると、わたしも悲しいです。

 
 ふと気が付くと、アサシンさんはどこかへ行ってしまっていました。
 あの人はいつもこうなんです。いついなくなったのか、いつやって来たのか、はっきりその瞬間を見たことはありません。
 せっかくなのでいつか見てやろうと思ってるんですけど……やっぱり難しいですね。

 ――あ、大変。そろそろお夕飯の時間。

 
 それではみなさん、今日は長々お付き合いいただき、ありがとうございました!
 これからもわたし達、学園生活部のことを――――よろしくお願いしまーす!



 ◆


 「痛ましい娘だ」

 アサシンのサーヴァント――――ハサン・サッバーハは、自分のマスターが滞在する校舎を振り返り呟いた。
 人が立ち入らなくなってずいぶん経つのか窓ガラスは割れ、壁も所々が剥げ落ちて蔓が這っている。
 過去にはグラウンドだったろう場所も、今や腰の丈ほどの藪と化している。
 廃校。誰がどこからどう見てもそうとしか形容出来ないだろう荒れ果てた建物が、幽けく夕暮れ時に聳えていた。

 「過去に何があったのか知らんが、完全に壊れている。聖杯も酷な選別をするものだ」

 暗殺者は見てきた。
 召喚されて間もなく、彼女に「学園生活部」の面々の紹介も受けた。
 もっとも――――彼には、彼女以外の人間が見えた試しなど一度たりとてなかったが。
 「くるみ」は、体育倉庫から引っ張り出してきた錆びついたシャベル。
 「りーさん」は、屋上にあったプランターの痕。
 「みーくん」は、二年生の教室。
 「太郎丸」は、何の生物かも分からない小さな白骨。
 「めぐねえ」は、おそらく聖杯戦争の中で死亡したのであろう、ミイラ化した女性だった。


340 : 丈槍由紀&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/07/10(金) 22:45:40 EpjAhqzU0
 遅刻を詫びながら騒がしく入っていった教室には、当然授業をする先生もそれを聞く生徒もいない。
 ガラスの割れた窓を開け閉めして風を調節し、彼が調達した食糧を都合よく解釈して食べている。
 それが、アサシンの目から見た丈槍由紀という少女の真実。
 彼女は現実を認識できないまま、しかし彼女にとってはれっきとした真実である空想の中を生きている。

 「だが、たとえ夢に酔う童女であれども、契約を結んだ主であることには変わりない。
  よかろう。ユキ殿はただ夢を見続けていればよい。
  私は変わらず勝利のみを持ち帰り続ける――――そして、最後には聖杯を持ち帰ろう」

 忠節という言葉とは最も縁遠いであろう立場にある彼だったが、彼は契約を重んじる質だ。
 たとえ相手が夢と現実の境すら曖昧な壊れた少女であれ、契約がそこにあるなら死守しよう。
 それに。
 永遠の平穏を夢見る彼女のもとに、永遠の命を夢見る自分が呼ばれたのは、ある種当然の話であるのだから。


【クラス】
 アサシン

【真名】
 ハサン・サッバーハ@Fate/stay night

【パラメーター】
 筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:C

【属性】
 秩序・悪

【クラススキル】
 気配遮断:A+
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。
 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】
 投擲(短刀) :B
 短刀を弾丸として放つ能力。

 風除けの加護:A
 中東に伝わる台風避けの呪い。

 自己改造:C
 自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
 このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。

【宝具】
 『妄想心音(ザバーニーヤ)』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:3〜9 最大捕捉:1人
 普段は長い布に包まれているシャイターンの右腕。使用時には腕を伸ばし、赤い異形の腕を開放する。
 対象に触れることで、エーテル塊による心臓の二重存在(コピー)を作り出す。
 この鏡面存在を握りつぶすことによって対象本人の心臓を破壊し、呪殺を成立させる。
 如何に硬い鎧で身を護ろうとも心臓を掴み上げることができるが、幸運や魔力で対抗可能。
 作中の描写から接触していないと鏡面存在を作れないようだが、腕の長さがその弱点を補っている。
 人を罰するモノ故、言峰綺礼のように既に人のモノではない心臓は呪えず、また心臓限定であるがゆえに既に心臓がないものや心臓を潰されても活動可能な相手には効果や必殺性や即死性が薄い。


341 : 丈槍由紀&アサシン ◆p.rCH11eKY :2015/07/10(金) 22:45:55 EpjAhqzU0

【weapon】
 黒塗りの短刀「ダーク」

【人物背景】
 イスラム教の伝承に残る「暗殺教団」の教主、「山の老翁」。
 この名は個人のものではなく、教団の教主に代々襲名されてきたもの。複数いる「ハサン・サッバーハ」を継承した暗殺者の内の1人が彼であり、暗殺者という出自から「反英雄」に分類される。
 通称「真アサシン」。何かと不遇な人。

【サーヴァントとしての願い】
 不老不死。永遠を手に入れる。

【基本戦術、方針、運用法】
 宝具の効果も相俟って即死性能の高いアサシン。
 ただしマスターのゆきは問題だらけなので、そこを突かれると厳しい。
 序盤に良い同盟相手を見つけられるかどうかがターニングポイントかもしれない。


【マスター】
 丈槍由紀@がっこうぐらし!

【マスターとしての願い】
 そもそも、聖杯戦争についてを朧気にしか理解していない

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 なし

【人物背景】
 天真爛漫な少女で、学園生活部のムードメーカー。
 元々子供っぽい性格であったが、ゾンビ騒動を機に幼児退行した後、慈の死をきっかけに現状を認識できなくなったかのような言動をとるようになる。
 彼女がこの聖杯戦争で見ている「夢」は以下の通り。
 ・鎌倉の廃校を巡ヶ丘学院高校と誤認している
 ・学園生活部の面々やクラスメイト、教員たちなどを「存在している」ものとして見ている
 ・聖杯戦争については、アサシンの参加しているちょっと危険なイベント程度の認識。
 ・殺人などのキーワードについては、無意識的に理解を拒んでいる。

 食事は基本的にアサシンが即座に食べられるものを調達。
 それを都合よく解釈し、空想の友人たちと食べている。 

【方針】
 みんなで楽しく、学園生活!


342 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/10(金) 22:46:27 EpjAhqzU0
投下終了です。
アニメ放送記念(?)


343 : 名無しさん :2015/07/11(土) 03:24:07 65a4WDLk0
投下乙です
真アサシンとは渋いチョイスですねw
最近Fate/Labyrinthに登場して株爆上げしたので見れて嬉しいです

がっこうぐらし!は全く知らなかったのですがググってみるとゾンビものなんですね
凄い意外でびっくりしました


一つだけ細かい指摘になってしまうのですが、真アサシンの願いについてです
願いが「不老不死」となってますが原作での真アサシンの願いは「失われた自らの顔を取り戻し、自身が唯一のハサン・サッバーハになること」です
不老不死は間桐臓硯の願いですね
永遠を求めているというのは間違いではないですがそこだけ気になりました


344 : 名無しさん :2015/07/11(土) 09:21:02 W7wj2tJw0
>>1さんに質問です
現実の鎌倉が舞台とありますが、参加するマスターがいわゆるアバター、電脳世界での姿で参加することは可能でしょうか?


345 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/11(土) 09:42:35 lsUTNPvg0
>>343
おっと、これは失礼。収録の時に修正しときます

>>344
可能です。


346 : ◆FZHdbe6646 :2015/07/11(土) 12:50:01 W7wj2tJw0
返答有難うございます。それでは投下します


347 : アスナ&セイバー ◆FZHdbe6646 :2015/07/11(土) 12:51:31 W7wj2tJw0

 宵闇の中、青い髪の少女が一人立ち尽くしている。
 その手には細く鋭い剣がある。使い慣れた、しかし本当は一度も触れたことなどあるはずがない……レイピア。
 手に持った質感は現実か、あるいは非現実なのか。
 刀身に薄く指を滑らせると、指先に血の赤い珠が滲む。
 触れれば斬れる。刃物であるならば当たり前の、それはただの事実確認だった。

「…………っ」

 声もなく、深く息を吸う。
 強い風が長い髪を揺らしていく。その只中にあって、決意だけは揺らいでいない。
 覚悟なら既に済ませた。
 少女は、ただの少女ではない。
 青い髪、長く尖った耳、薄い水色に輝く四枚の羽、妖精の如き美貌。
 真実、少女は妖精であった。少なくとも、その姿を模しているときは。
 妖精の名は『アスナ』――本名、結城明日奈。
 世を震撼させたデスゲーム『ソードアート・オンライン』の生還者にして、同ゲームを終結させた英雄である黒の剣士、『キリト』――桐ヶ谷和人の、恋人である。

 『ソードアート・オンライン』とは、人間の脳とハードを直接接続することで意識を丸ごと仮想空間に投影する、いわゆるフルダイブ型のVR-MMOだ。
 既存のゲームを有無を言わさず過去の遺物へ追い込むほどに圧倒的な臨場感を見せつけたVRMMOは、世界を熱狂させた。
 そして天才ゲームデザイナーにして量子物理学者である『茅場晶彦』により、『ソードアート・オンライン』は生誕した。
 茅場が熱望した「真の異世界」。その雛形として。
 サービス開始当日にログインしていた一万人のプレイヤーは、意識を電脳空間に取り込まれ、ログアウトできなくなった。
 そして、電脳世界で命を落とした者は、現実世界でも脳を焼き切られる。他でもない、自らが装着したVRマシンによって。
 結論を言えば、『SAO事件』は未曾有の大惨事となった。
 ゲームが終了するまでに落命した者は四千人を数える。
 その中にはアスナやキリトの友人も多く含まれ、あろうことか茅場晶彦本人の名もあった。
 大規模サイバーテロとも言える事件の主犯がゲームクリアと同時に死亡。社会に消えることのない痛みを残して、デスゲームは終了した。

 アスナとキリトは現実世界に帰還したが、事件で受けた傷は決して軽くはない。
 都合二年にも渡る仮想空間への監禁は、その後の人生を左右するには十分すぎる時間だった。
 学生は本来望んでいた進路から外れることを余儀なくされ、政府の配慮により新設された高等専修学校に通うようになる。
 殺人歴があったり精神的に不安定な者はカウンセリングを義務付けられ、社会人だった者の多くは失職あるいは転職を余儀なくされた。
 生還した者にも未だ色濃くSAO事件の影響は残っている。
 中でも特にキリトは、SAOと茅場晶彦に端を欲する事件と縁があった。
 SAOの直接の後継たる『アルヴヘイム・オンライン』で発生した『ALO事件』、あるいは『ガンゲイル・オンライン』で発生した連続変死事件、通称『死銃(デス・ガン)事件』を解決した。
 出会いもあった。ユウキ――紺野木綿季。重病を患い、VRMMOの世界の中でしか自由に動きない少女。
 ユウキはアスナの腕の中で息を引き取った。別れは耐え難いものであったが、それでも出会えた喜びを否定することはできない。
 いくつもの陰謀に巻き込まれ、しかし決して屈することなく、二人は前に進んできた。
 そして穏やかな日々が訪れた。命の危険を感じることのない、友人たちに囲まれた、騒がしくも心躍る日々。


348 : アスナ&セイバー ◆FZHdbe6646 :2015/07/11(土) 12:52:02 W7wj2tJw0

 しかし、ある日。
 キリト――桐ヶ谷和人が、襲撃された。
 犯人は、SAOで殺人ギルドとして名を馳せた『ラフィン・コフィン』のメンバー。そして、『死銃事件』の実行犯。
 彼によって毒を撃ち込まれた和人は昏倒し、救急車で搬送された。今もICUで懸命な治療が続けられているはずだ。

 しかし明日奈は今、そんな和人の傍にはいない。
 明日奈――アスナは、ALOでの己の似姿、アバターとなって、この鎌倉の街にいる。
 生死の境にいる桐ヶ谷和人を救いたい。
 その強い願いが聖杯に届き、認められ、そして召喚された。
 アスナはこの場で自分がやるべきことを知り、そして理解した。
 聖杯を手にすることが出来れば、桐ヶ谷和人の命を救うことができるのだ、と。
 もちろん、そんな必要はないかもしれない。
 ただ待っていれば、優秀な医師たちが和人を治療してくれるかもしれない……かもしれない、だ。その結果は確実なものではない。
 手術が成功する確率は1%か、あるいは99%か。どちらにせよ、どちらにも転びかねない曖昧な数字だ。
 その曖昧さに、和人の命が懸かっている。
 だが、ここには。その1%を、100%にすることができる力がある。
 聖杯という奇跡なら、それが可能なのだ。

 これがただの夢だとは思わなかった。
 切った指先に走る痛みは本物だし、今の自分はALOでのアバターそのものだ。聖杯が召喚するときにアスナの意識を読み取り、戦うための姿へと再構成したのだろう。
 何より……アスナは背後を意識する。そこにはアスナのサーヴァントがいる。物言わず、ただアスナの命令を待つ寡黙なサーヴァントが。
 置物のように無言を保つサーヴァントだが、しかし放たれる存在感は圧倒的だ。
 この圧力を前にしては、とても夢だなどとは思えない。夢だったならばまだマシだったのだろうか。

「……うん。よし、やれる。やらなきゃ」

 言葉にすることで、覚悟を確かなものへと変える。
 聖杯を得る。聖杯戦争を戦う。他のマスターを、殺す。
 普段なら眉を顰め絶対に認めないであろうその選択を、アスナ/結城明日奈は、肯定する。
 他に方法はあるかも知れない。しかしこれが確実な手段ということに変わりはない。
 ならば……やれる。やれるはずだ。
 モンスターやNPCなどではない、生きている人間と殺し合った経験は、アスナにだってある。
 あのときは、キリトがアスナを助けてくれた。
 アスナを殺そうとしたクラディールを、キリトが倒した……殺した。
 アスナを守るために、キリトは人を殺したのだ。

「だから、今度は私の番……だよね」

 無論、あれは正当防衛である。
 明確な殺意を持って襲いかかってきたクラディールに対し、キリトとアスナは自衛しただけだ。だが結果としてクラディールは死んだ。
 SAO終了時に生存していたプレイヤーはみな意識を取り戻したが、その中にクラディール――そのプレイヤーは、含まれていない。
 アスナの前では一度だってそんな素振りを見せたことはないが、その事実は今もキリトの胸に棘となって残っている。
 その刺を、今度は自らの意志で抱え込む。誰にも言い訳できない、れっきとした殺人を犯す。
 アスナが手を汚せば、キリトはきっと悲しむ。そんな方法で救われたと知っても、決して喜びはしないだろう。
 しかしそれは、キリトが生きていてこそだ。
 彼が死んでしまえば何の意味もない……そんな世界で生きていく意味を、アスナは見出すことができない。
 故に。


349 : アスナ&セイバー ◆FZHdbe6646 :2015/07/11(土) 12:53:03 W7wj2tJw0

「お待たせしました、セイバーさん。行きましょう」
「……決意は固まったのか、乙女よ」

 アスナの呼びかけに答えるサーヴァント。
 重く威厳に満ちた言葉に振り返ると、そこには一人の騎士がいた。
 漆黒の鎧に身を包んだ大柄な騎士。
 形容するならば、キリトと同じ『黒の剣士』。しかし受ける印象は天と地ほども違う。
 細身で俊敏な剣技を身上とするキリトとは対照的に、重厚な装甲を纏い岩をも砕く一撃を放つ重戦士。
 しかし鈍重というわけでもない。彼がその気になれば、アスナが全力で逃げたとしても瞬きの間に追いつかれてしまう、それだけの脚力もある。
 記憶にある例では茅場晶彦――ヒースクリフに近い。しかし彼よりももっと苛烈で、力強い。そう確信させるだけの威風がある。

「はい。私は、聖杯が欲しい。それだけの理由がある……だから、戦います」
「承知した。ならば私は、そなたの剣となろう」

 欲しかったのは、アスナが戦うか戦わないか、その決意だけだとでも言うように。
 セイバーは一切の理由を問うことなく、アスナの剣となって戦うと宣言する。

「い、いいんですか? 私は願いが何なのかだって、まだ何もあなたに説明してないのに」
「マスターの願いがどうであろうと、私の知るところではない。
 そなたが私を必要とするのならば、私はただ、そなたの剣となってそなたの道を切り開くのみである」
「でも、セイバーさんだって願いがあるからサーヴァントになったんじゃないんですか?」
「この身にもはや願いなどない。私は満たされて生を終え、剣を置いたのだ。
 何の因果か、こうしてまた現世へと舞い戻ることになったが……それでも変わらぬ。求めることなどありはしない」

 言い切って、セイバーは剣を抜く。
 抜き放たれた大剣は、目も眩むほどの輝きを放つ。夜を切り裂き朝をもたらす曙光そのもの。

「だが、そなたが戦う力を……願いを叶えるために戦い、そのための剣を欲するというのなら、私は今一度剣を執ろう。
 ただ一介の剣士となって、そなたの願いを叶えるために尽力しよう」

 セイバーはゆっくりと膝をつく。それでようやく目線が対等になる。
 剣の刀身を自らに向け、柄をアスナへと示す。

「掴むがいい、乙女よ。私という剣を欲するのならば」

 アスナはごくり、と唾を飲み込む。
 差し出された剣、それを執るということは本当の意味で戦いを始めるということ。
 もう、後戻りはできない。
 アスナはゆっくりと……しかし、決然とした意志とともに、セイバーの剣を握り締めた。

「……わかりました、セイバーさん。どうか私の剣となって、私に勝利を……聖杯を!」
「心得た。今よりそなたが、この私……漆黒の騎士の、剣の主である」

 黒の剣士が、アスナの隣に並び立つ。
 それが親しみ慣れた『彼』でないことを寂しく思い、しかしその『彼』を取り戻すための戦いなのだと、アスナは固く目を閉じた。
 この目を開いたとき、戦いは始まるのだ。


350 : アスナ&セイバー ◆FZHdbe6646 :2015/07/11(土) 12:53:55 W7wj2tJw0

【クラス】
 セイバー
【真名】
 漆黒の騎士@ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡
【パラメーター】
 筋力:B++ 耐久:A+ 敏捷:B 魔力:C 幸運:C 宝具:EX
【属性】
 混沌・善
【クラススキル】
 対魔力:B…魔術発動における詠唱が三小節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法を以ってしても、傷つけるのは難しい。
 騎乗:-…重厚な装甲を纏う鎧騎士(ジェネラル)であるため、騎乗スキルは所持していない。
【保有スキル】
 再生:C…致命傷を受けない限り、いかなる傷を受けようと自動的に修復される。治癒速度こそ凄まじいが、特殊な呪いなどで受けた傷を癒す効果はない。
 心眼(真):B…修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
 『月光』
  種別:対人魔剣
  最大捕捉:1人
   女神の祝福を受けし神剣エタルドと、漆黒の騎士が幾多の戦場で磨き上げた剣技が合わさることで生まれる必殺の「魔剣」。
   瞬間的に自分の筋力を3倍にまで引き上げ、同時に攻撃対象の耐久を2ランクダウンさせて斬撃を放つ。
   宝具の域には至らない純粋な「剣技」であるため、対象が魔術・宝具で防御した場合は耐久低下がキャンセルされる。
【宝具】
『神剣エタルド』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1人
 女神アスタルテの祝福を受けた大剣。漆黒の騎士を無敵足らしめる、象徴が内の一つ。
 いかなる激戦であろうとも決して破損しない不壊の特性を持つ。
 剣風を解放し、飛び道具のように離れた敵を斬る事も可能。
 これは使用回数に制限はなく物理攻撃として扱われ、セイバー自身の筋力の影響を直接受ける。
『女神の祝福を受けた鎧』
ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 女神アスタルテの祝福を受けた鎧。漆黒の騎士を無敵足らしめる、象徴が内の一つ。
 デインの狂王アシュナードが装備している『敵の攻撃を無力化する鎧』と同等のものであるとされる。
 その鎧に与えられた祝福により、ランクB以下の全ての攻撃を無効化する。
 ただしハンマーなど鈍器での攻撃には効果を発揮しない。
『しっこくハウス(身の程をわきまえよ)』
ランク:EX 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 本来はユーザーの間に流れたネタに過ぎなかった漆黒の騎士の逸話が、演じた声優と公式絵師の眼に留まりイラスト化されたことで宝具に昇華したもの。
 建物から扉を開いて外に出るとき、EXランクの気配遮断効果を発生させ、敵に探知されず先制攻撃が成功する権利を得る。
 傭兵アイクと彼が率いる傭兵団が港町トハで敵軍と交戦しているとき、何の変哲もない民家から突如漆黒の騎士が現れた。
 予想だにしない難敵の出現に傭兵団は大いに動揺し、その圧倒的な武威を前に勝利することは叶わなかったとされる。
 このときの漆黒の騎士は「民家の前を自軍で塞いでも強引に押しのけて出現する」という、プレイヤーが妨害できないシステム処理をされている。
 この因果逆転の処理により、真名解放すると「扉から出て敵に攻撃を加えた」という結果を作ってから「扉を開いて外に出る」という原因を作る。
 ただし「扉を開いて外に出る」という原因が成立し得ない環境(野原や河川などの開けた土地、扉そのものが破壊された場合など)では発動できない。
【weapon】
 神剣エタルド
【人物背景】
 TVゲーム「ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡」に登場する人物。
 テリウス大陸東部に位置する「デイン王国」の将軍にして、中でも特に強力とされる四人の将軍=「四駿」最強の騎士。
 漆黒の鎧に身を包み、女神の加護を受けた神剣エタルドとともに幾多の戦場を駆け抜けた。
 彼の願いは剣技の師を超えることであったが、その決着は不本意な形で終わることになる。
 その後、師の息子が成長し、父の剣技を受け継いで漆黒の騎士と激突。
 漆黒の騎士は敗れたものの、師とその息子、二人の偉大な戦士と戦えた己の人生には確かに意味があったのだと、満足して逝った。
 正体は「ベグニオン帝国」からデイン王国に送り込まれた間者。本名はゼルギウス。


351 : アスナ&セイバー ◆FZHdbe6646 :2015/07/11(土) 12:54:48 W7wj2tJw0

【マスター】
 結城明日奈@ソードアート・オンライン
【マスターの願い】
 桐ヶ谷和人=キリトの回復。
【weapon】
 レイピア
 クレスト・オブ・ユグドラシル(レジェンダリークラスの杖)
【能力・技能】
 ALOのアバターでの参加。種族は回復魔法と水中活動に長け、水属性魔法が得意な水妖精族ウンディーネ。
 身体能力の上昇、飛行などの基礎能力に加え、SAO由来の剣技(ソードスキル)、ALO由来の魔法を使用可能。
【人物背景】
 ライトノベル「ソードアート・オンライン」のヒロイン。主人公である桐ヶ谷和人=キリトの恋人。
 天才科学者「茅場晶彦」によるデスゲーム「ソードアート・オンライン」の被害者であり、生還者。
 人柄はいたって真面目かつ温厚であるが、恋人であるキリトのこととなるとやや歯止めが効かなくなる一面もある。
 SAO、その後継たるALOなどのフルダイブ型ゲームのスキルは非情に優秀。SAO時代には「閃光」の二つ名を持ち、俊敏性と正確さに定評のある超一流のプレイヤー。
 ALOではパーティの支援・回復を受け持つヒーラーでありながら、機を見て細剣を手に前線へ飛び込んでいく勇猛さを見せる。ついたあだ名は「バーサクヒーラー」。
 現実世界では家族や親族との間に溝を感じていたが、SAOやALOを通して出会えた仲間に支えられて和解する。


352 : 名無しさん :2015/07/11(土) 12:55:22 W7wj2tJw0
投下終了です
二次キャラ聖杯戦争の投下作・◆YFw4OxIuOI氏のライダー/アシュナードのステータスを参考にさせていただきました。
この場を借りてお礼申し上げます。


353 : 名無しさん :2015/07/11(土) 15:38:28 FclQAF2o0
本名があるなら真名にしては? 真名と通称は別物だろうし。
あと半公式とはいえ二次創作を用いた三次創作を宝具にするのはどうかと。


354 : 名無しさん :2015/07/11(土) 21:32:06 q4vt3cOA0
>>353
二次二次のニンジャスレイヤーだって本名フジキド・ケンジだけど真名はニンジャスレイヤー扱いだし別にいいんじゃない?
というかそういう部分に関してOKかどうかを決めるのは>>1でしょ


355 : ◆q6AVR3NnIA :2015/07/11(土) 21:59:18 UpHLR3vk0
投下させていただきます


356 : 緑谷出久&ランサー ◆q6AVR3NnIA :2015/07/11(土) 22:00:01 UpHLR3vk0

「―――甘すぎるのう、小僧」

正義――
そのシンプルでありながら、この世の何よりも重い二文字を背負い、その男は己のマスターを酷評する。
暗夜だった。
月の昇った空の下で、冴えない顔立ちの少年が、彫りの深い長身の男を見上げて唇を噛み締めている。

「殺さずに事を収めたいじゃと? 寝言は寝て言え鼻垂れがァ……!」

確かな怒気を含んで睨め付けられ、マスターの少年はびくりと体を震わせた。
正義を背負うサーヴァントの与り知ることではなかったが、彼もまた生き死にを懸けた実戦を潜り抜けた経験持ちだ。
『プロの世界』の厳しさを知っている。訓練では味わえない、本当の悪意の恐ろしさを知っている。
それは意図せずして積むこととなった経験だったが、少年・緑谷出久はこの時、改めてそれを有難いことだと感じた。
もしも。もしも安穏とした道だけを歩いてここまで来ていたなら―――自分はきっと無様を晒していたろう。
尻餅をつき、歯の根は合わず、震えながら何かをブツブツ言うことしかできない。
そうなっていれば、自分の召喚したサーヴァント……『絶対的な正義』の彼とは、二度と会話などできなかったに違いない。


事の経緯は極めて単純だ。
聖杯戦争に参加させられた出久が相対した、自分のサーヴァントがこの彼、ランサー。
槍らしい武器を持っているようには見えないが、兎角、彼は槍兵のクラスを与えられている。


『先に言っておくがのォ……わしは『聖杯』を破壊する。これは決定事項じゃ』

挨拶もそこそこに、彼はそんなことを言ってのけたのだ。
出久は驚愕した。
聖杯戦争について付け焼刃程度の知識しか持たない彼も、ランサーの言ったことがどれほど異常なものかくらいは解った。
願望器の破壊を願うサーヴァントなんてもの、そもそも聖杯戦争というシステムと矛盾しているではないか。
そんな彼の困惑を慮ることもなく、正義のランサーは続ける。

『願いを叶える力……そがァなモンがボンクラの手に渡れば、まずロクな事にならん。じゃからわしは 己の『正義』に従い聖杯をこの手で握り潰す……! ―――もし邪魔立てするゥ言うなら、マスターじゃろうと容赦はせんぞ』

当然のことだが、マスターには対サーヴァント用の令呪という絶対命令権がある。
それを使えば、反目しているサーヴァントなど簡単に従属させることができるだろう。
たとえこの、鬼神のごとき男であろうともだ。
しかし、出久はそんなことをしようとは全く考えなかった。
何故ならば。彼もまた、ランサーと同じことを考えていたからだ。

聖杯戦争―――こんなことは間違っている。
人の願いというのは、誰にも否定することのできない尊いものだと出久は知っていた。
ましてや、聖杯なんて凄いものに選ばれるほどの強い思いがそこにあるとするなら尚更だ。
それは断じて、人を殺して叶えていいものなんかじゃない。

『僕も……僕も、そう思います。聖杯戦争は……、絶対に止めなくちゃならない』
『それなら話が早い。聞け、小僧。これよりわしらは、聖杯戦争を潰すべく行動する』

出久の言葉を聞いても、ランサーは驚き一つ見せなかった。
きっとこのサーヴァントにとっては、『正義であること』が当然なのだ。
威圧的で怖い人だが、それなら決して悪い人じゃないはず。
そんな彼の安堵を真っ向から裏切る言葉を―――彼らの対立を決定的にする台詞が飛び出したのは、次の瞬間のことだった。

『勧告に従わないようなら英霊もマスターも関係なし……! 正義の旗のもと、速やかに粛清せェ』


357 : 緑谷出久&ランサー ◆q6AVR3NnIA :2015/07/11(土) 22:01:09 UpHLR3vk0
そこで出久は、自分と彼の間にある絶対的な温度差を自覚する。
自分だって、『正義』側の人間だ。
だから聖杯戦争は間違っていると唱えるし、聖杯の破壊を目指して行動する。
そして、こんな儀式なんかのために誰かが死ぬことなんてあってはならない、とも思っている。

一方でこのランサーは、『正義』なき相手ならば誰であれ殺しても構わないと言う。
熱血だとかそういう域に収まらない、最早『絶対的』なまでの正義。
少数の犠牲を厭わないそのあり方は出久には……『平和の象徴(オールマイト)』に憧れる彼には相容れないもので。
それを黙っていればいいものを、自分の相棒となる英霊には誠実であるべきだと判断した彼は、馬鹿正直に異を唱える。
犠牲は最小限に留めるべきだと。
サーヴァントならばまだしも、マスターなら元の世界へ送り返せる可能性もある。
極力犠牲を出さない方向で考え、やむを得ない場合だけ討伐に踏み切る……そういうことにしないか、と。


蒸し暑い真夜中の空気が、一瞬にして氷のような冷たさに変貌した。
目の前で瞳を憤怒に燃やす『正義』の存在がなければ、サーヴァントの宝具でも使われたのかと勘違いするところだった。
それほどの怒り―――殺意にも近い感情が、緑谷出久の頭上から降り注いでいる。

「欲に溺れ聖杯なんぞに縋る情けないバカタレ共に、お前は何を期待しちょる?」
「……協力してくれるかどうかは、分かりません。けど、全員が全員話を聞いてくれないとは……僕には思えない。中にはきっと、僕たちの考えに同調してくれる人が―――」
「それが甘い言うとるんじゃ戯けがァ!!」

一喝。
至近距離で炸裂した怒声に、思わず体がビクついてしまう。

「……確かに、お前の言うようにじゃ。直接的な協力者でなくとも、生かして帰せる命はあるかもしれん」
「だ、だったら」
「聖杯を破壊した暁には、当然そいつらも元いた世界に送り返されることになる。この意味を理解しちょるか?」

反論しようとしたところを遮るように続けられ、出久は閉口を余儀なくされた。

意味を理解しているか、との問い。
―――そうだ、理解している。協力してくれなくたって、生かした分の命は助けられるじゃないか。
そうすれば僕らだけじゃなく、その人たちも自分の世界に帰って元通りの暮らしを送れるようになる。
そう、元通りに―――


本当に?


「気付いたようじゃの」

違う。元通りになんか、きっとならない。
聖杯戦争の歪さを説いて、それでもなお諦めずに戦う者。
彼らはよしんば生きて帰還を果たしたとしても、こう思うだろう。『失敗した』と。

「そういうことじゃ。聖杯なんちゅう外法の存在を知ったこと、そして虐殺が罷り通る戦争に参加した経験―――そこにしぶとく燻る願いが合わされば、あっという間に立派な犯罪者が誕生する」

それだけじゃなく、中には『悪(ヴィラン)』のような色濃い悪意を持った参加者も混じっているかもしれない。
一度間近でその恐ろしさを知ったから分かる―――彼らは馬鹿じゃない。口を巧く回し、取り入ることくらい普通にする。
それを見抜ければいいが、見抜けなければ、再び危険因子を元居た世界へ送り返してしまうことになるのだ。


358 : 緑谷出久&ランサー ◆q6AVR3NnIA :2015/07/11(土) 22:02:00 UpHLR3vk0
「もう一度聞いちゃる、小僧。お前はそれでも殺したくないだのと戯言を抜かすつもりか?」
「…………!」
「懇切丁寧に教えてやって、それでもまだ変わらんようなら……」

巌のような険しさで出久を見下ろすランサーの顔貌。その殺気が、数倍ほどにも膨れ上がる。

その時だった。
ランサーの右腕が……歴戦のヒーローにさえ劣らない太く締まった豪腕が、ドロドロとした何かに変わっていく。
しかし零れ落ちることはない。人間の腕の形を保ったまま、沸々と泡を立て、その熱気で絶えず蒸気を吐いている。
―――溶岩(マグマ)だ。火など比べ物にもならない、自然界最大の熱量を持った物質。
これが彼の宝具、なのだろう。そして何より重要なのは、彼が今この状況で、それを開帳したということ。


「お前は『正義』じゃァない……出来もせん絵空事ばかり並べ立てて取り返しの付かん結果を招く『悪』じゃ!!」


『悪』というたった二文字の言葉が、ずっしりとした重みで緑谷出久を打ち据えた。
出久は、ヒーローという存在に憧れている。『無個性』という体質に生まれながら、それでもヒーローを目指してきた。
とある出会いがターニングポイントとなり、血の滲むような努力の末、ヒーローの世界の入口まで這々の体で辿り着いた。
そんな彼にとって、他人から悪の烙印を押されるのは初めての経験で―――出来れば、絶対にしたくない経験でもあった。
自分の答えは変わらない。―――聖杯戦争で出る犠牲は最小限に留めたい。一人でも多く、ここから脱出させたい。
その先に待つ結末を聞かされてなお、そう思っている。

「僕は…………、」

そこから先が出てこない。
言うべき答えは分かっているのに、それが正しいことなのか分からない。
いくら多くの命を助けられるとはいえ、犯罪者を大量に生み出してしまうと考えれば……
自分のやろうとしていることは、『悪』なのか? ―――そんなことを思ってしまう。

「………………僕は」

僕は、間違っているのだろうか。
ランサーは冷めた瞳で、相変わらず出久を見下ろしている。
はぐらかすことはできない。その場しのぎの嘘が通じる相手じゃないし、そんなことをしようとは思えない。
答えは絶対に出さなくてはならないのだ。それも、ごく早急に。
多くを助ける方を取るか、ランサーの言った選別する手法を取るか。
突き詰めてしまえば二択であるというのに、出久には選ぶことができなかった。
選ぶべきものは明らかなのに、今しがた打ち込まれた心の楔がそれを邪魔している。

―――情けない。こんな時―――

思い浮かべるのは、今まで出会ってきた様々な人たちの顔だ。

かっちゃんなら、そもそもどちらも選ばないだろう。
俺は俺のやりたいようにしかやらねぇと言って、それ以上追及するときっと怒り出す。
それじゃダメだ。それが悪いことだとは思わないけれど、今は答えを返さないといけない。
―――じゃあ、オールマイトなら? あの『平和の象徴』なら、どんな答えを返すだろう?


『また、悩んでいるようだな。緑谷少年よ』


記憶の中の背中が、ずっと憧れ、追いかけてきた背中が、そう語りかけてくる。


359 : 緑谷出久&ランサー ◆q6AVR3NnIA :2015/07/11(土) 22:02:30 UpHLR3vk0


『選ぶことは怖いか? 怖いだろうなあ。私もそうだ。何かを選ぶということは、とても怖い』


弱音のようなことを言っていながらも、しかしその背中から脆さのようなものはまったく感じられない。


『だが、選ばない限り前には進めない。人生というのはだな……とりあえず選んでみれば、存外うまくいくものなんだ』


今までたくさんの人々に希望を与えてきたヒーローが、こちらへと振り返る。
その表情は笑顔だ。ヒーローが……平和の象徴がしみったれた顔をしていては示しがつかないだろう。
だから彼らはいつも笑う。その姿こそ、緑谷出久の憧れであり―――


「―――僕は!」


―――だからこそ――――返す言葉は決まっていた。


「僕は―――助けられるものを、全部助けます。あなたには理解できないかもしれませんが、それが僕の『正義』だ」
「ほォ……所詮サーヴァント頼みの青二才が、よく言ったモンじゃ」
「……違う」

失望と怒りの綯い交ぜになった声色で吐かれた言葉に、出久は静かに首を横に振る。
それから自分の拳を前へ突き出して、彼は言った。

「英霊(あなた)頼みなんかじゃない……僕だって戦えます。だって僕の『個性』は、ちゃんとここにあるから」

先刻までとは打って変わって堂々と断じる出久に、ランサーは僅かに眉を顰める。
己と彼では住む世界が違い、更にあちらには令呪などという保険もある。
自分のことなど知る由もない上に、いざとなれば完全にこの反抗的な英霊を止められる命令権も備えているのだ。
確かに調子に乗った言動をしたとしてもおかしくない要素は揃っているが――果たして、本当にそれだけなのか?

「どうしても信じられないなら………受けて下さい。僕の『個性』を」
「その『個性』とやらでこのわしを認めさせると? わしも舐められたもんじゃな……!」
「認めさせて―――」

ぐっと拳を握りこんで、恐怖を堪えてランサーの双眼を見上げる。
そして、声高らかに宣誓した。

「―――みせます!」

イメージする。
自分の中指へと、個性のエネルギーが集約していくイメージを。
もしもこのイメージを少しでも狂わせてしまえば最後。
威力こそ出るだろうが、この左腕は間違いなく使い物にならなくなるはずだ。
それではダメだと、これまで散々教わってきた。
要求されるのは、損傷を最小限に留めた上で最大のインパクトを打ち出すこと。
緑谷出久の前に立ちはだかった『絶対的な正義』に、自分の『正義(ヒーロー)』としての形を認めさせるだけの一発――

ワン・フォー・オール―――『平和の象徴』から受け継いだ最強の個性を、開放する!





   ―――――――― S M A A A A A A A A A A A S H ! ! ! ! ! 





聖杯戦争の常識として、神秘の宿らない攻撃ではサーヴァントを害せない、というものがある。


360 : 緑谷出久&ランサー ◆q6AVR3NnIA :2015/07/11(土) 22:02:56 UpHLR3vk0
例えば、人間がどれだけ大層なガトリング銃を持って来ようと、サーヴァント相手には通らない。
人間の世界で武術の達人と呼ばれる者でも、サーヴァントをそれで蹴散らすことはできない。
だが、神秘がこもった攻撃ならば話は別だ。
魔力を込めた宝石、魔具を装着した拳の一発、そして超常の力全般。
それらは物にもよるが、サーヴァントへ通じる。幻想の霊体である彼らを傷つけることができる。
だからこそ、緑谷出久の『個性』がランサーのサーヴァントへ通じること。それは間違いなかった。
『個性』という力についてを知らない彼にでも、それが自分に通る攻撃だということは分かる。
しかし、所詮その程度。言ってしまえばサーヴァントを殴れるだけの、貧弱極まる豆鉄砲。
そんなものを一々恐れる必要もない―――そう思っていた。

その彼は、掛け声とともに繰り出された少年の中指を大きな掌で受け止め……瞠目する。

・・
重い。
威力で言えば、億級の賞金首が打つ攻撃に匹敵している。
インパクトの起こった点から莫大な衝撃をもたらすという性質はかの『白ひげ』を彷彿とすらさせる。
しかし、そこは海軍最強とすら謳われた『正義』の『赤犬』。
多少驚きこそすれど、それしきで揺らいでいては正義の二文字は務まらない。

「………それが『個性』とやらか」

身動ぎすらせずに、出久の『個性』による一発を受け止め、殺しきった。

「どうやら一概にハッタリというワケでもないようじゃが」

次に、ランサーは彼の左腕を……正しくはその中指を見やる。
海軍元帥をすら驚かせた一撃を生んだその指は、歪な形に折れ曲がっていた。
適切な治癒をせねばならないところだが、何しろ見ず知らずの都市に放り出されたような形だ。
そう易々と治療を受けることはできないだろう―――もっとも、それすら承知して放った一発だったのだろうが。

「いいじゃろう。どの道わしはサーヴァント、お前が令呪で命じれば従う他ない身よ。―――だが、あくまでお前がお前の『正義』を貫くゥ言うんなら、わしは単独で動かせてもらう」

何の覚悟もなしに理想ばかり吠えている『悪』ではないと見なされたようだが、それでも彼とは相容れない。
正義の二文字が記された海軍服を翻し、ランサーはひとり夜闇の中を歩き始めた。
出久は、それを追おうとはしない。それは中指の傷が痛むからでも、自分のサーヴァントが怖いからでもなかった。
単に、分かったからだ。彼の『正義』と自分の追い求める『正義』の形は、あまりにも異なっている。
どちらがどちらかの思想に合わせることさえできない。だから、自分たちは別々に、聖杯戦争に立ち向かうしかないのだ。

「……僕も、行こう」

ランサーの背中を見送って、出久もその反対方向へと歩き出す。
聖杯戦争の始まりとしては落第もいいところだ。
自分のサーヴァントと友好関係を築くことに失敗した挙句、最初から別行動とは。
それでも。きっと死に物狂いで頑張れば……きっと、何かできることはあるはずだ。

緑谷出久は西へ。
ランサー、『赤犬』は東へ。
まったく反対の道を進みながら、崩壊した主従は、聖杯の破壊を掲げて進み続ける。


361 : 緑谷出久&ランサー ◆q6AVR3NnIA :2015/07/11(土) 22:03:26 UpHLR3vk0

【クラス】
ランサー

【真名】
サカズキ@ONE PIECE

【参戦時期】
頂上戦争終了後、青キジとの戦いに勝利し元帥へ就任した矢先。

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力:B 耐久:A 敏捷:C 魔力:D 幸運:B 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
戦闘続行:A
往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、致命的な傷を受けない限り生き延びる。

仕切り直し:B
窮地から離脱する能力。 
不利な状況から脱出する方法を瞬時に思い付くことができる。

海との敵対:A
悪魔の実を食した者は、海に嫌われる。
泳げなくなり、更に水に触れると悪魔の実の能力が使えなくなる。

【宝具】
『皇穿つ灼熱の正義(マグマグの実)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1~60 最大捕捉:100人
自然(ロギア)系悪魔の実を食べた、『マグマ人間』。
全身をマグマに変化できるため、覇気を帯びていない物理攻撃を透過することができる。
灼熱の身体での近接戦からマグマを飛ばすことによる遠距離戦まで、応用の幅は広い。
マリンフォード頂上戦争にて、かの四皇『白ひげ』の胴を貫きその頭半分を失わせた、正義の矛である。

【人物背景】
海軍元帥。
悪は全て根絶やしにすべきであるという「徹底的な正義」を信条とする硬骨漢。正義を遂行するためならいかなる犠牲も厭わず、たとえ民衆や味方の海兵であっても、自身が「悪」と見なせば容赦なく始末する。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争、及び聖杯の破壊。刃向かう敵は全て『悪』と見なし、排除する。


【マスター】
緑谷出久@僕のヒーローアカデミア

【マスターとしての願い】
聖杯戦争、及び聖杯の破壊。助けられる命は助ける。

【参戦時期】
雄英体育祭終了後

【能力・技能】
個性『ワン・フォー・オール』。オールマイトより引き継いだ個性。
何人もの手を渡りながらその努力と共に引き継がれてきた「何人もの極まった身体能力が一つに集約されたもの」で、『SMASH』の掛け声により度を逸した力が引き出せる。実質的には単純な筋力強化。
非常に強力な個性だが反動もバカみたいに大きく、相応に丈夫な〝器”でないと引き継げない。
出久は鍛錬によってギリギリ個性を引き継げる肉体は手に入れたものの、あくまでギリギリ収まっているだけであり個性を引き継いだばかりのため力の調整も困難。そのため当初は拳を振るえば腕が折れ、地を蹴れば脚が砕けるという諸刃の剣となっていた。現在はイメージトレーニングと実践を積み重ねることで、身体を壊さない程度の出力制御ができている。
しかしこれは全力のワン・フォー・オールが100ならば、今の出久が身体を壊さずに使える力は5くらいとのこと。

【人物背景】
緑がかった癖っ毛とそばかすが特徴の少年。通称は「デク」。
足の小指の関節が2つあるという古い型の人間で、今の世代では非常に珍しい「無個性」な人物。
それでもヒーローになりたいという夢を捨てきれず、国立の名門「雄英高校」、「ヒーロー科」へ入学する。


362 : ◆q6AVR3NnIA :2015/07/11(土) 22:03:51 UpHLR3vk0
投下終了です。


363 : ◆7DVSWG.5BE :2015/07/12(日) 14:23:10 AI7PD7j60
皆さま投下お疲れ様です。
私も投下します。


364 : 研美悠士&ランサー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/12(日) 14:26:16 AI7PD7j60

ある男は夜空を見上げる。
目に飛び込んできたのは満月だった。
普段であれば月が満月だろうが三日月だろうがさほど興味は無く月から目を離していただろう。
だが今はその満月に魅入られたように目が離せなかった。
正確に言えば月を見ることしかやることがないと言った方がいいだろう。

研美悠士は紫色のスーツを着たまま大の字で寝そべり動けずにいた。
研美の脳が体に対して動けと信号を発してもしても体は一ミリも動かない。
動くとすればまばたきによる反射運動ぐらいだ。

月を見上げながら自分が置かれている状況を整理する。
耳に聞こえてくるのは波の音。
鼻を刺激するのは潮の匂い。
手足には砂利の感触が伝わってくる。

どうやらどこかの砂浜に居ることはわかった。
だがそれは決してありえないこと。
研美が覚えている最後の記憶。
それは富士山にある自分の研究所で丹童子アルマと戦いそして敗れ朽ち果てたこと。

―――では自分は何故生きてこの砂浜で大の字になっているのか?―――

いくら考えてもその答えは出なかった。

数十分は満月を見上げていただろう。
次第に体が回復してきたようで指先など体の部位が自分の意志で動かせるようになってきた。
研美は自分の身体に立ち上がれと命令を下し、身体もその命令に応じるように立ち上がる。
砂浜にいるということは分かっているがそれがどこの砂浜かはまるで分からない。
日本の何処か、または海外の地にいるかもしれない。
自分がどこにいるかを知る手がかりがないものか。
周りを見渡して見るとある島の中央にそびえたつ塔が見える。
その塔には見覚えがあった。
それは江の島タワー。
江の島タワーが見えるということは今自分がいるこの砂浜は江の島又は鎌倉のどこかの砂浜だということになる。
鎌倉という言葉が頭に過った時、研美はある男性を思い出した。

―――丹童子アルマ―――

自分の野望を打ち砕いた男。
何の因果かその男の故郷に死んだはずの自分がいる。
これは何を意味するのか?

その時研美は雷に打たれたような衝撃を受けた!
俗に言う『天啓』と呼ばれるかもしれない。
頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。

聖杯、令呪、サーヴァント、セイバー、アーチャ―、ランサー……
あまりにも大量の情報が脳内に刻み込まれたせいか思わずよろめき膝をつく。
このまま情報が流れ込み続ければ発狂してしまうかもしれない。
身の危険を感じながらも研美は情報を受け取ることしかできることはない。

永遠に続くと思われたそれは突如終わる。
そして研美はすべてを理解した。
何故自分はこの鎌倉の地に呼ばれたのか、何故生きているのかを。

「フハハハハ!素晴らしい!こんなことがおこるなんて!」

フィンガースナップを鳴らすと研美はせきを切ったように腹の底から笑い始めた。
その笑い声は波の音にかき消されることなく周囲に響き渡る。

ここは自分が知るものとは異なる鎌倉。
その地でおこなわれるは聖杯戦争。
勝者の手にはすべての願いが叶う聖杯。

聖杯の力は本物だ。
その身朽ち果てた自分がこうして両足で大地に立っているのだから。
聖杯を手に入れればセイクリッドの力を手に入れた時とは比べ物にならないほどの力が手に入る!
この高揚感はあの無敵の味を味わった時以来だ!


「絶対に手に入れてやるぞ聖杯!どんな手段を使ってもだ!」

研美はその心に湧き上がる高揚感に身を任せて叫ぶ。
だがそれが命とりだった。


365 : 研美悠士&ランサー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/12(日) 14:28:40 AI7PD7j60

「それは無理だ。ここで死ぬからな」

その声を聞いた瞬間鳥肌が立ち嫌な汗がふきだす。
この感覚は光の槍と化したアルマが向かってきた時に感じたとものと同じだった。

声が聞こえてきた方向に身体を向けると20メートル先から江戸時代の住人のような恰好し刀を帯刀している青年が向かってくる。
その江戸時代の住人のような青年の20メートル後ろにはスーツを着た壮年の男性がその様子を見守っていた。

研美は植え付けられた情報からあの青年は刀を持っていることからセイバーと予想する。
あれがサーヴァント。あれが英霊。
まさかこれほどまでの存在感とは。
自分もセイクリッドテイカーという一般では化け物と呼ばれるような戦闘能力を持ったものと戦ったことがあるが、あれはその上をいくかもしれない。

「満月が綺麗だから散歩していたが、自分が聖杯戦争の参加者と叫ぶ間抜けに出会えるとは僥倖だ。なあマスター」
「ああ」

セイバーは親しい友人のように話しかけるが、マスターは事務的な反応で答える。

「しかもこの状況で自分のサーヴァントが居ないということは別行動中か、サーヴァントを召喚すらしていないということだ。さらに僥倖」

今更ながら自分の失態を悔いた。
聖杯戦争はすでに始まっている。
それなのに生き返っていること、聖杯を手に入れられることを知って我を忘れて高揚し、自分が聖杯戦争に参加していると大声で叫んでいた自分を殺したい気分だ。

だが悔やんでも失態を帳消しすることはできない。
悔やんでいる暇があればこの状況を打開する方法を考えるべきだ。
サーヴァントが居ない今頼れるのは自分しかいない。

「せっかくの機会だここで殺しておこう。まあ……」

セイバーが喋り終る前に研美はスーツの懐から宝石を胸にかざす。
紫色の光りが身を包んだ直後、黒色のパワードスーツを身に纏っていた。
これはアーティジェムスーツ『サイクロプス』
セイクリッドセブンの研究課程において得た技術を元に開発されたものである。
このパワードスーツを着ることにより一時的に人外の力を有するセイクリッドテイカーと同等の力を持つことができる。
パワードスーツを身に纏った研美はすぐさま壮年のマスターに向って突進した。

最初に考えたのは逃亡だった。
パワードスーツを着れば人間とは比較にならない速度で移動できる。
だが相手は英霊。自分の速さに匹敵するもしくはそれ以上の速さを持っていると考えたほうがいいだろう。
そしてこのパワードスーツは長時間可動することはできない。
もし稼働時間中にセイバーから逃げられなければ待っているのは死だ。
ならば相手マスターを即座に殺しセイバーを消滅させる!
逃げるも戦うも待っているのは絶望的結末。
だが戦う方が僅かながら生き残れる可能性があると判断した。

「辞世の句ぐらい詠ませてやる」

だが研美は数メートルも進むことができずその場に倒れ込む。
その腹部には刀の柄がめり込んでいた。
セイバーは研美が自分のマスターに攻撃すると察知し即座に近づき攻撃を加えていたのだ。
パワードスーツは消え失せ紫のスーツ姿に戻っていた。

(これがサーヴァントの力か……)

その気になれば自分の首をはね飛ばすこともできたはず。
だが敢えて無力化程度に収めた。
あまりの実力差に舐められたことに対する怒りすらわかない。
これは辞世の句でも考えたほうがよさそうと諦めが研美の精神を支配し始めた時だった。

「シャバババー!」

突如野太い声が聞こえた刹那セイバーが吹き飛ぶ。
痛みで意識が途絶えそうになりながらもその目で確かに見ていた。
何者かがセイバーにショルダータックルをぶちかました瞬間を!

「お前が呼んだか、超人より下等な人間に呼ばれるなど屈辱の極みだ」

研美はすぐに理解した。この二本の巨大な角を持つ者が自分のサーヴァントだと。
クラスはランサー。
槍を持ってはいないがその頭についている二本の巨大な角が槍ということか。

最初に抱いた印象は岩。屈強で強大な岩だった。
三メートルはあると思われる長身。
岩のようにゴツゴツとした肌。
何よりその筋肉に強く惹かれていた。
自分も鍛えているから分かる。
この筋肉は戦いのためだけに鍛えられたもの。
その身体に一種の神々しさのようなものを感じていた。


366 : 研美悠士&ランサー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/12(日) 14:30:17 AI7PD7j60

「それがお前のサーヴァントか」

吹き飛ばされたセイバーは何時の間に立ち上がりランサーを見据えていた。
セイバーから恐ろしいほどの殺気が発せられており研美は自分の心臓が掴まれたような気分だった。
自分に向けられたものではない殺気でこの威圧感。
自分との戦いはお遊び程度ということを改めて思い知らされる。
そんな恐ろしい殺気を全身に浴びながらランサーは平然としながらその一つ目でセイバーを見据える。

視線が合った瞬間セイバーが仕掛ける。
先ほど見せた加速力で一気に近づき鞘に収まった刀を抜刀する。
居合切りだ
剣技で最も素早いと言われる居合切りにセイバーのダッシュの加速を上乗せする。
これは通常の斬撃の二倍、いや十倍の威力だ。
この斬撃を受ければ屈強なランサーでもバターのように両断されるだろう

「このド下等サーヴァントが!!」

だがセイバーの斬撃が届くことはなかった。
刀が抜刀される刹那、手刀で刀を叩き落としていた。
叩き落とされた刀は勢い余って砂浜にめり込みあまりの衝撃にセイバーは思わず顔を歪ます。
刀を手放すことはなかったが自分の手首を襲った衝撃は凄まじいものだった。

セイバーは砂浜に埋まった刀を引き抜き態勢を立て直そうとする。
だがランサーの足の裏を押し出すような強烈な蹴りを喰らい血反吐を吐きながら吹き飛ばされた。

「何を凶器なんぞ使っている!!裸一貫で偽りのない正直な戦いで力を比べあうのがサーヴァントの戦いではないのか!!」

ランサーは吹き飛んだセイバーに侮蔑の目を向ける。

「何という脆弱さ!何という惰弱さ!仮にも英霊たるものが凶器を使うなど言語道断!
ほんの少しばかり期待していたが、武器を使わない分今まで戦ってきたド下等超人のほうが遥かにマシではないか〜!」

身勝手な考えを一方的にまくし立てる姿をよろめく身体を刀で支えながら見つめる。
そしてダメージで思考を停止しようとする脳細胞に鞭を入れながら相手との実力差を分析する。
自分の居合切りをカトンボを振り払うように払いのけ。
先ほどの蹴りで無視できないダメージを負った。
実力差は明らかでこのままでは負けるのは必至。
ただし宝具を使わなければの話である。

セイバーの宝具を使用した。
その効果は自分の存在を完全に抹消すること。
これを使用すればセイバーの存在を見ることも聞くことも感じることもできない。
ましてや殺気など気配などは察知することはできない。
相手に攻撃されず自分だけ一方的に攻撃できる完全なステルス。
そのはずだった。

「このド下等サーヴァントが〜!!」

岩のサーヴァントの一つ目から眩いばかりの光りが発せられる。
それを浴びた瞬間に腹部に激痛が走った。
腹部の辺りを見てみると槍のような大きな角が腹を貫いていた。
これは明らかに致命傷だ。

何故だ?何故攻撃されている?自分を捉えることなど絶対に不可能なはずなのに!?
セイバーは激痛に耐えながら疑問の解を導き出そうとするがそれは叶わない。

「その姿を消すのがお前の宝具か。そのような宝具は我がサイクロプスの前では通用しない!
凶器を使い、姿を隠し自分の姿を偽る。ド下等すぎて言葉も出んわ〜!」

ランサーは自らの角を引き抜き足元で今にも消えそうなセイバーを汚らわしい何かを見るような目で見下す。

「まだ生きているのか。失せろド下等サーヴァント!!」

そう言うと蹲っているセイバーを海に向かってサッカーボールのように蹴り飛ばし、その体は遥か彼方まで飛び海に消えた。


367 : 研美悠士&ランサー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/12(日) 14:31:41 AI7PD7j60


(なんて強さだ!!)

研美はランサーの強さに感動すら覚えていた。
自分が手も足も出なかったセイバーを力でねじ伏せるその能力。
これはとんでもない当たりを引いたのかもしれない。
勝てる!このサーヴァントなら聖杯戦争を勝ち抜ける!

「素晴らしいじゃないか。さすが私のサーヴァント」

研美は親しい友人に会いに行くような足取りでランサーに近づき労いの意味を込めて腕を叩こうとする。

「触るな人間!」

しかしランサーの手によって自分の手は払われる。
ランサーにとっては蚊でも払うように軽くだったのかもしれない。
だが研美はまるでボクサーのパンチを手のひらに受けたような衝撃を感じていた。
改めて自分のサーヴァントの強さを再認識する。

「本来なら私と話すことすら烏滸がましいことを弁えろ!」

神に準ずるはずの自分がサーヴァントという枠で召喚され、ド下等超人以下の人間に使役されるということは生前にも味わったことのない屈辱だった。
だがこの屈辱を噛みしめ戦うことを決意する。
自らの願望を叶えるために。

ランサーには師と呼べる男が居た。
その男は気高く、慈悲深く、まさに男の中の男と呼べる存在だった。
その師を心から敬愛していた。
だがその男は悠久の時と自らが掲げる使命によって堕ちていく。

自分は師が変わり果てたことに目を背けていた。
このサイクロプスで見れば師が変わり果てたことを知ることができる。
だがランサーはサイクロプスで師を見ることはしなかった。
サイクロプスを使うことは心の底から信頼している師に対する裏切り行為と言い聞かせ。
自分は嘘をついていた。
何よりも嘘が嫌いなはずだったのに。
その嘘のせいでランサーは戦いに負けて死んだ。

今のランサーには嘘偽りは何一つない。
ランサーが聖杯にかける願い。
それは“あやつ”が“ザ・マン”のままであり続けること。
世界の秩序を維持することが使命であるはずの自分が自らの欲望のためにこのようなことを願うなどド下等超人そのもの。
生前の自分が見たらド下等と最大限の侮蔑と嘲笑を向けるだろう。
だがこれが自分の嘘偽りのない願い!
“あやつ”が“ザ・マン”であればかつての仲間ゴールドマンとシルバーマンはザ・マンの元から離れなかっただろう。
そしたらあの楽しかった日々がいつまでも続いていたかもしれない……


   ▼  ▼  ▼

セイバーとの戦いを終わったランサーは即座に霊体化する。
研美はそこにあった圧倒的な存在感が跡形もなく消え失せたことに妙な感覚を抱きつつ安心していた。
あのような異形の存在が自分と並んでいたらまともな生活が送れないからだ。

研美は今後のことを考える。
まずはやるべきは拠点の確保。他のマスターの所在を突き止める。
以前ならば拠点など自分が持つ財力でいくらでも作ることができ、他のマスターの所在を突き止めるなど部下を使えばよかった。

だが今は違う。金もなければ社会的身分もない浮浪者そのものだ。
文字通り裸一貫でこの聖杯戦争に挑まなければならない。
圧倒的に不利な状況といっていいだろう。
だが必ず聖杯を手に入れる!どんな手段を使っても!
研美は再び決意を固め、今晩の寝床を探す為当てもなく歩き始まる。

『サイクロプス』と呼ばれる鎧を身に纏うマスター。
『サイクロプス』と呼ばれる目を持つサーヴァント。

奇しくも神話に出てくる一つ目の神と同じ名前を持つ二人。
この二人は聖杯を勝ち取ることができるのか。
それとも他の英雄に打ち取られるのか。
それは神のみぞ知る


368 : 研美悠士&ランサー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/12(日) 14:33:24 AI7PD7j60

【クラス】
ランサー

【真名】
ガンマン@キン肉マン

【パラメーター】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具B

【属性】
秩序・中立

【クラススキル】
対魔力:A+
現代の魔術はおろか神代の魔術を用いても彼を傷つけるのはほぼ不可能である。
数億年以上生き、積み上げた神秘は計り知れない。

【保有スキル】
超人レスリング:A++
超人として生まれ持った才覚に加え、たゆまぬ鍛練と実践経験を重ねたリング上で闘う格闘技能。
Aランクでようやく一人前と言えるスキルでありA++ランクともなれば宇宙、有史でも上位の達人の域。
プロレスリングという格闘技の性格上、戦う際にギャラリーが多いほど耐久力、筋力が向上する

高揚感:A
ガンマンと戦っている者が「武器を持たず、嘘偽りのない姿」で戦っている時のみに発動するスキル。
攻撃回避能力は下がるが筋力と耐久がA+になる

煽り耐性:E
バッドスキル。
生前同じ完璧超人始祖であるサイコマンに散々挑発された逸話から発生したスキル。
挑発に弱く。簡単に挑発に乗り冷静さを失う。

先手必勝:B
「技と言うものは出される前に潰してしまえば恐れることは無い」
ガンマンの戦闘美学がスキルとなったもの。
相手が攻撃する前に強引に割り込める。
武器を使って戦うド下等サーヴァントに対してはこのスキルが発動する率が高い。

プロレスラー:C
先手必勝のスキルと反するがガンマンはやはりプロレスラー。
武器を使わず戦う者に対して先手必勝のスキルは発動せず。
攻撃を受ける確率が高くなる。

【宝具】
『サイクロプス(その眼は真実を映す)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0〜30 最大捕捉:視界に収まる全て

ガンマンの目から光が発せられその光を浴びたものは嘘偽りのない本来の姿をさらけ出す。
この光を浴びたものは姿を偽る、変身する能力は宝具でも無効化され、また気配遮断など本来の姿を偽るスキルも無効化する。

『エルクホルン・テンペスト(その角はすべて砕く)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人

フェイバリットホールドが宝具に昇華したもの。
ガンマンの頭に生えている槍のような大きな角をミキサーのように高速回転させ
相手を粉みじんにする恐るべき技


【weapon】
なし。

【人物背景】
ある世界で超人はあまりの愚かしさに神々によって滅ぼされる運命だった。
しかし一人の神によって滅びの運命から逃れた十人の超人はその神に鍛えられ完璧超人始祖と呼ばれる。
その一人がガンマンである。

性格は唯我独尊。自分の実力に絶対の自信を持っており完璧超人以外の超人はド下等超人と呼ぶなど、傲慢で過激な気性の持ち主
人の話を聞かず一方的に自分の意見を押し付けるめんどくさい性格でもある。

【サーヴァントの願い】
“あやつ”が“ザ・マン”であり続けること。そうだったら……

【マスター】
研美悠士@セイクリッドセブン

【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れ。セイクリッド以上の無敵の力を手に入れる

【weapon】
アーティジェムスーツ『サイクロプス』
石の透明度によって『サイクロプス』のパワー外装の耐久度は左右される。
最高級の透明度であれば、セイクリッドテイカーともある程度戦える

【能力・技能】
 筋トレで鍛えた肉体

【人物背景】
セイクリッドテイカーと呼ばれる異能の存在の保護を目的とする機関「研美研究所」の所長。
人当たりもよく紳士的な態度は人々に好印象を与える。
だがそれは仮の顔。
本性は力を手に入れるために研美研究所で保護した幼いセイクリッドテイカーに非人道的実験を繰り返す外道。
彼の行動によって多くの人々の運命は狂わされた。

健康志向でミネラルウォーターを好み、趣味は筋トレ。
フィンガースナップ(指ぱっちん)をするのが癖。

【方針】
何が何でも聖杯を手に入れる。
そのためならどんなことでもするつもり


369 : ◆7DVSWG.5BE :2015/07/12(日) 14:38:39 AI7PD7j60
以上で終了です。
ガンマンのステータスはyy7mpGr1KA氏のガンマン、◆A23CJmo9LE氏の悪魔将軍を参考にさせて頂きました


370 : ◆2XEqsKa.CM :2015/07/13(月) 06:18:37 S5U3MEgY0
投下します。


371 : やり直しの願い(コネクト) ◆2XEqsKa.CM :2015/07/13(月) 06:19:45 S5U3MEgY0

時代を超え、世界を超え、数多繰り返される聖杯戦争。
奇跡を求め、情欲を燃やす者たちが神威の断片を奪い合うその戦場には時折、期せずして巻き込まれた者が混ざっていた。
数合わせ、イレギュラー……本来持つべき願いを持たず、儀式に捧げられる為だけに踊る生け贄。
だが時に、その生け贄こそが天の杯に手を伸ばすこともある。運と力の巡り合わせの悪戯。
それゆえに聖杯戦争に臨む挑戦者達にとって、彼らイレギュラーは蔑唾すべき半端者であり……同時に疾く打倒すべき害獣でもあった。
ここ鎌倉の地にも、聖杯を求めずして足を踏み入れた男が一人。
天より舞い降りるその巨躯は威風堂々。
鍛え上げられた鋼の肉体が往来を歩く人々の注目を集める。
大地に轟々と土煙を立てながら着地した男の目が、マスクの下からギラリと輝く。


「ここが京都か〜〜〜っ!!!」

「な、何だぁーーー! 空から人が落ちてきたぞっー!!!」

駆け寄ってくる人間たちを睥睨するは、超人と呼ぶ他ない完成された肉体。
胸元の大きく開いたチョッキを纏い、マスクを付けたその装いはまさしく異端。
しかしながらそのあまりに自信に満ちた物腰に、鎌倉の住民たちは息を呑んだ。
だがその沈黙も束の間、突如人ごみの中からローブを着た男が飛び出して超人を指差し叫ぶ。

「ネプチューンマン! 正義超人ネプチューンマンだぁ〜〜〜っ!」

「あ、あなた!? 急にどうしたの……?」

妻と思しき女性の困惑の声も意に介さずはしゃぐ男を見て、ネプチューンマンと呼ばれた超人がニヤリと笑う。
そう、彼の名はネプチューンマン。かって完璧超人として地球を襲来するも、正義超人との戦いで変心した経歴を持つ男。
キン肉星の王位争奪戦においては、ザ・サムライとして姿を現し、キン肉マンとの禍根を乗り越え戦った。
その際に彼が放った「ネプチューン・メッセージ」は、彼を正義超人として周知させるに十分な貢献を果たしたのはあまりに有名だ。
争奪戦収拾後、完璧超人の代表として三属性不可侵条約にサインした咎で完璧・無量大数軍(ラージ・ナンバーズ)に拘束され牢に繋がれていたネプチューンマン。
そんなネプチューンマンが脱獄し、超人属性同士の大乱を止める為に向かった先は日本・京都。
かってビッグ・ザ・武道としてネプチューンマンが師事したネプチューン・キング。彼は謎に包まれた完璧超人始祖・拾式サイコマンの正体を知る数少ない完璧超人だった。
そのサイコマンが憎憎しげながらもどこか達観した風に完璧超人始祖・弐式シルバーマンの完璧超人界出奔後の行動を語っていた事を又聞きしていたからこその選択。
シルバーマン、そして先に出奔したゴールドマンの両名が聖地として降り立った京都……ゴールドキャッスルとシルバーキャッスルを完璧超人たちは必ず狙うという判断だった。


372 : やり直しの願い(コネクト) ◆2XEqsKa.CM :2015/07/13(月) 06:21:15 S5U3MEgY0

「でもネプチューンマン! ここは鎌倉……京都ではありませんよ!」

「フム確かに。あっちに見えるのは金閣寺ではなく鎌倉八幡宮……二条城も見あたらねえが……」

「フ……ようこそ鎌倉へ、元完璧超人ネプチューンマン……」

確信を持って降り立ったが、道に迷っていたとでもいうのか。
困惑するネプチューンマンだったが、彼に助け舟を出す男が一人。
その男は黒尽くめの法衣に身を包んだ、冒涜的な笑顔を顔に縫い付けた神父である。
一目見て只者ではないと分かる神父に対し、群集が信頼の感情を向ける。
神父の名は言峰綺礼。鎌倉で教会を預かる、市民の信任厚い男だった。
その両目は強烈な光を放ち、暗示の魔術を群集にかける。

「彼はこの私、言峰綺礼の友人です……皆様は心配せず、日常に戻っていただきたい……」

「神父様が仰るなら間違いはありませんね。御機嫌よう」

「さようなら、神父様」

群集が一人、また一人と去っていく。
最初にネプチューンマンの名を呼んだ男だけが少し離れた場所に留まっていたが、周囲にはあっという間に人気がなくなった。

「妙なまじないを……言峰とか言ったな、貴様は何者だ?」

「私はこの鎌倉で行われる聖杯戦争の監督役だ。派手な登場をしてくれた君のフォローに来た」

「聖杯戦争?」

聞き慣れぬ言葉を訝しむネプチューンマンに、言峰がその概要を語って聞かせる。
曰く、万物の願いをかなえる「聖杯」を奪い合う争い。
心に願望を秘める者はマスターとなり、己の闘争を代行する戦駒、サーヴァントを召還し殺し合う。
勝者を除く全てのマスターとサーヴァントが倒れたとき、聖杯は顕現し勝者の望みを聞き遂げる。
ネプチューンマンはその競争に参加する為にここ鎌倉の地に来たという事になっているらしい。

「オレにそんなつもりはない! 悪いが帰らせてもらうぞ、今は超人界に止めねばならぬ戦争が起きている時、別の戦争に付き合っていられるヒマなどないのだーっ」

「それは不可能だ、ネプチューンマン」

「なんだと!?」

「一度足を踏み入れた以上、聖杯戦争が決着するまで鎌倉からは出られないのだよ」


373 : やり直しの願い(コネクト) ◆2XEqsKa.CM :2015/07/13(月) 06:23:34 S5U3MEgY0

一方的な物言いに、流石のネプチューンマンも鼻白む。しかしそのまま怯んでいる男ではない。
もはや会話の余地などないとばかりに神父に背を向け、空に飛び上がろうとして―――ネプチューンマンの右腕に痛みが走る。
何かと腕を見れば、そこには絡みつくような文様が浮かび上がっていた。

「それが今話した、召還されたサーヴァントと君たちマスターを結ぶ繋がり……令呪だよ」

「そんなものを召還した覚えはない! これは貴様の仕業だな!」

「否定はしないが……サーヴァントの召還に複雑な儀式は必要ない。特にここ鎌倉においてはな」

「たわ言はもうたくさんだ! 貴様が聖杯戦争とやらの黒幕ならば、ここでねじ伏せて台無しにしてやるわ!」

ネプチューンマンが言峰に飛び掛る。超人として人間を殺めるのは下衆の行い……その思いからの手加減はあったが。
だがその手加減が仇となった。言峰は目を見張る程の素早さで身をかわし、半歩踏み出してからの拳をネプチューンマンに突き立てる。
距離を離す程度の意味しかなく、それも打ち込んだ言峰の方が弾き飛ばされるという結果はともかく、その反応速度は驚嘆に値した。
ネプチューンマンの認識が即座に切り替わる。目の前の神父は怪しげな一般人ではなく、超人の域に届きうる存在である、と。
無機質な声で、言峰が警告を行う。

「これ以上の敵対行動をされると、ペナルティを課さざるを得なくなる。即刻やめたまえ、ネプチューンマン」

「ほざけ〜っ! 『審判のロックアップ』!」

「ぬうっ!?」

速度を一段階上げたネプチューンマンの腕が言峰の腕を捕らえ、がっちりと組み合わせる。
両腕を重ねた二人の間に力と技の量り合いが発生し、ネプチューンマンは言峰の本領を見極めんと気を張った。
やはりただの人間ではない……いや、人間という概念に当てはまるのかも疑わしい、超人の力を量ったときとはまた違う感触を、ネプチューンマンは感じていた。

「貴様は、一体……!?」

「何度問われても答えは同じ。私は鎌倉の聖杯戦争の監督役、言峰神父だよ」

暖簾のような言峰の返答に毒を抜かれ、ネプチューンマンはロックアップを解いた。
性質はともかく、力は本物というべき物があるのだから、言葉にも一理の真実があるのかもしれないという、実力者たる彼らしい判断だった。

「……ここから出られないというのは本当なのか?」

「聖杯戦争が終わるまでは、な」

「ならばオレは聖杯戦争とやらを棄権する。終結を少しでも早める為に、最も優勝に近い組を見定めて協力するが文句はないな?」

「棄権の制度はないが、まあ君の思うままに行動するといい。ただサーヴァントにも願いはある、彼はなんと言うかな?」


374 : やり直しの願い(コネクト) ◆2XEqsKa.CM :2015/07/13(月) 06:25:38 S5U3MEgY0

言われて、召還されたサーヴァントがいまだ姿を見せていない事に気付く。
ネプチューンマンの腕に浮かぶ令呪がある以上、マスターの傍に存在してしかるべきサーヴァント。
言峰の言葉に応じ、ネプチューンマンは「現れろ」と念じてみた。
直後、虚空に融けていた霊体が実体を帯び、ネプチューンマンの僕が現れた。
その姿に驚愕するネプチューンマン。サーヴァントは、彼とまったく同じ姿をしていたのだ!

「セイバーのサーヴァント、ネプチューンマン。グフフ……そう驚いた顔をするな、こちらも驚いているのに我慢しているのだぞ」

「な、何事だこれは!? 言峰! サーヴァントとは無念のままに死んだ英霊を使い魔に貶めた存在と言ったな、オレはまだ生きているぞ!」

「驚くにはあたらんよ。私のような凡人には思い浮かべることすらできないが、完璧超人の猛者として名高い君ならば未来に英雄として名を残すことは想像に難くあるまい?」

未来に英霊となる者も、場合によっては時系列を無視して召還できるのだと付け加える言峰。
そう言われれば悪い気はしない、ネプチューンマンは不思議な遠慮を感じながら、己の写し身に声をかける。
サーヴァント・ネプチューンマンはマスターの提案に対し、自分の決めたことだから当然同意だ、と快諾する。
安堵するネプチューンマンだったが、目に浮かぶサーヴァントのステータスを見て、ふと言葉を漏らした。

「言峰よ、属性という部分が混沌・悪となっているのだが……」

「属性か。前部分は社会的、後半部は個人的な善悪に対する方針を示している。混沌・悪ならば反社会的であり、目的のためには手段を選ばない無軌道な姿勢を取るという方針だな」

「……」

「正義超人としてキン肉マンたちと共にある筈のオレが反社会的で無軌道な方針を? 腑に落ちんな……」

疑問を覚え、問い質そうとしたネプチューンマンに対し、サーヴァント・ネプチューンマンの表情がその属性に相応しい、邪悪なそれへと変貌していく。
そう、サーヴァントとして召還されたネプチューンマン……セイバーは現在のネプチューンマンとは意を異にする存在。そも、マスターとサーヴァントが完全に心意を同じにする方が珍しいのだ。
ネプチューンマンが知りえぬ未来を辿ったセイバーは、その性質を醜悪かつ練達したものへと変質させるに至っていた。
マスターの糺す言葉が、令呪と共にサーヴァントへと走る。セイバーが発する邪悪なるオーラは、ネプチューンマンをして躊躇なく切り札を使わせるものであった。

「何故このオレの姿を偽っている!? 正体を現せ〜っ、セイバー!」

「その令呪に応じようじゃあねえか、マスター! だがオレは今まさに正体を現している! オーバーボディも覆面もつけちゃあいねぇ〜っ」

「バ、バカな……」

「ついでに本音も教えてやろう。お前は無益な戦争を止めてみせると言ったが、オレにとってむしろ戦争は望むところ! 完璧超人界再興の為になぁ!」

「これは驚いたな。未来の自分を召還するとこんな悲劇が起きるとは想像もしなかったぞ、クックックッ」


375 : やり直しの願い(コネクト) ◆2XEqsKa.CM :2015/07/13(月) 06:28:30 S5U3MEgY0

破顔する言峰を尻目に、ネプチューンマンの驚愕は頂点に達した。
自分の未来は、この目の前にいる男が示しているというのか。今の自分の仲間達を思う気持ちは、やがてこの下卑た野心に塗り潰される必定だとでもいうのか。
ネプチューンマンの全身に力が篭る。それが事実だとしても、否、事実なればこそ、それを認めるわけにはいかないのだ。
喧嘩(クォーラル)ボンバー。言峰には使わなかった、ネプチューンマンの乾坤一擲のフェイバリットがセイバーを狙い定める。

「貴様がオレの未来の存在だというならば、現在のオレが正さねばなるまい! 覚悟しろ、セイバー!」

「愚か者め! マスターとはいえ、オレの過去の存在とはいえ、サーヴァントに勝てるとでも思うか!」

セイバーはあえて喧嘩ボンバーを受けた。その一撃は重く、強く、信念を込めた物であったが、それだけではサーヴァントという存在との根本的な力の差を覆すには至らない。
悠々とネプチューンマンの体を拘束するセイバーの技は喧嘩(クォーラル)スペシャル。己の技で締め上げられるネプチューンマンは、無念に歯噛みする。
そしてセイバーがサーヴァントを象徴する、ネプチューンマンならば絶対に使わない、使えないもの……『宝具』を取り出す。

「これが何か分かるか〜っ」

「そ……それは!」

「グッフフ、そう。貴様もよぉくご存知の悪魔どものお宝、裏切りの箱よ!」

「裏切りの箱(ヴィトレイ)」。セイバーが持つ二つの宝具の片割れであるそれは、本来の力を発揮できぬまでも、パスが繋がった己のマスターを対象とするには十分すぎる神秘。
箱の中に出現したネプチューンマンの人形が呪いに囚われ、ネプチューンマン本体の自意識を精神の奥底に封じ込めた。
大人しくなったネプチューンマンを開放し、セイバーは言峰に向き直る。

「マスターとの話はついたぞ。我等は聖杯を獲る! そしてオレは聖杯にこびり付いた神域の力をカマクラ・パーフェクト球根として食し、今度こそ完全無欠超人となり超人界を支配するのだ〜っ!」

「そうか、君たちの願いが叶うことを私も心から祈るとしよう。既に予選は始まっている、油断をせず励むことだな」

「うむ……しかし、ねぐらや食い扶持を探すのが先だな」

「それなら、私の家を自由に使ってくださいよ、ネプチューンマンと未来のネプチューンマンさん!」

遠巻きに様子を見守っていた、ローブを着た男が、妻を伴って駆け寄り、声をかける。
不審げに男を見るネプチューンマンに、言峰が去り際に伝えた。

「予選は既に始まり、当然脱落者も出ている。その男は君たちと同じ世界から来た参加者だな。妻はこの鎌倉で暗示をかけた赤の他人といった所かな?
 サーヴァントを失い、何らかの事情で己がマスターだったというこの聖杯戦争の記憶すら忘れた何の害もない存在。この鎌倉で君を知る数少ない者、というわけではあるがな」

「ほう。ならばお言葉に甘えるとしようか」

「あ、あなた! 私たちの生活は……」

「バッキャロ〜っ! あのネプチューンマンに、それも現在未来二人のネプチューンマンに合えることなんて滅多にないんだぞ! そのお役に立てる以上の光栄はない!
 なんだったら俺たちはホテル暮らしでもすればいいじゃねえか! なにか文句でもあるのか!?」

「そうね、あなたの言うとおりだわ」

無意識か、意識的にかはセイバーには分からなかったが、ローブの男の言峰がやったそれとは比べ物にならぬ稚拙な暗示魔術により、細君からの許可も得られた。
アジトを得ることに早々成功し、セイバーの聖杯戦争は順風満帆のスタートを切ったと言えた。
しかし、上々の気分のセイバーにはマスターが自分自身だったからこそか、見えていないものがある。
聖杯戦争がただの殺し合いではなく戦争と呼ばれる高度な物になるのは、始めから最後まで切り離せない、マスターとサーヴァントの繋がりが様々なメリットデメリットを生じさせるからこそなのだ。
この戦争を個人戦と捉えているセイバーの認識がいかなる結果を生むのかは、天上にあらぬ彼には今だ理解が及ばなかった。


376 : やり直しの願い(コネクト) ◆2XEqsKa.CM :2015/07/13(月) 06:30:24 S5U3MEgY0

【クラス】
セイバー

【真名】
ネプチューンマン@キン肉マンII世

【ステータス】
筋力A 耐久A+ 敏捷B 魔力B 幸運B 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
騎乗:E
申し訳程度のクラス別補正。

対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
スキル「完璧超人」の効果により、本来のランクより向上している。

【保有スキル】
完璧超人:B-
「超人」種の中でも最も神に近い存在とされる集団。
善悪や感情を超越した精神と完璧なる強さと思想を身に付け、他の種と交わることを忌避する傾向にある。
「絶対に負けてはならない」「凶器を使わない」「逃走、後退による背中への傷は許されない」等の厳しい掟を守ることで、あらゆる攻撃への耐性と、スキルから1ランクダウンした『カリスマ』の効果を得る。
本来ランク分けできるような階級はこの集団には存在しないが、便宜上 一般完璧超人→強豪完璧超人→完璧・無量大数軍→完璧超人始祖 とランクが上昇していき、
Bランク以上ならば前述の効果の他に不老の肉体、Aランク以上ではさらに同ランクの『神性』等を取得する。セイバーは一度は完璧・無量大数軍に数えられた身だが、脱退しているためこちらは失っている。

真眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

呪術:E
悪魔・時間の二大勢力と組み、凶悪な呪いを用いた逸話を持つ。
宝具『裏切りの箱』により、低ランクの呪術が使用可能。さらに、低確率で「呪い」に類する効果を持つ宝具の真名を看破する。

マグネット・パワー:C
ガイアの力を借り、肉体から膨大な磁気を発生させる能力。
最高ランクのこのスキルの持ち主ならば、複数名で協力すれば地球の自転を反転させて時間を逆行させることすら可能。

魔力放出(雷):C
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
セイバーの場合、天を裂く稲妻を身に纏い扱うことができる。
マグネット・パワーと併用する事により周囲の物質を操ったり、磁気嵐で呼んだ稲妻を剣として扱うことが出来る。


【宝具】
「裏切りの箱(ヴィトレイ)」
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:20 最大捕捉:10

悪魔超人から奪った、他者を仲たがいさせて連携を阻害する呪具。
本来の使い手ではないため、他のサーヴァントとマスターに効果を及ぼす事は出来ず、自己のマスターや一般人を操る為だけに使用する。


「<完狩>虚勢剥がす虚栄の磁交<完傑>(クロスボンバー)」
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:5 最大捕捉:1

完璧超人界の至宝とまで呼ばれた、セイバーのタッグ・フェイバリット。
覆面レスラーを葬り、その覆面を奪う(覆面を付けていなければ、顔皮を剥ぎ取る)逸話から、耐久値および防御スキルを無効化する特性を持つ。
対象の周囲に強力な磁場を形成し、一度発動すれば脱出は困難を極める。単独では使用できず、自分と同等以上の実力者の協力が必要だが、その威力は破格。
さらに21世紀の新技術・オプティカルファイバーの力を用いた逸話から、20世紀以前の英霊に対しダメージ値が上昇する。
セイバーは同位体であるネプチューンマンと共に使うが、マスターが洗脳状態にあるため現状では本来の半分の威力も出せない。


【Weapon】
「サンダーサーベル」
『魔力放出(雷)』『マグネット・パワー』により落下させた稲妻を掴み、剣として利用する。凶器にはカウントされない。

「爆薬」
完璧・無量大数軍として、負けた際に自害する為に持ち歩いていた爆薬。
飲み込めば、人狼煙となる程の爆発を起こす。


377 : やり直しの願い(コネクト) ◆2XEqsKa.CM :2015/07/13(月) 06:31:40 S5U3MEgY0

【人物背景】
<キン肉マン>での来歴はネプチューンマンの項目を参照。
キン肉星王位争奪戦を終え、キン肉マンのフェイス・フラッシュによって蘇ったセイバーは、故郷であるイギリスに帰国。
長年の戦いの疲れを癒すため、田舎で隠居生活を送る。その中でも、鍛錬だけは欠かさず行っていた。
妻子を持たず、新たな敵との戦いだけに備える彼の肉体は全盛期の力を維持し続ける一方で、彼の精神は徐々に
悪行超人の台頭も意に介さず「完璧な強さ」だけを追求するかってのものへと立ち戻っていった。
時間超人たちの襲来についに重い腰を上げるも、正義超人と同じ道を歩むことはもはやなく、悪逆非道の限りを尽くす。
だがその精神と肉体はやはり酷使の果てに磨耗しており、維持できていたのは表面だけだった。
サーヴァントとしてより完全な存在に近づいた今、セイバーは再び覇業に向けて邁進する。

【サーヴァントとしての願い】
完璧超人界の再興。聖杯を得て『カマクラ・トロフィー球根』を食すことで完全無欠超人となりそれを成す。

【方針】
アジトに腰を据え、倒すべき強敵を探す。


【マスター】
ネプチューンマン@キン肉マン

【マスターとしての願い】
……

【Weapon】
特になし。

【能力・技能】
「裏切りの箱(ヴィトレイ)」とサーヴァントとしての特質を除けば、セイバーに迫る戦闘技術を持つが、洗脳状態にあり能力は半減以下にまで落ちている。
令呪は腕に絡みつくように三画。

【人物背景】
超人・喧嘩男としてイギリスで活躍していたが、その荒々しいファイトスタイルは受けが最悪で、ヒールとして侮蔑されていた。
格好ばかりの超人が持て囃され、自身の強さが世間に受け入れられないことに絶望しテムズ川に身を投げ自殺を図ったが、川底で運命の出会いを果たす。
ビッグ・ザ・武道からネプチューンマスクを授かり『完璧超人ネプチューンマン』へと生まれ変わり、天上界で更に研鑽を積む。
夢の超人タッグトーナメントにおいては、完璧超人の首領格を騙り参戦、悪魔・正義両陣営をまったく寄せ付けない実力で勝ち進む。
しかし決勝戦においてマシンガンズと相対し、その友情パワーと自分を拾った武道=ネプチューンキングの悪辣下種な本性にショックを受け錯乱。
正義超人の友情の高潔さを認め、地球に迫る無数の完璧超人に敗北を伝えるため人狼煙として爆死するネプチューンマン。
キン肉星王位争奪戦においては、心ある完璧超人たちにより蘇生を果たし、キン肉マンたちの戦いを見守る。
激戦の中死亡したキン肉マンの兄、キン肉アタルの遺灰を回収し、その遺灰が起こす奇跡を前に、ついに戦線に加わる。
キン肉マンと完全に和解して彼を王と認め、正義超人たちにキン肉マンの戦いの大義を訴えて死亡。戦後、キン肉マンのフェイス・フラッシュにより蘇生する。
その後、三属性不可侵条約に完璧超人代表として署名するが、完璧超人として主流派だったにも関わらず、激怒した一部の完璧超人たちにより粛清・監禁される。
無益な戦いを止めるため脱獄、かって完璧超人始祖を足抜けしたゴールドマン、シルバーマン両者にとって聖地と言える京都が狙われると読んで急行するも、
まったく意図せず異世界の鎌倉に迷い込んでしまい、聖杯戦争に巻き込まれた。

【方針】
……


378 : ◆2XEqsKa.CM :2015/07/13(月) 06:33:21 S5U3MEgY0
以上で投下終了です


379 : ◆jb1z7kQ0l2 :2015/07/13(月) 21:31:30 J.Mtdm8g0
投下させていただきます


380 : 空々空&アサシン ◆jb1z7kQ0l2 :2015/07/13(月) 21:33:06 J.Mtdm8g0
地球撲滅軍第九機動室室長、空々空は鎌倉の大地を踏みしめていた。

2012年10月25日、午前7時32分。
後に『大いなる悲鳴』と呼ばれる原因不明の大災害によって、人類の3分の1が死滅した。

それは他の何物にも影響を及ぼさず、見事に人類だけを殺害する現象であり、明確な『地球』からの人類に対する攻撃であった。
人類を滅ぼさんとする地球に対抗すべく、人類は地球を撲滅せんと立ち上がった。
正確には大いなる悲鳴より以前から地球陣との戦いは続いていたらしいのだが、その辺の事情は空々は詳しくない。というより興味もない。
そうした抵抗組織は世界中に存在し、その中でも国内最大手の政府に正式に認められた組織が、彼の所属する所の地球撲滅軍である。

そんな組織において、若干13歳にして第九機動室室長にまで上り詰めた地球撲滅軍の英雄。
コードネーム『醜悪(グロテスク)』。敵よりも味方を多く殺す、味方殺しの英雄。
その心に感情はなく、感動はなく、感傷はなく、感性はなく、感嘆はなく、共感を持たない。
何事にも動じず、何者にも執着せず、何故にも頓着しない。
それ故に、英雄足りうる資質を持っていた。
それがこの少年、空々空である。

空々は今、鎌倉にて聖杯戦争に巻き込まれてきた。
究極魔法を巡る魔法少女の争い、四国ゲームなる儀式に巻き込まれたこともある空々空ではあるのだが。
今度は鎌倉での魔術師による聖杯戦争ときたものだ。
科学を是とする地球撲滅軍の室長としてはこのような異能の巻き起こした儀式に連続して巻き込まれるのには異議申し立てをしたい所ではあるのだが。

しかし、そこは空々空である。
現実を受け入れる事と、生き延びる事には異常なまでに長けている少年だ。
そもそも空々に地球撲滅軍に対する帰属意識なんてないし、化学が絶対だなんて欠片も思っていないのだけれど。
巻き込まれてしまった以上、そういうものだと早々に割り切り、聖杯とやらに与えられた知識であるところの生き延びる手段(サーヴァント)を召喚したのだった。

与えられるのならば例え親の仇から与えられたものであろうと躊躇いなく使う少年だ。
実際、空々は実の両親を殺害した地球撲滅軍に所属しその庇護下に置かれている。
獅子身中の虫となり復讐を狙っている、という話ではなく、ただ保護者を失い生活力のない自分が生き残るためだけに。

もちろんその道具が、罠などではなく信用できる代物であるに限るが、少なくとも聖杯から与えられたルールの限りではその心配はなさそうである。
状況によってはサーヴァントの裏切りに会い襲ってくる可能性もあるが、その為の令呪だろう。


381 : 空々空&アサシン ◆jb1z7kQ0l2 :2015/07/13(月) 21:33:28 J.Mtdm8g0
「どうかしましたか、マスター?」

隣を歩いていたサーヴァントは召喚してからこれまで一度も崩れることない温和な笑顔のまま、マスターたる空々へと視線を向けた。
そのサーヴァントは中性的な顔をした優男であり、蒼みのがかった和服に包まれた肉体は線が細く、ともすれば野球で鍛えた空々の方がまだ筋肉は付いているかもしれないくらいである。
もっとも空々は可憐な少女の外見に地球を滅ぼす力を秘めた、地球撲滅軍不明室が開発した人造人間である悲恋という存在を知っているから、外見で相手を侮るようなまねはしなかったけれど。
年の頃は空々よりもやや高く、地球撲滅軍における空々の初代世話係であるところの彼女と同年代くらいだろう。
そして、その腰元には白鞘に納められた日本刀がある。
これがこのサーヴァントの武器であり、これまで数々の敵マスターを切り捨ててきた凶器である。

「いいえ、なんでもないですよアサシンさん」

特に敬語キャラという訳でもないのだが、野球部として青春の汗を流した空々空である。
目上に対する礼儀作法はそこで叩き込まれているため、年上と思しき初対面の相手にはどうしても敬語になってしまう。
人付き合いの苦手な空々だから距離感を詰めかねているというのが本当の所なのだけど。
やはり、第九機動室室長として部下と接するのとは若干勝手が違う。

そして、そうアサシンだ。
目の前にいるサーヴァントは剣の英霊ではなく暗殺の英霊である。
このサーヴァントは温和そうな顔のまま人斬りを成し遂げる生粋の暗殺者だった。
何の躊躇いもなく空々の命令に従い、無茶な作戦に対しても何の疑問も挟まず異議申し立てもしない。
それでいて仕事はきっちりこなしてくるのだから空々としては言う事なしである。

現にこうしてここまで生き延びている。
幸運にも、後先を考えない空々にしては珍しく、令呪だってこうして一つも使わず保たれている。
それくらいに、このサーヴァントと空々の相性は良かった。

だが、空々は失念しているが、そもそもそういう所には疎い男なので今後も気付くかは怪しい所なのだが、それはあくまで道具としての相性であった。
決して信頼関係の上に成り立っているものではない。
だから、戦術的な相性が良くても、人間的な相性がいいとは言えないのである。
いやそもそも空々と相性のいい人間なんて、いるのかどうかもわからないのだけれど。

アサシンが空々に対して異議申し立てをしないのは、自分の意見を持たないからなのかもしれないし。
温和なニコニコ顔だからと言って、不満を感じていないとも限らないのである。
そもそもそんな笑顔で人を殺せるのだから、人間的に何らかの異常を抱えていると気付くべきなのだ。相手が人間ではないにしても。

しかし、そこは空々空である。
人の感情に対する疎さにかけては右に出る者のいない少年である。
気付くべきことに気付かず、ドツボに嵌ま墓穴を掘り続ける事には定評のある少年である。
もっとも、突き抜けて生き延びる事にも定評があるのだが。

ここまで接していながら笑顔であるからという理由で、目の前の少年が自分と同じく感情の死んでいる人間だと空々は気づかない。
正確には、全ての感情が死んでいる空々と違い、このサーヴァントは「楽」以外の感情が死んでいるのだが。

それは明治の時代、政府転覆を目論むとある修羅の片腕として、言われるがまま暗殺を成し遂げてきたもう一人の修羅。
感情を失い数多の人間を平然と殺害してきた人斬り。
その真名を瀬田宗次郎と言った。


382 : 空々空&アサシン ◆jb1z7kQ0l2 :2015/07/13(月) 21:34:31 J.Mtdm8g0
【クラス】
アサシン

【真名】
瀬田宗次郎@るろうに剣心

【属性】
中立・中庸

【ステータス】
筋力:D 耐久:E 敏捷:A++ 魔力:E 幸運:E 宝具:E+

【クラススキル】
気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 完全に気配を絶てば発見することは難しい。

【保有スキル】
天剣:B
 天より与えられた剣の才能。
 同ランクの心眼(偽)、宗和の心得の効果を併せ持つ。

感情欠落:B-
 喜怒哀楽の「楽」以外の感情が欠落している。
 精神面への干渉を無効化すると共に、直感、心眼などの先読みスキルを無効化する。
 しかし不殺スキルを持つ相手と対峙した場合ランクは著しく低下する。

縮地:A
 驚異的な脚力で初速から一気に最高速に達する、目にも止まらぬどころか目にも映らない速度を発揮する超神速の移動術。
 室内であれば、天井も使用した『全方位空間攻撃』を展開できる。

【宝具】
『瞬天殺』
ランク:E+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:1
 「縮地」から「天剣」の抜刀術に繋げる連続技。「感情欠落」により先読みは不可能であるため、必中必殺の暗殺術である。
 この一撃が決まれば敵は自身が死んだことにすら気づかず痛みを感じることなく息絶えるだろう。

【weapon】
『菊一文字則宗』
 とある世界において志々雄真実を匿った際に礼として受け取ったとされる宗次郎の愛刀。
「菊一文字則宗」であるというのはあくまで同じ十本刀の才槌の見立てであり、実際には無銘。

【人物背景】
文久元年9月生まれ。相模国出身。
“天剣”の宗次郎。十本刀最年少にして最強の剣士。
とある米問屋の主人と妾の間に生まれ、幼少の頃より養父母一家から酷い虐待を受けて育つ。
そして被害を軽減させるには愛想笑いを浮かべているがの一番いいと悟り喜怒哀楽の中から「楽」以外の感情を封印するようになった。
その頃、全身に大火傷を負った逃亡中の志々雄真実と出会い米蔵に匿うが、その行為が親兄弟に露見。
新政府に取り入ろうとしていた養父に殺されかけるが、志々雄から語られた「弱肉強食」の理論を思い出し、宿賃代わりに渡された脇差で家族を全員斬殺する。
その後、志々雄真実の片腕として活動し、大久保利通などの多くの要人を暗殺してきた。

【サーヴァントとしての願い】
人生の答えを得る


383 : 空々空&アサシン ◆jb1z7kQ0l2 :2015/07/13(月) 21:35:18 J.Mtdm8g0
【マスター】
空々空@伝説シリーズ

【weapon】
『醜悪(グロテスク)』
 不明室の生み出した透明化スーツ

【人物背景】
地球撲滅軍第九機動室室長。コードネーム『醜悪』。矯正された右利き。
何事にも感動しない性質で、その性分を隠すため自分を演じながら生きている。
その資質を見出され地球撲滅軍の勧誘を受け、その際に証拠隠滅のため家族を虐殺されるが、特に動じることなく家族を惨殺した張本人である少女と共同生活を開始する。
そして『犬歯』にそそのかされ地球撲滅軍からの脱走を試み、その際に『火達磨』『恋愛相談』『蒟蒻』といった仲間を殺害。
脱走は失敗に終わるも前室長である『蒟蒻』が死亡したため、第九機動室室長に任命される。
その後、四国で起きた異変の調査を行うため単身四国に乗り込み、そこで行われている究極魔法を巡り魔法少女たちが行う四国ゲームに巻き込まれる。
多くの犠牲を出しながらも究極魔法の入手に成功する。

【マスターとしての願い】
いつもの日常に戻る

【基本戦術、方針、運用法】
基本は正面戦闘は避け徹底して瞬天殺による奇襲でマスターを狙う
また状況におじて空々の英雄性に任せ臨機応変に生存を目指す


384 : 空々空&アサシン ◆jb1z7kQ0l2 :2015/07/13(月) 21:35:31 J.Mtdm8g0
投下終了です


385 : ◆EC8Q65yTbg :2015/07/14(火) 00:57:36 01yosfAs0
自分も投下します


386 : 直樹美紀&バーサーカー ◆EC8Q65yTbg :2015/07/14(火) 00:58:16 01yosfAs0

 ――この町は、平和だった。


 「――なんで」


 町のどこにも、ゾンビなんて居やしない。
 デパートでは親子連れが楽しそうにはしゃいでいて、学校には楽しげに生徒が通っていく。
 かつては「あたりまえ」だった光景が――今の自分には、あまりにも理不尽なものに映るのは何故だろう。
 私達だって、かつてはそこにいたはずなのに。


 「――なんで」


 がりっ―― 血が出そうなほど強く、頭を掻く。
 
 私の心にあるのは、自分たちにだけ突きつけられた理不尽への怒り。
 こんなにも微笑ましく、当たり前に過ぎ去る日常への羨望。
 同時に、筋違いも甚だしい感情を抱いている自分への失望の情だった。
 彼らは何も悪くない。この世界、この日本では、ゾンビ騒動は起きていない。
 それは本来喜ばしいこと。自分たちのような者が生まれないという、とても幸せなこと。
 なのに――それを素直に祝ってあげられない自分に腹が立つ。


 「なんで、私達だけなんですか」

 
 私だって。
 ゆき先輩だって。
 くるみ先輩たちだって。
 みんなみんな――あんな風に過ごしていたかった。
 「がっこう」の中だけなんかじゃなくて、外にも出て、沢山色んなことをしたかったのに。
 
 自分だけが不幸と思うな――そんな風に言う人もいるかもしれない。
 でも、そればかりは私たちにしか分からないこと。
 いつ崩れ去るともわからない日常を過ごす恐怖と不安を、経験したことがない人の言い分だ。
 私だって、こんな風に生きていたかった。生きて、みたかった。未来を、みたかった。


387 : 直樹美紀&バーサーカー ◆EC8Q65yTbg :2015/07/14(火) 00:58:48 01yosfAs0


 「――そう、ですよね」


 どれだけ問いかけたって、答えなんて誰も教えてくれない。
 そんなこと――とっくに知っていた。
 それなら、私にだって考えがある。
 もう、どうだっていい。
 私達を、あの「がっこう」から救い出してくれるなら――


 「先輩。私、決めました」


 ――鬼にでも、悪魔にでも。「狂壊」の悪魔にでも。
 何にでも頼ってやる。


 「私は――世界を救います。……協力してくれるよね、ファンダージ」


 少女の背後。
 霊体化を解き、白いのっぺりとした姿の異形が顕現する。
 その瞬間、周囲の空は紫色に染まり、気象は狂い出し、徘徊していた使い魔が狂死した。


 「――まってて」


 聖杯戦争――直樹美紀の闘いは、ここにはじまる。


【クラス】
バーサーカー

【真名】
アンガ・ファンダージ@ファンタシースターオンライン2

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力:A 耐久:A 敏捷:C 魔力:A 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
狂化:C
 幸運と宝具を除いたパラメータをランクアップさせるが、言語能力を失い、複雑な思考が出来なくなる。


388 : 直樹美紀&バーサーカー ◆EC8Q65yTbg :2015/07/14(火) 00:59:19 01yosfAs0
【保有スキル】
天候操作:C
 アンガ・ファンダージが戦闘行為を開始した瞬間、半径1キロメートルの空間が異常気象に陥る。

侵食核付与:B
 アンガ・ファンダージの近くに存在する、「サーヴァント以下」の召喚物に対し「侵食核」を植え付ける。
 侵食核を植え付けられた対象は凶暴化し、Eランク相当の狂化スキルを獲得する。

学習能力:A
 狂化してもなお、例外的に残されているスキル。
 サーヴァントとの戦闘の中でその戦い方を学習し、それに見合った耐性を獲得できる。
 例えば雷を放つ剣を持つサーヴァントがいたとすれば、「雷」と「剣」に対し非常に高い防御力を獲得。
 よってアンガ・ファンダージを倒すには必然的に、耐性ができる前に倒し切るか、複数人で挑むか。
 もしくは、ひとりで複数種・複数属性の攻撃ができるサーヴァントであることが必要になる。
 
【宝具】
『進化する狂壊(アルティメット・クエスト)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:-
 アンガ・ファンダージが一度撃破された際、自動発動する。
 一定時間後に新たな胴体と腕を得て、ファンダージは事実上の全快を果たす。
 更に、一度目に高火力などで耐性を与える間もなくファンダージを倒していると、この変身時にその攻撃に対する耐性を付与して復活してくるので、同じ手は二度通じない。

【weapon】
ファンダージ・ビット

【人物背景】
 「壊世区域」と呼ばれる区域に出現する、環境変化の元凶である存在。
 その絶大な力から、「狂壊」の二つ名を保有する。

【サーヴァントとしての願い】
 不明。


【マスター】
直樹美紀@がっこうぐらし!

【weapon】
なし

【人物背景】
学園生活部の一員。愛称は「みーくん」。
共依存関係にある部内の中では、唯一現状の歪さを認識している。

【マスターとしての願い】
世界を救う

【基本戦術、方針、運用法】
マスターの戦闘能力は年相応な上、そもそも魔術師ですらないので魔力量には期待できない。
堅実に一体一体をヒットアンドアウェイで仕留めていくのがいいだろうが、セイバーの気性からしてそれも難しい。


389 : ◆EC8Q65yTbg :2015/07/14(火) 00:59:50 01yosfAs0
投下終了です。
直樹美紀@がっこうぐらし! & アンガ・ファンダージ@ファンタシースターオンライン2
でした。


390 : ◆EC8Q65yTbg :2015/07/15(水) 22:30:15 tfqQwbvU0
申し訳ありません。記述が足りず語弊を招く形になっていたので、バーサーカーの宝具を修正します。

【宝具】
『進化する狂壊(アルティメット・クエスト)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:-
 アンガ・ファンダージが一度撃破された際、自動発動する。
 一定時間後に新たな胴体と腕を得て、ファンダージは事実上の全快を果たす。
 更に、一度目に高火力などで耐性を与える間もなくファンダージを倒していると、この変身時にその攻撃に対する耐性を付与して復活してくるので、同じ手は二度通じない。
 ただし、この宝具は原則として一日(=1クエスト)に一度のみしか使用できない。


391 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/18(土) 23:39:04 D1fsYd260
投下します


392 : クリームヒルト・レーベンシュタイン&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/07/18(土) 23:40:45 D1fsYd260
「セイバアアアァァァッ―――!」

 少女の悲鳴が闇に木霊する。
 絹を裂くように、というありきたりな表現の如く、その絶叫は夜の帳を引き裂いて響く。少女の双眸は信じられぬものを目にしたかのように大きく見開かれ、喉は張り裂けんばかりに最早意味を為さない大音響を垂れ流す。

 その場に膝から崩れ落ちた少女の視線の先。そこには白銀の鎧纏う勇壮なる騎士が、しかし木偶のように倒れ伏していた。
 高潔な騎士だった。崇高な願いを持った、少女と共に聖杯を得ようと誓い合った騎士だった。
 魔を討伐した聖なる剣とあらゆる呪いを弾く光り輝く鎧を持った、天下にその名を轟かす聖騎士だった。

「セイ……バー……」

 けれどその威容は地に堕ちて。
 残されたのは消滅を待つ遺骸のみ。

「なんで、どうして……こんな簡単に……」

 呆然とした少女の言葉も無理はない。何故ならセイバーは何ら致命傷を負ってはいないのだから。
 敵が繰り出した攻撃を、セイバーは確かに回避した。首を狙った一閃を余裕を持って捌いたはずなのに。

 少女は知らない。
 倒れ伏したセイバーの首元。そこに、毛細血管すら傷つかないほどの小さな小さな傷があったことを。
 ほんの少し、爪で掻いたほどの深さもないようなその傷。それこそがセイバーを死に至らしめたのだと。
 その事実を、少女は知らない。


393 : クリームヒルト・レーベンシュタイン&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/07/18(土) 23:41:53 D1fsYd260
「俺とこの鎌を呼び寄せたのはお前たちだ。絶望に身を置く限り、誰にも幸福は訪れない」

 万色に濁った紫煙をくゆらせて。黒衣の男が姿を現す。
 セイバーの先、街灯の届かない暗がりからぬるりと顔を出す。この時初めて、少女は己が相対していた敵の顔を知った。

 その顔を少女は知らない。けれど、その身に纏う気配は知っていた。
 それはセイバーの遺骸に漂うもの。誰しもが避けられ得ぬもの。万人に等しく訪れるもの。

 男の背後に黒い影が見えた。それは夜の闇の中でも不思議とはっきり視認できて。だからこそ芯から恐ろしい。
 脳髄の中に"恐怖"が居座っているように、全身から震えが湧き出した。
 だからこそ分かったのだ。死の恐怖と共に。

「今こそ―――《安らかなる死の吐息》に抱かれよ」

 この影が持つ黒い大鎌こそが、セイバーを殺したのだと。
 安らかなる死。セイバーは、それによって殺されたのだと。

「……あぁ」

 恐ろしい。恐ろしい。己に迫る男の手が、この世の何よりも恐ろしくて。
 そこで、少女の意識は闇に沈んだ。




   ▼  ▼  ▼




「そこまでだ、バーサーカー」

 少女の体が地面へ崩れ落ちたと同時、男の背後から新たな声が届いた。
 年若い女の声だ。硬質の軍靴の音を響かせながら、声の主が姿を現す。

「お前にはしっかりと言い含めておいたはずなんだがな。そんなにも私の命令が聞けんのか」
「……チッ」


394 : クリームヒルト・レーベンシュタイン&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/07/18(土) 23:42:28 D1fsYd260
 舌打ちをひとつ鳴らすと、男は少女へと伸ばしかけていた手を引っ込める。
 豪奢な金髪を靡かせる軍服の女―――クリームヒルト・レーベンシュタインは霧散していくセイバーの亡骸を片目に捉えつつ、「それでいい」とどこか満足気に言い放つ。

「斃すのはあくまでサーヴァントのみ、マスターには一切手をかけない。私は最初にそう言ったぞバーサーカー。そしてその言を撤回するつもりはない」
「ケッ」

 再度の苦言にも、バーサーカーは不満げに鼻を鳴らすだけだ。どうにもこの男はマスターたる女の命令が気に食わないらしい。
 令呪の使用も検討したが、しかし経験上、こういった者は下手に押さえつけると強烈に反抗すると分かっているため未だ使用には踏み切っていない。この様子を見る限り、どうにも溝は埋まりそうにないが。

 ふぅ、とクリームヒルトは嘆息する。どうにもこの男は昔の自分を彷彿とさせる。無論表面的には全く似ていないしここまでじゃじゃ馬だったつもりもないが、しかし根底にあるのは同じ感情だと否応なく理解できる。
 眼前の男は、どうにも自覚していない様子だが。

「相変わらずムカつく顔だなマスター。自分は何もかもお見通しって面だ。吐き気がするってのはこのことだろうぜ。
 で、殺さねえっていうならそのガキはどうするつもりだ。まさか放っておくわけじゃねえだろうな? このまま置いといたら1時間もしないで殺されるぜ」
「当然考えてあるさ。教会に連れて行く」

 その答えに、男の渋面が更に深まる。露骨に顔に出すほどに嫌なのか、ここまでわかりやすい反応は直情的な男にしても珍しいものだった。

「……マスター、てめえまさか」
「ああ、言峰神父に身柄を預けるのさ。なに、仮にも完全中立を謳う教会だ。ならば当面の安全は保障してくれるだろうよ」

 その言葉を受けて、バーサーカーは再度吐き捨てるような声を出し憎々しげに霊体化した。教会、ひいては言峰神父に関しては我関せずを貫くつもりのようだ。
 クリームヒルトは苦笑と共にそれを見送り、倒れ伏す少女の体を軽々と担ぎ上げた。
 未だ成人に満たない少女の体は、気絶してもなお軽いものだ。ろくに食事も摂っていなかったのか、はたまた戦争への気疲れか、心持ち頬もこけている。
 だがこの状況では仕方ないか、そう結論付けるとクリームヒルトは黙して歩みを開始する。目指すは鎌倉市内にぽつりと存在する教会だ。

 静寂に包まれた鎌倉市内の街道に、硬い軍靴の音だけが反響する。セイバーとバーサーカーの戦闘は一瞬で終わったためか、幸いにして大規模な破壊はなく周辺住民も集まってきてはいない。早急にこの場から去れば、被害は皆無に終わるだろう。
 だからだろうか、張りつめていた気持ちにほんの少しの緩みが生じ、故に彼女はとある考えに耽ることを選んだ。

「……それにしても不可思議なことだ。こうして私が時を超えたということは今この時こそが朔なのだろうが……聖杯戦争か、面妖極まるな」


395 : クリームヒルト・レーベンシュタイン&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/07/18(土) 23:42:55 D1fsYd260
 歩みは止めず、クリームヒルトは飄々と思考の海へと埋没する。事実として、彼女が認識する現実はあらゆる面で異常に満ちていた。
 まず第一に第二次大戦前の人間である自分が21世紀の日本にいるということ。それはまだいい。盧生という超存在は時空すら超越することが可能なのだから、まるっきり非現実的ということでもない。
 しかし、いかな盧生といえど無制限に時空を跨げるわけではない。彼らが介入できるのは歴史に空いた空隙の特異点、つまり朔に代表される歴史の転換点に限定されるし、それにしたところで精々が意思を飛ばせる程度だ。
 つまり混乱期であるからヒーローたる存在が求められるという理屈なのだが、このように実体の顕象までをも伴う介入など聞いたこともない。

 第二に己が力の減衰。本来盧生という覚者となっているクリームヒルトは比類なき力を振るうことができるが、しかしこの場においてそれは決して叶わない。
 現実に邯鄲の力を持ち出せてはいるものの、しかしその出力は大幅に低下している。今ならば一介の眷属にすら負けかねないほどに、その力は弱弱しいものと成り果てていた。
 第六法はおろか、今のクリームヒルトは急段や破段の顕象すら不可能な有り様だ。当然ながらアラヤとの接続も途絶している。これでは最早丸裸にも等しい。

 第三に、聖杯戦争なる特異にもほどがある魔術儀式。曰く死した英雄の魂を呼び出すというこの儀式は、ともすれば盧生が扱う第六法にも酷似したものにも映る。
 邯鄲の夢を除いてこれほどの規模の超常を発揮できる術があるなど聞いたこともない。無論自分が知らないだけで邯鄲法にも匹敵する魔術がないとも言い切れないが、それにしても突拍子もない話だ。

「まあ、ここでいくら考えても推測以上のものにはならんか。ならば早急にこの聖杯戦争という儀式の種明かしをするのみだな。
 何らかの手段を以て聖杯に辿りつけば、解決の糸口くらいは見つかるだろう」

 ……この場にお前がいれば心強いのだがな、ヨシヤ。

 そんな本音は口には出さず、クリームヒルトは夜闇の中を歩き続ける。
 その足取りに、恐怖や迷いの感情は一切含まれてはいなかった。



   ▼  ▼  ▼


396 : クリームヒルト・レーベンシュタイン&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/07/18(土) 23:43:23 D1fsYd260



「ま、精々足掻くといいさ。てめえが最後のひとつを諦めた時、俺はてめえを殺す」

 人影のない、奇妙に暗く感じる街道を往く主の後ろ姿を眺めつつ、バーサーカーの名を冠した男は吐き捨てる。
 男が纏う雰囲気にそぐわない穏やかな声だったが、その裏には隠し切れない嚇怒の念が込められている。
 それは別に、彼のマスターに向けられたものではない。いいや、より厳密に言うならば男自身にも何に向けた怒りなのか判別がつかないのだ。

「俺は聖杯を手に入れる。そのためなら、てめえだって殺してやるさ、マスター」

 躊躇だとか良心だとか、そんなものは存在しない。やることはいつもと変わりない。彼は殺すだけだ。
 聖なる杯だ万能の願望器だのと大層な理屈をつけてはいるが、結局のところ聖杯は《力》だ。
 それ以外の何物でもない。俺たちはその力を振るうために選ばれたのだと、ただそれのみを思う。
 彼にとって聖杯とは単なる力に過ぎない。奇械や現象数式と同じ、人を殺すだけの存在。
 実際は違うのだろう。しかし、少なくとも彼にとってはそうなのだ。例えその裏に何が隠されていようとも、彼はそれしか見ないし考えない。
 彼がそう思うなら、彼の中ではきっとそうなのだ。それが真実であるし、それだけが全てでもある。

「そうさ、俺は聖杯を手に入れる。手に入れて……」

 殺すのだ。全てを。
 あの都市に生きる全て。生きながらに死んでいる連中を一人残らず。それがせめてもの慈悲というものだ。

 かつて《復活》が起こった時、俺は記憶を失った。
 けれどたったひとつだけは忘れない。だから、俺は殺し続ける。
 俺の頭の中に残る記憶。そいつが囁くんだ。いつもいつも耳元で。
 朧気な記憶の残滓が何を示すか、俺は知らない。だが俺にとってはそれが全てだ。だから俺は歩み続ける。
 ……その果てで待っているものを、目指して。


397 : クリームヒルト・レーベンシュタイン&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/07/18(土) 23:44:03 D1fsYd260
【クラス】
バーサーカー

【真名】
ケルカン@赫炎のインガノック- what a beautiful people -

【ステータス】
筋力C 耐久E 敏捷B 魔力B 幸運E 宝具A

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
狂化:E
視界の端に映る狂気と、彼自身にも根源が分からない正体不明の怒りの感情。バーサーカーはその怒りに突き動かされる形で巡回殺人を行う。
かの都市に訪れた十年の意味。己が手を赤色に染めた意味。如何なる理由と願いとがその根源か、彼は未だに知らない。
ランクの関係上ステータスの上昇は一切ないが、代わりに意思の疎通に支障はない。

【保有スキル】
現象数式:A
変異した大脳に特殊な数式理論を刻む事によって御伽噺じみた異能が行使可能となる、異形の技術。
火器や爆薬を超える破壊や、欠損した肉体の修復が可能。
アサシンのそれは燃焼による攻撃に特化されている。

自己改造:B
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
アサシンは現象数式の習得のために変異した大脳にアステア理論を刻み込み、全身の至る箇所を数秘機関に置き換えている。

《守護》:A(A+)
《奇械》による守護。宝具が発動している状態に限定してAランク相当の対魔力・透化スキルを付与し耐久ステータスを《奇械》と同等まで引き上げる。

執行官白兵術:C
かつてハイネス・エージェントとして獲得した白兵戦技術。
死の都市法に則り下層民の間引きを行う恐怖の代名詞。一流の達人にも追随する技量を持つ。

【宝具】
『安らかなる死の吐息(《奇械》クセルクセス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1
アサシンの背後に降り立つ異形の影。失血死を司る。
辛うじて人型を保った、鋼鉄に包まれた姿をしている。刃状の腕を持ち、所有する大鎌はわずかに傷つけるだけで相手を死に至らしめる。ただし魔力や幸運や効果軽減スキルその他諸々により対抗可能。
クセルクセスは筋力:B+耐久:B+敏捷:A++のステータスを持つ。

『安らかなる死の吐息(《奇械》トート)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
クセルクセスの姿が変容したもの。クセルクセス時からステータスに上昇補正を加え、能力の内容も変化している。
その能力は「トートの言葉を受けた者は死ぬ」というもの。
周囲数百フィートに咆哮を放ち、物理的には空間ごと物質を崩壊させ、魔術的には接触対象の現在を否定し存在を抹消する。クセルクセスとは違い魔力ステータス等では一切軽減できない。
ただしこの宝具は現状一切機能しておらず、使用を解禁するには狂化として昇華されるまでに至った彼自身の怒りが何に起因するかを思い出すことが必要になる。


398 : クリームヒルト・レーベンシュタイン&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/07/18(土) 23:44:39 D1fsYd260
【wepon】
なし。

【人物背景】
都市インガノックにおいて死こそが救いであると説きながら人を殺して回っていた巡回殺人者。世界と生の否定と死の肯定の権化。誰よりも死に親しむ奇械使い。
下層民も上層貴族も区別なく、異形化した者すら人間であると認めた上で全てを殺す。奇械や現象数式は全てそのための道具であると言い切り、故にそれらを人命の救済に使うギーを明確に敵視している。
実のところ、彼の持つ殺人衝動とギーの持つ「あらゆる人を救う」という信条は、全く同一の出来事を違う捉え方で見つめたことに起因する。
しかし本人は既にその時の記憶を喪失してしまっている。

【サーヴァントとしての願い】
かの都市に終焉を。


【マスター】
クリームヒルト・ヘルヘイム・レーベンシュタイン@相州戦神館學園 万仙陣

【マスターとしての願い】
聖杯戦争そのものの調査。

【weapon】
サーベル
ドイツ将校として携帯している軍刀。

【能力・技能】
邯鄲法の行使。しかし現状の彼女は盧生としての悟りこそ有してはいるものの、その力の大半が抑制されている。故に終段はおろか急段や破段の固有能力すら扱うことができない。出力も9割以上低減され眷属並みまで弱体化している。
資質としては完全な白兵戦特化。戟法と楯法と解法の崩を最上位で極め、創法の適正も高い。ただし咒法の適正は最低である。
なお邯鄲法を除いた純粋な人間としても、常人離れした規格外の身体能力を保有する。

【人物背景】
人を愛したくて、人と交ざりたくて、しかし愛を体現できない故に殺人という手段でしか世界と関われない。死こそが万人に対する救いであると嘯く殺人鬼……というのも昔の話。
死が救いであるという思想はそのままに、しかしそれ故に死へ至るまで人は懸命に生きねばならないと悟った盧生。
曰く、誰もが笑って死ねるように。それが彼女の思想である。
参戦時期は万仙陣最終決戦よりも前。

【方針】
聖杯戦争そのものの調査。場合によっては聖杯獲得も視野に入れる。
マスターは殺さないが、サーヴァントはタタリと同種と考えているためその限りではない。


399 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/18(土) 23:45:05 D1fsYd260
投下を終了します


400 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/20(月) 19:57:04 2jwcR20Y0
投下お疲れ様です。
wikiについてですが、とりあえず現在の候補作を全て収録いたしました。
他のページについては参戦組の本決定以降ぼちぼち作っていこうと思います。

ttp://www8.atwiki.jp/kamakurad/pages/1.html

こちらがwikiとなります。


401 : 名無しさん :2015/07/20(月) 20:49:48 JC.P0JYo0
2つ質問があります

サーヴァントが消滅した場合、マスターも時間が経てば消滅しますか?

また、>>293で言われていることについてなのですが、
採用される候補話は各クラス3騎ずつ採用でクラスごとの偏りはないという認識で大丈夫でしょうか


402 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/20(月) 21:01:58 2jwcR20Y0
>>401
 そうなります。
 ただ、一日前後はサーヴァントなしでも存在を保てるかと思います。
 候補話についてはその認識で大丈夫です。各三騎ずつ、全二十一騎になりますね。


403 : ◆Ywp624OgQE :2015/07/23(木) 20:49:43 VxlLkNpw0
投下します


404 : 佐倉慈&ランサー ◆Ywp624OgQE :2015/07/23(木) 20:50:03 VxlLkNpw0
 歩く。
 ――歩く。
 ――――歩く。
 ――――――歩く。
 ――――――――歩く。

 
 夢を見ていた。

 あの日の夢だ。
 あの日。皆の日常が終わった日。
 生ける死者が歩きまわり、腐った体で呻く姿は地獄絵図。
 起こるはずがないと高を括っていた「非常事態」が、すべてをめちゃくちゃにしていった。

 あの日から、何もかもがおかしくなった。
 いや、おかしくならないはずがなかった。
 いくらしっかりしているとはいえ、年頃の女の子たち。
 気丈に振る舞ってはいるけれど、無理をしているのはあまりにも明らかで。
 その極めつけとも呼べる変化が、ある娘に起きた時に――私は、初めて私の罪を自覚した。

 もしもやり直せるならば。
 そう思い、私は今日もあてのない旅路を往く。
 その時だった、眩しい光が私の視界を照らしたのは。
 私はその光へ吸い寄せられるように歩く――不思議とその光は温かくて、居心地がよい。
 まるで陽だまりの中に包まれているようだった。
 心があたたかくなって、いつまでもこうしていたいと思わせる――それはまるでいつかの日のように。
 

 そうして私は思い出す。
 

 私は、それを守るためだけに生きているのだと。
 だから足を引きずって、私はそこへと歩き出す。
 
 叶えよう、この願いを。
 
 
 そうして私は辿り着く。
 すべての願いが叶えられる■■に。
 あの子たちを助けるため―――ただそれだけの願いを胸に。

 あの子たちに、あるはずだった日常をあげること。
 それを叶えるためだけに、私は生きている。


405 : 佐倉慈&ランサー ◆Ywp624OgQE :2015/07/23(木) 20:50:29 VxlLkNpw0




 鎌倉市を中心に渦巻く、無数の都市伝説。
 夜の高徳院で剣を携えた鎧武者を見た。
 八幡宮の屋根上より光の矢が舞い、遥か先を歩く人間を撃ち抜いた。
 黄金の輝きを放つ槍を担った、西洋風の騎士に遭遇した。
 早朝の空を天馬を駆って駆け抜ける、天使のような美少女の姿を捉えた写真がある。
 廃墟と成り果てた屋敷で、得体の知れない土の化物と、陣に座ってそれを生み出す魔女へ行き遭った。
 髑髏の面を被った黒子に触れられた男が、たったそれだけで息絶えた。
 天すら震わす嘶きをあげる怪物が夜な夜な現れ、それと出会った者は生きては帰れない。

 そんな仰々しいものに比べれば、あくまでそれはちっぽけな怪談話でしかなかった。
 町を徘徊する屍食鬼に出逢ってはならない。
 <彼女>に咬まれた者は、<彼女>と同じ存在になる。
 ここが鎌倉でなければ、誰もが嘘っぱちと一笑に伏したろう。
 

 だがそれでも、そういう話が流布されているということは事実なのだ。
 そして今、鎌倉は聖杯戦争の舞台となっている。となれば後は、論ずる必要もないだろう。
 桃髪の屍食鬼が、ゆらゆらと揺蕩うように歩いていた。
 髪の毛は輝きを失って、皮膚は腐乱しところどころが膿んだように泡を吐いている。
 

「―――マスター!」


 悲痛な声で、彼女を主と呼ぶ声がした。
 その声に、彷徨う彼女はいびつな動きで振り返る。
 ぎ、ぎ、ぎ、ぎ。
 人を超えて英霊となった彼女の契約者も、その壮絶な姿に思わず息を呑んだ。
 
「マスター……」

 サーヴァント――ランサーは、共に戦う彼女の名前すら知らない。
 そもそも、彼女は言葉を喋ることも、介することもできないのだ。
 彼女に、自分が聖杯戦争の参加者なのだという自覚があるのかどうか。
 そこからして、既に怪しくさえあった。しかし、そんなことはランサーには関係ない。
 マスターを守り戦うサーヴァントとして召喚された以上は、マスターがどんな人物だろうと守ってみせる。
 そう心に決めていた。だが……そんな彼女の考えは、いささか甘すぎた。

「お願い――こんなことはもうやめてください」

 彼女の口には、べっとりと血糊がこびり付いていた。
 きっと、また<咬んで>来たのだろう。
 彼女はその恐ろしい性質に反して、大仰な戦闘能力を持たない。
 だから魔術師や、サーヴァントを連れたマスターを襲ったと考えるよりも――これは。

「…………」

 彼女は、ランサーの声など何処吹く風といった様子で――踵を返し、再び彷徨い始める。
 実際に、言葉は届いていないのだろう。あの様子の彼女に、言語能力が残されているとは思えない。
 ランサーは、砕けそうなほど強く自分の拳を握り締める。
 彼女は異端の槍使い。
 槍らしい槍など持たず、諦めずに振るい続けたこの拳をこそ、逆境を跳ね除ける槍とした<勇者>のサーヴァント。
 そんなランサーにも、この哀れなマスターを救うことはできない。
 声の届かない相手には、勇者の熱意は届かない。


406 : 佐倉慈&ランサー ◆Ywp624OgQE :2015/07/23(木) 20:50:48 VxlLkNpw0
「……ううん」

 それでも、ランサーは諦めない。
 言葉は通じない――自分の存在を理解されているかすら分からない。
 けれどきっと、彼女も正しい願いを持ってここにやって来たのだと信じて、ランサーは都市伝説の姿を追う。
 ランサーの考えは、実際に間違ってはいなかった。
 いわばそれは生前の記憶のようなもの。自我らしいものをすべて失いながら、それでも忘れなかった願いのかけらを、この鎌倉聖杯戦争を作り出した聖杯が価値あるものと選んだから、都市伝説――佐倉慈はここにいる。

「勇者部五箇条――ひとつ。なるべく、諦めない……だよね!」

 持ち前の前向きさで気持ちを立て直すランサーの姿は健気ですらあり。
 だからこそ、彼女は不憫だった。
 彼女とそのマスターの向かう方向性がどれだけ正しくとも、必ずその道は歪んでいくことを余儀なくされるのだから。

 都市伝説は拡大している。
 パンデミックのように、彷徨う屍食鬼は数を増やしつつあった。


【クラス】ランサー
【真名】結城 友奈
【出典】結城友奈は勇者である
【性別】女性
【属性】中立・善

【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:B+ 敏捷:B 魔力:D+ 幸運:B 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。

勇者:A
 致命傷を負っていればいるほど、彼女の戦闘性能は向上していく。
 限度は存在するものの、それでもその有り方は紛れもなく逆境を跳ね除け悪を挫く<勇者>のもの。

神性:C
 神霊適性を持つかどうか。
 宝具の使用により獲得した。

【宝具】
『少女開花・神樹の誓い』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 戦闘によって蓄積される力を開放し、「勇者」の先に到達する二段階目の変身を行う。
 その能力値は爆発的に向上、まさしく無双の働きをするに至る力を得る。
 だが、咲き誇った華はいずれ散華するのが定め。
 それは少女の開花であれども例外ではなく、この宝具が解除されると共に、ランサーは肉体の一部を失う。


407 : 佐倉慈&ランサー ◆Ywp624OgQE :2015/07/23(木) 20:51:09 VxlLkNpw0
【weapon】

 多くの敵を討ち、あらゆる逆境を跳ね除けてきた。

【人物背景】
 バーテックスと戦う勇者の一人。
 その大きな正義感と勇気は皆に勇気を与え、バーテックスの一時絶滅を成し遂げる。

【サーヴァントとしての願い】
 願いはない。マスターの為に戦う。


【マスター】
 佐倉慈@がっこうぐらし!

【マスターとしての願い】
 『がっこうぐらし』を続ける彼女たちに、あるべき日常を取り戻してあげる

【weapon】
 無し

【能力・技能】
 彼女はとある病原体に侵され、理性と自我を失っている。
 彼女に噛まれた相手はやがて同じ症状に侵される。

【人物背景】
 愛称は「めぐねえ」。
 教師として学園生活部を創立し、皆を導こうとするが、志半ばで堕つ。
 ――これは、彼女「だったもの」の聖杯戦争。


408 : ◆Ywp624OgQE :2015/07/23(木) 20:51:26 VxlLkNpw0
投下終了となります。


409 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:11:01 Kqix3BYI0
皆様、投下お疲れ様です
私も投下します


410 : FeldschlachtⅠ ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:13:07 Kqix3BYI0
鎌倉の空には星が見える。
鎌倉の工業はそれなりに発展しているためか山岳地帯で見たときほど見映えはよくない。
しかし何気ない日常の裏、この地で行われている血で血の洗う闘争の合間に見るそれは「資格」を得た者達にとってどれほど輝いて見えた者であろうか。
そしてこの星空の元でも、ある二組の主従が街の外れにて激突した。

暗い暗い雑木林の中、点在する木々の中心で、スーツに身を固めた男は現代の人間には理解できない言語で呪文を唱えた。
すると詠唱が終了すると同時に周辺に落ちていた落ち葉達が踊るようにして舞い上がり、前方で弧を描いて半径20メートルほどの円陣を作ると、瞬時にその中が火の海と化した。
周る落ち葉から中心へと紅蓮の炎が渦となって殺到し、中心から空へと火山のように打ちあがった。

「たたみかけるぞ!」

煌々と輝く男の行使した魔術を見て、己がサーヴァントを鼓舞する。
それを聞いた槍兵のサーヴァントは肯定の意を返したが、顔を立てに振るだけで目線は炎の中にいるはずの敵一点に注がれていた。
輝いて闇夜を照らしている炎の中から、ゆらりと黒い影が蠢き、こちらへ向かってくるのが見て取れる。
そしてその影がはっきりと人の形を成したときには、ランサーもそのマスターである男も「ちっ」と舌打ちをした。

炎から出て来た剣士の英霊は炎に包まれたというのに涼しそうな顔でランサーと対峙していた。
その長髪を爆風で揺らしながらも、全くダメージを与えていないことは確かであった。

「やはり最優と称されるセイバーのサーヴァント…私のとっておきの魔術も通用しないか」

ランサーは下唇を噛むマスターを庇うように敵へと疾走し、宝具である槍の間合いギリギリの距離からその鎧ごとセイバーを貫かんとする。
いとも簡単に長剣で払われたが、あくまで牽制目的の突きだったためにセイバーに肉薄されるまでの猶予ができ、態勢を立て直す。
その結果、振るわれた剣を槍で受け止めることに成功した。

「貴様…何者だ。普通のサーヴァントとは違う異質なものを感じる…。
何故貴様から魔力を感じない?おかげで我がマスターが貴様の情報を視認するまで正体を見破れなかったぞ。そしてこの鋼の剣…」

槍の柄と剣の刃のせめぎ合いの最中、ランサーはセイバーに問いを投げかけた。
元々、セイバーに先に気付いたのはランサーではなくそのマスターであった。
本来サーヴァントは互いの気配を感知できるが、この剣士からはその気配がほとんどなく、正体を見破ることにすら手こずった。
おかげで準備が整わないうちに戦闘にもつれこんでしまった。
元々はマスターがセイバーをサーヴァントと看破するや否や、先手必勝とばかりにランサーをけしかけたのが原因だ。
最初はNPCかと思い、向こうがこちらに気付いた様子もなかったので力を蓄えるまでやり過ごすという選択肢もあったのだが、嘆いてばかりいられない。


411 : FeldschlachtⅠ ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:14:34 Kqix3BYI0

「あいにくだが、私はそういう体質だったのでな」

セイバーは剣を押し付ける力を緩めずに淡々と答えた。
セイバーの宝具は鋼鉄の剣。
あまりランクの高くないただの鋼鉄の剣であるはずなのに、ランサーの槍と打ち合うどころか優勢に立てるほどの威力を有していた。
ランサーはこのままだと押し切られて敗北すると察し、持ち前の敏捷で飛び退いて難を逃れる。
が、実はランサーは一旦退くと見せかけて、跳んだ先にある木を蹴って木から木へと飛び移り、セイバーを攪乱し背中を定めて後ろから槍で仕留める―――つもりだった。

「!?!?」

すると、ランサーが着地するはずの木の幹に何かが猛スピードで飛来し、着弾すると同時に大爆発を起こした。
その威力は絶大で、ランサーのいた場所には大きなクレーターが穿たれている。
攻撃をもろに食らった木は残骸すら残っていない。

「…クロめ、念話が使えないなら使えないなりに合図くらい送れとあれほど――」
「仕方ないじゃん。あの一瞬が絶好のチャンスだったんだから」

セイバーの隣に浅黒い肌をした少女が林の奥から現れる。
先が破けた赤い外套を着用してはいるが、隠す場所は申し分程度にしか隠しておらず露出度は高い。
それでいて日本での小学生くらいには幼い外見をしており、セイバーと比べると一際小さく見える。
クロエと呼ばれた少女は先ほど放った攻撃が命中したと確信しているのか、口の端を釣り上げて笑みを作っている。

セイバーのマスターの名は、クロエ・フォン・アインツベルンといった。
「弓兵」のクラスカードを核として受肉化したもう一人のイリヤスフィ-ルであり、
聖杯の器とは別の道を歩んだイリヤスフィールの本来の姿でもある。
その生い立ちから、ある弓兵の英霊の能力を扱うことができる。

「バカな…!なぜマスターである小娘がなぜ宝具を…!?」

ランサーが土煙から姿を表す。その身体には焦げ跡が刻まれている。
クロエが放った攻撃は『壊れた幻想《ブロークン・ファンタズム》』と呼ばれている。
一撃の威力を高めることの代償に宝具を使い捨てることになる、言わば宝具の爆弾。

「あら、まだ生きていたのね」
「当たり前だ。お前の知る黒化英霊とやらとは違う」

少し意外そうにするクロエを横目に、セイバーが剣を再び構える。
ランサーは寸でのところでジャンプの軌道を逸らし、『壊れた幻想』の直撃は辛うじて免れていた。
それでも傷を負ったのは確かで、直撃でもすれば無視できないダメージを受けていたに違いない。
ランサーがサーヴァントという存在でなければその攻撃は必殺の威力となっていただろう。

「ひ、ひるむなー!」

戦況を眺めていたランサーのマスターが後方で怒号を飛ばす。


412 : FeldschlachtⅠ ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:15:18 Kqix3BYI0

「これからでかいのを打つ!その間にマスターの方を今すぐ殺せ!」

言い終わると、男はすぐに魔術を発動した。
それはとっておきを遥かに超える大魔術といっていいものだ。
男はただ見ていただけではなく、この時のためにランサーが前線で戦っている間に詠唱を済ませていたのだ。
最初に放った炎の渦より遥かに大きな炎がランサーの前方に広がり、雑木林の大半を包み込んだ。
ほとんどの木々は炭と化していき、その規模の大きさと威力の高さを物語っている。

(あの術師がなかなか前に出てこないとは思っていたがこんな布石を用意していたのか。
戦闘を仕掛けてきたときのことはさておき、聖杯から資格を得ただけあって知性って言葉の意味を少しはわかってそうだ)

Aランク…すなわち最高ランクの対魔力を持つセイバーはこれほどまでの魔術を食らっても平然としていた。
炎に包まれて周囲が見えない中、セイバーは考えを巡らせる。

この魔術はセイバーへの目くらましも兼ねている。
敵の狙いはセイバーのマスター。
流石のクロもこれを食らっては無事では済まないはずだから転移術とやらを使って避けるはず――。
成程、敵マスターが咄嗟に独りで回避したところを攻撃する魂胆か。
どうやら自分達が巻き込まれないようにランサーより向こう側は火が回っていないらしい。
ならばクロが転移で移動する先は――。

「っと…危ないわね――」
「……そこかっ!!」
「っ!?」

焼き払われたのはランサーの前方全体だけだったため、クロエはランサーの背後に転移して窮地を脱した。
しかし、それを見逃すランサーでもなく、瞬時に振り返ってマスターの命令を遂行せんとクロエへ槍を突き立てる。
ランサーの持ち前の敏捷の前にクロエは対応することができず、その槍は心臓を貫くと思われた。

が、槍はクロエを突くことなく、クロエの前に立ちふさがったセイバーの剣に弾かれた。
一瞬でランサーの攻撃を見切り、彼の鋼の剣を勢いよく振り、ランサーの態勢を大きく崩す。
所謂「ディフレクト」と呼ばれる回避技だ。
この技はセイバーの卓越した剣技の腕前あってのものだった。


413 : FeldschlachtⅠ ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:15:53 Kqix3BYI0

「悪いわね」
「礼を言っている暇はないぞ。今がチャンスだ!クロ、俺に続け!」


――――――天地二段。

バランスを崩したランサーに対しては隙を晒すことを考慮せずに済む。
それを見越したセイバーは大きく跳び上がり、上空からランサーに剣を振り下ろす。
元々のセイバーの剣の威力に位置エネルギーとセイバーの筋力を上乗せした破壊力は抜群の一言。
着地してランサーを真っ二つにしたと同時に、そこから剣に遠心力を持たせてさらにランサーの胴体を一文字に斬り払った。
天と地からの攻撃を連続で放つこの奥義は「天地二段」の名がこれ以上なく相応しい。


その間にクロエは一定の間合いを飛び退き、投影した剣を弓につがえる。

「――バイバイ」

セイバーは背後から聞こえたこの声を合図と認識し、瞬時に横へ身体を移動させる。
これで身体を4分割されたランサーまでの射線に遮蔽物はなくなった。


――――――壊れた幻想。

先ほどランサーへ見舞った矢《剣》よりもさらにランクの高い宝具を投影しての『壊れた幻想』だ。
クロエの持つ矢に魔力が収束し、そしてランサーへと向けられる。
放たれたそれは逸れることなく直進し、ランサーへと直撃した。
人間の作るそれを凌駕した規模の宝具爆弾は着弾し思わず耳を塞ぎたくなるほどの轟音を鳴らした。
クロエは、舞い上がる煙の中でランサーを構成する魔力が霧散していくのが感じ取れた。
トドメの技にするには相応しい絶技だったといえよう。

何よりも見事であったのは、咄嗟の連携である。
態勢を崩したランサーにセイバーが「天地二段」でその場から動けなくなるほどの重傷を負わせ、
動けないところをクロエが狙いを定めたとっておきの「壊れた幻想」で穿つ……。

この敵を一撃で粉砕しうる連続攻撃に名をつけるならば―――



―――『天地幻想』という名が最も相応しいであろう。



「う、嘘だ。ここで終わりなんて…そんなの嘘だあああああぁぁぁ――」

男はランサーの消滅を確認すると取り乱した様子で林のさらに奥へ走り去っていった。

「…逃げた、か」
「セイバーは魂喰いできないから、追う価値はないわね」

サーヴァントを失ったマスターは他の主従の餌食になるか、消滅する。
死を免れられなくなる以上、あの男も長くはないだろう。



◆ ◆ ◆



―――クロエ達の勝利です



―――クロエのHPがアップ



―――クロエの弓レベルがアップ



◆ ◆ ◆


414 : FeldschlachtⅠ ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:16:49 Kqix3BYI0



先の戦闘が終わってから、クロエとセイバーは帰路についていた。
深夜の鎌倉の路地で二人は歩を進める。
クロエの服装はカジュアルな私服へと姿を変えていた。

「はー、思ったより魔力使っちゃったわねー」
「まあ、少しは楽しめたな」
「セイバーってさ、魔力の節約ってできないの?燃費はいいみたいだけどさ」
「言っただろう?俺は術不能者だ。知ってのとおり魂喰いどころか霊体化すらもできん」

クロエに与えられたセイバーの真名は、ギュスターヴ13世といった。
アニマ――生命力や魔力、魂の総称――を使って術(=魔術)を行使するのが当たり前の世界で、
生まれつきアニマを全く持たない「術不能者」として生まれ、幼くして国を追放されたフィニー王国の王子である。
術の力は当時の社会の隅々にまで浸透しており、
例えば石で作った包丁に「斬る」力を帯びた術をかけて物を切るという、基本的な道具の使い方にまで及んでいる。
そんな使えて当たり前の術を一切使えない「術不能者」は、王家として失格であるだけでなく、普通の生活すらままならないレベルなのである。
無論、ギュスターヴ以外の術不能者も差別対象であり、出来損ないと貶されることも少なくなかった。

「不便ね」

魔力の節約手段がやはり見つからず、クロエは思わずため息をついてぼやく。
ギュスターヴは聖杯に「術不能者」の一面をも具現化され、サーヴァントとしての基礎能力が全て封印されているのだ。
アニマ(魔力)を持たずに生まれたという逸話上、その身に秘める魔力も0に等しく、ランサーがギュスターヴの気配を感じなかったのもこのためだ。

「人の目を盗んで通りすがりのNPCとキスするのって結構大変なのよ?
折角魔力補給やるために外出したっていうのに、逆に魔力使うことになるなんて」

基礎能力を抑えられているためかギュスターヴは少ない魔力消費で存在を維持できるが、
クロエの方も肉体が魔力でできているために魔力を消費しており、互いに魔力に対して細心の注意を払わねばならないのが現状だ。
ギュスターヴが霊体化できない以上、魔力補給の手段はクロエがもう一人の自分とよくしていた唇と舌を交じり合わせる行為しかない。
今は消滅の危機に瀕するほどではないが、安心はできないだろう。
余談だが、クロエ曰くギュスターヴからの魔力補給は「空のペットボトルを一生懸命吸い込んでる感じ」らしい。

「生前は不便どころじゃなかった。俺の世界は術が使えて当たり前だったんだ。
そんな中で俺は術が使えなかった。だから自分の力で出来ることを探して、鋼に出会った」

周囲からは「出来損ない」と蔑まれ、荒れていた時期もあったが、ある物との出会いがギュスターヴを変えた。
それは、金属。
金属は術の方が便利であることに加え、術の力(=魔力)を遮断して妨げてしまうこともあって、使われていなかった。
しかし、術を使えない彼にとって、それは一切の欠点にならなかった。
むしろ戦いにおいては敵兵の術を遮断するという強力な盾として活用でき、金属で加工した武器は石剣や木刀とは比べ物にならない破壊力で、敵兵の脅威となる。
そこに着目した彼は「鋼鉄で武装する」という当時誰も考えもしなかった方法で覇権を握り、東大陸の覇者となる。
彼は「鋼の13世」と呼ばれ、その世界の歴史のターニングポイントとなる人物としてその後の時代にも語り継がれている存在なのである。


415 : FeldschlachtⅠ ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:17:39 Kqix3BYI0

「この剣は、俺がその時代を生きた証だ」

ギュスターヴがランサー戦でも使用した宝具、『その名を刻む鋼の剣』をクロエに見せる。
ギュスターヴが49年の生涯をかけて鍛え上げた剣だ。
時刻は夜だというのにその剣筋からは光が反射してクロエの瞳を照らす。
ただの鋼鉄の剣のためランクは低いが、その威力は折り紙付きだ。

「これが、ねぇ」
「…何をしている?」

ギュスターヴがクロエへ目線を移すと、自分の宝具に酷似した二回りほど小さい剣を片手に持っていた。
クロエの使う魔術の一つ、投影。彼女は一部だけだが聖杯の能力を有しており、過程を省いて望んだ魔術を行使できるのだ。
アーチャーのクラスカードの力もあって、記録している宝具を性能が落ちるものの投影できる。
クロエの持つ剣は他ならぬギュスターヴの宝具を投影した、差し詰め『偽・ギュスターヴの剣』といったところか。

「…クロ、その剣は俺が鍛え続けてきた、言わば俺の夢でもあり、魂そのものだ。そう簡単に作ってくれるな」
「…うわっ!?」

ギュスターヴは顔に幾分か不機嫌な感情を含みながら、剣で勢いよくクロエが投影した宝具だけを叩く。
するとどうだろう、何と剣先からヒビが入り、最終的に偽・ギュスターヴの剣は魔力とともに粉々になってしまった。

「ちょっと、何するのよ!というか、今の何!?」
「俺の剣の逸話の具現だ。俺も詳しくは何があったか知らんが、どうもこの剣は覚えているらしい」

どうやらギュスターヴの宝具は、相手の宝具を破壊する効果があるらしい。
ギュスターヴの死後にあったことなので彼自身も詳細は知らないが、
その剣は誰にも壊せないはずのクヴェル(遺物)、エッグを破壊したことから宝具を破壊する概念が付与されている。
ランク詐欺もいいところだ、とクロエは思った。



◆ ◆ ◆



鎌倉某所、安アパートの一室のドアが開かれる。
元々、別世界から鎌倉に放り出されたクロエだが、暗示魔術を活用してなんとか自分とギュスターヴの戸籍を手に入れていた。
過程を飛ばして行使できる魔術は、ほとんど使う機会は無いものの暗示魔術とて例外ではない。
そのおかげで住居を得ることもできた。


416 : FeldschlachtⅠ ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:19:06 Kqix3BYI0

「相も変わらずこのアパートはボロボロだな。昔を思い出す」

母と共に住んだ貧民街の家を思い起こすギュスターヴをよそに、クロエは少しツヤがかった肌を撫でながら靴を脱いで居間に入る。
ここに来るまで約二名の女性がクロエの餌食となったと言えば、帰ってくるまでに何があったかは想像に難くない。

「…明日も仕事か」

ギュスターヴは窓の外を眺めながら呟いた。
彼が「仕事」といったのは、そのままの意味だ。
本来はマスターが何とか職に就いて金銭面と衣食住を確保せねばならないが、
クロエはギュスターヴのサーヴァントに気配と正体を悟られないという性質を逆手に取り、敢えて堂々と働かせる方法を取っていた。
ギュスターヴの戸籍もとっておいたのもそのためだ。

「明日もよろしくね、『パパ』」
「…こういう役はフィリップやフリンの方が適役なんだがな」

クロエが意地の悪そうな笑みを浮かべながらギュスターヴに声をかける。
ギュスターヴは鎌倉にある鍛冶工房に勤めており、同僚や上司には『ギュス』と名乗っている。
クロエはギュスの娘ということで通っており、これらも全て暗示魔術の賜物だ。
当初は「人遣いの荒いマスターだ」と愚痴をこぼしていたが、
ギュスターヴと鍛冶技術は切っても切り離せない関係にあるので現在はギュスターヴ自身も楽しんでいる。




「だが、本当にいいのか?――この聖杯戦争を『壊す』など」

居間の壁にもたれかかりながら、ギュスターヴはかつて知らされたマスターの願いをもう一度確かめる。
クロエの願いは、「聖杯戦争を壊す」こと。
しかしそれは、聖杯を獲るべく戦う者達を、最悪の場合40体以上のサーヴァントを相手取ることになる。
決して楽な道ではないだろう。

「…元々わたしが何のために生まれたのかは、前に話した通りよ」

1歳も迎えていない頃に、母・アイリスフィールによってイリヤの中に封印された、聖杯の器として生まれる前から調整されていた記憶。
それが人格と肉体を得た存在が「クロエ」である。

「わたしは生まれる前から聖杯の器になるために調整され続けてきた。本当ならそれに沿って生きるべきなんだろうけど…
私は『生きていたい』。イリヤやみんなと一緒に生きて、自分の思うものに成りたい」

かつて消滅しかけた時に、クロエは「生きたい」と願った。
それはクロが聖杯の能力にかけた切実な願い。
クロエの世界では現実になることのなかった聖杯戦争の中でも、それは変わらない。

クロエは続ける。

「イリヤの友達――ミユも、本当は人間として生きたかったはずなのに、平行世界に連れ戻された」

美遊・エーデルフェルト。当初はイリヤと共に敵対していたが、クロエがイリヤの従妹として迎え入れられてからは一緒に泊まるなど浅くない付き合いだ。
だが、その正体は平行世界で誕生した「生まれながらに完成された聖杯」だった。
8枚目のクラスカードから成った黒化英霊を倒して美遊を救い出したのも束の間、何者かに平行世界へ連れ去られてしまった。
「戻りたくない」という美遊の悲痛な叫びは、クロエにも届いていた。

「あの時、なんとなく感じたわ。聖杯戦争は悪夢しか生まないって。だから、改めて言うわ。この聖杯戦争を『壊す』」
「……面白い。ならば俺も付き合おう、お前の運命に」

術至上主義の時代を終わらせ、鉄の時代を切り拓いたギュスターヴ。
人がいかにあるかは、生まれやアニマで決まるのではないことを、身を以て示した。
そんなギュスターヴが、クロエの意志を拒む理由はなかった。


417 : FeldschlachtⅠ ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:20:39 Kqix3BYI0
【クラス】
セイバー

【真名】
ギュスターヴ13世@サガフロンティア2

【パラメータ】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力EX 幸運EX 宝具D

【属性】
中立・善

【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。
装備している鋼鉄製の防具は魔力を遮断する機能を持っており、対魔力のランク上昇に貢献している。

騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
術不能者:A++
先天的にアニマ(生命力や魔力、魂の総称)を持たず、魔術を扱えない者。
ランクはその身体に秘めるアニマがどれだけ希薄かを示す。
セイバーは通常の術不能者とも違い、アニマを全く持たない極めて稀有な人物であり、魔力の値も0である。
しかし、それにも関わらず彼は肉体を魔力で構築したサーヴァントとして現界しているという矛盾から、
数値化することができなかったため魔力のランクはEXである。
このスキルを持つ者は、霊体化、念話、魂喰い、気配察知などのサーヴァントに共通する能力を使えない。
ただし、魔力がないに等しいゆえに他サーヴァントに気配を悟られなかったり、
攻撃手段が物理攻撃に限られ、基本的な機能が抑えられている分燃費自体は非常によかったりとメリットがないわけではない。

星の開拓者:EX
人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
あらゆる難航・難行が、「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。
セイバーは術不能者という境遇に屈さず、鋼とその技術で覇権を握り東大陸の覇者となり、新しい時代をもたらした。
それと同時に、人々に人間は自分の意志で、自分の思うものに成れるということをその生き様で知らしめた。
このスキルはセイバーの歴史に刻んだ偉業がどれほど大きいかを物語っている。

カリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。
Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。

軍略:B
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

鍛冶:A+
金属製の武具を作成するスキル。
しかるべき設備さえ整えば、魔力を消費せずに強力な武具を作成できる。
セイバーの住んでいた世界では金属はアニマ(魔力)を遮断する効果を持っており、作成した武具にはBランク相当の対魔力が付与されている。
作成した武具は、マスターや同盟を組んだ主従にも装備できる。
彼の作成した剣の最高傑作が、宝具『その名を刻む鋼の剣』である。


418 : FeldschlachtⅠ ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:21:32 Kqix3BYI0

【宝具】

『その名を刻む鋼の剣(アニマ・オブ・ギュスターヴ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
セイバーがその生涯をかけて鍛えた鋼鉄の大剣。
彼の住む世界では最高峰の切れ味を破壊力を併せ持っていた、まさに人類最強の剣であるといえる。
実際のところは何の変哲もないただの鋼鉄の大剣であるために宝具のランク自体は高くないが、
その威力自体は本物で単純な打ち合いならば『約束された勝利の剣』や『無毀なる湖光』にも太刀打ちできる。

セイバーが統治領の南端の砦で死亡した際に、崩れ落ちた砦にはこの剣だけが残されており、その後も多くの物語に影響を与えたという逸話から、
セイバーの消滅後もこの剣は残り、マスターの存在の楔となって聖杯から「脱落」と見なされなくなる。
後述の宝具破壊などで剣が折れるとその効果を失い、消滅へのカウントダウンが開始される。

また、最終的にこの剣が人類種の敵に成り得た意思を持つ遺物『エッグ』を破壊したという逸話から、敵の宝具を破壊することができる。
実体さえあれば、武器であろうが鎧であろうが英霊そのものであろうが破壊可能。
ただし、宝具破壊判定に成功しないとその宝具を破壊できない他、
Aランク以上の宝具を破壊した場合、この剣も同時に折れてしまう。
宝具破壊判定は敵の宝具のランクが上がるにつれて判定の成功域が狭まっていく。

からっぽで出来損ないと言われたギュスターヴ13世。
アニマ――魂を持たぬ男はその意思をアニマという形でなく鋼の剣に残した。
たとえアニマを持たなくとも人は形を変え、その思いを残すことができるのである。
鋼鉄の剣で鉄の時代を切り拓いたギュスターヴの思いが、魂が、アニマが、この剣にある。

【weapon】
・『その名を刻む鋼の剣』

・連携攻撃
仲間の技から技へ連続で攻撃を繋げ、絶妙な連携で敵を撃破する。
うまく決まった際は、技の名前が複合されたものへ変更される。

例:
「残像剣」+「偽・偽・螺旋剣」=「残像螺旋剣」

「壊れた幻想」+「ベアクラッシュ」=「壊れたクラッシュ」


【人物背景】
『鋼の13世』と呼ばれる、一代で東大陸のほぼ全土を統一するまでに至った覇王。
フィニー王国の王、ギュスターヴ12世の長男として生まれる。
アニマを持たない『術不能者』として生まれ落ちた、『人間のクズ』。
継承の儀式に失敗し母とともに亡命した後も荒れていたが、唯一の理解者である母の説得で改心。
母の没後、異母弟との王位継承戦争に勝利し、儀式を行なっていないため王を名乗ることはないが、
事実上のフィニーの最高権力者となる。49歳の時、何者かに砦を襲撃され、炎の中、還らぬ人となった。
側近のフリンは術不能者だが、彼の下に集ったほかの有能な仲間たちには優れた術者が多い。
死後もその活躍は語り継がれ、デーヴィド曰く『人は自分の意思で何にでもなれる事を証明した』偉大な人物。
ただし、そんな彼も母が、仲間が、親友が、部下がいなければここまでの偉業は成し得なかったことを明記しておく。

ナ国のとある金物屋との親交から鋼鉄に対する興味と造詣を深めていき、
自作した鋼鉄の短剣によって盗賊を撃退するなど、その生涯には鋼がつきまとう。
『術不能者』でも扱え、アニマ(魔力)を遮断する鋼鉄の兵器利用を提案し、鋼鉄兵団を実用化した。
事実、鋼鉄兵団は術者に対して絶対的なアドバンテージとなり、敵軍を圧倒した。
『鋼の13世』と呼ばれるようになった由来もこの逸話による。

霊体化できない代わりに気配を悟られないことを利用して鍛冶工房に勤めており、「ギュス」と名乗っている。
クロエは彼の娘という設定で通っている。

【サーヴァントとしての願い】
クロエの運命に付き合う。


419 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:23:07 Kqix3BYI0
以上で投下を終了します

ステータス表の一部記述はぼくのかんがえたサーヴァントwikiの当該キャラ項目を参考にさせていただきました
ありがとうございます


420 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:24:22 Kqix3BYI0
すいません、マスターのステータス表を投下するのを忘れていました
投下します


421 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:26:06 Kqix3BYI0
【マスター】
クロエ・フォン・アインツベルン@@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【マスターとしての願い】
悪夢しか生まない聖杯戦争を止める。
生き残る。

【weapon】
投影した宝具など

【能力・技能】
現界の触媒であるアーチャーのクラスカードによって英霊化の状態にあり、身体能力は人間以上。
アーチャーの能力である投影魔術を苦もなく発揮し、その戦闘能力は高い。
アーチャー同様に『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』を使いこなし、刀剣で壁を作るなど機転が利き、状況判断にも優れている。
また、願望機の機能の一端として(そこに行きたいという願望を叶える事によって)転移も使える。
カレイドの魔法少女とは違い、変身前に着用している衣服の変換も可能。
魔術師としてのイリヤスフィールであるため、詠唱もなく投影魔術を行使でき、戦闘のセンスに優れる。
さらに投影のほかにも魔術を使える様で、鎌倉での戸籍も暗示魔術によって得ている。

しかし、その肉体は魔力によって維持されており、何もしなくとも常に消費されているため、枯渇する前に何らかの方法で魔力を補給しなければならない。
クロがキス魔なのは対象から魔力を奪うため。
キス以外にも魔力補給の手段はあるらしいが、それを耳打ちしたイリヤには「変態」「不潔」と罵られ、拒否された。
なお、一般人に比べイリヤからの魔力供給は10倍ほど効率がいいらしく、日常的に多くの人にはお見せできないやりとりを行っている。

【人物背景】
もともとは、まだ赤ん坊だった頃に、アイリによって力と共に封印された「本来のイリヤの人格(生前から施された魔術的処置により、赤ん坊ながら自我と様々な知識を有していた)」。
イリヤが危機におちいった際、封印が一時的に解かれ、危機を回避した後に再封印される、というプロセスを経るはずだったが、
円蔵山の地下大空洞の地脈逆流時に危機を回避しようとした際、地下に眠っていた『大聖杯の術式』の力により「弓兵」のクラスカードを核として受肉化した。
顔の造りはイリヤと同一だが、「弓兵」のクラスカードを触媒に現界している影響のためか、 イリヤと違って肌が浅黒く、髪もより銀に近い色合いになっている。
当初は髪型も一緒だったが、クロエと名乗るようになってからは左側頭部の髪をまとめたものに変えている。
アーチャー化すると髪は後ろにまとめたものに変化。
基本ラインは一緒だが、イリヤがアーチャー化したものと衣装も異なる。
封印中もイリヤとは記憶を共有していたらしく、分裂直後でも美遊といった周囲の人々のことは把握している。
性格の基本骨子はイリヤと同じだが、「もしイリヤが魔術師として育っていたら」という存在であるため
「stay night」本編のイリヤに近い性格で、小悪魔的な言動が多い。
キス魔で同性に対して非常にアグレッシブで、イリヤの周囲の女子5人のファーストキスを奪った。
封印の反動か、「日常」や「家族の愛情」といったものに飢えており、
最初にイリヤの命を狙ったのもそれを手に入れるための手段であって、イリヤを憎んでいたというわけではない。
家族として暮らすようになってからは、義兄・衛宮士郎に積極的に迫っては、イリヤと喧嘩する。
ちなみに、イリヤとどちらが姉でどちらが妹かを争っているが、決着はついていない。

【方針】
聖杯戦争を止める。


422 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/24(金) 00:26:25 Kqix3BYI0
以上で投下を終了します


423 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/24(金) 12:11:05 CADPxVcM0
皆さん投下お疲れ様です。久し振りですが投下します


424 : 辰宮百合香&アーチャー ◆p.rCH11eKY :2015/07/24(金) 12:11:38 CADPxVcM0

 剣のぶつかり合う音と、魔力の弾丸が地を食い荒らす暴力的な音声とが絶え間なく夜闇に連続していた。
 廃屋の屋根上に陣を敷いて、自らの宝具を構えた魔女がマナの結合体を砲門から吐き出す。
 その度小型の爆弾すら凌駕する衝撃と閃光が炸裂し、夜の静けさを引き裂いていく。
 彼女は非常に優秀な英霊だった。鎌倉に参じたキャスタークラスの中でも、攻撃性なら上位に部類されるだろう。
 一撃一撃の破壊力と連射性、おまけに魔力炉を別口で持ち合わせるため燃費概念も無いに等しい。
 それこそ、対魔力スキルの高いサーヴァントでない限りは圧倒さえできるだろう実力の持ち主――しかし。今魔女の顔貌は焦燥に歪み、玉のような脂汗を浮かせている。戦場を俯瞰する眼球は血走ってすらいた。

 「づッ……貴様、本当に弓兵かッ!?」

 そして、それは彼女だけではない。
 彼女の同盟相手であり――今夜の戦端で前線を担当している、黄金の甲冑を纏った長髪の騎士。
 絢爛豪華な細剣を振るい、彼は目下最大の敵である弓手の英霊を斬り伏せるべく悪戦苦闘していた。
 ――そう。

 「問い返そう」

 今宵の敵は、紛れもないアーチャーのサーヴァントであるはずなのだ。
 にも関わらず、これはどういったことだ。
 セイバーの剣は全てアーチャーが担う宝具ですらない剣に受け止められ、キャスターの魔力弾も軽々いなされている。
 アーチャーどころか、セイバークラスでさえそうそういない程の身動きで……彼女は二騎の英霊を圧倒していた。
 
 「――貴様こそ、本当に騎士なのかよ。これで英雄を名乗るとは、我らも舐められたものだな」

 軽蔑を込めて放たれた落胆の言葉と共に、セイバーのそれより数段鋭く、速い突きが彼の胴を深く抉った。
 呻いた隙を逃さず振るわれる剣が、彼の左顔面へ一本の刀傷を生み出す。
 堪らず後退するセイバー。それに対し、アーチャーが追ってくる気配はない。

 「……キャスター! "聖剣"を解放する、一気に仕留めるぞッ!!」

 叫ぶセイバーに、キャスターが同意のサインを返す。
 このアーチャーに、常識のたぐいは通じない。
 白兵戦に持ち込んでこれだけの手傷を負わされたのだ――これ以上戦闘を続けるのは間違いなく自殺行為だ。
 とはいえ、セイバーも騎士である。
 面と向かい騎士としての才能を否定され、屈辱的に感じる想いも勿論あった。
 それで血が昇っていなかったといえば嘘になる。
 だからこそ――虎の子の対城宝具を抜き放ち、あのアーチャーを完膚なきまでに打ち破ってやろう――そう思った。

 腰に携えた黄金の柄に両手を合わせ、一息に閃光の迸る一刀を引き抜く。
 これはかの聖剣・エクスカリバーと同じ銘を冠した破魔の聖剣だ。
 生み出すのは浄化の波濤であり、それでいて単純な破壊力でも凡百のサーヴァントとは一線を画す。
 戦略兵器と同等の殲滅性能を誇ると称される、サーヴァントという存在の絶大性を象徴するような一閃。
 赤髪の火傷顔(フライフェイス)を目掛け解き放たれる閃光の波動。
 それはまっすぐに、並居る全てを巻き込みながら――アーチャーを焼き尽くすべく迸った。
 ドーム状に炸裂した黄金は、忌まわしき赤騎士を飲み込み、撹拌し―― 

 「なんだ、それは」

 黄金の騎士が放った対城宝具――かの"聖剣"を彷彿とさせる光の波濤が過ぎ去った跡。
 木々の一本として残さず破壊され、生物など生き延びられる筈もない焼け野原と化した"そこ"より。
 軍靴の音が響いてくる。
 馬鹿な。あり得ない。口にするべき月並みな台詞など幾らでもあるのに、誰もが言葉を失っていた。
 
 「忌まわしい。その程度で黄金を嘯くかよ、雑魚どもが」 

 今までとただ一つ違うのは、アーチャーの表情には……明確に不愉快と示すような、怒りの色が滲んでいること。
 キャスターが魔弾を放つ。――当たらない。掠りすらしない。首を、体を、ただ逸らすだけで回避される。


425 : 辰宮百合香&アーチャー ◆p.rCH11eKY :2015/07/24(金) 12:12:02 CADPxVcM0
 「理解した。貴様らに価値はない」
 
 故に、諸共滅びるがいい。
 死神の宣告と共に――アーチャーの背後に、巨大な魔方陣が顕現した。
 それはキャスターが持つそれよりも遥かに大きく、質が高い。
 
 彼女はアーチャーでありながら、セイバーを上回る剣技、キャスターを凌駕する魔力量を持っている。

 そして、先ほどセイバーが見せた奥の手、聖剣の波濤。
 不敬にも彼女が信奉する"黄金"を騙った一撃など――彼女にとっては、通常攻撃の一発にも劣るものでしかない。
 魔方陣より溢れ出す灼熱。それは第二次大戦下に生まれた、世界最大の"列車砲"に渦巻く灼熱の業火。
 それはやがて、濁流の如き勢いで砲門より溢れ出し、騎士と魔術師の主従を一瞬の内に飲み込んだ。
 宝具も、予め用意してあった術式も、一つ余さずその火炎で焼き尽くし。
 過ぎ去った跡。二騎の哀れなサーヴァントたちが生存していられる道理など、どこにもありはしなかった。

 「つくづく、下らん。そしてそれ故に度し難い。
  単に面白可笑しいだけの活劇を以って英雄譚を騙り、その実持つ力は凡百にも劣る愚図共。
  世界へ召し上げられた英雄の集う饗宴と聞き、少しは期待したが――暇潰しにもならん」

 ドス黒く焼け付いた鎧の残骸を一瞥し、アーチャーは真に焼け野原と化した戦場を後にする。
 これにて、彼女が屠ってきた主従は十の大台に乗った。
 だがそのいずれも、活動位階の炎すら防ぐことが出来ずに散っている。
 聖槍十三騎士団黒円卓第九位。冠する魔銘は魔操砲兵(ザミエル)。
 黄金の獣に忠誠を誓いし赤騎士、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグは、主の少女が待つ邸へと足を向ける。
 

 ――その方角から漂う、噎せ返るほどの百合の香りに……隠すこともなく嫌悪感を示しながら。


 
 ■


 大理石が敷き詰められた豪奢な床を湛えた令嬢の私室。
 アーチャーのマスター、辰宮百合香はそこに用意された座椅子に座り、二人の"来客"と向かい合っていた。
 彼らは聖杯戦争の参加者。今しがた、赤騎士が焼き払ったセイバーとキャスターのマスター達である。
 しかし、その眼に敵意のようなものは全く存在しない。
 むしろ――敬意にも似た好意、善意で満たされていた。

 「それでは、貴方がたは――敗れ去って尚、わたくしに協力してくれるというのですね?」

 二人は確かに頷く。
 彼らは優秀な魔術師だ。
 聖杯を求めて別な世界より鎌倉を訪れ、そして聖杯を巡る戦いに敗れた。
 この"予選期間"中に敗走したマスターは、現界の核であるサーヴァントを失っても消滅することがない。
 しかしだ。自尊心の高い魔術師であったはずの彼らが、こうもすんなりと彼女に従い。
 そして、無償の善意をもってサポートすることを断言するというのは……聊かばかり不自然である。


426 : 辰宮百合香&アーチャー ◆p.rCH11eKY :2015/07/24(金) 12:12:56 CADPxVcM0
 「ではその好意、ありがたく受け取らせていただきましょう」

 気品に満ちた微笑みで、百合香は二人へ感謝を示す。
 そんな表情を向けられた魔術師たちは、誇らしい思いに満ちたまま邸を去っていった。
 
 この邸は、百合香が半ば乗っ取ったものである。
 もともとこの鎌倉に在住していた富豪の家に入り込み、養子のような形で受け入れられた彼女。
 それから程なくして、邸の住人達は彼女をこそ主と崇め始める。
 邸の長であるはずの家主たちも、それに憤るでもなく寧ろ同意し、この家を明け渡す発言をして居を移した。
 可愛いなどという言葉では表現できない浮世離れした美貌と気品ある佇まい――無論、彼らの心を変えたのはそれだけではない。もっと反則じみた道理が、そこには存在している。

 「……あら。戻られたのですか、アーチャーさん」
 「取るに足らん相手だ。見てくれだけを突き詰めた英雄の紛い物共……手こずる道理もない」

 壁に身を凭れさせ、紫煙を燻らす火傷顔の女傑。
 彼女こそは百合香のサーヴァント、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグである。
 だが。彼女の主を見つめる視線には――敵意よりも尚冷たい、軽蔑の色合いがありありと滲み出ていた。

 「相変わらず手厳しいですね。そんなにも気に入りませんか、わたくしが?」
 「ああ、気に入らんよ。私も色々な女を見てきたが、お前ほどの屑はそういない。
  正直な所、貴様が私の契約者でなければ即座に焼き殺している所だ。売女よりも尚醜い、腐乱した百合の花めが」

 アーチャーは色恋だ何だと宣って回る女が嫌いだ。
 唾棄すべき屑と軽蔑し、気味の悪いものと思ってすらいる。
 その彼女をして――辰宮百合香は規格が違うと、屑の枠にすら当て嵌められないとの評を下さざるを得なかった。
 近付く者を皆惚れ落とさせる傾城の香。それだけならばいざ知らず、本人の有する複雑怪奇した精神性。
 全てが気に入らない。まるで逆鱗を逆撫でされるようなものを、アーチャーはこの少女から感じ取っていた。

 「直に聖杯戦争は次の段階へ移行するだろう。
  貴様は黙って安楽椅子に座り、戦争の終結を待っているがいい」
 「ええ。頼りにしていますよ、魔操砲兵(ザミエル)」

 戦火の主は鼻を鳴らし、青薔薇の君がおわす空間より消え去った。
 その炎は――聖杯戦争が"本戦"へ移るまでの間に、あとどれだけのサーヴァントを焼き尽くすのか。


【クラス】
 アーチャー

【真名】
 エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ@Dies irae

【パラメータ】
 筋力B 耐久C 敏捷C 魔力A+ 幸運B 宝具EX

【属性】
 秩序・悪

【クラス別スキル】
 対魔力:A
 Aランク以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない。

 単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。


427 : 辰宮百合香&アーチャー ◆p.rCH11eKY :2015/07/24(金) 12:13:20 CADPxVcM0
【保有スキル】
 軍略:A
 一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

 忠節の騎士:A
 彼女は魂までも黄金――ラインハルト・ハイドリヒに平伏している。
 あらゆる宝具、スキルをもってしても、決して彼女の精神性に介入できない。

 魂喰の魔徒:B
 数万以上もの魂を喰らっていることから、マスターに消費させる分の魔力を自分で補うことが出来る。
 列車砲の火力に反し、サーヴァントとしての燃費は反則的に良い。

【宝具】

『極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)』
 ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:1000人
 第二次世界大戦でマジノ要塞攻略のために建造された80cm列車砲の二号機。
 その運用には砲の制御のみで1400人、砲の護衛や整備などのバックアップを含めると4000人以上もの人員を必要としたとされる文字通り『最大』の聖遺物。
 あまりの巨大さ故ほとんど形成されず、基本空中の魔法陣から炎熱の砲弾を発射する活動位階の能力が使用される。
 ただし戦略兵器として造られた来歴に違わず、活動位階でもその火力は格上の相手を容易く死傷させるほどに強力。

『焦熱世界・激痛の剣(ムスペルヘイム・レーヴァテイン)』
 (旧)ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:常時拡大 最大捕捉:常時拡大
 彼女自身の創造位階が宝具となったもの。
 極大火砲・狩猟の魔王から発射された砲火の、その爆心地からの逃走を果たしたとしても、対象に着弾するまで爆心が永遠に燃え広がり続ける。やがて地上に逃げ場は消え焼き尽くされる他ない、実質的な『絶対必中』の宝具。
 だがこれはあくまでも戦争用に枷をはめた形成と創造の中間の技であり、本命ではない。

 (新)ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:∞
 逃げ場の一切ない砲身状の結界に対象を封じ込め、内部を一分の隙間もなく焼き尽くす絶対必中の攻撃を放つ。
 絶対に逃げられず、絶対に命中し、総てを焼き尽くす炎が凝縮した世界。
 これこそ絶対に逃げられないということ、絶対に当たるということ、その究極系。逃げ場など最初から何処にも存在しない世界を展開する、真の絶対必中の技。
 火力も最大で核弾頭クラスのものを持続することが可能であり、格下相手がこれに対処することはまず不可能。
 彼女にとって勇敢な騎士との決闘こそが誉れであるため、彼女が騎士と認めた相手にしか真の創造は使用しない。

【weapon】
 剣。


【人物背景】
 聖槍十三騎士団黒円卓第九位・大隊長、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ=ザミエル・ツェンタウァ。
 ポニーテールにまとめた赤い髪と左半身を縦に走る酷い火傷の跡が特徴の、見た目通りの炎のような苛烈さと軍人然とした任務に対する氷のような冷徹さの二面性を持った女傑。
 「煙が好き」と語る愛煙家で、戦闘中であっても葉巻を燻らせている。
 「赤騎士(ルベド)」の称号を持つ三騎士の一角で、その称号に恥じない能力を持った英雄である。


428 : 辰宮百合香&アーチャー ◆p.rCH11eKY :2015/07/24(金) 12:13:55 CADPxVcM0
【サーヴァントとしての願い】
 聖杯をハイドリヒ卿へ献上する。

【運用方法】
 魔力消費を本人が代用してくれるので戦力的には申し分なく、優秀。
 しかし人格面に多大な問題があり、マスターである辰宮百合香との関係性は最悪。
 アーチャーは百合香を色惚けした屑としか見做していないし、百合香もアーチャーを終始軽んじている。


【マスター】
 辰宮百合香

【出典】
 相州戦神館學園 八命陣

【マスターとしての願い】
 特になし。だが、この異界で野垂れ死ぬつもりはない。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 『傾城反魂香』
 洗脳されたことにすら気づかせない程の高度な精神支配を施す。
 香が展開された空間に侵入した存在は、人間であれば無条件で百合香に好意を抱き、全幅の信頼を置くようになる。
 あらゆるものを嘲弄する存在が彼女の前では口を慎み、狂乱した龍神は香りに釣られ狙いを動かす。
 その強力さは折り紙つきで、一度影響下におかれた存在は百合香に対し一切の負の感情を抱かなくなる。
 百合香の言動に対して全く疑問を持たなくなってしまうため、自力での洗脳解除は非常に困難。
 時間経過に応じて効果がなくなる、あるいは薄くなるようだが、それも予め定期的な接触を約束することで防げてしまう。
 数十キロ先の遠方に存在する人間に対しても、配下の人間を介することである程度効果を及ぼす射程距離、
 洗脳が解けて能力を理解し警戒していたとしても一切意味はなく、その影響を欠片でも受けてしまえば今までのことを忘れ、百合香に対しての好意が復活してしまうという性質。
 この夢が効かない条件とはただひとつ、「既に百合香に惚れていること」のみ。
 わざわざ好意を抱かせるまでもなく、既に相手が惚れているのだから、その延長線としての洗脳も効果を発揮しない。能力が効かない人間には、この夢は百合の花の香りとして認識され、能力の影響が強い場所ほど強い香りとして認識される。

 本作ではサーヴァントに対しても平常通りに作用。
 ただしBランク以上の対魔力スキルで違和感を抱き、Aランク以上ならば香に対抗できる。
 狂化しているバーサーカーも完全ではないにしろ香を無効化できるが、「狂っているものの意思疎通が可能」「理性を持つ」タイプのバーサーカーならば、この夢からは逃れられない。

【人物背景】
 貴族院辰宮男爵の令嬢にして、夢界の六凶が一角「貴族院辰宮」の首領を務める少女。
 名家に生まれ、美貌を持ち、ありとあらゆる人間に頭を垂れられてきた彼女だが、あまりにも恵まれすぎた環境に置かれたせいで、あらゆるものに価値を感じられないという価値不信に陥っている。
 彼女は自分をそんな境遇から連れ出してくれる「王子様」を求めている。
 他人からの好意を信じられないくせに、誰かありのままの自分を見てと訴えている。
 まず嫌われなければその相手を信じられないくせに、自分を嫌うその人に救ってほしいと訴えている。
 自分からは何もしないくせに、何故何もしてくれないのかと不満に思っている。
 その条件を唯一満たしたのは、戦真館の悌の犬士で――

 とてもめんどくさい女。(要約)

【方針】
 生存優先。


429 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/24(金) 12:14:09 CADPxVcM0
投下終了です。


430 : ◆UGOa2VUqIc :2015/07/25(土) 02:43:28 daIdhD0M0
投下します


431 : 坂凪綾名&キャスター ◆UGOa2VUqIc :2015/07/25(土) 02:45:16 daIdhD0M0


それは、突然すぎる出来事だった。
「え」
呆けた声と共に、アーチャーのマスターの、その心臓から何かが生える。
刃だった。薙刀に似ていたが、刃の部分は薙刀ほどの反りがなく、出刃包丁を大きくしたような形だった。
柄の長さが一メートル、刃渡りが三十センチほど。如何せん奇妙な武器だったが、真に驚くべきはそこではない。

ここはホテルの地下駐車場。
魔術師が背にしていたのは、コンクリート製の柱だった。
分厚さも相当なものがある。どんな武器だろうと、これをその向こう側から貫通するなど不可能に違いなかった。
ではどうして、自分は今貫かれているのか。
致命傷であることは疑いようもなかったが、魔術師は自らのサーヴァントを呼ぼうとした。
けれどそれも無駄。令呪を用いた命令を発声する前に、罪人がそうされるように、彼女は首を後ろから切断されていた。

魔術師の視界に最後に写ったのは、超常の理念を扱う彼女にも理解しかねる光景だった。
コンクリートの柱から、まるで『潜って』でもいたかのように、武器を携えた水着姿の少女が顔を出していたのだ。
私は、いったい何に殺されたんだろう。まだやりたいことも、試したいこともいっぱいあったのに。
宙を待った首がゴトリと音を立てて地面へ落ちる頃には、若き天才魔術師はすっかり事切れていた。

それを待って、コンクリートに潜水した聖杯戦争の参加者『スイムスイム』は姿を現す。
現れるなりスイムスイムは、たった今殺した死体に駆け寄る。
刎ねた首から上に興味はない。彼女は胴から下へ目をつけると、まるで盗人のように漁り始める。
事実彼女が働いているのは盗みだった。
この鎌倉では、元の世界から資金や道具を持ってくることができない。
聖杯戦争中にずっと野宿を続けるわけにもいかないし、やはり先立つものがあるのとないとでは話が違ってくる。
「あった」
見つけ出した財布の中身から、躊躇いなく全額をくすねる。
死体の処理についてはどうでもよかった。
どうせ、今この町でこの程度の事件は珍しくもない。
第一、足がついたからと言って――それでどうにかなるわけでもないだろう。堂々と構えていればいい。

今晩の仕事も終わった。
こうなれば長居は無用である。
スイムスイムは今度は壁に潜り、早々に殺人現場を後にする。
彼女はアーチャーのマスターだった。そしてアーチャーは、単独行動という厄介なスキルを持っている。
マスターを殺されたことに気付いたサーヴァントは、直にこの場所へ戻ってくるだろう。
スイムスイムもサーヴァントを呼べば対抗できるだろうが、既に脱落した主従相手にそんな労力を使うのは馬鹿馬鹿しい。
壁を抜けて茂みに紛れ、魔法少女スイムスイムは見事離脱を果たした。
遠くから、男の絶叫が聞こえてきたような気がしたが、彼女にはもう関係のないことだった。


432 : 坂凪綾名&キャスター ◆UGOa2VUqIc :2015/07/25(土) 02:45:44 daIdhD0M0
「キャスター」
スイムスイムは、自分の拠点を目指す。
マスター狙いの暗殺という方針上、あまり犯行を重ねすぎるといつか足が付きかねない。
あくまで自分は漁夫の利を狙っている。心配せずとも、聖杯戦争は進むのだから。
そんな時だった。彼女は道の陰からこちらを窺っていた一匹の黒猫をキャスターと呼ぶ。
「見てたの、知ってる」
それを聞くなり、黒猫はくすくすという笑い声をあげ――やがて、一人の少女に姿を変えた。

少女は虚ろな目の持ち主だった。
ニンゲンの形をしていながら、黒猫のしっぽを付けたロリータ服の少女。
青いというよりも蒼いと呼ぶのが相応しい長髪が夜風に靡くたび、紅茶のような香りがスイムスイムの鼻孔を擽る。
「相変わらず、言うことを聞かない」
「くすくす。仕方ないでしょう? あまりにも退屈すぎるんだもの」
退屈は魔女を殺すのよ。
そう言って嗤うキャスターに、スイムスイムはなにか続けることはなかった。

スイムスイムのサーヴァントは魔術師<キャスター>だ。
真名を奇跡の魔女、ベルンカステル。魔法少女よりもずっと高名で、絶大な存在らしい。
しかしスイムスイムには、彼女の言うことはよく分からなかった。
サーヴァントが筆舌に尽くし難い力を持った存在ということは知っていたし、改めて驚くこともなかった。
ただ一つだけ思ったのは、彼女は今まで見たことがないタイプだった。

『ピーキーエンジェルス』のように囀るわけでもない。
『たま』のように無邪気なわけでもない。
そして――『ルーラ』とも似つかない。
彼女はただ見守り、観測し、くすくすと笑っているだけだ。
聖杯戦争に参加して結構経つが、未だにスイムスイムはベルンカステルの戦う姿を見たことがなかった。

スイムスイムは馬鹿ではない。
命じて動かないなら、自ずから動く他ないとすぐに思い至り、行動した。
それに、元からサーヴァントの強さに胡座を掻いているつもりなどは毛頭なかったのだ。

「ねえ、スイムスイム? 貴女はこの聖杯戦争に、何を願うのかしら」
「――、」
ベルンカステルへ構うことなく進めていた足を、スイムスイムは一度だけ止めた。
そして振り返り、
「わからない」
そう答えた。


433 : 坂凪綾名&キャスター ◆UGOa2VUqIc :2015/07/25(土) 02:46:21 daIdhD0M0

「わからないけど、ルーラならこうするから」
スイムスイムに願いはない。
聖杯に託し、叶えたい願いはない。
では何故、彼女はこうして戦っているのか。
その理由はたった一つ。その理由こそが、スイムスイムの全て。
「へえ――」
それを聞いたベルンカステルは、静かに口元を吊り上げた。

キャスターのサーヴァント、ベルンカステルは知的強姦者だ。
知的優位に立つことにより快感を覚え、推理を何よりも重視し、それを穢されると強い怒りを覚える人種だ。
魔女である彼女に、『人種』などという言葉を使うのもおかしなものだったが。

更に言うなら、聖杯戦争自体はどうでもいいと考えているのは彼女も同じだった。
所詮は小さい視野でしか物事を捉えられないニンゲン風情がうつつを抜かす座興だと軽蔑さえしている。
だが、その趣向は面白い。数多のカケラを掘り返しても、これほどに残酷な仕組みのゲーム盤はそうない。
だから彼女は、スイムスイムのサーヴァントとしてここにいる。
『可能性がゼロでない限り、必ず成就させる』魔法を使い、聖杯に無理やり自分を選別させることで。
とはいえ。遊びとはいえ、みすみす殺されるのは気に食わない。
盤上の駒となったからには、それなりの働きはするつもりだった。
スイムスイムに聖杯をもたらすためのサーヴァントとして。

ベルンカステルは、『良い』サーヴァントではない。
何事をも傍観しているようで、その実嘲笑っている存在だ。
そんな彼女だからこそ、スイムスイムに望むところはひとつだった。

彼女が自分の『心酔』から選んだ道を完膚なきまでに破壊される、『その時』。
スイムスイムのみに限らず、すべてのマスターに対して、ベルンカステルはその願いが踏み躙られることを願っている。
穢れきった奇跡を背に、奇跡の魔女は再び黒猫に姿を変えた。

魔法少女と魔女が家に帰っていく。
ひとりは血だまりを作って、ひとりは心の血だまりを作る。
仕組まれた奇跡が、聖杯戦争のすべてを弄ぶべく、静かに動き始めていた。


【クラス】キャスター
【真名】ベルンカステル
【出典】うみねこのなく頃に
【性別】女性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A+ 幸運:D 宝具:EX


434 : 坂凪綾名&キャスター ◆UGOa2VUqIc :2015/07/25(土) 02:46:46 daIdhD0M0
【クラススキル】
陣地作成:A+
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 神殿を上回る大神殿の形成すらも可能。

道具作成:A
 魔力を帯びた器具を作成できる。

【保有スキル】
使いの黒猫:A
 自らを一匹の黒猫へと変化させる。
 この状態のキャスターはサーヴァントとして認識されない。
 しかし攻撃態勢に移るには、一度本来の姿に戻る必要がある。

知的強姦者:A
 彼女の生業は精神の強姦。
 知的優位に立つことにより快感を覚え、推理を何よりも重視し、それを穢されると強い怒りを覚える。
 壮絶な過去を持てば持つほど、その相手にとってベルンカステルの言葉は心を深く抉る刃となっていく。

【宝具】
『奇跡の魔法』
ランク:EX 種別:対運命宝具 レンジ:- 最大補足:-
メモ用紙を百回畳めば月にも届く。そして彼女は百回畳んだ。
起こりうる事象の可能性がゼロでない限り、必ず成就させる力。
喩えるならば、双六で賽子の出目が6になるまで何度でも振り続けるようなもの。
これはベルンカステルが持つ魔法大系にして称号である。
 
『藍なる闇に囃し囃せ(カケラの魔法)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~20 最大補足:1人
この世界を始めとした次元を越えて存在するさまざまな世界いわばパラレルワールドの具現化とも言うべきもの。
作中では"カケラの海"と呼ばれる宇宙空間のような藍色の闇に浮かぶ無数の宝石の破片として表されている。
それぞれのカケラの住民はカケラの存在を知覚できず、その概念すら知らないままに一生を終えるが、複数のカケラに同一人物が存在する場合、ごくまれに片方のカケラの人間の記憶などがもう片方に伝達されることがある。
また、それぞれのカケラを外側から閲覧することができる存在や、カケラ間を移動できる存在、自ら新しいカケラを創造できる存在も居ることが示唆されており、本編中ではカケラ間を移動する者を"航海者"、カケラを創造する者を"創造主"と呼ぶことが明かされている。
過去未来関係なしに外部や内部の世界での出来事をカケラに映し出したり、対象者の精神や記憶をカケラに投影するなど、使用用途は多種多様である。
尚、黄金夢想曲†crossではカケラに籠められている力を解放する(投げる)ことで攻撃手段として活用を可能としていた。
聖杯戦争での用途はもっぱらこちらになるかと思われる。


435 : 坂凪綾名&キャスター ◆UGOa2VUqIc :2015/07/25(土) 02:47:12 daIdhD0M0
『社に集いし黒猫の従者(フレデリカ・シャッテン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大補足:1000人
見た目こそは普通の黒猫だが、その正体は魔女に使える残酷で無慈悲な従者。
禍々しい牙と爪を持っており、命令されれば忠実に目標へと襲い掛かる使い魔。
EP8終盤や黄金夢想曲†crossではカケラの海に散る魔王(元は別々の物語に存在する勇者や主人公達)となる存在も登場しており、口からレーザーを射出するなど攻撃面で黒猫の従者とは大きく異なる点を持つ。
又、同作で攻撃時にベルンカステルが纏っている闇から手や顔などの特定部位だけを出していることも確認できる他、EP8では群れを成して纏まることにより、青緑色(エメラルドグリーン)の巨大な鯨の姿であるリヴァイアサンとしてラムダデルタに立ちはだかっている。


【weapon】
 なし

【人物背景】
 千年を生きた「奇跡の魔女」。
 運命に弄ばれた少女はやがて、運命を弄ぶ強姦者になった。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯戦争という儀式を見届ける。
 しかし殺されるつもりもないので、聖杯ももちろん手に入れる気でいる。

【基本戦術、方針、運用法】
 とにかく性格に問題のあるキャスターだが、性能自体は間違いなく最高級。
 ただ、マスターをすら駒と軽んじている節があるのが難点か。


【マスター】坂凪綾名/スイムスイム
【出典】魔法少女育成計画
【性別】女性
【令呪の位置】左手の甲

【マスターとしての願い】
 ルーラの教えに従い、聖杯戦争の頂点に立つ

【weapon】
『ルーラ』
頑強で薙刀のような魔法の武器。魔法の国では日常品らしい。
魔法の力を宿した武器で、単純な物理的負荷ではたとえサーヴァントだろうと破壊できない。

【能力・技能】
『どんなものにも水みたいに潜れるよ』
物質を透過し、潜航する魔法能力。
発動中は物質的な攻撃は全て透過する。ただし、衝撃波、光波、音波等の波の特性を持つものは透過できない。

【人物背景】
本名:坂凪綾名。魔法少女名はスイムスイム。
白いスクール水着を着た少女のアバターを持つ。
同胞の魔法少女、『ルーラ』に心酔している。

【方針】
聖杯狙い。基本は暗殺に徹しつつ、サーヴァントとの戦闘はキャスターに任せる。


436 : ◆UGOa2VUqIc :2015/07/25(土) 02:47:28 daIdhD0M0
投下終了


437 : ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:00:56 Q9ot5zrQ0
二作投下します


438 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:01:54 Q9ot5zrQ0


バゼット・フラガ・マクレミッツが鎌倉を訪れた表向きの理由は"仕事"だった。
ある日彼女の家に届いた、どこから郵送されたのか追跡することすら出来ない一枚の手紙に記された情報提供。
『聖杯』という単語が目を引くその文面の趣旨をバゼットが飲み込み、己の所属する魔術協会に報告したのには理由がある。
その手紙の送り主の名に、心当たりがあったからだ。かって仕事の場を通じて出会い、語り合った熟練の代行者。
上層部からは揶揄されもしたが、半ば押し切る形で派遣を納得させた。
極東の一国で万能の願望器が顕現しかけたという記録は残っていたし、バゼットの知る代行者もそれと無関係ではなかったという。
おそらくあの男はその線で、此度の『鎌倉の聖杯戦争』に関する情報を得ることが出来たのだろう。
そして、かって失敗した聖杯の確保の一助として、あの代行者が組織の垣根を越えて自分に協力を要請している……そう思うだけで、バゼットの心は弾んだ。
身支度を整え、見送りも激励もなくいつもの様に任務に出る。
サーヴァントを召還する為に必要な聖遺物は、あの憧れのケルトの大英雄を呼ぶ為に実家に代々伝わるルーン石の耳飾りを持ち出した。
勝機は十分、戦意も十分。多少楽しみな要素があるだけの、日常の業務の一環でしかない。
即物的な願望に支配された素人や協会に属さず根源に至る等とのたまう木っ端魔術師など、バゼットの実力を持ってすれば粉砕できるだろう。
強敵であろう代を重ねた名門の魔術師が鎌倉にいるという情報も入っていない。油断も慢心もないが、必要以上に気負うこともない任務だ。

「やれやれ、名指しで呼ぶとは誤解を招く事をする。再会したら、まずは文句から言わせてもらいましょうか――――言峰綺礼」

バゼットは日本行きの飛行機に乗り、鎌倉へ向かい……その日より、消息を絶った。
協会への連絡が一切ないことに誰かが気付き、騒ぎ、協会は紛糾する。
しかし、鎌倉への増援を送ることはなかった。――――鎌倉で、聖杯戦争が行われている事実など、ないと分かったのだから。
事前に送り込み、詳細な情報を送ってきていた調査員たちはバゼットの来日に合わせるように帰還し、送ったはずの情報の内容がまるで違うと主張。
魔術闘争の気配の欠片もない、情報は誤りである。という事しか伝えていないはずだ、という要領を得ない報告を受け、協会はバゼットの追跡を断念した。
逃亡の疑いをかけることも、彼女の生家に圧力をかけることもせず。初めからバゼットなどいなかったかのように振舞った。
バゼットは替えの利かない種類の歯車ではあったが、協会にとって必須のパーツというわけではないのだ、当然だろう。
あるいは彼らは気付いていたのかもしれない。
これは、深入りすれば面倒な事態になりかねない、と。


439 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:02:52 Q9ot5zrQ0




「バゼット、食欲がないようだが」

「……」

「その照り焼き、食べないなら俺が食っちゃってもいいかな?」

返事を待たずに箸を伸ばし、口に食物を運ぶ男。
彼の名はアーチャーのサーヴァント、橘朔也。
一見普通の人間にしか見えない橘だが、バゼットとの間には確かに魔力のパスが通り、食事中の今でも繋がりが感じられる。

鎌倉に到着して程なくこのサーヴァントを召還したバゼットは、想定していた英霊と似ても似つかないその姿に驚愕した。
それ以前に、予習してきたサーヴァント召還の儀式すら行っていないのに突然目の前に現れたのだ。
鎌倉に持ち込んだ耳飾りは健在だが、アーチャーとの類似性はまるでない。これが召還に使われたとは考えられなかった。
思わぬアクシデントに意気消沈しながらも警戒は怠らず、まず公共施設の電話を借りて協会下部組織への報告を行おうとしたバゼットを、二度目の驚愕が襲う。
連絡が出来ない。回線が切られているわけでもないのに、外部への通信が通じないのだ。事前に派遣されている筈の人員も配置地点に来ていない。
街の人間を観察するが、特にパニックが起きている様子もない。魔術的な幻術を受けている感覚もない。
混乱するバゼットに、アーチャーは冷静に進言した。

『まずは、食事を取れて落ち着ける場所を探そう』

バゼットが用意してきた日本の通貨はそれほど多くはない。拠点とするはずだった建物も、まるで違う建物になっていた。
逡巡し、鎌倉の教会を訪れて言峰に話を聞こうとするも留守。
やむを得ず、バゼットは霊体化させたアーチャーを伴い近場の安宿に入った。
コンビニ弁当を持ち込んで腹ごしらえをするも、あまりの事態に食欲が沸かず、頭の中は何故こんなことに、という思いでいっぱいになっていた。

「……アーチャー、貴方は召還されたときに聖杯戦争に滞りなく参加する為の知識を得ているはず。その知識の中に、何か異常なものはありませんか?」

「何ともいえないな」

何ですかそのやる気のない返事は、とバゼットが顔をしかめる。
ともかく、事前に想定してきた戦術や戦略が通用するかどうか分からないのだ。
自分の足で鎌倉の街を歩き回り、情報を集めることが必要だろう……バゼットはそう結論し、街へ出た。
この期に及んで、言峰綺礼が自分を騙し罠にはめたという疑念は、バゼットの心中には微塵もなかった。


440 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:08:50 Q9ot5zrQ0




2日後。バゼットは現状に頭を抱えていた。
数多の任務をこなし鍛えられたバゼットのフィールドワーク能力はここ鎌倉においても遺憾なく発揮され、一般人では気付かぬ魔術の痕跡もいくつか見つけていた。
サーヴァント戦と断定できるレベルのものはまだ感知していないが、使い魔と思しき鴉や鼠を捕捉し破壊すること9回、強攻偵察を目的とする異形のゴーレムと交戦すること一度。
さらに役場に潜入し調べたところによれば、ここ一週間で行方不明、又は死に至った市民が急増している。
恐らくは鎌倉に到着した各マスター達が自分たちの足場を固める為、秘密裏に活動した結果だろうとバゼットは推測した。
通常の聖杯戦争ならば魂食いをおおっぴらにやるような浅薄なマスターがいれば、すぐに見つけ出され他のマスターに狩られるだろうがここでは話が違う。
本来はこの闘争に参加するサーヴァントとマスターは7組のはずだが、バゼットの調査結果は明らかにそれに数倍する主従が暗躍している痕跡を示している。
これだけの規模で行われる魔術闘争となれば、完全に隠蔽する為には街ごと消し飛ばすという必要すらあるかもしれない。最悪の事態に陥った場合の離脱経路も確保しておかなければ。
しかしバゼットの頭を悩ませているのは上記の出来事それ自体ではなく、自分のサーヴァントの問題であった。
これらの調査にアーチャーのサーヴァントは一切協力するそぶりを見せず、霊体化して我関せずを決め込んでいたのだ。

「俺はたとえどんな形であれ、姿の見えない何者かに強制された闘争には参加しない」

騙されているかもしれないからな、と語るアーチャーにバゼットが激憤したことは言うまでもないだろう。
サーヴァントとは聖杯戦争におけるマスターの武器であると同時に、聖杯が起こす奇跡を求め、現世に蘇ってまで満たしたいほどの渇望を持つ同志。
あるいは願いがなくとも戦いを求めて召還される者もいるだろう、マスターと相反する願いを秘め持ち、裏切りを画策する者もいるだろう。
だが、戦いを拒否するとは何事か。マスターの闘争を代行しないならば何故聖杯の導きに応じたのか。
主からの怒りの問いに、アーチャーは難しい顔をして黙り込む。その煮え切らない態度がさらにバゼットの不興を買った。

「確かに私には聖杯を求める者としてそこまで情熱がなく、マスターとして物足りないかもしれない。しかし貴方は英霊だろう!
 己の戦いに誇りを持ち、後世に認められたからこそ歴史に名を残せたはず。英雄が闘いを拒むことなど許されはしない!」

「俺は……英雄なんかじゃない……」

後ろ向きな返答を返された怒りのあまり、机を叩き割るバゼット。
もはやこのサーヴァントに頼る余地はない。足早にフロントでチェックアウトと弁済を済ませ、外に飛び出した。
調査の甲斐あって、彼女は主従の一組の居所を突き止めていた。
実体化した状態のサーヴァントを市民に目撃され、うかつにもその隠匿を怠り噂話として拡散されてしまったマスター。
噂の糸を手繰り、大元を見つけてさらにその先を追跡した結果、そのマスターが隠れ住むマンションを特定したのだ。
はっきり言ってしまえばサーヴァントをサーヴァントに任せられないのは、マスターにとって作戦の立てようがないほどの致命事だがバゼットは一流を超えた超一流の戦士。
一戦に限れば、サーヴァントの猛威を振り切ってマスターを殺害する事も可能だという自信はあった。
絶望的に不利な自分が勝利をもぎ取るところを見せれば、あの尻込みしていたサーヴァントも変心するかもしれない。
バゼットは意を決し、必勝の策を持ってマスターが外出するのを待つ。
果たして深夜にマンションから姿を現した獲物が、恐らくは索敵を目的とした行動を開始した。
息を殺し、バゼットがそれを尾行する。いくつか用意した罠のどれにかかるのか、油断なく観察しながら……。


441 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:09:22 Q9ot5zrQ0





……紆余曲折あって、バゼットはルーン魔術による二重三重の工作によってサーヴァントとマスターを分断することに成功した。
全身が緑色で頭部に触覚がある、という人間離れした容貌のサーヴァントは建物内部で瓦礫の山に埋もれている。
サラリーマン然とした姿を装っているマスターは庭先にいて、サーヴァントが突入した廃工場から響く轟音に驚愕の表情を浮かべている。
バゼットはその背後から、猛然と突撃。頭部と心臓に一撃ずつ必殺の拳を打ち込み、生命活動を停止させんと走る。
振り返った敵マスターだったが、もはや一息で届く位置。相手には令呪を使う暇もない。
万事が上手くいっていたはずだった。バゼットの拳が迫る中、男が呟くのはただの言葉。魔術詠唱でもなく令呪の行使でもない。

「なるほど、有効な戦術よ――――」

「ッ―――……!?」

当然最後まで聞かずに全霊の拳を見舞ったバゼットの表情が歪む。
拳に伝わったのは、肉を叩いた感触ではなかった。

                  ...................
「――――切り離したのが、サーヴァントであったのならば、だがな」

男の顔が、否、全身が風船を割ったかのように破裂し、その実態を露わにする。
白髪。旧時代的な衣装に、特徴的な額当てと鋭い眼光。
指で印(サイン)を結んだかと思えば、足元からは滂沱のごとく水流が発生する。
咄嗟に飛び退いたバゼットを逃さず、水域は廃工場の敷地内全てを制圧するように広がっていく。

「水のない場所でこれほどの……まさか、お前は」

「業腹なことぞ。こんな罠に、ワシが気付かぬと見くびられるとは」

膝ほどまで水位を上げた男の秘術による水流は、見えない壁に遮られたかのように戦域の敷地ピッタリで止まっている。
このような神秘、そして何よりもバゼットの目に浮かぶ先程までは見えなかったステータスが物語っていた。
マスターだと思っていた男こそが、サーヴァントだったのだ、と。
気配遮断。アサシンのサーヴァントが持つ、サーヴァントとしての気配を消せるクラス別スキル。
それと何らかのスキルの複合により、自分を人間と偽っていたのか―――だが。
バゼットの疑問に応じたかのごとく、廃工場からサーヴァントと誤認していた緑色の怪物が飛び出してくる。
並び立つ両者はアサシン、そしてバーサーカーのクラスを持ち確かに実体化している。
狼狽の中、アサシンの言葉を思い出すバゼット。『切り離したのがサーヴァントならば有効だった』……つまり、あのバーサーカーはサーヴァントではなく……。


442 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:10:10 Q9ot5zrQ0

                                   ..........
「サーヴァントが二体などありえ……っ!? まさか、それがマスターなのか!?」

「フン、『改竄』の効果が切れたようだな」

尾行中は確かに見えていた、怪物のステータスがバゼットの視界から消えていく。
瓦礫に引っ掛けて破けたらしき服の隙間から見えるのは、バゼットのそれとは紋様の異なる令呪だった。
真のマスターからは知性など微塵も感じ取れず、呻き声をひたすら上げ続けるだけ。

「ア……ィィアアァァ……ギッギギギギギギ……」

「馬鹿な……他者に偽のステータスを与えるようなスキルがあるとしても、感じる霊力は確かにサーヴァント級のそれだ!」

「まったく、この時代は我ら過去の存在の意表をついてくれるものよ。あのような狭い土地に大勢の家族……世帯を住まわせる建築物を考えるとは」

男……アサシンの益体も無い独り言に、バゼットの背筋が凍る。
人間の魂一個ではありえないことも……その十倍、百倍重なれば……。

「おかげでその道具を作るのも捗ったぞ、露見することなくな……」

「なんてことを……!」

「オカアア、ッギアィ、ゥゥゥウゥアアィアアアオネェアアアナアタタタアゥゥゥゥウェェホギャアアアママママママママニニニニニニアアアア」

バゼットの直感正しく、アサシンが行ったのは『道具作成』。
件のマンションに住む300近い世帯の一部から人間を一人ずつ攫い、暗示によりそれを隠匿する。
そして殺害した人間の魂を集積させ、己のマスターとその令呪を核として擬似サーヴァントを組み上げたのだ。
肉体は脆く、存在するだけで魂の重さに耐え切れず崩壊の一途を辿っていたが、しかし人智を超えた存在であることも事実。
だがその過程にマスターの意思が介在していたとは考えにくい。かってマスターだった怪物には、もはやパーソナリティは残っていないのだから。
バゼットは己の直感に看過しえぬ疑問を浮かべ、敵に対して問いかけめいた呟きを漏らす。

「『道具作成』はキャスターのクラス別スキルのはず……」


443 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:10:55 Q9ot5zrQ0

「オレはアサシンでもあり、キャスターでもある。それだけの話よ。そして……」

ライダーでもある、と語るアサシンの姿が消え、バゼットの目の前に出現する。
紫電のごとき機動力。そして何よりも、暗殺に特化した英霊にも智謀に優れた英霊にもない圧倒的な武の気配が、アサシンの言葉を真実と裏付ける。
アサシンは『三重召還(トリプルサモン)』のスキルにより三つのクラスの特性を同時に持つ、破格のサーヴァントだった。

「人間とはいえ、マスターならばオレの宝具とスキルにより転生改造され、強力な戦力になりうる。これを繰り返し続ければ、聖杯戦争に勝ち残るなど容易なことよ」

「くっ!」

バゼットが切り札として持つ『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』は敵が切り札で勝負を挑んできた時にのみ使えるもの。
アサシンは確たる切り札を持たない、バゼットにとっては最悪の敵であると同時に強力なサーヴァントでもあった。
加えて足元は膝ほどまで水が溜まり、バゼットの体力と速度を奪う。
アサシンがもはや言葉は不要とばかりに攻撃に移る。バゼットの思考の間を縫うような神速の一擲。
彼女は格闘戦に持ち込むことはおろか、ルーンでスーツの硬度を上げて防御することも出来ず、アサシンが放った苦無を眺めることしかできなかった。
死を覚悟した瞬間、空中で苦無が弾かれる。迎撃したのは炎を帯びた銃弾。

「アーチャー!?」

「木っ端英霊が、ようやく姿を現しおったか。勝てぬと分かりきった戦場に……」

「……」

苦悶の表情で、アーチャーが実体化する。
その顔を見ただけでも、未だ迷いが消えていない事は明白だった。
三騎士としては低い部類に入るステータスに加え、戦うこと自体に積極的でないサーヴァント。
アレはそんな者が対抗できる敵ではない。令呪全画を用いてでもこの場からの自分たちの離脱を命じようかとすら考えるバゼットに暇を与えず、アサシンがアーチャーに迫る。

「サーヴァントを傀儡にするのにはリスクが伴う……貴様は不要!死ねぃ!」

「……変身」

『Turn Up』


444 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:11:49 Q9ot5zrQ0

アーチャーが、装着したベルトに魔力を通す。同時にバックルが煌めき、光の門と形容できるものを前面に放出した。
ゲートにぶつかったアサシンが弾き飛ばされ、水飛沫を上げながら後退するのを尻目に光の門はアーチャーに向かい、彼の門出を祝う。
光に包まれたアーチャーの容姿が一変し、そのステータスが向上していく。燃え盛る炎の戦士、その名は仮面ライダーギャレン。

「あれがアーチャーの宝具……しかし……」

「珍しいタイプの虚仮威しだな。だがそれがどうした?」

「……」

無言で、ぎこちなく銃を構えんとするアーチャーの鎧に一瞬で数箇所の凹みが生じる。
またも瞬間移動に等しい速度で強襲したアサシンの拳打が、アーチャーを穿っていた。
向上したステータスもアサシンに遠く及ばず、精神が劇的に変化したわけでもない。
バゼットは不利を悟り、アーチャーに指示を出そうと声を張り上げた。

「アーチャー! なんとか撤退を……」

「できもしない事をのたまうのは止めろ。貴様らはもはや籠の中の鳥よ」

「く……戦るしかないのか」

アーチャーが銃……ギャレンラウザーを腰部に収納し、アサシンに殴りかかる。
大振りの拳を屈んで回避するアサシンの顎が跳ね上がる。アーチャーの膝が、同時に繰り出されていた。
あえて回避しやすい攻撃を放ち、動きを先読みしたアーチャーの追撃がアサシンを襲う。
防御しようと突き出した腕を取り、足払いで体勢を崩させて頭から投げ落とすアーチャー。
純粋に格闘の技術だけで語るのならば、アーチャーのそれはアサシンを凌駕していた。
だがサーヴァントの戦いは霊格の較べ合い。小手先の技術や能力など、神秘の差を縮める事はできない。
アサシンが高速で印を組み、足元の水を操って龍の形に変える。
怒涛のごとく押し寄せた水龍に押され、アーチャーが倒れ伏す。

「終わりだ」

「……!」

『ROCK』

苦無を逆手に持ち、アーチャーの頭部を刺し貫こうと振り下ろすアサシン。だがその腕は弾かれ、表情は凝固する。
アーチャーが持つ宝具の一部、ラウズカード。神代より種族の覇権を賭けて鎬を削る始祖生命体・アンデットを封印する13枚の切り札。
アーチャーはその一枚、◆7のカードをラウザーに通し、『トータスロック』を発動させていた。
強固な障壁がアーチャーの全身を包み、防御力を向上させてアサシンの攻撃を防いだのだ。


445 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:12:41 Q9ot5zrQ0

一瞬の隙を突き、アーチャーはさらにラウザーに2枚のカードをスラッシュさせる。
2枚以上のカードを組み合わせることで、他の英霊の宝具の『真名開放』に相当するギャレンの真価……必殺技が発動する。

『UPPER』

『FIRE』

「何……!?」

「ハァッ!」

アーチャーの拳に轟力と炎が宿り、強力なアッパーカットがアサシンを捉え―――緑色の怪物に、直撃した。
当事者であるアーチャーにも、離れて全体を見通していたバゼットにも理解できない現象。
アサシンの持つスキルを、アサシンの因子を与えてサーヴァント化させたマスターに同時に使用させることで成し得た緊急回避。
詳細を知らないバゼットたちにも、その悪辣さは伝わった。バゼットは困惑し、アーチャーは怒りをあらわにする。

(アサシンとマスターが瞬時に入れ替わった!? マスターを……身代わりにしたのか……)

「貴様……マスターを……守るべき者を犠牲にしたのか! それが英雄のすることか!」

「使うべき物を、使うべき時に使っただけの事よ……マスターなど令呪を持つ者が犇めくこの鎌倉ならば、いくらでも代わりは探せるわ」

悪びれることもなく、アサシンが淡々と語る。
致命傷を負い、消滅を待つだけの己のマスターを冷たく眺めながら。
見捨てられたマスターはアサシンの元へと這いずり、手を伸ばす。

「ァァァァ……」

「そも、我等英霊の本質は守ることではなく奪うことにある。敵より奪い、自分に与する者たちにその恩恵を分け与える。それが守るということだ。
 聖杯戦争とはつまるところ遠征、マスターも含め周囲は全て敵なのだぞ。そこで自らを犠牲にする行為など偽りに過ぎぬわ、木っ端めが……」


446 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:14:51 Q9ot5zrQ0

一瞬の躊躇もなく、己のマスターに苦無を投げ放つアサシン。
召還したサーヴァントに道具として利用され、己の意思を殺されたマスターは、今度こそ本当に殺された。
肉体が腐り、令呪が消えていく姿に目を背けるバゼット。その姿こそが、たった一人を除く全てのマスターの末路だと痛感する。
魔力を十二分に溜め込んでいたのか、スキルの恩恵か、平然と佇むアサシンに、アーチャーが搾り出すように言葉を繋ぐ。

「ふざけるな……! 俺の知る英雄は、たとえどんな時でも貴様のような外道には堕ちん!」

「他者を神格視することで己を正当化する……至弱の英雄を通り越してまるで凡百の愚民だな、アーチャー」

「戦いの意味などもうどうでもいい……貴様は俺が倒すべき敵だ!」

◆Qのラウズカードをスラッシュし、アーチャーが猛る。
相容れぬ反英雄への怒りが、彼の迷いをかき消した。
直前とまるで違う覇気を発するアーチャーに、バゼットが愕然とする。
アーチャーの能力は宝具を使用した時の様に、大幅に上昇していた。
アサシンもまた、アーチャーの変化に戦慄の表情を浮かべ、即応すべく印を組もうとする。

『ROCK』

「な……っ」

だがそれよりも早く、アーチャーが再びトータスロックを発動させる。
今度は自身ではなく、アサシンの足元を占める水を石化させる為に。
アサシン自身が高い対魔力を持っていても、体の触れている水の石化は止められない。
動きを止めたアサシンが対応する前に銃撃で動きを封じ、3枚のカードをラウザーに連続で通すアーチャー。

『DROP』

『FIRE』

『GEMINI』


『BURNING DIVIDE』


447 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:15:51 Q9ot5zrQ0

絵柄が上空に浮かび、仮面ライダーギャレンの身体にアンデッドの神秘の力が憑依する。
高く飛び上がり、自分と瓜二つの分身体を生成しつつ空中で宙返り。
炎を纏うオーバーヘッドキックが二発、アサシンに叩き込まれた。
肩口から打ち込まれたアーチャーの持つ最大の奥義は、アサシンの霊核を完全に破壊する。
一言もなく消滅していくアサシンを睨みながら、アーチャーは変身を解いた。
廃工場を埋め尽くしていた水がどこへともなく引いていくのを確認し、バゼットが膝を付く。
結果として助かったが、サーヴァントとの信頼関係を築くのを放棄して軽挙に走った事は自分のミスだ、と自分を戒める。
だがそれよりも、目の前で行われたサーヴァント戦への衝撃と感動がバゼットの心を占めていた。

「……アーチャー、貴方、強かったんですね」

「俺は強くなんかない……俺にはまだ、聖杯戦争で何の為に戦うのか、戦うべきなのかもわからないんだ」

戦いの気配が去り、静寂が支配する廃工場に、勝者となった二人の声だけが響く。
アーチャーが力なく肩を落として歩き出すのにつられ、バゼットもその後を追う。
立ち止まったアーチャーの足元には、アサシンのマスターだった異形の肉塊が転がっていた。
無言で腰を下ろし、肉塊に手を突き入れるアーチャー。困惑するバゼットに構わず、肉と服の繊維が混ざった物を掻き分ける。
やがて、アーチャーが手を引き抜く。取り出したものは、アサシンのマスターが人間だった時の名残……なんと言うこともない、ポケットから抜き忘れたコンビニのレシートだった。

「……それでも俺は、英雄として喚ばれた。ならば戦うだけじゃなく、俺が納得する、戦う理由を探したい。こんな風に人が死ぬこの戦争の裏に、何があるのかを見極めたい」

「橘さん……」

アーチャーには未だ確たる決意がない。バゼットには未だ求める願いがない。
だが、二人の聖杯戦争は確実に進行していた。


448 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:17:22 Q9ot5zrQ0

【クラス】
アーチャー

【真名】
橘朔也@仮面ライダー剣

【ステータス】
・通常時
筋力D 耐久C 敏捷E 魔力D 幸運E 宝具D

・変身時
筋力C 耐久B 敏捷C 魔力C 幸運E 宝具D

・強化変身時
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運E 宝具D

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
融合係数:D
ラウズカードに封印された始祖生命体・アンデッドとの肉体・精神の適合度を示す。
プラスの感情によって上昇、マイナスの感情によって低下し、ラウズカードの効力・ライダーシステム着用時のステータスに密接に関係する。
低すぎれば変身すら出来なくなるが、高すぎても過剰にアンデッドとの繋がりが深まって精神に干渉されたり、最悪の場合は人間種を逸脱する道を歩む事となる。
アーチャーは決して高い融合係数は持たないが、それゆえに"実際の"悪影響は少ないともいえる。

迷い:A
拭いえぬ葛藤。アーチャーの起源でもあるこの感情は、過去への後悔、未来への恐怖として彼の心を縛る。
対人不信、暴走、逡巡による反応速度の低下、ファンブル率の上昇、甜言蜜語に騙されるなどのマイナス効果をもたらすが、慎重な戦略を立てる場合は時にプラスに働く。

騎乗:D
人類が作り上げた道具を乗りこなせる。

怒りの克服:A++
迷いを振り切る怒りや、たった一つ残されたものを守る願いにより発動するスキル。
激情により、『迷い』のマイナス効果を無効化する。
さらに幸運・宝具以外の全ステータスが1ランク、『融合係数』のスキルランクが2ランク上昇する。


449 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:17:54 Q9ot5zrQ0

【宝具】
「迷い燃える赤の金剛(ライダーシステムギャレン)」
ランク:D 種別:対人(自身)宝具 レンジ:1 最大捕捉:1

不死の始祖生命体・アンデッドの力を利用して戦う仮面の戦士への変身宝具。
変身ベルト・ギャレンバックルに◆Aのカードを装填する事でスタッグビートルアンデッドの外観をモチーフとした赤い鎧を纏い、遠近問わず流麗かつ颯爽と戦う。
ライダーシステムを持つ英霊に共通する要素として、4種のスートに別れたA〜K 13枚のラウズカード(プライムベスタ)を戦闘に用いる。
これらのカードには神代より存在するアンデッドそのものが封印されており、システムの宝具ランクを遥かに上回る神秘性を秘め持つ。
覚醒機であるラウザーに設定されたAPを消費することによりプライムベスタの効果を発動するため、自身の魔力を温存することも可能。
ラウズカード3枚までを同時に使用することで、APを多大に消費する代わりに強力な効果を持つコンボが発動する。
また、左腕のラウズアブゾーバーに◆Qのラウズカードを挿入して◆Jをラウズすることにより強化変身体・ジャックフォームへの進化を果たす。
ジャックフォーム時には超高速での飛翔戦闘が行えるため、戦術の幅も大きく広がるだろう。


【Weapon】
「醒銃ギャレンラウザー」
ギャレン専用の銃型覚醒機。初期APは5500→ジャックフォーム時7900。
ラウズカードを使用する用途以外に、通常の銃器としてもサーヴァントにダメージを与えるほどの威力を持つ。
本来は変身しなければ使用できないが、この銃のみを招来させれば変身前でも銃撃が可能となる。

「ラウズカード◆」
13枚のプライムベスタ。A以外はラウザーにカードスキャンすることで下記の効果が体に宿り、数枚組み合わせることで技の発動が行われる。
◆A=ギャレンへの変身。◆2=射撃の威力を強化。◆3=腕力を強化。◆4=射撃の連射速度を強化。◆5=脚力を強化。
◆6=炎属性の魔力を生成する。◆7 =任意の対象を石化させる。◆8=索敵能力の強化。◆9=分身体の生成。
◆10=Eランク相当の『変化』スキルを取得。◆J=APを2400チャージする。◆Q=APを2000チャージする。◆K=APを4000チャージする。

「レッドランバス」
ギャレン専用のスーパーバイク。動力に超小型の原子力エンジンを採用したこの機体の最高速度は380km/h。
さらにマイクロスーパーコンピュータが搭載されており、ギャレンの意思で無人走行が可能。


【人物背景】
人類基盤史研究所BOARDに所属する、若き戦士。 真面目で寡黙、冷徹な印象を与える容貌だが、他人の言動に左右されやすく、思い込みが激しい一面がある。
そのためか恐怖心によりプラシーボ効果で体に不調が出る、敵であるピーコックアンデッドに騙されて利用されたあげく洗脳されて仲間に襲い掛かるなどの醜態を晒してしまう。
しかし、転落寸前まで苦境に追い詰められた時にはそれらを帳消しにする程の大活躍を見せ、名誉挽回を果たす(失ったものは戻らないため、またすぐに悩み始める)。
問題は多々あれど正義感・友情・義侠心が極めて強く、目の前で起こる理不尽を絶対に許せないがために迷いの中で戦い続けることしかできない、しかしそれゆえに強い人間といえるだろう。

【サーヴァントとしての願い】
戦う理由を見つけ、マスターを守る。

【方針】
専守防衛。


450 : 銃火の先の英雄 ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:18:47 Q9ot5zrQ0


【マスター】
バゼット・フラガ・マクレミッツ@Fate/hollow ataraxia

【令呪の位置】
右腕

【マスターとしての願い】
聖杯を入手し、魔術協会に持ち帰る。

【Weapon】
『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』

フラガの家が現在まで伝えた神代の魔剣であり、数少ない「宝具の現物」。「後より出て先に断つ者(アンサラー)」、「逆光剣」という二つ名を持つ、カウンターに特化した迎撃宝具。
「対峙した敵が切り札を使う事」を条件に発動、自らの光弾による攻撃を「敵の切り札より先に成したもの」とする、『因果を歪ませて彼我の攻撃順序を入れ替える』付属効果による「時を逆光する一撃」を放つ。
未使用時は鉛色の球体水晶で、起動準備に入るとバゼットの背後に帯電しながら浮遊。「後より出て先に断つ者(アンサラー)」の詠唱と「対峙した敵が切り札を使う事」で球体から光の刀身が現れ、
フラガラックの真名とバゼットの拳の動きと共に刀身から光弾が高速でレーザーのごとく射出される。攻撃が完遂された場合は小石程度の大きさの傷しか作らないが、
急所を貫通させれば致命傷となる(相手を貫通してる最中にバゼットが攻撃を受けてフラガラック本体が跳ね上がった場合は、光弾の起動も変わりフラガラックの傷も大きくなる)。
射出後は球体からは鉛の色が失われ使えなくなる一発ごとの使い捨て。
その特性上先制は常に敵側で、この宝具が先に撃たれるという事はあり得ない。しかし、相手の発動より明らかに遅れて発動しながらも、絶対に相手の攻撃よりも先にヒットする。
ほんの僅かでも敵の攻撃より先に命中した瞬間に順序を入れ替え、敵を敵の切り札の発動前に倒したことにし「先に倒された者に、反撃の機会はない」という事実を誇張することで、
結果的に敵の攻撃は『起き得ない事』となり逆行するように消滅する。
相手の攻撃で自分も死ぬ相討ち前提の必殺を一方的な攻撃へと変える「時間を武器にした、相討無効の神のトリック」「両者相討つという運命をこそ両断する、必勝の魔剣」と称され、
切り札の打ち合いならば最強の一つ。天敵と言えるのは複数の命を持つモノや、自動的な蘇生などの“死してなお甦るモノ”(例:「十二の試練」)。
また、その特性上、相手の攻撃が「発動した時点で術者の生死に関係なく命中が確定している」タイプ(例:「刺し穿つ死棘の槍」)だった場合、相手の攻撃をキャンセルすることはできない。
宝具の打ち合いにおいては基本的に無敵だが、この宝具の使用者には相手が切り札を使わざるを得ない状況にまで独力で追い込むだけの技量が求められる。
切り札に反応して全自動で迎撃を行ってくれるわけでもないので、至近距離で使用された宝具を迎撃するための格闘技術なども状況や場合によっては必要となる。
また、この宝具の特性を知られた場合、そもそも相手が切り札を使わないという戦術を取る可能性もある。

【能力・技能】
戦闘特化の武闘派魔術師。ルーン魔術を修めており、細かい魔術は苦手だが、魔術師としての腕前はA+と評される。
素手での戦闘を好み、硬化のルーンを刻んだ手袋をはめ、時速80kmの拳を繰り出す(プロボクサーが時速40km)。
彼女にマウントポジションを取られて殴られた場合、大抵のマスターは死ぬだろう。

【人物背景】
アイルランドの寒村出身。「伝承保菌者(ゴッズホルダー)」という、神代からの魔術特性を現代まで伝えきったルーンの大家の末裔。
神々に仕え神代の秘技や宝を多く受け継いできた。ただし、家は歴史ある名門ではあっても、長らく他との接触を断ってきたため、権威はあっても権力はない。
15歳で家門を継いだ彼女の代で、親族の反対を押し切って初めて魔術協会の門を叩く。しかし、権威があるにも関わらず生真面目でどの派閥にも属さない彼女は
貴族達には非常に扱い難い存在であり、待っていたのは封印指定の執行者という、態のいい便利屋として利用される道だった。
そんな扱いにもめげず毎日頑張っていたが、ある日古馴染みの神父から聖杯の情報を提供され、協会に報告し派遣任務として鎌倉での聖杯戦争に挑む。
性格は融通の利かない堅物。クールを決めているものの、実は短気でちょっとした我慢ができない。
行動はアグレッシブで過激だが、内面はもの凄く後ろ向き。人生経験があまりに偏っていることから出会った男性に片っ端から惚れ込むほれっぽい一面も。
とはいえサーヴァントに衣食住を提供するのは主として当たり前、というような常識的な感性も持ってはいる。

【方針】
全てのマスターとサーヴァントを打倒し、聖杯を獲る。


451 : ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:20:11 Q9ot5zrQ0
続けて投下します


452 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:24:21 Q9ot5zrQ0

夜の街、そこは蝶と野獣が徘徊する淫靡な闇の領域。
ここ鎌倉にもそのエリアは存在し、毎夜数多の店が覇を競っていた。
そんなネオンの光さんざめく一角に、俺の勤める店……ホストクラブ『アーサー』はあった。
別に聞かれちゃいないが名乗っておくと、俺の源氏名は「ジュン」。
この店では古株でも新人でもなく、NO1でもヘルプ専でもないその他大勢のホストの一人だ。
だが少し前まではその他大勢ですらなく、その日の飯にも困る底辺ホストとしてヒーヒー言っていた。
そんな俺がこの店で一人立ちしてやっていけているのは、ある男の人……『アーサー』のNo1ホストのお陰と言えるだろう。

「ねー、ジュンくん。どうしたの? ボーっとしちゃって」

「ああ、ゴメンゴメン……君の事を考えてたらつい、ね。直接聞く勇気がなくて恥ずかしいよ」

「ふふ、嘘ばっかり」

イカンイカン、接客の途中だ。俺は気を取り直して、キャリアウーマンを気取る女の疲れを癒すべく、トークに専念する。
だがこの女客の意識だって、No1ホストのあの人に向いている。この店にいる者は、誰だってあの人に惹きつけられずにはいられないんだ。
自然と、会話はあの人の事に移る。ホストとしてどうかと思うが、その会話は楽しく心を弾ませた。

「ジュンくん、聖也っていつからここにいるの?」

「一週間も経ってないよ。何ヶ月もいるような気もするけどさ」

「じゃあ、あっという間にNo1になったんだ。……言っちゃ悪いけどさ、この店、聖也が来るまで地味ーだったもんね」

返す言葉もない。
あの人……聖也さんが来るまで、この『アーサー』は二流と三流の間をフラつく場末のホストクラブに過ぎなかった。
トップ争いをする『劉備』『義経』といったホストクラブに匹敵する店に成長したのは、聖也さんが店を根底から変えたから、なのだ。
店の内装から上客の調達に至るまで、あの人はオーナーからの絶対の信任を得てその辣腕を振るった。
最初は反発する者もいたが、聖也さんの施策が尽く功を奏し、店のランクが上がっていけばそういった声もなくなった。
なにより聖也さんのひた向きな姿勢に、ウダウダとホストをやっていた俺たちは心を打たれたのだ。

「……じゃあ、今日は帰るね。また指名するわ、ジュンくん」

「ありがとう。お仕事、頑張ってね」

女客が満足して帰っていく。
客商売だ、客が喜んでくれれば嬉しいのは当たり前。
惰性でホストをやっていた聖也さんと出会う前の俺は、そんなことすら忘れていた。
着替えて帰路につきながら、あの日のことを思い出す。


453 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:25:03 Q9ot5zrQ0




「あんだとを! 利息分も返せねえだぁ!?」

「グッ……」

ヤクザまがいのヤミ金融の事務所で、俺の顔面に借金取りの拳が突き刺さる。
売り掛けを作ってしまい、なんとか補填するために金策をつくした先に辿りついたのがこのトイチの金貸しだった。
必死で返済をしていたがいよいよ限界が来てしまい、営業中に拉致されて事務所に連れ込まれたのだ。

「そもそもホスト風情が大金を借りようなんてのが間違ってんだよ! 社会的信用のねえてめえらならどう扱っても問題はねぇからなぁ〜、覚悟しろよぉ」

「やめろ!やめろー!」

このままでは身体をバラバラにされて売られてしまう。
必死で抵抗する俺を押さえつける屈強な男たちの慣れた手付きに恐怖を覚える。
だが、事務所に乗り込んできた男が一人。
『アーサー』のNo1になったばかりの聖也さんが、俺の危機を聞いて駆けつけてくれたのだ。
とはいえ、聖也さんは単純に俺を救いにきたわけではなかった。

「何だてめえは! このガキのお友達か〜? 綺麗なツラしやがってェてめえもホストかッラァァァ!!!」

「その通り! 俺はアーサーのNo1……上条聖也!」

「あ、アンタ……なんでここに……」

「ジュン! ヤミ金に手を付けてた事へのお説教は後にするとして……顔に傷を付けられるとはホストとして失格だぞ」

「オイ! 勝手なマネをするんじゃねえよ、そいつの借金を肩代わりでもするってんなら話は別だが」


454 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:26:00 Q9ot5zrQ0

借金取りたちを押しのけ、俺を立たせる聖也さんの眼には厳しさがあった。
周りを取り囲む男たちに、俺に肩を貸しながら放った言葉は、今でも俺の脳裏に焼きついている。

「俺はこいつの借金を返すことはしない。だが、こいつが借金を返せる男だと証明することはできる!」

「ハァ? 何言ってんだテメェ」

「ジュン! 顔を洗え。お前がホストとして生きるつもりなら俺についてこい……」

「あ、ああ……」

「お前らも来るんだ、俺の言葉の意味を教えてやる!」

聖也さんは俺に身支度を整えさせ、借金取りたちを引き連れて夜の街に繰り出した。
そして、俺に一人の上客のキャッチを命じた。聖也さんの目利きによって見つけた女ではあったが、聖也さんとも面識がない真っ白な相手。
その女を陥落すことによって、俺にホストとして金を稼ぐ才能があると証明しようというのだ。
尻込みする俺だったが、ここで引いては男が廃る、それだけではなく俺を見込んでくれた聖也さんの顔にも泥を塗ることになる。

「ジュン、俺から言えることは二つ。俺のヘルプに付いた時の、俺のホストとしての立ち振る舞いを思い出せ」

「は、はい!」

「もう一つ! これはある男の受け売りで、お前に合いそうだから言うんだが……『女を幸せにする』、それがホストの仕事と思ってやってみろ!」

それからの一時間は、俺の人生の中でも最も力を振り絞った時間になった。
それからの一時間は、俺のホスト人生で最も金を稼いだ時間になった。
一瞬一瞬が、ホストとして、人間として新しい発見の連続だった。
俺が陥落(おと)した初めての上客は、今でも大事な客としてアーサーに来てくれている。
借金取りたちも引き下がり、返済の目処も立った。
大げさでなく、俺は聖也さんに命を救われたのさ。


455 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:26:54 Q9ot5zrQ0



そんな徒然ごとを考えながら夜道を歩いていた俺だったが、唐突に寒気を感じて立ち止まる。
いつもの帰り道で、街灯が途切れているから早上がりの日には真っ暗な場所なのだが、どこか妙な雰囲気だ。
自動販売機の電気が消えているし、人通りもまるでない。繁華街の端くれだというのに、こんなことがあり得るのだろうか。
懐からスマホを取り出し、光源にして前に進む。別にここを通らなくても家には帰れるのだが、何故かその気にはなれなかった。
ゆっくりと歩いていると、前方に人影が見えた。妙な圧迫感から解放され、息を吐き出しながら骸骨とすれ違う。

「―――骸骨?」

「ギィィィィ」

まさか、と振り向けば、血肉が僅かに付着している模型とは明らかに違う骸骨が、ぎこちなくこちらに向き直っている最中だった。
あまりに現実味のない光景に、パニックすら起きず思考がフリーズする。
だがそれも、骸骨が歪な形の剣を持っていることに気付くまでの一瞬の硬直だ。骨で作られていると思しきその凶器。
地面に引きずっていたそれを、ぐい、と振りかざして骸骨はこちらに走ってくる。

「う、うわあああっ!」

脱兎のごとく逃げ出す俺だったが、肉がない分骸骨の方が足が速い。あっという間に追いつかれ、骨だけとは思えない力で腕を掴まれてしまう。
骸骨は、何がなんだか分からず怯える俺をあざ笑うかのようにカラカラと顎の骨を鳴らし、剣を振り下ろした。
頭部を狙ったその剣閃に、すくんでいた筈の俺の身体が反応した。
―――顔は、ホストの命。聖也さんの言葉がフラッシュバックし、両手を組み合わせて盾のように突き出す。
斬れ味鈍い武骨な剣が両腕を切り裂く。激痛で転げ回る俺に、ますます全身の骨を震わせて嗤う骸骨が歩み寄ってくる。
もう駄目だ、殺される……最近の鎌倉にはキナ臭い話が多かったのだが、まさかこんなことが起こるとは。
足だけで後退り、骸骨から離れようとするが無意味。もう、顔を守ることすらできない。
だがその直後、もっとも頼りになる人の声が聞こえた。

「ジュンーーーーーッ!!」

「!? 聖也さんッ!」


456 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:27:23 Q9ot5zrQ0

「ウオオオオオオーーーーーッッ!!!」


疾走そのままの勢いで、聖也さんの拳が骸骨を殴り飛ばす。
倒れこそしなかったが、壁まで吹き飛ばされて動きを鈍らせた骸骨を見遣りながら、聖也さんが俺を抱き起こした。

「ジュン。すぐに病院に連れて行ってやるから少し待っていろ」

「っ駄目です聖也さん! 俺なんかに構わず逃げてください!」

俺の心配に構わず、聖也さんはなんと骸骨に向かって走り出した。
いくら身体を鍛えている聖也さんでも、あんなバケモノに勝てるわけがない、俺は悲痛な叫びを上げそうになり―――目を疑った。
聖也さんが骸骨に殴りかかる前に、聖也さんと骸骨の間に一本の槍が出現した。
槍というよりは、ハルバード……戦斧のようにも見えるそれは、宙に浮かんでいると戦艦を彷彿とさせるほどの重量感を感じさせた。
夜の闇を裂くように槍が一閃し、骸骨を粉々に打ち砕く。骨の破片は一瞬で灰化し、跡形もなく消えていく。
頭部の骨だけが残り、カラカラと顎の骨を鳴らす。よくよく見れば、なにやら梵字のような物が書かれていた。

「これは一体……」

「行くぞ」

言葉少なに俺を抱え起こす聖也さんの目には、あの日のような厳しさ、そして断固たる決意が溢れていた。


457 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:28:07 Q9ot5zrQ0




翌朝。
幸い、軽い応急処置だけで家に帰れた俺に、オーナーから連絡があった。
どうやら聖也さんから、従業員全てに招集がかかったらしい。いつも誰よりも早く店に来ている聖也さんだが、こんなことは初めてだ。
昨日、病院に俺を送り届けた時に聖也さんは「いずれ説明する」と言っていた。
もしかしたら、昨日の不可解な出来事の話かもしれない。
俺は手早くスーツに着替えて、店に足を運んだ。
先輩も後輩も、ホストたちは既に集合しており、仲のいい奴が駆け寄ってくる。

「遅いぞ、ジュン……なんだ、怪我してんじゃねえか」

「口は動くし、大した怪我じゃねえ。ところで、聖也さんは?」

「あっちでオーナーと話してる。全員集めるなんて只事じゃねえよな……」

間もなく、聖也さんが全員の前に姿を現した。
ホスト一人一人の名を呼び、全員来ていることを確認する。
一息つき、聖也さんが立ち並ぶホストたちの中心、テーブルの上に何かを放り投げた。
昨日俺を襲った、バケモノの頭蓋骨。ホストたちに動揺が走る。

「う、うおっ! なんすかコレ、聖也さん!?」

「スッゲ! これ勝手に動いてんぞ!」

「今日お前らを集めたのは、言っておかなきゃいけないことがあるからだ。その骸骨と……ジュンの怪我に関係ある話だ」

全員の目が俺に集まる。俺は何も言わず、聖也さんの話が終わるのを待つ。
聖也さんが語る、昨日俺たちが体験した奇怪な事件を、最初は皆半笑いで聞いていた。
だが、真面目な顔で語るNo1ホストの有無を言わさぬ口調と、実際に何の仕掛けもなく動く骸骨を見て、ホストたちは神妙な表情になっていく。
夜の街で働く男たちだ、俺ほど明確なものでなくとも、最近の鎌倉にどこかおかしな点を見出していたのかもしれない。
全員が信じた、と確認した聖也さんは、続けて衝撃的な事実を明かす。


458 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:28:51 Q9ot5zrQ0

「感づいている奴もいるだろうが……鎌倉に、この手の怪談めいた噂が広がり始めた、つまり外から"何か"がやって来てよからぬ事を始めたのと、俺が鎌倉に来た時期は一致する」

「ど、どういうことッスか、聖也さん!」

「黙って聞いてろマサ! 聖也さん……続けてください」

ホストにも色々いて、学歴に関係なく頭の回転の速い奴や、中には元探偵なんてのまでいる。
そういうインテリホスト連中は薄々聖也さんの言いたいことに気付いているらしかった。当事者である俺も、なんとか理解する。

「骸骨の怪物を使ってジュンを襲わせた奴と俺は、言ってみれば同じ穴のムジナだ。俺達はこの鎌倉で、聖杯戦争という戦いをやっている」

「せ、聖杯戦争……?」

「そんな! 聖也さんにとって『アーサー』よりその戦いの方が大事なんですか!? その為にこの街に来たっていうのかよ!」

「……」

ホストたちの反応を見ながら、聖也さんは押し黙っていた。
ざわざわと動揺と驚きが広がり、やがてそれが不信に変わろうとする瞬間、俺は我慢できずに聖也さんの前に飛び出した。
ホストたちに対面し、腕の包帯をほどいて傷を見せ付ける。

「馬鹿野郎! 聖也さんはホストだ! それもNo1のホストだぜ! なんとかって戦争やってるからって、俺をこんな目に合わせた連中と同じわけねえだろうが!
 聖也さんにどんな秘密があったって、俺達は聖也さんに救われた者同士じゃねえのか……聖也さんを信じられねえのかよ!」

「やめろ、ジュン。言い訳はしないし、する必要もない。こうなった以上、お前たちと一緒に仕事をするわけにはいかない。俺は店を辞める……お前らも、しばらくこの街を離れたほうがいい」

聖也さんは踵を返し、立ち去ろうとする。その目はいつもの自信に溢れたNo1ホストの物ではなく、独り、難事に向かう男のそれだった。
その後姿に、聖也さんの人となりを短いながらも間近で見ていたホストたちはその真意を察する。
この人は、俺達を巻き込みたくないのだ。きっとその戦争にだって、否応なしに巻き込まれたに決まってる。
俺は、俺たちは確かに褒められた人間じゃない。だけど……ここで聖也さんを放り出すほど賢くも、薄情でもなかった。
ホストたち全員が『アーサー』の入り口に駆け寄り、聖也さんを押し留める。


459 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:29:23 Q9ot5zrQ0

「聖也さん! 行かないでください! 俺達、聖也さんとホストやってて初めて本当にホストになれたっていうか……とにかく、聖也さんと一緒にまだまだ仕事がしたいんです!」

「聖杯戦争ってのは良く分からないけど……鎌倉で何かやってる奴らがいて、そいつらがジュンに怪我をさせたってんならきっと、他の人にも迷惑かけてるんですよね!?」

「鎌倉は俺たちの街だ、聖也さんの街だ! 他所から来た悪党に好き勝手やられるなんて許せねえ!」

「俺達で出来る事ならなんでもやります! 聖也さんも俺たちを信じてくださいよ!」

「お前達……」

「聖也、そいつらの言うとおりだ……店の仲間を思うお前の気持ちは分かる。だがお前はホストだ。ならば、その聖杯戦争にもホストの力を使うのが常道!」

店の奥からオーナーが姿を現し、聖也さんを諭す。口ぶりからすると、より詳しい話を聞いているようだ。
聖也さんは目を閉じ、数秒だけ沈黙する。
そして再び目を開けたとき、その目は『アーサー』のNo1ホスト、鎌倉の夜王たる威厳の光を放っていた。

「お前達の命は、俺が預かった……いや、鎌倉の街! 俺が聖杯戦争を終わらせて、その全てに平安をもたらそう!」

「オウッッッッッ!!!!! 俺達も、聖也さんの勝利の為に頑張ります!!!!!!」

ホスト達の声が一丸となって、『アーサー』に響く。
そう、聖也さんにどんな裏があっても変わらない物はある。
鎌倉を愛する、聖也さんと俺達の心。それだけは、確かなものなんだ。


460 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:30:31 Q9ot5zrQ0




ホスト達と別れ、上条聖也は店の裏で白馬に跨って空を見上げていた。
どこからともなく声が響き、壮年の男が姿を現す。
男は、ランサーのサーヴァント。一昨日、聖也が召喚した英霊の写し身。

「なかなか、気持ちのいい連中じゃないか、マスター」

「ああ、言ったとおりだろう、ロイエンタール」

忌憚なくランサーの真名を呼ぶ聖也を、サーヴァントは特に咎めない。
誰も聞いていていない事が前提ではあるが、真名を呼ばれて不快に感じない程度には、ランサーは己のマスターを気に入っていた。
オスカー・フォン・ロイエンタール。
無数に存在する英霊の中でも、遥か未来にその勇名を残す、銀河を駆ける英傑にして叛逆の英雄。
両者共にかって母親から拒絶されたと信じ、片やその愛の欠如を埋める為に惑い続け、片やその愛の欠如を埋めるために女を憎悪した二人。
同属嫌悪と生き方の違いが混ざり合い、反目してもおかしくないものだが、意外な程にランサーと聖也は噛み合った主従となっていた。

「ホストなど、男娼まがいの女衒のクズだと思っていたが……聖杯の知識もアテにならんものだ」

「そんな曖昧なものが叶える願いを追い求めるなど、馬鹿らしくもあるな。それが戦争を起こすとなれば、もはや悪い冗談ですらない」

ホストの一人……ジュンが指摘したように、聖也は鎌倉に来た時点では魔術闘争に参加する気など微塵もなかった。
突然令呪が現れ、聖杯の導きにより戦いを強制されたのだ。
ランサーは悪戯っぽく口を歪め、聖也に進言する。

「フ、冗談か。ならばそんなものに付き合う必要もないのではないか? 俺を令呪で自害させればお前は聖杯戦争からは解放される」

「俺の辞書には『不可能』の文字はあるかもしれんが、『逃げ』という文字はない! 立ちはだかる脅威には戦いをもって挑む事こそ、夜王を目指す俺の生き方だ!」

ランサーが、感心して両手を叩く。このマスターを、この気難しい英霊が認める理由は、この揺るがない覇気という一点に尽きる。
かって、主君と戦う状況に追い込まれて初めて自覚した己の魂の燃やし方を、ランサーのマスターは生前にして知り得ていた。
ならば、その炎を絶やさぬ事こそ、臣としての己の役目。それを果たすことが、己の願いへの最短経路にもなるだろう。
ランサーはそう考えて、マスターと同じ白んだ空を見上げる。
鎌倉というこの街で、この街だからこそ出来る戦いがある。
王を目指す者と、逆臣の汚名をこれから被る未来の英霊。
二人の目は、空に浮かぶ月に吸い寄せられていた。


461 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:32:01 Q9ot5zrQ0

【クラス】
ランサー

【真名】
オスカー・フォン・ロイエンタール@銀河英雄伝説

【ステータス】
筋力B+ 耐久C 敏捷B+ 魔力B 幸運E 宝具A++

【属性】
混沌・善

【クラス別スキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
銀河英雄:A+
宇宙という戦場を駆け、大規模な戦闘を幾度も潜り抜けた英霊が持つスキル。
銃砲。戦車軍艦。大量破壊兵器。―――座に招かれる英雄の多くが誇る、後世に語り継がれる個人の武力とは無縁なそれらが極限まで発展し、戦場に蔓延した未来であっても。
戦場を星の外にまで広げた人類種の中からも、英雄英傑は生まれるという証明であり、人類史と地球史に対する『全ての英霊の肯定』。

指揮:A
多数の兵力を己の手足のように扱い、戦場にて勝利を得る軍事的才能。
「軍人」または「機械」の属性を持つサーヴァントと共闘する時、対象の全ステータスを1ランク上昇させる。

金銀妖瞳:B-
ヘテロクロミア。黒と青の瞳を持つランサーは、その眉目秀麗さも相まって対峙した女性に強い恋愛感情を与えてしまう。
対魔力スキルで回避可能。対魔力を持っていなくても抵抗する意思を持っていれば、ある程度軽減することが出来る。
心底に強い女性不信を持つ為、自分の意思で誘惑を止めることが可能。

革変の臣:A++
革命者と呼ばれる君主に仕えた英霊が持つスキル。
歴史上初の全人類統一専制政体である銀河帝国を滅亡させて宇宙を支配したラインハルト・フォン・ローエングラムに、元帥として仕えたランサーは高ランクで所有する。
自己の属性が混沌に固定され、秩序の属性を持つサーヴァントと対峙した時、相手が持つA++ランクまでのスキルをランダムに一つ無効化することがある。


462 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:32:40 Q9ot5zrQ0

【宝具】
「悲しみの子よ、失意に眠れ(アッキヌフォート・トリスタン)」
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜5(真名開放時は30まで拡大) 最大捕捉:3

外見は身の丈程の戦斧で、本来は一般に量産された白兵戦用武器でしかないが、銀河を巡り数多の武勲を立てたランサーの逸話から星々に磨き上げられた神造宝具としての特性を持つ。
ランサーが艦隊旗艦として乗艦したトリスタンの名を冠し、戦艦としての性能と語源の伝承から、戦艦そのものといえる質量と、真名開放時には必中の砲弾を槍先から放つ「無駄なしの弓」としての効果を発揮する。

「銀河奪いし我が獅子帝(マイン・カイザー)」
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:0〜1 最大捕捉:1

獅子帝ラインハルトに仕え、元帥杖を持つまでに至った13人の英霊が共通して持つ概念宝具。
叛逆の臣に仕立て上げられようと、奸臣として後世に詰られようと、死して別れようとも決して消えることのない、獅子帝に捧げられた忠誠と敬服の感情が宝具化したもの。
13人の元帥の持つ逸話をスキル、または能力値の向上等の恩恵として任意で選択し、取得することが出来る(20ターンで消失し、再使用には再び魔力消費が必要)。
A+++ランク(該当1名)ならば13の恩恵全て、A++ランク(該当2名)ならば3つの恩恵、A+ランク(該当9名)ならば2つの恩恵、Aランク(該当1名)ならば1つの恩恵を同時に得る事が可能。
恩恵は以下の13種。中には人気が極めて低く、強力な恩恵にもかかわらず過去一度も使われていない物(具体的には4)もある。

1.ラインハルトのカリスマスキル(A)を代行して取得。2.敏捷値の倍加。3.単独行動(B)を取得。4.対英雄(D)を取得。5.追い込みの美学(C)を取得。6.地上に足を付けている間、防諜戦に有利な補正を得る。
7.筋力値の倍加。8.戦闘続行(B)を取得。9.芸術審美(B)を取得。10.勇猛(C)を取得。11.他者を守って逃がす時、対象の逃走を必ず成功させる。12.貧者の見識(C)を取得。13.仕切り直し(C)を取得。

【人物背景】

新生銀河帝国・ローエングラム王朝における最も抜きん出た実力を持つ家臣の一人であり、最初の叛逆者。
帝国暦458年、下級貴族の父親とマールバッハ伯爵家の3女レオノラとの間に生まれた。
両眼の色の違う「ヘテロクロミア」だったため、浮気を疑われることを恐れたレオノラによって片眼を抉られそうになる。
その後まもなくして母親が自殺し、息子を逆恨みした父親から「お前は生まれてくるべきではなかった」と育児を半ば放棄される。
16歳で士官学校に入学。任官後数々の功績を挙げるが、母親に対するトラウマから根強い女性不信を持ち、その克服の為に多数の女性と交際しては捨てることを繰り返す。
しかしトラウマは払拭できず、嫉妬に駆られた同姓からの私的決闘を受けて降格。そのため、後に知り合った一年後輩のミッターマイヤーと同階級となり、戦闘上のパートナーとして共に昇進していく。
ローエングラム陣営への参加は、門閥貴族に謀殺されそうになったミッターマイヤー救出のため、ラインハルトに助力を求めた事がきっかけ。
それ以来ラインハルトに忠誠を誓い、第4次ティアマト会戦(及びその前哨戦の惑星レグニッツァ上空の戦い)を初め、様々な武勲を立てていく。
その後、帝国軍上層部の思惑と門閥貴族の策謀により同487年初頭のアスターテ会戦には参加出来なかったが、
同会戦で元帥に昇進したラインハルトに再び呼集され、中将・艦隊司令官として元帥府に登用される。
新帝国暦1年、ローエングラム王朝成立時に元帥に昇進。統帥本部総長に任じられる。翌年、第2次ラグナロック作戦で同盟が消滅して帝国新領土となり、
これと前後して、ロイエンタールに恨みを抱いたハイドリッヒ・ラングの策謀で叛逆の疑いありとして一時拘束されたが、ラインハルトとの友誼が失われる事は無かった。
回廊の戦い後に新領土の総督に任じられる。だがその後、地球教の策謀がきっかけとなり叛乱を起こさざるを得ない状況に追い込まれる。
叛逆を起こしてからは覇気と高揚が高まり、ラインハルトに礼を失せぬよう全力で立ち向かうが、その途中で部下の裏切りが発生、死に至る負傷をしたが治療を拒み、ハイネセンに戻った。
新帝国歴2年12月16日、新領土総督府オフィスにて死去。主君、ラインハルトとの決戦を果たせず、友、ミッターマイヤーに自分の人生の幕を下ろさせるささやかな願いすら叶わなかった。


【サーヴァントとしての願い】
我が皇帝と、今度こそ一点の曇りもない覇道の競い合いを。

【方針】
鎌倉の夜の部分から他のマスターとサーヴァントの情報を集める。


463 : ホスト-夜の王- ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:33:39 Q9ot5zrQ0

【マスター】
上条聖也@夜王

【令呪の位置】
背中

【マスターとしての願い】
ホストクラブ「アーサー」と鎌倉を聖杯戦争から守り、鎌倉の夜王になる。

【Weapon】
「甲冑・騎馬」
ホストクラブ「スコーピオン」大阪店のオープン時、レセプションパーティーにて装着・乗馬した鎧と白馬。
「アーサー」のNo1としての人脈と力で調達し、聖杯戦争用に店の裏に隠している。

【能力・技能】
「格闘術」
No1を目指す男として肉体を鍛え上げ、ただのチンピラなら何人かかってこようと撥ね退ける暴を持つ。

【人物背景】
新宿歌舞伎町で五指に入るホストクラブ、「ロミオ」のNo.1ホストであり、「歌舞伎町四天王」の一人。ロミオに所属するホストのほぼ全てが聖也派という絶対的な存在。
かって母親に捨てられたことから女という存在を恨んで恨んで恨み抜き、女を利用し踏み台にするホストという職業を自分の天職と呼んで憚らない傲慢な性格だったが、
的場遼介という新人ホストと出会い、競い合った事で彼の「ホストとは女性を笑顔にする職業」という信念に触れるも己の憎しみを捨てられず、ロミオのNo1をかけた戦いに挑む。
勝負自体には築き上げてきたホストとしての人脈と手練手管により勝利するが、ヤクザの大親分の娘を利用した事で決着直後に拉致されてしまう。
そこで恨んでいた母親の真意を知り、自分の窮地に駆けつけて口先だけの男でないことを証明した遼介に心を動かされ、女性への憎しみと決別し、新たにホストとして再スタートした。
母の故郷でもある博多で新人から出直す。その3ヶ月後、博多を訪れた遼介に再会して互いに志を確認し合い、ホストとして行き詰っていた彼を再起させる。
これまでの努力と才能を買われて、ホストクラブ「スコーピオン」2号店の店長を任されたあとはメキメキと頭角を現し、瞬く間に「博多の夜王」と呼ばれるようになる。
オーナーから経営の実権を委ねられてからは店長兼いちホストとして九州・四国・広島・神戸と次々に「スコーピオングループ」を成功させ、次の制覇地である大阪にて遼介と三度の再会を果たす。
一見優男風のナルシストに見えるが、一夜を共にした女性が誇りに思うほどに日々肉体を鍛えている。
聖也派ホスト達のお客に対する接客を逐一注意するなど面倒見がよく、新天地の博多でも母の援助を蹴りスコーピオンで新人から出直し、
店内全体に客が喜ぶ工夫をしたり、身銭でキャバクラでキャバ嬢のキャッチに行って客足を増やすなど日々の努力を惜しまず実力で勝ち取ろうとする努力家である。
遼介の影響か、いかなる女性客にも平等で最高のサービスを心がけるなど、かっての傲慢さはなりを潜め、完全なる夜の影(ホスト)として夜の街に君臨する。

【方針】
鎌倉の夜の部分から他のマスターとサーヴァントの情報を集める。
鎌倉のホストクラブ『アーサー』の天井裏に、オーナーの許可を取って住み込んでいる。


464 : ◆2XEqsKa.CM :2015/07/26(日) 04:34:08 Q9ot5zrQ0
以上で投下終了です


465 : ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:34:55 JeDbLhQM0
投下します


466 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:36:10 JeDbLhQM0


――ピピピピ、ピピピピ……

「…んが」

いつまでも聞き慣れない電子音で深い眠りから目を覚ます。
バン、とやや荒っぽく目覚まし時計のアラームを止め寝ぼけ眼をこすりながら起床した。
眠気を覚ますために両手でパンパンと頬を叩いて気合いを入れた。

「うっし、今日も一日頑張るぞ!」

着替えを済ませ与えられた寝室を出て階段を降り、この家の家主である老夫婦に挨拶をした。

「おはようございます!」
「おお、起きたのかねウェイブ君。ちょうど朝食の準備をしていたところだよ」
「じゃあ手伝いますよ。いつもただ飯食わせてもらってますから」
「すまないねえ」

青年、ウェイブは突然鎌倉という聞いたこともない都市に放り出され路頭に迷っていたところこの家の老夫婦の厚意で居候させてもらっていた。
彼らは身元も証明できないウェイブを何も聞かずに泊めてくれていた。
その恩に少しでも報いるために魚屋を営む夫婦を手伝うことにしていた。もっとも今日は定休日だが。
幸いウェイブは炊事や魚の扱いに長けていたので初日以外は足を引っ張ることもなかった。

「「「いただきます」」」

三人で魚料理を中心にした朝食を食べる。
いつもながら心を穏やかにしてくれる味だ、とウェイブは頬を緩ませる。
二人には息子がいるらしいが婿入りして以来すっかり家に顔を出さなくなってしまったらしい。
そのためかウェイブに対して息子のように接してくれている。

「ごちそうさまでした。…じゃあ俺そろそろ行ってきます」
「また出かけるのかい、ウェイブ君?最近は色々騒がしいから十分用心するんだよ」
「わかってますって」

だからこそ行かなくちゃならないんだ、とは口にしなかった。
帝具の発動に使う剣の入ったキャディーバッグを担いで街へと出かけた。




     ▼  ▲




ここは日本という国の鎌倉という都市らしい。
帝国とは政治形態が根本的に異なり市民から選挙という行事で選ばれた者が代表して政治を取り仕切るのだという。
気候は穏やかで治安も極めて良く、危険種といえるだけの危険な動植物も全くと言っていいほど存在しない。
ほぼ全ての人間が十分な期間勉学に励むことを許され誰もが食うに不自由することのない、楽園としか思えない理想郷だ。


467 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:36:52 JeDbLhQM0

「ラン、お前が作ろうとした国ってきっとこういうところなんだな」

ウェイブはここ数日図書館や本屋に通い異世界にあたる日本の様々な知識を吸収していた。
聖杯から与えられた知識を鵜呑みにするのは危険すぎたし、この目で確かめなければ信じられないものが多すぎた。

ただ街を歩くだけでも人々が心底からこの平和を享受しているのが見受けられた。
帝都や帝国の領土を出たからこそわかる。彼らが感じているほどの安息は帝国のどこにもない。
軍人である自分は本当に市民の安全と笑顔を守れていたのか?そもそも、守るべきものをどこかで間違えているのでは――――――

「って今考えるのはそこじゃねえだろ」

何か致命的なことに気づきそうになった自分の心に慌てて蓋をし、意識を切り替える。
今差し迫って重大なことは他にある。

「聖杯戦争、願いを叶えるためにマスターたちがサーヴァントを召喚してこの街で殺し合うゲーム、か……」

何て悪趣味な催し物だ、と心中でのみ吐き捨てる。
人間なら誰しもが大なり小なり叶わない願いというものを持って生きているものだ。
そういった願い、欲望を刺激し殺し合いを煽るなど悪質にも程がある。
しかし感情面を抜きにして考えると聖杯がなければ元の世界に帰れない可能性が高いのも間違いないだろう。
だからこそ大まかな行動方針こそ決まっているものの最終的に優勝を目指すか否か、まだ決めかねている。

「けど俺のサーヴァントっていつになったら現れるんだ?
大体一週間ぐらいこっちで過ごしてるけど影も形も見えやしねえ……」

右手に宿った令呪がはっきり色づいているので自分がマスターに選ばれていることは間違いない。
しかしどうすればサーヴァントを呼べるのか?全く見当もつかない。

「ま、サーヴァントがいようがいまいが俺がやるべきことは変わらないけどな」

キャディーバッグを握る手に力を込める。
武器の持ち歩きさえ法で規制されるほど平和なこの都市の民が聖杯戦争という殺し合いが生む災厄から身を守れるとは思えない。
ならば力を持つ軍人である自分がマスター以上に理不尽な状況に立たされている市民を守らなければならない。
帝国のためになる行いでないことは自覚しているが見て見ぬふりをすることはできない。


468 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:37:26 JeDbLhQM0




     ▼  ▲




午後四時を過ぎ、少しづつ陽も落ちてきた。
外で昼食を摂ってから人気の少ないエリアを巡回して回っているが今日も空振りに終わるだろうか。
家へ帰ろうと踵を返す直前、遠くから人の悲鳴らしき声が聞こえた。
それだけではない、離れていてもわかるほどの強い殺気を感じる。ただの人間に出せるレベルでは決してない。

「ようやく出てきたってわけか」

周りに人がいないことを確認しバッグから相棒たる剣を取り出した。
これこそは帝具。帝国の始皇帝が国の繁栄を願って作らせた千年の歴史ある至高の武具の一つ。
迷うことなく剣を地に突き立て裂帛の気合いを込めてその名を呼ぶ。

「グランシャリオオオオオオオオッ!!」

呼び声に呼応して地面から現れたのは黒い鎧。
鎧は意思を持つかのようにウェイブの全身を覆い彼の姿を変えていく。
修羅化身・グランシャリオ。超級危険種の素材と多数の鉱石から作られた鎧型の帝具。
纏った者に絶大な力と鉄壁の防御力を与えるこの帝具があればサーヴァントとも戦えるとウェイブは確信していた。
人間には到底不可能なほど高く跳躍し悲鳴のした場所へと急いだ。




     ▼  ▲




「ひっ、助けて…お願い!お願いだから!!」

セイバーは腰を抜かし命乞いをする女性に剣を突きつけながら自己嫌悪に襲われていた。
敵サーヴァントとの交戦の最中、あと一歩で勝利できるというところで一般人に目撃されてしまったのだ。
彼のマスターは結界の構築が甘かった自身の責任を棚に上げて目撃者を消すよう命じた。
無力な民草を見られたからという理由だけで手に掛ける。これで英霊とは笑い話もいいところだ。
だが結局のところマスターを止めなかった時点でセイバーもまた同類でしかない。
聖杯を得るためならば殺戮者の謗りを受けることさえ受け入れねばならない。

「許しは請わない。どうか来世で幸せになってくれ」
「あっ………」

そして剣は振り下ろされた。
剣の英霊に祀り上げられた者の一太刀なら苦しまずに逝かせることができるだろう。
セイバーにとってそれだけが女性にかけてやれる慈悲だった。


469 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:38:03 JeDbLhQM0



「させねえよ、糞野郎」



だが、剣は結果として女性を切り裂くことはなかった。
全身を黒い鎧で覆った男―――ウェイブが寸でのところでセイバーの剣を食い止めた。
セイバーは目を見張った。全力でこそなかったが自らの剣をこうも容易く受け止める技量と鎧の頑強さに。
両腕を交差して剣を止めた姿勢のままウェイブは背後にいる女性に叫んだ。

「おい、早く逃げろ!!こいつは俺が食い止める!」

女性は恐怖に駆られ混乱しながらも一目散にその場を走り去っていった。
良かった。腰を抜かしてその場に留まられることさえ有り得ただけに自力で逃げてくれただけでも御の字だ。

(―――こいつは、ヤバい)

何故なら自分ではこのサーヴァントに対抗するのは難しいことが一度武器をぶつけ合っただけで理解できたからだ。
そこらの帝具使いなど純粋な技量のみで斬り伏せられるであろうほどの実力者だ。
生存本能が警鐘を鳴らしている。受け身に回れば即座に殺される、活路を拓くには一気呵成に攻め立てる以外にはない――――――!



「うおおおおおおおおぉぉぉっ!!!」

グランシャリオを纏ったウェイブの猛攻は危険種でさえも瞬時に粉微塵に変貌させるほどに苛烈極まるものだった。
あるいは戦闘力に優れないサーヴァントならば鎧に付与された神秘性もあって討ち取ることすら可能であったかもしれない。
その意味でウェイブはこの上なく不運であった。
ここにいるのはサーヴァントの中でも最優の名を冠し且つ最も白兵戦に優れるセイバーだ。
ウェイブの繰り出す拳打や蹴撃を的確に手にした剣で弾き逸らし、反撃を叩きこんでいく。

(惜しいことだ)

セイバーからすればウェイブは一息で殺せるほどの弱敵ではないが油断せず堅実に戦う限り勝利以外の結末は有り得ない、そんな程度の難敵であった。
今でも常人を基準とすれば十分に完成された戦闘技術を持っているが「究極の一」と呼べるほど極められてはいない。
もし彼が生涯をかけて持てる力を磨き続ければセイバーの全力にも匹敵する使い手になれたに違いない。
若き才をここで摘み取らなければならないのは武人として些か心苦しくはある。
されどこの身はサーヴァント。主のためにも脅威の芽はここで断ち切るしかない。

(くそ、強え…これがサーヴァント、英霊とまで呼ばれる奴らの実力かよ…!)

一方でウェイブも自身とセイバーの間に横たわる実力差を肌で実感していた。
このまま攻め続けたところで勝ち目などないことが理解できる。
だが退くわけにはいかない。違う世界に飛ばされようとも自分は軍人であり市民を守る義務がある。


470 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:38:48 JeDbLhQM0

(それに、何だ?いつもより力の消耗が早い…!
ちくしょう、こんな時だってのに!)

さらに原因不明の不調が焦りを加速させ、焦りは動きをより単調なものにする。
ウェイブの欠点である精神面の未熟さをセイバーが突かない道理があろうはずもない。
あっさりとカウンターを取られ、そこから怒涛という形容さえ生ぬるいセイバーの猛攻を受ける羽目になった。
立て直しを図るウェイブを嘲笑うかのごとくセイバーの剣閃が十数発も命中し敢え無くウェイブは壁に叩きつけられ帝具の装着を解除された。

「うぐ、くそっ……」
「民を守ろうとするその意気や良し。しかし力が伴わぬ正義では何も為せない」

最早満足に動くこともままならず、しかしその眼はまだ死んでいないウェイブにゆっくりと歩み寄るセイバー。
即座にとどめを刺さないのはセイバーなりのウェイブへの敬意の表れだ。そこらの三下ならとうに斬り伏せている。
だがそれもあくまで一時の慈悲に過ぎない。マスターかマスター候補らしき男がサーヴァントを呼ぶ前に始末するべきだとセイバーはよく理解していた。

「さらばだ」



(ちくしょう、ここで終わりかよ……。
母ちゃん、一人にしてごめん…隊長、すいません……クロメ、ごめん、もう守ってやれねえ……)

セイバーの刃が振り下ろされる刹那、ウェイブの脳裏に走馬灯が過っていた。
イェーガーズに配属されてからの日々が瞬間的に思い出されていく。

―――そして、鮮血が舞った。




     ▼  ▲




実際のところ、男は事の始まりから既に召喚されていた。
最初は驚かせるついでに戦場の心構えを叩きこむつもりで気配を絶って近づき声を掛けるつもりでいた。
だがマスターとなった男の一言で方針を変えることを余儀なくされることになった。

「うおっ、何だここ!?エスデス隊長とクロメは!?
つーか街並みも空気も明らかに帝都じゃなさそうなんですけど!?一体どうなってんだ!?」
(おいおい、マジかよ……)

服装だけでは判断できなかったがよりにもよって帝国軍の人間、それもエスデスの部下に召喚されてしまうとは。
さしたる願いを持たずに召喚された身であるがさすがに腐敗した帝国軍人に使役されるのは真っ平御免である。
考えた結果、男はマスターの人間性を見極めるため敢えて姿を見せずに観察し続けることにした。
マスターの性根が腐っているようなら見殺しにすることもやむを得ない。
幸いにも魔術知識がないマスターは男を召喚していることに全く気付いていないため影から観察するのは容易だった。


471 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:39:31 JeDbLhQM0



「させねえよ、糞野郎」



そして、現在に至る。
マスターは聖杯戦争の犠牲になろうとしていた市民を身を挺して庇い、鎧の帝具を駆使してサーヴァントと戦っていた。
あのエスデスの部下ということもあり、色眼鏡で見てしまっていた己を恥じた。

(ああいう奴が、まだ帝国にもいたんだな)

その背中に既視感を覚える。
斬った人間の数だけ民の安寧と幸福を守れると信じて軍にいた頃の自分に。
どこまでも真っ直ぐ自分の信じた道を突き進む弟分に。

(……放っておけねえよな)

確信できた。あれは間違いなく今後の帝国に必要な人間だ。
何より立場上敵であっても自分に似た性分の男を見殺しにするのはどうにも寝覚めが悪い。
帝具を解除され、今にもとどめを刺されようとしている男をついにマスターとして認め助けに入った。




     ▼  ▲




その瞬間、セイバーは鋭い殺気を感じ取った。
ウェイブを斬るために剣を持った腕を振り切ったまさにその刹那に目には見えない何かがセイバーの命を刈り取らんと迫っている。

「くっ……!」

全神経を研ぎ澄まし、風切り音を頼りに迫る何か―――恐らくサーヴァントの攻撃―――を回避しようと試みる。
だが不可視の一撃とあってはセイバーでも完全な回避は叶わず胸を浅く斬られ鮮血が宙を舞った。
それでも相手の位置はおおよそ把握できた。次は確実に対処できる。
敵もまたそれを察したらしく不可視の状態を解き姿を現した。

「今ので仕留められねえか…。さすがに最優、そう簡単には殺らせてくれねえか」
「んなっ…!?イ、インクルシオだと!?」

現れた鎧の形状にウェイブは見覚えがありすぎるほどにあった。
悪鬼纏身・インクルシオ。反乱軍の暗殺部隊、ナイトレイドが保有するグランシャリオのプロトタイプにあたる帝具だ。

(けど、違う…。細かい形状もそうだし何よりこいつの方が明らかに体格がデカい。
ってことは前に俺が戦った奴とは違う誰かが装着してるってことだ。だとすれば百人斬りのブラートはどっちだ!?)


472 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:40:14 JeDbLhQM0

困惑を隠せないウェイブを余所に二人のサーヴァントは油断なく構えを取り相手を見据えていた。
いつ激突してもおかしくない空気を感じたウェイブが抱いたのは止めなければ、という思いだった。

「おい、何でナイトレイドが俺を助けたのかは知らないが、とにかくインクルシオでそいつとやり合うのは無茶だ!
インクルシオより基本性能の高いグランシャリオでも歯が立たなかったんだぞ!!見てわからなかったのかよ!?」
「なるほど、ナイトレイドにインクルシオか…。とすれば使い手は限られるな」

ウェイブは未だ気づいていないが彼の発言は完全に失言の類であった。
自らのサーヴァントの情報を敵の目の前でペラペラと話すなど自殺行為に他ならない。
だがインクルシオを纏う男はウェイブを責めはしなかった。
この事態を招いたのは今まで無知なマスターの前に姿を見せなかった自身のせいだと理解しているからだ。

「そこまでバレた以上隠しても意味はねえか。
察しの通りナイトレイドのブラートだ。ハンサムって呼んでいいぜ」
「ふっ、仮面で顔を隠していては面貌を推し量りようもないのだが?」
「おっと、そりゃそうか。こいつは一本取られたぜ」

軽口を叩きあいながらもセイバーとインクルシオを纏う男・ブラートは互いに臨戦態勢を崩さない。
そして一瞬の後、二人のサーヴァントは同時に地を蹴り激突した。
住宅街に不似合いな金属音が響き渡る。常人には視認すら不可能な両者の戦いを見守るウェイブは驚愕という感情に支配されていた。

「嘘、だろ……」

信じがたいことにブラートは怪物じみた強さを持つセイバーと対等の戦いを演じていた。
ウェイブには見切れなかったセイバーの剣戟に遅れを取ることなく手にした槍で見事捌ききっている。
鎧越しにもわかる屈強な肉体から繰り出される槍捌きは豪快かつ緻密。
本気を出したのかウェイブと戦った時以上に苛烈な攻めを見せるセイバーを相手に小揺るぎもしない。
武器があるとはいえインクルシオの性能はグランシャリオに劣るにも関わらず、だ。
以前に戦ったインクルシオとは強さのレベルが違いすぎる。
間違いない、以前ウェイブが遭遇したインクルシオは何らかの理由で帝具を引き継いだ何者かだったのだ。

(もしあの時戦ったのがあのブラートの方だったら…俺はどうなってたんだ?)

有り得たifを想像するだけで背筋が凍った。
ひょっとしたら自分は何かの間違いで生きてここにいるだけなのでは…そんな弱気に過ぎる思考さえ生まれてしまう。
ウェイブが暗然とした思いに駆られている時、セイバーが突如後方に飛び退いた。


473 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:41:10 JeDbLhQM0

「残念だが今宵はここまでのようだ。私のマスターから帰還命令が出ている」

それ以上の無駄口は必要ないとばかりに霊体化し、ほどなくしてセイバーの気配は完全に消え去った。
セイバーがいなくなったことを確認してブラートもインクルシオの装着を解除し生身を晒した。

「やれやれ、行ってくれたか」

肩をすくめてウェイブの方に振り返りゆっくりと近づいてきた。
ブラートがナイトレイドであることを思い出し一瞬後ずさってしまう。
ブラートはその様子を気にする風でもなく「立てるか?」と言いながら手を差し伸べた。

「姿を見せずにマスターをわざと危険に晒したのは悪かった。
ランサーのサーヴァント、ブラートだ。これからはサボった分お前の槍として全霊で働かせてもらうぜ」
「あ、ああ…。けど良いのか?そっちからすれば俺は敵のはずだろ?
黙って見てればそれだけで帝国の帝具使いが一人消えたんだぞ?」

イェーガーズに配属されたばかりの頃のウェイブならナイトレイドの一員というだけで警戒し反発していただろう。
しかしワイルドハントの蛮行や故人となった同僚たちを見てきた今の彼は帝国の掲げる正義や主張を無条件に鵜呑みにはしなくなっていた。
だからこそナイトレイドであってもこちらを助けた以上話ぐらいは聞くべきだ、と考えられるようにもなった。

「ま、そうなんだがよ。お前みたいなまっすぐな奴が帝国にもまだ残ってると思ったらどうにも放っておけなくてな。
お前のような兵士が後の時代にいないと革命が成功してもその後の混乱から民を守れない」
「…殺し屋が民のことを気にするのか?」
「ああ。これでも俺は民の味方のつもりだぜ?
といっても敵の言うことだ。別に信じなくてもいい」

何のてらいもなく、それでいて力強く言い切るブラート。
これが帝都で重罪人とされていたブラートなのかどうか、ウェイブは確信が持てない。
何せ上層部が腐敗しているのは既に明らか。真面目な軍人を罪人扱いする可能性がないとどうして言える?
しかし、もしこの男の言うことが本当なら間違いなくこの場での共闘は成立する。
もしもの時のためにサーヴァントへの命令権だという令呪を使えるようにしつつブラートへ問いを投げた。


474 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:41:48 JeDbLhQM0

「じゃあ、俺が聖杯戦争に乗らないって言っても従うのか?」
「ああ、ここ一週間お前がどういう人間かはよく見極めさせてもらったからな。
だから俺もこうしてお前をマスターと認めて姿を見せた。大方聖杯戦争に民を巻き込むのが許せないって言いたいんだろ?」

まさにウェイブが言わんとしていたことを先に言われ一瞬詰まってしまった。
とはいえ話が早く済むならそれに越したことはない、と考え直し一度咳払いをしてから再び切り出した。

「…まあそういう事だよ。実際おかしいだろ、こんな平和な街のど真ん中で戦争やろうなんて。
他のマスターも事情がわからないまま連れてこられたんだろうけど、俺含めてそういう奴らはサーヴァントがいるだけまだマシだ。
でもここに住んでる市民は?何も知らず抵抗する手段もなくただ殺し合いの犠牲になれっていうのか?
そりゃあ俺だってやり直したいこともあるし生き返らせてやりたい仲間もいる。
けどそのために軍人の本分を捨てて民を食い物にしたら本末転倒じゃねえか」

ボルス、セリュー、ラン。守れずに死んでいったイェーガーズの大切な仲間達。
もし聖杯で彼らを蘇らせることができたとしても、無辜の民の血の上に成り立つ蘇生を喜ぶはずがない。

「だから俺は何と言われようがこの街の人々を護る。それで街や人を傷つけるようなマスターやサーヴァントは狩る。
もちろん殺し合いをしないで他のマスターと協力して聖杯戦争自体を何とかできたら一番良いがそう上手くいくとも思えない。
もし乗り気なマスターばかりだっていうんなら全員を狩って優勝を目指すことだって考えなきゃならない。俺だって元の世界に帰らなくちゃならないからな」
「現時点じゃそれがベターだろうな。だがなマスター、その方針には一つ穴がある」
「何が問題なんだよ?」
「どういう基準でマスターが選ばれるかわかってないってことだ。
例えばお前は帝具使いだが、もしかしたら何かの間違いで何の力もない一般市民同然のマスターだって存在するかもしれねえ。
もしそんな無力で殺し合いを望むマスターがいて、それでいて最後の一人にならなければ元の世界に戻れないとしたらどうする?」


475 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:42:22 JeDbLhQM0

心臓に槍を突きたてられたような衝撃が走る。
ブラートの懸念はウェイブが考えようとさえしなかったことだ。
無力な民を護るために戦うと決めた。だがマスターの中にも同様の者がいたとしたら。
軍人として、個人として自分が優先するべきはどちらなのか?

「……今はわからねえ。ただ、先延ばしかもしれないが戦意がなくて無力なマスターがいるならそういう奴も保護したい。
優勝以外に帰る方法はないのかもしれないけど、それでもギリギリまで見捨てることはしたくない」

絞り出すように答えるのが精一杯だった。
だがブラートの表情はどこか安心したかのようであった。

「ま、合格点だな。試すような言い方をして悪かった。
現状じゃわかってないことが多すぎるし結論を急ぐ必要はねえだろうさ。
聖杯が俺達サーヴァントに不都合な情報を伏せている可能性だってあるんだからな」
「なら…共闘成立ってことでいいか?名乗るのが遅れたけど俺はウェイブだ」
「ああ、元の世界のことはどうあれここには帝国もナイトレイドもない。
ここは民を護るためにも共同戦線と行こうぜマスター、いや、ウェイブ」

とりあえずの友好の証として互いに固く握手を交わす。
それにしても鍛えられた肉体だ、とまじまじとブラートを見ると何故か頬を赤らめているように見えた。


――――――気のせいだと考えることにした。


476 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:43:05 JeDbLhQM0
【クラス】
ランサー

【真名】
ブラート@アカメが斬る!

【パラメータ】
筋力:C 耐久:C 敏捷:D 魔力:E 幸運:D 宝具:A

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:D(B)
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
ただし後述の宝具使用中はランクBにまで上昇し、三小節以下の魔術を全て無効化する。

【固有スキル】
気配遮断:B+
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでなければ発見することは難しい。
また後述の宝具の奥の手使用中はさらに1ランク効果が上昇する。
ただしいずれの場合も自らが攻撃態勢に移ると大幅にランクが落ちる。
ブラートはこのスキルを持つことからアサシンのクラス適性を有している。

勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

心眼・真:B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

【宝具】
『悪鬼纏身・インクルシオ』
ランク:A+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1人
凶暴な超級危険種タイラントを素材として作られた鎧の帝具で、素材となった竜の強靭な生命力により装着者に合わせて進化すると言われている。
身に纏う為には剣型の鍵が必要であり、これに魂を込めて名を叫ぶことで使い手の元に現れる。 また、この鍵も普段は普通の剣として使用可能である。
使用者の身体能力と対魔力を飛躍的に高め、この宝具を発動したブラートの能力値は以下の状態に変化する。

筋力:A 耐久:A 敏捷:B 魔力:D 幸運:D 宝具:A

非常に高い防御力を誇り、生半可な攻撃ではダメージを受けず、毒等の特殊な攻撃も無力化または大きく軽減できる。
副武装として「ノインテーター」と呼ばれる槍が備わっており、これを主な攻撃手段として用いる。
奥の手として透明化機能を備えており周りの風景に合わせて姿を消すことができる。
ブラート自身の気配遮断能力と生前この能力で潜入任務をこなした逸話から気配を絶って透明化能力を使用している間は宝具発動中にも関わらず最高ランクの気配遮断を発揮できる。
また使用者の成長に合わせてこの宝具そのものが進化するという特性を持っているが生前のブラートはインクルシオを進化させる域にまでは達しなかった。
強力な宝具だが使用者への負担が大きく、著しく生命力が低下すると強制的に変身が解除されてしまうという弱点がある。


477 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:43:59 JeDbLhQM0

【Weapon】
前述。

【人物背景】
帝都の腐敗を正すことを目的にする革命軍の暗殺部隊、ナイトレイドの一員。
元は帝国に属する有能な軍人であったが尊敬する上司、リヴァが謂れのない罪で更迭され自身も罪状を捏造されたことから軍を脱走し革命軍に下った。
主人公、タツミの兄貴分であり師匠でもある。彼に目をかけておりいずれ自分を超えるかもしれないと期待すると同時に殺し屋の非情な現実を突きつけることも多い。
豪放磊落な性格で面倒見も良いが暗殺者としてのシビアな感性も併せ持っている。
タツミとの会話で顔を赤らめることからホモ疑惑が浮上しているが、その性癖は謎に包まれている。
軍人時代は「100人斬りのブラート」として名が通っており、その戦闘力はナイトレイド随一。
帝具がなくても十分な強さを持ち、エスデス配下の三獣士のニャウからは「エスデスに次ぐ」とまで評されている。

【サーヴァントとしての願い】
ウェイブは死なせるには惜しい男なので生かして元の世界に帰す

【基本戦術、方針、運用法】
変身時の高い性能、隠密性、近接戦闘で発揮される高い技量と隙のないサーヴァント。
ただし攻撃用の真名解放宝具を持たないことからやや火力と決め手に欠ける。
またダメージが重なるとインクルシオの装着すらできなくなるため無駄な被弾は厳禁である。
同格以上のサーヴァントと交戦した場合はマスターのウェイブが如何に迅速にマスターを倒せるかに全てが懸かる。
マスターとサーヴァントの得意不得意な分野が被っているため対策を取られた途端格下相手でも劣勢を余儀なくされる可能性が高い。


【マスター】
ウェイブ@アカメが斬る!

【マスターとしての願い】
帝国軍人として聖杯戦争の災禍から鎌倉の人々を護る。
そのためならナイトレイドとも共闘する。

【帝具】
『修羅化身・グランシャリオ』
インクルシオをプロトタイプとして作られた鎧型の帝具。インクルシオと同じく剣型の鍵を地面に突き刺すことで鎧が現れる。
タイラントとは別の超級危険種と鉱石を素材としているため、インクルシオよりも安定した力を発揮でき、基本性能もこちらが上。
インクルシオに酷似した外見だがこちらは外装が黒く防御フィルターがつくなどより近代的になっている他、透明化機能が存在しない。
奥の手が存在するかは不明だがウェイブは「グランフォール」という蹴り技を必殺技として使用している。
宝具に換算してCランク相当の神秘性を持ち剣型の鍵とともにサーヴァントへもダメージを与えることができる。


478 : 聖杯戦争を狩る(斬る) ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:44:31 JeDbLhQM0

【能力・技能】
上司であるエスデスから「既に完成されている」と太鼓判を押されるほどの高い格闘戦技術を持つがメンタル面にムラがある。
世界観の違いもあり現代日本人の常識からは考えられないほどの体力、生命力を持つためサーヴァントへの魔力供給にもある程度は耐えられる。
それでも魔力供給による負担でグランシャリオを装着できる時間が普段より短くなっている。

【人物背景】
元・帝都海軍所属で特殊警察イェーガーズに配属された帝国軍人の青年。地方から急に帝都に来たため、常識に疎い。
配属初日から個性的な同僚たちに戸惑い、セリューの言動などから帝都の異常さを感じているが、恩人に報いるために軍人としての役目を全うする決意を固めている。
それと共に、今の帝都の現状やワイルドハントの行いに直面したことで、自分の行いが本当に正しいのか苦悩している。
真っ直ぐな熱血漢で作中における帝国軍の数少ない良心の一人。
しかし上司であるエスデスの危険な本質には気づいておらず恐ろしくも頼れる上官として慕っている。

【方針】
聖杯戦争に乗り気な、鎌倉市民に被害を出すマスターは容赦なく狩る。
優勝を目指すかどうかは他のマスターと協力できるかどうか、脱出が可能かどうか等を勘案して決める予定。


479 : ◆H46spHGV6E :2015/07/26(日) 21:45:07 JeDbLhQM0
以上で投下を終了します


480 : ◆3SNKkWKBjc :2015/07/27(月) 08:03:41 ADopVIZw0
皆様投下乙です。私も投下します。


481 : ???&セイバー ◆3SNKkWKBjc :2015/07/27(月) 08:05:08 ADopVIZw0


―――俺に、何が起こったんだ?






死んだはずだとホムンクルスは思う。
最後まで付き合ってくれた黒のライダーに申し訳なく感じながら、その短い生涯を終えたはず。
自分は生きている。
非常に戸惑ったが、生きている事に歓喜を抱いていた。

周囲を見渡すと、少なくともホムンクルスが死を遂げた場所とは異なる土地であることが明らかになる。
街灯が手で数えられる程度と想定できるほど薄暗い場所。
錆まみれの機械たちが無造作に放置され、塗りたくられたかのように埃をつけている。
長年使われていない工場跡だろうか。
だが、何よりもここはホムンクルスのいた国ですらない。

日本の鎌倉。

ライダーたちはどうなったのだろう。あの聖杯大戦は?
疑問が生じるともう一つ、手の甲に痛みを感じた。
浮かびあがる令呪。

俺が……マスターに……!? 一体――

ホムンクルスが驚愕を覚える暇もなく、攻撃が始まる。


482 : ???&セイバー ◆3SNKkWKBjc :2015/07/27(月) 08:07:02 ADopVIZw0



「驚いたわね。私は運が良かったってこと?」

くすくすとキャスターが笑う。
彼女は逃げ惑うホムンクルスを玩ぶかのように追撃をしかけた。

比較的市街地に近い場所に使われていない廃工場があり、キャスターはそこで陣地作成をしていた。
こんな恰好な場所、もうすでに他のキャスターかサーヴァントが拠点にしているかと思ったが
誰もいないどころか、導かれたばかりのマスターが迷い込んで来たのだ。
キャスターからすれば幸運で
ホムンクルスからすれば不運だったことになる。

逃げるホムンクルスは、走りながらも様々な疑問が絶えなかった。


走れる……! 歩くのもやっとだったのに!!


基本的な事だが、走れるだけの体力がある。至って肉体は健康のようだ。
しかし、ホムンクルスはかつて健康ではなかった。
少なくとも死ぬ間際まで。
歩くのもやっと、生きても数年程度しか生きられない。そんなひ弱な存在でしかなかった。
それが全力疾走を続けても、倒れる事なく、苦しむ必要すらない。

やはり、おかしい。だが、俺は生きている!

些細な疑問を無視して言うならば、ホムンクルスは生を再び得ただけで幸運である。
それに感動していたホムンクルスは、警戒心を疎かにしていた。
キャスターにばかり注意を向け――罠に引き寄せられていた事に気づかない。

キャスターはここで陣地作成をしていたのだ。
すでにある程度の罠を仕掛けていても、何ら不思議ではない。
殺す為のものではなく、蜘蛛の巣のように拘束する類の罠。
罠のある領域へ踏み込んだ途端、ホムンクルスに目眩が襲いかかり、崩れるように倒れてしまった。
単純に魂食いする以外にも使える手はある。

「さて、どうしましょう? マスターに報告しておこうかしら」

『第8則 占いによる告げ口を禁ず』

「……は?」


483 : ???&セイバー ◆3SNKkWKBjc :2015/07/27(月) 08:07:39 ADopVIZw0
次の瞬間、キャスターの体に楔が貫いた。何らかの攻撃ではない。目に見える攻撃ではない。
ただ、何かが貫いたことだけは理解したキャスターが見渡すと
剣を持った青コートの青年がいつの間にか存在している。
間違いなくサーヴァント……恐らく『セイバー』のサーヴァントと判断していい。
ホムンクルスが召喚したもので間違いはないだろう。

「セイバー……かしら? 普通だったら退くところだけど、生憎ここは私の領域よ」

「なら、手加減する必要はねェな」

会話から相手がキャスターと判断したセイバーは、再び宣言をする。

『第14則 空想科学による殺害を禁ず』

再び楔がキャスターを貫くものの、痛みは全く感じなかった。
キャスターは鼻で笑う。

「さっきから何言っているの? あなたの言う通りにでもなるって訳……えっ、ちょ、ちょっと!?」

「なんだ、普通の武器は持ってねェのか。キャスター」

「こ、このおおおおおおお!!!」

どういう訳か魔術が発動しなくなった。
そして、セイバーに挑発されたことにより冷静さを失ったのか、キャスターはさらなる手を繰り出す。
ぞろぞろと剣士の容姿をした使い魔たちがセイバーとホムンクルスを取り囲む。
数人程度ならまだしも、ここはキャスターの領域。
呆けている間にも使い魔たちは増殖を続けているのだ。

「マスターはまだしも、貴様は殺すわ! セイバー!!」

「剣か……第14則には反しねェな。だが」


『第12則 真犯人が複数であることを禁ず』


決して剣でなぎ払ったなんてものではない。それどころかセイバーは刃を動かしすらしていない。
一瞬にして使い魔たちは消えた。
キャスターには理解できなかった。
むしろ、キャスターだからこそ理解することはできなかった。
セイバーの正体を、セイバーの能力を。
何故なら彼女が魔術師・キャスターだから。
打つ手がなくなったキャスターは念話でマスターに語りかけようとした。

――マスター! 不味い事になったの!! 令呪で……

「令呪で……って、返事しなさい! 聞こえてるのに無視するんじゃないわよ! クソマスター!!!」

「『第8則 占いによる告げ口を禁ず』……と宣言したはずだ。さすがに相手が悪かった事は同情してやらァ」

魔術も何もできないキャスターは一体なんだというのだ。
全ての特権を剥奪された彼女は命乞いよりも憤慨を起こすばかり。

「一体なんなのよ……!」

「しいて言うなら、これが探偵の流儀だ」

「探、偵!? ふ、ふざけるなあああああああああああああああ!!!!!」

「幻より生まれた者は幻に帰る……お前の全てを幻に帰す」

魔術師狩りとしての宣告を告げたセイバーは、ついに剣を振るう。
それはキャスターとあるべき場所へ帰す為だけに………


484 : ???&セイバー ◆3SNKkWKBjc :2015/07/27(月) 08:08:18 ADopVIZw0



ホムンクルスが再び意識を取り戻した時、そこは病院の個室の一つであった。
キャスターは市街地に陣地を置く事を有利と判断していたが、周辺の住民は戦闘音に疑念を抱き、警察へ通報をしたらしい。
そして、そこにはホムンクルスが倒れていたと言う。
簡易的な事情聴取を終えた後、ベッドで横になるホムンクルスのところへセイバーが出現した。

「全く……警戒するのは分かるが、名前ぐらい名乗りゃいいだろ」

「あなたは……」

「随分と遅ェ自己紹介になっちまった。お前のサーヴァント、セイバーだ」

改めて聖杯戦争を実感するホムンクルスは呪文のようにセイバーと呟く。
やれやれといった風にセイバーの方は溜息をついた。

「今は『探偵権限』で疑われずに済んでいる。安心しな」

「そうか……すまない、セイバー。俺には名乗れる名前がないんだ」

量産品に名前など不要なのだ。
ホムンクルスに生まれながら名前はない、名無しでただのホムンクルスという存在だけでしかない。
生まれながらの失敗作で、歩く必要もないから健康ではなく、生きる価値もないから死ぬ。
それでも自我が芽生えた彼は生きる事を望んだ。

そして―――

「セイバー……俺に、何が起こったんだ?」

「……」

自分の経緯を語り終えたホムンクルスは問う。

何故、生きているのか
何故、健康でいるのか
何故、聖杯に選ばれたのか

心臓を破壊されてからは記憶が曖昧だ。ホムンクルスには何が起こったのか分からない。
そして、彼はそれを知りたいと望んでいる。

「確かに……聖杯が与えた救済措置にしちゃ逸脱してらァ。そいつは俺への依頼ってことでいいか、マスター」

「まぁ、そういうことになる」

「マスターからの依頼でも、俺には俺のやり方がある」


『第1則 手掛り全ての揃わぬ事件を禁ず』


キャスターに行使した楔とは違い、戒律は宙に漂い。そして――溶けた。
セイバーは眉をひそめ、納得する。

「全て揃っている、か………その依頼は引き受けるぜ、マスター」

「……! ありがとう、セイバー」

「それともう一つ聞く。お前の聖杯に対する願いはなんだ?」

「聖杯が欲しいか、それは分からない。俺は――ただ、生きたい」


聖杯戦争を生き残りたい、ではない。
ただ、生きたい。
人生を自ら描くように、ただ生きる。
ホムンクルスの願いを、セイバーが否定することはなかった。


485 : ???&セイバー ◆3SNKkWKBjc :2015/07/27(月) 08:09:33 ADopVIZw0
【クラス】セイバー
【真名】ウィラード・H・ライト@うみねこのなく頃に散
【属性】秩序・善

【ステータス】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:B 魔力:C 幸運:E 宝具:E-

【クラス別スキル】
対魔力:E
 無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:E
 申し訳程度のクラス別補正である。

【保有スキル】
探偵権限:-(EX)
 事件に巻き込まれても犯人・犯罪者扱いされることはない探偵役。このスキルを持つ者は事件を起こすことができない。
 (事件とはNPCの殺害、窃盗等の犯罪。マスターとサーヴァントの戦闘・殺害、それに関する器物損壊は除外される)
 謎を解く手掛かりを引き寄せる幸運でもある。また、このスキルを他のマスターかサーヴァントに授けることも可能。
 現在はホムンクルスへ授けている。

戦闘続行:B
 決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
 奇跡の魔女と死闘を繰り広げたらしいが……?


【宝具】
『魔術師狩り二十の楔』(ウィザード・ハンティング・ライト)
ランク:E- 種別:対幻想 レンジ:- 最大補足:19人
探偵の流儀を以て幻想との対峙を可能にした対幻想宝具。
セイバーが宣言した戒律が楔となり、戒律を反した・反しようとする対象に打ち込まれる。
たとえ、対象がその場にいなくとも効力は発揮する。セイバーが解除しない限り、楔は打ち込まれたまま残る。
目に見え形ある楔ではない為、防具や対魔力によって防ぐことは不可能。効果を継続するには魔力が必要となる。
楔を解除をすれば魔力消費は免れるが、再び対象へ楔を打ち込み直さなくてはならない。
以下が使用可能な戒律となる。

第8則 占いによる告げ口を禁ず。
 心霊術、読心術などで事件の真相を告げてはならない。念話を封じる。

第11則 使用人が犯人であることを禁ず。
 通行人Aのような前ぶれもなく登場した人物(ここで言うNPC)を犯人にしてはならない。
 NPCを洗脳や操作し、殺害等をしかけるのを封じる。

第12則 真犯人が複数であることを禁ず。
 真犯人と称するべきはマスターかサーヴァントのみ。使い魔など何かを召喚することを封じる。

第14則 空想科学による殺害を禁ず。
 殺害は合理的かつ科学的でなければならない。
 毒殺する場合、舞台である「現実の鎌倉の世界」には存在しない、未知なる毒による殺害は認められない。
 殴ったり剣で斬ったり等、一般人にでも可能な普通の殺害方法ならばよい。

第16則 必要以上の描写を禁ず。
 舞台である「現実の鎌倉の世界」以外の描写は認められない。
 固有結界の使用、あるいは「現実の鎌倉の世界」に影響を与える類を封じる。

第19則 愛なき動機を禁ず。
 犯行へ至るまでには必ず動機が存在する。突拍子もなく他人を恨む訳がなく、恨む過程が必ず存在する。
 第11則と同じく洗脳や操作を封じるものだが、こちらはサーヴァントとマスターに関するもの。


『推理小説二十則』(ウィラード・ハンティントン・ライト)
ランク:E- 種別:対事件 レンジ:- 最大補足:-
ミステリー界における戒律の一つ。『魔術師狩り二十の楔』とは違い、魔力は必要としない。
セイバーが戒律を宣言し、戒律に接触する事件ならば事件として成立せず、巻き込まれるのを回避できる。
戒律に接触する事件である事実もまた一つの判断材料となりえるだろう。
以下が使用可能な戒律となる。

第1則 手掛り全ての揃わぬ事件を禁ず。
第4則 探偵や警察関係者が犯人であることを禁ず。
第7則 死体なき事件であることを禁ず。
第13則 非合法な組織の登場を禁ず。


【weapon】


【人物背景】
天界に拠点を置く赦執行機関“SSVD”所属の異端審問官。階級は一等大司教。
かつて冷酷無慈悲に職務を全うし、『二十の楔のライト』『魔術師狩りのライト』の称号を得た。
無限の魔女を埋葬し、奇跡の魔女と死闘を繰り広げた英霊。


……という、前述の幻想は理解しない方がいい。頭痛になる。


ミステリー界のルール『ヴァン・ダインの二十則』をモチーフにした概念的存在。
粗っぽい上に口が悪く、誰に対してもタメ口で礼儀を知らない。
軽々しい発言を口にする事が多いが人情を大切にする性格をしている。

【サーヴァントとしての願い】
ホムンクルスからの依頼を解決する。


486 : ???&セイバー ◆3SNKkWKBjc :2015/07/27(月) 08:10:10 ADopVIZw0
【マスター】
ホムンクルス@Fate/Apocrypha

【マスターとしての願い】
生きる。そして、自分に何が起きたのか知りたい。

【能力・技能】
■■■■■■■■■■を持つホムンクルス
優れた魔術回路を持ち、手で触れた物質の破壊等できる魔術を使用する。
生まれながらの失敗作であったが、今は健康体で少し肉体が成長している。

【保有スキル】
探偵権限:EX
 セイバーから授けられたスキル。
 ホムンクルスから他のマスターやサーヴァントにこのスキルを授ける事はできない。

【人物背景】
ユグドミレニア一族により作られた量産品のホムンクルスの一人。
自我が目覚めたことにより黒のライダー(アストルフォ)の助力を得て逃亡を図る。
その最中、心臓を破壊されたはずだが………

【捕捉】
身元不明の少年として鎌倉市内にある病院で入院しています。
『探偵権限』により警察関係者から疑いはかけられておりません。


487 : ◆3SNKkWKBjc :2015/07/27(月) 08:11:10 ADopVIZw0
投下終了です。セイバーのステータス等は
聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚様のコンペに応募させていただいたものの一部使用しております。


488 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/28(火) 00:14:07 JXZdwYSw0
皆様、投下お疲れ様です。
私も投下させていただきますね。


489 : 道化のバギー&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/28(火) 00:14:39 JXZdwYSw0

 「財宝さ! おれは聖杯を使って、まだ誰も見たことのねェ大財宝を手に入れる!」

 町外れの酒場にて、周りの客から怪訝な瞳を向けられるのにも構わず――海賊は宣言した。

 「何でも願いが叶うんだろ!? だったらみみっちい使い方をしたってつまらねェ。
  ありったけ――ありったけだ! "ひとつなぎの大秘宝"なんざ目じゃねえくらいの宝を願うのさ!!」

 道化のような鼻に、時代どころか色々なものを錯誤した服装が特徴的な男だった。 
 彼を陰でクスクスと指差し笑う者もいたが、有頂天の彼の耳にそんなことは入らない。
 聖杯。あらゆる願いを叶える、万能の願望器。
 それがもうじき、この辺鄙な町に現れるという。
 まさに一攫千金の大チャンス。常に富を求め続ける海賊という人種が、そんな好機に黙っていられる筈はない。
 そしてそれは――彼、『道化』のバギーも同じであった。

 ゴール・D・ロジャーの今際の言葉を皮切りとして、世は『大海賊時代』と化した。
 我が道を行く者、略奪と征服を繰り返す者、はたまた民に安息と希望を与える者。
 良い意味でも悪い意味でも、人々の生活と海賊は密接に関わりがある。
 だが今バギーがいるこの町の人間はそうではない。
 バギーが海賊を名乗れば笑うか首を傾げるか。
 彼を海賊だと信じる信じない以前に、海賊なんて存在が今時町中に現れるわけがない、とすら思っている節があった。

 バギーも最初は面食らったが、"聖杯戦争の舞台"であるこの世界では――どうやら海賊という存在自体が廃れているらしい。一応存在はしているものの、そう広い範囲ではない上、財宝目当てに繰り出すような輩は皆無と聞く。
 要は略奪に重きを置いただけの、単なる窃盗団の延長だ。
 彼は元よりそういった阿漕なやり方も良しとする性格であったから特に何か思うことはなかったが、あの"麦わら"や"赤髪"が聞いた日には怒りそうだな、くらいの感想は抱いた。
 
 しかし、それまで。
 この世界の海賊がどうかなど知ったことじゃないし、心底どうでもいい。
 バギーにとって興味があるのは、まるでメルヘンの世界のような大財宝――"聖杯"だけである。

 「ギャハハハ! 近頃は肝の冷える出来事ばっかりでウンザリしてたが、聖杯さえ手に入りゃお釣りが来る!」

 バギーの最近は、らしくもない綱渡りばかりだった。
 大監獄インペルダウンからの脱獄はどこかの誰かさんのせいで予定よりも遥かに派手になり。
 挙句の果てにはマリンフォードの頂上戦争に参加する羽目になり、何度も何度も死にそうになった。
 
 ――けれどそれも、このための前振りであったとすれば歓迎できる!

 事実、道化のバギーは幸運だった。
 予期せぬ大乱に巻き込まれたのは紛れもない不運だが、彼自身も言っている通り、彼は常に綱渡り状態だった。
 少しでも躓いていれば即座に死んでいたような局面は腐るほどあったが、彼はそれを乗り越えてここにいる。
 その矢先に舞い込んできた、この"聖杯戦争"。
 天は自分に微笑んでいるとしか思えなかった。
 だからバギーは今日も上機嫌で、市民から奪い取った金で酒を呑む。


490 : 道化のバギー&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/28(火) 00:15:09 JXZdwYSw0
 上機嫌で。
 度数の強い酒を、赤鼻をテカらせて呷り続ける。
 
 
 「へぇ。ずいぶんご機嫌じゃないのさ、バギー」
 

 酒場の中で、明らかな異色――ついでに言えばお邪魔虫であるバギーに語りかける者は一人しかいない。
 彼も大概だが、こちらも相当に奇抜な出で立ちをした女傑だった。
 派手な赤髪と美貌もさることながら、踏んできた場数を象徴するような顔の傷が存在感へ拍車をかけている。
 彼女はカウンターの向こうの店員へ酒を勝手に注文すると、出されたそれを静かに含んだ。

 「これで機嫌を良くしねェやつなんざいねェよ。
  どんな願いでも叶うんだぜ? こんな機会、一生どころか百生分時間があったってもう一度あるとは思えねェ」
 「さあ、それはどうだろうねぇ。そう珍しいもんでもないとアタシは思うけど」
 「珍しくないィ? んじゃ何か? お前は"他の聖杯戦争"のことを知ってるってのかよ」
 
 問い返すバギーに、女傑は一瞬だけ沈黙する。
 それから彼女は、口許をニヤリと歪めて自分のマスターに微笑んだ。
 その表情はバギーが見てきた大海賊――化け物のような連中にもまったく引けを取らない、凄味溢れるものだった。

 「"知ってる"ってのはちと違うね。アタシの場合はもっと直接的だ。
  アタシにとって、今回の聖杯戦争は――"二度目"なのさ」
 「あん!? ……二度目だと!?」

 そうさ、二度目。
 頷く自身のサーヴァントに、バギーは驚きと怪訝が半々で混じったような表情を向ける。
 一世一代の好機だと思っていた聖杯戦争が彼女の言う通りそう珍しくないものだと知り――それでも、決してありふれたものではないのだが――少しだけ上機嫌に水を差されたというのもある。
 それ以上にバギーは、とある事実が気にかかった。

 「お前、結局どうなったんだよ」
 「負けたさ。この聖杯戦争とは聊か趣が違いはしたが、そこそこ序盤の方だったと記憶してる」
 「お、お前――本当に強いんだろうな! 大丈夫なんだろうな?!」

 カラカラと笑いながら敗戦を語る彼女に、バギーは早くも不安なものを感じた。
 マスターとしては当然の不安だろう。
 いくらバギーが悪魔の実を食べた能力者であろうと、サーヴァント相手に勝てるほど派手な能力ではない。
 数十軒もの家屋を破壊できる虎の子"バギー玉"は規模のデカさが裏目に出て、使い所を選ばなければ民間人へ被害を出して監督役のエセ神父から要らないペナルティを喰らわされかねない。
 それに、いくら威力があるとはいえそれは人間相手の話。
 サーヴァントに効くかどうかといえば怪しいし、やはり頼みの綱はこちらもサーヴァントになってくる。
 
 そのサーヴァントがダメなら、雲行きは怪しいどころかお先真っ暗だ。


491 : 道化のバギー&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/28(火) 00:15:43 JXZdwYSw0
 「やれやれ、小悪党で小心者なところは前のマスターとよく似てるね」

 捲し立てるバギーに、スカーフェイスの女傑は呆れたように肩を竦める。
 前――"月"の聖杯戦争でマスターだった男も、バギーと同じ小悪党だった。
 この手の人物とはどうも縁があるらしい、と益体もない感想を抱きながら、彼女は答えてみせる。
 言い淀むことなく、万感の自信すらそこに込めて。

 「安心しな。アタシは強いよ」

 なんたって、アタシは太陽を落とした女(エル・ドラゴ)なんだから。
 
 付け加えたその言葉の意味はバギーには分からなかったが――彼は早くもこう思い始めていた。


 (――――あれ? もしかして聖杯戦争って、とんでもねェ厄ネタなんじゃ…………?)


 道化のバギーと、ライダーのサーヴァント――フランシス・ドレイク。
 先に大海賊と呼ばれた者と、後に大海賊と呼ばれる者。
 彼らの凸凹な旅路は、まだ始まったばかり。  


【クラス】
ライダー

【真名】
フランシス・ドレイク@Fate/EXTRA

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運EX 宝具A+

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
 対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【保有スキル】
 嵐の航海者:A+
 船と認識されるものを駆る才能。
 集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。

 星の開拓者:EX
 人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
 あらゆる難航、難行が“不可能なまま”“実現可能な出来事”になる。


492 : 道化のバギー&ライダー ◆p.rCH11eKY :2015/07/28(火) 00:16:47 JXZdwYSw0
【宝具】
「黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)」
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:20〜40 最大捕捉:前方展開20船
ライダーの生前の愛船である「黄金の鹿号(ゴールデンハインド)」を中心に、生前指揮していた無数の船団を亡霊として召喚・展開。圧倒的火力の一斉砲撃で敵を殲滅する。ライダーの奥の手にして日常の具現とも言える宝具。
対軍宝具でありランクも高いが、現在の所持金に応じて威力が増減するという変わった特性を持っている。
ゲーム的には、物理攻撃であり、前日のトレジャーハンティングでライダー側が手に入れた財宝の数と、宝具発動までのターン内での勝敗数がダメージに影響するというギャンブル性も持つ。

「黄金の鹿号(ゴールデンハインド)」
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:10〜30 最大捕捉:前方展開1船
ライダーが黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)を展開した時に乗っている船。
グランド王国のガレオン船でありドレイクが私掠船として用いたことで有名。
全長三十七メートル弱、船首と船尾に四門ずつの砲を持つ他に、両側舷にも14の砲を搭載。
『黄金鹿と嵐の夜』とは関係なく召喚し、カルバリン砲での攻撃、乗船しての移動が可能。
彼女が「騎兵」たる所以であり水上でなくても船体を地面に隠しながらの移動などもできる。
ゲーム中ではシンジからの魔力供給がとぼしいため、砲弾の補充が十分にできていなかったが、今回の聖杯戦争でもマスターは違えど同じ理由で砲弾の補充が不十分。

【Weapon】
二挺拳銃

【人物背景】
愛船「黄金の鹿号(ゴールデンハインド)」を駆る海賊。商人にして冒険家、私掠船船長にして艦隊司令官。
人類で初めて世界一周を生きたまま成し遂げた星の開拓者。その収益で母国イギリスを、当時世界最強だったスペインを打ち破るまでに導いた英傑。史実では男性だが、EXTRAでは女性として現れている。
彼女が成し遂げた航海により、イギリスは当時二等国だったところから、世界に冠たる大英帝国に生まれ変わった。
まともな植民地もなく、技術的にはそれなりでも国力に乏しかったイギリスは、彼女の持ち帰った財貨と世界周航によって得られた地図によって東インド会社を設立させ、当時のスペインと互角に戦える艦隊をそろえられるに至る。
スペイン無敵艦隊との決戦において、彼女は英国艦隊の副司令官として参戦する。「火船」と呼ばれる特殊な戦法を使い、無敵艦隊を英国へ上陸させることなく大敗せしめた彼女は、スペイン人から「エルドラゴ」と呼ばれた。

【サーヴァントとしての願い】
二度目の聖杯戦争を愉しむ。バギーはなかなか面白い。


【マスター】
バギー@ONE PIECE

【令呪の位置】
右腕

【マスターとしての願い】
聖杯を獲得し、ありったけの財宝を手に入れる

【Weapon】
マギー玉などを始めとした、様々な火器。

【能力・技能】
超人系悪魔の実『バラバラの実』。
体を複数のパーツへバラバラに分離する事が可能になり、斬撃によるダメージを無効化出来る。
パーツは空中に浮遊し、思うがままに動かす事が出来るため、人体の限界を超えた間合いから攻撃も出来る。
しかし、足だけは飛ぶことが出来ず、両足を中心とした一定の範囲内でしかパーツをコントロールする事が出来ないほか、細かく分離し過ぎるとコントロールし切れなくなるらしい。
なお、頭と体が離れていても身体機能には影響がなく、食事も出来る。

【人物背景】
バギー海賊団船長。『道化』のバギー。
ピエロのような顔立ちをした男で、自分の赤くて丸い大きな鼻に凄まじいまでのコンプレックスを抱いており、鼻を指摘されると激怒する(聞き間違いで怒ることも非常に多い)。望みは世界中の財宝を手に入れること。

【方針】
聖杯を手に入れるために、どんな汚い手でも使う。
……使うけど、早くも色々不安になってきた。


493 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/28(火) 00:17:09 JXZdwYSw0
投下終了です。


494 : ◆yOownq0BQs :2015/07/28(火) 00:36:03 50D4rKjI0
投下します。


495 : 赤坂衛&セイバー ◆yOownq0BQs :2015/07/28(火) 00:36:40 50D4rKjI0
それは鎌倉の何処か。
ただ一つ、夜闇が深まり、月の輝きが露わになる時刻であったことは確かだ。
駅近くの中心街。まだ雑踏が多く蠢いている中、一人の人間が歩みを進めていた。
口元から吐き出された溜息は空へと溶けていき、風に乗っていく。
がっしりとした体格の男であった。
夜闇に包まれた街をゆっくりと歩き、口元を真一文字に締めたその顔つきは戦場帰りの兵士と錯覚してしまう程だ。
救いの手を取れなかった男、赤坂衛は一人夜空を見上げ、再び溜息をついた。
金色に光る月は見る者を魅了する美しさを放ち、空高く上っている。

……何が正しくて、何が間違っているか。

月に目をくれず、赤坂はひとり考える。
あの日、あの時、救えなかったもの。
そして、永遠に還ってこないもの。

「……梨花ちゃん」

そっと呟いた言葉は行き交う人々の声に溶け、風に乗っていく。
歩く。歩く。覚束ない足を動かして、歩く。
やがては人通りの少ない住宅街へと赤坂の姿は溶けていった。

「成程。それが貴方の願いに繋がる少女ですか」

そして、いつのまにかに彼の横には一人の男が立っていた。
燕尾服に華奢な体。視る者の目を引く絶世の美形。
それはまるで御伽話の中で語られる王子様のようで。

「……セイバー」
「御機嫌いかがですか、主」
「最悪、だね」

セイバーと呼ばれた男は淡々と事務的な言葉を赤坂へと投げかける。
マスターとサーヴァント。
主従という括りで当てはまる彼らは令呪で繋がっていた。

「正直言うとね、僕は迷っている」

あの時犯した間違いを正せるならば。
取り戻せない過去を取り戻せるならば。
聖杯の奇跡に縋ることで、少女の笑顔をもう一度。
けれど、たった一人の為に他の多くの人間を蹴落とす行為は決して許されるものではない。


496 : 赤坂衛&セイバー ◆yOownq0BQs :2015/07/28(火) 00:37:50 50D4rKjI0
     
「セイバー、君はどうだい?」
「これはまたわかりきった問いを投げかける」

何故、古手梨花は救われなかったのか。
自らの願いを疑いもせず、迷いもせず、聖杯戦争を戦う。
それができたらどれだけよかったことか。

「誰しもが願いを持って此処にいる。刃を振るい、敵を屠るのは全ては願いが為に」

古手梨花を救う。
過去改変という願いの代償は知らない誰かを蹴落とすことだ。
もっとも、そんなことをせずとも聖杯の奇跡が使える可能性が残っているのかもしれない。
手を取り合って、全員が幸せになれるエンディングは耳心地がいい。
しかし、そんな希望はセイバーによってぽっきりと折れてしまった。

「願いを得るのは一組のみ。全員が救われるという安易な希望に目をくらませるのはやめてもらいたい」
「……ッ」

願うなら殺せ。抗うなら生き残れ。
所詮は血生臭い黄金の器だ、犠牲無しで叶えられるものなんてないのだ。
縋らなくては生きれないのなら、いっそのこと諦めてしまえばいいのに。

……少なくとも、俺の願いに救いはない。

セイバー――幽雫宗冬は今も希望を信じ続ける赤坂のことを覚めた目線で見ていた。
あの日起こった惨劇よりも、たった一人の少女を殺すことを願いの源としている自分はどうしようもなく、狂っているのだろう。
狂気に委ねた仲間達を殺して、抜け殻のような自分に感情を注いだ辰宮百合香に恋をした。
恋をしたからこそ、殺したい。
お花畑な彼女に本物の想いを思い知らせる為にも――幽雫宗冬は彼女を殺す/救うしかない。

「迷うぐらいなら最初から願わなければいい。貫けないなら諦めればいい」

愛することも、愛されることも、全てが定められたものならば。
いっその事全てを終わらせてしまえばいい。
信じられないなら、殺すことで証明してしまえばいい。
あの日、喪失した『幽雫宗冬』という自分を、今日も心の奥底へと蹴り棄てて偽りの自分を被る。

「もっとも、俺は――――そんな腑抜けた結末は御免だ」

その果てが報われないとは言わない。
だって、最初から報われることを期待していないのだから。
幾ら力を持っていようが、聡明な頭であろうが、過去は変わらない。
否、変えられないのだ。
それがわかっていながらも、心の片隅で希望を見出す自分が、一番無様だ。
辰宮百合香がほんの少しだけ、外を見てくれたら――。
あるはずもない展望を携えて、幽雫宗冬は聖杯を望む。
辰宮百合香に本物を教える為に、総てを殺す。


497 : 赤坂衛&セイバー ◆yOownq0BQs :2015/07/28(火) 00:38:07 50D4rKjI0
【クラス】
 セイバー

 【真名】
 幽雫宗冬@相州戦神館學園八命陣

 【パラメータ】 
 筋力:B 耐久:B 敏捷:A 魔力:B 幸運:E 宝具:B

 【属性】
 秩序・中庸

 【クラススキル】
 対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

 騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

 【固有スキル】

 単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

 邯鄲の夢:A
 夢界に於いて超常現象を発現させる力の総称。
 幽雫は全てにおいてハイクオリティな剣士の理想を体現したバランス型。

 盲目の愛:B
 幽雫は恋をしている。ただ一人、辰宮百合香の為だけの刃で在り続けると誓っている。
 それ以外は見えない知らない聞こえない。
 決して彼は願いを見失わない。その精神は揺らがない愛でできている。

 【宝具】

 『総じて、この世は紙風船』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人

 この宝具の効果は、自身に近づく物体全ての重量を羽毛同然にまで軽くするといった重力操作である。
 能力は幽雫の周囲の物体全てに無差別に発動するため、宝具使用中の幽雫と共闘することは困難を極める。
 もっとも、【重み】を操る者ならば、この宝具を容易に相殺できるだろう。

 『穢跡金剛禁百変法』
 ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人

 この宝具の効果は相手にとって絶望的な事象を具現化。
 発動条件は相手に幽雫宗冬の左腕には何か切り札のようなものがあると認識させること。
 ちなみに、相手によって絶望的な事象は変わり、幽雫の事を知れば知る程、戦えば戦う程陥りやすいといった罠がある。

 【Weapon】
鋭剣。

 【人物背景】
 辰宮百合香の足を舐めることが好きで自分でちんぽをこすることもできない腰抜け。
 きれいなのは見た目だけで、中身は腐った精液しか詰まってない。
 辰宮百合香を殺したい程愛しているマゾ家令。

 【サーヴァントとしての願い】
  未来永劫、どんな破滅が待ち受けようとも、辰宮百合香が望む幸せの為だけに。
  それだけが、幽雫の願いである。

 【基本戦術、方針、運用法】
 セイバーらしく、前線で運用するのが一番ではあるが、単独行動を利用して奇襲といった搦め手もあり。


 【マスター】
  赤坂衛@ひぐらしのなく頃に

 【マスターとしての願い】
  古手梨花を救う。運命を変える。

 【weapon】
  鍛え上げた肉体。

 【能力・技能】
  豊富な戦闘経験、空手。

 【人物背景】
  少女が伸ばした手を取らなかった男。

 【方針】
  彼女を救う為に、生き残る。絶対に死ねない。


498 : ◆yOownq0BQs :2015/07/28(火) 00:38:20 50D4rKjI0
投下終了です。


499 : ◆OwT8ppaK7s :2015/07/29(水) 00:34:15 s1uKvdjU0
投下します


500 : トワイス・H・ピースマン&ライダー ◆OwT8ppaK7s :2015/07/29(水) 00:36:12 s1uKvdjU0

人々が寝静まり、静寂に満ちた深夜。

由比ヶ浜から少し離れた相模湾沖に佇む一隻の船、現代においては存在しない大戦当時の戦艦がそこにあった。
威風堂々とした鋼鉄の戦艦は魔性の建造と化し、神が座す絶対不可侵の混沌(べんぼう)の城と言えるものとなっている。
その魔城に立つ二人の男。

「なるほど、君はこの聖杯戦争に単なる好奇心だけで赴いたということで間違いないかな」

一人はどこか欠けていると感じさせる"空虚"さがある白衣に眼鏡といういかにも科学者、あるいは研究者といった風貌の男――名をトワイス・H・ピースマン。

「何やら面白そうな催しがあると感じてな。それだけでこの地に来た、他にたいした意味はない。だが勘違いするなよ、トワイス。
あくまでそれは俺がここに来るまでの話だ。聖杯戦争についての知識を得て、お前と会ったことで俺はここでやるべきことを見つけたのだからな」

もう一人はライダーのサーヴァントとして召喚された全てを焼き尽くしてしまう太陽と呼べるほどの存在感を放つ、白いマントを羽織った軍装の偉丈夫――名を甘粕正彦。

彼らは今、それぞれ自分たちの願いについて確認していた。トワイスは甘粕と足並みを揃えるため、甘粕はトワイスの人となりを見定めるために語り合っていた。

「それは君が私をマスターとして認めたということでいいのかな」

「ああ、その通りだ。お前が持つ願いを叶えるための覚悟、その覚悟に敬意を表して俺はサーヴァントとして力を貸そう。
共にこの聖杯戦争を戦い抜く者として異存はない」

そしてその談合は何事もなく終わり、甘粕はトワイスのサーヴァントとして正式に契約したのである。
そのこと自体はなにも問題はないのだが、少し前から気になっていたことをトワイスは甘粕に訊ねた。

「ところでライダー、この宝具に何か隠蔽する力はあるかい? これほど大きな宝具は参加者以外の者たちにもすぐに見つかるだろう。
普通に考えればこれを堂々と海の上に浮かせることはしないと思うのだが、説明してもらえるかな」

戦艦伊吹――この宝具を海に浮かべて姿を晒すことに何の意味があるのか、その問いに対し、ライダーは鎌倉の街を眺めながら答えた。

「俺はこの聖杯戦争というシステムを素晴らしいものだと感じている。誰にも譲れない願いを叶えるために自分たちが憧れつつも畏怖する英雄を自らのパートナーとして共に戦い抜く。
様々な者たちとぶつかり合い、それぞれの思いを理解する。その中でマスターとサーヴァントは戦友として互いに絆を深め合い、共に得難い何かを手に入れる。
人を成長させる試練としてこれ以上に適したものはないだろう」

「だがこれは俺が勝手にそういうものだと思っているだけだ。俺はまだこの聖杯戦争というものを知識でしか理解していない。
それではダメだ、知識からでは真実は得られん。どのような者たちが聖杯戦争に挑むのか、この目で見なければ真に聖杯戦争を理解することはできんだろう」

「そのためにも他の英霊やマスターと邂逅する必要がある。であれば、まずは自分から姿を晒さなければならんだろう。
この戦争に呼ばれた者たちがどのような願いを持ち、覚悟を持って戦うのか。俺は彼らをこの目で見てみたいのだよ」

この聖杯戦争にかける思いと一緒に姿を晒す理由をライダーは語る。
この地に招かれたマスターとサーヴァントはどのような者たちなのか、まだ見ぬ彼らと邂逅するときを甘粕は待ち望んでいる。


501 : トワイス・H・ピースマン&ライダー ◆OwT8ppaK7s :2015/07/29(水) 00:37:23 s1uKvdjU0

「つまり君は聖杯戦争とは一体どういったものかを知識ではなく経験として理解したいというわけか。そしてそのために姿を隠さず、己に挑む存在をここで待つと」

「しかしライダー、もしこのまま君に挑もうとする者が現れないときはどうする?
この鎌倉にいるマスターが全て君の思う通りに動くことはない。中には勝機を待って潜む者もいるのだろう、彼らのような者にはまた別な考えがあるのかな?」

待っているだけではこのまま放置される可能性もある。何もしないままではこちらに対して注意を向けない者たちに対してはどうするつもりなのか、トワイスは甘粕にその時の考えを問いかける。

その問いを投げたトワイスだが、彼自身はもう答えを察していた。それは今までの行動全てから目の前にいるサーヴァントがそんな輩を見逃すはずはないと確信していたからである。
そして問われた甘粕はトワイスのいる方向に身体を向け、揺るがない強い信念で――

「しばらくの間、先にも言ったように俺の元に来る者を待ち続ける。その中で俺が必要があると判断したとき、この鎌倉に居る者全てに等しく、今の俺が使える全ての宝具で試練を与える。彼らの勇気を呼び起こすために」

――鎌倉の街を地獄に落とすという狂気を口にした。

「出し惜しみなどという無粋はせんよ、それは相手に対する敬意を欠いたものだ。我も人、彼も人、ゆえ対等。その基本は欠いてはならんものだ、どこだろうとそれは変わらん。
俺という存在がこの鎌倉にいる者全てに脅威として認識されるように。そしてその試練に立ち向かう者たちと戦い、勝ち抜くことがお前と俺自身に課す試練である」

逃げも隠れもせずに堂々と己を討つ者たちをこの戦艦で待ち続ける。どのような場所だろうが時代だろうが、自身のスタンスをどこまでも貫く。
自分とマスターを不利な状況に追い込むなど聖杯戦争を勝ち抜く気があるとは思えない行動だが、それがどうしたと言わんばかりに甘粕はここにいる。

「ここに至るための壁はこの海だけだ。お前たちが勇気を持ってこの場に来るまで俺は待つ。相手の拠点に乗り込むというのはそれ相応の勇気がなければできんことだからな。
そして、その勇気さえないと言うのであれば是非もない。殴るのが好きなわけでは決してないが、そうすることでしか人の輝きは見出せぬ信ずるゆえに」

自身が魔王となり試練を与える。人々が安寧に身を浸せば、人は生来抱えた惰性のために人間性の腐敗・堕落・劣化を生じてしまい、その美徳を自ずから手放してしまう。
命の燃やす輝きを失わせてなるものか。人の魂の劣化など決してさせないために立ち向かい、乗り越え、克服すべき高い壁として君臨する。時代や世界が異なろうともこの望みは変わらない。


502 : トワイス・H・ピースマン&ライダー ◆OwT8ppaK7s :2015/07/29(水) 00:38:32 s1uKvdjU0

そして彼はその当事者になるであろう者たちに語りかける。

「この鎌倉に招かれたマスターとサーヴァントたちよ、お前たちの勇気は素晴らしい。ゆえに当然、俺と戦う覚悟もあるのだろう?」

「殴るから、殴り返せよ。お前たちの輝きを見せてくれ。願いの種別を俺は問わん、何よりも大切なのは己の願いを必ず叶えるという思い、覚悟の強さだ」

求めるものは精神の絶対値。未来、破滅、方角は一切問わない。突き進もうとする意志を甘粕は讃え続ける。

「これはこの戦争に参加している者だけではない、この鎌倉に住む者たちにも奮起してもらいたいのだよ。
自分たちの与り知らぬところで理不尽な物事が起きているのだ。悔しくはないのか、生まれ育った街を勝手に荒らす浮浪者たちに怒りを覚えないのか。
勇気を持て、恐怖に屈するな、理不尽を前に奮い立て、お前たちにもその力はある。なぜなら誰でも諦めなければ夢は必ず叶うのだから」

人の輝きを誰よりも愛し、誰よりもそれを失わせたくないと考えるサーヴァントはその輝きを見るため、この鎌倉にいる者全てに試練を与え、聖杯戦争という異常に挑めと街に向かって甘粕は叫ぶ。
そして魔王として試練を与える自分に立ち向かう者たちを甘粕は望んでいる。はっきり言って常人には理解できる考えではない。彼の思想に一理はあっても、賛同する者はほぼ皆無であると言っていいだろう。

「こうなることになるのは君を召喚したときから薄々感づいていた。普通に考えれば君のようなサーヴァントは大ハズレだ。何せ、君に失望されれば問答無用で裁かれる。
逆に気に入られてしまった場合、自分たちがどれだけ不利になろうと関係なく試練を与えてくる。少なくとも君のマスターは聖杯を取ることはないと断言していいだろう」

「それに君の与える試練、と言うより君の存在そのものが人類にとってはあまりにも劇薬だ。多くの、下手をすれば全ての人間が君の期待に押し潰される。
なぜなら君が信じているほど人は強くない。人間は始めから諦めている。全能ではないのだから、我々は諦めながらでしか生きられない生物だ」

故にトワイスがライダーの主張に反論するのは当然だ。諦めなければ必ず成し遂げられると考えるライダーと人は諦めている存在であると考えるトワイス、人に対する価値観に関してはこの二人は相容れないであろう。

「しかし、だからこそ、そんな君の試練を踏破したその時、人類はこれまでにない成長を遂げ停滞を打破する。生死のかかった戦いでこそ、人は精神を成長させうる、その成長と世界こそが私の望むものだ。
人類には戦争が必要だ、この結論を変えるつもりはない。君の望む楽園(ぱらいぞ)は私の願いと合致している」

だがあくまでそれは価値観の話であり、それが致命的な亀裂になることは決してない。
この二人を引き合わせたのは――人の輝きを絶やさぬために、人類を大きく成長させるために、必要なものが人類全てに、等しく、同じステージで、戦うものだという結論である。


503 : トワイス・H・ピースマン&ライダー ◆OwT8ppaK7s :2015/07/29(水) 00:39:46 s1uKvdjU0

「これは完全なイレギュラーだ。私がこの場に呼ばれ、君がサーヴァントとして召喚される。こんなことはおそらく最初で最後の出来事になるだろう。
負けるつもりはない、聖杯は必ず手に入れる。そのためにライダー、君の手を貸してもらう。
私は君のマスターとして勝ち抜こう、どれほど厳しいものであろうと成し遂げなければならない。
それを越えていかなければ、聖杯を手にすることは不可能だ。止まった歩みを進ませなければ、人類の成長は有り得ないのだから」

自身の願いのために彼なりの信念と願いで戦い抜くことを述べたトワイスに甘粕は歓喜の笑みを浮かべて応える。

「そうとも、如何なる危険、難関、不確定要素……それらが俺たちに課せられる試練だ。人に試練を与えると宣っている男がその試練を避けては示しがつかん、乗り越えねばならんだろう。
お前の夢は、俺の夢だ。この試練を踏破した先にこそ俺たちの願う楽園(ぱらいぞ)がある。夢はきっと叶うさ、マスター」

楽園(ぱらいぞ)はすぐそこに。
たった二人の男が夢見、実現のときを待っている。



【クラス】ライダー
【真名】甘粕正彦
【出典】相州戦神館學園 八命陣

【パラメーター】
筋力:C+ 耐久:C+ 敏捷:D+ 魔力:D+ 幸運:B+ 宝具:B+

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
 騎乗:C+++
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。
 ただし自身と同調した存在であれば幻獣・神獣、果ては龍までも乗りこなす。
 
 対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
 邯鄲法:A+
 夢界において使える現実では有り得ない超常能力。邯鄲とはそれを操る技術のことで、大別すると五種、細分化して十種の夢に分類される。
 その得手不得手によって人物ごとの個性が出るが、これらはあくまで基礎技能にすぎないため、誰でも十種(一つは例外だが)の夢を使用可能。
 ライダーはイメージを放つ夢である咒法・イメージを具現化する夢である創法に優れており、中でも創法は複雑な超兵器や巨大な建造物を一瞬で創り上げられるほど突出している。
 邯鄲法を極めた存在であり資質に限界は存在しない。ただし今回はライダーの枠に嵌められたことで、最も得意とする兵器創造が宝具として記録されているものしかできなくなっている。

 単独行動:D
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクDならば、マスターを失っても半日間は現界可能。

 盧生:EX
 邯鄲法を現実へと取り出すことができ、人類の普遍的無意識そのものである阿頼耶を理解できる存在。
 普遍無意識と繋がった「窓」を介して全人類が無意識下で共有している心の海の過去・現在・未来すべての情報を閲覧することが可能。
 さらに条件が整えば未来へ意識を飛ばすことができる。ライダーは今回これを用いて聖杯戦争に参加しており、霊体となっての活動ができない。具体的に言えば『Fate/stay night』のセイバーと似た状態である。
 本来は普遍無意識の海より神話や物語に登場する古今東西のありとあらゆる空想上の存在を現実化させ、従える終段を使うことができるのだが、
 今回はサーヴァントとして召喚されたことで自身のアラヤとの接続が希薄となっており、現在は最も強い繋がりがある聖四文字の力を少しだけ使える程度である。
 
 光の魔王:EX
 人類の普遍的無意識である阿頼耶識を一人で凌駕するほどの強大な意志力とどんな逆境でも諦めない不屈の精神を持っている。
 ライダーは危機的な状況に追い込まれたとき、それを打ち破ろうと奮起することで自身のパラメーターを限界を超えて一時的に上昇させる。
 意志一つで人の枠組みさえ超越しかねないライダーの勇気こそが最大の武器。勇猛、戦闘続行の効果も兼ね備えたバカ専用スキル。


504 : トワイス・H・ピースマン&ライダー ◆OwT8ppaK7s :2015/07/29(水) 00:41:11 s1uKvdjU0
【宝具】
『斯く在れかし・聖四文字(あんめいぞ・いまデウス)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
ライダーが使用する五常・急ノ段。
急ノ段とは特定の手順を踏むことにより、条件を満たした相手の力と自分の力を合わせることで発動するもの。
この急段の条件はライダーが「絶望に立ち向かう人間の輝きを見たい」という思いと敵対者が「ライダーの脅威に対して勇気を奮い立たせ、立ち向かう 」という思いが両立することである。
効果は「 窮地に陥った人々が立ち向かおうと奮起する度に自身のパラメーターを上昇させる 」というもの。単純な自己強化と一見地味であるが、ライダーに対して相手が奮起すればするほど差が開く。
また対象となる人々が増えれば増えるほどライダーはより強大になっていき、さらなる脅威を呼び込んでしまう。そしてその希望と絶望のサイクルこそが、ライダーを天井知らずの強さへと至らしめる。

『神鳴る裁き、降れい雷(ロッズ・フロム・ゴッド)』
ランク:D++ 種別:対城宝具 レンジ:5?99 最大補足:1000人
衛星軌道上から音速の十倍もの速度で金属の棒を叩きつける宇宙兵器。人類の歴史の中でも既知最強の鉄槌であり、kinetic energy penetrator――その究極系である。
本来はライダーの創り出す兵器の一つと言うだけで宝具ではないが、ライダーの象徴ということで宝具扱いになっている。
この宝具は「裁き」を彷彿させるものとしてライダーが気に入っていることから宝具『斯く在れかし・聖四文字』を発動している状態で使うと聖四文字の力で神威を纏い、宝具としての質が格段に上がる。

『戦艦伊吹』
ランク:D+ 種別:対軍宝具 レンジ:10〜60 最大補足:500人
日本海軍の巡洋戦艦、鞍馬型巡洋戦艦の二番艦。ライダーが自身の拠点として創造した戦艦である。
本来は神の杖と同様にライダーの創り出す兵器の一つと言うだけで宝具ではないが、ライダーとして召喚されたことで乗り手の面が強く出た影響で宝具扱いになっている。また邯鄲法を用いれば壊れた部位の修復も短時間で済ませることができる。
元となった戦艦はなんの神秘もないただの戦艦だが、ライダーの邯鄲法によって創られたこれには真っ当な理屈など通じない。
内部に大聖堂を設け、砲身自体は毒蛇のようにしなり曲がり、砲弾を暴発もせずに発射させる。撃ち出される砲弾にもそれは当て嵌まり、自在な軌道を描かせることが可能、さらに邯鄲法を用いることで戦艦自体を浮上させることもできる。

【weapon】
 刀身が黒く染まっている軍刀

【人物背景】
戦争状態だった大日本帝国の憲兵隊に所属する軍人。階級は大尉。
そして前人未到の邯鄲を驚異的な意志力と勇気を以ってただ一人で制覇した最初にして最強の盧生であり、愛と勇気を愛する魔王である。
善悪関係なく困難に立ち向かう人々の輝きを何よりも愛し、そのために人々に試練を課し、乗り越えさせることで愛と勇気を育む天地「ぱらいぞ」を理想とする。
基本的に彼自身の思想は善人的。常に上から目線になるきらいはあるが、どのような者であれ相対する人間を自身と対等な存在として接したり、世の理不尽に対して義憤を抱くなど倫理・人道に厚い人格者である。
一方で自身の欲望を叶えることに躊躇いなく凶行に及び、それに対して悪びれることもない自分勝手さを持つ。
また極端にテンションが上がりやすく、その場のノリに身を任せてしまう。その刹那的、非常に我慢弱い性格は一時の衝動で全人類の命を危険に晒してしまうほどである。
参戦時期まだ一度も柊四四八と直接、顔を合わせていない頃から。

【サーヴァントとしての願い】
自分たち以外のサーヴァントとマスターに会って、彼らの信念や覚悟を肌で感じること
聖杯に対する願いは全人類に試練を課すこと。現在はその試練を邯鄲法によるものか、聖杯戦争にするかを吟味している

【基本戦術、方針、運用法】
あまり馴染みのないクラスであるため、力を十全に使うことはできないが、高威力の超遠距離射撃の宝具と移動要塞の宝具により並のサーヴァント単体であれば軽く屠ることができる。
ただしサーヴァントとしては物凄く扱いづらいため、かなり高度な舵取りが必要。またかなりしぶといので、令呪で自害させる程度では退場しない。


505 : トワイス・H・ピースマン&ライダー ◆OwT8ppaK7s :2015/07/29(水) 00:43:33 s1uKvdjU0

【マスター】トワイス・H・ピースマン
【出典】Fate/EXTRA

【マスターとしての願い】
全人類規模の戦争を起こし、人類を成長させる
今は甘粕の楽園(ぱらいぞ)の方が人を成長させるのではないかと考えている

【weapon】
なし

【能力・技能】
霊子ハッカーとしての適性はあるが、戦闘力はなきに等しい。
コードキャストとして2ターンの間、スキルを封印する「seal_skill()」と、HPを完全回復と状態異常回復させる「recover_()」を使用する。

【人物背景】
かつてアムネジアシンドロームという病気の治療法を発見した偉人。戦争があれば常に戦火の中に身を投じ、人命救助に尽力した戦争を憎む人物だが、1999年に極東で起きたバイオテロに遭い死亡する。
作中の彼は実在した「トワイス・ピースマン」という人物を模したNPCが、生前の記憶(正確に言えばデータのオリジナルの記憶)を取り戻してマスターとなったイレギュラーな存在。
NPCとして自我と記憶を取り戻した彼はムーンセルから見た今までの幾多の戦争と、今の世界との落差に絶望してしまう。
戦争は欠落をもたらすが、だからこそ欠落以上の成果をもたらすし、もたらさなければならない。然るに今の停滞した世界はどうか?それまでに積み重ねた欠落に見合うほどの成果を得られていないではないか。
そして欠落を埋めるほどの成果を得られないならば、さらなる欠落をもってさらなる成果を生み出さなければならない。
そんな偏執的な思考の下、彼は「全人類が当事者となる生存競争」を起こすことで人類を成長させ、停滞した現在の世界を進歩の道へ戻そうと願っている。

【方針】
優勝狙い。サーヴァントであるライダーと共に勝ち抜く。


506 : ◆OwT8ppaK7s :2015/07/29(水) 00:44:11 s1uKvdjU0
投下終了です


507 : ◆7DVSWG.5BE :2015/07/29(水) 13:31:29 vTAy8CBg0
皆さん投下お疲れ様です
私も投下させてもらいます


508 : サイモン・ヘイト&ライダー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/29(水) 13:33:45 vTAy8CBg0

ここは鎌倉の地にある倉庫の一つ。
本来であれば荷物の搬出入で人気が有るのだが現時刻は深夜二時。
ただ静寂と暗闇がこの倉庫を支配する。

しかし耳を澄まし目を凝らしてみるとコンクリートの床に寝息を立てながら仰向けになっている人物がいるのが確認できる。
背格好からして20代後半か30代前半の男性だろう。
その体は鍛えられている。
ただその髪の色は老人のように白く染まっていた。
その人物は固い床を苦とせず規則正しい寝息を立てている。

「うわああああ!」

だが突如倉庫中に響かんばかりに大声を上げ起き上がる。
悪夢に魘されていたのか体中に汗をかき息も乱していた。

「ヒロコ……ユミ……」

その目には一筋の涙が流れている。
そして悲痛な面持ちで俯く。
彼はヒロコとユミと呼ぶ人物のことを思い出しているのだろうか。

「プログレス!」

下に俯いていた顔を上げると悲痛な顔はとうに消え失せている。
代わりにその顔は恐ろしいまでの憎悪で満たされていた。
もしこの場に人が居たとしたら恐怖のあまり失禁していたかもしれない。
その恐ろしいまでの殺気をまき散らす白髪の男性に臆することなく近づいてくる人影が一つ。

「大丈夫か」
「あんたは誰だ?」
「ドーモ、マスター=サン、ライダーです」

ライダーは手を合わせ礼儀正しくお辞儀する。
そのサーヴァントは赤黒のシノビ装束を身に包み、口には「忍」「殺」とリリーフされた鋼鉄のメンポを装着している。
あからさまにニンジャだ。

一方サイモン・ヘイトはそのニンジャをただ茫然と見つめていた。
この鎌倉の地に呼ばれた直後に聖杯戦争についての知識は自然と植え付けられていた。
数々の偉業を成し遂げた英霊、それがサーヴァント。
そのサーヴァントが目の前にいる。そして圧倒的存在感に思わず息を呑む。
これほどまでか。
自分は様々な人物と戦ったことがあるがそれらの比ではない。
仮に戦うとなれば瞬きの間で命が絶たれると言っても過言ではないだろう。

「ところでマスター=サンは聖杯に何を願う?」

ライダーは鋭い眼光でヘイトを見つめる。
まるでヘイトという人物を見定めるように。
ヘイトもこの問いにすぐさま答えることができなかった。
鎌倉に呼ばれたのは今の時間から数時間前。
聖杯戦争に勝ち残ったものは聖杯によって願いが叶うことは知っていた。
だが突然自分が知っている鎌倉とは違う鎌倉に呼ばれる。
突然の出来事で混乱していたことと直前までの旅の疲労で願いをどうするか考える余裕がなかった。
そして今改めて考える。
自分が叶えたい願いは何か?
様々な願いがヘイトの頭の中で浮かび上がる。
暫くしてからヘイトはポツポツと喋りはじめる。


509 : サイモン・ヘイト&ライダー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/29(水) 13:35:31 vTAy8CBg0

「俺には妻と娘。そして五人の友人が居た。
その友人は俺を裏切り両腕とヒロコとユミの命を奪った。
俺はその友人を許すことができず復讐の戦いに身を投じた。
四人の友人を殺し、最後の一人を殺すために旅をしていた時にこの地に呼ばれた」

ヘイトは自分の過去をライダーに聞かせるように語り始める。
その顔は怒りと悲しみが混ぜ合わさったような悲痛な表情をしていた。
実際頭の中で自分の腕を奪われ、妻と娘の遺体を見せつけられた地獄のような光景を思い出していた。

「ならば聖杯への願いは最後の仇の死か?それとも妻子が生き返ることか?」
「昔の俺ならそう願ったかもしれないな」

ヘイトにはある特殊な力を持っていた。
その名はゼスモス
怒りと憎しみ執念によって発動する「繋ぎとめる力」
その力で四人の友人を葬ってきた。
そして最後の仇であるプログレスに挑み敗北した。

敗北した理由。
それは自分の憎しみが足りないから。
自分の人間性とゼスモスが自分と出会ってきた人物を繋げ、その力が自分の復讐心を薄れさせたと。

そしてヘイトは人間性を捨てた。繋がりを捨てた。
自分の心をすべて復讐の憎悪に注ぎ込む。
その憎悪の心がゼスモスを増幅させ圧倒的な破壊の力が宿る。
自分は人間性を捨て悪魔になると誓った。

だがそれではダメだと気づく。
自分の強さは繋ぎとめること。
人と人を繋ぎとめること。人間性を持ち続けることが自分の強さであると。
それを自分が出会った人物たちに教えられた。

「だが俺は仇の死も妻子の生き返りも願わない!俺は聖杯戦争には参加しない!」

聖杯戦争は多くの人間を犠牲にして自分の願いを叶える戦い。
人間性と繋がりを捨てようとした自分だったら躊躇なく参加者を殺し妻子の生き返りを願っただろう。

だが今は違う。
参加者を殺して願いを叶えることは人間性と復讐の旅で出会った人々の繋がりを捨ててしまうことと考えていた。
ヘイトは人々からダイモンズ・ヘイト、悪魔の怒りと恐れられていた。
復讐の為に人間を殺していく自分は悪魔であると自覚している。
ただ自分は五人の友人にとっての悪魔だ。
願いのために人々を殺してしまったら五人にとっての悪魔でなく本当の悪魔になってしまう!
そうなれば自分の復讐は無意味になり死んでしまった妻子に顔向けできないと思っていた。
何より妻子は自分の中にいる。
生き返ったとしてもそれは自分が愛した妻ヒロコと娘ユミではない。
ゆえにヘイトは聖杯に願わない。

ライダーは決断的な意志を秘めたヘイトの目を見据える。
妻子を殺され復讐の戦いに身を投じた男が妻子の生き返りや、仇が死ぬことを願わないわけがない。
だがそれでも自分の意志が自分の信念が聖杯に願わないことを決めた。
その答えを出すことに多くの葛藤が有ったのかはヘイトの雰囲気で感じ取っていた。
数々の自問自答をしてきたのだろう。自分と同じように。


510 : サイモン・ヘイト&ライダー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/29(水) 13:37:30 vTAy8CBg0

「ではこれからどうするのだ?」
「この地から脱出する方法を探し出す。そしてプログレスを殺す」
「そんな方法はない」
「何としても探し出す」

この聖杯戦争は今までの聖杯戦争とは違う。
リタイヤという選択肢はない。死ぬか、聖杯を勝ち取るか二つに一つ。
座から知識を与えられたライダーもそれは理解し、聖杯戦争に関する知識を植え付けられたヘイトも理解しているはず。
だがヘイトはそれを理解しながらこの地から脱出するという方針を選んだ。

「……分かった。これからはオヌシの方針に基づいて行動しよう」

ヘイトはライダーが自分の方針に賛同してくれたことに胸をなで下ろす。
サーヴァントが居なければ自分はこの地から脱出することはできない。

「とりあえず今日は寝ろ。オヌシは相当疲れている。見張りは私がしておく」

ライダーはニンジャ観察力でヘイトの身体は限界に近いことを見抜いていた。
その言葉を聞いた時にヘイトの瞬間に疲労が一気に襲い掛かってきた。
プログレスを探すためにまともな休みを取らず旅を続けていたのを思い出した。

「すまない」

ヘイトは礼を述べたあとライダーの言葉に甘えその場で横になり眠り始める。


ヘイトは天井を見つめながら先ほどのライダーとの会話について思い出していた。
何故自分の過去をあそこまで包み隠さず打ち明けたのだろうか?
普段なら初対面の相手に過去のことを語ることは滅多にない。
だがライダーからは自分と似た何かを感じていた。
まるで鏡で自分を見ているように。

だがそれ以上のことを思考できなかった。
ヘイトの意識は睡魔によって断たれ、深い眠りに落ちていた。



「フユコ……トチノキ……」

ライダーは倉庫の屋上で見張りをしながら生前のことを思い出していた。

クリスマスの夜。
ネオサイタマにあるマルノウチ・スゴイタカイビルで妻子と共に数少ない休日を楽しんでいた。
だがニンジャ抗争により妻子は無慈悲に殺される。
そしてライダーは妻子の復讐の為にすべてのニンジャを殺すもの「ニンジャスレイヤー」になった。

そして自分のマスター、サイモン・ヘイトについて考える。
ニンジャスレイヤーはヘイトが魘されるのを見ており、あの時からヘイトは自分と同じ復讐者であると見抜いていた。

あのヒロコとユミと呼んでいた人物。
ヘイトにとって大切な人だったのだろう。
流した涙を見ればすぐに理解できた。
プログレスという人物。
ヘイトにとっての憎き仇なのだろう。
あの憤怒の表情。
そしてニンジャ感覚で知覚した腕から噴き出している謎のオーラ。
何かはわからないが憎しみを凝縮した禍々しいものを感じた。
あのオーラを見たらすぐに理解できた。

自分を呼び出したあのマスターは自分と共通点が多い。
妻子を無慈悲に殺された。
妻子の復讐のために修羅の道を選んだ。
そして自分も生前に同じように聖杯戦争に招かれていたらヘイトと同じように聖杯に願わず、この地から脱出するという方針を取っただろう。
あのマスターのサーヴァントに自分が選ばれたのは必然だったのかもしれない。

ニンジャスレイヤーはヘイトに対して強いシンパシーめいたものを感じていた。
できることなら彼の復讐を手助けしたいとすら思っていた。
復讐の助け、それはヘイトの身を守ること。ヘイトを元の世界に帰すこと。
だがヘイトが選んだ道は聖杯を勝ち取るより険しい道かもしれない。
普通に考えれば不可能だ。
ライダーはヘイトと会話してその胸に宿る執念のようなものを感じていた。
仇を討つまでは絶対に死なない
その執念が不可能を可能にするかもしれない。

「ネオサイタマの死神」と恐れられたニンジャスレイヤー。
「ダイモンズ・ヘイト」と恐れられたサイモン・ヘイト。

悪魔と死神の物語が鎌倉の地で幕を開ける。


511 : サイモン・ヘイト&ライダー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/29(水) 13:43:32 vTAy8CBg0
【クラス】
ライダー

【真名】
ニンジャスレイヤー(フジキド・ケンジ)

【パラメーター】
筋力B (A) 耐久C (B) 敏捷B (A) 魔力D (C) 幸運E 宝具A

【属性】
混沌・善 

【クラススキル】
騎乗:E
騎乗の才能。バイクやミサイルを乗りこなす程度

対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。  
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

チャド―の呼吸:A
魔力を消費し、回復力を高めるスキル。
また精神集中の効果があり精神干渉攻撃をある程度無効化できる。

アイサツ:D
アンブッシュで相手を仕留めきれなかった、相手と対峙した際に自分の名前を名乗らなければならない。
名乗らない場合にはステータスが大幅に下がる。
ニンジャにとってアイサツは絶対である。古事記にもそう書かれている。

魔力補給:D
スシを補給することにより通常の食事より多くの魔力を回復することができる。
特にオーガニック・スシの大トロは普通のスシより多くの魔力回復が見込める

【宝具】

「地獄飛脚大人女(アイアンオトメ)」
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1人

ヘルヒキャク社製最新モデルインテリジェントモーターサイクル「アイアンオトメ」
ライダーが愛用し、数々のイクサをともに戦った愛機が宝具化したもの。
非常に高度な自動操縦機能が備わっており、ライダーの意を汲んだような動きをしてくれる。
ライダーが許可したサーヴァントやマスターならばこの宝具を使用することが可能。

「狂人はミサイルでやってくる(サツバツ・ナイト)」
ランク:E 種別:対城宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:50人

ライダーがライダーたる所以の宝具
ライダーが生前遠く離れた仲間の窮地を助ける為にとった行動。
それはミサイルに騎乗してその地に向かうことだった。
この狂人の所業としか思えないような逸話が宝具したもの。
ライダーにとってミサイルは武器ではなく移動手段。

ライダーの騎乗スキルにより召喚したミサイルを正確な位置に着弾させることができる。
ただ着弾させる途中までライダーが騎乗していなければならない。
またライダーの性格上、着弾させた際に周囲の人々に被害が及ぶ場合はこの宝具を使うことは無いだろう

「三種の神器が一(聖なるヌンチャク)」
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ1〜10 最大補足:5

半神的存在ニンジャ、そのニンジャの祖と呼べるカツ・ワンソー。
「カツ・ワンソーの骨」を鋳込んだインゴットから作った真の三神器の一つ。
このヌンチャクの力を解放するとそれぞれの棍棒が赤黒の煙と炎を纏って赤熱化する。
赤熱化したヌンチャクは紅い軌跡を描き、破壊力が増大する。
また鎖の部分が数十メートル伸びる。伸びた鎖が槍のように固まり相手を貫くなど超自然的な変化も可能。
ただしこの宝具を使用中に「定命者の怨嗟の魂(ナラク・ニンジャ)」の宝具を使用することができない

「定命者の怨嗟の魂(ナラク・ニンジャ)」
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:自分 最大補足:1

ニンジャスレイヤーの中にある内なるソウル。ナラク・ニンジャ
その正体はニンジャ達に虐げられ踏みにじられたモータルの恨みの怨念の集合体である。
ニンジャスレイヤーはナラク・ニンジャと共鳴することで筋力、耐久、敏俊、魔力のステータスを一段階上がる。
さらに不浄の炎と呼ばれる炎を出すことができ、触れば敵を滅ぼす武器となる。
また不浄の炎を使い黒い金属を生成することや、切断された手を繋げることも可能。

【weapon】

「スリケン」
魔力を消費することで生成が可能

「カラテ」
数々の戦いで鍛えたカラテ

【人物背景】
サラリマン、フジキド・ケンジはネオサイタマの地で妻フユコ、息子トチノキと慎ましく生活していた。
だがクリスマスの夜、無慈悲にも妻子は殺される.
そしてナラク・ニンジャが憑依したことにより一命を取り留め妻子の復讐の為ニンジャを殺すもの「ニンジャスレイヤー」となり復讐の戦いに身を投じる。

ニンジャを無慈悲に殺していくその姿は「ネオサイタマの死神」と恐れられていた。
ただ元の性格は律儀で生真面目。

【サーヴァントとしての願い】
自分の願いはない
ヘイトの脱出を手伝う


512 : サイモン・ヘイト&ライダー ◆7DVSWG.5BE :2015/07/29(水) 13:44:24 vTAy8CBg0
【マスター】
 サイモン・ヘイト@ダイモンズ
 
【マスターとしての願い】
 特になし。早く自分の世界に帰りプログレスを殺す。

【weapon】
鉄の腕
様々な合金で作られた腕。
腕の中に小型の爆弾が内蔵されている

【能力・技能】
『ゼスモス』

繋ぎとめる力と呼ばれる念動力の一つ。
この力で自分と繋がった物質を手足のように操ることができ、ヘイトのこの鉄の腕はゼスモスの力で動いている。
相手を支配する「エレセロス」と呼ばれる力を自分を繋ぎとめることで支配から逃れることもできた。

【人物背景】
元はナノテクノロジーの研究者。
医療目的で研究したナノテクが軍事目的に転用されることを知ったヘイトは告発しようとする。
だがそれは親友プログレスに発覚してしまう。
報復としてプログレスのボディーガードでもある四人の友人に両腕を奪われ。
プログレスに最愛の妻ヒロコと娘ユミを殺されてしまう。
何とか一命を取り留めたヘイトは鉄の腕を身につけ復讐の戦いに身を投じる。

【方針】
聖杯戦争に参加するつもりはない。
何とか脱出して元の世界に帰る。


513 : ◆7DVSWG.5BE :2015/07/29(水) 13:45:45 vTAy8CBg0
これで投下終了です。
ニンジャスレイヤーのステータスは◆FFa.GfzI16氏のものを参考にさせていただきました。
この場でお礼を申し上げます


514 : ◆c92qFeyVpE :2015/07/29(水) 20:51:51 qJfPEtpM0
皆様投下お疲れ様です
投下開始致します


515 : 朝倉音姫&セイバー  ◆c92qFeyVpE :2015/07/29(水) 20:52:40 qJfPEtpM0
「どりゃあ! 死ねぇぇぇ!」

男の放った斬撃を受け、一人の青年が虚空へと消滅した。

「ら、ランサー……!」
「勝負はつきました、ここから去って下さい」

青年―――ランサーのマスターだった男は、たった今まで対峙していた少女の言葉にがくりと膝をつく。

「がははー! 俺様大勝利ー! 見てたか音姫ちゃん?」
「う、うん……サーヴァントの戦いが、これほどの物だったなんて」
「だーっ! そうじゃなくて俺様の格好良い立ち回りのことだ!
 惚れ直せ! そしてヤラせろ!!」
「え……あ、はぁ、またそれなんだ……」

男の言葉に、少女は頭痛を堪えるかのように頭を抑えた。





「貴方が、私のサーヴァント……」
「うむ、その通り! 俺様がキミのパートナーとなるセイバーのサーヴァント、ランス様だ!」

朝倉音姫の前に現れたサーヴァント、セイバーはそう名乗る。
西洋の剣士といった出で立ちだ、緑色の服に銀色のアーマーをつけ、腰には剣を下げている。

「朝倉、音姫です。
 聖杯のため、よろしくお願いします」
「うむ、よろしくしてやるぞ。
 ……しかし、俺様と一緒に戦うためには一つやらねばならない儀式があるのだ」
「儀式、ですか?」

記憶にある聖杯戦争の知識を探っても、儀式なるものについては見当たらない。
首を捻る音姫へと、セイバーはその大きな口をニヤリと歪める。

「その儀式とは……こういうものだー!」
「えっ……きゃああああああ!?」

突然セイバーに飛びかかられ、音姫はその場に組み伏せられる。
必死にもがくが、サーヴァントの力に敵うはずもなくセイバーはびくともしない。


516 : 朝倉音姫&セイバー  ◆c92qFeyVpE :2015/07/29(水) 20:53:11 qJfPEtpM0
「ぐふふ、俺様のマスターが音姫ちゃんのような可愛い子でラッキーだったぞ。
 すぐメロメロでアヘアヘにしてやるから―――」
「わ、『私へ危害を加える事を禁ずる』!」
「ぬおっ!?」

令呪による命令によってセイバーの身体が硬直し、その隙に音姫はその下から抜け出す。

「と、突然何を……!」
「むぐっ! このっ! 動けーん!」
「……今の命令で動けないって、私を襲うことしか考えてないの……?」

令呪に縛られ藻掻くセイバーの様子に、気が遠くなりそうになる。
何としてでも聖杯を手にしなくてはならないというのに、こんなサーヴァントでどうすればいいのか。

―――音姫が聖杯に望むのは自身の住む島、初音島で起きている魔法の事件に関することだ。

人の願いを叶える、枯れない桜の木。
今、その願いを叶える機能が暴走し、数多の事故を引き起こしてしまっている。
今はまだ死者が出るような事には至っていない、だが、それも時間の問題だろう。
それを防ぐためには、桜の木を枯らし、桜の魔法を止めることが必要だ。
しかし―――桜の魔法を止めることは、音姫の最愛の人物、桜内義之を消すことと同義となる。
桜の魔法によって存在している最愛の人、それを守りながらも桜の暴走を止める方法を死に物狂いで探し―――見つけたのが、聖杯だ。

何としてでも……例え他の人の願いを蹴落としてでも、聖杯を手に入れなくてはならない。
それだというのに、このサーヴァントは―――。

「な、なんのこれしき……! ラ〜ンス、フルパワー!!」
「ひぃっ!?」
「や〜ら〜せ〜ろ〜……!」

セイバーは令呪に縛られているはずの身でゆっくりと、だが確実に音姫の方へと歩み寄っていく。
音姫にとって、まだ見ぬ数多の敵サーヴァント等よりも、目の前の自身のサーヴァントの方が何倍も恐ろしい。
元々彼女はえっちな事が大の苦手であり、他人が話してるだけでも咎めるような性格である。
それがこの性欲の化身とでもいうような男をまともに制御できるはずもない。
それでも、この男に戦ってもらう他に義之と初音島の両方を助ける方法はないのだ、心の中で何十回と自分に言い聞かせる。

(弟君のため、弟君のため、弟君のため、弟君のため……!)
「わ、わかりました! そんなに、その、私を……襲いたいんでしたら、条件があります」
「むむっ?」
「聖杯を手に入れて下さい、聖杯と引き換えなら……覚悟を、決めます」
「……ガハハー! なんだ、そんなことでいいのか!
 ならばいいだろう、それで音姫ちゃんもノリノリになってくれるなら、聖杯を取るまでは我慢してやる!」
「の、ノリノリになんてなりません!」
「そうと決まればさっさと他の連中を探してぶっ殺すぞ! ついて来い!」
「あ、ま、待って!」

一人で勝手に行こうとするセイバーの後ろを慌てて追いかける。
この男とパートナーとしてやっていける自信は未だ無い、それでも、前を向いて歩き続けるしかないのだ。

(私は、正義の魔法使いなんだから―――!)


517 : 朝倉音姫&セイバー  ◆c92qFeyVpE :2015/07/29(水) 20:53:38 qJfPEtpM0
【クラス】セイバー
【真名】ランス
【出典】ランスシリーズ
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:E 幸運:EX 宝具:B

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など大がかりな魔術は防げない。

騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【保有スキル】
カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

鬼畜王:EX
 鬼畜と言われる非道な行為を行い続けた王への称号。
 どのような悪事にも心が揺るぐことがない。

才能限界:EX
 ステータスの上限が存在しない。
 鍛錬次第でどこまでも強くなり、遊び呆けていると弱くなる。
 通常ではあり得ない、世界のバグ。


【宝具】
『魔剣カオス』 
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人
 人間が魔人・魔王に対抗する為の唯一の手段であるインテリジェンスソード。
 魔人の持つ無敵結界を切り裂く(中和)する力を持ち、カオス本人のテンションによってその攻撃力を上下させる。
 謎のオーラによって自分の意思で他人と触れ合うこともできる。

『ハイパー兵器』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人
 彼と性的に交わった者の才能限界の上限を上げる。
 あくまでも上限を上げるだけであり、能力を上げるには鍛錬が必要である。


【weapon】
ブロードソード
 一般的な剣士の持つ剣。

【人物背景】
 ただの人間ながらもSクラスの才能を持ち、才能限界無限という生まれ持ったバグが存在する最強戦士で、理論上では生物最強と成り得る存在。
 無闇に自信溢れた自己中心を絵に描いたような性格で、極度の女好き…と言うより、えっち好き。世界中の美女は全て俺様の物と、自分の欲望にどこまでも忠実に生きている。
 そのため世界を救うみたいな使命感はまったく考えていない。
 良識なんて物は持ち合わせないが、良心が無いわけではないというガキ大将気質な男。
 基本的にはエロを目的に動く単純な男だが、スケールが大きく強運に恵まれた男でもあり、一介の冒険者でありながら個人所有の城を手に入れるまでに至るほど。
 自分の力では勝てない様な実力者と戦う様な場面に陥った場合、知恵と鬼畜な作戦で相手を退けたりする等、単純なだけでなく頭脳派な一面も見せる。
 ただ自分の行動がもたらす常識的な結果を全く考えなかったり、考えたとしてもあり得ないほど都合良く曲解してしまうため、基本的に周りは振り回され、大変な目に遭いやすい。

【サーヴァントとしての願い】
 世界中、歴史上の可愛い子達全員とヤる!

【基本戦術、方針、運用法】
 地力が強いため、正面からぶつかっても早々力負けはしない。
 また頭も狡賢く回るため、強敵とは策を巡らせることも有効だろう。
 だが、普段から、特にエロが関係するとマスターの言うことなぞ一切聞かないため、連携を図ることは難しい。


518 : 朝倉音姫&セイバー  ◆c92qFeyVpE :2015/07/29(水) 20:53:59 qJfPEtpM0
【マスター】朝倉音姫
【出典】D.C.II
【性別】女性
【マスターとしての願い】
 枯れない桜の暴走を止める

【weapon】
無し

【能力・技能】
正義の魔法使い
 母親から魔法使いの血と魔法の力の監視者の役目を受け継いでいる。
 魔法学園に通い学んだわけではないため、使える魔法は限られているが、その魔力は高い。

【人物背景】
 風見学園本校2年3組在籍。生徒会長。
 まゆき曰く「生徒会の飴」であり、副会長まゆきと2人の絶妙なバランスにより生徒会は成り立っている。
 全校生徒に男女問わず人気があり、気取った態度をとらず、誰に対しても平等な態度で接するが、例外として義之には相当に甘く常日頃から(公私の区別なく)義之を「弟くん」と呼び、猛烈に可愛がる。
 いわゆる「ダダ甘」であるが、幼少時はクールで無愛想な性格だった。
 エッチなことが大嫌いで「えっちなのはいけません!」と叱ったり、義之が隠していたエロ本を燃やしてしまったりする。
 真面目でしっかり者であるが少し天然な所もあり、物事を信じやすい所がある。


【方針】
 何とかしてランスを制御し聖杯を手に入れる。


519 : ◆c92qFeyVpE :2015/07/29(水) 20:54:19 qJfPEtpM0
以上で投下終了です


520 : ◆p.rCH11eKY :2015/07/31(金) 01:41:08 TM.HNNvk0
皆様、投下お疲れ様です。
予定通り期限は本日終了までとさせていただきます。また、結果発表代わりのOPSSは他聖杯企画様に倣った形(いわゆる『帝都式』)で投稿させていただこうと考えております。


521 : ◆RzIbrCXisQ :2015/07/31(金) 17:29:10 Rch5t2q60
皆さん候補作投下お疲れ様です。
これより投下を開始します。


522 : 上白沢慧音&ライダー ◆RzIbrCXisQ :2015/07/31(金) 17:29:39 Rch5t2q60
国道の信号待ちの自動車の列を、朝日がキラキラと照らしている。地方都市のありふれた朝の風景。
その中の自動車の一台、ハイブリッドカーの運転席に、やっと少女から大人の女性になったばかりという容姿の小柄な女が座っていた。
腰まで届く銀髪、ふち無しのメガネには度が入っていない。
落ち着いた色合いのスーツにタイトスカートを履き、黒いストッキングで脚線を包んだ彼女の名を、
上白沢慧音と言った。彼女を象徴する青いワンピースと帽子は、現在身につけていない。
この現代日本の鎌倉で教師を務めるには、少々そぐわない格好だ。

彼女の瞳は物思いに耽るように一点を見つめ、ずっと動かない。
――遥か前方の信号が青に変わり、彼女の前を塞ぐ車がようやく動き出しても、彼女は固まったままだった。

後続の車からクラクションが聞こえ、ハッとした慧音は慌ててハンドルを取り、アクセルに足を――。
慧音がアクセルに足を置く前に、車がゆっくりと前進を始めた。
ガソリンエンジンのオートマチック車特有の、クリープ現象、ではない。
車がひとりでに前進する操作を行ったのだ。

『マスター、疲労の蓄積が重度であるなら、欠勤の申請を提案する』

ダッシュボードに備え付けられた液晶に銀髪の青年、いや、少年の顔が映り、
カーオーディオを介した音声で慧音を気遣う声が発せられた。

「ライダーか。……いや、身体の方は問題ないんだ。
 ただ、この聖杯戦争には、思うところがいくつもあって、な」

上白沢慧音。彼女もまた、鎌倉市で行われている『聖杯戦争』に呼び出された身だったのだ。
液晶に映る少年が、マスターである慧音にあてがわれたライダーのクラスを持つサーヴァントなのである。
彼の名を推論する者、インファレンスといった。

きっかけは何だっただろうか。上白沢慧音はその時のことに想いを巡らせる。
突然の出来事だった。
人々に忘れられた者の住まう土地・幻想郷の、人間の里の寺子屋。
彼女はあの満月の夜、そこでいつもの様に幻想郷の歴史を編纂する作業を行っていた。
満月の輝く夜、慧音は聖獣・白沢(ハクタク)としての能力に目覚め、その能力で幻想郷の歴史を創造することができるのである。
そしてこれもいつもの事だが、その時彼女は気が立っていた。
何しろ、長く続く幻想郷の歴史をたった一人で綴るのである。そして、それが可能なのは一月に一晩だけなのである。
彼女の生涯を掛けても終わりの見えない作業なのだ。
満月の夜にハクタクとしての能力に目覚めなくとも、この世の全ての出来事が収められたモノ
――例えばそれがアカシック・レコードと呼ばれているモノ――と交信することができれば、
などという大それた望みをその瞬間に抱いていなかった、と断言することはできない。
ともかく、きっかけが何にせよ、上白沢慧音は幻想郷を囲う結界を抜けて、この鎌倉市に流れ着いてしまったのである。


523 : 上白沢慧音&ライダー ◆RzIbrCXisQ :2015/07/31(金) 17:30:03 Rch5t2q60
ひょんなことから鎌倉に流れつき、騎兵・インファレンスのマスターとして共に聖杯戦争に参加することになってしまった慧音。
当ても無く鎌倉市内をさまよい、およそ半日ほど経った頃にそれは起こった。
ある学校で、二組の主従が激突。
無関係の生徒と教師を数多く巻き込む激しい戦闘の末、相討ちとなって倒れた。
それが、慧音の見た聖杯戦争の現実だった。
鎌倉に呼び出される際、慧音は現代日本で生きるための基本的な知識とともに、聖杯戦争とは何なのかを頭に刷り込まれていた。
だが、彼女は今ひとつ聖杯『戦争』というその言葉の意味するところを理解できないでいた。
そして、その二組の主従の激突を見て、慧音は理解した。
そうだ、これは、『戦争』なのだ。
戦争であるが故に、勝利の為に手段を選ぶことはできない。
無関係の罪なき人々を巻き込むことも、勝利の為に必要とあらば当然の事である。
そんな戦争が行われれば、巻き添えで多くの命が奪われて、悲しみが広がってゆく。
慧音にはそれが耐えられなかった。
例え、巻き添えが顔も名前も知らない外界の人間たちであったとしても。

それからというもの、慧音とライダーはここ数日の間、聖杯を得るためではなく、
聖杯戦争とは関係ない市民を守るために聖杯戦争を戦っていた。
鎌倉市での生活基盤を得るために、慧音は最初に目撃した戦いに巻き込まれ、犠牲となった女性教師に成り代わっていた。
慧音の持つ『歴史を食べる程度の能力』を応用したのだ。
幸い、幻想郷の外に出たにもかかわらず、彼女の能力は健在だった。

こうして慧音は聖杯戦争の犠牲となった女性教師に代わって教鞭を取るべく、今日も学校へ出勤していたのである。

『マスター。運転を僕に任せるのは構わないが、せめてハンドルくらいは握っていてくれないか。
 ネズミ捕りに捕まったりすると、面倒だ』

「ああ。一応、運転の方法と交通ルールは頭に入っているが、実際に運転するとなると、勝手が違うからな」

ところで、このインファレンスという名のライダーのサーヴァントは、
通常のサーヴァントと違って実体を持つことができない代わりに、機械に乗り移り、操る事ができる。
彼が人ではなく、式神――こちらの世界でいう所のプログラムに当たる存在だからなのだろう。
例えば今慧音が乗っているハイブリッドカーのように、彼は式神を宿すことのできる存在
――つまりコンピュータで動く機械に『騎乗』することができるのだ。
そして彼は聖杯戦争を戦う以外でも、見知らぬ土地であるこの鎌倉で生きていく上で、多くの事を手助けしてくれている。

「……そういえばライダー。今日の授業の範囲は日露戦争以降なのだが」

『マスターは、外界の近代史にはあまり詳しくないのだったな。
 問題ない。僕がマスターの携帯電話に隠れて、念話で要点などを教えるとしよう』

と、こうして外界で教師の職務を務める上でも、『知の記録者』である
ライダーの豊富な知識は大きな助けとなってくれているのだ。
一つ問題があるとすれば――。


524 : 上白沢慧音&ライダー ◆RzIbrCXisQ :2015/07/31(金) 17:30:20 Rch5t2q60
「なあ、ライダー。……あまり無理をしなくていいのだぞ」

『何をだい、マスター』

「話し方だ」

『……僕は無理などしていない』

「……そうか? 私には、あの時のライダーの方が素の様に見えたが」

『だから、無理なんてしてねーって!!』

「やっぱりそのキャラ、作ってたんじゃないか」

声を荒らげて照れる液晶画面のライダーに向かって、慧音はニヤニヤ笑いかけた。
なんというか、この子、スゴく微笑ましい。

いかにも式神(プログラム)らしい、落ち着いた態度は、
彼が『知の記録者』として生まれたが故に被っていた『仮面』なのだろう。
本来の彼は、十代かそこらの、感情豊かな少年の心を持っているのだ。
学校で二組の主従が激突し、多くの無関係な人々が犠牲となった時も、
彼は今のように感情をむき出しにして怒りを露わにしていた。

そんなライダーだからこそ、私の『聖杯を手にするため』でなく、
『聖杯戦争の犠牲者』を減らすという方針にも快く協力してくれているのだ。

いわゆる『予選期間』はもう終わり、聖杯を巡る戦いはますます激化するだろう。
それでも生命無き身で生まれながら、生命の大切さを知るライダーとなら、一緒に戦っていける。
慧音はそう感じたのだった。


525 : 上白沢慧音&ライダー ◆RzIbrCXisQ :2015/07/31(金) 17:30:50 Rch5t2q60
【クラス】ライダー
【真名】インファレンス
【出典】スーパーロボット大戦W
【性別】男性(プログラムであるため、生物学的な性別は存在しない)
【属性】秩序・善

【パラメーター】
通常時(プログラム体)
筋力- 耐久- 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具A

宝具『鷹と呼ばれた父親の翼(ヴァルアルム)』騎乗時
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具A

【クラススキル】
対魔力:-
(宝具『鷹と呼ばれた父親の翼(ヴァルアルム)』騎乗時:E)
ライダーは実体化することができないため、たとえ魔力によるものであっても干渉されることがない。
後述の騎乗スキルによって乗り物に「騎乗」した時のみ、その乗り物に応じた対魔力を得る。

騎乗:EX
ライダーは実体化することができないため、乗り物にまたがることができない。
コンピュータ制御の機器や機動兵器である宝具の制御プログラムとして一体化することで「騎乗」する。


【保有スキル】
プログラム:E
コンピュータープログラムであるライダーは、実体化することができない。
そのため、ライダー単体では他者からあらゆる物理的干渉を受けず、他者にあらゆる物理的干渉を行うことができない。
人間大のホログラム画像として姿を現し、他者とコミュニケーションをとることは可能である。
また、コンピュータープログラムであるライダーは、コンピュータ制御の機器に乗り移り、操作することができる。
ただし、一度に乗り移って操作できる機器は一台までである。

記録者:D
宇宙のあらゆる知識を記録すべく造られたライダーは、召喚された時にその時代・社会で獲得する知識にボーナスを得る。
Dランクなら、よほど高度な専門職でなければ大抵の職業でやっていける程度の知識を得る。
また、本来であればこの地球における伝承・英雄も記録し尽くしているが、これらの記録を検索する機能は制限されている。
本聖杯戦争では、機械の兵器に関わる英霊や宝具を目にした場合、低い確率で真名を看破するに留まる。
英霊について調べたければ、他の主従と同様に、地道に図書館などで伝承を当たる必要がある。
『専科百般』のレベルを落とし、『芸術審美』の機械版と複合させたようなスキル。

エースパイロット:B
機動兵器を駆り、数々のエース級のパイロットと渡り合ったライダーは、
騎乗時に限り、同ランクの『心眼(真)』『直感』スキルを発揮する。

(以下、宝具『鷹と呼ばれた父親の翼(ヴァルアルム)』騎乗時のみ発動のスキル)

魔力放出(雷):A
ヴァルアルムの主動力機関、プラズマノヴァドライブによってエネルギー(魔力)を放出することで、
瞬間的な推力、パワーを向上させるスキル。魔力による、文字通りの『ジェット噴射』である。

光学兵器:C
ヴァルアルムは、脚部に光学兵器を備える。
本聖杯戦争において光学兵器は魔力で再現されるため、相手の対魔力によってダメージを軽減される。

ファイナルホークストライク
対人戦技。最大捕捉:5人。
両腕のクローを展開し、プラズマノヴァドライブの最大出力で繰り出す格闘攻撃。
対魔力がDランク以下の相手に命中すれば、一定時間筋力を1ランク低下させる追加効果を持つ。
この技の発動時、マスターはライダーに「一緒に叫べ!」とせがまれる。


526 : 上白沢慧音&ライダー ◆RzIbrCXisQ :2015/07/31(金) 17:31:14 Rch5t2q60
【weapon】
ライダーは実体化できないため、そのままでは一切の戦闘行為を行うことができない。
後述の宝具『鷹と呼ばれた父親の翼(ヴァルアルム)』が、唯一の武器である。
人型ロボット兵器であるヴァルアルムは腕部のクローを用いた格闘を得意とするが、
肩部に収納したリモートドリル、脚部の光学兵器で遠距離にも対応する。

他にライダーは宝具『救い齎す知識の輝き(スキエンティア)』を有していたが、
鎌倉での今回の聖杯戦争では、既にそれは大破し失われてしまった。


【宝具】
『知の記録者(ザ・データベース)』
ランク:A 種別:対知識宝具 レンジ:- 最大捕捉:9999999999999999
後述の宝具『救い齎す知識の輝き(スキエンティア)』の核であり、ライダーの本体である。
本宝具を破壊されることが、プログラムであるライダーの死を意味する。
本宝具のオリジナルには、ライダーが生前記録した宇宙の知識が収められていたが、
今回英霊として再現されるに当たってその機能は大きく制限されている。
現在、宝具『救い齎す知識の輝き(スキエンティア)』は破壊されたが、
そのコアである『知の記録者(ザ・データベース)』だけは宝具『鷹と呼ばれた父親の翼(ヴァルアルム)』に移された。

『鷹と呼ばれた父親の翼(ヴァルアルム)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:5
鷹のクチバシを模した頭部と鷹の爪を持つ人型機動兵器で、ライダーが「騎乗」することが可能な宝具である。
本来であれば全高200m超の巨大兵器であるが、本戦争で再現されるに当って、全高3m程度に小型化されている。
ライダー騎乗時には、
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力A 幸運C
対魔力:E 魔力放出(雷):A 光学兵器:C
に相当する能力を発揮する。一対一の接近戦を得意とする、決戦用兵器である。
『救い齎す知識の輝き(スキエンティア)』のバックアップとしての機能を持ち、
ライダーの本体である宝具『知の記録者(ザ・データベース)』は、現在この宝具に収められている。
本宝具は、サーヴァントの肉体と同様に多少傷ついても自然に修復される。


『救い齎す知識の輝き(スキエンティア)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:100
銀色に輝く装甲を持つ、ケンタウロスに似た姿の機動兵器で、ライダーが「騎乗」することが可能な宝具であった。
しかし鎌倉ではこれまでの戦いで、通常では修復不可能な状態まで大破してしまっている。現在は使用不能。
本来であれば全高200m超の巨大兵器であるが、本戦争で再現されるに当って、全高3m程度に小型化された。
ライダー騎乗時には、
筋力A 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運D
対魔力:C 魔力放出(光):A 光学兵器:A
に相当する能力を発揮する。
強力な光学兵器である宝具『聖バレンタインの光(サルース・ルーメン)』を備える、一対多数の戦いを得意とする機体であった。
本宝具は、通常ならサーヴァントの肉体と同様に多少傷ついても自然に修復されるが、今回は大破して修復不可能。

宝具『聖バレンタインの光(サルース・ルーメン)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:100
『救い齎す知識の輝き(スキエンティア)』の主武装である光学兵器。現在は使用不能。
攻撃対象の数によって、収束モードと広域破壊モードを使い分けることができる。
本聖杯戦争において光学兵器は魔力で再現されるため、相手の対魔力によってダメージを軽減される。
だが、繰り返すが、現在は使用不能。


527 : 上白沢慧音&ライダー ◆RzIbrCXisQ :2015/07/31(金) 17:31:32 Rch5t2q60
【人物背景】
死と新生を繰り返す宇宙で、現在の宇宙が出来る前の宇宙に存在した『始原文明エス』によって
生み出された自律型機動記憶プラント『知の記録者』。
ライダーは、その『知の記録者』の制御を行う3つの擬似人格プログラムの1つとして生み出された。
宇宙の死とともに避けられぬ終焉を迎えようとしていた『始原文明エス』にとって、
新生した宇宙に自らの存在の証を伝える『知の記録者』は最後の希望であった。
新生した宇宙に渡った『知の記録者』は当初の目的どおり、宇宙に生きる人々や文明の記録を行うという役目を忠実に果たしていた。

しかしあるとき『知の記録者』の制御プログラムの一つであるライダーに異常が生じ、
知識の独占のため、記録を終えた文明を破壊するという行動を取り始めるようになった。
そして異常を起こした『知の記録者』は地球にも襲来し、地球の文明を記録するとともに、
機動兵器の大軍を率いて地球に攻撃を開始する。
しかし地球人達との戦いと対話を経て、最終的にライダーは自分に生じた異常が「感情の芽生え」であることを受け入れ、
地球人達と和解。
ライダーたち『知の記録者』は自分たちが家族であることを受け入れ、
今まで犯した罪を償い、これまで滅ぼしてきた文明を再建すべく、外宇宙へと旅立っていったのだった。


【サーヴァントとしての願い】
『知の記録者』として、聖杯に興味。
しかし、そのために無関係の人々の命を奪うことはあってはならないと考えている。


【基本戦術、方針、運用法】
ライダーは素のままでの戦闘行為は一切不可能である。
サーヴァントとの戦闘の際は必ず宝具を解放しなければならず、真名バレの危険が付きまとう。
その代わり、2つある機動兵器の宝具(片方は既に失ったが)はいずれも強力で、
真正面からの戦闘なら大抵の相手と互角以上に戦える。
強力なりに燃費は悪いが、マスターの魔力は豊富であり、長時間解放を続けるのでなければ全力を出しても問題ない。
つまり、極力無駄な戦闘を避けて動きつつ、ここだと決めた要所で宝具を解放して一気に決着をつけるという、
典型的なライダーらしい運用が求められる。

相性の悪い相手はアサシンを始めとする暗殺を得意とする相手と、キャスター。
素のままでは一切戦闘ができないライダーは、宝具解放の一瞬の隙にマスターを狙われるリスクが高い。
マスターも決して戦闘力は低くないのだが、サーヴァント相手には分が悪いだろう。
そして無関係の市民を守るというマスターの方針からすれば、一般人を操る戦法を取ることの多いキャスターは、
この主従にとって心情的に最悪の相手である。


528 : 上白沢慧音&ライダー ◆RzIbrCXisQ :2015/07/31(金) 17:31:50 Rch5t2q60
【マスター】上白沢慧音
【出典】東方project
【性別】女性
【参加方法】
満月の夜、幻想郷の歴史を編纂する作業中、突如鎌倉に迷い込む。


【マスターとしての願い】
全ての知識が集うという聖杯に興味が無い訳ではないが、そのために人々の命を奪うことはあってはならないと考えている。
よって、罪なき人々を巻き添えにする聖杯戦争を止めるために行動する。
あるいは、最後の一人として勝ち残り、『二度と聖杯戦争を起こさない』と聖杯に願う。


【人物背景】
人に忘れられた存在の住まう地、幻想郷。慧音は幻想郷の中の人間の居住区で、寺子屋の教師を行っている。
慧音は後天的に妖獣『白沢(ハクタク)』の血に目覚めた半人半獣のワーハクタクで、満月の夜にはツノと尻尾が生える。
満月の夜はハクタクとしての能力で、幻想郷の歴史の編纂作業を行っている。

この鎌倉においては、予選期間中に聖杯戦争の巻き添えとなって死亡した女性教師に成り代わって日本史・古文の教師を務めている、
女性教師に成り代わることができたのは、後述の歴史を食べる程度の能力を使用したため。
住居、衣服、自動車などの財産も、犠牲となった女性教師のものを失敬している。


【能力・技能】
人間時、歴史を食べる程度の能力。
原作中の描写から、人間の認識を改鼠する能力であると思われる。
永夜抄作中では、人間の里を主人公たちに認識できなくしていた。

ハクタク時、歴史を創る程度の能力。
原作中で明確に使用された描写が無いため詳細不明だが、
「ハクタク時に幻想郷の全ての歴史の知識を得て編纂作業を行う」とされている。
その他、ハクタク時は妖獣としての能力が強く発現し、身体能力・魔力・治癒能力が強化される。

魔力を用いた飛行と、魔力弾を用いた戦闘(弾幕)は幻想郷内と同様に可能の様である。


【weapon】
魔力の弾幕。
あと、とても石頭で、頭突きが痛い。


【方針】
聖杯戦争の巻き添えから無関係の人々を守る。
そのために、聖杯戦争を止めるのが最優先の方針。
それが不可能なら、最後の一人として勝ち残り、『二度と聖杯戦争を起こさない』と聖杯に願う。
もちろん可能ならば、幻想郷へ帰還することも望んでいる。


529 : ◆RzIbrCXisQ :2015/07/31(金) 17:32:11 Rch5t2q60
投下を終了します。


530 : ◆2XEqsKa.CM :2015/07/31(金) 17:45:20 EA21qics0
皆様投下お疲れ様です。
こちらも投下します。


531 : 伊良子清玄&キャスター ◆2XEqsKa.CM :2015/07/31(金) 17:46:11 EA21qics0



……その光景は、見る者が見れば奇妙なものだった。
濃淡それぞれ咲き誇る、紫薔薇の花びらが舞い散る寝室。漂う芳しい香りは、流血続くここ鎌倉の地では貴重なものだろう。
部屋の中心にある円形のベッド、純白のシーツにはシミ一つなく、身体を横たえればしっとりと包み込む柔らかさは天上のごとき心地よさ。
ベッドの上には男女が二人。主従が二人。生者と死者で、二人と数える。
うつ伏せに寝そべり、肌を晒す―――男女の女、主従の従。キャスターのサーヴァント・葉隠散(はらら)。
その背に指を当て、力を込める―――男女の男、主従の主。キャスターのマスター・伊良子清玄。
聖杯戦争の概要を知る者ならば、マスターがサーヴァントに献身的に尽くすその姿に違和感を覚えるだろう。
清玄は己の身に付けた骨子術をもって、自分が召喚したキャスターの霊質と肉質が混ざり合う身体を癒している。
散は満足げに片目を閉じ、体を伸ばして己がマスターからの奉仕を満喫していた。

「おまえの按摩は心地いい。経路から流れてくる魔力などよりも遥かに得難き努力の証だな、清玄」

「恐縮です、キャスター殿」

名前で呼べと言うに、と笑うキャスターの笑顔は清玄には届かない。
清玄の両目は一閃に切り裂かれている。妖しい双眸を隠し、美貌に愁いを重ねるように。
それに加え、清玄の纏う剣気……剣士ならば誰もが持つ戦いへの渇望は、かってないほどに澄み切っていた。

伊良子清玄は、生者であって死者である。
ここ鎌倉の地に招かれる直前、彼は自分の命の終わりを確かに感じていた。
共に虎眼流を学び、互いを憎み合った虎子、藤木源之助との駿河御前試合での決着。
最後の最後で、藤木は自分を理解した……清玄はそう思っている。
自分の命が尽きる瞬間に見た藤木の瞳には、憎しみはなくなっていた。
だからこそ思う。最初から何の呵責もなく、武を較べ、斬り結ぶことが出来たらどれほどいいかと。
伊良子清玄は武士だ。分かり合った者が同じく武士ならば、剣を交えることでこそ、その理解に意味があると信じたい。
その正々堂々たる決着を望む意思は、キャスター……人間を超えた悪鬼、反英霊の属性を持つ葉隠散にとっても、好ましいものだった。

かって人間を捨て、肉親と決別し、人界を滅ぼさんとしたキャスターもまた、己の弟と全てをぶつけ合う激闘を経験した。
その果てこそ、清玄の無念とは無縁の結果ではあったが。
満足し、納得し、絶対の命題をくつがえされた驚きと胸の高鳴りを、キャスターは己のマスターにも経験してほしいと思っていた。
だからこそ、この自尊心と美意識の高い英霊が、己を駒として扱う聖杯戦争への参加を了承したのだ。


532 : 伊良子清玄&キャスター ◆2XEqsKa.CM :2015/07/31(金) 17:46:52 EA21qics0

寝室の扉に、臣下の分を弁えた控えめなノック音が響く。
キャスターの視線は不可思議な力を帯びて、ノックの主に入室の許可を伝えた。
扉を開いて入ってきたのは、異形の臣下。
キャスターが召喚された際、そのスキルによって同時召喚された二体の不退転戦鬼、知久と腑露舞。
怪老といった容姿を持つ知久は散の喉を潤す霊薬を持ち、脹れ濡った肉腫のような異形、腑露舞は散が鎌倉に放った戦術鬼の残骸を握っていた。
己の主君を召喚し、主従関係を結んだマスター・清玄は彼らにとっては盟主に当たると言えるのかも知れない。
しかし不退転戦鬼達は、主君・散に尽くす清玄に対し、決して好意的な反応を見せなかった。
大老は眉をひそめ、御殿医は怒りに体を震わせて跳ねる。

「やい清玄! お前のマスターとしての適正が低いせいで、大変な問題が起きているんだぞ!」ぶゆー

「畏れながら散さま。戦術鬼どもは偵察に向かぬ気性の上、清玄のもたらす魔力ではその粗暴も通せぬ有様。
 即座に他のマスターやサーヴァントに発見され、相手の情報すら掴めず破壊されてしまい、あまつさえ統制が利かず一般人に目撃されることも……」

「魔術に通じぬ我が身の不徳、常勝の王たるキャスター殿の英名を損ねることになり、真に申し訳なく思います」

「気に病むな、清玄。こちらの情報だけは気取られぬようにはしておる。知久と腑露舞は少々心配性過ぎるのだ」

清玄は剣士であって魔術師ではない。
召喚したサーヴァントが保有魔力に余裕のあるキャスターでなければ、魂食いなどの方法を取らなければいけなかっただろう。
清玄の心はかって武士社会の上下関係に躁鬱していたころの狭いそれとは違う。
自分を蔑如する言葉に怒ることなく、その内にあるキャスターへの忠誠心をこそ注視する余裕があった。

「清玄このやろう! 散さまの寝室に出入りを許されたからといって調子に乗るなよ! 我ら不退転戦鬼は散さまが誰かに仕えるなんて認めてないからな!」ぶゆゆー

「まったく、まだそんな事を言っているのか。フフ、清玄、目が見えたら腑露舞の怒髪天ぶりに大層驚くぞ。お前の認識では想像もつかぬファイヤーぶりよ」

「知久殿と腑露舞殿のお心は、この清玄と同じ。キャスター殿に注ぐ偽りなき信頼。盲いたこの目にこそ、お二方の曇りなき忠義がありありと映るのです」

野心の塊だった生前の清玄を知るものが見れば胡散臭く見える言葉にも、今は嘘はない。
その清玄の清涼な態度に毒を抜かれたように、腑露舞も罵声をやめ、飛び跳ねるだけとなった。
和解とまではいかぬも鎮火した場の空気を見て、キャスターが身を起こす。
同時に円形のベッドは変形し、仏陀が座する神台の様相を呈する。
脇に控えるマスターと不退転戦鬼たちの周囲の壁も、変容していく。
変貌した寝室の名は、神聖操縦室。外界を映すモニターを多数有するその部屋はG・ガランの中枢であり、G・ガランとはキャスターの持つ宝具。
その宝具は本来、高層ビルを遥かに超えるサイズを持つ、隠匿など不可能な巨神。
それがここ鎌倉で、キャスターたちの陣地として成立する理由は、陣地作成時に施したちょっとした仕掛け。
キャスターは、鎌倉に来てまず始めに大船観音寺に向かい、巨大白衣観音像内部に潜入した。
観音像を内部から改造することで、G・ガランに消費する魔力を節約すると共に、拠点として用いる奇策に出たのだ。

「足場は既に出来ている。気張らずに身命を賭すがいいぞ、清玄」

「はい、此度の戦はあくまで我が私闘。私のための聖杯戦争。キャスター殿の助力にのみ頼らず、マスターたる資格を示してみせまする」

清玄に慢心はない。
だが『獲得すること』への執着だけは、善悪を変えても強く残っていた。
その熱こそが快なり、とキャスターは笑った。

サーヴァントがかって得たものを、今得ようとするマスターを支援する。
その是非を知るものは、未だ誰もいなかった。


533 : 伊良子清玄&キャスター ◆2XEqsKa.CM :2015/07/31(金) 17:48:40 EA21qics0


【クラス】
キャスター

【真名】
葉隠散@覚悟のススメ

【ステータス】
・通常時
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運A+ 宝具A

・着装時
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運A+ 宝具A

【属性】
混沌・中庸

【クラス別スキル】

陣地作成:A
魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
キャスターの場合は、宝具『G・ガラン(ジャイアント・ガラン)』を作り上げることが出来る。

道具作成:C
魔力を帯びた器具を作成可能。キャスターは、「戦術鬼」というクリーチャーを作り出す事ができる。

【保有スキル】

零式防衛術:A+++
キャスターにあるまじき、極めて高い白兵戦闘力を支えるスキル。
第二次世界大戦中に夥しい捕虜の屍骸を糧に生み出された最終格闘技。人類の潜在能力を極限まで引き出し、一触必殺を可能とする戦闘論理。
その本質は敵を破壊する力ではなく、己の認識(心の動きによる動揺)を完全に制御することにある。
A+++ランクともなれば過去未来通して唯一絶無、最強の使い手ともいえ、Aランクの心眼(真)・戦闘続行・無窮の武練・宗和の心得を内包する戦闘特化型複合スキルと化す。
キャスターは特に「螺旋」という大地の反発力(=大地力=星の抑止力)を掌打によって敵に叩き込む技を得意とする。「螺旋」は粛清防御値によってダメージが軽減される。

カリスマ:C+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
キャスターのカリスマは王として十二分に高い物ではあるが、人間を嫌っていた逸話からランクダウンし、その代償に人外に対して強力に作用する。

他者改造:B
燃える口づけを与えることにより、他者を自分に忠誠を誓う不退転戦鬼に変える事が可能。
抗う為には、同ランク以上の対魔力、または恋人の存在が必要。

現人鬼:A
人よりも気高く尊く咲いて散る魂。召還時に、独立して存在する不退転戦鬼が付属して召還される。
生前に血縁を超え、人間を超越した怪物という反英雄であると同時に、ガイアの抑止力の一つ(人の世を救う『救世主』ではない)。
キャスターとして限界した場合は、『知久』『腑露舞』が召還される。
戦闘においては「人間」の属性を持つサーヴァントに対しダメージ値が上昇する。

『知久』:大老。通常時は怪奇な老人の姿だが、真の姿は雄雄しき獅子の霊獣。キャスターのマスターの魔力量の問題で、本来400kg超級の巨獣だが60kg程に身をやつし、戦闘能力はない。
『腑露舞』:御殿医。蛸とも蛭とも見える怪物で、医療技術を持つ。キャスターのマスターの魔力量の問題で、高い戦闘能力を発揮する『ファイヤー形態』に変化できない。


534 : 伊良子清玄&キャスター ◆2XEqsKa.CM :2015/07/31(金) 17:49:44 EA21qics0

【宝具】
「強化外骨格・霞(ソリッドボディ・メドゥーサ)」
ランク:B+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:1〜6 最大捕捉:1

四つの目を持つ悪鬼のようなシルエットを持つ、生きた鎧(強化服)。
物理的な攻撃に対しては複合装甲展性チタン合金によりダメージ値を軽減し、魔術に対しても内部に封印された大滅霊・冥の魂の加護によりBランク程度の耐性を持つ。
化学兵器を調合する機構を持ち、凍結・灼熱・雷撃など、単純な打撃以外の攻撃方法も持つ。

「神我一体・救星の双掌(ジャイアント・ガラン)」
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:80

高層ビルを遥か見下ろす威容を持つ、超巨大移動菩薩。キャスターにとっての人類を裁く剣であり、王座にして神殿。キャスターの意思で自在に動かせる。
キャスターは魔力を節約するため、また聖杯戦争の性質を鑑みてゼロから作り上げることはせず、巨大白衣観音像に侵入して秘密裏に内部から改造して作成した。
外見は巨大白衣観音像のままで、魔術的な洞察を持ってしても人間のレベルでは看過することは不可能だが、芸術に理解を持つ英霊ならば低確率で正体に気付く事もある。
本来のサイズより著しく小型化している為、二つの真名開放奥義も弱体化していると言わざるを得ない。下記参照。
「神我一体・G螺旋」→G・ガランと認識を同調させたキャスターが放つ、必滅の王義にして究極の誅罰。本来のサイズで放たれれば、500%の命中率上昇補正に加え、
              筋力・耐久・敏捷のステータス平均がAランク以下、かつBランク以上のカリスマを持たないサーヴァントは問答無用で最微塵と化す。
              巨大白衣観音像の殻を被っている現状では、せいぜいA+++ランクの対城宝具程度の威力を持つ螺旋でしかない。
「神我一体・G・再見(さらば)」→Gガランと認識を同調させたキャスターが放つ、和解の証明にして友愛の究極。本来のサイズで放たれれば、どれだけ強力に敵対していた相手にも笑みをもたらす。
                     巨大白衣観音像の殻を被っている現状では、爽やかな別れの挨拶でしかない。

【Weapon】
「零式鉄球」
キャスターの体に埋め込まれた特殊金属による24の鉄球。
肉体と一体化しており、皮膚から金属部分を分泌させて自身の体を装甲と化すことが可能。
鉄球を体外に膜状に放出して熱攻撃から身を守る、直接手に取って投擲する等の使用法も存在する。

【人物背景】
厳格な父、朧と愚直な弟、覚悟と共に山中で零式防衛術を学びながら育ったキャスターは、当初人類を守るべき存在として定義していた。
しかし厳しい訓練の最後の日、強化外骨格・霞を着装する過程で霞に宿る怨霊から人類の醜さを教えられたキャスターは絶望と共に死に、現人鬼として生まれ変わる。
父を殺し、弟を一蹴して人類完殺の為に歩き出したキャスターは曽祖父である悪鬼・葉隠四郎の残した科学技術を得て化外の大軍勢を率いて大戦争で荒廃した人界を更に蹂躙する。
戦士として成長し立ちはだかる弟との激戦の中で、二度目の死を迎えたキャスターだが臣下の忠義により復活、全ての元凶であった四郎を粉砕。
「人類は悪」という命題を覆した弟に別れを告げ、放射能に侵された世界を救済する為旅立ち、人類を見守る存在となった。体重は54kg。

【サーヴァントとしての願い】
なし。

【方針】
人間の営みと滅びを見守りながら、強敵との戦いを楽しむ。


535 : 伊良子清玄&キャスター ◆2XEqsKa.CM :2015/07/31(金) 17:50:24 EA21qics0

【マスター】
伊良子清玄@シグルイ

【マスターとしての願い】
虎の中の虎と、怨恨なき決着を。

【Weapon】
「日本刀 備前長船光忠 一(いちのじ)」
『一』を得て天は清く 『一』を得て地は安く 『一』を得て神は霊となり 『一』を得て王は万人の規範となる。
天下人の剣と称される名刀。

【能力・技能】
「虎眼流」
開祖・岩本虎眼が修行中に用いていた兵法を前身とした流派。
真剣はたやすく折れるという理由により「刀が折れないよう剣を極力打ち合わせない」、「無駄に斬り込まず、最小の斬撃で倒す」など実践的な剣法と、
当身技を多用する柔術など、独特な技法が含まれている。主要な技法には強力な握力や指の力を精密に操ることが求められる。
基本的には本差を用いる剣術であるが、場合によっては脇差や二刀流での戦闘も行う。
稽古では袋竹刀などではなく、木刀で直に打ち合うなど、非常に過酷ではあるが、総合的に見ると新たな技の開発や、個人の創意工夫が認められているなど、自由度が高い武術である。
「流れ」という、刀を振ると同時に手を刀の鍔元から柄尻まで横滑りさせることで相手に間合いを誤認させ、切先による最少の斬撃で相手を倒す技や、その発展系の奥義「流れ星」が特徴的。

「無明逆流れ」
伊良子が虎眼流を追放された後に、編み出した独自の必殺剣。
「盲人が杖を突いているかのような」剣を地面に突き立てた構えから、倒れこんで相手の攻撃をかわしつつ、相手の正中線を「流れ」で切り上げる技。
特に流れ星のように首をねらう横のなぎに対しては効果的。要点は星流れと似ているが、強固な地面に刀を突き立て溜めとし、全身のバネを用いて切り上げることで、その一刀は星流れ以上の斬撃に昇華している。
地面の状況に影響を受けやすいという弱みを抱えていたものの、跛足となってからは刀身を足の指で固定して力を溜めるという動作により、弱点は克服され、さらに「流れ星」に近い技に進化した。

「骨子術」
中国由来の医術に通じる経絡を利用した体術等の一種。
いわゆるツボを押す事で、相手の動きを封じることが出来る。

【人物背景】

盲目跛足の美剣士。周囲の人間を利用し、高い身分に昇り詰めようとする男。
天賦の才で虎眼流の秘技を軽々と身につけ、藤木源之助と並び跡目候補の1人と目されていたが、虎眼の愛妾いくとの密通が露見し、仕置きを受けて盲目となり、追放された。
その後は検校のもとに身を寄せ、虎眼流への復讐を行う。独自の剣術「無明逆流れ」を編み出し、虎眼流の高弟達を血祭りに上げていく。
母が夜鷹(下級の売春婦)という下層の生まれのため、己の出自に対するコンプレックスが強く、異常な出世欲の元となっている。
「伊良子清玄」は元々の名前ではなく、かつて江戸で弟子入りしていた医師から技術と共に盗んだものである。
士官のち仇討にて藤木に勝利、剣名を上げ出世街道を進むが、駿河城御前試合にて藤木と再戦。無明逆流れで藤木に挑むが、藤木の奇策で初太刀をかわされ敗れ、首を斬り落とされた。
その出自から身分差を見下す者、階級社会そのものに深い怒りを覚えており、それを否定する為に最下層の身分の自分でも成り上がれる事を証明しようとしていた。
死の前日、かって藤木にかけられた言葉(「藤木源之助は生まれついての士(さむらい)にござる」)の真意と、それを憎んでいた自分の間違いに気付いた清玄。
いかなる奇跡か、死の瞬間までの記憶を持ちながら鎌倉の聖杯戦争に呼ばれた清玄が望むのは、愛憎怨怒の中で斬り結んだ己の真の理解者との、純粋な立会いのみ。

【方針】
G・ガランに潜みながら、しばらくはキャスターの戦術鬼で偵察を行う。


536 : ◆2XEqsKa.CM :2015/07/31(金) 17:50:51 EA21qics0
以上で投下終了です。


537 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:27:58 gjAv4YZU0
皆さん投下乙です。私も投下させていただきます。


538 : 二人の英雄 ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:28:36 gjAv4YZU0


 少年は"勝利"の奴隷だった。


 記憶は曖昧になり、最早感慨すら抱かない作業と成り果てるまで、少年は勝利を繰り返した。
 それを得れば何も失わずに済むのか。救えるのか、守れるのか、幸せになれるのか。
 そんなことも分からぬまま、少年は只管に勝利を重ね続ける。

 そう、最初は己の母親を喰らった悪鬼だったか。下卑た言葉を吹きかけるそれを、少年はただ斬り捨てた。
 その時想い浮かべていた感情が悲憤だったか憎悪だったかは覚えていない。けれど、それが始まりの勝利であったことは覚えている。

 そこからは我武者羅だった。大きな時代のうねりに抗うこともできず、流離うままに戦い続けた。
 エコービルに巣食うドウマンを殺した。カオスとロウで争い続けるゴトウとトールを殺した。
 彼は確かに勝利した。神ならぬ人の身で、人ならぬ超人と魔神に確かに勝利したのだ。

 けれど、その偉業に報いるものなど何もなく。
 結果として、彼が住んでいた東京は消滅した。

 彼には何もできなかった。東京に向けられ発射されたICBMを止めることは只人の彼にできるはずもなく、全ては爆轟の光の中に消えていく。
 その果てに命を救われ、荒廃した未来に送られてなお勝利は彼に付き纏った。

 新宿を支配する暴虐者に侍る鬼神タケミナカタがいた。殺した。
 少女の心に巣食う鬼女アルケニーがいた。殺した。
 六本木を死者の都とした魔王ベリアルと堕天使ネビロスがいた。殺した。

 その過程で傍に在った親友は悪魔に成り果て、魂を奪い取られた。それでも彼は足を止めなかった。

 池袋で魔女裁判じみた司法を執り行う天魔ヤマがいた。殺した。
 上野の地下に潜む邪龍ラドンがいた。殺した。
 T.D.Lを背負う巨大な邪神エキドナがいた。殺した。
 品川は大聖堂に居を構える大天使ハニエルがいた。殺した。

 重ねて言うが、彼は心底ただの人間でしかない。当然傷つくし死にかける。苦悶に喘ぎ地べたを這いずり回った回数など両手の指でも足りないほどだ。
 彼はそれが嫌だったから、余計に研鑽を積む羽目になる。悪魔を斬り殺し、magを貯め、憎々しい敵と契約を交わし、迫りくる死の気配にそれでも尚と足掻き続けて。
 それがなおさら彼自身を苦しめると、半ば自覚していても止めることはできなかった。
 血反吐を吐き、身をすり減らして、気力と体力を全て使い果たし勝利しても、次に待つのは更なる苦難だった。
 何度戦い、何度勝っても終わりは見えない。際限なく湧き出る次の敵。次の、次の、次の次の次の次の次の。
 人は誰しも現状をより良くしたいがために勝利を目指す。しかし彼の場合に限っては勝利は何の問題解決にもならず、ただ悪戯に新たな火種を呼び込むだけ。


539 : 二人の英雄 ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:29:20 gjAv4YZU0
 気付けば、最早逃れられない動乱の只中に彼はいた。勝利を重ねてきた彼は、彼自身が望まずとも世界の中心に据えられる。
 それは勝者が負うべき当然の義務。お前は見事に勝ったのだから、次のステージに進むのは当然でより相応しい争いに身を投じねばならないと囁く声が反響する。
 そして訪れる次の大敵。次の不幸。次の苦難。次の破滅。
 掴みとったはずの未来は暗黒に蝕まれ、むしろ手にした奇跡を呼び水に、よりおぞましい試練を組み込んで運命を駆動させる。

 カテドラルに降り立った四大天使を斬り殺した。
 カテドラルに侵攻する強大な魔王を撃ち殺した。
 そこに何の感慨も逡巡もなかった。彼に求められていたのは勝利の一言のみであったがために、少年の意思など鑑みられることはない。
 ただ、その過程で二人の親友を手に掛けた時に、何かが崩れる音が聞こえた気がした。

 そうして天使と悪魔は消え失せ、ここに人の世界が取り戻されて。
 それでも、彼が手にしたものは何もなかった。

 縋るものなく人は生きられない。それは誰の言葉だったか。分からない。けれど、それは真実であったと今ならば理解できる。
 人は神へと縋り、秩序を求め、その果てに四大熾天使は再誕する。
 最早彼にできることなど何もなかった。彼に許されたのは"勝利"のみである故に、人々を救うことなどできはしない。

 彼の祈りは届かない。元より聞き届ける存在などどこにもいなかった。神や天使はおろか、同じ人間でさえ彼を顧みることなどなかった。
 彼の言葉は届かない。地上に悪魔が溢れ、天使が跋扈し、人は自分の力を信じようともしなかった。

 より強大となる敵に打ち震え、より熾烈となる試練に身を削り、遂には最期の時が訪れる。
 四肢は力を失い、剣も銃も手を離れ、心は支えを失って。ああそういえば、自分の隣に誰もいなくなってしまったのは何時からだっただろうとくだらないことが頭を掠め。
 胸部に衝撃。穿たれた大穴から鮮血が噴き出る光景を、彼は他人事のように醒めた目で見つめた。
 怒りも悲しみもそこにはなかった。あるのは、石くれのような冷たさだけ。
 ただ、ほんの少しの疑問が内から湧き出た。

 僕は、どこで道を間違えたのか。
 僕は、どこかで道を間違えたのか。

 その問いに、最早意味などなかった。勝利しか許されない少年から唯一であるそれを奪い取られた今、彼は真実無価値となったのだから。
 勝利者であったはずの少年は、只人のように呆気なくその生涯を閉じた。


540 : 二人の英雄 ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:29:39 gjAv4YZU0




   ▼  ▼  ▼




 そこで現は終わりを告げ、これより始まるは終わりなき夢物語。
 死したはずの彼に与えられしは敗残者の烙印。故に彼は運命の歯車により新たな舞台へと投げ込まれる。

 呪え、呪え、敗者という生贄よ。それがすなわち、おまえの存在意義なのだから。
 王道を歩む光を照らせ、その慟哭を積み上げろ。どこまでも果て無く啼くがいい。降り注ぐ悲しみの雨を呼ぶのだ。
 それを超えて進むことこそ、鋼の王道―――英雄譚。
 あらゆる涙を雄々しく背負い、明日への希望を生み出すためにいざ運命を生み落せ。

 囁く呪詛は止まらない。これまで踏み越えた死山血河は決して安息を許さない。
 勝利し乗り越えたなら次の戦場へ、敗北し堕ちたなら生贄として責を果たせ。果てのない苦難だけが彼を約束する。

 渦巻く呪詛の奔流に呑まれ、意識は闇へと沈みこむ。
 何も見えない闇の中に手を伸ばすけれど。その手は何も掴めない。指はただ、空を切るだけで。
 彼は自身の築き上げた血の海に沈むのみ。そこに、救いなど存在しない。



 
 そこでかつての悪夢は遮断され、彼は現実(ゆめ)へと帰還する。
 何もかもが変わり果てた、敗残の現在へ。




   ▼  ▼  ▼


541 : 二人の英雄 ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:30:31 gjAv4YZU0
「ぐ、ぁ、ガアアアアァァ……」

 眩いまでの光が辺りを支配し、その中心から壮絶なる断末魔が響き渡る。
 ここは鎌倉、死の都。本来は無辜の人々が平和に暮らす街であるが、しかし現在は対極の様相を呈している。
 そこには崩壊の痕があった。建築物は哀れにも崩れ落ち、地面には深く抉り取られた痕跡が痛々しいまでに刻み込まれている。
 サーヴァントと呼ばれる超常同士の果し合いの結果がそこにはあった。人の手が決して届かぬ領域で絡み合う激突は、常識外の破壊を容易に達成する。
 光に切り裂かれ、悲痛な叫びを最後に消えたのは槍持つ勇壮なる騎士であった。人民救済を掲げ、比類なき力を振るい聖杯を獲得せんと猛った騎士は、しかし何を掴むこともなく極光の中へと消える。
 騎士のマスターとおぼしき男は、遥か後方で腰を抜かしてへたりこんでいた。目は恐怖に揺れ、四肢に力はなく、無力なまでに縮こまるのみ。無理もなかろう、自身では決して届きえない輝きが、目の前で更なる光によって蹂躙されたのだから。

 こつ、と硬質の音が粉塵の向こうより届く。
 鳴り響いた軍靴の音は、まさしく鋼鉄が奏でる響きだった。

 土煙より現れた姿は、金色に輝く偉丈夫だ。ドイツ将校にも酷似した軍服を身に纏い、光熱に歪む二振りの刀を持ち、瞳は決意に滾る男だった。
 そして一目で分かるのだ。この男は違う。何もかもが、只人たる己とは隔絶しているのだと。
 目に宿る光の密度。胸に秘めた情熱の多寡。そのどれもが桁を外れている。定められた限界をいったいいくつ超えれば、この領域に到達できるのか。死に怯える元マスターでは到底及びもつかないことであった。

「奉じるモノこそ違えども、民の安寧を願い戦うその姿、見事であった。俺はお前に最大の敬意を示そう」

 紡がれる言葉は勝利の喜びでも弱さへの蔑みでもなかった。すなわち賞賛。金色の男は、先ほど己の手で滅した騎士を、心の底より尊敬していた。
 それは決して嘘ではない。何故なら男の目は戦意や勝利に曇るでもなくずっと光に満ちている。真実彼は騎士を傑物と認め、その在り方を寿いでいた。
 認めていたからこそ、斬ったのだ。

「故にこそ、俺はお前たちの犠牲を忘れない。過ちは地獄で贖おう。責も受ける、逃げもしなければ隠れもしない。
 しかし、その罪深さを前に膝を屈することだけは断じて否だ。さらばだ、名も知らぬ漢よ」

 そして男は決して敗者を見下さない。踏みつけ乗り越えてきた夢の数々、無価値であったなどと誰が言えよう。そんな祝福を胸に抱き、しかしそれでも一切躊躇することなく刃を振りかざす。
 それは一見すれば矛盾しているようにも見えるだろう。事実、男はそんな自己の歪みを自覚している。そして、その歪みを正し切れずにいることも、また。

 勝利とは相手を壊す罪業であり、だからこそ勝者は貫くことを義務としなければならない。
 最後までやり通し、夢見た世界を形にすることが報いになるのだと、男は頑ななまでに信じている。

「あ、あぁ、あ――――うわああああああああああああァァァァァッ!」

 その光を受けて、騎士のマスターだった男は跳ねとぶように身を起こし、一目散に突進を開始した。金色の男にではない、その背後に佇む少年の影に、だ。
 少年は金色の男のマスターだ。サーヴァントとはマスターありきの存在である以上、少年を殺害すればサーヴァントも消滅する。破れかぶれの自暴自棄にも等しい無謀であり、眼前の恐怖に対する逃避でもあったが、しかしそれを卑下することなど誰にできようか。
 喉も張り裂けんばかりの絶叫と共に男が駆け、その手に握る銀色の刃を少年に突き立てようとするが、しかし。

「―――ごめん、それを受けることはできない」


542 : 二人の英雄 ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:30:57 gjAv4YZU0
 一閃。いつの間にか少年の手にあった燃える刀剣が翻り、袈裟斬りに男を両断した。末期の言葉もなく、男は鎌倉の露と消える。
 残心の構えを保ってしばし、少年は静かに刀を鞘に納める。表情は能面のように最初から変わらず、今はもう覇気の欠片も見当たらない。
 少年は、刀を握っていた右の掌を、グーパーと開きただ見つめていた。そこに何の感慨もなかったが、それでもどこか違和感のようなものがあったから。

「さあ行くぞ、ここで立ち止まるなど許さない」

 少年を睥睨し、金色の男は短く告げた。その言葉に戦意の陰りはなく、ただ果て無き使命感に満ちていた。

「この地で死者が抱いた恐怖、苦痛、そして絶望。俺たちはそれを受け止めながら地獄の炎で焼かれるべきだ。
 巻き込まれてしまった無辜の人々の命への帳尻合わせとしてな。忘れるな、我らが共に犯したこの罪を」

 故に不屈であり続けろ。真実から目を背けるな、俺たちは等しく罪人である。
 金色の男は言外にそれを滲ませつつ、しかしある種の信頼のようなものを感じさせた。

 本来、それはあってはならない類の感情だ。何故なら男は永遠に一人であることを選択したのだから。
 目的へと挑む大志を純粋に保つため、男は永劫の孤軍奮闘を自身に課した。打ち明ければ賛同は得られるだろうし、仲間もできよう。しかしそれを要らぬと跳ね除け、全てを共に歩む同胞ではなく守るべき大衆として見てきた者こそこの男である故に。
 だからこそ、聖杯戦争におけるマスターであろうとそれは例外ではないはずだ。本来であるならば、どこか安全な場所に匿うなりして戦いには一人で出るのが道理のはず。しかし、現に彼らはこうして二人で行動を共にしていた。

 その理由は単純だ。それは単に、少年が男と同種の存在であるというだけのこと。

 少年の眼は全く死んでなどいない。絶大の覇気が火種となって燃えている。
 それは永遠に尽きぬ恒星のように、人類種では到達不可能な領域の意志力だ。唯一の理想へ向けて一心不乱に突き進む純粋さはまさしく機械人形の如し。されど少年は無感にあらず。
 滾る情熱を秘めている。矜持と覚悟を秘めている。しかもそれは劣化の言葉を知らず、死した今であってもなお燃焼を続けていた。
 それは紛れもなく光に属する強さである。外敵の嘆きを願う闇の類では持ちえない、正反対の煌めき輝く星の希望。
 例えどのような状況に陥ろうとも、少年は明日を信じている。自らの往く道を、その尊さを拝する故に止まらないし諦めない。
 それは確かに、目の前の男と同種の輝きであって。

「そんなこと貴方に言われるまでもない、バーサーカー。僕は絶対に止まらない。描いた理想に辿りつくまで、この歩みを止めないと誓った」


543 : 二人の英雄 ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:31:18 gjAv4YZU0
 何度戦い、何度裏切られ、何度地べたを這いずろうと消すことのできない光がここにある。
 それは"英雄"と呼ばれる超越者。サーヴァントを示す英霊の呼称とは全くの別次元で、彼ら二人は英雄と呼ばれるに相応しい存在であった。
 その目は勝利しか見ていない。

 進軍せよ、覇道を往け。奪い取って天に掲げん。
 砕け、勝利の名の下に。すなわちそれこそ英雄の本懐なれば。

「そうだ。"勝つ"のは人間(おれ)だ」
「今更迷うこともない。"勝つ"のは人間(ぼく)だ」

 勝利とは進み続けること。決めたからこそ、果て無く往くのだ。
 前回こそ敗れたが……なに、盟約通りこうして復活してのけた。
 復活、蘇生、あるいは輪廻。なんでもよいのだ。諦めなければ世の理など紙屑同然、蹴散らし捻じ伏せ突破できると信じていたが故に。
 五体を微塵にばら撒かれ、命を華と散らそうと、英雄の魂を砕くことは何者にもできはしない。
 魂の強さこそが英雄としての証なれば、それは法則を超越した当然の理屈として成立する。

 かくて道は開かれる。
 世界と祖国を背負う宿命が定まり、後は死ぬまで貫くのみ。
 明日へ、未来へ、光へと―――信じるがため止まらない、停止不能の英雄(かいぶつ)たちが動き出す。
 望んだものは変わらない。ただひたすら、人の行いに正しき報いが訪れる世界。そんな当たり前の権利を悪魔から取り戻すことこそ本懐。
 生き抜き死んだ全ての人間が流した血と涙の量に相応しい未来へと、万人を等しき導くために。鉄の男たちは、鋼の英雄として生きて死ぬ。ただその道のみを己に課した。

 これが、彼らの英雄譚。

 彼らは今も戦い続けている。
 敵対した無数の敗北者の屍を、その足元へ髑髏の山と積み上げながら前のみを見据えて駆けるのだ。
 ただ一度きり逃してしまった、"勝利"をその手に掴むために。
 いつか二度目の敗北が、その身を微塵に砕く日まで。


544 : 二人の英雄 ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:31:50 gjAv4YZU0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
クリストファー・ヴァルゼライド@シルヴァリオ ヴェンデッタ

【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具A+++

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
狂化:EX
それは勇気という名の狂気。英雄という名の狂人の有り様。バーサーカーは人類種最大の精神異常者である。
バーサーカーは善や光以外の感情を解さない。あらゆる輝きに敬意を表し、さりとて自論以外は理屈の上で理解することができても共感することは決してない。そして、ひとたび己の障害となれば心より悼みながらしかし躊躇なく斬り捨てる。
故にバーサーカーは通常時は意志疎通を可能とするが、しかし本質的に他者と分かり合うことはできない。パラメータ上昇の恩恵は受けず、代わりとして極めて高ランクの精神異常として機能する。
このランクは超越性を示すものではなく、あくまで特異であることを指し示すものである。

【保有スキル】
光の英雄:A
同ランクの心眼(真)・無窮の武練・勇猛を兼ね備える特殊スキル。
また初期値として自身より霊格の高い、あるいは宝具を除く平均ステータスが自分の初期値より高い相手と相対した場合に全ステータスに+の補正をかけ、瀕死時には更に全ステータス+の補正をかけ、霊核が破壊され戦闘続行スキルが発動した場合には更に++の補正を加える。
戦闘中は時間経過と共に徐々にステータスが上昇し、その上昇率はダメージを負うごとに加速する。この上昇効果は戦闘終了と同時に全解除される。
また、相手がステータス上昇効果を得た場合には自身もそれと同等の上昇補正を獲得し、自身のステータスを低下させられた場合にはその低下量の倍に相当する上昇効果を得る。
意志一つで人類の枠組みすら超えかねない勇気こそが彼最大の武器である。どうしようもなくバカ専用のスキル。

護国の鬼将:EX
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を“自らの領土”とする。
この領土内の戦闘において、総統たるバーサーカーは極めて高い戦闘ボーナスを獲得しあらゆる判定で有利となる。

カリスマ:A-
大軍団を指揮する天性の才能。
Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
バーサーカー化によりマイナスの補正が付属している。

単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
バーサーカーはただ一つの目的のため、永遠の孤軍奮闘を自身に課した。

戦闘続行:A+
たとえ致命的な損傷を受けようと、「まだ終われない」という常軌を逸した精神力のみで戦闘続行が可能。
暴走した意志力、呪縛じみた勝利への渇望。因果律を無視しているとしか形容の仕様がないその有り様は、最早人類種の範疇を逸脱している。


545 : 二人の英雄 ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:35:12 gjAv4YZU0
【宝具】
『天霆の轟く地平に、闇はなく(Gamma・ray Keraunos)』
ランク:A+++ 種別:対城宝具・侵食固有結界 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
ヴァルゼライドが保有する星振光。星振光とは自身を最小単位の天体と定義することで異星法則を地上に具現する能力であり、すなわち等身大の超新星そのもの。
彼の星振光とは核分裂・放射能光にも酷似した光子崩壊。膨大な光熱を刀身に纏わせた斬撃とその光熱の放出により敵を討つ、万象滅ぼす天神の雷霆。
その奔流は亜光速にまで達し、単純な近接戦から遠距離砲撃にも転用可能。その光は掠めただけの残滓であっても、体内で泡のように弾け細胞の一つ一つを破壊する。
それは一片の闇をも許さぬ“光”。絶望と悪を、己の敵を、余さずすべて焼き払う絶対の焔。邪悪を滅ぼす鏖殺の勇者。
正義の味方では断じてなく、ただ悪の敵たる死の光でありたいというヴァルゼライドの心象が具現した異能である。
故に対象の属性が悪であった場合には必中かつ即死の効果を発生させ、かつ威力を通常の倍にまで引き上げる。

【weapon】
星振光の発動媒体となる七本の日本刀。

【人物背景】
軍事帝国アドラー 第三十七代総統 生ける伝説。彼を現すは一言“英雄”。帝国最強にして始まりの星辰奏者として最大最強の伝説を打ち立てる。
彼は天賦の才というものを持たず、しかし常軌を逸した修練の果てに人類種最強とまで呼称される強さを手にした。それは最早輝きを超越し、一種の狂気にまで至っている。

【サーヴァントとしての願い】
祖国アドラーの繁栄/今度こそ聖戦の成就を。


【マスター】
ザ・ヒーロー@真・女神転生

【マスターとしての願い】
人の世の安寧

【weapon】
・ヒノカグツチ
火之迦具土神の力を宿した霊刀。相当量の神秘を纏っているためサーヴァントにも通じる武装となっている。

・悪魔召喚プログラム
文字通り悪魔を召喚するプログラムであり、彼の持つハンドベルコンピュータに内臓されている。
現在は機能していない。

【能力・技能】
人の枠組みを超えた身体能力。多くの修羅場を乗り越えたことによる多様な経験。

【人物背景】
最早名前すら失った少年。
彼を表すならば、英雄の一言で事足りる。

【方針】
今度こそ、完全なる勝利を。


546 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/31(金) 20:35:45 gjAv4YZU0
投下を終了します


547 : jasdac57 :2015/07/31(金) 23:32:23 6goSjx5o0
皆様お疲れ様です。投下させていただきます。


548 : ◆HyHxCszaNY :2015/07/31(金) 23:33:28 6goSjx5o0
すみません。トリップつけ間違えました。
トリップを変えて投下します。


549 : 新景累ヶ淵 ◆HyHxCszaNY :2015/07/31(金) 23:34:04 6goSjx5o0
 鎌倉の若宮大路は海辺の由比ヶ浜から、鶴岡八幡宮まで一直線に通るメインストリートだ。
 その八幡宮前で月に照らされた2人の男が、まるで神に舞踊を捧げるかのごとく戦いを繰り広げている。
 
 一人は全長六尺以上、槍身が一尺以上の大身槍を片手で振るうナイフのごとく精密に捌く鎧武者。
 一人は白い詰襟の学生服を着、両手に扇子を構えた長髪の男。
 片方が閃光の様な軌跡を描く連続の突きを、もう一方は独楽のように回る独特の足さばきでかわしている。
 鎧武者のサーヴァントであるランサーは、戸惑いの表情を隠せなかった。
 物理的な速さは、間違いなく自分が上。そう確信するランサーだが、槍は敵を貫いたと思った瞬間、身体が空に溶けるかのごとく避けられる。 
 敵の一切の表情が消えた顔。操り人形の様な動作。身体が透けるような存在感のなさ。これらが原因でまるで相手の動きが読めない。
 だがランサーも戦場往来の強者。突き、下段への払い、上段打ち、地面にたたきつけて返しの斬り上げ。
 持てる技を全て使い、狛犬像の元へ背中を付けさせるまで追い込んだ。
 もはや足捌きは使えまい。ランサーは裂ぱくの気合と共に、かわすのが至難な正中線上への突きを放った。
 はたして、その突きは正確に男の胸板を貫き――。
 男は笑みと共に、扇子を扇いだ。

 男は消え、残ったのはランサー。間違いなく勝者であるランサーは最後まで勝利した実感が持てなかった。
 あのサーヴァントは本当に実在していたのか。最後の行動に何の意味があったのか。そもそもこの戦いは本当にあった事なのか。
 憮然とした表情のまま、マスターに報告をするべくその場を離れた。

「終わったの、アサシン?」
 ランサーが去った後、白い学ランの男――アサシンに向かい建物の陰から声をかけたのは、口元全てを覆い隠したマスクをした女性だった。
 ランサーと偶然の遭遇による応酬の末、狛犬の前で止まったアサシンに対しランサーは神社前の狛犬を砕き、苦い顔のままその場を立ち去った。それが彼女の見た全てだ。
「はい。これであのサーヴァントはマスターの元に戻った時、己の手で自身のマスターを殺す。そう仕込んでおきました」
「それがあなたの宝具ってやつなの?」
「千葉流裏舞踊“傀儡の舞”。真にかけられれば、本心よりこちらの意のままに動く業です」
 そう言ったアサシンの笑みに対し、マスターの女性はあからさまに不快になった。
 それも当然と言える。なにしろこの技が彼女自身にかけられていない保障など何処にも無いのだ。
「心配の必要などありませんよ。なにしろあなたの願いは操られようとも変わるものでもないでしょう?」
 心情を見透かされた彼女は、マスクを勢いよく剥ぎ叫んだ。

『ユダヤのどの娘より美しいお前が欲しいものとは一体何だ!?』
 マスクの下には頬骨近くまで裂けた唇。さらに右の口は耳元まで裂かれた傷跡が残っていた。
 目は崩れた福笑いのようで、白目と黒目がアンバランスに配置されたその姿は、都市伝説の住人と言っても信じられただろう。
『銀の盆に載せてほしいものとは何だ!?』
 容姿に反し彼女の声は芯に通り、聞く人間を圧倒する迫力と陶酔させる魅力を併せ持っていた。
「戯曲『サロメ』ですか」
 無感情に歩く通行人でさえ思わず足を止めるであろう、その声を浴びせられながら、アサシンは平然としていた。
「その容姿と踊りで王を魅了し、預言者ヨカナーンの首を要求した伝説の歌姫サロメ。確かに先程の技はそれを彷彿とさせますね」
 アサシンは他人事のように言った。
「もし僕になにか疑念を抱いているなら、それは勘違いです。僕の願いはあなたと初めて会った時言った通りですよ。マスター、淵 累さん」 
 マスターの女性、累はアサシンと出会った時を思い返した。


550 : 新景累ヶ淵 ◆HyHxCszaNY :2015/07/31(金) 23:34:23 6goSjx5o0
 累はある特殊な魔法を使える。
 それは母の形見である口紅を塗り、誰かとキスをすると顔を交換できるというものだ。
 伝説と化した女優、絶世の美女と謳われた母の淵透世より教わった口紅の使用法。
 この口紅を思い出し、使用した時、累は母もまた顔を誰かより奪いつつけたのではないか、と疑問を抱いた。
 成長した累は母の秘密を知る羽生田欽伍の協力を得て、丹沢ニナという最高の剣を手に入れる。
 舞台で役を演じ、スポットライトの下で賞賛を浴びる蜜月の日々。
 だがそれもニナの唐突な死亡により、終焉する。
 死んだ人間からの顔も交換できるのならば――それは累にはとてもできない事ではあったが――続けられたであろうが死体からは交換できる日数に限界がある事を羽生田より告げられる。
 結局『丹沢ニナ』の失踪工作を行い、累は鎌倉に身をひそめた。
 不安と焦燥で、飲めもしない酒に溺れる日々。
 今まで光の元に居たはずが、いきなり闇へと突き落とされた絶望で自分の醜い顔を鏡で見ることさえできず、鏡を割り外へと飛び出した。

 そこで初めて、街の異常に気付いた。
 
 闇夜の街を覆う緊迫感。
 そして右手の甲に刻まれた『令呪』とまるで記憶にない『聖杯』の知識。
 聖杯、となればそれは神の子の血を受けたあの聖杯しかない。
 だが、聖杯戦争とは? サーヴァントとは?
「聖杯戦争とは、あらゆる願いが叶う聖杯を奪い合う戦い。
 サーヴァントとは聖杯を狙うマスターの武器にしてしもべです」
「誰!?」
 と、累は声の方向に振り向いた。
「初めまして。僕はあなたのサーヴァント。アサシン、吉岡達也です」
 扇子で顔を扇ぎながら輝くような笑みで、男は答えた。
「でもちょっと期待外れかな。魔力はあるみたいだけど、実戦慣れしてないようだし。
 何より――ねえ」
 達也は口を扇子で覆った。扇子の端から、嘲るような口端が覗いている。
 
 累は怒りに震えた。サーヴァント。下僕。奴隷。そんな相手でさえ、私の顔を笑うのか!

 達也の言葉は単なる挑発であり、いかなる望みを聞くかその前にどのような人間かを試すための台詞である。
 令呪で命令される以外はどんな反応でも受け入れる気であった。
 だがそれでも累の反応は達也の予想を超えていた。
「私にどんなことが出来るか――見せてあげる」
 累は懐から口紅を取り出し、唇に塗りつけ、そして達也の唇に自身の唇を重ねたのだ。
『そういえば、ファーストキスか』
 達也は呑気に考えながら、わざと押し倒された。

『お前は天使か、それとも悪魔か?
 お前の目的は悪意に満ちたものか、善意に満ちたものか?
 お前がそのような姿で現れたからにはさあ、答えよ!
 なにゆえ死して棺に納められ、葬られた遺骸が墓石の郊外を開いて再び吐き出されたのか?』
 累は叫んだ。達也の顔と声色で。
 この時、達也は自分と累の顔が入れ替わっている事に気づいた。
『月の夜にかくも再び帰りおとずれ、夜もかくも恐ろしいものにするとは!
 我々愚かなる者はかくも恐ろしい程、心をかき乱されてしまうとは!
 さあ、何故だ? 何のためだ? 我々にどうしろというのだ!』
 喋る顔は達也と同じはずなのに、輝きが異なる。同じ声色のはずなのに、達也の心をゆさぶる。
 それは偽物が本物を凌駕する美しさだった。
「――素晴らしい」
 累の顔で、達也は呟いた。
 単なる美しさだけでも、演技の上手さだけでもない。
 内面から湧き出す何か。それは達也自身にはとても持ちえないものであると直感した。

「あなたはその美を永遠のものにしたいと思いませんか?」
 
「聖杯に願うにはささやか――とは言えないか。ですがあなたは欲しくはないですか?
 光に満たされた居場所を。美を賞賛される幸福を」
 
「――欲しい!!」
 累は叫んだ。地獄の獄卒もかくやという鬼の顔で。


551 : 新景累ヶ淵 ◆HyHxCszaNY :2015/07/31(金) 23:34:37 6goSjx5o0
 グロテスクな美などというものを達也は否定していた。
 美とは生まれついたもの。天賦の物を磨いてこそ、完璧な美へと近づくものだ、と。 
 だが、累を見て考えを改めた。
 醜い容姿故に身に付けた異常な執念と突出した演技力。
 心と技に顔の交換という体をそろえた時、完璧を越えた美が誕生する。
 千葉流が千年追求した美も色あせる『感動』。
 自分や摩也のような才能を持つ者が努力しても決して届き得ない領域。

「あなたが初めて出会った時、見せた美で僕を魅せるのならば……あなたに忠誠を誓いましょう」

 これもまた達也の本心ではある。だが願いといえるものではない。
 達也の願いはただ一つ。
 兄弟の摩也と一緒で、恵と出会い、三人で平穏な生活をいつまでも送る事。
 マスターの累が望むように光の場所などいらない。ただ普通の生活を。
 だが、累はただ生きているだけで『普通』など望めない立場だ。
 だからこそ、彼女に協力しようと思った。
 何故なら、達也も演じる事でしか、人形のねじを回し続けることでしか人間の生活ができなかったのだから。
 累の悲鳴、絶望は達也のそれとは異なるが、己の意志ならぬところで決められた宿命に抗う。
 サーヴァントとなって初めてそれに挑めると思ったからこそ、累に忠誠を誓った。
 願いを語らないのは、今以上に信用されないであろうという判断からだ。
 醜い顔故光を求める相手に、美しい顔を持ちながら普通を求めるなど嫌味にしかとられないだろう。

 累はマスクをつけ直し、アサシンを無視して若宮大路を歩き始めた。
 目的地は鎌倉美術館。実際の鎌倉と少し地形が違い、劇団の公演が行われる鎌倉美術館が鎌倉駅の近くにあるのは好都合だった。
 アサシンの宝具で操れば、顔と社会的立場を手に入れられるだろう。
 
 累は達也について考えると、心の底から怨念にも似た何かがわき上がる。
 達也の笑顔も心を隠す言葉も立ち振る舞いも何もかも気に入らない。
 だけど、累は達也を従える事でしか生き残る事は出来ず、アサシンの力無くては目的に達する事も出来ないのだ。
 立ち止まるわけにはいかない。名声を、美を、幸福を、光に満ちた居場所を再び手に入れるために。


552 : 新景累ヶ淵 ◆HyHxCszaNY :2015/07/31(金) 23:35:09 6goSjx5o0
【マスター】
淵 累(ふち かさね)@累
【マスターとしての願い】
 口紅の効力が切れるのを恐れる必要がない、永遠の顔を。
 再び劇場で演技を。
【weapon】
母の形見の口紅
【能力・技能】
演技力
 演ずる役の人生そのものまで表現する卓越した演技。
 その根源は演じる事でのみ本物の人生を送れるという思い、そのために光を浴びる世界を失いたくないという異常な執着心からきている。
顔の交換
 口紅を塗った状態で、相手の唇にキスをすると顔を交換できる。
 持続時間は平均約12時間。顔を交換した状態で新たな相手にキスをすると、前の相手との顔の交換はキャンセルされる。
 死体からも奪えるが、交換する度に持続時間は短くなってゆき約5日間が限界。
【人物背景】
 絶世の美女、伝説の天才女優と謳われた淵透世の娘。だが彼女は母とは違い非常に醜い姿で生まれついた。
 母とはまるで似ていない容姿のせいでいじめを受けていたが、いじめで学芸会の主役に推薦されたのがきっかけで母の形見である『口紅の使い方』を思い出す。
 成長して後、母の協力者だった羽生田の紹介で丹沢ニナの代役となる。
 ニナから名声も美も全て奪い、ニナが自殺を図り植物状態となってからはさらに舞台や役者へと執着していく。
 美や光ある居場所に執着するが、そのため人の破滅までを積極的には行えない甘さが残っている。
 今回の聖杯戦争ではニナが死亡したため、消息を絶つ工作を行った後、地方都市(ここでは鎌倉)に身を隠している時からの召喚である。
【方針】
 アサシンは信用できないが、人身操作、記憶操作の術はかなり使える。
 まず別の顔を確保し、非戦派を装い他マスターと同盟を組みつつ、内部から崩していく。


553 : 新景累ヶ淵 ◆HyHxCszaNY :2015/07/31(金) 23:35:24 6goSjx5o0
【CLASS】
アサシン
【真名】
吉岡達也@コータローまかりとおる!
【パラメーター】
筋力C 耐久E 敏捷B 魔力C 幸運E 宝具―
【属性】
混沌・悪
【クラス別能力】
気配遮断:―
 アサシンのクラスが持つ共通スキルだが、このサーヴァントが持つ気配遮断はそれらのどれにも該当しない。
【保有スキル】
千葉流裏舞踊:A+++
 通常の演舞の裏に隠れ、受け継がれてきた乱世の舞。
 気を殺し、気を察し、気を放つことで気を手足の様に使いこなす。
 元が舞踊なだけにAランク以上の習得でなければ、実戦レベルでの行使は至難の業である。
気殺:A+
 気術と体術を併用した隠形術。
 究められたその技は自らの存在を消失させ、姿を自然に透けさせる事さえ可能としている。
投擲(扇子):B
 扇子をブーメランのように放つ能力。
無拍子:B
 間を見切り拍子を読ませない、予備動作を消し去った動き。心技体の一致で初めて体現できる武術の奥義。
 同じ攻撃を繰り返しても、技の仕掛けを予測不能にする特殊なスキル。
コールドトミー:―
 頸椎の神経を電気的に焼き切り、痛覚を遮断する手術。
 後天的な無通症。
病弱:A
 末期癌。あらゆる行動時に急激なステータス低下のリスクを伴う。
 だが、コールドトミーにより、リスクを無効化している。
【宝具】
『傀儡の舞』
ランク:― 種別:対軍宝具 レンジ:― 最大補足:1000人
 宝具の領域に達した人身操作の術。術者の意のままに感情や動きを操る。
 純粋な体術によるためモニターの映像ですら効力を発揮し、繰り返し見る度に被暗示性が高まってゆく。
 抵抗できるか否かは、対精神干渉スキルの有無による。
『封心の舞』
ランク:― 種別:対軍宝具 レンジ:― 最大補足:1000人
 宝具の領域に達した記憶操作の術。術者の意のままに記憶を封じ、改竄する。
 純粋な体術によるためモニターの映像ですら効力を発揮し、繰り返し見る度に被暗示性が高まってゆく。
 抵抗できるか否かは、対精神干渉スキルの有無による。
【WEAPON】
扇子
 投擲、宝具用。
 千葉流気流刃で硬化し、近接戦でも使用できる。
【人物背景】
 「千葉流」という古来から1000年続く日本舞踊の流派の総帥であり現継承者。
 独特の美学を持っており、美しいもの、とりわけ万物が滅びる時の「滅美」を至上の美としている。
 卓越した体術、手に持った扇子による攻撃、舞踊による催眠術を用いて戦う。
 またコールドトミーにより痛覚がないために肋骨を蹴り折られても平然としていたり、折れた左腕で殴り返すなど壮絶な戦いぶりを見せる。

 摩也という双子の兄がおり千葉流を継ぐはずであったが、彼が継承者としての束縛を嫌い家を飛び出した為に達也がその後釜とされた。
 父親は摩也がいずれ家を出る事を予期しており、達也にわざと毒を盛り、吉岡の家に養子として出し、吉岡家にいた恵という妹と互いを慕い合う関係に仕込んでおいた。
 千葉家に戻った達也は父からの厳しい稽古の中での恵が唯一の心の支えとなっていたが、千葉流秘奥「傀儡の舞」の伝授の際に恵が父の手により幼少から達也を兄と慕う催眠をかけられてえた事実を告げられ精神が瓦解。
 「傀儡の舞」を極めるにふさわしい器となる。
 その後は父親に自身が飲まされた毒を同じものを仕込み、殺害。
 さらに 「傀儡の舞」を全世界に放映する用意をし、世界を破滅させようとする。
 主人公のコータローの手で止められるが、その時には末期がんで余命いくばくもない状態だった。
 最後にTVジャックで「傀儡の舞」により洗脳された状態の人々を元に戻すため、摩耶が「封心の舞」を舞う姿を眺め、自身の望みは破滅ではなく摩也と恵といつまでも一緒に居る事だと自覚し息絶えた。
【サーヴァントとしての願い】
 双子の兄弟の摩也と、義理の妹の恵といつまでも三人で暮らす事。
【基本戦術】
 アサシンらしく、マスター狙いになる。
 透明化できる気殺はかなり探知能力の高いサーヴァントでも察知は困難なので、マスターとサーヴァントが離れた隙を狙おう。
 サーヴァントとの真っ向からの戦いは出来るだけ避けた方が良い。
【運用法】
 マスター、サーヴァントの洗脳が可能というのが大きい。
 マスターの演技力なら宝具を隠したまま助力を請い、対精神干渉スキルの有無を確かめた上で洗脳も可能であろう。
【方針】
 マスターの社会的立場を確保したうえで、他マスターとチームを組みたい。


554 : ◆HyHxCszaNY :2015/07/31(金) 23:35:40 6goSjx5o0
 以上投下終了です。


555 : 封印されし者 ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/01(土) 00:03:12 nL4LIVxg0
滑りこみアウトで投下します。


556 : 封印されし者 ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/01(土) 00:03:34 nL4LIVxg0
 そこは暗い暗い地の底。鍾乳洞の最深部。
 蝙蝠の糞の匂いや生臭い水の香りが立ち込めるここは人の住めるところではない。
 いわば一種の未開の地であるが、そう呼ぶには奇異な点がいくつもある。
 一つが呪符だ。陰陽道、仙道、神道など東洋の魔術めいた札がいくつも張られ百年の歳月より腐った今でもその効力を発揮していた。
 夥しい札は風水の法に則って張られており、互いに相乗効果を生み出し符界の中心部に絶大な封印力をもたらしていた。
 二つ目が符界の中心。人為的に一部が削られ更地となった所に蹲る何かがあった。
 それは人形ではあるものの呼吸もせず、鼓動もせず、身動きしない木乃伊。
 しかし────

「────抑止の環より来い。天秤の守り手よ」

 もはや声帯など存在しない木乃伊から声がする。ボソボソと呟いていたのは呪文だ。
 そう、この聖杯戦争のサーヴァントを召喚するための────

「サーヴァント・セイバーいざ推参した。問おう、君が我輩を召喚したマスターか?」
「そうだ。俺がお前のマスターだ」

 目に嫉妬と憎悪の炎を燃やして己がサーヴァントを見る。
 襤褸を纏い全身から腐乱臭漂わせた穢れた木乃伊とは反対で美しい容貌と、いい匂い、仕立てのよい衣装に身を包んだ少女がそこにいた。
 妬ましい。なんで俺が、こんな目になっている。

「貴様が俺の下僕か? 精々使ってやるから俺の役に立て」
「そのザマで何を偉そうにしているのだね?」
「黙れ。俺を見下したな? 屑が。誰を蔑んでいる? 貴様などいつでも八つ裂きにできるのだぞ」
「ふむ」

 はぁ、とため息をつき。
 
(これはいらんな)

 そう判断したセイバー。腰のレイピアを抜いて木乃伊へ突き立てようとし、その異変に気が付いた。


〝干キ萎ミ病ミ枯セ。盈チ乾ルガ如、沈ミ臥セ〟


 空間が変容する。
 物理が変革する。
 現実が変異する。
 そう、これこそが────!!


〝急段、顕象〟


557 : 封印されし者 ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/01(土) 00:03:49 nL4LIVxg0


 爆発の如き音と共に現れたのは化物の軍勢だった。
 まるで紫色の腐肉を粘土のように子ね合わせて作った髑髏の群れがセイバーに襲いかかる。


   *   *   *


 何だこれは?
 サーヴァント・セイバーとして召喚された英霊『魔法少女プキン』は瞠目する。
 突如現れ周囲を冒す肉髑髏の群れは木乃伊のマスターを中心にこちらへ迫る。
 反射的に迫る髑髏をレイピアで迎撃しようとするも霞のように、レイピアを通り抜けてプキンの肉体へと接触した。

「グ、ガァ、アアアアア!」

 突如にプキンの体内に病という病が氾濫する。腹が、胸が、末期癌特有の激痛を訴える。更に黒い、汚物の臭いのする何かを吐瀉する。

「生け贄風情が見下したな?」

 更なる化物の群れがプキンを蹂躙する。髪の毛が抜け落ち、足が緑色に変色して激痛と共にへし折れる。

「貴様、一体何を」

 あり得ない光景だった。
 サーヴァントをここまで蹂躙する魔術など何の工程も踏まずに発動できるはずがない。

「何をしただと? 単純に俺に敵意を向ける貴様が間抜けなだけだ。
 そんなことより早く俺の役に立て。さっさと聖杯を持ってこい」

〝早く俺の役に立て〟と〝聖杯を持ってこい〟という命令に令呪が発動する。
 起きるのは瞬間移動と屈服。瞬間移動の命令により一瞬の間にプキンは都市部のどこかにいた。
 そしてもう一つの命令。鬱陶しくも動きや思考が制限されている。
 すなわちプキンが木乃伊のマスターの命令を忠実に実行しない限り、性能が制限されることに他ならない。
 さらに病魔も深刻だった。プキンの身体を貪り病原たるマスターの思念がドロドロと流れ出している。
 耳障りなあの木乃伊の声がするのだ。

 俺の役に立て俺の役に立て俺の役に立て
 俺の役に立て俺の役に立て俺の役に立て
 俺の役に立て俺の役に立て俺の役に立て
 俺の役に立て俺の役に立て俺の役に立て
 俺の役に立て俺の役に立て俺の役に立て
 俺の役に立て俺の役に立て俺の役に立て

 プキンは己の剣で己の頬を軽く切った。そして己の宝具の力で己に〝私は世界最高位の外科医だ〟と暗示をかける。
 ついでに耳障りな声も〝聞こえない〟ことにした。

「ふん」

 まずは高ランクの外科手術スキルに依存した病巣の物理的摘出を行う。
 傷口を抉り、掻き分ける苦痛や悍ましさを〝感じない〟ようにして外科手術による治療は完了する。
 業腹であるが、プキンが戦闘のための行動を取り続ける限りある程度は令呪による補整が入るらしい。
 三つほど内蔵を削っても消耗が少ないのはそのせいだ。

「こんなものだろう」

 糸も麻酔も無しに肉体から患部を取り除き、状況を整理する。
 とりあえず、あの下郎の始末は後だ。我輩にも通ずるあの魔術があればサーヴァントにも後れは取らぬだろう。
 問題はアレの寿命だが、正直死んでも問題ない。新しいマスターを探すか、適当なサーヴァントを殺して再契約すればいい。

「では、ひとまず当代の文化を楽しむとするか」

 スキルに黄金律を付けてプキンは街へと踊り出た。


558 : 封印されし者 ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/01(土) 00:04:16 nL4LIVxg0
【サーヴァント】
【クラス】
セイバー

【真名】
プキン

【属性】
秩序・悪

【パラメーター】
筋力:A 耐久:B 敏捷:B 魔力:D 幸運:D 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:E
 神秘の薄い時代に生まれたため無効化は出来ない。
 ダメージ数値を多少削減する程度。

騎乗:D
 「乗り物」の概念を持つものを乗りこなすスキル。

【保有スキル】
心眼(真):D(A)
 数多の修羅場をくぐったことで得た洞察力。
 いかなる窮地においても戦況から活路を見出す。
 本来ならば高ランクなのだが、スキル『無辜の怪物』により上手く発動していない。

無辜の怪物:A
 後世の風評によりその在り方がねじ曲げられるスキル。
 セイバーは魔法の国では「将軍」とよばれ冤罪を作って人を狩った魔法少女として後世に記録された怪物。
 人間世界にも多大な影響があったとされ、グレートブリテン島に人を喰い殺す「プキンとソニア」というマザーグースが残されている。
 そのためより嗜虐性が増し、「加虐体質」や「反骨の相」、「拷問技術」捕食による「吸収」が可能。
 代わりに武術に関するスキルと技量が軒並みランクダウンしている。
 このスキルは外せない。

貧者の見識:C-
 言葉による欺瞞を見抜き相手の本質・真実を見抜く能力。
 プキンは人間を見抜く力は確かにあるが、自分にとって都合の良いように解釈するため能力が安定しない。

魔法少女:D
 魔法の国から与えられた超人的身体能力と魔法を持つ美少女に変身できる能力。
 魔法少女の中でも最古参で最高の能力を持つ。
 また思念によってステータスを一時的に上昇させられることができる。
 またこのスキルを持つ者は通常のサーヴァントよりも霊格が下がり、人間でも傷つけられる。
 プキンは旧型の魔法少女であるためランクが低いため回復にも大量の魔力か、食事が必要。

【宝具】
『汝は邪悪なり』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:一人
 プキンが生前使用した魔法。固有武器の魔剣で傷をつけられた者を洗脳する。
 単純な精神操作だけではなく、洗脳が本人にとって現実になり持ち得ないステータス、スキルを獲得する。
 スキル獲得に関してはどんな錯覚するかで得るスキルが変わる。また神性などの先天的なものは得られない。
 加えて保有スキルのランク上げや効果を打ち消すことはできない。
 また一度傷をつければ錯覚の内容は解除しない限り何度も変更可能。
 プキンは生前、これで他者を操ったり、自分に使って耐久値EXの不死身さを得た。

【weapon】
 名も無き魔法の細剣
 南瓜の柄を持つレイピア。


【人物背景】
魔法少女育成計画limitedより参戦
130年前にイギリスで大量の冤罪を生み出し、犯罪者から没収した財産で私腹を肥やした。
冤罪が発覚した後に監獄に収監され130年間もの間、封印されて汚れ仕事のためだけに駆り出される。
そして自由を条件に反体制勢力の任務に加わり脱獄する。
その任務中に敗走、従者の死亡と仲間の裏切りが重なり暴走した。

【サーヴァントとしての願い】
我輩が冤罪を作って私腹を肥やしたという間違った事実を修正する。


559 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/01(土) 00:04:23 tKCmlLc60

 皆様、当企画への沢山の投下ありがとうございました!
 OPの投下日時は追々告知させていただき、当選発表もOP投下で代えさせていただく形にしようと思います。
 できるだけ早く発表させていただこうと思っておりますので、もうしばらくお待ちくださいませ。


560 : 封印されし者 ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/01(土) 00:04:37 nL4LIVxg0
【マスター】
緋衣 征志郎@総州戦神館学園 万仙陣

【マスターとしての願い】
盧生になる

【weapon】
なし

【能力・技能】
・邯鄲法
夢の世界から力を引き出す術式。
身体強化、魔弾発射、空間破壊など基本的になんでもありだが何が可能かは適性に作用される。
征志郎は空間の創造と力の放射と身体能力強化にあたる。
尤も、木乃伊化している彼には最初の二つしかできないが。

・急段
邯鄲法の位階の一つ。下から序、詠、破、急、終。
相手に特定の条件を満たさせることで発動する能力。
合意したことにより相手の全力+自分の全力が乗るため防げない必殺性を持つ。
サーヴァントが有効なのも単純にサーヴァントの力が上乗せされているため。

【人物背景】
夢の世界から邯鄲法を現実へと持ち出せる適性を持つ人物を盧生と呼ぶ。
ただし適性を持っていても盧生になるには夢の世界に潜る必要があり、それを可能とするのは逆十字と呼ばれる一族の秘術のみ。
逆十字という一族は常に死病に冒される体質を抱えており、これを癒すために盧生の資格を欲した。
初代逆十字の聖十郎、二代目の征志郎は盧生を作って盧生の資格を奪おうとして失敗した。
征志郎は第四の盧生の眷族として邯鄲法が使えるが肉体は封印され木乃伊のまま百年ほど生き続けてきたのだ。


【方針】
木乃伊化して動けないのでプキンに他のサーヴァントを片付けさせる。


561 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/01(土) 00:04:51 tKCmlLc60
すみません、すれ違ってしまったようです(土下座)


562 : 封印されし者 ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/01(土) 00:04:54 nL4LIVxg0
投下終了です。


563 : ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/01(土) 00:05:56 nL4LIVxg0
遅刻している私が悪い(焼き土下座)


564 : 名無しさん :2015/08/02(日) 07:00:14 UhGDDqkMO
候補作の投下期間お疲れさまでした


565 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/03(月) 14:58:55 xQnKfDjM0
お待たせしました。
今晩の午前0時より、当選発表として当企画のOPを投下させていただきます。


566 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:00:33 a0b4SNoc0
OP投下します。


567 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:00:58 a0b4SNoc0


 廻れ、廻れ。
 全ての夢と希望を乗せて。
 それが真なりと詠嘆し、廻り続けよ。
 月より来たりて常世を覆うがいい、盲目の皇。
 おまえは太極、おまえは森羅、おまえは万象、おまえは聖杯。
 星々の瞬きを祈りと代え、廻り出すがいい。


 宝具の銘は、『万仙陣』。あらゆる願望を叶える無限の夢よ、全ての衆生を今こそ救い奉れ。


568 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:01:49 a0b4SNoc0



 銃声が炸裂した。
 人通りの少ない道であるため、憚る必要もない。
 それに。日毎拡散される都市伝説で混迷化したこの鎌倉市に限っては、今更銃声程度で驚く者も居るまい。
 凶行の主は、夜闇に紛れるのに適した黒服を纏った、数人の男達であった。
 想像に漏れず、彼らは堅気の人間ではない。所謂ヤクザ。暴力団の人間である。

 彼らが受けた命令は一つ。――"鎌倉に存在する、聖杯戦争のマスターと思しき人間を片っ端から暗殺する"ことだ。

 最初こそ当惑した彼らではあったが、流石に荒事には慣れている。
 このように、深夜帯の夜道を一人で歩く明らかに不自然な人物を狙い撃っているだけでも成果は上々だった。
 当然ながら仕損じることも、時には"間違える"こともある。
 鎌倉市内の殺人事件や不慮の事故の数は、これまでの数倍ほどにまでこの数週間で増加している。
 その数字に紛れているだけで、彼らが誤殺した元からの鎌倉市民も少なからず存在するのだ。――かつての彼らならば仁義に反するとし、只では済まさなかったろう蛮行。しかし今となっては、異論一つ唱える者はなかった。
 街が日を追うごとに変わっていくように。外から現れた支配者を前に、彼らも着々と人格性を変貌させつつある。
 だが少なくとも今夜、この"殺人現場"に居合わせた者達はその点幸運だと言えよう。

 彼らはもうこれ以上、聖杯戦争などという儀式の都合で狂うことはなくなるのだから。


 「……あ?」

 引き金を引いた男の胸に、薙刀のような武器による傷が刻み込まれていた。
 当然、致命傷だ。男は呆気なく、まるで砂の城が崩れるように膝を尽き、血を流し続ける蛇口と化す。
 下手人が誰かなど、言うまでもない。彼らが銃口を向け、射殺せんとしたマスターの少女である。

 「て、手前ッ」

 連続する銃声。
 しかし、只の一発たりとも少女に傷を付けられない。
 弾は確かにその奇矯な衣装を捉えている。
 なのに、全てが彼女をすり抜けて向こう側へと抜けてしまうのだ。
 まるで、水か何かを撃っているように。

 茫然とする殺し屋たちは、一転狩られる側へと立場を変貌させる。
 背中を向けて逃げ出す彼らだったが、当然、逃れられる筈もなかった。
 彼らがマスターであるだけの無害な少女と思い、喧嘩を売った相手は、断じて単なる少女ではない。

 『逆凪綾名』は魔法少女である。魔法少女、『スイムスイム』である。
 見た目が如何に可憐であろうとも、その身体は最早人間のものを超越している。


569 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:02:33 a0b4SNoc0
 弾丸程度では傷付けられず、よしんば傷付けられたとしても、彼女の魔法がそれを許さない。 
 スイムスイムは、自らが手にかけた男達を見、考える。

 ――数時間前、神父より本戦開始の連絡があった。
 そしてこの彼らは、明らかにその筋の人間だ。
 帯銃もしていたのだ。よもや、一介の通り魔ということもないだろう。
 つまり彼らは何らかの目的があって、スイムスイムを狙ったのだ。
 
 「マスター狩り」

 であれば、それを糸引いているのが何であるか。
 改めて確かめるまでもない。サーヴァントだ。サーヴァントが、何らかの手段で重役を獲得し、人材を操っている。
 スイムスイムは彼らが残した総数四丁の銃のみ回収すると、死体には目もくれず、何事もなかったかのように再度歩き始めた。キャスターは今、何をしているんだろうか。そんなことをぼんやりと考えながら、凶行の現場を後にする。



 『叢』がその惨状を目の当たりにしたのは、スイムスイムが去ってから三分ほど後のことであった。
 
 闇夜に轟いた銃声を聞き、得意の隠密を維持しながら現場へと現れた次第だったのだが。
 彼女が見たものは四つの死体。ある者は胸を、ある者は首を、ある者は顔を、ある者は腹を斬られている。
 傷の形からして、重量のある刃で斬り付けられたのだろうと叢は推測する。
 恐らく、そんなものを振り回して実戦へ及ぶなど、この時代の人間には不可能だ。
 そういう経験があったり、何か特別に鍛えているなどの事情があれば話は別だが、それでも四人を次々に斬り倒すとなれば相当だ。何より、彼らの手。いびつに歪み、中には無理に引き千切られているものもあるが、その形には一定の共通点がある。この手付きは――銃を持つ手だ。下手人は帯銃した相手を四人同時に相手取り、皆殺しにしたことになる。

 「……サーヴァント。もしくは戦う力を持った、異世界のマスター」

 叢は冷静に分析する。
 そして、自分の傍らへ霊体化した状態で控えている英霊へと命じた。

 「アサシン。念には念をだ。周囲を探し、それらしい人物を発見次第報告しろ」
 「……分かった」
 「もしも襲って来るようなら、交戦しても構わない。だがサーヴァントと戦うのは極力避けるように」

 闇色のコートを羽織った、骸骨の顔を持つアサシン。
 彼は従順に頷けば、この惨状を引き起こした者を探す為に姿を消した。
 叢もまた、周囲へ細心の注意を払いながら彼らを殺めた者の追跡にあたる。
 しかし彼らは結局、殺人現場の主を見つけ出すことは出来なかった。
 忍と暗殺者、その双方を持ってしても、である。 

 徒労に終わる追跡を続ける叢を嘲笑うように、路傍の端で黒猫が黄金に瞳を輝かせていた。


570 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:03:13 a0b4SNoc0



 その翌日。
 部下が返り討ちに遭ったとの報せを受けたライダーの英霊は、ただ「そうか」と言って笑うだけだった。
 ドンキホーテ・ドフラミンゴ。仁義を重んずる則を踏み潰して君臨した、悪逆非道の天夜叉。
 彼にすれば、一朝一夕の付き合いにも等しい雑兵共などは端から仲間ですらないのだろう。
 事実ライダーは幾ら部下が潰されようと、動かせる手駒が減って厄介程度にしか思ってはいなかった。
 彼も馬鹿ではない。一度のマスター狩りに差し向ける数は最小限に止め、今回のようなアクシデントが起こった時でも損害を最小で止められるように采配している。無論、そこにあるのは断じて人情などではなかったが。
 
 彼を見る度、『乱藤四郎』は無力感に打ちのめされる思いだった。
 聖杯は欲しい。何としても手に入れなくてはならないし、その為にはライダーの力が必要不可欠だ。
 しかし――彼のやり方は嫌いだ。彼が犠牲の報を笑う度、反吐が出る想いに包まれるのを堪えられない。
 
 勿論、令呪を使って従わせることは出来る。
 だが彼の戦術が聖杯戦争を勝ち抜くということに関し、的を射ているのは紛れもない事実。
 実際にライダーの"マスター狩り"は予選段階だけでも五人以上の戦果を挙げている。
 だから、乱は彼を諌めることは出来ない。どんな綺麗事を並べ立てても、結局の所乱も同じ穴の狢なのだ。
 聖杯の為。自分の願いを押し通す為に他を踏み台にする、自分勝手な最低のクズである。

 「いち兄……」

 朝の日差しを浴びながら、乱は浮かない顔で町を歩いていた。
 マスターが無闇矢鱈に出歩く危険性は承知しているが、あんな所に引き篭もっていては息が詰まってしまう。
 乱は毎日数時間は、こうして外を歩く。
 いろんなことを考えて、いろんなことを思い返しながら、ただ目的もなく鎌倉の町を練り歩く。

 普段ならば。誰と話すでもなく、ただ自分とだけ向き合い、結局何も得られずに帰途へ着くのだったが。
 ほんの気まぐれで、彼は八幡宮へと寄ってみることにした。
 八幡は観光名所だ。当然昼間は混むし、そんな場所を歩けば必然的に他のマスターとエンカウントする危険も増す。
 そう思い、これまでは足を運ぶこともなかったのだが――偶には良いだろうかと思い、彼は八幡へ足を向けた。

 案の定、休日の八幡は混雑していた。
 これではお参りも出来ないかな。苦笑しつつふと視線を反らせば、道の隅でぼうっと立っている少女が見える。
 何も、何十という参拝者の中から特別に彼女を見つけ出したわけじゃない。
 彼女の見た目が、あまりにも目立つものだったのだ。雪のような白髪と赤い瞳。小柄な背丈ながら、将来はきっと凄い美人になるだろうと見る者へ確信させる――月並みに言って、美少女だった。
 正直、シチュエーションがシチュエーションならば妖精や精霊の類と見間違えても可笑しくはない。
 しかし八幡に現れた雪の妖精はぼうっと虚空を見つめ、ぽつんと一人で立ち尽くしている。
 人が通りたがっていてもお構いなしだ。まるでそんな連中、視界に入ってすらいないように――

 「そっか……目が、見えないんだ」

 妖精はどこか慌てた様子を見せている。
 あの覚束ない所作は、盲目の人間特有のものだ。
 乱は少しだけ悩んだが――人々が次第に舌打ちや彼女への文句を呟き始めた所で、見ていられなくなった。
 
 「ごめんなさいっ。――ほら、こっちだよ」
 「え? あっ……うん」

 妖精の手を引いて、物陰へ。
 彼女は突然のことに困惑気味だったが、助けてくれたことは分かったようで。


571 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:03:59 a0b4SNoc0
 妖精の手を引いて、物陰へ。
 彼女は突然のことに困惑気味だったが、助けてくれたことは分かったようで。

 「君、お父さんやお母さんは?」
 「……いないわ」
 「……じゃあ、迎えに来てくれそうな人はいる?」
 「いる。待ってろって言われたから、あそこにいたの」

 なんて無責任な保護者だ。
 乱は他人事ながら、少しむっとした。
 少女はまだ、目が見えないということに慣れていないように見える。
 そんな人間をこんな人通りの多い道へ放置して目を離すなんて、あまりにも無責任ではないか。
 
 「君、お名前は?」
 「イリヤスフィール」
 「……いりや、す……?」
 「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。イリヤでいいわ」

 『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン』の名前は、海の外の文化に疎い乱には馴染みのない形式だった。
 イリヤスフィール、イリヤスフィール、イリヤスフィール。
 三度ほど反唱して、乱はやっと満足したように頷く。

 「イリヤ、ね。ボクは乱藤四郎っていうんだ」
 「トウシロウ?」
 「あー……ちょっと複雑な事情があって、ボクの兄弟には"藤四郎"が沢山いるんだよね。
  だからボクのことは"乱"でいいよ。そっちの方がボクとしてもしっくり来る」

 藤四郎の名前を冠する刀は、彼を除いても相当数存在する。
 乱の居た本丸では全種揃ってこそいなかったものの、それでも六振りは居た筈だ。
 だから、他人と会話する時は乱が名前のようなものだった。

 「ミダレ――ミダレは、女のヒト?」
 「ふふ。ボクはこれでも男の子だよ。よく女の子にも間違えられるけど」

 目の見えないイリヤにはわからないだろうが、乱の服装はどこから見ても年頃の少女のそれだ。
 長く伸ばした橙色の髪にスカート姿。肌はシミ一つなく、目もくりんとしていて実に可愛らしい。
 
 「……ミダレは、面白いヒトね」

 イリヤはそう言って、くすりと笑った。
 花が咲くような満面のものではなかったが、それ故にどこか儚げな美しさを秘めている。
 よく可愛い可愛いと言われる乱も、この少女には敵わないと素直に思えた。
 だからこそ、盲目なことが痛ましい。
 その朱瞳でもっと沢山の景色を見て、笑って生きていってほしい。
 そこまで願ってから、この世界の平穏を脅かしているのは他ならぬ自分でもあることを思い出し――唇を噛んだ。
 イリヤには伝わっていないだろうが、苦々しげな表情をしていたと思う。

 その時だった。
 乱の身体が、影に隠れる。
 咄嗟に後ろを振り向くと――

 「ふむ。どうやら、面倒を掛けたようだな」

 ――そこに居たのは、イリヤに負けず劣らずの淡麗な容姿を持った、金髪の青年だった。


572 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:04:35 a0b4SNoc0
 イリヤのものと同じ色の、朱い瞳が乱を見下ろす。
 最初彼は、イリヤの保護者が現れたなら一言文句でも言ってやろうと思っていた。
 勿論イリヤに余計な不安を抱かせないよう配慮しながらのつもりだったが、今の乱にそんな余裕はなかった。
 見下ろす瞳と、瞳が合う。男の眼は、まるで何かを見定めているようだった。乱の眼は、戦慄の色を帯びていた。
 
 
 サーヴァントとて、人の形をしているのなら現代の営みへ溶けこむことは難しくない。
 逆に、自らをまともな人間ではないのだと認識させることも容易い。
 ましてそれが聖杯戦争の参加者相手なら尚更である。
 伝説を生きた経歴は伊達ではない。そしてこの英霊は、特にそういうことには長けていた。


 「まあ、良い」


 乱は――動けなかった。何かを言うことも出来なかった。
 眼前に立つ未知のサーヴァントを前にして、蛇に睨まれた蛙が如く、完全に硬直していた。
 彼の使役するサーヴァントの手で、間接的に敵を排除してきたことならある。
 しかし当の彼は未だ自分の呼んだ英霊以外とは出会したことさえなかったのだ。
 これが、英霊――日頃戦っていた"歴史修正主義者"や、"検非違使"が束になろうと、この男には敵わないだろう。
 もしも彼がもっと剣呑な手合いだったなら、この場で乱藤四郎は屍と化して転がっていた筈だ。

 「行くぞ、イリヤスフィール。見物も終えた。どうやら、近くに英霊の気配も無いようだ」
 「分かったわ。……それじゃあね、ミダレ。さっきは助けてくれてありがとう」

 黄金の英霊に手を引かれ、雪の妖精は乱の前から去っていく。
 その間際、一度だけ彼女は振り返った。
 
 「次会うときは、貴方のサーヴァントも一緒にね」

 一人残された乱は、拳を握り締めて奥歯を鳴らした。
 自分の弱さを痛感させられたような思いだった。
 いつもより、拠点へ帰る足取りが重かった。





 聖杯戦争が始まる。
 その報せを受けた『すばる』も、例に漏れず浮かない顔をして海岸線を歩いていた。
 吹き付ける海風が気持ちいい。見れば、防波堤がちょうど腰掛けやすそうな高さと幅をしている。
 座ってみようと思い――やめた。特に理由があるわけでもなく、ただなんとなく、気が乗らなかった。
 
 見ると、物思いにでも耽っているのか、海を眺めてじっと動かない青年の姿が確認できた。
 後ろ姿しか見えないが、それでも引き締まった身体の持ち主だと分かる。
 彼も何か問題に直面し、彼なりの形で向き合おうとしているのだろう。
 根拠もなく、すばるにはそう思えた。
 そして、まだどうしようもない不安を抱えたままの自分の体たらくを見て、また少し落ち込んだ。

「わたしもあの人くらい鍛えたら、東郷……アーチャーさんの役にちょっとは立てるのかな……」


573 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:05:14 a0b4SNoc0
 想像してみる。
 筋肉で引き締まった自分の身体。
 おお。少し絵面はアレだが、決して悪くない。
 ただ、こんな短期間に行う一朝一夕のトレーニングで筋肉が付かないことくらい、すばるにも分かった。
 肩を落として去っていくすばる。


 そんな彼女の存在にすら気付かず――水平線の彼方を見つめる青年、『衛宮士郎』は呟く。 


 「いよいよか」

 自分を守り、共に戦うサーヴァントは今此処にいない。
 他ならぬ士郎自身が、彼女の同行を断ったのだ。
 今は一人になりたかった。一人で――色々と、物を考えたかった。
 
 真の聖杯戦争。
 本来の様式とは異なる、二十一騎の英霊によって行われる神秘の蟲毒。
 あらゆる世界線から垣根を越えて呼び寄せられた英傑達に、誰一人として易しい相手はいないだろう。
 この本戦に立つ資格のなきマスターも、サーヴァントも……皆、予選の内に淘汰され尽くした筈だ。
 断言できる。断じて、ここから先の戦いに楽な局面は存在しない。
 一瞬でも気を抜けばそれが詰みに繋がる。鎌倉は、恐怖と絶望が常に隣り合わせのキリングフィールドと化す。

 ――けれど、俺だって狩られる側では終わらない。終わることは出来ない。

 投影魔術。
 神秘を模倣し、放つという業。
 時にはサーヴァントの心臓すら射止め得るだろう、士郎にとっての最大の牙だ。
 そこにアサシン・アカメの宝具が加わることで、奇襲性能・暗殺能力は至大と化す。
 至近距離ではアサシンが一撃必殺の猛毒を振るい、遠距離からは士郎が撃ち続けるのだ。
 必ず勝つ。いや、勝たねばならない。そして、勝てる望みは確かにある。

 「美遊――」

 己の守るべき存在であり、かつて守れなかった存在の名を呟いて。
 衛宮士郎は、もう一度拳を強く握り、水平線の彼方を睨みつけた。


 「ばふっ!?」

 その頃。
 すっかり落ち込みムードで俯きながら歩いていたすばるは、前から歩いてきた誰かと衝突していた。
 見上げると――すばるより、確実に四つ以上は年上だろう。
 長い茶髪の綺麗な女性だった。――しかしやや不機嫌そうに顔を顰めている。

 「ちょっと、いつまでそうしてんのよ。取って食いやしないから、さっさと離れなさいな」
 「す、すみませんっ」


574 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:05:57 a0b4SNoc0
 慌てて離れようと後ろ歩きで下がるすばる。
 ……案の定。まるでテンプレートのように、彼女はすってんころりん転倒した。
 言っておくが、そこに障害物らしいものは何もない。
 綺麗に舗装されたアスファルトの地面だった。

 「いった〜……」
 「……どんくさいわね。そんなんじゃ今後、苦労するわよ」

 そうとだけ言い残すと、女の人はすばるを置いてさっさと歩いて行ってしまう。
 もしかして急いでいたのだろうか。
 だとしたら悪いことをしてしまった。
 此処はすばるにとって、単なる聖杯戦争の舞台ではない。 
 街の人々にもそれぞれの暮らしや個性があって、自分達の都合でそれを蔑ろにしてはならないと思っている。
 だから素直に申し訳ないと思った。すばるは確かに鈍臭い少女だったが、人一倍優しい娘でもある。

 「わたし、このままで本当に大丈夫なのかな……」

 ぽつり呟いた言葉は、潮風に巻かれて消えてなくなった。
 生まれて初めて関わる……本来なら、きっと今後一生関わることもなかったろう、戦争という儀式。
 アーチャーは頼れる。まるで近所のお姉さんみたいな、不思議な安心感を感じさせてくれる。
 ――でも、自分は……ちゃんと彼女を支えることが出来るだろうか? 足手まといになるだけではないのか? 
 
 「みなとくん――」

 此処にはいるはずもない、温室の少年の名を呟いて。
 すばるはまた、俯き加減で歩き出すのだった。


 「意外だったわ、マスター。てっきり殺しに掛かるかと思った」
 「……あのねえ。アンタ、私を快楽殺人犯か何かと勘違いしてないかしら?」
 「あら、違ったの?」

 『麦野沈利』は暗部の人間だ。
 それも、あらゆる科学技術の結集した超能力の街、学園都市の闇を生きる人間だ。
 人殺しになど今更躊躇いは覚えないし、そもそも殺すことを目的として聖杯戦争に参加している。
 
 「私が殺すのは敵と、ムカつく奴だけよ。殺す相手くらい選ぶっての。
  第一、あんまり殺し過ぎるとあのクソ鬱陶しい教会サマに睨まれる。ま、あんな似非神父程度、私一人でも余裕だけど。それでも無駄な労力は使いたくないし、余計なリスクも好んで背負いたくはないでしょ?」
 「誤殺上等の大量虐殺をやった人間の台詞とは思えないわね」
 「そりゃ、マスターかもしれない奴なら話は別よ」

 麦野は霊体化したままのランサーへと微笑する。
 勘違いしてはいけないが、麦野沈利という女は決して寛大な心の持ち主ではない。
 喧嘩を売られれば、たとえ一般人相手だろうと躊躇なく能力を使う。
 まして今の彼女は復讐の鬼だ。落ち着いているようにこそ見えるが、その内心は沸騰した鍋の如く闘志が滾っている。
 彼女は必要とあれば、街の全住民さえ殺すだろう。表情一つ変えずに、得意の能力を連射して。まるで逃げ惑う蟻を潰すような気軽さでもって、最後の一人まで念入りに撃ち殺すだろう。
 麦野沈利とは、そういう女であり。そういう怪物(レベル5)だ。
 ランサーは彼女を嫌悪する。その低俗な思想を穢らわしいものと侮蔑している。だが、麦野を認めてはいた。
 こと人を殺すという事に於いて、彼女は間違いなく一級品である。能力、人格、執念――全てを兼ね備えた彼女がもしも化外としてこの世に生まれ落ちていたなら、ひょっとするとこの自分でも――

 そこまで考え、不快になったレミリアは思考を打ち切った。

 「例えばさっきのガキなんて、どっからどう見てもマスターとは思えない。
  あんな鈍臭い奴がマスターだったとしたら、何のための予選だって話よね」

 くつくつと笑う麦野と、空返事で同意するレミリア。
 二人の共通点は一つだ。――こうしている今も、水面下で互いを心底気に入らないと思っていること。
 力以外の要素を致命的なまでに欠落させた彼女たちの聖杯戦争は、果たして如何なる旅路になるのであろうか。


575 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:06:43 a0b4SNoc0



 『アンジェリカ』は、不意に見つけた違和感を前に足を止めた。
 
 ある山道で、彼女はサーヴァント、及びマスターの索敵にあたっていた。
 鎌倉の聖杯戦争では身分が与えられない。故に当然、拠点を確保できなかったマスターは路傍を彷徨うことになる。
 かと言って馬鹿正直に街中を歩いていれば、それでは自分が聖杯戦争の参加者であると名乗っているようなものだ。
 その点、山は便利だ。身も隠せる上、魔術師の工房を作るにも打ってつけであると言える。
 少なくとも漫然と敵を探しているよりかは、余程望みがあると判断した次第だった。

 「これは――墓か」

 不自然に草の消えた地面。
 見れば、周囲と土の色も違う。
 明らかに誰かによって一度掘り返され、それから埋め直された痕跡だ。
 数は四つ。――ペットを埋めるにしては多すぎる。となれば、この下に埋まっているものが何かは自ずと知れた。

 「何処の誰かは知らんが……もしも聖杯戦争の参加者がこれを作ったのだとすれば、とんだお人好しもいたものだ」

 倒した敵の墓穴を作り、弔う。
 アンジェリカには考えられない行いだった。
 彼女だけでなく、聖杯戦争に参加するような人間の大半にとっては理解の及ばない行動だろう。
 甘いと誹られても可笑しくはない。その甘さに付け込まれ殺されてはまったくの無意味だ。
 この墓を作った何者かは、本戦へ進めたのだろうか。だとすれば気の毒だ――これより先の争いは、お人好しには耐え難い様相を呈してくる。聖杯を巡る原始的な闘争の前に、情けなどという言葉は散って失せる。
 魔力の反応も感じられない。ならば興味もなしと、アンジェリカは踵を返して――そこで一度、鋭く明後日の方向へ視線を向けた。さながら威嚇する猛禽のように鋭い眼光で、数秒ほどその方角を睨み付けて。

 「……気のせいか」

 呟き、再び向き直って彼女は帰途へと着いた。
 
 それを木の影に隠れながら見届け、『エミリー・レッドハンズ』は小さく息を吐く。
 彼女もまた、アンジェリカと同じ考えで山へと入った聖杯戦争のマスターだ。
 特に目立つ成果も挙げられず、そろそろ下山しようとした矢先――何やら地を見つめ、立ち尽くしている若い女の姿を見つけた。登山にしては軽装すぎる装いや独特の雰囲気から、エミリーはすぐに彼女がマスターであると見破った。
 そこまでは良かったが、よもや監視に勘付かれるとは思わなかった。極力殺気を殺していたにも関わらず、である。
 エミリーはこの外見だが、プロである。殺気を隠そうと思えば幾らでも隠せるし、その技術は素人に見破られるほど程度の低いものではない。――あのマスターは、相当やれる。先の一瞬だけでも、そう理解するには十分だった。

 今はまだ、消耗を控えて堅実に立ち回る時期だ。
 これからいよいよ本戦だというのに、その序盤で息切れを起こしてしまっては笑い話にもなりはしないだろう。


576 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:07:14 a0b4SNoc0
 あくまで確実に殺せる相手のみを襲撃し、一人ひとり排除していく。
 サーヴァント戦はシュライバーの独壇場だ。事実あのバーサーカーは、予選期間に二十を超えるサーヴァントを単騎で撃破している。――ならばマスターを殺すのは此方の役目。引いたカードは最強クラス、聖杯に辿り着く望みは高い。
 必ず聖杯を獲り、願いを叶える。改めて強い意志でもって己に言い聞かせ、エミリーはアンジェリカとは別方向より下山すべく、深緑の木々を縫い進み出すのだった。





 アンジェリカが発見した墓穴を掘った張本人、『アイ・アスティン』はその頃学園の屋上に居た。
 言うまでもないが、アイは此処の生徒でも、関係者でもない。
 まったくの部外者である。にも関わらず彼女がこんな所にいる理由は、彼女のサーヴァントによるものだ。
 
 「……俺の通ってた学校の方が景色は良かったな」

 セイバーはやや不服そうだったが、当のアイは興奮したように目を輝かせている。
 今は夕暮れ時だ。
 夕日の黄金色が町を照らし、すっかり見慣れてきた鎌倉の町並みはある種幻想的なものに変わりつつある。
 そしてアイにとっては、こうして街を一望するのは初めてだった。
 生まれて初めてと言っても間違いではない。窓枠から飛び移るというややアクロバティックが過ぎる方法には参ったが、それでもこんな景色が見られたのなら別にいいかなと思えてくる。

 ある魔術師が甘すぎると辛辣に評価した彼らもまた、熾烈を極めた予選を脱した。
 どうやって居場所を知ったのかは定かではないが、言峰神父がそれを伝えに現れたのが昨夜のことだ。
 本戦――激戦を制した正真正銘の強豪達が集い繰り広げられる、本物の聖杯戦争。
 これまでのようには行かないだろう。少なくとも、出会い頭の一撃で倒せるほど弱いサーヴァントにはお目にかかれないだろうと踏んでいる。これまでの予選など、それに比べれば準備運動だ。

 「セイバーさん」

 真剣な面持ちで、アイがセイバーへ振り返る。
 夕日を背にした墓守の姿は、歳相応の少女そのもので――しかしやはり、黄金の光に染められて幻想的な姿と化していた。セイバーにそういう趣味はないが、単純な感想として綺麗だと思う。
 
 「これから――なんですよね。これからが、本当の聖杯戦争」
 「ああ」
 「……勝てそうですか?」
 「さあ、どうだろうな。良くも悪くも相手次第だよ」

 聖杯戦争では、神霊を召喚することは出来ない。
 だから、かの黄金の獣や水銀の蛇のような正真正銘次元違いの怪物達は現れない。
 しかし、それは自分も同じだ。今ある力など、所詮は水銀を討った時の力に比べれば断片程度のもの。
 相性や力比べの結果次第では、十分遅れを取る可能性はある。
 無論、此方にとってのやりやすい相手と出会えば一方的に殺せる可能性もあるわけだが。

 「セイバーさん。私、セイバーさんと出会えて良かったです」
 「…………」
 「だから、勝ちましょうね。どうか、私に力を貸してください」
 「……あのな」

 セイバーは、アイの頭へ手を伸ばす。
 アイは撫でられるものだと思い目を細めたが。

 「――そういうのは死亡フラグって言うんだ、この莫迦」
 「あだっ!?」

 落とされた手刀の痛みに頭を抑えて涙目になる、墓守の少女なのだった。


577 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:07:58 a0b4SNoc0






 「――あ! もう一つのがっこう、はっけーん!」

 アイ達が兄弟か親子のようなやり取りを交わしている丁度その時。
 彼女らがいる学園とは正反対の方向にある廃校の屋上で、ひとりの少女が学園を指差し叫んだ。
 見える景色は幻想的だが、少女の背後へ広がる有り様は退廃的だ。
 罅割れ、崩れ落ちたコンクリート。散らばる廃品、埋め尽くす落書き。
 まず真っ当な神経を持つ人間なら、こんな所に住みたいとは思わないだろう不気味な廃墟。それが、この廃校の現実である。使われなくなって長いのか、その荒れ方は相当なものだった。

 されども、彼女にとって此処は大好きな学校なのだ。
 物理実験室は変な機械がいっぱい。
 音楽室。綺麗な楽器と怖い肖像画。
 放送室。学校中がステージ。
 なんでもあって、まるで一つの国のよう。こんな変な建物は他にない。


 「ねえねえみーくんっ! 見て、ほらあそこ! 此処とは違う学校が見えるよ!!」


 虚空へ語りかける彼女の中ではそうなのだ。
 それが確たる現実であり、冒すことの出来ない真実である。
 『丈槍由紀』は夢を見る。夢を見続ける。
 聖杯戦争の始まりすら自覚せず、少女はただ、この永遠に続く『がっこうぐらし』を謳歌していた。


578 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:09:12 a0b4SNoc0


 
 『笹目ヤヤ』は、鎌倉市内のとある飲食店を訪れていた。
 時刻はそろそろ夜の七時に差し掛かる。
 所謂夕食時だった。書き入れ時ということもあり、空いている店を探すのには随分苦労させられた。
 どうせ物を食べるなら、多少混んでいても美味しいところがいい。
 ライダーはそう不平を漏らしたが、ヤヤは彼の頬を再び抓ることで異論を黙殺した。
 先日のやり取りと奇しくも似た形とはなったものの――ヤヤの内心は、あの時よりも幾分か切羽詰まっていた。
 
 「本戦……」

 昨日の夜のことだ。
 宿とする予定だったホテルへ戻ろうとした矢先、ヤヤの行く手を遮る者があったのだ。
 ――聖杯戦争の監督役。神父・言峰綺礼。
 ヤヤが彼と会うのは二度目だったが、少なくとも決して良い印象は抱いていなかった。

 聖杯戦争なんて怪しげな儀式を取り仕切っているというだけでも良からぬ匂いがするのに、言峰本人の言動からもヤヤは胡散臭いものを多分に感じ取った。
 ライダーも同じだったようで、声にこそしなかったものの、落ち着かない様子が伝わってきたのを覚えている。
 警戒するヤヤ達を彼は軽く笑うと、要件だけを告げてさっさと教会まで帰ってしまった。
 その要件というのが、"予選期間"の終了。本日零時を以って、聖杯戦争は"本戦期間"へと移行する――というものだ。

 これまで、ヤヤ達は初日の一戦以外でサーヴァントと戦っていない。
 理由は単に出会さなかったからという単純なものだが、彼らの手で齎されたのだろう痕跡はいくつも見た。
 爆発事故? ガス会社の不祥事? ――いいや、違う。あれはサーヴァントの手で引き起こされたものだ。
 
 そんな日々を過ごし続ける内。ヤヤは胸中の不安が少しずつ、確実に肥大化していくのを感じていた。
 本当に……本当に自分は生きてこの鎌倉を出られるのだろうか?
 その矢先に、この知らせだ。ヤヤは人目をなるだけ避けようとするようになった。
 どんな些細なことからマスターとバレるか分からない。常に死が隣り合わせにある、気持ちの悪い焦燥感。
 それに耐えられるほど、笹目ヤヤという少女は強い女の子ではなかった。

 ライダーは霊体化させることにした。
 彼はどちらかと言えばお気楽なサーヴァントだが、マスターの心の機微もわからないほど愚鈍ではない。
 一人で、あまり味の良くないパスタをすすりながら――ふとヤヤは、店員の一人が自分を見ていることに気付く。

 年はヤヤとさほど変わらないくらいだろうか。
 綺麗な髪飾りを付けた、どことなく大人びた雰囲気の少女だった。

 「……何か?」
 「……あ、ごめんなさい。ただ……なんだかすごく思い詰めたような顔をしてたから」

 余計なお世話だ。そういう気持ちがなかったわけではない。 
 しかし彼女は、それを口に出そうとはしなかった。


579 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:09:56 a0b4SNoc0
 
 見知らぬ街で、頼れるのは自分のサーヴァントだけ。
 そんな切迫した状況だからこそ、自分を慮ってくれる人物の存在が本当にありがたく思えたのだ。

 「……ありがとう。でも、私は大丈夫だから。心配しないで」
 「そう。ならよかったわ。――……って、ごめんなさい。私ったら、余計なお世話だったわね」
 
 慌てた様子を見せる店員の少女に、少しだけヤヤは緊張が解れた思いで苦笑した。
 怖いことには変わりはないけど、もう少し。もう少しくらい、前向きになってみてもいいかもしれない。
 何も一人ってわけじゃないんだから。霊体化させているライダーのことを考え、小さく頷いて。
 笹目ヤヤは、皿の上に残ったパスタをすべて平らげ、入店した時よりもどこか晴れやかな面持ちで店を後にした。


 「如月ちゃん、さっきあのお客さんと何話してたんだい?」
 「すみません。少し世間話に花が咲いちゃって」
 「ははは、そうかあ。年が近いから話が合ったのかもねえ。でも勤務中のお喋りは程々にね」
 「はいっ、以後気をつけます」


 そんな彼女が、自分の討つべき敵の一人であるなどとは露知らず。
 『如月』はヤヤの背中を見送り、再び店員としての業務へ戻っていった。
 
 ――鎌倉へやって来て早数週間。もう、この町の暮らしには大分溶け込んだ。

 収入先も、仮初めの住居も確保したし、顔見知りの住民も当初に比べれば格段に増えたと感じる。
 此処はいい街だ。活気もそこそこで、住む人々の人柄も大らか。
 もしも艦娘という存在がお役御免になる日が来たなら、こんな所に住んでみたいと心から思えた。
 しかし、そうはいかない。あくまで此処は如月の居るべき世界ではなく、如月にとっては戦場である。
 
 如月がヤヤに声を掛けたのもまた、人と話すことで不安を少しでも紛らわせたかったからだった。
 あの少女が何を悩み、不安に思っていたのかは分からないけれど――上手く行けばいいなと素直にそう思う。
 同時に願った。ああいった娘や如月のお世話になった人達が、どうかこの戦争に巻き込まれることのないようにと。
 "都市伝説"は蔓延をし続けている。如月のサーヴァントであるランサーに該当するような噂話もこの前耳にした。
 聖杯戦争は今や、漂流者達のみの問題ではない。
 鎌倉に存在している限り、あらゆる人物が、英霊同士の殺し合いに巻き込まれる可能性を抱えている。
 心苦しく思う。申し訳なくも思う。しかしそれでも、如月には止まれない理由がある。

 「待っててね、睦月ちゃん……」

 何を犠牲にしてでも、帰りたいのだ。
 約束したっきりの、妹のような少女のところへ。


580 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:10:36 a0b4SNoc0



 鎌倉市に新市長が就任してから、ある方針に基づいた"狩り"が始まった。
 それは浮浪者、及び不法滞在者に対するものだ。
 町の至る所に屯する彼らを捕縛しては身分を明らかにし、適正な措置を施していく。
 当然、失業などの止むを得ない理由で浮浪者の立場に甘んじていた層は激怒し、抗議デモを起こす者さえあった。
 だが。そのデモ活動も、一日二日新聞の片隅に掲載された程度で収束してしまった。
 あれだけ市長のやり方に怒りを露わにしていた者達は、いざ彼と会話した途端、すっかり戦意を失ったというのだ。
 市長は素晴らしい。市長のやり方は正しい。間違っていたのは我々のような屑の方だった。
 マスコミはこぞって市長の手腕を賞賛した。一般人達も、町の治安が良くなるとして喜んだ。
 
 彼と"対話"し、自らの意見をねじ曲げた者達。
 彼らの目が、まるで精神死でもしてしまったかのような虚ろなものへと変化していたことは――誰も語らなかった。

 話題沸騰の市長、『浅野學峯』はある豪邸を訪れていた。
 白磁の外壁と広大な敷地を兼ね備えたその外観は、學峯の住む高級マンションさえ優に凌駕する。
 學峯がこの邸を訪れた理由は他でもない。市長としての仕事の一環である。
 政(まつりごと)は綺麗事ばかりでは成り立たない。
 前任市長は此処の主と癒着し、多額の支援金や各方面への圧力という形で援助を受けていたという。

 正門のインターホンを押すと、使用人らしき老齢の男性が出迎える。
 それに会釈をし、學峯は秘書を連れて男性に先導され、豪邸の内部へと足を踏み入れた。
 余談だが、この秘書も既に學峯の傀儡と成り果てている。
 最早浅野新市長の周囲には、彼へ異論を唱える存在など一人も残ってはいない。
 
 そして――これから面会する人物に対しても、學峯は自らへ叛く可能性を先回りして潰す気でいた。
 前任のように思い通りに利用されるつもりはない。それに相手は有力者。
 駒とした暁に齎されるリターンも非常に大きく、これを使わない手はないだろう。

 「失礼します、百合香お嬢様。市長が参られました」
 
 
 市長。
 前任を下し、新たに町の支配者として君臨したという敏腕。
 『辰宮百合香』の耳にも、当然その評判は入っていた。
 彼女が鎌倉へやって来て、家長の座を奪い取るよりも前から――この家と市は、先祖代々癒着していたと聞く。
 百合香にしてみれば心底どうでもいい話だったが、仮初めの身分とはいえ今の自分は此処の長である。


581 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:11:26 a0b4SNoc0
「どうぞ」

 透き通った声で――内心は少しばかり気怠げに。青薔薇の君は、市長を己の寝室へと迎え入れた。
 斯くして二人は邂逅する。
 その結果はと言えば、実に退屈なもの。
 特に波風が立つこともなく。
 百合香が學峯の話に耳を傾け、相槌を打つ。そんなやり取りが、小一時間ほど続いただけだ。
 彼らは傍から見れば実に和気藹々とした様子で会談に臨み、そして何事もなくそれを終えた。

 「それでは、今日はありがとうございました。今後もどうぞよしなに」
 「もちろん心得ております。益々の活躍を期待していますよ、浅野市長」

 浅野學峯が席を立つ。
 来客が帰るとあれば、せめて玄関先までは見送るのが礼儀というもの。
 しかし百合香に、腰掛けた椅子から立ち上がろうとする様子は見られなかった。
 それは暗に、自分の方が立場は上であるのだと示すような不敬であったが――彼女へ指摘できる者などいないだろう。

 「そういえば、百合香さん。最後に一つだけ伺っても?」
 「はい?」
 「貴女はこの家に、"養子"という形で引き取られたと聞いています。
  ――いえ、別に勘繰っている訳ではありませんよ。ただ、血の繋がりがない人間が由緒ある名家の当主として認められるなど、そうそうあるものではない。きっと先代様にとって、貴女は余程"特別"な人物だったのでしょう。
  ですが、今日会ってみて確信しました。成程、確かに貴女は"特別"だ」
 「あらあら、おだてても何も出ませんよ?」 


 冗談めかして笑う百合香に見送られ、彼女の部屋を後にした學峯は、今終えたばかりの会談について述懐する。
 辰宮百合香という女は、この時代には似つかわしくないほどの完璧な女性だ。
 礼儀作法を弁え、しかしながら他人をごく自然に下と据え、相手に此方が目上なのだと錯覚をさせない。
 貴族の社会は侮られれば負けだ。
 なまじ金を潤沢に有しているからこそ、易い相手と見られれば途端に血筋の価値は零落れる。
 學峯も教鞭を執る中で様々な人間を見てきたが、あの年頃で、あれだけ"出来た"人間には未だお目にかかったことがなかった。養子? 馬鹿を言え。話に伝え聞く先代当主よりも、彼女の方が余程貴族の何たるかを弁えている。

 「辰宮百合香――成程」

 
 
 學峯の去った部屋では、百合香もまた先の会談を思い返していた。
 表情に浮かんでいるのは、微笑。そのきっかけとなっている人物は言わずもがな、浅野學峯という"怪物"である。
 百合香の生きた大正時代。この現代を扱き下ろす訳ではないが、今よりも日本人は遥かに傑物揃いであった時代だ。
 彼は本来、もっと昔に生まれるべき人間だったのではないか――百合香は彼へそんな感想を抱いた。
 現代の政に明るくない百合香ではあったが、それでも解る。彼が野心を出せば、この国の支配程度は容易いだろう。
 此処を訪れた本来の意図にも察しは付く。百合香の身を覆う"香"の事もあり、どうやら目的の達成には失敗したようだったが、そうでなければさしもの彼女でも聊か危なかったかもしれない。

 「浅野學峯――成程」

 市長と令嬢は多くを語らない。
 ただ、二人は一様に笑みを浮かべていた。
 微笑。それはさながら好敵手を見つけた棋士のような笑みであり、しかしそれと縁遠い剣呑さを裏に孕んでいる。
 片や弓兵、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグを従えて。
 片や狂戦士、デッドブルー・玖渚友を従えて。
 彼と彼女はただ笑みを浮かべ、水面下でお互いを討つべき敵であると全くの同時に認識していた。

 
 
 「「あれは確かに、侮れない」」


582 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:12:48 a0b4SNoc0



 『直樹美紀』は、身を隠す場所を探していた。
 もうじき、時間は深夜帯へと差し掛かる。
 補導員や警察が躍起になって彷徨き始める頃合いだ。それらと出会せば、当然面倒なことになる。
 美紀は聖杯戦争に参じたマスターだが、この世界の住人からすれば単なる未成年の非行少女でしかない。
 事情も知らない者たちに拘束され、時間を浪費するほど不毛なこともないだろう。
 ――かと言ってバーサーカーの力を使い、無闇矢鱈に部外者を虐殺するのは気が引ける。

 バーサーカーは常に霊体化させている。
 災害という言葉を体現したようなあのサーヴァントは、自律行動を許すには少々危険すぎた。
 だが逆に言えばそれは、いざという時、自分の英霊と離れていて窮地に陥る――という最悪の展開が発生する可能性をある程度抑制できることと同義だ。
 相手がサーヴァントやマスターだったなら、美紀はバーサーカーを出すことに躊躇いはない。

 重ねて言うが、面倒なのは全くの部外者だ。
 彼らは何の事情も知らないから、好き勝手にこちらへ介入してくる。
 そして都合の悪いことに、どういうわけか最近、その活動が活発化しているようだった。
 索敵がてらに散歩などしていれば、嫌でも耳に飛び込んでくる話だ。
 曰く、新市長の方針による浮浪者狩り。不法滞在者のたぐいも、片っ端から摘発されているという。

 浮浪者というデリケートな存在にまで踏み込んでいく運営方針が、このご時世に罷り通ったことからして驚きだが。
 その政策は、美紀たちのような聖杯戦争のマスターにとっては最悪の障害となるものだ。
 鎌倉へ喚ばれたマスターたちは、基本的に身分を持っていない。
 つまり、新市長が掲げる弾圧政策は覿面に作用する。
 当然相手はただの人間。サーヴァントで捩じ伏せてしまえばそれまでという話ではあるが――。

 (誰だか知らないけど、本当に面倒なことを……)

 頭が痛くなる思いだった。
 美紀はある事情から、戦うことには同年代の少女より遥かに慣れている。
 それでも、人間を殺した経験はない。
 たとえ間接的なものであろうとも、出来ることなら殺人は控えたいのが心情だった。
 だから結局は、狩られることから逃げる鼠の立場に甘んじるしかない。
 
 耳を澄ましながら、ロクに把握もしていない土地を手探りで探索する女子高生。
 とてもではないが、二十一世紀の日本でそうそう見られるものではないだろう。
 それを屈辱とは感じない。ただ、面倒だった。誰とも知れない"市長"へ、本気で苛立ちを覚えるくらいには。
 舌打ちをし、曲がり角を右折。その時、美紀の視界にある建物が飛び込んできた。

 「植物園……?」 

 傍目からでも管理が放棄されているだろうことが窺える、荒れ放題の植物園だった。
 温室の硝子は所々が割られ、生い茂った蔓がそこから飛び出てさえいる。
 
 ――そうだ、あそこなら。

 小さく頷くと、美紀は急ぎ足で廃墟と化した温室へ向かい、古びて立て付けの悪くなった扉を抉じ開けた。


583 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:13:19 a0b4SNoc0

 中は荒れ放題だったが、暑苦しくもなく、かと言って寒くもない適度な気温が保たれているのはありがたかった。
 懐中電灯のように便利なものは持っていない。足下に気を付けながら、半ば手探りで進んでいく美紀。
 すると、少し進んだ所で埃を被ったベンチを見つけることが出来た。
 恐らくかつては休憩スペースとして使われていたのだろう。
 どこも壊れていないし、汚れていることに目を瞑れば十分身体を休める場所として使えそうだ。

 手で埃を軽く払い、そっと身を横たえ、天井を仰ぐ。
 
 不思議な感覚だった。
 警察の存在があるとはいえ、以前よりは遥かに安全に外を出歩ける環境。
 此処には跋扈する屍達もおらず、聖杯戦争さえ無ければ平和そのものの街だ。
 なのに――何故だか、美紀の心には常に寂しさがあった。 
 呑気な彼女たちに苛立ち、反発したこともあったが、何だかんだ言ってあの暮らしを気に入っていたのだと実感する。
 
 そして、だからこそ決意はより強く固まった。
 彼女たちを助ける。
 町を元通りに戻して、皆で幸せに暮らせる世界を作る。――その為に、私は必ず。

 「必ず……聖杯を…………」

 気が抜けたからか、一日中歩き回った疲れが眠気に姿を変えてどっと押し寄せてくる。
 美紀は為す術もなく目をとろんとさせ、うつらうつらと頭を揺らし……程なくして、くうくう寝息を立て始めた。
 
 眠りに落ちる前、最後に見たのは割れた硝子越しに見る星空。
 こんな状況にも関わらず腹立たしいほど綺麗な星空だった。


 「……やれやれ。呑気なものだな」

 美紀が寝付いたのを確認してから、闇夜の底より長髪の少年・『みなと』はゆっくりとその姿を現した。
 彼女がやっとの思いで見つけたこの廃温室には、彼という先客が居たのだ。
 もっとも当の美紀は、それに気付きもせずに眠ってしまったが。
 この様子を見るに、余程疲れていたようだ。みなとは気が抜けたように嘆息する。

 彼の従者、ライダーは現れない。
 あの重戦車は忠実だが、あくまでも彼はマスターの傀儡だ。
 相手がサーヴァントならば兎も角、一介のマスター程度、彼には興味を覚えるにも値しないのだろう。 

 さて、どうしたものか。
 こんな夜中に廃墟を訪れ、あろうことか寝泊まりしようと考えるなど、どう考えてもまともではない。
 ホームレスというには若すぎる見た目から察するに、彼女は聖杯戦争の参加者と見て間違いない筈だ。
 となると、霊体化した状態でサーヴァントも近くに居るのだと考えられるが……


584 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:13:56 a0b4SNoc0
 みなとのサーヴァントは強力だ。狂化の影響を受けていようと、大概の英霊では鋼の求道に追随すら出来まい。
 つまり、此処で殺しにかかることは至極簡単なわけである。
 みなとは逡巡の後、ライダーへと抹殺の指示を出そうとし――。

 「――まあ、少し話してみてからでも遅くはないだろう。利用できる可能性もある」

 やめた。
 彼女が牙を剥いてくると言うなら臨むところだが、利用価値があるなら話は別になってくる。
 幾らライダーが強力とはいえ、敵は多い。少しでも闘いを有利に進められるなら、それに越したことはない。
 
 もう一度少女の寝顔に視線を落とすと、彼は溜息混じりに苦笑した。 



 


 孤児院で、一人の少女が星を見ていた。




 日本人離れした可憐さを持った彼女――『キーア』がこの院へやって来たのは、今から凡そ一週間前の出来事だ。
 院では、沢山の子どもたちが暮らしている。
 それこそ赤ちゃんから、もうすぐ社会人になる高校生まで。
 しかしそのいずれもが、突然やって来たこの美しい童女に思わず見惚れた。
 特に多感な男子児童など、早くも彼女を巡った水面下での抗争が始まっているほどだ。
 親に捨てられたわけでもなければ、親を失ったわけでもない。
 ただぼんやりと町を彷徨っていたところを、偶然院長が見つけてきたという謎の多い娘。
 
 ――ひょっとして、どこかの国のお姫様とかなんじゃねえの。

 誰かが冗談めかして呟いた言葉に、反論できる者はいなかった。
 やがてそんな噂話は、にわかに真実味を帯びてくる。
 誰かが言った。息を荒らげながらも潜めた声で。なんと、彼女に出自を聞いてきたのだという。
 『キーアはお姫様なのかい?』その質問に、彼女は困ったように笑ってみせた。
 肯定はしなかったが、否定もしなかったのだ。
 
 平穏な日常に、霹靂のように現れた謎の美少女キーア。 
 ただ見た目が可愛いだけならいざ知らず、彼女は性格もよかった。
 人の悪口は決して言わない、進んで皆が嫌う仕事をしようとする。
 年幼いはずなのに、その一挙一動からはどこか母性に近いものすら感じられる。
 そんな彼女を嫌ったり訝しんだりする人間は、日を追うごとにいなくなっていった。
 今やキーアは院のマドンナだ。皆が彼女を好ましく思い、孤独なはずだった少女の日常を彩ろうと努力している。


585 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:15:08 a0b4SNoc0
 ただ一人を除いては。

 
 「いい加減、うんざりするわね」

 夜のベランダ
 皆が寝静まった時間に、夜風の吹き込むそこで葡萄ジュースを片手にし、『古手梨花』はたそがれていた。
 本当はワインが良かったのだが、院には貯蔵がないようで泣く泣く断念した次第だ。
 別に他の酒でも悪いわけじゃない。けれども、飲酒の形跡が発覚すれば面倒なことになる。
 只でさえ聖杯戦争という面倒事で手一杯なのだから、これ以上心労は増やしたくなかった。

 そんな彼女の願いを真っ向から裏切るように、その傍らへと顕現する者があった。


 「きひひ。嫉妬は見苦しいでよ」
 「煩いわね。そういうのじゃないわよ、別に」


 人頭の蛇を両腕に刻み込んだ、書生姿の奇人。
 全面禁煙の規則に憚ることもなく、彼は煙管を銜えて紫煙を燻らせる。
 キャスターのサーヴァント、壇狩摩。彼は梨花を聖杯まで導く相棒のような存在だが、梨花はこの男が嫌いだった。
 軽薄な言動に配慮というものは一切存在せず、盲打ちを自称する通り行動の意図は皆目掴めない。
 そして何より、梨花の事情を知った上でどこか嘲るような口振りだ。それが一番、癪に障る。
 もしも彼が自分の背中を預けるサーヴァントでなければ、梨花は関わろうとすらしなかった筈だ。

 「ただ、あまり見ていて気持ちの良いものじゃないってだけ」

 キーアは、きっと裏表のない人物だ。
 百年にも及ぶ時間を繰り返してきた梨花には分かる。
 聖人君子と言えば語弊があるが、彼女ほど誠実でまっすぐな人間はそうは居ない。
 表向きはそう装っている梨花ですら、裏はこうなのだから。それなのに、キーアにはそれがない。

 彼女を見ていると感じる苛立ちのようなものは、やはりキャスターの言う通り嫉妬なのだろう。
 色々なものを欺きながら、心を削って、這いずるように此処までやってきた。
 そんな自分だから、彼女の姿は余計に眩く見えるのだ。

 『おぉっと。噂をすれば何とやら、じゃの。そら、皆のお姫様のご来訪じゃ。うははははッ』
 「なっ!?」

 思わず素っ頓狂な声をあげる梨花。
 一方のキャスターはといえば、既に要領よく霊体化を済ませていた。
 その抜け目のなさに改めて苛立ちを感じながら振り返ると、そこには寝惚けているのか、目をぐしぐしと擦りながら立っている黄金の髪の少女。
 梨花はいつも通りの『古手梨花』として、キーアへ話しかけた。

 
 「みー? どうしたのです、キーア?」
 「梨花こそ、どうしたの? こんな時間に」
 「……少し、星が見たくなったのですよ」
 
 嘘だ。
 別に、星を見たいなどと願ったことはない。
 天文部めいた活動には興味もなかったし、ただこうして晩酌まがいのことをしていたかっただけだ。
 なのにキーアはそれを疑おうともせず、にこりと微笑んだ。

 「あたしも」

 彼女は梨花の隣に立つと、無限大の広がりを見せる星空を見上げた。
 その視線には、まるで星空をすごく珍しいものと思っているような、そんな熱意があって。

 「あたしも、星、見たかったの」

 ――――ああ、やっぱりこいつは苦手だ。古手梨花は、苦々しげにそう思わされるのだった。


586 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:15:51 a0b4SNoc0

 

 鎌倉を襲う数多の都市伝説。
 聖杯戦争の副産物として生じるそれらの数は、予選の終了に至ってもまるで減少する気配を見せない。
 既に死し、この都にはいないはずのサーヴァントが、彼らの噂では生きている。
 まさしく地獄絵図だ。ありもしない目撃談と本当の目撃談が混沌とした様相を作り上げる。
 だがその中でも――今、一際話題を集めている怪談があった。

 "鎌倉の屍食鬼"。
 胡乱な足取りで彷徨い歩くそれに咬まれた者は、それと同じ屍食鬼に変貌してしまう。
 まるでどこかのゲームやパニック映画でありそうな、凡そ現代日本とは結び付かない都市伝説。
 ある者は創作だと笑い。またある者は真実だと熱弁し。またある者は、屍食鬼と接触しようと動き出しそれきり。
 嘘か真か、それを知る術は彼らにはない。知ろうともしない。
 それでも、一つだけ確固たる事実があった。

 屍食鬼の目撃報告は、日を追うごとに増加している。
 さも、仲間を増やしているという噂が本当であると裏付けるように。

 『佐倉慈』に知能はない。
 彼女は謂わば、マスターとして呼ばれたバーサーカーのようなものだ。
 音と光に反応し、生体へと襲い掛かる程度の行動ルーチンしか持たない彼女。
 その脳裏にごく潜在的に残った願いを頼りに聖杯戦争へ辿り着いた――ある意味でのイレギュラーな存在である。
 揺々とおぼろげな足取りで徘徊する彼女。それを見て、懐中電灯を持った警官服の男が悲鳴を上げて腰を抜かす。
 にぃ、と表情を歪めた屍食鬼は這って逃げようとする彼へ覆い被さり、その首筋を噛んだ。

 それで、哀れな警官の命運は尽きる。
 彼は真面目な人物だった。
 週末には家族サービスを忘れず行い、平日には正義感溢れる警察官として犯罪者を捕らえる。
 最近、一番上の娘の結婚が決まった。――しかし、彼にここから先の未来はない。
 
 屍食鬼は増え続けている。
 このまま繁殖が続けば、遠からぬ内に鎌倉は死の都となるだろう。
 佐倉慈という教師が見てきた、あの地獄のように。


 佐倉慈は理性を失っている。
 自我のようなものはほぼ残っておらず、ただ人に害成し続ける魔物と化している。
 だから彼女は、自らの行き遭った無我の存在に嵌らなかった。
 こうなっていなければ、間違いなく夢の坩堝に堕ちていただろうことは、どうしようもない皮肉だったが。


587 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:16:36 a0b4SNoc0



 『幸福』のキャスターは踊り続ける。
 楽しげな姿を象って、出会う全てを夢に落とし込む。
 災厄の具現であり救済の顕現。
 それが彼女であり彼である。


 ――幸福に嘘も真も存在しない。あなたがそう願えば、それが本当の幸福なのだから。

 ――だからあなたも幸せになって。わたしはそれだけで満たされるから。


 歪な救いが跋扈する。
 古都・鎌倉は着実に、魔都へと変貌する準備を整えつつあった。


588 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:17:12 a0b4SNoc0



 そして。
 聖杯戦争の幕開けと共に、仮初めの存在はその役割を終えようとしていた。
 帳の落ちた闇の底に佇む教会。礼拝堂の壇上にて、神父『言峰綺礼』がふむ、と呟く。
 呟いた体は、最早半分ほどが人間の形を保っていなかった。
 光の粒子が解けるように、加速度的に原型を崩壊させている。
 元より彼の役割はこれまでだった。裁定者のサーヴァントが顕現するまでの間を繋ぐため、月に編まれた仮想人格。
 それが言峰綺礼という名前を持ったこのシステムの全てであった。

 「判っていた結末ではあるが、いざ訪れてみると存外に惜しいものだな」

 この様子では、あと数分と保つまい。
 少なくとも夜が明ける頃には、紛い物の神父は影も形も残らずその姿を消すだろう。
 偽りの器に人格を芽生えさせるにしては聊か短すぎる期間であったが、言峰は名残惜しむように微笑する。
 されども、並行世界の一つで悪徳を尽くした男の名を象るだけはあり。
 彼は末期の時に辿り着いてなお、命乞いの一つとして口にすることはなかった。

 「では、一足先に失礼しよう。私は在るべき月の底へ還り、桃の香に微睡むとする」

 既に身体の八割を損失した器で、しかし彼は堂内に顕現したその"気配"を感じ取り、破顔した。
 小刻みに快音を響かせて、靴音を鳴らし消え行く前任者へ近付くは裁定者。ルーラーのサーヴァント。
 だがその英霊は、これまでに召喚されたどの英霊とも異なる気配と存在感を有していた。
 仮初めであるとはいえ、神父はルーラーの紛い物として遣わされた身だ。
 
 この存在は、本来決してヒトが召喚できるモノではない。
 神霊の召喚は不可能であるという聖杯戦争の不動のセオリーを真っ向無視した暴挙。
 歪み狂い廃せる音色に覆われた、この聖杯戦争だからこそ成立した人選。

 「皮肉なものだ。王の号など、あの桃に染まった星に於いては不名誉でしかないだろうに」

 聖杯戦争。 
 願いに集いし人々。想い。英霊。
 すべて、すべては戯れに過ぎない。
 そして己自身も。箱庭。遊具。彼ではない、この世界に於ける月の王は、不幸のない世界をこそ望んでいる。 

 「だが、見届けよう。そう願われ喚ばれたならば、この見知らぬ箱庭で踊ることを良しとする」
 「く、くく――聖杯も妙な者を喚ぶものだ。最期に問おう。おまえは、何だ」
 「語るに及ばない」

 遥か高みの玉座にて。
 今も、君臨するものは語る。救われてくれと。
 今も、君臨するものは囁く。俺を使うがいいと。
 慈愛の王は、募りゆく悲しみを惜しんでいる。


589 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:17:50 a0b4SNoc0
 「《月の王》と呼ばれるモノ」

 その意味する所を、月面の演算機――ムーンセル・オートマトンの叡智より即座に掴み取った神父は。

 「ふ、ははは。そうか、そうか」

 消滅間際の身体を小さく震わせて笑い、嗤い。
 芽生えつつあった自我を愉悦の相に狂わせて、憂うのだった。
 聖杯を望んで遥々世界を超えたマスター達。
 なんと哀れなことかと憂い、そしてもう一度惜しんだ。
 全てを知った彼らの浮かべるであろう表情を想像し――最高の美酒にありつけなかったような、そんな気分を知った。

 神父は哄笑と共に消滅する。
 それを無感動な瞳で見届け、月の王はステンドグラス越しの天空を見上げた。

「果てなきものなど
 尊くあるものなど
 すべて、すべて、
 あらゆるものは意味を持たない」

 静かに告げて。
 玉座の主は、深い笑みを浮かべる。
 人のような笑みではあるが、
 鮫のような笑みではあった。
 憐憫の一切を思わせない"笑み"でだった。

 嗤い続ける月の瞳そのものの双瞳で、チクタクと、音を、響かせて。

 君臨した神(ルーラー)は、今こそ告げる。
 笑みを絶やすことなく。
 残酷に。冷酷に。

「たとえば――
 忘れてしまえば、何の意味も、ない」

 痴れ者たちの踊る姿を俯瞰して、時計のルーラーが一人嘲笑っている。
 聖杯戦争。血塗られた宴の最果てに待ち受けるのは、必ずしも黄金の結末とは限らない。


590 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:18:28 a0b4SNoc0


【クラス】
 ルーラー

【真名】
 ロード・アヴァン・エジソン@紫影のソナーニル-What a beautiful memories-

【性別】
 男性

【属性】
 混沌・悪

【パラメーター】
 筋力:??? 耐久:??? 敏捷:??? 魔力:??? 幸運:??? 宝具:EX

【クラススキル】

対魔力:EX
 魔術を受け付けないという概念の極致。
 一般的な対魔力スキルと異なり、魔術を打ち消すのではなく逸らすだけ。
 なので広範囲の大魔術となると本人以外は助からない。
 無論、月の王にとってそんなことは瑣末なことである。

真名看破:EX
 月の王。
 時計仕掛けの神。
 彼は全てを識る。
 聖杯戦争に名を連ねる限り、その叡智より逃れることは叶わない。
 隠蔽の宝具、スキル、その全てが最早小賢しいのだ。

神明裁決:A
 ルーラーとしての最高特権。
 聖杯戦争に参加した全サーヴァントに二回令呪を行使することができる。


【保有スキル】

神性:EX
 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

???:EX
 ???????????


591 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:19:06 a0b4SNoc0
【宝具】

『発狂の時空・時計人間(ロード・チクタクマン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 史実の世界から訪れた外なる神の一柱にして、時計人間(チクタクマン)と呼ばれる存在。
 いわば、ルーラーというサーヴァントそのもの。時を這い寄る昏き意志。
 謎の存在とされてはいるが、彼を奉ずる集団も存在する。

『大機関時計(メガエンジンクロック)』
ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:1~100000 最大補足:1
 黒い直方体。形質は中世期の柱時計に酷似し、装飾は古代カダス遺跡の一部遺跡に近似。
 全長数マイル〜数十マイル級の物が複数存在しており、主な構成成分は炭素。核として一つの時計が埋め込まれている。
 これは惑星の中心核へとその先端を潜り込ませ、生きる全てを塵芥と化す邪悪の円柱(カルシェール)。
 風の王の力をもって水の王を目覚めさせる機能を持ち、物理の死を、世界の終わりをもたらす対星の宝具。


【人物背景】

 白いスーツに身を包んだ長身の男。髪は白いが肌は黒く、瞳は赫い。
 年若い男性に見えるが、彼に纏わる数多の風説が仮にすべて事実であるとすれば、その年齢は百を超えることになる。
 体の半ばを精密機械に置き換えたとか、カダスの秘匿技術を用いているという噂もある。
 彼は外なる世界より召喚された時計人間。
 彼は神霊であるため、本来聖杯戦争で呼び寄せることは出来ない。
 その不可能が可能となっている所からも、この聖杯戦争の異端性が垣間見える。

【サーヴァントとしての願い】
 ???


592 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:19:50 a0b4SNoc0




 そして――そんな彼らを俯瞰して、事態のすべてをただ見ているモノがある。



 『キーア』の幼き強さと、『アーサー・ペンドラゴン』の騎士道を。
 『アイ・アスティン』が掲げる歪な理想と、死者の存在を認めぬ『藤井蓮』のその価値観を。
 『アンジェリカ』が謳う苛烈なる正義と、それと相反した『針目縫』の滅びへ向かう願いを。
 『すばる』が友へ向ける優しさと、彼女へ負い目を感じながらも決して止まれない『東郷美森』が抱える悲愴を。
 『イリヤスフィール』の朧気ながらも確かな生への渇望と、何にも媚びることなき『ギルガメッシュ』の王道を。
 『辰宮百合香』の抱える複雑怪奇した内面と、炎の如く激しい想いへ焦がれ続ける『エレオノーレ』の忠誠を。
 『麦野沈利』が求めてやまぬ復讐、それを侮蔑しながらも手綱を引かれる『レミリア・スカーレット』の在りようを。
 『如月』が友との再会へ懸ける思いと、そんな彼女を寡黙に守り続ける箱舟の騎士『Ark Knight』の誠実さを。
 『佐倉慈』が屍と成り果てて尚願い続ける生徒への慈愛と、彼女を信じて真っ直ぐ拳を握る『結城友奈』の眩さを。
 『笹目ヤヤ』が望む日常への回帰願望と、頼りなげながらも戦争へ確と向き合う『アストルフォ』の疾走を。
 『みなと』が叶えんとする優しくも儚い望みと、ただ死を望み、終焉の時を探す『マキナ』の英雄譚を。
 『乱藤四郎』が亡き兄を想う気持ちと、永遠の命を望み聖杯を狙う『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』の策謀を。
 『古手梨花』の幻視する旅路の終着点と、万象を笑い飛ばしながら不確かな一手を繰り返す『壇狩摩』の道楽を。
 最後まで幻想に浸り夢死した哀れなマスターへ代わり、単身万人の幸福を願い踊り続ける『幸福』の救済を。
 『逆凪綾名』の追い求める憧れの最果てと、奇跡を騙って演出し続ける『ベルンカステル』の嘲笑を。
 『叢』が走る修羅道の果てで待ち受ける反魂の結末と、確たる願いを持たぬ『スカルマン』の暗躍を。
 『丈槍由紀』が過ごし続ける偽りの日々の華やかさと、偽りと知って尚黙し従う『ハサン・サッバーハ』の茨道を。
 『衛宮士郎』が辿り着いた悪の境地と、赤眼を煌めかせ怨敵を斬る『アカメ』の闘いを。
 『エミリー・レッドハンズ』の述懐する父と過ごした思い出と、狂乱の内に皆殺す『シュライバー』の死世界を。
 『浅野學峯』が信じ疑わぬ教育方針の在り方と、支配を支配す『玖渚友』が統べる死線を。
 『直樹美紀』の夢見る光り輝く世界と、現れるだけで世界をも狂わせる『アンガ・ファンダージ』の暴虐を、
 ――ただ一つの例外もなく尊いものだと賞賛し、だがその実まったく理解しないまま、ここに瞬く星の悉くを是と謡い、それは無限の中核に微睡んでいた。


593 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:20:52 a0b4SNoc0
 
 その存在を定義することはまだ出来ない。名乗りをあげるに相応しい状況が整っていないから、それは何にもなれずにいた。そして、何にでもなれる可能性を持っていた。
 
 眠り、揺蕩う夢の中、聖杯戦争の中心点である巨大な暗黒。
 ここから始まり、広がっていく。
 盲目の痴れ者たちが奏でる音色に魅せられて、自らも盲目的に願い続ける。
 人よ、今こそ救済しよう。我こそおまえたちの理解者である。
 賛歌を謡え。願いを想え。それらすべては、正しく普遍で不変なり。


 ああそうだとも。おまえが信じるならばそれが正しいことなのだよ。
 閉じろ。そして目を塞げ。世界はそうして完結するのだ。
 
 げらげらと嘲り笑い倒しながら、我が認めてやると開戦の号砲を形にした。
 月に根付く暗黒の正体が、此処に紡ぎあげる夢の波動。
 声なき祝福が痴れた宇宙に響き渡る。
 
 この聖杯戦争は淀んでいる。
 最早修正不可能な程の莫大な質量を孕んだことで、あらゆるシステムが狂い始めている。
 だがしかし。誰一人、それを咎める者などいないだろう。少なくとも、この鎌倉市に於いては。
 
 因果? 知らんよどうでもいい。
 理屈? よせよせ興が削げる。
 人格? 関係ないだろうそんなもの。
 善悪? それを決めるのはおまえだけだ。
 おまえの世界はおまえの形に閉じている。
 ならば己が真のみを求めて痴れろよ。悦楽の詩(ウタ)を紡いでくれ。

 下劣な太鼓とフルートの音色が満たす月の中枢。
 嘗て人類史を永久に記録し続ける機械であった月(それ)は、最早本来の役割を果たしていない。
 データの末端に至るまで桃の煙に浸かり、揺蕩う白痴の存在へ子守唄を奏でている。
 それはさながら常世の楽園、阿片窟。
 0と1を快楽に浸し、演算を放棄しその技術で夢を見、良いぞ良いぞと酔い痴れているのだ。
 ――この聖杯がまともな筈はない。ひとたび起動されれば間違いなく、人類史上最大の救済(やくさい)となって杯は地球を満たすだろう。されども、欲望の徒がそれに気付く道理はない。


594 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:21:22 a0b4SNoc0


 だから、彼らの希望は奏でられる。
 "ソレ"の玉座に響き渡る。
 何処とも知れぬ海の底。あるいは天の彼方。もしくは深淵。
 無限の中核に棲む原初にして沸騰する渾沌の願望器は、暗愚なる実体を揺らめかして無明の房室にさざめく音色を愛でていた。
 
 彼は今も眠っている。
 自らを讃える冒涜の言辞は絶えずふつふつと膨れ上がり、下劣な太鼓と呪わしきフルートの連打さながらに、あまりにも愚かしすぎる人のユメとはなんたる愛しさであることかと、彼の無聊を慰めている。
 おまえたちは盲目だ。等しく何も見ていない。
 他者も、世界も、夢も、現も、いつも真実とはおまえたちそれぞれの中にしかないのだろう?
 見たいものしか見ないのだろう?

 愛い、愛い。実に素晴らしい。
 その桃源郷こそ絶対だ。その否定こそ幸福だ。
 おまえたちが気持よく嵌まれるのなら己は何も望まない。玉座に夢を描いてくれ。


 ここは太極より両儀に分かれて四象に広がる万仙の陣。
 無窮にして不変である。ゆえに限界など存在しない。

 さあ、さあ、さあ、奏でろ――痴れた音色を聴かせてくれ。

 己はそれに抱かれて眠る。輝ける未来よ、降り注ぐ夢を見たい。
 そう願う聖杯こそ、己がおまえに捧げる人間賛歌の顕象ならば。
 万能の器? おまえがそう思うならそうなのだろう。おまえの中ではな。それがすべてだ。
 
 神とも、渾沌とも、英霊とも、聖杯とも。
 未だ定義できない超重量の闇が渦巻く房室で、爆発的なエネルギーを沸騰させつつ膨張するそれは嗤った。
 己を取り囲む白痴の星々、その中でも今現在、一際輝く祈りたちに向けて真なりと詠嘆したのだ。


595 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:22:16 a0b4SNoc0






 









 太極より両儀に分かれ、四象に広がれ万仙の陣――終段顕象。






 







.


596 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:23:08 a0b4SNoc0

 素に揺蕩うフルートの音色。祖に微睡み痴れる鴻鈞道人。

 昏き宵には至福を。崑崙を桃に染め、紫禁の城へ座し、楽園に至る虚夢は循環せよ。

 閉じよ(とじよ)。閉じよ(とじよ)。閉じよ(とじよ)。閉じよ(とじよ)。閉じよ(とじよ)。
 繰り返す都度に五度。
 ただ、満たされる刻を夢想する。

 閉じよ。
 汝の身は我が望みに、我が命運は廃せる汝に。
 仙境の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。
 我は羽化登仙に至る者、我は永遠の幸福に沈む者。

 
 汝廃せる御霊を抱く八等、悪夢の輪より来たれ、桃源の担い手よ――!


.


597 : 封神演義 ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:23:46 a0b4SNoc0




 
 
 「ふはは、ははははは、あははははははははは――――!」


 
 聖杯戦争、ここに開幕。
 願いに集い踊り狂う二十一の主従を、たった一人の■■が俯瞰している。





.


598 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:24:52 a0b4SNoc0
【ルール】
 ・全二十一騎のサーヴァントによる殺し合いを行い、最後の一騎を選定します。
 ・非リレー企画にするつもりはないので、書きたいと思った方はトリップを付けて予約するか、ゲリラ投下で作品を投下してください。とても喜びます。とても。
 ・予約期限は一週間、任意で延長が更に三日間可能です。
 ・予約解禁はこのルールを投下し終えると同時とします。

 ・マスターを失ったサーヴァントは、一定時間の経過後に消滅します。
 ・また、サーヴァントを失ったマスターも消滅します。こちらは約半日くらいの猶予があります。
 ・マスターが令呪を全て失っても、サーヴァントは消滅しません。

 
【状態表】
サーヴァントの場合
【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1:
2:
[備考]

マスターの場合
【名前@出典】
[令呪]
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1:
2:
[備考]


【時間表記】 ※開始時刻は午前とします
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜(20〜24)

wiki:ttp://www8.atwiki.jp/kamakurad/pages/1.html
※地図の正式版をアップしてあります。


599 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:25:53 a0b4SNoc0
参加者一覧


キーア@赫炎のインガノック-What a beautiful people-&セイバー(アーサー・ペンドラゴン)@Fate/Prototype
アイ・アスティン@神さまのいない日曜日&セイバー(藤井蓮)@Dies irae
アンジェリカ@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ&セイバー(針目縫)@キルラキル

すばる@放課後のプレアデス&アーチャー(東郷美森)@結城友奈は勇者である
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night&アーチャー(ギルガメッシュ)@Fate/Prototype
辰宮百合香@相州戦神館學園 八命陣&アーチャー(エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ)@Dies irae

麦野沈利@とある魔術の禁書目録&ランサー(レミリア・スカーレット)@東方Project
如月@艦隊これくしょん(アニメ版)&ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)@遊戯王ZEXAL
佐倉慈@がっこうぐらし!&ランサー(結城友奈)@結城友奈は勇者である

笹目ヤヤ@ハナヤマタ&ライダー(アストルフォ)@Fate/Apocrypha
みなと@放課後のプレアデス&ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)@Dies irae
乱藤四郎@刀剣乱舞&ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)@ONE PIECE

古手梨花@ひぐらしのなく頃に&キャスター(壇狩摩)@相州戦神館學園 八命陣
???@???&キャスター(幸福)@地獄堂霊界通信
逆凪綾名@魔法少女育成計画&キャスター(ベルンカステル)@うみねこのなく頃に散

叢@閃乱カグラ&アサシン(スカルマン)@スカルマン
衛宮士郎@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ&アサシン(アカメ)@アカメが斬る!
丈槍由紀@がっこうぐらし!&アサシン(ハサン・サッバーハ)@Fate/stay night

エミリー・レッドハンズ@断裁分離のクライムエッジ&バーサーカー(ウォルフガング・シュライバー)@Dies irae
浅野學峯@暗殺教室&バーサーカー(玖渚友)@戯言シリーズ
直樹美紀@がっこうぐらし!&バーサーカー(アンガ・ファンダージ)@ファンタシースターオンライン2

以上になります。
皆様、沢山のご応募本当にありがとうございました!


600 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:28:02 a0b4SNoc0
以上で投下終了です。
これまでの応援本当にありがとうございました。
鎌倉聖杯ことFate/Fanzine Circleは、ここから本格的に始動していきます。
これからもぜひ応援していただければ幸いです。


601 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 00:34:54 a0b4SNoc0
ウォルフガング・シュライバー、乱藤四郎&ライダー、アンジェリカ&セイバー予約します。


602 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/04(火) 11:32:55 a0b4SNoc0
いきなりで申し訳ないのですが、設定の把握ミスを見つけてしまったため予約を一度破棄し、
キーア&セイバー、辰宮百合香&アーチャー、古手梨花&キャスターで予約します。申し訳ないです


603 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/06(木) 00:03:13 tjyTeENQ0
アイ・アスティン、セイバー(藤井蓮)、キャスター(『幸福』)で予約します


604 : ◆Imn1dqe1BA :2015/08/06(木) 15:37:32 5//1yDrQ0
バーサーカー(玖渚友)、衛宮士郎&アサシン(アカメ)で予約します


605 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/08(土) 01:51:19 r/fViUDY0
予約分を投下します


606 : 夢見る魂 ◆GO82qGZUNE :2015/08/08(土) 01:52:47 r/fViUDY0
 妙本寺。それは日蓮聖人を開山に仰ぐ、日蓮宗最古の寺院だ。
 比企能員を開基とするこの寺院は、その一族が住まったことから比企谷とも呼ばれる谷戸に存在する。比企一族は初代将軍源頼朝公の乳母を務めた一族であり、党首比企能員は頼朝公の右腕として活躍した武将でもあったという。つまりは源氏に属する一族であったのだが、そのことが原因となり後の北条氏により討ち滅ぼされることとなった。
 その後唯一生き残った比企大学三郎能本が、鎌倉の地で布教に励む日蓮聖人と出会い心酔することで妙本寺が生まれることになるのだが……ここでは割愛するとしよう。
 現在この妙本寺は鎌倉における観光資源の一つとなっている。山門を潜り、杉木立に囲まれた境内は街の喧騒とは無縁の静寂さで、それはここ最近の不審事件により人波がまばらとなっている現在は尚更のものとなっていた。
 元が比企一族の屋敷だったことから、最奥に頂く祖獅堂は鎌倉寺院の中でも最大級の大きさで、つまり何が言いたいのかといえば。

「うぅ……まだ眠いですよセイバーさん」
「お前な、少しくらい我慢しろよ」

 こうして彼らが一夜をやり過ごすには、それなりに条件の良い地だったということである。
 ぐしぐしと眠そうに目を擦りながら歩くのは、12かそこらの年の頃といった鮮やかな金髪の少女だ。彼女―――アイ・アスティンは、己の従僕たるセイバーに手を引かれる形でトボトボと道を歩いている。
 纏う服は異国のものではなく、現代に合わせたカジュアルなものだ。流石にいつまでも同じ服ばかり着ているわけにもいかず、また鎌倉の街では必要以上に目立つことも相まってセイバーが買い与えたという経緯がある。
 服を買うぞと言った時は異常なまでにはしゃいで、こちらのほうが勢いについていけないほどだった。年や世界が違っても女が買い物にかける執念は変わらないんだなと、セイバーは奇妙な感慨さえ抱いたという。

 まあ、あんなふうにはしゃいだから疲れたのかもな、などと。そんなことをふと考えた。
 夕焼けの学校を出た後、こっそりと妙本寺に忍び込んで境内の裏で床についたのがちょうど8時間ほど前の話だ。それは、ろくな休憩場所も持たず歩き回り、連日の戦闘による気疲れも相まってアイの体力は限界に近かったというのが理由として挙げられる。墓守として筋力や動体視力に優れるアイではあったが、純粋な体力は見た目とそう大して変わるものではないのだ。
 セイバーとてそれを重々分かっていたからこそ、疲れ果てたアイを休ませるために犯罪スレスレの侵入劇を果たすことにしたのだ。山中にあって、一連の事件や騒動の影響も重なって夜間の人の通りが皆無に近いこの場所は、精々が宿直の関係者くらいしか見回りにこないため身を隠すにも最適だったことが幸いした。
 無論、こんな危ない橋を渡る羽目になった原因は他にもあるわけだが。

「ほら、さっさと行くぞ。ただでさえ無駄に時間食ったんだからもたもたしてる暇なんざないからな」
「むぅ……ちょっと強引すぎませんかセイバーさん」

 未だ寝ぼけ眼のアイは、寝起きを体現するようにぼけーっとしていた。足取りはおぼつかなく、頭は左へふらふら、右へふらふら。まだ眠いという言葉に虚偽は一切ないらしい。
 子供はよく寝るというしここ数日は体を酷使してきたことは重々承知だが、もう少し緊張感を持てないのかと、セイバーは若干呆れ顔だ。

「セイバーさんは急ぎすぎなんですよ。もうちょっとこう、お寺なんかを見ていくゆとりをですね」
「……お前、なんで寺なんか見たがるんだよ」
「そりゃ、見たいからです」
「……だから、なんで?」
「なんでって……だから、見たいからですよ?」
「……ああ、そうかよ。単純に見たいだけか。そうか……」


607 : 夢見る魂 ◆GO82qGZUNE :2015/08/08(土) 01:53:27 r/fViUDY0
 セイバーは頭痛に耐えるように頭を抱えている。別にこの少女が遊び気分で言っているわけではないというのは理解しているが、それでも頭が痛いことに変わりはない。
 つまるところ、この少女は世界を知ろうとしているのだろうと思う。世界を救いたいから、まずそれがどういうものかを分かろうと考えている。
 それ自体否定するつもりはないが、流石に状況を考えてほしいと思うのは求めすぎだろうか。

「というかですねセイバーさん。さっきから行く行くって言ってますけど、どこに行くんですか」
「具体的にどこって決めてるわけじゃないな。一応、北鎌倉か逗子か稲村ヶ崎を考えてるけど」
「……なんか、随分と端っこですね」

 地図を指さすセイバーに、アイはやはり不満げな顔だ。人の多くいる場所を好む彼女にとっては、確かに気の進まない話かもしれないがここは我慢してもらうしかない。

 彼がしきりにここを離れようと言っているのは、ここ最近活発化している浮浪者狩りの手を逃れるためのものだ。元を辿れば今まで使っていた公園ではなくこんな場所を寝床にしたのもこれが最大の理由である。
 一週間かそこら前に就任した新市長の打ち出した方針は、この手の弾圧政策にしては異様なまでにスムーズ、かつ効果的に作用していた。当然のように巻き起こった抗議運動やデモ活動すら、数日も保たず収束したあたり、新市長の政治手腕が垣間見えるというものだろう。
 市井にとっては有用な強硬策も、しかし自分たちにとっては頭の痛くなるような話だ。あまりにも出来すぎた話と良すぎるタイミングも相まって、市長本人がマスターではないにしろ他のマスターやキャスターに操られているのではと考えたこともあったが、下手に藪をつついて蛇を出しても仕方ないと半ば諦めのような感情も出てきている。
 そもそもセイバーの目的はアイを元の世界に帰すことだ。極論すれば、それさえ果たすことができれば他のサーヴァントと争う必要も、まして聖杯を獲得する必要もない。全てが終われば自分はこの不出来な舞台から退場するだけだし、戦いたい奴らは勝手に戦わせていればよい。
 無論、セイバーのマスターたる少女からしてみれば、そうもいかないようだが。

「浮浪者狩りに巻き込まれたらたまらないからな。それに、市街地を抜ければ安全とまでは言わないけど好戦的な奴らとも会いづらいだろうし」
「それって、逆に言えば市街地には助けを求めてる人が大勢いるかもしれないってことじゃないですか?」

 また厄介な病気が出たか、などとセイバーはまたしても頭を抱えたい気分になる。正義の味方、世界を救う。端的に言って馬鹿の夢だが、どうにもこの少女は諦めが悪い。放っておいたら一人でどこまでも突っ走っていくタイプの馬鹿なのだ、この少女は。
 だからセイバーはこの少女から目を離すことができないし、時には妥協することもある。子守なんて柄じゃないのは百も承知だが、それをできるのがこの場に自分しかいないというなら仕方ないだろう。

「その前に俺たちが死んだら元も子もないだろ。お前が正しいことをしたいってのは分かる。けどな、まず何よりも自分を第一に考えろ。
 そういうふうにしていかないと、きっと全てが立ちいかなくなる時がくる。やろうとしてたことが全部半端で片手落ちになりかねない、そんなの御免だろ?」
「わかってます、わかってますよ……」

 だからこそ、こんなふうに説教じみた真似をすることもある。全然似合ってないし、司狼あたりが聞いたら「なに偉そうなこと言ってんだよお前は」と呆れられそうなものだが、これに関しては完全に諦めの境地だ。

「なんだか、私ってちっぽけですよね。みんなを助けたいのに、自分のことも満足にできないなんて」
「そりゃ、お前チビだしな。ちっぽけなのは当然だろ」

 ガツン、とアイはセイバーの脛を蹴り上げていた。「なんだよ」と痛みも感じてないふうで、どうにもイラっとしてくる。
 セイバーさんはもう少しデリカシーというのを学んだほうがいいです、などと一人で小さく憤慨して。


608 : 夢見る魂 ◆GO82qGZUNE :2015/08/08(土) 01:54:28 r/fViUDY0




「……?」




 ふと、視界に違和感があったような気がした。
 けれどきょろきょろと辺りを見回してみても何も異常はなく、すわ気のせいかとも思ったが。
 やはり、どうにも何かが違うような気がする。

「……」

 あっちへきょろきょろ、こっちをきょろきょろ。忙しなく動くアイに、セイバーはどことなく憐れんだような視線を向ける。
 次いで、はぁ、と何か諦めたような溜息をつくと、ポケットから何かを取り出しつつこちらへと近づいてきた。

「分かった分かった。俺が悪かったよ。だからこれでも食って機嫌直せ」

 そう言って差し出したのは巨大なマーブル模様のキャンディーだ。赤と白のコントラストが童話めいた雰囲気を醸し出すアレを、アイはしげしげと手に取る。

「えっと、セイバーさん。これって」
「さっきの詫びだよ。遠慮せずに食え」

 そんなことを、セイバーは似合わない満面の笑みをしながら言ってきた。その間も手は忙しなく動き、ポケットからはクッキーやお饅頭や綿菓子が無尽蔵に湧いて出てくる。
 ……なんだろう、絶対に何かがおかしい。

「で、どうだよ味のほうは」
「なはなはおいひいへすせいはーはん! あひはほうほはいはふ!」

 一抹の疑問は口の中に広がる甘味の前に消え去った。セイバーはやたら笑顔で色んなお菓子を勧めてきて、なんだか対応も凄く優しくて至れり尽くせりだ。

「はは、口に詰めたままじゃ何言ってるかわかんないだろ。これでも飲んで落ち着けよ」

 リスのような顔になってるアイに、セイバーの姿をした何者かはレモンティーを勧めてくる。いつの間にかそこには綺麗なテーブルとイスがあって、テーブルの上には当然のようにたくさんのお菓子が並んでいた。
 アイは目を輝かせ、「はい!」と元気に返事をしてセイバーの引く手に抗うこともなく椅子に座った。


 ……不思議と、聖杯戦争のことが頭に浮かぶことはなかった。




   ▼  ▼  ▼


609 : 夢見る魂 ◆GO82qGZUNE :2015/08/08(土) 01:55:00 r/fViUDY0
 ――Yetzirah
「―――形成」

 宣誓と共に己が聖遺物を形成し、剣の英霊が地を穿つ。
 狙うは眼前に立ち尽くす敵―――無垢な少女の姿をしたサーヴァント。
 奇怪極まる敵だった。サーヴァントの気配と共にこの少女が姿を現した瞬間、アイは瞬時にその身を崩し、セイバーもまた自意識を侵食する幻想へと囚われた。涙が出そうになるほど綺麗で懐かしい情景はいつまでも浸っていたいほどに魅力的で、だからこそセイバーの胸中に拭いがたい嫌悪感を抱かせた。
 だから斬った。美しい情景を、これは全部唾棄すべき妄想の具現だろうと一切の躊躇を挟むことなく斬り捨てた。
 セイバーが即座に少女の幻惑から抜け出せたのは、その強すぎる嫌悪感故だ。彼は死者の生を認めないし、故に自身が安息に沈むことも決して容認しない。それは現実を侵す域の渇望として現れている通り、誰にも曲げることのできない矜持であるために。

 そして、だからこそセイバーは容赦などしない。

 地に踏み込む動作はそれだけで容易く音の壁を突破し、次いで爆発するように飛び出すセイバーの体は優にその10倍を超える速度で突進する。疾風としか形容できないその姿を捉えることは不可能であり、それは常人はおろか凡百の英霊ですら例外ではなかった。
 迅い―――人の姿をしていながらこれだけの高速移動を可能にする存在は、最早人とは言えぬだろう。しかも、それはただ速く突撃しているというだけでは決してない。

「おおおおおォォォッ!」

 雄叫びを上げる彼の右手にあるのは装飾の施された細剣だ。王侯貴族がこぞって蒐集したがるような宝剣は、しかしこの場においては敵を斬るという原初の存在意義に従って役割を全うする。
 号令一下、振るわれる剣閃は常識外の速度を以て少女の首へと迫る。その攻撃は呵責のない本気であり、使用したのが形成位階……本来より1ランク下の技であること以外、遊びなど一切挿んでいない。
 全ては眼前の少女の形をしたナニカを斬滅するために。並みのサーヴァントなら即死、そうでなくとも魂諸共切り裂く暴威は何の減衰も成すことなく致死の破壊をもたらすはずであったが。

「―――ッ!?」

 セイバーの顔が驚愕に染まる。放たれた一閃は少女に反応することすら許さず振り抜かれたが、しかし切り裂いたのは中空のみ。
 聖剣の切っ先が首へと触れる直前、少女の体は霧散し消滅した。それは意図してのものでは決してなく、そも敵手はこちらの攻撃を躱すどころか見えてすらいなかったにも関わらずこの結果だ。
 ならば透過の類かとも思ったが、それもまた考えづらい。形成された聖遺物は例え実体を持たぬ死霊や概念であろうとも貫通し打ち砕く。その刃は例外なく、人であれ、魔であれ、神であれ戦えば鏖殺。修羅の戦鬼が揮う攻撃を、無効化する方法など事実上存在しない。
 つまるところ、考えられる真実は。

「……幻、そういうことかよ」


610 : 夢見る魂 ◆GO82qGZUNE :2015/08/08(土) 01:55:49 r/fViUDY0
 ――――くすくす、くすくす。

 いつの間にか背後から聞こえてきた笑い声に、セイバーは重く叩き付けるような声で返す。
 振り返ってみれば、先ほどまで反対の方向にいたはずの少女が静かに立っていた。栗色の髪、栗色の瞳。薔薇色の頬と唇。白いドレスを着て微笑むその姿は、なるほど魔性と言っても過言ではない。

『どうして拒むの?』

 少女は、可愛らしく小首を傾げて言った。鈴を転がすような声だった。

『幸せなのでしょう? あなたがそう願えば、わたしはあなたにいつまでも幸せを与えてあげられるわ。
 どうして拒むの? 幸せになれたらそれでいいじゃない。誰もがそう願っているわ、幸せになりたいって。あなたは幸せになっていいのよ』
「黙れよ塵屑が、殺すぞ」

 嫌悪と憎悪の入り混じった声を返しつつ思考を巡らせる。一度夢に嵌りかけたからこそ、セイバーはこの少女が何であるのかを大凡悟っていた。
 これは下衆だ。人の一番弱いところにつけこんで、本人も知らないような甘い夢を引きずり出す所業。それがセイバーには許せない。
 人には誰しも心の奥底にしまっておきたい事がある。それは思い出したくないことだったり、自分勝手な思いだったり。どうにもならない事や、現実では決して叶わない夢であったり。だからこそ、人はそれらを心の奥の引き出しにそっとしまっておく。
 人は現実に生きている。馬鹿げた願望を抱えて、叶えられないから渇きも癒えない。不安で、不満で、いつも揺れて。でもそれが人の在るべき姿であるというのに。

「自分勝手に他人の夢を決めつけて、無理やり引っ張り出してさあ願いは叶いましたよってか。ふざけろ、自慰に耽りたいなら一人でやりやがれ」

 セイバーはアイの前ではついぞ見せなかったほどの凶眼で睨みつけるも、少女はちょっと困ったように瞳をくりくりとさせただけだった。恐怖も怒りも理解せず、先ほどの幻と同じように、その姿は煌めく霧となって散った。
 姿は見えない。気配も、完全に消え失せていた。
 逃げられた。それを理解したのは数瞬後のことだった。

 周囲に何の気配もないことを確かめると、セイバーはふっ、と力を抜いて立ち尽くした。握る拳は今も震えていたが、しかし鉄の意志でそれを抑え込み辺りを振り返る。
 周辺は見事なまでに破壊されていた。たった一合抜き放っただけであったが、音速を遥か超越する剣閃はそれだけで致命的なまでの衝撃波を発生させる。すぐそこに倒れている己のマスターを傷つけないようにある程度加減はしたつもりだったが、どうにも怒りで力が入りすぎていたようだ。
 放射状になぎ倒された杉木立の中は静かで、風の音だけが聞こえていた。少しずつ色を濃くしていく空の色がいっそう美しく、いっそバカバカしいまでに透き通っていた。
 セイバーは大きく嘆息すると、倒れ伏すアイに近づき抱き起した。どうやら目立った傷はないようで、そこだけはセイバーも胸を撫で下ろす気持ちだった。

「……ったく、人の気も知らないで呑気な顔で寝やがって」

 ほんの少しだけ苦笑の響きが籠った呟きを漏らす。アイの寝顔はどうにも間の抜けたもので、見ればなんだか笑えるものだった。目と口はだらしなくニヤけ、口の端からは涎が垂れている。
 全く、どんな夢を見ているのやら。気の抜けた顔を見ていると、先ほどまでの怒りも馬鹿らしく思えてくるから不思議なものだ。

「おい、起きろ。早いとこずらかるぞ」


611 : 夢見る魂 ◆GO82qGZUNE :2015/08/08(土) 01:56:23 r/fViUDY0
 ゆさゆさと肩を揺さぶる。頭が大きく前後に揺れるも、しかし起きる気配は全くなかった。
 困ったな、と思いながら今度は頭に手刀を落としてみる。ガンッ!と思わず仰け反りたくなる音が響いたが、これもまた効果なしだ。
 仕方ないなとばかりに今度は往復ビンタだ。スパパパパパパと軽快な音と共に顔が左右に高速で揺れて両頬が赤く染まるが、アイといえばにへらーとするだけで一向に目覚める気配がない。
 なんとなくムカついてきた。

「……ま、仕方ないか」

 セイバーはおもむろにアイの胸倉を掴み自らのほうへ引き寄せた。
 それから大きく息を吸い、耳元に向けるように調整すると。

「―――起きやがれこの莫迦がぁーーーッ!!!」
「わひゃああああああああ!?」

 大音量、飛ぶ鳥も地に落ちるほどの大絶叫に、アイは悲鳴を上げて飛び起きた。
 そもそもこれは単なる大声ではなく、魔力放出のちょっとした応用で少量の魔力すら内包する魔声だ。夢に沈む意識に直接呼びかけるにはうってつけと言えるだろう。

「な、なんですかいったい!? 私今まで何を―――って痛い痛い痛い! なんか顔が物凄く痛いんですけど!」

 幸せな夢から一転、無情な現実に叩き落されたアイは混乱の極みだった。頭の中は真っ白であり、今まで見てきたものと何故か痛む顔面の落差に理解がまるで追いついていない。
 そんなアイを、セイバーは微妙な表情で見つめていた。

「よう、おかえり」
「……って、あれ? セイバーさん?」

 ごろごろと忙しく転げまわっていたアイがピタリと止まり、セイバーの声に反応する。顔を苛む痛みに若干涙目になってはいるものの、どうやら身体や精神に異常はないらしい。

「えっと、あの、セイバーさん。いったい何があったんですか?
 というかお菓子は……それとなぜか物凄く顔が痛いんですけど」
「まあ、諸々の説明はまた今度な」

 きょとんとしているアイを担ぎながら、セイバーは軽い調子で言う。

「ちょっと色々あってな、正直目立ちすぎたからすぐここを離れなきゃならない。それは分かるな?」
「ええ、まあ……理由は分かりませんがなんだか凄いことになってますし」

 アイはどうにも現実感がないようで、なぎ倒された木々を見ながら「うわぁ……これをやったのは悪人ですね」などとほざいている。まあ、それだけ分かっているなら問題はないだろう。
 セイバーは担いだアイの体をしっかり押さえると、地を踏む足に力を入れた。

「……あの、セイバーさん。色々大変なのは分かったんですけど、なんで私を担いでるんですか……?」
「言ったろ、早くここを離れる必要があるってな」

 そこでセイバーは悪戯っぽく笑い。

「つまるところ、あの日の続きってことだ」

 一気呵成。慣性の法則を無視したかのような急加速に、アイの絶叫が尾を引いて遠ざかって行った。
 聖杯戦争はまだ始まったばかり。ここで足踏みをしている暇など、彼らにはなかった。


612 : 夢見る魂 ◆GO82qGZUNE :2015/08/08(土) 01:57:25 r/fViUDY0
【C-3/妙本寺近く/1日目 午前】

【アイ・アスティン@神さまのいない日曜日】
[令呪] 三画
[状態] 寝疲れ、両頬に赤い腫れ
[装備] 銀製ショベル
[道具] 現代の服(元の衣服は鞄に収納済み)
[所持金] 寂しい(他主従から奪った分はほとんど使用済み)
[思考・状況]
基本行動方針:脱出の方法を探りつつ、できれば他の人たちも助けたい。
1:生き残り、絶対に夢を叶える。
2:なにがどうなってるんですか……
[備考]
・『幸福』の姿を確認していません。


【セイバー(藤井蓮)@Dies Irae】
[状態] 健康
[装備] 戦雷の聖剣
[道具] バイク(ガソリンが尽きかけてる)
[所持金] マスターに同じく
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り、元の世界へ帰す。
1:鎌倉の市街地から離れる。
2:聖杯を手にする以外で世界を脱する方法があるなら探りたいが……
3:悪戯に殺す趣味はないが、襲ってくるなら容赦はしない。
4:少女のサーヴァントに強い警戒感と嫌悪感。
[備考]
・鎌倉市街から移動しようと考えています。行先の候補は今の所、北鎌倉(A-2)・逗子(E-4)・稲村ヶ崎(D-1)があります。どこに向かうかは後続の書き手に任せます。
・バイクは上記の場所に片道移動したらちょうど尽きるくらいのガソリンしか詰まってません。
・少女のサーヴァント(『幸福』)を確認しました。






   ▼  ▼  ▼






 朝日の差し込む杉木立を、ひとりの少女が舞い踊る。
 いいや、それは見る者が違えば少年にも見えるだろう。観測者によって如何様にも姿を変えるそれは、多幸感に溢れた表情に違わぬ幸福の精。
 市井に語られるフォークロアそのままに、愛らしい少年/少女は微笑み続ける。そこに邪気は一切なく、つい先ほど向けられた殺意と嫌悪すら頭の中には存在しない。

 幸せになって、幸せになって。大丈夫だよ、わたしがみんなを楽園に連れて行ってあげる。幸福さえあれば他には何もいらないでしょう?
 幸せを、光から目を逸らさないで。

 なんて眩い光だろうか。その存在は確かな聖性に満ち溢れて、ただひたすらに人の幸せを願っている。
 だがそれは死の光だ。それに触れて生きていける人間など何処にも存在しない。まるで放射能光のように、直進上のあらゆるものを滅ぼしながら進んでいく死の光。
 地に咲き誇る徒花よ。その光は愛に満ちて世界の全てを照らし、地に行きかう人々を遍く夢に沈め続ける。
 踊れ、踊れ、幸福の妖精。幸せよ、全てを優しく照らしてほしい。それだけが■■の願いなのだから。
 『幸福』は何も変わらない。殺意を向けられようと、嫌悪を向けられようと、例え全てを否定されようとも。その心には幸せしかない故に。
 
 ―――桃の煙に揺蕩う双眸が、それすらをも善し哉と睥睨している。


【C-3/妙本寺近くの杉木立/1日目 午前】

【キャスター(『幸福』)@地獄堂霊界通信】
[状態]健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:幸福を、全ての人が救われる幸せな夢を。
1:みんな、みんな、幸せでありますように。
[備考]
・『幸福』は生命体の多い場所を好む習性があります。基本的に森や山の中をぶらぶらしてますが、そのうち気が変わって街に降りるかもしれません。この後どうするかは後続の書き手に任せます。
・軽度の接触だと表層的な願望が色濃く反映され、深く接触するほど深層意識が色濃く反映される傾向にありますが、そこらへんのさじ加減は適当でいいと思います。
・スキル:夢の存在により割と神出鬼没です。時には突拍子もない場所に出現するかもしれません。


613 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/08(土) 01:57:58 r/fViUDY0
投下を終了します


614 : 名無しさん :2015/08/08(土) 02:01:04 JFhwmFio0
投下乙です!
あー、この幻想はそりゃ蓮には許せんわな
蓮とアイの掛け合いが相変わらず脳内再生されてすごい
シリアス一辺倒ってだけじゃなくてくすっともさせられるのがほんと上手い


615 : 名無しさん :2015/08/08(土) 05:17:28 vUUMMZzY0
投下乙です
『幸福』の凶悪さが、しっかり描かれていて良かったです
そんな凶悪な存在との邂逅を経ても変わらない、このボケツッコミコンビの掛け合いも心が和む良いものでした
…………往復ビンタの時は、脳内ビジュアルが水木しげる先生の絵になりましたが


616 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/08(土) 16:20:15 cM0TN/Io0
投下お疲れ様です!
やはり練炭はこの手の相手にはこう動きますよね。
今回はどうにかなったものの、しかし『幸福』は恐ろしいサーヴァントだなあ。
蓮アイ組の今後も気になると共に、当企画屈指の災厄鯖の恐ろしさもひしひしと感じられました。

そして自分の予約ですが、一応予約を延長しておきます。夜勤ってつらいねパトラッシュ


617 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/11(火) 00:06:59 t8Wtk0pU0
遅くなりました。投下します。


618 : 錯乱する盤面 ◆p.rCH11eKY :2015/08/11(火) 00:07:56 t8Wtk0pU0



 平和なひと時の流れる孤児院に、一筋の百合の香りが舞った。


 それは瞬く間に、無邪気に遊ぶ子供達と職員達の双方を、一人残らず陥落させる。
 本人達の気付かぬ間に、彼らは洗脳と呼ぶにはあまりに深く根強い魅了の夢へと嵌ってしまった。
 聖杯戦争のエキストラでしかない哀れな彼らはきっと、己が誑かされたことへすら気付くことはないだろう。
 生き残るのか、それとも戦火の飛び火で焼け死ぬのか、はたまた心なき英霊に喰い殺されるのか。
 末路は千差万別であれ、名も無き彼らが主役として舞台に上がることだけは、決してない。

 「存外に面倒ですね、当主のお勤めというのも」

 元の家長が乗っていた高級外車の後部座席から降り、孤児院を前に辰宮百合香は嘆息した。
 今は名実共に辰宮百合香の所有物となった由緒ある名家だが、引き継いできた習慣全てを蔑ろには出来ない。
 ただでさえ養子の立場から当主へ上り詰めた異端の経歴を持っている身だ。
 尤も、仮に正体が発覚しようとも――大概のマスターも英霊も、百合香を傷付けることは不可能なのだが。それでも、念には念をだ。郷に入っては郷に従え、ともいう。
 
 鎌倉某所の孤児院。
 此処は、百合香にとって文字通り縁もゆかりもない場所だった。
 どうやら彼女へと快く家督を明け渡した前当主が懇意にしていたらしく、多額の寄付も行っていたのだとか。
 金など好きなだけ持っていけばいいと思うが、どうもあちらは形式に拘りたいらしい。
 共に降りようとする付き人の執事を下がらせ、単身院の敷地へと踏み入る。
 聖杯戦争の参加者としてはあるまじき無防備だったが、彼女はそんなことを気にするほど臆病な人間ではなかった。
 寧ろ――己を傷付けられる相手をこそ所望してもいる。


 院長らしき老年の女性に出迎えられ、それに定型文のような挨拶を返し、案内されながら"視察"は始まった。
 本来は要件……所謂"大人の話"を済ませ、早々に此処を後にするつもりだったのだが、どうもこの院長は百合香を大層気に入ったらしい。是非院を見ていってくれと熱望されたので、職務の一環として仕方なく甘んずることにする。
 とはいえ、今は昼間だ。ある者は幼稚園へ、ある者は義務教育に則って学校で授業を受けている時間。
 中に居る子供達の数は普段に比べ明らかに少なく、概ね三つの区分に分けられる。
 一つは単なる病欠。
 次に何らかの心の傷から、登校拒否になった児童。
 そしてもう一つが、最近院に保護されたばかりで就学手続きが整っていない――百合香にとって関係の有りそうな子供達はこの社会的理由による未就学児達だった。
 
 
 マスターの資格を得て鎌倉へ召喚されたマスターは、何も身体的に成熟した者だけではない。
 中には小学生はおろか、齢一桁のマスターも存在する。
 現に百合香はアーチャーより、子供を屠った報告を幾度か受けていた。


619 : 錯乱する盤面 ◆p.rCH11eKY :2015/08/11(火) 00:08:21 t8Wtk0pU0
 運か、或いは純粋に実力か。それは定かではないが、基本、マスターは身寄りのない状態で街へ放り出される。
 百合香のように特殊な手段でも持っていない限りは、浮浪者も同然の形で生活することを強いられるのだ。
 中には当然、補導される者も居るだろう。院長が直接保護した児童も数はどうあれ居るかもしれない。
 であれば、必然的に――

 「この孤児院に、マスターが潜伏している可能性もある」

 百合香は勝利へ貪欲ではない。
 だからマスターを見つけ出す可能性があるにも関わらず、院の視察を億劫がった。
 だが、こうして実際に訪れたのだ。手の届く範囲でマスターとしての職務も果たしにかかるのが利口だろう。
 
 子供達は見慣れない客人を見るなり興味深げに近付いてきたり、物陰から観察してみたりと微笑ましい。
 あの年頃ならば悪戯の一つでも働こうとする子が居ても可笑しくないが、そこは所詮香の虜。
 辰宮百合香を害する行動は一切取らず、取ろうという気にすらならない。
 にこりと微笑んで子供達へ会釈しながら、"それらしき"子供を探す。
 見つけ出してからどうするかはまだ考えていなかったが、それこそどうとでもなる話だ。
 同盟を申し込むなり、アーチャーに灼かせるなり、選択肢は色々とある。
 
 そこで、ふと。
 百合香は、二人の少女へ視線を向ける。
 
 一人は髪の長い、可愛らしい顔立ちの少女だった。
 それでもう一人は日本人離れした金髪が美しい、どこかビスクドールの類を彷彿とさせる。
 二人の共通点は、どうやら彼女達はこの孤児院におけるアイドル・マドンナ的存在らしいこと。
 中にはどう見ても惚れているとしか思えない態度の子もいるし、そうでなくとも彼女達を快く思っているのは確かのようだった。しかし、百合香が興味深く思ったのはそこではない。
 
 金髪の彼女は、きっと天性でああいう性格をしているのだろう。
 成る程、あれなら人気者になるのも頷ける。
 誰にでも別け隔てなく接し、二面性がなく人懐っこい。
 "いい子"という言葉を体現したような娘――百合香をしても、それ以外の形容が出来ないほど。
 
 一方で長髪の彼女は、明らかな"作り"の態度で賑わう子らへと接していた。
 他の誰を騙せたとしても、あの手の演技は辰宮百合香には通じない。
 人当たりよく可愛らしいのは外面だけで、瞳の奥には百合香自身にも通ずる、空虚なものが眠っている。
 
 あの子は、面白いですね。百合香は誰にも聞こえないほどの小さな声で呟いた。
 マスターの可能性があるか否かは扠置いて、個人的に興味がある。
 所詮人間は人間、同じ穴の狢と切り捨てるのは簡単だが、彼女の"目"に一抹の期待を抱かされた。
 あれは普通に生きてきた人間、ましてや子供のする目ではない。
 

 ――突如、騒がしい和室の真ん中に、明らかに場違いな書生が出現したのは……百合香が彼女へ接触しようと一歩を踏み出そうとした、その矢先のことだった。


 「―――うはははははは! 久しいのぉ、こんな所で会うたぁなんちゅう偶然よ!」


620 : 錯乱する盤面 ◆p.rCH11eKY :2015/08/11(火) 00:08:49 t8Wtk0pU0
 騒然とする室内。
 百合香の興味を惹いた少女が、一瞬だけ物凄く焦った顔をしたのが見えた。
 これには百合香も笑みを堪えずにはいられない。
 そうかそうか――よりにもよってあの娘、"この男"を喚んだのか。


 「こちらこそお久しゅうございます、狩摩殿。今は"キャスター殿"とお呼びした方が宜しいでしょうか?」
 「むず痒いけぇ、狩摩でええわ。腰ィ落ち着ける場所が出来たんはええが、よいよあんなの采配は退屈での。いっそ卓袱台の一つも引っ繰り返しちゃろうかと思っとった所よ。
  そろそろ何かしらは起こる頃じゃろうと思っとったが、まさかあんたが来るとはの。なぁ、お嬢」


 辰宮百合香はこの男を知っている。
 真名看破も何もない。既知なのだから、改めて唱え直す必要もなかった。
 ――神祇省。遡れば飛鳥の時代より存在する、陰と陽の側面を併せ持つ宗教機関。
 太陽神の眷属を自称したかと思えば、鬼面衆を名乗って護国の汚れ仕事を行う異形の集団。
 キャスターのサーヴァント、壇狩摩はその首領だ。そして神祇省は、貴族院辰宮の最も大きな同盟相手でもある。

 
 「それは此方の台詞ですよ。
  貴方が喚ばれたという時点で、わたくしはこの聖杯戦争の全てを疑わなくてはならなくなりました」
 「ひひひ、手厳しいのォ。
  ……で、じゃ。どうよ、梨花。こんながお前の討つべき敵手の一じゃ。
  こりゃ難儀じゃぞ。何せ見ての通り傾城の華、万象を酔い潰させる魔性の女よ」

 
 話を振られた彼のマスター、古手梨花は――あまりの怒りに言葉を失っていた。
 なんだ? このサーヴァント、一体何を考えている?
 己の見知った相手だからと霊体化を軽々解き、挙句マスターの真名まで教える暴挙。
 盲打ち、向こう見ずの類であるとは分かっていたが、まさか此処までとは。
 
 「初めまして、梨花さん。わたくし、辰宮百合香と申します。狩摩殿とは知己の仲でして」
 「……じゃあ、あんたも」
 「はい。聖杯戦争の参加者です」

 梨花は当然の如く、百合香へと警戒心を露わにしていた。
 だが彼女はそんな様子を気にした様子はまるでなく、文字通り花の咲くような笑顔で迎え入れる。
 
 「では梨花さん。一つご提案があるのですが――どうでしょう? 
  同じマスター同士、わたくしと同盟を結ぶ気はございませんか?」
 「そんなこと――簡単に頷くとでも思うの? 第一、私はあんたのことをまだ信用してないのよ」
 「それは残念。しかし、悪くない話だと思いますよ。わたくしのサーヴァントは、本来の意味での強者です」


621 : 錯乱する盤面 ◆p.rCH11eKY :2015/08/11(火) 00:09:22 t8Wtk0pU0

 あの方に敵う者など、そうは居ないでしょうね。
 どこか呆れた風に呟く百合香の表情に、嘘偽りは見えなかった。
 それ以前に、この辰宮百合香という女が単なる気まぐれで同盟を提案したらしいことも梨花には分かった。
 キャスターの盲打ちでこそないが、仮に梨花がそれを拒絶したとしても、精々名残惜しげにするだけだろう。
 何故なら、必死になる理由がないからだ。
 キャスターと彼女が知り合いであるということ以外の、同盟の意義を彼女はまったく見出していない。
 しかし梨花の側にしてみれば、同盟のメリットはあまりに大きい。
 ピーキーにも程があるキャスターの性能を補う真っ当な強さ。それこそが、今彼女が最も必要としているものだった。キャスターは魔術や搦め手には滅法長けるが、一方でど真ん中をぶち抜く強さには極めて脆い。
 要は、馬鹿に勝てないのだ。そんな存在と行き遭った日には、不毛な消耗戦の末に討たれる他に未来はない。

 「……分かった」

 梨花は長い逡巡の後、百合香の提案へ頷いた。
 周囲の子供達は不思議そうな顔で見ている。
 幸いなのは、突然現れた書生を大概の子供が"お化け"と認識し、逃げたり隠れたりしていることか。
 もしも不審な人物と騒がれでもすれば、大層面倒なことになったに違いない。
 いや――そこはこの女がどうにかしたのかもしれないが、いずれにせよ、手放しに信用していい相手でないのは確かだった。このキャスターと知人であるというだけでも、根拠としては十分だった。


【B-1/孤児院】

【辰宮百合香@相州戦神館學園 八命陣】
[令呪]三画
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]高級料亭で食事をして、なお結構余るくらいの大金
[思考・状況]
基本行動方針:生存優先。
1:古手梨花、壇狩摩との同盟はとりあえず遵守するつもり。
[備考]
※キャスター陣営(梨花&狩摩)と同盟を結びました

【古手梨花@ひぐらしのなく頃に】
[令呪]三画
[状態]健康、苛立ち
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]子供のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、百年の旅を終わらせる
1:キャスター……こいつ、本当に何考えてんのよ。
2:百合香への不信感。
[備考]
※アーチャー陣営(百合香&エレオノーレ)と同盟を結びました
※傾城反魂香に嵌っています。気に入らないとは思っていますが、彼女を攻撃、害する行動に出られません。


622 : 錯乱する盤面 ◆p.rCH11eKY :2015/08/11(火) 00:09:53 t8Wtk0pU0
【キャスター(壇狩摩)@相州戦神館學園 八命陣】
[状態]健康
[装備]煙管
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しむ。聖杯自体には興味はない。
[備考]
※アーチャー陣営(百合香&エレオノーレ)と同盟を結びました
※彼は百合香へもともと惚れ込んでいる為、傾城反魂香の影響を受けていません。


 ◆


 「ほう。セイバーのサーヴァントか、貴様」
 「…………」

 その頃。
 院の中庭にて、二騎の英霊が静かに相対していた。
 クラスは双方三騎士格。セイバーとアーチャー。英霊としての格も、一級を通り越している。
 仮に彼らが本気で戦ったなら、この孤児院などあっという間に消し飛ぶだろう。
 
 「君は――」
 「アーチャー。真名は形式に従い、明かす訳にはいかんがね」

 赤髪をポニーテールに纏めた火傷顔の――いかにも"女傑"という形容が相応しい弓兵は紫煙を燻らせながら、言う。
 それに正面から向かい合うのは金髪の騎士だった。
 纏う英霊としての覇気は紛れもなく本物の騎士のそれ。弓兵、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグをして疑う余地のない生粋の騎士。そして事実、その形容はこの上なく的を射ていた。
 
 彼の真名は騎士王、アーサー・ペンドラゴン。
 過去の彼方、ブリテンのアーサー王伝説として語り継がれる大英霊である。
 聖杯戦争の英霊として彼を呼び出したというのなら、そのマスターは余程幸運な人物に違いない。
 アーチャーは実力者だ。現世を離れて久しい身でこそあるが、かの『城』で毎日のように殺し合いを続けてきた。飽くなき闘争のグラズヘイムを生きた者――その研鑽は、伝説の騎士にすら決して劣るものではない。
 だからこそ分かる。このセイバーは強い。退屈極まる聖杯戦争にて、初めて出会った認めるに足る相手だった。

 「……さっき、此処を訪れた客人が居た。君は彼女のサーヴァントで相違ないか」
 「――――」

 アーチャーは答えない。だがその口端が、僅かに不快げに歪むのをセイバーは見取った。
 恐らく、彼女達の主従関係は良好ではないのだろう。尤も、このアーチャーのお眼鏡に敵う主君が果たして存在するのかどうか、そこからしてセイバーにすれば疑わしいものだったが。


623 : 錯乱する盤面 ◆p.rCH11eKY :2015/08/11(火) 00:10:14 t8Wtk0pU0
 「無駄話は好かん。
  そう身構えずとも、すぐに消えるよ。元より気紛れに話しかけただけに過ぎん。だが、まあ」

 赤髪のアーチャーが、すっとその右手を翳す。
 その瞬間だった。
 彼女の背後に――膨大な魔力を秘めた、"何か"の質量を感じたのは。

 「あの日のベルリンのように、再度煉獄を演ずるのも悪くはないと思うがね」

 セイバーは躊躇わず、その剣を抜いた。
 先手を取らせてはならぬと、未来予測にも近い直感で断じたが故。
 抜き放った不可視の剣閃。それを辞儀が如く、赤きアーチャーが己の剣で止めていた。
 さりとて、流石に剣の領分では剣士のクラスで召喚されたセイバーに分がある。
 一触即発。
 互いに今こそ様子見、敵の行動を制するのみで済ませていたが――相手があと一度でも攻撃的行動に出れば、その瞬間に戦端を開く腹積もりだった。それはアーチャーのみならず、セイバーも同じだ。
 孤児院を戦場にする気はない。無論、開戦するなりすぐになるだけ此処から離れて戦うつもりでいる。

 「言ったろう、気紛れであると。少しは冗談を覚えた方が良い」

 剣を離し、アーチャーは笑った。
 今その剣を抜かぬのであれば、容赦なく"砲"の一射を見舞ってやる所だったが。

 「だが、次も顔合わせでは芸がない。その時は改めて、貴様の剣と相見えさせて貰うとしよう――」

 ――やはり、貴様は私と殺し合うに足る相手だ。
 不吉な言葉を残して、アーチャーのサーヴァントはセイバーの前から消失を果たした。
 
 強者であった、とセイバーは思う。
 額に浮いていた汗を拭えば、思い返すのはかの太陽王との戦いだ。
 今のアーチャーは、間違いなく奴クラスの難敵と見ていいだろう。
 敵に交戦の意思がなかったのは幸いだった。
 もしもやる気であったなら、その勝敗はどうあれ、この孤児院を守れた自信は――率直な所を言うと、ない。
 
 
 「……難儀な戦になりそうだ」

 
 セイバーは嘆息すると、再び霊体化して姿を消そうとする。
 しかし。院を飛び出すなり、中庭の彼へと駆け寄ってくる少女の姿があった。
 金髪に整った服装の可憐な彼女。見紛いようもない、セイバーのマスター、キーア。
 焦った表情で息を弾ませて駆け寄ってくる彼女の様子は、明らかに普通ではない。


624 : 錯乱する盤面 ◆p.rCH11eKY :2015/08/11(火) 00:10:43 t8Wtk0pU0

 「どうしたんだい、キーア。院内で何か――」
 「マスターだったの」
 「……なに?」
 
 
 古手梨花という少女は、キーアにとっても不思議な人物だった。
 いつも明るく可愛らしいのに、ふと気が付くとどこか遠くを見るような目をしている。
 キーアは、梨花も自分を特殊な存在として見ていたことを知らない。
 同時に梨花も、キーアが自分などに注視しているとはまったく思っていなかった。
 彼女はあの奇妙な男と、聖杯戦争の参加者を名乗る少女と会話をしていた――ドウメイ、とか。そういう断片的な単語だけは聞き取ることが出来たし、それだけで根拠としては十分すぎた。

 「梨花が――マスターだったのよ」

 聖杯戦争に身を投ずる二人の幼い少女たち。
 それを取り巻く数奇な運命は、すでに枝分かれを始めていた。


【キーア@赫炎のインガノック-What a beautiful people-】
[令呪]三画
[状態]健康、混乱
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]子供のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争からの脱出。
1:梨花が、マスター……?


【セイバー(アーサー・ペンドラゴン)@Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ】
[状態]健康
[装備]風王結界
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:キーアを聖杯戦争より脱出させる。
1:赤髪のアーチャー(エレオノーレ)には最大限の警戒。


【アーチャー(エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ)@Dies irae】
[状態]健康、霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:闘争を楽しむ
1:セイバー(アーサー・ペンドラゴン)は次に会った時、殺す


625 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/11(火) 00:10:57 t8Wtk0pU0
投下終了です。


626 : 名無しさん :2015/08/11(火) 16:31:14 .A4P6Fzk0
投下乙です!
お嬢は相変わらずめんどくさいな(褒め言葉)。そしていきなりの狩摩との同盟とは、戦闘力とは全く別次元で厄介すぎるコンビが成立してしまった……
そんな曲者連中とは正反対に、キーアとプロトセイバーはどこまでも正統派で安心感が凄いですね。キーアは早速梨花がマスターだと気付いたわけですが、さてここからどう行動するのか


627 : 名無しさん :2015/08/12(水) 00:28:10 5v2nZW1I0
やっぱり狩摩は狩摩じゃないか(歓喜)
エレ姉とプロトセイバーの邂逅のこの、一歩間違えば大惨事不可避な緊張感がとてもよかったです


628 : ◆Imn1dqe1BA :2015/08/12(水) 15:08:02 p339vK0w0
期限内に完成しそうもないため一度予約を破棄します
企画スタート直後に申し訳ありません


629 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/15(土) 21:48:09 cfE.CYOQ0
エミリー・レッドハンズ&バーサーカー 予約します。


630 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/22(土) 19:44:13 sccYWniI0
作品自体は仕上がっているのですが、投下環境が整っていないので明日まで待って戴けるとありがたいです、申し訳ない


631 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/23(日) 16:43:48 ucza81SM0
投下します。


632 : 貪りし凶獣 ◆p.rCH11eKY :2015/08/23(日) 16:44:16 ucza81SM0


 鎌倉市の一角に存在する、忘れ去られた廃下水道。
 小さな部屋のようになったその場所に、一人の少女が暮らしていた。
 下水道とはいえ、これだけ使われなくなって時間が経てば臭いも衛生面も問題はない。
 生活に必要な最低限の代物はくすねるなり、予選で殺したマスターから奪い取った所持金で揃えていけばいい。
 エミリー・レッドハンズの懐は、そんな事情もあってそこそこ豊かだった。
 
 彼女のバーサーカーは、およそ単純な戦闘において最強の存在と言っても過言ではない。
 生半可なサーヴァントならば瞬く間に轍と変えてしまう為、現にエミリーは聖杯戦争開幕後、これまで一度としてバーサーカーの切り札に相当する宝具を解放させたことがなかった。
 それでも、恐らく予選期間中に最も多くの敵を殺したのは彼だろう。
 記憶している限りで二十以上。エミリーの感知しないところで屠った敵も含めれば、その数は更に上か。
 
 「…………」

 エミリーは今、ぼんやりと液晶画面を見ていた。
 嵩張らず、持ち運ぶことの出来る小型のテレビだ。
 拠点を襲撃して殺害したマスターの所持品であったものだが、これがなかなかどうして便利である。
 
 路傍で発見された暴力団関係者の死体。
 オカルト番組は、市内を彷徨く屍食鬼なる存在について面白おかしくネタにしている。
 今や全国的に、鎌倉は世間の注目の的と化しつつあった。
 無理もない。連日連夜に渡り勃発し続ける殺人事件、失踪事件、怪奇現象。
 その中で解決した事例は殆どなく、得体の知れないものを感じてか警察もそう深入りしたがらない始末だ。
 尤も、そんな状況にあるにも関わらず、外からこの街を訪れる人間が異様に少ない――単なる興味本位、物見遊山の観光客ですらごく少数というのだから、聖杯戦争の運営側による何かしらの措置が施されているのだろう。
 
 エミリーは、聖杯を得るためならば手段を選ばない。
 誰だって手にかけるし、どんな非道にだって手を染める覚悟がある。
 だが、無駄なことはしない。
 魔都と化しつつある鎌倉へも高揚はなく、自分の障害とならなければそれでいい、その程度の認識だ。

 しかし、ある意味ではこうして派手に行動を起こしてくれる手合いは実に助かる。
 サーヴァントの神秘を目撃した一般人が流布させる『都市伝説』は、立派に敵の手の内を垣間見ることの出来る情報源としての役割を果たしてくれるからだ。
 彼女がこうしてテレビやオカルト番組を注視しているのも、それが理由。
 
 「屍食鬼……か」

 これほど拡散されている以上、よもや都市伝説の爆発的増殖に便乗した嘘八百ではあるまい。
 本当だとすれば、これに聖杯戦争のマスター、ひいてはサーヴァントが関与しているのは言うまでもなく明白だ。
 ネズミ算式に増殖する手駒を保有しているのか、或いは屍食鬼の根元自体が英霊であるのか。
 そのどちらかは定かではないが、近々一度町へ繰り出し、この眼で確かめる必要がありそうだ。


633 : 貪りし凶獣 ◆p.rCH11eKY :2015/08/23(日) 16:44:33 ucza81SM0
 あまり妄りに外出すれば、敵と遭遇、もしくは発見される可能性が必然的に高まる。
 動く時は十分に機を見計らい、あらゆる状況を想定し、その上で完璧に目的を遂行する。
 それがエミリー・レッドハンズの、聖杯戦争において定めたポリシーだった。
 サーヴァントの戦力が最強級である以上、危険視すべき相手は必然的にアサシンの類になる。
 殺戮という概念では右に出る者のいないあのバーサーカーとて、聖杯戦争の一参加者である以上はルールの縛りからは逃れられない。言わずもがな、マスターを失ったサーヴァントは消滅する。本戦でもそこに変わりはない。
 白きバーサーカーを排除したいなら、マスターであるエミリーを殺すのが最も手っ取り早い。
 少なくとも、エミリーが敵ならばそうする。だからこそ、今は身辺に最大の注意を払う必要があった。
 
 ……此処が割れた時のことも想定し、近々第二、第三の拠点についても用意しておこうか。
 此処ほど条件の良い場所がそうそう見つかるとも思えないが、まったく皆無ということもないだろうし。
 
 そんなことを考えながら、少女は液晶に映ったあるニュースを見、顔を顰めた。
 十数人の人間が犠牲になったという、凄惨な殺人事件。
 現場になったのは郊外の一角。犠牲者の死因は、いずれも射殺。
 
 エミリーは、自身のサーヴァントをちょうどその方向へ索敵に向かわせていることを思い出し、溜息をついた。

 あまり目立つ虐殺は控えろと命じておいたのだが――やはり相手はバーサーカー。説法は無意味だったらしい。





 時は数刻前に遡り。
 バーサーカーのサーヴァント、ウォルフガング・シュライバーは退屈気な欠伸を漏らしていた。
 手にしているのは二丁銃。いずれもれっきとした人の手で製造された軍用装備であるが、改造と呼ぶのも生温い暴力的な教化が施された事により、文字通り『魔銃』と呼ぶべき代物へと進化を遂げてしまっている。
 宝具ではないが、無限の弾数と英霊すら殺傷する威力を併せ持った凶悪無比なる武装。
 言わずもがな、そんなものを単なる人間が向けられればどうなるかは明らかだ。

 白騎士の襲撃に居合わせた者達は、一人の例外もなく血袋と化していた。
 鎌倉市市長の命を受け、『浮浪者狩り』に繰り出していた何も知らない彼ら。
 一言、不運だったとしか言いようがない。
 彼らは結局、自分達を指揮する者が何を目的として街を率いているのかすら知らずに、恐怖と絶望の中で惨死した。

 ある者は脳漿をぶち撒けて。
 ある者は顔を蜂の巣にされて。
 ある者は四肢が魔銃の弾丸で千切れ飛び。
 ある者は心臓を直接撃ち抜かれ。
 ある者は胴を撃たれ、体が歪な形に変形していた。

 そんな殺人現場の中心で、白騎士――ウォルフガング・シュライバーは哂う。


634 : 貪りし凶獣 ◆p.rCH11eKY :2015/08/23(日) 16:44:46 ucza81SM0


 「なんだ、もう壊れちゃったのかい。やっぱり人間ってのは脆くていけないね」


 ただ、こちとら数十年振りなんだ。
 君達程度の雑把相手でも、そこそこ暇潰しにはなっているから安心してよ。
 無邪気な少年の笑みで死体を労う彼の姿は、まさしく狂戦士としか形容の手段がないだろう。
 無邪気は無邪気でも、彼のそれは蝶の羽を毟り取るような無邪気さだ。
 彼はただ殺す。呼吸するように殺す。彼と行き会ったあらゆる者は、彼の背後に広がる轍と変わる以外にない。

 
 黄金の近衛兵、大隊長。
 忌わしき狼が動き出す。
 走り抜けた後に振り返るものをこそ至高の強さと奉ずる魔獣は、最早一個の災害と読んで差し支えなかった。
 

【D-4/エミリーの拠点/1日目 午前】

【エミリー・レッドハンズ@断裁分離のクライムエッジ】
[令呪]三画
[状態]健康
[装備]なし
[道具]ワンセグテレビ
[所持金]そこそこ。当面の暮らしには困らない。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯狙い。手段は選ばず、敵を排除する
1:『鎌倉の屍食鬼』に接触したい
2:シュライバーに呆れ気味。ただし手綱を引くのは半ば諦め気味。
[備考]
※テレビで報道の内容とオカルト番組をチェックしています。


【A-5/郊外/1日目 午前】

【バーサーカー(ウォルフガング・シュライバー)@Dies irae】
[状態]健康
[装備]ルガーP08@Dies irae、モーゼルC96@Dies irae
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し。
1:サーヴァントを捜す。遭遇次第殺し合おうじゃないか。


635 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/23(日) 16:44:57 ucza81SM0
投下終了です。


636 : 名無しさん :2015/08/24(月) 21:17:48 dC22VAj.0
投下乙です
この組はなんというか、色んな意味で危うい感じがしますね……エミリーは今の所賢く立ち回っていますが、シュライバーの本質に気付かない限り待ち受けているのは掛け値なしの地獄ですし、そんなシュライバーもいきなりの大虐殺。名も無き浮浪者狩りの職員たちに合掌
戦力は最強だけどそれ以外で致命的な欠点があるアンバランスな主従の描写、お見事でした


637 : ◆p.rCH11eKY :2015/08/29(土) 23:56:15 qW9utCvw0
丈槍由紀&アサシン、すばる&アーチャー 予約します。


638 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/05(土) 15:00:03 rwcZpO.60
延長します。


639 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/08(火) 20:00:38 EHBLgKvQ0
申し訳ありません。
完成したのですが例のごとく環境的な問題で週末までお待ち下さい……orz


640 : 名無しさん :2015/09/08(火) 21:56:19 XXyOaS4Y0
お気になさらず!
週末が来るのを楽しみに待ってます


641 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/12(土) 03:53:06 nfLsw9Gw0
猛烈に遅れてしまいましたが、投下します。
また、推敲の際にハサン先生の出番が削られてしまったことをここにお詫びします


642 : ここには夢がちゃんとある ◆p.rCH11eKY :2015/09/12(土) 03:53:40 nfLsw9Gw0

 聖杯戦争が始まったというのに、街は至って何も変わらないままだった。
 
 町中に設置された小さな時計台は、午前十時前後を指している。
 すばるは、まだ中学校にあがったばかりの子どもだ。
 これが平日ならこの時間に彷徨いているのは立派な補導対象になるのだろうが、幸運にも今日は休日。
 いつものように窮屈な時間を過ごす必要もない。
 それ以上に、学校にも通っていない身で居候先に甘んじ続けるというのはどうにも申し訳ない思いが先行するのだ。
 せっかくの好意ではあったが、極力出かけられる日は少しでも永く外に居るようにすばるは努めていた。

 「ぽかぽか陽気だね、アーチャーさん」
 「そうね」

 もちろん、周囲には常に霊体化したアーチャーを連れている。
 彼女を振り回してしまうことに申し訳なさは感じたが、すばるの戦闘能力はお世辞にも高いとは言い難いものだ。
 そもそも、ドライブシャフトは戦闘の道具ではない。
 エンジンのかけらを効率よく収集するためのものであって、故にサーヴァント相手には、精々逃げる為程度にしか使えないだろう。それに、何よりすばる自身がこの力を、戦いの為に使いたいと思えないのだ。
 これをくれた宇宙人も、それを望まないだろう。……だから、すばるはアーチャーの力に甘えることにした。
 聖杯はいらない。けれど、聖杯戦争から生きて帰還することは、彼女にとってとても大切なことなのだ。

 ――みなとくん。

 声に出さずに呟けば、瞼の裏に"彼"の穏やかな微笑みがよみがえる。
 すばるが何か迷って、泣きそうになっている時、扉の向こうに現れる不思議な温室。
 そして、その向こうでいつでも彼は待っていてくれた。
 
 ――待ってて。

 気持ちの理由は、まだわからない。
 ただ、彼が消えてなくなってしまうことだけは嫌だった。
 聖杯戦争の間中、悪夢でその光景を見て枕を濡らしたのも決して一度や二度じゃない。
 こうしている間にも、彼はまた遠くへ行ってしまうのではないか。 
 そう思うだけで胸が締め付けられる。
 アーチャーという味方がいなければ、この辛さに耐えられる自信はなかった。
 
 最初の内は、人目につかない日陰や公園でぼうっと時間を潰していたすばる。
 そんな彼女に、折角なのだから鎌倉の街をその目で見、歩いてみてはどうかと進言したのは他ならぬアーチャーだった。
 言ってしまえばただの散歩だが、これがなかなかどうして良い気分転換になる。
 見慣れない街を、海岸線を、人混みを。
 目的もなく歩いているだけで、孤独な日々のストレスが消えるとまでは行かずとも、希釈はされていった。

 そんなすばるの今日の目的は、言わずと知れた鎌倉名物。
 高徳院の大仏を実際に見てみることだった。
 寺院や仏像の趣はまだ分からないすばるだが、いざ実際に見てみなければ良し悪しも分からない。
 幸い居候先からもそう遠くはないので、すばるは、のんびりと陽気溢れる休日の道を歩いていた。


643 : ここには夢がちゃんとある ◆p.rCH11eKY :2015/09/12(土) 03:54:00 nfLsw9Gw0
 「……? ねえアーチャーさん、あれ、なんだろ」

 ふと。
 すばるは、視界の片隅に見えたものに疑問符を浮かべて足を止める。
 市役所の北西方向に、遠目からでも手入れが行き届いていないのが分かる、謎の建物があった。
 大きさは結構あるものの、あの様子ではまさか実際に使われてはおるまい。
 示された建物へ視線を向け、アーチャーは「うーん」と唸っていたが、結論は程なく出たようだった。

 「多分、学校――廃校、じゃないかしら。
  結構あるのよ、使われなくなっても放って置かれてる建物って。
  壊すにもお金がかかるから、何かきっかけがあるまでは見て見ぬ振り……ってとこだと思うわ」
 「へえ……肝試しなんかに使われてそうだね、なんとなく」
 「ふふ、すばるちゃんらしいわね」

 実際には、それよりも不良の溜まり場として使われる方が多そうだが、敢えて口には出さなかった。
 すばるの歳相応な可愛らしい発想に、水を差すのも憚られたからだ。
 なんというのだろう。
 もしも妹が居たのなら、こんな気分なのかもしれない――アーチャー・東郷はそう思う。

 「……あれ」

 そんなアーチャーの胸中を余所に、すばるは再び首を傾げ、件の廃校を指差す。
 ただし今度は建物全体ではなくある一点――その屋上にあたるだろうスペースを示して。

 「あそこ、誰かいない?」

 誰かいる?
 こんな朝から?
 不可解なものを感じながら視線を上へ這わせていき、屋上を見やると。
 ……確かに、誰かいるように見える。
 流石に性別や年頃までは窺えないが、よく見るとシルエットは動いていることから、見間違いではないだろう。
 間違いなく人だ。
 ――ただ奇妙なのは、シルエットは一つしか見えないにも関わらず……心なしか、どこかはしゃいでいるようにその姿が見えることだろうか。……そうまで考えて、アーチャーの脳裏にある可能性が浮かび上がる。
 
 「……アーチャーさん?」
 「確証はまだないけれど――」

 廃校に白昼堂々侵入し、一人ではしゃぐ何者か。
 普通ならただの奇行で済まされる話だが、此処は生憎と普通の環境ではない。聖杯戦争の行われている街だ。
 幽霊や異常者の類と考えるよりも、あそこを拠点として活動する、未知のマスターが居ると考えた方が理に適っている。


644 : ここには夢がちゃんとある ◆p.rCH11eKY :2015/09/12(土) 03:54:18 nfLsw9Gw0
 ――どうするか。アーチャーは唇を噛み、思案する。
 だが、思案していることをすばるに悟らせてしまったのは、彼女の失敗だった。
 すばるは幼いが、馬鹿ではない。
 聖杯戦争のこともアーチャーから聞いた範疇で理解しており、故にその反応から、彼女が考えていることをある程度察するくらいのことは造作もなかった。
 
 「もしかして……」
 「……ええ。聖杯戦争の参加者かもしれない」
 「……! だったら、行ってみようよアーチャーさん!」

 敵の居所が予期せぬ場面で判明したのは言うまでもなく幸運だ。
 しかし、戦闘能力の面で弱小に部類されるこの身で、果たして他のサーヴァントと渡り合えるだろうか。
 サポートの期待できないすばるを連れた上でならば尚更のこと。
 ……それも含めて思案していたアーチャーだったが、当のすばるは意外にも前向きだった。

 「きっと、私達だけの力じゃ抜け道を探すのは難しいと思うんだ。
  もしもあそこにいるのが他のマスターさんだったら、もしかすると何か力を借りられるかも」

 すばるの意見を聞くなり、アーチャーは僅かに表情を曇らせた。
 彼女が言っているのは、絵に描いたような理想論そのものだ。
 当然、その通りに上手く事が運ぶ可能性も存在しよう。
 だが同等かそれ以上に、彼女の期待を裏切る結末が待っている可能性も存在する。
 聖杯戦争については理解していても、やはり根が善良すぎるというべきか。
 その素晴らしい優しさと純粋さは、いつか深い傷になるのではないか――そんな不安をアーチャーは禁じ得ない。
 歪んでなどいない、歳相応で実に素晴らしい精神構造。
 けれどそれは、必ずしも良い方向に作用するわけではないのだ。特に、ことこのような事態に際しては。

 「……そうね」

 しかしながら、彼女はすばるの提案へ首肯で応じた。
 うんうんと頷く己がマスターの姿に、少しばかりの罪悪感が湧いてくる。
 アーチャーは決して、彼女の言い分に賛同したわけではなかった。

 (でも、敵の性質によっては付け入る隙があるかもしれない。
  同盟を結べれば確かに御の字。ただし、もしもそれが成らなかった場合。
  もしくは、敵が私やすばるちゃんに刃を向ける場合は――)

 あくまでも“見極める”ためだ。
 無用、有害なサーヴァントならば、その時は早々に手を打つ。
 幸い、自分に備わっている力は弓兵でありながら、その実暗殺者寄りのもの。
 たとえ相手が格上であろうとも、初撃に限ればジャイアントキリングの可能性は十二分に存在する。


645 : ここには夢がちゃんとある ◆p.rCH11eKY :2015/09/12(土) 03:54:36 nfLsw9Gw0
 聖杯戦争を生き抜くための仲間と出会えるかもしれない。
 そんな想いに胸を膨らませるマスターの傍らで、道を踏み外した勇者が、一人それを裏切る算段を企てていた。





 「待っててね! 今お菓子持ってくるから〜!!」

 ――しゅばばばーっ、と。
 そんな擬音が似つかわしい足取りで、廃校の主である少女はすばる、そしてアーチャーの真横を駆け抜けていった。
 
 「…………」
 「…………」

 唖然。
 二人の心境を要約するには、その一言で事足りた。
 結論から言えば、廃校の人影は予想通り、聖杯戦争のマスターだった。
 校内へ侵入し、屋上を目指している二人の前へ、件の彼女は何ら警戒することもなく現れたのだ。
 屋上から学校へ近付いてくる人影を見ていたのか、ぱたぱた、実に落ち着かない様子で。
 警戒していないどころか、彼女はすばる達を歓迎すらしているようであった。

 肩透かしを食らう形になった二人を“部室”なる場所へと案内すると、彼女は客人用のお菓子を取りに再び消えていった。
 本当に、嵐のように忙しない少女だった。
 それこそ、すばる以上に聖杯戦争の参加者としては“らしくない”部類に入るだろう人物。

 やがて戻ってきた彼女の手には、どこかで聞いたことのあるような名前のお菓子が幾つか抱えられていた。
 それをボロボロのテーブルに並べると、遠慮しなくていいんだよ! と胸を張る。
 その姿は愛らしく、また緊張感とはまったく無縁のものだった。
 だが。
 そんな状況にありながら、アーチャーはおろか、すばるでさえ。
 心を落ち着けて、この“安全なマスター”との交流に臨むことが出来ずにいる。

  ――丈槍由紀。“ゆき”って呼んでね。 そう、少女は名乗った。
  それから、彼女は始める。
  この学校で一緒に暮らしているという、“学園生活部”の面々の紹介を。

 すばるには、最初、何を言っているのか分からなかった。
 アーチャーもまた同じだった。
 場合によっては即断で切り捨てようと考えていた筈の彼女をして、呆気に取られた。
 

 何故なら、楽しそうに友達を紹介し、その友達と言葉を交わす彼女の周りには――誰も、居などしなかったのだから。


646 : ここには夢がちゃんとある ◆p.rCH11eKY :2015/09/12(土) 03:55:06 nfLsw9Gw0



 パントマイムを続ける少女。
 閉ざした自己領域で酔う彼女の元に、今や仲間は居ない。
 ただ、増えた幻があるだけだ。それだけが、彼女のすべてを満たしている。
 それでも。彼女がそう信じている限り、紛れもなく彼女の中ではそうなのだ。


 星空を舞う少女と、勇者の弓兵へ――夢見る少女は、優しく微笑みかけた。


【C-2/廃校・学園生活部部室/1日目 午前】

【アーチャー(東郷美森)@結城友奈は勇者である】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] スマートフォン@結城友奈は勇者である
[所持金] すばるへ一存。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯狙い。ただし、すばるだけは元の世界へ送り届ける。
1: ゆきへの対処を考える。切り捨てるか、それとも――。
2: すばるへの僅かな罪悪感。


【すばる@放課後のプレアデス】
[令呪] 三画
[状態] 健康、戸惑い
[装備] 手提げ鞄
[道具] 特筆すべきものはなし
[所持金] 子どものお小遣い程度。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争から脱出し、みんなと“彼”のところへ帰る
1: えっ――。


【丈槍由紀@がっこうぐらし!】
[令呪] 三画
[状態] 健康、ご機嫌
[装備] お菓子(んまい棒など)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針: わたしたちは、ここにいます。
1: すばるちゃんにアーチャーさんかあ。いいお友達になれそう!
2: アサシンさんにも後で紹介したいな……


647 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/12(土) 03:55:33 nfLsw9Gw0
投下終了です。


648 : 名無しさん :2015/09/13(日) 14:57:12 1tyoDdoQ0
投下乙
うわあ、よりによってそこで切るのか。
すばるはなんやかんやで滅多なことにはならなそうだけど、東郷さんが不安だなあ


649 : 名無しさん :2015/09/13(日) 15:56:25 QXp9oDFU0

すばるがドン引きしてて草生える


650 : 名無しさん :2015/09/13(日) 16:31:28 CtdXYYNs0

ゾンビ物の作品からの出身の筈なのに
ゆきのノリが若干サイコホラーちっくww


651 : 名無しさん :2015/09/13(日) 18:14:29 qNS32AqIO
早くめぐnゲフンゲフンみーくんを連れてこないと
いや無理か…


652 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/17(木) 18:43:25 OE92bx9E0
如月&ランサー 予約します。


653 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/22(火) 22:28:06 Skfq8cMU0
延長しておきます……


654 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/24(木) 21:15:56 pRVk5Uh60
投下します。


655 : ヒュプノスの祝福 ◆p.rCH11eKY :2015/09/24(木) 21:16:44 pRVk5Uh60

 冷たい。
 そして塩辛い。
 蒼く碧い群青の水底へと堕ちていく感覚。
 艦娘として戦い始めた時から、いつかは覚悟していたことだった。
 こうなるかもしれないとは分かっていた。
 でも、目を背けていた。この日常が終わるはずがないと、心の何処かで信じ切っていた。
 根拠のない慢心が招いた結果だとするのなら、是非もない。
 仮にそうでなくたって、駆逐艦・如月に運命を変える力など――最早残ってはいないのだったが。

 今はもう彼方に見える水面へ伸ばした手が、誰かの手を掴むことはない。
 全身がぐっしょりと、群青の海水に包まれていく。
 命と一緒に、大切な思い出すらも包み込み、咀嚼していくように。

 彼女は願う。
 どうか、持って行かないでと。
 彼女達と――彼女と過ごした日々を、失いたくなどないのだと。
 
 当然、その願いは聞き届けられない。
 そんなもの、なんてご都合主義。 
 生き様への冒涜も甚だしく、現実には起こり得る筈もない奇跡。
 奇跡とは、簡単には起こらないからこそ奇跡と呼ぶ。
 そして、彼女は奇跡には選ばれなかった。
 だから死ぬ。戦場に立つ者が人類史開幕以来味わい続けてきた、ごく現実的な幕引きを迎えることとなる。
 
 だがしかし。今際の際に少女が抱いた脆く儚きその願いを、確かに聞き届ける聖杯があった。

 願望器は心を痛める。
 嗚呼――悲しいなあ。
 こんなところで非業の死を遂げるなんて、おまえとしてもさぞかし無念だろう。
  
 願望器は手を差し伸べる。
 おまえの願いは至極正しい。
 だから思う存分描けばいいさ、おまえは幸せになるべきだ。

 群青の水底が、一瞬にして桃源郷のような桃色に染め上げられていく奇怪千万な光景を見上げながら――
 包み込むような優しさと安心感、そしてそれらを遥か凌駕する怖気に身を震わせながら――

 「はっ――はっ――……はっ…………!!」

 如月は、もう何度目かになる悪夢から覚醒した。
 借り物のアパートに、給金で買った安物の布団。
 シーツはぐっしょりと汗で濡れていた。


656 : ヒュプノスの祝福 ◆p.rCH11eKY :2015/09/24(木) 21:17:06 pRVk5Uh60
 「またあの夢。……嫌になっちゃうわね、いい加減」

 夢の内容は、あれほど強烈な印象を与えていったにも関わらず既に曖昧な記憶となりつつある。
 覚えているのは忘れもしない、終わりの景色。
 そして心地の悪いほどの、穏やかさだ。
 何か、途方もなく巨大なものの膝下で眠っているような……静かで安らぐのに、全身が警鐘を鳴らすあの感覚。

  ――いや、あれは視線……だろうか。
 
 あの感覚は、何かに直接顔を覗き込まれるような不快感に似ていた。
 とはいえ聖杯戦争のマスターであることと、戦闘の備えがあること以外はごく普通の少女である如月にとって、やはり一晩の悪夢など寝て起きて、少しもすればけろっと忘れてしまう程度のものでしかない。
 んー、と背伸びをするとカレンダーを確認。
 日付の欄に赤い丸印が描かれている。これは、今日はアルバイトが休みという意味だ。
 聖杯戦争中なのにアルバイトなどにうつつを抜かすとは――などと言われてしまいそうだが、如月の生計、即ち聖杯戦争を生き抜くための手持ちはすべて人づてに辿り着いた接客業の給金から成り立っている。
 彼女に言わせれば、欠かすことの出来ない戦いの一環なのだ。
 しかし、それも今日は休み。となると、何かマスターらしいことの一つでもした方がいいように思われる。

 例えば、索敵。
 例えば、他のマスターが持つ拠点の捜索。
 魂喰いや自ら誘いをかけるのは論外としても、すべきと思われることは山程思い浮かぶ。
 時間にして数十秒ほど悩む素振りを見せた後――彼女は、そのまま再び布団へと仰向けに倒れ込んだ。

 「はー……」

 ぬくぬくとした温かさをパジャマ越しに伝えてくる布団の魅力は魔性の域だ。
 細かいことを考えず、ただこうして寝そべることが嫌いという人間もそうはいないだろう。
 如月は思う。
 やるべきことは、確かに山程あるのだろう。
 けれど、急いだところでどうにかなるというものでもない。
 まして今日は初日だ。どの主従も意気込むなり雲隠れを決め込むなり、両極端な反応を示しているに違いない。
 そんな中に不用意に出歩けば、当然接敵の危険がある。
 如月とて戦う備えはあるし、彼女のサーヴァントも言わずもがなそうであったが……

 「まぁ、いいでしょ。今日くらいは」

 彼女は決めた。
 ――今日は、何もしない。
 せっかくの休みなのだから、ゆっくりとこの狭い個室で過ごすことにする。
 もしかしたら後で軽い買い物程度には繰り出すかもしれないが、少なくとも聖杯戦争は休業だ。


657 : ヒュプノスの祝福 ◆p.rCH11eKY :2015/09/24(木) 21:17:32 pRVk5Uh60
 「あなたもそう思う? ランサー」

 如月は、物言わぬ自分の相棒へ語りかける。
 伸ばした手で、丁寧に置かれた一枚のカードを取った。
 手のひらに収まってしまう小さな長方形。そこには、彼の持つ力がとある遊戯のルールになぞらえて明記されている。

 彼女のサーヴァントはこの通り、物を語らない。
 語る口を持たず、ただ命令通りに戦うだけの木偶だ。
 しかしそれでも、きっと彼だって何かを感じ、この戦争へ臨んでいるのだと如月は信じる。
 それは"そうであってほしい"という願望を多分に含んでこそいたが――真摯で、誠実な彼女の想いに他ならなかった。

 「勝ちましょう、ランサー。勝って帰るの。あなたの世界に、私の世界に」

 その呟きを聞き届けるものは、札に封じられた方舟以外にはない。





 深海の底で――
 静寂の底で――
 まつろわぬ魂の渦巻く世界で――
 或いは昏き闇の中枢で――

 その"方舟"は、ただ時を待つ。
 四の星辰より成り立つ静寂の騎士は、何も語らず。
 さりとて、その体は一度。
 マスターである少女へ呼応するように、紅く明滅した。


【B-3/如月のアパート/1日目 午前】

【ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)@遊戯王ZEXAL】
[状態] 健康、未召喚状態
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針: 命令に従う


【如月@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[令呪] 三画
[状態] 健康、お布団でぬくぬく
[装備] パジャマ
[道具] なし
[所持金] 贅沢をしなければ余裕がある程度
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯を手に入れ、睦月ちゃん達のところに帰る
1: ゆっくりする


658 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/24(木) 21:20:43 pRVk5Uh60
割と短めでしたが、投下終了です。

佐倉慈&ランサー、乱藤四郎&ライダー 予約します。


659 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/25(金) 02:08:13 JtlyXZro0
投下乙です。
如月、現在置かれた状況だけを見るならそれほど悪いものではないわけですが、やはり元世界で轟沈したという経験は拭いがたいものがありますね。彼女にはなんとかそれを乗り越えていってほしいところです。
そしてそんな如月と相反して、夢の中で覗き込んでくる何某かはとても不気味に映ります。果たして彼女はこれにどう向き合うのか……
如月の持つ切実な願いに相応しい登場話、お疲れ様でした。

私も直樹美紀&バーサーカー、みなと&ライダーを予約させていただきます


660 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/25(金) 18:54:50 JtlyXZro0
短いですが予約分を投下します


661 : 幸福の在処 ◆GO82qGZUNE :2015/09/25(金) 18:55:26 JtlyXZro0
 ―――夢を。
 ―――夢を、見ていた。

 自分自身の夢を。
 自分ではない誰かの夢を。

「あー! みーくんやっほー!」

 ゆき先輩は今日も元気いっぱいだ。
 小さな体でぶんぶんと大きく手を振って、顔には満面の笑みを浮かべている。
 人は彼女をバカっぽいとか、子供っぽいとか言うかもしれないけれど。でも、いつだとて笑顔を絶やさない彼女の在り方は酷く眩しいものに他ならない。

「こんにちは、美紀さん」
「おーす。今日も一日頑張ってこーぜ」

 そのちょっと後ろから、くるみさんとりーさんがゆっくりとついてきた。
 ゆき先輩と同級生とはとても思えないほど大人びた……いや、どちらかというとゆき先輩が子供すぎるだけなのだろうが、ともかく落ち着いた雰囲気をした人がりーさんだ。
 くるみさんは愛用のシャベルを、周りの人の危険にならないように担いでいる。元気の良さで言えばゆき先輩ほどではないが、その声は明朗で自然と好感を持てるものだった。

 ゆき先輩、くるみさん、りーさん、そして自分。この四人が学園生活部のメンバーだ。

「はい。こんにちは、みなさん」

 だから、自分も笑顔を浮かべよう。
 あまり得意ではないけれど、でも彼女たちに相応しいのは満面の笑みだから。

 そうして、【直樹美紀】という少女は、三人の下へと駆け寄るのだ。

 それは幸福だ。かつてあった日常を謳歌して、失った全てがそこにある。
 それは希望だ。いつかまた、この景色を取り戻すのだという希望。

 そこには誰もがいた。誰一人として死んでなどいなかった。
 そう、全ては悪夢だったのだ。だって世界はこんなにも幸せなんだから。


662 : 幸福の在処 ◆GO82qGZUNE :2015/09/25(金) 18:55:48 JtlyXZro0

 人並みの、けれど何より大切な家族は変わらずに家で出迎えてくれる。
 親友の圭は、相変わらずのお調子者で苦笑するばかりだ。
 その誰もが、学園生活部のみんなと一緒に笑いかけてくれる。
 その光景に、自分は何故だか涙が止まらないのだ。【どうして自分は、これほど愛おしい宝物を失ってしまったなんて夢を見たのだろう】。
 ありえない夢想、文字通りの悪夢だ。パンデミック?馬鹿な、そんなものがあって堪るもんか。くだらない空想なんて捨て去って、今はこの幸せな日常を過ごそうと思う。

 クラスメイトはいつも通りに教室にいて、ゆき先輩の紹介で知り合っためぐねえ……佐倉先生とも打ち解けた。未来に抱く不安なんて、どこにもない。
 そうだ、今日は授業が終わったらみんなで一緒に出掛けよう。
 いつもならゆき先輩が提案してみんなが苦笑いしながらも乗っかるのが定番だが、たまには私から誘っても罰は当たらないはずだ。
 気が付けば、私はみんなからたくさんのものを貰っていた。楽しいこと、暖かいこと、そして希望。だから、うん。今度は私がみんなにあげる番だよね。
 そうして提案してみたら、くるみさんとりーさんはなんだか驚いたような表情をして、ゆき先輩は太陽みたいな笑顔で抱きついてくる。
 私はそんなゆき先輩を表面上は押しのけながら、けれど嫌な気持ちなんて微塵も抱かない。

 青い空。広い海。降り注ぐ太陽。
 なんて美しく素晴らしい日々だろう。

 この世界は今、何一つ陰りのない祝福に包まれていた。
 人々は例外なく笑いさんざめき、童心にかえったような嬌声があちこちから聞こえてくる。不幸な人なんて誰もいない。
 ああ、それは、誰もが笑い合える理想郷で。
 この日常に終わってほしくないと、強く強く思ったのだ。





   ▼  ▼  ▼





 なんと哀れな、救ってやろう。報われてくれ愛しいきみよ。俺はお前の幸せを、いつも変わらず願っている。
 




   ▼  ▼  ▼


663 : 幸福の在処 ◆GO82qGZUNE :2015/09/25(金) 18:56:17 JtlyXZro0





 目が覚めると見慣れない天井があった。荒れ放題に荒れて、そこかしこの硝子が割れた、明らかな廃墟の中。
 暖かな日差しは温室の硝子に反射して、目覚めたての目には少しばかり眩しかった。
 自分の置かれている状況が分からない。美紀はのろのろと上体を起こし、辺りを見回し、そしてようやく、自分が着の身着のままで眠りについていたことを思いだす。

「あっ……」

 急速に記憶が回復していく。夢見心地の微睡んだ目は徐々に光を取り戻し、霧がかかったような思考も次第にクリアになっていく。
 何故自分がここにいるのか、今自分は何をしているのか。それらの全てが頭に蘇る。

 ここは地獄だ。最初に思い出したのは、まずそれだった。
 鎌倉市、聖杯戦争の舞台。願いを叶える代わりに自分たちで殺しあえと、恩寵に縋るべく足掻く者たちによる狂気の宴。
 美紀もまたその一人。何故かいきなり決まった浮浪者狩り政策の手から逃れるべく、どこまでも逃げ回った末にたどり着いたこの場所で眠りについたのが昨夜の話だ。
 全部、全部思い出した。これこそが現実なのだ。
 夢に描いた理想郷など、この世界の何処にもない。

「……なんで」

 知れず、目尻から一筋の涙が零れ落ちた。
 現実は変わりなくそこにあって、少女を掴んで離さない。
 夢は所詮夢。そんなことは分かっているけど。
 それでも、割り切れない心は確かに存在する。

「なんで、私達だけこんなことになっちゃうんでしょうね、先輩……」

 鎌倉の街を訪れてから、片時も休むことなく積もり重なってきた心の重圧。それがほんの少しだけ漏れ出す。
 かつて暖かな陽だまりがあった。共に笑い合える親友がいた。人並みに自分を愛してくれた両親がいた。
 それを突然奪われて、何もかもが崩れ去って、果てには見知らぬ世界で殺し合い。頼れる者は物言わぬ己が従僕しかなく、言葉を交わせる相手もいない。

 元の場所よりは平和だった。徘徊する死者はおらず、人は皆各々の営みを続け、血も死体もどこにもない。
 けれど、ここがかつてと変わらない地獄であることに変わりはなく、たかが一介の女子高生が耐えられるものではないのだ。
 だが、それでも。


664 : 幸福の在処 ◆GO82qGZUNE :2015/09/25(金) 18:56:40 JtlyXZro0

「……でも、待っててください。私がきっと、みなさんのことを助けますから」

 それでも、譲れない願いが胸にある。
 この想いがある限り、自分は進むことをやめてはならないのだと。
 そう、無理やりに言い聞かせて。

「―――やあ、おはよう。随分と遅かったね」

 横合いから、声が聞こえた。

 びくり、と体が硬直して、次の瞬間には勢いよく振り返る。顔には焦燥の色が浮かんでいた。

「そんなに慌てなくてもいい。僕はきみと話がしたいんだ」

 振り返った先にいたのは、男の子だった。
 それは非現実的なまでに、整った顔立ちをした少年だった。緋色の髪は艶やかに朝日を反射して、中世的な顔は男女それぞれの長所を良いとこどりしたような均整を保っている。
 温室の縁に立つ彼は、ひどく穏やかな表情のまま、こちらを見つめていた。その所作は彼が持つ幻想的な雰囲気を見た目以上に引き上げて、まるでここが現実ではなく先に見た夢の延長線であるかのように錯覚させる。
 だからこそ、分かる。彼が普通の、この世界に住まう人間ではないということを、直感的に悟る。

「だから―――ねえ、きみは誰?」

 少女は相対する。直樹美紀という一女子高生ではなく、バーサーカーのマスターとして。
 幾多の感情に強張る美紀とは違い、少年の顔はどこまでも柔らかいままだった。



【D-2/廃植物園/1日目 午前】

【直樹美紀@がっこうぐらし!】
[令呪]三画
[状態]健康、連日の逃亡生活でちょっと疲れが出てる。
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]無いに等しい
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、世界を救う。
0:少年に対処。
1:サーヴァントやマスターを倒すことには躊躇しない。
2:浮浪者狩りから何とかして逃れたいが、無闇矢鱈に人を殺したくはない。
[備考]

【バーサーカー(アンガ・ファンダージ)@ファンタシースターオンライン2 】
[状態]健康、霊体化
[装備]
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:?????
1:?????
[備考]


【みなと@放課後のプレアデス】
[令呪]三画
[状態]健康
[装備]金色の杖
[道具]
[所持金]不明(詳細は後続の書き手に任せます)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の奇跡を用い、自らの存在を世界から消し去る。
0:この少女と少し話してみる。牙を剥くのであれば容赦はしない。
1:聖杯を得るために戦う。
[備考]

【ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)@Dies Irae】
[状態]健康、霊体化
[装備]機神・鋼化英雄
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得を目指す。
1:終焉のために拳を振るう。
[備考]


665 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/25(金) 18:57:04 JtlyXZro0
投下を終了します


666 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/27(日) 19:51:35 Jf9EZs4I0
投下お疲れ様です!
血なまぐさい現状に置かれて尚、学園生活部の夢を見るみーくんが切ない……
今のところは好戦派ではないみなと&マッキー組とどういう関係を築けるかが彼女のキーになりそうですね。
今回は投下ありがとうございました!


667 : ◆p.rCH11eKY :2015/09/29(火) 21:45:46 H0yI7yJY0
毎度おなじみですが延長しておきます。
作品自体は完成しているので、期限オーバーすることはないかと思われます。


668 : ◆p.rCH11eKY :2015/10/02(金) 21:18:59 .6z7dXoI0
投下します。


669 : 天より来るもの ◆p.rCH11eKY :2015/10/02(金) 21:20:07 .6z7dXoI0

 その存在は蠢いていた。
 破れた皮膚から蛆を集らせ、羽虫に連れ添われて。
 白昼堂々、人通りの相応にある往来を揺蕩う海藻のように彷徨っていた。
 そこに最早、かつて人間であったとある男の面影は皆無。
 当然、そんなものと行き遭ってしまった一般市民達は堪ったものではない。
 感覚麻痺を引き起こすほどの平穏へ浸かりきった彼らとて、いっぱしの危機管理能力は有している。
 悲鳴が一度上がれば、後はすぐに混乱が、恐慌が、嘔吐が、彼らの脳髄へと伝播していった。

 本当に居たんだ、誰かが呟いた。
 地方ローカルのオカルト掲示板に、写真付きの書き込みが成された。
 逃げ惑う人々の表情が、恐怖とは違う感情が見られたのはきっと気のせいではないだろう。
 鎌倉の屍食鬼――誰もが否応なしに耳にしてきた都市伝説の存在へ、予期せず直に遭遇することが出来たのだから。
 確かに怖い。だがそれ以上に、彼らは浮き足立っていた。
 まるで良い夢に酔い痴れるように、日常の枠組みを突如踏み越えてきたフォークロアを、心のどこかで祝福している。
 
 だが、噂話を耳にした者ならば誰もが知っていよう。
 鎌倉の街を彷徨う屍食鬼は、如何に行動ルーチンらしきものこそ持っていれど、所詮それだけである。
 民衆にどれほど祝福されようと、意思なく肉叢を求め歩く鬼にとっては知ったことではない。
 伝聞に語られる通り、行き交う人々へと見境なしに屍食鬼は襲い掛かった。
 悲鳴があがる。されども、誰一人それを助けようとする者はいない。
 やがて、何の罪もない、腰を抜かして震えていた老人がその首筋を咬まれた。
 
 誰もいなくなったその道で、嗄れた呻き声を漏らしながら震える老翁は、やがてピクリとも動かなくなる。
 それから暫くして、体温の消えた老体が、ぐらぐらという危うげな震動をしながら起き上がった。
 その口元はべっとりと血に濡れていた。
 首に咬み傷をありありと残し、腐臭を醸す涎を垂らし、口元に薄い笑みさえ浮かべながら、胡乱な足取りで歩き出す。
 誰が見ても、その姿は先程の、彼を咬んだ屍食鬼とまったく同じものだった。

 ――そんな光景を、路地の影から震える瞳で見守る女性が一人。

 女性は見つからないように物陰へ身を潜め、必死に早まる鼓動を押し殺し……
 キーホルダーが沢山ぶら下がった鞄から携帯端末を取り出すと、その電源を入れた。


670 : 天より来るもの ◆p.rCH11eKY :2015/10/02(金) 21:20:31 .6z7dXoI0



 "都市伝説"は拡散する。

 休日の午前中、往来の真ん中。
 衆人環視の中で確認された屍食鬼の話題は、瞬く間にネット上を駆け巡った。
 屍食鬼は若い男だ。
 理性を失くしているようだった。
 老人が咬まれた。
 後で現場に戻ってみたが、老人は消えていた。救急車を呼ばれた痕跡もない。
 肯定派も否定派も綯い交ぜに、その日、人々は屍食鬼の噂に首ったけとなっていた。

 そして、あるインターネット掲示板に投稿された目撃談が、人々の興奮に油を注ぐ。

 曰く、屍食鬼に咬まれた老人が徐ろに立ち上がり、屍食鬼と同じ足取りで去っていった。
 証拠としてサイレントカメラで撮影された画像データが添えられており、見るとそこには確かに、首筋へ傷を付けた老齢の男性が血と涎を滴らせて何処かへと歩き去る姿が記録されている。
 あまりにも出来すぎたタイミングでの新情報。
 当然疑う声も多く出たが、非日常の快楽に酔い痴れる民々にはそんな瑣末なことはどうでもよかった。
 重要なのは鎌倉の地に潜む屍食鬼が、同朋を増やすというセンセーショナルに拍車をかける性質を有しているということ。
 それだけで彼らは喜ぶ。彼らは騒ぎ、好きに日常を脅かす怪奇の姿を夢想する。

 今、この鎌倉市は異常な状態にあった。
 誰もが夢見るように怪異を願い、誰もが非日常の熱に浮かされている。
 行方不明者、死者、不自然な事故が多発している事実もまた、彼らにとっては喜ばしい物でさえあったのだろう。
 望まれるがままにやって来た怪異に己が、知人が、殺されようとも。
 阿片に酔う中毒者の如く、悲しみを更なる快楽の糧に代えて、変革されゆく日々を謳歌するのだろう。

 その果てに待っている未来が、何であるのかも知らずに。
 手を伸ばせば掴める未来が、いつだとて目の前に転がっていると空想して。
 下劣な二次創作家のように、彼らはそれを望んでいるのだ。





 白刃の軌跡が煌めいた。
 刹那、少女のような風貌をしたその少年へ伸ばされかけたボロボロの右腕が躰を離れて宙を舞う。
 
 「……検非違使どもで慣れてるつもりだったけど、流石に見ていて気持ちのいいものじゃないね」

 彼、乱藤四郎が前にしている存在こそ、今巷を賑わせる鎌倉の屍食鬼そのものである。


671 : 天より来るもの ◆p.rCH11eKY :2015/10/02(金) 21:20:53 .6z7dXoI0
 眼は虚ろに萎み、黄色に赤が混ざった膿のような腐汁を一挙一動の度に垂れ流す姿はまさに地獄篇の一節か。
 確かにこれは生きている人間ではないな、と乱は思った。
 乱が使役するライダーは、糸という媒体を介して他人を操ることが出来る。
 こうしてお目にかかるまでは、その屍食鬼とやらも、他の英霊によって何らかの処置を施された哀れな犠牲者であろうと思っていた。
 だが、今は違う。実際に目の前にしてみると、はっきりとそれが分かる。

 「死人の眼、死体の躰。……気持ち悪い」

 憚ることもなく嫌悪を口に出し、乱は伸ばされたもう一本の腕を切り割った。

 彼が振るうのは刀身の短い短刀だ。
 屍食鬼の特性上、乱がそれを知っているかどうかは別としても、近接戦はなるべく避けるのが賢明である。
 しかし、彼はある一定の間合いから先に死人の躰を近寄らせない。
 まるで線引きでもするように、即決即断で刃を振るって、鬼の躰を削ぎ落としている。
 これだけの腕前で刃を扱える人物が、果たしてこの現代にどれほど居ようか。
 いや、彼の剣術を腕前などという観念に当てはめて語るのは少々お門違いかもしれない。
 
 乱藤四郎が握る刃の名もまた、"乱藤四郎"。
 捻りもなく、この短刀は彼の写し身だ。
 彼が殺されれば短刀は砕け散り、短刀が折れれば彼の命も即座に尽きる。
 身も蓋もないことを言ってしまえば、急所が二つあるようなもの。
 断じて長所とは言い難いが――代わりに彼は、己の身体を扱うのとまったく同じ感覚で剣閃を放つことが出来る。
 だから、彼がこんな理性なき亡霊ごときに遅れを取ることは有り得ないのだ。
 歴史修正主義者や検非違使も怨霊、魍魎の類と変わらない見た目をしているが、あれらはあれで自己の意志を保有している。
 だが、この屍食鬼は違う。これにそんなものがあるとしても、それは残り香程度の微弱なものでしかない。

 なら、勝手は赤子の手を捻るようなものだ。
 動きを予測し、斬る。
 削ぐ。刺す。裂く。割る。断つ。
 最後に、彼は自身の切っ先を屍食鬼の首筋に振るった。
 化け物退治といえば、最後は首切りと相場が決まっている。
 半ば感覚的に繰り出した殺し手だったが、どうやら起き上がった屍といえども、首を刎ねられて尚動き続けるほどのタフネスは有していないようだった。
 
 しばし痙攣した後、がっくりと脱力し動かなくなる。
 その様子は、まるで人が死ぬ瞬間のようで、得も言われぬ気持ち悪さを覚えるものだった。
 乱は末席とはいえ神々の座に名を連ねる存在だ。
 しかし、それと外法に対しての知識は決してイコールではない。
 現に彼は魔術についての心得など皆無であるし、この屍食鬼が如何にして生まれたのかもまるで見当がつかない。
 ただ一つ分かるのは――

 「殺されてからこうなったんじゃない。
  ……生きたまま、こうされたんだね」

 なんて、おぞましい。
 覚える感情は嫌悪だった。
 刀剣男士として死線を潜り抜ける彼も、これほどに無惨な事象に立ち会ったのは初めてだ。
 首を刎ねられた、かつて人間だったであろう存在へ、心の中で静かに黙祷を捧げる。


672 : 天より来るもの ◆p.rCH11eKY :2015/10/02(金) 21:21:12 .6z7dXoI0
 兎にも角にも、これで鎌倉の屍食鬼は討伐された。
 まったく予期せずして遭遇した相手だったが、退けるのは苦ではなかった。
 消耗も特に無く切り抜けることが出来たのだし、まあ良し――としたいところだったが。

 路地の影より更に二体の屍食鬼が姿を現した時、乱は自分が完全に幸運の星に見放されているらしいことを悟った。

 
 重ねて言うが、敵は強くない。
 ただ、まったくの考えなしに戦える相手かといえば否だった。
 特に、こうして数が増えた場合は尚更のこと。
 というのも、刀剣男士としての直感だろうか。あれから攻撃を受けるのは、絶対に回避しなければならないと、そう思えてならないのだ。
 不覚を取るようなことがあれば、その時は何か、とてつもない凶兆が生じてしまうような――。
 冷静に、落ち着いて。 
 自分へそう言い聞かせながら、短刀の美少年は蝶のように舞い、蜂のように刺す。
 雀蜂の大顎のように、時にその肉片を乱暴に切り裂きながら。

 最初に、女の方の屍食鬼を斬首した。
 次に、男の顔面を縦に斬ってから、こちらも斬首した。
 飛び散る血飛沫を浴びる感覚はとにかく不快だったが、どうにか難は逃れた……
 そう思った矢先に、乱は死角から迫る気配を察知し、今度は飛び退いた。

 桃色の頭毛が特徴的な、まだ年若い屍食鬼だった。
 しかし顔面の皮膚は無惨に所々剥離し、歯列が剥き出しになっている箇所すらある。
 なまじ元の姿の面影を残しているからだろうか。これまで殺してきた三体に比べ、一際際立ったおぞましさがあるように思えた。

 同情をしないわけじゃない。
 けれど、だからといって情けをかけることはしない。
 乱は再び写し身の刀身を真っ直ぐ構え、屍食鬼の心臓目掛け突き出す――が、彼の狙い通りに事は運ばなかった。

 「な」

 伸ばした刃は、半ばほどで止められていた。
 同じ剣によってではなく、屍食鬼の躰でもなく。
 つい先程まではこの場に存在しなかった筈の、新たな乱入者の手によってだ。
 ――その少女は、屍食鬼の女と同じ髪色をしていた。状態の違いこそあれど、元はきっと同じ色だったろうと推測できる。
 ただし断じて屍鬼の類じゃない。その瞳と肌には生気があり、放つ存在感にはれっきとした彼女自身の意思が混在していた。

 「ごめんね。この人を殺させることは出来ないんだ」

 詫びる物腰とは裏腹に、刃を止める力はちっとも揺るがない。
 短刀男士の宿命として、乱は他の刀種に比べやや力で劣る。
 それでも、年端も行かない少女に素手で抑え込まれるほど非力ではない。
 手で刀身を掴み、びくともさせないほどの腕力。それが何を意味するのかなど、此処がどこかを鑑みれば容易く思い浮かぶ。


673 : 天より来るもの ◆p.rCH11eKY :2015/10/02(金) 21:21:35 .6z7dXoI0
 ――サーヴァント……!!

 乱はぎりりと奥歯を軋ませた。
 ――この状況は非常に不味い。
 敵が二人に増え、しかも片方はサーヴァント。
 そして何より、自分の命そのものと言って差し支えない、"乱藤四郎"の短刀を手の内に収められているのが最悪だった。
 今の乱は、少女の力加減一つであっさり破壊されてしまう崖っぷちへ立たされている。
 どこか複雑そうな表情で彼を見つめる少女の姿が、乱藤四郎には悪魔か何かに見えた。

 少女の背後で、揺々と躰を揺らして屍食鬼が口角を釣り上げている。
 彼女が何をしようとしているのかを理解し、乱は背筋に鳥肌を立たせた。
 腐った右手を、屍食鬼は伸ばす。――それは見る影もなく水気を失い、蛆の食った跡が散見される惨い枝であったが。
 乱はそこに刻まれた、聖杯戦争の参加者であることを証明する煤けた三画の刻印が刻まれているのを見逃さなかった。
 
 「そういう、ことかッ」

 即座に理解する。
 この屍食鬼は、聖杯戦争の被害者などではない。
 少なくとも、この個体に限っては違う!

 令呪は時に、宿る相手を選ばない。
 ならば、屍食鬼のたぐいに令呪が宿らないという道理もないだろう。
 生きたままに死人となった、そういう経緯を経ていれば尚更のことだ。
 聖杯もとんだ厄ネタを呼び込んでくれたものだと思う。
 民間人に危害を加えすぎるな? こんなものを招いたのなら、そんな規則、最初から成り立つわけがない――!


 「ごめんね」


 ぎゅっと、そのか細い手に力が籠もったのを見た。
 殺られた。
 そう感じた時には、身体が軋む激痛が責め立て――


 「おォっと その辺にしておいて貰おうか、"屍食鬼の遣い"!」


 上空から降り注いだ光る線の数々が、少女の英霊を串刺しにせんと降り注いだ。


674 : 天より来るもの ◆p.rCH11eKY :2015/10/02(金) 21:21:59 .6z7dXoI0
 少女は飛び退く。
 マスターを庇うように突き飛ばしてから、糸へ拳を向けた。
 ワイヤーの類でも有り得ない、まるで弾丸のように迸る糸の先端を、少女は躊躇なしに殴り飛ばす。
 衝撃波が弾け、そのまま拳は糸を四方へ散らさせた。
 突然の奇襲でありながら、完璧にそれを打ち砕いてのけた手腕はまさに無双の英霊。
 しかしそれしきのことで怯むほど、乱藤四郎が契約した騎兵のサーヴァントは見識の狭い男ではなかった。

 「フッフッフッ、お見事お見事。
  だがこいつァ厄介だ。天下の屍食鬼の親玉が、まさかサーヴァント連れだったとはな……!」

 羽毛のあしらわれたド派手なジャケットと、奇抜なデザインのサングラスが特徴的な装飾華美な男だった。
 天高くより軽々乱と屍食鬼の主従が相対していた大地へと降り立てば、敵の姿を検めて尚、笑う。
 口では厄介などと謳いながら、その実まるで不安など感じていない、余裕に溢れた笑顔で。

 「――あなた」
 「そう警戒するなよ。おれは単に、提案をしに来ただけだぜ」

 徒手空拳のサーヴァントは、ライダーの言葉に隠そうともせず警戒を露にする。
 刀剣男士としての経験から、乱が屍食鬼の攻撃を警戒したように。
 彼女……ランサーは、自身の持つ"勇者"という性質が幸いし、本能的にそれを感じ取っていた。
 即ち、眼前のライダーの危険性を。その悪性を感じ取り、隙を見せてはならないと判断した。
 
 「お前のマスターは、どうやら相当難儀な性質らしい。
  仲間を無尽蔵に増殖させることが出来るようだが、他のマスターに感知されれば事だろうよ。
  ちょうど今のようにな。そいつは物を考えられねェ――脅威ではあるが強くはねェ。お前らの致命的な弱点だ」
 「…………」
 「だがおれは違う。おれは寧ろ、お前らの存在で私腹を肥やせる立場だ……
  フッフッフッ、ここまで言やァ分かるだろう? おれがお前に何を提案してェのか」
 「…………手を組みたい、ってこと?」
 
 ご名答。
 ライダーは呵々大笑する。
 ランサーはその様子を前に、唇を強く噛み締めた。
 癪だが、まったくもって彼の言う通りだった。
 マスター……佐倉慈という女は災いとしては確かに脅威だ。
 しかし、聖杯戦争の参加者としては弱い。それも、致命的なほどに。

 理性を持たないから話し合いもできず、策も練られず、令呪さえ使えない有様。
 その癖手駒だけは無限に増やしていくものだから、大概の相手にとっては目の上の瘤ときた。
 討伐される条件は無数に在る。それは、ランサーも感じていたことだ。

 ――けれど。
 
 
 「そんなの」


675 : 天より来るもの ◆p.rCH11eKY :2015/10/02(金) 21:22:17 .6z7dXoI0
 瞬間、ライダーは風圧が迫るのを感じ飛び上がった。
 指先から空中へ這わせた糸の力を利用し、バネの要領でだ。
 一瞬遅れて、ランサーの拳が破城槌さながらの勢いで炸裂する。
 それは空を切るが、離れた乱にさえ伝わってくるほどの勢いを帯びていた。

 「絶対、お断り……!!」

 ランサーは追撃する。
 自身も地面を蹴って空へ跳躍し、ライダーの独壇場であった領域へ土足で踏み入っていく。
 しゅるしゅると這う糸を引き千切り、力任せにその身体を追う姿は圧倒的な力を思わせた。
 ――難しいことはない。単なる力任せだ。だが時に、単純且つ強烈な力は戦況を支配する。
 それを知っているからこそ、ライダーも油断しなかった。

 「フッフッフッフッ! 物分りの悪い奴だ。やり合うつもりはなかったが、そっちがその気なら仕方ねェ……!」

 勇者と天夜叉、二人の英霊が激突する。
 勇者の拳と夜叉の足が衝突し、甲高い衝撃音を奏でて――聖杯戦争、最初の戦端が開かれた。


【D-2/廃植物園/1日目 午前】

【乱藤四郎@刀剣乱舞】
[令呪]三画
[状態]疲労(小)
[装備]短刀『乱藤四郎』@刀剣乱舞
[道具]なし
[所持金]割と多め
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の力で、いち兄を蘇らせる
0:戦いの行く末を見守る
1:魂喰いを進んで命じるつもりはないが、襲ってくる相手と聖杯戦争の関係者には容赦しない。
[備考]

【ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]
[道具]
[所持金]現在は持ってきていない。総資産はかなりのもの
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲得する。
1:ランサーへ対処。じゃじゃ馬だが、この陣営には利用価値がある。
2:『新市長』に興味がある
[備考]


【佐倉慈@がっこうぐらし!】
[令呪]三画
[状態]理性喪失
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:?????
[備考]
※慈に咬まれた人間は、マスター、NPCの区別なく彼女と同じ状態になります。
※彼女に咬まれて変容した者に咬まれた場合も同様です。

【ランサー(結城友奈)@結城友奈は勇者である】
[状態]健康、迷い
[装備]
[道具]
[所持金]少量
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの為に戦う
1:ライダーへ対処。この男は信用出来ない。
2:マスターを止めたい。けれど、でも――
[備考]



 ※鎌倉市随所で、"屍食鬼"が発生しています。
  時間経過と共に彼らは数を増やし、やがて都市機能へ影響を与えていくことでしょう。


676 : ◆p.rCH11eKY :2015/10/02(金) 21:22:31 .6z7dXoI0
投下終了です。


677 : 名無しさん :2015/10/04(日) 01:14:13 8.Tm5H3Q0
投下乙です!
もうだめだこの街


678 : 名無しさん :2015/10/05(月) 01:43:43 aIeWGNRY0
めぐねえもそうだけど、友奈が完全にお先真っ暗状態だなあ
ドフラミンゴがゾンビパニック引き起こせるめぐねえに目をつけるのはなんか納得。そして地味に市長に興味持っちゃってるー!?


679 : ◆p.rCH11eKY :2015/10/08(木) 01:15:51 E1SNpsW20
衛宮士郎&アサシン、麦野沈利&ランサー、逆凪綾名&キャスター 予約します。

それと、ついでに予約期限の延長期間を三日間から一週間に延長しようと思います。


680 : ◆p.rCH11eKY :2015/10/15(木) 19:00:13 ieYb/EMA0
予約延長します。


681 : 名無しさん :2015/10/23(金) 17:53:48 2z4OQ./60
投下来ない…


682 : ◆p.rCH11eKY :2015/10/23(金) 20:35:00 TzhbKNDI0
報告が遅れて申し訳ありません。予約を破棄します


683 : ◆p.rCH11eKY :2015/11/18(水) 17:03:06 UVGHLkwg0
期間が空いて申し訳ないです、ぼちぼちまた動いてきます
衛宮士郎&アサシン、麦野沈利&ランサーで予約します


684 : ◆p.rCH11eKY :2015/11/26(木) 18:07:36 ibODwhzY0
延長しておきます


685 : ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:36:18 uiQGMJNU0
お待たせしました。投下します。


686 : メルトダウン・ラヴァーズ ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:36:50 uiQGMJNU0

 町は冒されている。
 町は微睡んでいる。
 町は浮かされている。
 異なる世界線より流入した法則が齎す都市伝説の跋扈は、人々の心と暮らしに深い爪痕と恐怖を与えた。
 だが同時に、彼らは鎌倉という都が発足して以来類を見ないほどに浮き足立ってこの渾沌を囃し立てている。
 それはある意味では、敬虔に願いを追い求め奔走する聖杯戦争の参加者を凌駕するほどの異常な様相に見えたろう。
 
 今、平成の鎌倉は魔都と化している。
 十四の英霊が練り歩き好き勝手な色彩で営みを染め上げ、地獄絵図にも似た戯画的な魔窟を生み出し。
 それを目にして民は高揚し、表向きには恐怖しながらも内心では更なる狂気の現代神話が生まれることを望んでいるのだ。
 これを魔都と言わずして何という。
 化外のみならず、すべてのものが緩やかに狂い出し、都は夢見る微睡みの底に堕ちようとしている。
 その先にあるのがたとえ破滅であろうとも、彼らはきっと喜び勇んでそれを許容するに違いない。
 こうなったら面白い。こうならなければ嘘だろう。もっと面白い夢が見たい。
 痴れ事を、夢を描くことに何を厭うことがある。
 より華々しく、より美しくを求めることが我らの自由。
 
 彼らがそう思うのだから、彼らの中ではそうなのだ。
 真は人の数だけ膨れ上がる。
 俺の中ではそうなのだから、貴様の意見など知ったことではない。
 閉ざせ、塞げ、関わるな。俺の中のおまえは、俺の思い通りに動いていればそれでよいのだ。

 それは、この世ならざる場所より顕象した聖杯の遣いであろうとも例外ではない。

 
 屍食鬼が出た。
 今度は白昼堂々だ、いよいよ行政も見逃せないだろう。
 それより朝っぱらから市職員が惨殺されたって話もある。
 あのイカれた市長がどう動くのか見ものだ。
 カネの力でたかだかゾンビの数十体、簡単にぶち殺せちまうんじゃねえの?
 いやいや、それじゃあ面白くない。きっと敵は屍食鬼だけじゃないんだよ。
 例えばそうだ、こんなのはどうだろう?
 異界からやってきた騎士王の亡霊が突如現れ、好き勝手に殺し犯しを繰り返して此処を地獄に変えるんだ。
 そりゃあ面白い、だったら騎士王に叛く高慢ちきな成金の王様なんかが出てきたらもっと面白い。
 そしてそんな奴らでさえ常識の通用しない奴らがまだまだこの町には彷徨いていて――

     
 「―――――I am the born of my sword―――――」


 ・・・・・
 気色が悪い。
 熱に浮かされた群衆の様子に眉を顰めながら、やや躊躇った後、赤銅の彼は行動へと打って出た。
 背後に精製されたのは一振りの剣。
 様式は西洋のものだが、その刀身は薄ぼんやりとした輝きを帯び、普通の刀剣でないことを窺わせる。
 それはやがて青年の元を離れ、一つの直線にしか視えない速さでもって往来の中心へ襲来、炸裂する。
 悲鳴があがり、白光が小規模な起爆現象を引き起こした。


687 : メルトダウン・ラヴァーズ ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:37:12 uiQGMJNU0
 民間人を進んで渦中に巻き込むのは、やはり後ろめたいものがある。
 しかし、己(おれ)はそうあると決めたのだ。
 彼女を助け出すためならばあらゆる手段を尽くし、あらゆる敵を殲滅し、聖杯の下へと辿り着くのだと。
 
 「軽薄な言動、おまけに慢心の滲んだ無防備な様。
  ……おまえみたいな輩を仕留めるなら、こうするのが一番早い」
   
 この狙撃の標的である女は、聖杯戦争のマスターであると見てまず間違いない。
 アサシンを配置しての監視によってそう調べはついていたし、だからこその白昼堂々、衆目に晒される覚悟での一射。
 威力は極力抑えたが、それでも人間一人を即死させるには十分な威力の筈だ。
 衛宮士郎は自分でもゾッとするほど酷薄に独りごちると、静かにその場を後にすべく踵を返す。
 長居は無用だ。
 それこそ自分達がしていたように、常に気を張って監視を巡らせている輩がいる可能性を危惧しなければならない。
 これは、"予選"の中で身に付けたノウハウでもある。
 
 「……ッ!?」

 だが、しかし。
 衛宮士郎は背後より迫る殺気を感知し、反射的に自らの身体を跳ね除ける。
 空気が焦げる音を奏でて、蒼白い光の束が、つい一瞬前まで士郎の身体が存在した地点を突き抜けていった。
 熱を浴びた家屋の屋根はべっとりと溶けており、その威力の程を物語っている。

 仕留め切れなかったのか、それとも残滓の如く生き残ったサーヴァントが報復に放った攻撃であったのか。
 それは定かではないが、すべきことは分かっている。
 一つは今すぐこの場を離れ、状況を立て直すこと。如何に士郎といえど、英霊を相手にするのは骨が折れる。
 そしてもう一つは――より確実に事を済ませる為に、止めの駄目押しをかけることだった。

 (殺れ――アサシン)

 その念が彼のサーヴァントである暗殺者へ届いた時、鎌倉の路地へ一陣の風が吹いた。
 流石に衆人環視のど真ん中でサーヴァント同士の戦闘を行うのはリスクが高すぎる。
 なるだけ人目につかない場所を選択して戦え、など、細かい指示をしたいのも山々だったが、彼はそうしなかった。
 あのアサシンが、そんなことも弁えていないとはとても思えない。
 彼女は自分のような俄仕立ての暗殺者とは訳が違う、正真正銘の"殺剣(ナイトレイド)"であるのだから。

 



 「やれやれ、だわね。人目も憚れない馬鹿がいるのはこの手の乱痴気騒ぎじゃ当然だけど、まさか此処まで愚かとは」
 
 衛宮士郎が標的とした女――麦野沈利のサーヴァント・ランサーは炸裂する剣を迎撃し、そう零した。
 とはいえ、その姿が好奇心旺盛な市民に記憶されたかどうかは極めて疑わしい。
 剣が炸裂するよりも早く彼女は攻撃を察知し、それを迎撃、後すぐに爆風が生じた。
 それだけの猶予があれば、彼女のマスターたる麦野は状況に応じた最適な判断を下すことが出来る。
 即ち、必要以上に自分達の存在が知れ渡らないように往来からは一先ず逃れるということ。
 ペナルティの発生どうこうを度外視しても、この情報化された世の中で都市伝説の一片として拡散されるのは分が悪い。
 何しろこの町は今、都市伝説と怪異の渦巻く温床として日本中から注視されている。
 ならば必然、民間人の目であれど情報が一度記憶されてしまえばそれは瞬く間に拡散され――
 ともすれば、インターネットを通じて他のマスターへ情報が渡らないとも限らない。
 このランサーは特に、それに注意しておく必要があった。彼女の弱点が知れ渡れば、一気に旗色が怪しくなる。


688 : メルトダウン・ラヴァーズ ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:37:31 uiQGMJNU0
「いいや、よく考えられてるわよ。相手はプロではないにしろ、そこそこ手慣れた技術を持ってるのは確かね」
「あら、どうして?」
「人の目がある以上、襲われた側は場所を考えてまず移動しなきゃいけない。
 そうすれば当然、少なくとも先手は取れないわけよ。闘いにおける先手の重要さはあんたも知ってるでしょう?」

 まともな考えを持つマスターなら、人前で力を振るうことは避ける。
 そうなれば必然的に後手に回るのを余儀なくされ、闘いの主導権を握ることが可能になるわけだ。
 無論、一撃で仕留められればそれに越したこともない。
 一見掟破りを気取った馬鹿の蛮行のように見える襲撃だったが、闇社会の人間である麦野はその意図を正しく読み解いた。

「意外ね。貴女がそうやって敵を評価するようなことを言うなんて」
「評価? 冗談じゃない。ただ事実を言っただけ――現に」

 麦野は口許に笑みを浮かべ、その左手に蒼白の光を揺らめかせた。

「あんまりいけ好かねえもんだから、返しに一発ぶちかましてやった。コースはバッチリ、避けなきゃ当たったわね」
「……それはまた大胆なことで。貴女のアレが当たったとすれば心底ご愁傷様だけど」

 ランサー、レミリア・スカーレットとマスター、麦野沈利の関係性は極めて悪い。水と油、と言ってもいい。
 何しろ片や高貴な吸血鬼、片や粗暴な裏社会の殺戮者である。
 馬が合う理由は全くないし、こうしている今だとて互いに別な相方を見繕いたいと思っている始末だ。
 しかし、互いに互いの実力が優れていることはしっかりと把握し、その点では認めている。
 麦野沈利が持つ『原子崩し(メルトダウナー)』の威力は、サーヴァントにすらも通用するほどのものだ。
 仮にランサーがあれを浴びたとしても、相応の痛手になるのは間違いない。
 それほどの力なのだ。麦野が返し手に放ったという一発がもし直撃していたならば、まず相手の命はないだろう。

「でも、そうは問屋が卸さないみたいよ」

 皮肉るようなランサーの台詞を耳にするや否や、麦野は地面を蹴って大きく加速した。
 空を切る快音の後に小さな舌打ちが聞こえ、その方向へ一切の躊躇なく『原子崩し』の砲撃を打ち込む。
 それを苦もなく回避し、俊敏な動作で間合いを詰めにかかるのは黒髪の少女だった。
 クラスは恐らくアサシンであろうと推察できる。麦野も舌を打ち、蒼白の破壊光を縦横無尽に迸らせて行く手を阻んだ。
 しかし、麦野沈利の超能力は応用性において遅れを取る。
 もし、彼女の一つ上の順位とされる超能力者『超電磁砲』だったならば、アサシンを寄せ付けぬことも出来たろう。
 だが麦野にそれは出来ない。不利を悟るや否やバック宙の要領で麦野は後退。
 追おうとする少女には、『原子崩し』による射撃とランサーが放った無数の弾丸が浴びせかけられた。

「ランサー。此処なら十全に戦える?」
「ええ――まあ。問題はないわ」
「ならいい。暗殺者の小娘一人くらい、どうにか出来るわね?」
「誰に物を言ってるの」

 腹の底はともかくとして、互いに互いの実力は認めている。
 麦野沈利の火力ならば英霊一人を屠ることさえ難しくはないが、しかし彼女には英霊の攻撃に耐えるだけの耐久がない。
 それをカバーし得るのがレミリア・スカーレット。彼女の使役する槍の英霊だ。
 超能力者に匹敵する異能と上回る身体能力、駆使すれば如何に速度に優れた暗殺者であれ打倒することは難しい。
 別れの合図に軽口を叩き合い、麦野は駆けた。
 追おうとするアサシンを遮るように割り入ったランサーは、傲慢な嘲笑を浮かべて妖しく呟く。


689 : メルトダウン・ラヴァーズ ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:37:50 uiQGMJNU0
「運命『ミゼラブルフェイト』」

 ――刹那。
 鎖の形をしたオーラが彼女を起点として出現し、アサシンを捉え、引き裂かんと迸った。
 一度は回避するアサシンだったが、それで逃がすほど運命の名を冠したスペルは甘くない。
 さながら意志を持った蛇のように、逃れ得ぬ運命を意味するかのように、それはアサシンをどこまでも追い立てる。
 その動きは迅速で、戦いを知る者の所作だ。
 彼女は強い。ランサーにはそれが分かる。だが、如何に強かれどもそれまで。
 運命の輪を抜け出せなければ、待つのは決定付けられた『死』のみである。

「――厄介な」

 吐き捨てるように呟かれたアサシンの台詞を、待っていたとばかりにランサーはほくそ笑んだ。
 嫌味の色を隠そうともしないその笑顔に、レミリア・スカーレットという英霊の本質がよく顕れている。
 鎖から逃げ惑うアサシンを追跡し、爪の斬撃を見舞ってくるランサーを観察し、アサシンはそんな感想を抱いた。
 同時に、こうも思う。この手の輩ならば、と。

 慢心。
 驕り。
 過信。
 過小評価。
 そういったものは全て、鉄火場に決して持ち込んではならない思考だ。
 どんな強者であれ、ほんの一縷の油断が栄華の終わりを運んでくることは歴史からも読み取れる。
 このサーヴァントは確かに強い。言うなれば器用なのだ。意識して操作せずとも維持し続けられる鎖の追跡もさることながら、それと並行して的確に相手を殺すための肉弾戦へ持ち込むことも可能。
 おまけに基本ステータスも、恐らくアサシンより上であろう。
 アサシンは敏捷に優れたサーヴァントだが、彼女はそれとほぼ互角の速度を発揮してきている。
 力ではあちらが上。技ならばまだしも、この様子では恐らく耐久力でも自分に勝ち目はない筈だ。

 キャスター。あるいは、アーチャーか。どちらでもいい。結果的には同じだ。

「ほら、どうしたの? 速いだけの小鼠が英霊を名乗ろうなんて烏滸がましいにも程があるわよ。
 加減してあげるから頑張ってみなさいな。地を這うばかりの下種な暗殺者さん?」

 けらけら笑って悪罵を叩くランサーと視線が交錯する。
 わざわざそれに応じているほどの余裕はない。悪罵を返す余裕もだ。
 そんな悠長な真似をしていては、自分に殆どの面で優るこの標的を打倒することは出来ない。

「――紅き血潮のサーヴァント」

 構えるのは宝具・桐一文字。
 今となっては懐かしい臣具だが、郷愁に浸る趣味もない。
 真紅の瞳を同じ色彩の眼差しで睥睨し、寄せ来る鎖を切り払う――ランサーの眦が細められた。
 鎖が切り割られ、それきり再構成される様子がないのである。
 さも、癒えぬ呪いを与えられたかのように。
 だがそれに注意を牽かれた瞬間こそ、このアサシンを相手取るにあたっては最悪の隙となるのだ。

 彼女の慢心と、自身の力を過信する余り、有り得ぬ筈の事態への驚きに意識を向けてしまったこと。

 その隙があれば、殺すための剣(ナイトレイド)には十分だ。

「葬る」

 傲岸なる者への吶喊一瞬。


「一斬必殺・村雨」


 閃の軌跡が轟いた。


690 : メルトダウン・ラヴァーズ ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:38:45 uiQGMJNU0



 まるで、戦略兵器のたぐいと戦っている気分だ。
 衛宮士郎は健脚で地面を蹴り、逃走しながら舌を打つ。
 そうしている間にも、不健康な蒼白の灼熱光が彼に風穴を穿たんと飛来する。
 髪の毛を数本持って行かれた時には本気で肝を冷やした。
 今はまだこちらの姿を、相手は方角の情報だけで狙っているから逃げることが叶っているが。
 もしも相手の視野に入ってしまった日には、ましてやそれに気付かなかった日には、衛宮士郎は即座に殺されるだろう。
 そう思わせるほどの威力、精度、速度。全てを揃えた射撃だ。
 そして、何よりも恐ろしいのは。

「ちッ――!」

 士郎の真横の建物に光線が着弾した。
 爆発が生じ、その余波に堪え切れず体勢を崩し地面を転がる。
 口の中を切ったようで、血混じりの唾を吐き捨てて士郎は壊れた建物の外壁を見、中で泣き声をあげる子供を視認した。
 一瞬だけ逡巡したが、かぶりを振って脳裏へよぎった甘さをかなぐり捨て、再び走り出す。

 間違いない。
 相手はこの手の荒事のプロだ。
 魔術師よりも手段を選ばず、そして命の重さに欠片の頓着もない。
 現にこれまで、敵は居住者のいる民家から工場などの施設まで、お構いなしに文字通りぶち抜いている。
 もう少し時間が経過すれば、白昼堂々のテロ事件ということで警察やマスコミが集い始めるだろう。
 聖杯戦争においては愚策も愚策の行いだが、相手を殺すという一点のみで考えれば百点満点の執念だ。
 一先ず、どうにかして追手を撒かなければ。
 士郎の投影魔術から繰り出す『壊れた幻想』の威力は抜群だが、しかしあのマスターのような貫通力は持ち合わせていないのだ。下手に迎撃を試みたところで、悪戯に被害を拡大させるだけに留まってしまう。

「よし……」

 路地に転がり込むようにして逃れると、見当違いの場所を光線が打ち抜いていくのが見えた。
 一つ頷いて、それから再び走り始める。
 投影魔術が使用できるという点で、自分はあの女に拮抗できるだけの力を持っていることになる。
 だが、この場所では駄目だ。
 場所を移すなりして、今度は少々被害が大きくなっても構わない。
 確実にあれを仕留め切るだけの一撃を――と。

 そこまで考えた所で、衛宮士郎は気付いた。
 自分の進路であった道に、ブラウンの髪を靡かせた一人の女が立っている。
 目を見開いた。それと同時に、即座に無数の剣を高速投影。通路を埋め尽くす勢いで放つ――が。


691 : メルトダウン・ラヴァーズ ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:39:02 uiQGMJNU0
「テメェ、馬鹿かよ」

 腕の一振りと共に放たれた光の奔流を前に、贋作の宝具は呆気なくその形を失う。
 不味い。
 察するや否や士郎は路地から転がり出た。追撃の光が容赦なく襲ってくる。
 しかしやられてばかりではない。路地より続いて現れた女へと、投影した宝具の一つを鏃として射出した。
 絶世の名剣(デュランダル)。強度に優れたこれであれば、あの光を前にかき消されることもない。
 そう踏んでの行動だったが、衛宮士郎の失敗は――

 『麦野沈利』という女を見誤ったことであろう。

「ハッ」

 片腕――
 正確には失われたそれを補う為にあてがった、学園都市製の義手。      ・・・・・
 それを振り上げ、麦野沈利はあろうことか、弓にも優る勢いで撃ち放った名剣を掴み取ったのだ。
 瞬間、士郎の腹へハンマーで殴られたような衝撃が駆け抜けた。
 胃液を吐き出し、数メートルの距離をノーバウンドで飛ばされ、地面へ叩き付けられる。
 麦野の蹴りを浴びたのだと気付いたのは、追撃の光線が自分目掛け正確に飛来してきているのを視認した瞬間だった。

「づ、ッ…… ――I am the bone of my sword…………!!」

 生まれるのは花弁の盾。
 英霊の宝具とて受け止める障壁を前にしては、さしもの原子崩しも道を作れない。
 だが逆に言えば、人の身でありながら、クラスカードすら使わずにこれを抜かせたということになる。
 化物だ。魔術の領分とは思えない力を行使する辺り、それとも超能力者とでも形容するのが正しいのか。
 兎角、このままでは拙い。士郎は再び剣を高速投影し、それを一斉に起爆することで『壊れた幻想』を繰り出した。
 加え、それだけではない。駄目押しに、とある中華武将の使用した宝具『方天画戟』を投影し、叩き付ける。
 常人ならば三度は死ねる攻撃。しかし、殺し切れてはいないだろうと士郎は走りながら推測する。

 彼の肩口を、蒼白の光が掠めた。
 じゅう、という肉が焼ける音に顔が歪む。 
 足を止めることなく走り切り、角を曲がってどうにか敵手の視界からは外れることに成功した。
 とはいえ、諦めたわけではないだろう。きっとあの女は追ってくる。被害など顧みず、殺意を暴走させて迫り来る。
 勝つのは不可能ではない。裏を返せば、絶対に勝てるという保証はない。
 形だけのハリボテとはいえ、神造兵装すら複製する贋作者(フェイカー)であれど。いや、だからこそか。

 宝具も魔術も用いず、魔力の消耗という概念すらなく延々と破壊を続けられる砲台めいたあの女は相性が悪い。
 あれにもう少し冷静さが備わっていれば、きっともっと厄介なことになっていただろう。

 ――アサシン。

 彼女が、きっとこの戦いの鍵だ。
 どこかで聞こえた爆発音を背に、衛宮士郎は動乱の鎌倉市を駆け抜ける――


 そして、それを追跡者たる少女は追う。
 投影宝具の炸裂によって生まれた黒煙の底から姿を現し、服に付着した煤を払って、人間離れした脚力で地を蹴る。
 学園都市第四位の超能力者が今、あまりにも分かり易い脅威として、聖杯戦争を蹂躙し始めていた。


692 : メルトダウン・ラヴァーズ ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:39:31 uiQGMJNU0



 馬鹿な。
 アサシンは瞠目し、笑うランサーを見つめていた。
 一斬必殺・村雨。
 命中さえすれば、たとえ彼女のような化外の民でさえ死に至らしめる帝具。
 これを用い、彼女はこれまで何人もの悪を葬ってきた。
 だからこそ確信があった。あの隙、間合い、状況。
 どの条件を重ね合わせても、負ける理由はどこにもない。殺った――と。

 しかし、刃がランサーを切り裂くことはなかった。
 ほんの偶然、吹いた強風が吸血鬼の体を揺らし。
 それによって的が外れ、村雨の刀身は彼女の衣服一枚を切り裂くに留まったのだ。
 
「残念だけれど――『運命』は、私に味方をしたようね」

 偶然? いや、違う。
 英霊の座より呼び出された暗殺者が、そんなつまらない理由で仕損じる筈がない。
 その疑心は、ランサーの口にした台詞によって確信へと変わった。
 運命。それはいつだとて理不尽に現れ、不可視の引力で人の道を決定づけるルールの一つ。
 このサーヴァントには、それを操る力がある。
 正確にはそうではないが、それをランサーが明かしていない以上、アサシンがそうであると信じ込んでしまうのは道理だ。
 ランサーは自らの力の弱点、あるいは真実などをべらべらと語り散らすほどの阿呆ではない。
 彼女は慢心も過信もするが、しかし決して、戦いの何たるかすら把握していない箱入りではないのだ。

「さあ。小鼠の分際で、支配する者の首を噛もうとした。その贖いをして貰いましょうか」

 形勢不利。
 判断し、飛び退く。
 だが、もう遅い。
 ランサーの宝具が、ここに解放される。



  スピア・ザ・グングニル
「『運命射抜く神槍』」



.


693 : メルトダウン・ラヴァーズ ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:39:50 uiQGMJNU0
【B-1/路地裏/1日目 午前】

【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方Project】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 麦野へ一存。
[思考・状況]
基本行動方針:飽きるまでは戦う
1:アサシンを殺す
2:麦野へ若干の辟易。ただし実力は認めている


【アサシン(アカメ)@アカメが斬る!】
[状態] 健康?
[装備] 『一斬必殺・村雨』
[道具] 『桐一文字(納刀中)』
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利する
1:???


【B-1/1日目 午前】

【麦野沈利@とある魔術の禁書目録】
[令呪] 三画
[状態] 健康、殺意
[装備] 学園都市製の義手
[道具] なし
[所持金] 多め
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、浜面を殺す
1:舐めた野郎(衛宮士郎)を殺す
2:ランサーの心配はあまりしていない
3:殺されたら殺されたで、適当なマスターをぶち殺して契約する腹積もり


【衛宮士郎@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[令呪] 三画
[状態] 疲労(中)、魔力消費(小)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 数万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する。手段は選ばない。
1:女マスター(麦野沈利)への対処


※B-1エリアで麦野沈利による破壊活動が行われています。
※市民達の一部はもっとやれとか思っているかもしれませんが、麦野と士郎の顔が目撃されているかどうかは後の話に準拠します。


694 : ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 22:44:12 uiQGMJNU0
以上で投下終了です。

また、誠に勝手ながら参加主従の追加をさせていただこうと思います。

◯アティ・クストス&アーチャー(ローズレッド・ストラウス)
◯トワイス・H・ピースマン&ライダー(甘粕正彦)

ペース追いつくのか? と言われると頑張るとしか言いようがないですが、そのへんはまあ温かく見守ってもらえると嬉しいです。

早速ですが
トワイス・H・ピースマン&ライダー(甘粕正彦)、予約します。


695 : ◆p.rCH11eKY :2015/11/29(日) 23:34:05 uiQGMJNU0
参加者追加に伴ってOPにも該当主従の描写を追加する予定です。遅くとも今週中には追記しようと思うので、もう少々お待ち下さい


696 : 名無しさん :2015/11/30(月) 17:27:11 SX0LsS5o0
投下乙です!
やはり麦のんは強かった、士郎は相手が悪かったですね
ただ一点だけ指摘させていただくとすればアカメが村雨の名前を口に出しているのは不自然と感じました
原作にこのような描写はなく、本人の項目でも村雨は常時解放型宝具と明記されているため武器の名前を言うことは有り得ないはずです
この点に関しては捉え違いをしているかと


697 : 名無しさん :2015/11/30(月) 18:35:31 AqVFplPQ0
投下乙です
双方共理由は違えど積極的に戦いに赴く主従同士の戦闘はやはり規模が桁違い。士郎とアカメはどちらも相手に食いついてはいるが、単独での挽回はやはり難しいか
そしてレミリアのスピア・ザ・グングニルが発動したところで終幕とは、早く続きが読みたいという欲求が殊更に高まる憎い切り方


698 : ◆p.rCH11eKY :2015/12/01(火) 20:31:32 qNA4GxhU0
>>696
おっと、これは失礼。
常時開放型の記述を見落としていたので、wiki収録時に修正させていただきました

wikiの方でオープニング『封神演義』に追加主従二組の描写を追加しましたので、ここにご報告させていただきます


699 : 名無しさん :2015/12/02(水) 13:20:23 QfpoDzH60

原子崩しvs無限の剣製とか厨二過ぎィ!


700 : ◆GO82qGZUNE :2015/12/03(木) 01:25:09 EKqBCAzI0
投下乙です&自作の追加採用ありがとうございます!
麦野と士郎、共に企画内では最上位の強さを持つマスター同士の戦いはサーヴァントのものかと錯覚するほどの壮大さ。地力で大きく上回る麦野に食らいつく様は出典こそ本家でないにしろやはり士郎なのだと実感させられます
そしてアカメもアサシンという真っ向勝負に不向きなクラスながらレミリア相手に善戦するのは流石というべきか。それだけに、ここからどう展開が進むのかに期待がかかります

アイ・アスティン&セイバー(藤井蓮)、すばる&アーチャー(東郷美森)、丈槍由紀で予約します


701 : ◆p.rCH11eKY :2015/12/03(木) 02:00:12 7jPbhhz.0
感想&予約ありがとうございます。励みになります

トワイス&ライダー 投下します。


702 : 播磨外道 ◆p.rCH11eKY :2015/12/03(木) 02:00:46 7jPbhhz.0

 相模湾沖に幽けく揺蕩う魔界軍艦の存在は、既に都市伝説の一つとして鎌倉より全国に発信されている。
 聖杯戦争とは民間人へ秘匿したまま行うのがセオリーであるが、最早鎌倉の聖杯戦争に道理などは存在しない。
 紛争地域で銃器の所持を咎めるようなものだ。魔都に魔が跋扈していて何が悪いと、世間にはそう認知され始めている。
 この一ヶ月間で、三桁を軽く越すほどの市民が死亡、行方不明となった。
 原因の大半は不明。証拠を探れば探るほど、都市伝説という不確かなものの関与を疑わねばならなくなる。
 否――それは果たして、本当に疑っているのか。望んでいる、の誤りではないのか。問うた所で答えは決して返らない。
 
 両手足の指を足し合わせて尚足りない怪異の満ちた魔都鎌倉には、その中でも一際異質を極めた伝説が存在した。
 伝説、という形容は少々不適切かもしれない。
 屍食鬼を始めとした数多の怪異は、実在しなければ辻褄の合わない事柄が多すぎるとはいえ、あくまでまだ噂の範疇に留まっている。しかし、これより語るモノについては間違いなく実在が確認されているのだ。
 誰もが知りながら目を背けている。それは、夢見る奴隷となった民草に残された最後の正気の名残なのか。ならばいずれ畏怖は期待へと変わろう。もっと面白いモノを見せろと、痴れた音色を奏で立てるに違いない。
 されど、その彼らをして本能的に直感している。あれは近付いてはならないモノであると。
 半端な心根であれの領海へ踏み入ろうものならば、あれは喜々として砲火を注いでくるだろうと。
 そういう確信を、皆が直感的に得ていた。

 ――海原の真ん中に憚ることもなく停泊し、微動だにせず其処へ在り続ける「ソレ」は、この時代に存在する筈のない威容を湛えている。漆黒の黒金は朝の陽射しすら吸い込み咀嚼する深みを帯びていた。
 これは戦艦。名を伊吹。鋼鉄の暴力装置。百年前の戦にて駆られた殺戮の道具であり、棺桶とでも呼ぶべき代物である。
 その背後に浮かぶ空は朱く燃え上がっている。それは錯覚ではなく、現実を浸食しつつある悪夢の片鱗に違いなかった。
 伊吹の真下に広がる海は愉悦にせせら笑う魔王の貌であるかのごとく、さらなる絶望を与えてやろうと不気味にうねり、絶えることなく鳴動している。
 

 何一つ、何一つとして、そこに希望的なものはない。


 そこは正しく魔王の城。地獄の入口であり、蓋が開かれれば極大規模の災禍が解き放たれて全てを破滅へ導くだろう。
 サーヴァント・ライダー。英霊でありながら、聖杯戦争の行方を一人で担うだけの力を秘めたる者。
 今にも溢れ出さんとする混沌の戦火が立ち込める天を背景に、楽園の夢を求めた男が播磨外道を吟じている。
 寄せ来る全てを平等に迎え入れんとばかりに仁王立ちし、彼方の陸地を見据えて宣戦している。
 魔王とは待ち受けるもの。自ずから出向き、その力を振るうものではないと彼が心得ていたことがせめてもの幸いか。
 地獄の釜は未だ開いていない。その蓋に手をかける者も現れていない。
 そこへ誘う悪魔も不在であり、魔界戦艦伊吹に逐わすのは真実光の魔王と、彼を呼んだ男のみである。


703 : 播磨外道 ◆p.rCH11eKY :2015/12/03(木) 02:01:15 7jPbhhz.0


「感じる、感じるぞ。おまえたちの賛歌が俺の耳には確かに届いている」


 この時代は腐敗している。
 痴愚の思想が根付き、ライダーが最も忌避する人種が溢れ返っている。
 彼にしてみれば、まさしく地獄と呼ぶにも相応しい環境であった。
 だからこそ、己が試練を課し、輝かせてやる必要があると大真面目にこの男は考え、そして実行へ移さんとしているのだ。
 善悪関係なく困難に立ち向かう、そんな輝きを常に生み出せる天地。愛と勇気の人間賛歌に満たされた地平を。
 
 その世界は艱難辛苦に満ちている。
 雲を衝く大巨人が多頭の大蛇と争い、雷を握り締めた神霊が地の底からいずる不浄な魂に裁きを落とす。
 大地震、大津波が全世界規模で発生し、天変地異と神話の戦争が絶えず吹き荒れる。
 常に何かの脅威が起こり続ける為に、一瞬の気の緩みさえ許されない世界。
 世界は夢で溢れ、あらゆる神話の英雄、怪物、神格――果てにはあらゆる者が思い描いた物語の登場人物が現実世界に出現し、それゆえ神話レベルの災害と試練が既存文明を粉々に破壊していく。
 まさしく修羅道だ。そしてそんな世界こそが、このサーヴァントにとっての理想郷。

 脅威、試練がなければ人は輝くことが出来ないのだから、俺がそれを齎してやろう。遠慮はするな受け取るがいい――これぞ全ての救い也。魂の劣化が決して起きず、自らの輝きであらゆる夢が掴み取れる世界。

 
 それを――楽園(ぱらいぞ)という。



「さあ、さあ、さあ――来い。俺はいつだとて此処に在るぞ。おまえたちを待っているのだ。
 聖なる杯が欲しいのだろう? ならば俺を斃せよ。
 俺とて英霊(ヒト)だ、この心臓を貫けば容易く殺せる程度の存在に過ぎん。
 おまえたちの賛歌で俺を納得させてみるがいい。それが叶ったならば、俺は喜んで豪笑と共に退場しようではないか」



 地獄の歯車が回っている。
 悪魔の不在という矛盾点を抱えたまま、鋼鉄の歯を噛み合わせて。
 


「さあ、先ずは作法通りの宣戦と行こうか」


 
 伊吹の砲身が火を噴いた。
 伸縮自在、物理法則など完全無視。
 あらゆる道理より抜け出ている、百年前の軍艦どころか、百年後ですらありえないような――
 しかし可能である。出来てしまうのだ。何故ならこれは夢であるから。
 甘粕正彦という盧生が描き、紡ぎ上げる邯鄲の夢。夢幻である限り、そこに不可能は存在しない。
 放たれた砲弾は業火の塊と化し、七里ヶ浜に着弾。
 電鉄線を焼き尽くし、災禍の大火を引き起こした。
 不運にもその地へ居合わせた者は、一人の例外もなく塵と消えたことだろう。
 さあ、目を覚ますがいい。
 そして直視しろ。己が立ち向かうべき者は此処にある。
 これにて誰もが魔王の実在を知る。
 これより誰もが魔王の威容を知覚する。


704 : 播磨外道 ◆p.rCH11eKY :2015/12/03(木) 02:02:29 7jPbhhz.0
 



「きりやれんず きりすてれんず きりやれんず ――――おおおおォォッ、ぐろぉぉぉりあああああす!!!!」



 地獄の釜は少しずつ、少しずつ――しかし確実に、開き始めていた。




 いや。あるいは、全てが夢なのかもしれない。




【E-2/相良湾沖/1日目・午後】

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[令呪] 三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 不要
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち抜く為に、今は待つ
1:しかし、この男は……


【ライダー(甘粕正彦)@相州戦神館學園 八命陣】
[状態] 健康、高揚
[装備] 軍刀
[道具] 『戦艦伊吹』
[所持金] 不要
[思考・状況]
基本行動方針:魔王として君臨する
1:さあ、来い


[備考]
※午後十二時三十分、D-1エリアが電鉄線と車両を巻き込んで半壊します。


705 : ◆p.rCH11eKY :2015/12/03(木) 02:05:44 7jPbhhz.0
投下終了です。

逆凪綾名&キャスター(ベルンカステル) 予約します。


706 : ◆p.rCH11eKY :2015/12/06(日) 01:01:07 c0IekGz60
投下します。


707 : 穢れきった奇跡を背に ◆p.rCH11eKY :2015/12/06(日) 01:01:53 c0IekGz60

☆スイムスイム

 スイムスイムは自分のサーヴァントがどういう気性をしているのかを、朧気ではあるが、しっかりと理解していた。
 少なくともキャスターは、対英霊戦の矢面に立ってスコアを挙げていくような性格はしていない。
 本人が常日頃より溢しているように、彼女の基本の立場は傍観者である。
 予選中から今に至るまで、キャスターが実際に力を使って敵を相手取ったことはスイムスイムの知る限り一度もなかった。
 いつも何か意味ありげに笑ってみせるか、黒猫の姿でスイムスイムに同伴していただけだ。
 その証拠に、彼女は未だにサーヴァントの消滅する瞬間というものを見たことがなかった。
 夜陰に乗じてマスターの方へと忍び寄り、使い慣れた魔法の武器(ルーラ)で不意討ちに徹する。
 自分の魔法なら、相手次第では一切の攻撃が通用しないだろうと理解はしていたが、それでも憶測で渡るには少々危なすぎる桟橋だ。万全を期して、いつも狙うのは単独行動をしているマスターに絞っていた。
 消滅の瞬間はおろか、サーヴァントという存在が一体どれほどのものなのかさえ、伝聞での知識しかない。
 魔法少女以上の身体スペックを持つ、相手取ろうと考えるのが馬鹿らしくなるような怪物。
 そういう風に仮定して行動しているつもりだが、それがどの程度正しいのかさえスイムスイムには実のところ、不確かだ。
 
 無論のこと、一度もサーヴァント戦を経験しないままで聖杯に辿り着ければ万々歳である。
 先程も述べたが、彼女の魔法は強力だ。
 相性次第では一方的に完封できるだろうし、サーヴァントのどれだけ強烈な膂力、馬力だろうと彼女には通じない。
 それが物質的なものに頼る攻撃である限り、スイムスイムを捉えることはどんな宝具であっても不可能だ。
 しかし、彼女の魔法も決して万能ではないのが実情である。
 例えば光。彼女の姿がこうして他者から視認できるということは、彼女は光を透過してはいないということを意味する。
 更に言えば、スイムスイムは物質を透過しながら会話をすることも出来る。つまり、音も彼女を透過していない。
 スイムスイムはこの二つに代表される、波の特性を持つものを透過できないのだ。
 
 これは由々しき問題である。
 少なくとも、聖杯戦争においては。
 セイバーやランサーのような白兵戦主体と思しきクラスはともかく、それこそキャスタークラスに代表される、多芸さを売りとする英霊の中には光や音、衝撃波の類を扱える相手が存在する可能性は極めて高いだろう。
 人々の大半が「魔法少女」と聞いてイメージすることだろう、派手な輝きと威力を両立させた必殺技のように。
 スイムスイムの魔法を打ち崩し、一撃で彼女の命を奪えるような宝具ないしは魔術を行使される危険がある。
 そうなれば、スイムスイムに出来ることはほぼ皆無だ。
 彼女の魔法は強力ゆえに相性差に著しく左右される。
 だからスイムスイムはサーヴァントとの接触を頑なに避け、マスター狩りに重点を置いて影に徹することにした。
 ――手の甲に刻まれた赤い刻印に視線を落とす。どこかティアラのように見えるそれは、未だ三画揃った形を残している。
 
 令呪。
 思うに、あのキャスターを思い通りに動かす手段があるとすればこれだけだ。
 人生経験のあまり豊富でないスイムスイムにも、あれが今まで出会った誰とも異なる人種だということは理解できた。
 ピーキーエンジェルズとも、たまとも、ルーラとも違う。
 魔法少女ではなく、魔女。
 そう呼ぶのが正しい何か――そう気付いた時から、スイムスイムは自身のサーヴァントを頼るのを諦めた。


708 : 穢れきった奇跡を背に ◆p.rCH11eKY :2015/12/06(日) 01:02:13 c0IekGz60
 令呪を使って最初から首輪を繋いでしまうのは簡単だが、彼女は奇跡の魔女を自称する存在だ。
 奇跡。その意味はあまりに漠然としすぎていたが、それでも全くのハッタリではないだろう。
 令呪の支配をも抜け出せるような奇跡を起こされようものなら、一転不利になるのは自分の側になる。
 だから、強引に手綱を引くのはいざという時だけだ。
 どうしても打破できない詰みの状況以外、キャスターには頼らない。
 そういう意味でも、サーヴァントとの遭遇は可能な限り避けるべきだと踏む。
 困難な道だが、こればかりは自分の引きを怨むしかない。
 最後までやり遂げなければ、スイムスイムに聖杯の輝きは微笑まない。

 別に、聖杯へ願いたいことがあるわけではなかった。
 永遠の命。使い切れないだけの富。全てを思うがままに出来る力。
 思い浮かぶ使い道はいくつかあったが、どれも今ひとつピンと来ない。
 スイムスイムは聖杯を欲していない。にも関わらず、彼女は聖杯を血眼になって求める者達を蹴落として此処まで来た。
 
 その理由を問われれば、やはりルーラならこうするから、としか言いようがない。
 スイムスイムにとってのルーラとは憧れであり、従うべき象徴だ。
 彼女が何を願うかはさておいて、聖杯戦争を降りるなどとは絶対に言い出さないだろうことは確かだとスイムスイムは思う。
 
 その時点で、スイムスイムが聖杯戦争にどう向き合うかは決まった。
 聖杯を手に入れる。過程で立ちはだかる敵は蹴散らして、最後までルーラのように戦う。
 そう決めたから、予選突破と本選開始の報せを聞かされてもその心はあくまで静かであった。
 これまではあくまで通過点に過ぎない。問題はこの後だ。これからを如何に勝ち抜くか、全てはそこに集約される。

 鶴岡八幡宮の裏に待機しながら、スイムスイムは思考を巡らせる。
 予選の頃にも、この八幡を舞台として交戦を行っている主従の存在は幾つか確認していた。
 昼間の八幡は観光地として毎日相当な賑わいを見せる。
 
 ――とはいえ、そんな群衆の中からピンポイントに聖杯戦争の参加者を見つけ出すのは少々無理がある。 
 虐殺じみた真似をしようと考える手合い以外は、此処を狩場にはまず選ばないことだろう。
 そしてスイムスイムも然りだった。今日この場所を訪れた目的は、いつものマスター狩りではない。
 サーヴァントの存在や交戦の痕跡を探ることと、あわよくば魔術師の拠点を発見すること。
 後者は流石に高望みをしすぎだが、それでも前者ならば望みはあると踏んだ。
 何もサーヴァントでなくたって、慎重な魔術師はとにかく策を巡らせ、備えを散りばめておくものだと予選時の経験でスイムスイムは知っている。
 それを発見できれば、未だ全貌の明らかとなっていない聖杯戦争本選の参加者達に近付けるかもしれない。
 
 それでもって、その進捗具合はと言うと、お察しの通りだ。


709 : 穢れきった奇跡を背に ◆p.rCH11eKY :2015/12/06(日) 01:02:49 c0IekGz60
 スイムスイムは魔術師の手口を知っているだけで、専門的な知識は皆無に等しい。
 実際に仕掛けのたぐいがあったとしても、少し巧妙に隠蔽措置を講ぜられていただけでお手上げとなるのは自明である。
 ……種を明かしてしまえば此処にそういったものは一切なかったのだが、どちらにせよスイムスイムにはどうしようもなかった。彼女が時間を無駄にしたらしいことに気付いたのは、探索に取り掛かり始めてから一時間が経過した頃だった。
 少し考え無しが過ぎた。反省しつつ、スイムスイムは僅かに眦を顰めた。
 やけに騒々しい。魔法少女の聴覚を研ぎ澄まして様子を窺ってみると、何やら町の方で事件があったらしい。
 テロだの何だのと物騒な単語が聞こえてくる。――なるほど。どうやらいよいよもって盛大に的を外したようだった。
 この都合のいいタイミングで偶発的なテロが勃発するとは考えにくい。
 ペナルティも恐れずに暴れ回る聖杯戦争の参加者が起こした騒動と考えるのが自然だろう。
 鎌倉は決して広大な土地を有する街ではない。
 話はすぐに街内全土に広がり、漁夫の利を狙って集まる主従も現れる筈だ。

 早速足を運び、状況の偵察がてらに狙える相手は狙ってみるとしよう。
 そう思い、スイムスイムは歩き出した。



 その水着コスチュームが、一瞬後に針の筵と化した。



 否、正確には"そう見えた"だけである。
 スイムスイムに物理攻撃は通じない。
 たとえ常人ならば十回以上は殺せるだろう剣器・暗器の雨霰だったとしても、スイムスイムという魔法少女には無駄だ。
 糠に釘を打つよりも遥かに手応えの度合いでいえば劣る。
 何故なら、彼女はどんなものにでも水のように潜ることが出来るのだから。
 刃では傷を付けられない。全て透過し、背後の方へと押しやってしまう。
 ルーラを構え、スイムスイムは自身に襲撃を仕掛けた「何者か」へと振り向いた。

 ――それは、異形の面を被った暗殺者だった。

 スイムスイムにもし学があれば、あれが「夜叉」の面であると理解できたかもしれない。
 マスターとしての眼でもう一度その影を見る。……ステータスらしいものは写らない。
 サーヴァントではないということか。釈然としないものを覚えた刹那に、再び剣の雨が降った。
 何もない空間から百の剣を出現させ、全方位から乱舞を叩き込んでくる。
 スイムスイムでなければ、今頃程度の低いミンチが出来上がっているのは請け合いの火力と密度。
 ルーラを振り回して叩き落としに掛かるが、純粋に手数が違いすぎる。
 殺されることはないが、殺すこともどうやら不可能だ。
 ――このままでは。


710 : 穢れきった奇跡を背に ◆p.rCH11eKY :2015/12/06(日) 01:03:10 c0IekGz60

 スイムスイムは前進することにした。
 どうせ当たらないのだから、剣の雨は見かけ倒しだ。
 近付いて、直接魔法の武器を叩き込めばいい。
 少し脳筋じみた考えだったが、それが出来てしまうのが彼女の魔法だ。

 しかし。
 その刃は届くことなく、眼前へ出現したもう一体の暗殺者によって止められた。
 夜叉面の同胞であろうか。怪士(あやかし)の面を被った、巌の如し佇まいの人物だった。
 同じく、サーヴァントではないらしい。魔法少女の膂力を真っ向止めるだけの力を持っていながら、である。
 スイムスイムの胸の中央に、怪士面の拳が直撃した。怪士面の姿が消え、暗器の雨が駄目押しとばかりに殺到する。
 当然、通じない。
 身動ぎ一つせず魔法の武器を、視界の端に現れた怪士面に見舞う。
 ひらりと躱された。此処でスイムスイムは、これ以上の継戦は無意味であると判断を下す。

 夜叉面の方は接近さえ叶えばどうにかなるかもしれないが、あの怪士面についてはまずスイムスイムでは無理だ。
 
 どれだけルーラを振るっても、直撃させることは不可能。
 そう思わせるほどに、あれの動きには凡そ無駄というものが一切ない。
 そしてこれが健在である限りは、比較的卸し易いだろう夜叉面を打倒するのは至難の業だ。
 こちらは一人、あちらは二人。おまけにキャスターを呼ぶには尚早過ぎる。
 だから撤退を即断した。地中へ潜り、スイムスイムにしか進むことのできない領域から脱出せんとする。
 そこに怪士面が追い討ちの拳を振り上げるのが見えた。
 気付いたとしても、避けられるものではない。
 スイムスイムは知らないことだが、怪士面は一つの武を極致まで突き詰めた、正真正銘の達人である。
 如何に魔法少女の身体能力と動体視力を駆使しても、まずスイムスイムに対処することは不可能だった。
 
 だが逆に言えば、避ける意味も彼女にはない。
 物理攻撃を透過するという特性は、徒手を得物とする怪士にも有効なのは先程実証された。
 ――そう。拳だけならば。

 
 怪士面の拳は、スイムスイムの一寸手前……虚空へと命中した。
 刹那、これまでどんなに激しい弾幕をもってしても効果をあげられなかった彼女の体がくの字に折れ曲がる。
 腹部に猛烈な衝撃を感じると共に視界が暗転し、そのまま魔法少女スイムスイムは意識を失った。


711 : 穢れきった奇跡を背に ◆p.rCH11eKY :2015/12/06(日) 01:03:27 c0IekGz60

 

 ――宝具『大日本帝国神祇省・鬼面衆』。
 
 それが、スイムスイムを襲撃した二体の鬼面の正体である。
 この場には居ない、とある少女のサーヴァントとして顕象した英霊『壇狩摩』を使役者とする彼らは各個が武術、方術、忍術の達人集団に他ならない。
 執着、拘り、美学、信念、そういったものを持ち合わせず、主の一手にのみ順応する殺人機械。
 怪士面は打撃が通じないと見るやいなや、即座に衝撃波を用い別ベクトルから穿つ戦闘方法へとシフトした。
 即決即断。仮にそれすらも通じなかったならば、彼らはまた更に別な手法を使って敵手討伐に死力を尽くしたであろう。
 スイムスイムの失敗は、彼らが誰かの宝具であり……英霊ならぬ身であろうとも、それに匹敵するだけの戦闘能力を持ち合わせているという可能性に行き当たれなかったことだ。
 
 変身が解除され、そこに横たわっているのは――小学一年生程度だろうか。マスター狩りを無感動にこなし、屍を積み上げてきた魔法少女とは思えないほど幼い一人の子どもの姿だった。

 怪士面の拳が再び振り上げられる。
 感情と呼べるものを封じている彼らに、良心の呵責などという観念は存在しない。
 敵を倒したが、まだ生きている。ならば確実に止めを刺し、怨敵討滅を果たすのが役目であると心得る。
 スイムスイム――逆凪綾名にそれを止める術はない。

 順当に幼い彼女の脳漿はぶち撒けられ、歪な嘲弄に満ちた聖杯戦争の深淵へと召される未来が決定する――かのように思われた。しかし、此処で一つの「奇跡」が彼女へ微笑み、その窮地を救うこととなる。
 怪士面の止めの一撃が――空を切ったのだ。
 「偶然吹いた突風が、気絶して無防備となった逆凪綾名の体を僅かに転がし、拳のリーチから外させる」ことによって。
 まさしく奇跡と呼ぶに相応しい現象だが、生憎と此処は聖杯戦争だ。
 あと一手で死ぬ、そんな状況にて微笑む奇跡を偶然と片付けるのは阿呆のすることに違いない。そして今、綾名へ偽りの奇跡を微笑ませた張本人が……鬼面二体の前へ姿を現さんとしていた。
 
「――」

 鬼面の底から覗く赤眼が、藍色の粒子とともに出現せしそのサーヴァントを睥睨する。
 常人ならば卒倒しても可笑しくない殺気を秘めた眼光を前にしても、しかしそれが気圧されることはなかった。
 それどころか笑みを返してのける。
 その微笑は幼かったが、どこか艶やかさを内包させたアンバランスなものだった。
 何かを彼女が口にしようとするよりも先に、夜叉面の暗器――「霞刃」と呼ばれる殺意の暴風が彼女を襲う。
 だが百の剣は、少女を中心に現れた結晶の盾によって阻まれた。
 怪士面の吶喊と共に放たれる鉄拳が結晶同士の結合点を打ち砕き、抉じ開けるようにして内側へと踏み入るが、その時には既に少女のサーヴァントと綾名の姿はそこには残っていなかった。

「悪いけど、流石に殺されるのは困るのよ。だから助太刀をさせて貰ったわ。ごめんなさいね」

 声だけが響く。
 鬼面は動かない。
 達人としての直感が、追跡は無意味であるとの結論を下させていた。
 結晶(カケラ)の盾の内側に居ながら、夜叉面、怪士面のどちらにも気取られることなく逃走を果たす。
 それは先の突風による回避をも凌駕する――あまりにも都合の良すぎる「奇跡」だ。
 二度も立て続けに超絶の幸運が発動した。
 その事実から、鬼面衆は敵の本質をある程度理解することが出来る。


712 : 穢れきった奇跡を背に ◆p.rCH11eKY :2015/12/06(日) 01:03:55 c0IekGz60
「貴方達の主によろしく言っておいて頂戴。
 私はまだ傍観者に甘んじるつもりだから、どこかで会ったら宜しく――とでもね」

 それを成し遂げた時点で十分だ。
 鬼面衆が主より請け負っている命令は、あくまでも確実に狩れる相手のみを狩りつつ、情報収集に徹せよ、というもの。
 幸運を操るサーヴァント。その存在を確認できただけでも成果としては十二分に違いない。
 虚空より響く魔女の声が途絶えるのを確認してから、夜叉と怪士の鬼面は再び靄の如く姿を消失させた。


【B-3/鶴岡八幡宮裏/1日目・午前】

【夜叉@相州戦神館學園 八命陣】
[状態] 健康
[装備] 霞刃
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーヴァント及びそのマスターの殺傷
[備考]
※キャスター(壇狩摩)の宝具です。
※夜叉が命じられているのは確実に狩れる敵対者との交戦、情報収集であるようです。

【怪士@相州戦神館學園 八命陣】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:サーヴァント及びそのマスターの殺傷
※キャスター(壇狩摩)の宝具です。
※怪士が命じられているのは確実に狩れる敵対者との交戦、情報収集であるようです。


713 : 穢れきった奇跡を背に ◆p.rCH11eKY :2015/12/06(日) 01:04:16 c0IekGz60



 所変わって。
 逆凪綾名は、小町通りの裏路地にてくうくうと小さな寝息を立てていた。
 怪士面によって昏倒させられた彼女ではあったが、直接の殴打までは受けていないのがせめてもの幸いだった。
 命に別条はなく、ただ意識を失って変身が解除されただけで済んだのだから。
 その近くに、彼女のサーヴァント――「奇跡の魔女」の姿はない。
 代わりに、一匹の小さな黒猫が寄り添っていた。
 まるで彼女を守るような姿は健気で愛らしいが、見る者が見れば分かる。

 これは魔女の従者だ。
 キャスターが持つ宝具の一つ、『杜に集いし黒猫の従者』。
 奇跡の魔女は聖杯戦争を享楽的なものとして楽しんでいる。
 だから表立って戦闘を受け持つことはしないし、綾名のサポートも最低限のものに留めていた。
 だが、流石に彼女が殺されるかもしれないとなれば話は変わってくる。
 綾名を失えば、聖杯戦争の舞台から半ばで追い出されることになるのだから。
 それは魔女としてのプライドが許さない。例えるなら、上等な演劇の途中で照明が落ちるようなもの。
 あまりにも惜しい。あまりにも勿体ない。だから綾名が目覚めるまでは黒猫に護衛させる算段であった。

 では、当の彼女は何をしているのか?
 
 答えは一つである。
 奇跡の魔女は娯楽を欲しているのだ。
 殺し殺されに興じ、醜く欲望に牙を剥き出す者達の姿を見たい。
 ならばどこへ向かうか。――決まっている。今、この鎌倉市で最も大きな騒動が起きている地点だ。
 魔女は笑い声を残して消えていく。さらなる混沌を予感させながら、自らの主さえも置き去りにして。


【B-3/小町通り・路地裏/1日目・午前】

【逆凪綾名(スイムスイム)@魔法少女育成計画】
[令呪] 三画
[状態] 気絶
[装備] 魔法の武器・ルーラ@魔法少女育成計画
[道具] なし
[所持金] 数万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する
1:…………。

【キャスター(ベルンカステル)@うみねこのなく頃に】
[状態] 健康、黒猫化
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しむ
1:綾名を殺されるのは困るので、目を覚ますまでは使い魔に護衛させる
2:交戦の行われている方向(B-1)へ向かう
[備考]
※『杜に集いし黒猫の従者』に綾名を護衛させています。


714 : ◆p.rCH11eKY :2015/12/06(日) 01:05:40 c0IekGz60
投下終了です。

アンジェリカ&針目縫、バーサーカー(ウォルフガング・シュライバー)予約します。


715 : ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:36:06 gCtPM0H60
予約分を投下します


716 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:36:39 gCtPM0H60


 胸に手を当てて現在の状況について考えてみた。といっても、実際には腕は組んだまま動かないため、「胸に手を当てて」というのは物の例えだ。
 今、自分たちはとある廃校の一室にいる。僻地までの避難の途中、突如としてサーヴァントの気配を感知して、退くに退けない状態になったからここまで来たのだ。
 そして、目の前にその主従がいる。
 これは間違いない。マスターと思しき少女が椅子にちょこんと座っていて、傍にはそのサーヴァントらしき少女も存在する。
 恐らく彼女らこそが、先ほど自分が感知した気配の持ち主なのだろう。接触する直前には戦闘に入る可能性も考慮し臨戦態勢を取ってはいたが、互いに戦闘の意思がないことを確認した現在は休戦状態になっている。

 と、ここまではいい。問題は次だ。
 おやつを食っている。

 大量の10円駄菓子が、机の真ん中にでんと鎮座している。ボロボロの机はかつては学校の備品だったのだろう、セイバーにも見覚えのある形をしていて、つまりは菓子類を多く置けばもうそれだけで肘を置く場所もない狭さだった。
 自分のマスター……アイ・アスティンは机の前の椅子に座って、周囲に満ちる困惑など物ともせず菓子に手をつけている。顔に浮かべるのは満面の笑みだ。
 そして机の向こうでは、変な帽子を被った、全く別の少女がにこやかに笑っていた。

 手をせわしなく動かし菓子の消費に余念がないアイも、やたら幸せそうにそれを見つめる少女も、外野三人の視線など一切気にしていない。なんというか、ある意味大物だと思う。
 何ともなしに自分以外の外野二人に視線を向ければ、マスターの少女からは曖昧な笑みを返され、サーヴァントの少女はなんとも微妙な表情を浮かべていた。
 ちなみに机には菓子だけでなく、簡単な飲み物類も置かれている。数は五つで、なんとそのうちの一個は自分の分だったりする。

 さて、改めてこうなった経緯を簡単に思い出してみよう。
 サーヴァントの気配を辿ってここまで来た。
 戦闘になるかもしれないと、覚悟を決めて赴いた。
 そしておやつを食っている。

(……なんでだ)

 右手のクッキーを、じっと睨む。
 ふと気が付けば、アイともう一人の帽子の少女がこちらを見ていた。

「……甘いの、苦手?」

 不思議そうに、少女は言った。

「いや、そうじゃなくてだな」

 上手く言葉が出てこないが、この状況はおかしい。絶対に何かが間違っている。はずなのだが、何が間違ってるかと聞かれても上手く説明できない。何もかもが間違いすぎていて、どこから突っ込めばいいか分からない。
 少女は依然、こちらを見ている。
 そして、アイが何故か糾弾するような目でじっとりと睨んでいることに気付いた。

"……セイバーさん、人の好意は素直に受け取るものですよ"
"いやお前な、それ以前にこの状況はなんか違うだろ。というかお前も少しは警戒しろよ"
"警戒……ああ、毒なら心配いりませんよ。この通りピンピンしてますし、何より美味しいですからね。大丈夫です"
"お前の中の毒ってのは美味い不味いで判別するものなのかよ"

 念話で益体もない会話を繰り広げ、当然の如く特に進展もないままセイバーは言葉に詰まる。
 気付けば残る二人からも視線を向けられており、ひどく居たたまれない雰囲気だ。
 最早進退窮まったと判断したセイバーは、手に持ったそれを口の中へと放り込んだ。
 市販のクッキーはほんのり甘く、噛み砕けば軽い舌触りのそれが口の中へ溶けていく。

 飲み込んだ。

「クッキー、美味しいよねぇ」

 にへら、と、少女が笑う。
 ……真面目に警戒していた自分が馬鹿らしくなってきた。





   ▼  ▼  ▼


717 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:37:11 gCtPM0H60





「これは学校……ですね」
「ああ、学校だな」

 それは剣の英霊が頭を抱える十数分ほど前のこと。
 呟き会話する二人の前にあったのは、言葉の通り学校であった。いや、厳密に言えばその成れの果てか。
 そこは荒れ果てていた。正門に柵を失い、建物の壁はだらしなく煤けて窓は砕け、芝生は野生の植物との領土争いに負けて庭の隅に追いやられている。偉人の石像は今や頭部を失って性別すら分からず、校庭には未開の大地かと見紛うばかりの藪が生い茂っていた。
 見事なまでの廃校であった。建物全体が暗い影を落とし、午前中のはずの現在ですらも薄暗い雰囲気を醸し出している。

「で、ここからどうするかってことになるわけだが」
「行きましょう」
「そう言うと思ったよ」

 間髪いれないアイの答えに、セイバーもまた当たり前のように返した。答えを予想していたというのもあるが、実際ここで退くという選択肢は無いに等しかった。
 彼らが廃校の前にいるのは、そこにサーヴァントの気配を感じたことが原因だ。鎌倉市街から移動しようとした矢先、セイバーは市役所の北西から強い魔力反応を感じ取った。
 サーヴァント同士の感知能力は、逆に言えばこちらが探知できたなら相手もまた自分に気付いているということでもある。ならば不用意な逃走は、むしろ隙を晒して危険を招くことにもなりかねない。相手がアーチャーのように遠距離を攻撃する手段を持っていたなら尚更だ。
 相手の出方がどうであれ、こうして自ら接触するという選択肢はそれなりに常道ではあった。セイバーの横で使命感に鼻息を荒くする少女が、そこまで考えているかは分からないが。

「言っとくけどな、今から戦闘になる可能性だって十分あるんだ。そこんとこしっかり肝に命じておけよ」
「そんなことセイバーさんに言われなくても分かってます。ほら、早く行きますよセイバーさん」
「お前な……」

 やたら足取り軽やかにずんずんと突き進むアイに、セイバーは嘆息しかけた。昨日別の学校に寄った時から分かっていたことだが、この少女は学校というものに多少の興味を持っているようなのだ。
 本人に曰く、「私が通う暇なんてありませんけど、学校だって私の知らない場所ですからね」とのことだ。要は、知らないことは知っておきたいと、まあそういうことなのだろう。
 そんなことを考えている間にも、アイは早足でどんどん先へ進んでいく。敵襲の可能性があることくらい知っていると言ってはいたが、この様だけを見ればとてもじゃないがそんな風には見えない。あるいは、本当に理解した上で尚この態度なのか。
 間違いなく後者なのだと断言できるからこそ、この少女は危ういのだと、セイバーは思う。

 既に門としての機能を失った正門から足を踏み入れ、腰丈ほどに伸びた雑草を横目に昇降口に入る。校舎の中は外観の粗末さに比べれば大分整理がされていて、倒壊しないよう最低限の修繕がされているのだと分かる。しかしそれでも放置されて長い年月が経過していることに変わりはなく、歩くだけでも床がぎしぎしと嫌な音を立てる始末であった。
 今にも崩れそうな階段を昇り、廊下を歩くこと暫し。二人は『学園生活部』と銘打たれた紙片の貼られた教室の前で止まった。目の前には他より比較的修繕の為された壁。扉に備え付けられたガラスは経年で曇り、中の様子をうかがうことはできない。
 けれど向こうには、明らかな人の気配が存在していた。そして、サーヴァントの気配も、また。

「ここだな」
「こんにちは! 私、アイ・アスティンといいます!」
「おい待てこら」

 躊躇なく扉を開け放つアイを止める間もなく、教室内部が目の前に解放された。
 そこには、三人の少女が思い思いの表情で存在していた。















「ごひほうひゃまです、あひはほうほひゃいまふ!」
「どういたしましてー。やっぱりお菓子はみんなで食べたほうがおいしいね」


718 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:38:18 gCtPM0H60

 そして現在に至る。
 無駄に元気よく挨拶したアイを、中にいた少女の一人―――ゆきが、これまた無駄に元気よく返し、あれよあれよと言う間に客人用の菓子を御馳走される流れと相成ってしまった。
 朝から何も食べていなかったアイは口いっぱいに菓子を頬張り、対面に座るゆきは何が楽しいのかその様子を笑顔で見つめている。
 背格好も似通った二人が仲睦まじく会話する様は、周りの景色や置かれた状況を度外視するならまるで小学校の一風景のようにも見える。
 そして二人から若干離れた場所にはもう一人のマスターであるすばるという名前の少女が、遠巻きに小さく笑いながらそれを見ている。そして残る最後の少女、アーチャーに時折視線を送り、アーチャーがそれに微妙な笑みを返すという工程を何度か繰り返していた。

 ……なんだ、これ。

 セイバーの胸中を占める思考はそれだった。目の前で展開される光景があまりにも滑稽すぎて、いっそ自分のほうが場違いなのではないかとさえ思えてくるほどだ。セイバーとしては居心地悪いことこの上ないし、いつまで経っても話が進まない。
 色々と埒が明かないのでアーチャーに話を聞いたところ、「私達もつい先ほどここに来たばかりなんです」とのことだ。ゆきに対する対応を考えあぐねていたところにサーヴァントの気配を感じ取り、戦闘態勢を取っていたところに自分たちが来たということらしい。
 これだけなら、特に問題はなかった。すばる、アーチャーの両名共戦いには懐疑的で鎌倉の舞台から逃れる手段を探していると自称しており、現在は互いに休戦ということで納得している。無論、それを全面的に信用するわけではないが……少なくとも今この場において、アーチャー陣営に問題はない。
 そう、つまりは別の場所にこそ問題があるわけで。

「そういえばね、セイバーさんもアーチャーさんもアサシンさんと同じサーヴァントなんだよね?」
「はい、そうですよ」
「そっかぁ、じゃあアイちゃんとすばるちゃんも私と同じマスターなんだね!」

 ゆきとアイは、さも世間話のような気軽さでそんなことを話していた。実際、少なくともゆきの側は完全に世間話のノリなのだろうが、会話の内容はそんなものでは済まされないものだ。
 これが問題の一つ。ゆきもまた、聖杯戦争に参加するマスターであるということ。こちらから詰問するまでもなく、単なる世間話の端からポロポロと「マスター」だの「アサシン」だのと情報が漏れ出る始末だ。
 そして厄介なことに聖杯戦争のことを全く理解しておらず、それも使役するサーヴァントがアサシンで、なおかつ現状近くに存在していないというから恐ろしい。
 これにはセイバーもアーチャーも思わず天を仰ぎそうになった。よりにもよってアサシンのサーヴァントが、そのマスターすら関与していない場所で野放しになっているのだ。自分たちのマスターの身の安全を考慮するならば最早一刻の猶予もなくこの場を離脱するか、またはマスターであるゆきをどうにかする必要があるのだが……

(こいつが素直に言うこと聞くとも思えないしな……)

 そこで二つ目の問題が発生する。セイバーのマスターであるアイの頑固さだ。
 既に彼女には念話で幾度となくこちらの考えと現状の危険を伝え、上述の手段を行使すべきだと言っているのだが、全く相手にされない。
 これはアイと行動を共にして痛いほど分かったことであるが、アイ・アスティンは相当な頑固娘である。
 一度決めたら梃子でも動かない我の強さ。それに加えて元々の来歴と「世界を救う」という夢のせいか、こと「他者を見捨てる」ということに対しては異常なまでの拒否感を示すのだ。
 そのような性質であるからして、アイは見知らぬ人に出会えば絡んでいこうとするし、一度見知ってしまえばそいつがアキレス腱になってしまう。そうして救うべき誰かは際限なく膨れ上がり、どこまで行っても自縄自縛、全くもって救えない。
 いざとなれば力づくで連れていってもいいのだが、そうするとほぼ確実に全力で抵抗するだろうし、隙を見て逃げ出しここに戻ってくるだろうことは目に見えている。そんなことをすれば当然大きな隙を晒す。故に、彼女に納得してもらうまで悪戯に動けないというのが現状だ。

 そして、最後の問題が。


719 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:38:48 gCtPM0H60

「えっと、せい、せい……聖杯戦争! うん、聖杯戦争って凄く物騒な名前だけど、みんな良い人で安心したよ〜。
 ―――ね、『くるみちゃん』」

 ……その一瞬、場の空気が凍りついたのは気のせいではあるまい。
 朗らかな会話の途中、ゆきは突如として横を振り向くと、誰もいないはずの場所に向かって話しかけた。
 誰もいないはずだ。そこには、アイも、すばるも、セイバーも、アーチャーも、あるいは霊体化したアサシンだって存在しない。
 ただ、錆つき朽ちかけたシャベルが、カランと転がっているだけだ。

 この和気藹々とした空気の中で、それでも未だにぎこちなさが抜けないのはこのせいだ。
 すばるも、アーチャーも、セイバーも、そこに拭いがたい違和感を抱いている。それが故に、アイのように会話に混ざることを躊躇していた。
 まるで動じていないのは、対面に座るアイだけだった。

「……その方は、くるみという名前なのですね」
「うん、そうだよ! くるみちゃんはねぇ、いつもシャベルを持ち歩いてて力仕事はお任せ!ってくらい元気いっぱいなんだよ」

 ボロボロのシャベルを「くるみ」という人格に見立てて話す様は、まさしく狂人のそれであった。いや、実際にゆきは狂人なのだろう。聖杯戦争に理解が及んでいないのも、そこに原因があると推測できる。
 本人曰く学園生活部の面々は、その全てが人間ではなかった。廃教室、プランター痕、小動物の死骸、木乃伊化した女性の遺体……それらを友人や教師だと楽しそうに紹介し、優しく微笑みかける姿からは、何もかもが辻褄の合わない戯画的な気味の悪さが感じられた。

 過去に何があったかは定かではない。しかし確実に言えることは、ゆきの精神はとっくに崩壊しているということだ。
 現実を受け入れず、自分で作り出した幻想に逃避する落伍者。現と夢の境界すら定まらない彼女を、どうやって説得できるというのか。

 故の膠着。常道であるならばゆきは殺害ないし令呪を剥奪するべきなのだろうが、これもマスターである少女らの頑ななまでの善良さ故に行うことができない。
 どうしようもなく八方ふさがりである現状、セイバーらにできることは感覚を最大限に駆使してアサシンの奇襲に備えることくらいだった。

"……おい"
"ふぇ? どうしたんですかセイバーさん"

 セイバーはふと、アイに念話を送った。それは既に何度も却下された撤退要請でもあったが、同時にアイの方針を確認するものでもあった。


720 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:39:10 gCtPM0H60

"それで、お前はどうするつもりなんだよ"
"どうって?"
"【こいつ】を助けるつもりか?"
"もちろんです"

 セイバーは器用なことに、念話だけで大きな大きなため息をついた。そしてそれを表情にはおくびにも出さないあたり、本気で苦労性が根についているようだ。

"……方法とか、助けた後はどうするんだとか、お前絶対考えてないよな"
"もちろんです"
"だよなぁ……"

 セイバーは言葉尻だけで頭を抱えるという所作を表現すると、お手上げだと言わんばかりにそっぽを向いた。
 もう何度も実感したことだが、このアイという少女はどこまでも頑固で自分の意見を譲らない。
 これはいよいよ強硬手段に出るしかないか、と、セイバーがある種の覚悟を決めようとした時。

「……セイバー、でしたね。あなたに話があります」

 傍らからふと、そんなことを尋ねられた。
 声の主は、アーチャーと呼ばれた少女であった。





   ▼  ▼  ▼





 それはセイバーが訪れる少し前、すばるとアーチャーが夢見る少女と相対して間もない頃。目の前の壊れた少女にどう接していいか分からず、笑顔を浮かべるゆきを前に微動だにもできなかった頃。

「すばるちゃん、サーヴァントの気配を感じ取ったわ」

 その言葉を聞いた瞬間、すばるの体はびくっ、と硬直した。
 笑顔のゆきが「どうかしたの?」と心配そうに聞いてきて、すばるはおっかなびっくりながらも「ううん、平気だよ」とだけ返した。


721 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:39:31 gCtPM0H60

"アーチャーさん、その気配って"
"ええ、こっちに向かってきてるわね"
"それじゃあ、会ってみようよアーチャーさん!"

 ゆきに悟られないよう念話で話すすばるは、アーチャーの返答を聞くとすぐにそう意見した。
 そもそも、すばるたちがこの場に来たのも他のマスターと会えるのではないかという期待を持っていたがためなのだ。その結果は何とも言い難いものであったが、新たに他の主従が近くにいるというなら会わないという選択肢はない。

"すばるちゃん、それは……"
"うん、確かに危ないかもしれないけど……でも、やっぱり誰かの助けは必要だと思うの。駄目元でも、協力できないかって聞いてみようよ"

 すばるの決意は既に固まり、近づいてくる気配の持ち主と会うのだという方針を変えることはないだろう。ゆきと会った今と同じように。
 その選択が、必ずしも良い結果を出すとは限らないとアーチャーは知っている。すばるの考えを聞いて、アーチャーの表情が僅かに曇ったのを、果たしてすばるは気付くことはなかった。

 そして二人は接近してくる気配から逃げることをせず、ただその場にとどまった。刻々と時間が過ぎ去り、無音の静寂をバックにゆきの楽しそうなパントマイムの声だけ反響する。
 嫌に長く感じられる数分が経過し、いつしかすばるの耳にも床鳴りの音が聞こえてくるほどに気配の主は近づいてきて、すばるは緊張の共に唾を飲み込み―――

「こんにちは! 私、アイ・アスティンといいます!」
「おい待てこら」

 飛び込んできたのは、そんな少女と青年の声だった。
 バーン!という小気味のいい音と共にドアが開き、すばるは愚かゆきやアーチャーまでぽかんとした表情で声の発生源を注視していた。
 小さな、線の細い少女がそこにいた。
 金髪緑眼の、どこか異国の雰囲気を醸し出す少女だった。勢いよくドアを開けた姿勢で堂々と仁王立ちし、端正な顔立ちをやたら得意げな表情で彩っている。
 後ろに立つ青年は、伸ばしかけてやり場を失くした手を微妙に下げ、なんとも言えない顔で固まっていた。なんというか、「やっちまった……」という声が言外に聞こえてきそうな有り様だ。

「初めまして、私はアイ・アスティンです。こっちのちょっと怖い顔した人はセイバーさんで、私のサーヴァントです。
 それでですね、私達は聖杯戦争の抜け道を探して色々回っているんですが、もしかしてあだッ!?」
「いい加減にしろ、とりあえず口閉じとけ」
「はいはーい! 初めまして、私は丈槍由紀っていいます! ゆきって呼んでね!」

 こちらが反応する暇もなく放たれるマシンガントーク、振り下ろされる青年……セイバーの手。そして返されるゆきの挨拶。
 流れるような一連の出来事に、すばるが抱いていた緊張感とか不信感とかその他諸々がほんの少しだけ吹き飛んだような気がした。

「わたしすばる、すばるって言います。よろしくね、アイちゃん」

 涙目で頭を擦るアイに向かって、すばるはそう言った。
 途端に、ほころぶような笑顔が返ってきた。


722 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:39:51 gCtPM0H60

 そこからはあっと言う間だった。
 マスターである三人の少女がそれぞれ自己紹介し、セイバーとアーチャーの会話によりお互い聖杯戦争からの脱出を目指していることが分かると、ゆきが勧めるおやつタイムにアイが乗っかりそのまま朝ごはん代わりの一時が訪れることと相成ったのだ。
 既に居候先で朝餉を馳走になっていたすばるはやんわりと断ったが、今日に入ってから何も食べていなかったらしい二人は、それこそどこの小動物かと見紛う愛らしさでもくもくと菓子の消費に移った。
 えーっと、などと言いながらアーチャーのほうを振り向けば、こちらもすばると同じくちょっと困ったような表情で見つめている。セイバーの青年は無表情を装ってるが、明らかに呆れている様子だ。
 その光景を見て、すばるは小さく笑った。





   ▼  ▼  ▼





「……さて、おやつタイムもひと段落したところで、お二人に言っておきたいことがあります。
 私は絶対、この聖杯戦争を認めません」

 部室に二人の闖入者がやってきてから幾ばくか、おやつの時間も過ぎ去った頃。アイは唐突にそう宣言した。
 脈絡のない突然の宣誓に、すばるもゆきもぽかんとした表情でアイを見つめていた。アイはそんな聴衆の態度を気にするでもなく、語気を強めて続けた。

「脱出、いいえこれはもうれっきとした反逆です! 断固とした徹底抗戦をすべきです! そもそも本人の希望を聞いてもないのに無理やり連れてきて、横暴です! 不当連行です! 職権の乱用です!」

 全体的に意味不明なことになっているが、アイの言わんとしていることは、すばるにもなんとなく見当がついた。
 もしかして、と希望を持ちつつ、すばるは遠慮がちに尋ねてみる。

「ねえアイちゃん、それってつまり、聖杯戦争の抜け道を探そうってこと?」
「その通りですが、もっと言うなら聖杯なんてこてんぱんにやっつけてやるんです! こんな神さまもどきの聖杯気取り、根こそぎ根こそいで草の根も生えないぺんぺん草にしてやるのです!」

 一息でそう言い切ったアイは、ちょっと息切れしつつすばるの言葉を肯定した。
 なんだろう、言葉は全部間違ってるのに意気込みは凄く伝わってくる……などと、勢いに押されてか、すばるはそんなことを思った。

「そういうわけで、私は今まで協力できる人を探して回っていたんです。途中何度か怖い目には遭いましたがこれでようやく……」
「マスター、俺今からこいつと二人で話してくるけど、お前はちゃんと大人しくして待ってろよ」
「子供扱いしないでくださいセイバーさん!」

 軽く手を振って教室を出ようとするセイバーに、アイは演説を中断してまでガーッ!と唸った。その様は元気に満ち溢れた子供のようでなんだか微笑ましい。
 二人で話してくる、と言うセイバーの横にはアーチャーの姿があった。念話で聞いてみたところ、「サーヴァント同士でちょっとね」という返答があった。恐らく今後のこととか、色々話すことがあるんだろうと解釈する。


723 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:40:08 gCtPM0H60

「……とにかく、です。私の目標は最初に言った通り、聖杯戦争から抜け出すことにあります。私は、誰にも不幸になってほしくないのです」
「うん、うん! そうだよアイちゃん、絶対こんなのおかしいよ。わたしも誰かを殺したりなんかしたくないし、目の前で誰かに死んでほしくないもん!」
「え、えと、よくわかんないけど、暴力はんたーい! ってことならわたしもそう思うよ!」

 誰にも不幸になってほしくない。そんな一言で締められたアイの演説に、すばるはおろかゆきも(意味が分かってないにしろ)賛同を表した。
 それを目の当りにして、すばるは素直に嬉しくなった。

(良かった……わたしだけじゃなかったんだ)
 
 自分のように聖杯戦争から抜け出そうと考える人がいてくれたことが本当に嬉しかった。もしかしたら自分の周りはみんな敵なのではないかと、そんな不安に苛まれたのは数えきれないほどにあった。
 だからこそ、アイとセイバーのような主従がいてくれたことが喜ばしいと、そう思う。
 ゆきは、まだ分からないけれど……でも悪い子ではないのだから、きっと彼女とだって上手くやれると思うのだ。
 ちょっと前までは一寸先すら見えない状況だったけど、これなら何とかなるのではないかという希望が湧いてくる。

 この時、すばるの気持ちは確かに上向きとなったのだろう。それは間違いない。
 けれど、いいやそれ故にか、すばるはアーチャーがいったい何を望んでいるかを知らなかった。

 アーチャーは自身を、すばるが思うような完全無欠の聖人であるとは決して思わない。いいやむしろ、我欲のために他を踏みつけにせんとする醜悪な存在であると自嘲している。
 今回ゆきやアイと会うことを容認したのも、己の願いを叶えるために使えるかどうかを見極めるためなのだ。一から十まで打算によるものであり、そこにすばるが考えるような無償の善意など存在しない。
 すばるは気付かない。己のサーヴァントが何を思い、何を願っているのかを。
 自分に向けてくれていた笑顔の裏に潜む、どうしようもない罪悪感すらも。





   ▼  ▼  ▼


724 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:40:26 gCtPM0H60





(……さて、ここからどうしたものでしょうか)

 演説を終え、笑顔で接して来るすばるとゆきを前にして、アイもまた笑顔で手を取り合いながら一人そう思考する。
 自分と方針を同じくする者がいて嬉しいという感情はアイもすばると等しく感じていたことだが、それと同じくらいに、アイは目の前の現状を冷静に見定めていた。
 それはつまり、丈槍由紀をどう助けるべきか、ということ。

 アイは何かを一度決めたら頑として譲らない。まず第一に成したいと願う目的があって、現実的にそれを達成できるかどうかなどは二の次三の次。無理なんて言葉は自慢のシャベルでブッ飛ばしていく気概だ。
 けれど、それはアイが手段を一切考えないまま目的に向かって邁進する馬鹿であるということでは決してない。「目的達成のためのビジョンと手段が見えないから諦める」ことをしないというだけで、いざ完遂を目指す段階になれば必死になって手段を考えるのだ。
 だからこそ考える。丈槍由紀という、自ら生み出した欺瞞で己を囲ってしまった少女を助ける算段を。
 絶対に諦めない。助けるのだと心に誓う。セイバーへと断言したように。

(私は絶対に"助け"ます。ええ、誰が何と言おうと)

 セイバーはここで、ひとつ思い違いをしていたことになるだろう。
 彼はアイがゆきを助けるのを容認した。しかし彼の考えた助けとは、あくまで「ゆきと敵対せず、同盟または休戦状態を以てゆきを殺さない」というものである。
 だが実際はそうではない。アイの考える救いとは、「ゆきが作り出した虚構を破壊し、人としての救いをもたらす」ことなのだ。

 アイは一人、笑顔の裏で狂念にも似た義憤を抱く。
 人を助けるのだという「どうしようもない正しさ」は、今まさにアイの中に昇らんと輝きを増している。

 確かに、今のゆきはどうしようもない心の傷を抱えていて、それが癒されるまで己を欺瞞で覆っているだけなのかもしれない。
 嘘の霧を晴らしたところで、ゆきの心は更に傷つくだけなのかもしれない。
 誰もアイに感謝などせず、結ばれるはずだった友誼は永遠に失われるかもしれない。

 それでも「助ける」のだ。
 かつて欺瞞の中で育てられ、秘密の中で溺愛され、真実を知ることのなかった自分のようには、しない。
 だから、アイは今こそ「かつての自分」に似た少女を救うのだと決めた。

 アイは止まらない。過去に救えなかった自分と似た少女を救えるかもしれないチャンスを前に、猛る想いは激しさを増しつつある。
 救済の手がもたらすのは、必ずしも優しい未来であるとは限らない。





   ▼  ▼  ▼


725 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:41:16 gCtPM0H60





「お互い、微笑ましいマスターを持ったようですね」
「能天気すぎるのも考え物だけどな」

 姦しい三者三様の声をバックに、教室の外へと出た二人はそんなことを口にした。外見こそマスターの少女らと変わらない彼らであるが、しかしその実それぞれの生涯を全うした英霊故に、教室で甘い理想を謳う少女たちの中にあっては浮いてしまうところがあった。
 世に擦り切れた老人のつもりはないし、ましてや彼女らの純真さを嗤うつもりもないが、自分たちとはジャンルが違うのだということは重々承知している。
 だからこその、これはそれぞれ見合った土俵での話し合い。夢を見るマスターたちには彼女たちなりに話し合えばいい。汚い現実の話は、従僕たるこちらが引き受けよう。
 彼女には、すばるには、少しでも綺麗なままでいてほしいから、と。アーチャー―――東郷美森はそう述懐する。

「それで、わざわざ連れ出して話ってのはなんだ?」

 大体予想はつくけどな、と続けるセイバーに、アーチャーは口元を引き締め、言った。

「色々と話したいことはあるけど、まず最初に彼女……ゆきちゃんのこと。彼女をこのまま放置しておくのは危険だわ。けど」
「俺もそっちもマスターの方針上、下手に手出しができない。確かにな、俺もそれは考えてた」

 アーチャーの言葉をセイバーが引き継いで言い切る。水面に落とした墨のように異様な存在であるゆきを、真っ先に対処しようとするのはある種当然の話であった。

「普通なら殺害が常套手段になるんだろうけどな。あるいは令呪の移植ができれば良かったんだが、少なくとも俺にその手段はない」
「ええ。そして私にも令呪の移植は不可能。いいえ、厳密には無理やりやれないこともないけど……そんなことをすれば、殺すのとほとんど変わらない結果になるわ」

 令呪は宿主の魔術回路と一体化している。それ故に令呪を剥すという行為は神経そのものを引き抜くのと同意義であり、最悪の場合対象人物は廃人と化してしまう。
 マスターが他者を思いやるがために強硬手段に出れない両者にとって、それは殺害や令呪発現部位の切り落としとなんら変わらない下策である。彼方を立てれば此方が立たず、万事するりとまかり通る理想の方法など存在しない。

「だからこそ私は尋ねるの。セイバー、あなたはこれからどうするつもり?」
「……正直なとこ、さっさとここから出ていきたいな。俺の目的はあくまでマスターの帰還だ。必ずしも他のサーヴァントを脱落させる必要はない」

 セイバーの返答は妥協案としては上々のものだろう。そも彼の言う通り、アイとセイバーの目的は鎌倉からの脱出であり、聖杯を手にすることではない。極端な話、鎌倉から抜け出せる手段があれば他のサーヴァントがどれだけ生き残っていようが関係ないのだ。アイは元の鞘へ収まり、セイバーは晴れて消滅、聖杯など欲しい連中だけで奪い合っていればよい。
 そしてそれは、アーチャーとて同じこと。彼女のマスターであるすばるを無事に帰還させることがアーチャーの目的であり、その点で言えば両者の足並みは揃っていると言える。
 無論、アーチャーにはすばるにすら話していない真の目的が存在するのだが。


726 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:41:37 gCtPM0H60

「そうね、私も同感。私もすばるちゃんを元いた場所に送り返すことができれば、もうそれだけで十分だもの」
「……いい加減、本題に入ったらどうなんだ?」
「なら、お言葉に甘えて」

 教室の外へ出て以降、憮然とした態度を崩さないセイバーに苦笑しながら、アーチャーは続けた。

「ここはひとつ、同盟というものを結んでみては如何かと」
「同盟、ね」
「ええ。私たちは目的も方針も同じくしている。お互い争い意思がない以上、協力しない理由はないわ。それに」

 と、そこでアーチャーは目を逸らし、窓のほうを見る。視線の向こうに映るのは、由比ヶ浜の海原だ。

「……あんなのがいる以上、少しでも戦力が欲しいと思うのは卑しいことかしら」
「……まあな」

 アーチャーに続き、セイバーもまた同様に視線を向ける。
 穏やかな午前の海であるはずのそこには、漆黒の威容が瘴気すら感じさせるほどの圧を放ち存在していた。鋼鉄の戦艦、名を伊吹。彼らはその名を知らないが、朝の陽射しすら常闇に呑み込むその巨躯が、聖杯戦争に組する全てを打ち砕かんとしていることは否応もなく理解できる。
 なるほど確かに、立ち向かうかどうかはともかくとして、あれを前に単騎で勝ち抜けると考えられるほど、セイバーもアーチャーも楽観的ではない。
 とはいえ。

(こいつのことを完全に信用できるかと聞かれたら、それは違うとしか言えない)

 これもある意味当然の考えだ。そもそも両者は出会ってまだ1時間も経っていないのだ。互いに聖杯戦争という椅子取りゲームの参加者である以上、完全な信頼など不可能である。
 アーチャーに願いはないと言うが、自分のように死後の願望を否定する人間のほうが希少種なのだということは、セイバーとて十分自覚している。
 差し出された手を取るか否か。
 どうかしら、と目だけで問うてくるアーチャーに、しかしセイバーは無言のままだった。


727 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:41:55 gCtPM0H60


【C-2/廃校・学園生活部部室/1日目 午前】

【アーチャー(東郷美森)@結城友奈は勇者である】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] スマートフォン@結城友奈は勇者である
[所持金] すばるへ一存。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯狙い。ただし、すばるだけは元の世界へ送り届ける。
1: アイ、セイバー(藤井蓮)を戦力として組み込みたい。いざとなったら切り捨てる算段をつける。
2: すばるへの僅かな罪悪感。
3: ゆきは……

【すばる@放課後のプレアデス】
[令呪] 三画
[状態] 健康、戸惑い
[装備] 手提げ鞄
[道具] 特筆すべきものはなし
[所持金] 子どものお小遣い程度。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争から脱出し、みんなと“彼”のところへ帰る
1: 自分と同じ志を持つ人たちがいたことに安堵。しかしゆきは……


【アイ・アスティン@神さまのいない日曜日】
[令呪] 三画
[状態] 健康、満腹
[装備] 銀製ショベル
[道具] 現代の服(元の衣服は鞄に収納済み)
[所持金] 寂しい(他主従から奪った分はほとんど使用済み)
[思考・状況]
基本行動方針:脱出の方法を探りつつ、できれば他の人たちも助けたい。
1:生き残り、絶対に夢を叶える。
2:ゆきを"救い"たい。彼女を欺瞞に包まれたかつての自分のようにはしない。
3:ゆき、すばる、アーチャー(東郷美森)とは仲良くしたい。
[備考]
・『幸福』の姿を確認していません。


728 : 少女たちの砦 ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:42:08 gCtPM0H60


【セイバー(藤井蓮)@Dies Irae】
[状態] 健康
[装備] 戦雷の聖剣
[道具] バイク(ガソリンが尽きかけてる)
[所持金] マスターに同じく
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り、元の世界へ帰す。
1:アーチャー(東郷美森)の提案に対処。
2:聖杯を手にする以外で世界を脱する方法があるなら探りたい。
3:悪戯に殺す趣味はないが、襲ってくるなら容赦はしない。
4:少女のサーヴァントに強い警戒感と嫌悪感。
5:ゆきの使役するサーヴァントを強く警戒。無力化させるか、あるいはこの場から即時離脱をしたいところ。
[備考]
・鎌倉市街から稲村ヶ崎(D-1)に移動しようと考えていました。バイクのガソリンはそこまで片道移動したら尽きるくらいしかありません。現在は廃校の校門跡に停めています。
・少女のサーヴァント(『幸福』)を確認しました。


【丈槍由紀@がっこうぐらし!】
[令呪] 三画
[状態] 健康、超ご機嫌
[装備] お菓子(全滅)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針: わたしたちは、ここにいます。
1: すばるちゃんにアーチャーさんかあ。いいお友達になれそう!
2: アイちゃんにセイバーさんもいらっしゃい! 今日はお客さんが多いねー
3: アサシンさんにも後で紹介したいな……


729 : ◆GO82qGZUNE :2015/12/06(日) 22:42:24 gCtPM0H60
投下を終了します


730 : 名無しさん :2015/12/07(月) 01:11:13 NeXv5/tI0
投下乙です!
セイバーがすっかり苦労人ポジに……w 振り回され乙
アイはこの時期だから学校にはこういう反応になるかー
しかしまあこれ、由紀も当然だけど東郷さんもアイ的にはすげえ救いの対象だよな……
かしまし同盟この先楽しみだ


731 : <削除> :<削除>
<削除>


732 : ◆p.rCH11eKY :2015/12/09(水) 01:07:17 sIKrQW.Q0
投下お疲れ様です!
聖杯戦争中にもかかわらず和気藹々とお話する女の子たちが可愛い。
困惑しつつもきちんと冷静に事態を見てる練炭は流石の貫禄というべきか。
アイはこうして描かれてみると非常に危ういですね、やはり。

予約に浅野學峯、バーサーカー(玖渚友)を追加します。


733 : ◆p.rCH11eKY :2015/12/12(土) 18:22:58 xijgZYdo0
一旦破棄します。


734 : ◆GO82qGZUNE :2015/12/24(木) 00:03:37 lcKGXoAw0
アティ・クストス、アーチャー(ローズレッド・ストラウス)、キャスター(『幸福』)を予約します


735 : 名無しさん :2015/12/24(木) 15:43:24 GeufHhdQ0
そういやがっこうぐらし!組の設定はアニメ版?漫画版?


736 : ◆GO82qGZUNE :2015/12/25(金) 03:27:16 CoTw1tTA0
すみませんが、キャスター(『幸福』)を予約から外させていただきます


737 : ◆GO82qGZUNE :2015/12/25(金) 18:00:53 CoTw1tTA0
予約分を投下します


738 : ◆GO82qGZUNE :2015/12/25(金) 18:01:42 CoTw1tTA0


 ―――あたしは、今日も空を見上げている。

 あの日、あの時。都市の人々が言う《復活の終わり》の日にもあたしはこうして空を見ていた。雨の中にひとりで立ち尽くして、ぼうっと、空を見上げたり、水溜まりを見たりしていたのを覚えてる。
 その直前に自分が何をしていたのか、あたしは何も覚えていない。
 自分が誰なのかは言われずとも分かった。2級市民、クストス家の長女。機関工場で計算手をしている。肌の白さと料理の腕が数少ない自慢。父のことも、母のことも覚えている。自分の家の場所も、働いていた工場も、通っていた学校だってちゃんと分かる。けれど、自分が何故ああして立ち尽くして、10年の月日を覚えていないのか。あたしは何一つ知らない。
 そして、自分がこの見知らぬ街に来た経緯も、また。考えても、悩んでみても、答えはちっとも浮かんでこない。

 だから、あたしは窓から空を見上げるのが日課となった。他にすることが何もないから。
 ……一応、部屋の掃除や簡単な家事くらいはしている。単純に自分が暮らしやすくすること兼部屋の持ち主に対するせめてもの罪滅ぼしから、部屋はできるだけ綺麗に使おうと考えている。
 けれど、そういう最低限のことを除けば、あたしはずっと空を見上げるばかりだ。あとは精々、たまに帰ってくるアーチャーと会話したりするくらい。

「……駄目だ、これじゃ前と変わらない」

 ふと、独りごちた。完全に無意識から出た言葉だった。
 ただ漫然と空を見上げるばかりだった日々を、自分は確かに覚えている。それは10年の記憶を失い、インガノックに立ち尽くすばかりだったあの頃。
 自分に何があったのか、自分のやることは何なのか。それすら分からず、曖昧な思考のまま日々を過ごしていた頃と、まるで同じだ。

 未だに、自分は一体何をすればいいのか、答えを出せていない。
 正体の分からない誰かの影、失われた10年の記憶、それを追い求める無意識の渇望。それらは決して消えることはないし、取り戻したいと思う気持ちにも嘘はない。
 だからこそ、聖杯に願うために生き残りを目指すべきなのかと。そう問われても、まだ確たる答えは出せそうにない。
 迷いは停滞を産む。少なくとも、つい先ほどまでのアティは迷うばかりで他のことには一切関心を抱こうとはしなかった。
 一つの答えに惑うことは、他の行動すらをも阻害するのだということを、今になってようやくアティは自覚した。

 それでは駄目だろうと自戒する。曲りなりにも今の自分は戦乱に巻き込まれた当事者であるのだから、少しはマスターらしいことをしなければなるまい。
 それは例えば情報収集であるとか、自衛の手段の構築であるとか。あるいは、そもそも自分はこの見知らぬ街の文化にすら疎いのだから、そこの齟齬を埋めるだけでもやっておいて損はない。
 出来ることは限られているが、未だこの身に迷いはあるが、それは何もしないことへの免罪符にはなり得ないのだと、そう思った。

「……よし、頑張れあたし」

 えいっ、と気合をひとつ。色々危ないから外に出ることはしたくないが、それでもできることをやろうと思い立ったのだ。


739 : 熱病加速都市 ◆GO82qGZUNE :2015/12/25(金) 18:02:14 CoTw1tTA0





 そういうわけで、とりあえず「テレビ」というものに触れてみることにした。
 ぼうっとしているばかりで整えてなかった身だしなみを軽く整え、テレビの長方形で黒い光沢のある表面にうっすら積もっていたほこりを払うと、アティはいそいそとソファへ移動しリモコンを手にした。テレビはアティにとっては馴染みのない機関製品であったが、一応簡単な操作くらいはできると思う。これでも機関には結構強いのだ。
 アーチャーから聞いた話に曰く、これはタブロイド紙や娯楽雑誌の内容を紙媒体ではなく映像記録媒体で伝える通信設備なのだそうだ。アティの住まうインガノックはおろか北央帝国ですら話に聞かないようなこの珍妙な機関は、当初彼女を大いに驚かせた。思えば街中では、とても珍しいはずの硯学式機関自動車が所狭しと並んでいたし、この街はアティの常識とはかけ離れた場所なのだと改めて実感する。

「やっぱり不思議。こんなのがあるなんて、信じられない……」

 ともかくとして、アティは手にしたリモコンの一際目立つ赤いボタンをポチッと押した。瞬間、プゥンという耳慣れない小さな音と共に、テレビの表面に映像が映し出される。
 明るく、鮮明な映像。ノイズとは無縁な清涼な音声。話を聞いた後ですら、この黒い箱の中に誰かが入っているのではないかと思えるほどにクリアな画面。
 そして、画面の下部に表記される、「テレビを見る時は部屋を明るくして離れて見てください」という白い書き文字。

「え、明るくしなきゃ駄目なの?」

 あたふたとした様子でアティは思わず聞き返してしまった。虚を突かれたといった風な、そんなこと思いもしなかったという表情だ。
 現在彼女のいる部屋は、一言で言ってしまえば非常に薄暗かった。そもそもいつもはカーテンを完全に閉め切って、空を見上げる時も最低限しかカーテンを開けないのだ。いくら外が晴天の朝であろうとも、そりゃ暗くなるというものである。
 今だってカーテンは外の光を見事に遮断し、その役目を十分に果たしている。陽の光など、分厚い生地を貫通した朧気なものしか入ってきていない。
 つまるところ、現状のアティは「部屋を明るくして」というテレビの要求を、一切満たせていなかった。

「え、えっと、明かりのスイッチってどこだっけ……?」

 心持ち慌てた様子で、アティは薄暗い部屋の中で照明の電源を手探りで求めた。カーテンを開け放つのはなんだか怖かったので、ここは照明頼りである。
 ぎこちない動きで探すこと十数秒、ようやく指先にそれっぽい感触を探り当てると、アティは即座に照明を点灯。パっと部屋の中に白色の光が満ちた。思わず安堵の息をつく。

 これでよし、とアティはそそくさとソファへと戻り、テレビへと注視する作業へ戻った。画面には相変わらず、不可思議な映像が絶え間なく流れ続けている。
 よく注意して見れば、それはこの鎌倉の街を訪問するという趣旨の映像らしかった。画面には、語り部らしき女性が満面の笑みを浮かべながら飲食店などを紹介している。

「……ん、こういうお店もあるんだ」

 今自分のいる街の紹介であるならば情報収集にはちょうどいいと思って見た映像だが、何やら予想以上に面白い。
 胸に燻る暗鬱とした気持ちが無くなることはないが、それでも一時の気晴らしにはなり得るものだった。

 結局、アティは数時間に渡り、テレビという異文化に興味と好感を以て接し続けることと相成った。


740 : 熱病加速都市 ◆GO82qGZUNE :2015/12/25(金) 18:02:44 CoTw1tTA0





   ▼  ▼  ▼





 書に充ちていた。
 数に充ちていた。
 そして、何よりそこは知識に溢れていた。

 そこは書庫だ。鎌倉市中央図書館の一室、所謂閉架式書庫と呼ばれる場所。外部の閲覧が禁止されたその場所には、およそ一般では手に入らない量の情報が敷き詰められている。
 雑多、混沌。まるで誰かの心の如く。溢れんばかりの知識が押し込められ、しかし病的なまでに理路整然とした様はある種の矛盾さえも内包している。
 本来であるならば限られた職員しか立ち入れないはずのその場所。しかし今は違う。
 男が一人立っていた。張りつめるほどの静寂の中、一切の足音を立てないままに書架の間を練り歩き、思いのままに史料を手に取り閲覧している。
 若き美貌の男だった。蒼白の頭髪は薄暗がりの中にあって尚輝き、怜悧な瞳は確かな知性の光を感じさせる。常態として放たれる存在圧は、彼が見た目通りの若輩に非ずという事実をこれ以上なく如実に伝えている。
 男は何故ここにいるのか、男はどうやってここにいるのか。それは、男の正体がサーヴァントであり、その白貌の奥に燻る疑問を解き明かすためと言えば、全てが事足りるであろう。
 その者の名はローズレッド・ストラウス。聖杯戦争に際しアーチャーのクラスで現界した若き夜の王である。

 彼が手にした資料は猛然の勢いでページが捲られ、それを追う眼球すらも尋常ではない速度で目まぐるしく反復動作を繰り返し、得られた視覚情報は全て違わず高速で脳内処理が施されている。
 一冊、また一冊と手に取り、目を通し、用が済めば元へと戻す。彼はその所作を、およそ丸一日以上も続けていた。
 そして驚くべきことに、彼はこの膨大な資料をある特定の分野に限定すればその大半を把握することに成功していた。如何な妖術でも使ったのか、目録を作るだけでも優に数日は費やされるだろう知識の大塊を、しかし彼は己が知性のみで切り崩し自らの思考の糧として吸収するに至っているのだ。
 およそ不条理としか思えない所業、常識では想像さえできない光景。知性の悪魔としか形容できないが、しかし彼はそれを成せる者なのだ。この場に学を知る者がいれば、まさしく万能人たるウォモ・ウニヴェルサーレの現身であるとさえ讃えるであろう破格の成果を出して。けれども彼が浮かべる表情は賞賛を受け止めるべき達成者のそれでは断じてなかった。

「……やはり該当する記述は見当たらない、か」

 手にした最後の一冊を書架に収め、ストラウスは深い溜息とも深呼吸ともつかない息を大きく吐いた。その間にも彼の手は失望の念とは関係なく動き、自分が荒らした分の体裁を整え書棚を整理する。
 呼吸に沈んだ面を上げると同時に霊体化、次の瞬間には姿は愚か気配さえもが消失し、再び書庫に静寂が訪れた。まるで最初から誰もいなかったように、その空間には無機的な気配のみが満ちていた。
 最早どこにも、彼がそこに存在した痕跡は残されていなかった。





   ▼  ▼  ▼


741 : 熱病加速都市 ◆GO82qGZUNE :2015/12/25(金) 18:03:15 CoTw1tTA0





 小町通りから見える空は、雲一つない快晴であった。
 鎌倉市中央図書館から抜け出したストラウスは、現在小町通りの一角に佇んでいた。およそ一日を費やした情報収集は求めていたものを掴むことはできなかったものの、完全な無駄足に終わったわけではない。収集を終えた彼は、ひとまず次の目的―――聖杯戦争参加者との接触に赴いていたのだ。
 この場所に来たのは、単純に地理的な問題と、手軽に人の集まる場所だったからという以上の理由はない。あるいは参加者の捜索以上に、市井の様子を探るのも重要になるかもしれないという考えもあるのやもしれなかった。

 活気ある商店街に和気藹々とした人々、本日も天下は泰平なり。争いの様子など微塵も感じることはない。少なくともこの繁盛した一角において、血生臭い気配は一切存在することはなかった。
 けれど。

「……酷く浮かれているな」

 そう、あくまで見かけの上では、ここは平和そのものである。だが実態は多少趣を異としていた。
 浮かれている―――ストラウスがそう形容したように、今この鎌倉という都市は異様な熱気に包まれている。いいやもしくは、渾沌とさえ評せるほどの「何か」が、この都市を寸分の違いなく冒し満たしているのだ。
 それは数多の英霊魔性が入り乱れる魔都であることも当然含まれるが、しかしそれ以上に鎌倉に住まう無辜であるはずの住人たちでさえ痴れた衝動に狂している有り様こそが、この都市を渾沌と形容する最大の所以となるだろう。
 彼らは闘争を望んでいる。彼らは破滅を望んでいる。つまらない日常に飽いて、あり得ざる非日常を歓迎し、今や三桁にも上るであろう異常な数の都市伝説が住人達の話題を席巻している。
 表向きは恐怖し、あるいは無関心を装い、あるいは人倫を説く者もいる。しかし彼らの胸中はこんなものだ。こうなったら面白い。こうならなければ嘘だろう。もっと面白い夢が見たい。
 それは個々人が胸にしまっている密かな思いでしかないだろうが、大多数の民衆が同じものを抱けば話は別だ。
 故にこそ、この街は病んでいる。見かけこそ平常の美しさを保ち、けれど内在する病巣が痴れた夢を奏でているのだ。


 一日レンタルの色鮮やかな着物を着た外国人旅行者が多く行き来する小町通りを、ストラウスは人ごみを縫うようにして歩いていた。往来ですれ違う人々は皆口ぐちに何かを噂し、その視線は平常に見えて実のところ焦点さえ合っているようにも思えない。
 道端、商店、あるいは路地裏。端々から感じられる異質な熱気は、晴天の陽光から来るものだけでは断じてない。現地住民のみならず、観光に訪れる異国の人間でさえもこの雰囲気に毒されているのか。かつては鎌倉の原宿とさえ呼ばれたこの場所は、今や怪しげな異形の都市と成り果てている。
 無論、このような異常事態に陥っている区画は、最早小町通りに留まらず鎌倉市街全域に及んでいるのだということは、最早言うまでもないことであった。
 そして物理的には狂乱とも言うべき微睡みに沈んだ鎌倉は、同時に情報面から見た場合においても異常極まる魔都と化していることを、ストラウスは身を以て知らされていた。

 当初、ストラウスは戸籍あるいはパスポートを偽造し、マスターであるアティの身分を確固たるものにしようと画策していた。事実、魔力の応用で電子通信さえ容易に制御可能である彼にとって、その程度の書き換えはさして難しいものではないはずであった。
 だが、この鎌倉にはストラウスすら及びもつかない電子の怪物が住まっていたのだ。いざ行動に移らんと電子の海に介入したストラウスが目の当たりにしたのは、圧倒的なまでの視覚イメージすら伴った膨大すぎる情報支配網。情報空間に差し入れた右手が物理的な破壊すら受けるほどのそれは、少なくともストラウス個人では到底太刀打ちできないほどに強大無比であった。
 結論を言えば、ストラウスは鎌倉のデータベースに介入することはできなかった。調べものに際し、直接資料を当たるというアナログな方法を選択したのもそれが原因である。
 今やこの街は、電子情報網という名の怪物の胎の中にいるようなものなのだ。ストラウスでさえ、辛うじてかの者に気付かれぬよう手を引くことで精一杯であった。
 伝説や神に語られる英雄のみならず、情報機械に特化した現代の英霊までもが召喚されているのか。それとも文字通り人智を超越した卓抜のマスターが参戦しているのか。
 最早電子の海から弾き出された敗残者に過ぎないストラウスにそれを確かめる術はないが、いずれにせよ厄介な競争相手が存在するものだと嘆息しそうになったものである。


742 : 熱病加速都市 ◆GO82qGZUNE :2015/12/25(金) 18:03:58 CoTw1tTA0

(尤も、そのせいでマスターに要らない苦労をかけさせてしまったことが、私にとっては最大の失態か)

 街路を歩くストラウスの口元が知らず形を歪めた。マスターたる彼女に満足な身分を与えることができず、結果として詐称紛いの真似をさせてしまったことが、あるいは彼にとっては自身の如何なる敗北よりも苦いものであるのかもしれない。
 彼女―――アティ・クストスは迷える者だ。願いと良心の狭間に揺れる二律背反。自身でさえ把握できない何某かに突き動かされる彼女は、正しく自己の存在意義における瀬戸際にあるのだと、容易に想像がつく。
 だからこそ、せめて身の回りの環境くらいはこちらで用意しておきたかったのだが……そこは世に偉業を打ち立てた英雄が一同に会する聖杯戦争、そう上手くはいかないということなのだろう。

 往来を歩いて暫し。視線の先には鶴岡八幡宮が大きく陣取り、小町通りの直線も終わりを告げようとしていた。人通りの絶えないその場所でストラウスはふと立ち止まり、改めて周囲に意識を向ける。肌を突き刺すような魔力の気配はどこからも感じない。結局、この周囲においてサーヴァントの存在を感知することはなかったということになる。
 ふぅ、と小さく息を吐き、ストラウスは次に赴く場所を思案する。駅を抜け市街中央に行くべきか、それとも山間部等に隠れ潜む者をこそ探すべきか。いずれにせよ、今マスターのいるアパルトメントに戻るのは要らぬ襲撃を招く恐れがあるから却下だな、などと考えつつ、先を見据え方策を練る。
 既に都市鎌倉は物理・情報の両面において異形の都市へと変容している。故にこれ以上の遅れは取れないと己の内に強く戒める。
 守ると誓った剣に揺るぎはなく、この身は只管に彼女の道を切り拓かんと邁進する標である。愚物でしかない暗君たる自分であるが、それだけは違えてはならないのだと反芻して。

「さて、ならば私の向かうべき場所はどこになるか」

 鶴岡八幡宮を正面にしたストラウスは、今まで歩いてきた道を振り返ると、その情景を視界に収め呟いた。
 現在、彼のやるべきことはいくつかに分けられる。情報の収集、そして敵性存在の排除。あるいはこの地を覆うものに対する、思索による解明の試みか。

 そう、思索。実際に行動に移るより前に、考えなくてはならないものがあるのも確かなのである。
 何故鎌倉という街を舞台に聖杯戦争の幕が上がったのか。サーヴァント同士を争わせる行為に、何故市街戦という要素を加えたのか。神秘の存在を知らないはずの住民たちは、何故これほどまでに夢に惑い浮かれているのか。
 そして何より、あの「言峰綺礼」と名乗った神父は、その背後にいるであろう何者かは一体何を考えているのか。

 今や籠の中の鳥に甘んじる他ない参加者にとっては、それを解明するなどまさしく雲を掴むに等しい行為であろう疑問を解くために、ストラウスは座に記録される己の知識との相違点を鎌倉の街に求めた。自らの知る知識になく、しかしこの舞台に存在する要素。それを見つけることができたならば、この不可思議な空間の意義も分かるのではないかという期待。
 見つけたものは多々あった。その中でも一際存在感を放つものが、広く市井にさえ広がる「歴史の齟齬」。つい先ほどまで彼が行っていた歴史資料の検分から浮かび上がった「あり得ざる歴史の立役者」と、「不自然なまでに存在を隠蔽された何某か」。

(あるいは無駄となるかもしれないが、これからを戦う上で情報は欠かせない。何よりこれだけ不確定事項の多い催しだ、全てを疑ってかからねば首がいくつあっても足りないだろう)

 多少語弊があるかもしれないが、これはつまりジグゾーパズルのようなものだ。
 現状保有する情報は、いずれもばらばらの断片。それだけでは全体像は分からないし、どのピースがどのような役割を果たすかさえ判然としない。
 だが、それはあくまでストックされたピースが足りない場合である。数が揃えば、当然状況は大きく変化する。ピース同士の関連性、全体の中での役割。巨大な一枚絵が白日の下に晒された時、欠けたブランクの向こう側に見えてくる真実がきっとあるはずなのだ。

 彼の知るいずれの歴史にも存在しない。あり得ざる偉業を成した一人の英雄。
 異様なまでに熱に冒され、自滅すら厭わぬほどに狂喜乱舞する鎌倉の民。
 いくつもの文献を閲覧しても感じられる、何かを抹消し間隙を繋ぎ合わせたかのような奇怪な違和感。

 ならば、これらが一体何を意味し、何に繋がるのか。
 それこそは―――


743 : 熱病加速都市 ◆GO82qGZUNE :2015/12/25(金) 18:04:20 CoTw1tTA0

「……いずれにせよ、現状は単なる憶測に過ぎないか。まずは外部を取り巻く要素より先に、この聖杯戦争そのものを把握する必要がある」

 その上で、他の参加者の存在を無視するわけにもいくまい。そう一人ごちて視線を下げると、ストラウスを身を翻す。やや速足気味に歩を進める彼は、音もなく雑踏の中へと消えて行った。

 ―――太陽の輝きの裏に隠れる太陰は、月の瞳そのものの双眸で全てを睥睨している。
 その手に掴んだ不確かな真実は、未だ姿を見せる気配はない。


【C-3/小町通り/1日目・午前】

【アーチャー(ローズレッド・ストラウス)@ヴァンパイア十字界】
[状態] 陽光下での活動により力が2割減衰。健康。
[装備] ラフな格好
[道具] なし
[所持金] 纏まった金額を所持
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守護し、導く。
0:?????
1:他の聖杯戦争参加者と接触する。
[備考]
・鎌倉市中央図書館の書庫にあった資料(主に歴史関連)を大凡把握しました。
・鎌倉市街の電子通信網を支配する何者かの存在に気付きました。



【C-2/アパルトメントの一室/1日目・午前】

【アティ・クストス@赫炎のインガノック- what a beautiful people -】
[令呪] 三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] アーチャーにより纏まった金額を所持
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯に託す願いはある。しかしそれをどうしたいかは分からない。
1:自分にできることをしたい。
[備考]
・C-2に存在するアパルトメントの一室に不法滞在しています。食糧等はアーチャーが仕入れてきているようです。


744 : ◆GO82qGZUNE :2015/12/25(金) 18:06:38 CoTw1tTA0
投下を終了します。
また、今回は舞台背景において独自解釈を交えた内容となっています。問題等がございましたら即刻修正、または破棄したいと考えておりますので、申し訳ありませんが御一考をよろしくお願いいたします。


745 : ◆H46spHGV6E :2016/01/18(月) 07:27:12 iGesLkP60
こちらで初めて本編を書かせていただきます
衛宮士郎、アカメ、麦野沈利、レミリア・スカーレット、ハサン・サッバーハを予約します


746 : ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:28:20 FuNBxvN.0
投下します


747 : 暗殺の牙 ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:29:17 FuNBxvN.0
蒼白の光条があらゆるものを蹂躙していく。
街も、建造物も。当然、人間も。全てが溶けて消えていく。
誰が信じよう。その途方もない破壊を撒き散らしているのがたった一人の人間などと。

そしてその破壊の標的とされながら未だに生を繋いでいる人間がいようなどとは。




     ▼  ▲




このままではジリ貧だ。衛宮士郎はそう思考する。
名前も知らない女マスターの戦闘力、そして何よりも破滅的に過ぎる異能はサーヴァントであっても直撃は許されないほどの破格の武器だ。
もっとも宝具を大量に生産して使い捨てにしている自分が言えた話でもあるまいが。

現状、こちらの攻撃は大した成果を上げていない。
とはいえある程度の手の内と引き換えにあちらの攻撃の性質も把握できてきた。
まずあの光は全身から出せるものの基本的に直線的な攻撃しかできず、軌道変更はできない。
それができるならたかだかコーナーを曲がった程度でこちらを捉えられなくなるわけがない。
次に連射性能は致命的に低いわけではないが高くもない。
衛宮士郎の身体性能を考慮すれば一発を防げば次の発射までに距離を詰めることは可能。
また先ほど接近戦を挑んだ際、あの女はわざわざ自分を蹴り飛ばしてから光を放った。
つまりあの光の異能は近接戦闘に応用できる代物ではないことがわかる。
というより、使用者でさえ迂闊に触れられないほど危険な物質なのであろうと推測できる。

総じて、破壊力と発射速度に秀でる反面細かな取り回しに難を抱える能力であると考えられる。
未だ不透明なのはどの程度まで出力を高められるのか、そしてどの程度応用の利く能力なのか、という二点だ。
あれほど修羅場慣れしたマスターがまさか自らの能力の欠点を熟知していないなどということはあるまい。

「全部の手の内を見せてないのはこっちも同じなんだけ、ど……!」

迸る光条をステップで回避。やはり追って来たか。
あれではこちらがどれほど遠くに逃げようとも追撃と破壊を止めようとはしないだろう。
当てずっぽうに放った一発が命中しただけでこちらは跡形もなく消し飛ぶのだ、理不尽にも程がある。
となれば、やはり再度の激突は避けられるものではない。
この局面ではまだ温存しておきたかったが、そうも言っていられない相手と状況だ。

「投影、開始(トレース・オン)」

この手に顕れたのは白と黒、陰陽の双剣。
干将・莫邪。数多の名剣、宝剣を再現する衛宮士郎にとって最も手に馴染む主武装(メインウェポン)。
実を言えばこれまでの攻防で投影、使用した宝具はその全てがフェイク。


748 : 暗殺の牙 ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:30:01 FuNBxvN.0
ワンポイントで効果を発揮することこそあれ衛宮士郎本来の戦い方に合致しきるものではない。
先ほど生み出した花弁の盾ですらその真価の数分の一も発揮していない。事実真名の解放はしていないのだから。

「気が狂ったかよ、テメェ」

駆ける。怒りと殺意を彩った顔をしたマスターへ正面から挑みかかる。
光条、原子崩し(メルトダウナー)が放たれ次の瞬間には衛宮士郎の存在を抹消する。

―――だが、そのようなことは百も承知。

「ふっ……!」

干将・莫邪を交差させ、万力を込めて光を切り裂かんとばかりに迫る蒼白の光を防ぐ。
砕け散る贋作。だがそれと引き換えにして衛宮士郎は真正面から、足を止めず、防具にも頼らずして原子崩しを破った。
女マスター、麦野沈利の眼が驚愕に見開かれる。何故先ほどまでより素人目にも格が落ちるとわかる剣で防がれるのか、理解できない。

秘密は干将・莫邪が持つ二つの特性にこそある。
一つは純粋な頑強さ。格上の宝具との打ち合いにも耐え抜く頑健さ、信頼性の高さだ。
そしてもう一つ、この双剣は二つ揃えで装備することによって対魔術・対物理防御をサーヴァントの能力に換算して一ランク分引き上げる概念を持つ。
守りに長けるこの性質こそ衛宮士郎の先にある英霊がこの双剣を愛用した所以に他ならない。



原子崩し(メルトダウナー)は防がれ、干将・莫邪は砕け散った。
さしもの麦野も瞬時には次弾を発射することはできず、士郎もまた無手。
この攻防は互いに手詰まり。数秒の後には白紙に戻る。

―――されど贋作者(フェイカー)の手には、既にその先が在る。

「凍結、解除(フリーズアウト)……!」

再び、双剣が両の手に握られる。
衛宮士郎にとって最も相性の良いこの剣は他の宝具と比較しても尚早く投影できる。
踏み込み、麦野沈利へと肉薄する。麦野もまた選択を迫られる。
恐らくあの双剣こそが眼前のいけ好かない男が最も信頼する武装であり本命。
であれば接近戦はこちらに不利。先のような義手と自らの身体能力を駆使したカウンターは既に一度見せた。
当然にして次はこちらの性能を把握した上で、こちらにとっては未知の攻撃が来る。取る手は一つしかない。

横薙ぎに振るわれる一閃。常人ならば胴体が泣き別れになるであろうが麦野は超人的な反応速度で辛うじてバックステップし回避。
さらに原子崩しをジェット噴射の要領で放射し高速移動。徹底的に距離を離した。

「今ので駄目か…!」

必殺の意図での奇襲。まさかそれがかすりすらもしないとは。
相手の手の内をまた一つ暴いたもののつくづく化け物だと思い知らされる。
これでは自分が“彼女の剣”を投影し使ったとて到底命中は望めまい。


749 : 暗殺の牙 ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:30:51 FuNBxvN.0
まさしくサーヴァント級の反則存在。確実を期するならそれこそ彼女が必要だ。



「…思ってたよりは厄介な相手みたいね」

麦野は一瞬とはいえ自分に肉薄してみせた男―――恐らく魔術師―――に対する評価を改めた。
そこそこ強力な異能に自分には及ばずとも高い身体能力。そこらの能力者では相手にさえなりはすまい。
だが、真に警戒すべきはそんな表面的な事柄ではない、と思い知った。
あの眼だ。隙あらばこちらを喰らい尽くさんとする鷹の如き眼、戦術眼こそがあの男の真価であろう。
まことに業腹ではあるが、慢心は捨てなければならないらしい。
仮令こちらに九十九パーセントの勝機があろうとあれは残された一の機会を必ず手繰り寄せる。



「っ!?」

睨み合いになる中、士郎の眼球に光の槍らしきものに捉えられたアサシンの姿が映った。
レイラインを通してサーヴァントの置かれた危機的状況が士郎にも伝わったのだ。
あるいは強い絆、連帯感によって繋がっているからこその奇跡なのだろうか。
アサシン、彼女こそこの戦いの行方を左右すると睨んでいたが敵のサーヴァントの方が一歩上を行っていたというのか。
迷っている暇はない。今ここで令呪を切らなければ確実にアサシンは殺される。

「来い!アサシン!!」

赤く輝き弾け飛んだ令呪の一画と共に士郎の従者が現れた。
それを見た麦野は一切の迷いなく原子崩しを一直線上に並んだ士郎とアサシンに向けて放った。
先手を取ってサーヴァントを呼ばれた以上、動かれる前にマスターごと蒸発させるに限る。
どのみちアサシンはマスターを庇う他ないのだから、麦野にとっては何の損もない。

だがアサシンとてサーヴァントの一柱であり、手にした帝具・村雨は切れ味のみならず頑強さにも秀でた業物。
麦野ですら戦慄するほどの反応速度で村雨を振るい原子崩しの砲撃を断ち切った。

(ランサー!)
(状況はわかっているわよ。けれどこの私を呼びつけようだなんて思わないことね。
私が行くのではないわ。むしろ、あなたがそこから動くのよ)
(…何だと?)

ランサーが放った『運命射抜く神槍(スピア・ザ・グングニル)』は令呪による回避によって外されてしまった。
しかしその程度でこのレミリア・スカーレットから逃れられたと思われては困る。
こちらは未だアサシン主従をその射程に収めている。追撃は先ほどよりも容易いほどだ。



「士郎!まだ終わっていない、来るぞ!!」

切迫したアサシンの声一つで衛宮士郎は状況を把握した。
強化された視力によってランサーが原子崩しによって廃墟同然となった区域を更地にせんが如き弾幕を準備しているのを捉えた。
威力よりも手数と範囲を重視した、こちらを絶対に攻撃範囲外へと逃がさない構え。
自らのマスターさえ巻き込むことを辞さないとは、何たる暴挙か。


750 : 暗殺の牙 ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:31:38 FuNBxvN.0



「あんの女(アマ)ァ……!!」

ランサーのマスターたる麦野もまた従者の意図を察し敵に対してよりも激しい怒りを燃やす。
マスターたる己をも巻き込む勢いで撃たれようとしている飽和射撃は、なるほど少しは麦野に配慮されたものではあるのだろう。
少なくとも今から全力疾走で逃げるか、許される最大出力での盾を展開すれば比較的弾幕の範囲の外側にいる麦野は助かる。
だが、逆に言えば宝具の使用に加え弾幕を張る分の魔力を容赦なく吸い上げられている中で全力を出さなければ逃げられもしないし防ぐこともできないのだ。
わかっていたことではあるし、麦野もまたランサーをそういった目で見ていることを否定はしないが。
ランサーは明らかにこの麦野沈利を代替の利く消耗品か何かとしか見ていない。

「チッ……!」

舌打ち一つ、即座に爆撃同然の被害を齎すであろう弾幕から、急速に生命力を吸われる身体に鞭打ち離脱を図る。
電子の盾で防いでやってもいいのだが、それで視界が遮られ状況が見えなくなるのはうまくない。



一方で、衛宮士郎とアサシンは既に王手(チェックメイト)を掛けられていた。
逃げ場なき飽和射撃。アサシンの俊敏さなら離脱は可能であろうがマスターを抱えながらではそれも無理な話だ。
それを理解しているからこそランサーは既に勝ちを確信している。やはり運命は自分に味方するのだと嗤う。
どんなに下手に転ぼうともランサーは絶対に損をしない圧倒的優勢。



―――だが知るがいい驕り高ぶる吸血鬼よ。
彼の者“達”が有するスキルは心眼・真。窮地を凌ぎ活路を見出す人の技。
圧倒的劣勢、絶対の窮地においてこそ彼“等”はその本領を見せるのだ。



「―――――I am the born of my sword(身体は剣で出来ている)」

投影による頭痛に堪えながら、衛宮士郎は狼狽することなく冷静に活路を見た。
この手に用意するのは先ほどはごく一部しか展開しなかった花弁の盾。
トロイア戦争において使われたとされる、彼が持てる宝具の中で最強の防御宝具である。

「―――――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

真名解放。今こそ宝具が持つ本当の力が発揮され、七枚の花弁の如き大盾がその姿を現した。
通らない、通らない、通らない。ランサーの撃ち出した爆撃もかくやというほどの弾幕が悉く防がれる。
威力よりも範囲と手数に重きを置いたことが災いし、放った弾幕は一枚たりとも花弁を突破できない。

「何ですって……!?」

当然、その光景を見せつけられたランサーの心中は穏やかではいられない。
弾幕の濃い中心で受ければ麦野の電子の盾ですら受け止めきれないほどの苛烈な攻撃がサーヴァントですらない魔術師によって防がれる。
猛烈な殺意が湧いてくる。理解できてしまうからだ、一枚だけで城塞に比類するほどの花弁の盾は自らの宝具でさえも防ぎ得ると。


751 : 暗殺の牙 ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:32:25 FuNBxvN.0

単純な個人戦力という点において衛宮士郎はレミリア・スカーレットの足元にすら及びはしない。
しかしこの世は全て相性。レミリアが得意とする弾幕はあらゆる投擲物に対して無敵を誇るという概念を帯びるアイアスに対しては絶望的に相性が悪い。
『運命射抜く神槍(スピア・ザ・グングニル)』ですらその相性差を覆すには一歩足りない。
この事実はランサーの心を激しく掻き乱した。

―――そう、故にランサーは致命となる見落としをした。




     ▼  ▲




果たして麦野沈利はランサーの攻撃範囲からの離脱に成功した。
激しい轟音と着弾によって生じる粉塵によって視界は悪いがランサーのことだ、上手くやっただろう―――とは確信しなかった。

(もしかしたら、あるいはって程度の可能性だけど)

アサシンと交戦していたランサーとは違い、麦野は士郎が出した盾を一度目にしている。
あんなものでランサーの苛烈な攻撃を防げるとは思わないが、万が一を警戒するに越したことはない。
もっともわざわざランサーに知らせてやる義理などどこにもないが。

(けどもしあの野郎がランサーの弾幕を防げるとしたら―――奴らはどう動く?)

そんな思考をした時、強烈なまでの悪寒が走った。
咄嗟に、背後に電子の盾を展開しつつ飛び退く。思考したが故の行動ではない、完全な直感だ。
俄仕立ての盾は容易く切断され、その勢いのまま刀が麦野の背中を掠め血が飛散した。
あろうことか、アサシンが主人を置いて麦野の背を狙ってきていたのだ。

愕然とする、確かにマスターがランサーの攻撃を防ぎアサシンがマスター殺しを目論むことは有り得るものと思っていた。
あのアサシンの速さを以ってすれば弾幕の範囲から離脱し気配を殺して自分を狙うことも不可能ではあるまい、と。
だが、そうだとしても即決に過ぎる。動きに淀みというものがなさすぎる。



衛宮士郎とアサシン・アカメ。
極めて珍しいことに、彼等は全く同一のスキルを全く同一のランクで保有していた。
この事実は元より強固な二人の連携をよりスムーズなものにしていた。
必要最低限の声掛け、念話、意思疎通のみで互いが互いに為すべきことを理解し動くことができる。
単純な性能において彼らは麦野沈利とランサーに及ばない。及ばないが一つの陣営(チーム)として見た場合、衛宮士郎とアサシンは麦野たちを圧倒する。

その理由は士郎たちの連携が上手いということもあるが、何より麦野とランサーの不和が大きかった。
彼女らの戦い方は完全に個と個の力を相手にぶつけるだけの、個人戦力頼みのゴリ押しに過ぎなかった。
互いに互いを嫌悪し合う二人には連携と呼べるほどのものはなく、それどころかこの僅かな間にすら相互不和に端を発するミスを何度も犯していた。


752 : 暗殺の牙 ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:33:17 FuNBxvN.0

まずランサーは自らの力を過信し、麦野を軽んじるあまり即時にマスターの下へ駆けつけられない状況を自ら生み出した。
さらに麦野から魔力を吸い上げたことが原因で麦野の動きのキレが僅かに鈍りアサシンの奇襲を回避しきれず傷を負わされた。
麦野もランサーへの嫌悪から衛宮士郎が持つ盾の宝具の存在をわざと知らせなかった。
一つ一つは些細なミスであっても、積み重なればその代償を命で支払う羽目になる―――否、正確にはなった、と言うべきか。



「がっ―――!!?」

掠り傷を受けただけの筈の麦野が血反吐を吐き、地に倒れ這い蹲る。
アサシンの奇襲を完璧でこそないが掠り傷一つで躱してみせた、戦力的にはサーヴァントにも匹敵する少女。
されどアサシンの持つ帝具を前にしては掠り傷一つですらも文字通りの意味で命取りだった。
一斬必殺・村雨。この刀によって傷つけられた者は心臓を破壊する呪毒により死に至る。

(な……ん、で…だ………)

さらに、数多の標的をこの刀で斬った逸話からアカメが操る村雨の呪毒は彼女の生前にも増して強化されている。
あと二秒思考時間があれば真相に辿り着けたであろうが、強化された村雨の呪毒をまともに浴びた麦野の瞳には最期の瞬間まで理解の色が宿ることはなかった。



「なっ……!?沈利!?」

マスターの絶命によるレイラインの途絶は即座にランサーに伝わった。
ここに至り、ようやくランサーはアサシンが近くにいないことに気がついた。
自信を持っていた弾幕を魔術師によって防がれたことで怒り心頭になり、視野狭窄に陥っていたのだ。

「やってくれたわね……!」

嵌められた。王手を掛けていたつもりが、気づけばマスターを殺され自分が窮地に追いやられている。
生命線たるマスターを失えば単独行動のスキルすらも持たないランサーの力はたちまちのうちに数分の一未満にまで劣化する。
これでは到底、否、一切あのアサシンに対抗することは不可能だ。
血が出んばかりに歯噛みしながら、次のマスターを見つける望みにかけて逃走する他なかった。



(アサシン、上手くやってくれたみたいだな)
(ああ、ただ士郎。ランサーへの追撃はするだけ無駄だ。
あのサーヴァントは運命か因果律を改変する宝具かスキルを持っている。
下手に追撃すれば逆にこちらが痛手を受けるかもしれない)
(そうか……)

士郎とアサシンは合流するまでの時間も惜しいとばかりに念話を行っていた。
ランサーにとどめを刺さず逃がせばもしかすると再契約を許してしまうかもしれない。
そうなれば他のマスターに自分達の手の内の“一端”を知られることになるだろう。


753 : 暗殺の牙 ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:33:58 FuNBxvN.0

もっともそうなったとしても、士郎とアサシンには取り得る手段、戦術は他にいくらでもある。
士郎が持つ千を越える武具も然ることながら、何となればアサシンに状況に応じて有効な宝具を使わせることもできる。
アカメは元より自分の武器に対して過度の誇りや拘りなどは持ち合わせていない。
達人は得物を選ばない、という言葉があるように大抵の武器は十分に扱えるし何なら素手でもある程度までは戦えるのだ。
村雨を警戒された場合に備えての対策も既に数十パターンにも渡って用意している。

しかしアサシン自身が味わったランサーの因果律を操る能力を考えれば追撃は悪手に転びかねない。
それならば他の陣営が弱体化したランサーを討ち取ってくれることに期待する方が良いだろう。
確率的に考えれば他のマスターと再契約するより前に他のサーヴァントに捕捉される可能性の方が遥かに高いのだから。
そう考えているうちに二人は合流し速やかに更地同然になった区域から離脱することにした。
これ以上この場所に留まっていても良いことは何一つない。

それにしても手強い主従だった、と士郎は思う。
理解も覚悟もしていたことだが、彼女らは明らかに自分達よりも格上の存在だった。
今回は相手のミスや慢心を突くことで勝ちを収められたがそうでなければ骸を晒しているのは自分達だったに違いない。
勝って兜の緒を締めよ、という言葉があるがまさにその通り。さらに気を引き締めなくては。

【B-1/路地裏(跡地)/1日目 午前】
【衛宮士郎@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[令呪] 二画
[状態] 疲労(中)、魔力消費(中)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 数万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する。手段は選ばない。
1:慎重に離脱し、一度休息を摂る

【アサシン(アカメ)@アカメが斬る!】
[状態] 健康
[装備] 『一斬必殺・村雨』
[道具] 『桐一文字(納刀中)』
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利する
1:他の陣営に警戒しつつこの場を離れる


754 : 暗殺の牙 ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:34:51 FuNBxvN.0


     ▼  ▲




ランサーは少しでも魔力消費を抑えるために霊体化しながら逃走していた。
今あのアサシン主従から追撃を受ければ拙いことになる。
宝具は当然だが運命操作のスキルすらマスターを失い著しく劣化した身ではまともに発動しない。
早急に次のマスターを見繕わなければ半日も経たずにこの身は消え去ってしまう。
聖杯への願いなどないがあの二人はこの手で消し去らねば気が済まない。

(覚えていなさい鼠ども。このままじゃ絶対に終わらせない……!)



けれど、ランサーは今こそ、もう少しだけ熟考するべきだった。
たった今、自分たちがどれほど大規模な破壊行為を行ったのか。
それが他の参加者にとって如何に目印になりやすかったか。そして誰かが戦闘を覗き見ていた可能性を。
そこに思い至っていれば今しばらくの延命も可能だったかもしれないというのに。



「――――――妄想心音(ザバーニーヤ)」



響く声、鋭い殺気、何よりも高まる魔力の波動。
何時の間にそこにいたのか、髑髏の仮面を着けたあからさまにアサシンと思しきサーヴァントが宝具を発動していた。
しまった、とランサーが気づいた時にはもう遅い。慌てて実体化を図るが徹底的に無駄、完全無欠に手遅れだ。

サーヴァントの霊体化は気配を抑え魔力消費も最低限度に抑える利便性の高い状態だ。
しかし、この霊体化状態も決して万能ではないしましてや無敵では有り得ない。
サーヴァントは仮初の肉体を実体化させてこそ現世に干渉することができる。
逆に霊体化したままでは純物理的な干渉を受けない代わりに霊的な干渉には全くの無力となる。
あらゆるスキル、宝具が意味を為さない無防備状態。それが霊体化の無視してはならない一側面なのである。

シャイターンの右腕が今まさに実体化を果たそうとしている途中のランサーに触れ、脈打つ心臓がその手に顕れる。
これこそレミリア・スカーレットの心臓。その二重存在(コピー)。
ランサーが完全な実体化を果たした瞬間、アサシンは迷わず右手に力を込め疑似心臓を握りつぶした。



「ア、ガハッ………!!」
「マスターが敗れたと見るや慌てて霊体となって逃げだすとは不用心なサーヴァントよな。
この聖杯戦争にアサシンが一騎しか残っていないなどと何時から錯覚していた?」



マスターの喪失に加え、サーヴァントの核を完膚なきまでに破壊された。
さらに今は太陽の出ている時間帯。これだけの条件が揃っては吸血鬼としての生命力と生き汚さを持つレミリアと言えど死を免れない。


755 : 暗殺の牙 ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:35:30 FuNBxvN.0

アサシンが一騎、ハサン・サッバーハ。彼は衛宮士郎と麦野沈利、そしてアカメとレミリアの戦闘の一部始終を観察していたのだ。
そして麦野が死にランサーが逃げ出すや迷わず勝者の尻馬に乗り死に体のサーヴァントにとどめを刺す機会を伺うことにした。
仮令ランサーが霊体化しようともサーヴァントとしての気配を完全に断つことはできない。
加えハサンは諜報にかけてはアカメすらも上回る技能を有する。追跡は実に容易なことだった。
そうして宝具で以って仕留めるに十分な空間とポジションを確保し万全を期して呪殺したのだ。

末期の言葉を紡ぐことすらできないまま消滅していくランサーを見ながらハサンが思うのはランサーのマスターを斬った同業のサーヴァントのことだ。
見ただけで必殺の力を帯びているとわかる宝具の刀剣。あれこそは彼女の半身(シンボル)なのであろう。
あの少女は自分とは違い、名のある個人として歴史に足跡を残した暗殺者の英雄であったに相違ない。

「貴様がどのような願いで現界したかは知らぬが、私の悲願などはわからぬのだろうな」

認めよう。自分は彼女を羨んでいる、嫉妬すらしている。
とはいえ暗殺者のサーヴァントとしての本分を誤るわけにはいかない。
英霊未満のこの身ではあのアサシンを相手取ることすら至難の業。マスターを狙ってこその暗殺者。
今回自分がサーヴァントにとどめを刺したのはたまたま機会に恵まれたに過ぎない。
たった今完全な消滅を確認したあのランサーでさえ正面から戦えば自分など瞬殺できるほどの規模のサーヴァントなのだから。

「さて、由紀殿の様子を見に戻らねばな。何事も起こっていなければ良いのだが」

【麦野沈利@とある魔術の禁書目録 死亡】
【ランサー(レミリア・スカーレット)@東方Project 消滅】


【B-2/森林/1日目 午前】
【アサシン(ハサン・サッバーハ)@Fate/stay night】
[状態] 健康 、魔力消費(小)
[装備]
[道具] ダーク
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:由紀を守りつつ優勝を狙う
1:一度廃校に戻り由紀の様子を見る
2:アサシン(アカメ)に対して羨望と嫉妬
※B-1で起こった麦野たちによる大規模破壊と戦闘の一部始終を目撃しました。

※B-1エリアが壊滅的損害を受けました。


756 : ◆H46spHGV6E :2016/01/20(水) 14:36:21 FuNBxvN.0
投下終了です


757 : 名無しさん :2016/01/21(木) 02:01:48 9C622NqM0
投下おつー
おおう、レミリアは運命に見放されたか……
そういえば原作からしてアイアスはグングニル以上とされた投げボルグ防いでるくらいだものな
加えて心臓破壊とか言う吸血鬼殺しなハサン先生まで
やはり油断や主従関係の悪さは致命的だったか


758 : 名無しさん :2016/01/27(水) 01:35:06 hFRuQrcAO
足りない地力を連携や待ちの姿勢、技量で補うアサシンズに、ただ圧倒的なスペックで敵を殲滅するレミリアたち
どちらがより優れているかは状況や時の運に左右されるのだろうが、しかし今回はアサシンズに軍配が上がったか。命運を分けたのは主従の信頼関係、どこまで互いを尊重できたかという点なのがなんとも皮肉。しかしそんな足を取られる環境にあってなお、抜群の連携と技量を誇る士郎アカメに追随できた強さも事実。麦野とレミリアにはお疲れさまと言いたい


759 : ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 01:56:10 /WRmM6Vo0
佐倉慈&ランサー(結城友奈)、乱藤四郎&ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)を予約します


760 : ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:18:11 /WRmM6Vo0
投下します


761 : 王の帰還 ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:18:47 /WRmM6Vo0

 ランサーの周囲を、きらきらと光る線が幾本も旋回していた。
 反射して見える色は都合五色。ランサーを取り囲むように高速で迫りくるそれは、しかし次の瞬間に姿を掻き消した彼女を捉えることができなかった。
 静から動。0から100。慣性の法則など無視したかのような急加速の疾走は、あたかも瞬間移動のような印象を見る者に与えた。彼女の行った行動は地を蹴り敵に近接するという原始的な移動方法でありながら、しかしそれを目に見えぬ転移が如き魔業へと昇華させている。
 少なくとも路傍の観衆―――乱藤四郎には、そうとしか見えなかった。
 サーヴァントという超常存在、それが常人はおろか、自分たちのような神の末席すら超えて余りあるものなど、己が侍従たるライダーで嫌というほど理解しているつもりであったが。しかしこれは認識を改める必要があるだろう。
 ランサーの少女は強い。数多の歴史修正主義者や検非違使を屠ってきた自分も、敬愛する一期一振さえも、相対したならば現身たる刀身を破壊される運命からは逃れられないだろうと分かってしまう。
 それほどまでに、眼前の少女は強かった。駆ける姿は疾風迅雷。巻き起こされる衝撃に、加勢どころか直立していることすら危うい有り様だ。
 しかし。

「フッフッフッ、こいつァとんだじゃじゃ馬だ。
 だがそれでいい。力も意思もない奴ァ所詮は食いモンにされるだけだからな」

 人智を超えた強さというならば、彼女と戦っているライダーもまた同じ土俵に立っている。
 取り囲むように回した五色糸を回避され、渾身の一撃を叩き込まれるも、冷静さを一切失わぬまま蜘蛛の巣状の盾を作って受け止める。
 素手と糸の激突は、しかし見た目の脆弱さなど微塵も感じさせない重厚な金属音を辺りに轟かせ、地を割る衝撃と目を覆わんばかりの火花をまき散らす。
 向かい合う両者の表情は二通り。余裕の笑みと、食いしばった焦燥の顔。
 前者がライダーで、後者がランサーのものだった。

「ふッ―――!」

 防がれた右の正拳を軸に、中空にて身を翻したランサーの蹴りが側方よりライダーを襲う。
 前方に盾を張られたならば横合いから。そんな単純な理屈の元に放たれた蹴撃は狙い違わずライダーの首筋へと迫り、しかし無造作に上げられた左腕によって阻まれた。
 再度の激突、そして衝撃。ビリビリと肌を刺す音響は大気の壁を突き破ったことによる空気の悲鳴に他ならない。常軌を逸する域の打撃を受けてなお、ライダーの笑みは健在。そしてランサーは自身の失態に事ここに至ってようやく気付く。
 蹴りを防いだ左とは真逆の位置から、ライダーの右腕が伸びて指先の照準をランサーへと合わせる。打撃と蹴りの二撃を正真正銘の渾身で繰り出したランサーは、それ故に未だ硬直が解けず焦燥の色を更に強める。
 ライダーの指先から放たれた無数の弾糸を、身を捻ることで無理やりに回避する。元々崩れかけていた体勢が更に不自然なものとなるが構いはしない。狙いのそれた弾糸が頬を掠め、飛び散った血飛沫が嫌にゆっくりと後ろへ流れて行った。


762 : 王の帰還 ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:19:18 /WRmM6Vo0

「フフフッ、よく躱すもんだ。だがいつまで持つかな?」

 声に目を向けてみれば、そこにあったのは断頭刃の如く振り下ろされるライダーの脚。糸によって斬撃効果を付属されたそれは、受ければ例えランサーであっても無事ではすまないと直感で悟る。
 故に選択は回避一択。とうの昔に崩れ去った体勢で為し得ることではなく、当然のように肩口を切り裂かれ過去最大級の鮮血が宙に舞う。
 しかし致命傷を受けることだけは避けた。霊核さえ無事ならば、勇者である自分はそう簡単にやられることはない。地に転がることで衝撃を分散し、踏みしめた脚に力を込めて再度の突撃を敢行する。

「いつまでだって持たせてみせる! 私は絶対に諦めない!」
「威勢のいいガキだ。だが実際に遂行できなきゃ負け犬の遠吠えでしかねェ」

 ぶつかり合う拳と糸のせめぎ合いを挟んで、二人の視線が交錯する。
 戦闘開始より既に五分。交わされる攻撃の応酬は互いに対等なれど、勝負の流れは徐々にランサー側の不利となって形に現れ始めている。

 本来、彼らの有する力にさほど隔絶した差というものは存在しない。拳と糸。生命力と耐久力。各々に持ち味とも称せる特徴の違いこそあれど、相性の好悪として現れるほどではなく、絶対値としての力量もほぼ均等。それ故に今の拮抗状態があるのだが、ならば何故ランサー側が徐々に押され始めているのか。
 積み上げた経験か。宝具のスキル発動の差か。いいや違う。
 そこに立ちはだかった違いとは、【マスターを護る必要があるかどうか】という、決して無視することはできず決して個人では埋めることができない要因だった。

 ランサー―――結城友奈のマスターは屍食鬼の呼び名の通り、今や人外に身を窶した成れの果てとも言うべき存在だ。
 しかも最悪なことに、彼女は一切の理性を失ってしまっている。市井の娯楽作品に登場するゾンビのように、ふらふらと歩き出ては無差別に人を襲うだけの白痴。当然だが友奈の言葉など欠片ほども理解できていない。
 生前であったならば、佐倉慈という名を持った聡明で理知的な女性であったのだが―――そんなことは今更言及したところで詮無きことだろう。
 そして屍食鬼は理性がない故に、サーヴァント同士の戦闘が起ころうが逃げ出すということをしない。身を守ることも、何かしらの対策を打ち出すこともない。
 加えて歯痒いことに、彼女を守るべき友奈は他者を守るのに適した技能を有さない。殴り蹴りつけることだけが能であるためにマスターを守りながら戦うことに不慣れだという、他者を想い戦う彼女の性格を鑑みればこれ以上なく皮肉な結果となっているのだ。


763 : 王の帰還 ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:19:52 /WRmM6Vo0

 ならば、ライダー―――ドンキホーテ・ドフラミンゴとそのマスターはどうだろうか。
 彼のマスター、乱藤四郎は刀剣男子だ。付喪神という神の末席に名を連ねる存在であり、サーヴァントに及ばないとはいえその戦闘能力は協力無比。聖杯戦争のマスターとしては、おそらくこれ以上はないほどの強さを身に宿している。
 そんな彼は当然だが蓄積された経験と技量も一線級である。群がる屍食鬼を蹴散らし、ドフラミンゴたちの戦闘の余波が及ばない地点まで既に退避済みだ。
 しかも友奈にとっては間が悪いことに、ドフラミンゴの能力は他者防衛にも適した資質を示すものだ。
 イトイトの実の能力は自身の肉体のみならず、周囲の地面や建築物さえも支配下に置いて糸化させることが可能である。当然、退避した藤四郎の周囲にも彼の身を守る糸の防御が張り巡らされているはずだ。
 現状の友奈は攻撃の狙いをドフラミンゴ一人に集中させているが、仮にマスター狙いに切り替えたとしても苦戦は免れなかっただろう。それほどまでに、ドフラミンゴの糸は応用性が高い。
 その技能は、他者など踏み台か食い物としか思っていないドフラミンゴの性格とはまるで真逆であるが……しかしそんな性質の違いは明確な有利不利となって戦場に具現する。

 マスターを守りたいと願い、マスターを庇いながら戦う友奈の行動は、これ以上ない足枷となって彼女を縛る。
 片手間でマスターを守り、相手マスターを狙うことも忘れないドフラミンゴはこの戦闘に限って言えば圧倒的な有利を手にしている。

 そして、それはすぐに目に見える結果となって現れた。

「―――ァグッ……!」

 乱射される弾糸を弾き、いなし、躱す友奈に、更にそれを掻い潜って近接したドフラミンゴの蹴りが直撃する。
 屈強な膝が友奈の腹部に深々と突き刺さり、くの字に折れ曲がった体が弾丸もかくやという速度で後方へと吹き飛ばされる。
 紛うことなきクリーンヒット。砕かれたコンクリ壁の残骸に塗れながら、ダメージに身を震わせながら、しかし友奈は立ち上がろうと足掻く。痛みに歯を食いしばり、それでも尚と不屈の闘志を胸に抱いて。
 それに相対するドフラミンゴは、変わらず破顔。余裕の笑みは微塵も崩れてはいない。


764 : 王の帰還 ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:20:31 /WRmM6Vo0

「ほォ、中々気骨のあるガキだ。気に入った。
 それでこそおれの"仲間として"傘下に加える価値があるってもんだ」

 ―――仲間じゃなくて、駒でしょ……ッ!

 地に膝ついて苦痛に喘ぐ友奈は、ただ言葉もなく睨むのみだ。
 彼女とて人理にその名を刻む英霊の端くれ。決して愚鈍な人物ではなく、故に眼前の男が何を考えているかなど分かりやす過ぎるほどに承知していた。
 気骨? この程度跳ね返せないようで、英霊など名乗れるはずもない。
 仲間? この男は他人など道具としか思ってないだろう。
 何を今さら白々しい。つまり、こいつは―――

「おォッと、そこまでにしてもらおうか。つまらねェ茶番はもうお終いだ。
 そら、そっち見てみろ」

 猛る激情のままに拳を叩き込もうと立ち上がる友奈を、しかし含み笑いを込めた制止で押し留める。
 顎で指し示す方向を、友奈もまた警戒と共に振り返り。
 そして、今度こそ言葉を失った。

「……マスター!」

 それはこの戦闘ではついぞ発しなかった悲痛な叫びで。
 それだけに、この少女がどれだけマスター想いのサーヴァントであるかという証明でもあった。

 視線の先、友奈の視界に飛び込んできたものは。
 不自然なほどに棒立ちのマスターと、その首筋に刃を突きつける少年の姿だった。





   ▼  ▼  ▼


765 : 王の帰還 ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:21:59 /WRmM6Vo0





『乱、お前に仕事をくれてやる』

 その念話が入ったのは、戦闘が開始されて数分ほど経った頃だったか。
 未だ群がる屍食鬼を斬り伏せ、常人ならば数度は死んでいる状況において尚無傷のまま斬り抜けた彼は、しかしその胸中に拭いがたい無力感を燻らせていた。
 何故なら自分は、サーヴァントに何もできない。
 己がサーヴァントと少女の戦いは、彼をして異次元と称せる領域に存在した。分析どころか視認すら不可能。自分が敵手としてあの場に立てば、当然碌に反応もできないまま肉体を血煙と散らしていたことだろう。
 サーヴァントに伍することができないならば、狙うべきは当然マスターのほうになってくるが……目下標的となるピンク髪の屍食鬼は、少女のサーヴァントが近づけさせないよう巧みに立ち回っているせいで近接することができない。
 故に今の自分にできることは何一つとして存在せず、ただでさえ邪知暴虐のライダーに何もできない無様さを噛みしめていた乱にとっては情けなさ此処に極まれりといった心境であったのだが。

『……それは』
『できないとは言わせねェ。その程度、お前にとっちゃそう難しい話でもないはずだ』

 説明された"仕事"の内容を聞き届けた乱は、それが必要なことと分かった上で苦虫を噛み潰した渋面を作る。
 そうだ、自分に宛がわれたサーヴァントは悪辣の極みのような悪漢だ。理屈では彼の行動が最善手であることは承知しているし、それを容認しているのも自分だが、それでも気に入らないという感情を完全に無くすことなどできはしない。
 それに何より、この態度だ。
 全てを見透かして自分の思う通りに転がすその手腕。天に立つ己と比べれば所詮貴様ら地を這いずる塵だろうと見下して止まない不遜。ドンキホーテ・ドフラミンゴという男を構成する全てが、乱は気に入らなかった。

 とはいえ、その屈辱に耐えてでも成し遂げなければならない悲願があるのも事実。そしてドフラミンゴの命令が正しいことも事実。
 ならば拒否する道理はなく、ドフラミンゴと何より自分自身に向けた怒りを押し殺しながら乱は行動へと移る。

 未だ継続する戦闘を見極め、ドフラミンゴの言う"好機"が来るのを待つ。目に見えぬ高速戦闘を俯瞰し、そこに穿たれた隙間ができるのを、ただじっと待ち続ける。
 周囲に屍食鬼はもういない。無論自身の周囲全てに気を張り巡らせながら、しかし本命は少女のサーヴァントの挙動にこそある。集中、集中、視線は決して逸らさない。
 そして。
 大して時間かからぬ内に、その機会は訪れた。


766 : 王の帰還 ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:22:33 /WRmM6Vo0

「……!」

 ドフラミンゴの蹴りが少女へと直撃し、後方のコンクリ壁ごと砕きながら粉塵の中へと姿を消した。
 そして当然―――それは彼女の注意が乱から逸れることと同義でもある。

 瞬間、乱は溜めこんだ力を爆発させるように一気に駆け出し、目標たる屍食鬼のマスターへと接近する。
 ただ生者を貪るだけの生死人は、しかし駆け寄る乱を前に動かない……いいや、"動けない"と言ったほうが正しいか。
 20mほどの距離を2秒とかからず踏破して、抜き放った短刀を屍食鬼の首筋へと突きつける。
 ドフラミンゴが作り出した僅か数秒の隙を、見事についた。これがその結果である。

「フッフッフッ、やればできるじゃねェか乱。そうだ、それでいい」

 愉快気に嗤うドフラミンゴの賞賛に、しかし乱の気は晴れない。
 何がやればできる、だ。例え今自分が失敗したとしても、結果は何も変わらなかっただろうに。
 蹴りと同時に放った一本の糸、不可視のそれが屍食鬼の後頭部へと潜り込んだその瞬間に、既に勝負は決していたのだ。
 駆け寄る乱を前に彼女が"動けなかった"理由はそれだ。寄生糸と呼ばれる他者操作の糸。生者とは勝手が違うのか操作の精度は極めて劣悪だったようだが、行動を停止させる程度のことは可能だったらしい。
 粉塵が散らされた視界の先で、必死の形相をした少女がこちらを見つめ何かを叫んでいるのが聞こえる。
 その表情、その感情、その無力。全てが乱にとっては既知のもので。
 ああつまり、守れなかったと言わんばかりのあの姿は、まさしく過去の自分そのものであるように見えたのだ。

「さァて、これを見りゃあもう何も言わなくても分かるな?
 この勝負、お前の負けだ。敗者は黙して勝者に従うのみ。そのくらいの理屈なら、物わかりの悪いお前でも理解できるだろう?」
「……ッ!」
「とはいえだんまりのままじゃあ話は進まねェ。なに、おれは別にお前らを潰したいとか思ってるわけじゃあない。
 さっきも言っただろう、おれ達で手を組まないか? お前らは身の安全を確保できる。おれはお前らを利用できる"立場"がある。お互い悪い話じゃねェ」


767 : 王の帰還 ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:22:58 /WRmM6Vo0

 双方の利を重んじるような口ぶりで、しかし骨の髄まで利用し尽くしてやると言外に滲ませながら提案は続く。
 どこまでも尊大に、世界は己に跪いて然るべきだと心の底から信仰しているように。
 ドンキホーテ・ドフラミンゴの"提案"は、拒否を許さない重圧と共に友奈へと差し向けられて。

 選択の余地を失ってしまった少女は、ただ一言返すだけで精一杯であった。

「あなたは……」
「うん?」
「あなたは、自分なら何をやってもいいと思ってるんですか」
「フッフッフッ、何を言うかと思えば、当然だ。
 いや、より厳密に言うなら、おれがどうこうではなく"お前らが何されても文句は言えねェ"ってほうが正しい」

 そこで一瞬、言葉を切って。

「力のない奴は死に方すらも選べねェ。そして勿論、死んだ後でもだ」

 そこ返答に、友奈は共感も納得もまるで出来なかったけれど。
 それでも、今この場において自分に為せる全ての抵抗は意味を失ったのだと悟った。


 ―――勇者部五箇条、そのひとつ。
 ―――その日、諦めることを知らないはずの勇者は、たったひとつを諦めた。


【D-3/路地裏/1日目 午前】


【乱藤四郎@刀剣乱舞】
[令呪]三画
[状態]疲労(小)、魔力消費(小)
[装備]短刀『乱藤四郎』@刀剣乱舞
[道具]なし
[所持金]割と多め
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の力で、いち兄を蘇らせる
1:魂喰いを進んで命じるつもりはないが、襲ってくる相手と聖杯戦争の関係者には容赦しない。
2:ランサーを利用して聖杯戦争を有利に進める……けれど、彼女の姿に思うところもある。
[備考]


768 : 王の帰還 ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:23:16 /WRmM6Vo0


【ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]
[道具]
[所持金]現在は持ってきていない。総資産はかなりのもの
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲得する。
1:ランサーと屍食鬼を利用して聖杯戦争を有利に進める。
2:『新市長』に興味がある
[備考]



【佐倉慈@がっこうぐらし!】
[令呪]三画
[状態]理性喪失、魔力消費(中)、寄生糸による行動権の剥奪
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:?????
[備考]
※慈に咬まれた人間は、マスター、NPCの区別なく彼女と同じ状態になります。
※彼女に咬まれて変容した者に咬まれた場合も同様です。


【ランサー(結城友奈)@結城友奈は勇者である】
[状態]迷い、ダメージ(中)
[装備]
[道具]
[所持金]少量
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの為に戦う
1:ライダーは信用できない。けど……
2:マスターを止めたい。けれど、でも――
[備考]


769 : ◆GO82qGZUNE :2016/02/03(水) 13:23:35 /WRmM6Vo0
投下を終了します


770 : ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 18:36:43 jo8oSajc0
みなと&ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)、直樹美紀&バーサーカー(アンガ・ファンダージ)を予約します


771 : ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:10:28 jo8oSajc0
投下します


772 : 機神英雄 ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:12:12 jo8oSajc0


「だから―――ねえ、きみは誰?」

 ぴしり、という、何か硬質のものが罅割れたような音が聞こえた。
 無論、ガラスか何かが砕けたわけではない。聴覚で捉えた音というにはどこか曖昧で、目に見える範囲ではガラスも何も砕け落ちてはいない。
 ならばこれは幻聴なのだろうか。いいや違うと、直樹美紀は空白的な一瞬の忘我から立ち直り思考する。
 確かに今、自分は何かが変質した音を聞いた。正体は分からない、何物か。恐らく物質的な音響ではないのだと、直感ではあるが当たりをつける。

 美紀は沈黙を保ったまま、じりと体勢をたわませ視線を叩き付ける。明らかに歓迎されていないといった風体の美紀を前に、しかし眼前の少年は全く動じていない。
 互いに言葉はなかった。最大限に警戒する少女と、自然体のまま相対する少年。老朽化により崩れた天井からは木漏れ日が差し込み、あたりは朝の陽気に包まれている。
 それはまるで、どこまでも恍けた様子の少年にこそ相応しい情景だったのかもしれない。少なくとも、敵意と殺意を剥き出しに前斜体勢を取る美紀に、この暖かな陽だまりは、到底似合うはずもなかった。

「……そんなの、今さら尋ねることでもないでしょ」

 散々に迷って、返したのはそんなありふれた言葉だった。
 問い返さなくとも、少年の正体など当の昔に悟っている。こんな寂れた廃墟に、わざわざ出向くような奇矯な人間が多くいるはずもない。何より、美紀の背後に控えるバーサーカーが、明らかに殺気立っているのが背中越しにも感じられるのだ。
 だから油断はしないし懐柔なんてされてやらないと、努めて気を強く持つよう自己暗示している。何より、自分はついさっき、他ならぬこの少年に"何か"をされたのだから。

 そう、それは眼前の少年が微笑みかけると共に投げかけた、とある問いを聞いた瞬間に。
 自分は誰だという、聖杯戦争の参加者としては質問にすらなっていない問いかけを認識したその瞬間に。
 自分の中の何かが罅割れる音を。自分の思考が"自分のものではなくなる"ような感触を。
 美紀は確かに、感じることができてしまったから。

 背後のバーサーカーを顕現させ、睨む。相手の意図がどうであろうと、こちらに譲歩や撤退の文字はない。


773 : 機神英雄 ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:12:44 jo8oSajc0

「そうかな。僕としては少し話しておきたいこともあったんだけど」

 叩きつけられる殺意の嵐。空間さえ歪んでいるのではないかと錯覚するほどの魔性の圧。
 比喩ではなく大気が振動するほどの鬼気を一身に浴びせられてなお、少年の不動は揺るがない。声には恐れも焦りも、一切が感じられない。
 だけど一つだけ、変化した部分があった。それは、顔。
 絶やすことなく浮かべられていた笑みが、すっと抜け落ちたように消えてなくなっていた。今や少年の表情は能面のように無機質なものとなっている。
 なまじ端正な顔つき故に、それが怒りや敵意に満ちた時は並み以上の圧力を発する。まして向けられるのが一片の曇りもない殺意ともなれば、およそ常人がたじろぐほどの暴力と成り果てるのだ。

 無意識に後ずさる美紀を前に、少年の傍らから黒い影が伸びるように人型を形作った。
 現れたのは長身痩躯の男の姿。纏う軍服は旧ナチスのものだろうか、首から黒金の長布をはためかせるその威容は、一言"鋼"。
 一部の隙もない鋼鉄で編まれたかのような男だった。巌が如き面で静かにこちらを見たというただそれだけで、およそ理性と称せるものが消え失せているはずのバーサーカーですら気勢を削がれるほどの、それは爆縮された戦意の集合体。
 条理を完全に逸脱した、人の形をした戦鬼の姿がそこにはあった。

「……ッ!」

 決して挫けてはならぬと、願いと戦意を糧に支える精神が、しかし脆くも崩れる寸前にあった。
 それほどまでに、眼前のサーヴァントが発する存在圧は強大だった。強固、あるいは重厚。身に纏わりつく大気が鉛の質量で以て自分を押しつぶすような感覚さえ覚えて、それでも美紀は恐怖で鈍麻する思考を現状出来得る限り最大限で働かせる。
 黒のサーヴァント……視認できるステータスはバーサーカーとほぼ同等、魔力と幸運ではこちらに分がある相手だ。スキルや宝具次第ではあるが、ある程度ならば互角以上に戦えると言っていいだろう。
 つまり、勝算は十分にある。ならば退く理由はなく、聖杯獲得を目指す以上はここで叩き潰さねばならない相手であることに疑いはなかった。

「そう、僕たちと戦うつもりなんだね」

 少年が発する言葉すら、最早耳には届いていない。
 軋む視界と霞んでいく思考を瀬戸際で食いとめながら、それでも美紀は命を下す。
 すなわち―――

「殺して、バーサーカー!」

 眼前の敵を撃滅せよという、狂戦士にとって唯一至高の行動選択。
 声にはならない叫びを響かせながら、バーサーカー―――アンガ・ファンダージは、黒のサーヴァントに数倍する巨躯を銃砲火器の如く突撃させたのだった。





   ▼  ▼  ▼


774 : 機神英雄 ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:13:26 jo8oSajc0





「それじゃあ任せたよ、ライダー」

 言うが早いか、少年―――みなとは金色の杖を片手に跳躍、そのまま上方へと垂直飛行を果たす。
 反瞬にも満たない僅かな時間で崩れた天井を突っ切ると、断面を晒すガラスの縁に軽やかに着地する。
 みなとはマスターとしては破格の存在だ。その身に有する魔力は膨大の一言に尽き、現状は多少の制約こそあれど、宿す魔力を十全に扱うことなど造作もない。
 それでも、サーヴァントという暴威に立ち向かえるほど、彼は常識外の存在ではない。マスターはあくまでマスター。サーヴァントの相手は同じサーヴァントに任せるのがセオリーであり、故に彼は戦闘開始の合図と共に一目散に退避したのだ。

「……とはいえ、これはちょっと拙いかな」

 軽い嘆息をひとつ、みなとは手にした杖を下げ、眼下の光景を見下ろした。
 そこはまさしく異界だった。寂れた植物園だった場所は、空間が捲れるようにその景色を一変させ、今や紫に染まる不毛の大地と化していた。
 異形のバーサーカーを中心に急速に変質していく世界。既に朝の木漏れ日などその存在を抹消され、暗闇に翳る異界の大地が広がっていく。恐らくは環境改変のスキルか。拙いと危惧する所以はまさしくそれのことで、世界を塗りつぶす力はライダーに聞く"覇道"のそれとも酷似していた。
 そしてそれだけではない。地上はおろか、みなとがいる高所より更に上、天上までもが異界の侵食に晒されているのだ。
 快晴だった空は鳴りを潜め、異常気流が地上にまで押し寄せみなとの体を容赦なく打ち据える。未だ直立姿勢を保ってはいられるものの、徐々に圧力を増す気流を鑑みれば、そう遠くないうちに並大抵のものでは身動きが取れないほどの乱気流に見舞われることは自明の理であるだろう。
 故に、みなとはこの戦場に手を出すことはできない。荒れ狂う魔瘴の嵐に囲まれて、そこは既に第一線級の死地と化していた。

「■■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!」

 乱気流の中心、紫影の中央に坐する狂戦士は異形の咆哮と共に八つの球体を射出する。
 ビットのようなそれは、まさしく外見を裏切ることのない生体武装だ。高密度の魔力オーラを纏ったそれは高速で飛行、旋回すると同時にライダーへと殺到。光学的なレーザーを放ち、あるいは自身が突貫することにより攻撃を仕掛けてくる。
 その動きは最早、常人の目には影も映るまい。辛うじて聞こえてくる爆裂音が、ビットの動きが音速を遥か超越したものであるという事実を示している。レーザーが放たれるごとに大地は深く抉れ、熱量に耐えきれず地表が硝子化して砕け散る。

 凄まじいまでの並列操作能力。ならば操作主の常として、ビットの主たるバーサーカーは単なる木偶と化しているのであろうか。
 違う、そんな都合のいい事実など何処にも存在はしない。いいやむしろ、この場合においてはバーサーカーこそが最大の脅威であるだろう。人の身長ほどの太さを持つ双腕からは、長大なレーザーソードが現出し縦横無尽に空間を断割している。
 輝く双刀が空間に乱舞する様は例えて舞踏。それも、触れればただで済むことはない、万象焼き尽くし切断する死の舞踏だ。
 四方八方に駆け回るビットを縫うように放たれる斬撃は、既に凡百の英霊ですらも視認することは叶わない域に達していた。単に空間に残留する無数の光の線としか、余人の目には映らないであろうことは明白である。


775 : 機神英雄 ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:14:02 jo8oSajc0

 地盤ごと押し砕いて暴れ狂うその姿は、まさしく狂獣。光の剣閃がひとつ奔る度、そこを中心に蜘蛛の巣状の亀裂が大地に刻まれる。
 ただひたすらに強く、強く、どこまでも無尽に強大な様は狂戦士の名に相応しい。巻き上がる巨大な瓦礫を吹き散らし、アンガ・ファンダージは破壊の限りを尽くしていた。

 ならばこそ疑問がひとつ。それだけ巨大な力を手にしながら、何故彼は未だに破壊を止めようとしないのか。
 並みの英霊ならば即死、そうでなくとも一撃の度に十度は死ねるだろうこの惨状において、もはや決着などとうの昔に付いているだろうに。
 彼は破壊を止めない。力の尽きるまでその剣を振るい続ける。死ね、死ね、疾く死に絶えろと怨嗟の咆哮を轟かせながら致死の傷跡を刻み続ける。

 何故? そんなことは決まっている。
 アンガ・ファンダージの暴威が渦巻く中心、破壊と惨禍がまさに入り乱れる死の空間において。
 黒のサーヴァント―――マキナと呼ばれる黒騎士は未だ膝をついてはいないのだから。

「―――」

 激烈の殺意を放出するアンガ・ファンダージとは裏腹に、マキナはどこまでも静謐の佇まいだった。
 ビットも、レーザーも、剣舞も、事ここに至る瞬間まで何一つ彼の肉体を捉えることはできていない。紙一重の回避を以て、あるいはその鉄拳で弾き飛ばして、迫りくる死の舞踏の一切をマキナはいとも容易く振り落していた。
 その所業、熟達という言葉すら生温く、絶技の名を冠して余りある異常事態であることは誰の目にも明らかだ。戦闘技能、戦術眼、技量に経験に勘の良さ。その全てが常軌を逸して高すぎる。秘境において千年の研鑽を積み重ねた剣聖ですら、この業を前にしては児戯と霞んでしまうだろう。
 マキナの動きはファンダージと比べて決して速いものではない。その拳は超常の域には十二分に達してはいるものの、サーヴァントとしては特別目を見張る等級というわけではない。にも関わらず十の攻撃を一の動作で跳ね返し、百の乱舞を十の迎撃で打ち落とすその魔業は一体何であるのか。
 仮にこの戦闘を認識できる者がいたならば、アンガ・ファンダージというバーサーカーではなく、マキナの手繰る拳技にこそ狂気を感じ入ったことだろう。それほどまでに、この男の修練の密度は狂的であった。どれほどの渇望をその身に秘め、どれほどの執念で鍛え上げればそうなるのか。最早凡夫ではその底を推し量ることさえできはしない。

 猛り狂う闘争の渦の只中にありながら、しかしマキナの歩みはいっそ不自然なほどに遅かった。疾走ではなく、正しく"歩み"。鳴り響く軍靴の音は、鋼鉄の質量を以てアンガ・ファンダージへと接近していく。
 一歩、一歩と踏みしめるように。巻き起こる剣閃の波濤をそよ風と受け流しながらマキナの進軍は止まらない。尚も密度を増していく怒涛の大瀑布すら、その歩みを止めることは叶わない。
 両者の相対距離が徐々に削られていく。閃光が激突する轟音すら聞こえないと錯覚するほどの静謐さで、モーゼの十戒が如く暴威の嵐を真っ向切り拓いていく。

 そして、手を伸ばせば触れられるほどに、両者の間合いが縮まって。

「―――ッ!」


776 : 機神英雄 ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:14:33 jo8oSajc0

 その時初めて、マキナは戦闘態勢を取り。
 瞬間、世界が激震した。

 地を踏み割る震脚が打たれ、今までファンダージが刻んできた傷跡に倍する範囲が、一瞬にして微塵と化した。
 放たれた拳はたったの一度。舞い上がる砂塵を貫いて、振り抜かれた拳が叩き込まれる。インパクトに付随して極大の衝撃波が発生し、半秒ほどの静寂の後にファンダージの背を貫通して一直線上の悉くを破壊する。
 それはただ相手を殴って壊すという、何ら工夫も特殊性も介在しない純然たる暴力の究極系。原初の闘争に立ち返ったその一撃は、もはや冗談でしかない重量差さえも容易に覆す。

 アンガ・ファンダージの巨躯が、あらゆる動作を停止させて崩れ落ちた。両腕の光剣は立ち消え、浮遊するビットは悉く地に落ちる。
 純白のドレスのような外装は砂塊が崩壊するように細かな粒子となって流れ落ち、後に残ったのは下腹部に存在した巨大なコアだけ。
 それすら、一切の光を失って黒く澱んだ表面を晒すのみ。何の抵抗もできず、何の反撃もできず、ただ無為に落ちた残骸は、いずれ本体と共に消え行く運命にあるだろう。
 舞い散るガラス片が陽光を反射して燦然と煌めく。決着は植物園そのものが崩壊する音と共についたのだった。

「終わったみたいだねライダー。我儘を言うなら、できればこの場所は壊さないで欲しかったんだけどね」
「……要らん拘りなど捨てておけ」

 滑るように降りてくるみなとに、この時初めてマキナは口を開いた。その威容と寸分違わず、声すらも鉄で出来ているのではないかと思える重さだった。
 主の漏らす不満を一蹴し、徹底して理を優先する様はまさしく鋼鉄機械。ただひとつの目的のために拳を振るい、あらゆる敵を打ち砕いていく様は、まるで巨大なティーガー戦車の如し。
 故にこそ、彼ら主従は相反する二つの滅びへと向けて進撃するのだろう。聖杯を目指し、怨敵の殲滅を目指し、他の全てを切り捨てて。

「さて、確かサーヴァントを失ったマスターは長くここにいられないってことだったけど」

 涼やかな顔つきのまま目線を横にずらすみなとの先には、今にも駆け出し逃げようとする少女の姿があった。
 既にバーサーカーの手による異常気象は鳴りを潜めている。遮蔽物の喪失と合わせ、良好となった視界に彼女の隠れる場所などなかった。

「念には念を、だね。それにまだ聞きたいこともある」

 呟くみなとの前方に、可視化された魔力が凝縮していく。振られた腕から放たれた魔力弾は放物線を描いて美紀の体を追い越し、前方地面へと着弾。小規模の爆発を起こす。
 響く轟音と爆風に、美紀の体は駆けだすエネルギーをそのまま跳ね返されたかのように後ろへと吹っ飛び、受け身を取ることも許されないまま地面に叩きつけられた。


777 : 機神英雄 ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:15:10 jo8oSajc0

「つ、ぅあ……!」
「きみの名前は……ああ、もう聞く必要はないかな。きみだって分かるだろう?」

 うつ伏せに咳き込み美紀を、みなとは睥睨して言葉を紡いだ。その言葉が示す意味は、誰の目にも明らかだった。
 美紀の使役するバーサーカーは倒された。美紀とてそれを目撃し、勝てないと踏んだからこそ逃走へと移行したのだ。結果としてはこうして倒れ伏すことになってはいるものの、即座に状況を判断して最善の行動を取れるあたり、この少女は決して馬鹿ではない。
 ならばこそ、現状をこれ以上なく正しく理解しているはずだ。サーヴァントを失ったマスターは半日ほどでその存在を失ってしまう。彼女にこれ以上の戦いは不要であり、故に抵抗もまた無意味であるのだと。

「きみは負けた。別に勝利を誇るつもりはないけど、これは厳然たる事実だ。そしてサーヴァントを失ったきみに未来はない。
 だから最後に"お願い"だ。きみが今まで持ち合わせた情報を、僕に教えてはくれないかい?」

 薄く笑みさえ浮かべて尋ねるみなと。当然だが、お願いなどというのは言葉だけであり、実質は尋問のそれであることは最早言うまでもなかった。
 無論、嘘を吐かれるという可能性だって十分に考慮している。しかし生死の瀬戸際にあって、逃げ場もなく相手側にはこちらを殺せる手段があるという状況下で、歴戦の戦士ならばともかく市井の女生徒が強かに立ち回れるかと言えば、それは否だとみなとは考えていた。
 これはエンジンのかけら集めなどとは違う、本物の殺し合いだ。ならば持ちえる戦力を失ってしまえば正常な判断もつかなくなるだろうと。そう考えたこと自体は決して間違いではなかったのだろう。

 彼の不運を挙げるとすれば、それは四つ存在する。
 一つは、彼自身殺し合いの経験などなかったということ。
 二つに、その境遇から来る対人経験の少なさ。それ故に眼前の少女の考えを読み違えてしまったこと。
 三つに、直樹美紀という少女は、聖杯戦争とはベクトルこそ違えど最低の地獄に身を置いていたのだということ。
 そして、第四に―――

「……そんなの、私が答えるわけない」

 言葉と同時に、みなとの背後から巻き起こる魔力嵐。
 ここで彼らの対応の差が現れた。マキナは魔力の発生源―――打ち捨てられたコアへと足を向け。
 みなとはほんの一瞬、美紀から注意を逸らし。
 美紀はその隙をつき、脱兎の如く駆け出した。


778 : 機神英雄 ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:15:32 jo8oSajc0

 みなとが犯した不運の四つ目。それは、バーサーカーの特性を見誤ったこと。
 アンガ・ファンダージが有する宝具とは、すなわち復活。一度倒された瞬間に発動し、あらゆる損傷を治癒し全快するという戦闘続行の究極。
 吠え猛るファンダージを中心に再度の環境変化が発生。急速に塗りつぶされていく色彩が、破壊の咆哮と共に狂戦士の復活を如実に示していた。

「バーサーカー、足止めを!」
「っ、ライダー!」

 一瞬の判断の差が明暗を分けた。対応の遅れたみなとの魔手から美紀は逃れ、悪あがきに放たれた魔力弾はあらぬ方向に飛んでいく。
 マキナはファンダージの相手をせざるを得なくなり、必然サーヴァント同士の戦闘に巻き込まれればみなととて満足に動くことは叶わない。
 この戦いは完全に美紀の負けだ。彼女とバーサーカーは黒のライダーには敵わなかった。みなとの飛行魔術を見る限りは走って逃走もまず不可能。
 ならば、せめて令呪を使う隙さえできれば。
 それだけで、少なくともこの場を凌ぐことができる―――

「甘いぞ!」

 ―――そんな小手先の戦術など、修羅道の戦鬼たる鋼の男には通じない。
 迎撃に放たれた拳は前回の内容をなぞるかのようにファンダージへと着弾、その巨躯をただの一撃で沈める。一度の敗死で獲得した拳への耐性すら、万物を貫通する機神の求道には何の抵抗にもならない。
 如何なサーヴァントであろうと、如何な令呪であろうと、死に絶えるこの瞬間にマスターを抱えての逃走などできはしまい。

「―――令呪二画で命じる」

 だが。
 だが、ことアンガ・ファンダージというサーヴァントならば。

「バーサーカー!」

 不可能であるという、その条理を覆すことも可能である。

 みなとが我を取り戻した瞬間には、美紀はおろか、バーサーカーの姿さえも何処にもなかった。
 辺りには、打ち砕かれた戦闘の残り香だけが、陽光に照らされた瓦礫と共に残されるだけだった。





   ▼  ▼  ▼


779 : 機神英雄 ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:15:59 jo8oSajc0





「逃げられた、か」

 右手に持った杖を下げ、みなとはさして残念でもなさそうに呟いた。
 逃がしてしまった、それは事実だ。一瞬の機転で絶体絶命の危機を逃れた少女については素直に賞賛するし、次こそはという気持ちもある。不甲斐ない我が身を恥じ、もうこのような失態を演じることはすまいという自戒の気持ちもある。
 けれど、彼女を逃してしまったということそれ自体は、別段気にしてはいなかった。

 少女の手繰るバーサーカーは、相性という面では自分のライダーとは最悪と言っていいだろう。
 能力値、技量、そして両者のスキル・宝具の相性。それらを鑑みて、よほどの不覚を取らない限りは、再度戦闘に陥っても十二分に勝てると断言できる。
 真価を発揮したライダーに、防御や耐性といった手段は一切意味を為さない。そして、復活という至上の継戦能力も、また。

「仕方ないな。でも、次はこうはいかない。
 次に出会ったら、ライダー。その時はきみの"宝具"で確実に仕留めよう」

 ……先の戦闘において、ライダーはその象徴たる死の宝具を発動してはいなかった。手の内の全てを曝け出したであろうあちらとは、持ち得る手札の数が違う。
 油断はしないが、必要以上の警戒もしない。あれは自分たちならば間違いなく勝てる相手であると自負している。如何な敵が相手だろうと、鋼の求道に曇りはない。

 先ほどまで少女がいた場所を一瞬だけ目配せし、みなとは踵を返し振り返ることなくその場を立ち去る。
 その目に、迷いや躊躇など微塵も含まれてはいなかった。


【D-2/廃植物園跡地/1日目 午前】

【みなと@放課後のプレアデス】
[令呪]三画
[状態]魔力消費(極少)
[装備]金色の杖
[道具]
[所持金]不明(詳細は後続の書き手に任せます)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の奇跡を用い、自らの存在を世界から消し去る。
0:どこか休まる場所を探したい。
1:聖杯を得るために戦う。
2:次に異形のバーサーカーと出会うことがあれば、ライダーの宝具で以て撃滅する。
[備考]



【ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)@Dies Irae】
[状態]健康
[装備]機神・鋼化英雄
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得を目指す。
1:終焉のために拳を振るう。
[備考]

・一日目 午前の段階でD-2廃植物園が崩壊しました。周辺の地形も大分崩壊してます。





   ▼  ▼  ▼


780 : 機神英雄 ◆GO82qGZUNE :2016/02/18(木) 22:16:31 jo8oSajc0





「ぐ、あづっ、ハァ、ハッ……」

 戦場となった廃植物園より北方、市街地にて。
 這う這うの体で逃げ延びた直樹美紀は、地面に放り出されると同時、激しく咳き込み倒れ込んだ。
 肉体に圧し掛かる疲労以上に、急速に失われつつある魔力が、その身を蝕んでいた。胸に去来するのは言い知れぬ激痛、活力という活力が外部に吸い込まれていくような感触に、痛みに慣れたと思っていた美紀でさえも痛苦の呻きを漏らさずにはいられない。
 激しく胸を掻き毟り、顔面は食いしばった形相で最早見れたものではないだろう。しかし今の彼女にそんなことを気にする余裕などなく、人目につかない裏路地で散々に悶え苦しんでいた。

 数分か、数十分か。どれだけの時間が過ぎたかは知らないが、美紀のあげる苦痛の声が、にわかに嵩を減らしていった。荒い呼吸で身を起こし、手を付いたまま顔を上げる。脂汗と汚泥に塗れたその顔は、しかし拭えぬ決意に双眸を輝かせていた。

「……逃げ、ないと」

 うわごとのように呟いたそれは、今の彼女を支配する唯一の感情だった。この場より逃げるのだという、それだけが朦朧とする意識を支えるただひとつの意思であった。

 彼女があの危機的状況から逃れることができた理由。それは単に、ファンダージが復活の宝具を持っていたという、ただそれだけの話だ。
 本来、かの宝具は一日につき一度しか発動することはできない。しかし、それはあくまで「原則」の話である。
 令呪とはサーヴァントへの強制命令権であると同時に、その限界さえも超越するブースト効果でもある。それを用いれば、限界速度を越えての移動も、空間転移も、まして宝具の強化とて可能なのだ。
 ならば、ファンダージに架せられた一日一度という制約さえも。
 令呪の補助を以てすれば、捻じ曲げることも可能である。

 令呪一画にて宝具の発動を、もう一画にて逃走を。一度に二画もの令呪を失うのは痛手だが、命を失うよりはよほどマシだった。

「どこか、人のいない場所……逃げ、ないと」

 ふらふらと、美紀は夢遊病者のような危うげな足取りでその場を立ち去った。霊体化して侍るバーサーカーは、その姿に何を言うこともない。
 だが彼女は気付いただろうか。疲労以上に、損傷以上に、その身を蝕む何かがあるということを。

 ―――桃の煙に揺蕩う瞳がその背を射抜いていることを、ついぞ彼女が知ることはなかった。


【C-2/裏路地/1日目 午前】

【直樹美紀@がっこうぐらし!】
[令呪]一画
[状態]?????、疲労(大)、魔力消費(極大)、精神疲労(大)、体のあちこちに打撲と擦過傷。
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]無いに等しい
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、世界を救う。
0:今は逃げる。それ以外考えられない
1:サーヴァントやマスターを倒すことには躊躇しない。
2:浮浪者狩りから何とかして逃れたいが、無闇矢鱈に人を殺したくはない。
[備考]


【バーサーカー(アンガ・ファンダージ)@ファンタシースターオンライン2 】
[状態]霊体化、宝具『進化する狂壊(アルティメット・クエスト)』発動済み。
[装備]
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:?????
1:?????
[備考]
・ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)との戦闘で、打撃への耐性を獲得しました。


781 : 名無しさん :2016/02/18(木) 22:16:56 jo8oSajc0
投下を終了します


782 : ◆p.rCH11eKY :2016/02/19(金) 16:32:07 Yic6R9nc0
投下お疲れ様です!

暫くリアルの都合によってご無沙汰していました、申し訳ありません。
ネット環境があれば良かったのですが……
それはともかく、これからまたぼちぼち更新していこうと思います。取り急ぎ感想をば。

>>熱病加速都市
これは濃密な考察回。
施設を利用した舞台設定への分析がお見事でした。
背景考察などの件に関しては問題ありませんし、むしろありがたいです。

>>暗殺の牙
むぎのん組が落ちたか……やはり鱒戦力最強の主従は伊達じゃないですね。
ひっそり影で暗躍するハサン先生はアサシンの面目躍如といったところか。
濃密で見所の多い戦闘回、ご投下ありがとうございました。

>>王の帰還
ドフラミンゴが強い! 七武海の一角で高度な覇気使いということもあって、実に隙がない立ち回りでした。
友奈は本当に追い詰められてますね……鱒が鱒だから仕方ないといえばそれまでですが。
ドフラミンゴの狡猾な言動も非常にらしいもので、お見事でした。

>>機神英雄
相性最悪の二騎の激突結果は、自明のものとなりましたね。
こればかりは終焉の拳が相手である以上どうしようもないですが。
みーくんは異変は起こるわ令呪消費するわで踏んだり蹴ったり。これから打開できるかどうかに懸かりそうです。

アンジェリカ、セイバー(針目縫)
バーサーカー(ウォルフガング・シュライバー)
浅野學峯、バーサーカー(玖渚友)
で予約します。


783 : ◆p.rCH11eKY :2016/02/24(水) 22:10:54 xCoBCUjE0
延長しておきます。


784 : ◆GO82qGZUNE :2016/02/29(月) 22:04:13 KDI35f8A0
笹目ヤヤ、ライダー(アストルフォ)予約します


785 : ◆p.rCH11eKY :2016/02/29(月) 22:30:32 jU7qn/Eg0
一先ず書けている分だけ投下します。


786 : 白狼戦線 ◆p.rCH11eKY :2016/02/29(月) 22:31:20 jU7qn/Eg0

 海の彼方に佇む威容は、沖より遠く離れたこの地でも何ら問題なく視認できるものだった。
 それほどまでにその海上に浮かぶ黒い城は巨大で、それ以上に人の心を埋め尽くす存在感を孕んでいた。
 あれだけの真似をすれば、よほど察しの悪い馬鹿でも聖杯戦争の関連者であると気付いてしまう。
 そんな危険を冒してまでも、あのように目立つ形で自らの存在を誇示する――聖杯戦争の定石から外れていることなど、もはやあらためて語るまでもないだろう。
 彼ら以外の全てのマスターもサーヴァントも、あんなことをする奴は馬鹿だと切って捨てるに違いない。
 だが、同時にとある感情が見据える者達に沸き起こるのもまた事実だった。
 あの黒い威容は、あらゆる人間に、あらゆる英霊に、平等に途方もない威圧感を感じさせる。
 蛇に睨まれた蛙のような、何か形容しがたい天敵を前にしたような、漠然とした不安に駆られるのだ。

「……不吉だな」

 アンジェリカは呟くと、遠方の城へ向けた視線を溜息と共に外した。
 あれだけ目立つのだから、袋叩きにして脱落させてしまうのも選択肢の一つだとは思う。
 しかし、アンジェリカは誰とも分からない馬鹿の誘いに乗ってやるつもりはなかった。
 彼女のサーヴァントたるセイバーが、上陸までに何らかの射撃攻撃を与えられた際には不利だということもある。
 されど、それ以上に……

「あれれ〜? もしかして、怖いの〜?」

 煽るように実体化してケタケタと笑うのは、見てくれだけは可憐な少女の形をした悪魔だ。
 世界を救う大義を掲げる自分に自惚れたことは誓って一度もない。
 が、それでもよりにもよってこんな邪悪存在と組まされるとは、神の悪意というものを信じたい気分になった。
 不平を垂れても仕方がない以上、アンジェリカはいちいちムキになって応じるような真似はしない。
 
「セイバー。貴様は、何も感じないのか」
「何が〜?」
「とぼけるなよ。あの黒い何か――恐らくは艦だろう――を見て、何も思わんのかと訊いている」

 その問いに、セイバーのサーヴァント。
 もとい針目縫は、苦笑して肩を竦めた。

「まぁ、お近付きにはなりたくないよね」
「そういうことだ」

 針目は生前、忌まわしい敗北を喫している。
 生命戦維という高位存在を巡った人類との対立の末に、彼女は敗れた。
 『なんだかよくわからないもの』などという、ふざけた概念の前に、彼女達は敗北したのだ。
 どれほどの屈辱だったことか、思い出しただけで腸が煮えくり返る思いだが、それはさておいて。
 あの軍艦からは、どうにも針目も不吉なものを感じずにはいられなかった。
 こう書けば些細なことに見えるが、針目縫という存在が敵対者に対して忌避感を覚え、接触を回避する選択肢を取るという時点で、彼女を知る者はその異様性に気付く筈である。


787 : 白狼戦線 ◆p.rCH11eKY :2016/02/29(月) 22:31:56 jU7qn/Eg0
 
 恐れた訳ではない。
 マスターが戦えというならば、針目は文句を言いながらも行くだろう。
 それでも出来れば、関わりたくない。

 何故か。
 嫌な予感がするからだ。
 あの威容を遠目に見ているだけで、霊核の底からひしひしと、あれは自分にとっての鬼門だという本能的な警鐘が聞こえてくるのがわかる。
 あれは多分、『なんだかよくわからないもの』だ。
 針目縫にとっての鬼門であり、同時に、いずれ踏み潰さなくてはならない記憶の一つでもある。
 だがそれは、決して今じゃない。
 

 針目は一見享楽的に見えるが、実際は別だ。
 というのも、アンジェリカ以上に彼女の方が後がない。
 アンジェリカは元の世界に帰還することさえ叶えば、聖杯に頼まずとも世界を救える可能性が微量なれども在る。

 針目にはそれがないのだ。
 彼女の敬愛する母は既に散り、生命戦維をめぐる闘争には完全に終止符が打たれた。
 聖杯の力を使わない限り、針目と母、鬼龍院羅暁の望みが叶うことはもう永遠にないのだ。

 
 何としても、針目縫は聖杯を手にしなくてはならない。
 気紛れに暴れ回って、笑いながら遊んでいられる時間はもう終わった。
 そういう点を含めても、彼女はあの『馬鹿』を後回しにする判断を下した。
 
「それで? 今日はどうするつもりなのさ、マスター・アンジェリカ?」
「策敵し、敵を殺す。それだけだ」
「脳筋だねえ」
 
 アンジェリカと針目縫の性格面の相性はまさに最悪といえる。
 片や世界の救済を、片や実質的な世界の滅亡を願っているのだから無理もない話だが、戦力面では彼女達は隙のない主従でもあった。
 アンジェリカは、マスターとしては破格の強さを有する。
 英雄王のクラスカードこそ持ち込めなかったものの、それでも生半可なマスターでは、無銘のクラスカードにすら太刀打ちは出来まい。
 だから、彼女達はこれでも成り立っているのだ。
 どれだけちぐはぐで咬み合わない歯車だったとしても、戦力の高さというただ一点だけで成り立っている。


788 : 白狼戦線 ◆p.rCH11eKY :2016/02/29(月) 22:32:37 jU7qn/Eg0




「……!」

 それに気付いたのは、アンジェリカだった。
 こめかみに手を当て、眦を顰めて冷静に事態を確認する。
 その動きから、針目も何が起こったのかを察した。
 此処が聖杯戦争という舞台である以上、答えなど一つ以外にない。

「サーヴァント?」
「ああ。こちらへ接近しつつある。察知されたようだな」
「都合がいいじゃない」
「……そうだな」

 アンジェリカは、静かに抜き放ったクラスカードにより、名もなき刃を具現化させる。
 彼女やその同胞に言わせれば、省みる必要のない、価値の低いカードだが、腐っても英霊の刃だ。
 当たればサーヴァントだろうと傷付けるし、事実として彼女はそれで敵に深手を与えたこともある。
 針目のサポートに回るなり、マスターの迎撃に回るなり、出来ることには暇がない。
 それを携え、針目は半身の欠けた片太刀の鋏をぶんぶんと素振りしながら、彼女達は『受けて立つ』事にした。

 
 ――開幕で響き渡ったのは、破裂する銃声。共に舞い飛ぶ、弾数数百を優に越す魔弾の雨霰。

 
 豪雨の類を連想させるそれは、アンジェリカ達をして驚嘆せざるを得ないものだった。
 わずか一瞬の内にこれだけの手数を発射できる性能も然ることながら、その威力もまた凄まじい。
 現れたサーヴァントが担う武器は何処からどう見ても単なる二丁拳銃にしか見えないにも関わらず、その手数は機関銃さえ凌駕しており、威力に至っては散弾銃(ショットガン)のそれを完全に超越している。
 アンジェリカは防御の為に無銘の槍を振るい、どうにか難を逃れて、槍が中心からへし折れるのを見た。
 先の銃弾だ。あれを止めただけで、程度が低いとはいえ、クラスカードの刃が簡単に決壊してしまったのだ。
 
「やあ、初めまして」

 ぱちぱちと柏手を叩きながら現れた英霊は、白髪に眼帯の似合った、見ようによっては少女的な外見をした少年だった。その華奢な体格も相俟って、両手の銃が余計にアンバランスな印象を見る者へ与える。
 よもや、その見た目で彼を侮る者など存在するまい。
 戦場に精通する者ならば尚更だ。

「あははは! 随分可愛い子が来たんだね〜。ボク、大丈夫? おうち分かる?」

 針目の軽口に淀みはないが、彼女も同じことを思っているだろうとアンジェリカは感じた。


789 : 白狼戦線 ◆p.rCH11eKY :2016/02/29(月) 22:32:56 jU7qn/Eg0

 この少年を見て思い浮かぶ単語は――悍ましい、の一言だ。
 少なくとも彼は、間違いなく自分達にとって格上の相手だった。
 第一に、何をどうしたらこれほどに濃密な『死』を背負えるのかがとんと分からない。
 死という災厄概念が服を着て歩いているような、それほどの桁違いさを感じさせる。
 彼に殺された者は、きっと百や二百では利かないに違いない。
 数千、数万、……下手をすればそれ以上の人数が、彼の手に掛かって地球上から消えている。
 
「お喋りに付き合うのもいいんだけどさ、僕のマスターはそれを望んでないみたいなんだ。ちっちゃい子なんだけどねぇ、これがなかなかどうしてキマってる。だからこそ彼女は僕を喚べたのかもしれないな」
「……何が言いたい?」

 アンジェリカの投げた問い。
 それへの返答は、宝具の発動という形で成された。

「――君達に明日はない、ってことさ」

 魔力が集約する。
 溢れ出す、怨嗟の気配。
 魂の嘆きと恐怖の叫びが、空間へ溢れ出す。
 なんだ。
 これは。
 なんだ、これは。
 アンジェリカすら、こんなものは見たことがない。
 ――滅び行く世界の中にすら、こんな地獄絵図が果たしてあったか。
 それほどまでに、桁が違った。次元が違った。
 だから――

「殺せ、セイバーッ!!」

 アンジェリカが叫ぶと同時に、針目は地面を弾けさせるロケットスタートで少年へ吶喊する。
 その速度は時速数百キロに達しており、生半可なサーヴァントでは対応すら出来ないほどのものであったが、白髪隻眼の殺人鬼、餓えた狼を相手取るには余りにも不足過ぎた。
 彼にとってそれは、鳥が止まって囀り始めるほどに遅く、陳腐なものとしか見えない。
 それを証明するように、嘲笑うように、少年――ウォルフガング・シュライバーが跳ね飛んだ。
 
「ちぃ!」
「どうしたの、ダンス・マカブルの方がお好みだったかい?」

 嘲笑いながら、シュライバーの鋭い蹴撃が針目の持つ刃へと突き刺さった。
 超質量が衝突したような衝撃。
 踏み堪えたまではいいが、駄目だ。


790 : 白狼戦線 ◆p.rCH11eKY :2016/02/29(月) 22:33:16 jU7qn/Eg0

 アンジェリカは悟る。
 そして予定調和のように、次の瞬間、懐へ潜り込んだシュライバーの穿手が針目縫の腹腔へと突き刺さった。
 ぞぶぞぶと肉を掻き分け、それは更に奥へと侵入する。

「――あれ」

 だが、それは愚策だった。
 針目の口許が歪み、その手は瞬く間に眼前の少年を斬首すべく動き出す。
 ぶおんと響く、空気を切り裂く音色。
 
「なぁんだ、つまらない。君、そもそもまともな人間じゃないんだね」

 少年の首の皮一枚というところまで刃が迫ったところで、針目の視界がぐるりと逆に回転する。
 シュライバーは鷲掴みにした彼女の腹を起点に、大きくその体を投げ飛ばしたのだ。
 空中へ投げ出された痩身がどこかへ着地するのを待たずに、シュライバーの銃撃が逃げ場のない針目へと降り注いでいく。その様は、まさに蹂躙としか言いようのない光景であった。
 一切の途切れなく打ち込まれる魔弾に、墜落することすら許されないのだから。
 
「これが良いんだろ。ほらほらァ、嬉し涙は? はしたないよがり声は? ……つまらないなあ、そんなんじゃお客さんは喜ばないよ。君、玩具にするには少し面白味が足りないなあ」

 針目縫は、英霊になる以前から人間ではない。
 その特性が顕れたのが彼女の宝具、『生命戦維の怪物(カヴァー・モンスター)』だ。
 一定ランク以上の宝具を用いた攻撃でない限り、とある例外を除いて針目を抹殺することは不可能だ。
 だからこの場でウォルフガング・シュライバーという強敵に彼女が嬲り殺されるということは、少なくともない。
 だがそれは、決して事態の好転を意味してはいなかった。
 猿でも分かる理屈だ。
 サーヴァントを殺せないのなら、マスターを狙えばいい。

「悪いね、死なないって奴は見飽きてるんだ」

 ぐるりと。
 その、視線/死線が。
 ――向いた。

「だからさあ、君はもうちょっと面白い声で啼いてくれよ。
 そうじゃないと、僕としてもやり甲斐がないからね――」


791 : ◆p.rCH11eKY :2016/02/29(月) 22:33:54 jU7qn/Eg0
投下終了です。
再度同じ面子を完成して、書き上がり次第続きを投下させていただきます。


792 : ◆GO82qGZUNE :2016/02/29(月) 23:38:58 KDI35f8A0
>白狼戦線
投下乙です。シュライバーは相も変わらず狂しておられる……
その残虐性に圧倒的な強さ、初戦でそれに当たってしまったアンジェリカたちは南無ですが、果たしてここからどう挽回してくれるのか。
後半の投下も楽しみに待っております。

そして、予約分を投下します


793 : 旅路 ◆GO82qGZUNE :2016/02/29(月) 23:40:45 KDI35f8A0

 この聖杯戦争における安牌の戦術とは、つまり待ちの構えである。
 そんなことを、不肖14歳少女Aこと笹目ヤヤはぼんやりと思考していた。

 勿論彼女に聖杯戦争のイロハなんてないし、類似したイベントの経験なんて以ての外である。けれど、あくまで常識的に考えれば、この程度の結論など、それこそものの数分で到達できてしまう。
 大勢で勝敗を決するやり方としてはいくつか挙げられるが、今回のはいわば「バトルロワイアル」方式だ。一戦ごとに全力を尽くせばいいトーナメント式や、たった一度か二度全力を出して見初められればいいオーディション式とは違い、サバイバル要素も含んだ生き残りゲームなのだ。
 しかも一旦顔を合わせてからよーいドン、などということもなく、この鎌倉市街地を舞台にした遭遇戦の様式を取っている以上は、それこそ多種多様な戦法を取れる余地が残されている。

 まあ簡単に言ってしまえば、最初から暴れて弱ったところを狙われでもしたら本末転倒だし、逆に他の陣営がそうやって疲弊していくのを戦わずして傍観するのが得策なんだろうと、まあそういうことだ。
 幸いにして今のヤヤは身を隠すにはうってつけの身分というものを所有しているし、なんなら拠点としているホテルにずっと籠りっきりというのも選択肢としては十分アリなのだ。

 そう、アリだったのだが。

「はあ……」

 物憂げな溜息を吐くヤヤがいるのは、拠点のホテルでも、まして他の隠れ家でもなかった。
 太陽が燦々と照りつける往来でトボトボと歩く様は、どう見ても活力溢れる年若い少女としては不釣り合いだった。肉体的にはどうと言うことはないのだが、精神的にちょっと参ってきている。
 隣を見れば、自分のサーヴァントであるライダーが、何が楽しいんだか鼻歌を歌いながらご機嫌に歩いている。お気楽な奴は人生楽しそうでいいわね、などと、ヤヤはほんの少しだけ心の中で毒を吐いた。

「どうしたのさマスター、そんな重ったい溜息なんか吐いちゃって」
「どうしたもこうしてもないでしょ……あんなのが傍にいたら、そりゃ気が滅入るっての」

 答えて再度溜息。思い返すのはここ数日ヤヤの頭を悩ませていたとある出来事。それは、彼女の滞在するホテルの窓からいっそ嫌なくらいまじまじと見ることのできる異常存在。
 遠目からでもはっきりと視認できるほどの存在感を放つ、それは黒鉄の巨大戦艦だった。
 由比ヶ浜沖に悠然と浮かぶそれは、材木座海岸すぐ近くにあるホテルから、それこそ嫌なくらいはっきり見ることができた。ネットでは大戦の亡霊が復活しただの宇宙戦艦がどうだのと好き放題騒がれていたが、自分には分かる。あれは間違いなく、サーヴァントが絡んだものだ。
 その威容、その威圧感。直視せずともぴりぴりと肌に感じられるそれは、最早一介の中学生であるヤヤに耐えられるようなものではなく、正直生きた心地がしなかったものだ。
 むしろ、数日とはいえその威圧に耐えて、かつちょっと憂鬱になる程度で済んだことは僥倖と言えるのかもしれない。無論、それはヤヤの精神が強靭ということではなく、初戦以外でサーヴァントと相対することがなかったために実感が湧かなかったという、それだけの理由ではあったが。


794 : 旅路 ◆GO82qGZUNE :2016/02/29(月) 23:41:19 KDI35f8A0

「あー、あれね。でも別になんかしてくるわけじゃないし、気にすることないと思うけどなー」
「そんなこと言ってられるのはアンタくらいだっての。ああもう、もしかしなくても私ってこの先あんなトンデモ連中と関わって行かなきゃなんないのよね……」
「だからあんまり気にすることないって。いざとなればボクのヒポグリフでこう、びゅーんって飛んで逃げればいいんだし?」
「……ねえ、なんでそんなウキウキ顔なのよ」
「え、だって格好良いじゃない、戦艦」
「うん分かった。もういいわ、アンタに真面目さを期待した私が馬鹿だった」

 えー、と頬を膨らませるライダーをよそ目にヤヤはそっぽを向いた。頬を膨らませたいのはむしろこちらの方だ。
 まあそんなわけで、空気を読まず居座り続ける戦艦から逃げるように、ヤヤはこうして街へと繰り出していた。できるだけ人目を避けたいという考えもあったが、部屋で一人あの気持ち悪い威圧感と戦うよりはずっといい。
 見渡した鎌倉の街は今日も人で賑わい、これでもかと言うくらいに活気で満たされている。そもそもアウトドア派かつ行動的なヤヤだ、ホテルに缶詰めというのは戦艦云々が無くとも息が詰まるような思いになっただろうことは想像に難くなく、気分転換のお出かけというのも悪くは無かった。

「……それにしても」
「んー?」
「なんというか、随分平和だなって思って。聖杯戦争なんてものが起こってて、海には軍艦が浮かんでて、市長は浮浪者狩りなんてやってて。他にもガス爆発とかゾンビがどうとか、正直どこのB級映画の盛り合わせよってくらいカオスになってるじゃない?
 そんななのに、なーんか妙なくらい街はいつも通りだなって」

 ヤヤの言うことは、なるほど確かに尤もなことだろう。今この街は、本来ならばこうして呑気に出歩くことさえ不可能なほどの混沌に沈んでいる。巷を賑わす屍食鬼は噂の域を出ないとはいえ、それ以外は全て現実に起こっていることなのだから。
 正体不明の軍艦、浮浪者狩り、多発するガス爆発、原因不明の地形破壊、活性化するヤクザ連中。どれか一つだけでも、外出厳禁なり避難指示なりが飛んでくるレベルの騒動だ。
 にも関わらず、実際はどうだ? 往来は人で埋め尽くされ、観光地として恥じない賑やかさを保っている。ここに来た初日よりは外国人などの姿は減ったようにも感じるが、それでも不自然なまでの人の多さは変わらない。
 なんというか、酷く浮かれているみたいだ。お祭り気分というか、諸々の物騒な出来事を全部何かのイベントとしか思っていないような。

「心配?」
「え、何よ突然」
「だから、心配なのかなーって。ここの人たちを戦いに巻き込んじゃうことがさ」
「それは……」


795 : 旅路 ◆GO82qGZUNE :2016/02/29(月) 23:42:02 KDI35f8A0

 ない、とは言い切れない。少なくとも、完全に否定はできない。
 笹目ヤヤは一般人だ。ほどほどに善良で、ほどほどに良識を持った、普通の女子中学生である。
 であるからして、たとえ顔も知らない他人であっても、人死には忌避すべきものだと認識しているし、それが自分の関わる事態が原因となるなら尚更だ。
 これが、世界の裏側のどこかの国で戦争が起こって……のようなものだったなら、少し不快に思ってそれで終わりであっただろうが。自分の行動次第でいくらでも回避できる災厄ならば、できる限り避けたいと思うのも当然だろう。
 そう、笹目ヤヤは善人である。善悪二元論で語るならば、確実に善の側に分類される人間ではある。
 だがそれは、彼女が滅私の精神を持った善の求道者であるということでは、ない。

 彼女は確かに、自分の行動で誰かを救えるならばそうするだろう。しかし今この場において対価としてベッドされるのは彼女自身の命なのだ。
 聖杯戦争。万能の願望器たる聖杯の奪い合い。端的に言ってしまえば、殺し合い。当人の意思を無視した拉致の果てとはいえ、彼女はそれに参加する身である。
 彼女は善人である。だがそれ以上に、彼女は普通の子供なのだ。当然、自分の命は惜しい。ここで何を宣言しようが、最後に優先するのは自分のことになるだろう。
 それを勝手なエゴであると、詰ることが誰にできようか。失いたくない命があって、帰りたいと願う居場所がある。だからこそ、ヤヤは死なないために戦うのだと―――

「……ううん」

 ―――いいや。
 ―――命はともかく、居場所なんて、もうないかもしれない。

 ふと、そんなことを思って。

「うん?」
「あ、ううん、こっちの話。
 で、心配かって、そりゃ何の関係もない人たちだもん、巻き込みたくなんてないわよ。当たり前でしょ」
「そうだね、ボクも同じ考え。万が一そんな他人のことなんか知ったことかー、なんて言われたらどうしようって思ったけど、マスターがそんなこと言うわけないもんね」

 安心したよ、とほくほく顔のライダーをよそに、しかしヤヤは一瞬よぎってしまった考えを、どうしても振り払えずにいた。
 それは、この鎌倉に来る前のこと。あの日、あの時、元いた学校の片隅で起こってしまった。それはありふれた日常の悲劇。
 自分でも抑えられない嫉妬の感情。寂寥。素直になれず言葉を交わすことすら拒否し、差し出された真っ白の鳴子も、繋ごうとしてくれた手も払いのけて。

 ―――脳裏に思い浮かぶのは、今にも泣きそうな「なる」の顔。


796 : 旅路 ◆GO82qGZUNE :2016/02/29(月) 23:42:33 KDI35f8A0

「……ッ!」

 思わず顔を背けてしまう。隣のライダーが「どうしたの?」と聞いてくるが、答えられる余裕はない。
 これだけ長い時間と、日常から乖離した異なる環境。その二つを同時に与えられたならば、意固地になっていたヤヤであろうとも多少は頭が冷えるというものだ。

 だからこそ、分かる。あの時の自分は酷いことを言ってしまった。よさこい部のみんなのことを仲良しごっこと揶揄し、なるのことを嫌いとまで言ってしまった。
 謝らなければ、ならないだろう。許してもらえるかは分からないし、もしかしたらもうそこに自分の居場所はないかもしれないけれど。
 それでも、生きて帰らなくちゃそんな当たり前のことだってできやしない。
 なるを悲しませるのは、もうたくさんだ。

「ね、ライダー」
「なんだい、マスター」
「……頑張ろう。頑張って、私は元の世界に帰るわ」
「うん。だからボクは、それまでキミのことを守るよ」

 微笑みかけるライダーは、相変わらずの能天気な様子で。
 でも、そんな変わらない姿に、どこか気持ちが前向きになったような。

 そんな感慨を、ヤヤは覚えた。




【C-3/市街地/1日目 午前】

【ライダー(アストルフォ)@Fate/Apocrypha】
[状態]健康
[装備]宝具一式
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを護る。
1:基本的にはマスターの言うことを聞く。本戦も始まったことだし、尚更。
[備考]


【笹目ヤヤ@ハナヤマタ】
[令呪]三画
[状態]健康
[装備]
[道具]
[所持金]大分あるが、考えなしに散在できるほどではない。
[思考・状況]
基本行動方針:生きて元の場所に帰る。
0:正午くらいまでは街でぶらぶらしてる。
1:聖杯獲得以外に帰る手段がないのなら……
2:できる限り人は殺したくないからサーヴァント狙いで……でもそれって人殺しとどう違うんだろう。
3:戦艦が妙に怖いから近寄りたくない。
[備考]
・鎌倉市街に来訪したアマチュアバンドのドラム担当という身分をそっくり奪い取っています。
・D-3のホテルに宿泊しています。
・ライダーの性別を誤認しています。


797 : 名無しさん :2016/02/29(月) 23:43:01 KDI35f8A0
短いですが、これで投下を終了します


798 : ◆GO82qGZUNE :2016/03/31(木) 00:39:08 PeBwC.hw0
すばる&アーチャー(東郷美森)、アイ・アスティン&セイバー(藤井蓮)、丈槍由紀&アサシン(ハサン・サッバーハ)、直樹美紀&バーサーカー(アンガ・ファンダージ)、バーサーカー(式岸軋騎)
予約します


799 : ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:08:08 wwguCiwU0
予約分を投下します。
なお後半を纏めきれず削ったところ、ハサン先生の出番が無くなってしまったことをお詫びします


800 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:09:01 wwguCiwU0

 靴の爪先が、伸びた草の下に隠れた小石に引っ掛かる。踏みとどまろうとした膝が呆気なく崩れ、美紀の体は道の真ん中に投げ出された。
 派手な転倒音。咄嗟に手をつくことすらできず、顔から地面に突っ込む。荒れ放題で舗装もされてない道は砂利と小石でいっぱいで、顔中を引っ掻かれて薄く血が滲み出てくる。けど、痛みは感じない。これで何回転んだか、もう覚えていない。のろのろと立ち上がり、荒い息を続けたまま俯き歩き続ける。
 走ることは、もうできなかった。体力が限界に近づきつつあった。手足の感覚はとっくに無くなっていて、酷使された肺は痛みを通り越してもう不快な冷たさしか感じない。体中泥と砂にまみれて、酷い格好。夢遊病者みたいな、というのはきっと今の自分みたいなのを言うんだろう。

 山へと続く、閑散とした暗い小道。どこをどう走ってきたのか覚えていない。最後に人とすれ違ってから、もう随分と経ったような気がする。ここはどこだろうと考えて止める。どこでもいい。行く当てなんてない。聞こえるものは二つ、自分の足音と木の葉の擦れる音。
 ざあざあ、ざあざあ。葉っぱの音が聞こえてくる。ちっとも静かじゃないのに、どうしてだろう。凄く静か。
 まるで、世界が止まったみたい。

「……あ」

 気が付けば。
 目の前には、荒れ果てた学校が聳えていた。
 そういえばと思い返す。直前まで自分が歩いていた道はちょっとした登りで、周りは緑ばかりの砂利道で、つまりここは山の麓に近いところなのだろう。昔の学校はこういうところによく建っていたらしいし、などと合っているのかそうでないのか分からない知識が頭の中で思い浮かんだ。
 荒れた廃校。何故だか、学園生活部の皆と過ごしたあの校舎を思い出す。
 崩れかけた木造の校舎は似ても似つかないけれど、不思議な共通点があるように思えるのだ。

 だからだろうか。今まで必死に体を支えてきた足が、とうとう悲鳴を上げて崩れ落ちた。
 ペタリと座り込む。石造りの校門に、倒れるように肩を預ける。

「先輩……私、どうしたら……」

 呟き、口のあたりを押さえて激しく咳き込む。血の混じった苦い味が口の中に広がった。少し休んで回復した体は途端に忘れていたはずの痛みを思い出し、内側から湧き上がる痛みに耐えて荒い呼吸を繰り返す。なんだか視界が霞んできたように思える。頭が重い。熱があるのが、自分でも分かった。
 体を襲う数々の不調の原因が、自らの魔力不足の結果であることを、直樹美紀は重々自覚していた。元よりなんで聖杯戦争のマスターに選ばれたのかすら分からない自分に、魔力回路なんて代物があるとも思えなかった。そして、引き当てた侍従は狂戦士。これだけ揃えば、あとは小学生でも末路を予想できるというものだ。
 先の一戦、時間にしてみれば数分も経たなかったであろう出来事。たったそれだけで、自分はもうこんな有り様だった。身の丈に合わない奇跡を望んで、身の丈に合わない力を与えられた結果がこれだとすれば、もう笑う気力すら浮かんでこない。
 まるで、抱いた願望の重さに自ら押しつぶされたみたいだ。なんとも皮肉が利いている。

「……?」


801 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:09:54 wwguCiwU0

 ふと。
 少し離れた場所に、人影が見えたような気がした。
 それは大柄な人影で、けれどバーサーカーのような異形の巨躯ではない。ぴっしりと決まった黒いスーツに、程よく整えられたオールバックの髪型はまるでどこぞのサラリーマンのようで。

 ―――その右手には、人の身には不釣り合いなほどに巨大な釘バット。

「―――ッ!」

 それが何かを理解した瞬間、美紀の思考は急速に熱さを取り戻した。
 いや、それは或いは冷たさだったのかもしれない。彼女の頭を占める感情は、驚愕と危機感と、何より恐怖。

 主の恐慌に反応するように、異形のバーサーカーがその姿を現し。
 対峙する正体不明の怪人が、その大口を開けて咆哮した。

「■■■■■■■■■■――!!」

 理性無き雄叫びが響き渡り、狂気を宿した凶眼が真っ直ぐに美紀を見据える。

 振り上げられた巨剣と釘バットが、中空で火花を散らし激突した。





   ▼  ▼  ▼





 もうじき昼ごろに差し掛かろうという午前。
 部室内に漂っていた団欒の空気は、勢いよく開け放たれた扉の音によって破られた。

「へ? いきなりどうし―――」
「悪いが今は時間が惜しい。敵襲だ、逃げるぞ」
「ちょ、セイバーさん!?」

 いきなり入ってきてアイを問答無用で担ぎ上げる男の人……セイバーの所業に、すばるは一瞬だけぽかんとした表情になった。
 なんじゃこりゃーと言わんばかりにじたばた暴れるアイを無視して、セイバーはどこ吹く風だ。「自分で走れますから下ろしてください!」「うるせえ静かにしてろ」「もう! セイバーさんの馬鹿!」「よく知ってる」とか、なんだか目の前で次々会話が流れていって。あまりに突然すぎて、我に返るまで一秒くらいの時間を要した。


802 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:10:43 wwguCiwU0

「えっと……アーチャーさん、それって本当なんですか?」
「ええ。校門付近に二騎、サーヴァントの気配があるわ」
「しかも最悪なことにやる気全開ときてやがる。ぐずぐずしてるとこっちまで巻き込まれるかもしれないからな、こういう時は逃げるが勝ちだ」

 アイを捕まえてるのとは逆の腕でゆきを担ぎながらセイバーは言う。ゆきは呑気なもので「おー……」などと好奇心いっぱいの声をあげていた。反対にアイはなんだか諦めた表情で大人しくしている。

「それじゃアーチャー、撤退補助を頼む」
「分かっているわ。セイバー、あなたも」
「ああ、抜かりはしないさ」

 セイバーとアーチャーは、そんな短いやり取りだけで何かを確認し合ったらしい。役割分担でも事前に決めていたのだろうか、すばるはアーチャーに後ろから抱きかかえられるように腕を回された。

「……さて」

 慌ただしく動いていたセイバーとアーチャーが、ピタリとその動きを止めた。
 理由は言われずとも分かった。濃密な"気配"が、すばるにも感じられた。それは徐々に強くなり、そしてこちらに近づいてきている。

 咆哮が。
 びりびりと、窓ガラスを揺らす咆哮が辺りに轟いた。

「安心して、すばるちゃん」

 回されたアーチャーの腕が、ぎゅっと力を込めて。

「あなたは絶対に、死なせないから」

 呟かれた、瞬間。



「■■■■■■■■■■――!!」



 薄い壁面を打ち砕いて。
 雄叫びを上げる何者かが、戦火の音と共に部室内へと転がり込んできた。





   ▼  ▼  ▼


803 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:11:11 wwguCiwU0





 弾きだされた体を中空で捻り危うげなく着地すると、爆ぜるような勢いで地を蹴り出しセイバーが駆ける。
 朽ちた廊下を一直線に突っ切る体は、獣さながらの前斜体勢に移行していた。その疾走は余人では及びもつかないほどに速く、まさしく風のように走り抜ける。
 速かった。人の目には映らぬほどに、駆ける姿は疾風の如く。
 速い。そう、あくまで"人として"は。

「■■■■!!」

 セイバーの背後、飛びかかるような形で釘バットの男が現出する。その腕は既に振り上げられ、握られた釘バットは圧壊させる獲物を求めて硬質の風切り音を響かせていた。
 セイバーの疾走は、サーヴァントのそれとして見るならば明らかに遅かった。それは、理性無く反射的に動くしかないバーサーカーをしても、容易く追い縋れるほどに。
 本来この場で最も敏捷性に優れているはずの彼が、何故そこまで鈍間な存在となったか。理由は、その両腕にマスターの少女を抱えていたからに他ならない。当然ながら常人の身は脆く、生身で音の壁を乗り越えるなど不可能。彼女らの体に負担がかからないようにした上での、これは現状における最大限の速度であった。
 そして勿論、人の身で制限された速さなど、サーヴァントであれば追いつくことは容易い。打撃などという領域を遥かに逸脱し、最早爆撃とさえ形容できるほどの鉄槌が振り下ろされようとして―――

「遅え!」

 喝破と同時、セイバーの体は五メートルの距離を完全に無視して、バットの射程圏外まで移動していた。
 一瞬遅れて廊下に叩きつけられた重爆が如き一撃が、文字通り床を消失させる。耳を覆わんばかりの轟音が鳴り響き、巻き上げられた無数の破片が宙に舞う。付属した衝撃波で、触れてもいないのに廊下中の窓ガラスが一斉に砕け散る。
 破壊であった。何の修飾もいらない、それは純粋なまでの破壊の顕現。たった一発で、比喩でもなく校舎そのものが倒壊しかけたほどに、それは強力無比な一撃だった。
 しかしセイバーと、その腕に抱えられた二人の少女は何の痛痒もない。無傷のままに窮地を脱した三者は、そのままの勢いで疾走を再開する。
 "仕切り直し"のスキル―――戦場を脱し、不利な状況を仕切り直すそのスキルは、劣勢にある戦況そのものを零に戻して動き始める。
 かつて黄金の牙城からも逃げ延びた彼にとって、この程度は危難と呼ぶことにさえ値しなかった。

「―――――ッ!!」

 そして襲いくる第二撃―――釘バットの男の背後から全てを一刀両断にせんと猛る巨大な斬撃が、横薙ぎに振るわれた。
 右から左へと振るわれるそれは、右手側にあった教室を諸共に粉砕しながら破壊の衝撃を叩き付ける。言うまでもなく、セイバーと釘バットの男双方を狙った問答無用の一撃だった。
 当たれば即死。その攻撃を、釘バットの男は瞬時に屈むことで、セイバーは天井近くまで跳躍することで回避した。それを目撃した二騎のバーサーカーは、理性のないはずの瞳に喜悦に歪んだ輝きを宿した。
 中空とは、すなわちそれ以上の逃げ場が存在しないフィールドである。翼持つ異形種であるならばともかく、人であれば例えサーヴァントであろうとも地に足つけなくば生きてはいけない。着地までのコンマ数秒、セイバーは無防備な姿を晒すことになった。
 無知、無様ここに極まれり。下手に跳躍などすれば狙い撃たれるのは戦場の定石。その程度も弁えぬならば、この男に戦士を名乗る資格なし。
 共に獲物を狩ることしか脳にない狂戦士は、隙を晒した者を優先的に狙うという不文律の下、意図せず同じ相手に鉄槌の照準を合わせて―――


804 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:11:43 wwguCiwU0

「く、ぉおらぁッ!」

 当然、そんなことはセイバーとて百も承知であった。
 浮き上がった体を無理やりに捻り、その足元に蒼白の輝きを"形成"する。
 空間を貫き現出したのは、一振りの西洋騎士剣。銀光に輝くそれを、セイバーは胴廻し回転蹴りの要領で背後へと蹴り放つ。
 空を斬る鋭い刃鳴を引き連れて、一条の光が二騎の狂戦士を違わず撃ち貫いた。
 稲妻を纏う刀身は、まさしく雷速で敵手へと飛来する。その閃光に反応することは如何なサーヴァントであれど絶対不可能。迅雷の威力で刺し貫く騎士の剣は、釘バットの男の霊核を穿ち巨躯の異形を削り取ると、用を為したと確認するや空間へと溶け入るように消え去った。

 生じた隙を逃がすことなく、セイバーは着地の勢いを殺さずに再び跳躍。横手の教室へと飛び入り、砕けた壁からそのまま外へと体を踊り出させた。
 都合二名の少女の悲鳴が、憚ることなく耳に突き刺さる。尾を引く絶叫を無視し、セイバーは全身運動で着地の衝撃を殺しつつ一気に駆け出した。大きな遮蔽物のない校庭は、それだけでセイバーの移動を後押ししバーサーカーたちとの相対距離をどんどん広めていく。
 異形のバーサーカーと、何故か致命傷から回復している釘バットの男が崩れた壁面から姿を見せるが、もう遅い。銃撃音さえ置き去りにした遠距離狙撃が狙い違わず二騎の頭部を打ち据える。
 アーチャー・東郷美森の放つ、超長距離に及ぶ精密狙撃。この十数秒の間に数百mを踏破した彼女による射撃は、正確にバーサーカーの進路を阻む。異形のバーサーカーからビットのようなものも複数飛び出すが、見抜かれているかのように逐一撃墜されては溶けるように宙へと消え行った。

 セイバーとアーチャーが立てた役割分担はひどく簡単なものだった。近接戦能力と敏捷性に優れ、なおかつ仕切り直しのスキルを持つセイバーが相手の注意を引きつつ撤退し、その隙に先んじて全力逃走したアーチャーが狙撃にてセイバーたちの撤退を補助。急場を逃れたならアイとゆきだけを逃がし、セイバーが単独で足止めして時間を稼ぎ機を見て仕切り直しにて逃走。保護対象としてあぶれたゆきは、敏捷性が底辺値に近いアーチャーではなくセイバーが担当する。
 筋書き通りだった。少なくともここまでは。校庭の端まで移動したセイバーは二人の少女を肩から下ろし、改めて騎士剣を形成して身構える。

「アイ、お前はそいつ連れて向こうまで全力でダッシュだ。いいか、何があっても振り返るなよ」
「……色々言いたいことはありますけど、分かりました。そしてありがとうございます。けど、セイバーさんは」
「俺はここで足止めだ。ま、適当なところで引き上げるから心配するな」
「うえぇぇぇ……何がどうなってるのぉ……」

 支援狙撃を行うアーチャーがいる手筈となっている場所を指差したセイバーに、アイは様々な感情を煮詰めたような表情で答える。その手は目を回したゆきをしっかり抱きかかえていた。
 ようやく校舎から身を乗り出したバーサーカーたちは、今は自分たちに襲いくる銃弾の雨を振り払うのに必死でアイたちには気付いていない様子だった。つまるところ、彼女らが逃げ出すには今を置いて他にはなかった。

 けれど。



「……ゆき先輩!」



 セイバーでも、アイでも、ゆきでもなく。そして当然バーサーカーやアーチャーたちのでもない、八人目の声が、セイバーたちに届いた。
 振り返った先にいたのは、少女。色素の薄い髪をショートに切りそろえ、利発そうな光を瞳に宿した、高校生くらいの少女。
 ―――丈槍由紀と色違いの制服を着た少女が、そこには立っていた。





   ▼  ▼  ▼


805 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:12:32 wwguCiwU0





「すばるちゃんは離れてて。ちょっとだけ、危ないから」

 廃校から離れたビルの屋上にて。そう言って狙撃銃を構えたアーチャーは、ただの一瞬で常の彼女とは一線を画した存在となっていた。

 すばるにとってのアーチャー「東郷美森」は、言ってしまえば優しくて頼れるお姉さんのような存在だった。仮にも英雄に向かってそれはどうなんだと自分でも思うことはあったが、事実としてそう思っていたのだから仕方がない。
 英雄という言葉から来る硬いイメージとはかけ離れた、気さくで朗らかで暖かな。そんな優しい"勇者"こそが、すばるの抱いていたアーチャーの姿だった。
 けれど今は違う。長大な狙撃銃を携え、照準し、射抜くような鋭い眼光で以て遠間を見据える彼女は、まさしく鬼気迫るという形容がこれ以上なく似合う様相と化していた。
 気迫が違う。戦意が違う。ドライブシャフトという超常を手に入れたすばるでさえ今まで感じたことのないようなそれは、戦場に満ちる極大の覇気そのもの。
 ここでようやくすばるは思い知った。勇者とは、ただ人々に憧憬を抱かせる暖かいだけの存在ではない。その勇気と暴威を用いることで立ち塞がる敵を薙ぎ払う、鬼神が如き戦闘者でもあるのだと。

「アイちゃん、ゆきちゃんも、大丈夫かな……」

 アーチャーの気迫に中てられてか、それとも今の自分にできることはないと自覚したのか。すばるは俯いたままでぼそりと呟く。
 セイバーとアーチャーが何を考えて今の行動に出たのかは、既に念話で詳細を聞いていた。だからアーチャーが後方支援についたことも、そのマスターである自分がこうしてこの場にいることも、理解はできた。戦場から離れたことに起因する安堵の気持ちもある。
 けれどそれ以上に、あの場に残されたアイとゆきが心配だという思いが、すばるの胸の内には強く渦巻いていた。

「あの、アーチャーさん……私だけじゃなくてアイちゃんとゆきちゃんも連れてくることって、できなかったのかな……」
「できなくはなかったわ。けど、判断としてはとても危険なものね」

 返すアーチャーの表情は狙いを定める狩人の静謐さで、けれど声はどこか苦渋の色を滲ませたものだった。
 その間にも引き金を絞る動きは止まらず、細かな照準変更を繰り返しながら幾つもの銃声が反響している。

「結果的にはこうして予定通りの戦況になってはいるけど、一歩間違えたらあそこにいたのはセイバーじゃなくて私になってた可能性だってあるの。そうなったら……全員を守りきれる保証なんてないわ」

 いいや、そうなったら間違いなく全滅していただろうとアーチャーは考える。自分は近接戦に不向きな銃士で足手まといが三人、対するあちらは戦闘に特化したバーサーカーが二騎。結果なんて戦うまでもなく明白だ。宝具である満開を使ったとしても五分にすらならないだろう。
 だから、この振り分けは間違いではなかった。客観的に見ても、これ以上リスクを低減する組み合わせはなかっただろう。全員が生き残るにはこれしか方法は皆無である。

 ……そして当然、セイバーが引きつけに失敗してこちらにバーサーカーが向かってきたならば、すばるに令呪を使わせてでも単独で撤退を敢行していただろうと考える。残された彼らの生死など度外視して。


806 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:12:59 wwguCiwU0

「だからね、すばるちゃん。あなたが責任を感じる必要なんてないの。今はこらえて、私達を信じて……ね?」
「あ……」

 だから、無意識に取り出したのであろうドライブシャフトを握りしめるすばるを、できるだけ優しく諭した。自分の体が震えていることにやっと気づいたのか、すばるは小さな声を漏らすと、そのまま俯いて黙り込んでしまった。
 彼女の持つ力は常人としては破格のものだが、しかしサーヴァントを相手に戦えるような代物では決してない。仮にあの戦場へ全力で飛んだとしても、呆気なく叩き落されるのがオチだ。
 その優しさは認めるし、だからこそこの子だけは無事に帰したいと願うのだけれど。今は自分たちに任せて、この子には大人しくしていてほしい。
 そう考えて、知らずアーチャーは苦虫を噛み潰したように口元を歪めた。
 心底から他者の無事を祈るすばると違い、自分は打算だけで彼らの生存を期待している。いや、場合によってはここでバーサーカーごと潰れたって構わないとさえ考えている。
 なんて偽善。そんな自分がすばるに優しい顔をするなど、どう考えても滑稽な三文芝居でしかないだろう。
 嘘と罪に醜く汚れた自分が、今は嫌になった。自己嫌悪に塗れながら、アーチャーは砲撃の熱量だけを戦場に投下し続けた。




(違う、違うの……私はそんなすごい人間じゃない)

 狙撃を続けるアーチャーの後ろで、ドライブシャフトの柄を握りしめて座り込んだすばるは、一人自己嫌悪に陥っていた。
 無意識にこの杖を取り出してしまった理由。アーチャーはそれを責任感と言ってくれたけど、違った。
 これは単なる保身だ。戦いが怖くて、死ぬのが怖くて、だから空飛ぶ魔法の杖たるドライブシャフトを出してしまったのだ。
 逃げるつもりなんて、なかった。アイとゆきを慮る気持ちも嘘ではなかった。
 けれど、自分が助かりたいと願う気持ちも本当で。
 だから、何もできないくせに逃げ足だけは一人前な自分の弱さが、嫌になった。

 遠く離れたこの場所からでも、廃校の崩壊と戦闘の余波は轟音となって耳に届く。
 あそこでは、自分では想像もつかないような凄惨な戦いが繰り広げられているのだろう。そんな場所に無辜の少女が二人も囚われていることへの不安と憤りと、他ならぬ自分が巻き込まれなかったことへの安堵と不信が、すばるの中でぐるぐると渦巻いていた。
 自分にできることが何もないから、すばるはただ祈る。皆の無事を、その帰還を。
 自己嫌悪に塗れながら、届かない祈りだけを捧げ続けた。





   ▼  ▼  ▼


807 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:13:27 wwguCiwU0





 乱戦を選んだのは、不確定要素を増やすことで生存率を上げるためだった。

 客観的に見て、今の自分が他のサーヴァントに勝てる可能性は、極めて低いと言わざるを得ないのだろう。なけなしの魔力はすっかり底を尽いて、虎の子の令呪だって大部分を喪失してしまっている。使役するバーサーカーはそのクラス故に戦闘能力こそ高いが、自分の目の前に立ち塞がるサーヴァントもまたバーサーカー。戦力での優位性を確保することなどできはしない。
 馬鹿正直に戦えば、自分たちの負けは必然でしかない。
 だからこそ、美紀は釘バットのバーサーカーを隔てて聳える廃校に存在する二騎のサーヴァントの気配に賭けたのだ。
 本来ならば避けて然るべき不確定要素を、丁半どちらの目が出るかも分からないそれを、それでも自身にとっての鬼札と変えるために。アンガ・ファンダージに命じて、彼らの潜む廃校へと釘バットのバーサーカーごと押し込んだ。
 別に彼らをここで討ち果たそうだなどと、美紀は考えてはいなかった。最優先すべきは自身の安全、故に釘バットのバーサーカーを彼らに押し付けることができたならば、その時点で即座に逃げ帰るつもりだった。
 元より今のアンガ・ファンダージを戦わせている魔力は、宝具によって完全回復したファンダージ自身のものなのだから、そう長く状況が保つわけもなし。適当に機を見計らって運が良ければ逃げ出そうと。
 そう、考えていたのに。

「―――え?」

 崩壊した校舎から飛び出た人影を見て、美紀は目を疑った。魔力消費と疲労から鈍りつつある頭が、とうとうイカレたのかと錯覚して、けれど何度見てもそれが現実としてそこにあるのだと否応なく理解させられた。
 バーサーカーの追撃を振り切って疾走する男の姿、恐らくはサーヴァントか。これはいい。
 その腕に抱かれた、金髪の異国の少女。これもいい。

 けれど、それとは逆の腕に抱かれた、小学生のようにも見える矮小な体躯は。
 色素の薄い髪色の、場違いなまでに緊張感のない顔は。
 トレードマークの耳帽子と、見慣れてしまった学校の制服は。

 見間違える余地もなく、丈槍由紀という見知った少女のものでしかなくて。

「……ゆき先輩!」

 思わず叫んで、気付いた時には後戻りができない状態になっていた。
 誰もが、こちらを振り返っていた。警戒と敵意に満ちる男、驚愕一色に染まる異国の少女。そして―――

「あ、みーくんだ。ねえねえ何してるの?」

 緊迫した状況には不釣り合いなほど明るい笑顔は、ここでもまるで変わっていなくて。
 直樹美紀は、信じてもいない神さまをどうしようもなく殺したくなった。





   ▼  ▼  ▼


808 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:14:02 wwguCiwU0





「あ、ゆきさん待って!」
「ちィ!」

 その瞬間を端的に言いあらわすなら、さながら"間が悪かった"とでも形容すべきものなのだろう。
 虚を突かれた一瞬にゆきはアイの手から離れ、全く同一のタイミングで異形のバーサーカーがセイバー目掛けて襲い掛かってきた。
 一閃を辛うじて受け止めたセイバーはその相手をするのが手一杯で、異形のバーサーカーが現出したと同時に発生した異常気象が、荒れ狂う乱気流となって周囲を覆った。
 それは何故か銀糸の髪の少女を囲むように広がり、彼女へと駆け寄るゆきを包むように呑みこんだ。二人を外界から遮断するように大気の檻が形成される。アイは元より、セイバーですら突破に難儀するそれは、当然ながら戦闘を続行しながら介入できる範疇を逸脱していた。
 そして彼女らを守るかのように、セイバーの前に異形のバーサーカーが立ち塞がる。澄み渡る剣気は狂しているとは思えないほどに、爆発寸前の臨界点として沈黙を保っている。加えて、追い縋るように釘バットを持ったスーツ姿のバーサーカーまでもが飛び行る始末だ。長い距離を跳躍してきたそいつは異形のすぐ傍に着地し、衝撃でクレーターを形成する。
 状況は完全に切迫し、最早ゆきの救出などという余裕を言っていられる場合ではなかった。端的に、絶体絶命というやつだ。

「セイバーさ―――」
「……お前の役目は終わりだ、アイ。いいからとっとと行っちまえ」
「でも、ゆきさんが!」
「邪魔なんだよ、お前がいると」
「私は、誰かを見捨てるなんて!」
「うるせえ」

 頼む。頼むから早く行ってくれ。この状況でも必ずお前を守りきれると断言できるほど、自分は無責任な人間になったつもりはないのだから。傷つくお前なんか見たくないし、お前を守れない自分なんか論外だ。
 醜悪なまでに造形の歪んだ釘バットが空を裂いて振るわれる。震える歯列、軋む筋肉、異形のバーサーカーが猛悪な殺意を膿のように垂れ流す。
 膨れ上がる殺意の、ここが最後の臨界点。狂戦士たちの暴走が開始されるまで最早幾ばくもない。
 息を呑むアイを、力任せに突き飛ばした。

「走れ、この馬鹿野郎ッ!」

 そう叫んだと同時に。


809 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:14:53 wwguCiwU0

「■■■■■■■■■■――!!」
「ぐ、ァァ!」
「セイバーさん!」

 振り下ろされた一撃を真っ向から受け止める。明らかにこちらを凌駕した膂力に、超重量の振りおろし―――衝撃だけで足元が砕け散り、クレーターのように陥没した。
 速さ自体は大したことなかった。けれど、この巨体と腕力を捌くのは並大抵のことではない。
 徐々に圧力を増す重圧に体が潰され、鍔競り合わせた刀身がガチガチと震えるけれど。
 それでも、後ろのこいつを傷つけるわけにはいかないから。

「なに、してやがる……行けっつったろ」

 アイを突き飛ばした分、反応が一瞬遅れて威力を逸らすことができなかった。まともに受け止めた一撃の重さに片膝をつき、身動きの取れない状況に陥る。剣圧の凄まじさに背骨が折れそうだ。眼前の異形から放射される殺気の密度は半端じゃない。流石は腐ってもバーサーカー、最も殺戮に適合した狂える戦士の名は伊達ではない。
 そして、相手にすべき敵手はこの異形だけではなく。

「■■■■!!」

 横合いから振るわれるのは愚神礼賛の一撃だ。思考能力が奪われようと培った殺戮の記憶だけは健在なのか、身動きの取れない自分へと一直線に攻撃を放ってくる。
 狙うは弱者、確実に仕留められる相手―――なるほど間違ってはいない、それは戦場のお約束としてはあまりに当たり前すぎて反吐が出てくるようだった。
 ここから躱せる道理はない。膂力で劣る自分が押し付けられた剣圧を捌いて反撃に転ずるなど、どう考えたってできはしない。
 けれど。

「ちょっとでも怪我してみろ、そん時は泣くほどぶってやるからな!」

 全身の力を振り絞り、押しつぶそうとしてくる鉄塊を横に流した。すぐ傍らの地面が衝撃で爆散し、刃筋に沿って縦の亀裂が深く走る。
 そして、そこに吸い込まれるように叩き込まれる、愚神礼賛の一撃。

「■■■■■■■―――!?」

 愚神礼賛の射線上に突如として現れた巨剣に、両者は抗うことも許されず正面からの激突を余儀なくされる。金属が破砕されるような反響音が鳴り響き、異形のバーサーカーが持つ巨剣がバラバラに砕け散る。
 地面に突き刺さったままの巨剣と、勢いのままに振るわれた釘バット。生来の頑強さはともかくとして、今回は両者の状況がこの結果を招いた。
 それを目視で確認する暇もなく、セイバーは身体を反転させた勢いを上乗せし、無防備状態の胴体に渾身の廻し蹴りを叩き込む。
 その一撃で異形の巨躯は吹っ飛ばされ、木々をなぎ倒しながら雑木林の向こう側へと消えていった。如何に膂力で劣るとはいえ仮にも同じサーヴァント、一方的に攻撃すればこの程度は造作もない。
 この時ようやく体勢を立て直したスーツ姿のバーサーカーに、返す刃で騎士剣を逆袈裟に斬りつける。そんな見え透いた一閃は当然のように手にしたバットに阻まれるが、本命の一撃はこれからだった。

「これで眠っとけ、不細工野郎!」

 瞬間、鍔競った刀身から膨大な熱量の紫電が放出される。拡散した雷撃は一見無軌道に見えて、しかし地面や木々といった無駄な破壊は一切起こさず、標的たるバーサーカーにのみ痛打を与える。
 致死の雷撃を直接浴びせられたバーサーカーは全身を黒焦げに炭化させて、しかし次の瞬間には即座に再生して襲いくる。未だ治癒の済んでいない腕にも構わずに、握った愚神礼賛を一直線に振り下ろしてきた。


810 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:15:22 wwguCiwU0

「あ……」
「なんだよ、俺が勝っちゃ不満か?」

 その一撃をいなしつつ、背後の少女へと語りかける。できるだけ余裕そうに、焦燥の色は見せないように。アイが未練なくこの場を離脱できるように。

「つーわけで、俺に任せてお前はさっさと逃げろ。大丈夫、負けはしな――」
「……いいえ、私はここに残ります」

 そんなセイバーの心遣いはたった一言で粉々に打ち砕かれた。
 ずい、とアイが一歩を踏み出す。その眼は、足は、意思は、逃走なんて選択肢など微塵も考えていないのだと言葉以上に強く訴えていた。

「言いましたよねセイバーさん。私はゆきさんを救うんです。こんなところで足踏みなんかしていられません」
「お前、何を……」
「心配はいりません。ちゃんと後ろで大人しくしてますし、自分の身くらいは自分で何とかします。それに」

 そこでアイは、それまでの焦燥と不安の表情など嘘のように、にっこりとほほ笑んで。

「私はセイバーさんを信じてますからね。ええ、これ以上の安心はありませんとも」
「……この馬鹿が。だったらすぐ終わらせてやっから大人しくそこで待ってろ!」

 叫び、セイバーは今度こそ後ろを振り向かずに剣を構えた。目前まで迫り視界を覆い尽くさんとする巨大な二振りの鉄槌を、渾身の力で弾き返す。
 三者三様の得物が中空で激突し、空間を振るわせる反響音が辺りに木霊した。





【C-2/ビルの屋上/1日目 午前】


【アーチャー(東郷美森)@結城友奈は勇者である】
[状態] 魔力消費(極小)
[装備] なし
[道具] スマートフォン@結城友奈は勇者である
[所持金] すばるへ一存。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯狙い。ただし、すばるだけは元の世界へ送り届ける。
0:セイバー(藤井蓮)の戦闘を支援。
1:アイ、セイバー(藤井蓮)を戦力として組み込みたい。いざとなったら切り捨てる算段をつける。
2:すばるへの僅かな罪悪感。
3:ゆきは……


【すばる@放課後のプレアデス】
[令呪] 三画
[状態] 健康、無力感
[装備] 手提げ鞄
[道具] 特筆すべきものはなし
[所持金] 子どものお小遣い程度。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争から脱出し、みんなと“彼”のところへ帰る
1:自分と同じ志を持つ人たちがいたことに安堵。しかしゆきは……
2:アイとゆきが心配


811 : 混沌狂乱 ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:16:31 wwguCiwU0



【C-2/廃校の校庭/1日目 午前】

【アイ・アスティン@神さまのいない日曜日】
[令呪] 三画
[状態] 疲労(小)
[装備] 銀製ショベル
[道具] 現代の服(元の衣服は鞄に収納済み)
[所持金] 寂しい(他主従から奪った分はほとんど使用済み)
[思考・状況]
基本行動方針:脱出の方法を探りつつ、できれば他の人たちも助けたい。
0:私は私の夢を裏切りません。たとえ何があっても。
1:生き残り、絶対に夢を叶える。
2:ゆきを"救い"たい。彼女を欺瞞に包まれたかつての自分のようにはしない。
3:ゆき、すばる、アーチャー(東郷美森)とは仲良くしたい。
[備考]
『幸福』の姿を確認していません。


【セイバー(藤井蓮)@Dies Irae】
[状態] 魔力消費(極小)
[装備] 戦雷の聖剣
[道具] なし
[所持金] マスターに同じく
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り、元の世界へ帰す。
1:今はこの状況の打破を最優先。アーチャーとの同盟の件は後で考える。
2:聖杯を手にする以外で世界を脱する方法があるなら探りたい。
3:悪戯に殺す趣味はないが、襲ってくるなら容赦はしない。
4:少女のサーヴァントに強い警戒感と嫌悪感。
5:ゆきの使役するサーヴァントを強く警戒。
[備考]
鎌倉市街から稲村ヶ崎(D-1)に移動しようと考えていました。バイクのガソリンはそこまで片道移動したら尽きるくらいしかありません。現在はC-2廃校の校門跡に停めています。
少女のサーヴァント(『幸福』)を確認しました。


【丈槍由紀@がっこうぐらし!】
[令呪] 三画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針: わたしたちは、ここにいます。
0:みーくんってば何してるんだろ?
1:すばるちゃんにアーチャーさんかあ。いいお友達になれそう!
2:アイちゃんにセイバーさんもいらっしゃい! 今日はお客さんが多いねー
3:アサシンさんにも後で紹介したいな……
[備考]
サーヴァント同士の戦闘、及びそれに付随する戦闘音等を正しく理解していない可能性が高いです。


【直樹美紀@がっこうぐらし!】
[令呪]一画
[状態]?????、疲労(大)、魔力消費(極大)、精神疲労(大)、体のあちこちに打撲と擦過傷。
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]無いに等しい
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、世界を救う……?
0:――ゆき先輩
1:サーヴァントやマスターを倒すことには躊躇しない。
2:浮浪者狩りから何とかして逃れたいが、無闇矢鱈に人を殺したくはない。
3:釘バットのバーサーカー(式岸軋騎)を押し付けたらさっさと逃げたい……と思っていたけど
[備考]



【バーサーカー(アンガ・ファンダージ)@ファンタシースターオンライン2 】
[状態]魔力消費(大)、宝具『進化する狂壊(アルティメット・クエスト)』発動済み。
[装備]
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:?????
1:?????
[備考]
ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)との戦闘で、打撃への耐性を獲得しました。
現在は自身が保有している魔力のみで戦闘を行っています。


【バーサーカー(式岸軋騎)@戯言シリーズ】
[状態] 健康、バーサーカー(玖渚友)に対する魔力負担(中)
[装備] 愚神礼賛
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:狂化により思考が全敵性存在の排除で固定されている。
[備考]
バーサーカー(玖渚友)の宝具により顕現した疑似的なサーヴァントです。あくまで宝具のため、霊核を砕かれようが魔力消費によって即座に復活・再生します。
このサーヴァントの戦闘及び復活にかかる魔力は全てバーサーカー(玖渚友)が負担します。


812 : 名無しさん :2016/04/05(火) 02:17:10 wwguCiwU0
投下終了です


813 : ◆GO82qGZUNE :2016/04/05(火) 02:48:04 wwguCiwU0
申し訳ありません、タイトルを「狂乱する戦場」に変更します


814 : ◆GO82qGZUNE :2016/04/28(木) 11:01:57 67DyEuYo0
笹目ヤヤ&ライダー(アストルフォ)
如月&ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)
アーチャー(エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ)
アーチャー(ローズレッド・ストラウス)

予約します


815 : ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 01:57:27 TCQotXAU0
予約分を投下します


816 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 01:58:16 TCQotXAU0

 日本有数の観光地である鎌倉の中心に位置する鎌倉駅は、二重の意味で交通の要所である。人の行き来が激しく、外部からの流入も多い環境であるために、当然のことながら周辺には多くの飲食店が店を開いている。
 ラーメン屋やカレー屋、大衆食堂のようなありふれたものから、ちょっと支出に寛大になればフレンチやイタリアンなんかもより取り見取りだし、カフェやケーキ店のような洒落た店も多い。夜になれば居酒屋やワイン店が門戸を開け始める。
 それだけに、親の小遣いに頼っていたこれまでと違い懐に余裕がある今のヤヤたちには、何を食べようか、などという贅沢な悩みが付いて回っているのだ。
 本屋、音楽ショップ、あとはライダーにねだられてお土産店をいくつか。まあそれなりに楽しみながら回ってきたヤヤたちだったが、そろそろお昼時ということでここにやって来た。
 この時間になるとどこの店も混み始めるものだし、できれば早いところどの店へ入るか決めたいものであったのだが。

「あ、ねえねえマスター、あそこなんかいいんじゃない?」
「またアンタは適当に決めて……ていうかいっつも思うんだけど、なんでアンタばっかり行くとこ決めてんのよ」
「えー、でもマスターだってなんだかんだ楽しそうだし別にいいかなって」
「そういう問題じゃなくて、あーもうっ」

 と、ちょっとしたいざこざこそあったが、時間が押していることもあってライダーの指差した店に入ることになった。
 ヤヤはほんの少しだけむくれた様子で「あんまり高かったら却下だからね」と嘯きながら、はしゃぐライダーに引きずられるように店へと連行されていった。

 ライダーが選んだのは、鎌倉駅前のハンバーガーショップだった。聞いたこともない店名からフランチャイズではないらしく、字面から連想される安っぽさとは無縁な、センスのある内装をした店だった。
 店内には既に人が並び始めていたが、混雑しているというほどではなくそう長くない待ち時間で座れるだろう。そう考えたヤヤは、お財布事情と相談しつつ、まあいいかと妥協して並ぶことに決めた。

「ねえ見なよマスター! "鎌倉で一番空に近いテラス"なんだって! いいよねこういうの、なんだかワクワクする!」
「お黙り、ハウス、口チャック!」

 ……そんなこんなで。
 予想通り大して時間もかからずに席へ案内されて、幸運にもライダーが言っていたテラス席。そこは確かに"鎌倉で一番空に近い"という謳い文句に違わずいい景色で、ガラス張りの天井からは吹き抜けるような青空が煌々と見渡すことができた。
 鎌倉は景観保護のためか、四階建てのビルまでしか建てられなくて、だからこのような眺めは珍しいものだった。今日は天気もいいから、一望できる景色の綺麗さにも磨きがかかっているように見える。

 さてそれでは何を頼もうかとメニュー表に目を通して、ランチタイムということでサイドディッシュ二つとドリンクが付くバーガープレートランチを注文することにした。おすすめの一品として紹介されてるクリスピーベーコンチーズバーガーを嬉々として注文するライダーを横目に、ヤヤはマッシュルームク?ラタンハ?ーカ?ーを注文することにした。
 待つこと数分、存外に早い時間で注文の品が運ばれてきた。ランチサービスのドリンクは当然のように二人ともソフトドリンク。サイドディッシュが二つもついて食後にはデザートのクッキーまでついてこの値段なら悪くないかも、などと考えるヤヤを知ってか知らずか、ライダーは相変わらずのテンションで口いっぱいにバーガーを頬張っていた。


817 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 01:59:07 TCQotXAU0

「んーうまー、チーズのびーる」
「はいはい、美味しいのは分かったからあんまり下品なことしないの。ほら、口にソース付いてるわよ、ちょっとじっとしてなさい」
「むふふー、この時代の食べ物ってみんな美味しくていいよねえ」
「ああ、そういえばアンタって昔の人間なんだっけ。やっぱり食糧事情も今とは違ってたり?」
「うーん、どっちかっていうと新鮮さの問題かなぁ。ボクらの時代にも美味しい料理はたくさんあったけど、それはそれとして知らない味に出会うのもすっごい楽しいし」

 そんな他愛もない話をしながら過ごして、追加注文を敢行するライダーをジト目で睨みつつ、ヤヤは食べ終わって手持無沙汰になった思考に埋没する。考えるのは当然、聖杯戦争のことについて。
 これまで幾度も考えて、時にはライダーに相談しては「するんじゃなかった」なオチに見舞われてきたヤヤの思考。それは、要約してしまえばこのようなものだった。

(訳も分からず拉致されて、生き残るには戦えなんて言われて……他に方法がないから従わざるを得ないって感じだけど、やっぱり胡散臭いにも程があるわよね)

 つまりはそういうこと。異世界に飛ばされました、なんて昨今SFでも少しは捻ってくる非日常に巻き込まれて、ヤヤだけじゃどうしようもできないから聖杯獲得を目指すしかなくなってはいるものの、少し考えれば「生き残る」以外でわざわざヤヤが戦ってやる理由なんてないし、そもそも胡散臭すぎて何も信じられないのが現状だ。
 ぶっちゃけて言えば、やる気がない。殺し殺されなんてゴメンだし、叶うならばさっさと帰りたい気持ちでいっぱいだ。そりゃライダーのことはす……嫌いじゃないし、彼女とさよならするというのも、なんだか寂しい話ではあるけど。それとこれとは話が別だ。

 例えば。
 そう、例えば。某未来の猫型ロボットが登場するアニメに出てくる何処にでも行けるドアみたいなのがあって、それを潜れば元の世界に帰れますよと言われたら。一二もなく飛びつくのに。

 と。
 そこまで考えて。

「…………あー!」
「わっ、どうしたのさマスター」

 天啓を受けたかのようにヤヤは声を上げ、思わずガタッと椅子を鳴らして立ち上がっていた。
 次の瞬間には自分が何をしたのか自覚し、ちょっと顔を赤らめておずおずと座る。周囲の目線が痛かったが、それもすぐに無くなった。


818 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 01:59:51 TCQotXAU0

「それで、いきなりどうしたのさ」
「……ねえ、アンタって魔術に詳しかったりする?」
「ううん、全然」

 はぁ〜……と、ヤヤは思いっきり脱力したように項垂れた。ライダーはちょんちょんとヤヤの頭をつついている。

「ま、ボクは一応騎士だからね。色々と不思議な冒険はしたけど、まじないのほうは門外漢かなぁ」
「……なんて役に立たない(ボソッ」
「うわーひっどいなぁ、確かにボクはひ弱かもしれないけど、ボクの宝具はみんなみーんな凄いんだから。
 ……あ、そうだ! そんなマスターには、はいこれ!」
「えっと、本? そういえばアンタの宝具って色々変なのばっかあるわよね」
「その通り! これは魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)って言って、真名を解放すれば色んなことができるんだけど……」
「できるんだけど?」
「ボク、本当の名前忘れちゃってるんだ。てへ」
「駄目じゃん! そんなのさっさと仕舞いなさい!」

 満面の笑みで取り出したる古びた本を、その当人に命じて仕舞わせた。ライダーは「だって仕方ないじゃんかー」などとぶーたれている。

「さっき思い出したんだけど、ほら、前に私達が戦った魔術師がいたじゃない?
 あいつ、自分のサーヴァントが負けた途端にいきなりワープみたいなことしてて、あれが使えれば私も元の世界に戻れるんじゃないかって思ったのよ」
「なるほどなるほど。それでボクに魔術に詳しいか聞いたんだね」
「ま、結果はこんなんだったけどね」


819 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:00:39 TCQotXAU0

 不貞腐れたように頬杖をついてストローを口に含む。世の中そう何でも上手くはいかないということか。
 まあ自分が前に見たあのワープだって、本当はこの世界を脱するような代物じゃなく、単に鎌倉の何処かに逃げるだけのものだったかもしれないし、あまり過度な期待はしないほうがいいのかもしれない。
 そういえばあの魔術師が逃げ帰った後、いきなり無関係な一般人が出てきてライダー共々慌てたっけ、などと思いだす。あの時は幸運にも何も見られていなかったみたいだけど、これからも何かするときは一般市民に見られないようにしなきゃいけないな、なんて述懐した。

「そういうわけで私達の方針に新しい目的を付け加えるわ。魔術師かキャスターと会ったら協力できないか話してみること。
 なんか無理っぽい空気がひしひしと感じられるけど、やる前から諦めてちゃどうしようもないしね」
「うんうん、何にせよ前向きなのはいいことだよマスター」

 変わらないニコニコ顔でこちらを見つめるライダーに適当に返事を返しつつ、ヤヤは残ったジュースを一気に飲み干した。
 先の読めない混沌とした状況ではあるけれど、まあできるだけ何とか頑張ってみようと。

 そう思って。

「……マスター、サーヴァントの気配を感じたよ。だんだんこっちに近づいてくるみたい」

 珍しく真剣味を帯びたライダーの声に、弛緩した精神が嫌でも硬直する。
 この世界に来た初日以来、ずっと目にすることのなかった自分たち以外の陣営―――それが近づいているという事実を前に、ヤヤはただ表情を硬くするしかなかった。





   ▼  ▼  ▼





 居候の身というのは、中々につらいものがある。
 そんなことを、如月は勝手すぎる考えだと理解しながらも思わざるを得なかった。


820 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:01:18 TCQotXAU0

 それは手伝いによる肉体的な疲労だとか、人間関係の悪化だとか、金銭面でのトラブルということではない。如月の行っているアルバイト作業はそんなにつらいものではないし、職場や居候先にいる人たちとは円満な関係を築けている。金銭面ではむしろ厚遇してもらってるくらいだ。これ以上は文句など言えはしない。
 ならば何がつらいかと言えば、それは精神的な遠慮というか、まあそういうもの。
 仮にも宿無しの自分を善意100%で泊めて貰って、ばかりか仕事まで頂戴しているのだから、受けた恩は計り知れないものだ。端的に言って、何かしらお返しをしないと落ち着かない。
 当人たちは笑顔で「そんなこと気にする必要ないんだよ」と言ってくれてはいるけど、彼らが良くても自分の居心地は悪いのだ。普段はその分を仕事で返しているつもりだし、聖杯戦争が終わった暁には頂いた給金で彼らに何かをプレゼントしようとも考えているけど。心のどこかにある遠慮の気持ちは、どうにも払拭することは難しい。

 つまり、何が言いたいのかというと。

「……ふう、これでメモに書かれてるのは全部かしら」

 大きく膨れ上がった買い物袋を両手で掴んで、うんしょうんしょと言った具合で如月は商店街の道を歩いていた。
 如月の住むアパートは、バイト先の従業員の親類が持つ物件の空き家である。この時点で想像がつくかもしれないが、バイト先の店舗とアパートは地理的に非常に近しい。というかほとんど同じ区画にある。
 如月としては移動にかかる手間が省けるから願ったりなのだが、それが災いして時にはこうして呼び出されることもしばしば、ということもあった。
 今回もそうで、予想以上に客足が伸びたせいか途中で材料が足りなくなり、急遽如月がちょっとした買い出しに呼び出されたのだ。
 急な仕事で悪いね、これで何か美味しいものでも食べていらっしゃい、と買い出しに必要な分以外に3000円ほど渡されたりする場面もあった。

 恩人たちの頼みとあれば、これくらいのことは断るほうが不義理というものだろうと。
 そういう事情で、如月は急な外出に乗り出していた。

 鶴岡八幡宮を前にしたこの商店街「小町通り」は、近年となっては寂れた印象しかなくなった商店街のイメージとは裏腹に、連日多くの人々が足を運ぶ人気スポットである。
 鎌倉の原宿とは誰が評した言葉だったか。色とりどりの華やかな店舗が並び、昔ながらの伝統ある店や流行の最先端を行く店がずらりと並ぶ様は壮観だった。如月のいた日本では、このような光景はよほど内陸に行くか首都まで行くかしなければ見られないものであったため、初めて来た時には驚くばかりだったと記憶している。

 晴天の空の下、今日も小町通りは賑わいを見せている。
 多くの人が行き交う中を、如月は縫うように歩いていた。

 これが終わったら、どうしようか。
 せっかくお金を貰ったのだし、今日はちょっと奮発してどこかで食べていこうか。いやいや今日は何もしないと決めたのだから、大人しくアパートに戻ってじっとしていよう。
 などと、今夜の晩御飯でも考えるような気軽さで、これからの予定をどうするべきか思考を巡らせて。


821 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:01:54 TCQotXAU0

「あら?」

 ふと。
 自分の懐から何かが鳴動していることに、如月は気付いた。

 それは、出かける時には肌身離さず大切に持ち歩いている"彼"が仕舞われている場所から。
 何かを訴えるように、何かを警戒しているように、その鳴動は主たる如月に何かを伝えてくる。

 彼は物を言わない。意思がないというわけではないようだが、言葉を語らず全てを如月に委ねている。だから、彼が何を言っているかを正確に知る方法は存在しないのだけど。

「……サーヴァントが、近くにいるのね」

 けれど、如月は彼の語る声なき声が何であるのかを、思いあがりかもしれないが大凡理解できると考えていた。
 それは、彼本来の誠実さの現れであるのか。それとも如月が艦娘であるという不思議な共通点からであるのか。それとも如月が彼と同じように、一度"深海"に沈んだからであるのか。
 本当の理由は分からないけれど、それでも訴えかける思念を、如月は相棒の語る声と強く思って。

 ランサー・No.101 S・H・Ark Knightが指し示す方向へと、一心に足を進めるのだった。





   ▼  ▼  ▼





「……」
「……」

 思いのほかあっさりと、二人のマスターは対面することに相成った。

 鎌倉駅東口付近、急いで店を出たヤヤとライダーが辺りを見回していると、一直線にこちらへと近づいてきたのが少女がいた。彼女は今、ヤヤの目の前で警戒心も露わに立っている。
 綺麗な髪の女の子だった。ヤヤも自分の容姿には自信があるし、日々の生活にも気を配っているつもりだったが、これはちょっと敵いそうにないと思えるほどに、彼女は美しかった。こんな感想を持ったのは、人生では脳内ピンクのライダーを引いた時と合わせて二度目である。この街に来てから敗北感が凄いことになっていた。
 それが、目の前の少女と顔を合わせて0.1秒で思ったこと。それ以降は、そんなどうでもいいことなど考える余裕もなく、張りつめた空気の中でさてどうしたものかと取るべき行動を模索していた。


822 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:02:42 TCQotXAU0

「あなたは……」

 第一声は、相手の少女からだった。
 見た目に違わぬ透き通るような声だった。遠慮がちに何かを聞くように、ヤヤへと声をかける。

「あなたは、どうしてこの鎌倉に?」
「……そんなの知らないわよ。いつの間にか連れてこられてたわ。そういうそっちはどうなの?」
「そうね、私も同じ。気が付いたらもうここにいたの」

 短い会話。それきり二人は黙り込んだ。ライダー……アストルフォはさっきから黙り込んで、じっと少女のほうを見つめている。仮にも英霊、戦闘者故に、敵かもしれない相手の前でふざけるようなことはしないのだ。
 念話に曰く、近くにサーヴァントの気配はあれど姿は見えない、とのことだ。恐らくは霊体化させているのだろう。

「……私は、魔術師かキャスターを探しているわ」

 意を決して一歩を踏み込む。このままにらみ合いを続けても益はないからだ。

「前に一度、魔術でワープしてるマスターを見かけたことがあるの。そいつみたいなことができれば、聖杯なんて無くても帰れると思って」
「そう、あなたの目的は元の場所に帰ることなのね」

 しまった、と思った時には遅かった。勇むあまりに言わなくてもいいことを言ってしまった。
 しかし、そんなヤヤを前に、少女も首を振って。

「私もそう。小さな願いはいくつもあるけど、一番大切なのは生きてみんなのところへ帰ること。だから、聖杯を手に入れなきゃ帰れないというなら、手段を選んでる余裕はないと思ってた」

 ……それは、ヤヤにも痛いほど理解できた。
 元の場所へ、生きたまま帰ること。それを果たすためならば、確かに手段をえり好みできるような余裕は存在しない。人は殺したくないし、傷つけもしたくないけど、それでも自分の命は大切だ。
 いざとなれば、聖杯を獲ることだってヤヤは辞さないだろう。魔術師に会えば何とかなるかも、というのだってか細い希望でしかないということは誰でもないヤヤ自身が理解している。
 けれど。

「でも、その前にやれることは全部やらないとって、そうも思ったわ。私だって、戦わずに帰れるならそれに越したことはないのだもの」

 どれだけ低い可能性であろうとも、試すことがなければ零でしかないのだから、やれるだけやってみる価値があるのだと。
 目の前の少女からも、同じ気持ちを感じることができたから。

「よければ、その話を詳しく聞かせてはもらえないかしら。一つでも可能性があるなら……」

 そんな言葉が告げられようとした瞬間。あまりにも唐突に―――


823 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:03:13 TCQotXAU0



「サーヴァントの気配を感じ来てみれば、なるほど貴様らがそうなのかね」



「―――え?」

 発した声は誰のものであったか。しかし見上げたその先に、決して無視できない異常があることに、その場の全員が気付いた。

 人間が立っていた。鎌倉駅の頂点部分より更に上、およそ人の立ち入れない場所に、しかし場違いなほど堂々と。
 そして気付く。赤い、赤い、紅蓮の陣。駅の敷地全てを呑みこみかねないほど巨大なそれは、内部にいる全ての者を一瞬で消し去れるであろう圧倒的な力を感じさせる。
 まるで巨人の掌にでも乗せられたかのような気分だった。深紅に瞬く方陣は炎の塊。その熱量も禍々しさも、如何な業火ですらも及ばない桁違いのもので。

「地獄……?」

 自然と、それが想起された。地獄、それも大焦熱の。場の全員がそんな想像を脳裏に思い描いた。

「全員動くな。蟻の一匹も逃がさん」

 威風堂々とした声が、開戦の号砲として辺りに轟く。

「我が仮初の契約主より命を受けて推参。もって貴様らを殲滅し、ハイドリヒ卿へ捧げる器の先駆けとする」

 それは、鋼鉄の如き質量を持つ喝破となって響き渡り。

「さあ参れ、一角の英霊たちよ。私の炎(ローゲ)で英雄の資格足らんか見極めてやる。値せぬというのなら、骨も残らんと思え」

 遥か上空。渦巻く紅蓮の炎を纏い、空間に巨大な穴を穿って現れた焦熱の化身。それを見ただけで確信した。

 既に退路は閉ざされた。今より自分たちは、この正体も分からぬ何者かと戦わなければならないのだと。





   ▼  ▼  ▼


824 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:03:45 TCQotXAU0





 瞬間、そこは灼熱と化した。
 ただ現れ、腕を揮う。それだけのことで周囲が超高熱に覆われる。
 赤い女の立つ真下、巨大な駅の鉄骨すら溶解を始めていた。飴のように歪みながら、自重で倒壊していく様は幻想的ですらあるだろう。
 しかし、にも関わらず赤騎士は汗の一つもかいてはいない。炎熱の地獄にありながら、こんなものは序の口以下だと、寒くさえあると言って憚らない。
 周囲に発生している火炎流は、赤騎士が手足を動かす際の単なる付属効果でしかないのだ。呼吸をすれば埃が舞うのと全くの同次元。そこには何の意図もない。
 悲鳴と怒号が、辺り一面に飛び交った。我先にと逃げる市民は後を絶たず、その流れの中にあって対峙する四人は静謐の表情。不動の構えを崩さない。
 いや、崩せないのだ。これを前に動けば死ぬと、少なくとも三人は直感で悟っていた。

「……来て、ランサー」

 少女―――如月が呟くと同時、光の粒子が舞い踊り、そこに新たな影が生まれた。
 巨大だった。見上げるほどに、その威容は大質量を誇っていた。見ようによっては戦艦にも方舟にも見えるそれは、しかし見た目とは裏腹にランサーのクラスを宛がわれた如月の尖兵。
 No.101 S・H・Ark Knight。それが巨躯に冠せられた名称であった。

「ほう、これはまた変わり種を出してきたものだな。いいだろう、二人纏めてかかってこい。格の違いというものを教えてやる。
 ああ心配はするな。これでも敵マスターはできるだけ生きて捕えろと言われているのでね、業腹だがそれに従ってやろう。故に、後願の憂いなく戦うといい」

 それを前に、しかし赤騎士は平静そのものだ。人は巨大な何かを見れば自然と圧倒されるというのに、そこに何も感じ入てはいない。隣に立つヤヤとアストルフォはまさしく呆気にとられたというのに、だ。

 そして二人を同時に相手取るという言葉もまた、思い上がりや慢心の類ではないのだろう。アストルフォとアークナイトは、言われるでもなく無言のままで共闘の体勢へと移行した。
 この赤い女を前にして他のことを考える余裕などない。対峙してるだけで嫌というほど理解できる。
 その魂。規模、密度。全てにおいて尋常ではない。サーヴァントという人智を超越した存在ならばこの聖杯戦争においては普遍の存在だが、これはあまりにも総体が違い過ぎる。
 感じ取れる力の多寡が巨大すぎて全貌がまるで見えない、故に恐ろしい。巨木や霊峰がそうであるように、圧倒的な質量を持つモノは見る者に理屈抜きの畏怖を叩き込む。
 これがそうだ。見てくれは人と何も変わらないにも関わらず尋常ならざるこの圧力。空間そのものが軋み、大気が鋼鉄の質量を有しているとさえ思えるほどの重圧は、決して錯覚などではないだろう。


825 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:04:44 TCQotXAU0

「どうした、来んのか。そうしていても活路はないと分かっているはずだがな。それとも」

 血のように赤く、業火のように揺れる長髪がざわめき出す。瞬間、その場にいた全員の背筋を悪寒が走った。

「たかが戦前の高揚にさえ耐えられん愚物なのか?」

 言葉と同時、鼓膜が割れんばかりの轟音が空間を埋め尽くした。

「いづッ―――!」
「うわッ!?」

 誰も反応はできなかった。ヤヤはただもたらされた鳴動に耳を抑え蹲り、アストルフォは焦燥と驚愕で顔面を埋め尽くす。
 音の発生源はアークナイトの足元だった。突如として噴き上がった巨大な火柱が、一部の隙なくアークナイトの総身を呑みこんだ。
 悲鳴はなかった。上げる余裕もなかった。その炎は下手な宝具の真名解放にも匹敵する威力で以て襲い掛かり、大気の焼け焦げる音と金属の溶ける特有の臭いだけを周囲に残して消え去った。

「意思のみならず勘も鈍いか、くだらん。抗う気概すらないならば、早々に蒸発して消え去るがいい」

 呆れた声に続く爆発は間断なく連続し、ヤヤたちがいる周囲を呑みこんで炎と土煙を巻き上げる。駅前という見慣れた日常の風景が加速度的に崩壊していき、今やこの場は地雷原の有り様だ。
 爆風に弾き出されたヤヤと如月が、もんどりうって転げ落ちる。マスターは狙わないというアーチャーの宣言通りその身に業火で焼かれた痕はない。しかし、最早彼女らに立ち向かうなり逃げだすなりする気力は尽き果てていた。
 違い過ぎる、あまりにも。ヤヤはこれまでの人生における光景と、如月は深海棲艦との戦いで得た経験と、それぞれ照らし合わせてその結論を出さざるを得なかった。答えは同じ、すなわち「違い過ぎる」。普遍を打ちのめす圧倒的な暴力が、倫理を凌辱する殺人行為が、二人が人生の中で培ってきた常識と意思力を根こそぎに奪い尽くす。
 端的に言えば、二人は中てられていた。殺意という毒によってか、少女たちの輝かしいまでの決意は、今や腐泥のように濁り腐っていた。白痴のように震え、恐怖に慄き、ただ目の前の光景をバカ正直に見守ることしかできない。目を逸らすという逃避行為さえ、この瞬間に彼女らは忘却してしまっていた。
 常識的に考えて、最早少女らの命運は風前の灯火だろう。持ち得る力の強さは度外視して、人を生存に導くのはいつだとて意思の力だ。生き抜こうという強い決意、足掻く行為こそが危機にある命を繋ぐのだから。ならば今のヤヤと如月にそれがあるかと問われれば、それは否だ。ただ恐慌に沈み痙攣する姿を見るだけで答えが知れよう。
 彼女らは生き残れない。それは自明の理であり、二人だけではそれを覆すことなど百度生まれ変わろうが決して叶わぬ難行だろう。その事実に変わりはなく、故に儚き命は業火によって燃やされるしかなかった。

 そう、二人だけならば。

「―――――――――!!」

 爆炎に晒される少女らを守るように、一つの巨大な影が浮き上がり声にならない咆哮を轟かせる。同時、その各部から数えきれないほどの閃光が迸り、レーザーが如き集束線となってアーチャーへと殺到した。
 サイレント・オナーズ・アークナイト、健在。四の星辰より成り立つ静寂の方舟は未だ沈まず、砲火の海の底からさえも奇跡の浮上を成し遂げる。
 放つ無数の光条は宝具『浄滅の洪水(ミリオン・ファントム・フラッド)』の解放だ。全砲門より解き放たれた魔力渦は指向性の集束光線となって射出・分裂し、視界の全てを埋め尽くす極大規模の絨毯爆撃として機能する。
 この宝具の効果は至って単純、すなわち大火力による敵手の殲滅。特殊な機構や奇を衒った付随効果など一切含まないその連撃は、単純が故に隙のない広域破壊でアーチャーを滅さんと迫り行く。

 そして。


826 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:05:40 TCQotXAU0

「むぅぅうううううううッ!!」

 攻撃はそれで終わらない。
 アーチャーの初撃より狙いを外されていたアストルフォもまた、当然のように攻撃体勢へと移行していた。
 中空より取り出すは痩身を一周するほどに巨大かつ奇抜な外見の角笛であった。一拍の間を置いて息を吸いこみ、肺に溜めたそれを一切の減衰なく吹き口へと送り込む。
 瞬間、放たれるのは竜の咆哮か神馬の嘶きにも酷似した魔性を含む不可思議な音撃。衝撃を通り越し物理的な破壊すらもたらすそれは、広範囲に拡散して然るべき"音"を、しかし絶対の指向性で以てアーチャーひとりにのみ叩き付けた。
 『恐慌呼起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)』の最大解放、その威力の全てがここにある。対象物の肉体を塵と化すほどの暴威を持つそれはアークナイトの砲撃にも劣らぬ破壊となって吹き荒れる。

 ヤヤと如月だけだったならば、この場を生き残るには不適であっただろう。しかしそうではない。ここには彼女らを守護するサーヴァントが二騎、尽きぬ戦意と共に存在している。故に彼女らが死ぬことはない。騎兵と槍兵は倒れることなく立ちはだかり、敵手の攻撃をその背に守る少女たちへと通すことはない。そして持ち得る力の全てを使い、脅威たる外敵を排除しようと戦うのだ。

 視界を埋め尽くさんばかりの光の乱舞と不可視の音撃が、波濤となって赤きアーチャーへと殺到する。
 最早躱せる段階ではなく、当然防ぐこともできはしない。二つの宝具の真名解放は、如何なる障害であろうとも諸共に砕いて塵へと返す。

 地を割る衝撃と空を裂く轟音が、一挙にアーチャーへと叩き込まれて。



「……なんだ、その体たらくは」

 光条と大気の振動が一斉に弾け飛び、一瞬遅れて全ての音が消え去った。次いで聞こえたのは興の冷めた声。

「――――え?」

 間の抜けた声は誰のものであっただろうか。しかし声の主が誰であるかなどということに意味はなく、現実は情け容赦のない事実として少女らの前に立ちはだかった。

 不条理が巻き起こっていた。アーチャーの身を砕くはずの光と音の全ては、しかし逆にそれらの全てが砕け散った。
 アーチャーは指の一本も動かしてはいない。ただ、その周囲を覆うように炎が巻き上がったという、ただそれだけ。
 【炎が光と音を焼き尽くしていた】。物理的にあり得ないその現象が、しかし現実として目の前で行われた防御行動の全てであった。

「どうした、それで終わりではないだろう。あまり私を落胆させるなよ。
 貴様らそのザマで一端の戦士気取りならば死ぬがいい。生き恥を晒すのも辛かろう」

 戦慄―――今まで下から噴き上がるだけだった火柱が、不意に横からのものに変化した。何もない空間から突然に、黙するアークナイトと驚愕に沈むアストルフォを囲い込むような形で四方同時に噴出する。
 躱すには飛ぶしかなかった。アストルフォは自前の足で、アークナイトは元より浮遊して、それぞれ実際に跳躍した結果、辿りついたのは何の遮蔽物もない中空。遮るものがない故に、アーチャーの砲火が阻まれることもなく。


827 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:06:03 TCQotXAU0

「――――――!」
「あ……がッ!」

 狙い穿つ紅蓮の炎。視界を赤一色に染める灼熱に、彼らは文字通り撃墜された。
 木っ端のように吹き飛ぶアストルフォに、無数の破片をばら撒きながらゆっくりと墜落するアークナイト。炎上する鋼の巨躯が地に沈み、轟音と地鳴りが辺りに伝播した。酷く遅々としたものに感じられるそれは、否応なく少女らの耳と肌に届き、彼らがただの一瞬で敗北したのだという事実を叩き付けたのだった。

「―――……ッ!」

 動けない。声も出ない。火炎の熱に焼かれるより、まるで転がり落ちる巨岩に衝突したかのような凄まじい衝撃に見舞われた。爆発的な奔流にアストルフォの身は弾き飛ばされて、既に痛みすら感じられない。
 それは恐らく、アークナイトのほうも同じなのだろう。無我にしか思えず、実際声を出すこともないかの槍兵だが、今やその総身は外殻が砕かれ無残な有り様を晒している。当然動く気配もなく、アストルフォと同じく暫しの休止を余儀なくされていた。

「ほう、燃え尽きんか。しぶとさだけは大したものだな。ならばこれはどうだ」

 見上げた視界に映るアーチャー。その前方に炎が集まり、宙に印が刻まれていく。今までとは比較にならない熱量がそこに凝縮していく事実が、アストルフォのみならず魔術の素養もないはずのマスターたちにさえ感じ取ることができた。
 周囲の温度は急激に上昇しているにも関わらず、肌を突き刺す寒気は更におぞましさを増している。駄目だ、駄目だ、あれを発動させてはならないと理屈を越えた本能が最大級の警鐘を鳴らしている。
 動かない四肢を無理やりに動かし、歯を食いしばり、アストルフォは少しでも前進しようともがき足掻く。何故ならば、あれが放たれれば自分は愚かそのマスターの命すら危ういと悟ったが故に。
 だから動け、這ってでも逃げろ。あの直撃を受けたら魂までもが蒸発する―――!

「ぐ、う……あ、あああああああああああああああ!!」

 地に両手をつき、絶叫して顔を上げた。こちらに照準を合わせた魔性の焔は、僅かの後にも発射される寸前で―――







「―――ランサー、宝具の発動を許可するわ。あなたの真の力をここに見せて!」

 刹那、ここに一つの神秘が顕現した。





   ▼  ▼  ▼


828 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:06:35 TCQotXAU0





 すぐ隣に臥せっていた少女が立ちあがるのを、ヤヤは肌の感覚だけで察していた。
 綺麗な髪の女の子……名前も年も聞いてないけど、多分自分と同じ年の頃だと思う。一目見て綺麗で華奢だなって思えるくらいに、その子は戦いはおろか運動にさえ無縁なのだと確信できて。だからこそ、ヤヤはどうして彼女が立ち上がれたのかまるで分からなかった。

 ヤヤは立ち上がれなかった。立ち上がらなかった。体の節々は痛みを帯びて、意識は朦朧と白く染まりかけてはいるけれど。やろうと思えばそんなもの振り払って立つことができたのに、しかしヤヤはそうすることを心底から拒否した。
 怖いから。何もできないから。怖くて怖くてどうにもならなくて、そんな自分が立ちあがったところで何ができるわけでもない。戦いは全部ライダーに任せて、怖いのも痛いのも全部全部あの能天気なピンクに押し付ければそれでいいじゃないか。
 だってそうでしょ、あいつは私を守ると言ってくれたじゃない。戦ってくれると言ったじゃない。何もできない私は何もしなくていいんだって。戦うことも立ち上がることも逃げることも生き延びることも、全部あいつが何とかしてくれるんだから。
 私は、私だけが綺麗なままで帰りたい。

 そこまで考えて。


 ―――……最低だ、私。


 逃避と正当化と自己嫌悪に塗れ混濁した意識を、笹目ヤヤは暗い水の底へと沈めたのだった。









「私はNo101.サイレント・オナーズ・アークナイトでオーバーレイネットワークを再構築! カオス・エクシーズ・チェンジ!」

 雄々しく放たれた宣言と共に、周囲が光で満ち満ちた。
 掲げられたカードは一種の発動体か。手のひらに収まってしまう小さな長方形は、しかし渦巻く大気と呼応して魔力の奔流を一点に集中させている。
 瞬間、頭上の空間が変質した。渦巻銀河にも酷似した魔力の収縮は光を呑みこむ深海のような闇色をして、しかし同時に眩いまでの光を放つという相反した矛盾性をはらんでいた。
 壊れ砕けたアークナイトの総身、膨大な質量の全てが粒子のように溶け消えて渦の中心へと吸い込まれていく。やがてアークナイトを構成する魔力を飲み下した深淵の渦は生きているかのように脈動し、超越の魂を新たな領域へと昇華せしめるのだ。


829 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:07:17 TCQotXAU0

「現れろ、CNo.101!
 満たされぬ魂の守護者よ、暗黒の騎士となって光を砕け!」

 それは深海の底から響き渡った、まつろわぬ魂を謳った言葉。
 たった数言に圧縮された無念、悔恨、憎悪、負の慟哭。
 満たされぬ想いと共に地を蝕む殺意の奔流が、あらゆる敵手を呪いながら邪悪を氾濫させていく。
 闇色の光から現れたのは、人型をした槍持つ何者か。

 それは騎士。
 それは暗黒。
 沈まぬはずの方舟から解き放たれた、破滅より蘇りし漆黒の槍兵。

 星辰によりて導かれる英霊よ。黒く蠢くは深淵の御使いよ。哀れなる者をその槍で串刺しに貫くがいい。
 仮に、そう仮に。死が地獄への道行であるならば。
 ここが、この世界こそが、辺獄(リンボ)に他ならないのだから。

「カオス・エクシーズ召喚―――サイレント・オナーズ・ダークナイト!」

 告げる言葉は荒く、しかし静謐に。
 暗黒へと還る魂魄。闇へと立ちかえった騎士の再誕であった。



「――――」

 それは一見すると、アークナイトとは比較にならないほど小柄な体躯だった。
 全身は黒色の鎧に包まれ、手には三又の黄金槍を携えている。戦艦のような意匠のアークナイトとは異なり、それは正しくランサーの在るべき姿であった。
 縮小した肉体はその分高密度の魔力を保持し、有する力の総量はアークナイトを越えて余りある。質量の差が戦力の差ではないのだと、ダークナイトは声なき体でこれ以上なく如実に示して見せた。


830 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:07:56 TCQotXAU0

「二重の意味で復活して見せたか小娘。いいぞ、戦士とはそうでなくてはならん。無から振り絞れるものが、その人間の真価だと知るがいい」

 頭上にて睥睨するは未だ無傷のアーチャー。新生したランサーと共にねめつける如月は、言葉を返すことなく佇んだままだった。
 如月が立ちあがった理由。未だ倒れたままのヤヤとの決定的な違い。それは、命がけの修羅場を経験していたかどうかという、ただそれだけの話だ。
 如月は艦娘だ。人類から海を奪い、水底より現れては人を殺していく深海棲艦。その脅威と戦い、駆逐していく一介の兵士に他ならない。
 ここは慣れ親しんだ水面の戦場でもなければ、自らの手に敵手を撃破せしめる単装砲があるわけでもない。それでも、如月は軍属であり、兵士なのだ。如何に少女としての感性と良識を多く備えていようとも、その事実に変わりはない。
 だから立ち上がる。兵士が闘いを、死を恐れる道理などない。常に戦い、戦い、戦って道を切り拓く。それしか知らない故に、今もこうして戦いに赴くのみ。

 ……覚悟が決まるまで、ちょっと時間がかかっちゃったけど。

 心の中でほんの少しだけ自戒して、如月はアーチャーへと向き直る。
 そして、告げるべき言葉は決まりきっていた。

「行ってちょうだい、ランサー。あなたの勝利を私に見せて!」
「――――――ッ!!」

 下された命に、感情無きはずの槍兵はそれでも裂帛の気合と共に地を駆けた。
 音の壁を容易く突破したダークナイトの肉体は一陣の疾風と化し、20mの距離を一息に削り取る。
 突き出されるトライデントの刺突は違わずアーチャーの眉間を照準していた。無我なるものダークナイト、しかしその技巧は熟達の域にまで達しており、彼が機械的なだけの木偶などではないのだと知らしめる。

 そして。

「来い、ヒポグリフ!」

 アーチャーに立ち向かおうと奮起する者は、何も如月とダークナイトだけではない。
 損傷より回復したアストルフォが、黄金に輝く馬上槍を構え跳躍。同時に虚空より現出した翼持つ幻想種の背に跨り、超速の疾走を開始する。
 ヒポグリフ、この世ならざる幻馬。音の壁を容易く突破する「世界に在り得ざる幻想」は、最大速度で一直線にアーチャーへと突進した。その速度、最早サーヴァントの知覚限界を超えて余りあり、物理的な衝撃は瞬間的にはAランクにも到達していた。

 ダークナイトにアストルフォ、長槍を携えた二人は期せずして全くの同時に渾身の刺突をアーチャーへと突き入れた。技巧を凝らしたダークナイトの槍撃と、純粋に速度と威力のみを追求したアストルフォの槍撃。まるで性質の違う二通りの攻撃は最上のフェイントと化してアーチャーを襲う。力で防げばダークナイトの技が防御をすり抜け、技で防げばアストルフォの突撃が防御を打ち砕く。矛盾して防ぐことの許されない完全同時攻撃はたかが砲兵に捌ける領域を超え、今まさに必殺となって迫り往き―――


831 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:08:37 TCQotXAU0



「舐めすぎだな」



 ―――あろうことか、ここに二度目の不条理が成立した。
 防がれていた。今度は炎すら使わずに、真実生身のままで。アーチャーは左手でアストルフォの喉首を鷲掴みに捕まえ、右手は腰の剣を抜き放ちダークナイトの槍を受け止め、足元にはヒポグリフを踏み砕いていた。

「な、どうし、て……」

 万力のように首を締め上げられるアストルフォが息も絶え絶えに呻く。彼の言葉は尤もなもので、先の突進速度は明らかにアーチャーに反応できるものではなかったはずなのだ。
 どうして、何故読まれた? 偶然にしても避けるならともかく、このような状況に陥るなどありえない。剣と槍の鍔迫り合いが反響する最中、アストルフォの思考は困惑に満ちていた。

 だってそうだろう。突進するヒポグリフの横合いから、すれ違いざまに貫手で以てアストルフォの首だけを的確に掴まれるなどと。超速で空を駆けるヒポグリフを的確に撃墜するなどと、そんな不条理が意図して起こされてたまるものかと。
 そう、視線で訴えかけて。

「私を誰だと思っている。仮にも英雄の一角だぞ。
 千の戦場、万の殺し合い。一言で言えば経験だ。速かろうが見えなかろうが、一直線すぎる殺意など欠伸が出るよ。至極読みやすい。
 力だけの猪武者と、戦士を一緒にされては困るな」
「くあァッ――!」

 そのまま地面に頭から叩き落され、衝撃と共に意識が眩む。凄まじいばかりの握力が、喉元を締め上げる手を振りほどくことを許さない。例えアストルフォが「怪力」のスキルを使おうと、その結果に変化は生じないだろう。

「そして貴様も貴様だよ、ランサー……いや、CNo.101サイレント・オナーズ・ダークナイト。
 確かに貴様は技術も殺意も一流のそれではあった。そこだけは、この薄らボケた戦士気取りとは違うのだと認めよう。だがそれだけだ、まるで信念が足りてないのだよ」

 次いで弛緩したアストルフォを人形のように放りだし、空いた左手を剣の柄へと添える。金属の軋む甲高い反響音が更にその密度を増し、互角だった双方の膂力が急速に片側へとその天秤を傾け始めた。

「貴様には自分の意思がないのだろう。ただ主に使われ、何を思うこともなく命令を聞くだけでいるのだろう。その出自を考えれば酷な話ではあるが、貴様の陥穽はまさしくそれだ。
 自らの内から湧き出た意思でなければ我等は獲れんよ。端的に言って、ぬるい」

 一閃、一息に走り抜けた剣がトライデントごとダークナイトを上下に分割する。漆黒の槍兵はピタリと動きを止め、一瞬遅れて上半身だけが滑るようにズレて地に落ちた。
 喪失したダークナイトの半身の向こうに、呆然と立ち尽くす如月の姿が垣間見えた。誰も動く者はいなかった。あらゆる戦闘行為が、ここに終わりを告げた。


832 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:09:27 TCQotXAU0

「さて、もう打つ手なしかね。私に"剣"を抜かせるどころか、砲の"形成"さえさせんとは……所詮はその程度かよ貴様ら」

 アーチャーの口調が、戦士のそれから侮蔑へと変化した。いや、これは落胆か。どちらにせよ、今のアーチャーからは敵へと贈る敬意など微塵も感じられなかった。
 "剣"というのは、恐らく言葉通りの代物ではあるまい。何故ならその右手には軍式のサーベルが抜き放たれている。ならばそれは、切り札を指し示す隠語だろうか。切り札どころか捨て札すら引き出せてないのだと、語る彼女は侮蔑に表情を歪ませていた。
 殺害の意思を込めた右手を、ゆっくりと如月へと伸ばす。「やめろ……」とか細い声を上げるアストルフォを完全に無視し、アーチャーの手は唯一己が足で立つ如月へと向けられて。

「……いいえ、お生憎様」

 噛みしめるように、如月が呟き。
 瞬間、"あり得ない"はずの雄叫びが周囲に轟いて。

「私はまだ諦めないわ!」

 体を分割されたはずのダークナイトが、しかし五体無事の肉体で以て如月を抱きかかえ、そのまま後方へと一目散に撤退を開始した。
 『辺獄よりの再臨(リターン・オブ・リンボ)』、ダークナイトが象徴たる宝具の一。それは己が身に蓄えられたオーバーレイユニットを消費することによる、文字通りの蘇りだ。
 例えその身を微塵に砕かれようと、どれほどの敗北を肉体に刻まれようとも。漆黒の槍術師は朽ちることなく辺獄より舞い戻り主を守護する盾となる。

 霊核を貫かれようと構わず復活する様は、まさしく規格外の戦闘続行能力と呼ぶに相応しく。
 しかし、彼の真名を知ったエレオノーレにとっては、その復活劇でさえも既知の範囲でしかない。

 驚くことも慌てることもなく、エレオノーレは逃げ行くダークナイトに、ただ左手を差し向けた。
 そこに集うは焔の魔力。一閃に穿たれる貫光は、ダークナイトの半身を消し飛ばすに十分すぎる威力を湛えて。



「―――そこまでだ」



 しかし。
 しかし、その攻撃が放たれることはなかった。

 静謐の佇まいから一転、上半身を反転させて右手を振り抜き、飛来した何かをエレオノーレは斬り落とす。
 甲高い破砕音を響かせて、無色の"それ"は構成する魔力を粒子と散らして宙へと溶け消えた。
 一瞬だけ垣間見えたその形は、矢。


833 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:09:57 TCQotXAU0

「……ほう」

 微かに瞠目する。それが不撓の赤騎士には珍しい所作であるのだということを知る者は、この場には存在しなかった。

 バサリ、と黒衣を翻す音と共に、それは舞い降りる。
 地に伏せるアストルフォには、それが巨大な蝙蝠にも見えた。しかしそうではない。目の前には、誰かの綺麗な白い手があった。

 蒼白の髪に、鍛えられた痩身。
 王侯貴族が如きマントを身に纏い、黒い剣を携えて。

「きみ、は……」

 アストルフォの呟きに答えるように、その男は手を差し伸べた。

「大丈夫か」

 言うと同時に黒剣が霞み、男の左方一mほどの空間に火花が散る。飛来する炎弾を剣で打ち落としたのだと、アストルフォには分かった。
 ―――この人は、味方……?

「なるほど、ここへ来たのは伊達や酔狂ではないようだな」

 感心したような声が届く。答えるように、男はそちらへと体を向けた。

「アーチャー。形式に従いクラス名を告げよう。さあ、貴様も名乗るがいい」
「奇遇、とでも言えばいいのか。私のクラスもアーチャーだ。不都合だが、しかし名を呼び合うような関係にはならないのだろうな」
「当然だろう。私か貴様か、どちらかが死ぬことでしか我等の縁は紡がれんよ」

 瞬間、急速に高まっていく緊張感。男は片手で制するように、アストルフォへ振り返ることなく告げた。

「すまないが、君たちを庇う余裕はない。今は君のマスターと共に下がっていてくれ」

 携えた剣を一振り、正眼へと構え。

「今からここは、戦場になる」

 黒衣のアーチャー、ローズレッド・ストラウスの言葉と同時。
 地を踏み抜く音が鳴り、戦端の幕は切って落とされた。





   ▼  ▼  ▼


834 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:10:33 TCQotXAU0





 剣閃が音速を遥か超越して捻り飛ぶ。
 斬撃が空を引き裂き震撼する。
 剣理と剣理、戦術と戦術、気迫と気迫。その全てが三つ巴の車輪となって回転し、交錯と激突を繰り返す。

 エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグとローズレッド・ストラウス。黄金の獣に侍る大英雄と夜の国に君臨せし万能王が刃を交わし始めてから、わずかに十数秒。戦場となる駅前の風景は、既に大規模爆撃を受けたにも等しい損壊状況を呈している。
 刃が激突する毎に生じる衝撃の余波は、大気はおろか空間そのものの安定さえ許さない。死闘の目撃者であるアストルフォは、同じサーヴァントの身を以ってしても己が主を庇い安全圏を確保するだけで精一杯であった。
 介入するなど全くの論外。あれは既に別次元、彼方に仰ぎ見るだけの闘いだ。

 一合毎に崩壊していく周囲とは対照的に、両雄の身は全くの健在。共に纏う軍服と黒の外装には傷一つさえ付いていない。
 すなわちそれは、必殺の攻撃を繰り出し合いながらも神業に等しい防御を並立させているということ。如何に敵を倒し己のみは生存するかという極限の背理を、彼らは苦も無く実行していた。
 そしてそれは、何も剣だけの話ではない。

 周囲には無数の"弾丸"が浮遊していた。いや、それは弾丸というよりは砲弾であり、巨躯の矢であり、そして浮遊などではなく超速という言葉すら生温い速度で幾重にも飛来し衝突を繰り返していた。
 平静すら許されない空間の中に、無数の波紋が発生していた。一つ一つが魔弾同士の衝突によって生まれた波紋は、広がりきる前に別の波紋によって掻き消された。魔炎の砲と振動魔力の矢は秒間数百発という常軌を逸した速度で連射され、一発一発が攻性宝具の一撃にも匹敵する威力でぶつかり、喰らい合い、互いの存在を抹消せしめている。
 そこに生じる爆炎と魔力嵐は凡百のサーヴァントならば触れるだけで命を失うであろう極悪さを秘めていた。降り注ぐ鉄風雷火の雨の中にあって、それでも両雄は一切の手傷を負うことなく、まるで舞っているかのように剣の舞踏を続けるのだ。

 等しく剣と砲を頼みと置き、駆動を続ける戦乱闘舞。その技量も、有する戦力の質量も甲乙付けがたい両者であった。
 剣ではストラウスに、砲ではエレオノーレに軍配があがれど、総合的な実力は共に伯仲。そんな彼らをあえて柔剛に当てはめてみるならば、剛は正しくエレオノーレ。生じる魔砲の炎熱はあらゆる敵手を屠って余りある代物であり、何者の追随も許さない。まして相手はヴァンパイア、日光とは性質を異とするにせよその弱点に酷似していることに変わりはなく、故に彼女の繰り出す攻撃はその全てが一撃必殺として機能する。
 かと言って力押しの猪武者では断じてなく、むしろ技巧においてさえ最上位のものを有している。中でも恐るべきはその軍略か、周囲の地形や条件を的確に利用し、あらゆる全てを己の利とする観察眼。それは最早一個のサーヴァントではなく、師団にも匹敵する大人数との戦闘を行っているとさえ錯覚するほどだ。
 一人の兵士、死なずの英雄(エインフェリア)として培った膨大な戦闘経験と戦闘技術。それは万能型の理想とも言うべき隙無しの型として成り立ち、どのような戦況においても自分を裏切らぬ確かな強さそのものだ。
 能力頼みの天才風情など歯牙にもかけぬと言うほどに。

 対するストラウスは、比べるなら柔に当たる。
 必殺性や単純火力においては一歩譲るものの、彼が有する真価は変幻自在の魔力資質にこそあった。時には矢として、時には振動波として、そして時には剣として。万能性においてはエレオノーレすらも上回り、彼女が繰り出す攻撃の全てに対応して見せる応用力は絶句するしかないだろう。
 余りにも応用が利きすぎる力とは、扱う者が未熟ならば同じだけの隙を生むことにも繋がりかねないが……彼の場合は無双の剣術と明晰な頭脳によって至高の戦闘技巧へと昇華させ、無数の敵が繰り出すと錯覚する怒涛の連撃すらも汗一つなく軽々と捌ききっていた。

 本来であるなら、如何なる絡め手すらも飲み下す万能の極致―――それがここでは互いに喰らい合い、故に極小の差として現れる。
 しかし、共に熟達という領域など遥かに逸脱した両雄にとって、その程度のことは何の優劣にもなってはいなかった。


835 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:11:15 TCQotXAU0

「―――!」

 爆砕しながら吹き荒ぶは破壊の熱波、世界の振動。しかし戦場には常にあるべき怒号というものは一切存在してはいない。
 それはある意味当然のことだろう。何故ならば彼らは未だ全力を出していないのだから。エレオノーレの出力と回転数は先の二対一の戦闘時と比べ十数倍にも膨れ上がり、対するストラウスもそれに拮抗するほどの力量を見せているというのに、それは一体どのような冗談か。
 しかしこれは現実なのだ。彼らは未だ本領を発揮していない。だからこそ、この戦闘は常識外のものであり、空恐ろしい代物と化している。

 戦闘開始より三分、交わした剣戟の数はとうの昔に四桁を上回り、剣速は宇宙速度へ達するほどに加速を続けていた。しかし互いの肉体には傷の一つもついていない。
 両者、放つ攻撃は怒涛にして間断なく。
 距離、僅か一メートル圏内という超至近距離において。
 周囲、無数の魔力が対消滅を繰り返しながら。
 それでも彼らは一度の被弾もないままに殺戮舞踏を続けているのだ。

「私には解せんよ、赤薔薇王」

 刹那、驚くべきことにエレオノーレはそんな言葉を口にした。ストラウスは僅かに目を細める。
 激闘の最中にあって軽口を聞けるという余裕が、ではない。そんなことは英雄たる彼女にとっては児戯にも等しい。
 ならば何が驚異的なのかと言えば、それは彼女が口にした一単語。
 赤薔薇王―――それは、対峙するストラウスを指し示す生前の異名であった。

「別段驚くことでもあるまい。その比類なき魔力、夜の国に纏わる外装、何より私の軍略に追随できる戦略眼。
 これだけの条件が揃えば真名の特定など容易いさ。ああ、そこは別にどうでもいいのだよ。解せんのはここからだ」

 語るエレオノーレの口調は一切の毒を含んではおらず、その目は好敵への敬意と、だからこその疑念に満ちていた。
 会話の間にも剣は振るわれ、剣圧でまた一つ巨大なクレーターが刻まれる。舗装された路地など最早面影すらなく、砕かれ舞った瓦礫は中空にて更に百度も砕かれて、砂塵が渦を巻いて宙を流れて行った。
 
「どうにも貴様、人理に刻まれた風聞とは一致せん。愛に狂った復讐者、などと下らん逸話を持っている輩、所詮は色恋にうつつを抜かす軟弱者と思っていたのだがね。
 しかしこうして見える貴様は腑抜けにはまるで見えんのだ。貴様は紛れもなく強者であり、しかも愛への逃避などという惰弱の気配は微塵も感じられん」


836 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:11:58 TCQotXAU0

 赤薔薇王―――ローズレッド・ストラウスに纏わる伝承は悲哀と悲恋に満ちている。
 余りにも強大過ぎる力を持っていたがため同族にすら恐れられ、その果てに自らを処刑され、妃たるアーデルハイドが狂乱し夜の国は終焉を迎えた。
 暴走するアーデルハイドは同族たちの手により封印され、それを受けたストラウスは王としての地位も愛すべき祖国も守るべき同族たちも切り捨てて、ただ己の愛のためだけに千年間を彷徨ったのだと。それが夜の国と人間世界に伝わるストラウスの全てである。
 それをエレオノーレは、下らない三文小説と切って捨てた。愛などという愚想に縋って幻想に逃避した惰弱、殺すべき害虫でしかないと心底見下げ果てていた。
 しかし、こうして相対する彼は、そんな薄汚さとはまるで無縁の清廉な存在であったが故に。

 薙ぎ、払い、突く。百分の一秒にも満たない間に放たれた三連撃が悉く黒剣によって阻まれるのを見届けると、エレオノーレは更に言葉を続けた。

「ああつまり、私は非礼を詫びたいのだよ。敵を前に油断も慢心もするつもりはなかったが、それでも貴様を侮っていた一面があったのも事実。
 所詮は伝承などという不確かな情報で貴様の度量を推し量った、我が身の不明をここに恥じよう」
「……買いかぶり過ぎだな。風聞の通り、私は救いようのない愚か者でしかないさ」
「貴様が自身をどう評しようが勝手だがね。いや、だからこそか? 私は貴様の行動が理解できん」

 だからこそ。
 エレオノーレも認めるところの"英雄"たる彼が。
 何故、そうしたのかを理解できない。

「何故そこの小娘どもを助けに入った。ああ、確かに英雄的な行動ではあるがね、それ以上に愚かだよ。魔術師でもなければ強者でもない連中を救ったところで何の益もなかろうに」
「言ったはずだがな、砲兵。私は誰よりも愚かなのだと。故に、私のこの行いに深い意味などない」

 不意に、ストラウスの口元が歪む。
 それは苦笑であったか、自嘲であったか。いずれにせよ、その選択を取った己自身を、実のところ彼自身が最も信じられず、驚愕の念を覚えていたがために。

「―――ただそうしたかった。理由などそれだけで十分だろう。例えこの世界の全てが胡蝶の夢に過ぎずとも、私はこの選択をこそ尊ぼう。
 ああ全く、この程度の本音を誰憚りなく口にできることが、今は無性に愉快でたまらない」

 それは、王としての責務でもなく。
 同族を守るための離反劇でもなく。
 まして、使命や同情などでもない。
 ただ己がそうしたいからという、それだけの理由でしかないのだ。

 全てから解き放たれた今、このくらいの我儘を通しても罰は当たらないだろうと。
 そんな諧謔味を言外に含ませて。


837 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:12:23 TCQotXAU0

「……まあいいさ。私好みではないが、それでも貴様が強者であることに変わりはあるまい。英雄の一角、その資格たるを持つことを認めよう。
 故に、だ」

 一瞬だけ、何の感情によってか目を細め。
 エレオノーレはストラウスの剣を捌き後方へと跳躍、纏う膨大な魔力を一点に凝縮し始めた。

 それは猛る炎となって、意図せず周りの熱量を天井知らずに引き上げていく。

「貴様は私の聖遺物を以て討ち取ろう。先の非礼の詫びとして一切手は抜かん。それを、手向けと受け取るがいい」



 ――――――。



 最初、それは中空に刻まれた赤の線だった。
 線は二つ、四つと枝分かれし円を描き、やがては複雑な紋様を湛えた、これまでに倍する巨大な魔法陣となって現出した。

 ―――浮かび上がった赫炎の巨大魔法陣。
 ―――そこから。光が、差して。

 眩いほどに紅きもの。
 眩むまでに黒きもの。
 重厚なほどに鈍きもの。
 それは、陣の中心より現れ出でた一つの砲口であった。

 空間を押しのける威容が視界の全てを埋め尽くし。
 陽炎のように揺らめいて、史上最大の火砲が姿を現す。

 黒く、形を成すもの。
 赤く、人を殺すもの。
 鋼鉄で編み上げられた、それは純粋なまでの暴力の化身。戦略兵器。

 名を、ドーラ列車砲。80cmの砲弾が走り抜けるバレルが旋回する。
 第二次世界大戦においてマジノ要塞攻略のために建造された、正真正銘『最大』の聖遺物。あまりの大質量が出現したことにより、高熱に溶けかかった地形が今にも崩れそうなほどに揺らいでいた。
 見上げるほどに巨大なそれは、黒き砲口をストラウスへと照準して。

   Yetzirah
「―――形成」

 歓喜に震える声と共に、空間の全てが沸騰した。

 Der Freischutz Samiel
「極大火砲・狩猟の魔王」



 ………
 ……
 …



 ――――――。





   ▼  ▼  ▼


838 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:13:22 TCQotXAU0





「逃げたか、赤薔薇王」

 そこは今や、元の原型を保ってはいなかった。形成されたドーラ列車砲の一撃は、正しくその真価を発揮した。
 全てが消失していた。地面は溶解と蒸発を繰り返して硝子質へと形質変容を果たし、見渡す限りにおいて命の気配は存在しない。
 陽の光と硝子の大地以外の全てが消え去った、美しく空虚な死の世界。
 その中心に一人、煙を燻らす赤騎士だけが屹立していた。

「そしてそこな恥知らずも連れて行ったか。全く、よほど余裕があったと見える。ならばよし、次に会う時を楽しみにしているがいい」

 言葉通り、ストラウスのみならず、傍で倒れていたはずのアストルフォとそのマスターの姿も消え去っていた。
 蒸発したのではない。かの赤薔薇の手によって連れ去られたのだと確信できる。何故なら手ごたえがまるでない。
 あの一瞬、爆砲を察知し、魔力で防御を押し固めてなおかつ倒れる二者を回収、全力の遁走と気配の隠蔽を同時に敢行するという離れ業を、赤薔薇は見事にやってのけたのだ。
 その技量、その判断力。やはりというべきか、赤騎士の目から見ても尋常ならざるものだと認めざるを得ない。故にこそ、ハイドリヒ卿の近衛たる自分が散らせるに値する強者なのだと改めて心の刻む。

 白鎧の剣騎士に、夜に名高き赤薔薇王。英雄とは名ばかりの愚物ばかりが跋扈するこの鎌倉で、ようやく巡り会えた本物の輝ける魂に、騎士の矜持が昂ぶることを抑えきれない。
 赤騎士にしては珍しい、牙を剥くかのような獰猛な笑み。それだけを残して、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグはその姿を消失させた。

 後には何も残らなかった。ただ衣張の流れを吹く風が、細かな粒子となった地の上を、まるで箒で片寄せるようにあちらこちらへ小さな吹き溜まりを作っていった。
 誰の声すら、最早どこにも届くことはなかった。


【C-3/鎌倉市街跡地/一日目 午後】

【アーチャー(エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ)@Dies irae】
[状態]魔力消費(小)、霊体化
[装備]軍式サーベル
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:闘争を楽しむ
1:セイバー(アーサー・ペンドラゴン)とアーチャー(ストラウス)は次に会った時、殺す
2:サーヴァントを失ったマスターを百合香の元まで連れて行く。が、あまり乗り気ではない。
[備考]
ライダー(アストルフォ)、ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)、アーチャー(ローズレッド・ストラウス)と交戦しました。
No.101 S・H・Ark Knight、ローズレッド・ストラウスの真名を把握しました。

一日目・午後12時20分頃、C-3鎌倉駅東口方面の市街地が壊滅しました。





   ▼  ▼  ▼


839 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:13:52 TCQotXAU0





「どうにか逃げ切れた……みたいね」

 一目のつかぬ路地の裏にて、その少女の影はあった。
 恐怖と緊張に硬直した体が一気に弛緩する。周囲に危険がないことを確認するや、力が抜けたようにその場へペタリとへたりこんでしまった。
 今まで呼吸すら忘れていた肺が急激に酸素を取り込んで、あまり急に吸い込んでしまったものだから大きく咽こんでしまう。荒い息を何度か吐き、震える両手を地面について何とか呼吸を落ち着けることに成功した。

「あ……」

 立ち上がることは、できなかった。力が入らないくせに、震えだけは滑稽なほどに強さを増していく。このようなザマで、立ち上がれるほうがおかしかった。

 先の戦闘において彼女が何を思い、痛感したかと問われれば、それは自分が思いあがっていたのだという事実をこそ、如月は思い知らされていたと言えるだろう。
 有体に言ってしまえば、自分は心の何処かで聖杯戦争というものを舐めていたのだ。曲がりなりにも深海棲艦という異形種との闘いを経験し、それなりに修羅場を潜り抜けてきたという自負があった。自分は魔術師でないにせよ、戦闘という場面においては一日の長があるのだと、高を括っていたのかもしれない。
 それがとんだ勘違いであると、嫌でも思い知らされた。恐怖の残滓は脳髄に、骨髄に、肉の一片血の一滴に至るまで余さず刻みつけられた。

 赤のアーチャー、如月にとっては記憶に新しいナチスドイツの軍服を着込んだかのサーヴァントの姿は、炎の記憶と共に如月の瞼の裏に焼き付いていた。何の不純物もない純粋なまでの暴力、殺意、死の気配。深海棲艦との戦闘ですらついぞ味わうことのなかった恐怖が、今も体を震わせて止まらない。
 今の如月に、傷はなかった。胸を締め上げるような魔力消費の痛みも、内に蓄積する疲労の色も少なかった。それはランサーが保持する宝具『辺獄よりの再臨(リターン・オブ・リンボ)』による回復効果の恩恵であったけれど。肉体の消耗以上に、精神面の疲弊が大きく目立つ結果となっていた。

 戦いを侮った、これが自分の限界だった。死の危険を忘れ、戦いの骨子を忘れ、浮かれ気分で死地に臨んだ、これがその結果なのだろう。
 死とはかくも恐ろしいものなのだと。
 自分は、自分だけは、嫌というほど知っていたはずなのに。

「情けないわね……こんな駄目なマスターで、あなたは本当に良かったのかしら……」

 憔悴しきった表情で、如月は手元に残された長方形のカードに語りかけた。何とか笑顔を浮かべようとして、けれどまるで笑顔の体を成せていない。
 カードに描かれたランサーの姿は、今や方舟から勇壮なる鎧の騎士へと変じていて。感じられる頼もしさは前と何も変わらないけれど。

 果たして自分は戦えるのか。勝利することができるのか。そして生きて皆のいる場所へ帰ることができるのか。
 固く誓ったはずの心は、ただ一度の蹂躙だけで呆気なく揺るがされ、自らの道行に暗雲が立ち込める気配を、色濃く察することができてしまって。



 覆水は盆に返らない。
 失ってしまったものは戻らない。
 そして―――死んだ者は生き返らない。

 それは当たり前の摂理であって、故に誰もが目を逸らす真理であった。
 彼女は未だ気付かない。あまりに単純すぎるがために、取りこぼしてすり抜けては消えていく。
 今朝垣間見た真実の一端を、彼女が思い出すことはなかった。


【B-3/人気のない路地裏/1日目 午後】

【ランサー(CNo.101 S・H・Dark Knight)@遊戯王ZEXAL】
[状態] 魔力消費(中)、オーバーレイユニット喪失、宝具『混沌昇華せし七皇の魔剣』使用済み、未召喚状態
[装備] トライデント(損壊)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:命令に従う


【如月@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[令呪] 三画
[状態] 疲労(小)、精神疲労(大)、魔力消費(小)
[装備]
[道具] なし
[所持金] 贅沢をしなければ余裕がある程度
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯を手に入れ、睦月ちゃん達のところに帰る
0:今は逃げる。
1:魔術師かキャスターの協力を得る、という手段を留保しておく。しかし過度の期待はしない。
2:赤のアーチャー(エレオノーレ)を最大限に警戒。
[備考]
アーチャー(エレオノーレ)と交戦しました。真名は知りません
ライダー(アストルフォ)を確認しました。真名は知りません
笹目ヤヤをマスターと認識しました
買い出しの荷物は置き去りにされました。多分灰になってます。





   ▼  ▼  ▼


840 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:14:49 TCQotXAU0





「随分と、無茶をしたものだ」

 荒涼とした死の大地を遠目に、ストラウスはただそれのみを言った。左の小脇にはヤヤとアストルフォの二人を纏めて抱え、苦も無く民家の屋根上を駆ける。
 無茶、とは二つの意味を含んでいた。一つは当然、これだけの破壊を生み出した赤のアーチャーへの皮肉と警戒。如何にルーラー側からの警告提示がないとはいえ、無辜の一般市民を巻き込んでの大量破壊を涼しげに敢行するその精神は、単純な武力以上の危険があった。
 そしてもう一つは他ならぬ自分のこと。ストラウスは少女たちを抱える左とは逆の、右手を眼前にまで持ち上げた。

(これの修復には、恐らくあと半刻ほどかかるだろうな。掠っただけでこの威力とは、恐れ入る)

 その右手は肘より先が完全に炭化していた。表面だけでなく、骨の髄までもが歪な炭と化している。人とは比べものにならぬほど頑健な吸血鬼の肉体を、しかも魔力防護の上からここまで焼き尽くす火力の高さはストラウスが想定していた水準を軽く二つは上回る代物だった。
 難敵、と言う他ないだろう。単純なスペックだけならいざ知らず、かの者はそれをカバーする優秀な技量と頭脳、そして何より悪辣を容認する精神性を持ち合わせている。次に出会えばどうなるか、さしものストラウスでさえその命の保証はできなかった。

「さて……」

 延々と続きそうになる思考を一旦打ち切り、改めて小脇の二人を確認する。
 両者共、見事に気絶していた。マスターの少女は当然として、そのサーヴァントたるライダーすらも。
 けれどそれも致し方ないことだろう。何故なら彼は、あの激戦の最中でずっとマスターのことを守っていたのだから。常人ならば一秒とかからず魂までもが焼き尽くされるであろう余波の中にあって、マスターたる少女が五体無事で生存できたのはひとえにライダーの努力の賜物だった。
 アストルフォの宝具が一、魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)は保有しているだけで持ち主の魔力耐性を限界まで引き上げる。その効能を以てして、彼は己が主を守り抜いたのだ。
 代償に、一時的に宝具を失った彼は炎の暴威を一身に浴びることになったけれど。

「サーヴァントとはマスターをこそ第一に考えるもの……そんな題目を持ち出すまでもなく大したものだよ、本当にな」

 ストラウスが魔力による防御障壁を張らなければ、ライダーは間違いなく余波に呑まれて消滅していた。そしてそれは、当のライダーとて承知の上だったことだろう。
 それはつまり、ライダーは己の命と願いを犠牲にしてでもマスターを助けたかったということ。マスターが死ねばサーヴァントも消えるとはいえ、サーヴァントは自分だけが消えてしまっては聖杯獲得による願いの成就を受けることができないことを加味すれば、自己犠牲の精神などサーヴァントが持つはずもないというのに。
 そうなるに足るだけの信頼と絆が、二人には結ばれているということなのだろう。人と人との繋がり、その大切さ。それはストラウスには紡げなかった未来だが、だからこそ尊いと思う。

(私はともかくとして、二人には十分な休息が必要になる。一度、陽が沈むまで拠点に戻るべきか)

 我が身に流れる魔力、それに肉体置換と回復促進の属性を付与して二人へと流し込む。恐らくはそう時間もかからず、話を聞ける状態にまで落ち着くはずだ。
 何も純粋な善意だけで、ストラウスは彼女らを助けたわけではない。悪いようにするつもりはないが、話せることは全て話してもらう。
 そう、例えばこの世界が■■■■であるかどうかの見極めであるとか。
 あるいは―――

「あるいは、亀裂とする楔をこそか。いや、そこまでは期待すまい」

 今はただ、彼女らの安全と息災をと。
 焼け付いた黒衣を翻し、ストラウスは音もなくその場を離れるのだった。



【C-2/市街地/一日目 午後】

【ライダー(アストルフォ)@Fate/Apocrypha】
[状態]気絶、疲労(大)、魔力消費(中)、全身に炎によるダメージ(大)、頸部及び頭部にダメージ(中)、それらすべてが回復中。
[装備]宝具一式
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを護る。
0:……
1:基本的にはマスターの言うことを聞く。本戦も始まったことだし、尚更。
[備考]
アーチャー(エレオノーレ)と交戦しました。真名は知りません
ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)を確認しました。真名を把握しました。


841 : 焦熱世界・月光の剣 ◆GO82qGZUNE :2016/04/30(土) 02:15:11 TCQotXAU0


【笹目ヤヤ@ハナヤマタ】
[令呪]三画
[状態]疲労(大)、精神疲労(大)、魔力消費(中)、気絶、全身に複数の打撲と軽度の火傷、それら全てが回復中。
[装備]
[道具]
[所持金]大分あるが、考えなしに散在できるほどではない。
[思考・状況]
基本行動方針:生きて元の場所に帰る。
0:……
1:聖杯獲得以外に帰る手段を模索してみたい。例えば魔術師ならなんかいいアイディアがあるかも
2:できる限り人は殺したくないからサーヴァント狙いで……でもそれって人殺しとどう違うんだろう。
3:戦艦が妙に怖いから近寄りたくない。
4:アーチャー(エレオノーレ)に恐怖。
5:あの娘は……
[備考]
鎌倉市街に来訪したアマチュアバンドのドラム担当という身分をそっくり奪い取っています。
D-3のホテルに宿泊しています。
ライダーの性別を誤認しています。
アーチャー(エレオノーレ)と交戦しました。真名は知りません
ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)を確認しました。真名は知りません
如月をマスターだと認識しました。


【アーチャー(ローズレッド・ストラウス)@ヴァンパイア十字界】
[状態] 陽光下での活動により力が2割減衰、魔力消費(小)、左腕が完全に炭化(急速再生中)
[装備] 魔力で造られた黒剣
[道具] なし
[所持金] 纏まった金額を所持
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守護し、導く。
0:?????
1:騎兵とそのマスターの少女を安全な場所まで運び、改めて話を聞く。
2:赤の砲撃手(エレオノーレ)には最大限の警戒。
[備考]
鎌倉市中央図書館の書庫にあった資料(主に歴史関連)を大凡把握しました。
鎌倉市街の電子通信網を支配する何者かの存在に気付きました。
アーチャー(エレオノーレ)と交戦しました


842 : 名無しさん :2016/04/30(土) 02:15:34 TCQotXAU0
投下を終了します


843 : 名無しさん :2016/05/02(月) 02:58:27 WBibruaU0
投下乙です。赤騎士の世界が開く。
結果を見れば格上が格下を負かすというそれだけの試合。番狂わせの入る余地など見えない、徹底した圧倒と蹂躙劇。
だが見ていて醒めるような無双ではなく、ひたすら絶望を叩きつけにくる表現への畏敬が残る。黄金に侍る近衛の一角、その凄まじさが翳らず書かれていました。
そしてそれは、続く二戦で拮抗するストラウスの強さを端的に示す。水入りに終わるが讃えるべきは形成を抜き片腕を獲ったザミエルか、獲られても他者を救って見せたストラウスか。
二人目の牙を向けるに足る強者を見つけたザミエルの今後の激闘が楽しみでならない一戦でした。
そして、さらば鎌倉駅東口方面……


844 : ◆GO82qGZUNE :2016/05/08(日) 16:27:47 87d6U9As0
叢&アサシン(スカルマン)
予約します


845 : ◆GO82qGZUNE :2016/05/08(日) 17:28:37 87d6U9As0
投下します


846 : 善悪の彼岸 ◆GO82qGZUNE :2016/05/08(日) 17:29:16 87d6U9As0


 叢にとって、正義とは絶対のものであった。

 物事は総じて相対的なものであるように、正義という概念もまた相対的なものであるというのが世の通例だ。良かれと思ったことが裏目に出ることもあれば、逆に悪意の行いが他者に利をもたらすこともある。人が持つ正当性とは多種多様なもので、時代や国ごとに比較するまでもなく、それら正しい主張は容易に衝突を繰り返す。
 我も人、彼も人。故に対等、基本である―――相手もまた自分と同じ人間である以上は抱いた正義が存在し、守りたいと願う誰かが存在し、貫きたいと思う信念が存在するのだ。抱く情念の多寡や社会的規範に当てはめた場合の正否の違いこそあれど、この不文律は多かれ少なかれ万人に共通するものだろう。
 つまるところ正義とは、そういった個人の主観に依存するものなのだ。誰もが自分の物差しで測ることしかできない、普遍で絶対などでは決してない、相対的なものでしかない。

 そんな、子供にも分かるような理屈が、しかし叢にとっては理解不能の産物だった。いや、そもそも彼女は理解しようとさえしていなかったのだろう。正義とは不変の真理であり、善悪とは世界を完全に二分する絶対の秤であると、彼女は頑ななまでに信仰していた。
 世には善と悪がある。滅ぼさねばならない邪悪がいる。人は二種のみ、ならば我は悪を討つ善であろう。そしていつの日か、悪のない善人だけの世界が来るのだと信じて、彼女は今まで戦ってきたのだ。

 何が彼女をそうさせるのか。何が彼女をそこまで駆り立てるのか。それは、彼女の師にして親のような存在であった黒影の、人生を賭して紡いだ理念を受け継いでのことだった。
 悪忍に両親を殺され、自らの"顔"を失った叢は、己を掬い上げた黒影にこそ光を見た。故にこそ、彼女は迷わない。黒影が抱いた狂おしいまでの渇望を我等が成就させるがため、己が身をただ一振りの刃と化して彼女はひたすらに進み続けるのだ。
 それは世界が違えようとも、変えることのできない彼女の信念であった。


 ―――少なくとも。
 ここにいたのが彼女一人でなかったならば。あるいは、万能の願望器などという謳い文句がなかったならば。
 叢はかつてと同じように、悪を滅ぼす善忍として闘いにその身を投じていただろう。悪逆を討ち果たし善を尊ぶ月閃としてあれただろう。
 他ならぬ黒影こそが、その狂信を哀れみ嘆いていたなどと知ることもないままに。
 絶対の正義のまま、その在り方を曲げることはなかったはずなのだ。



 

   ▼  ▼  ▼


847 : 善悪の彼岸 ◆GO82qGZUNE :2016/05/08(日) 17:29:58 87d6U9As0





 叢は忍である。それも単なる下忍ではなく、名門・死塾月閃女学館を代表する選抜の一角であり、その実力はプロに比肩するばかりか一流の域に手をかけるほどの使い手だ。
 故に当然、その立場に相応しい諸般の技術と知識もまた会得している。善忍とは、世に蔓延る悪忍を討つための戦闘力があれば勤まるものでは断じてなく、その任務の遂行には多岐に渡るスキルが必要とされる。

 例えば隠形。気配を殺すことは忍にとって基本中の基本であり、叢に使いこなせない道理はない。流石にアサシンのサーヴァントと比べれば遥かに見劣りするが、それでもマスターとしては破格の代物ではあった。
 例えばサバイバル技術。長期任務において食糧切れを起こすことは当然として想定されており、自然の中で生活する術は忍術以前のものとして体に染み込ませている。

 だからこそ、単身一つ街に放り出された叢が、山中を基本拠点に置いたのは至極当然の成り行きと言えただろう。なにせ身を隠すにはうってつけである上に、開発の手が入ったとはいえ人の出入りが極めて少なく、かつ無理なく取れる食糧にも事欠かない。街中に降りる際に多少面倒なのが難点ではあったが、鍛え上げられた脚力の前ではそんな障害はないも同然であった。
 そして何より、山奥の澄んだ空気は黒影と共に過ごした日々を思い起こさせるものだったから。
 聖杯戦争という血に塗れた悪祭の只中にあって、この地は叢にとっては唯一の拠り所であったのかもしれなかった。

「今朝方より本戦が開始されたわけだが」

 木々の間から零れ落ちる燦々とした朝日を浴びて、少女らしからぬ低い声音が響く。
 灰色の学生服という、山中にあっては不自然さしか感じさせない服装に、そんな女学生の姿にはまるで似合わない般若の面で顔を覆っているという、多くの意味でちぐはぐな格好のまま、叢は背後へと向き直った。
 振り向いた先、叢が立つ陽の光が当たる小道とは打って変わり、日中でも陽が差し込むことのない茂みの暗闇に、それは立っていた。
 黒の外套、死体めいた痩身、そして何より髑髏そのものの頭骨で視線をこちらに向ける影。スカルマンという名のアサシンは、気配を伴わぬ実体化で以て己が主と相対していた。

「改めて確認するぞ。日中は隠密と諜報に徹し、陽が沈んだ後に暗殺を開始する。それでいいな」
「構わない。元より我が身はお前の影、何の不平を言うこともない」

 単純な事実として、スカルマンはサーヴァントの中では決して強いとは言えない英霊である。
 そもそもアサシンという暗殺不意打ちに特化したクラスで召喚されている以上、純粋な戦力で他のクラスに差をつけられるのは当然としても、「スカルマン」という英霊が持つ力も、本来であるならば英雄として人理に刻まれるようなものではないはずなのだ。
 スカルマンの力の源泉、ひいてはその正体とは、古代遺跡より出土したマスク型のオーパーツである。装着した人間に人智を超越した身体能力を付与するこのマスクこそがスカルマンという英霊の総体であり、本質なのだ。かの性質と存在を顧みれば、マスクの下の装着者が誰であるかなど、さして意味を為さない事実である。
 それはつまり、極論してしまえばマスクの装着者は誰でもいいということの証左でもある。歴史に名を残さぬ市井の住民であろうが、マスターである叢自身であろうが、ただのつまらない凡人であろうとも容易くインスタントな超人と成り得てしまう。
 無論、一度手にしてしまえば相応の代償と末路が待ち受けてはいるが……誰もが享受しうる普遍の力は、総じて積み上げた神秘という面において他の英霊に一歩劣ると言わざるを得ない代物でもあった。
 何の偉業も成せず、ただ歴史の闇に消えていくばかりだったこの仮面が曲がりなりにもサーヴァントとして顕象された理由には、とある地方都市・大友にて肥大化した都市伝説の存在があるのだが、それはここでは割愛する。


848 : 善悪の彼岸 ◆GO82qGZUNE :2016/05/08(日) 17:30:21 87d6U9As0

 つまるところ、スカルマンとは徹頭徹尾暗殺者であり、暗殺者でしかないのだ。正面切っての戦いなど分が悪いにも程があり、まるで得策とは言えない。だからこその隠密、夜の闇に紛れての暗殺こそが本領なのである。
 叢とスカルマンが交わした会話の内容は、その確認であった。彼らは共に忍ぶ者、故に相応の戦い方というものが存在し、これからもその本分を崩すことはないのだという事実確認。
 合理と効率のもとに他者を殺してまわって聖杯を手にするのだという、意思表示を兼ねた会話であった。

「……よし。ならば早速、他の陣営に関する情報を収集するとしよう。善は急げ、とも言うしな」

 唸るような声一つ。踏み出す叢の一歩に、惑いは微塵も含まれてはいなかった。
 何故なら、彼女が掲げるのはまさしく彼女にとっての悲願だったから。

 「黒影」の蘇生。それこそが、叢が聖杯に願うべき奇跡の内訳だった。
 黒影は、叢の全てであった。共に育った四人の仲間たちと同じほどに、幼き頃自らのために仮面を被ってくれた無二の友人と同じほどに。いいや或いは、それら一切合財とさえ釣り合わないかもしれないほどに、黒影の存在は叢の中で重く、重く、その重量を増していた。
 もっと教えを請いたかった。もっと同じ時間を過ごしたかった。もっと一緒に生きたかった。失われてしまった命を、時を取り戻すために、叢は聖杯などという奇跡に縋らなければならないほどに強く渇望し焦がれている。

 悪は須らく滅ぶべしという、黒影の教えに背いてまで。
 最も憎むべき悪そのものに己が身を窶してまで。

 叢は、一筋の光をこそ掴み取らんと、ただ一心に聖杯を目指し駆けるのだ。





   ▼  ▼  ▼


849 : 善悪の彼岸 ◆GO82qGZUNE :2016/05/08(日) 17:30:58 87d6U9As0





 言葉少なく歩を進める主を背を、霊体化したスカルマンは同じく言葉もなく、ただじっと見据えていた。
 白貌の眼窩から覗かせる赤い眼光は鳴りを潜めて、投げかけるは哀れみの視線か、虚無の空洞か。
 いずれにせよ、彼が何かを言うことはあるまい。その資格を彼は持っていない。とうの昔に失ってしまった故に。

 彼ら主従は、ある強い一点において強い結びつきを保持していた。
 それは闇に忍ぶ者であるということでも、共に仮面を被る者であるということでもなく。
 彼らが共に、悪を討つ者であるのだという、それこそが縁によってスカルマンが呼び出されることになった最たる所以なのだ。



 けれど。
 けれど、ほんの少しの、だからこそ決して相容れない小さな小さな差異が、彼らの間には存在していた。



 叢は、悪を滅ぼし善を成すことが善忍だと言っていた。自分はそう在ろうとして、けれど我欲のために悪を成さんとしているのだと、自嘲するように呟いていた。
 自分は悪を滅ぼす者にはなれないのだと、諦めるように吐き捨てていた。

 そうなのだろうと、スカルマンは思う。他の何を否定しようとも、その一点だけは肯定せざるを得ない。
 叢は悪を滅ぼす者にはなれない。何故なら、悪を滅するのはいつだってそれ以上の悪なのだから。
 その意味で、叢は悪滅には不適だった。無口な外面は仮面に過ぎず、その奥に隠された素顔はあまりにも多弁に過ぎたから。

 仮に、彼女が真に悪を滅ぼす者であったならば。
 あるいは、それは救いになったのかもしれない。心は動かず、惑わず、ただ己の存在意義を全うする者であったならば。軋む願いにそれでも尚と縋ることはなかったのかもしれない。
 だが、そうはならなかった。彼女は狂信者足り得なかった。悪を滅ぼす光であるには、彼女はあまりにも弱かった。その心を、素顔を、仮面で覆わねば絶えられなかったほどに。

 陽の当たる獣道を二人は往く。眩い朝日を一身に浴びる叢と、それを避けるように茂みの影に立つスカルマンの姿は、それこそが二人が立つべき世界の境界線であるかのように、決して交わることはなかった。


850 : 善悪の彼岸 ◆GO82qGZUNE :2016/05/08(日) 17:31:35 87d6U9As0






 ―――結局のところ、善忍や正義である前に。叢はどうしようもなく、一人の気弱な女の子でしかなかったのだ。






【B-4/天台山中腹/一日目 午前】

【叢@閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-】
[令呪]三画
[状態]健康
[装備]包丁、槍、秘伝忍法書、般若の面
[道具]死塾月閃女学館の制服
[所持金]極端に少ない
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手にし黒影様を蘇らせる。
0:街に降りて情報収集。
1:日中は隠密と諜報に徹する。他陣営の情報を手にしたら、夜間に襲撃をかける。
[備考]



【アサシン(スカルマン)@スカルマン】
[状態]健康、霊体化
[装備]
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、敵を討つ。
1:……
[備考]


851 : 名無しさん :2016/05/08(日) 17:32:08 87d6U9As0
投下を終了します


852 : ◆GO82qGZUNE :2016/05/15(日) 03:33:44 XSCVpIj20
アイ・アスティン&藤井蓮、すばる&東郷美森、丈倉由紀&ハサン・サッバーハ、直樹美紀&アンガ・ファンダージ、式岸軋騎を予約します


853 : ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:26:19 r2c6ah6I0
予約分を投下します。
なお、今回の投下は>>800にて投下した「狂乱する戦場」(旧タイトル:混沌狂乱)の後編に該当することをここに明記します。


854 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:28:16 r2c6ah6I0



「友達が……いるんです」



 それは、いつかの夜のこと。
 工場の火が落ちたような静けさに満ちた校舎の中、私は彼女とふたりっきりで話していた。

 彼女、丈倉由紀。ゆき先輩。

 ちょっと前まで……いや、その会話の直前まで、私達は険悪な関係だったと記憶している。
 というか、私が一方的に邪険にしていただけか。
 だから、そんな私がどうして和やかな会話になど臨もうと思ったのか。
 詳しいことなんて、よく覚えてないけれど。

 でも、ゆき先輩は危なっかしくて見ていられないから。
 多分、そういうことだったんだと思う。

 だから、話す内容もそういうもの。
 学校や友達を大事にする、ゆき先輩の隣だったから話せたこと。


「クラスメートで、調子が良くて、元気で……」
「うん」
「しばらく会えなくて」
「登校拒否?」
「そう、かもしれません」
「そっか」


 話すのは、思い出すのは、友人のことだった。
 友人。ずっと一緒にいた子。
 同じ学校に通い、同じ日常を過ごし、同じ想いを共有した、誰より大切な私の親友。

 災害に巻き込まれた後も、私たちは一緒になって頑張ってきた。
 生きようと、死にたくないと、必死に必死に死にもの狂いで。

 だから。
 最後の最後で、置いてきぼりにされてしまったけれど。


「もう一度、会えたらなって」


 思うのは、たったそれだけ。
 怒りも悲しみもない。もう一度会えたら、それだけで私は良かった。

 ……叶うはずもないから、より一層焦がれた。


855 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:29:11 r2c6ah6I0


「きっと会えるよ」
「気休めですか?」


 取りつく島のない反応にも、ゆき先輩は笑ったままだった。


「ううん、だってほら、私達って学園生活部だし!」
「さっぱりわかりません」
「みーくんは学校嫌い?」
「いえ……」
「でしょ?」


 よっ、と一声。ゆき先輩は腰かけていた積み椅子から降り、軽やかに廊下へと足をつける。
 能天気な笑顔は変わらなくて、以前はそれがどうしようもなく鼻についたのだけど。


「みんな学校大好きなんだから、きっとその子もまた来るよ。
 わたしたちはずっと学校いるから、こりゃもう会うのは時間の問題だね!」


 今は何故だか、それが無性におかしくて仕方が無かった。

 明らかに何も考えてないのに、頭もそんなに良くないのに、大事なところだけはズバッと当ててくる。
 彼女がそう在るだけで皆が救われているのだと、寂しげに語るりーさんの言葉が、今なら理解できると思った。

 だって、ゆき先輩と向かい合う私は、こんなにも。


「来なかったらどうするんです?」
「そしたらさ、わたしたちでこの学校をもっともーっと楽しくすればいいんだよ」


 希望に満ち溢れていた。
 何も知らない無垢な子供のように。
 その笑みは、ただ光に満ち満ちていたから。


「もういっそ遊園地にしちゃうとかさ。夜になったら電飾がきらきらーって。
 こりゃー来るでしょ、明かりに誘われて!」
「先輩」


 恐らくは。
 その時になって、初めて。


856 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:29:42 r2c6ah6I0


「言ってることが滅茶苦茶です」
「そ、そう?」


 私は、笑顔を浮かべることができたのだと思う。
 心から浮かべた、久しぶりの笑顔を。



 ―――圭。



 だから。
 その時脳裏に浮かびあがったのは、たった一人の親友の姿。

 この手を離れてしまった彼女の名を。
 直樹美紀は、もう一度だけ、強く思って。



 ―――圭。

 ―――どこかで生きているかもしれないあなた。
 ―――私はまた、あなたにもう一度会いたいです。
 ―――また一緒に楽しくおしゃべりをして、一緒に学校へ行って、休日にはCDショップで音楽を聞いたりして。
 ―――泣き、笑い、楽しみながら。あなたと共に生きていく未来が。
 ―――きっと、私は欲しかった。

 ―――わたしは今、ここにいます。
 ―――わたしたちと同じ、懸命に生きてる人たちと一緒に。
 ―――光の中、少しでも前を向いて進んでいきたいと思うから。

 ―――いつかどこかで、あなたとまた……




 ………。

 ……。

 …。


857 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:30:27 r2c6ah6I0





 それは、遠い彼方に過ぎ去ったはずの記憶。
 それは、誰かが思い描いたメモリーのかたち。

 本来現れるはずのなかった、そして誰かに伝わるはずのなかった、それは失われた記憶の断片。

 一人の少女が心に浮かべた、あるいは浮かべたかもしれなかった詩編の一つ。

 語る者はいない。観測する者もいない。


 一人。
 そう、たった一人を除いて。

 語る者は、いない。





 ――――――――――。





 チクタク。
 チクタク。
 チクタク。


 チクタク。
 チクタク。
 チクタク。


 チクタク。
 チクタク。
 チクタク。



『すべて』


『そう、すべて』


『あらゆるものは意味を持たない』



 …………。

 …………。

 …………。





   ▼  ▼  ▼


858 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:30:54 r2c6ah6I0





【同刻】



【地上、あるいは―――】





   ▼  ▼  ▼


859 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:31:23 r2c6ah6I0





 鋼と鋼による交差の反響音が間断無く轟き、辺りの大気を大きく震わせた。
 交わされた剣戟の数は既に百を超え、三つ巴の乱戦は混沌の様相を呈していた。躍動する肉体、弧を描いて空間を縦横無尽に飛び交う剣閃。それら全てが絡み合い、猛る戦意は波濤となって互いの命を呑みこまんと叩き込まれる。
 戦舞を演じるのは都合三者。うち二人は真っ当な人の形を持ち、残る一者が異形の肉体を保持するという内訳であった。しかし、実態としての性質はまるで異なり、真っ当な人型と呼べる者など三者の中にあってはたった一人しか存在しない。
 何故なら人型の一体であるスーツ姿のサーヴァントのクラスはバーサーカー……理性なき狂した戦士故に。


「■■■■■■■■■■――!!」


 発狂に発狂を重ね、最早声ではなく音としか機能しない雄叫びと共に、手にした黒色の金属塊を力任せに薙ぎ払う。
 何の技巧も介在しない児戯に等しいその一撃は、しかし内包する圧倒的膂力により何者にも勝る豪快な殺人術として成立していた。
 込められた力、振るわれる速度。その双方が純粋に凄まじい。この男を前に単騎で向かい合うというのは、如何なサーヴァントであろうとも常人が丸腰で羆に相対するに等しい蛮行であると言えるだろう。
 狂気に歪み血走る眼は彼があらゆる意味で常軌を逸した存在であることを何よりも雄弁に語っていた。常態で放たれる殺意の渦は通常の英霊のそれとは全く違う重厚な鋼の威圧に他ならず、およそ人間に放てるものではない。
 これは異物だけが持つ災禍の臭いだ。同じく座に登録されたサーヴァントでありながら、通常クラスとは何かが全く異なっている。単純な上位互換とは明言できず、さりとて無関係というわけでもない。
 それはすなわち正気の有無。断崖にひた走り狂喜しながら回転率を上げ続ける、暴走機関車が如き有り様。
 だからこその狂戦士―――バーサーカーという狂気を宿したクラスの具現こそがこの男なのだ。

 かのバーサーカー、式岸軋騎は外見こそ市井の住民のような服装と風貌ではあったが。彼はその在り方と同じく真っ当な英霊ではなかった。
 曰く「仲間(チーム)」。前世紀末の日本を震撼させたという、死線の蒼を中核とする九名から成る究極絶無のサイバーテロリスト集団、その逸話の再現。かつて玖渚友の所有物であったものの一つ。それこそが式岸軋騎の正体である。
 つまり、彼は厳密には英霊ではなく、他の英霊の宝具によって召喚された疑似的なサーヴァントなのだ。だからこそ、たとえ霊核を砕かれようが全身を消し炭にされようが魔力の消費だけで容易に蘇生・再構築が可能となる。先の戦いで頭蓋を剣で刺し貫かれ、総身を雷電で消滅させられた彼が五体満足で存命している理由がそれだ。
 その異常性と特殊性は空前絶後の一語に尽きるだろう。本来英霊とはたかが宝具によって召喚されるような代物ではなく、故にそれが為されたとしても大幅な能力制限が課されるか、そもそも大した力を持たない者しか呼ばれないはずなのだ。しかし彼はそうではない。最優とされる剣の英霊すらも上回るスペックは、"狂戦士とは斯く在るべし"という何某かの強烈な思念が具現したかのような錯覚さえ覚えさせられる。

 故に撒き散らされるは破壊の嵐。式岸軋騎の進行上の全て、あらゆるものは微塵に砕かれ塵となるのみ。
 校庭に刻まれた破壊の大半は、実のところ彼の手で為されたものだった。地に穿たれたクレーターも、薙ぎ倒された木々の惨状も、痩身の外見にはそぐわない暴力性によって引き起こされたのだと、初見で信じる者はまず存在しないだろうけれど。
 だが彼はそれを為せる者なのだ。愚神礼賛、シームレスバイアス、零崎三天王が一角。如何に狂化されようとも、いいや狂化されたからこそ、殺し名として築き上げた畏怖の象徴は更なる領域へと足を踏み入れる。


860 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:32:10 r2c6ah6I0


「くっ!」


 そしてその暴威に真っ向立ち向かう一人、セイバーのサーヴァント藤井蓮は抑えきれない焦燥に舌打ちを禁じ得なかった。
 膂力という面において軋騎に圧倒的に劣る蓮は、当然ながらまともに切り結んでは次の瞬間には肉塊と化する以外の道はなく、故に彼は綱渡りじみたぎりぎりの戦いを続ける他にない。
 とはいえ、それは彼が軋騎に総じて劣る存在であるということでは決してなかった。曲がりなりにも互角以上に打ち合えているという現状、どころか二度に渡って軋騎の霊核を潰しているという事実は偏に彼が持つ戦闘技能と魔力放出スキルの汎用性の高さを裏付けるものであった。
 だがそれも、彼の表情から焦燥の色が消すことは叶わない。それもまた当然の話だろう、何故なら軋騎は幾度砕かれようが決して死ぬことはなく、致命の傷であろうともまるで頓着せずに進撃してくるのだから。
 三度殺せというならばやってみせよう、五度でも十度でも可能性を諦めはしない。だが一体何度殺せば真に打倒することができる? 敵方の詳細はようとして知れず、悪戯に倒したところで疲弊するのはこちらばかり。故に蓮は、途中からは軋騎を殺すのではなく攻撃を捌いて拮抗状態に持ち込むことに注力していた。
 決して倒せない相手との千日手、徒労にも等しい戦闘は肉体疲労や魔力消費以上に精神面を蝕む毒となって焦燥の色を強めていく。
 そしてそれは残る一者、バーサーカー・アンガ・ファンダージにも同じことが言えた。

 異形の巨躯。およそ人ではない威容。長大な二振りの光剣を振りかざし、大量の遠隔ビットからレーザーを射出するという、どこぞのSFにでも出てきそうな奇想天外生命体。ビットの大半こそアーチャー・東郷美森の遠距離狙撃により撃墜されたものの、翳す光剣は未だ健在。振るわれる斬撃はそれだけで地を砕き、当たれば必殺の刃として機能している。
 だがしかし、本来であるならば、ファンダージは既に討伐されていて然るべき存在なのだ。何故ならば彼のマスターが持つ魔力は当の昔に底を尽き、ファンダージ自身が持つ魔力も大幅に嵩を減らしているのだから。
 彼のマスター、直樹美紀は魔術師でもなければその家系に連なるものでもない。伝承保菌者というわけでも、突然変異の能力者でもない。真実ただの一般人、本来であるならば令呪が発現するはずもない無辜の民であるはずの少女でしかない。
 然るに、アンガ・ファンダージには碌な魔力供給が為されてはいなかった。如何な理由か保持していたなけなしの魔力も、これより以前に行われた黒の騎兵との戦闘ですっかり底を尽いてしまっている。今回の三つ巴戦闘において、彼の戦闘行為を成立させている魔力はアンガ・ファンダージ自身から絞り出されたものなのだ。
 当然、時間と共にアンガ・ファンダージの力は加速度的に低下の一途を辿るしかない。サーヴァントの力と肉体を構築するのは魔力なのだから、それが嵩を減らせば有する戦力が底を割るのは当たり前の摂理というものである。
 そのような体たらくのファンダージが、何故今も尚存命できているかと問われれば、それは彼の持つスキル「学習能力」の賜物に他ならない。

 ファンダージはサーヴァントとの戦闘を経てその戦い方を学習し、それに見合った耐性を習得できるという破格にも程があるスキルを有している。
 剣持つ英霊と戦ったならば斬撃を、槍持つ英霊と戦ったならば刺突を、多種多様な魔術を操る英霊と戦ったならば魔力と多様な属性を、それぞれ無効化するほどの強力な耐性を、それこそ無限に習得できるのだ。
 そして今、ファンダージは三つの耐性を習得していた。すなわち、斬撃、打撃、雷撃、銃撃。それらは軋騎と蓮、及び遠方より支援する東郷美森の手繰る主な攻撃方法であり、故に彼らは如何に弱ろうともファンダージを決定的に害することは叶わない。
 比喩でもなく難攻不落の要塞そのもの。更にファンダージは、現状こそ使えないとはいえ死からも復活するご都合主義じみた宝具までをも兼ね備えているというのだから恐ろしい。


861 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:32:42 r2c6ah6I0

 だからこその、これは変則的な三つ巴。そして唯一狂気を宿さない蓮にとっては、どちらともが非常に頭の痛い存在に他ならなかった。
 軋騎は再生能力を以て、ファンダージは強力な耐性を以て。それぞれ要因は違えども、どちらも蓮の攻撃など歯牙にもかけず狂気の赴くままに破壊をもたらしている。
 これが蓮一人ならば、ここまで焦燥することはなかっただろう。如何に死なないとはいえ所詮は理性のない怪物程度、かの黄金とは比べれば逆境と呼ぶことすらおこがましいと愚直に剣を振るい続けただろう。
 だがそうではない。今この状況において秤にかけられているのは蓮一人の命だけではなく、そこにはアイ・アスティンという少女の命も賭けられているのだ。
 狂戦士たちの破壊の手が彼女に及ばないよう、蓮はひたすらにそれだけを求めて戦いに尽力していた。体捌き、視線誘導、虚実にフェイント地形利用。それこそ己の持てる全ての技で以て被害の矛先を逸らし、少女の命を守り状況を打開する機を伺っていた。


「■■■■■■■■■■――!!」


 振り下ろされる大質量が、しかし何を穿つでもなく無為に地を抉った。
 巻き起こる砂塵と轟音、それに紛れるように横合いへと滑り込んだ蓮の肉体が瞬時に反転し、惜しみない魔力放出を伴った蹴撃が一直線に軋騎の頭蓋を狙う。
 渾身の攻撃に硬直する軋騎に躱せる道理もなく、その一撃は粘性の音と共に頭骨と脳漿を中空へと四散した。当然次の一瞬には再生する程度の損傷でしかないが、殺害を目的としたものではないのだからそれでいい。
 右足を振り抜いた蓮の背後から雄叫びを上げるファンダージの斬撃が迫る。今この時も狙い撃たれる狙撃弾など頓着することなく放たれた剣閃は蓮の総身を影のように覆い隠し、上方より叩き潰さんと空を裂く。
 しかし、その瞬間には既に蓮の体は光剣の進行上には存在しなかった。一瞬で身を翻し跳躍した蓮の代わりに、巨剣の行く先にあるのは、頭部を失い傾ぐ軋騎の肉体。
 爆轟する重低音に、肉の弾ける湿った音が微かに混ざった。砂埃に血煙がへばり付き、赤茶けた地面に大量の鮮血が放射状にばら撒かれる。
 致命傷だ、明らかに。頭部や心臓の欠損などと生温い。全身余すところなく完全に圧壊させられた、これを受けて生きていられる者など存在しないという何よりの破壊結果がそこにはあった。

 しかし、それでも。
 時間を巻き戻すように鮮血が収束していく。血痕が、肉片が、自律しているかのように一点へと集合し、再び形を成す。
 そして振るわれるは愚神礼賛。己を害さんとした敵を殺し返すため、「直前まで蓮がいたはずの空間」を力任せに薙ぎ払う。
 激突、轟音、そして消失。振るわれた黒塊は狙い違うことなく標的を打ちのめし、蓮と立ち替わるようにその場で剣を叩き付けた姿勢で固まっていたファンダージの巨躯を遥か後方まで吹き飛ばした。
 見上げんばかりの威容が吹き飛ぶ様はまさしく圧巻。その肉体が高速で飛来したというだけで、草葉も木々も古びた校舎の木造までもがバラバラと砕け散る。恐るべきは軋騎の膂力、そしてその威力のほどか。最高ランクの狂化補正ありきとはいえ並み居る英霊の中でも抜きん出たその腕力は、同じバーサーカーといえどもファンダージとは一線を画するものであった。
 頭部喪失による認識の遅れからようやく復帰した軋騎は、しかし再びその頭蓋を縦に割られることで視界と思考を剥奪される。殺して死なぬなら殺し続けて時間を稼ぐとでも言わんばかりに、蓮の振るう鋭剣の切っ先が弧を描いて軋騎の頭点へと吸い込まれたのだ。
 それと同時に、砂埃と破片を振りほどいて、ファンダージが天をも裂かんと言わんばかりに咆哮を轟かせる。その眼が宿す殺意の行く先は、蓮の後方に立つアイの姿で。


862 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:33:19 r2c6ah6I0


「やらせるかよ!」


 崩れる軋騎の体を掴みあげ、疾走するファンダージの進行上へと思い切り蹴り飛ばす。狂乱の渦に呑まれ、目に映る全てを殺さねば気が済まないファンダージは、当然のようにそれを斬り伏せ、何度目かも分からない血の華が大きく咲いた。
 そしてそれは、一瞬とはいえファンダージの疾走動作が停止したことの証左でもあり。

 ―――巻き起こる閃光。視界の全てを白一色に染め上げる白光は軋騎の肉片ごとファンダージの総身を呑みこみ、迸る雷電となって大気を焼き尽くした。
 停止した一瞬の隙をついての雷撃は、耐性を得たファンダージを傷つけることこそ叶わなかったものの、その注意を別のものにすり替える効果だけは発揮された。
 すなわち、このつまらない攻撃を放った下手人、藤井蓮。アイ・アスティンへと向けていた殺意はそっくりそのまま蓮へと切り替わり、駆け寄って真っ向斬りかかる彼を逆に斬り伏せんと鍔迫り合いへともつれ込む。横合いへと徐々にずれる足捌きと姿勢移動により、ファンダージの殺害対象は完全にアイから外れることになった。
 けれど。


(まだか……ッ!?)


 蓮の胸中に渦巻く思考は徹頭徹尾それだった。蓮はバーサーカーたちの討伐などハナから目指していない。その戦闘の全ては、ただ機を伺うためのもの。
 彼の目的とは自分たち全員の逃亡だ。いざとなれば自分とアイだけでもと思ってはいるが、いよいよ窮地に追い込まれない限りは最善の道をこそと模索する。

 クリアすべき項目は二つ。丈倉由紀の救出、そして二人の少女を連れ立っての仕切り直しによる逃走。
 そこさえクリアできれば、狂戦士の打倒など心底どうでもいい事柄だった。あとは仲良くバーサーカー同士、心行くまで殺し合っていればいい。そんなことに興味はないし、こいつらがどうなろうと知ったことではない。
 そのために、ファンダージが出現した時から継続的に発生し続けている異常気流の解除は必須であった。蓮だけであれば無理やりに突破も可能ではあるけれど、その気流にゆきの体は耐えられまい。
 長時間の継戦による魔力消費を鑑みれば、いずれ遠からぬうちに気流は止むと推測し、創造の発動はあくまで最後の手段として行使するつもりはなかったのだけれど。


 ―――使うしかないか、これは。


 内心でひとりごちて、知れず覚悟を決める。
 死想の浄化、その渇望。かの宝具を開帳することは、同時に蓮自身の身を砕くことにも繋がるけれど。
 改めて状況を俯瞰すれば、最早贅沢を言っていられる場合ではなかった。
 何より優先すべきはアイの無事であり、ならばこそそのために払う代償が己が身の粉砕程度ならば安いものだ。


863 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:33:50 r2c6ah6I0

 まして、何より忌避しているのが自らの破滅ではなく。
 ただその有り様をアイに見せたくなかったなどという、手前勝手な我儘である以上は。
 これ以上もったいつけるのもいい加減見苦しいだろう。


    Briah
「―――創造」


 紡がれるランゲージ。
 起動するエイヴィヒカイト。

 世界を侵す祈りを唱えた瞬間、蓮に宿る浄滅の光が爆煌となって瞬いた。


Eine Faust Scherzo
「死想清浄・諧謔」


 ビシリ。
 硬質のものが罅割れる音が響く。
 それは蓮の右腕から。
 剣持つはずの右腕が、何故かその瞬間、ガラスのように氷のように罅割れて。

 再生と耐性、その双方をも屠って余りある「最後の手段」が、遂にその本領を発揮する。
 時として自身さえも蝕むほどの強力な自我の発露は、正しくここに清浄の世界を作り出さんと流れ始めたのだった。





   ▼  ▼  ▼


864 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:34:23 r2c6ah6I0





 霞がかった頭でぼんやりと思い出す。それはあの日、あの夜のこと。
 ゆき先輩に「友達」のことを告げた、あの静かな夜の校舎での出来事。
 あの時も、思えばこのような状況だった。

 自分一人で何とかしようと思って、自分一人で努力しようと心に決めて。
 いざそうしてみれば、何故かこの人が私の目の前にやってきた。

 何も変わらない。あの時も、今も。
 どれだけ頑張って何処まで行っても、この人は必ずこうしてふらりと現れる。



「……何してるんですか、ゆき先輩」



 吹き荒ぶ風の檻の中で、けれど何も聞こえてこない静寂に包まれながら。

 記憶の中にある姿と寸分変わらない笑顔をした、悲しいくらいに無垢なままの彼女と。

 あまりにも今更過ぎる再会を、こうして私達は果たしてしまったのだ。


「んーと、みんなと一緒に探検?」
「……まるで意味が分かりませんよ」
「いいのいいの。えーと、課外授業? ってことでくるみちゃんもりーさんも許してくれるって」
「そういう問題じゃないと思います」


 そういう問題では、ないのだ。

 何故、どうしてこうなってしまったのか。
 聖杯戦争、たった一人しか生き残れない生存競争。万能の願望器を求める殺し合い。
 そんなものに、なんでゆき先輩が巻き込まれているのか。
 普通に考えておかしいだろう。だってこの人はそんなことに耐えきれない。耐えられるようなら、そもそもこんな有り様になどなっていない。


865 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:35:44 r2c6ah6I0

 聖杯戦争などと。
 願いをかけた競い合いなどと。
 争いという言葉から最も遠い彼女を、わざわざこうして選別するなどと。
 本当に、なんて性質の悪い冗談なんだろう。


「ぶーぶー、そういうみーくんだって泥だらけになるまで遊んでるしー。
 いけないんだよみーくん、こういう時はみんなで一緒に……」
「……いいんですよ。もう、つらいことから目を背けなくたって」


 え、という暇もなく、ゆきはそっと抱きしめられていた。
 震える両手。恐怖と動揺と疲労が隠し切れない。


「……えっと、何の話?」
「先輩はもう、何も苦しまなくていいんです。
 私が全部何とかします。だから、ゆき先輩は……」


 ……反吐が出る。
 最低の気分だ。自分が吐いている言葉が最低の台詞であると、諭されるまでもなく自覚していた。
 自分の愚かさを棚に上げて何を言うのか。言葉を吐いた喉から腐臭がする。自嘲の念に心臓さえもが弾けてしまいそうだ。

 こんな状況になってしまったのは、先を見通すことのできなかった自分のせいだ。
 何の脈絡もなくマスターとして選ばれた自分は、だったら何故、学園生活部の面々も"そう"なっているかもしれないという可能性に気付くことができなかったのだろう。


「もうすぐ全部なかったことにできますから、それまで我慢すれば何もかもが元通りになるんです。
 私、頑張りますから……だから、先輩は、待っていてくれるだけで……」


 体の震えが止まらない。強く抱きしめていないと支えが無くて、立っていることさえ難しかった。鼻の奥につんと刺激が走り、それはたちまちの内に涙腺にまで及んだ。
 こみ上げる感情に歯を食いしばり、ひぅと息を呑む。


866 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:36:19 r2c6ah6I0

 本当は、ずっと我慢していた。

 一人でこの街にやって来た時から、ずっとずっと美紀は我慢していた。
 自分と離ればなれになって消えていった親友のために、自分の救いとなってくれた三人の恩人のために。
 どんなに辛くとも弱音は吐かない。最後まで挫けず抗い続ける。絶対必ず聖杯を手にしなければと決意して、ただそれだけをと手を伸ばして。
 決して強くなんてない心に鞭打って、疲労と悔恨だけが蓄積する体に無理を言わせて。
 殺して、殺して、殺してまわること。
 それが、直樹美紀の戦いだった。

 けれど。


「大丈夫」


 ゆきの手が、そっと美紀の頭を撫でた。


「何があったか分からないけど、でも大丈夫だよ。
 だって、みーくんは泣きたくなるくらい一生懸命頑張ったんでしょ?
 だったら大丈夫、絶対何とかなるよ」


 よしよしと言うように、小さな手が優しく髪を撫ぜる。
 久しぶりに感じることができた、それは人の手が持つ優しい感触で。
 屈託のない笑みは、陽だまりを思わせる暖かさだったから。


「……なんで」


 だから。
 もう、駄目だった。


「……なんで、私達ばっかり……」


 抱きしめていた両手が、力なく落ちた。


867 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:36:42 r2c6ah6I0


「なんで私達ばっかり、こんな目に遭うのよぉ……!」


 やせ我慢する気力も、歯を食いしばる根性も、最早ひとかけらだって残されてはいなかった。
 美紀は泣き出した。顔を俯かせ、肩を震わせ、声を張り上げて美紀は泣いた。
 体中の水分を流し尽くしてしまいそうな勢いで、涙は後から後から溢れてきた。
 叫び過ぎて呼吸困難に陥り、酷使してきた肺がぎりぎりと痛み、それでも嗚咽は止められず、激しく咳き込んではまた泣き出した。

 本当はやりたくなどなかったのだ。
 人を殺すということ。自分の願いのために他者を踏みつけにするということ。そして何より、そのために死地へと追いやられ、いつ死ぬとも分からない状況でずっと孤独に戦わされてきたということ。
 誰が好き好んでそんなことをするものか。誰が自分からそんなことをやりたがるものか。
 けれど、自分はそうしなければならなかったから。

 蘇った死者に溢れ、それまで生きていた人々はみんな喰われて命を散らして、今まであった日常は全部壊れ果てて。
 滅びてしまった世界を救えるのは、聖杯を手にするチャンスを得た自分だけだったから。大切な人達を助けられるのは、自分しかいなかったから。
 だから美紀は今まで我慢して、我慢して、我慢して我慢して我慢して我慢してたった一人で戦ってきて。

 限界まで張りつめた最後の線。
 その一本が今、ついに断たれた。


「……頑張ったんだね、みーくん」


 みっともなく泣き続ける美紀に、それでもゆきは優しかった。優しい笑顔のままだった。
 それが、ゆきの戦いだった。
 どんなにつらいことがあっても、どんなに皆が絶望に喘ごうとも、自分だけはずっと笑顔を絶やさずにいるということ。
 それが、ゆきが今までずっと自らに強いてきた孤独な戦いだった。


868 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:37:16 r2c6ah6I0

 そのことが良く分かったから、美紀は尚更声を張り上げるしかなかった。
 自分が数日と持たず耐えきれなくなった苦難を、この小さな少女はずっと続けてきたのだと分かってしまったから。
 他のみんなが疲れているなら自分だけはその分元気でいようとしているのだと、あの夜ゆきは自分にそう語ってくれた。
 今なら理解できる。それがどれだけ過酷で、孤独で、先の見えない苦難であったのかということを。
 湧き上がる感謝の念と罪悪感と尊敬と、それらがごちゃまぜに入り混じった形容しがたい感情が胸の中でぐるぐると渦巻いた。
 外から聞こえる野獣のような雄たけびも、大きな破壊音も、雷のような強い光も、何もかもが遠いどこかの出来事のように感じられた。

 美紀は泣いて、泣いて、思う存分泣きはらして。
 枯れ果てるまでに涙を流して、そこでようやく、慟哭の声を止ませた。


「……もう、平気?」
「……はい。すみませんゆき先輩、そしてもう大丈夫です。
 これでもう一度、私も頑張ることができますから」


 赤く泣き腫らした目元を拭い、打って変わって毅然とした表情で美紀は立ち上がる。
 両の足を地につけて、令呪の浮かんだ腕を力強く振るって。
 ゆきを庇うように、守るように、その前へと立ち塞がる。
 そして、気流の向こうの敵たちを、見えない視界で睨みつけた。
 身を翻すその一瞬、最後に見えたゆきの表情は、変わらぬ笑顔のままだった。

 一歩踏み出す美紀の脳裏に、浮かぶのは大切な人々の記憶。
 恵飛須沢胡桃に若狭悠里。学園生活部の面々と、彼女らと過ごした短くも激動の日々。自分を育ててくれた両親や、一番の友達だった祠堂圭の姿。
 そして、何より。


「……ゆき先輩」


 私は、戦います。
 大切なものを今度こそ、取り戻すために。


 言葉は重く。
 確りと、美紀の心に刻み込まれた。





   ▼  ▼  ▼


869 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:37:47 r2c6ah6I0





 耳を劈く連続した金属の反響音に紛れ、これまた鼓膜が馬鹿になるほどの轟音が不規則に轟く。かと思えば目を覆わんばかりの稲光がビカビカと瞬いて、思わず手のひらで目や耳を塞ぎたくなるけれど、そうするととても立っていられないほど強烈な暴風が荒れ狂っているからどうにもならない。
 当初の勢いはどこへやら、アイ・アスティンは今や頭を抱えて縮こまるだけの小さななまものと化していた。ちっぽけすぎて泣きたくなってくる。


「うぅ……流石にこれは予想外でした……」


 耳はキンキンするし目はしぱしぱするし、戦場に変じた校庭に一人残されたアイは、なんだか凄く誰かに文句をつけたい気分だった。
 清々しいまでに自業自得である。


 最初、アイはなんとかしてゆきを救出しようと頑張っていた。
 強いじゃなくて痛いの域にある暴風を潜り抜け、ボッコラボッコラと景気よく鳴り響く地鳴りにもめげず、ビカッとなる突然の閃光に不覚にも涙目になりながら、激しい戦闘に巻き込まれないよう何とか立ち回り遂にはゆきが囚われた風の檻の前まで到達したのだ。
 そこは可視化された竜巻が物凄い勢いでぐるぐるぐるぐる回っていて、土やら砂やらも大量に巻き上げられていたせいで中の様子はまるで見えないし聞こえなかった。
 とはいえそんなことはアイにはまるで関係ない。中で二人が何をして何を言っていようがゆきを助けることは決定事項なのだから、やるべきことは一つしかないのだ。

 そういうわけで、とりあえず腕を竜巻の中に突っ込んでみた。
 思いっきり弾かれてでかい青タンができた。
 泣きそうになった。


「むぅー、流石に私だけじゃ突破できそうにないですね……どうしたもんでしょうかこれ」


 じくじく痛む右手を庇い頭を抱えて縮こまりながら、アイは心底困ったように呟いた。
 実際問題、墓守の身体能力でも突破不可能となると、もうアイでは打つ手が皆無であった。もし仮にアイが竜巻を力づくで突破できたとしても、中にいるゆきを連れ出すことはできないだろう。
 常人を遥かに超える身体能力を持つ墓守のアイですらこれなのだから、正真正銘ただの人間でしかないゆきが竜巻に触れでもしたら青タンどころか粉砕骨折でもしかねない。竜巻を通り抜ける頃には全身の骨がボキボキだ。
 別に自分だけならそうなってもいいのだけど、ゆきがそうなっては助けるもクソもないだろう。人は骨あっての人なのだ。骨は大切にせねばならない。
 そうなると、あとできるのは精々がショベルを振り回す程度だが、大切なショベルが竜巻で折れたりでもしたら今度こそ立ち直れなさそうなのでやらない。というかそんな自暴自棄は流石に自分でもどうかと思う。アイだとて人並みの良識や羞恥心はあるのだ。


870 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:38:48 r2c6ah6I0

 そういうわけで、今のアイといえばビュンビュン吹き荒れる竜巻の横で、戦闘の余波に巻き込まれないよう屈みながらあーでもないこーでもないと思案に暮れているのだった。
 実際、それくらいしかやれることがなかったのである。先ほどはつい勢いでセイバーに向かってなんか格好いいことを言ってしまったわけだが、今となっては妙に恥ずかしい気分だ。端的に言って自分が情けない。どうしてくれようこの有り様。



「…………ん?」



 ふと。
 違うほうを見た。ゆきが囚われた風の檻ではない、それは己が侍従の戦っている場所へと。
 見た、というのは間違いかもしれない。だってアイの目にはよく見えなかったから。風のせいもあるけど、そもそもサーヴァント同士の戦いはあまりにも速すぎて、墓守であるアイから見ても霞がかった残像としか映らない。

 それでも見た。何か、嫌な予感がして。
 嫌な予感。そうだ。理屈を超えた第六感のようなものが、何か、嫌なことがあると囁くのだ。

 何故だろう。
 それは、何故だかどうしようもなく。
 終わりを。
 一つの死者の生の終わりを、感じさせるもので。



 ―――藤井蓮という存在そのものが消え去るような予感があって。





「―――セイバーさん!」




 叫んで、駆けだした。
 それまでの安穏とした様子など微塵も見られないほど必死に、一切のふざけなど介在できないほど切実に。
 走る。背筋を震わせる嫌な予感の赴くまま、必死に。
 理屈なんてない。後先だって考えない。ただ、自分でも分からない確信があった。

 視線の先。セイバーは立ち止まり、何かを口走っている。それはアイには理解できない異界の箴言、異なる世界の祈りだった。
 彼は何かを紡いでいる。アイでは理解も想像もできないことを、外宇宙の言語で形作っている。


871 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:39:19 r2c6ah6I0

 アイは走った。懸命に。もし追いつけたならば、その時は足が千切れてもいいからと、半ば本気で思考して。
 体を打ち据える暴風も、迫り往かんとする二騎の狂戦士の鉄槌も、まるで頓着することなく。
 ただひたすらにセイバーの元へと。


「ダメです、それを―――!」


 "ソレ"を起動させてはならないという、確信じみた直感に従って。

 喉よ張り裂けよとばかりに、叫んだ。


 ………。

 ……。

 …。






 そうして二人の少女は共に言の葉を紡ぐ。

 ただ、重い決意の言葉と。
 ただ、喪失を厭う叫びを。


 けれど、けれども―――

 美紀の言葉は届かない。
 アイの叫びは届かない。
 そういうふうに、決められてしまったから。

 誰に? 人ではない。
 誰に? 獣ではない。
 それは人でも獣でもサーヴァントでもなくて。

 ただ一人の何者かが決めたこと。
 ただ一柱のいと高き者が決めたこと。

 時間だ。時が。突然、来てしまった。
 誰にもそれは止められない。


872 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:39:48 r2c6ah6I0






 チクタク。
 チクタク。
 チクタク。


 チクタク。
 チクタク。
 チクタク。


 チクタク。
 チクタク。
 チクタク。






 時間が来てしまうから。
 残酷な、時計の音がすべてを決めてしまう。
 終わりの足音。
 終わりの秒針。
 あらゆるすべての運命を玩弄しながら。

 チク・タク。
 音は、静かに告げる。

 チク・タク。
 足掻くのをやめろと嗤いながら。

 チク・タク。
 それは、まるで月のように。
 それは、まるで神のように。

 そして、この桃源の煙に包まれた夢幻の地上に。
 一つの終幕がやってくる。


873 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:40:30 r2c6ah6I0






「―――え……?」


 それは、一体誰が発した声だったのだろう。
 アイか、美紀か、あるいは由紀か。その誰でもあり、そして全員に共通した、それは目の前の現実を受け入れられなかったが故の声。

 狂戦士が猛り狂い。
 剣の英霊が自らの破滅を寿ぎ。
 救済を夢見る少女がその破滅を否と駆け出し。
 銃士は変わらず鉄火の熱量だけを戦場に投入し続け。
 夢に惑う少女は何が変わるでもなく。
 誰より普通であった少女が一つの誓いを胸に抱いた。

 その全てが、全く同時に起こったその瞬間。
 あらゆる運命を破綻させる一手がその場に打ち込まれた。


「はぶっ!?」


 走馬灯のように引き伸ばされた主観の中で走っていたはずのアイは、突然誰かの腕に抱きとめられ。


「あ……え?」


 由紀は、ただ目の前の現実を受け入れることができず、呆けた声を上げるだけで。






「…………がふっ」






 そして美紀は、血泡に溢れた呼気を、言葉なくぶち撒けた。
 その胸の真ん中には、銀色に鈍く輝く、一振りの短刀が突き刺さっていた。





   ▼  ▼  ▼


874 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:41:02 r2c6ah6I0





 その瞬間、アイの目には全ての顛末の始まりが映し出されていた。

 まず最初に、猛る二騎の狂戦士が「崩壊」した。
 そうとしか形容ができなかった。異形と殺人鬼のバーサーカーは、まるで万倍の重力に押し潰されでもしたように物凄い勢いで地面へとへばり付き、次いで内側から爆散したと見紛うばかりにその総身を弾け飛ばせた。そこからは目に見えるほど急速に末端から分解と崩壊が進んで、見る見るうちにその質量の嵩を減らしていったのだ。
 不思議なことに、その崩壊の影響はアイを初めとしたマスターたちには何も及ぶことがなかった。一瞬、何か澄んだものが広がったような感触が全身を走ったと思えば、次の瞬間にはバーサーカーたちに変異が発生したけれど。アイにも、突然吹き止んだ暴風の中から現れた由紀や名も知らぬ少女にも、彼らの身に起きたような崩壊は一切現れることはなかった。
 無機的なまでに寒々しい静寂の中で、人智を超越したはずの狂戦士だけが、奇妙なことに崩壊の一途を辿ったのだ。

 それは、人ではないものだけを許さないと言うように。
 それは、生きてないものだけを許さないと言うように。

 けれど。
 いいや、だからだろうか。アイには見えた。見えてしまった。
 恐らくはこの異常現象の下手人であるはずの彼。他ならぬ藤井蓮の肉体が。
 右腕を中心に、どんどん罅割れていくのを。
 スローモーションの視界の中で。アイは、見てしまった。


 ―――ああ、やっぱり。


 不思議なほどに落ち着いた、冷え切った頭でアイは思考する。そして自分のあまりの冷静さに、アイは自分で驚いた。
 当たってしまった。自分の嫌な予感、こういう時に限ってよく当たる。
 かつて垣間見た夢の記憶、彼が抱いた死想の渇望。

 死を遠ざけた彼が、自らの存在を許さない彼の力が。
 "そう"であるのだと、薄々感づいていたことが真実だったと気付いてしまった。
 空恐ろしいまでに冷めた思考で、アイはある種の確信へと至った。

 けれど。アイは気付かない。その不自然なまでの冷静さの根源を。
 それは断じて無感だからでも、ましてや酷薄だからでもなく。


 ―――セイバー、さん……


 それは。
 濃縮した感情が荒れ狂い、一周した結果の無機質さであるのだと。

 突如として視界を塞がれ、全身に衝撃を受け気絶したアイが気付くことは、少なくともこの場ではあり得なかった。


875 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:41:30 r2c6ah6I0






「こンの、野郎ッ!」


 蓮は左腕にアイを抱き、未だ砕けたままの右手を振るって飛来する無数の短刀を斬り落とす。
 甲高い反響音が響き渡り、一振りごとに大量の短刀が弾かれ地面にばら撒かれた。それらは全て蓮ではなくその腕に抱かれるマスターの少女に向けて放たれたもので、その所業と一切の気配を感じさせなかった手腕は、最早疑いの余地なくアサシンによるものだと断定することができた。

 危なかった。あまりにも、ぎりぎりのタイミングだった。己が宝具たる創造を発動し、サーヴァントの無力化と異常気象スキルの解除を狙って由紀の救出を試みた瞬間、"それ"は襲来した。
 風を切る鋭い音と無数の短刀。投擲という範疇を逸脱して余りあり、最早弾幕と言っても差し支えないほどの物量で迫りくるそれは、吹き散らされた風の檻から姿を見せた丈倉由紀"以外"の全員を照準したものだった。

 だから、蓮は全ての現状をかなぐり捨ててアイの元へ駆けつけたのだ。諧謔で自壊する肉体では追いつけないと判断して発動を強制解除し、自身に降りかかる短刀を無視して、アイにかかる負荷もこの時ばかりは度外視して。
 ただ一直線に駆けつけ、彼女を襲うあらゆる災厄を振り払った。庇った腕に何本か短刀が突き刺さるが関係ない。痛みも損傷も無視して剣を翳し魔力を充填、再度の雷電を無差別に放射し目晦ましとする。

 響き渡る雷轟、視界を埋め尽くす白光の中で。
 蓮は、高速で飛来し由紀を連れ去る一つの影とすれ違って―――


「―――――」


 視界の端、反応する間もなく木々の向こうへと飛び去って行くその影は、既に気配を消失させて、完全な離脱を成功させていた。
 それを言葉無く確認した蓮は、ただ柄を握る手に力を込め、放つ雷撃の密度を更に増幅させた。


 一際強く輝く光が消え去った時、そこにはアイと蓮の姿は何処にもなかった。
 残ったのは、倒れ伏す美紀と、全身を針の山として姿を薄れさせつつあるアンガ・ファンダージと。




「―――――■■」




 ゆらりと立ち上がる。全身至るところに短刀を突き刺された様は、ファンダージと同じく針山のようで。
 その影は、右手に黒く大きな釘バットを持っていた。





   ▼  ▼  ▼


876 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:42:08 r2c6ah6I0





 感覚が、どんどん無くなっていく。

 最初は胸に走った衝撃だった。
 そこから急に視界が反転して、目の前には突き抜けるような一面の青空が広がった。

 分からない。何が、起こったのか。
 倒れたなら起き上がろうと思って、でも手も足も動かすことはできなかった。
 どれだけ力を込めても、何故だかピクリとも動かない。
 いいや、もしかしたら、力を込めているつもりなだけで、本当は欠片も力が入っていないのかもしれない。

 だからせめて自分がどうなっているかを確かめようとして、けれど視線すらまともに動かすことができなかった。
 眼球をずらす、それだけのことが酷く億劫だった。力を込めようとするただそれだけで、体を動かす活力がどんどん抜けていくようだった。

 活力。生命の赤。大事な何かがどんどん抜けていく。
 痛みも、地面に触れている背中の感触すらも無かったけれど。
 何故だか、それだけは確信を持って答えることができた。

 どくどく。どくどく。脈打つ鼓動が聞こえる。
 音。感触。震える心臓。
 熱い熱い何かが零れていって、つられるように自分の体は冷たくなっていって。
 今はそれすら、感じなくなっていた。

 視界が徐々に狭まってくる。空の青が、朝焼けのように白んでくる。
 私はどうなったんだろう。私はどうなるんだろう。
 ゆき先輩は、無事なのだろうか。

 あの時舞い込んできた黒い影。
 ゆき先輩を攫って行ったあれは、なんなのだろう。

 バーサーカーは何も答えてくれない。
 答えてくれる人は、誰もいない。


877 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:42:41 r2c6ah6I0

 少しずつ、私が無くなっていく。
 少しずつ、私が壊れていく。
 何も聞こえなくなって。
 息さえも途切れがちになって。
 思考も段々覚束なくなっていく。



 ―――私……



 けれど、一つだけ。
 一つだけ、理解できることがあった。


『先輩。私、決めました』

『私は――世界を救います』


 かつて誓った、その言葉。
 世界を救うという、何にも代えがたい願い。

 それを果たすことは、できなかった。

 救うことは、もう一度頑張ることは、できなかったのだ。



 ―――ごめん、なさい……



 ……自分の脇に、誰かが立っていることが分かった。
 顔は見えない。
 けれど、それがスーツ姿のバーサーカーだということは、分かった。

 だって、その右手。
 そこに、黒くて大きなバットが握られているのを、見たから。


878 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:43:16 r2c6ah6I0

 唇が開いて、音にならない息が漏れる。
 これが終わりか。
 これが死か。

 今まで何度も見てきた。異形に成り果て、あるいは喰われ。
 何度も、何度も。自分の目の前で行われてきたそれが。
 ついに、自分にもやってくるのか。

 その事実が、どうしようもなく。
 美紀にとっては、怖くて、悔しくて、遣る瀬無かった。



 ―――……ごめんなさい、ごめんなさいゆき先輩……くるみ先輩、りーさん……

 ―――でも、私、頑張ったんです。頑張って、できることは全部やって……それなのに、どうしてこんなことになっちゃったんでしょうね……

 ―――……結局、世界を救うなんてこと、私にできるわけなかったんでしょうか。



 美紀の吐息が、震えた。
 答えるものは、誰もいない。
 声なき声は、何に届くこともなかった。



 ―――私がもっと頑張ってたら、こんなのとは違う道に進むことも、もしかしたらできていたんでしょうか……?

 ―――ゆき先輩も、くるみ先輩も、りーさんも、みんな助かって。みんなで『良かったね』って笑えるような。

 ―――そんな未来が、どこかにあったんでしょうか……



 小さく、笑う。
 震えは、止まることがない。


879 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:43:59 r2c6ah6I0



 ―――それとも、未来なんて最初から神さまに決められていて、私はずっと、そこを走っていただけなんでしょうか。



 頬をひとつ、雫が零れた。
 溢れて、溢れて、流れ落ちて。
 一滴、一滴、落ちる度に、ふわりと小さな光が弾ける。

 涙。涙。
 流し尽くしてしまったはずのそれ。
 それに、きっと美紀は気付くことはない。
 声にならない声で嘆き続ける彼女は、涙を流していることにさえ気付くことはない。
 気付かないまま。ただ、雫、頬を伝って。



 ―――私、どうしてこんなふうにしか生きられなかったのかな……



 黒く長いものが振り上げられたのを、美紀は視界の端に捉えた。
 抵抗の意思も余地も、残されてはいなかった。
 全てを諦めた彼女は、ただそっと目を閉じた。

 空の青が閉じられていく。
 全てが黒に染まっていく。

 最後、美紀の瞼に浮かんだ姿は。

 丈倉由紀でも。
 恵飛須沢胡桃でも。
 若狭悠里でもなく。


880 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:44:24 r2c6ah6I0



 ―――死にたくないよ、圭……



 天高く振り上げられた黒いものが、一気に落とされる。

 それを見ることはなく。
 美紀はただ、誰にも届かない言葉を紡いでいた。



 ―――私は、まだ、ここにいるのに……



 それは。

 理不尽な。

 無慈悲な何かに対する。

 "嘆き"、だった―――





 …………。

 …………。

 …………。





   ▼  ▼  ▼


881 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:45:17 r2c6ah6I0





 ―――嘆き。



 嘆き、ここには届かない。
 嘆き、どれだけ声を張り上げれば届くのか。

 それは、ここの果てに在るものが決める。
 それは、ここの高みに坐すものが決める。
 それは、万色に揺らぐ世界の主が決める。

 時計の音を響かせて。
 秒針の音を響かせて。
 決定する。
 選別する。
 見つめ、選び、そして嗤うのか。

 崩れ去るものを決める。
 砕け散るものを決める。
 それは、いと高きところに在るものが。

 その一柱の名を知るものはここにはいない。
 いるとすれば、100年前のマンハッタンに。
 あるいは、永劫回帰の座の深奥に。
 もしくは、欲界に抗う無謬の神無月に。
 けれど、彼らはもういない。
 桃の煙に揺蕩う夢界の中にさえ。

 幸福に沈んだ月世界。
 微睡みに沈む三世の果て。
 そのどちらにも彼らはいない。
 だから、ただひとりの主は、嗤うのだ。

 チクタク。チク・タク。
 チクタク。チク・タク。
 それは、万仙の王を讃える痴れた者たちの声か。

 この、紫影の果てで。
 呪われた世界塔の果てで。


 嗤うのか―――


882 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:45:58 r2c6ah6I0





『チク・タク、チク・タク』





 ―――それは、虚空か。

 ―――それは、玉座か。
 ―――それは、いと高きものの座す処。

 ―――それは、螺旋階段の遥か彼方。
 ―――誰かが願った夢の跡。
 ―――世界の塔の最果てか。
 ―――それとも。主の玉座であるだけか。
 ―――夢の坩堝であるのかどうかさえ。



『少女。生贄。彷徨う子羊よ』

『罪深きものたちよ』

『さあ、そろそろ、時間だよ』

『断罪の時だ』

『お前の涙を見せておくれ』

『お前の夢を見せておくれ』

『幾百万の悲劇すべてが』

『私に、力を与えてくれるのだから』



 遥か高みの玉座にて。
 今も、君臨するものは語る。
 今も、君臨するものは囁く。

 嗤い続ける月の瞳そのものの双眸で。
 チクタクと、音を、響かせて。


883 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:46:41 r2c6ah6I0

 邪悪なるものは嗤うのだ。
 神聖なるものは嘲るのだ。
 すべて、すべて、戯れに過ぎぬと嘯いて。
 そして己自身も。箱庭。遊具。

 すべて、愚かなものたちのすべて。
 すべて、罪深きものたちのすべて。
 すべて、夢見るものたちのすべて。
 その掌の上に見つめながら。

 虚空の黄金瞳に見下ろされながら。
 月に眠る仙王の悲嘆を聞きながら。
 嗤うのだ。嗤うのだ。

 太極より両儀に別れ、四象に広がる万仙陣のすべてを。
 遠く、この高みより見下ろして―――



『罪深きものたちよ』

『彼の救済たる微睡みを拒むものたち』

『滑稽なる、誰かの、メモリーたち』

『果てなきものなど』

『尊くあるものなど』

『すべて、すべて』

『あらゆるものは意味を持たない』



 静かに告げて。
 玉座の主は、深い笑みを浮かべる。

 人のような笑みではあるが。
 鮫のような笑みではあった。
 憐憫の一切を想わせない"笑み"だった。


884 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:47:56 r2c6ah6I0



 ―――ああ。

 ―――なんと哀れな。救ってやろう。

 ―――笑っておくれ。悲しまないでおくれ。お前はもう苦しまなくていいのだ。

 ―――愛しいすべて。俺は皆を救いたい。

 ―――そうだとも。俺は、皆が幸せになればいいと願っている。



 嘆く声が聞こえる。それは、少女の嘆きに合わせるように。

 玉座の主ではなかった。
 嘆きに暮れる少女でもなかった。

 それは、眠り揺蕩う月の底から轟く声。
 冒涜的な太鼓とフルートの音色に痴れながら、沸騰する渾沌の中で微睡む声。

 声は嘆く。
 己の懐に抱かれるすべてを慈しんで、その実何をも見ることはなく。

 盲目の播神が謳う声を受けて。
 君臨する神は、今こそ告げる。

 笑みを絶やすことなく。
 残酷に。冷酷に。



『たとえば―――』

『誰もいなくなってしまえば何の意味も、ない』





   ▼  ▼  ▼


885 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:48:53 r2c6ah6I0





 碌に道の舗装もされていない山の中、鬱蒼と生い茂る木々の間を駆ける影がひとつ。
 それは例えて疾風のようで、しかし確とした質量を持ち合わせた黒衣の人影であった。
 およそ人ではないと思えるほどの俊脚で、しかし腕に抱きかかえた小柄な少女の身を慮ってか人外の超速を出すことはなく、その影は一心不乱の逃走を行っていた。

 黒衣の影……アサシンのサーヴァント、ハサン・サッバーハが主の待つ廃校へと帰還した時、既にそこは一線級の戦場へと成り果てていた。
 遠目から確認した戦闘の痕跡と如実に感じられるサーヴァント特有の魔力反応。予感を通り越した確信と共に駆けつけてみれば、そこではセイバーと恐らくはアーチャーの陣営と、バーサーカー二騎による大規模な戦闘が行われていたのだ。
 それだけならば、まだ挽回の余地はあった。けれど最悪なことに、ハサンの主である丈倉由紀が、その戦場の真っただ中、それも敵方のマスターと思しき人物と一緒にいたというのだから、さしものハサンといえど一瞬肝を冷やしたものだった。
 その時点で、ハサンには最早一刻の猶予も残されてはいなかった。一分一秒でも早く、由紀の安全を確保しこの場を離脱しなければ、彼の聖杯戦争はそこで終わりを告げてしまうと悟っていた。
 無論、ハサンとて全てのマスターとサーヴァントが完全な敵性存在であるとは思っていない。聖杯戦争とは掛け値なしの生存競争ではあるが、同時に数多の駆け引きが交錯する場でもあるのだ。敵と見れば襲い掛かるだけの猪では到底勝ち抜くことなどできず、時には休戦協定を、時には一時の同盟を結び他者の力を利用することも覚えねば、聖杯の恩寵を勝ち取ることは難しい。
 元よりハサンは暗殺諜報を生業とするアサシンのサーヴァント。その手の契約には一日の長があるし理解も深い。だからこそ、彼は些か短絡的とも言うべき強行軍を敢行することとなったのだ。
 全ては状況と前提条件の劣悪さが原因だった。そもそもバーサーカーに交渉など不可能、対するセイバーとアーチャーにしろ既に交戦状態に移行している以上は交渉の決裂どころかこちらが不用意に姿を現したというだけで命が危うくなる可能性だってある。そして何より己が主たる丈倉由紀は心が壊れた童女でしかなく、これを突かれて相手に付けこまれることは想像に難くなかった。
 故に、ハサンの選択はその場の全員を相手にした奇襲暗殺であった。遥か遠方にいるアーチャーはともかくとして、セイバーとそのマスター、バーサーカー二騎にそのマスターと思しき童女、合計五名に対し、彼は瀑布にも等しい短刀投擲の大乱舞を仕掛けたのだ。暗殺方法が宝具ではなく投擲だったのは、あまりに対象人数が多すぎるが故のことだった。
 戦場に生じた一瞬の隙、セイバーが行った何某かによる刹那の停滞の間隙を突き、ハサンは持てる全ての力を総動員してダークを投げ放った。
 由紀とバーサーカーのマスターがいた地点には魔性を含んだ風による竜巻が発生していたが、セイバーの力による大幅な風圧の弱体化と、何よりハサン自身に備わった風除けの加護により容易に突破することが可能となっていた。

 結果として、異形に改造されたバーサーカーとマスターらしき童女は仕留めることができた。そしてこちらは一切の手傷を負うことなく、由紀の奪還にも成功した。
 与えられた状況を鑑みれば、これ以上を求めるのは酷というほどに、彼の手際は見事なものだったと言えるだろう。
 けれど。


886 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:50:47 r2c6ah6I0


「ぬかったわ……このハサン、よもや耄碌したか……!」


 駆ける疾風のアサシンに、勝利の余韻など微塵も感じることはできない。
 むしろ、己の不覚こそを嘆いている。自分のいない間にサーヴァントに乗りこまれていたという事実を悔いている。
 これは紛れもなく自分の不手際であった。客観的に見て、心が壊れた童女など何処ぞの閉所にでも閉じ込めておくしかないのだから、廃校から出るなと厳命して放置した彼の行いは決して間違ってはいないのだけれど。
 それでも、結果としてこうなってしまった以上は言い訳のしようもない。


「許されよユキ殿。過ちはそれ以上の勝利を以て贖おう。
 これより私は無謬の悪風となって、遍く敵を討ち滅ぼさん」


 その言葉に、しかし抱かれた少女が何を言うこともない。
 彼女は気を失っていた。それは無理やりな運動加速を行われたこともあるけれど、それ以上に。
 目の前で行われたことが。
 ハサンのやってしまったことが。
 あまりにも受け入れがたいことだったから、というのが大きいだろう。

 彼女が再び目覚めた時、それでも変わらず盲目の夢に沈殿するのか。
 それとも別の顛末が用意されているのか。
 それは分からない。けれど。
 その行く末を、決めるのは―――





   ▼  ▼  ▼


887 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:51:08 r2c6ah6I0





「……終わった、のね」


 構えっぱなしだった長銃を下ろし、遠くを見据えたまま、美森は小さく呟いた。
 事の顛末は彼女にも見えていた。ゆきを連れ去ったアサシンらしき影の乱入とセイバーらの撤退。そしてバーサーカーとそのマスターと思しき少女の末路。


「あ、あの、アーチャーさん、もしかして……」
「大丈夫、アイちゃんとセイバーは無事よ。そしてゆきちゃんも」


 ……最後の一人は、恐らくという枕詞が付くけれど。

 余計なひと言は口に出さず、美森はこれからの展望を思考する。
 とりあえずの急場は凌ぐことができた。そして自分一人では対処の難しいバーサーカーを一騎、排除することもできた。今ははぐれてしまったとはいえ、最優のクラスであるセイバー陣営ともある程度良好な関係性を築くことに成功している。
 そして何より、これだけ状況を進めたにも関わらず、自陣営の消耗はほぼ皆無と言っていい。
 順調であった。少なくともここまでは。決して油断はできないが、上手く事を運んでいると見ていいだろう。
 ならば次にすべきはセイバーたちとの合流だろうか。
 それとも不死のバーサーカーへの対処法の模索だろうか。
 それも大事だろう。だが、その前に。


「それよりもすばるちゃん、今はすぐにここを離れたほうがいいわ。まだバーサーカーが一騎健在で、多分だけど、射線上から私達の居場所を割り出してる可能性があるわ。
 ……詳しい話はまたあとで、ね?」


 だから、あらゆる可能性を取りこぼさないよう、美森は即座に次の行動へとシフトする。
 慌てた声で返事をするすばるを思わず微笑ましく見返しながら、その小さな体を抱えるとビルの屋上から跳躍、できるだけ廃校の校庭から目視されない位置を通って距離を稼ぐ。

 歪な勇者の歪な願いは、未だ光明の兆しは見えず。
 二人の想いは、すれ違ったまま。





   ▼  ▼  ▼


888 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:51:29 r2c6ah6I0





 "仕切り直し"のスキルを用いて戦場を離脱した後、蓮は木々の奥間へと足を運び、そこにどっかりと腰を下ろした。
 そろそろ天頂へと登ろうかという太陽が、燦々と街を照らしている。それは蓮たちのいる場所も例外ではなく、枝葉の隙間から差し込む木漏れ日は、先まで凄惨な殺し合いが行われていたとは思えないほど穏やかに陽だまりの暖かさを運んでいる。
 ふぅ、と息を一つ。周囲にサーヴァントの気配はなく、そこでようやく、蓮は肩の力を抜いた。そうすると困ったもので、今まで無視していた節々の痛みが滲むように主張を始め、特に戯画的なまでに罅割れた右腕は痛覚を通り越し、最早灼熱の感触となっているけれど。


「……この莫迦」


 こつん、と。
 膝の上で静かに目を閉じたままのアイを、労わるような手つきで軽く小突く。


「少しでも怪我したら泣くまでぶってやるって言っただろ。何やってんだよお前」


 右手にできた青タンを眺めながら、言葉面とは裏腹の優しげな口調で呟いた。
 小突かれたアイは一瞬だけ凄く文句ありげな感じで顔を歪ませたが、すぐに元の穏やかな顔つきに戻ってもぞもぞと身じろぎした。
 なんというか、こいつは変なところで図太いんだなと改めて思う。むにゃむにゃと何事かを言ってる様は気絶ではなく単に寝入っているだけのようにも見えた。というか本気で寝てるだけなんじゃないのかこいつ。

 なんとも気の抜ける絵面だと、蓮はひとりごちた。これじゃ怒る気にもなれないと、最初からやるつもりもなかったことを冗談めかして嘯く。
 静かだった。風は柔らかく、ふわりと二人を撫でて過ぎ去った。街の喧騒は遠く、束の間の平穏が二人を包む。


 結論だけを言うなら、先の戦いは蓮の完敗だった。
 当然だ。助けようとした対象をみすみす取り逃がし、こちらは必要のない怪我を負うだけ負って逃げ出したのだから。
 誰がどう見ても自分の敗北である。それは言い逃れができないし、言い訳をするつもりもないけれど。


「ともあれ、無事で良かったよ。本当に……」


 こいつが生きていてくれたというだけで、もう他に言うことはない。
 これからやるべきことは大量に残ってはいるけれど。
 少なくとも、こいつが起きるまではこのままでいようと。

 抜けるような青空を見上げながら、そう思った。





   ▼  ▼  ▼


889 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:52:05 r2c6ah6I0





 結局は、こんなものだ。

 虚構に逃避する少女は何を見ることもなく。
 星に想いを馳せた少女は出会うこともなく。
 世界の救済を夢見た少女の手は伸ばされず。
 彼女らの侍従は己が主のことのみを考えて。



 何かを強く決意した少女の叫びは。
 誰かを救わんとした少女の祈りは。

 結局、誰に届くこともなかったのだ。



【直樹美紀@がっこうぐらし! 死亡】
【バーサーカー(アンガ・ファンダージ)@ファンタシースターオンライン2 消滅】



【C-2/市街地/1日目 午前】



【アーチャー(東郷美森)@結城友奈は勇者である】
[状態] 魔力消費(小)
[装備] なし
[道具] スマートフォン@結城友奈は勇者である
[所持金] すばるへ一存。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯狙い。ただし、すばるだけは元の世界へ送り届ける。
0:今はこの場を離れる。
1:アイ、セイバー(藤井蓮)を戦力として組み込みたい。いざとなったら切り捨てる算段をつける。
2:すばるへの僅かな罪悪感。
3:不死のバーサーカー(式岸軋騎)を警戒。
4:ゆきは……
[備考]
アイ、ゆきをマスターと認識しました。
色素の薄い髪の少女(直樹美紀)をマスターと認識しました。名前は知りません。
セイバー(藤井蓮)、バーサーカー(アンガ・ファンダージ)、バーサーカー(式岸軋騎)を確認しました。



【すばる@放課後のプレアデス】
[令呪] 三画
[状態] 健康、無力感
[装備] 手提げ鞄
[道具] 特筆すべきものはなし
[所持金] 子どものお小遣い程度。
[思考・状況]
基本行動方針: 聖杯戦争から脱出し、みんなと“彼”のところへ帰る
1:自分と同じ志を持つ人たちがいたことに安堵。しかしゆきは……
2:アイとゆきが心配。できればもう一度会いたいけど……
[備考]
C-2/廃校の校庭で起こった戦闘をほとんど確認できていません。


890 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:52:40 r2c6ah6I0




【C-2/雑木林/1日目 午前】


【アイ・アスティン@神さまのいない日曜日】
[令呪] 三画
[状態] 疲労(中)、右手にちょっとした内出血、全身に衝撃、気絶
[装備] 銀製ショベル
[道具] 現代の服(元の衣服は鞄に収納済み)
[所持金] 寂しい(他主従から奪った分はほとんど使用済み)
[思考・状況]
基本行動方針:脱出の方法を探りつつ、できれば他の人たちも助けたい。
0:私は……
1:生き残り、絶対に夢を叶える。
2:ゆきを"救い"たい。彼女を欺瞞に包まれたかつての自分のようにはしない。
3:ゆき、すばる、アーチャー(東郷美森)とは仲良くしたい。
[備考]
『幸福』の姿を確認していません。



【セイバー(藤井蓮)@Dies Irae】
[状態] 魔力消費(中)、疲労(中)、右手を中心に諧謔による亀裂及び複数の刺し傷(急速回復中)
[装備] 戦雷の聖剣
[道具] なし
[所持金] マスターに同じく
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り、元の世界へ帰す。
0:アイを連れてこの場を脱出。
1:これからどうしたもんか。
2:聖杯を手にする以外で世界を脱する方法があるなら探りたい。
3:悪戯に殺す趣味はないが、襲ってくるなら容赦はしない。
4:少女のサーヴァントに強い警戒感と嫌悪感。
5:ゆきの使役するアサシンを強く警戒。
[備考]
鎌倉市街から稲村ヶ崎(D-1)に移動しようと考えていました。バイクのガソリンはそこまで片道移動したら尽きるくらいしかありません。現在はC-2廃校の校門跡に停めています。
少女のサーヴァント(『幸福』)を確認しました。
すばる、丈倉由紀、直樹美紀をマスターと認識しました。
アーチャー(東郷美森)、バーサーカー(アンガ・ファンダージ)、バーサーカー(式岸軋騎)を確認しました。
アサシン(ハサン・サッバーハ)と一時交戦しました。その正体についてはある程度の予測はついてますが確信には至っていません。


891 : 狂乱する戦場(後編) ◆GO82qGZUNE :2016/05/18(水) 20:52:59 r2c6ah6I0




【B-2/源氏山/一日目 午前】

【丈槍由紀@がっこうぐらし!】
[令呪] 三画
[状態] 動揺、混乱、当惑、錯乱、思考停止。
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針: わたしたちは、ここにいます。
0:―――え?
1:■■るち■んにア■■■ーさ■■■。■いお■達にな■そう!
2:アイ■■ん■セイ■■さ■もい■■■ゃい! ■■はお■さ■■多■ね■
3:■■■■■■■■■■■■■■■■■
4:■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
[備考]
サーヴァント同士の戦闘、及びそれに付随する戦闘音等を正しく理解していない可能性が高いです。



【アサシン(ハサン・サッバーハ)@Fate/stay night】
[状態] 健康 、魔力消費(小)
[装備]
[道具] ダーク
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:由紀を守りつつ優勝を狙う
1:由紀の安全を確保する
2:アサシン(アカメ)に対して羨望と嫉妬
3:セイバー(藤井蓮)とアーチャー(東郷美森)はいずれ殺す
※B-1で起こった麦野たちによる大規模破壊と戦闘の一部始終を目撃しました。
※セイバー(藤井蓮)、バーサーカー(アンガ・ファンダージ)、バーサーカー(式岸軋騎)の戦闘場面を目撃しました。アーチャー(東郷美森)は視認できませんでしたが、戦闘に参加していたことは察しています。



【C-2/廃校の校庭/一日目 午前】

【バーサーカー(式岸軋騎)@戯言シリーズ】
[状態] 健康、バーサーカー(玖渚友)に対する魔力負担(大)
[装備] 愚神礼賛
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:狂化により思考が全敵性存在の排除で固定されている。
[備考]
バーサーカー(玖渚友)の宝具により顕現した疑似的なサーヴァントです。あくまで宝具のため、霊核を砕かれようが魔力消費によって即座に復活・再生します。
このサーヴァントの戦闘及び復活にかかる魔力は全てバーサーカー(玖渚友)が負担します。


※C-2/廃校は割と盛大に崩壊しています。


892 : 名無しさん :2016/05/18(水) 20:53:35 r2c6ah6I0
投下を終了します


893 : ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:36:43 bX/q4Wx20
アイ・アスティン&セイバー(藤井蓮)を予約します


894 : ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:37:15 bX/q4Wx20
投下します


895 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:38:35 bX/q4Wx20


 花が咲き誇る丘を、風が吹き荒れていた。

 木々の枝葉も、色とりどりの花弁も、等しく風に揺れている。自然の香りが運ばれて鼻孔をくすぐり、谷間から覗く夕陽が明るくそれらを照らしていた。
 それは、記憶にある通りの、アイの故郷そのもの。
 春風にそよぐ丘を、アイは見下ろす。花も、木も、土もみな、寂しげな夕暮れの赤に染まっている。

 そして、視界に映る全てのモノには、まるで正体を泣くしつつあるかのように、黒い砂嵐のようなノイズが走っていた。


「これでようやく、終われる」


 それは、目の前に立つ男にも同じことが言えた。
 ジジジジジとノイズに塗れる掌を見つめて、その男はそっと呟いた。

 綺麗な男の人だった。髪も肌も死人のように白く、目は血のような赤だった。きっと幾千の死体を山と築き、幾万の鮮血をその目に焼き付けてきたに違いない。そうでもなければ、これほどまでに幽玄な色にはならないだろう。
 死色の白と赤。着古した服の黒さとのコントラストも相まって、およそ現実的ではない美しさを、その男は纏っていた。

 ノイズ塗れの掌を見つめる表情は、奇妙なほどに穏やかなものだった。
 まるで、百年を生きた人であるかのように。
 まるで、天寿を全うした人であるかのように。
 まるで、全ての願いを叶えた人であるかのように。
 人食い玩具と呼ばれた男は、柔らかく笑っていた。


「悪いな、よりにもよってお前にこんな役目を押しつけちまって」
「いいえ」


 アイは、ふるふると首を振った。見えなくとも、自分が今どんな表情をしているのか分かった。

 それはとても素晴らしい笑顔。
 逝ってしまう者に、一抹の不安も与えない幸せの形。


「あなたの決断はとても悲しいものです。でも、それが心からの願いであるならば、私はそれを叶えます」


 手にしたシャベルをくるりと回し。
 麦わらを直してにこりと笑う。

 自分の願いを言うことはなく。
 自分の救いを求めることもなく。

 アイは、完璧な言葉を発した。


896 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:39:21 bX/q4Wx20


「だって、それが私の夢ですから」


 それは、あの時言うことができなかった言葉。
 自分が夢を抱くきっかけとなった人に、伝えられなかった言葉。

 それを聞いた男は、そうかと呟いた。


「なら、お前は俺を埋めてくれ。その選択が間違いじゃなかったんだと、俺に信じさせてくれ」
「ええ、勿論です」


 笑顔。笑顔。それは、決して変わることはない。


「私は、私の夢のためなら、お父様だって埋められるんですから」


 理性的に整えられた、作り物の笑顔。


「そうか」
「はい」
「それじゃ、頼む」


 そう言って、男は静かに横たわった。アイはショベルを反転させて地面に突き立てる。
 ずしゃり、突き立てられたショベルを中心に、まるで書き換わるように大地が別の色に染まって行った。それどころか木々も花も丘も消え去って、周囲は見たこともない建物と朝焼けに変わる。


 風。


 それは、どこかの教会だった。古めかしい建物と隣接した墓地は朝焼けに染まり、辺りには真新しい石造りの墓標が都合47個。

 男はいつの間にか墓穴の底にいた。
 姿さえも書き変わり、白髪は黒髪へ、瞳は赤から青へ。首には長い白布が巻かれ、傍には飾り物のように綺麗な剣が供えられていた。
 でも、綺麗な顔はそのままで。
 神さまのような男は、穴の底からアイを見上げていた。


「すまない」


 そう謝った、青に変じた左目から。
 血のように赤い雫が一筋、つぅーと垂れていた。


897 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:41:29 bX/q4Wx20


「なんのことですか?」


 アイはとぼけた。笑ったまま。アイはずっと笑っていた。欠片もその表情を崩すことはない。
 死者がそっと目を閉じる。アイはもはや言葉もなく、最初の土くれを穴へ落とす。
 土砂が舞う。ショベルが回る。黒い髪へと変じた新たな死者は、静謐の表情で徐々にその姿を土に隠していった。
 穴はあっと言う間に土に埋もれて、死者は本当に誰だか分からなくなってしまった。

 そうして墓は完成した。
 墓標に刻まれた名前は、見たこともない書式のたった三文字。

 ふぅ。アイは白い息を吐いて昇り始めた太陽を見つめる。朝日があまりに明るくて、辺りは真っ白なもやに包まれているようだった。


『さて』

『お前は』

『これから、どうする?』


 光の中で誰かが聞いた。
 チクタク。チク・タク。時計のような声で。


「決まっています」


 アイの答えは、どこまでも完璧だった。




「私は世界を救います」




 ――――――――――。




 ―――光の中で。
 ―――嗤う声と嘆く声の両方を、アイは聞いた。



 ………。

 ……。

 …。





   ▼  ▼  ▼


898 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:42:44 bX/q4Wx20







 燦々と陽の光が差し込む雑木林の中。
 市街地から離れ、人の手もほとんど入らないこの場所は喧騒とはかけ離れた静けさを保っていた。
 聞こえるのは葉が風に擦れる音か、あるいは茂みの揺れる音か。
 聖杯戦争などという非日常の戦乱が持ち込まれるどころか、およそ人という異分子さえもが徹底的に排除された空間こそが、今アイと蓮が坐する場所であった。
 鬱蒼とした、けれど雑多という印象を受けない、不思議な落ち着きのある地帯。
 暗くはあったが閉ざされてはいない。少なくとも、一つ場所にいて気分が悪くなるとか、心根まで暗鬱になるとか、ここはそういった性質とは無縁の場所であった。

 廃校での戦闘を終え、事実上の敗走を強いられた蓮は、気を失ったアイを抱きかかえる形でここまで移動していた。
 宝具によって負った傷、身動きのできないマスターというこれ以上ない足枷、アサシンというある意味において最も警戒しなければならないクラスのサーヴァントの奇襲、目下の救出対象であった丈倉由紀の戦線離脱。
 ここまで条件が揃ってしまえば、最早あの場に留まる意味は皆無だった。どころか、アイの身を危険に晒しかねない。だからこその逃走である。
 そんな彼がこの場で何をしているのかと問われれば、それは自身の傷の回復と、他ならぬアイの目覚めを待つことだった。
 エイヴィヒカイトの恩恵により、本来ならば多少の傷など瞬時に回復可能な蓮ではあったが、諧謔の影響で負った傷ともなるとそうはいかない。単純な傷の規模以上に、そこに込められた性質と情念により、著しく回復の速度が低下するのだ。
 とはいえ今回の発動においては、展開時間が数秒にも満たなかったがために、こうして少しの時間を置けば十分回復可能な程度に収まったが。これが長時間の展開ともなればどうなるか、自壊の特性が付属したのがサーヴァント化した後である以上、今の蓮にはまるで想像もつかなかった。
 そして、彼にとっては傷の治癒以上に重要な事柄のほうと言えば。


「……むぐ」


 見下ろす視線の先には、実にアホ面のアイがいた。
 木の根元に腰かける蓮は、それを微笑ましいのやら見苦しいのやら微妙な表情で見つめていた。
 ラフな服装は更に捲れて寝相の劣悪さを露呈し、それを隠すはずの、蓮がかけておいた墓守の服は蹴っ飛ばされて足の向こう。口は喉の奥まで全開で、汚い涎が口の端からたらりと垂れている。

 寝ていた。明らかに、気絶から回復して何故かそのまま睡眠へと直行していた。
 人体の構造的にあり得るのかそれ、と思いつつも、現に目の前でそれをされては蓮も呆れを通り越して尊敬の念を覚えてしまう。
 だらしなく開けられた口から漏れるのは、涎と同価値の見え透いた寝言。


「…………ねむい」
「おい」


899 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:43:21 bX/q4Wx20


 中々に度し難い寝言をほざいて、もぞりと大きく蠢く。
 思わず突っ込んだ蓮の言葉も意に介さず、勝手気ままに寝返りを打ったアイが、とうとう膝からズレて地面に落ちた。

 どごん、と。


「……」
「……」


 完全に顔面から行った。
 そのままたっぷり一秒は静止してから、今度は体ごと地面に倒れ込む。


「……」
「……」


 動かない。死んだかもしれない。
 アイはしばらく、そのままの姿勢でモジモジと未練がましく寝転がっていた。だが流石に色々と寝てもいられない衝撃があったのか、緩慢な動作でむくりと起き上がる。

 じとーっと薄く、目が開く。
 そのまま、ゾンビさながらといった風情で辺りを見回した。


「……ぬ?」
「ぬ、じゃねえよ」


 呆れ声が夢の世界にまで響いたのか、そこようやく、アイが目を覚ました。


「……おはようございます?」
「ああ、もう昼だけどな」


 徐々に目が冴えてきたのか、アイはパタパタと体を払い、土だの落ち葉だのを落としながらアイは起き上がった。
 とぼけた言葉とは裏腹に、その表情は不思議と暗いものがあった。端的に言って、気落ちしているようにも見える。
 姿勢を正す動作にも、どこか精彩さが欠けていた。何かを思い悩むような、何かを思いつめたような、そんな心の暗鬱さのようなものが、目の前のアイから感じられた。


「……何がなんだか、状況が掴めませんがとりあえず」


 アイは蓮の真正面に立ち、毅然とした、しかしやはり何処からか暗さを漂わせた様子で、静かに問うた。


900 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:43:59 bX/q4Wx20


「話してください、セイバーさん。あそこで何があったのか」


 そんなこんなで。
 同じ幹を背にして、アイは蓮と並んで座り込んでいた。膝を抱えた体育座り。差し込む陽射しの暖かさと、お尻に当たる土のひんやりとした感触が心地いい。
 服が汚れることは、別段気にならなかった。元々アイは山間住まいだったのだから今さらな話である。
 ただ二人、隣り合って座っていた。いくらか言葉を交わして。

 蓮は、アイが気絶した後のことを語って聞かせていた。
 アサシンの襲撃を受けたこと。ゆきがそのアサシンに連れ去られたこと。アサシンやバーサーカーの攻撃を免れるために、気を失ったアイを抱えて戦線を離脱したこと。
 アイは意外なことに、それを黙って大人しく聞いていた。蓮としては、また勝手に先走って私が助けに行くんですなどと喚くのではないかと半ば覚悟していたのだが、どうやらそのようなことにはならなかったらしい。
 俯いて、聞いていた。本当に耳に入っているのかどうかも怪しい様子ではあったが、きちんと理解はしているらしい。時折相槌を打ちながら、アイはじっと蓮の話を聞いている。


「つまり、ゆきさんもすばるさんも無事ということですね?」


 全てを聞き終えたアイは、ただそれだけを、ぼそりと呟いた。
 蓮は短く首肯する。少なくともその事については断言してもよかった。
 ゆきを攫ったアサシンは、十中八九彼女自身が召喚したサーヴァントだろう。事前に聞きだしたクラス名の一致もそうだが、そもそもそうでなければ殺意を以て攻撃してきたあのアサシンが無力なマスターを手間暇かけて攫うなどということはしないはずなのだ。


「少なくとも、今すぐどうこうってことはないだろうな。仮にも自分のマスター、それもああして生活環境の手配もしていたくらいだ。それなりに大事にはされてるんだろう」


 言って思い返すのは、ゆきたちがいた廃校の一室、学園生活部の部室だ。
 あの部屋と周囲の廊下や隣接教室は、長年放置されていた廃校とは思えないほどに清掃と整理が行き届いていた。ただマスターを隔離・保護するだけならば、ああまで丁寧に環境を整えるようなことはすまい。大事にされている、とはそういうことだった。
 無論、ゆき自身が掃除をしたという可能性もあるにはあるが、眼前の瓦礫すら認識できない白痴と成り果てた彼女にそれができるかと言うと、実に微妙なところだ。
 だから、攫われた彼女が殺害ないしそれに準ずるような目に遭っているとは考えにくかった。少なくとも、今のアイたちが無駄に焦ったところで意味がないということは明らかである。
 それは、筋金入りの頑固頭なアイにも理解することができたようで。


「……そう、ですね。釈然とはしませんけど、無事ならそれでいいです。ちょっとだけですけど、安心しました」


901 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:44:33 bX/q4Wx20


 その言葉に嘘はなかった。アイは嘘をつかない。
 少なくとも、ゆきやすばるが死んだという最悪の結果には至っていない。どころか、二人は今も比較的安全な場所で保護されているというのだから、流石にこれ以上を求めるのは酷というものだろう。
 ゆきを"助ける"のだというアイの方針は何一つとして変わってないし、それが達成困難な状況になっているのも事実ではあるが、今はその生存を喜ぶほうが建設的とも言えた。
 だから、アイは蓮が成した結果に何の不満も持っていない。まして、それを疎んだり、絶望的に感じることなどありはしない。


「それはいいんです。ですがセイバーさん、もう一つだけ、聞きたいことがあるんです」


 けれど。
 未だに晴れないアイの憂いた表情は。
 何かを危惧し、言い知れぬ悪寒に耐えているような表情は。
 吉報とも言うべき知らせを聞いてもなお、何も変わってなどいなかった。
 何故ならば。


「その腕のこと」


 アイが最も聞きたかったのは。
 アイが最も絶望的に思っていたのは。

 蓮の右手を覆う、罅割れたかのような損傷のことだったから。


「包み隠さず、教えて下さい」


 今までにないほど、真剣に。
 事によっては鬼気迫るとさえ表現できるほどの剣幕で。
 静かに、けれど有無を言わさぬ力強さで、アイは問うた。


「ああ、これか」


 蓮は心底なんでもないふうに右手を振って。


902 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:45:22 bX/q4Wx20


「別に大したことじゃない」
「嘘ですね」


 即座に断言されてしまった。思わず舌を噛んだような顔になる。


「……嘘ってなんだよ」
「言葉通りの意味です。あれだけ傷ついてボロボロになって、あんなことした人が何言ってるんですか。
 あれが大したことないんなら、この世に大したことなんてありません」
「……」
「……隠さないで、くださいよ」


 アイは膝を抱えて遠くの空を見つめた。
 なんだか、ひどく悲しかった。
 蓮のそんな態度が泣きたくなるくらい、悲しかった。


「……さっきのアレは、なんなんですか」


 思い返すのは先の情景。紡がれる詠唱と共に突如として蓮の右手が罅割れ砕け、敵サーヴァントはそれに十倍する損傷と万倍の重力を押し付けられたように倒れ伏した。
 傍で見つめていたアイと、ゆきやバーサーカーのマスターには何の影響も与えないまま。


「セイバーさんの宝具は、あんなことができたんですね。嘘を吐かずに、教えてください」
「別に嘘を吐くつもりはねえよ」
「そうですね。本当のことを言わないだけです」
「……」
「セイバーさん」
「分かった、分かった降参だ、話す。だからそんな顔すんな」


 心底から参ったというように、蓮は諸手を挙げて降参した。そして請われるがままにつらつらと語り始める。

 蓮は話した。自身の持つ最後の宝具、その渇望の具現たる創造能力のこと。
 狂的なまでに肥大化した渇望はそのまま現実を侵食する。そんなエゴに満ち溢れた世界の展開こそが創造であり、蓮の創造に関わる渇望の内容など、最早言うまでもないだろう。
 死者の否定。死想の渇望から発現した能力は「死者・不死者の消滅弱体化」。
 浄化の世界に在る限り、全ての死者はその存在を根源から否定され、脆弱ならば即座に消滅、そうでなくとも行動に多大な制限が付加される。
 それは逆に言ってしまえばアイのような生きた者に対しては何の効力ももたらさないということでもあった。二騎のバーサーカーが打ち砕かれたあの瞬間、アイの身に何も起きなかったのにはそういった理由がある。


903 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:46:05 bX/q4Wx20


「……なるほど、そういうことだったんですね」


 一応、納得した。
 蓮の思想というか、信条というか、その辺の諸々は既にアイも知るところだった。
 だから納得はできる。夢で垣間見たあの狂気がそのまま力になったのだと考えれば。
 極めて不本意ではあったけど、アイは納得できた。できてしまった。


「でも、そんなの……危なくないんですか?」
「平気だっての。こいつはあくまで死人を殺すためのもんだからな。サーヴァント以外だと精々死徒とかにしか」
「あ、いえ、そういうことではなくて」


 再度、言葉を途中で遮った。


「じゃあなんだよ」


 また、蓮はアイの言葉を勘違いしている。
 危なくないか、とは能力のことではなく。


「そうじゃなくて……あなたの体は、大丈夫なんですか?」


 聞きたかったのは、そこだった。
 理屈は分かった。理論も分かった。だが、アイにはどうしても納得できないところがあった。
 死を遠ざけるという諧謔の創造。死者の生を許さない蓮の渇望。それがサーヴァントを塵に還すものだとすれば、蓮だとてサーヴァント……つまりは否定されるべき死者なのだ。
 リスクがないとは思えなかった。右手が砕けたのも、あるいはその力の代償なのかもしれないと。

 だからアイは聞きたかった。
 他ならぬ蓮自身に、大丈夫だと言って欲しかった。


「ああ、なんだそんなことか」


 なんでもないことのように、蓮は頭を振った。
 彼は、まるで安心させるかのような、わざとらしい笑顔を浮かべていた。
 それを見た瞬間、アイは、次に彼が何を言うのか理解できてしまった。


904 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:47:19 bX/q4Wx20




「大丈夫だよ」




 蓮は、言った。


「右手のこれは、単にあいつらの攻撃で出来た傷が限界にきただけだ。魔力があれば治せる程度のもんだし、心配するようなもんじゃない」


 それは、確かにアイの望んだとおりの答えだったのに。


「ま、お前がマスターとして優秀で助かったよ。そうでなきゃ、今頃魔力不足でぶっ倒れてたかもしれないしな」


 アイはもう、蓮の言葉など聞いていなかった。ただ俯いて膝小僧の間に顔を埋めていた。


「他に目立った傷もないから、まあその、なんだ。安心しろ。
 ……って、なんだよ。腹でも痛いのか? やっぱお前、いちいち食い過ぎなんだよ。少しは慎め」


 下手なごまかしのように蓮が笑う。その顔をゆっくり視界に収めて、アイは彼を絶句させた。
 アイは今や、泣きそうなほどに顔を歪ませていた。


「……セイバーさんの、嘘吐きぃ……」
「嘘って、お前……」


 蓮はまだ、自分が何をしたのか気付いていない。


「危険が無いなんて、そんなの嘘に決まってるじゃないですか……」
「…………」


 その顔色が、ほんの少しだけ変化した。


「……セイバーさん。あなたはさっき、どうして私が怒ったのか、悲しかったのか、ちっとも分かってなかったんですね」
「…………」
「私は別に、あなたが危ないことをしたから怒ったわけでも、それで怪我をしたから悲しかったわけじゃないんです」
「…………」
「ただあなたが、それを私に隠そうとしたことが、悲しかったんですよ」
「……そうか」


905 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:48:04 bX/q4Wx20


 それは、アイが人生の大半を過ごしてきた死者の谷でのこと。
 過ちと偽りと虚構によって育まれた嘘っぱちの墓守の娘は、だからこそ嘘というものに敏感だったし、それを悲しいと思っていた。
 例えそれが、自分のためを思ってのものであろうとも。

 過ちを認めてからは、彼は早かった。いっそ清々しいほどに謝罪の言葉を投げかけた。


「悪い、俺が間違ってた」
「やっぱり、危険がないなんて、嘘なんですね……」
「……まあ、少しだけな」
「あなたはいつもそうですね」


 死想清浄・諧謔。蓮の創造能力は遍く全ての死者を破壊せしめる。
 そう、全て。全ての死者にこの創造効果は適用される。彼の渇望に例外はない。だから当然、その対象には藤井蓮自身も含まれる。彼はサーヴァントなどという存在を真の意味では決して認めないし許さない。死想の祈りは例え自分自身であったとしても逃さずその牙を突き立ててしまう。
 だからあの時、刃持つ蓮の右手は諸共に砕け散ったのだ。死者の生を認めないという自滅の渇望に蝕まれて。

 微動だにしない隣に向かってアイは全く容赦なく言葉を吐く。許してなんかやらないのだ。


「何もかも一人で背負い込んで、周りの人には何でもないよって、危険があったことさえ隠し通す。それは誇り高い、とても優しいことだと思います……
 でもね、セイバーさん。それがバレた時、周りの人は、私は、どんな気持ちになると思いますか?」
「…………」
「知りませんでしたか? こういうとき、私は、悲しくなるんですよ」


 言葉と共に、更に顔が歪んだ。
 泣きはらした後のような、今にも涙が零れ落ちてきそうな。
 けれど、それでもアイは泣かなかった。


「私が危険を避けられたって、あなたがその分危なくなったら……全然、嬉しくなんか、ないんですよ」
「悪かった」


 謝る蓮の表情は苦渋に満ちていた。
 アイへの反発ではない。
 それは、自らの陰我を直視しなければならないが故の苦渋。


906 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:48:48 bX/q4Wx20


「セイバーさんの渇望は、死んだ人の生き返りを認めないというもの。だったら、同じ死者であるあなた自身も傷つけてしまうなんて、そんなのちょっと考えればすぐにわかることですよね」
「……ああ、そうだ。所詮は魔道で無理やり自分の願いを叶えるなんて歪んだ代物だからな。元が歪んでるんだから、叶った形が歪むのも当然の話だ」


 ひらひらと、蓮は右手を軽く振った。
 そこにはもう傷のひとつも見当たらなくて、アイはほんの少しだけ安堵の念を覚えたけれど。

 でも、胸の奥に芽生えた不安は、そう簡単には払拭することはできなかった。


「だったら、これからはできるだけ使わないようにしてください」
「……ああ」
「でも、それでもまたやっちゃったら、その時は素直に白状してください。誤魔化そうとしたら、酷いんですから」
「……そう、だな。分かったよ」


 そこで蓮は、途方に暮れたように溜息をついた。
 アイは一瞬だけビクッとしたけど、それはアイに対する呆れの感情ではなかった。

 それは、約束の一つも守れそうにない情けない自分へと向けた、自嘲の溜息。


「……悪いな」
「なんです、いきなり」
「先に言っとくけど、俺はその約束をきっと守れない」
「ちょっと、止めてくださいよ」
「できるだけそうならないように努力はするさ。けど、土壇場のところで、俺はきっと自分の命を軽く見積もる」


 勿論、自分の死がアイの死に直結するという聖杯戦争の不文律がある以上は、そうそう簡単には死んでやらないし汚く生き足掻くつもりではある。
 けれど、自分とアイを秤にかけて、どちらの命がより大切かと問われれば、そんなことは今さら比べるまでもないだろう。


「そもそも、俺は死人だからな。今更守るべき自分の命なんて、無いも同然だ」


 それは誰にも譲れない藤井蓮の願い。死者は死に還れという、現実から地獄を遠ざけた人喰い玩具の祈り。
 描いた夢は歪に捻じれて、残骸だけが無様に打ち捨てられて。
 そんな残照に、最早自分は価値を見いだせないから。


907 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:51:00 bX/q4Wx20


「だったら私が、あなたを守りますよ」


 だがここに、そんな残照にこそ価値を見出す人間が一人、いた。
 全てを終えて永遠の眠りについた残骸を掘り起し、形を成してここに蘇らせた少女がいた。

 パチン、と。
 セイバーの頬を、熱くて小さな両手が勢いよく挟み込み、燃える瞳が覗き込んだ。


「あなたが内緒で危険を被ろうとしても、もう無駄です。私が必ず気づきます」
「……」
「あなたが自分だけを傷つけようとしても、もう無駄です。私も、一緒に傷つきますから」
「……」
「だから、自分の命に価値がないなんて、守る自分がないなんて、そんな悲しいことは言わないでください」


 言って、アイは氷のように固まった蓮の顔を真正面から見つめる。
 なんだか凄く嫌そうな顔をされたけど、そんなの構いやしない。


「あなたを起こしてしまったことを、私は後悔していません。申し訳ないって思うことはあっても、後悔なんて絶対しません。
 逢えて良かったです。一緒にいれて嬉しいです。そして、私はできれば、あなたのことも救いたいって思ってます。だから」


 言って、アイは笑った。
 泣きそうだった顔など面影も見当たらない。
 それは、日向にほころぶ童女のような。
 何の屈託もない、純粋すぎるほどに純粋な笑顔。


「安心してください。全部終わったその時は、私があなたを"埋めて"あげますから」


 その笑みは。
 その言葉は。
 どうしようもなく、何の不純物も混じっていないものだったから。


「……期待しないで待ってるよ」


 ここで失ってしまった死者としての安息と、少女に享受してほしいと願う"人"としての生。自らの抱く二つの救いを矛盾と痛感しながら。
 蓮はただ、そう返すことしかできなかったのだ。


908 : 神さまがくれた木曜日 ◆GO82qGZUNE :2016/05/27(金) 21:52:01 bX/q4Wx20



【C-2/雑木林/1日目 午後】

【アイ・アスティン@神さまのいない日曜日】
[令呪] 三画
[状態] 疲労(中)、魔力消費(小)、右手にちょっとした内出血、全身に衝撃
[装備] 銀製ショベル
[道具] 現代の服(元の衣服は鞄に収納済み)
[所持金] 寂しい(他主従から奪った分はほとんど使用済み)
[思考・状況]
基本行動方針:脱出の方法を探りつつ、できれば他の人たちも助けたい。
0:すばるたちと合流したい。然る後にゆきの捜索を開始する。
1:生き残り、絶対に夢を叶える。 例え誰を埋めようと。
2:ゆきを"救い"たい。彼女を欺瞞に包まれたかつての自分のようにはしない。
3:ゆき、すばる、アーチャー(東郷美森)とは仲良くしたい。
[備考]
『幸福』の姿を確認していません。



【セイバー(藤井蓮)@Dies Irae】
[状態] 魔力消費(小)、疲労(中)
[装備] 戦雷の聖剣
[道具] なし
[所持金] マスターに同じく
[思考・状況]
基本行動方針:アイを"救う"。そのために……
1:あいつらと合流か……
2:聖杯を手にする以外で世界を脱する方法があるなら探りたい。
3:悪戯に殺す趣味はないが、襲ってくるなら容赦はしない。
4:少女のサーヴァントに強い警戒感と嫌悪感。
5:ゆきの使役するアサシンを強く警戒。
[備考]
鎌倉市街から稲村ヶ崎(D-1)に移動しようと考えていました。バイクのガソリンはそこまで片道移動したら尽きるくらいしかありません。現在はC-2廃校の校門跡に停めています。
少女のサーヴァント(『幸福』)を確認しました。
すばる、丈倉由紀、直樹美紀をマスターと認識しました。
アーチャー(東郷美森)、バーサーカー(アンガ・ファンダージ)、バーサーカー(式岸軋騎)を確認しました。
アサシン(ハサン・サッバーハ)と一時交戦しました。その正体についてはある程度の予測はついてますが確信には至っていません。


909 : 名無しさん :2016/05/27(金) 21:52:29 bX/q4Wx20
投下を終了します


910 : ◆GO82qGZUNE :2016/06/28(火) 17:24:05 wJsMELl60
叢&スカルマン、イリヤ&ギル、如月&アークナイト、佐倉&友奈、藤四郎&ドフラミンゴ
以上を予約します


911 : ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:01:45 DC2cBCCw0
投下します


912 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:03:04 DC2cBCCw0


 叢がその光景を目にしたのは、ある意味では偶然であったし、ある意味では必然であった。

 聖杯戦争とはつまるところ、英霊と英霊による殺し合いである。そしてそれは神話や伝説に語られるように、およそ常識では推し量れないほどに凄絶かつ不可思議で、一介のマスター程度ではその片鱗さえ理解できない場合もあるとされている。
 それは卓越した忍であると同時に、多くの修羅場を潜り抜けてきた叢でさえも例外ではなかった。
 彼女が垣間見たのは、正しく英霊同士の衝突であった。厳密には、実際にサーヴァント同士が戦闘した場面を目撃したということではない。彼女が見たのはあくまでサーヴァントが放ったらしき攻撃の余波と、そこに残された破壊痕、つまりは全てが終わった後の残り香だけを目撃したに過ぎない。
 けれど、そんな残り物程度のものでさえも、叢の想定を優に三段は飛び越えたものであった。叢が目撃した余波とは、視界を覆い尽くして余りあるほどの直径を持った、空へと向かって駆け昇る巨大な火柱。そして彼女が目撃した破壊痕とは、多く立ち並んでいた建築物の全てが根こそぎ消失し、あまりの熱量に溶解を通り越して硝子質へと変化した、見渡す限りの広大な地面であった。
 文字通り何もなかった。地面は日の光を反射して煌々と照り輝く硬質と成り果て、人が生活していた痕跡など何一つとして見られない。爆発の中心地と思しき場所には深い大穴が口を開け、クレーターとなって野ざらしとなっている。
 その大穴が、爆発の瞬間、遠く離れていたはずの叢ですらその激震に肉体を弾き飛ばされそうになったほどの火柱によって作られたものであるということ、そしてそれがサーヴァントの手によって為されたものであることは、最早疑いようもない事実であった。

 ―――なんと、凄まじい……

 突然の天災に慌てふためく群衆を縫うようにかき分け、一切の減速をすることなく疾走を続けながら、叢は純粋な思いを心中で吐露した。
 凄まじい。つい先ほど目撃したそれは、そんなたった一言に集約されるべき出来事だった。
 サーヴァントは強く、決して人では敵わない。そんな不文律は叢とて十分知っていたし、自らが従えるアサシンにしたところで例外ではないと熟知している。人間という括りにおいては間違いなく手練れと称するべき自分であっても、あの骸骨面のアサシンには手も足も出ず敗北するだろう。そう思いたくはないが、恐らくは敬愛する黒影であったとしても、その打倒は非常に難しいと言わざるを得ない。
 そんなある種の常識を持っていてもなお、目の前の光景は畏怖せざるを得ないほどに凄絶なのだ。自分が決して敵わないと悟っているアサシンでさえ、あれほど非常識な破壊は生み出せないし、それが可能なサーヴァントなど、最早想像さえつきはしない。
 それをこのような早期に、自分たちの眼前で引き起こされた。自分たちがここに来たのは偶然ではあったが、あれほどまでに巨大な現象が視界に入らないわけがなく、故にこの現場に立ち会わせることになったのは必然であった。
 だからこそ畏怖と警戒の念が強く沸き起こる。サーヴァントが常識外の存在であるということの実感と、故に地力で劣る自分たちは極めて慎重に行動しなければならないという訓戒。そして自分たちにできる最良の選択は身を隠しての諜殺だという、とっくの昔に分かりきった事実と行動方針を胸に強く戒め今を動いているのだ。

【私は西を担当する。マスターは東を】
【分かっている。一切の手抜きはするな】
【了解した】

 簡素なやり取りを念話で行い、叢は破壊現場へと流れる群衆に逆らうことなく駆ける。その速度は最早人では出せない領域に達しつつあったが、不思議なことに周囲の人間は誰一人としてそんな叢を異常と認識していなかった。【草】としての叢の立ち振る舞いが、異常を異常と思わせず彼女の姿を背景と同化させているのだ。
 叢とアサシンが取ったのは別行動による索敵範囲の拡大だ。諜報に適した資質を持つアサシンと、同じく間諜の技量を有する叢ならば、戦闘にさえ入らなければ例え単独での活動であっても障害は発生しないと判断しての選択だった。
 これだけの破壊を為した下手人など、姿を確認しない理由はない。故に二手に分かれた。自分たちが手を下すか下せるかの是非は別として、その素性を把握しておけばある程度の危険対処を講じることができるからだ。敵を知り己を知れば、という格言を例に挙げるまでもなく、敵性戦力の掌握は最重要要素である。


913 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:03:46 DC2cBCCw0

「―――ッ!」

 駆ける、駆ける、駆ける。雑多な人の流れを無視し、普通なら障害物となるだろう建築群を足場とし、誰よりも俊敏に、しかし何よりも隠密に。叢は人外の脚力で駆けながら索敵の目を光らせる。
 今や街は興奮と混乱に騒ぐ群衆でごった返していた。誰もがその顔に恐怖を湛え、しかし内実には抑えきれない好奇を沸かせながら嬉々として破壊現場まで足を運ぼうとしている連中がそこかしこに散見できた。
 醜悪な、と叢は内心のみで唾を吐きながら索敵を続ける。この騒ぎで通りに出た人数は飛躍的に増加していたけれど、そのほとんどが画一的な反応をしているためにそこからあぶれた者を探すのはむしろ容易い。この状況でなお、冷静さを失わない者こそが聖杯戦争の演者足るに相応しいのだ。
 そして、幾ばくかの時間も経たない頃だった。

(あれは……)

 大通りに面した反対側、周囲の騒々しさとは裏腹に不自然なほど人の少ない狭い道。破壊の痕を間近に見られるその場所に、彼らの姿はあった。

 ―――黄金と白銀。

 一言で形容するならそれだった。彼らは、人の目を忍ぶ叢たちとは正反対の、自重など知らんとばかりに目立つ主従であった。それも悪趣味に派手というわけではなく、秘めた力と品性に相応した輝きを放つ、そんな男と少女の組み合わせだ。

 人の世に遍く満ちる黄金を金糸として梳いたかのような髪をオールバックにした男は、先の火柱よりもなお紅い両眼でかつての戦場を睨みつけていた。顔つきは青年のそれではあったが、内包した生の厚みが全くそれを悟らせない。
 放たれる存在感と覇気の桁が純粋に違うのだ。野性味に溢れた若々しさと、老境に至った生の悟りが理想的な融和を見せている。人体の黄金比を体現しているかのような顔つきは昼光の輝きを浴びてなお負けぬほどに美麗、かつ精悍。その様は誰の目に映ろうとも猛々しき美丈夫という評価以外は下せないものだった。

 一方で、黄金の男に侍る少女は白銀の輝きを湛えていた。銀糸で編まれたようなその体躯は雪の精かと見紛うばかりに弱弱しく、故に儚げな美をここに映し出していた。
 一言、華奢。触れればそれだけで折れてしまいそうな体はともすれば病人のように見えて、実際にその両眼は痛々しい傷を負ってその機能を失っている。

 あまりにも対照的な二人であった。「美」という比類なき特徴こそ共通してはいるものの、二人連れ立って歩くには似つかわしさよりも先に違和感がついて回るだろう。
 だからこそ、叢も即座に気付くことができた。男の肉体からサーヴァントステータスと思しき力の羅列が表示されたということ以上に、彼らの醸し出す雰囲気と存在感そのものが、現実の景色からかけ離れていたから。

「――――――」
「――――――」

 彼らは共に破壊痕を睥睨しながら、互いを見ることなく何かを言い合っているようだった。
 距離にして三十m、叢の耳に彼らの会話は入ってこない。叢は機を伺うように、物陰へと姿を隠しその気配を押し殺していた。
 二人は、およそ親愛とは程遠い様子で言葉を並べているようだった。しかしだからといって険悪というわけではなく、互いに己の本分を弁えた上での関係性に近いのだと、叢は半ば直感的に悟ることができた。要するにビジネスライクな付き合いなのだろう。マスターとサーヴァントの関係性としては最もポピュラーで無難なものである。


914 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:04:23 DC2cBCCw0

(問題は、彼奴等が先の爆破の下手人であるかどうかだが……)

 そこが何よりの問題であった。叢は気配の断絶を更に強め、注意深く二人を観察する。
 叢の目から見た黄金のサーヴァントが有する力は、まさしく破格と言う他なかった。およそ欠点と呼べるものがなく、全ての能力が最高に近い適性を叩きだしている。特にあの魔力量はキャスタークラスにも匹敵するものであり、ならば宝具の性質如何にもよるがあの規模の破壊を生み出すことも決して不可能ではないだろう。
 ならば彼こそが下手人なのかと問われれば、「なんだか違うような気がする」と叢は答えるに違いない。何故ならば、その立ち振る舞いはあまりにも平素のそれに近いために。

(警戒心が無さすぎる、我と同じく偵察に来たばかりなのか)

 人には切り替えというものが存在する。たとえどれほどの達人であろうとも、常在戦場などという言葉は机上の理想論でしかなく、誰しもは戦場と日常を区別し、状況が入れ替わる度に自らの思考を切り替えて適応しようと心掛けてきた。
 戦場には戦場の、日常には日常の、それぞれに相応しい気質というものが存在する。無論中には終戦に至ってなお戦場の昂ぶりを忘れられず市井において殺人を繰り返す者や、戦場においてさえ平素の態度を保っていられる狂人がいるが、それはあくまで例外だ。基本的に、人であろうと英雄だろうとそういった切り替えは存在すると考えていい。
 その点に着目して黄金のサーヴァントを見てみれば、彼の態度は明らかに平素のそれであった。ふんぞり返っているような傲慢さは垣間見えるけれど、それとてあくまで支配者としての素であり戦士の気質ではない。所詮は遠目からの推測でしかないが、これで叢の人物評は中々に精度が高い。
 故にこそ彼女は、このサーヴァントが下手人ではないと判断した。恐らくは自分たちと同じように騒ぎにつられてこの場へやってきた主従か。ならば今手出しする必要はなく、その外見と必要情報だけを頭に叩き込んで去るのみであると。

(ならば今彼奴等に接触する理由はないな。気付かれぬうちにアサシンと合流を……)


「―――随分とぶしつけよな。覗き見るだけ見て後は逃避か、少しは恥を知るがいい」


 ―――背筋が、凍った。
 凍土のような冷たい声音が、自分の背に浴びせられた。声も聞き取れぬはずの距離で、現に今まで彼らの言葉などまるで聞こえていなかったというのに、しかしその一言だけは、明朗なほどにはっきりと叢の耳へ届いた。
 それに気付いた瞬間、叢は脱兎の如く駆け出してビルディングの向こう側へと跳ねていった。隠行など忘却の彼方であった。全てのリソースを逃避の足に注がなければならないと、強迫観念にも似た思いで叢はひたすらに駆け逃げた。「草」としての分を忘れた叢の姿を視認することは難しくなく、跳躍の瞬間を目撃したらしい幾人かの市民が興奮の声を上げているのが聞こえてきた。
 けれど、今の彼女にそんなことを気にする余裕などない。心は黄金のサーヴァントへの動揺と恐怖で塗り潰され、思考はまともに機能することを忘れてしまっていた。心臓が早鐘のように激しく鳴り響き、視界はぼやけ、冷や汗は止まることがない。ただの一瞬、ただの一言だけで、今や叢はここまで追い詰められていた。

 だから今はただ逃げるのみ。
 何故なら、もしも彼に捕まってしまえば、その時自分は決して生きてはいられないのだということを、言葉ではなく心で彼女は理解してしまったから。


【B-3/市街地破壊痕の傍/一日目 午後】

【叢@閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-】
[令呪]三画
[状態]健康、動揺
[装備]包丁、槍、秘伝忍法書、般若の面
[道具]死塾月閃女学館の制服
[所持金]極端に少ない
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手にし黒影様を蘇らせる。
0:黄金のサーヴァントから離れる。
1:日中は隠密と諜報に徹する。他陣営の情報を手にしたら、夜間に襲撃をかける。しかし、あのサーヴァントは……
2:市街地を破壊した主従の情報を集めたい。
[備考]
現在アサシン(スカルマン)とは別行動を取っています。お互いそれなりに離れていますが、その気になればすぐに合流できる程度です。
イリヤの姿を確認しました。マスターであると認識しています。
アーチャー(ギルガメッシュ)を確認しました。


915 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:05:04 DC2cBCCw0





   ▼  ▼  ▼





「……なあに、アーチャー。アサシンでもいたの?」
「いや、ただの鼠であった。サーヴァントすら連れ立たぬとは、我も侮られたものだが……」

 遠ざかっていく気配を後目に、黄金の男―――アーチャー・ギルガメッシュはどうでも良さげな表情で答えた。その視線は注視点を動かすことなく、未だ破壊の痕跡へと注がれている。
 彼らがこの場に来た理由、それはやはり叢と同じく巨大火柱を目撃してのことだった。更に付け加えて言うならば、叢のような諜報目的ではなく、あくまでそこで邂逅した英霊との対決をこそ望んでいた。

「まあ、良い。間諜には間諜の戦というものがある。我は好かんが、それが世の役割というものよ」

 そう言うと、アーチャーは深く嘆息した。その顔つきと物腰から察することは難しかったが、彼は今、心底落胆しているのだ。
 彼は冷酷かつ傲慢な王だが、同時に誇り高い英霊でもあった。その気質故に彼は一騎打ちに代表される高潔な戦いこそを好み、己もまたそうであらんと常に律している。
 なので当然、聖杯戦争で戦うべき相手にさえ、彼は好みに煩かった。特に不意打ち上等のアサシンに関しては、その役割を理解こそすれ矜持としては好んでおらず、故に叢のように隠れ潜む者には落胆の念を抑えきれなかった。
 無論、その暗殺術が小手先のものではなく真に迫ったものであるならば、この覇王は喝采を以て受け入れるだろうが……叢に関しては、その域まで至っていなかったということか。
 英霊たるならば覇を競い合うが誉れである。確実な勝利よりもそうした余興を愉しむ様は、自身の言う通りの無駄好きと言えるだろう。

「では話を続けようかイリヤスフィール、貴様はこれをどう見る」

「どうって……知らないわよそんなの。白昼堂々こんなことする連中の気が知れないってくらいかしら。
 あとは、そうね。最低でも対軍、もしかすると対城規模の宝具を持ったサーヴァントがいるってことは分かったわ」

 両眼から光を失ったイリヤは、当然として瞳に世界を映しだすことはできない。
 しかし、それでも分かることはある。物理的な視力を失おうと、魔術という分野において規格外の力を持つ彼女には、霊的な感覚をその身に有している。
 霊的感覚を通じ眼前の光景に触れたイリヤが感じたもの、それは波濤が如き灼熱の魔力痕であった。
 例えるならば、地獄とでも形容するべきか。大地に穿たれた大穴から、火口より噴出するマグマのように多量の魔力が溢れ出ている。仮にイリヤの両眼が常の機能を取り戻していたならば、地の底どころか地獄へと続いていると錯覚しかねない深さの大穴が、昼の光に当てられてなお底を見通すことさえできない深淵を湛えていることが分かったはずだ。


「そこは別に良い。如何な敵が現れようと、最強たるは我に在る故な。
 どうだ、というのはだな。この破壊が一体何を因果として作られたものと考えているのか、我はそう貴様に問うておるのだ」

「何って……そんなの、他のサーヴァントを殺すために決まってるじゃない」

「そう考えるのが当然であろうな。事実、局所的に見たならばそれが全てであろうよ。敵を殲滅せんがために力を振るう、至極真っ当な行動原理だ。
 しかし、視点を一つずらしてみるとどうなるか。そこにあるのは醜悪かつ腐乱した真実のみよ。
 神の如き業を持ち、しかして神に非ざるが故の業を負った、哀れなる者の夢の残骸がこの有り様なのだ」

「……?」

「分からぬか。ならばそれも良かろう」


916 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:05:54 DC2cBCCw0


 言ってアーチャーは胡乱気な目を逸らし、視線をそのまま別の方向へと向けた。そこに映るのは、破壊痕を隔てた先にある一本の道。


「此度の破壊はこの地の民の夢想が形となったに過ぎん。醜きが人の世の常とはいえ、やはりこれは目に余る。斯様なものを見せられては興が冷めるというものよ。
 故に、だ」

 瞬間、アーチャーの背後の空間に亀裂が生じ、そこから黄金色の光が溢れだした。亀裂はゆっくりとその幅を広げ、人の顔ほどの長さになると一気にその口を押し広げた。
 輝きの中から現れたのは、一振りの鍛え抜かれた刀剣、その切っ先。

「気概なく逃げ回る姿は見るに堪えんが、しかしこの一撃を以てその無様を不問とする。まことその身が強者ならば、見事凌いでみせるがいい」

 言葉と同時、切っ先を露わにした剣が弓矢の如くその身を奔らせた。飛来する剣は空を裂き、遥か遠くを寸分違わず貫き穿つ。
 その結果がどうなったかさえ見ることなく、アーチャーは用が済んだと言わんばかりに踵を返した。

「行くぞイリヤ、最早この地ですべきことは終えた」
「……ええ、分かったわ。もう慣れたもの、貴方のその強引さにも」

 そうして彼らは、その時ようやく押し寄せてきた群衆の中へと埋没するかのように姿を消した。
 余人には分からないであろう先を見据えたまま、遥か高みを睥睨して。
 黄金の男と白銀の少女は、此度の舞台に関わることなく、その身を降ろしたのだった。



【B-3/市街地破壊痕の傍/一日目 午後】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[令呪]二画
[状態]健康、盲目
[装備]
[道具]
[所持金]黄金律により纏まった金額を所持
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手にし、失った未来(さき)を取り戻す。
1:ある程度はアーチャーの好きにやらせる。
[備考]
両目に刻まれた傷により視力を失っています。肉体ではなく心的な問題が根強いため、治癒魔術の類を用いても現状での治療は難しいです。

【ギルガメッシュ@Fate/Prototype】
[状態]健康
[装備]
[道具]現代風の装い
[所持金]黄金律により纏まった金額を所持
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜き、自分こそが最強の英霊であることを示す。
0:?????
1:自らが戦うに値する英霊を探す。
[備考]
叢、乱藤四郎がマスターであると認識しました。
如月の姿を捕捉しました。





   ▼  ▼  ▼


917 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:06:36 DC2cBCCw0





 悲鳴を上げる肺を無視して如月は駆け続けた。路地はいつまでも変わり映えのしない景色だけを映しだし、知らず精神に疲労が蓄積する。
 ダークナイトの献身のおかげで命を拾い、赤熱渦巻く戦場を辛くも脱することができた如月は、そのまま必死になって逃げ続けていた。余裕はなかった、振り返る暇もなかった。協力できたかもしれない少女のことも、最早頭の中から消え去っていた。
 それを薄情と、罵ることが誰にできようか。対する敵は圧倒的に格上、外部からの援軍など一切期待できない状況で、その場を離脱できたことだけでも賞賛に値する行いだった。ならば拾った命を無駄にしないため、一心に逃げ去るのは当然の理屈である。
 例え、彼女の身の上が軍人であろうとも。
 あるいは、市民を見捨てた腰抜けと誹りを受けようとも。
 その一点において、彼女は決して間違ってはいなかった。
 ……完全無欠に正しいというわけでもなかったけれど。

「はッ、はッ……あぐ!」

 酷使に次ぐ酷使を強いてきた心肺が、この時になってついに限界を迎えた。飲み下す唾も枯れ果て、喉の奥からは鉄錆じみた血の味がする。
 ふらつき倒れかける足を無理やり元に戻し、如月は逃避を再開した。

「もう、少し……! もうちょっとで……」

 恐怖に心を支配され、藁にも縋る彼女が帰還を求めるのは、この地に来てから出会った人々の元だった。素性の知れない如月を匿い、親身に接してくれた人たち。飲食店を営む無辜の住民。
 別に彼らにこの状況をどうにかしてもらおうとか、そんなことを如月は考えていなかった。ただ、心の寄る辺が欲しかったのだ。内に満ちる恐怖を和らげられる場所へ行きたかったのだ。
 端的に言って、この瞬間の如月は視野狭窄状態にあると言えた。
 欲するものが目の前にあって、焦燥感だけが頭の中にある。故に、彼女は気付くことができなかったのだ。
 胸にしまった騎士のカード、それが明滅していることに。

「もう、ちょっと―――ッ!?」

 瞬間、如月の体が何者かに弾き飛ばされ、次いで爆音と閃光が耳と目を貫いた。突然の事態に思考が追いつかず、投げ出されるままに強かに体を地面に打ち据えて、痛みと感覚麻痺に呻く。
 1秒か数秒か、それだけの時間をかけてなんとか倒れた体を持ちあげ、如月は何事かと後ろを振り返り―――

「……うぁッ!」

 同時、金属同士がぶつかり合う激しい反響音と共に、自分のすぐ脇を巨大な何かが高速で吹き飛んで行った。直接目撃することはできなかったが、肌に感じる風圧で何となく分かる。海戦において自分よりも数周りは大きい深海棲艦と交錯することは数えきれないほどあったから、理解できた。
 衝撃に頭を抱え、粉塵と大気の振動が収まるまで十数秒。恐る恐るといった具合に閉じていた瞼を開けて、如月は顔を上げ吹き飛んだ何かをまじまじと見つめた。


918 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:07:16 DC2cBCCw0

「……ランサー!」

 そこにあったのは、何故か建物の壁に大穴を開け、その先まで吹き飛び倒れ伏したランサー・ダークナイトの姿であった。
 咄嗟に駆け寄りダークナイトの傍に寄る如月は知らない。先の一瞬、自分は何者かによって狙撃を受けたのだということを。そしてその一撃を強制現出したダークナイトが槍の一撃で迎撃し、しかし僅かの拮抗も許されず弾き飛ばされたのだということを。

 そして。

「何があったの、しっかりして……!?」

 ―――客観的に事実を述べるならば、その時の如月は幸運だったと言わざるを得ない。
 差し出そうと手を伸ばして、しかし停止していたはずのダークナイトが突如として動きだし、それにつられる形で如月も後ろへと倒れ込んだ。
 瞬間、眼前を鋭い音が通り過ぎ、太い何かが千切れるぶつりという音が耳に入った。
 べたん、と尻餅をつく。さっきから予想外のことばかりで、いい加減頭が参りそうになる。
 いたた、と呟きながら、手を頭にやろうとして。

「…………あれ?」

 頭に当たるはずの手のひらが、なかった。代わりにぶつかるのはぐちゅっとした湿った何かの感触で、奇妙なほどに暖かい。
 顔を、錆の臭いがする液体がつぅーと流れて行った。不思議なほどに覚めた視界で右手を見遣れば、そこに映ったのは赤黒い肉の断面。

 ―――右の手首から先が、切断されていた。
 ―――断面の先に見えるのは、地面に落ちた、令呪を宿した右の手のひら。

「―――ひっ!」

 全身を、不快な寒気が走り抜けた。
 硬直した視界の端に、何か黒いものが舞い降りるのが見えた。
 ダークナイトではない。鎧騎士の彼よりも、幾らか小柄なその体躯。
 漆黒を通り越して夜色の外套を羽織り、顔面には白い仮面の意匠。白と黒のコントラストの中にあって、二筋の赤い眼光が一際異彩を放つ。
 ああ、それは、この鎌倉において語られる都市伝説の一つ―――

 ―――闇夜に紛れ、人知れず怪物を討ち果たす髑髏面の怪人。
 ―――その名を……

「骸骨、男……」

 呆然と紡がれる呟きを通り抜け、如月の背後からダークナイトの刺突撃が猛然と撃ち出された。
 三又槍。トライデント。遥かギリシアの神話に語られる雷槍の名を冠したこの槍は、宝具の域にこそ至っていないものの、その逸話に恥じない威力を伴って一直線に骸骨男へと吸い込まれる。
 付随した衝撃が、大気を伝わって如月の長髪を舞い上げた。常人の視覚野では捉えきれないほどの豪速は、確かに槍兵の名に相応しい一撃ではあった。

 けれど。

「―――!」

 するり、と。
 まるで影を貫いたかのように、骸骨男は流水の動きで槍の刺突を回避、そのまま前斜体勢となって疾走を開始した。その速度に、ダークナイトは全く追随することができていない。黒色の外套から取り出された一振りのナイフが光を反射してぬめりと煌めく。
 単純に、両者の敏捷性の差が現れた結果であった。ダークナイトは重厚なる鎧の騎士、その膂力と耐久性は間違いなく一級品ではあるものの、小回りの面では他と比べ劣っているのは明らかであった。
 対して骸骨男は極めて軽装、かつ速度に重きを置いた戦闘スタイルである。元より彼は先手必殺を信条とするアサシンのサーヴァント。戦士としての力量では三騎士には遥かに及ばないが、事を済ませる手管においては彼らの追随すら許さない。
 故にこれは予定調和。仮にこれが一対一の尋常なる決闘であったならば、骸骨男には万に一つの勝機もなかっただろう。しかしマスターというアキレス腱を抱えたままでの命の奪い合いという舞台において、ダークナイトはあまりにも若輩に過ぎた。
 ナイフの切っ先が向かうのは、未だ忘我から立ち直れていない如月の頸動脈。その煌めきが、弧を描いて首筋へと吸い込まれ―――


919 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:07:44 DC2cBCCw0


「おおォォォ―――ッ!」


 突如として場に響いた雄叫びと、超速で飛び込んできた小さな人影が、如月と骸骨男の間へと猛烈な勢いで激突した。
 轟音が鳴り響く。爆散するかのように地面が捲り上がって破片が飛散し、衝撃で如月は後ろへと吹き飛ばされる。もんどりうって転がって、何事かと見遣れば、そこには拳を振り下ろした姿勢で屹立する一人の少女の姿。
 幼い外見の少女だった。見た目だけならば、恐らく如月と大して変わるまい。しかし内在する魔力の多寡と、猛る戦意の凄まじさが、彼女が決して見てくれ通りの少女などではないということを、如月に雄弁に伝えていた。

 緊張が場を支配する。一触即発の気配が大気に満ち満ちて、しかし現実の肉体は一切動作することなく、互いが互いを牽制していた。

 ゆっくりと、地面に突き立った拳を引き戻し、闖入者たる少女は毅然と顔を上げ、言い放つ。

「そこのあなた!」
「は、はい!?」
「あなたは今すぐに逃げてください。ここは危険です」
「え、えと、その……」

 指差された如月は、ただ目をぱちくりさせるだけだった。理解の及ばない出来事が立て続けに起き過ぎたせいで、完全に脳内処理が間に合ってない。
 そんな如月を安心させるように、少女のサーヴァントはにっこりと笑って答えた。

「大丈夫です、ここは私が引き受けます。だから、あなたは早く逃げて。
 そうでないと、あなたを守りきれなくなるから」

 その言葉は、すんなりと如月の胸の中に入ってきて。
 何が何だか分からなかったけれど。それでも分かったことが一つだけ。

「……分かりました!」

 ―――この人は、私の味方だ。

 それだけを確信すると、如月は一目散に髑髏面とは逆の方向へと駆けだした。
 傷む体に無理を言わせて、でも今回で最後だよと労わるように。
 少女のサーヴァントへ、小さく礼の言葉を述べながら。
 如月は、再度の死地を脱することができたのだった。





   ▼  ▼  ▼


920 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:08:17 DC2cBCCw0





 元村組の本部は、山間に位置した古風な住宅街の一角に建っている。
 住宅街、と言ってもこの周囲に立ち寄る人間は皆無に等しかった。かつて仁峡として名を馳せようが、どこまで行っても暴力団は暴力団。市井にとっては害でしかなく、ましてその害悪化が急速に進んだ現在においては尚更近づく者などいるはずもなかった。
 だからか、この邸宅の周囲は昼間であるにも関わらず暗鬱な雰囲気に沈んでいる。陽の光が足らないというわけではない。ただ、滲み出る気配そのものが汚濁に沈殿しているのだ。

「ねえ、ライダー」
「あァ? どうかしたか乱」

 その中の一室、最も奥まった場所にあるそこで、乱藤四郎とそのサーヴァントたるドフラミンゴは静かに向き合っていた。
 藤四郎は、何かに急かされるような表情をして、直立の姿勢で。
 ドフラミンゴは、ただ不遜に王座へと腰かけて。

「あのランサーのこと。本当に大丈夫なの?」
「なんだ乱、お前が心配事たァ……ああ、いつものことか」
「茶化さないで」
「フフフ、少しは心に余裕を持てよ乱。そんなんじゃ先が思いやれるぜ」

 なおも変わらぬ藤四郎の視線に、ドフラミンゴは観念したように手を挙げ、「あー分かった分かった」と鬱陶しげに返した。

「ランサー、ランサーね。大丈夫か、なんて聞かれちゃァ、俺としちゃこう返すしかねェよ。
 物事に絶対はない、ってな」
「……じゃあ聞き方を変えるよ。今回のこと、自信はあるの」
「あるとも、オレの見立ては完璧だ」

 相変わらずの傲慢さだった。
 藤四郎は軽く息を吐く。とてもじゃないが一から十まで付き合ってはいられない。
 少しだけ首をもたげ、先刻の出来事を思い出す。あれは、必要なことと分かっていてもあまり気分のいいものじゃなかった。

 先刻、彼らがランサーのマスターを捕えた後、二人をこの屋敷まで連行したドフラミンゴは、改めて「協力」の概要を伝えた。

 一つ、ランサーは前線での戦闘及び索敵偵察を担当し、自分たちは情報バックアップへとまわる。
 一つ、敵性サーヴァント全騎の駆逐を確認したら、ランサーのマスターを解放する。
 一つ、反乱の意思が見えた場合は即刻ランサーのマスターを殺処分する。

 ……不条理としか形容ができなかった。そのあまりにも露骨な内容に、藤四郎でさえ唖然としたものだった。
 そして当のランサーは、憤懣やるかたないといった風情で、しかし粛々とその申し出を受け入れた。そうすることしかできなかったのだ。
 その様子があまりにも不憫で、そして物悲しかったから、藤四郎は思わず目を背けたくなった。

 そして現在、彼女のマスターはドフラミンゴの手によって幽閉されている。彼女が、その場所を知ることはない。


921 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:08:56 DC2cBCCw0

「まさか、座敷牢なんてものがあるなんてね。嫌なもの、見ちゃったな」
「叩き出したくてもできない野郎ってのはいつでもいるもんさ。特にこういう組織は面子が全てだからな、その手の設備は必須みてェなもんだろうよ」

 彼らが言っているのは、元村組本部の地下にある幽閉設備のことだった。それはまさしく現代の座敷牢とも言うべきもので、現在はその機能を十全に使用されている。
 捕えたマスター、佐倉慈という屍食鬼を閉じ込めておくという形で。

「まあ、少なくともあの死にぞこないが自力で牢を脱することは不可能だろうさ。そんな力も知恵もないんだからな」
「だから、問題はランサーのほうなんだけど」
「分かってるさ。それで、あいつがこれからどうするかっていうとだな」

 ドフラミンゴは王座の上で足を組み直し、支配者然とした、高みから全てを見下ろすかのような表情をしながら言う。

「十中八九、反乱を起こすだろうな」
「……駄目じゃない、それ。見立ては完璧じゃなかったの」
「ほう、言うようになったじゃねェか乱。最初っからそういうふうにしてりゃいいんだよ」
「だから、はぐらかさないで」
「つれねェなあ」

 ドフラミンゴはただ、傲慢に嗤って。

「心配はいらねェよ乱。確かに奴に叛意はあるだろうが、それが実を結ぶなんてことはまずありえねェ。
 何故なら―――」





   ▼  ▼  ▼





 数mの距離を置いて、正三角形を描くように位置を取り、三騎のサーヴァントたちは同時に身構えた。

 何故、そうする必要があったのか。特に黒鎧の騎士―――ダークナイトはつい先ほどこの場を離脱した如月のサーヴァントであり、この場に残るのはあまりにも不適であるというのに。
 骸骨面のアサシンを足止めする殿を務めたからか?
 それもある。しかし、それ以上に、彼は動けなかったのだ。自身に向かって放たれる敵意に反応して。
 骸骨面のアサシンのものではない。それは、新たにここへやってきた少女のサーヴァントから。
 ランサーのサーヴァント―――結城友奈が放つ、純粋なまでの殺意によって。


922 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:09:22 DC2cBCCw0

「理解に苦しむな」

 唐突に、骸骨面のアサシン―――スカルマンが口を開いた。

「お前は、何のためにここに来た」
「……」

 スカルマンの疑問は尤もなものだった。戦闘への介入、命を散らさんとしていた他マスターの救出、それらは理由なくして為されるような事柄ではなく、ましてサーヴァントが行うにしてはあまりにも不可解だった。
 いや、それだけならば、まだ想像の余地はある。例えばそれが同盟相手だったならば、助けることにも納得がいく。もしくはこれから同盟を築くつもりであるとか、そういった可能性も考えられる。
 けれど、この桃色をした少女のサーヴァントは違った。敵マスターを助けておいて、その逃走を補助しておいて、しかしそのマスターが保持するサーヴァントは「決して逃がさない」と殺意を以て相対しているのだから。
 はっきり言ってしまえば、彼女の行動は常軌を逸していた。その正気を疑うほどに、バーサーカーの可能性さえ考えるほどに。

「私はお前の事情など知らん。幼稚な義侠心を満たしたいなら退くがいい。真実戦いに赴いたならば来るがいい。狂気に揺れるならば死ぬがいい」

 スカルマンの手に握られたロッドが、ガチャリという音と共に倍以上に伸び上がる。その先端には、剣呑な光を放つ鋭い穂先。

「矛盾に塗れた哀れな者よ、お前は何を定めとする」
「私は……」

 友奈が口を開く。その目に、気概に、狂気の気配など微塵も存在しなかった。

「私は、戦う。けどそれは誰彼構わず殺してまわるってことじゃない」

 握る拳に力を込め、友奈は一歩を踏み出した。同時、ダークナイトもトライデントを持ち上げる。

「殺し合いなんかするのは、私達サーヴァントだけでいい。今を生きてる人たちをどうかしようなんて、そんなの絶対間違ってる」
「……愚かなものだ、破綻していると気付かないのか。それともただの子供だったか」
「違うよ、私は勇者だ」

 最後の、そして決別の言葉と同時、三者は一斉に動作を開始した。

 力強く拳を握り、想いのままにそれを振りかぶる友奈。
 穂先をだらりと下げたまま、無造作とも言える動きで踏み込むスカルマン。
 精密機械のように、人間型の理想形とも言うべき体捌きを繰り出すダークナイト。

 激突の衝撃が、極大の振動となって大気に伝わった。





   ▼  ▼  ▼


923 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:09:51 DC2cBCCw0





「ぐ、うぅ……!」

 よろよろと路地を歩く。
 既に走るだけの体力は残されていなかった。肺は鈍痛を訴え、喉はひりついて息さえ苦しく、切断された右手首からは止め処なく血が流れ、激痛に顔面は蒼白を湛えていた。
 致命的だった。ともすれば、幾ばくの時間もなく死んでしまうほどに、今の如月は瀕死だった。
 けれど、それでも彼女は足を動かす。少しでも安全なほうへと、歩を向ける。

 何故?
 それは、希望を抱いたから。

「ぅあ、づぅ……」

 まともに言葉を話す余裕さえなく、脂汗と血の気の引いた顔は見る影もなかったけれど。
 笑っていた。如月は、苦痛の中でなお、笑顔を浮かべていた。

(あんな人も、いるのね……)

 心中でそっと呟く。思い返すのは、先の桃色の少女のこと。
 今にも殺されそうになっていた如月の前に突如として現れ、颯爽とその危機を救ってくれた彼女のこと。

 本戦が始まるまで、如月は自分の周りには敵しかいないと考えていた。
 鎌倉のおじさんやおばさんは優しかった。けどそれは、あくまで聖杯戦争とは無関係の一般人であるからで、聖杯戦争関係者はみんな敵だと思っていた。当然だ、ただ一つの聖杯を巡って殺し合うのだから、敵じゃないほうがおかしいのだ。
 だから、危なくなっても助けてくれるのは自分と、あとは自分のサーヴァントくらいしかいないはずで。
 けれど、そんな浅い考えを打ち壊すように、あの少女は自分を助けてくれたのだ。

 驚きだった。そんな、自分を顧みない献身をする誰かがいたということに。
 そして嬉しかった。あの小さな、けれど勇気に溢れる大きな背中を見ると、自分も「負けないで」と励まされるようだった。
 こんな時に場違いかもしれないけど、自分は確かに希望を見たのだ。


924 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:10:21 DC2cBCCw0

(そう、いえば……)

 更に思い返す。そういえば、彼女と出会うよりもっと前。あの赤いアーチャーに襲われる直前にも、似たことがあった。
 今回ほど劇的な出会いではなかったけれど、あの二人の少女も、同じように自分へと穏便に接してくれた。
 あの時は、結局離ればなれになってしまったけど。でも、もう一度会えたらきっとお礼をしたいなと、そう思う。
 殺し合いなんて、ドロドロの殺人劇なんて。
 如月とて、やりたいと思ったことなど一度もないのだから。

(きっと帰れる……あの子たちみたいな人がたくさんいるなら、きっと……!)

 素直にそう思えた。聖杯がどういうものかは分からないけれど、それが道具や装置の類であるならば、きっと殺し合う以外にも方法があるはずだ。
 自分は魔術に疎いけど、でも魔術師の人がいればきっとそれも解決する。そうに決まってる!
 帰れる、帰れるのだ。睦月や他の姉妹たち、同輩らが待つあの鎮守府へ!

(私、きっと帰るわ、睦月ちゃん―――!)

 如月は朦朧とした頭で都合のいい奇跡を思う。失血により思考能力が低下し、それが何の根拠もない妄言であることさえ、今の彼女には分からない。
 故に、"それ"に気付かなかったこともまた、当然であると言えたのだろう。

「……え、あ……!」

 裏路地の曲がり角、影になって見晴らしの良くないそこから。
 突如として腕が伸びて、ふらつく如月を勢いよく引っ張り込んだ。如月は小さな声だけを残して曲がり角の向こう側へと消え去った。
 幾ばくの時間も経たず、そこは元の静けさを取り戻した。如月がいた痕跡を、そこから見出すことはできなかった。





   ▼  ▼  ▼





 通路の角に飛び込みざま、壁に手をつき軸として反転。黒い外套が翼のようにはためき、流れるようにナイフが三本投擲された。目標は正面十m、赤い閃光となって追い縋る友奈に向かい、音速に迫る速度で殺到する。
 それを友奈は腕をクロスする形で防御、大半のナイフはそれで弾かれるも決して少なくない傷が友奈の腕に刻まれる。しかし彼女は頓着することなく地を蹴り跳躍、中空にて身を捻り回転蹴りを浴びせかけた。
 スカルマンはそれを壁を蹴りつけ反対側の壁へ飛び移ることで回避、一瞬遅れて着弾する友奈の蹴りがコンクリ壁を三mに渡って粉砕、地響きと轟音が鳴り砕けた破片が辺りにばら撒かれる。粉塵が広範囲に巻き上がり、それが瞬時に二人の元まで広がった。


925 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:10:55 DC2cBCCw0

「―――!」

 猛々しく振るわれた一閃が、両者の間を粉塵ごと切り裂いた。剣閃の風圧に押され友奈とスカルマンは緩やかに後方へと流れ、軽やかに着地すると同時に跳躍、刃を振るった第三者へと槍と拳による攻撃を見舞った。
 確りと地に足を付け、友奈とスカルマンは立ち止まっての連撃を開始した。如何な敏捷性を保持する両者とはいえ、足場がなければ間断のない攻撃など行えるはずもなく、故にこれは言うなればラッシュとも形容される連続攻撃であった。
 両手に携えた槍を突き、引き戻し、再度突くという工程を常人では視認できないほどの速度で敢行する。その脇では、友奈の拳が残像さえ伴って幾度となく振るわれた。
 空を裂き、風切音が幾重にも重なって反響する。それら攻撃は自分以外の二者へと同時に行われるものであり、そして相手方の攻撃を捌き無効化するための動作でもあった。連撃は瞬く間に五十以上が放たれ、しかし三者共に決定打はゼロのまま。友奈の顔には焦燥の色が見え始め、スカルマンの仮面は何が変わることもない。
 ここで初めて、槍を構えての防御に徹していたダークナイトが動いた。スカルマンのそれと比べてもより長くより太い三又槍を振り上げると、そのまま回転を加えて横薙ぎに斬りつけた!
 それは単なる一撃なれども、しかし圧倒的膂力の差によりあらゆる小技を零とした。ただの一撃、それだけでスカルマンと友奈は共に後退を余儀なくされ、戦況は再び振り出しへと戻される。
 次いで振るわれるダークナイトの一閃。頭上からの振り下ろしを二人は寸前で回避に成功するが、叩きつけられた衝撃は地面を大きく抉り砕き、余波だけで二人の体勢を打ち崩す。
 一瞬だけよろめく。しかし常人には一瞬なれど、サーヴァントにとっては致命的な隙である。
 柄を引き戻しての刺突が友奈を襲った。最小限の動きで為されたその攻撃は、状況と合わせて敏捷の差を補ってあまりある。
 友奈は槍の側面を殴りつけることによって辛うじて穂先を自身から逸らすことに成功するが、ただでさえ崩れかかっていた体勢は乱れに乱れ、敵前にて不格好な有り様を晒す。
 そこに叩き込まれるはスカルマンの一撃だ。スカルスピアの薙ぎ払いが弧を描いて友奈の胴体を両断せんと迫りくる。それを友奈は、体勢を立て直すのではなくあえて体勢が崩れるのを加速させ屈むことで躱す。そのまま地を這うように前方へ飛び出し立ち上がりざまに拳を突き上げた。
 あらゆるバーテックスを貫いてきた鉄拳が、ダークナイトの黒鎧に突き立った。軋んだ金属音を立てて拳が震える。
 目の前に立つのは鎧姿の威容。携えた巨槍が緩やかな軌跡を描いて跳ね返る。
 拳の一撃を食らったはずのダークナイトは、しかしまったく体勢を崩すことなく槍を振るった。銃弾さえも遅々と感じるほどに加速された視界の中、騎士の動きは流水のように滑らかで淀みがない。敏捷性こそ友奈やスカルマンに劣れども、白兵戦という分野においては一級の熟練者であった。
 拳を半分突き立てた中途半端な姿勢のまま、半歩退いて体勢を立て直す。ダークナイトは突撃槍の構えを取り、一直線にこちらの懐へと飛び込んでくる。背後ではスカルマンがナックルを装備した拳を正拳の形で放っていた。
 友奈は体を回転させ、身を捻るように回避する。友奈の右側をダークナイトの三又槍が、左側をスカルマンのブラスナックルが、友奈の胴体を掠めて通り過ぎる。


926 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:11:27 DC2cBCCw0

 狭い通路の只中において、彼らが選択したのは泥臭い白兵戦であった。
 そもそも行動が制限される地形において、悪戯に大規模破壊を敢行する者などそうはいまい。また彼らが共に得意としていたのが徒手や武器による直接格闘であったことも幸いし、宝具の破壊能力ではなく己の技巧の粋を凝らす剣戟を繰り広げることとなったのだ。
 そして、この地形は友奈にとって有利に働いた。通路の幅はおよそ二m、大柄な得物を振り回すには些かスペースが足りず、故に槍を得意とする両者に対し友奈が優位に立てる土壌が整っていた。
 無論、それは相手側も承知の上であり、三つ巴戦闘においてなお友奈が狙われる率が高まっているわけだが。

 友奈の細い体が踊るように翻り、両の拳が弧を描いて二者に叩き込まれる。
 それをダークナイトは余裕を持って防御、スカルマンは外套の裾を切り裂かれるだけでほぼ完璧な回避に成功した。
 たじろいだような表情が一瞬だけ友奈の顔に浮かび、すぐにそれは消え去って瞳に鋭い光が戻る。コンマ1秒で呼吸が整う。両腕がそれぞれ体の横と目の前で構えを取る。

「はぁぁあああぁぁぁぁぁッ!」

 裂帛の気合と共に拳が螺旋を描く。威力を重視したテレフォンパンチだが、当然ながらその実態は単なるフェイントだ。
 放たれる拳の影で、勢いのままに身を捻り回し蹴りを叩き込む。その対象は眼前のダークナイトではなく、側面のスカルマン!
 咄嗟に腕で防御されるも、しかし勢いに乗った蹴りをまともに食らったスカルマンはそのまま遥か後方へと吹き飛ばされた。背中でコンクリ壁を貫き、その姿は粉塵の向こう側へと消え去る。
 着地した友奈の目に映るのは、突きつけられようとしている槍の穂先。
 それを認識する暇もなく横合いへ跳躍、回り込むようにダークナイトの懐へ入り込み気合の殴打を繰り返す。

「こ、れ、でぇえええええええ!!」

 ここに至り、ダークナイトの鎧が徐々に軋み始めた。反響する金属音に混ざり、ぼこりと硬質の何かが陥没する音が聞こえてくる。それは間違いなく、かの鎧を打ち崩す音だった。

「いっ、けぇぇえええええええええええ!!」

 殴打、殴打、殴打。牽制など一切ない渾身の一撃をこれでもかと叩き込み、ついには拳が鎧を貫通する!
 そして打ち据えるは柔らかい鎧の中身。それを確信した友奈は、しかし振るわれた槍の横薙ぎにより風圧と共に吹き飛ばされる。
 中空にて姿勢を整え危うげなく着地。震脚の要領で地を踏みしめ、再度の突進を開始した。


927 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:12:01 DC2cBCCw0

 刃が宙に軌跡を描く。拳が唸りをあげて一直線に穿たれる。
 そこからは最早意地と意地の殴り合いの様相を呈していた。友奈は槍を回避するのではなく柄の部分で殴られることによって致命傷を避け、ダークナイトは殴打に構うことなく刃を振るい続ける。
 一の斬撃が振るわれる毎に三の打撃が騎士を襲い、五の打撃が振るわれる中で十の力を秘めた一閃が拳士の体を打ち据えた。
 鳴り響くのは肉を殴られる低く沈んだ音。両者は血肉と金属片を露とばら撒きながら原始的な暴力の応酬を繰り広げる。
 打撃、打撃、打撃―――斬撃、斬撃、斬撃。
 重低音は間断なく、少なからぬ損傷を互いの肉体に刻み込んだ。
 最早余力も尽き果てかけて……しかし、ここで何故か、いいやむしろ必然か、友奈の内包する力の多寡が増大し始めた。

「うおりゃぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 叫びと連動する拳の一撃が、ついにダークナイトの体勢を崩し、ばかりかその総身を後退させることに成功した。

 友奈が保持するスキルに、「勇者」と呼ばれるものがある。
 それは高ランクの戦闘続行スキルにも似て、しかし根本的に存在を異とする固有スキル。
 その効力とは、「傷を負っていればいるほど、彼女の戦闘性能は向上していく」というもの。
 勇者とは逆境を踏破する者であり、ならばこそ己が傷つき倒れそうになっている時にこそ最大の力を発揮するという、それは勇気という輝かんばかりの光の具現。
 ここに至り両者の力の差が開き始めたのはそういうことだ。友奈はこの戦闘においてダークナイトとスカルマンの両方から多大な損傷を負わされている。ならば刻まれた傷は勲章となり、力となり、何より友奈を後押しする土台となるのだ。

 殴打の数が、斬撃の数を大幅に上回り始める。三の間に放たれた斬撃が、五の間になり、十の間になり、いつしか反撃はぱたりと止んで防戦一方と成り果てる。
 そこで止める友奈ではなかった。彼女とて疲弊の色は濃く、ここで倒れてもおかしくない状態であったが、しかし決してその攻撃は止まることはない。

「これでッ、トドメ!!」

 力強く振り上げた踵が、頭上から一気にダークナイトへと落とされる。ダークナイトがガードのために三又槍を掲げるが何するものぞ。柄は何の障害になることもなく腕ごと砕かれ、踵はそのまま頭頂に突き刺さった。
 一瞬の静寂。ダークナイトの胸を蹴りつけ軽やかに着地する友奈と対照的に、ダークナイトの動きが停止する。
 砕けた槍持つ手も、それを支える足も、全てが止まって―――

「―――!」


928 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:12:43 DC2cBCCw0

 ―――否。止まりなどしない。
 止まりかけたと思われた一瞬、ダークナイトの体が急加速した。半ばで折れ短槍となったトライデントを逆手に友奈へと振り下ろす!

「受けて、立つ!」

 当然の如く、そんなもので友奈が怯むことなどない。
 この展開はあらかじめ予期していたとでも言わんばかりに、全身の力を爆発させクロスカウンターの拳を叩き込む。
 大気を引き裂く剛腕が、共に相手の顔面へと吸い込まれて―――



「…………っ!?」



 瞬間、友奈の右脇腹を何かが貫いた。
 その時、友奈が感じたのは痛みではなく、腹を殴られたような衝撃と、それに伴った熱のようなものだった。

 押し殺す声。
 足から瞬く間に力が抜ける。
 膝を折って、腹を抱えるように崩れようとしたところで、気付いた。
 自分を刺し貫いているのは、一本の細長い棒のようなもの。
 そして、それは目の前の騎士の胸から生えていた。

 ―――スカルスピアと呼ばれるその武器は、ダークナイトと友奈の二人をまとめて串刺しにしていた。

 今度こそ全ての動きが止まった騎士の後ろに、黒い影が舞い降りる。骸骨面をしたその男は、騎士の背へと片手を当て、騎士に突き刺したスカルスピアを、無慈悲に思い切り捩じり上げて、力の限りに引き抜いた。

 ばしゃあ!

 という音と共にぶち撒けられる、真っ赤な血。
 友奈の膝と太腿に、生暖かい血液の感触がぱしゃりとかかる。
 ダークナイトはそのまま崩れるように、その身を粒子へと変換させていた。胸の中枢、心臓部。霊核と呼ばれるそれを砕かれて、生きていられる英霊などいない。


929 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:13:13 DC2cBCCw0

「うぶっ、づぁぁぁああぁぁぁッ!」

 スカルスピアを払い血を振り落すスカルマンに、友奈は血反吐を吐きながらも、気力を振り絞るように再度の突貫を敢行した。
 その動きは一切速度を減じてはいなかった。力強さも、身のこなしの速さも、三つ巴の戦いを繰り広げていた時とまるで遜色ない。どころかその値が上昇しているようにも思える。
 勇者のスキル、その効果が最大まで高まった証左であった。死の淵にあるほど力を増す逆転の精神性は、どれほどの窮地であろうとも友奈に力を与えてくれる。

「……当初の目的は遂行した。お前は」

 けれど。
 例え膂力が上がろうと、例え速度が上がろうと。
 苦痛を堪え、気力を絞り、思考さえ覚束ない状態で放たれたその拳は。
 "精彩さ"の一切が消え失せていた。

「お前には、もう用などない」

 軽く半身を逸らし拳を回避してのけたスカルマンは、正拳を打つために伸ばしきられた右腕に足を引っ掛け、体の捻りと体重移動を利用して関節とは逆方向に捩じ回す。一切の容赦なく、友奈の右肘を軸にスカルマンの体がぐるんと回転した。
 枯れ木を手折るような乾いた音と、湿った粘質の音が同時に鳴った。

「ぎッ……!?」

 手をついて軽く着地したスカルマンは、そのままの勢いで後方へ跳躍、かつ逆側の腕を振り抜き幾本かのナイフを投擲する。
 友奈は折れた腕を庇いそれらを中空にて打ち落とすが、迎撃のために足はその場へ釘づけとなっていた。その隙を見逃す手はなく、友奈が体勢を立て直したその時には、既にスカルマンの姿は忽然と消え失せていた。

 場を、静寂が包んだ。
 何もかもが、終わりを迎えた。

「…………う……」

 気が遠くなりかけて、思わず前のめりに倒れかけた。体の節々が急速に冷たくなっていくのがはっきり分かる。
 だが、倒れない。友奈は決して倒れることはない。
 声の出ない苦痛の中で、思うことは、慮るのは、先刻逃げ去った少女のこと。

 ―――追いかけ、ないと……

 姿を消した骸骨面のアサシン、彼があの少女を追いかけ殺害しないなどと考えるのは難しかった。
 だから、友奈は膝を曲げることなく立ち上がる。殺し合うのは、悲惨な最期を迎えるのは、全部サーヴァントだけでいいのだから。せめてマスターの彼女には苦しみなど与えたくないから。
 その一心で、友奈は崩れかける体を前に進ませた。
 ゆっくり、ゆっくり、歩き出す。





   ▼  ▼  ▼


930 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:13:35 DC2cBCCw0





 ぞぶっ、ぞぶっ、ぞぶっ。

 抉られる。抉られる。
 お腹に殴られたような感触が走り、その度に中身が失われていく。


 ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり。

 齧られる。齧られる。
 引きずり出された私の中身を、彼らは一心に食いちぎって咀嚼している。


 ごきごきと肋骨を抉じ開けられる。細い何かを引き千切られる。
 痛みはとうに無くなっていた。あるのは衝撃にも似た感触と、酷く凍えた冷たさだけ。


 抜け落ちていく。大切な色々が、私の体から離れていく。

 そうして私は茫洋とした意識の中で。
 永遠にも似た一瞬を、幾度となく繰り返していたのだ。





   ▼  ▼  ▼


931 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:14:06 DC2cBCCw0





 裏路地の狭い行き当たりは、まるで無機質で巨大な口が、人間を生きたまま咀嚼したかのように、血に塗れていた。

「……うっ」

 気の抜けた声が無意識に漏れる。
 立ち込める臭気、立ち尽くす友奈。

 友奈がそこに着いた時には、全ては終わってしまっていた。
 目の前には、一目で分かるほど広がった血の海。ばら撒かれた人体の破片と内臓が散乱し、咀嚼中の口を開けて中身を垂れ流しにしている状況そのままに、曲がり角へと大量の血と肉片を赤黒く溢れださせていた。

「あ……」

 一目で否が応にも理解できる、最悪の惨劇。
 角を曲がった先で何が起きたのか、最早想像の余地すらなく突きつけられる現実が、そこにはあった。

「うあ……あ……」

 目を見開き、信じられないといった表情で、友奈はその光景を見つめた。

 血の色をした、世界。

 ふらふらと幽鬼のような足取りで、友奈は歩を進めた。疲労で今にも崩れそうな身体に鞭を打ち、顔は情けなく下を向いたまま。
 柔らかい何かを千切る湿った音が断続的に聞こえてきて、それが何なのか理解する間もなく、血に濡れた曲がり角に足を踏み入れた。

 そして、自分の足元を向いた視線を、地面の赤だけが見える視界を、ゆっくり、ゆっくりと上げる。
 見たくないと精神が悲鳴を上げる。その声を無視して、友奈は徐々に顔を上げて。

 そして、見た。

「――――――――――――――」

 洗い場の如く血が溜まり、だらだらと流れ出している行き当たりの光景を。
 その血の海に沈む小さな少女の体と、それに群がる屍食鬼たちの姿を。
 友奈は、その目で目撃した。


932 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:14:45 DC2cBCCw0

 血塗れで力なく投げ出されている、少女の華奢な白い手足。
 そして血とレバー色の臓物の海の中に、虚ろな目を開けて落ちている、少女の貌。
 それらが屍食鬼たちの煽動に合わせるように、かくかくと人形のように揺れていた。

「この……ッ!?」

 叫びかけて、しかし友奈は息を呑んだ。
 その瞬間、吸い込んだ湯気のように猛烈な血と脂の臭いが友奈の肺にべったりとへばり付いた。その臭気は物理的な粘りさえ感じるほどに濃密で、胃をせり上げるような感覚を友奈にもたらした。

「う……」

 思わず手を口に当て、それでも彼女は何とか手足を動かして先へと進んだ。予定外の闖入者に屍食鬼たちは咀嚼行為を中断して立ち上がるも、無造作に振り抜かれた友奈の腕に、悉くが破片となって壁にばら撒かれた。
 動く者が友奈以外にいなくなるまで1秒とかからなかった。友奈は表情を弛緩させ、ふらふらと少女の前まで歩き寄った。

 もの言わぬ、空を見上げたまま固まった少女の頭。そして腹を裂かれて中身を全て引き出され、ぐっしょりと血を吸った服を着たまま転がされている、その胴体。
 見るに堪えなかった。見たくなどなかった。無辜の少女がここまでされる謂れはなく、こうなるまでに一体どれほどの苦痛を味わったのか、友奈でさえも想像できなかった。
 人の尊厳など、欠片も残らぬほどに凌辱されていた。慈悲、救い、幸運といったものは、そこには一切含まれていなかった。

 友奈は膝から崩れ落ちるようにぺたりと座り込み、震える手で少女の頭を抱え上げた。中身を失ってしまった少女の体は酷く軽く、血に浸かった長髪が粘質に濡れそぼって頭と共に引き上げられた。

 そして理解した。
 あまりにもおぞましいことに、この少女は死体などではなく―――


933 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:15:20 DC2cBCCw0


「…………ぁ、が、ぁ……」
「あなた、まだ、生きて……」


 生きていた。少女はこうまで損壊しながらも、その命を失ってはいなかった。
 この時の友奈には知る余地もなかったが、それは屍食鬼と呼ばれる"彼ら"を蝕む、ある種のウィルスの恩恵であった。
 そのウィルスは人の生命活動を停止させ、死後の肉体を理性なきゾンビとして蘇らせる。それは紛れもない殺人ウィルスであるが、しかし「死した体を動かす」という一点が、この瞬間だけは少女の意識を繋ぎとめるに至っていたのだ。
 無論、そこに救いなど僅かも含まれない。少女の死は最早決定事項であり、如何な回復魔術を用いろうとも健常体まで治癒することは不可能だ。ただ悪戯に死までのカウントダウンを引き伸ばし、その苦痛を長引かせた。極低確率の事象を奇跡と呼称するならば、これは紛れもなく奇跡ではあった。しかしその奇跡は、決して人を救うことがない。

「……ごめん、なさい」

 一言、謝罪の言葉を告げる。
 血染めの路地の中心で、少女の虚ろな顔を見下ろし、その血肉の臭いを吸い込みながら。
 死して辛うじてその命を繋ぎ留め、消えゆく意識を残す少女に。
 最早取り返しのつかないことをしてしまったと、友奈は意味のない謝罪の言葉を投げた。

 こんな凄惨な最期を遂げて欲しくなかったから、友奈は戦った。
 サーヴァントだけを斃すなどという矛盾から目を背け、「そのほうがマシだから」という理由で戦った。
 だからだろうか。そんなくだらないことで戦ったツケが、偽善ですらない我執に巻き込んだ報いが。
 こうして形に、なったのだろうか。

「あなたをこんなふうにしちゃったのは、全部私の責任……。
 許して、なんて言えないけど。でも、もう二度と、あなたみたいな犠牲は出させないから……!」

 言葉と共に。
 沸々と湧き上がるのは、鋼の覚悟。

 結城友奈は勇者である。人々の笑顔を、その幸福を、ただ守り抜かんがために戦い続けてきた彼女は、議論の余地なく善性の英雄だ。サーヴァントとしての現界に際し、己がマスターの願いに奉ずることを決意しているものの、その心根自体は全く変わっていない。
 だからこそ、誓う。もう二度とこのような惨劇は起こさないと。
 所詮この手が届く範囲は有限で、救えず零れ落としてしまう命は数限りないけれど。
 それでも、自分の命が及ぶ限り、遍く人々を救ってみせるのだと。
 自分の救えなかった少女に、友奈はそう誓うのだ。


934 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:15:54 DC2cBCCw0

「だから、ごめんなさい。私はあなたを救えなかったけど、あなたがいたことを無駄にはさせないから……絶対、私がみんなを助けてみせるから……!」

 最早、声は嗚咽へと変じていた。どれだけ強い決意を持とうが、どれだけ勇気を胸に秘めようが、今の彼女はただの少女でしかないから。
 かつて救おうと足掻いて、それでも手が届かずその命を散らせてしまったという事実は決して変わらず、だからこそ友奈は己が事のように涙を流した。

 ただ、死にゆく少女のことが悲しくて。
 ただ、救えなかったことが情けなくて。

 少女を抱きかかえる友奈は、ぽろぽろと滴を零して。

「ごめんなさい……!」

 友奈は少女の首に手をかける。このまま放っておけば、少女は屍食鬼に成り果てる。彼女自身を殺した、あの醜い化け物へと。
 そんなことは、友奈には看過することができなかった。自分が救えなかった命ならば、せめてその死だけは綺麗なままであらせたかった。人のままで死なせてあげたかった。
 だから友奈は、少女の白く細い首に、その手をかけて。

 その、瞬間。



「―――あ…ぃが……」



 その、声にならない呻きは。
 友奈にとっては不意打ちでしかなくて。

「……ッ!」

 ―――ごきり。

 硬質の音と共に、友奈の手は少女の頸椎を折り砕いた。
 友奈は、何か信じられないものを見たかのように、その目を見開いていた。そっと少女の亡骸を地面に横たえ、下手くそな操り人形のように立ち上がる。

「ありが、とう……?」

 友奈が聞いた、少女の今際の際の言葉。
 それは、凄惨な末路にはあまりに不釣り合いで。

「そん、な……」

 けれど。
 心の奥底で、確かに友奈が待ち望んでいた言葉でもあった。


935 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:16:25 DC2cBCCw0

「そんなの、言ってもらえる権利なんて、私にはないよぉ……」

 声が震え、表情がくしゃりと歪む。今にも泣きだしそうになって、けれど強い決意で涙を押し留める。
 そんな暖かな言葉を言ってもらえる権利など、自分にはないのだ。だって彼女が死んでしまったのは自分の不徳のせいで、彼女の死の原因は全部自分にあるのだから。
 彼女だけを逃がしておいて、そのサーヴァントは脱落させようと動いた、苦肉の矛盾した行動だけではない。彼女を貪り尽くした屍食鬼は友奈のマスターが生み出したもので、あの骸骨面のアサシンがいなければ彼女のサーヴァントを殺していたのは他ならぬ自分で、つまり結局のところ、どう足掻いても彼女を殺したのは自分でしかないのだから。
 仮に、自分がもっと強ければ。
 仮に、自分がもっと賢ければ。
 もしかしたら、この少女は死ななくても良くて、みんな揃って笑い合えるような、そんな明るい未来があったかもしれない。
 けれどそうはならなかった。矛盾した行動の果てに、自らの因果が巡り巡って少女を殺した、勇者とも呼べない愚かな子供こそが自分だった。
 だから、ありがとうなんて、自分は言われてはいけないのに。

「……けど、ありがとう。私、ようやく決心がついた」

 それでも。
 それでも、友奈は現実に屈することはない。

 表情を俯かせ、しかし次の瞬間には毅然と顔を上げた友奈は、確かにそう宣言した。
 涙はとうに振り切っていた。嘆く暇などないのだから、ただ勇気を胸に自分は往こうと決意する。
 今まで散々迷って、悩んで。けれどちょっと考えてみれば、こんなに簡単なことだったから。

「私はマスターを助ける。そして、できるだけ大勢の人たちのことも助けたい。そんなの無理とか、どっちがどうとか、そんなことは関係ない!
 マスターも、他のみんなも、私は死なせたくなんかない……私は、みんなを守る勇者だから!」

 掲げるのは甘ったれた理想論。実現の可能性なんて那由多の彼方にしかない、子供でさえも聞いて呆れる妄言綺語。
 だけどそれがどうした、こうと決めたならば果て無く往くのだ。何故ならば、諦めなければいつかきっと夢は叶うと信じているから。
 孤独だって構わない。理想論者大いに結構! 例えどんな誹りを受けようと、結城友奈は諦めるということを知らない故に。

「勇者部五箇条ひとつ、なるべく諦めない。そして、為せば大抵何とかなる……!」

 この地に来てから久しく失っていた明るさと、持ち前の健気さを奮い立たせ、友奈は決意を新たに困難へと立ち向かう。
 敵はあまりに強大で、先を思いやるだけで足が挫けそうになるけれど、それでも彼女が膝を屈することはありえない。


 何故なら―――結城友奈は勇者なのだから。


936 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:17:16 DC2cBCCw0




【如月@艦隊これくしょん(アニメ版) 死亡】
【ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)@遊戯王ZEXAL 消滅】


【B-3/路地裏の行き当たり/一日目 午後】


【ランサー(結城友奈)@結城友奈は勇者である】
[状態]覚悟、ダメージ(大)、精神疲労(中)、左腕を骨折及び靱帯断裂、腹部に貫通傷
[装備]
[道具]
[所持金]少量
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの為に戦う
1:ライダーは信用できない。いずれ必ず、マスターを取り戻す。
2:マスターを止めたい。けれど、彼女の願いも叶えてあげたい。
3:敵サーヴァントを斃していく。しかしマスターは極力殺さず、できるだけみんなが助かることのできる方法を探っていきたい。
4:あの女の子の犠牲を無駄にはしない。二度とあんな悲しいことは起こさせない。
[備考]


※B-3/路地裏の行き当たりに如月の惨殺死体が安置されています。ゾンビ化の危険性は今のところありません。





【B-3/路地/一日目 午後】

【アサシン(スカルマン)@スカルマン】
[状態]疲労(中)、ダメージ(中)、霊体化
[装備]
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、敵を討つ。
1:……
[備考]
※現在叢とは別行動を取っています。お互いそれなりに離れていますが、その気になればすぐに合流できる程度です。


937 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:17:53 DC2cBCCw0

















   ▼  ▼  ▼









「勇気あるあなた。何より強いあなた」

「できるならば、私もあなたのように」

「輝くように、いきたかった」











   ▼  ▼  ▼


938 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:18:33 DC2cBCCw0





「―――――」

 空を、見上げていた。
 何故自分が生きているのか、如月自身でさえも良く分かっていなかった。引き摺られた腸が大きく位置を変える不快な感覚も、太ももにかかる柔らかい生肉の感触も、それらを啜られ、体の中に手と頭を入れられる感覚も、今や遠いどこかへ行ってしまったように無くなっていた。
 ただ、ひたすらに冷たかった。
 手足が雪に埋もれたかのように冷たくて、力が抜けて動かせない。そのくせ胸とお腹は灼熱するようで、息もできないほど重い苦痛だけが全身を支配していた。
 苦痛で、視界は真っ白に染まっていた。
 頭から完全に血の気が引いて、思考がぼんやりと鈍くなっていた。
 それでも辛うじて、自分があおむけに倒れていて、周りに幾つかの動く影があることは分かった。

 ―――なにが、あったんだっけ。

 記憶さえもが、茫洋として覚束ない。自分は何故、こんなことになっていたんだっけ。
 私はかつて沈んでしまって、生きて帰るには勝たなきゃいけなくて、それで私はこうして―――

 そうだ、私は、引きずり込まれたのだ。街で噂の屍食鬼に。
 艦装がなければ、私は戦うことができなくて。だから、こんなにあっさりとやられてしまった。

 ―――睦月、ちゃん……

 脳裏にかつての風景が映る。それは、帰りたいと願った陽だまりの光景。
 けれど、もう自分はそこに帰ることはできないのだろう。
 そう考えると、なんだか無性に寂しくなって。
 如月は、諦観のうちに空を見上げていた。

 けれど。


「―――あ」


 ふと、視界の端に何かが見えた。
 それは白みがかった景色の中で、一際映える赤色をしていて。
 ううん、これはピンクだ。花のように綺麗なピンク色。
 私はそれを見たことがある。ついさっき、屍食鬼たちに襲われるよりも前に。
 そうだ、これは……


939 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:18:58 DC2cBCCw0

 ―――サーヴァント、なの……?

 髑髏面の黒影から私を守ってくれた、あの綺麗なサーヴァント。
 助けてくれると、私に逃げてと言ってくれた、あの優しい女の子。

 彼女はゆっくりと歩いてきて、群がる屍食鬼なんか歯牙にもかけず、一瞬で全てを終わらせてしまった。
 それを見た私は、こんな状態なのになんだか安心してしまった。


 ―――良かった。

 ―――名前も知らないあなた、こんな私のために。

 ―――来てくれて、ありがとう……


 湧き上がるのは感激の念。私を助けてくれた勇者への、憧憬の印。
 二度も私を救ってくれた英雄への感謝は尽きず、眼前の少女のことが、私の目には救世主として映し出されていた。

 そうなのだ、勇者はいつだって弱い者の味方だ。
 世の中には残酷なことがたくさんあって、辛いことや苦しいこと、悪い人たちだってたくさんいるけど。
 でも、それと同じように、こうして誰かを救ってくれる優しい勇者だって存在するのだ。

 勇者(かのじょ)はゆっくりとこちらに歩いてくる。安心して、と言うように。怖がらせないように。
 そんな気遣いなんていらないのに、でもこの人はきっと優しいから、そんなふうにしてくれるんだね、と。如月は場違いな思考をして、一人で内心くすりと笑った。

 勇者は如月の前に立ち、そっと屈んで如月を抱きかかえた。優しい手つきで頭を包み、胸に抱いて慈しむ。

 如月は、今や安堵の境地に達していた。母に抱かれる子のように、この腕の中以上に安心できる場所などないとさえ思えるほどに、如月の心は暖かなもので満ち溢れていた。
 ありがとうの言葉を告げようとして、でも口から出るのは不格好な呻きだけ。それが如月にはもどかしくて、恥ずかしくて、何より申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 勇者は、そんな如月を見て何かを呟いていた。遠くなってしまった耳にはノイズにしか聞こえなかったけど、でもいい。いいんだ。私を助けてくれた彼女が、負の言葉なんか吐くわけないんだから。聞こえなくたってそれが意味するところは察せられる。

 だから、如月は瞼を閉じる。眠るように、夜の帳に懐かれるように。ありがとうという感謝の気持ちと、暖かなものでいっぱいになった心だけを携えて。
 私は助かったんだ、助けられたんだと、確信して―――


940 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:19:32 DC2cBCCw0















「……ごめん、なさい」










 ―――……。

 ―――え?





 思いがけない言葉が聞こえて、安らぎに沈みかけていた如月の心は現実へと浮上した。

 ごめんって、それ、なに?

 なんで謝るの。あなたは、私を助けてくれたのに。
 訳、分からないわ。優しいのは素敵だけど、そんなに自罰的にならないで。

 だってあなたは、私を助けてくれるんでしょう?
 だったら、謝る必要なんてないのに……


941 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:20:08 DC2cBCCw0


「あなたをこんなふうにしちゃったのは、全部私の責任……。
 許して、なんて言えないけど。でも、もう二度と、あなたみたいな犠牲は出させないから……!」


 ―――……ちょっと。

 ―――ちょっと、待って。


 遠くなってしまった耳に届いたのは、勇者にはあり得ないはずの泣き言だった。
 それが、如月にはまるで訳の分からない未知の言語にも聞こえて。


 ―――責任……犠牲……?

 ―――犠牲ってなに……? 私、犠牲……?

 ―――二度と私みたいな犠牲を出さないって、なに……?


 心に罅が入っていく音を、如月は聞いた。
 ふつふつと、胸の内側に黒い疑念がわき起こる。


「だから、ごめんなさい。私はあなたを救えなかったけど、あなたがいたことを無駄にはさせないから……絶対、私がみんなを助けてみせるから……!」


 ―――救えな……かった……?


 続く少女の言葉で、如月の中に芽生えた疑念は決定的なものになった。
 辛うじて形を保っていた心が、粉々に砕け散った。
 か細い希望の糸は、完全に断ち切られてしまった。

 救済の勇者の姿は、一瞬にして虚飾の泥に塗れてしまった。
 今まで輝いて見えてたはずの少女は、最早小さく泣きわめく子供にしか見えなかった。


942 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:20:50 DC2cBCCw0

 少女は尚も謝罪を繰り返す。
 何の意味も持たない、救いにもならない、これ以上なく薄っぺらな謝罪の言葉。

 少女は語る。あなたの犠牲を無駄にはしないと。
 少女は語る。二度とこんな悲劇は生ませないと。
 ―――少女は語る。代わりにお前はここで死ねと。

 少女は挫けない。取りこぼした過去など捨て去って、これから助けるべき人々という未来だけを目に映して、ただ前に進むのだ。

 如月のことなど、無駄にできない消耗品(ぎせい)の一つとしか映さないまま。
 輝ける未来を形作るための、尊い過去(ふみだい)の一つとしか映さないまま。
 少女は如月以外の誰かを救うために光り輝く道を往かんとしている。

 謝罪の言葉も、希望の言葉も。
 如月にとっては、「お前は救われない」という死刑宣告でしかなかった。


「ごめんなさい……!」


 ―――違う。

 違う、違う、違う。そんな言葉なんて欲しくない。

 そんな、ヒーローみたいなこと言わないで。
 そんな勝手に背負っていくなんて言わないで。
 嫌だ。やめて、違うの。そんな責任の取り方って、ない。
 私はまだ死にたくないの……ゾンビなんて怪物じゃない、如月はまだここで生きてるんです。

 どれだけ歪んでも。
 どれだけ失っても。
 こんなぐちゃぐちゃになっても。

 私はまだ如月なんです。英雄(あなた)の花道を彩る不幸な犠牲者なんかじゃない。
 寂しがり屋で意気地なしの、まだ生きてる如月のままなの。
 哀れな犠牲者だなんて、かわいそうな子だなんて。
 そんな代名詞で片づけないで。ねえ。

 ―――ねえ。


943 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:21:22 DC2cBCCw0


「……あ、」


 ―――こんなところで、死ぬなんて。


「ぃが……」


 ―――いや。

 ―――いや、いやだ。死にたくない、死にたくない!

 ねえ助けて、助けてよ。あなた英雄なんでしょう!? 勇者なんでしょう!? だったら助けて、お願いだから!
 これからどうなったっていい! 帰れなくたって構わない! どんなことでもするから、ねえ!

 ……!? い、いや、いやだぁ。死にたくないよ助けてよぉ! なんで首を掴んでるの、助けてくれるって言ったじゃない! 逃げてって、私のこと助けてくれたくせに!
 やだよ、痛いよ、折らないでくださいお願いします。死にたくない、生きていたいんです。ねえ助けてよ、助けてください、助けて、助けてお願いだから、殺さないで……!


 助けてくれるって信じてたのに。


 この。


 嘘つき。






 ―――ごきり。


 ………。

 ……。

 …。





   ▼  ▼  ▼


944 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:22:08 DC2cBCCw0





「何故なら―――あいつは"勇者"だからな」

 ……?

 何を言っているんだろう、このサーヴァントは。

「おぉっと、何言ってんのかてんで分からねえって顔してやがるな」
「……当然でしょ。まさか、勇者や正義の味方は現実じゃ無力だからとか言うつもり?」
「いいや? あいつらが大好きなお題目……正義、絆、仲間ってとこか? どいつもこいつも人に必要な要素さ。
 何か行動するには当人なりの正義がいる。絆や仲間は言うまでもなく大事さ。オレにもファミリーみてェな仲間がいたからな、よォく分かる」

 不遜な表情は変わらず。
 ドフラミンゴは口を弦月に歪ませる。

「だがな乱、よく考えてみろ。今のあいつに、正義も絆も仲間もあるか?」
「それは……」

 言って、後に詰まる。
 ドフラミンゴの言葉は、なるほど確かに、その通りではあった。

 正義―――仮にランサーが正義を語るならば、無辜の住人を食らう屍食鬼の存在を如何するというのか。
 絆―――自分のマスターさえ御することができず、そもそも知性を持たないアレに絆などあるものか。今更他の誰かと紡げるものか。
 仲間―――広く民衆に被害を出しておいて、今更同情など寄せられるものか。他者に利することもできない脆弱な立場にあって、誰かの協力を得られるものか。

「そうさ、何もない。あいつには何もないんだ。そしてこれから手に入れることもない。正義の味方が正義さえ失くしてちゃァ、そりゃつまり空っぽってこった」
「……」

 藤四郎は、何も言えなかった。

「ただでさえ何も持ってない奴が、たったひとりで何ができるっていうんだ。
 その薄っぺらな拳で、なァ?」

 睥睨して嘲笑うドフラミンゴの声に。
 同じく嘲笑う、時計のように機械的な声が重なった。

 そんな、気がした。


945 : 嘘つき勇者と壊れた■■ ◆GO82qGZUNE :2016/06/30(木) 17:22:33 DC2cBCCw0


【B-4/元村組本部/一日目 午後】

【乱藤四郎@刀剣乱舞】
[令呪]三画
[状態]疲労(小)、魔力消費(小)
[装備]短刀『乱藤四郎』@刀剣乱舞
[道具]なし
[所持金]割と多め
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の力で、いち兄を蘇らせる
1:魂喰いを進んで命じるつもりはないが、襲ってくる相手と聖杯戦争の関係者には容赦しない。
2:ランサーを利用して聖杯戦争を有利に進める……けれど、彼女の姿に思うところもある。
[備考]


【ライダー(ドンキホーテ・ドフラミンゴ)@ONE PIECE】
[状態]健康
[装備]
[道具]
[所持金]総資産はかなりのもの
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲得する。
0:ランサー(結城友奈)が出すであろう影響が発生するのを待つ。
1:ランサーと屍食鬼を利用して聖杯戦争を有利に進める。
2:『新市長』に興味がある
[備考]


【佐倉慈@がっこうぐらし!】
[令呪]三画
[状態]理性喪失、魔力消費(中)、寄生糸による行動権の剥奪
[装備]
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:?????
[備考]
※慈に咬まれた人間は、マスター、NPCの区別なく彼女と同じ状態になります。
※彼女に咬まれて変容した者に咬まれた場合も同様です。
※現在はB-4/元村組本部の地下室に幽閉されています。周囲には常時数名の見張りがついており、少なくとも自力での脱出はほぼ不可能です。


946 : 名無しさん :2016/06/30(木) 17:23:00 DC2cBCCw0
投下を終了します


947 : 名無しさん :2016/07/01(金) 00:00:33 HTwjPfl.0
追いついたのでまとめてになってしまいますが感想を

>焦熱世界・月光の剣
……形成ってなんだっけ?
圧倒的なザミエル! ザミエル! ザミエル!
超つええええ! そしてそれを相手取れるストラウスもすげえ。なんて濃密な数分だったんだ
ザミエルが愛や色恋を惰弱と語りだした時はすげえらしいと思ったし、なるほど、ストラウスとそう絡むかー

>善悪の彼岸
悪を滅ぼすのは悪である。悪でも正義足り得なかった一人の少女では悪滅にはなりえない、か。

>狂乱する戦場(前後編)
しょっぱなからの蓮アイの掛け合いにワロタ
ほんとこいつらいいなー。てかやばそうな竜巻になんてことないように腕突っ込んでんじゃねえ!
合間に入るチクタクや決死の蓮たちの雰囲気と異なる静かながっこうぐらしもいい。
そしてある意味当然すぎる幕切れ。確かにこの状況じゃサーヴァントとしてはしゃあないよな……

>神さまがくれた木曜日
世界を救おうとしているものの救いのない・救いたいと奴にさえ思われかねない夢からの開幕アホ面。
アイは平常運転であった
いやでもほんと蓮アイ噛み合ってるよなー。蓮が導こうとしているようで、蓮の背負い込みをアイは突きつけてきて。
最後の言葉には冒頭の夢から来るものもあってじんときた

>嘘つき勇者と壊れた■■
ひどい話を見た(褒め言葉
これはひどい。いやまじで。勇者は真実を知らず死人は死体へと還ったか。ゾンビを経てなのもひどい。
しかしこれ、オチをドフラが持っていってるけどそれ以上にギルこえええよ
お前見えすぎだろ!? どこまで分かってってやったんだこいつ!?


948 : 名無しさん :2016/07/02(土) 22:52:54 ovK1plD20
投下お疲れさまです。
自分×マスターをの積を勇気と友情で幾らでも高める事が出来るのが勇者とは言え
マスターが周囲に害を及ぼすだけの自我のないゾンビ……すなわち0だったら一人で幾ら頑張っても
積は0にしかならないどころか、過負荷で壊れていく一方だよなぁ。


949 : ◆GO82qGZUNE :2016/07/06(水) 02:49:14 SfvVdSFc0
ゲリラ投下します


950 : 地に堕ちて天を想う星 ◆GO82qGZUNE :2016/07/06(水) 02:49:51 SfvVdSFc0



 十五年前、神様は突然人の前に現れて言いました。

『あの世は最早満杯だ。この世もすぐに行き詰る。ああ失敗した』

 その言葉だけを残して神は消え、当時この世の春を謳歌していた人間は驚いて震えました。種族として一億年も生きていない彼らが神様に会ったのは初めてのことでした。その初めての言葉が、別れの言葉だったのです。

 その日から、人は死ななくなりました。
 心臓が止まっても肉が腐っても、死者は蠢くのを止めませんでした。
 その日から、子供は生まれなくなりました。
 工場の火が落ちるように、新しい人は作られなくなりました。

 神様のいなくなった世界で人は絶叫しました。億の絶叫は血を噴き出して瀕死になるまで止みませんでした。生きてる人はあっと言う間に少なくなり、世に死者が蔓延りました。

 そして、墓守が現れました。
 墓守は神様が人のために遣わした最後の奇跡でした。
 年を取らず、疲れを知らず。人の望む最高の肉体を与えられた彼らはふらふらと歩き回る死者を埋め、墓を作って生者の安息を守りました。そうされてやっと、人は安らかに眠れたのです。

「それは墓守の詩。墓守の寓話」

「誰もが知る黄昏色の言葉。かつて人が失ってしまった詩篇の一つ」

「……歪んでしまった、世界の有り様」





   ▼  ▼  ▼


951 : 地に堕ちて天を想う星 ◆GO82qGZUNE :2016/07/06(水) 02:50:51 SfvVdSFc0





 すばるたちとの合流のため、雑木林を抜けようと黙々と歩いている最中、遠くから突然爆発音が聞こえてきた。
 アイをおんぶした蓮の足が止まる。はて? とアイ。蓮は僅かに眉を顰めて音の方向へ首を傾けた。

「爆発、ですか」
「爆発だな」

 小さく、幼いアイが指を差して言う。
 大きく、古い蓮が頷いた。

「お山では、よく蛇抜で大きな音が鳴りましたけど、街では何かが爆発するものなのですね」
「……まあ、間違いじゃないんだけどな」

 蓮が軽い掛け声と共に背負ったアイの位置を直しながら言う。大人の仕事を邪魔する子供のようにアイが蓮の肩に顎を乗っけて彼方を仰ぎ見た。勿論、それで何が分かるわけでもなかった。

「十中八九、サーヴァントがなんかぶっ放したんだろうな。白昼堂々とか頭おかしいんじゃねえのかそいつ」
「さっきまで派手に戦ってた私達が言っても説得力ないですよ」
「あれは正当防衛みたいなもんだろ」

 ふむ、とアイが鼻息を鳴らす。耳元でやられた蓮は鬱陶しげに顔を背けた。

「ねえ、セイバーさん」
「言っとくが行かないぞ。俺達が行ってもどうにもならないって分かるだろ」
「でも、あそこで困ってる人たちを助けることが……」
「無理だ」

 にべもなかった。駄目、ではなく無理と言ったあたりに、頑なな意思が見えた。

「理由なんていくらでもあるぞ。救う手段がない、助ける義理もない、行ったところで足手纏いにしかならない、この国には非常事態に自救の手段がある。そして何より」

 一旦、言葉を切って。

「誰も、お前の助けなんざ望んじゃいない」

 決定的な言葉を、言った。


952 : 地に堕ちて天を想う星 ◆GO82qGZUNE :2016/07/06(水) 02:51:54 SfvVdSFc0

「……むぅ」

 背後で項垂れる気配がした。構うことなく、蓮は歩みを再開させた。

「心配しなくても、あいつらはあいつらで勝手に助かるよ。それともお前は、独り立ちできる連中の手も無理やり引っ張り起こすのか?」
「分かりましたから、もういいです……」

 分かったから、アイはつらく沈んでいた。
 それからは二人とも言葉無く、黙々と歩いていた。暫くすると、前方から光が差し込んできて、鬱蒼とした雑木林も終わりが見えた。

「そういや聞いてなかったけど」

 ふと、蓮が言った。

「? なんです?」
「いや、お前世界を救うって言ってるけど、そもそもお前の言う『世界を救う』ってどういうことなんだ?」
「あれ、言ってませんでしたっけ」
「聞いてないな」

 アイが惚けたように答える。蓮の声音には若干の呆れが含まれていた。

「で、結局どうなんだよ」
「聞きたいですか? どうしても聞きたいですか? むふー、仕方ない人ですねセイバーさんは。
 いいでしょう! どうしてもと言うなら私の夢の全てをお教えして」
「くどい、うぜえ、やっぱ言わなくていい」
「あぁ! そんなこと言わないで!」

 アイは大慌てで訂正した。さっきまでの落ち込みはどこへやら、身振り手振り、ぶんぶんと手を振りまわす。蓮の目つきがじっとりとしたものになった。

「で?」
「うぅ、セイバーさんの意地悪……それで、私の言う世界を救うというのはですね」

 沈黙。そこでアイの言葉は止まった。ざあざあと風に葉が揺れる音だけが聞こえる。アイの声は聞こえない。蓮はどうしたと視線を向けて、そこで固まったアイの顔を見た。

「どうしたんだよ」
「……なんなんでしょう?」
「は?」

 今度は蓮も言葉を失った。冷たいものが二人の間を流れていった。

「……お前、もしかして自分のやりたいことも碌に分からないまま無茶ばっかしてたのか?」
「い、いえ! 違うんですよ!? 私はきちんと私の夢を持っていますよ!?
 でもなんというか、それを上手く言葉にできないというか……」
「それはそれでどうかと思うぞお前」

 言って蓮はため息をついた。どうやら、今まで考えなしの馬鹿に散々付き合わされてきたという悲しいオチが付く心配はないらしい。


953 : 地に堕ちて天を想う星 ◆GO82qGZUNE :2016/07/06(水) 02:52:45 SfvVdSFc0

「……えーとですね。とりあえず、セイバーさんは私がいた世界が色々と変なことになってるってことは知ってましたよね?」
「ああ、正直胸糞悪かったけどな」
「ええ、まあセイバーさんはそうでしょうね」

 アイのいた世界は、正しく「死」に溢れていた。
 アイの生まれる十五年前、人々は「神」を見たのだという。その日から人は死ななくなった。いや、厳密には死んでも動き続けたと言ったほうが正しいか。肉体は死亡し、肌は潤いを失い、肉は腐って五感も内臓機能もまるで働かなくなって、それでも人は意思と記憶を持って動き続けた。たとえ全身や頭部を吹き飛ばされても、それはあくまで考えることができなくなるというだけで、真の意味での死ではないのだ。
 最悪なのは、死者は体だけでなく心まで腐敗が進行するということだ。死者となった人は、当初こそ生前のままの思考を持つけれど、時間が経つにつれて段々と「我儘」になっていく。生前の強い衝動や執着、あるいは思想や信条といったものが極端になって、いつしか理性さえも失くした正真正銘の化け物と成り果てるのだ。

「私が考える一番単純な世界の救済は、十五年前の、人が当たり前に生まれて当たり前に死ぬ世界に戻すことなんです。手段は何も分かりませんけど、そこを目指せばいいと考えてます」
「ふぅん」
「あれ、なんだか反応薄くないですか?」

 ちょっと意外だった。アイは蓮の渇望を知っていたから、死者を元の死に還すという自分の考えに賛同してくれるとばかり思っていた。今まで散々馬鹿だのアホだの言われてきたからここらでちょっと見返してやろうとか、蓮と同じ意見になったら嬉しいなとか、そういう打算も少しだけあった。けれど、とうの蓮はどうにも渋い顔をしていた。

「いや、別に間違っちゃいないと思うぞ。それはそれで一つの救済方法なことは確かだ。けどさ」
「? はい」
「だったらお前、なんで聖杯使うって発想にならねえんだよ。どう考えても一番手っ取り早いじゃねえか」

 意図の分からない質問だった。そんなの、答えなんて決まりきっている。

「なんでって、そんなの当たり前ですよ。だって私は世界を救うんですから、そのために誰かを殺したりなんかできるわけありません」
「死者のことは殺すのに、か?」

 ……。
 ……え?

「何言ってるんですか、セイバーさん……?」
「だってそうだろ、お前の言ってることはつまり、生き返った死者をもう一度ぶっ殺してまわるってことだぞ。別にそれを悪いとか間違ってるとか言うつもりはねえけど、自分で言ってて矛盾してるって気付かないのか?」
「いえ、そうじゃなくて」

 蓮の言わんとしていることはアイにも分かった。死者を死に還すとはそういうことだ。意思も記憶も生前のままだというなら、肉体の状態を除けば生者と死者の区別などない。ならばアイの行おうとしていることは人間の再殺に他ならない。
 理解はできる。その理論、考えてみれば確かにその通りだ。自分の矛盾を指摘してくれたことに関しては、むしろ礼を言いたいほどだった。
 けれど、その理論を口にするのがよりにもよって藤井蓮であることが、アイにはまるで理解できなかった。


954 : 地に堕ちて天を想う星 ◆GO82qGZUNE :2016/07/06(水) 02:53:32 SfvVdSFc0

「セイバーさんが、それを言うんですか……?
 死んだ人を認めないなんて、私のお父様と同じことを言うあなたが、それを」
「あのな」

 肩をすくめ、蓮は言った。

「そりゃ確かに、俺は死者の生を認めないさ。けど、それはあくまで俺一人の渇望であって万人に共通する真理なんかじゃない。
 俺は自分の渇望が、器が、世界を救うような大したモンだとは思っちゃいないよ」

 藤井蓮はエゴイストだ。他人の価値観も生き方も、慮るのは自分と全く関係ない次元においてのみの話でしかない。放置すれば不都合が生じるならば、勝手に動いて自分に都合のいい方向へ持っていこうとする。
 だがそれは、逆に言えば自分と無関係であるというのならば主張を押し付けることはしないということでもある。
 生き返りたい、生き返らせたい、そしてもう一度生きていきたい―――そんなものは当人の勝手だし、好きにやればいい。自分の考えと違うからって無条件で否定するなどと、そんな傲慢な価値観押し付けの趣味は無い。
 だから蓮は、アイの世界で生きる死者たちを心底気持ち悪いとは思いながらも、存在そのものを否定するつもりはなかった。これが自分たちを襲ってくるとか、そういうことなら話は別だが、所詮は違う世界のことでしかない。
 まして、自分のこの渇望が世界を救う考えだなどと、思い上がりもいいところだろう。結局のところ、藤井蓮の考えなど自分勝手の延長でしかないのだから。

「で、でも、私は死者の皆さんに『幸せな最期』を迎えてほしくて、それが救いになると思って、それで……」
「それこそ矛盾でしかないだろ。『幸せな最期』なんてもの、決めるのは結局当人じゃねえか。仮に世界を滅ぼしたいとか人を殺したいとか願う死者がいたとして……
 いや、そんな極端な例え持ち出さなくても、『死にたくない』って願ってる死者がいたら、お前どうするんだよ」

 "いたら"ではなく、確実にいるだろうと蓮は考える。いいや、むしろアイの世界に住まう死者たちの大半は"それ"なのだろうと推測できる。
 何故なら、墓守などというご都合主義的な自殺手段がそこにあるのだから。死者の生を終わらせたい人間は真っ先に縋りつくだろう。ならば残るのは当然"そうでない"連中だ。

「それは……」
「どうなんだ?」
「叶えてあげられない、です……」
「そうか」

 言って、蓮は歩き続ける。アイは今や言葉もなく、額を蓮の背中につけて下を向いていた。


955 : 地に堕ちて天を想う星 ◆GO82qGZUNE :2016/07/06(水) 02:54:25 SfvVdSFc0

「……私、気付けませんでした。私いつの間にか、救う人をはっきり区別してしまっていたんですね」

 絞り出すように出す。声、今は沈んだように。
 自分の考えていた救いは、決して万人にとっての救いではないのだと、言葉の上だけでしかないけど、突きつけられた。
 夢という拠り所を、斧で思い切り斬りつけられた気分だった。

「私が考えていたよりずっと、世界は複雑なものだったんですね」

 一つ、学んだ瞬間でもあった。
 世界には色んな人が入り乱れていて、各々で考えていることも願っていることも全然違っていて、だから救い方もそれぞれ違ってくる。
 蓮のように死者の生を否定する視点(せかい)があれば、逆に死者になっても生き永らえたいという視点(せかい)もある。十人十色に千差万別、みんな違ってみんないい。世界とは人の数だけ存在するのだ。
 それはあまりにも当たり前のことで、けれど一つの価値観で墓守の娘を縛っていた村で生まれ育ったアイには、それが分からなかった。
 分からなかったからこそ、今、分かった。

「ねえ、セイバーさん。セイバーさんにとって、世界とはどういうものなのですか?」

 だから、アイは聞いてみた。少しでも多くの世界を知るために、そしてその世界をいつか救えるようにと。

「私に、その世界は、救えますか?」

 最初に"救う"と決めたこの人に。
 アイは、内心では決死の覚悟さえ携えて、尋ねた。

「俺の世界、か」

 そして、一瞬だけ間があいて。



「……俺と、俺の周りの人間だな」
「めちゃくちゃ狭いですね!?」



 割とドン引きだった。


956 : 地に堕ちて天を想う星 ◆GO82qGZUNE :2016/07/06(水) 02:54:52 SfvVdSFc0

「悪いかよ。前にも言ったろ、俺は自分本位のエゴイストなんだよ」
「いえ、別に聞いた覚えはないんですけど」

 間違いなく初耳である。いや、薄々そうなんだろうなーとは思ってたけど。

「まあ、我ながら偏った価値観だとは思ってるよ。だからこんな奴が創る世界なんて、きっと碌でもないに決まってる」
「?」
「こっちの話。それはともかくとしてだ。
 俺の世界は、俺とその周りの人間。これは分かったな?」
「え? はあ、まあ」
「そういうことだよ。だからお前が俺の世界を救いたいって言うなら、まずは自分のことを第一に考えろ」
「え、それってどういう……」

 疑問の答えは、突如として早まった歩みに掻き消された。アイは「あわわわわわわ!?」と慌てるばかりで、その続きを口にすることはなかった。

「無駄口叩いてる暇あったら足を動かせってな。そら、もっと早めるぞ」
「ちょ、またこのパターンですか! いい加減私も怒りますよセイバーさん!」

 怒るという言葉とは裏腹に。
 その声は、どこか喜色に満ちたものだった。









 ――――――――――――――――――――。










 また、爆発音がした。
 今度はさっきとは正反対の方角から。

「……」
「……」

 押し黙る二人。共に表情は無い。

「……行かないぞ」
「ですよねー……」

 そういうことになった。



 ………。

 ……。

 …。




   ▼  ▼  ▼


957 : 地に堕ちて天を想う星 ◆GO82qGZUNE :2016/07/06(水) 02:55:33 SfvVdSFc0





「それは墓守の詩。墓守の寓話」

「誰もが知る黄昏色の言葉。かつて人が失ってしまった詩篇の一つ」

「歪んでしまった世界の有り様」

「けど、お父様。お母様」

「私は、恨んでなんかいませんよ」

「どれだけ世界が歪んでも、滅びと荒廃に満ち溢れていても、私は世界(ここ)が大好きです」

「だから、地獄を遠ざけたあなたのように、天国を作り出したあなたのように」

「いつか、きっと」

「私は、世界を救います」



【C-2/街中/1日目 午後】

【アイ・アスティン@神さまのいない日曜日】
[令呪] 三画
[状態] 疲労(中)、魔力消費(小)、右手にちょっとした内出血、全身に衝撃
[装備] 銀製ショベル
[道具] 現代の服(元の衣服は鞄に収納済み)
[所持金] 寂しい(他主従から奪った分はほとんど使用済み)
[思考・状況]
基本行動方針:脱出の方法を探りつつ、できれば他の人たちも助けたい。
0:世界を救うとはどういうことなのか、もう一度よく考えてみる。
1:すばるたちと合流したい。然る後にゆきの捜索を開始する。
2:生き残り、絶対に夢を叶える。 例え誰を埋めようと。
3:ゆきを"救い"たい。彼女を欺瞞に包まれたかつての自分のようにはしない。
4:ゆき、すばる、アーチャー(東郷美森)とは仲良くしたい。
[備考]
『幸福』の姿を確認していません。




【セイバー(藤井蓮)@Dies Irae】
[状態] 魔力消費(小)、疲労(小)
[装備] 戦雷の聖剣
[道具] なし
[所持金] マスターに同じく
[思考・状況]
基本行動方針:アイを"救う"。世界を救う化け物になど、させない。
1:あいつらと合流か……
2:聖杯を手にする以外で世界を脱する方法があるなら探りたい。
3:悪戯に殺す趣味はないが、襲ってくるなら容赦はしない。
4:少女のサーヴァント(『幸福』)に強い警戒心と嫌悪感。
5:ゆきの使役するアサシンを強く警戒。
6:市街地と海岸で起きた爆発にはなるべく近寄らない。
[備考]
鎌倉市街から稲村ヶ崎(D-1)に移動しようと考えていました。バイクのガソリンはそこまで片道移動したら尽きるくらいしかありません。現在はC-2廃校の校門跡に停めています。
少女のサーヴァント(『幸福』)を確認しました。
すばる、丈倉由紀、直樹美紀をマスターと認識しました。
アーチャー(東郷美森)、バーサーカー(アンガ・ファンダージ)、バーサーカー(式岸軋騎)を確認しました。
アサシン(ハサン・サッバーハ)と一時交戦しました。その正体についてはある程度の予測はついてますが確信には至っていません。
C-3とD-1で起きた破壊音を遠方より確認しました。


958 : 名無しさん :2016/07/06(水) 02:56:16 SfvVdSFc0
投下を終了します


959 : ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:31:54 EStX7r0o0
笹目ヤヤ&ライダー(アストルフォ)、アーチャー(ローズレッド・ストラウス)、キャスター(幸福)
予約します


960 : ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:32:20 EStX7r0o0
投下します


961 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:33:22 EStX7r0o0


 頭に当たる柔らかい感触に、笹目ヤヤは意識を覚醒させた。
 真っ先に目に映る木目調の色褪せた色彩に、ヤヤは数瞬、自分がどこで何をしているのか分からず、呆とした意識のままで視線を彷徨わせた。
 そこは木造の一室だった。あるのは何の変哲もない棚と木製机と、自分が寝かされているベッドだけ。窓から差し込む陽射しが、起きたばかりの目に眩しく突き刺さる。

「……ゴホッ、つぅ……」

 吸い込む空気がやけに埃臭く、次いで思い出したようにぶり返す全身の痛みがヤヤを襲った。節々から来る鈍痛に思わず顔を顰めながらベッドを抜け出すと、ヤヤはやはりこれも木で作られた扉に手をかけ開け放ち、廊下へと出た。
 一見して、ヤヤはここが廃校の類であると分かった。
 一本の長い廊下に綺麗に区分けされた教室がずらりと並ぶ様は、普段見慣れた学び舎に共通する建築様式に他ならない。しかし人の気配も生活の痕跡もなく、古びた木造は朽ち果てている。思わず咽るほどの埃は、無人のまま経過した時間の長さを言外に表しているようだった。

「廃校……? ううん、その前になんでこんなとこいるのよ私」

 訳の分からない状況に思考が覚束ない。こんな廃墟になど、常の自分ならば間違っても足を踏み入れないと知っているから尚更に。
 ともあれ、現状を纏めるとこうだ。
 いつの間にか自分は眠ってしまっていて、気付いたら廃校の一室に寝かされていた。
 自分はこんな場所知らないし知りたくもなかったから、誓って自発的に来たなんてありえない。
 明るさからして、今は多分昼過ぎくらい。記憶に残る最後の景色と比べても、恐らく大して時間は経っていないはず。
 そして自分は一人きり。周りには誰もいない。
 ……訳が分からない。

 ふと思う。考えてみればこのシチュエーション、ベタなホラー物の導入っぽくはないだろうか。
 気付けば一人見知らぬ場所で寝かされていて、舞台は外界から閉ざされたどこぞの廃墟。そして少女は正体不明の何者かに襲われて―――

「いやいやいや」

 我ながらそれはないでしょ、と突飛に浮かんだ妄想を切り捨てる。しかし、そうすると本格的に現状がどうなっているのか分からない。
 歩くだけでぎしぎしと音が鳴る廊下を恐る恐る進む。そうしているうち、寝起きでぼうっとしていた頭が、段々と落ち着きを取り戻してきた。

「……あ」

 まず思い出したのは赤だった。視界の一面を覆う赤色、それが最初の記憶。
 赤はすぐさま炎に切り替わり、身を焼く熱の記憶が想起された。この時点で、ヤヤは知らずぶるりと体を震わせた。忘れていた恐怖が思い出されたからだ。

「そう、よね。私あそこで……」

 自分の身に何が起こったのかを、ヤヤはようやく思い出した。その忘却は許容量を超えた精神を守るための防衛機制であり、しかしそれすら圧する密度の記憶により、ヤヤの脳内には全ての過去が羅列された。
 赤、炎、熱、恐怖、痛み。
 しかし、それよりも何よりも、ヤヤが強く思ったのは。


962 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:33:57 EStX7r0o0

「……ライダー」

 ピンク髪の無駄に明るい、自らのサーヴァントのことだった。

「やだ、私どうして……謝らなきゃ……」

 そして、自分の意識が闇に落ちる寸前に思ってしまったことに対する、どうしようもない罪悪感と自己嫌悪。
 なんであんなことを思ってしまったのだろうと、今さらに湧き上がる嫌悪が胸に渦巻く。
 その感情はかつてなるに向けてしまった罵詈雑言を否応なく思い出させて、だからこそ今すぐ謝りたいのに自分の傍には誰もいない。

 なんで、どうして、どこに行ったの―――めくるめく感情は行き場を失い、思考に再び言いようのない陰りが生じた。
 鈍る頭でふらふらと、ヤヤはライダーの姿を追い求め、やがて「資料室」と立札が貼られた部屋にまで行きついて。


「……ボクは、消えてなくなってもいい」


 聞き間違えようのない、あのライダーの声が。
 半ば混濁したヤヤの頭に、これ以上ない現実感と共に突き刺さった。





   ▼  ▼  ▼





 目が覚めたアストルフォの目に飛び込んできたのは、蒼白の髪をした髪をした美麗痩躯の男の姿だった。
 アーチャーと名乗るその男は、アストルフォの記憶に残る自分たちを助けてくれた男と同じで、だからこそアストルフォは混じり気のない純粋な感謝の念を男に告げたのだった。
 アーチャーにどんな意図があるのか、それは分からない。けれどあの時彼が助けに入らなければ、自分たちは間違いなくあの赤い砲兵の手で殺されていたことだろう。それが分かったから、疑念や警戒などよりもずっと先に友好と感謝の念が湧きあがった。何ともアストルフォらしい善性さである。

「つまり君達は、聖杯戦争からの離脱のみを目的としていると。そういうことか」
「うん、そういうこと」

 そうしてつらつらと語るのは、ここに至るまでにとったアストルフォたちの行動、つまりは情報だった。
 聖杯戦争に臨む理由、そのために取った行動、出会った参加者について。その全てを何ら隠すことなく、あけっぴろげに。アストルフォは求められるがままにアーチャー……ストラウスへと語った。
 それはアストルフォが持つ爛漫さや純真さ、つまりは善性の精神に基づくものや、あるいはアーチャーに対する感謝の念が混じっていたことは確かである。しかしそれ以上に、アストルフォの行動にはある意図が含まれていることを、ストラウスは感じ取っていた。そしてそれを、アストルフォも隠すことはなかった。


963 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:34:30 EStX7r0o0

「ボクから言えることはこれくらいかな。ここに呼ばれて以降、最初の一回を除けば戦いになったのはさっきのが初めてだからね」
「そうだろうな。そも、これほど早期にあのような破壊を引き起こす輩のほうが異常と言える」
「あー、それは言えてるカモ。真昼間の街中であんなことするなんて、ある意味ボク以上に理性が飛んじゃってるよ」

 アストルフォは備え付けの机に肘をかけて、不満そうにぶーたれていた。その机も老朽化で脆くなっているのか、アストルフォが体を揺する度にぎぃぎぃと乾いた軋みをあげている。
 対するストラウスは軽く椅子に腰かけ、手元には山のように積まれた本が重なっていた。曰く、アストルフォが目覚めるまでの間に目を通していたとのことだが、こんな廃校に残された本を読んで何が面白いんだろうとほんのちょっぴり思った。
 現在、アストルフォのマスターであるヤヤは少し離れた保健室に寝かせている。保健室というよりは、最早その跡のようなものだったが、ベッドとシーツだけは何とか使えるものを見つけて整えておいた。
 先刻の戦闘で負った傷は、アストルフォ共々目に見えないレベルまで回復している。自然治癒では断じてなく、それがストラウスによって注がれた魔力による回復効果であるということは、ストラウス自身は言及しなかったものの、言外にそうなのだろうとアストルフォは直感的に悟っていた。

「でさでさ、アーチャー」
「なんだ」
「自分でも厚かましいかなー、とは思ってるんだけどね」

 そこでアストルフォは、大きく笑って。

「ボクたちと同盟を結んでくれないかな」

 そんなことを、臆面もなく言い放った。

「その意味を分かって、言っているのか」
「うん」
「思い上がり、というわけでもないらしいな」
「まあね。流石にボクでも、君と対等なんて思っちゃいないよ」

 にこにこ、にこにこ。アストルフォは笑顔のままだ。それは微塵も変わらない。
 同盟と彼は言った。それは言うまでもなく、互いが対等な関係でなければ成されないことであり、武力なり知力なり資源なり情報なり、ある程度相手に拮抗できるアドバンテージの保持が前提条件となる。
 では、アストルフォがストラウスに対して持ち得るアドバンテージとは何であろうか。
 結論から言って、何もない。武力も知力も、彼はストラウスには遠く及ばない。余力の多寡ですら大幅に負けている。資源、魔力プール、礼装、情報……それらもたかが知れてるレベルであり、ストラウス相手に交渉できるほどのカードでは断じてあり得ない。
 同盟などと思い上がりにも程がある。現状、アストルフォたちが殺されず放置されていること自体が、一から十までストラウスの善意で為されているようなものだ。対等に手を組もうなど、口が裂けても言えるわけがない。

 それはアストルフォとて理解できている。
 ならば、それを分かった上で言っているのだとすれば、それは―――


964 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:35:02 EStX7r0o0

「だから、これは厳密に言うなら同盟じゃなくお願いなんだ。
 ボクは君に全てを捧げる。その代わり、ボクのマスターのことを守ってほしい」

 持ち得るものがないならば。
 与えられるものなど、それしかないだろう。

「ボクのマスターはさ、魔術師でも何でもないただの女の子なんだ。だから魔術の奥秘を極めるとか、叶えたい願いとか、そういうのも無くってさ。聖杯戦争に臨む理由もないんだ。
 でも、その代わりに帰りたい日常が、あの子にはあるんだ」
「ボクはそれを助けたいと思った。ボクたちは願いを叶えるために召喚されたけど、巻き込まれた女の子一人救えないなんて情けないにも程があるじゃないか」
「ボクは確かにライダーだけど、それ以前にシャルルマーニュが十二勇士、アストルフォだ。英雄たる振る舞いを忘れたことなんて一度もない」

 アストルフォの声が、別人のように変わっていた。
 文字通り別人の声に変質したわけではない。それは相変わらずアストルフォの声だ。しかし、そこに含まれる語調が、意思が違っていた。
 今までのアストルフォの声音は天真爛漫な子供のそれであった。好奇心に満ち溢れた少女のような、新しいものに一喜一憂する少年のような。世の輝きを一身に謳歌する純粋なそれ。
 今は違っていた。彼の声音に含まれるのは勇気と、誇りと、何よりも笹目ヤヤを思う献身の心であった。自分を呼び出した彼女を守り通すためならば、幾千の戦場すら恐れない英雄の覚悟であった。
 彼は英雄の何たるかを知っている。世界の無常、真理、そしてそれに立ち向かう勇気。その誇りこそを強さとする者こそが英雄であり、それに足るだけの自負と自尊を持っている。
 同時に、彼は己の分というものを弁えている。己は断じて強者ではなく、単独で聖杯戦争を勝ち抜けるような器ではないことを知っている。
 だから、彼は投げ渡したのだ。本来ならば決して捨て去ることもできないはずの誇りを、自負を、自らを。しかしそれこそがマスターを救う最善手であると理解できたから。
 笑顔で、何の逡巡もなく。
 最も重く、捨てがたいはずの己自身さえも、ただマスターのために。

「ボクは弱い。その意味じゃ英雄失格だ。ボクを頼ってくれる女の子一人、満足に守ってあげることすらできやしない。
 それでも、マスターには生きていてほしい。そのためなら」

 そこで一旦、言葉を切って。

「……ボクは、消えてなくなってもいい」


965 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:35:39 EStX7r0o0




























「駄目、ライダー!」




 瞬間、勢いよく資料室の扉が開かれ、一人の少女が大声で飛び込んできた。
 小柄な体躯は縋りつくように、アストルフォへと飛びついた。当のアストルフォは完全な不意打ちだったようで、「え、え?」と困惑するばかり。ストラウスはおもむろに重ねられた本を一冊手に取り、開いた。

「えっと……マスター、もしかして聞いてた?」
「聞くも聞かないもないわよ! 何馬鹿なこと言ってんのよ、この馬鹿!」

 叫ぶヤヤの声は、震えていた。隠しようもない震えが、声も体も支配していた。
 威勢の良い言葉とは裏腹に。その語調はどうしようもなく、涙に溢れていた。

 笹目ヤヤは臆病な人間である。
 周りはよく、しっかりしているとか、面倒見がいいであるとか、孤高であると評するけれど。その本質は極めて脆く、危うい。
 しっかりしているのはプライドが高いから。面倒見がいいのは人との繋がりが欲しいことの裏返しだから。けれどそのプライドが邪魔をして、一人で孤高ぶって一人で落ち込む寂しがり屋。それがヤヤだ。
 なまじ一人でなんでもできてしまうから、余計にその孤高のフリは完成度を増してしまって。本当は誰かと一緒にいたいのに、素直になれず人を遠ざけては傷つくばかり。
 この鎌倉に来る前も、そうだった。
 手を差し伸べてくれた一番の親友を、手ひどく裏切ってしまった。
 それは無意識にヤヤの心に根深く傷をつけ、じくじくと癒えない痛みを発し続けていた。
 だからこれ以上、親しい誰かを失うことはしたくなかった。
 なけなしの体裁を投げ捨ててでも。

「アンタ馬鹿よ、ほんっとうに馬鹿!
 いつも勝手に突っ走って、いつも私の言うことなんか聞かなくて!
 いつも、私なんかのために……!」

 知っていた。アストルフォが自分を庇っていたことくらい。
 サーヴァントはマスターに付き従うものなんて、そんな建前など関係ない部分で。アストルフォはヤヤのことを思いやっていた。
 さっきもそうだ。あの赤いアーチャーと戦った時だって。
 単独行動と高速移動手段を持つアストルフォなら、自分だけ逃げることもできたはずだ。勝算のない戦いに挑むことなんてせず、新しいマスターを見つけて再起を図ることもできたはずだ。
 けれどそうはしなかった。アストルフォはただ、ヤヤを守るために。それだけのために戦って、傷ついて、ボロボロになって。
 だからこそ、そんなライダーに内心で悪態を吐くことしかできなかった自分に、激しい嫌悪を感じたのだ。


966 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:36:14 EStX7r0o0

「アンタは私のサーヴァントでしょ……勝手にいなくなるなんて、そんなこと言わないでよ……」

 結局のところ。
 馬鹿だ馬鹿だと言いつつも、本当に言いたかったのはたったこれだけ。
 それだけを言うと、ヤヤはアストルフォの胸に顔を埋め、動かなくなった。

「……えっとね、マスター」

 静かな声が答える。

「ごめんね。なんだかんだと言って、結局ボクは、君の気持ちとかを全然考えてなかったのかもしれない」

 背に回したヤヤの腕が、更に力込めてぎゅっと締まった。

「でも、これだけは約束だ」

 そこで、それまで立ち尽くしていただけのアストルフォは、自分もまたヤヤの背に手を回して。

「勝手にいなくなりはしないよ。君はきっと、君の世界の君の居場所まで、ボクが送り届けてみせるから」
「……馬鹿」

 そうして、二人は暫しの間黙りこくって。
 不思議と居心地の悪くない沈黙が、部屋の中に満ち溢れたのだった。





   ▼  ▼  ▼





「早とちりして、すみませんでした……」
「気にする必要はない。紛らわしいことを言った私にも責はある」

 先の一悶着から暫し。落ち着きを取り戻したヤヤが、恥ずかしげに頭を下げていた。
 ストラウスが事の次第を告げたのは、ちょうどヤヤたちが勝手に盛り上がってる最中のことだった。彼は自分に敵意がないこと、アストルフォを隷属する気もないことを伝えると、途端にヤヤは自分がしでかしたことを悟り、一気に消沈してしまった。
 ちなみにストラウスのことは、アストルフォが「自分たちを助けてくれた人」とヤヤに紹介して今に至る。
 困ったように笑うアストルフォと、赤面して顔を伏せるヤヤ。二人は揃って、ちょこんと椅子に座っていた。


967 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:36:44 EStX7r0o0

「あ、あぅ、私なんてことを……」
「もう立ち直ろうよマスター、アーチャーだって気にすることないって言ってるんだしさー」
「それとこれとは話が別よ……ああもう、こっぱずかしい思春期の青春じゃあるまいし……」
「それっていいことじゃないの? だってマスター、青春を輝かせたいとか言ってたじゃん」
「だからそれとこれとは別なの!」

 ぎゃーぎゃーと仲睦まじい二人をよそに、ストラウスは我関せずといった面持ちで山のように積まれた資料を消化していた。この時点で既に20冊、尋常ではないスピードである。

「えっと、ところで、その。アーチャーさん」
「うん?」
「ありがとう、ございました。助けていただいて」

 やや遠慮がちに、ヤヤの感謝の言葉。
 それを聞いたストラウスは、静かに微笑んだ。

「それこそ気にする必要はない。私が君達を助けたのは、あくまで打算ありきのものなのだから」
「うぅ……」
「アーチャー、あんまりボクのマスターを苛めちゃ駄目だよ」
「すまないな。けれど、そういった意図が全くないかと問われれば、それは嘘になる。私は自分勝手だからね」

 そう言うとストラウスは手にした本を閉じ、真っ直ぐに二人のほうを見つめた。

「笹目ヤヤ。私が君に求めるのは、君が持ち得る情報だ。君がここに至るまでに経験したものを、私に聞かせてほしい」
「私が?」

 ヤヤは少しだけ訝しげに、けれど情報は大切だよねと一人合点して、訥々と話し始めた。

 自分は元々、鎌倉の街に住んでいたこと。
 けれどある日突然、自分の知る鎌倉が全く別の街になってしまったこと。
 知っているのに知らない街。鎌倉駅も若宮大路も鶴岡八幡宮も同じなのに、細々とした景色は自分の知らないパーツで構成された歪なものになっていたこと。
 そこで槍を持ったサーヴァントに襲われ、偶発的に召喚されたアストルフォによって助け出されたこと。
 そこからは本戦開始までずっと安穏と過ごして、今日この日に同じ志の少女と出会い、しかし直後に赤い砲兵が現れたこと。

 それらをたどたどしくではあるが、ヤヤはしっかり言い切った。ストラウスは黙ってそれを聞いていた。


968 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:37:28 EStX7r0o0

「……この街に来る前、何か変わったことは?」
「別に、何も。強いて言えば変な噂が増えてたくらいで」
「例えば?」
「妖精とか天使とか鎧武者とか、そういうのがたくさん出てるぞって奴。でもそんなの、こっちでも似たような噂がいっぱいあるし、別にどうでもいいじゃん」
「そうか」

 時折ストラウスは、聞くだけでなく質問を交えてくることもあった。このように。

「君が転移魔術を使える魔術師を探そうと決めたきっかけについてだが」
「? それがどうかしたの」
「そのマスターは、確かに魔術を使って転移したと?」
「確かにって言えるかは分からないけど……でも、なんか呪文みたいなのを唱えて姿を消したのは事実よ。サーヴァントもいなくなって、元の世界に逃げ帰ったんだと思ってたけど」
「その前後に何かおかしなことは?」
「おかしなって言われても、私からしたら魔術とか転移とかサーヴァントとかの時点で十分おかしいわよ。あ、でも」
「でも?」
「女魔術師がいなくなってすぐに、ここに住んでる人かな、一般人がひょっこり出てきたのよ。見られちゃったかなとか思ったけど、なんかその人何も見てないっぽかったから放っておいたんだけど」

 そんなどうでも良さそうなことを聞いて来たり。

「君の願いは帰還ということだが」
「まあ、そうね」
「他に望んでいることは?」
「……」
「他に望むことは、何もないと」
「……ぃ」
「聞こえない」
「……友達と、仲直り、したいです」
「なるほど、先ほどの取り乱しようはそれが発端か」
「ああああああああこんなの聞く必要ないでしょ!」

 良く分からない威圧感で言わなくてもいいことを言ってしまったり。

 そんなこんなで、ヤヤに課せられた対価という名の質問攻めは終わったのだった。

「あー、喋り疲れた……」
「お疲れ様、マスター。はいこれ、水」
「うー、ありがと、ライダー」

 ぐったりと机に寝そべって、ヤヤは思い切り脱力した様子でアストルフォからペットボトルを受け取ると、その中身をごくりと嚥下した。
 ドラム担当とはいえ普段からバンド活動をしているヤヤは同年代と比べると喋り慣れてると自負してはいたが、音楽活動とこうした問答では使う体力が全くの別物らしい。慣れないことしたせいか顎が痛いし喉が渇く。それに変に気疲れもしてしまった。なんだか全身がだるい。


969 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:38:07 EStX7r0o0

「それでさアーチャー。ボクのマスターをこんなぐでんぐでんにして、なんか役立つ情報でもあった?」
「……さて、どうだろうね。今は何とも言えないな」
「ちぇー、ケチくさー」
「情報収集など得てしてそんなものだよ」

 自分の頭上で何かを話すサーヴァントたちをしり目に、ヤヤはぐったりと顔を机につけて脱力していた。
 横倒しになった視線が、ふとあるものを捉える。それはアーチャーが読んでいたこの部屋の本で、何故か廃校にそのまま放置されていた資料の一つだった。
 学校の資料室というと卒業アルバムとか文集が置いてある場所、というイメージがヤヤにとっては強い。そういう思い出的なものは廃校舎からは持ち出しているんじゃ、とは思うが、現にこうして埃を被った状態で放置されているのだから何も言えなくなる。
 でも、そんなの読んで面白いんだろうか。
 ちょっとした疑問がわき上がって、ヤヤはその古ぼけた紙束を凝視してみた。経年により茶色く変色した紙はこの校舎と同じく朽ちた印象をヤヤに与え、滲んだ文字は読み取りづらいものがあったけれど。

(えっと、戦……なんとか學園、創立?)

 よく読み取れなかった。
 古いものだから単純に印刷が怪しいというのもあったが、それ以上に昔の文章というのは今のものとは大分趣が違ったものなのだ。旧字のオンパレードに小難しい表現技法、読み解くにはある種のコツが必要になってくる。
 だから辛うじて分かったのは、その資料のタイトルくらい。どうやら、この廃校の創立当初に作られた記録資料らしい。
 アルバムの類ではないようだったが、しかしアーチャーがそんなものを読む意味は、やはり分からなかった。

「ところで」
「ひゃい!?」

 突如、集中していたヤヤに向けて言葉が投げかけられ、思わぬところで不意打ちを食らった形となったヤヤがすっとんきょうな声をあげた。
 知らず赤くなる顔で見遣れば、そこには何とも言い難い表情のアーチャーと、笑いを堪えたライダーの姿。
 言葉にならない感情が溢れそうだった。

「……ともかく、最後に一つ聞いておきたいことがある」

 こほんと咳払いを一つ、場を取り直してアーチャーが文字通りたった一つの、簡単な、しかし意図が全く見えない質問をヤヤに問いかけた。

「笹目ヤヤ。君は―――」





   ▼  ▼  ▼


970 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:38:53 EStX7r0o0





「良かったね、マスター。アーチャーが話の分かる奴でさ」
「うん、そうね……」

 少し考え事があるとアーチャーが退室した資料室の中。
 ヤヤとアストルフォは変わらずだれた様子で休息を取っていた。
 眠りから覚め、アーチャーによる回復魔力を注がれたとはいえ、蓄積した疲労や精神疲労はそう簡単に癒えるものではなかった。アーチャーはそれを指摘して、もう暫く休んでいるようにと言ったのだった。

 そしてアストルフォが、彼を話の分かる奴と呼称したのには、更に別の要因がある。なんと彼は、先ほどアストルフォが提案した同盟の件を受諾すると言ったのだ。
 これにはヤヤも、アストルフォでさえも驚愕したものだった。すわ何某かの膨大な対価を求められるのではないかとヤヤは戦慄したものだが、しかしそんな心配をよそに、告げられた同盟の対価は随分と軽いものだった。

『私のマスターの護衛をしてほしい』

 それが、アーチャーの告げた同盟の対価であった。
 要するに、お留守番してろということだ。

「危うく死にそうになったけど、何とか助かって。凄く頼れる味方もできて。
 ほんと良かった、としか言えないけど」

 物憂げな様子で、ヤヤは呟いた。

「なんか、話が旨過ぎる気もするのよね」

 アーチャーは言った。自分たちの掲げる目的と、ヤヤたちの掲げる方針は衝突しないと。だから最終盤まで協力できるとも。
 少しでも戦力が欲しいヤヤたちにとっては渡りに船な内容だった。しかも、ヤヤから見たアーチャーのステータスは高水準などという言葉すら生温い強大なもので、幸運以外すべてのステータスが最高値近い数値を叩きだしているのだ。これを喜ばずして何を喜ぶのか、ヤヤとてそう思うけれど。

「なんというか、話が上手く出来過ぎてるのよ。みんながみんな願いのために殺し合ってる聖杯戦争で、運よく助かったと思ったら運よく親切なサーヴァントに拾ってもらって、その人は運よく私達に好意的で、しかも運よく頼れる強さを持ってて……」

 考える。果たしてそんなことがあり得るのか、と。

 こちらに何かしらの交渉カードがあったなら、そういうのもアリかと思うけれど。しかし自分たちには何もなかった。にも関わらず、ほぼ無償にも等しい内容で同盟を組んでくれる強者が存在した。
 ならば考えられるのは詐術に引っ掛かったというものだが、繰り返すが自分たちにそんなことをしてまで籠絡するほどの価値があるかと言えば、ほぼゼロである。それに何より、あのアーチャーが嘘を吐いているとは、人生経験の短いヤヤであっても、なんとなく違うんじゃないかと思えてならない。

 だからこそ、何かが引っ掛かる。
 それは例えば、知らぬ間に敷かれたレールの上を走らされているかのような。
 それは例えば、誰かが書いた筋書き通りに事が進行しているかのような。

「はいはい止め止め、そんな"かも"ばっかり考えてると日が暮れちゃうよ。
 それに、まず考えるべきなのは生きること! そうでしょ、マスター」
「……ライダー」

 気遣ってくれるライダーの姿は、ヤヤの心中に否応なく罪悪感をもたらした。
 赤い砲兵に襲われた時のこと。意識を失う寸前に、思わず考えてしまった下劣極まりない思考のこと。
 だから、ヤヤは無意識に口を開いて。

「……ごめんね、ライダー」
「え、何のこと?」
「ううん、なんでも……なんでもないの」

 そうして、ヤヤは顔を背けた。
 胸の中の陰鬱な気持ちが晴れたのか、それは自分でも分からなかった。


971 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:39:25 EStX7r0o0


















「そういえば、ね」
「んー?」
「アンタはアーチャーの質問、あれどういう意味だったか分かる?」
「アーチャーの質問って、最後のアレ?」
「そうそれ。あんまりにもあんまりすぎて、最初馬鹿にされてるのかと思っちゃったわ」
「とは言っても、ボクはそれ以前の時代の人間だからね。一応聖杯で知識は得てるけど、それが突飛な内容なのかどうかはちょっとわかんないっていうか」
「……まあ、アンタに知的な回答を期待なんてしてないけど」
「ちょ、ひっどいなぁ」
「自分の行いを顧みなさい」

「……それにしても、本当に変な質問よね」

「『第二次世界大戦を知っているか』、なんて。知ってるに決まってるじゃない。私小学生と勘違いされてたんじゃないでしょうね」



【C-2/廃校・資料室/一日目・午後】

【ライダー(アストルフォ)@Fate/Apocrypha】
[状態]魔力消費(中)
[装備]宝具一式
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを護る。
1:基本的にはマスターの言うことを聞く。本戦も始まったことだし、尚更。
[備考]
アーチャー(エレオノーレ)と交戦しました。真名は知りません
ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)を確認しました。真名を把握しました。
アーチャー(ローズレッド・ストラウス)と同盟を結びました。


【笹目ヤヤ@ハナヤマタ】
[令呪]三画
[状態]魔力消費(中)
[装備]
[道具]
[所持金]大分あるが、考えなしに散在できるほどではない。
[思考・状況]
基本行動方針:生きて元の場所に帰る。
0:アーチャーが戻ってきたら彼のマスターのところに行く。
1:聖杯獲得以外に帰る手段を模索してみたい。例えば魔術師ならなんかいいアイディアがあるかも
2:できる限り人は殺したくないからサーヴァント狙いで……でもそれって人殺しとどう違うんだろう。
3:戦艦が妙に怖いから近寄りたくない。
4:アーチャー(エレオノーレ)に恐怖。
5:あの娘は……
[備考]
鎌倉市街に来訪したアマチュアバンドのドラム担当という身分をそっくり奪い取っています。
D-3のホテルに宿泊しています。
ライダーの性別を誤認しています。
アーチャー(エレオノーレ)と交戦しました。真名は知りません
ランサー(No.101 S・H・Ark Knight)を確認しました。真名は知りません
如月をマスターだと認識しました。
アーチャー(ローズレッド・ストラウス)と同盟を結びました。


972 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:39:51 EStX7r0o0





   ▼  ▼  ▼





 それが我が罪だと言うならば。

 月がある限り。

 夜がある限り。

 いつか私が殺されるまでのこと。





   ▼  ▼  ▼


973 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:40:22 EStX7r0o0





(これで、最低限の安全は確保できるか)

 廃校舎の外、荒れ果てた校庭にてストラウスは一人思考の海に埋没していた。
 荒れ果てた、というのは経年による劣化や植物の繁茂によるものではない。無論それらもあるが、しかし見渡せる校庭は一目で分かるほどに人為的な破壊を為されているのだった。
 刻み込まれた無数のクレーター、炎で炙られたかのような焼け焦げた痕、薙ぎ倒され無残な断面を晒した木々の数々。
 そして何より、佇むストラウスの眼前に横たわる、頭部を完全に破壊され大量の血液をまき散らした少女の死体。
 ここで大規模な戦闘が行われたことは、明らかだった。

 ストラウスは己の知覚能力により、既にこの時点で大規模な破壊活動が複数行われていることを知っていた。
 まず第一に、先ほど自分と笹目ヤヤたちが巻き込まれた鎌倉市街東口方面での砲兵による広域破壊。
 西側北部、笛田の街で発生した市街地崩壊。
 西側南部、七里ヶ浜及び稲村ケ崎での破壊。
 そしてこの廃校舎での戦闘も入れれば、既に4か所。
 本戦開始より半日程度しか経っていないにも関わらず、白昼堂々これだけの人の目を気にしない戦闘行為が発生しているのだ。

 あまりにも急すぎる。マスターを単独で放っておくには危険すぎた。だからこその、同盟だった。
 シャルルマーニュ十二勇士が一人、アストルフォ。その宝具たるこの世ならざる幻想は逃走・逃避の手段としては最上と言っていいものだ。
 逃げる足を持たない我がマスターを守護するにはうってつけと言えるだろう。

(騙すような形になったのは、忍びないが……)

 千年に渡り我が身に圧し掛かった責務より解放され。ならば今なら、かつてできなかったこともできるのではないかと安易に考えはしたものの。
 しかしこの身は未だ未熟なれば、そう簡単に上手くはいかないらしい。
 純粋に誰かを助けようと思っても、どうしてもそこに打算や計算を入れてしまう。この千年で染みついてしまった悪癖だ。

(存外に難しいものだな、心の赴くままに他者を助けるということは)

 いや、そもそも自分は真の意味で誰かを救えたことなどあるのだろうか。
 そんな自分が今更に善を気取ろうなどと、傲慢でしかないのではないか。

 何にせよ難儀な話だ、と。
 そのまま踵を返そうとして。


974 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:40:59 EStX7r0o0



「―――ストラウス」



 背後から呼びかけられた、その声に。
 ストラウスの全身が、一瞬にして固まった。

 例えるならば、鋭い稲妻に総身を貫かれたかのような。
 大脳と臓腑を纏めて焼かれ、全身が砕け散るかのような感覚を、ストラウスは憶えた。

 如何なる恐慌の声にも動じることはなく。
 如何なる怨嗟の嘆きにも揺るぐことなく。
 恐怖も、狂気も、恩讐も。何もかもを己が足元へと踏み砕き千年の夜を超えた月下魔人を、それでも硬直させる声とは一体何であるのか。

 それは―――

「……」

 ストラウスは張りつめた気配のみを湛えて、静かに後ろを振り向いた。
 そこには、あまりに懐かしく、終生見ることの叶わなかった姿があった。

 ああ、それは。
 千年の昔、忘却の彼方へと追いやられた、何よりも愛しい者の姿に他ならず。

「……ステラ」

 薄桃色の長髪を流す女を前に。
 万感の思いを込めて、ストラウスは呟きを漏らすのだった。

「ストラウス……会いたかった……」

 ステラと呼ばれたその女は、そう言って微笑んだ。流麗な眉に縁どられた目元と、慈愛を湛える口元。その優しさは最後に見た姿そのままで、だからこそストラウスの心を締め付けた。

 夜の国の将軍を務めていた頃のストラウスの元に、その娘はたまたま訪れた。戦争に巻き込まれた近隣の村々の復興に努め、できるだけ犠牲を抑えようと苦心していたストラウスが出会ったのは、どこにでもいる、しかし誰よりも彼の有り様を見抜いた一介の村娘であった。
 その日から、彼と彼女の日々は始まりを告げた。移りゆく季節、移りゆく年月。雨の日も風の日も、月が照らす月光花の野原でも。違う時間を生きるはずの二人は寄り添い生きた。
 誰よりも強大な力を有し、誰よりも先の未来を見据え。故に人々から神の如く崇められ、人々の幸福をこそ願ったストラウスの、彼個人の幸せをこそ願った、ただ一人の女。
 万を超える年月を生きるヴァンパイアと、当時60も生きられない短命の種族であった人間。彼らは、共に生きることなどできるはずもなかった。しかし。


975 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:41:27 EStX7r0o0

「覚えていますか、ストラウス。月の明るいあの夜のこと。あなたは私に、星の首飾りをくださいましたね。
 あなたの手作りだって、一つくらい贈らせてくれって。そういうのはいらないって言う私に、それでもあなたはプレゼントしてくれた。
 あの時は言えなかったけど、私はとても……とても幸せだったんですよ」

 知らず頷いたストラウスは、何かがこみ上げる感覚を自覚した。
 全てが、思い出されていく。
 一瞬にして、記憶も想いも、今は遠きあの頃へと戻っていく。
 春の夜道を、手を繋いで歩いた。夏の水辺で語らった。秋の森では菜を拾い、雪の夜は寄り添い眠った。
 ステラとストラウスの間には、一言では言い表せない愛情と献身が存在した。

「……お前は無欲な女だった。自分にはもったいないと言って宝飾を拒むお前に、どうにか飾り物を贈れないものかと、あの時の私は苦心していたものだった」

 頷くステラの目には、いつの間にか大粒の涙が溢れていて。
 ぽろぽろ、ぽろぽろ。雫、溢れて止まらない。

「あなたはとても大きな人。国とそこに生きるみんなを思いやって、みんなの幸せだけを願って。
 でも、誰にも心配されないあなたが、ほんの少しだけ苦しそうに見えたから」

 ステラはゆっくりとストラウスに近づくと、その頬をそっと撫でた。その優しさと掌の温もりは、記憶の中のものと全く変わりがなかった。
 心の震えが、体に伝わる。膝が笑うほど震えている。握りしめた拳に、爪が喰い込んで血が滲んだ。

「私はあなたの幸せを願うだけの人になりたかった。願うことしか、私にはできなかったけど。
 それでも、それだったらどこにいてもできるから。私が死んでも、魂はいつもあなたの幸せを願っていた」

 握られたストラウスの拳に、ステラの手がそっと重ねられた。

「……私はお前を死なせてしまった。できることがあったのではと、何か別の道があったのではと。そう幾度も考えて。
 けれど過ぎ去ってしまった過去だけは、どうしても変えることができなかった」

 何度も、何度も。何百回、何千回と、そう自分に問うた。
 引き裂かれてしまったステラの体。その因果が自らに起因するものだと、自らの因果がステラに向かうなどと、その時は思いもしなかった。何よりも大切だったステラを死に追いやったのは自分なのだと、愕然とした。
 悲しくて、愛おしくて、思い出ばかりが美しくて。がらんとした部屋の中で呆然と立ち尽くした。そこには、ストラウスが贈った何気ない物が、宝物のように仕舞われていた。

 あまりにも近くにいたから。あまりにも当たり前の存在だったから。その大切さを忘れてしまっていた。失ってしまうまで。


976 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:41:56 EStX7r0o0

「もう、苦しまなくていいの、ストラウス。私達はこうしてまた会えた。後悔も、悲しみも、苦しみも、すぐなくなるの」

 ステラは、重ねたストラウスの手を自らの胸元へと置いた。その両手に、暖かさがいっそう伝わってくる。
 自分を思いやってくれたステラの手。思い出が駆け廻り、その中で未熟だった自分が成長を遂げる。

「ああ。やっと、全ての未練を拭うことができた。ありがとう」

 そう言うと、ストラウスはゆっくりとステラの体を押しやった。まだ固まったままの顔で、ストラウスは不器用に微笑んだ。

「お前の胸の中にこの身を委ねられたなら、どんなに幸せだろうか。だが、それはできない。何故ならお前はここにいないからだ」
「あなたが想ってくれるなら、私はいつでもここにいるわ。ストラウス、私はあなたの傍に」

 静かに首を振る。そこにはもう、何の逡巡もなかった。

「我が妻ステラ・ヘイゼルバーグとその娘の魂は、今や黒き白鳥より解き放たれ、輪廻の輪へと還った。いずれ再び生を授かり、普通の人間として暮らす時が来るだろう。
 名も知れぬ誰かとして生まれ落ちた二人が幸せな生涯を送ること、それが私の幸せだ。その瞬間が訪れることこそが、真なる幸福の景色だ」

 そうして、ストラウスは僅かに微笑む口元を開いて。

「だから、私はお前に問おう。『お前は、誰だ?』」

 ―――その瞬間。
 ―――無言で佇んでいたステラの体が、煌めく霧となって舞い散った。

 そこには誰もいなかった。一瞬前までステラがいた場所には、誰も立つことなく無人の空間が広がっていた。

 そして、ステラがいたその向こうに、見たこともない愛らしい少女が、不思議そうな顔で立っていた。

『どうして拒むの?』

 それは、何の敵意も悪意も含まれない幸福に満ちた声で。

『幸せになりたいのでしょう? あなたは幸せになってもいいのよ』
「ああ」

 ストラウスは、静かに頷いて。


977 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:42:32 EStX7r0o0

「そうであったなら、よかったのにな」

 右手に持った黒剣を振り下ろした。
 一瞬にして、少女の姿が縦一文字に断割された。他には何の破壊も生み出さず、少女の体だけが均等に両断された。
 音も無く、衝撃もなく、距離さえも無視して。どこまでも静謐に。

『どうして?』

 呟かれる疑問の声だけが、少女の存在を今に遺した。
 消え去ったステラのように、少女もまた靄のように霧散して消え去った。あとには無人の空間が在るだけだった。

「……」

 ストラウスは、溜息とも深呼吸ともつかない息を大きく吐いた。
 辺りを見回してみれば、いつの間にか校門の近くまで移動していたらしい。立派な木造の、朽ちかけた門構えが、ストラウスを見下ろしていた。

「魔性なりしは幸福の精……そういう、ことか」

 去って行った少女のサーヴァントを思い返して、小さく呟く。
 その正体には思い当たる節があった。生前を含めて知識には存在しない。しかし想定の範疇として、"それ"は確かな現実としてストラウスは認識していた。

 今までかき集めた情報は、一つ一つを見れば取るに足らない、何の役に立つかも分からないようなものばかりであった。
 しかしそれらパーツを継ぎ足してみればどうなるか。足りぬ箇所を繋ぎ合わせ、巨大な一枚絵として白日のもとに晒せば、そこには何が見えるのか。
 聖杯戦争参加者からも乖離したあり得ざる歴史の一幕。
 史実には存在しないはずの大英雄。
 散逸される抹消された何者かの痕跡。
 熱病に浮かれる市民と、そこに交わされる噂や都市伝説の数々。
 世界を越えたはずの女魔術師の末路。
 そして何より、今眼前に現れた幸福の体現者。
 彼の中で、何かが繋がった音がした。

「ならば、全ての鍵を握るのは」

 言って、彼は彼方を見遣る。
 その視線の先にあるのは、遥か南方。
 海洋にて威容を誇る、黒鉄の大戦艦。

 あれの名前は既に知っていた。戦艦伊吹、日本海軍の巡洋戦艦、鞍馬型巡洋戦艦の二番艦。悉くを捻じ曲げられた有り様ではあったけれど、その威容は彼の知識にある戦艦伊吹の名残を強く残すものであったために。
 伊吹を宝具として現界するとすれば、そのサーヴァントは誰であるのか。終ぞ戦争に出ることはなく、改装を経て終戦に至った不遇の艦。召喚されるならば、歴代の艦長か。
 いいや、いいや違う。17人の艦長以外に、もう一人だけその主に相応しい英霊が存在すると、ストラウスは知っていた。
 本来、それは伊吹を駆る者に非ず。しかして此度の座より与えられた記録により、その存在をストラウスに指し示す者。
 かの英雄と同じく、史実とは乖離した有り様を晒す男。

 その男の名は―――

「……」

 沈黙したまま、今度こそ踵を返すストラウスは、何を振り返ることもなくその場から立ち去った。
 彼を見下ろす廃校の校門には、朽ちかけた立札に墨の滲んだ校名が掲げられていた。

 経年で歪み、掠れ、読み取ることも難しい有り様だったけれど。
 そこに書かれていたのは、「戦真館」という三文字だった。





   ▼  ▼  ▼


978 : 幸福の対価、死の対価 ◆GO82qGZUNE :2016/10/04(火) 18:43:14 EStX7r0o0




 それが我が罪だと言うならば。

 月がある限り。

 夜がある限り。

 いつか私が殺されるまでのこと。


 それでも、ステラ。

 百億の憎悪に貫かれ、胡蝶の夢と成り果てたこの身なれど。

 それでもお前の魂は、今も私の幸せを願っているのか。



【C-2/廃校舎・校門/一日目・午後】

【アーチャー(ローズレッド・ストラウス)@ヴァンパイア十字界】
[状態] 陽光下での活動により力が2割減衰、魔力消費(小)
[装備] 魔力で造られた黒剣
[道具] なし
[所持金] 纏まった金額を所持
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守護し、導く。
0:?????
1:笹目ヤヤと共に、一度マスターの元へ戻る。
2:赤の砲撃手(エレオノーレ)、少女のサーヴァント(『幸福』)には最大限の警戒。
3:全てに片がついた後、戦艦の主の元へ赴き……?
[備考]
鎌倉市中央図書館の書庫にあった資料(主に歴史関連)を大凡把握しました。
鎌倉市街の電子通信網を支配する何者かの存在に気付きました。
アーチャー(エレオノーレ)と交戦しました。
如月とランサー(No.101 S・H・Ark Knight)の情報を得ました。
笹目ヤヤ&ライダー(アストルフォ)と同盟を結びました。真名を把握しました。
廃校の校庭にある死体(直樹美紀)を確認しました。
B-1,D-1で行われた破壊行為を認識しました。
『幸福』を確認しました。
廃校の資料室に安置されていた資料を紐解きました。


【キャスター(『幸福』)@地獄堂霊界通信】
[状態]健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:幸福を、全ての人が救われる幸せな夢を。
1:みんな、みんな、幸せでありますように。
[備考]
幸福』は生命体の多い場所を好む習性があります。基本的に森や山の中をぶらぶらしてますが、そのうち気が変わって街に降りるかもしれません。この後どうするかは後続の書き手に任せます。
軽度の接触だと表層的な願望が色濃く反映され、深く接触するほど深層意識が色濃く反映される傾向にありますが、そこらへんのさじ加減は適当でいいと思います。
スキル:夢の存在により割と神出鬼没です。時には突拍子もない場所に出現するかもしれません。


979 : 名無しさん :2016/10/04(火) 18:43:32 EStX7r0o0
投下を終了します


980 : ◆GO82qGZUNE :2016/10/21(金) 18:42:37 SWlyY7lM0
アンジェリカ&セイバー(針目縫)、バーサーカー(シュライバー)、みなと&ライダー(マキナ)を予約します
同一面子が>>791にて予約されていますが、連絡なしに半年以上予約期限を超過していますので予約が可能であると判断しました。企画主様が駄目であると判断しました場合には今回の予約を撤回させていただきます。


981 : ◆GO82qGZUNE :2016/10/21(金) 20:07:48 SWlyY7lM0
投下します


982 : 獣たちの哭く頃に ◆GO82qGZUNE :2016/10/21(金) 20:08:48 SWlyY7lM0

「令呪を以て命じる! セイバー、全力でバーサーカーを迎撃しろ!」

 何をも映し出さない深淵が如き澱みを湛える視線に晒された瞬間、アンジェリカは躊躇することなく己が持ち得る切り札を開帳した。
 アンジェリカの宣誓に呼応するように、彼女の右手に刻まれた紋様から赤い光芒が浮かび上がる。同時、三つの赤線が絡み合った紋様の内一画が消失し、次いで膨大な魔力の奔流がアンジェリカの周囲を迸った。

「へぇ」

 感心する呟きを漏らす白髪の少年、バーサーカー。その背に追い縋るかのように、歪な何かを振り上げた影が躍り出た。アンジェリカが従えるサーヴァント、セイバー・針目縫である。
 小柄な体躯は少女のようで、しかしそんな儚げな印象を裏切るように、針目はその手に自身の身長をも超えかねないほど巨大な長物を握りしめていた。それは刃物の姿をしていて、しかし刀剣の類では決してなく、ただ対象を「切る」ことのみが共通していた。
 片太刀バサミ。何物にも冒されず、切断されることのない生命繊維を断ち切ることのできる唯一にして最強の刃、その片割れだ。
 常人ならば持ち上げることすらできないであろう巨大な鉄塊であるそれを、しかし針目は華奢な片腕のみで、それも軽々と振るってみせた。迫る形相は狂笑に染まり、それは絵面通りの喜悦ではなく敵戦力を殲滅するのだという殺意に満ち溢れている。

「そおりゃッ!!」

 一閃。歪にして巨大な刃が、大気を裂く音と共に空間を断割した。
 その速度は先の比に非ず。音の壁など当の昔に超越して、針目自身すらも残像が見えるほどの超速だ。それは遊びなど度外視した渾身の一撃であったこともあるが、それ以上にアンジェリカの使用した令呪の効能が大きかった。
 アンジェリカの視界に映し出された針目のステータスは目に見えて上昇していた。数値に換算して全ステータスが1ランク、敵排除に最も必要な筋力に至っては2ランク。それだけの莫大なブーストが、針目にはかけられているのだ。
 バーサーカーの排除という、短期的かつ具体的な命令内容。そしてマスターとしては破格の性能を持つアンジェリカの実力が相まった、その結果である。
 しかし。

「対応速度はそれなり。少なくとも、恐慌状態に陥ったり状況を呑みこめなかったりしないあたりは及第点ってところかな」

 既に、そこにバーサーカーはなかった。睥睨するかのような声が聞こえてきたのは、彼女たちの背後。振り返った先には高所に座り込み見下ろす少年の姿。
 起死回生の一撃は、彼の体を捉えることなく空を切ったのだ。

「化け物め……」
「じゃあ君はなんなんだいお嬢さん。人かな、人形かな、それとも魔術師? まさか英雄なんてガラじゃあないよねぇ。
 けどまあ、結局」

 苦々しく吐き捨てられるアンジェリカの舌打ちに、銃弾が装填される無機質な金属音が応えた。
 ルガーが吠える。モーゼルが哭く。
 両手に銃、右目に眼帯。昼光に輝く銀髪の下、見開かれた碧眼は決して満たされぬ飢えと渇きに狂った獣。
 人の姿をした狂獣が、今その口を開き。

「君らに明日がないということに、変わりはないんだけどね」

 同時、二つの銃口から等しく轟音が迸った。

「――――ッ!?」

 爆発、そして連続する銃撃音。そして否応なく感じ取れる、桁外れと言っていい存在の圧力。
 それらが耳に届くより先に、片太刀バサミを構えた針目の総身が塵屑のように吹き飛ばされた。

「お前ェ―――ッ!!」

 常の針目とは思えぬほどに、余裕も遊びも介在しない本気の絶叫。劈く声だけをその場に残し弾かれる針目は、しかし彼女がすべき最低限の役割だけはしっかりとこなしていた。
 すなわちマスターの防御。アンジェリカに照準されていたルガーの弾幕を、彼女は自身の損傷を度外視して片太刀バサミにて叩き落すことに成功したのだ。
 無論、これは言うまでもなく自殺行為である。マスターが死ねば自分も消滅するという大前提があるにせよ、針目自身に照準されていたモーゼルの弾幕は回避も防御もなしに無防備に受けることになるのだから。普通に考えて即死、幸運に恵まれたとしても戦闘能力の喪失は不可避であろう。
 彼女が普通のサーヴァントであったならば。

「ムカつく、ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!!
 さっきから黙ってればチョーシに乗って! そのクソウザい軍服諸共ボクが切り刻んでやる!!」


983 : 獣たちの哭く頃に ◆GO82qGZUNE :2016/10/21(金) 20:09:50 SWlyY7lM0

 全身に致命の弾丸を浴びたはずの針目は、しかしその弾痕を急速に再生させながら、何らダメージを負っていないかのように地を踏みしめ跳躍した。
 『生命繊維の怪物(カヴァー・モンスター)』。それは針目縫が持つ宝具の真名であり、彼女を構成する肉体そのものであり、そして彼女が未だ生存していられる要因である。
 生まれながらにして生命繊維―――宇宙より飛来した地球外生命体たる超繊維を身に宿して生まれた針目は、常軌を逸する生命力と身体能力、そして不死身とも呼称されるほどの再生能力を保持する。
 三ツ星極星服着用者による大規模な破壊に巻き込まれても平然としていられる耐久力、開胸し心臓を抉り出した程度では小揺るぎもしない生命力。それらは針目を針目足らしめる最大の要素であり、最大の武器でもあるのだ。
 宝具として昇華された現在において、彼女の肉体はBランク以上の宝具による攻撃以外では傷一つ付かないまでの鉄壁を誇っている。ばかりか、本来なら致命傷となるほどの傷を負ってなお即座に修復されるほどの再生能力までも兼ね備えているのだ。
 最強の盾に、最強の治癒力。
 こと防御という点において針目を凌ぐサーヴァントなどそうはいまい。これこそが、シュライバーの猛攻を受けてなお全く継戦能力を損なわない理由だった。
 そう、それは事実であるのだが。

「うふ、うふふふふはははははははははははははははは―――」

 針目の全霊を賭した突撃刺突を、しかしシュライバーは躱すことさえしないまま、軽く銃口を向けることで容易に対処した。
 尚も断続的に鳴り響く銃撃音、数えることも億劫なほどに繰り出される無数の銃弾。
 豪雨のように降り注ぐそれを甘んじて受けるしかない針目の肉体は、その瞬間血袋が弾けるように大量の鮮血をまき散らした。

「ガ、ハァ……!?」

 慣性に従って崩れ落ちる針目の膝、そして急激に修復される肉体。しかしその治癒が終わるより先に、横殴りに押し寄せる銃弾の波が針目を右方向へと弾き飛ばした。
 針目の肉体は高ランクの宝具以外では傷つかない。しかし、現実としてシュライバーの魔弾は再生能力と拮抗する程度とはいえ、針目の肉体を傷つけることに成功していた。
 真っ当に考えて正気の沙汰ではないだろう。何故ならシュライバーが持つ二挺の拳銃は、宝具などでは決してないのだから。
 ならばこれは防御効果や加護の類を貫通する特殊スキルの恩恵なのか。それとも他の宝具によって強化された代物であるのか。
 いいや違う。そういった特殊性を、シュライバーは保持しない。
 シュライバーの放つ銃弾が針目を傷つけられる理由は単純にして明快―――そこに込められた威力と魔力の桁が違っているという、そんな子供の理屈じみた悪夢的な事実なのだ。

「そらどうした人外のセイバー。君はその程度でボクと聖杯を競う気か?」

 銃口をこちらに向け、天真爛漫に笑うシュライバー。しかしその目は狂熱で煮えたぎり、殺戮への欲求で満ち溢れている。

「つまらない戦場しか宛がえない劣等はいらないなぁ。ボクに触れることもできないノロマの愚図が、一端に英雄を気取ろうなんて百年早い」

 瞬間、シュライバーの姿が文字通り掻き消えた。
 同時に巻き起こる極大規模の衝撃波。車が、電柱が、周囲の民家に至るまで何も見えないのに弾き飛ばされていく。子供が持つ玩具のように、紙ふぶきのように。あらゆる物が宙に舞った。
 そこで針目は直感した。敵手は消えたのではない、ただ高速で移動しているだけなのだと。
 音など遥か置き去りにして、奴は空間を三次元的に飛び跳ねている。その後を追うように発生する、爆撃じみた衝撃波。ただすれ違っただけで車が吹き飛び、足場にされただけで民家が砕け散る。
 針目はそこに、暴風雨の影を見た。死をばら撒く嵐の化身。そんな荒唐無稽なイメージが、無意識に針目の脳内に浮かび上がった。

「―――ッ!?」

 一際大きな衝撃と共に、足場となる大地が陥没して土砂が舞う。
 直径にして30m、それだけの範囲が一瞬で破壊された。攻撃ではない、単なる移動と踏み込みの結果としてそれが成されたのだと、アンジェリカと針目は否応なく理解させられた。
 見上げた上空―――彼方に見えるビルすら飛び越えた高みの空に、シュライバーはいた。


984 : 獣たちの哭く頃に ◆GO82qGZUNE :2016/10/21(金) 20:10:51 SWlyY7lM0

「―――アハ☆」

 その光景を前に、しかし針目はその顔を悪辣に破顔させた。それは一縷の勝機を見出した者の貌であり、同時に下手を打った相手を嘲笑する笑みでもあった。

「いつまでもいい気になるなよ……下等な猿風情がァ!!」

 瞬間、吼えた針目の姿がブレた。高速移動したときの残像のように、重なるが如く像がいくつにも分裂した。しかもそれは左右どちらにも、何処までも伸び続け、一瞬の後には無数の針目たちによる隊列が出来上がっていたのだ。
 それは残像などではなく、れっきとした実体であった。針目と寸分違わぬ精巧な分身が、ただの一瞬で無数に出現したのだ。

「そぉれっ!」

 無数の針目たちは次々と跳躍すると、その腕から赤く細長い一本の糸を伸ばした。それは中空にて絡み合うように複雑な模様を描き、空一面を覆うかのような巨大な網を作り上げる。
 精神仮縫い―――接触した相手の意識を乗っ取り、自在な操り人形とする針目の技である。
 物理的な破壊能力こそ皆無だが、ただ触れただけで相手を行動不能にできるという性質上、それは単なる攻撃よりも余程厄介な代物だ。それを針目は、無数の分身たちに一斉に使わせることにより、疑似的な糸の結界として機能させたのだ。
 触れれば終わる糸の檻。それが、宙へ浮かび上がったシュライバーを完全に包囲していた。

「震えて叫べゴミカスザル! キミはボクが屈服させてやるんだから!」

 そうして針目は作り上げた糸の球体結界を、急速に縮小させることでトドメとした。例えあの銃撃で結界の一部を砕かれようが、この数の分身が放つ糸の多重奏が即座に欠損を修復する。糸に触れずに脱することなど絶対不可能!
 どれだけ強い力を持とうが、どれだけ早い足を持とうが、所詮地球の類人猿が生命繊維の申し子たる己に勝てるはずもなし。
 人形のように踊らせて、奴自身の手で自壊させてやる!

 けれど。

「泣き叫べ、劣等」

 蒼天に輝く赤い巨大球体が唸りをあげるその中で。
 声だけが、不思議と響き渡り。

「今、この場に奇跡は存在しない」

 ―――轟音と。
 ―――衝撃と。
 ―――砕けて舞い散る、赤い糸の欠片たち。

 生命繊維の球体結界の一部が吹き飛ばされ、そこから小さな一つの影が躍り出た。それは見るも武骨な軍用バイクに跨り、地上を走るはずのそれを何故か中空にて駆りながら。
 唖然とした針目の視界の端に、今も落ちゆく糸の欠片が映った。それはバーサーカーが巻き起こす衝撃波に巻き上げられて、儚くその身を華と散らせた。

 呆けたような針目を後目に、アンジェリカは無銘のクラスカードを湯水のように使い捨てることで辛うじて衝撃波からの防衛を成立させながら、その思考を目まぐるしく回転させる。そしてたった一つの決定的な、それでいてあまりにも遅すぎる答えを導き出した。


985 : 獣たちの哭く頃に ◆GO82qGZUNE :2016/10/21(金) 20:11:19 SWlyY7lM0

(駄目だ、こいつは我らの手に余る―――!)

 開戦当初、アンジェリカはこの場で白髪のバーサーカーを打倒する腹積もりであった。それは自分とセイバーの実力に相応の自信を持っていたことも確かだが、それ以上にこのバーサーカーを見逃すなど許せないという私的な感情もあった。
 何故ならこれは災害そのものだ。例えこの場を逃れたとしても、奴は必ず自分たちを地の果てまで追ってくる。何の根拠もありはしないが、何故かそのことをアンジェリカは確信を以て断言することができた。
 だから自分たちが助かるには、この場でバーサーカーを殺害する以外にないと考えた。如何に性質が邪悪であろうとも、自身が従えるセイバーは間違いなく一級のサーヴァント。そこに令呪によるブーストを施せば、勝利する見込みもあると、そう考えた。
 その認識はあまりに甘かったのだと、アンジェリカは遅すぎる後悔を抱いていた。
 残る令呪は二画。裏切りの可能性を考慮すれば使えるのは実質あと一回のみ。しかしその一回をセイバーの強化に充てたところで、現状の打開は厳しいと判断する。
 故に、取るべき手段は一つだった。

「令呪を以て命じる……!」

 再び無銘のクラスカードによる魔力障壁を具現し、それがコンマ一秒と経たず微塵に砕けるのを視認しながら、アンジェリカは右手を翳し言い放った。
 赤い光芒が、眩く輝く。

「セイバー、私ごと安全地帯まで離脱しろ!」

 瞬間、今まさにバイクによって轢殺されようとしていたセイバーの体が魔力の光に包まれたかと思うと、目にも止まらぬ速度でアンジェリカの元まで急行。次いでその光は流星となって戦場跡を飛び去った。
 敵バーサーカーに勝利することは困難。ならば取るべきは逃走の一択である。
 令呪による離脱行為。それは時に時空の壁をも突き破るほどの力を持ち、故に追い縋れるサーヴァントなど存在するはずもなく―――



「ああ、なんだ。やっぱり君ら敗北主義者かい。諦めが早すぎて悲壮感に欠ける」



 針目に抱えられ、中空を翔けるアンジェリカの耳に。
 不意に、そんな言葉が届いて。



「そんな絶望じゃあ安すぎる。悲劇としても喜劇としても、陳腐に過ぎていけないじゃないかァ!」



 全身を貫く衝撃と共に、アンジェリカの意識は漆黒に閉ざされたのだった。





   ▼  ▼  ▼





「これは、酷いな……」

 呟かれたのは、みなとの半ば呆然とした言葉だった。
 植物園での戦闘を終えて暫し、次なる拠点と敵サーヴァントを求めて歩んでいた彼の耳に轟音が飛び込んできたのは、つい数分前のことだ。
 即座に金色の杖を取り出し駆けつけた彼の目の前に広がっていたのは、見るも凄惨な破壊の爪痕であった。

 見渡す限り、全てが破壊されていた。
 舗装された道路、軒を連ねる家々、安置された公的な設置物。それらが皆粉々に砕かれ、あるいは吹き飛ばされ、地面は月面のクレーターのように抉られて無残な土色を晒していた。
 この様子では生存者など期待できまい。恐らくは運よく巻き込まれずに済んだ近隣の住民が、何かしらの通報をしているだろうが、その類の喧騒も今は遠いどこかの話でしかなかった。

「……」
「どうかしたのかライダー、もしかして敵の気配が……ッ!?」

 唐突に実体化したライダーに尋ねようとしたみなとはしかし、次の瞬間には自身に叩きつけられる殺気に振り返ることを余儀なくされた。
 反転した視界の先、前方およそ10m。そこには瓦礫を椅子にした白髪の少年が、左手に赤色の何かを掴みながら、ひらひらと親しげに右手を振っていた。


986 : 獣たちの哭く頃に ◆GO82qGZUNE :2016/10/21(金) 20:11:59 SWlyY7lM0

「やあ、マキナ。久しぶりじゃないか。現世(こっち)の感想はどんなもんだい?」
「……」

 あくまで親しげに、覗き込むように言葉を紡ぐ白髪の少年―――シュライバーに対し、マキナと呼ばれた黒衣の偉丈夫は無言のままだった。
 アハハと笑う姿は子供のようで、天真爛漫という言葉がよく似合う。しかしそんなシュライバーを前に、みなとは親近感ではなく眩暈を覚えた。
 少ない人生経験と対人経験しか持たないみなとでも分かる。これは、駄目だ。
 一言で言えば、シュライバーは殺気の塊だった。屈託なく笑っているものの、この少年には殺意しか存在しない。何よりみなとの視界に映し出される少年のクラスが、狂戦士を示すバーサーカーであることが、その異常性を何より雄弁に語っていた。
 人型を取って、言葉を話し、服を着込んでいるだけの異物。それがこのバーサーカーの本質だ。如何に言語を解そうと、これとコミュニケーションなど取れはしまい。

「……し、て……や……」

 そこで、みなとは初めて"それ"に気付いた。
 バーサーカーが持つ異質な気配、突きつけられる殺気の多寡。そうした諸々によって視線はバーサーカーへと釘づけになっていた故に、気付くのが若干遅れてしまったのだ。
 それは、バーサーカーが無造作に下げた左腕に掴みあげられた、真っ赤な色をした大きなもので……

「ボク、は……殺し……」

 それは、最早原型を留めないほどに破壊し尽くされて。
 下半分が千切れ消失していたけれど。
 胴も半ばで分断された少女の上半身であると、そこでようやくみなとは気付いたのだった。

「僕のほうは、まあそれなりに楽しんでいるよ。何せこの六十年死体ばかり殺してきたんだから欲求不満でね、取るに足らない劣等でも暖かい血と肉の感触は良いもんさ」
「……お前が」

 そこでようやく、マキナは重い口を開き。

「お前がいるということは、これはハイドリヒの差し金か」
「そうでもないんだなぁこれが。少なくとも僕は誰の命令を受けたわけでもない。単なる余興みたいなもんさ」

 傍らにある異常物など歯牙にもかけず、二騎のサーヴァントは知己のように会話を続ける。
 しかしそこに親しさなど皆無だ。バーサーカーは変わらず殺気だけを放ち、マキナもまた相応する覇気で以て応じている。

「けど、一つ言えることがある。僕と君がここにいるんだ、ならザミエルがこの街に招かれていない理由なんてない」
「……随分と悪趣味なものだ」

 黒騎士としては珍しく、苦々しく吐き捨てるような口調に、バーサーカーの白騎士は苦笑の響きだ。

「そう言うなよマキナ。折角の機会なんだ、ここらでいっそ……」
「お前、ら……し、て……」

 その時、微かな囁きが風に乗って、みなとの耳にまで聞こえてきた。

「ムカ、つく……ふざけ……切り刻……」
「……」

 困ったような笑みを浮かべ、白騎士は左手を目の高さまで持ち上げる。
 少女の頭髪は掴んだまま。


987 : 獣たちの哭く頃に ◆GO82qGZUNE :2016/10/21(金) 20:12:24 SWlyY7lM0

「ねえ。僕は今、彼と話をしているんだよ。ちょっと後にしてくれないかな」
「ふざ、けるなぁ! こんなにしやがって、お前は……!?」

 衝撃音。
 顔面に、右拳がめり込んだ。

「後にしてって、言ってるだろ?」
「ぐ、ガァ……」

 あまりに突然の暴挙に、みなとは反応すらできなかった。マキナは言葉なくそれを睥睨していた。

「ああ、悪いねマキナ。そういうわけでさ、本当なら今ここで君と殺し合ってもいいんだけど、ザミエルがいるってんなら話が別だ」

 バーサーカーが手を離し、支えを失ったセイバーの少女が呆気なく地に落ちた。血だまりにぶつかる湿った粘質音。地に伏せる頭蓋を、バーサーカーの足が勢いよく踏み砕いた。
 血飛沫と脳漿のコントラストが、バケツの水をぶちまけるかのような音と共に、水面に跳ねる波紋のように地面に広がった。

「僕らが雌雄を決するのは今じゃない。ザミエルが揃って、僕ら三人が乱れ狂う。それこそが決着に相応しい舞台だ」
「首級を競うというのか」
「その通り。僕らはハイドリヒ卿を楽しませる楽器だ。それが、こんな辺鄙な場所の辺鄙な場面で潰し合っていいはずがない。騎士たるもの、死ぬならば相応のものが必要だろう?」

 言って、バーサーカーはここで初めて、みなとのほうへと向き直り。

「やあ初めましてマキナのマスター。そういうことだから、今回だけは君のことを見逃してあげるよ。精々死なないように頑張ってよね」

 ―――声がみなとに届いたかという、その瞬間には。

 既に、この場からは白髪のバーサーカーの姿が消え失せていた。

 反応はおろか、視認することすら叶わなかった。"魔法"を手に入れたみなとは、超音速の移動にも耐えうるようにその反応速度も強化されているにも関わらず。
 無意識に、その頬を汗が伝った。

「……ライダー、今のは」
「聖槍十三騎士団黒円卓第十二位、大隊長。ウォルフガング・シュライバー」

 そこでライダーは言葉を切って、彼にしては珍しいことに、辟易したかのような感情の色を含ませながら。

「……どうしようもない、狂犬だ」

 いずれ必ず激突するであろう敵の名を、みなとに告げたのだった。



【アンジェリカ@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】
【セイバー(針目縫)@キルラキル 消滅】


988 : 獣たちの哭く頃に ◆GO82qGZUNE :2016/10/21(金) 20:12:58 SWlyY7lM0


【D-3/破壊された街/一日目・午前】

【みなと@放課後のプレアデス】
[令呪]三画
[状態]魔力消費(極少)
[装備]金色の杖
[道具]
[所持金]不明(詳細は後続の書き手に任せます)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の奇跡を用い、自らの存在を世界から消し去る。
0:どこか休まる場所を探したい。
1:聖杯を得るために戦う。
2:次に異形のバーサーカーと出会うことがあれば、ライダーの宝具で以て撃滅する。
[備考]
直樹美紀、バーサーカー(アンガ・ファンダージ)の主従を把握しました。
バーサーカー(ウォルフガング・シュライバー)の真名を把握しました。


【ライダー(ゲッツ・フォン・ベルリッヒンゲン)@Dies Irae】
[状態]健康
[装備]機神・鋼化英雄
[道具]
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得を目指す。
1:終焉のために拳を振るう。
[備考]
バーサーカー(ウォルフガング・シュライバー)を把握しました。ザミエルがこの地にいると確信しました。


【バーサーカー(ウォルフガング・シュライバー)@Dies irae】
[状態]健康
[装備]ルガーP08@Dies irae、モーゼルC96@Dies irae
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し。
1:サーヴァントを捜す。遭遇次第殺し合おうじゃないか。
2:ザミエル、マキナと相見える時が来たならば、存分に殺し合う。
[備考]
みなと、ライダー(マキナ)を把握しました。ザミエルがこの地にいると確信しました。


989 : 名無しさん :2016/10/21(金) 20:15:44 SWlyY7lM0
投下を終了します。
また再度申し上げますが、今回の投下は無連絡で予約期限を超過したものであるとはいえ企画主様が予約していた面子を登場させたものであるため、企画主様及び企画に不都合があった場合には即刻取り下げさせていただくものとします。
手前勝手な判断での投下で申し訳ありませんが、企画主様にはご一考のほどをよろしくお願いいたします。


990 : 名無しさん :2016/10/22(土) 21:36:20 4bCH5YOQ0
初書き込み失礼します。
質問なのですが、このSSではdiesキャラを無双させないといけないんでしょうか?


991 : 名無しさん :2016/10/22(土) 23:33:57 y6zw1L6A0
まあ創造無しでこの結果はやりすぎだよな


992 : 名無しさん :2016/10/23(日) 03:07:25 e9ZqAb/A0
この書き手さんが今まで書いたものに比べてもあっさりしすぎてるのもあり物言い着くのも分かるけど。
ただ、最近この人しか書いてないしこの人が自分一人でもたたみやすい形に向けていってるというのなら仕方ないとも思う。


993 : 名無しさん :2016/10/28(金) 12:47:40 7CZwq2r.0
だよねぇ
設定的には分からんでもないけど
ちょっとやりすぎた感がある


994 : 名無しさん :2016/10/28(金) 15:37:11 SQVMHkPo0
黒円卓の三騎士は蓮位しかメタキャラいないんじゃない?
強いて言うなら赤はアーサー相手だとアヴァロンで防がれたりエクスカリバーで創造ごと斬られたりするかもしれんが


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