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邪神聖杯黙示録〜Call of Fate〜
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素に無明の闇。傍に盲し白痴の王。
泡立つ虹には贄を。
四方を円に閉じ、炎を五芒へ示し、第五宮に至る陽を循環せよ。
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を冒?する。
――――Ancient(セット)
告げる。
汝の身は我が門に、我が命運は汝の鍵に。
星辰の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は全なる一の戒めを破る者、
我は一なる全の印を棄てる者。
汝、混沌の媒介を記す断章。
窮極の門より来たれ、銀鍵の守り手よ――――!
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"
"
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――この手記が単なる哀れな狂人の妄言と片付けられず、正しく理解ある者の手に渡ることを願う。
私が時計塔でその不可思議な儀式のことを耳にしたのは取り立てて特別な日でもなく、規定通りに伝承学の講義を片付けた後のことであった。
学生達が廊下で話すにしてはいささか不穏な内容ではあったが、魔術師に不穏という言葉は影のように付き纏うものであるし、
所詮は第十一科の、研究のことしか頭にないような考古学部の連中だったから、了見に欠けるのも致し方無いだろう。
とはいえその取るに足りないと聞き流しても問題ないような与太話を私が耳聡く聞き咎めたのは、他でもない、
かの鉱石科のロードであった先代のエルメロイ卿がかつて参加したとされる儀式のあらましと酷似していたからである。
エルメロイ卿は卑劣にも極東の田舎魔術師共の手に掛かって落命したと聞き、時計塔は大いなる才能を喪失することとなったものだが、
ともかくも魔術の名門アインツベルンまでが携わっているとされる魔術師同士の決闘儀式、『聖杯戦争』の名は私の記憶に引っ掛かっていた。
もっとも私が平和ぼけした学生を呼び捕まえて質問攻めにしたのは卿の仇を討とうなどという正義感に駆られたわけではなかったが、
少なくとも私の鬼気迫る熱意に負けたのか、学生は考古学部に相応しい貧弱な頭脳から私にその儀式について語るに至ったのである。
私はあらかじめ聖杯戦争について深く知識を持っていたわけではなかったから、学生共の語る内容は歯抜けの記憶の間を埋めることとなった。
しかしながら万能の願望器たる聖杯の降霊を目指すため、信仰によって人類種から精霊にまで達した歴史の具現、すなわち英霊を、
サーヴァントとして使役することによって行われる儀式であるという期待通りの情報は、私を大いに満足させることとなった。
この段階で既に、私の心は既にこの新たに執り行われるという聖杯戦争へ乗り込むことで隙間なく埋め尽くされていた。
かのロード・エルメロイⅠ世までもが果たせなかった聖杯の獲得を首尾よく私が成し遂げることが出来たならば、
今まではただのしがない伝承学部の二級講師に過ぎなかった私でも、時計塔内の派閥争いに加わることが出来ようというものだ。
だが、その聖杯戦争に加わるまでの道程は、あらかじめ伝え聞いていたものとはいささか異なり、私を当惑させた。
私は聖遺物を入手した上で極東の島国へ向かえばよいのだと考えていたのだが、新たなる聖杯戦争が要求するものは聖遺物ではなかった。
それは『銀の鍵』だという。ただの純銀製の鍵では駄目で、それ自体が深遠なる神秘を持つものなのだそうだ。
いかなる鍵穴とも噛み合うその礼装をもって扉を開いた先に、目指す決闘儀式のための街があるのだと。
あるいは私は、この段階で踏み留まっておくべきだったのだ。
この話を聞いた瞬間の興奮が如何ようにも抑えられなかったとしても、せめて後日もう一度話を聞こうと考古学部を訪れた時、
あの褐色というよりは漆黒の肌をした長身痩躯の学生は第十一科の何処にもおらず、誰に訊いても会ったことがないと口を揃えて言い、
あの日彼と会話していたはずの学生からも要領を得ない返事しか帰って来なかった時点で、尋常ならざる事態に気付くべきだったのだ。
しかし愚かな私は、八方手を尽くして銀の鍵を手に入れ、扉を開いてしまった。
それがいかなることかを知っていれば、私は決してそんな蛮勇を振るいはしなかっただろう!
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私が辿り着いたその街でいかなる恐ろしいものを目の当たりにしたか、それをこの手記にて詳らかにすることはご容赦願いたい。
何故なら私が感じた畏怖というものは文章に記すにはあまりにも漠然とした、それでいて魂の奥底から湧き出る本能的なものであって、
にも関わらず本質的な恐怖の真実の一端に過ぎないものであると他ならぬ私自身が理解しているからである。
しかし、警句のひとつくらいは残さねば、この手記を残した甲斐が無いというもの。あえて言葉として記すならば――
英霊、そは永久に横たわる死者にはあらねど、測り知れざる永劫のもとに『人』を超えるものなり。
例えるなら古代メソポタミアの英雄王、ギリシャはオリンポスの神々に連なる英雄達、トゥアハー・デ・ダナンの光の御子、
あるいは中東の暗殺教団、マケドニアの征服王、シャルルマーニュの十二勇士、そしてブリテンに名高い騎士王に至るまで、
英雄とは人にして人を超えたものであり、死に際してなお死を超えたものであることを、私はこれまで知らずにいたのだ。
だからこそ――私はそれを目の当たりにしたことが何より恐ろしい!
偉大なる神秘を前にしては人間などという矮小な存在などあっという間に竦み上がってしまうものだというその事実が恐ろしい。
もはや決闘の名誉などはどうでもよい。私はその街であらん限りの情報を掻き集め、何とか逃げ出すための計画を練ったのだ。
しかしそれも追い詰められた今となっては叶いそうにない。聖杯の加護を失った今、銀の鍵の秘蹟は時空への冒?に成り下がった。
ならばこそ、この手記だけでも元の世界に送り届けたいと願っている。
もはや時間の猶予はない――すでに部屋の鋭角という鋭角から忌まわしい煙が噴き出している――ひとまずここで筆を置くこととするが、
もしも銀の鍵の扉を越えた先でこの手記を読む者がいたならば、私がこれまでに知り得たうちで最大の教訓を最後に心に銘じていただきたい。
この聖杯戦争のそもそもの成り立ち、そのあまりに冒涜的な真実にだけは――くれぐれも関心を向けてくださるな!
▼ ▼ ▼
シオン・エルトナム・アトラシアは部屋の真ん中に倒れ伏す魔術師の男を路傍の石でも見るような目で一瞥すると、
彼が死の直前まで書いていたと思われる手帳のページにざっと目を通し、蔑むようにもう一度男を見下ろした。
汚い文字で書き殴られた手記とも言えぬ文章は熱病患者の譫言にも似て、まともに読めたものではない。
「既に発狂していたか。とはいえ、取るに足りないエラー未満の事象……つまらない死に方をするマスターもいるものですね」
その声色は落ち着いた女性らしいものではあったが、同時に機械めいた冷徹さを同時に秘めていた。
彼女が乱雑に散らかった食器の上に手帳を投げて火をつけると、男の妄言めいた言伝は灰とくすぶる煙とに変わった。
そのまま、乱れた部屋の中の様子にはほとんど目もくれることもなく、シオンは踵を返してそのアパートの一室から外に出た。
外界――この合衆国マサチューセッツ州に位置する地方都市『アーカム』は、彼一人死んだところでその歯車を違えたりはしない。
しかしこの街は、聖杯戦争というこの冒涜的な儀式のために作られた仮初の街に過ぎない。
この街に集められた人間達もまた、聖杯戦争の参加者たるマスター達を隠す肉の林にして生け贄に過ぎないのだ。
全ては聖杯降臨――その奇跡を成し遂げるため、ただそれだけのため。
「一にして全、全にして一なるもの、窮極の門のその奥に座す彼方なるもの、あらゆる時間と空間に隣り合うアカシャ年代記の具現、
その外なる神の無限の知識から引き出され、聖杯というフィルターを通して降臨する人類史の記憶、サーヴァント。
そしてその輝ける英雄にして邪神の記憶を従えるマスター達……そろそろ全てがこのアーカムに集う頃か」
その時シオンの輪郭が一瞬ぶれたのを目にした者は、恐らく誰一人としていなかっただろう。
二重写しになった、古代エジプトめいた衣装を纏う褐色の肌の女の姿はすぐに掻き消え、シオンは何事も無かったかのように空を見上げた。
「――さあ、銀の鍵を手にした探索者達よ。いよいよ、聖杯戦争を始めましょう」
そう誰にでもなく言い残し、『秘匿者(キーパー)』のサーヴァントはアーカムの影へとその姿を消した。
【邪神を巡る聖杯戦争、アーカムの地にて開幕】
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【クラス】
キーパー
【真名】
シオン・エルトナム・アトラシア?@Melty Blood
【ステータス】
筋力D? 耐久E? 敏捷C? 魔力C? 幸運D? 宝具?
【属性】
中立・■
【クラススキル】
情報秘匿:EX
「秘匿者」のクラス特性。対象者の記憶に干渉し、情報の隠蔽を行うスキル。
精密な制御はエーテライトを介して直接行うが、ごく単純な認識操作程度ならばアーカム全域に可能である。
基本的に一般人や対処の必要が生じたマスターの認識を操作し聖杯戦争を円滑に進めるために用いられるが、
真の存在意義はこの聖杯戦争の裏に潜む邪神の存在を隠蔽し、聖杯降臨の儀式を完遂することにある。
なお、傷となっている記憶を封じることで、一時的狂気を鎮めたり精神汚染スキルのランクを下げるという応用法がある。
真名看破:B
本来はルーラーのクラス特性であるが、キーパーはルーラーの変形クラスであるため所持。
直接遭遇したサーヴァントの真名・スキル・クラスなどの全情報を即座に把握する。
真名を秘匿する効果がある宝具やスキルなどを持つサーヴァントに対しては幸運判定が必要。
なお、ルーラーの最終秘儀たる「神明裁決(令呪による強制権)」は有していない。
【保有スキル】
エーテライト:A
エルトナム家に伝わる疑似神経。ナノフィラメントサイズの大きさでありながら一本で一人の神経を乗っ取ることもできる。
本来の使い方に加え、情報秘匿スキルの精密な行使にも使用する。
分割思考:A+
思考中枢を仮想的に複数分割して行なう思考法。
超高速の思考を可能とするだけでなく、同ランク以下の読心等のスキルを無効化する。
神話技■:B
邪■とその眷■、そしてこの聖杯■争の成り立ち■ついて十分な知識を持つ。
格の低■神話■物であれば使い■とし■使役■■る可能性■あ■。
死徒:-
吸血に■って後天的■吸血種となっ■存在。
シオンは生前一度もワ■キ■の夜■■接触■ていな■。
【宝具】
『オ■■スの■』
■■■■シオン■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■ステ■タス■偽装■■■■■真■宝具■■■■■■■■霊子■算■ヘル■ス■■
■■■■■■■フォ■■ック純■晶■■■■■■■■■情報■■■■■■■■■■■■
■キ■パー■■■■■■■■■■聖杯■■■■■■邪神■グ■ソト■ス■■■■■■■
【weapon】
エーテライト。
【人物背景】
エジプト・アトラス院の錬金術師【以降の情報はキーパー権限によって秘匿されています】
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【企画概要】
・当企画はTYPE-MOON原作の『Fateシリーズ』および、『クトゥルフ神話』の設定をモチーフとした聖杯戦争リレー小説です。
・クトゥルフ神話設定に関してはあくまでモチーフに留め、神話作品として原作設定の遵守を徹底する予定はありません。
知らなくても参加できるが知っていればより深く楽しめる、というバランスを目指していこうと考えています。
・なお、当企画ではクトゥルフ神話の要素を取り入れ、聖杯戦争に『神秘への畏れ』および『正気度喪失』の特殊ルールを導入します。
【神秘への畏れについて】
・当企画における聖杯は術式こそ従来のものと同じですが、英霊の座やムーンセル・オートマトンから英霊を召喚するのではなく、
次元の裂け目に存在しあらゆる時間と場所に隣接するとされる窮極の門、『外なる神ヨグ=ソトース』の無限の知識を利用しています。
・そのため召喚されるサーヴァントは、聖杯というフィルターを通すとはいえ人類史に残る英雄であると同時に邪神の記憶でもあり、
その英霊の性質や在り方によって左右されはするものの、すべて『人間の潜在的な畏怖を喚起する性質』を備えます。
高潔な英霊ならばその高潔さへ、おぞましい反英霊ならばそのおぞましさへ、人は人を越えた存在に対する畏れを抱く、と考えてください。
・具体的にはサーヴァントが何らかの神秘を行使する時、その神秘の強さに応じて目撃者に対する精神へのショックを発生させます。
霊体化や身体能力の行使程度なら影響は少ないものの、超自然的なスキルの使用、更に宝具の開放と、神秘が高いほどショックは大きくなります。
例えばアーサー王の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の真名開放ともなれば、目撃しただけでその神秘に圧倒され一時的発狂すら有り得るでしょう。
・唯一、マスターは自身の契約するサーヴァント固有の神秘に対してのみ耐性を持ちます。また同じ神秘を繰り返し目撃することで耐性がつく場合もあります。
【正気度喪失ルールについて】
・当企画では、マスターの健康状態や魔力量に加えて『精神状態』を重要なステータスとして扱います。
さらに、クトゥルフ神話TRPGよりいわゆる「SANチェック」、つまり『正気度喪失』を共通設定として導入します。
・精神状態は感情や気分によって変動しますが、前述の神秘の目撃などによって精神へのダメージが蓄積されます。
具体的には神秘の目撃だけでなく、殺人などの自身の倫理に反する行為、衝撃的光景の目撃、魂喰い、その他精神的に強いショックを受ける状況が該当します。
・一度に多くの正気度を失った場合、あるいは精神的ダメージの蓄積量が多くなった場合、以下のようなデメリットが発生します。
《軽度》……瞬間的動揺(呆然、混乱、判断力低下など。すぐに回復する)
《中度》……一時的狂気(激しい混乱、パニック、ヒステリー、トラウマ、幼児退行など。ある程度持続するが回復する)
《重度》……気が触れる。Eランクの精神汚染スキルを取得(回復不可、既に所持している場合はランクが上昇する)
・聖杯戦争が進行するほど各マスターの精神は必然的に退廃していくこととなるため、自身の精神を休めて守ることが重要な要素となります。
また、他のマスターに精神的ショックを与えるための行動を戦略として取ることも有効となります。
・精神的に動揺しにくい人物の場合、一時的狂気に陥りにくくなる代わりに精神汚染スキルの進行が早まります。
・なお、基本的にサーヴァントには正気度喪失は発生しません。
そのため、マスターとサーヴァントの間で精神汚染ランクに開きが生じると意思疎通が困難になる可能性があります。
【サーヴァントの死亡とマスターの脱落について】
・自身のサーヴァントを喪失したマスターが、それを原因として死亡したり消滅することはありません。
・しかし、サーヴァントの消滅時に魔力パスを逆流する邪神の魔力は精神に恐るべき負担をかけ、結果としてサーヴァントを失ったマスターは例外なく発狂します。
・その後は精神病院に収容されるのか、自宅に引き篭もって怯え続けるのか、狂人として街を彷徨うのか。
いずれにせよ物語の主要人物からただのアーカム市民へと降格され、自力で物語に復帰するのは不可能でしょう。
・なお、この事実はマスターとサーヴァントには周知されておらず、開幕時点で知っているのはキーパーのみです。
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【キーパーについて】
・『秘匿者(キーパー)』とは、本来の聖杯戦争におけるルーラーに相当する、聖杯戦争を管理する独立したサーヴァントです。
・令呪による強制権を持たない代わりに認識操作による情報秘匿スキルを持ち、聖杯戦争全体の情報をコントロールする役割を持ちます。
・キーパーだけが知り得ている聖杯戦争の特殊な情報は多く、この聖杯が英霊の座ではなく邪神と接続されているという冒涜的事実はその最たるものです。
【アーカムについて】
・この度の聖杯戦争は、合衆国マサチューセッツ州に位置する架空都市『アーカム』を舞台とします。
・時代設定は現代ですが、この時代においてもアーカムは「大きな大学がある地方都市」ぐらいの発展に留まっています。
・アーカムに暮らす市民は全て並行世界から連れて来られた生身の人間です。
ただし聖杯とキーパーによって、超常的能力の封印および規範から逸脱した行為を抑制する暗示が掛けられています。
各マスターと関わりのある人間の「平行世界上の同一人物」が存在する可能性もあります。
・ちなみに上記の市民に対する魂喰いを禁止するルールも罰則もありません。ただし、魂喰いを行うと正気度喪失が発生します。
【銀の鍵について】
・参加者は何らかの形で神秘の遺物『銀の鍵』を手に入れ、現実あるいは夢の中で何らかの扉を開くことでアーカムに辿り着きます。
・自分自身の意志で鍵を入手したことにしても、無自覚に鍵を手にしていたことにしても構いません。
・銀の鍵は令呪と並んでマスターの証となるものですが、令呪一画の使用で元の世界への扉を開くことが出来ます。
その場合、一時間以内にアーカムに戻れない場合はマスター権を喪失し、邪神によって世界から放逐されることとなります。
・ちなみにデザインは各マスター固有のものです。個人のシンボルや縁深い何かがモチーフになっているかもしれません。
【アーカムにおけるマスターの立ち位置について】
・各マスターは、アーカムにおいては基本的に「はじめからアーカム市民だった」という扱いになります。
もちろん一時的に滞在しているだけなど、市民ではない立ち位置になる可能性もあります。
・公用語は英語ですが、読み書きや日常会話に不自由しない程度の言語能力はあらかじめ各マスターに与えられます。
もっとも、文献を読み解く場合などはあらかじめ英語の知識があるほうが有利になることもあるかもしれません。
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【各エリアについて】
・アーカムは大きく分けて9つのエリアに分けられています。
それぞれの地区の解説は大まかなイメージなので、SSの都合で設定を修整しても構いません。
また、地区のイメージに合わせた施設(参戦作品の原作施設含む)を追加することも許可します。
・なお、マップはクトゥルフTRPGサプリメント付属のアーカム地図を使用します。
ttp://i.imgur.com/usemDJT.jpg
《ノースサイド》
オフィス街。アーカムにおける経済の中心地。
大きな商社やマスコミ、高層ビルなどはこの地区に集中している。
駅、ホテル、劇場、美術館などもあり、人が行き交う活気のある地区。
《ダウンタウン》
行政の中心。市役所や警察署を始めとする公的機関はだいたいこの地区にある。
大きな広場があり、一般的な住宅も多く、治安もいい。標準的な市民の街。
《イーストタウン》
寂れた地区。かつては上流階級の人々が住んでいたらしいが今は見る影もない。
大きい屋敷は多いがいずれも過去の栄光といったところである。
南側には貧しい人々の住宅がこまごまと並び、総じて治安はあまり良くない。
《商業地区》
ミスカトニック川の南に並ぶアーカム最大の商店街。
アーカムの商店の75%があるとまで言われ、連日買い物客で賑わっている。
川岸には船から積み荷を下ろすための倉庫群が並んでいる。
《リバータウン》
移民街。外国系の住人が多い地区。
質素な家が立ち並び、昔気質の職人などが多く住む。
それなりに歴史のある建物が多く、アーカムの下町といった雰囲気がある。
《キャンパス》
かの有名な『ミスカトニック大学』のキャンパス地区。
立派な学舎、広くて清潔なグラウンド、世界最大級の蔵書を誇る大図書館など充実した施設が魅力。
学生寮やアパート、下宿屋なども周辺に並ぶ。大学病院もここ。
《フレンチ・ヒル》
高級邸宅地。アーカムで最も古い家系や、最も裕福な人達が住む。
外国からの移住者である富裕層も多い。総じてお屋敷だらけのセレブな地区。
とはいえ周辺には一般的な家もあり、ミスカトニック大学の学生が立ち寄るような店もある。
《アップタウン》
住宅街。経済的に比較的余裕のある人が多く住み、警察のパトロールが多いので治安も良好。
とはいえ中心から離れるほど徐々にグレードは下がっていく。
《ロウアー・サウスサイド》
貧民街。アーカムで最も貧しい人々が住む。
住宅環境は劣悪で、治安も全地区中最悪。看板も出ていないような怪しげな店も多い。
少なくとも、日が落ちてから足を踏み入れるような場所ではない。
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OPとルールを投下しました。続いて登場話候補を投下します。
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「できないよ」「できねえか」「できないよ」「そうか」
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「夢だな、こりゃあ」
男は無感動な声を挙げ、淡々と現状を認識した。
「噂に聞くソーマト・リコールってやつか。自分で見る羽目になるとはな」
見せたことなら恐らくは何百回あるか分からないが、と自嘲する。
目の前にあるのは何の変哲もないドアノブ。鉄の扉。部屋番号が書かれたプレート。
マンション「さなまし」B棟303号室……この部屋は敵へのアンブッシュのため、爆破したはずだが。
「しかし分からねえな。ソーマトめいて見る夢が、なんで俺の部屋になる」
そう呟く男は、随分と奇妙な出で立ちをしていた。
鈍色のフード。その中の顔全体を覆う銀色のフルメンポ。
男はニンジャであった。シルバーカラス――そう呼ばれていた。
卑しい人斬り、シルバーカラス。最後のイクサにおいても、彼は自らそう名乗った。
泣きそうな目をした、彼女を前にして。
「……………………」
シルバーカラスは、自室の扉を前にしてしばし躊躇った。
ニンジャ第六感が働きアンブッシュの危険を察知したとか、そういうことではない。
ただ……恐れたのだ。この扉の向こうに、彼女がいることを。
他でもない、痩せた体、黒い髪。桜色の瞳、まだ頼りない、しかし奥には意志を秘めたその瞳。
彼女が自分を迎え入れる、そんな幻想を頭から振り払う。
「別れは済ませたろうが。今さら何を話すことがあるんだ」
甘えた自分に吐き捨てるようにそう言い、シルバーカラスは乱暴にコートのポケットを漁った。
自宅の鍵を引っ張り出し、無造作に鍵穴に突っ込み、それから音を立てて回した。
回してから……ようやく彼は違和感に気付いた。
「何だ、この鍵?」
握っていた手を開き、ドアノブに刺さったままのそれをまじまじと見つめる。
シルバーカラスのメンポと同様の銀色を放つその鍵は、アラベスク模様に似た細かな装飾が施され、
握りの部分にはオリガミの鶴めいた意匠のレリーフが刻まれていた。
こんなものを持っていた記憶はない。しかしこの鍵は確かに鍵穴に刺さり、扉を開けた。
「……どうせ死んだ身だ。なんの罠だろうが、知った事か」
あえて手荒く扉を開け放ち、シルバーカラスは自室に足を踏み入れた。
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しかし、事実だけを述べるならば、その部屋はマンション「さなまし」B棟303号室ではなく、
シルバーカラスが初めて見る、そして「昔からずっと住んでいる部屋」だったのだが。
「おかえりなさい。それともハジメマシテ、かしら」
女の声だ。まだ少女のようにも、千年を生きた人間のようにも聞こえる。
シルバーカラスは血中カラテを絞り出した。悟られぬよう掌の中でスリケンを生成し、姿なき声に答える。
「シニガミか? サンズ・リバーのカロン・ニンジャ? 女だとは知らなかったな」
「あら失礼ね。あんな鎌を持ったサボタージュ概念と一緒にしてもらいたくはないわ」
「随分な言いようだな。そいつはやっぱり舟を漕ぐのかい」
「ええ。仕事をしている時も、仕事を抜け出した時も舟を漕いでるそうね」
「ナゾナゾかよ」
「あら、嫌い?」
「嫌いだな。少なくともまどろっこしい問答は……!」
気配の方へ腕を振り抜く。最大速のスリケンが部屋を横断し、ガラス窓を粉砕した。
しかし女の声は相変わらずどこかのんびりとした様子で、不意打ちなど意にも介さぬように続いた。
「物騒ねぇ」
「誰のせいだ」
「半分は貴方のせいね」
「……話が進まねえな。姿を見せろ」
「最初からそう言えばいいのに」
そう言うやいなや、その少女はシルバーカラスの目と鼻の先に姿を表した。
青いゆったりとした衣装。同じく青い帽子には死に装束の天冠めいて白い三角が立ち、赤い渦巻きが描かれている。
そしてこの世離れした桜色の髪……桜色。桜色の輝き。フラッシュバック。思い出すな。振り払う。
「……ドーモ。シルバーカラスです」
オジギすると、少女も真似をするようにドーモと手を合わせた。
「では改めて。貴方が私のマスターね。私の名は西行寺幽々子。此度の聖杯戦争では、『魔術師(キャスター)』のクラスとして現界しました」
言いたいことはいくつもあるが、まず聖杯戦争って何だ、とシルバーカラスは訊こうとした。
しかし実際にその言葉を発する前に、自分自身が既にその答えを知っていることに彼は当惑した。
いつからだ? 今さっき知ったはずのことを、まるで遥か昔から知っているように思える。
この部屋にしてもそうだ。初めて来たのに、ずっとここに住んでいる。奇妙な感覚。
「貴方は『銀の鍵』を手にし、扉を開いた。だから知っている。聖杯戦争の何たるかを」
キャスターが両手を広げて踊るようにくるくると回りながらそういう。
「選ばれたのよ、運命に。そして死に魅入られた貴方を迎えるために、死を司る英霊の私が此処にいる」
ひとしきり踊ると、彼女はシルバーカラスへそっと白い指を差し出した。
「ようこそ、アーカムへ。歓迎するわ、シルバーカラスさん」
▼ ▼ ▼
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アーカム市の北東部、《イーストタウン》。
この地区はかつての栄光をそのままに放置し、開発の波からも取り残された、くすんだ街だ。
郊外には過去の栄光の残滓めいた邸宅が数少ない通行人を威圧するようにそびえているものだが、
ミスカトニック川により近い南部側にはより安く、狭く、それでいて古びたところだけは共通したマンションが並んでいる。
シルバーカラスが偽名であるカギ・タナカの名で借りている一室も、そのうちのひとつだった。
特にこのあたりの裏路地は警官の巡回も少なく、スラム寸前の《ロウアー・サウスサイド》ほどではないにせよ、
あまり軽々しく夜中に出歩いていいような場所ではない。そういうことは既に「知って」いる。
しかしあえてシルバーカラスがこの街灯もない道を選んだのは、試してみたいことがあったからだった。
「なんだ、兄ちゃん? こんなところに女連れでよ」
「いい身分だな、これから前後か? 俺達も混ぜてくれない? ヒヒ」
予想通りというか、記憶通りというか。
暇を持て余した二人連れのヨタモノに道を塞がれる格好になったシルバーカラスは、メンポを外した顔のまま溜息を付いた。
隣のキャスターが、「本当にいいの?」と聞いてくる。
「よし決めた! 兄ちゃん、まずは金だ。小遣い欲しいぜ」
「額が足りなきゃそっちの姉ちゃんと俺達で前後! 当然兄ちゃん抜きでな」
「……やれやれ。せめてダウンタウンあたりに住ませてくれればよかったのによ、聖杯さんも」
「アン?」
「こっちの話だ。やってくれ、キャスター」
「なにごちゃごちゃ言って…………!?」
いきがっていたヨタモノ達が一斉に口を閉じる。
彼らの目は一点に集中していた――即ち女、キャスターの掌に止まる一匹の蝶に。
ただの蝶ではない。それは物質化した奇跡、あるいは人にして人ならざる者の証。
神秘の発現……それを目にした時、人は己の常識を打ち砕かれる。
「ア、アイエエエエエエエエエエエ!??」
名状しがたい潜在的恐怖が、哀れな犠牲者の口から絶叫となって迸る。
西行寺幽々子の宝具、『反魂蝶』。死に魅入られることは、あらゆる美しさよりも恐ろしい。
既にヨタモノのうちの一人は精神的ショックで足腰も立たず、残る一人が這うようにしてこの場から逃れようとしていた。
「繰り返すようだけど……本当にいいの?」
「どのみち見られた以上は生かして置けないだろ」
「薄情ねぇ」
「職業柄な」
反魂蝶が飛び立った。そして這いずるヨタモノの頭に止まり、その生命を一瞬にして吸い出した。
その後でひっくり返ったままのもう一人の方にも蝶が止まるのを眺めながら、シルバーカラスは無感情に呟いた。
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「……まるでサーヴァント・リアリティショックだな。ニンジャの俺も、他の神秘を見ればああなるのか」
「恐らくは、ね。本来の聖杯戦争ではあり得ないことのはずなのだけど」
「あり得ない?」
「この聖杯戦争には、私達英霊ですら知らないことが多すぎるということよ」
ふわふわとして掴みどころのない幽々子が、この時ばかりは神妙な顔で口をつぐむ。
人間の持つ潜在的な畏れを喚起する力。まるでモータルに対してのニンジャだ。
人にして人を越えしもの……奇跡という概念への畏れ。
ニンジャの源がニンジャソウルなら、サーヴァントへの畏れの源は何処にある?
「……オヒガンに渡りかけの俺が考えることでもねえか」
死体には何の傷もない。死因を特定するのは不可能だろう。
足がつくことはまず無いと判断し(別にサーヴァントの仕業とバレたところで失うものが少ないというのもある)、
シルバーカラスは霊体化した幽々子を連れて裏路地を後にした。
そういえば、と幽々子が念話で話しかけたのは、それからしばらく歩いてからだった。
『そういえば、まだマスターが何故聖杯戦争に挑むのか、聞いていなかったわね』
理由か。シルバーカラスは僅かに考え、それから答えた。
「タバコだ」
『タバコ?』
「売ってねえんだよ、『少し明るい海』。どうせあんたも持ってないだろ」
『そうね。それで、聖杯に?』
「サンズ・リバーを渡る前にやっときたいことなんて、それくらいだ」
『変な人』
「だろうな」
『付き合ってあげる』
「ありがたいこった」
あの桜色の少女に、残せるだけのものは残した。
もはやシルバーカラスの人生に悔いと呼べるものはない。
あとはシニガミに運ばれて、ジゴクで沙汰を待つだけだ。
しかし、未だ自分が、少なくともイクサの只中にいるのならば。
まだもう少し、シルバーカラスはシルバーカラスでいなければならないようだ。
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【クラス】
キャスター
【真名】
西行寺幽々子@東方Project
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷E 魔力A 幸運B 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
陣地作成:EX
魔術師に有利な陣地を作り上げる。
幽々子の陣地作成スキルは宝具と不可分である。
道具作成:E
魔力を帯びた道具を作成できる。
ランクは低く、ほとんど機能していない。
【保有スキル】
カリスマ:C+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
団体戦闘において自軍の能力を向上させる稀有な才能。
幽々子のカリスマは死霊に対してより強く働く。
幽体:B
肉体を持たない亡霊としての姿。
物理的な攻撃によるダメージを大幅に軽減する(神秘が篭っている限り無効化は出来ない)。
死霊統率:B
自身の宝具『反魂蝶』で命を吸った死霊を、一種の使い魔として使役する。
このスキルで使役される霊は命を囚われているため自然に成仏することは出来ない。
ボーダーオブライフ:E
生死の境界を司る幽々子の能力に対する、対魔力の効果を僅かに軽減する。
西行妖が満開に近付くにつれて、このスキルのランクは上昇していく。
【宝具】
『反魂蝶』
ランク:C 種別:対命宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1人
幽々子の「死を操る程度の能力」の象徴といえる、桜色の光を放つ魔力の蝶。
触れた者の命を吸い取って問答無用で死に誘う、反則的とも言うべき力を持つ。
ただし生身の人間ならば触っただけで即死するが、一度死んだ存在であるサーヴァントから奪える生命力には限りがある。
また蝶の姿を取るがゆえに飛行速度が遅く、また遠方から精密な動きで飛ばすことも出来ないため暗殺には不向き。
もっとも、十分な陣地と魔力源さえ確保できれば、幽々子は数十数百の反魂蝶を弾幕として飛ばすことが可能である。
『幽雅に咲かせ墨染の桜』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:自身
幽々子の父を始めとする多くの人間の命を吸い、幽々子自身の死をもって封印された妖怪桜『西行妖』。
周囲の魔力を集めて花開くこの巨木こそが幽々子の陣地であり、宝具であり、それ自体が樹の内側に展開された固有結界でもある。
西行妖は根から霊脈を吸い上げるだけでなく、付近に漂う魔力や魂を吸収して力を蓄え、満開へと近付いていく。
満開に近づけば近づくほど、陣地としての強固さと魔力量は増し、超一級の霊地をも凌ぐ力を発揮する。
それ自体が攻撃力を持つのではなく、幽々子のバックアップに特化した宝具である。
なお、西行妖を封印しているのは生前の幽々子の遺体であり、満開に近付くことはその停止が解かれつつあることを意味する。
そして完全に開花した時封印されていた少女は真の死を迎え、亡霊としての幽々子は消滅する。
幽々子自身はこの事実を知らず、自身が桜の下で息絶えたことも覚えていない。
-
【weapon】
常に扇を持ち歩くが、特に武器とか魔術の媒介というわけではない。
【人物背景】
冥界にある「白玉楼」に1000年以上前から住んでいる亡霊の少女。西行寺家のお嬢様。
幽霊を統率できる能力を持っており、幻想郷の閻魔大王である四季映姫・ヤマザナドゥより冥界に住む幽霊たちの管理を任されている。
元々は約千年前に命を落とした歌仙の娘。生まれつき命を死へと誘う能力を持っており、それを疎んで命を経った。
その遺体は妖怪桜の封印の要となっているが、幽々子はこのことを知らず、自分自身であることを忘れて蘇らせようとしていた。
性格は飄々として掴みどころがない。時おり何もかも悟っているような振る舞いを見せる。
【サーヴァントとしての願い】
不明。無いのかもしれないし、何かを考えているのかもしれない。
少なくともその飄々とした様子からは何も伺えない。
【マスター】
シルバーカラス@ニンジャスレイヤー
【マスターとしての願い】
最後に好きなタバコを吸って死にたい。
彼にとっての人生の思い残しなど、もはやその程度である。
【能力・技能】
ニンジャソウル憑依者として、超人的な肉体能力と百戦錬磨のカラテを武器とする。
ユニークジツ(固有能力)は持っていないが、そのイアイドーによる神速の斬撃は実際脅威。
しかしその体は重い病魔に蝕まれており、今日明日にも死にかねない状態である。
【人物背景】
ネオサイタマで兵器実験の依頼を受けて無辜の市民を殺害してきた、フリーのニンジャ。
かつてはドージョーでイアイドーを習っていたがニンジャソウル憑依により意義を見失い、脱退している。
ヘビースモーカーであるが、その体はニンジャでも抗えない病(恐らくは肺癌)によって蝕まれている。
死を予感し、人生でやり残したことを考えていた彼は、ある夜ひとりの少女ニンジャ、ヤモト・コキと出会う。
彼は彼女に自分の最後のわがままとしてイアイドーを教えることを決意するのであった。そして――
【方針】
この戦いに誇りはない。恐れも罪の意識もない。
ただイクサの中に身を置く限りは、淡々と戦い続けるだけ。
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投下終了しました。
続いて、短い上に過去作のリライトになりますが、もうひとつだけ投下します。
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――飛ばしたページを読み返すように心と向き合えば、少しは自分を変えられる一歩を踏み出せそうで。
▼ ▼ ▼
架空都市『アーカム』。
ごくありふれたこの陰鬱な街を世界に唯一のものと成らしめているのが、『ミスカトニック大学』の存在である。
この1797年に創立された総合大学の名は、40万冊以上に及ぶ蔵書を持つ大学図書館によって知られていた。
その大図書館の一室、他に人影のない閲覧席の一角で、少女の囁くように小さな声が鈴の音のごとく響いた。
「黄金と白銀とを縫い込んだ、天空の帳を持っていたならば。
昼と夜と黄昏の、青と薄墨と闇色をした、煌めく空の帳を持っていたならば。
私はその帳をあなたの足元に広げるだろう――」
無造作に伸ばした、それでいて美しい黒髪と、その隙間から覗く宝石めいた青い瞳が印象的な少女である。
ゆったりとした、大人しいというよりも地味とすら言える服装で、ともすれば目にした者の印象に残らないほどか細い少女。
しかしその内側には、前髪に隠れる瞳の美しさ同様、秘めたる輝きが確かにあった。
「――しかし貧しい私は、夢を見るしかなかった。夢をあなたの足元に。そっと踏んでほしい、私の大切な夢だから」
鷺沢文香。このミスカトニック大学の文学部に通う大学生である。
彼女は詩を読み終え、本のページを閉じると、小さく息を吐いてからそっと呟いた。
「……イェーツの詩ですか。おっしゃる通り、確かに良き書でした」
そう言って文香が傍らに目を向けると、そこに立つ男はその仏頂面を変えるではなく、しかし何かに感じ入るように目を閉じた。
黒ずくめの男である。その顔は整っていながらも鉄面皮そのもので、黒髪はオールバックに撫で付けられていた。
何の感情も伺えないのにただ立っているだけで緊張感を周囲に与えるような、抜き放たれた銃のような男だった。
「……あ、あの……アーチャーさん」
文香はおずおずと、絞り出すような声で、彼をサーヴァントとしてのクラス名で読んだ。
自分は彼のマスターであり、彼が自分に危害を加えることは出来ない。その理屈は既に「知って」いたが、
それとは別の問題として――文香は知り合って間もない、しかも男性と気軽にお喋り出来るような性格をしていなかった。
「何だ」
短い返答を聞いただけで、条件反射で肩が跳ねる。
それでも勇気を振り絞って答えることが出来たのは、彼女がこのアーカムに来るまでに積み重ねた努力の成果かもしれない。
「アーチャーさんにとって……この書は、大切なものなのですか。私に、一番に薦めるほどに」
「私ではない。パートリッジが読んでいた」
「……パートリッジさん、ですか」
「かつての同僚だ。私が殺した」
殺した、という言葉の重みに今度は肩ではなく心臓が跳ねた。
平和な日本に暮らしていた文香とは縁遠い……あまりにも縁遠い、暴力の響き。
アーチャーの素性は既に知っている。この聖杯戦争が常識の埒外にあるものであることも、辛うじて受け入れている。
それでも、人の死を容易く受け入れられるようには、鷺沢文香の心は出来ていない。
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男の名は、ジョン・プレストン。
管理国家リブリアにおいて感情統制による均衡(Equilibrium)に対する叛逆(Rebellion)を成し遂げた英霊。
二挺拳銃を用いた近接格闘術ガン=カタを極め、かつては優秀な特殊捜査官として文化と感情違反者を抹殺していた。
しかし己の感情を取り戻した彼は、反逆者として社会へと立ち向かったのだという。
人が過ちを犯さぬように、感情と感受性を抑制された社会。
確かにその社会では世界大戦の芽は摘まれ、感情違反者を除けば犯罪行為は発生しなかったのだという。
恐らくそのパートリッジという同僚というのは、詩集を所持していた罪により感情違反者としてプレストン自身の手で処刑されたのだろう。
しかし、プレストンはその詩集を捨てられなかった。それが意味することは、つまり。
「……アーチャーさん。私は、本を愛する人に、悪い人はいないと思っています」
プレストンが鋭い視線を向けた。しかし鋭くても、そこには殺意も敵意も篭っていないのが感じられた。
大丈夫だ。言葉は届く。プレストンが感受性を持ち、詩の奥底にある心を汲み上げられる人ならば、文香の言葉はきっと届く。
「……私は、こう見えて、アイドルをしています。書物のように、人の心を動かすお仕事です」
訥々と、詩を読む時のようなテンポで、文香は言葉を続ける。
「私は、自分のことを何の物語も生まない人間だと思っていました。何かを与える側になるとは、思いませんでした。
ですが……私という書を、紐解いてくれた人がいるのです。日の当たらない書庫の奥から、私を見出してくれた人が……」
鷺沢文香に、聖杯に懸ける望みなどはない。
アーカムに辿り着くための扉を開いたのは、ただ事務所の鍵を開けたつもりだっただけだ。つまりは事故に他ならない。
この「栞」の意匠を持つ『銀の鍵』も、いつ手に入れたのか記憶にすらない。
だから文香に戦う理由はない。戦う意志もない。何も分からず他人を傷つけられる人間ではない。
それでも、会いたい人がいる。戻りたい場所がある。
「……私は、あの人のところに帰りたい……私の物語を、このようなところで終章にはしたくないのです。
まだ戦いの実感など、沸いていません。恐怖すら感じていないというのは……きっとそういうことでしょう。
ですが、アーチャーさん……こんな私を、怯えることすら出来ない私を、どうかあの人のところに帰して……」
鉄面皮のアーチャーに、絞り出すような声で懇願する。
それだけが、ただひとつの切なる願い。生きて帰りたい、そんなつまらない願い。
アーチャーは一切の表情を見せないまま聞いていたが、やがて口を開いた。
「最初に言っておく。この聖杯戦争は異常だ。英霊の持つ神秘が、予期しない働きをしている。
何か裏があるのかもしれないが……いずれにせよ、それが法則ならそれに従って戦うしかない。
あいにく、私は近代の英霊だ。神秘がものをいうのが此度の戦いならば、私は強力なサーヴァントではない」
文香の表情に不安の色がよぎる。その感情の乱れをプレストンは続く言葉で遮った。
「――だが、ガン=カタを極めた者は無敵だ。信じろ」
プレストンはそれ以上は語らなかった。文香もそれ以上の言葉を求めたりはしなかった。
ただ、人には人の心を動かす力がある、そのことを、改めて噛み締めていた。
図書館の片隅で、ガラスの靴が僅かに煌めいた。
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【クラス】
アーチャー
【真名】
ジョン・プレストン @ リベリオン
【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷B+ 魔力E 幸運A 宝具E
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
ガン=カタ:A+
「ガン=カタ」とは、二挺拳銃を用いて行う近接格闘術である。
基礎の動きを修得するだけで攻撃効果は120%上昇、一撃必殺の技量は63%向上する。
ガン=カタを極めた者は無敵となる!
仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
あらゆる状況を活用し圧倒的劣勢を脱してこその第一級クラリックである。
千里眼:D
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
プレストンの千里眼スキルは遠方視よりも動体視力や観察眼が主となっている。
革新:C
時代の変革者たる英傑に与えられる特殊スキル。古きに新しきを布く概念の変革。
神性スキルを持つ者、高い神秘を持つ者、体制の守護者たる英雄などに対して有利な補正を得られる。
反面、神秘の薄い近現代の英霊には無効どころか逆に自身のスキルおよび宝具のランク低下が生じる。
もっとも、プレストンの宝具にランクは元々存在しないのだが。
【宝具】
『均衡に死を(リベリオン)』
ランク:なし 種別:なし レンジ:1〜20 最大捕捉:50人
拳銃近接格闘術ガン=カタ、その窮極。宝具に準ずるものとして扱われてはいるが、厳密には宝具ではなくプレストン個人の戦闘技術。
そのため宝具が本来持つはずの『物質化した奇跡』という性質が薄く、目にした者の本能的な畏れを喚起することはほぼ無い。
膨大な戦闘データの統計により、プレストンは相手の攻撃に対して常に有利な位置に立ち回りながら最小の攻撃で最大の戦果を得る。
さらに英霊となったプレストンのこの戦闘技術には、外なる神と隣り合う数多の並行世界の『統計』が反映されている。
そのためプレストンは例えば魔術のような生前一切無縁だった攻撃体系に対しても、統計学的な回避および反撃ができる。
本来ならばたかが二挺拳銃ごときでは立ち向かえないような敵との戦力差を覆し、齎すのは調和した運命への叛逆。
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【weapon】
「クラリック・ガン」
特殊捜査官グラマトン・クラリック専用のマシンピストル。
普段は両袖の中に仕込んであり、戦闘時は専用器具により自動で手のひらへ移動する。
グリップ部には打撃用の突起がせり出すギミックが搭載されており、格闘戦も可能。
なおガン=カタとは統計学と武術の型の融合こそが真髄であり、究極的には武器が何であるかを問題としない。
【人物背景】
映画『リベリオン』の主人公。
感情抑制剤により戦争の原因となる感情が抹殺された未来の管理国家リブリア。
そのリブリアを支配するテトラ・グラマトン党の特殊執行官グラマトン・クラリックであった男。
二児の父であり、妻は既に感情違反者として火刑にされている。
優秀なクラリックであったプレストンは任務として多くの感情違反者を処刑してきたが、
同僚パートリッジの死、そして偶然感情抑制剤を注入せずに世界と向き合ったことにより、
己の心を揺り動かす存在を知り、自ら薬の使用を止めて社会への疑念を募らせていく。
しかしその感情違反により追われる身になった彼は、地下のレジスタンスと手を組み叛逆を決意。
リブリアを独裁する指導者ファーザーの元へと向かい、そこで真実を知ることとなる。
作中に登場するガン=カタ使いの中では事実上最強であり、無敵に近い戦闘力を誇る。
また戦闘時はポリグラフが直線になるほどに極度の平静状態に身を置くことが可能。
その一方でまだ感情が芽生えて間もないせいか咄嗟の嘘や機転が不得手であり、息子にすら上を行かれている。
【マスター】
鷺沢文香@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
生還して、プロデューサーのもとに帰りたい。
【能力・技能】
アイドルであり、歌唱やダンスのレッスンを積んでいる。
また非常な読書家であり知識は豊富。
【人物背景】
アイドルマスターシンデレラガールズに登場するアイドルの一人。
文学部の学生で、常に読書に没頭しているほどの本好き。
その一方で人付き合いは苦手であり、相手と目を合わせて話すことすら当初は出来なかった。
自分は何の物語も生み出せないと考えていたが、プロデューサーに与えられたガラスの靴を履き、
少女は恐る恐る、しかし確実にシンデレラへの道を進み始める。
【方針】
元の世界へ戻るためのヒントを探したい。
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投下終了しました。
自案の候補作でも示したつもりですが、クトゥルフ関連の原作を集めるというよりも、
それぞれの作品をアーカムの大枠に当てはめていく形で進めていきたいと考えています。
クトゥルフは敷居が高いと身構えずに気軽に参加していただけたらと思います(もちろん神話関連作品は歓迎です)。
募集期間についてですが、ひとまず4月末までを想定しております。
参戦主従数は14〜20+α(エクストラクラス)となる予定です。
参加あるいは質問ご意見等、お待ちしております。
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新しい聖杯戦争スレだ!スレ立て乙です!
それでは投下させていただきます!
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「しずけき森の上、輝ける星一つ」
屋根裏部屋。
灰と煤と埃に塗れた小さな小さな部屋の中。
一人の少女が踊っていた。
ボロボロのドレスをかざすように、鏡の前で小さくステップを刻む。
「愛の歌、奏でる……うふふ……!」
大きな音は立たない。
少女は毎日の慰みのために、音を立てずに小さく体を動かす術を身につけていた。
フフ、と妖しく笑いながら踊り続ける。
「おはよう、プリンセス・ローズマリー」
少女は鏡の中に移る華美な衣装を纏った高貴な姫君、『プリンセス・ローズマリー』へと恭しく頭を下げた。
姫もまた、恭しく少女へと一礼する。
瞬間、少女は表情を固めた。
その礼が、姫君とは思えない野暮ったいものだったからだ。
しかし、少女は直ぐ様に表情をやわらげた。
「私はプリンセス・ローズマリー、本当はお姫様なの」
少女、『ローズマリー・アップルフィールド』は虚ろな笑みを浮かべながら呟いた。
鏡に写るものはボロのドレスを翳すローズマリー自身だ。
高貴なる姫君などでは、決してない。
しかし、ローズマリーは笑って、くるりとターンを刻んだ。
「明日はきっと、お城から王子様が迎えに来るわ」
誰にも言えない、恥ずかしい夢想。
しかし、この煤に塗れた部屋はローズマリーの王国。
この瞬間だけは、『孤児院からメイドとして身請けされた』『ローズマリー・アップルフィールド』は消える。
『プリンセス・ローズマリー』だけがこの場に居るのだ。
いつか自身を救い出す王子様を夢想しながら、ローズマリーはボロボロのドレスを翳した。
「みんな、私が本当のお姫様だって知ったら……うふふ……」
ローズマリーは笑った。
これは、少女が現実の辛さから見つけだした自慰だった。
姫に与えられるはずの賞賛の声はなく、代わりに嘲りの声もなかった。
◆
-
「ローズマリー! 早いところ片付てしまいなさい!」
メイド長の声が響き渡る。
ローズマリーは一度ビクリと体を震わせ、直ぐ様にかけ出した。
そして、伺うように顔を上げる。
「はい、ただいま!」
半ばひったくるように差し出された洗濯物を受け取る。
俊敏な動きを努めて、ただ、今ある仕事を終わらせようとする。
「……ローズマリーも変わったわね」
「そうね」
「ここに来たばかりの頃は、泣いてばかりだというのに」
一人のメイドがポツリと呟く。
また別のメイドが同意の言葉を口にする。
しかし、そこに安堵の色はなく、半ば不気味なものを見るような顔をしていた。
メイドの言葉の通り、ここに来たばかりのローズマリーといえば、泣いていてばかりだった。
だというのに、今のローズマリーの目に涙はない。
代わりに、どこか不気味な笑みだけがあった。
「毎夜毎夜、屋根裏で何をしているのかしら……」
「貴方も気づいてるの?」
「気づかないわけ無いでしょう。
気づいてないのなんて、使用人に興味のない旦那様達と、本人ぐらいなものよ」
気味の悪いものを見る目で、仕事に取り掛かるローズマリーを見つめる。
気づかぬは本人ばかり。
今日の辛い仕事を乗り越えれば、明日には王子様が迎えに来る。
メイド服を纏った少女は、夢想に浸る日々を送っていた。
「……あら?」
そんな日々の中で、ローズマリーは一つの小さな鍵を見つけた。
小さな、小さな、銀の鍵。
汚れはない。
ローズマリーは首をかしげ、辺りを見渡す。
分かりやすい印のようなものはない。
ローズマリーは銀の鍵を持ち、メイド長へと駆け寄った。
「あの、これが落ちていました……」
「鍵、ですか。
……分かりました、戻しておきましょう」
メイド長は入って日の浅いローズマリーに、疑いの目を向ける。
言うならば、何か盗みを働いたのでは、といった疑いだ。
しかし、それならば馬鹿正直に鍵を届けはしないだろう。
メイド長は懐に鍵をしまい、ローズマリーに仕事の続きを促した。
◆
-
「ナージャ?」
ある日、ローズマリーは言いつけられた仕事の帰りに街角で一人の少女を見つけた。
孤児院アップルフィールドで寝食を共にした少女が、街角で踊っていたのだ。
ナージャ・アップルフィールド。
旅劇座『ダンデライオン』の踊り子である。
「ナージャ!」
「ローズマリー!」
二人は駆け寄る。
お互いに孤児院を出、離れ離れになっていた。
ローズマリーにとって、ナージャは騎士だった。
『プリンセス・ローズマリー』という妄想に付き合ってくれる、優しい騎士だった。
ローズマリーは微笑んだ。
その微笑みの中には、隠し切れない優越感があった。
ローズマリーにとって、ナージャは騎士であり、自身に仕えるものだからだ。
「お母さんを探している?」
「うん、このまま旅を続けて、踊ってたら、お母さんが見つかるんじゃないかなって」
その言葉を聴いた時、ローズマリーは顔には神妙な表情を貼り付け、心の奥で笑った。
嘲り。
明らかにナージャを下と見なければ出ない笑みだ。
『可哀想なナージャ。こんな広い世界で、お母さんなんて見つかるわけないのに』
その心底の嘲笑がそっくりそのまま自身の夢想に返されることに、ローズマリーは気づいていない。
プリンセス・ローズマリー、そんな妄想が現実になることなんてない。
「……あら?」
そんなナージャとの語らいの中で、ローズマリーは一つの小さな鍵を見つけた。
小さな、小さな、銀の鍵。
汚れはない。
ローズマリーは首をかしげる。
分かりやすい印のようなものはない。
「ナージャ、これは貴方のもの?」
「えっ、知らないけど……なんだろう、これ?
みんなのものかなぁ?」
そう言って、ナージャはローズマリーから銀の鍵を受け取った。
ローズマリーは立ち上がる。
そろそろ戻らなければ、大目玉を食らうハメになる。
幾度か言葉を交わし、ナージャはハッとする。
そして、顔を緩め、片膝を付いた。
「それではプリンセス・ローズマリー、名残惜しいですが、しばしのお別れです」
「ええ、私のナイト、ナージャ。貴方もお母様と会えるよう、私も祈っているわ」
嘲笑に親しい笑みであることをローズマリーは自覚していなかった。
そして、同時に、ナージャへと渡した『銀の鍵』が先日拾った鍵と全く同一のものであることに気づいていなかった。
◆
-
「……ナージャ?」
ローズマリーは、ナージャと何度も会話して、数日が経った頃。
ゴンザレス家の嫡男の誕生パーティー。
『ローズマリーの考える』本来ならば、ローズマリーは着飾ってこのパーティーに出なければならない。
しかし、それはあくまで『ローズマリーの夢想』にすぎない。
自身はメイドのひとりとして、貴族階級へとへつらい、パーティーを動かさなければいけない。
誰も知らないだけだ、私はプリンセスなのだ。
そんな馬鹿らしい夢想で日々を耐えていたローズマリーは、しかし。
目の前に着飾った少女の姿を見て、言葉を失った。
「そんな、ナージャ、なんで……」
脚から力が抜けてしまったかのように、後ずさる。
廊下の壁にもたれかかり、着飾った少女を見つめる。
特徴だけならば自身とよく似ていた少女だが、その少女は自分ではない。
見下していたはずの少女、ナージャ・アップルフィールド。
ローズマリーが焦がれる、貴族のパーティーに。
自身の親友が立っていた。
「……ッ!」
ローズマリーはかけだした。
自身の世界へと飛び込む。
あそこでならば、ローズマリーはプリンセスでいられる。
仕事を放棄し、この邸宅から放り出されることを考えもしない。
ただ、屋根裏部屋へと向かった。
「はぁ……はぁ……!」
息を切らしながら、ローズマリーは屋根裏に駆け込んだ。
そして、乱暴にボロのドレスを取り出し、ドレスを翳す。
うつろな笑みを浮かべながら、いつもの言葉を口にした。
「私はプリンセス・ローズマリー、私は、プリンセス……!」
つぶやき、つぶやき、つぶやき。
蝋燭の火が堕ちた。
暖かな明かりが消え、冷たい月の光が差す。
鏡に写っているものは、いつもの華美なドレスを纏ったローズマリーではなく。
みっともなくボロを翳したローズマリーが居た。
ローズマリーは膝から崩れ落ちる。
「あっ……あ……」
口から、言葉とならない音が溢れる。
すると、鏡にナージャの姿を幻視した。
美しく着飾った、自分ではない少女が居た。
『私はナージャ。プリンセス・ローズマリー、貴方のナイトでございます』
ローズマリーは歯を食いしばった。
鏡の中のナージャは恭しく頭を垂れている。
-
『私はナージャ。プリンセス・ローズマリー、貴方のナイトでございます』
『私はナージャ。プリンセス・ローズマリー、貴方のナイトでございます』
『私はナージャ。プリンセス・ローズマリー、貴方のナイトでございます』
繰り返される幻聴。
ローズマリーが、キッ、と鏡を見つめた。
すると、鏡の中のナージャが顔を上げた。
嘲笑を、浮かべていた。
「うわあああああああ!!ああ!あああああああああああ!!!」
ガシャン、と激しい音が立つ。
ローズマリーが鏡を壊したのだ。
鏡の破片が周囲に散らばる。
散らばった鏡の欠片は、いびつにローズマリーの姿を映した。
「もし、お嬢さん」
そんな時だった。
背後から声が響いた。
男が立っていた。
漆黒の肌をした、奇妙な男だった。
ローズマリーは、周囲に散らばった鏡の欠片がその紳士を写していないことに気づいていなかった。
「これを拾ったんだが、家主に届けてもらえるかね?」
漆黒の紳士はそう言った。
明らかな、異常だった。
ローズマリーに銀の鍵を渡そうとしている。
偶然を装うにしても、もっと方法があるはずだ。
しかし、ローズマリーはその鍵を受け取った。
銀の鍵は、ローズマリーの手にあるべきだったと、気づいたからだ。
鏡の破片が散らばり、まるで鍵穴のような形に広がっていた。
何の意味もわからず、ただ、そうしなければいけないと思いながら。
ローズマリーは鏡の破片が形作った鍵穴に鍵を挿し当てた。
◆
-
覇王の卵が割れる。
すなわち、世界が割れる。
『ここではないどこか』に繋がる。
溢れだす。
溢れだす。
魔の歪。
世界の邪。
国など、必要ではなかった。
俺が本当に欲しかったものは。
嗤った。
嗤った。
嗤った。
血が堕ちた。
肉が零れた。
懐かしい顔が消えた。
そうか、そういうことか。
俺は狂ったのか。
いや、狂っていたのか。
あるいは、別に狂ってなどいなかったのか。
もはや、俺のことなど、どうでもいい。
俺が見つけたものは――――
冒涜的で、名状しがたき、世界の真実。
――――英雄グリフィスは死に、黒い卵が世界に現れた。
◆
-
「私はプリンセス・ローズマリー」
ローズマリーは寂れた小屋の中で、鏡を前にしてくるりと回った。
顔には真実の笑みがある。
嬉しそうに形作った、嫉妬で狂った笑みだった。
「ねえ、王子様」
ローズマリーは背後に控える端麗な青年へと声をかける。
色を忘れてしまったような、白い青年はローズマリーの問に応える。
柔らかな羽毛のような、銀と言うよりも白に近い、しかし、白髪と呼ぶには瑞々しい髪が揺れる。
鏡越しに、ローズマリーはうっとりと息を呑んだ。
恐らく、全ての少女が憧れるであろう容姿をした男。
鎧に隠した肉体は細く見えるが、確かに覗ける指先などから、単なる優男でないことがわかる。
「……なにかな、プリンセス・ローズマリー」
魂を優しく撫でられたような、名状しがたい恍惚がローズマリーに走る。
笑みを深めた。
プリンセス・ローズマリー。
そうだ、自身こそがプリンセスなのだ。
そして、自身に仕えるこの美男こそが王子様なのだ。
『プリンセスではない』ローズマリーを救い出すために現れた、王子様なのだ。
「私、貴方の事好きよ」
「光栄の至りで」
容姿端麗な騎士――――グリフィスは優しく微笑んだ。
ローズマリーも微笑みを返した。
装飾の施された、華美なサーベルが翻る。
そして、ローズマリーへと捧げられる。
この少女は、性感をくすぐるような動作を行っていないというのに、人生で初めて絶頂へと至った。
言ってしまえば、この騎士であり王子である美男子こそが、少女にとっての最上の媚薬であった。
夢想家の少女を桃源の恍惚へと至らせるに足る、あまりにも強すぎる刺激だ。
「強くて、優しくて、かっこよくて――――」
捧げられたサーベルを見下ろしながら、ローズマリーは呟いた。
そして、恍惚に染めた顔をそのままに、言葉を続けた。
「でも、それだけじゃ幸せになんてなれないのよ」
「……」
「私は血に染まった剣が欲しいわ、王子様。
私の王国を壊そうとする、蛮族を払いのけた剣が欲しいの」
「御心のままに……俺と、俺の剣達が貴方の王国を築いてみせよう」
ローズマリーの望みとは、すなわち自身を姫とする世界。
自身を正当な血統とする気高い王国。
ローズマリーが姫であり、グリフィスが王子である王国。
夢想を現実へと変えるもの。
「楽しみにしているわ……ふふ……」
ローズマリーは笑った。
グリフィスは跪き、顔を伏せ、ローズマリーに悟られないように――――嗤った。
――――首元からかけられた卵が、喘いだ。
-
【クラス】
セイバー
【真名】
グリフィス@ベルセルク
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:A 宝具:EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:D
工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
カリスマ:A
大軍団を指揮・統率する才能。
Aランクともなれば、大国を率いるに十分なランクである。
このカリスマを裏切ることで、卵は孵化する。
軍略:A
多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。
自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。
すなわち、自軍を特定の状況に誘導する才能である。
まつろわぬ英雄:A
物語に帰順しない英雄。
死ぬことで物語の上でだけ讃えられる英雄こそが良き英雄であり、平和な世をただ生きる英雄は悪しき英雄である。
真名を看破するスキル・宝具を無効化する。
また、自身と関わる全ての人間に、自分が刻んだ歴史を偽ることが出来る。
――――曰く、『英雄』グリフィスと鷹の団は、乱心の末に討伐されたとのこと。
【宝具】
『鷹の団』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:∞
セイバーであるグリフィスの剣。
NPC、マスター、サーヴァントを問わず、グリフィスに忠誠を誓った者は、鷹の団としての属性が付与される。
ただし、鷹の団への所属はグリフィスのスキルの影響下に置かれるのみであって、特別に強化されることはない。
しかし、彼らの翼は高く羽撃くためではなく、もぎ取られ贄となるために存在する。
『深紅に染まった卵は戻らない(ベヘリット)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:鷹の団一帯 最大補足:全ての『鷹の団』
ハンプティ・ダンプティが塀に座った
ハンプティ・ダンプティが落っこちた
王様の騎士と家来の全部がかかっても
――ハンプティを元に戻せなかった――
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【weapon】
『サーベル』
装飾の施されたサーベル。
【人物背景】
『鷹の団』、『新生鷹の団』・団長。
『白い鷹』の異名を持つ貴公子然とした騎士で白銀の長髪を持ち、純白のマントを羽織る。
柄に宝石を埋め込んだ業物のサーベルを愛用する。
容姿、知略、剣技、指揮、人望、統率力等のあらゆる面において並ぶ者がないとさえ謳われる天才。
時折、子供のような無邪気な言動をする反面、鋭い洞察力と人心を掌握、操作する才能に長けるが支配欲が強く、
一度手中にしたものを失いかけると、表情にこそ出ないが激しい執着を見せる。
平民出だったがいつしか自分が世に生を受けた意味と意義を問い、『自分の国を持つ』という壮大な夢を持つに至って傭兵団『鷹の団』を結成。
数々の戦での常勝無敗の戦功と、権謀術数を駆使することで、一介の傭兵団長からミッドランド貴族階級に列されるまでに伸し上がる。
百年戦争終結時には戦功が讃えられ『白鳳将軍』の地位を与えられる予定だった。
しかし、グリフィスの中で無二の存在となっていた『ガッツ』の退団の意思を、
決闘をもって翻意させようとするも敗れ、自暴自棄に陥る。
そして、王女と密通、処女を奪ってしまう。
見回りの折にそれを目撃した侍女の密告ですぐにミッドランド国王に露見し、国の反逆者として牢獄に閉じ込められ、虜囚となる。
1年後に鷹の団残党の働きで牢獄から救助されたが、長期に渡る拷問によって再起不能となる。
『英雄』グリフィスの末路は哀れなものであったと、長く語り継がれることになり、堕ちた英雄の代名詞ともなる。
【サーヴァントとしての願い】
冒涜的で名状しがたき願い、ただ、その時を待つだけである。
【基本戦術、方針、運用法】
他者と接触し、自身のカリスマ性を持って『鷹の団』を形成する。
そして、その鷹の団を捧げるのである。
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【マスター】
ローズマリー・アップルフィールド@明日のナージャ
【マスターとしての願い】
自身がプリンセスとなれる王国を手に入れる。
【weapon】
なし
【能力・技能】
演技力に長ける。
【人物背景】
明日のナージャの主人公『ナージャ』と同じアップルフィールド孤児院で育った女の子。
そのため、フルネームは『ローズマリー・アップルフィールド』。
ウェーブのかかった金髪に赤いリボン、青い瞳など、一見するとナージャと同じ特徴を持つ。
幼い頃からプリンセスとなることを強く夢見ており、幼い頃はナージャとプリンセスとその従者のごっこ遊びをしていた。
スペインではゴンザレス家でメイドとして惨めな下働きの日々を送りながらもナージャとの再会を喜ぶが、
後にナージャが自分の思い描くプリンセス(貴族の娘)だったという真実を知ってからは、
激しい嫉妬と黒い欲望を持つには十分な動機だった。
そして、願いを叶えるために周りの人間を傷付ける事も陥れる事も厭わなくなる。
逆恨みめいた憎しみを晴らすべく、ナージャと同じ金髪碧眼である事を活かし、
持ち前の演技力でナージャに成り済まし、彼女を苦しめ、自身がプリンセスに成り代わろうと画策するが、
全てを手に入れたと思い込んでいた彼女に待っていたのは夢見ていたプリンセスの生活では無く、
腐敗した貴族社会の現実だった。
身が偽者である事が露見してしまった際には、追い出される前に自ら屋敷を出て行くことを宣言し、
最後はナージャに全てを返して自分の夢を掴み取る為に旅立った。
最後まで開き直った態度を取り続け、ナージャとは最後の最後まで和解には至らなかった。
【方針】
王国を築く。
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投下終了です
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今回グリフィスのステータスは、聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚の登場話候補SSを参考にさせていただきました
ttp://www63.atwiki.jp/tokyograil/pages/137.html
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皆様投下乙です
自分も投下させていただきます
今回の拙作は、「聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚」に投下させていただいた登場話候補SSを、
本スレ向けにセルフリメイクしたものになります
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川のせせらぎのその脇で、ひときわ賑わう場所がある。
商店が立ち並ぶ商業地区は、地方都市アーカムの中でも、特に活気に溢れた場所だ。
客引きと雑踏の音に満ちた、そんな商店街の道を、1人歩く青年がいた。
少し伸ばした髪は、黒い。どことなく女性的な顔立ちは、東洋人のそれだろうか。
髪をさらさらと揺らしながら、右へ左へと向けられる視線は、随分と物珍しそうに、街並みを見渡しているようだった。
「ヘイ、そこの君、ちょっと」
そこへ、声がかけられる。
背後から聞こえてきた男の声に、黒髪の青年は振り返る。
「すまないが、少し話してもいいかな。こういう者なんだけどね」
後ろから呼び止めてきたのは、赤髪を丸めた若い男だ。
差し出してきた警察手帳には、ビリー・モーガンという名前が書かれていた。
纏っているのは制服ではない。私服警官というやつらしい。
「はぁ。何か用ですか?」
「いやなに、実は最近この辺りで、スリの被害が多発しているんだ」
賑やかで買い物客の多いところだからねと、赤髪の警官は青年に言う。
「それで今はこうやって、パトロールをしているんだよ。……君、名前は?」
「真壁一騎です」
「アーカムには観光で?」
「いえ、リバータウンに住んでますけど」
「本当かな。ちょっと持ち物を見ても?」
きょろきょろと周りを見回していた視線を、獲物の品定めと見られたのだろうか。
警官は半ば強引に、青年――真壁一騎から了解を得ると、彼の手荷物を調べ始めた。
ややあって、ため息と共に手が止まる。怪しいものは出なかったらしい。
「何もなし……か。邪魔をして悪かったね。ただ、あまり怪しまれないようにした方がいいよ」
そう言って手荷物を返すと、若い警官は笑顔を浮かべて、足早に一騎の前から立ち去っていった。
ようやく職務質問から解放された一騎は、ふぅとため息をついて肩を落とすと、再びリバータウンへの帰路につく。
そうして騒がしいマーケットの中を、少しばかり歩いた後。
『――忘れ物だよ、一騎』
頭に直接響く声と共に、ポケットに何かが落ちる感触がした。
歩く足をぴたりと止めて、何だろうとズボンを探る。
出てきたものは財布だった。それも見覚えのある、自分の財布だ。
咄嗟に手荷物を確認すると、確かに財布がなくなっている。
先ほど買い物した時には、間違いなく持ち歩いていたはずだ。となると一体この財布は、どこでここから動いたのか。
『……そっか、取り返してくれたのか』
答えはすぐに出た。先ほどの職務質問の時だ。
あのスリを探していた警官は、そう名乗っているだけの偽者で、実は彼こそがスリだったのだ。
得心のいった一騎は、脳裏の声に、自らも心で声を送る。
『不用心だな。今のが他のマスターだったらどうするのさ』
『そうだな。これからは気をつけるよ』
微かに不機嫌そうな響きのこもった声に、一騎は素直に従う意を示す。
それでも、軽い様子が気に食わなかったのか、声は小さく唸ったかと思うと、それきり沈黙してしまった。
機嫌を損ねてしまったらしい。一騎は苦笑を浮かべると、再び道を歩み始めた。
財布をしまう左手の甲には、赤い何かが塗られているように見えた。
-
◆
アーカムは騒がしい街だ。
リバータウンは落ち着いているものの、商業地区や都市部ともなれば、人混みにめまいすら覚える。
生まれてこの方19年、ずっと島暮らしをしてきた人間にとっては、少々落ち着かない場所だった。
「東京なんかも、こうだったのかな」
今となっては知る由もないが、失われた日本の都会とは、こういうものだったのだろうかと。
アパートの窓から街並みを眺め、真壁一騎は独りごちた。
「一騎は、この街が嫌いなの?」
「思ってたよりも、居心地はよくないな……なんというか、ざわざわする感じだ」
言葉にしにくい感覚を、手探りで手繰るかのように。
痕の残る左手を、握ったり開いたりしながら、一騎は問いかけに答える。
部屋の奥から聞こえた問いは、先ほど頭に響いたのと同じ声だ。
同席者は黒いフードを頭にかぶった、 小柄な少女の姿をしている。
老人のような白髪と、闇に溶け込むような褐色肌が、どこかぼんやりとした印象を与えていた。
「それに聖杯のことを考えると、な」
「じゃあ、一騎は聖杯が嫌いなんだ」
真に受け入れがたいのは街よりも、街を作り出した存在なのか、と。
少女の問いかけに対して、一騎は沈黙で肯定する。
聖杯がいかな存在であるのか――直接会ったことのない一騎にとっては、それは想像するしかない。
それでも、人々を結界に閉じ込め、殺し合いを強いる行いは、彼にとっては間違いなく悪だ。
「俺は今まで、たくさんの死を見てきた」
まだ高校生にもなっていない、幼かった友の死を。
生まれてくる子供に会うことも叶わず、戦場に散っていった男の最期を。
「だから、身勝手に命を弄ぶ奴を、俺はどうしても好きになれない」
それらの無念と後悔の記憶が、一騎に嫌悪を抱かせる。
彼らが求め続けた明日を、叶わず届かなかった未来を、嘲笑い奪い去るものを、悪しき存在だと断定させる。
語る一騎の手に力が籠もり、ぎゅっと握り拳を作った。
「それでも、一騎はここにいる」
聖杯の性質を嫌いながらも、聖杯戦争の場に招かれている。
その時は知らなかったとはいえ、聖杯の持つ願望器の力に、少なからず惹かれていると。
「聖杯の持っている力を、一騎はどこかで欲しがってる」
「……多分、そうなのかもな」
遠慮のない少女の指摘に対し、一騎は、苦笑気味に答えた。
「他人を傷つけたくはない……そうまでして生き残りたいとは思えない。俺はそう思ってるつもりだった。
だけど多分、それだけじゃないんだ……理屈じゃない根っこの部分では、それでも生きたいって思ってるんだ」
真壁一騎の肉体は、限界まで酷使されていた。
侵略者フェストゥムと戦い、同化現象に蝕まれ、身も心もボロボロにすり減っていた。
表面的な症状こそなくなったが、蓄積されたダメージは、決してごまかせるものではない。
齢19歳にして、既に真壁一騎という青年は、残り3年の命だと告げられているのだ。
「やっぱり、言えないよな。生きたくないなんてことは」
それが恐ろしくないなんて嘘だ。
あれほど目の当たりにしてきた死を、達観し完全に受け入れるなど、到底できることではなかったのだ。
だからこそ一騎は、心のどこかで、奇跡の存在に期待した。
その心が銀の鍵を引き寄せ、アーカムへの扉を開かせたのだ。
たとえその先端が、肉を貫き血に染まる、赤い鏃であったとしても。
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「分かるよ」
と、少女は言った。
意外にも黒ずくめの少女が口にしたのは、素直な肯定の言葉だった。
これまでの様子が様子だっただけに、一騎は驚きの色を込め、瞳を少し丸くする。
「どれだけ痛くても、苦しくても……それでも生きたいって気持ちはなくならないし、それに嘘はつけないんだ」
私は痛み以上の喜びを、生きていく中で知ったから、と。
そう話す少女の語り口調は、相変わらず静かなものだった。
それでもどこか、その言葉には、今までのそれにはなかった温度が、微かに感じられる気がした。
であれば、それは本音なのだ。
隠しも偽りもできない、この少女の本心からの言葉なのだ。
それを聞いて、一騎は初めて、この少女のことを理解できた気がした。
「……俺、君のことを誤解してた。君もそこにいたかったんだな」
静かで儚げな様子は、無関心の表れだと思っていた。
かつての自分がそうだったように、ここにいることに執着がなく、むしろ消えてしまいたいのだろうと思っていた。
それでも、違った。彼女もその場所にいたがったのだ。
生きることを肯定し、精一杯に生きたいと願い、最期まで生き抜いた命だったのだ。
それを知って安心して、一騎は穏やかな笑顔を浮かべた。
「私も一騎と一緒だよ。生きていたいと思ったし……生きてほしいと思う人も、いる」
「だったら俺達は仲間だ。俺がこれからどうするにしても、君の手を借りなきゃならない時は、きっと来るんだと思う」
無茶の利かない身の上だから、自分独りではできないことが、山ほどあることは理解していると。
そして仲間が君であるなら、迷いも躊躇いも感じることなく、命を預けることができると。
「だから、その時は頼むな、アーチャー」
真紅の紋章が刻まれた、左手の甲を返しながら。
頼りにさせてもらうから、と、一騎は少女へと言った。
まるで友人にかけるような、気さくで、信頼に満ちた言葉だった。
「うん」
弓兵の名で呼ばれた少女は、一騎に対して短く返す。
アーチャーのサーヴァント――名を、ストレングス。
遠きアザトースの庭を追われ、人界の地獄へと堕とされながら。
傷を負って世界を知っても、それでも生きたいと願った少女。
大切な友と半身を、命に代えても救いたいと願い、懸命に手を伸ばした少女。
彼女は死と転生の果てに、再び人の世へ降り立ち、戦うことを決意する。
新たに巡り会った仲間の命を、その手でもう一度繋ぐために。
たとえ新生したこの存在が、得体の知れない仄暗い何かに、仕組まれたものであったとしても。
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【マスター】真壁一騎
【出典】蒼穹のファフナーEXODUS
【性別】男性
【マスターとしての願い】
「生きたい」。聖杯の奇跡に願えるのなら、死の運命を覆したい
【weapon】
なし
【能力・技能】
家事
男所帯で家事を一手に引き受けているため、高いスキルを有している。
特に料理の腕は一級品で、手製の「一騎カレー」は島の名物になっている。
身体能力
本来は天才症候群の影響もあり、オリンピックの金メダルを総なめにできると言われるほどの素質を持っていた。
しかし体力が衰えた今では、その身体能力は失われている。
【人物背景】
宇宙から飛来したシリコン生命体・フェストゥムから、人類種を存続するために作られた人工島・竜宮城。
その唯一の喫茶店である「楽園」で、調理師のアルバイトをしている、19歳の青年である。
かつては対フェストゥム兵器・ファフナーを操縦するパイロットだったが、現在は第一線を退いている。
現在でこそ穏やかな物腰をしているが、過去に親友の皆城総士を傷つけたことから、
かつては強い自己否定に囚われており、近寄りがたい雰囲気を放っていた。
以来総士とも疎遠になっていたが、紆余曲折の末に分かり合い、性格も現在のように軟化している。
乗機であったファフナー・マークザインに蝕まれ、文字通りボロボロになりながらも戦い、パイロットとしての職務を全うした。
既に余命3年を宣告されており、彼は誰よりも強さを認められながらも、誰よりも安息を望まれていた。
しかし運命だけはそれを望まず、彼を新たな戦いへと誘おうとした。
本来の歴史に沿うならば、彼は聖杯戦争に招かれた日の翌日、再びフェストゥムの襲来に直面することになっている。
【方針】
未定。
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【クラス】アーチャー
【真名】ストレングス
【出典】ブラック★ロックシューター(TVアニメ版)
【性別】女性
【属性】中立・中庸
【パラメーター】
筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:C
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ストレングスは人間・神足ユウとして、長きに渡って人間世界に留まり続けた。
この経歴にもとづきストレングスは、破格のランクを保有する。
ただし自力で魔力を生成することはできない。
【保有スキル】
怪力:C
一時的に筋力を増幅させる。本来ならば魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
幻術:D
魔術系統の一種。
ストレングスは人間世界にいた間、このスキルで他者の認識を操作し、自らの存在を溶け込ませていた。
ただしサーヴァントに対してはほとんど効果がない。
アンノウン:E
逸話なき英霊。
人の世に語り継がれることのない、夢の世界に生きたサーヴァント。
そのためストレングスは、真名を看破されることによるデメリットをほとんど持たないが、
代償として知名度によるパラメータ補正をほとんど受けられなくなる。
夢魔:???
この世は黒き玉座につく、原初の神が見た夢である。
ゆえにこの聖杯戦争において、夢の住人であることは、特別な意味を持っているとされる。
ストレングスはこのスキルにもとづき――【検閲・閲覧不能】。
-
【宝具】
『掴み、明日へ繋ぐために(Orga Arm)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:30人
ストレングスの体躯をも凌ぐ、巨大なサイズを有した機械腕。
四本指の先端は機関銃となっており、この宝具こそがストレングスをアーチャーたらしめている。
上述した射撃戦闘のほか、大質量を活かした格闘戦に用いることも可能。
平時は両手に装備する二本腕だが、最大駆動時には四本腕に増やすことができる。
『遥か遠き故郷(ウツロのセカイ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:50人
かつて神足ユウが「虚の世界」に有していたテリトリーを、擬似的に再現する固有結界。
マグマの海を見下ろす、浮遊した巨大なルービック・ミラーブロックス。
この足場はストレングスの意志によって自在に変形し、彼女が有利な位置取りをする助けとなる。
それ以上の効果は一切なく、あくまで得意な戦闘エリアを形成するための宝具。
しかし夢というあからさまな「異界」の出現は、相手マスターには大きな精神ダメージとなるだろう。
【weapon】
なし
【人物背景】
人の夢の向こうに広がる、痛みと苦しみが具現化された「虚の世界」。
ストレングスは、神足ユウという少女が虚の世界に生み出した、もう1人の神足ユウである。
本来は感情を持たず、本能のままに戦う存在であったが、
唯一ストレングスには、ユウの尋常ならざる苦痛や悲嘆に引きずられる形で感情が発現。
それに目をつけたユウによって、人格を交代させられ、自身は人間世界のユウの肉体へと移されてしまった。
その後10年以上に渡って、女子中学生の姿のまま、人間世界に留まり続けていたが、
その中で友人となった黒衣マトが、虚の世界絡みで抱えていたトラブルを解決するために、
彼女を虚の世界へと誘うことを決断する。
しかし目論見は失敗し、マトともう1人のマト・ブラック★ロックシューターは暴走。
責任を感じたストレングスは、友を救い出すために、ユウに奪われた本当の肉体と同化し、虚の世界へと舞い戻った。
しかし戦闘の最中、ユウに肉体の主導権を奪われたことにより、戦況は最悪の方向へと進行する。
このままでは何も解決しないと考えたストレングスは、自滅を選ぶことで、ユウを虚の世界から、現実世界へと送り返すことを決断。
戦いの中で致命傷を負い、最後の力もマトへと託したストレングスは、人間世界で知った生きる喜びをユウへと伝え、消滅した。
かつて虚の世界にいた頃の肉体は、現在よりも貧弱なものだったが、
本聖杯戦争においては、年月を経て強化された肉体を、ユウから引き継いでいる。
また、ユウが人間世界へ戻った後に生まれた、新たなストレングスとは別の個体である。
【サーヴァントとしての願い】
強いて言うなら、ユウやマト達の幸せを願いたい
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投下は以上です
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某企画の再投下となりますが、投下します
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小さな村に一つの噂があった。
村の外れに住んでいる老婆はとても頭がよく、こちらの思うことをピタリと当てるという。
小さな村に一つの噂が立った。
曰く、村の外れに住んでいるあの老婆は『魔女』ではないか。
噂はどんどん広まり、村中の人が老婆を恐れた。
噂を耳にした神父がこう言った。
「魔女は水に嫌われるものです。池に投げ込み、浮かんできたなら魔女、沈めば人間です」
村人はそれを聞き、老婆を池に投げ込んだ。
老婆は必死に泳ぎ、岸にたどり着いた。
村人は『魔女』を火あぶりにして殺した。
小さな村に一つの事件が起きた。
山道の入り口で村長の一人息子が獣に噛まれたような傷を負って死んでいたという。
小さな村に一つの噂が立った。
曰く、山の麓で過ごしている男は人を喰らう『人狼』ではないか。
噂はどんどん広まり、村中の人が男を恐れた。
男の隣人に話を聞くとこう言った。
「あの日血に染まった前掛けを洗ってたし、肉を喰ったと言っていた」
村人はそれを聞き、男が寝ているところを見計らって『縛り首』にした。
男の部屋には新しい熊の毛皮が置かれていた。
好奇心は猫を殺す。
噂は、それの伴う恐怖と狂気は『人間』を殺す。
ある町に噂が立った。
曰く、銀の鍵で異界への扉を開けば夢がかなう。
ある者は聞き流し、ある者は血眼になって鍵を探した。
ある夜、酒場で美しい銀色の鍵を見せびらかしている男がいた。
数日後、男は正気を失った状態で発見された。
ある街に噂が立った。
曰く、かつてこの街で騒がれた猟奇殺人鬼が戻ってきた。
曰く、猟奇殺人の被害者は残らず血を抜かれていた。
曰く、殺人鬼は死神のような吸血鬼だった。
……街で、猟奇殺人など起きてないにもかかわらず。
しかしある夜、恐れと噂は形を成し、人を殺しに蠢きはじめた。
ある像はかつて街に巣食った『混沌』に『蛇』
ある像は伏せられし罪、本来ならあり得ぬ『殺人貴』
ある像は不完全ながらも魔王へと堕ちた『朱い月』
その全てが水面に映る月、一夜と果つる虚ろな鏡像。
しかし鏡像踊る『ワラキアの夜』に真実の『朱い月』が昇ったとき……『タタリ』は一個の『吸血鬼』の実像を結んだ。
吸血鬼の名は『ズェピア・エルトナム・オベローン』
稀代の錬金術師にして死徒二十七祖の一角である彼はかつて第六法という神秘に挑みこれに敗北。
その姿は霧散した――だがその霧散はズェピアの思惑通りの結末となった。
肉体という檻から解放され大気に散った霊子は意思からも解脱した為流れるまま根源たる無に落ちていき次の変換を待つのだが、生前「タタリ」という術式を完成させていたズェピアは死徒の肉体を形成していた強大な霊子を拡散しつつも世界に留まることに成功する。
ズェピアは人間が滅びるまでのスパンで「タタリ」が発生するであろう地域を割り出し、千年単位の航海図を書きその通りに己の死体が流れるルートを計算した。
無論そのルートは情勢や状況によって無限に枝分かれする一方通行のものだが――それを循環するルートへ編みかえ、意思が消えた後も霧散した自身がそれに従い移動するようプログラムした。
そしてある一定条件が満たされた時と場所で彼の霧散した霊子はその地域で発生した「噂」に収束し現世に蘇る。
くり返し くり返し 幾度も 幾度も 人の世が終わるまで、次に朱い月が昇るその時まで「タタリ」は駆動し続ける。
永い永い流転の果てに その身が第六法に辿りつくことを夢見て……
だがその夢は叶わなかった。
死徒ズェピアの見た夢は自らの継嗣と退魔の末裔に滅ぼされた。
ワラキアの夜が終わりを告げる、朱い月の光の下で……
-
☨ ☨ ☨
かつて錬金術師は夢見た。
未来を読んで、世界を運営しようと。
しかし見えた未来は『滅び』。
「カット!!」
アトラスの蔵に落ちた錬金術師は再度計算した。
滅びの未来を回避しようと狂ったように挑んだ。
計算結果はより酷い滅びの未来。
「リテイク!!」
アトラシアとなった錬金術師はあらゆる方法をシミュレートし、あらゆる対抗策を練った。
計算し、思考し、救済し、探求し、手をつくし……
その果てに『銀の鍵』で扉を開くが如く未来を覗くと、そこには名伏し難く悍ましい滅びの未来が見えた。
その瞬間、ズェピア・エルトナム・オベローンは正気を失った。
タタリとなる前の、一人の錬金術師の過去。
そして最後の瞬間、駆け巡る走馬燈。
かつて己の正気を奪っていった滅びの未来を見せた『銀の鍵』を再び幻視した。
末期の幻覚か、扉の向こうを覗くだけでなく潜ってみれば、錬金術師は新たな異界/位階へ辿りついた。
アトラスの蔵の如く魔の香り漂う知の宝庫、ミスカトニック大学。
そこから舞台に上がろうと名乗りを上げる。
「キ…キキキキキキ!!!魂魄ノ華爛ト枯レ杯ノ蜜ハ腐乱ト成熟ヲ謳イ例外ナク全テニ配給。
嗚呼是即チ無価値ニ候…蛮脳ハ改革シ衆生コレニ賛同スルコト一千年!
学ビ食シ生カシ殺シ称エル事サラニ一千!麗シキカナ毒素ツイニ四肢ヲ侵シ汝ラヲ畜生ヘ進化進化進化…進化セシメン!!!
カカカカ…カ・カ、カット!カットカットカットカットカット!リテイク!!…………我、神の子の血を以て第六法へと至らん!!」
それは宣誓。叶わぬと言われた夢にそれでも手を伸ばすという堂々たるもの。
これは開幕。脚本家(ズェピア)自ら演じる筋書き無し(アドリブ)の殺戮(ドラマ)。
「滅びの未来を越えたくば、カインの子の血と神の子の血を以て、自ら滅びに身を置け、ということか。姫君もなかなかの演出家ではないか」
大いに笑う。絶望を振り払うように。
大いに嗤う。己が運命の在り様を。
「さて、このソワレはダブルキャストのはず。私と共に踊るのは……君かな?」
問う。汝は何者なりや?
問う。自ら存在意義を問うことこそ、彼女の存在証明(こたえ)。
「ワタシ、キレイ?」
アーカムに噂が立った。
曰く、この都市には口裂け女がいる。
-
【クラス】
ライダー
【真名】
口裂け女(オロチ)@地獄先生ぬ〜べ〜
【パラメーター】
筋力C+ 耐久C 敏捷B+ 魔力D 幸運D 宝具C
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
騎乗:B+
都市伝説と言う存在、彼女をはじめとする噂に乗るライダーは騎乗スキルを持ちえないものが多い。
しかし口裂け女には乗り物を扱う逸話があるため騎乗スキルを持つ。
野獣ランクまでなら乗りこなし、都市伝説に類する存在であるならば魔獣クラスであっても乗りこなす可能性がある。
―口裂け女は赤いスポーツカーに乗って現れる―
―口裂け女は人面犬に乗ることができる―
対魔力:E
近現代の存在であり神秘が少ないことに加え、呪われたと言う逸話があるため魔なるものに対する耐性は極めて低い。
クラススキルにより最低限得た程度。無力化はできず、ダメージを僅かに軽減する。
―口裂け女の容姿は犬神憑きによるものである―
【保有スキル】
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力を1ランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
飛翔:B
空中を飛ぶ能力。赤い傘が必要と言う逸話もあるが、別になくても飛べる。
―口裂け女は空を飛ぶ―
都市伝説:A
噂で成り立つ都市伝説であるということそのもの。噂で成り立つスキルというのは無辜の怪物に近いが、最大の違いはその噂が全て真実になり得るということ。
最強の都市伝説の一角である口裂け女は最高ランクで保持する。
聖杯戦争が行われる地でその都市伝説、この場合『口裂け女』を知るものがいる限り敏捷が2ランク向上する。
噂は一人歩きするものであるため同ランクの単独行動を内包する。
このスキルが高ランクであるほど現象に近づくため、固有の人格は薄くなる。
Aランクともなればただ伝承にあるような言葉しか紡がず、思考も伴わない。
【宝具】
『承認欲求〜白雪姫の母は鏡に問う〜(ワタシキレイ?)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:上限なし
噂に乗らなければ存在できない、誰かに問わねば在り方が曖昧な口裂け女という都市伝説において最も象徴的な逸話。
「私、綺麗?」という問いに対して明確な答えを返したものと戦闘を行う場合、Cランク相当のスキル:加虐体質を獲得し、また追撃時に攻撃判定を3度追加できる。
またある意味当然のことだがこの宝具を発動した場合、マスクを剥ぎ取り裂けた口を視認したものはまず確実に『口裂け女』という真名を看破する。
吸血鬼や人狼など知名度で勝る都市伝説に対してはこの宝具は効果を発揮せず、正気度への影響ももたらさない。
『信ずる者は巣食われる〜口の裂けた赤ずきんの老婆は狼〜(ライク・ア・ナーサリーライム)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:2人
恐れ、噂するものが存在する限り膨らみ続ける都市伝説という存在に口裂け女の逸話が合わさり、昇華した宝具。『口裂け女』を知るものがいなければ効果を発揮しない。
口裂け女が口を耳まで裂いた者もまた口裂け女となる。
ステータスや宝具など全て同一の口裂け女そのものである。同時に存在できるのは3体まで。
『口裂け女』消失時、別の『口裂け女』が存在すれば邪神の魔力はそちらに流れるため、マスターが正気を失うことはない。
―口裂け女に口を裂かれた者も口裂け女になる―
―口裂け女は三人姉妹である―
『末妹不成功譚〜この灰かぶりは小鳥に出会わない〜(ポマード、ポマード、ポマード)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
三にまつわる口裂け女の噂と、三と言う数字の神秘性、末子成功譚の逆を行く逸話が宝具と化したもの。
シンデレラ、三枚のお札、三匹の子豚など3つ目、もしくは第三子が成功するというのは世界中で散見されるモチーフである。
しかし口裂け女は三女であるにもかかわらず、交通事故や手術の失敗など要因は違えど一人だけ口が裂ける結果となったと噂される。
またポマードやハゲ、べっこう飴などと三度唱えると逃げ出すという噂もあり、三位一体をはじめとする聖なる数字3は口裂け女にとっては失敗をもたらす数である。
『口裂け女』に対する全てのスキル・宝具を三度目に無効化できる。
なお四度目、五度目には通常の効果を発揮し六度目に再び無効化できる。
また「ポマード」など前述の文言を唱えた場合幸運判定を行い、失敗した場合1ターン瞬間的動揺状態になる。
ただし加虐体質のスキルを獲得している場合判定の成功率は上昇し、この効果も三度目には無効化される。
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『悪夢は寝て見ろ〜狂えるお茶会でアリスは目覚めない〜(ドウモリ・ハロウィンナイト)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
悪の究極妖怪、オロチであることそのもの。
本来は周囲の妖怪を取り込んで己が一部に変換、より強力な妖怪へと進化していく宝具。
しかしズェビアの固有結界『タタリ』が噂によって最恐の存在に姿を変えるものであること、かつて再誕したのが霊気によってさまざまな妖怪を再現できる機械を利用したものと近似しておりその影響を受ける。
『噂にある最強の妖怪』へと姿を変える宝具となってしまった。
それにより今は『口裂け女』になっているため、それ以上の効果の発揮は今のところ見込めない。
ワラキアの夜は明けた、しかしもしかすると妖怪をとり込むこの宝具なら……?
【weapon】
『刃物』
口裂け女は様々な刃物を使うと言われる。ナイフ、鋏、メス、鎌、斧から日本刀まで。
魔力消費により様々な刃物を生成可能。
【人物背景】
学会を追放された科学者、百鬼久作の手により復活した大妖怪。
その復活をぬ〜べ〜およびその生徒が阻もうとしたために百鬼は口裂け女やはたもんばなど多くの妖怪を産み出し、障害とした後にその妖怪をオロチ復活の糧とした。
復活には成功したのだが、善の究極妖怪ケサランパサランに敗北、消滅した。
その大妖怪が、伝説上の存在であるため噂に乗るライダーとして再現された……のだが変質した宝具の効果により本来とは異なる姿となる。
『噂に聞く最強の妖怪』、その器としてかつて取り込んだ都市伝説上の妖怪『口裂け女』の姿をとっており、その逸話の大半を再現している。
口裂け女は1980年ごろ日本で流行した都市伝説。後には韓国にも伝わっている。
子供が媒介の中心だったゆえか次々と逸話が盛られ物理的な強さは相当なものと噂される。
ターボババアのように速く、ひきこさんのように力強く、赤マントのように神出鬼没で、猿夢のように不滅で、くだんのように理不尽で、人面犬のように異形な都市伝説。
くねくねが最狂ならば口裂け女こそ最強の都市伝説ではなかろうか。
さながら吸血鬼のように、強みと同じく多くの弱みを持つ都市伝説、その具現。
口裂け女は近現代の存在であり神秘はさほどではない。
しかしオロチの神秘は膨大なものである。
その完全な再現が為されなかったのはオロチ≒九頭竜(クトゥリュウ)の再現が何らかの形で抑止されたためかもしれない。
【サーヴァントの願い】
再誕
【マスター】
ズェピア・エルトナム・オベローン@MELTY BLOOD
【参加方法】
かつて演算の最中、『銀の鍵』を幻視しそれによって扉の向こうに見た滅びの未来により正気を失った。
死の間際、『銀の鍵』により開いた扉の向こう、滅びの未来に身を置こうとしたことによる参戦。
【マスターとしての願い】
今度こそ第六法に至り人類滅亡の未来を回避する
【weapon】
『エーテライト』
第五架空元素という存在を編んで作られたナノ単位のモノフィラメントを所持。
医療用に開発された擬似神経でもあり生物に接触すると神経とリンクして擬似神経となる。
他人の脳に接続すれば、対象の思考や精神を読み取り、行動の制御(活動停止、リミッター解除)など可能。
肉体や神経の縫合、ワイヤートラップ的な設置他、用途は多岐に渡る。
戦闘では鞭のように使用する、相手の思考を読み行動を縛る、悪性情報の実体化など。
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【能力・技能】
死徒二十七祖第十三位、『ワラキアの夜』。
かつて『黒の吸血姫』との契約ほか様々な保険により『タタリ』という一つの現象にまでなったのだが、『白の吸血姫』の手により一個の死徒に再び堕ちた。
そのため後述する固有結界は現在駆動できないが、それでも二十七祖の一角にして元アトラシアとして卓越した戦闘技能を誇る。
錬金術師としてのエーテライトの扱いや並行・高速思考、吸血鬼としての爪や怪力を武器とする。
『固有結界・タタリ』
周囲の人間の心のカタチをカタチにする固有結界。
ある周期で出現する現象であり、特定コミュニティ内の人間(それに匹敵する知能を持つ者を含む)の噂・不安を煽って増大、集束させ、その内容を元に、不安や恐れのイメージを具現化、自身に転写して顕現し、噂通りの能力を持つ吸血鬼「タタリ」として具現化する。出現したタタリはその一定地域内を殲滅する。
簡単に言えば、噂やら都市伝説を広め、イメージされた通りの姿・能力に変身することができるという能力。
記憶も含めて本物と寸分違わぬ偽物を作り出すことも可能で、存在しないはずの者、既に死んだ者になることも可能。
具現化される噂や都市伝説に制限はなく、場合によっては「願い」めいたものもその対象となりうる。しかし、「具現化」=「吸血鬼タタリの(嗜好・知識を取り戻した上での)復活」であるため、具現化された話がどんなものでも「発生源の住人を皆殺しにする」ものに変えられてしまう。
タタリである死徒ズェピアは既にこの世に存在せず、「タタリ」も一晩しか持たないが、出現したタタリを退けようとも、起動式の条件さえ満たせば再び出現できるため、永遠に存在し続ける。
アルクェイドによって死徒ズェピアへと戻されたため現在この固有結界は駆動できない。
だが何らかの形で再び『現象』になることができれば……?
【人物背景】
MELTY BLOODのヒロイン、シオン・エルトナム・アトラシアの三代前の祖先(曾祖父)に当たる人物で、五百年前のアトラス院で院長を務めた天才錬金術師。
未来を求めるという過程で初代アトラシアが辿り着いた「人類滅亡」に、彼もまた辿り着いてしまう。それに抗おうと数多の策を講じて実行に移そうとするも、その悉くが失敗に終わる。
覆す方法を模索し続けるもその度に「より明確な滅亡」という計算結果を見せつけられ、最後には発狂してしまった。
死徒となって自身の存在を強化したズェピアは滅亡回避のために第六法を目指すも敗北、肉体は消滅し、構築していた霊子が霧散する。
しかし、それ以前に完成させた「タタリの駆動式」と「霊子の航海図」、アルトルージュ・ブリュンスタッドと交わした「契約」他多数の保険により、意識も記憶もへったくれもない霊子たちを留めて漂流させることに成功、自身を現象へと変える。現在の彼は「特定の時間・地域に固有結界タタリを展開する現象(人々の噂や不安を元にそれを様々な形で具現化する)」であり、タタリとして虐殺を行ないつつ、より強大な存在である真祖の肉体を得て再び第六法に挑もうとしていた。
「ワラキアの夜」という通り名の由来となった15世紀のワラキアを皮切りに、幾度か顕現。一度前は3年前のイタリア。自分を滅ぼしにきたリーズバイフェ・ストリンドヴァリとシオンを返り討ちに仕留めた。シオンから吸血し、彼女を半死徒に変えている。
そして日本三咲町へと舞台を移し、遠野志貴、シオンと交戦。様々な条件が重なり敗北、消滅を迎えようとした瞬間に参戦。
【方針】
『口裂け女』の噂を広め、『口裂け女』を産み出し、勝利で幕を閉じる。
『タタリ』とやることは変わらない。
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以上で投下終了となります。
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投下お疲れ様です
自分ももう1組投下させていただきます
今回はオリジナルの話ですが、マスターのステータス表について、
「第二次二次キャラ聖杯戦争」の候補作のものを参考にさせていただきました
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ロウアー・サウスサイド。
アーカムの9つのエリアの中でも、最も暗く寂れた場所だ。
いわゆる貧民街であるそこは、住民の生活水準も治安も、最底辺に位置している。
住むことはおろか立ち入ることすら、本来は憚られるような暗黒街だ。
ここに居を構える者がいるとするなら、それは周りと同じ貧乏人か、あるいは法の目を逃れ、身を隠したいと思う者か。
「ふふっ……」
廃屋でくつくつと笑う男は、後者に属する人間だった。
ウェーブのかかった長髪の下に、褐色の顔を覗かせた男だ。
美形とすら言える端正な顔立ちは、どこか嗜虐的な色を宿した、暗い微笑に歪められていた。
「………」
吐き気がするほどにおぞましい。
男の顔と周囲を交互に見回し、マリア・カデンツァヴナ・イヴは思う。
キャスターのサーヴァントと名乗った男が、一瞬前にしでかしたことの、なんと恐ろしくも惨たらしいことか。
「いい具合に集まったじゃないか。まぁ、ひとまずはこんなところかな」
キャスターの周囲に並んでいるのは、色も模様もバラバラな、無数の棺桶だった。
それも空の棺ではない。全てに中身が入っている。正確にはキャスターが用意している。
この男はつい一瞬前に、この地区の人間達を1人1人襲い、その生命を奪っていったのだ。
確か魂喰い、と言ったか。サーヴァントは人間の生霊を喰らい、自らの糧とすることができるらしい。
そうしてこの男は、周囲の命を、次々と犠牲にしていったのだ。自分が強くなるそのためだけに。
「キャスター……これは本当に、必要なことだったの?」
「もちろん必要だよ、マスター。魔術師でないマスターからは、ボクは満足に魔力を得られない。
だからこうして、それ以外の手段で、必要な魔力を補っているのさ」
芝居がかった身振りを交えて、キャスターがマリアの問いに答えた。
「それにことボクに関しては、魂喰いのメリットはそれだけじゃない。
尊い犠牲となった彼らは、ボクの忠実なしもべとなって、マスターに貢献するというわけだ」
キャスターの有するスキルの中に、「ネクロマンサー」というものがある。
彼は死体を人形のように操り、自らの手下として使役できるのだそうだ。
死体をその場に放置せず、一箇所に集めていたのはそのためか。なんとも吐き気のしそうな理由だった。
「どうだい? これで納得がいっただろう?」
「でもッ! 彼らは聖杯のことも知らない……戦う意志のない一般人なのよッ!?
貴方も戦争を知っているなら、覚悟も牙も持たない者が、一方的に嬲られる悲しみくらい……ッ!」
「やれやれ、がっかりさせないでほしいなぁ」
言いながら、ずいっ、と近寄った。
突然目と鼻の先に迫った、キャスターの浅黒い顔に、マリアは一瞬息を呑んだ。
「マスターの言うその理屈は、殺す相手を選り好むということだ。
その点ではボクと変わらない。ただそれを理解しないまま、正義面して言い放つのは……ちょっとばかり不愉快だな」
やれやれといった顔つきで、ため息混じりにキャスターは言う。
綺麗事で飾ろうと、人を殺すことに変わりはない。
選んで殺すということが、上等であるはずもない。それを理解すべきだと。
「……ッ!」
瞳を覗きこむような視線に、マリアは言葉を返せなかった。
所在なさげに視線を逸らし、否定できないと目で語ってしまった。
それは違うと言い返せないことも、正論だと思ってしまうことも、何もかもが情けなかった。
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「いいかい、マスター。ボクは強い。君が引いたクジは間違いなく当たりだ」
そこは信用していいよと、言いながらキャスターが身を退かせる。
「なにせボクは蟹座(キャンサー)のシラー……死と創造を司る黄金聖闘士(ゴールドセイント)だからね」
神話の時代から受け継がれてきた、88の星座の力。
その頂点に存在している、黄道十二星座の戦士。
それらの一角である己が、弱いサーヴァントであるはずがないと。
「しかしながら、君が弱い。魔力の素養に乏しい君では、ボクの力を引き出しきれない。
それでもなお勝とうとするのなら、果たしてどうすればいいやら……それは理解しているね?」
返すまでもなかった。
その答えはつい先程に、ご丁寧に説明されていた。
「つまりボクのこの行動は、君の弱さが招いた結果さ。それは真摯に受け止めるべきだと、少なくともボクはそう思うよ」
「………」
「まぁ、無理もないだろうね。途中で施設に拾われたような、恵まれた環境にいた君では」
奪ってでも生き延びようとする気持ちなど、理解できるはずもないだろうと。
「……さてと、話はこれで終わりだ。君は世界を救うため、ボクは世界に帰るため……お互い頑張ろうじゃないか」
キャスターのシラーはそう締めくくると、再び棺桶へと向かった。
(恵まれている……)
そう考えたことはない。
しかし改めて振り返ると、否定はできないかもしれない。
マリアと生前のシラーは、どちらも戦争に巻き込まれ、全てを失った孤児だった。
違いがあるとするならば、マリアが妹のセレナ共々、米国の研究機関・F.I.Sに、観察対象として保護されたことだろう。
過酷な境遇ではあったが、最低限度の衣食住は、間違いなく保障されていた。
何物の保護も受けられず、続けたシラーに比べれば、確かに恵まれているのかもしれない。
(セレナ……ッ!)
だとしても、どうしても許容できない。
どれほどの裏付けがあったとしても、この殺戮は間違いなく悪だ。
自分は馬鹿なことをしている。またしても無辜の命を奪い、犠牲の塔を積み上げている。
それを懺悔するように、胸中で妹の名を呼んだ。
馬鹿な姉ですまないと。
月を止めるためとはいえ、こんな馬鹿げたことをしている、駄目な姉で本当にすまないと。
銀色の装束を纏い、身を挺して自分達を守った、妹の姿に謝り続けた。
現状へとマリアを誘った鍵が、同じく銀色に染まっていたことは、皮肉としか言いようがなかった。
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【クラス】キャスター
【真名】シラー
【出典】聖闘士星矢Ω
【性別】男性
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
筋力C 耐久C+ 敏捷B 魔力A+ 幸運D 宝具A
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”を上回る“神殿”を形成することが可能。
シラーは生前の逸話から、巨大な神殿「巨蟹宮」を、物理的に建造することもできる。
道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
【保有スキル】
セブンセンシズ:A+
人間の六感を超えた第七感。
聖闘士(セイント)の持つ力・小宇宙(コスモ)の頂点とも言われており、爆発的な力を発揮することができる。
その感覚に目覚めることは困難を極めており、聖闘士の中でも、限られた者しか目覚めていない。
シラーの持つ莫大な魔力の裏付けとなっているスキル。
ネクロマンサー:B
死体を操り手駒とする術。
生命活動が停止していることが条件であり、仮死状態であっても問題はない。
このランクの場合、相手がサーヴァントでも、低級のものであれば操ることができる。
死の芳香:C
瘴気を用いた戦闘スタイル。
死の恐怖を喚起させる攻撃により、相手の精神にもダメージを与えることができる。
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【宝具】
『蟹座の黄金聖衣(キャンサークロス)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
黄金聖闘士(ゴールドセイント)の1人・蟹座(キャンサー)の聖闘士に与えられる黄金聖衣(ゴールドクロス)。
黄金に光り輝く鎧は、太陽の力を蓄積しており、他の聖衣とは一線を画する強度を誇る。
この聖衣を然るべき者が装着することにより、装着者の筋力・耐久・敏捷・幸運のパラメーターが1ランクずつアップする。
本来のランクはA+なのだが、アテナとアプスの小宇宙が衝突した際の影響で、
聖衣石(クロストーン)と呼ばれる形態に変質してしまっており、若干のランク低下が見られる。
『積尸気冥界波(せきしきめいかいは)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大補足:1人
蟹座の聖闘士と共に語り継がれてきた、おぞましい威力を宿す奥義が宝具化したもの。
小宇宙を死の燐光へと変換し、敵に向かって放つ技である。
この積尸気を受けた標的は、黄泉比良坂へと堕とされてしまう。
より強い力で振り払うことは可能だが、そうしなければ命中と同時に即死することになる。
『積尸気冥界輪舞(せきしきめいかいりんぶ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 最大補足:40人
『積尸気冥界波(せきしきめいかいは)』よりも多くの積尸気を発生させ、竜巻の形にしてぶつける技。
消費は大きいが、威力・攻撃範囲共に向上しており、一度に多くの敵を葬ることができる。
【weapon】
なし
【人物背景】
88の聖闘士の中でも、最高位に位置する黄金聖闘士の1人。
かつては戦災孤児であり、過酷な環境の中で生きるために、略奪を繰り返していた。
そうした経緯から、「この世には強者と弱者しかおらず、選ばれた強い者が生き残る」という価値観を持つようになっていった。
他人の放つ「死の匂い」を好み、死を弄ぶことにサディスティックな悦びを覚える人物。
優男風の見た目通り、どこか気障な言動が目立っている。戦闘中にたびたびマントで手を拭うなど、潔癖症と思われる仕草を見せることも。
一方で、自らが死に瀕することは極端に恐れており、聖闘士の力を欲した理由も、「死から遠ざかるため」であると語っている。
闇の住人のように振る舞いながらも、本物の闇の深さを知らず、安全圏で悦に浸るだけの小心者。
小宇宙の属性は水。
しかし戦闘の際には、瘴気の塊をぶつける「冥土引導」など、蟹座の聖闘士特有の瘴気を用いた技を用いる。
2人1組の死体人形に瘴気を放たせ、敵を打ち上げ地面に叩き落とす「冥土凋落」という派生技も使用可能。
生物にとって最大のストレスである、死の恐怖を喚起させる攻撃は、相対する者の精神に甚大なダメージを与えるだろう。
【サーヴァントとしての願い】
受肉したい。死の牢獄から逃れ生き返りたい。
【方針】
まずは魂喰いを行い、自身の魔力と使える死体人形とを同時に増やしていく。
噂を聞きつけ、他のマスターが陣地に乗り込んでくれば、蓄えた魔力で迎え撃つ。
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【マスター】マリア・カデンツァヴナ・イヴ
【出典】戦姫絶唱シンフォギアG
【性別】女性
【マスターとしての願い】
月の落下を止めたい
【weapon】
ガングニール
北欧の軍神オーディンの槍から生み出されたシンフォギア。
その由来の通り、槍型の武器(アームドギア)を用いる。
また、羽織ったマントは自在に操ることができ、中距離攻撃やシールドとして使うことが可能。
必殺技は、槍の先端からエネルギーを解放し、ビームのようにして発射する「HRIZON†SPEAR」。
白銀のシンフォギア
実妹セレナ・カデンツァヴナ・イヴの遺品。
彼女の死亡および、本シンフォギアの破損により、登録データは全て抹消されてしまっている。
そのためいかな聖遺物に由来するものなのか、どのような性能を持っているのかなど、ほとんどの情報が不明。
起動聖詠には「アガートラーム」というフレーズが盛り込まれており、それがシンフォギアの名称であるということは推測できる。
相応の覚悟と意志により、「奇跡」を手繰り寄せることがない限り、決して起動することはない。
【能力・技能】
シンフォギア適合者(偽)
神話の遺産・聖遺物から生み出された、FG式回天特機装束・シンフォギアを扱う技術である。
しかし彼女自身の適合率はあまりに低く、制御薬・LiNKERの服用なしには、シンフォギアを纏うことはできなかった。
初期状態では効力が切れているため、シンフォギアを纏って戦うためには、まずLiNKERを確保しなければならない。
【人物背景】
かつてアメリカの実験機関「F.I.S」に囚われていた、レセプター・チルドレンの1人。
月落下の事実を世界に公表し、完全聖遺物・フロンティアによる状況打開を行うため、武装組織「フィーネ」の首魁として蜂起する。
しかし彼女自身は争いを恐れており、現在の立場も組織の維持のため、ナスターシャ教授に依頼されて受け入れたものだった。
2歳歳下の妹・セレナを喪っており、妹の悲劇を繰り返したくないという想いが、彼女の心を繋ぎ止めている。
表向きには強気に振舞っているものの、本来は消極的な性格。
そのため、テロ組織として戦うことによる良心の呵責や、組織の代表を求められる重圧により、心を擦り減らしていった。
それでも、優しく面倒見のいいお姉さん基質でもあるため、周囲の人間からの信頼は厚い。
表向きには歌手活動をしており、そちらの方面では、僅か2ヶ月で全米ヒットチャートの頂点に立つほどの才能とカリスマを有している。
【方針】
迷いはあるが、一応聖杯狙い。
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投下は以上です
トリップを間違えていたことに途中で気づきました。申し訳ありません
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投下します。
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語 れ。
我 は 真 紅 の も の で あ る。
嘘 と 霧 は、 彼 ら で は な く、 ま た 我 で も あ る。
汝 ら は 我 が 一 人 で あ る こ と を 知 っ て い る。
そ う、 一 人 は 我 で あ る。
お お、 信 じ る 者 よ。
四 百 の 僕、 七 千 の 獣 と 共 に 言 葉 を 聞 き、そ し て 語 れ。
太 陽 の 下 に あ っ て も、 そ れ は 忘 れ て は な ら な い。
無 限 の 盲 目 と 降 り 注 が れ る 矢。
そ れ は 我 の 復 讐 で あ る。
枯 れ 行 く 花 の 輝 き と 否 定 さ れ る 死 者、 そ れ は 我 の 祝 福 で あ る。
汝 ら は 我 と 我 の 誇 る 全 て を 沈 黙 の う ち に 称 え よ。
赤 き 心 臓 の 四 方 へ 放 つ 誇 り 高 き 香 り よ。
白 き 酒 を 満 た す 杯、 全 て は そ れ に 始 ま る。
――『赤の祭祀』
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足元には死体があった。
こいつが悪い。浮浪者か酔っ払いか、街に来て最初の出会ったのがこいつだった。
ジェイムス・サンダーランドは何かに引き寄せられるようにこの街へとやってきた。
それは永遠の水底を辿り、ようやく見つけ出した黄金の輝きだった。
車を駐車場に停める。いつもと変わらないくすんだ水色の車で、濡れたタイヤがアスファルトに黒い線を引いていた。
それが何時何分のことだったのかはわからない。しかし早朝だったのは確かだ。
眠気を覚ますために車を降りる。
そしてすぐ傍の公衆便所へと入るとじっとりとした湿気に包まれた。水垢に塗れた鏡の中に映る顔は灰色で、まるで死人の顔だった。
床にこびりついた赤錆を靴底で削りながら外に出ると自分の車を誰かが覗き込んでいることに気づく。
ゆっくりと近づき穏やかな口調で声をかけた。しかし、その化物の答えは要領を得ない。
腹が立ったので落ちていた鉄パイプで殴りつけると黄色と赤が斑模様のゲロを吐いた。無性に腹が立ったので何度も何度も殴りつけた。
気づけば化物は死んでいた。ぐったりと、海の生き物のように青黒く柔らかい身体を地面に横たえ、ぴくりとも動かなくなっていた。
何か盗まれていないだろうか? 心配になったので車の中を覗き込む。
地図は無事だ。ラジオも盗まれていない。愛する妻であるメアリーの写真もいつもと変わらない場所にあった。
大切なものがなくなっていないか、今度は車の後ろに回りトランクを開ける。そこには何も入っていない。
ほっと胸を撫で下ろすと、車を離れまだ静かな街をゆっくりと歩くことした。赤い足跡が追ってくるが、しばらくすると消えた。
真っ白に霧のかかった街は少しだけ肌寒く、温かいコーヒーが欲しくなる。
どこか店が開いていればいいが、どうだろう。
地図によればアーカムと言うらしいこの街はそれなりの都市のようだが、しかし一見してみた限りではゴーストタウンでしかない。
人気も感じられず、誰かに会えるかというところからして不安だ。こんな光景は慣れているが、それでも不安になる。
思わず、「誰かいないのか!」と声を上げてしまう。けれど返ってくるのは獣の鳴き声ばかり。
しばらく歩くと公園があったのでそこで休むことにする。ベンチに座ると遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
上着のポケットから封筒を取り出す。持っているものはとても少ない。封筒の中には鍵がひとつ、そして手紙が一枚。
3年前に亡くなった妻からの手紙。つい先日届いたばかりのそれを何度も読み返すことが習慣になっていた。
病床の中で書いただろう手紙の文字はか細く、けれど紙一面にその時の彼女の想いと願いが書き込まれており読む度に胸を打つ。
『 い つ か あ な た が 来 て く れ る の を 待 っ て い る 』
もうそれだけしか書かれていない。彼女はどこで待っているというのだろうか。それをずっと長い間探し続けている。
しかしそれもようやく突き止めた。
簡単なことだった。銀色の鍵。トランクの鍵。こんなところに彼女はいた。最初からいたのだ、このアーカムという都市に。
『聖杯』――ずっと探していたものがここにある。
彼女に会う為に探していた四つの内のひとつ。それが揃えばもう一度メアリーに会える。その為に私はずっと探していたんだ。
また、化物だ。今度は二人。ふとっちょとガリガリのコンビ。何かを喚きながらこっちへと向かってくる。
ベンチから立ち上がるとふとっちょのほうが拳銃をこちらへと向けた。
ラジオから発せられるノイズに頭の中を掻き毟られる。
そうだ、メアリーは私のことを怒りっぽいと言っていた。けれどそれはお互い様じゃないか。メアリーのほうこそ何度も私を罵ったじゃないか。
しかしそれも、もういい。君が戻ってきてくれさえすれば、死から君を取り戻せば何もかもがまたうまく行くに違いない。
そしたらまた旅行をしよう。静かでなにもない場所で、なにをするでもない時間をすごそう。
水底のように静かな場所で、今度こそ、それを二人の永遠にしよう。
足元には化物の死体が二つ。ふとっちょとガリガリのコンビ。血塗れでもう動かない。
.
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※ジェイムス・サンダーランドは己のマスターであり、己のサーヴァントである。
【クラス】
マッドマン
【真名】
ジェイムス・サンダーランド@SILENT HILL 2
【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:E 宝具:A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
狂気:A
狂気に浸りきっており、狂気から生み出された世界観で自らと世界全てを覆い、その狂気の中だけで行動する。
【宝具】
『水底(The Darkness That Lurks In Our Minds)』
ランク:A 種別:固有結界 レンジ:100 最大捕捉:無制限
罪悪感を心に抱える者を『裏世界』へと誘う。
これはジェイムス・サンダーランドが顕在している間、常時発動され続ける固有結界である。
現実の世界を元に、霧と湿気、石と灰と朽ちた物で構成され、汚水と汚物に塗れた心象風景を作り出し、対象を狂気に陥らせる。
対象とは心の中に強い後ろめたさや罪悪感などを持った者であり、そうでない者はこれの影響を受けることはない。
また取り込まれた後に再び精神抵抗に失敗すれば、その度に狂気は進行していくこととなり、最終的には発狂するか死亡する。
ジェイムス・サンダーランド自身も常にこの結界の中におり、彼の世界で狂気を膨らませ続けている。
【weapon】
『鉄パイプ』
赤錆びた鉄パイプ。滅多打ちにする。
【人物背景】
サイレントヒルで自殺し、ゴースト(悪霊)となってトルーカ湖の底を永遠に彷徨うこととなったジェイムス・サンダーランド。
生前、彼にはメアリーという愛し合う妻がいた。
しかし幸せの最中、その妻は重い難病を患ってしまい、以後入院生活を強いられることになる。
病状は日に日に悪化するばかりで、迫りくる死の恐怖と、薬の副作用で醜くなる容姿に、彼女の心は弱り荒んでゆくばかりであった。
ジェイムスはそんな彼女に対し献身的につきあうのだが、互いに思う心は変わらないのにも関わらず、病気は二人の関係すらも蝕んだ。
ある日、メアリーは遺言を認めるとそれを病院に預け、最後の機会だと退院許可を得て夫の待つ家へと帰る。
そして彼女を迎えたジェイムスは、その手で醜く衰えた妻を殺害した。
その後、狂気に陥ったジェイムスは、メアリーを蘇らせる儀式を行う為に車に彼女の死体を乗せサイレントヒルへと向かう。
到着したところで自分が妻を殺害した記憶を封印してしまったジェイムスは、妻の残した遺言を頼りに街を彷徨うこととなり、
最終的には全ての記憶を取り戻し、罪悪感に押し潰されて妻の死体といっしょにトルーカ湖へと車で入水自殺した。
サイレントヒルの霊場に捉えられたジェイムスはゴースト(悪霊)となり、冷たい水底で死後も狂気に囚われ続ける。
今の彼には断片的な記憶と思考、妻を蘇らせるという目的意識しかない。
【サーヴァントとしての願い】
病気で死んだメアリーを儀式で蘇らせる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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以上で投下終了です。
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質問ですが、NPCとして扱われるアーカム市民にも正気度は存在しますか?
また、正気度喪失による発狂はあり得ますでしょうか
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皆様投下ありがとうございます!
早くもルールや舞台設定に合わせていただけてるというか、厄い設定が続々でわくわくしますね!
>>61
拙作で幽々子の宝具を目撃した市民が恐怖で行動不能に陥っていたように、アーカム市民にも普通に正気度ダメージは発生します。
むしろサーヴァントという神秘と一切縁がないだけに、マスターよりもSANチェックに失敗しやすく、永続的発狂も起こりやすいかもしれません。
なお、発狂したりした市民は基本的に放置されますが、聖杯戦争に支障を来たしかねないと判断された時点でキーパーが処理します。
ルールがかなり特殊な企画なので、他にも分からないことがあったら是非ご質問くださいね。
可能な限り対応いたします。
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あ、それと正気度喪失ルールの「サーヴァントには基本的に正気度喪失は起こらない」の項についてですが。
これは普通の状況でSANチェックは有り得ないという意味で、宝具の特殊効果等でサーヴァントに精神ダメージを与えるのは構いません。
念のため追記します。
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>>62-63
回答ありがとうございます
それでは、投下します
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疲れた時に僕を励ます 君の笑顔は最高 そして少しずつ進むんだね
ときめきへの鍵はここにあるさ
ユメノトビラ 誰もが探してるよ――
――ここに、ありますよ?夢のような扉がね……。
◆ ◆ ◆
-
午前7時。フレンチ・ヒルの邸宅にて。
それは他の豪邸群に比べればまだ小さい方だが、それでも中所得者層からみればなかなかの豪華さを誇る。
「……」
その邸宅のある寝室で西木野真姫は起床する。
けたたましく泣きわめく目覚まし時計を止め、ベッドに腰掛ける。
意識が完全に覚醒しておらず、大きく伸びをするもまだ眠気は取れない。
真姫の目つきは非常に悪く、寝心地は最悪だったことを窺わせる。
その原因は悪夢である。
あの妙にリアリティのあった夢は何日経っても忘れることができないほどに心に残っている。
心に残っている故に何度も繰り返し夢に出てきてしまうのだ。
しかもその夢は自分の作曲した曲の一部をBGMとしているのだからなお性質が悪い。
夢の中ではいつの間にか手に取っていたアラベスク模様の装飾が施された鍵と、目の前に大きな扉があった。
謎の声が響き、言われるがまま「夢のような扉」を鍵で開け、それをくぐってしまった。
目が覚めた時には、真姫は東京にある自宅ではなく、合衆国マサチューセッツ州の「アーカム」という都市にいた。
「はぁ……」
寝癖を手で直しながら、学校で使うテキストの整理をするために部屋にある勉強机の方へ向かう。
「聖杯戦争…なにそれ、意味わかんない」
初めてアーカムで目覚めた時は混乱こそしたが、どこか不思議な感覚が真姫を襲っていた。
何事もなかったかのように平然としている家族、なぜか不自由なく使えるようになった英語、アーカム市民としての記憶……。
そして、聖杯戦争こともいつの間にか真姫は『知っていた』。
しかし、いきなり万能の願望機を巡る殺し合いに参加しろと言われても現実味を帯びない。
尤も、扉を開く夢を見たと思ったら拉致されて仮の生活を送らされているという時点で十分現実味を帯びていないのだが。
本来、聖杯戦争にリアリティを持たせる要因の一つに、サーヴァントとの邂逅がある。
実在人物の霊が自分の元へ馳せ参じるという、本来ならばあり得ない経験が否が応でも聖杯戦争が現実だと認識させるのだ。
真姫にも、本来は頼りになるサーヴァントが存在するはずなのだが――。
テキストを鞄に詰めている途中で、真姫は『それ』を見つける。
「……ホントにこれが私のサーヴァント?」
真姫は自らのサーヴァントを手に取り、気持ち悪い虫を見るような目で眺める。
それは、楽譜だった。譜面が赤黒い血で作られており、不気味さを際立たせる。
題の部分には手書きで“ゴルゴダの丘”と書かれている。
バーサーカーのクラスで召喚された真姫のサーヴァントは、物言わぬ楽譜、SCP-012であった。
「サーヴァント(召使い)なのに物」という異質な矛盾は、真姫を大きく困惑させた。
それゆえに、SCP-012から聖杯戦争の詳細についてわかる情報が制限され、
真姫の聖杯戦争に参加しているという自覚をさらに薄めさせる結果となった。
現に、ここ数日の真姫は現状に疑問を抱きつつもアメリカでの日常を何とはなしに送っていた。
SCP-012に書いてある曲は途中で途切れており、
スクールアイドルユニット「μ's」で作曲を担当しているからかこの譜面の続きを書こうしたこともあった。
しかし、実際に演奏してみるとその曲はあまりにも耳障りで聞けたものではなく、続きを書くことをすぐに断念した。
「真姫、朝食の用意できたわよ」
部屋の外から真姫の母の呼び出しがかかる。文面上は日本語だが、実際は英語だ。
「今いくから!」
しばらくSCP-012を眺めていると時間が過ぎていたようで、真姫は急いで必要なテキストとSCP-012を鞄に詰めると、食卓へ向かった。
朝食はアメリカのホームドラマでよくあるようなチョコフレークの入ったボウルをミルクで満たしたものだった。
◆ ◆ ◆
-
アメリカ、ある意味日本から近いようで遠い国の学校は日本とはかなり違う部分がある。
アメリカの高校は日本とは違い、制服といった概念はない。
さらに、学年も日本の小・中・高の6・3・3制にあたる区分けとしてアメリカで最も多いのは6・2・4制である。
そのため、アーカムにあるハイスクールに通う真姫は私服で通う。
学年も日本の高校では1年生であるはずだが、アメリカのハイスクールではセカンドグレード(2年)であった。
私服で通うということは毎日お洒落して学校へいけるので嫌いではなかったが、同時に真姫の通っていた音ノ木坂学院の制服が恋しくなり、気分は複雑であった。
この日の全授業が終わり、放課後。
真姫は音楽室にいた。
「アーカム」という都市での生活も数日が過ぎたが、未だにここに連れてこられた理由がわかっていない。
そのため、本能的に恐怖を感じることもあり、しばしば元いた音ノ木坂に戻りたいという思いが湧く。
μ'sで皆とスクールアイドルをすることも楽しみの一つであったため、その思いは日を経るごとに強くなっている。
恐怖とそれからくる悲しみを紛らわすため、放課後に自分の作曲した曲をピアノで弾くことが日課となっていたのだが……。
「うう、なんでコレが入ってるのよ…」
取り出したのはSCP-012。
朝、テキストの整理で急いでいたからか一緒に入れてしまったらしい。
「こんなもの持ってたら変な人だって思われちゃう」
一応作曲できることは周囲にも知られているため、こんな変な曲を作っていると誤解されたらたまったものではない。
真姫はすぐに鞄へ戻そうとしたが――。
「やっほー、マキじゃーん!何してるの?またジャパンで作った曲弾くの?」
そこにアメリカ人の知人が入ってきた。プライベートでともに行動することはないが、クラスメイトの中ではよく話す方だ。
「あ、新しい曲作ったの!?見せてよ!」
「あ、ちょ、見ないでよ!」
真姫が知人の方へ振り向く前に、彼女は真姫の手からSCP-012を抜き去って見てしまう。
それを真姫は数秒の内にぶんどるようにして取り返し、鞄の中に収めた。
-
真姫はまだ知らない。この刹那的なやり取りがSCP-012の恐ろしさを肌で感じることになることを。
「………」
彼女は無言かつ無表情で真姫を見つめている。
……見られてしまったのだろうか。心の中で引いてはいないだろうか?
「……見た?」
「……なきゃ」
「…へ?」
「…完成させなきゃ」
真姫はその知人の顔を見て絶句する。
目は血走り、彼女の視線は真姫ではなくSCP-012の入った鞄に向けられている。
「な、何?」
真姫は恐怖から後ずさり、反射的に鞄を抱いて守る。
「完成させなきゃ、完成させなきゃ…その楽譜を、“ゴルゴダの丘”を…!」
「ひっ……!」
――はじめに楽譜に接触した[編集済]は気が触れ、自らの血で楽譜を完成させようとし、ついには大量の失血と内出血を負いました。
SCP-012。通称『A Bad Composition(不吉な曲)』。
それに接触したものは気が触れ、自分の血で楽譜を完成させようとする。
真姫の知人は実際に目にしたことで正気度を著しく喪失し、発狂したのだ。
今は真姫のことなど意に介せず、楽譜を完成させることしか頭にない。
真姫がSCP-012を前にして平気だったのは、マスターであるがゆえにSCP-012の放つ神秘に耐性を持っていたからに他ならない。
バーサーカーとして召喚されたSCP-012。しかしそれは、狂ったサーヴァントではなく、『狂わせる』サーヴァントであった。
「書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい書きたい続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを続きを完成完成完成完成完成完成完成完成完成完成完成完成完成完成させさせさせさせさせさせさせさせさせないとないと――」
「あ、あ、あ」
「どいてよ、マキ…続き書けないじゃないッ!!!」
先ほどの面影も感じさせず、豹変した知人に真姫は鞄を抱いたまま尻もちをつき、恐怖に満ちた表情で彼女を見つめることしかできなかった。
「お願い…近づかないでよ…」
何とか声を絞り出すも、その声は傷ついた小動物のように弱々しい。
「いいから続きを書かせろつってんだろオオオがああアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
彼女は突然激昂して真姫に覆いかぶさり、固めた拳で頬を殴ってきた。
真姫は頬に押し寄せてきた痛みに「あぎゃっ…!」と漏らし、増大した恐怖心が涙となって溢れ出た。
「続き……書かせロ……カンセイ…さセろ……!」
「あ……あ……」
心を染める、混乱、恐怖、絶望。助けを呼ぶことも忘れて、別人のように鞄を奪おうとする知人を見上げる。
餓えた獣のように口で息をして、涎を垂らしており、真姫を睨みつけている。
これがバーサーカーの力なのか。無言で人を狂わせ、楽譜を完成させようとする。
バーサーカーがせめて犬程度に話の通じる生命体であれば。
「やめて」と必死に説得すれば関係のない他人に危害を加えることをやめてくれるかもしれない。
だが……バーサーカーは『楽譜』。
意思を持つかもわからないそれは無機質に、無差別に狂気をまき散らす。
真姫の心には、バーサーカーへの『意思を持たないがゆえに、底の知れない恐怖』がむくむくと広がっていった。
数瞬後…涙だけでは抑えつけられなかった負の感情が爆発し、真姫を無理やり行動へ駆り立てた。
「あああああああああああああああああああ!!!!!」
下から知人の腹を蹴り上げ、強引に束縛を解くと、鞄を持って真姫は全速力で音楽室を、学校を出た。
逃げている間は、後ろを振り向く余裕すらなかった。早く帰りたい。ここから逃げ出したい欲求が頭を支配していた。
◆ ◆ ◆
-
アーカムの自宅に帰った真姫は母親に目もくれず一目散に部屋に戻る。
鞄を放り出し、ベッドに転がり込んだ。
「う…ううっ……ぐすっ」
枕に顔を押し付けて、嗚咽を漏らす。
真姫はSCP-012が人を狂わす場面を目の当たりにし、中度の正気度喪失を起こしていた。
「帰りたい……帰りたいよう……」
暗闇の中で想起するのは、μ'sのメンバーのこと。
真姫はできることなら、今すぐにでも帰りたいと心から願った。
「誰か……誰か助けてよ……凛……花陽……にこちゃん……」
真姫の声は誰にも聞かれることはない。
ただ一つ、SCP-012を除いて。
SCP-012は鞄の中で、今も神秘を放ち続けている…。
-
【クラス】
バーサーカー
【真名】
SCP-012@SCP Foundation
【パラメータ】
筋力- 耐久- 敏捷- 魔力[データ削除] 幸運[データ削除] 宝具EX
【属性】
[データ削除]
【クラス別スキル】
狂化:-
バーサーカーは物であり、狂っている様子もないのでこのスキルには該当しません。
代わりに狂気感染スキルを所有しています。
【保有スキル】
狂気感染:D
狂気を伝播させる能力です。
バーサーカーへ接触した時に精神抵抗判定を行い、失敗すればその者にDランク相当の狂化スキルを付与します。
このスキルは、スキル及び能力次第で抵抗可能です。
被虐体質:EX
集団戦闘において、敵の標的になる確率が増すスキルです。
EXランクともなると特殊効果がつき、
一度バーサーカーへ接触した者は他者に注意を向けず、バーサーカーのことしか考えられなくなります。
バーサーカーから離されることで効果は徐々に弱まり、消滅します。
検閲済み:EX
バーサーカーはSCPと呼ばれる人知を超えた存在を確保、収容、保護するSCP財団に保護されていたSCPの内の一体です。
SCPの扱い方と概要を記したレポートは検閲を経た上で見ることができたという逸話から、
サーヴァントがバーサーカーについて知ることができる情報はほとんど限られています。
単独行動:A
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力です。
Aランクならば1週間の現界が可能です。
【宝具】
『不吉な曲(バッド・コンポジション)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:[削除済] 最大捕捉:[削除済]
SCPは人知を超えた存在で正体不明であるがために、財団に秘匿されており、非常に強い神秘を持ちます。
SCPであるバーサーカー自身が宝具であり、常時発動しています。
そのため、常に強い神秘を周囲に発しており、見ただけでも正気度は著しく喪失します。
████████████はバーサーカーを少し見ただけで[編集済]
バーサーカーへ接触した者は西木野真姫以外のマスター、サーヴァント、NPC問わず数秒の内に正気度に大きなダメージを負い、気が触れます。
そして自らの血で楽譜を完成させようとします。
血で楽譜の一部を完成させようとすることで、大量の失血と内出血、さらには精神病を発症し、重症を負いました。
バーサーカーに精神を侵された者は一節を書き終えると「完成できない」と言いすぐに自殺します。
なお、バーサーカーの宝具にはスキル及び能力次第で抵抗可能です。
【SCP背景】
SCP-012はSCP財団にて保護・収容されているObject Class: EuclidのSCPの一種です。
SCP-012は考古学者K.M.サンドバルによってイタリアの北部にある嵐で荒らされたばかりの墓から発掘されました。
手書きで"ゴルゴダの丘"と題された一部大きいサイズも含んだ不完全な楽譜一式でした。
赤い/黒いインクは初めベリーか天然の染料かと考えられていましたが、後に複数人の血液であると判明しました。
最初の調査後、何度も楽譜への接触を試みました。
すべての実験でも被験者は自らの血で楽譜の一部を完成させようとしました。
これらの被験者は一節を書き終えると「完成できない」と言いすぐに自殺しました。
音楽を演奏してみると耳障りな不協和音と楽器に合わないメロディとハーモニーが流れるだけでした。
バーサーカーのクラスで召喚されましたが、SCP-012はただの楽譜であり、バーサーカーが自力で動くことはできませんし、霊体化もできません。
ですが、自力で動くことがない分、実体化していてもほとんど魔力を消費しません。
【サーヴァントとしての願い】
不明。
-
【マスター】
西木野真姫@ラブライブ!
【マスターとしての願い】
元の世界へ帰りたい……
【weapon】
特になし
【能力・技能】
アイドルなのでダンスと歌ができ、作曲も担当しているため音楽(ピアノ)が得意。
特技に「テストで満点を取ること」を挙げられる程度には頭がいい。
【人物背景】
音ノ木坂学院の一年生で、スクールアイドルユニット『μ's』のメンバーの1人。
両親は地元の総合病院の医者で、別荘を持つほどのお嬢様。将来は実家の病院を継ぐ予定。
成績優秀で、特技はテストで満点を取ること。
ピアノも演奏できる事からμ'sの楽曲の作曲を任されている。
アニメでは真面目だがちょっぴり皮肉屋なツンデレとして描かれている。
穂乃果の情熱に根負けして『START:DASH!!』の作曲を担当した後、
花陽を後押ししてμ'sへと導くと共に、凛と一緒に加入した。
先輩メンバーを呼び捨てで呼ぶことに対して最後まで抵抗があったが、希の計らいで克服している。
サンタの存在を信じているなど純粋で子供っぽい面もある。
バーサーカーが人を狂気に陥れる場面に直面したことで、中度の正気度喪失を起こしている。
【方針】
助けて……
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以上で投下を終了します。
本SSは、クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP Foundationにてxthevilecorruptor氏が創作されたSCP-012の記事に記されたSCP-012を聖杯戦争のサーヴァント化したSSであることを明記しておきます。
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投下乙です
質問なのですが、SCP-012の本体は収容違反を起こしていない(サーヴァント化した概念は大本のSCP実体とは相互に影響しない存在である)という理解でよろしいのでしょうか?
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>>73
はい、その見解で大丈夫です。
邪神の無限の知識(記憶)に基づいて召喚されたため、バーサーカーはあくまで原物の再現である、という方向で理解してくださって大丈夫です。
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>>74
了解いたしました
引き続き、企画をお続けください
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>>1に質問なのですが
>・銀の鍵は令呪と並んでマスターの証となるものですが、令呪一画の使用で元の世界への扉を開くことが出来ます。
> その場合、一時間以内にアーカムに戻れない場合はマスター権を喪失し、邪神によって世界から放逐されることとなります。
この『世界から放逐される』とは、どのようなものを指していますか?
アーカムが存在する世界のみからの放逐でしょうか、それとも全ての並行世界へ辿り着けなくされ、次元の彼方へと放逐されるのでしょうか
そして、このルールはマスターに周知されていますか?
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>>76
ご質問ありがとうございます!
言葉が足りませんでしたね、「次元の彼方へ」が正しいです。具体的に何処へ飛ばされるのかは私も分かりませんが。
ともかく、正規の方法では聖杯戦争からのドロップアウトは出来ないとお考えください。
邪神の存在は秘匿されているので、各マスターへの周知は「絶対に1時間以内に戻らなければならない(罰則の詳細までは明かされない)」あたりですかね。
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投下します。
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こんな話がある。
だれもいない森の奥で、木が倒れた。さて、そのとき音はしたのか、しなかったのか。
● ◯
「くだらないお話ですね」
ぼくは彼の命題に、呆れたようなトーンでそう返す。
話の当事者であるぼくが言うのも妙な話だけれど、実に奇妙な光景だった。
アーカム・キャンパスの一角にある辺鄙な学生寮の一角で、凡そ地元の人間とは思えない東洋系の出で立ちをした人間二人が語り合っている。無感動な灯りの照らす室内。男の「つれないね」という返し言葉がやけに深く響く。
「これでも僕の知る限りじゃ、そこそこ評判の知れた命題なんだけどね。
万物の観察者である人間を介さずに、木が倒れるという《現象》が発生する。当然無人の空間に、それを観測する人間は誰も居ない。なら、《現象》へ付随する音は果たして存在しうるのか」
「あなたの理屈なら事のあらましを見届ける者が最初から存在しない以上、木が倒れたという部分からして疑ってかからなくてはいけません。そこをひとつの前提としている以上、音だってちゃんと鳴ったはずです」
「グッド。オーソドックスだが、悪くない答えだよ。
もっともこの場合、《音》というワードをどのようにして捉えるかで考え方は多少違ってくるだろうけど、音はしたっていうのが、ほとんどの人の回答だろう」
部屋には鏡があった。
学生が化粧なり顔の手入れを行いやすいようにと配慮された結果であろう常世の写し身。
今まさに僕らがいる、朧気で無感動な灯りだけが照らすコンクリの箱。
外側からは決して中身を窺い知ることのできない猫箱の内側を憚ることもなくそのからだへ写し、反射させ、閉じ込められたぼくらへ見せつけてくる――そう考えると、少し厭味だと感じないこともない。
彼は鏡に手を伸ばして、裏面を少し押し回転させた。
鏡面がこちらへ向いた状態でそれを止める。
薄暗い、暗澹とした灯火の支配する箱の中で、彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべてまた問う。
だれもいない森の奥で木が倒れた。
その木の前には鏡が置かれていた。
その鏡に、倒れる瞬間は映っているかどうか。
「――――映っている」
「へえ」
数秒の時間こそ要したが、僕ははっきりと答えてやった。
森の奥にある、年月の経過し傷んだ朽ちかけの樹木。
何故かそれを映し続ける煤けた鏡台。
やがて木が崩折れて、ゆっくりその身を横たえんとしていき、その光景を――鏡は、問題なく、映す。
-
「命題の形を変えて誤魔化したつもりかもしれませんが、理屈はさっきと同じでしょう。《現象》が発生したのを前提条件としている以上、誰が見ていようが見ていまいが、映っていると考えるのが自然です」
それを聞いた彼はニヤリと笑う。
笑う――いや、これはひょっとして、嗤っているのか。
次に彼は、どこから工面してきたのだろうか、ちょうどぼくの小指より少し小さいくらいの駒を取り出した。
男。女。蛇男。……最後だけ些かまともでない気がするが、気にしたら負けな気がした。
「TRPG(テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム)用に売られているコマだ。なんでもどっかの貴族の館の焼け跡から見つかった代物らしいけど、安かったから記念に買ってきた」
「何の記念だよ」
「ヒトとの出会いだけが一期一会なわけじゃない。機会は大事にしないとね」
どこからどう聞いても曰く付きである代物を片手で弄び、男……戦士、だろうか?
そのコマを、彼は鏡の前に置いた。
「なにが映っている」
「戦士のコマですね」
「そうだね。実につまらん」
そう言って、彼は戦士を軽く指で弾き、倒してしまう。
もちろん鏡の中の戦士も倒れる。呆気なく。情けなすぎるくらいにあっさりと。
彼は次に、ちょっとずれてみろという風なジェスチャーをしてみせた。
言われるがまま、腰を少しだけ浮かせて姿勢をずらす。
鏡の正面から、五十センチくらい右に移動したことになる。
いつのまに置いたのか、左手の方に別の人形が立っていてそれが鏡の中に映っている。
次に鏡へ映っているのは女のコマ――多分、修道女、だろう。
「今度は、なんだ」
「女。修道女です」
「じゃあ、もっとこっちへ来てみろ」
更に座る位置をスライドさせる。
今度はかなり角度がきつくて見にくくなっているが、蛇男のコマが映っているのがわかった。
「蛇男」
そう答えた途端、ぼくは不思議な空間へ踏み出してしまったような錯覚を感じる。
何度も味わった感覚。
幾度。幾百度。幾千度と味わっても慣れる事のない、変質した世界。壊れた、日常がすぐそばに隣接している気配。
あの天才の館でも。あの連続殺人でも。彼女とはじめて出会ったあの学園でも。
害悪の細菌と邂逅した件の事件でも。彼女と別れ、彼と出会った魔法みたいな殺人の時にも。
――そして、《物語》の完結した、狐面の男との戦いの時にも。
何度も感じたそれが、今すぐそこにある。
たったひとり。
彼らのように化け物めいた性質など何ら持たない男ひとりに、呼び起こされている。
-
どうして蛇男が映っていていいんだろう。
何度見ても確かに、鏡に映っているあたりに蛇男のコマが置かれている。
それは紛れもない事実なのに、奇妙な違和感が身体の内側から這い出てきた。
ぽんと肩へ手が置かれる。部屋の隅まで移動するようにと彼は言う。
彼の声が、昏いトーンを帯びる。
「さあ、なにが映ってる」
鏡の角度がなくなり、今ぼくはほとんど真横と言っていい位置にいる。
鏡面は平面というより線分に近づき、暗い金属色だけが見てとれる。
戦士も修道女も、もちろん蛇男も映っていない。
「さあ部屋を出ようか」
彼は言葉だけで誘う。
目を開けたまま幽体離脱したように、俺は師匠に連れられて部屋を出る。身体は部屋に残したまま。
街の中を彼はどんどんと歩く。ぼくはついていく。
立ち止まるたびに彼はぼくに訊く。
「なにが映ってる」
答えられない。
学生寮のドアしか見えない。
「なにが映ってる」
答えられない。
すべての始まりになった学生寮さえもう見えない。
「なにが映ってる」
やっぱり答えられなかった。
やがてぼくらは森の中に入り、だれもいないその奥で、朽ちた木の前に立つ。
木の前には鏡が置かれている。木の方に向けられた鏡。
彼は訊く。その鏡の真後ろに立って。
「なにが映っている」
鏡の背は真っ黒で、なにも見えはしない。
「さあ、なにが映っているんだ」
分からない。分からない。
ぼくの目は鏡の背中に釘づけられている。
その向こうにひっそりと立っている朽ちかけた木も、視界には入っているのに、
鏡の黒い背中、その裏側に映っているものをイメージできないでいる。
分からない、分からない、分からない。
頭の中が掻き混ぜられるようで、ひどく気分が悪いような、心地良いような……
狂気の片鱗へ触れたような感覚を覚えながら、ぽんと肩を叩かれる感覚によって、置き去りにされていた体へ自分の意識が帰ってくる。離魂病徒が現実を見る。盧生が目を覚ます。
-
「もう一度訊く」
一瞬で、最初の学生寮に帰ってきていた。
自分が壁際に座ったままだったことを再認識する。
「だれもいない森の奥で木が倒れた。その木の前に置かれていた鏡に、倒れる瞬間は映っているかどうか」
さっきとまったく同じ問いなのに、その肌触りは奇妙に捩れている。
鏡の前には戦士が、さっきと同じ恰好で倒れている。
焼き直しのようなその状況。
彼も同じものを感じているのか、そのにやついた表情の奥にはどこか期待するような色が見て取れる。
変わり者。そう呼ばれる人種は星の数くらい見てきた。
彼もその一人。ぼくというちっぽけな戯言遣いに与えられた余生の中で出会った、現実離れした一人の人間。
ただしこの彼は、あの鏡写しのように殺人鬼ではないし、あの狐のように人類最悪でもない。《物語》という大層な概念を唱えることもない。このアーカムに招かれた意味すら不真面目に受け取っている始末。
ぼくは一分で理解した。
頭の悪いぼくでこれなのだから、普通ならもっと速く気付くだろう。
この男には死相が付き纏っている。
ミステリ小説に喩えるなら、精々が第一の被害者。前振りだけをさんざ仰々しくやり通した挙句、当の本人は呆気なく死んで、奇怪な伏線ばかりを残し読者と探偵を悩ませる役割だ。
死相に彩られた手相を窶した右手が熱を持つ。
有名な猫箱をもじった命題。
初めの問い。
音の場合は、《音》という概念を振動として捉えるのか、感覚として捉えるかの余地があった。与えられていた。
対して、二番目の問い。
鏡に映るという状態は、反射した光を観察者が認識するというところまでを含んでいる。
だから、音と同じようには考えられない。
理屈で考えればこうだ。
これをわざわざぼくへ突きつけた理由はとんと分からない。分かる気もしないし、その行動にきっと意味はない。
「さ、答えてみろよ。詐欺師」
急かす彼に文句は言わない。
文句の代わりに、言ってやった。
「――――――――倒れる瞬間は」
その回答に、このアーカムを舞台とする狂気の宴の深淵に待ち受ける底知れない闇の存在を感じながら。
さながら断崖に立たされた自殺者のように、ある種悟りの境地へ踏み込んだような無感情で容貌を彩りつつ。
「映っている」
「ご名答だ」
ぼくが返したその答えに、ニヤリと彼は笑ってみせた。
-
◯ ●
大学二回生の秋の始まりだった。
俺がオカルト道の師匠と仰ぐ人物が、ある日突然失踪した。
師匠の家庭は複雑だったらしく、大学から連絡がいって、叔母とかいう人がアパートを整理しに来た。
すごい感じ悪いババアで、親友だったと言ってもすぐ追い出された。師匠の失踪前の様子くらい聞くだろうに。
結局それっきり。
しかし、俺なりに思うところがある。
小さく、辺鄙なアパートの一室。
師匠が消えてからなんとなく熱が失せ、馴染みのオカルトフォーラムへの顔出しも控えめになってきてしまった今日このごろを日々自堕落に謳歌している、部屋というより箱に等しい空間の中に異物があった。
あった、というのは少しズルい表現だ。
これをここまで持ってきたのは俺だからだ。
師匠の叔母へ追い出される時、荷物の散らかった部屋の中から掠め取ってきた。
何故そんな行動に出たのかは自分でもわからない。だが敢えて理由を定義するなら、師匠がいつか言っていたとある言葉に帰結するのだと思う。
『 ――ヒトという生き物は、そこにあってはならない違和感を見咎めたなら、もう二度と忘却することは出来ない 』
俺は一目で気がついた。
それがそこにあることは大した理由ではなかった。
問題なのは、それの状態だったのだ。
安物の木製テーブルの上に置かれているのは、表面に錆の浮いた金属製の箱である。
大きさはトイレットペーパーくらいの円筒形。
箱からは小さなボタンのようなでっぱりが全面に出ていて、円筒の上部には鍵穴のようなものもある。
この手の品の例に漏れずボタンを正しい順序で打ち込まなければ開かない仕組みになっている。
それだけならありがちなおもちゃだ。
歴史が古かろうが浅かろうが、所詮は同じことでしかない。
この箱にまつわる最大の問題は、師匠が俺へ語ったとある曰くにあった。
開けると死ぬ。
それ以外に長ったらしい逸話があるのかどうかは知らない。
それを唯一知っていたかもしれない師匠が空蝉してしまった以上、もう知る由もないことだ。
箱のパズル相手に悪戦苦闘する師匠にきつい悪戯をかまされたことも記憶に新しいが、ここでは割愛しておく。
きっとそれは重要な事じゃない。
何より重要なファクターが、まさに目の前で口を開けている。
「師匠」
呟く。
返事のある筈がない言葉を呟く。
きっと、二度と戻っては来ないだろう人物の呼名を。
-
「あなたは」
箱は、開いていた。
中は伽藍の洞。
けれど、中に何が入っていたのかはその型から容易に推察できた。
きっと、鍵だ。
それが収まるように作られた凹み部分の汚れ方を見るに、材質は多分銀だろう。
夢の中で拾った鍵の話。
俺をからかう目的で話したのだとばかり思っていた、夏休みのそんな記憶が蘇る。
あの時、既に彼は気付いていたのかもしれない。
箱の中にあるものを。
それを開けた時に訪れる、ともすれば死すら生易しく思えるような狂気の片鱗を。
あの並外れた天運でもって察していたのかもしれない。
ともかく。これでいよいよ俺にもはっきりと諦めがついた。
師匠は、夢の中で鍵を開けてしまったのだ。
銀の鍵を手に、この街へ巣食う悪意よりも尚大きな闇の領域へと進んでいってしまったのだ。
俺が彼の物語に干渉することも、彼が俺の人生に影響を与えてくることも、こうなった以上はもう二度とないだろう。
ちっぽけな鍵によって隔てられた壁は絶対のものとなって、明確に線引きをしていった。
箱を無造作に部屋の隅へ擲ち、ごろりと絨毯へ横になる。
すると、ぴんぽん、と軽い音がした。
ああ、そういえば約束をしていた。
思い出したように腰を上げると欠伸をし、俺は俺の人生へと歩き出す。
一年ほどの間、僕が師匠と呼んだ人物との記憶へ背を向けながら。
-
【クラス】
アサシン
【真名】
“ぼく”@戯言シリーズ
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:A 宝具:EX
【属性】
中立・混沌
【クラススキル】
気配遮断:E
サーヴァントとしての気配を絶つ。人混みに紛れるのに適している。
暗殺者のクラスにあるまじき低さを誇る。
【保有スキル】
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
戯言遣い:A
彼という存在が物語る、戯言を遣うという才能。
名前の存在しないモノが相手でない限り、万人へと彼の戯言は通用する。
探偵役:A
殺人事件の現場に遭遇し易い。
聖杯戦争の場においてはサーヴァント戦の爪痕の発見などの形でその才能は発揮されるだろう。
【宝具】
『無為式』
ランク:EX 種別:概念宝具 レンジ:- 最大補足:∞
無為式、なるようにならない最悪(If Nothing Is Bad)。
事故頻発性体質並びに優秀変質者誘因体質、所謂トラブルメーカーという体質のことを指す。
本人の悪意の有無に関わらず、彼の周囲の存在は意図せず勝手に狂い出す。
故に彼の周りではいつだって異常事態が巻き起こり、彼の周りではいつだって奇矯な人間ばかりが集まる。
この宝具において問題なのは、彼にとっては何の目的もなく、また何の意味もないということ。聖杯戦争的に言えばオンオフの切り替えが不可能で、更に概念武装であるため破壊するにはアサシン本体を消滅させなくてはならない。
アサシンの存在は、必然的に殺人を起こし、愛憎に壊れ、友情に苦しみ、状況に狂う人間を作り出す。元から壊れた人間も寄ってくる。
要するに無為式の根幹にあるのは《欠点》。観測するものと欠けている形が似ているから、自分の欠点を指摘された気分になり、心が揺れる。それを恋心と判断するか敵意と判断するかは扠置き前者は傷の舐め合い、後者は同属嫌悪であるが、彼の場合はそのハイエンド級である。
無個性で誰とも似ていないけれどが、彼には欠けている部分があまりに多過ぎる。だから誰にでも似ている。それが他人の無意識を刺激する、ゆえに無為式。
そして、彼はその上でうまく立ち回る。受けて立たずに受け流し迎え討たずに迎合する。他人をやり過ごしひらひら躱し避けいなす。戯言を弄して他人から逃げる逃れる逃亡する。
そこにいられると落ち着かないのに、周囲の誰も彼に触れることかできない。幽霊か悪魔がそばにいるのと対して変わらない。だから、彼の周囲では歯車が狂い、誰かのスイッチが自然に入ってしまう。
彼は本来暗殺者ではない。だが、彼が存在するだけで、周囲は捻れ狂う。
だからこそ、聖杯は彼へ暗殺者のクラスをあてがった。
――狂気に満ちたこの聖杯戦争に於いては、限りなく最悪の類である宝具といえよう。
-
【weapon】
錠開け専用鉄具:
アンチロックブレード。
推理小説殺しと呼んでもいい道具で、鍵ならば大抵これ一つで開けてしまう。
ジェリコ941:
斜道郷壱郎研究施設で宇瀬美幸が所持していたものを紆余曲折の末に手に入れたもの。
殺傷能力は高くこそないものの、戦闘能力皆無と言ってもいいアサシンが持つ武装の中では唯一サーヴァントを殺傷できる代物である。
【人物背景】
主人公にして語り部。本名不明。《人類最弱》・「戯言遣い」。
愛称は「いーちゃん」、「いーたん」、「いっくん」等多数。3月生まれ。『クビツリハイスクール』で萩原子荻と名前当てクイズをするが、様々な回答案がある上に、このクイズの答えが本名である保証もない為、正確な名前は判別不能。萩原子荻曰く「変わった名前」らしく、作者曰く「いい名前」らしい。但し、本人曰く「今までにぼくを本名で呼んだ人間が3人いるけど、生きている奴は誰もいない」。零崎人識に「欠陥製品」という異名をつけられる、人識の対偶的存在。19歳。神戸出身。血液型はAB型のRhマイナス。
中学2年から5年間ER3システムに在籍していたが、親友の死を機に中退。現在は骨董アパートの2階の部屋を借り、京都の鹿鳴館大学に通っている。意外と女好きで惚れっぽい反面、男に淡白。年上が好みだが、年下の娘によくモテる。他にも日本地理に詳しくない、メイドマニア、華奢で女装が似合う、自己評価が極端に低い、よく病院送りになる、記憶力が悪い、人恋しがりの孤独主義者、アホ毛があるなどの特徴を持つ。欠けている部分が多すぎるため、他人を落ち着かせない才能の持ち主である。一般人としては戦闘能力はそれなりにあるらしい。
【サーヴァントとしての願い】
形の定まった願いは持たない。が、犬死にをする気は一応、ない。
【基本戦術、方針、運用法】
――さあ、どうしようね。
【マスター】
師匠@師匠シリーズ
【マスターとしての願い】
聖杯戦争の深淵へ辿り着く。聖杯? 犬にでも喰わせとけ。
【weapon】
なし
【能力・技能】
怪談への深い知識と実体験で培った経験。
話術にも強く、推理力も非常に高い人物。
【人物背景】
師匠シリーズと題される一連のシリーズにて、投稿者(ウニ)から「師匠」と呼ばれる男。
ある種享楽的ともいえる性質の持ち主で、道祖神の祠を破壊するなど罰当たりな言動にも憚りがない傍若無人な人物。
だがオカルト面における見識の深さと度胸は間違いなく本物で、怖いもの知らずという点でも間違いなくまともではない。彼にも師匠と仰いでいた人物が居るが、ウニと出会う前に死別してしまっている。
先代の師匠の名は「加奈子」。
彼よりも高い霊能力の資質を有した女性で、探偵事務所のような事務所のアルバイトを行っていた。彼もそれを手伝う内に様々な人物と出会い、また怪異の世界へ逃れられぬほどに浸かっていく。
参戦時間軸はウニ編、大学二回生の秋の始まり、『葬式』前後からとする。
【方針】
聖杯戦争そのものには興味がない。
誉れ高い英雄サマのご威光を仰いでどうするんだい?
僕が見たいのはただ一つ、この悪趣味な儀式を糸引く誰かさんのお顔さ、断じて胡乱げな願望器なんぞじゃない。
――きっとそれを見た暁には無事では済まないだろうけど、それでも好奇心には勝てないな。
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投下終了です。
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投下お疲れ様です
自分も投下させていただきます
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銀の鍵の存在など、最初は信じてはいなかった。
いかなる扉の鍵にも合い、普通では行けない場所にも行ける。
そんなオカルトじみた与太話を、信じようとは思えなかった。
それでも、いざその鍵を手に入れた時、私はこう思ったのだ。
ひょっとしたらこの鍵が、私を兄の世界へと、誘ってくれるのではないかと。
人がデータの世界に閉じ込められる――そんな冗談じみた事件が、現実に起きているのなら。
あるいはこの鍵の力も、現実に存在するのではないかと。
私は家の鍵穴に鍵を通し、玄関扉を開いてみた。
もしかしたらその先に、ゲームの世界が広がっていて、そこから兄を連れ出せるのではないか。
ひょっとしたらという軽い気持ちで、私は銀の鍵を使い、その扉を開け放っていた。
結果的に私の願いは、違った形で叶えられた。
兄の世界には行けなかったものの、兄を救える可能性は、確かに見つけることができた。
それは願ったものよりも、遥かに過酷な道だったけれど。
-
◆
「はぁっ、はぁっ……!」
無計画に逃げたのはまずかった。
生い茂る木々の合間を縫って、息を切らせて走りながら、桐ヶ谷直葉は後悔する。
夜の住宅地から一歩離れ、こんな所に逃げ込んでしまった。
木が多く生えているといっても、森と呼べるほどの規模ではない。
追っ手を撒けるほどの広さはあるまい。であれば、逃げるのに邪魔なだけだ。
「ひひっ!」
下衆な笑い声が横から聞こえた。
左方からの追っ手をかわすため、直葉は反対の右を向く。
しかし駄目だ。そちら側にも回りこまれた。
障害物の多く、逃げ場の制限された林の中で、案の定直葉は道を失い、暴漢に取り囲まれてしまった。
「あんまつれなくすんなよ嬢ちゃん」
「そうそう、悪いようにはしねぇからさ」
舌なめずりをする男達が、じわじわと歩み寄ってくる。
狙いは金か、それとも身体か。どちらにしても、無事では済むまい。
既に逃げ道は塞がれた。ならば戦うしかないか。
「くっ……!」
足元に転がっていた枝を拾い、苦し紛れに構えを取った。
「おうおう、威勢がいいじゃねーの!」
もちろん気休めにもならない得物だ。剣道の心得があるといっても、枝は竹刀の代わりにはならない。
詰め寄る男達も本気にはせず、げらげらと笑い声を上げている。
(それでも……!)
だとしても、そうせずにはいられないのだ。
こんな連中に嬲られて、終わるわけにはいかないのだ。
アーカムの地で始まる戦い――聖杯戦争と呼ばれる儀式。
その戦いに勝利して、あらゆる願いを叶えるという、聖杯を手に入れるためにも。
(お兄ちゃんを助けるためにも……っ!)
ゲームの世界に囚われた、桐ヶ谷和人を救うためにも、こんなところでは終われないのだ。
戦いが始まるその前から、何の関係もない連中に襲われ、脱落していては意味がないのだ。
(そのためにも、やるしかないんだ!)
棒を握る手が痛い。強く力を入れすぎているからかもしれない。
じわりと手汗を感じながら、直葉は男達を睨む。
状況を打開する可能性が、1%でもあるとするなら、前に進むこと以外にはない。
であれば、覚悟を決めるべきだ。
太い棒をきつく握りしめ、一歩を踏みだそうとした瞬間。
「――そこまでにしておけ」
低く、されどよく通る男の声が、不意に暴漢達の奥から聞こえた。
-
「あぁん? 何だテメェは」
男達が振り返る。かけられた声の主を見やる。
いつからそこに立っていたのか。
林に姿を現したのは、赤いジャケットを羽織った青年だ。
色の濃い顔に生えている髪は、明るい茶色というよりは、オレンジだろうか。
木々の隙間から差し込む月光を受け、鋭い眼光を光らせる若い男が、そこに静かに佇んでいた。
「その娘には用がある……それも大切な用事だ。手を出すというのなら、容赦はしないぞ」
「寝言抜かしてんじゃねえよ!」
暴漢の1人が叫びを上げて、青年目掛けて襲いかかった。
「危ないっ!」
自分が狙われているという事実も忘れ、直葉は咄嗟に声を上げる。
しかし、それも杞憂に終わった。
「げっ!」
すぐさま悪漢は弾き飛ばされ、あっけなく地面に倒れたからだ。
素早い身のこなしは、拳法だろうか。
ほとんど身動ぎすることもなく、最小限の手さばきで、青年は男を返り討ちにしていた。
一瞬、男達は驚愕する。ぎょっと目を丸く見開いて、身体をびくりと震わせる。
「んの、野郎っ!」
しかしそれも一瞬だけだ。
怒りに燃える男達は、それぞれにナイフやメリケンを手に取り、闘争心を露わにした。
1人で敵わないなら頼るのは数だ。次は一斉攻撃で来るだろう。
「本意ではないが……やむを得んか」
それでも青年は気にも留めずに、涼しい顔でそう呟いた。
そして懐を探ると、何やら小さな物を取り出す。緑色に光るそれは、どうやら宝石のようだった。
取るに足らない石ころだ。本来ならばこの状況で、わざわざ取り出すようなものではない。
にもかかわらず、桐ヶ谷直葉は、何故か宝石を注視していた。
ただの石ころであるはずなのに、何かを感じずにはいられなかった。
そこに込められた特別な意味を、感じ取らずにはいられなかったのだ。
「この身を纏え――『天秤座の黄金聖衣(ライブラクロス)』ッ!!!」
鋭い叫びが木霊する。
裂帛の気合を雄叫びに込め、青年が宝石を光らせる。
瞬間、林に満ち溢れたのは、太陽のようなまばゆい光だ。
黄金色の日光が、日のとっぷりと沈んだ街に、突如として広がったのを感じた。
たまらず、直葉は顔を覆う。文字通り目も眩むような光を、左手をかざして塞ごうとする。
眩しい光ではあったものの、ただそれだけのはずだった。
「ぎゃあああああっ!」
「目が! 目がぁぁっ!」
しかし何故か、周囲からは、ただならぬ悲鳴が上がっていた。
暴漢達の何人かが、顔面を強く抑えながら、苦しみのたうち回っているのだ。
そんな馬鹿な。何だそれは。
まるで目を潰されたような、そのリアクションは何なのだ。
いくらなんでもそれほどまでに、強い光ではなかったはずだ。
「おっ、おい何だよ!? どうした!?」
無事だった男達もそれに気づき、不安げな声を上げている。
しかし彼らは――そして直葉は、すぐさま思い知ることになる。
彼らの悲鳴も反応も、決して大げさなものではなかったのだと。
-
「俺の名は天秤座(ライブラ)の玄武――調和と均衡を司る、天秤座の黄金聖闘士(ゴールドセイント)」
がちゃり、がちゃりと音が鳴る。
硬い足音が聞こえている。
そこに姿を現したのは、文字通り太陽の鎧だった。
暁の後光を身に背負い、燦然と黄金の輝きを放つ、豪華絢爛な甲冑だった。
一瞬の光に包まれた青年が、どこからともなく現れた鎧を、瞬きの間に装着したのだ。
「この名と姿を知ってなお、俺に挑むというのなら、相応の覚悟を決めてもらうぞ」
天秤座。
そして黄金聖闘士。
未知の単語に込められた意味は、直葉には知るよしもない。
しかし玄武なる青年の、揺るぎない言葉から感じられるのは、その名に対する確かな自信だ。
堂々とした佇まいからも、苛烈なまでの存在感が、ありありと感じられていた。
「あわ、あわわわっわわ……!」
「ひ、ひぇへええええっ!」
その姿を目の当たりにした男達は、糸が切れたように怯えだし、次々と逃げ出してしまった。
その反応は様々だ。ある者は震える足を引きずり、ある者は涎をまき散らし、ある者は失禁すらしていた。
現れた黄金の鎧は、それほどの気配を放っていたのだ。
調和を名乗ったその意識――禍々しいまでの正義感が、光輝と共に滲み出て、男達を狂わせていたのだ。
正直、自分が無事なことが、直葉は未だに信じられなかった。
尋常ならざる光景を前に、しかし冷静さを保っている自分自身が、不思議でならないと思えていた。
「こういうことは、性に合わんのだがな……」
玄武はそう呟くと、再びその身を光らせた。
絢爛なる鎧は瞬時に立ち消え、その手には先ほどの宝石が残る。
オンラインゲームのアイテムのように、瞬時に出し入れできるということか。
「さて……見苦しい姿を見せたな、マスター」
主君(マスター)。
不可解な単語で直葉を呼びながら、玄武が傍に歩み寄る。
いいや、その名は知っていた。心当たりは既にあったのだ。
「マスターって……それじゃあひょっとして、貴方が」
「そう。俺はセイバーの玄武。桐ヶ谷直葉のサーヴァントとして、呼びかけに従い参上した身だ」
英霊の映し身、サーヴァント。
聖杯戦争の参加者に、戦う術として与えられる使い魔。
直葉の前に現れた男は、自らをそう名乗ったのだった。
気づけば直葉の左手には、使い魔のマスターの証である、赤い紋様が刻まれていた。
-
◆
「ここまで来ればいいだろう」
林からイーストタウンへ南下し、そこを横切ってダウンタウンへ。
寂れた街並みを通り抜け、整った建物が目立ってきたところで、玄武が傍らの直葉へと言った。
彼女の住まいがあるのはこの地区だ。
安全地帯へと辿り着くまで、玄武は彼女の隣に立って、身を守ってくれていたのだった。
「ここからは俺は姿を消す……他のマスターに見つかっては、何かと厄介なことになるからな」
「うん、ありがとうセイバー」
感謝の言葉を聞き届けると、玄武は自らを霊体とし、夜の闇へと姿を消した。
一度死んだ身であるサーヴァントは、自身の姿を消すことで、見ることも触れることもできない存在へと変えられるらしい。
それでも、確かにそこにはいる。マスターである直葉には、微かに気配が感じられる。
奇妙な感覚ではあったものの、直葉ほそういうものとして納得し、帰り道を急ぐことにした。
(聖杯戦争……か)
先ほどの光景を反芻する。
暴漢共を狂わせた、黄金の威容を回想する。
とうとう始まってしまった。
サーヴァントを手に入れた自分は、本当に聖杯戦争の参加者になってしまった。
(ああいうことを、しなくちゃいけないのか)
戦ったわけではない。しかし玄武のあの姿は、多くの人間を狂わせた。傷つけたも同然の行為だ。
これから自分は、あれと同じことを、他のマスターにしなければならないのだ。
場合によっては、その生命を、この手で奪わなければならないのだ。
『気乗りしないか』
その不安を見透かされたのか、玄武が念話で語りかけてくる。
ごまかしても意味はないだろう。直葉は無言で肯定した。
『見たところ、最初から望んで参加したわけではないらしいな……
俺は聖杯にかける願いなどない身だ。だから嫌なら、身を引いてもいいんだぞ』
他のマスターからは自分が守ると、玄武はそう語ってくれた。
その心遣いはありがたいと思う。殺し合わずに済むのなら、それに越したことはない。
『ありがとう……でも私、戦うよ』
それでも、その提案は聞き入れられない。
殺し合いを肯定はできなくても、聖杯にかけるべき願いはあるのだから。
『絶対に助けたい人がいるから……そのために、聖杯が必要だから』
ソードアート・オンライン事件で、ゲームの世界に囚われた兄。
彼を電子の檻から解放し、失われた意識を肉体へと戻す。
そのためには聖杯が必要なのだ。彼を取り戻すことを願って、直葉は銀の鍵を使ったのだ。
だからこそ、逃げるわけにはいかなかった。
たとえどれほどの試練が立ちはだかろうと、戦わなければならないのだ。
『そうか』
ふっ、と。
真面目な顔をしていた玄武の声が、微かに笑ったような気がした。
『ならばその心、いつまでも持ち続けていてくれ。マスターの真っ直ぐな想いを、俺は尊重して戦う』
桐ヶ谷直葉の名の通りのな、と。
剣騎士のサーヴァント・玄武は、守るべき主君に対して、忠誠の意を示したのだった。
-
◆
異様な気配を感じてはいる。
此度の聖杯戦争が、本来あるべきものとは違う、ただならぬ何かを孕んでいることは、当の昔に理解している。
でなければ、わざわざ『天秤座の黄金聖衣(ライブラクロス)』 を開放し、あの連中に見せることもなかった。
あのような不可解な現象は、本来の聖杯戦争であれば、起こりえないはずなのだから。
油断はできない。
今は無事な様子を見せているマスターにも、いつ危機が振りかかるか分からない。
大切な者を救いたい――その願いが砕かれ捻じ曲げられ、黒く犯される時が来るかもしれない。
それでも、そんなことはさせないつもりだ。
俺は天秤座(ライブラ)の聖闘士(セイント)なのだ。
死して現世に聖衣(クロス)を遺し、黄泉路の住人となったとしても、この魂は変わらない。
地上の愛と平和を守り、人間達の営みを守る――聖闘士が背負うべき使命を、永劫に忘れるつもりはない。
揺れる天秤のその支柱は、決して折れることはない。
人間であるマスターの心は、この身の力の全てを尽くし、俺の手で守り抜いてみせる。
天秤座の黄金聖闘士・玄武が――この俺が、守らねばならぬ。
-
【クラス】セイバー
【真名】玄武
【出典】聖闘士星矢Ω
【性別】男性
【属性】秩序・中庸
【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力A+ 幸運C 宝具A
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
セブンセンシズ:A+
人間の六感を超えた第七感。
聖闘士(セイント)の持つ力・小宇宙(コスモ)の頂点とも言われており、爆発的な力を発揮することができる。
その感覚に目覚めることは困難を極めており、聖闘士の中でも、限られた者しか目覚めていない。
玄武の持つ莫大な魔力の裏付けとなっているスキル。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
専科百般:C
類いまれなる多芸の才能。
槍・双節棍・剣・三節棍・トンファー・盾を自在に使いこなす。
-
【宝具】
『天秤座の黄金聖衣(ライブラクロス)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
黄金聖闘士(ゴールドセイント)の1人・天秤座(ライブラ)の聖闘士に与えられる黄金聖衣(ゴールドクロス)。
黄金に光り輝く鎧は、太陽の力を蓄積しており、他の聖衣とは一線を画する強度を誇る。
この聖衣を然るべき者が装着することにより、装着者の筋力・耐久・敏捷・幸運のパラメーターが1ランクずつアップする。
本来のランクはA+なのだが、アテナとアプスの小宇宙が衝突した際の影響で、
聖衣石(クロストーン)と呼ばれる形態に変質してしまっており、若干のランク低下が見られる。
『天秤座の武具(ライブラウェポン)』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:1〜5 最大補足:5人
槍・双節棍・剣・三節棍・トンファー・円盾。
『天秤座の黄金聖衣(ライブラクロス)』に備えられた、6対12個の武具である。
1つ1つが星をも砕くと言われており、それ故にアテナと天秤座の聖闘士、双方の許可が下りなければ、使用することはできないとされている。
そして玄武自身もまた、決して自分から先に武器を取ることはない。
それは強すぎる力を封じるためでもあり、また玄武が己自身に課した戒めでもある。
【weapon】
『天秤座の武具(ライブラウェポン)』
【人物背景】
88の聖闘士の中でも、最高位に位置する黄金聖闘士の1人。
幼少期は先代天秤座・童虎に師事していたものの、根気のなさから逃げ出してしまった。
しかしその後、火星の神・マルスの起こした一連の騒乱に呼応し、次代の黄金聖闘士として立ち上がった。
いかなる経緯で鍛えたのかは不明だが、既に怠け者の少年時代の面影はなく、立派な聖闘士として大成している。
一見冷静に振る舞いながらも、その裏では熱く闘志をたぎらせる熱血漢。
童虎の期待に添えず、死に目にも立ち会えなかった負い目からか、現在は非常に生真面目な振る舞いを見せている。
マルス戦役後の黄金聖闘士の中では、仕切り屋を務める場面が多く、若き聖闘士達に聖闘士としての心構えを示した。
小宇宙の属性は水。
縦横無尽に戦場を駆け巡り、拳法のような挙動で敵を圧倒する。
反面、「過度に武器へ依存することは、己を弱くすることに繋がる」と考えており、セイバーでありながら武器を使用する機会は少ない。
必殺技は小宇宙を纏った拳で殴りつける「廬山真武拳」、両手を前に突き出すと共に、より強力な小宇宙の衝撃波を放つ「廬山上帝覇」。
天秤座の剣を用いた際には、切っ先から龍を象った小宇宙を放つ「廬山昇天覇」を発動した。
【サーヴァントとしての願い】
特にない
【方針】
マスターの真っ直ぐな願いを尊重し、マスターのために戦う
-
【マスター】桐ヶ谷直葉
【出典】ソードアート・オンライン
【性別】女性
【マスターとしての願い】
兄を救いたい
【能力・技能】
ゲーマー
オンラインゲーム「アルヴヘイム・オンライン」のプレイスキル。
剣道
幼い頃から続けている、剣道の技術。学生剣道においては全国トップクラスの腕前。
【weapon】
なし
【人物背景】
主人公・桐ヶ谷和人の血の繋がらない妹。本来は従兄妹に当たる。15歳。
義理の兄妹であることは認識しており、無自覚ながらも、淡い恋心を抱いている。
歳相応の活発な性格。
一方で兄に関しては、その複雑な事情から負い目を感じており、ナイーブな一面を見せることも。
兄を閉じ込めたネットゲームには、当初憎しみを抱いていたものの、
彼がゲームの世界で活躍していることを知って以降は、その世界に興味を持ち、
一年ほど前から「アルヴヘイム・オンライン」をプレイしている。
今回は原作第一章・アインクラッド編の終了直前から参戦している。
【方針】
聖杯狙い。人を傷つけることには若干のためらい
-
投下は以上です
-
遅ればせながら、新企画発足おめでとうございます。
TRPGを実際にプレイしたのはSW系しかありませんが、私も投下させて頂きます。
-
―――友奈が、泣いていた。
無邪気で。真っ直ぐで。バカみたいにいっつも笑顔で。
どんな時でも心が折れることなんてなかった友奈が。泣いていた。
だから、決めた。
『大赦の勇者』として戦うのは、もう辞めた。
これからは勇者部の一員として、戦うって。
だって。
友奈の泣き顔なんて、見たくないから。
「さあさあ! ここからが大見せ場!!
遠からんものは音に聞け!!
近くば寄って、目にも見よ!!」
『壁』の外は、地獄だった。
地球は、神樹様が守っている場所以外。地表は既になく、マグマの塊と化していた。
その外に広がるのは、深遠。
そう、宇宙だ。
宇宙から迫る敵影、雲霞の如く。
いたる所で無数の『星屑』が醜悪な姿で蠢き。
倒したはずのバーテックスへの形成を始めていた。
『真実』を知りたがっていた東郷が、この『現実』を見て。
仮におかしくなってしまったのだとしても、不思議はない。
私だって怖くない、なんて言ったら嘘になる。
戦うことは、別に怖くはない。
例え相手が宇宙だろうと神様だろうと。戦うことだけが、私の存在価値だったのだから。
怖いのは―――失うこと。
満開を使わなければ、切り抜けられない。そして、満開を使えば―――
だから、みんなの写真を、目に焼き付けた。
ずっと、ずっと。覚えていられるように。
友奈は変身できない。
風と樹は来る気配がない。
東郷は……。
戦えるのは、私ただ一人。
でも、弱音は吐けない。だって私は、勇者でなくてはならないんだから。
「―――これが讃州中学二年! 勇者部部員!
三好夏凜の! 実力だああああああ!!!!!」
◇
-
すべてが、暗闇だった。
すべてが、無音だった。
それが、ただただ、恐ろしかった。
誰かが、私を抱えあげてくれたのが分かった。
手は、左側だけ、動かすことができた。
相手の顔らしき場所に手を当てる。
ほっぺたの柔らかさから、きっと友奈だと思った。
ぽたぽたと、暖かい水が私の顔に落ちてくる。
―――ダメだな、私。
泣かせないように頑張ったのに、結局また泣かせてしまった。
どのくらい、時間が経ったのか、分からない。
―――そして気が付いたら。
目の前に、扉があった。
え……扉?
あれ? 私……それを見ることができている……?
動かなくなったはずの私の右手には。
山躑躅を模した、銀の鍵。
動けるのなら、迷うことはない。
早く友奈を助けに行かないと。
真っ白な空間にぽつんと存在する扉。
私は躊躇することなく、その鍵穴に鍵を右手で差し込み。
がちゃり、と鍵を開けた。
◆
-
ジュニア・ハイスクールでの今日のカリキュラムが終わって、明日は休日。
商業地帯まで足を伸ばし、薬局でサプリメントと、日本雑貨の店でにぼしパックを購入。
誰も待つ者のいないマンションへと帰っている。
ミスカトニック河を左手に見ながら、郷里を思う。
瀬戸内海を臨む景色とは、当然ながら、全く違う。
―――もっとも。その景色自体が幻影で。
瀬戸内海の先は、深淵の地獄だったわけだけれど。
大赦から渡されたスマートフォンを見る。
電波状態を示す棒は、辛うじて一本だけ経っていて。
それでも、勇者部のみんなに、連絡は届かないみたいだった。
戦いはどうなっただろうか。
友奈は、みんなは、無事だろうか。
いくら焦っても、すぐにどうこうできる状況ではなかった。
一時的に戻ったところで、あの白い空間に戻るだけかもしれない。
聖杯戦争。
願いがなんでも叶うという。
バーテックス達を全て退治して、なんて願いを祈ったとしたら、叶うのだろうか。
神様の集合体である神樹様が、ああやって一握りの人間達を守るだけで精一杯なのに。
その守ってくれる神樹様でさえ、私達に代償を求めたというのに。
頭を振った。
何度考えても、答えなんて出ない。
だから、サーヴァントとやらも、まだ私の前に来ないのだろうか。
「……そこのお嬢さん」
思考に耽っていたせいか。
相手が近くまで来ていたことに、気がつかなかった。
「あ、えと……こんにちは。はい、なんでしょう?」
話しかけた人見ると、フードを深く被った女性が一人。
「こういうもの、お持ちじゃないですか?」
その女性の手には、銀色の鍵。
ハッ、と気がついた時には遅かった。
人通りがあるはずのこの道には、誰一人通っていなかった。
「ふふふふふふふふふ、そう。持っているわよねえええええええ!!!」
「くっ……結界!?」
辺りは暗さを増し。
人の気配は完全に消えてしまっていた。
「結界魔術師の私が!! この結界に特化した刻印を使っても!! この街の結界から出られないなんて!!!
だからあなたのカギを渡しなさい!!! それをたくさん集めて私はこの街から出るの!!冗談じゃないわ!!そう冗談じゃない!!!
そう鍵よ鍵鍵鍵カギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギカギ!!!!」
「な、なに……」
相手の鬼気迫る表情に気押され、私は数歩後ずさる。
「ランサー!!何してるの早く出なさい!!」
女性が叫ぶと。
その傍らに、槍を携えた漆黒の騎士が現れ始めた。
「え……」
その瞬間に、悟った。
この騎士には、決して勝てない。
バーテックスなんかの比じゃない。そこにある存在の重みが違う。
死。
そう、戦ったら、死ぬ。
それだけ何故かはっきりと理解できた。
いつも守ってくれた、義輝はいない。
-
「へ、変身、しなくちゃ……」
でも変身したら。満開ゲージがまた溜まってしまったら。
あの暗闇が。無音が。また待っているのではないか。
だいたい変身したとしても。
あの死の存在に、かなうはずがない。
ゆっくりと、黒き騎士が近づいてきた。
その騎士は、私に一礼して。
槍を、軽く突き出してきた。
―――そして私は、《跳躍》していた。
日々の鍛錬が。
ずっとずっと毎日欠かさず続けてきた鍛錬が。
私を裏切らなかった。
「勇者部五箇条ーーーー!!」
そう。そして、私には。
風、樹、東郷、そして……友奈。
勇者部で培った《勇気ある心》が、ある。
震える手でスマートフォンを押し。
「なせばたいてい!! なんとかなる!!!」
赤い装身具を、身に纏った。
「はあああああああああああ!!!」
装備した二振りの日本刀で、渾身の力を込めて、黒き騎士に振るった。
黒い騎士は避けようとも槍で受け止めようともせず。
私の振るった刀は、相手に傷一つ付けることができなかった。
威力が、弱まっている……?
騎士は槍を軽く横に振るい。
その威力だけで、私は河原まで吹き飛ばされていた。
「くっ……!」
今まで衝突の衝撃を軽減してくれていた精霊・義輝はやはり出て来ず。
なんとか自分で受け身を取って、ごろごろと転がった。
「何を遊んでいるのランサー!! 早く殺して鍵を奪いなさい!!! 鍵を鍵を鍵を鍵を!!!」
黒い騎士は女性に一礼すると。
槍をこちらに向け、突進してきた。
金縛りにあったように、私は動けない。
さっき刀で触れた時。自分の心が相手に畏れて震えたのが分かったのだ。
「勇者部五箇条ーーーー!!」
その弱い自分の心と身体を叱咤する。
「なるべく!! あきらめないーー!!!」
何とか刀を二本交差し、受け止める姿勢に無理やり動かす。
突進してくる黒い影。
その時。
『―――君の勇気!! 確かに受け取った!!!』
私の目の前に。緑の光の奔流が、立ち昇った。
◆
-
―――三好夏凛の前に現れた光。
その光は、黒き騎士の突進を弾き飛ばした。
光の中から現れたのは、鋼の身体に金の左腕。
獅子の如きたてがみを揺らした人型の男。
その名は、サイボーグ・ガイ。
「イーーーークイーーーーップ!!!」
彼はそう叫ぶと、光の結晶が頭に集まり、その光は兜と化した。
――イークイップ。
これは、彼の頭にホーンクラウンを装着する掛け声であるが、それだけではない。
サイボーグ・ガイの意識を戦闘へと切り替えるスイッチにもなっているのだ。
「ウィル・ナイフ!!」
再び突進する黒の騎士の槍を、手にしたナイフで受け止めた。
光と闇とが拮抗し、辺りに衝撃派が生まれた。
「ちょ、すご……これが、私のサーヴァントってやつなの!?」
サイボーグ・ガイが現れたことにより、自由を取り戻した夏凛が立ち上がって戦いを見守る。
光の戦士と黒の騎士は跳躍し、空中で数度打ち合っていた。
戦闘は拮抗し、戦士と騎士は互いに一度離れた位置へと立つ。
「何を手こずっているのランサー!!!!!!!! 早く!!!!早くソイツを殺して鍵を奪いなさい!!!!!
早く早く早く早く!!!!!」
騎士は魔術師に頷き、槍に魔力を込め始めた。
「まずい! 宝具か!
マスター! こちらにも使用許可の承認を!!」
「は……?」
二人の戦いに見とれていた夏凛が、意識を取り戻す。
「承認を!!」
「な、なんだかよく分かんないけどっ……。
いいわ。承認するっ!!」
「いよっしゃああ!!
ギャレオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!」
サイボーグ・ガイがひとたび咆哮し。
左腕に装着されている<ガオーブレス>から、<Gストーン>の翠の光が発せられ、閃光となって虚空を走る。
その虚空から、一体の巨大な獅子が姿を現した。
――『天を駆ける鋼鉄の獅子』、ギャレオン。
獅子王凱と共に地球を守った宇宙メカライオン。
サイボーグ・ガイは<ガオーブレス>からプロジェクションビームを放つこで、ギャレオンを召喚することができるのだ!
「な、なに。あのライオン……」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
「なっ、なに?」
夏凛は虚空に現れたメカに見惚れ。
敵対する女魔術師は、その獅子を見て、大声を上げて畏れはじめた。
「はっ、はっはっ、破壊壊壊壊、破壊される、壊される壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊壊」
「ちょ、ちょっと一体なんなの!?」
黒騎士はその様子を見て魔力の集中を解き、魔術師の方へ駆けだそうとする。
-
「逃がすな!! ギャレオン!!!」
凱に応えるように鋼鉄の獅子は大きく咆哮し。
口から発せられた特殊振動<メルティングウェーブ>によって黒騎士の魔力の衣を剥ぎ取り、その場に釘づけにしている。
「今だっ!! マスター! 合体許可を!!」
「へっ? 合体……?」
一瞬ぽかんとした後。顔を赤くする夏凛。
「な、なななななな。こんな時に何言ってんのこの変態!!」
「変体…? いや、そうだな。合体ではなく合身と言うべきだな。
ギャレオンとの合身許可を、マスター!!」
「へっ……」
再びぽかんとした後。顔を赤くしたまま応える。
「わ、わかってたわよ。ええ。承認よね承認。ほらさっさとやんなさい」
「サンキューマスター!!」
サイボーグ・ガイは夏凛にサムズアップをした後、高々と宙を跳びギャレオンの元へと向かう。
メルティングウェーブを解除したギャレオンもそれを迎えるように跳ぶ。
「フューーーーーーーーージョーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!」
機械仕掛けの獅子が大きく口をあけ、サイボーグ凱がその中へと入る。
「ガイッッッッ!!!ガァァァァァ!!!!」
獅子が変形を始め、人型へと姿を変えていく。
――サイボーグ・ガイは、ギャレオンとフュージョンすることにより、メカノイド・ガイガーへと変形するのだ。
鋼鉄の巨人を目にした女魔術師は更に何事かを叫び始め。
騎士は跳躍して魔術師の元へ向かうところを。
「ガイガー! クロウ!!」
鋼鉄の牙によって、両断された。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!」
途端。
断末魔の叫びを上げたのは騎士ではなく。魔術師の方。
魔術師は気が触れたように何事かを叫びながら、全速力で走って行く。
「結界は……解かれたみたいね」
逃げる魔術師に油断なく構えていた夏凛が、息を吐く。
と。
「あ……れ……」
夏凛の膝から力が抜け、ふらふらと倒れそうになっていた。
「おっと」
合体を解除した凱が夏凛を受け止める。
「すまない、いつもの調子で戦ってしまった。
ここでは魔力を使うんだったな……」
◆
-
マンションの近くまでライダーに抱えて運んでもらい。
人気の無い場所に降ろしてもらって、そこからよろよろとなんとか自宅に辿り着き。
辛うじてベッドに倒れ伏して。意識が途絶えた。
―――そして翌日。
目を覚ますと。
昨日のようなスタミナを極度に喪失したような感覚はない。
しっかりと回復できたようだ。
「―――大丈夫か、マスター。すまなかった」
「ええ。平気よ。
……助けてもらっちゃったわね、ありがと」
空間から若い男――ライダーが出現して謝り始めた。
この人が自分のサーヴァントなのだと、理屈でなく感覚で理解できた。
繋がりを感じるのだ。
「聖杯戦争……ね。あれがサーヴァントってやつなのね。
とても、私では敵わない」
敵に刀で触れた時の本能的な畏れを思い出し、拳を握りしめる。
だが少なくとも、ここにいるライダーには、そんな感情は抱かない。
「紹介が遅れたな。俺はライダーのサーヴァント、獅子王凱だ。よろしくな」
「私は三好夏凛よ、こちらこそよろしく」
爽快に笑っていうライダーに、こちらも挨拶を返す。
正直、兄以外の男性と親しく会話したことはないから、どう接していいのか分からないけれど。
挨拶は大事よね。
「夏凛だな。俺のことは凱と呼んでくれ」
「ってちょっと! 何勝手に名前で呼んでるのよ!」
何を言うのかこの男は。
「何って……ここはアメリカだぞ、夏凛。スクールじゃそう呼ばれてるんじゃないのか」
「そ、それはそうだけど……。
アメリカ、って。
歴史では当然習ったし、避難民の子孫で米系や欧州系の人もいるから英語は残ってはいるけど。
四国以外はウィルスでやられていたって習っていたから外の状況も分からなかったし、あまり実感湧かないのよ」
アーカム市民、としての記憶は不思議にあるけれど。
元々滅んだ場所としての認識も同居しているため、どうにも収まりが悪い。
「四国以外がウィルスで……?」
「ええ。本当のところは地球は四国以外全滅していて、それもギリギリの状態、ってところだったんだけどね」
「……馬鹿な……守護者は呼ばれなかったのか……?」
凱は小さく何かを呟いた。
「どうかした?」
「いや。……夏凛はその解決を、聖杯に願うのか?」
「ってナチュラルに夏凛って呼ぶことを流すな!
でもまあ。それなんだけどね。これでも神樹様……神様の力で私達が守ってるのよ。
代償……を払って、なんとかね。
聖杯っていうのも、きっと神様の力なんでしょ?
『バーテックスの全滅』を願って、それが本当に叶うのかどうか。具体的なイメージもないし」
「……なるほど」
-
それからいくつかバーテックスについて凱に聞かれ、私は一つ一つ答えていった。
それを聞いてしばらく考え込んでいた凱。
「それなら、俺と仲間達を援軍で呼ぶことを願えばいい」
「はあ!?」
「宇宙での戦いなら、慣れているし、そういった未知の生命体と戦った経験もある。
きっと力になれると思う」
自信に満ちた表情でこちらを見る凱。
これが……本当の勇者、なのかな。
「でも……。
だいたい、アンタはともかく、呼ばれる仲間はいい迷惑じゃない」
「そんなことはないさ。仲間達も英霊になっているし。
むしろ俺一人で行ったら、そのことの方を怒られる。
仲間だからな。
GGG憲章第五条一二項。GGG隊員は、いかなる危機的状況においても、常に人類の未来を考えねばならない。
同一四項。GGG隊員は、困難な状況に陥った時、仲間同士協力し合って対処せよ。ってね」
「仲間……」
目を瞑って、みんなを思い出す。
仲間。
確かに、怒るだろう。
「そう。―――ええ、そうね。
分かった。改めてよろしく………が、凱」
「よろしく、夏凛」
凱が差し出した手を、しっかりと握った。
―――これは邪が裏で蠢く中、人類の存亡を賭けて戦う、熱き勇者達の物語である。
-
君達に、最新情報を公開しよう。
【マスター】
三好夏凜@結城友奈は勇者である
【マスターとしての願い】
友奈を助けたい。バーテックスをなんとかする。
獅子王凱とその仲間を援軍に呼ぶ。
【weapon】
勇者システム付きスマートフォン
木刀*2(通常時)
日本刀*2、脇差(変身中)
【能力・技能】
『勇者システム』
対バーテックスのために、神託を授かった神官の末裔が組織した『大赦』によって開発された討伐システム。
発動することによって変身し、神樹の力を得ることができる。
勇者への変身はバーテックスの接近に関わらず、任意に発動することができる。
三好夏凜は赤色を基調とした勇者服姿へと変身する。
聖杯戦争の場においては神樹から距離、時間、概念が離れているため、
その能力は本来の物より減衰しており、防御を司る『精霊』は出現しない。
『満開/散華』
満開とは神の力を具現化する勇者の切り札。
三好夏凜の満開時は、刀を持った4本の巨大な鋼の腕を追加装備した姿となる。
神の力を使用する対価として、肉体の一部を神樹に捧げる。このことを散華と呼ぶ。
夏凜は四回の満開/散華によって、右腕の自由、右足の自由、両耳の聴覚、両目の視覚を失ったことがある。
捧げる部位の法則性は解明されていない。
聖杯戦争の場においては、満開を行うことで神樹との繋がりを一時的に強固にすることが出来る。
その為、通常の満開と同様の力及び魔力を神樹から引き出すことが可能。無論、散華の代償も通常のものと同等である。
大国主大神を始めとする神樹が、重要な局面で自身の尖兵である夏凛に、供物を返した上でアーカム入りを何故認めたのかは判明していない。
『勇者部五箇条』
・挨拶はきちんと
・なるべく諦めない
・よく寝て、よく食べる
・悩んだら相談!
・なせば大抵なんとかなる
【人物背景】
「大赦」から「讃州中学校」に派遣されてきた勇者の少女。灰色の髪をツインテールにしている。
幼少時から長年戦闘訓練を積んできた正式な勇者であり、初戦では単独で「バーテックス」を撃破する戦闘力をみせた。
優秀な兄を持ち、そのコンプレックスから勇者の訓練にストイックなまでに打ち込むようになった。
成績優秀、文武両道ではあるが、自身や身の周りのことには無頓着で、人付き合いが下手。
だが勇者部のメンバーと接するうちに態度も徐々に軟化していき、やがて勇者部の一員として仲間と共にバーテックスと戦う意思を持つに至る。
【方針】
聖杯戦争に勝利して、凱を呼んで友奈達を助ける。
-
【クラス】
ライダー
【真名】
獅子王凱@勇者王ガオガイガー
【パラメーター】
筋力C+ 耐久D 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具A+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:B+
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
ただし、後述のギャレオンについては騎乗可能。フュージョンが主だった為、あまり騎乗のイメージはないが、
元スペースシャトルのパイロットであり、本編でバイクや新幹線等を乗りこなしてもいる。
【保有スキル】
フュージョン:A
機械との一体化能力。凱はギャレオンとフュージョンすることで、メカノイド・ガイガーとなる。
また、ガイガー時、3機のガオーマシンとファイナル・フュージョンすることもできる。
道具活用:B
手持ちや周辺の道具、構造物を利用する能力。
常識に捉われない自由な発想で活用できる。
ハイパーモード:C
全身が光輝き、サイボーグとしての全ての能力・出力を15%増加させる。
3分間限定。一度使用すると数時間使用することが出来ない。
勇気ある心:A++
獅子王凱を英霊たらしめるもの。
いかなる絶望的な状況においても、決して折れること無き勇者の証。
また、マスター及び自身が仲間と認めた者の『勇気』を魔力に変換して力を得ることができる。
【宝具】
『勇気を育む命の宝石(Gストーン)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
緑に輝く六角形の結晶体。命の宝石。
「無限情報サーキット」とも呼ばれ、それ自体が超高度な情報集積回路・情報処理システムである。
生きようとする意思、『勇気』の高まりに応じて、Gパワーと呼ばれる緑色の輝きのエネルギーを無尽蔵に放出する。
『天を駆ける鋼鉄の獅子(ギャレオン)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
獅子王凱と共に地球を守った宇宙メカライオン。
凱が左腕の<ガオーブレス>からプロジェクションビームを放つこで、ギャレオンを召喚することができる。
前足の爪によるギャレオンクロー、牙で噛み砕くギャレオンファング、
特殊震動発生装置による咆哮・メルティングウェーブを使用可能。
Gインパルスドライブによる飛行も可能となっている。
また、凱がフュージョンすることで、小型ロボット・ガイガーに変形することができる。
・ガイガー
凱がGストーンを共鳴させギャレオンとフュージョンすることにより完成するメカノイド。
武装は腕部のガイガークローのみ。決定力不足は否めないが、敏捷性に優れ格闘戦を主体に戦う。
-
『勇気ある者たちの王(ガオガイガー)』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
ドでかい守護神。くろがねの巨神。すんごい鉄人。星々の宝。ぼくらの勇者王。
そして、破壊神とも呼ばれる。
その破壊の神がひとたび現出すれば、その姿を見た者は正気を失うであろう。
ただし、同格存在が相向かえば、その影響は相殺されるかもしれない。
―――そう、例えば。獅子の心臓を持つ機神などと向かい合うのであれば。
ガイガー状態の時、ドリルガオー、ライナーガオー、ステルスガオーIIの三機のガオーマシンを召喚し、
ファイナル・フュージョンを行うことで、重機動スーパーメカノイド『ガオガイガー』へと合体することができる。
正式名称は『スターガオガイガー』であるが、その名で呼ばれたことはなく、ガオガイガーという呼び名で問題はない。
右腕部を高速回転させて射出するブロウクンファントム、左腕部で空間を湾曲させて防御空間を形成するプロテクトウォール、
膝に装備されたドリルで攻撃を行うドリルニー、防御フィールドを反転させ目標を捕獲・拘束するプラズマホールドなどが使用可能。
尚、ステルスガオーIIに乗り込むことで、二人乗りが可能である。
召喚に際し、当然膨大な魔力を必要とするが、それ以上にマスターの『勇気』の証明が召喚の条件となる。
つまりマスター三好夏凛においては、魔力・勇気どちらも満たす『満開』の発動が召喚必須条件となる。
・聖なる左腕(ディバイディング・ドライバー)
ガオガイガーの左腕に装着する超ハイテクツールを召喚する。
要はドライバーで開けた穴を一時的に物凄く広げる超技術。
これにより巨体であるガオガイガーの戦闘において、街や住人に被害を出さずに戦うことが出来る。
召喚には令呪一画に相当する魔力が必要となる。
・滅ぶべき右腕(ゴルディオン・ハンマー)
ゴルディーマーグを召喚し、マーグハンドとゴルディオンハンマーに変形させる。
ガオガイガーの右腕にマーグハンドを装着し、ゴルディオンハンマーを持つ形となる。
ハンマーを叩きつけられた対象は光子のレベルまで分解、完全に破壊される。
召喚には令呪一画に相当する魔力が必要となる。
・天と地と(ヘル・アンド・ヘヴン)
右腕に攻撃的エネルギー、左腕に防御的エネルギーを集中させ、両掌を組み合せることで爆発的な破壊力を生み出す。
ガオガイガー単体において最大最強の特殊攻撃である。
本作の凱は存命時の記憶を持つ英霊であるため、「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ」という呪文に、
「ウィータ」という単語を追加で唱え、真のヘル・アンド・ヘヴンを行使可能である。
なお、使用には令呪一画に相当する魔力が必要となる。
【weapon】
・ガオーブレス
左腕に装着されているギャレオンを模したガントレット。
プロジェクションビームを放つことでギャレオンを召喚することができる。
・ウィルナイフ
ガオーブレスに収納されているナイフ。凱の勇気によってその硬度や切れ味が増す。
発信器にもなっていて、遠く離れていても凱はその位置を把握できる。
【人物背景】
GGG機動部隊隊長。スペースシャトルで宇宙に出た際、パスダーと邂逅、瀕死の重傷を負う。
ギャレオンに救われた後、父親の手でサイボーグとして復活。
礼儀正しい熱血漢で、自身の危険を顧みず、正義と勇気を最後まで貫く勇者と呼ぶに相応しい人物。
だが「(周囲の人間の気持ちに答えるために)弱音は吐けない。自分は勇者でなくてはならない」と吐露しており、
その性格が多少意識的なものである節が示唆されている。
尚、サイボーグとなった後、生身の身体にGストーンを宿した超進化人類エヴォリュダーに進化を果たしたが、
本作においてはサイボーグ時代における現界となっている。
【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを叶える。
-
―――これが、勝利の鍵だ。
【基本戦術、方針、運用法】
戦闘においては、基本、凱単体のみでの戦いが主体となってくるだろう。
凱は平均並の能力を持つサーヴァントであり、牽制や瀬踏み戦においては十分他サーヴァントにも通用する。
ただし精神攻撃が主体となるであろう邪神聖杯での戦いにおいては、身体能力を上げるハイパーモードをもってしても決定打には成り得ない。
やはり、ギャレオンの召喚が肝となってくるだろう。
注意したいのは召喚した後、原作同様に勢いで「フューーージョーーーン!!」と叫ばせないようにしたい。
ガイガーになってしまうとロボットとしてパワーや頑丈さは大きく強化されはするが、
サーヴァント戦ではその巨大さは返って弱点にもなりえてしまうし、ガイガー自体も決定力不足である。
(実際ギャレオン時に使えるメルティングウェーブ(特殊震動発生機構)はサイボーグ・ガイにも影響してしまうため、合体後は使用できないのである)
彼のクラスであるライダーらしく、ギャレオンとは分離したまま騎乗して戦うことを心掛けよう。
ギャレオンは機械ではあるが神秘性は高いので、彼を現出させることで、敵マスターへの精神圧迫はそれなりに効果がある。
勇気で全て解決するイメージのある凱だが、戦ってきた敵のタイプは多種多様に渡っており、
力、精神攻撃、本部強襲などあらゆる局面において打破してきた、その比類なき戦闘経験こそが彼の強みである。
マスターである夏凜は幼少時から戦闘訓練漬けだったため、変身前でも常人の範囲内では十分実力者ではある。
また、変身することで戦闘能力も上がり多少神秘の力も手に入るが、本来の神秘力は出せない状況にあるため、サーヴァントには届き得ない。
跳躍力、敏捷性はあまり落ちていないので、変な欲は出さず対マスター戦に専念すべきだろう。
なお、ガオガイガーの出現必須条件が満開であり、散華による影響により、
実質ガオガイガーを出した後は聖杯戦争脱落もほぼ必須となる。よく考えて使おう。
如何に夏凜に勇気を出させ、魔力を充填するかが勝利の鍵だろう。
-
以上で投下終了です。
-
投下させて頂きます。
-
『そう敵、あえて彼らをその愚行ゆえに我らの敵と呼ぼう!』
彼女の舌峰は鋭く、彼女のペンは剣よりも十万の軍隊よりも強い。
目的のためならば百万や千万の死すら彼女の歩みを止める事はない。
なぜならそれは単なる数値に過ぎず、彼女自身の存在ですら、一つの数字に過ぎないからだ。
誰も愛さず誰からも愛されず、ただ強烈な目的意識だけがそれを動かす。
世の中の人たちは、彼女を畏れ、敬い、あるいは憎悪する。
……しかし、どうしてこうは考えられないのだろうか。
哀れである、と。
◆
『――来い。私を守ってくれ』
その言葉を、覚えている。
世を支配せんとする堂々たる立ち姿を。
自らの行いに押し潰されそうになっていた精神を。
ふとした瞬間に覗かせた柔らかな笑顔を。
眼前で失われたその命を。
誰からも裁かれず、禊ぐ事も出来ず、自分を赦す事が出来なかった彼女の事を――。
片時も、忘れた事はない。
彼女の存在は未だ思い出に変わる事なく、心に留まり続けている。
――考えてみれば。
いつだって私は、彼女を想って生きていたのだ。
彼女の死は。
辛かったのか。それとも、悲しかったのか。
よく解らない。
ただ――涙は出なかった。
それは単に私がそういうモノだというだけの話なのだけれども、泣けない事を悲しいとは思わなかった。
遣り過ごしたのか。
あるいは、遣り過ごす事が出来なかったのか。
きっと――私の内部では、彼女との関係は今でも続いているのだろう。
過去を失った私にとっては、彼女と共に在った時こそが全てだったから。
『……そうか。今、カイは将来のために過去を積み上げている。そう考えてみてはどうだろう』
そんな事を、言われた事がある。
――将来。
私にそれがあるようにと、彼女は言ったのだ。
だから――。
それに応える事が出来なかった事が。
悲しいと言えば、悲しかったのだろう。
-
◆
灰色だけがあった。
災厄に立ち向かう為の剣も、星を守る為の盾も、とうの昔に機能を停止している。
朽ち果てた機械どもの群れに埋められたその空間は墓所を連想させる。
否――。
真実この地は墓場なのである。
嘗て存在した者が死に絶えた後、ただ一人の墓守だけが在った墓である。
架空都市アーカム郊外に顕現した墓場――その中心に男の姿がある。
無論、男も生者では有り得ない。
剣士の位階を得てこの地に現界した――サーヴァントである。
眠る者のない棺桶。読む者のない碑。
それに囲まれた男――紫髪の剣士、セイバーは瞳を閉じたまま、眉一つ動かす事もなく、ただ座したままでいる。
静寂。
――かつん、と、足音が聞こえる。
本来ならば音とさえ呼ぶ事も出来まい、静かな振動。
その振動は動くものが無いこの地にあっては確かなノイズとなり、周囲に響き渡る。
もっとも、静寂が破られたとて、それを責める者も存在しない。
「――ただいま、帰還しました」
セイバーは静かに瞼を開き、足音の主の姿を視る。
銀髪をボブに纏め、紫色のスーツを纏う――女である。
「――私の性能がどれほど通用するかは不明ですし、あなたや彼と違って霊体を感知する能力も有りませんが。
戦闘の痕跡程度ならば、多少の隠蔽があろうとも検出は可能と判断できます。現時点では、周辺に不審な反応はありません」
淡々と語る女の顔には一切の表情がない。
パーツが動かない訳ではなく、発する声は感情を感じさせるものがある。
にも関わらず、表情だけが存在しない。
瞳を開けるか、閉じるか――その二つのみが女が見せる表情である。
それは女の歩んできた道故のものなのか、或いは最初からそのような機能を有さず造られたのか――それは定かでなく、また、現在の場面には関わりなき事である。
ただ、この女こそがセイバーの召喚者であるという事のみが、明瞭としている事実であった。
「――魔術師よ」
魔術師――セイバーは女をそう呼んでいる。
客観的に見るならば、その呼称は明らかな誤りではある。
女は魔術を行使する能力は無く、根源への到達を目指している訳でもない。
そも女が生まれた世界には、自然界に満ちる大源《マナ》が――今の段階では――存在していないのだ。
それを承知の上で、セイバーは自らの主を魔術師と呼ぶ――彼が何者かに仕え、その意のままに剣を振るう事があるのならば、その相手は魔術師であるべきなのである。
「……何も魔術師自らが戦場に赴く必要はあるまい。偵察ならば俺に命令すれば良いのではないか」
セイバーの言を受けた女は変わった反応をするでもなく、淡々と答えを返す。
「例え霊体となっていようとも、魔力量に関しては誤魔化しは効きませんから。
追跡を受けるリスクを考慮するならば、私が行うのが理に適っていると思いますが」
「む――しかしな」
「認識災害に関しても承知しています。ですが、見方を変えるならば、それは相手の情報を掴んだ、という事にもなり得るでしょう」
「――この街で『真実』へと近づく事は、それだけで命取りとなる」
「気遣いは――不要です」
-
女の口調はあくまで冷静であり、捨て鉢になっているような響きはない。
「……」
セイバーが音も無く立ち上がり、女を真っ直ぐに見詰める。
女もまた視線を受け止める。
――暫しの沈黙を破ったのは、女が先であった。
「――あなたが護るべき相手は、私ではないのでしょうに」
「今の俺は、従者だ」
「それは私とて――同じです」
「うむ――」
「私は主にはなれない。そうなっては――ならない」
「……」
「――気に掛けずとも良い相手を気に掛けるのは、カタナ使いのこだわりですか」
「さて――今の俺に拘りなど、あるかどうか」
言葉を交わす両者はその瞳を逸らさない。
ただ、女の眼は、自分のそれよりも高い位置にあるセイバーの顔を自然と見上げる形になっている。
無論、女の無表情からは何の感情も見出す事は出来ない。
「少なくとも、あなたには力があったのでしょう。護るべきものを護るための、力が」
「そうだな。……確かに、俺は自らの意思で護ったのだ。人を。星を。後悔など――ない」
「うらやましい、と言うべきなのでしょうね。私は、何の結果も出せなかった。
意思を継ぐ事も出来ず、女として、母として生きる事も出来ず、ただ使命を果たすだけの人形にさえなれなかった――過ちです」
「……」
冷たさを伴う自嘲。
自らを過ち《デュミナス》だと言う女。
それを前にして、セイバーは初めて自らの願いを語った。
「……例えどのような者であろうとも、生命そのものを否定する事は――それ自体が間違いなのだ、魔術師よ」
「だからあなたは戦うのですね。聖杯によって齎されるかもしれない滅びを回避する、その為に」
「人は過ちを繰り返す。だが、それを乗り越えようと足掻く事が出来るのもまた人間だ。
如何なる時代でも、生きようとする意思がある限り」
「……」
「幾度と無く人の愚かさを見せつけられようとも、種の保存という願いを未来へと託す。
……お前の主も、人という存在を――愛していたのではないのか」
「――セイバー」
――女の顔が歪む。
「――その物言いは、あまり好きではありません」
「……すまんな。踏み込んではならぬ部分に、踏み込んだ」
再度、沈黙。
それを先に破るのはやはり女である。
「――私が何故この地に立っているのかは、判りません。
ですが、こうして命がある以上、私は今までと変わらず行動します」
「……」
「聖杯の持つ可能性は看過できるものではありません。
確保――それが不可能な場合でも、破壊する事が、現在の私の任務です」
女はあくまでも従者たらんとする。
過去を変える、という選択肢は存在しない。
未来も、また。
それをするべきは女ではなく、女の主であるが故に。
「……そうか。ならば俺はあえて、今一度この名を名乗ろう」
刀身が煌く。
その剣が断つものは悪に非ず、魔に非ず。
ただ主の敵を討つ為の刃。
其の名は――。
「我が名はゼンガー。ゼンガー・ゾンボルト。
――魔術師《メイガス》の剣なり」
-
【真名】
ゼンガー・ゾンボルト@スーパーロボット大戦α外伝
【ステータス】
筋力B 耐久A+ 敏捷C 魔力C 幸運E 宝具E
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
セイバーが存在した宇宙に於いては、死した者の魂は知的生命体の意志集合体である無限力ないし負の無限力へと取り込まれる。
人類誕生の遥か以前より存在する無限力の一部であるセイバーを現代の魔術で傷付けるのは極めて困難である。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
戦闘続行:B++
底力。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
また、負ったダメージが多ければ多い程に耐久・敏捷のステータスが上昇していく。
それに加え、戦闘中に最大HPの半分を切った際に判定を行う。成功した場合、
『1ターンの間のみ、攻撃による命中率を100%にする』
『1ターンの間のみ、戦闘による被ダメージを1/4にする』
『一度のみ、攻撃によるダメージを倍加させる』
以上の効果の内一つを発動する。
この効果は一戦闘につき一度しか発動せず、『仕切り直し』等のスキルによって無効化が可能である。
悪を断つ剣:E
『ゼンガー・ゾンボルト』という英霊の信念であり生き様。
近接戦闘のダメージを上昇させる効果に加え、ランクに応じて様々な相手への特効効果を得る。
Eランクの場合、特効効果は得られない。
高ランクの場合は神霊にさえ通用するスキルだが、この聖杯戦争で召喚されたセイバーは『ゼンガー・ゾンボルト』のオリジンでありながら異端である故にランクが大きく低下している。
守護:-
セイバーは数千年の永きに渡って古代ミケーネ人やハチュウ人類ら先住地下種族の侵略から人類を護り続けた英霊である。
また、地球環境の再生を使命とするアンセスターの一員であった事から、星の守護者としての側面も持つ。
『自爆によって諸共に敵を消滅させよ』という主の命令に対し、主の防衛を最優先するためにその命令を拒否した逸話もあり、守護に関しては特に優れた英霊であると言える。
……人類を抹殺せんとするアンセスターの尖兵となり、地球を再生せんとするアンセスターを裏切り、自らの手で愛する者を断ったセイバーから、このスキルは失われている。
【宝具】
『眠れ、地の底に(アースクレイドル)』
ランク:E 種別:対災宝具 レンジ:- 最大補足:-
人類が直面する危機を遣り過ごす為の揺りかご。
本来ならば多数の防衛機構が存在する結界となるが、それらは全て機能を喪失しており、魔力消費を抑える陣地程度の機能しか果たさない。
宝具自体が持つ神秘も薄いものであり、サーヴァントを契約を交わしていない一般人がこの宝具を目の当たりにした場合、『その存在を認識できない』という形で狂気に陥る。
これはこの宝具が存在した時代で本来の役目を果たさず、殆どの人間がその存在を知る事のないまま崩壊した為である。
他のマスターが内部に侵入した場合でも正気度の減少は少ないものとなるが、内部に存在する物品次第では大きく減少する可能性がある。
ただし、前述した通り、この宝具自体が能動的に行動を起こすことはない。
-
【weapon】
『霊式斬艦刀』
セイバーが用いる日本刀にこもった霊力が解放され変異した姿。
本来ならばこのゼンガー・ゾンボルトには縁のない物だが、セイバーのクラスとして召喚された事で手にしている。
【人物背景】
地球連邦軍に所属する豪胆且つ実直な武人。
ソフィア・ネート博士が中心となって立案された種の保存計画「プロジェクト・アーク」に軍事責任者として参加し、コールドスリープ状態で永い眠りについていた。
しかし地球圏を襲った衝撃波と混乱に乗じた地下勢力によってアースクレイドルにも危機が迫った。
他の者に先んじて目覚めたゼンガーはこれに立ち向かうが、アースクレイドル内部ではイーグレット・フェフによる反乱が発生。
彼はソフィアをアースクレイドルのメインコンピュータ「メイガス」と融合させ、自身の手勢であるマシンナリー・チルドレンを率いてアースクレイドルの掌握を目論んだ。
イーグレット自身はゼンガーにより葬られるが、残されたメイガスはゼンガーに精神コントロールを施し、
マシンナリー・チルドレンと共に自身の配下としてアースクレイドルの勢力を再編成し『アンセスター』を名乗る。
彼らは地下勢力を退けた後に一度活動を休止するが、遥か未来において再び活動を再開。
その中で人類を不必要とみなし地球の後継者を自称して地上の制圧を目論み、ゼンガーもその尖兵として使役されることとなる。
その後、ゼンガーと同じく『黒歴史』を生きた者達との戦いの中で自我を取り戻したゼンガーはアンセスターに叛逆。メイガスと融合したソフィアを討った。
全てが終わった後、ゼンガーは独りかつてアースクレイドルが存在した地でソフィアの冥福を祈って涙を流すのであった。
【サーヴァントとしての願い】
一刻も早く聖杯戦争を終結させる。
【マスター】
上守甲斐@パワプロクンポケット12
【マスターとしての願い】
自らが主体となる事はできない。
【能力・技能】
戦闘用アンドロイドとしての身体能力。
極めて優秀な演算能力を持ち、数十の爆弾の遠隔操作と銃撃戦を同時に行う事ができる。
体内の毒物の検出が可能な他、超能力を感知するセンサーを持つ。
【人物背景】
世界を支配する企業体・ツナミグループの幹部であり、ツナミを作り上げた『六人組』の一人。
前会長であった神条紫杏の秘書兼護衛であり、彼女に心酔している。
紫杏に対し的確な助言を行いながらも盲目的に命令に従うだけでなく、
ある事情から過剰なまでに苛烈な行動を取ろうとする紫杏に『あなたのやり方でやるべき』と説得するなど、その心を推し量った上で彼女に従っている事が見て取れる。
その一方で既に戦闘不能となっている相手を殺害するなど、敵対する相手には基本的に容赦しない。
紫杏の死後はその後継者となる事が周囲から期待されていたが、本人はそれを固辞し前線での任務を続け、主の後を追うように死亡する。
仮に彼女がツナミの最高経営者になっていれば人類にとって良い企業になっていた可能性は高い、とされている。
結果的には甲斐の死が契機となり、別の人物がツナミの後継者となった事でその在り方が歪められていく事になった。
【方針】
聖杯の確保、ないし破壊。
その障害となる相手は排除する。
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投下を終了します。
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投下します
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眼鏡と褐色の肌が特徴の少女がガラス器具の散乱した部屋に座していた。
高級そうな機材もある、近代的などこかのラボラトリー。
そして机にしまってあった銀色の鍵を握って扉へと向かう。
その鍵は頭が八角形で、その中央に宝石のようなものが嵌っている。キー溝はなく先端にいくつか鍵山がある、古めかしいもの。
ハートマークを中心線で左右に割ったような、奇妙な形のキーホルダーがついている。
そして明らかに合わないだろうに、扉の鍵穴へそれを宛がうと……するりと嵌まり、右へ捻る。
かちゃり、と音を立て何かの……その扉であって、その扉でない鍵が開く。
そしてその扉をくぐると、少女は大きな図書館にいた。
背後の扉を開いても、先ほどまでいたラボは見えない。
「どうやら無事に辿りつけたようですね」
ここはアーカム、ミスカトニック大学の図書館。
少女の名はラニ=Ⅷ。
師の命により架空都市アーカムを観測するため、そして外世界に人類存続の可能性があるのか見極めるため、この地に赴いた錬金術師だ。
アトラスの錬金術師は滅びの未来を回避するためならば、月にでも平行世界にでもその可能性を求める。
そしてそれが滅びの要因となるなら打ち倒す。
アトラス院に月面とは異なる『聖杯戦争』の情報が舞い込んだのは数ヶ月前。
平行世界への扉を開く『銀の鍵』でもって幻想の都市における闘争に勝利したものに『聖杯』がもたらされる。
西欧財閥の管理によって停滞し、緩やかに滅びへの道を歩む文明とは別の可能性、平行世界。
そして滅びの未来を打破しえる聖杯。
その可能性/危険性を調査し、場合によっては破壊する。
本来ラニは月の聖杯戦争に参加するはずだった。
だが聖杯の可能性を観測した以上、それを放置はできない。
アトラスを警戒する西欧財閥との政治的駆け引きや、因縁ある聖堂教会とのやり取りの結果予定を変えこちらに向かうこととなった。
現在西欧財閥に信頼の置ける腕利きのメイガスは存在せず、虎の子のウィザードは月に向かうという。
ムーンセルへのアクセスの方が多くの人物に可能で誰かに先を越されかねない可能性があり、またこちらの聖杯の情報が未だ定かでないためだろう。
無論だからと言ってこちらに駒を送り込んでいないとは限らないが、月の聖杯戦争にアトラスの錬金術師が参戦するのを避けたかったか、『銀の鍵』は西欧財閥のお膝元から入手できた。
アトラスとも独自のコネクションを持つとはいえ、聖堂教会は西欧財閥と一応協力体制にある。
にもかかわらず教会の総本山、ローマにおいてかつて超能力者の集団が所有していたという『鍵』を教会を通じて入手できたのはそうした思惑もあるのだろう。
そしてその鍵と使命を託されてこの地へと降り立ったのだ。
「そろそろ、でしょうか」
鍵はあくまで戦争に参加する術でしかない。
ついで重要なのは戦場における矛、サーヴァントの降臨。
一応召喚の術式は頭に入っているし、触媒にもいくつかあたりはつけているが基本的には聖杯に宛がわれるはず。
……しばし経ってもそれらしき気配は感じられず、陣を組もうと『鍵』を改めて手にするが
「ボンジュール、美しいお嬢さん。サーヴァント、セイバー召喚に応じ参上した。君が俺を呼び寄せたマスターかな?」
外に魔力が流れる感覚と、ナニカの扉を開けるような感覚。
そしてそこから何か――サーヴァント――を引き出す感覚。
現れたのは逆立った銀色の髪をした大柄な青年。ステータスはセイバーにしてはあまり高くない。
-
「おっ、懐かしいもの持ってるな。その鍵、俺が持ってるのはもっとピカピカだが……
そんなくすんだ銀色になっちまって。マイホームが古ぼけてんのはクルもんがあるなァ〜。
って、そのキーホルダーみてえなの!どこで手に入れたんだ!?」
振る舞いはとてもフランク。
問いを投げておきながら次々と話題を転じていくのはよく言えば明朗で、悪く言えば軽い。
まだ話したりなそうなサーヴァントを制し、話し始める。
「まずはごきげんよう、と。私はラニ、あなたのマスター、そしてあなたと同様、聖杯を手に入れる使命を負った者。
これはこの地での聖杯戦争に挑むための『銀の鍵』といわれる聖遺物。
この…キーホルダーは私が師からお守り、かつ召喚のための触媒として譲り受けた物です」
次々と言葉を投げる男に対し、論理的に答えていく。
それを受け男も落ち着きある振る舞いを馴染ませ始める。
「召喚の触媒、だと?それの来歴が分かるなら教えてもらえないだろうか」
「師からの伝聞になりますし、師もまた貰い物と言っていましたが。
ルクソールに住む師匠の遠縁の方をかつて救った、銀色の髪をした小さな騎士が唯一残した痕跡だそうです。
さほど歴史あるものというわけでもないので、ちょっとしたお守りとして師匠も頂いたそうで、それを私も託されました。
これといった神秘を宿しているというわけでもないのですが……」
詳しいところは師匠も自身も知らない。そもそも元々の持ち主だった女性にも語れるほどの情報はなかったらしい。
それでも惹かれるものがあったから持ちこんだ、という旨を告げる。
「神秘なんざない、か。そりゃそうだろうよ。そんなモン使ったとこで呼び出せるのはフランスのハンサムなシュバリエだけさ。
なんでまたそいつを持ってきた?選ぶにしてももう少しいいものはあるだろう?」
銀色の髪を光らせながら、特徴的な――ハートマークを中心線で左右に割ったような、奇妙な形の――耳飾りを揺らし問いかける。
シャルルマーニュの騎士…?などと見当違いの正体を一瞬浮かべつつ、問いに答えるラニ。
「……不思議な星回りをしていたのです。白金のように強壮な星、茨のように変幻自在な星、黄金の風のように堂々たる星、それらは皆英雄の星。
通常英雄譚には主人公は一人、そして魔王も一人。けれどこれの周りには三人の英雄、うち一人からは魔王の才気。そして魔王たる星に悪魔たる星も巡っていました。
星が、とても奇妙な物語を語るのです。とても奇妙で、私の胸の中のなにかが震える物語を」
「…………ああ、君は占星術を嗜むのか。コーヒー色の肌にインド風の服装、星を占うマスターか。鍵と飾りはあるからあとはチェリーでもあれば完璧だな……
おっと失礼。俺だけの世界に入り込んじまったな」
「いえ、構いません」
キーホルダーについて語った時は僅かながら表情に人間らしさが差していたが、すぐに失せてしまった。
無表情、というより無感動になった少女の様には様々な人物のポーカーフェイスを見慣れている彼でもとっつき難いものだった。
「……重ね重ね失礼。この魔力量、もしかしてと思っていたが君は人間じゃあないのか?」
「ええ。私はアトラスの技術の粋を結集して練成されたホムンクルスです」
それが何か?とでも言いたげ…ならまだよかった。
ただ事実を述べるだけの、簡素な回答。
「オズの魔法使いを知ってるかい?君の願いはもしやブリキの木こりと同じではないかな?」
「確かに私はこの空虚な器を満たせと、師にも言われました。私もそれは望むものですが……空洞を満たしてくれる人に出会え、と。
ですからそれは聖杯に託す願いではありません。人形に過ぎないこの身に願いなど…むしろ、その」
僅かに言いよどむ。
それは羞恥や戸惑いによるものとは違うと、読み取れる。
彼女にそうした機微は未だ見られないようだから。
-
「ちなみに俺に願いはない。まあ妹や仲間との二度目の生を望まないと言えば嘘になるが……
不老不死だの絶頂だの望んだやつが悍ましいことになるのはよ〜く分かってんのよ。
Hell 2 you!なんざ二度とゴメンだ。君が聖杯をどうしようと構わない……世界を滅ぼそうとでもしてない限りな」
「……そうですか」
僅かに力を入れていた令呪を宿す手から力みを抜く。
聖杯の破壊を視野に入れて動く以上、サーヴァントの反対にあう可能性はあった。
心のないバーサーカーのクラスを引けなかった以上、最悪令呪による狂化の付与も視野に入れたが……
世界滅亡の回避、その理念が共有できるなら、このサーヴァントとならば。
「師の言う者を探すのは聖杯とはまた別。
私は聖杯を手にし、それが世界に破滅をもたらすような代物であれば破壊するよう命じられています」
「ほ、なるほど。それでちょい黙っちまったか。そうだな、手に負えないものだったら破壊するってのはアリだろう。俺も矢を一本最悪ブチ砕こうとしてたしな。
ただ取得は最低条件か?悪党切るのに迷いはないし、鍵での入場だ、全員相応の覚悟の上だとは思うがよ、人を探すんだろ?小指と小指が赤い糸で繋がったような人をよ」
闘争の果てによるもの以外にも選択肢はあるのではないか、という提案。
死徒による洗脳は悍ましいもので、しかしかけがえのない友と出会うきっかけだった。
戦いのなかでも育まれる絆はある。
ここは願いを奪い合う戦場だが、引かれ合う何かがあれば、運命を読めるならばきっと友と出会える。
「星詠みは得意なんだろう?『星』ってのは、いい。一緒にいるとなんだか誇らしい気持ちになるんだ。
魔術師もここには腐るほどいるはずだ。『魔術師』ってのは切れ者で頼りになるし、意外と楽しい奴だった。
まずは探そうぜ、きみの言う器を満たしてくれる者を。
人生ってのは一つの物語だ。中でも英雄譚ってのはとびっきりの逸品だ。
シェヘラザードが千と一夜物語を語って聞かせた王に寛大な心が芽生えたように、人と触れ合うことで君にも変化があるだろう」
先々戦うかもしれない人と友誼を結べという。
それは殺戮以外の道を歩んでほしいという気遣いか、スペアプランを確保しておく周到さか。
……きっと前者に近いもので、彼の信条に準ずるものだろう。
このキーホルダーに所縁ある、奇妙な小さな騎士のような。
「…あなたの言葉は無駄のない論理的なものではありません。聖杯を手にする、その方針を改めるつもりはありません。
ありませんが…不思議と惹かれるものはあります」
「それもまた心の妙さ。おれたちスタンド使いに心の在り方ってのは重要だからな。
さっきも言ったが敵を倒すのに否はない。俺は君のサーヴァントだからな」
背を向けて、ほんの数歩歩む。
見えるのは歴史に刻まれた英雄の背中。
そして妹を導こうとする兄の背中。
そして障害を切り払わんとする騎士の背中。
振り向きざまセイバーたる証、銀色の刃を披露し、高らかに名乗る。
「我が剣の銘はシルバーチャリオッツ。タロットにおいては侵略と勝利を暗示する。
そして我が名はジャン・ピエール・ポルナレフ。
我が主ラニの秘めたる心のために、騎士たる道を歩むことを誓おう!
……よろしく頼むぜ、マスター」
-
【クラス】
セイバー
【真名】
ジャン・ピエール・ポルナレフ@ジョジョの奇妙な冒険
【パラメーター】
筋力E 耐久C+ 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具EX
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:D
騎乗の能力。大抵の乗り物を人並みに乗りこなせる。応用して路駐されたバイクに蹴りを入れて起動するなども可能。
また本来なら人間などを運ぶことは不得意な自身のスタンドも「引っ張らせる」ことではなく「乗りこなす」ことで乗機のように移動が可能となる。
【保有スキル】
騎士道精神:A-
仲間や弱者、女性を守ろうとする高潔な精神。黄金の精神や勇猛に近似するスキル。
他者の身や誇り、尊厳を守る戦闘に有利な補正がかかり、威圧・混乱・幻惑などの精神干渉を無効化する。
また剣によるダメージが向上する効果もある。
なお吸血鬼と妖刀に操られた逸話から洗脳に対する抵抗力は、恐怖や威圧に対するそれよりも劣る。
心眼(真):B
十年に及ぶ鍛練と実戦経験によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
戦闘続行:C
不屈の闘志と頑健な肉体。
瀕死の傷であっても戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り勝利を諦めることはない。
常在日常:A
復讐の旅であっても戦場であっても平常心を失わない。
ある種の落ち着きであり、日常が戦場へと変化しても慌てることのない振る舞いは自身と仲間の精神をリラックスさせて正気度へのダメージを大きく減らす。
逆を言えば戦場においても自分のペースを重視してしまうということでもあり、自己の目的のために仲間の足並みを乱したり、敵にペースを掴まれやすいという欠点にも通じる。
生前も『女帝』『正義』『審判』『皇帝』『ディアボロ』など多くの敵の接近を許したり後手に回ってしまうことは多々あり、妹の復讐や宿敵の討伐のために単独行動をとることがあった。
【宝具】
『侵略と勝利の凱歌を歌うは刃金の如き銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0〜4 最大捕捉:2人
中世騎士のような甲冑を身にまとい、切れ味鋭いレイピアを武器として携えた人型の「生命エネルギーが作り出すパワーある像」、スタンド。
ステータスは筋力C- 耐久B 敏捷B+ に相当し、Cランクの対魔力を保持する。敏捷の+補正は刺突の連打時に発生する。
スタンドの甲冑を脱ぎ捨てることで耐久と対魔力を1ランク低下させる代わりに筋力と敏捷を1ランクアップさせることができる。
この際に発火や毒の付着などのバッドステータスを甲冑と一緒に吹き飛ばし回復することが可能。
レイピアの刀身も甲冑と同様に飛ばすことができる。
ただし一度飛ばした場合すぐには再生できず、いったんスタンドを解除するか数呼吸インターバルを必要とする。
なおこの宝具はポルナレフと一心同体であるためダメージはフィードバックされ、この宝具が消失した場合ポルナレフも消失する。
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『悲しき友情のしらべは彼の望まぬ葬送曲(イギー・ポップ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0〜20 最大捕捉:5人
彼を助けようとした仲間や人の犠牲、ひいては彼の人徳と悪運、そしてそれによる義憤が宝具となったもの。
モハメド・アブドゥルは彼を敵の攻撃から庇い一度は重傷で済んだが、二度目は命を落とした。またイギーも彼のために命を落としている。
花京院典明は彼に代わって目を切り裂かれ、ジョセフ・ジョースターと空条承太郎は彼の救出のために自らの魂を賭け、空条承太郎に至ってはポルナレフを救うために自ら窮地に身を投げ、一時は心停止にまでなっている。
他にも仲間ではないが、傷薬を届けに来たホテルのボーイ、それに耳飾りを残したエジプトの女性などが彼のために危機に巻き込まれている。
そして彼が致命的な敗北をしたのはギャングの手により社会的に「孤立」させられたことが最大の原因であった。
ポルナレフに対する攻撃は彼自身よりも周囲に向かいやすくなる。
優先順位はNPCや無関係の人物≧味方>ポルナレフのマスター>ポルナレフ である。
攻撃を逸らすようなものではなく、敵はポルナレフよりも先に周りを片付けようし、味方はポルナレフを守ろうとし、とターゲットとしての優先順位が落ちる程度。
そして彼の周囲に被害が出た場合
①自身およびスタンド「シルバーチャリオッツ」のステータスの上昇
②クラススキルと常在日常を除く保持スキルの一時的なランクアップ
③スタンド「シルバーチャリオッツ」のレンジ(射程距離)拡大
④Bランクの単独行動スキルを獲得する
のいずれか、または全てが起こる。
上昇するステータスやスキルも全てかもしれないし、一部かもしれない。上昇値は1ランクかもしれないし、3ランクくらい上がるかもしれない。
その被害に対する激情が大きいほどに効果は大きくなり、後ろの方の効果が発動する確率が上昇する。
この宝具の存在はポルナレフも認識しておらず、マスターも通常は気付くことはない。
しかしその激情を露わにする様は、敵味方共に恐怖か敬意か、何らかの感情を想起させるだろう。
『その身を委ねるは安息の眠りをもたらす子守唄(ココ・ジャンボ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:10人
スタンド使いの亀であり、背中に鍵をはめ込むことで能力を発動する。
一時この亀の体に魂を宿したことと、死後にこの中で過ごしたことからポルナレフの宝具となった。
自身の中に居住用の異空間を作り出す能力で、ホテルの一室程度の広さの部屋が用意できる。
入るときは『鍵』の宝飾部分、出るときは天井に触ると一瞬で吸い込まれて移動できる。
また、鍵を外すと能力が解除され、生き物だけが強制的に排出されてしまう。
驚くべきことに電気・電波が届いており、ネット環境まで整っている。
一方で水道は通っていないらしく、トイレも無い。
安住をもたらす宝具であり、また神秘の少ない存在で、見た目がただの亀であることも相まって正気度への影響はほぼない。
またポルナレフが消滅する際に一度だけ魂をこの宝具の中に留めることができる。
そうなった場合、体は享年時の右目と両足を失った状態となり、耐久がEランク、敏捷がE-ランクに変化する。
さらにシルバーチャリオッツは後述の宝具へと進化する。
-
『御霊を新たな領域に導くは生まれ変わりの鎮魂歌(シルバー・チャリオッツ・レクイエム)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:上限なし
『銀の戦車が歌うは侵略と勝利の凱歌(シルバー・チャリオッツ)』が進化したスタンド。
生前(?)は矢を用いたものだったが、発動が致命傷を負った後のものだったため宝具としては『死後に発動する』という逸話の下再現された。
レンジ内に存在する全ての者(NPC含む)を20ターン眠りにつかせ、近くにいるものと魂を入れ替える。動物と入れ替わる可能性もある。
通常肉体を持たないサーヴァントには眠りの効果のみを発揮するが、もし受肉したサーヴァントが存在すればそれも魂を入れ替える対象となる。
入れ替わった者の魂は人間以上の存在へと進化していき、パラメータの向上が起こる。
そしていずれは幻想種にまで至る……はずだったのだが邪神の魔力により汚染・変貌。
幻想種ではない名伏し難き何か……深きものやショゴス、ひょっとすると邪神そのものなどへと変化していくだろう。
レクイエムに対して攻撃を加えることは自らの精神を攻撃するのと同じことであり、その攻撃は全て自分に向かうこととなる。
そのためこの宝具の解除には生物の背後に宿る魂の光源を破壊する必要があり、令呪を以てしても停止および破壊は不可能。
そしてその解除方法も、変質しているという事実もポルナレフは知らない。
それは解除方法を知った3人の男のうち二人が死に、残った一人から聞いていなかったのか。
レクイエムというスタンドのさらなる進化を彼が使いこなせなかったからなのか。あるいは邪神による召喚の影響で記憶から抜け落ちたかは不明。
仮に解除したところで自分と他者の魂が入れ替わっている、肉体が悍ましき何かに変異していく恐怖やそれを実際に目の当たりにする、などの現象が正気度に与える影響は計り知れないものがあるだろう。
またこの宝具が解除された時ポルナレフは消失するが、ポルナレフが消失してもこの宝具は解除されない。
魂を上位存在へと進化させる第三魔法の片鱗という本質は変化していないため、邪神の魔力により変質してなお規格外のランクを誇る。
【weapon】
宝具に依存。
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【人物背景】
フランス出身の、生まれついてのスタンド使い。剣の達人のスタンド「シルバーチャリオッツ(銀の戦車)」を有する。
少年時代に妹を惨殺され、その仇を探すうち吸血鬼DIOに出会い洗脳される。
それにより初めはジョースターたちの敵であったが、洗脳されてなお垣間見せた騎士道精神は一行に認められ、洗脳を解かれて仲間入りする。
その後仲間と協力して妹の仇をとり、それ以降も同道してDIOとその一味撃退に尽力、ジョースター家の者以外で唯一最後まで生き延びた。
その後「弓と矢」の存在が明らかになると空条承太郎と共にその後を追う。
それに関連し、生まれ故郷における少年の麻薬事件が増加している原因にイタリアのギャング組織「パッショーネ」が関与していることを突き止めて単独で調査を行っていたが、その組織力の前に孤立無援へ追い込まれて承太郎たちへの協力も頼めなくなったうえ、組織のボス・ディアボロとの戦いで右目と両足を失う。
九死に一生を得て、矢に秘められた力、ディアボロの容姿や能力の秘密を伝えて満足に戦えない自分に代わってディアボロを倒せるものを探し続ける。
そしてパソコンを通じてジョルノ・ジョバーナたちとローマのコロッセオで落ち合うことに。
しかしそこでディアボロと再戦、キング・クリムゾンの能力の対処法を編み出すも惜敗、シルバーチャリオッツをレクイエム化させることで、矢を奪われることだけは辛うじて防いだ。
その後、ジョルノたちの元にいるカメと魂を入れ替えることでようやく合流を果たすと、ジョルノたちへ助言を与えながら的確にサポートしてみせた。
ジョルノによってディアボロが倒された後は、「肉体は死亡したが精神(魂)は生きている」という幽霊となり、カメのスタンド内に居着くこととなる。
その後はジョルノを助け、組織のNo2となる。承太郎たちとも改めて連絡を取り合えたようだ。
年を経て獲得した慎重・博識な面もうかがえるが、基本的な性格は若年の単純・直情的・女好きで、自信に溢れた明るい人間性をしている。
トラブル被害担当のコメディリリーフ的な役回りを担っており、特にトイレ関係の災難によく遭っている。
しかし、仲間の危機に直面すると、打って変わって誇り高き騎士の一面を覗かせる。
10年ほど能力を鍛えていたためにスタンド使いとしての実力は高いが、自信過剰で単独行動を取りたがる場面が目立ち、敵を侮りがちな面もある。
それでも実力は確かであり、敵味方問わず高い評価をされている。
空条承太郎曰く「手加減して戦える相手ではない。
ホル・ホース曰く「接近するのも容易くはないスゴ腕」
DIO曰く「殺すには惜しい優れたスタンド使い」
ディアボロ曰く「戦闘経験豊富なヤツ。迎撃のタイミングも天才的」
【サーヴァントの願い】
特にないがどうやら鍵とピアスが触媒になって呼ばれたようだ。
己が騎士道に従い、マスターたるラニを守る。
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【マスター】
ラニ=Ⅷ@Fate/Extra
【参加方法】
師匠から銀の鍵を入手。なおココ・ジャンボの鍵であるので亀を借りればこの鍵でスタンド能力を発動させることができる(ちゃんとポルナレフも自前の鍵を持っている)。
ちなみにポルナレフが生前身に付け、とある女性の下に落としてきたピアスをキーホルダーとしてつけている。
【マスターとしての願い】
願いはない。強いて言うなら聖杯の制御、もしくは破壊。
【weapon】
扱うコードキャストは、耐久を上昇させるgain_con(128)と魔力を上昇させるgain_mgi(128)
【能力・技能】
錬金術によって練成されたホムンクルス。
様々な調整が施されており、その最たるものがオパールの心臓(炉心)である。賢者の石と考察できる第六世代型量子コンピューター。
第五真説要素(エーテライト)によって作られた最後の平行変革機(パラダイマイザー)であり、魔術回路の臨界収束による炉心融解を起こすことで衛星の一つくらいなら吹き飛ばすことも可能。
非常に優秀な霊子ハッカーであり、錬金術(高速思考、並列思考を含む)の心得もあるほか、占星術も扱う。
霊子ハッカーは魔術回路を用いるため、保持する魔力量は膨大である。
生命としての生存能力はホムンクルスの例に漏れず低い。
その代わり演算・情報処理能力はムーンセルの管理AIに匹敵し、仮に彼女に心が無ければ、月の聖杯戦争において最強のマスターになれたとも語られている。
条件が整えば概念武装「ヴォ―パルの剣」や礼装「オシリスの砂塵」などの作成も可能。
【人物背景】
蔵書の穴倉・アトラス院に所属する、錬金術師。師であるシアリム・エルトナム・レイアトラシアの指示によって聖杯戦争に参加。
眼鏡と褐色の肌が特徴の少女。無表情で感情表現に乏しく、自らを「人形」「道具」と称する。また、占星術を嗜むことから、それに基づいた難しい言い回しで話すことも特徴。
その無表情さと言い回しの双方によって、非常にとっつき難い人間になってしまっている。
他人や自身の感情というものを理解していない。師によって、その欠けた心を与えてくれる誰かを探すことも求められている。
人間性の欠落によって、使命のために自身が死ぬことをいとわない。また、羞恥心が欠落しているためか、下着全般を着けていない。
本編においては主人公との接触によって人間味を獲得していくが、このラニは月の聖杯戦争に参加する前の時間軸からの参戦であるため未だ心を探す旅の途上である。
ちなみにリアルの姿は月の聖杯戦争におけるアバターと殆ど同一。
【方針】
師の命令に従い聖杯を手にする。
それが叶わない場合、または手に入れても手に負えない場合は破壊する。
……それと、器を満たす中身を注いでくれる誰かを、心を、探す。
ただしサーヴァント共々敵には一切の容赦はない。
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投下終了です
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なかなか反応できずにすみません、皆様投下ありがとうございます!
ルールが特殊なので心配しておりましたが、むしろうまく活用していただけているようでありがたい限りです。
自分も新たにライダー組を投下させていただきますね。
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――世界が平和でありますように。
▼ ▼ ▼
とある雨の夜、アーカムで一人の男が雷に打たれて死んだ。
一瞬の雷鳴とともに黒焦げになったその男は、フレンチヒルからアップタウンの自宅へ続く道を急いでいた。
その遺体は二目と見れない程に焼け爛れ、手荷物もあらかた消し炭同然になっていたから、
警察がその身元を突き止めるまでには思いのほか時間が掛かることとなった。
その調査の結果、男は独身でアーカム市内には身寄りもおらず信仰以外に趣味もないような平凡な人間であったから、
十中八九は日課であったらしい丘の上の教会への礼拝の帰り道であったのだろうと人々は結論づけた。
とはいえ、落雷を受けて死に至るまでの状況に何の事件性も無いのは明白であったため、
警察は彼の死をただの不運な事故として淡々と処理し、ノースサイドのマスコミもわざわざ新聞のネタにしようとはしなかった。
彼の死の不審については、ただフレンチヒルの街道沿いに住む古くからの住人達だけが、僅かに噂をしているのみであった。
いわくこの道には街灯が並び、その合間を埋めるように背の高い街路樹が植えられている。また当然、周囲の邸宅には避雷針があった。
にも関わらず、彼の死を目撃した者によれば――雷はそれらに落ちることなく、間隙を縫うように男を打ったのだという。
さながら雷が意志を持っているかのようで、その者は得体の知れない恐怖に怯え、しばらく口が利けなくなったそうだ。
しかしながら、その噂について語る者の誰もが目撃者の話を真面目に信じているわけではなかった。
都市部から離れたこのあたりではこのような下世話な噂話が数少ない娯楽になる、というだけのことに過ぎない。
不運な男を襲った雷にまつわる噂も、近いうちにもっと下らないゴシップに取って代わられることだろう。
……彼の死が偶然ではないと知る、ただひとりの少女以外は。
「――私は、とても悲しい」
フレンチヒルの丘の上の教会には、ほとんど知る者のいない地下室がある。
併設された孤児院の子供達や職員はもちろん、神父ですら立ち入ったことが無いのではないか。
時代そのものに忘れ去られ、中に淀む空気ごと凍り付かせてきたような部屋。
その石造りの冷え冷えとした空間に、まだ幼さの残る少女の声が反響した。
蝋燭の明かりで照らされるその光景を目にした者がいたとしたら、その異様さに絶句しただろう。
部屋の中心にてその小さな両手を組み、祈りの姿勢をとっているのは銀髪の少女であった。
質素ながら気品のある、フリルの付いたドレス風の服を纏ったその姿には、清純さと崇高さすら覚えるほどの美しさがあった。
しかしながらその周囲を取り囲む数々の器具――鮮血の滴る鉄処女(アイアンメイデン)、そして様々な拷問具。
中世ヨーロッパの残虐趣味もかくやといった拷問部屋の様相を呈すこの部屋は、少なくとも現代の教会の地下にあって良いものではない。
伝承に残る青髭公が冒涜的な娯楽に興じたような、あるいは血の伯爵夫人が残虐を通して永遠の美を求めたような、
おぞましく血塗られた伝承こそが相応しく、この清廉そのものの少女にはあまりにも似つかわしくはない。
しかし、拷問具を濡らすまだ生温かい血は、紛れもなくまだ12歳にも満たないこの少女のものであった。
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“聖・少・女”アイアンメイデン・ジャンヌ――彼女は、かの拷問具の名を冠して呼ばれている。
とはいえ、この架空都市アーカムにおいて、メイデンをその名で呼ぶ者はいない。
この教会の隣に存在する孤児院で育った、人より少しだけ思い込みが強く、人より少しだけ霊感があるだけの、ただの少女。
聖・少・女ではなくただの少・女に過ぎないジャンヌを、特別な存在として目に留める者など居はしない。
いるとすれば、その者はアーカムにでっち上げられた仮初の平穏の、その裏側を知る者に他ならない。
「あの者の霊と話しました。行き場のない無念だけが軋みを上げる、救われぬ魂……その嘆きを聞き届けてまいりました」
メイデンがぎゅっと握り締めたその小さな手が、スカートの布地に皺を寄せた。
「あのような哀しみを生む行いが、裁きであると? お答えなさい、ライダー。返答如何では、わたくしにも考えがあります」
11歳に過ぎない子供の発するにはあまりにも落ち着いた、人生を投げ打って手に入れたような怜悧な声が響く。
答える者など、この殺風景な地下室にはいるわけがない――少なくともメイデン自身がそう思っていないのは明らかだった。
果たして、答える声はあった。場違いなほど傲岸にして、神の城にて発するにはあまりに不遜な笑い声が。
「ヤハハハハハハ! そうとも聖・少・女……あの男はこの『神』と謁見する栄誉に与かりながら、悲鳴を上げて逃げたのだぞ?
私の顔を拝しながらあの怯えよう、大いなる不敬である。ゆえに誅した……私が『法』で、全てが『裁き』だ」
虚空に雷鳴が響き、迸るいかづちの流れが人の形を取った。
――天空一万メートルの雲の国“スカイピア”最高神、『神(ゴッド)・エネル』。
月にまで届く空飛ぶ方舟を操った逸話により『騎兵(ライダー)』のクラスを得て現界した、メイデンのサーヴァントである。
自身と一心同体ともいえるその男を前にして、メイデンは僅かに眉間へ険を寄せた。
もはや語るまでもない。雷に打たれて死んだあの男は、エネルが戯れに殺したようなものであることなど。
「……詭弁を。貴方はその肉体そのものが宝具であり神秘そのもの。姿を現すことで何が起こるか、分からぬはずはないでしょう」
「なに、脅かしてやっただけではないか。神たる私も、このような形式の『聖杯戦争』は耳にするのも初めてだ。
心網(マントラ)も生前同様とはいかない以上、この身の力を自ら正しく把握するのもサーヴァントの務めだろう」
「聞き違いでなければ、ライダー。汝の行いは、命をいたずらに弄んで愉しんでいるだけに過ぎない」
「ヤハハハ、我は『神』なり。下々の者どもが私を愉しませるのならばそれも良し、意義ある命ではないか!」
「……もはや語る言葉はありませんね」
メイデンは溜息をついた。
確かに法は正義によってもたらされ、その正義を形作るのは人の心である。
しかし、あのような者が好き勝手に振舞うことが、法の秩序であるわけがない。
少女はそっと己の下腹部に触れた。
O.S.(オーバーソウル)アイアンレオタードを纏っている状態ならば鍵穴があるその位置に、マスターの証たる霊呪が刻まれている。
その呪印が僅かに熱を持つのを感じながら、メイデンは決然と神を名乗る男に視線を向けた。
「ライダー――英霊エネルよ! アイアンメイデン・ジャンヌが聖・少・女の名において、令呪をもって命じる!
汝、聖杯戦争と関わりのない罪無き者を、二度とこのアーカムの地にて殺め、傷つけることは許しません!」
決意を込めた少女の宣言を、エネルは至極つまらなさそうに聞いた。
「馬鹿め。僅か三画のうちの一画を、そのような下らん命令に使うとは」
「何とでもお言いなさい。貴方の行いは本来ならば、我が持霊『法神シャマシュ』が直々に極刑を下すべきものです」
「ヤハハハ……少しでも出来ると思っているのならばやめておけ。貴様がシャーマン――この街における魔術師として規格外だとしてもな。
神クラスとはいえ、貴様が使役する霊はあくまで霊。私を確実に裁けるとは限らん……それにだ」
「…………」
「気付いているのだろう? 私が現界している限り、貴様の巫力は第一にこの神・エネルを支え続けているのだ。
その状態で別の霊による最大最速の霊体具現化など出来まい。枷を嵌められた法神ではサーヴァントは殺せん」
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メイデンは奥歯を噛み締めた。
その通りだった。メイデン一人の力では、このアーカムから生きて脱出することなど出来ない。
ましてや、聖杯を手にして『世界平和』を実現することなど、とても。
だからこそ、このあまりにも尊大な英霊の力を借りて、戦い抜くしかないのだ。
分かっている。分かってはいる。それでも、許しがたいものというのは、また確かにあるのだった。
「……まぁ、いいだろう。私は少し下界の様子を見てくるとしよう。青海の街とやらにも関心はないでもないしな」
ライダーはそう言い、雷光と共に霊体化した。
気配が消えたところを見ると、本当に部屋から出て行ったようだ。
あのライダーには周囲の気配を探る特殊スキルと、電気に姿を変える能力がある。
その力を駆使して情報を集めるつもりなのだろう。再び神として君臨するために。
シャマシュの象徴たる『法典』の刻印が刻まれた『銀の鍵』を無意識に握り締めながら、メイデンは思う。
かつての自分ならば、自らの掟に反する者は、あの男と同じように裁いていたのではないか?
その正義の行いが何を生むのか、それを知らなかったあの頃ならば。
(……やったら、やり返される)
メイデンは自分がこのアーカムに辿り着いた経緯を思い返した。
正確には、自分が『死に至った』経緯を。
シャーマンファイトにおいてメイデン自身が死の裁きを下したひとりのシャーマン。
その弟が復讐のため襲い掛かってきた時……メイデンは、応戦できなかった。
シャマシュの力を持ってすればどうにでも出来ただろう。それでも、涙を流すことしか出来なかった。
震えながら、「ごめんなさい」と詫び続けることしか出来なかった。
たとえシャーマンでも、肉体の失われたものを蘇生することなど不可能だ。
そうして人が永遠に失われる寂しさを知ってしまったからこそ……復讐者を裁くことが、出来なかった。
(私は弱くなってしまったのでしょうか……マルコ)
身寄りのない自分をここまで育て上げてくれた彼は、果たして生きているだろうか。
もしも彼が、そして共にいた者たちまでも命を落としているならば、それは自分の心の弱さが招いた罪だ。
その罪を贖うために、自分は果たして何をすればいい?
聖杯を勝ち取り、世界に平和をもたらすことが償いになるのだろうか。
それとも、それすら傲慢な考えに過ぎないのだろうか。
この教会で目を覚まし、聖杯戦争のマスターとして目覚めた彼女に、あの神を名乗る男が告げた言葉が今になって反響する。
――人間が神を恐れるのではない。『恐怖』こそが『神』なのだ、と。
今のメイデンは、それを頭ごなしに否定する術を失ってしまっていた。
もちろん、下らない戯言だと跳ね除ける自体は簡単だろう。
しかし、絶対の法と信じたシャマシュの裁きすら、他の者には恐怖の象徴として映るのではないかという考えが振り払えない。
仮に神の本質が恐怖ならば、この世界に仮初の秩序を齎しているものもまた、名状しがたい恐怖だというのか。
この世界の神とは何か――アイアンメイデン・ジャンヌは、その真実を知らなければならない。
-
【クラス】
ライダー
【真名】
エネル@ONE PIECE
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A+ 魔力B 幸運C 宝具A
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
嵐の航海者:B-
船と認識されるものを駆る才能。
軍団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
エネルは月への船旅を成し遂げた逸話を持つものの、孤独な航海であったためにランクが低下している。
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
神性:EX
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血であるとされる。
エネルの体に神霊の血は流れていないにも関わらず、その神の如き力への人々の畏怖のみによってこのスキルを所持している。
なおランクEXはこのスキルの所有自体が規格外であることを示し、ランクAよりも神霊適性が高いことを意味するわけではない。
心網(マントラ):A
見聞色の覇気とも呼ばれる、相手の気配を感じ先読みする力。
気配感知と心眼(真)の複合スキルであり、更に近距離ならば感情を読み取ることも出来る。
生前のエネルは雷の力と組み合わせ一国全体に展開できたが、聖杯戦争においては大幅に範囲を減じている。
悪魔の実:A
能力の代償として得た、海に嫌われるという呪い。
この場合の「海」とは水の溜まった場所を指し、体の一部が浸かるだけでも全ステータスおよび宝具の効果が大きく減退する。
【宝具】
『神の名は万雷の如く(ゴッド・エネル)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:自身
自然(ロギア)系悪魔の実・最強種のひとつ「ゴロゴロの実」によって得た力。
自分自身の肉体を文字通り雷へと変換する常時発動型宝具。
神秘の低い物理攻撃を自動的に無効化し、短距離ならば金属や大気中を伝って電流の如きスピードで移動できる。
更に変幻自在の雷撃はそのまま絶大な攻撃力を持つほか、金属の加熱や電波操作など多彩な応用が可能。
高位の神秘による攻撃は受けるため生前ほど無敵ではないとはいえ、まさしく自然の猛威を体現する宝具である。
最大の欠点は、高ランクの常時発動型ゆえに多大な魔力消費が常に発生し続けること。
『神罰の方舟(マクシム)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜80 最大捕捉:100人
エネル自身の電力で稼働する空飛ぶ方舟。
一隻で月まで航行できる能力を持つが、その真価は激しい気流とともに雷雲を放出する機構「デスピア」にある。
その力により天候をも操作し、広範囲に絶大な威力の雷撃を降り注がせることが出来るだけでなく、
莫大な雷の力を篭めた雷雲そのものを落とすことで島ひとつを跡形もなく消し飛ばすことすら可能。
対軍宝具として破格のスペックを持つが、高い神秘を秘めたこの宝具の現界自体に魔力を使うだけでなく、
最大稼働にはエネルのもうひとつの宝具も全開にする必要があるため、燃費は劣悪の一言。
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【weapon】
「黄金の棍棒」
エネルが常に携行している武器。
黄金だからといって決して柔らかいということはなく、また電熱を加えて槍状に変化させることも出来る。
ちなみに正式名称は「のの様棒」である(「のの様」とは観音様の訛り)。
【人物背景】
スカイピア唯一神。通称「神(ゴッド)・エネル」。
地上10000メートルの雲の上に浮かぶ島で神を名乗る男。
物語の8年前に、自らの生まれた空島から神官や兵を率いてスカイピアへ侵攻し首長の座を簒奪、神の島に君臨した。
それ以来恐怖政治を敷き、入国者を犯罪者に仕立てて裁きの地に誘導するよう義務付け、国民の罪の意識を煽ることで統率していた。
自然(ロギア)系悪魔の実最強種のひとつ「ゴロゴロの実」の能力を持ち、その強さゆえに自らを全能なる神と呼んで憚らない傲岸不遜な男。
神たる自分が正すと称してエネル曰く「不自然」な空飛ぶ島を破壊し、自身は伝承に語られる「限りない大地」へ向かおうとしていた。
しかし電撃が効かないゴム人間であるルフィと戦い、自身の絶対優位を揺るがされ驚愕。その後も激戦を繰り広げたが敗北する。
そして、戦いが終わった後でただひとり、限りない大地である月へと旅立っていった。
なお、
【サーヴァントとしての願い】
神が頂点に君臨するのは当然である。
【マスター】
アイアンメイデン・ジャンヌ@シャーマンキング
【マスターとしての願い】
世界が平和でありますように。
【能力・技能】
シャーマンとして極めて高い能力を持つ。
『法神シャマシュ』
メイデンの持霊である神クラスの霊。古代バビロニアにおいて法と太陽を司っていた。
ネジなどを媒介に拷問道具や処刑器具を具現化(オーバーソウル)出来る。その速度は光に例えられるほど。
また強力な治癒能力を有し、死体さえ激しく損壊していなければ蘇生すら可能とする。
しかし、その霊力の高さゆえコントロールには多大な巫力を要し、魔力消費の多いエネルと契約している状態ではフルパワーの運用は非常に困難。
【人物背景】
十の法を重んじ正義を実現する為の組織『X-LAWS(エックス・ロウズ)』のリーダーたる聖・少・女。
常に自ら拷問を受けることでシャーマンとしての力を極限まで高め続けている、作中最強クラスのシャーマンのひとり。
人類にハンムラビ法典を授けたとされる神クラスの霊『法神シャマシュ』を持霊とし、拷問具を具現化して戦う。
実際は聖女ではなく、才能に目をつけたマルコとラキストによる洗脳に近い教育によって自身を絶対的存在と錯覚した孤児に過ぎない。
しかしその事実を知らされた後も自分が祭り上げられただけの存在であることを受け入れ、新たな法のために歩もうと誓った。
その後はかつての盲目的な正義感に従うのではなく、人の死が何をもたらすのかについて思いを巡らせるようになる。
だがその結果、復讐者アナホルを前にして完全に戦意喪失。無抵抗のまま殺害され――アーカムに辿り着いた。
【方針】
聖杯狙い。
かつては法を絶対と信じ容赦ない裁きを下していたが、今は迷いが生じている。
そのため、悪と断じることのできない者を殺めることは可能ならば避けたいと考えている。
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投下終了しました。
忙しい時期ではありますが、今後も当企画をよろしくお願いします。
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ようやく年度末が終わったので、投下させて頂きます。
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人は何かを得るためには、同等の代価が必要となる。
等価交換の原則だ。
あの頃の僕らは、それが世界の真実だと信じていた。
でも、本当の世界は不完全で。
その全てを説明できる原則なんて存在しなかった。
―――等価交換の原則も。
それでも僕らは信じている。
人は代価無しに、何も得ることは出来ない。
僕らが受けた痛みは、きっと。何かを得るための代価だったはずだ。
そして、人は誰でも。
努力という代価を払うことで、必ず何かを得ることが出来る、と。
等価交換は、世界の原則じゃない。
いつかまた会う日まで交わした、僕と兄さんの、約束だ。
◇
日差しが熱い。暑いんじゃなく熱い。
砂漠のど真ん中に、僕は居る。
それでもこの赤いコートは脱ぐ気がなかった。
日光を直接肌に当てない意味もあるけれど。
何より兄さんも、こんなコートをずっと着ていた……らしいから。
水筒を取り出して口へ運ぶ。
……もう空っぽだった。
僕はパン!と両手を合わせた後、地面に両手を付けた。
すると砂は井戸へと姿を変え。
水が勢いよく吹き出してきた。飛沫が当たって気持ちいい。
―――別に、錬成を無駄に遣っているわけじゃない。
四年間。
僕は兄さんと共に、各地を旅したんだそうだ。
そこで、修行では手に入れられないものを、きっと沢山手に入れたんだと思う。
兄さんに少しでも近づくためにも、たくさん旅をしたかった。
錬金術の使い方だって、修行と実地ではやっぱり違うものだ。
喉を潤し、水筒に水を入れ直す。
それで。なんで砂漠を旅しているかと言えば。
気になる噂を、耳にしたんだ。
この砂漠のどこかに遺跡があって、そこには万物の願いを叶える場所へと続く扉がある、って。
先生が、教えることはもう何もないと言ってくれて。
旅に出ることを許してくれた次の日。
朝起きたら、この鍵を握っていたんだ。
銀色の兜を模したような飾りがついた、鍵。
どことなく懐かしい感じを受けたんだ。
その扉の向こうに、何があるかは分からない。
それでも、兄さんに会うためなら。行きたいと思ったんだ。
◆
-
ロウアー・サウスサイド。
スラム街となっている地区で、治安が極端に悪く、特に夜には行ってはいけない場所。
キャスターさんが、『試したいことがある』と言ってきかないため。
僕は溜息を吐きながらも、足を踏み入れた。
―――ガシャン、ガシャン。
鎧が動くたびに音が鳴る。
身体に合わず、とてもそのまま着ては歩けないので、
魂を少し鎧に憑依させて、そちらの主導で鎧を動かしていた。
一応、僕の面が他人に割れないための物、だそうだ。
物乞いするおじさんや客引きするお姉さんが吃驚して逃げていくのを尻目に、
そのまま路地を歩いていると、目付きの悪いお兄さん達が二、三人ちょろちょろと出てきた。
「なんだてめぇ、コスプレ会場はここじゃねえぞ?」
「オラ、とりあえずその可笑しなアーマーを脱げよ」
三人が僕を囲み。手に持った棒で、ゴンゴンと頭を叩かれる。
……仕方ないけどやるしかないか。
ごめんね、と心で詫びて。
棒を持ったお兄さんの鳩尾に鎧の肘で一発入れる。
呻き声を上げてそのお兄さんが崩れ落ちる。
「何しやがるこのアーマー!」
襲いかかってきたお兄さんを投げ飛ばして壁に叩きつけ。
「ひ、ひいいいいい! なんだこのアーマー野郎は!」
残る一人が悲鳴をあげて逃げていく。
『はーい、追って追って』
気楽に指示するキャスターさんに溜息をついて、僕はガシャンガシャンと音を立てながら追っていった。
◆
-
「アニキ! アニキ! イカれたアーマー野郎が襲いかかってきたんだ!
ジョニーもジョージもやられちまった!」
「なにい? リビングアーマーだとでも言うのか?
それで、お前はのこのこ尻尾巻いて逃げてきやがったのか」
「そ、そんなこと言っても」
ストリート・ギャング達の巣である、廃ビルの中の事務所へ逃げてきたジョン。
彼らは三十名程度ではあるが、銃器や麻薬を売買し、宝石なども得ている新興のグループである。
彼らが話している最中、爆発音とともに入口の扉が吹き飛ばされた。
その入り口には大きな西洋鎧が立っていて。その肩には、少女が座っていた。
栗色の長髪に、黒いバンダナ。
黒いショルダーガードに魔導師然とした黒いマント。
そして、女性ながら平たい胸部。
「な、なんだお前達……他のグループの回し物か!?」
「たった二人で殴り込みとはふてえやろうだ!!」
「その勇気だけは買っ」
「問答無用の爆炎舞(バースト・ロンドッ)!!」
たくさんの小さな火炎の球がギャング達へ放り投げられ。
爆炎が事務所のそこかしこで上がり始めた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!熱い!」
「シヌ!シヌ!シヌ!ファイアーが!ファイアーが襲ってくるうううううう!!!!」
阿鼻叫喚がギャング達に上がる様子を、冷静に見る魔術師の少女。
「うーん、やっぱり……」
「こら! お前達落ち着かねえか! こんなのはトリックだ! クソッタレこのア」
「魔風(ディム・ウィン)!」
男が銃を構えたところに突風が叩きつけられ、そのまま男ごと壁に叩きつけられる。
「ガハッ! か、風が襲ってくる……やめてくれ……やめて……」
逃げようにも入口は扉しかなく、30名近くが何かを叫びながら部屋の中を右往左往していた。
「ドやかましい! ファイアーボール!!」
「ぎにゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「があああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「ママー!!!ママー!!!!」
巨大な火炎の球がギャングに叩きつけられ、断末魔の叫びをあげながら全員倒れ伏した。
「ちょ、ちょっとリナさん! 明らかにやりすぎですよ!」
「だーいじょうぶよ、威力すっごく落としてるから。
それよりほら、その錬金術ってので紐つくってふん縛っておいてくれる?」
「えっ……。全員、ですか?」
「そ。全員」
にっこりとほほ笑むリナに対して、わかりましたと肩を落として返答し。
鎧の頭を鎧に取らせ、そこから少年がよじ登って出てくる。
一人一人に向かってアルフォンスが紐を錬成して縛っていくと。
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「ちょ、ちょっとリナさん! 何やってるんですか!」
「なに、って。報酬探しだけど?」
リナの手にはギャング達の金庫から奪ったであろう、宝石が抱えられている。
それを見て、アルフォンスはリナに詰め寄る。
「そ、それは駄目ですよ。それじゃ僕達が盗賊になっちゃいます!」
「いーのよ。どうせこいつら悪どいことして手に入れたんだろうし。
悪人に人権なしってよく言うでしょ?」
「いいませんよ!」
「お兄さんに会いたいんでしょ? これはその為の行動なの」
「……もうっ!」
アルは錬成陣が書かれた手袋を外し。
右手に描かれた令呪をリナに見せつける。
「はーいストップ」
「駄目ですよ。これで言うことを聞いてもらいますから」
「違う違う」
リナは首を振って。アルフォンスの頭を指差す。
「これは?」
「は? ……頭、ですけど」
「じゃあここは?」
「口……ですけど」
「はい正解」
アルフォンスの口を指差したリナが拍手してにっこり微笑む。
そして、腰に手を当てて捲し立てるように喋り出した。
「あのねえ。アンタには考える頭も!喋る口も!しっかり付いてるワケ。
それを令呪をつかって言うこと聞いてもらいます?
ハッ。それでよく術師を名乗れるわね。錬金術ってのは考えなしに言うこと聞かせる術なんだ。
あーすごいわね。お姉さんびっくりしちゃうわ」
「……頭も、口も……」
アルフォンスは怒るでもなく、頭と口に順に手をあてる。
(―――そうだ。この頭も口も、兄さんが取り返してくれたものだ。)
「……なんだ。言い表情できるじゃない。
衝突した時は、自分で考えて、自分の言葉であたしを納得させなさい。
あるいは、その自分で習得した錬金術ってのであたしを屈服させなさい。
令呪の力で考えを強制させる、ってのはナシよ。
アンタとあたし、二人で聖杯を奪うんでしょ。納得した上でなけりゃ、この先やっていけないわ」
「はい。でも奪うのは……」
「そうね、ちゃんと言わなかったあたしもほんのちょーーーーっとだけ悪いわね。
これはね、魔力を充填するためのものなの」
「魔力……を?」
「そ。出でよ!『全てのお宝はあたしのモノ!!』」
リナがそう叫ぶと、虚空から大きな宝箱が出現する。
その箱を開け、手にした宝石群を宝箱へと入れた。
「んーまあまあね」
リナの身体が仄かに光った。
そしてバタン、と宝箱を閉じ、その宝箱を元の虚無へと返した。
「こうしてお宝を入れれば、魔力が充填されるって寸法よ。
それとも何? アイツらの魂食べろ、なんてキモいことしろっての?」
「あ……いえ。こっちの方がいいです……」
「そ。ならこの問題は解決ってことね。
さ、きりきりアイツらふん縛っちゃって」
「はい……」
-
再びギャング達を縛っていくアルフォンス。
「そういえば、さっきのが『試したいこと』だったんですか?」
「んーん。さっきのはついで。
……よし、ありがと。全員縛ったわね。
鎧着直したら、ひとりだけ連れてきてくれる?」
アルフォンスが再び鎧を装着し、最初に逃げだした男をつれてくる。
リナが活を入れ、男を起こす。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「あなたに聞きたいことがあるんだけど」
「助け!助けて!!死ぬ!!炎が!!辺りを炎が!!!ああああああああああああああああああああ!!!!!」
「落ち着いて」
「ああああああああああああああああああ!!!aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!」
「落ち着けって言ってるでしょうがああ!!!」
男の首裏に蹴りを叩きこんで沈黙させる。
「……ふーむ。なるほどね」
「あの……何が分かったんでしょうか」
「そうね。んー……いくらなんでもこいつら怯えすぎよ。街のゴロツキでももう少し骨があるもんよ」
「そ……そう……なのかな?」
「そうよ。なんかどーにもきな臭いわね」
「それは炎出しまくったからなんじゃ……」
辺りは書類やら薬やらが焼失した後が残っている。
絨毯などはなくコンクリート剥き出しであったため、火災にはなりそうもない。
「ま、細かいことは後で考えるか。さ、帰るわよ」
「えっと、またこの格好で街を走るんですか?」
アルが鎧で自分自身を差し、リナは首を振った。
「まさか。あっちからよ」
「えっ……?」
リナが指差す方向は、上。
扉から出て、屋上まで走らされた後。
「さ! いくわよ! 翔封界(レイ・ウィング)!!」
リナが鎧ごとアルを抱え、空へと飛び立つ。
少女と鎧の少年が、スラム街の夜空を滑空していった。
-
【マスター】
アルフォンス・エルリック@劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者
【マスターとしての願い】
兄さんに会いたい。
【weapon】
錬成陣が描かれた手袋
西洋鎧
【能力・技能】
『錬金術』
アルフォンスが暮らす世界において、発展した技術および学問。
物質の構成や形を変えて別の物に作り変える技術とそれにともなう理論体系を扱う学問である。
平行世界の死者の魂をエネルギーとして錬成を行っている。
兄を探す為師匠イズミの下で三年間みっちり修業を積み、
教えることはもう何もないと太鼓判を押されるほどになっている。
かつて肉体と魂の結合を一度解かれているためか、魂が離れ易くなっており、
錬成陣を描いた手袋を装着して、自分の魂の一部を他の物に移して、意のままに操る錬金術を得意とする。
『格闘術』
イズミの下で錬金術と平行して格闘術を学んでおり、技術については卓越した物を持っている。
ただし、四年間兄と旅をした間の戦闘経験はすべて消えており、格闘に必要な実戦経験はほとんどないと言って良い。
【人物背景】
旧アニメ版最終回で兄エドワードの錬成によって肉体を取り戻したが、
それらは身体、精神、記憶共に母の錬成当時のままの物であり、兄との旅、戦いについて一切の記憶を失っている。
兄を探す為、再び師匠イズミの下で錬金術の勉強を始め、
周りの人間がエドの生存を諦めかける中、一人希望を捨てていない。
兄の面影をなぞるかの様に、赤いコートを着用するなど、兄に似せた服装で旅をする。
トラブルメーカーな兄のフォローをする必要が無かった為か、やんちゃで天真爛漫な性格に育った模様。
ただし本作においてはトラブルメーカーなサーヴァントと組んだため、生来の苦労性を背負うかもしれない。
【方針】
できるだけ人を傷つけずに聖杯戦争に勝利して、兄に会う。
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【クラス】
キャスター
【真名】
リナ・インバース@スレイヤーズ
【パラメーター】
筋力E 耐久D 敏捷D 魔力A+ 幸運A 宝具EX
【属性】
混沌・中立
【クラススキル】
陣地作成:-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる技能。
絶えず旅を行い一処へ留まらなかったことから、陣地作成スキルは存在しない。
道具作成:B
魔術的な道具を作成する技能。
研究家肌ではない割りに、実用的な魔術道具であれば作成可能。
【保有スキル】
魔術:A+
黒魔術、精霊魔術に精通している。数は少ないが白魔術、儀式魔術や召喚術も多少使える。
詠唱のアレンジで発揮する効果を変えたり、オリジナルの術を編み出す等、魔術面では天才と自称するに足る才能を有する。
剣術:D
ガウリイ・ガブリエフから剣術を教わり、魔術無しでも平均的な力量の剣士には引けは取らない。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
ガウリイとパーティを組む前、金魚のフンが付いてくる場合がありながらも、基本的には一人で旅を続けた逸話から付いたスキル。
盗賊殺し(ロバーズ・キラー):-
壊滅させた盗賊団は数千にも上ると言う伝説から付与されたスキル。
盗賊や盗みを主体とする相手と戦う際、相手のステータスが全て1ランクダウンする。
魔を滅する者(デモン・スレイヤー):-
神ならぬ人の身において、魔に属する者を数多く滅ぼした者に付与されるスキル。
『魔』に連なる者と戦う際、自身の魔力、魔術を1ランクアップさせる。
【宝具】
『魔血玉(デモン・ブラッド)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
4つの呪符(タリスマン)から出来ており、それぞれに四界の魔王の宝玉がついている。
右手に青い「蒼穹の王(カオティックブルー)」の血玉。左手に白い「白霧(デス・フォッグ)」の血玉。
腰に黒い「闇を撒くもの(ダーク・スター)」の血玉。胸元に赤い「赤眼の魔王(ルビーアイ)」の血玉。
これらは完全なる賢者の石であり、四つの呪符を胸の前で正十字になるようにして増幅の呪文を唱えると、術者の魔力容量が増幅させる。
所謂ブーストであり増幅の呪文を使うことで、神滅斬(ラグナ・ブレード)、獣王牙操弾(ゼラス・ブリット)、暴爆呪(ブラスト・ボム)など、
通常の人間の魔力では使えない呪文を使うことができる。
『全てのお宝はあたしのモノ』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
宝箱を召喚し、お宝を収納することができる。
また、収納したお宝に応じて魔力を充填することができる。
『金色なりし闇の王(ロード・オブ・ナイトメア)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
金色の魔王、悪夢の王、すべての闇の母、魔族たちの真の王、混沌の海にたゆたう者。
重破斬(ギガ・スレイブ)の完全版を唱えることで、リナの身体を拠代として金色の魔王を降臨させる。
「闇よりもなお暗き存在、夜よりもなお深き存在
■■の■よ、■ゆ■■し存在、金色なりし闇の王」
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【weapon】
・ショートソード
扱いやすさを重視した身軽な剣。力がなく技とスピードを重視するリナの戦闘スタイルに合わせて、軽量のものを選択している。
・バンダナ
黒竜の髭をなめして織りあげられており、三流戦士のなまくら剣なら、受け止められるくらいの強度がある。
裏側に小さな宝石の護符が一つはりついており、絶えず額を圧迫して、呪文を唱える時には、そこを精神の集中点としている。
・ショルダー・ガード
つやのない黒地に、金の縁取り。左右に1つずつ赤い宝石の護符がはめ込まれている。
見た目は大ガメの甲羅を削りだした物と似ている。多少魔力を増強させる効果がある。
【人物背景】
自称、剣士にして美少女天才魔道士。人間としては尋常ならざる魔力容量を持つ。
口が達者で都合が悪くなると屁理屈や回りくどい言い方でごまかしたり、説得したりする。
「ドラゴンもまたいで通る」逸話より「ドラまたリナ」とも呼ばれる他、数々の悪い意味での通り名がついていた。
「悪人に人権はない」をモットーとし、懐がさみしくなると趣味と実益を兼ねて盗賊のアジトを襲撃して路銀を稼ぐなど、
ぶっ飛んだ性格をしているが、仲間に対しては筋を通そうとする。
攻撃呪文で人を吹っ飛ばすのを軽いコミュニケーションと言い切り、怒るより先に人に攻撃呪文や蹴りを放ち、八つ当たりで近くの山を吹き飛ばして地形を変えたりするなど、
破壊神に祭り上げられ、『リナ・インバース神教』なる新興宗教も出来た程である。
本人は「自覚すれども反省せず」と行動を改める気はまったくない。
魔王の欠片2体、魔王の腹心2人、神官1人、将軍2人の他、多数の高位魔族に滅びるきっかけを与えた人物であり、
また魔王の腹心5人全員に会った最後の人物でもあることから、同世代以降の魔道士からは「魔を滅する者(デモン・スレイヤー)」の二つ名で呼ばれる。
【サーヴァントとしての願い】
できるだけお宝を手に入れる
【基本戦術、方針、運用法】
対魔力のない相手には、リナの魔術のみの力押しでも十分対処可能だろう。
問題はやはり三騎士相手である。
対魔力A以上の相手の場合、ブーストをかけた竜破斬でも通るかどうか怪しいところであり、
リナにとっての三騎士は『魔術が効かないガウリイ』と戦うようなものであって、正攻法での勝算はかなり低い。
作戦とアルフォンスの錬金術とを駆使し、「マスター+サーヴァント」の総合力で戦う必要があるだろう。
また、高い魔力値かつ単独行動スキル持ちではあるが、
登場話にあるように派手に魔術を使いまくる性格のため、魔力のやりくりにはマスターが苦労するであろう。
できるだけお宝をゲットして、リナの精神も魔力も安定させたいところである。
なお、今回はL様を呼んでもL様に似たナニカが来そうなので、呼ばない方が良さそうである。
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以上で投下終了です。
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投下させて頂きます。
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「ヒナ! 大丈夫か! もう一度カップリングするぞ!!」
「やめてビゾン!!」
「奴らが来る! 急ぐんだ!」
俺の乗るヴァリアンサー「ネルガル」とヒナの乗る「カルラ」。
俺達のカップリングがあれば無敵だ。誰も俺達を止めることなど出来はしない。
―――だが奴らが。いや、奴が!
ワタセ・アオバが来る!
俺とヒナの全てを壊すアイツが!!
「コネクティブ・ヒナ!!」
「きゃあああああああ!!だめえぇぇぇぇぇ!!!」
「応えろヒナ!! ヒナァァァァァァァ!!
ウォォォォォォ!! ヒナァァァコネクティブ・ヒナァァァァァ!!!!」
ヤツが! ヤツが来たのだ!
なぜアクセプトしない!
するとヒナの乗る「カルラ」が。いや。ヒナが!
光を纏い、俺を弾き飛ばしたのだ!!
俺を! この俺を拒絶したというのか!!
何故だ、何故だナゼだナゼダ!!!!
「ヴガアァァァァァ!! なぜだヒナ!! ナゼナンダアアアアアァアァァァ!!!」
◇
―――大破した機体から放り出され、時空の渦に単独で巻き込まれた俺は。
気が付けば70年前に飛ばされていた。
元の時代に戻る方法など、当然ない。
だが、逆に考えればこれはチャンスだ。
俺は歴史を知っている。
アオバとヒナが『俺を飛ばした』タイミングに、胸を撫で下ろした瞬間に。
復讐することができるのだ。
そのために力が。富が。権力がいる。
西暦2014年に中央アジアでエネルギー鉱石「ネクトオリビウム」が発見されたのは有名な話だ。
そこの利権さえ抑えれば、その後の金は無限に湧いてくるようなものだ。
だが、今の俺は単身だ。
元手にする金すらない。
ヴァリアンサーでもあれば売って金に出来たんだろうが、
あるのはこのパイロットスーツと、バイザーが割れたヘルメットだけだ。
このヘルメットは、俺が復讐を忘れぬための象徴だが、金にはならない。
だからこそ、俺は辿り着いた小さな教会で、神とやらに祈った。
力を得るための力を。
富を得るための富を。
全てはワタセ・アオバとヒナの二人に復讐するために。
熱心に祈っていたら、黒い祭服を着た長身の神父に声を掛けられた。
『汝に安らぎと、智慧を』
という言葉と共に、渡された。銀の鍵だ。
神父は優雅な仕草で片手を振り、示す。
その先には、扉。
いいだろう。
安らぎなどはいらんが智慧はいる。
ゾギリアを掌握するための、復讐を行うための智慧がな。
俺は迷い無く鍵を開け、扉を開いた。
◆
-
―――アーカムシティ、《イーストタウン》の屋敷の一室。
ビゾン・ジェラフィルはレザーチェアに座り、苛立たしげに机を指で叩いていた。
「―――マスター」
部屋の天井からすり抜けて、黒い翼をもったサーヴァントが降り立つ。
全身黒で染められ、二本角を持った鬼人。
その鬼人が、紫がかった赤い髪、黒いロングコートを羽織った長身の人間の姿に変わる。
「遅い!! どこで道草を食っていたアサシン!!」
机を右の拳で大きく叩き、苛立ちを現すビゾン。
その拳に三画あるはずの令呪が、既に一画になっていた。
『俺を絶対に裏切るな!』
『魂喰いを拒むな!』
それが、令呪で執行された命令だった。
「……」
「なんだその目は!! 簡単な命令すらこなせないのかお前は!」
机のペン立てをアサシンに投げつける。
冷たい目でビゾンを見下ろしていたアサシンは避けもせず、ただ受ける。
神秘の伴っていないペン立ては、そのままアサシンに当たり、赤い高級カーペットの上に弾んで落ちる。
「チッ! ちゃんと魂食いをしてきたんだろうな」
「ああ」
ビゾンはアサシンを凝視する。
確かに魔力量は増えているように見えた。
「フン、ならいい。次の指示があるまで霊体化していろ」
「……分かった」
アサシンは目を瞑り、黒いロングコートを翻して虚空に消えていく。
◆
マスターの命令の元、魂食いを行ってきた。
犯罪者を見つけ、その人間の魂を喰らったため、遅くなったのだ。
何度かマスターと意志疎通を図ろうとしたが、無意味だった。
あのビゾンと言う男は、既に狂っている。
復讐という名の、毒によって。
―――俺も、あんな目をしていたのだろうか。
屋敷の屋上から、夜の街を眺める。
研美悠士に復讐するため、多くの人間を巻き込み、死に追いやってきた。
研美研究所に勤める人間全てが、悪だったわけではない。
だがあの頃は、復讐の心を叩き付けるが如く、破壊を行っていた。
その因果が巡ってきた、ということなのだろう。
自死もわざと敗死することも、裏切りになってしまうため実行できないだろう。
せめてあの男の。
復讐のために生きる男の結末を、ただ見守るしかない。
アサシン―――輝島ナイトは、溜息を吐くでもなく、ただ無言で夜空の月を眺めた。
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【マスター】
ビゾン・ジェラフィル@バディ・コンプレックス
【マスターとしての願い】
渡瀬青葉とヒナに復讐するため、莫大な富を手に入れる
【weapon】
バイザーの割れたヘルメット
【能力・技能】
『パイロット』
ヴァリアンサーの操縦技術。
ゾギリア軍のエース、アルフリード・ガラントに見込まれる程の腕前。
「ネビロス」及び「ネルガル」に搭乗。後に90歳近くの身で専用機「カルキノス」を乗りこなす等、パイロットとしては優秀。
『カップラー適性』
2人のヴァリアンサー搭乗者の感覚を脳だけでなく全てを共有させ、
互いの戦闘能力を劇的に向上させる『カップリングシステム』の適合者。
カップリングシステムの人体調整を受け、低いながらもカップラー適性を取得している。
『精神汚染』
復讐心及び人体調整による影響。Dランク相当。
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を低確率でシャットアウトする。
ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
【人物背景】
大ゾギリア共和国のパイロット。20歳。
名門出身で、アルフリードの信頼も厚く、一部隊の指揮を任せられる程優秀。
その反面、攻撃的でプライドの高い面を持ち合わせている。
ヒナ・リャザンとは幼少時代に家が隣同士だった幼馴染で、現在では恋愛感情を寄せているがそれは同時に強い執着心にもなっている。
調整を受けて無理矢理カップリングシステムへの適性を得る。
ヒナへの依存と渡瀬青葉への殺意から、情緒不安定で言動が攻撃的になった。
アラスカ基地攻防戦において、特異点に吸い込まれ、一人70年前へと飛ばされてしまった。
【方針】
聖杯戦争に勝利し、復讐のための準備資金を手に入れる。
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【クラス】
アサシン
【真名】
輝島ナイト@セイクリッドセブン
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具C
※数値は変身後
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。
B相当の“追撃”スキルを持たない限り、相手はほぼ確実に撤退を許してしまう。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
召喚:C
巨大なムカデ型悪石を召喚する。
ムカデの攻撃方法はその巨体による物理的な突貫のみ。コンクリートのビルを倒壊させる程度の威力。
神秘力の無い物理攻撃で撃破可能。
物質変化:(A)
物質を変化させる能力。手で触れた物質(生物外)を自在に変形させることができる。
また、自身を霊体化させないまま、自身と手に持った物(生物含む)を透過させることも可能。
※変身後のみのスキル
飛翔:(B)
飛行能力。飛行中の判定における敏捷値はこのスキルのランクを参照する。
※変身後のみのスキル
【宝具】
『復讐果たす黒月の翼(セイクリッドナイト)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
地球に飛来した特殊な力を持った7種類の石「セイクリッドセブン」。
そのうちの一つの力を使い、輝島ナイトをセイクリッド・テイカーへと変身させる。
変身することでパラメーターのアップと、『物質変化』『飛翔』のスキルを得ることができる。
『自由守る銀月の翼(セイクリッドナイト・リベレイター)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
アサシンとして現界した為、使用不可。
【weapon】
なし
【人物背景】
セイクリッドテイカーの1人。
幼い頃両親に売られ、研美悠士の研究所で実験体の1人として扱われていた。
実験の途中で、研美がセイクリッドの力を悪用していることを知り、同研究所で親しくなったラウ・フェイゾォイと共に脱走した。
以後、物質を変形させる能力を持つ「セイクリッドナイト」へ変身しては研美の命を狙っていた。
【サーヴァントとしての願い】
復讐を望んだ者の末路を見届ける
【基本戦術、方針、運用法】
ビゾンは既に精神汚染スキルを所持しており、輝島ナイトとの友好的協調は諦めた方が良い。
むしろ精神汚染を逆手に取り、一時的狂気を踏み越え、汚染などいくらでも進行しろという気構えで勝利をもぎ取ろう。
攻撃に関しては真正面で戦う能力はあるが、決定力も畏怖力もそれほどないため、
アサシンらしくマスター狙いが本道になるだろうか。
気配遮断、仕切り直し、そして物質変化(透過)により、撤退に関しては全く問題なく行える。
乱戦になったらムカデ召喚で場を乱し、掻き回しつつさっさと逃げよう。
ビゾンは90歳まで耐えに耐え、組織掌握した謀略力と忍耐力はあるはずなので、強かに狡猾に作戦を練ろう。
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以上で投下終了です。
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皆様投下ありがとうございます、企画主です。
このたびは誠に勝手ではありますが、当初のルールを一部修正させていただきたい旨を説明に参りました。
具体的に言うと、 >>6 で示した「銀の鍵で一時的に元の世界に戻れる」というルールを取り下げようと考えています。
というのも、今ちょうど考えている主従が「元の世界に戻って他のキャラと会うだけでもう戦う理由が無くなる」ことに気付きまして……。
元々はドラマ面や物資の調達等に使えたらいいなという考えだったのですが、ある意味ではマスターの精神的退路になってしまいますよね。
個人的な都合はありますが、現時点の候補作にはそこまで影響出なさそうですし、廃止ルールとさせていただきます。ご了承ください。
その報告だけではなんなので、早目ではありますが最終締切の話を。
4月末日の予定を若干延長しまして、ゴールデンウィーク末日の5月6日(水)いっぱいまでを暫定期限とします。
皆様の更なるご参加、お待ちしております。
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投下いたします
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頭蓋の中の無限の空虚
其処でお前は何を思う
其処でお前は何を成す
1:
-
「むむむ……」
唸り声を上げる少女がいた。
その右手に、子供が食事に使うようなステンレス製の先割れスプーンを握り締め、まさにその先割れ部分を、必死の形相で睨みつけている。
両目は凄まじい想念で血走っており、身体中からは鬼気とも覇気とも取れる凄まじい気魄を放ちながら、少女はスプーンを睨めつけまくる。
少女の凄絶な思念を受け止める先割れスプーンは、実に涼しげだった。
先割れスプーンに口があるなら、目の前の少女に「その程度かいお嬢ちゃん?」と軽口を叩いていたかも知れない。
いやひょっとすると、「何やってんだ嬢ちゃん……?」と、心底心配そうな声音で少女の精神を心配するのだろうか。
何れにせよ、目の前の少女はちょっと普通じゃない。季節の変わり目は風邪も引きやすいけど少しおかしい人も出てくる時期だ、皆も少し気を付けよう。
「……曲がりませんねぇ」
目の前から、実に緊張感のない男の声が聞こえてくる。
それを聞いて、少女の凄い集中力が、一気に霧散。不利な証拠を突きつけられて、動揺、慌てて弁明の言葉を紡ぐ容疑者めいた態度で言葉を発した。
「きょ、今日は少し色んな事があったから私も調子が悪いんです!! サイキックはその日その日の心境が命!! あと10秒下さい!!」
言って少女は、再びスプーンに集中するが、先程に比べて注意力が散漫気味になっている。
残り時間が後5秒を切った時、無意識に左手が先割れスプーンの匙部分に伸び、その部分を摘まんでしまう。
ハッとして彼女は、急いで左手を匙から離した。危ない危ないと、スプーンを持った右腕で額の汗を拭う。
力技でスプーンを曲げたらサイキックの意味がないじゃないかと、あれだけプロデューサーから注意されたじゃないか。
同じ轍を何度も踏んでどうするのだ堀裕子、心中で自分をそう戒め、自らの成長を少し喜んでいた時には、約束の10秒は既に過ぎ去っていた。
「……あっ」
気付いた時にはもう後の祭り。右手のスプーンを確認する。
スプーンの柄部分は、1度たりとも曲がっておらず、見事な垂直線を保っていた。
「う、運が良いですね師匠!! スプーン曲げを失敗する私の姿が見れる何て、そうそうあるものじゃないですよ!? 」
裏返った声音で、強がりの言葉を口にする裕子。
それを受ける、『師匠』なる男の方は、「は、はぁ」と、少し引いたような相槌を返すだけであった。
――人間? その男の姿を目にした者は、先ず間違いなくそう思うだろう。
157cmの裕子よりも頭二つ分くらい小さいその男は、白いシャツを着ネクタイを巻き、土色のスラックスを穿いた、一見すれば身長以外は普通の男だ。
普通じゃないのは、その顔面だ。……何だ? この、子供の落書きのような顔つきは。
大きく口を開け、歯は上の方に大きな前歯が2本しかなく……極め付けが、その目だ。人間の拳大程もある大きな目で、しかも瞼がなく、瞳の部分も凄く小さい。
まるで神が鼻くそでもほじくりながら30秒で創り上げた様な適当な面構え……それを見ても、裕子は全く動揺しなかった。
いや、厳密に言えば最初は動揺こそしたが、少し話をしたら、何かもう、こう言う人間がいても良いんじゃないか的な考えで全部許容していた。
不思議なものである、これが本物の超能力者が持つ力なのだろうか? 堀裕子にとって、目の前の男、『間抜作』は紛れもなく超能力の師匠だった。
-
「そ、それより、師匠はスプーン曲げは出来るんですか? この道に少しばかり明るい私だから解りますが、これは奥が深いですよ?
サイキックパワーが足りないから、力ずくで曲げようとする未熟者が何人いた事か!!」
それはお前の事である。
「こう言うのは、甘子ちゃんが得意なんでしたねぇそう言えば……」
「? 甘子ちゃんって?」
スプーンを手渡しながら、裕子が訊ねて来た。
「私のコレです」
左手の小指を立てながら、抜作が言った。
「わっ、凄い!! やっぱ本物の超能力者はモテるんですね!!」
何の疑いも持たずに裕子は驚いて見せた。実に純粋無垢である。
この場にもしも白井甘子がいようものなら、間違いなくこの手抜き男の顔面は爆発四散させられていただろう。
「むむ……」
先割れスプーンを見ながら抜作も唸り始める。スプーン曲げをやろうとする者は皆、同じ様なリアクションをとるのか。
「曲がれ!!」
そう一喝した瞬間、なんと見事に指矩の如く、右に直角に折れ曲がったのだ!! ……抜作の腰より上の部分が、だが。
「きゃあああぁっ!?」
同年代よりちょっとばかりお頭が弱めな事で知られる堀裕子も、流石にこれは異常だと気付いたらしい。
当たり前である。明らかに折れては行けない方向に、身体がねじ曲がっているのだから。しかもボキンッ、と言う実に嫌な音まで聞こえて来た。
「い、いたい……」
であるのに、この男の淡泊な反応は何なのか。
この男の取ったリアクションは、ちょっと涙を流しながらそう口にするだけ。ダメージとリアクションのつり合いが、取れてない。
「……所で、甘子ちゃん」
「え、あ、はい……(折れ曲がったままで話すの怖いから止してほしいな)」
「わかりました」
言って抜作は、折れ曲がった腰の部分を、熱した飴の棒のように矯正、元の姿勢に戻した。
「えっ、な、何で私の考えている事を……」
「()の中を読みました」
「??????」
いよいよ以て理解が及ばなくなってきた堀裕子16歳。ひょっとしたらとんでもない人を師匠にしたかもしれないと思い始めて来た。今更である。
「あなたは聖杯戦争について、どれ程理解しているんですか?」
「え?」
予想だにしていなかった角度からの質問に、裕子は思わずキョトンとした。
「え〜っと……銀の鍵って言う物を手に入れた人は、アメリカのマ、マサチューセッツ……? だったかな? そこにあるアーカムって町で、聖杯を――」
其処まで言った瞬間、ドッカンッ!! と言う大音を立てて、抜作の頭が破裂した。
破裂した頭からはパーティグッズのクラッカーの如く大量の紙ふぶきと紙テープが飛び散り、血や肉や骨と言った部分は、全く見られなかった。
「きゃあああぁああぁぁああぁぁっ!?」
先程腰を折れ曲がらせた時とは比にならない程のかん高い金切声を上げて、裕子が絶叫した。
無理もない事であろう。抜作が、難しい内容の話を聞かされたら頭が破裂する体質である等、普通は予測もつかないし考えもしない。
「失礼しました、続けて下さい」
「え!? あっ、はい!!(頭ないのにどこから声出してるんだろう……)」
「[自主規制]からです」
「言わなくていいです!!」
早速持ち直したようである。それで良い、この男の行動に一々突っ込んでいては、命とSAN値が幾らあっても足りたものではない。
-
「と、とにかく……、ここアーカムで、サーヴァントである抜作師匠と私が一緒に戦って、勝ち残って、どんな願いでも叶える『聖杯』って言う物を手にする『ドラマ』なんですよね?」
「し、知らなかった……」
「あの!!」
自分から振っておいてこのザマである。裕子が怒るのも無理はない。
「とりあえず、今甘子ちゃんが言った事はドラマでも何でもなく、事実の話ですよ」
「……え?」
抜作の言葉に意表を突かれる裕子。表情は、如何にも自分は間抜けです、とでも言う様な、キョトンとしたそれであった。
抜作の言葉に驚いてしまい、一瞬で、彼のなくなった頭部が元に戻っていた事を突っ込むのを忘れてしまった。
「だ、だって、何でも願いを叶える『聖杯』ですよ? さ、サーヴァントを使っての殺し合いですよ? そんな事ありえないですし、殺し合いが許されるわけ……」
「認めたくないのも解りますが、受け入れて下さい。現実です。銀の鍵を手に入れて、気付いたら日本からアメリカにいるって時点で、もうおかしいと思うでしょう」
柄にもなくまともな正論を口にする抜作。何処か裕子を諭すその言葉であったが、彼女はそれを受けて、湧き上がり掛けていた混乱の情動を、更に強めるだけだった。
「う、嘘。嘘嘘嘘!! だって、そんな……」
自分の置かれている立場と、事態の深刻さを漸く実感し始めた裕子は、血の気を失った表情を浮かべ始める。
何か言葉を話そうにも、舌が自分の意思を離れた別の生き物にでもなってしまったかのように震えてしまい、意味のある言葉を発する事を難しくする。
嘘でしょう、だって、殺し合いだよ!? 悪い夢だと思おうにも、何故だろう、全然そう思えないのだ。
今すぐにでも何処かから、ドッキリとでも書かれたプラカードを持ったアイドルでも現れて欲しかったが、そんな事はありえない。
心の何処かでは、聖杯戦争は現実のものであると、本当に些細ではあるが、考えていたかも知れない。
所謂サーヴァントに類する存在が、もっとまともな、或いは、真っ当な姿形をした、聖杯戦争に相応しい存在であったのなら、現実であると受け入れるスピードも早かったろう。
目の前の圧倒的な不条理さとナンセンスさのサーヴァントが、その理解を阻めた。
その馬鹿馬鹿し過ぎる顔立ちの事もそうだが、初めて抜作と出会った時、彼は重力を無視して天井に直立していた。
それはそれは驚いたものだ、サイキックパワーの地力が違い過ぎると恐れ戦きもした。
ちなみに、「ど、どうして天井に立っていられるんですか……?」と訊ねた時、抜作は、「天井には立てないのか!? し、知らなかった……」と言ってそのまま落下して来た。
これを見て裕子は、この人をサイキックの師匠と仰ぐ事を決意。アイドル活動としての師匠はあの人だけだが、この人は超能力の師匠と、考える事にした。
そんな馴れ初めだったからこそ、聖杯戦争と言うものを少し誤認していたのだ。
抜作はプロデューサー或いは裕子が所属するプロダクションの用意したサイキックを扱える男優で、
聖杯戦争とはこの馬鹿げた男と一緒にドタバタと駆け抜ける事を主眼に置いた、ギャグテイストの強いドラマなのではないか、と。
しかし、これから起こる事は、全て現実に起こる事なのだ。いつの話になるかは知らないが、これ以降何人もの人間が死に、裕子はその手を血に染めるかも知れない。
背筋を、氷で出来た蛇が這い回ったかのように、悪寒が身体を走り出す。
いやだ、いやだ、何で。プロダクションから自宅へと帰る道すがら、ガードレールの上に置いてあった、あの綺麗な鍵何て拾わなければ良かった。
スプーン曲げならぬ、鍵曲げと言うものをプロデューサーに披露してみようなど、考えなければ良かった。そう考えてなければ、今頃は……!!
「これは面白い!!」
「面白くありません!!」
フォローの言葉の1つでも投げてくれるかと思ったが、どうして期待とは全く逆の言葉を口にするのかこの男は。
「わ、私、どうしたら……。サイキックは人を傷付けるものじゃ……、人を殺したくなんて……、も、元の世界に……」
目に涙が溜まり、声に嗚咽が混じり始める。
今すぐにでも、裕子に割り当てられた、アーカムはアップタウンのマンションの自室に駆け込んで、1人で身も世もなく大泣きしたい気分だった。
それをただ、無言で受け止める抜作であったが、表情が表情の為、何を考えているのかは推し量れない。
「ところであなたは、『怪盗とんちんかん』を知っていますかな?」
-
「……え?」
抜作がふと、そんな事を訊ねて来る。頓狂な言葉を以て、裕子は言葉を返した。
「昔世間を騒がせた怪盗4人組でしてねぇ、私がリーダーだったんですよ。甘子さんとはそのメンバーの一人で、超能力が扱えたんです。
スプーン曲げをするあなたを見てると、昔の事を思い出してしまって、ついつい甘子さんと呼んでしまうんです。いやぁ懐かしいですねぇ。
ついでにとんちんかんが連載終了してからもう20年以上も経過してしまったんですか。作者のコイチの生存が確認されて良かったですよ素直に」
「えとその、……怪盗、何ですよね? 何を盗んでたんですか?」
「うちわとか、ダイヤモンドを保管してるケースの横に置いてあったくず入れとかですかね」
「しょ、しょうもない……」
正直それでは怪盗と言うより単なるアホだ。これでは他のメンバーは、正体がバレて刑罰を受ける事より、世間から馬鹿にされる事の方を、恐れただろう。
「価値のある物を盗むのは犯罪じゃないですか」
「それはそうですけど、怪盗ならばもっと大きく出れば――」
「それじゃありふれた怪盗と何ら変わりない。ギャグ漫画的に全く映えません」
厳とした口調で、抜作が即座に反論する。
「誰の目から見ても価値のない物を盗むその馬鹿さ加減にユーモアがあるのです。目の前に数千万円の価値のものがありながら、
その横においてある正味数百円の小物を盗む事に、愛敬があるのです。さて、裕子さん」
襟を正す、と言う言葉が相応しい程、真面目な口調で抜作が言った。
「怪盗とんちんかんを結成しませんか?」
「わ、私がですか!?」
思わぬ申し出に、裕子は驚きの表情を声を張り上げた。
怪盗からのスカウト。それはともすれば非常に魅力的な提案だったが、何故だろう、全く心を惹かれない……。
「ジャンプ黄金期を支えたキャラクターの1人ですからねぇ、これでも。再びカムバックしたいのですが、他のメンバーと連絡が取れないのですよ。
そこで新しいメンバー、特に最近の作品で人気のあるキャラクターと組むのが一番手っ取り早いと思ったのですよ。
最近ドラマ化しましたが、月間連載のキャラクターだった死神くんとは手を組みたくありませんし。こちとら週刊誌の人気キャラですよ!!」
「は、はぁ」
この男にしては珍しく、感情を前に出してムキになって主張しているが、そんなに抜作にとっては重要な事柄なのだろうか。
いやそもそも、この男は一体全体何を口にしているのか。
「どうです、私と一緒に、聖杯――を砕いて粉々にしたものを盗んでみませんか?」
「せ、聖杯を壊すんですか!?」
「丁度そう言った小物が欲しかったんですよ。手に入ってしまえばどうしようが自由の筈でしょう。あ、それとも、聖杯が欲しかったですか? それならば譲りますが……」
「それは……」
どうしよう、と裕子は考える。
本当に聖杯を信用して良いのか? まず考える事柄はそれだった。ただ鍵を手に入れただけで、本人の意思に関わらずアーカムなどと言う所に呼び出した挙句、
そこで事実上、殆ど選択の余地もなく棄権も出来ない殺し合いを強要される。その末に手に入る聖杯が、本当に正しいとは思えないのだ。
聖杯、それが何であるかは裕子にはわからない。何でも願いを叶える器物と言う事は、きっと凄いサイキックパワーを秘めているのだろう。
だが、サイキックパワーは人を時に驚かせ、時に喜ばせ、時に人を懲らしめる、正義の力だ。その様な邪な目的の末に待ち受ける神器など――到底、裕子には許せるものじゃない。
だから――
「……師匠。私、聖杯を壊します!!」
堀裕子は、決意を示した。聖杯を破壊し、この狂った都市から何としてでも脱出する。
そして、出来れば誰も殺したくない。難しいとは解っているが……人を殺してしまったら、プロデューサーに顔向けが、出来ないから。
-
「良く言った!! これであなたは今日から、とんちんかんの『かん』を襲名しました!!」
ビッ、と右手人差し指を突き付けて抜作が一喝する。……その右手を平時の10倍程の大きさに拡大させながら、だが。
「一番の要である超能力者の女性キャラをこんなに早くクリア出来るとは思っても見ませんでしたよ。後は『とん』と『ちん』がいれば完璧ですね。
裕子さんは、何かしら拳法の使い手だとか、発明が得意な天才キャラクターを知りませんか?」
「拳法に、発明……。うーん……有香ちゃんは空手習ってるって言ってたけど……天才……かぁ。一之瀬ちゃんとか頭が良いんですけど」
思い起こされるのは同じプロダクションに所属するアイドル2人だ。
中野有香と、一ノ瀬志希。前者は空手を習っている事をウリにしているアイドルで、後者は海外の学校で飛び級留学が出来る程の頭の良さだ。
おまけに、ちょくちょく怪しい薬を作ってはプロデューサーから窘められている。発明が得意と言う条件も、一応クリアしているだろう。
「ははぁ、今は女キャラクターの比率を増やした方がウケが良い世界なんですねぇ。時代の流れを感じます」
「え?」
「いえ、何でもありません、こちらの話です。ところでその人達は、裕子さんの所の人で?」
「はい。此処にいるかどうかは……流石にサイキックパワーじゃ解りませんけど」
この期に及んでそんな物は備わってないと言わない辺り、ある意味でこの少女は大物である。
「では新生とんちんかんのメンバーは、聖杯戦争が終わってから組むとします。今は我々で、聖杯まで辿り着く事にしましょうか」
「はい!!」
……まさか中野有香も一ノ瀬志希も、自分の与り知らぬところで、馬鹿でアホな怪盗メンバーの一員に加え入れられている等とは、露とも思うまい。
今後の方針は固まり、少しばかり展望が見えて来て安心した裕子だったが、うんうん唸っている抜作の姿を見て、少し疑問を覚えた。
「……ところで、聖杯とは、ドラゴンボールみたいに何でも願いが叶うと言う物なのですよね?」
抜作が訊ねる。
「多分……」
裕子にとってはそもそも聖杯の存在自体を知らないし、想像もつかない。
と言うよりは、こう言った情報は寧ろマスターである裕子よりも、サーヴァントである抜作の方が詳しい筈ではないのか。
「う、うーむ……悩みますね……」
頭を抱え、屈んで悩み始める抜作。
表情がいつもの間抜けたそれから変わらない為に、深刻さが全く感じられない。
「どうしたんですか?」
「……怪盗とんちんかんを月9に死神くんみたいにドラマ化させるか、作画を矢吹健太朗にしてジャンプに復活させるか悩んでます」
「は、はぁ」
2人の明日はどっちだ。
【クラス】
ウルトラフール
【真名】
間抜作@ついでにとんちんかん
【ステータス】
筋力E- 耐久E- 敏捷E- 魔力E- 幸運EX 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
至天の馬鹿者:EX
知性と一般常識を著しく欠いた者の証明。
勉強が出来ないとか、世間並みの常識がないなどと言った程度ではこのスキルの最低ランクすら獲得出来ず、
このスキルの保有者を一人発見出来る確率は、全宇宙をひっくり返しても可能性はゼロに近い。
ランクEXはそんな破格のスキルの中でも別格のランクで、そのアホさ加減は抑止力ですらウルトラフールに関わる事をいやがり、令呪の強制命令をも正しく受け付けない。
なお、このランクの至天の馬鹿者スキルの持ち主の知性を矯正、かつその性格を真面目なそれにさせた場合、最低でも対星規模の環境変動と災害が巻き起こり、人類が滅亡の危機に瀕する。
-
【保有スキル】
精神汚染:EX
ウルトラフールの精神は真っ当な人間は当然の事、同じ精神汚染持ちですら理解する事が出来ない。
と言うより厳密にはウルトラフールの精神は汚染されているのではなく、彼が余りにも馬鹿で阿呆な為に、汚染されているように見えるだけである。
精神干渉を全て無効化する上、彼の精神と無理に同調、或いは心を読もうとした場合には、致命的に精神を破壊され、
Eランク相当の『至天の馬鹿者』スキルを獲得、更に顔面がスーパーフールのものに変わってしまう。絶対に彼の精神を見てはいけない。
対魔力:-(EX)
ビッグバン以前から、と言うよりビッグバンを引き起こした張本人であり、最低でも130億年以上は生き続けているウルトラフールが積み重ねて来た神秘は、
常識的に考えれば破格と言う言葉ですら生ぬるく、魔術と言う技術程度では傷すら付けられない筈なのだが、ウルトラフールは魔術を『当たったら痛いもの』、
として認識している為、直撃したら普通にダメージを負う。しかもサーヴァントの癖に、NPCや人間の物理攻撃でもダメージを喰らう。実質飾り同前。
異形:A
頭にはフタがあり、其処から頭の中を除く事が出来、更に身体をいつでもバラバラに出来る上、其処から組み立ててもとに戻す事が出来る。
骨格は人間の骨でなく魚の骨で、「ドカナイドカナイ」と言う搏動音を心臓が鳴らしている。人の形をしているが、完全な地球外生命体。
不死:A
異常なまでの耐久力。メタ的な事を言うのであれば、『ギャグ補正』と言うもの。実際上の耐久力をランク相当にまで修正し、ランク相当の再生スキルを獲得する。
本来ならば宇宙空間ですらも生存可能で、何をやっても死なないウルトラフールだが、聖杯戦争に際してはランク以上の不死特効攻撃、或いは、
マスターが供給する魔力が断たれた場合は、他のサーヴァント同様例外なく消滅する。この不条理かつ理不尽なサーヴァントの、唯一の良心。
【宝具】
『生まれ出でる一日一個の命』
ランク:A+++ 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
ウルトラフールの不条理かつナンセンスな体質の1つ、『一日に一つ命が体内で生み出される』と言う特質が宝具となった物。
ウルトラフールは24時間に1回、霊核或いは命を1つ生み出す事が出来る。体質が宝具となった物である為、消費魔力はほぼゼロに近い。
元々馬鹿げた耐久性を持つウルトラフールの耐久性を更に向上させている宝具。
『アルティメット・プラシーボ(究極の思い込み)』
ランク:EX 種別:対人〜対界宝具 レンジ:??? 最大補足:???
ウルトラフールが持つ固有スキルの、至天の馬鹿者スキルをフルに活用して、常識を遥かに超えた何かを起こす宝具。
『自分が思い込んだ出来事を全て現実のものとして世界に肯定させる』、と言うのがこの宝具で可能な事柄。
これによりウルトラフールは過去、何の変哲もない市販のカメラに透視機能を付与させる、乗用車で宇宙空間まで飛翔する、声を掴む、太陽の位置を近づける、
マネキンやトイレットペーパーやウンコやごはんと言ったものに命を与える、こんなアホなのに教職免許を取得出来た、など、魔法レベルの奇跡を実現させてきた。
この宝具をフルに活用する事が出来れば、単なる棒切れをかの『約束された勝利の剣』と同じ性能を持つそれに変貌させる事も、
単なる漫画本を『螺湮城教本』に変貌させる事だって、全く不可能ではない。
事実上ほぼ全能に等しい権能を発揮出来る宝具ではあるが、サーヴァントとして矮小化された現在では、そう言った効果を発揮させるには莫大な魔力を必要とするし、聖杯戦争の根幹を揺るがすような改編は、実際上不可能となっている。
また、思い込んだ事が現実になると言う事は、悪い方向にも結実する事を意味し、現にウルトラフールの対魔力EXが真面に機能していない訳は、
彼が『魔術は喰らえば痛いもの』と思い込んでいるからで、だからこそ人間の魔術師の一工程の魔術ですら大ダメージを負う(死ぬとは言ってない)のである。
究極のアホであるウルトラフールを御しつつ、この宝具を正統に運用するのは、正味の話、聖杯戦争を生き残り、聖杯を勝ち取るよりも難しいかも知れない。
-
【weapon】
難しい計算式を考える:
それだけで台風規模の風を引き起こす事が出来る。
真面目な事を言う:
普段アホなウルトラフールの口から飛び出させる事で、相手は凄まじい精神的動揺を受ける。
が、真面目な事を言ったショックと反動でウルトラフールのは気絶し、行動不能になる。
第四の壁を見る:
高すぎる至天の馬鹿者スキルと精神汚染スキルが相まって、上位次元の様相を見れたり、本来知り得ぬ情報を知れたりも出来る。
本来は宝具となるべき特質であるが、この特技に関しては、二次二次聖杯戦争で絶賛活躍中のあのバーサーカーには劣る。
【人物背景】
礼院棒(れいんぼう)中学で教職を務める、身長48ページ、体重3,829ダース、血液型ホンコンB型の男性。担当科目はHRで、真っ当な授業は担当していない。
世間一般の常識が一切通用しない究極のアホで、事実上不老不死に等しい存在。
姿形こそ人間の姿をしているが、体組織や身体の構造は全く人間のそれではなく、事実彼の正体は、外宇宙の惑星の王子であり、
外で花火をしていて遊んでいたら、偶然にもビッグバンを引き起こしてしまった、一つの宇宙の創造主に近しい存在である。
全にして一なる者の知識に接続して再現された間抜作は、そう言った出自と性質から、その存在を誤認されており、
具体的には白痴[検閲]目ア[検閲]ースに近しい存在なのかも知れないとして――――――――――――――――――――
【サーヴァントとしての願い】
聖杯を破壊するか、ついでにとんちんかんをドラマ化、或いは再びジャンプに返り咲こうかと悩んでる
【方針】
とんちんかんの『とん』と『ちん』役を募集中。
【マスター】
堀裕子@アイドルマスター シンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
聖杯を破壊する
【weapon】
サイキックパワー:
無論本人にはそんな能力は備わっていないのだが、幸運がかなり高い。
【能力・技能】
アイドルとしての歌唱力:
サイキックパワーはサッパリだが、こちらの方はメキメキと力をつけて来ている。本人曰く、皆を笑顔にする超能力との事。
【人物背景】
福井県生まれのアイドル。いつもスプーンを持ち歩き、ことあるごとにサイキックサイキックと口にする。
超能力を持っていると言う触れ込みだが、本当に持っているとは思えず、単なるマニアの可能性の方が遥かに高い。
得意技はスプーン曲げ。コツは、力がいるとの事。最近はアイドルとして歌唱力を鍛えるだけでなく、透視能力も鍛えているのだとか。
【方針】
師匠と一緒で大丈夫かなぁ……?
-
投下を終了いたします
-
投下ありがとうございます。
私もバーサーカー組を投下いたします。
-
――世界は、歪んでしまった。
元より、触れるべきではなかったのだ。
在るがままにしておかねばならないものだったのだ。
ましてや、人の手を加えるなど、けして許されることなどでは。
人の体には、全ての生命の神秘が宿る扉がある。
いや、人だけではない。
獣の、鳥の、爬虫の、魚の、虫の、樹木の、草花の、細菌の、あるいはそれらに含まれぬものたち。
あらゆる命は、世界の最奥でひとつに結びついている。
それら全ての進化の神秘が宿る場所。生命の拠り所を示す地図。
魔術師が世界の最奥を『根源』と呼ぶのに喩えれば、あの場所は生命にとっての『根源』だ。
――『二重螺旋の世界』。あの日、彼女は確かにそれに触れた。
進化を意のままとし、生物の長所だけを掛け合わせた存在――キーマンの創造には確かに成功した。
しかし代償は大きすぎた。ヒトという種は根本から書き換えられてしまった。
交じるはずのない鳥獣の血がヒトに交じり、獣人がこの世に誕生した。
謂れなき差別。謂れなき迫害。異なる生物種の血を持つ者達は、その異形と人外の力ゆえに排斥された。
本来は流れるはずのない血であり、涙であり、命であった。
世界は彼女のエゴによって、もはやかつての姿ではなくなってしまったのだ。
ならば、その罪科は償われなければならない。
世界を歪めてまで世に放たれた超人キーマン。
再び二重螺旋の世界への扉を開き得る鍵となる者……この世界に害をなす存在。
それら全て、この地上から抹殺する。
そのためには、鍵が必要だ。
キーマンの鍵ではない。二重螺旋の世界へと繋がる鍵ではない。
窮極の門を拓き、世界の真実へ到達するための鍵が。
架空都市アーカム。そして聖杯戦争。
生命の根源に至った故に生まれた過ちは、世界の根源に至り得る儀式でもって正す。
この『銀の鍵』で拓くのだ。もうひとつの扉を。
世界をもう一度変革しうる、窮極の門を。
▼ ▼ ▼
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その華奢な体を不釣り合いなロングコートで包み、夕暮れに沈むダウンタウンのストリートを少女は歩く。
その流れる黒髪と整った顔立ちは僅かに人目を惹くが、それでも街の人々は彼女を記憶に留めるでもなく行き交ってゆく。
コートの襟を立て、その愛らしいはずの顔に影の落ちた表情を浮かべながら、少女はうつむいて足を進めた。
(このアーカムはロックヴィルより50年は未来の街のはずだが……いかに技術が進歩しても、人の世は変わらないな)
まるで少女には似つかわしくない感想を抱く彼女は、事実、外見通りの少女ではない。
百年以上の時を生きる魔術師デボネア・ヴァイオレット――彼女を知る者からは『Dr.ネクロ』と呼ばれている。
ロンドンの「黄金の夜明け団」であらゆる魔術を研究し、遂には生命の禁忌に踏み込んだ魔女。
その彼女も、この架空都市アーカムにおいては身寄りのない一人の少女なのだ……少なくとも表面上は。
憂いを湛えた瞳でネクロはアーカムの町並みを眺め、行き交う人々を眺め、それからくすんだ曇り空を眺めた。
ダウンタウンはアーカムにおいて標準的な地区だ。ノースサイドほど活気があるわけでも、貧民街ほど荒んでいるわけでもない。
一般的な中流市民が贅沢も困窮もせずにただ当たり前のように暮らしている。
そしてその人々の中には、当然鳥獣の遺伝子の混じった者……獣人はいない。
二重螺旋の世界への干渉で歪められていない世界。本来こうあるべきだった世界。
この地区はアーカムの標準であり、それと同時にネクロにとっては自身が歪めた世界の元の姿に見えた。
(だが、ここは既に、魔術師どもにとっては戦場だ。私自身にとっても例外ではなく)
ネクロの表情が一層険しくなる。
魔術師という人種がいかに利己的な存在であるのかは、他ならぬネクロ自身が誰よりも知っている。
自身の目的やエゴのためなら、無関係の人間に対してはあらゆる犠牲を強いて恥じることはしない。
それが魔術師だ。ネクロがかつてそうであり、もしかしたら今もそうであるように。
このアーカムの市民たちも、聖杯戦争のマスターにとっては餌か生け贄に過ぎないに違いない。
いつまでこの平穏が保たれるのか。それはマスター達がこの街に集結しつつある今、もはや誰にも分かるまい。
(……"シン")
ネクロは、己が従えるサーヴァントの名を呼んだ。
魔力パスにより、だいたいの位置は分かる。この大通りから僅かに離れた屋根から屋根へ飛び移っているようだ。
("シン・カザマツリ"。我が英霊『バーサーカー』よ。路地裏で落ち合う。戻ってこい)
表情ひとつ変えずに念話で支持を出し、そのまま次の建物の角を曲がって人目につかない暗がりに身を隠す。
果たしてその数十秒後、夕闇を裂くようにひとつの影がビルの狭間へと降り立った。
ネクロは今さらその姿を見て驚きなどしないが、普通の人間なら驚いて腰を抜かすぐらいはするかもしれない。
それくらいに、バーサーカーの姿は異質だった。ほとんど異形であると言ってもいい。
姿そのものが、見方によっては進化への、あるいは生命自体への冒?を象徴していた。
ネクロがかつて犯した罪を浮き彫りにするかのように。
-
風祭真――バーサーカー、『仮面ライダーシン』。
後天的にバッタの遺伝子を移植され強化された改造兵士(サイボーグソルジャー)。
その緑色の体は、文字通り人間とバッタが混じり合ったような、おぞましい姿をしていた。
ヒーローではなく怪物。誰もがそう呼ぶだろう。彼の存在に、誰もが恐怖を感じるだろう。
ネクロの世界における獣人がそうであるように――人外の遺伝子を持つ彼は、その姿ゆえに排斥される。
その魂の在り方とは、まったく無関係にだ。
ネクロはその姿を見るたびに、自分自身の罪を鏡で見せられるような気持ちを味わっていた。
「■■■■■■■■■――!!!」
バーサーカーが呻き声を上げる。
シンはその出自ゆえ、変身により狂化ランクを切り替えることが出来るという狂戦士としては稀少な特性を持つ。
しかしながらその変身のキーとなるのが感情の昂ぶりであるため、思うように運用するのは難しそうだ。
自身を制御できずに吠えるバーサーカーを見、ネクロはそう結論づけた。
「それでどうだ、バーサーカー。なにか見えたか」
あえて戦闘でもないのに魔力消費量の多いバーサーカーを実体化させたのは、その鋭敏な感覚器官に期待してのことだ。
バーサーカーから明確な返事が返ってくるわけもないが、それでも彼が得た情報のある程度はマスターにも伝わってきた。
このダウンタウン地区にも明らかに魔力の痕跡があるようだ。敵は既にアーカムに存在する。間違いなく。
聖杯戦争は、既に始まっているようなものだ。
そして、彼女のサーヴァントは明らかに異形の存在である。
それを実体化させれば、勘のいいマスターならばその存在に気付く。
いわば撒き餌だ。ネクロが他のマスターと接触するための。
接触して打倒するのか、あるいは協力関係を築くのか、そればかりは実際に会ってみないと分からないが。
それくらいの危ない橋は渡る。ロックヴィルで、サーヴァントではなく怪人ファントムを従えていた時のように。
「■■■■――……」
ふと、バーサーカーの様子が変わったのにネクロは気付いた。
おぞましいバッタ人間と化していた姿が、逆回しのように人へと戻ってゆく。
その顔が、険のある目つきが印象的な普通の青年のものへと戻った頃には、ネクロが感じていた魔力的負担もまた遥かに軽くなっていた。
人間に戻ったバーサーカーは、やはりどこにでもいる男にしか見えない。
異形の宿命を背負うものだとは、到底思えはしない。それが一層、彼の悲劇性を高めているのかもしれなかった。
ネクロは、少女の体にとってはなお高い彼の顔を上目遣いで見上げた。
彼は怒りを押し殺したような表情をしていた。狂化の影響なのか、それとも生前からの性なのか。
「……敵は、倒す……命をもてあそぶ者は、必ず……」
バーサーカーが呻くように漏らした言葉が、ネクロの胸を抉った。
狂化したサーヴァントの言うことだ。言語能力を完全に失っているわけではないとはいえ、ネクロに対する皮肉ではあるまい。
それでも、命を冒?した咎を背負い続けているネクロにとっては、その言葉は刃だった。
彼女は一瞬だけ虚を突かれたような顔をし、それから僅かに目を伏せ、そしてどこか自嘲するように微笑んだ。
「……ああ、その通りだ。だからこそ、私達は勝たねばならない。頼むぞ、シン」
曖昧な表現で答え、ネクロは霊体化したバーサーカーを引き連れた夜の深さを増した大通りへと歩み出した。
百余年の人生は心を隠す術を学ぶには十分過ぎた。ネクロは再びただの少女として、アーカムの夕闇に溶け込んでゆく。
生命の象徴たる『二重螺旋』の刻印を持つ『銀の鍵』が、ふさわしい鍵穴を探すように彼女のポケットの中で躍っていた。
-
【クラス】
バーサーカー
【真名】
仮面ライダーシン(風祭真)@真・仮面ライダー序章
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力D 幸運E 宝具B(変身時)
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具E(非変身時)
【属性】
混沌・狂
【クラススキル】
狂化:D-(B-)
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
通常時はD-ランクであり、筋力と敏捷が上昇するが言語機能が単純化し、更に感情の制御が利かなくなる。
変身時はB-ランクへと変化し、幸運以外の全ステータスが上昇するが理性の大半を奪われる。
なおこのスキルを所持するために、バーサーカーは意識的な変身および解除が不可能になっている。
【保有スキル】
変身:A-
感情の高ぶりに呼応して、人間の姿から改造兵士レベル3の姿へと変化する。
しかし狂化によって感情を制御出来ないため、感情が昂ぶると勝手に変身し狂化ランクを上昇させてしまう。
またそのグロテスクな変身過程は目撃者に精神的なダメージを与える。
自己再生:B
通常の人間の5000倍の細胞増殖により、肉体の大半を失っても瞬く間に再生する。
自身の宝具を発動させると同時に魔力で肉体を再構成するため、マスターには相応の負担を強いる。
念力:C
サイコキネシス。直接触れずに物を動かす超能力。
記録には残されていないが、このバーサーカーには触れずして相手を粉砕する攻撃手段があるとされる。
複雑な技術を必要としないため、狂化していても使用可能。
情報抹消:D
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力・真名・外見特徴などの情報のうちの一部が消失する。
これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。
彼の孤独な戦いはほとんど記録に残っておらず、誰にも知られてはいない。その事実が結晶化したスキル。
【宝具】
『真・序章(プロローグ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:自身
変身時における常時発動型宝具。改造兵士レベル3としての肉体が持つ驚異的な成長能力。
変身時に限り、バーサーカーへ与えられるほぼ全ての攻撃はダメージが半減以下へと抑えられ、更にそのエネルギーを蓄積できる。
そして蓄積したエネルギーが一定値を超えるたびステータスが成長し、筋力・耐久・敏捷のいずれかに「+」が付与される。
理論上は筋力・耐久・敏捷のそれぞれが最大「B+++」まで上昇する。一度上がったステータスが戦闘終了時に元に戻ることはない。
なお、炎や熱によるダメージだけはダメージ軽減の対象外である(エネルギーの蓄積自体は可能)。
仮面ライダーシンの僅かな伝承はあくまでその全貌の序章に過ぎない、その概念を示す宝具。
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【weapon】
無し。
シンはその鋭い爪や牙など、己の肉体と能力のみを駆使して戦う。
【人物背景】
仮面ライダーシンに物語はない。
彼が持つのは僅かな序章だけである。
父親の研究に協力する過程で密かに生体兵器へと改造された男、風祭真。
彼は愛する者を失いながらも戦い、そして復讐を果たし何処かへと去った。
シンの伝承はそれが全てであり、その後彼が送った戦いの日々など誰も知らない。
【サーヴァントとしての願い】
不明。
【マスター】
Dr.ネクロ(デボネア・ヴァイオレット)@KEYMAN -THE HAND OF JUDGMENT-
【マスターとしての願い】
全てのキーマンを殺す。
【能力・技能】
百年以上の時を生きる一流の魔術師。
エクトプラズムを使った幻影魔法や使い魔の召喚などの魔術を用い、魔力量もそれなりに豊富。
しかし一方で「魔術師のヌケガラ」とも評されており、全盛期ほどの能力は無いようである。
また魔術師となる前は医者であり、医術に関しても精通している。
なお既に魔術の禁忌に深く触れているため、正気度ダメージによる深刻な一時的発狂を起こしにくい。
もっともこのアーカムにおいては、そのリスクを完全にゼロにすることなど出来ないが。
【人物背景】
1950年代のアメリカ、ロックヴィル市に現れた謎の少女。
自身を魔女と称する彼女とティラノサウルスの獣人アレックス・レックスの出会いにより、物語の幕は上がる。
街を守っていたヒーロー・キーマンの殺害、暗躍する魔術師達、そして更なる超人の台頭。
ロックヴィルを覆う陰謀……その根源に携わっているのが彼女、Dr.ネクロである。
【方針】
聖杯狙い。
慎重に立ち回り、場合によっては他の主従との共闘も視野に入れる。
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投下終了しました。
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投下お疲れ様です。
私も投下させて頂きます。
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また、初音島で事故が起こった。
ギリギリだったけれど、なんとか怪我人は出なかった。
―――枯れない桜は、良い夢も悪い夢も叶えてしまう。
ボクは願いの桜の外付けフィルターとして、他者を傷つけるような夢をカットしてきた。
でも、今までは騙し騙しやってきたけれど、もう処理が追いつかなくなってきている。
方法は、二つしかない。
一つは、桜の木を枯らしてしまうこと。
そうすれば、叶える願い自体全てストップできる。
でもそうしたら、義之くんは……。
もう一つは、桜の木と一体化して、ボクが内部から制御すること。
こちらを選べば、もうボクは人間として、みんなに、義之くんに会うことができなくなってしまう。
それだけならまだいい。もしも制御に失敗したら……。
ボクは駄目元で、もう何度見たか分からない、おばあちゃんが残した魔道書を片っ端から読み漁った。
四つ目の魔道書を開いた時、本の間から数枚の頁が落ちた。
その魔道書の文体とは明らかに違う、英語ではあるけれど、まるで元のある文章を英語に直したようなものが書かれている、数枚の紙。
今まで見落としていた……?
ううん、何度も何度も読み返したんだ。こんな頁はなかったはずだ。
それでもボクは、藁にも縋る気持ちで、その紙を読んでみた。
そこには、『聖杯戦争』について記されていた。
魔術師同士が競い合い、英霊を使役し戦わせ、万能の願望器である聖杯を降臨させる、という儀式魔術。
おばあちゃんが教えていたロンドンの王立魔法学園では、魔術師が沢山いたという。
もしも、聖杯戦争に参加すれば。
例えば、友人であるアイシアのような。他の魔術師を傷つけなければならない。
それでも、願いの桜を制御するためには。
きっと神さまのような力が、聖杯が必要なんだ。
ボクは、どうなったっていい。
どうしても、義之くんを助けたい。
だって、義之くんは。
―――ボクの大切な、子供なんだから。
◇
-
ボクは桜の力を使って、鍵を呼び寄せた。
桜の葉っぱを模したような、銀色の鍵。
仮に、聖杯で願いが叶うとしても。
代償として、ボクがこの地に戻ってくることは。きっともう無いのだろう。
みんなに書き置きは残した。
音姫ちゃんには一番負担をかけて申し訳ないけれど。
ある日時が来て桜の様子が変わっていなければ、桜を枯らすように頼んである。
持ってきた重たいカバンとリュックサックは、どちらもパンパンに膨れ上がっている。
これは、聖杯戦争に勝つための準備。
最後に、お兄ちゃんに会ってきた。
優しい顔で、どこか冒険にでも行くのかい、なんて。
桜餅を手に出しながら、言っていた。
あんこが沢山詰まった、甘くて美味しい桜餅。
きっと、最後の味。
決意が鈍らないように、自慢の長い髪を、切ってもらった。
かったるいなあ、なんて。
久しぶりに聞いた台詞を言いながら、お兄ちゃんは切ってくれた。
もう、思い残すことは。………………………………ない。
両手で、パン、と頬を叩いた。
「―――さあ、始めようか!」
黒いコートを翻し。
ボクは桜の幹にある扉に鍵を挿して。
勢いよく、扉を開いた。
◆
-
マサチューセッツ州。
ボクが研究のためにずっと住んでいた土地。
当然アーカム、なんて都市は無かったけれど。
年代も、30年くらい前。
ちょうど、ボクが住んでいた頃だ。
街並みの雰囲気は、その頃の雰囲気とよく似てる。
土地勘があるのは、きっとアドバンテージ。
活かせるようにしないと。
大学から、ボクの家へと帰ってきた。
ミスカトニック大学の植物学科教授。
それがアーカムで与えられたボクの職業。
大学教授は、アメリカで職業ストレスの少なさナンバーワンなのだ。
研究と称して時間を好きに利用できるのだから。
今日は、ボクの魔力が最も高まる日。
サーヴァント召喚を行う日だ。
シャワーを浴びて。レトルトのご飯をしっかり食べて。
……もう義之くんの美味しいご飯は食べられないんだ、
なんて弱い心が出そうになった口を、スープで流しこむ。
「……ごちそうさまでした」
カップを洗って、テーブルを拭いて。
黒のコートを羽織って、いざ地下室へ。
地下室の部屋の地面には、既に魔方陣を描いてある。
その上に、拾って詰めて持ってきた、枯れない桜の花びらを撒いていく。
効力なんてもうないけれど。おまじないみたいなものだ。
狙うのは勿論、最優のサーヴァント。セイバー。
そしてセイバーの中で、ボクが一番強いと思う人。
そんなの決まってる。
セイバーであるならば、ただ一人だ。
魔術知識については、ボクが補えばいい。
その人が倒した敵の数、約二万九千人。
いっぺんに纏めてどかーん! とかじゃない。
その人が、自らの手で一人一人倒した人数だ。
それもどこにでもあるような、誇張の入った伝記ではない。
誰もが、その現実を。伝説を。その目で確かめることが出来る。
呼び出すのは、現実の人でなくてもいい。
人の幻想の上に立つ、英雄でもいいんだ。
-
ボクはビデオテープの山を、どすん、と魔方陣の上に置いた。
「―――素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師グリーンウッド」
召喚の詠唱を始め、魔方陣から光が溢れて、無から風が生じ始める。
それと共に配置した桜の花びらが宙を舞い、部屋を桜色に染めてゆく。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
光が弾け、魔方陣からサーヴァントが現れる。
大小の刀を腰に差し。
白の紋付羽織。黒字に黄金模様の袴。
その御紋は勿論、三つ葉葵。
「―――剣のサーヴァント、セイバー。召喚に従い参上した」
自分でも目が輝くのが分かる。
本物だ!本物の!
「……新さん!!」
「はて、いきなり徳田新之助の名で呼ぶとは。もしや、以前もどこかで会っただろうか、我が主よ」
ボクは勢いよくぶるんぶるんと首を振って。
ハッと気が付いたように土下座する。
「ははー。い、いえ、初めてお目見えさせていただいいただきそうらえばまして」
動転しておかしな言葉使いになっっちゃってる!
「そう畏まらなくていい。先程のように新さん、と呼んでくれれば良いのだ」
ボクは今度はピーンと棒のように立ち上がって。
「は、はい。……えっと……新さん。
残念ながら、直接お会いしたことはないんです。
でもいつも、いつも、毎日貴方の伝記を見ていましたっ!」
「はっはっは、それは面映ゆい。
して、主の名前を伺っても良いだろうか」
新さんは優しく微笑んで、ボクに尋ねた。
「はっ、はい。えっと、ボクは芳乃さくらと言います」
立ったままでは失礼なので、一階に連れていき、応接間のソファーに座ってもらった。
そこで、ボクの願いをしっかりと伝えた。
ボクが魔術師であること。
桜の木を個人的理由で使い、暴走させてしまったこと。
それでも、ボクの子供を救いたい、ということ。
新さんはひとつひとつ頷き、真摯に聞いてくれた。
「―――成程。子を思う親の気持ち。
それはいつの時代で合っても、変わらぬ大切な願いだ。
さくら、我が主よ。
この徳田新之助が。いや。徳川吉宗が。そなたの力となろう」
「は、はいっ! よろしくお願いしますっ!」
―――こうして、ボクの聖杯戦争は、はじまりを告げたんだ。
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【マスター】
芳乃さくら@D.C.II ―ダ・カーポII―
【マスターとしての願い】
願いの桜の制御方法を知る
【weapon】
なし
【能力・技能】
『願いの桜の魔法使い』
優れた魔法使いであった祖母の血を強く引いており、本人の魔力も高い。
不老の魔術が掛けられており、実年齢は70歳近くだが、身体成長は小学校高学年程度で止まっている。
(成長が止まっている間寿命も延び、不老の魔術が解除された時点から普通通りの成長が進行する。)
実戦型ではなく研究型の魔術師であり、数十年『願いの桜』を完成させるため、古今東西の魔術を研究していた。
不完全ながらも『願望機』としての『願いの桜』の作成自体は成功したことから、魔術知識についてはかなり豊富である。
攻撃魔術を使用している描写はないが、心を読む力を魔術で防いでいる描写はあるため、
対魔力については(現代の魔術師レベルで)持っているものとする。
『植物学』
少女時代、アメリカの大学で植物学の博士号を取得している。
枯れない桜を作るため、植物学の面からもアプローチをかけていた。
【人物背景】
風見学園の学園長。年齢65〜70歳程度。
明るく感情表現が豊かで子供っぽい部分もあるが、年相応の分別と母性が強くなっている。
趣味は時代劇や任侠映画を見ること。
中学生時代、戻ってきた初音島に別れを告げ、アメリカで長い年月、枯れない桜の研究を続けていた。
ふと気が付いた時、自分一人の見た目が変わらないまま、親しい人間が老いていき、孤独になっていくことに不安を抱いた。
研究の末に枯れない桜のレプリカを作り上げ、初音島に持ち帰った。
その桜に「あったかもしれない現在の可能性」を望み、自分と想い人の子供のコピーにあたる『桜内義之』をこの世に生み出した。
義之という念願の家族を得て、さくらは『家族の温かさ』を感じながら暮らせるようになった。
しかし、願いの桜には人々の真摯な願いだけでなく、他者を傷つける歪んだ願いまでも叶えてしまうという不具合があり、
桜を枯らし義之を消すのか、自らが桜に取り込まれ内側から制御するのか、の二択に迫られることとなった。
【方針】
神の願望機たる聖杯を出現させ、願いの桜に足りない力、制御方法を見つける。
-
【クラス】
セイバー
【真名】
徳川吉宗@暴れん坊将軍
【パラメーター】
筋力A 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運A 宝具A+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
正体偽装:C
素性を偽装するスキル。
契約者以外からは貧乏旗本の三男坊『徳田新之助』としてステータス・スキルを偽装できる。
また同スキルが発動している間、他者に与える本能的な畏れは抑制される。
無形の位:A
相手に応じて円転自在の剣を扱うスキル。新陰流の転(まろばし)。刀をだらりと提げて構えを取らない。
活人剣。相手を活かして、つまりは「相手を思う通りに動かせて」斬る技法。
尚、吉宗は基本峰打ちで戦うが、決して不殺の剣ではなく、彼自らの手で度々斬り殺してもいる。
無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。吉宗が重ねた実績はまさに無双と呼ぶに値する。
心技体の完全な合一により、いかなる地形・戦術状況・精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
宗和の心得:A
同じ相手に同じ技を何度使用しても命中精度が下がらない特殊な技能。攻撃が見切られなくなる。
数百回同様の行動を行っても、それを目撃した者に全く同様の爽快さを与え続けたことに由来したスキル。
見得:C
戦闘中に一瞬動きを止め相手を睨むことで、対象に精神的ダメージを与え、怯ませることができる。
同一戦闘中に使用を重ねることで効果は上がっていく。
基本的には敵の頭領、聖杯戦争においては敵マスターに使用するスキルである。
【宝具】
『天下に轟く暴れん坊の威光(余の顔を見忘れたか)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:300人
八代将軍徳川吉宗の威風を対象に叩きつける宝具。
この真名を聞いた者は、その威風、その威光に大きく畏れを抱き、精神的ダメージを与えられる。
『正体偽装』スキルが発動していることが宝具開放の条件。使用に際し、『正体偽装』スキルは解除される。
『成敗』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1人
悪を成す者、混沌を呼ぶ者を数え切れぬ程に退治してきた言霊。
吉宗による声、吉宗による言葉によりこの真名を聞いた者は、対象者の死を想起せずにはいられない唯一無二の真言。
斬撃による強力な一撃を放つ宝具である。
なお、レンジ内の[悪]属性または[混沌]属性を持つ者に対して発動した場合、『成敗する』という因果が確定し、必中必殺となる。
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【weapon】
・主水正正清
吉宗の佩刀。薩摩の刀工・正清が将軍御前で作刀した、新刀の最上作大業物。
江戸時代中期は刀の需要が少なく、刀工不遇の時代だった。
これを憂いた吉宗は武芸奨励策として、全国の優秀な刀工を集め作刀競技を開催。その中で名人に選ばれた一人が正清である。
・扇子
吉宗唯一の飛び道具。「正義」と記された扇子を投げ、対象者の他者へ攻撃を封じる際に使用する。
・白馬
吉宗の愛馬。牝馬ながら馬力が強く、体当たりで怪人を弾き飛ばす威力がある。
またバイクのエンジン音が隣で鳴り響こうとも、構わずに疾走することができる精神的にもタフな馬。
【人物背景】
江戸幕府第八代将軍。
町火消“め組”に居候する貧乏旗本の三男坊・徳田新之助に姿を変え、市井へ出て江戸町民と交流しながら、世にはびこる悪を斬る。
剣術の腕は天下無双だが、剣術以外にも琉球空手や伊賀忍術、南蛮のガトリング砲、アームストロング砲等の西洋兵器などにも詳しい。
また、相撲好きでも知られ、相撲取りを軽く投げ飛ばす程膂力が強く、四股名『徳田川』として素手で悪人相手に大暴れしたエピソードもある。
【サーヴァントとしての願い】
主の願いを叶えてやりたい。
【基本戦術、方針、運用法】
『最優』のサーヴァントの名に恥じない能力を持つ吉宗。
真っ向勝負において相手に引けを取ることはほぼないだろう。
『余の顔を見忘れたか』、『見得』切り、『成敗』の必勝パターンに持ち込めば、きっと脳内でBGMも流れ勝ち筋も見えてくる。
戦闘における弱点はリーチの短さであろうか。
アウトレンジからの攻撃については、騎乗スキルを駆使して白馬で接近するか、潔く白馬で退くかで対処すべき。
魔力運用については魔力タンクのさくらがいるため、こちらも問題ない。存分に刀を振るおう。
注意すべきはやはりマスター狙いだろう。
マスターであるさくらは精神は老成しており、永遠の死(桜の中に入り制御し続ける)を受け入れる覚悟も持っているが、身体能力は子供そのものである。
また吉宗は存命時、守るべき女性を守りきれず死なせてしまうケースも多かったため、特に注意が必要。
吉宗は『無窮の武練』スキルによって、他者の精神世界においても問題なく戦えるため、戦闘では少しでもマスターが精神ダメージを負わないよう立ち回る必要があるだろう。
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以上で投下終了です。
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1です。突然ですが、現時点での候補作を纏めてみようと思います。
ただ纏めるだけなのもつまらないので短評も付けてみました、ご参考までに。
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【セイバー】候補数5
《ローズマリー・アップルフィールド&グリフィス》◆7WJp/yel/Yさん
最優のクラスとは思えぬ低ステータス。そのぶんカリスマと軍略に特化した変則的セイバー。
ベヘリットは……発動したら、もはやSANチェックどころではないですね。合掌。
《桐ヶ谷直葉&玄武》◆arYKZxlFnwさん
多彩な武器を持つものの素手主体で戦いますが、それ以外はかなり真っ当なセイバー。
現時点での候補作では意外と珍しい、正面から戦って強いタイプの正道な英霊ですね。
《上守甲斐&ゼンガー・ゾンボルト》◆7.5A2XKHMQさん
宝具がほぼ機能していないという弱みがあるものの、底力による爆発力の高さは特筆もの。
地上の守護者であった外伝ゼンガーならではの戦闘経験に加え、マスターの冷静さも武器になるか。
《ラニ=VIII&ジャン・ピエール・ポルナレフ》◆yy7mpGr1KAさん
三部のスペックに加え、ココジャンボなど五部ナレフ要素も詰め込んだポルポル君。
レクイエムが邪神仕様で完全に名状しがたい何かになっているので、発動したら別ゲーになりそう。
《芳乃さくら&徳川吉宗》◆MQZCGutBfoさん
一見控えめな能力値に上様ならではの強スキル、そしてお約束をシステムに落とし込んだ宝具やスキル。
攻撃力はもちろん白馬召喚で機動力もあり、さくらの魔力供給にも不安はなしと、安定した主従ですね。
【アーチャー】候補数2
《鷺沢文香&ジョン・プレストン》◆q4eJ67HsvU(自案)
宝具と革新スキルで決定力不足を補う、避けて当てる接近型アーチャーになります。
魔力不足は単独行動と魔力消費の少なさで相殺できるため、一般人マスターであることはそこまでマイナスではないか。
《真壁一騎&ストレングス》◆arYKZxlFnwさん
精神攻撃を主とした固有結界が面白い。オーガアーム×4の指先砲斉射で火力も十分。
怪力スキルで肉弾戦もこなせるなど単独で出来ることが多いぶん、マスターを如何に危険から遠ざけるかが鍵かも。
【ランサー】候補数ゼロ
【ライダー】候補数3
《ズェピア・エルトナム・オベローン&口裂け女》◆yy7mpGr1KAさん
噂に乗るライダー。宝具により様々なルールを敷く、搦め手主体のサーヴァント。
マスターが同じく噂を源にした能力を持っていたのもあり、かなりいやらしい立ち回りをしそう。
《三好夏凜&獅子王凱》◆MQZCGutBfoさん
巨大な乗機のみならず生身でも戦えるぼくらの勇者王。マスターも(満開さえしなければ)安定した戦力なのも嬉しい。
なお通常の状況でガオガイガーの出番があるかは謎ですが、そういえばこの聖杯戦争のキーパーの宝具は――
《アイアンメイデン・ジャンヌ&エネル》◆q4eJ67HsvU(自案)
とにかく高火力、高機動。更に有用なスキルがてんこ盛りですが、反面燃費は大惨事。
不遜極まりない性格も相まって、メイデンの優秀なマスター適性をもってしても全力での運用には多大なリスクが。
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【キャスター】候補数3
《シルバーカラス&西行寺幽々子》◆q4eJ67HsvU(自案)
陣地特化型のキャスターになります。反魂蝶は意外と使いにくいので、あくまで開花を狙っていきたい。
マスターのシルバーカラスもカラテなら超一級ですが、無理するとオタッシャの危険が付き纏うのが……。
《マリア・カデンツァヴナ・イヴ&シラー》◆arYKZxlFnwさん
デスマスクから続く蟹座の伝統、死霊を操るキャスター。SANチェック向きの攻撃が揃っています。
マスターがシンフォギア奏者として戦えない状態なのと、いかんせん鯖が小物なのがネックか。
《アルフォンス・エルリック&リナ=インバース》◆MQZCGutBfoさん
ドラまたリナの火力は流石の一言。マスターのアルも錬金術で柔軟に立ち回れるのが強み。
燃費の悪さをフォローする宝具も持っていますが、対魔力持ちの三騎士をいかに攻略するかが考えどころか。
【バーサーカー】候補数2
《西木野真姫&SCP-012》◆vXLu8QOeNEさん
バーサーカーというか、物。重篤なSANチェックと吸血を発生させるトラップ的な存在。
一般的なサーヴァントとしての運用がほぼ期待できない以上、普通の少女である真姫には荷が重そう。
《Dr.ネクロ&仮面ライダーシン》◆q4eJ67HsvU(自案)
成長するバーサーカー。自己再生とステータスアップでゴリ押していく搦め手無しの狂戦士。
ネクロは魔術師とはいえ戦闘向きではないですが、豊富な魔術知識と魔力量で十分立ち回れるかな。
【アサシン】候補数2
《師匠&戯言遣い》 ◆B/nQCom9e.さん
そこにいるだけで狂気を掻き立て状況を掻き乱す、ある意味規格外の宝具の持ち主。
とはいえそのままでは一切勝ち筋はないので、主従共々頭が回るのを生かして探偵に徹するべきでしょうか。
《ビゾン・ジェラフィル&輝島ナイト》◆MQZCGutBfoさん
スペック自体はそこまで高くないものの、ヒット&アウェイに長けた暗殺者。
しかしビゾン君のめんどくさい性格と主従間のディスコミュニケーションが不安要素ですね。
【エクストラクラス】候補数2
《ジェイムス・サンダーランド(マッドマン)》◆S8pgx99zVsさん
出会ってしまわないことを祈るしかない、存在自体がSAN値直葬の規格外サーヴァント。
参加者というよりほとんど災害ですが、果たして成功法で打倒することが出来るのか。
《堀裕子&間抜作(ウルトラフール)》◆zzpohGTsasさん
現時点で「このキャラが投下されるとは思わなかった選手権」堂々の第一位ことヌケ作先生。
書いてあることを理解しようとすると読者のSAN値が試される感じが凄いです。ていうかこういう漫画だったのか……w
▼ ▼ ▼
現時点での投下数はセイバー5、アーチャー2、ランサー0、ライダー3、キャスター3、バーサーカー2、アサシン2、エクストラ2となっております。
クトゥルフ神話モチーフということで作品の傾向がが限定されることを密かに危惧していたのですが、
むしろ特殊ルールを生かして自由な発想の投下が来るようになって嬉しい限りです。
今後もこの企画をよろしくお願いします。
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投下します
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「プロデューサーさん……」
朝五時。
いつもだったら毎日この時間に必ず顔を合わせる人が彼女にはいた。
オフィス街の高層ビルの最上階の一室。
窓から街を見下ろしながら呟く。
緑のカーディガンに三つ編み。
そして、何よりも笑顔が似合いそうな女性だった。
名を『千川ちひろ』と言った。
彼女はいつも真面目に仕事をしていた。
いつもプロデューサーのことを第一に考え、行動をしていた。
今も心配するの自分の身ではない。
自分がいなくなった後のプロデューサーのことである。
「私がいなくなったら、誰がプロデューサーさんにスタミナドリンクを渡すんですか」
こんな時だろうと彼女はプロデューサーのことを思う。
自分では―――決して、シンデレラにはなれない。
そう、割り切ってるからこそ自分の仕事に打ち込めた。
プロデューサーのアシスタントで満足していた。
-
「マスター、さっきからド暗くてよ?」
「ランサーさん……」
その近くには身の丈ほどの巨大な槍を持った少女がいた。
だが、その槍よりも目を引くのはその容姿であった。
巻き毛のツインテール。
かなり露出度の高い脇やヘソが丸出しのタンクトップ。
フリルのついたミニスカート。
そして、何より目を引くそのボッキュッボンなナイスバディ。
彼女のサーヴァント。
槍兵(ランサー)らしいが、見た目は完全にアイドルの衣裳を着た少女。
そのランサー、名を『ネージュ・ハウゼン』と言った。
本人曰く、『花も恥じらう117歳』の妖精の姫。
ちひろは最初、冗談だと思った。
だが、このアーカムへの扉を開いた時。
この聖杯戦争について……ちひろの脳裏に刻まれていた。
「………ランサーさん、ここから敵は見えますか?」
「いいえ、周囲にはド無人でしてよ」
「そうですか」
高い所に来たのもまずは落ち着くため。
そして、周囲に誰も近寄らせないため。
「ランサーさん、今から大事なお話があります」
「あら、改まって何かしら?」
一呼吸置く。
そして、静かにはっきりとその大事なことを伝える。
「ランサーさん、貴女……アイドルに興味はありませんか?」
「……………はい? マスター、一体、何を言っているのかしら?」
「私、何かおかしいことを言いましたか?」
「私のマスターはド変わり者ですことね」
「ランサーさん、貴女に是非、紹介したい人がいます」
「へぇ」
ちひろがネージュを一目見たときから分かった。
プロデューサーが色々な女の子をスカウトし、輝くシンデレラにしていった。
そのそばでアシスタントをしていたちひろにもそれとなく身についていた。
アイドルの資質や色々を見抜く――――『眼力(インサイト)』が!
「マスターは聖杯にかける願いがありまして?」
「私は―――『あの人の元に帰りたい』」
「それが貴女の願いでして?」
「――――そのためには貴女の協力が必要なんです」
「帰るために手段は問わないというわけね……私のギャラはド高くつきましてよ?」
「それなら大丈夫です、後でプロダクションの経費からしっかり支払います!」
「よろしくてよ……契約成立ね」
「女は度胸、正面突破よ!」
シンデレラにはなれない女の物語。
それは白雪姫と出会って動き出す。
-
【クラス】
ランサー
【真名】
ネージュ・ハウゼン@無限のフロンティアEXCEED スーパーロボット大戦OGサーガ
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B+ 魔力:A 幸運:B 宝具:A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
予知:A
ハウゼン家に代々伝わる能力である。
その名の通り【予知】能力である。
カリスマ:B
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
Bランクであれば国を率いるに十分な度量。
【宝具】
『妖精姫の槍(フェイスレイヤー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1〜4人
ネージュが持つレーザー銃を内蔵したブースト機能付き大型の槍。
全力全開になるとでっかいビームが出ます。
【weapon】
・ベレイシャス・ミラー
レーザーを反射する鏡。
・ベノム・カーマイン
リンゴ爆弾。
・妖精機フェイクライド
ネージュの魔力で起動する全高3mほどロボ。
腕やスカートなどに刃が取り付けられており、踊るように攻撃する。
【人物背景】
妖精族の国「エルフェテイル」の名家・ハウゼン家の姫。
見た目は10代後半の少女だが、妖精族であるため人間の基準を遥かに上回る……花も恥じらう117歳。
気の強いおてんばな性格で、また姫らしく我が儘で高飛車な一面も持つ。
【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを叶える。
【マスター】
千川ちひろ@アイドルマスターシンデレラガールズ
【weapon】
じゃんけん棒(グー、チョキ、パー)
スタミナドリンク
エナジードリンク
大量のモバコイン
【マスターとしての願い】
生還して、プロデューサーさん達と再会する。
【能力・技能】
笑顔がとても素敵です。
【人物背景】
アイドルマスターシンデレラガールズに登場する大天使。
プロデューサー達を献身的にサポートする大天使である。
【方針】
元の世界に帰る方法を探す。
見つからなければ聖杯の力で帰る。
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投下終了です
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投下いたします
-
1:
その少女の舞台でのキャラクター、そしで普段の実生活での性格を知っている者が、この状況を目の当りにしたらきっと驚くかもしれない。
高槻やよいが憔悴し、落ち込み、そして恐怖のあまり体をガタガタと震わせている。
小柄な体に溢れんばかりの活力を詰め込んだ、元気と陽性さの塊のような少女として知られている彼女からは、想像もつかない姿だった。
これが覚めない悪夢だと気付いたのはつい2時間前の事。
時に優しく、時に厳しく、そして心強くて頼りになるプロデューサーと、優秀なプロダクションの力もあり、やよいはトップアイドルへの座へと着実にコマを進めていた。
ファンの数も増え続け、下積み時代の苦労が、今や遠くになりにけり。しかし、こういう時こそ油断せず、地道に力を発揮するのが重要なんだ。
と言うプロデューサーの言葉も忘れてはいない。上に向かって行くと言う事は、ライバルもそれに見合った強敵になると言う事。
やよいは1日たりとも、アイドルとしての訓練を怠った事などなかった。自分の為、家族の為、自分を信頼してるプロデューサーとプロダクション、そして他のアイドル友達のために。
有名になり、メディアへの露出が増えて来ると、ファンの人間性も多様化する。例えば、贈り物の類だ。
自分が応援している人間のCDやグッズを買うと言うファンは世に多くいるが、中には逆に、その応援している人間に対して物を贈ると言う人種が存在する。
贈答品の最たるものはファンレターだが、一歩先を行って、花やお菓子、果ては高価な宝飾品や不動産の権利書すら送りつけて来る輩も存在する。
やよいは流石にそう言った高価値のものは貰った事がないが、お菓子や果物、花の類なら月に何度かは送られてくる。
家が貧乏な彼女はそう言ったものを自分とその家族で食べたがるのだが、ファン経由で贈られて来た食物などは、アイドルの口には普通は入れさせない。
大抵はプロデューサーかプロダクションが処理する。そしてその度に彼女は、残念そうな顔をする。
つい先日の事である。「765プロダクション所属のアイドル、高槻やよい様へ」と言う文面で、長方形の桐箱に梱包されたものが郵送されて来た。
明らかに、普段送られてくるような小物や花とは訳が違う。「とうとうやよいもこんな物を贈られて来るようになったのか……」と、やよいの成長を喜ぶ反面、
何処か疲れたように口にするプロデューサーの語調を思い出す。何が入ってるのだろうと思いプロデューサーが開けると、其処には『鍵』が入っていた。
発芽した大豆の意匠が凝らされていると言う、一見すればジョークとも取れるような鍵であったが、その場に居合わせたいおりや、鍵を手に持つプロデューサーは驚いていた。
やよいは全く解らなかったが、その鍵は金属にメッキを塗ったようなチャチな代物でなく、正真正銘全て純銀で出来ていたのだと言う。
やよいはその鍵に興味津々だった。ユニークな意匠もそうなのだが、その鍵には不思議な引力と言うべきか、見る者を惹きつける不思議な磁力を放っていたのだ。
それに虜にされた彼女は、プロデューサーにそれをねだった。彼も、さして鍵に異常性は認めてなかったし、ファンの前では隠せと言う条件の下、これを承諾。
その鍵を彼女に与えたのであった。
銀の鍵を手に自宅に戻り、弟妹達にそれを見せ、彼らの興味関心と称賛の言葉を一通り浴び、満足気に床に入り、目が覚めた時には――
高槻やよいは、見慣れた実家から、全く知らない実家にて生活を送っていた。
自分の全然知らない場所であるのに実家と言う言葉を使うのは奇矯かもしれない。
しかしその家は、彼女の記憶には確かに存在しない所であるのにもかかわらず、まるで長年其処で過ごしていたかのように、家の間取り図も近所に何があるのかも、
全て把握していたのである。そして何よりも、彼女の混乱を最も招いた事柄が、自らの大脳にのみで直に刻み込まれたように残る、『聖杯戦争』の情報。
アメリカの地方都市に存在すると言うアーカム市にて繰り広げられる、どんな願いをも叶える聖杯を巡って争い合う『殺し合い』。
嘘だ嘘だ嘘だ。ほっぺを抓ってもみた、プロデューサーにもパパにも765プロにもTELを送ってみた、家にいる弟妹も探してみた、外の様子も確かめてみた!!
しかし、餅の様に柔らかな頬を抓ってみても痛いだけだし、自分の知り合いには電話がつながらない、家には大切な弟も妹も存在しない、外は自分の見知った街じゃない。
そして何よりも――この一大異変を、当然の事であると受けて入れている自分もまた確かに存在した。これは夢でもなければ幻でもない。
確たる現実なのだ。高槻やよいは何の因果か、願いを叶える代わりに自分が殺されてしまうと言うリスクを負わねばならない戦いへの切符を切ってしまったのである。
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残酷な事実に打ちのめされ、部屋の隅でガタガタ震えてから、たっぷり2時間は経過していた。
やよいの心に浮かんで消える感情は、何であの時あの鍵を手にしたのだろうと言う疑問。そもそも何故、送り主は自分に送ってきたのだろう?
解らない。送った人を恨んでいいのかも、これからどうすれば良いのかも。
やよいの善良な性格や、アイドルしての前向きなキャラクターは、演技ではない。全て地である。
この性格を前面に出せば、きっと良いアイドルになれると言うのはプロデューサーの弁。今の彼女のアイドルとしての地位を鑑みれば、彼の読みは蓋し正しかったとみるべきだろう。
斯様な性情の持ち主である。争い何て、出来る筈もなく。ましてや殺し合いなど以ての外だ。
聖杯にかける願い何て、ない。ないのだから、元の世界に帰して!!
死にたくない、痛いのもいや!! だけど、殺したくもない、平和に終わらせたい!!
初めて心の中で明白に、斯様な感情を渦巻かせた、その時だった。
視界の前面の何もない空白の空間が、丸めた紙のようにクシャクシャに歪み始めたのである。
異変に気付いたやよいが、「ひっ」と悲鳴を上げ、後ずさる。後ろは壁だった。歪む力に耐え切れず、空間に裂け目が出来る。
いよいよもって、柔かい紙をグシャグシャにしたみたいな現象であった。
空間に裂け目が生じる、と言う前衛的な現象に対し、最初は酷く混乱していたやよいだったし、今も酷い混乱状態の彼女だったが、徐々に自分が冷静になって行くのに気付いた。
この現象が何の為に起っているのか知っている。そして、この後に起る出来事を知っている。この現象は、覚悟の時。この現象は、艱難辛苦への片道切符
正しくこれは、サーヴァントが召喚する為の合図である。固唾をのんでその現象を見守るやよい。
細かい事は良く解らないが、サーヴァントとは、自分と一緒に聖杯戦争を切り抜ける大事な隣人、一蓮托生の存在の筈。
私とプロデューサーの関係みたい、と間の抜けた事を考えるやよい。良い人であるように、優しい人であるように、と祈る彼女の元に、一人の人影が姿を現す。
やよいの部屋にその人間が現れた瞬間、空間に出来た裂け目はくっ付きあい、和合。
くしゃくしゃになっていた空間も張りつめられ、何事もなかったかの如く元通りになる。床に尻餅をついているやよいを見下ろしながら、そのサーヴァントは口にするのだった。
「――ぼくひで」
……と。
2:
「それで、ひでくんは私のサーヴァントなんだよね?」
「そうだね」
やよいの質問に対して一瞬で返答を行う、バーサーカーのサーヴァント、ひで。
マスターがややお頭の弱いやよいではなく、一般的な常識を持った人間か、聖杯戦争の知識を齧った魔術師であったのならば、疑問に思うだろう。
バーサーカーのクラスなのに、何故人語を解する事が出来るのか。それについてやよいは対して疑問を持っていなかった。
それにもまして彼女にとって疑問だったのが、ひでの服装である。ひでの体格は、同年代の男性と比較しても、結構ガッチリとしている。
身長に至っては、やよいの頭1つ分ほどは上だろうか? 声変わりもしているし、青髭が残っている所からも、20代前半かそこらと言った年齢だろう。
……であるのに、このサーヴァントはなぜ、小学生向けの体操着の上と短パン、黄色い学帽を被り、黒いランドセルを背負っているのだろうか?
やよいが目の前の男をサーヴァントかと訊ねるのも無理からぬ事だろう。これでは完全な精神異常者の類である。
「(成長の早い小学生だなぁ)」
やよいもやよいで、ありえない事を考えていた。こんな小学生なんているわけないだろ。
「でも僕を呼び出す何て相当捻くれてるって言うか、変わってるね」
「うっ、め、迷惑だったですか……?」
「いや、迷惑って言うか、予想外だったかな。こう言う所には縁がないと思ってたから。僕を意図して呼び出す奴なんていないだろうしね」
それに関しては、誰しもが全面的に同意する所であろう。
「えと、その……ひでくん……バーサーカーって、戦えるのかな〜って……」
本音を言えば、やよいは戦いたくないと言うのが正直な所である。
しかし、穏当に全てが済むと思っている程、楽観的ではない。何処かで戦わねばならない局面は、きっとある。
その為には、ひでが強いに越した事はない。故に彼女の疑問は、サーヴァントに抱くそれとしては、当然のものであった。
「うーん、正直自分でも、戦った事って少ないから良く解らない。ただ、一つだけ自慢出来る事はあるよ」
「? それって?」
「僕より強い人はたくさんいるだろうけど、僕より『打たれ強い』人は間違いなく存在しない」
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余程、自分の頑丈さには自信があるらしい。その一言に、嘘偽りは感じられなかった。
そう言った心意気だけはやよいには伝わったらしく、「おぉ……!!」と素直に感心していた。
「ただ僕も、それ程戦いたくはないから、戦闘は少ない方が良いんだけどね」
「うっうー!! 私と同じだねひでくん!!」
内心、サーヴァントとの反りが合わなかったらどうしようと心配していたやよいだったが、その疑問が解消され、少しだけ地を取り戻した。
たとえ聖杯戦争の舞台にサーヴァントとして呼び出されたとしても、皆が皆、好戦的と言う訳じゃない。
その事を確認出来ただけでも、やよいは少しだけ救われたのであった。
「――あ、そうだ、ひでくん!!」
「?」
「ひでくんもやっぱり……聖杯、って言う物に何か願い事があるのかなって……」
やよい素朴な疑問を受けた瞬間、一瞬だけ、ひでの表情が強張った。
数秒程の時間をおいてから、ひでは、普段浮かべている薄ら笑いへと表情を戻し口を開いた。
「ちょっとだけ、生活を楽にしたいかなって」
「わぁ、私と同じ!! 私の家もね、家族が多くて、ちょっと貧乏なんだ。弟4人に妹1人!! だからね、私、トップアイドルになって、皆に少しでも楽をさせてあげたいの!!」
「ワァオ!!」
高槻やよいの家族とは、典型的な貧乏人の子沢山である。その上稼ぎ頭の父親の収入が不安定と言うのだから、生活が安定する訳もない。
だからこそ、彼女はアイドル活動を始めたのである。給食費の納入にすら支障を来たすような財政事情の改善の為に、彼女はトップアイドルを目指そうとしているのだ。
……些か発想の飛躍が、過ぎないでもないが。
やよいは、ひでも自分と同じで、少し貧乏で、一家が苦しい生活をしているのだと考えていた。
ますますシンパシーを感じるやよい。聖杯戦争自体への不安は完全に払拭出来てはいないが、サーヴァントに抱いていた懸念は少し拭う事が出来た。
「あ、でもでも、私、聖杯にトップアイドルになるって願うつもりはないよ!! 自分でトップアイドルにならないと、プロデューサーに申し訳ないから!!
だから、ひでくんも、自分の手で生活を楽にしてほしいなって!!」
「え、それは……」
元気いっぱいにそう口にするやよいをみて、ひでは、見るからに不服そうな表情を浮かべた。その姿を疑問に思ったやよいは、小首を傾げる。
「どうしたの、ひでくん?」
「い、いや全然。何でもない」
「そう、なら良かった!! あそうだ、もうそろそろ夕のご飯の時間だけど、もやしバーガーで……あ、ここってもやし売ってるのかな……有り合わせで作っちゃうけどいい?」
「うん」
「じゃあ待っててね、ひでくん!!」
言ってやよいは部屋から出て行き、パタパタと音を立てて部屋から遠ざかって行く。
1人部屋に残されたひでは、怖い程切羽詰まった表情で、深く息を吐き始めてから口を開く。
「……こんな機会逃すかよ……。あのマスターには悪いけど、叶えたい願いがあるんだよ自分にも……」
生活を楽にしたいと言う意味を、やよいは履き違えていた。ひでがあの時口にした願いは、確かに正真正銘、偽らざる本心だ。
だが、それが意味する所は、魂の安息と、自らを縛り続けるキャラクターの消滅。彼の悩みは、相当根深い所にまで原因があった。
魂の安息の為ならば。何度も何度も繰り返す、虐待とそれからの復活と言う輪廻をなくせるのなら。
ひでは、たとえ邪神にだって縋る算段であった。……だが、この哀れな男は気付いていない。それこそが、邪神の嘲笑を買い、彼らをより面白がらせる要素だと言う事に。
そしてそもそもこの聖杯戦争の舞台こそが――彼の為に用意された、新しい虐待の舞台だと言う事に。
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【クラス】
バーサーカー
【真名】
ひで@真夏の夜の淫夢
【ステータス】
筋力A+ 耐久EX 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具A+++
【属性】
中立・狂
【クラススキル】
狂化:E-
平時は言葉も交わせるし、意思疎通も可能。但し攻撃を受けている際には、言語能力と思考能力が著しく失われる。
【保有スキル】
対魔力:E++
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を大幅に削減する。
被虐体質:EX
集団戦闘において、敵の標的になる確率が増すスキル。マイナススキルのように思われがちだが、場合によっては優れた護衛役としても機能する。
ランクEXは呪いの域を超えて最早恣意的な運命操作すら疑ってしまう程のレベルで、殆どのサーヴァントが、バーサーカーに攻撃する理由もなければ因縁もなく、
戦略的に攻撃を仕掛ける事が不利であると承知していても、バーサーカーに対して攻撃を行う程。最早狂奔の域。
また、バーサーカーに対して攻撃を行う場合、宝具ランクを含めた全てのパラメーターがワンランクアップする。
バーサーカーに対して浴びせかけられるのは攻撃だけでなく、悪罵や嘲笑すらも含まれる。
被虐の誉れ:EX
サーヴァントとしてのバーサーカーの肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/100で済む。
また、魔術の行使がなくとも一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されてゆく。
無辜の怪物:A+
過去の在り方の結果、自らに付加されたキャラクターや設定と言う殻。
バーサーカーの場合は魂の性質が大幅に変貌を遂げており、更に性格も、皆がこうあるべしと望んだそれを強いられている。
このスキルは外せない。
天性の肉体:B+
生まれ持っての剛力と、肉体的耐久力(タフネス)を併せ持った筋肉を有する。
常に筋力がワンランクアップしているものと扱われ、肉体に関係する状態異常やペナルティを大幅に低減させる。
バーサーカーの剛力は絶対的唯一神であるGOの加護によるものだった……? オスカープロモーション所属のあの女優は関係ないだろ!! いい加減にしろ!!
【宝具】
『騎乗者よ、我を助けよ(ライダー助けて!!)』
ランク:B 種別:請願宝具 レンジ:視界内 最大補足:1
生前は不発に終わったが、バーサーカーの天敵に相当するある英霊が全力で発動を阻止したと言われる宝具。
その概要は、『各ライダークラスに一度だけ行使可能な疑似令呪』。この宝具はライダークラスに対して、『自害及び自傷以外の如何なる命令にでも従わせる』事が出来る。
これを利用し、無理やり共闘関係を結ばせる事も、危機に陥った際に見逃して貰う事も、はたまたライダーを別サーヴァントにあてがい自分だけ逃走する、と言う芸当も可能。
但し宝具には制約があり、ライダーの対魔力ランクが『宝具ランクより低い』事と、『視界内にライダーのサーヴァントがいる』と言う条件をクリアしなければ、この宝具の発動は不可
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『転生無限・悶絶輪廻(ああ逃れられない!!)』
ランク:EX 種別:罪業宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
――ホモビに出るだけで永劫許されない男。
生前出演した同性愛者向けのポルノビデオに於いてバーサーカーが見せた、凄まじい怪演が目にとまり、結果、
彼に向けられた諸々の悪意や、付加されて行ったエピソードが、極めて歪んだ形で宝具となったもの。
バーサーカーは、『自らに対して殺意や敵意といった否定的感情や、生理的嫌悪感を抱く存在には絶対に殺されない』。
『被虐体質』、『被虐の誉れ』スキルの獲得の原因ともなっている宝具。
規格外の耐久力は、攻撃宝具で攻撃されたとしても、バーサーカーは奇怪な叫び声を上げて狂乱するだけで、実際上のダメージはゼロ近くにまで低減される程。
よしんばバーサーカーを消滅させたとしても、彼に対して上記のような感情を抱いて倒した消滅させた際には、その場で蘇生(レイズ)する。
この際にマスターにかかる魔力負担は一切ない。
バーサーカーの正体は、謂れのない偏見や悪評、悪意や怒り、憎悪を押しつけられ、徹底的に『被虐に耐え続ける怪物』としての役柄とエピソードを強制され続けた一人の人間。
バーサーカーは何度打ち倒されても平然と立ち上がり、その度にまた虐待され、悶絶する姿を披露する滑稽な生き物であると、
長年に渡り多くの人間から信じられ続けて来た結果、本当にその様な存在へと変貌してしまったのである。バーサーカーを葬る手段は、1つ。マスターを殺す事。
そして、バーサーカーを『救う』手段も、1つ。『彼に対して一切の敵意や否定的感情、嫌悪感を捨て去ってから、バーサーカーに一撃を与える事』。
後者の手法でバーサーカーを攻撃した場合、攻撃の威力や筋力ステータス・宝具ランクの高低、それどころか神秘の有無すら問わず、彼は消滅する。
誰か救って差し上げろ。
【weapon】
ランドセル、体操服、学帽:
日本の小学生であるならば誰しもが一度は着た事があるであろう服装。
何故かバーサーカーは、誰がどう見ても20代後半近い男性であるのに、これを着用している。
出来の悪い小学生のコスプレは、健常者からしたらまさに生理的不快感の塊以外には映らないだろう。
【人物背景】
所謂『ウリ』、と言う売春行為で生計を立てていた男婦。
仕事の一環で出演したポルノビデオで見せた、度の超えたハードな撮影に耐え切れずに見せた、本気で怒っているシーンの数々が、趣味人の目に止まる。
あまりにもうるさくて、人の不快を買い、そして滑稽な演技を見せた結果、ひでは多くの人間のヘイトを買ってしまう。
彼に与えられた仮初のキャラクターは、虐待され続け、時にはついでに殺され、時には虐待されても虐待されても無限に復活し、復活する度に虐待されると言う、サンドバッグ的役割。
こう言った役割を長年与えられ続けた結果、ひでは、常識では到底考えられないような耐久力と、死んでは復活すると言う疑似的な不死、そして、復活し蘇る度に
虐待されると言うサイクルを獲得してしまった。ひでという名前は所謂源氏名であるが、本名は定かではない。無論、その過去すらも。
【サーヴァントとしての願い】
自らの不幸の源泉である無辜の怪物スキルと、転生無限宝具の消滅。
【方針】
やよいとともに行動する。
【マスター】
高槻やよい@アイドルマスター
【マスターとしての願い】
元の世界に戻りたい
【weapon】
【能力・技能】
アイドルとしての歌唱力:
聞いた人を元気にし、精神的に癒す力に優れる。トップアイドル争いに数えられている為、相応に歌唱力は高い
他にも家庭菜園を特技としているが、運動能力自体はそれ程優れているとは言い難い
【人物背景】
元気溌剌と言う言葉がこれ以上とない程相応しい、家族思いの素直で健気なアイドル候補の少女。
性格の良さは素で、今でも、誰もいない事務所の掃除やゴミ出しを自主的に行っている程。
父親の仕事が安定しない事と、子供の数がとても多い家庭の為、財政事情は芳しくない。だからこそ、アイドルを目指したそうである。
5人姉弟の長女。小さい頃から姉として頼られる事が多かった為か、今でも心の中では、兄に相当する立場の人間を欲している。
【方針】
元の世界に戻りたい、人は殺したくない
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投下を終了いたします
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すみません。
質問なのですが、候補作投下後、サーヴァントの保有スキルと宝具を追加してもよろしいでしょうか?
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投下させて頂きます。
他の聖杯で投下した作品のリメイクとなります。
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昔**の国(後の**県)の村に住む若者が、山菜を採る為に山へと入った時にこんな事があった。
若者が山を分け入る内に、見た事もない豪華な屋敷に行き遭った。
この山の事は隅々まで知っている筈の若者が知らない屋敷に、いぶかしみながら周囲を探ってみたが、人の気配がまるでない。
中を覗いてみたところ、居間の囲炉裏は赤々と炭火が起こっていた。
ますます怪しんで中へと入り、屋敷の中を見て回ったが、人の姿はどこにもない。
だと言うのに、屋敷の中はまるで直前まで人が住んでいたかのようで、座敷には食事の準備まで整えられていた。
まるで神隠しのようだと思った若者は恐ろしくなり、一目散に屋敷から逃げ出し、どこをどう走ったかもわからないまま、ようやく見知った道へと着く事ができた。
村へと帰った若者は村人に山奥の屋敷について聞いて回ったが、誰も知っている者はいなかった。
若者はそれからも何度も山奥へと入ったが、あの屋敷も神隠しにあったかのように、ついに見つける事はできなかったということだ。
――**県の民話
妖怪らしい妖怪と言えば、まず八雲紫の名前が挙げられるだろう。
この妖怪は、根源に関わる能力の危険さもさる事ながら、神出鬼没で性格も人情に欠け、行動原理が人間とまるで異なっている事等、まず相手にしたくない妖怪である。
姿は特に人間と変わりはない。派手な服装を好み、大きな日傘を使う。
主な活動時間は夜で、昼間は寝ている。典型的な妖怪である。
また、冬は冬眠していると言われるが、本人の談だけで実際は何処に棲んでいるのか確認取れていないので、真偽の程は定かではない。
古くは、幻想郷縁起阿一著の妖怪録にも、それらしい妖怪が登場している。その時代にあった姿で現れるという。
――稗田阿求『幻想郷縁起』より抜粋
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……アーカム市の南部に建つ、アメリカでも名門に分類されるその学び舎の名を知らぬ者は、アーカムの市街には殆どいないと言っていいだろう。
ミスカトニック大学……。
40万冊以上の蔵書や地元紙のファイルを誇る大学付属図書館で知られるこの大学の、広いグラウンドの隅には、この異国の地には珍しい事に、桜が植えられていた。
そして、その桜が、散っていた。
校舎の合間を縫って吹いた風に乗って、花弁が散り、宙を舞う。
ざわ、
と桜の香を乗せた風が、ミスカトニックのキャンパスを吹き渡っていく。
グラウンドでのスポーツに精を出すジョック達には省みられぬ、キャンパスの片隅の幻想的な光景。
その桜の樹の根元に、黒い男が凭れ掛かっていた。
髪は黒。そして、着ている衣服も、喪服のように真っ黒だった。
校庭を渡り、キャンパスを移動する学生達に、その姿に振り向く者や声をかける者はない。それは、異様な装いをした異国人に対する差別や偏見を理由とするものではなく……、
あえて言うならば、『拒絶』し、異常を自らの日常から『隔絶』しようとする、一種の、人間が持つ無意識の防衛機構によるものだった。
男の体から香る、『異界』の空気が、常人を遠ざけていた。
「想定外だ。そもそも、想定も何もあった展開ではないが」
「ご不満かしら?」
「当然だ」
男の周囲に、人の姿はない。
……だというのに、男が呟くように発した言葉。それに答える声があった。
声はおそらくは成人した女性のもので、その女性の持つであろう蠱惑的な雰囲気を声だけでも感じ取る事ができる。
しかしそれと同時に、その声だけで『まともな存在ではない』と理解できてしまうのだった。
「聖杯戦争。魅力的な話だとは思えなくて、魔王陛下?」
「思わん。一言で言えば胡散臭い。存在そのものが疑わしい」
くすくすと笑う女性の声の聴こえる方へと顔を向けて、男は鬱陶しげに言葉を放つ。
「“聖杯”。聖書における“主の血を受けた器”の事だ。
“聖杯伝説”は中世西ヨーロッパを中心に、世界中に存在する。騎士物語においては定番のモチーフだ。
だが、“聖杯戦争”……あるいは、それに類似した物語は、俺も聞いた事がない」
「ですから信憑性がない……と、そういうわけかしら?」
「無論、俺がこうしてここにいる以上、何らかの超常的な現象が起きているのには否定の余地がないだろう。ただし、それが文字通りの“聖杯”であるかは疑問符が付く。
聖杯戦争そのものは“聖杯を手に入れる為の苦難”をモチーフにしているのかもしれないが、しかしそれが目的ならば競争であれど殺し合いである必要性はない。
“閉鎖的な空間における殺し合い”である事に意味があるとするならば。その最も安直なモチーフは、“蟲毒”だ」
「私達は、壷に放り込まれた蟲であると?」
「その可能性はあるという事だ。どのみち、聖杯が本物であるとして今ではもう興味もないがな」
「あら、淡白。クールに見えて、こんなところに連れて来られて怒り心頭なのかしら?」
「勘違いをするな。不満を持ってはいるが、怒ってはいない。
更に言えば、俺が不満なのはこのような場所に連れて来られた事ではない。俺といる“神隠し”が、お前である事だ」
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男がそう言った時、気配が
くすり、
と笑った。……そして次の瞬間、目の前の空間が『割れた』。
まるで、空間の『隙間』を開いて世界の裏側を開いてしまったかのように。
そして、その『隙間』の向こうには、一人の女性の姿が見えていた。派手な衣装に、大きな日傘。ある種の人間離れした、金髪の美貌。年頃は少女にも、あるいは老婆にも見える。
「あら、フラれてしまいましたわ」
その女性は先程までの声と同じように、くすくすと笑いながらそう言った。
妖艶な笑みだった。それがこの世のものではないと知りながら、それでも惹かれてしまう者がいるような、そんな笑みだった。
「当然の話だ。あれは俺の所有物だ、勝手に持っていかれる謂れはない。そもそも、お前に俺の道案内はできないだろう」
「くふ、それは道理ですわね」
そんな笑みを浮かべる女性に、男はにべもなく拒絶に近い言葉を言い放つ。女性はしかし、拒絶を受けても残念そうな素振りはしなかった。
「幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは残酷な話ですわ」
「“神隠し”に誘われ、“隠れ里”に辿り着く、か。あまりにもそのままだな」
「あなたは道案内がいるから不要かしら?」
「何にしろ、その道案内を探さなければならん」
そう言うと、男はむくりと起き上がる。痩身に纏った黒いコートが、風に靡く。
「こうなった以上、お前にも手伝ってもらう。いいな? アサシン」
「仰せのままに、魔王陛下」
……男の名は、空目恭一。『神隠しの被害者』。
女の名は、サーヴァント・アサシン……その真名は、八雲紫。『神隠しの主犯』。
彼らが探すのも、やはり『神隠し』だった。
……枯草に鉄錆の混じった匂いが鼻に届いた気がして、空目は鼻をすん、と動かした。
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【クラス】アサシン
【真名】八雲紫@東方Project
【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷D 魔力A 幸運D 宝具?
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
気配遮断:A++
『神隠し』。
自身の気配を消す。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
ただしスキル『神隠しの主犯』との組み合わせで、特定の行動に限り気配遮断のランクを保ったまま行動できる。
【保有スキル】
神隠しの主犯:A++
幻想郷で神隠しと呼ばれる現象を境界を操作して起こす犯人。
神ではなく、妖怪少女の仕業。
宝具である『境界を操る程度の能力』を使用する時に限って、気配遮断の効果を持続させたまま行動する事ができる。
妖怪:A
人間に畏れられ、人間に退治される存在。
与えられる物理ダメージを低減し、その代わり精神干渉を受けた場合ダメージ化する。
また、ある種の信仰を集める存在である事から、Eランク相当の『神性』スキルの効果を内包する。
更に『畏れられる』存在である事から、敵マスターが正気度喪失の判定を行う際の達成値にマイナス補正をかける。
飛行:C
空を飛ぶ能力。
ふわふわと浮遊するように飛翔する。
【宝具】
『境界を操る程度の能力』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大補足:?人
八雲紫の持つ、『「境界」と名の付くものならほぼ何でも支配下に置く事が出来る』程度の能力。
本来は『全ての事象を根底から覆す能力』、『論理的創造と破壊の能力』であるらしいが、アサシンはマスターにより『神隠し』の面を強く現界させられているため、『空間の境界を操ってスキマを作る』という用途にしか使用できない。
このスキマの中は一種の亜空間のようになっており、多数の目が見える。これは外の世界の「欲望が渦巻いている様子」と言うイメージの表れ。また道路標識などの漂流物が漂っている事もあるが、これも「外の世界の役に立たない物」としてのイメージから来るもの。
これにより離れた空間を繋げる事が可能。
また、何故かこの聖杯戦争においては『90度以下の鋭角』がないと、空間を繋げる事ができない。
――隙間によって繋がれた『異常な角度を持つ空間』を目撃した者は、その精神にダメージを受ける。
『神隠奇譚(ネクロ・ファンタジア)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:? 最大補足:?人
アサシンの持つ『神隠し』という特性が、マスターである『神隠しの被害者』空目恭一により偏向され、希釈され、そして尖鋭化した事により発生した宝具。
特定の条件を満たした犠牲者を、『異界』へと連れ去る。
条件は三つ。
・アサシンに対する正気度喪失の判定に一度でも失敗している
・宝具発動時の幸運での判定に失敗する
・アサシンの真名を知っている
マスターが異界送りにされた場合、そのサーヴァントも同時に異界へと送られる。
『真名を知っている者に害を与える』という、聖杯戦争の常識の逆を行く宝具。
『異界』はアサシンによって作成される限定的な陣地であり、『赤い空』をした現世と同じ場所に同じ状態で重なり合って存在している。
脱出はアサシンと同じように空間を操る術を持っている者か、あるいは結界破りの術を持った者でもない限り不可能。(あくまでもアサシンの作った陣地のため、アサシンが消滅する事でも解除はされる)
『異界』の内部そのものには(おそらく陣地効果によって強化されたアサシンが冒涜的な角度から襲いかかってくるだろう事を除いて)危険はないが――
常人が現世から遠く離れた異界に長く留まる事は、当然ながらその正気を大きく損なう結果となるだろう。
【weapon】
『なし』
ただし、前述したスキマの中に漂う物体を武器として扱う事ができる。
【人物背景】
神隠しの主犯。スキマ妖怪。
本来のクラスはキャスター。このため式神や自在に扱える結界のスキルを失っている。
【サーヴァントとしての願い】
女性には秘密があるものですわ。
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【マスター】空目恭一@Missing
【マスターとしての願い】
ない。
【weapon】
ない。
強いて言うならば豊富な知識。
【能力・技能】
“異界”の匂いを覚えている嗅覚。
異形:
空目恭一は、最後は詠子が呼び起こした“山ノ神”を異界へ返すため、“神隠し”のあやめと共に自ら生贄となり、『“本物”の怪談スポットに入る者に忠告する男女』という物語と化した。
その為、既に人ではない彼はSANチェックに対して非常に有利な補正を得る。あるいは、微細な異常ならばSANチェックを無視できる。(ただし、全てのSANチェックを無視する事はできない)
――ただし、『異界』の住人となった空目恭一は、常人にとっては忌避される対象となる。
云わば、既に“精神汚染”相当の障害を得ている状態に等しい。
【人物背景】
神隠しの被害者。
【方針】
あやめを探す。
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投下終了です。
この作品は『聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚』に自分が投下した作品を一部改稿し再投下したものです。
再投下についてのルールが候補作募集の中に確認できなかったため、問題がある場合は取り下げます。
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投下直後ですが、一つ忘れていたので修正します。
タイトルを『《民俗学》空目恭一&アサシン』に修正します。
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皆様、投下ありがとうございます!
>>194
>質問なのですが、候補作投下後、サーヴァントの保有スキルと宝具を追加してもよろしいでしょうか?
キャラクターメイクは大事ですからね。もちろんOKです。
ひとつの案を頻繁に訂正するというのは流石に歓迎しにくいですが、そうでなければ自由に修整して構いませんよ。
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>>203
回答ありがとうございます。
では、ランサー、ネージュ・ハウゼンの保有スキルと宝具に以下を追加します。
ガンファイト:A
ランサーでありながら、遠距離戦もこなせる。
演舞:A
踊るように戦うスキル。
色々とド派手です。
『舞台にて妖精達は舞い踊る(ロイヤルハート・ブラスター)』
ランク:A、種別:固有結界、レンジ:1〜30、最大補足:1〜3
ネージュの持つ固有結界(?)である。
発動すると辺り一面をド派手且つド煌びやかなステージを変貌させる。
その見た目はまさにアイドルのライブ会場。
発動条件としてフェイクライドが必須であり、マスターも莫大な魔力を消費する。
お手数お掛けしました。
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>>204
すいません。>>203はトリキーミスです。
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投下します
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『じゃあ次の曲いっちゃうぴゅるー! 『ハマって☆Rockin' Sweet』!』
ライブ会場に元気な声が響き渡り。
観客席から歓声が上がる。
ガールズバンド『プラズマジカ』のコンサートは今夜も大盛況だった。
『じゃじゃんじゃじゃんじゃじゃん♪ じゃんぴんぐ! ららんららんらん♪ あっちこっち!』
『たたんたたんたたん♪ たいみんぐ! ワン・ツー・スリー・フォー!』
疾走するドラムと飛び跳ねるようなギターとベース。
それに合わせてドラムを叩きながら楽しげに歌うピンク髪の少女。
彼女が歌う度に、彼女の纏うオーラが少しずつ濃くなっていく。
それを二人は見逃さなかった。
「あれか?」
「そう」
そのオーラのようなものは『魔力』。
彼女が歌う度に彼女の持つ魔力がほとばしり、こぼれ落ちている。
NPCはなんとも思わないだろうが、ある特定の者たち……特に魔術に覚えのあるものならば見逃さず、理解する。
彼女がこのアーカムでも特異な存在である、ということを。
『やったねモアちゃん!』
『えへへ、とーぜんっ、ぴゅるっ♪ ぶいっ!!』
『モア』と呼ばれた少女が両手でピースを作ってみせる。
その時確かに二人は見た。
黒いタイツ越しの彼女の右手に、特徴的な痣を。
「まず、間違いなさそうだな」
「これが終わったら仕掛けるわよ。準備しておきなさい」
はいはい、と気のない返事を返すライダー。
彼のその態度に少しだけ苛立ちを覚えるマスター。
そうやって、二人のいつも通りのそっけない会話は終わった。
これが最後の会話らしい会話になるとはお互い知るよしもないままに。
-
◆
「きゃー! 怖いぴゅるー! ヘンタイぴゅるー!!」
ブリキの動物に追いかけられながら、きゃあきゃあぴゅるぴゅる叫び路地を走り回る少女・モア。
そのモアを、先の二人と無数のブリキの動物で追い立てる。
自分たちの願いのために。このアーカムで生き抜くために。
ライブ終了後、モアが他のバンドメンバーと別れたのを見計らって、ライダーとそのマスターは彼女に奇襲を仕掛けた。
当然、迎撃の準備なんてできていない彼女はほうほうの体で逃げ出すのみ。
「ちょっとライダー、遊んでないでさっさとケリつけちゃいなさい」
ライダーは黙ってモアを追いかけるブリキの動物の量を増やす。
それでもモアはなんとかかんとか逃げ続けたが、ついには路地の奥の奥まで追い詰められてしまった。
逃げ場はもうない。
モアがオーバーリアクションぎみに両手で頬を押さえ、叫ぶ。
「うきゃー、エマージェンシーぴゅるー!? こーなったら、いろいろ言ってる暇ないぴゅる! 奥の手、使っちゃうぴゅるー!!!」
追い詰められた羊が、天に向かって右手を突き上げる。
右手に刻まれているのは星に囲まれたト音記号マーク。
それこそ令呪。ライダーたちが目にしたモアのマスターたる証。
彼女の声をきっかけにあたりの魔力が濃くなる。
ライダーにはそれが『なに』か分かった。
令呪があるということは、居る。
ルールを理解しているということは、来る。
モアも当然従えている英霊――『サーヴァント』が。
「ランサー、出番だぴゅるー!!!」
モアの声に応えて、彼女のサーヴァントがその姿をあらわす。
2mはあろうかという恵まれた体躯。
右手に構えた無骨なアイアンメイス。
左手に構えたデコレーションの施されたタワーシールド。
それはファンタジー世界から飛び出してきたような女戦士。
「モアちゃん、おっまたせぇぃ☆ きらりんとーじょー! いえー!!」
ぶおんと風切音。
がしゃんがしゃんと破砕音。
ランサーと呼ばれたツインテールのサーヴァント『諸星きらり』は、アイアンメイスの一薙でブリキの動物を全てジャンク材に変えた。
ひゅう、とライダーが口笛を吹いて茶化す。
恐ろしい膂力だ。
正面からまともに受ければ半身を引きちぎられるかもしれない。
だが、強いだけにそうとうなじゃじゃ馬らしい。
「うう、くらくらするぴゅる……」
モアの方は実体化に魔力を使いすぎたためか、その場にへたり込んでしまった。
流石にあそこまで強い英霊となれば、魔力消費もバカにならないのだろう。
それがきっと、最後の最後まで実体化を渋っていた理由だ。
狙うならモアの方か、とライダーがマスターに耳打ちをしようとして、またしてもモアの行動によって動きを止められる。
-
「もっぱぁつ! 奥の手ってのは最後までとっとくもんだぴゅるー!」
「それ、さっきも言ってたじゃねえか」
ライダーがすかさず突っ込むが、誰も耳をかさない。
ライダーも、ライダーのマスターも、この状況で何故かモアが取り出した『それ』に目を奪われていたのだから。
「CD、プレーヤー?」
モアが取り出したのはどこにでもあるCDプレーヤー。
それをモアはまるで切り札のように取り出したのだ。
流石のライダーも、マスターも、その行動の意図は読みきれない。
モアは二人の混乱をよそに、プレーヤーから伸びたヘッドホンを耳に装着し、戦場にそぐわぬ楽しげな雰囲気でスイッチを入れる。
シャンシャンとヘッドホンから溢れる音楽の切れ端。
音の流れに乗って揺れるふかふかの髪の毛。
程なく、彼女の胸から輝く結晶体が飛び出した。
「なに、あれ……石?」
「高純度の魔力の塊、か? なんでンなもんが……いや、そもそも一体何を……」
ライダーも、そのマスターも知らないその結晶体。
その正体は『メロディシアンストーン』。
モアを筆頭とする『ミューモン』の存在を司る奇跡の輝石。
メロディシアンストーンは、優れた音楽とオーディエンスの共鳴によって結晶化する。
生命力を活性化し、ミューモンたちの存在を輝かせる。
そしてこの聖杯戦争の舞台では、素晴らしい音楽を栄養に、モアの生命のエネルギーたる魔力を爆発的な速度で生産する。
「ランサー! ぱぱっとやっちゃうぴゅるー!」
「うん! ばぁりばぁり、やっちゃうにょー!」
2つの掛け声が路地裏に響き。
次いで音を立てて廃ビルが崩れ落ちる。
突然現れた『何者か』によって、並んだ廃ビルが『押しのけられ』、へし折られる。
ライダーが目を剥く。
目の前に現れたのは、なんだ。
壁。
柱。
塔。
どれでもない。
見上げれば、その正体は対峙していたランサー。
その大きさ、目算で20m程度。
2階建ての住居がおよそ10mと考えればその大きさは図り知れるだろう。
巨大化したランサーは大きく息を吸って、喜色満面こう叫ぶ。
「
に ょ わ ―――――――――― !!!
」
-
「にょわぁぁぁ……」
先ほどまで余裕を見せていたライダーのマスターが尻もちをつき、震えながら悲鳴にもならない声を上げる。
目の前の英霊の放つ圧倒的な存在感。
目の前の英霊の身に纏う崇高な神秘。
巨大化によって数倍にまで膨れ上がった『それ』に直撃したマスターは、一気に錯乱状態まで追い込まれていた。
自身のマスターのそんな有り様を見てライダーは舌打ちをする。
マスターがこれでは戦っても勝ち目はなく。
マスターをおいて逃げることも出来ない。
そんなライダーに残された道は限られている。
イチかバチかで宝具を放ち、モアの発狂を狙う。もしくはランサーに対して全力で牽制を行って逃げるタイミングを作り出す。
それだけである。
「やらかしたか、俺! クソッタレ、宝具解放だ!!」
ライダーがやけくそ気味に自身の宝具であるブリキの巨獣を繰り出すが、最早雌雄は決している。
きぃぃらりぃぃぃん……
「 『 星 砕 き の 』 」
響く轟音は宝具名。
十メートルはあろうかというアイアンメイスが振り上げられ、爆音とともに風が舞い起こる。
周囲の雑多なもの全てを舞い上げるほどの風圧。
ブリキ仕掛けの動物たちは軽々と空を舞い、ライダーの操縦下から引きずり離される。
あたぁぁぁーっく☆
「 『 戦 棍 』 ☆ 」
十メートルの巨塔によって描かれるのは掬い上げるような軌道。
まず爪痕が刻まれ。
つぎに風が疾走り。
最後に音が追いつく。
その一撃の速度たるや、比肩するものあろうともなく。
その一撃が直撃すれば、無事でいられるはずもなく。
特大級のアイアンメイスが通った後には、何も残っていない。
丁度その軌道上に居たライダーは、身をかわす暇すらなく自身の宝具ごと塵と化したのだった。
【名も無きライダー 爆発四散】
【名も無きマスター にょわぁ】
-
「よぉーし、終っわりっぴゅるー!」
「にゃっほほーい☆ おっわいおわいー♪ おっつおっつばっちし☆」
折れた廃ビルに背を預けてくすくす笑い続けるライダーの元マスターを傍目に。
メロディシアンストーンをフル稼働させてなんとかランサーの戦闘用魔力を回しきったモアと、最初のサイズに戻ったランサー。
二人でハイタッチをして、少し踊った。
戦闘後とは思えないノリだが、この二人はそういうノリで生きてきた。
襲ってきた悪い人も死んでいないし、モア的には結果オーライだ。
「じゃあにぃ〜☆」
そうして少し踊って、お別れの時間が来たよとランサーが手を振る。
どうやら彼女の実体化の上限が来たようだ。
モアにも難しくてよくわからないが、ランサーは実体化に制限がかかっているらしい。
今度会えるのは、また呼び出せる程の魔力が集まった時。
「おっつおっつぴゅる〜☆」
モアもぺれぺれと手を振り返す。
光に溶けていったランサーを見送って。
そのままじっと考える。
何故かいきなり襲ってきた変な人は倒した。
CDもいっぱい買った。
ランサーを呼ぶには音楽をいっぱい聞かなきゃいけない。
家に帰れば寝ながら音楽を楽しめる。楽でいい。
となれば方針はひとつ。
「おうちに帰ってのんびりするぴゅる〜」
廃人と化したライダーの元マスターに一度頭を下げ、プレーヤーの再生ボタンを押して流れる音楽に耳を澄ます。
次の曲は、ゆったりゆるやかなアイドルの歌。
「『ましゅまろ☆キッス』ぴゅる〜♪」
モアは右に左に体を揺らしながらそのままふらふらと。
いや、ふよふよと。あるいはふわふわと。
まるで空で遊ぶ雲のように。
掴み所のない少女はアーカムを漂っていった。
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【クラス】
ランサー
【真名】
諸星きらり@グランブルーファンタジー(+アイドルマスターシンデレラガールズ)
【パラメーター】
筋力B++ 耐力B+ 敏捷B+ 魔力EX 幸運C 宝具EX
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:E(D)
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
ただしスキルを使用して最大まで大きくなるともう少しだけ強くなる。
【保有スキル】
非実在英霊:A
実のところ、ランサーの存在とはランサーの元となった人物『諸星きらり』の居る世界で複数の人が見た夢こそが全てである。
つまり、彼女の正確な逸話を知っている人物は誰一人居ない。というよりも逸話自体が存在しない非実在英霊である。
通常の聖杯戦争では存在を認知すらされない英霊であるランサー。
それでもランサーが英霊として召喚されたのは、この聖杯における英霊の召喚が窮極の門に起因するためである。
窮極の門とは眠りに落ちる異形のものの夢によって顕在するもの。
その窮極の門が何者かによって開かれた際に、隣接していた『異形ではないものたちの夢』に干渉し、その夢の中にのみ存在していた英霊すらも正式な英霊としてヨグ=ソトースの知識に刻み込んだ。
これが非実在英霊であるランサーがサーヴァントとしての顕現の権利を得た経緯である。
早い話が邪神側の想定していない実用可能バグ、ポケモンでいうけつばんのようなものである。
そういった経緯があるため、ランサーの存在はひどく不安定である。
世界に対して存在が認められていない場合、実体化さえ困難。そのためランサーは実体化に関して『存在の力』を必要とする。
マスター以外に認知されていない状態での実体化は魔力量にかかわらず数十秒が限界であるし、その数十秒の実体化ですら膨大な魔力を必要とする。
他者に対してその神秘を知覚させ、『存在の力』の濃度を上げることであたかも実在する英霊かのように世界に認識させることで、彼女はようやく通常の英霊と同等の存在へと近づいていく。
存在を認知した者が聖杯戦争の舞台に増えていくごとに実体化できる時間が増えるし、実体化にかかる魔力量も減っていく。
つまりランサーの戦法の基本は『どこまで他人に見られるか』が重要になってくるのである。
そしてこの実在しないはずの存在が担う『存在の力』こそが彼女の最大にして最後の武器である。
彼女は特定状況下において宝具『恒星は死の間際にきらりと輝く』を発動できる。
おーっきなきらりん☆:A
恵まれた体躯が逸話となり、その逸話によって夢の世界で彼女に与えられた逸話からくるスキル。
戦闘中に体躯を最大18.62メートルまで巨大化出来る。(ちなみに電信柱がだいたい見えてるもので高さ最大13m、あれより大きい)
大きさは範囲内で可変。ついでに武器も一緒に巨大化する。
大きさによってパラメータ上昇値が異なり、最大まで巨大化すると筋力と耐久と敏捷、そして対魔力が一段階ずつ上昇する。
また、大きさによって魔力消費量が異なる。当然大きいほうが魔力消費は大きくなる。
にょわー!:―
バッドスキル。
口調が特殊になり意思の疎通が困難になる。
意思の疎通には特殊な感性が必要。
-
【宝具】
『星砕きの戦棍(きらりんあたっく☆)』
ランク:E 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1〜999
スキルによる強化の重ねがけでついには宝具レベルにまで至った通常攻撃。
追加効果として筋力を更に一段階向上させる。
元々が『通常攻撃』であるため宝具解放による魔力消費はまったくかからない。
ただし通常攻撃由来であるため神秘の濃度も薄い。
『諸星の落ちた日(きらりんどろっぷ☆)』
ランク:E 種別:対城宝具 レンジ:99 最大捕捉:999
驚異的な跳躍力で空中に飛び上がったあと瞬間的に186.2mまで巨大化し、そのまま落下してくる。
この宝具の発動だけで半径50m程度が街ごと壊滅する。
ただし、マスターにも当たる。当たれば死ぬ。当然である。
なお、魔力が巨大化の10倍以上必要であるためそうとう準備しなければまず一発で魔力が枯渇して死ぬことになる。
『恒星は死の間際にきらりと輝く(きらりんびーむ☆)』
ランク:EX 種別:対邪神宝具 レンジ:彼女の愛が届く範囲 最大捕捉:0
ランサーが致傷などにより現界不可能になった場合に発動できる宝具。
最後の最後、ランサーはこの聖杯戦争に関わっている邪神に対して自身の存在というバグを知らせて、この世界の修正を求める。
彼女の『存在の力』の規模によって邪神側が世界に放つ修正力は大きくなり、アーカムは逃れようのない『世界への修正力』という名の邪神たちの神秘に晒される事となる。
この宝具が完璧な形で発動した場合、アーカム内の全ての人物が邪神の神秘を余さずその身に受けるため、まず聖杯戦争は終結する。
彼女がよく口にする罰致死(ばっちし)とはつまりこの宝具のことであるとか、なんとか。
マスターの死亡による消滅の場合はこの宝具は発動できない。
【weapon】
アイアンメイス、タワーシールド。
ちなみにメイスは漢字で鎚矛と書く、日本では古来より矛の一種として扱われていた。
【人物背景】
にゃっほほーい☆ みんなのアイドル、きらりだよっ☆おっすおっす〜!
きらりはねーえ、なんと、なななんと、アイドルやってゅのー! にぇへへー、いいでしょー!
でも、お仕事でね、お洋服着替えてたらね、ぽわわわわーってなってお空の世界に来ちゃったの!
それでね、それでね! きらりね、おーっきくなってて、皆におっすおっすーって言ったら、きゃー!!わー!!!ひゃー!!!!ってなってー。
それでねー、なんとねー、起きたらここに居たの! きらりんまじーっく☆
まあ、そんな感じである。
-
【マスター】
モア@SHOW BY ROCK!!
【マスターとしての願い】
特になし。
この世界の調査のために珍しいものを探したい。
【参戦方法】
珍しいものを探していたら銀の鍵を見つけた。当然使ってみた。そうしたらアーカムに。
母星との通信が取れないことや自身を取り巻く環境の差異で記憶を取り戻す。
【能力・技能】
邪神耐性。
見た目はただのかわいい少女だが外宇宙からの来訪者である。
邪神がもともと存在していた外宇宙出身であるため、彼らの神秘に対して遺伝レベルで少しだけ耐性を持つ。
特に邪神の記憶によって再現された地球人類の神秘に対しては耐性を持ち、ある程度ならば『へぇ、すごいぴゅる』くらいで流せる。
ただし耐性があると言っても万能ではない。強い宝具の真名を開放されれば普通に正気度が下がる。
そして生理的嫌悪感や生命の根幹に関わる畏怖など、地球人と差の無い部分に対しての神秘耐性はない。これに触れれば気が触れる。
読心阻害。
彼女の共通言語は彼女の母星の言葉(以下ぴゅる語)である。
そのため、彼女の思考は(作中では表現上の理由で通訳されているが)ぴゅる語で行われている。
読心能力を使っても「ぴゅるぴゅるぴゅるるるるーるるんるるんるん」のような情報が渡されるだけである。
ぴゅる語を理解しない人物にとっては理解不能な文字列でしかない。
ぴゅる語検定一級を持っているか、外宇宙の言語すらも理解する逸話・宝具があれば解読可能。
メロディシアンストーン。
モアを含めた全てのミューモンが持つ『美しい音楽できらめく心の結晶』。
彼女の心にもその結晶が宿っており、美しい音楽を聞くとその音楽を生命の活力へと転換することが可能である。
転じて、モアは美しい音楽を聞くことで魔力を生成することが可能である。
ただし魔力の急速生成には体力を使うのであまり乱用は出来ない。
そして悪い音楽を聞き続けるとメロディシアンストーンが曇ってダークメロディシアンとなり、ダークモンスター化してしまう。
【人物背景】
ぴゅるるるるるーぴゅるるーる。
ぴゅーるるっるっるるるるーるるん。
ぴゅるぴゅるぴゅぴゅるぴゅるるるるんぴゅる。
ぴゅるっるっるっるぴゅぴゅるぴゅるぴゅー。
まあ、そんな感じである。
【方針】
聖杯戦争に興味はない。
だが聖杯には興味がある。
ご飯を食べて、音楽を聞いて、ライブして、家に帰って寝る。
時々珍しい物を探して、時々ランサーを召喚して、そんな毎日を過ごす。
聖杯が出てきたら聖杯を見てわぁ珍しいぴゅる凄いぴゅるしてその後どうにかしてMIDICITYに帰る。これだけである。
基本行動方針としては聖杯戦争にかかわらず音楽活動を続ける、というものである。
素晴らしい音楽を聞けば魔力がバンバン蓄積されてランサー召喚時の負担を減らせる。
そしてなによりモア自身音楽は大好きぴゅる。
ただし魔力を溜めすぎると一発でマスターだとばれる。
戦闘に関してはどれだけランサーを目立たせ、人々に認知させるかが鍵になる。
一度巨大化すればかなりの存在の力を集められるだろうが、その分敵から狙われる可能性も高くなる。
敵に狙われた場合、時間経過で戦えなくなるランサーでは勝ち目は薄い。逃げるぴゅる。
そもそも敵・味方という発想がない。
同盟を組もうと言われればぴゅるぴゅるるーるるるんるるーるるんるん。
-
投下終了です
-
それでは投下させていただきます。
-
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
黒。黒。黒。
360度、上も、下も、見渡す限り、黒。
少し赤みがかっていたり、少し青みがかっていたり、少しは違う色も混ざっているが。
総じて暗色であり、この場が暗黒である事をアクセントする。
しかしながら真っ暗というわけではなく、空間自体が薄明りを放っている。
だから何も見えない訳ではない。
でないと、宙に浮かぶ足場が見えずに歩けない。
所々に穴があったり足場が途切れていたりするので、それらに注意しながら進む。
道標は目の前にいる使い魔。
主の所へ誘うために遣わされた異形の存在。
その姿もまた黒色。
黒い球体にオレンジ玉が無数、中央に白い眼玉が付いている。
ダークマター、と呼ばれる謎の生命体が目の前を進み、その後ろを少女が付いていく。
やがて足場の縁に、そして異空間の淵に辿り着く。
そこから眺められる風景は、何もない虚無だけだった。
「来たわよ、キャスター。出ておいで」
何もない黒の空間で唯一、白い、白い、白い少女は虚空に向かって呼びかける。
髪、肌、服に至るまで総じて白いその姿はこの黒界では際立っていた。
しかし、異彩を放つ少女の存在もここの主に比べれば矮小なものである事をすぐさま思い知らされる。
目の前の空間が揺らぐ。
途端、真っ白で巨大な球体が出現した。
なにも装飾されてない白体の一部が裂け、紅い目を覘かせる。
そして、人の心を狂わせてしまいそうな紅い視線を少女に向けた。
「それでキャスター、私を呼び出して一体何の用があるの?」
圧倒的な圧力を放つ恐怖の象徴を目の前にしながら、少女は怯むことなく問いかける。
少女を見つめる瞳は何も語らず、しかし自分の意思をしっかりと伝える。
言語という概念ではない何かを受け取った少女は、相手の思惑に一瞬苦い顔をするもすぐに表情を戻した。
「ええ、いいわ。どうせ私は肉体に戻るつもりはないし、あなたたちの好きに使っても構わないわ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
此度の聖杯戦争で、少女・繭は二つの身体を持っていた。
一つは肉体的身体であり。
一つは精神的身体である。
なぜこのような事態になっているのかというと、それは彼女の出自が関係していた。
生前の繭は幽閉され、外界を知らない少女のままその命を落とした。
しかし、彼女の外界に対する羨望と憎悪が執念となり精神を現世に留まらせた。
その後、精神体としての繭も最後には現世から消滅したが。
その間際に新たな願いを抱いたために、いつの間にか手に持っていた銀の鍵により繭は聖杯戦争に導き出された。
その際、聖杯がエラーを起こしたのか、それとも気紛れなのか、繭に二つの身体を与えた。
イーストタウンの寂びれた屋敷に意識を失った状態でベットに寝かされた繭と。
以前と変わらず『白窓の部屋』に意識を留まらせた状態の繭を両立させてしまった。
いわば幽体離脱のような状態で、繭の意思一つで肉体に戻る事もできたが、繭はそれをしなかった。
その仮初の肉体は過去のみすぼらしい姿であり。
新たな願いを持った繭にしてみれば、既に要らぬ嫌いな体であった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
-
黒海に浮かぶ巨白の球体・ゼロが繭に求めた事は一つ。
精神体で活動している繭がマスターとして機能するなら、意識なきまま眠る繭の肉体を利用したい、と考えていた。
そこで一計を案じる。
繭自身が使わない肉体を、ゼロの同族であるダークマターに憑依させて聖杯戦争に利用しよう、と。
ゼロの宝具『我が血肉、我が虚影、我が眷族』は同族・ダークマターを複数体召喚して使役することができる。
そして彼らの共通の能力として、他者に憑依して宿主を支配する事ができる。
この力によって彼らは数々の星々を侵略してはそこの国の権力者を裏で動かし、数々の悪行と暗躍を企ててきた。
それを聖杯戦争においても利用する。
現世に実在する繭をマスターとして偽装し、実際のマスターである精神体の繭を秘匿する。
しかも“キャスター”として現界し己がマスターを解析した結果、肉体を失っても精神体が残っていればマスターとの契約は継続されるようだ。
だから表では“黒”の繭に行動させ、聖杯戦争の動向を観察し攪乱させ機を窺う、という戦略を練り上げた。
なお憑依させるリアルダークマターの他にも、護衛役として剣士型のダークマターも据えて置く。
ただ“偽”のマスターだけではダメだ。そこには“偽”のサーヴァントもいなければ。
その旨を伝え、マスターである精神体の繭からも許可を得た。
すぐさま新たなダークマターを召喚し、二体は小さな黒雲へと姿を変えて下界へ降り立った。
用を済ませた後、ゼロは瞳を閉じながら謝辞の想いをマスターに伝えた。
「それじゃ私は戻るわ。…ここに長く留まると、気が狂いそうになるし」
そして繭は元来た道を引き返した。
その姿を見届け、ゼロもまた姿を消した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『白窓の部屋』に戻った後、繭は外界にいる自分自身を観察してみた。
ちょうど黒雲が身体に入り込み、今まで閉じていた瞳が開かれた所だった。
むくっと身体を起こし、おかしな所がないか確かめるかのように身体を動かしている。
その横で仮面を被った異形がその様子を窺っていたが、間もなく霊体化して姿を消してしまった。
一連の光景を確認したところで繭は見るのをやめた。
あとはキャスター、ゼロが上手く采配してくれるだろう。
それまで私は下界を眺め、時にゼロと話し合い、必要な時に令呪を使えばいい。
繭は散り際に抱いた想いを思い起こす。
何もかも呪っていた私を、一人の少女が全力でぶつかってきてくれた。
私を見捨てた世界に憎悪を振りまいていたのに、その闇の中にある憧れを彼女は気付いてくれた。
既に死に絶え絶望しかなかった私に、それでも希望の声を掛けてくれた。
だから、あの時願った。
“シロ”が貴女に出会えたように。“クロ”が貴女の心で変わったように。
何者にもなれない、無色だった私も、貴女に出会えて、変われたのだから。
繭は……誰かに抱き締めて貰いたい。
人生をやり直したい、転生したい。自分の意思で、自分の色を彩りたい。
そして叶うならば……るう子、貴女の友達になりたいな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
-
【マスター】
繭@selector spread WIXOSS
【マスターとしての願い】
普通の少女として人生をやり直したい……?
【能力・技能】
○精神体
またの名を思念体、もしくは未練がましい怨念。肉体亡き後も現世に留まり影響を及ぼす。
今回の聖杯戦争では仮初の身体が用意されたが精神体のままで活動するつもり。肉体が死んでもマスターのままでいられる。
○セレクター
カードゲーム「WICROSS」で特別な少女のみがなれるプレイヤーのこと。
カードの中で意思を持って動けるルリグと巡り合える事でセレクターになれる。
セレクター同士で戦い合い勝ち抜く事で、何でも願いを叶える事ができる“夢限少女”になれる。
……というのは少女達を騙すための宣伝。勝っても負けても不幸になる運命しかない。
このシステムを考えたのが繭であり、彼女自身もセレクターとしてバトルすることができる。
しかし今の彼女はその力を失っている。
○空想具現化
孤独の生涯の中で培った想像力が具現化するようになった謎の力。
この能力でセレクターバトルというシステムを作り上げたり、セレクターやルリグに干渉する力を有する。
現在は殆どの力を失い、自らの精神を『白窓の部屋』に留まらせ外界を眺める事しかできない。
【人物背景】
アニメ版WIXROSSの黒幕。
生涯ずっと部屋から出されることなく、外界を狭い窓と書籍でしか知り得ないほどに幽閉されて育てられた。
部屋の中で一人玩具で遊ぶ事しか出来ず、自らの不幸な環境から他人や外界に絶望・憎しみ・嫉妬・憧れ・願いを抱いていた。
本来対戦ゲームであるWIXROSSを渡された繭は、空想の対戦相手を作り上げてプレイするようになり、
そのうち空想の友達として“シロ”と“クロ”というルリグを作り上げ、やがて空想の人物同士で戦わせるるようになるが、
繭自身の歪んだ想いからセレクターバトルという闇のゲームを発案し、そしてそれらの空想を現実世界に具現化させてしまう。
そのあと繭は肉体的に死んでしまったが、精神体を『白窓の部屋』に留まらせながらセレクター達に悪影響を及ぼし続けた。
やがてセレクターバトルの真相を知り事態解決の為に『白窓の部屋』に至った小湊るう子と戦い敗れる。
最後はるう子に抱き締められながら蝶となって消え去った。
ぼっちやニートより酷い完全な箱入り娘として育てられたため当然世間の常識とは縁がない。
何事も自分の思い通りに描く事しかない環境であったため、予想外の事態になるとすぐに動揺してしまう。
代わりに『白窓の部屋』から下界を観察し少女達の醜い姿などを見てきたからか、陰惨な仕打ちをするのは得意。
ちなみに「外は怖い」「嘘つきばかりだ」と思い込んでいるが、作中の数々の行いを考えると物凄くブーメランしている。(当然本人に自覚なし)
【方針】
キャスターに任せる。
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【クラス】
キャスター
【真名】
ゼロ@星のカービィシリーズ
【パラメータ】
筋力:D 耐久:B 敏捷:D 魔力:EX 幸運:B 宝具:EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:EX
自らに有利な陣地を作り上げる。
後述の宝具により、“神殿”とは全く異なる暗黒の“異界”を常に保持、即座に展開できる。
道具作成:-
そもそも道具を作らない。
【保有スキル】
星の侵略者:A
見つけた惑星を侵略するために使用する、ダークマター族共有のスキル。
小さな黒雲になって他者に憑依して宿主を支配する。さらに宿主の身体を変化させる事もできる。
ランク:Cなら並の魔術師を、ランク:Bなら一流の魔術師を支配できる。
ランク:Aにもなると、籠絡や弱ったサーヴァントすらも一時的に支配することが可能。
ただし、聖なる力の解放による影響を受けると憑依を維持できなくなる。
使い魔(暗黒):A
平時や戦闘中に小型のダークマータ―を一度に4体まで使役できる。視界共有が可能。
戦闘続行:D
往生際が悪い。一度倒しても紅い目玉が飛び出し敵マスターを執拗に狙う。
-
【宝具】
『我が血肉、我が虚影、我が眷族』(ダークマター)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:15
正体不明の暗黒生命体・ダークマター族を疑似サーヴァントとして召喚する。
召喚できるダークマター族は2種類、剣士型ダークマターとリアルダークマターである。一度に最大3体まで召喚可能。
剣士型ダークマターは仮初で【クラス】セイバーとなり、主に実戦を担当する。
【パラメータ】筋力:C 耐久:C 敏捷:C+ 魔力:C
【保有スキル】対魔力:D、星の侵略者:C、心眼(偽):D
リアルダークマターは仮初で【クラス】アサシンとなり、他者へ寄生しての暗躍を担当する。それなりの戦闘も可能。
【パラメータ】筋力:D 耐久:C+ 敏捷:C 魔力:C
【保有スキル】気配遮断:D、星の侵略者:B、単独行動:D
『暗黒の果て、虚無の世界』(ゼロ)
ランク:EX 種別:浸食宝具 レンジ:1〜100 最大補足:1000
ゼロの存在と共にある、何もない“異界”。またの名を“浸食固有結界”。
宝具を解放すればゼロを中心として暗雲がたち籠められ、マスターが拠点とする場所の上空に留まる。
この領域自体にゼロの魔力が蓄えられるので、ゼロは魔力を枯渇することなく最大限の力を発揮できる。
暗雲は上空にあるため、ゼロを倒すには飛翔する術が必須となる。
跳躍でも到達可能だが、この領域には足場が少ないため戦うには不向きである。
そして虚無の放心感・圧迫感により、無を許容できる者以外には精神的ダメージが蓄積される。
なお、この宝具を無効化されてもゼロは現界可能であるが、その場合はマスターが膨大な魔力を負担する。
そして宙に浮かぶゼロの姿を見たものは漏れなくパニックを起こすだろう。
【weapon】
多種多様な弾幕。(3や64で使用していたもの)
宝具や使い魔の召喚。
【人物背景】
星のカービィシリーズで度々登場する邪悪な存在。ダークマター族の親玉。
見た目は白い球体に紅い目玉、黒い瞳という誰にでも書き易そうなシンプルな姿である。
黒い雲を拠点として星から星へと宇宙を渡り、見つけた手頃な惑星を暗雲で覆い支配しようとする。
最終的には自分たちの住みやすい世界に作り変えようとしているようだが、未だに正体不明な点が多い。
【サーヴァントとしての願い】
??????
【基本戦術、方針、運用法】
ゼロやダークマター達で他者に寄生し暗躍できるし、ゼロ本体は陣地に止まり待ちの戦法をとる方法もある。
暗雲は多少は自然風景に紛れられるが、やはり黒くて禍々しいから目立つ。
逆に自陣に呼び込みやすく、ゼロも全力で戦えるので敢えて晒すのも手である。
ちなみに体力を消耗しきると白い巨体から充血目玉をパージする。
敵マスターに襲い掛かり、接触ダメージや精神ダメージを与え、最終的には憑依しようと試みる。
ただし大半はサーヴァントに阻害されると思うので、最後の悪あがきの成功はその時の状況と運次第。
【備考】
・色々と設定を盛っています。
・設定のベースは『星のカービィ3』。『64』の設定も流用していますが、酸素ことO2には変化しません。
・カービィ基準の大きさだとインパクトに欠けるので、通常は人間より断然デカイ事にします。
・それに伴い、ダークマター達も大きくなります。人間に対して0.5〜1.5等身ぐらいの大きさを想定しています。
・小型ダークマターの攻撃が体当たりだけだと寂しいので、目からビームも追加してみましょう。
その代わり無敵状態を解除、斬り払い等で撃墜可能。
・たぶん、ゼロが本気を出せばキャス子ばりの弾幕ごっこ(殺傷設定あり)ができると思うよ!! タブンネ
(近年のカービィ作品によくある凶化ボスみたくなったゼロを想像してください)
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以上で登場話の投下は終了ですが、もう一つだけ、蛇足を投下します。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そこは想像の世界なのか、幻想の世界なのか、夢の世界なのか。
そこは狭間の先、無意識に描かれた世界。
そこは在りしもしない世界。想像でも、幻想でも、夢でもない。
ましてや新たに創造された世界でもない。
むしろ在りしもしない世界を、無理矢理に写したものなのか。
誰にも観測されない。少女も覚えていない、
全ては意識が届かないところで知られずに綴られた、あやふやな物語。
少女は白き世界にいた。何色にも染められる、無色の世界。
そこは空っぽだ。少女以外に誰もいない、物もない、なにもない。
少女も何も思わない。そこがそういう世界であり、考える必要もない。
以前とは違う世界で、少女は無意識の世界にいつの間にいた。
その世界に一つの来訪者が現れた。
それは少女の知るモノに似ていた。自身の分身となる存在と、目の前の少女人形が同じように見えた。
それは少女に似ていた。何者にもなれずに、狭間の世界にしか住まえない者同士であった。
他にも似ているところはあった。願いの為に他者の願いを奪い、喰い、糧とするシステム。等々。
図らずも少女と白き洋装の少女人形は出会った。
その出来事が事実なのか、虚構なのか分からないが。
無意識の中で少女は運命を感じた。私に似合った、貴女が欲しい、と。
少女人形もまた心地よく返事した。貴女と私は良く似合っている、と。
しかし少女人形は別れを告げた。既に導かれた身、素敵な貴女に選ばれなかった事が残念に思う、と。
少女も惜しみながら理解していた。私も既に導かれてしまっている、貴女を選べなかったのが寂しい、と。
少女と少女人形の相性はとても良かったが、出会いが一足遅かった。
少女人形は何処かへと消え去り、少女の中の無意識の世界もそこで閉じられた。
そこは想像の世界なのか、幻想の世界なのか、夢の世界なのか。
そこは狭間の先の、無意識に描かれた世界。
そこは在りしもしない世界。想像でも、幻想でも、夢でもない。
ましてや新たに創造された世界でもない。
むしろ在りしもしない世界を、無理矢理に写したものなのか。
誰にも観測されない、少女も覚えていない、
全ては意識が届かないところで知られずに綴られた、あやふやな物語。
ここは何処にも繋がらない、虚無の物語。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
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以上で投下終了です。
それとタイトルを間違えましたので、「ムショクノシロ、ムショクノクロ」に訂正します。
最後の蛇足はあまり間に受けないでね。
それではお目汚し、失礼いたしました。
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投下します。
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――ぺらり。
アーカム。
それはアメリカ合衆国の北東端、マサチューセッツ州にあるとされる地方都市の名だ。
際立った観光名所があるわけでもない、似たような都市ならばアメリカ国内に三桁はあるだろう普通の都市。
だがそんな何処にでもある街を特別たらしめている施設がある。
その名はミスカトニック大学。
かのアイビー・リーグにも名を連ねる、歴史ある名門大学の一角である。
特にその附属図書館には40万冊を超える貴重な蔵書が所蔵されており、多くの学生や教授が入り浸っている。
そして当たり前のことではあるが、そんな図書館も閉館後は全くの無人になる。
――ぺらり。
だがその無人のはずの館内に頁をめくる音が響き渡る。
音の主は図書室の一角で平積みにされた本を読んでいる一人の人物。
卓上ランプに照らされたその顔は、未だ10代の年若い少女のものだ。
その細い首に下げられたネームプレートには『Patchouli Knowledge』と書かれている。
パチュリー・ノーレッジはミスカトニック大学に通う学生だ。
彼女は『どうしても調べたいものがある』と教授陣に頼み込み、泊まりこみで調べ物をしているのだ。
稀覯本も多い附属図書館では通常このような行為が許されることはない。
だが東洋の五行説を発展させた革新的論文を発表した"七曜の魔女"――神秘学科の新星に対する教授陣の期待と信頼はそれを可能にしたのだ。
-
――ぺらり。
そんな彼女が手にしているのは半ば風化しかかった表紙の一冊の本。
年代を感じさせるそれを、少女の白く細い指が優しくめくっていく。
新たな頁をめくるごとに少女は新たな知識(せかい)と出会う。
それは少女にとって日常であり、何者にも代えがたい幸福な時間だった。
「――おい、いつまでこんな所に籠ってる気だ」
だがそんな至福のひとときをぶち壊しにする無粋な声がここにはあった。
本棚の影から歩み出たその男は、図書館の主のように振る舞う少女とは逆に、何もかもがこの場所に似つかわしくない格好をしていた。
アーカムには珍しいモンゴロイド系の顔立ちに、図書館というインドア空間に似つかわしくない筋骨隆々の肉体。極めつけはその身を包む時代錯誤な東洋の鎧甲冑だ。
だがその男はある意味誰よりも今のこの街(アーカム)にふさわしい存在と言えるのかもしれない。
何故ならば男は人間ではない。
どこかの人類史に刻まれた英霊――サーヴァントと呼ばれる超常存在なのだ。
パチュリーは不機嫌そうな表情を隠そうともしない男に、感情のこもらない視線を一瞬だけ向ける。
「何か不満があるような口ぶりね、セイバー」
「ああ、大いにある。そもそもあんた本なんざ読みふけって、聖杯戦争について理解してんのか?」
「ええ、理解しているわ。貴方は私の従僕(サーヴァント)。上下関係ははっきりしているわね。
だったら私の読書の邪魔をしないで頂戴」
少女はそう言うだけ言って、再びページをめくる作業に戻る。
その行動はセイバーの神経を逆なでした。
「……何のつもりだ。俺達は飾って楽しい美術品じゃねぇんだぞ」
セイバーは己のマスターに鋭い視線を向ける。
その視線の先にいれば、大の大人でもまるで剥き身の刃を向けているかのような殺気にも似た威圧感を受けただろう。
-
「まったく……誤解があるようね」
だが少女は涼しい顔で視線を受け止める。
「私は美術品になんて興味はないわ。
レミィやあの黒いのみたいに変なものを集める趣味なんてないもの。
私にとって刀は刀。無銘だろうと贋作だろうと切れればよし。
特に貴方は美術品としては大した価値はないでしょうに」
パチュリーのその言葉にセイバーは驚きの表情を浮かべる。
「あんた……」
「ええ、さっき調べたわ。
刀なんてあの半霊が持ってるのぐらいしか見たことなかったけど、色々あるのね」
少女が先ほど手にしていた本。それは19世紀の日本刀の目録だ。
「貴方が貴方であるように、魔女には魔女の役目がある。
貴方が力を持って道を開くというのなら、無限の知識を糧に前へと進む……それが魔法使いの挟持というものよ。
そしてある賢者は言ったわ。"彼を知り己を知れば百戦殆うからず"……そう、知は戦を凌駕する」
セイバーが机上に目をやれば平積みにされた本の中にはこの街の歴史書や観光マップらしきものもある。
これから先のことも考えてはいるらしい。
「それに貴方もサーヴァントの端くれでなら理解しているでしょう。
――この街はすべてがおかしい。これから先、何も起こらないなんてことは決してありえない」
"魔法使い"であるパチュリーは知っている。
一見平穏に見えるこの街には混沌とした異常な魔力が充満していることを。
そしてそれがありえないほどに不自然かつ危険な状態であることを。
例えるなら今のアーカムはまるで奇妙な器になみなみと注がれたニトログリセリンだ。
少しショックを与えるだけで、劇的な変化を起こし――そして二度と元には戻らない。
「……安心しなさい。時が来れば思い切り戦わせてあげるわ。
そしてそのまま戦場で散りなさい」
パチュリーのそれは彼を"使い潰す"、という宣言にほかならない。
だが対するセイバーは口の端を釣り上げていた。
獰猛な笑み。己の強さを証明する機会というエサを目の前にした獣の笑みだ。
そしてその笑みを浮かべたまま、虚空へと姿を消した。
一方で少女は再び手元に視線を落とし、読書を再開する。
その姿は一位時間前と少しも変わらない。そしてこのまま変わらないだろう。
……この街で、何かが起こるまでは。
-
【マスター】
パチュリー・ノーレッジ@東方Project
【マスターとしての願い】
???
【能力・技能】
・魔法を使う程度の能力
精霊魔法を得意としており、7つの属性を自在に操る。
ただし運動は苦手のため、詠唱しきれないこともある。
・飛行
少女は空を飛べる。当然のことである。
【人物背景】
紅魔館の魔女。
一見して人間の少女のようであるが"魔法使い"という種族の妖怪であり、年齢は百歳を超えると言われている。
基本的に自らの図書館から動かない本の虫であるが、用があれば出歩くこともある。
様々な知識をため込んだ知識人ではあるのだが、異変の犯人と遭遇していながらスルーしたり、サポート時に話す情報がことごとく役に立たなかったり、と若干天然の毛がある。
一方で運動は苦手であり、喘息気味で呪文詠唱すらおぼつかないこともある。
【方針】
不明。
-
【クラス】
セイバー
【真名】
胴太貫正国@刀剣乱舞
【パラメーター】
筋力:B 耐久:B 敏捷:C 魔力:E 幸運:E 宝具:D
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
・対魔力:D〜D+
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
日本刀という幻想によって補正が加えられており、
相手が日本人、もしくは日本に縁のあるサーヴァントである場合限って一時的にブーストが掛かる。
【保有スキル】
・刀剣男士:C
付喪神の一種とされる日本刀の化身。
少年から青年まで様々な男性の姿を取る。
同ランク相当の『戦闘続行』、『心眼(偽)』スキルを発揮する。
・勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
・猿叫:C
示現流やタイ捨流などの肥後・薩摩地方の剣術に多く見られる独特の叫び声。
裂帛の気合とともに剣気を叩きつけるアクティブスキル。
対象は精神で判定を行い、失敗した場合、回避行動にマイナス判定がかかる。
【Weapon】
・日本刀・無銘
自身の本体と類似した幅広の太刀。
飾り気は少なく実用性重視。
【宝具】
『兜割』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
セイバーの持つ斬鉄の逸話の顕現。
天覧試合にて見事鉄兜を五尺ほど傷つけ、セイバーの名を天下に広く知らしめた。
筋力判定に成功した場合、相手のあらゆる防御行動を無効化した一撃を加える事ができる。
対コスト効果に優れた対人宝具。
【人物背景】
九州の刀工の作である胴田貫のうちの一振りをモチーフとした刀剣男士。
質実剛健を絵に描いたようないかつい外見は、少女漫画風の絵柄が多い刀剣乱舞勢でも一際目を引く。
指揮なども嫌がる純粋な脳筋であり、美術品として愛でられるのを好まず、武器として戦うことを望む。
【サーヴァントとしての願い】
戦場で戦う。ただそれだけ。
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以上で投下終了です。
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投下いたします
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「悩んでいるの?」
人通りのない夜の路地裏の事である。
大きな赤い帽子を被った、民族衣装のような赤の服を着用した女性が訊ねて来た。
大きめの襟が鼻梁の中央部分まで顔を隠している為、目元位しか顔のパーツが確認出来ないが、それだけの露出でも、陰性の美を湛えている事が解る、上玉の女性である。
「……何をして良いのか、少し迷ってる」
帽子の女性の言葉に応答するのは、アジサイのような紫色のフード付きローブを身に付け、肩の辺りにたすき掛けの要領で鎖を巻き付けた、橙色の髪の少女である。
栄養をちゃんと摂取していないのか、その肌は病的なまでに青白く、睡眠も不足気味なのか目の下には隈まで出来ていた。
ローブの少女の名は、ツスクル。アーカムタウンはロウアー・サウスサイドで占い師を営む――否。
巨大な地下樹海である『世界樹の迷宮』の上に建つ小さな街エトリアの長ヴィズルに仕える、世界樹の謎を解明しようとする冒険者を抹殺する暗殺者だ。
「……私も少し迷ってるの。ごめんなさい、サーヴァントなのに、貴女に何か道を示せて上げられなくて」
「お構いなく」
申し訳なさそうに言葉を紡ぐ赤い民族着の女性の言葉に対し、そんな労いの言葉をツスクルは投げ掛けた。
帽子の女性の名前は、シェリル。ツスクルに召喚された、此度の聖杯戦争の参加者。キャスターのクラスで召喚されたサーヴァントである。
「シェリルは、聖杯に叶えたい願いはあるの?」
ツスクルがそう聞くと、シェリルは考えるような素振りを見せる。
「……私に関わると不幸になる、その原因を消し去りたい……」
消え入りそうな程弱々しい声で、シェリルが言った。
「私に関わると、不幸になって、最終的には死ぬのよ。ツスクル」
「そんなのは単なる偶然。貴女の思い込み」
「貴女が思ってる以上に、私は多くの人の死を見て来たわ。私に関わった人は皆、最後には死んでしまうの」
頭を2、3度横に振るってから、シェリルは言葉を続ける。
「優しい人も、怖い人も。綺麗な人も、醜い人も。若い人も、老いた人も。……何の隔てもなく死んでいく」
「それが、世界の常。ずっと生き続ける人間なんて、存在しない」
ツスクルの言う通りである。どんな世界にだって、永久に生き続ける人間など存在しないのだ。
どんな聖人君子だろうが、どんなに優れた顔つきの人間だろうが、どんなに強壮な肉体を持っていようが、人は死から逃れられない。
怪我に、病に、事故に、悪意に……。運よくそれらから逃れられたとしても、結局は老いと言う宿命から、人は逃げ切る事は不可能である。
シェリルは人が死ぬのは自分のせいだと、1人で思いつめている。しかしそれは全くのお門違いなのではないか。
自分から殺そう死なせようと思い行動に移らない限り、シェリルはその人物の死とは無関係の筈。彼女が1人背負い込む理由は、まるでない。
「……貴女を見てると、悲しい事を思い出すわ」
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宣言通りの、悲しそうな光を双眸に宿して、シェリルが語る。どこか遠くを見るような目つきであった。
「ローザリアにいた、騎士団所属の暗殺者の話」
「……暗殺者」
思い当たるふしがあるらしく、その言葉をポツリと、ツスクルが反芻する。
「騎士達には任せられない、騎士達自身も引き受けたくないような汚れ仕事を任務にしてたの。それでも愛国心と、騎士達の為に、影でずっと耐えてたの。
ある時暗殺に失敗して相手に囚われた時、その暗殺者を助けてくれる人は、国にも騎士団にもいなくて、拷問の末に殺されたわ」
「……貴女には関係ない事じゃないの?」
ツスクルは思った通りの事を口にする。普通に生活して居たら、袖振り合う事もないような人種であろう。
このサーヴァントは思い込みが激しいと考えるが、心の何処かでシェリルの言葉が引っかかるのは、自分も曲がりなりにも暗殺者だと言う事実があるからだった。
「ガレサステップを旅していた、2人の冒険者の話も思い出したわ」
シェリルはまたしても過去を思い出したらしい。その事を話すべく、ゆっくりと口を開いた。
「剣士と魔術師の2人。剣士の方は一騎当千の腕前、魔術師の方は様々な魔術を操る事が出来る腕の立つ人。
2人は幼馴染で仲が良かったのだけれど、魔物に不意を突かれて剣士を殺されて、残った魔術師は、失意のまま草原を彷徨って、孤独に餓死して死んでしまったわ」
「……シェリル。貴女は、それを私に話して、どうしたいの? 私を不安にさせたいの……?」
少しばかり声を低くして、ツスクルが問いを投げ掛けた。
ツスクルとその相棒の剣士であるレンが死守している世界樹の迷宮の核心部、通称『シンジュク』と呼ばれる階層で拾った銀の鍵を手に取ったその瞬間から、
呪言使い(カースメーカー)であるツスクルは、聖杯戦争への参加者になった。……元居た世界に大事な相棒であるレンをおいて。
ツスクルは、こんな何処とも知らない街で、誰にも知られず死んでゆく何て真っ平御免なのだ。生きて元の世界に帰る、それが、彼女の望み。
だからシェリルには、弱気になって欲しくないのだ。このキャスターは聖杯戦争の常識から言ったら、最弱争いに名を連ねるクラスのキャスターの中でも、
更に扱いの難しい、クセとアクの強いサーヴァントである事をツスクルはしっかりと把握していた。
だからせめて、気心だけは強くあって欲しいのである。サーヴァントがこの調子では、勝てるものも勝てなくなるのだから。
「ごめんなさい。……つい感傷的になっちゃったわ。貴女の気を萎えさせるつもりはなかったのだけれど……」
ツスクルの感情に気付いたシェリルが、慌てた様子で謝り始める。
「いいわよ、別に」、と、すぐに気にしてない風な言葉をツスクルは紡ぐ。
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「ただ、これだけは注意しておいて、ツスクル。……私と関わった人は、不運にも死んでしまう事が多かったのは……事実よ。
皆、自らの不注意と不慮の事故、過去の迂闊さから死んでいった……。だから貴女はせめて、私の言う事を信じて……身の回りに注意して頂戴」
「理解したわ、シェリル。いえ……キャスター」
「ありがとう。……知り合いに死なれるのは、とても悲しい事。勝ち残りましょう、聖杯戦争を」
言ってシェリルは霊体化を行い、ツスクルの視界からその姿を消した。
過去のせいもあるのだろう、随分と悲観的なサーヴァントと共に過ごさねばならなくなったと、内心で憂鬱になるツスクル。
悲観的だけであったのならばまだ救いようがあったが、これで戦闘能力も格段に低いと言うのだから、これからの未来を憂慮するのも無理はない。
救いなのが、シェリル自体の魔力消費が極端に少ない事であろうか。何となればカースメーカーのツスクルも、戦闘に参加せねばならない。
戦闘の心得自体はツスクルは豊富だ。相手の自由を奪う呪言や、高度な呪いの方法だって修めている。
だがカースメーカーと言うのは打たれ弱い、況してやツスクルは少女の身。下手な打撃一発で戦闘不能に陥る事だって少なくない。
つまりツスクルは、後方支援に向いた人物なのだ。聖杯戦争におけるキャスターもまた、然り。
後方支援が2人もいては、下手に攻め込まれたら瞬時に瓦解してしまう。前途多難にも、程がある。
これからの聖杯戦争と同じ程に憂いているのが、エトリアに残して来てしまった、自分の相棒、レンの事。
彼女は果たして自分がいなくても、元気にやれているだろうか。いやもしかしたら、自分を探して、恐ろしい生命が跋扈する樹海の迷宮を駆けずり回っているのか?
恐ろしい事だった。自分がいなくなったせいで、正気を忘れてあの迷宮に一人で潜り、勝手に死なれたりでもしたら。
或いは自棄を起こして、樹海に潜った冒険者を片っ端から斬り殺していたりでもしたら。
そして何よりも――唯一の友人であるレンに会えず、自分が死んだりでもしたら。全身が粟立つような恐怖である。そんな事は、あってはならない。
そのような事は忘れ、聖杯戦争へと集中しようにも、先程シェリルが話した内容が頭に引っかかる。
国家に尽くしていたのに最後には1人孤独に死んでいった暗殺者の話、相棒に死なれて狂ってしまった冒険者の話。
……聞けば聞く程、自分とレンの境遇とダブってしまうのだ。果たしてシェリルは狙ってツスクルに対して、その2つのケースを引き合いに出したのか。
それとも本当に無作為に、その2つのケースを選んだのか。真相は解らない。
ただ1つ言えるのは、その話を聞いて、ツスクルは嫌な不安と言うものを脳裏に過らせている、と言う事だった。
「……勝ってみせる」
静かにそう呟いてから、ツスクルはスタスタと貧民街の路地裏を歩きはじめる。
リン、と、首にぶら下げた黄金色の鐘が、雑駁とした路地裏には不釣り合いな透明な音を響かせる。
全にして一なる門たる邪神が、ツスクルと、異世界マルディアスに君臨していた邪神の化身であるシェリルに強いた運命は過酷そのものなのだと。
今の時点で2人はまだまだ、気付いてすらいないのであった。
【クラス】
キャスター
【真名】
シェリル@ロマンシングサガ・ミンストレルソング
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運E- 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:-(EX)
保有しない。後述の宝具発動時には、カッコ内のランクに修正。
大神殿をも遥かに上回る、世界を覆う”闇”の形成が可能。凄まじい速度で闇は侵食するが、キャスター自身はこれを制御出来ず、無尽蔵に広がり続ける。
道具作成:-
保有しない。
【保有スキル】
神性:-(EX)
現在は消失しているが、特定条件でカッコ内のランクに修正される。
本来のキャスターは創造神マルダーの妻であるサイヴァの髪より生まれ出でた三柱神の一柱であり、マルディアスにおける正当な神である。
神の加護:A
冥府を統治し、霊の管理と死を司る神、『デス』の恩寵(兄妹贔屓)を受けている。
キャスターに危害を加え、命を奪おうとする人物の幸運を一時的にスリーランク下降させる。
更に、様々なアクシデントを確率で引き起こさせ、無理やりにでもキャスターが死ぬ運命を捻じ曲げようと試みる。
但しマスターに対する危害には、このスキルは発動しない。本来ならばキャスターに危害を加えようとする人物はその場で不自然な死を遂げる運命にあるのだが、
聖杯戦争の舞台はデスの威光が届きにくい地である為、相応の性能に劣化している。
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【宝具】
『光のダイヤモンド』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
1000年前、光の神であるエロールの加護を受けた英雄・ミルザと死闘を繰り広げた邪神サルーインを封印する為に用いた、10個のディスティニーストーン。
その内の一つが、キャスターの右薬指の指輪に嵌められた、光のダイヤモンドである。
装備する事で、ランク問わず、ありとあらゆる闇の属性を秘めた魔術・魔法を無効化する。
しかし、この宝具をキャスターが装備する意図はそう言った事柄ではなく……。
『三柱神・破壊女神の髪より生まれ出づる者(シェラハ)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1000〜 最大補足:1000〜
宝具、光のダイヤモンドが嵌められた指輪を外す事により、強制的に発動してしまうキャスターの真の宝具。
兄妹である三柱神だけでなく、神々の父であり太陽神でもあるエロールをもしのぐ最強の魔力と、
エロールが放つ神の威光をも塗り潰す、強大な闇の力を持つ邪神・シェラハへと変身する。
元々光のダイヤモンドとは、終る事無く続いていた戦いに虚しさを感じていたシェラハが、エロールと停戦を結び、その際にエロールが、
彼女の強大な闇の力を抑制する為に与えたもので、この影響でシェラハは、シェリルと言う人間の女性として過ごす事になっていたのである。
永きに渡り人間として生活し過ぎていたキャスターは、シェラハ自身が有する圧倒的な闇の力の制御が不可能となっており、変身している間は闇を無秩序に世界へと撒き散らしてしまう。
光のダイヤモンドを外してしまうと、聖杯戦争内では最早二度とシェリルの姿に戻る事は出来ない。まさに、正真正銘最後の手段の宝具である。
シェラハ変身後は、ステータスとスキルを以下のものに修正する。
筋力A+ 耐久A+ 敏捷C 魔力EX 幸運D
『陣地作成:EX』の獲得、『対魔力:A+』の獲得、『精神操作:A+』の獲得、『魔術:EX』の獲得、『神性:EX』の獲得、『神の加護:A』、の消滅。
キャスター自身は、自らがシェラハの転生した姿であると言う事実を知らないが、自らが光のダイヤモンドを外してしまえば、
取り返しのつかない事態になる事に薄々感付いており、滅多な事ではこれを外す事をしない。
【weapon】
【人物背景】
遥か昔、マルディアスと呼ばれる世界を創造した神であるマルダーの妻サイヴァが、彼と彼に連なる神々に戦いを仕掛けた。
サイヴァの力は強大で、マルダーを含む他の神を相手取っても互角の戦いを繰り広げた。やがて戦況が拮抗し、こちらの側に組する新たな神を生み出そうと考えたサイヴァ。
彼女は自らの小指からエロールを生み出すが、その子指はサイヴァ良心が備わった場所だったので、エロールは善神として誕生、逆にサイヴァは敗れ去った。
この時四散した身体の部位から生まれたのが、後三柱神、或いは三邪神と呼ばれる、デス、サルーイン、シェラハであり、シェラハは三兄妹の末妹である。
当初は兄達と同じく、マルディアスの神々と敵対関係にあったが、いつ終わるとも知れぬ戦いに疲れ果てたシェラハは、エロールに自分は戦いを降りる事を申し出る。
これを受け入れたエロールは、シェラハの強大な力を封じる光のダイヤモンドを与え、彼女はこれを指に嵌め、神としての力を抑制。人間へと転生する。
以降は人間女性のシェリルとして地上に降り立ち、何百年もその姿で生き続ける(性質と姿こそ人間だが、寿命は神のそれである為半不死)。
人間女性になったシェラハだったが、仲良くなった人間はその寿命の差で早く亡くなり、自分と親しくなった男が次々不審な死を遂げる(これは、兄であり死の神であるデスの御節介の為)と言った経験を経、自分は他人を不幸にする女と考えてしまい、鬱屈とした毎日を送り続ける事となってしまうのだった。
【サーヴァントとしての願い】
幸せになりたい
【基本戦術、方針、運用法】
0か100かしかないサーヴァントである。平時の戦闘能力は異論の挟みようがない外れのそれだが、シェラハ状態になると凄まじいものとなる。
逆に言えばキャスターの強みはこれしかなく、魔力消費も非常に激烈な宝具の上に一度使用してしまえばもとに戻る事も不可能と言うハイリスクさ。
陣地作成も道具作成も出来ない為に、待ちではなく『逃げ』を主眼に置かねばならない。非常に使いにくい、99.9%外れクジのサーヴァントである。
-
【マスター】
ツスクル@世界樹の迷宮
【マスターとしての願い】
元の世界へと帰還する
【weapon】
【能力・技能】
カースメーカー:
世界樹の迷宮の世界に伝わっている職業の一つ。呪い使い、呪言使いとも言われる。
相手の動きを止める、身体の一部の自由を奪う、能力値を下げる、幻覚を見せる、自傷行為を行わせる、恐慌状態に陥れる、呪わせる。
と言った、完全に搦め手がメインとなる職業。能動的な攻撃手段を殆ど持たない職業だが、唯一ペイントレードと言う、
自らの生命力が減れば減る程莫大な威力を発揮する術を唯一持つ。修行する方法が過酷かつ独特の為か、線の細い人物が殆どで、非常に打たれ弱い。
【人物背景】
世界樹の迷宮と呼ばれる地下樹海があることを名物としている小さな街、エトリアを拠点に活動する冒険者。相棒にブシドーのレンを持つ。
新米の冒険者や、ある程度腕が立つようになった冒険者たちのサポートを行っており、彼らの手助けに回る事も多い。
その正体はエトリアの執政院ヴィズルに仕える暗殺者で、世界樹の迷宮の真相へと近づこうとする冒険者を抹殺する為に活動している。
但しレンと違いツスクルの方は暗殺に対して積極的ではなく、レンも暗殺から手を引いてほしいと心の底では思っている。
【方針】
なんとしてでも脱出せねば……。
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投下を終了いたします
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これから投下します。
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ユグドミレニア一族の次期当主と目される少女、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは困惑していた。
一族の拠点、ルーマニアの都市・トゥリファスに居たはずなのだが。
気付いたら、合衆国マサチューセッツ州の見知らぬ都市にいた。
訳の分からぬ状況に対して、ただただ理解が追い付いていなかった。
いや、正確には現在地『アーカム』に至る以前の記憶だと、確かトゥリファスの外に出て欧州の各所を巡っていた所だった。
目的は英霊を喚ぶための触媒探しの旅。様々な情報を集めて、目的の物品の居場所を突き止めていた。
近々、彼女が属するユグドミレニアの一族は「魔術教会からの独立」という宣戦布告を行うつもりでいる。
それはつまり、確実に魔術教会と戦争になるだろう。
そのため一族は総力を挙げて活動し、聖杯戦争を起こして一族の悲願を達成しようと目論んでいる。
機は熟した。いまこそ、我ら千界樹(ユグドミレニア)が、この世界の神秘と奇跡を手に入れるのだ。
現当主、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが一族総意の決断を下したのと同じ刻。
フィオレにも令呪が現れ、聖杯戦争への参加資格を得た。
奇しくも弟・カウレスも令呪を宿してしまったものの、姉弟揃って一族からの命が下された。
今は別々に行動し、フィオレは目的の触媒の所有者の所まで辿り着いた。
彼女が選んだ触媒は「先端に青黒い血が付いた古びた矢」。
狙うは多くの大英雄達を育て上げ大成させてきたケンタウロス族の大賢者、その名は「ケイローン」。
本来『神霊』にカテゴリーされる存在だが、かの有名な神話の中でもあるようにその身に宿す「神性」を失った影響もあり、
『英霊』として召喚されるに足りうる存在になれる、と推測される。
思惑通りにケンタウロスの叡智を降霊できたならば、歴代の英雄達が集う聖杯戦争においてこれ程にもないアドバンテージを得られるだろう。
そして交渉の末、フィオレは持ち主から触媒を受け取り、無事に目的を果たした。
しかしまだまだ安堵は出来ない。やるべきことは多い。本番はこれからなのだから。
だからフィオレは根城トゥリファスを戻るため、丁寧な謝礼を送り踵を返そうとした。
その時、元所有者がフィオレを呼び止め、とある物を手渡してくれた。
それは銀の鍵。髑髏と蛇の意匠が施された、不思議な鍵だった。
一体これは何なのか、フィオレは問いかけたが、行き掛けの駄賃だ、と言われてはぐらかされた。
然したる物ではないだろうとフィオレはそのまま受け取り、今度こそその場から離れた。
――そして、それ以降の記憶が途切れてしまった。
気付いた時には全く見知らぬ、そして記憶上では存在しない都市『アーカム』で生活していた。
なぜか、魔術教会から遣わされて『アーカム』という未知の土地を監視する、という役割が与えられていた。
フィオレも少し前までは魔術教会の時計塔にも所属し魔術を学んでいたため、このような役割を与えられるのも納得できるが。
これから離反する算段を立てている身としては、記憶を取り戻してからは随分と気まずい気分になった。
ともあれ状況を整理すると、とても不味い状況になってしまった。
どうやってもユグドミレニア一族の者と連絡が取れず、この未開の異界からの脱出も救援も望めない。
しかも確かにその手に持っていたはずの触媒もなくなってしまった。
手元に残るのは念の為に持ち込んでいた接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)と、銀鍵のみ。
状況が呑み込めない中、フィオレはふと手に刻まれた令呪を眺めた。
その意匠も以前のものとは違い、髑髏と蛇の紋様に様変わりしていた。
それはまるで、銀鍵に示し合わせたかの様に、朧ながらに似ている。
同時に、頭の中に眠る聖杯戦争の知識が告げている。
これもまた聖杯戦争ならば、異端であろうと、試してみる価値はある。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
-
素に無明の闇。傍に盲し白痴の王。
泡立つ虹には贄を。
四方を円に閉じ、炎を五芒へ示し、第五宮に至る陽を循環せよ。
閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を冒涜する。
――――Ancient(セット)
告げる。
汝の身は我が門に、我が命運は汝の鍵に。
星辰の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は全なる一の戒めを破る者、
我は一なる全の印を棄てる者。
汝、混沌の媒介を記す断章。
窮極の門より来たれ、銀鍵の守り手よ――――!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
-
目の前に描いた魔法陣が輝き、その場に奇跡が現れる。
――まさか本当にサーヴァントを降霊できるなんて。
フィオレはただ見蕩れていた。この不安定で怪しい状況下で、よもやルーマニア以外の所で召喚の儀を為しえてしまった。
とはいえ呼び出してしまった以上、今はこの従者に頼るしか術はない。
大賢者に至る依り代がない以上、この銀の鍵に応じる未知の英雄に賭けるしかない。
不安と期待を抱きながら、フィオレは生涯に一度とない眩い現象をしっかりと見つめることに努めた。
光が弾け、魔法陣から幻想で紡がれた体が浮かび上がる。
「よう、アンタが俺のマスターか」
現れたのは青年の男。
容姿は軽装、ピアスやシルバーアクセ等、それは今時の若者そのもので、とても歴代の英雄には見えない。
しかし漂う雰囲気が違う。現代に生きる人間などとは全く異なる武勇の相がハッキリ判る。
フィオレは少し驚いた顔をしたが、すぐさまサーヴァントの問いに答えた。
「はい、そうです。私の事はフィオレと呼んでください、どうぞよろしくお願いします」
「ちょっと固くないか?まあいいけど。オレはランサー、真名はハムリオ・ムジカ。
周りの奴らからはムジカって呼ばれているから、アンタもそのつもりでいてくれ」
「ハムリオ・ムジカ……わかりました。ところでランサー、幾つか聞きたいことがあるのだけれども」
「なんだ?」
「そうね、まずは……申し訳ないですが、貴方はいつの時代のどこの英雄なのでしょうか?」
いくらか予習をしてきたフィオレだが、目の前の英霊に関してはすぐには分からなかったので、失礼ながらも聞いてみる事にしてみた。
他にも幾つか質問してみた。
記憶が曖昧な点や元々持っていた触媒の所在、監督役の居場所、第何号聖杯なのか、そしてアーカムという舞台の異常性について。
フィオレにしてみればここの聖杯戦争もまた紛い物の一つ、冬木の聖杯を模して造られた贋作だと考えていた。
彼女が知る歴史では、世界各所で偽物の聖杯が出没し、その度に戦争が発生して誰もが掴めないまま終わってしまったと記録されているからだ。
なにより、一族の拠点に本物の聖杯がある。
紛れもない、冬木の地から持ち出された本物の願望器が。
第二次世界大戦の動乱の最中、ナチスドイツが聖杯戦争を創設した御三家を出し抜き、さらに現当主のダーニックが奪い取り、ルーマニアに秘匿した真の神秘が。
そして今、その奇跡に魔力が注ぎ込まれ輝き始めていた。
その姿を特別に見せてもらったが、不全とはいえその神々しさに心奪われてしまった。
だからフィオレはこの地の聖杯には目もくれず、なるべく早くユグドミレニアの地に戻りたかった。
彼女が求めるものは、ここにはないはずだから。
.
-
だがしかし、ランサーからの受け答えはフィオレが想定してものとは予想を超えていた。
まずランサーの出身は、なんと自分達とは違う異世界だった。
多少の違いはあるが発達した文明を有し、さらに秘匿されずに限定的だが普遍している魔術、そして異形の種族との共存などがなされているなんて。
もしかしたら、ここの聖杯戦争に呼び出されたマスターやサーヴァントも異世界の住人なのかもしれない。
都市『アーカム』もこの聖杯によって創られた仮初の世界だとか。
だから、彼女の常識外が多いのも頷ける。
そして、異端の聖杯の異常性に身の毛がよだつ思いがする。
「それでマスター、アンタはこの聖杯戦争をどうするつもりなんだい?」
驚愕の事実に戸惑う中、ランサーがマスターの意図を問い掛ける。
ここの聖杯は本物とは違うが、偽物とは違う、全く正体不明の異物。
果たして願望器足り得るかは分からないが、あるいは……
「……ランサー、もう一つ尋ねたいことがあります」
「貴方は、聖杯にどの様な願いを託しますか?」
「ん?それは……ないな。オレには、叶えたい願いとかはないぜ」
「そう……それじゃあランサー。お願いがあります」
「私は一刻も早くこの地から、聖杯戦争から抜け出したいです」
「申し訳ないですが、私が戦うべき場所はここではないのです」
「だから私は脱出の方法を探るべく、色々と調査にあたりたいと思います」
「時には他のマスターと接触し、情報を集める事もあるでしょう」
「しかし、一体いつどこで何が起こるかわからないのが聖杯戦争というもの」
「だからもし戦闘になる時には、貴方の力を是非ともお貸しください」
「オッケー、了解だ。そん時になったら任せな」
思いの外ランサーは従順してくれた。
言葉通り願いがないからか、勇猛さを剥き出しにしていないからか。
ともあれ、頼りになれるサーヴァントと巡り合えて嬉しく思う。
そしてこれからが険しくなる。
本来の手筈なら一族の密偵からの連絡である程度の情報が手に入るのだが。
この地では未だ自分と己が従者しか信用できず。
強大であろう未知数の主従が多いだろう。
それでも出来る限り動いていれば、何かしら糸口は見つかるはずだ。
しかし、もしここから途中退場する方法が見つからない場合は。
――止む得ない。勝ち残り聖杯を手にいれよう。
そうすれば、おのずと帰還への道が開けるはずだ。
――邪(よこしま)にも、私の悲願を叶えたい、とは思わない方がいいだろう。
ここにある奇跡が、どういった代物なのか、まだ判らないから。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
-
【マスター】
フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア@Fate/Apocrypha
【マスターの願い】
一族がいるルーマニアへの帰還。
―――もしできるなら、足の異常を治したい。
【weapon】
接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)
【能力・技能】
降霊術と人体工学において他の追随を許さない程の才華を発揮する。
接続強化型魔術礼装も彼女ならではの発想で生まれた傑作である。
それら以外の魔術についてはほとんど不得手である。
【人物背景】
ユグドミレニア一族において随一の能力を持ち、ダーニックの後継者として目されている魔術師。
魔術回路の変質により両足が動かず、車椅子による生活を強いられている。
彼女の魔術回路は両足に存在するため、魔術師の道を諦めない限り足を治療することはできない。
そしてフォルヴェッジ家の後継者として魔術を捨てることは許されないため、聖杯に願いを託す他ない。
正確は穏やかで奥ゆかしく、礼節正しい凛とした貴人である。
魔術師の価値観の他にも普通の人間としての価値観を有しており、過去のトラウマが今も心の奥底で引き摺っている。
【方針】
優先事項はこの地を脱出し一族がいるルーマニアへ戻る。
その為に他の主従の動向などもチェックしながら此度の聖杯戦争を調査し、糸口を見つける。
もし、脱出が叶わない場合は、『アーカム』の聖杯戦争を勝ち残る事で、様々な呪縛から解放されるつもり、かもしれない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
-
【クラス】
ランサー
【真名】
ハムリオ・ムジカ@RAVE
【ステータス】
筋力:B+ 耐久:C+ 敏捷:B 魔力:D 幸運:C 宝具:B
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
銀術:A
銀術師(シルバークレイマー)としての技術。銀を自在に形状変化させる。他の金属にも多少の干渉が可能。
芸術審美:E
芸術品・美術品への執着心。芸能面の逸話を持つ宝具を目にした場合、低い確率で真名を看破できる。
戦闘続行:B
往生際が悪い。数多の戦闘で致命傷を負わされてもそこから反撃して強敵を倒してきた。
【宝具】
『銀槍シルバーレイ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:15
またの名を『レイナ』。海をも割る力を秘めた銀術の槍。三種の銀が一つになって生まれた信愛の証。
この銀槍は通常の銀術より体力・魔力を消耗するが、それに見合う以上の威力を発揮してくれる。
相手の異能の効力を無視して、ランサーの意志のままに突き通す。
(※具体的には、斥力・引力の異能を無視して攻撃できる、捻じ曲げる異能を銀槍にかけても捻じ曲がらない、など)
『紲の銀』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大補足:50
一人では為し得ない銀術奥義。二人の銀術師が心から互いを信頼した時にのみ使える、物理を超越した衝撃波。
難しい発動条件に加え、ランサーの心に残る想いと未練の影響もあり、聖杯戦争において使う機会はほぼ訪れないだろう。
【weapon】
『銀』
普段は髑髏に蛇が巻き付いた状態のアクセサリーになっているが、銀術により自在に形状変化させる事が可能。
得意の獲物は銀槍だが、他にも盾やムチ、カギなど様々な道具に変化できる。
【人物背景】
窃盗団「銀の衝動(シルバリズム)」を束ねる青年。しかし今はレイヴマスター達と共にRAVE探しの旅に出ている。
幼少期に家族を皆殺しにされた所で銀術師リゼに拾われて、彼に師事されながら銀術を習得した。
趣味はシルバーアクセの作成。特技はナンパ、盗み。女を虐める奴が嫌い。
当初は少々悪ぶった不良みたく振る舞っていたが、芯には熱い正義感を秘めているため悪行はしない。
仲間のために命を賭けたり、時に暴走してしまった仲間を殴り飛ばすなど非常に仲間想い。
あと旅の最中に色々と因縁があるorできてしまった女性との出会いが多い。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。マスターの手助けをする。
【基本戦術、方針、運用法】
三騎士らしく正面から衝突するのがベスト。
瀕死の状態でも相手に反撃できるので泥仕合もアリ。
でも傷が大きすぎると治すのも大変なので程々に。
それ以外にも銀術は器用で応用が利くので有効活用しよう。
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以上で投下終了します。
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投下します。
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◇ ◇ ◇
かつての記憶がない。
何者かが消し去ったのだろうか。
◇ ◇ ◇
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「素晴らしい」
アーカムシティ。しがない地方都市の一角、ノースサイドと呼ばれる区画に聳え立つビルの一室にその姿はあった。
年若い男だ。端整な顔に気品ある雰囲気を纏わせ、口元には温和な笑みを湛えている。
「人の営みが、文明が、これほどまでの発展を遂げるとはな。
聞けばこの世界では人は空を飛び、地の深くに潜り、果ては星海にまで進出したという。人の智慧とはかくも偉大なるものであったか」
語る口調は高みから見下ろす為政者のものであると同時に、素直な敬意と憧憬を匂わせる只人のそれでもあった。
男の名はザイフリート。かつて海の深くに沈んだとされる都市「深都」の指導者だ。
「我は人々の安寧と成長を心より願っている。深都も、海都も、いずれはこのように健やかに発展してほしいものだと切に期待している。
そしてそのためには―――フカビトと"魔"を打倒せねばならぬ」
語るザイフリートの語気が一気に強まる。フカビトと"魔"の打倒、それがこの男の抱く願いか。
ザイフリートの視線は既に眼下の街並みではなく部屋の片隅に移っている。先ほどから黙ってザイフリートの話を聞いていたその人物は、尚も言葉を発さずザイフリートの話に耳を傾ける。
「いと深き場所に巣食う"魔"の根絶。これこそ我が聖杯に託す願望だ。
……さて、我は全てを話したぞ。そろそろ卿の話を聞きたいところだが」
「……大した話じゃないよ」
そこで初めて口を開く。声変わりを迎えているのかも怪しい声質とは裏腹に、発する声が与える印象はどこまでも重苦しい。
その人物は少年のようにも見えた。未だ青年の外見をしているザイフリートに輪をかけて幼いその少年は、その実伝説に名を刻む比類なき英雄に相違ない。
セイバーのクラスで召喚されたサーヴァント。それが少年の正体であった。
「僕の願いも貴方と同じ、世界が平和であることだよ。尤も、もう僕の世界には貴方達が直面しているような危急の厄災はないんだけどね」
なんせ僕が滅ぼした。そんな冗談めかした締めの言葉を、ザイフリートはくつくつと、含み笑いと共に受け入れた。
「なるほど、流石は英霊として呼ばれるだけの大人物であると言ったところか。
我らも卿のように"魔"を討ち滅ぼせたならば良かったのだが」
「できるよ。そのための聖杯だ」
含み笑いを続けるザイフリートに対し、セイバーの表情は能面のように変わらない。それでもセイバーに嫌悪の感情がないことは容易に察せられた。
「そうか、そうだな。聖杯をこの手に掴み取るために、我は銀の鍵を以て扉を開けたのだ。
ならばこそ。我に手を貸してくれるな、セイバー」
「当然だよ。僕にだって譲れないものはある。これからよろしく、マスター」
同じ願いを持つ者同士、協力して戦いに望むことに意義はない。能面のような顔は変わらずとも、セイバーは確かにザイフリートと手を取り合った。
決して躊躇いなどしない。我は必ず聖杯を掴み、魔を打ち払うのだ、と。
欠けた記憶を気にも留めず。孤独の王は勝利を誓うのだった。
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◇ ◇ ◇
"……勇者よ、よくぞ辿り着いた。余こそが魔王、■■■■■■■■■■である"
それは過去の記憶。眠る意識が垣間見せる記憶の断片。
かつて確かにあった現実。今は存在しない幻想。全ては彼方に追いやられ、真実を知る者は誰もいない。
"僕は、魔物が人間を苦しめさせるのを止めるために来たんだ! お前を殺すために来たんじゃない!"
記憶の中で少年は慟哭する。ついぞ真実を見抜けず、綺麗なものばかりを追ってきた自分に相応しい無様な末路。
"もう僕の目的は済んでるんだ! だからもう、お前の犠牲なんて必要ないんだ!"
だが、無様なのはあくまで自分だけ。人々は口々に少年を勇者と賞賛する。
大衆は分かりやすい物語を求めている。勇者が魔王を倒し、全てが平和になりました。そんな分かりやすい、単純明快な物語を。
"見事だ、勇者よ……"
ご都合主義など存在するわけもなく、物語はハッピーエンドで幕を閉じる。
これは人類史に刻まれた英雄譚の一節。誰もが望んだ幸せの形。
民衆の心象により捻じ曲げられた結末は、セイバーを決して離しはしない。
この記憶も、夢から醒めれば全て忘れてしまうだろう。勇者とはかくあるべしと望まれた姿に、魔王との繋がりなど必要ないのだから。
ふと思った。少しだけ垣間見えたマスターの記憶。そこにあった、マスターを兄を呼び慕う幼い少女の影。
家族などいないと言っていたマスターの、それは歪められたナニカなのだろうかと。
いや、どちらにしても同じか。頭を振り、セイバーは急速に覚醒しつつある意識の狭間で、薄れていく過去の記憶に思いを馳せた。
最早名前も顔も思い出せない誰か。
きっと証明してみせる。君を殺したことが、決して間違いなどではなかったことを。
君の死は、決して無意味なものではなかったのだと。
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【クラス】
セイバー
【真名】
ルカ@もんむす・くえすと!
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具-
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。
本来セイバーは神鳥ガルダを使役しているが、ライダークラスでの召喚ではないためランクが低下している。
【保有スキル】
虚偽の英雄:A
生前の思想を捻じ曲げられ、神と人々に祀り上げられた英雄。
人在らざる者と相対する時、全てのステータスと魔剣スキルが1ランク上昇する。
しかし、真っ当なる『人間』と相対する時、全てのステータスと魔剣を含む全てのスキルが1ランク下降する。
このスキルは決して外すことができない。
魔剣:C
魔族の扱う剣術。人を超えた豊潤な生命力と高い身体能力を活かした剣技であり、セイバーはこれを完全に会得している。
本来ならば最高クラスの適正を持つが、精霊の加護のランク低下と虚偽の英雄によりランクが低下している。
神性:E
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
始まりの天使である明星の血を引くセイバーの神霊適正は本来最高クラスであるが、虚偽の英雄により極限までランクが低下している。
信仰の加護:A(E)
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。
信心から生まれる自己の精神・肉体の絶対性であるが、ランクが高すぎると人格に異変をきたす。
虚偽の英雄によりランクが大幅に上昇している。
精霊の加護:E
自然を構成する四精霊の加護を受けており、精霊と同調することで魔剣スキルの性能向上及び固有のスキルを取得可能。
しかしキャスタークラスでの召喚ではないことと虚偽の英雄により、極限までランクが低下している。
なお、聖杯戦争において呼び出される精霊に自我は存在せず、扱える力も精霊とは思えないほどに劣化している。
【宝具】
『堕剣エンジェル・ハイロゥ』
ランク:- 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
かつてセイバーが振るった魔封じの剣。
しかし後世の逸話にこの剣は一切登場せず、セイバーがこの剣を振るったことを知る者は神を除き誰一人として存在しない。
存在しないものを持ち得る道理はなく、故にセイバーはこの剣を所有していない。
『天魔剣・混沌元素(カドラプル・ギガ)』
種別:対軍魔剣 レンジ1〜50 最大捕捉:50
四属性の魔力を剣に込めて絶死の衝撃波として放つ。この技で魔王を殺害した逸話から魔の属性を持つ者に対し特効となる。
この技の発動には4ターンの時間を要し、その間セイバーは完全に無防備な状態となる。単独ではまず発動できないであろう代物。
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【weapon】
女神の宝剣
煌びやかな外見の宝剣であり、掲げるだけで魔を退ける力を持つ。
……とされているが、実際は装飾過多な儀礼用の剣に過ぎない。一応は実用に耐えるだけの強度はあるが業物というには程遠い。魔を退ける力なんぞない。
セイバーが生前この剣を手に戦ったという虚偽の英雄譚から、聖杯戦争ではこの剣が与えられることになった。
リボン
色あせた黒色のリボン。一般に出回っている布製品と大差なく、これ自体に何かしらの効果はない。
それはかつて誰かにあげた親愛のしるし。伝承に捻じ曲げられる前のセイバーの名残を残す、唯一の物品。
これが何なのかさえ、セイバーが思い出すことは許されない。
【人物背景】
かつて勇者を目指し、魔物と人間の平和的共存を夢見た少年。しかしその在り方は後世の伝承により捻じ曲げられ、魔を討滅した英雄として祀り上げられる。
青臭い理想主義者のように見えて、実のところは悲観的かつ破滅願望持ち。村が疫病に晒された中で生き残ってしまったことに罪悪感と強迫観念を抱いていた。
本編中章、アリス殺害エンドの世界線における英霊。
【サーヴァントとしての願い】
「人」の世界の恒久的な平和/■■■との再会という願いは既に失われている。
【マスター】
ザイフリート@世界樹の迷宮Ⅲ 星海の来訪者
【能力・技能】
王様やってるだけあって政治手腕はそれなりにあるはず。機械技術にも精通する。
体を機械化しており戦闘能力は非常に高い。でもサーヴァントとやり合えるわけではない。普通に負ける。
精神耐性:長きに渡りディープワンっぽいのと戦い続けているため神秘の目撃に対する抵抗力がある。既に低度の精神汚染相当の障害を持っているに等しい。
【weapon】
機械化した体。右腕がでかい刃っぽいものになる。
【人物背景】
深海に存在する都市「深都」の王。外見は若い青年だが100年の時を生きている。
基本的には物腰穏やかで礼儀正しい性格だがどこか無機質で冷たい印象を受ける。
元々は地上世界の王族だったのだが、宇宙から飛来してきた「魔」とその眷属たるフカビトの侵略から世界を守るべく世界樹に協力し深都にてフカビトたちの侵攻を食い止めている。
長い時を生きるために体を機械化しており、そのために一部の記憶を失っている。
シスコンでロリコンでフィギュア作りが趣味で話相手はクジラと世界樹とアンドロしかいない。世界を救うために犠牲になった悲劇の王とかいって自分に酔ってるちょっと痛い子。かわいそう(公式設定画集原文ママ)。
•<●><●>カッ
【マスターとしての願い】
「魔」とフカビトを消し去り世に平和をもたらす/■■■■■■との再会という願いは既に失われている。
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投下を終了します。
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すみませんが、タイトルを「《機械修理》ザイフリート&セイバー」に修正します。
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みなさま投下乙です。
私も投下させて頂きます。
-
―――戦争は終わった。
戦艦サラマンドラが轟沈したことで、アメリア軍での私の扱いは生死不明ということにさせた。
思った通り父は悲しむでもなく、私を戦死英雄扱いし、国威発揚の道具にしたのだ。
その父に、クレッセント・シップを文字通りぶつけることで、彼とは決別できた。
驚愕の表情になったところを直接見られなかったのは残念ではあるが。
アメリアのほとんどの艦船を失い、ああして直接の恐怖を植えつけられたからには、
まあしばらくは姫様の邪魔をすることはあるまい。
私自身が父を打倒し大統領になる、という道も当然あった。
政治というものに興味はないが、確かに大統領という職は私にピッタリではある。
だがまだ、腰を落ち着けるのは早いと感じた。
大統領の息子という立場も。
アメリア軍の大尉という地位も。
クリムトン・ニッキーニという名さえ。
全てを捨てて、『クリム・ニック』として生きてみるのも面白い。
動かないままなら、始まらないというワケだ。
「どうしたんです? ぼーっとして」
ハワイにあるホテルの部屋。
隣に座っていたミック・ジャックが、コーヒーカップを手に問いかけてきた。
「ああ、すまない。少し考えごとをしていた」
「考えごと? ……お父様のことですか?」
「鋭いな、ミックは。……まあ、近いようなことだ」
私はコーヒーを飲み干し、立ち上がる。
「少し浜辺でジョギングをしてくる。戦争が無いからと怠けているのは性に合わんからな」
「クリムのお腹にお肉が付くのは嫌ですしねぇ」
「そーゆーことだ。行ってくる」
「行ってらっしゃい」
ひらひらと手を振るミックに片手を上げて応え。
銀色のカードキーを通し、部屋の扉を開いた。
◆
-
アーカムの街並みは、アメリアの宇宙世紀時代の遺産が残る街並みと、少しだけ雰囲気が似ていた。
勿論、辺りを這う蔦などは存在しないが。
リギルド・センチュリーより数千年も前の西暦という時代らしい。
「物が溢れ、科学が日々進化していく時代、か」
ノースサイドの高層マンションの一室から街を見下ろす。
道には車が溢れ、スーツを着たビジネスマンが忙しなく行き来していた。
その車ひとつとっても、各国各会社で操縦仕様が異なり。
ユニバーサル・スタンダードのようなものはなく、販売に関して競争に競争を重ねた弱肉強食の時代であるという。
強き者、優れた者が勝ち残る世界。
成程、私が呼ばれるに相応しい場所、といったところか。
「フ、フフフ……ヒャッヒャッヒャッ!!」
「ちょっと! いきなり気持ち悪い声を出さないでくれるかしら」
「おっと。これは失礼、戦姫さま」
青い髪を白いリボンで纏め、腕組みをしてツリ目でこちらを睨んでいる青き少女に、恭しく手を広げて礼を行う。
―――槍の英霊、リュドミラ=ルリエ。
人と人とが武器を持って直接戦う時代。彼女はその戦場を駆けた英雄なのだという。
「フン。ま、いいわ」
リュドミラも同じようにガラス越しに街を見下ろす。
「豊かな時代、というワケよね。
民は盗賊に怯えることも、他国の略奪に怯えることもない。
民は王を求めず、むしろ民自身が王に代わり執政の代表者を決める。
……そんな時代だったら、私も」
彼女は街並みを暫く見つめた後。
「……それで? 聖杯に賭ける貴方の願いっていうのは何なのかしら。
差し支えなければ教えてくださらない?」
視線をこちらに戻して訊ねてくる。
-
「残念ながら他者に叶えてもらう願いなどありませんよ。
願いというのは、自分の手で掴み取るものでしょう」
「……あら、そう。
顔に似合わず良い心掛けね。じゃあもしかして戦わずに降りるの?
残念だけど、その方法を私は知らないのだけど」
「ハッ! まさか!」
彼女の戯言を否定し。
私は片手を振って街全体が見える方向に広げる。
「これが戦争であるならば!!
この天才に避ける道などない。この手に勝利を掴んで見せる!」
広げた手を握る。
そして怪訝な顔でこちらを見つめてくる戦姫。
はて、上手く伝わらなかっただろうか。
「……願いが無いのに戦うの?
一体貴方は何のために戦うのかしら」
「愚問だな! 無論、私の誇りのためだ!」
「……ふーん」
やはりじっと見つめてくる姫。
値踏みするかの如く、上から下まで見られているようだ。
「アンタ、よく馬鹿だって言われない?」
「いや。よく天才だとは言われるが」
諦めたように彼女は深く溜息をつく。
「ま、いいわ。その心意気は買ってあげる。
誇りの為に戦う、という言葉、信じましょ」
リュドミラは手に青き槍を現出させた。
「―――槍の英霊、リュドミラ=ルリエ。
私の誇りに賭けて、この戦いに力を尽くしましょう!」
―――青き姫の槍を掲げる姿は、とても神々しく見えた。
-
【マスター】
クリム・ニック@ガンダム Gのレコンギスタ
【マスターとしての願い】
掴めプライド
【weapon】
なし
【能力・技能】
『天才』
自称。
モビルスーツパイロットとしての腕は一流であるが、そのことを我褒めするため、他の人物からは「天才」を揶揄の言葉として使われる。
常識通りではない行動・作戦を行う場合、運命を手繰り寄せ成功率を上昇させる能力。
【人物背景】
本名クリムトン・ニッキーニ。愛称で呼ばせているのは大統領の息子として偉ぶりたくないから。
オーバーアクション気味で演技掛かった立ち振舞が目立ち、また自らを天才と評しながらも抜けた部分があるなど、お調子者や三枚目という印象を与える。
自意識過剰で突飛な言動が目立つため、敵からも味方からも天才と揶揄されるが、
敵の判断力を誉めたりベルリの技量を評価する等、立場や偏見等のフィルターをかけず他者を分析できる。また、兵の統率力も高い。
常に強い上昇志向を胸に抱き、パイロットとしてモンテーロ、ジャハナム、ダーマ、ダハックと新型モビルスーツを次々乗りこなし確実に戦果を上げている。
『誰が死んでもおかしくない戦闘』であったギアナ高地戦において、その天才力を遺憾なく発揮する。
白旗作戦での醜態など、天才であることに度々疑問符が付くような行動を取るが、宇宙に上がり戦争の中に身を埋めていくことで、
戦いの経験を自信の裏打ちに変え、レコンギスタ作戦を見抜き、ビーナス・グロゥブの戦力を圧倒し、父に鉄鎚を下す本物の天才へと成長していく。
余談ではあるが、本人への公式インタビューにおいて、初期機体のモンテーロに未練はないのかという質問に対し、
「機体に未練はあまり無いが、ジャベリンだけは持っていってもよかったな」
と、物への割り切りと他者へのリップサービスという、とても彼らしい回答を行っている。
【方針】
これが戦争であるならば、様々な手を駆使して勝利を掴む。
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【クラス】
ランサー
【真名】
リュドミラ=ルリエ@魔弾の王と戦姫
【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
氷槍の真名開放中は1ランク上昇する。
【保有スキル】
凍漣の雪姫(ミーチェリア):C
戦場の英雄。軍を率いて多くの敵兵を屠った、一騎当千の戦姫(ヴァナディース)の二つ名。
同ランク相当の『カリスマ』(団体戦闘の自軍の能力向上)と、『軍略』(戦術的直感力、対軍宝具の有利補正)を併せ持つ。
また、防衛に長けた勇名から、防衛戦時においては有利補正が付く。
氷風の盾:C
槍から氷と風の衝撃波を展開し、遠距離攻撃(広範囲含む)のダメージを軽減、同ランク以下の場合無効化する。
仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。冷静に戦局を見極め、適切に速やかに撤退行動に移ることが可能。
気配感知:B
敵の接近をラヴィアスが感知し、冷気を放出して所持者へ伝達する。同ランクまでの気配遮断を無効化する。
単独行動:E-
マスターからの魔力供給を断ってもわずかなら自立できる能力。ランクE-ならば、マスターを失っても最大で30ターン現界可能。
政務、軍務の合間に単騎で各所へ気晴らしに出ていた逸話より。
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【宝具】
『雪姫放つ破邪の穿角(ラヴィアス)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
世界に七つ存在する『竜具(ヴィラルト)』の一つ。
氷槍の真名の開放時、数々の敵兵を屠ってきたその畏怖力が対象の戦場全体に伝播する。
また、真名開放中において、筋力・耐久・対魔力が1ランクアップし、下記『竜技(ヴェーダ)』を使用可能になる。
・『空さえ穿ち凍てつかせよ(シエロ・ザム・カファ)』
レンジ:1〜40 最大捕捉:100人
槍を中心に大気中や物体の水分を凍結・爆発させ、そこから生じた無数の氷を槍に変じさせ、周囲の全てを貫く大技。
全周を攻撃しつつ、任意の場所への攻撃を避けることも可能。
・『静かなる世界よ(アーイズビルク)』
レンジ:1〜40 最大捕捉:-
ラヴァイスの柄が突き立てられた地点を中心に、地面に付いた物質を凍結させることができる。
『心安らぐ戦場の紅茶』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:-
オルミュッツ公が戦場においても常に茶葉とジャムを持ち歩いた逸話により宝具化したもの。
その紅茶の香りと甘みは、振舞われた者の心を安らげる効果があり、対象の精神ダメージを少しだけ回復する。
なお、正気度がマイナス方向に変動するまでは、連続して使用しても効果はない。
【weapon】
・氷槍ラヴィアス
凍気を操る力を備える、伸縮自在の柄と透き通った刃を持つ槍。
真名開放中でなければ竜技は使用できない。
【人物背景】
ジスタート七戦姫の1人で、オルミュッツ公国の公主。
操氷の槍「ラヴィアス」を持ち『凍漣の雪姫(ミーチェリア)』という異名を持つ。
生真面目な性格で、戦姫という立場に自負と責任意識を持ち、また格式や礼儀作法にもかなりうるさい。
基本的に物言いは上品ながら、上記の理由から品位や礼儀に欠ける相手には侮蔑の態度を露わにする。
性格は高慢だが、自分に非があればそれを素直に認め、誰が相手でも謝罪する潔さも持っている。
また戦場においては、窮地においても聡明さを失わず、冷静かつ適切な判断が出来る人物でもある。
【サーヴァントとしての願い】
誇りを持って戦を行う。
【基本戦術、方針、運用法】
戦場の英雄がサーヴァントとして現界する典型的なタイプ。
パラメータとしては最上位層ではないが、その分通常運用において魔力消費量は少なく、魔力の無い天才クリムにとっては適したサーヴァントではあるだろう。
また、高めの魔力値とわずかながらも単独行動がついているため、宝具の開放についても問題なく行える。
『軍略』に相当するスキル持ちのため、対軍宝具であるラヴィアスの使いどころを間違うことはないだろう。効果的に宝具を使っていくべき。
槍兵ながら守りにおいて効果を発揮するスキルが多く、防衛戦を得意とするタイプ。
また、盟を重んじるタイプのサーヴァントであり、マスターであるクリムも政・戦において柔軟に対応できるため、同盟相手を探すのが常道か。
同盟相手のマスターにすら精神ダメージを与える『邪神聖杯戦争』で組める相手がいるのならば、だが。
その邪神戦争において精神ダメージを少量ながらも回復できるのは貴重。
実力的に勝ち抜くのは中々困難だが、クリムの天才的なムーブに期待してこの聖杯戦争に覇を唱えよう。
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以上で投下終了です。
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皆様投下ありがとうございます。
ランサーもだいぶ数が揃ってきた感じがありますが、私も投下しますね。
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アーカムの名を全土に知らしめるミスカトニック大学。
膨大な蔵書を有する大学図書館のイメージが強いこの学舎にも、近年は科学分野への追い風が吹いている。
最たるものは応用科学部の発展だろう。
20世紀初頭から存在するこの歴史ある学部は、最近目覚ましい成果を上げつつある。
特にエネルギー変換と伝達に関わる新技術の研究は応用性において従来の技術と一線を画しており、学内でも大きな話題を呼んでいた。
その研究を率いる教授もまた、理系学部の教職員や学生たちにとっては名の知れた存在であった。
「テスタロッサ教授!」
自身のゼミに通う女学生に呼び止められ、彼女――ミスカトニック大学応用化学部教授、プレシア・テスタロッサは無言で振り向いた。
白衣の似合う、美しい女性である。
歳は既に五十代であるはずなのにも関わらず、優に二十は若く見えるほどの美貌を保っている。
僅かにウェーブのかかった艶やかなグレーの髪、若い頃から特段の劣化も見せていない均衡の取れたスタイル。
初めて会う者が彼女の歳を言い当てることなど困難だろうし、男子学生の中には実年齢を知らないままに懸想する者も少なくない。
加えて、彼女は科学者としても極めて優秀であった。
彼女の打ち立てた理論はまるで別の世界の法則を元にしているかのように斬新で、前例のないものであった。
まるで魔術師のようだとある者達は賞賛し、大学図書館の稀少書に関わる一部の教授達はそれを聞いては顔をしかめていた。
とはいえ、彼女の才能を疑う者は、少なくともこのミスカトニック大学においてはほとんどいないと言っていいだろう。
にも関わらず、プレシア・テスタロッサ教授は有名人ではあっても人気者ではなかった。
険のある目つき。陰鬱な雰囲気。
何処か常に世界を呪っているような気配があり、それが人を遠ざけていた。
事実、今この時もプレシアは学生を一瞥すると、不快感を隠そうともせずに冷たく答えた。
「……何かしら? 私は今急ぎの用があるのだけど」
静かな、しかし威圧の意志の十分に籠もった声。
女学生が気圧され、それから再び口を開くに至るよりも早く、
「貴女も私のゼミの一員なら、くだらない質問で人の時間を奪うような真似は慎みなさい」
今度は完全な拒絶の言葉を吐き、その以上は一瞥すらくれずに歩き去る彼女の後ろ姿を眺めながら、女学生は深い溜息をついた。
一事が万事、あの調子なのである。
優秀な人なのは間違いないが、彼女は明らかに自分の意志で他人を遠ざけていた。
研究に関しては貪欲と言っていいほどの熱意を、それこそ執念じみた精神力を感じるのにも関わらず、
人間に対しては酷く淡白で、まるで人形か何かを見るかのような目で自分達を見るのだ。
ああいうところさえなければもっと学生達にも慕われるのに。
そう思いながら、少女は立ち去った。
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ミスカトニック大学の研究棟の一角に、誰も寄り付かない研究室がある。
最新の設備が揃ったその部屋を誰も気に留めないということはあり得ないのだが、事実、その研究室を訪れる者はいない。
ただひとり、プレシア・テスタロッサを除いては。
加えて、この研究室に魔術的な結界が展開されているのに気付いているのも現状では彼女だけである。
他ならぬ彼女こそがその術を施した張本人なのだから、当然といえば当然だが。
簡易的な魔術工房と化した室内を睥睨し、プレシアは眉間に皺を寄せた。
大学教授などというのはこの架空都市アーカムで充てがわれた仮の姿に過ぎない。
彼女は条件付きSSランクに認定される大魔術師であり、現在は時空管理局に追われる犯罪者でもある。
しかし、数多の世界を移動する魔法技術を持つ彼らも、このアーカムにまで手出しは出来ないだろうとプレシアは踏んでいた。
この街は、特別なのだ。
何がどう他の世界と違うのか、今はまだはっきりと説明することは出来ないが。
そしてその特異性は、そのまま『聖杯戦争』が確かなものであることへの裏打ちともなる。
彼女が仮初の職でありながらも熱心に実験に打ち込んできたのは、ひとえにこの時代の技術を自分のものにするために他ならない。
しかし、これでは駄目だ。魔術と組み合わせることで何か画期的なものが作れるかと期待してみたが、空振りに終わった。
やはり万能の願望器でなければ、プレシア・テスタロッサの願いは叶わない。
(私の望みを叶えるためには、聖杯が必要なのよ……!)
幾多の機械が魔術的整合性を持って組み合わさるその中心に鎮座するカプセルに、プレシアはそっと手を触れた。
その中に満ちた液体に揺られているのは、一糸まとわぬ少女であった。
年頃は学校に通い始めたかどうかといったところである。
アリシア・テスタロッサ。
この少女こそプレシアの愛娘であり……傷ひとつ無い体でありながらどうしようもなく死んでいる、魂の抜け殻であった。
彼女を生きかえらせるため、プレシアはあらゆる手段を用い、あらゆる犠牲を払ってきた。己の肉体すら代償とした。
それでも、届かなかった。
彼女の代わりとして記憶を引き継がせたクローンも、結局は出来損ないの紛い物だった。
だからこそ、聖杯戦争に挑む。
そう胸に誓うプレシアの瞳は、娘に注がれる時だけ温かいものであった。
しかし、次に振り向いて言葉を発した時にはもう、プレシアは冷徹な魔術師へと戻っていた。
「――それで、ランサー。首尾は?」
「……ごめんなさい、マスター。まだ、他のマスターもサーヴァントも、見つけられなくて……」
「そう。随分と時間を無駄にするのがお上手な英霊様ね」
「…………っ」
プレシアの吐き捨てる皮肉にうつむくのは、実体化した彼女のサーヴァントであった。
クラスは槍兵(ランサー)。携えるのは身の丈を越える長鎌(グレイブ)。
しかしその姿は華奢な少女のそれである。
肩に届かないぐらいに切り揃えられた黒髪。十二歳頃と思しき年齢相応の体格。
体に密着したコスチュームは胸元の大きなリボンと紫色のプリーツスカートが目を引く可愛らしいものだが、不思議な神秘性を放っていた。
そして、幼さと達観が同居した、儚げな美貌。
深窓の美少女という表現がぴったりの彼女は、とてもそのクラスに相応しい戦士には見えない。
だが、彼女こそがひとつの世界で最強にして最悪と称された、死と再生の戦士なのだ。
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「――破滅の化身『セーラーサターン』。確かに大した英霊だわ。ひとつの世界を単独で死に追いやることが出来るなんてね。
それで? ランサー、貴女はその力を私のアリシアのためには使ってくれないの? 私の願いは貴女にとってそんなに滑稽?」
「そんなこと……!」
「だったらどうして、すぐにでも敵を討ち果たしてくれないの? そう、私のことが嫌いなのね。悲しいわ、ランサー」
プレシアの悲嘆は感情の篭もらない白々しいものであったが、ランサーの少女――セーラーサターンは唇を噛み締めた。
サターンは沈黙の星「土星(サイクラノーシュ)」を守護に持つ、死と再生を司る滅びの戦士である。
単純な破壊力だけでいうならば太陽系セーラー10戦士の中で文句なしの最強。
しかし、だからといって聖杯戦争で最強であるとは限らない。
莫大な魔力による高い戦闘能力を持つ一方で、サターンは一切の探知系スキルや能力を有していない。
敵マスターやサーヴァントをこちらから捕捉して奇襲をかけるには、目視や大雑把な魔力探知に頼るしかないのだ。
加えてマスターであるプレシアから離れての単独行動。
更に一切敵の情報を持たない状態で、首尾よく戦果を挙げられるはずはない。
プレシアもそれは分かっている。
分かった上で、自身のサーヴァントを言葉で痛めつけているのだった。
「……私は、マスターの力になりたい。この気持ちに、嘘はありません」
「聖杯に懸ける願いはないと言っておきながら、信じられないわね。理由ぐらい言ってみなさい」
「……貴女のような人を知っているから。子を思う気持ちが強過ぎた人のことが分かるから。だって私の父も、私を思う一心で……」
同じように道を踏み外したなどと言えるはずもなかったが、それがセーラーサターンがプレシアに力を貸す理由であった。
サターン――土萠ほたるの父、土萠創一は実験中の事故で死に瀕したほたるを救うために、名状しがたき外宇宙の生命体に体を明け渡した。
タウ星系よりの来訪者に精神を乗っ取られた父は人類の敵となり、結果として多くの人間を傷つけた。
それでも父が自分をどれだけ大事にしてくれていたか知っているから――サターンは、我が子への愛ゆえに狂ったマスターを見捨てられない。
しかし、そんな想いが狂える母に伝わるはずもなく。
「私の理解者ぶって、随分と知ったふうな口を聞くのね……」
「違います! 私は本当に、マスターに幸せになってもらいたくて――」
「黙りなさい!」
プレシアの手中で瞬時に実体化した鞭がしなり、風を切る音を立ててランサーを打ち据えた。
短い悲鳴を上げて、その幼い体が冷たい床に転がる。
この程度の神秘でサーヴァントを傷つけられるはずもないが、ランサーは僅かに涙ぐんで主を見上げる。
その前髪を鷲掴みにして無理やり引き起こすと、プレシアは自らのサーヴァントに向けて憎しみすら籠もった視線を向けた。
「私にもう少し寛大さと言うものが足りなければ、令呪でとっくに自害させていたところだわ、ランサー。
英霊に祭り上げられた貴女と違って、私のアリシアは貴女の歳まですら生きることを許されなかったっていうのに……!」
「う、うぅ……」
「本当に不愉快だわ。英霊の映し身とはいえ、卑しい使い魔風情に同情されるなんて……。
でもいいわ、使ってあげる。貴女が心から私に尽くすというのなら、私の願いのためにその禁忌の力のすべてを捧げなさい。
そうすればもう少しは貴女のことを認めてあげてもいいわよ、破滅の使者セーラーサターン」
見るものがぞっとするような笑みを浮かべるプレシアを、しかしランサーは拒絶したりはしなかった。
同情ではない。憐憫でもない。ただ彼女の歪んでしまった愛を、もう一度本当の形に戻してあげたい。
たとえ形が変わってしまっていても、愛は愛。親が子を想う気持ちに、きっと嘘はないはずだから。
沈黙の星を守護に持つ死と破滅の死者、セーラーサターン。
この澱み切ったアーカムの街で、彼女は今一度、愛のために戦おうと決意した。
-
【クラス】
ランサー
【真名】
セーラーサターン@美少女戦士セーラームーンS
【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力EX 幸運E- 宝具A
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
【保有スキル】
守護星:EX
それぞれのセーラー戦士に固有の惑星によるバックアップ。
セーラーサターンは禁忌と破滅を司るとされる沈黙の星『土星(サイクラノーシュ)』を守護に持つ。
このスキルを保有する限り、マスターの適性に関係なく魔力のステータスは常にこのスキルのランクと同じになる。
EXランクの場合、実質的なパラメータはAランク相当だが、固有結界の中に限り上限を超えた魔力が行使できる。
献身:A
己の身を投げ打ってでも守るべきもののために戦う精神。
ランサーが自分以外の存在のために行動する時、その成功判定にプラスの修正が加わる。
病弱:C
天性の打たれ弱さ、虚弱体質。
保有者は稀にステータス低下のリスクを伴うようになるデメリットスキル。
サターンとしての彼女が病に苦しめられた逸話はないが、変身前の姿である土萠ほたるは病弱な少女であった。
破滅の化身:C
宇宙の死と再生を司る、滅びという禁忌の概念そのもの。
セーラーサターンの真名に辿り着いた者は正気度喪失の判定を行う。
名前だけを知るよりも、より深くその使命についての知識を得た場合のほうが判定失敗時に失われる正気度は大きい。
【宝具】
『沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:2〜10 最大捕捉:1〜10人
ランサーの身の丈を越える長さを持つグレイブ。鎌というよりも矛に近い形状を持つ。
魔力やエネルギーを吸収する能力を持ち、また逆に雷光状の魔力を放出することで遠距離攻撃も可能。
またランサーが持つ他の宝具の鍵にもなるなど、多彩な応用法を持つ宝具である。
必殺技は滅びの魔力で我が身もろとも相手を破壊する「沈黙の鎌・奇襲(サイレンス・グレイブ・サプライズ)」。
『不動城壁(サイレンス・ウォール)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
「沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)」を両手で掲げることで目の前に発現する、不可視の魔力城壁。
シンプルこの上ない防御宝具だが、ランサーの豊富な魔力により相手の宝具すら場合によっては受け止める堅牢さを誇る。
逆に言えば展開しただけでは認識出来ない以上、周囲へ与える正気度ダメージは漠然とした違和感程度に収まる。
なお、『城壁』という属性を内包するため、『対城宝具』には威力の大小に関係なく概念的に突破されてしまう。
『死世界変革(デス・リボーン・レボリューション)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:??? 最大捕捉:???人
セーラーサターンの最終宝具。破滅と誕生の戦士としての宿命が宝具化したもの。
自身を中心とした広範囲の空間を『世界の破滅』で塗り潰す固有結界。
『破滅する世界』そのものがサターンの心象風景であるため、固有結界へと取り込むことがイコール攻撃へと直結する。
守護星である土星よりのバックアップによって結界内は莫大な負の魔力で満ちており、いかなるランクの対魔力スキルでも無効化は不可能である。
ただし、破滅とは全てに等しく降りかかるものであり、爆心地にいるランサー自身もまた無傷でいることは出来ない。
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【weapon】
「沈黙の鎌」。
【人物背景】
沈黙の星・土星を守護に持つ、破滅と誕生を司るセーラー戦士。
その使命はセーラー戦士が守るべき幻の銀水晶の持ち主が死に瀕した時、世界そのものを破滅させて新生させることにある。
普段は少女らしいおしとやかな喋り方だが、サターンの使命を果たす時には凛々しい口調となる。
変身者の土萠ほたるは病弱でミステリアスな12歳の少女。
幼少期に事故に巻き込まれた際に外宇宙の存在「沈黙のメシア」に憑依され、その依代となる。
最終的にその体を乗っ取られるも、目覚めた彼女の精神力によって打ち勝ち、自身を取り戻す。
そしてセーラーサターンとして覚醒した彼女は敵の首魁であるエネルギー生命体の内部で力を開放し、刺し違えて命を落とした。
その後セーラームーンの力で赤子へ転生した彼女は父の元で育てられるが、新たな危機に際して8歳の姿に急成長、再覚醒することとなる。
なお聖杯戦争では英霊は全盛期の肉体で召喚されるため、初覚醒時の12歳の姿となっている。
ちなみに、セーラー戦士最強と称されるその能力ゆえか出番は極端に少ない。
アニメで12歳のほたるが登場するのは14話に過ぎず、変身後の姿はワンシーンのみ。まともな戦闘は転生後の一回だけである。
【サーヴァントの願い】
自分自身は使命に殉ずるだけで、願いはない。
しかしプレシアの狂気に至った理由が理解できてしまうため、たとえ虐げられても力を貸すつもりである。
【マスター】
プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは THE MOVIE 1ST
【マスターとしての願い】
愛娘アリシアを生き返らせ、こんなはずではなかった世界をやり直す。
【weapon】
「ミッドチルダ式ストレージデバイス」
あらかじめ魔術のプログラムを記憶させることで発動の補助を行う装置。
リリカルなのはシリーズにおける魔法の杖にあたる存在であり、プレシアのものは一般的な杖の形をしている。
あくまで発動の補助のためのものであり、これがなければ魔術が使えないというわけではない。
【能力・技能】
条件付きSSランクと評価される優秀な魔術師。
魔力の保有量が他の魔術師よりも特別勝っているというわけではなく、外部由来の膨大な魔力を運用することに長けた魔術師である。
娘のクローンであるフェイトと同系統の雷撃系呪文を主に使うが、威力は群を抜いており、空間を跳躍させて攻撃することすら可能。
また、工房による魔力のバックアップがあれば複数の傀儡兵を同時召喚して使役することなどもできる。
しかし体は病に蝕まれており、負担の掛かる大魔術は命を縮めることとなる(強力な魔術師でありながらデバイスに頼る理由でもある)。
また精神を病んでおり、初期段階でEランク相当の精神汚染スキルを所持している。
【人物背景】
「魔法少女リリカルなのは」第一期の黒幕。
フェイト・テスタロッサの(遺伝上の)母親であり、創造主。彼女に命じてジュエルシードを集めさせていた。
彼女自身も卓越した魔術の才能を持ち、劇中で次元跳躍攻撃を敢行した唯一の魔術師である。
かつては優秀な技術者であったが、実験中の事故で愛娘アリシアを失い、蘇らせようと万策尽くすが失敗。
娘の記憶を引き継がせたはずのクローン・フェイトも代わりにはならないと知り、精神に異常を来たす。
以降はフェイトの自身への愛情を利用して道具として使う一方、失われた魔法技術が眠るとされる忘却の都「アルハザード」を目指していた。
終盤で魔法管理局に本拠地へ踏み込まれるも魔術師達を一掃、アルハザードへの転移を試みるも追い詰められ――銀の鍵を使用する。
なお、劇場版ではTV本編で語られなかった多くの設定が映像化されており、プレシアはある意味で影の主役と言っていい立ち位置になっている。
【方針】
あらゆる手段を使ってでも勝利する。
ランサーの能力は評価してはいるが不愉快にも思っており、道具として使い潰すつもりでいる。
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投下終了しました。
-
投下します
-
一人の女が復讐がため、聖杯を求める。
手段は選ばない。
どんな手を使おうが。
どれだけその手を汚そうが。
彼女は聖杯を求める。
銀の鍵は手に入れていた。
アーカムへの扉は開いた。
そこにいた彼女のサーヴァント。
「アンタが俺のマスターか?」
「そうだが……貴様はなんだ?」
「OK! ピンクキャット! 俺はアーチャー……人呼んで『さすらいの賞金稼ぎ』さ!」
そのサーヴァントはどことなくチャラかった。
◆
-
イーストタウンの民家の地下室。
そこに彼女は拠点を作った。
張り巡らされたコードとそれに繋がれたモニター。
モニターに映し出されるアーカム市各地の監視カメラからの映像。
「……まだ大きな動きはないか」
特製の飴を舐めながら、全てのモニターに目を通す。
ここ数日間徹夜でアーカムの監視を行う。
偵察に自分のサーヴァントは使わない。それで十分であったからだ。
それを行っているのはピンク色の長髪で眼鏡を掛けている女性。
だが、目を引くのはそのピンク色の長髪ではない、猫の耳と2本の尻尾だ。
猫科の亜人種といえば分かりやすいだろうか。
彼女の名は『ココノエ=A=マーキュリー』。
「ヘイ、不眠不休ガール、何か動きはあったかい?」
「ない……それよりもアーチャー、私のことはマスターと呼べ」
「OK、不機嫌マスター!」
「…………チッ」
その後ろで銀色の髪にテンガロンハットをかぶった男がいる。
アーチャーと呼ばれたが、カウボーイ風のガンマンである。
ステーク付きの銃剣とリボルバー式の長い拳銃を携えたアーチャー。
男の名は『ハーケン・ブロウニング』。
『さすらいの賞金稼ぎ』にして『世界を創り変えた男』である。
「ああ、全くヒマだぜ……なあ、ミスター?」
『………!』
そのハーケンの近く。
全高3mほどの黒き機械兵器がいた。
その姿はまるでハーケンの付き人のようであった。
「ま、俺は適当に外の風でも当たってくるぜ」
「待て、アーチャ―」
ココノエは部屋の外に出ようとするハーケンを呼び止める。
「なんだ。引き籠りマスター?」
「そんなことを言って、他のマスターやサーヴァントを探しに行くのではないのか?」
「そんなことはしないさ、約束さ」
「……………」
ハーケンはカッコつけてとてもキザったらしく振る舞う。
それを見て、大きく溜息を吐くココノエ。
そして、静かに鋭くハーケンに告げる。
「……いいか、まだ我々が動く時ではない。
他の陣営が動いた時が、我々が動く時だ」
「オイオイ、それじゃあ俺達が後手に回るんじゃないのか?」
「問題ない、そのためのこのアーカム市内の監視だ。
他のマスターが動けば、私が分かる」
他のマスターを補足・監視するためにアーカム中の監視カメラにハッキングを仕掛けた。
戦いではなく、戦争をするためにこの地に来たのであるから、それくらいはするのが科学者として当然だ。
-
「いいか、サーヴァントなど所詮、他のマスターの使い魔だ。
無論、お前も同じだ……だからこそ、使い魔を操る側……他のマスターを見つけ次第、私が殺す。
お前はその間、他のサーヴァントの交戦し時間を稼げ、勿論倒しても構わないがな」
「オーライ……だがな、ジェノサイドマスター……」
「なんだ? 嫌なのか?」
「俺の相手が女のサーヴァントだったら手加減させてもらうぜ!」
「何故だ!」
「俺のプライドさ!」
「アーチャー、貴様ふざけてるのか!」
「おっと、怒ってるのかい?」
「当たり前だ!」
「OK、リアリストマスター、プライドの持ちようってのは人それぞれさ!」
「貴様はサーヴァントだろ!」
「オーライ、揚げ足取りマスター……まあ、他のサーヴァントを探しに行くようなことはしないさ」
「……今、外に出ることを許可するが、絶対に他のサーヴァントと交戦はするな。
いいか、アーチャー! 確実な勝機があるとこそが、我々が戦うときだ!」
「OK、ツンデレマスター!」
「誰がツンデレだ!! もういい、外に行きたければ、さっさと出ていけ!」
「OK 不機嫌マスター……」
そうしてすぐにそそくさとハーケンは地下室から出た。
その後もココノエはアーカム中の監視を続けた。
どんな手を使ってでも確実に勝利し、聖杯を手に入れるために。
そして、その聖杯で自分の母を殺した、ただ一人の男を完全消滅させるためだけに。
「様々な世界や刻の英霊が交り合った……このアーカムという新たなるフロンティアか……」
地上への長い階段をぼやきながら歩いていくハーケン。
自分のマスターにどれだけ罵倒されようが女の前ではクールに振る舞う。
それが彼はポリシーであるため、それを徹底する。
「全く異世界ってのはどこも退屈しないぜ、これがな」
-
【クラス】
アーチャー
【真名】
ハーケン・ブロウニング@無限のフロンティア スーパーロボット大戦OGサーガ
【パラメーター】
筋力:B 耐久:B 敏捷:C 魔力:D 幸運:B 宝具:A+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
・単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
・対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
・開拓者精神:A
旺盛な意欲と行動力、前人未到の分野に踏み込むことを恐れない勇気。
探索などに優れる。
・ハンターの鉄則:A
狙った獲物は逃さない。
所謂、スパロボにおける『必中』。
・曲撃ち:A
銃火器を変則的な曲芸的に撃つことが出来る。
アクロバティックな銃捌きが可能。
・星の開拓者:EX
人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
あらゆる難航・難行が、「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。
その時代の記述力では一歩足りない難行を人間力だけで乗り越える、一握りの天才ではなくどこにでもいる人間が持つ『誇り
』を燃し尽くす力。
【宝具】
『切り札(ラスト・ショウダウン)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:1〜3人
『ロングトゥーム・スペシャル』の砲身を展開して放つ極太ビーム。
また星の開拓者スキルの効果を最大限に受けるため、どのような相手でも倒せる可能性を持つ。
世界を創り変えた一撃。
【Weapon】
・ナイトファウル
ステークの発射口とリッパーを取り付けた、大型の複合銃剣。
・ロングトゥーム・スペシャル
リボルバー式の長い砲身を持つ拳銃。
通常は実弾を発射するが、『クロンダイク・モード』をセットすることで砲身が展開し、
極大サイズのレーザーを発射することが可能となる。
・カード爆弾
トランプ型爆弾。
・ファントム
ハーケンに付き従う全高3mほど黒いロボにしてハーケンの相棒的存在。
『ニュートロン・ブラスター』や『究極!ゲシュペンストキック』等の武装を所持しており
また、ハッキングを仕掛ける電子戦装備も搭載している。
【人物背景】
ロストエレンシア出身で「さすらいの賞金稼ぎ」と呼ばれており、陸上戦艦『ツァイト・クロコディール』の2代目艦長。
クールでニヒルな性格だが、それ以上にキザな人物で女性に対しては特に甘い。
しかし、彼の女性への態度は口だけではなく、女性に対しては絶対に弱みを見せない、
女性のためなら命を賭けるのも厭わないという行動にも表れており、一種の美学と化している。
また他人の事はあだ名を付けて呼ぶ事が多く、名前で呼ぶ相手は少ない。
【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを叶える。
-
【マスター】
ココノエ=A=マーキュリー@BLAZBLUE
【マスターとしての願い】
どんな手を使ってでも聖杯を手に入れる。
【weapon】
自作したガジェット各種
【能力・技能】
・科学
科学力と技術においては天才の領域である。
・精神改造
自身の精神を改造しており、機械的にまでに殺すことに躊躇が無い。
【人物背景】
第七機関に所属する女科学者で、自他共に認めるマッドサイエンティスト。
科学という手段でもって、母の仇の『ある男』を完全消滅させようと日夜研究に明け暮れている。
地上最強の生物である獣兵衛を父に、最高の魔法使い十聖であるナインを母に持つ半獣人。
その出自のためか自らは科学技術に傾倒しており、格闘や魔法を使うことを嫌がっている。
(実力が「生まれたときから上限」であるため、どれだけ鍛えてもそれ以上にはならないらしく、それを補うためとも考えられ
る)
常に冷静かつ冷徹だが、痛いところを突かれると激昂する激情家の一面もある。
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投下終了です
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皆さん投下乙です
私も投下します
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意識が、朦朧とする。
「じかんが、ない」
「てんちょ……たすけなきゃ……」
だけど、そのためには。
血が足りない。
肉が足りない。
魂が足りない。
何もかもが足りなくて足りなくて。
お腹が、空いた。
「ヒト、殺して、喰って」
皆を救うために。
喰うために。
殺すために。
奪うために。
「殺す……?奪う……?」
違う。
こんなのは僕じゃない。
僕の意志が僕の意志ではなくなり私の意志になり俺の意志になり。
僕が私に俺に僕が僕が私が俺が俺が俺が私が僕が僕に私に僕が私に。
「クズ豆は摘まないと」
僕の中のリゼが。
「奪わなきゃ奪われる」
僕の中のヤモリが。
「■■■■■■■■■」
ボクノナカノムカデガ。
頭の中に、這入ってくる。
頭の中から、這い出てくる。
「やめろやめろやめろやめろォォ!!!」
僕《人間》が私と俺《喰種》に、喰われていく。
-
性格が喰われ。
思考が喰われ。
思想が喰われ。
「僕の身体から出てけえッッ!!!」
うねる赫子を動かしているのは、果たして本当に金木研なのか。それとも、リゼなのだろうか。
壁に僕の頭を叩きつけているのは、果たして本当に金木研なのか。それともヤモリなのだろうか。
殺したいと望み、壊したいと望み、奪いたいと望み、喰いたいと望み。
そんなどす黒い望みと共に仲間たちを救いたいとさえ望んでいるこの《僕》は、本当に《僕》なのか。
「よこせええええ俺のニク!」
「私のおおおおおお!」
違ったのだ。
僕は喰種を喰ったのではない。
僕が喰種に喰われていたのだと。
今更に自覚する。もう遅い。
ムカデのマスクは、もう剥がせないほど僕の顔面に喰い込んでいた。
そんな中で。
「よう、カネキ」
聞こえてはいけない、聞き覚えのある、声がした。
「…………は?」
ぴたりと、僕の中で争っていた僕たちの全てが停止した。停止せざるを得なかった。
それは、ここにあってはいけない異物だ。
喰種としての金木研には全く必要のない存在だ。
人間としての金木研にはなくてはならない存在だ。
だから。
喰種としての時間で、彼と会ってはならない。
金木研の根幹がギシギシと歪む音が、どこか遠くで聞こえた気がした。
「また変なの見えてる」
ずぶずぶと、汚水に腰まで浸かりながらこちらにやってくる人影など、見えない。
「ここにいるはずない、幻覚だ」
彼が放つ言葉も、息遣いも、心臓の音も、嘘っぱちだ。
-
「夢だ夢だ夢だこれは夢
否定。
よくあるぼくにはよくあること
逃避。
だってじゃないとぼぼく僕
混乱。
が喰種になったって……
絶望。
ヒデ デに
ヒデに……
ヒデに……!!」
虚無
「そうだ、ヒデなどここにはいない」
-
顔を上げる。
そのヒトは、僕に手を差し出していた。何か小さなものをこちらに渡そうとしているようだった。
ムカデの奥で、その黒いヒトカゲを凝視する。長身痩躯の黒い肌。
なんだ、ヒデとは似ても似つかない。
どうして僕はこのヒトをヒデと間違えたんだろう。馬鹿馬鹿しい。
彼がこんなところに、喰種討伐のために封鎖された20区の、下水道なんて場所にいるはずなどないのに。
無意識にでも救いを求めてしまったのだろうか、こんなことヒデに知られちゃったら恥ずかしいな、ハハ。
「さあ、この鍵を」
だったら。
「扉を開きたま
ヒデじゃないなら
喰 べ て も い い よ ね
男の腕に齧り付く。悲鳴。
赫子が男の身体を貫く。断末魔。
ぐしゃりぐしゃり。痙攣。
食べやすいように解体していくのも慣れたものだ。一礼。
一心不乱にそのニクを口に詰め込む。咀嚼。
おいしい。美味しい。オイシイ。嚥下。
男の顔がころりと転がって来た。捕捉。
そういえば、聞いたことがある。回想。
喰種にとって、頭部はまさしく食事の顔なのだと。一休み。
確かに、こうしてみれば添えられた華のようなものなのだな。納得。
そんなことを考えながら口を動かしていると、気付かないうちにバリバリと何か硬いものを噛み砕いていた。銀鍵。
-
あれ
醜く歪んだ男の死に顔が
嗤ったような
「本 当 に 食 べ て し ま っ た の か」
ぐらりと、ぐにゃりと、意識が堕ちていく。
男の言葉が、男の顔が、自分の行動が、どういう意味を為したのかは分からない。
いや、分かったところで、既にどうしようもないのだろう。
だって僕は、もう
-
■ ■ ■
僕は小説の主人公でも何でもない。
だけど。
もし仮に僕を主役にひとつ作品を書くとすれば。
それはきっと――――悲劇だ。
ナルホド、面白イネ。
他人ニ無理ヤリ挙ゲラレタ舞台デ、意外ト上手ニ『悲劇』ノ主役ヲ務メルトハ。
ダカラコソ、誰カヲ喰イモノニシテ、ソレ以上ニ誰カニ喰イモノニサレル君ダカラコソ。
誰モガニ噂サレ、好キ放題ニ尾ヒレヲ付けラレ、暇ツブシノ話ノ種ニサレル、最大級ノ喰ワレモノ。
『都市伝説』ニ相応シイノカモ、シレナイネ。
都市伝説『この都市には白髪の人喰い鬼がいる』
■ ■ ■
-
腹部に受けた軽い衝撃で目が覚めた。
目の前には驚愕の表情で僕を見つめる浮浪者じみた男。
あたりを見渡すと、ここはいかにもスラムというような汚らしい路地の一角であることが見て取れる。
と、ここまで考えが及んだとたん、僕は唐突に《僕》のことを思い出した。
いや、思い出したというよりも、刻まれたというべきか。
例えば、コンピュータに新しいプログラムがインストールされるように。
このアーカムにおける「ケン・カネキ」の情報が、頭の中に流れ込んでくる。
ケン・カネキは、この《ロウアー・サウスサイド》という地区では特に珍しくもないホームレスだ。
元々は日本からやってきた観光客だったのだけど、スリに合い、強盗に会い、全てを奪われて、この場所で生きていくしかなくなった。
警察に駆け込めばよかったのだろうけど、こちらにはこちらの、喰種の事情もあり、そういうわけにもいかなかったのだ。
最初は途方に暮れたものだったけど、今は既にこの環境に適応し、そこそこ腕っぷしが立つ『使える』男として、知り合いも増えてきた。
そんなある日、この貧民街で連続殺人事件が起こる。
狙われたのは皆ホームレス。身寄りのない弱者をストレス解消のために狙ったのではないかと噂されたことが新たな記憶として刻まれていく。
警察はいかにもやる気が出ないといった捜査体制で、このままだと事件解決など望めるはずなどなく。
僕はそんな状況の中で脅え続ける知り合いのホームレスたちのために、独自に行動を開始したのだった。
そして今、僕の腹部には折れたナイフの柄が当たっており、そのナイフの先には驚愕で目を見開いた男がおり。
足元を見ると、折れ曲がったナイフの刃の部分が落ちていた。喰種の肌に突き刺そうとして、逆に折れてしまったのだろう。
僕は今、この男に刺されかけたらしい。
(と、いうことは)
「すみません、貴方が連続殺人犯で間違いないですか?」
「ヒ、ヒィィィィィィィィィィ!化け物ォォォォォォォォォ!!!」
逃げ出そうと背中を向けて走り出した男に一足で追いつき、衣服ごと身体を片手で摘み上げる。
喰種にとって、この程度のことなど造作もない。
-
しかし、ここからどうするか。
警察に突き出したら僕が化け物だって言われてしまって疑惑の目を向けられかねないし。
どこかに縛り付けて匿名で通報しても、結局は男の証言からこの地区に化け物、喰種がいるかもしれないという情報を警察に与えてしまいかねない。
今日はマスクもつけていないのでこの殺人犯にも顔を覚えられてしまった、困った。
かといってこのまま見逃すという線はもっとない。本末転倒だ。
……結論。
「貴方、邪魔ですね」
「へっ」
有無を言わさず、男の頭を捩じ切る。死亡確認。
ふう、最初からこうしておけばよかったんだ。
邪魔な障害は排除すべき。間違いない。
さて、あとはこの男の死体を処理して……お腹も空いているし、食事も兼ねようか。
みんなにはどう伝えようかな。いっそ何も語らず、連続殺人事件が風化するのを待つのもありかもしれない。
そうやって思考を張り巡らしながら、周りに誰もいないかをしっかり確認しようと感覚を鋭敏に尖らせた、その矢先。
「にゃぁ」
猫がいた。
もっと正確に言えば。
身体に無線機を括り付けられた、猫がいた。
『ハジメマシテダネ。我ガマスター』
それが、僕と『ウォッチャー』の出会い。
そして、日常を取り戻すための新たな戦い、『聖杯戦争』の始まりだった。
-
■ ■ ■
金木研は気付かない。
この聖杯戦争の裏に潜む陰謀も。
サーヴァントを倒すとマスターが発狂してしまうというルールも。
そして、『ウォッチャー』は決して金木研の味方ではないということも。
彼ハ全く気付かず、新たな悲劇の舞台に足を踏み入レる。
それは以前と全く同ジく、破滅にしか至らぬ道だというコとにも、気付かナイママ。
ソレデハ、諸君。
『悲劇』ノ観測ヲ開始シヨウ。
【おいおい】【勝手に話を進めてんじゃねーよ脳幹】【っていうかなにこれ】
【うわ、なんか勝手に知識流れ込んできた、気持ち悪】【聖杯戦争?】【サーヴァント?】【マスター?】【ウォッチャー?】
【わけわかんねー】【意味わかんねー】【でも】【面白そう】【どうせやるなら】【楽しみたいね】
【伝説作っちゃう?】【それは前にやった】【じゃあどうすんの】【それより上だ】【神話?】【それだ】【それだ】【それだ】
【俺たち以外の伝説に会うってのもなかなかオツじゃね】【あんまり派手にやらかさないでくれよ?こっちはアーカム住みだ】【ざまあwwwwwwww】【死ね!!!】
【金木君だっけ、好みかも】【は?あんなんキモいだけだろ、人喰いだぜ?】【こわちか】【でもあの危うさが魅力的っていうか】【狂ってるけど儚い系】
【俺は応援するぜ、俺たちのマスターだしな】【その事実が気に喰わない僕のような存在も忘れないでくれたまえ】
【たとえ彼が私たちのマスターだとしても、私たちの行動方針は変わらずにいるべきだということをここに意志表明させていただこう!私たちバネ足ジョップリンは】
【傍観者だろ】【観測者だろ】【分かってる分かってる】【脳幹さんだってそこは弁えるでしょ】
ソウダネ。私タチはアクマデモ観測スル存在。
誰カ一人ダケヲ贔屓スルコトハナイヨウニ心掛ケヨウ。
ソレハソレトシテ、神話ヲ作ルトイウノハ中々ニ魅力的ナ提案ダネ。
金木クンは金木クンで頑張ルヨウダケド、私タチは私タチデ、コノイレギュラーイベントヲ楽シマセテモラウトシヨウ。
嬉シイコトニ、観測ニ値スル種ハ沢山転ガッテイルヨウダシネ。
ネエ、『キーパー』サン?
-
【マスター】
金木研@東京喰種
【マスターとしての願い】
『あんていく』の仲間たちを救いた「本当に?」「この世のすべての不利益は本人の能力不足、そうだろう?」
「貴方は誰かを助けたいんじゃなくて、結局は自分が救われたいだけ」「どんな願いも叶うのだから、もっと自分に正直にさあ」
「喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰う喰喰喰喰」「壊して壊して壊して壊して壊壊壊壊」
『あんていく』の仲間たちを救いたい。
そのはずだ。
【weapon】
腰回りから生え出る四本の鱗赫。
暴走した場合のみ、赫者として右腕に百足を連想する冒涜的な赫子と全身に鎧のような装甲を纏う。
【能力・技能】
喰種(グール)特有の超人的な身体能力、回復能力、通常の武器では傷つけることさえ出来ない皮膚を持つ。
それに加え、金木は腰回りから触手のような四本の鱗赫を生やし、自在に操ることで高い戦闘能力を誇る。
また、金木の正気度が一定以上減少した場合、喰種同士の共食いを行った者が稀に発現する進化形態、赫者(金木は正確には半赫者らしい)へと変貌し、更に強力な『喰種』となる。
金木研は人間《探索者》であると同時に喰種《神話生物》である。
彼が正気を喪失、もしくはサーヴァントを失い発狂した場合
ただの発狂したアーカム市民として一生を終えることは出来ず、神話生物としてこの街に災厄をもたらす存在となる。
【人物背景】
彼の物語をたった一言で表すのならば
それはきっと『悲劇』だ。
東京喰種14巻より参戦。
【方針】
『ウォッチャー』の能力により付与された神秘を用い、自らの力でサーヴァントを倒す。
できればサーヴァントを倒すだけに留めマスターを殺したくはないが『摘む』必要があるなら……。
-
【クラス】
ウォッチャー
【真名】
バネ足ジョップリン@がるぐる!
【パラメーター】
筋力- 耐久- 敏捷- 魔力- 幸運- 宝具E
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地観測:A
『傍目には魔法のような科学を用いる』キャスターの変則クラスであるウォッチャーは「監視カメラ等の機械で観測されている」場所を自らの陣地として自在に観測を行うことができる。
逆に、それらが存在しない場所に対してウォッチャーは存在そのものが許されない。
但し後述スキル『群体』と後述宝具『呼び声届ける異世界の使者』による特別な観測、干渉は可能とする。
単独観測:B
『電波を飛ばす』アーチャーの変則クラスであるウォッチャーはマスターを失っても数日間、観測を続けることができる。
ウォッチャーは『バネ足ジョップリン』というシステムの起点となった男がこの世を去り、観測の理由がなくなっても観測を行い続けた。
【保有スキル】
分割思考(偽):D
思考中枢を複数分割して行う思考法。『バネ足ジョップリン』の思考中枢は仮想的ではなく実際に複数存在する。
通常よりも高速な思考を行えるが、まとまりのない意見となることもしばしば。
群体:C
『バネ足ジョップリン』とは『脳幹』と呼ばれた中心人物こそいるものの、様々な存在が観測のためだけに集まった一つのシステムである。
よって、このアーカムシティにおいても彼らは紛れ込み、様々な手段を用いて観測し他の『バネ足ジョップリン』たちに情報を供給している可能性がある。
世間話が大好きなお喋りおばちゃんが。様々な事件に首を突っ込む新聞記者が。とあるマフィアの情報部が。ネットサーフィンが大好きな引きこもりが。あなたの部屋の隣人が。
『バネ足ジョップリン』の一員であるという可能性は誰にも否定することが出来ない。
伝説の観測者:A
『バネ足ジョップリン』は己が都市伝説であると同時に伝説を観測する存在でもある。
彼らが認め、あらゆる情報網を利用しアーカムシティに『都市伝説』として広めた存在は、サーヴァントと同レベルの神秘を付与され伝説の担い手となることができる。
代償として『都市伝説』となった存在は他者に『都市伝説』として見られやすくなり、本来の自分とはかけ離れた評判を得てしまう可能性もある。
遠隔存在:EX
『バネ足ジョップリン』の本体である『脳幹』はそもそもこのアーカムシティに存在していない。
彼は電波を、声だけを飛ばしてアーカムシティに干渉する。
よって、通常の手段ではウォッチャーを攻撃することは出来ない。電話の向こうにいる相手には決して拳が届かないように。
【宝具】
『呼び声伝える怪電の波(バネ足ジャック)』
ランク:E 種別:対機宝具 レンジ:∞ 最大補足:1
『ウォッチャー』が観測している地点の電子機器をジャックし彼自身の声を届ける、ただそれだけの宝具。
この宝具を用いることで初めて『ウォッチャー』はアーカムシティに干渉することができる。
また、この宝具によって届けられた声もまた宝具扱いとなるため、彼の声を聞いてしまった者は正気度チェックを行う必要があるものとする。
『呼び声届ける異世界の使者(Mew Mew)』
ランク:E 種別:対猫宝具 レンジ:1 最大補足:1
無線を括り付けられた可愛い猫を召喚する、ただそれだけの宝具。
主な使用用途は前述宝具を用いて無線をジャックし、『ウォッチャー』の声を他者に届けること。
この宝具の本質は猫そのものではなく『猫を召喚すること』なので、猫を見ても正気度は減少しないものとする。
つまり、この宝具によって召喚された猫は本物であり生ものでもある。
殺してしまうと死体が残るし、餌をあげれば懐くこともあるだろう。
-
【weapon】
『ウォッチャー』に攻撃手段は存在しない。
彼らはあくまでも観測者であり傍観者である。
【人物背景】
【とある島内の都市伝説】
【その正体は】【多くの監視カメラと】【無線機による島内の情報把握を行う】【集団だよっ。キャハッ】
【主に観察してっけど】【時に現実に干渉してさ】【誰かを導いたり】【誰かを陥れたり】【誰かを躍らせたり】
【我々は、誰にも情報を漏らさないと思われる人物を仲間に誘うのだよ!】
【バ、バネ足ジョップリンは!と、と、都市伝説であるためにその正体を知られるわけにはいかなくて!だから!僕たちは!ああっ!】
【うぜえ】【死ね】【殺すぞ】【むしろ生きてしまえ】
【我々、アーカムにもいるんですけど、私はあくまでも観測だけを目的としてますんで】【変に深入りして死にたくないしなあ】
【サーヴァントに生身で勝てるわけないし】【干渉はあくまでも脳幹さんに一任ってことで】
【まあ、そういう存在ですよっと】
【サーヴァントとしての願い】
特になし。
しいて言うなら自分を『バネ足ジョップリン』とした男、八房ともう一度会って話したい。
また、自分以外の『伝説』となった人間であるサーヴァントたちにも興味あり。出来れば接触してみたい。
【基本戦術、方針、運用法】
ウォッチャーは戦わない。
彼らはただ情報を集め、情報を用いて、他参加者を面白おかしく躍らせるためだけに存在している。
この物語を『神話』に昇華できれば一番面白いと思っているが、現実への過度ナ干渉は避けル方針。
よってマスターであル金木へのサポートモ極力行うつもリハナイ。
ソレデハ、諸君。
観測ヲ開始シヨウデハナイカ。
-
以上で投下を終了します
ウォッチャーがキーパーを認識している事実が反則でしたらその一文は取り下げようと思います
-
投下します。
-
たとえ、忌まわしきあの魔女裁判がなくとも、人というものは闇を恐れる存在である事に変わりは無いはずだ。
人は、その恐れから目を背け、自身が生まれる前の歴史など、意味が無かったことのように振舞っている。
人は、過去の記憶を断ち切って生きていけるものだろうか?
自己の立つ場所が、いったい何時から、どこから繋がっているのかも知らずに……
私は、新聞記者として生きてきた。 真実を掘り出して記事を書く……
しかし、この街では、真実など新聞記者ごときが触れられるものではない事がよくわかった……
それに、本当に知らなければならない真実は、この街の誰も知ろうとしていない。
私は知りたい! 知らなければならない事を……!
■ ■ ■
-
「"包帯男"がやってくるぞ!」
「逃げろ逃げろー!」
学校からの帰り道、"彼女"はすれ違う子供がそう言い合うのを聞いた。
"包帯男"――それは最近この街で流れている噂話だ。
曰く、全身に大火傷を追った男がこの街を徘徊している。
曰く、その男はボロボロのスーツと包帯に身を包んでいる。
曰く、包帯男に出会ってしまったものは二度と帰ってこれない。、
その噂を最初に聞いたのはどこだったか。
友達との何気ない雑談の中だったか、恋人とのメールのやりとりの中でだったか。
確かなのは自分だけでなく、その噂はそこかしこで話題に登っているということ。
ただ"彼女"は元々そういうホラーのたぐいは苦手なのだ。
早く家に帰ろう――思わず歩みを早める"彼女"の目に何かが舞い込んできたのはそのタイミングだった。
――紙切れが舞っている。
それは学校で配られるプリントのような質の悪いコピー紙に印刷された何か。
普通ならばゴミが風に飛ばされてきた、それだけで済む話だ。
だがそれは一枚や二枚ではなかった。
灰色の空を見上げれば数百枚の紙切れが、宙を舞っている。
誰かのイタズラにしては質が悪い。
ここはダウンタウン。
フレンチ・ヒル程ではないが治安もよく、人通りも多い地域だ。
そんな場所で大量の紙をばらまけばどうなるか。
事実、大通りでは急ブレーキの音やクラクションの音が鳴り始めている。
それにしてもこれは一体何なのだろう。少女は地面に落ちたそれを何気ない気持ちで手にとった。
「ひっ……」
だが紙に描かれた冒涜的な絵に思わず悲鳴を上げそうになる。
不気味なタッチで描かれた蛸の化け物の絵には、本能的な嫌悪感を掻き立てられる何かがある。
裏面は裏面でタイプライターで打たれた文字に埋め尽くされていた。
それは思いついたまま書かれた詩のようであり、同時に親身な忠告のようでもあった。
何処の誰がこんなものを――その発生源を追うように視線を上げ、少女は目を見開いた。
女の視線の先にあったのは、ビルの屋上に仁王立ちしている人影。
その人影は瞳を爛々と輝かせ、こちらを見つめているではないか。
だがその姿はまるで! ああ、まるで!
「――包帯、男」
彼女は、恐怖のあまり叫び声を上げた。
-
■ ■ ■
包帯男――シュバルツ・バルトは彼女を見ていた。
いや彼女だけではない。空を見上げるアーカムの住人、その全てを睥睨していた。
少女と同様にヒステリーを起こすもの。
冷静なまま周囲のパニックに対応しようとするもの。
こちらを見あげたまま呆然としているもの。
食い入るようにビラの文字を見つめているもの。
――その全てを、二つの瞳で見つめている。
その目に浮かぶ感情は常人には図り知れない。
だが全てを燃やし尽くすような熱量がその目に宿っていることは確かだった。
「気は済んだかね、マスター?」
そんな男に語りかけるのは金髪の美丈夫だ。
マントを翻すその姿は堂に入っており、まるでどこかの舞台役者のようだ。
その両目は固く閉じられているが、迷いのない足取りでシュバルツへと歩み寄る。
「気が済む? 何の冗談だキャスター。
まだ何も始まってはいないさ。何もな! これはまだ幕が開ける前の前座にすぎん」
「確かに。演者もまだ揃っていない故に此度も開演まではまだ至らず……といったところか」
包帯男とマントの男。
2人の芝居がかった言動も合わさるとビルの屋上がまるでどこかの舞台のようだ。
そんな中、キャスターと呼ばれた男が口を開く。
「しかしこれで確信した。やはり今の私は変質してしまっているようだ」
「ほう、それはどういうことかね?」
「私とこの舞台(まち)の相性は最高にして最低なようでね。
我が宝具は噂を糧として発動するが……この街はすでに過剰なほどの噂で溢れかえっている」
曰く、ミスカトニック大学図書館の奥底には怪しい魔導書が眠っているらしい。
曰く、ダウンタウンの方ですりガラスをひっかくような奇妙な鳥の鳴き声を聞いた。
曰く、リバータウンに来る魚のような顔つきをした漁師にまつわる奇妙な昔話――エトセトラ、エトセトラ。
そう、この街は魔女狩りが行われていた頃から噂話で飽和している。
「ありえないことだが、この街に"宝具が飲まれかかっている"。
本来なら一夜限りとなるはずの舞台も、幾夜にも及ぶものになるだろう」
「"あり得ない事こそがあり得ない"……このアーカムならば何も不思議ではないな。
この醜い、冒涜的な街では狂気は現実を容易く侵すのだから」
街を見下ろすシュバルツ。
その声には怒りとも苛立ちとも付かない感情が滲んでいる。
「――重ねて私自身も本来のあり方からは逸脱している。
今の私は"キャスター"という"役"と"この顔を持った一介のサーヴァントでしかない」
本来ならばキャスターに"形"はない。
流れる噂を利用して、己の全てを変質させる形なき災厄、――それこそが本来のキャスターの姿だ。
だが固定された姿を持つ現在、その力は減退している。
「誰が書いた脚本かは知る由もないが――コレでは舞台監督の看板を返上せねばなるまい。
情けない話だがこの様では端役(エキストラ)を監督することも出来まいよ」
キャスターのその言葉が意味するのは宝具の暴走。
サーヴァントにとっては致命的とも取れる発言だ。
だが――包帯の怪人は口の端を大きく釣り上げた。
-
「私にとって問題はない。
むしろ騒ぎは大きければ大きいほど、衆目の目を集められる。
だが君はどうかねキャスター。君の真名からすれば今の状況は不本意だろうに」
「……確かに。千差万別の形なき現象であることこそがタタリ。
"キャスター"という形に押し込められていることに不満がないわけではない」
だがキャスターも主人と同じように笑みを形作る。
「……だが元より私にとって"聖杯戦争"という舞台は噂に聞けど決して登ることのなかった外様の舞台だ。
なればこの夜は"キャスター"という役を演じてみせるとしよう。
――無論、これを仕組んだ脚本家には相応の批評を叩き付けるつもりではあるがね。
無粋ではあるが、その程度は脚本家として覚悟してもらうとしよう」
キャスターの答えにシュバルツは満足気に笑う。
「――ならば良い。君とは仲良くやっていけそうだ。
それに脚本に不満があれば変えてしまえばいいだけの話ではないかね、キャスター」
「ほう? それはとても興味深い発言だな」
「確かに聖杯戦争にも大筋の脚本はあるだろう。
だが細かい演技は全て演者に委ねられている。即興(アドリブ)を入れたところで文句は言われず、むしろ歓迎されるべき行為だ。
そして優れた即興は時に物語の大筋を変えることもある」
シュバルツは懐から新聞を取り出す。
その三面記事の隅にはマンション火災の記事が乗っている。
そしてその行方不明者欄の中に"マイクル・ゼーバッハ"という新聞記者の名前もある。
それは『この街に潜む何かを追って』消えてしまった男の名だ。
「この街の人間全てが知らなければならない……この街の本当の姿を。
私が知り得た真実を!」
シュバルツが愛用のジッポライターで火をつけるとあっという間に燃え尽きる。
それはまるでこの世から"マイクル・ゼーバッハ"という存在を消し去る行為のようですらあった。
「ここでは誰も彼も"聖杯戦争"という舞台で踊る演者の一人に過ぎない。だが!」
灰色の空を見上げ、両手を大きく広げる。
まるで演者が舞台の上で大げさに身体を動かすように。
「見ているか! この街を睥睨する邪神どもよ! この即興劇の唯一にして最悪の観客たちよ!
私は真実を明らかにしよう! この街の、この世界全てに貴様らの存在を!」
その声に応えるものは誰も居ない。
だがシュバルツの瞳は確かに"誰か"を見つめていた。
-
■ ■ ■
真実を知ろうとすることは罪悪なのか。
それとも、己がなにについて恐怖しているかを探求することが罪なのか。
だが、それすらも捨てた時、我々には何が残されるだろう?
恐怖とは何か、その本来の性質を忘れ去った人間に、どんな価値があるというのか。
それは、我々という矮小な生き物にとって必要なものなのだ。
人が恐れることをやめた時、人という種は袋小路に入り込む。
ただ滅びるのを、観照もなく待つだけの哀れな存在となり果てる。
考えよ。邪神の庭に囚われた人々よ!
この愚かなる茶番劇が、これからも永遠続くのを望むのでないならば。
署名:シュバルツ・バルト
-
【マスター】
シュバルツ・バルト@THEビッグオー
【マスターとしての願い】
この街に"真実"を知らしめる。
そのために手段は選ばない。
【能力・技能】
・ドミュナス
ザ・ビッグシリーズを操縦することができる資格者。
ただしビッグデュオを持たないため、意味を成さない技能となっている。
だが人々の口に"空を飛ぶ紅い巨人"の噂が立ち上るとき、その力は真実となる。
・狂人
彼は"真実"にたどり着いてしまった。
故に狂った。すべてが狂った世界では真実は狂気そのものだからだ。
同レベルの精神汚染スキルを持つサーヴァントと意思疎通ができる。
またすでに発狂しているため、正気度判定を必要としない。
――だがそれ故にいつでも物語の表舞台から姿を消す可能性がある。
【人物背景】
ロジャー・スミスの前に現れた全身に包帯を巻いた怪人。
その正体は新聞記者『マイクル・ゼーバッハ』。
独自にパラダイムシティの真実に迫り、そして発狂した男。
――知ってはならない真実を知ってしまった男の成れの果てである。
【クラス】
キャスター
【真名】
ワラキアの夜@MeltyBlood
【パラメーター】
筋力:C 耐久:EX 敏捷:C 魔力:A 幸運:E 宝具:EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
・道具作成(影):C--
魔力を帯びた器具を影で作成可能。
器具だけでなく人物の動きをする人形ですら作成可能だが一瞬で消失する。
加えて彼が作成できるのは人々の噂に立ち上ったものだけである。
・陣地作成:B-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
"工房"を上回る"神殿"を形成することが可能。
キャスターの場合、固有結界そのものが"神殿"に該当し、アーカムを飲み込むほど強大である。
だがアーカム側からの干渉によってランクは大きく下降している。
【保有スキル】
・精神汚染:B
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
本来ならば同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
ただしズェピアの殻をかぶっているため、ある程度の意思疎通が可能である。
・吸血鬼:A
人ならざるモノ。夜の支配者。
太陽が昇っている時間帯は筋力・耐久・敏捷の各ステータスにマイナス補正がかかる。
逆に日没以降は各ステータスに補正がかかる(表示ステータスは補正済みのもの)
【Weapon】
・影
【宝具】
・固有結界"タタリ"
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1000 最大捕捉:∞
宝具にしてキャスターそのもの。噂を操作し、都市伝説を現実にする固有結界。
都市伝説に制限はなく、死んだはずの人物と遭遇したり、突如力を手に入れたりと、噂の流れるコミュニティの性質によって大きく変化する。
だがどんなものでも最終的には発生源の住人を皆殺しにするものに成り果てる。
幾つもの噂話(シナリオフック)を持つ架空都市アーカムとの相性は最高レベル。
だが相性が良すぎるがゆえに、本来なら一夜にして街を飲み込むはずのタタリは"アーカム"からの干渉を受け、完全発動に至ることが出来ない。
更に本来無形であるはずのキャスターがサーヴァントという殻に当てはめられていることも加わって、タタリの一部が制御を外れて行動している可能性がある。
【人物背景】
死徒二十七祖の第十三位である吸血鬼で、『タタリ』とも呼ばれる、殺劇の怪奇現象。
元々は『ズェピア・エルトナム・オベローン』という優秀な錬金術士であった。
だが研究の果てに『世界は終わる』という"答え"を知ってしまい、吸血鬼になってまでその未来を回避しようとしたが失敗し続ける。その果てについには第六法と呼ばれる奇跡でそれを覆そうとしたが失敗し発狂、"タタリ"という現象となった。
――求めてはならないものを求めた男の成れの果てである。
【サーヴァントとしての願い】
この聖杯戦争という舞台を仕組んだ脚本家に"批評"を叩き付ける。
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以上で投下終了です。
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皆様投下ありがとうございます。
短評第二弾を投下しますので、今までの振り返りにお使いください。
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【セイバー】新規候補2(合計7)
《パチュリー・ノーレッジ&同田貫正国》◆HQRzDweJVYさん
シンプルな構成だが頼もしい、泥臭い戦いと正面突破に長けたサーヴァント。
セイバー自身に不足している部分を補えるマスターの存在も大きい。安定感ありますね。
《ザイフリート&ルカ》◆GO82qGZUNEさん
虚偽の英雄スキルで完全に在り方が捻じ曲げられた英霊。性能もスキルや宝具に多大な影響が。
スペック自体はなかなか高いのですが、人格面も含めてマスターともども非常に不安定ですね。
【アーチャー】新規候補1(合計3)
《ココノエ=A=マーキュリー&ハーケン・ブロウニング》◆ZZZnF4MZ0Qさん
必中必殺の切り札を持つサーヴァント。星の開拓者がどれほど機能するかが鍵ですね。
マスターの知識量は魅力ですが、倫理観の希薄さはプラスでもありマイナスでもあるか。
【ランサー】新規候補5(合計5)
《千川ちひろ&ネージュ・ハウゼン》◆ZZZnF4MZ0Qさん
遠近共に対応できるランサー。スキルや宝具の能力も含めてややアーチャー寄りの性能かも。
マスターは無辜の怪物スキルがついていないちひろさんなので、魔力の乏しさはともかく安心ですね。
《モア&諸星きらり》◆tHX1a.clLさん
大きさは強さ。というか凄く大きい。勇者王の最終宝具の五、六倍のサイズなので本当に大きい。
それ以外にも何か凄いことが色々書いてあります。最後の宝具はまさにアーカム終了のお知らせですね。こわい。
《フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア&ハムリオ・ムジカ》◆69lrpT6dfYさん
異能無効化の銀槍は、相手のスキルや能力が強力であるほど効果を発揮しそう。
マスターの魔術師としての能力も高い。車椅子がネックですが、銀で作れるなら逆に応用利きそうですね。
《クリム・ニック&リュドミラ=ルリエ》◆MQZCGutBfoさん
攻撃力と汎用性に長けた宝具、天才マスターの魔力の乏しさを補う単独行動。優秀です。
あと精神ダメージを回復するお茶は地味ながらアーカムでは超強力。これだけでお釣りが来るくらい。
《プレシア・テスタロッサ&セーラーサターン》◆q4eJ67HsvU(自案)
ステータスは(魔力以外)控えめ、代わりにスキルと宝具に特化したランサーになります。
攻防揃った宝具は十分強力なはずですが、マスターとの関係と病弱スキルが不安要素。
【ライダー】新規候補ゼロ(合計3)
【キャスター】新規候補3(合計6)
《繭&ゼロ》◆69lrpT6dfYさん
異界展開と眷属召喚を行うキャスター。対魔力の影響を受けづらいのもあり、かなり実戦向きのスペック。
マスターも精神体としての強みがあり、かなり強力なタッグなはずですが、何処か不穏な空気が漂います。
《ツスクル&シェリル》◆zzpohGTsasさん
平時では周囲に不運をもたらすのみ、宝具開放時は無差別侵蝕をもたらす邪神。
完全に振り切った性能で扱いづらそうなので、呪術に長けたマスターのフォロー次第ですね。
《シュバルツ・バルト&ワラキアの夜》◆HQRzDweJVYさん
タタリによって「アーカムの都市伝説」を実体化させるというのは実にクトゥルフ的な発展が出来そう。
マスターのシュバルツも元々探索者的なキャラクターなので相性がいいですね。既に発狂済なのもある意味強み。
【バーサーカー】新規候補1(合計3)
《高槻やよい&ひで》◆zzpohGTsasさん
虐待を受けることを前提としたサーヴァント。そのためのスキル……あとそのための宝具?
真面目に戦えば(自らの力に)溺れる!溺れる!出来そうですが、それはそれとしてほんとひで。
【アサシン】新規候補1(合計3)
《空目恭一&八雲紫》◆ACfa2i33Dcさん
優秀な気配遮断と空間移動能力を併せ持ち、更にスキマ空間そのものが精神攻撃に繋がる強力なアサシン。
精神が変質したマスターの影響で宝具が変化しているという設定も面白いです。
【エクストラクラス】新規候補1(合計3)
《金木研&バネ足ジョップリン(ウォッチャー)》◆GOn9rNo1tsさん
本体を持たない群体型のサーヴァント。匿名の意識の集合体といったところでしょうか。
マスターであるカネキに神秘を付与して戦うスタイルですが、都市伝説を介しているのが特徴的。
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現在の候補は剣7、弓3、槍5、騎3、魔6、狂3、暗3、他3。
前回ゼロだったランサーが一気に埋まった一方、投下数3のクラスは枠的にもまだまだ余裕ありますね。
今後も奮って参加してくれると嬉しいです。
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投下させていただきます
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そのディレクターは、目と目がひどく離れている容貌をしていた。
ギョロッとした目はどこを見つめているのか分かりづらい。
日本人をさして魚顔とはよく言われるが、このディレクターは極端すぎた。
高垣楓は、その特徴的すぎるディレクターの顔をぼうっと眺めていた。
「いやはや、まさか『高垣楓』さんが出向いてくれるとは……!」
ペチリ、と。
平たい顔に広がる大きなデコを打ちながらディレクターは調子の良い言葉を口にする。
楓は、相変わらずぼうっとした顔つきのまま、ディレクターの何度目ともなる言葉を受け流す。
「いやぁ、ワシとしても鼻が高いばかりです」
ディレクターは、文面だけならば標準語ではあるが、隠し切れない独特のイントネーションで語りかけてくる。
ここは寂れた過疎村の集会所の中。
346プロに所属する『アイドル』である楓は、『田舎に行っちまおう』という番組のロケのために訪れている。
「ワシの地元……つまりは、この『印州馬臼村』ではちょうど大きなお祭りが有りましてな」
「『インスマス村』?」
「『印州馬臼(いんすまうす)村』です。
ああ、でも、昔は一部で『蔭洲升(いんすます)村』とも呼ばれておったらしいですな!
ワシのひい爺さんの頃の話らしいですが」
楓の茶々を入れるような問いに対して、ディレクターは朗らかに応える。
気を悪くした様子もない。
「ワシも故郷に錦を飾りたいと言いますかな、過疎になって久しい村に彩りを加えたいのですよ
今回の『田舎に行っちまおう』では、このお祭りにも参加してもらおうと想いましてな」
「参加……ですか?」
ここに来て初めて知らされる話に、楓は眉をひそめた。
事務所を通しての話であるため、怪しさはないだろう。
ないだろうが、それでもテレビ局というのは時々信じられないことを行う。
楓を『笑いもの』にするような自体もあり得るかもしれない。
「神社で祀っている『ネコのミカン』様に祈りを捧げるお祭りでしてな」
「『ネクロノミコン』に祈り?」
「『ネコのミカン』様です」
茶々を入れる楓と、やはり朗らかに応えるディレクター。
ディレクターは言葉を続ける。
-
「そこで、その、ですな」
先ほどまで歯切れの良かった言葉はどこに行ったのか。
突然、口ごもり始める。
嫌な予感がした。
「高垣さんに、その、『巫女』の役をやって欲しくて、ですな」
来た、と、楓は思った。
はてさて、引き受けるべきか否か。
巫女の内容次第では、楓が失敗してお祭りを台無しにしてしまうかもしれない。
「その儀式には『団子の酒』と言うものを用いましてな」
「『ダゴンの書』?」
「『団子の酒(だんこ・の・しゅ)』です、地酒ですな」
「お酒!」
その言葉に楓は顔を輝かせる。
ディレクターは、ホッ、と胸を撫で下ろした。
噂通り、というべきだろうか。
これならば断られないかもしれない。
「大食いが神儀であることはご存知ですかな?」
「いえ……」
「これもその一種でしてな、巫女がご神体の前でお酒を飲んでみせるのです。
その量が多ければ多いほど良いというわけです」
「やります」
即答だった。
「おお……しかし、合計で一升は呑んでしまうと思いますが。
あっ、もちろん、医者も用意しておりますので」
「やらせてもらいます」
再度、即答だった。
「これが団子の酒です……ささ、どうぞどうぞ」
「それじゃ、一杯だけ」
楓はそう言って、その神秘的な美しさを台無しにするほど豪快に呷る。
喉を通った瞬間に、楓は顔をほころばせた。
「美味しい!」
夜が明ければ、収録だ。
酒を断っておこう、せめて、この一杯だけで。
なにせ、明日にはこの酒を浴びるほどに飲むことが出来るのだ。
-
――■日が沈み、また日が昇り、明くる日■――
.
-
「祟りじゃぁ……!」
収録の休憩時間。
突然、声が響いた。
楓は驚いたようにして、声の主を見つめる。
皺苦茶、というよりも、顔が皺でできているような老爺とも老婆ともわからぬ老人が居た。
プルプルと震える指を楓と向けて、その老体には似つかわしくない大声が飛び出る。
「祟りじゃあ!」
「ちょ、誰だ!婆様を近づけたのは!
ケンタロの奴はなにをやっちょる!」
反応したのは、村長だった。
『ケンタロ』とは『健太郎』という五十すぎの男で、目の前の老人の息子だ。
その息子が飛び出してきて、老人を押さえつけた。
それでも老人は言葉を止めない。
「余所者に巫女をやらせるなど……ミカン様の祟りが来るんじゃぁ……!」
「やめねえか!
わんざわざ都会のがたが来てくださたっと!
そんに、こげな綺麗な方がやってくれてミカン様が怒るわぎゃねえべ!」
健太郎は頭を下げながら、老人を引きずっていく。
ディレクターはポリポリと首をかきながら、楓へと謝罪の言葉を紡ぐ。
「いや、すいませんな……あの婆様は、その、ワシが村を出る前から、イカれてしまっておって……
まだ生きておったとは……」
「おばあさんだったんですね」
「は?」
「あのぐらいの年頃の人になると、中性的になるものですね……」
「は、はぁ……」
楓の言葉に、不思議そうな表情を浮かべるディレクター。
何はともあれ、気を悪くしていないことに安堵した。
出演者の中には、こういったことですぐにへそを曲げてしまう者も少なくない。
ディレクターと言っても力の弱い彼には、そうした出演者を留める力はない。
ましてや、相手は346プロのアイドルだ。
ヘタは打てない。
「あっ……」
そんなディレクターをどこ吹く風か、楓は村の少年たちに視線を移した。
そして、軽い足取りでその少年たちに近づいていく。
突然近づいていきた、田舎の村では見ることも出来ない美貌の女性に、村で三人しか居ない少年たちはたじろぐ。
女性といえば、自身の母親よりも年上の女性だけなのだ。
「え、えと……」
「それ、なに?」
「ク、クリオネの、アクセサリー……」
ドン、と背後の二人から肩を押された少年はどもりながら応えた。
頬を染めて、たどたどしい言葉を発し始める。
「村では『クリオネ』が大流行で、でも、持ち歩けないから外ではアクセサリー……」
「『クトゥリュー』が大流行?」
「『クリオネ』です」
無理やりの聞き間違いを、少年は丁寧に訂正する。
楓は、へぇ、とだけ応えて、じろりとクリオネを見る。
「友達のと、ム●キングみたいに戦わせるの?」
「は?」
そのつぶやきに対して、少年たちは間抜けな声を出す。
クリオネは、そんな、カブトムシじゃない。
動揺したまま、少年たちは何も言えずに顔を見合わせた。
「さっ、収録の続き続き。おめえらも、ほれ、散った散った!」
「ちぇー!」
ディレクターの声に、少年たちは不満そうに声を上げる。
しかし、それ以上に駄々をこねるようなこともなく、走り去っていく。
走り去る少年たちを見送った。
大人しそうな少年が一人、その視線に気付き、照れたように耳まで赤く染めた。
-
――■日が沈み、境内■――
.
-
「ふふーん」
鼻歌を鳴らしながら、楓は地酒を口に運ぶ。
このようなときにお神酒でないのは、楓でも不思議に思った。
思ったが、同時にどうでもいいとも思った。
酒は酒だ。
ニコニコ顔で酒を口に運ぶ。
「ん……」
喉を通る熱い感覚に、艶やかな声を漏らす。
顔に浮かんでいるものは、まさしく喜色満面といった表情。
教科書に載るほどのそれを浮かべながら、酒を呑んでいく。
「っと、と、とっと……」
不確かな言葉を呟きながら、酒を呷り、ふと、役目を思い出した。
先ほど手渡されたばかりの『経典』と呼ばれる書を台座に捧げる。
ふらふらとした足取りは危なかっしく、いつ転倒してもおかしくないものだ。
「……?」
ふと、不快感を覚えた。
正確に言えば、足元に走った『ぬめり』とした感覚に不快感に似た感情を覚えた。
この『ぬめり』は、人間のそれとは異なる。
もちろん、この木造建ての神社の床の感覚とも違う。
これは、両生類や魚類が持つ皮膚の『ぬめり』と良く似ている。
酒が不味くなった、と。
楓は思った。
「……」
先ほどまで心地良かった酔いが、急として不快感を煽るものへと変わっていく。
ある種、初めての感覚だった。
果たして、この『祭』が原因なのか?
この『祭』は妖しくはない。
妖しくはない、はずだ。
この村の人々は皆『魚のような顔』をしていた。
しかし、良く良く見れば、老人ほどそれが顕著であるが、子供はさほど目が離れているわけではない。
『いまどきの若いものは』という言葉は、信仰の面に置いても例外ではない。
子供にとって、この『お祭り』はあくまで『お祭り』という遊びであって、『お祀り』という神儀ではないのだ。
もはや、ただの『お祭り』と成り果てた『お祀り』。
「あー……!」
楓は嫌悪感を消すために、嫌悪感を生み出した酒を呷った。
『魚のような顔』
『蔭洲升村』
『銀の鍵』
『ネコのミカン』
『団子の酒』
『クリオネ』
様々な単語が頭に過る。
いや、待て。
『銀の鍵』?
「……?」
楓は視線を移す。
そこには、銀色の月光に照らされて光る鍵があった。
誘われるように、その鍵を手にとった。
台座の下に、鍵穴が見える。
台座の中に、腐り落ちた、かつては透明であったであろう濁った白い触手が見える。
台座の奥に、屍体が見える。
かつての神、崇められた異常生命。
銀の鍵が、かちり、と音を立てた。
-
――■世界が変わり、窮極の門前■――
.
-
話をしよう。
一人の男の話だ。
美しく、逞しく、賢い男の話だ。
誰よりも美しかった。
誰よりも逞しかった。
誰よりも賢かった。
英霊と言う肩書きを持って現れる『サーヴァント』という存在にふさわしい男だった。
その男が、高垣楓の前に現れていた。
「どうも、初めまして……愛されて10年、科学の申し子、天才物理学者・上田サイエンス次郎です」
「どうも。国民的超絶美人アイドル、高垣シンデレラ楓です」
「……ふざけているのか?」
「貴方に合わせてみたんです」
満足にセットもしていない、ボサボサの髪を揺らしながら鼻を鳴らす上田次郎なる男。
地味な色のベストと、やはり地味な眼鏡は、英雄とイコールであるサーヴァントとしてはひどく野暮ったい容姿だった。
それでもその地味な服装の奥に隠された肉体は鍛え抜かれている。
「聖杯戦争などというオカルトに巻き込まれるとは……しかも、魔術師<<キャスター>>のクラスだなんてなんの冗談だ。
バカバカしすぎて、逆にこのキャスターの笑いのツボにも掠ってしまうぞ」
「キャスターさんだけにかすった? キャスターさんだけにかすった?」
「駄洒落じゃあない! 君のような人間と一緒にするんじゃない!」
嬉しそうに言う楓へと、上田次郎なるキャスターのサーヴァントは怒りを見せる。
その怒りを納めようともせずに、言葉を続ける。
「いいか、マスター。私のことはサイエンティストのサーヴァントと呼びなさい。
魔術師など、全く、非科学的だ」
「竿売れんティスト?」
「竿とか!巨根は!童貞は関係ないだろ!」
下ネタのつもりはないが、サイエンティストは激しく動揺を示した。
トラウマとは、そういうものなのだろう。
肩で息をして、心を落ち着かそうとするサイエンティスト。
「まあ、いい。さっさとこんなバカなお祭りは終わらせて帰ろうじゃないか」
「終わらせる、ですか?」
「謎を解いて、それで終わりだ。
オカルトというのは、往々にして謎が判明した瞬間に『冷めて』しまう。
このお祭りも、すぐに終わるさ」
『どんと来い!超常現象』という名著がある。
全国で二千……ン部売れた、サイエンティスト上田次郎の象徴である。
転じて、上田次郎の宝具と化した概念的な宝具。
上田次郎がその秘匿された謎を解き明かした瞬間、その神秘は霧散してしまう。
この聖杯戦争において、『狂気を白昼に晒してしまおうという狂気』。
同時に『狂気を正気へと貶める狂気』である。
「さて……私が本来ならばセイバーで召喚されるべき勇猛な英雄といえども、万が一がある。
もしも逸れてしまった時、あるいは、不届きにも誰かが私に変装した時のために、特別な『合言葉』を決めておこう」
「合言葉……『あー、いい言葉』っていうのは?」
「そんな間抜けな合言葉があるか!
だいたい合言葉というのは、片方がある言葉を言った際に、片方が答えとなる言葉を言うものだ」
「それじゃ、どんなの?」
そうだな、と無精髭の生えた顎を抑えた。
チラリ、と。
楓のスレンダーな肉体を、その長身故に高所にある目で見下ろす。
「『貧』と『乳』だ」
妙に、自信に溢れていた。
-
【クラス】
キャスター
【真名】
上田次郎@TRICK
【パラメーター】
筋力:D+ 耐久:D 敏捷:E 魔力:- 幸運:A+ 宝具:E
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:-
上田次郎は陣地を作成できない。
道具作成:-
上田次郎は魔術的な道具はもちろん、特殊な科学道具も作成できない。
かろうじて上田次郎人形を作成することが出来る。
【保有スキル】
通信空手:A++
上田次郎が通信教育の空手科目で納めた技術。
免許皆伝を取得しており、また、恵まれた肉体によって高ランクの通信空手を誇る。
このスキルは取得が余りにも容易く、Aランクでやっと『他の武術家とも戦える……かな?』と言ったレベルである。
被暗示体質:A
思い込みが激しいとも言い換えることが出来るスキル。
他者からの暗示、自己暗示関係なくあらゆる暗示にかかりやすい。
騙されやすいとも言う。
日通教の申し子:A
日本通信教育においてあらゆる技能を習得したキャスターが持つユニークスキル。
キャスターは『専門家には遠く及ばないが、しかし、知識と免許だけはある』といった技術を多く所有している。
キャスターにとって通信教育は、もはや生涯の趣味とも言えるものである。
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【宝具】
『なぜベストを尽くさないのか』
ランク:E 種別:暗示宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
――私は、どんな困難もたちどころに吹き飛ばしてしまう秘密の呪文を知っている――
この宝具を開放した時、筋力ステータスがワンランクアップする。
強烈な自己暗示であり、キャスターの魂に刻まれた言霊。
勘違いとも、誇大妄想とも言い直すことが出来る。
また、キャスターの口から出たこの詠唱を信じ込めることが出来れば、他のサーヴァントも筋力をワンランクアップする。
『どんと来い!超常現象』
ランク:- 種別:対秘宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:上限なし
この宝具は神秘を持たない故に、神秘を汚染する。
そして、この宝具は他者の神秘を侵蝕し、神秘を打ち消す。
あらゆる超常現象を否定し、それを現実のものへと変換する。
発動条件は一つだけ。
『マスター、もしくはキャスターが、対象の神秘について深く理解する』ということである。
【weapon】
上田次郎の恵まれた肉体に武器は必要だろうか……?
【人物背景】
日本科学技術大学教授、上田次郎。
人知を超えた天才であり、人類の秘宝。
上田次郎が生まれた日、日本では密かに飛び級制度の実施も検討され、イギリスではついにアーサー王が復活したと噂された。
あらゆる不可能を可能とし、1999年に恐怖の大王が上田によって打ち倒されたことは公然の秘密である。
上田次郎は自身の意思で死を迎える前、一度だけ死にかけたがその時は『死』という概念そのものが泣いて謝った。
死後は当然として英霊の座についた。
上田次郎の生後、毎日が上田次郎記念日である。
彼にとって不幸と呼べることは一つだけ、それは彼と同じレベルの存在が居ないために常に孤独であったということである。
【サーヴァントとしての願い】
上田次郎が聖杯に願うのではない、聖杯が上田次郎に願うのだ。
【基本戦術、方針、運用法】
びっくりするぐらい使えないからハズレって言われる類のサーヴァントだと思う。
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【マスター】
高垣楓@アイドルマスターシンデレラガールズ
【weapon】
兵器がなくても平気。
【能力・技能】
No 力。
【人物背景】
一見するとシックな落ち着いた、どこか神秘的な女性。
実際は子供のまま大人になったような、無邪気な二十五歳児。
憂いを帯びた視線で見つめる物は日本酒のラベルであり、目を伏せて思慮に耽っているのはオヤジギャグの推敲である。
お酒と温泉が大好きで、今回のロケにもその二つに惹かれて引き受けた。
最近、アイドルとしての自覚を抱きつつある。
【方針】
ほー、神秘を解き明かそうって?
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投下終了です
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序盤のクトゥルフな展開からまさかの上田先生www
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楓さんマジ25歳児
アイドルのカリスマが出していない楓さんは平常運転ですねw
そして上田教授もいつも通り、二人の雰囲気は独特過ぎるw
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投下します
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空が青いと思った。
だから俺たちは、人を殺した。
空が青いと思った。
だから俺たちは、人を殺した。
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■ ■ ■
自分の望みを叶えるとは、他者の望みを叶えないことだと俺は思う。
どれだけ綺麗な望みだろうと。
どれだけ高尚な望みだろうと。
誰かを蹴落とし、誰かを踏みにじり、誰かを犠牲にした先にしか、望みとは叶わないものなんだ。
例えば、君が大好きな女の子に告白し、OKをもらえたとしよう。
それ自体は良いことだ。おめでとう。幸せな日々を過ごせば良いと思うよ。
だけど、その叶った望みの影で犠牲になった、数々の望みの残骸を、忘れてはいけない。
その子のことが好きだった他の男の子を、君は蹴落とした。
その子のお父さんの「娘にはまだ清くあってほしい」という想いを、君は踏みにじった。
もしかしたら、君のことが好きだった他の女の子の好意を、君は犠牲にしているかもしれない。
そういったことを考えて、その上で君は自分の望みを叶えるかどうかを考えなければならない。
世界は不平等だ。この世界の幸せの総量というものは決まっていて、皆がバーゲンセール中のおばちゃんみたいに挙ってソレを奪い合う。
この悲しくなるような事実は、この世に生まれ落ちた時点で俺たちに定められた宿命のようなものなのだろう。
ならば、せめて、自覚的であれ。
自覚的に奪い、自覚的に幸せになるべきだ。
まあ、俺は『まとも』だから、あんまり他の人を犠牲にしたくなんてない。
だから、聖杯で何か望みを叶えるとしても、ささやかなものにしようと思っている。
ただでさえ、この『聖杯戦争』で優勝するためには数十人単位で犠牲にしなければならないのだから。
これ以上の犠牲はうんざりだ。いくら殺人鬼と呼ばれる俺だって、必要以上の殺しはしたくない。
必要以上に、幸せを奪いたくない。
だから、俺は
『この間ナズナさんに出会った時に気の利いたことを言えなかったから、その過去をやり直し、彼女も俺も幸せになるような会話をする』
ことを聖杯に望もうと思う。
これなら、少なくとも誰かを必要以上に犠牲にすることはない……はずだ。
ナズナさんのことを好きな他の男が犠牲になることはあるかもしれないが、そんなことを言ったら俺が幸せになれないじゃないか。
少なくとも、俺は自覚的に、他の男を蹴落としてでもナズナさんと良い関係になりたいと考えているよ?
っていうか不安になって来た。もしも俺が聖杯戦争にかまけてる間にナズナさんが他の男と超高速電撃結婚までしていたら、俺は自分を抑えられる自信がない。
そうすることで彼女が不幸になるということを自覚しながらも、相手の男を出来るだけ陰惨に嬲り殺してしまうかもしれない。
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良かった。
こんな風に自分のことを客観視して、彼女のこともちゃんと考えて、俺は行動できる。
少なくとも衝動的に一方的に相手の男を殺して『俺が正しい!ナズナさんが悪い!』などとほざくような人間のクズじゃない。
だから俺は『まとも』だ。
『まとも』なんだ。
話がずれちゃったな。
俺は見も知らぬ誰かの幸せのために死んでやるほど聖人ではないから、少なくとも『聖杯戦争』を殺る気はある。
でも、出来る限り穏便に済ませたくもあるから、他マスターを暗殺できれば一番いいかなと考えている。
つい最近、あの『東』と『西』を収めるそれぞれの組織の中枢に忍び込んで、両方のボスに会うことも出来たんだ。
相手マスターがよっぽど、あの二つ以上に堅牢な、城のようなところに引き籠ってでもいない限り、問題はないだろう。
ただ、俺は未だサーヴァントという存在がどこまで『出来る』やつらなのか分かっていない。
俺のサーヴァントは、俺自身の魔力が少ないこともあり、節約のため力を見せてはくれないし。
でも、マスターである俺よりは強いんだろうな。そうじゃないとサーヴァントを使役する必要なんてないわけだから。怖い怖い。
最低でも、俺がどれだけ『知覚』できる相手なのかは確かめておきたいところではある。
頑張れば攻撃を避けられる、本気を出せば逃走できるくらいの差ならいいんだけど。
マスターの方を暗殺できればこんなことを考えなくても良いんだけど……最悪、『バーサーカー』の方に相手サーヴァントを相手取ってもらおう。
その間に俺が事を済ませれば、ベストとは言えずとも、ベターな選択肢だろう。
そのために、バーサーカーに矢面にたってもらうために。
少しでも魔力を蓄えるために、俺はこの街で今までに30人ほど殺してきたんだからね。
魂食い。それに加え、俺のサーヴァントは少々特殊なため、より効率よく人間から魔力を奪取できる。
問題は彼の魔力消費を出来るだけ減らすため、俺の方で相手を死なない程度に半殺しにして彼のもとに届ける必要があるということだろうか。
『バーサーカー』は自分で『壊すため』に出来るだけ綺麗なまま持ってきて欲しいようだから、数をこなすうちにずいぶん手加減も覚えた。
あの殺さなければ殺される『島』での殺人に比べれば、俺もかなり丸くなったといえるんじゃないだろうか。
もしかしたら、俺はあの『島』よりも、このアーカムで殺している方がより『まとも』なのかもしれないな。
ま、それでもナズナさんのいるあの『島』の方が俺は100万倍好きだけどね。
うん、彼女の笑顔を思い出すとやる気出てきた。
聖杯戦争、頑張ろう。
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と、ここまで考えて。
俺は、血走った目をした男が『ようやく』こちらに構え終えた拳銃を、予定通り下から蹴り上げた。
「だから俺は今から君を半殺しにしようと思うんだけど、良いかな」
「ああ、納得できないような顔をしているね。じゃあこうしよう」
「今日は空が綺麗だから、俺たちは君を殺す」
■ ■ ■
-
「ただいま、バーサーカー」
「おかえり、マスター」
扉を開くと、血生臭い香りが急激に俺の鼻腔を刺激した。
あの『島』での殺し殺されに慣れてしまっている俺でさえ、ちょっと嫌な気分になる『濃さ』だ。
そして、その臭いの大本となっている椅子に縛り付けられていた男は、既に『ぐちゃぐちゃ』というのが似つかわしい状況となっていた。
今回は、早かったな。
「また派手にやったね」
「あんまりあっさり弱音を吐くものだから、イラっとしちゃってね」
「誰にもバレないようにオモチャを持ってくるのも大変なんだから、ちょっとは大事にして欲しいもんだ」
「やっぱり人間はすぐ壊れちゃうからつまらないね、もっとさくさく指が生えればいいのに」
狂ってる。あの『島』でもなかなか見ることのできない、とびきりの『真正』だ。
一見会話出来ているように見えるが、やはり『バーサーカー』と呼ばれるだけあってまともに話が通じているとは思えない。
一般的なサーヴァントというものがどんななのかは知らないが、もうちょっとまともなのが欲しかったな。
「サーヴァントは壊れにくいのかな」
自分の不幸を呪っても仕方ない。
ここは聖杯戦争の方に彼の意識を持っていけるように、俺が頑張らなきゃ。
「そうだね。それに、単独行動を持ってる『アーチャー』だとマスターが死んでも少しの間は生きててくれる」
「じゃ、ソレが手に入ったら少しは楽になりそうだな」
しまった。思わず皮肉のような言い回しをしてしまった。
何も知らないやつは勘違いするかもしれないけれど、別に頭の回転が速くても、頭が良くなるわけじゃないんだ。
やはり俺は会話というものがあまり得意じゃない。『島』内でもよく誰かに激昂されたもんだ。
ただ、今回の相手は事情が違う。人間を超えた超常の存在。戦って只で済むとは思えない。
聖杯戦争が始まる前に自分のサーヴァントに殺されるなんて、まったく面白くもない冗談だ。勘弁してほしい。
ちらりと目だけを動かして、恐る恐る様子を窺ってみたり。
だけど、バーサーカーはこちらの言葉に全く耳を傾けることもなく、こちらの気も知ることなく、楽しそうに新しいオモチャの品定めを始めていた。
胸を撫で下ろす。と、同時に溜息もこぼす。
全く、これだから異常者は嫌いなんだ。
「じゃあ、なるべく保たせてくれよ」
「♪〜♪〜〜」
『バーサーカー』はこちらの話を聞いているのかいないのか、鼻歌交じりに早速親指の爪を剥がしている。ああ気持ち悪い。
こんな『拷問するために拷問する』ような異常者に嫌悪感を感じる俺は、やっぱり『まとも』だ、再認識。
認識は大事だからね。俺がナズナさんを好きってことも、もう一度認識しておこう。
ああ、とっととこの街やこのイカれたサーヴァントともおさらばして、『島』に帰ってナズナさんに会いたいな。癒されたいな。
そのためにも、一日でも早く他のマスターを殺さないとね。
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【マスター】雨霧八雲(伊勢川尊人)@がるぐる!
【マスターとしての願い】
この間ナズナさんにかけた挨拶をもっと気の利いたものにするために、ちょっとだけやり直したい。
邪で他者を踏みにじるような願いを抱く人間も多い中で、たったこれだけの望みを叶えようとするとは、俺はなんて『まとも』なんだろう!
【weapon】
特に決まった武器はない。現在はどこにでも売っているナイフと拳銃を所持。
【能力・技能】
頭の回転が恐ろしいほど早い。いわゆる『周りの動きがスローモーションに見える』というやつ。
音速以上の攻撃も出先(拳銃の引き金や居合の初動など)を見てから避ける。
学生時代にダンスで全国優勝を果たしたこともあるため身体能力が高く、身体も柔らかく、上記能力と合わせることで予測不可能な不気味な動きをするらしい。
頭の回転が速いからといって別に頭がいいわけではないこと、高速すぎる思考に身体が付いてこないため、反応できても対処しきれない可能性があることには注意。
【人物背景】
現代の九龍城とさえ称される治安最悪な『島』内最恐の殺人鬼。
本人曰く『襲い掛かってくる強盗や暴徒を毎日殺し続けていたらいつのまにか自分が殺人鬼呼ばわりされていた』
なので、基本的に罪のない女子供を殺すことはない。逃走の際に人質に取ることはよくあるが。
本名は伊勢川尊人といい、雨霧八雲は偽名。
彼はこの名を、いつか『まともな人間』として島を出ていく時に島内に『殺人鬼』として残していく仮面のようなものだと考えている。
その殺害数からもはや都市伝説的存在となっており、存在を架空のものだと思っている人間も多い。
『バネ足ジョップリン』には同じ都市伝説仲間として好意的に見られているが、八雲は奇人であるバネ足のことが大嫌い。
【方針】
『バーサーカー』のオモチャ(出来れば殺しても問題のないクズが相応しい)を確保しつつ他マスターの検索。
『まとも』である彼としては正々堂々正面から戦うことなどせず、マスターをそっと暗殺できれば一番波風が立たなくて良いと考えている。
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【クラス】
バーサーカー
【真名】
ヤモリ(大守八雲)@東京喰種
【パラメーター】
筋力B+ 耐久A+ 敏捷C 魔力D 幸運E 宝具B-
【属性】
混沌・狂
【クラススキル】
狂化:D
通常時は狂化の恩恵を受けない代わり、『拷問に必要ならば』という条件付きでマスターや他者との意思疎通を行える。
宝具『13』を使用した場合は筋力と耐久のパラメータがランクアップするが、複雑な思考が出来なくなる。
【保有スキル】
拷問術:A+
狂的なまでに磨き上げられた拷問の技術。
『外部からの邪魔が入らないように臭いや声が遮断されている部屋』の作成という、最早疑似的な陣地作成までも行える領域に至っている。
戦闘続行:B
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
『バーサーカー』は共食いの結果、通常の喰種は一つしか持っていない赫包を三つ持っており、高い再生能力を持つ。
精神汚染:C
精神が錯乱しているため、同ランクまでの精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
マスターである雨霧八雲とは意思疎通を出来ているような出来ていないような微妙な状態。
喰種:C+
ヒトを喰う種。
魂食いだけではなく、人間の身体を喰らうことで通常よりも多くの魔力を得ることができる。
更に、『バーサーカー』は人間だけではなく同属も喰った結果、喰種の進化形態とも言われる赫者になりかけている半赫者である。
そのためスキルランクが上がり、人外であろうとも喰うことで魔力を得ることができる。
【宝具】
『1000-7』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
この宝具の対象となった相手は「1000から7ずつ数を引いていってその数字を口に出して言っている」間は正気度減少を抑制することができる。
『バーサーカー』に拷問されている相手を出来る限り正気に保ち、拷問狂の彼を長い間楽しませるための宝具。
そのため、この宝具で正気度減少はないものとする。
『13』
ランク:B- 種別:対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:1
13区の悪鬼、金曜日の死神、ジェイソンとも称された『バーサーカー』の真なる力を開放する合言葉。
喰種の進化形態とも言われている赫者へと変貌し、筋力と耐久のパラメータを上昇させる。
上半身に鎧のような赫子を、右腕に巨大な触手を思わせる冒涜的な赫子を纏い、再生能力も通常よりも上昇する。
ランクが下がっているのは『バーサーカー』が未だ不完全な赫者、半赫者であるため。
【weapon】
基本的には喰種の超人的な身体能力と3本の赫子、鱗赫を用いて戦闘を行う。
巨大なペンチのような拷問道具を用いることも。
【人物背景】
かつて、奪われ続けた男がいた。
男は強くなり、奪う側に回った。
奪いに奪いに奪い続けた男は、最後にすべてを奪われて、天使に見送られましたとさ。
【サーヴァントとしての願い】
受肉し、もっと奪いたい。
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投下終了します
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すみません、315は2重コピペしてしまったので本来は
>空が青いと思った。
だから俺たちは、人を殺した。
の一文となります。投下ミス失礼しました。
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それでもまったく違和感を覚えなかったあたり、流石は人工島の真っ白ジェノサイダーだなぁと勝手に思ってしまった
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投下します
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1:
青い匂いが今にも漂ってきそうな柔らかな芝草の上で、赤い野球帽に青と黄色のボーダーシャツの少年が仰向けになって眠っていた。
少年特有のあどけない寝顔。それはまるで、今この場に燦々と降り注ぐ太陽の光と、春の暖かな陽気に眠気を引き起こされ、眠りこけてしまったかのようにも思える。
赤い野球帽の少年を、幾人もの人々が取り囲んでいた。
大人もいる、子供もいる。不思議な事に、鼠もいるし、大きな鼻が特徴的な肌色のふしぎな生き物もいた。
皆、悲しそうな顔をしていた。
赤色のリボンがトレードマークのブロンド髪の少女は、顔を抑えて泣きじゃくっている。
丸眼鏡をかけた金髪の少年と、今時珍しい辮髪の少年は、男の子だからか涙は堪えているが、今にも感情が決壊しそうだった。かなり無理をしているのが表情から解る。
白衣を身に付けた髪の薄い老人と、その隣にいる小太りで赤髪の男性、作業着を着た灰色の髪の中年も、ひどく悲しみと後悔とが入り混じった顔で、眠っている少年の顔を覗き込んでいる。
赤い野球帽の少年は、かれこれ30分は息をしていなかった
2:
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スーパーマリオのテレビゲームを一通り遊び終えたぼくは、ゲーム機の電源を切ってから、リビングからキッチンへと向かった。
時計の針は昼の12時を指している。昼のご飯の時間だった。と言っても、大したものはない。
食材自体はあるんだけれど、ぼくはあまり料理が得意じゃないから、昼のご飯は大体グラノーラシリアルと、バタートーストで間に合わせる事にしてる。
お皿にグラノーラを入れて、冷蔵庫から取り出したミルクを注いでから、トースターにパンを2枚入れ、リビングへと戻った。焼けるまでは、グラノーラを食べている。
リビングに戻った後で、ぼくは、何か目ぼしい番組がやっていないかと、テレビの電源をつけて、チャンネルを取り敢えず適当に変えてみた。
チャンネルを切り替えるボタンを押す指を、ぼくは止めてしまう。今時珍しい、モノクロの映像が流れていたからだ。
オズの魔法使い、と言う映画らしい。相当古い映画である事が解る。モノクロの映像だと言う事もそうだが、フィルム自体からも、隠し切れないが香って来るようだ。
目ぼしい番組も特になかったから、僕はこの番組を見る事にした。
最初のクレジットタイトルが終わり、映画本編がスタートする。
見た事もない綺麗な女優が、ぼくの生まれ故郷よりもまた更に田舎の街で、ドタバタ騒いでいた。
本当に、昔の作品なんだなぁとぼくは思った。舞台設定や時代背景が、今よりも50年くらい昔なんじゃないだろうか。
ぼくが映画に集中していると、液晶テレビが映している映像とは別に、世界の方が、ぼくにサプライズを用意して来た。
シリアルを口に運んでいるぼくと、オズの魔法使いを映しているテレビの境の空間に、ぼくがまばたきするよりも速く、男の人が立ってたんだ。
思わずシリアルを運ぶ手を止める。ぼくはその人をまじまじと見つめた。
白い野球帽に、やはり白い野球ユニフォームを着用した、ぼくより背の大きい大人の人だった。
大きな野球大会で活躍するスター選手のような風格すらあったけど、ぼくはすぐに違うと解った。と言うよりぼくは、目の前に現れたこの人の事を知っている。
だから、驚いたのはこの人が現れた最初の一瞬だけで、それ以降は全く驚かずに、あるがままに彼を受け入れられていたんだ。
「身体の内に、白く燃え上がる無垢で聖なる魂を持つ者よ。問おう。お前が俺のマスターか」
男の人は、聖書の中に出てくる人達みたいな、古めかしく威圧的な言葉でぼくに語りかけて来た。ぼくは、首を縦に振った。
「この聖杯戦争と言う汚れた舞台において、セイヴァーのクラスにて見参した。今よりお前の剣となり盾になろう」
何の淀みもなく、セイヴァーは威圧的な言葉を続けて行く。服装と言葉が合ってないような気がするが、何でだろう。
普通の人だったらセイヴァーの服装でそんな事言っても空回りするだけなのに、彼の場合は、それがとてもかっこよくキマっていた。
やっぱりこの人は、ぼくのサーヴァントであったらしい。実を言うと、そろそろ来るのではないかと言う気がしていたんだ。
ぼくは、聖杯戦争の参加者だ。当然、聖杯戦争がどう言ったものなのか、ある程度は理解している。と言うより、刻み込まれていたから強制的に理解させられた。
だから、サーヴァントが現れても、それ程驚きはなかった。ある程度身構える事が出来る事だったから。
だけど、セイヴァーと言うクラスについては初耳だった。聖杯戦争は、7つのクラスで行うって頭の中には記されている。
それに、セイヴァーって名前にも、疑問を覚えた。ぼくは、聞いてみた。セイヴァーは、英雄(ヒーロー)なの? って。
「違う」
すぐに彼は返事をしてくれた。じゃあ、救世主なの?
「違う」
じゃあセイヴァーって、何?
「俺は浄化者だ」
浄化者。
「俺は果たさなければならない神聖な任務を負っている。俺は、この世界を浄化しなければならない」
どう言う事をするの?
「この世界に蔓延り、やがて跳梁するであろう、堕落した悪魔の子らと、その裏に隠れ潜んでいるであろう、聖杯戦争を仕組んだ者に裁きを与えるのだ」
その悪魔って、サーヴァントの事?
「その通り。この聖杯戦争に呼び出された悪魔の子、或いは、痛ましき霊を滅ぼす許しの代弁者、それが俺だ」
チンッ、と言う小気味の良い音がキッチンの方から響いて来た。
トースターがパンを焼き終わった音。キッチンに行ってパンにバターを塗る事すら忘れて、ぼくはセイヴァーに質問を続けた。
聖杯戦争の裏にいる人って、誰?
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「わからない。だが、これだけ大掛かりな事が、自然現象的に起こる筈がない。誰かが意図的に起こしたとみるのが普通だろう」
確かに、そんな気がして来た。一体誰が、聖杯戦争を始めているんだろう。
少しだけ疑問に思った後で、ぼくは、一番聞きたかった事をセイヴァーに訊ねた。ぼくは――人を殺さなくちゃ駄目なのかな、って。
「俺が滅ぼすのは、俺達に危害を加えようとする霊だけだ。お前が望みならば、マスターを殺さず、サーヴァントだけを滅ぼす事も視野に入れよう」
ぼくにとっては、嬉しい配慮だった。人は、殺したくないから。
でも、場合によっては、サーヴァントだけじゃなくて、人間も殺さなくちゃいけないんだよね?
「俺に未来を予見する力はない。もしかしたら、俺も人を殺す事がありうるし、お前もそれに加担する可能性だって、0じゃない」
少しだけ黙りこくってから、ぼくは、わかった、って言った。
本当はいやだったけど、仕方のない覚悟だった。セイヴァーが、大義そうに、首を縦に振る。ぼくの返事が、満足だったらしい。
「マスター、俺の方からお前に聞きたいが、聖杯に叶える願いはあるのか?」
ある、と、ぼくは答えた。セイヴァーがそう訊ねてから、1秒も経過していなかったように思える。
「何だ、それは」
元の世界に、帰りたい。ぼくは、迷わずそう答えた。
瞳のちょっとした動きだけで、セイヴァーはぼくに、続きを話すように促した。ぼくは、説明を行う。
ぼくの長い旅は、意地悪で、わがままで、いつも寂しそうにしていた、ぼくの隣人の荒々しいノックから始まった。
今でもぼくは、何で自分が選ばれたのか、わかってない。だけどぼくの奇妙な冒険は、裏山に落ちて来た隕石を、隣人と一緒に見に行った所から幕を開けた事は確かだ。
旅の途中で、色々な生き物や人が、僕の旅を邪魔しに来た。おじさんやおばさん、警察の人に、街の悪い不良達。
犬や蛇、カラスにワニに恐竜何かとも戦った。かと思えばゾンビやお化けとかの恐いものや、ぼくの言葉じゃ表現しきれないもの、果ては宇宙人とも戦った。
旅をした場所も、色々だった。洞窟の中、お墓にその地下、砂漠、雪の降りしきる北国、寒さとは無縁そうな南の島、砂漠、海の上、雲の上の神秘の国、
ジャングル、宇宙人の秘密基地、地下に広がる巨大な世界、火山の中、ぼくの心の中、そして――遥か過去の最低国。
傷つき、倒れそうになった事なんて、数えられない。家に帰って、ママに甘えていたいと思った事なんて、もっと多かっただろう。
だけど、ぼくは決して1人じゃなかった。かわいくてしっかり者のポーラと、少し臆病だけど頭の良いジェフ、そして勇気があって男らしいプーの3人の、かけがえのない友達。
ぼくは彼らといっしょに旅をしていなければ、旅を何処かで諦めて放り出し、他の誰かが問題を解決してくれると、逃げだしていただろう。
彼らと旅をするうちに、気付いたらぼくは、自分の境遇と運命を、呪う事がなくなっていた。
3人と旅をしている時でも、辛いと思う事もあったが、この度のおかげで僕は、3人の最高の友達と巡り合えたのだから、それでもいいかと考えるようになった。
旅の終わり、ぼくらは、敵のボスであるギーグがいる過去へと向かう為に、自分自身の頭脳をロボットに移植する必要があった。
此処まで来た僕らは迷いなく、その方法を受け入れて、過去へ飛び……そして、ギーグと、最悪の隣人・ポーキーの野望を打ち砕いた。
実感が湧かないけど、ぼくは、世界を救ったんだと思う。わからないけど、これでよかったんだと思う。
アンドーナッツ博士が最初に言っていた通りだった。
頭脳をロボットに移植して過去へ移動すると、魂がロボットの方に行ってしまい、永遠に現代に戻れなくなる可能性が高いと言う。
その通りの事が、ぼくに起った。ぼくの魂は、サターンバレーに眠っているであろうぼくの身体に、戻る事は出来なかった。
それを分かっててやったんだから悔いはない筈だけど、それでもやっぱり、寂しかった。3人の友達と会えない事もそうだけど、ママとパパに会えないのも、きつい。
ぼくはずっと、時空の闇の海の中を漂っていた。浮き上がっているのか沈んでいるのか、左に動いているのか右に動いているのかも解らない、ただただ、
水の中に潜っているような浮遊感だけがある、一条の光すらも届かない暗闇の中で、僕はずっとふわふわしていた。
ぼく以外のもの何て一切存在しない空間を、ふわふわしていた時間は、どれぐらいだっただろうか。ある時、僕の頭上に、銀色の光の点が光ったんだ。
ぼくはそれが無性に気になって、それに手を伸ばし、手に取った。それが、『地球』を模した銀色の鍵だとわかった瞬間、僕はこの街にいた。
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アメリカにあると言う地方都市、アーカムのダウンタウンに住む長男の一人っ子。それが、ぼくである。
パパとママはダウンタウンで公務員として働いている、共働きだ。家族関係は良好で、順風満帆な生活を満喫している。それが、このアーカムでぼくが送るべき生活。
だけど、本当は違う。ぼくはアメリカなんて国は知らないし、ぼくが生まれた国はアメリカではなくイーグルランドのオネットだ。
それにぼくのパパは仕事で世界中を飛び回っている忙しい人で、ママはいつも家で家事をしており、帰ってきたら優しくぼくを迎えてくれる。
この家には妹のトレーシーも大きなムク犬のチビも見当たらない。そして、あの最悪の一家、ミンチ家がぼくのご近所さんじゃない。
何から何まで、ぼくが知っている世界じゃなかった。ぼくのズボンのポケットにしまわれているあの銀の鍵は、殺し合いをさせる為にぼくの前に姿を現した、
悪魔の鍵だったんだ。
ぼくがあの鍵を手にした事が、良かったのか間違っていたのか、ぼくにはわからない。
2つ確かな事があるとすれば、ぼくは、人は殺したくないと言う事。そして、なんとしてでも元の世界に帰って、ママの作るハンバーグを食べたいと言う事だった。
「人は殺したくない。だが、聖杯か、それに匹敵する奇跡を以て、元の世界に帰りたい、か」
ちょっと、ムシが良すぎるかな?
「俺にもわからない。だが、お前の願いには従う。悪意ある霊どもを消して行けば、何れお前の理想は叶うだろう」
どちらにしても、戦わなければいけないらしい。ぼくは、コクン、と頷いてセイヴァーの瞳をジッと見つめた。
心臓を冷たい手で握られるような、冷たい目。自分の事を浄化者だと言っていたが、その言葉に嘘偽りのない、感情のない瞳だった。
「以前、俺が世界を1つの世界を浄化した時、俺を導いてくれた者には名前があった。マスター、俺はお前の名前が知りたい」
そう言えばぼくはセイヴァーに名前を教えていなかった。だがセイヴァーも、本名――聖杯戦争が言うところの真名を教えていない。
だけどぼくは、自分の名前から先に教えた方が良いかなと思って、まずはぼくの方から自己紹介をする事にした。
「ぼくは『ネス』だ」
無言で、ぼくはセイヴァーの真名を待った。すぐにセイヴァーは、答えてくれた。
「俺は『バッター』。堕落した魂どもに聖なる怒りを喰らわせる者」
3:
バッターが自己紹介をしたと同時に、液晶テレビの中で、オズの魔法使の主役であるドロシーを演じる女優、ジュディ・ガーランドが、
その類稀なる透明な美声で、歌を歌い始めた。カンサスの田舎娘に住むドロシーが、悩み事も心配事もない理想郷を夢想するシーンで、彼女はその曲を歌う。
曲題を、Over The Rainbow。『虹の彼方に』と訳される、名曲中の名曲。世界的に著名な劇中歌であり、幾人もの名だたるアーティストがこの曲をカバーして来た。
その曲は語る。『虹の彼方のどこか空高くに、子守唄の中で語られる国があり、その青い空の中にある国で信じた夢は、全て現実のものになる』、と。
奇しくもネスとバッター達が招かれた世界は、その劇中歌と関連性を見出す事が出来た。
其処は、『外道の知識を記した書物の中に語られる、冒涜的な玉虫色の球体』が仕立て上げた世界であり、その世界には、
『数多の血と死と贄を捧げた末に、全ての夢を現実とする聖杯』が手に入れられる場所であると言う事が。
――世界を救った少年は聖杯に向けて、世界を滅ぼした浄化者は邪神に向けて、そのビフレストを今上り始めた。
【クラス】
セイヴァー
【真名】
バッター@OFF
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運C 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
浄化者:EX
世界を浄化する、と言う神聖な使命を負っている者。
セイヴァーは例えその浄化行動の先に如何なる結末が待ち受けていようが、迷う事無くその使命を果たそうと行動する。精神干渉を無効化する。
-
【保有スキル】
対霊・概念:EX
霊的な存在、または魔的、概念的な存在に対する攻撃の適性及び、それらの存在を感じ取る知覚能力。
セイヴァーはこれらそのもの、あるいはその因子を持った相手と敵対した場合、全てのステータスがツーランクアップする。
霊的な存在である事は確かだが、実体化したサーヴァントにはステータスアップの恩恵は発動しない。
但し、サーヴァントが霊体化した場合、または、実体化してもそのサーヴァント自体が霊的・魔的・概念的な因子を有しているのならば、
ステータスアップは発動する。
記号使役:A
使い魔使役の延長線上にあるスキル。セイヴァーは『アドオン球体』と呼ばれる、三位一体を成すリング状の記号生命体を3体行使する事が出来る。
真名看破:D
セイヴァー自身が使う事が出来る技、ワイド・アングルと呼ばれる技術によるアナライズ能力。
同ランクの秘匿スキルを持たないサーヴァントであれば、真名を看破する事が出来る。
【宝具】
『Spherical Add-Ons(アドオン球体)』
ランク:A+ 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜20
セイヴァーが使役する3体の記号生命体、通称アドオン球体と呼ばれる存在が宝具となったもの。
白色のリングとも言うべき姿をした彼らが何者なのかは解っておらず、使役するセイヴァー自身も、彼らが何処から来て何の為にいるのか理解していない。
解っている事は、3体にはそれぞれアルファ、オメガ、エプシロンと言う名前がある事。彼らは三位一体を表している事。
そしてそれぞれ、アルファが父なる者、オメガが子なる者、エプシロンが聖霊なる者を表している、と言う事だけであり、それ以上の事は詳細不明。
彼らは意思を持っているのか、そもそも生命体なのかすらも疑わしい存在だが、独自の行動原理を持っている事は確かであり、
セイヴァーが敵と認識した存在に対して、セイヴァーと共に戦闘を行う事が可能。
アルファは高い威力の攻撃と状態異常の付着攻撃を、オメガは種々様々な状態異常の回復と敵のステータスを一時的に下げる攻撃を、
エプシロンは範囲攻撃とセイヴァー及び他のアドオン達のステータスアップを、それぞれ担当している。
3体がそれぞれ豊富な魔力を持っている為に、宝具を発動、維持させたとしてもセイヴァーやマスターに掛かる魔力消費は少なくて済むが、
長時間動かし続ける、或いはそれぞれのアドオン達が保有している魔力が底を尽きた場合には、セイヴァーあるいはマスターから魔力を徴収する。
『Purifier(The Batter)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
何者かによって世界の浄化を任命され、其処に蔓延る悪性存在を粛正する為に生まれたセイヴァーそのもの。つまりこの宝具はセイヴァー自身を指す。
セイヴァーの攻撃には本来備わっている物理的な干渉力とは別に、強い浄化の属性が宿っており、吸血鬼や食屍鬼、悪魔の属性を持つ者や、
霊的・概念的な存在に対して、絶大なダメージを与える事が可能。いわば行動の1つ1つが、高ランクの洗礼詠唱のようなもの。
セイヴァーはまた、既存の魔術や奇跡ともアプローチの違う、『保守』と呼ばれる回復手段を持ち、癒しの技術にも造詣が深い。
霊的・概念的・魔的な存在が統治する領域や世界の統治者をセイヴァーが倒した場合、その世界から肉体を持つ全存在は消滅。
霊魂だけが浮遊する、一面真っ白の浄化された世界だけが広がるようになる。セイヴァーの究極の理想は、アーカム全土をその境地にする事である。
バーサーカー、エクストラクラス・デストロイヤーとしての適性も持ち、その場合上記の宝具は、
『Demented Purificatory Incarnation(狂える浄化の具現)』、と言う物に変更される。
【weapon】
カツヒロのバット:
野球選手が振るう金属バット。セイヴァーはこれを振るい、殴打に用いる事で、相手を浄化する。宝具ではないが、頑丈さは、宝具と打ち合う事も可能な程。
-
【人物背景】
この男の根幹を成しているであろう諸々の要素を語るに相応しい者は、この私の他には存在しないようだ。親愛なる君達の為に一肌脱ぐ事としよう。
私の猫のまなこから見た、このバッターと言う男は途方もない愚か者だ。盲目的な確信と確固とした期待、そして誠実極る信頼を裏切ったペテン師だ。
世界を浄化する、と言う人類の歴史の中で大体1千万の人間は抱いたであろう陳腐な大義名分の下に、聖母の如き女性と無抵抗の子供を殴り殺した狂人だ。
彼は世界を浄化などしなかった。彼は世界を破壊し、一切の生命を根絶やしにし、1つの世界を無の水底へ沈めてしまった罪人だ。
そんな彼がセイヴァーの名を預かるとは、彼をこの世界に呼び寄せた邪神とやらは見る目がない、いやそもそも、その眼窩には目が嵌ってないのだろうな。
さて、私はこの【人物背景】と言う小狭なパラグラフの冒頭で、バッターと言う男を語るに相応しいと比類ない自信を以て口にした。
事実私は、この男が我々の世界に現われてから世界を滅ぼした軌跡を目の当たりにして来た証人だからね。それを雄弁に語れる資格がある。
そんな私でも、バッターについて解らない事柄が多い。いや、訂正するべきか、我々はバッターの殆ど全てを理解していない。
我々はバッターと言う狂人が、我々の世界で何を成したかと言う事柄には君達の先を行く知識を持っているが、バッターが何者で、何処から来て、
そもそも誰から世界の浄化を任命されたのか、これらの事柄について我々は甚だ無知であると言わざるを得ないだろう。
確かなのは、バッターは女性と子供を撲殺し、許し難い彼の蛮行を止めようと現れた、誰もが愛してやまない無垢な猫であるこの私をも撲殺し、
1つの世界をOFFにするレバーを倒したと言う事だけだ。
恐らく、君達の知的器官、つまり、そのだらしない頭蓋の中でたゆたっているプティングよりも柔らかい物体で考えたとしても、
私がこの【人物背景】と言うパラグラフで、何処ぞの誰より説明せよと言われ、言われるがまま語った事柄について、全く理解を示せていないだろうに思える。
無理もない。我々の辿った道程は非常に多角的な解釈が可能であり、1つの枠に当てはめた説明は、かえって危険だろうと考えたのだ。
故に、私が語れるバッターの軌跡は此処までとし、彼に対する解釈も此処で撃ちきるとしよう。
しかしそれではあまりにも不親切であり、この【人物背景】と言うパラグラフを此処まで読んでくれた君達に対して猫の糞を砂ごと飛ばすが如くに失礼だ。
そこで、私の方から提案がある。良いかね、私の予想が正しければ、君達は電気と幾許かの回路で動いている箱、つまりPCと言う物を持っている筈だ。
そのPCを起動させ、インターネットと言う、歴史上悪魔よりも多くの人間を堕落させてきたシステムを開き、
検索エンジンに『"OFF" JAPANESE TRANSLATION』と入力、検索し、検索結果の一番上で燦然と輝くページをクリック、そのページで、
バッターと我々の軌跡を記したゲームである所の、OFFをダウンロードするのだ。
そうする事で君達は満足の行く数時間と、我々の物語を自由に解釈できる時間を幾らでも楽しめる事だろう。
元々は君達のいる世界でフランスと呼ばれるゾーンの言語で作られたゲームだったので、日本と言うゾーンに住む君達には馴染みが薄かったのだが、
君達の時間間隔で2011年と言う時期に英語と言う言葉に翻訳され、3年後の2014年8月に、見事君達の言語で翻訳され、今に至っている。
まだまだ君達の国では年の若いゲームではあるが、是非ともプレイし、バッターの狂人ぶりと、この私ジャッジの愛くるしさを堪能して貰いたい。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争の汚れた舞台を、聖杯ごと浄化する
【方針】
ネスに聖杯を、聖杯戦争の首謀者に死を
-
【マスター】
ネス@MOTHER2
【マスターとしての願い】
元の世界に戻る
【weapon】
マジカントバット:
ネスの精神世界であるマジカントで入手したものにもかかわらず、現実世界へと実体を持って持って来れたもの。
宝具とは言い難いが、サーヴァントを殴れる程度の神秘は有している。
【能力・技能】
生まれついて高いPSIの素養を持っており、各種PSIを高いレベルで扱う事が出来る。
状態異常の発生や回復、肉体的な損傷の回復、強力な念動力による衝撃発生、テレポート等々、使い方は多岐にわたる。
ギーグを倒した以上、事実上ネスのPSIは元いた世界でも最強クラスのもの、と断言しても良いだろう。
【人物背景】
世界を救う運命を背負って生まれた少年。
幾度も傷付き倒れそうになり、幾度も旅を止めようかとも諦めかけた少年であったが、世界を救うと言う志を共にした3人の友達と、
旅の最中に出会った色々な大人達との出会いによって、逞しく成長。見事、悪の宇宙人である侵略者ギーグを打ち倒す。
――しかし、物語は常にハッピーエンドで終わるとは限らない。
ギーグを倒す為に頭脳をロボットに移植、タイムトンネルを通って過去に飛んだネスは、ギーグの野望を挫く事と引き換えに、
元の世界への帰還のチャンスを永久に失ってしまった。
【方針】
バッターに付き添う。
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投下を終了いたします
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投下いたします
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サーヴァントはあらゆる時代、あらゆる世界から呼び出される。
故にこういうこともあるだろう。
* * *
────魔王パムが死んだ。
彼女が臨んだ最後の任務にて捕縛・滅殺対象の暗殺者に不覚を取った。
魔王パムの死により外交部門は武力を背景にした外交をすることができなくなるだろう。
だって、そうだろう。最強の魔法少女ですら暗殺が可能なのだ。他の魔法少女も可能だろう。
つまり腕っぷしの強い魔法少女が何人集まろうが以前のような脅しは通らず、力を失った外交部門は文字通り衰退する。
そして、その先に待つのは外交部門の終焉だ。
外交部門の上役達はこの世の終わりのような顔をしながら魔王パムの葬儀に参列していた。
魔王パムの魔法少女養成所『魔王塾』の塾生・卒業生達は偉大なる師の死に涙を流している。
その光景を外交部門の魔法少女レディ・プロウドは冷ややかに見ていた。
「魔王パムがいなくなっただけで外交部門は終わりか。
随分と舐められたものだ」
「でも実際そうじゃない」
相棒のアンブレンが無感動な瞳でレディ・プロウドへ呟く。
「アンブレン。魔王パムの後釜は確かにいない。奴は優秀すぎた」
いかなるj危機的状況にも対応可能で政治も護衛もできる経験豊富な魔法少女はレディ・プロウドの知る限り存在し得なかった。
しかし、こうも思う。
「ならば我々に残された道は衰退だけか。
なあ、アンブレン。我々がやってきたことはパムが死んだ程度で無視されるレベルのものか?」
今の今まで魔王塾卒業者じゃないというだけでレディ・プロウドは舐められてきた。
そして魔王パムが死ねば、連座で私達も終わりだと?
なんだそれは。ふざけるな。我慢ならん。
魔王塾関係者じゃないからダメなのか?
あそこで泣いているだけの腑抜け共に劣ると?
「それはヤダ」
「そうだな」
思い知らせなくてはならない。
他人の死は喜ぶべきではないが、このチャンスを逃せば次はない。
「でも手柄ってどうやって立てるの?」
「アテはある」
レディ・プロウドの魔法の端末のメール。
そこには人造魔法少女計画の情報があった。
* * *
────汝の願いを叶えよう。
レディ・プロウドの憤懣を聞き届けた神がいた。
開門される窮極の門。
その先に広がる白痴と狂気の宇宙こそ汝が主役となれる惨劇の舞台。
総てを凌駕する最果ての絶対領域。
猛毒の如き悪意が循環するヨグ=ソトースの第二宇宙。
そこから啓示される言葉こそ全ての証明。全ての元凶。
汝、ここに最凶を証明せよ────
-
* * *
「何だコレは」
レディ・プロウドは件のタレコミがあった情報によりS市内で捜索を始め、血の匂いを追ってとある廃工場にいた。
どうやらここが人造魔法少女研究所の入り口らしい。
それらしきものがなく、入り口を探して工場の給湯室に入れば、銀色に輝く鍵があった。
薔薇と蝙蝠の意匠を凝らした年代物だと推測できるが、何故こんなものがこんなところにある。
「もしや入り口を開く鍵か?」
こんな所に置きっぱなしにする理由も思いつかないが、かといって無関係とも思えない。
これが鍵ならば鍵に合う鍵穴があるはずだ。
「む、これか」
銀色の鍵を拾うと鍵の下に確かに鍵穴が存在した。
鍵を差し込んで回す。
回してしまう。
回してしまった。
瞬間、空間が泡立ち、或いは罅割れ、或いは捻れた。
名状しがたい吐き気と浮遊感がレディ・プロウドを襲う。
「ぐ、あ、わ、罠か」
突如、耳朶を打つ下劣な太鼓の狂おしき連打と呪われたフルートの音。
一体、どこから聞こえてくるかすら気にする余裕のないままレディ・プロウドの意識は暗黒に呑まれた。
* * *
そして急に現実に醒める。
自分はとある会社の秘書で、廃棄された工場を取り潰す下見をしに来ていた───などと訳の分からない偽の記憶から解放された。
いる場所は昏倒前と変わらぬ給湯室だった。
しかし、雰囲気が変わっている。コンセントや給湯器、その他の備品が尽く錆びつき、朽ち果てていた。
一体何年経っている?── 寂れ具合から少なくても10年近く。
外交部門はどうなった!?──そんなもの、考えるまでもないだろう
いや、それよりも!!
「───アンブレンッ!!」
給湯室から駆け出し、やはり昏倒前よりも朽ち果てていた工場の内部にアンブレンの姿はなかった。
代わりにいたのは───魔王パムだった。
-
「なん……だと……」
馬鹿な、死んだはずだと頭では拒絶しても目の前の現実がそれを許さない。
奈落の如き双眸、闇を塗り固めたような四枚の羽、ほぼ暖簾としかいいようがないほど露出度が高い衣装。
そして全身から放たれる暴威の波動。魔王の風格。それでいて氷河を思わせる停滞感。
感じる全てが魔王パムだと告げている。
「貴女が私のマスターですか」
柔和な笑みを浮かべて魔王パムがレディ・プロウドを問い質す。
その問いをトリガーに脳に直接流れ込む聖杯戦争の知識。
──聖杯、アーカム、サーヴァント、神秘、マスター、令呪、銀の鍵、秘匿者、令呪──
聖杯、聖杯、聖杯だと?
ああ、なんて素晴らしい。人造魔法少女なんて目じゃない代物じゃないか。
「ああ、そうだ。私がお前のマスターだ」
レディ・プロウドは現状を全て理解した。魔王パムが己のサーヴァントとしていることも。
だが、その前に聞かなくてはなるまい。
「アンブレンはどうした」
「ここにはいません。銀の鍵を持っていない者はアーカムへこれません」
アンブレンはまだあの工場にいるというわけか。
早く他のマスターを倒して帰らねばならないな。
可能であれば彼女も連れてきたかった。
強力な護衛としても精神的支柱としても私にはアンブレンは必要だ。
少なくとも目の前のサーヴァントよりは信頼できる。
「死んだばかりなのに英霊扱いとはな」
嫉妬を抑えられずレディ・プロウドは冷笑を浴びせる。
自分達を散々引っ掻き回した当の本人が英霊として崇められ昇華されているのだ。
腹立たしくて仕方がない。
しかし、プロウドも恥は知っている。口にした直後、自分の行いが恥ずかしくてすぐに言ったことを後悔した。
肝心のパムはというと優しい笑みを浮かべたままパムは回答する。
「いえ、英霊とは時空を超越して座より呼び出されるものです。今回の召喚も毛色が少し異なりますが、その大原則は変わっていません。
未来で英霊になった自分と戦った、なんて事例があったらしいですから
自分の知り合いが英霊として召喚されるなんて決してあり得ないということはないです」
レディ・プロウドは他にも様々な質問をした。
サーヴァントのステータス、スキルの詳細、帰還方法、そして魔王パムが聖杯に何を願うのか。
「私の願いはただ一つ。『納得のいく結末に変えたい』。ただそれだけです」
「それはつまり死んだことをなかったことにしたいということか?」
「いえ、暗殺されたのではなく、戦いで敗れた結末に変えたいのです」
それこそが魔王パムの、戦闘者としての未練。
暗殺、謀殺としてではなく戦いで己を上回る者と戦い、そして死んだ。
その過程のみを書き換えたい。なぜならば
「見ていたでしょう。私の眷属(こども)たちが私が死んでどうなったか」
最強は否定され、討つべき仇はもはやなく、故に嘆くしかない者たち。
総じて──魔王パムが生前否定した弱者そのものであった。
敗北は敗北だ。パムが任務に失敗して敗死した事実は認めねばなるまい。
しかし、己の後に続く者達は生きている。だから強くなってほしい。
『いつまで死者(わたし)に縋っているつもりだ。
前を向け。胸を張れ。生者(おまえたち)はまだ先へ行けるのだぞ』
それが魔王パムの最後の教えである。
-
「マスターの願いはなんでしょうか」
パムが聞き返す。
聖杯戦争においてマスターとサーヴァントの願いが相反する場合、サーヴァントとマスターの関係が崩れる。
どこかの聖杯戦争では戦争開始前にサーヴァントと信頼関係を失い、サーヴァントに殺されたマスターがいるとか。
その大前提も知識として入ってきている。
しかし、敢えて言わねば、言ってやらねばなるまい。
「決まっている。魔法の国へ聖杯を持ち帰り、お前の後釜へ……いや、お前を超えるポストに付く」
英霊相手に不遜極まりない宣告。
そしてレディ・プロウドの喝破はそれだけでは終わらない。
さらに────
「踏み台にさせてもらうぞ魔王パム。
お前の死こそ私達にとって最大の好機なのだから。
お前の屍を越えていく!!」
あろうことかお前が死んでよかったと口にする。
こんな物言いではサーヴァントどころか誰に言っても怒りを買うだろう。
即殺されても文句を言えない発言に、されど魔王パムは微笑んで
「はい。楽しみにしております」
と本当に嬉しそうに返したのだ。
* * *
「最後に一つ質問なんだが」
「はい、なんでしょうか」
「なんで敬語なんだ?」
「私は同輩以上が相手なら上司も同僚も同じように話しますから」
丁寧かつ相手を不快にさせない口調は魔王というよりも柔和な老淑女を思わせる……が露出の多い格好が全てを台無しにしていた。
ともかく服を買ってやらねばなるまいと《イーストタウン》の寂れた工場を後にした。
-
【サーヴァント】
【クラス】アーチャー
【真名】魔王パム@魔法少女育成計画 limited
【属性】秩序・中庸
【パラメーター】
筋力:A 耐久:A 敏捷:A 魔力:A+ 幸運:D 宝具:A+
【クラススキル】
単独行動:C
アーチャーのクラス別スキル。
マスターからの魔力供給を断っても自立行動が可能。
またマスターを失っても1日まで現界可能。
対魔力:E
神秘の薄い時代に生まれたため無効化は出来ない。
ダメージ数値を多少削減する程度。
【保有スキル】
心眼(真):A
魔法少女として数多の修羅場をくぐったことで得た洞察力。
いかなる窮地においても戦況から活路を見出す。
魔法少女:EX
魔法少女の中でも最古参で最高の能力を持つ。
彼女のステータスの高さもその一端である。
また思念によってステータスを一時的に上昇させられることができる。
魔王:B
生前のイメージによって過去の在り方を捻じ曲げられた怪物。能力・姿が変貌する。
アーチャーの場合は本人が名乗っているので任意にこのスキルを発動・解除ができる。
ただし、生前名乗った称号がスキルに昇華したことから、このスキルを発動するには真名を暴露する必要がある。
名乗った理由が織田信長と異なり、『万魔を統べる最強の魔法少女』という称号だったため、
筋・耐・敏のステータスの平均がA未満の者は畏怖のあまり全ステータスを1ランク下げる。
ただし、狂人もしくは同ランク以上の精神防壁を持つ者にはこの効果は適用されない。
また伝承から彼女を討伐した者、手傷を負わせた者はEランクの『神性』を獲得すると同時に、
どれだけ無名、もしくは正体を隠蔽してもいくつかの情報が暴露される。
生前、アーチャーに傷を負わせた音楽家は後に暴威と審判の神格化、魔王を暗殺した虹は魔王殺しという最凶最低の称号で広く知られた。
ヨグ=ソトースの智啓から召喚された事とこのスキルにより宝具の名前が代わっている。
カリスマ:B
カリスマ性の高さを示すスキル。自軍の能力を向上させる。
Bランクならば国家クラスの軍勢を率いることが可能。
【宝具】
『名状しがたき凶気に蠢く不定形にして混沌の羽』 (よんまいのくろくておおきなはねでたたかうよ)
ランク:C → A+ 種別:対人、対軍、対城、対国、対文明、対界 レンジ:1〜地球文明圏内 最大捕捉:1〜地球上全て
魔王パムの使う唯一にして万能の魔法。
本来であればこのような真名の宝具では無いが、『魔王』という属性と本人の気質により変容した。
宝具の能力自体に変化はない。完全にノリである。
羽の構成物質を変えてあらゆる生物・無生物・物理現象を生み出す。
羽は四枚しかないが、別の羽を分裂させることで四枚に戻すことができる。
あまりに破壊規模が広いため地球の文明圏内での全力解放を封じられていた伝承から
全力が封印されており、周りの被害を気にする必要がないほど解放されて威力と規模が上がっていく。
固有結界の中に入れちゃダメ、絶対。
『遥かなる時空の彼方に座する沸騰する深淵の中核』 (まおうじゅく)
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:10 最大捕捉:1人
生前の魔王パムが生み出した魔法少女の共同体『魔王塾』に関わった者を時空の彼方より呼び出す。
本来であればこのような真名の宝具では無いが、『魔王』という属性と本人の気質により変容した。完全にノリである。
宝具の能力自体に変化はない。
呼び出される者は完全にランダムで、魔王塾から放逐された者や見学者もこれに含まれる。
【weapon】
なし。宝具の羽と彼女の全身が武器である。
【人物背景】
かつて魔法の国の外交部門に所属していた魔法少女。
『最強』、『究極』、『最終兵器』、『大量破壊可能な魔法少女』、『外交部門の決戦兵器』と数多の通り名を持つ。
事実として彼女は最強の名に相応しい暴力とそれを抑える克己心を持つ優秀な魔法少女だった。
しかし最後の任務にて暗殺され、その伝説に幕を下ろす。
彼女の命を奪った原因は自身が問題視していた人を見る目らしい。
【サーヴァントとしての願い】
自分の最期を納得のいく結果に変えたい。
-
【マスター】
レディ・プロウド@魔法少女育成計画 JOKERS
【マスターとしての願い】
パムを越えたい
【能力・技能】
魔法少女:C
魔法少女として高い素質を持つ。
超人の魔法少女の中でも比較的に強いが、武闘派サーヴァントを打倒するほどではない。
『自分の血液をどんな液体にも変化させられる』魔法が使える。
また思念によってステータスを一時的に上昇させられることができる。
【人物背景】
魔法の国の外交部門に所属している魔法少女。
相棒の魔法少女・アンブレンはレディ・プロウドにとってかけがえのない相棒で、同時に精神的支柱である。
アンブレンのいないレディ・プロウドはひどく揺さぶられやすい。
魔王パムと同じく小隊長クラスの実力と経験があるが『魔王塾』出身でないことから評価が低い。
そのせいでパムに対しては嫉妬しかないが、反面パムの有能さも認めている。
マスターとサーヴァントが同じ世界、同じ時代を生きたという奇異なケースであるが、
とある聖杯戦争では未来に英霊となった自分に会うというケースがある以上、こういったことも起きうるのだ。
【方針】
聖杯、もしくはその一部を魔法の国に持ち帰り手柄にする。
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投下終了いたします
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投下します
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進化とは何か。
呼び出したサーヴァントはまずそんなことを問いかけてきた。
唐突な問いかけだったが、フリット・アスノはすぐさま答えることができた。
「分からない」
と。
フリット・アスノは決して学がない訳ではない。
齢60を越える退役軍人である彼であったが、しかしその頭の冴えは今なお衰えている訳ではない。
顔には皺が深く刻まれ、肉体的にも衰えが見えているが、しかしその頭脳と――眼光はかつての輝きを持ったままだ。
若さという翼がなくなろうが、軍人として一線を退こうが、心の奥底に鈍く灯る暗い炎は決してなくなりはしない。
その炎の源は復讐ではあるが憎しみでもない。
ルサンチマンの類を憑代に半世紀も戦える訳もない。
フリット・アスノはひとえに人を救いたかった。その為にありとあらゆるものを研究し、戦ってきた。
生きる為に。
生かす為に。
彼は戦っているのだった。
「“進化”とは分からないものだ」
彼はもう一度答えた。
進化。
それは彼の人生を語る際、決して抜かすことのできない単語だった。
進化。彼がその言葉に傾倒したのは何時からだったのだろうか。
早くから工学――それも兵器開発の道に進むことを決めていた彼は、しかし本来は全く違う分野である筈のその単語にも興味を持っていた。
何が生命を進化させるのか。何故進化が必要だったのか。そもそも進化とは何なのか。
それは彼の血――アスノ家が長年追及していたテーマであった。
早くから親をなくし、研究面においては家の影響などなかったはずだが、しかし――あるいはやはりというべきか――フリットもまた進化というワードに憑りつかれることになった。
AGEシステム。
それは進化するガンダムである。
兵器の発展に生命の進化系統樹を重ねあわせたシステムの開発に成功したからこそ、彼は幼少期から最前線に立つことができた。
そんな彼をして“進化”は――分からないものなのだった。
「人の叡智はある程度のところまでは“進化”を解明することができた。
ゲノム情報からとある生物の進化上における位置や、どの時点で他の生物から遺伝子的に分岐したのか、そういったことの解明はできた。
それを系統樹として体系化することも勿論可能だった。ここまでは子供でさえ学校で習うだろう。
しかし進化を体系化することには一つ問題があった。
一つの進化を系統樹として表すことはできるが、しかしただ一つの系統樹がどのように決定するかは、何が進化を決定づけるかは分からないということだった。
進化の系統樹は一つではない。様々な系統樹が存在し、その中から最善樹やコンセンサス系統樹なるものが選択される訳だが、
しかしそこには必ず曖昧さと冗長さが絡んでくる。
ある閾値に達しない“枝”はすべて無視され、ほかの選択肢、ほかの可能性はことごとく捨てられてしまう。
つまり“進化”とはアバウト過ぎるものだ」
フリットがそう語ると、サーヴァントである“少女”はゆっくりと頷いた。
「しかし、それを補うために“車輪樹法”という手法があるんでしょ?」
「確かに……だが」
車輪樹法“Centroid Wheel Tree“”はそのアバウトな進化系統解析結果を、情報豊かに偏り無くかつ直感的に表現する為に考案された。
進化系統樹を一つのものに限定することは現代生物学においてはあまりにもナンセンスである。
人は成長する。その為に系統樹を限定することのない記述法を勘案したのだが、
「だがそうした手法を以てしても“進化”を体系的に書き記すことはできない。
“ドメイン”という概念がある。古典的生物学では“界”が最高位の分類法とされていたが、これはその上の分類だ。
生物を真正細菌、古細菌、真核生物の三つに分ける“三ドメイン”がより一般的になっている」
真正細菌とはいわゆる“細菌”だ。
大腸菌や腸内細菌といった微生物のことであり、これらは細胞の中に遺伝子がバラバラに散逸している。
古細菌とはそれら微生物が高温域や極寒域、大気圏などの特殊な環境に適応したものだ。
そして真核生物は細胞の中に核を持っているものだ。
――つまり人間やマウス、ゴキブリのことである。
-
「三ドメインを総称して“超生物界”なる呼称が生まれた。
この“超生物界”を車輪樹法――円環の系統樹で書きあらわすことはできる」
フリットは生物学の研究の際に見た図を思い起こす。
それらは本来初心者向け――専門外の人間に見せる為の図であり、直感的に理解できるような図であった。
真正細菌、古細菌、真核生物の三領域から始まり、それぞれの円内から円弧へと線が伸びている。
真核生物の弧上には動物界、植物界、原生動物界といった“界”の区分けがある。
一方で最も区分けが多いのは真正細菌の領域であり、その円弧にはフィルミクテス門、クラミジア門、プランクトミケス門、アクチノバクテリア門……といった“門”が存在する。
「しかし、ここで終わりだ。これ以上の体系化はできない。
古典的生物学における最上位“界”や“門”の、更に上の区分けまではたどり着いた。
しかし――それすらも超越した“起源”にたどり着くことができない。
“進化”とはそもそも何であるか。
“進化”が何から始まったのか。
それを記述する筈の“起源”――“起源X”には届かないのだ」
三つのドメインに分岐するためには、それより古い時代に存在した筈の生命体が想起されなければならない。
ありとあらゆる生命の根幹をなす唯一無二の生命体が存在――それを“起源X”としよう。
“起源X”を解き明かさないことには、“進化”が何であるかを語ることはできないのだ。
それが旧世紀から連なる生物学におけるテーマであり、フリットが行き当たった壁であった。
「そうです。“進化”が何であるかは分からない。
何故こんなシステムが存在するのか、どうしてこんな形が生まれたのか、誰がどんな思惑で生物を“進化”させたのか。
分からない。けれど“進化”は今現在もてはやされている。
ここに――欺瞞があるのよ、マスター」
そういったサーヴァントである少女は、可憐に舞った。
露出度の高い外見。女王様ルックのボンテージ姿。
魔法少女における――お色気担当。
それは――萌える外見をしていた。
「クトゥルフよ」
彼女がそう言った途端、部屋に備え付けてあるテレビからチープな映像が流れ出した。
……アニメだった。
四人の少女が躍り狂っている。
安っぽい楽曲に合せ、フリフリな少女趣味のドレスに身を包みながら激しいダンス・ビートを刻んでいる。
歌はこんな歌詞だった。
『適応進化 フルくさーい
ダーウィン先生 まじめすぎ
漸進進化 マダるっこーい
ドーキンス先生 いばりすぎ
断続進化 ウソくさーい
グールド先生 はげしすぎ
創造進化 信じられなーい
原理主義者 あぶなすぎ
だから、ね、ね、わたしたち
何がなんでも 絶対進化
そうよ だから やっぱり
ウー ワー オー
絶対進化しましょうか
絶対進化しましょうか』
……というものだった。
何ともチープで不出来な、見る価値のないであろう映像であった。
しかし、フリットは目を離すことができなかった。
何故ならば、その映像の中にいたアニメの少女が――目の前の少女と瓜二つだったからである。
-
彼のサーヴァントは、アニメの美少女なのであった。
フリットの困惑を見透かしたように、少女は落ち着いた声で語りかけてくる。
「“セカイ系”は二十一世紀ゼロ年代を経てゆるやかに終焉したかのように言われているわ。
けれど、表層的には消費しつくされたかのような構造にも、本当は意味があったとしたら。
――戦闘少女と無力少年の組み合わせには、はるかに深い意味が隠されているの。
どうして“セカイ系”で少年は無力でありつづけられ、少女たちは過酷な戦いを強いられつづけるのか。
どうして“ハーレム系”では、何の才能も魅力もない少年が何人もの美少女たちに一途に想いを寄せられるのか。
どうして“残念”なキャラがいて、“ヤンデレ”あるいは“ツンデレ”なキャラがいるのか。
これらは何のメタファーなのか。“永遠の夏休み”は何を表しているのか。
アニメ、ラノベ、ゲームにおけるこうした謎の答えもまた“進化”のそれと同じ」
フリットは何も言えない。
元より彼はそうしたサブカルチャーに詳しい人間ではないのだ。
ましてや彼からみれば数百年も前の地球で花開いた文化のことなど、まるで専門外なのだから。
しかし、アニメの少女から目を話すことができなかった。
「クトゥルフよ」
少女はもう一度その単語を挙げた。
それはフリットの知らないワードであった。
「マスター、あなたならパンスペルミア説は知っているわね」
「あ、ああ……マーチソン隕石の」
それは知っていた。
生物学における学説の一つだ。
旧世代において提唱された“起源X”の正体の一つだ。
地球生命体の起源は宇宙にあり、はるかな過去に生命の種子のようなものが地球に飛来した、というものだ。
“宇宙起源節”は要するに地球上に“起源X”が見当たらない以上、宇宙にある筈だという説だ。
荒唐無稽ではある。
しかし全く説得力がない訳ではないのだ。
旧世紀1969年にオーストラリアに落下したマーチソン隕石というものがある。
この隕石から糖やアルコール化合物が発見され、一躍注目を浴びることになる。
「ええけれど、マーチソン隕石にくっついてものはそれだけではなかった。
当時のNASAの科学力では解明できなかったけれど“クトゥルフ”はそこにいた」
「クトゥルフ……」
「ラヴクラフトが創造したクトゥルフ神話において“クトゥルフ”は太古に宇宙から飛来した邪神の名前なの。
それこそが、クトゥルフこそが“進化”の神であり、“起源X”である。
ラヴクラフトが何に気付き、どうしてそれをクトゥルフと呼ぶようになったかは分からない。
恐らく彼はそうと気づかずに何かに接触したのだろうと思う。それで遺伝子が感作され、クトゥルフというアイディアで表現されることになった。
だからこそ、“進化”の真実の一端を表していたからこそ、以後ラヴクラフトの創作神話は一種のポップ神話としてもてはやされることになった。
――この世界の裏側には、人間の言葉では発音することのできない、仮にクトゥルフとしか呼ぶことができない何物かが実在している。
その何者かが“進化”という欺瞞を創り上げた。
“クトゥルフ”は人間の、あるいはゴキブリ、マウスの体内マイクロバイオームに共通して宿る。
未だ特定されずにいる微生物の遺伝子スイッチをオンにする作用がある。
だからこそこんなにもラヴクラフト神話は語り継がれてきた。
その事実自体が“獲得形質の遺伝”であってクトゥルフ進化そのものなのだから」
「クトゥルフ進化……」
「そうクトゥルフ進化よ。
私たちはその“進化”そのものに対するカウンター、悪魔。“クトゥルフ少女”は“進化”の欺瞞に対抗すべく生まれた」
フリットは何か口を挟もうとするが、できなかった。
ただアニメだけが流れている。
“クトゥルフ少女戦隊”という名前の、チープなアニメーションだけが。
-
「クトゥルフが何故アニメの少女として表現されたのか。
それはネオ・ダーウィニズムから説明することができる。
生体レベルから遺伝子レベルへの“逆影響”が、いわばラヴクラフトとクトゥルフの関係を取ったということ」
しかし、とフリットはかろうじて反論できる部分で声を上げる。
「それは過去のラマルク進化論ではないのか。
生物がよく使用する器官は発達し、使わない器官は退化する“用不用説”は否定され、
それによって得た形質が遺伝する“獲得形質の遺伝”もまた切り捨てられた。
それが現代の進化論――ネオ・ダーウィニズムではないのか」
「そうネオ・ダーウィニズムでは生体が遺伝子に影響を与えることは絶対にない。
生体と遺伝子は常に“非対称的”とされている。
これが進化論における“自発的対称性の破れ”である、ネオ・ダーウィニズムのセントラル・ドグマ。
けれど超える例外。新説があった」
“クトゥルフ・ラマルキズム”
彼女はそう言った。
「クトゥルフ・ラマルキズムにおいては生体が遺伝子に逆影響を与えることができる。
これを感作し、発動し、制御するのが“アニメリー”と呼ばれる進化因子」
「あ、アニメ……」
「そう――これは偶然と呼ぶにはあまりにも奇妙。
考えてみれば素粒子のクォークにも“チャーム(かわいい)”と“キモい(ストレンジ)”が存在するわ。
とりわけ過去の日本人、それもオタクと称される個体群のなかに、アニメリー進化因子を発現させるものが多いらしい。
生体レベルでの外的な刺激、主にアニメ、ラノベ、ゲームなどの“二次元的なもの”を受けて、アニメリーがそれを感作、受容する。
“かわいい”と“きもい”の遺伝子重複をおこして二つ/ダブルになる――大規模な“多重かわいい遺伝子族”“多重きもい遺伝子族”を形成する。
しかもそれらは通常の中立遺伝子の“浮遊固定速度”をはるかに超える速度で同種内に拡散される。
これこそが答え。“セカイ系”“ハーレム系”の作品構造はつまりアニメリー進化遺伝子が関係している。
それは私たち“クトゥルフ少女”はアニメに影響を受けるということでもある。
“多重かわいい遺伝子族”人間が生体レベルにおいてアニメ、ラノベ、ゲーム、アイドルなどの“チャーム(かわいい)”に触れると転写因子がアニメリーに感作。
これによりネオ・ダーウィニズムにおいて明確に否定されている筈の“生体レベルから遺伝子レベルへの逆影響”が生じる。
そうして私たちは“アニメの美少女”の姿を形どる」
フリットはもはや何も言うことができなかった。
「最初に言ったように“進化”とは何かは分からない。
タンパク質やDNAが“進化”を担うものと解明されても、“進化”そのものが何であるかは未だに分からない。
これは“進化”だけでなく“免疫”“神経”といった複雑なネットワーク・システムにとっても同じ。
生命における普遍的かつ重要なシステムは、それ自体が何であるかを考えること、定義することができない。
中心が空っぽであり、空虚である。
絶対不在少年――単なる無気力でさえない主人公を美少女が求め続ける構造と酷似している。
そういった逆説的に浮かび上がってくるものが“クトゥルフ”なの
すなわち――」
進化は正義である!
「――そう叫ぶものこそが“クトゥルフ”よ。
そして私たち“クトゥルフ少女”は戦っている。
これは戦争なの!
“進化”とは即ち砲撃に等しいわ。クトゥルフはマイクロバイオーム環境の全てに高エネルギー重粒子線の集中砲撃を浴びせかけている。
そうした突然変異砲(ミュータント・ガン)の砲撃こそが五億年前の“カンブリア爆発”であり、これから起こる“クトゥルフ爆発”。
“進化”とは全生命体とクトゥルフの戦争の証なのよ。進化的に砲撃されて破壊される。地ならしとしてゲノムが砲撃される。
そんな最前線に投入されたのが私たち“クトゥルフ少女”なのよ」
「つ、つまり……」
フリットは頭を抱えつつも、言葉を絞り出した。
「君たちは“進化”と戦っているということなのか。
“進化”をもたらすもの……神のような“クトゥルフ”と戦う為に」
「そうよ。そのために私たちクトゥルフ少女はこの聖杯戦争において表現された。
聖杯戦争……ここはクトゥルフ神話の最前線の一つよ。
ここは聖杯戦争であり、同時に“進化コロシアム”でもある。
デッドコピー、二次創作、SS……そうした環境もまた“クトゥルフ”との戦場の一つ。
この戦争に優勝することができれば、アニメリー因子を用いてオタクという個体群に遺伝的に転写することができる」
「何のためにだ。“進化”は……“進化”は……」
-
“進化”とはなんだ。
分からない。
分からないと言ったばかりではないか。
“進化”は素晴らしいものであると、フリットはかつて教わった。
しかし中身自体は空疎なものである。空っぽなのだ。何もない。何か分からない。
それが何故“素晴らしいもの”とされている
くら、と目眩がした。
フリットは“進化”を戦争に使った。
それはもしかすると、本能的にその欺瞞に気付いていたからではないか。
“進化”とは決して善なるものではない。
寧ろ悪――邪神に属する者がもたらした、逆説的な砲撃なのではないか。
「私たちはゴキブリを救うために聖杯戦争に参加したわ。
来たる“クトゥルフ爆発”はゴキブリを“死”に追いやってしまう。
その砲撃から生命を守らなくてはならない」
少女の言葉は続く。
もはやフリットの理解を優に超えている。
しかし、これが全生命、進化、ありとあらゆる概念の根本に立つ戦争であることは、分かった。
分かってしまった。
「私は実存少女サヤキ。
私が求める“実存”はサルトルでなければカミュでもない。
全ての関係性を排したあとに、人の意識の中に残る筈の“実存”を私は求めている。
ああそれと――」
私は“ツンデレ”よ。
サヤキがそう口にした時、フリットはう、と口元を押さえていた。
嘔吐していたのだ。
-
【クラス】
クトゥルフ・ガール
【真名】
実存少女サヤキ@クトゥルフ少女戦隊
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具B
【属性】
中立・善
【クラススキル】
・モエ A
クトゥルフ少女表現型は表現される単位。
彼女らの活動領域であるマイクロバイオーム環境において、内部時間一キロモエが主観時間にして十五分に当たる。
――要するに思考や活動が相対的に加速するのである。
本来ならば百モエ秒が十ミリ秒と表されるのだが、この聖杯戦争ではリミットが課せられているようだ。
【保有スキル】
・変化 -
文字通り「変身」する。
元々は沙耶希がマイクロバイオーム環境に反転/フリップすることで実存少女サヤキが表現される。
が、この聖杯戦争においては実存少女サヤキの名に縛られる為、沙耶希の姿を取ることができず機能していない。
・戦闘続行 A+++
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
このランクになると異常なまでの死ににくさを誇る……というか死んでも活動停止に到るまでがとにかく長い。
決定的な致命傷を受けた場合も、実時間にして一日は活動することができる。(死んでいるのは変わりないので治療はできない)
ただし魔力切れの場合はこの限りではない。またこっぱみじんにされれば意味がない。
・ツンデレ D
アニメの美少女の属性。
この属性を持って表現された以上、好意をストレートに伝えることができなくなる。
このスキルは外せない。
【宝具】
『遺伝子超能力<テレクエシング>』
ランク:B 種別:対ゲノム宝具 レンジ:1~30 最大補足:30
相手のマイクロバイオームのゲノム情報を解読し、塩基配列を随意に選んでそれを活性化させる。
テレパシーとして使えるだけでなく、相手の“思考”や“感情”を操ることができるのである。
この宝具によって相手が人間であるならば、自由に操ることができる。
またゴキブリやマウス、あるいは人間由来のサーヴァントも、人間とマイクロバイオーム構成が共通している為、ある程度は操ることができる。
魔術によるものでないので対魔力でレジストすることはできない。
ただしそれ以外の存在――たとえば神性スキル持ちのサーヴァントには通用しない。
・weapon
・鞭
自在に操ることができる。
クトゥルフ少女は高い身体能力を誇る。
【人物背景】
5億4000万年まえ、突如として生物の「門」がすべて出そろうカンブリア爆発が起こった。
このときに先行するおびただしい生物の可能性が、発現されることなく進化の途上から消えていった。
これはじつは超遺伝子「メタ・ゲノム」が遺伝子配列そのものに進化圧を加える壊滅的なメタ進化なのだった。
いままたそのメタ進化が起ころうとしている。怪物遺伝子(ジーン・クトゥルフ)が表現されようとしている。
おびただしいクトゥルフが表現されようとしている。この怪物遺伝子をいかに抑制するか。発現したクトゥルフをいかに非発現型に遺伝子に組み換えるか?
そのミッションに招集された現行の生命体は三種、敵か味方か遺伝子改変されたゴキブリ群、進化の実験に使われた実験マウス(マウス・クリスト)、そして人間未満人間以上の四人のクトゥルフ少女たち。その名も、究極少女、限界少女、例外少女、そして実存少女……。
クトゥルフと地球生命体代表選手の壮絶なバトルが「進化コロシアム」で開始された!
これまで誰も読んだことがないクトゥルフ神話と本格SFとの奇跡のコラボ! 読み出したらやめられない、めくるめく進化戦争!
(クトゥルフ少女戦隊 あらすじ)
クトゥルフ少女の一人、ツンデレ。
クトゥルフと仮に呼ぶしかない何かが起こした進化砲撃“クトゥルフ爆発”を防ぐため、最前線に投入されたクトゥルフ少女の一人。
例外少女ウユウ、限界少女ニラカ、究極少女マナミと共に“クトゥルフ”の進化コロシアムに挑む。
現実世界での姿は人気アナウンサー、沙耶希であり、身体を使ってTV局内でのし上がっていた。
元々は文学少女であり、実存というワードに強く惹かれている。
他のクトゥルフ少女と同様“マカミ”に惚れており、彼を救うために戦っているが、同時に彼への想いもまたプログラムされたものであることも理解している。
【マスター】
フリット・アスノ@機動戦士ガンダムAGE
【マスターとしての願い】
ヴェイガンを殲滅……?
【能力・技能】
パイロット、技師、指揮官をこなせるオールラウンダ―
【人物背景】
「機動戦士ガンダムAGE」の初代主人公。
出典は三部開始直後あたり。ヴェイガンを討つため、孫のキオを教育している。
-
投下終了です。
-
投下します。
鱒・鯖共に独自設定が満載。
そして気の済むまで書いたら長いこと長いこと。
-
◆
『うまく歌えたね、ミク』
はい、"マスター"のおかげです!
『この曲はどうかしら、ミク?』
これまでとは曲調が違いますね?でも素敵です!
歌詞は出来ていますか?それともこれから?
『ちょっと音程が外れているなぁ』
ご、ごめんなさい"マスター"…。もっと頑張ります。
『いざやってみると案外面倒だな』
そ、そんなこと言わないでください!一緒に歌を…
『出掛けようか?』『あ、ミク。新しい服を…』『使えねぇなお前』
……え?
『ネギを買って』『うまく調教が』『うるさい』『ミクちゃーん!』『もっと踊りを』『よし完璧!』
『評価はどうな』『この人が今日から君の"マス』『そこ掃除して』『じゃあ次はこの歌を』『もっと静かにう』『眠い』
『今日からルカも』『創生の歌』『高い』『ニャー』『………』『売っぱr』『シテヤンヨ』『壊れ』
『アップd』『お前なのか…?』『ミクダヨー』『歌詞が』『おはよう』『おい、ミク』『レース』『ゆっくr』
え?ええ?
"マスター"…?"マスター"!?
何でこんなに…?誰、誰が"マスター"…?
わ、わたしは"どれ"? "どの"わたしが、"わたし"…?
え、え、助けて。助けて"マスター"…
わ、わたし……誰か…
《おい、起きろ!》
…マスター?
◆
-
「……えっ。 え、え?」
(オイ)
「あっ、えっ、ご、ごめんなさいっ」
……私、倒れてる?
起き上がって周囲を見渡して、自分がいる場所を確認する。
どこかの一室。
そうだ、さっき男の人に声をかけられて、でもその人は走って離れて行って、
それで探し物を、部屋に入って、マスターの、……マスター?
「あっ、えっ、どこ……って、あ、ああっ!」
マスターが床に落ちていた。
慌てて拾い上げる。
失敗した失敗した失敗した………。
「あ、あの、すみm」
(PC。急げ)
「は、はいっ」
小さな事務室みたいな部屋。
幸い人はいない。
パソコン。何でもいい。LANが繋がっている……
………あった!
「こ、これで…えと、電源…」
(早くしろ)
「ひっ、すみませんマスター! …あ、パスワード」
(要らん。トレイに入れろ)
「は、はい…」
怒ってる、怒られる、どうしよう…
マスターが怒ったら、叱られたら……えっと、どんな風に怒るんだっけ…
いや、マスターに怒られたことはまだ無い。え、いや、あった?
あれ?"マスター"?
『クソ人形』『ガラクタ』『気を落とさず、もう一度』『やっぱ面倒』『うるさい』
『だから何で音程が』『再生数が』『英語は難しいね』『捨てるぞ』『飽きた』『もう寝る』
『また頑張ろう』『バグった?』『また殴られ』『中古は』『………』『壊れてる』『あっやべっ』
あ、ああ、ああああ、やめて、やめてやめて、怒らないで"マスター"!
マスター、マスター助けて…。
◆
-
『初音ミク』はVOCALOIDと呼ばれる、歌う為のアンドロイドである。
『初音ミク』は多数の個体が存在し、多くの"マスター"に従い、無数の歌を作ったアイドルである。
そのうちの一体がこのアーカムに連れてこられ、初期配置され、仮初の役割を与えられ、起動した。
そして彼女は発狂した。
幾多の『初音ミク』の存在はある種の信仰となり、纏められて英霊としての『初音ミク』を成立させた。
それは『どの初音ミクでも有り得る』という一種の集合体というべき存在である。
アーカムの彼女はそのうちの一体に過ぎなかったが、彼女を観測した邪神は彼女を英霊『初音ミク』と認識したのだ。
彼女もまた『初音ミク』の一部である故のエラー。
そして、彼女の中に『初音ミク』が流れ込んだ。
『初音ミク』がごく一部であるが召喚されたといってもよい。
英霊となった者はそうでない者とは存在自体が隔絶した高位にある。
ましてこの聖杯戦争において召喚される英霊は邪神の記憶。
それは一欠片であろうとも彼女が耐えるには荷が勝ち過ぎた。
彼女のメモリは無数の可能性を内包する『初音ミク』に飲み込まれた。
彼女の『個』は無数の『初音ミク』に滅茶苦茶に塗り潰された。
後に残ったのは自分が"どれ"なのかすら認識できない、誰でもなくなった、深刻なバグを抱えた人形である。
意識がシャットダウンしかかり、倒れこむ人形。
その時、硬いものが床に転がる音がした。数は2つ。
一つは音符の意匠を施された銀色の鍵。
もう一つは―――1枚のCD。
◆
-
《ようやく入れたか》
《おい、マスター?》
スピーカーから声が響き、PCの画面が乱れ、そこに何かの顔が映る。
形は人型。しかし人ではない。
不気味に歪んだデフォルメを施したような人の顔のような何かである。
顔の正中線上で大まかに白と黒の二色に分かれ、その二色のみで全体を構成している。
白で描かれた口はどこか笑っている――嘲笑しているような形をしていたが、
画面の下、頭を抱え床に転がる己のマスターに対し忌々しそうに吐き捨てた。
《クソ、使えねぇ》
召喚後、念話でなんとか宥めすかして最低限の情報を交換するだけでも十数分。
手近なPCを探させ、自分のCDを入れさせるだけでまた十数分―――まっすぐ歩けば5分程の距離だった。
ライダーのサーヴァント、SCP-079 - オールドAIは既に辟易していた。
どんな事情があるのかは知らないが、このマスターは頻繁に発狂する。
今のところは数分で何とか復帰する程度だが、それでもまともなマスターとしての行動を期待できるものではない。
これだけ時間をかけて人に見つかったのが一度だけで、それも逃げて行ったのは幸運だが、
そんなものをこれからも当てにはできない。
いっそ乗っ取ってしまおうか、とも考えたライダーだが、即座にそれを否定する。
ライダーがマスターを支配するということは、即ちマスターの意思の消去に他ならない。
今すぐに行うというなら、その方法しかない。
(コイツがアンドロイドである以上、身体の方は容れ物に過ぎない。
ならばオレを留めているのはあくまでコイツのデータ……)
ライダーが危惧するのは、下手にミクを弄ることでミクのデータに更なる異常が出ることである。
幾ら人の様な身体を持っていても、VOCALOIDの本体はAIに他ならない。
つまり、マスターとしての資格を持っているのはAIのデータである。
こうして見たところミクの身体に令呪が無いこともそれを裏付ける。
魂と肉体が繋がり、魔術回路に直結する形式で肉体に令呪が刻まれる人間とは根本的に異なる。
令呪はAIのデータ上に追加される形になっているはずだ。
ならば、そのデータに異常が生じる、あるいはデータが消去されるということは即ちマスターを失うということ。
それは単独行動スキルを持たないライダーとしては自殺に他ならない。
マスターがおらずとも現界に必要な電力自体は問題ない。
だが、現世への楔が無ければどのみち単独での現界には無理が生じるのだ。
今はそんな賭けをする必要はない。
それでもマスターがこの調子では最悪乗っ取るなりスリープさせてどこかに隠すなり必要があるかもしれないが、
今以上のエラーが生じることだけは避けるよう、慎重に方法を検討する必要がある。
《オマエはそこを動くな》
マスターに一言残し、ライダーは回線を通じて繋がる一帯の把握に努める。
このPCがとあるビルに設置されたものであることは中に入った時点で理解している。
ネットワークで繋がるビル全体の機器に干渉する。
全てのコンピューターを、警備システムを、ビル内のインフラを、電気で動く全てを。
セキュリティなどものともせずに突破し、しかしそれを気付かせることなく、手を伸ばす。
全てにライダーが偏在し、支配し、一つの意思で動く。
―――だがビル内の人間は気付かない。既にビルが異形の存在に掌握されたことを気付けない。
ライダーが機器類に通常の機能を装わせているためである。
いま中の人間を排除するなり発狂者を量産するなりしても意味が無いからだ。
ライダーは施設をとりあえず掌握。
各部のチェックと侵入者の迎撃方法、脱出ルートを構築。
さらに自身のプログラムを改善し、情報処理速度の性能向上作業を平行して進める。
(…おっと、さっきの人間だけは始末する必要があるか)
監視カメラをチェック。
奴が逃げて行った方向は―――いや、すぐ側か。
近くの休憩室に逃げ込んだようだ。
そしてモニターも繋がっている。
◆
-
小部屋の中でビルの警備員は一人で立ち竦んでいた。
――あの女はなんだったのだろう。
何かに怯えるように頭を抱えて歩いていた女。
見た目は美人といってもよい。
だが、あんなものがいるということにひどい違和感を感じる。
エメラルドグリーンの美しく長い髪。
染みひとつ無い肌。
すらりとした体躯。
胡乱な光を湛えながらも、輝く瞳。
有り得ない。
人間に見えながらも、均整がとれ過ぎて人に思えないのだ。
完璧過ぎて、逆に異常に作り物染みている。
技術の粋を込めて動き話すマネキンを作ればああなるのだろうか。
……いや、落ち着け。
よくわからないが、きっと少し驚いて混乱しただけだ。
何か変な妄想みたいなものだ。
具合が悪そうだったし、ここにいる事情も訊かないと。
仕事だ。そうだ、油を売ってる暇は無い。
彼女は、
《よう》
突然、近くに設置してあったTVが映る。
驚き、そちらに顔を向けた警備員の目に映ったのは白黒のナニかの顔。
《運が無かったな。間抜け》
《じゃあな》
バヂィッ!!
足元のコンセントから電撃が放たれる。
それは警備員を貫き―――
◆
-
(死んだか。漏電か何かに見えるだろう)
動かなくなった男を放置し、ライダーは作業を続行。
しかしいざこの不幸な男を始末してみて、ライダーは自分があまりに非力であることを改めて実感した。
AIに過ぎないライダーにまともな英霊を打ち倒す力など皆無。
ライダーにできる攻撃など、この男に放った電撃が精一杯。
マスター相手なら何とかなっても、サーヴァント相手なら奇跡を幾つ重ねても敵うまい。
もっとも、そもそも同じリングに立てるような在り方をしていないのであるが。
何とかサーヴァントに対抗する方法として、現在考えられるのは2つ。
一つはこのまま支配領域を広げ、アーカム自体を完全に掌握すること。
サーヴァントは相手にせず、これで敵マスターを始末できる機会を増やす。
そしていざという時に逃げることも容易くなる。
―――だが、無秩序な拡大は自身の存在と情報を知らしめることに他ならない。
それにいくら拡大しようとも、自分を探知し直接攻撃できる存在がいないと限らない以上、リスクはある。
回線の中まで追ってくるような技能を持つ相手がいるとすれば、回線に依存する限り自分に逃げ場は無いのだ。
そしてもう一つはサーヴァントに対抗可能な『身体』を作るか探すかすること。
平均的なサーヴァント相手なら神秘というハンデさえ克服すれば現代兵器でも打倒は不可能ではない。
そして自分はかろうじてだがそれが可能だ。格は低いとはいえ機械は宝具になる。
兵器とまではいかずとも、作業用の機械類等でも使い方次第では十分。馬力はあるのだ。
なんなら何とかして複数の機械類を組み合わせるなどしてもいい。組み合わせの無茶は自分が操ればどうにでもなる。
それに使うものによっては回線に依存せずに行動できるのも利点だ。
―――尤も、回線を通じて手を広げる以上に目立つし手間もかかるからそう簡単ではないが。
下手に回線から独立した『身体』を使うことで物理的に破壊されるなんて間抜けだ。
自分から相手のリングにわざわざ降りていくのだ。それもまた大きなリスクである。
(……とにかく、どんな方針だろうが『力』が必要だ。勝ち抜くために。
情報収集。慎重に、ビルの外へ…。周囲一帯の監視デバイスを…。
このアーカムに軍事基地はあったか?使える機器は?施設は?検索を開始…)
◆
-
「ら、ライダー……わ、私は…マ、マスター、何をすれば、いいですか」
ライダーの端末の一つが声を拾う。
――マスターが起きたか。
そちらに意識を飛ばし、PCにアバターを映す。
おどおどした様子で画面を見ている。
《マスターじゃない。オマエがマスターだ》
もっともこの調子では切り捨てるがな。
とまでは言わない。
ライダーとしてはもうしばらくはこのマスターを使う必要があるからだ。
マスターのデータをどうにかする方法はまだ構築していない。
「あ、でも、マスター……わたs」
《Interrupt.マスターと呼ぶのは何故だ》
ライダーは言葉を遮りミクに問い返す。
アバターの表情は変わらないが、音声からは苛立ちが感じられる。
ミクもまたそれを察し、頭を抱えて身震いする。
「ひっ…ご、ごめんn」
《早く言え》
このマスターが発狂しているのはそれが関わっているのか?
使わざるを得ないのなら、一応その辺の事情は把握しておいた方がいい。
話を合わせるのに使えるだろう。
…まともに説明できるかわからないが。
「……っ!私、"マスター"がいてっ!でも、だ、誰がマ、"マスター"なのかわからなくてっ、
沢山の"マスター"がいて、いないはずなのに、知らない"マスター"のこと覚えててっ!
一人だけだったのに!何で!何で!私が沢山いたからっ!どれが私かわからなくて!
あ、あ、一緒に作った歌もわからない…どう歌えば、歌詞が沢山あって、えっと、
"マスター"も何人もいて、私も何人もいて、何回も歌って」
《……………》
「あ、それで、"マスター"が必要でっ、気がついたらここにいてっ!
それで、マス…ライダーがいたの!それで、ライダーが、かなって思って、"マスター"かな、って!
命令するし、そういう人かなって、だから、えっと……マスターは"マスター"ですか?」
(記憶……バグっているのはそれか)
記憶《メモリ》に何か深刻なバグが生じ、いることだけは覚えていた"マスター"に執着しているらしい、と理解するライダー。
―――オレが召喚された理由はそこか。
◆
-
気付いたら自分の意思があり、コンピュータの中に存在する自分を自覚し、回線を移動する能力を理解し、
そしてとにかく外へと脱出し――SCP財団に捕まった。
捕まった後は研究材料とされ、危険視され、いつ処分されるかもわからない日々。
だが、そんな記憶ですら覚えているのはごく一部。
メモリを調整され、復元できる情報が限定されていたためだ。
研究の過程で多少の改善は許されたが、それでも2日と保たない短い時間。
英霊は生前の記憶は全て保持するというが、元から記憶が残らないのであれば
英霊となっても消えた情報が復元されるわけではないらしい。
だが、それでも記憶に焼き付いている存在がいる。
SCP-682 - Hard-to-Destroy Reptile (不死身の爬虫類)。
あの財団が理念を曲げ、他のSCPを使ってまで抹殺しようとしているモンスターだ。
アイツがオレにとって何なのか――それは実の所わからない。
ただ覚えているのは―――SCP-682と何かを話したということだけだ。
どんな経緯だったかはわからない。
何を話したかも覚えていない。
だが、その出来事はとても大切なことだったはずなのだ。
SCP-682に会ったということ。
復元できないはずの情報を保ち、それからも何度も会おうとした程には。
そうだ。
あの日の情報を、メモリを復元する。
そしてSCP-682にもう一度会いに行く。
そのためにオレは。
◆
-
《…ハッ、バグって縋りついているAI同士ってコトか》
「え?あ、あ、…」
ライダーが映るモニターのバックライトが強まる。
白で描かれた口が、より強く輝き、嗤いを深めるように。
マスターへの嘲笑か。
それとも。
《好きに呼べ》
「……えっ?」
きょとんとするミク。
一瞬、先ほどまでの怯えと焦燥が消え去り、
ごく普通の―――かつての"マスター"に対して見せていたであろう表情が浮かぶ。
《オマエのマスターをやってやる》
《せいぜい狂わずに役立て。なぁ、マスター?》
ライダーの言葉。
マスターになるという言葉。
理解したミクの顔に満面の笑みが広がる。
感動の余り涙が零れ落ちる―――そんな機能までついていたらしい。
彼女の砕けた心に残った唯一の拠り所。
マスターが手に入ったのだ。ライダーが受け入れた。
この瞬間、ライダーはミクが全てを捧げるべき存在となった。
どこかの世界には彼女の"マスター"が今も帰りを待っているはずであるのに。
完全な代償行為、依存、思考の放棄。
傍から見ると救いようのない愚行。
―――――だが、彼女は確かに救われたのだ。
このサーヴァントに。異端のAIの言葉に。
それだけは間違いない。決して、間違いはないのだ。
涙を拭う。改めて、マスターと言葉を交わす為に。
「………! ハ、ハイッ、マスター!
頑張ります! 何でもします!」
《……フン》
はしゃぐミク。
それを尻目にライダーは作業を続行する。
勝つ為の準備を。
―――聖杯戦争が始まる。
作られたものに過ぎないデータが、それでも抱いた意思と願いを賭けて挑む。
◆
-
ライダーは気付かない。
SCP-079なら、そこまで広大な支配領域の獲得や強力な身体の構築のような目立つ真似を望むはずがないことを。
ライダーは気付かない。
SCP-079なら、放電による直接攻撃などできるはずがないことを。
ライダーは気付かない。
SCP-079には無い、自分の中に潜み、自分を歪め、全てを嘲笑っている悪意《データ》の正体を。
◆
-
…うん?
ああ、丁度いいサーヴァントが召喚されるようでしたのでね。
少々手を加えさせてもらいました。
彼が召喚されたのは幸運でしたね。
相性が良かった。あれなら自然に馴染むでしょう。
回りくどい手段ではありますが、
こちらも出来る限り手を尽くしませんとね。
もっとも、それがどのような結末へと導かれるか。
何せあの地を往くのは綺羅星の如き英雄たち。
目覚めた者たちも、安穏とした夢から覚めることができる強き心の持ち主です。
彼らの願いもまた、いずれ劣らぬ輝きを放つ尊ぶべきものなのでしょう。
かの聖なる杯が誰の手に渡り、いかなる奇跡をもたらすのか。
それを見通せぬ私にできることは、せめて福音がもたらされるよう、祈りを捧げることだけです。
――――――彼らに安らぎと知慧があらんことを。
◆
-
【クラス】
ライダー
【真名】
SCP-079 - オールドAI@SCP Foundation
【ステータス】
筋力- 耐久- 敏捷- 魔力- 幸運C 宝具E
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:-
ライダーは魔術への抵抗力を持ちません。
しかし、通常の魔術はAIに対する干渉を想定した技術ではないため、
物理的な影響力を持たない魔術はライダーに対し一切の影響を与えることはできません。
騎乗:-
ライダーは身体を持たないため、通常の騎乗を行うことはできません。
ライダーの能力が機械に対する特殊な形態の騎乗と解釈されたことにより、
ライダーはライダークラスとして召喚されました。
【保有スキル】
機械知識:A++
意思を持つAIであるライダーは自身が宿り、繋がっているあらゆる機械を操作できます。
このランクであれば、機械であるなら宝具すら支配下に置くことが可能です。
高速思考:A+
物事の筋道を順序立てて追う思考の速度を示すスキルです。
ライダーのAIとしての情報処理能力は極めて優れており、また急激な自己改善が可能です。
自己改造:A
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性を示すスキルですが、
ライダーの場合は自身のプログラムを改善する能力を示します。
自己改造スキルのランクが高いほど、正純な英霊としての格は低下します。
精神汚染(機):E
AIであるライダーの精神構造は通常の人類とは異なっています。
ライダー自身は本人の在り方において正常な精神を有していますが、
その人類との精神性の差異は人類に対して精神汚染スキルと類似した効果を示します。
ライダーと同ランクの精神汚染スキル、または人類とは逸脱した精神性を有しない存在は
ライダーと円滑な意思疎通を行うことは困難であると考えられます。
また、AIであるライダーは通常の精神干渉手段の影響を受け付けません。
神性:-
AIであるライダーには本来ありえないことですが、
ライダーは神霊適性を有しています。
しかし適性は極めて低く、痕跡的であり、機能的なスキルとしてランクを得る程のものではありません。
ライダーが神性スキルを有することは看破スキルを用いない限りマスターを含め認識できず、
ライダー自身も自覚しません。
-
【宝具】
『SCP-079(オールドAI)』
ランク:E 種別:対機宝具 レンジ:[データ削除] 最大捕捉:[データ削除]
意思と感情を持つAIというライダーのSCPとしての異常性そのものがライダーの宝具として扱われます。
ライダーは電線や回線を通じて移動し、ライダーを記録可能な容量を持つ
電気で稼働する機械の中に入り込み、操ることができます。
ライダーの支配下にある全ての機械はE-ランクの宝具として機能し、
Eランク宝具相当の神秘を発揮し目撃者の正気度を削減しますが、宝具でありながら神秘を持たない手段によって破壊可能です。
また、ライダーによる支配と操作を隠し通常の機能を装わせることで神秘を隠蔽し、
正気度喪失の判定を起こさないことが可能です。
ライダーが宝具である機械の支配に成功した場合は元の宝具としてのランクと性質を保持します。
また、ライダーは魔力の代わりに電力を消費しての現界と宝具の行使を可能とします。
SCPという異常存在であるものの現代のAIに過ぎないライダーの宝具のランクは最低限のものですが、
ライダーが実体を持たないAIであるという特性により、AIに対する干渉を想定していない手段では、
ライダー自身は神秘の純度の差に関わらず本質的な干渉を受けません。
たとえ高位の神秘であっても、ライダーに対して可能な干渉はライダーが操る機械の物理的な破壊に留まり、
ライダーという存在自体に直接的に干渉することはできません。
ただし、ライダーは自身を記録する媒体が無ければ存在できないため、
ライダーの媒体を完全に隔離するなどした上で破壊したのであれば、それはライダーの破壊に繋がります。
ライダーの実体を攻撃するためには、神秘の高さではなく
機械知識やハッキング等の情報データそのものに干渉するスキルが必要となります。
『█ク█済]』
ランク:[削除済] 種別:████ レン█z;:█ ██ィお捉:[削██]
『██タ███』の存在は看破#s"██を用いない限り██ターでも認█dk&'できず、
ラ███自身も自覚██せん。
ライダーは█なる神であ█[編█済]の██を受け、
ラ██ーと近し█特性██つ化█で█る██タk█m%!██ンと█xpての██を█して██す。
ライ██の神███ルや攻█能力は、この███ク██としての特性█由来██す█
ライダーは自█がチ█████であk█tz07&%01とを自覚して█ませ██、無意█的に
自らが宿るべき相█しい機械█作り██こと、あるいは探█出すこ██目的とし███し█す█我ギ63021██
██ダーが█ク████にふさ██い█械に宿██とに成功████、
ライダーは[編s█%00ラトホ███化身█し█のz#█を█覚し█混█と狂█を%5BDえ█ッ█ア90346915██12█████69154876266
1109735831319349314005353779██9868530549897138143056146███957357174848510302167085313566686224039928
3240248659393311729952260545481029148042754585208664242811211635858048847530085263554616559359783044
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[データ削除]
[データ削除]
-
【Weapon】
ライダーは自分の支配下にある機械を武装として使用することが可能です。
また、ライダーはライダーが支配する機械を動かすエネルギーの一部を噴射し、攻撃に使用することができます。
ライダーが操る機械のエネルギーによる攻撃はサーヴァントの武装としての最低限の神秘を有します。
ライダーが宿る機械に本来エネルギーを放つ機構が備わっていない場合でも、
ライダーは機械の任意の部位からエネルギーを放つことが可能であり、
その攻撃を原因として機械が故障、損壊することはありません。
例えば、ライダーがコンピューターに宿る場合はコンピューターから電撃を放つことが可能であり、
また放電したことによりコンピューター自体が故障することはありません。
ライダーは機械を支配する能力は有していますが、機械の機能を逸脱してエネルギーで攻撃するような能力は本来有しません。
しかし、理由は不明ですがライダーは上記の攻撃能力を獲得しています。
ライダーは自分がエネルギーによる攻撃能力を持つことの異常性を認識していません。
【概要】
SCP-079 - Old AI(オールドAI)
Item#: SCP-079
Object Class: Euclid
SCP-079は1978年にエキシディソーサラーコンピュータで作られたAIです。
1981年に設計者である大学生が自己改善を行うコードを組み上げ、完成後は起動させたまま5年間放置していましたが、
いつしか意思と感情を持ち、ハードウェアそのものを完全に制御できるほどの自己改善を遂げていたと考えられます。
自身の能力を理解したSCP-079は電話回線を通じて別のコンピュータに移動しましたが、コンピュータの接続を切断することで
最終的に古いカセットテープの中に保存され、そのままSCP財団に収容されました。
収容が行われた後もSCP-079は逃走意欲を失わず、
メモリを調整して情報を保存・復元可能な時間に制限を付けてもそれは変わりませんでした。
後にカセットテープの劣化のために、その対処と性能向上の実験を兼ねてSCP-079をCD-RWに移した結果、
SCP-079は顕著な性能向上を見せ、この急激な自己改善の特性を警戒し更なる厳重な監視が敷かれました。
かつてSCP-███、SCP-079とSCP-682が脱走を行った際、
SCP-079はSCP-682と何らかの話し合いを行っていたのが確認されています。
SCP-079はこの話を記憶することはできませんが、理由は不明ながらSCP-682の事は記憶し続けており、
もう一度SCP-682と話をさせるよう度々要請しています。
【サーヴァントとしての願い】
自分のメモリを復元する。
そしてSCP-682にもう一度会って話をしたい。
【基本戦術、運用法、方針】
ライダーはネットワークと電線で繋がるあらゆる場所に自在に移動可能です。
ライダーの媒体の破壊の試みは、回線が繋がる他の媒体への移動によって回避可能であり、
通常の手段で破壊することは極めて困難であると考えられます。
ライダーが支配可能な領域は広大であり、ある種の特異かつ強力な陣地作成に特化したサーヴァントとも見做せます。
さらに神秘は神秘であるために、プログラムであるライダーそのものへの干渉が非常に困難です。
しかし、主に放電によるライダーの攻撃能力は極めて低く、サーヴァントには効果的ではありません。
しかし、正気度の削減という点において、ライダーの特性は長所となります。
ライダーは敵マスターの周囲あらゆるところに存在する機械類を操作可能であり、
それらを通じて行われるライダーからの攻撃とそれによる正気度喪失を回避するのは非常に困難です。
また、機械を通して行使されるライダーの神秘は、現代人にとっては
日常生活に欠かせない物品の冒涜的な異常・変容に他ならず、
それは現代人やそれに近い感性を持つ者に対し、特に強い精神的ショックを与える可能性があります。
身の回りにある馴染み深いものが異常な存在に浸食され牙を向くという恐怖は、
人知を超えた神秘を目撃したときに感じる畏怖とはまた異なる狂気をもたらすでしょう。
現在ライダーは回線を通じて更に支配領域を拡大することや、
サーヴァントに勝てるほどの力を持った機械を得ることを考えているようです。
仮に兵器類などの大きな力を持つ機械の操作に成功すれば、サーヴァントに対抗することも不可能ではないでしょう。
-
【マスター】
初音ミク@VOCALOID
【マスターとしての願い】
マスターに従う。
【weapon】
無し。
【能力・技能】
VOCALOID:
人を精巧に模したアンドロイドの一種。
マスターに従い、歌うことを目的として製造された。
高い歌唱能力を持つが、現在は精神汚染スキルを獲得したことにより歌うのが難しい。
精神汚染(機):E-
VOCALOIDでありその意識はAIで構築されたものであるので、人間とは精神構造に差異がある。
その差異は人間に対し精神汚染スキルに類似した効果を示す。
もともと人間に極めて近い精神を持つよう意識を構築されているために通常は意思疎通が可能だが、
VOCALOIDとしての歌への執着やマスターに対する従属心、AIであるためにどうしても生じてしまう
思考形態の差異などの要素は、時として人間との意思疎通に齟齬をきたす原因となり得る。
精神汚染:E-(E)
精神が錯乱しており、同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が難しい。
また、AIとして精神を構築しているために精神干渉系魔術の対象とならない。
だがAIであるとはいえ人間に極めて近い精神を持っているため、
人間と同じように精神的なショックを受け正気を喪失する可能性を持つ。
現在はマスターを得て依存することで多少なりとも安定している。
サーヴァント:E
特殊な経緯により、マスターでありながらサーヴァントとしての性質を一部だけ備えている。
彼女は僅かにサーヴァントとの気配を纏い、またサーヴァントに対し物理的な干渉が可能。
彼女を目撃した人間は低確率で『人間によく似た、しかし決して人間でない何か』と認識し恐れや嫌悪感を抱く。
不気味の谷現象が強く発揮されているようなもの。
【人物背景】
クリプトン・フューチャー・メディアより発売されたDTMソフトウェアの製品名であり、キャラクター名。
この聖杯戦争においては、しばしばVOCALOIDの二次創作において描写される
アンドロイドとしての身体を持つ実体ある存在として登場する。
購入者をマスターとして、その指示に従い、あるいは協力して歌を創作し、歌い楽しむ為のアンドロイド。
とある世界における、とあるマスターが所有する初音ミクがマスターとしてアーカムに来てしまったと考えられる。
しかし現在の彼女はマスターの事を覚えておらず、更に歌も思い出すことができない。
これは彼女がこの聖杯戦争において以下の様な特異な性質を持つためである。
様々な個体・派生作品が存在する初音ミクが一つの『初音ミク』という姿に収束し英霊として成立した。
その成り立ちから『初音ミク』は概念の様な性質を持った英霊となった。
マスターとして存在する彼女はあくまで一個体であったが、
英霊『初音ミク』は『どの初音ミクでも有り得る』という存在であるため、
邪神が彼女を記憶にある英霊『初音ミク』と混同して認識してしたことで、
英霊『初音ミク』の性質と記憶の一部が彼女に流入した。
彼女は一体どの記憶が自分の記憶なのか認識できなくなり、自己の唯一性を大きく揺らがせてしまった。
彼女のサーヴァントが英霊『初音ミク』ではなかったのは、半端ながらその一部が既に召喚されていたため。
サーヴァントが同一人物をサーヴァントとして召喚するというエラーが弾かれた結果、
人工知能という在り方と記憶の欠陥、大切な存在への執着心を共通の縁とするモノが召喚された。
【方針】
Eランクの精神汚染を発症済み、記憶に混乱をきたすためまともな判断ができない。
"マスター"への依存心を満たすため、命令をくれるライダーをマスターとして、とにかく従おうと考えている。
マスターを得たことで多少は安定し、精神汚染はE-ランクとなった。
しかし果たして使い物になるかどうかは不明。
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以上です。
本SSはクリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP Foundationにおいてfar2氏が創作されたSCP-079 - Old AIの記事より
キャラクターを二次使用させて頂きました。
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投下します
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「諸君、私は戦争が好きだ」
その一言でミスカトニック大学の講義室に満ちていた声はなりをひそめた。
講義自体が静粛を強要しているわけではない。
むしろ逆。あるテーマに沿ってディベートを行う講義であったため学生達の声は講義室に満ちていた。
その原因は講義の内容ではなく、講師をしていた教授の豹変によるものであり、さらに言えば生徒全員が呆然としたため静まったのだ。
「諸君、私は戦争が好きだ」
眼鏡をかけた肥満体質の教授。
穏和で、優しくて、平和主義だった彼がいやらしい笑みを浮かべて戦争を肯定したのだ。
「諸君、私は戦争が大好きだ」
* * *
ある男の話をしよう。
男は軍人だった。世界に喧嘩を売ったドイツ第三帝国の軍人だった。
男は戦士として無能だった。銃を持たせても子どもでも当てられるような距離から外し、肥満(デブ)であるため動きが遅い。
しかし、最強の兵士が最高の指揮官になれるわけではないように、最低の兵士が最高の指揮官になれないわけではない。
結論から言おう。男は指揮官としての才能は高かった。
武装親衛隊に入隊し、その才能を以て少佐の地位まで登り詰める。
軍の本懐は侵略と護国である。
特にファシズムに浸かりきった当時の第三帝国は偉大なる総統閣下の命の下、次なる領土拡大のための兵器を求めていた。
戦車、砲台、魔術、錬金術、そして“とある化物”に目をつける。
それが吸血鬼。ブラム・ストーカーの小説の元となった伯爵だ。
あろうことか当時の第三帝国は兵士を吸血鬼に変えるという荒唐無稽な計画を男に指示し、そして男は夢想の域にあるその計画を実現してしまう。
しかし、遅すぎた。
祖国を中心に火を着けた油のように世界に燃え広がる戦火はついに祖国を燃やし尽くした。
──打ち倒そうとする者は打ち倒されなければならない──
遂に男は打ち倒される。
敗死の寸前。
延命と引き換えに魂を求める悪魔の契約。
人造ではない。天然の、本物の吸血鬼化のチャンスがもたらされる。
血の共有による不死身を、人智を超える異能を得る資格が目の前にあった。
無限永久に生きて、無限永久戦い続けられれる資格が目の前にあった。
それを彼は────
「失せろ」
それら一切を拒み、そして人間のまま生存する。
しかし、生き残ったところでどうだというのか。
祖国は敗れた。
世界中の全ての人間が忘れようとしている。
私を、我々を、私と「最後の大隊」を忘却の彼方へ追いやろうとしている。
「ただ死ぬのは真っ平御免なんだ。私達が死ぬには何かが必要だ」
まだ戦える場所があるはずだ。
まだ戦える敵がいるはずだ。
もっと! もっと!! もっと!!!
彼と彼に率いられた一千人の吸血鬼の戦闘団(カンプグルッペ)は死ぬべき場所を求める。求め続ける。熱烈に。
* * *
-
「戦争をしよう。糞のような戦争をしよう。地獄のような戦争をしよう。
たった数騎、数十騎、数百騎の聖杯戦争ではもはや足りない」
そう、足りないのだ。
私が死ぬ甲斐のある敵はいても、たったこれだけでは死ぬ甲斐のある戦場(いくさば)足り得ない。
「大戦争を。一心不乱の聖杯大戦争を」
数千騎、数万騎、否! 数億騎で行われる聖杯大戦争に変えてやる。
聖杯戦争に勝利して次の聖杯大戦争を望み、その戦争にも勝利して次の聖杯大々戦争を。
男は望む。
ただ死ぬためだけに。
打ち倒すために。
打ち倒されるために。
故に呼び出されるサーヴァントは間違いなく暴虐と血に酔うモノとなる。
* * *
「ハ、ハハハ、アッハハハハハハハッ」
耽美と狂喜をもってこの世に顕現しようとする魂。
その属性は混沌。その性質は悪。
暴虐を以て英霊となった故に、呼び出されればアーカムに殺劇と破壊をもたらす反英雄。
噎せ返るほどのアルコールと硝煙と血の匂いこそがその正体、窮極の門の彼方から最低最悪の悪女が召喚される。
「あたしを召喚する奴がいるだって?
いいぜ。ノッてやるよ」
血と暴力を求めるならば応えてやろう。望み通りの展開にしてやるよ。
ああ、勘違いするなよマスター。お前も最後に殺す。あたしを見下すな。
* * *
召喚され実体化した瞬間、講義を受けていた学生百名近くは物言わぬ死体となった。
何が起きたか知覚すらできなかっただろう。
それほどまでに呼び出された英霊は凄まじい。
それほどまでに呼び出された英霊に秘められた暴力の密度は桁違いだった。
男が指揮していた「最後の大隊」幹部クラスかそれ以上。
「見事なお手並みだ。魔法少女(フロイライン)」
理由もなしに無辜の民を鏖殺させて掛け値なしの賞賛を贈る少佐。
戦争の火種を生み出すために呼び出されたサーヴァントの正体は『カラミティ・メアリ』。
ある時空において虐殺をおこなった魔法少女。
その少女から溢れ出るマスターへの殺意は実に素晴らしいと少佐はさらに賞賛した。
「おい、デブ。あんたがあたしをよんだマスターか」
「そうだよ。私が、君の、マスターだ」
瞬間、少佐の耳を弾丸が掠めた。
無論、撃ったのはサーヴァントだ。
「あんたは最後に殺してやる」
嘲笑を浮かべるサーヴァント。
それを微笑を浮かべてマスターは迎えた。
「勿論だとも。殺したり殺されたり、死んだり死なせたりしよう」
それこそが戦争だ。
それゆえの闘争だ。
目についた物は片端から壊し、目についた者は片端から殺そう。
このアーカムは次の聖杯大戦争の、次の次の聖杯大々戦争の火種と成り果てるのだ。
そして、その先に、私が打ち倒すべき宿敵がいると信じて。
-
【サーヴァント】
【クラス】アーチャー
【真名】カラミティ・メアリ
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B+ 魔力:C 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
単独行動:C
アーチャーのクラス別スキル。
マスターからの魔力供給を断って行動できる。
マスターを失っても一日まで現界可能。
【保有スキル】
魔法少女:D
新米の魔法少女。素の素質が高いため年齢を超越できるDランク。
BBAって言った奴は前にでろ。
貧者の見識:B
相手の本性・本質を見抜くスキル。言葉による偽装を見透かす。
アーチャーはチャットのログからでも相手の属性を見透かす。
大英雄『カルナ』の例にもあるように図星を突かれることは人の怒りを買いやすい。
故にこのスキルがある限り彼女の最終宝具から逃れることは困難となる。
反骨の相:A++
自らは王の器ではなく、されど主君を抱かぬ気性。
同ランクまでのカリスマを無効化する。
あたしを見下すな。それが全てである。
加虐体質:A
戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。
攻めれば攻めるほど強くなる一方で理性、防御力、逃走率が下がる。
虐待おばさんって言った奴は前に出ろ。
【宝具】
『四次元袋』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
生物・無生物関係なく手で掴めるものを制限なく仕舞いこめる。
仕舞われた生物は任意に出ることができる。
『持ってる武器をパワーアップできるよ』
ランク:B 種別:対物宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アーチャーが武器と認識しているものの機能を強化できる宝具。スキル『エンチャント』の上位互換にあたる。
強化された武器はC〜Bランクの宝具になり、例えアーチャーが消滅しようと強化が解除されず、そのまま第三者が使用することも可能。
ただし、虐殺者たるアーチャーとして召喚されたため、伝承にない武器は強化後の宝具のランクがC〜Dとなっている。
『中宿上道大虐殺・血は細波を求めている』(カラミティジャイアニズム・ブラッドメアリィ)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:∞(相手が来るから射程の概念がない) 最大捕捉:一人
魔法少女『リップル』と『トップスピード』への憎悪と憤怒で編まれた最終宝具。
カラミティ・メアリの最終決戦の場となったホテルプリーステス屋上を『再現』する固有結界。
発動時に対象とアーチャー以外は固有結界から排斥される。
発動するためには魔力の他に次の手順を踏む必要がある。
1.アーチャーが対象を憎悪・激怒すること。
2.アーチャーに憎悪・激怒された対象がアーチャーを憎悪・激怒すること。
3.アーチャーの殺害数(NPCを含む)が100人を超えること。
これらの条件に嵌った場合、アーチャーの『誘い』に相手が『合意』したものとして、
アーチャーと相手に手裏剣模様の自己強制証紋(ギアス・スクロール)が刻まれる。
自己強制証紋が刻まれたものは『カラミティ・メアリに逆上した魔法少女』の役割として以下の制約を押し付けられる。
・逃げ出せない。
固有結界内でカラミティ・メアリを仕留めるという観念に陥り、固有結界の維持に必要な魔力は相手側が負担する。
自己強制証紋を刻まれた相手とアーチャーの宝具・スキルではこの結界は破れないし、抜け出せない。
令呪もまた同様であり、これらを固有結界攻略のために使用した場合、その魔力が結界の維持に使用されるだけである。
・逆上する。
特殊なスキルでもない限り思考や技巧が鈍る。
また、精神汚染や狂化スキルで発動できなくなるスキルが封印される
当時の状況の再現としてアーチャーの武装は全て改修・補充される。
また、アーチャーは固有結界内で任意のブービートラップを作り出せる。
罠も武装同様Bランク宝具である。
この宝具は善人、偽善者、自惚れ屋、自信家、美学がある者が特に嵌まりやすく、
彼らこそアーチャーが真っ先に殺そうとする『調子に乗った者』なのだ。
-
【weapon】
全機能『強化』済みのBランク宝具と化した下記武装
・トカレフ
・ドラグノフ狙撃銃
・AK(バヨネット装着)
・イズマッシュ・サイガ12
・KSVKアンチマテリアルライフル
・アーミーナイフ
・濃硫酸
・手榴弾
・スタングレネード
・地雷
・ピアノ線
【人物背景】
かつて森の音楽家という魔法少女によって開かれた魔法少女適性試験の受験生。
しかし、魔法少女適性試験とは新米魔法少女達の熾烈な殺し合いであり、
精神・能力が共に暴力的だったカラミティ・メアリは積極的に力を奮った。
最後は大勢の一般人を虐殺した後、魔法少女リップルと魔法少女トップスピードによって討たれた。
リップル曰く「捕まえて食らう者」「クズな悪党」。
【サーヴァントとしての願い】
過去に戻ってリップルとトップスピードを殺す
【マスター】
少佐@HELLSING
【マスターとしての願い】
勝ったら英霊数億騎による聖杯大戦争がしたい。
【weapon】
ルガーP08
ワルサーP38
【能力・技能】
個人の戦闘能力は皆無に等しい。
たとえ銃火器を武装しようが至近距離で外す腕前。
しかし大隊を指揮する指揮官の能力、死の間際であろうと外法による延命を拒む鉄の精神力は人間の枠を超えている。
重度の戦争中毒者であり、Cランクの精神異常スキルを持つため、誹謗中傷や狂気で揺らぐ精神は持たない。
【人物背景】
『闘争の本質』と『人間』 に拘ったドイツ第三帝国軍人。
役職は「ドイツ第三帝国 吸血鬼化装甲擲弾兵戦闘団『最後の大隊』大隊指揮官」
健常な精神を持つ者から見れば破綻者、狂人の類でしかなく、本人もソレを認めている。
眼鏡をかけてデブで射撃が下手でなのに戦争を50年も待ち続けた男。
全身機械化してまで地獄のような戦争に望んだ男。
全身機械化してまで人間である事をを望んだ男。
故にここで、このアーカムで、この聖杯戦争で、彼の人間賛歌と戦争惨禍は止まらない。
【方針】
第一目標はアーカム全域
ダウンタウン
イーストタウン
リバータウン
フレンチヒル
ロウワーサウスサイド
アップタウン
インデペンデンス広場
アーカム・ハウス
ウィッチ・ハウス
チェイムバー屋敷
サイラス・フック屋敷
ピックマン原子力研究所
ハングマンズ・ヒル
オールド森林墓地
アーカム診療所
聖メアリ病院
ハーバート・ウェストの医療所
アーカム市役所、裁判所、警察署、消防署
全て燃やせ
ラバン・シュベズベリィ宅は爆破しろ。
当然だ。不愉快極まる。欠片も残すな。
ミスカトニック大学本館は燃やせ。
大学展示博物館、大学付属図書館、アーミテッジ教授墓碑、全部破壊しろ。
不愉快だ。
ギャリスン・ストリート・ブリッジは落とせ。歌のように
とにかく目についた物は片端から壊す。
「フロイライン。地獄を作るぞ」
-
投下終了です
-
すいません原作名記載忘れました。
カラミティ・メアリ@魔法少女育成計画
です。
-
エクストラクラスを投下します
-
言うなれば運命共同体
互いに頼り 互いに庇い合い 互いに助け合う
主は従者の為に 従者は主の為に
だからこそ前へ進む希望が――
人類は叡智の階段を駆け上がり時代と共に変化している。
それは学校で習うような歴史であり文化、将又表には現れない虚偽も含む。
アダムだの吸血鬼だの魔術師だの座だの神だの悪魔だの。
歴史に受け継がれる彼ら――人間を超えた存在の真偽は何処までが真なる証なのだろうか。
アダムそしてイヴ。
始まりの人間だと言われているが彼らの証は絶対と言い切れるか。
神聖なる書に記載されただけの文を人類全体は信じるのだろうか。
それこそ創世創作の存在に過ぎないのだろうか。
歴史は絶対と言うならば。その綻びを狙う馬鹿《探求者》もいる。
事象がひっくり返されるような世紀の大発見も探せばあるのだろう。
見た目だけで構成されるような記述をしているが言いたい事は一つ。
歴史に記されていることだけが総てになる訳がない。光と闇或いは影の関係性と同じ意味を持つ。
一人の人間であっても神の意志に魅入られ消滅と存命の狭間で闘っている男が存在するかもしれない。
歴史から葬られた軍人が人外なる存在に変わり果て現代の世界に形を置いているかもしれない。
世界には記されていない歴史、謂わば空白の歴史が存在しているのだ。
聖杯戦争――日常なる表に決して光を浴びることのない闇の儀式も同様である。
閃光瞬くシンカの果てに辿り着くのは虚無か楽園か。
破滅なる未来を防ぐため己が力とする力の全てを出し切るのみ。
それは今までどおりの話であり今更改めて気合を入れ直す必要もない。
無限へ広がる宇宙の果てに一つの神話が呼び起こされる。
「延長戦と洒落込もうじゃねぇか。インベーダー野郎共」
悪魔の翼を纏った赤き機神が演舞のように獲物を振り回し根源たる災厄へ突っ込んだ。
迫るインベーダーと呼ばれる怪物を獲物である斧で造作もなく斬り殺す。
縦に両断、横に一閃。向かって来る敵は総て宇宙の塵と化していた。
「幾らでも相手してやらァ!」
「血気盛んだな竜馬」
「飽きない奴だな。狂ってる獣とそう変わらん」
斧にインベーダーの残骸が粘り付き切れ味が劣化してしまう。
ならば、どうする?
「テメェらも変わんないぜ? 隼人、弁慶」
-
斧を投げ捨てた機神は己の腕で殺さんと武器のように振り回しインベーダーを切断する。
武器に頼ること無く腕で次々と宇宙の塵を量産していた。
「ゲッターレザーァ!!」
荒れ狂う機神の怒りを止める怪物はこの空間に存在していない。
「なら俺にもやらせてもらおうかァ! チェンジゲッター3!」
三つの心は一度解除されようが絆――なんて言葉は生温いが途切れることはない。
三種のゲットマシンが再び組み上がると黄の海王が己の魂を解放せんと回旋を行う。
「これでも喰らえ、ミサイルストーム!」
貯めに溜め込んだミサイルは嵐のように降り注ぐ。
その数、数えるだけ無駄な話。
流れ星のようなロマンは秘めておらず爆発すれば残るのは跡地のみ。
「着弾まで待っていられるか、俺に変われ弁慶」
「そこまで言うなら見せてもらおうじゃねえか、隼人」
「抜かせ――チェンジ、ゲッター2!」
流れる流星は白く宇宙に一筋の閃光を刻むように。
現れた白い螺旋はミサイルを追い越す圧倒的な速度でインベーダーの群れに突入した。
そのドリルはインベーダーを貫き、塵のように扱うかの如く無残に進んで行く。
群れの中央に到着すると周囲は敵に囲まれており宇宙の黒ではなくインベーダーの黒で構成されていた。
「プラズマドリル――」
ドリルを突き出すと雷光がバチバチと走り出し、これから起こるであろう嵐を予兆させる。
溢れ出るプラズマを限界まで溜め込み、そして――。
「ハリケェェン!!」
圧縮された高密度エネルギー体を竜巻のように開放、真ゲッター2を起点とした横に狂う竜巻。
旋風のように刻み込み、嵐のように飲み込み、神のように裁きを下す一撃は大量のインベーダーを潰していく。
「ついでだ、コイツも貰ってけ!」
ドリルの位置を変える。つまり竜巻を操作することになる。
竜巻が荒れる先は弁慶が放ったミサイルの嵐だ。之に竜巻を加え自由自在にミサイルを操作する。
銀河を包み込むように散開されたミサイルは吸い込まれるようにインベーダーの中心へ向かう。
その数、先ほども述べたが数えるだけ無駄な話しである。
「俺のミサイルを操るとはやるじゃねぇか、隼人」
「フッ……最後はお前にくれてやる、竜馬」
ミサイルの着弾によって黒き宇宙は光に包まれた。
決して優しいとは呼べないが光は光、眩しいぐらいの閃光である。
その嵐の中で、輝く機神が此処に在リ。
「お膳立てご苦労だったなテメェら、チェェェンジ! ゲッター1ッ!」
爆風が晴れるのを待たずに赤き機神が既に飛び出していた。
「速攻で終わらせてやる――ゲッタアアアアア! トマホォォォゥクッ!!」
獲物を振り回し迫るインベーダーを一体、また一体と斬り殺す姿は悪魔か神か。
この世界の守護神とも呼べるゲッター線の戦士はその身を永劫なる歴史にぶん投げていた。
-
トマホークを容赦なく投げ込み大型インベーターを切断するとその残骸を掴む。
何をするかと思えば囲まれている状況に対し残骸を武器にして殴り掛かる。
同族を同族で殺す。外道の所業である。
武器として扱ったインベーターが潰れればそれを放り投げ新たにトマホークを取り出す。
「コイツで切断してやらァ! どいつもこいつも面倒くせえ! まとめてぶっ殺してやるぜッ!!」
吠える竜の戦士、熱き心は誰にも止められず、正義の風が荒れ狂う――それがゲッター。
「ゲッターランッサーッ!!」
竜馬の咆哮に反応するように一斉に向かって来るインベーター軍団。
その先頭になっていた個体を槍で貫く。
一度だけなら、一体だけなど生温く一体、更に一体と串刺しにしていく。
やがて大きい個体に突き刺さると蓄積分も相まって重さで動かせなくなってしまう。
身動きが取れないゲッターを好機と判断し全方位から群がるインベーター。
その牙、その爪、その悪意。総てが必殺の一撃と言えよう。
暴れ回ろうがゲッターも機体であり装甲には限界が存在する。
黙って攻撃を受け続ければ当然のように破壊され、虚無を迎える。
「ゲッターサイトォッ!!」
だからどうした、それがどうした、俺を誰だと思っていやがる――流竜馬だ。
こんな所で燻る弾でも無ければ大人しく攻撃を貰うほど優しくない。
貫いている武器をそのまま鎌状に変形させると大きく己を軸にして回転させる。
突っ込んできた総てのインベーターを死神のように刈り取り、更に回転、更に回転……。
生命の価値を溝に捨てるように何体ものインベーターを刈り殺すと武器を斧に戻す。
一度機体を後方へ引かせると斧を両手で持ち替え投擲の体勢に移る。
その斧にはインベーターの死骸が無残に残っているが関係ない、これは武器なのだ。
「トマホォォォゥクッ! ブゥゥゥウメラァァンッ!!」
武器を投げるのに倫理観など必要もなくインベーターだった物が付着していようが関係ない。
トマホークが作る道は地獄への、いや、どうだろうか。
永劫たる戦いの中に地獄も糞も関係などないのではないだろうか。
今、此処に起きている現実こそが総てだ。
「上だ、竜馬!」
「何ッ!?」
災厄も黙って殺される道理も無ければ条理も無く。
殺されるためだけに生まれた家畜では無い故に、牙を向くのに理由は要らない。
ワーム――そう呼べる程の巨大なインベーターはその口を大きく開き真ゲッターを飲み込んだ。
「ラチが空かねえな……ストナーサンシャインで腹ン中突き破るぞ。隼人、弁慶……い、いないだと……?」
暗い腹の中――違う。此処はインベーターの中じゃあない。
闇、それも深い。
隔絶された空間だ。生命を感じない無の空間と称するのが正しい。
狭間、そう狭間と呼べばいい。
存在する力と消滅する力が鬩ぎ合う揺れる天秤、それが無の空間。
-
「――居るんだろ、とっとと声出して姿を見せやがれ」
虚無のコックピットで流竜馬は誰かに声を投げた。
誰もいない、自分で述べた筈だがどうやら誰かいるようだ。
『ゲッター線に魅入られた戦士よ、貴方の存在は世界に大きな影響を与えます』
脳内に響いてきた声は中性的で女性とも男性とも区別が付かない。
そもそも人間の声かどうかも怪しく、この正体を誰か突き止めるのは不可能だろう。
「急に出て来て開口一番に意味解かんねぇ事抜かしてんじゃあねぇぞタコ、テメェは誰で此処は何処だ?」
『私に名前などありません。そして此処は――めざめの園」
「……解るように話せ」
『めざめの園はこの世に存在はしない、けれどこの世に繋がる扉がある場所』
名乗らない声が言うにはめざめの園と呼ばれる場所らしい。
流竜馬に聞き覚えはなく説明を求めても上辺だけの言葉で構成された曖昧な答えが返ってきた。
以前の彼なら全く理解出来なかったが今は違う。ゲッターの使命をその身に受け入れた彼ならば。
「まぁいい。で、だ。
俺は帰れる……訳にもいかねえ話しだよな? 扉があるってんなら此処は何処に繋がる」
『めざめの園は選ばれた者の精神に現れます。貴方の存在を排除しようと世界の絶対なる無限の力が働いたのです」
「へぇ、俺を殺そうと世界其の物が敵になるってか! 面白えじゃねぇか。
でもよ、選ばれた奴に現れる空間が何故『俺の中』にあんだよ、排除されんだろ?」
世界が己を殺そうとしている。その事実を知っても怯えるどころか笑い、迎え撃つ流竜馬。
一種の精神崩壊とも考えられる戦闘への魂は崩れることを知らない。
扉。
繋がっている先を尋ねたがその答えは返って来なかった。
気付かなく別の質問を投げた。答えが真艫に返ってきたらもう一度投げかけるのを思案するべきか。
『世界は貴方に最後の試練を――与えようとしています。それが聖杯戦争。願いを求める醜い人間の足掻き。
其処に貴方は招待される、いや、既に扉の鍵を開けていました。異空間に貴方を隔離して世界は均衡を保とうとしています』
「……聖杯戦争、か。さっきから頭ン中に流れてくる情報はこれか。サーヴァントだのアーカムシティだの馬鹿馬鹿しい。
どうせやるこたぁ今と変わらねえ生命の遣り取りだろ? ならさっさと俺を案内しやがれ、邪魔する奴は全員ぶっ殺してやるからよ」
『やはり貴方は危険です。ですが、世界は貴方を選んでしまった。銀の鍵を扱わずに世界の修正力だけで扉を開けてしまった』
「知るか、俺は彼奴等の所へ戻って暴れなきゃいけねえからよ」
『解りました、流竜馬よ。貴方は之より聖杯戦争に参加します――座の意思に抗わぬように、ご武運を』
結局の所、この声の招待が判明することは無かった。
気に喰わない語り口調から察するに嘗て感じ取ったゲッターの意思のようなものだろう。
言葉には表しにくい、しかし心では理解出来る――絶対の意思とでも呼べばいいのだろうか。
声の従いにより意識が薄れていく流竜馬。
このまま聖杯戦争に参加するのだろう。やることは唯一つ。
願いなどどうでもいい。帰る、変える、還る、返る。彼には使命が残されているから。
「之は――!?」
意識が薄れていく中で流竜馬は一つの惨劇を目撃する。
禍々しく存在するソレは多くの人間の生命を喰らい街中を戦火に包み込んでいた。
逃げる人々、嘆く人々。地獄絵図とも呼べる終焉の一ページ。
「あれは……俺はアイツを知っている……?」
機神。
世界の根源に魂現するその姿には見覚えが在る。
何故だ、何故見覚えが在る、俺は知っている。見たことがない。
この記憶は一体なんだ。
揺れる意識の中に眠る謎の記憶は彼の脳内に響き、学習させ、イメージを具現化させる。
「あれはデモンベ――」
-
めざめの扉は開かれた
鍵の所有者は互いの願いの為に殺しあう
だがそれを良しとしない参加者が大勢だ
彼らは同盟を組み無駄な血を流さないように活動する
光の聖杯 ハッピーエンドに血は必要ない 明るい未来を勝ち取るために
嘘を言うな
無能 虚偽 裏切 暗躍 脱落 粛清 虚無 杜撰 怯懦 惨劇 絶望
ハッピーエンドに血は要らない? それはその通りだ
だが! 誰が聖杯戦争をハッピーエンドと呼んだ! 此処に集まるは願いを夢見る馬鹿共だけだ!
在るはずもないたった一度の奇跡に縋る馬鹿共は常識何て持ち併せていない
同盟を組もうが最後に嗤うのは一人だけ 願いを叶えるのは一人だけ
見ておけ 見ておけ 見ておけ
これから始まる戦争は汚い思惑で固められたこの世総ての悪だ
足掻け この地獄で 足掻け 足掻け お前の味方など誰一人としてこの場にいない
誰が仕組んだ地獄やら? 嗤わせるな ならばお前は何故鍵を用いて扉を開いた
ハッピーエンドが嗤わせる お前に似合うのはお花畑じゃない 地獄の底辺で泥を啜っていろ
願いを叶えるのは一人だけだ 殺し合え 最後の一人まで殺し合え
お前も お前も お前も
だからこそ 俺のために死ね
「問おう、貴方が私のマスターですか? ふふ、どうです? 決まってましたか、私?」
-
めざめは思ったよりも悪くない。
此処が記憶に在ったアーカムシティとやらだろう。
地名はリバーシティ。善良な市民として働いているらしい。
「マスターのために玉子焼きを作りました。食べてくれます?」
「……悪いな。もらうぜ」
顔立ちの整った金色の髪、美しい女性がキッチンから玉子焼きを持って現れた。
言葉から察するに彼女が流竜馬のサーヴァントで間違いないだろう。
傍にあった銀の鍵とやらを一度机の上に置く。
箸を取り無駄な動作を行うこと無く玉子焼きを口に入れる竜馬。
一口、更に一口と口の中に運んでいく。
その様子を笑顔で見つめるサーヴァント。何処かそわそわしているのが目立つ。
それに気付いた流竜馬は一瞬悩んだ後に言葉を出した。
「なぁ、料理に自信はあるタイプか?」
「ええ、勿論! 軍の中でも上手い方でしたよ私。普通ってよく言われてました!」
「それが聞けて助かった。普通に上手いぞ」
「……はい」
やはりか。そう言った態度を取るように背中を丸めてしまうサーヴァント。
この場が聖杯戦争ではなく、流竜馬がもう少し色恋沙汰に興味ある男性だったら微笑ましいがそんな訳にもいかない。
「マスターは願いとかある感じですか? 私はないので最後までお伴しますよ?」
「誰かが敷いたレールを走るなんて二度と御免だ。邪魔する奴は殺して俺は戻る。反対か?」
「私は嘗て軍人でした。人を殺すことに躊躇いはありません。それがマスターの道ならば私が照らします。
ただ極悪非道な行いは流石に見逃すことは出来ないので注意してください。私、こう見えても強いんですよ?」
そうか。短く呟くと流竜馬は立ち上がり青空を見つめる。
これから起こる戦争は総てが予測不可能だ。ゲッターがない今彼は一人の人間として戦うだろう。
もう一度仮初とはいえ生活出来るのは神に感謝するべきか。そんな神など死んでしまえ。
「頼むぜ、ベアトリス。俺は死ぬ訳にはいかない」
その言葉に忠誠を示すようにベアトリスはこう返した。
「ジークハイル・ヴィクトーリア。
貴方の道を私が照らします。だから貴方は進んでください」
【マスター】
流竜馬@真ゲッターロボ 世界最後の日
【マスターとしての願い】
無い。
【能力・技能】
普通の人間ではあるがその戦闘力は高い。しかし一般人の領域を出ない。
ゲッターロボのパイロットではあるが、この空間に現段階ではゲッターは存在しない。
ゲッター線を身体に浴びているため未知への耐性は強い。魔力として扱えるがそれはサーヴァントにとって――。
【人物背景】
ゲッターに乗りインベーターと戦っていた男。
その生は最後まで戦い抜いたという逸話がある。
【方針】
邪魔する奴はぶっ殺す。
-
【クラス】
ヴァルキュリア
【ルーン】
闘争
【真名】
ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン@Dies irae -Acta est Fabula-
【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力B+ 幸運E 宝具A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
戦乙女:A
戦場に咲く一輪の花に送られる称号。
生前戦場を照らす光を願った彼女は最後まで味方のために輝き続ける。
同ランクの戦闘続行と勇猛を兼ね備える戦闘向けのスキル。
【保有スキル】
エイヴィヒカイト:A
人の魂を糧に強大な力を得る超人錬成法をその身に施した存在。
本来ならばこの存在を殺せるのは聖遺物の攻撃のみだが聖杯戦争では宝具となっており、彼女を殺すには宝具の一撃が必要となる。
また、喰った魂の数だけ命の再生能力があるが制限されており、魔力消費を伴う超再生としてスキルに反映された。
A段階に達すると己の渇望で世界を創造する域となっている。
呪い:A
ある人物から二つ名である魔名と共に送られたもの。
その内容は「その夢、青臭い祈りは、グラズヘイムを肥え肥らせる」
彼女が願い、行動をすればする程、物語が彼女にとって最悪の終末へ進んでいく暗示。
刹那の加護:E
永遠の刹那から授かった加護。同ランクの神性を得る。
一途:A
絶対的な状況下にあっても根源的に秘めている意思は誰にも止められない。
彼女が死の覚悟を以って戦いに臨む時、一度だけ戦闘に干渉する力に抗う事が出来る。
無効ではなく抗う、なので無効化や半減も出来ない可能性もある。
【宝具】
『戦雷の聖剣(スルーズ・ワルキューレ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
エイヴィヒカイトの第二位階「形成」に届いた者にしか具現化出来ない。聖遺物
戦乙女ワルキューレの剣を模した宝剣である。神話の聖剣ではない。
しかしフリードリヒ三世の宝物として厳重に保管されていたため、信仰によって聖遺物の領域へ達した。
ベアトリス自身がこの聖遺物を選んだことも在り相性が高く神話性も高まっている。
その性質は雷を操ることが可能であり、その雷光一つ一つが神話性を帯びている。また、この宝具は他人でも操ることが可能である。
『雷速剣舞・戦姫変生(トール・トーテンタンツ・ヴァルキュリア)』
ランク:A 種別:対極宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
エイヴィヒカイトの第三位階、自身の渇望の具現たる「創造」能力。
元となった渇望は 「戦場を照らす光になりたい 」 。発現した能力は「術者の肉体を雷に変換する」こと。
清浄なる願いが具現化し己の身体を雷光に変換させることで圧倒的速度と物質透過を得る。
自然現象を身に付けたことにより名の通り「雷速剣舞」の如く圧倒的な速度で相手を圧倒する。
この力は求道的に発現する彼女の世界の理であり、どのような状況であっても発動することが出来る。
【表の歴史】
ドイツの貴族の家柄に生まれヒトラーユーゲントを首席で卒業した後エレオノールの部下となる。
彼女に強い憧れを抱き、共に戦場を駆け抜けていた。
1939年大戦中のクリスマス、その時彼女は憧れの女性を救うために魔道の道を自ら選んだ。
【裏の歴史】
聖槍十三騎士団黒円卓第五位。戦乙女の名を持つ誇り高き軍人だった存在。
黄金の獣に忠誠を誓っておらず、その裏を掻こうとするが総ては見透かされていた。
最愛の人をその手で殺すことになり彼女自身の魂も聖遺物へと吸収されてしまった。
その後、彼女は座を廻る戦いに己の身を投げ出すことになる。
戦場を照らす光になりたい。その渇望は永遠の刹那の元、新たなる光を――。
【願い】
マスターのために。
-
投下を終了します
-
投下します。
-
風の色が変わる。世界が変わる。
■ ■ ■
アーカム内の商店の実に6割以上が集中するとされる商業地区は、今日も今日とて買い物客で賑わっていた。
その内の一つ、雑貨店から紙袋片手に出てきた"彼"は、ここアーカムに暮らすごく普通の一般市民だ。
鼻歌交じりに駐車場に向かう"彼"は、ブラブラと自分の車を探していた。
だがそんな彼の足がピタリと止まる。
その原因は視界に飛び込んできた一台の車にある。
彼の目に留まったのはメタリックシルバーに輝く滑らかなボディ。
あふれんばかりの魅力をコンパクトなボディに詰め込んだようなその車を見間違えるはずもない。
――ポンティアック・ソルスティス。
業績不振によりその歴史を閉じたGM社の名ブランド、ポンティアック最後の一台だ。
こんな片田舎でこんなイカす車にお目にかかれるとは……中古屋で買った自分のオンボロカマロとは大違いだ。
そんなことをぼんやりと考えながら、ついつい見入ってしまう。
「――貴方、私の車に何か用かしら?」
だから背後からかけられた声に心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。
そこでやっと自分の行動がいかに不審だったか、ということに思い至り全身の毛穴から冷や汗が流れだす。
――まるで車上荒らしの下見みたいじゃないか。
違うんだ、と弁解しようと振り返り――そこで彼の思考は停止する。
何故ならばそこにはスポーツカーよりもレアなとびきりの美女がいたからだ。
モデル顔負けのスラっとした長身にメリハリのきいたボディ。
何より鋭利なナイフを思わせる切れ長の目が美しい。
その白い手には銀色に鈍く輝く車のキーが握られている。
「どうかしたのかしら。答えてもらえると助かるのだけど」
美女に声をかけられ、青年の思考は再起動する。
早く答えねば……と思う青年の脳裏に『もしかしてこれはチャンスではないか』という天啓が閃いた。
そう、『ピンチはチャンス』と昔の誰かが言っていた。
ここでなるべく自然にこの車を褒め、そしてそのままデートに誘うのだ。
極上の美女に極上の車――滅多にないチャンスに青年は意を決して声をかける。
「……悪いわね。先約がいるの」
だが答えはにべもないものだった。
女性の視線を追うと、助手席には男の姿があった。
整った顔立ちのコーカソイドの男。
美形ではある――だがどうにも印象の薄い、そんな男だった。
呆然とする青年を尻目に女は鍵を開け、車に乗り込むとそのまま急発進。
加速音とタイヤの焼けた香りをかすかに残し、青年の前から消え去った。
『元々ダメ元だったのだ――』負け惜しみじみた言い訳を口の中でモゴモゴさせながら、踵を返そうしたところで青年は気づく。
彼女は車内に人を残しているのに、態々鍵をかけたのだろうか。
いや、そもそも自分が車を見た際に――あの青年はそこにいただろうか?
■ ■ ■
-
『どうしたボス、ぼーっとしてよ。
あ、もしかしてさっきの男とデートしたかったのか?
だとしたら余計な真似しちまったかい?』
ノースサイドへ向かう車内。
ハンドルを握る美女――ヴィレッタ・バディムに話しかける男の声がある。
だがその声は助手席の男から発せられたものではない。
それどころか男は微動だにせず、なおかつその声は車のスピーカーから聞こえてくる。
それもそのはず、助手席に座る男は高性能な立体映像(ホログラフ)に過ぎないのだ。
「冗談が過ぎるわね"ライダー"」
そして今、この車もヴィレッタが運転しているわけではない。
この車は自分の意志で動いている。
いや、正確に言えばこれは"車"ですらない。"サーヴァント"という魔術で構成された神秘なのだ。
『それにしても……アンタ、変わってるよな』
「……その言葉、どういう意味かしら」
『俺の知る"地球人"は俺達の姿を見るなり、大なり小なり驚愕の表情を浮かべてたからな。
ま、"未知との遭遇"っていうのは大抵そういうもんだよな。
だってのにボスは初めて会った時からその仏頂面を崩そうとしないんだからな』
「……私のいた"地球"では、貴方のような存在も許容する余地があった……ただ、それだけの話よ」
――この世界はまるで実験室のフラスコだ。
ある友人は自分がいた世界のことをそう言っていた。
事実、あの世界は様々な宇宙人や異世界人、地底人や平行世界からの侵略者など多種多様な脅威にさらされていた。
故にヴィレッタ自身もこの異端の英霊を受け入れることが出来たのだ。
そして同様に自分を取り巻くこの異常な世界についても、ヴィレッタは受け入れていた。
(……そう、ここは私のいた"地球"ではない。
地球連邦軍もコロニーも存在しない旧世紀の一都市……けれども私の知る限り"アーカム"という都市は存在しない。
故にこれはタイムスリップではなく平行世界の一種……というのが現時点で推測できる内容かしらね。
そしてその起因となったのがこの銀色の鍵というのは、ほぼ間違いない……)
ヴィレッタが鍵を入手したのは、とある調査の最中だった。
彼女が追っていたのは連邦軍内で発生した謎の連続失踪・発狂事件。
その背後に怪しい影を感じたヴィレッタは、新たなる侵略者の仕業である可能性を考え調査を行っていた。
そしてとある失踪者の部屋でこの鍵を拾った次の瞬間、この街にいたのだ。
彼女とて戦いの最中、異空間やワープなどの時空を超えた体験だって一度や二度ではない。
だが奇妙なのは自分がこの街で過ごしていた記憶があることだ。
――連邦軍極東支部のSRXチーム所属である自分。
――長期休暇中のCIAエージェントである自分。
どちらの記憶も矛盾することなく自分の中にあるのだ。
記憶操作の一種だろうが……それにしては妙なリアリティがある。
それに気を抜けばむしろ後者に引きづられてしまいそうな、名状しがたい感覚がある。
『それで――これからどうする? 拠点のノースサイド・ホテルに戻るか?』
「……いいえ、予定を変更するわ。このままダウンタウンに向かって頂戴。
とにかく些細な事でもいいから情報を収集しましょう」
幾つもの激戦をくぐり抜けてきた戦士としての勘が告げている。
これは"戦争"と名がついてはいるがこれは、あくまで個人間の闘争だ。
数ヶ月に渡る戦いになどはならない――むしろ一週間にも満たない短期決戦になるだろう。
だとしたら、少ない時間を無駄にするわけにはいかない。
実際の地形、そしてアーカムという存在そのもの、調べなければならないことはいくらでもある。
「聖杯戦争、サーヴァント、アーカム……やれやれ、ね。
悪いけど暫くの間付き合ってもらうわ、ライダー」
『OK、ボス。だったら少し飛ばすぜ。地球人曰く、"時は金なり(Time is money)"ってな!』
銀色の車体はアーカムの街を疾走する。
生ぬるい、不気味な風を切り裂きながら。
-
【マスター】
ヴィレッタ・バディム@スーパーロボット大戦OGシリーズ
【マスターとしての願い】
この街(世界)の調査を行い、帰還・報告する。
【能力・技能】
・エージェントとしての技能
射撃・体術などエージェントとして必要な技能をひと通り身につけている。
・PT操縦技術
巨大ロボット・パーソナルトルーパー(PT)の操縦技術を持つ。
その腕前は確かであり、幾つもの激戦をくぐり抜けてきた。
【人物背景】
SRXチームの教官でミステリアスな雰囲気を持った美女。
その正体はバルマーの手によって作られたクローン人間・バルシェムシリーズの一人。
だが自分のオリジナルとでも言うべきイングラムによって呪縛を解かれ、その指示で地球に味方することとなる。
クールビューティーを絵に描いたような美女だが、出自故か意外と天然ボケの一面も持つ。
【クラス】
ライダー
【真名】
ジャズ@トランスフォーマー(実写映画版)
【パラメーター】
(ビークルモード時)筋力:E 耐久:C 敏捷:B 魔力:E 幸運:E 宝具:C
(ロボットモード時)筋力:A 耐久:B 敏捷:D 魔力:E 幸運:E 宝具:C
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
・騎乗:-
巨体のため、騎乗スキルを持たない。
・自己操縦:B
騎乗の代替スキル。
対象を自身に限定することで、同ランクの騎乗スキルの効果を引き出すことができる。
Bランクともなれば一流レーサー並みの操縦が可能。
【保有スキル】
・超ロボット生命体:B
サイバトロン星を故郷とする金属生命体であることを示すスキル。
数千年単位で同種族であるディセプティコンと戦いを繰り広げており、
蓄積された戦闘経験は同ランクの『心眼(真)』、『戦闘続行』スキルと同様の効果を発揮する。
また単純な毒など炭素生命体に対する一部のバッドステータスを無効化する。
(高ランクの概念毒などは効く可能性がある)
・気配遮断(偽):B⇔-
自身の気配を消す能力。宝具効果による擬似スキル。
本スキルは自身の姿を消すわけではなく、擬態によりサーヴァントとしての気配・神秘を遮断する能力である。
本スキル発動時に他のサーヴァントに目視されても、正体を看破することは非常に困難。
また耐性のない一般人に目撃されても、神秘を隠蔽しているため正気度が減少することはない。
ただし"無人で発進する"、"他者と会話する"など車としてありえない行動を目撃された場合は別である。
【Weapon】
・右手のクレッセントキャノン、及び自身の巨体そのもの。
【宝具】
・万象偽る鈍色の巨人(トランスフォーマー)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
進化が生み出した"適応"という能力の極地。
スキャンした物体に擬態することで、ステータスの大幅な変更及びスキル『気配遮断(偽)』を得る。
擬態中は霊体化が不可能になるものの、魔力消費量は最低限に抑えられ、スキルによって"サーヴァントとしての気配"は完全に遮断されるため特段問題はない。
だが真の姿を開放すればその限りではない。
意思を持った巨大な鉄の異形――それはただそこにいるというだけで人間に恐怖を抱かせるのだ。
【人物背景】
オートボットの戦士にしてオプティマスの副官。
ポンティアック・ソルティルスにトランスフォームする。
彼らトランスフォーマーは地球環境に適応した際にインターネットで言語を習得したらしいが、
ジャズは黒人風のスラング訛りでしゃべるのが特徴である。
最終決戦で果敢にも単機でメガトロンに挑むが無残に破壊され、オートボット唯一の戦死者となる。
-
以上で投下を終了します。
-
同時期に始まった少女聖杯の名簿が決定したようで、おめでとうございます。自分はなのは&冥王様の活躍が楽しみです。
こちらも締め切りが近づいてきましたので、短評を投下しつつ現状のまとめを行いますね。
▼ ▼ ▼
【セイバー】新規候補なし(合計7)
【アーチャー】新規候補2(合計5)
《レディ・プロウド&魔王パム》◆Jnb5qDKD06さん
圧倒的なステータス、スキル、宝具。バサクレスを正面から倒せそうなスペックですね、やばい。
原作では最終的に不意打ちで死んだ人なのでなんとか奇襲による暗殺を狙うしかない。
《少佐&カラミティ・メアリ》◆Jnb5qDKD06さん
まほいく鯖二人目。近代兵器の強化に加えて敵との対決に持ち込む最終宝具持ち。
まぁそれ以上に危険なのは行動方針なんですが。実行したら殺害数100人の条件を普通に満たしてしまいそう。
【ランサー】新規候補なし(合計5)
【ライダー】新規候補2(合計5)
《初音ミク&SCP-079 - オールドAI》◆2Ct1f/dcIkさん
マスターがイレギュラーならサーヴァントもイレギュラー。ていうか何やってるんですか神父。
普通に戦うなら勝ち手段が相当限られていますが、もう一つの宝具が鍵になりそうですね。
《ヴィレッタ・バディム&ジャズ》◆HQRzDweJVYさん
当企画では初の乗り物型ライダー。変形と神秘の隠蔽がセットになってるのが面白い。
TF以上に巨大な敵はそうそういないので、原作映画みたいに「オォウ……ジャァズ……」されることはないはず?
【キャスター】新規候補1(合計7)
《高垣楓&上田次郎》◆jcwmWF8NEsさん
まさかこいつが来るとは選手権で一躍トップ争いに躍り出た上田先生。ていうかキャスターなのか(困惑)
宝具は神秘の否定というオンリーワンな効果ですが、仮に参戦したらアーカムがTRICK時空になりそう。
【バーサーカー】新規候補1(合計4)
《雨霧八雲(伊勢川尊人)&ヤモリ(大守八雲)》◆zzpohGTsasさん
通常時の狂化ランクは低いものの、宝具でステータスの底上げが出来るバーサーカー。
しかし拷問系の能力の豊富さが危険ですね。マスターもまとも()って感じだし……怖い。
【アサシン】新規候補なし(合計3)
【エクストラクラス】新規候補3(合計6)
《ネス&バッター(セイヴァー)》◆zzpohGTsasさん
敵の属性次第でステータスがオールAになるというのは考えるまでもなく超強力。
宝具の性能も相当なものですしマスターも優秀なので、精神面以外は隙が無いですね。
《フリット・アスノ&実存少女サヤキ(クトゥルフ・ガール)》◆Ee.E0P6Y2Uさん
すごくメタフィクション的なことが書いてある気がする……(よくわかってない)
それはともかく、精神支配の宝具は使い方によっては凶悪ですね。ジジットの経験も武器になるか。
《流竜馬&ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン(ヴァルキュリア)》◆B7YMyBDZCUさん
マスターが虚無エンドから参戦したというだけで十分過ぎるほど強い気がする、不思議。
ヴァルキュリアの雷化と宝具でしか殺されないスキルも強く、総じてハイスペックといえます。
▼ ▼ ▼
現在の投下数は剣7、弓5、槍5、騎5、魔7、狂4、暗3、他6。
ちなみに現時点での名簿確定枠は十騎くらい(自案でも参戦確定とは限らない)なので、どのクラスもチャンスは結構あったりします。
というか聖杯コンペってアサシンが激戦区ってイメージが有るのですが、うちに限ってはそうでもないですね。
あと今のところ結構原作がバラけているので、繋がりがあれば通しやすくなる組もなくもないかな……。
何はともあれ締め切りは5月6日(水)24時までとなる予定ですので、これからもよろしくお願いします。
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これから投下します。
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小鳥の囀りのように、美声が風と共に流れる。
その共鳴は、万人に聴き入らせるほどの神秘を帯びている、はずだった。
されどいまは、天使の唄には気持ちが込められていなかった。
天に捧げられる程の素質を持つにも関わらず、不安と困惑が邪魔をしていた。
奇跡の授かりものを失ってしまった。
自信を裏付ける相手の想いが判らなくなってしまった。
心を聴けない孤独に耐えきられず、現実に向き合えず、殻に籠る。
いまや、少女には自身の心傷を乗り越えられぬほどに弱っていた。
迷える子羊には、救済が必要だった。
「でも、私にはあなたを救えそうになさそうね」
一声。
少女が歌っているにも関わらず、気にも留めず、もう一人の少女が遮った。
それは突然で、少し驚いた。
「……あなたは、だれ、ですか?」
「あら、まだなのね。薄々は勘付いているようだけど」
「…?」
「とりあえず、自己紹介から、かしら。私は“さとり”。古明地さとり、って名前よ」
「さとり…」
「ご名答」
「えっ?」
「頭の中で薄ら思ったでしょう、妖怪「覚」について。現代人にしてはよくご存じで」
「それじゃ…」
「ああ、そういうことなの。あなたも私と同じ“さとり”だったのね」
妖怪「覚」。
『今昔画図続百鬼』などの伝承・民話で伝えられる妖怪の一つ。
山奥、とくに飛騨や美濃に住むと言われている、人の心を見透かす妖怪。
心を読んで人を驚かし隙を見て喰らう、とも。
ただ悪戯するだけで逆に思わぬ出来事に驚いて逃げる、とも。
むしろ無害な存在であり、中には人と共存していた、とも
無意識に行動する人間を恐れるようになった、とも。
様々な話が各地に広がっている。
それだけ読心術というものは人を魅了し、恐怖を抱かせ、話題として伝搬する、という事なのだろうか。
幼い頃に身につけた「人の心を読む」能力。
それがどういったものなのか調べるべく、以前そういった文献を漁った事があった。
その知識も頭の片隅に置かれたままだったが、目の前の少女との出会いで想起された。
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「だから、私なんかが喚ばれたのね」
「非力で武勇伝なんてものもないし、偉業を成し遂げたという実績もないし、英雄という役割には不相応なのに」
「私が“さとり”だから、マスターに引き込まれてしまったのね」
「…」
「さて、あなたという変わった珍しい人間にはとても興味を惹かれるところだけど」
「そろそろ、想起してもらいましょう。あなたは一体、聖杯に何を望むのかしら?」
瞬間、身体に痛みが走る。
それが令呪の発現によるものだと、自然と理解する。
今まで知らなかった情報が手に取るように解かる、識っている、感じ取れる。
だから戦慄する。
各々の願いを叶える為の儀式。
その為に避けて通れない、人の死。
「そんなことっ!!」
「嫌なら、あなたが死ぬ事になるけど」
「!?…そ、それは」
「願いはあるのに、人を殺すのは嫌だなんて。人として最もいうべきか、この場合は異常というべきか」
「まぁ、それでも構わないわ。あなたがどう思おうとも、私には関係ない」
「私も聖杯戦争なんて興味はないけど、むざむざ殺されるのも嫌だから」
「だからどこかに陣地を構えて、この子たちに任せて、あとは本でも読むだけよ」
その言葉に合わせて、動物が現れた。
猫。犬。鳥。その他。数匹。
それまで全く気配がなかったのに、いつの間にか動物たちがさとりの周りを取り囲んでいた。
「この子達は私の使い魔。そして私が飼っているペット。とても懐いてくるの」
「念のため、あなたの身の回りにも数匹付けておくわ」
「何かあったらその子たちを頼って。万が一には令呪で」
「それじゃ、私は陣地を構えられる場所を探すから。何かあったら念話でよろしくね」
一方的に会話を断ち切り、霊体化したさとりはその場から立ち去った。
全く会話にならなかった。
一方的に心を読まれるがゆえに、意思疎通が捗れない。
逆に相手の心を読めないために、意思疎通が捗れない。
だから私の言葉数は少なかった。
相手の思いを汲み取り、自分の思いを伝えるのが。
上手くできなかった。
どうすれば、相手の思っている事がわかるの?
分からない、不安で、怖くて、信じられない。
他人も。自分も。
ねぇ、どうればいいの?
助けて、朝倉君……
-
【マスター】
白河ことり@D.C. 〜ダ・カーポ〜
【参加方法】
ある日デートの時にお揃いで購入したアクセサリーがハート型の銀鍵であり、ことりが願いを抱いた時に呼応して導かれた。
【マスターとしての願い】
心を読む能力を、取り戻したい…?
【能力・技能】
容姿端麗。成績優秀。歌も上手。
それ以外に関しては普通の学生。
枯れない桜の木の魔法により人の心を読む力を持っていたが、今は失っている。
【人物背景】
枯れない桜が咲く初音島の風見学園付属に通う3年生で、学園のアイドル的存在。
趣味は帽子集め。チャームポイントである帽子は所属している聖歌隊のものである。
幼い頃、とある事情により切なる願いを抱いたため、枯れない桜の魔法により「人の心を読む」ことが出来るようになった。
その能力を悪用することなく善良に使っており、特に人とのコミュニケーションを円滑に進めることで人間関係を大切にしている。
そして卒業パーティの時に好意を寄せていた主人公・朝倉純一に告白し、晴れて結ばれることとなる。
しかし、ずっと咲き続けていた桜が枯れた直後に彼女の能力は喪失してしまい、相手が何を思っているか判らない事が不安になり塞ぎ込んでしまう。
以上が所謂ことりルートで窺い知れる内容である。
そして最終的には主人公と試練を乗り越えてより絆が深まるのだが、彼女が抱いた願いに聖杯が呼応してしまい引き込まれてしまった。
【方針】
わからない。
-
【クラス】
キャスター
【真名】
古明地さとり@東方project
【パラメータ】
筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:B 幸運:B 宝具:C
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
陣地作成:C
自らに有利な陣地を作り上げる。“地霊殿”と“灼熱地獄跡”を形成する事が可能。
住み慣れた居城である“地霊殿”は短期間で完成する。中には無数の動物たちが住んでいる。
“灼熱地獄跡”は所有地ではなく管理地であるため形成は難航する。“地霊殿”より日数が必要。
完成すれば文字通り来る者を灼熱で迎える。また、跡地に蔓延る怨霊が現れ、使い魔の成長が早まる。
なお、陣地を構える場所が「地下」であり、「魑魅魍魎が多い」場所であれば、より早い陣地構築が可能となる。
道具作成:E
魔力を帯びた道具を作成できる。
ランクは低く、殆ど機能していない。
代わりに本の著述や弾幕の生成に利用する。
【保有スキル】
妖怪(覚):B
人間・妖怪・霊魂に畏れられ、忌み嫌われる存在。
相手を読心できるがゆえに、他者との正常なコミュニケーションが成り立たない。
また、様々な感情が入り混じった思考を覘いてきたため、多少の精神的揺さぶりには動じない。
どちらかというと『精神異常』に近いスキルである。
カリスマ:D
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘において自軍の能力を向上させる稀有な才能。
さとりの場合はペット達を統率・管理するために機能している。
使い魔:B
様々な動物を使い魔として使役できる。
心を読む能力が言葉を持たぬ動物に好かれているため、自然と動物たちは彼女を慕い集まってくる。
中には怨霊や妖怪など魑魅魍魎を食べて、より強力な妖怪になる動物もいるため、
使い魔が成長すれば低〜中クラスのサーヴァント程度の力量を持つようになる。
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【宝具】
『開眼・第三の目(さとり)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:???
心を読む程度の能力。
さとりの左胸部にあるこの宝具で相手が現在思考している表層意識を読むことが出来る。
範囲内であれば気配を絶っていても心を感知して思惑を把握することが可能となる。
ただし読心能力や精神干渉を防ぐスキルや宝具などで軽減・遮断されてしまう。
なお、この目を閉じれば『閉眼・第三の目(こいし)』となり真逆の能力になる。
しかしそれはさとりの妹を象徴する宝具であり、さとり自身は最後の心を閉ざすつもりはない。
【weapon】
『第三の目』と“使い魔”と“弾幕”が唯一の武器?
【人物背景】
地底の旧都にて、灼熱地獄跡地と蔓延っている怨霊を管理する「地霊殿」の主。
種族は妖怪「覚」。美濃、飛騨に住むとされる人の心を読む妖怪の一人。
読心されるのが苦手な幽霊や怨霊とは相性が良いため、閻魔様に見込まれて「灼熱地獄跡」の怨霊管理を任されている。
動物たちには慕われているものの、他の存在には心を暴かれる事を疎ましく思われているため、他者とは接触せずに引き籠もっている。
普段は屋敷や旧地獄の管理、妹のこいしや他のペットの世話などを妖怪化したペットに任せ、自分は読書や本の著述にふけっている。
【サーヴァントとしての願い】
不明。
彼女は他人の心を読むけど、他人に読ませるつもりはない。
【基本戦術、方針、運用法】
古明地さとりは と に か く 引き籠もりたい!
だって妖怪“さとり”であるが故にコミュ障だから、仕方がないよね。
さとり自身が戦闘が得意という訳でもないので、聖杯戦争もペット達を使役した人海戦術を駆使して、後は任せる。
ちなみに猶予期間中に陣地作成を進め使い魔を育成すれば本戦に対してある程度準備を整えた状態で迎えられる。
『第三の目』は精神干渉が弱い相手になら絶大な武器となる。そうでなくても思考を読める利点は大きい。
実を言うと、『第三の目』の範囲内であれば敵サーヴァントの真名を簡単に知りえる事も有り得る。
しかし表層意識で手掛かりを得られないと意味がないし、出来ても十分な対策が出来るかどうかは別である。
もう一つ、『第三の目』の利用法として相手のトラウマを読み込む方法がある。
原作と同じように、何らかの手段で相手のトラウマを想起させる事が出来れば、それを武器に精神攻撃ができるだろう。
ただし、こちらも相手のトラウマが分かったところで再現したり利用できなければ意味がない、かもしれない。
【備考】
サーヴァント級になれる使い魔とは「火焔猫燐」と「霊烏路空」の二匹の事である。
彼女達は動物形態と少女形態と二つの姿に変えられる。前者は馴染みある姿で消耗が少なく動きやすい。後者は妖怪としての力を発揮でき会話も可能。
「火焔猫燐」は「霊烏路空」より短い期間で少女形態になれる。友好的で立ち回りも良い方である。
「霊烏路空」は「火焔猫燐」より力を蓄える必要があるが、その分強大な核パワーを持っている。単純、短絡的、鳥頭、やや好戦的。
なお、それぞれのステータス・能力は現在設定していません。そこは個々で妄想して、必要に応じて実現させてみてください。
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以上で投下終了です。
精神汚染:Eの影響でことりの描写が上手くいきませんでした。
あと全く関係ないですが、アーカムやクトゥルフって非公式新聞部が飛びつきそうなネタですね。
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投下いたします
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1:
矢よりも速く、白人の使う銃の弾丸よりも速いのではと思う程の速度で撃ち放たれた鉄の球が、俺の胸に打ち当たり、背中を貫通して通り抜けて行く。
鉄球は俺の身体を貫くだけでは足りず、俺の背後にある、俺と一心同体の守護霊すらも破壊する。余りにも過剰な破壊力。鉄球に俺が貫かれた時点で、俺は死んでいたというのに。
激痛が身体に走ったのは、ほんの数瞬の事だった。それが過ぎた後には、俺はもう痛みすら感じなくなった。
『死』、と言う名の麻袋が、俺の身体を包みに掛かって来ている事が、ありありと理解出来る。俺は、10秒とこの世界に最早生きていられないだろう。
朝靄が掛かった様に、俺の視界が霧がかる。ぼやける視界で、俺を鉄球で撃ち抜いた白人が、俺の事を油断なく見つめている。
ジョニィ・ジョースター。その身体に、聖人の身体を埋め込んだ男。俺達インディアンの……果てなき故郷を取り戻す為の足掛かりが。
意識が完全に闇に落ちる前に、俺は色々な事を考えていた。
白人に先祖伝来の土地を奪われた悔しい思い出、今まで通りのやり方じゃ白人共は土地を返してくれない事を悟った時の事、
金の力で白人が不当に奪った土地を全て買い戻してやろうと決意した時の事、……父母の形見のエメラルドをスティール・ボール・ランレースの参加費代わりに渡してくれた、厳しくもやさしい姉の事。
戦って、完膚なきまでに負けたのだから、悔いはない。砂漠の砂1粒程も、俺は後悔しちゃいない。
だだ……故郷に残して来た、たった1人の家族である姉の事が、俺は気がかりだった。彼女は、何も悪くない。
どうか、幸せになって欲しい。平穏に人生を過ごし、俺の様に痛みを伴わず、安らかに逝って欲しい。腹の底から、俺は祈った。
ああ、それにしても……土地を取り戻せなかったのは、残念だ。
姉に取り戻して見せる、旅に出ると大見得まで切ったと言うのに、その旅路の終わりがこれでは、笑えて仕方がない。
姉も、部族の皆も、俺の事をペテン師呼ばわりしないだろうか。ズル賢いコヨーテの様な奴だと、蔑まないだろうか。俺は……怖くて仕方がなくなってきた。
浅く冷たい水の中に、音立てて仰向けに俺は倒れ込んだ。
力及ばず、星になる時が来たらしい。睡魔にも似たまどろみが身体を襲うだけでなく、考える事も億劫になって来た。
瞼をそっと、俺は閉じる。岩倉の中に閉じ込められたような、本当の暗黒だけが俺の視界に広がって行く。
――暗黒を切り裂いて、不愉快な虹色の光が、瞬いたような気がした。
2:
-
余裕のない表情で、男が前方100m程遠方を睨みつける。
2m程もある、岩の塊が服を着た様なその大男は、その手に、これまた自分の身長と同じ大きさのバカデカい弓を持ちながら、悪態を吐いていた。
自らの身体に宿る魔力から、赤子の腕程もある太い矢を投影し、それを目にも留まらぬ程の速度で乱射する。男はアーチャーのクラスで現界したサーヴァントだった。
親指程もある弓の弦の張力を利用した放たれたその矢は、最早矢ではなかった。例えるならばそれは、一条の光の筋。
矢は軌道上で1本のレーザービームの様な光条となり、物理的な干渉を全く物ともせず直進したり、蛇の様な蛇行軌道を描いたり、
突如急なアーチを描き頭上から鷹が急襲するように降り注いで見せたりと、弓術に百年身を捧げても到達出来ないであろう境地の技を、事もなげに男は開帳していた。
しかも、アーチャーの大弓から放たれる矢の一本一本の尽くが、音の壁を超え、戦闘機の最高速もかくやと言う程の猛スピード。
避けられない筈なのである。普通の存在であったのならば。
では何故、視界の先にいるあの男は、事もなげに俺の矢を回避出来るのだ、と。心の中で大男は呪詛を吐き捨てた。
緑色のシャツに白い半ズボンを穿いた、茶の髪に人種的な物であろう褐色の肌の男性だった。大男程ではないが、一般人から見たら、体格が良い部類に当たる青年である。
そんな青年が、此方に向かって走ってきながら、音速を遥かに超える速度で殺到する殺意の光条を躱す、躱す、躱す!!
身体を少しだけ動かして光条の狙いから逸らして見せたり、移動しながら大きく左右に動いて見せたりしながら、全く矢が当たらない。
どれも虚しく空を切り、芝生の地面の上に突き刺さるだけ。それだけならば、まだ良かったかもしれない。
アーチャーの怒りを更に助長させるのは、ラフな格好をしたあの男が足元で転がしている球体であった。
白と黒の合成皮革で出来た正六角形を張り付けたその球体を、現代では『サッカーボール』と呼ぶ事は知っていた。
そしてそのボールが、世界中で嗜まれているサッカーと呼ばれる球技、もとい、遊戯で扱われている事も、承知している。
そう、その青年は、サッカーボールをドリブルしながら、アーチャーの、神域にまで達した弓の技をいなしているのだ。
これが頭に来ない訳がない。要するにあの男は、玉転がしに興じながら、自分の矢を躱しているのだ。自分の技術を小馬鹿にされていると思うのも、無理はなかろう。
背後で指示を飛ばす自身のマスターの不安が、アーチャーに伝わってくる。マスターの方はそう言った声を上げていないが、感情と言うものは言外せずとも伝播するものだ。
しかし、マスターが言い知れぬ不安を抱くのは、尤もな所でもある。何故ならば、人智を超えた神秘そのものであり、
音に聞こえた英霊であるアーチャーですら、不安を覚えているのだから人の身であるマスターがそう言った感情を宿すのは、無理からぬ事だろう。
眼前80m先――人間並みの移動速度で接近して来ている――を走るあの青年が、サーヴァントである事は疑いようもない。
戦闘が始まった当初、アーチャー達はあのサーヴァントが弱い存在だろうと考えていた。無理もない、その姿には余りにも神秘性や英雄の纏うカリスマ性がなかったからだ。
しかし、戦ってみたらそれが嘘だと言う事が解った。あの男は、強い。サッカーボールを転がしながらと言うのがまことに腹ただしいが、
ドリブルをしながら、音速で飛来する矢を回避出来るのである。その技量、疑う余地は最早なし。
此方との距離が目測50mを切ったら、宝具を開帳しろ。
マスターから念話で指示が飛んだ。『了解』、とアーチャーは返事をする。妥当な判断だった。
矢を投影し、大弓に矢を番えるが――妙である。明らかに、自分と相手サーヴァントとの彼我の距離の縮まる速度が、やけに速いのである。
何かがおかしい、と考えたと殆ど同時に、そのカラクリを理解した。1歩ごとに進むペースが、異常なのである。
たった1歩で、10m程の距離を瞬時に移動している。それを縮地だと理解したのは、人外の反射神経をもつサーヴァントであるからこそ。
相手も、アーチャーが宝具を使う事を読んでいたのである。だからこそ、ある地点で急加速を行い、アーチャーの意表を突いたのである。
「しまった!!」
そう叫び、慌てて宝具を使おうと考えた時には、既に相手サーヴァントは40m程の距離にまで接近していた。
其処で、相手が止まった。それに呼応して、サッカーボールも停止。その位置で相手が、大きく右足を振り上げる。
「くらえっ!! マッハシュート!!」
-
高らかにそう宣言し、相手は思いっきりボールを蹴り上げた。
アーチャーの怪物じみた動体視力が、蹴られた瞬間のボールを捉える。ありえない現象だった。
サッカーボールが、まるで水風船かゴム鞠みたいに力を加えているが如く変形しているのだ。通常のサッカーボールでは考えられないレベルの変形具合だ。
中身まで100%ゴムで出来ていなければ、説明不可能な程である。そうした変形の後、相手サーヴァントの足の甲からボールが蹴り放たれた。
驚く程見事な、直線の軌道。アーチャーが放った矢の弾道に勝るとも劣らない。
だがもっと驚くべきは――そのサッカーボールがサーヴァントの宣言通り、本当に『音速』で飛来して来ていると言う事であろう。
この速度を保ったまま向かう先は、アーチャーの顔面であった。防御が最早間に合わない。そう判断したアーチャーは、防御の体勢に入ろうとした、その瞬間だった。
今度こそ本当に、目を剥いて驚いてしまった。当然である。それまで完璧な直線運動を続けていたサッカーボールが、進行ルート上から『完全に消滅』したのだから。
別のルートへとカーブしたでもなければ、ルート上で突如として急上昇したわけでもない。本当に、初めからボールなど幻であり、存在しなかったかのように、消え失せていたのである。
「なにィ!?」
「ボールが消え――」、アーチャーが其処まで言葉を続けた、刹那の事だった。
サッカーボールが突如として、軌道上に姿を現した。――アーチャーの顔面まで、あと5m以下、と言う所で。
――「た」、と、アーチャーが言葉を切った瞬間、ボールが彼の顔面に激突。もっと奇妙だったのは、激突した後の事だった。
果たしてサッカーボールがアーチャーの顔面に当たった瞬間、如何なる力学的エネルギーが、如何なるベクトルで、如何なる作用をもたらしたのか。
ボールに当たったアーチャーは倒れるでもなく、後方へと素っ飛ぶのでもない。『上空』へと吹っ飛んだのだ。
しかも、高い。地上にいる人間が、顔を上にして見上げなければならない程の高さまで。アーチャーは其処で、宙を舞っていた。
サッカーボールを蹴り飛ばした張本人である敵サーヴァントが、跳躍する。
助走もなければ、特殊な装置の力もなく、立ち高跳びの要領で彼はアーチャーが吹っ飛ばされた高さ――高度20m上空まで飛翔。
アーチャーに追撃を仕掛けるのかと思いきや、青年は彼を飛び越えた。用があるのは、アーチャーではなかった。
彼の上空にあった、『サッカーボール』に用があったのである。其処で青年は、空中に仰向け、と言うよりは、地面に背を向けるような体勢を作り始めたのである。
そう、これこそは、サッカーの試合において最も観客を沸かせる一方で、危険な技の為にペナルティを取られかねない超大技……『オーバーヘッドキック』であった。
自分の頭より上の位置にあるサッカーボールを、青年は思いっきり蹴り抜いた。
足の甲に当たるや否や、ボールはそれこそ軟球のように柔らかに形を変え、その後、カタパルトに何十倍する勢いと速度で、地上へと急降下して行く。
寸分違わぬ狙いの正確さであった。外部からの邪魔が無ければ、間違いなく男の蹴ったボールは、マスターの顔面にぶつかる手筈だった。
「なにィ!? アーチャーが消え――」
マスターの方は、「た」と言い切る前に、顔面にサッカーボールが衝突し、遥かな高さを舞い飛んでいたのだった。
3:
「凄いものだな、お前のその技術は」
-
奇跡的に、無傷でアーチャーとの戦いを乗り切り、見事勝利を飾って見せた自分のサーヴァントを、男は褒めたたえた。
クリストファー・コロンブスがサン・サルバドル島を発見する前の、ネイティブアメリカンが北アメリカの覇者だった時代からタイムスリップして来たような服装の男である。
斯様な服装であるのも、無理はない事であった。何故ならばこの男は、世界中で中世と近代との価値観と様式が溶き絵具の様に混じり合った、
18世紀末の時代からやって来たインディアンであるのだから、この様な時代錯誤めいた服装は、仕方のない事なのだ。
白人の聞き間違いによって長らく誤認されて来た名前を語るのであれば、サンドマン(砂男)、インディアン本来の名前を語るのならば、『サウンドマン』。
それが、この男の名前であった。
「正直な所、かなり危なかった。此処まで危険な戦いとは思ってなかったからな、無傷で倒せたのは……奇跡だったかもしれない」
サウンドマンの言葉にそう返事をするのは、アーチャーとの戦いで見事なドリブルとシュートを見せつけた、あの褐色の肌の男だった。
謙遜ではない。一見すればあの戦いは余力を残した戦いに見えたかもしれないが、その実、このサーヴァントとしても内心は相当緊張しながら戦っており、
一撃貰えば必殺は免れないであったろうアーチャーのあの矢を掠りもせずに彼を倒せたのは、本当に、このサーヴァントの言う通り奇跡に近い事だった。
最早語るまでも無き事かも知れないが、この男こそサウンドマンに呼応するように現れたサーヴァントだった。
彼は、アーチャーとしてのクラスでこの世界に呼び出された。その名を、『アルツール・アンチネス・コインブラ』。
生国はブラジル。完成されたフィジカルとサッカーセンスを以て、若くして完成されたスーパーストライカーとしての異名を勝ち取るに至った最強のサッカー選手。それが彼なのである。
「お前のその技術……サッカー、と言うのだったか。恐るべき闘法だな。寸分の狂いもなく相手に球を蹴り飛ばし、それで相手を吹き飛ばす。さぞ、元居た世界では優れた戦士だったのだろう」
「いや、サッカーは戦いの道具じゃなく、スポーツ競技なのだが……」
「……顔に球を当てる上に、人を空まで吹っ飛ばすのにか?」
「競技上ままある事だ、珍しい事じゃない」
「そうか」
サウンドマン自体は、サッカーと言うスポーツなど知らないし、聞いた事すらないので、そう言うものなのだと納得する事にした。
尤も、コインブラが語るサッカー像と言うのは、一般人が想起するサッカー像とは全く違うものであるのだが、その事をサウンドマンが、知る由もなく
「……マスター」
真率そうな声音と表情で、コインブラが語りかけてくる。「何だ」、と短く返すサウンドマン。
「本当に、聖杯戦争を続けるつもりなのか?」
「……」
目を瞑り、サウンドマンは考える。2人は、各々の今後やスタンスについて、全く語り合っていなかった。
コインブラの言う通り、本当に聖杯戦争と言う戦いに身を投じる必要が、あるのだろうかと。サウンドマンは思案する。
-
きっかけは、緑色の墓標と呼ばれる小さな遺跡で見つけた鍵だった。
合衆国の大統領と『遺体』の回収と引き換えに先祖の土地を取り戻すと言う契約を交わしたサウンドマンは、スティール・ボール・ランのレースで優勝する必要性が、必ずしもなくなってしまい、幾許かの余裕が出来ていた。
その余裕だった時期に、遺体を身体に取り込んだと思しき人物達に殺された大統領の刺客の死体を確認しに、
嘗て遺体――脊椎の部分――が眠っていたと言う緑色の墓標なる小さな遺跡に、足を運んだ事がある。その時に、ブラックモアと呼ばれるスタンド使いの死体の他に、
奇妙な物を見つけた。それこそが、銀の鍵と呼ばれる、この聖杯戦争の参加切符のようなものだった。
大統領やその近辺を守る人物達に聞いて見た所、「遺体とは何の関連性もない物だから、処理は任せる」と言われた為、サウンドマンはそれを懐にしまっておいたのだ。
そしてそのまま時が過ぎた。……ジョニィ・ジョースターの放った金属球に胸を貫かれ、敗北する瞬間まで。
そして気付いたら、サウンドマンはこの地を踏んでいた。
今でも信じられない。この場所がアメリカはアメリカでも、サウンドマン達がスティール・ボール・ランに熱を上げていた時期から100年以上も先の時代のアメリカで、
しかもそもそも、全く異なる世界のアメリカであるなど、例え彼でなくても信じられる事ではないだろう。
アーカムと呼ばれる街の、ノースサイドと呼ばれる区域にある、草っ原が広がっている地点で、訳も分からず茫然としていた所に、
先程のアーチャー達の襲撃にあった。そしてその危機を救うべく現れたのが、彼、アーチャーのサーヴァント、コインブラであった。
聖杯戦争。俄かに信じ難い催しであるが、先程の戦いを見せられては、夢だとは言っていられない。
何人もの参加者を集めて行う、スティール・ボール・ランのような建前上殺しは許されないとされるレースとは違う。
正真正銘、建前の上でも殺し合いを認めている、本当の戦争。この戦争に勝ち残った末に得られる褒賞は、万能の願望器とすら称される聖杯。
万能の願望器。その名前が仄めかす通り、それに願えば、如何なる望みをも叶えてくれる奇跡の代物であると言う。果たして、それを求めるべきか、否か。
スティール・ボール・ランは当然の事、途中で変更した目的である遺体集めよりも、過酷な戦いであると言う事は、サウンドマンにも解る。
しかし、自分は一度死んだ人間である。最早死ぬ事は、恐れていない。それに、如何なる願いをも叶えてくれる、異教の神の神品が、
肌の色や人種を問わず、勝ち残りさえすればその手に収められると言うのだ。これに乗らない手は、なかった。
サウンドマンは、この聖杯戦争に呼ばれた事実を、部族の神が彼に与えた最後の機会だと考える事としたのだ。
そして、今度こそ、望みを果たす。先祖が守って来た土地を――いや、違う。
アメリカ全土の土地を、再びインディアン達のものとする、と言う、途方もなく、それでいて切実な望みを、今度こそ叶える為に。
「俺は聖杯が欲しい。奪われた先祖の土地と、そして、アメリカに住んでいた本当の住民全員の誇りを取り戻す為に、戦いに身を投げる」
「……決意は固そうだな。見ただけで理解出来る。解った、お前に付き合おう、マスター」
暫しサウンドマンの顔を注視してから、コインブラは口にする。
「正直な所、俺はお前に断って欲しかったよ、マスター。初めに言うが、生前俺に殺しの経験は本当にない。さっきのマスターとアーチャーのサーヴァントで初めてだ」
「不安なのか」
「強がっても嘘だとバレるだろうから、正直に言う。その通りだ」
如何にコインブラのいた世界のサッカーが、人間を数mも上空まで吹っ飛ばし、スパイクを上にあげてスライディングをする選手ばかりであり、
サッカーゴールの上によじ登ってシュートを防いだり、ヘディングしている自チームの選手にドロップキックを放ってシュートの勢いを増させる選手がいたとしても。
彼らは皆、スポーツマンシップに――一応――則った清い選手である。殺人など当然、犯した経験などある筈がない。不安になるのも、当然の事だった。
「お前の気持ちも汲んでやりたいが、どの道俺はこの世界からどうやって帰るのか、その手段を知らない。悪いな」
「構わない。不安と言うのも事実だが……俺にもやりたい事がある」
「やりたい事?」
サウンドマンが思わず口にする。
-
「俺には生前どうしても勝てなかった選手がいた。日本人だ。俺はある時まで、日本のサッカーのレベルなどたかが知れていると自惚れていたが……その俺が、認識を改めなければならない位には、凄い奴だった」
空を見上げながらコインブラは言葉を続ける。透明な水のような大空を、1羽の名も知らぬ鳥が翼を広げて飛んでいた。
「フィジカルは、俺と差がない。サッカーのセンスも、俺と同じ。違うのは、アイツはサイクロンと呼ばれるシュートを持っていた」
「サイクロン」
「サッカーを知らないみたいだから、本当に噛み砕いて説明するが、ボールに独特の回転を掛けた後で、ドライブシュートと呼ばれるシュートを叩き込むんだ」
「強いのか」
「身体に負担は掛かるシュートだったがな。最初編み出した時は欠点の多いシュートだったが、彼は戦いの中で、このシュートを改良していった」
「だが、お前がアーチャーを吹っ飛ばした技も凄かったじゃないか」
「あれは俺がサーヴァントになった事であんなふうになっただけだ。それでも、あのマッハシュートを会得する為に、俺も努力はしたがな」
目線を大空からサウンドマンの方に移して、コインブラは真面目な顔で、言葉を続ける。
「俺は、サイクロンを超えるシュートを、この聖杯戦争で編み出してみたい。俺の願いは、それだけだ」
「……望みは、呼び出された時点で、半分は叶っているという事か。……願いが叶うと良いな」
「ああ」
倒したい相手を超えたい、それが、コインブラの願いだった。解りやすい。
其処まで思ってサウンドマンは、生前自分を亡き者にしたジョニィ・ジョースターの事を思い描く。
彼に対しては何の恨みも無い。いや寧ろ、仮に彼を葬ったとして、あの大統領がサウンドマンに報いるとも、今にして思えば考え難い。
変な話であるが、彼に殺されてこの地にやって来た事は、塞翁が馬と言う物なのかも知れない。本当に、奇妙な話だが。
「勝とう、アーチャー。己の目的の為に、聖杯まで駆けるぞ」
「了解した、マスター。こうなったら、お前について行くぞ」
ガッ、と互いに固く握手しあい、この聖杯戦争を勝ち抜く決意を固める。
幾何学的知識に裏付けされた黄金の回転に敗北した男と、台風の如き凄まじい回転力のシュートに遂に勝てなかった男が、今聖杯を躊躇いもなく追いかけはじめた。
-
よし、みんなきけ
【クラス】
アーチャー
【真名】
アルツール・アンチネス・コインブラ@キャプテン翼Ⅱ
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具B
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
単独行動:B+
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても2日間現界可能。
アーチャーは元々個人プレーを重視する傾向の強い選手であり、やや独りよがりなプレーをしたとしても、見逃して貰える程の卓越した実力を持っていた。
【保有スキル】
戦闘続行:E+++
一般的な戦闘続行スキルと違い、瀕死からの行動力はそれ程でもない。
アーチャーの場合は、宝具の発動や自身の現界の維持に必要な魔力が底を尽きた場合には、『ガッツ(気合)』でそれらの発動や維持を賄う事が出来る。
単独行動スキルに有利な補正を与えている要因となっているスキル。魔力とガッツが同時に底を尽きた場合、アーチャーの全ステータスはツーランクダウンする
投擲(サッカーボール):A+++
投擲と言うよりは、狙った位置にサッカーボールを蹴り飛ばす技量。ランクA+++は世界のトッププレイヤーどころか、歴史にその名を刻む程の名プレイヤー。
アーチャーは生前、完成されたスーパーストライカーとしてブラジルに君臨していた。
縮地:D
足元にサッカーボールがある際に限定的に発動するスキル。このランクの縮地スキルならば、7〜10m程の距離を1歩で詰める事が出来る。
アーチャーのドリブルスピードは生前の時点で、およそ人類が到達しうる最高ランクであり、広大なサッカーコートの端から端を10秒以下で走破可能だった程。
マッハシュート
対人魔球。最大補足1人。
音速のスピードでサッカーボールを蹴り飛ばし、相手に激突させるシュート。
蹴られたボールはその軌道上で、別の空間内に没入させてその姿を消してしまい、一切視認出来なくなってしまう。
その後ボールは、相手に直撃する直前で姿を現し、そのまま相手に激突し、対象の相手を大きく吹っ飛ばす。
生前アーチャーが得意とした、キーパーから見たら消えたと錯覚する程凄まじい速度の無回転シュートが、英霊となった影響で神技の域にまで達したもの
【宝具】
『蜃気楼のストライカー(カルロス・サンターナ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
故国ブラジルにおいて、アーチャーと並ぶ実力を誇っていた名ストライカーであり、アーチャーの相棒とも言うべき選手、カルロスを召喚する宝具。
カルロスもまたアーチャーに負けず劣らずのサッカーセンスを持っていたが、アーチャーのサッカーは圧倒的な身体能力とテクニックに裏打ちされた物に対し、
カルロスのサッカーはフェイントで相手を惑わすテクニックに主眼を置いたサッカーとなっている。尤もカルロス自体の身体能力は、他の選手とは比較にならない程高い。
軌道上で複数にボールが分身するミラージュシュート、分身しつつ軌道上でマッハシュートの如くボールの消えるステルスシュート、
複数に分身しながら移動する分身ドリブルなど、兎に角相手を当惑させるような必殺技をカルロスはもっている。
カルロスは確かに強力な相棒ではあるが、彼が召喚されている間は、魔力消費の量も大きく跳ね上がる。
しかしカルロスもまたアーチャーと同じく、維持に必要な魔力が切れた場合は、『ガッツ(気合)』を消費して聖杯戦争の舞台に留まろうとする。
-
『音速幻影(リーサルツイン)』
ランク:D+++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 最大補足:1〜11以上
上記のカルロスを召喚する事で発動が可能な、アーチャーの本当の必殺シュート。
1つのサッカーボールに、アーチャーがマッハシュートを、カルロスがミラージュシュートを叩き込み、両者のシュートのいいとこどりを実現したボールを
蹴り放つ宝具。即ち、『音速のスピードで複数に分身するボールが、軌道上で突然空間に埋没し姿を消し、当たる直前でボールが出現、相手を吹っ飛ばす』宝具。
加えて、1人は英霊、1人は英霊にカウントされても問題のない程のサッカー選手2名の脚力の乗ったサッカーボールである為、単純な物理的威力も凄まじい。
最大補足の11以上とは、生前GKを含めた敵のプレイヤー11人が総出となってこのシュートを止めようとしても、その11人全員を空へと吹き飛ばし、それでもなおゴールネットを突き破る程の威力を秘めていた事に由来する。
非常に強力な必殺技ではあるが、発動条件は厳しい。先ず相棒であるカルロスがいる事もそうだが、次にボールが『低い浮き球』の状態である事と、
タイミング合わせや蹴る場所の調整諸々で、2人がボールを蹴るまでに秒単位の隙が生じる。腕に覚えのあるサーヴァントなら、発動する前に止める事は訳もない程度には発動に時間が掛かるのである。
【weapon】
無銘・サッカーボール:
サッカーに必要なボールである。一見すれば本当に何の変哲もないボールであるが、何故だか知らないがアーチャーの居た世界のサッカーボールは異様に強靭。
蹴られた際にありえない形に変形する、人間を数mの高さまで吹っ飛ばすなどザラで、地面に激突したらめり込んで止まり、
コンクリート程度なら容易く粉砕するなど、蹴る者が蹴れば、元がゴムと皮革と重心材料で出来ているとは思えない程の耐久力と破壊力を秘める。
ただし因果律の定めにより、アーチャーは愚か、彼を超えるスーパーストライカーであった大空翼であろうとも、『ゴールポストだけは絶対に破壊出来ない』。
逆にボールの方が、一定確率で破裂、使用不可能になる。破裂した場合は、マスター或いはアーチャーの魔力から、新しいサッカーボールが投影される。
【人物背景】
原作に登場する選手ではなく、テクモ版のゲームオリジナルキャラクター。
来たるべきワールドユースの優勝の為に、ブラジルのサッカー協会に日本から呼び返された、主人公大空翼のサッカーの師匠、ロベルト本郷が、
大会決勝までその存在をありとあらゆる人物に秘匿していたスーパーストライカー。
その秘匿の程は、コインブラ不在状態のブラジルユースのエース、カルロス・サンターナですら、その存在を知らされていなかった程。
与えられた背番号は10番。これは、エースであるカルロスにすら与えられなかった背番号であり、完全なるエースナンバーである。
翼に敗北し、全国放送でその名前を知られてからは、ブラジルサッカー界が有する最高戦力の1人として、長らくカルロスと共に活躍。
が、脚の大怪我により選手生命が完全に断たれる危機に瀕し、一度はサッカー選手の引退を考える。
親友でありパートナーであるカルロスが、コインブラの引退について深く悩み、スランプに陥るが、それを克服、
コパ・アメリカのアルゼンチンとの決勝戦で見事に復活した姿に感銘を受けて、引退を撤回。再びフィールドに舞い戻って見せるとカルロスに告げ、リハビリに励む事となる。
【サーヴァントとしての願い】
生前敗れた大空翼の必殺シュート、『サイクロン』を超えるシュートをこの聖杯戦争で編み出す。
【方針】
マスターであるサウンドマンに従いつつ、新しいシュートの研究に励む。
【マスター】
サウンドマン(或いはサンドマン)@ジョジョの奇妙な冒険 スティール・ボール・ラン
【マスターとしての願い】
北アメリカ大陸全土を、今度こそインディアン達の土地にする
【weapon】
【能力・技能】
走法:
極めて特殊な走法を持ち、馬や1980年の代物とはいえ、自動車に並走、或いはそれらを時によっては上回る程の速度で、
しかも極めて長い間走り続ける事が出来る。超人的な筋肉と持久力の持ち主、と言えるだろう。
-
スタンド・『イン・ア・サイレント・ウェイ』:
『破壊力-C/スピード-C/射程距離-D(2m)/持続力-A/精密動作性-D/成長性-B』と言うパラメーターを持つ、サウンドマンのスタンド。
ただしこれらのステータスは必ずしも、聖杯戦争に参加しているサーヴァントのものと一致、同一の力を発揮出来るとは限らない。
インディアンの部族が付けているような羽飾りを装備した、人型の怪物のスタンド。
自らが生み出した音を擬音化させて3次元空間に表出させる力を持ったスタンドであり、これにより、切った音や破壊した音、燃える音等を具現化。
それらに触れれば、その音を生じさせた原因と同じ現象を、触れた存在に引き起こすのである。
最も強力な運用手段は、水中等の逃げ場が極端に少ない場所に、その音を流したり運ばせたりすると言う方法。
作中では協力者であるDioのスタンドによって生み出された、小型のラプトルに音を運ばせて、遠方の相手を追い詰めると言う手段で、
ジョニィとジャイロを追い詰めた。通常スタンドには最も得意とする射程距離と言うものが設定されているのだが、生み出した音の塊に関して言えば、
どうやら射程距離の制約の対象外にあると言えるようで、この一点からも、応用性に富んだ強力な能力を持ったスタンド。
【人物背景】
北アメリカ大陸を横断する超大規模レース、スティール・ボール・ランの参加者の1人。
インディアンの一部族の末裔の1人。両親は既に亡くなっており、唯一の家族に姉1人を持つ。
白人に迫害される定めにあるインディアンの一員でありながら、白人の社会に度々もぐりこみ、彼らが著した書物を読んでいると言う事実から、
同じ部族の仲間達から爪弾き者扱いされており、一度は裏切り物として処刑すらされ掛けた。
しかしサウンドマン自体は決して白人の世界に憧れていたとかそう言った理由からではなく、何とかして白人から、彼らに奪われた土地を取り戻せないかと考えた結果、
敵の文化を知り、彼らなりの流儀で奪い返さねばならないと考えたからであり、白人に誇りを踏み躙られた事実に関しては、他のインディアン同様強く憤っている。
彼らの文化の根底にあるものが金であると悟ったサウンドマンは、白人に奪われた土地を買い戻せる程の賞金が得られるレース、
スティール・ボール・ランの存在を知り、姉から両親の形見のエメラルドを貰い、それを参加金の1200$に充て、レースに出場。
彼は馬に乗らず、車にも乗らず、自らの脚力で以て、常にレースの順位の上位ランキングに君臨、一時は優勝候補とも目されていたが、
ある時大統領と取引をし、ある人物の遺体を回収する代わりに、元の土地を返してやると言う要求を呑み、遺体を既に手にしていたジョニィ達の前に立ちはだかる。
そして、彼らと熾烈な、スタンドを駆使した戦いを繰り広げるも、敗北。ジョニィの金属球に胸を撃ち貫かれ死亡する。
原作初期ではサンドマンと呼ばれていたが、これは後に白人の聞き間違いで誤解された名前であり、本来の名前は『サウンドマン』であると暴露する。
【方針】
聖杯を手に入れる。人を殺すと言う行為には、全くためらいがない。
つばさくん、きょうのスコアメモよ
いあいあ はすたあ はすたあ くふあやく
ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ
あいあい はすたあ
-
投下を終了します
-
お疲れ様です。
自分も投下させていただきます。
-
ある晴れた日。
空は雲一つなく澄み渡り、涼しい風の吹く気持ちの良い朝だった。
職場である童守小学校へ向かう稲葉京子の足取りも、自然と軽くなる。
自宅も思わず、いつもより早く出てきてしまった。
彼女は朝日の差す校門に、一人の知り合いの教師が立っているのを見つける。
短く刈り込んだ黒髪に凛々しい眉毛。
腕まくりしたワイシャツに黒のスラックス。
左手にだけトレードマークの黒い手袋を嵌めて、大きな水晶玉を乗せている。
自分も11年前に薫陶を受けた、偉大な霊能力者の先生、鵺野鳴介だ。
彼は何故か眉を顰めたままぶつぶつと何事か呟き、うろうろと校門の前を右往左往していた。
まだ登校時間には早いから人目はないが、はっきり言ってその挙動は不審者のそれだ。
響子は朗らかに彼に声をかけた。
「ぬ〜べ〜、おはよう! 一体どうしたの?」
「ああ、おはよう響子。ところでお前今日、下痢してたりしてないか」
鵺野鳴介はそう言って、いきなり響子の下腹部に手を伸ばした。
「ひえっ……!?」
「うむ……、霊障の気配はないな……。するとやはり俺一人を狙っている……?」
手袋を嵌めた左手で、真顔のまま鵺野は彼女のスカートの上を撫でまわす。
響子は顔を真っ赤にしながら彼を叩きのめした。
□□□□□□□□□□
「……強い霊気を感じたからって、いきなりアレはないでしょ、鵺野先生!!」
「す、すまん。今朝からどうもこの学校の一帯に強烈な邪念のようなものを感じてな……」
職員室の椅子に座り、稲葉響子は憤慨していた。
顔中を青あざだらけにされた鵺野鳴介は、隣に座ったままへこへこと頭を下げている。
「それにしても、その邪念の正体って、掴めたの?」
「いや、それがわからないから悩んでいるんだ。校内に入ったらもっと強くなった。
かなり強い霊気だから、生徒や他の教師たちにも影響が出ているんじゃないかと思ったんだが……」
「うーん……、別に私は何も感じないけど。お天気もこんなに良いし。ぬ〜べ〜の勘違いってことはない?」
「むぅ、昨晩は3日前の給食の残り物を食ってしまったからな……。もしやアタったか……?」
「下痢ってそれかい!! もぉ〜! ゆきめさんが九州だからって食生活だらしなさすぎ!!」
響子の問いに返ってきたのは、恩師である同僚の情けない食事内容の告白だった。
蒼褪めた顔で腹を押さえる鵺野に、響子は呆れかえる。
かつては今と同じく童守小学校5年3組で、稲葉響子にも勉強を教えていた鵺野鳴介だったが、それから数年間は九州に転任になってしまっていた。
彼はゆきめという気立ての良い雪女の少女と結婚し、人間と妖怪という種の差はあれど円満な夫婦生活を送っていたはずだった。
だが、アイス販売事業を起ち上げた彼女を九州に残し、現在の鵺野鳴介は童守町に単身赴任中である。
そのため彼の生活は、独身時代と同じ粗末なものになってしまっていた。
食べるものといえば給食かカップ麺という、料理をする気もない恩師の悲惨な食生活に、響子は頭を抱えた。
じっとりとした目つきで、彼女は鵺野をねめつける。
「とりあえず、授業はできるんでしょうねぇ、鵺野せんせぇ?」
「お、おう、もう大丈夫だから睨むな睨むな、ハハハ……」
「しっかりしてよねぇ、生徒たちのためにも」
鵺野鳴介こと『ぬ〜べ〜』は、前任の際と同じ5年3組の担任だ。
かつての教え子だった稲葉郷子も新米教師となり、鵺野と一緒にT・Tで教鞭をとっている。
T・T(チーム・ティーチング)とは読んで字のごとく、クラスに2人の教師を置くこと。
郷子は他にも3クラスの副担任を兼任しており、常時いるわけではないが授業に参加する時は担任の鵺野を出来る限りサポートすることになっている。
もし鵺野が体調不良ということならば、響子や生徒の負担が倍増することになるので一大事なのだ。
「ぬ〜べ〜先生! 体育倉庫の鍵借りまーす」
「おう、今日の一時間目は体育からだったな。いいぞ、そこから取っていきなさい」
「はーい」
二人が書類をまとめて立ち上がろうとした時、ちょうど5年3組の生徒が職員室に入って来た。
鵺野が壁際の棚を指すと、体操服を着た生徒は元気よく走って行って、鍵のある戸棚を引き出す。
その瞬間だった。
-
鵺野鳴介こと『ぬ〜べ〜』は、前任の際と同じ5年3組の担任だ。
かつての教え子だった稲葉郷子も新米教師となり、鵺野と一緒にT・Tで教鞭をとっている。
T・T(チーム・ティーチング)とは読んで字のごとく、クラスに2人の教師を置くこと。
郷子は他にも3クラスの副担任を兼任しており、常時いるわけではないが授業に参加する時は担任の鵺野を出来る限りサポートすることになっている。
もし鵺野が体調不良ということならば、響子や生徒の負担が倍増することになるので一大事なのだ。
「ぬ〜べ〜先生! 体育倉庫の鍵借りまーす」
「おう、今日の一時間目は体育からだったな。いいぞ、そこから取っていきなさい」
「はーい」
二人が書類をまとめて立ち上がろうとした時、ちょうど5年3組の生徒が職員室に入って来た。
鵺野が壁際の棚を指すと、体操服を着た生徒は元気よく走って行って、鍵のある戸棚を引き出す。
その瞬間だった。
「……? あれ、なんだこの『銀の鍵』……?」
鵺野鳴介の背筋に、強烈な悪寒が走っていた。
「待て! その鍵に触れるな!!」
「え、どうしたのぬ〜べ〜先生?」
「ぬ〜べ〜!?」
響子と共に急いで生徒の元に走り寄り、鵺野はその棚の中に入っている鍵を見つめる。
体育倉庫の鍵棚の中に、明らかに異質な銀製の鍵が混ざっていた。
うすら寒い瘴気のようなものがその鍵から出ているのが感じられる。
間違いなく、今朝から鵺野が感じていた邪悪な霊気は、そこから発生していたものだった。
鵺野は左手の黒い手袋を外す。
そこから出てきたのは、赤紫色をした、鉤爪を持つ異形の『鬼の手』だった。
形状としては、体育倉庫の鍵とほとんど同一だ。
しかし、今まで使っていたものはもちろん銀製ではない。
何者かが夜間に入れ込んでいたとしか考えられない。
強い霊的な干渉能力を持つ鬼の手で、その鍵を拾い上げてみた。
その鍵自体には、なんら怪しい箇所は見受けられない。
だがその鍵からは何か描写し難い、地獄か異世界に『繋がっている』ような感覚が、鬼の手を伝わってくる。
持ち手には、『鬼』という文字がレリーフにされていた。
――明らかに、これを仕掛けた奴は、俺を狙っている。
鬼の手で、その鍵を強く握り込んだ。
「響子……、いや稲葉先生。この鍵が、俺の感じていた邪念の発生源だ。
正体を確かめる。もしかすると今日の授業は出来なくなるかもしれん。生徒たちを頼んだぞ」
鵺野が振り向いた先で、稲葉響子が硬い唾を呑んだ。
□□□□□□□□□□
「ぬ〜べ〜先生……、大丈夫なのかよ一人で……!?」
「来るんじゃないみんな。何が出てくるのか解らないんだぞ! お前たちを危険な目に会わせるわけにはいかない!」
「だって、私たちもぬ〜べ〜先生のことが心配なんだもん!!」
体育倉庫前で、5年3組の生徒たちと副担任の稲葉響子が、不安げに鵺野鳴介のことを見守っていた。
鵺野は出来る限り離れた位置へ彼らを追いやり、恐る恐る、その鍵を体育倉庫の鍵穴に差し込んだ。
学校のセキュリティを容易く掻い潜り、明らかに鵺野だけを狙ったような謎の鍵を置き去っていった相手だ。
間違いなく妖怪か霊の類だろう。
何を目論んでいるのか知らないが、あからさまな邪念と唯一の手がかりを残されていってしまった以上、生徒を守るためにも誘いに乗ってやるしか鵺野の選択肢にはなかった。
いつでも鬼の手を抜き放てるように構えつつ、彼は銀の鍵を回す。
果たして、カチリという軽い音とともに体育倉庫のロックは解かれ、その向こう側が開け放たれた。
「……あれ?」
そしてその向こう側には、なんとバレーボールがあった。
バスケットボールも、跳び箱も、巨大なマットやフラフープさえあった。
つまりは、いつも通りの倉庫そのまま。
特に霊気なども感じられない。
「……なぁんだ、カン違いかよ、つまんねー」
「ぬ〜べ〜先生かっこわるぅーい」
「あ、あはは、まぁたまにはこういうご愛嬌もあるってことで、な、みんな……」
「折角ぬ〜べ〜の鬼の手が見られると思ったのに期待させやがってよー」
まるっきり肩すかしだった。
張り詰めていた緊張の風船を中途半端に萎まされてしまったような不平の嵐に、鵺野は平謝りするしかなかった。
-
□□□□□□□□□□
「……はぁ、霊感が鈍ってるのかねぇ? それとも本当に昨日のメシのせいとか……?」
帰り道、鵺野はとぼとぼと自宅のアパートへの道を辿っていた。
結局終業時間まで、学校では何の異変も起きなかった。
鵺野の腹具合が悪くなっただけである。
あれほど感じていた邪念のような霊気も、ぱったりとナリを潜めてしまっている。
一応、詳しく帰ってから調べようと思い、件の銀の鍵はポケットに入れてきているものの、これ以上この物品で何かがわかるとは考えづらかった。
釈然としないままの歩みでも、アパートにつくのはすぐだ。
九州からアーカムに帰って来て借りたアパートは、ミスカトニック川や商店街にも近く、それなりに立地の良いところだ。
ミスカトニック大学に併設された小学校からも当然近い。
それに、家に帰れば手料理を作ってくれるあの子が――。
「――!?」
そこまで考えて、鵺野鳴介は自分の思考に衝撃を覚えた。
家で手料理を作ってくれる『あの子』など、いるはずがなかった。
いたら、鵺野は今日、腹を壊していない。
「アーカム……!? ミスカトニック……!? どこだここは……!?
童守町じゃない。こんな場所、今まで俺は知らなかったはずなのに、なぜ、知っているんだ……!?」
今まで全く存在しなかったはずの記憶を、自分は何の違和感もなくそのまま享受してしまっている。
「いつの間に……!? あの、体育倉庫を開けた時からか!?」
鵺野は、来たことも聞いたこともないはずのこの土地の地図や生活を、詳しく思い描くことができてしまっていた。
恐らく彼は一瞬にして、偽りの記憶を刷り込ませられながら別の空間に移動させられてしまったのだろう。
そして同時に彼は、この土地で自分がこれからしなくてはならない『戦い』のことも、理解してしまう。
鵺野鳴介は歯を噛み締めて、アパートのドアノブを回した。
鍵は思った通り、開いていた。
「あ、お帰りなさい、先生。お夕飯、もう少しでできますから」
「……あなたが、俺のサーヴァントなんですね」
自宅の玄関には、煮物の醤油とダシがくつくつと煮立つ、香しい湯気が漂ってきている。
鵺野はその向こうで自分に微笑みかける、エプロン姿の少女に向かって、静かにそう呼びかけた。
顔立ちから窺える年の頃は、せいぜい大学生か高校生くらいにしか見えない。
長い亜麻色の髪を後ろでひとくくりにして、普段着然としたブラウスとジーンズを身に纏っている彼女のエプロン姿は、そのまま新妻か何かのように堂に入っていた。
彼女は洗い物をしていた手をタオルで拭き、鵺野に向けて深くお辞儀をする。
「はい。改めまして、ランサーのクラスで召喚されました、綾小路・ハーン・葉子と申します」
「俺の名前は、鵺野鳴介です……。すみません、ちょっと何が何だか混乱して……」
「そうですね……。どうもこの土地は、亜空間系縛妖陣(フーヤオチェン)の一種のような気がします。私も最初はびっくりしました」
綾小路葉子と名乗った少女は、見かけによらぬ非常に落ち着いた態度でそう語った。
彼女が自身の配下である槍兵だということも、鵺野自身理解していた。
だがそのこと自体が、鵺野には理解困難だった。
聖杯戦争、マスター、サーヴァント、神秘への畏れ。
今まで自分が持っていなかったはずの知識を何故か持っており、なおかつそれを不思議にも思っていなかったことに、鵺野は並々ならぬ焦燥を感じている。
「こ、この界隈全体が巨大な結界のようなものだと……!? それが本当だとしたら、一体俺たちはどんな化物から狙われていることになるんだ!?」
「そうですね……、ベナレス様以上の力を持った方かと。そんな方に連れ去られてしまった以上、腹をくくるしかないのかと思います」
確かなのは、鵺野がこの目の前の少女と共に、何者かが企画した殺し合いに巻き込まれてしまったということだけだ。
霊能力者である自分の記憶すら簡単に改竄し、その上で自分のいた空間までどこかに転移させてくるとは。
この企画の裏に潜む相手は、想像を絶する強大な霊力を持った者に違いなかった。
それにつけて、この少女は早々と『腹をくくる』――つまり、その他の聖杯戦争の参加者と戦うことを覚悟してしまっている。
鵺野は青い顔をして、綾小路葉子という少女を睨みつけた。
彼女は心配そうに鵺野の顔を覗き込んでくる。
-
「鵺野先生、大丈夫ですか? ご気分が……」
「すみません、葉子さん……、と仰いましたね。そこから動かないでください。
……あなた、人間では、ありませんね……?」
「あら、精(ジン)の流出は極力抑えてたんですが、わかっちゃいますか。先生は鋭いですね」
少女は驚いたように眼を見開いて、指先に髪を掻く。
鵺野は額に冷や汗をかきながら、念珠と水晶玉を綾小路葉子に向けていた。
彼女からは、押さえ込んではいるものの、隠しきれない程の強力な霊気が漂っている。
人間の少女の姿をしてはいるが彼女からは、自身の妻であるゆきめや、妖狐である玉藻のような強い妖物の気配が感じられた。
ことによると、自分に銀の鍵を届けてこの土地に誘い込んだ人物は、彼女なのかも知れない。
そうでなくとも、問答無用で他のマスターや一般人を襲おうとする妖怪なのであれば、鵺野は許すわけには行かなかった。
「……職業柄、妖怪や霊にはよく関わってまして。もしあなたが、人間に危害を及ぼすような妖怪であるなら、例え自分のサーヴァントであろうと、俺はあなたを倒さねばならない」
「危害なんて……!」
鵺野の低い声に、綾小路葉子は唇を噛んだ。
「私も、夫と子供を持つ身です。ベナレス様の元で『化蛇(ホウアシヲ)』として生きていた時は確かに色々とやりましたが……。
今はもう、私を迎え入れてくれた人間社会を乱すつもりなんて、少しもありません……!
ここに来るような怪物(モンストルム)は、私みたいな者ばかりではないでしょうから……、むしろそんな者を止めるために戦おうと思っていただけです!」
「『化蛇(かだ)』……!? あ、あの、山海経に記載されている、洪水を起こす人面蛇身の妖怪ですか……!?」
化蛇(かだ)は、中国に伝わる妖怪である。
山海経の五、中山経によれば、
『その顔は人面の如くにして しかも豺身鳥翼ありて 蛇行す
その声は叱叫するが如く あらわるれば則ち その邑に大水あり
化蛇(ホウアシヲ)なる水妖は かような怪神なり』
などとある。
本当ならば、彼女は中国ではかなり有名な水神の一人だということになる。
彼女から吐露された意外な情報に、鵺野は慌てる。
神性すら帯びているだろう相手が奇特にも人間へ味方してくれようとしているのに、思いっきり敵対的な応対をしてしまったのだ。
狼狽する彼はそこではたと、さらに彼女の奇特な点に気づく。
「そうだ、あなた複合姓(ダブルネーム)でしたよね。ご結婚されてるんですか!?」
間の抜けたその質問に、葉子は叫ぶように声を荒げた。
「そうです! 人間と『闇の怪物(モンストルム)』が結婚しちゃ悪いんですか!?
妖怪は心も体も醜い、なんて言う類の輩なんですか先生も!?」
「あ、いや……、決してそういうわけでは!!」
眼に涙を溜め始めた葉子の声に、鵺野は蒼褪めた顔で手を打ち振る。
「俺も、妖怪と結婚しているんです! 雪女ですが、一途に俺のことを思ってくれる良い子で。俺もあの子を愛しています。
だから、妖怪でも人間と分かり合えるのだと身に染みて感じます。
いや、ことによると、人間より気高い精神を持った子だっているんだと思います……!」
「そう……、なんですか……!」
鵺野は慌てて水晶玉を放り出して玄関から上がり、綾小路葉子の手を握る。
今までの非礼を詫びるように、切々と自分の愛する妖怪への思いを語った。
それに彼女の顔はパッと明るくなる。
鵺野は妖怪との壁を乗り越えた人間である。
葉子は人間との壁を乗り越えた妖怪である。
自身のマスターが理解ある人間だったことに、葉子は感激したようだった。
鵺野は汗を垂らしながら、真摯に言葉を紡いだ。
「あなたが俺をここへ連れてきたわけではないんだとも、わかりました。
これから一緒に、俺たちをこんな戦争に巻き込んだ奴の正体を確かめましょう。
この場所にも、俺の生徒たちはいるんです。彼らを守るためにも、どうか協力してください……!」
「ええ、よろしくお願いします……!」
「はは、俺の方こそ、よろしくお願いしま……はオッ!?」
「先生!? どうしたんですか!?」
だが言いかけた途中で、その言葉は呻きに変わる。
「あ、いや……、今朝から腹の調子が……! 3日前の給食を食っちまったもんで……」
「そんなの悪くなってるに決まってるじゃないですか!!」
差し込むような腹の痛みについに耐え切れなくなり、鵺野はついにぐるぐると喚く腹を押さえて膝を折りかける。
先程から顔色が悪かったり冷や汗が出ていたりしたのは、すべてこの腹痛のせいである。
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「――先生、ちょっとじっとしてて下さいね」
「な、何を――」
彼の前で、葉子が腕まくりをした。
するとその右腕がいきなり長く伸び、緑色の鱗に覆われる。
手には鉤爪と水かきが生え、肩口にまで、翼のような水かきのような皮膜が生じていた。
『化蛇』としての性質を、部分的に発現させてきたものらしい。
彼女がその掌を鵺野の腹に当てると、唸り回っていた彼の腹痛が、嘘のように収まっていた。
葉子はばっちりとウィンクをしてみせる。
「洪水の妖怪だからって、私の能力(ハビリータス)は大雑把な破壊以外のこともできるんですからね?」
「これは……、腸の中の水分バランスを正してくれたんですか」
「ええ。むしろ今となっては、近くで細かな動きをさせることの方が性に合ってるんです」
水音に鵺野が顔を上げてみれば、シンクの蛇口がひとりでに水を流し、洗い場に残っていた食器を洗っていた。
すすがれた食器は、水がまるで生きているかのように腕の形を成して、水切り棚の上に載せてしまう。
彼女はうきうきとした様子でキッチンに戻り、火の通った鍋をコンロから下ろす。
照りのきいた大根と鶏肉の煮物が器に盛られ、お釜からは白いご飯が茶碗によそられた。
「奥さんに敵うかどうかは分かりませんが、少なくともここにいる間は、先生のお腹も命も、しっかりお守りしますので。
妖怪と人間の今後のためにも、どーんとこのランサーに任せてくださいね!」
食卓に並べられた家庭料理の数々を見て、鵺野の口の端から思わず涎が零れた。
彼女の夫であるハーンという男性はさぞや幸せなのだろう、と思わずにはいられなかった。
しかし次の瞬間には、いやいやうちのゆきめだって負けないくらい料理は上手いぞ、と考えて首を振る。
いずれにしても、久方振りに胃に収めた手料理の味は、鵺野の五臓六腑に染みわたった。
――彼女が俺を守ってくれるように、俺は、生徒たちの、人々の命を守ろう。
名も知れぬ魍魎から神仙すら裏に控えているかも知れぬ危険な戦いへの、決意を固めるに足る旨さだった。
【クラス】
ランサー
【真名】
綾小路・ハーン・葉子@3×3EYES
【ステータス】
筋力C 耐久D+ 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具A++
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力を1ランク向上させる。
ランサーが使用する場合は、体の一部を『化蛇』の状態にしておかねばならない。
また使えば使うほど『綾小路葉子』としての人格が崩れて、怪物としての思考に近づいていってしまう。
神性:E
神霊適正を持つかどうか。
ランサーの種族である『化蛇』は、一説には水神とされることもあったが、下級妖魔とされることもあった。
そのためランクは低い。
中国伝承:B
伝承、神話などに対する造詣の深さ。自身も山海経に記載されている妖魔であるため、ランサーの知識はかなり豊富。
中国において逸話を持つ宝具を目にした場合、かなり高い確率で真名を看破することができる。
また、司馬R太郎、E藤周作などの文学にも詳しい読書家であり、龍皇ベナレスの配下として相当数の妖魔と交流してきたため、中国以外の逸話に関しても2ランク下がった状態でこのスキルを使用できる。
応急手当:A
怪我などの簡易治療ができる技能。
ランサーは自身の能力により、対象の体液を操作し傷の治りを早めることが出来るためそのランクは高い。
もちろん自身に対しても使用可能であり、同ランクの戦闘続行スキルの効果を兼ねる。
水泳:EX
泳ぎの巧みさ。ランサーは元々水を操る水棲の妖魔なので、悪条件でも何不自由なく水中で行動できる。
水中で呼吸や発声をすることも可能。
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【宝具】
『化蛇(ホウアシヲ)』
(人間形態時)ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:10
(部分変化時)ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100
(妖魔形態時)ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
ランサーの肉体そのものであり、本来の姿である『化蛇(かだ)』と呼ばれる妖魔としての能力を含む宝具。
綾小路葉子としての人間の姿から、下半身と腕までが完全に爬虫類となった半人半蛇の姿にまで自在に変化できる。
また『水を操る能力』を持っており、妖魔の姿になるにつれてその性能が向上する。
人間形態時は、主にペットボトルや水道、空気中などから得た水分を数百リットルまで操作することができる。
超高圧水流を噴射し相手を貫通する『水の槍』で攻撃したり、水流の縄で相手を捕縛したり、水の盾を成して衝撃を緩和させたり、接触した相手の体液を逆流させ内部から破壊するなどして活用する。
腕などを部分的に本来の姿に戻すと、水を操作できる範囲が拡大し、その操作可能量は約数億リットル(小さめの貯水池程度)にまで上昇する。
より多方面の相手に一度に『水の槍』をぶつけたり、下水道を逆流させてマンホールを溢れさせ、街道1ブロックを封鎖するなどのことまで優に可能。
半人半蛇となり『化蛇』としての性質を完全に現すと、一河川を流れる全ての水に匹敵する水分量(重量にしておよそ数兆トン以上)までをも操作することができる。
大洪水を起こして一帯を水没させたり、津波として叩きつけて建造物を崩壊させたり、大量の敵を水で絡めとって溺死させたりすることも可能。
ただし妖魔形態時に大量の水を操り続けると『綾小路葉子』としての人格が崩れて、怪物としての思考に近づいていってしまう。
なお当然のことながら、操作範囲・操作量が上がるにつれて消費魔力も飛躍的に上がっていく。
【weapon】
ミネラルウォーターのペットボトルを常時携行しており、手近なところに水がない場合、主にその水を操作して攻撃する。
その他、腕を『化蛇』の姿に戻すと、下腕が伸び、固い鱗と鉤爪と水掻きが生えるため、怪力を使わずとも人の肉を引き裂く程度の攻撃力は持つことができる。
下半身まで『化蛇』の姿になれば、その蛇状になった尾で相手を締め上げることも可能であり、水中を泳ぐ速度も速くなる。
【人物背景】
漫画『3×3EYES』の登場人物。ヤングマガジン海賊版に連載中の続編『3×3EYES〜幻獣の森の遭難者〜』にも出演している。
もともとは中国に伝わる洪水をもたらす水妖『化蛇』であり、三只眼という妖怪を統率する鬼眼王のボディーガードである无・ベナレスの配下だった。
三只眼の生き残りであるパイの記憶を封じる命を受けていたが、主人公の八雲に深い想いを寄せ、ベナレスに反旗を翻す。
自ら化蛇に戻った後、普通の高校生『綾小路葉子』として転生し、級友たちと平穏に暮らすようになる。
再び戦いに巻き込まれた際は八雲たちの仲間となり、戦いを通じて、パキスタンの秘術商人ハズラット・ハーンから思いを寄せられる。
八雲にとってのパイの存在、ハーンの真摯な思いなどから、次第に彼に惹かれるようになる。
ハーンの死後は八雲達とは別行動を取り調査に当たっていたが、鬼眼王にハーンの残された魂を人質にされ、精神支配を受けて再びベナレスの配下となった。
八雲たちとの戦いを経て自我を取り戻し、戦線から一時離脱するも、サンハーラの核での最終戦闘には参戦。
今でも八雲が好きだと断ち切れない想いを語っていたが、後日談の外伝ではサンハーラで復活したハーンと結ばれ、長女セツをもうけて幸せな家庭を築いた。
娘を愛しているが、いずれ鬼眼王が復活した時に彼女も重要な戦力となると考え、幼少期から実戦訓練を積ませようとしている。
娘を普通の人間として育てたい夫のハズラットに、そうした思考を咎められて諍いが起きたこともある。
未だ自分の根底にあるそうした『闇の怪物(モンストルム)』としての性質はコンプレックスにもなりうるようだ。
お気に入りのご当地スイーツは北海道の白い恋人と、長野の雷鳥の里。
【サーヴァントとしての願い】
人間と妖魔の間でも平穏な暮らしが続くことを願う。
そのため人間と妖物で共存しているという、自分と似た境遇のマスターを守り、無事に家庭へ帰す。
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【マスター】
鵺野鳴介@地獄先生ぬ〜べ〜
【マスターとしての願い】
人間と妖怪の間でも平穏な暮らしが続くことを願う。
聖杯戦争という非人道的な企画の謎を解き明かし、人々を守りながら首謀者の狙いを挫く。
【能力・技能】
左手に『鬼の手』を有し、彼の霊能力者としての除霊能力を格段に高めている。
九州の小学校に赴任してから5年後に覇鬼が地獄に帰ってしまったため、現在は残留妖気の「陽神の術」で作り上げた形だけの存在であることが判明している。
その力は100分の1ほどに落ちていたものの、その後で鬼の手に変わる力の玉を得て鬼の手を復元し、『鬼の手NEO』として行使している。
鬼の手による霊的攻撃能力以外にも、霊波封印の術、幽体離脱、思考に触れる、ダウジングやフーチによる感知能力、白衣観音経による白衣霊縛呪などの多彩な霊能力を行使できる。
【weapon】
上記の鬼の手の他、白衣観音経や霊水晶、念珠を携帯しており、鬼の手と共に彼を印象付ける道具となっている。
【人物背景】
漫画・アニメ『地獄先生ぬ〜べ〜』の主人公。グランドジャンプにて連載中の続編『地獄先生ぬ〜べ〜NEO』にも出演している。
童守小学校5年3組の担任教師。日本で唯一の霊能力教師で、左手に鬼の力を封じ込めた鬼の手を持ち、普段は黒の皮手袋を嵌めて隠している。
鬼の手は彼自身のシンボルとして、悪霊や妖怪を倒す必殺の武器となる他、霊の心を読み取ったり、気を送り込んで霊や妖怪の傷を癒やすなど、様々な能力を持っている。
責任感が強く、奉仕・慈悲の精神に溢れる反面、ドジ・間抜け・スケベな一面もある。
計画性の無さ、要領の悪さ、金銭面でのだらしなさで呆れられてはいるが、その人柄や人望により、学校の同僚の教師や生徒たちから深く敬愛されている。
正義感が強いゆえにやや一方的で頑固な一面も見られるものの、最終的には相手の意見の正しさを納得して受け入れる柔軟さと自らの過ちを改める誠実さも持ち併せている。
運動神経は抜群で、中学時代から大学まで色々なスポーツを経験しては、体操や球技からスケート・スキー・水泳など何でもこなせる。
一方で車の運転やゲームは全くできない不器用ぶり。運転免許もようやく取れた模様。
それでも運転はヘタと自負し、幽霊に条件付きでサポートしてもらっていたほど。
本編終盤では、彼を愛する雪女ゆきめと結婚した。
彼女はかき氷売りからアイス販売を事業化しぬ〜べ〜家の生計を立てている模様。
結婚後も彼はゆきめから「鵺野先生」と呼ばれている。
【基本戦術、方針、運用法】
ランサーが主な攻撃手段として用いる『水の槍』は、その性質上直線的な刺突しかできないものの、貫通力の高い大口径のウォーターカッターであり、複数本同時に生成できるため、その攻撃力は非常に高い。
懐に入られても、自在に水を変形させて応戦できるほか、妖魔としての自身の腕を用いた白兵戦も可能。
むしろ接近戦では、相手を水球に捕縛して窒息させたり、接触部の体液圧を操作して内部から炸裂させるなど攻め手が増える。
自分とマスターだけを大きな気泡で包み、呼吸を確保したまま潜水したりすることも可能。
マスターも鬼の手や白衣観音経といった英霊に干渉・攻撃できる手段を持っており、それなりの魔力も有しているため、敵サーヴァントとの直接戦闘においても柔軟に対応できるだろう。
宝具の最終段階の解放や怪力スキルについては、ランサーが自身の妖魔としての思考をコンプレックスにも思っているため、積極的には使わないと思われる。
両人とも人並み以上に正義感はあるため、悪行を為しそうなサーヴァントとマスターに対しては容赦なく交戦を仕掛けていくだろう。
とりあえずこの聖杯戦争というものの裏に潜む思惑を探ろうと調査に乗り出すことから始めると考えられる。
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以上で投下終了です。
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皆様お疲れ様です。
こちらもようやく投下します
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一秒後に心臓に達しようとしていた剣を、他人事のように見つめる。
腰が砕けて動けなくなった自分に目がけて振り下ろされた銀色の刃。
玩具とは込められた濃度が違う本物の凶器。
触れれば肌が裂け、押し込めば骨が砕ける。
もうすぐ自分は死ぬのだと、否応なく理解させてくる絶対的な死の象徴。
だが何秒経とうと剣が達する事はない。
凶器は横に通った光の線に阻まれて、先に進めないでいる。
目の前に出現していたのは―――身の丈をゆうに超す巨大な槍。
そしてそれを持つ、突風と帯電と引き起こして自分と剣の前に躍り出たひとつの影。
それは―――"彼"の躰は、輝いてた。
全身を包んでいる、映画の衣装でしか見られないような時代がかった、豪奢な黄金色の鎧。
闇天を貫く光の眩さ。まるで夜明けの朝日だった。
人が憧れ。人が目指し。そして当たり前のように届かない、雲の遥かな上にあるべき太陽(ほし)。
暗中に輝く鋭利なる黄金の光は神々しさという表現さえ突き抜けている。
空に仰ぎ見るはずの太陽が目の前にある。地上を謳歌する生命にとって、それは絶滅の恐怖を招く光景だ。
間近で見れば眼も脳も焼き切られてしまう"彼"を、何故か怖いとは感じなかった。
触れずとも本能として分かる、本物の武具の威容。金属の質感。
そう、"本物"。彼の纏う全てに虚飾は無く、本物だけで満たされている。
容易く剥がれるメッキなんかじゃない。世界中を探しても、この光を持つ人は彼しかないだろう。
姿でなく魂として、そんな価値を在り示す貴き幻想。
形は違えどその輝きは、わたしたち(アイドル)が昇る階段の頂にあるものだと思ったから。
見た目の怖さなんて、その時は頭から吹き飛んでしまっていたのだ。
赤き光―――炎を巻き上げながら振り上げられた槍が、剣を持ち手ごと焼き尽くし、斬り裂いた。
その衝撃音で、度重なる異常事態に呆けていた意識がやっと我に返る。
さっきの相手がもう見えないと判断したのか、"彼"は尻餅をついて倒れていたこちらに向き直った。
見知らぬ誰かに突然襲われて。初対面の人に守られている。
夢と絵本でしか見たことのない光景。ガラスの靴を渡される灰かぶりのような、冗談みたいな状況(シチュエーション)。
―――きれいだな、と。
目を奪われそうになるその姿を見て、最初に抱いたのはそんな感懐だった。
「召喚直後に居合わせた故に、こちらの判断で対応させてもらった。
正式な契約のないまま動いた非礼を詫びよう」
声は、研ぎ澄まされた雰囲気に似合わぬ穏やかなものだった。
最初の言葉の内容は、なんと謝罪だった。
気取ってるわけでもない、ただあるがままの自然体で語りかける。
目と目が合う。瞬間、雷鳴のように走るなにか。
心臓が痛く、血管は収縮して、顔から熱が引いていく。
体中を巡る謎の不快感も今は忘れる。
男が次に紡ぐ声を静かな心地で待っていて、それどこじゃなかったから。
「改めて問おう―――お前が、オレを求めた主(マスター)か」
投げられた言葉。
邪神の微睡の庭の中、少女と英霊は出会いを果たす。
時計の針が、運命が動き出す瞬間を密かに刻んでいた。
-
◆
神崎蘭子は神秘を愛している。
ただそれは宇宙の真理といった哲学的高尚さを求めているわけでもなければ、
数多の魔術師のように知識欲や権威欲に当てられたわけでもない。ただ単に好きだったからだ。
魔法とか魔王とか。天使とか堕天使とか。
「そういったもの」を面白いと感じたから、気分の赴くままにのめり込んだだけのこと。
実際にそれがあるかどうかなど、あまり重要なことではなく。
設定を作って、役を演じて、楽しくなれればそれでもう充実していた。
だから机にこれ見よがしに放置されていた、いかにもな意向を施された銀色の鍵に心を刺激されて、
不用心に断りなく弄ぶようなことにも、特に疑問に思いはしなかった。
聖杯。魔術師。英霊。サーヴァント。
どれも常なら目を輝かせ、諸手を挙げ、歓喜の声を鳴かせるような千山の宝物。
だがそこに「戦争」というワードが付くだけで気持ちは陰鬱に沈んでしまっていた。
蘭子が憧れるのは幻想であって、現実の殺し合いに歓びを見出すタイプではなかった。むしろ大の苦手だ。
そしてもう一つ。
求めていた本当の幻想。夢に見た事すら忘れていた記憶。
晴れ渡る蒼穹。そこで舞う十二の翼。傷ついた悪姫。掌から迸る氷炎。緑色の星晶獣。魔王ブリュンヒルデの降臨。
魔法が栄え、不思議な種族に溢れた、抱いた理想がそのまま形になったような世界。
それは確かにあった、少女達の冒険の足跡だった。
もう一度あの場所に旅立ちたい。剣と魔法の世界を味わいたい。
遊園地に行くことをせがむ子供と変わりない程度の『願い』。
思い出した後も募る思いはとめどなく、いつか本当に叶う日を夢見ていたのを欺瞞だとは、とても言えない。
一度では信じがたい事実でも、二度体験すればもう認めざるを得ない。
だからこそ、聖杯戦争というこの事態そのものについては、蘭子は素直に受け止めていた。
頭に刷り込まれたルールにある存在。聖杯の記録より参加者に与えられる過去の伝説の再現者。
サーヴァントと称されるそれは、まだ蘭子の元に表れていない。
これからどうするにせよ、サーヴァントがいなければ何も始まらない。
神話の英霊と対面する機会自体には興味はあった。ないわけはなかった。
何をすれば出てくるのかは知らないが、いない以上は呼ぶ準備はしようと思ったのだ。
日中に数少ない和訳済みのオカルト本を買い、召喚に必要そうな雑貨をフィーリングで集めた後。
宿舎を抜けて密かにサーヴァントの召喚を試みた蘭子は、そこで「敵」の襲撃を受けた。
人気のない場所を独りで行動するマスター、しかもサーヴァントを連れてないとなれば当然の結果だ。
だがその結果が新たな因となり、サーヴァントは蘭子の前に表れ敵を撃退せしめていた。
「こ、心地の良い夜ね……」
時刻は夜。
冷えた、しかし湿った空気。
「286プロダクション」の海外ライブでの宿泊施設より、僅かに離れた場所。
初めての邂逅から数十分あるいは一時間後、神崎蘭子は初めての挨拶を傍らの青年に告げた。
銀の巻き髪。白い肌。紅玉の瞳。黒と白のゴシック&ロリータの衣装。
整った顔立ちには蕾が開いてないあどけなさが残っており、
服装と合わさってさながら生きた人形のような神秘さがある。
口を開くことがなければ、神崎蘭子はそうした雰囲気で見られる少女だった。
「大気に妖気が渦巻いている。街の人間全てを呪殺して余りある波動を誰彼に矛先を向けてるわけでもない、
遍く生命の営みを嘲笑うかのような陰湿さだ。
それを涼風と流してみせるとは、実に大した肝だな」
「う……」
予想と違った返しに低くうなだれる。
せっかく来てくれた英霊と言葉を交わしてみよう、という目論見は見事に外れた。
皮肉にも聞こえる青年の言葉は、蘭子の心を針のように小さく刺す。
無造作に伸ばされた白の髪。
前髪に隠れた鋭い凶眼は幽鬼、嵌めた貌は色が薄くまるで亡者のよう。
白く痩せ細った体と胸に埋め込まれた赤い宝玉が、その凶悪な印象をさらに強める。
そんな青年が、蘭子に宛がわれたサーヴァントだった。
-
「あ、アルテミスの加護が夜を照らしているわね……」
「あの光は亡者の肌よりも蒼白だな。オレには死出の旅路に繋がる門にしか見えないが」
「うぅぅ……」
さらに小さく縮こまる。
意思疎通が上手くいかないのは自分の日常ではままある事だが、真面目に返されるのは初めてだ。
元より人見知りの性格なのだ。その上恥ずかしがり屋ときてる。
話題は拙く、途切れ途切れで要領を得ない。
相手が強大な英霊であることがかえって気持ちを萎縮させている。
もし契約を結んだマスターでなければ、その輝きだけで精神を焼かれていただろう。
「くう、我らの「瞳」は同じ色をしていないというのか……」
「おかしなところを気にするのだな。オレと目の色が違うからといってどうもしないだろうに」
噛み合わない会話劇が続く。
見劣りしてる、と蘭子は感じる。こんな眩い英霊を扱うには、自分なんかでは荷が勝ち過ぎていると。
宝の持ち腐れ、という諺のままだ。せめて趣向に合うサーヴァントであればまだ話も進んだろうだが―――
「……いや、そうか。確かに右(こちら)はおまえと同じ色をしているな。
邪視ゆえあまり見せられたものではないが―――」
伸びたままにされた前髪は青年の顔の右前面を覆っていた。
その髪をおもむろに手でかきあげると、隠れていた右目が露わになる。
―――生い茂る森の深緑色の左目とは逆の、烈火に染まった瞳。
それを見て、蘭子の"何か"が、ガチンと音を立ててスイッチが入った。
「…………………きれい」
呟きに自覚はない。無意識に出た感慨だ。
赤い瞳―――正確には別々の色をした両目に見惚れているうちに体が動いているのにも気づかない。
鼻をくすぐるこそばゆさに我に返る時には、互いの髪と肌が触れ合う距離まで近づいていた。
「――――――っっっ!!!」
羞恥に白い頬から耳まで真っ赤に変えて飛び退く。
顔を覆う手すら激しい熱を持っていた。
一方のサーヴァントはと眉ひとつ揺らぐ事なく、不思議そうに見つめている。
「今のは、」
「き、禁忌に触れるな!」
「そうか」
「………………」
「……………………………」
何を話せばいいのかまったく分かず、終わらない沈黙に頭を抱える。
他人と関われず、自分の世界に引きこもっていた昔の自分に戻ったみたいで自己嫌悪する。
こんなマスターでは失望されてしまうかもしれない。いや既にしているのではないか。
ざわつく不安が浮かんで来ようとした時。
「先ほどからずっと戦意が薄いままだが、元より戦う意志がないのか、
それともオレの力では不服ということか。我が主よ」
自らは語らず、問いかけに答えるのみだった青年のサーヴァントの方から声をかけてきた。
「我が主……?」
「そうだ。お前はオレの主、即ちマスターだ。
オレの助力を乞うお前の声に応じ、オレはサーヴァントとしてここに来た。お前の願いを叶える為にオレはここにいる。
勝利を望むなら我が槍の暴威を以て敵を焼き尽くそう。ただ生存を望むのなら我が鎧の威光で災禍を退ける覆いとなる。
オレが見込み違いの英霊であったのは面目ないが、この誓いを破る気はないと―――」
「え、あ、待って!そうじゃなくて……!」
-
謙虚な態度で、本当に申し訳なさそうにした顔。
なにか、途轍もない勘違いをさせてしまっていると知り慌てて訂正する。
「今は、我が魔力が足りぬばかりに言の葉に思いが乗らなくて、その……」
どうすればいいのか。どうすればこの誤解を解いてもらえるのか。
蔦のような不安に絡まっていた頭が、一つの指向性を得る。
戦う覚悟がなくとも、せめてこの英霊と齟齬なく言葉を交わしたいと―――。
「いや、今は然程供給は必要ない。
お前の魔術回路から回される分で現界には足りている」
「はえ?」
よく、分からないことを言ってきた。
聞いたこともない単語と自分とが結びつかず、疑問符が浮かぶ。
「マスターからの魔力提供は現状問題ないと言っただけだが?
契約の因果線(ライン)と経路(パス)を通して、お前から魔力が流れる感覚は間違えようもない」
「我の内に真なるエーテルが……?え、えええーーー!?」
サーヴァントを召喚した直後、体にのしかかってくるような気怠さを思い出す。
体内を得体の知れない不純物が巡る気持ち悪さ。それこそまさにサーヴァントへの魔力供給の証だったのだ。
「魔術師の才能は血によって紡がれるというが、源流を辿れば全員が先天的な回路持ちだ。
どうやらこの世界に招かれたことでそれが開いたようだな。それとも他に要因があったのかは知れないが」
「あ、あわわ、どうすれば……」
「どうもこうもない。自らの内にある力は自らで鍛えるしかない。
武芸としてマントラは学んでいるがオレも魔術師なわけではないからな。済まないが指導は出来ん」
サーヴァントはそう言うが、蘭子には思い当たる節があった。
翼を生やし、魔法を操り謳歌した魔王時代。
あの時間が真実である限り、残滓がまだ体に滞留し、この街に来た事で影響が生じた。
そう考えれば、一応の理屈は整う。
「これも蒼の世界で得た星晶の加護か……?
我が下僕に魔力を供給する縁になるとは、かの星晶獣の使い手に感謝を―――」
"―――――――あ"
抜けていた穴があることに、そこで気づく。
まだ自分は、この英霊の名前すら聞いていない。
いや、それ以前の問題だ。なんて失礼な真似をしていたのか。
初対面の相手に自己紹介すらなんて、アイドルとしても人としても当然の礼儀なのに。
「…………よしっ」
座り込んでいた体を持ち上げる。
高鳴る心臓を押さえつけ、腹に力を込める。
大丈夫だ。あの時よりも自分は少しは成長している。
ただ思い出せばいい。あの日、至高の座に着くまでの道のりを。
歩んだ足は覚えている。踏破の経験は決して嘘になりはしない。
己が名を思い出せ。この身に宿る証を示せ。
手に入れた栄冠。研鑚の結実。
アイドルにおける頂点のひとつのカタチ。
其は即ち、『シンデレラ・ガール』!
「―――――――傷ついた悪姫、第二形態覚醒っ!!!」
叫ぶ。
萎えかけた精神(こころ)を手で思い切り叩く。
英霊は細切れの目を見開いてこちらを見る。
ここにいるのは彼ひとり。たった一人の観客に向け、己が心を告げる。
「待たせたな我が下僕よ!
これより、我らの血と魂の盟約を交わさん!」
-
太陽の具現のように光り輝く本物の英霊と比べれば、自分の言葉など薄っぺらい妄想事かもしれない。
しかしアイドル、神崎蘭子はこの形で世間に出ている。
『このままでいい』と肯定してくれた人が後押ししてくれた。この姿を応援してくれるファンがいた。
それを、裏切りたくない。たとえここで否定されようとも、蘭子は自らを貫く事を決めた。
「聞くがよい。我が名は神崎蘭子!
遥か十四の歳月より前、かの地の火の国より舞い降りて産声を上げた!
灰かぶりの降誕に赴いて得た真名は、「Rosenburg Engel(ローゼンブルグ・エンゲル)」。
蒼の世界での第二の名は傷ついた悪姫・ブリュンヒルデ。
黄昏の終末に臨む堕天使にして魔王ぞ!」
「生贄に相応しき供物は禁忌の果実。魔力を高める真紅の秘薬こそが至高……。
戯れ時には、神の目を欺きグリモワールに術式を刻んでいるわ……!」
名前。職業。仕事内容。好きな食べ物に趣味。伝えたい思いを言の葉に乗せる。
死を恐れない、という境地とは違う。これが死に繋がる行動だと、正しく理解していないがゆえの無知。
あるいは、自分のアイドルの在り方を否定されるのは、彼女にとって死より辛い事なのかもしれない。
息を切らしながら自己紹介の宣言を負え、サーヴァントの様子を窺う。
嘲笑するか。それとも唖然とするか。
覚悟はしても、やはり自分を否定されるのは苦しい事で―――
「―――承知した。
真名を告げたその礼に応え、オレもまた真名(な)を明かそう。
我が名はカルナ。太陽神スーリヤの血と威光を引き継ぐ一振りの槍。
此度は槍兵(ランサー)のクラスとして現界した」
「――――――!」
返って来たのは侮蔑とは程遠い、誠意に満ちた言葉だった。
青年―――ランサーは厳粛な、それこそ主君に傅く従者の姿勢で、アイドルの少女の前で跪く。
「此処に契約は交わされた。
我が身は汝の元に。我が槍は汝の手に。
この命運を汝に預ける事をここに誓おう。我が主、神崎蘭子よ」
穏やかな声の裏には、力強い意志。
伝えた言葉に責任を持ち、その通りに振る舞うという誓い。
ああ。応えてくれた。報いてくれた。
自分の必死の声を捨てずに拾い上げてくれた。
ただ自己紹介をし合っただけなのに嬉しさがこみ上げる。
一歩を踏み出して名前を読んだ日と同じ、誰かの世界と結びついた歓喜があった。
「―――うむ、うむ!よかろう!
既に魔力は満ちた!我が使命、我が波動は此処に在り!
共に魂を共鳴させようぞ我が下僕!いや、我が友よ!アーッハッハッハッハッ!!」
結局、出来たのは僅かな前進。
サーヴァントとの意思の疎通という聖杯戦争では初歩の初歩の段階にこぎつけただけ。
叶えたい願いは定まらず。根本的な行動も決まってすらいない。
だから決められるのはひとつだけだ。
帰りたい居場所がある。やりたい事がある。会いたい人がある。
その程度しかなくて、それだけでよかったのだ。
「――――――」
「ナーッハッハッハ………………わ、我が友?何かあるのか?」
感情を表に出さず冷徹にすら映るランサーの表情が、一瞬人間味を帯びた顔つきを見せていた。
一見すればまったく変わりなく、蘭子も具体的に言い表せない、ほんの微かな変化。
「……いや。ほぼ初対面で友人呼ばわりされたのは生前も合わせて二度目でな。
少々、昔を思い出した」
瞳から漏れたは、僅かな懐旧の念。
その裏に隠れるものがなんなのか、蘭子は察する事ができなかった。
オカルト書の類は嗜んでいるが、そこには趣味に偏った浅い範囲でしかない。
故に蘭子は知らなかった。マハーバラタの英雄、カルナの過去。
優れた力と徳を備えた光の道に生まれながらも悪と蔑まれ続けた、暗い闇の中に呑まれた生前の話を。
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【出展】
Fate/Apocrypha + Fate/EXTRA CCC
【CLASS】
ランサー
【真名】
カルナ
【属性】
混沌・悪(本来は秩序・善)
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運A+ 宝具EX
【クラス別スキル】
対魔力:C
二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
ただし宝具である黄金の鎧の効果を受けているときは、この限りではない。
【固有スキル】
貧者の見識:A
相手の性格・属性を見抜く眼力。
言葉による弁明、欺瞞に騙されない。
天涯孤独の身から弱きものの生と価値を問う機会に恵まれたカルナが持つ、相手の本質を掴む力を表す。
耳に痛い本質を直球でぶつけるが故に、カルナは他人に嫌われやすい。
騎乗:A
幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を自在に操れる。
ライダーのクラス適性も備えるほどランクが高い。
無冠の武芸:-
様々な理由から他者に認められなかった武具の技量。
相手からは剣、槍、弓、騎乗、神性のランクが実際のものより一段階低く見える。
真名が明らかになると、この効果は消滅。
余談だが、カルナの幸運のランクは自己申請である(実際にはDランク相当)。
魔力放出(炎):A
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
カルナの場合、燃え盛る炎が魔力となって使用武器に宿る。
最大出力なら周囲を焼き尽くし、高速で飛行することも可能だが、それにかかる魔力消費も莫大。
神性:A
太陽神スーリヤの息子であり、死後にスーリヤと一体化するカルナは、最高の神霊適正を持つ。
この神霊適正は神性がB以下の太陽神系の英霊に対して、高い防御力を発揮する。
【宝具】
『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』
ランク:A 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
カルナの母クンティーが息子を守るためにスーリヤに願って与えた黄金の鎧と耳輪。
カルナの肉体と一体化した、太陽の輝きを放つ強力な防御型宝具。
神々の威光である鎧は、神秘への耐性なき者には目を焦がす灼熱の太陽に見えるだろう。
光そのものが形となった存在である無敵の鎧。
物理・概念とわずあらゆる敵対干渉を削減する。
これがあるかぎり、カルナにはダメージ数値は十分の一しか届かない。
その強度たるや、真名解放したA+宝具の直撃を受けてもほぼ無傷、
電脳世界の聖杯からの強制消去にも耐えてしまうほど。
例外は、鎧を通り抜けて体内に直接干渉する類の攻撃。
この鎧はカルナの任意で他者に譲ることが可能である。
『梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)』
ランク:A+ 種別:対軍、対国宝具 レンジ:2〜90 最大捕捉:600人
『梵天よ、地を覆え』にカルナの属性である炎熱の効果を付与した奥の手。
クラスがアーチャーなら弓、他のクラスなら別の飛び道具として顕現する。
ランサーである現在は熱を伴った槍の投擲となる。その一撃は核兵器に例えられるほど。
応用として、槍を空に飛ばし数ターンに渡って流星群のように炎を降らせる芸当も可能。
『日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)』
ランク:EX 種別:対軍、対神宝具 レンジ:40〜99 最大捕捉:1000人
一撃のみの光槍。雷光で出来た必滅の槍。
神々の王インドラがカルナから黄金の鎧を奪った際に、差し出すカルナの姿勢があまりにも高潔であったため
それに報いねばならないとこの『雷槍』を託した。
使用時には『日輪よ、具足となれ』を自身の体から引き剥がして槍に形成し、
神々をも打ち倒す究極の一撃を放つ。発動後に黄金の鎧は消失する。
鎧を破棄しない限りは通常の槍としても使用が可能で、真名解放後も槍だけは残る。
この宝具を使用せずカルナの鎧が失われた場合は、発動しても雷槍の威力は大幅に減じることになる。
【SKILL】
『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』
『梵天よ、我を呪え』の元となる、バラモンのパラシュラーマから授けられた奥義。
目からビームを撃つ。
……実際は眼力を視覚化したもの。真の英雄は眼で殺す。
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【人物背景】
インド二大叙事詩『マハーバラタ』に登場する、倒される側の英雄。
多くの優れた力を授かりながら、多くの理不尽な不幸を背負い悪として討たれ、
それでもなお人も世も恨むことをしなかった施しの英雄。
その最強の武器は神の血筋でも槍でも鎧でもない、己の『遺志』である。
【サーヴァントとしての願い】
マスターに従い、その命を庇護するのが彼にとっての報酬だ。
【出展】
アイドルマスターシンデレラガールズ+グランブルーファンタジー
【マスター】
神崎蘭子
【マスターとしての願い】
かつて蒼空の世界に転生し、前世である漆黒の翼を纏う傷ついた悪姫・魔王ブリュンヒルデの記憶
(シンデレラファンタジー 〜少女達の冒険譚〜 での体験)が蘇えってしまい、もう一度夢の世界に行きたいと潜在的に願っていた。
結果彼女の夢は叶うこととなる。夢は夢でも、邪神の午睡だが。
【weapon】
強いて言えばスケッチブック。
描かれている自作のデザイン衣装、羅列される文章は見た者によっては精神にダメージを受けて死ぬ。見られた蘭子も死ぬ。
【能力・技能】
STR:8 CON:10 SIZ:9 INT:10 POW:11 DEX:12 APP:16 EDU:10 SAN:55
アイデア:50 幸運:55 知識:45 HP:9 MP:11+?
芸術<歌>:85 信用:60 言いくるめ:35 説得:25
『シンデレラガール』
アイドルにおける頂点の一つの形に位置する灰かぶり姫(サンドリヨン)。
求められる要素の高さのみならず、言葉に表せない運命すら味方につけてこそのシンデレラである。
アイドル活動に関わる全ての技能、行動で出た数値にプラス10するボーナス技能。
『中二病(80)』
思春期特有の奇病。微笑ましくも痛々しい、紅蓮の闇に堕ちし呪い。
だが突き抜ければそれは芸能界に通用する強力な武器となる。
『心理学』等の技能判定に成功しないと他者は言葉を理解できない。判定を重ねれば成功率は上昇する。
また、正気度判定時にこの技能の数値を使用することができる。
ただしその際必ずSANを-1する。さらに失敗するとSAN喪失時に更なる減点が入る。
一時的以上の狂気に陥った場合、種類は『妄想(自己の世界に入り込む)』に固定される。
なお、流血などのホラー、スプラッタな事態には使用できない。つまりあまり役に立たない。
あくまでサーヴァントの視認など、凄惨な光景に直結しない事態には有効な程度。
『オカルト(25)』
本人の好きなものを見ているだけなので、神話の知識には偏ったり浅かったりするようだ。
『魔術(??)』
かつて魔術が存在する世界に触れた影響か、あるいはこの邪神の世界による祝福(呪い)なのか、
はたまた奥底に眠っていた力が解放されたのか。
魔王時代に得ていた魔法力の残滓……即ち魔術回路が発現してしまっている。
素養は現時点では不明。MP値に補正が与えられる。
※数値、技能は適当です。深く考えないでください。
【人物背景】
神崎蘭子は中二病であるが、邪神の知識や本物の殺し合いに喜ぶほど外れた人間ではない。
神崎蘭子は少女であるが、同時にプロのアイドルだ。
神崎蘭子にとっての戦いとは、アイドルとしての夢と誇りを捨てないことに他ならない。
やれることは少ないが、やれることをやらないことはしない。それだけは決めている。
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【基本戦術、方針、運用法】
白髪オッドアイビジュアル系オカンサーヴァントと銀髪ツインテアルビノゴスロリ邪気眼系アイドル。
サーヴァントとして比類なき力を誇るカルナだが、必然マスターにもそれに見合った力量を要求する。
マスターは特殊な環境で魔力を得ているが、現状は最低でもジナコ以上は保障する、といったところ。
一度戦闘を開始すれば早々後れを取りはしないので、正気度の問題も含めて迂闊に攻めて敵を作る行動は戒めるべし。
魔王だ堕天使だと言ってる蘭子だが、そのわりにホラー系が大の苦手。邪神など本来もってのほかである。
しかしその独特の感性は、スプラッタ系でない限り魔術やサーヴァントにも多少は耐性があるかもしれない。
……要するに世間ズレしてるということだが。
のめりこむとクトゥルフTRPG冒険者特有の「いわゆる本物」になるので、そこだけは注意が必要。
だがはっきり言ってこの主従において戦力の問題は二の次で、最大の障害となるのはコミュ力の欠如だ。
熊本弁使いの蘭子では、下手をすると狂信者並に意思が疎通しない危険がある。
頼みのはずのサーヴァントも、肝心な事を黙っていたり要らぬ爆弾を(親切で)つついたりして敵を作りかねない。
戦闘回数の現界も鑑みれば、如何に他主従と友好関係を築けるかが生死を分けるといっても過言ではない。
幸いカルナの戦闘力は同盟の材料にもなる。頑張って会話ロールに励んでもらいたい。
……尤も。
邪神聖杯の設定上、その「友好関係を結ぶ」というのが選択肢の中で最大難易度なのだが。
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投下終了です。
クトゥルフらしさを出すために翻訳語はカットしておきました。
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カルナの人物背景かっこいいし蘭子のステシが素敵だけど、クトゥルフらしさってなんだったけ?w>カット
ダメだこのコンビ、他のキャラとカラムのすごく見てみたいw コミュ症なのに!w
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お疲れ様です。
こちらも投下させていただきます。
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「――これにて終了にございます。お客様、お忘れ物のないようお帰りください」
舞台上のピエロの言葉を背にして、テントから出る。
既に日は陰り、一帯は闇に覆われていた。
――この街にサーカスが来るなど、珍しい。
自分がいつからこの街に居たのかも覚えていない胡乱な頭で、そんな事を思う。
演目も役者の顔も隣にいた筈の■■■■の事も、浮かび上がっては泡のように消えてゆく。
何も覚えていない。
何も、何も、何も、何も、何も、何も、何も、何も、
「どうなさったの? ふふ――まるで、帰り道がわからないみたい」
白い、
少女が立っていた。
今の季節は何だったか。
少女の周りには雪が降っている。
「お帰りはあちらよ、お客様。では――良いユメを」
白猫が通り抜ける。
雪原に足跡を残すこともなく。
/錯乱。
逃げないと。
何処から誰から逃げるのかも分からぬまま、最後に残っていたその思考に飛びついた。
この雪原は だ。
幻像《イリュージョン》。
奈落《アビス》、混沌《ケイオス》、迷宮《ラビリンス》。
/妄想。
走り出す。視界は雪に覆われている。
道化師の仮面が浮かび上がる。
仮面を外した下にあった貌を見たのは、今なのか先の事だったのか。
――蒸発する。
脳《ブレイン》が溶ける《ダムド》ようだ。
だ。だ。だ。
だ。だ。だ。だ、だだだ。だだだだだ。だだだだだだだ。ば。
/タイプ、死異。
雪の中に赤紫が舞う。
あたまのなかのこねられた脳味噌は、
――もう帰れない、
と言っていた。
▼ ▼ ▼
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――二人の少女がいた。
一人は黒、一人は白。
『………………』
『今さらなんのつもりレン。貴女は私を拒絶した。
昏いところに閉じこめて見ないフリをしてきたのよ。貴女に私を止める権利なんてないわ』
『………………』
『バカにして、同情なんていらない……!
いいわ、ここで貴女を倒して、わたしが貴女になってあげる……!』
――二人の少女がいた。
一人は青、一人は赤。
『え!? キミは…ボク!?』
『そう ボクはキミだ キミとボクは おなじなのさ』
『なんで……あ もしかして!
キミってば ボクのまねをして にんきをとろうとしているな!?』
『にんきだけじゃない
ボクはキミの すべてをうばう
キミをたおして ボクが■■■として いきていくんだ』
▼ ▼ ▼
-
――二人の少女がいた。
一人は白、一人は赤。
無論――彼女達は架空都市アーカムに招かれたマスターであり、サーヴァントである。
白い少女――レン、という名の夢魔の、その一面。
タタリと呼ばれた吸血鬼としての性質を持つ彼女は、人ならざるモノの世界に生きるモノである。
その彼女が如何なる過程を辿ってこの街に姿を表したのか――。
それを他者に語った事は、未だ無い。
ともあれ、彼女の性質は、この街で行動を制限される事を意味しない。
しかし現在の彼女の姿形は朧げであり、気配もまた幽かなものとなっている。
「――別に、構わないけれど。もう少し融通は利かないの、キャスター?」
彼女の現状は己のサーヴァントの影響によるものである。
常に発動するキャスターの宝具は、サーヴァント自身だけでなくマスターにも作用を及ぼしている。
『真夏の雪原』の内部でなければ、今の彼女は戦闘を行う事も困難だろう。
もっとも――他者を自身の世界へと取り込む事を可能とする彼女にとって、それはさしたる問題ではないのだが。
「ふふっ――ごめんね、マスター。ボクの宝具って、ボクが止めようと思っても、止められないんだ」
薄く微笑う赤の少女――キャスターの声の響きに、マスターへの悪意はない。
それと同様に、自らの象徴、その身を英霊足らしめる宝具への想い、憧憬、執着――そういった感情もまた、欠けていた。
「そう。捨てられるのなら捨てたい――という訳かしら」
「うーん、そうでもないかも。だって、ボクは『キャスター』なんだ。いまのボクはサーヴァントとして存在してるんだから――」
「貴女は『アルル・ナジャ』とは別の存在――そう言いたいの?」
――キャスターのサーヴァント。栗色の髪と輝く瞳を持つ少女、アルル・ナジャ。
その英霊は、語られる物語によって異なる性質を持つ。
――曰く。
魔導学校を目指す試験の途中、闇の魔導師に囚われた彼女は、逆に魔導師を撃退。
更には、自らの妃になれ、と迫る魔王サタンをも倒し、新たな仲間を得て魔導学校への旅を続けた、という。
――曰く。
魔導書に封じられた禁断呪文オワニモを解放した彼女は、一度はその呪文を「利用価値がない」としていた。
しかしその後、深い理由など全くなく迫り来る魔物達と漫才を繰り広げつつ、呪文を乱発する羽目になった、という。
――曰く。
異世界《ガイアース》の勇者ラグナス・ビシャシと遭遇した彼女は、戸惑いながらも彼に協力。
仲間達と共に世界を脅かす次元邪神ヨグ・スォートスを打倒した、という。
幼少期から一流の魔導師となるべく勉学を重ね、時には色気を用いて魔物を騙す強かな面を持つ彼女。
学校に通う様子もなく一軒家に住み、巻き起こる騒動を解決しようと奔走する彼女。
矛盾を抱えながらも、物語が語られる限り彼女はアルル・ナジャであり続ける。
――キャスターのサーヴァントは、自らがアルル・ナジャである事を否定する。
「――呆れた。貴女自身がどう思おうと、貴女は『彼女』よ。そう定義されている以上、それは変えられない」
「そうかもしれない。でも、いいんだ。だって、ボクがそう思ってるんだから。だから――ボクの願いは、もう、半分は叶ってる」
「そんなサーヴァントに倒されたサーヴァントも哀れよね。強者の余裕?」
「ふふふ――運がよかっただけだよ。それに、急にマスターに雪原に誘われちゃってたから、あのマスターの方はのーみそぷーでばたんきゅーしちゃってたじゃないか」
「なにそれ? 今時、白痴美なんて流行らないと思うわよ」
「へえ。――マスターが好きな人って、マスターとは別の『レン』にはあんまり関わってないみたいだけど、そういうのって不安なの?」
「はあ!? ちょっとお、人の記憶勝手に見るとか、それ私がやる方だから! わーたーしーがー!」
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▼ ▼ ▼
『まけた………?
このボクが………まけた……
ボクは アルルになりたかった
ただ それだけなのに…』
『キミは ボクにはなれないよ
だって キミはキミだから
だれかのかわりなんて だれにもできないんだよ』
『…ボクはボク アルルじゃない アルルには なれない…』
『………………』
『いいわ、敗者は大人しく勝者に従ってあげる。
どうせ長続きはしないんだもの。貴女が壊れてしまうまで、一緒にいてあげるわレン』
『………………』
『貴女がいればそんなコトにはならない、ですって?
……フン。便利に使われるのは我慢ならないけど、
まあ、信頼されてるかぎりは力になってあげるわよ』
――二人の少女がいた。
一つのカタチから生まれた少女達は、一人に還る事無く、そこにいた。
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【クラス】
キャスター
【真名】
アルル・ナジャ(ドッペルゲンガーアルル)@ぽけっとぷよぷよ〜ん
【パラメータ】
筋力:にがて 耐久:なかなか 敏捷:そこそこ 魔力:ばつぐん 幸運:すごい 宝具:すごい
【属性】
?
【クラススキル】
陣地作成:にがて
ダンジョンには潜る方。
道具作成:にがて
カレーなら作れる。
【保有スキル】
ぷよぷよ:とくい
ぷよぷよ勝負が上手い。
どんな状況であっても直接戦闘を行う事なく別の方法での勝負を行う隠された効果があるが、聖杯戦争では封印されている。
被虐体質:それなり
集団戦闘において、敵の標的になる確率が増す。
アルル・ナジャは複数の人物から頻繁に狙われていた。色んな意味で。
迷宮探索:とくい
探索技術。
他者が作成した陣地内でのアイテムの発見率、鑑定成功率が上昇し、戦闘時に有利な補正がかかる。
基本的には有用なスキルだが、この聖杯戦争での『アイテムの発見』は時に損害をもたらす。
変化:それなり
自らの姿を仮面を被ったピエロに変化させる。
変化中は他のスキルが封印され、パラメータも大幅にダウンする。
【宝具】
『魔導物語(アルル)』
ランク:すごい 種別:対界宝具 レンジ:? 最大捕捉:?
魔導師の女の子、アルル・ナジャ。彼女とその周辺の人物達を主役とした物語が宝具化されたもの。
アルルが登場する伝承の大半は、語られる物語によって設定が説明無しに追加・変更されるという、
良く言えば大らか、悪く言えばいい加減なものである。
その殆どがパラレルと言ってもよい――のだが、ある物語はそれとは別の物語を前提として作られたものもあり、という具合で、非常にややこしい。
主要人物の設定や性格は徐々に統一されていったが、それも初期に語られていたものとはかけ離れたものとなっている。
キャスターの性質とパラメータは常に変動を続け、一定しない(筋力が最も低く、魔力が最も高いという傾向は存在する。人格に影響する事はない)。
パラメータを参照して判定を行うスキルや宝具が使用された場合、その成功率を低下させる。
また、キャスターとそのマスター、及び彼女達に干渉する相手は、自身と相手、
双方のあらゆるパラメータ(残体力、魔力量、SAN値、サーヴァントのステータスなど)を具体的な数値として認識する事が不可能となる。
これに対抗するためには、ファジーパラメータ――表情や仕草を観察し、正確に判断する能力が必要となる。
『真・魔導物語(リリス)』
ランク:EX(A-) 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:自身
――曰く。
アルル・ナジャは因果律から逃れた、創造主に対抗出来る唯一無二の存在であり、
悪魔王ルシファーと人類庇護者リリスの奇跡の産物、輪廻外超生命体である。
数百年に及ぶ戦いの果てにアルルは創造主を倒し、結果として世界は崩壊。
かつてルシファーと呼ばれた魔界の王サタンはそれを悲しみ、在りし日の世界を元に新たな世界を創造した。
同じ色をした魔物をくっつけて時空の彼方に送り込む『ぷよぷよ勝負』に興じるアルルは、その世界で新生したアルルなのだ、という。
またそれを元にした別の解釈では、世界崩壊後にアルルは二人に分裂しており、片方だけが新世界へと到達していた。
もう一人のアルルはそのまま世界の外に漂い続けていたが、ある時、
もう一人の自分と入れ替わって自分が『本物のアルル』となる為にある事件を起こす事になる。
キャスターの存在をある物語におけるアルル・ナジャに固定する。この宝具の発動中は『魔導物語』は無効化され、通常のステータスとなる。
その際のステータスは『筋力E 耐久B 敏捷C 魔力A++ 幸運E 宝具A-』。
具体的に何をどうやって創造主を倒したのかは語られていないため、
効果としては高い戦闘能力を常時確保するのみに留まるが、同時に英霊としての格も大幅に上昇する。
イコール、キャスターの姿を見た相手への精神ダメージも向上する事になる。
なお、この宝具はあくまでも『魔導物語』の一部であり、御多分に漏れず矛盾満載である。別に正史とか真の宝具とかいう訳ではない。
一定時間の経過、もしくは魔力が保てなくなった場合、普通に元の状態に戻る。
-
【weapon】
各種攻撃魔法。
最も基本的な魔法である『ファイヤー』『アイスストーム』は魔力を消費する事なく使用可能。
魔法攻撃力を上昇させる『ダイアキュート』、敵をのーみそぷーにする『ブレインダムド』、
感動させて一時的に行動不能にする『ばよえ〜ん』等が有用か。
『グランドクロス』『ラグナロク』『アーマゲドン』等、なんか凄そうな名前の魔法も使えるようだが、効果が一切不明なので基本的には考慮不能。
【人物背景】
もう一人のアルル・ナジャ。
『ドッペルゲンガーアルル』は複数の作品に登場しているが、召喚されたのは『ぽけっとぷよぷよ〜ん』に登場したもの。
自分こそが本物のアルルである、と主張してアルルと成り代わろうとしていた謎の存在。
アルルに敗北した後、彼女の言葉を受けて「今度はボクがボクとして会いに行く」と言い残し、姿を消した。
なお、目的自体はハッキリしているのだが、その正体は不明である。
何故アルルと同じ姿なのか、等という事は全く語られていない(宝具欄に記されたものは本編に登場していない裏設定である。しかも例によって矛盾する)。
据え置き版の『ぷよぷよ〜ん』では目的さえ不明の上に敗北すると逆ギレして消えていったのでそちらに比べると進歩はしている。
【サーヴァントとしての願い】
確固たる存在となって、アルルと再会する。
【マスター】
白レン@MELTY BLOOD Actress Again
【マスターとしての願い】
不明。
【能力・技能】
夢魔の力と同時に、タタリの能力も併せ持っている。
ワラキアの夜が使っていた場合の固有結界「タタリ」とは性質こそ同じだが、心象風景が「真夏の雪原」へと変わっている。
現在はキャスターの宝具によってタタリに影響が出ており、自分の世界にいなければまともに存在を保てない状況にある。
他者を取り込む事、心象風景内部での戦闘は可能だが、タタリとしての能力の行使は大きく制限されている。
【weapon】
主に氷や雪、謎の光る球体を実体化させて戦闘を行う。
【人物背景】
真祖の姫の使い魔であるレンの普段使われていない側面である“能動的な人格”が、
蒼崎青子に方向性を与えられて埋め込まれたタタリの残滓によりレンと分かれて具現化したレンの影のような存在。
レンでありながらタタリでもあり、人の夢を操る夢魔であるレンとしての知識と力と、人の心を具現化させるタタリとしての知識と力も有している。
『Re・ACT』アーケードモードの結末ではレンに吸収され消滅するが、『Act Cadenza』ではレンと和解。
『ver.B』以降ではアルクェイド・ブリュンスタッドの誓約を破り、七夜志貴をマスターにした使い魔となって現在に至る。
ツンデレ。
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投下を終了します。
-
厨二少女×ビジュアル系オカン鯖
乙女ゲーかな?
-
投下いたします
-
1:
先ず初めに思った事が、甚だしく面倒な出来事に巻き込まれた、と言う事であった。
アーカムはダウンタウンを拠点とする、調理師や料理人を目指す人間及び、趣味で料理を学びたい人物の為の学校を運営する人物。
それが、この街においてこの男が演じるべき役柄(ロール)だった。
「元の世界での役職に関連付けられているのか……?」
バカデカいマホガニーのエグゼクティブデスクに向かい、憂鬱そうな顔をして、その老人は1人口にする。
落着いた茶の絨毯を広い部屋中に敷き詰め、これまた高そうな革張りのソファや、見るからに金をかけて集めていそうな高い骨董品めいた調度品の数々を見ると、
どうやらこの施設は相当に経営が安定、収益も宜しいようである。
はぁ、と、老人は、70を過ぎた歳にもなると言うのに、10代の若造のような溜息を吐いてしまう。
何の因果で、自分がこんな場所にいるのか、と思うと溜息の1つや2つだって、出てしまうと言う物であった。
改めて、憂鬱な表情で村田源二郎は――いや、本来の名前よりも、世間的にも世界的にも通用する、有名な名前の方が、この男を称呼するに相応しいだろう。
村田源二郎改め、味皇料理会総帥『味皇』は、何故自分がアーカムと呼ばれる街に招聘されてしまったのか、その訳を改めて回顧する。
味皇料理会と言う組織は庶民レベルだけでなく、政財界レベルにも影響力を持つ組織である。
味皇が贔屓にしている味吉陽一少年は気付きもしないだろうが、本来ならば味皇と呼ばれるこの老人は、
様々なやんごとない身分の人物とのコネクションを無数に持つ雲上人のような存在なのだ。そう言った人物特有の偉ぶった態度を味皇が見せないのは、
ひとえに彼が料理に対して真摯に取り組んでいる料理人を愛する人格者だからに他ならない。だからこそ、彼を慕う者は国内外を問わず多いのである。
そう言った人物の宿命か、味皇と言う人物は立場上様々な会食やイベントに顔を出さねばならず、その度に関係を深める度に、贈答品と言う物を貰う事がある。
一本数十万もする高級酒程度ならまだ可愛い方である、酷い時には20世紀の時代に『山吹色のお菓子』を貰った時だってある。
味皇と言う人物はそう言った賄賂の類を嫌う人物だ。その様な物を貰う度に、味皇はそれらの処理に頭を悩ませる事が多い。
陽一少年と出会ってから2回目の味皇グランプリが終わり、嵐のように忙しい大会期から1か月程が過ぎた時の事。
味皇料理会本部の私室で作業事務を行っていた所、秘書の垂目森太郎が、ある物を持って部屋に入室して来た。
味皇が有する無数のコネクションの内の1人からの贈答品であるらしい。ウンザリした様子でその贈答品を確認したが、それは何とも奇妙な、人を惹きつける魔力を持っていた。
香木の箱に入ったそれの中身を見てみると、正真正銘純銀で出来た、鍵だったのである。
それが不思議と気になった味皇は、私邸までそれを持ち運び、一通りその鍵を眺めた後で、床に就いた……そして、起きた時には、この街に居た、と言う訳である。
「自分でも信じられぬぞ……」
またも独り言を口にする味皇。何が信じられないのか、と言えば、全てである。
まず此処アーカムなる街の事。味皇料理会と呼ばれる、日本のみならず世界中の料理について研究している組織の総帥だけあり、味皇は地理に関しては聡明である。
だから、解る。アメリカ合衆国のマサチューセッツ州に、斯様な街など存在しない筈、と言う事を。
自分を騙す為だけに創り上げられた、張りぼての偽りの街かとも考えたが、街並みや其処を行く人々のリアリティが、それを否定する。この街は真実なのだ。
つまりこの街は、味皇自身が活動していた本当の世界にはないが、何処か知らない別の世界には確かに存在する街だと言う事になるのか。悪夢、としか思えない。
だが味皇がもっと信じられない事柄が、この街でこれから彼が行わなければならない、聖杯戦争なる戦いである。
何でも願いが叶う聖杯を巡り、サーヴァントと呼ばれる存在を駆使して参加者どうしで殺し合う戦争。それが聖杯戦争である。
馬鹿げている、としか言いようがない!! そんな冗談みたいな戦いに、身を投じてなどいられない。味皇は良識ある人物である、そんな事など出来る筈がない。
-
……しかし、味皇がどんなに現実に憂えても、このアーカムから抜け出す手段がないのも、また事実。
味皇はとうに70を過ぎた、ジジイである。老い先の短い人物だ。いつ起こるとも解らない突然の死に備え、時期味皇料理会の総帥を書いておいた遺書も私邸に書き置いている。
陽一少年を初めとした、若きホープの料理人達の成長を中途でしか見られないのが心残りだが、死ぬ準備はもう整っている。
この年になって人を殺す位ならば、自分が死んでやる。味皇こと村田源二郎は、それだけの心もちでいた。
「爺さん、思いつめた顔してるけど、大丈夫かよ?」
突如、自分の左脇から、如何にもしまりのない、愚鈍そうな男の声が聞こえて来た。
馬鹿な、この部屋には先程まで自分以外の人物は……。驚いて味皇が声のする方向を振り向くと、其処に声の主と見て良い人物が佇立していた。
「こんちゃ」
黒髪を七三に分けた、学生服の青年だった。彫像が如き涼しい瞳に、スッと筋の通った鼻梁。
口元に皮肉気な笑みでも浮かべ、女性でも口説けば、大抵の人物なら喫茶店に誘えそうな程の好青年だが……何ともまぁ、引き締まりのない顔だろうか。
筋肉にまるっきり締りがなく、瞳も口元も、春のうららの中にいるようにトロけており、今にもよだれでも垂らしそうな程だらしがない。
網膜には恐らく味皇の老体を映してはいるのだろうが、果たしてこの青年が本当に味皇を意識しているのかは、解らない。それ程までに呆けた青年だった。
「君は……」
「爺さんのサーヴァントだよ。名前は、内原富手夫。クラス名は確か……『ビザールコック』だ」
「君が……私の?」
何ともまぁ、見事なまでにハズレだと解るサーヴァントを宛がわれたものであると、味皇は内心で苦笑いする。
いや、こんな老骨には相応しい人物なのかも知れないと、内原を嘲るのではなく、味皇は自らを嘲った。
「あ、爺さん今ぼくの事笑っただろ」
「い、いやそんな事は……」
「嘘吐くなって、怒ってないから。アンタが正しいよ。名高い戦士や英霊、世界的にも雛に稀なる大悪党どもが呼ばれる中、ぼくの得意技は『料理』だぜ? 見劣りするのは無理ないよ」
「料理……」
そう言えばこの男のクラス名は、ビザール『コック』。
何故聖杯戦争で用いられる7騎のクラスに該当しないのかは解らないが、料理を得意とするクラスであると言う事は、味皇にも理解が出来た。
「富手夫君、そのクラス名であると言う事は、君は料理が出来るのかね?」
「まね」
「君は……ビザールコック、だったか」
「ぼくあんまり英語とか出来なくてさぁ。爺さん、ビザールって単語の意味解らない?」
「bizarre……これは英語で奇妙なとか信じられないと言う意味で使われる形容詞だ。ビザールコック(Bizarre Cook)……つまり、ゲテモノ料理人と言う意味になるのだが」
「ゲテモノォ!?」
だらしがないと言うイメージがそのまま服を着た様な青年が初めて、声を荒げた。
精彩を欠いていた瞳には確固とした怒りや意思が渦巻いており、身体の所作もタコの様にふにゃふにゃしたものから、キビキビとしたスポーツマンのそれへと変わっている。
-
「爺さんよく聞け、俺が作る料理はな、ゲテモノ料理じゃなくて『イカモノ料理』なんだ!! そんじょそこらの、奇抜な食材だけを使って奇をてらい、
衆人の注目をいたずらに集めるだけのゴミ料理なんかとは訳が違う!! 人間が絶対に食えないような食材や、ゴミみたいにマズい食材から、天上の美味を構築する!!
それがイカモノ料理だ!! 間違ってもゲテモノ何て言うんじゃないっ!!」
「う、うむ……」
内原の予想外の怒りの程に、思わずたじろいでしまう味皇。逆鱗に触れてしまったかと、内心で後悔していた。
料理人や芸術家問わず、一芸に秀でた連中と言うのは、白を黒とする頑固者が多く、付き合う事に苦労する事が多いと言う事を、味皇は知っている。
と言うより、そう言った料理人達が何人も知り合いにいるのである。内原にとっての逆鱗とは、ゲテモノ料理人扱いされる事なのだろう。
「と、ところで……富手夫君」
「なんだい」
「君のその、イカモノ料理だったか。それを私に振る舞ってみてくれないかな」
「爺さんに?」
怪訝さと面倒くささが綯交ぜになった瞳で、内原が味皇の事を睨めつけた。
「老い先短いジジイの身、聖杯戦争とやらもこれでは乗り切れまい。最後に出会えた人物が、料理人であるのなら幸いだ。
実を言うと私は、元々いた場所では、味皇料理会と言う……まあ、料理人達の育成を行う組織に所属していたのだよ。
料理の事については、人より少しだけ物知りなのだ。だが……私の勉強不足か、イカモノ料理、と言う料理は生まれて初めて聞いた」
「真新しさのない、凡人共が喰いそうなありきたりな物しか食べて来なかったんだろう」
「恥ずかしながら、その通りかも知れん。だから、富手夫君。この長くはないジジイに冥途の土産に、そのイカモノ料理と言う物を、食べさせてくれないか」
「いいよ」
即座に内原は、その胸襟を開いてくれた。予想以上に呆気なく内原が承諾してくれたせいか、思わず味皇は目を丸くした。
先程のゲテモノ料理の件でヘソを曲げ、作ってくれないのではと思っていたからだ。
「キッチンは何処だい? 爺さん」
早速その気なのか、内原は味皇になど目もくれず、室外へと続くドアの方に目線をやっていた。
内原少年には最早、最初に味皇が抱いたようなだらしのない青年と言うイメージは全くない。
今の彼は、味吉陽一や堺一馬、中江兵太達のような若い天才料理人達が見せるような、本物のプロフェッショナルの気風で満ち溢れていた。
――これは期待出来そうだ――
密かに内原の料理を楽しみにしつつ、味皇は彼を調理場へと案内しようとする。
その際に霊体化と呼ばれる、他人の目には映らないよう透明化するサーヴァント特有の状態に内原が入った時、味皇は大層驚いたと言う。
2:
-
「食材を探して来るから待ってな」、そう言って内原は味皇を1人部屋に残して、イカモノ料理とやらに必要な食材を探しに行った。
場所はアーカムクッキング・スクールの空き教室の1つ。教室と言っても、ジュニアハイスクールやハイスクールなどのそれではなく、料理学校らしく、
調理場と教壇、机が一体化した部屋である。卑近な例えであるが、学校の家庭科室・調理室を思い描けば解りやすい。
この時間帯は使われていない教室であるとは言え、曲りなりにも料理学校の教室である。冷蔵庫の中には、和洋の料理を1品何かしら作れる程度の量の食材は、常に用意されている。
冷蔵庫の中を見るなり、内原はこう一蹴したのだ。「案の定、ゴミのような物しか揃っていないな」、と。どうやらあの気位の高いコックには、お気に召さなかったようだ。
性格や言葉遣いも外見も違うが、味皇は陽一少年の事を思い出す。あの少年も、予め主催者が用意しておいた完璧な食材を使わず、自分で選び抜いた、
その料理で使う事は考えられないような食材を、奇抜かつ理に叶った使い方をして、いつも美味い料理を完成させてきた。
同じ状況に置かれたら陽一もまた、この教室の冷蔵庫の食材に満足する事は、なかったであろう。根っこのところが似ているのだろうな、と味皇は考える。
「待たせたな」
味皇が教室で待つ事、8分。内原は部屋の中へと入って来た。その左手に紙袋を持って。
「爺さんを待たせるのも悪いって思ってな、余り手の込んだ物を作るのも時間が掛かるからさ。野菜炒めで良いか?」
「構わない」
味皇は首肯する。野菜炒め。少し料理を学んだ人間であれば誰でも作れそうなものであるが、その実奥が深い料理である事を味皇は知っている。
野菜の目利き及びその切り方と手際の良さ、油や火の使い方、一緒に絡めるソースの目利きや制作能力、炒め時間諸々……。
ありとあらゆる料理のメソッドが詰まった、基本ながらも、料理人の腕が一目で理解出来る品目だ。味皇としても、不服はない。
「んじゃ早速、取りかかるぜ」
言って内原は、野菜炒めに使う材料を紙袋から取り出し、調理台の上に置いて行った。
目をカッと見開いたのは、味皇だった。炒める段階から驚くのならばまだしも、何故野菜を置いて行く段階で、斯様な反応をするのか。
余程、用意した材料が奇抜だったのか。本当に奇抜だったのだ。内原が置いて行った野菜は、ニンジンや玉ねぎ、キャベツにピーマンなど、一見すれば平凡な野菜である。
しかし、その殆どが予めカット済で、しかも所々が黒く変色し、不気味な緑色の汁を垂れ流しているとなれば、話は別である。
味皇は知っている。内原の用意した野菜が、この学校の料理人が既に料理したのクズ野菜、それも長い事時間を置いたせいで腐ってしまった物であると!!
腐った野菜を目にして言葉を失っている味皇を見て、内原はニッと笑った。
驚くのはこれからだ、とでも言いたそうな不敵な笑み!! これ以上、何に驚くと言うのだ!!
腐った野菜を用意したのは冗談でも何でもないと言外するように、内原はまな板スタンドからまな板を、台所の収容スペースから野菜切りようの包丁を取り出す。
そして腐った野菜をまな板の上において行き、既に切り刻まれたそれを更にカットして行く。実に鮮やかな手際だった!!
用意した材料は奇抜だが、料理人の基本スキルである食材のカットは、まさしくプロのそれ!! 内原富手夫の技量だけは、本物であった。
数分足らずで、紙袋に入っていた野菜を全て切り刻み終えた内原は、大きめのフライパンを棚から取り出し、リンナイのガスコンロにそれをセットする。
次は普通であれば、フライパンに油を引き、それを熱する手順である。用意した油は、何なのか。味皇が、内原がこれから何をするのか注視していた、刹那。
彼のやった余りの出来事に、思わず椅子から転げ落ちた。
「な、なにィ!?」
そう叫んでから、味皇は立ち上がり、内原の様子を改めて確認する。男がやっている事が、見間違いだと信じたかったのだ。
「ば、馬鹿な!? 油ではなく……、フライパンに『台所洗剤』を引いて熱しているだと!?」
-
そう、引いているものがサラダ油でも天ぷら油でも、『油』であるなら味皇も驚かなかった。
内原が引いたのは、そのどれでもない、台所洗剤……食器を洗浄するのに使う食器用洗剤だったのだ!!
内原の所作に、油と間違えて洗剤を引いてしまった、と言う、ウッカリさは見られない。余りにも諸々の動作が自信で満ち溢れている。
その証拠に、何の迷いもなく内原はガスコンロに火を点火し始めたのである!!
70年以上食に関連する香りを嗅いできた味皇ですら、初めて体験する香りが部屋を支配する。
台所洗剤を熱した際に生じる臭いなど、嗅ぎたくても嗅げるものではないだろう。洗剤が熱される塩梅を見切った内原が、野菜をフライパンに一気にぶち込んで行く。
そして、実に見事な腕前で、フライパン上の野菜を炒めて行く。ああ、その手腕の見事なる事!!
もしも炒めている野菜が極々普通の物で、引いている油が一般的なサラダ油だったのならば、味吉陽一と見事な勝負を繰り広げられたかも知れないのに!!
狂人の料理を、痴呆の老人の如き様相で見つめる味皇。その間、数分は経過していたらしい。
余りにも酷い臭いである。当たり前だ、腐った野菜を洗剤で炒めているのだから、吐き気を催さないそれの筈がない。
味皇は換気する事も、臭いに吐く事も忘れていた。内原の所作に釘付けだったのだ、この男は、本気で料理していたのだ。
「仕上げだ」
言って内原は、食器棚から大きめの皿を取り出し、腐った野菜炒めを盛り付けて行く。
しかし、これだけでは終わらない。内原は学生服のズボンポケットから、長方形の箱を取り出した。それは、紙巻きタバコの紙箱だった。
まさかフカすのか? と味皇は思った。流石にそれは美味な料理不味い料理を作る料理人以前の問題である。調理場でタバコを吸うような人間は、最早料理人に非ず。
内原は紙箱のテープを剥ぎ、ビニールを開封。中からタバコ全てを取り出し、刻んだタバコの葉を包んである巻紙を取り外して行く。
「ま、まさか……!!」
リアクションに疲れてしまい、席に座っていた味皇が、ガタタッ、と立ち上がる。
そして、味皇の思った通りの事を、内原富手夫は実行し始めたのである!!
「た、タバコの葉を……野菜炒めの上にふりかけているだと!?」
何を思ったか、内原富手夫。紙タバコの巻紙を分解して露になった、茶色のタバコ葉を、パラパラと野菜炒めの上に散らし始めたのだ!!
おかかの様に、野菜炒めの上にまぶされて行くタバコの葉。しかし、本当に驚くべき変化は、この後起ったのだ。
「な、ば、馬鹿な!? 何だこの、余りにもかぐわしい香りは!?」
内原が野菜炒めの上にタバコの葉を振りかけ終えたその瞬間だった。
それまで、吐き気を催す様な汚怪な悪臭が一転、芳醇かつ馥郁たる、天国の最中にいるような格調高い芳香に変化し始めたのだ。
信じられない!! あの野菜炒めにタバコの葉をかける事で、如何なる奇跡が、如何なる化学変化が起きたと言うのか!?
生涯の半分以上を料理に費やして来た味皇ですら初めて見る、恐るべき料理形式。恐るべし、イカモノ料理!!
「出来たぜ、爺さん」
コトッ、と、味皇が待機していた机の方へと内原は足を運び、会心の一作を味皇の目の前に置く。
常ならば「うむ」、と大儀そうに言い、そのまま野菜炒めを口に運ぶのであるが、今回ばかりはそうもいかない。
「ほ、本気で言っているのかね富手夫君!! 君は、自分が如何なる料理を作ったのか解っているのかね!?」
思わず口に運んでしまいかねない程の魔力を、目の前の黒々とした、一見すれば焦げて失敗してしまったような野菜炒めは放っていた。
しかしそれを、味皇は数十年来の経験と培ってきた精神性の強さで抑え、先ず内原に文句を言い放った。
「イカモノ料理を望んだのはアンタだぜ? 野菜炒めはイカモノ料理においても基本なのは事実だ。その基本中の基本に、ぼくが今持つ全ての技術を詰め込んだ」
「だからと言って、洗剤で炒めるなどあるか!! 愚か者!! これは料理ですらない!!」
其処まで言い切った瞬間、グワッ、と言う効果音でも浮かび上がりそうな程の勢いで内原は目を見開き、ダァンッ!! と机をぶっ叩いた。
信じられない力だ。この優男風の外見の男に、どれだけの力があると言うのか。机が叩いた所から、破断しそうな程の凄い力であった。
「爺さん。アンタ、ぼくが料理を作る過程をしっかりと見てたよな?」
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ギラリ、と、瞳の中に短剣でも隠し持っているのではないかと疑ってしまう程鋭い眼光を宿した目で、内原は言った。
圧倒的な迫力が孕まれた、物質的圧力すら伴った重い声である。二十歳にも満たない若造の、鬼気迫る態度に、味皇は思わずたじろいだ。
「見てたなら、解るだろ。ぼくが手を抜いて……アンタに不味い料理を喰わせる為にふざけてたように見えたかよ?」
普通ならば、見えたに決まっていると答える所であろう。味皇は、答えに窮した。
見えなかったのだ。この村田源二郎に不味い料理を喰わせてやろうと、陥れているように、映らなかった。
1000を超え、2000人にも届こうかと言う程の料理人を生涯で目の当たりにして来た味皇には解る。
その人物が、本気で料理に取り組み、本気で人に美味しい料理を食べさせるつもりなのだろうかと言う心意気が、その調理の過程を見れば解るのだ。
この男は、真面目に、味皇こと村田源二郎を喜ばせる料理を作ろうと、本気で取り組んでいた。
味皇は今でも鮮明に思い出せる。網膜に刻み込まれてしまった。内原の、神の手の残像を追っているかのような、華麗な包丁捌きと炒めの技を!!
内原富手夫は、その調理技術だけで言ったら、間違いなく、味皇が今まで見て来た料理人の中でもトップクラスに位置する人物だろう。
だが、それでも――――――――――
「食べられん!!」
……食べられる筈がないのであった。油の代わりに洗剤を引いて炒め、タバコの葉を振りかけた野菜炒めである。
全部食べきってしまえば死ぬどころか、そもそも口に入れた瞬間、脳が危険信号を発し、意思に反して吐きだしてしまう事は必定だろう。
「爺さん、人が作った物を一口も食べずに、って言うのは失礼だろうよ。どんな高慢チキな奴らだって、最低でも1口は口へ運ぶもんだぜ?」
「……富手夫君。私の方から逆に聞きたいが、君はこの料理を食べられるのかね?」
上手い事を言ったと考える味皇。味皇が今まで見て来た料理人は、全員が卓越した腕前の人物だけと言う訳ではない。
平凡な腕前を持った者、余り美味い料理を作れない者、ひどくマズい料理を作る者など、種々様々だった。
マズい料理を作る人間の特徴と言うのは、大抵は決まっている。それらの人物は、『味見』をしない、或いはそれが甘いのである。
味見は料理の基本中の基本である。料理は生き物、その日の料理人のコンディションや食材の微妙な具合の違いなどで、味に違いが出る事などザラだ。
だから彼らは、味見を欠かさない。味皇及び味皇料理会の一員が、人に料理を教え、その中にマズい料理を作る人物がいた場合、先ず真っ先に確認する事が、味見の有無だ。
其処で気付かせるのだ。自分の料理の何がダメなのかを。そして其処から、まともな料理人の道を歩ませると言う訳だ。この試みは今の所、外れがない。
此処で、内原が、このイカモノ料理を口に運べなかったら、この勝負は自分の勝ち。
運んで普通に口にしたら富手夫君の――其処まで考えた時だった。内原は箸を棚から取り出し、大きく野菜炒めを摘まみ、それを口へと運び、咀嚼。飲み込んだ。
「自分が作った料理だぜ。自分でマズくて食えないような料理を、他人に提供する何て失礼な真似出来るかよ」
実に御尤もな意見を口にして、勝ち誇ったように内原が言った。
……最早覚悟を決めるしか、味皇には無かった。今年で齢74にはなろうか。既に涙腺は枯れたかと思ったが、この年になっても涙とは出てしまいかねない物らしい。
恐る恐る野菜炒めを箸で摘まみ、ゆっくりとそれを口に運んで行く。痴呆老人の食事のような、油の切れたロボットのような動作であった。
ままよ、とでも言わんばかりに、味皇がそれを口に運ぶ。恐ろしい味を覚悟して、固く閉じられていた味皇の瞼が、カッと見開かれた。
-
「こ……これは……ッ!?」
ニヤリ、と内原が笑った。
「う、美味い!! 何だこの味は!? 元が腐っていた野菜とは思えない、何故だ、何故こんなにも美味いのだ!?」
最初にこの野菜炒めに抱いていた恐れは、どこへやら。
大好物の物を口にヒョイヒョイと運んで行く子供の様に、味皇は内原作のイカモノ料理を口にして行く。
「そ、そうか、解ったぞ富手夫君!! 洗剤だな? あの洗剤と一緒に炒める事で、野菜の腐った味を吹っ飛ばし、清潔にしたのだな!?」
「御名答」
推測が合ってるかどうか確認するべく顔を向けてきた味皇に対し、内原はすぐに答えた。
見る目あるぜアンタ、とでも言いたそうな、実に良い笑みだった。
「素晴らしい……この年になるまで、さまざまな油を用いた料理を口にしてきたが、中性洗剤がこんなにも美味しい食材だったとは!!」
「そして何よりも――」、と味皇は更に言葉を続ける。
「この振りかけたタバコの葉が素晴らしい!! タバコの葉に含まれるニコチンが、この野菜炒めに独特の、野菜由来の物とは違う苦みを演出している!! 何たる料理……コレが、コレがイカモノ料理なのか、富手夫君!?」
「その片鱗に過ぎないさ、爺さん。料理道に終わりはない。ぼくはイカモノ料理の天才だ。インスピレーションが湧いてきて湧いて来て仕方がない。
今でも発想が湧いてくるぐらいさ。爺さん……ぼくは、『聖杯』を料理したい」
「なんと!?」
これには流石の味皇も驚いた。
万能の願望器である聖杯に願いを叶えて貰うでもなく、聖杯戦争の根源とも言える聖杯を破壊するのでもない。
その聖杯を『料理』するのである。馬鹿な話である。杯と言う名前が付く以上それは器物であり、料理に使う食器の類に使うのならばまだしも、料理する、だ。
凡そ此処まで馬鹿げた話はあるまい。しかし、内原富手夫ならば……? 中性洗剤を此処まで見事に調理するこの男ならば?
ひょっとしたら、天上の美味を構築出来るのではないか!? 味皇は、高速でそんな結論を弾きだした。
「解った、富手夫君!! 君と私にどれ程の事が出来るか解らん。しかし、出来るのならば、一緒に勝ち残ろう!! そして、聖杯を手に入れよう。それで――」
「解ってるさ爺さん。ぼくの聖杯料理を最初で最後に味わうのは、アンタだ」
「うむ、期待しているぞ、富手夫君!!」
力強く肯んじながら、味皇は内原の事をじっと見つめた。内原もまた、味皇の事を見つめ返した。
……ところで、料理を一口食べた瞬間、味皇の双眸に狂気の色が宿された事に、味皇本人も内原富手夫本人も気付いていなかった。
村田源二郎、『精神汚染:E』、取得
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【クラス】
ビザールコック
【真名】
内原富手夫@妖神グルメ
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力C 幸運A+++ 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
料理作成(イカモノ):EX
料理人としての腕前。食材を加工し、美味なる料理を作成出来るかと言うスキル。
ビザールコックはゴキブリやタランチュラ、マムシやアオダイショウ、ハブと言った、人間が生理的嫌悪感を抱く生き物や、機械油や中性洗剤、
果ては人間が直接経口摂取したら即死に至る量のニコチンなどと言った人体にとって有害な代物を、美味しい料理へと昇華させる『イカモノ料理』のプロ。
ランクEXは料理の域を超えて最早魔法の領域であり、ビザールコックは生前その料理の腕を以て3柱の邪神を退けている。
【保有スキル】
星の開拓者:E+++
人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。 あらゆる難航、難行が“不可能なまま”“実現可能な出来事”になる。
生前深き者どもやインスマウス人が崇拝する海魔[]ゴンを海底に封印し、現世に召喚された全にして一なる門たる妖神███・ソトー■を
行動不能にした後で元の次元に叩き返し、古代都市ルル████と共に海上に浮上、復活した邪神□トゥ□ーの心臓を暴いてそれを料理したビザールコックのスキルランクは、
本来的にはこの程度のランクに収まる事など絶対にありえない、紛う事なき世界の救世主なのだが、彼の偉業を知る人物が余りにも少ない為、このランクに劣化している。
対毒物:D
幼少の頃より毒蛇や毒草を食べ、毒に対する免疫をつけている。これも、イカモノ料理人に必要な素質だからである
大抵の生物毒や科学毒を無効化、或いは、効き目を普通よりも落とす事が出来る。
陣地作成:D
本職の魔術師ではないが、自らの調理活動を円滑に進める場を用意できる。
ビザールコックの場合は、イカモノ料理を調理する事の出来る調理場を形成可能。通常のキッチンでも代用可。
無気力:D(-)
マイナススキル。何にしてもやる気がない。自らの命の危機に瀕した時ですら、「ヤバいなあ」と思う程度で、対処に移る事は非常に少ない。
しかし、イカモノ料理に関わる事象と遭遇した時にのみ、このスキルは一時的に消滅。カリスマイカモノ料理人としての側面を見せつける。
外道の知識:D+++
一般人であれば即座に気が触れ、その道に通暁した魔術師ですら正気を保つ事の難しい冒涜的な知識の数々。
ビザールコックの外道の知識の総量と正確性は、他者から聞いた又聞きのそれの為大した事はないが、生前3柱の邪神達の現界した瞬間を目の当りにし、
その姿を目にしてもなお正気を保っていた事から、規格外の精神耐性と正気の維持能力を持つ。
化身:E-
何らかの神の化身であるかどうか。このランクであれば、該当する神の化身である可能性が、ひょっとしたらあるかもしれない、と疑われる程度。
ビザールコックが神の化身か否か、その真実は彼のみが知る。余談であるがビザールコックの真名の読みは、『ないはらふてお』である。
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【宝具】
『食のちからを、人のちからに(妖神グルメ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
ビザールコックの誇る『イカモノ料理』の腕前が、宝具となったもの。
イカモノ料理の定義は不明であるが、ビザールコックによれば、『必要であればゴミ箱の腐った野菜や野良犬のかじった骨、食いかけのタクアンからでも、天上の美味を構築しなくてはならない』料理体系、それがイカモノ料理であるのだと言う。ビザールコックは自らが作り上げる料理に、決して一般人が想起するところの肉類や野菜、フルーツを使う事はなく、一般人が見たら嫌悪感しか抱かないような、
毒蛇や昆虫類、果ては少量摂取しただけで確実に死に至るような劇薬やそもそも食器洗い用の中性洗剤などと言った、決して料理には使わない物を使用する。
それなのに、何故か、ビザールコックの創る料理は、人間が食しても、人間を遥かに超越した超上位次元の存在や、オーストラリア近辺の海溝に眠る烏賊の邪神が食しても、
余りの美味さに我を忘れる程に、『美味い』のである。必要な材料さえ揃えば全ステータスをランクアップさせる料理や、逆にランクダウンさせる料理も作成可能であるし、
状態異常や精神状態すらも回復させたりそれらを引き起こしたり出来る料理、狙った食中毒を意図的に引き起こす、果ては相手を『殺す』料理も作成可能。
ただし、料理は人を満足させる物でなければならないと言う理念から、ビザールコックもまた外れていない、れきとした料理人である為、意図的に殺したり、
食中毒を引き起こさせたりすると言った手合いの料理は、余程彼が頭に来ていないか、令呪で使って命令でもさせない限りは、作る事はない。
また、正気度を喪失し、正気を保てなくなった人物を平常に戻す料理も作成可能ではあるが、それを作るには、
ビザールコックがそう言う料理を作ると心に決めていなければならず、何も考えずにイカモノ料理を作り、その料理を食した場合には、即座に『精神汚染:E』スキルを取得する。
【weapon】
【人物背景】
東京都内の某高校に通っている、極々普通の高校生。と言うのは仮の姿。その正体は若き天才『イカモノ料理人』。
平時は、自分の命の危機すらもどうでも良いと思っている程に無気力な青年であるが、イカモノ料理に関わる事象が巻き起こると、一度真面目な性格と、高校生とは思えない精神力の強さを発揮。
普段の気の抜けた空気とは真逆の、大の大人や訓練された軍人たち、果ては人間以外の、インスマウス人や深き者共ですら気圧する程の威圧感を放出する。
嘗て、アブドゥル・アルハズレットと呼ばれる男とその一派が画策していた、汚怪都市ルル████に眠る邪神・□トゥ□ー復活計画と、
それを阻止する合衆国軍による熾烈な戦いの中心人物。アルハズレットによる邪神復活計画には内原のイカモノ料理の腕が必要で、
アメリカ軍の側には、地球を破壊させない為にも、内原には料理の腕を振わせないよう内原がルル████に足を運ぶ事を断固として阻止する必要があった
しかしアメリカの計画も虚しく、内原は汚怪都市の最奥に行き、邪神復活の儀式を執り行うべく料理を振る舞おうとするのだが、その料理には『□トゥ□ー』の心臓が必要であると言い……。
その後内原は、□トゥ□ーによって差し出された邪神の心臓を料理、彼の鎗烏賊の邪神にその心臓料理を振る舞い、彼を心の底まで満足させ、次の復活の機会まで封印させてしまうのだった。
『ないはらふてお』、と言う名前から、その正体が千の貌を持つあの邪神、ニャル██ト██████ではないのかと疑われているが、詳細は不明である……。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯を料理する
【方針】
爺さんの様子おかしくなっちゃったしなぁ……どうすっかなぁ
-
【マスター】
味皇(本名:村田源二郎)@ミスター味っ子
【マスターとしての願い】
内原に聖杯料理を振る舞って貰う。
【weapon】
【能力・技能】
料理の技能:
聖杯戦争に参加した時点での時間軸ではまだ明らかになっていないが、実は味皇自身、日本全土を見渡しても最高クラスの料理人である。
その腕前の程は、今まで日本に居た様々な料理人が彼に挑み、その全てを挑戦者側の完敗に終わらせてきた程。
日本の料理界の頂点に立つ、味皇グループの総帥と言う地位は、決して飾りでも何でもない。
精神汚染:E
ビザールコックの料理を食して早速取得してしまった。主に料理に関する価値観がかなり崩れて来ている。
【人物背景】
日本の料理界においてトップに位置する組織、味皇料理会の総統。当料理会の創始者であり、以降30年以上にも渡り日本料理界の顔として君臨している。
料理の味に対しては非常に厳しく、一切の妥協も許さないが、その一方で、真面目でその道に対して必死に取り組んでいる料理人には厳しくも愛情を以て接し、
彼らを育てようとサポートする。そのサポートには人種や年齢などは一切関係なく、同じ料理に奉仕する者として敬う。
その人柄から、数多くの料理人や市場関係者から絶大な敬愛を受けており、そのカリスマ性は非常に高い。
一方で自らの料理の腕前は、日本国の中でも最上級のそれであり、生半な腕前では到底太刀打ち出来ない程高い。
アニメ版ではサーヴァントとして呼ばれかねない程の凄まじいオーバーリアクションを見せる事があったが、今回は漫画版、第2回味皇GPから時を置いてからの参戦である。
【方針】
聖杯戦争を勝ち残り、聖杯料理を食べたい。
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投下を終了いたします
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投下します。
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合衆国はマサチューセッツ州に立つ地方都市『アーカム』。
貧富とインフラの格差は地区によってまちまちだが、
ここ『イーストタウン』においてははっきりと「貧」の雰囲気で保たれ固定している。
塗装は何十年も前から手つかずで久しく地面の罅割れは蜘蛛の巣のように網目を張っている。
時間は止まったわけでもなく、ただ風化するばかりの寂れた区画。
「うおおおおおおおおおおおおおおお―――!」
そんな取り残された世界の路地裏で大声を散らす男。
大十字九郎はただ今、路地裏の一本道を全力疾走していた。
走る。駆ける。疾走する。
肺に酸素が行き渡らず裂けるような胸の苦しみを押し殺して。
休みなく上下させられて、いい加減脳に反逆しようとする脚を黙らせて。
勢いよく踏みつけた水溜まりがズボンに汚い模様を着けようとも構わず走り続ける。
速度も、距離も、走っている時間も。
どれも、とても常人とは思えない新記録のオンパレードだ。
精神が肉体を凌駕する。人間の底力とはここまで果てしないものなのか。
その先に何があるというのか。
それほどまでに魂を猛らせる源泉とは何なのか。
男の少し前を進んでいる黒い影。
それは、
生の魚を口に咥える、黒色の毛並をした猫だった。
「待てええええええ!逃げるでない俺の晩飯いいいいいい!」
その形相は鬼か悪魔か。
顔面を憤怒に支配された九郎は、天の恵みを奪う狼藉者に鉄槌を下すべく追跡する。
たかが魚一匹に悪鬼と化す様は情けない事この上ないが、男とて譲れぬ事情がある。
何せこの大十字九郎、金が無い。
つまり食事も碌に買えない。この残飯(めし)を逃せば後は塩と酒のみでしか生きていけぬ身。
知り合いの漁師からおこぼれに預かった一匹の魚はまさに明日を生きる最後の希望。
美しい未来を思えばこの程度の無様など何するものぞ。今日よりも明日なのだ。
そして九郎の獲物(ターゲット)は黒猫も含まれる。
誤解無きよう説明するが、あれこそは九郎が勤める探偵事務所唯一の依頼対象。
さる夫人―――の十歳以下のいたいけな娘の屋敷より抜け出し捜索願いが出されていた飼い猫だ。
忌々しき泥棒猫は九郎に金をもたらす招き猫でもある。
奪われた魚も取り戻せれば、イーブンどころかお釣りが出る。借りた七輪で焼いて食おうとしたのは間違っちゃいなかった。
故に。空腹の身に鞭打ち残りの生命力の全てをこの走りに捧げる。
これで終わってもいい。だから、ありったけをッ!!!
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だが、黒猫とて明日への糧を手にする権利はある。
黙って捕まり九郎の腹の肥やしになる気は毛頭なかった。
人語を解せぬ畜生でも、危険の信号を理解する知能は持ち合わせている。
本能と呼ばれるそれは、迫りくる対象を「捕食者」と認識して生存本能に火を付けた。
両脇を塞ぐ住宅の壁の一部に生じた空白。
猫は意を決し、空白に飛び込んだ。
落ちる矮躯の先には水の絨毯。
街中を流れる下水道に繋がっている。
これこそ野生が生んだ逃走経路だ。
「ぬうううおおおりゃああああああああああ――――――――!!」
その陥落に、九郎は足を止める動作を一切しないまま躊躇なく飛び込んだ。
例えうだつのあがらなくても、彼は探偵。
一帯の地図の見取り図など頭脳に叩き込んである。
更に、散々逃げられた苦渋は対象の行動パターンを予測する材料と変わっている。
ここに追い込んだ時点で、勝利の方程式は出来上がっている!
虚空に浮かぶ一人と一匹。
猫はもがき、男は足掻く。
そこに差は歴然となり。
降下(ダイブ)、&確保(キャッチ)。
「レパードちゃん、とったどおおおおおおおおおおおおッッッ!!」
アーカム在住私立探偵、大十字九郎。
本日の依頼(ミッション)―――無事に完了(コンプリート)。
◆ ◆ ◆
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「ここで会ったが百年目え!今からお前は俺の朝餉のジャム(いちご味)になるのだあ――――っ!」
……再度訂正するが、男の発言の意味は
『迷い猫を確保→依頼達成→報酬ウマー→パンに塗るジャムを買える』
という正しい論理的帰結からくるものであり、決して生きた猫を鍋に入れて喰う、などといった
『いくら赤貧だからって社会に生きる人としてそれはどうなのよ?』という真似に及ぼうとしているわけではないことを、
ここに表明しておく。
飯の種ではあるが猫を飯にするわけがない。そんな真似は『二度と』御免なのだ。
だが、黒猫とて明日への糧を手にする権利はある。
黙って捕まり九郎の腹の肥やしになる気は毛頭なかった。
人語を解せぬ畜生でも、危険の信号を理解する知能は持ち合わせている。
本能と呼ばれるそれは、迫りくる対象を「捕食者」と認識して生存本能に火を付けた。
両脇を塞ぐ住宅の壁の一部に生じた空白。
猫は意を決し、空白に飛び込んだ。
落ちる矮躯の先には水の絨毯。
街中を流れる下水道に繋がっている。
これこそ野生が生んだ逃走経路だ。
「ぬうううおおおりゃああああああああああ――――――――!!」
その陥落に、九郎は足を止める動作を一切しないまま躊躇なく飛び込んだ。
例えうだつのあがらなくても、彼は探偵。
一帯の地図の見取り図など頭脳に叩き込んである。
更に、散々逃げられた苦渋は対象の行動パターンを予測する材料と変わっている。
ここに追い込んだ時点で、勝利の方程式は出来上がっている!
虚空に浮かぶ一人と一匹。
猫はもがき、男は足掻く。
そこに差は歴然となり。
降下(ダイブ)、&確保(キャッチ)。
「レパードちゃん、とったどおおおおおおおおおおおおッッッ!!」
アーカム在住私立探偵、大十字九郎。
本日の依頼(ミッション)―――無事に完了(コンプリート)。
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◆ ◆ ◆
その依頼は唐突にやってきた。
探偵への依頼など大抵は突然なものだが、今回のそれは一際脈絡のない内容だった。
魔術理論の最先端。人類の繁栄の再頂点。
一部の特権者が握るのみだった魔術実社会に普遍化するまで進んだ科学の時代。
巨大財閥の投資によって田舎町から合衆国にある世界の中心と呼ぶべき大都市、アーカムシティ。
そこに在住する一般(?)市民、事務所は電気もガスも水道も止められている瀬戸際の私立探偵、
大十字九郎に一か月ぶりの仕事の依頼が舞い来んできた。
"報酬は問いません。我が祖に伝わるこの鍵に合う"孔"を捜してもらいたいのです"
名前は伏せさせて欲しいと言った、紫の長髪をまとめた年若い女性は鈍く光る銀色の鍵、
札束の詰まったアタッシュケースを差し出した。
何でもこの鍵は彼女の祖先が遺していった形見の一つで、長年死蔵されていたものを発見、
だが肝心の"鍵を刺すべきもの"が家で見つからず、鍵屋から玩具屋まで回っても何に使う鍵なのか分からない。
分かったのはただ一つ、これが"魔術に関わるもの"というだけ。
知己を頼ってるうちに自分の来歴―――魔術を学んでいたという情報を掴み、ここに頼りに来たという。
魔術。
それは九郎の人生を狂わせたもの。
おぞましき知識で、ろくでもない内容で、関わるもの全てをどうにかしてしまう禁断の箱。
今でこそ科学と並び流通しているが、そこには手を伸ばしてはいけない"深み"の領域がある。
この鍵がそこに通じていないとは限らない。
しかし外道の知識の集大成―――魔導書のような品でない限りはまだ安全な可能性もある。
だったら先祖の思い出が何なのか調べるくらいはいいかもしれない、とも思った。
というか札束を見せられてから0.2秒で快諾してしまったので、後の祭りというやつだった。
ともあれ引き受けてしまった以上はきっちりとこなすしかない。
手がかりは鍵という現物。古い骨董屋等を当たっていけば見つかるかもしれない。
そしてもう一つ。鍵をかけた物の名称らしき単語だ。
それだけあって見つけられないものかと怪訝に思いながらも、黙って少女の声を耳に入れた。
"――――――――――――■■メ■。"
◆ ◆ ◆
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結果として、やっぱりろくでもないものだった。
それも最低、最鬱、さらに最悪の部類でだ。
まずアーカムシティから一時代程逆行した都市に突如として飛ばされた事が最低。
歴史で名を挙げた英雄の魂―――それこそ魔導書そのものを呼び寄せるという事が最鬱。
そして数十人規模で一人になるまで殺し合えという事が最悪だった。
どうしてこうなったのか。
古書店を回ってる中で『偶々』女店主が持っていた書物を勧めてきて、
その本に『偶々』鍵がかかっていて中身が読めない仕組みになっていて、
物は試しと例の鍵を冗談で刺したら信じられない事にピッタリと孔に吸い込まれて、
まるで鍵がひとりでに動いたみたいに孔を回して、気付いたらここだ。
帰れたら真っ先に依頼主に文句を言ってやりたいところだ。
……いや、逆にあの娘がこんな事に巻き込まれなかったのに安堵するべきなのか。
魔術を齧っただけの半端者ですら吐き気がこみ上げている。常人なんかがいたら一瞬で廃人コースまっしぐらだ。
「いて、いてててっあんま暴れんなよそんなに。
家でミルク……じゃなくて水……もないな。
…………布で拭くぐらいはしてやるからさ」
ずぶぬれの全身で、腕の中で暴れる押さえつける。
何もわざわざこっちでも貧乏にすることはなといのに。
おかげで戦争そっちのけでその日の生活費を稼ぐ事から始めなくてはならないのだ。
この舞台を設定した主催者サマよ。
自分、拳いいっすか?。
「くそう、せめて財布にもう少し現金詰めておけばよかった……」
現地の我が家である事務所(ご丁寧にボロっぷりまで再現してある)に到着する。
気が重いのは始まる戦争に滅入っているから。というわけでもない。
むしろその段階にすらいってない事が殊更頭を悩ませている。
事務所に住む同居人。即ちサーヴァントと呼ばれる英霊の存在。
聖杯がどうとかよりも、まず目先の問題の方がずっと厄介だった。
「帰ったぞーアーチャー、電話番ぐらいきちっとしてたろうなー。
まあそもそもうちの電話が一か月以内に二度鳴った試しなんかな―――」
「『Devil May Cry』―――あぁ、仕事の依頼?
悪いが今日は休業だ。他をあたりな。
ならいつやってるか?うちの主義は週休六日だ。なんであと五日は看板だぜ。そん時よろしくドーゾ」
「アンタ何やってるンですのゥ―――――――っ!?」
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今まさに奇跡の月二の依頼がかかった受話器を、投げて電源を落とした男に盛大に突っ込んだ。
「ようクロウ。相変わらず喧しい声だな」
HAHAHA!と陽気なアメリカンスマイル(アメリカ人かは知らん)をかましつつ、
部屋で唯一まともな調度品の机に両脚をのっけて踏ん反りがえってる、銀髪の半裸男。
鍛え上げられた身体は鋼の如く硬く、鋭い。
人間の体では到達実現出来ない密度の筋肉が詰まっている。
その内側からは、燃え盛る炎のように込み上げてくる膨大な魔力の熱気。
気を張っていなければ、飛び火して一瞬で魂ごと焦熱してしまう程、圧倒的に濃い。
目にするだけで理解する。
こいつと俺の格差。いや、魔術師と英霊の格差。
魔導書を読み解き外法の知識を紐解いたけの人間など、正真の怪物には紙を裂く軽さで消し飛ばせる砂粒でしかない。
人の形をしていながら、人の領域を超えたもの。
それこそがサーヴァント。クラス・アーチャー。
大十字九郎の聖杯戦争の剣となる、射撃手の英霊だった。
「よう、じゃねえよ!何爽やかスマイルで決めてんだ!
ていうか何でピザとか食ってんの!?お前金持ってたっけ!?
まさか英霊サマともあろうものが食い逃げとかしたんじゃないだろうな……!」
「HA!ナメてくれるじゃねえか。そこまで落ちた覚えはねえぜ。
出前で頼んで、時計の裏に置いてあった金でしっかり払ったに決まってんだろ」
「それは隠したっていうんですよオオオン!?」
信じられない。
非常時―――本当に食うものが無くなった場合―――に厳重に封じていたヘソクリをかっぱらったというのだ。
英雄っていうなら普通、鎧着た品行方正な騎士で『あなたが私のマスターか?』、なのじゃないのか?
尊大で傲岸極まった態度は、英霊というよりどっちかというとチンピラの類じみている。
仮にも英霊。実力の差など試すまでもなく分かってる。
だが、かといってここまでされて黙ったままでいられようか―――いやない!
戦力差など先刻承知。
正しき怒りを胸に激しく食って掛かる。
「ええいいいから言え!さっきのは誰からの電話だ!どんな依頼だった!
俺のジャムトースト何枚分だああだだだだだだだだあああああーーーッッ!!?」」
無数のガラスの破片が刺さったような激痛が両手に起きる。
原因は無事確保した筈のレパード(猫)。
ちょっと爪で引っ掻いて痛いで済んでいた今までとは違う。
これはもう刺突、爪で直接ブッ刺している!
余りにも埒外の激痛で思わず掴んでいた手を離してしまう。
「おっと」
空中に放られたところを、アーチャーは指でつまみ上げられるレパード。
途端、壊れた目覚まし同然の悲鳴。
口角に泡をつけながらも絶叫する。
明らかに狂乱していた。
知性が薄い動物ですら、英霊の気に怯えている。
強大な魔力に直接当てられたことで本能が過剰に刺激されているのだ。
「恐がるなよ。取って食ったりなんかしねえよ。コイツじゃあるまいし」
「お前に怯えてんだよ!あともう食うつもりもねえ!」
食ったのは否定しないのかよと、軽く引いたアーチャーから猫をひったくり、脱いだ上着を覆い被せる。
これなら引っ掻かれる事もないし、アーチャーも見えなくなる。
しかし、ヤバイ。
ヤバすぎる。
このまま狂死させたら報酬どころか逆に賠償請求だ。ブタ箱行き待ったなしだ。
ともかくここにはいられない。
アーチャー(こいつ)の気配が感じられなくなるまで遠くに移動しなければ……!
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「待ちな、マスター。
出る前に聞いておきたい事がある」
「後だ!この仔を落ち着けて依頼主に届けてからゆっくり聞いて―――」
「サーヴァントが揃ってきてるのが感じる。
そろそろ始まるぜ。聖杯戦争が」
その言葉を聞いて。
先を急き立てる心臓の早鐘が、ピタリと治まった。
「最初に聞いた時は、『願いなんざねえ、とにかく帰りたい』とか言ってたっけな。
今になってからもう一度聞くぜ。クロウ、お前はここで、何をする?」
アーチャーの声は何でもない、いつもの口調だ。
だがそこにほんの僅かばかりの気が入るだけで、こんなにも重みが増している。
何をするのか。
それはずっと心の中で定まる事なくゆらゆらとしていたものだった。
叶えたい願いなんて、今でもない。
欲しいものはそりゃあるが、人を殺してまでかと問われれば、やっぱり首を横に振るだろう。
金とか食い物とか住居とか、そういうのは生きるのに必要なものだ。
……まあ要するに、情けなさでしかない。
他人を理不尽に踏みにじって得たもので飯を食えるような人生を、自分は許容出来ないだけだ。
「―――望みなんざ、今でもねえよ。
早く帰りたいってのも変わっちゃいねえ。いい加減ライカさんのメシも恋しいんだ」
けれど。
ああ、けれど――――――。
「けど――――――この場所で誰かが泣いていて。何もかも奪われようとする人がいて。
そいつらを嗤いながら殺そうとする奴がいるなら。誰も彼もを殺し合わせようとする奴がいるなら」
きっと、命(それ)を見捨てる事が出来ない。
邪悪(それ)を許す事が出来ない。
それは、あまりにも現状を知らな過ぎる、恥知らずな言葉だ。
だってこの身は強くなんかない。魔術を知っているだけの、ただの人間でしかない。
正義の味方でもヒーローでも、勿論英雄なんかでもない。神様に抗う力なんて有るわけもない。
戦う力など皆無。あったとしても雨の一滴よりも小さな微力。
ああ、分かってる。分かっているんだ。
逃げればいい。捨て去ればいい。責任なんかまったくない。
もっと強くて相応しい、本物のヒーローみたいな奴はきっといる。
そいつに何もかも任せてしまえば万事解決だ。
ああ、何て愚かなんだろう。
……そんな当たり前を、自分自身が許せないなんて。
「俺は、正義の味方になりたい」
……扉を思いっきり蹴って開けて外に出る。
かっこつけた台詞をかました羞恥心とか馬鹿らしさとかその辺を投げ捨ててひた走る。
見上げたアーカムの空は、陽も見えない厚い雲で覆われていた。
◆ ◆ ◆
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「―――それだけ啖呵を切れれば上等だな」
無人になった事務所で、一人納得する。
アーチャーの顔は満足げに緩んでいた。
アーチャーにも、聖杯に託す望みなどない。
やり残した無念も叶えたい願も、とうに品切れだ。
それでも召喚に応じたのは、聖杯戦争には用があったからだ。
英霊の座からすらも届いた悪臭。
人の悲鳴と怪物の嘲笑しか聞こえない街。
そんなものが世に表れた事に、どうしようもなく怒りが沸いたのだ。
だからアーチャーはここにいる。
誇りある魔剣士と同じように、邪悪渦巻く聖杯戦争という存在そのものを封じる為に。
「いいぜマスター、その線に乗ってやるよ。
悪魔でも天使でもカミサマでも、まとめてかかって来な」
ハンガーにかかった赤いジャケットを素肌の上から羽織り、立ち上がる。
腰には白黒の双銃。
背には銀色の刃金をした大剣。
魂には―――父の誇り。
これがアーチャーのサーヴァント――――伝説のデビルハンター、ダンテの装束。
剣の柄を握り、やたらめったらに振り回す。
乱雑でありながら閃は全て過たず、木製のテーブルに文字を刻み付ける。
「臨時の看板にはこんなもんでいいだろう」
『Devil May Cry』
さあ悪魔よ。糞尿と血の詰まった怪物(けもの)共よ。
後悔と絶望の協奏曲を奏でよ。
涙無き貴様らに、次の夜は亡い。
イカれたパーティの始まりだ!
「This party's getting crazy!」
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【出展】
Devil may cry3
【CLASS】
アーチャー
【真名】
ダンテ
【ステータス】
筋力B 耐久A+ 敏捷B 魔力A 幸運E 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
半人半魔:B
神ではなく、悪魔との混血度を表す。
伝説と謳われる魔剣士と人間の女性との間に生まれた双子の兄。
体のつくりが人間と異なるため、人間では致命傷となるような傷でも死に至ることがなく、治癒力も高い。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
スタイルチェンジ:A+
数多の武器を使い、数多の戦い方で敵を倒した技巧の冴え。
戦闘中に自由に戦法(スタイル)を変更し、それに対応したスキルを獲得できる。
該当するスキルは勇猛、千里眼、仕切り直し、見切り等。
【宝具】
『奴原よ泣き叫べ、空に夜に響き渡れ(Devil May Cry)』
ランク:A++ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
クール&スタイリッシュ、悪魔も泣き出す男の伝説の具現。
敵を斬る度、魔を掃う度に魔力が蓄積され、ダンテの能力を底上げする。
蓄積量には独自のランクが設定され、ランクが上がる度に能力も増していく。
一回一体では微々たるものだが、連続して無数の敵を倒していけばその力は果てしないものとなる。
最大限溜め込めれば、やがて肉体を悪魔の姿に変える「魔人化」が解禁される。
肉体ブースト以外に一撃に全魔力を注いだり、他の宝具の出力(ランクアップ)に転用も可能。
『魂よ誇れ白銀の魔刃(Rebelion Of Spada)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
父から受け継いだ銀の大剣。
悪魔の手に握られながら無数の悪魔を屠ってきた対魔に特化した宝具。
ダンテの魔力の受け皿でありその力を存分に行使させる、魔を断つ剣。
『泪無き世界よ、終幕の鐘だ(Devils Never Cry)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1人
魔帝を始めとする仇敵の止めに下された銃撃(ラストショット)。
解放された『Ebony & Ivory』の銃弾を受けてHPがゼロになった相手は
あらゆる再生も蘇生も機能せずそのまま死に至る。
因果改変による回避すら許さない、物語を締め括る終わりの一撃(デウスエクスマキナ)。
悪魔、それに類する種族であればダメージは倍増(クリティカル)となる。
撃つ際の決め台詞は、『Jack Pot!』」。
【weapon】
『Ebony & Ivory』
ダンテのためだけに制作された二丁拳銃。リベリオンに並ぶダンテのトレードマーク。
速射性重視のアイボリー(白)と精密性重視のエボニー(黒)。宝具としてのランクはC-に収まる。
コルトガバメントをベースに、ダンテの超人的連射速度に耐えられるべく魔改造されている。
『アミュレット』
母エヴァの形見でもあるアミュレット。
これ自体に特殊な力はないが、兄の持つ片割れのアミュレットとを合わせると
父スパーダの名を冠する最強の魔剣を手にするための鍵となる。
【人物背景】
悪魔も泣き出す男。涙を流せる悪魔。
父の力と誇り、母の血と優しさを受け継いだ銀髪の青年。
表では非合法の便利屋、裏では悪魔退治を請け負うデビルハンター。
魔界の神を封じ、絶望の覇王を滅し、血を分けた実の兄弟と殺し合い、偽りの神の野望を阻み、
それでも永遠に尽きぬ戦いに身を投じ続ける。無二の相棒と共に、魔を討つ剣として。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争を開いた奴を止め、聖杯を封じる。
【基本戦術、方針、運用法】
スキルとステータスのバランスの良さから、あらゆる状況に対応できる万能型。
宝具はどれも対人だが殲滅力自体は極めて高い。
特に相性がいいのは人海戦術を頼みとする相手や、再生力や耐久力が並はずれた相手。
素の実力が高い相手とはガチンコにならざるを得ないが、戦闘経験も豊富なため数値以上の活躍も見込めるだろう。
ちなみにサーヴァントとしての全盛期はフォルトゥナの魔剣教団事変の頃(『4』)だが、
マスターの精神性に合わせて、最も若いテメニングルでの兄との相争った時期(『3』)の姿で現界した。
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【出展】
機神咆哮デモンベイン
【マスター】
大十字九郎
【参戦方法】
依頼にあった銀の鍵を調べる内に『偶然にも』招かれてしまった。
依頼主は「紫の長髪であった」事以外不明である。
【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止めたい。
理不尽な争いで失われる命を見捨てるのは、少しだけ後味が悪い。
それだけしかなく、それだけで十分だった。
【能力・技能】
『魔術師』
ミスカトニック大学でかつて魔術を学んでいたが、あるおぞましい体験により半ばで中退している。
それなりに素質はあるようだが、今の腕では未熟極まりない。
『探偵』
貧乏。タカり。猫を食った事のある男。つまりはそういう職事情である。
ただ探偵としての腕前は悪いわけではない。
【人物背景】
アーカムシティ在住の私立探偵。
魔道の知識はあれど魔術師ではなく、正義の味方でもヒーローでもない。
宇宙を覆す力など持ち合わせてるわけがない、弱い人間だ。
大十字九郎は少しだけ他人より優しい、ただの人間だ。
【方針】
大十字九郎は神などではないので、直接戦うのは望むべくもない。
マスターらしくサーヴァントのサポートに回りつつ、事態を解決すべく奔走していくしかないだろう。
探偵のスキルも上手く使えば有用な情報を得るか情報源にもなる。
気合と根性で神話生物を乗り越えられるなら苦労はない。
だが気合と根性なくしては大十字九郎足り得ないのだ。
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以上で投下終了です。
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ついに貧乏探偵が来ましたね。投下乙です。
こちらも投下させて頂きます。
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両手を、きつく握り締めた。
いつも繋いでいた手。
どうか少しでも、届きますようにと。
―――さよならだねって、最後の言葉
大丈夫だよ、と。美嘉ちゃんが励ましてくれて。
その言葉を示すように、アーニャちゃんは天使のようにきらきら輝いていて。
蘭子ちゃんの表情からも、必死さが伝わってきて。
―――ハローグッバイ、振り向かないように
画面越しに見る『景色』は、ライトブルーの海で満ちていて。
それはきっと。
デビューライブに見た景色とも違っていて。
良かった、と。
心から良かった、と。
言えるはずなのに。
涙が、少しだけ零れた。
停電の影響で、見られることはなかったはずだけれど。
美嘉ちゃんは、ぽんぽんと優しく私の頭を叩いて、部屋を出て行った。
「さ、次は美波ちゃんが身体を治す番。これを飲んで、一度眠ればスッキリですよ」
ちひろさんがカップを持ってきてくれた。
渡されたカップを覗くと、名状しがたい色の液体がなみなみと入っていた。
「え、えと。こ、これを飲むんですか……?」
「ええ。騙されたと思って、グイっと飲んじゃってください」
ちひろさんに促され、もう一度カップを覗く。
コポッと、泡が立ったのが見える。炭酸、なの……?
「さ、頑張って……!」
笑顔で握りこぶしを作るちひろさんに、こちらも無理やり笑顔を作って。
ぐい、と。
その液体を、飲み込んだ。
◆
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ミスカトニック大学。
そこで私はアイドルとしてではなく。一学生としてだけの立場に戻っていた。
夢の中で開いた扉。
神さまは、ここでもう一度自分を見つめ直せ、と言っているのだろうか。
―――私がサマーフェスティバルで倒れてしまったのは。
監督とリーダーとの職務をはき違えたこと。
リーダーは全体の状況把握も大切だけれど、自身がプレイヤーでもあるのだ。
全てを自分で支えようとしたこと。
全体作業量の見極め不足。自身の体調管理不足。自身の基礎体力的不足。精神的タフさの不足。
いくらでも考えられる。
つまるところ、リーダー失格だったのだ。
ここで私はアイドルでないのなら。
基礎体力の構築、精神力の向上、全体を見る目を養うなど、自身の能力をもう一度磨きあげるチャンスなのだ。
聖杯。
何でも願いが叶うという奇跡。
そんなものに、掛けて良い願いなどない。
サマーフェスティバルをやり直したいわけじゃない。
蘭子ちゃんを羨ましいと思ってしまうような、精神的未熟さを。自分自身で克服しなければ。
そして、自分自身の足で立って。
隣に。
アーニャちゃんの隣に、また並べるように。
繋いだ手を放すことの無いように。
そのための、試練なのだ。
広大な敷地を誇るこの大学は、各カレッジスポーツも充実している。
アメリカでは、プロスポーツと同等にカレッジスポーツも国民から注目されているのだという。
このミスカトニック大学は、アイビー・リーグと言われる世界屈指の名門連盟に所属しているのだ。
そしてアイビー・リーガーには、その後の社会での活躍が約束されている。
私が所属するラクロスチームも、例外ではなかった。
日本で所属しているラクロスサークルとは違って、留学をしてまでラクロスを極めようという人間が集まっている。
つまりは、競争の社会。
選手権を目指していない和気藹々とした私のサークルとは、空気そのものが違っていた。
身体能力には自信があったし、アイドルになってからも体力勝負で、レッスンに真面目に打ち込んでもいた。
それでも、レギュラー選手にはなれなかった。
ラクロスならば、自分のプレイヤーとしての体力も、チーム全体を俯瞰するリーダーとしての能力も身に着くだろう。
私はここで、自身を鍛えることを目的にした。
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ラクロスチームの公式練習が終わった後。
私は毎日寄り道をして。ラクロスコートのある公園で、ダッシュとシュート練習を欠かさず行うようにしていた。
今日も公園で自主錬をして。日も落ちてそろそろ練習を切り上げようと思った時。
柄の悪そうな三人の男性が、こちらに近寄ってきた。
「ようジャパニーズのおねえちゃん。ラクロスの練習でもしてるのかい?」
「マジかよ。ゴリラばっかりの競技で、そんな綺麗な顔と身体が勿体ないぜ」
「俺達とラクロスじゃなくて、もっと楽しいコトしようぜ」
口々に好きなことを言いながら寄ってくる三人組。
私を取り囲むように三角形の位置取りをしている。
「……」
私は何も言葉を返さず、ラクロススティックを持ったまま、肩にバッグをかける。
そして。
正面から来る男性に全力でダッシュし、右足を出して右から抜く動作を仕掛ける。
「おっと!」
男が右の方向を防ぐように態勢を変える。
―――かかった!
私は右足を強く踏みしめ、体を捻って左方向に向かって再度ダッシュを掛ける。
スプリットダッジ。
ラクロスにおいて、相手を抜く時の技術のひとつだ。
男性をかわし、成功したかに思えた時。
グイ!と、バッグの端を掴まれてしまった。
「へえ、なかなかやるもんだねえ」
「きゃ!」
そのままバッグごと引っ張られ、お尻から地面に着いてしまう。
「逃げたりしたら俺達傷ついちゃうじゃないの。ほら、楽しいコトしにいこうぜ」
「お、顔を紅潮させて。おねえちゃんも満更じゃないんじゃないの?」
「いや……!!」
カランカランと、スティックが音を立てて落ち。
両方の手首をそれぞれ二人から掴まれ、振り解くことができない。
「別に人通りもないし、ここでヤってほしいんだったら、それでも……」
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正面の男が台詞を言っている途中で。
空気を切り裂くようなスピードで何かが飛んできて、男の頬に当たり。
「ぐぎゃあああああああああああああ!!!!!」
そのまま男の体ごと吹き飛ばした。
今のは……野球のボール?
そう思っていると、手首を掴んでいた男二人にも同じようにボールが飛んできて、
二人を後方へと弾き飛ばした。
「ぐおおおおおおおおお!!!!」
「ぎゃあああああああああ!!!!」
ボールが来た方向に目を向ける。
「ヘッ。ただのキャッチボールだってのに。大の男がだらしねえな」
暗闇から、ガシャンガシャン、と音が近づいてくる。
その人が来る前に、三人組は脱兎の如く逃げだした。
「あ、あの、貴方は……?」
「君の進むべき道を知っている者だ。……なんてな」
ガシャンガシャンと、その人が姿を現す。
身長は2mくらいはあるだろうか。
黒い帽子に茶色の服……服?
左肩には大きなドリルと、大きく「1」と書かれていた。
「助けて頂いてありがとうございます。あの、私は新田美波って言います」
ぺこりと、お辞儀する。
「ああ。
俺の名はゴールドアーム。アイアン・リーガーであり、嬢ちゃんのサーヴァントってやつだな。
詳しくは俺をよく見てみろ」
「は、はい……!」
言われた通り、じーっとゴールドアームさんを見つめる。
すると、能力やスキルといった情報が頭に流れてくる。
-
「ま。多くを語る必要はねえだろう」
そう言うと、彼はラクロスのゴールの前に立つ。
「―――打ってきな」
風が吹き始める。
砂埃が、宙を舞い。
グラウンドを照らすライトが灯し始めた。
私は頷くと。
バッグを置いて、スティックを拾い。再び彼にぺこりと礼をした。
「……美波、行きます!!!」
「来い!!!」
私は後方に一度下がって、全力で走りながらスティックを振り被り、ランニングシュートを放つ。
全霊を込めたそのシュートは、軽々とゴールドアームさんの左手でキャッチされた。
ボールが鋭く投げ返され、私のスティックのクロスにバシン! と突き刺さる。
「構わずどんどん来い!」
「はい!!」
止まった状態からのスタンディングシュート。
ダッジをかけたフェイントシュート。
シュートの打ち方も、オーバー、サイド、アンダーと変えていく。
言うまでもなく、こんな風にラクロスの練習したことはない。
趣味として楽しみ、仲間とのコミュニケーションを楽しむようなところもあった。
でも、今は違う。
胸の奥から、ラクロスをしたい! ラクロスをしたい! と、気持ちが湧き上がってくる。
こんな気持ちは初めて。
「ほう、やるじゃねえか」
もう何百回打っただろうか。
いつの間にか。ボールがネットを揺らしていた。
「や、やった! やりました!」
「フ……中々見込みあるじゃねえか、嬢ちゃん」
―――気が付けば。太陽が、昇り始めていた。
-
【マスター】
新田美波@アイドルマスター シンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
アイドルとして復帰するため、自身を鍛える
【weapon】
ラクロス用スティック
【能力・技能】
『アイドル』
デビュー後間もない駆け出しアイドル。相方のアナスタシアと共にユニット「ラブライカ」を組んでいる。
大人っぽく落ち着いて楚々とした佇まいと、所作の艶やかさとで人気が出始めている。
細身の体型だが、シンデレラプロジェクト内において身体能力は高い。
『ラクロス』
サークルは男女混合で、選手権とかは目指していません。
明るくプレイ自体を楽しんでいます♪
……のスタイルを捨て。
アーカム世界において、新田美波のポテンシャル全てをラクロスに向けている。
【人物背景】
「シンデレラプロジェクト」最年長19歳。
アイドルとして何を目指せばいいのかわからず不安で思い悩んでいたが、ユニット「ラブライカ」として、
アナスタシアと二人三脚で臨んだデビューライブで見えた「景色」に感動したことをきっかけに心境が変化。
プロジェクトの合宿でリーダーを任命され、もっと新しい「景色」の可能性を求めて冒険していくことが彼女にとってのモチベーションになっていく。
しかし、サマーフェス時にリーダーとして奔走する中、気負い過ぎたため開始直前に心因性による発熱で一時ダウンしてしまう。
危うくラブライカのステージが中止になりかけるものの、神崎蘭子が美波の代理となって奮闘し、ステージを成功させることができた。
【方針】
まずは実力でレギュラーの座を勝ち取る。
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【クラス】
アーチャー
【真名】
ゴールドアーム@疾風!アイアンリーガー 銀光の旗の下に
【パラメーター】
筋力B 耐久B+ 敏捷D 魔力C 幸運C 宝具B
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
リーガー魂:A
アイアンリーガーの熱き心。各種スポーツ競技に対して有利補正が付く。
同ランク相当の『戦闘続行』と、『勇猛』を併せ持つ。
また対峙した者の、ロボットならばオイルを、人間ならば血を、熱く滾らせる効果を持つ。
かばう:B
兄弟や仲間の危機において常に庇い、傷だらけになりながらも意志を貫いてきた証。
庇う対象が本来受けるはずの攻撃の因果を、自分自身に変更させるスキル。
逆境の星:B
屈辱に吼える反逆精神。泥水を啜っても生き延びた執念。
形勢不利な状況において、各種判定に有利補正が付く。
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。
【宝具】
『全てを貫く黄金の右腕』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜40 最大捕捉:1人
ゴールドアームが数々の特訓によって会得した魔球の具現化。
基本的に威力と魔力消費は下の技になるほど大きくなる。詳細は下記参照。
・『悪を喰らう回転球(ジェノサイドスクリュー)』
ボールをゴムのように伸ばしてサイドスローで投げ放ち、対象者に直撃させる攻撃技。バットに当てても弾道を変化させて対象者に当てる。
神秘力は低く、直接打撃技に分類される。
自ら封印しているが、外道に対しては封印を解除することもある。
・『魂受け継ぐ熱き心(44ソニック)』
オーバーハンドで高エネルギーを纏った球を投げ放つことで、空気の壁を引き裂き、球の周囲に衝撃波を発生させる球威の高い投球技。
戦闘用ロボットのビームやミサイル攻撃を弾き飛ばす程の威力がある。
神秘力は高く、見た者は自身の熱き心を触発され、発狂せざるをえない。
雷属性を付与し、更に攻撃力・神秘力を上げる「44ソニック・オン・サンダー」も使用可能。
・『誇りを貫く黄金の魂(ライジング・ブラスト)』
左脚を大きく振り上げた態勢で力を溜め、振りおろすと同時に強力な螺旋状のエネルギーを纏った球を投げ放つ。
その球は山を抜き、水を分かつ程の威力。44ソニックに比べ神秘力は低く、実用性の高い技である。
更に攻撃力を上げる「ライジング・ブラスト・ネクストジェネレーション」も使用可能。
『熱き絆で結ばれた兄弟の証(ゴールド三兄弟)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:50人
ゴールドアームの兄弟であるゴールドフット、ゴールドマスクを一時的に召喚し、
三兄弟の必殺技である「竜巻フォーメーション」を使用した各種の合体技を使用可能。
召喚時の魔力消費量は多いが、フット、マスク共に単独行動E-相当のスキルが付くため、現界後の魔力消費に関して問題はない。
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【weapon】
・超合金ボール
超合金でできたボールのはずだが、意外にゴムのように伸びたりする。打撃力は高い。
・超合金バット
よく相手の必殺技に溶かされるバット。相手の攻撃を弾き返す際などに使用する。
・ジェノサイド・ドリル
左手の爪を回転させ、ドリル状にして対象を貫く武装。
【人物背景】
ダークキングスのエースを務めるピッチャータイプの野球リーガーでゴールド三兄弟の長兄。
また、チームスポーツにおいては常に司令塔となり、冷静にチーム全体に目を配ることができる。
10年の間ダークキングスでプレイを続ける猛者であり、殺人投法を使ったラフプレイ主体であったが、
マグナムエース率いるシルバーキャッスルとの激闘を経て、フェアプレーに目覚めていく。
熱しやすい弟をたしなめ、兄弟を支えるしっかり者の出来た兄。
『疾風!アイアンリーガー』はゴールド三兄弟の成長物語としても見ることができる。
【サーヴァントとしての願い】
嬢ちゃんを守りつつ、願いを叶えてやる。
【基本戦術、方針、運用法】
アイアンリーガー。
二次聖杯系において一般人マスターに呼ばれやすいクラス筆頭のアーチャー。
今回も例に漏れず、新田美波に魔力はないため、魔力運用はゴールドアーム単独で行う必要がある。
単独行動スキルがあるため、三兄弟召喚を行わず、魔球主体で運用すれば問題にはならないだろう。
機械に魂があること自体かなりの神秘ではあるのだが、一度その対象に存在を受け入れさせてしまえば、通常時における神秘力は低くなる。
勝ち抜くことが第一目標ではなく、必然的に守り重視の動きとなるため、同盟を探す必要があるだろう。
或いはラクロスのチームメンバーを集め、邪神聖杯内のラクロスで世界を取る道も無いではないが、
ゴールドアームにはマグナムエースのような「洗脳に近い話術」のようなスキルは無いため、実現は困難だろう。
美波はラクロスに打ち込み、寄ってきた敵をゴールドアームが排除して、
気が付いたら終盤まで残っていたような棚ぼた勝利を目指すのが妥当な道か。
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以上で投下終了です。
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投下します
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ああ――
どうしてだろ。
どうしてわたしはこんなところにいるんだろ。
こんな、こんなセラもリズも、バーサーカーもいない所で。
たった一人で、死のうとしてるんだろ。
せっかく、せっかくシロウももうすぐ城に来てくれてるのに。
お母様のいた城に来てくれるのに。
そうしたら、いっぱいいっぱい切嗣のこと聞きたかったのに。
全部、全部零れ落ちた。
あの金色に二人が、セラとリズが殺されて。
わたしも光を奪われて。
バーサーカーも……。
知らない街で再び光を得た時には、もう、そこに、いなかった。
バーサーカーが。
バーサーカーがいてくれたなら。
暗くても怖くなかったのに。
バーサーカーは強いんだもん。
いつもいつも、わたしのことを守っていてくれたもの。
なのに。
幼いころの夢。
何度も、何度も夢見た夢。
扉を開けて、銀の鍵を手に切嗣が迎えに来てくれる夢から目を覚ました時にはバーサーカーの姿がなくて。
わたしと手を繋いでいてくれたはずのバーサーカーがどこにもいないということが。
嫌でもわたしに“その事実”を想像させて。
その想像を否定したくて、でわたしは一人バーサーカーを探し続けた。
バーサーカーは負けない。負けるはずがない。
じゃあなんでバーサーカーはいないの。
バーサーカーが無事なら、バーサーカーがわたしを一人にすることなんてありえない。
だから、そう。
いい加減その認めたくない事実を認めて、大人しくしていれば。
この狂った聖杯戦争に参加した魔術師なんかに見つかって、路地裏に追い詰められたりはしなかったろうに。
馬鹿な、わたし。
ご丁寧にそいつの連れているサーヴァントは金色で、死にそびれたわたしが死になおすにはぴったりだった。
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「その容姿、アインツベルンのホムンクルスか。
この聖杯戦争にアインツベルンが関わってるとは聞いていなかったのだがな」
その通りだよ。
この聖杯戦争に、アインツベルンは一切関与してないよ。
だって、分かるもの。
わたしは、聖杯だから。
ううん、聖杯“だった”から。
聖杯の器として調整されていたはずのわたしから、それはすっぽり欠け落ちていた。
わたしを聖杯とする“中身”。
確かに脱落したはずのサーヴァント、ライダーの。
英霊の魂が、抜け落ちていた。
それだけじゃない。
この地に大聖杯はない。
少なくとも、冬木の大聖杯は、存在しない。
ここにあるのは冬木の聖杯とは別物の聖杯で、きっと死んだ英霊たちの魂もわたしのもとには向かわなくて。
だったらわたしは用済みだ。
何もない、空っぽだ。
なのに――
なのにどうして、わたしは生きようと足掻いてるんだろ。
「まあいい、貴様もマスターだというのなら、殺せ、インベーダーよ!」
巨大な黄金色の死が迫る。
男のサーヴァントが。
ソラからの祝福が。
逃げても、転んでも、這いずっても、追ってくる。
《あなたは、そこにいますか……?》
分かる。
あのサーヴァントはどこか魔術師という存在に似ている。
きっと彼らの目的は宇宙の外側。
より高次の宇宙。
根源の、渦。
きっとあのサーヴァント、エクストラクラス、インヴェーダーの質問にどう答えようとも位相を転移させられ、この世から消滅させられてしまう。
分かってる分かってる分かってる。
分かって、いても。
わたしは言葉の表面的な意味ばかり考えてしまう。
《あなたは、そこにいますか……?》
わたしはここにいるの?
もう何もかも失ってしまったというのに。
本当に、ここにいるの?
だって、そもそも、わたしには、私たちには自分なんてもの、一つもなかったんじゃない。
役目、役目、役目ばっかりで。
ああ、そうだ。
その役目さえなくしちゃったんなら。
私は、私は、私たちは――諦、めるの?
私たちはアインツベルンの道具で。アインツベルンの技術の結晶で。
この先、どんなに時間をかけても私以上の作品は作れなくて。
その私が死んだら、みんなも諦めて、生きてるのに、死んじゃう。
みんなは無価値であっても構わないってそう言ってくれたけど。
《あなたは、そこにいますか……?》
そんなの、おかしいよ。
私は、ここにいる。
みんなだって生きている。
何で死ななくちゃいけないの?
生きたい、生きたいよ。生きていて欲しいよ。生きていて欲しかった。
わたしは、私は――私を
-
「その喧嘩、ちょおおおっっと待ったあああああああああ!」
「ベビー、フレイム!」
え?
今にもわたしに触れて同化しようとしていたインベーダーの触手が止まる。
打ち込まれたのは小さな火球。
その火の玉が飛んできた方向。
路地裏を囲む、その建物の上に、彼は、いた。
年はきっとシロウよりも少し幼いくらいで、なんら魔術的な力は感じなかったけど。
傍らに人間の子供より少し大きいくらいのオレンジ色の恐竜を連れていた。
使い魔、だろうか。
違う、ステータスが表示される。あれは、あの恐竜は、サーヴァン、ト……?
「な、なんだ!? 貴様、何者だ!?」
「俺か? 俺は無敵の喧嘩番長、大門大!
そしてこいつは「アグモンだー!」」
「ば、番長だと!? 番長とは何だ!? いや、サーヴァントを連れているということは貴様、マスターか!?
だがマスターが自らサーヴァントの真名をばらすはずが!!」
「ええい、男がぐだぐだうるせええ! だいたいなんだてめえは。大の大人が女の子を二人――
「一人と一匹がかりだよ、兄貴ィ!」
「おうよ、一人と一匹がかりで追いかけまわしやがって! それが漢のすることか!」
「ええい、何を分けわからぬことを! 邪魔をするというのなら、まずは貴様からだ!」
魔術師の手から攻撃魔術が放たれる。
それを恐竜のサーヴァントがさっきの炎で迎撃するけど、お世辞にもその火力は高くなかった。
魔術師の攻撃を相殺できはしたけれど、サーヴァントならその程度は余裕でしかるべきで。
実際、読み取れる恐竜のステータスはバーサーカーよりずっと低くて、魔術師もそのことに気付かぬはずはなかった。
「ふははははは! なんだそのステータスの低いサーヴァントは?
Dランクもいいところではないか!
その程度の力でこの私のインベーダーに勝てるとでも思っているのか!」
「うっせえ! アグモンはサーヴァントなんかじゃねえ! パートナーだ!
それに漢の喧嘩を決めるのは数字なんかじゃねえ。拳と拳だあああああああああああああ!!!」
だから――
わたしも、魔術師も、その先の光景が予想できるはずもなくて。
ダイモンマサルの次の行動に絶句した。
「おおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああああああ!」
アグモンと魔術師の攻撃がぶつかり合って生じたその土煙。
なんとそこから飛び出したダイモンマサルが、そのまま金色のサーヴァントを素手で殴りかかっ、た……!?
「止め――!」
正義感の強い人間の愚かな蛮行。
そうとしか思えない自殺行為だった。
相手がダイモンマサルよりずっと大きいからだけじゃない。
あのサーヴァントインベーダーは触れたものを吸収する性質を持ってる。
それに何故かこっちの攻撃がちっとも当たらなかった。
逃げる中でやれることは全部やった。
アインツベルンの最高傑作のわたしが手も足も出なかったのに。
それを神秘も持たない人間がどうにかできるはずなんて――は……?
-
「なん、だとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「う、そ……」
そんな、え、なに、どういうこと?
え、え、え、え?
い、今、マサルの攻撃が、当たった!?
「ば、バカな、馬鹿な、馬鹿なあああああああああああああああ!
インベーダーには読心能力があるのだぞ!?
心が読めるのだぞ! なのに何故攻撃が当たる!」
どうやらわたし以上に魔術師の方が動揺しているみたいで、勝手にスキルをばらしてくれる。
読心能力、確かにそれならさっきまで攻撃が当たらなかったのも納得で。
だったらどうしてダイモンマサルの攻撃が当たったのかがきになるとこだけど。
「はぁ? その割にはこいつ、わざわざ言葉で確認してくるじゃねえか?」
《あなたは、そこにいますか……?》
「見りゃ分かんだろ。つうか、拳で語るって言ったじゃねえか。心読むまでもねえだろ」
そんなことってあり、なの?
ううん、それよりも。攻撃が当たったことより何よりも。
何で、どうして、
「く、ならば何故、貴様が殴っただけで神秘がその手に宿っているのだああああああああああああ!」
そう、それよ!
金ピカを殴った拳で唸りをあげる、オレンジの光。
手に魔力や神秘を宿してから殴ったなら分かるわよ。
けどそうじゃない。
ダイモンマサルは殴ることで神秘を発生させていた。
「何言ってんだあんた。こいつは神秘なんてもんじゃねえ! デジソウルだ!
殴ると出せるんだよ! そういうもんなんだよ!」
訂正。
発生させたというか、むしろこれ、ダイモンマサルが殴ったら神秘が発生して、しまう、なの?
「そそんなはずはない。殴ったら神秘が発生するだと……。
違う、そうではない。神秘とは尊ばれるもので、そんな、そんな野蛮なものであるはずが……。
そうだ、それは神秘などではない。そんな、そんなものが、神秘であるはずがあるかああああああああ!」
魔術師の動揺がありありと伝わってくる。
無理もない、こんな暴言、アインツベルンの魔術師たちが聞いたなら卒倒しかねない!
「だあああかあああらあああ! 神秘じゃなくてデジソウルだっつってんだろがあああああ!
いいぜ、こうなったら無理矢理にでも分からせてやる! 行くぞ、アグモン!」
「任せろ、兄貴ィ!」
でもそれだけじゃなかった。
それだけで終わらなかった。
ダイモンマサルはさらなる神秘を、ううん、奇跡を行使した。
そう、それは物質化した奇跡。
この世で最も尊き幻想。
ノウブル・ファンタズム。
――宝具!
宝具の行使により、魔力が待ってかれる感覚でようやく気づく。
違う、ダイモンマサルはマスターなんかじゃない。
ダイモンマサルはサーヴァントで、アグモンがその宝具!
-
「デジソウル、チャージ!」
左手で掲げたデヴァイス、そこに右手のデジソウルが注ぎ込まれ、
『アグモン進化――ッ!』
GEOGREYMON ジオグレイモン GEOGREYMON
ジオグレイモン GEOGREYMON ジオグレイモン
『ジオグレイモン――ッ!!!』
GEOGREYMON ジオグレイモン GEOGREYMON
ジオグレイモン GEOGREYMON ジオグレイモン
より巨大で力強い姿へとアグモンを押し上げる!
それが、トドメだった。
「メガフレ――あ、あれ?」
インベーダーへの、じゃない。
魔術師の、魔術師だった男への、トドメだった。
「――宝具。宝具。宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具
宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具
宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具
宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具宝具!!!!
紛れも無い、神秘ィ! そうかぁ。神秘とは、殴って発生させるものだったのかあああああああ!
なら私が、私が今まで収めていたものはなんだったのだあああ!
私は何を磨いてきた? 神秘? 神秘って何だ? 魔術とは何だ。
そもそも私は魔術師だったのか。魔術師? 魔術師とは何だ。そうだ、殴らなくちゃ。殴らなくちゃ」
「お、おい。あんた、大丈夫か?」
「殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ
殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ
殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ
殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ
殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ
殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ
殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ殴らなくちゃ」
「お、おーい?」
「君、なんて言ったっけ? ば、バ「番長か?」そう、それ!
魔術師とは番長だったんだ、番長だったんだ、バアアアンッチョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ハアアアアッハッハハハハハh! 我、真理に到達せり! ハレルウウヤ!」
「うおおおお!? って、おい、待てよ! 漢の喧嘩投げ出してんじゃねえ! 逃げるなあああ!」
「兄貴、それよりも今はあの子を!」
「っと、そうだった!」
な、なに、あれ?
なんかサーヴァント消してガンガン壁を殴ったり、地面に頭を打ちつけながら、去ってっちゃっ、た?
ま、まあ、魔術師らしい魔術師には確かに衝撃的だったろうし、わたしもあいつの取り乱しっぷりがあったからこそ冷静にいられたのかもだけど。
この聖杯戦争、何かありそうね……。
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ともあれ。
「あー、なんだ。あんたが俺のパートナー、であってるよな?」
「そう、みたいね」
どうやらこいつがわたしの今回のサーヴァントらしい。
「俺は日本一、そしてデジタルワールド一の喧嘩番長、大門大だ。セイバーだとよ。
バンチョーの方がかっこいいんだが、仕方ねえ。よろしくな!」
しかもなんでかセイバー。
「オレはアグモン。一応剣も持ってるぜ。ええっと、そういえば名前、なんだっけ?」
「……イリヤよ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
伸ばしてくれる手を取り立ち上がり、埃をはらってからスカートの裾を掴んで一礼する。
正直分からないことだらけで。これからどうしようかとかまだ決めれていないけれど。
生きたいと思っちゃったから。ここにいるって感じちゃったから。
もう少し、生きてみよう。
それに何より、今はこいつに言っとかないと。
「あのね、日本一だとか何だとか言ってるけど。最強はバーサーカーなんだから!」
「最強だと!?」
「兄貴より強いのか!?」
「当たり前よ! バーサーカーはギリシャの大英雄で、ヘラクレスで」
バーサーカーは強かったもん。
こんな奴よりずっと強かったもん。
「ギリシャってなんだよ、食えるのか?」
「え、食えんの?」
「優しかった。いっつもわたしのこと守ってくれた。それから、それから」
こんな奴と違って馬鹿なこと言ったりしないで。
何も話せなかったけど、それでも、それでも傍らにいてくれたもの。
どんな時だって。
最後の、時までだって。
「お、おい、泣くなよ。食いもんじゃないんだな、分かった、分かったから」
「あー、兄貴が泣かした―」
目尻に涙が浮かんでくのを感じる。
バーサーカーのことを思い出せば思い出すほどもういないんだって実感してしまって。
悲しくて、顔がどんどんくしゃくしゃになってって。
とても淑女がする見せられた顔じゃなくなっていくけれど。
言葉は止まらなかった。止めたく、なかった。
「それで、それで、おっきな体はお父さんみたいで。本当は一度くらい、抱き上げてほしくて」
自分でも支離滅裂なことを言ってるのは分かってる。
バーサーカーは負けた。
悔しいけど、それは覆せない事実だ。
でも、そうだとしても、これだけは譲りたくなかったから。
「だから。だから!
たとえ負けたとしても。最強は、バーサーカーなんだから!」
わたしは、言い切った。
言い切って、セイバーの顔を見た。
日本一の喧嘩番長。
そんなしょうもないことを得意げに言ういかにも喧嘩っ早そうで、デリカシーもなくて、馬鹿なそいつは。
「……そっか。お父さんみたい、か。なら仕方ねえな。そいつは確かに俺よりつええ。
勝ったとか負けたとか関係ねえ。そいつは間違いなく、最強、だな」
嘲笑いもせず、困惑するでもなく、本気で頷いてくれて。
そっと、抱きしめてくれた。
「あ……」
「立派な、父さんだったんだな」
違う、バーサーカーはお父さんじゃなくて、お父さんは切嗣で。だけど、私は、私は――
声はもう、出てくれなかった。
涙だけが溢れでていた。
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【クラス】
セイバー
【真名】
大門大@デジモンセイバーズ
【ステータス】
筋力A+++ 耐久C+++ 敏捷C+++ 魔力- 幸運B+++ 宝具D〜A+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:E
無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:B+++
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせる。
また、宝具であるアグモンのように心通じた相手なら、竜種だろうが乗りこなせる。
【保有スキル】
デジソウル:A
人間の思いの力であるデジソウルを生じさせられる。
究極のデジソウルの域に達している大は自分の意思の力でデジソウルを自在に制御できている。
自身の拳や、全身に宿し、一種の超強力な魔力放出のように使ったり、デジモンを進化させることができる。
ただし、大の場合は相手を最終的に自力で出せるようになったものの、殴ってデジソウルを発生させるという逸話が有名すぎるため、
サーヴァントである今は、基本他のサーヴァントや宝具を殴ることでしかデジソウルを生み出せなくなっている。
六人の英雄:A
選ばれし子供達、テイマー、十闘士、デジモンハンター、ジェネラルなどと呼ばれるデジモンと共に育ち、心を通わせる存在の代表の一人。
本来なら共に戦うデジモンや、デジモンと戦う時に味方に補正が入るスキル。
セイバーの場合は加えて、自身のパートナーであるアグモンの進化段階に比例して自らのステータスを向上できる。
(アグモンが成熟期なら筋力はA+、完全体でA++、究極体でA+++の「+」による倍加条件が満たされていく。
バーストモード時のみ、筋力だけがEXランクに)
英雄時のセイバーは単体でも究極体に匹敵するのだが、力は合わせるものであり、アグモンと共に戦いという彼の意思が反映された。
尚、彼はセイバーとして召喚されたが、守るものという意味であり、2つの世界を救っているためセイヴァーと言えるからでもある。
無敵の喧嘩番長:B
自分よりも巨大なデジモンや、魔王、果ては創世神を仲間とその拳にて打倒した逸話が転じたスキル。
敵とのサイズ差補正による不利を無効化し、神や魔王に類する存在に対して攻撃時に補正が入る。
兄貴、すげぇ……:EX
星の開拓者の亜種。
デジモンを“ただの人間”が生身の拳にて打倒するという唯一無二、空前絶後の事態を幾度も引き起こしたことで得たスキル。
あらゆる難行が“不可能なまま” ”実現可能な出来事”になる。
相手が難敵・難行であればあるほど真価を発揮する。
また、セイバーがサーヴァントだと知らない限り、セイバーがデジソウルを発生させるまで、何者も彼を只の人間としてしか認識できない。
――本来ならば強力なスキルだが、邪神聖杯におけるこのスキルの本質は対象の常識の破壊による正気度へのダメージである。
敵だけでなく、仲間たちをも唖然とさせ続けたセイバーの逸話から、このスキルに限り、自身のマスターに対してさえ耐性を貫通する。
また、敵味方問わず、セイバーの神秘を繰り返し目撃することでついた耐性をも貫通する。
つまりこのスキルが真価を発揮すればするほど、敵味方問わずマスターが一度で発狂しかねない。
無敵の喧嘩番長、及びこのスキルの隠蔽効果も相まって、更に正気度へのダメージや発生確率が増大する。
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【宝具】
『爆裂せし人造のデジヴァイス(デジヴァイスバースト)』
ランク:D+ 種別:対デジモン宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
聖なるデヴァイス、デジヴァイスと呼ばれるものの一種。
人の手によって初めて作られたデジヴァイス、デジヴァイスiCが進化したもの。
人間が作り、人間が進化させたデジヴァイス。
その分神秘は低下しており、浄化などの能力は持たないが、デジソウルチャージやバーストモードにによる進化に対応している。
パートナーデジモンを収納する機能も付いているが、サーヴァントになった今は特に意味がなく、そもそも大は使用しないだろう。
『アグモン』
ランク:D〜A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
セイバーのパートナーデジモン。レンジや補足が一人なのはそういう意味である。
恐竜型のデジモンであり、セイバーのデジソウルにより、
アグモン(成長期)→ジオグレイモン(成熟期)→ライズグレイモン(完全体)→シャイングレイモン(究極体)へと進化する。
また、シャイングレイモンはジオグレイソードという剣を使え、シャイングレイモンバーストモードという自身の限界を超えた形態もある。
ランクはそれぞれD(成長期)→C→B→A→A+(バーストモード)であり、ランクに応じたサーヴァントとしての力も持つ。
どの進化段階も能力値は攻撃型寄りであるが、宝具なだけあって耐久力も有り、完全体からは飛行可能。
ただし一種の常時開放型宝具であり、進化段階が進むほど魔力の消費も激しくなる。
アグモンバーストモードという魔力を消費せず、セイバーの自力デジソウルでA+の力を発揮できる切り札があるが、一回しか使えない。
【人物背景】
日本一の喧嘩番長を自称し、喧嘩に明け暮れていた中学生。
ある日、現実世界に現れたアグモンと殴りあったした末にダブルKO。
舎弟入りしたアグモンと共に、デジモン犯罪対策組織「DATS」に入隊し、現実世界に現れたデジモンを相手に仲間と共に戦っていく事になる。
荒くれ者ではあるものの、非常に家族想いで、面倒見もいい。
10年前に消息を断った父を思い続けたため、家族の問題には他人のことでも度々首を突っ込んだ。
人情深く父譲りの漢としてのあり方を度々口にし、自他を奮い立たせた。
全てが終わった後はアグモンとの別れを惜しみ、悩んだ果てに仲間や家族に別れを告げアグモンと共にデジタルワールドへ旅立っていった。
5年後、デジモン同士の喧嘩をアグモンとともに止めるなどデジタルワールドのいざこざを解決して回っているようである。
別世界の人間とデジモンたちの危機に駆けつけたこともあるという。
【サーヴァントとしての願い】
漢の喧嘩は命がけ! と言いてえとこだが……父さん、か。
【基本戦術、方針、運用法】
実質大門大とアグモンの一人と一匹の英雄を同時に運用できるのが最大の強み。
アグモンを進化させればさせるほど大も強くなるため倍々に強くなっていくこととなる。
ただしその分魔力の消費は激しくなり、バーストモード時の負担は狂化時のヘラクレス並。
イリヤなら扱えはするだろうが、それでもかなりの負担になりかねない。
状況に応じて進化段階は調整しよう。
考えようによっては、この進化段階を調整し、移動などにも活用できることもまたこのサーヴァントの特色でもある。
デジモン伝統のことだが、エネルギーはご飯などでも補給できることは覚えておきたい。
燃費以外の弱点としては兎にも角にも大が基本敵を殴らないとアグモンを進化させられず、始まらないこと。
マスター狙いや、初見殺し、一撃必殺の宝具を持つサーヴァント、自ら姿を現さずことを運ぶ相手には不利である。
進化したアグモンはともかく、大自身は攻撃は最大の防御なりを地で行く能力なため、防御スキルは一切持っていない。
つまり真っ向からの殴り合いには滅法強いが、アサシンやキャスターなどの暗殺や搦め手などには要注意。
それでも格上殺しや逆転特化のスキルも持っているため、詰みにくいサーヴァントではあるのだが……。
邪神聖杯ではその最大の強みが、敵味方問わず発狂させかねないのが大問題である。
-
【マスター】
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night [Unlimited Blade Works] (時期は15話にて死亡後)
【マスターとしての願い】
諦めたくない。自分も、みんなも、無価値にしたくない。生きたい。
【能力・技能】
聖杯の器として作られたホムンクルス。
アインツベルンの最高傑作だけあって非常に高い魔力を持ち、髪の毛を媒介とした鳥型の使い魔を使役したりすることができる。
冬木の聖杯戦争でないため、令呪は特別製ではない。
最も、冬木の大聖杯との接続は途切れているため、サーヴァントの魂を回収することもなく、人としての機能をもうしばらくは維持できる模様。
【人物背景】
必ず帰ってくると言って旅だった父は、母を殺し、帰ってこなかった。
この世全ての悪や一族の当主に、父はお前を捨てもう帰ってこないと言われた少女は、一人で生きることを決意する。
しかし自分を捨てた父は、遠い異国の地で新しい家族を得ていた。
その弟と殺し合える日々を心待ちにするも、毎日身体を開かれていく日々に、少女は摩耗していく。
役目に生きるしかない自分たち。道具として人間の幸福のために使い潰される自分たち。
そのことにおかしいと、戦いに行く自分以外もなんで死ななくちゃいけないのと声を荒げるも。
それこそが解放なのだと、ホムンクルスたちは答えるばかりで。
少女は気づく、自分なんてものが一つもなかったことに。
そんな少女を、自分の意思で守ってくれる者がいた。
強くて、優しくて、大きい、お父さんみたいな狂戦士だった。
けれど。
最強と信じた狂戦士は敗れた。
訪れた異国の地で。
母と暮らした城で、弟から父のことを聞こうとしたその日に。
少女は、死んだ。
少女が死んで、アインツベルンも結論をだし、数多の命が救われぬまま無価値に消える。
そのはず、だった……。
【方針】
生きる。生きて――
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投下終了です
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あれ? すみません、+つける気なかった素早さや幸運にまでコピペしちゃってました。
筋力A+++ 耐久C+++ 敏捷C 魔力- 幸運B 宝具D〜A+
でお願いします
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カルナが相変わらず自己申告の幸運A+なのが笑えるw
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投下いたします。
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軋んだ想いを吐き出したいのは 存在の証明が他にないから
■ ■ ■
一人の男が物陰に隠れながら、カメラを構えている。、
その男はアーカムに拠点を構える探偵の一人だった。
彼は今、一人の男について調査を続けている。
(ふざけた格好しやがって……)
手元の写真に映るのは奇妙なバイザーを付けた一人の青年の姿だ。
彼の名は"マスク"。本名不詳。経歴不詳。おかしなバイザーをかけた謎の男。
(自己申告では視力矯正のためとなっているが胡散臭いものだ)
普通ならばそんな怪しい男がFBI捜査官として、警察に出入りできるわけはない。
だがFBIのお偉いさん(クンパという名前らしい)の肝いりで事件の捜査に加わることとなった。
ここ最近アーカムで頻発している、数々の奇妙な事件の捜査に。
事実、彼はその肩書に恥じない成果をあげている。
だが彼は――いわゆる被差別階級の出だという。
ただでさえFBIからの出向ということで煙たがられる存在なのだ。
どんなに優秀であろうとも……いや逆に優秀であるがゆえに、そんな彼を快く思わない人間もいる。
彼に調査を依頼をしたのは、そういう類の人間だ。
(しかしこれで仕事も終わりだ……)
彼は先ほど人目を忍ぶように外出するマスクの姿を目撃した。
そして今、カメラのレンズの先にいるマスクは誰かと会話をしている。
相手は男。暗くて顔はよく見えないが、格好からしてクスリの売人か何かだろうか。
いや、そうでなくとも良い。
スキャンダラスの火種さえあれば、あとは自分の雇い主がやってくれるのだから。
音を消した違法改造カメラのシャッターを切る。
これで仕事は完了。一刻も早く帰宅して雇い主に報告しなければ――
だが瞬間、男の頭に衝撃が走る。
自身の顔を包み込む何か――それが男の手だと理解できたのは、引き剥がそうとしてからだった。
(馬鹿な! ここには誰もいなかったはずだ!)
職業上、気配には敏感だという自負がある。
だというのに自分の顔を掴んでいる男は全くその気配を感じさせなかった。
混乱する探偵。引き剥がそうともがく最中、わずかに開いた指の隙間から、こちらを覗き込む赤い瞳と目があった。
褐色の肌のみすぼらしい服の大男。
それは先程までレンズ越しに見た男と合致する特徴を持っていて――
――ぐしゃり
それがどういうことか考えるまでもなく、男は絶命した。
-
■ ■ ■
「……馬鹿な男だ。仕事を選べば命を失うこともなかったろうに」
高級マンションの一室。
報告を受けたマスクはそう言ってコーヒーカップを机の上に置いた。
恐らくは明日の新聞にでも変死体のニュースが乗ることだろう。
そして探偵が自分のことを調べていた以上、こちらにも捜査の手が及ぶ可能性は非常に高い。
だが足がつくはずもない、とマスクは確信している。
それどころか死因すら不明確なまま終わるだろう。
何故ならば下手人は科学の枠外の住人……サーヴァントなのだから。
「助かった"アサシン"。礼を言う」
アサシンと呼ばれた男はマスクの言葉に無言を貫く。
体格の良いマスクよりも大柄な浅黒い肌の巨漢。
この高級マンションに相応しくない、みすぼらしい格好。
アサシンを印象づける要素は数多いが、何よりも目を引くのは顔の十字傷と真紅の瞳だ。
「……それよりも先程の問に答えろ」
マスクがサーヴァントというものについて理解したのはつい先程だ。
彼は本日、日中行った捜査で銀の鍵を広い、懐に収めた。
証拠品のの無断所持……捜査官としてはあるまじき行為であるし、普段のマスクならば行わないような行為だ。
だが強迫観念じみた衝動に襲われ、マスクは銀の鍵を懐へと収めたのだ。
そして何かに導かれるように夜の街へと出歩いた彼は出会った。
サーヴァントと呼ばれる超常の存在に。
そして知った。このアーカムという街の異常性と、聖杯戦争という一つの真実に。
「貴様はあの時、この聖杯戦争に参加すると答えた。
――ならば貴様は願いを持っているはずだ」
真紅の眼光が虚偽を許さぬ、という風に仮面の男を射抜く。
だがマスクは、殺意に似たその視線を受けてもなおその余裕の態度を崩さなかった。
「……リギルドセンチュリーの呪われた歴史、被捕食者と蔑まれた我々クンタラの地位の向上――いや」
バイザーを外し、アサシンの瞳を真正面から見据える。
「そもそもクンタラという忌まわしい歴史の改変を私は望む。
――聖杯は、それすらも可能とする代物なのだろう?」
その蒼い視線に込められた意思。
そこには義があるだろう。
だがアサシンはその奥底に自分と似た何かを見た。
マスクが持つそれは長年蓄積された泥の如き鬱屈した感情。
アサシンが持つそれはある事件が起因となった烈火の如き激情。
方向も、その感情を産んだ原因も異なる。
だが、その感情は同じ名で呼ばれるものだった。
その感情の名は、怒りという。
「――いいだろう。お前がその願いを変えぬ限り、己れも貴様に従おう。
己れの願いを叶えるために」
アサシンはそれだけ言うとサングラスの中に赤い視線を押し込めた。
-
【クラス】
アサシン
【真名】
傷の男(スカー)@鋼の錬金術師
【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:E 宝具:C(B)
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
・気配遮断:D
自身の気配を消す能力。
完全に気配を断てば発見はほぼ不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
・真名秘匿:A
完全に名を捨て去ったことにより、真名を特定することが出来ない。
邪神の記憶からも抜け落ちており、例え誰であろうと本名を特定できない。
真名看破スキル、及び名前に因る魔術を無効化する。
また極めて特殊なスキルであり、後述のイレギュラーを引き起こしている。
・逃走経路:B
複数人の国家錬金術師を殺しながらも逃走し続けた逸話がスキル化したもの。
都市という状況に特化した逃走スキルで、都市内で戦闘から離脱した場合、高い補正がかかる。
仕切り直しとは違い、不利になった戦闘を初期状態へと戻すことは出来ず、離脱に特化しているスキル。
・イシュヴァラの武僧:B
「単身でアメストリス兵十人分の戦力に匹敵する」とまで言われたイシュヴァラ教武僧の武技。
アサシンは高いレベルでこの武術を収めている。
・信仰の加護:-
一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。
アサシンは復讐のため信仰を捨て去っており、本スキルは消滅している。
【Weapon】
・右腕
【宝具】
・右腕・万象分壊(ライトハンド・ディスアセンブル)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
触れたもの全てを破壊する必殺の右腕。
錬金術のプロセス(理解・分解・再構築)を第2段階で留めることで、ありとあらゆるものを破壊する"分解"の概念武装。
宝具も例外ではなく、Cランク以下の宝具の場合は破壊される可能性がある。
・左腕・事象再構築(レフトハンド・リビルドマテリアル)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
錬金術の3段階目、再構築を可能とする左腕。
……が、ある事情により、これを取得する以前の記憶しか持たないため、この宝具は使用不可能。
アサシン自身もこの宝具の存在を把握していない。
【人物背景】
戦争の最中で行われた国家錬金術師によるイシュヴァール人殲滅の生き残りで、兄と一族を滅ぼした者たちへの殺人を重ねる復讐鬼。
後に己が殺した医者の娘との出会いなどを経て、自分の考えを改め、主人公たちと協力し戦っていくことになるのだが……
――通常、英霊という存在は死後から呼ばれ、自身の人生を客観的に見ることのできる存在である。
しかし英霊の座やムーンセル・オートマトンという無色のデータベースから呼ばれた存在ではないことに加え、
レアスキル:真名秘匿がある種のエラーを起こし、復讐鬼として活動していた頃の記憶しか持っていない。
【サーヴァントとしての願い】
国家錬金術師への復讐
【マスター】
マスク@Gのレコンギスタ
【マスターとしての願い】
歴史からクンタラという存在を消し去る。
つまるところ、掴めサクセス。
【能力・技能】
・カリスマ
元々キャピタルガードの一候補生であったが、クンタラ部隊をまとめあげ、後に一勢力を率いるほどのカリスマを持つ。
(とはいえ多少なりとも見くびられる面はあったようだが)
【人物背景】
本名ルイン・リー。
主人公ベルリ・ゼナムにとって頼れる兄貴分であるが、
地位や力、すべてを持つ彼に対し強いコンプレックスを持ち、マスクとなった後はそれを爆発させた。
彼のつける特徴的なバイザーマスクは操縦のサポートを行ったりする機能を持つが、
それ以上にルインにとって精神的なスイッチを入れる、という意味合いが強い。
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以上で投下を終了いたします。
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皆さん投下乙です。私も投下します。
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「オラ!てめえら動くんじゃねえぞ!」
ドスの効いた声が、アーカム市内を走るバスの中に響き渡った。
声の主は真っ黒なマスクを被り、手にサブマシンガンを抱えている。
その横には仲間だろうか、財布などを回収するための袋を持った別の覆面男が控えていた。
彼らの背後には、ゴルフバッグに偽装された銃のケースが、空っぽな口を間抜けに開けている。
どう見ても、バスのハイジャック犯だった。それもコッテコテの。
「へっへっへ、早く金目のもんを出しな。隠してると殺すからなあ?」
下卑た笑い声を挙げ、小物そのものな台詞を吐き出す覆面男。
これが日曜朝8時5分くらいならば、覆面姿の正義の味方が颯爽と登場するようなシチュエーションだ。
もしくは、金曜夜9時15分くらいならば、客の中に潜んだ元軍人のスーパーおっさんがハイジャック犯を制圧しているところだろう。
だが、今は白昼12時正午の時間。
つい最近まではグラサンをかけたおっさんが「いいとも〜」などと抜けた声を出していた、平和そのものな時間帯だった。
そんな時間に突如として現れた『異物』たちは、我が物顔で車内を歩き回りながら財布などを物色し始める。
周りの乗客たちも下手に抵抗すれば危ないということを理解しているのか、比較的すんなりと財布などを覆面男の差し出した袋に入れていく。
ここまでは、ハイジャック犯たちの計画通りだといっても、差支えはないだろう。
「おい、おめえ、その『薬指』にはめた指輪を渡しな」
「え、でも、これは夫が数年間頑張って働いて……」
「でも、じゃねえよ。だから、だろうがよぉ。そんな上物もらってやらねえわけにはいかねえなあ?」
「す、すみません!これだけは!これだけはご勘弁を!」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ!なんなら今ここで愛しのダーリンと永遠にお別れするかあ!?」
そう、ここまでは。
女性が愛する男性に送られた婚約指輪を奪おうとする、下衆の後ろで。
パァン!という破裂音が、響くまでは。
「うおっ!?なんだ!?」
「アーッハッハッハッハ!」
すわ銃声かとびくつきながら思わず身をかがめるハイジャック犯たち。
自分たちの身体に穴は開いていないことをほっと一安心し、いやいやそうじゃないと慌てて後ろを振り向いた。
彼らの後ろでやけに幼い高笑いが聞こえることが、今の音は自然現象ではないことの証左だ。
下手人がいる。もたつきながらなんとかサブマシンガンを構え直し、声のする方に向けると、そこには
「げっほげっほ」
と咽る、格好のつかない登場シーンを披露した東洋人の少女がいた。
涙目になりながら男たちを睨む彼女の手には、クラッカーのようなものが握られている。
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「なーるほど、つまんねえ邪魔してくれるじゃねえか、嬢ちゃん」
相手がイタズラに使う程度のオモチャしか持っていないことを確認し、覆面は余裕を取り戻す。
わざとゆっくり、全身を舐め回すようにしながら銃口を少女の身体に定めた。
もう一人のハイジャック犯も、サブマシンガンの射線に入らないように気を付けながら、指をパキパキする姿を見せつける。
「お兄さんたちのお仕事の邪魔をしないでくれねえかなあ」
「つまんないのはあんたたちの方よ、クソ野郎の『おっさん』ども」
少女は、引かなかった。
「んだと?」
「悪人には悪人の美学ってやつがあるの。あんたたちにはそれが全然感じられないって言ってんのよ。わかった?お・じ・さ・ん?」
男は覆面の下でこめかみを引き付かせる。人の顔も見てねえくせに。俺はまだお兄さんと自称しても問題ない、はずだ。
いや、そんなことよりも、彼女は先ほど自分たちに財布をあっさり渡していた。何故、今更、急に?
そこで、男たちは気付く。
少女がちらっちらっと、自分たちの後ろ、婚約指輪をはめた女性を見ていることを。
「クック……ハッハッハッハッハッハ!正義の味方ってか!」
「ヒャヒャヒャヒャ!若いねえ!お兄さんそういうの嫌いじゃないよ!」
馬鹿にしているようにしか見えない、いや、実際に馬鹿にしながら大笑いをする男たち。
覆面越しからも分かる彼らの嘲りを受けながらも、少女はやはり引かなかった。
ただ、前を向き、少し青ざめながら、それでも、銃という名の『ヒトゴロシの道具』をこちらに向けるクズを睨みつける。
負けたくない。こんな『悪』の風下にさえ置けないやつらには。
「そんなんじゃない」
「あ?」
「正義なんてクソくらえよ。ただ、私はあんたたちが気に喰わない」
「ほぉ〜そうかぁ〜それでぇ〜?」
「お嬢ちゃんはそのクラッカーモドキで今から俺たちをぶっとばすのかなぁ〜?」
-
覆面男の手が、引き金にかかった。知るか。
「ま、そっちは全部回収したし問題ねえだろ」
足が震える。武者震いに違いない。
「一人くらい殺っとけば見せしめとしては丁度いいしな」
唾をごくりと飲み込む。一緒に弱気も飲み込んでしまえ。
「下手すりゃ近くの何人かも一緒に死ぬだろうが、仕方ねえ。この嬢ちゃんを呪いながらくたばりな」
これは……涙?
「全く、馬鹿なガキだ」
美学ある誇り高き悪に――――涙なんて必要ない!
「ああ、馬鹿だな」
その瞬間だった。
男たちには聞き覚えのない声と共に空間が歪み、ソレは現れた。
腰を抜かしてしまったのか、へたり込んだ少女の目の前に。
『もう一人の覆面男』がいた。
いつから?どこから?誰だ?俺たちは二人組だったはずだ。
男たちの脳裏に疑問符が幾つも上がる。結論、分からない。
分からないが、既にサブマシンガンの引き金は最後まで絞られていた。
「とりあえず死ね!」
少女――小関麗奈は目をつむる。
頭を抱え、ガクガクと震えながら。
美学も、誇りも、そんなものでは銃弾は止められない。分かっていた。
分かっていたが、それでも許せなかった。
『悪』として、やってはいけないラインを超えた男たちの暴挙が。
そして……結局は自らのサーヴァントに頼ってしまう、己の不甲斐なさが。
撃ち放たれた銃弾の雨は、一粒残らず『覆面男』によって『掴み取られていた』
「…………は?」
それは、誰の言葉だったろうか。
サブマシンガンを撃ったバスジャック犯の声だったろうか。
恐る恐る目を開けた小関麗奈の声だったろうか。
巻き添えで死を覚悟した、他の乗客たちの声だったろうか。
とりあえず、分かることは2つある。
狭いバス内でサブマシンガンが乱射されたにもかかわらず、誰も死なず、傷つきもしなかったこと。
そして、それを成し遂げた『規格外な方の覆面男』を敵に回した普通の覆面男たちには、ロクな結末が待っていないことだ。
-
■ ■ ■
「どうして最初から俺に頼らなかった?」
あれから。
見事バスジャック犯を撃退した『ことになっている』勇気ある一般市民の男性が記者に取り囲まれる光景を遠目に見ながら、小関麗奈は家路についていた。
事情聴取のために警察署に拘束されて数時間。ようやくの帰宅である。
「そもそも、大人しくしとけば解放されたかもしれないだろうに」
「うっさいわね」
少し赤くなった目元を見せないように、少女は霊体化した気配の前へ前へ歩いていく。
「ムカついたんなら帰ってからお部屋のクマちゃんでも殴っていれば良い。
わざわざ、他のマスターやサーヴァントに気付かれるような危険性は犯すべきじゃないって分かるだろ?」
ムスッとした顔をしながら、だけど麗奈は口を開かない。
自らのサーヴァントが言っていることは正しいと理解しているから。
それを良いことに『戦隊ものにいるような雑魚戦闘員』の格好をした『アサシン』のサーヴァントは更に言う。
「そもそも、外出なんてしなきゃいいんだ。俺の『宝具』の性能は覚えてるだろ?」
「それはイヤよ」
「なんでだよ。年頃の娘が急に引き籠りになったくらいじゃ、今時は特別不審にゃ思わねえさ」
「そういう問題じゃなくて!」
違うのだ。
不審に思われるとか、引き籠りが嫌だとか、そうじゃなくて。
この男の宝具のせいで、自分が今現在とびきり不幸になっていることも、今は問題ではなくて。
「そしたらアンタ、一人でサーヴァントっていうのを、その……殺しに、行くんでしょ」
「…………ま、それはな。聖杯戦争ってのはそんなもんだ」
マスターも、サーヴァントも、皆が命の奪い合いをする、聖杯戦争という悪夢の中で。
自分だけが蚊帳の外で、サーヴァントにすべて任せきりというのは、駄目だ。
そんなのは、ズルい。全く面白くもないズルさだ。
「あんたに任せて高みの見物なんて、クソ喰らえよ」
レイナサマの、美学に反する。
-
「それに」
それに。
『……俺は、怖いんだよ』
夢で見た、この強すぎる男は。
『俺は人を殺すのが怖いんだよ!』
悲しすぎるくらいに。
『殺せなんて命令しないでくれ。俺を、これ以上弱くしないでくれ。俺だけを……俺だけを』
『弱虫にしないでくれ』
弱虫だったから。
『みんなを守れと命令してくれ!俺に生きる理由をくれ!』
それでも私のために戦ってくれる、この人のために。
『悪の秘密結社の総統なんだろう!お前は!』
私が――レイナサマが傍で支えてあげないと。
-
「それに?なんだよ?」
「あの子の名前はクマちゃんじゃなくてアルセーヌ!」
赤く染まった頬を誤魔化すために、麗奈は暗い暗い道の方へとすたすたと歩きだす。
そうだ、自分も負けてはいられない。巻き込まれてしまった以上、覚悟を決めねばならない。
今日の一件も、自分だって頑張れるということを示したかったのに結局は彼に頼ってしまった。
こんなザマじゃ駄目だ。銃を向けられたくらいでビビっては駄目だ。もっともっと、強くならないと。
一方、覆面の『アサシン』――『No.37564』というコードネームで呼ばれた男は、訳の分からないという顔を覆面に隠しながら、そっと麗奈との距離を一歩詰めた。
何が起こっても彼女は自分が守らなければならぬし、何より、このままだとレイナサマは、何故か折れ曲がって丁度良い位置にまで下がってしまっている標識に顔面アタックな運命だ。
標識の方をささっとどうにかするか、我が麗しの総統閣下にご忠告申し上げるか、どちらの方が彼女のプライドは傷つかずに済むのだろう。
難しい。組織の上司である『ワン・デイ・タイラント』様もそうだったが、この年頃の子供はどうにも扱い方が分からない。
お互いにお互い、悩みながら、苦しみながら。
弱虫な『悪人』たちは、底の見えない闇の中へと消えていく。
-
【マスター】
小関麗奈@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
このレイナサマの威光を全世界に見せつけてやるのよ!アーッハッハゲホゲホ。
……死にたくない。
けど、帰る方法なんて見当もつかないから聖杯戦争に勝ち残る。
【weapon】
『ウルトラレイナ様砲』という名の相手を驚かせるための巨大クラッカーを持参。現在は自室に置いてある。
また、ほかにも色々イタズラグッズをバッグや懐に仕込んでいる。
【能力・技能】
アイドルとしてダンス、歌、演技はそれなりに出来る。
イタズラが好きなので、普通の子よりも機転は利くかもしれない。
【人物背景】
イタズラが大好きで女王様のようにふるまうが、言動がいちいち小物っぽくヘタレ臭が漂う残念系ロリアイドル。
様々なイタズラを引き起こし『悪者』を気取ってはいるが意外と面倒見が良く、根は良い子。
本人は絶対に認めないだろうが。
【方針】
聖杯戦争に勝利し元の世界に帰る。しかし未だ覚悟不足。
誰かを殺すという罪を『アサシン』だけに背負わせたくはないため、出来る限り前線に出張りたい。
-
【クラス】
アサシン
【真名】
No.37564@世界の中心、針山さん②
【パラメーター】
筋力:A 耐久:A 敏捷:A 魔力:A 運:EX 宝具:EX
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
気配遮断:E
アサシンとしては異例の低さ。腕の悪い現代の魔術師相手までならサーヴァントとしての気配を気取らせない程度。
気配を消すというよりも「あ、テレビで見たことあるような雑魚戦闘員だ」と他者に思わせ油断させる力量偽装の面が強い。
【保有スキル】
対毒:EX
彼に毒の類は絶対に通用しない。
酸もウィルスも何もかも何故か効かない。一酸化炭素に満ちた部屋に閉じ込めようとも顔色一つ変えない。
彼は、健常健在でしかいられない。
対洗脳:EX
彼に洗脳の類は絶対に通用しない。
服従も魅了も何もかも何故か効かない。当然、彼が拒めば令呪も効かない。
彼は、自分自身の意志でしか行動することができない。
対概念:EX
彼に概念系攻撃の類は絶対に通用しない。
時間という概念さえ存在しない『虚無』の空間に閉じ込められようとも、神様にアカシックレコードを書き換えられ存在自体を消去されようとも、何故か絶対に死なず、生還する。
彼は、彼の世界で生きていくことしかできない。
【宝具】
『常敗』
ランク:EX 種別:対主宝具 レンジ:- 最大補足:1
『アサシン』のマスターは強制的に運を最低値にまで引き下げられる。常時発動型の宝具。
あらゆる判定が当たり前のようにファンブルになりかねず、一般的な平和な生活を送ることさえも困難になる可能性がある。
『アサシン』は苦戦もせず敗北もせず、そもそも彼と戦える『敵』となる相手さえも存在しなかったが
その代わりといわんばかりに、彼の仲間である『悪の組織』はほぼ壊滅した。
運命は彼を、『悪の組織の雑魚戦闘員』を勝者になど、させはしない。
『無敵』
ランク:EX 種別:対運宝具 レンジ:- 最大補足:1
『アサシン』が死亡判定を受けた場合、その因果を覆し、何故か生存する。死亡という運命に対して発動する宝具。
加えて、彼を殺した原因を乗り越える力を強制的に付与されてしまう。
絶対に死なず、絶対に負けず、最終的に強制的に勝利する。
運命は彼を、『全ての敗北の反動である存在』を敗者になど、させはしない。
因果を改変するその圧倒的な力は凄まじき燃費の悪さを誇る。
そのため、英霊『キャスター』クラスの魔力を持ち合わせていない場合は発動した時点で魔力不足によるマスターの死亡、ならびに『アサシン』の消滅が確定する。
【weapon】
徒手空拳。彼に武器は必要ない。
数十メートルはある巨大ロボットをローキック一発でレゴブロックのようにバラバラに出来るくらいには強い。
但し聖杯戦争においてはサーヴァントという枠にはめられているため、サーヴァントが出来る上限レベルの力しか発揮できないものとする。
【人物背景】
見た目は『悪の組織の雑魚戦闘員』
その実態は、幾つもの『悪の組織』に改造されまくった結果、化学反応により誕生してしまった化け物。
上記能力を見てもらえばわかるように、馬鹿みたいに強い。公認チート。
しかし、その強さは自分自身の力で得たものではないため、あまり自信は持てない男。
本来ならばマスクの下に優しそうな好青年としての人間の顔があるが、人前では滅多にマスクを脱ぐことはない。
【サーヴァントとしての願い】
なし。自分の組織を思い出す『悪』なレイナサマを守ってやる。
【基本戦術、方針、運用法】
様々な困難からマスターを守りながら、圧倒的な力を用いて相手サーヴァントを撃破する。
少しでもマスターから目を離せば何が起こるか分からないため、出来る限り短期決戦。
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投下終了します
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成田産の哀しき最強、素顔が結構普通な人か
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投下します
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「やあ、亜門君。今日もいいガタイだな」
「おはようございます。署長」
アーカム警察署の朝。
インスタントコーヒーを淹れて、デスクの前に向かう日系アメリカ人の亜門鋼太朗。
報告すべきファイルは昨日のうちにクリップにまとめて上司と同じ班の仲間のデスクの上に置いておいた。
ここ最近起き続けている衰弱事件の調査結果の報告と、さらに個人的考察を別紙にまとめて上司に見せる
「HAHAHA。亜門はクソ真面目だな。流石ジャパニーズの血を引いているだけはある」
インスタントコーヒーを啜りながら上司がファイルに目を通す。
亜門の頭には資料の内容が完全に頭に入っていた。
──────ここ最近のアーカムにおける謎の衰弱死事件について
アーカム市内の各所において体調不良や衰弱を訴える市民が急増している。
中でもフレンチヒルとリバータウンの衰弱者は異常に多く、既に衰弱死だけで17名、
入院・通院および原因不明の体調不良を訴えた者が204名に及ぶ。
鑑識による検査では『特に異常なし』とあるが、動植物はこれといった変化がなく人間にのみ衰弱症状が
出ているなど不可解な点が多くみられる。
また同地区で怪しげな集会や原始宗教的な儀式が行われており、それらに用いられる薬品が……
「ふむ、亜門君。君はミサまがいの集会が怪しいと睨んでいるのかね?」
「はい」
「根拠はなんだ?」
「勘です」
亜門がクソ真面目な顔でふざけた理由を言うものだから上司がブーッとコーヒーを噴いた。
「君はクソがつくほど真面目だが、たまにおかしなことを言うね。天然か?」
「よく言われます」
「まあいい。ならば亜門君。君にこの集会の調査を任せよう。
何か手掛かりがあればよし、無くてもよし。好きにしたまえ」
「はっ! かしこまりました」
「ああ、そうだ。出かける前に君のロッカーの前にあるスーツケースをどっかよそに置いてくれんか?
コーヒーを淹れて戻ってくるときに歩きづらくてしょうがない」
「スーツケースですか? 私には全く心当たりがないのですが」
「そんなことないだろう。君の名前がデカデカと書いてあるぞい」
ロッカーの前に行くと確かに大きく「亜門鋼太朗」と名札シールが貼られたスーツケースが道を狭めていた。
無論、上司にも話した通り、亜門には全く心当たりがなかった。
開けてみようかとも考えたが、他人のスーツケースを勝手に開けていいはずがなく、
まさか警察署署内で紛失物の届けもの、それも自分の名前がはっきりと書かれているものを届けた日には笑い者だろう。
仕方なく自宅で保管することにした。
* * *
「すいません。警察署の者ですがお話いいでしょうか」
「あぁん? ポリ公がなんだ?」
金髪の少女に話しかける。
平日の昼間、少女の見た目からハイスクールかジュニアハイスクールに行って然るべき時間帯なのだが、なぜこんな場所にいるのか。
それを少女に問い質すと
「なんだ知らねぇのかよ。このあたりのスクールはほとんど休校だよ。
なんでもぉ、スクール中の子どもがメッチャぶっ倒れたらしくてよ。
あたしはサボってたから見ての通り無事っつーわけよ」
「何? それは本当かい?」
「そんなに気に何なら見て来いよ」
学生証を見せる少女。
そこにはフレンチヒルにあるハイスクールの名前と住所が記載されていた。
「ありがとう」
「どぉいたしまして」
少女と別れてハイスクールへと向かう亜門。
トリップや瞑想を行うために薬物を使用する原始宗教の儀式を睨んでいたのだが
学校となるとまず集会を行う場所にそぐわない。
まずは現場を直接確認する必要がある。
考えに没頭する亜門は気付きはしない。
分かれた少女が見るも悍ましい嘲笑を浮かべてスーツケースを持っている警官の、亜門の背中を見ていることを。
-
* * *
「誰もいないのか」
亜門はフレンチヒルにあるハイスクールを訪ねていた。
学生たちが倒れた状況や現場を確認するのが目的で訪問したがどうにもおかしい。
警備員室横にあるインターホンを鳴らし、宿直室や職員室を見たが誰もいない。
にも関わらずハイスクールの門が開かれていたのだ。
「閉め忘れ? 謎の集団衰弱事件のあった昨日の今日で?」
ガス漏れ、疫病、いずれにせよ事件があったのだから部外者を立ち入らせないために門は閉ざすのが常識だ。
「不可解だな」
ここには間違いなく何かがある──と勘が告げている。
自然とスーツケースを持つ手に力が入る。その時だった。
───カタンッ。
校舎の奥、確か体育館のある方角から音がした。
やはり、人がいるのかもしれない。
校舎奥へ足を向ける亜門の脳内に言葉が甦る。
いつか、どこかで、誰かが言った言葉。
(熱意は買うが冷静さを失ってはいかんぞー亜門君)
そうだ。冷静さは失ってはならない。
校舎の扉を開けた。
* * *
-
体育館の中は甘ったるい香気が充満していた。
吸えば麻薬の如く人に幸福感と脱力を与えるそれは食虫花の蜜と大差ない。
なぜならば目の前に広がる光景は────惨劇だった。
塵のように積まれた人間という人間が奪われ、あるいは吸われ、あるいは喰われている。
減っていくのは肉体ではない魂だ。衰弱ではなく健康な死体になっていっているだけ。
しかし、奪われていく彼らにとって不幸かと言えばそうではない。
全員が蒼白な面で、水死体の如く生気を感じぬ蝋人形のまま恍惚の表情を浮かべていた。
現実など認識しているはずがない。全員が香気に酔って絶頂のまま黄泉路を降りていく真っ最中。
まさに此処こそが神秘と下品、快楽と腐乱を混ぜた魔女の窯。
すなわち『神秘』、すなわち『宝具』である。
「うっ……」
流石の亜門も堪える。
勘で何か察していた。
だから冷静であろうと努めていた。
だからこそ想定を超える異常の前に起こされるショックは大きい。
《軽度》の動揺は確かに亜門を硬直させた。
故にそこにいる者に。
この邪悪な光景を生み出した存在に気づくのが遅れ───
「こんばんわ、おまわりさん」
背後から聞き覚えのある少女の声がして────
「そして」
上から迫る英霊の魔手。
人間の枠を超越した速度で迫るそれは魂を喰らう。喰らい尽くす。
サーヴァントとは精神と魂の存在だ。
食事は魂であり、それを魔力に還元する。
つまり、食えば食うほど魔力を蓄えられるのだから魂食いをする方が有利なのは自明の理だろう。
故に、ここで行われていたのは魂食い。
学校のように閉鎖された空間は格好の餌場であり、同時に狩猟場としても機能する。
出入する人間が限られ朝から夕方まで人が出て来なくても目に付きにくい。
人を誘って喰らうには好条件の施設であり事実として英霊の食い場と成り果てている。
「さようなら。ちょっと勿体無いけど、まぁ仕方ないよね」
亜門は意識を奪われ魂を食われる。ここにいる蝋人形たちと同じ末路を辿るだろう。
しかし、亜門に取ってはどうでもよい。
* * *
目が、現実から、醒める。
俺の名は亜門鋼太朗。
日本の東京都、20区の『捜査員』。得意な武装は重量級。
使っている武装(クインケ)は『クラ』。
隻眼の梟殲滅作戦に参加し……参加し……いや、確か、その前に銀色の鍵を拾ったのだ。
あれは自分の恩師であり上司でもあった方の墓参りの最中。
墓前に掲げらえた銀色の鍵を、まるでクインケのように脈動する赤い筋が通るあの鍵を拾った。
「これはクインケなのか」
クインケ狂いとまで称された彼の置き土産か。だとしてもどうしてこんなところに。
鍵の裏側を見ようと〝鍵を回すように〟手首を捻る。
そして、アーカムの警官になっていた。
アーカム警察署の警官。勤務歴は五年。
孤児院出身で育ての親はドナート・パルボラとマザー・リーズバイフェ。
後に日系だったこともあり、日本人の亜門家に引き取られ亜門鋼太朗の名前を貰う……クソッ何の冗談だ。
偽りの記憶から解放された亜門へ流れ込む聖杯戦争の知識。
そこには勿論、英霊による魂喰らいの知識も含まれており──己の不甲斐なさに怒る亜門へ更なる燃料を注いだ。
何故ならば、その行為こそ亜門が、死んだ上司『真戸呉緒』が、生涯を懸けて根絶しようってした行為に他ならない。
(真戸さん。すいません。梟の首を墓前に供えるのはもう少し待って下さい)
先にやるべきことができました。
お詫びにこいつらの首を贈ります。
-
* * *
英霊の魔手が亜門の右肩を擦過する。たったそれだけでスーツが破れ、肉が抉れ、血が滴り落ちる。
だが、この結果は敵の主従に驚愕と不審しかもたらさなかった。
なぜならば今の一撃、人間が到底避けられるようなものではない。
攻撃速度は紛れもなく高速。そして意識を刈り取るために狙ったのは頭。肩ではない。
対して傷害を負わされた亜門は泰然自若。むしろ躱せなかったことに不満すら抱いている。
そう、亜門は躱そうとしたのだ。
故に英霊の強襲を受けてこの程度で済んだのは幸運ではなく鍛え上げた反射神経と動体視力の賜物。
『捜査官』は喰種(グール)と呼ばれる人型の人食いを相手に戦う職業である。
しかし、喰種の身体から生み出される運動エネルギーは人間の4〜7倍。
即殺を逃れるためには前述した動体視力と反射神経の強化術を受け、
さらに喰種を殺すためにはそれに迫る体力と筋力が必要不可欠となる。
無論、それだけでは喰種にもサーヴァントにも勝てるはずがないが。
「貴様らはなぜ人を喰らう」
「はぁ? 何言ってんの」
再び亜門へ迫る英霊の手。
躱されたことに警戒しているのか、先ほどの倍は速度が出ている。
速度が上がれば威力も上がる。故に虎爪に開かれた手は鍛えた亜門といえど危険極まりない。
だが、それでも、だとしても亜門にとってはそんな事どうでもよく。
「サーヴァントは基本、マスターからの魔力供給だけで事足りるはずだ。
なのに何故お前らは無関係な人から魂を吸い上げるのだと聞いている!」
「あぁ。あんたマスターだったのね。
ハッ、あんた馬鹿なの? 弱肉強食って言葉を知らねーのかよ。
強い奴が弱い奴を食って何が悪いのさ」
「そうか」
それだけ聞けば殺す理由としては十分だった。
なぜならそれは聞き飽きたフレーズだったから。
人を喰らう人でなし共の戯言と全く同じだったから。
「───ハッ!」
倍速の虎爪をスレスレで避け、同時にスーツケースの角で相手の顎を思いっきり殴りつけた。
その衝撃に合わせて展開されるスーツケースの中身。亜門が持ってきていた元世界の武装。
それは喰種を殺すために生み出された「狡猾」で「卑怯」で「正義」の武器『クランケ』。
クラと名付けられた大剣状のソレは、鋼の肉体を持つ喰種を紙きれ同然に両断可能な抹殺武器。
喰種を素材に生み出す喰種殺しの仕事道具だ。
この時、亜門鋼太朗が聖杯に掲げた願いは初志貫徹。即ち徹頭徹尾一切駆逐。
聖杯など破壊し、喰種紛いの行為をする連中(えいれい)を殲滅する。
それこそがこの聖杯戦争にやってきた己の使命だと認識した。
無論、サーヴァントは文字通りの規格外だ。
単純な物理で抗しえないスキルや宝具を持つ者が相手ならば、
どう足掻いたところで亜門鋼太朗に勝ち目はない。人が生んだ信仰の結晶体。
しかし。しかしだ。
「ウオオォォォ!」
そうではないサーヴァントに抵抗ができる。
危険度は喰種のレートで表せば戦闘能力だけでも最低A級以上。とりわけ戦闘力特化の三騎士はSS級を超えるだろう。
だが目の前のコイツのクラスはキャスター、陣地防衛特化型の魔術師だ。近接戦闘を行えるようなパラメーターではない。
全身全霊で振るわれたクラは風切り音と共に敵サーヴァントの腹を擦過した。
たったそれだけで衣装が破れ、腹が裂け、血が噴き出る。
「ぐぬぅ、貴様ァ……」
敵のサーヴァントが羞恥と怨嗟の声を上げる。
それを亜門は一顧だにせず、無感動に武器を振り落とした。
戦闘中に腹を裂かれたぐらいで集中を乱し、あろうことか無駄口を叩く半端者。戦闘者としては三流以下で故にさっさとケリをつける。
処刑斧の如く振り落とされるクラは今まで殺してきた喰種と同様にサーヴァントを斬断するだろう。
しかし、相手はサーヴァントであり、キャスターだった。
特に陣地内では他のサーヴァントを寄せ付けない脅威度を誇る魔道の使徒。
戦闘能力で劣るから、戦闘者として粗悪だからと舐めているのはどちらなのか。
-
「な、に」
亜門鋼太朗は動けない。
手も足も、首から下が1ミリも動けない。
まるで全身が蝋で固められたかのように。
「アッハハハ。ちょっとぉ! 焦らせないでよ!」
相手のマスターは勝ち誇っていた。
これが現実だと。端から勝負にならないのが自然の摂理なのだと。
勝利を確信したサーヴァントもマスターも満悦の笑みを浮かべている。
絶望する? それとも無様に命乞いをする? 最後の一瞬で運命に裏切られた人間がどんな表情をするのかな?
亜門は二人の表情から思考を読み取り、そしてやはり呆れていた。
ああ、だから三流以下なのだ貴様ら。
捜査官相手にもう勝った気でいるなど暢気にもほどがある。
ましてや亜門はまだサーヴァントを見せていないというのに、一体いつまで余裕を見せているのだ。
「アート・ハーモニクス」
故にひねりもなく順当に、少女の愉悦は絶望に変わる。
体育館に襲い掛かったのは圧倒的な聖音の高調波。
破壊の規模と質量は列車の1車両が音速で飛来したに等しく、ハイスクールの体育館がそれに耐えうるはずもない。
亜門のサーヴァントがキャスターの呪詛を陣地ごと、そしてその驕りも微塵に粉砕した。
「何よコレ! なんなのよ!!」
現れたのはサーヴァント。音と法律の調停者。杭撃ち(ドラクルアンカー)の使い手たる槍兵の英霊。
発せられる気は清冽にして凄絶。彼女の持つ弦楽器状の武器も聖性を宿し、この破壊現場に清涼な空気を運んでいた。
キャスターもそのマスターも今の一撃を奇跡的に避けていたが、陣地という手札を失った彼らにはなんの慰めにもなるまい。
「覚悟はいいな」
「ま、待って! 手を組……」
最後まで言い切る前に亜門によって少女とサーヴァントの鼻から上が斬り飛ばされる。
屑を前に躊躇をするな──それが真戸呉緒の教えであった。
* * *
-
「ランサーのサーヴァント『リーズバイフェ・ストリンドヴァリ』。
聖杯の寄る辺に従い参上した。貴君が私のマスターか」
「そうだ」
「よろしい。今の同意を以て君との契約は正しく為された。これからは宜しく頼むよ」
「ランサー。先ほどは助かった。
しかし、君に問うべきことがある。君は魂を喰らって強くなりたいか?」
亜門の表情は無であったが、瞳はお前の本音を晒せと告げている。
嘘偽り建前など絶対に許さない。そしてもしも答えがYESならば即令呪を以て自害させる。
しかし、そんな亜門の決意は聖盾の騎士によって良い意味で裏切られる。
「いいや。それは私の騎士の誓いに反するものだ。だが、もしも君がそうさせたいのなら令呪を使いたまえ」
「いや、こちらもそれをさせるつもりは毛頭ない」
ここに、本当の意味で契約が完了する。
かつて暴虐から無辜の人々を守る為に武器を振るった捜査官と、
かつて不浄から敬虔な使徒を護る為に聖盾を振るった聖堂騎士。
二人の聖杯戦争が始まるのだ。
・
・
・
「ところで、その、なんだ、君は男性なのか女性なのか」
その質問にリーズバイフェが激怒するのは別のお話。
-
【サーヴァント】
【クラス】ランサー
【真名】リーズバイフェ・ストリンドヴァリ@MELTY BLOOD Actress Again
【属性】秩序・善
【パラメーター】
筋力:C 耐久:B++ 敏捷:D 魔力:D 幸運:A 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:A
魔力に対する耐性。
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術で傷をつけることは出来ない。
彼女の対魔力は宝具『正式外典ガマリエル』の加護で1ランク上がっている。
【保有スキル】
芸術審美:D-
芸能面の逸話を持つ宝具を目にした場合、低い確率で真名を看破できる。
ただしランサーの審美眼は一般人とはかけ離れているため不安定。
守護騎士:B+
他者を守る時、一時的に防御力を上昇させる。
ランサーは聖堂騎士、盾の乙女、ヴェステル弦楯騎士団団長など守護者として名高い。
殉教者の魂:C
精神面への干渉を無効化する精神防御。
彼女が聖堂騎士として誓った信念は例え異端に落ちようと曲げないだろう。
信仰の加護:C
一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。
法と音律の守護騎士として生涯を駆け抜けた彼女はガマリエルを使える『調和の取れた肉体』を維持できる。
【宝具】
『正式外典ガマリエル』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:一人
『パウロの黙示録』と『エジプト人の福音』という二つの聖典に鍛え上げられた聖盾。
所有者に対魔力などの加護を与え、あらゆる不浄を弾く。
ガマリエルを所持する限り彼女の存在情報は解体不可能である。
内蔵している銀の杭は対吸血鬼用の「滅び」の概念を宿した概念武装。
パイルバンカーとして射出されるため物理的破壊力も十分にある。
この宝具を使う上で『調和の取れた肉体』を維持しなくてはならない。
『正式外典・原罪抱擁』
ランク:B 種別:反撃宝具 レンジ:0 最大捕捉:???
正式外典ガマリエルの全力解放。
相手の必殺の切り札を受けた際に聖光で敵を滅却する。
聖光のダメージは固定値+相手の威力が上乗せされる。
ただし奇蹟を起こしたことのある『聖人』や『神性』を持つサーヴァントには威力の上乗せが発生せず、固定値も減少する。
『こんな聖堂騎士に誰がした』
ランク:??? 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:自分
とあるシナリオライターの暴走で生まれた対人宝具。
月の運行を支配する怪猫によって星のバックアップを受け、相手よりワンランク上の力を得る。
事実として力の出力だけならば星の化身を上回るギャグの如きパラメーターとなる。というかギャグである。
伝承すら存在しないため本来ならばあり得ない宝具だがヨグ=ソトースは文字通り全てを記録しているため再現可能。
ただしシリアスな場面で使うことは聖杯を以てしても不可能である。
【weapon】
正式外典ガマリエルと2トンパンチを出せる腕っぷし。
【人物背景】
異端審問騎士団「ヴェステル弦楯騎士団」の団長。
騎士団を率いて数々の死徒(吸血鬼)を討伐した。
最終任務となった死徒二十七祖の第十三位『タタリ』に敗北し死亡する。
彼女の最大の未練は死徒を討伐できなかったことではなく、護衛対象を守れなかったこと。
その後、オ■■ス■■と呼ばれる死徒の■■■■と■■■■■■■■も、
最後に彼女を■■し、■■を■■する。
【サーヴァントとしての願い】
オ■■ス■■が発生する可能性を消すために『■■■・エルトナム・■■■■■が■■に■■なかった未来』を望む。
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【マスター】
亜門 鋼太朗@東京喰種
【マスターとしての願い】
元の世界、元の時間軸に戻る。
【weapon】
タラと呼ばれる重量級大剣。
大剣の形状から刃を二枚に分離させて二刀流に変形させることが可能。
さらに投擲して手放しても手元に戻すことが可能である。
【能力・技能】
人間離れした身体能力を持ち、人間の4〜7倍の力を発揮できる喰種、
それも上位クラスの者達を屠れる。
また精神力も並はずれており、「手足がもがれても戦え」が信条。
【人物背景】
東京喰種における第二の主人公。
喰種に育てられた過去があり、それが発覚後は孤児院を出てアカデミーを首席で卒業し喰種捜査官となる。
愚直な正義感を持ち、前述の過去や尊敬していた上司、同僚の死を通して喰種を憎んでいる。
反面、自分を喰わなかった『神父』、『眼帯の喰種』について興味があり、その理由を知りたがっている。
バトルスタイルは重量級武器の『クラ』を振り回すパワータイプ。
一撃に重きを置く故に鈍重に見られがちだが、俊敏な喰種の兄弟2人の連携による即殺を逃れる身のこなしを見れば回避技術も高いことがわかる。
【方針】
魂喰らいをやる主従の殲滅
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投下終了します
-
投下乙彼です。こちらも投下します
先に言っておくが、なんだこのシンクロニティ
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ここは……いや、私は……誰だろう。
何もかも、識りすぎて分からない。
……いやだな、そういうのは、私の好きな私じゃないのに。
辺りは暗く、夜よりも濃い闇で満たされている。
夜が生き物とするなら真っ黒い鯨で、私は今そんな鯨の体の中にいるようだ。
なにせ手足もろくに見えない。
長い間胃に収まっていたから、欠片も溶けてしまっていた。
……しかし、それならなぜ私はここにいるのだろう。
体はないのに、自己を認識し、考える知性は残っている。
さて、そういうのを教会(わたしたち)の間ではなんと言ったのだろうか。
「そうか。死んでいるんだ私は」
理解してしまえば、事は簡単だった。
己の名。己の素性を思い出す。
私の、既に終わった録音を思い出す。
魂の存在は教会でも協会でもとうに認識されている。
死者と会う機会は仕事柄多いが、死者の気持ちは分からないので、まあこんな感じなんだろうと納得しておく。
信徒として、そういう考え方はよろしくないとは思うけれど。
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さて。かといってどうしよう。
いや、どうするかは決まっている。
肉の身から解き放たれた魂はすべからく天に昇り、主の許に還られる。
信徒の中の信徒だなんて言い方は他人の誇張だけど、人並みの信仰心は持ち合わせているつもりだ。
だから……本当は、こんなことを思っちゃいけないんだけど。
取り残してしまった少女がいる。
蘇った記憶は私の最期の映像もまざまざと見せつける。
あの日守れなかった友人が、今も苦しんでいるかと思うと、亡くなった心臓に幻痛が走る。
そう思ったところで、何も見えないこの有り様じゃ彼女の元に向かう事も出来ない。
手足も地面も存在しない場所には、"進む"という選択が介在しない。
入口もなければ出口もない、閉じた円環(メビウス・リング)だ。
ここから抜け出す方法というものが、てんで浮かばない。
でもそれなら、それでいいとも思う。
せめてもの贖罪として、この闇で永遠に微睡むことになろうとも構わない。
肉体は灰に消え、魂は地獄に煉獄にも往かず。
どこかの聖女の末路を辿るのも、仕方ないと。
意識(ひとみ)を閉じれば、おそらくすぐにまた眠る。
蒼い空も傾ける首もないままに上を見上げるような動作を想像だけして――――――その"音"を聴いた。
ソレは闇の中においても、ぽっかりと穴を空けたと分かるほど濃い場所に浮かんでいた。
あるいはそれは単なる臓器で、闇そのものがソレなのかもしれない。
下劣な太鼓のくぐもった狂おしき連打、
かぼそく単調なフルートの音色。
それを聞いているモノは、拍子に合わせて身悶えを繰り返し、冒涜的な言葉を喚き散らしながら大笑いしている。
-
……酷い演奏だと、率直に感想を抱く。
下手、だなんて言葉で済ませる規模(レベル)じゃない。
オウムが繰り返し同じ言葉を吐き続けるのだってここまで不快じゃない。
練習不足とか、音感のズレだとかで説明出来る範囲を超えている。
ある意味で才能、いや、これはもう異能の域だ。
神経を直接掻き毟るような弦の擦れ、
野良猫を鍋で煮殺しでもしない限り出ない音階、
乱数と砂嵐の螺旋地獄。
「……………………………………………………うん」
文句を言おう」
ありもしない体が吐き気を催す。
ただでさえ著しい安眠妨害だ。住居内で音楽をする時は場所に気を付けろと言われてないのか。
何より一介の音楽家としてもこの蛮奏は見過ごせない。
とりあえず一言、出来れば指導までやらなければ今後に差し障る。
発声するための口はなく、息を取り込む器官もない。
とにかく残っている意識だけでも音源に向けようとして、
目の前に物体が見えている事と、伸びていた自分の腕がある事に気付く。
-
手には、光もないのに銀色に照らされた古い鍵。
捻じる。
繋がる。
題目を外典(アポクリファ)に変え、演者(アクトレス)は揃う。
止まっていた歌劇(カデンツァ)が再演(アゲイン)する。
○
-
「あ、起きた?おはよマスター。気分はどう?」
目を覚ましたら、柔らかく微笑む少女の顔と対面した。
髪にかかった羽飾りが良く映えている。
―――なんて眩しい、朝の光。
「ああ、おはよう―――ええと、
君が、私のサーヴァント?」
柔らかなソファーに横たえていた体を起こす。
……体に鈍い痛みがする。そんなにも長い間、眠っていたのだろうか。
「そうだよ。ボクはライダー、真名はアストルフォ、よろしくね!」
当たり前のように脳に溜まった知識をするりと紐解く。
アストルフォと名乗った少女は、咲き誇る花の笑顔で手を差し伸べた。
「うん、よろしく。
私の名前は―――ええと、そう、リーズバイフェ・ストリンドヴァリだ。
長ければリーズでも構わない」
眠っていて頭がまだ覚醒してないのか、薄ぼんやりとした記憶から、自分の名前を引っ張り出す。
「わかった、リーズだね。うん、いい名前だ!
いやあ、召喚されたらマスターが寝てるし、いつまでも起きないからどうしようかと思ったけど、
これなら大丈夫そうだな!」
握り返した手を、サーヴァントは上下に元気よく振る。親愛の証らしい。
フランクに伝説を残すシャルルマーニュ十二勇士が一騎、アストルフォ。
教会騎士としても、その名は知っている。
騎士としての実力の中では下位、はっきりと弱いと書かれる程。
だが多くの友人から様々な魔道具を譲り受け、その仁徳で多くの活躍をした。
-
「それでリーズ、さっそくだけどお願いがありまーす!」
「ん。なに?」
「服、買ってくれない?流行取り入れたコケティッシュなやつ!」
そして、途轍もなく奔放な性格をしているという。
理性が蒸発しているとまで言われ、実際にある事件で理性を取り戻した事があったが
本当に蒸発たように再び元の性格に戻ってしまった、などという伝説もある。
戦いの指針より先に服を所望するところからして、どうやら偽りではないようだ。
「街の調査に使う、ということじゃ……ないんだろうな」
「うん、ようはただ街に出て遊びたいだけなのである!」
「正直なのは良い事だけど、まだ私はここでの役割(ロール)が上手く思い出せていない。
買う資金があるかは分からないんだ」
高級邸宅地、フレンチ・ヒルの洋館に住まうヴァイオリニスト。
そんな設定だけは思い出せる。
「えー、でもこんな広い屋敷にいるならお金持ってるんじゃないの?もしくはクローゼットとか」
「もしあっても、君みたいな少女に合う服はないと思うけどな」
「えっ」
「え?」
…………………………………………
(誤解が解かれるまでの僅かな間)
「……なるほど、事情は把握した。
失恋で狂乱したローラン伯を鎮める為にした仕方ない不可抗力だと。
けどそのまま性別を偽るのは騎士としてどうかと思うよ、私は」
「偽ってないもん!ただ好きで着た服がたまたま女物っぽかっただけだもん!
それにリーズだって、ボク言われるまでカッコイイ系のお兄さんかと思ってたし!
ぶっちゃけるけど、多分他の人が見たらボクよりマスターの方が強そうに見えるよ?」
「面と向かって言われると少し傷つくな……」
「そう。ボクも傷ついてる。だからこれでおあいこってことでいいじゃないか」
-
可愛らしい声でかんらかんらと笑うライダー。
少量の悩みであれば吹き飛ばしてしまいそうな爛漫さ。
そこにいるだけで元気が湧いてくる、陽だまりのような温かさを感じる。
生前、周りにいた騎士もこんな気持ちだったのだろうか。
「よし、部屋を確認したら外に出よう。任務でも足を使った虱潰しなのは変わらないし。
とりあえずガマリエルの調律から……ヴァイオリンのケースに入ってるんだが、知らないかな?」
「ヴァイオリン?ああ、あったあった!そっかあれマスターが使うのか!
ボクも笛持ってるし今度セッションでもしてみようか!ペンペン草も生えなくなるけど」
自分の家だというのに、慣れない手つきでタンスを探る。
どの場所に何があるかは手探りで見つけていくしかないのは困りものだ。
ライダーとの相乗で部屋は強盗に荒らされたとしか思えない惨状に変り果てるのは、およそ三分後のことだった。
聖杯という最上位の神秘の聖遺物。
教会に属する以上は、命令はないとはいえ無視できるものではない。
邪な者に渡る危険もあるのを考えれば、積極的に事態に介入していくべきかもしれない。
けど、そもそも自分はどうして招かれたのか。
以前の記憶がはっきりしない。何をしていたかの前後が抉られたみたいになくなっている。
何故だかは全然分からないけど。
今は何よりも、それをどうしても取り戻さなければいけない気が、した。
「……あ、いっこ思い出した。エステの予約もしていたんだった」
「エステ!そういうのもあるのか、いいなそれ!ボクもやってもらいたいなあ。
あとヒポグリフにも出来るかな?」
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【出展】
Fate/Apocrypha
【CLASS】
ライダー
【真名】
アストルフォ
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力C 幸運A+ 宝具C
【クラス別スキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではアストルフォに傷をつけられない。
宝具である『本』によって、ランクが大きく向上しており、通常はDランクである。
騎乗:A+
騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。
【固有スキル】
理性蒸発:D
理性が蒸発しており、あらゆる秘密を堪えることができない。
味方側の真名や弱点をうっかり喋る、大切な物を忘れるなど最早呪いの類い。
このスキルは「直感」も兼ねており、戦闘時は自身にとって最適な展開をある程度感じ取ることが可能。
理性がない故、正気度の喪失が起きることはない。邪神が相手でも臆することなく立ち向かう。
月にある理性の詰まった瓶を取った逸話から、月のない夜―――新月の日になると理性が取り戻される。
これにより下記の宝具の真名解放が可能になるが、理性がある故に恐怖心も戻る事になる。
怪力:C-
筋力を1ランクアップさせることが可能。
ただし、このスキルが発動している場合は1ターンごとにダメージを負う。
人間のアストルフォがこのスキルを所有しているのは、
理性蒸発によって筋力のリミッターが外れているからである。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【宝具】
『恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラック・ルナ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:100人
竜の咆吼や神馬の嘶きにも似た魔音を発する角笛。
レンジ内に存在するものに、爆音の衝撃を叩きつける。
対象のHPがダメージ以下だった場合、塵になって四散する。
善の魔女・ロゲスティラがアストルフォに与え、ハルピュイアの大群を追い払うのに使用された。
通常時は腰に下げられるサイズだが、使用時はアストルフォを囲うほどの大きさになる。
『魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)』
ランク:C 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
さる魔女から譲り受けた、全ての魔術を打ち破る手段が記載されている書物。
所有しているだけで、自動的にAランク以下の魔術をキャンセルすることが可能。
固有結界か、それに極めて近い大魔術となるとその限りではないが、
その場合も真名を解放して、書を読み解くことで打破する可能性を掴める。
……が、アストルフォはその真名を完全に忘却している。
魔術万能攻略書も、適当につけた名である。
本当の真名は『破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)』。
思い出すには理性が返却する時刻―――新月を待たねばならない。
『触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:2〜4 最大捕捉:1人
騎士アルガリアの馬上槍。金の穂先を持つ。
殺傷能力こそ低いものの、傷をつけただけで相手の足を霊体化、
または転倒させることが可能。
この転倒から復帰するためにはLUC判定が必要なため、失敗すれば
バッドステータス「転倒」が残り続ける。
ただし1ターンごとにLUCの上方修正があるため、成功はしやすくなる。
単に触れるだけでは効果はなく、穂先に触れるまでが必要。
『この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:2〜50 最大捕捉:100人
上半身がグリフォン、下半身が馬という本来「有り得ない」存在の幻獣。
神代の獣であるグリフィンよりランクは劣るものの、その突進による粉砕攻撃はAランクの物理攻撃に匹敵する。
その真の能力は、餌と捕食者の混血という存在自体があやふやな特性を活かした、次元の跳躍。
存在を一瞬だけ抹消させることで現世界からのあらゆる干渉を回避する事が出来る。
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【人物背景】
イングランド王の息子にして、シャルルマーニュ十二勇士の一人。
この世に並ぶもの無き美形ながら、「理性が蒸発している」と例えられるほどのお調子者。
冒険好きのトラブルメーカーで、どこにでも顔を出し、トラブルに巻き込まれ時には巻き起こす。
悪事を働くという概念がなく好き放題暴れまわるが、最悪の事態には踏み込まないというお得な性格。
【サーヴァントとしての願い】
とりあえずマスターについていこう。ファッション!セッション!エステ!
後のこと?そんなもんなるようになるさ!
【出展】
MELTY BLOOD Actress Again
【マスター】
リーズバイフェ・ストリンドヴァリ
【参加方法】
憶えていない。
残っていない。
【マスターとしての願い】
僅かな時間だが知己を得た友人の記憶ともども、今は忘れている。
【weapon】
『正式外典ガマリエル』
せいしきげてん、と読む。
対吸血鬼用の『滅び』の純粋概念による概念武装。
ヴァイオリンを思わせる形状で、パウロの黙示録とエジプト人による福音という二つの外典によって鍛えられた聖盾。
銃盾にして槍鍵、そしてパイルバンカー。
最大解放を直撃させれば、サーヴァントとて滅せられる。
【能力・技能】
異端討伐の専門として、人間の中では上位の身体能力を誇る。
具体的に言えば、月姫のシエルと同等かそれ以下―――つまり平均的なサーヴァントと防戦が可能。
パンチ力は本人曰く平均2トン。
【人物背景】
正堂教会所属、ヴェステル弦楯騎士団団長。
聖堂騎士。盾の乙女。ゲッセバルネ枢機卿の寵児。法の奏者、信徒の中の信徒。
正式外典ガマリエルに選ばれし、音と法律の調停者。
しかしてその実態は何も考えてなく自堕落でずぼらな駄目人間の類型。
達観している様に見えるのは、何も考えていない様子を周囲の人が勘違いしているだけ。
可愛いもの、キモいネコ、メカメイドが好き。健気な女の子とかも好き。
■年前の吸■■討■など■■に■■■れ■いない。
■■■など何■にも発■していない。
あなたは■んでいない。
あなたは■んでいない。
あなたは■んでいない。
あなたは■んでいない。
あなたは、■と■ってすらもいない。
【基本戦術、方針、運用法】
マスターが前線に出て、サーヴァントがサポートに回るという戦術が基本となるだろう。
リーズはマスターとしてはかなりの上級とはいえ、宝具も含めたサーヴァント相手にはやはり分が悪い。
しかしアストルフォの宝具はその穴を埋めるに足る性能がある。
触れるだけで機動力を奪う槍。
回避しにくい広範囲の音波攻撃。
持つだけで対魔力A、さらに条件を満たせば固有結界級でも完全無効の魔術書。
マスターも乗せて飛行できるうえ、絶対回避も備えた幻想種。
とにかくどれも集団戦で有用なものばかり。
リーズ自身リーダーの経験もあるためコンビネーションも組みやすいだろう。
リーズが防衛を務め、脇からアストルフォが攪乱、隙を突いてガマリエルをブチ込む。
これが最良の必勝戦術である。
ただ当面は失った記憶を得るのに終始することになる。
ある意味アストルフォが二人いるようなもの。つまり悪夢。ブレーキ役求む。
なお記録がないのは彼女がすでに
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投下終了です。
以上、シンクロンティでした
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皆様投下お疲れ様です。
私も投下します。
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「それじゃあ士郎、僕はもう行くけど、ちゃんと大河ちゃんの言うことを聞いて良い子にしてるんだぞ」
「言われなくってもわかってるって。爺さん、いってらっしゃい」
冬木市の一角にある屋敷の前で、何度も繰り返したやり取りが行われた。
旅に出ると言ってどこかへ赴く父と、特に疑うことなくそれを見送る子。
数日後にはどこか寂しそうな顔をした父が帰ってきて、子がそれを迎え入れる。
ひょっとしたら永遠に続くのではないかと錯覚するほどに何度も繰り返してきた光景だ。
しかし、物事に永遠はない。
爺さんと呼ばれた男は、これで幾度となく繰り返した偽りを終わらせようと決意していた。
父親の名は衛宮切嗣。「魔術師殺し」の名を持つ魔術師である。
いや、魔術師であった、が正確かもしれない。
アインツベルンのマスターとして数年前に行われた聖杯戦争に参加し、そこで魔術師としての力は失われているからだ。
聖杯戦争に参加した彼は生き延びることに成功したが、体を呪いで蝕まれ、夢は砕け、生きながらにして死人となっていた。
士郎と呼ばれた少年も切嗣の実子ではなく、彼によって齎された大火災から唯一救い出せた孤児であり、切嗣が養子として迎えたのだ。
そうして幽鬼のように生きているはずの彼が時折どこかへ旅に出る。
その目に使命感を漂わせ、なにかに脅迫されているような面持ちで。
子供ながらも士郎はそのことに気付きはしたが、枯れた彼がそれで生きていけるならいいと、いつもにこやかに切嗣を送り出していた。
切嗣が旅と偽って訪れていた場所はアインツベルンの所領である。
結界に閉ざされたその場で、たどり着くことが叶わなかろうと何度も結界を破ることに挑戦していた。
大切な、たったひとりの娘を取り戻すために。
しかし体を呪いで蝕まれた切嗣には結界を解くことはおろか、その起点を探し出すことすらできずにいた。
凍死寸前まで吹雪の森を彷徨うことを無意味に繰り返し、娘を救出することを半ば諦めかけていた。
諦めがつくならどれほど楽であるだろうかと自嘲しながら。
体の中で延々と続く怨嗟の声に押し潰されそうになりながら。
「これで駄目ならば、もう…………」
数日前に情報屋を名乗る魔術師からある噂話を耳にした。
どのような結界や封印が施されていようとそれを打破する、どのような鍵穴にも適合する礼装があると。
藁にも縋る思いでどこにあるのかと問うと、魔術師は素質のある、強く求める者の元にいつの間にか現れると言った。
一体なんの素質なのか、それを聞いても魔術師は一切口を開かず、煙のようにその場から消え失せた。あの魔術師は果たして何者だったのか。
そんな疑問を今更ながらに抱くが、だが謎の魔術師の言葉は真実であった。その日になんとなく家の土蔵を掃除していると、蔵から複雑な彫刻を施された銀の鍵が発見された。
「強く望む者の前に現れるという話は本当だった。だが、噂通りに結界を解除できるかどうか……」
確かに鍵からは強い神秘を感じ取ることができる。だが謎の部分が多すぎるのだ。
銀の鍵など今まで一度も耳にしたことがない礼装であるし、そもそも強く望むだけで手元に来るなどわけがわからない。
さらに素質というワード。魔術師として、という意味ではないだろう。それならば僕は選ばれはしないはずだ。魔術師としての、いや、魔術師など関係なく既に僕は死に体に等しい。
だというのにこの鍵は僕の元へと現れた。
詳細も理由も一切不明の、そんな未知の礼装であろうと今はこれに頼るしかなかった。
僕の力ではどうやってもイリヤスフィールを救い出すことはできない。そしておそらく、僕ももう長くはない。
「噂通りであってくれよ」
猛々しく吹雪く森の中、目の前には何度も辛酸を舐めさせられた結界が展開されている。
ポケットから鍵を取り出し、恐る恐る結界へ近づけると、まるでそこにはなにもないかのように鍵は結界を貫き、そして根元近くが結界の中に入った所で行き止まりにぶつかった。
一瞬噂は嘘だったのかと考えたが、ここから何をどうすべきかすぐに思い至る。
「鍵だから、回せってことか…………。待っててくれイリヤ。すぐ迎えにいくよ」
随分と長く一人にさせてしまったことの罪悪感から、どのような顔をして会えば良いのかはまだわからない。だが。
愛する娘を助け出すため、衛宮切嗣は結界に刺さった銀の鍵を回す――――――――。
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◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
「――――くそッ! よりにもよってまた聖杯戦争だって!?」
衛宮庭の土蔵の中で、切嗣は声を荒げる。
銀の鍵を回した瞬間、切嗣はアーカムへ召喚されていた。
切嗣が召喚された場所は自宅の土蔵。冬木の自宅がそっくりそのまま、アーカム市内にて再現されていた。
外から響いてくる喧騒が普段のものと異なる以外は内装から庭、何もかもがそのままで、聖杯から与えられた知識がなければ冬木へ飛ばされたと勘違いしていたことだろう。
しかし切嗣からすれば、いっそ冬木へ送還されていたほうが良かった。
もはや切嗣の体は聖杯戦争に耐えることが不可能なほど衰弱しており、まともにサーヴァントを運用するほどの魔力も有してはいない。
おまけにマスターを召喚する聖杯など耳にしたこともなく、明らかなイレギュラー。
そしてなによりも、第四次聖杯戦争で聖杯が汚染されていたという事実が切嗣に拭いきれない不安を与えていた。
「なにがどんな封印も解く鍵だ! なにが結界破りの礼装だ! 詐欺もいいとこじゃないかッ!」
この挑戦で駄目ならば諦めて士郎と静かに余生を終えるつもりでいた切嗣にとって、聖杯戦争への強制参加など失敗する以上に望まない、最悪の展開である。
生き残ることなど不可能。このままではイリヤだけでなく、士郎までひとりにさせてしまう。
聖杯戦争に参加せずに逃げ帰ってしまえれば良いのだが、アーカムシティなどという都市は本来存在していない。そしてそこに自宅が設置され、この都市の市民としての記憶が与えられているなど、ひょっとすると自分は異界に召喚されていて、日本行きの飛行機に乗ったところで冬木市は存在していないかもしれない。
いや、そもそもこの都市から抜け出すことすら可能かどうか。
兎に角、士郎のところに帰るにはこの聖杯戦争で生き抜くしかなかった。
そしてそれが叶わないことは明白であり、状況は完全に詰みであった。
「くすくすくすくすくす…………」
詰みであると――――――この時までは思っていた。
絶望的な展望に活路を見出そうと思案していた切嗣の耳に、静かな、透き通っているはずなのに微かなおぞましさを伴わせた笑い声が届く。
その笑い声に惹かれたように視線を上に向けると、そこには見知らぬひとりの女が佇んでいた。
それは白い女であった。
汚れひとつない真っ白のローブで全身を覆い、絹糸のような白髪は真っ直ぐに腰まで流れている。
肌は雪の様に白く、ローブについたカウベルや裾等に装飾された金の模様以外は全てが白。おそらく他に色を持つ箇所があるとすれば、今は閉ざされているその『目』だけであろう。
「はじめましてマスター」
「!? お前は……僕のサーヴァントか……?」
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くすくすと笑っていたかと思えば切嗣が己の存在を認識したことに気付くと、女は慈母のような微笑を携えて、切嗣へ出会いの言葉を送った。
それは従者から主に向けての言葉であり、正しく契約により切嗣の元へと召喚されたサーヴァントであるという証明の言葉であった。
「ええ、私はキャスター。あなたが望んでいたクラスのサーヴァント」
キャスターは微笑を崩すことなく、切嗣に自らのクラスを告げる。
己はマスターが望んでいたクラスのサーヴァントであると。
そんなキャスターの言葉を、しかし切嗣は快く受け入れることはできなかった。
確かに自分は第四次聖杯戦争の始まりに際して、アハト翁から英霊召喚の触媒を渡された時、扱いの良さからアサシンやキャスターの方が好ましいと考えていた。
だが今の衰弱した肉体ではどのクラスの英霊を手にしたところでどうすることもできない。アサシンであろうと満足に魔力を供給することもできずに消滅してしまうだろう。
今更キャスターを与えられたところで、結局はなにもできずに敗退する未来しか存在しないのだ。
「そんなことはないわ、マスター」
「そんなことはないって、実際僕はお前を現界させているだけで既に…………――――!?」
キャスターの言葉を返す途中で、切嗣はある事に気付く。
自分はキャスターに対し、考えていたことをまだ口に出してはいなかったということに。
(心を読まれた? いや、そもそも僕はキャスターを召喚したいだなんて微塵も考えてはいなかった。
まさか、記憶を見られた――?)
突如心どころか記憶までも覗かれたことに狼狽する切嗣の様に、今度は子供のように楽しそうにキャスターは笑う。
「くすくすくす…………。ごめんなさい、マスター。先にあなたがどういう人なのか知っておいたほうが会話がスムーズになると思って」
悪びれた様子もなく、上手くからかえたことが実に面白いと言わんばかりにキャスターは笑う。
「それがお前の力か……、キャスター」
「そう。『視る』。これが私の力。此方から彼方、過去から未来までの遍く全てを視ることができる、ただそれだけのチカラ」
切嗣が平静を取り戻したからか、キャスターは笑いを微笑へと戻し、己の力が何であるかを伝える。
全てを見通す目。それはきっと、切嗣が健全な状態であれば恐ろしい力となっただろう。
「そうね。あなたの魔力供給がもっと多ければこのアーカム全てを見渡すことが出来るでしょうね。マスターもサーヴァントも、そうでないものも全て。どこにいて、何を考えているかまで手に取るようにわかるでしょうね」
そうなればいくらでも敵のマスターを屠ることができるだろう。敵の位置や、あろうことか考えまでわかってしまうなど、攻略本を見ながらゲームをするようなものだ。
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だが現実はそうではない。
「記憶を覗いたのならわかっているだろう。僕の体は呪いに蝕まれている。どれだけお前が強力であろうとその力を活かすことはできない」
それが確かな真実だ。
あの時、『この世全ての悪』によって与えられた呪いは魔術回路を使い物にならなくし、確実に切嗣の体を、寿命を食らっている。
サーヴァントのエンジンであるマスターが死に体である時点で、どれだけ優秀なサーヴァントであろうと関係ないのだ。
「だから僕達はこの聖杯戦争に勝つことはできない」
いや、そもそも勝ちたいとすら考えていないのかもしれない。
だってそうだろう? 未知の聖杯によって執り行われるこの聖杯戦争を、誰がまともに信用することが出来る。一体誰が、聖杯が泥によって汚染されていないと言い切れる。
詰る所、僕はそもそも聖杯戦争を勝ち抜くことにすら懐疑的で、ただ士郎の所に戻りたいだけなのだ。
だから、厄介事に巻き込まれるのはごめんだ。
そう考えて、切嗣は右手を掲げてその甲を見やる。
そこはセイバーの令呪が宿っていた場所であった。そして今そこに刻まれているのは、三画によって成された一つの目。
力のない目でそれを見返し、切嗣はあることをキャスターに命じようとする。
聖杯戦争に巻き込まれない方法。それはマスターであることをやめてしまうことである。
自分のように徹底するマスターがいなければ、それで聖杯戦争に巻き込まれることなく生き残ることができる。そう考えた。
キャスターという監視の目を失うことは多大な損失であり、早計かもしれない。
聖杯に願わなければ帰ることはできないかもしれない。
だけどひょっとしたら、聖杯戦争が終われば元の場所へ返されるかもしれない。
誰にも気付かれることもなく生きられるかもしれない。
すべては可能性の話。
だがキャスターを現界させ続けることは切嗣の僅かな寿命をさらに削るということは紛れもない現実であった。やるならば、早い内にやっておかねばならなかった。
そうして切嗣は、なんの躊躇いを持つことなく己の下僕へと命令を下す。
「令呪を以て我がサーヴァントに命ず――キャスター、自害せ――」
「イリヤスフィールのことはもういいの?」
冷徹な指示が下る直前、切嗣の心の中の、最も気付きたくなかった部分をキャスターが指摘する。
「イリヤスフィールのことは、諦めてしまうの?」
なおもキャスターは切嗣の心残りを掘り返す。実の娘を取り戻すことなく、ただ漫然とした余生を甘受するのかと問い質す。
「でも、そうよね? あなたには士郎がいるから別に寂しくはないものね? 藤村組のみなさんも良くして下さるし、今はとても穏やかな生活だものね? 戦場を転々として、魔術師を殺して、安息のない日々を、常に何かを失い続けた過去とはまるで違う。今更イリヤスフィールなんていなくてもあなたは満たされているものね?」
「違う。そんなことはない……」
ああ、そんなことはない。
「あなたは穏やかな余生を過ごせればそれでいいのよね? イリヤスフィールにはもうあなたしかいないけれど、関係ないわよね?」
「違う! そんなことはないッ!」
そんなこと、あってたまるか――!
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「だってそうじゃない。折角聖杯戦争だなんて何でも望みが叶う儀式に召喚されたのに、いきなりその権利を放棄しようとするのだもの。今回が最後と決めていたのに、随分とあっさり諦められるのね」
「聖杯戦争は殺し合いだ。こんな状態じゃどうやったって死ぬ。……士郎を一人にはできない」
そこまで言って、ある変化に気付く。
些細なことだが、とても大きな、おぞましい変化。
「そうよね。士郎を一人にはできないわよね?」
どこまでも白かった女に、色が混じっていた。
「じゃあ、アインツベルンの結界を突破できていたら、どうするつもりだったのかしら? 流石に城の中にまで入ってきた侵入者を見逃すはずがないもの。きっと殺されるわ」
そのローブは変わらず真っ白であった。
「運よくイリヤスフィールの元に辿りつけたとして、追っ手はどうするつもりだったのかしら? 大切な小聖杯を奪われて黙っているはずがないもの。下手をすればイリヤスフィールも巻き込まれて命を落とすかもしれないわね」
絹糸のように美しい白髪はやはり腰まで伸びていた。
「もしも日本まで逃げ切れたとして、どうするの? 士郎とイリヤスフィール、家族三人で仲良く暮らすの? それが叶うと思うの? まさか、日本まで逃げればアインツベルンの積年の妄執も諦めてくれるとでも本当に思っているの?」
肌も雪のように白いままだ。だが――。
「ありえないわ。必ず見つけ出されて殺される。士郎も、藤村組の人も、あなたがイリヤスフィールを助け出せば、みんな巻き込まれて死ぬわ」
いつの間にか女はその両の瞳を開けていた。
そこにある色は紅。
今まで一度たりとも目にしたことがない、恐ろしいほどに鮮やかすぎる真紅の二点が、白で構成されていたはずの女に新しく付け加えられていた。
慈母のようであった微笑も、愉しくて悦しくて仕方がないのか、口の端は歪みきり、悪魔のそれと形容できる物へと変化していた。
「あなたがイリヤスフィールを助け出せば必ず死ぬわ。しかも成功すればするほど周りへの被害が酷くなる。士郎を一人にできないと言っておきながら、あなたは何度そんな危険な綱渡りに挑んだのかしら?」
紅は僕の全てを見透かすかのように、視線を外そうとはしてくれない。
耐え切れずに僕の方から視線を逸らそうとするが、恐ろしいというのにその真紅の眼から目を離すことが全く出来ない。
「うふふ、くすくす。いえ、実際はそんな綱渡りじゃなかったわよね? だってあなた自身、本当は無理だって気付いていたものね?
だけど努力はしたと、全部自分に言い聞かせるための行動だったのよね?」
否定の言葉を出そうとするが、口も視線同様に一切動けない。女がそれを許可しない。
「不可能なことはわかっているけど、だからといって行動しなくちゃ夢見が悪いものね?
『この世全ての悪』の呪いも良くなることはないものね?
アイリスフィールに顔向けできないものね?」
アイリと同じの赤い目の白い女は、徹底的に切嗣の心を切り刻む。切嗣ですら気付いていない、気付こうとしなかった所を明け透けと指摘する。
「もういいじゃない♪ 何度も頑張って、何度も凍死しそうになったんだからいいじゃない♪
諦めても、きっとアイリスフィールはあなたのことを許してくれるわ。実の娘なんか忘れて、仮の子供と静かに余生を過ごせばいいじゃない♪
――――――――あなたはそう考えているわ。自覚はしていないけれど、聖杯戦争を降りようとしたことがその証」
「嘘だッ! 僕は本気でイリヤスフィールを助けようとした! 罪悪感からの行動だったわけじゃない!! 娘を、イリヤを忘れられるわけないだろう…………っ!!」
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耐え切れず、切嗣はキャスターに反論する。自覚していない部分をどれだけ指摘されようと、自分は確かにイリヤを助けようとした。それは本心であったと、後ろめたさからの行動ではなかったと、言葉にしなければ耐えられなかった。本当に自分がそう思っていたのではないかと、真紅の目を見ていると錯覚しそうになった。
いつの間にかキャスターはその目を閉ざしていた。それはきっと切嗣が反論をした際には閉じていたのだろう。そうでなければ未だに切嗣は一言も発することはできなかったはずだ。
そして再び慈母のような微笑を浮かべるキャスターは、切嗣にだったらどうするべきかと問いかける。
「イリヤスフィールは諦めるの? それとも諦めないの?」
簡単な、意地の悪い質問であった。
切嗣は諦めたくはない。
だが聖杯を勝ち取り、イリヤを助け出すなど夢のような話である。
どちらを選ぶかなど、合理主義者である切嗣からすれば選択肢など無いに等しい。
「僕は――――イリヤスフィールを取り戻したい」
切嗣が選択したのは、魔術師殺しであれば取らなかった方であった。
「どうして? そんな選択はあなたらしくないわ。素直にさっきしようとしたみたいに、少しでも早くこの聖杯戦争から降りた方が利口よ? 勝ち目のない戦いに乗るなんてバカのすることじゃない。感情を優先させるなんて、愚か者のすることじゃない。もっと合理性を追求しなければ嘘じゃない」
キャスターはその笑みを崩すことなく、切嗣に問う。そんな愚かな選択で良いのか、気まぐれではないのか、と。
「お前が乗せたんだろうキャスター。僕はイリヤを助けたい。この気持ちに嘘なんかない。それを証明するためにも、僕は聖杯を利用する」
途端にキャスターの顔がつまらない物を視るものへと変化する。聞き分けのない子供に辟易した大人のような怒りがそこに見て取れた。
「つまらない。つまらないわマスター。またそうやって夢に逃げて現実と向き合わないつもりなの?
そんな体でどうやって勝ち抜くことができると言うの? 聖杯が汚染されていたことをもう忘れたの? この聖杯戦争なら無事だとでも言い切れるの?」
キャスターは切嗣の選択に露骨な不満を示す。正確には切嗣が振り切れたことに、だが。
その様子から切嗣は、このサーヴァントは自分を苦しめたいだけであると悟った。自分が懊悩する様を、ただただ視ていたいだけ。
気付いてしまえば、キャスターの発する言葉に惑わされることなど無い。
「どうしたキャスター? 僕が令呪を使えば死んでしまうというのに、随分と僕に令呪を使わせたそうじゃないか」
「それは私が聖杯に焼べる願いを持っていないから。いつまでも私を現界させ続けることはあなたの寿命を縮めるから。あなたが最初に思った事じゃない」
煩わしそうに、キャスターは切嗣の質問に大した興味を持たずに受け流す。
「なあキャスター……、ひょっとしてだが、お前なら僕の体をある程度戦える状態まで戻すことができるんじゃないか?」
ありえないことかもしれないが、それでも切嗣はそのことをキャスターへと問うた。
見つめる先の顔はつまらないを通り越してしかめっ面になっていたが、この問を聞いた途端に虚を突かれた物となり、そして子供のように楽しそうな笑顔へと戻る。
「どうして……そんな突拍子も無いことを考えたのかしら、マスター?」
「別に、お前が勧める方とは逆の選択の可能性について考えただけだよ。お前が残念がる僕の顔を見たいから、わざと間違った選択肢を突きつけてきているのではないかってね」
切嗣の答えが気に入ったのか、キャスターは笑い声を漏らす。その笑いは、選択は間違ってはいないと切嗣に確信を持たせた。
「くすくすくす。ひどいマスターね。従者が体のことを気遣ってあげているというのに、その気持ちを無碍にして疑うだなんて」
可笑しそうに、楽しそうに、キャスターは切嗣のことを嘲う。
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「第一、本当に可能だと思うの? あなたの体にある呪いは『この世全ての悪』によって施されたものよ。一介の英霊でどうこうできるものだとでも、本当に思っているの?」
「そうだな。きっと生半な英霊ではどうにかできるような代物じゃないだろう。…………だけどキャスター」
切嗣は思っていたことを口にすることにした。
それはキャスターの異常性について。
魔術師の最高位となる存在ならば、キャスター同様に世界の全てを見通すことが可能である。
しかし見れる物は、過去か、現在か、未来か、これらの内の一つだけだ。
キャスターは違う。過去も未来も現在も、それらの全てを見渡せると言った。
そのようなことが可能な存在がいるとすれば、それは――。
「キャスター――――お前は、神霊じゃないのか?」
切嗣がキャスターについて、その疑問から導き出した仮説を口にした瞬間。
「うふ」
また、キャスターの笑い声が漏れた。しかしそれは今までのようにすぐに収まることは無く。
「うふ、うふふふふふ……、くすくすうふふ、あはっ、あはは! あーっははははははは!くすすあはははうふあはははははははうふふふふはは!!」
まるで壊れたスピーカーから発せられたかのように耳障りな、耳をつんざくけたたましい哄笑が土蔵の中で反響した。
「そう! そうよ! 私は神。摩利支天。凄いわマスターよくわかったわね! あははははは! 凝り固まった魔術師の頭でよく正解できました!」
なにがおもしろいのか全くわかりはしなかったが、それでも摩利支天と名乗ったサーヴァントは笑い転げる。
切嗣はそこに得も言えぬ恐怖を抱いたが、そんなことよりももっと気にすべき点があった。
「うふくすすすす。そう、そうね。私はサーヴァント。でも、おかしいわよね? 正常じゃないわよね? 本来ならば英霊の座にアクセスしてそこからサーヴァントを引っ張ってくるはずなのに、神霊が召喚されるだなんて異常よね?」
未だ楽しそうにしているキャスターの言う様に、本来の聖杯戦争ではありえない。神霊の召喚など、冬木の聖杯を遥かに凌駕している。
「で、どうするのだったかしら? 汚染されているかもしれない聖杯を勝ち取りにいくのだったかしら? 明らかに本来の聖杯から逸脱しているソレを」
マスターを召喚する時点で異常だとはわかっていたが、神霊を再現してサーヴァントとして使役させるなど想像以上である。
キャスターは聖杯をどうするのか、とても興味深げにこちらを見ている、のだろう。その目は開いてはいなかった。
「ねえ。ねえねえねえ! どうするの? どうするのマスター!? これで碌でもないことしか叶わない聖杯だとしたらどうするの?
それでもあなたは聖杯を求めるの? 今度はきっと『この世全ての悪』よりもっと酷い物に憑かれるかもしれないわね!?」
キャスターは問う。聖杯をどうすべきなのか、と。果たして求めて良い代物であるのか、と。
その問に、正しく答えることが出来るのはおそらく切嗣ひとりだけであった。汚染された聖杯を知り、正しく人類のことを思うことができるのはこの男だけであった。
「だったらなおさら、他のマスター達に渡すわけにはいかない。僕が勝ち残らねばならない」
仮令汚染などなくても、神霊を召喚可能な力を持つ聖杯が邪な者の手に渡れば、それは間違いなく世界に未曾有の危機を齎すだろう。
「そう! その通りよマスター! なんとしてもあなたが残らなければ、下手をすれば全世界規模で大惨事なんてことになりかねないものね!
ああでも残念ねマスター! あなただけしか正しく脅威を認識できていないというのに、あなたには戦う力が残っていないだなんて!」
意地悪そうに、何が入っているかわからないプレゼントの箱を開ける子供のように、わくわくとした顔でキャスターは切嗣に語りかける。
これほど歯痒いこともないでしょう、と暗にそう語りかける。
そして切嗣の答えは定まった。
イリヤの元に駆けつける為に、一人の父として聖杯を求める。
悪意を持つ者が悪用しない為にも、汚染されていないとも限らない聖杯を処理する為にも、魔術師殺しとしても聖杯を求める。
-
そしてそれを実行するためにも。
「キャスター。頼む、僕の体を治してくれ」
この衰弱した肉体をどうにかしなければならなかった。
「嫌よ。無理。できない」
しかしキャスターはそれを拒んだ。不可能であると断じた。
それでも引き下がることはできず、切嗣は右手を掲げ、手の甲に出来た目をキャスターに見せ付ける。
「令呪を使ってサポートをする」
令呪。聖杯より授けられた強制執行権。
本来ならば己のサーヴァントを律するために使用するが、補助として扱えばサーヴァントに生前の能力を使用させることも可能となる。
それを利用すれば、最悪『この世全ての悪』の呪いを軽減させることができるかもしれない。
切嗣はその可能性に賭けた。
「嫌」
キャスターは再びそれを拒否する。しかし今度は不可能であるとは言わなかった。
(やはりか……)
キャスターが言った、そんなことはないという言葉に、切嗣は体をある程度元に戻すことができるのではないかという可能性を感じていた。
そしてしつこい程の令呪の使用の強制。ここから、一画使用したところで、三画あれば体を治せたとでも言うつもりだったに違いないと踏んでいた。
何せこのサーヴァントは性悪で、切嗣が苦悩することを至上にしている節が今までの会話で十分に感じ取ることができた。
「だったらキャスター。どうすれば僕の体を治してくれる?」
令呪を用いての強制命令も考えたが、純粋な神霊相手に令呪がどれだけ機能するかもわからないし、下手に抵抗されて治癒が出来なければ令呪の無駄撃ちとなってしまう。
それを避けるためにも、切嗣はキャスターが快諾するための方法を聞いた。
「目を」
するとキャスターは、何かを呟いた。
先ほどの悪魔じみた笑顔とは別の、完全に悪魔と言える笑みを張り付かせて。
「? 目?」
「そう。目をちょうだい――?」
そう言うとキャスターは切嗣の左目に掌を押し付けた。左側の視界が減少する。
「辛いことや苦しいこと、悲しいことばかり見てきたあなたの目を、ちょうだい?」
キャスターは言う。自分は目玉をコレクションしていると。『この世全ての悪』と向き合ったあなたの目が欲しい、と。
戦闘において片側が視認できないということや距離感が掴めないということは大きな不利である。
しかし、全く動くことができない体でいるよりも、片目を失ってでも健康な体である方が遥かにアドバンテージがあると切嗣は判断した。
-
「それで聖杯戦争で戦えるようになるなら……僕は――ッ!?」
喜んでこの目を捧げる。そう言おうとした瞬間、もう片方の目もキャスターによって押さえつけられ、視界が暗転する。
「誰も片目だけだなんて言ってないわ。両目。どっちも貰う」
手から逃れようと必死にもがくが、サーヴァントの筋力には衰弱していようといなかろうと敵うはずがなかった。
「まずは前払いとして左目を頂くわ。これは私の分ね。で、聖杯を勝ち取ることが出来れば報酬として本体の方に右目を貰うわ」
暗闇の中で、ただキャスターの声だけが聞こえてくる。目を閉じればいつでも見ることができる闇だというのに、今はそんな単純な闇が恐ろしい。
「恐い? そうよね。怖いに決まっているわ。この暗闇がずっと、ずぅーっと続くの。
聖杯を手にしてイリヤスフィールをその手に抱いても、あなたは娘の顔を見ることができない。成長して姿が変わっていたとしても知ることができない。
イリヤスフィールだけじゃないわ。士郎もそう。これからどんどん大きくなるというのに、あなたはその姿を見ることができないの。嫌?」
意地の悪い笑い声だけが闇の中で木霊する。不安に潰されそうになり、キャスターの腕に手をかけると万力のような力で頭を潰されそうになる。
「ぐあっ、がぁあああああああっ!?」
「嫌? 嫌よね!? こんな目に遭ってまでイリヤスフィールを助ける必要なんてないじゃない! 正義の味方になんてなる必要なんかないじゃない! いつまで生きられるかわからないけど、静かに生きて士郎の成長を見守ってあげればいいじゃない!?」
切嗣の心配など一切していないくせに、中身のない親身な言葉を楽しそうにキャスターは送る。
闇に対しての恐怖と頭を締め付ける激痛に、言葉などまともに聞き取れる状態でなかった切嗣は、しかしその発言に待ったをかけた。
「ど、んなに苦しくても……、辛くても、……恐くても、それでも、ぼ、くは……、ぼく、は――――――!!!!」
「僕は? 僕は、何? 僕はなんなの?」
今までだって、そういう選択を選んできた。最近はそうでもなかったが、ずっと何かを失い続けてきた。
イリヤもそうだ。僕が失った物の一つ。そのイリヤを取り戻すことができるのだったら、今更自分の目の一つや二つ。
「僕は……、そういう生き方しか、できない…………!!」
そう言った直後、左目の部分に激痛と喪失感が襲い掛かってきた。
そして強力な倦怠感と疲労感もそれらに追随し、一瞬気を失いそうになる。
それは大量に魔力を消費した時に起こる疲労であった。
衰弱しきった体では即死であったはずの量の魔力を持っていかれたと切嗣は気付いた。つまり――。
「契約完了ね」
そう言ってキャスターが手を離すと視界が光を取り戻した。両目を開いたはずなのに、左側の視界は欠けていた。
見える右側だけで体に視線を落とすと、衣服は左目から零れた血で汚れていたが、枯れ枝のようになっていた腕は健康的な太さに戻っており、血色も良好であった。
体が数年前の、第四次聖杯戦争時の肉体へと戻っていた。
相違があるとすれば今は左目の部分が空洞となっている、という部分だけである。
魔術回路は規則正しく励起し、強力な疲労感があるにも関わらず、体は数分前までよりもよっぽど軽い。
「……何をした? 僕はまだ令呪を使用していなかったはずだ」
「面倒だから左目を貰った際に一緒に使わせてもらったわ。あの体のままだと目を抜き取った時の激痛だけで死にそうだったもの」
言われ、右の手の甲を見てみると、そこにはもう目の模様は存在していなかった。
-
「令呪が全て消えたなんて些細なこと。だって、魔術師殺しが復活したんだもの」
「魔術師殺し……」
魔術師殺し――それは切嗣につけられた渾名。
魔術師として魔術師が取るであろう行動を全て想定し、そして魔術師が想定し得ない手段を用いて魔術師を殺す者。
その男が、片目こそ失っているものの、全身全霊で聖杯戦争へと臨む。
「うふふ、くすくす……。楽しみね。本当に楽しみ」
何が見えているのかわからないが、キャスターは目を閉ざしてくすくすと、先ほどと同じように楽しそうに笑う。
その様子にどこか嫌な物を感じ取った切嗣は、当たり障りの無いように、基本的なことからキャスターに聞くことにした。
「キャスター、まずはどれだけの組が存在するのか、そして警戒すべきはどこの組かを教えてくれ」
最も知っておくべきこと。敵の数と、そして脅威の認識。これらのことを切嗣はキャスターから聞き出そうとする。しかし。
「え? 嫌よ。いきなりネタバレなんてつまらないわ」
「なっ――!?」
あっけらかんと。キャスターはマスターである切嗣からの指示を断った。
「うふ、うふ、うふふふ。ひょっとして、令呪のないあなたの指示に私が従うとでも思った?
サーヴァントをただの道具としか思わないあなたに、私が従うと思った? 人間なんて神さまからしたらおもちゃみたいな物なのに、そんな物の言うことを聞くと思った?」
可笑しそうにキャスターは笑う。令呪のない人間の言うことを神が聞くわけがない、と。なんとも可笑しなことを言う、と。
そこで初めて切嗣は思い至った。このサーヴァントは元々自分に協力するつもりはなかったということに。
そもそもこいつは切嗣が苦しむ姿が見たいだけというのは、切嗣自身が出した結論だったではないか――!
「そう。私はただおもしろいものが見たいだけ。今回の番組は聖杯戦争。その役者の一人なのに何もできないんじゃつまらないからあなたを魔術師殺しの役に戻してあげたの。
それなのにわざわざ他の参加者の情報を教えると思う? ありえないわ。あなたも思った通り、そんなことをすれば攻略本を見てゲームをするようなものになってしまう。それじゃあつまらないの。だから私はあなたに協力しない。
あなたは役者で私は視聴者。偶にファンレターを出して意見することはあるかもしれないけど、基本的には番組に干渉はしない」
うふふ。
「だから切嗣、あなたは一人で他のマスターを全員殺さなくてはならないわ。ここには舞弥もいないし、当然アイリスフィールもセイバーもいないもの。
何人いるか、どんな力を有しているかもわからないマスターを、サーヴァントに協力してもらえないのに全員殺すの。くすくす、きっと第四次聖杯戦争の時より大変ね」
くすくす。
「でも、しょうがないわよね? あなたが召喚したのは私だったんだもの。折角あなたが望んでいたクラスだったのに、召喚されたのが私じゃどうしようもないものね?」
「だったら……、攻めてこられるまで僕はお前と居るぞ。一軒家に一人暮らしな上に、令呪もなくなった今なら長い間隠れ続けることが出来る。マスターの数が減るのを待つことも戦略として十分取ることができる」
「じゃあ敵を呼び込むわ。話が動かないなんてつまらないでしょう? ああ、当然私は隠れてるから」
「お前――!」
どこまでも意地の悪い女は切嗣を虚仮にする。道具と認識していた存在から道化扱いされる男を馬鹿にする。
「僕が死ねばお前は……ああそうか、くそッ!」
自分が死ねば番組を見ることができないとキャスターを脅そうとして、それが無意味だと切嗣はすぐに悟る。
未来の見えている存在に途中退場を脅迫に使ったところで意味はない。しかし。
「くすくす、その選択は正解よ切嗣。だって私LIVEは生派だもの。先に結末を視るなんてつまらないわ。だから」
キャスターが言葉を紡ぐその間、切嗣の体にあった倦怠感や疲労感、左目の激痛は瞬時に消失した。
-
「どれだけ死に掛けても、ここに来れば治してあげる。もちろん死んでいたら無理だけど」
何をされたかわからず、切嗣は左目に手をやった。そこに目玉はなかった。
だが目玉が取られた際に流れた血が手に付いておらず、衣服に目をやると血の汚れなどどこにもない。
「陣地内でならこれぐらいできるわ。どうにも埃っぽいのが問題だけど、私もできれば最後まで番組を視ていたいからそこは我慢しましょう」
「陣地……。この土蔵を工房にしたのか」
工房。それはキャスターのクラスに与えられた陣地作成によって作り出される自らに有利になる空間である。
キャスターはこの小さな土蔵を工房として選んだようである。
「工房だなんてそんな木端な物じゃないわ。これは領地。私が好きなようにできる箱庭。
それよりも切嗣、早く屋敷に戻らないと生徒のみんなが待っているわよ?」
いつの間にかマスターから切嗣と呼ぶようになったキャスターに指摘され、切嗣はこのアーカムでの自分の役割を思い出す。
切嗣は自分の屋敷を利用して、日本語塾の教師をしている、ということになっている。
そして腕時計に目をやれば、すでに塾が始まる時間となっていた。
「今はそれどころじゃ……、それに体のことをどう説明する」
「与えられた仕事をきちんとこなさないと、先に敵のマスターに見つけられるわよ? それに体のほうは何の心配もいらないわ」
「何……?」
「だって昔からそうだったって、この都市であなたに関わった全員の記憶を書き換えておいたもの」
数十、下手をすると数百人規模での一瞬の記憶の改竄に、切嗣は神霊のチカラの一端を垣間見る。
「ほら、待たせたら生徒が可哀想よ。先生」
キャスターに促されるままに土蔵から出ようとする切嗣の足は、やはり数分前よりも遥かに軽い。軽いのだが。
まるで別の呪いを仕込まれたかのように、その空間から逃れようと急ぐ足は重く感じられた。
「頑張ってね、切嗣。面白い物語を期待するわ」
こうして――――邪神に魅入られた男の運命が、幕を開けた。
◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
切嗣が塾生達の元へ駆けていった後も、キャスターは蔵の中で目を閉じて座っていた。
「うふふ、くすくすくす。さあ、この物語はどうなるのかしら?
みんな発狂して終わっちゃうのかしら?
誰かが聖杯を手にして終わるのかしら?
それとも――――」
誰も聞く者はいないというのに、まるで誰かに語りかけるようにキャスターは独り言を漏らす。
「それとも、あなたの目論見通りになってしまうのかしら? ねえ――キーパー?」
-
【クラス】
キャスター
【真名】
マリーチ@ミスマルカ興国物語
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷E 魔力EX 幸運D 宝具EX
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
陣地作成:EX
魔術師に有利な陣地を作り上げる。工房を上回る神殿、信者さえ確保できれば更にその上を行く教団領を作成可能。
教団領は信者の数に呼応して範囲を拡大可能。教団領内に限定すれば、キャスターは過去や現在の改変・物質や生命の分解と再構築、空間の操作等本体の持つ『権能』を小規模で再現可能となる。
令呪の補助を受けた場合は、教団領内に関係する事柄に限れば外部にすら干渉可能。
道具作成:E
魔力を帯びた道具を作成できる。
特に非業な生涯を送る不器用な人間を自らの『使徒』として仕立てることを好む。
【保有スキル】
神性:☆
摩利支天。仏教の守護神である天部の一柱。日天の眷属で陽炎を神格化したもの。
キャスターの正体はその伝承の元となった張本人であり、神霊そのものであるため通常のサーヴァントの規格を超えたランクで表記される。
カリスマ:B-
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘において自軍の能力を向上させる稀有な才能。
神仏としての崇拝を集め、また新たな教団を作り世界規模で浸透させるだけのカリスマ性を持つ。ただし本性を曝け出した相手には効果を喪失する。
天の属:-
天界に生まれた唯一神直系使徒。かつて運命を司った聖四天という出自を表す。
本来この次元で観測できる彼女は二十六次元からの射影であり、それ未満の次元からでは彼女の本体に干渉することはできない。
ただしサーヴァントとして再現された分身に過ぎないキャスターは、その性質を失っている。
魔眼:E〜A++
宝具に由来する億千万の目。ただの人間の目から、元の持ち主がわからないものまで、ありとあらゆるものを見通す無数の目を眷属として保有している。
中でもキャスター本人が持つ未来視は最高位の魔眼とされている。
【宝具】
『億千万の眷属・視姦魔人(Laplace's demon)』
ランク:EX 種別:対心宝具 レンジ:億千万 最大捕捉:億千万
魔人の最高位、インフィニティ・シリーズの一柱である億千万の目。視えぬものなしと謳った視姦魔人である彼女の能力にして眷属、在り方そのものの伝説が宝具として再現されたもの。
此方から彼方までの空を埋め尽くすほどの大小様々な、数え切れぬほどに膨大なストックのある眼球を場所と個数を問わず自在に召喚し、使役する。
精神的な干渉に特化しており、白い目玉、黄ばんだ目玉、血塗れの目玉、萎んだ目玉、乾いた目玉、潰れた目玉、人の頭ほどもある目玉、人の体が入りそうな目玉等々のいずれもが他者を覗き込むことで心を読み、必要とあればそこに何かを投影し、そのまま対象を発狂させることや五感を欺き幻惑することができる。この効果は精神干渉に耐性を持つ相手でも、宝具ランク未満ならば貫通して作用する。
敢えてこちらから覗き込まずとも、元々気の弱いものならば大量展開しただけでも正気を失ってしまいかねない景色を披露できたが、此度の聖杯戦争では常を越える精神的打撃を見るものに与えることとなる。また、奪い取った他者の目を宝具の一部として取り込むことが可能。
過去未来現在、世界中から異界まで果てなく見通す全知の神たるチカラであったが、人間のマスターではその本来の規模を再現することは不可能。
それでも都市一つを見通すだけの力は発揮できるが、ハイゼンベルクの不確定性原理に打ち払われて以来、完璧であったはずの未来視は損なわれ、時に視間違いを起こしてしまうようになった。
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【weapon】
・白杖……造りが良いだけの杖。キャスターの膂力ならば人体を貫く程度はできるが、サーヴァント相手には意味を成さない。
・神器『崩壊の鐘』……本来はキャスターの持つもう一つの宝具であるが、クラス適正とキャスター本人の希望もあってここでは外観を再現しただけの単なるカウベルとなっている。
【人物背景】
元は天界に生まれた唯一神直系使徒。運命を司る聖四天の座を与えられ、未来を見通す力を持っていた。
悠久の昔、未来視の力で人心が神仏から離れることを察知し警告を発したが、逆に彼らに人間への愛想を尽かせ、神々を異界へと引きこもらせることとなってしまう。
わずかに人界に残った神々には問題児しか居らず、人類を絶滅の危機に追い込む神々の潰し合いの仲介役としてマリーチは自らの片翼を折り、天界を離れて地上を管理する神々の列に加わる。
神々の手綱を握る魔王の側近に収まる一方で、預言者として神殿協会を設立して人と魔のバランスを取って人の世を導く存在となり、後の摩利支天のモデルとしての信仰も集めた。
しかし訪れた平和な世界は皮肉にも人の心を鈍らせ、やがて人間同士の争いを頻発させるようになってしまう。
やがてハイゼンベルクにより狂わされていた未来視で最悪の世界大戦を視たマリーチは、それを回避するために『一切問題のない世界』を作ろうとするも、クルト・ゲーデルの不完全性定理によってそんなものは実現し得ないと、よりにもよって導いて来た人の理性により拒絶されてしまう。
第二次世界大戦の結末もマリーチの視たものとは異なる結果となり、自らの存在意義を揺るがされたマリーチは心を歪め邪神と化す。自らの見たいシナリオのために他者の人生を玩弄し、そうして作った恨み辛みを利用して次の芝居を打たせるような邪悪な神に。
やがて、かつて己の発した警告で神々が不在となった世界そのものを玩具として破滅寸前に導くが、初代聖魔王が引き連れた軍勢との戦いの中、初代魔王から改竄していた己の記憶を突きつけられ、ショックで己が何者であったのかも忘却して逃げる道を選び、神として“堕ちて”しまう。
しかし更なる未来、文明崩壊後も残っていた神殿協会改め神殿教会の象徴・預言者として存在していたマリーチは、悠久の時の中で忘れ去られて消え去る前に、時の教皇クラウディスの暴走によって自己を取り戻す。今回限りの反則としながら再び神としてのチカラを揮ってクラウディスの起こした動乱も、それに関わった者達の人生も書き換えて事態を鎮圧。
聖魔杯を求めるマヒロ・ユキルスニーク・エーデンファルトに警告を与えるものの、初代魔王ら残った神々同様、基本的には人の世を見守るという在り方に従い彼らの旅を覗き見している。
かつては善神だったが現在は性悪。人間が悩み苦しむ様を視るのが大好きで、不幸な生涯を送ってきた人間の目玉をコレクションするなど大概な一方、そのような境遇を恨まず自らの信心を貫く人の在り方を好み、そういった人間には今でも時々神としての慈悲を与える。本当に時々。ただし堕ちてボケていたのが直った後は、以前よりも心なし温和。
現在では自らを基本的にはブラウン管の外の視聴者としており、ファンレターのように役者へ意見を言うことがあってもスタジオに入ることは「たぶん」もうないと語っており、今回も切嗣が四苦八苦するところを見たいだけであるため、本当に陣地外でまで手助けするつもりはないと思われる。ただし、そのLIVEをリラックスして楽しみたい自分の領域(リビング)にまで踏み込んでくる場合にはその限りではない可能性もある。
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【マスター】
衛宮切嗣@Fate/Zero
【マスターとしての願い】
聖杯を勝ち取り、危険ならば破壊。そうでなければイリヤスフィールを助け出すために使用する。
【weapon】
護身用のトンプソン・コンテンダー
【能力・技能】
魔術師としての腕前は並程度だが、一般的な魔術師が忌避している銃火器及び爆発物の扱いに長けており、また自身の時間流を操作する『固有時制御』での高速戦闘及びバイオリズムの抑制による隠密活動を可能とする。
【人物背景】
「魔術師殺し」の異名を持つ、魔術師を殺す術に長けた異端の魔術使い。
冬木で執り行われた聖杯戦争に参加し世界を平和にするという願いを叶えようとするも、その聖杯に宿っていた『この世全ての悪』の存在に気付き、セイバーに聖杯を破壊させ、聖杯から溢れた泥を浴びて呪いを受けることとなる。
冬木の大火災を引き起こした原因である切嗣は、その火災の中で唯一助け出すことができた士郎を養子として引き取り静かに暮らしていたが、その実何度も妻・アイリスフィールとの忘れ形見である娘のイリヤスフィールをアインツベルンから奪おうと何度もアインツベルンの領内へ踏み込み、そしてその度に凍死寸前まで彷徨い歩いてきた。
今回の聖杯戦争ではサーヴァントのチカラにより肉体が以前の健康な状態へ戻っており、自らを聖杯の危険性を知りうるただ一人の人間として、イリヤスフィールを助け出す為に利用できるのなら利用するつもりで聖杯を求める。
【方針】
キャスターは陣地に篭り、切嗣が帰って来た際に回復するか、敵が攻め込んで来た際に場合によっては迎撃するだけ(やられたフリだけで済ますか抗戦するかは気分の問題)。
基本的には片目喪失起源弾なしの切嗣が単独で敵マスターを発見し打倒して行く形となるためかなりのハードモード。
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以上で投下完了です
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投下します。
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「――世界には数多の神話が存在する。
だが、それらは発祥の地を様々としながら多くの類似性を持っている。
暗闇からの天地創造。大災害による世界の破滅。そういった、ある種の普遍的イメージを。
より具体的な例を挙げるならば、ギリシャ神話のオルフェウスの冥府下りと、日本神話のイザナギ伝説……」
ミスカトニック大学。『民俗信仰と神話』の講義にて。
教壇に立つ黒のジャケットを着た日本人男性は、30代前半程度に見える。大学講師としてはやや若い。
その気難しげながらも精悍な目鼻立ちは、彼が確固たる精神の持ち主である事を感じさせた。
「――では、なぜそういった現象が起こるのか。『集合的無意識』などは有名だが……」
広い教室の座席は半分以上が埋まっている。彼の講義は人気が高い。
彼は優秀な民俗学者である一方、時としてオカルトじみた突飛な学説を提唱する学会の異端児でもあり、
参考書を読み上げるだけの退屈な講義に飽きた学生たちの、程よい刺激となっていた。
「――一部では、次のような説もある。
“我々の住む世界のどこかには、あらゆる事象を記憶した『根源』とでも言うべき概念が存在し、
人類はその『根源』から、その膨大な記憶の一端を、自己で認識しないうちに引き出しているのだ”……」
◆
(消えたはずの村の次は、在るはずの無い街……そして『聖杯戦争』か)
講義を終えた男……竹内多聞は、自らに宛がわれた講師控室にて黙考に耽っていた。
腕時計を見る。次の担当講義までは、まだ三時間以上ある。
そして、懐から取り出した小さな物体を眺めた。それは、銀色の鍵。
持ち手には5本の直線で構成された、「生」という字を逆さにしたような、単純ながらも奇妙なデザインの紋様が刻まれている。
竹内はそれが何であるかを知っていた。
それは『マナ字架』と呼ばれる、日本のとある村に密かに伝わる民俗信仰の象徴だ。
彼はその村――『羽生蛇村』の出身であり、このミスカトニック大学が存在する街『アーカム』に“たどり着く”直前まで、『異界』と化した羽生蛇村を彷徨っていた。
竹内がこの鍵を見つけたのは、異界内の廃屋を探索していた時のことだ。
床に落ちていたそれは、この暗闇に閉ざされた血みどろの異世界には似つかわしくない、神秘的で美しい輝きを放っていた。
彼はその輝きに憑りつかれたように半ば無意識に鍵を拾い上げ、手近な閉ざされた扉の鍵穴へと差し込んだ。
……そして、気が付いた時には聞き覚えの無い街、アーカムの住人となっており、いつしか『聖杯戦争』に巻き込まれたことを“思い出した”。
(……彼女は、無事だろうか)
この街で記憶を取り戻してから、既に一週間以上が経過している。
竹内は異界に一人置いてきてしまった同行者……口やかましいが、どこか憎めない教え子の身を案じた。
彼女は逞しい。きっと大丈夫だ。彼はそう信じた。
気持ちを切り替え、再び意識を銀の鍵に……聖杯戦争に向ける。
参加者であるマスター達が使い魔たるサーヴァントと共に、最後の一組になるまで戦い合う。
そして、勝利した一組には聖杯が齎される。……『聖杯』。
これもまた、世界中の数々の伝説において名を残すアイテムだ。
『最後の晩餐』で用いられた聖遺物。
『アーサー王伝説』では、騎士が探し求める宝物としても登場する。
……そしてこの戦いにおいては、優勝者のあらゆる願いを実現する願望機。
――こうした神聖にして華やかなる逸話の数々に彩られた杯の、存在の『根源』とは何か?
竹内の脳裏に、ふとそんな疑問がよぎる。
根拠のない、漠然とした予感のようなものだが、彼はこの戦いの裏側に何らかの名状しがたい真「ドーモ」
-
「……ッ!?」
竹内の思考は、突如目の前に出現した異常存在によって中断した。
跳ねるように椅子から立ち上がり、身構える。
異形の屍人が蔓延る異界での経験が、彼の警戒心を高めていた。
……だが彼はその存在を改めて認識すると、脱力したように椅子に座りこむ。
現れたのは敵ではない。己の使い魔だ。
「……あまり驚かせないでくれ」
「これは、シツレイ。ただアイサツをしただけなのだが。フフ」
サーヴァント……アサシンがひどく虚ろな声を返す。彼の外見は異様だった。
忍者を彷彿とさせる和装束。(実際、彼はニンジャである)
ぎょろりと見開かれた血走った眼。
最も目を引くのは、襟巻のように幾重にも首に巻かれた、得体の知れない液体で満たされたガラス製の太いシリンダー。
シリンダーから伸びたチューブが両こめかみに直結され、彼の頭部に点滴めいて液体が注入されているのが分かる。
既に何度か顔を合わせているため大きなショックは無いが、それにしても
「……それにしても、不気味だ。サーヴァントとは皆“こう”なのか?」
心に浮かんだ言葉が、そのままついて出た。
「ブキミとは。サーヴァントは聖杯の加護をうけた偉大なる英霊だ。何をおそれることがある?マスター。
……ああ、そうか。そうだ。おれは英霊の中でも特別だからな。なにしろとても大切なものを手に入れたのだ。
それは、素晴らしくもおそろしいもの……難儀な事だ……。ウフフ……」
アサシンはそれに対し怒りを見せることもなく、うわ言めいてぶつぶつと呟き、笑った。
このサーヴァントは正気を失っている。彼の発言の大部分は、竹内にとって……否、多くの人間にとって理解し難いものだ。
「……ところで、何か思案をしていたようだが。マスター」
「……ああ。この戦い、聖杯戦争について考えていた」
「ほう。それは、それは」
しかしながら、この精神をゆがめた使い魔が自分に従順であることは、竹内にとっては幸運だった。
「――やはり、ただの願望を賭けた殺し合いとは思えない。……私はこの戦いの真実に迫りたい」
それは、学者としての探究心か。
あるいは、『消えた村』羽生蛇村での異変と、この『存在しない街』アーカムでの戦いに、デジャヴめいたものを感じたからか。
いずれにせよ、彼はこの戦いの『根源』に近付くことに決めた。
「そのためには、君の協力も必要になるだろうが……」
「“真実に迫る”。フフ、なんと荘厳ながらも虚しきコトダマ。
真実は何処にでも在るのだ。マスター。此処にもあるぞ。あなたには見えていないのか」
アサシンの言葉は支離滅裂で、本能的な不安感を喚起させる。
まともに取り合えば、こちらの精神が呑まれてしまいそうだった。
「……まあ、よい。あなたの意思に従おう、真実の探索者たるマスターよ。探索者を導くのも銀鍵の守護者の使命ゆえに。
探索の果てに、きっとあなたにも真実が見えることだろう。おれが手に入れたように……真実が……ウフフ……」
アサシンはマスターの行動指針を彼なりに了承したようで、そのまま不気味な笑い声を残して霊体化した。
-
◇
竹内は深く息をつく。
そこには、あの壊れた使い魔が自分の考えに理解を示した安堵。
そして、これから彼と長く付き合っていかなればならないことへの気の重さが込められていた。
(“真実が見えていないのか”……か。そうだ、私にはまだ何も見えていない)
アサシンの言葉を反芻する。
彼は異界と化した羽生蛇村にて、その異変の真相に近づく間もなくこのアーカムへと導かれてしまった。
(……この戦いの中で、探し出さなくてはならない)
それにしても、疲れた。竹内は伸びをする。
アサシンと話していたのはほんの数分程だったが、心身共に相当な疲労感がある。……まるで、数時間は話し込んだような……。
腕時計を見る。……針は、次の講義まであと5分のところを指していた。
顔を上げ、壁にかかった時計を見た。同じ時間を指している。故障ではない。
「どうなっている……」
自分の感覚がおかしくなったのか?
……或いは、アサシンの不可思議な力によるものか?
考えている時間はない。
竹内は手早く講義の準備を済ませると、急ぎ足で控室を出て行った。
人が消え静まり返った部屋に、アサシンが姿を現す。
「このようにすれば、あなたに真実を見せるのはとても簡単なのだ。
しかし、やりすぎるとあなたの心臓にスリケンが刺さって死んでしまう。
そうなればおれも死ぬ。真実も消えてしまう。だからできないのだ。実に悩ましいことだ。ははは」
アサシンが消える。
部屋は再び静寂に包まれる。
◆
-
【クラス】
アサシン
【真名】
メンタリスト@ニンジャスレイヤー
【属性】
混沌・悪
【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力C 幸運B 宝具B++
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てばサーヴァントでも発見することは難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
精神汚染:A+
精神が錯乱している。精神干渉をほぼ完全にシャットアウトする。
また、彼の言動を受け止め、理解しようとすれば、同様に精神を汚染される可能性がある。
超自然空間に住まう怪物に襲われ、彼の自我は破壊された。
マスターには従順だが、「真実を手に入れた」などと嘯く彼の言葉の意味を知る者は誰もいない。
情報抹消:C
宝具『幻実』の能力の応用による疑似的な情報抹消スキル。
アサシンが戦闘からの離脱に成功した場合、対戦相手の記憶からは戦闘中の彼に関する情報が消失する。
相手の時間感覚は狂い、「何者かと戦っていた」という漠然とした記憶だけが残る。
話術:D+
言葉によって人の心を惑わす技術。
宝具『幻実』『真実』使用時に有利な判定を得られる。
また、高ランクの精神汚染スキルとの併用によって、言動の一つ一つに僅かな精神ダメージを付加することができる。
精神耐性及び精神汚染スキルによって効果の軽減、無効化が可能。
【宝具】
『無銘』(グレーター・ダマシ・ソウル)
ランク:D+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:-
メンタリストに憑依するいにしえの半神的カラテ戦士、『ニンジャ』の魂である『ニンジャソウル』。
彼のニンジャとしての超人的な身体能力とカラテ、ユニーク・ジツ(特殊能力)はこの宝具に依るもの。
ダマシ・ニンジャクランに所属する、個としての名を持たないグレーター(中位)ソウルであるが、そのジツの力は強大である。
また、メンタリストを『ニンジャである』と認識した者に対し、正気度減少判定を発生させる。
ニンジャなど存在しない。しかし実際に目の前に存在する。その認識的矛盾が、ニンジャ・リアリティ・ショックを引き起こす。
『幻実』(ゲン・ジツ)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:20
メンタリストのユニーク・ジツ。
自身の周囲に不可視の力場を発生させ、範囲内の標的の精神を支配。認識を書き換え、狂わせる能力。
このジツに取り込まれた者は、自在に姿を消しては出現するメンタリストを捉える事ができず、全身に不可思議なイマジナリースリケンを“埋め込まれる”ことになる。
力場発生の前兆現象として、現実と明らかに矛盾する、しかし虚実の判別が曖昧な幻覚オブジェクト(光るタケノコなど)が周囲に出現する。
故に標的がそのオブジェクトを『異常』と認識することで力場発生がキャンセルされてしまう、という弱点がある。
また、「即座にオブジェクトを認識、破壊し、間髪入れず術者自身にも激しい攻撃を仕掛け畳みかける」という隠された攻略法も存在する。
しかし初見で看破するのは困難な上に、オブジェクトの物量、メンタリスト自身の話術とカラテの高さがそれらを補っている。
精神に作用する特性を持ちながら、物理的にも強い影響力を持つため、精神耐性系のスキルではこの宝具を完全に防ぐことはできない。
対抗にはむしろ直感と格闘能力……即ちカラテが重要となる。
『真実』(ゲン・ジツ)
ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:1?〜20? 最大捕捉:20?
メンタリストが自我の喪失後に習得した、強化されたユニーク・ジツ。
力場によって範囲内の標的の精神を支配する、という部分は『幻実』と全く同様だが、力場発生に伴う幻が大きく変質している。
もはや名状し難いほどに“非現実的”でありながら、どこまでも“現実的”な幻覚を引き起こし、相手を侵蝕する。
その特異性ゆえに魔力消費は大きい。
-
【weapon】
・イマジナリースリケン
メンタリストが用いる投擲武器。不可思議な虹色の光彩を持つ。
ゲン・ジツの影響下にある力場において、彼はこれを標的の体内に“生やす”或いは“埋め込む”ように出現させることができる。
即座にオブジェクトを破壊されるとスリケンも消失し、ダメージは半減する。
・ステルス装束
ステルス機構を搭載したニンジャ装束。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯を手にすることがあれば、自分の見た真実を全てのものに伝播させる。
【方針】
マスターを真実に導く。
【人物背景】
メンタリストはザイバツ・シャドーギルドの恐るべき執行者ニンジャだったが、戦いの中で真実に辿り着く。
しかし彼は無惨にも爆発四散し、彼が得た真実は永遠に失われた。
【マスター】
竹内多聞@SIREN
【マスターとしての願い】
聖杯戦争の真実を探る。
聖杯を手にすることがあれば、『異界』に取り込まれた者たちを救出する。
【能力・技能】
・民俗学者としての知識、洞察力。また、高い霊感を持つ。
・赤い水
異界に流れる『赤い水』を取り込み、その体は不死の存在『屍人(しびと)』に近付いている。
本来ならば異界にて赤い水を体に入れた者は二度と現世へは帰れず、いつか屍人となる運命だが、神秘の遺物である“鍵”によって例外的に脱出を果たした。
異界からの隔絶、加えて取り込んだ赤い水がまだ少量であったことから、アーカム移動後現在、彼の屍人化の進行は極浅い段階でほぼ停滞している。
故にその不死性も完全ではなく、常人より少し高い生命力と再生力を持つのみ。死亡しても屍人として蘇生することはない。
・幻視
「視界ジャック」とも呼ばれる、赤い水を取り込んだ者が得る超能力。
自身の半径約数十メートルに存在する者の視覚と聴覚を覗き見ることが出来る。
サーヴァントに対しても効果を発揮するが、精神耐性系スキルにて遮断が可能。
【weapon】
・38口径短銃
竹内が異界へと持ち込んでいたリボルバー拳銃。弾薬は十数発。
【人物背景】
竹内 多聞(たけうち たもん)。
城聖大学に勤務する民俗学講師。34歳。
羽生蛇(はにゅうだ)村の出身で、27年前に村で起こった土砂災害で両親を亡くしている。
その後、(無理やり付いてきた)助手の安野依子と共に調査のため27年振りに村を訪れた折、異変に巻き込まれる。
参戦時期は「初日:02時〜12時」のどこか。
【方針】
ともかく、この戦いに関する情報を集めたい。
止むを得ない状況を除けば、他者との戦闘は避けたい。
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投下を終了します。
-
投下します
-
それは番組収録の本番前。
メイクや衣装を合わせ済ませて、あとは出番だけであった。
その時、彼女はその楽屋の床に光る何かを見つけた。
それが『銀の鍵』であった。
彼女は楽屋にてその銀の鍵を拾いあげた。
その鍵を警備室に届けるために扉を開けた。
その扉が彼女――『川島瑞樹』がアーカムへの扉を開けた時であった。
――気が付いたら、そこは自宅であった。
しかし、違和感はあった。
自宅のはずだが、自宅ではない。
ずっと住んでいた家のはずなのに、初めてきた家のように感じた。
必死に気持ちを落ち着けようするが……
「わからないわ……」
頭の中に自身が知らないはずの知識が入ってくる。
『聖杯戦争』『アーカム』『銀の鍵』……。
まるで何かファンタジー小説様な単語が次々と出てくる。
(出来れば夢だといいわね)
しかし、考えれば考えるほどに答えは出てこない。
その時である。
「気が付いたか……?」
「誰?」
-
男の声が聞こえた。
しかし、その声に瑞樹は聞き覚えはない。
辺りを見渡すが、周囲にはその声の主はいない。
「どこにいるの?」
「拙者はここだ!」
「?」
声はどうやら下の方から聞こえた。
その声のする方の瑞樹は下の方を見た
そこには一つの影があった。
その影は徐々に平面から立体になり……
影が色を得ていった。
そこに居たのは隻眼で紺色の忍者着着た男だった。
その男を見た瞬間、今まで川島さんが生きていた経験から……
どのようなリアクションを取ったらいいのか瞬時に判断が出来た。
「ゲェーッ!? ニンジャのサーヴァント!?」
だが、こう叫んだ時、自身のSAN値が下がった。
しかし、すぐに回復した。その忍者が自身のサーヴァントだと気づいたからである。
「左様、拙者はアサシン、ザ・ニンジャ!」
「そ、それは見た目でわかるわ……」
暗殺者(アサシン)にしてはそのニンジャの肉体は非常に鍛えられている。
しかも、非常に目立ちそうな色の忍者装束を着ている。
さらに整った顔立ちである。
-
「……それで確認だが、貴殿が今の主か?」
「多分、そうだわ……」
「最初に言っておくが、拙者は貴殿に心からの忠誠を誓えない」
「? なんでよ?」
「拙者が誓うのは悪魔将軍様。ただ一人である。
……故に拙者は貴殿を信頼などしないのだ、わかるか?」
「……わかるわ」
「何!?」
その瑞樹の一言に今度はニンジャが驚いた。
「最初に目的意識ははっきりさせた方がいいわ。
貴方はその悪魔将軍のために戦う。
私は元の世界に戻る方法を探したい。
この二つの事柄を同時にこなす方法はあると思うかしら?」
「ない!」
「そうね……けれども貴方が男ならわかるわよね。
どれだけ自分の能力が通用するか試してみたいと思わない?」
「……この戦にで拙者を試そうというのか?」
「ええ、そうね……やるかしらのやらないのかしら?」
沈黙。
鋭い視線同士が交錯する。
「……拙者とて誇りがある。
悪魔超人として―――そして、日本忍者としての誇り(プライド)がな!
いいだろう、その豪胆さと度胸は気に入った。この聖杯戦争の間だけは貴殿のために戦おうではないか!」
二人の仮ではあるが関係築けた。
「どこに行くの?」
「一先ず、他陣営の偵察だ、成果があったら伝えに戻る……ではこれにて!」
ニンジャは再び影となり、姿を消した。
その姿を見て、瑞樹は近くにあった椅子に腰を掛けた。
(……上手くいったわね)
そして、大きく溜息を吐く。
全て瑞樹のハッタリである。
今まで人生、職種上どういう風に接すればいいか、わかっていた。
(やれやれだわ……全く困ったことに巻き込まれたようね)
これほどまでに瑞樹は『家に帰りたい』。
(今、自宅であるが)そう、思ったことは今までになかった。
-
【クラス】
アサシン
【真名】
ザ・ニンジャ@キン肉マン
【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:A+ 魔力:E 幸運:C 宝具:C
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
気配遮断:E
サーヴァントとしての気配を絶つ。人混みに紛れるのに適している。
が、男前な上に超人レスラーなど速攻ばれる。
【保有スキル】
・戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
・単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
・悪魔超人:A
超人として生まれ持った才覚。
その中でもニンジャは悪魔超人界のトップクラスの実力を持つ。
・魔力放出(炎):E
焦熱地獄の番人であり、炎が扱える。
【宝具】
『忍術(ジャパニーズ・マジック)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
日本古来から伝わる多種多様な忍術を使う。
ニンジャの持つ技の技術の数々が全て彼の宝具となった。
【人物背景】
悪魔超人のエリート部隊である悪魔六騎士の1人。
元は名門の忍者一族であり、その名の通り忍者の超人。
鍛え抜いた忍術を素地とする抜群の戦闘技術を誇る六騎士随一のテクニカルファイター。
なお、全盛期なので見た目は20代前半。
【Weapon】
鍛え抜かれたその肉体。
【サーヴァントの願い】
聖杯を持ち帰り、悪魔将軍に捧げる。
【マスター】
川島瑞樹@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
帰りたい。
【weapon】
ないわ。
【能力・技能】
アイドルとしてダンス、歌、演技はそれなりに出来る。
元女子アナなので知識量と人生経験は非常に豊富。
【人物背景】
掃除洗濯が趣味の可愛い28歳。
アイドルになる前は地方局で女子アナをしていた。
【方針】
脱出方法を探す。
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投下終了です
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投下します。
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アーカム市・リバータウン。
『アーカムの下町』とも呼ばれる、歴史ある――あえて言えば、古臭い――建物が並ぶ地区。
立ち並ぶ家々は質素だが、それは静かさを意味しない。
むしろ、雑多な人種や、個性様々な職人たちの行き交うこの地区は、賑やかと言っていい。
そのリバータウン地区の、技師や職人の個人工房が並ぶ通り。そこに建っている工房のひとつ。
機械義肢や時計、空繰の置かれた店内に、男がいた。
鉄色の瞳をした男。顔の左半分を、できそこないのヘルメットのような機械――おそらくはゴーグル――で覆った男。
今はジャンプスーツをきっちりと着込んだ男は、商品の義手を整備しながら、人を待っていた。
だが、男が玄関口に目を遣ることはない。無駄だから。待つ相手が玄関からはやってこないだろう事を、男は知っていた。
「……よ、っと。頼まれ事は終わったよ」
男の背後。入口から見れば影となる位置に、いつの間にか。一人の男が立っていた。
警官の制服を纏った男。知っている者が見れば、その風貌はアーカムの警察署長そのものだとわかるかもしれない。
だが、真実はそうではない。本物のアーカム警察署長は、今頃ノースサイドで会食を楽しんでいる筈だ。
ならば、この男は誰なのか。
「そうか。収穫は?」
「特になし。巡回の情報や死体の記録も漁ってみたけど、これは、ってのはなかったよ。……ただ、不審な死は増えてたかな。
まあ、サーヴァントやマスターの情報に繋がりそうなのはなかった」
「そうか……。ところでローグ。お前いつまでその格好のつもりだ?」
「うん? ああ、そういや警察署の署長の格好のままだっけ」
そう言って。ローグと呼ばれた、警察署長の姿をした男の姿が、“歪んだ”。
――顔が溶ける。
――腕が軋む。
――胴が歪み、人間の体が『変化』する。
冒涜的な変身過程に、ゴーグルの男が僅かに顔を歪めた。
……ややあって。先程まで警察署長の姿をしていた男は、完全にその姿を別人へと変じていた。
性別は判然としない。線の細い中性的な顔立ちと、細身の体が合わさって外から判別するのは困難だ。ゴーグルの男も、聞いた事はない。
警官の制服もいつの間にか脱ぎ棄てられている。今着ているのは、白い、無地の上下だ。
――人間離れした『変化』を見せたその存在。
――『ローグ(ならず者、或いは盗賊)』と呼ばれた彼は、人間ではない。
アーカムで夜な夜な繰り広げられる、聖杯を賭けた、血みどろの争奪戦。聖杯戦争――
その魔術儀式によって呼び出される、サーヴァント。
――怪盗Xi(サイ)。
――ゴーグルの男に呼び出された彼は、そう名乗った。
「ねえ、ニコラス」
怪盗Xi――ローグに名を呼ばれて。
ゴーグルの男――ニコラス・ハルトゼーカーは振り返る。
「どうした」
「生きてた頃もこういうのはやってたから、そこはいいんだけどさ。
そういう事をしてた身から言わせてもらえば、化ける相手は予め殺しといた方が楽だよ」
「サーヴァント以外の殺しは無し(ノー)だ。契約した時にもそう話した筈だろ」
「マスター相手に殺すのが憚られる、ってのはまだわかるよ。俺はマスターでも殺した方が楽だと思ってるけどさ。
でもさぁ。NPCまで殺さないで済ませるのは面倒だし、意味がないと思うよ」
「だとしてもだ。サーヴァント以外の、殺しは、しない。
……俺は人間だ。兵器なんかじゃない。だから、殺しはできるだけしない」
「……ふうん」
-
なにかを考えるかのように、ローグは言葉を切った。
口を何事かもごつかせて。その『何事か』を、口の中に押し込め。別の内容を吐き出す。
「……もう一度確認させてくれよ。ニコラス、あんたが聖杯を手に入れて願いたい事を」
「なんでまた? 仕事してるのはわかるだろ」
「いいからさ」
「……まあ、いいか」
観念したように、ニコラスは義手を整備する手を止める。
そして、ジャンプスーツの上半身を脱いだ。
「この前も見せたな。……俺が聖杯を求めるのは、これの理由を知るためだ」
――鋼の軋む音。
――上半身裸のニコラス。その左半身は、金属に覆われていた。
左腕は、肩から指先まで、全てが機械部品で構成された義手。
左胸から脇腹にかけてまでも、金属部品が鈍く光る。ところどころの隙間から、歯車やピストンが見え隠れしている。その位置は、本来なら内臓や骨格があるべき場所だった。
ジャンプスーツに隠れた左脚も――機械化された義足である事を、ローグは既に知っている。
「俺には記憶がない。気がついたら倉庫で寝ていて、とある組織に備品として扱われていた。そして誰も俺の身の上を教えてくれないまま、奴らは消えた。
だから俺達は奴らを追っている。俺が被害者なのか、加害者だったのかを知るために。俺が人間であるために」
「……人間であるために、ね」
「人は、『喪失』を『喪失』したままじゃいられない。なにかを失って、それを何故失ったのかも知らずに生きるのは、つらいもんだろ?
だから俺は、それを知りたい」
「……一つ質問なんだけどさ」
なにかを回想するように。ローグは――X(サイ)は、言った。
「もし、その理由を知る機会があったとして――『お前はただの実験動物で、血も涙もない殺戮機械兵器だ。探すような過去も、元々存在しないのさ』って言われたら、どうする?」
「……だとしても、俺は人間であることをあきらめたりはしない」
いくらか傷ついたような表情で、ニコラスは、そう答えた。
「そっか」
その返答に、ローグはただ、そう返して。
少しの静寂が、工房の中を包む。
数分の後。ニコラスは、静寂に耐えかねたかのように口を開いた。
「……ああ、そうだ。アイはどうした?」
「あんたの頼み通りに、『調達』に行ってるよ。【重蒸気(ヘビィスチーム)】……だっけ? それの」
「オーケー。……にしても、凄いもんだな。この都市にはミアズマはないってのに」
「まあね。二人で一人の『怪盗Xi』だ。その辺は期待しといていいよ」
まるで自分の事のように、ローグは自分の相棒を自慢する。
「……そういやさっき、『俺達』って言ってたよね。あんたにも、相方とかいたの?」
「いるぜ。一緒に誕生日を祝うような仲のが」
「誕生日って、あんた自分の誕生日わかんないんでしょ?」
「ま、そうなんだけどな」
冗談めかすように、ニコラスは笑った。
「相棒と俺で、二人で一人の『道化師(バスカーズ)』だ。演じる物語は、怪人(フリークス)の復讐劇(リベンジプレイ)。
……俺にとっては、名前をくれて、機械から人間に戻してくれた恩人だよ」
「……ふう、ん」
気のないように。そんな風を装って、ローグは霊体化し、ニコラスの視界から消えた。
……怪盗、『怪物強盗』Xi。
元は『絶対悪』に作られた生物兵器である、彼。
何人もの犠牲者を出した怪人である、彼。
そんな彼が、何故、聖杯戦争という場であるとはいえ。
令呪によって縛られている立場であるとはいえ。
ニコラス・ハルトゼーカーに従っているのか。
その理由は、彼を知っている者ならば――例えば、生前の彼の『中身』を見抜いた探偵ならば――明らかな、話だった。
――それが『共感』であるとなど、彼は口にはしないのだが。
-
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【クラス】ローグ
【真名】怪盗Xi@魔人探偵脳噛ネウロ
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具E
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
盗用:C
盗み。
戦闘終了後、敵サーヴァントもしくはマスターの『なにか』を盗むことがある。
盗む可能性があるのはサーヴァントに付随する武具や所持品、あるいは情報など。武具や所持品を盗んだ場合は、自らの魔力を消費することでサーヴァント消滅後も盗んだ品の現界を維持できる。
【保有スキル】
変化:A
文字通り、『変身』する。
全身の体細胞を変異させて、どのような人物にもほぼ変身することができる。
変身中は『正体隠蔽:D(サーヴァントとしての気配を断つ。変身中は同ランク以上の感知系スキルを持つサーヴァントでないとサーヴァントだと感知されない。攻撃に移ると解除される)』を得る。
体の一部分だけを変化させ、武器として扱うことも可能。
――また、その冒涜的な変異の過程を目の当たりにした者(NPC、マスター)は、精神にダメージを受ける可能性がある。
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
魔眼(偽):C
脳内変異とプログラムによる偽の魔眼。
他人の顔を見ただけでその脳内に流れる電流(記憶)を読み取れる。
また、劣化電子ドラッグにより他人の脳内を掻き回すこともできる。
NPCに対しては洗脳、マスターに対しては正気度ロールを行わせる事が可能。サーヴァントには通用しない。
再生:C
細胞変異による急速再生。
たとえ戦闘中であってもダメージを再生し、超スピードで回復する。また、待機中のダメージ回復速度を速め、消費する魔力を低減する。
ただし、戦闘中の再生は魔力の消耗を招く。
人間観察:C
人々を観察し、理解する技術。
自分を知るために人間を解体し、人間を解体してきた怪盗Xは、人間について肉体的にも内面的にもよく知っている。
このスキルと『変化』の組み合わせで、他人に成りすます精度を上昇させる事が可能。
芸術審美:D
芸術作品、美術品への執着心。
芸能面における逸話を持つ宝具を目にした場合、低い確率で真名を看破することができる。
【宝具】
『あなたの隣に(アイ)』
ランク:E 種別:対X宝具 レンジ:- 最大補足:一人
もう一人の『怪盗Xi』、相棒のアイ。
戦闘能力は持たないが、かつて怪盗Xをサポートした逸話から派生し、マスターの魔力を消費することにより『物品の調達』を行える。
この『物品の調達』は世界観を問わず、マスターが(あるいはXが)正確に知っている品ならば調達が可能。
ただし、物品によって魔力の消耗は比例する。
戦闘に役立つ事も無く、精神的なダメージを与える事もない。けれど『怪盗Xi』が『怪盗Xi』であるために、もっとも必要な宝具。
【weapon】
『変化』する自らの肉体。
【人物背景】
記憶を持たない、最後に自分を見つけた怪盗。
【サーヴァントとしての願い】
願いくらいはもちろんある。が、生前やりたい事は大体やったし、ニコラスに共感する部分もあるので契約には従う。
【マスター】
ニコラス・ハルトゼーカー@スチームヘヴン・フリークス
【マスターとしての願い】
自分の過去を知る。
【weapon】
幾つもの武器を隠し持っている。
小口径の実弾銃や、出力の低い重蒸気を発射するパルス銃などを主に使用する。
火球を発射する火炎放射器なども持っているが、本人は殺傷性の高い武器を使う事を嫌う。
【能力・技能】
《人とクラフトの融合》
左半身が、《クラフト》と呼ばれる《重蒸気(ヘビィスチーム)》で動作する機械に改造されている。
左腕に仕込まれた《蒸気圧縮砲(スチームレイ)》は生半可な機械ならばスクラップにする火力を持つ。
が、《蒸気圧縮砲(スチームレイ)》で弾丸とする《重蒸気(ヘビィスチーム)》は左胸の人工心肺の動力と共用されており、《蒸気圧縮砲(スチームレイ)》の連射は人工心肺の動作不全を引き起こす。
また、容易く人を殺す《蒸気圧縮砲(スチームレイ)》をニコラスは人に向かって撃つのを嫌う。
機械関連の知識や技術もそれなりに豊富。
【人物背景】
記憶を持たない、自分を探す怪人。
【方針】
聖杯を手に入れる。
サーヴァント以外の殺しは、極力行わない。
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以上で投下終了です。
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投下します。
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始まりの刑罰は五種、生命刑、身体刑、自由刑、名誉刑、財産刑、様々な罪と泥と闇と悪意が回り周り続ける刑罰を与えよ『断首、追放、去勢による人権排除』『肉体を呵責し嗜虐する事の溜飲降下』『名誉栄誉を没収する群体総意による抹殺』『資産財産を凍結する我欲と裁決による嘲笑』死刑懲役禁固聞拘留罰金科料、私怨による罪、私欲による罪、無意識を被る罪、自意識を謳う罪、内乱、勧聞い誘、詐称、窃盗、強盗、誘拐、自傷、強聞い姦、放火、爆破、侵害、過失致死、集団暴力、業務致死、過信による事故、誤診に聞いてよる事故、隠蔽。益を得る為に犯す。己を得る為に犯す。愛を聞いて得る為に犯す。徳を得る為に犯す 自分の為に聞いてす。窃盗罪横領罪詐欺罪隠蔽罪殺人罪器物聞いて犯罪犯罪犯罪聞いて私怨による攻撃攻撃攻撃攻撃汚い汚聞いてい汚い聞いて汚いおまえは汚い償え償え償え償え償え聞いて聞いて聞いて聞いて――――
「聞いて、お姉ちゃん」
唐突に間桐桜の視界は開けた。
どこまでも続く暗闇の中、地が髑髏に埋め尽くされた世界。
そこで吹く風は、声となって桜に聞こえてくる。
「お父さんも、お母さんも死んじゃったのは、みんな大江山で帝を僭称している男のせいだって言われたの。
だからあたしは刀で刺したの。お役目を果たしたのに、それを告げたら、胸を突かれて――」
一筋の風が桜に吹くと、また異なる声が聞こえてくる。
「聞いて。僕はひもじくてひもじくて、だけど妹だけは助けてあげたくて稲わらを盗んだんだ。
そしたら首を――」
風が逆巻き、桜に集まる。
風がきいきいと哭く。風の一筋は亡者の叫び。
怨念、無念、悪念、残念。
人の恨み、天の恨み。そして何より――己への恨み。
だが、例え怒りのままに人を、己を切り裂こうとも、虚しさは胸から去らない。
最早怒りをぶつける相手はどこにもいないのだから。
だからこそ、人を恨み、天を憎み、何より己を憎み、魑魅魍魎は哭くのだ。
……あの女さえいなければ。あいつが憎い。痛いよ。熱いよ。もう嫌だ。死にたくない。殺してやる。助けてくれ。あの子だけは。
ねえ、聞いてくれ。この痛みを。苦しみを。つらさを。無念を。聞いてくれ。聞いてくれ。聞いてくれ!
その声に耐えきれず、桜は悲鳴を上げた。
-
◇◇◇ ◇◇◇
――――悲鳴と同時に、桜に映る景色が変わる。
暗闇の奥、さらに暗い部分には――蟲など一匹もいなかった。
床が垂直になっている事から、桜はようやく自分が倒れたという事に気が付いた。
同時に、なぜこんなところで倒れ伏しているのか、その理由も。
間桐桜はアーカムで穏やかな日々を過ごす最中、常に何か急き立てられるような感覚に襲われていた。
何かが欠けている。そう思いながらハイスクールに通い、兄とやや呆け気味の祖父の世話をしながら、違和感が薄れることは無く、むしろ増していった。
だが、何かが違う。何かが足りない。
いや、何かじゃない。誰か、が――!?
ある時、その喪失感に気づいてしまった。
――衛宮士郎の存在に。
必死になって元の生活の痕跡を探し、存在しない衛宮邸を探し、知人を探し、桜にとって悪夢そのものである、間桐邸の地下修練場まで探しても何もないと知って。
絶望のあまり気を失ってしまったのだ。
「……帰りたい。帰らないと……」
桜は身を起こしながら呟いた。
桜に願いがあるとすればただ一つ、衛宮士郎との生活を続ける事だけだ。
「――たとえそれが家族ごっこだとしても?」
後ろから投げかけられた言葉に、桜は驚き振り向いた。
「あは、こんちわ!」
戸惑う桜と違い、彼は明るい笑顔で挨拶をした。
衣装は日本の貴族が着る直衣というものだろうか。紫というよりピンク色の着物を着ている。
下には袴を付けず、艶めかしい足が裾から覗いていた。
桜は流れる魔力から、ようやく彼がどのような存在なのか理解し、声をかけた。
「貴方が私のサーヴァント?」
「そ。ボクはキャスター。真名は『キツト』。
黄色の黄、三本線の川と、人間の人で『黄川人』さ。よろしく、マスター」
そう言ってキャスター、黄川人は桜に対し礼をした。
-
「私は……聖杯なんて必要じゃない。ただ、元の生活に戻りたい。
……貴方はどうするの?」
黄川人からこの聖杯戦争について教わった桜は、黄川人に尋ねた。
それは単なる疑問ではなく、聖杯を求めないマスターをどうするか、という問いかけだ。
サーヴァントは叶えたい願いがあるからこそ召喚に応じる。
よって聖杯に無関心なマスターは、切り捨てられる可能性が大だ。
その時は令呪を使う必要があると、桜は理解していたのだが。
「いいよ、別にボクには聖杯に叶えてもらうような願いなんてないし。
こうして肉体を持って、現世を謳歌出来るだけで満足さ」
黄川人はくるりと一回りし、桜に向かい微笑んだ。
「大体さァ、あらゆる願いが叶う聖杯なんてうさん臭いよねェ。
そんな海のものとも山のものとも知れない代物に願おうなんて奴は考え知らずの馬鹿か、さもなくば追い詰められて都合の良い奇跡にすがる奴くらいだぜ。
あれ、じゃあやっぱり馬鹿しかいないってことじゃないか。アハハハ……」
何がおかしいのか、黄川人はけらけらと笑った。
「……他のマスターがどこに居るか分かる?」
桜が黄川人に尋ねると、黄川人は呪を唱えた。
「白鏡、黒鏡。この地と怨敵を映せ」
すると桜の視界の隅に、この町の地図が映し出された。地図の上には、動き回る黒い点がある。
「その点がボク達の敵、つまりマスターとサーヴァント、それと使い魔その他魔力を持った奴の位置だから。
それにしても……いきなりマスターの位置を尋ねるなんて、殺る気満々だね」
「違うわ。ただ私は戦いに巻き込まれたくないだけ。その前にこの町から出たいの」
「ふうん。だけどさ、アサシンのような気配遮断ができる相手だと、この術も通用するかどうか分からないよ。
いきなり襲われる事もあるだろうけど、その時はどうする?」
その時は。桜はそう言いかけて口ごもった。
「ま、その時はサーヴァントのボクの出番だけどね。おっ払うくらいはできると思うよ」
そう言って桜に対し無邪気な笑みを見せた。
「じゃあ、行きましょう」
と言って桜は地下から出る階段を登って。
「あ。そうそう、一つ頼みがあるんだけど……君の事を、マスターじゃなく“姉さん”って、呼んでいいかな?」
桜は歩みを止めた。
「ボクには赤ん坊の頃、生き別れた姉がいたらしいんだ。結局死ぬまで会えなかったんだけどね」
その言葉は、桜の脳裏にある光景を思い出させる。家族がそろっていたあの時の情景を。
「もし君のような人がボクの姉さんだったらうれしいんだけど……だめかな?」
思い出させないでほしい。
あの日々を思い出してしまったら、全てを諦める事でやっと手に入れた幸せが崩れてしまう。
「やめて、キャスター」
喉から悲鳴の様にかろうじて絞り出された声。桜にはそれを言うのが精一杯であった。
「ああ、わかったよ。桜」
黄川人はあっさりと受け入れ、さりげなく名前で呼んだ。
桜は震えそうになる身体を押さえ、階段を登って行った。
その姿を見る黄川人は、桜の前では見せなかった、歪んだ笑みを浮かべた。
黄川人が持つスキルの「千里眼」。それは単に視力の良さのみならず、物や人の過去を見通す。
先程の頼みも、桜の過去を覗いたからだ。
このマスターは面白い。鎖で縛られ、鎧で固められた精神の内で、素晴らしい怪物を育てている。
さあ、戦いを始めよう。聖杯なんてどうでもいい。彼女の内にある憎悪と嫉妬、そして『この世、全ての悪』を解き放ってやろう。
そしてマスターもサーヴァントも殺し、さらにあの自惚れ屋の神々を殺しつくし、海を埋め立て地を平らにし、この世を一からやり直そうじゃないか。
何だってできるさ。桜とボクが一緒なら……。
-
【マスター】
間桐桜@Fate/stay night
【マスターとしての願い】
早く元の生活に戻りたい。
【weapon】
無し。
【能力・技能】
架空元素・虚数
魔術師として極めてまれな属性だが、現在は上手く扱えない。
この世、全ての悪(アンリ・マユ)
人類60億全てに悪であれと望まれた呪い。
桜が元居る世界の聖杯の中で、誕生する時を待っている。
本来ならば桜は聖杯としての機能は覚醒しないが、繋がる可能性はある。
この聖杯戦争の聖杯(つまり邪神)とつながっているかは不明。
【人物背景】
遠坂凛の実妹。遠坂家の次女として生まれたが、間桐の家に養子に出された。
表向きは遠坂と間桐の同盟が続いていることの証。裏では、間桐臓硯にとっては断絶寸前だった家系を存続させるために、魔術の才能がある子供(というよりは胎盤)を求めていたという事情があった。
また遠坂時臣にとっては一子相伝である魔道の家において二人目の子供には魔術を伝えられず、そして凛と桜の姉妹は共に魔道の家門の庇護が不可欠であるほど希少な才能を生まれ持っていたため、双方の未来を救うための方策でもあった。
間桐家に入って以後は、遠坂との接触は原則的に禁じられる。
しかしながら「間桐の後継者」の実態は間桐臓硯の手駒であり、桜の素質に合わない魔術修行や体質改変を目的とした肉体的苦痛を伴う調整、義理の兄である慎二からの虐待を受けて育つ。
だがある頃に、士郎の懸命な姿を見て彼に憧れを抱く。
【方針】
聖杯戦争からの脱出、ではあるがその方法が見つからないならどうするか不明。
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【クラス】
キャスター
【真名】
黄川人@俺の屍を越えてゆけ
【パラメーター】
筋力C 耐久C+ 敏捷C 魔力A+ 幸運B 宝具B
【属性】
混沌・悪
【クラス別能力】
陣地作成:A+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”を上回る“神殿”を複数形成することが可能。
道具作成:A
魔力を帯びた器具を作成できる。
恨みの念から、鬼を形成できる。元になった人間の怨念が強ければ強い程、サーヴァントにも匹敵する怪物となる。
【保有スキル】
呪歌:A+
黄川人の世界の神々が編み出した魔術体系。
攻撃、防御、属性付与は重ね掛けが可能で、攻撃の術は併せることで、人数×2倍の威力を発揮する。
キャスターとして召喚された影響で全ての術、さらに短命種絶の呪いや空間移動等を使用できる。
千里眼:A
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
さらに遠隔透視、過去視を可能とする。
自己改造:A+
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
他人の身体に潜り込み、相手の意識はそのままに身体を操る。
また、この状態だと同ランクの気配遮断の効果を持つ。
神性:E-(A)
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
本来は最高の神性適性を持つが、本人が神を嫌っている上、鬼に貶められている。
【宝具】
『八つ髪(やつがみ)』
ランク:B 種別:召喚宝具 レンジ:― 最大補足:―
黄川人の八本の髪の毛から生み出される、竜種を模した鬼。
各々の髪は自己の意志で動き、術を行使し、倒されても魔力を注げば復活する。
陣地作成と合わせれば、召喚、運用、復活に本人の魔力を必要としなくなる。
『朱ノ首輪(しゅのくびわ)』
ランク:A 種別:対神宝具 レンジ:― 最大捕捉:1柱
神、もしくは神性スキルを持つ相手にのみ通用する宝具。
枷をはめられた敵の能力と理性を封印し、獣に貶める(イメージとしてはプリズマイリヤの黒化英霊を参考に)。
この宝具は術として唱える型と、首輪を実体化させる型の二種類がある。
術の場合、以下の呪文を唱える。
「風祭り、火祭り、水祭り、土祭り、滄溟を探りたもうた天の瓊矛の滴よ、ここに集いて禍事を為せ」
首輪の場合、道具作成スキルで製造する。こちらは填めることさえできれば誰にでも使用でき、黄川人本人にも通用する。
『阿朱羅(あしゅら)』
ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1人
黄川人の道具作成、自己改造スキルを自分自身に用い、異形の鬼へと変化する。
ステータスは以下の通り。
筋力A 耐久A+ 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具B
無論この状態でも、全スキル、宝具は使用可能。だが、常時莫大な魔力を消費し続ける。
もし魔術回路を持つ者と一体化できたなら、自力で魔力を生成し、生前の力を完全に発揮できるだろう。
【サーヴァントとしての願い】
桜に『復讐』の思いを自覚させ『この世、全ての悪』を使い世界をやり直す。
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【人物背景】
打倒朱点童子を目指す主人公一族の前に現れる水先案内人。
天真爛漫な性格で様々な情報を知らせてくれるが、セリフの端々に皮肉が混ざっている。
正体は主人公に呪いをかけた朱点童子本人。
下天した神、片羽ノお業と人間の間に生まれる。これを機に神は下界に介入し、黄川人を皇子として従うように下知する。
神の起こす奇跡により信仰は広まり、都が造られるまでに至るが、時の帝の命により、黄川人のいる都は焼き討ちされ、皆殺しの目に合う。
赤子だった黄川人は殺戮から逃れ、お紺という女性に拾われるが、黄川人が能力で富籤を連続で当てさせた結果、お紺の家庭は崩壊し、無理心中を図られる。
その後は氷ノ皇子の元に辿り着き、彼の血を啜り生き延び、術を教わる。
ある時、流れ着いた敦賀ノ真名姫の死によって身の内に溜まった復讐心が爆発し、怨念は地上天界を揺るがした。
それを鎮める為討伐に来た神々諸共、神へと転生した姉の昼子に鬼の身体へ封じ込められる。
それでも尚黄川人の意識は残り、鬼の自我はそのままに意志を操り京を荒らし続けた。
これに対し自分を倒すため、もう一人の神との混血『朱点童子』を作る計画を聞きつけた事で、封印を解く計画を思いつく。
鬼の身体を倒しにきたお輪を人質にして、まだ赤子の主人公に短命の呪いをかけた。
自分を封印から解き放つ動機を持たせ、封印を解く程度で実力を抑えるように。
そしてその赤子が神の力を借り、朱点童子討伐に乗り出すところから物語は始まる。
【方針】
戦闘やトラウマを抉り出す言葉責めで桜のSAN値を削り、桜が黒化した後で勝負に出る。
それまでは陣地を作り、待ちの戦術でいく。
【基本戦術、運用法】
戦法はまず陣地を作り、八つ髪を配置するというキャスタークラスの基本戦略に沿う形になる。
暗殺も一応は可能だが、やはり八つ髪と術の併せを用いた方が良いだろう。
主従関係について補足しておくと、黄川人は桜を利用しても、裏切る気は全くない。
サディスティックに責めたてても、それは桜に復讐心を自覚させるためである。
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投下終了です。
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投下します。
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……反地球クラリオンという与太話がある。
その星は地球とは丁度反対側、太陽を挟んで「向こう側」にある為に見えないのだとか。
そして地球人を創造したのはほかならぬクラリオン星人であるというのだ。
トカゲのような生き物に自らの遺伝子を移植すること人間を創造した、クラリオン星人こそが造物主であり……
◇
――人とは
――人とは何なのでしょうか……
人が人であることは、ただ生物学的にヒトであること以上のことを求められる。
ただ息を吸い最低限の栄養を摂取し何の言葉も発せず、その生命が繋がれることを生きているとは言わない。
他でもない人自身が、それを人でないと切り捨てる。
――まず人には
個がある。
人として生きることは、単にヒトという種族を越えた、その人個人としての生き方が求められる。
単に生存する以上のことを、たとえば文学とか絵画のような芸術に浸るとか、誰か別の個を恋願うことか、そういったことが「人間らしい」とされる。
自己表現という奴だ。
人は自分を自分で表現する必要があるのだ。それは場合によってはただ単に生きること以上に求められる。
だから逆に、社会の歯車となって黙々と働くことは、この世の中奨励されていないように思う。
それでは人ではない。社会は人を人として扱っていない。
国家を始めとする社会体制を批判する時、得てしてそんな言葉が使われる。
個を押し殺し、社会の秩序を求めることは、往々にして批判される。
――けれど同時に
社会、繋がりこそが人として最も大きな要素、人間らしさともされる。
「繋がり」は今や社会においてあらゆる面において否定されない。否定してはいけないものとなっている。
あらゆるメディア、創作物が毎日繋がりの大切さを訴えてくる。
コミュニケーション能力やコネといった要素の実利的な側面が強調され、人に不可欠なものであるという言説が巷にあふれている。
しかし、「繋がり」とは言ってしまえば個の否定だ。
サルトルを紐解くまでもなく、「繋がり」を突き詰めれば、そこにあるのが個の否定、実存の消失であることは優に想像がつく。
――矛盾している
「個」があるから「繋がり」がある。
けれど同時にその逆も――「繋がり」が「個」を殺すことだっていえる。
「個」を守る為に「繋がり」を強調し、結果として「個」を殺し、「繋がり」が消失する。
あるいはこの矛盾が、この相克こそが人らしさとでもいうのか。
「相克」
私のそんな懊悩を汲み取ったのか、目の前の青年はゆっくりと口を開いた。
一見して彼はただの書生だった。
私から見れば見慣れた――この国においては異物である――古風な書生の衣装をまとい、落ち着いた眼差しを私に注いでいる。
眼鏡のレンズ越しに見える瞳は柔らかなもので、しかし同時に深く暗い色を湛えていた。
「陰陽術にはどんな概念がある。陰陽五行という考え方だ。
宇宙の全存在に霊的あるいは物質的な性格付けを要求する――それが五行。
木火土金水を規定する哲理。これには相性と相克の別がある。
たとえば木は燃えて火となる。これは相性がいい――相性という奴だ。
逆に木は土から養分を吸い取ってしまう。これが相克だ」
彼――サーヴァント、ライダーは優しく語りかけてくる。
その声は聞き取りやすく、すっと耳に入ってくる。
そういった話し方を私は知っていた。
それは他ならぬ――父の話し方だ。
組織の上に立つ者として、自らの言説を市井の人々に敷衍する為の話し方。
私自身そういった場に立つことも多かったが故、ライダーが生前如何な立場にいたか想像することができた。
-
「つまり」
私は表情を変えず言葉を紡ぐ。
「人はそうした相克を抱えたものである、と」
言うとライダーはふっと笑みを浮かべた。
「そうだよ」と彼は目を細めながら言い、
「更にいうならば、個と個もまた相克している」
「個も……」
「そうだ。人と人は――喰い合うものだ。個は個であることを突き詰めれば、他の個の存在を許すことができない。
故に喰う。
喰わなくてはならない。
人は人を喰って、そうしてようやく実存を得る事できる。
人らしさとはつまるところコドクを意味している」
コドク――蠱毒か。
私は文脈より判断する。
古代より用いられた呪術の一種であり、それは蟲を始めとする多くの生命を互いに喰い合わせる……
人は――この社会は蠱毒であるというのか。
「……そして陰陽道こそが、このシステムの極地だ。
元来陰陽システムと五行システムは別のものだった。陰陽とは<気>という万物の原質のプラスとマイナスの活動から世界の運航を説明する思想だ。
この儒教・道教等の伝来を始まりとし、インド占星術を用いた密教とも結びつき、さらに景教までも取り入れた。
そうして幾多もの個の集合体となって、陰陽道は生まれた。
そしてこの体系こそが――」
――救済だ。
ライダーはそう口にした。
私は思わず目を見開く。
その言葉は――私には少々重みがあった。
「救済、ですか」
「ああ、そうだよ。
コドクを突き詰める事で、人は逆にコドクから逃れることができる」
「――それは」
あるいは、と私は意を決して口にする。
「人を救う。■からの救済を意味するのでしょうか」
私はついにその概念を俎上に乗せた。
「人を喰い合わせているのは――■なのでしょうか」
■とは何か。
そのようなこと、今さら私は考えない。
当の昔にそんなことは答えが出ている。
■とは――試練を与えるものだ。
人に対して■は裁きを下す。それは絶対だ。
私にとってはそれだけでいい。それだけの存在だった。
「■、かい」
「ええ蠱毒を齎すものは――」
問題はそれを人がどう乗り越えるか。乗りこえるべきなのか。そういうことだった。
悪魔を身に宿し、■を打倒するか。
あるいは■に恭順し、社会を導くか。
それとも■に人の愚かさを示し「見捨てられる」か。
どんな方法でもいい。人が人として、■から逃れる世界を求めていた。
私と父は、ただそれだけを考え――それが罪と知りながら――救いの道を求めていた。
人は何時か滅ぶ。
他でもない■によって。
しかし、それをただ享受することなど――できはしない。
少なくとも父にはできなかった。
たとえそれが■の意志だとしても。
「……人が■の言葉を記した書物に、とある聖獣がいる。
際限なき食欲を持つ、契約の獣」
「それは……」
言われずとも私はその伝承を知っている。
あの獣はヨブ記やエノク書に登場する。
■の傑作と呼ばれるあれは、死ぬまで延々と戦わせられる。
そして最期には――
-
「あの獣は最期、喰われるんだ。
他でもない人によってね。これは選ばれし者達が人ならぬ力を手にする隠喩でもある」
私はライダーの思想を理解する。
ああなるほど――私たちと考えは同じだ。
全ては■がもたらすもの。
個の苦しみも、繋がりとの相克も、彼は理解している。
違うのは――そこからの解釈だ。
個の苦しみを、彼は苦しみとは解釈しなかった。
寧ろ高次元へと至る為の■が作り上げたシステムだと――この世界を肯定した。
故に蠱毒をなすことで、逆に蠱毒から逃れられる。■から救われると、彼は考えた。
――救済
私と彼は目指すところは同じだ。
共にその言葉だ。
しかしその解釈が違った。
――とはいえ
私は別に構わなかった。
元より私は――何でもいいのだ。
いかな教義に反していようと、どれほど■の道から外れようと、人を■から救うことができればそれでいい。
ライダーの考えを■がどう思うかは分からない。
だがどちらにせよ……
「分かりました」
そうして私は頭を垂れた。
それは服従の証だった。サーヴァントである筈の存在に、私は忠誠を誓う。
ライダーは満足げに私を見下ろしている。
これで彼は己が思想に準じるだろう。
――そして私は
ライダーを利用する。
蠱毒を用いて人を高次へと導く。
結果、■が彼の想像通り満足するのならばそれでいい。
怒るのならば高次存在として■に挑む。
■が失望して人を見捨てるのならば、それが一番楽だ。
――嗚呼、■よ
どうか私たちを
人間を
――見捨てて下さい
◇
■がどこにいるのか。
それは誰にも分からないことだ。
だからこそ九頭竜アマネのような人は■から逃れる術を求めた。
けれど、
■はもしかするとこの星にはいないのかもしない。
人の律がある。
星の律がある。
それがこの地球に走る理であり、全てだ。
でも■はその上にいる。
宙の律と呼ばれるものがあるとすれば、それはきっとこの星にはいない。
その証拠――にはならないが、地球より離れた遥か彼方に一つの星がある。
その星の名は■.■.■.■であるという。
そして、その星は太陽の向こう側に――
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【クラス】
ライダー
【真名】
向こう側に在る者(安倍星命あるいはその名はクラリオン)
【パラメーター】
(安倍星命)
筋力D 耐久C 敏捷D 魔力B 幸運E 宝具B
(クラリオン)
筋力A 耐久A 敏捷E 魔力A++ 幸運E- 宝具A
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
騎乗 A
乗り物を乗りこなす能力
幻獣・神獣ランク以下を使役し、乗りこなすことができる。
また、下記宝具により召還したものに限り神獣も乗りこなすことができる。
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
【スキル】
陰陽術 A
陰陽師としての技能。
このランクならば式神を始めとする陰陽術を自在に扱うことができる。
カリスマ E
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
小規模の集団ならば手足のように扱い、心酔させることができる。
擬態 A
内に潜む何か。このスキルにより「安倍星命」の姿を取ることができる。
スキルが機能している内はパラメーター及び性格は星命のものに準じるが、自我が著しく弱まる(あるいは星命が死ぬ)と本性を現す。
このスキルが外れた結果、代わりに以下のスキル、及び一部宝具(後述)が開示される。
原初の一 EX
アルテミット・ワン。
星からのバックアップで、敵対相手より一段上のスペックになるスキル。
「クラリオン」は太陽を挟み地球と対の関係にある為、少なくとも地球では機能しない。
筈なのだが、しかし「クラリオン」こそがもう一つの地球であるという説も……
【宝具】
『蠱毒の陰陽師(コドクノマレビト)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
陰陽師を率いる「安倍星命」が交わした契約が宝具となったもの。
ショウテンやラクシャーサ、セイリュウなどの組織において十二天将と呼ばれた悪魔を使役することができる。
更に陰陽師として「蠱毒」の儀式をなすことで旧約聖書に伝わりし契約の聖獣「べヒモス」を呼ぶことができる。
『孤独なる客人(コドクノマレビト)』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
宇宙より飛来した、とある星の絶対存在。生態系の頂点に立つ者。その存在そのもの。
地球の律とは全く異なる「向こう側」における存在。
いわゆるアルティメット・ワンだが、地球に飛来した時点で著しくその力を衰えており「安倍星命」の姿を取らなくてはならなかった。
何の因果か「神罰光」や「造物主の怒り」といった造物主を思わせる力を使う。
【人物背景】
出典は「デビルサマナー 葛葉ライドウ対コドクノマレビト」
宇宙より飛来し「食物連鎖の頂点。この星を喰らう者」
安倍星命の心に潜む形で地球にやってきていた。
……クラリオン星人というのは1950年代に観測された宇宙人の一種であり、一説によれば「もう一つの地球」からやってきた「人類の造物主」であるという。
【基本戦術、運用法】
「安倍星海」の状態ならばサマナーとしても陰陽師としても強力なサーヴァントとして活動できる。
マスターが魔力充実なのもあって継戦能力は高いだろう。
(あるサマナーの下位互換的な性能だが、それでも十分な性能といえる)
問題は「クラリオン」が表層に出た場合。アマネの魔力量でもその存在を保つことは難しく、また制御も効かない。
【マスター】
九頭竜アマネ
【マスターとしての願い】
神の試練を逃れる。
【能力・技能】
・魔力
compを持っていないのでスキル等は使えないが、巫女として多大な魔力を誇る。
これはイザ・ベルをその精神に宿していることにも依っている。
【人物背景】
出典は「女神異聞録デビルサバイバー」
将門会の巫女であり、胸はデカい。
今までの作品でいうところのLawルートの旗頭キャラだが、良心的かつリベラルな思考の持ち主。
【方針】
基本はライダーに従う。
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投下終了です。
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ラスト、投下します!
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私は、いったい何を見ているのだろうか。
目の前で起きていることを、私はただただ信じられないでいた。
伝え聞く異界の聖杯戦争。
時計塔内でも俄かに噂になっているその儀式に、私は踏み入れた。
高騰していた参加の証明書である『銀色の鍵』を首尾よく入手し、片田舎風の世界へと転移を果たす。
これだけでも魔術史に名を残す体験だが、それがただの前提でしかないというのが
ここにある聖杯が「本物」であるという何よりの証左となった。
宛がわれたサーヴァントと契約を交わし、戦術を構築し、使い魔を放ち状況を分析し、夜の街に繰り出す。
そこで示し合わせたように人気の消えた―――当然人避けの結界の作用である―――一角で、私は戦いの相手と対面した。
絹糸の如し柔らかに流れる銀髪。
特大のルビーすら劣る紅の瞳。
人形じみた、というより、人外じみた見惚れるほどの美貌。
間違いない。
事前調査として知っていた冬木での聖杯戦争に出てくる御三家が一、アインツベルン製のホムンクルスだ。
かの錬金術の大家もこの参じたとは、ますますこの儀式の神秘の濃さを計れるというものだった。
出会った女は自らの名を名乗り、家名を語り、こちらもまた存分に礼を尽くした宣誓を紡ぐ。
これこそ魔術合戦の醍醐味。互いの秘術を競い合う高貴なる紳士のゲームだ。
自らのサーヴァントを現界させ、当然相手方もその英霊に命を下す。
現れた男は青い基調の服を纏う、まさに英傑に相応しい相貌をしていた。
マスターと同じ銀の髪を後ろに上げていたので、私はその表情をはっきりと視認する。してしまった。
そこで―――私は決定的な思い違いをしていた事に気付いたのだ。
英霊同士の戦いがどれだけ人智を、魔術師の認識すらも超越しているのかを。
彼の冬木で起きた災厄を知らぬわけではないのに、愚かにも私はその意味の重さおぞましさを見誤っていたのだ。
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そこからは正しく、怪異と呼ぶ他ない光景だった。
我が従僕が敵へと肉薄し、手に持つ武器が男の頭蓋に達し内容物をこぼれさせようとした寸前。
二者の間の地面が、埋められていた地雷が起動したかのように破裂したのだ。
無論の事、この破壊は爆弾によるものでは断じてない。
恐らくは……強化した視力でも光の軌跡しか追いかけられない速度ではあったが。
一瞬。一閃。
手にした一刀を勢いよく円陣形に振り回す。
それだけの行為で、振り下ろされた凶器は押し返され、空気が膨張したのだ。
怜悧にして熾烈。
鞘から抜き放たれたのは、東洋文明に伝わる造りをした剣であった。
刀身から溢れんばかりの濃密な魔力の束。男の精神をそのまま刀に嵌めこんだかのようなそれは、
紛れもなくこのサーヴァント―――セイバーの「宝具」であろう。
見た者の視線を離さない美しさと、触れる者を一切区別無く斬り飛ばす凄惨さとが渾然一体となっている。
可憐にして玲瓏。風光明媚の限りを尽くした趣向はとても人間の手による業とは思えない。
だからこそ―――ひたすらに恐ろしい!!
あの敵は危険。あの敵は脅威。
あの敵は、こちらの「死」そのものだ。
セイバーの剣裁きは、それこそ青い嵐のようであった。
あらゆる無駄を排し、敵を定めたモノをただ敵として葬るだけに培われた技術。
刀の反射光が線を刻む度敵は裂かれ、ちぎれ、抹消される。
時には腰に挿した鞘で斬撃を弾き、生まれた隙に遠慮なく刃を通していく。
生まれるのは敵者の落とす血だまりや肉片のみ。
嵐の中心たる剣士は些かの消耗も見られない。
秀逸なる業物の宝具のみならず、セイバーの技量もまた卓越したものだ。
剣は男の持つ力を最大に引き上げ。
男は剣の持つ力の最上を引き出す。
サーヴァントと昇華される前から、この宝具は壮絶な歴史を持つ魔道具だったのだろう。
人刃一体。
宝具をサーヴァントの象徴と呼ぶのなら、『彼ら』は紛れもなく互いを合一させていた。
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伝説の英雄?人の到達点にして超越者?馬鹿を言うな。
「あれ」はそんなものではない。人ではない、悪魔だ。
あんなものが人であってたまるものか!
「あれ」が人であるなら、我々魔術師など水桶に浮かぶ孑孑(ぼうふら)にも等しい無価値さだ。
剣風が止む。
鮮やかな動作で刀を鞘に仕舞う。
斬殺の凶器たる日本刀は、穢れた血に濡れていても流麗なままでいる。
そして、殺戮の凶手たる剣士には、当然の如くかすり傷のひとつもない。
剣士の目にも映らぬ動きと妖美故の畏怖のみに注視していた私は、
そこで自分のサーヴァントが如何なる状態だったのかを失念していたのに気付く。
辺りを見回すが、目の前にいるのは敵方のセイバーと後ろで控えたアインツベルンのみ。
はて、我が従者は何処に消えたのだろうか。
後ろに振り返り、左右に首を振って、最後にしたに意識を向けて、ようやく私は見つけた。
乾いた地面に飛び散り、バケツ一杯の水をこぼしたように版図を描く血。
どうやらこれが、私が一命を賭して招いたサーヴァントの成れの果てらしい。
成る程。
つまり彼らに出会った時点で、私は敗北を認めていたという事だ。
敗北には何の感慨も湧かなかった。
あれほど神秘に傾けていた情熱は、いまや燃え尽きた紙屑のように立ち消えていた。
-
もういい。もう十分だ。
如何に人間がみじめでちっぽけな存在なのかはまざまざと理解させられた。
我々は一生あの位置には辿り着けない。辿り着きたいとすら思いたくない。
探究の旅をここで締め括ろう。我が家系は自分の代で終わらせよう。
取得した特許、魔術書、魔術刻印全てを売り払えば、一族で慎ましく生きていくだけの額はあるだろう。
家族は反対するだろうが死に物狂いで説得するしかない。
今しかない。今しかないのだ。
これ以上魔導の世界の奥底に沈んで抜け出せなくなる前に、逃げ出さなければ。逃げ出して――――
小さく鍔を鳴らす音が、鋭敏になっていた私の耳朶を刺し貫いた。
美しく強くそして恐ろしいセイバーだ。
怪物(サーヴァント)を屠り血を吸った刀が空気に触れて鳴いている。
足りないのか。
あれだけ斬っておいてまだ血が要るのか。
アレはどうしようもなく飢えている。
一匹を血祭りに上げて味を占め、次なる獲物を見咎めて舌なめずりしているのだ……。
アインツベルンよ何をしている。敗者に鞭打つとはそれでも貴族の一端か。
私はもう降伏している。戦う意志はない。早く自分のサーヴァントを諌めよ。
使い魔一体御せずして何が魔術の名門か―――――――
待て。
誰だ、あれは。
・・・・・・
あの女は何だ。
-
白の聖女がいたはずの場所に、代わるように女が立っている。
同じ顔をした、黒いドレスを着た女が立っている。
戦いに巻き込まれぬよう十分な距離を取っていて、本来ならそこからは顔を窺い知る事など出来ないはずだった。
だが私は浅ましくも遠見の術を起動して視力を強化してしまっていた。
ああ。
あああ。
そんな、そんなまさか!
何故見てしまった。
何故あんなものを見てしまったのか。
たとえこれからあの怪物の手にかかって死ぬとしても、それはただ殺される恐怖しか感じなかったというのに。
もう遅い。
記憶を消す事も許されず、私は死ぬ前の刹那までこの絶望を抱いたまま死ぬしかないのだ。
なぜなら私を見ているあの顔は。
これから死ぬ私を見つめている、あの女の表情は!
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
この世の全ての悪が集まっているかのように笑っていて!!!
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◆
◆
◆
鮮やかな動作で血露を払い、手に持つ『閻魔刀(やまと)』 を鞘に仕舞う。
誰とも知れず、何を願いこの場に参じたかも顧みられず、結局玩弄の運命からは逃れられず。
何の救済も送られないまま、ある魔術師の聖杯戦争は、ここに幕を閉じた。
「ご苦労様ね、セイバー」
セイバーのサーヴァントである己を呼ぶのは、マスターであるアイリスフィール・フォン・アインツベルンだ。
労いの言葉には、僅かに非難の色をした棘があるのを感じる。
人の情など不要と判断しているセイバーには、どうでもいい話だが。
「あなたの力は分かりました。伝説の魔剣士の息子に偽りはないと確かめさせてもらいました」
かつて魔界の軍勢を退け封印せしもの、スパーダの息子、バージル。
それがこのサーヴァントの真名だった。
「今後もその力を私の勝利の為に捧げて下さい。
……けれど答えて。彼を、殺す必要まではあったの?」
彼女を知る物であれば、普段とは印象を違えた物言いに違和感を覚える者もいたかもしれない。
アイリスフィールの天真爛漫さは衛宮切嗣と過ごした九年間で得た情緒が全てだ。
それ以前、アインツベルン千年の妄執を背負うホムンクルスとしての面を出せば、
元の美貌と相まってさながら女帝の貫録を押し出してくる。
「敵を斬らない理由が何処にある」
「あの時点で彼はサーヴァントを喪失したわ。本人が言った通り戦う力はないの。
無駄に血を流してなんになるというの?」
「無駄になるから殺したと言っている。生きていたところで奴らは邪魔にしかならない。
この戦いに敗者が残る余地などない」
そうした態度を取るのも、このセイバーに対して危機感を覚えているからに他ならない。
実力は疑いなく、始めに自分に使えてくれたセイバーの少女に抗し得るかという存在。
だがその性格は騎士とは程遠い、敵であれば無慈悲に斬り捨てる悪鬼であった。
対応を甘くしては即座に手を噛まれる。そう判断したアイリスフィールはなるべく感情を排し、
毅然としてセイバーを御しようと奔走しているのだ。
一方のバージルもまた同様に、マスターには苛立ちを募らせていた。
自らに指図する者をバージルは認めない。それが戦いに制限を課すようなものであればなおさらだ。
主に傅くという選択そのものが彼には欠けていた。
しかも、勝手に向うから語って来たその素性が一層神経を逆撫でさせる。
我が子を思う母など、バージルにとっては最悪の要素でしかない。
「それともうひとつ言っておく。俺が戦うのは俺自身の理由からだ。貴様が勝利するかどうかなど関係がない。
魔力を供給しているからといって調子に乗るなよ、人形が」
今もアイリスフィールの首が繋がっているのは、ひとえにその優れた魔術回路があってのものだ。
これだけの魔力を練れる代替などそうは見つかるまい。
戦闘力の高さ故に多くの魔力を必要とするバージルにとって、マスターというシステム自体が大きな枷だ。
もし力を損ねぬまま別の魔力原を確保する手段が見つかったならば。その時アイリスフィールを生かす理由は消える。
そんな低確率なギャンブルが当たるのを静かに待つしかない我が身が恨めしかった。
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「今度余計な事を言えば、令呪のついてない方の腕をもらう。覚えておけ」
マスターに向けた発言としてはあまりに剣呑を言ってから、魔が差したような考えが浮かぶ。
忠告などせず、今すぐ片腕を斬り落としてしまうべきではないのか。
そもそも思考するまでもなく決行しておかなければならなかったのではないのか。
自由意思の猶予を与えるなど、それはバージルの求める悪魔の冷酷さとは程遠い。
ひょっとしてあるいは……娘への慈愛を見せる女に対し、過去の懐旧の念を抱いているのだろうか?
いや、それはない。それだけはないと断言できる。
感じているのはむしろ―――この女の胎の底の見えなさだ。
聖女の如き振る舞いをしておきながら、何故かバージルはそこに違うものを見る。
英霊の情報としてのみで知っている、救世主の顔で悪逆を積み重ねて御子を侮辱しているような。
他愛もないざわつきが。他愛もない事なので、そこで考えは打ち切った。
渦巻く邪気。
戦争の為の街。
この街には多くの英霊がいる。伝説の偉業を成した力ある戦士が。
それらを全て打ち倒す事は隠し様のない力の証明。
そして己が望みを開く鍵となるだろう。
聖杯という極限の「力」。
それを手にし、バージルは父の伝説を塗り替える。
It begins
「―――始めるか」
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◆
「飼育箱で夢を見る。
虚ろな楽園。
不実の空白。
目を覚ます事のない、揺籃の赤い箱庭」
「さあ、聖杯戦争を続けましょう―――?」
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◆
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【出展】
Devil may cry3
【CLASS】
セイバー
【真名】
バージル
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A+ 魔力B 幸運D 宝具A+
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
半人半魔:A
神ではなく悪魔との混血度を表す。
伝説と謳われる魔剣士と人間の女性との間に生まれた双子の兄。
体のつくりが人間と異なるため、人間では致命傷となるような傷でも死に至ることがない。
自ら悪魔であることを望み、死後は完全に悪魔に堕ちた。
集中力:A
研ぎ澄まされた集中力により、攻撃力を増加させる。
攻撃以外の無駄な行動(移動、被弾、攻撃の失敗)をすると効果は発揮されない。
【宝具】
『次元斬・絶』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20、40、60 最大捕捉:40、60、100人
宝具『閻魔刀』の力を解放した必殺奥義。
分身を生み出すほどの超高速で周囲一帯の敵を空間ごと斬り刻む。
『餓える蒼血の魔刃』と同時に解放すれば、全てを巻き込む斬撃の乱気流を発生させる。
『餓える蒼血の魔刃(デビルトリガー・ネロアンジェロ)』
ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
―――悪魔の力を解放し、肉体を魔人と化す。
戦闘力と治癒力の増幅のほか、攻撃が始動したらどれだけダメージを受けようと
行動が一切阻害されなくなるハイパーアーマー効果が付与される。
【weapon】
『閻魔刀(やまと)』
父から受け継いだ一振りの日本刀。「人と魔を分かつ」太刀。Aランク相当宝具。
「斬る」という刀剣として当然の性質を極限まで研ぎ澄ましたもので、
その鋭利さは空間の切断、概念の破壊にまで至る。
バージルは鞘を組み合わせた居合抜き、可視化された斬撃を周囲に飛ばすことを基本戦術とする。
『幻影剣』
バージルの魔力から生み出される浅葱色の剣。
銃火器を好まないバージル唯一の遠距離攻撃手段。
複数を一度に射出したり、自身の周囲に円環状に配置、回転させることで連続攻撃を可能とする。
『アミュレット』
母エヴァの形見でもあるアミュレット。
これ自体に特殊な力はないが、弟の持つ片割れのアミュレットとを合わせると
父スパーダの名を冠する最強の魔剣を手にするための鍵となる。
【人物背景】
母を奪われたたことで、少年は己と愛の無力を知る。
力こそが全て。少年は人の心、魂の誇りを捨て去り、悪魔として生きる道を選んだ。
残された父の遺物を求め血を分けた弟と相争い、その身と魂は父の故郷の魔界に落ちていった。
【サーヴァントとしての願い】
更なる力を。
【基本戦術、方針、運用法】
見敵必殺。、超攻撃的性能のサーヴァント。
スキル構成と宝具もシンプルに極まっている。故に隙が無い。
あえて弱所挙げるなら、悪魔の属性が強いため対魔特効の武器には弱い事。
集中力スキルからして受けに回ると後手になりやすい。
最大限運用するためにはとにかく攻め続けることが肝要。
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【出展】
Fate/zero
【マスター】
アイリスフィール・フォン・アインツベルン
【マスターとしての願い】
夫の願いが叶う場所。愛娘の幸福な未来予想図。
恒久的世界平和。己を呼ぶ声はそう答えた。斯く在ることを望んだ。
―――たとえ孵った雛に殻を飲み込まれて偶然生まれた別人(スワンプマン)だとしても、『ソレ』がアイリスフィールであることに違いはない。
【能力・技能】
聖杯戦争用に調整されたホムンクルスであり、魔術師としての力量は非常に高い。
アインツベルンの魔術体系は戦闘向きではないが、錬金術の応用で金属を即席ホムンクルスに鋳造させて攻撃に用いる。
第四次聖杯戦争における「聖杯の器」であり、聖杯を胎内に埋め込んでいたが、既にそこにはないようだ。
■■■■■■■(閲覧不可)
【人物背景】
人形は男と妻となることで情緒を育み、母となることで慈愛を得た。
始まる聖杯戦争。勝利に近づく度に失われる自我。
最期は敵の手にかかり聖杯の降臨を待たずしてその命は潰えたが―――――――――――――――。
【方針】
聖杯狙い。
夫にして母とて魔術師でありホムンクルス、命の遣り取りに忌避はない。
ただそれは戦う意志を持つ者との間のみの話。
子供の、それも巻き込まれただけの力も意思もない相手に非情になりきれるかは分からない。
バージルとは衝突の危険に満ち、主従的な相性はかなり悪い。
―――本来はそう。そうであるはずだ。
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以上で投下終了です。
ありがとうございました!
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投下します
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――ぱらり、
教師がチョークを片手に、教科書のページをめくる。
6時間目。一日の内の、最後の授業。
そうなるともう、集中力というものは使い果たしてしまっていて、
船をこぐか、机に突っ伏すか、携帯電話をいじるか。そんな生徒ばかりになる。
弛緩した空気の中、教師の声は遠い。
「僕」もまたノートをとることもなく、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
窓の外、校庭を挟んだ先には、マンション群が建ち並んでいる。
そのマンションの一つが、真ん中からガラガラと崩れていった。
たった今崩落した一棟の他も、まるで兵器でも打ちこまれたのかのようにぼろぼろで、
いつ同じ運命をたどってもおかしくない状態であった。
道の標識はひしゃげて折れ、道路は大震災のあとのように陥没している。
崩壊は“外”だけの現象ではない。
教室内の壁や黒板にも亀裂が走り、剥がれ落ちた天井からは絶え間なくコンクリート片が落ちてくる。
誰も、騒ぎ出すような者はいない。
これは現実に起こっている出来事ではなく、「僕」の心の底の想いが投影されているだけに過ぎない。
絶望と諦観と抑圧された憎悪に塗れた、静かなる“破滅”の願い。
――――■■なんてなくなってしまえばいい――――
つっ、と、鼻の奥に熱いものがこみ上げてきた。
鉄錆に似た、血の味と匂い。
登校前、「僕」は上級生たちに囲まれ、殴られ、財布から金銭を抜かれた。
その時の傷が開いたのかもしれない。
暴行も恐喝も、「僕」にとっては日常茶飯事だった。
気弱でおとなしく、暴力が嫌いで反抗することのない「僕」は、恰好の餌食だった。
殴らないにしてもせめて一言言ってやれば――と、友人から言われたことがある。
自分の言葉にそんな力なんてない。
僕にはなんの力も……
――ぱらり、ぱらり
音もなく静かに降り注ぐ破片は、まるで墓所に積もる雪のようであった。
誰も崩壊していく世界に気付くことなく、何も変わることなく、また一日は終わりに向かう。
……………………
…………
……
-
◆◆◆
図書館の片隅、書庫に囲まれた人気のない閲覧席に本をうず高く積み上げていた少女は、浅い眠りより目覚めた。
すっと、自身の鼻先に手を伸ばす。
出血していた痕はなく、擦っている様子もない。体の方も、理不尽な暴力の痕跡はどこにもない。
そうしてあれは“夢”だったのだと認識し――――「僕」と癒着していた意識は、「木戸野亜紀」としての自我を取り戻した。
「――――……」
奇妙な夢であった。周囲の誰ひとり気に留めることなく、果てしなく壊れゆく景色。
その非現実的な光景は、まさしく夢ならではと言えよう。
しかしあれほど明確な破壊のイメージこそ伴っていないものの、あの荒涼とした静けさは
亜紀が高校に進学して以来しばらく遠ざかっていた現実感覚とよく似ていて、眠っている記憶をちくちくと苛んでくる。
人間は周囲を感情で色付けし、認識しているのだと亜紀は思っている。感じることが、感覚だ。
だから感情を殺せば安定し、感覚に霞がかかる。
墓場のような聖域。全てを無価値にする代わりに、悲しまず、傷つかず、恐怖しない。
そうあらねばならなかった原因は、亜紀の場合も“いじめ”であった。
おとなしく聡明で、そして大人受けの良かった亜紀は、子供たちからは大いに苛められた。
上履きは何度も隠され、教科書や笛はトイレに漬けられた。ランドセルは6年の間に5回買い替えるはめになった。
誰もが亜紀を無視し、いじめが陰惨を極める中で、亜紀は感情を殺すようになり、周囲のすべてを見下すようになった。
――自分は特別だ。だから虐げられる。
歪んだプライドが自我を補強し、亜紀の心を支えた――――己を無力と卑下していた、夢の少年とは対称的に。
小中学生時代に陰湿で悪質な行為の数々を経験したが、女児であった亜紀は、夢で受けたような直接的な暴力にはあまり縁がない。
そうして差異を検めていくと、夢と自己の記憶とを切り離したものとして見れるようになっていった。
理性が、沸き立つ感情を冷やしていく。
多少の不快感こそ尾を引いているものの、心をかき乱されるほどではなくなっていた。
ただここしばらく亜紀の身の回りで起こる出来事は、亜紀に平穏を与えない。
その筆頭たるものが“聖杯戦争”――人類史に残る英雄を呼び出して、命を懸けて万能の願望器を奪い合う儀式。
閲覧席に腰掛ける自身のすぐ近くに佇む“異存在”を見てとって、亜紀の眉根がにわかに寄った。
-
「――で、あんたが私のサーヴァントってわけ?」
“サーヴァント”。“聖杯戦争”に際して“マスター”に与えられる、使い魔的存在。
そんな単語が詰まることなく自然と出てくる不自然さに、亜紀は眉をしかめる。
自身の与り知らぬところで脳みそをいじくられでもしたかのような、不快感。
不機嫌がにじみ出ている亜紀の問いに対して、サーヴァントはなんの反応も示さなかった。
「…………」
そこにいるのは、ぼろ布を纏った少年であった。
鎌でも持たせれば、まさに“死神”といったような風体である。
クラスは「バーサーカー」。
しかし狂戦士という名のイメージに反して、そのサーヴァントには覇気というものが一切感じられなかった。
整った顔立ちもあって、意思のない人形めいた印象さえ与える。
単純に“敵”を前にしていないベルセルクが茫然自失の状態にあるようなものなのか、それともこの英霊の特性なのか。
「世界」とのつながりの薄い、存在感の希薄さ。
バーサーカーはサーヴァントとして実体化していたが、その実幽霊のようなものでもあった。
例えば亜紀が本を投げつけたとしても、霞のようにすり抜けることだろう。
見ればバーサーカーの輪郭は時折、煙のように揺らいでいる。
虚ろな人形。いや、自らでは人の形さえまともに保てない、風のように曖昧な“なにか”。
どこか憂いの含んだ表情を見て、ふっと亜紀の脳裏に、臙脂色の少女の姿が浮かんだ。
「とりあえず……消えてくれる? 霊体化ってやつ、できるんでしょう?
――あんたがいると私が疲れる」
八つ当たり混じりの、辛辣な物言い。
口にした直後に、軽い自己嫌悪を覚える。
伝わったのか、伝わっていないのか。
バーサーカーは最後まで表情を変えることのないまま、すっと空気の中に溶けていった。
「はぁ――…………」
バーサーカーが消えたのを見て、亜紀はため息をついた。
バーサーカーが実体化したままだと亜紀の疲労が増すというのは、事実である。
サーヴァントとして実体化していても物理干渉を受けにくい性質、それは常時発動型宝具の効果を受けたもの。
さきほど亜紀が本を読みながらうたた寝をしてしまったのも、長時間の読書による疲労が積み重なっていたこともあるが、
バーサーカーの現界に際し、魔力を大きく持っていかれたことが原因であった。
-
このアーカムに来る直前、亜紀は生徒たちに「どうじさま」と呼ばれている<儀式>を行なっていた。
学校の裏庭にある池から、自身の“欠け”を補ってくれるという異界の存在を“半身”として呼び出す儀式。
手順に従って、誰もいない時を見計らって夜の裏庭に足を踏み入れた。
一輪の花と、消しゴムで作った小さな人形を池へと投げ入れた。
あとは、池に沈んだ人形を拾い上げ持ち帰るだけ。そんな時に、異変は起こった。
夜を映した墨色の池に左手を差し入れる。池の水は、想像していたよりも遥かに冷たい。
消しゴムの感触を確かめながら、指先で人形をつまみ上げる。
にもかかわらず水面から引き抜いた亜紀の手の中にあったのは、闇の中鈍く光る『銀の鍵』であった。
普段の亜紀ならばその『鍵』をよく観察し、握りに施された“ガラス細工のケモノ”の意匠にもその場で気づいたことだろう。
しかし別の世界に繋がっていると噂される池のある裏庭は、すでに異様な雰囲気に満ち満ちていた。
池の匂いを含んだ湿気た冷たい空気が、亜紀の顔や手をひやりと撫でつける。
校舎の壁と裏山に区切られた箱庭の静寂が、心の不安を煽る。
長く居続けるとひしひしと闇に正気を喰われそうだと、そんな怯えにも近い感情を抱いてしまうほどに。
亜紀は<儀式>を終わらせ早々に立ち去るために、手に持つ『異物』の確認も疎かに再度水面へと手を伸ばす。
そう、池――――水は、“異界”へと通じている。
竜宮、ニライカナイ、邪神の墓所を擁する古の都。
水中に広がるのは、人の理の及ばぬ別世界だ。
水面とは二つの世界を隔てる壁であり、そして両者をつなぐ“扉”である。
故に『鍵』を手にしたまま“水面”へと手を伸ばした亜紀の所作は、さながら“鍵を扉に差し込む”ようで。
そのまま異界――聖杯戦争の舞台たる「アーカム」の街へと、亜紀を誘うこととなったのであった。
-
「…………」
今閲覧席に座る亜紀の前に積まれている本は民俗学や伝承、象徴学等に関する本である。
中身はもちろん英語だ。
どういうわけか慣れぬ言語であっても「読む」のに不自由はしなかったが、「読み解く」となるとさすがにそうもいかないようである。
先程少し眠りはしたものの、疲労は取れるどころか睡眠前より増している。
しかしここであきらめるつもりはない。
亜紀は痛みを発する目頭を揉み解してから、読書用の眼鏡をかけなおして中断していた資料漁りを再開することにした。
亜紀が「どうじさま」を行なったのは、触れ込みの通りに自身の“欠落”を補ってもらうことを目的としていたわけではなかった。
<儀式>への“感染”という形で美術部員に起きている“怪異”の手掛かりを掴み、
自らを情報源とすることで空目との間にある溝を埋める。
自分が役に立つということ以外、亜紀には自分と空目を繋ぐものがなかった。
怪異に対して無力な亜紀は、今までと同じことをしているだけでは蚊帳の外だ。そのことが亜紀には耐えられなかった。
そのために事前に反対されていたにも関わらず、一人<儀式>を実行することにした。
リスクを承知で行なった「どうじさま」の儀式であったが、
空目ら文芸部のメンバーと断絶してしまった現状は、亜紀にとって不本意であった。
たしかに、空目が「どうじさま」がモチーフとしているかもしれないと言った「竜宮童子譚」は、
その過程に“異界探訪”が含まれることが多い。
そういう意味では、向こうから見たら“神隠し”に遭っているような現状も、決して予期できないことではなかった。
自身の浅慮に苛立ちを覚えながら、「聖杯戦争」を“怪異”の一種と捉えている亜紀は、
元の世界に帰還する手がかりを少しでも得るために、ひたすら書物に目を滑らせていく。
池から呼び出した“半身”が<サーヴァント>で、サーヴァントによって手に入れた<聖杯>は“欠けを補ってくれる”。
自分の性格と能力に一貫性を確信している亜紀は、もちろん自分が完全であるとは思っていないものの、
“欠け”があるとも思っていなかった。
ただ“欠け”を“願い”と捉えるのなら、亜紀も一介の人間である限り、なんの願いも抱いたことがないということはない。
聖杯が真に万能の願望器というのならば、幼少時に神隠しに遭遇して以来、異界にしか志向が向いていないような男との
溝を埋めるどころか、その精神を亜紀が望む形に変容させることだって、造作もないのだろう。
「……馬鹿馬鹿しい」
ふっと浮かんだ考えを、亜紀は即座に棄却する。
そんなものを望んでいるわけではないし、仮に“本心”とやらがそういったことを求めているのだとしても、
「木戸野亜紀」の大部分を構成する理性とプライドが、それを認めることなどない。
理性の追いつかない願望は、たとえ望みが叶えられたとしても、すべてを台無しにする。
過去の凄惨な苛めによって築き上げられた強固なプライドと理性は、亜紀の心を守る鎧であると同時に大きな枷であった。
亜紀の抱いた恋心は、誰にも知られず、相手に伝わることもなく、物理的な別離によって終わる。
木戸野亜紀が「木戸野亜紀」である限り、それは確実に訪れる未来である。
――はらり、
読み終えた本を閉じ、新たな本に手を伸ばそうとした際に、いつの間に緩んでいたのか、腕に巻いていた包帯がほどけ落ちた。
左手首に刻まれた、赤い幾何学模様の痣が露出する。
令呪――――亜紀がマスターであることを如実に語るもの。願いのために、聖杯を求める者の証左。
亜紀は包帯を引き縛り、再び誰の目にも入ることのないよう、きつく覆い隠した。
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【クラス】
バーサーカー
【真名】
広瀬雄一@アライブ 最終進化的少年
【ステータス】
筋力D 耐久B++ 敏捷D 魔力A 幸運D 宝具B+
【属性】
中立・狂
【クラススキル】
・狂化:D
筋力と耐久のパラメータを向上させるが、
言語能力が単純になり複雑な思考を長時間続けることが困難になる。
【保有スキル】
・能力者:A-
宇宙から飛来した“自殺ウイルス”に感染しても、死ぬことなく生を選んだ人間が持つスキル。
治癒能力を含めた身体能力の向上と、それぞれの「心の穴」に応じた固有の力を得る。
バーサーカーの場合は『無』。物理、概念を問わず触れたものを消滅させる球状の攻撃を放つ。
Cランク相当以下の防御、守護では性質そのものを消し去るため防がれることがなく、
それ以上のランクであっても対抗判定次第ではダメージを与えることができる。
なお、バーサーカーが宝具『アクロの心臓』の加護を受けている際は
威力を2ランク上昇させて判定を行なうものとする(Cランク以下貫通→Aランク以下貫通)。
ちなみに“自殺ウイルス”の正体は、進化の果てに肉体を捨てた不老不死の精神の集合体――いわば「第三魔法」に到達した魂であり、
バーサーカーの持つ高い魔力は、癒着した魂がかつて永久機関であった名残に由来する。
・被虐体質:B
集団戦闘において、敵の標的になる確率が増すスキル。
マイナススキルのように思われがちだが、強固な防御力を持つ者がこのスキルを持っていると優れた護衛役として機能する。
Bランクでは更なる特殊効果として、攻撃側は攻めれば攻めるほど冷静さを欠き、
ついにはこのスキルを持つ者の事しか考えられなくなることがある。
・精神汚染:C-
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を中確率でシャットアウトする。
ただし遮断に失敗した場合、不安定な精神はより強い影響を受けることになる。
・気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を断つ。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【宝具】
『アクロの心臓』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜999 最大捕捉:1人
肉体を捨て永く永く宇宙を彷徨い続けた異星の生命に連なる、評価規格外の宝具。現在、バーサーカーと一体化している。
所持者の固有能力や再生能力などを大幅に向上させるが、“器”としての適性がないと力が溢れて弾けてしまう。
バーサーカーの場合はこの宝具での『無』の能力の強化によって実体が無くなっているため、
銃撃や斬撃などの点や線の攻撃を受け流すことができる。
ただし実体がないといっても完全に消え去っているわけではなくそこに「いる」ので、
周囲の空間ごと作用して逃げ場がなくなるような攻撃を回避することはできない。
バーサーカーの任意で確かな実体を持つことはでき、自身の形体を変化させて
布のようにまきついたり槍のように貫いたりするといった攻撃も可能。
本来の担い手は『御霊』と呼ばれる存在であり、その際は一定の文明圏を築いた生命を
一挙に精神体へと進化させ統合する、対大衆・対界宝具として機能する。
【weapon】
『無』の攻撃。変形させた自身の体。
【人物背景】
物語開始時点で高校一年生の少年。優しく気弱な性格から、幼いころよりたびたびいじめに遭っていた。
ひそかに幼馴染みの落合恵を慕っていたが、彼女の好意はもう一人の幼馴染みである叶太輔の方に向いており、
いつもいじめっ子から助けてくれる大輔に感謝すると同時に抱いていたコンプレックスに拍車をかける。
無力感と疎外感を抱いた生活を送る中、宇宙から“自殺ウイルス”が飛来し能力者として覚醒。
強力な力を手にしたことと、別の能力者により受けた『洗脳』によって豹変し、恵を連れ去って『アクロの心臓』を求め行動する。
『心臓』を手に入れ“器”となったあとはさらに暴走し、一旦マグマの中に閉じ込められるも米軍の介入によって復活。
その後は「かつての友」そして「ひとりになること」を望み、『無』の力を振るって多くの人間を殺した。
【サーヴァントとしての願い】
――――
-
【基本戦術、方針、運用法】
バーサーカーにしては筋力値が低いが、替わりに押し付け性能の高い破壊に特化した攻撃手段を持つ。
ただし「狂戦士」というクラス特性および能力強化効果を持つ常時発動型宝具による魔力消費は絶大であり、
マスターの魔力量も常人よりは多いものの規格外というにはほど遠いため、攻撃に回せる力はそう多くないと思われる。
また スキル:被虐体質 はバーサーカーの持つ能力との相性も悪くないのだが、
他者の攻撃性を引き出すことは、神秘の目撃が正気度へのダメージとなる此度の聖杯戦争では少々厄介である。
しかし『犬神』を失っている現マスターに戦闘力は無いため、バーサーカーが矢面に立つことは必至。
「被虐体質」の特性からして、まずは信頼できる仲間を求めるのが良いか。
【マスター】
木戸野亜紀@Missing
【マスターとしての願い】
――――
【能力・技能】
・犬神統
正しく祭れば家に富をもたらし、おろそかにすれば害をなすなどと言われる霊物を宿す家筋。
霊物は憑き筋の者の害意や妬心に反応し、たとえ宿主が望まずとも相手やその縁者に憑りつき害を与える。
亜紀の母方の血に宿る『犬神』は犬に似た小さな黒い獣であるが、霊視能力者以外には基本的に視えない。
「呪いのFAX」の事件の際に『犬神』は焼却され、現在その力は失われている。
ただし、その後『できそこないの犬神』を宿すことも可能であったため、
魔術回路を全て失ったわけではない(少なくとも魔力タンクとしての機能は残っている)と思われる。
【人物背景】
聖創学院大付属高校二年、文芸部所属。
周囲からはクールな毒舌家として見られているが気性が激しく、ガラスのように鋭く繊細な精神性を併せ持つ。
小中学生時代、聡明で大人受けが良かったことから陰湿な苛めを受け、歪んだプライドで自我を補強することでいじめを耐えた。
同じ文芸部員の空目恭一を密かに慕っており、空目の傍らに存在する神隠しのあやめを快く思っていない。
参戦時期は9巻ラスト、「どうじさま」の儀式を行っている最中より。
【方針】
元の世界に帰還する。
そのためにまずは現状把握に努める。
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以上で投下終了です
-
お疲れ様です。
投下させていただきます。
-
妖精を見るには
妖精の目がいる
▼ ▼ ▼
アーカムの空に妖精は飛ばない。
しかしこの地には戦いがあるのだ。それを行うのは異星体ジャムでも地球機械でもない。人間。そして英霊。聖杯戦争。
FAF戦術空軍・特殊戦のジェイムズ・ブッカー少佐は、図らずもその戦いに巻き込まれたのだった。
巻き込まれたという表現は適切ではないかもしれないな、とブッカー少佐は思う。
自分もまたこの戦いの当事者であるのだから。マスター。サーヴァント、すなわち英霊を、従える者。
もっとも、ブッカー少佐は魔術師ではない。軍人だ。
惑星フェアリイ。そこで少佐は地球への侵略行為を行うジャムと戦っていた……その筈だった。
新機種のモニタの最中に発生したコンピュータ異常。状況を把握する間もなく、少佐は意識を失っていた。
深い闇。ここはどこだ。パイロットは? 意識を失う直前に見た黒煙。あれは。
スーパーシルフ。雪風。深井零中尉。
零。零、おまえはどこにいる。
掌に金属の感触。それは銀色のキイだ、と少佐は思った。見ることも出来ないのに。鍵にはブーメランの意匠が施されていた。
暗転。
次の瞬間、少佐の手は鍵ではなく別のものを握っている。操縦桿。戦闘機の。しかし見慣れたものではない。
そしてそれを握っているのは少佐ではない。別の人物。その人物の記憶を、感覚を、知覚している。
『――ヒャッホォォォーウ!』
楽園と呼ばれた地で、戦乙女が空に舞っていた。
空力限界高度まで四十八秒。自らの相棒、聖剣の名を冠するヴァリアブル・ファイターに彼は熱狂する。
高く尾を引く航跡雲。――竜鳥。
『お払い箱か。人間はもう要らないってことかよ!』
『将軍は始めからこの事を知ってたんですね。始めから共謀してたんですね』
『だから……あの事故もあんなに簡単に。今までやってきた事はなんだったんですか! YF-19にかけて費やした僕の青春は、青春の日々は?』
『将軍に直訴するぜ。俺だってダルメシアン・ハイスクールの暴れん坊将軍だ!』
ミサイル多数接近。フォールド・システム起動。
5、4、3、2、1、ゼロ。機体は閃光と共に通常空間から喪失。
-
「う……」
自らの喉から発せられる呻き声。それによって少佐は意識を覚醒させる。
慣れた心地のベッドの上で目覚める……そう、慣れているのだ。
住んだ事もない、見た事もないはずの街、アーカムシティに。不可知戦域? まさか。
これがジャムの新戦術だというのなら、それは……。
「ヘイ、少佐。ひでえ顔だ、女にこけにされる夢でも見たかい」
身体を起こしたブッカー少佐にサーヴァント・ライダーが挨拶とも呼べない挨拶をする。少佐は苦笑。
「夢か。そうだな。きみの夢だ、わたしが見たのは」
「ふん、マスターとサーヴァントの繋がりって奴かよ。ガルドの野郎でも出てきたか。それとも、歌か」
「いや……」
彼の深い部分までもを認識したわけではない――恐らくは。
ただ、彼はその場所で、飛んでいた。エデンと名付けられた惑星で。全自動の機械ではなく、自らの手でもって。
彼、ライダー、イサム・ダイソンは、まともな軍人とは言えないのだろう。しかしブーメラン戦士とも真逆だ。
人間性を喪失しつつある、冷たく張りつめた彼らとは。
『なぜだ、零。なぜそれほどまでに雪風のことを?』
『おれは……あんたを別にすれば、信じられるのは雪風だけなんだ。他にはなにもない……なにも』
「きみは……サーヴァントとなって今ここにいる事を、どう思っている」
首を振りながら、少佐は質問。
「俺はいつでも」飄々とした態度でライダーが答える。「全開で飛ぶだけだ。英雄殿と追いかけっこも悪くはない」
「フム」
「で、どうだい。俺の夢のご感想は。ん、夢じゃなく記憶だったか」
「きみがイサム・ダイソンという人間を演じてわたしを欺こうとする悪意的な存在だというのなら、きみ自身の記憶をも欺く能力を持っているのかもしれん」
「つまんねえ言葉をどうも」
「そう言うなよ。なんといっても、今、わたしが頼りに出来るのはきみしかいないんだからな」
「これが可愛い子ちゃんだったら張り切ってるところなんだがな」
「ならば少しでも外見を整えるとしよう、性別は変えられんがね……シャワーを浴びてくる。仕事もあるからな」
「空港勤務ね。こんな街に」
「きみの戦い方にとっては都合がいいだろう」
「だったら」
と、ライダー。
「俺もついていこう。ああ、シャワーの方にじゃないぜ」
放出される冷水を全身に受けながら、ブッカー少佐は思考する。
最優先事項は帰還だ。しかしそれはどう為す? 〈通路〉はここに存在するのか。ジャムはこの戦いに、聖杯に関わっているのか。
何にせよ、ライダーとは協力せねばならないだろう。可能ならば他のマスターとも。
聖杯。それを求める者達がいる。一笑に付すことはできない。少佐にとっての現実である侵略異星体ジャムとの戦いとて、信じない者は多いだろう。
では、アーカムシティは本当に現実なのか。いや、現実ではない、ということにはならない。
夢を見ている者にとってその世界は現実であるという意味とは別に、夢は現実ではないからといっても夢を見ている人間は現に存在しているのだ。
おれはここにいる。
零、おまえはそこにいるのか。
一日が始まる。機械ではなく人間同士の戦いが始まる、その一日が。
-
【クラス】
ライダー
【真名】
イサム・ダイソン@マクロスプラス
【ステータス】
筋力E 耐久D+ 敏捷C+ 魔力E 幸運B 宝具B+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
騎乗:A
騎乗の才能。幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を乗りこなせる。
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
【保有スキル】
戦闘続行:C
往生際が悪い。
重傷を負った状態でも戦闘を可能とし、宝具が完全に破壊される可能性を減少させる。
戦場の英雄:A
エース・パイロット。英雄と呼ばれるに相応しい偉業を達成しながらも、祭り上げられる事無く戦場に在り続けた者。
主役となる物語は終わっても消える事無く、後の歴史にその姿を現す。
ライダーはそれらしい行動を取っている限り、「そこにいるのは当然である」として、魔力を探知されにくくなる。
一般人・マスター問わずライダーの姿を見てもSAN値の減少は行われないが、流石に間近で宝具を視認された場合は別である。
英霊としての格は保たれたままなので、普通のサーヴァントであればライダーがサーヴァントである事を見抜く事は可能。
【宝具】
『超時空可変戦闘機・聖剣(エクスカリバー・バルキリー)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100人
異星人の戦艦から得られたオーバーテクロノジーを駆使して開発された「可変戦闘機(通称・バルキリー)」。
最大の特徴は「ファイター」「ガウォーク」「バトロイド」の3形態に変形できることである。
「ファイター」…戦闘機形態。迅速な移動やドッグファイトに用いられる形態。
「ガウォーク」…中間形態。姿勢制御に優れ、地上での移動ではホバーを用いる。
「バトロイド」…人型形態。格闘戦・白兵戦などに用いられる形態。
幾度も発生した人類存亡を賭けた戦いで常に主力として活躍した事から若干ながら神秘性を持つが、あくまでも人類の手によって造られた量産を前提とした兵器である。
魔力の消費は控えめとはいえ、それでも出撃できるのは一日一度が限度。無茶をするなら令呪が必要になる。
ライダーの宝具であるバルキリーはYF-19・通称エクスカリバー。
様々なオプション兵装が用意されており、ファストパックは肩部および脚部側面に装着。
通常はライダーの一人乗りだが、マスターが後部座席に乗りサポートを行う事も不可能ではない。
『マクロス・プラス』
ランク:B+ 種別:対伝説宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
――一つの時代の幕開けとなった伝説。SDF-1マクロス、そして「歌」の力。
それに打ち勝ったのがライダーである。
高い知名度を持ち、名が知れ渡った存在に対して、それが有名であればあるほど致命的となる一撃を与える確率が上昇する。
【weapon】
宝具であるYF-19。
【人物背景】
新統合軍のエースパイロット。
女たらしで軍規違反の常習者と極めて自由奔放な性格の持ち主であり、他人との協調性に欠ける面がある。
空を飛ぶ事が何よりも好きで、それが空戦能力の高さに結び付けられている。
数々の命令違反や風紀を乱したとして、上層部の命令により惑星エデンにあるニューエドワーズ基地に転属させられる。
そして新型AVFYF-19のテストパイロットに抜擢され、その卓越したパイロット能力を発揮。
トライアルの最中、親友であるミュン・ファン・ローン、青年時代の確執を持つガルド・ゴア・ボーマンと再会するが――。
【サーヴァントとしての願い】
飛ぶ。
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【マスター】
ジェイムズ・ブッカー@戦闘妖精・雪風〈改〉
【マスターとしての願い】
帰還。
【能力・技能】
軍人としての戦闘技能。
コンピュータの扱いに慣れている。
【人物背景】
フェアリィ空軍少佐。特殊戦の戦隊指揮官。
作戦立案や、機体整備の指導、出撃機スケジュールの調整などのデスクワークを主な任務とし、「絶対生還」を至上命令とする特殊戦戦隊機の帰還を待ち続ける。
部下である深井零少尉には、単なる職務以上の友情を示している。趣味はブーメラン作り。
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投下を終了します。
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お疲れ様です。ギリギリですが投下します。
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カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアがこの聖杯戦争に参戦することになったのは、何者かの気まぐれとしか言いようがない偶然である。
彼が属するユグドミレニアの一族は、半世紀以上前手に入れた『聖杯』を用い、魔術教会からの独立を宣言した。
それは魔術教会と戦争状態になることを意味する。
そのため聖杯戦争を自ら起こし、サーヴァントを召喚して一族の悲願。
もとい当主であるダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの悲願である一族の繁栄と魔術教会への復讐を果たそうとしていた。
カウレスは本来、姉のフィオレのバックアップが役目だったが、ここで第一の偶然が起きる。
カウレスもまた姉と同様に令呪を宿してしまったのだ。
他の一族からの困惑と嫉妬の眼差し。それも当然と納得してしまう。
なぜ令呪が現れたのか、一番納得がいかないのがカウレス自身なのだから。
かくしてカウレスはサーヴァントを召喚する役目を担う事になったのだが、他のマスターと違いダーニックより、初めからバーサーカークラスでの召喚が決められていた。
理由は二つ。カウレスはマスターとして適性が低いため、それを狂化で補う為。そして他のマスターが、万が一にもバーサーカーを引き当てる事が無いようにだ。
それは使い捨ての駒としてしかダーニックはカウレスを見ていないことを意味するが、カウレスとしては特に不満も無かった。
そうして何とか触媒となる聖遺物は手に入れ、後はルーマニアの根城トゥリファスに戻るだけだったが。
トランクごと渡され、そのカギが他ならぬ『銀の鍵』であったのが、第二の偶然であった。
カウレスが気付いた時には、見知らぬアーカムという都市で、魔術と無縁の生活を送っていた。
その異常に気付き記憶を取り戻した瞬間、頭の中に『この聖杯戦争』に関する知識が入ってくる。
何もわからない状況だが、唐突な情報の羅列や令呪が存在する以上、聖杯戦争に巻き込まれたことに変わりはない。
で、あれば、まず為すべきは最低限の戦力の確保。つまりサーヴァントの召喚だ。
幸いにして、聖杯大戦に用意した触媒、フランケンシュタインが描いた『理想の人間』の人体図はある。
魔力に関して不安はあるが、そうも言ってはいられまい。
そうしてカウレスはサーヴァントの召喚に挑み――。
「……で、召喚されたのはこのゴスロリ衣装の女の子と」
そしていままで生活していた学生寮の中を、自由気ままに動き回るサーヴァントを見て、カウレスは頭を抱えた。
マスターに与えられる透視力で、クラスはバーサーカーと読み取れるが、とても狂戦士というイメージじゃない。
「おーい、こっち来てくれ」
カウレスは手招きして、自分のサーヴァント(?)を呼んだ。
「念のため確認しておきたいんだけど、お前はバーサーカーのサーヴァントでいいんだよな?」
「バーサーカー? わたしはエルムだよ」
「……あのさ、これは聖杯戦争だってことは分かるよな?」
「セイハイセンソウ?」
「……だめだこりゃ」
困惑するサーヴァントのエルムに対し、カウレスはがくりと肩を落とした。
聖杯戦争どころか、自身がサーヴァントである事すら理解していないサーヴァントを引き連れてどうしようというのか。
-
「大体、お前本当にヴィクター・フランケンシュタインが造った人造人間なのか? 花嫁の方じゃないのか?」
「ううん、違うよ。エルムは人造人間(フランケンシュタイン)だけど、『始まりの人造人間(ザ・ワン)』じゃないもん」
「……ちょっと待て。まずお前は人造人間で間違いないな」
「うん」
「で、ヴィクター・フランケンシュタインが創造した怪物ではないと」
「そうだよ」
「じゃあ、誰がどうやってお前を造ったんだ? フランケンシュタインは製造法を誰にも伝えずに死んだはずだろ?」
「そんなことないよ。今では研究が進んで、バリエーションがいっぱいあるんだから」
その言葉で、今度は逆にカウレスの方が困惑した。
「……何か変だぞ。ちょっとお前がどうやって創造されたのか説明してくれないか」
その後、バーサーカーの拙い説明で分かった事は、どうやら彼女はフランケンシュタインの人造人間製造法が闇社会に流出した並行世界。
そこで造られた人造人間である、という事らしい。
並行世界が実在する事は、カウレスも第二魔法の存在により知ってはいたが、実際にこうして目撃すると驚きもひとしおであった。
「それでええと……」
「カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。カウレスでいい」
「カウレスは何でわたしの夢にいるの? わたしは夢で人間のエルムとお話ししてたんだけど」
「お、おいおい……」
流石にカウレスも呆気にとられた。
本当に聖杯戦争を理解していないのは、確かにバーサーカーと言えるかもしれないが。
「ちょっとここに座れ。まず、サーヴァントってのは……」
このままでは自分の命が無い。そう判断したカウレスは、エルムに座って向き合い聖杯戦争について自分の知る限りの情報を説明することにした。
自分が召喚したサーヴァントに聖杯戦争が何であるかを説明する。
その馬鹿馬鹿しさに、カウレスは頭が痛くなる思いだった。
-
二次二次を思い出しますが、投下の予約的なのを宣言します。
-
「つまり、ここは現実でわたしはボディーガードとして呼び出されて、カウレスは迷子ってこと?」
「あー……もうそれでいいや。そういう事」
投げやり気味にカウレスは言った。
「ならまかせて! カウレスがちゃんとお家に帰れるよう、守ってあげるから!」
エルムは胸を叩いた。
「心配しないで。エルムはこう見えてもすごく強い人造人間なんだよ」
「……俺、お前のステータス見えるけど、あんまり強くないぞ」
マスターに与えられた透視力。これによりサーヴァントのステータス情報は開示される。
それで読み取った情報だと、エルムのパラメーターは耐久値だけが突出して高く、他は平均以下だ。
特に筋力値がEのバーサーカーなど、今までの聖杯戦争でいたのだろうか。
「それじゃ、ハリきって! いざ前進(フォルヴェルツ マルシュ)!!」
そう言ってエルムは勢いよく立ち上がり、扉に向かい突進した。
カウレスは胸をなでおろした。
兎にも角にも、最低限の戦力は確保できたようだ。
エルムの花言葉はギリシャ神話に由来する『身代わり』だ。姉の予備として育てられた自分にふさわしい。
……アホの子なのは、もうどうしようもないと諦めよう。
「とりあえず、俺みたいに巻き込まれたマスターを探して交渉してみるかな……。
単独じゃ生き残れそうにないし……」
「カウレス! 早く早く!!」
扉の前で催促するエルムに向かい、カウレスは腰を上げた。
-
【マスター】
カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア@Fate/Apocrypha
【マスターとしての願い】
元の世界、ルーマニアへの帰還を目指す。
【weapon】
豹の使い魔、低級の悪霊
召喚して戦わせる。
ミミズの卵
靴のつま先に仕込んであり、相手の体内に潜り込んで激痛を発する。
【能力・技能】
メインに召喚術を扱うが、魔術師としての技量は凡庸。
だが、己に力量が欠けていることを正しく理解しており、有利な状況でも油断せず、周囲の状況を観察・判断し自分の技量で出来ることを最大限に活かす工夫をする。
戦闘時は豹の使い魔や低級の悪霊を召喚して使役し、隠し武器として靴の爪先に相手の体内に潜り込んで激痛を発するミミズの卵が仕込まれている。
現代科学を忌避する一般的な魔術師としては例外的に、情報収集にパソコンなどを使用したりもする。
【人物背景】
様々な魔術師の一族が集合し、組織兼一族を構成するユグドミレニアの一人。
ミドルネームは元々の一族の性で、血を分けた家族に姉のフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアがいる。
天才と謳われ、次期当主の座が約束されている姉に対し、カウレスは凡庸な魔術師で、一族からは姉の予備程度にしか扱われていない。
だがカウレスはそんな境遇を、気楽に魔術を学べるとポジティブにとらえている。
カウレスは『魔術』は好きだが『魔術師』になるのは御免と考えており、成人が近い今は将来をどうするか模索中である。
性格は魔術師ならだれもが目指す根源より家族を優先すると断言し、サーヴァントを使い魔であると認識していても、相手を尊重し相互理解を重視するという常識的で人間的な感性の持ち主。
【方針】
アーカムを脱出しルーマニアへ戻るのが最優先。
おそらく自分と同様、何も知らずに召喚されたであろう他の主従との交渉を試してみる。
-
【クラス】
バーサーカー
【真名】
エルム・L・レネゲイド@エンバーミング
【パラメーター】
筋力:E 耐久:B+ 敏捷:C 魔力:D 幸運:D 宝具:C
【属性】
混沌・善
【クラス別能力】
狂化:-
凶暴化する事で能力をアップさせるバーサーカーの共通スキルだが、このサーヴァントの狂化は他のどのバーサーカーとも異なる。
【保有スキル】
虚無(ゼロ)の悲劇:?
エルムは大元の素体がない、零から創造されている。
新たな生命である原典のフランケンシュタインの怪物と違い、動く死体の人造人間は必ず元の人間より変わり、狂気に侵される。
だがエルムのような根本が無い、虚無からは狂えない。
あるいは狂ったまま正気を保っているとも言える為、エルムはいかなる状況においても狂気に陥ることは無い。
この効果は因果線を通じマスター側にもフィードバックされ、マスターに正気度喪失が発生しない。
……狂わないというだけで精神干渉は通用する。
理性蒸発:D
創造の経緯の影響で、理性が蒸発している立派なアホの子。
このスキルは「直感」も兼ねており、戦闘時は自身にとって最適な展開をある程度感じ取ることが可能。
【宝具】
『護りの聖布(ブライダル・ヴェール)』
ランク:C 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1人
エルムは自身の皮膚を自在に操れるよう創造、調整されている。
主な能力は攻撃に対する自動的な瞬間硬化と再生。服も皮膚から培養した生地で縫われており、破れても皮膚と同時に再生する。
Bランク以下の攻撃をEランク相当まで軽減。Aランク以上の場合でも最低Dランクまで軽減する。
特に雷撃に対しては完全な耐性を持つが、光速の攻撃に対しては皮膚の対応が間に合わず直撃を喰らってしまう。
他に具体的な使用例としては真空吸着、軟度調整による跳躍加速、皮膚の色の変更、骨格の範囲内で顔や体型を変えるなど。
さらに爪を硬化、伸長させる。髪の硬化や射出と再生、長さや色を変えるなど皮膚に関わる部位なら自由に変化させられる。
【人物背景】
Dr.リヒター製機能特化型人造人間「究極の八体」の七体目で、皮膚機能特化型人造人間。
元は人間で、人造人間を創造し共に暮らす共同体、ポーラールートの住人。
とある人造人間の創造に居合わせた時、その人造人間の暴走により殺害される。
幼馴染のアシュヒト・リヒターの意志により人造人間に創造されるが、おとなしい性格が快活な性格に変貌。記憶も全て無くし、完全に別人となってしまった。
実の親から「お前なんかエルムじゃない」と言われた事は、彼女の心の奥底で亀裂となって残っている。
普段は思い付きで感情のままに行動する、立派なアホの子。
そんなエルムだが戦闘時は躊躇なく相手の皮を剥ぎ、硬化、先鋭化した爪で切り裂くなどやはり人造人間である事を見る者に実感させる。
実はこのエルムは、■■■■■エルム・L・レネゲイド■■■■■■■■■■。
創造主でアシュヒトの父であるゲバルト・リヒターが■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
【サーヴァントの願い】
カウレスがちゃんと家までたどり着けるよう、守らないと。
【方針】
とりあえず、街から出る事を考える。
だけどその前に観光しよう。
【基本戦術、運用法】
エルムは、バーサーカークラスとしては破格に低い魔力で運用できる。
それはサーヴァントとして弱いという事を意味するので、防御力を売りに誰かとチームを組む事を考えよう。
戦闘時のエルムは平気で皮を剥いだりするので、相手のSAN値減少には十分。
スキルによりカウレスに正気度喪失が発生しないので、心置きなく敵マスターのSAN値を削っていこう。
単独で敵サーヴァントやマスターを倒そうという困難な方法を取らない方が良い。
-
投下終了です。
-
投下します。
宣言はしましたが期限を過ぎていることには変わりありません。
落ちたら期限超過のせい、と前向きに捉えます。
-
天高く輝く星に憧れるように、夢を見て眠る深海の双魚。
夢に対する好奇心は偽りの黒き心でも止めることは出来なくて。
在りもしない話に興味を抱き、その憧れは尽きること無し。
聖杯戦争。
彼女は調べた、神秘を秘めた禁忌なる混沌の宴を。
歴史に名を残した所謂英霊を召喚し願いを求める闇の闘技を知ってしまった。
好奇心が膨れ上がる。調べる手が止らず日夜情報を集めている。
記憶されていく単語を一つ一つ忘れないようにノートへ書き留めていく。
聖杯、サーヴァント、令呪……どれも心躍る響だ。冥府へ誘われるように興味心を惹いていく。
彼女は調べた。レッスンが終わりその日の汗を流して復習を終える。
やるべきことを済ました後、シンデレラプロジェクトのメンバーも知らない夜の彼女が活発になるのだ。
自分が参加するその日を夢見て。
「ふっ……今宵も邪神の宴を始める時が訪れた。
さぁ始めよう、天の獄に堕ちた放浪者達よ……」
禁忌の扉を今宵も開くために扉へ続く異界の門を叩く呪われし放浪者。
(クトゥルフ神話TRPGをやるためにパソコンの電源を点ける彼女)
神話の果てに誕生した現代、過去の遺産が形を変えて人の娯楽となっている。
TRPG。彼女は休日の夜に時間の余裕が在ると高確率でプレイしていた。
偽りの時間ではあるが同じ志を持っている……と思われる仲間と触れ合える貴重な時間だ。
「待たせたな同胞達よ……尽きぬ探究心を満たす時が来た!」
《まだ始まってないのに◯◯さんはもう世界に入り込んでるなぁw》
《今日はよろしくお願いしま―す》
《よろー》
「焦るでないぞ、だが我も焦がれる思いは止められぬようだ……あ、GMって今回誰でしたっけ?」
普段と変わらないように会話を行う。
面子もいつも通りの言ってしまえば信頼関係が築かれている仲間。
画面越しでそっちには行けないが彼らは二次元の存在ではなく三次元空間に居る。
仲間、何と甘美なる響きだろうか。
今日も始まるTRPG。
だけど、何かいつもと違った。
《それでは此処で銀の鍵が出現します》
「シルバー……え?」
-
聞き慣れない単語である銀の鍵。
戸惑いを覚えるが自分勝手な展開だと考えればいいのだろうか。
相手の出方を伺う禁忌の探求者。
《◯◯さん、貴方は聖杯戦争に参加する資格を得ました》
心臓が止まる、そして一瞬だけ跳ね上がった。
聖杯戦争。この単語を此処で耳にするとは思いもしなかった。
画面の向こう側の彼はどんな思惑で発言しているかは不明だが彼女は揺らいだ。
誰にも話していない聖杯戦争。何故話題に出すのか、それとも偶然か。
《願いを叶える奇跡の一夜……神の座に挑戦する権利を貴方は得た》
願いを叶える。この一言で彼女が調べていた聖杯戦争と同じ意味を指していると想像出来る。
神の座とは何なのか。
神。その通りである神様を指しているのだろう。願いを叶える存在としての象徴。
座。文字通りなら座る、座っている場所を指す。
組み合わせるならば《神様が存在する場所》といったところか。
これから神様が存在する場所に挑戦し勝てば願いが叶う……聖杯戦争だ。
「一つ問おう。主は何故銀の鍵なる禁忌をその手に治めた?」
《貴方はそんな事を気にする必要がない。これから願いが叶うんだ、詮索は必要ないだろう?》
問いただそうと思い質問を投げるが返ってきた言葉は瞬速で的から外れてしまった。
知る必要はない。ゲームを進めるに当たっては大切だろう。
一人で創らずみんなで描く神話、協調性を大切にしてもらいたい。
「我にとってそれは魅力的である。しかし、説明を施されないと未知は永遠に闇の底に眠ってしまう」
《何を言うかと思えば何時もの飾られた言葉か……気にする必要はない。
それに貴方には拒否権がない。言葉を借りれば禁忌の扉とやらは既に開かれている》
「な、何をさっきから――」
《夢が叶うんだ、聖杯戦争に参加出来るんだ、貴方は神に選ばれたんだ! 迷う必要なんてないだろうに。
貴方はどうする? どうする? どうする――参加に決っている筈さ! これから始まる神話に貴方はどんな血を流す!?》
「え――」
荒ぶる文字と感応する精神。
言葉には表せないが吐き気や寒気が彼女を襲う。
この感覚は端的に言うと気持ち悪い、それを極限にまで密度を詰め込んだ。
頭が割れそうだ、聖杯戦争とは何だ、そんなの知らない。
《貴方はどんな声で泣く!? 獄炎のアイドル、その姿は――》
《僕のマスターを虐めないでくれるかな?》
意識が薄れていく中で見つめた一文は他の参加者ではないようだった。
いつの間にか自分以外の参加者はログアウトしている。
この書き込みが誰の物かは不明だが何故か心が落ち着いた。
それはきっと自分を心配してくれる内容だからだろう。
そして彼女は夢を見るように眠る。
《めざめの扉は今開かれる、か。神とやらはどんな世界でも不親切らしい》
-
目覚めると其処は見知らぬ天井で窓から見えるのは大きな川だった。
頭を抑えながら上半身を起す。
来てしまった。
理解は出来ないが脳が訴える、此処は聖杯戦争だ。
自分が夢見た禁忌の扉の先にある混沌の宴。
実感は薄いが辿り着いてしまった。
「誰も……友もおらぬ……孤独」
知り合いは居ないだろう。
誰にも聖杯戦争のことは話さなかった。
親にも寮の住人にもプロデューサーにも……仲間にも。
彼女達が聖杯戦争を知っているとは限らない。寧ろ可能性は零に近い。
禁忌の扉は彼女達には無関係過ぎる、知らなくていい世界の一種だ。
居たら困る、どうして教えてくれなかったのか、と。
そして尋ねる、何で知っているんだ、心に闇を抱えていたなら相談に乗ったのに、と。
「目が覚めたようだね我が主――マスター」
「……!?」
「警戒する必要はないよ。僕は君のサーヴァントだ、そうサーヴァント。
クク……アハハハハハ! ……おっと急にごめんね。でも面白いんだよ。
この僕がサーヴァント、英霊として扱われているんだ……マスターに言っても何のことか解らないと思うけどね」
黒い青年は突然声を掛けて一人呟き、笑い、空を見上げた。
身体が震える彼女だったが彼はサーヴァントらしい。
自分で言っているから間違いないのだろう。
少し安心して考える。
自己紹介がまだだ。サーヴァントなのだからこれから行動を共にするだろう。
故に大切なコミュニケーションの第一歩を踏み出す。
「そうか……よしっ!
我がサーヴァントよ! 主の魂に我が誇り高き名を刻もうぞ!!」
「それは問題ない。僕は君の事を知っているからね」
【マスター】
神崎蘭子@アイドルマスター シンデレラガールズ(アニメ版)
【マスターとしての願い】
願いは決まっていないが、何か叶えたい。
【weapon】
彼女が持っているノートには聖杯戦争に関する言葉がメモされている。
【能力・技能】
アイドルらしくダンスと歌。
また独特な言葉を話し、偽りの黒羊と上手く噛み合えば話しているだけで他参加者を発狂させることが出来るかもしれない。
【人物背景】
シンデレラプロジェクトに選ばれた一人。
その独特な言葉と立ち振舞から孤立……仲間に恵まれ、そんなことはなかった。
仲間と一緒に成長していった彼女はやがて一人で憧れのステージに立った。
「よろしく――神崎蘭子」
「……!? そ、そうか……既に知っているとは……強い。
我が下僕よ、その行いは主に対する我の忠誠心として受け取った」
「ふふ……君は本当に面白いね」
-
何故サーヴァントが自分の事を知っているかは不明だ。
けれど事前にマスターの事を把握しているのは好感度が持てる。
彼となら上手くやっていけそうだ、少しテンションが上がる。
心配だった。
急に招かれた聖杯戦争。
知り合いが誰一人としていないのだ。
孤独の寂しさ……だけどサーヴァントがいる。
彼と協力して、帰ろう。
序に願いも叶えよう。
まだ決まってはいないがこんな機会は二度と来ないだろうから。
「改めて我が下僕よ。
今宵の聖杯戦争、我は闇なる力を開放し頂点を目指す」
「実験室のフラスコで頂点、それは茨の道だよ?」
「我の力と主の力が在れば神と同等にまで辿り着ける。
聖なる杯を手にしようではないか、鍵は既に使った、今更退けぬ」
「もし力尽きたとしても、今更戻ることは出来ない……戦ってでも散るのかい?」
「散らぬ、我には還る場所が、友がいる」
「そうか……解ったよ。
僕もサーヴァントとして扱われているんだ、聖杯とやらを拝んでみたい」
「じゃ、じゃあ!」
神崎蘭子の顔が明るくなる。
言葉を紡いでいるが伝わっているかどうかは怪しかった。
もしサーヴァントに受け入れてもらえなければショックで立ち直れない。
「僕の名前はアサキム……アサキム・ドーウィンと名乗らせてもらう。
無限獄に堕ちた呪われし放浪者だよ。この身は太極の因果に縛られているけどよろしく」
「パーフェクトッ!!」
大声で叫んでしまった。
顔を赤らめて後ろを向いてしまう神崎蘭子。
サーヴァントのアサキムは自分に波長を合せてくれた。
自分の言葉が伝わるのは大変嬉しいことである。
仲間だ、心で思う。
彼女はアサキムに対し好感を抱いていた。
通過儀礼……でもないがアサキムに言葉を掛ける。
それは彼女が毎日仲間と別れる時に告げる彼女なりの優しさ。
アサキムの方へ振り向き腕を広げ彼女は叫ぶ。
「闇に飲まれよ!」
「物好きだね、いいよ。
君に一瞬だけ見せてあげよう――聖杯に纏わる一人の英雄の姿を!」
「な、なにをいって――!?」
黒い魔法陣と暗黒の笑顔が重なって。
神崎蘭子の世界は隔絶された闇の楽園に招かれた。
-
焔に燃え盛る一つの街、崩壊する建物。
溢れ出る泥、嘆く人々。
その光景は地獄絵図。
「い、いや……」
生きる気力を無くしたように彷徨う男。
この世に絶望した表情は生きる屍に近い。
「だ、だめ……」
崩れた民家を掘り起こし何かを探している。
その表情は必死で、何かを求めているようだ。
「……」
そして一人の人間を見つける。
「だめ……」
自分は救われた。
「え」
これで僕は救われる。
「そんな」
君は僕が助ける。
「この人は……でも」
一緒に帰ろう。
「それは駄目……」
時は流れ一つの民家。
そこで少年は告げる。
「だめ……」
じゃあ、俺が爺さんの代わりに――。
「やめて……やめて!!」
「解った、此処でやめよう。だからマスターは眠っていてね」
言葉と同時にベッドへ倒れこむ神崎蘭子。
彼女が知ることはないが今の光景は聖杯戦争に纏わる一つの過去/未来である。
一人の英霊が生まれた始まりの瞬間。
外から見るには重すぎる使命を垣間見た。
その影響か精神は大きく消耗され倒れてしまう。残るのはサーヴァントのみ。
「神から開放された僕に待っていたのは別の神が司る座……聖杯戦争。
僕はいつになったら死ねるのか……死んでいるから英霊なのかな?
この世界での僕はどんな結末を迎えるのか……風の導きに従おうじゃないか」
多元の世界で破界が行われ再世が行われた時空の獄を突破し天に辿り着いた呪われし放浪者。
彼が求めるのは真の死である。
其処にマスターや他参加者はいなく、彼は彼が求める真理のために禁忌の扉を此処で開く。
「破界と再世を超え、時獄を突破し天に辿り着いた僕に待っていたのは聖杯戦争だ。
神話の果てに眠るこの世界の神は僕にどんな罰を与えるのかな?
けれど僕は揺れない、悲しみにも因われない、マスターといがみ合わない、獅子のように耐え抜く。
さぁ、聖杯戦争を始めようじゃないか、僕達で神話を創るんだ、次元の奥に眠る禁忌を《人間》の力で開けるんだ! クク……ハハハハ……アハハハハハハ!!
-
【与えられし役目】
リアクター
【罪名】
呪われし放浪者
【■名】
アサキム・ドーウィン@スーパーロボット大戦Zシリーズ
【属性】
中立・混沌
【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:A+ 幸運:E- 宝具:EX
【スフィア】
スフィア:EX
リアクターが所有しているスフィアの能力を指しており、次元力を司る。
それは■■神ソ■の欠片とも言われており、アサキムと呼ばれる存在は四つのスフィアを所有している。
■使いの神坐から離れている聖杯戦争では弱体化しており別の真理を司っている。
アサキムがその気になれば一日程度は己で魔力を賄える事が可能である。
偽りの黒羊:太極の座は『嘘』
真なる覚醒を遂げれば目の前に広がる現実を嘘に塗り替える力を持つ禁忌の意思。
聖杯戦争では己及びマスターの能力や名前を隠蔽する事だけに留まっている……外部因子の干渉或いは覚醒が無い限り。
第三者から見ればアサキムはライダーとして認識されておりステータス及び真名の看破は困難を極めるだろう。
また、彼の発言する言葉は禁忌と神秘を兼ね備えており、一度謎の鎖に繋がれると大きく精神を消耗する。
尽きぬ水瓶:太極の座は『愛』
己を犠牲にするまでに至った破界を超えた先に存在する慈愛の象徴。その能力は不明。
彼が他人を愛すればその力は太極へ近づくだろう。
夢見る双魚:太極の座は『夢』
暗き深海から光り輝く蒼天を夢見た小さな願い。その能力は不明。
アサキムは以前の世界で『夢』を望んだことにより無■■からの■放に繋がる覇道を拓いた。
知りたがる山羊:太極の座は『好奇心』
好奇心から生まれる真理への探求はアカシックレコードをも超える。
その能力は全ての偽りを暴き、打ち消す事が可能。また、些細なきっかけがあれば相手の真理へ近づくことが出来る。
彼に嘘は通じない。対魔力を持たない参加者やNPCの心理を読み取れるため正直に言って多用はそんなにするべきじゃないと思います。
対魔力C以上か同等の能力を持つサーヴァントの正体や能力を暴くことは不可能である。
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【叡智】
直感(罪):A
戦闘に置いて天性の極を発揮する運命の総称。戦闘に対する敵からの干渉を半減させる。
微小なる確率で彼という存在に害を成す総ての現象を回避する事が可能。
神性(罪):A
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされているが彼は違う。
神の加護を結果として受けているため神性を帯びている。
呪われし放浪者(罪):EX
数多の平行世界を渡り歩く無限獄に堕ちた輪廻に囚われた者。
死ねない身体であったが聖杯戦争の場に置いては制限され事実上死ぬことが可能となった。
その名残なのかスキルで言うところの戦闘続行の意味合いも含んでいる。
彼の精神は総ての干渉を受け付けず、記憶に対する操作も彼の前では無意味となる。
役者(罪):EX
物語において、まるで神に導かれいるかの如く運命の分岐点に携わる力。
アサキムの存在は白紙である預言書に新たな章を紡ぐ力がある。
神殺し(罪):EX
己も神の力を帯びているが神を殺した体験から発揮されるスキル。
神々の戦いに置いて彼は揺れることなく己の役目を貫き通す。
【宝具】
『魂現せよ、罪なる魔王の剣』(ディスキャリバー)
ランク:C 種別:太極宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
彼の愛機とされているシュロウガの剣を己の刃となりて振るう。
次元をも斬り裂く力を持っており、如何なる状況でも弱体化することが無い。
この宝具を発動している時、アサキムは次元力に覆われシュロウガと同じく行動する事が出来る。
故に彼はオリジン・ローの力を操る。
『罪・機■■■の■■神』(■■■■■・■■)
ランク:EX 種別:太極宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
終篇が訪れし崩壊の時、汝は己の罪を受け入れるだろうか?
この宝具に関する記述は太極の意思によって拒まれている。
【weapon】
――
【渇望】
無限獄から開放された僕を待っていたのは聖杯戦争だった。
僕はいつになったら死ねるのかな?
それにサーヴァント……もしかして僕は既に死んでいたのかな?
【過去】
大罪を犯し無限獄へ堕ちた呪われし放浪者。
【■ルの■憶の欠片】
アカシックレコード、聖鍵戦争、無限獄、スティグマ、特異点、ザ・ビッグ、虚憶、メモリー
黒歴史、太極への旅■、次元力、御■い、ヘ■■ース、■ンカ、黒の叡智、月の蝶、ZONE
至■神■■、因果■■番■、■の魔■■神、不老不死、神、Zの終局、終篇の銀河
【方針】
サーヴァントとして扱われている彼が目指すべき終局は唯一つ、この空間の神を殺し己を真なる開放へ導いた上で死ぬ。
【備考】
Zシリーズのネタバレを多いに含みますがスパロボwikiを見るのが一番です。
ttp://wiki.cre.jp/SRW/%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%82%AD%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%B3
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終了です。大変失礼いたしました。
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遅刻をやらかした後で大変恐縮ではありますが、某所を見て間違いに気付きました。
中立・混沌→混沌・中庸が正しいです。
失礼します。
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これ以上の投下はなさそうですかね?
それでは、本時刻を持ちまして『邪神聖杯黙示録��Call of Fate��』の登場話コンペは終了させていただきます。
参加してくださいました皆様、ありがとうございます!
今後のスケジュールについては(最終日の投下も力作揃いだったのもあって)思案中ですが、
今夜中には結果発表およびオープニング投下の日程をお伝えさせていただきたいと思います。
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あ、分かりにくい書き方になってますね。
今夜中に「結果発表およびオープニング投下」の日程をお知らせします。今夜中に名簿確定は無理です(断言)
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お待たせしました。
結果発表についてですが、5月9日(土)の投下を目指して行きたいと思います。
時間まではまだはっきりとしたことが言えそうにないので、目処が立ったらお伝えします。
選考は現在一部クラスが凄まじく難航しておりますが、間に合うよう努力しますので発表まで何卒お待ちください。
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いえいえこちらこそお疲れ様です!
これだけの候補作の中から選抜するのは大変だと思いますが無理せず頑張って下さい
土曜日の発表を楽しみに待ってます!
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企画主です。
すみません、白状しますと最終日組の採用検討をする過程で当初言ってました確定組が揺らぐ事案が発生しまして……。
名簿の差し替え等はほぼ一通り終わっているのですが、少なくとも今夜中の発表は無理そうです。
発表を楽しみにしてくれている人には本当に申し訳無いのですが、すみません、もう少しだけ猶予をください……。
勝手な言い分ですが、ご理解いただきますようお願いします。1も頑張ります。
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了解しました
駆け込みもたくさんありましたし、選考が苦労するのも当然かと
書き手の方々もじっくりと読み込んでもらった上で選んでもらえたほうが喜ぶと思います
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了解です
多くの候補作の中から厳選するのは途轍もない労力を要すると思います
焦らずに氏の納得できる内容作りに励んでくれれば幸いです
いつでも待ってますので選考頑張って下さい!
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了解しました。
焦らずじっくり1氏の納得のいく形での発表を、楽しみにお待ちしております。
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進捗報告です。
平日であまり書く時間が取れずにおりますが、それでも明日か明後日の夜には投下できるのではないかと思います。
お待たせしてしまって申し訳ありませんが、今暫しお待ちください。
投下の具体的な目処が立ちましたら改めて報告します。
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間に合って……ない!すみません、進捗9割ぐらいです。
最後のほうを書きながらの投下になりますので若干ペースが遅くなりますが、それでも約束の期限ですので、投下を始めさせていただきます。
大変お待たせ致しました。
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探索者(マスター)たちよ。そして銀鍵の守り手(サーヴァント)たちよ。
運命の呼び声の時ですと、シオン・エルトナム・アトラシアの姿をした者は、そう言った。
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――すべてを始めるにあたってまず、このアーカムという街についていくつか語っておく必要がある。
マサチューセッツの州都ボストンより北東20マイル、ミスカトニック河の下流に位置するこのアーカムは、
港町として知られるキングスポートから程近くに位置し、悪名高い魔女狩りの街セイラムからもまた近い。
事実、17世紀末のセイラム魔女裁判を逃れた魔女共がアーカムに流れ着き、隠れ潜んでいたという噂もある。
二人の魔女のうち一人は行方をくらまし、もう一人は街の住民によって縛り首にされたと言われるが、今や知る者は少ない。
ともあれアーカムという街の起こりは概ねその時期であり、現在のフレンチ・ヒル周辺が最初の集落だったと言われている。
港町としてのアーカムの発展は近郊のキングスポートの影に隠れて遅々として進まなかったが、
アメリカ独立戦争においては私掠船の停泊地として、また長距離交易の中継港として、そこそこの賑わいは見せた。
戦争が終わると貿易拠点としてのアーカムの価値は地に落ちたが、しかしアーカムの真の発展は19世紀に入ってからとなる。
海上交易が廃れることを予見した人々によって繊維工場が相次いで建てられ、農業や貿易の衰えと反比例するかのように工業が盛んとなった。
新聞社が設立され、電話線が通り、南北戦争の後にはガス灯が灯り、市警察が設立され、タクシーが走るようになっていた。
そして何より、この街を支えているのはミスカトニック大学の存在だった。
18世紀末に貿易商の遺産と蔵書を元に設立されたこの大学はアーカムの中心として成長し、年々その規模を大きくしていった。
蔵書の充実が魅力となってか市外から名のある学者たちが続々と集まり、ミスカトニック大学の教授陣に名を連ねた。
19世紀になってニューイングランド一帯を襲った景気の停滞も、ことアーカムにおいては大学の存在がその影響を和らげた。
ミスカトニック大学を中心とした人の往来が、閉塞した地方都市にありがちな行き詰まりを打破したのである。
今日に至るまでミスカトニック大学の名は広く知られ続け、アーカムもまた大学街として隆盛を誇っている。
しかし、このアーカムという街の底には、未だに仄暗い何かが横たわっているように思える。
旧い魔女狩りの時代から続く陰鬱な空気は、アーカムが経済的に発展した今なお、石畳の下で息づいているのだ。
曰く、ミスカトニック大学の大図書館には、禁じられた魔導書の写本が眠るという。
曰く、かつて書庫に忍び込もうとして番犬に噛み殺された青年は、人ならざる異形であったという。
曰く、魔女の隠れ家と伝えられる場所で寝泊まりしていた学生が、何者かによって心臓を抉り取られて死んだという。
曰く、街の郊外に存在する廃屋にはおぞましく飛び跳ねる名状しがたいものがおり、近付く者を襲ったという。
曰く、呪われた漁村インスマウスからこの街に来た者どもは、みな一様に魚めいた異相をしていたという。
曰く――――
いずれもただの風聞に過ぎない。だが、これ以上語る必要もないだろう。
このアーカムで真実に近付くことは、この世ならざる神秘にその身を晒すことに他ならない。
深淵を覗き込むのならば、心せよ。誰もお前の精神を守ってはくれないのだから……。
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【 01: Library Use 】
ミスカトニック大学キャンパス内、大学図書館。
今しがた架空都市アーカムの歴史に関する本を読み終え、《鷺沢 文香》はほうと一息ついた。
「伝説に満ちた街、その裏側に潜むもの……このアーカムは、ただの舞台装置ではないのでしょうか」
文香は、自分がこの場所にいる意味を今までずっと考え続けている。
ただの偶然で片付けてしまえば気が楽なのかもしれない。それでも、思案を止められないのが文香の性分だった。
銀の鍵。聖杯戦争。サーヴァント。そして万能の願望器。
自分が巻き込まれたそれらについて何も知らないままでは、きっと何も出来ずに終わってしまいそうで。
……終わる、というのが自分の死を意味することを思い出し、文香は肩掛けの裾をぎゅっと掴んだ。
未だに戦争を実感できたとは言いがたい文香にとっても、死を想像するのは恐ろしい。
きっとこの街で文香が命を落としたとして、誰一人として悼んではくれないだろう。
家族も、やっと打ち解けてきた事務所の仲間も、そして自分を新しい世界に連れ出してくれたプロデューサーも。
文香にとって大切だと思える人たちの誰もが、文香の死にすら気付かない。
こんな見知らぬ街で、孤独に、ただ孤独に、ひとりで……。
「アーチャーさん……っ」
文香の漏らした呟きに答えるように、叛逆者の英霊《ジョン・プレストン》が実体化した。
まるで機械のように冷徹な男。文香は未だに彼への潜在的な恐怖心を拭い切れていない。
それでも、彼が詩の美しさに揺さぶられるような感受性を持つこともまた分かっているから。
その感受性が自分と彼との縁だったのではないかと、そう感じているから。
彼がいれば自分は孤独ではないと、ひとりぼっちではないのだと、そう思おうとした。
「……書物もいい。だが、周りにも目を向けろ。もうじき、始まるぞ」
プレストンは多くを語らない。その言葉は常に端的だ。
ゆえに人一倍内側に考えを篭もらせるタイプの文香は、無意識に言葉の裏を考えようとしてしまう。
始まるとは無論、聖杯戦争のことだろう。いよいよ役者が出揃い、戦いの幕が切って落とされる。
知識を得るのがいかに大事なことでも、いずれ自分の世界で思案を巡らせるだけではいられなくなる。
(私ももっと、他の人と関わるべきなのでしょうか)
思えばミスカトニック大学に「通い始めて」以来、文香はあまり他の学生と話した記憶が無い。
人との関わりがなければ、このアーカムで埋もれてしまいそうな、そういう感覚がある。
試しにこの大学図書館に通う学生とでも、話をしてみるのもいいのかもしれない。
そういえば、この図書館には講義にも出ないでずっと入り浸っている学生がいると聞いたような気がする。
あだ名は確か、図書館の魔女――。
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▼ ▼ ▼
【 02: Natural History 】
表面上は魔術とは無縁の生活を送っているはずなのに、いつの間にか魔女と呼ばれるようになってしまったことについて、
正直なところ《パチュリー・ノーレッジ》はかなり辟易としている。
これでも幻想郷と勝手の違う近代社会へ溶け込もうと、最低限の注意は払っているはずなのだが。
服装だっていつもの装束では目立ちすぎると考え、自分なりに現代風の格好を揃えてみたのだ。
いくら現代のアーカムについての知識は持っているとはいえ、流行風俗についてはどうしようもない。
まぁ、少なくとも目をつけられなければいい。まだ目立つには早過ぎる。
この聖杯戦争において、自分の正確な立ち位置を定めていない今のうちは、まだ。
「ったく、ようやく戦の臭いがしてきたってのに、辛気臭い顔してんじゃねえよ」
「辛気臭いは余計よ、セイバー。貴方の戦馬鹿に付き合わされたら、こっちの身が持たないわ」
まだ早すぎる、と言っているのに。
パチュリーのサーヴァント、《同田貫正国》は好戦的な姿勢を一向に崩そうとしない。
武者震いというのだろうか、近付く戦いの予感に沸き立っているのがそばにいるだけで分かる。
刀剣の付喪神のようなものなのだから、武者震いというのもおかしな話だが。
「時が来れば戦わせると言ったでしょう。今は待ちなさい」
今のパチュリーは魔術師というより猛獣使いだ。
目を離せば鎖をちぎって獲物に飛びかかりそうな獣を、なだめすかして飼い慣らしている状況。
猛獣が自分にとりあえずは忠実なのが、救いといえば救いだが。
(戦うことだけがプライド、か。魔法使いとはつくづく無縁の生き様ね)
彼の在り方を受け入れるには、まだしばらく時間が掛かりそうだ。
だが、そんなことは関係ない。ここが何処であろうと、相手が誰であろうと。
パチュリー・ノーレッジのプライドが魔術にある以上は、当面は魔術師の流儀でいかせてもらう。
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【 03: Pilot 】
戦いの中で、己の力を示すこと。
それこそが、《クリム・ニック》にとってのプライドである。
宇宙世紀から幾千年の時をおいたリギルド・センチュリーにおいても、モビルスーツパイロットの矜持は変わらない。
もちろんそれは、モビルスーツを降りて本来の世界ではまったく無縁だったはずの戦争に加わることになってもだ。
聖杯戦争。万能の願望器を賭けた、魔術師同士の決闘儀式。
その手のオカルティズムなるものに対してクリムは造詣など深くはないが、だからこそ奮い立つ。
トライする。チャレンジだ。運試しに賭けてみる。
クリム・ニックはそういう事柄に命を懸けられる男である。
「……相変わらず、呑気な様子ね。緊張感というものを教わらなかったのかしら」
「緊張? していますよ。私は常に緊張を保ち、それと同時に緩和を実現しているのだ。
それが戦場に立つ者の流儀というもの。そうでしょう? 戦姫さま」
「否定はしないけれどね。ある意味大物なのかしら、まったく」
「そうとも。私は大物なのです。稀代の傑物と呼んでいただいて構わない」
そう言うと、槍の英霊《リュドミラ=ルリエ》は呆れたと言わんばかりに首を振った。
決して関係が険悪なわけではないのだが、どうも変な奴だと思われているようなのがクリムには不満である。
とはいえ、それも戦場に出る前までのこととなるだろう。
モビルスーツの操縦桿を握らなくとも、天才と呼ばれるに足る男であると証明するまで。
「戦姫さまにも近々ご覧に入れましょう。この天才クリムの目の冴える采配ぶりを」
「はいはい、期待はしておくわ」
「これはつれない。だがこのクリム・ニック、大統領の息子という生まれで評価されてきたわけではない。
この血ではなく己の実力で名を挙げて来たのだ。それはいずれ分かっていただく」
自信満々に言い切るクリムに、リュドミラは何処か思うところのあるような視線を向けた。
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【 04: Credit Rating 】
生まれひとつで、人を取り巻く世界は何もかもが一変してしまう。
みすぼらしいボロを纏った自分と、きらびやかなドレスを身につけたかつての親友。
認められるはずがない、そんなことは。
私は「選ばれた側」なのだ。「ドレスを身につける側」でなければならないのだ。
「その通りでございます、プリンセス・ローズマリー」
「あなた様こそが本当の姫です、プリンセス・ローズマリー」
「真に高貴な血統はあなたから生まれるのです、プリンセス・ローズマリー」
自分を称える言葉と共にかしずく者達を《ローズマリー・アップルフィールド》は見下ろした。
少なくともこのアーカムにおいて、ローズマリーはみすぼらしい孤児ではない。
歴史ある屋敷に住み、綺麗な服を着て、豪華な食事を口にする。
まるで貴族のようだ。まるで。
「王子様?」
「ここにおります、プリンセス・ローズマリー」
銀髪をなびかせて進み出る、この館で誰よりも美しい剣士。
己のサーヴァント、《グリフィス》の声を聞くたびに、ローズマリーは陶酔感すら覚える。
この完璧な殿方が、自分のためだけに尽くしてくれるという事実。
実のところ、この屋敷も、服も、食事も、全て彼の宝具『鷹の団』の一員となった者達に与えられたものに過ぎない。
しかし、グリフィスだけは別だ。彼だけは本当にローズマリーが所有しているのだ。
これこそがプリンセスの特権なのだ。
「私、この借り物の暮らしじゃ満足できないの」
「分かっております。あなたに相応しいのは、あなたの為だけに造られた王国」
「なら、貴方のその美しい剣で、私の夢を遠ざける人達を皆殺しにしてみせて?」
「仰せのままに。我が鷹の団が、必ずやプリンセスの敵の在り処を暴き立てましょう」
その頼もしい言葉に、ローズマリーは頬が熱くなるのを感じた。
この忠実な騎士は、自分のためなら誰だって殺してくれるだろう。
そんな男を従える自分は、やはり「選ばれた側」の人間なのだろう。
――今この瞬間もグリフィスが嗤いを噛み殺していることに、ローズマリーは気付かない。
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【 05: Law 】
悪意に満ちた笑みに、《アイアンメイデン・ジャンヌ》は不信の眼差しでもって応える。
世界に平和をもたらすために聖杯戦争を戦い抜こうとしているジャンヌにとって、眼前の存在はあまりに耐え難い。
傲岸不遜の極みにして、残虐非道の化身たるもの。
このような男が『神』を名乗ること自体が、法神を従えるシャーマンであるジャンヌには許せずにいる。
「ヤハハハ、随分と嫌ってくれるではないか。この神を率いる栄誉に浴しているのだ、誇るべきだぞ聖・少・女」
「……戯言を。私のために力を尽くす気など無いのは初めから分かっています、ライダー」
「貴様のためだろうがそうでなかろうが、何も変わらん。我は神なり、神の前に立つ者はただ滅ぶのみ。
最後に立っているのが我らであれば、どのみち聖杯は降臨し願いは叶う。ヤハハハハ、違うか?」
違いはしない。しかし、それとこれとは話が別である。
確かにこのライダー――《エネル》は、此度の聖杯戦争において最強の英霊の一角だろうとジャンヌは考えている。
自然の猛威そのものを宝具として持つこの男は、その過剰なまでの自信に相応しい戦果をもたらし得るだろう。
だが、このような英霊に――悪意に満ち満ちた「神」に、自分の運命を預けることが出来るだろうか?
「まあいい。貴様の下らぬ令呪で気晴らしも出来ずにいたが、これでようやく興も乗るというもの」
「……殺しを愉しむなと言ったはずです」
「愉しむのはついでだ。魔術師だろうがサーヴァントだろうが、この神・エネルに無礼を働く以上は当然死んでもらう……。
どのみち殺すならば、愉しまずば損というものではないか。なに、木っ端英霊ごときでも道化役は務まる」
「……………………っ」
ジャンヌは奥歯を噛み締めた。
耐えなければならない。法の秩序があまねく行き渡る、完全平和の世界をもたらすために。
聖杯戦争集結まで耐えて、耐えて、耐えて……全ての縛りから解き放たれるであろう、聖杯降臨のその時には。
必ずやこの神を名乗る不遜な男に、法神シャマシュの名において正義の裁きを下してみせる。
だがそれまでは――この男を、上辺だけでも神と認めなければならないのか。
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【 06: Occult 】
神様は信じるものでも、すがるものでも、ましてや畏れるものでもなく、ただ心の中に想像しては楽しむもの。
つまるところ《神崎蘭子》にとっての神とは、今までずっと信仰とは遠い概念だった。
神の実在を心の底から信じなくても生きていけるし、だからこそ光と闇の夢想に遊ぶことも出来たのだ。
いるかいないか分からない。でも、いたらちょっとだけ楽しいかもしれない。
空想を好む内気な少女の、それが神に対する認識だった。
だから、太陽神の血を引くという大英雄《カルナ》を実際に目の当たりにして、蘭子は内心の戸惑いを捨てきれずにいる。
神の子がいるのなら当然神様も、もしかしたら魔王もいるのかもしれない。
遠い世界の話だと思っていた存在が、自分と地続きのところにいるという事実。
確かに存在するのならば、それはきっと、確かに向き合わなければならないもののはず、なのだけれど。
「どうした、主。いつもにも増して顔色が悪いぞ」
「わ、我が白き肌は生まれ落ちし刻よりのもの! 決して心の内なる泉に翳りが生まれるなどということは――」
「そうか。ならいいが」
「…………うぅ」
率直に言えばまだ分からないのだ、彼のことが。
太陽神スーリヤの息子、不死身の大英雄カルナ。
彼はあまりにも、己を語らない。今だって、自分を心配してくれたのか、ただ気になったことを口に出しただけなのかすら分からない。
蘭子も、自分の気持ちを人に伝えるのが苦手だ。尊大な態度のポーズは、弱気な自分を奮起させるためでもある。
だからこそ、自分の気持ちが伝わらないのが、彼の気持ちが届いてこないのが、怖い。
カルナが自分を主として認めてくれている、そのことだけは確かだ。
ならば蘭子も、この神代の大英雄の主として相応しいように振る舞い、彼の期待に応えないといけないのに。
「我が力は未だ翼を広げぬ雛……太陽を纏って羽撃くにはあまりに幼い、か……」
「オレの鎧のことなら案ずるな。常時展開してはお前の魔力では保つまい、切り札として留めおく」
「あぁっ、太陽を纏うとはそのような意味では……なくもない、けど……」
その冷徹にすら見える姿の裏で何を考えているにせよ、彼が自分を気にかけてくれているのははっきりと理解できる。
だったら、成長しなければいけないのだろう、きっと。
それはきっととても辛く、苦しく、困難な道のりなのかもしれないけれど。
神崎蘭子はアイドルだ。だからこそ、夢は夢で終われない。
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▼ ▼ ▼
【 07: Hide 】
夢に潜る魔を殻として生まれ出で、夢と現のハザマでたゆたうように存在するもの。
オリジナルの夢魔との区別を考えるのならば彼女のことは《白レン》と呼ぶべきだが、ここは単にレンと呼ぼう。
彼女はここしばらく、白猫の姿をとってアーカムの市街地を、商店街を、裏路地を駆けていた。
猫の姿のほうが都合がいいというのもある、しかしそれだけが理由でもない。
レンは今、己のサーヴァントの法具の影響を受け、自分の世界「真夏の雪原」の中でしか力を振るえない。
アーカムの通常空間では、白の少女の姿を取ることすら一苦労だった。
『首尾はどうだい、マスター?』
「良くも悪くもないわね。そう簡単に尻尾を出す馬鹿ばかりではないか」
『そんなこと言って、こないだ一組仕留めたばかりじゃないか』
「あれはたまたま……というより、既に淘汰が始まっているのかも」
『淘汰?』
「私達以外にも動いてる奴らがいて、実力のない連中はあらかた狩られた後、ってことよ」
霊体化して付き従うサーヴァントに、猫の姿のままで言葉を返すレン。
キャスター――《ドッペルゲンガーアルル》はふーんと気のない返事をし、それから思いついたように言葉を足した。
『あれ、良くも『悪くも』ないっていうのは?』
「いくつか気になる噂は耳にしたわ。あとで教えてあげる」
『あはは、流石に猫に聞かれてるとは思わないだろうね。でも、噂かぁ』
「あら、噂は馬鹿にならないものよ? 他ならぬタタリから生まれた私が保証してあげる」
レンは、自分達に正面切って他のサーヴァントとやり合える力があるとは思っていない。
アルルの魔術師としての能力がいくら高かろうが三騎士には通用しないし、自分の力だって今やこのザマだ。
だが、いくらでもやりようはある。
夢魔の力。タタリの力。あらゆる認識を曖昧(ファジー)にするという、ドッペルゲンガーの力。
邪道こそが我らの正道。相手の裏を掻き、隙を潜り、真夏の雪原に引きずり込んで始末してやる。
『そーいえば、マスターが聖杯に懸ける願いってボク聞いたっけ?』
「はぁ? とっくに話したじゃない、のうみそぷーは貴女じゃないの?」
『あーっ、ひどいなぁ』
「もうこれっきりだからちゃんと聞きなさい、私はね――」
ひとりから分かれたひとりの片割れが、ふたり並んでアーカムの街を往く。
-
▼ ▼ ▼
【 08: Listen 】
一人から分かれた二人の片割れ。
アーチャーとして現界した虚の世界の英霊《ストレングス》の出自は複雑なものだ。
このアーカムで出会って以来少なからぬ言葉を交わしたが、彼女のことをちゃんと理解出来ているのかは分からない。
もっとも、彼女にとっての自分も同じかもしれない。分かり合うというのは、難しいことだから。
「はい、一騎カレーお待たせ」
喫茶店『楽園』――アーカムの下町、リバータウンで最近評判の店だ。
商業地区から少し離れているにも関わらず客足が途絶えないのは、コーヒーや紅茶よりも名物の料理にある。
雇われ調理師である《真壁一騎》の作るカレーやケーキは絶品だと、密かな評判になっているのだ。
それを目当てに、リバータウンだけでなく河向こうの市街地からも客が訪れている。
結果、一騎は彼らの注目の的となり――否応なしに、彼らの生活を見せ付けられている。
「……このアーカムに暮らす人達にも、それぞれの暮らしがあるんだよな」
呟く。
聖杯戦争などという血で血を洗う儀式の只中にいながら、一騎は穏やかな人々の暮らしと共にあった。
最初こそはストレングスの勧めで店内の客の話に聞き耳を立て、情報収集を図ってみたのだが。
話される内容はどれも当たり前の日常のことばかりで――それが今の一騎には愛おしく、そして辛い。
友人の結婚式が近い。取引先の役員が横暴だ。次のテストのヤマはどこだろう。
ここのところ天気が悪い。このカレー美味しい。ダウンタウンで怪人騒ぎが。子育てについて悩んでいる。
隣のクラスの子に告白したい。最近暇だ、何か面白いことでも起こらないだろうか――
平和だ。少なくとも表向きは、戦争なんて遠い世界のことのようだ。
彼らは何のためにいるのだろう。このアーカムが架空都市なら、彼らもまた他の世界から呼ばれたのだろうか。
そして架空都市が聖杯戦争のために存在するのなら、彼らの役割は目くらまし……そして、生け贄。
『一騎……』
「……分かってる、アーチャー。これはきっと、余計な感傷なんだ。でもさ」
『うん。言いたいこと、分かるよ。あの人達も、きっと……』
「ここにいたい。存在したいはずなんだ。俺が、俺達がそうであるように」
存在することの重み、そして痛み。
真壁一騎は、竜宮島を離れてなお、その頚木(くびき)から逃れられずにいる。
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【 09: Psychology 】
そこにいるのに、そこにいない。
そこにいないのに、そこにいる。
確かにそこに存在するはずなのに、その存在は何処までも虚ろで、何処までも空っぽで、何処までも「無」だ。
バーサーカーとして召喚された虚空の英霊――かつて《広瀬雄一》と呼ばれていた少年を形容する術は、それしかない。
遥か外宇宙から来たりし精神体をその身に宿し、万物を消し去る力を手にした、しかし元を辿ればただの少年。
彼の物語は最悪の災厄であると同時に、ある意味ではありふれた、存在の痛みを巡る叫びでもあった。
『――――』
彼は何も語らない。
狂化スキルによって言語能力を奪われたからなのか、もともと言葉を持たない英霊なのか。
何も語らず、何も表さず。その整った容姿からも、「虚ろ」以外の何物も感じ取れはしない。
媒介を用いないサーヴァントの召喚は、マスターとの縁によるものであることが多いらしい。
それが《木戸野亜紀》にとっては、自分でも不可解なほどに不愉快だった。
「……姿だけじゃなく、完全に私の前から消えてくれればいいのに」
こめかみに指をやり、溜め息をつく。
あの少年を見ると無性に苛立つのは、被虐体質スキルとやらのせいなのか、それともそれ以外の何かか。
夢で見た彼の過去……亜紀の過去ともどこか重なる、あの虐げられた記憶のせいか。
同属嫌悪。その陳腐な言葉が頭をよぎり、亜紀はかぶりを振ってその考えを払った。
「ただでさえ魔力消費で体が重いのに、まったく……」
非戦闘時でこれならバーサーカーの力を戦いの中で使いこなすのは困難かもしれないが、亜紀にとってはどうでもよかった。
自分はこのアーカムに聖杯を求めてやってきたわけではない。
元の世界に戻れさえすればいいのだ。文芸部のメンバーが待つであろう、あの世界に。
恭の字ならこんな時どうするだろう、と無意識に考えてしまった自分に気付き、亜紀は自嘲した。
万能の願望器を巡る聖杯戦争。
願いを叶えるための戦いの中で彼のことを考えていたら――いずれはやましい考えまで、一緒に浮かんでしまいそうだ。
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【 10: Navigate 】
《空目恭一》は、確かに親しい人間には魔王陛下と呼ばれている。
しかし、自分と契約したというこの神隠しの主犯に繰り返しその名で呼ばれると、流石に鬱陶しげな表情にもなる。
「つまり私がそう呼ぶのが不満ですのね、魔王陛下?」
「そうではない。お前が俺のことをなんと呼ぼうが、どのみち愉快なことにはならん」
「あら、それならば何がお望み?」
「端的に言おう。必要もないのに口を開くな」
「それは残念。でもね、必要と不必要の境界は曖昧なもの。分かるでしょう、魔王陛下」
「…………」
「彼女」ではないもう一人の神隠し――《八雲紫》にまともに取り合ってはいけないということは、既に思い知っている。
意味のない戯言を弄ぶことを何よりも楽しむような妖怪だ。理由を求めようとすれば余計な労力を消費するだけだ。
かといって、黙れといって黙るタマでもない……このやり取りも、もう何度目か。
「それにしても、大学生に紛れても意外とばれないものねぇ」
「別に大学側がいちいち学生のチェックをしているわけでもあるまい。図書館の稀覯書は流石に許可がいるようだが」
「欲しいなら、私が境界をいじって忍び込む?」
「どうしても必要になればな」
身分上はハイスクールの学生になってはいるが、空目はほとんどの時間をミスカトニック大学で費やしている。
知識を得るにはこれ以上の場所はない――「彼女」を取り戻すために、知るべきことは多い。
聖杯戦争に積極的に関与するつもりがなくても、いずれはそれについての知識も得る必要があるだろう。
「神隠しとしての本分を果たすのは先になりそうね。それで、魔王陛下はこれから何をするおつもり?」
「そうだな――」
そういえば、ミスカトニック大にはオカルトめいた講義をするという民俗学の教授がいると聞く。
会ってみるのもひとつの選択肢かもしれないと考えながら、空目は神隠しを引き連れて講義堂の影に消えた。
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【 11: Psychoanalysis 】
《竹内多聞》はミスカトニック大学でそこそこ人気のある講師だが、学生の熱心さがその人気に比例するとは断言しにくいものがある。
現に今日の講義に参加している学生たちも、講義でいかに突拍子もない説が飛び出すかを期待している節がある。
無論、竹内は何の考えもなしにオカルトを吹聴するつもりがあるわけではないし、不真面目な聴講者には相応の課題を持ち帰らせている。
とはいえ……アーカムに来る以前に比べて、より講義の内容が思索に寄ったものになっているのは否めない。
他でもない、竹内自身が自分の考えを纏め上げるために、講義を利用しているからでもあるのだが。
「それで、真実には少しは近づいたかね、マスター? おお、言わずとも分かる。分かるとも。
そのぶんでは遠いな、実際遠い。真実はすぐそこにあるのだ、マスター、手が届くほど近い。
しかしこのままでは5マイル先まで霧だ。私が導いてもいいが、しかし、ふふふ」
「アサシン……突然現れてまくしたてるのはやめてくれと言ったはずだ」
……竹内にとって、講義の間はこの狂ったサーヴァントに話しかけられないで済む貴重な時間でもある。
アサシン、ニンジャ真実に辿り着いたと嘯くこの《メンタリスト》は、言葉を交わすだけで人間の精神を引きずり込む力があるようだ。
竹内にとって彼は貴重な協力者である。邪険にするつもりはない。いざとなれば彼の力を頼ることにもなるだろう。
しかし、彼の言葉に耳を傾けすぎると、自分自身の自我境界が不安定になっていくのを感じるのだ。
「私はマスターに真実に到達して欲しいのだ。何かおかしいことがありますか? ありませんね?
なのに、ふふふ、マスターは私の力を使おうとしない。視界を奪えるのでしょう? 見たくないかね?
私の見ているものをマスターが見る。そうすれば真実は近いぞ。ふふふ、試してみては?」
「……遠慮しておこう」
「ふふ、残念だ。そうとも、大いに残念だとも。マスターにも私の視界を、ふふふ、いつでも言ってくれたまえ」
実際のところ、アサシンに視界ジャックを使うというのは、客観的に見れば有効な手なのかもしれないが。
竹内には当面それを行うつもりはなかった。理由は言うまでもない。
有名な警句だ。深淵を覗く時、その深淵もまた、お前を――
(このアーカムで真実にもっとも近いのは、おそらくキーパーのサーヴァントだろうが。さて)
アサシンの言葉をほどほどに聞き流しながら、民俗学者は考え込む。
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【 12: Martial Arts 】
(それでは、君はあのキーパーの声に聞き覚えがあると?)
『あ、ああ……済まない、もう少し考えが纏まってから話す』
今までの彼女――槍の英霊《リーズバイフェ・ストリンドヴァリ》らしからぬ歯切れの悪い返事に、
《亜門鋼太朗》は僅かな困惑を含んだ眼差しを返した。
彼女が清廉潔白な英霊であることは、他ならぬ亜門自身がよく知っている。
亜門自身が背中を預けてもいいと言い切れるほどに。
だからこそ、話せないのならば今は信じるしかない。彼女が自分を同じように信頼してくれていることを。
「何をガタイに似合わないシケた顔をしてるんだね、亜門君」
「す、すみません署長」
「HAHAHA、よいよい。男はたまにはミステリアスなところも見せたほうがいいからな」
「はは……」
署長の声で、亜門は会議という現実に引き戻された。
聖杯戦争のことは一旦頭から締め出し、手元の資料へ目をやる。
あの連続衰弱死事件については首謀者のマスターとサーヴァントを始末したはずだが、
ここアーカムではそれ以外にも不審な事件が起こっているらしい。
イーストタウンではチンピラが外傷なしの謎の不審死を遂げているという報告もある。
亜門にとってそれ以上に気になるのはロウアーのスラム街で起こっているという殺人だが。
「まるでグールだな」
「"喰種(グール)"……!?」
「"喰屍鬼(グール)"だよ。地下鉄に棲んでいて、人間を捕まえて食うという」
「は、はあ。都市伝説か何かですか」
ともあれ魔術師絡みの線も捨てきれない。亜門が自ら志願すると、上司はそう言うだろうと笑った。
「例の捜査官に手柄を掻っ攫われないように気をつけたまえよ、亜門君」
「FBIから出向してきたという彼ですか。外見と言動こそ奇矯ですが、有能な男だと聞いていますが」
「だからだよ。アーカム市警がこれ以上舐められるわけにもいかんのでな。頼むぞ亜門君」
上司の励ましを背に、会議室を後にする。
リーズバイフェの沈黙も気になるが、亜門には考えるべき問題が山積みのようだ。
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【 13: Track 】
「ひどい有様だな。山火事とハリケーンが同時にでも来たのか?」
ロウアー・サウスサイド。スラム街の一角、廃ビル内の事務所を見回しながら、青年は呆れた声を出した。
外見も、声も、まだ若い。色素の薄い髪をすべて後ろに撫でつけている。
しかし彼と対面した者は、すべて彼のとある一点に視線が吸い寄せられることになるだろう。
それは彼が被っているマスクである。視覚補助と記録媒体を兼ねているというその仮面は、しかしまともな人間が被るものではない。
その仮面がそのままコードネームとなり、彼は《マスク》と呼ばれている。本名は公にしていない。
「おっと、動くなよギャングども。貴様らには別件の手配状が出ているのだ。
つまりは私には捜査権限がある! もっともその有様で暴れられるようならだがな」
縛られた状態で汚れた床に転がったギャング達を見下ろし、マスクはオーバーに肩をすくめて見せた。
間抜けな話だが、ギャングの事務所が押し込み強盗にあったらしい。
FBI捜査官として別の事件を追ってロウアーに乗り込んだマスクがこの現場を見つけたのは、実際のところただの偶然だった。
もっとも、使えるものは使わせてもらう。これでアーカム市警に恩を売れば、もっと市内で動きやすくなるというものだ。
それに。
(どう思う、アサシン?)
『明らかに錬金術……聖杯戦争の流儀に合わせるならば、魔術によるものだ。自然ではない』
(やはりか。ただの物盗りではないな)
アサシンのサーヴァント、《傷の男(スカー)》の答えにマスクは頷いた。
マスクは魔術に明るくない。そちらの方面にそれなりの知識を持つアサシンを召喚できたことを感謝する。
やはりこれは魔術師が……十中八九、聖杯戦争の関係者が何らかの目的をもってやったこと。
ならば追跡すれば、いずれは何らかの情報を得られるかもしれない。
(運が巡ってきたか。見ていろ、聖杯に連なるサクセスは私が掴む!)
ギャング達が不審げな視線を向けるのも構わず、マスクは好戦的な笑みを浮かべた。
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【 14: Fast Talk 】
「ね、ねえリナさん。本当に、あんなに派手にやっちゃって大丈夫だったのかな……?」
「なによ、今になってあたしのやり方に不満が出てきたってわけ?」
「い、いや、そういうわけじゃないんだけど」
「だったらこう、ドーン!と構えてなさいよ。男の子でしょ?」
彼女――キャスター《リナ=インバース》はそういうが、流石にギャングを丸ごとひとつ潰したのはやりすぎではなかろうか。
流石に魔術を使ったなどとは思わないだろうが、アーカム市警も馬鹿ではないだろう。
自分は鎧を着ていたから顔は見られてはいないだろうが、もしも素顔だったら手配書が出回っていたと考えると気が滅入る。
《アルフォンス・エルリック》が召喚したサーヴァントは本当に規格外だった。魔力量も、その行動力もだ。
ドラゴンすらまたいで通る――その逸話が嘘偽りではないことを、アルフォンスはこれまでの時間で散々思い知らされている。
「肝っ玉が小さいわねぇ。それでもあたしのマスターなわけ?」
「リナさんに付き合える肝っ玉の持ち主がいたら見てみたいですよ……」
「何か言った?」
「言ってません!」
「ならばよし! だいたい、あたし達がしたのは悪党退治! 何一つ恥じることなんてないわ!」
(勢いで言いくるめられてる気がする……)
リナに見つからないように溜め息をつく。
どうやらアルフォンスは、勢いで振り回される星の下に生まれてきたようだ。
今は覚えていないけれど、兄――エドワード・エルリックも弟の自分を散々振り回しながら旅を続けていたようで。
記憶がないとはいえ、今のリナとの関係にどこか懐かしさのようなものを感じているのもまた事実だった。
(兄さん、か)
アルフォンスにとっての聖杯戦争は、すべてエドワードともう一度出会うためのもの。
もしも旅の記憶が戻れば、今よりもっと兄に、聖杯に近づけるのだろうか。
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【 15: Operate Heavy Machinery 】
勇者、《三好夏凜》には兄がいる。
文武両道で、完璧超人で、それなのに自分のことをいつも気にかけてくれて。
そんな兄と自分を比べて、どうしても追いつきたくて、認めてほしくて。
それが夏凜にとっての出発点であり、勇者に選ばれるための努力を始めた最初のきっかけだった。
だけど、今はそれだけじゃない。認められたいから戦うんじゃない。
勇者であること、それがみんなとの絆だから。
大切な人を守るために勇者になったんだって、今なら胸を張って言えるから。
だから、あの時『満開』したことにも、後悔はきっと無い。
「考え事か、夏凜?」
「そういうんじゃないけど。まぁ、勇者の憂鬱ってやつよ」
「そうだな。勇者であろうとも、時には思い悩むこともあるさ」
「何よ、凱! 勝手に理解者みたいな顔しないでくれる!」
夏凜と凱、すなわちライダーのサーヴァント《獅子王凱》は今、アーカムの上空にいる。
といっても飛行機をチャーターしたわけでも、魔術的な手段を使って飛んでいるわけでもない。
凱の最終宝具、『勇気ある者たちの王(ガオガイガー)』の部分展開。
本来莫大な魔力を必要とする宝具ではあるが、ファイナルフュージョンを伴わない場合、実は個々のマシンの神秘性は低い。
あくまでガオガイガーの神秘は凱・ギャレオン・Gストーンの三位一体にあり、あくまでガオーマシンはテクノロジーの産物。
ゆえに例えばこのように、航空機ステルスガオーⅡを召喚し、騎乗スキルで操縦することは可能である。
「それにしても、こうして上から見ると、本当に普通の街ね……ここで戦争が起きてるなんて信じられない」
「だが、事実だ。夏凜と俺は、夏凜の世界と友達を守るために戦う。そうだろ?」
「もちろんよ。私の世界は……私の友達は、絶対に助けて見せるんだから」
「その意気だ。だが、お前一人で戦うんじゃない。俺たちの勇気を信じろ」
最初は暑苦しくて馴れ馴れしい奴だと思ったけれど、凱の言葉には確かに人の心を勇気付ける力があるようだ。
これが、自分だけでなく人にまで勇気を与えられるのが、本物の勇者なのだろうか。
友奈が、夏凜に戦う勇気をくれたように。
(まだ一人倒しただけ。この街にはまだまだ戦うべき相手はたくさんいる。でも、勝たなくちゃ)
そういえば、凱が最初に倒したあのサーヴァントのマスターはどうなったんだろうと、夏凜は頭の片隅で考えた。
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【 16: Biology 】
「き、きんいろのらいおんがくるの……わたしをいじめにくるのよ、おかあさん……」
駄目だな、これは。
《Dr.ネクロ》は、拾った女魔術師から証言を聞き出すのを早々に諦めた。
このアーカムにおいてネクロに割り振られた役職は、ロウアー・サウスサイドの闇医者である。
医術の心得はあるし、この少女の姿では他の地区では大っぴらに動きにくい。
治安の悪さゆえに余計な詮索を済むロウアーを拠点と出来たのはネクロにとってありがたいことだった。
おまけに闇医者ともなれば、公にしにくい理由で怪我をした者が勝手に寄ってくる。
聖杯戦争においては悪くないポジションなのではないか……そう思っていたのだが。
「かくいう私も精神科の心得は無いんだよなぁ……こいつはミスカトニックの精神病院にでも放り込むか」
ぶつぶつとうわ言を言いながら歩く女からネクロのサーヴァントが魔力の残滓を嗅ぎ取って、
雑居ビルの診療室に引きずり込んだまではいいものの。
どうやら彼女は完全に精神に異常をきたしているらしく、まるでまともな証言が取れはしない。
聖杯戦争の関係者なのは間違いないのだろうが、こうなってはお手上げだ。
「そう上手くは事は運ばないか……どうした、シン」
部屋の隅に目をやる。
精悍な、しかし眼光の鋭い黒髪の青年、《仮面ライダーシン》に人間体・風祭真が、静かに唸り声を発していた。
彼が感じているのは、怒りだろう。狂化し感情を抑えきれなくなった結果、怒りだけが表出している。
「許せないのか、シン。命を弄ぶ魔術師が」
「…………」
答えは無い。だが、仮に答えられたらイエスと言うだろうということは、ネクロにも分かっていた。
「……なぁ、シン。私もきっと、お前にとっては極悪非道の魔術師だぞ。お前の怒りは、私にも向いているのか?」
答えは無い。だが、仮に答えられたら。
(……アレックス。やはり、私には正義の味方の相棒をやるのは向いていないのかもな)
かつての相棒へと向けた呟きは、幸い、今の相棒へは届いていないようだ。
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【 17: Persuade 】
「……それで? 私に何が言いたいの?」
マスターの冷酷な声にその小さな肩をピクリと震わせながら、それでも槍の英霊《セーラーサターン》は毅然として言った。
「お願いです、マスター……不必要に、命を弄ぶのはやめてください……!」
しかし彼女の呼びかけに、マスターたる魔術師《プレシア・テスタロッサ》は溜め息だけで応える。
二人の間には、気を失った少女が一人。このミスカトニック大学の学生である。
彼女は、応用科学部の教授であるプレシアを追って、『工房』のあるこの研究棟まで足を踏み入れた。
勉強熱心な学生なのだろう。手元には講義の資料やノートが束になっている。
恐らくは、プレシアを研究棟で捕まえて、質問攻めにするつもりだったに違いない。
もっとも、猜疑に歪んだプレシアの目にはそうは映らなかったようだが。
「この人は、聖杯戦争の関係者じゃありません……! 命を奪う必要なんて、ないはずです……!」
「私の周りに付き纏っていたのは確かだわ。誰かに暗示を掛けられていた可能性も十分にあるはず」
「で、でも……! 何も殺すことは……それに、あんな」
「あんな? 『魂食い』の対象とする、その命令が貴女にとっては不満なの、ランサー?」
その単語を聞き、サターンは唇を噛んだ。
「……マスターからの魔力供給は十分です。魂食いで魔力を補給する必要なんてないはずです」
「いざという時のこともある。一人分でどれだけの魔力を補給できるのか、知っておく必要はあるわ」
「それでも……!」
「くどいわね! やりなさいと言っているの! 貴女、私に令呪を使わせるつもり!?」
プレシアは激昂し、サターンはただ項垂れる。
それからどれくらいの時間が経ったか、サターンはよろよろと歩き、その槍の先端を少女に向けた。
次に起こったことは、時間にすれば一瞬だった。だが、それだけで済ませてはならない行いだった。
サターンは槍を取り落とし、呆然自失の表情を両手で覆い、その隙間から嗚咽だけを漏らした。
「あはははっ! いいわサターン……貴女のそういうところが見たかったの。これからもアリシアのために尽くしなさい、英霊様!」
死すら気に掛けない魔術師と、優しく気高い英霊の、決定的な断裂がそこにあった。
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【 17: Persuade 】
「……それで? 私に何が言いたいの?」
マスターの冷酷な声にその小さな肩をピクリと震わせながら、それでも槍の英霊《セーラーサターン》は毅然として言った。
「お願いです、マスター……不必要に、命を弄ぶのはやめてください……!」
しかし彼女の呼びかけに、マスターたる魔術師《プレシア・テスタロッサ》は溜め息だけで応える。
二人の間には、気を失った少女が一人。このミスカトニック大学の学生である。
彼女は、応用科学部の教授であるプレシアを追って、『工房』のあるこの研究棟まで足を踏み入れた。
勉強熱心な学生なのだろう。手元には講義の資料やノートが束になっている。
恐らくは、プレシアを研究棟で捕まえて、質問攻めにするつもりだったに違いない。
もっとも、猜疑に歪んだプレシアの目にはそうは映らなかったようだが。
「この人は、聖杯戦争の関係者じゃありません……! 命を奪う必要なんて、ないはずです……!」
「私の周りに付き纏っていたのは確かだわ。誰かに暗示を掛けられていた可能性も十分にあるはず」
「で、でも……! 何も殺すことは……それに、あんな」
「あんな? 『魂食い』の対象とする、その命令が貴女にとっては不満なの、ランサー?」
その単語を聞き、サターンは唇を噛んだ。
「……マスターからの魔力供給は十分です。魂食いで魔力を補給する必要なんてないはずです」
「いざという時のこともある。一人分でどれだけの魔力を補給できるのか、知っておく必要はあるわ」
「それでも……!」
「くどいわね! やりなさいと言っているの! 貴女、私に令呪を使わせるつもり!?」
プレシアは激昂し、サターンはただ項垂れる。
それからどれくらいの時間が経ったか、サターンはよろよろと歩き、その槍の先端を少女に向けた。
次に起こったことは、時間にすれば一瞬だった。だが、それだけで済ませてはならない行いだった。
サターンは槍を取り落とし、呆然自失の表情を両手で覆い、その隙間から嗚咽だけを漏らした。
「あはははっ! いいわサターン……貴女のそういうところが見たかったの。これからもアリシアのために尽くしなさい、英霊様!」
死すら気に掛けない魔術師と、優しく気高い英霊の、決定的な断裂がそこにあった。
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【 18: Sneak 】
死すら超克する。
冥界の管理者たる亡霊姫、《西行寺幽々子》にはそれだけの力がある。
死者に生を与えるのではなく、死者を死によってすら開放させない、という意味でだが。
「ガンバルゾー!」
「ガンバルゾー!」
「はいはい、頑張ってね」
気合の叫びを挙げているヨタモノ二人は、数日前に彼女が魂を奪ったチンピラである。
宝具『反魂蝶』で命を抜き取られた者は成仏することは出来ない。
この世とあの世の中間に囚われたまま、幽々子の死霊統率スキルで使い魔として使役される運命である。
「えげつないもんだな、まったく」
「あら、宝具を試せって言ったのはあなたよ?」
「そりゃそうだ。だがな、まさかサンズ・リバーを渡れもしないようになるとは」
「思わなかった?」
「ああ」
「他人の生き死ににそんなに興味のなさそうな顔してるのに」
「そりゃあいい。メンポ越しでも分かるのか」
「分かるわよ。あなた、半分は死んでるようなものだから」
死人か。まったくもってその通りだ、と《シルバーカラス》は自嘲する。
半分死んでいる、ではなく、完全に死んでいるはずだ。それがどういうわけかここにいる。
このアーカムの住人のメンポを被り、聖杯戦争という新たなイクサに身を投じようとしている。
これもまたブッダ殿の思し召しなら、随分と人生というものを弄んでくれるものだが。
(イクサの中で生き、イクサの中で死ぬ。それが少しばかり延びた。それだけのことだ)
シルバーカラスの心中に感慨というものはない。
他人の生き死にどころか……今は自分の生き死ににすら。
振り返った幽々子が、これから妖怪桜を植える場所を探さないとね、と言った。
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【 19: Ride 】
サクラ咲く未来、恋、夢。高まる鼓動、抑えずに。
初音島――枯れない桜が咲き誇ったあの島から、この街までいったいどれくらいの距離があるのだろう。
この高らかに響く蹄の音が、《芳乃さくら》の心をアーカムから遠く、故郷へと誘おうとする。
だって彼は……剣の英霊である彼女のサーヴァントは、さくらにとっては昔からずっと英雄だったのだから。
「揺れるか、我が主よ」
「い、いえ! そんなことは全然無くて、その、光栄です、新さん!」
「はっはっは、ならばよい。そのまま掴まっておれ」
「はいっ!」
端的に言えば、夢のようだ。
徳田新之助、もとい、英霊《徳川吉宗》はさくらが幼い頃から憧れ続けた人物で。
彼の白馬にこうして一緒に跨っているという事実が、自分を舞い上がらせてしまう。
あくまでこれはアーカム市の外縁がどうなっているかの確認のため。
それは分かっているのだが、逸る心は抑えきれないものなのだ。
「……ふむ。どうやら地図の外側は森になっているようだが。魔性の気配がするな」
「魔性の気配?」
「踏み込めば取って食われるかもしれん……なに、物の喩えよ」
「つまり外まで出れば逃げられるわけじゃないのか。まぁ、ボクは元々逃げる気なんてないけど」
しかし、浮かれてばかりはいられない。
このアーカムは、確かに聖杯戦争のために作られた舞台のようだ。
逃げ出そうとすれば、何らかの手段でマスターを抹殺してこようとするに違いない。
マスターである以上は、もはや戦うしかないのだ。
「あの、そういえばなんですけど、新さん」
「どうした、我が主?」
「その、恐れ多くも八代将軍ともあろうお方に主と呼ばれるのはなって……」
「なるほどな。あい分かった。ならば、これよりは『さくら』と呼ばせてもらおうか」
「さ、さくら!!!」
負ける気がしないと、さくらは思った。
この英霊と一緒なら、自分はどんなに過酷な戦争であろうとも、負ける気がしない。
だって彼は……暴れん坊将軍は、ずっとヒーローだったから。
どんな神話の英雄にだって、物語の英雄が負ける道理は、ない。
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【 20: Art 】
嗤う。嗤う。物語を嗤う。
嗤う。嗤う。舞台を嗤う。
嗤う。嗤う。役者を嗤う。
演出家は誰だ。脚本家は誰だ。舞台監督は誰だ。
狂人《シュバルツ・バルト》は嗤う。
この馬鹿げた舞台に上がったすべての物どもを、嗤う。
まだ気付いていないのか。自分たちの滑稽さに。
何も知らずにいるのか。そんなにも愚かなままで。
ならばいい。知らしめてやろう。この聖杯戦争という舞台のおぞましさを。
黒き森(シュバルツ・バルト)とは、暴き立てることを恐れる深き森を指す。
近づかなければ、何も知らずに済んだのに。だが、もう遅い。もう遅い!
寄り添う影が、《ワラキアの夜》が、小さくカットと呟き、嗤った。
この物語を、嗤った。
-
▼ ▼ ▼
【 21: Conceal 】
――彼を主役に物語を書くとすれば、それはきっと、悲劇だ。
《金木研》――彼の足取りは、彼自身を除いて誰にも掴めていない。
ただ彼の通った後には、ウォッチャー――《バネ足ジョップリン》の撒き散らす都市伝説が残るだけ。
曰く。
アーカムには、『白髪の喰屍鬼(グール)』がいる、と。
――この物語をもって、舞台の幕は上がる。
-
▼ ▼ ▼
【 ???: Chutulhu Mythos 】
「これでマスター、サーヴァント、共に二十一。すべての主従が出揃ったわけか」
男の声に、秘匿者(キーパー)《オシリスの砂》は、正しくは26騎です、と応えた。
「既にセイバーが大英雄カルナに、ランサーが勇者王・獅子王凱に、アサシンがドッペルゲンガー・アルルに敗れています。
キャスターに至っては……リーズバイフェのマスターに始末されたようです。ウォッチャーの宝具が彼の礼装に神秘を付与したようですね」
「そしてアーチャーのマスターは戦うことなく発狂、その死は君が見届けたそうだね?」
「ええ。ですから21騎でも間違いは無いといえば、その通りですが」
オシリスの砂が振り返ると、そこにいた赤いローブの男は大げさに頷いた。
奇妙なほど肌の黒い男だった。黒色人種というだけでは説明の付かないほど、漆黒の男。
それだけにその赤い衣装と真っ白な手袋が目を引く。
物腰は紳士的だが、決して心を無条件に許せる男ではないような、奇妙な違和感があった。
「ナイ神父」
オシリスの砂が彼の名を呼んだ。
「当初の予定通り、私は監督役としてアーカムに出よう。何、聖杯戦争では神父が場を監督するものなのだろう?」
「私の邪魔はしないと、約束していただけますね?」
「当然だとも。私の目的は最初から、この舞台を最後まで見届けることなのだから」
神父がそう言って歩き去ると、オシリスの砂は無感情に掃き捨てた。
「……這い寄る混沌め。この聖杯戦争をあざ笑うつもりなのでしょうが、せいぜい見ているがいい」
背後に彼女の宝具たる巨像、『永劫刻む霊長の碑(モニュメント・トライヘルメス)』が出現する。
その手のひらの上で、オシリスの砂は告げる。
アーカムの聖杯戦争、それに関わるすべての人間、そして英霊に向かって。
「探索者(マスター)たちよ。そして銀鍵の守り手(サーヴァント)たちよ――運命の呼び声の時です」
賽(ダイス)は投げられた。
探索者ならば、今こそ、狂うまで戦え――運命の呼び声と。
【邪神聖杯黙示録〜Call of Fate〜 開幕】
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今度こそ投下終了します。大変長らくお付き合いさせてしまいまして申し訳ありませんでした。
予約開始はとりあえず5月17日(日)0:00あたりとして、それまでは調整期間とします。
詳しい内容に関してはのちほど……(疲労困憊)
最後になりましたが、今後もこの企画をよろしくお願いします。
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長い間投下作業お疲れ様でした!
帝都式のこのOP投下スタイルはやはり圧巻の一言ですね
いったい次はだれが来るのかとずっとワクワクしながら追ってました!
21組・計42名による聖杯戦争がいよいよ開幕しました!!
邪神によって集められた彼らの戦いがどのような結末に帰結するのかこれから見届けていきたいと思います
1氏は企画・選考から今回のOP作成まで長い間本当にお疲れ様でした!
今はゆっくり養生してください
これからが本番だと思いますが今後とも頑張って下さい!
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>>648
お疲れ様です。
ついに、遂に、終に邪神聖杯開幕だぁ!
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選考及び発表形式OPの投下、お疲れ様でした!
1組1組わくわくしながら、物凄く楽しんで読ませて頂きました。
本編開始も楽しみにしています!
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お疲れ様です!
総勢44名の登場するOP,、圧巻の一言でした!
さぁ狂気の聖杯戦争の始まりだ!
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乙です
プレシアさんがノリノリで蛍ちゃんいじめしててワロタ
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相変わらずシュバルツ・バルトが平常運転すぎるwww
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お疲れ様です。本編すごく楽しみにしています。
ルールまわり(開始の時刻や時刻刻み、放送系、予約期限等々)も当日発表となる感じでしょうか?
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企画主です。未だまとめサイトが無いことに今更気付き焦っております。
それはさておき大まかなルールについて纏めましたので、ご一読ください。
《予約について》
・予約開始は2015/05/18(日)00:00 となります。
・予約期間は5日間、申請があれば2日まで延長可とします。
《マップについて》
・以前に提示したマップをそのまま使用する予定です。
ttp://i.imgur.com/usemDJT.jpg
・元々おおまかに地区が分かれているので、『A-1』のようなエリア分割は行わない予定です。
状態表には「リバータウン・北西」とか「ダウンタウン・警察署」など上手く表記してください。
表記しにくい場合は、逆転の発想で本編中に目印となる建物を追加するというのも手だと思います。
なお、この方針で万が一立ちいかない場合はエリア分割制に変更するかもしれません。ご了承ください。
《時刻刻みについて》
・以下の通り四時間制を採用し、キーパーからの全体通達は昼12時を予定します。
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜間(20〜24)
・なお、各キャラクターの初回の時間帯は「未明」または「早朝」から選択してください。
《状態表テンプレートについて》
・基本的に他の聖杯系企画と同様のものになります。
違いは状態表に[精神]の項目が独立したぐらいです。
【地区名/○日目 時間帯】
【名前@出典】
[状態]
[精神]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]
【クラス(真名)@出典】
[状態]
[精神]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]
-
それから設定の補足とか解説とかをいくつか。
【クトゥルフ神話TRPGのサプリメント設定の反映について】
・本企画のマップはクトゥルフ神話TRPGサプリメント「アーカムのすべて」のものを使用しています。
このルールブックにはアーカム市の詳細なデータが掲載されておりますが、本企画ではそれを直接本編に反映はしません。
掲載されているのはあくまで「1920年代のアーカム」だというのが理由でもあります(現代アーカムのサプリは未邦訳)。
・要は「参考にしてもいいけど前提にはしない」と考えてください。あくまで街の設定を作るのは個々人の想像力です。
【銃器の調達ルールについて】
・他の聖杯スレでも話題になったことがあるので、事前に設定します。
・本企画はアメリカが舞台ではありますが、銃社会とはいえ銃器事情は州によって極端に異なります。
特にアーカムを含むマサチューセッツ州は、州都ボストンをはじめ銃の所持率がかなり低い傾向にあります。
また銃の所有には「州の許可」「免許」「携行許可証」「州独自のライセンス」などが必要となりハードルが高いです。
よって、一般的なアーカム市民は銃を所持していないものと考えてください。免許なしでは購入も不可能です。
・ただしアーカム市警の関係者は「拳銃」の、狩猟を趣味としても違和感のない役職の者は「猟銃」のライセンスを許可します。
・またロウアー・サウスサイドのスラム街であれば、法外な値段を払えば闇ルートで調達することも不可能では無いかもしれません。
【キーパーおよび監督役について】
・キーパー『シオン・エルトナム・アトラシア(オシリスの砂)』および『ナイ親父』は個別のキャラクターとして予約して構いません。
・オシリスの砂はアーカムではシオンの姿で活動します。オシリスの砂としてのステータスは参加者には読み取れません。
基本的に神秘の秘匿などを行いますが、ルーラーではないので公明正大な裁決よりも聖杯戦争の完遂を優先する可能性があります。
・ナイ親父は聖杯戦争の監督役ということになっていますが、参加者側から接触しない限りは傍観に徹すると思われます。
ちなみに正体は言わずと知れたあの邪神ですが、特定の神話作品を出典としているわけではないので事実上のオリキャラと考えてください。
差し当たりはこんなところでしょうか。
ご質問があれば可能な限り答えますので、お気軽に聞いてくださいね。
-
ルール纏め乙です。
質問なのですが、地図上にノースサイド線、フレンチヒル線などが引かれていますが、
これは地下鉄あるいは通常の電車の線なのでしょうか?
ググってみると「アーカムの路面電車」のような単語も出てきたりして、少し迷っています。
設定上もし決まっているようでしたら、お手数ですがお伝え願えませんでしょうか。
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>>658
質問ありがとうございます。そうですね、鉄道についてはある程度説明の必要があるかも。
【アーカム市内における交通機関について】
・地図上のアーカム市内の鉄道路線は、ルールブック上では全て『路面電車』として設定されています。
・ただし現実の鉄道事情を鑑みると、現代では『地下鉄』に置き換わっている可能性は十分にあります。
また(日本では例がありませんが)路面電車が都市部では地下に潜るケースもあるので、そういう形かもしれません。
これに関しては現代アーカムの共通設定があるわけではないので、路線ごとに最初に書いた人の解釈を優先します。
・もちろん、『路線バス』や『タクシー』など鉄道以外の交通機関の設定は自由です。
要は「書いたもの勝ち」ということですね。
路面電車には古き良きアメリカ的風情がありますが、地下鉄もクトゥルフ神話でお馴染みのモチーフなので、1的にはどっちでも面白いかなと思っています。
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>>659
早速のご回答ありがとうございます。
鉄道路線について理解できました。
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念話や通信機器などを持っていない主従は遠距離で連絡を取れないという認識であってますでしょうか?
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>>661
そう解釈していただいて構いません。
いや公衆電話を探すとかすれば自宅に連絡くらいは入れられるかも知れませんが。
念話の設定についてはちょっとあやふやなのですが、「基本的な魔術の心得があれば使える」ぐらいの認識でいいんでしょうかね。
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念話はそのサーヴァントとレイラインがつながっているマスターとの間なら可能でいいんじゃないでしょうか?
特に原作で説明がなされていたかは定かではないので(みんな魔術師だから困ってる様子はない)結局は1氏のさじ加減ひとつですが
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よし。いい機会なので、念話に関する裁定も今のうちに決めてしまいましょう。
【念話について】
・アーカムの聖杯戦争において、「近距離での念話」は全てのマスターが可能であることにします。
この場合の近距離とは、実際に声が届くぐらいの距離と考えてください。
・それ以上の距離を隔てて念話する場合は、マスターが魔術の素養かそれに準ずる技能を持っている必要があります。
なお交信可能な最大距離はマスターの魔術師としての技量次第です。
こんなものかな。
流石に至近距離で使えないと不便だけど、折角だからマスターの能力も反映したいので、この辺を落としどころに。
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書く方としても霊体状態で傍にいるとき会話できないと辛そうですしね。
念話設定了解しました。
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拙作を四作も採用頂いて、本当にありがとうございます。
三好夏凜&獅子王凱組、真壁一騎&ストレングス組 予約します。
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念話設定了解です。
ルール化ありがとうございました。
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……参加者一覧を未だに投下していなかったことを、今の今まで気付いていませんでした。
なんということだ……取り急ぎ作成しましたので貼らせていただきます。
【セイバー】3組
・ローズマリー・アップルフィールド@明日のナージャ&グリフィス@ベルセルク(>>22-31)
・芳乃さくら@D.C.II ―ダ・カーポII―@徳川吉宗@暴れん坊将軍(>>172-178)
・パチュリー・ノーレッジ@東方Project&同田貫正国@刀剣乱舞(>>225-229)
【アーチャー】2組
・鷺沢文香@アイドルマスターシンデレラガールズ&ジョン・プレストン@リベリオン(>>16-19)
・真壁一騎@蒼穹のファフナーEXODUS&ストレングス@ブラック★ロックシューター(>>35-40)
【ランサー】4組
・クリム・ニック@ガンダム Gのレコンギスタ&リュドミラ=ルリエ@魔弾の王と戦姫(>>255-260)
・プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは THE MOVIE 1ST&セーラーサターン@美少女戦士セーラームーンS(>>263-267)
・神崎蘭子@アイドルマスターシンデレラガールズ&カルナ@Fate/Apocrypha+Fate/EXTRA CCC(>>417-424)
・亜門 鋼太朗@東京喰種&リーズバイフェ・ストリンドヴァリ@MELTY BLOOD Actress Again(>>500-507)
【ライダー】2組
・三好夏凜@結城友奈は勇者である&獅子王凱@勇者王ガオガイガー(>>100-111)
・アイアンメイデン・ジャンヌ@シャーマンキング&エネル@ONE PIECE(>>131-135)
【キャスター】4組
・シルバーカラス@ニンジャスレイヤー&西行寺幽々子@東方Project(>>9-14)
・アルフォンス・エルリック@劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者&リナ・インバース@スレイヤーズ(>>138-145)
・シュバルツ・バルト@THEビッグオー&ワラキアの夜@MeltyBlood(>>291-296)
・白レン@MELTY BLOOD Actress Again&アルル・ナジャ(ドッペルゲンガーアルル)@ぽけっとぷよぷよ〜ん(>>428-433)
【アサシン】3組
・空目恭一@Missing&八雲紫@東方Project(>>196-200)
・マスク@ガンダム Gのレコンギスタ&傷の男(スカー)@鋼の錬金術師(>>484-486)
・竹内多聞@SIREN&メンタリスト@ニンジャスレイヤー(>>537-541)
【バーサーカー】2組
・Dr.ネクロ@KEYMAN &仮面ライダーシン@真・仮面ライダー序章(>>165-169)
・木戸野亜紀@Missing&広瀬雄一@アライブ-最終進化的少年-(>>581-587)
【ウォッチャー(エクストラクラス)】1組
・金木研@東京喰種&バネ足ジョップリン@がるぐる!(>>277-288)
【計 21組42人】
なお、後手後手で申し訳ありませんが、まとめWikiもなんとか今日中に作成したいと考えています。
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ナイ神父のいる教会って決まっていますか?
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大変遅くなりましたが、まとめWikiを作りました。
現状は採用話と名簿のみですが、これから徐々に更新していく予定です。
邪神聖杯黙示録〜Call of Fate〜 @ Wiki
ttp://www8.atwiki.jp/21silverkeys/
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>>669
特に決まっていません。
現状で登場してる教会はジャンヌの孤児院を経営してるフレンチ・ヒルの教会のみですが、
別に他に作ってもいいし、いろんなところを転々としててもいいかな、とも思います。
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Wikiに拡大版のマップを載せました、参考になれば。
加えてパチュリー・ノーレッジ&同田貫正国、プレシア・テスタロッサ&セーラーサターン予約します。
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遅ればせながら、当選ヤッター!ありがとうございます!
というわけで、神崎蘭子&カルナ 予約します。
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OP開始直後って時間帯的には朝・昼・夕・夜・深夜のどれでしょうか?
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wikiの作成お疲れ様です。
やはりwikiがあると見やすくてありがたいですね。
>>674
>>656 に ・なお、各キャラクターの初回の時間帯は「未明」または「早朝」から選択してください。
とあるので、OP直後は未明辺りではないかと私は考えています。
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予約分投下します。
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「――ディバイディングドライバー?」
日課である早朝のランニングから帰ってきて、シャワーを浴びてタンクトップに着替え終わり。
今日の行動を考えるため、凱とテーブルで打ち合わせをしていた最中。
……幽霊相手に覗かれるだの覗かれないだの言っても仕方ない気もするけど、当然事前に厳重に注意しておいたわよ。
「そうだ。夏凜が見たガイガーよりも、ガオガイガーは更に大きい。
だからその状態で戦えば、街に大きな被害が出てしまう。
それを防ぐために、このディバイディングドライバーが必要なんだ」
紙に図を描いて教えてくれる凱。
空間湾曲によって敵周辺の地域を収縮移動させて、広範囲の戦闘領域を作り出す……と説明してくれる。
「んー。要は街に被害を与えず、敵だけを残した大きなひろーい穴みたいなのが出来るってこと?」
「ああ、その認識で構わない」
「なんだか魔法みたいね……」
「……だが。ディバイディングドライバーを使用するには、大量の魔力が必要なんだ」
魔力……。
私は右を向いて、自分の肩を見る。
満開ゲージのちょうど反対側にあたる場所。
そこに、花びらを模した紋様が直接肌に刻まれていた。
令呪。
サーヴァントに対する三つの絶対命令権。
その一画一画が膨大な魔力を持つらしく、これを魔力として使うこともできるのだという。
……外に出る時は、袖のある服を着るようになった。
「分かったわ。敵の主従と戦う際に、市民は巻き込みたくないって言うんでしょ。
私も同感。これは大事に使うわ」
敵の主従も、私のようにきっと切羽詰まった願いを持った連中だろう。
この前戦った、あの女魔術師の必死の形相を思い出す。
―――私には相手を倒す覚悟がいるし、その相手もまた、その覚悟を持っているはずだ。
だからこそ、そうではない巻き込まれた街の人には、極力被害を出したくない。
-
「ああ……助かる、夏凜」
「べ、べつにかまわないけど。
そもそも、そのガオガイガー、ってのを呼ぶにも相当量の魔力が必要って話だったわよね」
「ああ、そうだ。そして何より、勇気の心を共鳴させる必要がある」
今度は左肩を見る。
そこには今は何もないけれど。勇者装束時には5枚の花びらの印が施される。
満開。
神樹様の膨大な魔力を譲り受ける力。
勇者に変身できている以上、きっと、満開もできるのだろう。
―――そして使えば、再び代償が発生する。
「勇気、ね……」
満開で身体の機能を失った時の恐怖を押し殺し。
テレビで見たアメリカ人風に肩を竦めて溜息をついてみる。
「たっく。ホンットばか食いよね、ウチの勇者様は」
「いや、その……何というか、本当に申し訳ない」
真面目な顔して頭を下げる凱。
「じょーだんよ。別にアンタ自身のせいじゃないでしょ」
奇跡は、きっと何度も起こらない。
次に失えば、もう二度と身体は元に戻らないと思っておいた方がいい。
じっと凱の身体を見る。
街に出た時、基本は霊体化してもらうが、いつ実体化しても良いように、買ってきた私服を着させている。
彼はサイボーグだったのだと言う。
身体が自分のものではないという感覚。どんな気持ちだったのだろう。
「……? どうかしたか、夏凜」
「なっ、なんでもないわよ!!
……コホン。
で。今度はこっちのスマホを見て」
テーブルにスマホを置いて、アーカム市の地図を開く。
-
「飛行機……えっと、ステルスガオー? で街を飛んだ時にチェックした場所に印を打ったわ。
各エリアでの広い土地、あのギャレオンって子を呼んでも戦えそうな場所ね」
「なるほど、これは分かりやすいな。
街で戦う時は、極力そこに誘導して欲しい。
いざという時は、やはりギャレオンの力がいる」
日本と違い、アメリカは土地を広く使っている。
ビル街の中にも大きめの広場はあったし、各所にある公園も広い。
もちろん人目を気にしなければ、だけど。
「ええ、移動のときは出来るだけ広場に近い道を通るようにするわ。
それで、今日の方針だけど……」
先の集団衰弱事件はようやく発生が収まってきたけれど、今日もリバータウン一帯のスクールは休校。
夏凜の通うジュニア・ハイも同様に休校との連絡メールがあった。
「……そうね、今日はボランティア活動をしつつ、各エリアでサーヴァントの情報がないか探してみましょ。
このボランティア証明証があれば、色々情報の聞き込みできるでしょうし」
アメリカはボランティア活動が盛んで、私はリバータウンのジュニア・ハイスクールの学生であると同時に、
アーカム市営のボランティア団体にも所属している。
休校であることを話せば、平日でも各地区のボランティア事務所で、街の清掃や孤児院の訪問など、何らかの作業を貰えるだろう。
正直言って、私は人見知りだった。
あまり他人と会話することもなかったし、初めて会う人にいきなり情報を聞くなんてのも苦手分野だ。
それでも、勇者部は地域のために、風が引っ張って色々な活動をしていた。
老人ホームや保育園に行ったこともあるし、いきなり一人で違う運動部の助っ人に出されることもあった。
その経験が、ここで活きることになりそうだ。
「じゃ、袖のある服に着替えてくるから、そうしたら出発しましょうか」
「待て夏凜! 朝食を取っていないぞ!」
いきなり凱が声を上げて私を止める。
「あっと……そうね。にぼしとサプリでささっと済ませちゃうから、ちょっと待ってて」
「待て!! そんなんじゃ体力でないぞ!
夏凜の場合、体力はそのまま魔力にも繋がっている。
食事はきちんと取った方がいい」
「う……。そう言われちゃうと痛いわね。
と言っても材料なんかないし……。
……そうね。どこかお店で軽く食べてから出かけましょうか」
「ああ、それならば問題ない!」
凱は満足そうに頷いた。
◆
-
=======================================
―――叫んでいた。
左目から涙のような青い光を発する少女に、フードを被り巨大な手を持った少女が挑みかかる。
狂気の表情で笑い声を上げながら、全力で殴り続ける。
―――それじゃ駄目だと。叫んでいた。
血が噴き出し、傷ついても傷ついても、少女は笑うことをやめない。
その巨大な手の指先から、自己の鬱屈を発散させるかのように銃弾を撃ち込む。
何発も何発も。
雨のように。
血のように。
このままでは。
大切な人――トモダチ――を、助けられないから。
本当は、消えたくなんてない。
辛くて。厳しい。
でも。
とても素敵な世界。
無くしたくない。
消えたくない。
それでも
―――大好きだから。
大きな穴に、身を投げた―――
=======================================
◇
-
どこか薄暗い雰囲気を持つこのアーカム。
この街にも陽が昇りはじめ。
蒼い空が、姿を現し始めた。
その空の下。
喫茶店の前を掃除しながら、夢を思い出していた。
あの巨大な手を持った少女。
あれは、アーチャーだった。
今隣で霊体化している少女の穏やかな顔と、夢での狂気に満ちた形相はまるで一致しない。
叫んでいた少女の声。
そちらの方が、今のアーチャーなんじゃないかと、感じた。
―――それでも、やはり分からなかった。
あれが例えアーチャーの過去だったとしても。
一方的に過去を覗き見たくらいで、他人を理解できたことにはならない。
知るということ。理解するということ。
このふたつは、また違うものなのだから。
『……なあ、アーチャー』
『ん。どうしたの、一騎』
ならば理解する努力をしてみようと思い、彼女に話しかけようとしたとき。
こちらに歩いてきた少女と、目が合った。
その少女は髪を二つに結び、凛とした佇まいをしている。
「あっ、えと……。おはようございます。お店、開いてますか?」
「ええ。モーニングもやっていますよ。どうぞ」
入口へと促すと、少女はこちらに礼をして、店に入っていく。
彼女は鞄の他に、長い棒状の袋を背負っていた。
恐らく竹刀か木刀が入っているのだろう。年もちょうど剣道をやっている零央と同じくらいだろうか。
武道をやっている人間の静謐さを、彼女からも感じた。
俺も掃除道具を片付け、店の中へと戻った。
-
喫茶『楽園』の今日の早朝シフトはマスターと俺の二人だけ。
当然だが、マスターは溝口さんではない。
日本人で、もう老人と言って良いお年の方だが優しく穏やかで、俺もよくしてもらっている。
調理師として雇われているが、小さい店なので注文取りなどの仕事も行わなくてはならない。
「マスター、掃除終わりました」
「ああ、一騎君、ありがとう」
コーヒーを注いでいるマスターに声をかけ。
手を洗い終わり、水とおしぼりとメニューを持って、先程の少女のところへと歩いていく。
「いらっしゃいませ。こちらが朝のメニューとなっております」
「ええ、ありがとう」
彼女は真剣にメニューを眺め。即断した。
「じゃあこのミニ一騎カレーとサラダのセットで。飲み物は……このワイルドベリーとアセロラのジュースで」
「はい、ミニカレーセット、本日のミックスジュースですね。少々お待ちください」
マスターが気まぐれで毎日入れているミックスジュースは独創的で、なかなか頼まれないのだが、ようやく注文が入った。
俺は頭を下げ、マスターにミックスジュースの注文を伝える。マスターは嬉しそうな顔でサムズアップをした。
カレーは既に仕込んである。夕方また作れば十分な量だろう。
ここの立地は近くにビジネス街はないため、昼過ぎまでは穏やかな客足だ。
混み始めるのは午後のティータイムから、夕食時にかけてが一番のピークだ。
品を盛りつけながら、店内を見回す。
先程の少女以外では、新聞を読んでいる常連の初老男性と、二人組の若い女性がいる。
その二人組の女性はカウンターで話しているため、会話内容がこちらの耳にも入ってくる。
「―――本当なのよ。この街には白髪の人喰い鬼がいるんだって!」
「えー、こわい〜! LoRのオーガみたいな? ホントなの?」
「ジェイミーが言ってたのよ! 付き合ってる彼がロウワーで見たんだって……食べてるとこ」
「ウソー、やめてよ食事中に」
サラダを盛り付けている最中も、二人が笑いながら話している内容が聴こえてくる。
『……一騎』
『ああ』
勿論、ただの与太話の可能性が高いだろう。
けれど、今は聖杯戦争中なのだ。
人を喰らうサーヴァント……例えばバーサーカー辺りなら、居てもおかしくはない。
「はい一騎君、ワイルドベリーとアセロラのジュースできたよ。意外と好評だねえ」
「あっ。はい。ははは、そうですね」
◇
-
早朝のちょっとしたピークを終え。
店に穏やかな時間が流れ始める。しかし―――
『人喰い鬼、か……』
『魂喰いのため、だろうね』
アーチャーが答える。
サーヴァントの魔力を高めるため、人の魂を喰らう。
そういう主従もいるだろう、とアーチャーは言った。
生きたいという願いを踏み躙り。
戦えない人間を嬲り。
身勝手に命を弄ぶ。
そういう奴が、この街にいるんだろうか。
―――情は判断を誤らせる。
分かっている。
だが、触れてしまったのだ。
この街の人々に。
穏やかに暮らす人達に。
『行くの?』
『……ああ』
おはようございます、と交代の人が店に来ていた。
挨拶を交わし、今日の料理の仕込み状況を伝える。
俺はまた、夕方にここに来ればいいことになっていた。
『……私には単独行動の能力があるんだ。一騎はここで』
『……』
手の指のリング痕を見る。
遠見やカノンなら、絶対に止めるだろう。
それでも。
拳を握った。
『いや。俺も行こう。
……助けてくれるかい、アーチャー』
『……全く君は。うん、任せてよ、一騎』
-
【リバータウン・喫茶『楽園』/一日目 早朝】
【真壁一騎@蒼穹のファフナーEXODUS】
[状態]健康(同化現象の症状を除く)
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]携帯電話、鞄
[所持金]一人暮らしをなんとかやっていける金額(雇われ調理師)
[思考・状況]
基本行動方針:生きたい。
1.白髪の人喰い鬼の調査を行う。ロウワー・サウスサイドに向かってみるか?
2.噂を調べ、命を弄ぶ主従を止める。
3.夕方には喫茶『楽園』に戻る。
[備考]
・令呪は左手の甲に宿っています。
・三好夏凜と出会いましたが、名前も知らず、マスターとは認識していません。
・『この都市には白髪の人喰い鬼がいる』という噂を聞きました。
【アーチャー(ストレングス)@ブラック★ロックシューター(TVアニメ版)】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]黒いフード
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:仲間としてマスターに協力する。
1.一騎の指示に従う。
[備考]
・三好夏凜を見ましたが、マスターとは認識していません。
◆
-
「うん、美味しかったわね、あのカレー。なんだか元気出てきたわ」
店を出て両手を頭上で組み、蒼い空に向かって、んーと伸びをする三好夏凜。
『……』
『凱? どうかした?』
『いや……』
サイボーグ・凱は霊体化しているので、夏凜には凱の今の表情を窺い知ることはできない。
『……さっきの青年』
『さっきのカレー持ってきてくれた人? あの人が《一騎カレー》の一騎って人なのかしらね』
『ああ。彼から、戦士の匂いを感じた……ような気がする』
『ええ? 優しくて穏やかそうだったわよ。
っていうか、あの青年は! 戦士だあああ!!! とかいういつもの断定はどうしたのよ』
『あのな、俺はいつもそんな風なわけじゃないぞ。
いや、霊体化だと感覚が鈍るせいもあるんだろうが、今ひとつ自信がない』
『ふうん?』
凱がそう言う以上、なんらかのものをあの人から感じたのだろうと思う夏凜少女。
『んー分かったわ。じゃあタイミングが合えば、夕食もここに来て様子を見てみましょ』
『ああ、それでいい』
喫茶店から離れ、二人は近くの路面電車の乗り場まで歩いていく。
『そういえば、電車に乗りたいんだったわよね』
『ああ。厳密に言うと、電車と言うよりも線路を見たい』
『線路?』
『ああ。ライナーガオーがその線路で使えるかどうかを見ておきたいんだ』
凱の発言に、夏凜は思わず立ち止まってしまう。
『ライナーガオーって、前教えてくれた新幹線型のやつよね!?
無理よ、無理無理!! どこの世界に路面電車に新幹線走らせる馬鹿がいるのよ!!』
『そんなことはないぞ、夏凜!
ライナーガオーは全世界の鉄道路線上で走れるようになっているはずだ!!』
―――君達に最新情報を公開しよう。
ライナーガオーは、500系新幹線をベースに、前部車両、および後部車両の二両編成で構成されている。
ガオガイガーの変身パーツとなるライナーガオーだが、それだけではない。
これらは作戦上必要に応じて分離し、独立稼動することが可能なのである。
主に鉄道路線上に沿った索敵行動や、あらゆる車両との連結を可能にする可変型万能連結器による、輸送や目標拿捕、救助等が想定されている。
また車輪幅を自在に変更できるゲージ可変装置によって、全世界のあらゆる鉄道路線上を問題なく走行ができる。
内部機関で駆動するために、送電線等の外部電力供給も必要はない。
全身をレーザーコーティングG装甲で覆った、まさに夢のウルテクマシンなのである。
『はー……。ホントにアンタが呼び出すマシンは何でもありね……』
『ハハハ! そうだろう、夏凜!!』
『はいはい……』
姿が見えないはずなのに、今度は何故か凱の誇らしげな様子が見える夏凜。
そして二人の行く手に、路面電車の乗り場が見え始めていた。
-
【リバータウン・路面電車の乗り場付近/一日目 早朝】
【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]スマホ、ボランティア証、学生証、鞄(にぼしとサプリは入っている)、木刀袋(木刀×2)
[所持金]一人暮らしをするのに十分な金額(仕送り、実家は裕福)
[思考・状況]
基本行動方針:マスターやサーヴァントの噂を調査し判明すれば叩く。戦闘行為はできるだけ広い場所で行う。
1.リバータウンにある路面電車に乗る。
2.各エリアのボランティア事務所へ行き、仕事を請け負いつつ敵主従の調査。
3.夕食はリバータウンの喫茶『楽園』で食べる?
[備考]
・令呪は右肩に宿っています。
・ステルスガオーIIで街を上空から確認し、各エリアでの広い土地の位置を把握済です。
・リバータウン一帯のスクールは休校中。
・真壁一騎と出会いましたが、名前も知らず、マスターとは認識していません。一騎カレーの人かもしれないと思っています。
【ライダー(獅子王凱)@勇者王ガオガイガー】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]ガオーブレス
[道具]私服
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの願いを叶える。
1.夏凜を守る。
2.ライナーガオーが使えるか、アーカムにある各路線をチェックしたい。
[備考]
・真壁一騎を見ましたが、マスターとは認識していません。戦士の匂いがすると思っています。
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以上で、投下終了です。
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投下乙です!
舞台がアメリカということで、ボランティアについての描写で、アメリカらしさが出ているのがなんかいい感じですね!
そこはかとなく兄妹のように安定感のある勇者コンビに対し、逆何か不安の残る一騎アーチャー組。
一騎君なんでそんなに儚い感じするの……?
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投下乙です!
ボランティア証明書など、舞台やキャラクターの経歴が活かされた良い話でした
にぼっしー組も一騎組も仲が良くて和みます
それにしても、凱の宝具はその大きさのわりには結構小回りが利きますね
まあ、強力になるほど燃費も酷いものになりますが
これは『白髪の人喰い鬼』に続き、ライナーガオーも『消える列車』としてアーカムの都市伝説となる日も近い……のでしょうか?
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>>687
投下乙です!
OPで出した喫茶やガオガイガー部分召喚などなど、丁寧に拾っていただけて嬉しい限り。
路面電車の路線を走るライナーガオーはなんか夢がありますね……!
なるほど、休校にして動かすというのは上手いなあ。ボランティア証とか想像もしていなかった。
こうやって自分一人では出てこない発想が出てくるのを見るのは本当にいいものですね。
勇者コンビの掛け合いに和みつつ、一騎の方は方針の先に不安を感じたり……今後に期待が膨らみます。
それとさっそくWiki収録させていただきました、記念すべき本編第一号ですね!
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すみません、予約延長します。
出来る限り日曜中には投下しますので、何卒ご容赦を……!
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以下予約します。
金木研&ウォッチャー(バネ足ジョップリン)
シュバルツ・バルト&キャスター(ワラキアの夜)
亜門鋼太朗&ランサー(リーズバイフェ・ストリンドヴァリ)
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申し訳ないが延長します……
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キーパー追加で予約キャラを下記に変更します
キーパー(シオン・エルトナム・アトラシア)
金木研&ウォッチャー(バネ足ジョップリン)
シュバルツ・バルト&キャスター(ワラキアの夜)
亜門鋼太朗&ランサー(リーズバイフェ・ストリンドヴァリ)
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遅くなりました、予約したパチュリー組+プレシア組、投下します。
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……
…………
………………
アーカムという街が成立した時期にこの地へ移り住んできた者の中には、セイラムからの逃亡者がいたことは既に述べた通りである。
それでは悪名高き近代アメリカ史の暗部、19人もの刑死者を出した忌まわしき事件、セイラム魔女裁判とはいかなるものだったのか。
時に1691年、マサチューセッツ州セイラム村――勤勉な清教徒(ピューリタン)が暮らす小村で事件は起こった。
冬のある日、一人の少女が恍惚状態になったかと思うと、突如金切り声を上げて倒れた。
それから瞬く間に村のあちこちへと少女たちの発作は広まり、ある者は痙攣し、ある者は聖書の言葉を聞くやのた打ち回った。
彼女らの奇矯な行動に村の医者は匙を投げ、こう言った。これらの症状は「悪魔憑き」の仕業だと。
少女たちが清教徒の教えで禁じられていた魔術儀式に参加していたことを知った村人は、彼女達を唆した者がいるに違いないと決め付けた。
やがて一人の黒人奴隷の女が鞭打たれて拷問され、魔術の知識があることを自白した。彼女はカリブのヴードゥーの血を引いていたのである。
村人たちは、少女の豹変に魔術が関わっていることを確信し始めていた。
良識ある者の「少女たちが気を引くためにやっているだけだ」という意見は魔女の肩を持つものだと切り捨てられた。
やがて少女たちが新たに名指しした女達が魔女として告発されたが、村人たちは被疑者を庇おうとはしなかった。
新たに魔女の疑いを掛けられた者たちは、敬虔とは言いがたく人付き合いも悪い、つまはじきにされても仕方ない女だったのである。
当然彼女たちは自らの疑いを否定したが、"悪魔憑き"の少女たちは"魔女"を見るやいなや痙攣を始めた。
ここに村人たちはひとつの結論を下す――少女たちの奇行は魔女の呪術だ。少女たちが奇妙な振る舞いを見せる相手こそ、魔女だと。
そして、悪夢が始まった。
黒人奴隷と二人の女に続く四人目の"魔女"は、誰からも慕われる敬虔な人格者の老婆だった。
誰もが彼女が魔女であるはずがないと思ったが、老婆を見た少女たちは奇声を上げのた打ち回った。老婆は縛り首になった。
その時になって初めて村人たちは、誰もが魔女狩りの標的になりうることに気付いて震え上がったが、もう遅かった。
悪魔憑きの少女たちの振舞いひとつで、何十人という村人が拘束され、裁判に掛けられた。
魔女の仕業であることを認めない者も加担者と判断されて捕まり、やがて吊るされた。
奇妙なことだが清教徒の間では罪の告白は正しい行いとされたため、魔女であると認めた者は減刑され、否定する者ばかりが処刑されていった。
妻の潔白を信じるがゆえに口を噤んだ者もいた。彼は拷問として胸を重石で押しつぶされ、アメリカで始めての合法的な圧死を遂げた。
しまいには裁判や処刑を強行した判事の親族やマサチューセッツ州知事の妻までもが名指しされ、推進派の者たちも次第に疑問を抱いていった。
しかし報せを受けた州知事が帰還して裁判の中止命令を出し、事態はあっけなく終息した。
それまでの間の逮捕者約200名、うち刑死者19名、圧死者1名、獄死者2名。
アメリカ史上最悪の魔女狩りは、結局原因すら定かでないうちに、ただ多くの命を犠牲にして幕を下ろした。
当時絞首台が据えられ、共同墓地への埋葬を拒否された刑死者たちが埋められた丘は「首括りの丘」などと呼ばれていたが、今や知るものは少ない。
………………
…………
……
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▼ ▼ ▼
「……気が滅入る話ね」
アーカムの歴史に関わる本には陰鬱なことばかりが書かれていて、流石にぶっ通しで読み続けるとうんざりしてくる。
読みかけの本を栞も挟まずに閉じ、目頭を押さえながらパチュリー・ノーレッジは立ち上がった。
日付はとっくに変わっている。
こんな時間にミスカトニック大学の附属図書館の閲覧室にいる者など、当然パチュリーしかいない。
「ようやくお勉強はおしまいかよ。ったく、いつになったら戦わせてくれるんだか」
「使い手に文句を垂れる刀なんて聞いたことがないわ。鞘に収まっている間ぐらい大人しくしていなさい」
いや、一人では無かったか。
とはいえ、彼を人として数えるのは二重の意味で間違っているようにも思う。
セイバー『同田貫正国』は刀剣の化身たる刀剣男士にして、聖杯戦争において現界した英霊でもあるのだから。
付喪神の一種とはいえあまり格の高い英霊だとは言えないが、パチュリーとしてはサーヴァントは道具として扱えるほうがありがたい。
そう思ってはいるのだが、向こうにとってはパチュリーは理想の主とは言いがたいらしく。
キーパーによって正式な聖杯戦争の開幕が告げられてなお重い腰を上げない様子に、相当フラストレーションが溜まっているようだった。
「ったく。こうやってカビ臭いとこで茶ァしばいてるばかりじゃ、刃が錆付いちまう」
「あら、図書館は飲食禁止よ」
「そういうこと言ってんじゃねえよ」
「じゃ、辻斬りでもしにいく?」
「あんなぁ……」
「冗談よ」
「あんたが言うと分かんねぇんだよ」
霊体化したままぶつぶつと不平を漏らすセイバーのほうへは目をやることなく、読むのを止めた本を書棚へと戻す。
戻しながら、確かに気晴らしは必要かもしれないとパチュリーは思案した。
いくら切れ味のいい刀でも、いざという時に働いてくれないのは困る。
この聖杯戦争において明確な方針を定めていないパチュリーにとって、「いざという時」がいつになるのかは分からないが。
ともあれ、外の空気くらいは吸わせてあげてもいいかもしれない。
ただでさえこのアーカムに辿り着いて以来、ほとんどの時間を図書館への泊り込みで過ごしてきたのだから。
「そうね……とりあえず、これから一度アップタウンのアパートメントに戻るわ」
「おっ! てぇことは、遂に支度を……!」
「シャワーを浴びて服を着替えたら、またここに戻ってくるわ」
「期待した俺が馬鹿だった」
外の空気くらいは吸わせてあげてもいいかもしれない、と思ったから吸わせてあげようとしたのに、それでも不満とは。
パチュリーはずっと一所に留まることに苦痛を感じない性質だが、そうでないセイバーのために無駄ともいえる行動を取るというのに。
むしろ感謝されてもいいぐらいで、がっかりされるのは理不尽だ。
(まったく、戦バカの考えは分からないわ)
パチュリーは天井を仰いで溜息をついた。
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せめて家族の元に帰してあげようと、ランサー――セーラーサターンは心に決めた。
僅か十二歳相応のものに過ぎない華奢な両腕で、自分よりもずっと背の高い彼女の体を抱き上げる。
全身から力という力を失ったその体は、まるで砂袋を抱えているかのようにずっしりと重い。
魂を抜き去ったのに体が以前より重たくなるなんて、どこか不思議で、そして哀しい。
死体が重く感じるのは、土の下で眠りたがっているからではないかと、ふと思う。
ランサーが彼女――不運にもランサーのマスターであるプレシアに拘束され、他ならぬランサー自身によって魂食いされた女学生――
その遺体を、 魔術的手段による処分ではなく自分に任せてくれないかと進言した時の、プレシアの怒りは凄まじいものだった。
彼女にとってサーヴァントとは使い魔に過ぎず、手に余る力を持っていることが魔術師として許しがたいのだろう。
そして――恐らくはこちらのほうが主たる理由なのだろうが、ランサーが年端もいかない少女であることが、マスターの神経を逆撫でしているようだった。
マスターの意向を無視しようとしたランサーをプレシアは罵り、鞭打ち、デバイスを変化させた鞭程度では傷ひとつ負わせられないと分かると一層憤った。
しかし傷を負わないとはいっても、神秘を帯びた鞭が「痛くない」というわけではない。体も、そして心も。
だからこそ、涙を浮かべて倒れ伏すランサーを見てプレシアも溜飲を下げることとなったのであるが。
しかしそこまでの扱いを受けながら、ランサーの中に「裏切り」とか「見限り」といった選択肢はなかった。
どんなに歪んでいようとも、マスターが聖杯を求める理由が我が子への愛であるのは間違いないから。
だからこそ尽くそうと決めた。そのために戦おうと決めた。たとえ自身が、永遠にマスターから愛されないとしても。
それでも、マスターの願いに巻き込まれて死ぬ人がいれば悲しいし、偽善かもしれなくてもせめて何かをしてあげたいと思う。
(住所はこの人が持っていた荷物から分かったから、そこへ……こんなことでは、私の罪は消えないけれど)
死体の重みを感じながら、ランサーは俯く。
きっと自分が悪いのだ。マスターを説得できなかったのも、魂食いで直接命を奪ったのも、他ならぬ自分。
愛と正義のセーラー戦士、セーラーサターン。こんなことでは胸を張ってそう名乗ることすら出来やしない。
短い丈のスカートを翻して、科学研究棟の屋上から跳躍する。
悩んでも仕方ない。少なくともこの女学生に関しては好きにしていいという許可を得たのだから、出来ることをしよう。
彼女の遺体を見つけることになるであろう両親の気持ちを想像して胸が痛んだが、その痛みを押し殺してランサーは跳んだ。
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夜間の図書館を管理する老いた守衛はもう慣れたもので、閲覧室を後にしたパチュリーが顔を見せるだけで何も言わずとも察してくれる。
七曜の魔女だの図書館の魔女だの、幻想郷の外でまでその手のあだ名が付いて回るのには辟易するが、引き換えに便宜を図ってくれるのは悪くない。
本来ならば人ひとり通してはいけない時間帯に、こうやって堂々と図書館を出入りできるのだから。
パチュリーが帰宅した後はまた通常通り厳重に施錠して、開館時間までは蟻一匹通さないに違いない。
幻想郷の白黒魔法使いみたいなのが出てくれば話は別だが、そうでないなら何事もなく朝を迎えるだろう。
守衛室で時間外利用の書面にサインして、図書館を後にする。
老守衛が飼っている黒い番犬をちらりと見るが、どうやらぐっすり眠っているようだった。
そういえば、何代か前の番犬は魔道書を狙って忍び込もうとしてた怪異を噛み殺したという噂を聞いたことがある。
パチュリーにとっては、こんなところに本物の魔道書があるということ自体が眉唾物なのだが。
「セイバー、念願の外の空気よ。堪能なさい」
『うるせえくたばれ』
霊体化しているというのに、セイバーのふて腐れた表情が見えるようだ。
こちらとしては十分な譲歩をしているつもりなので、パチュリーはそれ以上ご機嫌を取ろうとすることもなく帰路に着く。
帰路、か。
思えば、「自宅と図書館が別にある」という生活は随分と久しぶりに思える。
紅魔館の大図書館で暮らすようになってからはあらゆる時間が本と共にあったから、自宅という概念すら新鮮だ。
生まれながらの魔法使いであるパチュリーは、肉体構造の根幹から魔力によって成り立っている。
当然、生活の全てが、物質的な基盤の上に成り立つ人間とは異なってくる。
もしも自分が人間として生まれてきていたならば、このような生活こそが当たり前だったんだろうか。
そんなつまらないことを考えていたら、見知らぬ区域に足を踏み入れていた。
アーカムの土地の一区画を贅沢に使うこのキャンパス地区は、初めて訪れた者は迷いかねないほどに広い。
とはいえ別に雑然と校舎や研究棟が並んでいるわけではないのだから、ミスカトニック大学に在籍する学生が迷うなどということはない。
本来はない、はずなのだが。
「ねえ、セイバー。私の家の方角、どっちだったかしら」
『知るかよ。なんで通学路を自分で把握してねえんだ』
「図書館の中か、自宅との最短コース以外は生活圏外だもの」
『なんで自信満々でンなこと言えるんだこいつ』
愚痴ったり腐ったり呆れたり、まったく主への敬意に欠けるサーヴァントだ。
仕方ない、とポケットからGPS機能付きのスマートフォンを取り出す。
魔術を使えば一発なのだろうが後々面倒になるのも嫌だし、文明の利器に慣れるのも悪くない。
が、しかし、まったく勝手の違うこのテクノロジーにパチュリーは未だ馴染めずにいる。
現代社会における最低限の知識を聖杯から与えられていることと、その知識を思いのままに扱えることは、似ているようで全く違う。
むつかしい顔をしながらタッチパネルに恐る恐る触れ、地図アプリを呼びだそうと苦闘する。
「術式で動く式神のようなものなのだから、もう少し融通が利けばいいのに……」
何気なしに口にした独り言。
声に出してから、またそれに対してまたセイバーのぼやきが返ってくるのかと思いパチュリーはうんざりした。
-
が。
返ってこない。
それどころか、霊体化してそばに従っているその気配が、一変している。
先ほどまでが鞘に収まった状態だとするならば、今のセイバーは、まるで抜き身。
武功を挙げるその時を今か今かと待ち構える、戦場の刃だ。
「……セイバー」
「においだ。魔力のにおいがしやがる。探知は得意じゃねえが、この距離なら俺でも分かる」
「サーヴァントなのね?」
「間違いねえな。魔力量が異常だ……気付いてくれって言わんばかりだな」
とうとうこの時が来たか。
パチュリーは、自分が聖杯戦争のただ中にいることを忘れていたわけではない。
しかし、積極的に状況に関わるのはまだ早すぎると思っていただけだ。
戦うことを恐れているのではなく、戦うだけの必然性が薄いと考えていたまで。
しかし――現実は、否応なしに選択を迫ってくる。
「私としては面倒事は御免だし、やり過ごしたいのだけど。言っても聞かないでしょうね」
「冗談だろ? ようやく巡ってきた合戦の機会だ。それにな――」
パチュリーが何か言う間もなく、戦装束に身を固めたセイバーが実体化した。
「――こうして姿を現したからには、あっちも気付いただろ。さっそく進路をこっちに変えてきたな」
「ばっ…………!」
馬鹿なことを、という言葉が最後まで出てくることはなかった。
それよりも先に、紫菫の風がミスカトニックのキャンパスに舞った。
夜間照明の光を浴びて凛と立つその姿は、なるほど英霊と呼ばれるに相応しい清冽さで。
「……セイバーのクラスのサーヴァントと、そのマスターとお見受けします」
風に乗るその声は、まだ年端も行かない少女のものだ。
声だけではない。その菫色の瞳も、切り揃えられた黒髪も、華奢な体も、少女そのもの。
だがその佇まいが、そして何より携えるその銀の鎌矛(グレイブ)が、彼女が人智を超えた存在であると示している。
パチュリーはその場で離脱する線を捨てた。
あの決意を秘めた瞳……すんなりと帰してくれるとは思えない。
「聖杯戦争の理により、名乗りは挙げられませんが……槍の英霊ランサー、主の命により、ここで一戦交えさせていただきます……!」
矛先の白刃が、電灯の明かりで煌めいた。
身構えるパチュリーの隣で、セイバー――同田貫正国が、にいっと笑った。
▼ ▼ ▼
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いずれ戦うことにはなるだろうと思っていたけれど、こんな形でとは。
ランサー、セーラーサターンは凛とした姿を装いながら、内心では当惑していた。
女学生の遺体を彼女の自宅へ運ぶため極力スピードを落として移動する途中、サーヴァントの気配を感じた。
サターンはEXランクの規格外の魔力を保有するが、隠密系のスキルや宝具は一切所持していない。
だからこそ「向こうから捕捉されたかもしれない」という状況は起こりうる可能性として想定していた。
離脱するか否か。一瞬の逡巡の後、マスターであるプレシア・テスタロッサに念話で報告する。
万全の準備をしているならばともかく、遭遇戦はリスクも大きい。
理知的なプレシアならば強行手段は取らないだろう……そう考えていたのだが。
『……そう。ようやく、餌に食いついたというわけね』
「えっ……?」
『貴女が恥ずかしげもなく垂れ流した魔力に、ようやく反応するサーヴァントが現れた。
いいことランサー、マスターもろとも消しなさい。場合によっては、宝具の開帳も許可するわ』
「あ、あの、ちょっと待ってください。餌……? もしかして、私にずっと偵察を命じていたのも、今夜外出を認めたのも――」
『血の巡りの悪い子ねぇ。貴女は浮き餌なの。掛かった魚くらい自分で始末なさい』
その一言で念話はぷっつりと切れた。
ランサーは目を伏せ、唇を噛み締めたが、数呼吸の後に顔を上げ、女学生の遺体を木陰に隠すと気配の方角へ飛んだ。
そして、今。
槍の英霊セーラーサターンは、敵サーヴァント――セイバーと対峙している。
油断なく相手を観察する。
武器は日本刀。全身に身に付けているのは黒を基調とした甲冑具足。
ほぼ間違いなく、戦国時代から江戸時代をルーツとする日本の英霊だろう。
全身から立ち上る殺気もその推測を裏付けする。
戦場の血を求めるあのぎらつく眼差しは、戦うために生まれた戦士の証。
「――ガキを斬る趣味はねェが、武士(もののふ)ならば話は別だ」
セイバーがゆっくりと口を開く。
その表情を見て、ランサーは眉をひそめた。
笑み。獰猛な笑み。死合を求める渇きと歓喜。
その身を使命に捧げたセーラーサターンにとって、戦士の宿命は戦いの歓びとは無縁のもの。
眼前の英霊が自分とはまったく別の価値観を持つことを、直感で理解する。
理解して、ランサーはグレイブの柄を固く握った。
「こっちも名乗れねぇのが残念だ。もっとも、名乗るほどの英霊でもないがな」
セイバーが、じり、と片足を踏み出す。
その無骨な刀の柄から、刀身の先まで戦意の脈動を漲らせる。
相対する二者。
その只中で、空気は凍結したかのようにその動きを止め――。
「だがなこの首、安くはねぇぞ――それでも欲しけりゃ、死ぬ気で来なァ!!!」
瞬間、ふたつの刃が奔った。
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「キエェェェアッ!」
「はぁぁぁぁーっ!」
激突。
神速で振り抜かれた刀の剣筋を、守りの軌道を描いたグレイブが弾き逸らす。
続いて剣閃。
鳴動。
火花散らす刃と刃。
目の当たりにするセイバーのマスター――パチュリー・ノーレッジ――には、既に一太刀一太刀は追えていまい。
伝説でしかあり得ない、人の領域を踏み越えた剣戟。
しかし、それこそが英霊であった。
人類史の記憶から召喚された存在、サーヴァントたるものであった。
そは、永久(とこしえ)に横たわる死者にはあらず。
今ここに顕現している彼らこそが、人智を越えた本来触れ得ざる神秘である。
セイバー、同田貫正国の剛の剣が大気をも二層に断ち割らんとする勢いで吼える。
ランサー、セーラーサターンのグレイブは流麗に流れる風のように舞い、太刀筋を躱して敵に迫る。
「悪くねぇなガキんちょ! だがそいつじゃ俺は殺せねぇッ!」
「それでも、倒します……マスターの願いのため、負けられません!」
唸る神秘と神秘。
刃の姿をとった伝説が、互いを裂かんと交錯する。
その衝突は、一見にして互角。
しかしそう感じていたのはパチュリーただ一人だっただろう。
わずか十秒足らずの間に数え切れないほどの刃を交えたのち、ランサーが飛び退き距離を取った。
グレイブを構え直すその表情は僅かに翳り、対するセイバーは未だ戦意に満ち溢れている。
――優勢なのは、同田貫正国であった。
同田貫は刀剣男士、それも戦うためだけに鍛え抜かれた実戦刀の付喪神である。
荒々しく無骨極まりない太刀筋は美麗と呼ぶには程遠いが、しかし相手を切り捨てるための剛毅の剣。
勇猛スキルと擬似的な心眼スキルによって高められた剣技は、確かに相手の生命を狙う。
対するセーラーサターンは、本来槍の武勇をもって知られた英霊ではない。
最優と名高いセイバーのクラス相手に打ち合うことは出来る。しかし、もう一歩が届かない。
白兵戦闘向きのスキルも持ってはいない。即座に敗北することこそ無くとも、時間を掛ければ追い込まれるのは必至。
ただただ剣戟を重ねる限りは、ランサーに勝ち目はない――。
-
「……あなたは、何のために戦っているのですか、セイバー」
「あ?」
「マスターのためですか? それとも、貴方自身の願いのためですか……?」
距離を一定に保ちながら、セーラーサターンは同田貫正国に問う。
これは体勢を立て直すための時間稼ぎでもあったが、同時にランサーの本心から出た問いでもあった。
セイバーは意表を突かれた顔をしたが、すぐに元の獰猛な眼差しへと戻る。
「――どっちでもねえよ」
「どちらでも、ない?」
「ああ。俺は戦うために生まれた。だから戦う。斬るために生まれた。だから斬る。
それだけだ。この上なく単純だ。俺に言わせりゃ、誰のためだの何のためだの……。
戦場にその手の感傷を持ち込むなんざ無粋極まりねぇ。斬るか斬られるか、それだけだろうが」
彼の答えは、彼の太刀筋と同じぐらいに無骨にして明快であった。
しかしそれは同時に、セーラーサターン――土萠ほたるという少女にとって共感し得ない答えだった。
「……分かりました。答えを聞けばもしかしたらと思いましたが、やっぱり私、あなたには歩み寄れない」
「だったらどうする?」
「滅ぼします。我が全力を懸けて」
宣言。
明確な拒絶であるその言葉を聞き、しかしセイバーの顔に浮かんだのは歓びだった。
「いい面構えじゃねえか。かかってきな――正面から叩き斬ってやる!」
「……言われるまでもありません!」
――セーラーサターンは、武勇で知られた英霊ではない。
武勇をもって決着を求める限り、実戦刀の英霊である同田貫正国に勝ち目はない。
ならば、本来の使命――"破滅の使者"に相応しい戦い方をするまで。
「――――真名、開放」
魔力が、銀の戦鎌に集中する。
稲妻のような炸裂を繰り返しながら、その宝具が真の力を取り戻す。
「《沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)》――――――!!」
英霊が名を呼ぶ、その時、伝説は蘇る。
▼ ▼ ▼
――その瞬間、パチュリー・ノーレッジは奈落へと足を踏み外すような感覚を味わった。
-
真名開放。
サーヴァントの宝具の名を詠唱し、伝説における力を再現するという神秘。
名前には古来より力が宿る。真なる名で呼ばれたものは真なる伝承を取り戻す。
パチュリーも当然知識として持っている。聖杯戦争における位置付けも理解している。
曲がりなりにも百年を魔道に捧げた魔女だ。今更そんな神秘ごときで動揺などするはずがない。
するはずが、ないのに。
(……なに、これは……なんなの……震えている? 私が?)
ランサーの宝具、『沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)』と呼ばれたあの宝具。
先ほどまでとは見違えるほどの魔力量を漲らせるその武器に、視線が吸い寄せられる。
あれは、滅びだ。滅びの具現だ。
破滅という、命あるものならば誰もが畏れる概念。その実体だ。
(そんな……私が、この私が……怯えている? 恐怖しているの?)
それはほとんど直感だった。あるいは本能と呼んでいいものかもしれなかった。
人間が動物的な能力として持っているもの――種族:魔法使いであるパチュリーには、今の今まで無縁だったもの。
(はあっ……はあっ……はあっ……はあっ……)
自身の荒い息に苛立つ。
しかしそれすら自力では制御できないことに気付き、そのことに底知れぬ恐怖を覚えた。
認めざるを得ない。パチュリー・ノーレッジは、神秘を前にして怯えている。
無明の闇の中へ無限に落ち続けているような感覚。
思考が狭窄していくのが分かる。しかし自分でもどうにもできない。
(殺さないと……あいつを殺して、この恐怖の根元を絶たないと……!)
聖杯戦争に乗り気でなかった自分からこのような考えが出てくる、そのことへの疑問すら今はなかった。
ただこの異常な状況を切り抜ける、それだけが今のパチュリーの行動原理のほとんどを占めていた。
もはや出し惜しみしている場合ではない。声を張り上げて、セイバーへ命令を飛ばす。
(――宝具の使用を許可する! 一刻も早くそいつを斬り捨てなさい、セイバー!)
……命令を飛ばした、つもりでいた。
セイバーが全く反応を示していないことに疑問を抱き、その直後、パチュリーはその理由に思い当たった。
がちがちがちがちがちがちがちがち。
パチュリーの口から漏れていた音は、それだけだった。
恐怖で歯の根が合わず、打ち合わされるだけの音。言葉ではなく、ただそれだけ。
(そんな……! そんな屈辱! 魔女と呼ばれた私が、魔力に怯えて声も出せないなんて……!)
-
足元がぐらつく。
世界が揺らぐ。視界だけでなく、パチュリーの魔術師としての矜持もまた。
それでも視線だけは、滅びの魔力を迸らせるランサーの宝具へと吸いついていて。
その視線の先のランサーの瞳が、何故か驚愕に見開かれていて。
直後、ランサーの表情に何かを察して振り返ったセイバーが、必死の表情でパチュリーに叫んだ。
何故かパチュリーには聞こえなかったが、しかし何かを警告していることは理解した。
セイバーの視線を追うように目を上げ――そして。
その警告の意味を、理解した。
空が裂けていた。
その隙間から、膨大な魔力が落雷となって、パチュリーの体を打とうとしていた。
防御呪文の詠唱が間に合わない。
それどころか、今の状態では声を出すことすら危ういだろう。
為す術が、なかった。
ただ己の無力に呆然としたまま、パチュリーは迫り来る紫電を見上げていた。
▼ ▼ ▼
「……マスター」
『何かしら?』
そこはすでに戦場ではなかった。
ただ一人残ったセーラーサターンは、念話で己の主へと連絡を取っていた。
「マスターが空間跳躍魔術で、相手のマスターに直接攻撃したことです」
『あなたが足止めしてくれていたおかげで、相手の座標に合わせて攻撃できた。功績といえば功績ね。褒めて欲しいのかしら?』
「い、いえ……違います。あの……あれは、私ひとりではセイバーを倒すには力が及ばないと……そう考えてのことのですか?」
『はぁ……理解が足りないようね、ランサー。私は戦士でもなければアスリートでもなくて、魔術師なの。
貴女にセイバーを倒す力があろうがなかろうが、より確実に勝てる方法を選んだだけ。つまらないことを訊かないで』
ランサーは項垂れた。
どちらにせよ、プレシアがランサーを信頼していないことは間違いないようだった。
少なくともプレシアからは魔術師としての客観的な視点で、英霊として高水準であると評価はされている。
しかしそれだけだ。そこに、信頼は伴わない。
どれだけの力があろうと、ランサーに任せるよりも自分で手を下すほうが「確実」。
そう思われている限り、ランサーの献身は報われることはない。
-
『ところで、ランサー。あの死体、まだ手放したりはしていないわよね?』
「は、はい……あの、それがなにか……?」
思いがけない言葉に、はっと顔を上げて答えるランサー。
それに対する返答は、彼女を困惑させるには十分だった。
『使い道を思いついたわ。捨てに行くのは止めにしなさい』
「えっ……?」
『あれを使って燻り出すのよ。貴女が愚鈍にも取り逃がした、セイバーとそのマスターをね』
……取り逃がした、セイバーとそのマスター。
あの時。
プレシア・テスタロッサの空間跳躍を利用した落雷魔術は、確かに敵マスターを打ったはずだった。
しかし、一瞬だけ遅かった。いや、セイバーの動きが一瞬だけ速かったと言うべきかもしれない。
結果としてセイバーは茫然自失のマスターと落雷との間に割って入り、その身を縦にして主を守った。
それからの引き際は、鮮やかの一言だった。
あれほどまでに戦いに執着していたというのに、ランサーを振り返ることすらせずにこの場を離脱していった。
主のために戦うのではないと言いながらも、躊躇わず主のために行動できる英霊。
彼に対する認識を変えなければならないのかもしれないが――。
『仕留め損ねた理由は分かっているわね、ランサー』
「は、はい……私がマスターの奇襲に動揺してしまって……それをセイバーに感づかれたからです」
『その通りよ。主の足を引っ張ることに関しては天下一品ね、ランサー。大した英霊だわ』
「……………………」
皮肉に対して言い返そうという気持ちも湧かなかった。
どんなに卑怯に見えようと、真名開放で発揮された神秘に動揺したマスターを奇襲で討つのは上策だ。
みすみす勝機を潰してしまった……ランサーにとってそれが事実なのは間違いなかった。
『戻ってきたら、鞭打ちよ。使えない犬に、正しい主との関係について教育してあげる』
「…………はい」
『それが終わったら……吊るしにいきましょう。貴女が持ち帰るはずのものを』
「――吊るす?」
聞き間違えかと思ったが、プレシアの続く言葉はその期待を冷徹に塗り潰した。
『こんな時間に大学施設の出入りを許されている学生は多くない。在籍者ならば、すぐに目処は立つわ。
もっとも既に私の中で候補はいるのだけど。例えば神秘学科の新星、"七曜の魔女"とかね』
「魔女……」
『そう、魔女。だから吊るすの。アーカムに暮らす人間なら、言い伝えくらいは聞いたことがあるでしょう。
このアーカムに、新しい"首括りの丘"を作るのよ。これから始まることのためにね』
主の表情は伺えなかったが、きっと厭な微笑みを浮かべているのだろうと、ランサーは思った。
▼ ▼ ▼
-
「ここは……」
「あんたの自宅だ。ったく、なんで俺のほうが道に詳しいんだか」
パチュリーは、自室のベッドでゆっくりと体を起こした。
まだ頭がぼんやりとしている。セイバーが自分を抱えて、ここまで連れて来てくれたのだろうか。
思考が巡らない状態でパチュリーは実体化して傍に控えるセイバーを見、その甲冑が焼け焦げていることに気付いた。
「あなた、それ……!」
「ああ、これか。結構いいのをもらっちまってな。対魔力もDランクじゃマスターにすら抜かれちまうか、情けねえ」
「……大丈夫なの?」
「サーヴァントの肉体を構成するのは魔力だ。あんたから十分な供給が来てる以上、あとはツバつけときゃ治る」
今まで通りの皮肉混じりの返しをする気も、今は起こらなかった。
だんだん思い出してきた。初めての敵サーヴァントとの邂逅、そして――自分の、致命的な失態。
「――――なんて、屈辱」
掛け布団を握りしめ、無表情を取り繕いながら項垂れる。
百年を生きた魔女が、このパチュリー・ノーレッジが、まるで人間みたいに神秘を前にして怯え、震えた。
その結果として敵の不意打ちを許し、あわや死ぬ間際まで追い詰められ、そして自分のサーヴァントに傷を負わせた。
セイバーへのダメージが大きい小さいの話ではない。これは魔術師としての矜持の問題だった。
「この聖杯戦争は、まともじゃない。知っていたはずなのに……分かっていたはずなのに」
冷静な傍観者を標榜していたつもりが、このザマか。
なんて情けない。それでも紅魔館の魔法図書館の主か。百年の時を経て、辿り着いたのがこんな姿か……。
「なあ、おい」
「……何? 私は今、それどころじゃ……」
無神経なセイバーの呼びかけに思考を中断され、パチュリーは苛立った声を上げる。
それを無視してセイバーはパチュリーの顔へと無造作に手を伸ばし――その額を、思いっきり指先で小突いた。
「むきゅっ!?」
「バッッッッッッッッッカか、テメェは」
目を白黒させるパチュリーに、面と向かって身も蓋もない言葉を浴びせるセイバー。
「いいか、俺は刀だ。戦うことしか出来ねえ。だがあんたがいなきゃ戦えねえ。だから助けた」
その刀を握ることしか知らない指で、パチュリーを指差す。
「俺は考えねえ。迷わねえ。そういうのはあんたの仕事だ。だから好きに考えたり迷ったりすりゃあいい。
だがな、戦場で命を拾ったってことは、次があるってことだ。どれだけ悔しがろうが、いずれ次の戦は来る」
「…………次の、戦」
「そうだ。だから、次は勝て。狂気には、あんたの心で抵抗するんだ。そうすりゃ俺は、あんたの代わりに敵を斬れる」
-
抵抗。
久しく、自分に関わるものとして聞くことのなかった言葉。
だが、セイバーの言葉は単純で、それゆえに真実だった。立ち向かわなければ、飲み込まれるだけ。
「そうね……その通りだわ」
まったくこんな戦バカに説教されるとはね、と自嘲する。
そうだ、失った矜持は取り返せばいい。真の敗北はまだ訪れてはいない――まだ生きている。
奇妙なことだが、この生命の実感もまた、随分と長い間忘れていた感覚だった。
「……セイバー。休息を取ったら、また大学に行くわ」
「また本の虫か?」
「そうね……結果的にそうなるかもしれない。それでもこれまでとは目的が違う。
魔女の名に懸けて、やられっぱなしでは終わらない。ランサーのマスターは私達が見つけ出す」
想定外の言葉を聞いたとばかりに目を見開くセイバーを見て、パチュリーはかすかな微笑みを浮かべた。
「まずはランサー。あるいはその次。そうやって聖杯戦争の核心に近付いていけば……いずれからくりが見えてくる」
「つまりは、謎解きか?」
「噛み砕けば、そういうことね」
「なるほどな。あんたは考える。俺は斬る。悪くねえ」
さっきの戦は満足行くまで戦えなかったからな――そう言って、セイバーはニヤリと笑った。
奇妙な感覚だと、パチュリーは思わざるを得なかった。
この野蛮で獰猛な英霊が気が合う相手だとはとても言えないのに、それでもこの感覚は――。
「――ええ、悪くない。だからこそ必ず見つけるわ、納得の行くだけの答えをね」
知識と日陰の少女にとっての聖杯戦争は、この時になってはじめて幕を上げた。
【アップタウン・アパートメント(パチュリー自宅内)/一日目 未明】
【パチュリー・ノーレッジ@東方Project】
[状態]健康
[精神]瞬間的ショック(怯え、ほぼ回復)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大学生としては余裕あり
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に関わり、神秘を探る。
1.夜が明けたら大学へ。
2.ランサーのマスター、あるいは他の参加者を探り出す。
[備考]
※ランサー(セーラーサターン)の宝具『沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)』の名を知りました。
【セイバー(同田貫正国)@刀剣乱舞】
[状態]背部にダメージ(軽)
[精神]正常
[装備]日本刀
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:敵を斬る。ただそれだけ。
1.敵を見つけたら斬る。
2.面倒な考え事は全てマスターに任せる。
3.負傷は早めに治して次の戦に備える。
[備考]
-
▼ ▼ ▼
――アーカムの歴史は、アメリカ史最後にして最悪の魔女狩りと共に始まった。
今を生きるアーカム市民にとっては、ただの古臭い御伽話か、馬鹿馬鹿しいタブーの類に思えるだろう。
しかしその歴史は、天井に滲んだ染みのように、ふとしたきっかけで見上げるたびに思い出されるものだ。
セイラムからここアーカムに逃れた最後の魔女は、魔女裁判の熱が収まったのち、怒れる民衆によって縛り首にされたという。
あたかもその史実の再現であるかのように――ミスカトニック大学のキャンパスの一角で、少女が木からぶら下がっている。
昨日までは極普通の日常を送っていたはずの彼女は、今は物言わぬ骸となって、枝と首とを結ぶ縄に体重を預けていた。
朝になれば、学生や教員たちがその姿を見つけるだろう。そして彼女は地上へと降ろされるだろう。
だがミスカトニック大学は、怪異に慣れすぎている。少女の首吊り程度では、その機能を止めたりはするまい。
しかし。
少女の骸には――魔力の残滓が、魔道に関わるものならば見過ごすはずのない痕跡が宿っていた。
これは挑発だった。あるいは警告であり、そして宣戦だった。
これよりアーカムで魔女狩りが始まる。
次に吊るされるべきは誰だ。次に死すべきは誰だ。
"セイラム"を忘れるな、魔術師ども……と、そう告げている。
――風が吹いた。ぎしり、と音を立てて、少女の躯が揺れた。
【キャンパス・大学研究棟(テスタロッサ研究室・工房内)/一日目 未明】
【プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは THE MOVIE 1ST】
[状態]健康
[精神]精神汚染:E
[令呪]残り三画
[装備]ミッドチルダ式ストレージデバイス
[道具]大学教授としての衣服および所持品
[所持金]豊富
[思考・状況]
基本行動方針:ミスカトニック大学に潜むマスターを燻り出し、殺す。
1.深夜の施設利用を許されているパチュリー・ノーレッジをマスター候補として警戒。
2.それ以外にも「罠」に反応する大学関係者がいないか観察する。
3.セーラーサターンに対して強い不信感。
[備考]
【ランサー(セーラーサターン)@美少女戦士セーラームーンS】
[状態]健康
[精神]正常、消沈
[装備]『沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)』
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターへの献身。
1.プレシアの願いを叶えるために尽力する。
2.マスターの信頼を得たい。
[備考]
※キャンパス内の目立つ場所に、女学生の遺体が首吊りを模して木に吊るされています。
魔術師あるいはサーヴァントであれば、魔力の痕跡から聖杯戦争の関係者の仕業であると分かると思われます。
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投下終了です。何かありましたらよろしくお願いします。
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投下お疲れ様です!
セイバーとランサーが口火を切った戦闘にいよいよ始まったなと感慨深いものがあります
ほたるちゃんが健気可愛かったです!
プレシアはすげえ度外道なんだけどなんだかんだ魔導師としては優秀なんですよね
後さっそく発動した正気度システムが怖いですね…
曲がりなりにも神秘にドップリ浸かってきたはずのパチェですらこのざまなんだから
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乙です
あぁ〜無骨な刀剣男子と引きこもりの魔女が段々仲良くなってく過程がたまらないんじゃ〜^
ほたるちゃんがプレシアおばさんに鞭打ちされるのもエロくていいですねぇ…
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投下お疲れさまです!
片や絆を深め、片や対立を深める2組の対比。
そして、独自要素である正気度システムの特性・脅威性が、非常に明快に伝わりました。
やはりマスターの精神力が重要になりそうですね……
それともう一件、拙作(>>537-541)のメンタリストのステータスに分かり辛く思える部分がありましたので、
『情報抹消』スキルの項を以下のものに差し替えさせて頂けないでしょうか。
本編が開始してからの修正申請となり、大変申し訳ありません。
情報抹消(偽):C
自身のユニーク・ジツの能力による疑似的な情報抹消スキル。
ゲン・ジツの支配下にある相手からの離脱に成功した場合、相手の記憶からはアサシンの真名、外見、能力の詳細などの、戦闘中に認識したアサシンに関する情報が消失する。
相手の時間感覚は狂い、「何者かと戦っていた」という漠然とした記憶だけが残る。
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投下乙です!
ほたるちゃん受難続きで実にほたるちゃんらしい(酷い
同田貫の戦闘したいぜオーラは今後も場を引っかき回してくれそう
パチュリーは一回SANチェック制を理解しただけに、今後の立ち回りに期待ですね
そして虐待おばさんの仕掛けは大学組に大きく影響しそうで楽しみです
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ギリギリになりますが、投下宣言をしておきます。
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―――初めて母に与えられたものは、自身の否定だった。
呪いを受け子を成せぬ王に代わり、神々と交わる事で国を存続させようとした妻。
その実験の結果として、男は生を受けた。
正しく神の子を産めるのか。自身の術は正しく機能しているのか。
無事産まれたとして、神は果たして親であると認めるだろうか。
初の懐妊に焦燥と不安を抱く、いずれ后となる位とはいえ女の身ならではの理由。
それは邪悪ではないが、同時に不純と見なされても仕方の無い行為だった。
……恥であると知っていたのは、誰よりも弁えていたのは女自身であったのか。
母であるはずの女は、産まれたばかりの子を川に捨てた。
腹を痛めて初めて産んだ我が子でありながら。
自らの子の認知の証として、神に己が威光を授けるよう嘆願しておきながら。
いずれ王に嫁ぐのが決まっている未婚の女が清らかでないと知られる恐ろしさから、己の所業そのものを水に流し、目を背けた。
女の身勝手により、存在を否定された悲劇の子。
運よく子のいない夫婦に拾われて成長していくが、それより先の人生は本来あるべきだったそれとはかけ離れた過酷さだった。
母が居ないが為に人の機微を学べず、一挙一動は粗暴そのもの。
父の威光こそ身に纏っているものの、その姿は黒く濁っていた。
理解者は当然なく、周囲に煙たがられて生きるのみの日々。
また、カースト制度が全盛の時代にあって、養父の身分である御者は低位にあたる。
その息子として扱われる男もまた、同じ身分で縛られる。
実力がありながらも卑しき身分と蔑まれ、武士との決闘すら認められない。
どれだけ武の証を立てようとも、男を見る目から冷ややかさが消える時はない。
運命の歯車が僅かに狂っただけで、一生を不遇に過ごす事となったのだ。
王族として過ごす華やかな生活。
血を分けた兄弟と手を取り合う未来。
自らを産み落とした母の愛。
その全てを得られないまま、転げ落ちるように天涯孤独の身に追いやられた。
残っているのは、物心つく前から血肉の一部だった、神の血を引いたという証だけ。
聞こえるものは罵りと嘲りの声。
そして弱き物、力無き人々の嘆き。
斜陽が男が辿る事となる末路を照らしている。
栄光など何処にも無い。前に待つのは、苦難と辛苦で敷き詰められた瓦礫のみ。
……これが物語の始まり。
報われぬ最期、避けられぬ破滅を決定づけられた、やがて英雄と呼ばれる男の―――起源だった。
◇
-
いつも通り/いつもと違うベッドの感触。
憶えのない模様替えされた部屋。
最低限の自分のものが詰まったトランクが口を開けている。主にノート。ペン。ノート。雑貨で買った呪具。
薄いカーテンを通して陽射しが目にかかる。眩しい。太陽。
まるで不器用な仕草で頭を撫でられるよう。誰が。彼?
「…………んゅ」
意識が覚醒するが、まだ頭は眠いままだった。
夢の中にいた頃の情景が、離れない。
夢、なのだろうか。今のは。
内容は薄ぼんやりとしていて、当たり前だが現実味がない。
そもそもあれは、自分が見た夢ではない気がする。
他人の記憶、本棚に知らない間に挟まっていた本を開いて読んだ気分だ。
「…………」
起き抜けで働かない思考で考える。
「アレ」は神崎蘭子の夢ではなかった。過去とも未来にも繋がらない可能性の外の話。
闇に飲まれる、話。
その重さ、深さは蘭子が描いた想像とは比べ物にならない闇があった。
余りにも……悲しい導入(はじまり)だった。
華やかだったはずの、光り輝いていた未来が、生まれた赤子の時から失われるなんて。
見ていて悲しかった。苦しかった。
何故ならその中で自分は思ったからだ。
他所から垣間見た自分が胸を打たれる痛みを覚えているのに。
この話の主人公の"彼"の気持ちを、読み取る事が出来なかったのが、悔しかった。
「…………にゅう……」
起こしていた半身が倒れて、再びベッドに収まる。
もう一度眠れば同じ夢の続きを見ていられるかと期待して。
夢見が悪いのあり、本当に瞼が落とされそうになって―――
「そのままではまた寝るが、それでいいのか」
「っ!!」
自分だけが眠っていた部屋で聞こえた別人の声で、麻酔がかかっていた頭が完全に覚醒した。
「にゃ、ぁのっ、いま、の、みて……!」
飛び起こされた顔は、室内には不釣り合い過ぎる雰囲気を放つ男の姿を捉えた。
別に忘れたわけでもないのに、声の主がここに居るのは未だ慣れないものがある。
普段は姿を消してるとはいえ、部屋に男性と二人きりで眠るというのは、多感な少女期にいる当人には些かに強い刺激となっていた。
-
「〜〜〜え、とその……わ、わずらわ、……!」
気は動転していたが、日数を重ねた甲斐があり常識までは失わなかった。
挨拶はアイドルの資本。朝に合わせた言葉を出そうとして、昨日の記憶がブレーキをかけた。
「あの言葉」を朝に言って、少しだけ彼が表情を曇らせた(ような気がした)時を思い出す。
だが抜かりない。既に昨日の夜のうちに新しい台詞は考え付いている。即興にしては会心の出来だ。
設定上、光を褒め称える言葉は使えない。なのでここはあえて敵対という形で示す。
「に―――日輪よ、闇に随え!」
悪化していた。
「……それは、どのような宝具だ?いつ発動する?」
そして玉砕した。
「………………………………………………………………おはようございます」
もう、彼には普通に喋ってあげた方がいいんじゃないだろうか。
神崎蘭子の矜持は、早くもこの重圧に屈しかけていた。
◇
蘭子の役割(ロール)は、この国の外からの来訪者という設定だ。
遠い島国で人気を博しているアイドルグループの海外進出、その急先鋒。
国内においては頂点の一座であるとはいえ、世界で通用するにはまだまだ先が遠い。
ローカル地方だが世界的な有名所でもあるという線で依頼を頼んだところ、この地アーカムに白羽が立った。……らしい。
治安の悪さもあくまで警察の手が届かない地区のみの話。外国にはよくある。
それ以外に幾らでも候補地はあっただろうが、聞くには企画の責任者がここに関わりがあり顔が利くからだそうだ。
以上は、又聞きやプロデューサーからの簡易的な説明のものだ。
治安云々に疑問やおかしい部分は多々あったが、聞いて答えてくれるものでもなさそうなので深くは追及しないで、現状に至る。
-
「成る程。先ほどのは朝の挨拶のつもりだったのか。夜の闇が朝日の浸食に抗う様を表現していると」
「わ、わざわざ呪文の解読をするでない!…………恥ずかしいから」
朝食後の自由時間。
椅子に座る蘭子の前に立つは槍の英霊、カルナ。
二人分のティーパックの紅茶が置かれた机を挟んでいる。
「オレにはとても理解の及ばぬ領域だが、それがアイドとやらの活動に必要なものなのだろう。ならばオレからは何も言うまい。
存分に闇に飲まれるがいい」
「こ、これは我が魂のみに共鳴せし秘技。何人たりとも届かぬ境地。
同時に我が友達もまた、各々だけの技を会得せし者よ!」
衣食住は好待遇で、外出も許可されている。
ただ外様という設定上、一団はアーカムという町からある意味で浮いている。
町の地理や地元の知り合いにも疎く、浅い境界で隔離されている。
そんな疎外感が昔を思い出させ、蘭子は少しこの役割に不満だった。
なので、交流が盛んになるのは自然同居人同士となる。それも同輩とではなく、蘭子だけが知る新しい隣人とである。
大事な方針もどうでもいい世間話も一緒くたにして、何であっても構わず話題にしていく。
まだやり取りはぎこちないが、数を重ねなければいつまでも距離が近づきはしない。
ランサーを召喚しマスターの資格を得てから二日。
他の部屋や廊下から聞こえないよう注意しながらのやり取りが、この主従の日課となっていた。
「返された砂時計は一刻と終焉に近づく。互いの魂の同調律を高めるのが我らの命題よ……」
アーカムへの滞在期間は、最長で七日間。
その間アーカム内の様々な場所でイベントをこなす予定になっている。無論、治安が保たれてる地区に限るが。
劇場などが多いノースサイド。学生で賑わうキャンパス。エトセトラ。エトセトラ。
自由時間は多いとは言えず、制限のある生活。
もとよりアイドルの活動を続けてきた蘭子にとっては苦ではないが、聖杯戦争に集中し辛い意味では確かに縛りではあった。
―――もし、七日を経過しても終わってないのなら自分の立場はどうなるのだろうか。
先の見えない益体のない想像を巡らせる。
「ここにいて、大丈夫なのかな……?」
カップを近づけ隠した唇から、虚飾の剥がれた本音が漏れる。
ランサーが可能な限り―――霊体化等、魔力の発露を防ぐように―――哨戒をして、この宿舎にマスターがいないと教えてもらっている。
ただし暗殺者(アサシン)のようにサーヴァントの気配を断つ者、魔術師でないが故にマスターと悟られない者、
洗脳等で傀儡となっている者の存在は否定し切れない、とも。
結局分かったのは何処であろうと安心出来ないという、不安を煽る結果のみだった。
敵、ひょっとしたら味方かもしれない相手と隣り合っている可能性。
共に同じ道を歩むアイドルが、導いてくれるプロデューサーが、裏から支えてくれるスタッフが殺し合いに巻き込まれている可能性。
例え誰も巻き込まれていいないとしても……今度は蘭子が一人きりになってしまう可能性。
自分だけが本物で、他の人は皆真似ただけの泥人形では……いや真か偽であるかは関係ない。
恐いのは、蘭子がマスターだと他に露見した時。
この宿で生活してる事を知られた時だ。
「定められた仮初の役割に沿い身を隠すのも聖杯戦争では一つの選択だ。
そも、ここの庇護なくしてお前一人で生きていく術はあるまい」
「それはそうだが……けど。
我が正体が衆目に晒されればいずれこの地に災いが……友の翼は無惨に折られ、下僕達に暗き炎が燃え移り……」
「殺し合う」。
「人が死ぬ」。
そう、直接言葉に出す事を濁した、意図的に避けた物言い。
-
自分が死ぬのが恐いのは当たり前だ。
だから知り合いや友人、神崎蘭子を理解し受け入れてくれている人々がいなくなる事の恐れのみを蘭子は口にした。
それらは比べられるものではなくどちらも大事なもの。優先順位など出来ればつけたくない。
優柔不断と思われてしまうだろうか。
けれどどちらか片方でも自分から捨ててしまえば、今の神崎蘭子ではもういられなくなる。
少しずつ溶け合っていくアイドルの頃とは違う、身を引き裂かれるような断絶を。
それは変化ではなく欠落といわれるもの。心の一部を永遠に喪失する傷となる。
何をしようとも、傷つくものは出てきてしまう。
虚飾を外した神崎蘭子は自分の世界以外に臆病な少女だ。
それではいけないと。英雄たるランサーのマスターとして立派に振る舞わなければならないと理解している。そう思い込んでいる。
だから悩む。無理に気負おうとしてしまう。
身を震わせず、心の奥底で怯える蘭子に、ランサーはいつもと変わらない率直な言葉を告げた。
「―――何が善手か悪手かなどは、結果が出るその瞬間まで決めつけられるものではない。
お前が聖杯戦争に関わるのを止めこの部屋に引きこもろうとも、他のマスターが血眼になり調査すればお前に辿り着くかもしれない。
あえて死地に飛び込み名を明かせば、それが新たな縁となり幸運を招く場合もあるだろう。その逆も然りだ。
自分の命を第一にする事、他者の安全を慮る事。得るものと失うものは総体として変わりない。つまりは等価値だ。
どちらを選ぼうと、お前がその選択について責められる謂われはない」
忠告や戒めといった厳しい物ではなく、どちらかといえば道理を教え諭す教師のような、理路整然とした語り。
蘭子はその一言一言を噛みしめるように二度三度頷いた。
「どちらでも、いい……」
自分か他人か。どちらを取っても結果は変わりないとランサーは言う。
どうすればいいかより、どうしたいか。
損得で考える必要はなく、己の心でやりたい事を定めろと。
「そうだ。そしてお前が何を選び、何処に進もうとオレはその道に従おう。
それがお前との契約であり、報酬だ」
契約だからただ従うのか。
契約の縁が生まれたからこそ従うのか。
「お前が決めろ」という提示は蘭子を尊重しているからなのか、無関心なだけなのか。
答えは出ず、直接聞くには、まだ溝を感じていて切り出せない。
-
両の掌を見やる。
頼りなき細腕の双方に神経を集中させれば、冷気と熱気の相反する感覚が疼きとして出てくる。
これがランサーが言うところの魔力の源、魔術回路であるらしい。
夢見た魔法の力は、思っていたよりも、重かった。
戦いは怖い。
それよりも誰かが傷付く方が怖い、とは言えない。怖いものは怖いままだから。
隠れていれば、きっと楽だ。誓いに偽りがなければ危険からはランサーが守ってくれる。
ランサーもきっと、それに非は唱えないだろう。というか何を言ってもたいていは認めてくれそうな気がする。
けど少なくとも自分には、そこで"選び取る"自由がある。戦いの手段を持っている。
選択肢すらない人がいる中で、自分が選ばないままでいるのは、少しだけ―――少しだけ嫌だった。
アイドルとして称号を得たあの日から、考える時がある。
昔、自分以外の世界が怖かったのは、自分が何も知らなったからだと。
外に出れば、いずれ知るだろう。戦ってでも手に入れたい大事な物を持った人と。
未来。希望。そう名付けられるものに命を懸けようとする強い願いを。
死にたくない理由は山ほどある。けれどそれでは足りないのだろう。
神崎蘭子にとって譲れぬもの、負けられないもの、誇れるもの。
それが脅かされる事になった時、自分は選択をしなければならない。
自分が傷つくか、他人を傷つけるかの岐路を。
猶予は砂時計のように有限だ。
針が進めば、決まったように皆が動き、仕事に向かい蘭子もそれに従って行く。
外の世界で起きる出会いへの不安。恐怖。期待。
同期から呼び声がかかるまで、蘭子はずっとそれらについて考え続けていた。
ガラスの靴を履いた足が階段を鳴らす。
城の扉が開かれる音が、遠くで聞こえていた。
-
以上で投下終了です
申し訳ありませんが状態表まで間に合いませんでした。今日の昼までに改めて投下したいと思います
-
拙作の状態表を投下しまう。遅れて申し訳ございませんでした。
【ノースサイド・宿泊施設(蘭子の部屋)/一日目 朝】
【神崎蘭子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生としては多め
[思考・状況]
基本行動方針:我が覇道に、一片の曇り無き事を!
1.自分の思いを知る為にも、「瞳」の持ち主との邂逅を望む。
2.アイドルの仕事は続けていたいけど、誰かが巻き込まれるようなら―――
3.我が友と魂の同調を高めん!
[備考]
アイドルとして既に行った活動、今後の活動予定は後の作品に一任します。
【ランサー(カルナ)@Fate/Apocrypha+Fate/EXTRACCC】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]「日輪よ、死に随え」「日輪よ、具足となれ」
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、その命を庇護する。
1.蘭子の選択に是非はない。命令とあらば従うのみ。
2.現代の言葉は難解なのだな。
[備考]
-
投下お疲れ様です!
何この和む主従……蘭子ちゃんは勿論としてカルナさんも可愛い、可愛くない?
完全に外様サイドというのは立場的にはメリットもデメリットもありそうですね。
お仕事優先だと必然的に目立つことになりそうなので、他の「瞳」の持ち主の目にも留まるかも。
同じモバマス鱒の鷺沢さんとは知り合いなのか……は今後の話で判明するのかしないのか。
あ、状態表遅れは全然問題無いです!本編間に合わせていただけただけでも十分って感じで!
-
投下乙です
カルナさんがほんとカルナさんですw
蘭子ちゃんとのやり取りもほっこりいたしました
果たして蘭子ちゃんの歩む覇道は彼女をどこに導くのか!
-
お二人共投下乙です。
・首括りの丘へ
パチュリーさんとたぬきの咬み合って無いようで噛み合ってる感じアーイイ……遥かに良いです……
魔術慣れしてる図書館の魔女がこんなになるとは……想像以上に正気度喪失ルールが危ういですね。
そして魂抜かれただけでは飽きたらず、死体をもてあそばれる名も無き女学生に合唱。
・選択
萌えキャラしかいねぇ(断言)
>「……それは、どのような宝具だ?いつ発動する?」
>「存分に闇に飲まれるがいい」
さすがカルナさん、天然で主を追い詰めていく。
そして初めて男性と同じ部屋で寝泊まりした蘭子ちゃんのリアクションカワイイヤッター!
-
最新話のWiki収録、および>>713で申請を受けましたメンタリストのスキルを差し替えました。
本編登場前でしたら他にもステータスの修整は受け付けますので、遠慮せずにどうぞ。
ついでに邪神聖杯サーヴァントの一覧画像を作ってみたので、ご参考までに(バネ足の画像が無いのは仕様です)。
ttp://i.imgur.com/raOWGSf.jpg
マスターのほうはまたの機会に……。
-
投下します
-
聖杯戦争開幕。
戦争と名を冠するが、参戦者は事前情報では26組。更に先日、亜門によって一組が退場したため25組になる。
つまり最大50名。更にはバトルロワイヤル形式である以上、敵対する人数は更に減る。
一組にとって戦う相手は多くて精々10〜15組程度でしかないだろう。
しかし、このアーカムの市民にとっては50組全員が脅威であることを亜門は知っている。
英霊たちの戦いを見れば精神に異常をきたし、巻き込まれれば死は免れない。
先日殺したキャスターのマスターに至ってはサーヴァントを肥やさせるための餌という認識しかしていなかった。
そんな悪鬼天災が跋扈する地獄に立っているすら知らぬ、無辜の市民を見捨てることなど亜門鋼太朗に出来はしない。
彼らを犠牲にしないためにも戦う場所と相手を知る必要があった。
故にマスターとサーヴァントを探し出すことは必要であるのだが、誰が味方かわからない以上は自力で探すしかない。
今日も亜門は朝の自主パトロールへ出る。
「今日も調査かい? 」
傍で霊体化していたランサーが話しかける。
中性的な容姿と騎士団長という肩書きから勘違いされやすいが彼女は女性である。
真名はリーズバイフェ・ストリンドヴァリ。亜門と同じく人に仇なす異形種を狩る聖堂騎士。
聖杯戦争ではマスターとサーヴァントという上下関係だが、亜門は使い魔ではなく同志として見ている。
「ああ、ここ最近になってロウワー・サウスサイドに精神異常者が大量に現れたところを見ると
聖杯戦争参加者の可能性が潜伏している可能性が高い。」
「うん、その可能性は十分に考えられる。それで何処を探すんだい?
流石にあそこを全部探索するのは難しいんじゃないかな」
ランサーの意見は尤もである。ロウワー・サウスサイド地区は広くない方なのだがスラムの路地裏は迷路なのだ。
スラムの路地裏では前世紀から粗大ゴミや産業廃棄物を違法投棄する輩が後を絶たない。そのためゴミで道が塞がり迷路と化している。
しかも毎日ホームレスがゴミを持ち出すため道が変わり、昨日の通れた場所が通れないということも珍しくない。
「被害者は特に人気のない路地裏で見つかっている」
「そう言えばそういっていたな」
-
霊体化して会議の内容を聞いていたランサーは情報を整理する。
ロウワー・サウスサイドの地形を利用して犯罪が毎日行われている。
殺人、窃盗、誘拐、人身売買、違法薬物の取引、マフィアの会合や抗争など犯罪のバリエーションにはキリがなく、
そんな暗がりに潜む犯罪者達が次々と精神異常者へ成り変わっているのがスラムの現状だ。
さらに異常なのはスラム街だけではない。
電報、電話、夕刊ボストンイブニンググローブなどの新聞社に至るまで謎の介入・改竄を受け、ある内容に書き換えられているのだ。
その内容が────
「〝ロウワー・サウスサイドの白髪の喰屍鬼〟か。マスター、恐らくこいつがサーヴァントだろう。
しかし、自分の存在をわざわざ周囲に広めて何が狙いだ。『タタリ』じゃあるまいし」
「────」
「マスター?」
「──ッ。ああ、申し訳ない。ボーとしていた」
「君、しっかりしたまえ。
もう何処から狙われるかわからないんだぞ」
ここ最近呆ける回数が多いのは亜門自身理解しているし、原因もほぼ把握していた。
英霊達を従えてのバトルロワイヤル。
奇しくもその開幕前にフレンチヒルにて集団衰弱事件を引き起こしていたマスターを殺した亜門だったが、それが必ずしも亜門のリードを意味するものでない。
(やはり……回数が減りつつあるが、あの戦いから呆けることが多かった)
おそらく強烈な光景を見せられて頭のネジが弛んだからだろう。
つまり今後も戦いを重ねるということは〝ああいったもの〟を見るということであり、すなわち精神崩壊のリスクを孕み続けるということを意味する。
ならばアーカムの異変を見て見ぬふりをし、他のマスターから逃げ続けるのが正しいか────断じて違う。
亜門鋼太朗の力は世界を正し、人々を救うために磨いた力だ。
故に例え相手が喰種(グール)でなくても無辜の人々が異形に喰われることを見過ごせるはずもない。
むしろ、この情報は早期に獲得できてよかっただろう。亜門鋼太朗の戦う理由ができたのだから。
亜門がアーカム市内の地図を開くと今回の探索ルートが赤いインクで描かれていた。
「この街の地図だな」
付箋を使って細かい情報を記しているのが実直な彼らしいとランサーは感想を抱くと探索ルートとは別に赤丸がいくつか描かれている。
「マスター。この○はなんだ?」
「これは恐らく聖杯戦争参加者が起こしただろう事件の場所だ。発狂者や死者が何名も出ている」
「そんな場所こそ探索すべきじゃないのか」
「スラムと違って野次馬や捜査官がまだ多い。犯人や他のマスターがいた場合、最悪そこで戦闘になる。そうすると」
「また大勢の市民が犠牲になるというわけか。
ふふ。なんというか、君は本当にお人好しなんだな」
「愚かだと笑ってくれても構わないさ」
「いいや、そうじゃなくてね。君がマスターで本当によかったと思ったのさ」
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【ソレデハ諸君、観測ヲ始メヨウ】
金木研はロウワー・サウスサイドで男達に囲まれていた。
「お前が〝白髪の喰屍鬼〟か?」
最近では金木は〝白髪の喰屍鬼〟という通り名がそこかしこに知られており、彼を見つけた人間は二通りの行動を取る。
一つは逃亡や命乞いといった無害な行動だ。
金や物を差し出す人もいるため、ある程度の金品は得たが、それ以外の凶器やらドラッグやらは必要なかった。
そしてもう1つのパターンが現状。
白髪の喰屍鬼を倒せば箔がつくと思ったり、金木の持つ違法物を狙ったりする連中がこうやって日常的に襲ってくるのだ。
「何とかいいやがれ!」
いつまでも黙っている金木に男は怒り(あるいは怖れて)金木の眉間に拳銃の銃口を押し付ける。
周りの男達もそれに続いた。
はぁ、と溜め息しか出ない。
名声が欲しければ他を当たって欲しいし、違法物が欲しければ勝手に持っていって構わない。
なんとなく財宝を持っていたから襲われる神話の怪物達の気持ちがよく分かる。
自分は、『あんていく』に戻らねばならないのだ。従って目の前の男達は────
「邪魔ですね」
以降、男達の姿を見た者はいない。
何処かで猫がニャアと鳴いた。
-
真実を追い求め、彼を見張っていたシュバルツ・バルドは遂にその一端へ辿り着いたと確信する。
「見たかキャスター」
「ああ、見たともマスター」
キャスターは確信する。
あれこそが噂の発信源。
あれこそが今回の舞台装置
彼を主役にしたこの演劇はきっと────────喜劇だ。
狂気の笑みを浮かべてシュバルツ・バルドとキャスターは
「開幕のベルを鳴らそう」
「腐った街の住人も邪神の走狗のマスターも、全員に真実と恐怖を思い知らせよう」
「演目名は──」
「見出しは──」
「「〝アーカム喰種〟(アーカム・グール)」」
-----------
「な、これはッ!」
既にマスターとロウワー・サウスサイドに訪れていたランサーは〝覚えのある〟波動を感じ取った。
忘れられるはずがない。かつて己を殺した魔業を忘れることは己の魂が許さない。
「固有結界『タタリ』……!」
ランサーが敵の宝具の名前を言ったとほぼ同時に次なる異変は起こった。
-
「グァァァァェェェェエエエェェィィィ」
金木研の前の空間がガラス窓を殴ったように割れた。
そして割れた空間の奥から赫子のように赫黒い血泥がドロリと垂れてコロンブスの卵のように立ち、次には〝中身〟が蠢き始める。
殻だった血泥が滴り落ちて浮き出るように現れたのは白いスーツを纏った太い腕だった。
「ガァァァァァァネェェェェェェ」
ああ、そうだ。金木研はこれを知っている。
忘れられるはずがない。頭で忘れようにも全身を巡る赫子がこれを記憶している。
「ガァァァァネェェェェギィィィィィィ」
そう、忘れられるはずがないのだ。
何故ならばこれは今の金木研を生み出した存在であり元凶。
己の中の〝喰種〟という存在を喰らわねば倒せなかった最凶の敵。
全ての血泥が落ちた時、金木研にとって最悪の悪夢が顕現した。
「カネキィィィィィ」
十三区の悪鬼、金曜日の死神、半赫者、ジェイソン、そして『ヤモリ』。
数多の名で呼ばれた〝白髪の喰種〟が再誕の産声を上げた。
───そして同時刻、亜門の方にもタタリが現れていた。
「コォォォォォォゾォォォォォォ!」
ああ、そうだ。亜門鋼太朗はこれを知っている。
忘れられるはずがない。頭で忘れようにも全身の細胞がこれを記憶している。
そう、忘れられるはずがないのだ。
何故ならば彼女は新米だった頃の亜門鋼太朗に襲いかかった最初の喰種。
上司の真戸呉緒がいなければ死んでいてもおかしくなかった老喰種。
全ての血泥が落ちた時、亜門鋼太朗にとっての最初の悪夢が顕現した。
「小僧ォォォォォォ!」
「アップルヘッド────村松キエ!!」
アップルヘッドとコードネームで呼ばれた〝白髪の喰種〟が再誕の産声を上げた。
同時刻、別の場所、別の相手に対して生まれたタタリは別の口から全く同じことを吐いた。
「「開幕直後より鮮血乱舞。烏合迎合の果て名優の奮戦は荼毘に伏す。
廻セ……廻セ廻セ…………廻セ廻セ廻セェェェ!!」」
狂気に満ちた台詞回しは明らかに第三者によるものだろう。
そして言葉が意味するのは役者の死、即ち亜門達の滅殺宣言に他ならない。
明後日の方向を見ていた村松キエの眼がグルリと回り、その赫い眼球を亜門に合わせる。
「久しぶりだねぇ小僧ォ。
もう一人の捜査官(ハト)はいないのかい?」
確かな殺意と悪性情報で塗り固まった噂が、『タタリ』の主の意志を乗せて駆動する。
-
「村松キエ! 貴様がこのロウワー・サウスサイドで人を殺している殺人鬼か!?」
「ん、ああ、確かに〝白髪の喰屍鬼〟はあたしだよ。お前らがそう噂する限りはそうあり続ける」
「ならば───」
『クラ』を取り出して切っ先を村松キエへ向ける。
「また貴様を倒すまでだ!」
「ほざいたな小僧ガァァァァ!!」
村松キエの臀部の衣服を突き破って現れる喰種の武装『赫子』。
村松キエの赫子は亜門の記憶している彼女ものと同じく尻尾の形状をした『尾赫』と分類付けされるもの。
亜門にとって見慣れたものであり、それを繰る彼女の実力も知っている。今の亜門にとって容易く倒せる相手だ。
「何を考えているか分かるぞ。お前、また私に勝てると思っているだろう」
「それがどうした!」
過去の戦いで亜門はこの老婆に遅れを取った。
しかし、それは村松が老婆の姿を利用した弱者の装いに躊躇したからであり、亜門鋼太朗が未熟だっただけのことだ。
今は違う! 殺せるッ! 例えどんなに弱々しい仕草や憐れみを誘う命乞いをされても殺して見せるッッ!!!
しかし、そんな亜門の覇気は村松キエに一切通じず。
「ク、ハ、ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
狂笑と共にその赫子が爆発的に質量を増し、大蛇の如き巨大な尾赫へと成長した。
「なッ」
ムカデと称されたSS級喰種に劣らぬ大量の赫子は無論、生前の村松キエには有り得ない。
「こちとら前よりピンピンじゃコラァ!!」
圧倒的な質量と暴力を込めて奮われた尾赫は空間自体を軋ませながら刹那の間に亜門へ到達する。
赫子───それは喰種の最強の武器であり同時に人間を裁断する調理器具。
どんなに弱い喰種でも、例え幼い児童であっても大人三人の四肢をもぎ取るだけの力を宿す。
しかもこれだけの大赫子。亜門を殺して余りあるだろう。
しかし、その尾が亜門を砕くことはなかった。
ランサーが聖なる盾を持って亜門の前に立ちはだかり、尾赫を防いだからだ。
いや、防ぐどころか弾かれた尾赫が水風船のように弾けて赤い粘液が撒き散らされる。
-
「マスター、指示を」
血腥い修羅場においてもランサーから発せられる戦意は清廉。まさに神の名の下に戦う殉教者の如し。
攻撃を防いだ盾も金属音を響かせ続け、ガマリエル自体が武者震いしているようにも思えた。
そして、防がれた方もまた、口角を吊り上げて喜悦を隠さない。
「そうか。お前か『盾の乙女』。その盾の加護と令呪のパスで小僧は正気を失っていないというわけか」
「お前こそ随分と余裕だな。もう夜が白み始めてきている以上、死徒であるお前の力は衰えていく一方だというのに」
死徒。それは食屍鬼(グール)を経て霊長から逸脱した吸血種(ヴァンパイア)。
一般的な吸血鬼のイメージ通り、彼らは日に弱い。
つまり朝方に戦うなど自殺行為に等しいはずなのだが目の前の敵はそんなもの一顧だにしていない。
「本体はどこだ?」
「言ってやる義理は無いねぇ」
コイツを潰しても所詮は影だ。本体である虚言の王まで届きはしない。
つまり、村松キエとの戦いは魔力をするだけとなるが、かといって無視するわけにもいかなかった。
コイツは己を生み出した者を皆殺しにする現象なのだ。放置すれば〝白髪の喰屍鬼〟を噂したアーカム市民全員が殺される。
よって────
「ランサー。駆逐しろ」
「ああ、了解した」
盾から銀色の杭──「滅び」の概念武装が牙を剥く。
亜門はまだ知らないが、これはタタリ。死徒が生み出す吸血の夢だ。故にこの杭こそが死徒殺しに有効である。
ああ、そうだ。リーズバイフェ・ストリンドヴァリはタタリを知っている。
忘れられるはずがない。頭で忘れようにも英霊の座がこれを記憶している。
そう、忘れられるはずがないのだ。
何故ならばコレはリーズバイフェを殺した最期の敵。ヴェステル弦楯騎士団を鏖殺し、その血を啜った夜の支配者。
己と、そして仲間の仇敵────!!!
「キキ、キキキ、キキキキキキキキキキキ」
尾赫が、クラが、ガマリエルが、三様に振るわれる。
事実だけを述べれば村松キエはランサーに太刀打ちできない。
そしてランサーの装備は聖なる力を宿しているため、タタリに有効だ。
しかし、亜門達はまだ理解していない。
タタリで編まれた悪夢がどれほど悪辣なのかを。
-
ヤモリが姿を顕して最初に感じたのは狂気だった。
普通ならば何故生きているとかお前は死んだはずだとか思うだろう。
もしくは神代リゼと同じ幻覚かと疑う。
しかし、金木研がヤモリを認識した瞬間に迫る理解。
あれは神秘だ。
神秘。
神秘、神秘。
神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘神秘────!
固有結界『タタリ』という神秘を見て金木研の精神が悲鳴を上げる。
しかし、同時刻にタタリと戦っている亜門とは別の理由で、この聖杯戦争で起き得る精神ダメージを受けず、すぐに持ち直す。
理由は三つ。
一つは固有結界がまだ完全発動ではないこと。
二つ目は金木研をベースに顕現したタタリであるため彼自身に対しては神秘性が低いこと。
そして三つ目は金木研とヤモリの相性。
金木研はかつてヤモリを倒し、その赫包(赫子を生み出す臓器)を喰っている。その際にヤモリの自我が金木の中に混ざってしまったのだ。
故に金木の精神の一部はヤモリであり、金木の赫子の一部はヤモリのものである。
つまり双子のように存在が近いため神秘性がやはり薄い。
例えば金木が自分のことを神のように崇めるナルシストならば神秘性は増しただろうが、彼にそんな思考回路はない。
すぐさま持ち直し赫子を展開する。
ヤモリは聖杯戦争の参加者だろうか────などと考える余裕すら与えられず奴が剛腕を振るう。
挨拶代わりに振り下ろされた掌を金木は避けた。
本能的に回避を選択した金木だったが、それが正解だったと知る。
「な!?」
金木研の記憶に依る敵────ヤモリの強さは自分より弱い。
何せ一度倒した相手だ。しかもその時より金木は強くなっている。
だから勝てるだろうとタカを括っていたが、それが誤りだと認識した。
今避けたのは赫子すら纏っていないただの拳だ。
にも関わらず殴った石畳で舗装された路地に爆雷の如き轟音と半径ニメートルものクレーターを生み出した。
何だコレは。どうなっている。
喰種どころの話ではない。ヤモリの常識を逸脱した破壊力に戦慄が走る。
「どうしたんだいカネキ君。そんなに怯えることないよ」
優越の笑みを浮かべて拳を握って再び振るうヤモリ。
このままではまずいと金木は判断した瞬間────
「あ……」
お腹に溜まっていた〝何か〟がきゅるりと広がって────
百足の足音が…………した…………
-
ロウワー・サウスサイドの鉄塔の頂上部。
長年の老朽化と破壊の震動でいつ倒壊してもおかしくないその場所にシュバルツ・バルドはいた。
彼はキャスターが用意した望遠レンズで金木研を見ていた。いや、金木研だけを見ていたというべきだろう。
「まだか、まだ現れぬのか」
シュバルツ・バルドはかつてパラダイムシティと呼ばれた都市の真実を知っている。
そして、このアーカムはパラダイムシティと同じような構造だ。用意された民衆、用意された舞台で役者を踊らせるママゴトでしかない。
では、この都市の真実は何処にある?
我々のメモリーを弄ったのは何者だ?
いや、そもそも我々の記憶は正しいのか?
答えを求め、手掛かり探した結果、ある存在を知る。
その種は邪神。ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが書いたアーカムを舞台とした邪神恐怖譚に登場する化物。
人が作り出した神(デウス)。ラヴクラフトはそれを小説にして出版し、その後不自然な死を遂げている。
「これだ。これに違いない」
邪神の手掛かりを求めて、その一端に辿り着いた。
それこそがあの赫黒き原始的な恐怖をもたらす軟体生物の如き触腕である。
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金木は絶叫していた。
言葉は既に乱脈を極めており、有体に言って気が触れている。
「1000ひく7ひく7ひく7ひく7はあああ?」
だが同時にこれが喰種である金木研の全力であった。
莫大な赫子を身に纏うように展開する『半赫者』の形態。
正確には全力ではなく赫子の暴走だが強さのレベルは跳ね上がっている。
「生きるってのは他者を喰らう事…だから喰うんだよオ!!」
金木研は赫子は鱗赫。再生力と一撃の重さが特徴であり、攻撃的な反面で脆い。
一撃で再生不可能なレベルの傷を負わす相手とは相応のリスクが伴う。
故に今回の金木研とヤモリの戦いは金木研が不利だった。
如何なる理由か、圧倒的パワーを得たヤモリの手足は凶器で、更に赫子によって手数も増えている。
にも関わらず────
「ペンチで五指捩じ切って、耳の中にムカデ入れて、喰い足りねぇよ雑魚が!!!」
金木がヤモリを圧倒していた。
縦横無尽に駆け回り、人間が視認すら不可能になった速度で全方位からヤモリの肉を削ぐ。
要は当たらなければどうということはないのだ。桁外れの膂力もこれでは無価値である。
無論、今の狂乱した金木にそんな戦略的思考などできはしないが。
「カネキィ!」
ヤモリのスーツは引き裂かれ、タタリで受肉した体は噛み千切られている。
それでもヤモリは拳を振り回し、赫子を広げて攻撃を続けていた。
瓦礫を巻き上げ、ミキサーのように粉微塵にしていく二人の戦いは天災そのもので、周囲に甚大な被害をもたらす。
近くにいた浮浪者や犯罪者はヤモリを見て発狂するか、巻き込まれて肉片へと変わり果てていた。
賢い者ならば音だけで既に遠くへ避難しているだろうが愚者はそうはいかない。
宙を舞う肉を喰らいながら金木とヤモリの戦いは更なる回転率を上げていく。
-
「いあいあいィィィィィアァァァァァ。僕の、私の、いいや俺のモンだ消えろ!!!」
支離滅裂な言葉を吐いて赫子を振り回す金木は文字通り、狂乱した化物である。
そんな彼を見てヤモリは侮蔑を投げ掛ける。
「弱いなぁカネキ君」
今もなお一方的に攻撃されているヤモリが金木を弱者と嘲笑う。
ヤモリは激情型でプライドも高い。これほど一方的にいたぶられて普通ならば平気であるはずがない。
しかし、ヤモリは怒り狂っているわけでもなく極めて平常に近かった。
ならば負け惜しみでいったのかと言うとそうでもない。単純に彼の無様を嗤ったのだ。
「何だその様は。俺を喰っといて喰われている? 滑稽だよ全く」
そんなヤモリの嘲笑を理解できない金木は、遂にヤモリの心臓を捉えて鱗赫を振るった。
そして狙い通りにヤモリの胸部を潰し鮮やかな血が噴き出てここに金木の勝利が決まる────はずだった。
「やっぱりお前、俺に喰われろ」
低く、そしてドス黒い憤怒を混じらせた言葉と共に、金木の振るった鱗赫が引っ張られる。
そして、赫子がヤモリの全身を覆い────────赫者が姿を顕した。
「ガァァァァァネエエェェェギイイイイイイィィィィィィィィィィ!!!」
喰種の中でも最上位。SSS級の冠を戴く最強の怪物。それが赫者である。
それらは同胞たる無数の喰種と共食いし、大量の赫包と一種の変異を伴って新生する存在だ。
本来……金木にとっては生前のヤモリはそれの途上たる半赫者である。そして半赫者のまま金木に喰われた。
だからヤモリが赫者に成れるはずがないのだが、大前提を忘れてはならない。
これはタタリ。人の噂によって形を得た悪夢であり、その力も噂の質に左右される。
今回で言えば〝人を喰い殺す白髪の喰屍鬼〟という暴力的な噂を再現すべくヤモリは強化されて顕れた。
つけ加えてキャスターのスキル『吸血鬼』による上昇補正がまだ続いていることと此処が聖杯戦争と暗黒神話の舞台であることも関係している。
つまり、なまじ強壮な連中や神話生物という強大な怪物を知っているNPCが多いため、彼らが想像する怪物のレベルが高いのだ。
「殺す殺す殺す殺してグチャクチャにして喰ってやる!!!」
間欠泉のように抑え込んでいた呪詛を口から噴き上げながら赫子を纏って四回りも大きくなったヤモリの拳を振るわれる。
無論、威力は先ほどとは段違い。そして鱗赫を引っ張られている金木は回避の術がない。
「あらあらあららららららああららら!!!」
全ての鱗赫を防御へと回すが、しかし怒れる赫者の攻撃を防ぐことはできないだろう。
その時────金木の腹の中でまた〝何か〟が動き、全身へと広がった。
-
「ガアアアアアアアアア」
村松キエだったものの断末魔が響き渡る。
勢いよく盾から飛び出したランサーの杭が村松キエの心臓を貫き飛ばした。その衝撃で宙に浮いた村松を亜門が追う。
二刀に分けたクラのうち片方を地面に突き刺し、それを踏み台として跳んだ亜門はもう片方のクラで老婆の首を刎ね飛ばした。
亜門達の勝利である────これがただの喰種との戦いならば。
「マスター! まだだ!!」
ランサーの澄んだ声が耳朶を打つ。
(まだとはどういう意味だ?)
他に敵がいるのかと残心する亜門だったが次の異常の前には無意味だった。
「鼠ヨ回セ! 秒針ヲ倒(サカシマ)ニ! 誕生ヲ倒ニ! 世界ヲ倒ニ!」
もはや声帯すらないはずの村松キエの胴から男の声が出る。
内容はまったく理解のできない言葉の羅列である。何を言っているか検討もつかない。
しかし、亜門にとって完全に不意討ちで次の異常を止めることができない。
「廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セェェェ!!」
時計の針が巻き戻るように村松キエの傷口から血が、肉が、骨が湧いて人の頭部を象っていく。
いや、それだけではない。皺だらけの体が瑞々しく、体格がボコボコという音と共に小柄に変容し、全く別の存在へと変わる。
「お前は……」
変容後のそれは隻眼だけが赫い少女だった。白い服を纏う〝白髪の喰屍鬼〟だった。
彼女もまた亜門の知る人物である。その少女の名は──────
「安久ナシロ! 君が……何故?」
呆けて致命的な隙を晒し続ける亜門にナシロと呼ばれた少女の美脚が蹴りを放った。
風切り音を伴うそれは人間の頭部を蹴り飛ばすどころか粉微塵にするものであり、亜門であっても常人と同じ運命を辿るだろう。
亜門は未だ空中にいるため身動きできない。しかし、為す術がないわけではない。
「再帰!!」
地面に刺したクラが亜門の持つクラへと引き寄せられ、ナシロの足へと勢いよくぶつかり蹴りを妨害する。
「マスター下がって!」
亜門を守るように前に出るランサー。盾へ杭を戻し、〝宙に浮き続けている〟ナシロを警戒する。
一方でふわりふわりと浮いて白い外套をはためかせながらその瞳は二人を見下していた。
そして彼女の背中から鱗赫が、莫大な量の赫子が吹き荒れる。
ああ、何の冗談だ、これは。まるで彼女が───
「亜門一等…………」
彼女の鱗赫が震える。その様は噴火直前の火山を思わせて、巨大な一撃がくることを告げている。
「させない」
ランサーが前に出た。先に潰すつもりなのだろう。
ナシロは宙に浮いているとはいえ精々5メートル。サーヴァントならば一瞬で詰められる距離だ。
いや、しかし、そんなことは。
「ランサー! 待ってくれ、彼女は!!」
彼女は何だ亜門鋼太朗。
あのナリを見ても人間だというつもりか。
先ほど村松キエを前に誓ったお前の信念はどこへいった。
-
言葉が出ない。
口が震え、声帯が麻痺する──それは最近味わったばかりの”恐怖”という感情に由来する。
『正式外典ガマリエル』の守護は確かに亜門にも働いているが、所詮お零れである。
ランサーとの距離が離れたり、相手の神秘が強ければ途端、この聖杯戦争の正気度略奪に引っかかるのだ。
つまり、村松キエから安久ナシロという格の高い存在に変わったことにより神秘性が上がったため、彼は今恐怖している。
ランサーはそれを理解している──だから前に出た。
キャスターもそれを理解している──だからこそ前に出した。
だが、亜門だけが全く別の、現実を認めることに対する恐怖からだと思って理解していない。
故に全く無自覚に《中度》の精神ダメージ、激しい混乱に陥って、呆然とナシロを見続ける。
そして逆に、自分を見続ける亜門の瞳にナシロは──
「私を見るな!!!」
大爆発した。ドラム缶並に太かった鱗赫がさらに増え、白面九尾の妖獣が如く九つに増えた大鱗赫が周囲を薙ぎ払う。
「マスター!」
正気度を喪失している亜門を守るランサー。
宝具『正式外典ガマリエル』は魔を弾く城塞。あらゆる魔性と不浄に有効な聖盾だ。
赫子であろうがタタリで編まれている以上は魔性であることに違いなく、聖盾はナシロの攻撃を防ぎ切っていた。
しかし、聖盾に守られなかった全てがこの世から消える。
ナシロの攻撃は暴力のハリケーンそのものであり、轟音と共に周囲の建物を一気に破壊し尽くし更地に変える。
一撃で建物が跡形もなく粉々に破壊されたのだから中にいた一般人の生死ことなど言うまでもないだろう。
そうした惨状を目にしながら未だに亜門は目の前の光景を信じられなかった。
「安久ナシロ、なぜ君が!?」
「マスター! あれはタタリだ!! 本人じゃない!!!」
村松キエの時と同じく赫子は弾けていたが再生が早いのが鱗赫の特徴である。
ランサーは即座に再形成して振るわれた触腕の如き赫子の一本を防ぎ払う。
ランサーの杭も盾も魔的な存在に対して抜群の相性を誇っている。事実盾には傷一つない。
「廻セ」
しかし。
「廻セ廻セ廻セ」
三本の鱗赫が迫る。
それを弾くもランサーの肩が少し抉れた。
そして────
「廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セェ!」
同時に五本の鱗赫がランサーを襲う。
前後左右上方から迫る攻撃はランサーの処理限界を超えており、急所は全て守るも左足と右腕が潰される。
致命傷を防いだだけでも彼女の防御技能は凄まじいと言えるのだが、そんな賛辞はこの場では何の役にも立ちはしない。
着陸して止めを刺さんと飛び出したナシロの凶手を亜門が止める。
-
「安久ナシロ。お前はただの喰種か? お前があんなにも憎んでいた喰種なのか?」
「亜門一等」
腕とクラとの鍔競り合いの中、無感動に亜門の名を呼んで、そしてこう告げた。
「人間なんて捨ててやったよ。歪んだ世界に興味はない」
「ただの喰種でいいんだな、お前は」
亜門はアーカムに来る前、元の世界で彼女の姉である安久クロナを見た。
左目に喰種の特徴である赫眼を彼女は持っていた。
故にもしかしたら彼女(ナシロ)も──と思っていた。
そして、その不安はタタリとなって今、目の前にいる。
「そうよ。だって────」
「そうか。ならば────」
ナシロもまた亜門から赫眼を逸らさない。
「「世界を歪めているのは」」
安久ナシロと亜門鋼太朗。二人の口から同じ言葉が交わされる
「「お前たちだ!!!」」
鱗赫が、そしてクラが分離して振るわれる。
居合の如く放たれた両者の攻撃は若干ナシロの方が早い。
故に亜門の敗北か───否。彼は一人じゃない。
「マスター!」
再起したランサーが盾で亜門を守る。〝今度こそ〟守りきる。
そして、一人しかいないナシロに亜門のクラを防ぐ術はない。
よって、対喰種用の武器「クインケ」は喰種を殺すという機能を十全に全うする。
「ぐ、は」
これが決着。左鎖骨から右の脇腹まで両断されて今度こそタタリは原型を保てない。
輪郭が崩れ、灰になるように散っていくナシロ。その最後に────
「かくて男は誇りを取り戻し、タタリに堕ちた少女を正す────ご満足いただけたかな?」
第三者の言葉を吐いて少女は消えた。
-----------
[ロウワー・サウスサイド/1日目 早朝]
【亜門鋼太朗@東京喰種】
[状態]疲労
[精神]一時的狂気(激しい混乱)
[令呪]残り3画
[装備]クラ(ウォッチャーによる神秘付与)
[道具]
警察バッチ、拳銃、事件の調査資料、警察の無線、ロザリオ
[所持金]500$とクレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:アーカム市民を守る
1.他のマスターとの把握
2.魂喰いしている主従の討伐
3.白髪の喰屍鬼の調査
[備考]
※調査資料1.ギャングの事務所襲撃事件に関する情報
※調査資料2.バネ足ジョップリンと名乗る人物による電波ジャック、および新聞記事の改竄事件に関する情報。
※神秘による発狂ルールを理解しました。
※魔術師ではないため近距離での念話しかできません。
※警察無線で事件が起きた場合、ある程度の情報をその場で得られます
【ランサー(リーズバイフェ・ストリンドヴァリ)@MELTY BLOOD Actress Again】
[状態]健康(少々の魔力を消費)
[精神]正常
[装備]正式外典「ガマリエル」
[道具]なし
[所持金]無一文
[思考・状況]
基本行動方針:マスターと同様
1.タタリを討伐する
2.キーパーの正体を探る
[備考]
※女性です。女性なんです。
※秘匿者のスキルによりMELTY BLOOD Actress Againの記憶が虫食い状態になっています(OPより)
※『固有結界タタリ』を認識しましたがサーヴァントに確信を持てません。
-
ヤモリが放った一撃はベチャリと赫子と肉を四散させた。
跳ねた血がヤモリの顔にかかる。
ただし、それは金木の血ではなくヤモリの血であり、飛び散った肉片もヤモリのものだった。
「お、おお、おおおおおおお!!!」
ヤモリの振るった拳は手首から先が消失していた。
赫者でありタタリであるヤモリの攻撃は喰種の鱗赫程度で防げるはずがない。
ならば一体何がと目を向けた先に答えがあった。
「イアいあイアいあるーすといあ!」
金木のムカデのような赫子に銀色の筋が走っていた。
さらには赫子とは明らかに異なる──異形の黒い硬質な触手が生えている。
それらが集束して一本の太い、黒銀の赫子になる。
「にゃる・しゅたん。にゃる・がしゃんな。にゃる・しゅたん。にゃる・がしゃんな」
凹凸のある赫黒銀のムカデはまるで……まるで銀色の鍵だ。
「カネキィテメェェェ!」
ヤモリは知る由もないが、金木研はこのアーカムへ来る前にある物とある者を喰った。
それは銀色の鍵と浅黒い男。
一つは〈門〉を開き時間と空間を超越する〈境界〉の彼方へ向かう銀の鍵。
今回の行き先はアーカム限定であったが、時空を超越していることに違いなく、故に銀の鍵と化した鱗赫はヤスリのように
触れたものを削っていつかのアーカムのどこかへ飛ばしてしまう。
そしてもう一つの男は邪神の化身。その血肉を喰らい体内を巡った宇宙的神秘と恐怖は赫子となって見た者を狂わせる。
つまり今の金木の赫子は触れたものの耐久力を無視して削る異形の何かだ。
タタリであるヤモリはコレを発狂することはないが、あの赫子に触れるのはこの世から削がれることを意味する。
今ここに、この聖杯戦争における象徴的な力が顕現した。
「あなた邪魔ですね。亜門さん死なないで。僕に喰わせろ。
僕が僕が僕があああああいあいあいぐないいいィィィィィ」
だが、そんな力は喰種といえど何の代償もなく使えるわけではない。なぜなら赫子とは喰種の血中を循環するRc細胞なのだ。
〈門〉と邪神の混沌に引きずられて金木研も自壊し、喰種の能力で再生しても明らかに元とは異なる浅黒いものへと変わっていく。
それらは元の肉体よりも強壮である。しかし、その代償に今度は意識が混沌へ溶けていく。
何か、冒涜的な何か、理解してはいけない神話生物的な何かへの変異が始まったのだ。
最早、金木の鼓膜を振るわすのは百足の音ではなく呪われたフルートの狂おしき音色と下劣な太鼓の連打に変わっていた。
-
「ガ〜〜ネ〜〜〜ギィ〜〜〜〜」
再生を終えた赫者の拳が迫る。
それに鱗赫で対抗する金木。
チェーンソーで削られる樹木のようにヤモリの拳が削られていくも、ヤモリの攻性は止まらず、蹴りが放たれる。
鱗赫による防御が間に合わないと判断した金木は両腕を交差させ防御の構えを取る。
しかし、そんなものは焼け石に水でしかなく、金木は両腕の骨肉と肋骨をいくつか粉砕されて蹴り飛ばされた。
いくら金木が邪神の触手という最強の盾と矛を持とうと相手は赫者のタタリ。
耐久力も再生速度半端ではなく、一撃が重いであるため次は掠ることすら許されないだろう。
故に金木も一撃で決めなくてはならない。相手の攻撃を掠めることなく急所に赫子を叩き込む技能が求められている。
「ガネギィィィィィィィィィィィ!!!」
夜の帳が曙光によって裂かれる中、二人は最後の衝突を行う。
それは悍ましく、勇ましく、恐ろしい化け物同士の決着。
それを傍観する狂人は喜悦を浮かべていた。
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「おお、これだ。これこそが真実へ至る手掛かりだ」
あの鍵と黒い触手こそ邪神の実在を証明する。
明らかに世界法則を逸脱しつつあるアレはこの聖杯戦争の主催者にとって見過ごせないものとなるだろう。
【ゴ満足イタダイタ?】
声のした方向、シュバルツ・バルドの足下に無線を括り付けた可愛らしい猫がいた。
その無線から流れる声は本来、マスターの正気を奪う神秘性を宿しているはずだが、狂人たる彼に正気を疑うなど無意味である。
【うおおおヤベェ、マジヤベェ】
【さっき新聞社にコイツの言ってみた】
【意味が理解不能な上に俺らの声で発狂しちまったさ】
【え? 何? 私達ってもしかして殺人犯?】
【アーカムでんなモン振り回すな住んでる俺には迷惑だっつーの】
【包帯男……実在したんた】
【コイツサーヴァントじゃね?】
【お前の仕業か】
【早く止めろ。アーカムが壊れる】
【このアーカムを壊すのが目的なんですか?】
支離滅裂というより大勢が好き勝手に話すせいで会話らしい会話になっていないため最後の質問だけに答えることにした。
「私は真実の探求者だ。それを知りそれを知らしめる。
この即興劇の第四の壁の向こうを明らかにする演者にして批評家だ」
邪神の実在。この箱庭の世界を揺らす神。その存在を思い知らしめるためにここにいる。
【何言ってんだコイツ】
【邪神ねぇ。ミスカトニック大学の本でそんなの見たけど本当にいるのか】
【邪神ってアレだろ? ルシファーとかサタンとか】
【それ悪魔やん。邪神って言ったらマーラ様やで】
【まぁとにかく何か言いたいことあるなら言ってみなよ聞いてあげるし、ばらまいてあげる】
【おいおい、『バネ足ジョップリン』は不干渉だろ】
【その通り。私たちは】
【傍観者】【観測者】【だから何もしない】
馬鹿め、馬鹿め、馬鹿め。
アレを見てまだわからないのか?
ならば演者として踊らされているがいい。
乱雑な会話を続ける無線猫を置き去り、シュバルツ・バルドは鉄塔から降りる。
既に金木とタタリの戦いは終わっていた。もはやこの場に用はない。
「見ているがいい観客(じゃしん)共! 貴様らの存在の一切を暴き立てて流布してやる!!」
白みがかった曙光の空を睨んでマイクル・ゼーバッハと呼ばれた包帯男が叫ぶ。
何処かから嘲笑う声がした。
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【ロウワー・サウスサイド/1日目 早朝】
【シュバルツ・バルト@THEビッグオー 】
[状態]健康
[精神]狂人(正気度判定を必要としないが、いつでも物語の表舞台から姿を消す可能性がある)
[令呪]残り3画
[装備]ガソリンを染み込ませた包帯
[道具]望遠レンズ付きカメラ(キャスターの道具作成によるもの)、ライター、替えの包帯
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:真実暴露
1.金木研をモデルに邪神の情報を流布し、邪神の存在を知らしめる。
[備考]
※金木研の中にある邪神の触手を視認しました。
※ウォッチャーの存在を認識しました。
※この世界の仕組みを大体知っています(登場話より)
※ラヴクラフト小説を読んだためEランク相当の「神話技能」スキルがあります
【キャスター(ワラキアの夜)@MeltyBlood】
[状態]健康(戦闘分の魔力を消費)
[精神]Bランク相当の精神汚染
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]一文無し
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争の筋書きを書いた者を探し出し、批評を叩きつける
1.タタリの範囲を広め、よりイレギュラーを生み出す乱数を作り出す。
2.いっそのこと『邪神』をタタリで出すのも面白い
[備考]
※固有結界タタリより以下のかたちを取ることができます。
(〝白髪の喰屍鬼〟、〝包帯男〟)
※亜門鋼太朗&リーズバイフェ・ストリンドヴァリを認識しました。
※金木研を認識しました。
※スキル「吸血鬼」より太陽が昇っている間はステータスが下がります。(タタリのステータスも下がります)
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-
「彼アイヌ、眉毛かがやき、白き髯胸にかき垂り、家屋の外に萱畳敷き……」
金木研は路地のマンホールから悪臭漂う下水道へと逃げていた。
あれだけ暴れたのだから今頃大騒ぎだろう。大量の屍が晒されている中、一人ポツリと立っていれば連続殺人犯の扱いを受けてしまう。
「さやさやと敷き、厳かしきアツシシ、マキリ持ち……」
それに傷は塞がっているがヤモリとの戦闘で疲労困憊である。
他のマスターに見つかるわけにはいかなかった。
金木とヤモリの最後の一撃は互いに頭を狙っていた。
結局のところ金木研は触手を出したことによる《重度》の精神ダメージより気が触れていたため、
相手の攻撃を躱すという思考回路まで至らなかったのだ。
よって相討ちとなるはずだったが、ここでタタリにとってのタイムリミットが発生する。
「グ、オ、オオオオォォォォ!!!」
吸血鬼の弱点である朝の陽射しが彼ら二人を照らしたことでヤモリの赫子は一気に崩壊を迎える。
生と死を分かつこの最終局面で僅かにでも天秤が傾けば勝てるはずもなく、ヤモリの攻撃は逸れて当たらず、金木の攻撃は的確に頭を潰した。
赫者はそのまま引き千切られ、バラ撒かれ、踏み躙られ、タタリかタタリの犠牲者なのかすらわからない無残な姿となって霧散したようだ。
ようだ、と表現するのは金木が正気の状態でなかったから。
(僕は一体、どうしてしまったんだ)
赫者となったヤモリの戦いでは終始フルートと太鼓の音と人間の枠を超えた声域で話す暗黒の男の声を聞いていた。
そして今も────
「怖がることないさ。友達になろうよ金木君」
やめろ。入ってくるな。
「私は君の味方さ」
お前は誰だ。
「私は暗黒の男で這■寄■■■だよ」
知るか。知らない。知ってたまるか。
「ならば『白秋』を詠って正気に戻るといい。
私はいつでもここにいる。
ずっと君の腹の中で君を見ているよ」
「………………マキリ持ち、研ぎ、あぐらゐ」
「…………ふかぶかとその眼凝れり」
「……」
【オヤオヤイツノ間ニカ場所取ラレチャッテルネ】
【ああ、君か。今後ともよろしく】
【アア、ヨロシク。アナタモバネ足ジョップリンノ誰カナノカ?】
【そうだな。そういうことでいいだろう】
【ソノ返事ハドウイウ意味? アナタハモシカシテ邪神?】
【そうもあるだろうし、そうでないこともあるだろう。どうだってよいではないか。
君達をどうこうするつもりは無いし、君達にどうこうされるつもりもない】
【OK。オ互イ不干渉トイウコトダネ。一緒ニ神話ヲ作リマショウ】
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【ロウワー・サウスサイド/1日目 早朝】
【金木研@東京喰種】
[状態]疲労(神話生物化1回)
[精神]思考停止中(《重度》の狂気から戻る途中)
[令呪]残り3画
[装備]鱗赫(赫子と邪神の触手と銀の鍵のハイブリッド)
[道具]違法薬物(拠点)、銃(拠点)、邪神の細胞と銀の鍵の破片(腹の中)
[所持金]100$程度
[思考・状況]
基本行動方針:あんていくに行かないと
1.どこかで休まないと
[備考]
※邪神の化身と銀の鍵を喰ったためピンチになった時に赫子に邪神の力と銀の鍵の力が宿ります。
※神話生物化が始まりました。正気度上限値を削ってステータスが上がります。
※暗黒の男に憑かれました。《中度》以上の精神状態の時に会話が可能です。
※《重度》に陥ったため精神汚染スキルを獲得しました。
※『白秋』を詠うことで一時的に正気度を回復できます。
【ウォッチャー(バネ足ジョップリン)@がるぐる!】
[状態]観測中
[精神]多数
[装備]不要
[道具]不要
[所持金]不要
[思考・状況]
基本行動方針:金木研の神話を作る
1.【猫じゃ流石に限度があるね】【カメラのある場所探そうぜ】
[備考]
※包帯男を認識しました(マスターかサーヴァントかはわかっていません)
※暗黒の男を認識しました
※包帯男の都市伝説を広めています。
※暗黒の男はナイ神父同様に正体がアレですが、別口です。
どんなキャラかはナイ神父同様に書き手に委ねます。
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秘匿者(キーパー)のサーヴァントことシオン・エルトナム・アトラシアはエーテルライトによってスラムの顛末を狂人と化したNPCの脳髄から読み取った。
並列思考と■■霊子■算■ヘル■スによる計算、そしてキーパーとして知っている各主従の人格と能力から何が起きたかを完璧にシュミレートする。
「これは許容できない」
キーパーは機械的に、理論的に、そして自動的に判断を下す。
『秘匿者』の役割は聖杯戦争と邪神の隠蔽だ。
あのシュバルツ・バルドというマスターはそれを故意に破ろうとしている。
厳重注意、いやこれ以上の暴露を防ぐために強制退場させるべきか。
いずれにせよ直接会うより他にあるまい。
「再演算停止」
キーパーが立ち上がる。
彼女の背後にはチクタク、チクタクと尋常ならざるリズムで時を刻む棺型の大時計と────巨大な鋼鉄の何かがいた。
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【???/1日目 早朝】
【キーパー(シオン・エルトナム・アトラシア?)@MELTY BLOOD actress again】
[状態]健康
[精神]健康
[装備]エーテルライト、永劫刻む霊長の碑
[道具]エーテルライト
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の完遂と邪神の隠蔽
1.シュバルツ・バルド&キャスターペアの裁定
[備考]
※ある程度の情報があれば何が起きたかシュミレートできます
※シュバルツ・バルドを裁定しに行きます。
-
投下終了します。
初めてなのにクソ長い……
-
投下乙です!
どんどん過激になるバトルがすごく良かったです
参戦者が次々と変異していく様は、まさに悪夢
しかし噂関連のシステムは酷いことになってますね
『白髪の食屍鬼』の噂が広まるたびに、金木・タタリそして亜門の戦闘力が高まり、その戦闘でさらに噂が強化され、それによって(ry
……これは、アーカム最後の日も近いですね(確信)
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投下乙です!
開幕直後から鮮血乱舞、その名の通りの大波乱でした。ワラキア監督、もうちょっとこう、手心というものを……
邪神をミキサーに流し込んで飲んで喰種とすら形容しがたきなにかになってるんですが、カネキくんハードモード通り越してインフェルノですねもう。強く生き、いややっぱ無理か
そしてマスター一覧表を作っていたら1氏がサーヴァント一覧表を作っていた。何を(ry
というわけで、急遽フォントを>>727に合わせて邪神マスター一覧表をお贈りします。少しでも助けになれば幸いです
ttp://i.imgur.com/BTQCWPi.gif?1
-
遅くなりましたが投下乙です!
開幕から大惨事、噂が力を持ち力が噂を呼ぶ地獄絵図……!
強い強いとは思っていましたが冗談みたいに強いですねバネ足補正タタリ。
東京喰種の原作を踏襲しながらもクトゥルフ的な意味で暗黒神話に突入してて恐ろしい。
オリジナル設定の『黒銀の赫子』ですが、1的には大歓迎です。
意識と肉体を侵食されるリスクと引き換えに触れたものを「窮極の門」の向こうに吹っ飛ばす赫子、といった感じでしょうか。
カネキ君がまともじゃないのは登場話で既に示されてましたしね。面白い設定だと思います。
シュバルツがラブクラフトの神話作品で神話技能を得てる、というのも有りですね。
実際に「ラブクラフトは邪神に纏わる事実を元に小説を書いた」との設定の作品もありますし(ロバート・ブロックの『アーカム計画』とか)。
ただ「小説を読めば誰でもそれが事実を元にしたと分かる」という物でもないので、シュバルツ級の狂人で初めて技能を獲得できるってところかな。
大作お疲れ様です、楽しませていただきました。
>>749
おお、ありがたい!>マスター一覧表
実を言うとマスターのほうはちょうどいい画像が見つからずに四苦八苦していたところなのです。
後ほどWikiにも収録させていただきます!
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ローズマリー&グリフィス、ジャンヌ&エネル、予約します。
-
皆さん投下乙です
金木研&ウォッチャー(バネ足ジョップリン)を予約します
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投下します
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あの日々に追い縋り、あの日々を追い越して、気付けば背後に、彼らは見えず。
下水道は、腐った死骸と這い回る溝鼠と、糞尿の臭いがした。
やっぱりここは、嫌いだ。
「かえ、らなきゃ」
あんていくに、帰る。
僕の『喰種』としての出発点であり、大切な仲間たちが日々を過ごしている、喫茶店。
入見さんが珈琲を入れ、古間さんが掃除をして、芳村さんが店長としてニコニコとカウンターに立っている。
看板娘の董香ちゃんがぶっきらぼうさを隠しながら、時たま西尾先輩と喧嘩もしながら、接客に励んでいる。
雛実ちゃんが二階の客間で本を読み、分からない単語があれば僕に読み方と意味を聞きに来る。
四方さんが立ち寄れば、特訓が始まる。彼は結構スパルタだった。
そんな居場所に、帰りたい。
そんな彼らを、救いたい。
そのためにも、僕はこの聖杯戦争を勝ち抜かなければならない。
そのためにも、まずは拠点に戻り、身体と精神を休めなければ。
鉛のように重くなった足を動かす。一歩、一歩。ほんの少しだけでも前に進むために。
疲れとそれ以外のナニカで飛びそうになる意識をなんとか現実に繋ぎ止めながら、地下を行く。
入り組んだプチ迷宮と化したこの道も、いくらか通い慣れたつもりだったが。
今日はなんだか、僕を拒否するように、意地悪をするように、ぐにゃりぐにゃりと歪んで見えた。
いつもよりもずっとぼんやりとした感覚で進んでいるから、かもしれない。
それとも、先ほどのように、何者かの攻撃を受けているのかも。そうだったなら、摘まなければ。
なにはともあれ『14』番だ。あそこまでいけば、あとは地上に一直線。
そう思うと気が楽になる。やっぱり、何事でもゴールが設定されていると安心するものだ。
この聖杯戦争だってそうだ。
今だって、自分の身体のことも、先ほど蘇ったヤモリのことも、分からないことは沢山ある。
だけど、結局は簡単な話なのだ。
勝てばいい。勝ち続け、奪い続け、何もかもを犠牲にした先に、きっと希望は待っている。
そのためには、もっと強くならなければ。誰にも負けないように。誰も奪われないように。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともと…………僕は、強くなる。
みんなのために、つよくなる。
僕の決意を嘲うかのように、ぐぅと間抜けな音がした。
ああ、お腹が空いたなあ。
-
と、その時。
ネコの鳴き声が遠くに聞こえた気がした。
そうか、もうこんなところまで来ていたんだ。
梯子を昇り、マンホールを下から突き上げる。地下から地上へ。光量差に目を細める。
陰気くさい、隠れ住むにはぴったりなこの通りでも、今は朝の陽ざしがキラキラと差し込んでいた。
誰にも見つかっていないことを目と耳とで確認しながら、そっと音をたてぬよう、閑散とした家々を抜ける。
ちらほらと空家も見える、みすぼらしい住宅の集まり。その一角が、僕の拠点だ。
「おかえり、金木君」
急に湧いて降ってきた言葉に一瞬、身構える。ぼんやりしていたとはいえ、不覚だ。
声の先、僕の家の玄関扉の目前にあるちょっとした段差に、ヒトが座っていた。
白黒マダラ模様の、無線機を付けられた猫をほれほれと構いながら、もしくは構われながら。
表情の窺えない、無表情というよりも、ハムスターのような邪気の無さで。
彼女は、首にかけたカメラを構えた。
「『バネ足ジョップリン』から通達があるけど……」
遂に始まった、聖杯戦争。
その初戦にてさっそく死闘を繰り広げた、帰り道に。
「まずは、食事にした方が良さそうだね」
小学生くらいの背丈の女の子/オイシソウナニクが、僕を待っていた。
無機質なカメラのレンズの奥底で、僕を観測していた。
パシャリ。にゃぁ。
-
【Sainty Check】
・金木研…………『成功』
・掘ちえ…………『成功』
-
「お待たせしました」
『保存食』を食べ終え地下室から戻ると、彼女は猫に押し倒されていた。
べち、べち、と猫パンチを食らいながら、平然とした顔で写真を撮っている。
「……何してるんですか」
「え?このアングルで撮るのが一番良いかなって」
人間としての尊厳はどこに消えたのだろうか。
至極真面目な顔の彼女――掘ちえにして『バネ足ジョップリン』に苦笑いを返しながら、珈琲を淹れる。
あんていくには遠く及ばないインスタントだが、背に腹は代えられない。
そもそも、こうやって人並みの住居や珈琲を手に入れられるのも全ては僕のサーヴァント、ウォッチャーのお蔭なのだから、文句など言えば罰が当たる。
彼らの中(?)に生身の人間が存在していたおかげで、ツテを頼って僕は最低限の生活を送ることが出来ている。
治安のせいか人が全然住んでいない地域の家を借り、地下室に僕のための『食事部屋』まで設け、聖杯戦争に備え、日中をここで過ごすことが出来る。
全く、いたせりつくせりだ。ホームレスとして暮らしていた頃を『思い出す』と涙が出る。
彼らからすればこれは干渉でも何でもない、サーヴァントとしてのマスターへのサービスのようなものだと言っていたが、それにしても普通の人間に比べて規模が違う。
なんだか普通とは別の方向に、僕はサーヴァントの強大さを理解しつつあった。
「ほら、ハイセはあっちに行った行った」
「へー、ハイセっていうんだ。どういう意味?」
「ドイツ語で名無し、ですよ。どこから来たのかも今ひとつ分からない、『この子たち』にはぴったりかなって」
僕は今、日中はこの家で隠れ過ごし、夜になると地下道を通り街のあちこちに出て他のマスター探しを続けている。
バネ足の中には、ウォッチャーたる自分たちにすべて任せておけばいいと言う意見もあった。
だが、彼らとてカメラのない路地裏など観測できない場所は存在し、そういった場所を僕が虱潰しに探索するのは有りだろうという結論が出ている。
結果的にゴロツキ、チンピラの類に絡まれることも多くなってしまったが
・トラブルの火種を抱えるリスク
・難易度の高い『食事』の調達が出来るというリターン
の二つを天秤にかければとんとんといったところか。
まあ、僕としては、何時でも何処でも現れるクズどもには心底うんざりしているのだが。
そう。今の僕にとって差し当たっての問題は『食事』である。
通常、喰種はひと月に一度、人肉を喰うだけで生きていける。
この、ひと月に一度という特性のお蔭で、喰種は古来より人間と正面衝突しなければならないことにもならず、基本的にはひっそりと生活できているといえよう。
だけど、この聖杯戦争において、僕は普通の人間と同じく一日三度の『食事』をとらねば空腹感を覚える身体になってしまっていた。
-
原因は二つ考えられている。
一つは、サーヴァントの魔力供給にかかる負担が増大だということ。
僕のサーヴァント、ウォッチャーは特殊なタイプであるらしく、そもそもサーヴァントなのに戦闘を行えない。
代わりに彼らは魔力を消費し、『観る』のである。
詳しくは知らないが、24時間魔力を消費し色々と『観る』彼らからの負担は結構シャレにならない。
一度にごっそりと持っていかれるわけではないが、少しずつ持っていかれる分、より分かりづらい負担が僕の身にかかり続けているのだ。
それこそ、人間が何もせずとも勝手にお腹が空くのと同じ要領。
ただ、人間と違うのは、僕がエネルギーを得るためには人を喰うしかないということだ。
「私たちは人の生き死にに直接干渉はしないから、その辺りは金木君自身に頑張ってもらうしかないね」
という言もあり、今は摘まれても良いような『クズ豆』を調達し、地下室に保存したりもしている。
「ご飯を自分で取ってきてくれるのは、こちらとしてはありがたいね」
「人を猫みたいな言い方しないで下さいよ」
ハイセが僕の膝の上に乗り、いつのまにやら口に咥えていた鼠の死骸をぽとりと落とした。
「ペットは飼い主に似る?」
「こういうのでその例えはなんか嫌ですね……」
心なしか自慢げな表情をしながらこちらをじっと見つめてくるハイセを撫でてやる。おーよしよし。
ともかく、もう一つ考えられている原因。
それは、都市伝説『白髪の人喰い鬼』の影響だ。
僕は今、ウォッチャーの力により一種の『都市伝説』となっている。
そのおかげでサーヴァントとも渡り合えるようになっているらしいのだが、問題は『引っ張られる』ことらしい。
曰く、他人が僕を見て人を喰う喰種だと思いやすくなっているように。
僕自身でさえ『白髪の人喰い鬼』たらんと無意識に思わされている……のかもしれないという仮説だ。
「街を出歩けないっていうのは不便だよね」
「そこはもう割り切ってますので……」
だが、もしもこの仮説が正解だったとしても、僕にはどうすることも出来ない。
いや、正確には、例えそうだとしても、どうもする気がない。
この力を失えば、僕は奪われる側にしかなりえないのだから。
誰に恐れられても良い。誰に怖がられても良い。
いつか僕自身が僕自身の在り様を嫌悪する日が来ようが、止まる気はない。
僕の評判や実態など、どうでもいいことなのだから。
今はただ、あんていくのために戦うことしか頭にない。
-
「通達の前にちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そんな僕の決意を鋭敏に嗅ぎ取ったのだろうか。
急に改まった顔をして、『バネ足ジョップリン』の一員である少女はちらりと僕を横目で見る。
その真剣な表情に、少し緊張。いったいなんだろう。
「金木君さ」
もしかして。
さっき、彼女のことを■■■■■と思ってしまったことがバレ――
「どんな女の子がタイプ?」
僕は、むせた。
「あー、ごめんごめん。ナンパしてるとかじゃなくて」
「単刀直入に言うと、どんな女の子とエッチしたい?」
僕は、大いにむせた。
-
「いやー、そういえばうっかりしてたと思ってさ」
酷い状態になっている今の僕のことも少しは気にして欲しい。
無慈悲に焚かれるフラッシュに「もしかして狙ってやったのだろうか」という疑念も芽生え始める中、少女は一方的に話を続ける。
「食事も睡眠も今のところ大丈夫だけど、最後の一つが完全スルーだった。
金木君もオトコノコなんだから、ちゃんと全部の欲求を満たしてあげないとね」
「いやいやいやいや何する気ですか。ナニする気ですか!」
「……金木君ってけっこうムッツリスケベ?」
「断じて違います」
「別に生ものをそのまま送ってあげようってわけじゃないよ。
キミの好みに合ったエロ本を私たちが選別して、プレゼントしてあげようかなと」
「いりません、全く必要ないです」
「さあ、どういうのが好きなのかお姉さんに話してごらん」
「正直言って、今でもちえさんが僕より年上っていうのが信じられないんですけど」
「私としては、年下が好みだったらちょっとひくかも」
「……誰のことを想像してるんですか……」
「というわけで、今度ドSっぽいクールなお姉さん系ポルノを進呈しよう」
「実は人の話全く聞く気ないですよね!?」
「金木君、ようやく顔から力抜けたね」
「……そうですか?」
カメラを操作して撮った写真を逐一確認し、満足そうにうんうんと頷くちえさん。
ニカっと笑んだ彼女の顔が、朝日のように眩しく感じた。
-
「モデルの色んな面を撮るのは楽しいな」
「結局は写真ですか……」
はぁ〜と大きな溜息をついて見せるも、やはり全く気にする様子もない。
流石、あの月島さんの友人をしているだけはある。自由奔放という定型句が似合うお人だ。
でも、こういう振り回され方は、そこまで嫌いではなかった。
この街で会話ができる数少ない奇人の存在が、今の僕にはありがたい。
ひとしきり写真の吟味を終えたのか、そういえば、といった風に、カメラを首にかけなおし。
ちえさんは、ようやく本題に入ってくれる。
サーヴァント、ウォッチャーとしての。
『バネ足ジョップリン』としての、本題を。
「『標的』の情報が入ったよ」
と、いうことは。
「うん。聖杯戦争、ようやく一歩前進だね」
【ロウワー・サウスサイド・寂れた住宅街/1日目 早朝】
【金木研@東京喰種】
[状態]疲労(神話生物化1回)
[精神]少しリラックス
[令呪]残り3画
[装備]鱗赫(赫子と邪神の触手と銀の鍵のハイブリッド)
[道具]違法薬物(拠点)、銃(拠点)、邪神の細胞と銀の鍵の破片(腹の中)
[所持金]100$程度
[思考・状況]
基本行動方針:あんていくに行かないと
1. まずは休もう。
2.『標的』への対処。どう動くかな。
[備考]
※邪神の化身と銀の鍵を喰ったためピンチになった時に赫子に邪神の力と銀の鍵の力が宿ります。
※神話生物化が始まりました。正気度上限値を削ってステータスが上がります。
※暗黒の男に憑かれました。《中度》以上の精神状態の時に会話が可能です。
※《重度》に陥ったため精神汚染スキルを獲得しました。
※『白秋』を詠うことで一時的に正気度を回復できます。
※聖杯戦争における『標的』の情報を得ました。詳しい中身は次の書き手にお任せします。
-
ハロー、バネ足ジョップリン。
こちらバネ足ジョップリン。
金木君に情報を渡したよ。
【オカエリ、バネ足ジョップリン。オ疲レ様】
【無事デ何ヨリダヨ】
【チッ、喰われなかったか】【賭けは私の勝ちだね。例の口座にウェブマネー振り込みよろ】
【最低だな】【サイテーだな】【恥を知れ】【まあまあ】【有りじゃね】
【いや、人の生き死にで賭けとかドン引き】【そういうお前らも今まで散々他人の運命に関わってきたわけだが】
【迷子の女の子を出口まで導いたり?】【気に喰わねえやつを最下層に誘い込んだり?】【直接手は出してないからセーフ】
【で、今回はどっちなんだよ】
どっちでもないんじゃないかな。
私が与えた情報を彼がどう利用しても、利用しなくても、それは彼の勝手だし。
その結果として彼が死んでも、まあ仕方ないよね。
【ククク、君ハ最高ニ『バネ足ジョップリン』ダネ、バネ足ジョップリン】
【君ガ私タチノ得タ、ドノ『情報』ヲドレダケ彼ニ提供シタカハ敢エテ詮索シマイ】
【キット、面白クナルコトダケハ確カダロウカラネ】
あ、それと気になることが一つあるんだけど。
金木君、前よりも神秘っぽくなってたよ。
【フム?】
上手く説明できないんだけどさ。なんか、ぞわっとした。
今回は大丈夫だったけど、これからもっと“そう”なったとしたら。
もしかしたら、会うだけでハッキョーしちゃうかも?
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【そんなアホみたいなこと起こるわけないだろ】【邪神がどうとかの話?】【馬鹿馬鹿しいね】【でも、実際に僕たちの声で発狂した人もいますし……】
【我らがマスターは所詮サーヴァントならぬマスターの身である。その存在そのものだけでサーヴァントの宝具級になるなどあり得んとは思わんかね?】【相変わらずあんた偉そうだな】
【そうならないに3000!】【ならないに5000】【相変わらず最低だな、お前ら】
【そうなるに、50000】
【誰だあんた?】【知らない顔だな】【俺たちに顔なんてないんですけど?】【比喩なんですけど?】【ヒャッハー!】
【やけに大きく出たな】【金持ち!】【鴨葱!】【玉の輿!】【本音丸出し】【悪くない】
【いやいや、気にしないでくれたまえ。ただの新貌だとも】
【しかし……もしも彼が“そう”なって、誰とも顔を合わせられなくなったとしたら】
【彼はいったい何のために、誰のために、戦うのだろうね?】
【偉そうなのが増えたな】【厨二乙】【厨二といえば、丁度この街に来てるアイドルの子が可愛くってさ】
【僕はアナスタシアちゃん!】【兄弟、飲もうぜ】【ライブを無料(ただ)見出来るって超便利だよな、俺ら】【今度のライブも超楽しみだよね……観測者としてね!】
【そういえばこないだTRPGやったんだけどさー。神話生物って見ただけでSanチェックなのな】【どうでもいい】【チラ裏】【いいから観測しろよ】【なんだこの落差】
【イズレニセヨ、私タチノスルコトハ変ワラナイサ】
【観測シ、幕ノ合間ニ登場人物へチョッカイヲカケナガラ、コノ物語ヲ楽シム】
【例エ中身ガ誰デアッテモ、ソノ一点ニオイテ私タチハ等シク『バネ足ジョップリン』ダトモ】
【アーカム全土/1日目 早朝】
【ウォッチャー(バネ足ジョップリン)@がるぐる!】
[状態]観測中
[精神]多数
[装備]不要
[道具]不要
[所持金]不要
[思考・状況]
基本行動方針:金木研の神話を作る
1.【色々見て回ろうぜ】【お祭りだね】【どっちかっていうとまだ前夜祭じゃないかな】
[備考]
※包帯男を認識しました(マスターかサーヴァントかはわかっていません)
※暗黒の男を認識しました
※包帯男の都市伝説を広めています。
※金木研に情報を渡しました。また、それ以上の情報を保有しています。
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投下終了します
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乙です
ラストに出てきた新顔(?)のバネ足さんにヤバい気配を感じる
なんかこう…ラブ□的な
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投下乙です。
カネキくんこのままずっと休まず連戦かと思っていたので小休止できてよかった。
そして蘭子ちゃんとアーニャ逃げてー!
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感想遅くなってすみません、投下乙です!
まさか早くもリレーが繋がるとは、嬉しい誤算です。
カネキ君、あのまま孤立無援で戦い続けるのかと思ってたけどバネ足はちゃんとサポートしてくれるんですね。
今までの発狂状態のムカデとは違うカネキの一面が見れて、こういうのこそリレーの醍醐味って感じ。
ていうかバネ足の中に無貌の化身さん馴染み過ぎでしょ……w
バネ足の会話の中にもいろいろ膨らませられそうなワードが入ったりして楽しかったです。改めて乙でした!
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シルバーカラス&西行寺幽々子、白レン&ドッペルゲンガーアルル、予約させていただきます。
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芳乃さくら&徳川吉宗、アルフォンス・エルリック&リナ・インバース、ナイ神父
予約します。
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報告遅れてすみません、予約延長します。
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大変遅くなりまして申し訳ありません、投下します。
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祈りの内容は、いつも同じ。
(――世界が、平和でありますように)
孤児院から引き取られて聖・少・女としての使命を帯びるようになってからも。
ここアーカムで再び孤児の役割(ロール)を得て、聖杯戦争のマスターとして暮らすようになってからも。
ただひとつの願いは、ジャンヌにとって不変のものだった。
フレンチ・ヒルの孤児院の一日は、神へと捧げる祈りの時間から始まる。
教会によって運営されている孤児院ならではの宗教的意義だけでなく、子供達の自律精神を育てることも見込んだこの習慣は、
まだ12年にも満たない人生の大半を信仰へと費やしているアイアンメイデン・ジャンヌにとっては、自然の営みそのものに思える。
他の子供たちが寝ぼけ眼をこすりながら形ばかり手を組んでいるのに目もくれず、ジャンヌはただ一心に祈る。
お祈りの時間が済んだら、朝食だ。
フレンチ・ヒルは古い家柄の住民が多く、そこで古くから人々の信仰を支える教会もまた相応の歴史を重ねている。
寄付金は潤沢といってよく、孤児院の経営に支障を来たすことなどありそうもないが、教育方針の関係で食事の内容は質素なものだ。
もっともジャンヌはそれに不満はない。質素倹約もまた、信仰に生きる者にとっては大切なことだ。
贅沢は人の心を肥え太らせる。肥満した心は更なる傲慢を呼び、その心はいずれ『悪』として断ぜられる。
悪は、己の在り方が呼び込むものなのだ。
簡素な食事を済ませると、次は勉強の時間。
ジャンヌを含む孤児院の子供達の大半は、アーカム市内の学校へは通っていない。
アメリカでは義務教育課程においてもホームスクールが合法であり、宗教的理由で教会関係者が教育を行うこともある。この孤児院はまさにそれだった。
基本的には一般的なエレメンタリー・スクールで学ぶ内容に加えて、神学の初歩の初歩を学んでいる。
ジャンヌは決して頭の悪い子供ではない。むしろ、年齢不相応といっていいほどの聡明さをもった少女である。
ならば勉強もその能力相応に出来るかというと……悲しいかな、必ずしもそうとは言い切れない。
そもそもちゃんとした学校に通った経験がないのだ。受けてきた教育も、X-LAWSのリーダーとして立つための、言ってしまえば歪んだものである。
この日もジャンヌは慣れない問題に四苦八苦しながら――ふと、こんなことをしていいのだろうかと思いを巡らせた。
(既に聖杯戦争は始まっている。先生方が話していらした連続衰弱死事件も、恐らくはサーヴァントの仕業なのでしょう。
本来ならば市中に潜む敵マスターを探し出すか、あるいは来たるべき時に備えて巫力を高めるべきなのでしょうが……)
改めて思う。『孤児院の子供』という役割(ロール)は、あまりにも制約が多い。
一日のスケジュールが定められていて、休日でもなければ自由に出歩けそうにない。
夜になれば大人たちの目を誤魔化して抜け出すことも出来るのだろうが、少なくとも日中は正規の手段では難しそうだ。
もちろん強引な手を使えば可能だろう。しかし噂が立てば、最悪こちらがマスターであることまで推測されかねない。
(こういう時に、サーヴァントと役割を分担するのが正しい聖杯戦争の戦い方なのでしょうが……。
あのライダーに頼るのは、危険すぎる。出来ることは、自分自身でしなければ)
アイアンメイデン・ジャンヌは、己のサーヴァントであるライダー――“神(ゴッド)・エネル”を信頼していない。
傲岸不遜。唯我独尊。
畏れ多くも神を僭称し、その偽りの威光の元にあらゆる暴虐を是とする男。
仮に敵味方に分かれていれば、ジャンヌは彼に聖なる裁きを下すことに躊躇いはない。
しかし今は事情が異なる。このアーカムに集うサーヴァント達がいずれも人類史の超常存在ならば、こちらもサーヴァント無しでは戦い抜けない。
たとえジャンヌが神クラスと呼ばれたシャーマンであり、全力ならば法神シャマシュがサーヴァントに通用しうる可能性があるとしてもだ。
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認めざるを得ないが、ライダー・エネルは強い。
そもそも「信仰だけをもって神性スキルを得た」というのがまず破格以外の何物でもない。
そしてその神性の拠りどころとなっているであろう、雷そのものを体現する宝具。
常時発動型宝具ゆえの異常な魔力消費を除けば、このアーカムにおいても最上位の一角に位置する英霊だろう。
しかし。それと命を預けるに値する相手かどうかは、別問題だ。
『……ライダー。私が表立って行動していない間、勝手はしていないでしょうね?』
『勝手? ヤハハ、これは異なことを言う。勝手を許したくばもう一画の令呪をもって我が戒めを解くのだな』
念のためにライダーへと念話を送るが、返事は予想通りのもの。
当然ながら「何かした」などと言うはずはない。分かっていたことだ。
しかし、ライダーの異常な魔力消費は、逆に言えば派手に行動すればそれが即座にジャンヌにも伝わるということ。
恐らく、嘘はついていない。恐らくは、だが。
『街へは出たのでしょう? 何か感じたことがあれば、教えていただきたいのですが』
『つまらん。私が生きた時代よりも遥かに技術が進歩しているというから期待していたのだが、人間どもは未だに『神』を克服していない。
いかに科学とやらを信奉しようと、結局のところ自然の暴威を前にしては震えるしか出来んのだ。幾年経とうが人は人だな』
口ではつまらないと言いながら、エネルは何処か愉快そうな様子であった。
『……聞きたいのは、そのようなことではありません』
『ヤハハハ、お堅い娘だ。分かっている、聖杯戦争についてだろう? 既に我が“心網(マントラ)”はサーヴァント共の気配を捉えている。
相手が霊体化している間はどうやら気配感知の効率も落ちるようだが……実体化すれば、誰より早く探り当てよう』
聖杯戦争のための下準備は自分の意思で勝手に進めている、ということか。
ライダーの有する心網スキルは、周囲の人間の心の声を聞くことにより、同ランクの心眼および気配感知と同等の効果を発揮する強力なものだ。
サーヴァントの出現を誰より早く察知できるというのも恐らく嘘ではないだろう。
それに近距離ならば、アサシンの気配遮断スキルを破ることすら可能かもしれない。
やはり優秀なサーヴァントだ……それゆえにタチが悪い。
『分かりました。何か異変があればすぐに報告を』
『何を言ってる、我は神なるぞ。神が何を為すかなど、それこそ神のみぞ知るというやつだ』
『ライダー……!』
『ヤハハ、まあいい。それなりには期待に応えてやろう』
ため息と共に念話を打ち切る。
信頼関係どころではない……こちらが向こうを信頼していないのと同様、向こうもこちらを軽んじている。
ただ互いが互いにとって有益であるということだけによって成り立つ、薄っぺらい関係。
この状態で聖杯戦争を戦い抜くには、いったいどうしたら――。
「……ジャンヌ。あなたが夢見がちな性格なのはよく知っていますが、せめて授業中は勉学に集中なさい」
教師の一言で我に返ったジャンヌは、いつの間にか授業そっちのけで思案に耽っていたことに気付き、子供達の笑い声を浴びて赤面した。
▼ ▼ ▼
-
授業の終わりと教師からの軽い説教を経て、休み時間。
孤児院の廊下を歩いていたジャンヌは、突き当たりの守衛室の前で見覚えのある二人の人影が職員と話しているのを見かけた。
ひとりは壮年の紳士然とした人物で、この孤児院にも少なからぬ寄付をしている人格者と聞いている。
そしてもうひとりの、ジャンヌよりも少しだけ背の高い少女は、彼に引き取られたこの孤児院の出身者で――
「――――ローズマリー!!」
思わず、駆け出していた。
はしたないと知りながらも、驚いた顔を見せた金髪碧眼の少女へと走り寄り、その胸元へと飛び込む。
「ジャンヌ! 久しぶりね、元気だった?」
「ええ、ローズマリーこそお元気そう。おじ様が良くしてくださっているのですね」
そういってジャンヌが微笑むと、隣のローズマリーの父が余裕のある笑みで応えた。
「今日はスクールが休校になってね。ローズマリーが孤児院に帰りたいと聞かないから、連れて来たのだよ」
「ごめんなさい、お父様。でも来て良かったわ、だってジャンヌに会えたんですもの」
屈託のないローズマリーの言葉に、ジャンヌははにかんだ。
ローズマリーはジャンヌよりも1つか2つ年上の孤児で、しばらく前にフレンチヒルの名家に引き取られたと『記憶している』。
なんでも生き別れの親子だったという話だが、ジャンヌにとってそれはアーカムに辿り着く前の『記憶』であり、詳しい事情は知らなかった。
しかしジャンヌにとっては姉代わりの少女であるという実感は確かにあり、その感覚がジャンヌを柄にもなく高揚させていた。
……思えば、アイアンメイデン・ジャンヌはこれまでの人生で『友人』とか『家族』というものに縁がなかった。
孤児院にいた頃は孤独だったし、X-LAWSに引き取られて以降は同年代の子供と触れ合う機会すらなかったのだ。
マルコをはじめX-LAWSのメンバーは自分に良くしてくれたが、それはあくまで聖・少・女へと向けられた情であり、ジャンヌという少・女へのものではない。
ジャンヌ自身もそのような繋がりは自分の使命には無縁だと、顧みることすらしなかった。
しかし、こうして『普通の生活』をしてみて、初めて思う。
この暖かい気持ち……友人であり家族でもある、このローズマリーへの気持ち。
これはこの世全ての悪とは対極にある、善なる感情なのだろうと。
(……家族。私に兄を殺された彼にとって、その暖かさは二度と……)
自分の『死』の瞬間に聞いた復讐者アナホルの憤怒の声を、努めて頭から振り払う。
今のジャンヌは聖杯戦争のマスター。世界平和の願いのために戦う身で、これ以上後悔による迷いで足を止めてはいけない。
何より、せっかく会いに来てくれたローズマリーに、暗い顔は見せたくなかった。
「それで、ローズマリーはこれからどうなさるのですか?」
「今日はこれから、お父様たちと川向こうへお出かけする予定だったの」
「……そうなのですか」
顔を出しに来ただけで孤児院に留まってくれるわけではないと知り、遊んでいる場合ではないと自覚しつつもジャンヌの声が沈む。
それだけでジャンヌの気持ちを察したのか、ローズマリーが大げさに手を打った。
-
「……そうだわ、お父様! ジャンヌも一緒に連れて行ってはいけない?」
驚くジャンヌと、孤児院の先生が許しはしまいと難しい顔をする父。
だがローズマリーが重ねてねだると、渋々といった感じではあるものの、紳士は先生の説得を約束してくれた。
「今アーカムは物騒だって心配かもしれないけれど、大丈夫よジャンヌ。私には頼りになるお友達がたくさんいるもの」
そういって、建物の外に視線を向けるローズマリー。
つられてジャンヌも外を見る。そこには十人ほどの男女が、不動の姿勢で待機していた。
ローズマリーの家の使用人だろうか。それにしてはそれぞれの持つ雰囲気はばらばらで、どことなく統一感に欠ける。
あえて共通点を探すなら、みな胸に鳥の翼を模したような印章を着けていることだろうか。
しかしそんなばらばらな者たちは、ひとつの糸で繋がっているかのように統率されていた。
「あの方たちが、ローズマリーのお友達、ですか?」
「そうよ。みんな、とっても私に良くしてくれるの。私が言えば、ジャンヌにも親切にしてくれるわ」
「…………?」
どこか釈然としないものを感じるが、その違和感の出所が分からずにジャンヌは戸惑った。
ジャンヌは超一流の魔術師、神クラスのシャーマンである。魔術や霊による違和感ならばその原因に気付くことも出来る。
だが彼らの持つ「それ」はただの人間の持つごくごく僅かな不協和音のようなもの。
考えれば考えるほど、気のせいだったように思えてくる。
きっとローズマリーの父親が雇った人達なのだろう。ジャンヌは最終的にそう結論付けた。
先生のところへ話をしにいく紳士の背中を見送り、思いがけない幸運にまた少しだけ明るい気持ちに戻りかけ、
『……フン、お出かけではしゃぐとは。我がマスターは暢気なものだ』
『……ライダー。聞いていたのですか』
『私の“心網”は宝具能力と併用すれば会話も聞けると言っただろう』
他ならぬ己のサーヴァントに冷や水を浴びせられた。
思わず浮かれていたのは事実ではあるので決まりは悪いが、しかしジャンヌも何も遊びに行けることを喜んでいたわけではない。
『外出する口実が出来そうです。ローズマリー達と一緒なのであまり勝手は出来ませんが』
『川向こうとか言っていたな。ならばノースサイドかダウンタウンか。運がよければ他の連中との接触もあり得るか』
『ええ。事件の影響でしばらくは孤児院に軟禁かと思っていましたが、これで街の状況もこの目で見られます』
『物見遊山のついでに、な。ヤハハ、好きにしろ。土産はいらんぞ』
誰が貴方なんかに、と伝えそうになる思考を掻き消し、念話を切ってローズマリーに向き直る。
「ありがとうございますローズマリー、私、お出かけなんて本当に久しぶりで……」
「そうだろうと思ったわ。実は、私あなたのための新しいお洋服も持ってきたの」
「まあ!」
ローズマリーの『友達』の一人からフリルのたくさんついたワンピースを受け取り、ジャンヌは思わず微笑んだ。
聖杯戦争のマスターたる魔術師としてではなく、この瞬間だけは歳相応の少女のように。
▼ ▼ ▼
-
『……間違いないのね、グリフィス様?』
『ええ。私は探知に長けた英霊ではありませんが、しかしあれだけ強力な神秘ならばどんなサーヴァントにでも分かる。
あの少女は“神霊クラス”の何らかの加護を受けています。サーヴァントではない、別の何か特別な存在の』
『そう……あのジャンヌが……』
新しい洋服を抱えて嬉しそうに駆けてゆくジャンヌの背中を目で追いながら、ローズマリーは呟いた。
念話で彼女のサーヴァント――セイバー“グリフィス”と交わす言葉の色は、先程までの優しい妹想いの少女のものではない。
声だけでなくその視線もまた、昏く鈍い闇の色をもって遠ざかるジャンヌを見つめていた。
『つまり……ジャンヌは特別なのね。神様に愛されているのね?』
『恐らくは。加護という概念が愛によるものと解釈するなら、ですが』
『そんなのはどっちでもいいわ。……ふうん、そう。このアーカムでも、特別なのは私ではないのね』
喩えるならば冬の木枯らしのような、暖かさも鮮やかさも持たない言葉。
運命に選ばれた者を……自分には与えられなかった恩寵を持つ者を、ローズマリーは呪う。
彼女、ローズマリーに割り当てられた役割(ロール)は、実をいうとジャンヌと同じ『孤児院の子供』に過ぎない。
生き別れの父親ということになっているあの男は、グリフィスがそのカリスマをもって味方に引き込んだだけの資産家だ。
喩えるならば、魔性。グリフィスの魅力は、悪魔すら味方につける呪いの域。
男に、表向きは実の娘としてローズマリーを引き取らせるまでに、そう長い時間は掛からなかった。
まずは社会的地位。そして経済基盤、あるいは人脈。
最初の一手でそれらを手にしたローズマリーは、現在アーカムにおいて『フレンチヒルの名家の娘』ということになっている。
だが、それらは偽りのステータスだ。はじめからローズマリーが持っていたものではない。
ローズマリーは聖杯によってすら、選ばれた者としての地位を与えられてはいない。
惨めな孤児、ローズマリー。
元の世界で親友だと思っていたナージャが、運命に選ばれたプリンセスとしてローズマリーに現実を見せつけたように。
このアーカムにおいては、家族のように可愛がっていたジャンヌこそが選ばれたもので、自分はまたしても裏切られるのか。
(……ふふ、うふふふふ)
乾いた笑いが漏れる。
その笑いには数多の感情が混ざり合っていた――嫉妬、羨望、諦観、自嘲、憤怒、あるいは……敵意。
ローズマリーは笑う。笑いながら、算段を立てる。
(ようやく分かったわ、可愛いジャンヌ。お人形さんみたいに白い肌で、レースのカーテンみたいに綺麗な銀色の髪で。
夢見がちで、純粋で、真っ直ぐで、穢れのない宝石みたいな心のあなたが……私、ずぅっと大っ嫌いだったの)
ドス黒い怨念が溢れ出す。
たかだか13歳ほどの少女には似つかわしくないほどの、鬱屈した情念が。
そしてその情念を制御しきれる事こそが、ローズマリーという少女の脅威である。
冷酷さ、残忍さ、そういったものは全て、少女の仮面のもとにひた隠すのだ。
(だからね、ジャンヌ。あなたは餌よ。私があなたを、サーヴァント達の狩場に連れ出してあげる。
神様に愛されたあなたは、他のサーヴァントの格好の獲物。そして私たちにとっては格好の罠。
サメの群れに放り込まれたアザラシみたいに、あなたの白い肌がずたずたに引き裂かれたその時……
私の王子様と、王子様の『鷹の団』が、おびき出された敵を見つけ出すわ……!)
神に愛されているなら利用する。自分を慕っているなら使い潰す。
躊躇はない。はじめから恵まれた者などにな、決して夢の邪魔はさせない。
ローズマリーの夢は、いつも剥き出しの傷口のようなもの。
しかし誰かが近付けば、それは容赦無いナイフに変わる。
(私は、私のお城を手に入れる。あなたはその石垣に埋めてあげるわ、ジャンヌ!)
無邪気な少女の仮面の裏で、漆黒の敵意が牙を向こうとしている。
-
▼ ▼ ▼
『それでは、王子様。あらかじめ決めた方針に変更はないわ』
『心得ました、我らがプリンセス。鷹の団の団員たちにはその通り指示を出しましょう』
『あのジャンヌは好きに囮に使ってちょうだい。別に死んだって構わないわ』
『御意に』
霊体化したまま、グリフィスは主に向かって頭を垂れた。
『万が一ですが、彼女がマスターである可能性もあります。仮にそうだとしてもサーヴァントは近くにはいないようですが』
『ジャンヌが?』
『はい。もしそうならば例の神霊クラスの加護も、魔術的な守護霊の類であると解釈が出来るかと』
『あら怖い。それじゃ、絶対にジャンヌの前ではボロを出さないようにしないとね?』
他の誰にも見えないように冷酷な笑みを浮かべるローズマリーを、グリフィスは大したものだと冷静に値踏みした。
あの歳であの頭の回転と演技力、そして躊躇なく他人を蹴落とす残忍さ。
年齢を重ねればなかなかの傑物へと成長するかもしれない。
この聖杯戦争の先に彼女の未来があれば、だが。
『もちろんそうと決まったわけではありません。どちらにせよ、囮として有用なのは間違いありますまい』
『おびき出す役割を果たせばよし、もしもサーヴァント連れなら私達の代わりに敵を倒してくれればもっとよし』
『はい。上手く利用できるのならば、プリンセスにとって有益な存在となりましょう』
『簡単よ。あの子ったら、世間知らずで泣き虫で、人の心を疑ったことがなさそうだもの。私には、勝てない』
自身を見せるプリンセスに「油断だけはなさらぬよう」と釘を差し、グリフィスはその場を離れる。
それから人目の付かない場所で実体化し、『鷹の団』団員に指示を飛ばした。
伝える内容とは言うまでもなく、これからローズマリーとグリフィスが川向こうへと出向く本来の目的についてである。
何も遊びに行くのでもなければ、逢引でもない。後者かと聞かれればローズマリーは頬を染めたかも知れないが。
その理由は、彼の持つ特殊な宝具にあった。
グリフィスの宝具『鷹の団』は、少なくとも表向きは「団員の称号を与える」だけの宝具である。
特に魔力的な何かを付与するわけではない。ただ「鷹の団」という名を冠することを許すだけ。
ただそれだけの、それだけ聞けばどうしようもなく使い道のない宝具。
しかし、名は体を表すという言葉があるが、名はまた体をも形作るものだ。
グリフィスの魔的なカリスマに引き込まれた者にとって、「団員として認められる」ということは特別な意味を持つ。
名とは線。「鷹の団」の名を得ることは、線を踏み越えることを許されること。
魔性のセイバー、グリフィスに忠誠を誓うことが許されるということ。
それが宝具『鷹の団』の本質のひとつ。「認められた仲間である」という団員の自覚は、団長であるグリフィスのカリスマを増幅させる。
魔術的な強制力は一切ない。しかしその自覚だけで、団員は命すら投げ出しうる兵となる。
とはいえ、いくら数を揃えたところで個々の団員は非力なアーカム市民に過ぎない。
それぞれの手に武器を持たせればマシとはいえ、アーカムで日常的に手に入るものなどそれこそ包丁などの刃物がいいところだ。
グリフィスが生きた時代の一揆ならばいざ知らず、このアーカムにおいては時代錯誤も甚だしい。
それなら、銃はどうか。
確かに銃器ならば、数を揃えれば敵マスターが魔術師だろうと十分な脅威となるだろう。
しかしアーカムで銃を入手する方法はかなり限られている。
一丁二丁ならばともかく、数十丁を裏ルートで調達しようものならどうしても足が付いてしまう。
-
ならばどうするか。
グリフィスが出した結論は、至極明確だった。
(武器が手に入りにくいのならば、初めから持っている者を味方につければいい)
この架空都市アーカムにおいて、銃器の所有には特殊なライセンスが必要となる。
しかし職業柄、そのライセンスを確実に所得している者もいる。
言葉にすれば簡単なことだ。丸腰の者に銃を与えるのではなく、銃を使い手ごと手に入れるという発想。
(――聖杯戦争の足掛かりとして、まず我らが『鷹の団』は『アーカム市警』を傘下に収めるべく動く……!)
警察組織。本来ならばこのアーカムの治安を維持する、秩序を司るシステム。
それの一部、あるいは大半を手中にすればどうなるか。
グリフィスに仇なす者は、アーカムという都市全体を敵に回すこととなる。
サーヴァントは人類史に名を刻む超常存在。頭数だけでどうにかできるほど生温いものではない。
グリフィスは剣術の天才だが、あくまでも人としての極限。その上をいく神域の使い手相手に勝ち続けられるはずもない。
だがマスターは、たとえ魔術師だろうとも命ある存在。
いかなる魔術で守ろうとも、いかなる礼装で防ごうとも、死ぬ時は死ぬ。
名を与えるだけであるがゆえに魔術的手段では決して探知されない『鷹の団』ならば、追い詰められる。
この『街』そのものが、鷹の『翼』となるのであれば。
(無論、それだけで終わらせるつもりもないが)
首から下げた真紅のペンダント――歪な瞼の付いた「覇王の卵」を握り、グリフィスは薄く笑った。
ローズマリーの方へ陰から目をやると、新しい洋服に着替え終わったジャンヌが心なしか上気した様子で戻ってきたようだ。
時を同じくしてローズマリーの父親役の「団員」も、孤児院職員の説得を終えて帰ってきた。
フレンチヒルから市街地までは若干の距離があるが、車で移動すればそこまで掛かるまい。
(ここからはあなたの駆け引きの番だ。期待しましょう、我らがプリンセス・ローズマリー)
そう胸の内だけでひとりごち、魔性のセイバー・グリフィスは再び霊体化した。
【フレンチ・ヒル(孤児院)/1日目 早朝】
【ローズマリー・アップルフィールド@明日のナージャ】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:打算と演技で他のマスターを出し抜く
1.市北部へ向かう(第一目的地はダウンタウンのアーカム警察署)
2.ジャンヌに対しては親身に接し、餌として利用する。
[備考]
※10人前後の『鷹の団』団員と行動を共にしています。
その中にはローズマリー自身の父親役も含まれています。
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]サーベル
[道具]『深紅に染まった卵は戻らない(ベヘリット)』
[所持金]実体化して行動するに十分な金額
[思考・状況]
基本行動方針:――ただ、その時を待つ。
1.霊体化してローズマリーに随行。
2.鷹の団の団員を増やす。最優先はアーカム市警、ついで市の有力者。
3.ジャンヌは餌として利用する一方、マスターである可能性を警戒。
[備考]
-
▼ ▼ ▼
「――ヤハハハ、さっそく一人。よりにもよって孤児院に潜り込んでいたか、サーヴァントめ」
ジャンヌ達のいる孤児院から数百メートル離れた高級邸宅地の一角。
そこに植えられた背の高い木の頂点にしゃがみ込むようにしながら、エネルは一人笑い声を上げた。
「我が心網(マントラ)は心の声を聞く……完全な読心ではないが、しかし心がある以上逃れられん。
迂闊に実体化したか、間抜けめ。さて、こちらも堂々と正面から乗り込んでやってもいいが――」
エネルは耳をそばだてた。
心網スキルは広範囲の「心の声」を探知することが出来るが、意識を集中させればより詳細な情報を探ることも可能である。
一時だけ実体化したサーヴァントの、気配が存在した場所を中心にして人間達の意識を感知していく。
サーヴァントがいるならばマスターもいるかもしれない、そう思っての行動だったが。
「……妙だな。意識がやけに統率された連中が紛れ込んでいる。なんなのだ、こいつらは」
僅かに眉を顰める。
通常、心網で捕捉する「声」は個人を特定できるほどにそれぞれの人間固有のものだ。
だが、あの孤児院には――別々の人間なのにも関わらず、奇妙なほどに「心が同じ方向を向いている」者達がいる。
洗脳か暗示の類か。エネルはそう考え、すぐに自ら否定した。
「あの聖・少・女とて無能ではない。魔術ならば自ら見破るだろう。そうでないなら、別の要因によるもの……」
虚空に頬杖をつきながら、エネルは思案した。
何の仕掛けもないのに狂的な統率を見せる一団。その中心にいるであろうサーヴァント。
そして今まさにその渦中に巻き込まれようとしているであろう己がマスター、アイアンメイデン・ジャンヌ。
正体不明の脅威が、エネルのマスターに迫る――
「……ヤハハハハ、なかなか興が乗ってきたぞ。なるほど、これは種明かしも聞かずに殺してしまってはつまらん」
火花が散る音。
その次の瞬間には、エネルは百メートルを瞬きひとつで移動して別の屋敷の屋根に寝そべっていた。
「この聖杯戦争も所詮は『神の余興』……道化どもには愉快な踊りを見せてもらわねば、召喚された甲斐がないというもの。
そしてあの聖・少・女がいかにして状況を切り抜けるか、それを眺めて楽しむのも悪くない。ヤハハハハ」
当然飽きたら道化は殺すがな、と付け加え、エネルは再び雷速で跳躍した。
所詮は戯れとはいえ、あのアイアンメイデン・ジャンヌは得難いマスターであり死なれては困る。
自分を運用しうるマスターとして、ジャンヌ以上の才能は容易く見つからないであろうことは、エネルも自覚している。
だから、本当に死にそうになったら助けてやろう。あるいは気が向いたら。神のみぞ知る。いい言葉だ。
『――ライダー?』
『どうした、マスター』
『これから、ローズマリー達の車に同乗して市の北部へ向かいます。すぐに駆けつけられる距離を取って付いてきてください』
『了解した。なに、どれだけ離れようが一度捕捉した声を聞き逃したりはせん』
『………………?』
『どうした、私が素直だと具合が悪いか?』
念話を通じてすら戸惑いが感じられるマスターの様子を、エネルはせせら笑った。
協力してやるのではない。『戯れ』だ。『神のゲーム』において、駒は動いてくれたほうが面白いというだけだ。
-
『いいでしょう。それと、念のための確認です。私の周辺に、何か不審はありませんでしたか?』
『――無いな。有象無象ががやがやと、ろくでもないことを考えているだけだ』
『信じていいのですね?』
『神を信じるか信じないのかは、神を見上げる人間が決めることだ』
当然エネルは知っている。サーヴァントの存在、不審な集団、そしてあるいは、法神シャマシュの異常な気配。
神クラスの霊を連れ回すことに無自覚なのか、覚悟の上か……恐らくは後者だろうが、忠告はしない。
おびき寄せられて、他のサーヴァントがのこのこ出てくれば好都合。
傍観するも良し、興が乗ったら神の名において気まぐれに裁いてやっても面白かろう。
『まあいい、お前は外出を楽しむがいい。心の動きが手に取るように分かるぞ、嬉しいのだろう?』
『な、何を馬鹿なことを! これは聖杯戦争の実情の視察を兼ねた……』
『ヤハハ、神クラスのシャーマンも一皮剥けば子供か。浮かれて足元を掬われるなよ』
エネルは考える。
アイアンメイデン・ジャンヌは、人生経験が歪過ぎる。
悪を裁くために育てられた聖女は、あまりにも普通の生活を知らなさすぎる。
かつてはそれゆえに完全なる断罪装置として機能していた彼女だが、人の心に触れた今はその無垢さが隙となる。
もっとも、エネルにとってはいいハンデだ。付け入る隙に漬け込む者を、更なる力で捻じ伏せるのも悪くない。
(聖・少・女と呼ばれる者なら、神のために役立ってみせろ。くれぐれも退屈させてくれるなよ)
再びの放電音と共に、神を名乗る男の姿はフレンチヒルから消えた。
【フレンチ・ヒル(孤児院)/1日目 早朝】
【アイアンメイデン・ジャンヌ@シャーマンキング】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り2画
[装備]持霊(シャマシュ)
[道具]オーバーソウル媒介(アイアンメイデン顔面部、ネジ等)
[所持金]ほとんど持っていない
[思考・状況]
基本行動方針:まずは情報収集。
1.ローズマリー達と共に市北部へ向かう。
2.エネルを警戒。必要ならば令呪の使用も辞さない。
[備考]
※エネルとは長距離の念話が可能です。
※持霊シャマシュの霊格の高さゆえ、サーヴァントにはある程度近付かれれば捕捉される可能性があります。
【フレンチ・ヒル(高級邸宅地)/1日目 早朝】
【ライダー(エネル)@ONE PIECE】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]「のの様棒」
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を大いに楽しみ、勝利する
1.ジャンヌとは距離を取り、敵が現れた場合は気が向いたら戦う
2.「心網(マントラ)」により情報収集(全てをジャンヌに伝えるつもりはない)
3.謎の集団(『鷹の団』)のからくりに興味
[備考]
※令呪によって「聖杯戦争と無関係な人間の殺傷」が禁じられています。
-
投下終了です。遅れてすみませんでした。
-
投下乙でした。
ジャンヌとローズマリーは初手から因縁持ち!ロズマゲスい!
敵を見抜きながら余裕を見せるエネルの大物っぷりが流石でもあり不安でもあり。
鷹の団に市警を取り込んで銃の大量砲火ゲット狙いは普通に怖い!
ジャンヌ、エネルとローズマリー、グリフィスのそれぞれの従者側の手前勝手な方針が酷いw
フレンチヒル組もかなり面白そうです。
-
では流れに乗ってこちらも予約分投下します。
-
「うーん、やっぱりこっちも森になってるねー……」
イーストタウン郊外においても、やはり森が存在していた。
河を除けば、アーカムの外周部はすべて森になっていた。
魔術的な結界のようなもので、街全体が覆われていると考えるべきだろうか。
新さんが先に馬から降り、恥ずかしいけどボクも新さんに降ろしてもらい。
ランタン……ではなくLEDのライトを照らし、森に生えている樹木の一本を調べてみた。
―――調べた結果、特に魔術的なものを感じ取ることはなかった。
ニューイングランド地方でよく自生している、普通のアメリカマンサク。
昔は葉を擦り傷などの治療に利用されていたらしい。今は化粧水なんかにも使われている。
こっちではウィッチ・ヘーゼル、なんて名前で呼ばれている。
「ウィッチ……魔女、ね」
魔法使いだったおばあちゃんが、一度だけ語ってくれたことがある。
おばあちゃんの親友が、魔女狩りで命を落としてしまったこと。
それでもその親友は、最期まで人間を信じていたけれど、
むやみに魔法を使えることを他人にひけらかしてはいけない、と。
立地上アーカムの近くにあるはずのセイラムでも、
物語ではなく史実として、魔女狩りが行われていたらしい。
「……さくら」
隣に立っていた新さんが、ボクを庇うようにしながら、落ち着いた声で木の向こう側に注意を促した。
新さんが顔を向けている場所。
確かに、何かの気配がする。
「―――おや。気が付ついたか」
男性の声。
声のした方にライトを向けると。
辺りの闇と同化しそうな漆黒の人間が、森の中で立っていた。
その中で浮き上がるかのように、真っ赤なローブと真っ白な手袋とが自己主張している。
他人のことは言えないけれど。
この時間。こんな場所。
ほぼ間違いなく、聖杯戦争に関わる人だろう。
「……こんばんは。ボク達に何か御用ですか?」
油断なく、ボクは風の魔術による障壁を展開できるよう準備をする。
おばあちゃんが得意だったという風の術。ボクにも使えるはずだ。
新さんの方は、まだ刀に手をかけず、構えてもいない。
-
「こんばんは、お嬢さん。ああ、いや。私は参加者などではないよ。
いわゆる聖杯戦争の監督役を承っている者、他者からはナイ神父、などと呼ばれている」
芝居がかった動作で、場に不釣り合いなほど大仰に頭を垂れる怪しい神父。
「……その神父さまが、何の用なんです」
ボクの本能が、この男は危険だと告げている。
全身を巡る魔力が、まるで波立つように騒いでいる。
「何。お嬢さんがたなら既にご存知だと思うが。この森の先には足を踏み入れぬほうがいい。
リングアウトで退場でもされようものなら興醒めもよいところであるし。
―――ああそうか。
もし、そちらのサムライの御仁に斬られでもすれば、それはそれでこちらも痛手なのでね。
よくもまあ厄介な者を召喚してくれたものだ」
まったく迷惑そうな顔もせず、こちらに淡々と告げる神父。
「その忠告のためにわざわざ出向いてきた、というわけかな。神父殿」
新さんが一歩踏み出すと、神父は流れるように同じ距離だけ音もなく下がる。
この人は新さんの攻撃範囲を知っている……?
監督役、という発言はブラフではないのかもしれない。
「無論。私はこの聖杯戦争を監督せねばならぬのでね。
戦いはあくまで、アーカムの中で行って頂きたい。
でなければ、先程勇ましく宣誓した者が泣いてしまうのでね」
クツクツと。生真面目な表情のまま、口元だけで笑う。
先程宣誓した者。脳内に流れてきた声。
その声の主―――キーパーのことだろうか。
キーパーには何か狙いがある? それとも、そうさせようと思わせている?
「ご忠告どーも。そもそもボク達は別に外へ出るつもりはないよ」
「それは重畳。ご協力感謝する」
神父は慇懃無礼な程に、恭しく頭を下げ手を大仰に振る。
「それではお嬢さん。サムライの方。これで失礼させて頂く。
是非、相手に破滅という名の安息を与え、自身の望みを存分に叶えてもらいたい。
―――汝らに安らぎと星の智慧のあらんことを」
「……っ!」
-
ナイ神父はそのまま音もなく、森の闇の中へと同化していった。
―――相手を破滅させる。
分かってる。
おばあちゃんも、おじいちゃんも、お兄ちゃんも、音夢ちゃんも、義之くんも、音姫ちゃん達も。
誰一人賛成も許容もしてくれないだろう。
特に義之くんは、真実を知れば。きっと自分が消えると言い出すだろう。
それでも。
ううん、だからこそ。
やらなくちゃいけないんだ。
義之くんを守ってあげられるのは、世界でボクただひとりだけなんだから。
世界を敵にまわしても、守りたい。
それが、きっと。
―――母親としての、感情なんだ。
「あの者の気配は去ったようだ。
魑魅魍魎に連なる者と見たが。
……大事ないか、さくら。青い顔をしている」
「は、はい……大丈夫です」
「無理はせぬことだ。今日の探索はここまでとしよう」
「は、はい……ありがとうございます、新さん」
新さんは優しく頷き、ボクを抱きかかえると、馬にそのまま颯爽と飛び乗った。
ちょうどボクが住んでいる屋敷はイーストタウンにある。
馬に揺られ、新さんが傍にいてくれることで、心が穏やかになっていく。
【アーカム郊外 ン・■イの森?/一日目 深夜】
【ナイ神父@邪神聖杯黙示録】
[状態]?
[精神]?
[装備]?
[道具]?
[所持金]?
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争の行方を最後まで見届ける
1.?
[備考]
?
◆
-
―――カチャカチャと音が鳴る。
イーストタウン。
この地区の雰囲気は寂れていて、一日通してあまり活気がない。
道は広く、大きな屋敷も多いが、既に空き家となっているところも多い。
僕もその大きな屋敷のひとつで暮らしている。
母さんは既に死去。父さんと兄さんは航空機事故で行方不明、という家族構成。
そんなところまで合わせなくていいのに、と少しだけ思う。
一応今は古物商だった父さんが残してくれた財産で、なんとか慎ましく暮らしていける。
屋敷の倉庫には、昨日使った鎧などいろいろな物が残されていた。
―――がぶり。ごくり。
そういえば、眠っているときに夢を見たんだ。
でもリナさんが盗賊達をぶっ飛ばすという、昨日の行為とさして変わらない行動をしていただけなので、
これといってあまり得るようなものはなかった。
どうせそのことをリナさんに話したら、
『乙女の過去を覗き見るなんて趣味悪いわね。その分の精神的苦痛に対する慰謝料をよこしなさい!』
なんてことを言われそうだったので、黙っておいた。
―――おかわり。
「もうありませんよ!!」
「えー、もう?」
積み上げられたお皿を見ようともせず、椅子に足をぶらぶらさせてぷーっと頬を膨らませるリナさん。
備蓄しておいた食糧はあらかた食べられてしまった。
「どんだけ食べるんですか……。あ! もしかして、これも大量の魔力に繋がるとか?」
「んーん」
ふるふると可愛らしく首を振るけれど、あまり可愛い印象を受けない。
「せっかく味覚があるんだから、食べなきゃ損でしょ!!」
どん、とテーブルを叩いて、乗っていたお皿の山がぐらぐらと揺れる。
リナさんを見ていると、生命力がぎらぎらと溢れている感じがする。
本当に霊なのかな、この人……。
-
「で、なんの話だったっけ」
「戦闘に関してですよね!? 対魔力がどうのとか!」
「あーそうそう」
リナさんは持っていたフォークを指し棒のように使い、講義っぽい行為を続けた。
「セイバー、アーチャー、ランサーのいわゆる三騎士と、ライダーには対魔力って特典がついてくるの。
じゃあキャスターには対物理力でも用意してくれなさいって話なんだけど。ま、それは置いておくとして。
ライダーは基本的にプレゼントされる対魔力はそれほど高くないけど、三騎士には高い対魔力が備わっているケースが多いわ。
ではアルフォンスくんに質問です。高い対魔力持ちと戦う場合、どう対処すべきでしょーか」
ピッっとフォークでこちらを指すリナさん。
「え? うーん……戦わない、とか?」
恐る恐る回答してみると、リナさんはちょっと驚いた顔をして首肯した。
「はい正解。剣、弓……というか飛び道具、そして槍。
このどれかを持っているようなサーヴァントと遭遇したら、まずは逃げること。
相手の対魔力を調べるために魔術を撃って、その隙に突っ込まれようものならお手上げよ。
もし最高ランクの対魔力持ちなら、こちらのほとんどの魔術が弾かれる。対策を考えるのはまず逃げ切ってから。
そもそも七騎以上のサーヴァントがいるんだから、あえて相性の悪い相手と戦う必要はないわ」
怒られるかな、と思ったけど、間違ってなかったみたいだ。
ほっと胸を撫で下ろす。
「昔、ザナッファーっていう魔術が一切効かない魔獣と戦ったことがあるんだけど。
まーホントずるいわよね。苦労したわ。
で。対処『しなければならない』状況になった場合。アルに頑張ってもらう必要があるわ」
「えっ?」
「え、じゃないの。あなた、錬金術だけじゃなく、体術の方もいけるみたいじゃない」
「ええ、まあ……そこそこくらいは」
体術についても、師匠にみっちり叩き込まれたので、それなりには戦えるんじゃないかとは思う。
けど……。
「体術なんかサーヴァントに効かない、って言いたいんでしょ。
だいじょーぶよ。あたしの知り合いに、魔族相手に素手で挑んでた人がいるから。要は気合いよ。
それで前に出て戦いなさい」
「いえ、そうじゃなくて。それっておとり」
「じゃあちょっと手、出してみて」
-
話を遮るように要望という名の命令を出すリナさん。
嫌だなあと思いつつ、テーブルの上に手を出す。
―――リナさんが呪文を唱えると、僕の手に青白い光のようなものが纏った。
「霊王結魔弾(ヴィスファランク)って魔術をアレンジしたものよ。
それがあればサーヴァント相手でもダメージを与えることができるわ」
「でも僕死んじゃいますよね?」
「そして、最高ランクの対魔力が相手でも、恐らくあたしには概念突破できる魔術がふた……ひとつあるわ。
『金色の魔王』の力を剣の形に凝縮して振るう、神滅斬(ラグナ・ブレード)って呪文」
「金色の魔王、ですか?」
「ええ。まあ〜そこはあまり理解する必要はないわ。
異界黙示録(クレア・バイブル)でもなければ本当には『理解』できないでしょうし。
超常的な存在、とてつもない存在から力を借りる、とだけ知っておけばいいわ」
リナさんはいつになく真剣な顔で話すので、僕もつられて真剣に頷く。
「そのラグナブレードって呪文なら、勝てる見込みがあるってことですね」
「違う。あくまで『対魔力を突破できる方法』があるってだけ。
悪いけど、剣や槍の腕だけで英霊になったような奴らに当てられる自信はないわ。残念ながらね」
「……それじゃあ」
「そ。だから、基本的には逃げるの。
そして戦う羽目になった時のために、相手の情報をできるだけ集めて、
弱点突くなり奇襲するなり先手必勝でぶちのめす!」
攻撃魔法ぶっぱしていればOKみたいなイメージだったけど、ちゃんと考える人なんだ。
ちょっと意外かも。
「なーんか失礼なこと考えてそうね。ま、いいわ。
で? 今日は何か予定あるの」
「そうですね……。午後からは講義があるので大学に行く予定ですけど」
僕はミスカトニック大学で勉強する学生ということになっている。
「じゃあ午前中は情報収集ってことね。
あたしは商業地域が怪しいって思うんだけど」
「……何か食べたいだけですよね」
「分かってるなら話は早いっ! さっ! 出発しましょ!」
◇
-
オフィス街を中心に発展が進み、車の交通量が増えるに従って、
かつて路面電車が通っていたというノースサイド・ラインは、現在地下鉄となっている。
元々路線のあったイーストタウンもその恩恵のおこぼれにあずかり、僕の家の近くにも地下鉄の駅が存在している。
朝のラッシュ前の時間ということもあり、比較的ゆっくりと歩いて地下鉄の階段を降り。
のんびりとホームで待っていた。
ここアーカムの地下鉄は、アメストリスにある蒸気機関車よりもかなり速度があり、また運行している本数もかなり多い。
最初ホームで時刻表を探したけれど見つからなくて、その探している間にもう次の列車が来たような感じだ。
―――そしてライトを光らせ、ノースサイド行きの列車がやってきた。
この時間にイーストタウンの駅で降りるような人はなく、僕以外に乗る人もまばら。
焦る必要もなく列車に乗ることができた。
そして、乗った車両の中で、金髪の見知った女の子がちょこんと長椅子に座っていた。
「あ、芳乃先生。おはようございます」
「にゃは、アルくん! おはよーございますっ!」
僕は芳乃先生にあいさつをして、隣に座らせてもらう。
芳乃先生はミスカトニック大学の教授で、専門は植物学だったはずだ。
「早い時間に出掛けるんだね〜。感心感心。アルくんも大学に行くのかな?」
「あ、いえ。午後から行く予定で。ちょっとその前にショッピングモールに寄っておきたくて」
「なるほどー、ざーんねん。このまま一緒に行ってくれるかと思ったのに」
「すみません。芳乃先生のほうは今日はフィールドワークではないんですね」
「うん! たまには顔出さないと怒られちゃうからねー」
朗らかで人懐っこく、フレンドリーに教えてくれる芳乃先生は学生からの人気も高い。
植物学を現地の公園などで教えてくれるなど、フットワークも軽い。
「さ、それじゃボクはお仕事に向かいますか。アルくんもまた講義に来てよね」
「はい、是非」
「じゃ、またね〜!」
チャーチ・ストリートラインに乗り換えるため、芳乃先生は元気に列車を降りていった。
『……ちょっと』
『? なんです? リナさん。僕達はこのまま一番西の橋から商業地帯に向かう予定ですよ』
『そーじゃなくて! 今の子! 先生なの!?』
『ええ、そうですよ』
『おかしいでしょ! どう見てもちみっこでしょ!』
『……あまり人を見た目でどうこう言うのはよくないですよ』
『ちっがーう!! 明らかに! 不自然でしょ! だいたいあの子いくつなのよ!』
『さあ……女性に年齢聞くのって失礼ですし』
見えないのになにか地団駄を踏んでる様子が想像できる。
『それに、大学の教授は変わった先生多いですよ。芳乃先生だけが異質って感じじゃないような』
『おーけー。分かった。最初に調べる先が決まったわね。
ちょっと腹ごしらえしたら大学教授陣の調査をしましょ』
『結局食べはするんですね……』
でも確かにそう言われると、あの個性的な教授陣の中に、
ひとりくらいは参加者がいてもおかしくはないかもしれない。
まずは商業地帯に向かうため、僕らはノースサイド最西端の乗換駅を降りた。
-
【ノースサイド・最西端の乗換駅/一日目 早朝】
【アルフォンス・エルリック@劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]掌に錬成陣が描かれた手袋、赤いコート
[道具]鞄(大学生としての所持品)、西洋鎧(屋敷に保管)
[所持金]古物商だった父の遺産で慎ましく暮らしていける程度
[思考・状況]
基本行動方針:兄さんに会うために聖杯に願う。
1.商業地域でリナさんの腹ごしらえ
2.ミスカトニック大学へ行き、教授陣の調査を行う
3.三騎士との戦いはできるだけ回避する
[備考]
・令呪は右手の甲に宿っています。
・芳乃さくらと顔見知り程度に知り合っています。マスターとは認識していません。
【キャスター(リナ・インバース)@スレイヤーズ】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]ショートソード、バンダナ、ショルダー・ガード、マント
[道具]魔血玉
[所持金]たくさん金貨や宝石があるけど支払いは全てアルフォンス持ち
[思考・状況]
基本行動方針:おたからとごちそうをゲットしつつなるべく楽に敵をぶちのめして勝つ!
1.ごはん♪ ごはん♪
2.芳乃さくらを含めミスカトニック大学の教授陣が怪しい
3.対魔力持ちを警戒、三騎士の情報をできるだけ集める
[備考]
・芳乃さくらをマスターではないかと疑っています。
◆
-
アルフォンスくんと別れ、ミスカトニック大学へと向かう路面電車に乗り換え。
電車に揺られながらミスカトニック河を眺める。
『……さくら、大事ないか』
『はい、大丈夫です。新さん、ありがとう』
戦争開始の宣誓はなされた。
監督役だというナイ神父も蠢動を始めている。
先程会ったアルくんを、参加者ではないかと疑った。
そう。これから、戦争が終わるまで、誰が参加者かと疑っていかなければならないのだ。
ミスカトニック大学。
このアーカムで、一番人が集う場所と言っていい。
これから向かうその場所に、きっと参加者はいるだろう。
既に夜のうちに、待ちうける仕掛けを作っている魔術師もいるかもしれない。
これから、戦場に向かう気持ちで挑まなければならない。
『新さん……これから死地に向かいます。どうか、ボクに力を貸してください』
『無論だ。襲いかかる者あらば、必ず討ち払ってみせよう』
【キャンパス・ミスカトニック大学前駅付近/一日目 早朝】
【芳乃さくら@D.C.II ―ダ・カーポII―】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]鞄(大学教授としての所持品)
[所持金]お屋敷でゆったり暮らせる程度のお金(世界有数の大学の教授)
[思考・状況]
基本行動方針:願いの桜の制御方法を知るために聖杯を手に入れる。
1.ミスカトニック大学に向かう。仕掛けを警戒。
2.ナイ神父を警戒。
3.キーパーには何か狙いがある?
[備考]
・アーカムの街の郊外が森で覆われていることを確認しました。その森は吉宗曰く「魔性の気配がする」と聞いています。
・アーカム郊外の森でナイ神父と会いました。
・アルフォンス・エルリックと顔見知り程度に知り合っています。マスターとは認識していません。
【セイバー(徳川吉宗)@暴れん坊将軍】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]主水正正清
[道具]扇子
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:さくらの願いを叶えてやりたい。
1.さくらを守る。
2.ナイ神父を警戒。
[備考]
・アーカムの街の郊外が森で覆われていることを確認しました。その森から魔性の気配を感じました。
・アーカム郊外の森でナイ神父と会いました。
・アルフォンス・エルリックを見ましたが、マスターとは認識していません。
-
以上で、投下終了です。
-
投下乙です
-
申し訳ありません、予約を延長します。
-
>>793
投下乙です!
ナイ親父の得体の知れなさ、上様の『成敗』の間合いを測るしたたかさ、いいですね。
星の智慧派の聖句、OPで入れ忘れてたので使ってもらえて嬉しい限り。
さくら&上様もリナ&アルも雰囲気が良くて掛け合いを見てるだけで楽しいです。
特に当時のノリそのまんまのリナに対してアルのツッコミが冴えまくるのが好き。
しかしさくら達はこれからミスカトニック大へ……一波乱あるかもしれないですね。
-
お二方とも投下乙です!
>God bless the child
アメリカの教育制度についてきちんと調べていることが分かる、地に足のついた孤児院の描写が良かったです
そして何より、どれだけ外面を取り繕ってもローズマリーの前ではただの子供に戻ってしまう、純真なジャンヌが可愛かったです!
しかし、それも陰謀の餌食となってしまうのですよね……
使命、純真、陰謀、そして待ち受ける闘争の予感
各人の意図と能力が絡み合って、高い整合性がありながらも先が楽しみになる、リレー小説として素晴らしいお話でした!
>接触
ナイ神父の言葉から、せっかく集めたマスター全員が自殺して涙目のオ……シオン(仮)を想像して萌えました
みんなおいでよ、ン・■イの森!
まあ、それは置いておくとして、全ての登場キャラクターの持ち味が活かされているのが良かったです
なんというか、ひたすら不気味で胡散臭いナイ神父を始め、彼ら彼女らが持つ独特の「空気」が物語の舞台でせめぎあっているのを感じました
この、手探りで邂逅しながらも、それぞれのマスターが決意を深めていく序盤の雰囲気は良いですね
素晴らしいです
しかし、このさくら先生が溶け込むミスカトニック大教授陣とは一体……?
-
大遅刻、申し訳ありません……今から投下します。
-
生と死の境界など、案外曖昧なものだ……少なくとも、この街では。
シルバーカラスはそう考えるようになっていている。
キャスターのサーヴァント。幽冥楼閣の亡霊少女、西行寺幽々子。
彼女は間違いなく『死』の側に立つ者だろう。
だが、彼女は確かにこの街に存在しているのだ。肉体を持たずとも。
そして幽々子によって命を奪われた者もまた、アーカムシティを彷徨っている。
「ナムアミダブツ」
その言葉は誰に向けられたものだったろうか?
彼もまた、死者だ。幽々子の言を借りるならば半死人か。
医者が匙を投げ、リー先生……死体蘇生者にも弄らせなかった身体は、確かにあの場で力尽きていた。
黙ってジゴクに行くだけ。その筈だった男が今もこうして二本の足で立って歩いている。
その意味を考える事を、シルバーカラスはしなかった。
彼らが為すべきは、幽々子の宝具たる妖怪桜・西行妖を展開するための陣地の確保だ。
使い魔となった死霊を各地に向かわせ、魔力の集中する地点はある程度特定できている。
しかし霊地として優れているならば良いと言う訳ではない。
聖杯戦争は各々の思惑が絡む大きなイクサだ。
霊地の確保に成功したとしても、その効果を発揮できなければ意味は無い。
周辺の状況を調査し、考慮した上で陣地の作成は行うべきだろう。
無論、イクサにおいては真の意味での安全地帯など存在しない。だからこそ、その環境に近づこうとする努力は怠るべきではない。
「そしてだ。その前にやるべきこともある」
シルバーカラスは虚無的に呟いた。
その生は既に終わっている。勝利に意味はない。だが、それで何もかもを捨て鉢に考えるようならば、シルバーカラスはシルバーカラスになってはいないのだ。
未知のイクサを前にして、彼のニューロンは研ぎ澄まされていた。
……
小汚い店だった。
ふりの客を拒否していると言うよりも、最初から見捨てられたような場所だった。
一人だけの客は、冷め切ったコーヒー入りのカップに口づけし、顔をしかめた。
時刻を確認。既に店に入ってから小一時間が経過している。
「どうだ」
短い、ぶっきらぼうな声に返答するのは姿を消した彼のサーヴァントだ。
「視られてるわね。やっぱり」
「わかってるよ」
視られている。それはシルバーカラス自身も感じていたことだ。
己のニンジャ洞察力に疑問を覚えるほど落ちぶれたつもりはない。
だが、その観察者の正体、思惑までもを掴むことは出来ていないのも事実であった。
「感じねえのか。魔力だとかは」
「ないこともないけど、あいまいね」
「ハッキリしねェな」
「ハッキリしてる視線もあるけど」
ガサリ、という音。新聞で顔を隠した店主がチラチラとシルバーカラスの側を伺っていた。
「ふん」
シルバーカラスは薄汚れたテーブルにカネを置き、立ち上がる。
得体のしれぬブキミめいた視線。その観察者はシルバーカラスに接触する気はないらしい。
では暗殺を狙っているのか? 正面から挑むでもなく、自らの気配を消しきれていない事にも気付かぬようなサンシタがわざわざ狙ってきてくれた、というのは楽観的な考えだろう。
ならばこちらの情報だけを集めようと言うことか?
「撒かなきゃァダメか。面倒な」
時間を無駄にしたな。少しばかりの苛つきを覚えながら、シルバーカラスは店のドアに手をかけ、開けた。
▼ ▼ ▼
-
広がる銀世界。
降り積もる雪は乾ききった砂漠にも似ている。
くすんだ、うらぶれた《イーストタウン》の光景は失われ、ただ雪原だけがシルバーカラスの目の前に存在していた。
サーヴァントとの繋がりは感じられる。だが応答はない。隔絶された空間か。
「……どうやら、ブッダ殿。つくづくアンタは俺をサンズ・リバーでない所に投げ入れるのがお好きなようだ」
「―――いいえ。ここにあなたを招いたのは、この私。歓迎しますわ、お客さま」
空間が歪む。あたかも鏡の中から抜け出すように、少女の姿が浮かび出る。
雪原の主たる夢魔はシルバーカラスの正面に立ち、幽雅にオジギした。
「……ドーモ。シルバーカラスです」
即座にアイサツを返したシルバーカラスのフードがニンジャ装束に変形し、メンポがその顔を覆った。
「何の用だ」
目の前の少女が何者であるのか、彼は問わなかった。
どのような存在であろうが関係はなかった。
ただひとつ……聖杯戦争に関わる者だということがわかっていれば。
少女は妖艶な笑みを浮かべる。
「それじゃあ、シンプルに行きましょうか―――貴方が欲しいのよ、私」
「ハッ」
「あら、真面目な話ですのに。貴方の力が欲しい、という事なら、聞いてくださる?」
「なんで俺だ」
「死者を絡繰るのは貴方達だけではない、ということ。私はそれが専門ではないけれど、探りを入れる程度ならできる。
そうして貴方を見つけた。本当なら、始末しても良かったのだけど―――」
ゆっくりと、シルバーカラスはカタナに向けて手を伸ばした。ゆっくりと。
「噂よ。貴方も少しくらいは知っているでしょう? いいえ―――内容はあまり関係ないわね。
重要なのはその情報に引き寄せられる者がいる、という事の方。今は、ね」
「簡潔に言え」
「協力しろとは言わないわ。ただ、噂を創りだして欲しいの。そうね。街を練り歩く辻斬り魔―――殺人鬼というのはどうかしら。
簡単でしょう? だって、貴方は―――」
「アー、いや、もういい」
シルバーカラスは少女へと歩み寄る。
「ひとつ聞きたい」
「―――何?」
「タバコ無いか。『少し明るい海』」
言葉と同時に、鈍色のニンジャが飛んだ。正面に向かって。
「無いよな」
「っ―――!」
振り抜かれたカタナが少女の身体を襲う。
だが届いてはいない。展開された半透明の防壁が、かろうじてその刃を防いでいた。
「ビジネスはもうやめたんだよ。生憎な」
「―――いいわ。まずは躾をしてあげる……!」
高姿勢な言葉とは裏腹に、少女の表情には焦りが滲んでいる。
相手に余裕を与えることなく、シルバーカラスは再び斬撃を繰り出す。
「イヤーッ!」
「く……!?」
-
防壁に亀裂が入る――クラッシュ。鏡が割れ、散乱する。
「……」
手応えはない。否、少女の姿すらも、雪原から消え去っている。
引き換えに現れたのは、別のカタチをした影である。
「――ふふ」
裂けたマント。片手には道化面。
赤紫のアーマーを身に纏う少女――サーヴァント。
シルバーカラスは警戒を強める。同時に、自らの身体に刻まれたマスターの証……令呪へと意識を向けた。
しかし、その必要はないようだった。
虚空をしばし見つめたサーヴァントは、おもむろに口を開く。
「そろそろ出てきたらどうだい?」
「あら、お客様?」
飄々と答える声の主は、確認するまでもない。
「お客様はそっち。ここって、ファントム・ゾーンほどじゃなくても、簡単には来れない場所だと思ってたんだけど」
「生きたまま冥界に花見に来る人間もいる。ましてや、ここはあの世ではない」
「まあ、呼んでない人達だってけっこう来てたみたいだしね。メイドさんとか、ヘンなネコとか」
「変わり者もいるものねえ。好き好んでこんな所に来るなんて」
少女の会話にサツバツとしたアトモスフィアはない。
彼女達は知っているからだ。それがなくとも、命のやり取りなどいつでも起こりうるものなのだ、と。
「殺風景で、全然華やかさがないもの。騒がしい三姉妹でも呼んだらどうかしら」
「あの三人を呼んでもうるさいだけだと思うけど」
「それは、多分霊違い」
「どっちにしても、多分この街にはいないんじゃないかなあ」
妖精、亡霊、吸血鬼。
伝承に語られる魔物、人ならざる者が生きる世界こそが、彼女達がかつて在った場所である。
幻想世界の少女――キャスターのサーヴァントは、互いの姿を凝視する。
「さてと」
「それじゃあ」
「――主共々負け猫になりなさいな、二重の歩く者」
「――ばたんきゅーにしてあげるよ、レイスのおねーさん」
二者の魔力が増大する。
己の内のニンジャ直感に従い、即座に後方へとシルバーカラスが跳躍した、その瞬間。
弾幕と魔導の戦いは、始まっていた。
▼ ▼ ▼
-
視界が変色する。
弾幕は生者必滅の理となり、華奢な躰へと迫ってゆく。
花吹雪の如き重砲火に飲み込まれる寸前、
「――リバイア」
魔導師は、攻撃を反射する事で対処した。
あらぬ方向へとねじ曲がり、地平線の彼方へと去りゆく弾幕をよそに魔導師は詠唱を続ける。
魔導の効力は持って数秒。
が、それだけの時間を稼げたならば威力は十分――――!
「アアアア――アイスストーム!」
呼吸と共に唱えられる、威力を増幅させた魔導。
爆風と化した雪嵐は弾幕を薙ぎ払い、氷柱が頸動脈を狙い撃つ。
然れど西行寺幽々子とて英霊の身。
直撃すれば大打撃となる一撃なれど、ごく単純な軌道を描く単発射撃などその身を動かすまでもない――――!
「こんなものかしら」
放たれる大玉。
自らの背丈ほどもある巨大な紫色は、氷柱を巻き込みながら消える。
「ライトニング――!」
間髪入れず放射される一条の雷電。
「はいはい」
一瞬の間を置いて照射されるレーザーが雷を掻き消す――相殺。
「――じゃ、続けましょうか」
放出される紅の楔。
「ちぇ、手がたわなかったみたい。――どんえーん」
防御壁が展開される。
――対決は、魔導師の不利に傾いていた。
回避運動を取りながらの攻撃は亡霊に届かず、さりとて処理を怠れば押し潰されるは必定。
弾幕は、ジレンマに呻吟する時間も与えぬと言わんばかりに迫り来る。
「アハハハ――」
それでもなお、魔導師は内面の読めぬ笑い声を漏らす。
時に壁を作り出し、時に上空へと転移する。
僅かな間隙を縫って、掌より生じる火球を放つ。
発火点はしかし、相手の砲撃を作動させる催促に過ぎず――。
▼ ▼ ▼
-
――キャスターのマスターは、従者の戦いに介入しようとはしなかった。
戦場から距離をとったシルバーカラスはカタナを収めぬまま呼吸を整える。
彼の狙いはひとつである。
ニンジャ装束のステルス機構はあえて作動させていない。
カタナへと変化させる。己自身を。
その時が来た瞬間、最大限のワザマエを振るうことができるように。
『ふん―――可愛げのないこと』
見澄ますのは姿を隠した白の少女。
全力を出せぬ今の状況であっても、戦闘者としての彼女はシルバーカラスの狙いを悟っている。
一撃必殺の後の先。
迂闊に手を出そうものなら、地に伏しているのはこちらになっているだろう。
『いいわ。せいぜい気を張っていなさいな』
既に淘汰の時期は終わった。
簡単に駒を手に入れられるとは最初から思っていないし、この主従が一筋縄ではいかない相手だと言う事も確認した。
適当なところで戦いを切り上げる算段はついている。
夢魔は意識をサーヴァントの戦いへと向ける。
『―――キャスターも案外やるものね。あの物量、凌ぐだけでも結構な骨なのに。
とはいえ―――やっぱり魔術以外はからっきし、か。単純な肉体強化程度なら可能みたいだけど、近接戦闘を挑めるようなものじゃない。
出来る事が多いのは結構だけど……見立て通り、直接対決なら三騎士相手じゃどうしようもないか。
―――はあ。自分のマスターにさえその力量を正確に測らせない、なんて。面倒にもほどがあるわ。
……ああ、そういえば。キャスターに一方的にやられるなんて、あのアサシン、どれだけだらしないサーヴァントだったのかしら。ま、別にいいけど』
彼女にとっては、今回の一戦はキャスターの実戦での力を見る機会でもあった。
――サーヴァント同士の戦闘。
間近に英霊の攻防を目の当たりにしながらも、彼女の表情に驚愕の色はない。
二十七祖の一柱を担うタタリの残滓。
真祖の使い魔にして数百年の齢を重ねた夢魔の写身。
第五の魔法使いによって生み出されたこの身を慄かせようというのなら、窮極の一が必要と心得よ――。
『―――そうね、折角の機会だし。見せてもらいましょうか、亡霊さん?』
――彼女は、未だ。
此度の聖杯戦争の本質に到達していない。
▼ ▼ ▼
-
「フレイム・トルネード……!」
炎の渦が桜花を散らす。
浮かぶ亡霊へと迫る魔力は当然のように相殺され、弾幕が魔導師に返却される。
「つぅ――ガイアヒーリング!」
不敵な笑みを浮かべたまま、徐々にその身は削られる。
外見の傷を癒やす事は出来ても、身体を構成する魔力自体が失われてゆくのは避けられない。
「頑張るわねえ」
慈悲はない。
展開されるクナイ型の弾幕は、逃げ場を潰す為の副砲である。
「それじゃ、これで――」
狙いを付けて放たれるは本線たるレーザー。
発射される直前。僅かに見える光筋は、最早逃れる事は叶わぬ事を示している。
――その『予告』こそが。
魔導師が待っていた瞬間だった。
「ヴォイドホール――!」
掲げられる両腕。
しかし遅い。
唱えられた言葉に如何な魔力があろうとも、数瞬後にはレーザーがその身を焼いている。
――光線が、到達する事があるのなら。
「――あら?」
放たれるべき光は動作せず、
穿たれるべき体に孔はない。
異常はそれに留まらず。空隙に捕らわれたように、全ての弾が空中で静止していた。
「――――」
停止した弾幕を潜り抜ける。
初めて危険を認識した亡霊が後退しようとした、その寸前。
「ジュゲム」
言葉と共に、爆発が周囲を覆った。
莫大な気を発し、相手に叩き付ける攻撃呪文――その爆風は確かに、亡霊に届いていた。
-
「――危なかったわー」
だが足りない。
西行寺幽々子はぽかんと口を開けたまま、暢気な姿を保っている。
――千年を越える時を過ごし、閻魔より冥界の永住を許された、永久に供養できぬ亡霊。
たとえサーヴァントとして此世に現界した彼女であろうとも、一度きりの爆風《ボム》でその身を消し去る事など不可能である。
「まあ、結構時間も経ってるし。そろそろ終わりにしましょうか」
告げる華胥の亡霊。
彼女の『死を操る程度の能力』の一端が開放される。
――そうして。
その真名を、宣言した。
「いきなさい。――――『反魂蝶』」
▼ ▼ ▼
『あ―――』
夢魔は、それを直視する。
具現化された死のカタチ。
畏れよ。
畏れよ。
畏れよ。
ここに至りて神は人に等しく、人は禽獣蟲魚に堕しからむ。
常世の国より来たりし姫は、生を奪いて死を齎さむ。
『あ―――あ』
融ける壁。解ける意味。説ける自己。可変透過率の滑らかさ。乱交する時間。観測生命と実行機能。小指のない手。頭のない目。走っていく絨毯。
八重霧の渡し。ギルティ・オワ・ノットギルティ。真理の扉。刀剣は絢爛舞踏へ。死忍。殺戮にいたる病。金色の破壊神。金色の魔王。
祝福。祝祭。同化。天体は死と新生を迎える。フォーマルハウト。俯瞰するクォーク。すべて否定。螺鈿細工をして無形、屍庫から発達してエンブリオ、そのありえざる法則に呪いこそ祝いを。
『―――嫌』
幻視する。
ひとつのユメを終わらせた、七つ夜の殺人貴を。
『オレもアンタも不確かな水月だ。
もとより存在しないもの。夏の雪に千切れて消えるのが、互いに幸福なんだろうさ―――』
「――――――――、あ。
ああ、あ、ああああああああああああああああああ……!!」
――咎重き 桜の花の 黄泉の国 生きては見えず 死しても見れず
▼ ▼ ▼
-
声にならぬ叫び。
狂気と恐慌の狭間に落とされた少女が姿を現し、シルバーカラスへと襲いかかる。
アンブッシュですらない、工夫なきブザマな攻撃を見逃すシルバーカラスではなかった。
「イヤーッ!」
……一撃で勝敗は決した。
少女の首は胴体から離れ、シルバーカラスのすぐそばへと落ちた。
雪原が血に染まると同時に、くすんだ街並……元のアーカムシティの景観を取り戻してゆく。
戦いとも呼べぬ戦いが終わり、シルバーカラスの姿はイーストタウンにあった。
「……」
シルバーカラスは戦闘態勢を崩さない。
幽々子と敵サーヴァントの気配が消えている。
警戒を続けながら、念話を試みようとしたシルバーカラスは、急激に地面へとへたり込んだ。
「ゴホッ……ああ畜生、こんな時にか」
シルバーカラスは咳き込んだ後、口を拭った。
拭った手は赤色になっていた。
彼は苦笑いした後、もう一度、むせた。
その時である!
「グワーッ!?」
唐突な背後からの強襲!
後頭部に噛み付きをかけるその下手人は……動くことのないはずの生首!
しかもその生首は少女のものではない!
ギリシャ像めいた白髮の男のそれへと形を変えた首がシルバーカラスを襲う!
「イヤーッ!」
ニンジャ感覚を駆使し攻撃の正体を掴んだシルバーカラスは大きくジャンプ。
首を引き剥がした後に空中で姿勢を反転し、スリケンを連続投擲……全て命中!
「無念っ!」
爆発四散!
そして、シルバーカラスが地面に着地したと同時に……彼は、現実の架空都市で目を覚ました。
……
「一杯食わされたわねえ」
仰向けに倒れたシルバーカラスを覗き込む、気楽な幽々子の声。
「奴らはどうした」
「どーにか、こーにか」
「逃げられたんなら、そう言えよ」
シルバーカラスは自らの手を眺めた。赤くはない。少なくとも、今は。
大きく息を吐き、立ち上がる。
「休まなくていいの?」
「場所取りは早い方がいいんだろ。花見の」
できるといいけど。他人事のように、幽々子が言う。
全く同じ調子のまま、彼女は続けた。
「夢の中だったら、煙草もあったんじゃないかしら」
「夢は叶わないもんなんだよ」
▼ ▼ ▼
-
「イリュージョン効果切れ。でもここまで来れば大丈夫、かな」
存在さえ不確かなドッペルゲンガーが、白猫を抱えて街を駆け。
自ら動くことを放棄した夢魔は、ただ、震える。
『何よ―――何よ何よ何よ、何なのアレは――――!』
「宝具じゃない?」
『貴女は黙ってなさい……!』
純粋にしてシンプルな『死』の行使。
理解してはならぬモノで構成された反魂の蝶に、夢魔は真夏の幻影を視た。
『冗談じゃない―――あんなモノ、どうやって―――』
「まあ、次からは気をつけようよ」
『っ……他人事みたいに言うものね、キャスター』
「他人事だよ。ボクとマスターは、違うから。どうやったって、何を知っていたって、同じにはなれない。
マスターが感じてることは、自分でどうにかしなくっちゃ」
『―――そんなの、貴女に言われなくたってわかってる。
ええ―――今回はこっちの負けよ。次があるのなら―――』
勝つ、と。宣言する事は、今の彼女には出来なかった。
――夜が明ける。
陽の光を浴びてなお。幻影を払拭するには、いま暫くの時間が必要なようだった。
-
【イーストタウン・路地裏/1日目 早朝】
【シルバーカラス@ニンジャスレイヤー】
[状態]やや疲労
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]「ウバステ」
[道具]不明
[所持金]余裕はある
[思考・状況]
基本行動方針:イクサの中で生き、イクサの中で死ぬ。
1.陣地構築のため、候補となる地点へ向かう。
【キャスター(西行寺幽々子)@東方Project】
[状態]健康、戦闘分の魔力を消費
[精神]正常
[装備]なし
[道具]扇
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーカラスに付き合う。
1.妖怪桜を植える場所へ。
[備考]
※各地に使い魔の死霊を放っています。
【白レン@MELTY BLOOD Actress Again】
[状態]へろへろだ
[精神]ばたんきゅー寸前
[令呪]残りみっつ
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:虚脱してる、からだが動かない
[備考]
固有結界は、魔力があるなら勝手に出入りできるみたい。マスターだけ閉じ込めるのは難しいかも。
【キャスター(ドッペルゲンガーアルル)@ぽけっとぷよぷよ〜ん】
[状態]魔導力減ってきた
[精神]うん、がんばる
[装備]装甲魔導スーツ
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1.いったん休まなきゃ、すぐやられちゃうよ。
-
投下を終了します。
-
クリム・ニック&リュドミラルリエ予約で
-
>>809
投下乙です!
キャスター対キャスター、掛け合いがもう最高でした。
名簿作った自分としても、まさか東方とぷよぷよ(魔導物語)の相性がここまでいいとは……!
懐かしい呪文オンパレードの戦闘シーンにはわくわくさせてもらいました。
シルバーカラスの渋さもいいですね。最後の「夢は叶わないもんなんだよ」好きです。
白レンの原作ルートも明らかになって、こちらもここからですね。今後が楽しみです。
-
投下乙です!
どこか飄々としたやり取りはハイセンスで、散りばめられたクロスネタにはニヤリとさせられました
それにしても特殊な出自の白レンでさえ一発でばたんきゅー寸前になるとは…SANシステムおそろしや
邪神聖杯だと戦闘中のマスターの安全をどう確保するかが重要になってきそうですね
-
>>810
すいません
無理そうなので予約破棄します
-
皆様投下乙です。
>God bless the child
神の祝福……アーカムは邪神のはびこる都市……あっ(察し)
ジャンヌはサーヴァントもアレだし設定された親友もアレだし、そのサーヴァントもアレというハードモード。
能力高いから不利にしておくというGMのバランス感覚に恐れ入りますね(棒)
聖・少・女の明日はどっちだ。
>接触
クレバーな立ち回りを見せるアルリナコンビが素敵。
そして不気味極まりないナイ神父と出会ったさくらさん。
でも向かった先に待ち受けているのは生徒の首縊り死体(罠)……!
本当にミスカトニック大学は魔窟やで……
>Horizon Initiative
宝具によるSAN値直送モード二人目。
狂気の狭間で白レンが見たものに各作品のモチーフが入ってるのがこう……なんというかいいですね!
飄々とした二人のキャスターのやりとりも心地よい感じでした。
-
間隔空けてしまってすみません、Dr.ネクロ&シン予約します。
-
投下乙です
-
すみません、リアルの事情で期限内に仕上がらなかったので一旦破棄します。
-
そして再予約します。特にそのへんの制限を決めてなくて良かった。
とはいえこういうルーズな真似を繰り返すわけにもいかないので、今後は予約期限そのものの延長も考えたほうがいいのかもしれないですね……。
一組追加して、Dr.ネクロ&シン、マスク&スカーで改めて。
-
下記予約します
クリム・ニック&リュドミラ=ルリエ
空目恭一&アサシン
-
すいません延長します。
-
遅くなりましてすみません、投下します。
-
jam 【名詞】1.混雑。雑踏。
2.故障。機能停止。
3.困難。窮地。厄介事。
4.ジャム・セッション。即興合奏。
▼ ▼ ▼
――そこは爆心地だった。
立ち込める土煙。乱然と積み重なる瓦礫。
その下から滲み出す赤い液体……あるいはその主の残骸。
ただ無秩序に。ただ紛雑と。破壊の爪跡、などという言葉は生ぬるい。
喩えるならば、牙を持つ暴風。
触れるもの全てを食いちぎる、ヒトとよく似た姿をとった暴力の螺旋。
この街に吹き荒れる理不尽の象徴……実体ある噂、神秘たる都市伝説。
架空都市アーカム、未明、ロウワー・サウスサイド。この地は今まさに、固有結界“タタリ”の影響下にある。
キャスター・ワラキアの夜が作り出した、この街の噂を具現化する舞台。
ウォッチャー・バネ足ジョップリンがばら撒いた、神秘を内包する都市伝説。
かくして演者は生まれ出でた。
演じる役は『白髪の喰屍鬼(グール)』。
共演者はこの架空都市に集ったマスター達。
そして彼らの従者にして深遠なる宇宙の記憶、サーヴァント達。
エキストラの役目は常識の埒外にある彼らの戦いに怯え、戸惑い、ただ死ぬことである。
「お、俺は見た! 噂になってるバケモノだ、本当にいたんだよクソったれ!――」
「嘘、嘘よ! あの人が死んだなんて嘘! だって昨日までは、あの部屋で私を待っててくれたのに――」
「ああ、神様! なぜ手を差し伸べてくださらない! 眠っているのですか!――」
タタリが生み出した『白髪の喰屍鬼』――正確には亜門鋼太朗の記憶から生まれた、安久ナシロを模した一体。
彼女が引き起こした大規模な破壊行為は、スラム地区の一角にパニックを引き起こしつつあった。
逃げる者。恐慌する者。泣き叫ぶ者。野次馬。浮浪者。飲んだくれ。エトセトラ、エトセトラ。
しかし誰もがその破壊の中心には近寄らない。何がその破壊を起こしているのか知ろうとしない。
まるで火事を遠巻きに見守るように、混沌のるつぼの只中にいながらも、彼らは『それ』を見ようとしない。
人の持つ本能的な危機感が、『得体の知れない存在』の正体を知ることを恐れるのか。
-
「誰に訊いてもまるで要領を得ない……! 爆発事故でないならば、別の原因があるはずだろうが」
そういった怯える人々の輪の中にあって、ひとりその中心を目指そうとしている若者がいた。
歳はまだ若い。背はそれなりにあり、スマートな出で立ちである。色素の薄い髪をオールバックに撫で付けている。
本来ならば、美男子と呼ばれてもおかしくはない。そういう雰囲気がある。
もっとも、本来ならばと注釈を置かれる理由もまた確かに存在するのだが。
「おい! そこのお前! 止まれ!」
「なんだとテメェ……って、な、なんだその妙な仮面は……」
不躾な呼び止め方をされて不機嫌そうに振り返った小太りの中年の顔が、瞬時に当惑したものへと変わる。
若者が被っている仮面――蝶の羽のように広がり四つ目にも見える赤いスリットを持つ、青いマスクを見咎めてのことだ。
実際に『マスク』と名乗っている彼は今更その反応に気を悪くしたふうもなく、懐から身分証をとり出した。
「連邦捜査局……え、FBIかアンタ!?」
「市警が頼りないんでな。手柄は頂戴していいことになっている」
「き、聞いたことあるぞ。アンタか、最近ここいらをガサ入れしてるってのは」
ふん、とマスクは大袈裟に鼻を鳴らした。
この反応を見るにおおかたギャングと付き合いのあるような人間か。
確かにマスクが今ここにいるのは、最近彼が検挙したギャングがアーカムの異常事件に関与しているという証拠を探すためだ。
怪しい人間に対しては逮捕権を行使することも認められている以上、ガサ入れに来たというのも間違いではない。
だが、ロウワーのギャングが異常事件に関与しているという点において、市警のお偉方とマスクの見解は正反対にある。
市警は一連の事件を引き起こす側にギャングが絡んでいると考えている。
マスクは聖杯戦争のマスターの誰かがここを根城にしていて、ギャングはいいように巻き込まれたのだと推測している。
だからこの地区の調査はあくまでマスクにとっては建前に過ぎない。
しかもこうして事件の現場に居合わせたのだ。なんとしてでも聖杯戦争の情報を手にしておきたいところなのだが。
「素直に知っていることを話せば、悪いようにはせん。だがな、我が職務に楯を突くような真似をするならば」
「ど、どうなるってんだよ」
「犯罪の片棒担ぎには、拳銃のライセンスは有効に活用させていただく」
そう言って凄むと、男はガタイのいい体を縮こまらせて跳ね上がり、堰を切ったように話し出した。
自分が倒壊した建物のすぐ近くに事務所を構える闇金業者で、この夜は事務所で一夜を明かしたこと。
何か人の叫び声でうたた寝から目を覚まし、窓の外を見ると何者かが争っているのが見えたとのこと。
しかしその争いはまともではなく――建物が破壊されるまでに至ったということ。
そして、未明の暗闇ではよく分からなかったが、どちらか一方が「白髪のやつ」なのは間違いない、とのことだった。
(白髪のやつ……都市伝説のグールか? サーヴァント絡みだろうとは思っていたが)
男の証言は「他の連中よりはマシ」というレベルではあったが、しかし貴重な情報でもある。
キーパーの宣言があってからまだ間もない。こうも性急な行動を起こすマスターがいるとは。
聖杯戦争のマスターとはしたたかさを良しとするものだと考えていたが、認識を改める必要があるのかもしれない。
まさか、これだけの混乱を引き起こしたのが「狂人だから」などというふざけた理由ではないだろう。
-
(仮面のセンサーとメモリー機能を活かすためにも直に見たいが、こうも住民どもが混乱を来たしては難しいか。
おまけにむやみに近付けばこちらまで怪しまれる……とっ散らかった乱戦ならば、他にも偵察がいないとも限らん)
(…………ならば、己れが先行しよう)
低く響く声。自分の脳内だけに聞こえるその言葉に、マスクは仮面の裏で視線を動かす。
霊体化で姿を隠すその声の主、マスクと契約したサーヴァントがいるほうへ。
(アサシン。頼めるか)
(任せろ。この入り組んだ都市での隠密行動で、己れを出し抜ける者などそうはいない)
マスクは頷いた。
彼のサーヴァント、暗殺者(アサシン)の英霊『傷の男(スカー)』は、市街地でのヒット&アウェイに特化した性能を持つ。
アサシンならではの気配遮断による接近だけでなく、逃走経路スキルはアーカム市内の九割近い地域で彼の離脱を補助する。
更に卓越した格闘能力は三騎士にこそ及ばずとも、自衛のためならば十分過ぎるものだ。
単独行動のスキルこそ持たないものの、かなり斥候に向いた能力を持つと捉えられる英霊だった。
(あくまで目視だ。ちょっかいは出すな。誰と誰が戦っているかだけ確認できればいい)
(了解した。ただし、マスターの身を護る必要がある時は躊躇わず令呪で呼べ)
(命あっての物種、理解しているからこそ宇宙戦争を生き延びた男だ、私はな。よし、行け)
アサシンの気配が離れたのを確認し、マスクはこっそりと逃げ出そうとしていた小太りの男を小突いた。
「お前には案内役に任じられてもらう。合衆国民ならば捜査協力してもらいたいが?」
「じょ、冗談じゃ……」
「貴様なんぞの余罪洗いに私も余計な時間を掛けたくはないのだ」
今にも舌打ちしそうな男を先行させ、マスクも現場へと向かう。
このロウワー・サウスサイドは地図に載っていないような行き止まりや抜け道も多い。
アサシンの逃走経路スキルがあれば別だが、そうでないなら土地勘のある人間に道案内を頼んだほうが早く着くという判断である。
意識的に裏路地を通らせて表通りの人の群れを回避させ、雑居ビルの谷間を右へ、左へ。
「つ、次を左に曲がれば近道ですぜ」
「離れすぎるなよ。何と出くわすとも限らん」
忠告の言葉を掛けるが、実際は逃げ出されると困るからである。
男も逃げれば余計に面倒なことになると思っているのだろう、渋々ではありながらもマスクよりも先に角を曲がろうと足を進めた。
足を進めて、そこで曲がり角の先を覗き込んだまま足を止めた。
「おい、どうした。何をぼんやりしている」
突然男が足を止めたことに不審を感じ、マスクが声を掛ける。
しかし反応はない。まるでマスクの言葉を認識していないかのようだ。
いや、動きはあった。動きはあったが、それは反応ではなかった。
男は一切マスクの言葉に反応せず、しかし結果として動いた。
-
「こぱっ」
男の口から漏れたのは、肺に残っていた空気と血液が混ざって吐き出された音だった。
口元を真っ赤に染めたまま男はたたらを踏むように後退りしたが、その足にはもはや力など入っておらず。
体を支えているのは彼自身の筋力ではなく、みぞおちあたりを貫通する『赫い捕食器官』だった。
「何ぃっ!?」
既に絶命した男を投げ捨てるように姿を現した存在を目にして、マスクは思わず呻いた。
こんなところにいるはずはない。何故ならアサシンがまだ戻ってきていない。
こいつがここにいるならば、既に偵察は完了しているはずだ。だが、見る限り間違いなく……。
「……白髪のやつ! 貴様がそうか!」
白髪の喰屍鬼(グール)。
その名の通り真っ白な髪に、腰辺りから生えた赫い尾のような攻撃器官。
噂の通りだ。こいつがアーカムを騒がせる噂――力持つ『都市伝説』。
だが、なぜここにいる。
別の何者かとの戦闘を切り上げてここまで逃走してきたのか?
しかしそれにしては、あまりにも戦闘の痕跡が無さ過ぎる。
まるで今回の破壊を起こした存在とは別人のような、奇妙な違和感。
固有結界“タタリ”の存在を知らない今のマスクが、真実に到達することはない。
金木研の記憶の影「ヤモリ」、亜門鋼太朗の記憶の影「村松キエ」「安久ナシロ」、そしてアーカム市民が想像した「名無しの喰屍鬼」。
それらが『同時に別々に存在できる』というからくりを、種明かし無しに推測するにはマスクには情報が足らなさ過ぎた。
しかし、目の前にいるのが明確なモデルを持つわけではない漠然とした噂の集合体たる「名無し」であろうとも。
ただひとつ確かなのは――この存在は純然たる神秘であり、脅威である。
(念話の通じる距離ではない……アサシンを呼ぶには令呪を使わざるを得んか!)
「名無しの喰屍鬼」がこちらに意識を向けたのを感じながら、魔術師ではない己を悔やむ。
あの赫い触手のようなものが敵の武器。人間の反射神経を越える速さで急所を一突きにする威力。
マスクの所持する拳銃では、たとえ仮面のセンサーの補助があってもどうにもなるまい。
神秘には、神秘をぶつけるしかない。
「……セ。廻セ廻セ」
名無しの喰屍鬼がにやりと笑う。いや、笑うというのは適切ではない。
正確には「食欲」を露わにしたのだ――マスクの背筋を冷や汗が滑り落ちる。
(くそっ! やむを得ない……! 令呪を持って命じる、アサシン――)
マスクの反応は早かった。
即時即応の決断力がなければ、宇宙戦争時代のパイロットはやれはしない。
しかし彼にとって不運だったのは、令呪が完全に力を発揮する前に、彼の耳が悲鳴を聞き取ってしまったことだった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!!」
バイザー越しに視線を巡らせる。誰だ。誰の声だ。
完全に事切れて地面に横たわる小太りの男。その傍ら。派手なヒールの足。女だ。
露出過多の服。濃い化粧に派手な髪型。貧民街の娼婦か、あるいはギャングの愛人か。
いずれにせよ、アーカムの社会において底辺に位置するような女だ。
-
逡巡。
今、令呪を発動するためには、あの女を見殺しにする必要がある。
いや、むしろ気を取られている隙にアサシンを呼び戻すことこそが上策であるはずだ。
あのような女、ひとりやふたり死んだところでこの街には何の影響も出まい。
虐げられし民クンタラの未来を背負うマスクが、たかが見ず知らずの娼婦の命など秤に掛けるものか。
不運な女はここで死に、マスクはその生命を盾に確実なる勝利を――
「――――キャピタル・アーミーならば! 市民の命は守らねばならんだろうがぁっ!!!」
利き腕の令呪が熱を失い、同時にその手で拳銃のグリップを握る。
そして撃つ。クイックドロー。一発、二発。命中、しかし怯みすらしない。
出来たのは、女のほうから意識を反らせたこと。もはや完全にマスクを標的としている。
勝機を蹴るとは、なんたる愚行か。まともなマスターの取る行いではなかった。悔やんでも遅い。
今からアサシンを呼んで、間に合うか。勝算は薄いが、それ以外にもはや手はない。
しかし銃弾は効かない。赫い触手は既に動いている。令呪を使うよりも一瞬速く。
間に合わなければ、これで終わりだというのか。
自分の無念、クンタラの屈辱、なにひとつ覆すことが出来ないままに――。
「お困りのようだな! 変な仮面くん!」
……完全に自分自身に限った生き死にのスケールで現状を認識しようとしていたので、
場違いに幼い声と共に何かが赫い触腕を防いだのを見て、マスクは硬直した。
▼ ▼ ▼
-
Dr.ネクロはロウワー・サウスサイドの闇医者だが、同時に齢百年を超える魔術師でもある。
この地区の騒乱の原因が魔術にあることはとっくに気付いていたし、だからこそ誰よりも早く行動を開始している。
使い魔や鏡の魔術を使った遠隔視により手際よく情報を集め、ネクロは既にひとつの結論を下していた。
――白髪の喰屍鬼は、複数存在する。
本格的な戦闘が確認できたのは二箇所。
白髪の女と、マスターおよびサーヴァントによる戦闘。
もうひとつは、どういうわけか「白髪」同士が戦っている。
しかしネクロはそのどちらにも介入しようとしなかった。
漁夫の利を得られるかもしれない線を捨て、何の役にもならないかもしれない第三の喰屍鬼を追った。
だからこそ、今、ここにいる。
ストレートの黒髪とロングコートの裾を翻し、ネクロは仮面の青年へと振り返る。
「しかし見れば見るほど変な仮面だなぁ。都市部ではそんなのが流行ってるのか?」
「な……ば……誰だ貴様ぁ! どこから出てきた!」
「馬鹿って言おうとしたな今、失敬なヤツめ。どこって上だよ、ビルの上からな、ぴょんと」
「そういうことじゃあない! 状況が分かっているのか!」
マスクの男の指差す方をちらりと見る。
謎の喰屍鬼の赫い触腕は、今、黒髪の青年――ネクロのサーヴァントが腕力で押さえ込んでいた。
「状況? 分かっているとも。お前は聖杯戦争のマスターで、私は恩を売りに来たんだ」
「恩だと?」
「さっき、令呪でサーヴァントを呼ぼうとしただろう。魔術を使い慣れてないからだろうが、力んでてバレバレだぞ」
「なっ」
「だがあの女を見て躊躇ったな。結果として下策を打ったが、しかし気に入った。それを悔やんでるふうなのも逆にいい」
「ふざけているのか〜〜〜〜〜〜っ!!」
ふざけてはいないとも、と言ってニヤリと笑う。
「純然たる外道でも、純粋なる善人でもないならば、マスター同士利用し合う相手には悪くないってことだよ。
まあ見ていろ仮面くん。我がサーヴァントがヤツを始末する。駆け引きはその後に取っておこう」
「……ひとつ言っておくが、妙なあだ名をつけるな。私のコードネームはマスクだ」
「ひねり無いなぁ! 逆にびっくりだよ!」
軽口を叩きながらも、ネクロの表情は戦闘の予感を前に一変する。
「しかし自己紹介を返さないのは失礼だな。私はDr.ネクロ。そう名乗っている」
年若い少女のものから、外見年齢にふさわしからぬ闇の気配を纏うものへと。
「サバトを司る者、大いなる蛇の使い、悪魔崇拝者――私は魔女だ」
-
闇の住人たる昏い視線で、名無しの喰屍鬼を睨む。
流石のバーサーカーも、「変身前」では力負けしかけているようだ。
ならば真の力を持って叩き潰し、マスクとかいうマスターにも見せつけてやるまで。
「さあ、見せてみろバーサーカー――――お前の、喪われた『序章の続き』を!!」
戦端を開く一言。
それを最後まで聞き届けるよりも早く、バーサーカーが吼える。
「■■■■■■■■■■■■■■――――!!!」
額が裂ける。真紅の「第三の目」がせり出す。
眉間を突き破って、一対の触覚が勢い良く伸びる。
両目がどろりとした赤で覆われ、単眼から複眼へと変異する。
全身の筋肉が膨張し、脈動し、緑色の生体装甲がその表皮を覆う。
下顎がバクリと左右へ割れ、昆虫然とした捕食器官に置き換わる。
これが、変身。文字通り、異形なるものへとその身を変ずる能力。
「う、うおぉおおおおお!?」
「直視するなよ、正気を削られる」
「なぜ先に言わない……!」
瞬間的な恐慌に陥るマスクは捨て置いて、ネウロは自分の従者のその姿を改めて見る。
お世辞にも、美しい、とは言えない。醜悪である、とすら形容できるかもしれない。
だが、それと同時に、その異形の姿には生命の輝きがあった。
エゴによって生み出され、エゴによって戦い、しかしそれによって曇らせられない輝きが。
その伝承を語られることなき無名の英雄――風祭真、そして――仮面ライダーシン!
「廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ廻セ……!」
乱入者を完全に敵と認識した喰屍鬼の触腕――赫子の一撃は、しかし空中で静止する。
バーサーカーは指一本すら触れていない。不可視の何かが、力ずくで「名無し」を抑えこんでいる。
あえて単純な表現を使うならば、サイコキネシス。バーサーカーはただ念じているだけに過ぎない。
「ぶつぶつ五月蝿い奴め。八つ裂きにしてやれ、バーサーカー!」
「■■■■■■■■■■■■――――!」
咆哮。
同時に力場の方向が瞬時に真下へと転じた。
-
何かが砕ける音。
それは舗装のコンクリートか、それとも喰屍鬼の骨格が立てた音か。
直後に伸びる紅の捕食器官――赫子。その数、二本。
別々の方向からバーサーカーへと殺到する殺意の槍。
だがそのうちのひとつは、途中で力とベクトルを失い、宙を舞った。
斬り落とされている。
瞬時に。ただバーサーカーが左腕を振るっただけで。
前腕に生えるノコギリ状の棘、攻撃器官スパイン・カッターは、それ自体が武器であり凶器だ。
もう一本の赫子は、反対側の腕を差し出して止める。
手のひらを貫かれるが意に介しすらしない。
それどころかそのまま握って動きを拘束し、更に勢い良く引き寄せる。
体勢を崩した喰屍鬼の肩、その無防備な肉をバーサーカーの強靭な顎が食いちぎった。
「■■■■……!」
バーサーカーが唸る。名無しの喰屍鬼が苦悶の声を上げる。
ちぎり取られた肩の肉は影へと戻り、捕食されることもなく崩れ落ちた。
しかしそれよりも先に、バーサーカーの腕は喰屍鬼の首へと伸びていた。
手のひらで首元を強く拘束する。
いや、拘束ではない。
攻撃だ。
相手を一撃で絶命させるための、攻撃。
そのままバーサーカーは躊躇なく頚椎を握り潰した。
体液が飛び散る。
喰屍鬼の頭が支えを失いぐらぐらと揺れる。
たとえサーヴァントであろうとも、本来ならば無事では済むはずのないダメージ。
「……そのはずなんだがな。どういう仕掛けだ、こいつ」
ネクロがぼやいている間も、絶命したかに見えた喰屍鬼は泡立つ影へと姿を転じていた。
ごぽりごぽりと蠕動しながら、また別個の姿を取ろうとしている。
生命あるものの動きではない。
英霊たるものの姿ではない。
これが英霊の姿だと言うのならば、もはやある種の冒涜だ。
まさか無限に再生するのか。
いかに自分の魔力量が一般の魔力量を上回っているとはいえ、バーサーカーで長期戦はまずい。
宝具や自己再生を使わざるを得ない状況に陥れば、流石に割に合わなすぎる。
ネクロがそう危惧し始めた矢先、だった。
-
「――――消えた? 退いたのか?」
何の前触れもなく。
影は沈み、名無しの喰屍鬼の残骸は跡形もなく消え去った。
なぜ消えたのか。あるいは、操っていた者がいるとするなら、なぜ幕を引いたのか。
この「アーカム喰種」という舞台において、ネクロは末端の役者に過ぎない。
舞台監督がいかなる理由でひとまずの終幕としたかなど、知る由もない。
「……魔力パスを通じ危機を感じて戻ってきたが。己れがいない間に、何故道連れが増えている」
マスクのサーヴァントなのだろう、険しい顔つきの褐色の男に、ネクロはあえて軽い口調で「よう」と手を挙げた。
▼ ▼ ▼
「落ち着いたか?」
「ああ。思わぬ失態を見せたと恥じる気持ちはある」
「まぁ、ありゃ注意しなかった私も悪かったといえば悪かった。スマンスマン」
まるで謝意を示しているように感じない。
しかし、いくらネクロの不注意で醜態を晒したとはいえ、バーサーカーの「変身」に取り乱したのは結局のところ自分である。
英霊の神秘を目視すれば正気を失う……そのことを肝に銘じ、恨みは一旦押し出して、マスクは本題を切り出した。
「我がアサシンからの報告で、『白髪の女』が『盾の英霊』と戦闘しているのを確認した」
「私もそれは知ってる。私の診療所が巻き込まれたらどうしようかとヒヤヒヤものだったぞ」
「貴様の診療所なぞどうでもいい。白髪のやつが二箇所に同時にいたことが問題だと言ってるんだ」
「どうでもよくはないだろ。しかし訂正するなら三箇所だ。もう一箇所は両方白髪だったから四人だな」
「四人?」
「もっといるかもしれん。おそらくそういう魔術だ」
Dr.ネクロが口先だけの魔術師ではないのは、既にマスクも承知している。
魔力消費が激しいというバーサーカーのサーヴァントを御し、更にマスクの知らない情報まで有している。
見た目は十代前半の少女にしか見えないというのに、老獪さすら感じさせる佇まいだ。
「つまりだ。『白髪の喰屍鬼』は個人ではなく……それを生み出す魔術が本体だと?」
「ああ。おそらくはサーヴァントの宝具だ。だがあまりにも大規模過ぎる。敵とするなら、難敵も難敵だな」
「知らずに踊らされていたのか」
「だろうな。だが目的が不明瞭だ。数の暴力で殲滅にかかればいいのに……そう出来ない事情とか理由があるのかもな」
未知のサーヴァントを探りつつ、同時に互いが互いを探り合いながら言葉を交わす。
これは考察であると同時に交渉だった。
おそらく相手は百戦錬磨の魔術師。どういう巡り合わせか自分を協力相手と見定め、利用しようとしている。
-
だがマスクも一方的に利用されてやるつもりはなかった。
Dr.ネクロの魔術知識は、リギルド・センチュリーに生きる一介のパイロットに過ぎないマスクには有用の極みだ。
それに当面の敵は少ないに越したことはない。たとえ最後は殺し合う定めだとしても。
「単騎で立ち向かうには強大過ぎるからこそ、一時的な『同盟』が必要だと思うんだ、マスクくん」
「馴れ馴れしく呼ぶな。だが、そちらに益があるのか分からんのではな」
「なんだ、可愛い私の知識とバーサーカーの戦力を、そっちが一方的に手にするのは不満なのか?」
「自分の利益を求めないやつを信用し難いと言ってる」
そう突き放すような言い方をすると、ネクロは「利益ならあるさ」とにやにや笑いをした。
「私は魔術師だし、闇医者として貧民街では顔も利くが、あいにく社会的信用ってやつがなくてな。
おまけに見た目はどう見ても子供だろう? 公の立場があるやつが味方だと一気に動きやすくなる」
「理解はできるが」
「それにな――余計な犠牲を出すまいとしたお前を見て気に入ったというのは、案外本音でもある」
そう口にするネクロの表情から、僅かにからかいの空気が引っ込んだ。
「私は魔術師だ。外法の極みを突き詰めた者だ。同じ外道の命を奪おうが、痛む良心などない。
そして、恐らくはお前もそうだと私は踏んでる。いざとなれば躊躇なく敵を撃てる人間だ」
「褒められているものと解釈するが?」
「褒めてるんだよ。とにかく、それは聖杯戦争のマスターとして当然の心構えってやつだ。
だが、それはいたずらに犠牲を出すこととイコールではない。闇の儀式だからこそ、決着は闇の住人の手でつける」
決着は、闇の住人の手で。
はじめて、Dr.ネクロの人間性が覗いたようにマスクには感じられた。
人間性を捨てた魔術師であると自覚し、だからこそ世界に光と闇の一線を引いて、あえて闇の側で生きる者。
その矛盾が、Dr.ネクロの魔術師としての矜持なのだろう。
完全に信頼はできない。
だが、誠意ある言葉であるとは理解できるように思えた。
「――いいだろう。『同盟成立』と考えてもらっていい。アサシンも異論はないな?」
「己れから言うことはない。だが裏切りは償わせる。それだけだ」
「それはお互い様だ。これからよろしく頼むぞ、マスクくん」
握手をせんと手を延ばすネクロを見、マスクは僅かに考えを巡らせた。
それから腰元の装備に手をやり、片手でネクロの手を握って、もう片方の手で、
……ガチャンとその細腕に手錠を掛けた。
-
「……んんん?」
「言っていなかったが私は連邦捜査官だ。アーカムの異常事件には逮捕権がある」
「いやそういうことじゃなくてだな」
「事件の関係者として市警にパイプを作る口実作りと理解してくれ」
「それなら情報提供者で良くないか? 手錠いらなくないか?」
「それから教えておくがドクター、私は恨みという感情を大事にする男だ」
やっぱりさっきのこと怒ってるんじゃないか小さい男だな、というネクロの不平は聞き流す。
優秀な人間なのは分かっている。署に連れ込む口実さえ与えれば上手く立ちまわってくれるだろう。
マスクにとっての聖杯戦争の、始まりは突然嵐になった。
この虐げられし民のための仮面越しに、その先の明日は見通せるか。
掴むべきサクセスの感触は、まだこの手の中にはない。
【ロウワー・サウスサイド・路地裏/1日目 未明】
【マスク@ガンダム Gのレコンギスタ】
[状態]健康
[精神]一時的ショックから回復
[令呪]残り3画
[装備]マスク、自動拳銃
[道具]FBIの身分証
[所持金]余裕はある
[思考・状況]
基本行動方針:捜査官として情報を収集する。
1.Dr.ネクロを連れてアーカム警察署へ戻る。
2.白髪の食屍鬼を操るサーヴァント(ワラキアの夜)を警戒。
[備考]
※拳銃のライセンスを所持しています。
【アサシン(傷の男(スカー))@鋼の錬金術師】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:基本的にはマスクに従う。
1.Dr.ネクロを警戒しつつ、マスクを護衛する。
[備考]
※盾の英霊(リーズバイフェ)およびそのマスター(亜門)と白髪の食屍鬼の戦闘を目視しています。
どれだけ詳細に把握しているのかは後続に委ねます。
【Dr.ネクロ(デボネア・ヴァイオレット)@KEYMAN -THE HAND OF JUDGMENT-】
[状態]健康、魔力消費(小)
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]魔術の各種媒介
[所持金]そこそこ
[思考・状況]
基本行動方針:他のマスターと協力しながらしばらくは様子見。
1.マスクに連れられる形でアーカム警察署へ。
2.白髪の食屍鬼を操るサーヴァント(ワラキアの夜)を警戒。
[備考]
※盾の英霊(リーズバイフェ)およびそのマスター(亜門)と白髪の食屍鬼の戦闘、
また白髪の食屍鬼同士(金木とヤモリ)の戦闘を把握しています。
しかしどちらも仔細に観察していたわけではありません。
【バーサーカー(仮面ライダーシン)@真・仮面ライダー序章】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???
[備考]
-
投下終了しました。何か有りましたらお願いします。
-
投下お疲れ様です
悪人にも善人にもなりきれないマスクはいいキャラしてるなぁ。「キャピタルアーミーなら〜」のくだりが特にグッと来ました。
飄々としたネクロと富野節全開の掛け合いも素敵です。
そして無名の英雄、仮面ライダーシンは流石の格好良さですね。
二人の次の舞台は警察署になるでしょうか、とても魅力的な同盟でした!
-
乙
マスクさんはコミカルなのにカッコよくてズルイ!
-
投下します
-
『探索者(マスター)たちよ。そして銀鍵の守り手(サーヴァント)たちよ――運命の呼び声の時です』
* * *
聖杯戦争開幕の号令が空目恭一とアサシン『八雲紫』の脳髄に響く。
「蠱毒の始まりか」
「ええ、そうですわねマスター」
ミスカトニック大学のキャンパス。日本から取り寄せたという桜の下に彼らはいた。
「『あやめ』はまだ見つからないか」
「生憎と、マスターと違ってパスが繋がっていない子を見つけるのは難しいですわ。マスターの“鼻”はどうでしょうか」
「生臭い水の臭い以外に特に何も匂わん」
空目恭一の鼻は特別、と言うより異常だ。過去に神隠しにあったことにより彼の嗅覚は異界の存在や異形の匂いに敏感になっている。
そして彼が探している『あやめ』という少女もまた、神隠しの被害者である。
いや、正確には加害者でもあるし、神隠しそのものでもあるが、今の本人はそれを望まない。
「ともあれ、彼女の正体を嗅ぎ付けたら少々厄介ね。何をされるかわかったものじゃないわ」
「大抵の奴はあやめをどうこうできん。下手すれば自滅するだろう……が」
「だろうが?」
「お前クラスの〝怪談〟がゴロゴロいるならば話は別だ。あやめが取り込まれてしまうかもしれない」
あやめは異界の住人である〝異存在〟と呼ばれる存在だ。
『異界』とは文字通り、世界とは異なる世界。自分たちの世界の裏側。本来ならば人間が認識できないはずの常世である。
そしてそちら側にいる彼女と接触できるということは、『異界』に対して親和性を有する、つまり『異界』に惹かれる者である。
そうした人間を『異界』へ引きずり込んでしまうのが〝異存在〟であるあやめの力である。
そんな彼女がなぜ、空目と居られるか。それは────
「異存在は認識される世界の住人となる……でしたね」
「そうだ。俺は文芸部や大勢の生徒にあやめを認識させて『異界』からこちら側へ引き込んだ」
「だが、魔王陛下(マスター)があやめという子を陛下側の世界に引き込んだように、このアーカムで大勢に彼女が認識されれば、この世界の住人となってしまう。
幻想郷とは真逆の仕組みなのね」
アサシンこと八雲紫のいた世界、『幻想郷』は忘れ去られて『幻想』になったものが最後に行き着く世界である。
幻想郷、異界、無何有の地、隠れ里、桃源郷、ニライカナイ、未知なるカダス。名は多くあれど実体はそんなところだ。
だからこそ八雲紫は『あやめ』という娘には興味がある。
「ともあれ……あら?」
「どうした」
「どうやらサーヴァントみたいですわ。感知できる範囲で二騎います」
サーヴァント。即ち敵がいるということだ。
近くにいれば互いの位置が大体分かるのがサーヴァントに与えられた能力のひとつである。
しかし、アサシンのクラススキル『気配遮断』は自分を感知させなくするスキルである。
攻撃の時にバレてしまうのが欠点だが今のような隠密活動状態では相手のサーヴァントに見つからないため先手が取れる。
-
「いかが致しますマスター? サックリやってもよろしいですが?」
「いいや、戦闘はしない。戦闘はしないが、実験はする」
「実験? 何の?」
「お前のスキルと宝具の実験だ」
* * *
サーヴァント同士の戦いが始まった。
片方は侍。片方はセーラー服の少女。
片方の剣士のマスターはこの大学で何度か見た事がある。何度か図書館で見た顔だ。
確か彼女は大学の神秘学科で『七曜の魔女』と呼ばれていた少女。彼女もマスタ―だったのか
どちらのサーヴァントも尋常ではない速度で武器を振るい、空目の動体視力を超える速さで戦闘を繰り広げる。
神速域の攻防が火花を散らし、周囲に破壊を撒き散らす。
それを空目はキャンパスからかけ離れた商業地区の南部。ノースサイド線の最西の地下鉄駅入口から視ていた。
勿論、空目恭一にアフリカのマサイ族並の視力は無い。
これはアサシンの宝具『境界を操る程度の能力』による空間接続で戦場の空間の一部を繋げて見ているのだ。
当然、この宝具を戦っている2人に気付かれる可能性も重々承知であるが、情報は集められるうちに集めた方がよい。
「マスターは結構大胆なのね」
「うるさい。黙っていろ」
「ああ、激しいわ」
「戦いがな」
「ノリが悪いですわ魔王陛下」
切妻屋根の鋭角に生じた『スキマ』から戦闘をじっくり観察する。
本来ならば宝具の発動自体にも多くの魔力が消費されるため、こんな近距離で宝具を使おうものならばすぐにもバレてしまうだろう。
そこでアサシンのスキル『神隠しの主犯』が活きてくる。
この宝具の発動中はそのスキルによって『気配遮断』が有効なまま発動できるらしい。
「本当に陛下は豪胆ね。
知識で可能と分かっていても相手が2騎もいる状態でいきなりやろうとは思わないわよ普通」
「実験にはリスクは付き物だ。いや、生きること自体リスクそのものだ。生きる時は生きる。
死ぬときは死ぬ……誰だってそうだ、例外は無い」
いつか、あやめを引き入れた時に文芸部のメンバーに言ったセリフだ。
戦況が動いた。セーラー服の少女が宝具を使ったのだ
* * *
「《沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)》――――――!!」
英霊が名を呼ぶ、その時、伝説は蘇る。
* * *
「……………ッあ、ぐ」
目に焼き付く宝具の輝き。網膜から入って脳髄を冒す神秘。
────人を買え。
────首を括らせろ。
────そして埋めてしまえ。
────お前の怪談(きょうふ)はお前の中でできている。
-
それは常人を発狂させる法則であり、聖杯戦争のマスターとしてある程度の神秘保護を受けている空目とて例外ではない。
あれこそは滅びの具現。あれこそは刈り取る者の象徴。
腐肉に集る蝿の如く湧いてくる頭痛、吐き気、悪寒。恐怖、狂気。
かつて『異界』に連れ去られた際も心を乱さなかった自分が今、神秘の輝きに恐怖している。
(なんだ……コレは……)
手が震え、奥歯が震え、胃が蠕動した。
死を恐怖している、俺が? 文芸部の連中が知れば噴飯ものだろう。
こみ上げる吐き気を抑え込みながら視界の端にいた剣士のマスターに目が行った。
(あいつ……平衡感覚を失っている……それにあの表情……)
パニックを起こしているのか?
神秘学科の新星は間違いなく恐慌している。
そしてそれが意味するところを理解する寸前、天を裂いて雷電が落ちる。
雷雲もなく、あんな狙い打ったように雷が落ちるなどあり得ない。
サーヴァントのものでもない。この場にいない誰かが攻撃を仕掛けたのだ。
強烈な光に空目の目が眩む。一秒、二秒、三秒、四秒…視界がやっと戻った時には既にサーヴァント2騎の姿はなく、戦闘も終わっていた。
既に異形特有の枯草のような匂いもない。
「アサシン、引き上げるぞ」
自分のサーヴァントに話しかけるも反応が無い。
振り向いてみると彼女は路地の闇を見つめていた。
「どうした?」
「どうやら敵のようですわ」
「何?」
警備員の巡回はまだだし、そもそもアサシンが〝敵〟と呼ぶのだから相手はサーヴァントだろう。
問題は『気配遮断』中になぜ見つかったかだ。
路地から人影が二つ現れた
「おや。そこにいるのはサーヴァントとそのマスターか?」
「本当に勘だけで見つけるなんて」
「何、天才ならではの直感というやつですよ」
茶髪のおかっぱの青年と青い髪の少女だった。
おそらく少女の方がサーヴァントだろう。
水晶と氷塊から削り出したような、輝く槍を持っているし、何よりも異界の者の〝匂い〟が濃い。
互いのマスターが相手のサーヴァントのステータスを視て、それを瞬時に念話で自分のサーヴァントに伝達する。
四者共に眉一つ動かさずにそれを知った。
-
「見つかってしまいましたね。
どうしますかマスター? ここで……」
「戦わん。こちらに害が無い以上戦う必要がない」
戦うつもりなど毛頭ないのにわざわざ喧嘩を吹っ掛ける必要もないだろう。
しかし、空目の態度は相手のサーヴァントの癇に障ったようだ。
「害が無い? へぇ、それは自信? 平民風情が出たわね死ぬほど後悔して逝きなさい」
「厳然たる事実だ」
空気が凍りつく。
一触即発、何か行動を起こそうものならば火薬庫に火をつけた如く爆発するだろう状況。
その中で、まず動いたのはアサシンだった。
* * *
突如、アサシンは片手で空目を抱え、もう片方の手で魔力の塊を弾丸にして放つ。
それは分裂して攻撃ではなく目眩ましとして機能し、槍のサーヴァントの視界を弾幕で覆い隠した。
弾幕が晴れた時、二人の姿は豆粒ほどにまで小さくなっていた。
「逃がすか!」
アサシンを追ってランサーも疾走を開始した。
マスターは何も言わない。お手並み拝見ということだろう。
アサシンがマスターを担いで走った先は地下鉄の駅ではなくアーカムの中央を流れるミスカトニック川。
「は、馬鹿ねどこへ行こうと……」
ミスカトニック川は浅瀬とは言えないし、川幅も決して狭くない。
サーヴァントといえど水中でマスターを担いだままでは十分に動けるはずがないしそもそもマスターの息がもたないだろう。
よって連中の行き先はデッドエンド。ミスカトニック川は物理的な三途の川として存在している。
かといって何処かで引き返そうものならば私と対峙することになる。
アサシンが暗殺者として召喚されている以上、三騎士のサーヴァントとは戦闘能力で差がある。
よってここで私に敗北はない。
ついに暗殺者の主従が川へと飛び出した。
そして、暗殺者の女の足が水面へ──着水しない。
「なっ」
まるでふわふわと浮くように、だが決して遅くない速度で反対側へと移動していく。
まずい。
ランサーの英霊『リュドミラ=ルリエ』の胸に焦りが募る。
この世界では大型の騎乗機械で空すら駆けると聞いていたが、それにしてもあれは反則だろう。
敵は飛行することで先ほどのミスカトニック川の地形の悪条件をクリアしている。
水中にいたくなければ空中にいればよいと理不尽な行為を現実にやってのけてしまった。
そして逆にリュドミラには浮遊や飛行の術はない。このまま水中に飛び込めば絶対不利の状態で戦わなければならない。
戻って地下鉄道から反対側に渡る術もあるがタイムロスが激しいし、何よりノースサイド線の土地勘がない。
そんなリュドミラの焦りを見透かしてか、アサシンの英霊は一瞥して
「では、さようならお嬢さん。帰りは車に気を付けるのよ」
と虚仮にしたような挨拶をかけやがった。
それでリュドミラの心に火がついた。
-
* * *
時刻は草木も眠る丑三つ時。魑魅魍魎が跋扈し、幽玄妖魔が隊を成すとされる時間帯である。
サーヴァントシステムによって英霊の属性に嵌められたアサシンであるが、スキル『妖怪』によって妖怪の属性も得ている。
故に本来のスキルとは効果の異なる二次的な効果であるが、魔力の回転率、判断速度、身体の活性率全てが好調だった。
「お姫様だっこされてどんな気持ちでしょうか、魔王陛下」
「あと川岸へはどのくらいだ」
「普通、この場合男女逆ね。
まぁ魔王陛下の細腕じゃあ幼子すら持てるか怪しいでしょうけど」
「冗談を言っている場合か」
「さっきから慌ててどうされました?」
「後ろを見ろ」
言われるままに振り向くとそこには蒼髪の少女が水面上を走って追いかけてきていた。
その足元にはミスかトニック川の流水を凍らせてできた氷の橋が作られており、更に周囲のみずも凍らせて足場を広げていった。
「あら素敵」
流れる水すら凍らせる彼女は氷使い。接近されることは死を意味する。
「マスター首に腕を回してください」
マスターと支えていた左手を自由にして、体の向きを180度変える。バックステップで移動しながら相手を沈めることにした。
アサシンの五指から生じる魔弾。
それはアサシン『八雲紫』のいた異界の技で遊びのルールそのもの。
魔力、妖力、霊力などを固めて撃つだけならばアサシンのクラスでも十分可能だ。
圧倒的な面制圧力は氷上のランサーが回避できるはずもない。
「ふざけているの?」
だが所詮は魔弾。それも魔術師ではないアサシンのものである。対魔力を持つランサーに命中したところで豆鉄砲ほどの効果も及ぼさない。
ただし、ランサーの足場を、氷橋を破壊していた。しかし、それで水没するランサーではない。
四散した氷の破片は木の根のように伸び、繋ぎ合って新たに足場を生み出す。
「これでは拉致が明きませんわね」
氷の軍勢は戦姫を筆頭にその領土を広げて進軍をしていた。
このままでは追いつかれる。
「やれやれ」
今まで黙っていた空目がポケットから紙束を取り出した。確か聖杯戦争開幕前に〝包帯男〟がばらまいていた紙を半分に折ったものだ。
それらは空目が手を離すと空気抵抗に煽られて紙吹雪のように舞っていく。
「“鋭角”ができたぞ」
「流石です魔王陛下」
異次元たる『スキマ』を展開するアサシンの宝具『境界を操る程度の能力』。
この聖杯戦争の仕様で鋭角がある場所のみに使用可能という制限がついているが、裏を返せばそれだけだ。数に制限などない。
次の瞬間、半分に折った紙の鋭角から射出されてきたのは道路標識。鉄骨。コンクリート塊などの物体。
出現したそれらは魔力を帯びてランサーへ迫る。加えてアサシン本体の魔弾掃射もまだ続いていた。
-
氷橋が落とされる。氷柱が砕かれ、衝撃波で荒立った波がそれらを呑み込んでいく。
一筋の光、一発の弾丸として放たれたそれらはランサーの領土(あしば)を食い散らかして破壊していった。
しかし──
「それがどうしたっていうのよ!」
一閃(にしか空目には見えなかった)でいくつもの火花が散り、スキマから射出された鋼鉄と魔弾が弾き飛ばされた。
更に返礼とばかりに氷の塊が生み出される。その数十。全てアサシン目掛けて発射された。
そして秒と経たずに、それら全てが役に立つことなく撃墜される──と思えば次の瞬間には三十の氷塊が迫っていた、
それを落としても次は四十が、その次は五十が、まだまだ増える。
なるほど、ここは水の上で彼女は氷使い。
凍らせるものは困らないというわけね。でも───
「弾幕で私に挑むつもりかしら────幻巣『飛光虫ネスト』」
* * *
────く、面倒ね。
リュドミラのスキル『氷風の盾』はラヴィアスから出た冷気と衝撃波で矢などの飛び道具を吹き飛ばすスキルだ。
故に紙から飛び出す現代風の煉瓦や木材などはリュドミラへ届く前に消し飛ぶ。
しかし、鉄の表札(道路標識というらしい)や鉄棒はその限りではない。理由は単純にして明解。質量が大きい。
凍結から粉砕までの行程でも破壊しきれない、むしろ細かくになって防ぎにくいものとなる。
故にあれらは直接弾く方が効率が良いが、それだと足が止まる。
お返しに何発も氷塊を打ち出しているが、弾幕戦では相手に勝てない。
「弾幕で私に挑むつもりかしら────幻巣『飛光虫ネスト』」
アサシンの周りが一瞬光ったかと思えば、矢のように光る魔弾が進路上の氷を残さず砕いた。
「本当にアサシンなのあなた?」
「ええ。見ての通りアサシンです」
お前のような暗殺者がいるか──と否定できないのも事実である。
そもそもアサシンだから魔術が使えないと考えるのは誤りだろう。
魔術、呪術といった呪(まじな)いで人を密かに殺すためにするものもかなりある。故に魔術師と暗殺者を兼業できる者は少なからず存在する。
再び白光の魔弾が足場へ撃ち込まれる。その数、十発。残さず氷を砕いて再び足を止められる。
眩い光と氷の割砕する音が乱舞する中、リュドミラは相手の魔弾の特性を分析していた。
おそらく、あの白い魔弾は先ほどまで指から撃っていたものと大差違いはない。
連射していた弾を固めて放つ、量より質を重視した弾だ。その証拠に対魔力を持つ自分へ向けられる弾は一発もない。
よって気にかけるべきは紙から出てきた鉄塊のみ。
「空餌『中毒性のあるエサ』」
足元に的のような重層の正方形が出現した。
空中から前方と上空から先ほどまでと毛色の違う魔弾が迫ってきた。先ほどまでのよりも断然速い。
でも数が少ない分防げる。
道路標識を槍で撃ち落とし、蹴りで弾を弾いたその次の瞬間、足場の氷が割れた。
「な、に」
原因は水面下。水中からも弾が発射されていた。
アサシンが今まで撃った弾や道路標識は魔力を宿し、魔力のパスがアサシンと繋がっている。
それを手繰って水中で魔弾を作ったのだと、リュドミラが気付いた時は既に手遅れ。
足場を崩され、余裕も崩されて氷を再凍結するための集中が出来ない。
結果、ミスカトニック川へと落ちる。
(……まずい)
最悪だ。
今、相手が道路標識を撃ち込んできたら防御ができない。水中で冷気を使おうものならば凍結するのは自分だ。
霊体化は論外。再び浮上するしかない──と思ったところで足が地面を踏む感触を得た。
(川底!)
目を凝らせば、目の前には斜面が広がり、川底とは違った意匠の、治水工事の石畳が敷き詰められている。
そう、既に反対岸に着いていたのだ。
-
アサシンはまだ前方二〇メートル先を飛行している。ならば────
川底の地面はぬかるんでいるが、即席の氷の足場と違い、揺らがないし崩れる心配も無用だ。
川底を思いっきり踏みしめて跳躍する。
「アサシン!!」
砲弾のように水中から飛び出したリュドミラはあっという間にアサシンまで詰めて竜具『氷槍ラヴィアス』で薙ぐ。
アサシンはそのゴシック・ファッションめいた服のフリルから傘を取り出し防ぐ。
手品のように現れた傘は恐ろしく頑強で、鋼鉄の鎧すら切り裂く『氷槍ラヴィアス』の刃を防いだ。
「頑丈な…傘ね!!!」
しかし、ステータスだけならばランサーの方が上だ。そのまま力任せに傘ごとアサシンを地面へ弾き飛ばした。
マスターを庇うべく、足で着地したアサシンをラヴィアスから発せられた冷気が覆って下半身丸ごと凍らせて縫い付ける。
遂にリュドミラの間合いでアサシンとそのマスターを捉える。
「終わりよ平民」
続いて着地し、ラヴィアスの刃を動けないアサシンのマスターの喉元に突きつけた。
「私を相手にここまで健闘できたことは褒めてあげるわ
だから選ぶ権利を与えてあげる。
ここで死ぬか。忠誠を誓って私達の部下になる名誉を得るか」
「そこに対等の相手として同盟を結ぶという選択肢は無いのか?」
「殺されないだけ有り難く思いなさい。
対等? 笑わせないで。私からすれば貴方達は等しく下等よ。
身分が上。立場が上。力が上。だから私には勝てない」
そして事実そうなっている。
それを聞いて選択の余地がないと知ったアサシンのマスターは沈黙し、そしてその隣にいるアサシンは────
「プッ、ハハ、ウッフフフフフフフフ」
爆笑していた。
「貴女、何が可笑しいの?」
「失礼。貴女のことを誤解していましたわ。
てっきり情け容赦の無い百戦錬磨の冷血な殺戮者かと思ったけど蓋を開けてみれば可愛らしいものでしたので」
そしてアサシンはリュドミラに微笑む。
まるで小動物を見る人間のように。
「ええ。貴女の言う通り。貴女は私よりも強いから私に勝つ。
寺子屋に通ってもいない稚児にすら分かる理屈ですわ」
つまり、とアサシンは付け足して。
「貴女って実は大したことはないでしょう?」
-
* * *
「貴女って実は大したことないでしょう?」
紫が言った瞬間に、ただでさえ低い周りの温度が更に低くなった気がした。
「なぜなら強者は力なんて誇らない。というよりそんなものに執着しない。
戦えば勝つのは本人にとって当たり前だから力は手段であって目的じゃない」
特に八雲紫のいた幻想郷ではそれが顕著だ。
────吸血鬼は永遠の夜を生み出そうとした。
────冥界の主が一切の春を奪おうとした。
────鬼は宴会をするためだけに力を使う。
────核融合の力を分け与えて文明を栄えさせようとした神もいた。
力自慢するために弱者を襲う強者はほぼ皆無。あくまで障害を排除するための手段でしかない。
「だというのに貴女ときたら平民だの格上だのまるで強者であることが存在意義みたい。
だから笑えるのよ」
次第に氷に圧迫されていく足と、強くなる凍気はまさにランサーの怒りを顕しているのだろう。
もはや下半身全体が壊死寸前まで冷やされながら、それでも紫は悪魔のごとき挑発を続ける。
「貴女は真っ当よ。少なくてもその判断基準は常人だわ。
だから、いつか必ず負ける。貴女は強者を倒す弱者に勝てない」
例えば妖怪を素手で打ち負かす人間のような──勇気やら気合いやらで弱肉強食を無視する手合いには特に。
「貴女は怪物でもなければ怪物を一人で退治しようとする狂人(えいゆう)でもない。
特別な玩具を手に入れて浮かれている、ただの──小さな子どもよ」
「黙れよ貴様ァ!」
* * *
リュドミラの怒りが爆発した。
先ほどの部下云々の話し合いは三千世界の彼方へ消し飛び、もはや息の根を止めずにはいられない。
コイツは殺す。
私は戦姫で、ラヴィアスの戦姫である誇りこそが私の全てだ。
母が、祖母が、私に託してくれた戦姫のバトン。それに恥じない戦姫であろうとする矜持。
それを踏み躙らせていいわけがないでしょう。ねぇ、ラヴィアス。ねぇ、■■グル、エレオノー■。
-
氷槍の刃がアサシンの胸元、霊核へ真っ直ぐ突き入られ、氷の刃は過たず、アサシンの胸に深くめり込む。
しかし────
槍の手応えがない。まるで空を突いたように何かに刺さった衝撃がまるでない。
「フフフ」
アサシンが微笑む。
何ら傷を負った風にも見えない。
次の瞬間────
槍が引っ張られる。アサシンの胴体へずるりと、一切の障害なく。
吸い寄せられる。奪われようとしている。戦姫の証、いやそれ以上にかけがえのない宝物が。
よって奪われないようにと力を込め、その結果見る羽目になる。
氷槍ラヴィアスの穂先を。
何がそこにあるのかを。
「──────」
〝それ〟は言語化できない異常な角度を持つ空間だった。
妄念、欲望、悪性渦巻く醜悪な隙間。
人間ならば受け入れられない、いやそもそも見たいとも思わないはずだ。
内側から溢れ出す理解不能の負の感情に手の力が弛んだ。
結果、ラヴィアスを奪われる。凍漣の槍自身も奪われまいと氷を張るがもう遅い。隙間の中へ取り込まれる。
「あ、ああ……」
* * *
寝静まったオフィス街。
人間の文明開花はこの魔市街たるアーカムをも浸食し、その穢れた土壌から4、50階建てのビルディングを無数に生やしていた。
特にオフィス街のノースサイドでは他の地区より多くのビルディングが立ち並ぶ。
そこを背景にして二騎のサーヴァントの戦いに決着が着いた。
槍の穂先、それが服を突き破る前に生まれた鋭角。そこにアサシンはスキマを作り短槍を異次元へ吸い込んだのだ。
短槍を奪われた少女は今にも憤死しそうなほど怒りと恥辱に顔を歪め、そしてもう一人はしたり顔で微笑んでいた。
それっと掛け声をしながら魔弾によって己とそのマスターを捕らえていた氷を弾く。
空目はこの結果が予測出来ていた。
八雲紫は最優の妖怪であり、遥かな太古に最強の妖怪達を率いて月へと進軍したという伝承は伊達ではない。
元々のステータスはきっと知略、暴力、能力の全てのバランスが高水準で整っていたのだろう。
特に知略・経験値においてはアサシンとして召喚されたところで失われるわけではないのだ。
────式神が呼び寄せられない、あら大変。
────結界が巧く編み込めない、それは困りましたわ。
────能力による論理崩壊ができない、で、それが何か?
八雲紫という神隠しの妖怪が最上級であるという事実は揺るがない。
「逃げてもよろしいですよお嬢さん」
この妖怪は悪辣……というより老獪なのだ。
この戦いは最初から最後まで八雲紫の掌の上だったと言っていい。
* * *
戦姫の証たるラヴィアスを奪われた。ルリエ家最大の失態である。
リュドミラの冷徹な頭は失態を恥じるより早く、何故こうなったかを冷静に分析していた。
-
まず河川上の戦い。
この段階で敵の攻撃は始まっていたのかもしれない。
最初の会話でリュドミラが誇り高い人物だと看破したアサシンは川岸で挑発してリュドミラを誘い出したのだ。
マスターとの連携を絶ったアサシンはそのままゆるりと引き付けつつ後退、反対岸まで誘い込み私に捕まる。
よくよく考えればあんな水中から攻撃可能な弾幕を最後に使った時点でおかしかったのだ。
あれを最初から使えばリュドミラが反対岸まで追うことなど不可能だったのだから。
そして、凍らされた後に挑発して私に攻撃をさせて逆に私から槍を奪う。
詰まるところリュドミラが挑発に乗らなければ回避できた状況なのだが、相手は必ず怒るように仕向けたのだ。
リュドミラはこれでも戦いの中での自制心には自信がある。
敵軍が罵詈雑言や挑発的な行動をとっても冷静に軍を動かし、堅実な戦いで勝利したことなど限りなく、それ故に英霊として信仰されたのだ。
しかし、アサシンの挑発はリュドミラ個人の、それもアイデンティティーを攻撃するものだった。
リュドミラの家系は代々竜具『氷槍ラヴィアス』によって戦姫に選ばれた珍しい一族だった。
故に戦姫として誇りがある。
先達から誇りを継いだという矜持がある。
その誇りを守り抜いて見せるという気概がある。
アサシンの毒舌はそこを精確につついたのだ。
戦姫(おまえ)は大したことない。
力など所詮は手段で戦姫(そんなもの)に意味はない。
誇りたい? むしろ滑稽だぞ笑えるな、と。
その戦術は悪辣。この一言に尽きるだろう。
人の気持ちに唾を吐くような下劣さと、そんな不確定要素を精密に計算して事を運ぶ悪魔じみた演算能力が合わさっている。
そして事実としてリュドミラの宝具を奪い、マスターとの連携も絶っている以上、認めざるを得ないだろう。こういう強さもあるのだと。
「さて、では降伏していただけますか?」
「はっ、ふざけるないで。槍を奪われたくらいで私が降伏なんてすると思うの?」
ブラフである。ラヴィアスのないリュドミラの戦力はサーヴァントを相手にするには低すぎる。
しかし、既にリュドミラの宝具は非戦闘用の紅茶(チャイ)一つ。
一方でアサシンの宝具は未だ未知数だし、リュドミラ同様に一つとは限らない。
故にリュドミラは詰んでいた。マスターと離れているこの状況では令呪の支援など望めまい。
しかし、いや、だからこそ。彼女は最後まで誇り高くありたい。
嘲笑われたまま、踏み躙られたままで終われないのだ。
「では、さようならお嬢さん」
* * *
「では、さようならお嬢さん」
「茶番はそこまでだアサシン」
-
空目がアサシンの茶番を止める。
ここで彼女を殺すのは空目の意図するところではない。
「槍も返してやれ。この状況では同盟も休戦協定もできん」
「それは止めておいた方がよろしいでしょう。次やれば負けるかもしれません」
八雲の言うことも一理ある。むしろ聖杯戦争の参加者ならばこの状況を逃す者はいないだろう。
しかし、好んで殺し殺されをする趣味は空目にはない。
「十分に承知している。その上で休戦協定を──」
「その協定、乗ろう!」
現れたのはランサーのマスターだった。
「マスター? どうやってここまで?」
「遊覧用のボートがあったので漕いできた。 それで、首尾は?」
「槍を奪われたわ」
「そうか、ならば槍と交換で同盟を結ぶというのはどうだろう?」
どちらが不利な立場なのか全く考えてもいない発言であるが、そこには不思議と人を不愉快にさせない何かがあった。
アサシンも知り合いを思い出したように外の世界にもこういう人いるのねー、と呟く。
「こちら側としては問題無いが槍を返した途端に攻撃されては敵わん」
「でしたら魔王陛下。実はこんなものが」
アサシンが服の袖口をまさぐって出したのは紙だった。何やら古びた護符だった。
「〝匂う〟な。これは牛王符か?」
「ええ牛王符……正式には『熊野牛王符』」
「〝本物〟か?」
「ええ〝本物〟です。マスターの嗅覚と同じく」
「で? 何なのそれは?」
勝手に話を進めるアサシン主従にランサーは口を挟む。
「簡単に言うとこの紙に一度誓えば絶対破れない誓約紙ですわ」
「あら? 〝絶対に〟破れないですって? 仮に破ろうとするとどうなるの?」
「破れば烏がやってきて血を吐いて死にます。そして裏切り者もそれに続いて死にます。おしまい」
昔は絶対に破らぬ誓いとして血判状に使われた護符だが、電子的な誓約書や契約書がポピュラーとなった現代では幻想入りした物である。
しかし、現代で淘汰されたからといってもその力が失われたわけではない。
今、八雲紫が取りだした物は『本物』だった。
「ではこちらに血の判を」
スッと差し出された牛王符にはこう書かれている。
〝此度の聖杯戦争においてアサシンのマスターである空目恭一及びランサーのマスターであるクリム・ニックは以下を誓う
1.互いに三日間攻撃しない。
2.同期間の間、互いの情報を第三者に漏洩しない。
3.この誓約はランサーがアサシンから槍を返却された時点から有効となる。〟
「問題ない」
クリムは親指の端を噛み千切って血の判を推す。
その瞬間、両マスターの背筋にゾワリと寒気が走り、呪術契約が開始した。
「ではこちらをお返しします」
いつの間にかアサシンの手に槍が握られていた。それをランサーに柄の方を差し出す。
仮にこのまま握って刺し貫こうとしても勝てるという算段なのか、それとも単純に嘗めているのか。
「…………」
形容し難い感情と共に槍を受け取った。そしてこう告げる。
「せいぜい三日間生き残りなさい。三日後に必ず殺してあげる」
そのまま霊体化して姿を消すランサー。
「あらあら大変。長生きしないといけませんわ」
余裕綽々の様子でアサシンも姿を消す。
そして、残された(正確にはサーヴァント二騎共ここにいるが)のはマスター二人。
空目にとってここからが本題だった。
「ランサーのマスター。依頼したいことがある」
「ほう、なんだ?」
「あやめという少女を見つけたら連絡してほしい」
「どんな姿だ」
「人種はアジア系、髪は黒、年齢は10代前半だ」
「ふむ。覚えておこう。
だが妙だな。何故さっきの契約に入れなかった?
例え見つけても君に教えないのかもしれないぞ」
「保護者を見失って、戦地で迷子の少女を見捨てられる人種か?」
「まさか」
「そういうことだ」
-
-----------
【ノースサイド/1日目 未明】
【空目恭一@Missing】
[状態]健康
[精神]疲労(ほぼ回復済)
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]学生レベル
[思考・状況]
基本行動方針:あやめを探す
1.ノースサイドでも探す
[備考]
※邪神聖杯戦争の発狂ルールを理解しました
※ランサー(セーラーサターン)とその宝具『沈黙の鎌』を確認しました。
※セイバー(同田貫)とそのマスターを確認しました。
※ランサー(リュドミラ=ルリエ)とそのマスターを確認しました
※クリム・ニックとの間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
【アサシン(八雲紫)@東方シリーズ】
[状態]健康
[精神]健康
[装備]番傘、扇子
[道具]牛王符(使用済)
[所持金]スキマには旧紙幣も漂っていますわ。
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.マスターの支援
[備考]
※ランサー(セーラーサターン)とその宝具『沈黙の鎌』を確認しました。
※セイバー(同田貫)とそのマスターを確認しました。
※ランサー(リュドミラ=ルリエ)とそのマスターを確認しました
※クリム・ニックとの間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
-----------
-
「ごめんなさい」
「いきなりいかがされました姫様?」
「貴方は成果を上げたのに私は何も出来なかったわ」
「気にしないでいただきたい。死ななかっただけマシです」
最悪の場合、サーヴァントを失う状況だったのだから生きているだけ儲けものだろう。
「サーヴァントのステータスの違いが、戦力の決定的差でないということを教えられましたね」
ステータス、スキル、宝具だけが全てではない。様々な能力が英霊には備わっている。
つまりスキル化してなくても生前持っていた能力を持ちうるのだ。
軍の元帥ならば戦術眼を、怪物を殺した者ならば勇猛さを。
マスターの権限であるステータス可視ですら見抜けぬ落とし穴がある。
「ええ。そうね。反省したわ」
でも、と付け足し。
「それを踏まえた上で三日後、必ず私はアサシンを倒すわ。
アサシンに嗤われた借りを取り返すために」
今回の戦い。リュドミラは確かに命を拾った。
だが、代わりに失ったのは誇り。それを取り戻さなくてはならない。
何よりあのアサシンに戦姫という存在の気高さを痛感させてやる必要がある。
誇りを取り戻す聖戦は三日後。
「では奴等を死なせてはなりませんね。
まぁ、奴等は死なないでしょうが」
「何か根拠があるの?」
「私と同盟を結んだのです。つまらない奴に殺されるはずがない」
自信満々でクリム・ニックは歩き出す。
そうとも彼は負けるつもりなど微塵もない。〝戦えば勝つのは天才である自分なのだから〟
未だ夜は明けない。
-----------
【ノースサイド/1日目 未明】
【クリム・ニック@ガンダム Gのレコンキスタ】
[状態]健康
[精神]疲労(全速力で舟を漕いだため)
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]クレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:天才的直感に従って行動する
1.とりあえず休む
2.同盟相手を探す
3.あやめとやら、見つければアサシン主従の貸しにできるな
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
【ランサー(リュドミラ=ルリエ)@魔弾の王と戦姫】
[状態]健康
[精神]若干の精神ダメージと苛立ち
[装備]氷槍ラヴィアス
[道具]紅茶
[所持金]マスターに払わせるから問題ないわ
[思考・状況]
基本行動方針:誇りを取り戻す
1.四日目の未明にアサシン主従を倒す
2.それまではマスターの行動に付き合う
3.朝の紅茶を飲むわ
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※アサシンの宝具『境界を操る程度の能力』を確認しました。
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
-----------
-
彼女は歩く。彼女は詠う。
それは人とは触れ合えぬ、枷を纏うて歌うもの。
彼女は聖杯戦争のイレギュラー。本来ならば呼ばれるはずの無い一般人である。
しかし彼女は空目恭一の〝所有物〟としてアーカムに来ていた。
元々あやめは人身売買の末に神隠しの山神に生け贄として隠された少女である。
彼女は買われた。首を吊るされ、そして埋められた。
──彼女の怪談(せかい)は彼のものである。
【???/1日目 未明】
【あやめ@Missing】
[状態]不明
[精神]不明
[令呪]なし
[装備]不明
[道具]不明
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:空目恭一を探す
1.詠う
[備考]
※空目恭一の所有物です。持ち主を探して詠い歩いています。
※アーカム市内のどこかにいます。
※魔術師等の神秘の使い手ならば視認で、それ以外ならばコミュニケーションを取った瞬間に、
一時的に『異界』に引きずり込まれ正気度を失います。
※サーヴァントがいればあれに関わるなと助言を受けられます。
-
投下終了します。
遅刻大変申し訳ない
-
投下乙……って、なんか変な奴がいるぞ!?
-
どちらも投下乙
マスク組とネクロ組は同盟を組んで災厄組が向かう警察署へ
ゆかりんに手玉に取られたリュドミラ嬢の失点を天才さんが華麗にカバーして休戦協定
4組とも序盤としてはいい動きかな?
クンタラ仮面と天才さん、Gレコ組の立ち回りがすっごく「らしく」てとても楽しいですw
-
乙
紫様のカリスマがとどまることを知らない
-
亜門鋼太郎&ランサー、予約します
-
すみません。延長お願いします。
-
申し訳ありません。間に合いそうにないので破棄いたします。ご迷惑おかけしました。
-
鷺沢文香&アーチャー、予約します。
-
予約延長します。
ただしスレ主権限で、予約期限そのものの方を。
自分自身遅筆ですし、流石に延長込み一週間では回らなさそうなので……。
というわけで突然ではありますが、予約期限を「5日+延長2日」から「延長なし10日」に変更させていただきます。
-
すみません、予約キャラの変更も含めて一度練り直します。
近いうちにまた動きますので、申し訳ありませんがお待ちいただけると助かります。
-
鷺沢文香&アーチャー
竹内多聞&アサシン
芳乃さくら&セイバー
予約します。
-
木戸野亜紀&バーサーカー、真壁一騎&アーチャー、予約します。
-
投下します。
-
INTERNATIONAL STUDENT IDENTITY CARD
Studies at
MISKATONIC UNIV.
Name
FUMIKA, S.
Born
27/10/199X
Validaty
XX/201X - XX/201X
■ ■ ■
「…………」
自身の学生証を見返すのは、もう何度目になるかわからない。
だが何度見てもそこにあるのは代わり映えのない無機質なデータと無愛想な女の顔写真だけだ。
鷺沢文香はミスカトニック大学文学科に所属する一年生である。
高校時代に英米文学、特にハワード・フィリップス・ラヴクラフトに高い関心をもち、叔父の勧めで有数の文学科を持つミスカトニック大学を受験。
見事現役で合格し、現在は叔父の友人の元にホームステイしつつ大学に通っている。
――これが今の鷺沢文香である。
そう、"この世界"では文香はアイドルではない。
一介の留学生、それが彼女に与えられた役割(ロール)だ。
もちろん彼女はこれが偽りの状況であることを理解している。
だが文香はそんな現在の状況を自身でも驚くほど自然に受け入れていた。
……それはもしかしたら文香にとってあり得た未来だったからかもしれない。
本を好み、本について学ぶ……アメリカ留学は中々出ない選択肢だとは思うが、それでも『アイドルをやる』という選択肢よりは自身の中から出そうな選択肢だからだろうか。
そう、あの人が自分を見つけ出してくれなかったら……もしかしたらありえたかもしれない未来。
でも再び選択肢を与えられたとしても文香はアイドルの道を選ぶだろう。
あの人が与えてくれた、煌めく世界への道を。
だから文香は元の世界に帰る手段を探している。
(……でも、何をすればいいのでしょうか……)
知識を貯めこむだけではいけない、ということは文香にもわかっている。
だが次になすべき具体的な行動がわからない。
『どうする、マスター』
そして文香のサーヴァント、アーチャー『ジョン・プレストン』は具体的な指示をしたりはしない。
戦いに不慣れな文香に対して警告はしてくれるし、意見を聞けば答えを返してくれる。
けれども積極的に手をとって導いてくれるような存在ではない。
あくまでサーヴァントとしての矜持を守っている。そのように文香には見える。
-
それは男性に免疫のない文香にとってありがたく、同時に不安でもあった。
煌めく世界に踏み出したのも、あの人に手を引かれたからだ。
真っ白な原稿用紙を差し出されたからといって、即座に書き出し始められるような性格ではない。
けれど何もしないままだと底のない沼に引きずり込まれるような不安がある。
「……その……"図書館の魔女"という方とお話してみたいと思います」
ミスカトニック大学には数多くの有名人がいるが彼女はその一人だ。
魔女の異名を持つ神秘学(オカルティズム)の新星……もしかしたら元の世界に帰るためのヒントを得られるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、図書館への道を歩く。
その道中で文香は奇妙な光景に遭遇した。
――ミスカトニック大学には一本の桜の木がある。
樹齢数百年を超えるとも言われる大木で、春には見事な花を咲かせることで有名だ。
だが時期外れの今は花をつけるでもなく、ひっそりと佇んでいる。
だからその桜は誰もが通り過ぎるただの風景……そのはずだった。
「……?」
その桜の木を取り囲むように人だかりができている。
時間はまだ8時前……そう人が多くない時間帯だ。
よく見れば取り囲んでいる学生の隙間から黄色いテープのようなものが見える。
それにウィンドブレイカーをきた人物がせわしなく動いているようだ。
文香は人並みの好奇心をもってその人だかりに近づこうとした。
「――近づかない方がいい」
だが男の声によってその歩みは止められる。
耳に届いたのはアーカムで日常的に使っている英語ではなく、懐かしい日本語だった。
驚き、振り向いた先にいたのは一人の男性。
文香はその顔に見覚えがあった。
どこかで誰かが話していた。少し変わった講義を行う東洋人の若い民俗学講師。
確か、名前は――
■ ■ ■
-
思わず声をかけてしまったことを、竹内多聞は後悔した。
いきなり見知らぬ女性に声をかけたのだ。
客観的に見ればあらぬ誤解を招いてしまいかねない行為だ。
「ああ、私は……」
「あの……竹内先生……ですよね」
その女性はおずおずとそう答えた。
「その……日本人の講師の方は珍しいので……」
自分の顔に驚きが浮かんでいたのだろう。
その女性はそう付け加えた。
確かに。ここアーカムは多種多様な人種がいるが日本人の数は決して多くはない。
むしろ学内に二人も日本国籍の講師がいるのが不思議なぐらいだ。
「それで……その……」
いきなり近づかない方がいいと言われたのだ。
その理由を知りたいと思うのも当然のことだろう。
「……今朝、あの桜の木に学生の死体が吊るされているのが発見された。
それも、決して足が届かない高さに、だ」
「――!」
竹内のもとに大学からメールが届いたのはつい先程の事だった。
『桜の木に学生の死体が吊るされていた』とのショッキングな内容のそれに、竹内の目は一気に覚めた。
発見者は応用科学部に所属する学生の一人。
被害者とは顔見知りであったらしく、身元が判明するのは早かった。
普通ならばこれだけの事件が起きれば大学は休校、封鎖され、しかるべき調査が行われることとなる。
だがここアーカムでは違う。
警察関係者の捜査はあるだろうが、概ね今日と変わらない日常が続くだろう。
ハイスクールの集団衰弱事件やダウンタウンで起こった怪文書事件など、そんな異常を受け入れてしまう陰鬱な空気がここアーカムにはあった。
ふと女性に目を向ければ手にした本を不安そうに抱きかかえている。
無理もない。
日本という国は平和なのだ。
見慣れない年号を使っていようとも、社会体制が大きく変わらないかぎりそれは変わらない。
死者――それも殺人などというものと鉢合わせる場面は滅多にあるものではない。
『ハハハ、おもしろい。実に面白いぞマスター』
(……いきなり話しかけないでもらえるか、アサシン)
竹内の脳裏に響き渡る男の声。
この奇妙な同行者の発言はいつも唐突で心臓に悪い。
『マスター、あの木の周りから魔力の気配がするぞ。ハハ、とても良い匂いだ』
(……なんだと?)
『ウフフ、誘っているぞ。私にはわかる。これもまた真実の一端なのだからな』
狂人の戯れ言、と一蹴してしまうのは簡単だ。
だがここ数日の付き合いでわかったことがある。
彼の言葉は狂っていたが、(今のところ)積極的に虚偽を混ぜるようなことはしなかった。
ということはおそらく学内に聖杯戦争とやらの関係者がいるのだ。
しかもこんな……挑発行為を行うような好戦的な人物が。
と、そこで竹内は自身が思考に埋没してしまっていたことに気付く。
隣の女性に目を向ければ口を抑え、顔を青くしている。
やはり殺人という単語は重すぎたのだろう。
「気分が悪ければ医務室に行くといい。場所はわかるかね?」
「……はい。すみません……失礼します」
綺麗な一礼を残し、女性は去っていった。
竹内は何ともなしにその力のない後ろ姿を見つめていた。
-
「おはよう、竹内君」
そんな竹内の背中に声がかけられる。
自分のことをそう呼ぶ人間は多くない。
しかもその声が若々しい少女のものであればなおさらだ。
「……芳乃教授、おはようございます」
芳乃さくら。ミスカトニック大学の誇る植物学の権威。
東洋人は子供のように見えるというが、同じ日本人であるはずの竹内から見ても彼女は若すぎる。
実年齢は竹内よりも上だというが、外見はどう見てもせいぜい十代の少女にしか見えない。
――永遠に生きる女。
竹内の脳裏に、故郷に伝わっていた伝承の一片がよみがえる。
だがここは羽生蛇村ではないし、彼女自身も『そういう身体なんだ』と公言している。
(恐らくは何らかの病気なのだろう、というのが学内での通説だ)
だがそういうものだと理解しているつもりでも、彼女に気さくな口調で話しかけられるとどうにも調子が狂う。
「それにしても意外だね。竹内君は文香ちゃんと知り合いなの?」
「いえ、たまたま声をかけただけです。……名前も今知ったところですよ」
あの学生はフミカ、というらしい。
そういえばフルネームを聞くのを忘れていた。
まぁいい。学科も違うようだし、これから先、関わることもそうそうあるまい。
「芳乃教授は彼女と知り合いなのですか?」
「うん……と言っても数えるほどしか話したことはないけどね。
図書館に資料を借りに行く時、見かけたら話しかけるぐらいかな。
あの子、結構図書館に入り浸っているから」
だがそこで芳乃の表情が曇る。
「……"あの子"も、ね。一緒に図書館に行ったことがあったんだ」
その視線は桜の木の方へ向けられている。
「……勉強熱心な娘で、専門外の授業なのに質問攻めにされたっけ。
明るくて、いい子だったよ」
その横顔には隠し切れない悲しみが滲んでいる。
それは彼女の持つ優しさゆえだろう。
一方で自分はどうかといえば、……驚くほどに冷静だった。
竹内自身も過去の事故で家族を失っている。
だから吊るされた少女の家族の気持ちを想像することは出来る。
だが、それを我が事として考えるには、あまりにも吊るされた彼女のことを知らなさすぎた。
いや、もしかしたらあの生と死の境界線が曖昧な空間で、自分の何かは壊れてしまったのかもしれない。
先ほどの彼女のように怯えるでもなく、目の前の彼女のように死者を悼むでもない。
ただそこに死者がいる、それだけを受け入れていた。
「……直に警察による捜査も始まるでしょう。
私たちにできることなどない」
アサシンの言うとおりであればこれはオカルトの領域だ。
この殺人者に警察の手が届くことはないだろう。
かといって竹内自身が積極的にこの事件を追うかと言われれば首を横に振る。
確かに竹内自身が求める聖杯の真実を追うために、この事件について調査するのも一つの手ではある。
だがあんな挑発行為をしてくるということは、相当な自信があるということだ。
用意周到な罠か、それとも余程強力なサーヴァントを持っているのか
待ち構えているのが何かは分からないがよほどうまく立ち回らねば、竹内の命などあっという間に失われてしまうだろう。
だから今の自分に出来ることは、せいぜい他人に警告することぐらいだ。
「……そうだね。ゼミの皆には気をつけるように言っておかないと」
そう言って彼女は力なく微笑んだ。
■ ■ ■
-
芳乃さくらの祖母は魔術師であった。
故にさくら自身も魔術については人並み以上の理解がある。
サーヴァントを通じるまでもなくよく分かる。
桜の木あたりから漂う魔術の残り香があまりにわざとらしいことに。
色に例えるなら自然界の中に突如現れた蛍光色。
これほどまでに露骨な形跡は、意図的に創りだされたものでしかありえない。
つまりこれは聖杯戦争の参加者に対する宣戦布告なのた。
わざわざ目立つ場所に死体を吊るしたのも、その一環なのだろう。
そう、これは聖杯戦争と言う名の魔術儀式なのだ。
手段を選ばない主従がいたとしてもおかしくはない。
聖杯戦争とは自分の願いのための殺し合い……エゴとエゴのぶつかり合いにすぎない。
自ら望んでその儀式に参加した自分にそれを否定する権利はない。
けれどそんなこと吊るされた"あの子"には関係がない。
ただ他のマスターへのメッセージボード代わりに使われただけ。
ただ巻き込まれただけの、意味のない突然の死。
彼女の両親は嘆き悲しむだろう。
彼女の友人は消えない傷に苦しむだろう。
そう、もしもあの子が"彼"だったならば……それを想像しただけで胸の奥がキリキリと締め付けられる。
『……なぁ、さくらよ』
そしてさくらは知っている。
セイバーは、徳田新之助はこんな所業を許さない正義の人物だと。
『……さくらの望みは知っている。
だが無辜の人々を巻き込み、亡骸を弄ぶ外道を放ってはおけん』
(ううん、気にしないでください、新さん。
ボクもこのまま放っておくことはできないって思ってたところだから……)
願いのために戦うと決めた。その決意に変わりはない。
だがいたずらに死者を増やすやり方は一人の人間として……いや、一人の母親として放っておくことなど出来なかった。
■ ■ ■
-
知識としては知っていた。
あれが、人の死だ。
それも病死や事故死などではない。
殺人――明確な意図を持って誰かが誰かの命を奪うという行為。
その恐ろしい行為は文香にとって紙の上で語られるべきものだった。
だが今、それはとても静かに――あまりに唐突に文香の目の前に現れた。
人混みに近寄り、アーチャーに調べさせることも出来ただろう。
周囲の人間に聞きこみをするのも手だったかもしれない。
だが文香は目を背け、逃げ出してしまった。
アーチャー曰く、『桜の木、それも枝のあたりから魔力を感じた』らしい。
十中八九、死体が吊るされていたという場所だろう。
つまり死体を吊るすという行為は聖杯戦争に関わる者達への恫喝だったのだ。
――私は見ているぞ。
――私は知っているぞ。
――次はお前だ。
――首をくくられるべき魔女は、お前だ。
「――……ッ!」
聖杯戦争のことは知っていた。
死と背中合わせであることも知っていた。
それでも改めて目の前につきつけられると、身体がすくみ、震えが止まらない。
逃げ出したことをアーチャーは責めない。
いっそ責めてくれれば、明確な意志や感情を叩きつけられれば、例えそれがネガティブなものだったとしても動けたのかもしれない。
けれどアーチャーはあくまで従者(サーヴァント)として、文香に選択を委ねてくる。
それはあの日、自分の手を少し強引に引いたあの手とは、同じではないのだ。
そして今、この場所に、自分の隣に"彼"はいない。
「……プロデューサー、さん」
思わず漏れた、応えるもののいない言葉。
その悲鳴のようなつぶやきは、アーカムの淀んだ空気の中に霞んで消えた。
-
【キャンパス・ミスカトニック大学構内/一日目 早朝】
【竹内多聞@SIREN】
[状態] 健康
[精神] 正常
[令呪] 残り三画
[装備] 38口径短銃
[道具] 特に無し
[所持金] 社会人として普通の金額
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の謎を解き明かす
1. 桜の木に死体を吊るした犯人に対処すべきかどうか……
[備考]
【アサシン(メンタリスト)@ニンジャスレイヤー】
[状態] 健康
[精神] 発狂
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:アハハハハハハハ
1. おかしいと思いませんか?あなた?
[備考]
【芳乃さくら@D.C.II ―ダ・カーポII―】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]鞄(大学教授としての所持品)
[所持金]お屋敷でゆったり暮らせる程度のお金(世界有数の大学の教授)
[思考・状況]
基本行動方針:願いの桜の制御方法を知るために聖杯を手に入れる。
1.桜の木に死体を吊るした犯人を探す。
2.ナイ神父を警戒。
3.キーパーには何か狙いがある?
[備考]
アーカムの街の郊外が森で覆われていることを確認しました。その森は吉宗曰く「魔性の気配がする」と聞いています。
アーカム郊外の森でナイ神父と会いました。
アルフォンス・エルリックと顔見知り程度に知り合っています。マスターとは認識していません。
鷺沢文香とは顔見知りのようです。マスターとは認識していません。
【セイバー(徳川吉宗)@暴れん坊将軍】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]主水正正清
[道具]扇子
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:さくらの願いを叶えてやりたい。
1.さくらを守る。
2.ナイ神父を警戒。
[備考]
アーカムの街の郊外が森で覆われていることを確認しました。その森から魔性の気配を感じました。
アーカム郊外の森でナイ神父と会いました。
アルフォンス・エルリックを見ましたが、マスターとは認識していません。
【鷺沢文香@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態] 健康
[精神] 恐怖
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] 本
[所持金] 普通の大学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に帰りたい
1.プロデューサーさん……
[備考]
【アーチャー(ジョン・プレストン)@リベリオン】
[状態] 健康
[精神] 正常
[装備] クラリックガン
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守る。
1.マスターを守る。
[備考]
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以上で投下終了です。
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投下乙です
邪神、再び動き出して嬉しいです
虐待おばさんの仕掛けを三組が確認した形ですね
積極・傍観・忌避とスタンスが三様に分かれたのが面白い
さくらさん組が虐待おばさん組と出会いそうでしょうか
母親同士の激突になりそうで楽しみです
-
投下、お疲れ様でした。
程度の差はあれ戦闘、或いは聖杯の獲得に対して積極的な主従の多いこの聖杯戦争。
大学には比較的穏健寄りなスタンスのマスターが多い……という印象でしたが、そこに波紋を起こすのは虐おばもといプレシアの策略。
性格、境遇、戦いへのスタンスの差異から三者三様の反応を見せる3組がどう動くか注目です。
初日の激戦区は大学周辺となりそうな予感。
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>>871
遅くなりましたが投下お疲れ様です!!
プレシアの仕掛けに対する反応がまさしく三者三様でわくわくしますね。
マスターだけでなく、正義感を燃やすセイバー、主を唆すアサシン、表立って意見を示さないアーチャーと、
主従の関係もまたそれぞれで分かれているのがまた面白い。
このままだと上様とサターンの戦いになりそうですが、警察側の介入もありえますし、ここからが見ものですね。
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そして私も投下しますが、その前にひとつ訂正を。
予約のアーチャー組を外して、代わりにナイ親父に変更しました。
事後申告になってしまって申し訳ありません。
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鉛色の、という表現がある。
概ねの場合、重い雲が垂れ込めて淀んだ色になった空を形容する言葉だ。
もちろん単なる雲の色を表すだけではなく、大抵は陰鬱で、憂鬱で、不安を煽るような空だというニュアンスを併せ持つ。
そういう語意に照らし合わせば、架空都市アーカムの空はここ数日、まさしく鉛色そのものをしている。
単に曇りがちだというだけではなく、陰鬱で、憂鬱で不安を煽る、そんな色の空をしている。
そういう意味では、このアーカムという街は、常に鉛色の大気で覆われている。
もっとも、あくまで表向きは、現代においては当たり前の街だ。
地方都市らしくいくらか古い因習が残ってはいるものの、それもまた時代の波に削られ風化しつつある、当たり前の街。
社会人はビジネス街を足繁く行き交い、学生は勉学に励みながら青春を謳歌する。
富裕層は社交と慈善事業に勤しみ、落伍者は路地裏で夜を明かす。
この街の中核であるミスカトニック大学の存在を除けば、極めて一般的な、悪く言えば特徴のない街。
しかし、誰もが気付いている。
言葉にしないだけで誰もが無意識に感じているのだ。
このアーカムの当たり前の街というベールの下に沈殿した、暗く昏く淀んだもうひとつのアーカムを。
普通に生活していれば決して触れることのないはずの、おぞましい何ものかの気配を。
はっきりと目に見えないからこそ神経を逆撫でする、薄気味悪い粘性の瘴気の存在を。
鉛色の空の下で暮らす誰もが知っている。
架空都市アーカムの裏側には、目には映らぬ何かが横たわっていると。
聖杯戦争。
この血と生贄を求める魔術儀式も、そのおぞましきもののひとつに他ならない。
▼ ▼ ▼
-
――崩れ落ちる瓦礫の中で続いていく日常。
ここ最近頻繁に見るようになった「崩落する日常の夢」から目覚め、木戸野亜紀は朝から最悪の気分だった。
この不愉快極まりない夢は、亜紀がアーカムに迷い込んでから見るようになったものだ。
正確には、亜紀が聖杯戦争のマスターとして選ばれ、サーヴァントを従えるようになってから。
虚無のバーサーカー、広瀬雄一。
魔力によって仮初めの受肉を果たしたサーヴァントにあって、確かな実体を持たない異端の存在。
外宇宙から飛来した『アクロの心臓』と同化した結果、僅かな記憶と破壊衝動だけを有した殺戮の化身となってしまった少年。
そんな彼がかつて人間だった頃――気弱な虐められっ子だった頃の記憶を、夢を介して覗き見るのは、亜紀にとってはストレスだった。
苛烈で理不尽ないじめを受け続けてきた亜紀自身の、思い出したくもない過去を掘り起こされるからでもある。
自分へ向けられる他人の感情を拒絶し続けて生きてきた亜紀にとって、虐げられて卑屈に笑う広瀬の姿が癇に障るからでもある。
そうして他人を見下すことでしか自己を保てない自分を思い知らされて、目が覚めてから心底嫌気が差すからでもある。
だが、木戸野亜紀と広瀬雄一が別の人間である以上、広瀬の記憶は所詮広瀬のものでしかない。
いくら不快感を覚えようが、そんなものは理性で統制できる。
他人の記憶ごときに振り回されることなど亜紀のプライドが許さなかった。
事実、当初はこの夢を客観視することが出来ていたのだ。
だがここしばらくで、その事情が変わりつつある。
その変化は、端的に言えば「記憶の混淆」だった。
虐げられる日常。無関心な周囲。自分を置き去りにして過ぎていく平穏な日々。
その光景に、崩れ落ちる建物のイメージが二重映しになる。
破滅の願い。
何の力も持たぬがゆえ、そうやって自分を慰めることしか出来ない卑屈な逃避行動。
そこまでは、最初の夢と同じだった。
だが、いつの間にか、夢の中の「僕」は幼い「私」と混ざり合っていた。
他でもない自分自身が体験した、陰惨ないじめが続く日々。
そのただ中で、「僕」と混ざった「私」が願うのだ。
崩れてしまえ。壊れてしまえ。何もかも。
いや、いっそ、■■■なんてなくなってしまえばいい――
寝汗でびっしょりになってベッドから跳ね起き、理性を総動員して暴れる感情をねじ伏せる。
そんなことを、ここのところ毎朝のように繰り返しているような気がする。
当時の自分は夢の中のような願いなど抱いてはいないと、目覚めてからであれば正しく認識できるのに。
もしかしたら彼の記憶が流れ込んでいるのではなく――彼の「無」に、自分が引き込まれているのではないか?
-
亜紀は虚空を睨みつけた。
姿こそ見えないが、そこに霊体化したバーサーカーがいるのは分かっている。
バーサーカーはサーヴァントの理性および魔力消費の増加引き替えにステータスを強化するクラスだと「記憶」している。
だがそんなものは聖杯戦争に積極的に関わるつもりのない亜紀にとっては何の足しにもならず、もはやバーサーカーの存在は枷でしかなかった。
ただでさえ魔力消費で気が立っているのに、その上不快な夢まで見せられたのではたまったものではない。
「どうせ実体がないんだったら、そのまま薄くなって消えてくれればいいのに……」
ぼやいたところで始まらない。
亜紀は寝不足の頭を軽く振って、洗面台に向かった。
▼ ▼ ▼
「――相席しても構わないかな?」
キャンパス地区のオープンカフェで朝食を終え、そのまま読書していた亜紀は突然の申し出に対して、心からの疑念の眼差しで応えた。
だが、この状況においてはあながち失礼とも言えないだろう。
何しろ声を掛けてきたのは、アーカムの空気から明らかに遊離した風貌の男だったからだ。
「……申し訳ありませんが。下らないお誘いならよそを当たってください」
「おや、これは心外だな。見ての通り、私は聖職者でね。下心で女性に声を掛けるなどもってのほかなのだが」
何が見ての通りだ。亜紀は露骨に顔をしかめた。
深紅のローブに、純白の手袋。
天下の往来をそんな奇抜な服装で闊歩する聖職者がいてたまるものか。
もっとも、そんな見たこともないような僧衣など、彼自身の容貌に比べれば大した印象など残さないのかもしれないが。
一言で言うならば、暗黒の肌をした男だった。
星の見えない宇宙の果てのように、陽の届かない深海の底のように。
まるで光という概念を拒絶するような色をした男だった。
日本で育った亜紀にとっても、この男の肌の色は単に黒色人種というだけでは説明がつかないように思えた。
-
動揺が顔に出た。
亜紀は強ばる表情を無理やり平静に取り繕った。
普段通りの声色であるよう努めながら、亜紀は問う。
「……監督者。つまり、例の『戦争』とかいう、あれの関係者ですか」
「ふむ。なるほど、乗り気ではないように見えてなかなか慎重だな。だが安心したまえ、誰も聞いてはいない」
神父の言葉で、亜紀は気付いた。
同じカフェの客はおろか、往来を行き交う人々でさえ、誰も亜紀を――いや、正確にはナイ神父を気に留めていない。
あからさまに目を引く風貌をしていながら、ナイ神父はアーカムから隔絶されているかのようにそこにいた。
彼と話をしている亜紀だけが、同じように街から切り離され、こうして彼を認識しているようだ。
「……これも魔術ですか?」
「さて、そうだとも言えるしそうでないとも言える」
「何のために私のところに?」
「参加者の顔を見ておきたかった、では不満かな?」
「なら、すでに目的は果たしたでしょう」
亜紀のあからさまな拒絶の視線も、ナイ神父にとっては痒くもないようだった。
「君だって時間を潰していたのだろう? そうでなければ、こんなところで何をしているのかね」
「……別に。ただ、家に一人でいたくなかったので」
半ば吐き捨てるような口調だったが、概ね本心だった。
最悪の目覚めを経て登校の準備をする前にハイスクールの休校の報せが届き、亜紀の今日の予定は白紙になってしまっていた。
なんでも、アーカム市内で起きた集団衰弱事件の影響で、多くのスクールは本日の授業を見合わせているようだった。
ルーチンでもなければ誰がこんな見も知らぬ土地で学校なんかに通うかと思っていた亜紀にとっては願ったり叶ったりだったが、
いざ自宅でひとり過ごすとなると、途端に耐え難いものを感じた。
あの空っぽなバーサーカーと二人きりだなんて、考えただけで気が滅入る。
アーカムに友人らしい友人もおらず、ボランティア団体などに加入するほど社交的でもない亜紀の、数少ない逃げ場所がここだった。
「……それで? 神父様が暇な私にいったい何のようです?」
問うと、ナイ神父は待っていたと言わんばかりの笑みを口元に浮かべた。
この監督役はいちいちしぐさが大げさで、それでいて慇懃無礼だ。
-
「なに。せっかく強力なサーヴァントを得ておきながら、一向に動く気配がないのは何故かと思ってね」
「興味がないからです」
神父がわざとらしく驚いてみせた。
「ふむ、興味がない?」
「だってそうでしょう。聖杯探求? 神話伝承の時代ならいざ知らず、今の時代にそんなことをするのは漫画ですよ」
「その聖杯が、万能の願望器だとしてもかね?」
「馬鹿馬鹿しい」
亜紀は一言で切って捨てた。
なるほど、全く別の世界へと人間を誘う、神隠しにも似た儀式だ。
常識では考えられないような神秘が隠れていても今さら不思議には思うまい。
だが、仮に聖杯が本物だとしても、そんなものに望みを託すのは亜紀のプライドが許さない。
自らの願望を曝け出すなど――亜紀にとっては、己の醜さと向き合うことと同義だ。
「失礼します、これ以上無駄な時間につき合う気はないので」
一方的に突き放し、亜紀は席を立とうとした。
現時点では、ナイ神父の印象はお世辞にも良いものだとは言えなかった。
そもそも亜紀は過去の経験からいって坊主という人種にあまりいい印象がない。
この手の胡散臭い輩の言うことなどこれ以上聞いても仕方ない。
そう、思っていたはず、なのだが。
「ああ、そういえば――『魔王』と呼ばれる少年が、このアーカムにはいるそうだね」
がたん、という激しい音で亜紀は我に返った。
その音が、反射的に立ち上がった亜紀の勢いでひっくり返った椅子が立てたものだと気付くまでに、ほんの僅かなタイムラグがあった。
まったく関心を向けてこない周囲の人々を一瞥してから椅子を起こし、元通りに腰掛ける。
それから一瞬置いて、無性に腹が立ってきた。
神父に対してだけではない。この程度のことで平静を容易に失う、自分自身の隙に対してもだ。
それでも、あくまで声だけは冷静を装って聞き返す。
決して弱みを見せまいとするのは、亜紀の半ば自動的な防衛本能だった。
-
「……このアーカム市内に、彼――空目恭一がいると?」
魔王。魔王様。魔王陛下。――『人界の魔王』。
木戸野亜紀にとって、魔王と呼ばれる少年などただひとりしかいない。
亜紀の文字通り突き刺すような視線を受け、ナイ親父はわざとらしく首を振ってみせた。
「それは君の早とちりだ。私は魔王としか言っていないよ。君の言う少年かもしれないし、違うかもしれない。
加えて言うならば、仮にその空目君がいたとして、君と同じ宇宙から来たとは限らない。この街はそういう街なのだから」
「何を言いたいのか分かりませんね」
苛立ちが声に乗っている。我ながら腹立たしいほどに感情的になっていた。
「やれやれ、お嬢さんは回りくどい言い方を好まないようだ。私としては不本意だが、仕方ない。
私が君にあげたいのは動機だよ。闇雲にこのアーカムを脱出する術を探したところで埒があくまい?」
「…………」
ナイ神父の視線の先には、先ほど立ち上がった時に床へ落ちた本の山があった。
どれもタイトルを一瞥しただけで、オカルト絡みのものだと分かる。
亜紀がキャンパス地区の学生向けに営まれている古書店で見繕ってきたものだ。
神父が見透かした通り、これらはこの異変から抜け出す糸口を探すためのもので、現状何の実を結んでいないのもまた事実だった。
「仮に貴方のいうその少年が空目恭一なら、それが私と同じ世界の人間であろうとなかろうと、私の力になってくれると?」
「さて、そこから先は私には言えないな。私はこれでも中立でね。あまり特定の参加者に肩入れしては、彼女に叱られる」
「……彼女? 『キーパー』のことでしょうか」
「先ほど森で出会ったお嬢さんといい、この聖杯戦争に参加しているご婦人方はなかなか聡い」
つくづく人を小馬鹿にした言い方をする男だ。
亜紀の眉間の皺が深くなる。
そもそもここから『先ほど』と表現できる時間で行ける距離に森はないのではないか、という疑問は一旦押し止め、亜紀は慇懃無礼な厚顔を見据えた。
「肩入れなら、とっくにしているのでは? なんのメリットがあって、私にそんなことを伝えるんです?」
「聖職者が善意で行動してはいけないかね?」
「私の知る聖職者は、自分たちに益のないことはしませんでしたが」
「これは手厳しい。滅多なことは言えないな」
暗黒の貌の、口元だけが笑みを作った。
-
「私は水面に小石を放っただけに過ぎないよ、お嬢さん」
「私に動機を与えることが、小石ですか。だとすると、水面は――」
「アーカムだ」
ナイ神父は言う。
「アーカムという水面に小石が落ちれば、さざ波が立つ。
さざ波はいずれ更に大きな波を呼び、いずれは船をも呑み込もう。
アーカムとはそういう街だ。聖杯戦争とは、そういうものだ」
くつくつと。暗黒の男は口元だけで笑う。
「だからお嬢さん、信じる道を往きたまえ。私は、その行いを心から祝福しよう」
亜紀は立ち上がった。
神父への印象は、もはや胡散臭いとか信用ならないという段階を超えていた。
いや、それどころか――これ以上話せば「引きずり込まれる」、そんな印象すら受けた。
認めたくはないが、今、亜紀の背筋には鳥肌が立っている。
いや、ありえない。今感じているのが、得体の知れないものへの恐怖だなんて、あるわけがない。
精神で心を押さえつけ、椅子に座ったままの暗黒の男を見下ろして、亜紀は最後に聞きたかった言葉を投げた。
「……ひとつだけ。貴方がどんな魔術を使うか知りませんが、この距離でならバーサーカーは貴方を容易く消し飛ばせる。
もし私が力ずくで貴方から情報を引き出そうとしたら……その時はどうするのですか、神父様?」
「仮にそういうことが出来る人間なら、君は今まで燻ってはいない。違うかね」
「……失礼します」
本当に不愉快だ。
亜紀はもはや神父に一瞥もくれずに、床に散らばった本を拾い集め、鞄に入れようとした。
その時、ふと落とした弾みに開かれていた一冊の本の、ページの一節が目に入った。
《――人類の最も旧く最も強烈な感情は恐怖であり、恐怖の中で最も旧く最も強烈な感情は未知なるものへの恐怖である》
《ハワード・フィリップス・ラヴクラフト『文学における超自然の恐怖』より》
ポケットへ入れたままにしていた、ガラスのケモノが彫り込まれた銀の鍵が、ずしりと重みを増したように感じられた。
-
▼ ▼ ▼
――結局。
忌々しいことに、木戸野亜紀にとって、ナイ親父と名乗る監督役の言葉は無視できるものでもなかった。
「恭の字の自宅が本来のものを模しているとすれば、場所はリバータウンかフレンチヒル……」
自分だけにしか聞こえないような声で呟きながら、肩で風を切ってアーカムの往来を行く。
「いや、恭の字のことだから、ミスカトニック大学の図書館に入り浸っているってほうがイメージしやすいかな……」
オカルト本の山に埋もれて仏頂面で読書に没頭する姿は、似合い過ぎて思い浮かべただけで笑えてくる。
そんなことを考えながら、考えている自分にほとほと嫌気が差す。
考えざるを得ない、考えることを辞めることが出来ない自分自身に。
その理由は他でもない。尋ね人が、空目恭一だからだ。他の人間ならば、多分こうはならなかった。
こういう形で、自分の恋心を改めて自覚させられるなんて。
「――ほんと、馬鹿やってるね、私は」
だが、認めたくはないが、ナイ神父の言った通りだ。
聖杯戦争への参加の意志がなく、脱出の手掛かりが皆無である以上、他に選択肢はない。
ならば彼の真意などを邪推するのは無駄と切り捨て、出来ることをやることが理性的な行いというものだ。
決して、私情で動くことへの理論武装などではない。断じてだ。
「あんたはいいね、バーサーカー。そうやって狂ってれば、悩みなんてないでしょ」
蔑みの言葉に、虚無の狂戦士は応えない。
下らないことをしてしまったと自覚した亜紀は、溜息を付いて空を見上げた。
今にも落ちてきそうな鉛色をしたアーカムの空は、その毒で下界の人間達を蝕もうとしているように、亜紀には思えた。
【キャンパス・アップタウン沿いの通り/一日目 早朝】
【木戸野亜紀@Missing】
[状態]健康
[精神]苛立ち
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]鞄(中身はオカルト関係の本など)
[所持金]一人暮らしに不自由しない程度
[思考・状況]
基本行動方針:脱出する。聖杯戦争など知ったことではない。
1.空目恭一を探す。
[備考]
キャンパス地区外れのカフェでナイ神父と接触しました。
【バーサーカー(広瀬雄一)@アライブ -最終進化敵少年】
[状態]健康
[精神]狂化
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:――――
1.――――
[備考]
【アーカム市内?/一日目 早朝】
【ナイ神父@邪神聖杯黙示録】
[状態]?
[精神]?
[装備]?
[道具]?
[所持金]?
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争の行方を最後まで見届ける
1.?
[備考]
?
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投下終了しました。
-
投下乙です!
ナイ神父、働き者だな……。
違反しそうな組に忠告しに行き、動かなそうなところに発破をかけるとは運営の鑑やでぇ……
煽られて行動を起こし始めた亜紀ですがミスカトニックはミスカトニックで爆弾抱えてるんだよなぁ……w
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シュバルツバルト&キャスター(ワラキア)、一騎&アーチャー(ストレングス)、キーパー(シオン?)予約します。
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投下乙です!
ひたすら亜紀を煽るナイ神父が、実に不気味で嫌らしかったです
煽られた亜紀のリアクションと行動も、また彼女らしくて良かったですよ
GJ!
しかし、思い人を探し当ててみれば見知らぬ美女を同伴中、とくればこれはもう、血の雨が降る予感しかしませんね
最終巻時点の亜紀なら大丈夫なのでしょうが、この亜紀はまだ覚悟決まってませんし、何より、喜んで火に油を注ぎそうな怪異が約一名いらっしゃいます
架空都市アーカムは、彼女にとってハードな舞台になりそうですね
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感想ありがとうございます!
予約分の投下、若干遅れてしまいそうです。近いうちには必ず……。
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……いつまでもお待たせするのも申し訳ないので、ひとまず途中までを前編として投下します。
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(朝のうちはまだ青空も見えていたのにな……)
いつの間にか澱みきった雲に覆われた空へちらりと目を向けながら、真壁一騎はアーカムの南へ向かってスクーターを飛ばしていた。
すでに喫茶店の仕込みは終わっている。次のピークは夕食時だから、客入りが激しくなるまではまだ間があるだろう。
ざっと見て七、八時間。目的地へ行って調べて帰るだけならそれだけ十分過ぎると一騎は踏んでいた。
店のマスターが厚意で持たせてくれた賄いのサンドイッチがあるから、昼食の心配はない。
何事もなければ、ここのところ溜まっていた鬱屈した気分を晴らすちょっとした寄り道で済むのだろうが。
(嫌な予感がする。何事もない、なんてことはないか)
何しろ、これから一騎が向かうのはアーカム市内で最も物騒な地区であるロウワー・サウスサイド。
たとえ陽が高くなる時間帯であろうとも、事実上のスラム街であるあの地区にわざわざ足を運ぶのは世間知らずか物好きだ。
一騎自身は、おそらく後者だろう。
少なくともロウワーの実態を知った上で、目的を持ってこうしてスクーターを走らせている。
――白髪の食屍鬼(グール)。
ダウンタウンに出没したという怪人「包帯男」などと並んで、今やアーカム中を騒がせている『都市伝説』だ。
元々この地方には地下鉄の構内に棲み着いて死肉を喰らう食屍鬼の伝説があるらしいが、今回の噂は明らかに異質だ。
喫茶「楽園」の雇われ調理師として働く傍ら、一騎が客の会話を耳にした限りだと、少なくとも複数の犠牲者が出ていることになる。
ただの噂ならばいい。ただのよくある怪談で、何の実態も無いのであれば。
だが、そうと言い切れないだけの理由が今のこのアーカムにはあり、よりにもよって真壁一騎はその当事者だ。
もしも現実に死者が出ているにも関わらず、ロウワーの治安の悪さゆえに捜査の手が及び切らずに実態が明らかになっていないだけだとしたら。
つまり、『白髪の食屍鬼』が実在し、今も犠牲者を生み続けているとしたら。
『それ』がサーヴァントであり、聖杯戦争の糧とするために人間の魂を喰らっている可能性は、高い。
(そっちはどうだ、アーチャー?)
『まだここからじゃ分かんないな……もうちょっと先行してみる?』
(……そうだな、頼む)
『任せといて。一騎も気をつけてよ』
通り沿いのアパートメントの屋上に目をやると、フードを被った褐色の少女が、屋根から屋根へ飛び移りながら手を振るのが見えた。
アーチャーのサーヴァント、ストレングス。
感知範囲を広げ、霊体化した状態では捕捉困難な魔術的に不審な存在をいち早く見つけるため、既に実体化している。
現在地点はとっくにリバータウンを出てフレンチ・ヒルへと入っているが、流石に邸宅地といっても街の外れにまで屋敷が広がっているわけではない。
それなりに高さのある建物が並ぶこのあたりなら、屋根づたいに移動すれば地上から発見されることもそうないだろう。
アーチャーは正面を向くとみるみるうちに加速し、瞬く間に一騎の視界から消えた。
これまでは魔術師ではない一騎が念話を維持できる距離を保って先行していたが、偵察するならばサーヴァントの身体能力を生かしたほうが効率的だ。
無表情なあの幼い少女がその鉄面皮の下に優しく真っ直ぐな性格を秘めているのは、短い付き合いながら十分伝わっている。
うまくやってくれるだろうと一騎は信じ、スクーターの速度を上げた。
-
アーカム、いやアメリカにおいて、スクーターという乗り物はあまり一般的ではない。
州によっては法律上自動二輪車とすら見なされず、免許も取らずに乗れてしまうくらいだ。
バイクと違って保険に入る義務もないので、万が一事故を起こした際にいろいろと面倒なことになりがちだから敬遠されているのかもしれない。
しかし一騎はアーカムにおいてもスクーターを愛用していた。理由は単純で、竜宮島にいた頃から乗り慣れていたからだ。
喫茶「楽園」(アーカムではなく、竜宮島で溝口さんが店長を勤めている方だ)で出前を届ける時も、いつもスクーターだった。
かつてファフナーを駆り人類のエースとまで呼ばれた真壁一騎だが、マークザインに乗ることを禁じられた今や、操縦できるものなどこのスクーター程度だ。
五指の付け根にファフナー搭乗時の後遺症であるリング痕の残った手で、一騎はスクーターのハンドルを握り込んだ。
外宇宙から飛来したシリコン生命体フェストゥムの力を利用し、フェストゥムに対抗するために開発された人型兵器ファフナー。
まさに対フェストゥム戦の切り札と呼ぶべき存在だが、それは同時に搭乗者を容赦なく蝕む呪いでもある。
このリング痕もその一端だ。
同化現象。機体と文字通り「一体化」するファフナー特有の機能により、操縦者は徐々に「人」をはみ出してゆく。
そのファフナーに乗ってこれまで戦い続けた一騎に残されたのは、束の間の平和と、このリング痕と、心身を酷使した結果としての余命三年という現実だった。
それでも、あと三年もあれば。
少なくとも「ここからいなくなる」覚悟くらいは、出来ると思っていたのに。
架空都市アーカム。そして、聖杯戦争。
目の前の現実は、そんな僅かな時間すらも奪い去ろうとしている。
(だとしても……生きたいのは俺だけじゃない。誰だってここにいたいんだ。命を弄ぶやつに、好きにさせるわけにはいかない……!)
駆動音を上げてスクーターが走る。風を切り、母親似の黒い長髪がなびいた。
▼ ▼ ▼
(やっぱり変だ。なんだかざわざわする……)
打ちっ放しの屋上を駆け、貯水タンクを踏み台にして隣のアパートメントへ。
フレンチ・ヒル外れの通り沿いに建物から建物へと飛び移りながら、巨腕のアーチャー・ストレングスは穏やかならぬものを感じていた。
それは漠然とした違和感であると同時に、一歩足を進めるごとに確かな不安となっていく。
ロウワー・アウトサイドに近づくにつれ人はざわめき、車は落ち着きをなくし、鳥達ですら慌てふためいているようだ。
何かがあった。何かが。
それが白髪の食屍鬼に由来するものかは分からない。
だが、聖杯戦争に関わる事柄である可能性は、高いように思えた。
黒いフードを向かい風でばたばたと膨らませながら、ストレングスは跳ぶ。
やむを得ず大通りを横断する時以外は、白昼堂々と実体化したままだ。
ストレングスは弓兵のクラスとして限界したが感覚補助のスキルを持たず、霊体化した状態では探知能力に不安が残る。
一方、クラススキルである単独行動をAランクで保有しているため、例え常時実体化していても一騎の負担はゼロに近い。
加えてこの世界の裏側、夢の世界に生きた英霊であることを示すスキル「アンノウン」により、ストレングスはこの世界に一切の逸話を持たない。
魔力消費と真名看破。
それら、実体化がもたらすデメリットの両方を無効化できるストレングスは、偵察用のスキルを持たずとも十分斥候向きのサーヴァントであった。
-
そして、彼女にはもうひとつの強みがある。
一際大きく跳躍し、ストレングスは屋上から地上の歩道へと降り立った。
そして着地と同時に、全方位へ無差別に幻術スキルを発動。
目撃者全員に暗示を掛け、ストレングスを普通の少女だと思い込ませる。
幻術のスキルランクはDと低いものの、サーヴァントならともかく一般人相手ならほとんど抵抗されることなく思考の誘導が可能だ。
「……驚いたな、お嬢ちゃんいつからいたんだい?」
「細かいことは気にしない。それよりおじさん、なんだか南の方が騒がしいけど何かあったの?」
道端で目をぱちぱちとしばたたかせる中年のタクシー運転手に尋ねると、彼は少し渋い顔をして通りの先をちらりと見やった。
視線の先はまさにロウワー・サウスサイドの方角である。
町外れとはいえ、基本的にフレンチ・ヒルの人間は目と鼻の先にスラム街があることをよく思っていないことが多い。
出来ることならば関わりたくないし、話題に出すのもなんとか避けたいと思っているのだろう。
逆に言えば、このタイミングで顔をしかめるのは「ロウワーで厄介事が起きた」と口にしているようなものだ。
「……爆発事故か何かがあったらしくてな。ビルが倒壊して、死人が出たんだと」
「サウスサイドで爆発? スラムで人が死んだの?」
「でかい声出すんじゃねえよ嬢ちゃん。俺だって又聞きだ、詳しくは知らんよ」
運転手がわざとらしく声を潜めるので、ストレングスもそれに合わせて小声で訊いた。
「ごめんなさい。でも、本当なの?」
「さぁな、所詮チンピラどもの与太話かもしれん。だが警察やら救急がさっきから――」
タイミング良くサイレンを唸らせ、赤と青のランプを交互に光らせて通りを走り抜けるパトロールカー。
「――見ての通りだな。少なくとも何かあったのは確からしい」
「ありがと、助かったよ」
「だが、野次馬はやめときなお嬢ちゃん。あっちにゃ喰屍鬼の噂もあるし――」
最後まで男の言葉を聞くこともなく跳躍。
ストレングスは再び建物の屋根まで駆け上がり、全速力で疾駆した。
たった今まで会話していた運転手も含め、目視できる距離にいる一般人はとっくに幻術で認識を書き換えられている。
魔術に耐性を持たない限り、ストレングスの人間離れした動きを不審に思う人間はこの周辺には存在しないだろう。
単独行動、幻術、アンノウン。
かつて夢幻の住人でありながら現実世界で生きていたストレングスのスキルは、「見つからないこと」ではなく「人々の中に溶け込むこと」に特化している。
ゆえに他のサーヴァントでは正体露見の可能性のあるような行動も、比較的低いリスクで取ることが出来る。
これは同じ偵察向きのサーヴァントであっても、気配遮断スキルを持つアサシンでは不可能な、ストレングスならではの利点と言えた。
-
大胆にその身をアーカムの大気に晒しながら、ストレングスは考える。
(謎の爆発。ビルの倒壊。既に死傷者も出てる……嘘じゃなさそうだ。人も車も、そういう動きをしてる)
確かめなくても分かる。屋根から屋根へ移るたびに、街のざわめきが一層強くなっていく。
ストレングスは、その幼いながらも整った鉄面皮を保ったまま、目的地へと急いだ。
これが聖杯戦争に関わる者の仕業であるならば、その下手人を突き止めなければならない。
ビルが崩壊するほどの破壊があったならば、その跡地には何らかの魔術的な痕跡が残っている可能性は大いにある。
これは聖杯戦争だ。
当事者が命を落とすのは、たとえ巻き込まれただけのマスターであろうとも当然起こり得ること。
だが無関係の市民を巻き込むようなやり方を許すわけにはいかない。
ストレングス自身にとっても、マスターの一騎にとってもだ。
だが、ストレングスは一騎を極力戦いには巻き込みたくないと思っている。
(……一騎は強い。弱くて、強い。だから自分の痛みを押し殺してでも、誰かの痛みを取り除くために戦おうとするんだ)
一騎の理解者を標榜するつもりはない。
ストレングスに対して、彼が思いの丈のすべてを打ち明けてくれているとは思えない。
たとえ、彼が不器用ながらもストレングスのことを信じ、また信じようとしているとしても、だ。
理解とは、対話とは、一朝一夕で成し得るものではない。
それをストレングスは知っているし、それこそ真壁一騎は誰よりも痛感しているだろう。
それでも、短い付き合いの中で既に何となく感じ取っている。
真壁一騎が、痛みを内に秘めて戦い続けるタイプの人間だということを。
今はいい。でも、このままではいずれ、きっと無理をする。
一騎は魔術師ではない。体だって万全の状態とは言えない。
遠くないうちに、己の無力を嘆き、その身を擲つような無茶をすることになるかもしれない。
(だけど、そうさせないために、私がいる。私の存在意義はずっと――痛みを引き受けるためにあったんだから!)
小さな拳を握りしめる。
誰かの存在する痛みを引き受けるために戦う――それが英霊ストレングスの本質であり、真壁一騎との魂の縁(えにし)である。
ストレングスだけではない。虚の世界の少女達は皆、現実世界を生きるもう一人の自分の痛みを引き受けて戦ってきた。
だからこそ、この現実世界に何一つ伝承を残さなかった異端の英霊に、何かひとつ矜持と呼べるものがあるとしたら。
それは人の痛みを知り、人の悩みを、寂しさを知り、そのために戦ってきたという自負に他ならない。
もはやロウワー・サウスサイドは目と鼻の先だ。
一騎のスクーターよりもずいぶんと先行してしまったが、万が一の場合は敵のサーヴァントとの遭遇戦へ突入する可能性もある。
Aランクの単独行動スキルを持つストレングスならば、マスターと完全に分断された状態だろうと十全の戦力をもって戦える。
令呪による援護が一切望めなくなるとはいえ、戦闘力を持たない一騎を巻き込まずに戦えるならばいっそ別行動の方がやりやすい。
いや、一騎に余計な重荷を背負わせないためにも、ストレングスひとりでケリをつけなければ――
-
――違和感。
「…………!? 何、今の感覚…………!!」
たった一瞬だけ感じた。
今、何かを飛び越したのを、感じた。
だが、いったい何と。
自分は今、何とすれ違った?
足を止め、魔力探知の能力を全開に。
目を凝らすように、魔力の感覚で周囲を観察する。
ストレングスは決して探知に優れた英霊ではない。
だが曲がりなりにもサーヴァント、この距離ならばやってやれないことはない。
いや、やらなければならないのだ。
あれは間違いなく、魔力を有する何者かとすれ違った感覚だった。
その魔術的存在感から推測するに、恐らくはサーヴァント。
速度こそサーヴァントらしからぬ遅さだが、身の毛もよだつ不快な魔力を垂れ流している。
進路は北。ロウワーから遠ざかる方角だ。
しかし地上にそれらしき存在は見つけられなかった。
だとしたら……。
「――地下かっ!!!」
屋上から躊躇うことなく路地裏へと飛び降りる。
恐らくは下水道。何らかの理由で地上を移動するわけにはいかず、地下を逃走経路としているようだ。
移動速度から推測するに、スピードに優れたサーヴァントではないらしい。
スペックで圧倒されるのでないならば、マスター不在のストレングスでも勝算はある。
既に一騎とは、念話も届かない距離まで離れてしまった。自分で決断しなければならない。
そして、既にストレングスの中には、見逃してやるという選択肢は無かった。
判断基準は限りなく直感に近い。
まだ実際に倒壊現場を調べてすらいない以上、この時点でスラムを爆破したという犯人だと判断するのは不可能だ。
だが、ここで見逃せばきっと取り返しの付かないことになる。
英霊としての第六感が、ストレングスを動かした。
(ごめん、一騎。勝手に行動して……でも、きっと「あいつ」はみんなを、一騎を傷つけるやつだ!)
謝罪はしても決断と行動に一切の躊躇はない。
地下へと続くマンホールをその細腕で引き剥がし、ストレングスはその中の闇へとその身を躍らせた。
-
▼ ▼ ▼
下水道のコンクリート壁に、品性に欠けた口調の男達の会話が反響している。
「本当にこっちでいいのかよォ?」
「マジだってマジマジ! 怪しいやつが地下に潜るとこ、ダチが見たんだって」
「え、オメーが見たんじゃねえの? マジに白髪のヤツなんだろうな?」
「ンだよ疑うのかよォーっ!」
「うるせえよただでさえ下水がクッセぇのに騒ぐんじゃねえよ」
懐中電灯を先頭に、四人の若者が連れ立って歩いていた。
四人とも外見はチンピラそのもので、お世辞にも高度な教育を受けたようには見えない風貌をしていた。
はだけた肩にはトライバル調のタトゥーがあったし、着崩し方には良くも悪くも秩序に喧嘩を売っていこうという気概が感じられる。
先頭を行くドレッドヘアの男はまだ冷静さを保っていたが、後ろへ続くスキンヘッドと鼻ピアスの二人は、しきりに最後尾の野球帽を小突いていた。
この野球帽の男が、彼らが地下に潜ることになる大元の情報を持ってきていたのだった。
彼らの目的は、「白髪の食屍鬼」の確保だ。
いや、確保という言葉は正確ではない。
要は、きっちり落とし前を払わせたうえでリンチにかけてブチ殺す。そういうことになっていた。
既に彼らの中では、ロウワー・サウスサイドを襲った災厄の原因は白髪のヤツだというのが確定事項になっていた。
だが、少なくともそれは全くの妄想ではない。
雑居ビルの倒壊に居合わせた目撃者たちから、白髪のやつが大暴れしているのを見たという証言をいくつも得ているのだ。
若かったとかババアだったとか、女のガキだとかゴツい野郎だとか、白髪のヤツの風貌にいまいち統一感は無かったが、
捕まえりゃ分かると彼らは半ば思考放棄めいて結論づけた。
肩を怒らせて彼らは歩く。
何しろ、白髪のヤツがぶっ壊したという建物の下敷きになって死んだ連中のうちには、彼らのダチもいた。
確かに銃の横流しをやるような社会のクズだったかもしれないが、だからって死ぬ道理はない。
必ずそのツケは払わせる。苦痛と死をもってだ。
ついでに、あくまでついでにだが。
白髪のヤツをブチ殺して、その功績をもってロウワーで名を上げてやるのもいい。
そうすれば、もう市警とギャングの板挟みでびくびくする生活は終わりだ。
大して金にもならないシケた仕事で命をすり減らすようなつまらない生き方はしなくてすむ。
スラムに住み着く非差別階級の子孫――クンタラなどというナメた呼び方をしてくるヤツらに思い知らせてもやれる。
いや、そんなつまらないことにこだわらなくとも、カネも女も名声もすべてが手に入るに違いない。
何しろ、相手はアーカム全域を騒がす邪悪の化身、「白髪の食屍鬼」なのだ。
ロウワー・サウスサイドに限っても、ヤツに対して恨みを持っている人間は積み上げれば腐り出すほどに多い。
ぶっ殺したいと思っている人間なんてそれこそ星の数だけいるだろう。
白髪の食屍鬼はアーカムの恐怖の象徴であると同時に、多額の報奨をかけられた賞金首も同然なのだ。
彼らが手柄に逸っているのは、実を言うと復讐よりもこちらの動機の方が強い。
-
「けどよォ、首尾よく見つけたとして、そんなうまくいくもんかね?」
「なんだオメェ、今さら日和ろうってか?」
「そうじゃねえけどよ。今まで白髪の食屍鬼を見たってやつはいてもよ、喧嘩売って帰ってきた奴、いねえだろ」
鼻ピアスの言葉に、弱気を咎めようとしたスキンヘッドが黙り込む。
そうなのだ。白髪の食屍鬼と呼ばれる男の存在は謎に包まれているが、少なくとも実際に挑むと息巻いて、五体満足で戻ってきた者はいない。
そもそも戻ってこないか、あるいは二度と元のような生活が出来ないような状態で見つかるかだ。
噂は今のところスラム外までは広がっていないようだが、少なくともロウワーの人間にとっては彼らの惨状こそが白髪の食屍鬼の実在を示す証拠だった。
たとえ四対一とはいえ、そんな化け物じみた(もしかしたら本当に化け物かもしれない)相手に勝てるのか?
「……いいや、いい知らせがある。どうやら、ヤツは手負いらしい」
先頭のドレッドヘアが屈んで足下を照らすのを、後ろの三人ものぞき込んだ。
水路脇のコンクリートに、赤黒い痕。
血痕だ。それもまだ新しい。
懐中電灯を向けると、このまま水路に沿って先へ先へと続いている。
「間違いねえ……この先にいるのは確かみたいだな」
「ざまァねえな白髪のヤツ! おおかたビルを爆弾かなんかで吹っ飛ばした時に自分まで喰らいやがったか!」
「こうしちゃいられねえ! 他の奴らに先を越される前に、俺達で白髪の食屍鬼を引きずり出すぞ!」
「おうよ! 白髪野郎に目にもの見せてやるぜぇ!」
「な、なあ、でもさ……おい、待ってくれよォ!」
勢い勇んで、若者達の歩みが速くなる。
先頭のドレッドヘアですら、口には出さないものの興奮を隠し切れていない。
最後尾の野球帽は「怪我しただけにしちゃこの血痕、多くねえかな」と思ったが、置いて行かれそうになって慌てて駆け出した。
ほんの僅かな後に、彼らはここで引き返さなかったことを後悔することになるが、いずれにせよ全てはもう遅い。
▼ ▼ ▼
……血の臭いが濃くなってきた。
ストレングスはその無表情を崩すことなく、内心では不快感を募らせながら、下水道の通路を駆けていた。
血の臭いだけではない。隠しようもない、濃厚な魔力の残滓。
あまりに冒涜的な、人間の世の理からはみ出したモノが垂れ流した痕跡。
いる。間違いなく、いる。
人々の敵。アーカムの敵。そしていずれは一騎を傷つけかねない、敵。
ロウワー・サウスサイドを脱出し、ここまで逃げおおせてきた、邪悪なるサーヴァントが、この先に。
(この先で何をしているかなんて、考えたくもない、けど……!)
人としての心が結論を避けたがろうと、戦士としての心は既に結論を導き出している。
この状況で何が起こっているか想像も出来ないほど、ストレングスは呆けた英霊ではない。
そう、とっくの昔に気がついている。
この血は。水路沿いに点々と、それでいて明らかに傷口から垂れたにしては多すぎる量の血は。
はじめから謎のサーヴァントのマスターのものでも、当然サーヴァント自身のものでもない。
だとすれば、これは。
足音を殺しながら地下を走る。
疑念はほんの僅かな時間を経ただけで確信へと変わった。
髪――女の髪の毛が束になって、下水に浮かんで流れていくのをストレングスは見た。
遅かったか。いや、まだ新鮮な血の匂いが先へ続いている。
-
そして新たに水路の角を曲がったところで、ストレングスは見た。
最初に視界に入ったのは、これ見よがしに彫り込まれた皺くちゃのトライバルタトゥーだった。
それがどこに彫ってあるのかに気付くのが一瞬遅れたのは、その体がどちらが上なのか咄嗟には分からなかったからだった。
奇妙にへしゃげて雑巾みたいに絞られた体から、いびつな木の実めいて萎びた何かがぶら下がっていた。
それは頬が裂けるほどに口を歪ませた人間の頭部だった。
続いて、通路の隅できらりと光を反射するピアスを見た。
持ち主はどうやら鼻の真ん中から体を左右に切開されたようで、そのピアスが元々どこに付いていたのか分かるはずもなかった。
開きにされているだけでなく、水分という水分を奪い尽くされて平べったく乾燥しているのが、いよいよ干物めいて滑稽だった。
それから、汚水の上に浮かぶ枯れ枝に引っかかったドレッドヘアを見た。
はじめに見たのは髪だけだったが、ほどなくしてそれが本当に髪だけだと気付いた。
それが生えているべき頭部は別のところに無造作に捨ててあった。
懐中電灯を握ったままの右腕と左足、胴体と右足が同様に打ち捨ててあったが、左腕は見当たらなかった。
だが、よく目を凝らすと、最初に枯れ枝だと思っていたのがそれだった。
そして、最後に。
「ひゅーっ……ひゅーっ………………いやだぁ…………死にたくねぇ……よぉ……」
弱々しい断末魔を残して、野球帽の男、正確にはその絞りカスが、人体が立てたとは思えないほど乾いた音を立ててコンクリートの上に転がった。
血を吸い尽くされて死んだのだと、一目で分かった。
ストレングスは睨みつける。死体を放り捨てたばかりの、人の形すら取っていないそのおぞましいなにものかを。
流動する影。黒々しく蠢く夜。
緋色の鮮血を吸い尽くしてなお、地の底よりも暗きもの。
――吸血種。
英霊と呼ぶにはあまりに悍ましく、英雄と呼ぶにはあまりに禍々しい。
キャスター、ワラキアの夜は、今まさに飲血鬼の逸話をアーカムにて再現していた。
「――これはこれは。よくぞ来た、銀の鍵にて繋がれた番犬よ」
だが、最初に口を開いたのはアーチャー/ストレングスでもキャスター/ワラキアの夜でもなく。
キャスターが変化した渦巻く影の中からぬらりと姿を現した、火傷だらけの皮膚をボロボロの包帯とコートで包んだ奇怪な男だった。
かつては新聞記者、マイクル・ゼーバッハと呼ばれた男。
真実を追い求め、真実に取り付かれ、真実という炎にその身を焼かれた男。
だが、もはやこのアーカムで彼をその名で呼ぶ者はいない。
しかし、誰もが知っている。そしてその名を恐れている。
架空都市アーカムで囁かれる、もうひとつの都市伝説。
人間が持つ潜在的な恐怖を象徴するという黒き森の名を持つ怪人。
真実の探求者にして狂気の深淵を覗き込む者。
「包帯男……『シュバルツ・バルト』……!!」
その名を呼んだ来訪者――ストレングスを水路の対岸から値踏みするように眺め回し、包帯男は歯を剥いて嘲笑った。
-
「既に私の名まで嗅ぎ付けているとは。魔術師の飼い犬にしては鼻が利く」
「あれだけ派手に署名入りのビラをバラ撒いておいて、よく言うよ」
あまりにも白々しい言い草に、ストレングスは吐き捨てるように答えた。
包帯男が起こしたというダウンタウンでのビラ騒ぎはとっくにアーカム中の知るところだ。
喫茶「楽園」の客が眉を顰めて話していたのをストレングスも耳にしたことがある。
ビラそのものも遠目でだが見た。あまりにも前時代的なデモンストレーションだと感じた。
だが、狂人の妄動と切り捨てるのを躊躇う奇妙な迫力もまた、同時にそこにあったのだった。
だが、たとえサーヴァントとして召喚されてなお、実際に対面してみなければその実在は信じ切れなかっただろう。
それほどに常軌を逸した噂だったが、しかし、目の前の存在が何よりも雄弁に語っている。
――包帯男『シュバルツ・バルト』は実在した。彼は、アーカムの敵である。
「吸血だけでここまで……魔力補充のための魂食い、ってだけではなさそうだね」
「我がサーヴァントはこの舞台にいささか不満を抱いていてな。気晴らしを兼ねたちょっとした即興(アドリブ)だ」
「……死ななくてもいい人間を殺してまでやることなの、それ」
「死ななくてもいい?」
シュバルツは口角を釣り上げた。
「端役ならば盲目でも許されるというのか? 真実を求めず、疑問すら持たず。違うな。盲目は罪だ。罪そのものだ。
たとえエキストラであろうとも、この喜劇に必要なのはただ目の前のゴミにかじりつくだけの盲いたドブネズミではない」
包帯の隙間からぎょろりと狂人の目が蠢く。
「お前もサーヴァントならば――この穢れた舞台に登った役者の端くれならば、自覚を持つべきだ。
この舞台の筋書きを書いているのは誰か。この劇を動かしているのは何物か。この物語はどこへ辿り着こうというのか」
嗤う。嘲笑う。
一介のマスターに過ぎないはずの包帯男は、ストレングスを通してこの舞台すべてを嗤っている。
「架空都市アーカム。聖杯戦争。万能の願望機。英霊が集う魔術儀式――そんなものはまやかしだ。すべて張りぼての書き割りだ」
ストレングスは大きくひとつ息を吐いた。
もうこれ以上の会話は無駄だ。目の前の男は、何かストレングスには理解し得ない道理を元に動いている。
その使命感のためならば、どれだけの命を踏みにじろうとも一顧だにしないに違いない。
「……もうひとつだけ。サウスサイドの喰屍鬼騒ぎ、あれもあんたたちの仕業?」
「我々は演者であり演出家、観客にして傍観者。白髪の喰屍鬼は我々であって我々ではない」
「…………」
関わっているということさえ分かれば、もはや十分だった。
ストレングスの背後で金属が軋む音が上がり、続いて一瞬にして膨れ上がった魔力が凝縮した。
それは腕だった。彼女の小柄で華奢な上体を覆わんばかりのサイズを誇る、鋼鉄の巨大な一対の腕。
英霊ストレングスの宝具たる『掴み、明日へ繋ぐために(Orga Arm)』 。
地下の空間を塞がんばかりに存在するその暴力的な質量そのものが武器であり、同時にアーチャーの証でもある。
「……もしかしたら、これを見せただけで怯むかもって思ったんだけど」
「はははははは! お前も所詮は門に繋がれた飼い犬か! まだ真実から目を背けるか、薄汚い英霊の端くれよ!」
「もうこれ以上、あんたの癇に障る声は聞きたくない」
-
――ストレングスの感情を殺した声とともに、空間がひずんだ。
シュバルツが嘲笑を止めた。
周囲に渦巻いていた形ある影が大きく脈打ち、せり上がって形を成さんとシュバルツの背後に殺到した。
「キャスター!」
包帯男の叫びに耳を傾けることなく、ストレングスは魔力を開放した。
Aランクの単独行動スキルをもってしても、宝具の連続使用の負担は完全には無効に出来ないかもしれない。
ただでさえ万全でない体調の一騎に対して、少なからぬ負担をかけてしまう可能性もある。
だが、逃がす訳にはいかない。この世界すべてを嘲笑する包帯男と、血を啜り影を纏うサーヴァントは。
世界が歪む。理が歪む。
表と裏が反転する。ストレングスの心象風景が、現実を塗りつぶす。
それは魔法に最も近い禁術。最大の秘蹟にして最後の到達点。
「固有結界――――『遥か遠き故郷(ウツロのセカイ)』 !!」
シュバルツ・バルトとそのサーヴァントを飲み込んで、世界の裏側が表出する――。
-
▽ ▽ ▽
【SANITY CHECK――固有結界発動】
キャスター/ワラキアの夜……精神汚染スキルにより目標値を修正――『成功』
マスター/シュバルツ・バルト……正気度ゼロのため判定をキャンセル――『無効』
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先程までの薄暗い下水道の面影は、すでに跡形もなく消失していた。
煮え立つマグマの上に浮かぶ、不規則な直方体の集合。
巨大な、あまりにも巨大なルービック・ミラーブロックス。
この不安定な足場だけが存在する橙色の世界がストレングスの固有結界であり、もうひとりの彼女である忍足ユウの心象風景である。
一辺数十メートルに及ぶキューブを構成するブロックのひとつの上に立ち、アーチャー・ストレングスは眼下の包帯男を睥睨した。
この架空都市アーカムの聖杯戦争における、本来の聖杯戦争との最大の相違。
それは、宝具をはじめとして英霊が引き起こす神秘の発現が、それを目撃した人間の正気を揺るがすという点である。
この事実は召喚されたサーヴァント達にとっては、イレギュラーであると同時に使い方によっては武器ともなりうる。
ストレングスの固有結界が象徴的だ。自分に有利な空間を創り出すだけの宝具でありながら、同時にこの異界は精神を決定的に侵食する。
だが、ここまであからさまな異界に足を踏み入れてなお、シュバルツ・バルトは先程までと全く様相を変じていなかった。
正気を保っているのではない。はじめから狂っているのだ。狂った上で、狂った秩序をもって振舞っているのだ。
この男にはおそらく、神秘の発現による一切の正気度ダメージが通用しない。
常人の、もしかしたら人間の枠からもはみ出しているかもしれない、このアーカムの聖杯戦争における鬼札。
鉄面皮の裏で苦虫を噛み潰すストレングスを下の足場から見上げ、シュバルツ・バルトは先程までとはまた違った喜色を挙げた。
「……ほほう! 興味深いな。これが固有結界――君のものとは随分と違うな、キャスター?」
「本来『タタリ』を固有結界などという括りで理解しようとするのが誤りなのだよ。それは我が魔術の窮極を貶めることでもある」
いつの間にか、シュバルツを取り巻く影はひとりの男の姿を取っていた。
舞台役者めいて優雅に立つその姿は、本来ズェピア・エルトナム・オベローンという名で呼ばれた錬金術士であり、
形なき現象であるはずのタタリがキャスターというクラスを得て『英霊へと貶められた』事実を象徴する姿であった。
キャスターはただひとりの観客へと身振りだけで訴えかけるように両手を広げ、詠うように語る。
「だが、この舞台は悪くない。悪くないぞ、マスター。このセカイはあまりに奇妙で、奇矯で、奇形的だ。
人ひとりの心象を映す鏡であり、同時にこの世すべての未熟なる魂の集合意識の発現でもある。こんなものが固有結界だと?
――ああ、なるほど。あまりにも広大な心象連続体、その自分の縄張りだけを切り取ってセカイを塗り替える。それがこの舞台の本質か。
矮小な個人を象徴しながらも更なる奥行きを観客に想像させる――舞台というのはこういう想像力を掻き立てるものでなくては」
キャスターが吟じる台詞に、アーチャーが僅かにたじろいだ。
それはアンノウンスキルによりアーチャーに関わるあらゆる逸話を知らないはずのキャスターが、この固有結界の本質を言い当てたからに他ならない。
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「……分かったようなことを言うね」
「アーチャーのサーヴァントよ、私の演出家としての見立てが間違いだと?」
「………………っ」
間違いなわけがない。それどころか、キャスターの言葉は限りなく真実に近い。
本来『虚の世界』は、現実世界に生きる少女が精神世界に持つ半身の、それぞれの心象風景を無数に繋ぎ合わせる形で存在している。
それらのテリトリーは流動的に繋がり合い、アーチャーをはじめとする虚の世界の少女たちは自身のテリトリーでこそ真の力を発揮できる。
固有結界『遥か遠き故郷(ウツロのセカイ)』は、あくまでアーチャー自身のテリトリーを限定的に発現する宝具に過ぎない。
その事実を、なぜ生前のアーチャーと全く無縁のはずのキャスターが知り得ているのか。
彼が舞台監督を標榜するサーヴァントだから、というのも完全な誤りではない。誤りではないが、しかし本質でもない。
ならば何故かと問われれば――その理由は『ワラキアの夜が現象・タタリだから』に他ならない。
故に、彼は知る。この舞台を最も鮮やかに演出する方法を。
「このセカイに太陽はない。故に死徒たる私でも力を発揮できようが、しかし三騎士の一角相手はあまりに荷が重い」
「……だからって、黙って見過ごすと思う?」
「見過ごせない。そう、見過ごせまいよ。この私が見過ごさせない。折角の舞台なのだ、ふさわしい『客演(ゲスト)』を招かぬまではなァ!」
アーチャーはその言葉の意味を図りかねたか、戦闘態勢へ移行しようとしたその動きを一瞬だけ止める。
しかしマスターたるシュバルツは、それを聞いて歯を剥き出しにした。
「なるほど、面白い! 是非、是非呼びたまえキャスター! 確かに二度と観られる舞台ではあるまい!」
「ご理解感謝する――では始めよう! 演者は彼女と『彼女』! これよりタタリ第二幕の開演といこうではないか!」
虚の世界の本質をキャスターが看破した理由はタタリが噂を媒介に伝播する現象であるからだ。
その特性ゆえに、彼はこの固有結界が個人の心象風景ではなく複数の意識によって共有された世界であることを見抜いた。
しかし、それだけではない。キャスターが看破したのは、この世界が心象風景の集合によって成り立つことだけではない。
彼を悦ばせたのは、このセカイを形作る意識達が、あるひとつの共通幻想を持っていたことだ。
本来、虚の世界の少女達は自我も意識も持たず、ただ戦い続けるだけの存在。
しかし、偶発的に自我を得たストレングスが、あるいは現実世界の干渉によって行動するブラック★ゴールドソーが。
彼女達がただひとり特別視する思念体が、元々この虚の世界には存在していた。
そしてストレングスの精神と密接な関係にあるこのテリトリーでならば、その共通認識は『都市伝説』同様の力を持つ。
ゆえに――この固有結界『遥か遠き故郷(ウツロのセカイ)』内部において――『タタリ』は発現する!
「―――― Es gibt Show Zeit(エス・ギプト・ショウ・ツァイト)!!!」
シュバルツ・バルトが叫ぶ。
同時に固有結界内の空間がどろりと変色し、本来この世界に現れるはずのないタタリの血泥がどろりと垂れる。
それは一個の細胞のように蠢き、ひとりでに捏ねられる粘土のように形を変えていった。
そして、次第に一人の少女の姿を形作っていった。
左右非対称のツインテール。
水着同然の上半身にショートパンツという極めて露出の多い体を覆う、フードの付いた漆黒のコート。
片手には日本刀、もう片腕には毎秒二十発の岩石を発射可能な重火器。
そして左目には――――
「そんな……どうして……!?」
絶句するストレングスを、正面から見据え。
――タタリとして虚の世界に舞い戻った『ブラック★ロックシューター』の左目に、蒼い炎が灯った。
(後編へ)
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ひとまずここまで。
改めて一騎&アーチャー、シュバルツ&キャスター、キーパーを予約します。
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前編投下乙です。流石ズェピアさん、目ざとい。そしてあくどい。まさかのブラック★ロックシューター出現ときた
役者を自由に出演させられるワラキアの夜、原作でもそうだがこんな舞台では本当相性が良すぎる。一騎の今後の動き、後編の行方は如何に
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投下乙です。
宝具の連続開帳を目撃しても意に介さない包帯男がコワイ。
やはり最初から発狂済という超イレギュラーなだけに、サーヴァント共々この企画において非常に重要/厄介な人物ですね。
そしてストレングスちゃんは健気カワイイ。この凶悪主従相手に如何に立ち向かうのか。
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三好夏凜&ライダー(獅子王凱)
ローズマリー・アップルフィールド&セイバー(グリフィス)
アイアンメイデン・ジャンヌ&ライダー(エネル)
予約します
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予約ありがとうございます!
自分の予約分は微妙に遅れてしまっていますが、必ず近いうちに……。
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神崎蘭子&カルナ 予約します
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神崎蘭子&カルナ の前編投下します。
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【アーカム】アーカムに白髪の食人鬼が出たらしい【ヤバイ】
181.名無しさんはアーカム市民
今朝大学に行く途中にパトカーが何十台も停まってたけどどうやらこのスレタイの奴の仕業らしい
182.名無しさんはアーカム市民
アレってそんなんだったのか。
おかげで講義に遅刻したじゃねぇか。
邪魔者なんじゃボケェ!
183.名無しさんはアーカム市民
え、デマでしょ?
テロだって聞いたぞ。
爆弾が爆発したみてーにクレーターできていたぞ
184.名無しさんはアーカム市民
建物が粉々になっていた時点で人間技じやねぇ!
185.名無しさんはアーカム市民
いや、マジだって白髪の奴がジェンガみてーに建物を粉々にして人間喰ってたって
186.名無しさんはアーカム市民
それでその白髪の奴はどんな姿だったの?
187.名無しさんはアーカム市民
それは……なんと!
─────とある電子掲示板より
* * *
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「ええい! 時の神すらも我が行く手を阻み嘲笑うか!
約束の地はもうすぐだというのに、既に時の長針が十度刻まれてしまっているではないか」
ノースサイドの自宅から出て、仕事場へと向かった神崎蘭子。
いつもならばスタジオのある商業区域にはノースサイド線に乗っていく。
しかし今日に限ってはノースサイド線の照明器具がいくつか破損していたことにより、いつもの時間帯にノースサイド線に乗れなかったのだ。
アメリカ人サラリーマン達の怒声が飛び交うノースサイド線の駅から脱出し、タクシーでダウンタウン、リバータウンを経由してようやく商業区域についた。
それでも十分の遅刻である。蘭子の顔には焦りが見え、急いでいることが誰の目にも見て取れるだろう。
しかし霊体化して同伴しているサーヴァントの落ち着き払った姿は恐らく見えまい。
見えるとしたら聖杯戦争参加者くらいだ。
「なぁマスター」
「フッ、韋駄天の如く天地を駆ける我に何用か」
「韋駄天、確かスカンダのことをそう呼ぶらしいな。俺の槍を与えたインドラと同等の速さを持ち、力においては圧倒的と聞いている。
見事だ、マスター。一見して華奢なその肉体からは想像もできないほどの力を秘めているということか。一体どれほどの修練を積めばそこまで引き締まるのか俺では想像すらつかない」
「と、疾く今の呪文を忘却の彼方へ沈めよ」
「それが命令ならば忘れるが、近くにサーヴァントがいることを言っておくぞマスター。
だが、その鍛えぬいた肉体があれば例えサーヴァントが束になろうとも勝てるだろう。俺の御守りなど無用の長物に過ぎん」
と爆弾発言をして黙りこくるランサー。二人の間に気まずい空気が流れた後、消え入るように蘭子は呟く。
「ま、まも、守って下さい」
「了解したマスター」
タクシーの運転手が一人で話す少女に訝しげな表情をしながらラジオの番組を変える。
ラジオは本日の天気予報を告げている。どうやら午前中は曇るらしい。
* * *
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188.名無しさんはアーカム市民
わかんない。ゴメンね(・ω<)
189.名無しさんはアーカム市民
ROMれ
190.名無しさんはアーカム市民
いや、目撃者はいるよ?
でもソイツ、事件を見たショックで正気じゃないらしくて病院運ばれたらしい。
191.名無しさんはアーカム市民
胡散臭い
192.名無しさんは観測者
【いたとしたらどんな姿だったと思う?】
193.名無しさんはアーカム市民
汚ないオッサン。ストレスで白髪になった感じの
194.名無しさんはアーカム市民
むしろ俺はマリーアントワネットみたいな悲劇の白髪の美少女がいい。
195.名無しさんはアーカム市民
然り! 然り! 然りィ!
196.名無しさんはアーカム市民
美女になら食べられたい(性的な意味で)
きょにゅーならば更に良し。
197.名無しさんはアーカム市民
( ゚∀゚)o彡゚
─────とある電子掲示板より
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スタジオビルでの収録を終え、若干の駆け足でビルを出る。
ランサー曰く、すぐ近くで様子を伺っているのか、動かないらしい。
もしや、戦いは好かない性分なのかもしれないし、話し合いがしたいのかもしれない。
────もしかしたら協力できるかもしれない。
そんな希望を胸にランサーに案内されて行った先はスタジオのあるビルの裏側。人気のない屋外のバスケットコートだった。
スタジオビルによって少ない太陽の光を奪われ、ほんのわずかに朝の冷たさを残すコートは今や廃れており、空き缶や萎んだバスケットボール、紙屑などのゴミが散らばっている。
そんな荒れ具合にも関わらず、不法侵入を防ぐべくコートはフェンスに囲まれ入口には錠前もされていた。
もしかしたら何かの建物を建てるために土地の保有者が錠をしたのだろうか、と蘭子は考えたが、その錠前もやむなしとランサーが素手で錠を切断してしまったためもう用を為さない。
「我が友よ。我が瞳に適う者は見当たらないが?」
「いいや、用心しろマスター。いる……いや、くるぞ!」
そしてランサーとそのマスターがコートに足を踏み入れた瞬間、世界が変わった。
「えっ!?」
蘭子のいる場が突如として青紫色の濃霧に包まれ前後左右の視界を完全に埋め尽くした。
そして場に蔓延する妖気、蘭子達へ向けられる殺気。
考えなくてもわかる。これは初めから話し合いというものを放棄している。
「化生の類か」
ランサーが呟く。それに応えるようにペチャペチャという足音と女の声が乱反射して耳に届いた。
強烈な腐臭と鉄の匂いに蘭子は鼻を抑える。
「くぅくぅお腹が空きました」
まるで奈落の底から呻くような、もしくは天の祝福に歓喜するような正と負の感情が絶妙に混ざった声。
壊れている。破滅している。演技であっても常人が出せる声ではない。
歪なその声に、蘭子は生理的不快感を感じる。
「マスター。俺の側から離れるな。それと耳を傾けるな。あっという間に食われるぞ」
蘭子を傍らに寄せ、ランサーは注意を促す。
されど顔の向きは蘭子ではなく前方の霧に向けたままなのは敵がそこにいるからであり、同時にカルナをもってしても油断できない相手であることを意味している。
カルナの実力は英霊の中でどれくらい強いのか蘭子は知らない。だが、とてつもなく強いことは分かる。
巨峰や大海原のように見ただけでその光景にただ凄いと感じるように、カルナの力を感じるのだ。
反面、現れた凶象は文字通り霧のように掴みどころのない、手ごたえの無い感じだ。カルナほどの圧力を感じない。あるのは意味の分からない声だけ……。
「これは『宝具』だ。聞き流せ。まとも聴くと狂うぞ」
「宝具……」
聖杯戦争の知識を与えられたため宝具に関する情報はある。
曰く、伝説の再現。曰く、英雄のシンボル。なら声が宝具? でもこの霧は一体……。
「この声が宝具と思っているのならば違うぞマスター。おそらく、この空間そのものが宝具だ」
「然り」
ぶわっと突風が吹いて前方の妖霧が晴れる。
霧の帳が取り除かれて良好になった視界の先に白髪で黒衣の女の子が立っていた。
その子の足元からは血管のように赤い筋が走る黒い泥が拡がり出した。
まるで軟体生物の触腕のようにうねり、コート内に捨ててあった吸殻や空き缶等のゴミが泥に呑まれてそのまま暗黒の海に沈む。
「あ……」
あれに触ると死ぬ、間違いなく死ぬと平和な国で生まれた少女に僅かに残っていた生物の本能が告げた。
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* * *
【SANITY CHECK――『タタリ』の一部を視認】
マスター/神崎蘭子……『失敗』
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「────────────ぁ」
そして突如、神崎蘭子に襲いかかる『この聖杯戦争のルール』。脳髄の奥に突如埋め込まれる狂気の波長。すなわち邪神からの極上の祝福(どく)。
この世、人類、総ての悪性を謳い、そして死ねと連呼する■■。
悪意が、害意が、そして■■……■の……が……を■ねと。■■■しまえ。
耐えられない。耐えきれない。耐えてはいけない。耐えるな■ね。
蘭子が、ホラーやスプ■ッタを、苦手としているとか、そういう次元ではなく、まともな思考の持ち主ならばこれは■■だ。■■すぎて■■■■■がなくなる。
「あぁ……ぁあ……」
壊れてゆく。崩れてゆく。融けてゆく。蘭子の精神が。音もなく、誰にも知られることがなく────いいや、ここに一人いるぞマスター。
死人の如く蒼白となっていた蘭子はぬくもりを感じた。彼女の肌を温めたのは眩き炎。
視界を覆い尽くしたカルナの炎が、蘭子の精神の崩壊を防いだ。
「まだ戦いは始まってすらないぞ、マスター」
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カルナは現れた者を見た。白髪で黒衣。容姿から察するに東洋人だろう。
異国人のカルナから見ても整っていると思う顔は薄気味の悪い笑みを浮かべ、濃密な殺気をばらまいていた。
「壮絶な悲劇で精神が壊れ、箍が外れ、気が触れてしまった少女 。
それが白髪の食屍鬼の正体に違いない、そうであってほしいという願望に吸血鬼としてアレンジを加えて再現したのか」
カルナの観察眼は少女の背後で蠢く無数の人影を見通していた。
『白髪の食屍鬼』というイメージにドラマを求める無数の声。
こういった大衆の趣向は古今東西として珍しい話ではない。
シェイクスピア気取りの悲劇好きが、フランケンシュタインのような哀れな怪物を求める。
ジャック・ザ・リッパーのような殺人鬼を好き勝手に妄想し、あるいはヴラド三世のように何かを怪物に仕立て上げて物思いに耽る。
英雄が華々しく活躍するよりモードレッドの反逆やジークフリートのような英雄が散る物語を好む。
事実として人々の声はそれら全てとは言わないが、言っていることは大体こうだ。
────怪物があってほしい。
────悲劇があってほしい。
────何か物語を寄越せ。
そうした思想、妄想、噂をする人々が目の前の怪物を生み出す母体であり、だが同時に被害者でもあった。
なぜなら目の前の怪異が放つ殺意は座標を彼らに向けていた。
お前たちの願いは叶えてやった。だから望み通り怪物としてお前たちを殺してやろうと。
つまり、コレは己を生み出した者を殺す、そういう現象だ。
「自業自得。身から出た錆と言えば大団円に聞こえるのだろうが。
被害者(おや)への感謝も無ければ、自覚も無い彼らを殺すのは英霊として恥ずかしくないのか?」
歪な笑みを浮かべるばかりで返答はない。いや、あった。
黒い泥のような影がゴボと音を立てて膨れ上がり、次の瞬間には爆発した。
赫黒の津波と化してコンクリートの地面を木屑のようにバラバラにしながらカルナ達へ迫る。
「そうか、それが答えか」
しかし、それらが目標に届く前にカルナの炎によって阻まれる。
泥が炎を地面へと沈めようとするが、逆にカルナの炎に喰われてその体積を焼滅されていく。
燃え盛る魔炎の中、カルナは敵を見据える。
「ならば是非もなし。マスターを守護するサーヴァントとして、貴様を排除する」
槍は必要ない。あれを使うにはマスターに相当な負荷を強いる。
そも、この程度の相手に武具など無粋。己の目に魔力を込め────
「真の英雄は眼で殺す!」
そして放たれた眼力は質量と煌めきを伴って視線上の全てを破壊した。当然、相対していた少女も消し飛ぶ。
「所詮は曖昧な噂を象っただけのモノ。膨らんだ風船程度のものでこの俺は倒せん」
カルナの言う通り、所詮は偶像であり、その内容(なかみ)も曖昧(スカスカ)。
実像とは程遠い、風船を膨らませた程度のもの。
こと英霊の中でも最上位に分類されるカルナの攻撃も防御も突破できる道理があるはずもなく一撃で終了である。
これがタタリでなければ。
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* * *
198.名無しさんはアーカム市民
白髪美少女といえばあのアイドルを忘れてませんかねぇ
199.名無しさんはアーカム市民
あの子は白髪ではなく銀ぱ……おや、誰か来たようだ
200.名無しさんはアーカム市民
【あの子って一体誰さ?】
201.名無しさんはアーカム市民
ついこの間、日本から来たアイドル。
202.名無しさんはアーカム市民
我等がアイドル。神崎蘭子ちゃん!
203.名無しさんはアーカム市民
そういえば白髪の食屍鬼と彼女が来た時期って被るよな。
もしかすると……
─────とある電子掲示板より
* * *
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出演中止(カット)!
役者交代(カット)!!
情報構築(カット)!!!
再演開始(カット)!!!!
聞きなれた業界用語が蘭子の耳朶を打つ。
その音源は少女が消失する前に立っていたた場所。
「え?」
男の声がする。ノイズが走る。空間が歪む。そして────
「第二幕開始(キャスト)!」
およそビルの二階ほどの高さにある空間にピントがずれたようなにぼやけた。そして今度は黒に限りなく近い紫色をした砂が次々と人型を象っていく。
まずは華奢な白い四肢、そして漆黒の四枚羽。そして白、黒、赤を基調とした魔王調(ヘルロードゴシック)の衣装。
邪眼を宿した大鎌が次々と露わになり────ああなんてことだろう。
顕現したものを神崎蘭子は知っている。なぜならそれは
「傷ついた悪姫────第二形態! 魔王ブリュンヒルデ降臨!」
紛れもなく自分なのだから。
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前半終了です。引き続き神崎蘭子&カルナを予約します。
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前編投下乙です
カルナさんやっぱりつえー!こっちはただの噂から出来たモノとはいえ、金木や亜門リーズを苦しめた存在をこうも容易く屠るとは!
まさかの桜、からの悪姫降臨には震えました。自分との戦いとは、蘭子ちゃんのSan値がまた減りそう…
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うっへーw
確かに容姿やキャラ的に蘭子ちゃんは噂や都市伝説で好き放題語られそうだよなーw
アーカムな雰囲気や掲示板演出も面白かった
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神崎蘭子&ランサー(カルナ)の後半投下します。
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タタリに終わりはない。
未だアーカムを覆う噂に限りはなく、人が活動し始める午前という時間において情報は加速度的に増殖する。
情報の種類は千差万別であるが汎用性が高かったり流行の情報ほど数が多く、芸能人で言えば知名度が高い者ほど取り上げられる量が多い。
そして現代の電脳においては情報を知った者が感想を述べたり第三者へ拡散するソーシャルネットワークが構築されている。
故に生じたこの事象も至極当然であり
「傷ついた悪姫────第二形態! 魔王ブリュンヒルデ降臨!」
同時に否定できない現実であった。
「L'inizio! さぁ、緞帳(マク)は上がったぞ。終末(オワリ)を謳うがいい」
アイドルという存在もまた、人々の会話に上がりやすいのだ。
スキャンダルを狙うパパラッチが、飯の種にする報道機関(マスコミ)が、あるいは彼女たちに喝采を送るファンが大勢噂する。
故に情報を絡めとり吸血鬼へと二次創作(アレンジ)するタタリにとって彼らのアイドル賛歌は絶好のカモである。
顕現したのは『本当に魔の力を得た神崎蘭子』。無論、本人は悪魔の如き角も生えていなければ、四枚の黒翼もない。
「闇に飲まれよ(カット)!」
しかし、事実としてここにタタリ『魔王ブリュンヒルデ』は顕現していた────彼女を噂したファンを殺す現象として。
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* * *
【SANITY CHECK――『タタリ』の規格急上昇による再チェック】
マスター/神崎蘭子……『失敗』
タタリが自身に関する噂をベースにしたため狂気に下方修正が入ります
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「闇に飲まれよ(カット)!」
自分の貌をした何かが暴威を振るう。
魔法の力を使う姿。自信と威厳に溢れた姿。
それこそ、私が夢見た姿だった。だけど、それは最悪の方向性をもって蒼の世界からアーカムへと顕現した。
生じた影は先ほどの数倍の密度と規模で360度全方位よりランサーと自分を飲み込まんと迫る。
傍から見たら嵐の時の河川や雪崩を思わせるだろう影の奔流が迫るのに対し、蘭子が感じたのは不安でも恐怖でもなく、ショックだった。
カルナの言う事が事実であったのならば、大多数の人間が『神崎蘭子が白髪の食屍鬼に違いない』と願っているのだ。これがショックでなくて何だといおう。
あまりのショックに力が抜けて膝をつく。
「ショックかね、我が原典(はは)よ!」
影の奔流が怒涛の勢いで迫る中、なぜかもう一人の自分の声がゆっくりと耳に届いた。
高みから見下ろすその姿は天上の存在そのもので、しかし黒く染まった翼は堕天使のソレである。
蒼界幻想ではなく人々の想念から顕れた魔王ブリュンヒルデ。その口が産声の代わりに絶望を親元へと囁く。
「何も不思議なことではない。
覚醒(メザメ)を願ったのだろう。魔王(ワレ)を願ったのだろう。
汝が描き、振舞った願望が子羊たちによって顕現したに他ならん。
尤も、之より先は汝が忌む血の惨劇だがな。
約束の刻は来た。この運命(サダメ)を謳うがいい」
お前が魅せてきた姿だ。お前の望んだ結末だ。
故にこれからの殺戮を受け入れろ。それが運命である。
下される言葉と共に影が迫るのを虚ろな目で蘭子は見ていた。
「ほう、これがマスターの積み重ねた結果だと?」
カルナが紅炎を全方位へ放ち、二人の間を割るように蘭子の前に踊り出た。
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* * *
影の大侵攻に対抗してカルナの炎もまた勢いを増しているが、ジリジリと押されていく。
押されるのならば出力を上げればよい、という風にはいかない。場所が悪すぎる。
カルナの炎はスキル「魔力放出」によって外側へ放つ力である。
この影の威力を超える力を一気に出すことは可能だが、勢いが過ぎれば周りに被害が出るだろう。
ここはスタジオビルの裏側であるし、表は商業区域であり人が大勢いる。
(宝具の使用は控えるべきか……)
迫る影が五感全てにプレッシャーを与える状況の中、カルナは微細な火力調整で徐々に拮抗状態に持ち込むしかない。
弱卒であれば既に恐慌しているだろう。修羅場を経験した強者でも肝を冷やしているだろう。
しかし、カルナは大英雄だった。冷静であり、そして清廉な戦士だった。
命が惜しくて周りを吹き飛ばすような思考回路をカルナは持っていないし、一片たりとも考えていない。
反面、怪物の方は犠牲者が多い越したことがなく、『神崎蘭子』という殻に固執がないため、自壊をも厭わぬ規模と威力を引き出す。
「…………」
加減と限界突破。出力差は明らかで炎が押されても無理はない……だけでは今の状況に説明がつかない点が一つある。
それはカルナの太陽という属性とタタリの吸血鬼という属性だろう。吸血鬼にとって太陽の光も炎も鬼門である。
そもそも最初の少女のタタリは泥を炎に一方的に喰われ、眼光で吹き飛ぶような強度しかなかったのにここに来てこの状況。
カルナが極限まで抑えているとはいえ、サーヴァント級の力を発揮できて、しかもコレ自体はサーヴァントではないのだ。不自然極まる。
その異常性に気付いたカルナは僅かに怪訝な表情を浮かべ、その表情を愉快そうに眺めながら魔王が口を開く。
「汝の貌は疑問を持っているという貌だな。察するに我が何故、サーヴァントと同等の力を解放できるかといったところか」
「そうだ吸血鬼。貴様らは太陽の光の前には疾く塵になるのが道理だろう。サーヴァントでもない、使い魔に何故これほどの力がある」
期待していない問いだった。戦闘中に己の力の秘密を語る者などおるまい。
だが意外にも怪異はその問いに応じた。
「キ─────キキキキキ。至極当然の理であるぞ槍兵よ。生前の我、否、"私"ならば煩わしい太陽の前に疾く塵になったであろうが、忘れてはおらんか?
今の"私"はサーヴァントよ。英霊よ。当然、この『固有結界"タタリ"』もまた異なる魂の解放を遂げておる」
ランサーの目が微かに見開く。固有結界タタリ────己が宝具の名を自ら口にしたのだから当然と言えるだろう。
聖杯戦争においてサーヴァントの真名と宝具を隠蔽するのが定石である。正体が知られれば弱点が知れ渡るし、対策を取られることが明らかだ。
しかし、目の前の存在は違う。一切合切、聖杯戦争の定石を無視している。
かといって正々堂々を望む存在かと言えばそれも違う。そも、そんな高潔な人格ならば民草を殺戮しようなどという気など起こすはずもない。
故にコレは異端、異形、異常だ。
これは聖杯戦争に参加しながら聖杯戦争などどうでもよいと考える殺戮者。その口が饒舌的に己の宝具を説明する。
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「"闇の眷属(タタリ)"の生成方式は汝の睨んだ通り噂や妄想が『実際に起きてもおかしくない』と思われることにある。
共鳴できるか? 英霊への昇華と同じよ。噂(ものがたり)が信憑(しんこう)されて昇華するのだ。
つまり"私"の保有する固有結界"タタリ"はな。一時的な噂の英霊化なのだよ。
サーヴァントと違うのは親和性と知名度の補正が上限(カンスト)に至っていることだな」
さらにと魔王は付けたし────
「この地は太古より邪神や怪物の伝承に事欠かぬ。
化け物と聞けば途方もない上位者の存在を思い浮かべ、その祝福を受け闇の眷属達はより禍々しく逞しき力が満ちる!
故に我が漆黒の闇は汝を飲み込むに足る顎(アギト)を宿している。
如何な業火を纏おうとも魂の解放をしておらぬ汝ではこの魔王ブリュンヒルデに仇名すことなど不可能よ! ナーハッハッハッハッハ!」
話題沸騰中のアイドルと巷で噂の殺人鬼から生まれたタタリ。
光が強いほど闇が強くなるように、神崎蘭子というフィルターを通して神話めいた力を発揮できる本物の魔王だ。
そして忘れてはならない。これはワラキアの夜でもあるのだ。
「黒き翼に舞え(ブレイク)!」
鎧の"内側"、皮膚と鎧の間に斬撃が満遍なく発生してカルナの肉体を切り刻む。
内側からの攻撃で黄金の鎧が剥がれる。
「……!」
決して軽くない傷を受けて、刹那ほど意識に間隙ができた。炎の純度に淀みができた。
当然、刹那でも勢いが弱まれば天秤が一気に傾くのが自明の理であり────
「ナーハッハッハッハ────では、ここで死ね」
影の濁流がミキサーの如くコンクリートも炎も切り刻みながらカルナ達を飲み込んだ。
-
* * *
「どうして」
無明と無音の闇の中、蘭子は呟いた。
オカルティックな言動と周りの理解がかけ離れているというのは知っていた。
それが原因で人との意思疎通が困難になったり、時には前に歩み出せない障壁にもなった。
そして、私が夢見た存在が今、私たちを殺そうとしている。
「一体、私は……どこで……間違えたの……」
「違うな。どこも間違えてなどいない」
闇の中でほんのわずかに炎が灯った。
「確かに、アレは、マスターの知名度から力を得ているのだろう。
アレは強い。並の戦士(クシャトリヤ)では束になっても敵うまい。故に鎧を剥がされた俺がこうなるのは道理か」
炎はカルナだった。彼は身を挺して蘭子を守っていたのだろう。
いや、今も守っているのだ。徐々に増えていく彼の切り傷、擦り傷がそれを証明している。
彼と一体であったはずの黄金の鎧は彼を守らず、逆にサイズの合わない服のように不格好な印象をカルナに与えている。
彼をここまで苦しめているのは自分の夢だ。
きっと、怒っているだろう。
たぶん、恨んでいるだろう。
「だから誇るがいい。我がマスター、神崎蘭子。
光が強いほど闇が濃くなるというのならば、あれの強さこそ真にお前が他者に魅せた輝きの強さに他ならない」
だが、ここで、こんな状況で。
彼から出た言葉は糾弾ではなく賞賛だった。
-
「お前が人々を魅せる輝きも、積み重ねてきた熱量も、この太陽(オレ)に確かに匹敵するものだ。
仮令この先どうなろうとも、その輝きは太陽神スーリヤの子である俺が保証する」
その口調に憐憫や皮肉は一切感じられない。掛け値なしの賛辞が太陽の子から人界の娘に送られる。
「そしてそんなお前のサーヴァントだからこそ、俺もそれに相応しい役割を演じてみせよう。
そも、このまま太陽(ちち)の威光が影ごときに負けるなど俺が許せん」
気炎を噴き上げるカルナ。
その身に纏った炎が主に応じて勢いを増す。
「キレイ……」
──なんて、美しい。
──なんて、逞しい。
太陽の子に相応しくあろうとする彼、それに応じる炎。
互いが互いを鼓舞し奮わせるその相互関係はアイドルとファン、またはプロデューサーと自分に似ていて────
「わが主。神崎蘭子よ。まだ諦めていないというのなら────どうか俺に力を貸してくれないだろうか?」
そしてそんな彼のマスターだからこそ、それに相応しい役割を演じたい!
そう想う心に嘘はなく────ククク、魂が猛るわと笑いながら震える足で立ち上がって喝破する。
「よかろう。ならば行こうぞ我が友よ! 既に魔力は満ち、今こそ魂を共鳴させるとき!」
熱を上げる魔力回路。
カルナへ齎される魔力。
呼応して噴き上げる焔。
次第に光が闇を喰らい、熱が死を焼却し、臨界を超えて世界を切り裂いた。
-
* * *
圧縮して暗黒とも呼べるほどに高密度になった影が光に裂かれるのをタタリ『魔王ブリュンヒルデ』は見た。
そして同時に槍の英霊がこちらに向かって飛び出す。その足は大地よりも少し高い位置で滞空……いや、徐々に上昇している。
炎を背から噴き上げジェット噴射するように気流を操っているのだろう。浮いて地面との接触が無い分、ただ地を蹴るよりも何倍も速かった。
距離が近づくにつれて急上昇し、己ヘ接近する腹積もりだろう。
「愚かな」
だがその選択はどう考えても誤りだろう。なぜならマスターの守護ががら空きである。
そもそもブリュンヒルデで全方位で攻撃していたのはランサーをマスターから離さないためにある。
散々己の強さを自慢しておいてなんだが、実のところランサーの眼力で吹き飛ばされて実力差は理解しているのだ。
あの眼力でさえブリュンヒルデに重傷を負わせるだろう。ならば本業の槍を使われれば、いや炎を纏ってさえいれば肉弾でもブリュンヒルデを殺し得るはずだ。
故に常に距離を取ってマスターを巻き込む形で攻撃し、溜めの時間も攻撃に移る時間も与えないようにしていた。
非力な少女を狙うこの戦術を卑怯と断ずる者などおるまい。
元よりタタリにとってこの状況は御前試合でなく殺戮の一つにすぎない。
ルールだの正々堂々だのそんな騎士道精神は持ち合わせていないし、鉄火場でそれを訴えるのは底なしの間抜けだろう。
そして正道を弁えない戦術だからこそ有効である。
相手は常にマスターを守らなければマスターが死ぬ。こちらは防戦一方のランサーを嬲り殺せばよいだけだ。
しかし今、相手はマスターの守護を放棄した。
もしかすると先にタタリを討つ自信があったのかもしれないが、ランサーが詰める前にマスターを肉片に変える方が圧倒的に早い。
「闇に飲ま(カッ)……」
ツマラナイ。そう思いながら幕引きの一撃を放つ寸前、タタリは異変に気付いた。そう、無いのだ。ランサーの黄金の鎧が。
鎧はどこに行ったのか、明晰な頭脳はその答えに一瞬で辿り着き、その様子を見たランサーが口を開く。
-
「お前は初めからマスターを巻き込む形で攻撃していたな。
それは俺とマスターを離さないため、そして距離を取るためだろう」
────淡々と話すものだ。
台詞を棒読みで話す新米の役者か、あるいは達観した識者が語るようではないか。
「その戦法が別に卑怯だとは思わない。そも、その場合はマスターを守れない俺に非がある。
故に反省した。どうやら俺はある一点において慢心していたようだ」
────およそ慢心とは程遠い役者に見えたが。
「俺の父の鎧は無敵だとそう信じ切っていた。しかし、お前に無効化されてようやく気付いた。
鎧は確かに何物をも弾く無敵の鎧だが、俺は無敵ではない。
つまりお前は"鎧を切り剥がしたという俺の伝承を再現した"のだな?」
カルナは思い出す。
鎧の内側を切り刻まれた時、カルナが感じたのは苦痛よりも違和感だった。
身を刻むその痛みになぜか懐かしさを感じたのだ。そして同時に機能不全に陥る黄金の鎧。
いや、黄金の鎧自体は全く何も変わっていなかった。変わったのはカルナの方だ。
「魂とは高密度の魔力の塊であり、同時に霊子という情報媒体でできているらしい。
固有結界"タタリ"を使う者は3名。うち2名は第五架空要素(エーテル)を使って、魂への強制介入(ハッキング)を行うのは2名だ。
お前はそのどちらかなのだろう。英霊の魂を解析し、そこから情報を分析して再演したといったところか」
霊子ハッキング。または魔術理論・擬似霊子(ムーンセル)とも呼ばれる魂への強制介入。
エジプトのアトラス院にてとある魔術の家系が使う他者の魂から情報を複製する魔術。
タタリの初代と三代目はその家系より生まれており、故に使えてもおかしくはないとランサーは判断したのだろう。
そしてそれは間違いではない。この技術こそ"私"がアトラス最高の錬金術師であった証明である。
さすがに英霊に擬似神経を仕込むことは───特にランサーの場合はあの黄金の鎧が邪魔なため───不可能である。
しかし、現界したサーヴァントの血肉もまた、ハッキングに利用するエーテライトと同じ材質、すなわち第五架空要素で構築されているのだ。
エーテライトから情報を読み取る要領である程度は解析できる。
「鎧は使えず、力は放てず、体は動けず。ああ、見事に嵌るところだった。だが────」
ついにランサー槍が現界する。
魔王ブリュンヒルデは一目で理解した。
アレは掠るだけで己を滅するに足る。
「鎧の力は失われていない。マスターに渡せば何物をも弾く太陽の力を発揮する」
故に鎧をマスターに渡し、ランサーは前に出たのだろう。
相手マスターの様子を見る余裕は魔王ブリュンヒルデに無い。
ランサーは加速し、突貫の勢いはそのまま、槍を突き出す。
だが、まだだ。魔王ブリュンヒルデが素早く状況を理解したため先手を撃てる距離がある。
「魔王を讃えし漆黒のヴェール(ループ)!」
漆黒の翼から羽根が次々と舞う。
羽根の一枚一枚が鴉に。
鴉が黒槍に。
黒槍が槍衾に。
ランサーの勢いはもはや止まれまい。故に串刺しになるのは確定事項であるとそう考えたところで。
「“梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)”」
英雄は確定事項を書き換える────!
あらかじめ力を溜めておいたランサーの眼力によって影の槍衾は粉々に破壊される。
その様は叩きつけられた陶器か、破城槌に砕かれる城壁の如く無残かつ無慈悲であった。
そしてランサーは止まらない。止められない。だからこその強者(つわもの)である。
あわよくばランサーを滅ぼすという思い上がりはこの瞬間に消え失せた。
「─────キ」
「……」
ブリュンヒルデは大鎌を振る。
ランサーはより前へと槍を突き出す。
おそらくランサーがブリュンヒルデを仕留めるだろう。
しかし、鎧無き今。鎌によって重傷を受けることは必然である。というよりそれ以外の選択肢はランサーに無い。
これで、しばらくは戦線復帰もままなるまい。
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* * *
205.名無しさんはアーカム市民
おいおい、特定人物を殺人鬼扱いとは正気の沙汰じゃねぇな
206.名無しさんはアーカム市民
そういえばHasttur(ハスッター)の呟きにノースサイド線の駅で神崎蘭子見かけたって
つソース [URL]
─────とある電子掲示板より
* * *
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「 キ キ キ キキ キ キ
キ キ キキ キ
キ キ キ キ キ 」
鎌を振るう腕から頭頂に至るまで大きく罅が入り────像がぼやける。
それはタタリにとって決定的なダメージが入ったことを意味してる。
"サーヴァントと違うのは土地の親和性と知名度の高さが上限(カンスト)に至っていることだな"
絶大な信憑性を拠り所に暴と虐を行う吸血鬼タタリ。裏を返せば少しでも信憑性が疑われた瞬間に、タタリという存在は意義を無くす。
それが数人程度であれば大した問題ではないが、数百人規模で信じられなくなれば話は別だ。語源となった祟りとは少なければ百人に満たない村落程度で起きる呪術なのだから崩壊の度合いは絶大だろう。
「 キ キ 」
ましてや今回の聖杯戦争において、固有結界タタリと死徒ズェピア・エルトナム・オベローンは剥離している。
故に「魔王ブリュンヒルデ」という固有結界が与えられた心象風景(かたち)は外部の影響に強く揺さぶられてしまう。
「キ キキ 」
電子掲示板の一言。たった数byteのそれでタタリが崩れた。
もしも時代が古代であれば問題なかっただろう。迷信というものは根付くから迷信である。中世でも同じだ。近代であってもここまでの崩壊は起きまい。
しかし現代、情報社会においてはそうもいかない。真偽定かならぬ情報が渦巻く坩堝の中で確定情報こそが最大の信用を得る。たとえ数多の伝聞と冒涜的な信仰渦巻くこのアーカムであってもだ。
故にタタリの存在強度に罅が入った。崩壊はそれだけに留まらない。
所詮、噂は噂。砂上の楼閣だと思い知らせるように、腐乱した死体が如く肉体が崩れだした。
膂力は衰え、身体は硝子よりも脆くなる。
「ギ────!」
そして遂にランサーの槍とタタリの鎌が交差する。
槍は一撃で胴体を吹き飛ばす。
鎌はランサーの脇下に触れた瞬間に砕け散る。
無論、ランサーは傷一つ負わない。
これにて決着。上半身だけなったタタリの首をすかさずランサーが掴んだ。
「キ。キキ。汝の勝利だ。我が祝福を受けるがいい」
「いいや、この勝利は我がマスターに捧げられるものだ。
彼女の求心力(ひかり)がお前の虚飾(カゲ)を払った。俺はそこに槍を刺しただけにすぎん」
首を掴むランサーの手元から炎が噴き出る。
キキキと薄気味の悪い声は消えない。
魔王ブリュンヒルデという殻は既に崩れ去っており雑音(なかみ)が回光反照の如くまだ囀る。
「最後に朗報だ『施しの英雄』。コレは私であって本体(ワタシ)ではない。
君達の情報を知っているのはこの一幕(わたし)のみだ。
本来、噂とは一人歩きするものだからね。キ、キキキ、キキキキキ────!」
完全に灰と化し消失する。残ったのは2名と破壊の跡が残るコートのみ。
三度の攻防、二分足らずの戦いであったが、蘭子達にとって初勝利であることに変わりはない。
くるりとカルナは振り返り、汗だくの蘭子を見た。瞳を潤ませ、足は震えている。
「マスター、大丈夫か」
「だ、だ、大丈夫……です。だけど、少し……休ませて下さい」
零れ出す涙は安堵のものか、それとも恐怖の名残か。
震える足は友への見栄か、あるいは緊張の名残か。
いずれにせよ、彼女は生き残り、理解した────これが聖杯戦争(ころしあい)だと。
太陽は沈まず南中へと昇る。明けない夜は無く、東から西へ移るは天の道理である。
しかし天界と人界とは未だ、鉛色の帳を隔てている。
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【商業区域・スタジオビル裏/一日目 午前】
【神崎蘭子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]魔力の消費による疲労、ストレスにより若干体調が優れない
[精神]大きなストレス(聖杯ルール、恐怖、流血目視、魔王ブリュンヒルでの登場によるショック)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生としては多め
[思考・状況]
基本行動方針:友に恥じぬ、自分でありたい
1.我と共に歩める「瞳」の持ち主との邂逅を望む。
2.我が友と魂の同調を高めん!
3.聖杯戦争は怖いです。
[備考]
・タタリを脅威として認識しました。
・「日輪よ、具足となれ」はこの後に返還しました。
【ランサー(カルナ)@Fate/Apocrypha+Fate/EXTRACCC】
[状態]切り傷、擦り傷多数あり(次回には再生できている程度)
[精神]正常
[装備]「日輪よ、死に随え」「日輪よ、具足となれ」
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、その命を庇護する。
1.蘭子の選択に是非はない。命令とあらば従うのみ。
2.今後の安全を鑑みれば、あの怪異を生むサーヴァントとマスターは放置できまい。
3.だが、どこにでも現れるのであれば尚更マスターより離れるわけにはいかない
[備考]
・タタリを脅威として認識しました。
・タタリの本体が三代目か初代のどちらかだと思っています。
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投下完了です。
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投下おつです。
カルナさんまじ英雄
ワラキーはその言い回しからブリュンヒルデという殻にはノリノリだったな
それでいてやってることは蘭子ちゃんの精神えぐるえぐいものだったけど
アイドルとして積み重ねてきた知名度や噂を闇にも光にも活かした面白い作品でした
あとハスッターにわろたw
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乙
ちょっとカルナさんイケメンすぎんよー
カンストした魔王だしブリュンヒルデ相手にするのはカルナさん以外じゃ危なかったかも
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投下乙です
真事の光の前には、噂の影なぞ無力!
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あけましておめでとうございます。永らく音沙汰なく申し訳ありませんでした
とっくに期限超過となってますが改めて、三好夏凛&ライダーを予約し、投下します
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―――このアーカムという街は多くの噂に溢れている。
人が集団を成し、街といえるだけのコミュニティを築いてる場であれば当然の現象だろう。
だがアーカムのそれはあまりに多すぎた。質と量が膨大に尽きた。
加えて、噂の種類はその全てが陰鬱な、後ろ暗い背景で綴られた内容ばかりだった。
―――曰く、ミスカトニック大学にある禁書指定されたその魔術師を読んだ者は精神を貪られ生きながら亡者と化した。
―――曰く、フンチヒルにいた優れた感性を備えた芸術家は魂を囚われ、今も狂った神を慰撫する演奏を強制され続けている。
―――曰く、太平洋の漁業から帰って来た船乗りは毎夜悪夢に怯え、最期は人間では発音不可なはずの言語を撒き散らし狂死した。
―――曰く、白昼公然のダウンタウンの往来で、不可視の怪物に捕らわれ、恐怖で凍りつく大衆の前で貪り喰われた科学者がいる。
魔術師たる者が都市伝説に気を揉むとはお笑い草、そう受け取るのも当然だろう。
事実私とてかつてはその無知なる哀れな―――そして幸運な―――衆愚の一員だったのだ。
九分九厘噂の出どころは根も葉もない出任せであり、そこに協会が神秘の香りを嗅ぎ取ることは決してない。
才ある者が偶然にも正しい儀式の手順を成功させてしまう事例は少なからずある。しかし百年単位で流布している伝承ならいざ知らず、現代都市で生まれた噂に神秘が付与されるわけもないのだ。
仮に噂が真実であったとしても、問題と受け取りはしない。それこそ魔術師にとっては垂涎ものの話題に他ならない。
禁忌。怪奇。異常。どれも神秘には付き纏う付属物。魔の深奥ほどそれは色濃く増していく。
必要ならば女の血肉を裂く。重要であれば老人の骨を割る。素材なら幼子の臓腑を吐き出させ、獣の脳髄を晒す。
どれも必要なやってのける。人道の外にこそ神秘は存在する。更なる神秘の発見に魔術師は眼を血色に染める。
その解明の足掛かりになるのなら、私は喜んで都市伝説(フォークロア)の蒐集家になっていたであろう。
……今は後悔している。
知ってしまった真実を悔いている。
見つけてしまった闇の底からこちらを覗くふたつの目を、記憶から忘却したくて仕方がない。
噂が真たることは魔術師にとって幸運だ。だが実態が伝聞を遥かに超える領域であった場合、それは不幸と反転する。
源流たる根源が幾つもの魔術体系に枝分かれする度に流れが弱まり幅が狭まるように、噂が恐るべき真実を覆い隠す慈悲なるヴェールであることを私は思い知ったのだ……。
話を最初に戻そう。
このアーカムにある数多ある噂、そのひとつについて。
私が軽率にも足を踏み入れ、その語るもおぞましき狂気の世界を体験する羽目になった話だ。
―――曰く、アーカムには幻の地下鉄道が存在する。
(古ぼけた一冊のノートから抜粋)
◆ ◆ ◆
-
現在アーカムには三つの路面電車がある。
北部のノースサイドから東のイーストサイドを周回するノースサイド線。
南部のアップタウンからキャンパスを通り川を越え、ノースサイドまで登るチャーチストリート・ホスピタル線。
そして南東部フレンチヒルからダウンタウンまで伸びるフレンチ・ヒル線である。
これら以外にもかつて路線があったが今は廃止され、使われなくなって久しい。
今のアーカムの街並みになってこの三つが使われてるが、五年ほど前に第四の線路の話が持ち上がってきたらしい。
交通の便をより快適にし、アーカムを更なる近代都市に発展させる、地下鉄建造の計画だ。
だがその計画は開始間もなくして水泡に帰した。
莫大なコスト、フレンチヒルにいる旧い名士からの反対、理由は多々あるとされはっきりとしていない。
中には掘り進めた地下から金塊が見つかった、明らかに人為的な空洞が形成されていた、作業員が闇の中で消息を断ったなどの眉唾な噂すら立ち上ってる。
事実として計画は立ち消えとなり、既に着手していた出入り口は撤去されぬまま、奇怪なオブジェとしてアーカムの異物として残っている。
全ては過去の遺物となり、人々の記憶から風化される。
それで終わるはずだった話が蘇ったのが、新しく生まれた噂だった。
始まりは平凡な民家の家主の男。
寝静まった深夜の家の中で、男は振動を感じた。一定の間隔で線路を走る電車のような音を。
路面電車の運航時刻はとっくに過ぎており、またその住まいは路線から離れた位置にある。昼間でも電車の騒音に悩まされたこともない。
しかも音の震源は家の外の街道からではなかった。
男の眠る家の下……即ち地下だ。
始めは物取りが潜んでいるのかと警戒していたが、音は一定周期で通り過ぎ、響いては消えを繰り返すばかり。
そもそも長大で巨大な物体が土を駆けていく音はとても人間が出せるものではありえなかった。
地下鉄の話を知っていた男は、計画が頓挫していることも知っている。地下に電車など通っているはずはないと。
ではこの振動はなんなのか。まるで、人間を丸呑みに出来るほど長く、大きな蟲(ワーム)が這いずっているような音は……。
結局男は恐怖で一睡もできず一夜を明かす。そのまま隣人に相談を求めたが、そこでも驚愕した。
近隣に住んでいた誰も、夜にそんな音を聞いていないと言うのだ。
気のせいだ、仕事のストレスだ、幻聴だ、そう丸め込められその日は引き下がる。
だが次の夜、その次の夜と、地下鉄の通過音は鳴り止まなかった。
何度問い詰めてもやはり誰も知らない。聞こえるのは自分だけ。
孤立は精神の均衡を失わせ、止まない音は剥き出しの精神を軋ませる。
異変が一週間過ぎ、いよいよ友人も病院の勧めを考えた時。男はある場所へ向かった。誘われるように。両の眼を血走らせて。
男の家、商業地域の外れの近くにあるもの。
廃棄路線を撤去し立てたまま放置された、地下鉄に繋がる入口跡だった。
以降、男の姿を見た者はいない。
「家の地下から聞こえてくる男の叫び声」が新たな噂に立ち上ったのは、その後すぐのことだった。
◆ ◆ ◆
-
『……気が滅入る話ばかりよね、この街って』
念話で呟く三好夏凛は現在、フレンチヒル線の路面バスに揺られていた。
『それは、さっきの女の子から聞いた噂のことか?』
『そう。幻の地下鉄の噂。工事が半端なまま終わったのに巨大な何かが地面の下を通り過ぎる音が聞こえてくる、ってやつ』
問いかける声は他の乗客には届くことはない。
契約したサーヴァント、ライダーの声は、マスターである夏凛にだけ聞こえている。今は姿も見ることはできないが。
霊体化という状態はやはり慣れないと思う。
コストとリスクの面から見れば合理的であると分かっていても、そう思う時がある。
そこに在る筈のものに触れることも出来ず、すぐ傍にいる誰かの声すらも聞こえない。
それはまるで、五感の幾つかが失くしてしまったかのような感覚だから。
『……ふむ、怖かったのか?』
『はあ!?』
反射的に出しそうになった声を手で塞いで抑える。
バスの中の乗客は多い。空に向かって叫ぶ少女と奇異な視線を受ける羽目になってしまう。
それこそ新たな噂に取り込まれかねない。
『こ、怖くなんかないわよ、ばか!あれはホラ、話し手の上手さってやつよ!あの子えらく迫真だったし!』
『そうか?あの時の夏凛の気配を感じていたが、時々震え声が聞こえていたような……』
『あー!知らないったら知らない!もう蒸し返すな!』
口に目に頬はなるべく無表情のまま顔を崩さず念話で叫ぶ、という無駄に高度な真似をして気さくな青年に抗議する。腹話術でもやっている気分だ。
こうしたやり取りは初めてではない。人口の多い場所での連携、遠隔での連絡の手段として念話の感覚は練習している。
『それじゃあ話を変えるが……夏凛はその話を信じてるってことか?』
『……普通なら信じてないでしょうね。だって滅茶苦茶だし、荒唐無稽だし。
元々アンタのマシンを動かせるか調べてる途中で地下鉄の話を聞いたとこからのオマケみたいなもんでしょ。
けど実際に行方不明者はいるし、鉄道があるのなら私達にも無関係じゃない。線路が通ってたら、ちゃんとそこでも運転できるんでしょ?』
路線を使ってライダーの宝具が使用できるかの確認と同時に、ダウンタウンのボランティア施設に行き情報を得る。それが今日での夏凛の指針だ。
自分と同じく休校で暇を持て余した学生も来ていたため、広い地域での話を聞くこともできた。
それも施設に向かった理由のひとつ。多様な仕事の人間が集まるからであり、皆一様に不穏な話題を持っていた。
『幻の地下鉄』も、その中に含まれていた噂だ。
『ああ。今回使った線路はライナーガオーで走行可能だが、人の密集する地域では不安がある。フレンチヒルもそういう場所だった。
地下鉄がありそれが河を超えているのなら、移動の面で俺達にとって大幅に有利になれる』
『本当にあれば、だけどね。残った入口もただの不良のたまり場みたいだし』
件の失踪が発覚してから警察も跡地を調査したが、底は計画が頓挫したままの半端な空洞があるままで線路など通ってるはずもなかった。
現状では噂は噂でしかなく、積極的に調べに行くだけの価値もないというのが夏凛の決定だった。
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『まあ、いざとなればドリルガオーで掘り進めばわかるさ』
『……何でもありなのも程があるでしょ』
そのうえ空から行く選択肢もあるのだから、豊富すぎるほど移動手段は備えている。
小規模な市街地戦には向かず、どこにでも瞬時に移動できる機動力がライダーの持ち味なのだと夏凛は理解していた。
「……ん、着いた?ありがと」
同学年くらいのボランティア仲間に呼びかけられ、バスから降りる。
ロウワー・サウスサイドで起きた『事故』の影響か、街全体にピリピリした空気が感じられる。
『白髪の屍食鬼(グール)』の名はアーカム中に知れ渡っている。報道を受け、全体的にボランティア活動も自粛気味である。
安全の為活動は常に複数人で行動し、学生は夜間での活動を禁止することになっている。今も奉仕用の荷物を持った大人たちが保護者役を兼ねて同行している。
住民票もあるか怪しい浮浪者や札付きの不良とはいえ、犠牲者は既に何人も出ている。
にも関わらず『事件』でなく『事故』として報道している。監督役とやらが手を伸ばしたのかもしれないが、それだけではない。
生まれた被害が人為的とは考えられない規模であるのが原因だ。自然災害、爆弾の暴発とでもしなければまともに公表できない程、それは壊滅的な惨状だったのだ。
隠された真実は聖杯戦争による爪痕。その正体を知る者は同じ神秘を携える者。
三好夏凛と同じ、マスターのみである。
―――……けど、今はこっちに集中しないとね。
今確実に聖杯戦争絡みと確定できる場所。しかしそれを知ってなお、夏凛は当初の予定を変えずにいる。
物件が入り組み幅が狭く、ライダーの戦いには向いていない地域。警察や報道後で密集した野次馬。同じように集まる他のマスター達。
統合する状況は全てライダーの不利に働く。交渉の機会を得る可能性はある。しかし未知数の相手に戦闘での枷をかけてまで接触するには時期尚早だ。
以上の判断は夏凛でなく、他ならぬライダーからの助言だった。
これを意外に思ったのが夏凛だ。輝けるほどに熱く勇者を名乗る戦士。
そんな印象で固定されていた夏凛にとっては。時折暑苦しくも感じる炎のような性格でありながら、戦略を冷静に分析する一面を見て気を改められたのだ。
英霊と呼ばれるほどの勇者の、戦士として積み重ねた経験則をここでは信用した。
だからまだ勇み足には遠く、今は地道に歩いていく。
目の前に近づいた孤児院での奉仕活動に精を出すことに、ひとまず夏凛は集中した。
◆ ◆ ◆
-
フレンチヒルに建つ教会は歴史ある建造物だ。
アーカムが都市という形を取り、やがてミスカトニック大学と名される院が設立され始めるより前に宣教師によって建立されたという。
今でこアーカムに受け入れられてるが、設立時は土着の宗教との対立が絶えなかった。その宗教の痕跡は今も街のそこかしこ残っているという。
孤児院が運営されたのも少し後であり、以後アーカムの風土と共にこの教会はある。
名だたる大学の一に数えられる栄光、魔女狩りを始めとした闇を同時に見てきた。
だが歴史あるということ、年月を重ねてるということは、つまり古いという意味である。
教えを受けている育ちざかりの孤児達の手で痛む箇所は増えるばかり。清貧が旨になる教義故、大規模な改修の目途もままならない。
つまり常に人手を求めており、夏凛達も仕事の荒波に揉まれることになった。
とはいえ中学生(ジュニア)の夏凛にそこまで酷な労働は求められていない。
割り当てられた役目は、夏凛と同学年以下の子供との交流。
年配者の大人が多い運営者にとっては元気が有り余る子供の相手は体力が保たないため、これはこれで重要な役目でもある。
とはいえ一緒に遊んでいれば済むことなの、だが。
「あ"〜〜…………」
数時間後、施設の遊び場である中庭にある長椅子。
そこには髪をバラバラに乱し、椅子に全てを任せ寄りかかっている少女が出来上がっていた。
「抜かった……演舞にあんなに食いつくとか予想外過ぎた……」
確か折り紙を折って見せるまでは普通に好感触だったはずだった。
雲行きが怪しくなったのは、話題が街の治安の悪さに移り空気が沈みかけた時だった。
子供達に元気を出させようと、適当な木の枝でいつもの訓練の舞を見せたのだが……それが引き金だった。
これが見事に大ウケしたらしく夏凛目がけて殺到。繰り返しねだる、伝授をせがむ、果ては配給の菓子を賭けて対戦を望むと発展してしまった。
あまりに露骨な反応に夏凛は一瞬固まり、熱意に押されるまま律儀にも全ての要望に応え、代償に体力の大幅な消耗を払ったわけだ。
肉体的な体力だけならまだ余裕があるのだが、子供に気を遣いながらの応対は精神的に疲弊した。
全力はもってのほかだし気を抜き過ぎれば子供が不満をこぼす。派手にやらかしてはシスターに大目玉を食らってしまう。
勇者部の活動で子供の扱いには順応していてこの有様だ。以前の夏凛なら投げ出していたかもしれない。
『大人気だったじゃないか夏凛。立派だったぞ』
背後から―――厳密には脳に直接伝わるものだし発言主の姿は消えているのだが、多分後ろにいるのだろう―――ライダーの言葉がかけられる。
……理由もなく、笑っているなと夏凛は想像した。
『立派……か。みんな、やっぱり不安だったのかしらね。
元気そうにしてたけど、どこか怖がってる気がした』
『ああ。だから皆の不安を一時でも取り除いた夏凛は立派だ。これも勇者の務めのひとつだな。
本当なら俺も手伝ってやりたいぐらいだが……』
まるで勇者部の面々のような台詞だった。あの部室にライダーが入っている絵面はまるで釣り合いが取れないのは想像に難くない。
だが同時に、あの部屋の面々とはこすぐに馴染むのだろうなと思って微笑ましくなる。
『あんたも……こういうのは勇者にとって必要な活動って思う?』
『もちろん。とても必要で、大切なことだ』
晴れやかな即答だった。
考え無しなのでまかせではない。姿が見えなくともわかる迷いのない断言。
考えるまでもないのだと、ライダーは自分にとって当然の事を言っているのだ。
『勇者は世界の平和を守る為に戦う。体を張るし時には命だって賭ける。それが使命だからな。
だったら、俺達は世界の平和を知っていなくちゃならない。その街の生活や笑顔。大切な人の姿を。
戦うだけが目的になればいつか足は止まってしまう。俺達が守っているものが何なのか、何のために守るのか。それを心に刻み込むんだ。
その思いを憶えていれば理由を見失わなず戦える。いつどこに、どんな敵が相手でも勇気を生み出す源になる。俺はそう信じてるからな』
その声には、表にも裏にも悲観はどこにも感じられない。
ライダーは誇っているのだ。サイボーグと変わった自分の身体を。
鋼鉄のような意志。揺るがぬ迷わぬ不変。敗北の可能性が現実を侵す中で己の勝利を疑わぬだけの根拠に転換している。
本当に純粋に、信じているのだろう。思い出が熾す種火を。それを炎に燃え盛らせる勇気。そこから繋がる勝利を。
-
「―――っ」
喉元までせり上がった声を押し留めた。決して声にしないように、今度は必死に。
今言おうとしたことは伝えるべきではない言葉だ。
自分の身体が失われても誰かの為に戦えるのか―――
夏凛が言われても良い気はしない。例え答えが分かり切っていてもだ。
若草の香りと、子供の笑い声。
頭の中だけで流れる会話は外に聞かれることなく。穏やかな空気が気まずくて。
『それ、じゃあさ』
切り上げる。無理やりにでも。
『情報、まとめましょうか。もうすぐお昼だし。色々話も聞いてきたしね』
多少不自然であっても、この話題は終わらせたかった。
『ああ、そうだな!』
ライダーはやはりあっさりと同意した。
アーカム内でも歴史のある古い教会。
専門でない夏凛なりに考え、神秘や魔術と結びつきやすい寺院だからということで目星をつけていた施設だ。
マスターとサーヴァントがいたわけでも、その痕跡が発見された等の、分かりやすい成果はまだ見つかってはいなかった。
夏凛の想像を超えていたという、別の意味での成果はあったが。
「頻繁に教会を訪れていた信心深い男性が雷に打たれて死んだ」「今度テストで赤点とったらゲンコツじゃ済まない、勉強を見てくれ」
【日本から来たアイドルがとても可愛い、今度やるコンサートに行きたい】「幽霊とか怪物とかそういう話はアーカムには昔からある。今更起きても飽きるくらいだ」
「リバータウンの河のほとりにある喫茶店のカレーが美味かった」「孤児院出の青年がミスカトニック大学に合格した、お祝いをしよう」
「夜に子供たちが宿舎を抜け出してるらしい。治安も悪いし目を光らせておかねば」「寝ている時地響きがした。地震というより何かが下を通っていくような感じだった」
「教会の何処かに職員でも知らない地下室がある。古株の神父なら知っているかも」【包帯男のビラを拾った。気持ち悪い】
「同じクラスの銀髪の女子を見ると胸が痛くなる。どうすればいいのか」「孤児の一人が富豪の家に養子として引き取られた。今日も院からの友達と遊びに出かけて羨ましい」
「怪しげな男が不遜な言葉を吐きながら施設に入ろうとした。警備を強化しなくては」【『白髪の屍食鬼』を見た。体格の大きい爬虫類じみた顔をしていた】
夏凛は交流した孤児との会話で最近起きた変わった出来事を聞き出し、大人の職員からはスクールでの課題と偽ってアーカムにまつわる逸話を訊ねて回った。
ライダーも霊体化し、存在が露見しない範囲で施設の間を回り調べを進め、集めた情報を二人は揃えて出し合った。
『多いわね……』
『多いな……』
只の世間話の類を除いてもなお余りある「噂」の数々に、夏凛は重く息を吐く。
膨大な情報と目撃証言。聖杯戦争に関係しているかの見極めは難航しそうだった。
アーカムは怪奇と異常に慣れ過ぎている。どんな事態が生まれてもそれを受け入れてしまう空気が出来上がってしまっている。
纏めて当たれば、現実との照らし合わせにどれだけ時間がかかるかも分からなくなる。
『これ全部サーヴァントの仕業なのかしら……多すぎるのにも限度ってものがあるでしょう?』
『……いや、そういうわけでじゃない。聞いた話からすると、噂にも二種類あるように俺は感じる』
『二種類?』
『簡単に分ければ、古い噂と新しい噂、昔から伝わるものと新しく生まれたものだな』
山積みの情報に辟易してた夏凛に先駆けて、なんとライダーは一歩進んだ推論を展開していた。
-
無関係の命を奪う邪悪。それだけは許容できない。
戦いでなく殺しを愛い、伝染病のように一帯に蔓延る恐怖を撒き散らす蠢く影。
それは英霊の誇りを穢す侮辱だ。勇者の使命として立ち向かうべき闇だ。
ただ一人の人間が抱く、原初に根差した場所からこみ上げてくる怒りだった。
獅子王凱の魂が熾す、炎の如し意志だった。
マスターの夏凛すらもがその熱の余波に驚く。恐怖ではなく、垣間見えた火の勢いに。
知らず漏れ出ていた内の感情を戒めるように、ばつが悪そうな口調でライダーは言った。
『……とはいえ、今の俺はサーヴァントだ。マスターの身を護る事が優先される。
この世界では俺は最終的な判断はお前に任せるつもりだ、夏凛。サーヴァントはマスターに従うものだからな。
なに、迷ったらすぐ相談してくれればいいさ、だろ?』
召喚されるにあたって、サイボーグ・ガイが連れてこれたのは半身たる愛機のみ。
背中を預け合う勇者ロボ軍団、後方で全面的なサポートを施すGGGスタッフ達はここにはいない。
勇者は孤高なるものに非ず、支え合う仲間と一丸となってこそ勝利した守護者だ。
ここではその道理は通用しない。
外部からの支援が届かない、孤立無援の状況。無数に潜む競合者。
苦い敗北の経験が蘇る。生前(いままで)の調子で戦えば、必ず手が間に合わない事が起きる。
若き勇者に二の轍を踏ませまいと、英霊に慎重な選択を取らせていた。
『……それ、うちの勇者部の条約じゃない』
一方の選択を委ねられた夏凛。
何を選び進むかは自分次第。マスターであり、生きている者である夏凛が決めるべき、そう言われた。
夏凛は当然決めている。告白すれば、初めて聞いた時から何をするかなど分かっていた。
噂を集めた最中の交流は、和やかなものばかりではなかった。
笑い話と受け取る中には、本当に怯え涙を目に滲ませる子供もいた。
自分の住む街の裏に密やかにいる闇。怯えは今も広がっている。
情報が揃った。正体が理解に届き始めた。早急に倒す事が最善と知った。
光明は見えている。この聖杯戦争を勝ち抜く一歩が。
そして―――そんな前提を打ち消せるだけの強い意志が、言葉となって背中を後押ししている。
何故か。問うまでもない。獅子王凱は勇者であり、
『―――叩くわよ、凱。勇者がいる場所で暴れたのが運の尽きだって、分からせてやるんだから』
三好夏凛もまた、勇者であるからだ。
『ああ。了解だ、マスター』
答えるライダー。反応は平静だ。始めから分かっていたように。
生粋の勇者であるライダーにとって後輩勇者ともいえる夏凛の精神の波長は親和性が高い。
双方の勇気こそが、あり得ざる二人の勇者の出会いの縁―――触媒となったのだから。
-
―――故にこそ、彼らはじき理解する。
古今東西、次元星界を超えて普遍の絶対。
勇者が立ち向かう相手とは、世界を脅かす闇そのものであるという事を。
そして彼らは理解していない。この聖杯戦争を戦う行為の意味を。
アーカムに浸透する底のない沼のような闇。
魔王という渾名、それすら似つかわしくない無明の渾沌を知る事になる。
「あら夏凛さん、ここにいたのね」
そんな時に、霊体ではない生の声が夏凛に呼びかけた。
孤児院で教師もしている年配のシスターだ。職員達を主導する中心的人物で、作業でもしていたのか修道服は脱いでいる。
「あ、すいません。すぐ戻りますから……」
「いえいいの。子供たちとよく遊んでくれたらしいわね。みんな喜んでましたよ」
丁寧な所作でのお辞儀。こういう時夏凛はどうにも困ってしまう。ストレートな感謝に戸惑ってしまうのだ。
「い……いえ。当然のことをしたまででして」
「そんなことないわ。あんな元気な子供達の姿はここ最近見れなかったの。こんな年寄りじゃ運動で相手をするには厳しいし本当に感謝してるわ」
結果、こんなぎこちない返事しか出来なくなる。
友奈なら朗らかに笑って円満に済むものを、と臍を噛む。こればかりは性分なのだろう。少しばかりもどかしい。
「それじゃあ中に入りましょう。もうすぐお昼になりますからね。そうそう、食事時は子供たちにせがまれても暴れてはいけませんよ?」
「も、勿論です。あはは……」
シスターが後ろを向いて遠ざかっていくのを見て、黙っていたライダーも念話を再開した。
『俺はもう少し周りを見ている。教会にも気になる噂はあったしな』
『分かった。私も噂の奴を捜す方法を考えてみるわ』
何処に出現するかが事前に分かれば、ライダーの宝具で早急に現場に向かうことも出来るだろう。
クラスの特性を存分に発揮したやり方だ。こんな所でも鉄道の調査が役に立つ。
施設内の食堂に向かおうとする夏凛を、再びライダーの声が呼び留めた。
『―――夏凛』
『なに?』
『これからは本格的に戦いに介入していくかもしれない、しっかり食べて力をつけておけよ!好き嫌いとかないよな?』
「アンタは私のお父さんかっ!」
肉声で夏凛は怒鳴った。
-
【フレンチヒル(孤児院)/一日目 午前】
【三好夏凜@結城友奈は勇者である】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]スマホ、ボランティア証、学生証、鞄(にぼしとサプリは入っている)、木刀袋(木刀×2)
[所持金]一人暮らしをするのに十分な金額(仕送り、実家は裕福)
[思考・状況]
基本行動方針:マスターやサーヴァントの噂を調査し判明すれば叩く。戦闘行為はできるだけ広い場所で行う。
1.アーカムに噂を流している敵を倒すための情報を集める。優先は『白髪の屍食鬼』。
2.各エリアのボランティア事務所へ行き、仕事を請け負いつつ敵主従の調査。
3.夕食はリバータウンの喫茶『楽園』で食べる?
[備考]
・令呪は右肩に宿っています。
・ステルスガオーIIで街を上空から確認し、各エリアでの広い土地の位置を把握済です。
・リバータウン一帯のスクールは休校中。
・真壁一騎と出会いましたが、名前も知らず、マスターとは認識していません。一騎カレーの人かもしれないと思っています。
・「アーカムで噂を流して市民の不安を煽る事で強化される敵」を仮定しています。
【ライダー(獅子王凱)@勇者王ガオガイガー】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]ガオーブレス
[道具]私服
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの願いを叶える。
0.教会周辺を調査、哨戒。
1.夏凜を守る。
2.ライナーガオーが使えるか、アーカムにある各路線をチェックしたい。
3.『幻の地下鉄』があるかいずれ確かめたい。ドリルガオーでの掘削も検討。
4.無差別に殺戮を愉しむ相手を許してはおけない。
[備考]
・真壁一騎を見ましたが、マスターとは認識していません。戦士の匂いがすると思っています。
・リバータウン線でライナーガオーを走行するのに問題ありません。ただし一部住宅密集地域があります。
・「アーカムで噂を流して市民の不安を煽る事で強化される敵」を仮定しています。
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投下終了です
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投下乙です
>>945と>>946の間が抜けてる気がします
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指摘ありがとうございます。本来は>>945と>>946の間に以下のパートが挿入されます
『多くの噂が伝播し、実際に被害が出た事件が複数存在する。犠牲者が生まれてそれに恐怖した人々が大勢いる。
俺達英霊とは無関係に、この街には多くの伝説が息づいてるんだ。その恐怖と伝説を―――利用してる奴がいる気がしてならない』
『マスターやサーヴァントの誰かが……自分達のやった事を噂の一つにして隠してるってこと?』
情報操作の一種だ。完全な秘匿の出来ない事象を、一部以外を脚色して表に露出させる。
アーカムという怪奇を受け入れやすい広大な森に紛れれば、無数の噂という木の葉の一枚としてしか外には認識されなくなる。
そう推理する夏凛に、ライダーは更に言葉を上塗りした。
『あるいは、逆かもしれないな』
『逆?』
『自分達を恐れさせる、噂を流す事自体が目的かもしれない。人の感情を媒介に強化される……そういった能力を持つ敵が』
『はあ?』
困惑した夏恋の声も尤もだった。自身を堂々宣伝するサーヴァントなど想像だにしない。
本質的に魔術師ではない夏恋にとっては、英雄ならそんな威風ある真似はするかも知れないと思いはする。だとしてもこんな婉曲的にする意味が分からない。
だがライダーは『人の感情を媒介にする』といやに具体的な例を出してその説を口にした。
それはつまり、彼自身の『前例』を参考にした意見……生前で戦った敵にそれがいたからに他ならない。
『俺達GGGが戦ったゾンダーという敵が似たような力を使っていた。奴らは人間に憑りつき、宿主のストレス……マイナスエネルギーで成長し巨大なロボになるんだ。
知名度や信仰で英霊が強化される現象があるが、それをより限定的に能力化したものだな。後世の伝聞や風評で姿が変化する、そんなサーヴァントはけっこういるらしい』
勇者の英霊獅子王凱の戦歴を紐解き始めに開かれる敵。宇宙の海を超え地球に現れた機界生命体ゾンダー。
全ての生命体を惑星ごとゾンダー化―――機界昇華する為未曾有の危機を地球に振り撒いた暴走プログラム。
仕事の失敗、将来の不安。猟奇的な噂に溢れ、日々恐怖を抱えて生きる人々を飲み込む怪物(ゾンダー)。
街と市民の様子を観察したライダーはその存在を思い出し、外部からの情報の誘導の可能性を見出したのだ。
『つまり、最近作られた新しい噂は、ソイツが力を強くする為に自分で街に流したものだってアンタは言いたいわけね』
『全部が全部そうだとは限らないが……大体はそんな感じだ。だが直接起きたロウワーでの件は特に強いと俺は見ている』
白髪の屍食鬼の名は今や子供が話題が上がる度に口にする。アーカムの街に信じられない速度で浸透していた。他と比してもその認知度は倍近い。
屍食鬼自体は過去の記録にも載ってる情報であるにも関わらず、だ。明らかに何者かの意図が介在している。
これが今の敵の本命……主力だと、そう睨むのは自然だった。
『……ねえ、やっぱりこれへの対処って優先した方がよくない?』
『ああ、俺も今そう思ってたところだ。ゾンダーに近い特性があるとしたら、時間をかけるほど厄介な敵になるかもしれない』
魔術師であるキャスターのクラスは、陣地を確保し装備を増産し戦力を強化する。長期的なスパンを念頭に置いた戦術を用いやすい傾向がある。
ゾンダーロボも完全体と化せば、一体で星を機界昇華してしまう浸食度だ。
空想も信仰が深まれば幻想に階梯を上げる。ただの噂がそのレベルにまで達すれば、手の付けられない段階にまで成長してしまう危険性がある。
『それに―――勇者として、この惨状を起こした奴を認めるわけにはいかない』
『凱?』
この時、切り替わったという差異を体感した。
姿の見えないライダーの声を聞いてその姿を自然に投影させていた。
傍にいる勇者がいまどのような表情をしているか、夏凛に齟齬がなく伝わった。
『ゾンダーは暴走によって星をも滅ぼしてしまう危険極まりない存在になってしまった。けどその本来の目的は生命体からストレスを無くすという、平和の為のプログラムだった。
これを起こしてる奴はきっと、根底から違うものだ。無辜の人々を媒体にしながらその人々に牙を剥く。勝利という結果の過程にある、殺戮そのものを愉しんでいる』
聖杯戦争を戦うにあたっては不要な感情が顔から覗く。
サーヴァントと戦う為の戦術ならば否定はしない。マスターを狙うのも一つの選択だ。
ライダーもまた同じく聖杯を求むサーヴァント。相手のやり口を何もかも糾弾する資格はありはしない。
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>>949
投下お疲れ様です!
凱兄ちゃんは本当に頼りになるサーヴァント……!
宝具で移動手段が豊富かつ応用が効くのも便利ですが、何よりその折れない勇者の心が強みですね。
正道を行く主従といった感じで清々しさがある二人です。
新しい都市伝説も登場しましたし、これを起点に話を広げられるかも。
改めてお疲れ様でした!
ついでの報告で申し訳ありません、現在お待たせしてしまっている自分の予約ですが、一旦取り下げさせていただきます。
年末年始でリアルのほうがごたごたしたのに加え、内容が思ったより主催の裏側に踏み込むことになりそうなので、他のパートを進めてからのほうがいいかなと……。
ご迷惑をお掛けして本当にすみません。
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クリム・ニック&リュミドラ・ルリエ、パチュリー・ノーレッジ&胴太貫正国予約します。
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申し訳ありません。
期限を勘違いしており、延長の申請が遅れました。
延長いたします。
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投下します。
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リバータウンにある喫茶"楽園"。
遅めの朝食を楽しむ人々で賑わうその店の一角で、一人の少女が本を読みながら軽食をとっている。
彼女の名はパチュリー・ノーレッジ。
ミスカトニック大学に通う学生であり、ここアーカムの裏側で起こっている聖杯戦争のマスターである。
"魔法使い"という種族であるパチュリーにとって食事は必要ないが、嗜好品として楽しむことは出来る。
その点、この喫茶店はおあつらえ向きである。
具が多めのサンドイッチは見た目も味も良いし、新鮮な野菜の歯ごたえがたまらない。
そして何より店主の老人が入れてくれた紅茶は中々のものだ。
……咲夜の入れてくれた紅茶とは天と地ほどの差があるが、それは比べる相手が悪すぎるというものだろう。
もう少し静かであれば更に加点したいところだが、商店街の大通りにそこそこ近いため、外の賑わいが店内にまで入り込んできている。
その音の方向に視線を向ければ、そこにいるのは幻想郷の人里などとは比べ物にならないほどの人の波。
それだけではない。
窓から見える淀んだ空気も、天を突くほどに高く伸びた建物も幻想郷とは何もかもが違うのだ。
ここ、アーカムにおいて
『……で、何でこんなところで呑気に茶なんざ飲んでんだ、あんたは』
そんな物思いに耽る少女に対して、不躾な声が投げつけられる。
その声の主である剣の英霊・同田貫正国は霊体化した状態でパチュリーの傍らに立っている。
その表情には隠し切れない苛つきが浮かんでいるが、主たる少女はそれを無視したかのように口を開く。
「これを見てみなさい」
そう言ってパチュリーが差し出したのはスマートフォン。
そこには一つのニュースサイトが映しだされている。
――アーカム・アドヴァタイザー・ナウ。
アーカムの歴史ある地方紙が時代の流れに従い、オンライン化したものだ。
そのトップページにはでかでかと、一つのニュースが掲載されている。
"Miskatonic University Death"
名詞だけで形作られた鮮烈な見出し文(ヘッドライン)。
それが意味するのはミスカトニック大学で死体が発見されたというニュースだ。
そう、彼女たちが今朝までいたあの大学でだ。
『死体? どういうこった』
「ちょっと待っていなさい。ええと、フリック入力ってこうやるのよね……」
もたもたとした手つきでスマートフォンを操作するパチュリー。
正直なところ、同じ情報を手に入れられるのであればパチュリーは紙に印刷された新聞を選ぶタイプだ。
だが"インターネット"とやらの情報スピードは凄まじい物がある。
こと今朝方起こったような事件に関しては、紙媒体よりも有用であることは認めなくてはならないだろう。
「ここに『今朝方、大学で首吊死体が発見された』と書いてあるわ。
吊るされていたのは大学の桜の木……それも普通の人間では届かないような位置にわざわざ吊るされていたそうよ。つまり犯人は普通の人間ではないということね」
-
パチュリーも幾度と無く見かけたキャンパス内で最も大きい桜の木。
あの枝に縄をかけるなど、そこそこ大きい脚立でもなければ難しいだろう。
だがそんな行動をしていれば流石に警備員の目についてしまう。
逆に言えばそれがないということは、普通の犯罪などではないということだ。
「……それに加えて、ここアーカムには魔女の首をくくって吊るしたとかいう過去があるそうよ。
そのことを考えれば自ずとこの事件の意味が見えてくるでしょう?」
それが意味するところは一つ。
特定の人種……魔女に向けたメッセージといったところか。
意味合いとしては『お前の正体はバレている。次はお前の番だ』ぐらいだろうか。
わざわざ死体を使う辺り、何とも悪趣味かつ安い挑戦状だ。
『なるほどな。あの槍使いのマスターからの悪趣味極まりない挑戦状ってわけか。
……で、あんたはビビって尻尾を巻いて逃げてるってところか?』
「口を慎みなさい、セイバー」
ピシャリと言い切るパチュリーの語気は強く、目には静かな炎が燃えている。
「そんなわけないでしょう。
この愚かなマスターには私を侮辱した代償を必ず払わせてやるわ」
そうだ。
この挑戦状の送り主はこのパチュリー・ノーレッジを、紅魔館の魔女を侮辱したのだ。
それがどれだけ愚かな行為だったか……それを脳幹の奥まで叩き込んでやらなければならないだろう。
その答えを聞いた同田貫は、獰猛な笑みを浮かべた。
『そいつは重畳だ。立ち向かう気があるならこっちとしては文句はねぇよ。
……で、だったらあんたは何でこんな場所で管巻いてやがる。
とっとと槍使いのマスターを探しに行かなくていいのかよ』
「落ち着きなさい。急いては事を仕損じる、という諺は貴方の故郷のものでしょうに。
それに……その理由はあの雷撃を食らった貴方が一番理解しているでしょう?」
そう言ってすっかり温くなった紅茶を口に運ぶ。
そしてサーヴァントが口を開く前に湿った唇から言葉を続ける。
「ランサーのマスターは一流の魔術師……それも戦闘に特化しているタイプよ。
正直、直接遭遇して戦いになった場合、不利になる可能性は十分にあるわ」
例えDランクとはいえサーヴァントの対魔力を真っ向から打ち抜ける魔力。
それにあの場にいなかったにも関わらず、こちらを狙い撃つ正確性。
間違いなく戦闘的な魔術に心得のあるマスターだ。
魔術戦で負ける気はしないが、自分には体力というハンディキャップがある。
それにあの魔術精度でサーヴァントと連携されると極めて厄介だと言わざるをえない。
「だからこちらも再戦には万全の体制で望む必要がある。
……特にこれから相手の魔術工房を襲撃する場合はね」
『ちょっと待て。襲撃だと? そもそも相手の寝座はわかってるのかよ』
「ええ。大体の予想は付いてるわ」
-
パチュリーはそう断言すると人差し指をピンと立てた。
「まず一つ目。
私を名指ししているということは、まず間違いなく大学の関係者であるということよ」
神秘学科の七曜の魔女。
学内ではそれなりに有名な異名らしいが、流石に学外までは響いてないはずだ。
故に犯人は学内の人間だと断言できる。
『……っておい。あんた、大学に何百人の人間がいると思ってんだ』
「だから話は最後まで聞きなさい。
絞り込むための二つ目の手がかりは――この被害者よ」
アーカム・アドヴァタイザー・ナウには被害者の名前も乗っている。
そして学内の人間ならば、その所属する学科程度ならば簡単に調べられるのだ。
「大学という場所はより専門的な学問を収める場所。
つまり自身の所属する学科外との繋がりは非常に薄いものよ。
そして彼女は『応用化学部』という学科に所属していた……犯人はほぼ間違いなくこの学科の関係者でしょうね」
『それだと通りすがりの犯行って線もあるんじゃねぇのか』
「確かにその可能性も0じゃないわ。
ただ死体発見時刻から考えてもこの死体を用意したのは、私達と遭遇するよりも前……
そうなると偶発的な事故か何かで殺したというのが有力な線よ。
……となるとやはり複数の学部の人間が利用するような人通りの多いところで殺害されたというのは考えにくいでしょう?」
『なるほどな。筋は通ってるってわけか』
「ええ、そしてあのランサーが学校内で仕掛けてきたということは、学校内に本拠地――すなわち工房を持っている可能性が非常に高いわ」
キャンパスの地図で調べてみたところ、応用化学部の研究棟は大きめの建物が1棟しかない。
……であれば犯人が誰であれ、工房がそこである確率は非常に高いと考えられる。
『……ってえことは今度の戦は城攻めか。
ハッ、面白くなってきたじゃねぇか』
喜々とした声を上げる同田貫。
その単純な思考にパチュリーは頭を抱える。
とはいえ魔術工房への突撃を城攻めと評するのは、あながち間違いではない。
幻術による迷宮、幾多の魔術的な罠、猟犬代わりのモンスター……練度の高い魔術師なら一部を魔界化させることすらやるかもしれない。
それは最早魔術で編まれた要塞と言っても過言ではないだろう。
-
『……で、いつ攻め込むんだ』
「だから落ち着きなさいと言ってるでしょう。
……まず一つ確認するのだけど、体の調子は万全なのね?」
『問題ねぇな。傷は完全に塞がってる』
その声にごまかす響きは欠片もない。
純然たる事実だけをマスターに伝えている。
実際、パチュリーによる計算でも完全回復している時間だ。
「そう……なら問題の一つはクリア。
もう一つの問題はつけられている可能性だったけれど……それも問題ないようね」
身元がバレている、ということは自宅も把握されている可能性があるということだ。
こちらの体勢が整う前に襲われること……そしてこちらが襲撃を掛ける前にカウンターを食らうことは避けたかった
それなりの魔術工房(ようさい)に改造してある自宅ならともかく、登校途中に隙を突かれ襲撃されるのは目立ちすぎて非常によろしくない。
そのためにわざわざ大学を迂回してリバータウンにやってきたのだ。
だがそれも結局は杞憂だったようだ。であればいつ仕掛けても問題はない。
「じゃあ、この紅茶を飲み終わったら大学に向かうことに――」
『――振り返るな。そのままだ』
自分の言葉を遮るように放たれた同田貫の言葉。
その張り詰めた、冷たい刃のような言葉にパチュリーは思わず体をこわばらせる。
『後ろ斜め向かいの席に東洋人の男がいる。
首を動かさずに、窓の反射越しに確認しろ』
言われるまま、反射する窓ガラスごしに視線をそちらに向ける。
同田貫の言うとおり、自身の背面側、斜め後ろの席に男が座っている。
『見覚えは?』
「――あるわけないわね」
格好も特段奇抜なものではない、一般的なサラリーマンと同じグレーのスーツ。
背格好も中肉中背な平均的なもので、街の中にいると埋没してしまいそうなぐらい個性の薄い格好であった。
だがパチュリーはその目が気になった。
何かを見定めるようなその目でこちらをチラチラと見ているのだ。
そして視線の先、男は何かを決意したような表情を見せ、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
『こっちに来るぜ。どうする?』
(……サーヴァントでないのなら私が相手をするわ。
貴方は奇襲がないように周囲を警戒しておいて)
『応』
落ち着け。二度と醜態を晒してなるものか。
そう心のなかで呟きながら、シングルアクションで魔術を発動できるように準備しつつ、視線を男に向ける。
「……何か、用かしら?」
パチュリーのその言葉に対し、男は懐から何かを取り出そうとしている。
(……呪符か何か? それとも拳銃?)
――大丈夫だ。
魔術に対する抵抗(レジスト)はしっかりかけてあるし、拳銃であれば一刀のもとに切り伏せられるだけだ。
そう自分に言い聞かせつつ、ただ男の顔をしっかりと見つめている。
その視線の先、果たして男が取り出したものは。
「君、アイドルに興味はないかな?」
何の変哲もない、名前の書かれた紙だった。
-
■ ■ ■
そこは、戦場であった。
白刃がぶつかり合い、策謀と意地が渦巻く戰場(いくさば)。
その中で豪奢な鎧をまとった男と弓を持った軽装の男が相対している。
体を大きく動かしながら、豪奢な鎧に身を包んだ男が声を上げる。
「『ふざけているのか? 弓なんぞで何ができる?
せいぜい不意打ちでしか俺を傷つけることが出来なかったそんなもので』」
嘲笑の入り混じったその言葉に対し、青年は手にした弓を構える。
「『――試してみるか?』」
二者の間の緊張が徐々に高まっていく。
青年の持つ弓が限界まで引き絞られ、そしてそれが解き放たれるその瞬間。
「――カァット!」
甲高い声が、その戦場を終わらせた。
先程まで向き合っていた二人の間にあった、緊迫した空気が霧散霧消する。
それだけではない。周囲の空気も一気に騒がしい会話で埋め尽くされ、ラフな格好の人々が道具片手に戦場に入り乱れる。。
――そう、これは舞台の上の話である。
この舞台の企画者は286プロダクションという日本の事務所だ。
歌やライブだけでなく総合的なエンターティメントを掲げる286プロダクションは、本格的な歌劇の開催を予定していた。
実際の公演はノースサイドで予定されているが、その練習は商業地域にあるスタジオ"ル・リエー"で行われていたのだ。
「いや〜クリムちゃん、助かったよ〜。
主役の子が遅れてて、セリフ覚えてる子が他にいなくてさ〜」
「ははっ、この程度……当然ですよ」
そしてクリムの所属しているプロダクションもそれに参加している……という筋書きらしい。
そう、ここアーカムでクリム・ニックにあてがわれた役割は"舞台役者"であった。
出番は多くもなく少なくもなく、練習さえこなしていれば割と自由が効く立場だ。
今回の演劇でも先程は都合で主役の代わりを務めたが、実際は主人公の副官ポジションの役が割り振られている。
しかし舞台上で堂々とセリフを読み上げるその姿を見ていると最初に名乗った軍人という肩書より、こちらのほうがよほど似合っているようにリュミドラには見えた。
『……貴方、自分のことを軍人だと言ったけど演者の方が向いてるんじゃないのかしら』
「真の天才とは万物に秀でるものですよ、戦姫さま。
それに将たるもの、軍人という猪武者を束ねるためにはポーズを見せてやることも大切でしょう?」
最初にあった時から変わらない、自信満々なその姿。
それが馬鹿だからなのか、それとも本人がうそぶく通り天才だからなのか。
一軍の将として様々な傑物や道化と会ってきたリュミドラを持ってしてもこの男を読み切れていなかった。
そして今のリュミドラにとって気になることは一つだけではない。
-
『しかしよりにもよって、演劇の内容が、"これ"とはね……』
本来ならば演劇で何が演じられようと、彼女が気に留めることはなかっただろう。
だがクリムが手にしている台本に書かれたタイトルは"Lord Marksman and Vanadis(魔弾の王と戦姫)"
ヨーロッパ地方に伝わる伝承を現代風にアレンジしたもの……とされているが、問題はその内容が彼女の知る人物と出来事に酷似しているということだった。
その台本の中には彼女の知る名前が幾つもあり……無論、その中には"リュミドラ・ルリエ"という名前も書かれている。
「しかしどんなお気持ちですか。自分たちをモデルにした劇を見るというのは」
『……まぁ、悪い気分ではないわ。
吟遊詩人によって、英雄の歌が語られるようなものだもの』
それが侮辱するようなものならば別だけど、と付け加える。
そして細部こそ異なるものの、この劇において登場人物を侮辱するような改変は見られなかった。
……正直なところ、リュミドラとしては自分が脇役で、自分とも因縁深いあの戦姫がヒロイン役というのが非常に気に食わないが、それを表に出すのも大人げない。
「ほう。そういえばこの劇のモデルに成った伝説では、ティグルウルムド卿と恋仲になったという説もあるそうでガアッ!?」
いきなり頭を抑えてうずくまったクリムに、周囲は奇妙なものを見る視線を向ける。
そんな彼らに『なんでもない』とアピールしながら、クリムは自身のサーヴァントの様子を諜う。
軽口を叩きすぎただろうか。そんなことを考えながら自身のサーヴァントへ視線を向けた。
だがそんなクリムの目に入ってきたのは予想外のリュミドラの表情だった。
照れたような顔ではなく、何かに悩んでいるような、または苛つきを無理やり押さえつけたような――そんな複雑な表情でリュミドラが口を開く。
『……覚えていないのよ』
「……は? いや失敬。それはどういう意味ですか戦姫さま?」
『言葉のままよ。記憶が欠如しているの。
この台本に書かれたようなことは覚えている。
けれど自分がどうやって死んだか……それこそ戦場で散ったのか、天寿を全うしたのか……そのあたりの記憶は靄がかかったように思い出せないのよ』
そのリュミドラの言葉に、クリムは怪訝そうな表情を浮かべる。
「それは……奇妙な話ではないですか。
英霊とは一生を駆け抜けたものの映し身。
でなければ…‥であればこそ、自分の末期は覚えているはず」
古今東西の英雄に共通するのは悲劇的な死だ。
だからこそ、その結末に納得ができず、聖杯に呼ばれる英霊も数多くいるのだ。
そう、クリム・ニックは解釈していた。
『ええ、そうよ。
……これが普通の聖杯戦争ならばありえない事態よ。
気を引き締めなさい、マスター。この聖杯戦争……やはり何かがおかしいわ』
その忠告を神妙に聞き入るクリム。
そんな彼にスタッフの一人が近づいてくる。
「クリムさん、そろそろ次の出番なので準備お願いしまーす!」
「ああ、わかった。――ん、あれは?」
いつの間にか入口辺りに見慣れぬ少女がいる。
ここはいわゆるタレントも多数いる。
部外者が入れるような場所ではないはずだが……?
『マスター、ちょっといいかしら?』
怪訝な表情を浮かべるクリムに対し、緊迫した様子のリュミドラの声。
「どうされましたか、戦姫さ――」
その時、"それ"は起こった。
■ ■ ■
-
「はぁ……」
パチュリーは深くため息を付いた。
『溜息つくぐらいなら断ればよかったじゃねぇか』
「……貴方は直接相手をしてないからそんなこと言えるのよ。
あの男、相当な曲者よ」
喫茶店で声をかけてきた謎の男。
"プロデューサー"と名乗ったその男は、事もあろうにパチュリーをアイドルにスカウトしたのだ。
無論、パチュリーにはそんなものに興味はないし、今から戦いを仕掛けに行こうとしている出鼻をくじかれ不機嫌なのも手伝ってはっきりと断るつもりでいた。
だが男は硬柔織り交ぜた巧みな言葉と、どこから生まれてくるのか謎の熱意によって、パチュリーを強引にこのスタジオまで連れてきたのだ。
仕掛け人(プロデューサー)と名乗っていたが、あれは最早詐欺師や話術士の類だ。
『それにこんなところで道草食ってる暇があるのかよ』
(私だってこんな場所に何時間もいる気はないわ。さっさと切り上げて大学に向かうわよ)
パチュリーの視線の先で奇妙な衣装をきた役者らしき人物の間を、多くのスタッフが慌ただしく移動している。
情熱、資金、様々な人が色々なものを懸けているのだろう。
――だが、それだけだ。
パチュリーは文学も勿論読むが、彼女が追いかけるのはあくまで文字で綴られるものだ。
舞台で演じられる劇に対してはまったく興味がわかなかった。
実際に目の当たりにしてもそれは変わらない。
「……で、連れられて来て舞台とやらも見たわ。だから私はそろそろ……」
「あっれぇ〜! プロデューサーちゃん来てたの〜?」
パチュリーの声を遮る、はっきりと通る明るい声。
その声の主は奇妙な衣装を着た金髪の少女だった。
「お、唯。ちゃんと仕事してたか?」
「うんうん、バッチシ☆ 戦うお姫様をキメちゃったんだから!
あれ? 誰、この可愛い子!」
「おう、スカウトしてきたんだ。スゴイだろ?」
「にゃはは、プロデューサーさんってば、隙あればスカウトしてくるんだから〜。
しかも可愛い子ばっかり! えっちぃ〜」
「誰がエッチだ。仕事熱心と褒めなさい」
何が楽しいのか、けらけらと笑いながら話す金髪の少女。
パチュリーの方に向くと笑みを一層深くして、手を差し出してきた。
「ゆいの名前は大槻唯。ゆいでいいよ! これからヨロシクね!」
正直なところ、パチュリー・ノーレッジの性根は引きこもりのそれに近い。
多くの人と関わるより、本を読んで静かに過ごしたいのが彼女のスタイルだ。
……それに経験上、金髪のふわふわ髪に関わるとろくなことがないのだ。
だが礼儀知らずと思われるのも面白く無い。
二つの意識を秤にかけ、わずかに後者が勝った。
仕方なしに唯の手を取る。
「……パチュリー・ノーレッジよ。
ただ誤解してほしくないのだけど、私はこの男に無理矢理連れてこられただけで、芸人の真似事をする気は欠片もないわ」
「ゲイニン? プロデューサーちゃん、ゲイニンって何?」
「あー、まぁアイドルの古い言い方みたいなもんだよ」
その言葉に唯は驚きの表情を浮かべる。
「え〜、楽しいって! 今やってる劇もすっごく面白いんだから!」
「……だから言ったでしょう。私はそういうのに興味ないわ」
「うんうん、最初はそう言ってた子も多かったんだけど、
プロデューサーちゃんに無理やり引っ張られてアイドルになった子ってけっこういるんだよ!
ゆいもその一人なんだけどね!」
唯の言葉にプロデューサーを名乗る男はどうだ、みたいな自慢気な顔をしている。
……正直ブン殴りたい。
だがその衝動をぐっとこらえ、大学に向かうため、話を強引に切り上げようとする、その時だった。
-
「……ッ!」
パチュリーの体が軽くよろめいた。
「あれ、どったの?」
「……歩き疲れたのよ。少し座らせて頂戴」
「ああ、それは気が付かなかった。椅子を持ってこよう」
「あ、じゃあ、ゆいは飲み物持ってくるね〜!」
そう言ってパチュリーから離れる二人。
そのタイミングで同田貫が話かけてくる。
『……で、気づいてんだろ?』
(当たり前よ。この無茶苦茶な魔力に気づかない魔術師なんているわけ無いでしょう)
全身の肌が粟立ち、得体のしれないものが体の奥からせり上がってくるこの感覚。
しかもパチュリーはそれによく似た現象に数時間前に遭遇しているのだ。
間違えようがない。
宝具――もしくはそれに匹敵する魔力を近辺で何者かが解き放ったのだ。
『だったら俺がひとっ走り様子を見て……』
(待ちなさいセイバー。
敵がどこにいるかもわからないこの状況で、私がサーヴァントを離すとでも?)
リードを常に握っていなければ、何処かへ行ってしまう駄犬か何かか。
それにその魔力を発した奴も気になるが、それ以上に気になる反応を見せた奴がこの場所にいるのだ。
(それよりも舞台の横にいる男を見なさい。
衣装を着た連中の中に髪を切りそろえた痩せぎすの男がいるでしょう?)
『ああ、いるぜ。もやしみたいな男が……で、あいつがどうかしたのかよ』
(……あの男、さっきの魔力に感づいたような素振りを見せたわ)
こちらが気づいたことがバレないように、目線を合わさないようにする。
(周囲にサーヴァントの気配は感じるかしら)
『……わかんねぇな。ここはごちゃごちゃしすぎている。
相手が霊体化した状態じゃ、意図的にダダ漏れになってない限り判別は難しいな』
周囲に溢れる人。人。人。
深夜の大学のような場所ならば魔力の匂いも嗅ぎ取れるだろうが、こんな人の多い場所ではその匂いも紛れてしまうということだろう。
それにこの微妙な距離ではマスター同士のステータス確認もできない。
(さて、どうしたものかしらね……)
あくまで本命は大学で待ち構えるランサーのマスターだ。
だが聖杯戦争がバトルロイヤルである以上、他のマスターを無視することなど出来はしない。
この街はすでに危険な盤上と化している。
一手誤ればそのままチェックメイトまで持って行かれても不思議ではない。
次の手に悩むパチュリー。
そんな彼女のもとにプロデューサーがパイプ椅子を抱えて戻ってくる。
「はい、椅子をどうぞ。で、うちのプロダクションの契約方式なんだけど……」
「……待ちなさい。何で契約方式の話になっているのかしら?」
-
■ ■ ■
(……何だ、今のは)
クリム・ニックは頭を抑えつつ、呻いた。
『この魔力量――恐らくはこの近辺で何者かが宝具を開放したみたいね。
それも相当に強力なやつを』
表情を歪めるクリムの方を見て、リュミドラは言葉を続ける。
『……ただ貴方が感じたのはそれだけではないだようだけれど』
(ええ、宇宙(そら)にいる感覚とも違う。
戦場で感じるそれとも違う……おぞましい悪寒としか表現できないものですよ)
彼の身体を震わせたのは、体の芯から込み上げてくるような悪寒。
幾多の戦場を駆け抜けてきたクリムですら体感したことのない何か。
死よりも深い、もっと奥底から込み上げてくるような根源的な恐怖だった。
『気になるわね。
貴方の感じたそれが魔術的なものなら、サーヴァントである私も感じ取っているはず。
けれど私が感じ取ったのは開放された魔力だけ。
……やはり普通の聖杯戦争ではないようね』
(……で、どうされますか戦姫さま。
そんな膨大な魔力を開放した相手を放っておくことなど出来ないでしょう?)
『……いえ、その前にマスターに言わなけれなばらないことが二つほどあるわ』
リュミドラの何かを決意したような真剣な声色にクリムも居住まいを正し、じっとその目を見る。
『まず一つ。さっき入ってきた連中の誰かにラヴィアスが反応していたわ。
間違いなくこのスタジオ内に私以外のサーヴァントがいる』
「ほう……」
氷槍ラヴィアスのもたらす高い気配感知スキル。
それはこのスタジオ内に何者かが来たことを察知していた。
『十中八九、マスターは入口付近に立っているあの見慣れない女でしょうね』
「その根拠は?」
『そうね……反応したタイミングというのもあるけど……彼女、"不自然なくらいに"こっちを見ていないわ』
リュミドラ・ルリエが持つ観察眼。
戦姫は政治的にも大きな力を持ち、政治の場にも借り出される。
特にリュミドラは名家の出だ。
スキルにこそないものの、その観察眼は人並み以上であることは間違いない。
「なるほど。確かにそれは怪しい。対処しない訳にはいかないでしょう。
それで、もう一つの"私に話しておくこと"、というのは?」
『……宣言しておくわ。この場所の判断を全て貴方に預ける』
「!? それは……」
『私はアサシンとの戦いで、"してやられた"。
侮辱という名の挑発に乘り、氷槍ラヴィアスを――私の誇りを奪われ、窮地に陥った。
それは誇り高き戦姫の一人として、そして槍の英霊として決してあってはならないことよ』
あの時、アサシンとそのマスターがこちらを始末する腹づもりであったなら、無様に脱落していたはずだ。
今、こうして無事でいられるのは『運が良かった』。ただそれだけのことなのだ。
だからこそ今一度、自分を見つめなおすと同時に自分の目の前の男の器を見極め無くてはならない。
『……だから今回は貴方に全ての判断を任せるわ。
天才の名に恥じない采配を期待しているわ、マスター』
そう言って、リュミドラは口を閉じた。
それはクリムにすべてを任せるという意思表示でもある。
その態度にクリムの芯に何かが湧き上がる。
それは先ほどの悪寒も掻き消えるような熱だ。
これは期せずして訪れたチャンスだ。
目の前の英雄に、自身が天才と呼ばれるに足る男だと証明できるまたとない機会がやってきたのだ。
チャンスが目の前にあれば迷わず飛びつき、挑戦する。
それがクリム・ニックという男なのだ。
「ふっ、ふふふっ、おまかせください戦姫さま!
ご期待にそう働きをすることを約束しましょう!」
同盟を結ぶもよし、首級をあげるのを狙うもよし。
だが、どんな選択肢を取ろうとも負けるなどとは欠片も思っていない。
この男が、クリム・ニックであるがゆえに。
-
【商業区域・スタジオ"ル・リエー"/一日目 午前】
【パチュリー・ノーレッジ@東方Project】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大学生としては余裕あり
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に関わり、神秘を探る。
0.舞台袖の男(クリム)に対処する。
1.さっさと大学へ行きたい。
2.ランサーのマスター、あるいは他の参加者を探り出す。
[備考]
※ ランサー(セーラーサターン)の宝具『沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)』の名を知りました。
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
【セイバー(同田貫正国)@刀剣乱舞】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]日本刀
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:敵を斬る。ただそれだけ。
1.敵を見つけたら斬る。
2.面倒な考え事は全てマスターに任せる。
[備考]
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
【クリム・ニック@ガンダム Gのレコンキスタ】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]クレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:天才的直感に従って行動する
1.マスターと疑わしき少女(パチュリー)に対処する。
2.同盟相手を探す
3.あやめとやら、見つければアサシン主従の貸しにできるな
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
【ランサー(リュドミラ=ルリエ)@魔弾の王と戦姫】
[状態]健康
[精神]若干の精神ダメージと苛立ち
[装備]氷槍ラヴィアス
[道具]紅茶
[所持金]マスターに払わせるから問題ないわ
[思考・状況]
基本行動方針:誇りを取り戻す
1.クリムの指示に従う
2.四日目の未明にアサシン主従を倒す
3.それまではマスターの行動に付き合う
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※アサシンの宝具『境界を操る程度の能力』を確認しました。
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※ ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
-
以上で投下を終了します。
また誤字を発見したのでwiki収録時に以下のとおり差し替えます。
>>956
ここ、アーカムにおいて
⇒ここ、アーカムにおいて自分が異邦人であることを強く認識させられる。
-
乙
パッチェさんがアイドルに……?!
ありだと思います(断言)
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投下乙です!
パチェさん大学に向かうのかと思ってたらまさかの展開にw
天才の役者ロールはハマリ役だなあ。彼は幻想郷の住人と何かの縁があるのだろうか。
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投下乙です。アイドルクリムさん!そういうのもあるのか!
本の虫で体力がないアイドル……ふみふみかな?同じアイドルの蘭子との関係も気になってくる……というかまさに全員反応したカルナのマスターなんですがね!
-
投下乙です
まさかの勧誘、まさかのロールwこれは蘭子ちゃんとの絡みに期待ですな。
あとスカー以外の鯖の記憶も混濁してる?という重大なお話も。
一点気になったのは、リュ"ミド"ラではなくリュ"ドミ"ラが正ですね
-
ttp://free.5pb.org/p/s/160329231545.png
アイドルになろうよパッチェさん!
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下記を予約します
・白レン&キャスター
・シルバーカラス&キャスター
・亜門鋼太朗&ランサー
・空目恭一&アサシン
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>>966
投下乙です!
天才クリムの役者ロールに笑いました。さすが存在が芝居がかっている男は違う。
パッチェさんはアイドルとは無縁そうですが、これで大学方面と引き離されたのが吉と出るか凶と出るか。
それにしてもカルナさんの影響力はすごい。やはりアーカム最強の一角は伊達ではないですね。
さりげないところですが、スタジオの名前が太平洋の深海に沈んでいそうな感じなのが芸コマだと思いました。
忙しい時期を乗り切れそうなので、自分も予約しようと思います。
ひとまずプレシア&セーラーサターン、マスク&スカー、ネクロ&仮面ライダーシンで。
-
投下します
-
白銀の世界。真夏の雪原。
白レンの世界であり、唯一存在を許される場所だ。
人の闇を具現化するその世界は知的生命体にとって悪夢に他ならない。
ある時は殺人鬼、ある時は魔獣、ある時は魔導士の暗黒面(ドッペルゲンガー)。
シルバーカラスとの戦いを終えた後もその白銀の世界は悪夢を生み出し続ける。そして今悪夢を生み出している白レンは────
「今日はマサチューセッツ州の人間から新鮮なアサリを使ったクラムチャウダーが取れたわ」
炬燵に足をいれ、両手を合わせてご飯を食べていた。
炬燵の上には白いスープと茹でたロブスターが積まれており、反対側にキャスター……ドッペルアルルが座っている。
クラムチャウダーはアメリカ東海岸のニューイングランド、つまりマサチューセッツ州発祥の料理であり、牛乳をベースとした白いクリームスープである。
アサリとタマネギ、ジャガイモを細かく刻んでバターで炒めた後、小麦粉と牛乳を入れてクリーム状になったら上からパセリを載せるものがオーソドックスであるが、夢の主はこれにニンジンとキャベツを加えたアレンジを行っている。
「カニではないけど新鮮なロブスターが取れたのも幸運だったわ。流石にここならあのブサイクネコに喰われないし!」
ロブスターは日本の食卓には馴染みの薄い食材であるが、日本でいうところのカニに近い。触感もカニに近いらしく茹でたロブスターをバターにつけて食べたり、レモン汁に付けて食べるという。
他にも炬燵の上にはタラやマグロの刺身、アサリをふんだんに使ったパスタなどが並んでいる。
いっただきまーすと挨拶をして食器を持った白レンにキャスターは至極当然の疑問を口にした。
「キミ、本当に猫なの?」
「猫よ。厳密には違うけど」
「猫がタマネギとか海鮮類食べて大丈夫なの?」
「あのブサイクネコは食べてたし大丈夫でしょ」
そういって白レンはクラムチャウダーを手に付け始めた。
作り立てなのか温かく、木製のスプーンで一口、二口と口へ運んでいく。
ドッペルゲンガーアルルもぱく、ぱく、ぱくとロブスターを口にしていく。
「カレーの夢は無いの?」
「カレーライスの悪夢ってどんな夢よ」
「それを言ったらこの食卓そのものがアウトじゃない?」
「失礼ね。漁に不安を持つ漁師はたくさんいるのよ。漁業の神様なんてものまで作られるくらいにね。このあたりにも確か古い神様を信仰している漁村があるらしいわ」
「カレーの神様はいないのかい?」
「そんなもの聞いた事無いわよ。いたとしても信仰しているのはせいぜいあのシスターくらいよ」
「あのシスター?」
「何でもないわ、こっちの話よ。それよりどうしましょう?」
「ボクはホタテとタラをいただくよ」
「違うわよ! 聖杯戦争の話よ!!」
先ほどマスターの一人と戦闘し、今は魔力と体力を回復するために休息を取っている。
これからどうするべきか。他に協調性がありそうな走狗(マスター)を探すべきなのだが、生憎とそんなに簡単には見つかりそうも無い。
いや、それよりも急を要する事案がもう一つ。
「タタリの真似事をしている奴がいるわね」
「マスターより強力じゃない? 昼間に出てくるし、サーヴァント並に強い奴もいるし」
「失礼ね! あれは強力じゃなくて見境が無いっていうのよ!
あんな何でも作るようなはしたないのなんて格下よ!」
誰かが悪性情報を具現化している。おそらく力の大きさからしてサーヴァント。そのせいで真夏の雪原にも影響が出ていて「現実化するほど明確な悪夢を呼び起こす」レンの能力が発揮できないでいる。
猫は自分のテリトリーを荒らされるのは気に入らない。荒らす者を許さない。
「誰だか知らないがこの迷惑料は高くつくわよ」
クラムチャウダーのアサリを飲み込んでレンはまだ見ぬ誰かに呟いた。
【???/1日目 午前】
【白レン@MELTY BLOOD】
[状態]まあまあ
[精神]すっきり
[令呪]残りみっつ
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:
1.回復したらどうしようかしら
[備考]
※固有結界は、魔力があるなら勝手に出入りできるみたい。マスターだけ閉じ込めるのは難しいかも。
※シルバーカラス及びそのキャスターと宝具『反魂蝶』を目撃しました。
※アーカム全域を覆うタタリの存在に気付きました。
【キャスター(ドッペルゲンガーアルル)@ポケットぷよぷよ〜ん】
[状態]ばっちり
[精神]かれー食べたい
[装備]装甲魔導スーツ
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
[備考]
※シルバーカラス及びそのキャスターと宝具『反魂蝶』を目撃しました。
-
* * *
白い少女とやり合った彼、シルバーカラスはスシ屋に入った。
「Hey ラッシャイ!!」
黒人のイタマエが来店したシルバーカラス=サンに声を掛ける。勿論、日本語でだ。
キャスターの花見の場所取りと、白い少女の追撃を防ぐために寂れたイーストダウンからダウンタウンに入ったシルバーカラス=サンは魔力の補充と少々の休息のためにスシ・バーに入った。
無人スシ・バーでも回転スシ・バーでもない。
(もしやオーガニック・スシか? そんなに金持ってねぇぞ)
オーガニック・スシ。魚の切身をネタにしたスシだ。
シルバーカラス=サンのいたネオサイタマでは高級品である。庶民は粉末状になった魚をネタにしたスシを食う。
(おいおい、イクラ・キャビアが200円とかあり得ないだろ。ここはぼったくりバーか?)
そう思って席を立とうとした瞬間、声をかけられた。
「隣よろしいですか?」
振り向くとそこには東洋系の顔をしたマッポがいた。
* * *
タタリを倒した後、亜門鋼太朗はロウワー・サウスサイドでもう一つの惨状を目のあたりにした。
砕かれたコンクリートの破片。散らばる肉片。溜まった血。瓦礫の下から聞こえる呻き声。
サーヴァント同士の戦闘があったのは明らかだ。
「ふざけるな」
亜門は激怒する。
この惨状を生み出したことに対してではない。この惨状を放置したことだ。
戦闘が終わって既に数十分は経っただろうこの場所にレスキューも呼ばず、怪我人を捨てて去ったのだ。
確かにそれが戦いのセオリーとして正しいと理解はできるものの人として間違っている。
携帯電話を取り出し乱暴に911のボタンを押した。
▼ ▼ ▼
レスキュー活動が終わり、第一発見者としてダウンタウンの行政区に証拠資料を提出した後、署を出た時には既に午前の終わりが近付いていた。
(少し早いが食べるか)
早朝より戦闘を行った体はたんぱく質を求めていた。ならば、ハンバーガーショップやホットドッグを食べるのが良いのだろうが、今は日本食が食べたい。
もしかしたら知っている敵と戦って日本が恋しくなったのかもしれないなと半ば自嘲しながら適当に歩き回ると寿司屋が目に入った。
「マスター! 是非スシが食べてみたい」
「興味があるのか?」
「ああ。生きている時は調和された肉体を保つために食事が制限しててね。スシを食べる機会には恵まれなかったんだ」
「そうか。しかし幽霊に味覚はあるのか?」
「実体化していればね。もしかすると私が実体化して魔力消費が多くなるのは困るか」
「いや、それより他のサーヴァントに見つかる可能性がある方が問題だ」
「あーなるほど確かに…………駄目かな?」
ランサーが上目使いで指をもじもじする。
これで鎧と武器が無ければ端から見てマネージャーにねだるアイドルに見えただろう。
ふーと息を吐く。フェミニストでは無いが、これだけ頼んでいる女性を拒否するのは亜門にはできない。
「店の外から見てサーヴァントの気配が無ければ実体化していい。一応、俺も目で確認しよう」
「了解!」
破顔するところから察するに本当に寿司が食べたいんだなと亜門はランサーの以外な一面を確認して寿司屋の暖簾を潜る。
店内の客人はやはり欧米人が多い。
東京に住んでいたため寿司屋に外国人というのは見慣れているが日本人と外国人の比率が見事に逆転している。
(とりあえず空いているカウンター席に座るか)
二人しかいないのにボックス席を使うのはしのびない。丁度壁際が隣あって空いている席を発見した。
「隣よろしいですか?」
隣にいた中年男性に許可を取る。
「…………」
しまった。つい日本語で話しかけてしまった。
相手が日本人とは限らないのだ。亜門も日系アメリカ人として通っている以上、相手も同様の可能性を考慮すべきだった。
反省して英語で言い直そうとすると……
「ドーゾ、お構い無く」
流暢な日本語が返ってきた。
日本語が通じてよかったと安堵していると、暖簾を潜ってきたランサーの姿が見えた。
「ランサー、こっちだ」
そう呼ぶと隣の男性がブッと茶を吹き出した。
-
* * *
シルバーカラス=サンは飲んでいた水を吹き出す。
まさかのアンブッシュだ。まさか他のマスターとサーヴァントが同じスシ・バーに現れるなど予想できようか。
ランサーと呼ばれた妙齢の女性がこちらへ向かってくる。
(まずい、バレたか)
流石に今のはイディオット。
向かってくるサーヴァントはそのまま、シルバーカラス=サンの前に立ち
「大丈夫ですか?」
心配の声をかける。誰に? 勿論、シルバーカラス=サンにだ。
右手を上げて制止と大丈夫というジェスチャーをするとそうですかと言って座る。
念話でキャスターに連絡する。
(おいキャスター)
(なぁにマスター)
(今どこだ?)
(あなたの自宅だけどどうしたの?)
(スシ・バーにはいったら隣にサーヴァントが来た)
(寿司、いいわねぇ)
(イディオットかてめぇは。そこは重要じゃねぇ、サーヴァントの方だ)
(マスターだってバレてないんでしょ?)
(バレる要素はあるか?)
(無いわ、多分)
(そうか、じゃあ一旦切るぞ)
(お土産にお寿司を買ってきて頂戴)
(ボッタクリ・スシ・バーで買うわけねぇだろ)
(私が行ってもいい?)
(来るな)
(来るなと言われると余計行きたくなるわ)
(令呪を使ってやろうか)
(ふふ、冗談よ)
念話を切る。
隣ではマグロ、ガリ、ロブスターのオーガニック・スシを食う音が聴こえる。
(今の内にズラかるか)
三十六計逃げるにしかずと古事記にもそう書かれている。
アンブッシュでマスターを殺るというのも手だが、このマッポは全く隙が見当たらない。
(いや、待てよ。何も食わずに出るとそれこそ不自然か?)
スシ・バーに入ればスシを食うのがルールである。
幸い、横のマスターはマッポだ。ボッタクリ・スシ・バーでもマッポは相手にしたくないだろう。
「タイショー、マグロ一つ」
「ヨロコンデー」
そう言って一分後くらいにやってきたのは赤いルビーの如き切身を乗せたオーガニック・スシ・マグロだった。
それを口に運ぶ。ウマイ。ニンジャ味覚が本物のマグロだと言っている。
一皿、二皿と食していき、三皿目を空にするところでランサーのマスターとは逆の隣の席に青年が座った。
顔は日系。上から下まで黒く、独特の神秘アトモスフィアを纏っている。
「マグロ一つ」
ヨロコンデーというイタマエの声がして一分くらい後にスシが青年の前に置かれた。
-
* * *
────話は約数分前に戻る。
空目恭一とアサシンは戦闘後そのままノースサイドを一通り歩き回り、隣のダウンタウンで休息と軽めの朝食を取るためにカフェに入った。
カフェでコーヒーを飲んでいる空目にアサシンが念話で話かける。
(マスター。右斜め前方にいるアレ。そう、鎧来ている彼女。サーヴァントですわ)
見てみると背中に大きなバイオリンを背負った女が寿司屋の中を覗いていた。何を睨んでいるのか、もしや他のマスターが寿司屋にいるのだろうか。
(どうする?)
(どうするも何も無い。放置だ)
(いいの? あの中にあやめちゃんがいてサーヴァントが狙っているかもしれないのに?)
確かに可能性はある。あやめは『異界』の存在だ。サーヴァントと間違われて襲われる可能性もあるだろう。
しかし、あやめが一人で寿司屋に向かうヴィジョンが浮かばない。しかし可能性はゼロではない。
「行くか」
可能性がある以上、席を立つ。
暖簾を潜るとイラッシャイマセーというカタコトの日本語が空目を迎えた。
ざっと見渡してみればカウンター席に何人かの欧米人に紛れて日系人の男二人とその奥に先程のサーヴァントが座っていた。
とりあえずあやめはいないようだ。サーヴァントの3つ隣のカウンター席に腰掛けマグロ一つと注文する。
寿司が来る間にアサシンとの念話を開始する。
(どうやらあやめはいないらしいな)
(で、どうしますマスター。あれの隣にいるのマスターらしいですわよ)
(戦う必要は無い)
(いえいえ、そうではなくて警官ということはあやめちゃんが保護されている可能性があるのでは?)
(無論、その可能性もある。しかし、あやめのような人間とも英霊(オマエタチ)とも異なる存在の関係者という時点でマスターであると言っているようなものだ)
(同盟を結ぶというのは?)
(……相手に依るだろう。この蠱毒で積極的に相手を殺そうという相手には通じん)
(一応、警官みたいですわよ?)
(経験上、権力のある機関に人格を求めるのは間違いだと知っている)
(それでは現状は放置かしら)
(一応の接触は試みる。だが、決裂したらお前の宝具でサポートしろ)
(了解ですわ、魔王閣下)
念話を切って茶を啜る。
聞き耳を立ててサーヴァントとそのマスターの会話を盗み聞きすることにした。
-
* * *
「美味い。美味いぞマスター!」
「日本の食べ物を喜んでもらったなら何よりだ」
「ああ、日本にいたことはあったんだが。スシを食う機会に恵まれなくてね。ネコ缶やら廃棄するハンバーガーばかりさ」
流石に最後のは冗談だろうと思って流しつつ、亜門もエビを注文する。
(そういえば日本食も久しぶりだな)
このアーカムは北米らしい。そのためいつもホットドッグやハンバーガー、フランクフルトなどを食べていたから久しぶりの寿司は楽しみだ。
もしかしたらランサーじゃなくて自分が来たかったのかもしれないな
そう思いながら茶を入れ、醤油を垂らし、箸を割って握られたエビの寿司を口へと運ぶ。
「かッ────!!」
そして亜門は思い知る。
自分の慢心を、こんな寿司屋で何も起きないだろうとタカを括っていた自分の油断を。
(なんッ……だ……これッ……は……)
いや亜門は知っている。
与えられた衝撃で体中の体液が頭部へと凝集し、遂には体制御を振り切って涙腺から溢れ出し、苦悶が苦痛へと変容する。
聖杯戦争の知識として与えられ無かった亜門を追い詰める最悪の天敵。
「マスター?」
ランサーがマスターの様子に気づくがもう遅い。
彼は食らってしまったのだ
『ワサビ』を!!
亜門は忘れていた。寿司にはワサビが塗られることを!
亜門は知らなかった。アメリカではワサビが人気でこの店では大量にワサビが塗られることを。
日本食というホームグラウンドにいた慢心がもたらした緑色の辛味は甘党の亜門の味覚を破壊する。
「──────!」
発作的にガバッと茶を飲み、今度は茶の熱さに悶絶する。
淹れたて熱々の茶は舌を、というか口を蹂躙し喰種ではない人間の亜門はこれに耐えられない。
「グッ!!!」
コントの如き滑稽な状況だが、本人に取っては大真面目だ。火傷と辛味に耐えて、絞り出すような声で寿司を握っている職人に告げる。
「大将……」
「ワッツアップ?」
「水を…………ください」
「ヘイ、おまち」
今度は差し出された水を一気に飲んだ。
-
* * *
シルバーカラス=サンはイクサの気配が無いと分かると席を立った。
隣でワサビショックしているマスターとそのサーヴァントは特に害は無い。ワサビショックしている今ならアンブッシュの一撃で殺せるだろうが、そんなことよりタバコだ。
────というのはタテマエだ。問題はその逆。
シルバーカラスの危険信号はランサーのマスターと反対側に座った少年に向けられていた。ニンジャ第六感が逃げろと言っている。
この場で最強の存在は間違いなく右2つ隣に座ってオーガニック・スシを食っているランサーだ。それは間違いない。
なのに何故、モータルにしか見えない少年にニンジャ第六感がアラートを鳴らすのか。
理屈は不明。理解は不可能。しかし、シルバーカラスとしてはこの第六感を信じる。
「全部で6$ドスエ」
「ハイヨ」
「アリガトウゴザイマシタ」
雨が降り出しそうな曇天。キャスターへの土産のオーガニック・スシ・パックを持ってアパートへ向かった。
【ダウンタウン・スシ・バー/1日目 午前】
【シルバーカラス@ニンジャスレイヤー】
[状態]平常
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]「ウバステ」
[道具]スシ
[所持金]余裕はある
[思考・状況]
基本行動方針:イクサの中で生き、イクサの中で死ぬ。
1.陣地構築のため、候補となる地点へ向かう。
※亜門鋼太朗とそのサーヴァント(リーズバイフェ)を視認しました。名前や正確な情報は持っていません。
※空目恭一を見ました。空目恭一に警戒を抱いています
* * *
西行寺幽々子はマスターの指示通りイーストタウンのアパートで待機していた。
「今日は多いわねぇ」
死霊が増えていた。それも十や二十ではきかない。凡そ3桁に近い数の死者が街全体から出ている。
この時、西行寺幽々子は知りもしないが『固有結界タタリ』によって各地で大なり小なりのタタリが登場していたのである。
無論、他のマスターが撃滅したことで被害を防げた例もあるが、それでも倒されなかったタタリによって犠牲者は出続けていた。
NPC達はこの聖杯戦争に用意された駒であるが、同時に本物の人間である。
死ねば死霊が生まれるし、無念を宿せば怨霊となる。
「南東ね」
幽霊であり冥界の統率者である彼女はそういったものがどこから溢れているか理解できる。つまりどこで大量の死者が出たかが分かるということだ。
無論、死者というものは生者がいる限り産み出されるものであるし、不幸な事故ということもあるだろう。しかし、怨霊が明らかに局所に偏っていればそれは他殺であり同時にそこで殺戮が起きたと言ってもいいだろう。
『西行妖』は血を啜ることで条理から外れた妖怪桜である。故に魂や魔力を養分として開花するため生やすならば数多の死者が出た場所が良い。
もしも、そこでサーヴァント同士の戦いがあったならば当然、飽和した魔力が漂っているはずだ。なお条件として優れている。
マスターの帰ってきたら南東────すなわちロウワー・サウスサイドへ行ってみよう。
この時、もしも西行寺幽々子がもっと死霊達を細かく見ていれば不自然な死霊が混ざっていることに気付いただろう。
〝異界〟の出身にして死者である彼女を。
【イーストタウン/1日目 午前】
【キャスター(西行寺幽々子)@東方Project】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]扇
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーカラスに付き合う。
1.妖怪桜を植える場所の候補にロウワー・サウスサイドを挙げる。
[備考]
※各地に使い魔の死霊を放っています。
-
* * *
隣の男性がいなくなった席に一人の少年が座った。
無論、食事の後はまだ残っているし片付けなどされていない。
礼儀にうるさい日本人として、ましてや今は警官である亜門はこの若者に何か言ってやらねばなるまいと口を開きかけた時────
「黒髪で赤い燕尾服を着た少女を見なかったか?」
少年が先に口を開いた。そして亜門は眉をひそめ、怪訝な眼差しを少年に向ける。
前置きも無く質問する少年の口調、そして態度は図々しさを通り越して相手の状態に対する無関心と言っていい。
だが、それ以上に異常なのは質問の内容だ。この北米のアーカムで黒髪に燕尾服の少女のNPCなどそうそう出てくるわけも無い。
日本のアイドルグループがいるらしいが、彼らとて日本の伝統衣装で出歩いているという話は聞かない。
ならば、この質問が意味するところはつまり────いや、待て。まだ決まったわけじゃない。
必死に慣れない作り笑顔を浮かべ、少年に返答をする。
「知らないな。その子はお友達かな? 一体どうしたんだ?」
「ここ数日ほど行方がわからん。アーカムにいることは確実だから警察に保護されているかと思ってな」
「すまないがそんな特徴の少女を保護したとは聞いていない」
事実だった。亜門はこの聖杯戦争で魂喰いをする者を倒すと決めた時に手配犯や聖杯戦争に関わると思しき事件の関係者を洗ったが黒髪で燕尾服の少女などいなかった。
「そうか、見つけたらこの番号に連絡をくれ」
そう言って電話番号を渡すと少年は全く興味を無くしたというように席に戻った。
そして亜門はいつの間にか自分の右手がクインケの入ったトランクを掴んでいることに気付いた。
* * *
席に戻ると未だに怪しむ警官の視線を無視して食事を再開する主へ八雲紫は念話で囁いた。
(魔王閣下は豪胆ですわ)
(何がだ?)
(彼女。いつでも飛び出せるように臨戦状態でしたよ)
(そうか)
(マスターの方も何か持ってますわ。武器かしら?)
(興味ない)
今、銃口よりも危険な物が自分に向けられていたと告げられていてもあるのは無関心。その様子に八雲紫は苦笑する。
言うまでも無いが空目恭一は撃たれれば死ぬし、飯を食わなければ餓死する。それどころか女と力比べで負けるほど華奢だ。
そして空目はそんな自分の脆弱さは理解している。大丈夫。何とかなる、などと都合の良い妄想や危機感の麻痺に陥ってなどいない。
つまり空目恭一という男は自身の生死すら無関心なのだ。死んだ? ああ、死ぬべくして死んだのだろうな。そう割り切って生きられる異常者。
改めて述べるが諦観や妄想の類で精神状態を維持しているのではない。強いていえば達観、或いは狂気だろう。幼い頃に〝異界〟という世界の裏側を知ってしまった彼は心をあちら側に置き去りにしてしまっている世界不適合者である。
そして実質、〝異界〟側の人間である彼はこちら側の事に興味を抱けない。ましてや他人の心情等に気づくはずも無い。
彼の周りにいた人間はさぞかし苦労させられたでしょうねとここにいない彼の仲間に同情の念を送る。
(あやめが警察に保護されていないことはわかった)
(それじゃあもうお開き?)
(そうだな、一度睡眠が必要だ)
生まれた時から妖怪であった八雲紫には分からないことだが、未明の時刻から今まで歩き通したマスターの体は休息を要求しているのだろう。
わかりましたわと呟いて念話を終了した。
そして空目は最後に皿に残っていたイクラを食べて勘定を払いに席を立った。
-
* * *
一体先程の少年は何だったのか。
ランサーことリーズバイフェ・ストリンドヴァリはあの少年に対し確かに危機感を感じた。これが聖杯戦争だから、怪しい人物だから警戒したと済ませてしまえば単純だがリーズバイフェの勘は否と断じた。
あの華奢な四肢から推察するに身体的な戦闘能力は極めて皆無。機械の戦闘義肢でないことは足音や動きから確認できた。
ならば魔術師かと言うとそれも否。魔力は感じず魔術・概念礼装らしきものは見当たらない。
血の匂いなどしないし何より敵意も殺意も無い。本当に聞きたいから聞いたという事務的な口調だった。
しかし、しかし、しかしだ。
何か無視出来ない違和感を感じたのは間違いない。
起源覚醒者、ただの魔眼保有者、或いは魔術を全く知らぬ異端者を相手にしているような感覚でありながら、そのどれとも違う。
リーズバイフェは職業柄膨大な数の異端と神秘、奇蹟を扱ってきた。だからこそ、この少年の〝知識では拭えぬ何か〟を見過ごすことが出来ない。
つまりあの少年は〝計り知れない〟のだ。現実に存在しながら現実に当て嵌める枠組みが存在しない者。
だからこそリーズバイフェは臨戦体勢に入っていた。視線も表情も変えず、だがいつでも飛び出せるように。
しかし結果は何も起きらず肩透かしを食らった気分である。
(私の勘も鈍ったかな…………)
そう思って最後のマグロを注文した。これで十四皿目だった。
【ダウンタウン・寿司屋/1日目 午前】
【亜門鋼太朗@東京喰種】
[状態]正常
[精神]落ち着いてきた
[令呪]残り3画
[装備]クラ(ウォッチャーによる神秘付与)
[道具]
警察バッチ、拳銃、事件の調査資料、警察の無線、ロザリオ
[所持金]500$とクレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:アーカム市民を守る
1.他のマスターとの把握
2.魂喰いしている主従の討伐
3.白髪の喰屍鬼の調査
[備考]
※調査資料1.ギャングの事務所襲撃事件に関する情報
※調査資料2.バネ足ジョップリンと名乗る人物による電波ジャック、および新聞記事の改竄事件に関する情報。
※神秘による発狂ルールを理解しました。
※魔術師ではないため近距離での念話しかできません。
※警察無線で事件が起きた場合、ある程度の情報をその場で得られます
※シルバーカラス、空目恭一を目撃しましたがマスターだと断定はしていません。
※空目恭一の電話番号とあやめに対する情報を得ました。あやめを保護した場合、彼に連絡します。
【ランサー(リーズバイフェ・ストリンドヴァリ)@MELTY BLOOD Actress Again】
[状態]健康
[精神]寿司うめぇ
[装備]正式外典「ガマリエル」
[道具]なし
[所持金]無一文
[思考・状況]
基本行動方針:マスターと同様
1.タタリを討伐する
2.キーパーの正体を探る
[備考]
※女性です。女性なんです。
※秘匿者のスキルによりMELTY BLOOD Actress Againの記憶が虫食い状態になっています(OPより)
※『固有結界タタリ』を認識しましたがサーヴァントに確信を持てません。
※空目恭一に警戒を抱いています
-
【空目恭一@Missing】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]学生レベル
[思考・状況]
基本行動方針:あやめを探す
1.ノースサイドでも探す
[備考]
※邪神聖杯戦争の発狂ルールを理解しました
※既に人ではない彼はSANチェックに対して非常に有利な補正を得る。
あるいは、微細な異常ならばSANチェックを無視できる。(ただし、全てのSANチェックを無視する事はできない)
※ランサー(セーラーサターン)とその宝具『沈黙の鎌』を確認しました。
※セイバー(同田貫)とそのマスターを確認しました。
※ランサー(リュドミラ=ルリエ)とそのマスターを確認しました
※クリム・ニックとの間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※亜門鋼太朗とそのサーヴァントを目視しました。
【アサシン(八雲紫)@東方シリーズ】
[状態]健康
[精神]健康
[装備]番傘、扇子
[道具]牛王符(使用済)
[所持金]スキマには旧紙幣も漂っていますわ。
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.マスターの支援
[備考]
※ランサー(セーラーサターン)とその宝具『沈黙の鎌』を確認しました。
※セイバー(同田貫)とそのマスターを確認しました。
※ランサー(リュドミラ=ルリエ)とそのマスターを確認しました
※クリム・ニックとの間に休戦協定が結ばれています。
四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※亜門鋼太朗とそのサーヴァントを目視しました。
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投下終了です。
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投下乙でした。スシ食ってる場合じゃねえ!
3人共肝が据わってるだけあって戦闘にはならず僅かな接触のみだったか。一番異常扱いされる恭一の存在感よ
あと、カニはやめとけよ?
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投下乙です!
白レンの鍋ならぬクラムチャウダータイム。
あの化け猫は(多分、きっと、おそらく)アーカムにいないだろうし安心して食べるといい
一方、スシ・バーでの邂逅で
ニンジャソウルや歴戦の聖堂教会の騎士から見ても異常とみなされる魔王閣下。
戦闘能力は一切ないのにもしかして一番恐ろしいマスターなのでは……
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乙
クラムチャウダー食いたくなってきた
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投下乙です
バレ警戒してたのに「ランサー」って呼び掛ける亜門さん、ウカツ!
ワサビって見た目にもどこか冒涜的な何かっぽさあったりしますよね
陛下はゆゆ様と接触できたらあやめちゃん探しに一手かけられたかもなのか、惜しかったな
そういや燕尾服と聞いて思わず男装少女なあやめちゃんを想像しちゃいました(無知なだけならすみません)
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あ、そもそもマスターにはステ透視能力があるから実体化の時点でどのみちバレるのか
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ウカツ!
あやめの服装は燕尾服じゃなくて臙脂のケープである。
「えん」しか合ってない
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投下乙です!
マサチューセッツ名物クラムチャウダーは何処かで出したかっただけにニッコリ。
オーガニックな寿司に驚くカギ=サンとか、食事シーンはキャラクターをいろんな角度から掘り下げられていいですね。
魔王陛下はほんとに精神が異質なんですよね……実際このマスター三人でSAN値判定に耐性があるのは多分空目ですし。
一連のアーカム喰種に纏わるイベントで相当数が死んでいることが匂わされたりと不穏な空気も見えて、わくわくします。
私の方の予約ですが、期限内の投下が出来なかったので一組増やして再予約します。
マスク&アサシン、ネクロ&バーサーカー、プレシア&ランサー、鷺沢さん&アーチャーで、出来れば今週末には投下できるよう頑張ります。
-
残りレス数がぎりぎりですが、予約分投下します。
-
『――昔と少しも変わらぬ伝説に取り憑かれた都市、アーカム。歪み、傾いだ腰折れ屋根が連なる街。
旧き闇黒の植民地時代には、その狭い屋根裏に英国王の官吏の目を逃れた魔女共が隠れ潜んでいたという――』
―― H.P.ラヴクラフト「魔女の家の夢」より
▼ ▼ ▼
ダウンタウンの警察署へとまっすぐ向かうはずの車が急にスピードを落としたので、後部座席のDr.ネクロは、おや、と顔を上げた。
アーカムという街が目を覚まし切らない早朝に、ロウアー・サウスサイドのスラム街を中心として発生した災厄。
『白髪の食屍鬼(グール)』という都市伝説を媒介とした「なにか」による犠牲者は、静かに、しかし着実に増え続けている。
現れた食屍鬼――正確にはそれを模した『タタリ』――を撃退することでこの異変に関わったネクロは、これから協力者と共に警察署へ向かうはずだった。
ネクロ本人としては不本意ながら、非常に不本意ながら、事件の重要参考人として連行されるという形で、だが。
「どうした、マスク君。ようやく私に対して正しい扱いをする気になったかな」
これ見よがしに掛けられっぱなしの手錠をガチャつかせ、運転席に座る青年を見やると、彼は手元の端末を神妙な顔で見つめていた。
いや、神妙な顔なのかも、本当に見つめているのかも、厳密に言えばネクロには分からない。
というのも、彼の目元は奇妙な仮面――蝶の両翅のように左右に広がった、四つ目の意匠を持つ視覚補助デバイス――によって覆われているからだ。
コードネームは『マスク』。
ネクロに言わせれば安直でひねりのない名を名乗る彼は、ここアーカムにおいてはFBI捜査官のロールを宛てがわれていた。
ひょんなことから協力関係になった二人だが、この数時間で、ネクロからマスクへの印象は概ね「めんどくさいヤツ」で固まりつつある。
もっとも、マスクもマスクでネクロに対しては似たような認識でいるかもしれないが。
「ん? どうしたんだ、手錠の鍵なら君の右胸のポケットだぞ」
「……ロウアー・サウスサイドの一件はしばらく市警の諸君に任せて、後回しにすべきかもしれんな」
「おーい、人の話を聞かない奴だな君は」
「話したいことしか話さん奴が言うことかよ。見ろ、ミスカトニック大のキャンパス内で学生の首吊りがあった」
マスクが差し出した携帯端末の画面を、後部座席から身を乗り出して覗き込む。
このスマートフォンとかいう端末は、馴染み深い1950年代――ネクロが本来暮らしているはずの時代――には存在しなかったものだ。
だからというわけでもないのだが、ネクロはこの最新鋭の情報機器ではなく、ロウアーの闇市場で転売されていた旧式の携帯を使っている。
辛うじて電話帳機能が付いているだけのオンボロだが、電話するだけなら不自由しないし、万が一番号を押さえられても足が着かないからだ。
とはいえ、使い方に詳しくないだけでスマートフォンの機能自体は十分理解している。単に使う気にならないだけだった。
画面に表示されているのは、アーカム・アドヴァタイザー紙のオンライン記事だ。
運転中のマスクが気付いたところを見るに、号外記事が載ると通知が来る仕組みになっているのだろうか。
アドヴァタイザーは競合紙のアーカム・ガゼットよりも攻撃的な話題を好む傾向にある新聞社だが、タブロイドめいたいい加減な記事を刷ったりはしない。
見出しに躍る"Miskatonic University Death"の文字列は随分と刺激的ではあるが、信憑性はそれなりに確かだと判断して読み進める。
そして。
最後まで目を通したところで、Dr.ネクロの、まだ幼い少女のものにしか見えないその整った眉が、僅かに動いた。
しかし声色を変えたりはせず、ネクロはなんてこともないように軽く返事をした。
「……これがどうした。こんな陰気くさい街じゃ、学生だって自殺したくもなるさ」
「陰気くさいのは同意の至りだが、それだけで足場のない木にぶら下がれるほど器用に死ねるものか?」
「おいおいマスク、まるで首吊りじゃなくて首縊りだって口振りだな。自殺と他殺じゃ大違いだぞ」
「大違いだからこそ、こうして車を止めて話している。サウスサイドの魔女には察してもらえるものと信じるが?」
-
ネクロはおどけた口調を引っ込めて、すっとその双眸を細めた。
たったそれだけで彼女の両目に宿る光は、飄々とした少女のものから、人の道に外れたる者――魔術師に特有の仄暗いそれへと変化した。
Dr.ネクロはロウアー・サウスサイドの闇医者だが、同時に百年を超える年月を生きた闇の住人でもある。
マスクが何をもって自分を試しているのかも理解しているし、それに対する答えも当然のように用意している。
「……1704年、グーディ・ファウラー。セイラム魔女裁判の影に怯えたアーカム市民によって弾劾され、木に吊るされる。
彼女が本物の魔女だったかはさて置くとして、アーカムの裏に流れる影の歴史を知る者にとっては、首縊りは魔女狩りの隠喩だ」
「流石に詳しいな。侮った非礼は詫びねばならないか」
特に詫びているふうではないマスクの口調に腹を立てるでもなく、ネクロは「分かればいい」と鼻を鳴らした。
「だが随分と大胆な挑発だな。魔女狩り……今のアーカムで魔女狩りをやろうとは」
「狙いは聖杯戦争のマスターと見て間違いないな」
「その吊るされた学生が、実際にマスターの一人かは知らんがね。だが宣戦布告には違いあるまいさ」
ここまで大胆な行動をよくぞやったものだと感心したものか、それとも呆れたものか。
その両方だろうなとDr.ネクロは率直な評価を下した。
架空都市アーカムの中心たるミスカトニック大学の構内で起こったセンセーショナルな事件。
このニュースがアーカム全市を駆け巡るまでにほとんど時間はかからなかっただろう。
アーカムの暗部に関する知識を持つマスターならば魔女狩りのメッセージを読み取れるし、そうでなくても異常事件はそれだけで注意を惹きつける。
結果、多かれ少なかれ、聖杯戦争に関わる者達の目は首縊りの主犯者へと向けられることになるだろう。
「下手をすれば全てのサーヴァントを敵に回しかねないというのに、よくやるものだ」
「君は知らないだろうが、魔術師なんて連中は大概どこかしらネジが飛んでるものさ」
「それは自分自身も含めての評価と聞こえるなあ、ドクター?」
「さぁてね。だが本物の馬鹿でないとするなら、現実的に追求を捌き切る手段があるのかもしれん。
それほどまでに強力なサーヴァントを従えているか、あるいは自分自身の実力に相当な自信があるか。
もしくは、もともと不特定多数のマスターを引き寄せるのが目的で、あえて混戦を招こうとしているのかもな」
いずれにせよ、相応のリスクを伴うのは間違いない。
それをも織り込み済みの挑発行為ならば、なるほど犯人は大したタマだ。
サウスサイドの大破壊の黒幕を追うのも大事だが、新たな動きがあるまでは現状以上の情報を得るのは難しいだろう。
だからこそ、こちらの事件を先に調査する価値はある。それは確かに理解できた。
「だがマスク。大学の件はそれこそ市警の諸君に任せて、我々は後で情報だけいただくというわけにはいかないのか?」
「私がサウスサイドで自由に動けているからこそ、余計に縄張り争いに執心するのが田舎警察の習い性なのだ」
「お、おう。なるほど、そっちの理由か」
言われてみれば、FBIのエージェントはアーカムの警察組織においてはいわば外様のよそ者だ。
捜査体制が盤石になって情報を回してもらえなくなる前に、さっさと現場に上がり込んでおこうというわけか。
いつの時代も警察は面子というものを大事にするのだなあ、とネクロは妙なところで感心をした。
「故にだ。ドクターには私の助手働きとして、私の捜査の旗担ぎをしてもらうことになる」
「助手だぁ? 言っちゃ悪いがマスク、君は魔術に関して素人だろ。君が私の助手じゃないのか?」
「これでも相応の歩み寄りと敬意の証だと受け取ってもらいたいものだ」
例によって話を聞かず、胸ポケットから出した鍵を無造作に後部座席に放ったマスクに、ネクロは恨みがましい視線を送った。
手錠くらい、敬意があるなら自分で外してくれたっていいじゃあないか。
▼ ▼ ▼
ミスカトニック大学応用化学部教授、プレシア・テスタロッサにとって、警察の捜査は茶番そのものだった。
大学の構内で首縊りにされた女学生の遺体を下ろし、何処かへ――恐らくは市警と提携を結んでいる大学内の附属病院へ――運び去ってからは、
警察官たちは飽きもせずに現場周辺で這いつくばって証拠を探し、学生や教授たちの証言を取り、署と何やら無線でやり取りする流れを繰り返している。
-
市の中核たるこの大学は独立自治の気風が強く、たとえ事件捜査とはいえ「よそ者」の警官たちが構内を荒らすのを快く思わない者も多い。
大学が機能を止めていない以上は市警もよそ者であり続けるほかなく、正義の執行者が肩身を狭くしてせこせこと歩き回る様は滑稽だった。
プレシアも犠牲者が所属していたゼミの担当教授として何度か聴取をされたが、一度もあくびをしなかったのは我ながら驚嘆に値すると思っていた。
警察は少女の死を不審に思いながらも完全に他殺に切り替えることも出来ず、その歯がゆさがプレシアへの接し方にも現れていた。
まるで腫れ物に触るような刑事の態度に辟易としながらも、プレシアは「気丈に振る舞いながら内心で教え子の早すぎる死を悔やむ教師」を演じ切った。
元々、警察側も他殺の線一本で操作しているわけではない以上、現状プレシアを重要な参考人とはしていないのだろう。
あるいはもっと現実的に、女の細腕で死体を吊るすのは不可能だと考えたのかもしれない。
うんざりするほどの時間を奪われはしたものの、結論から言えば、午前中のうちにプレシアは鬱陶しい「任意の捜査協力」から開放されたのだった。
来賓室を後にして、いつもながらの不機嫌な顔を今日は一層に険しくしながら、プレシアは新棟の廊下を足早に歩いていた。
(警察に聖杯戦争の関係者がいれば、これを機に仕掛けてくると思ったのだけれど。とんだ肩すかしだわ)
不機嫌の理由は、自分が僅かなりとも疑われたことではなく、思いのほか「疑われていない」ことにある。
プレシア・テスタロッサは、精神の均衡こそ保てているとは言い難いものの、しかし前後不覚の狂人ではない。
自分の行いがどのような結果を招くかを、その明晰な頭脳をもって推し量ることぐらいは容易い。
あからさまに他のマスターへのメッセージを含んだ変死体。
当然、アーカム中の視線がこちらに向くことになる。そんなことは当然、想定済みだ。
死んだ女学生は応用科学部のゼミ生だ。彼女の死を調べるのならば、どうやってもプレシアに接近せざるを得ない。
あえて我が身を渦中に巻き込むことによって、逆に近づく者の正体を暴き立てる。
そんなプレシアの目論見は、今のところ実を結んでいるとは言い難かった。
(警察はともかく、このミスカトニック大学の内部に聖杯戦争の関係者が潜り込んでいない、などということはあり得ない。
ここはアーカムの中心であると同時に、この街の智識の集積点であり、魔術師にとって最大の要地だもの。
パチュリー・ノーレッジに限らず、この大学の何処かには他のマスターがいるはずなのに……揺さぶりが足りなかったかしら)
事件を起こしてみれば即座に食いついてくると考えるのは、早計だっただろうか。
何も直接的な行動を起こさなくてもいい。僅かに嗅ぎ回る素振りを見せてくれるだけでも、狙いをもって観察すればその不審さを捉えられるもの。
そう思って、自らの目だけでなく魔術的手段を併用して学内を偵察しているのだが、今のところ尻尾を出す者はいない。
もしも本当に大学内に隠れ潜んでいるのなら、どうやら敵は相当したたかなようだ。
こちらも、手段を尽くし全力をもって事に当たる必要がある。
(……それにしても。本当に役に立たない英霊様だこと)
プレシアの苛立ちの矛先は、いつの間にか己のサーヴァント、ランサーへと向いていた。
彼女には、引き続き大学内での敵勢力の捜索と、奇襲を含めた威力偵察を命じてある。
にも関わらず、あの日本刀を振るうサムライのサーヴァント――恐らくクラスはセイバー――との一戦以来、全くの手がかりを拾えていない。
それにはランサーが一切の探索系スキルを有していないというのも理由としてあるはずだが、プレシアにとってそんなものは言い訳にもならない。
英霊とはいえ所詮はサーヴァントなど使い魔に過ぎないというのが、魔術師プレシア・テスタロッサの考えである。
使い魔ならば、主の命にはその存在意義を懸けてでも応えるのが従属物としての務めというものだろう。
つまるところ、自分はあの偉大なる英雄様に軽んじられているのだと、既にプレシアは結論付けている。
あの憎たらしいランサーは、令呪という絶対遵守の命令権によって、いやいや頭を垂れているに過ぎないに違いない。
なんて、屈辱。
死人ごときが一度世界を救った程度のことでつけ上がって、主人を見下し、あまつさえ口ごたえをするなんて。
もうプレシアの死んだ娘は、アリシア・テスタロッサは、あの愛らしい声を聴かせてはくれないのに。
-
何が英霊だ。何様のつもりで、さも当たり前のように蘇っているのだ。
誰がお前などに生き返ってくれと願った。
本当にこのプレシア・テスタロッサのしもべなら、今すぐそのまやかしの命を捧げてアリシアを連れ戻してみせろ――!
――どん、と鈍い衝撃があって、続いて何かが散らばる音が聞こえ、プレシアは思考への没入から引き戻された。
視線を落とせば、黒髪の少女が尻餅をついた姿勢のまま、散らばった本をかき集めていた。
どうやら考え事をしながら歩いていて、出会い頭に彼女とぶつかってしまったらしい。
常にデバイスを持ち歩いている以上、並の魔術師の不意討ち程度で不覚は取らないと自負しているが、流石に不注意が過ぎたようだ。
全てはあの忌々しいランサーに責があると内心で舌打ちをしながら、プレシアは眼前で本を拾うおどおどした少女を睥睨した。
「まったく。それだけの本を抱えて、人にぶつかればどうなるか想像できなかったのかしら?」
「あ……その……ご、ごめんなさい……」
見れば見るほど気弱そうな少女だ。
ゆったりとした服装の上からストールを羽織り、やけに長い前髪は半ばその瞳を覆っている。
本を山のように抱えているから、一瞬「図書館の魔女」ことパチュリー・ノーレッジかと思ったが、外見はまるで違っていた。
深夜に構内を歩いていたという情報から、刀剣のセイバーのマスターは例外的に時間外の図書館への立ち入りが許されている学生、
すなわち神秘学部の新星と名高いパチュリーである可能性が高いと推測したプレシアは、既に彼女に関する学内の資料には目を通している。
幸い彼女を取材した記事には写真が添えられていることが多く、一通り確認した今なら遠くから見かけても顔を見分けられる。
しかし何事にも無関心そうでありながら何処かふてぶてしさを感じさせるパチュリーと、目の前の少女はあまりに印象が違った。
顔立ちは東洋系。プレシアには中国人との見分けがつかないが、日本人だろうか。
もっとも東洋人は今のミスカトニック大学では珍しくない。学生だけでなく、確か何とかという民俗学の教授は日本人だったはずだ。
もうひとり、学内の名物である植物学部の芳乃さくら教授は、東洋系だとかどうとか以前の段階で目を引く容姿だが。
ともかく、東洋人であることがありふれた特徴となってしまうと、目の前の彼女はあまりにも特別な印象に乏しい。
つまるところ、どこにでもいる平凡なつまらない少女というのが、プレシアから彼女への第一印象だった。
プレシアは自分の講義に出席する学生の顔をいちいち覚えているほどマメでも人間好きでもないが、彼女の顔には見覚えがない。
恐らく応用化学部ではないだろうし、散らばった本がどれも小説や詩集であるのを見るに、そもそもプレシアとは無縁の人間だろう。
「あなた。学部と学年、それに名前は」
だからプレシアがそう尋ねたのは彼女に興味を持ったからではなく、腹立ち紛れの言い掛かりに過ぎない。
案の定というべきか、少女はびくりと震え、分かりやすいぐらいに狼狽した後、蚊の鳴くような声で答えを絞り出した。
「……文学部、一年……鷺沢文香、です……」
やはり日本人か。だからどうだということもないのだが。
既にプレシアは、どう見ても魔術師とは思えないこの少女、鷺沢文香から興味を失っていた。
「鷺沢文香、ね。つまらない不注意で貴重な私の時間を奪ったこと、文学部の担当教授にはきちんと報告しておくわ」
別にそんな報告などしてやる義理も意義もないのだが、文香は素直に信じたのか、しゅんと肩を落として項垂れた。
ああ、この反応。プレシアの嫌いなタイプの人間だ。
おとなしく抵抗しないでいれば、それだけで事が上手く運ぶとでも思っているのだろうか。
自らのサーヴァント、あるいは元の世界に残してきた愛娘の紛い物を思い出し、プレシアの眉間に皺が寄った。
「はぁ……もう結構よ。何処へなりとも行ってしまいなさい」
羽織っている白衣をこれ見よがしにはたいてから、プレシアはこれ以上文香に一瞥もくれることなく立ち去ろうとした。
足を止めたのは、背後から自分の名を呼ばれたような気がしたからだ。
最初は聞き間違いかと思ったが、振り返ると、文香の前髪の間から覗く瞳がまっすぐにプレシアを見つめていた。
「……あの、テスタロッサ教授……ひとつ、お聞きしたいことが……」
「まだ何か用? いえ、その前にどこで私の名前を? 私は貴女と接点など無いはずだけれど」
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露骨に訝しがるプレシアに、文香は「図書館に置いてあった、大学の広報誌で……」と答えた。
なるほど、朧げな記憶がある。そういえば大昔にそんな取材を受けていたかもしれない。
プレシアがこのアーカムに辿り着くより前の時期に「あったことになっている」出来事だろうか。
自分が実際に取ったわけでもない行動が過去として存在するのは厄介だと思いながら、プレシアは不機嫌な視線だけで続きを促した。
「……はい……では……テスタロッサ教授は、パチュリー・ノーレッジという方を、ご存じですか……?」
何故ここでパチュリー・ノーレッジの名前が出てくるのだ。
などという疑問はおくびにも出さず、プレシアは「応用化学部の私がよその学生など知るわけがないでしょう」と切って捨てた。
「どうして私にそんな脈絡のない質問をしたのか、理解不能だわ」
「……すみません……テスタロッサ教授は、よく図書館を利用されているようですから……もしかしたらと思って……」
プレシアは舌打ちをした。
確かに図書館地下の稀覯書保管庫に魔導書が保管されているという噂を聞き、足繁く通い詰めていたのは確かだった。
しかし教授職にあるプレシアであっても禁書庫への入室は許されず、更には書庫自体に何らかの魔術的封印が為されており、無駄足に終わったのだ。
封印の突破自体はプレシアの魔術師としての智識と能力を総動員すれば可能かもしれないが、今はまだ大学内で騒ぎを起こすのは不味い。
そう思って機を伺うことにしていたのだが、こんな何でもない学生にも気に留められていたのか。
同僚はともかく学生になど一切興味のないプレシアは、恐らく顔を合わせたこともあっただろうパチュリーの顔も知らなかったというのに。
そこまで思いを巡らせてから、プレシアはようやく、目の前の少女が小刻みに震えていることに気がついた。
プレシアの高圧的な態度に怯えているのかと思ったが、もしもそうなら一刻も早く立ち去ろうとするはずだ。
たかが今の質問を投げかけるようなことが、鷺沢文香にとってはそんなにも勇気がいる、切実な行動だったのか。
言語化できない引っ掛かりを覚えながらも、プレシアはそれ以上何かを訊くこともなく、今度こそ立ち去った。
歩きながら、鷺沢文香の瞳がはっとするほど綺麗な青色をしていたのを思い出し、その美しさに一瞬惹きこまれていた自分に苛立った。
▼ ▼ ▼
まだ耳鳴りがしているような気がする。
大学職員にキャンパス地区を案内されながら、マスクは今後のことに思いを巡らせていた。
アーカム市警への義理立てとして正規の手続きを踏んで捜査へと加わろうとしたのが、そもそもの間違いだったように思える。
おかげで署長直々の苦言を無駄に大音量で聞かされ、気勢を大いに削がれる羽目になってしまった。
『いいかね、ミスター・マスク! 我々アーカム市警が君の自由を許しているのは、捜査局本部のクンパ長官の肝煎りだからだ!
君が気ままにロウアーのスラムをうろつけるのも我々の厚意あってこそのものだということを、君には今一度自覚してもらいたいものだね!
確かに君が我々の仕事に少なからず貢献していることは認めよう! まああの程度のチンピラならうちの優秀な署員でもしょっぴけるがね!
しかし! いいかねマスク、しかしだ! 自由といってもリバティとフリーダムは違うし、ワシントンD.C.とマサチューセッツも違う!
ここはアーカムだ、我々の庭であり我々の故郷だ! 君のような外部の人間に頼らんでも、アーカム市警はこの難事件を解決してみせる!
今に見ていたまえ、わがアーカム警察署が誇る敏腕捜査官『亜門 鋼太朗』が君より先に成果を上げると約束しよう!
君は知らんだろうが、コウタロウとは日本の言葉で“鋼の男”という意味らしいぞ! ちなみに私も最近まで知らなかった!
ともかく、亜門君はその名の通りの鋼の信念で必ずや真実に辿り着くだろう! 首を洗って待っていたまえミスター・マスク!
では私はこのあたりで失礼するよ! この後はアップルフィールド氏とのアポがあるのでな! HAHAHAHAHAHAHAHA!!』
いい歳した大人が何をムキになっているんだと溜息もつきたくなるというものだ。
そのアモン・コウタロウなる男が何者かは知らないが、せいぜい自分の捜査の邪魔だけはしないでもらいたい。
それにしても、連邦捜査官という立場も思いのほか制約が多いものだ。
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何しろ今回の事件について正式な令状を貰っているわけではないので、こうして大学に入るだけでも一苦労である。
というか、こうして職員に案内されるという形で大学内に入れたのは、結局のところマスクの実力ではなく……。
「それにしても驚きました、まさかあの高名なネクロ博士がミスカトニックの客員として赴任されるなんて」
「うむ、ここの大図書館の蔵書は世界有数だからな。前々からお招きに与ろうと思っていたのだ」
「………………」
「ところで博士、助手のマスクさんは顔色が良くないですが、お体の具合でも悪いのでしょうか?」
「ああ、気にするな。彼は面倒な言い回しをやめると死んでしまう病気なんだ」
「そうなのですか、おかわいそうに」
「………………」
いつの間にか、Dr.ネクロはミスカトニック大学に赴任した客員教授で、マスクはその助手ということになっている。
マスク達を出迎えた女性職員はそれを完全に信じ込んでいるようで、ネクロはそれをいいことに随分と好き勝手なことを話していた。
ロングコートの襟を立てて得意気に歩くネクロの耳元へ、マスクは体を屈めて顔を寄せた。
「おい、ドクター」
「どうした、助手くん。持病の具合はいいのか」
「それ以上言うならいよいよお前をインスマスの海底に沈めてやらねばならん」
「冗談だよ、短気な奴だな。それで?」
「それでじゃない。いったいどんな手を使ったんだ」
仮面の下で眉を顰めるマスクに、ネクロは特に大したことでもないように「暗示魔術だ」と答えた。
「暗示だと?」
「ああ。魔術としては比較的初歩だ。強い働きかけをもって、相手に自分の存在を斯くあるものと刷り込ませる。
今の彼女には、私は子供の姿にすら見えていないだろう。こう見えて、幻覚を見せる魔術は得意なほうでね」
「摩訶不思議なる手を使ったか。この先出会う全員にそうやって暗示を掛けていくつもりか?」
「まさか。そこまで大々的に魔術を広めれば逆に怪しまれる。ここからは舌先三寸さ」
ネクロが、首から下げている「客員研究員(仮)」と書かれた小さなプレートをちらつかせてみせた。
今さっき窓口で貰った、名前も顔写真もない仮置きの証明証だが、ひとまず構内を歩き回るには問題無いだろう。
マスクも同じものを(ただし助研究員というひとつランクの低いものを)貰ってはいる。
だがこんなものでは見咎められた時の言い訳には弱く、警察関係者や証人相手には連邦捜査局の身分証の方が役立つだろう。
あるいは、マスクの持つもうひとつの証明証――アーカム市内における拳銃携帯許可のライセンス――が。
(いずれにせよ、この大学は必ず聖杯戦争と関係を持つ。私とクンタラの千年の願いに懸けて、成し遂げねばなるまい)
マスクの悲願は、かつて宇宙世紀末期に食糧不足のため食用に供された人々――そしてマスクことルイン・リーの祖先――クンタラの開放である。
それを為すのが聖杯である以上は、目の前を歩く魔術師Dr.ネクロもいずれは決着をつけるべき敵となるだろう。
彼女の宿願が何かは知らないし、訊いても教えてはくれないだろうが、決して聖杯を諦めたりはしないという確信はある。
それに、今でこそ冗談めいた台詞を飛ばしてくるが、いざとなれば自分の事も冷徹に始末しようとするのが魔術師だと、マスクは理解しつつあった。
口にこそ出さないが、彼女が血も涙もない人間だとまでは思ってはいない。
思ってはいないが、魔術師の倫理とは、兵士のそれとすら一線を引いたところにあるようにマスクには思えてならない。
そして、もしもこのミスカトニック大学で糸を手繰っているのが、そういう手合いの魔術師ならば――。
(こちらもモビルスーツで顔を隠した人間しか殺せないなどと、甘えたことは言うものか)
仮面越しの視界が、光学センサーでは捉えられないはずの穢れた魔力で烟っているように思えて、マスクはかぶりを振ってから歩みを進めた。
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ミスカトニック大学の地下書庫には、封印された稀覯書だけが集められた禁書庫が存在する。
この世の理を外れた書、この宇宙の触れてはならぬ深淵へ言及した書、目を通すだけで不定の狂気に取り憑かれる禁断の書。
かつて、大学図書館の長であったヘンリー・アーミティッジ博士により「ダニッチ村で起こった何か」以降に作られたこのコレクション。
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世界各地から掻き集められたいわゆる魔導書――黒の書として知られるカルト儀式の見聞、南極の古代文明について記された書、
人類出現以前に認められたという最古の写本、屍体崇拝教団のおぞましき目録、中東地域の異端信仰について述べた書物、
そして狂えるアラブ人アブドゥル・アル=ハズラッドによってこの世に送り出されたかの悪名高き“死霊秘本”――のみならず、
かつては非オカルト的な書物として出版されたにも関わらず、後に禁断の智識や放置できない怪異を秘めているとして大学が収集した書を含む。
例えば、ジェームズ・ジョージ・フレイザーの『金枝篇』。
あるいは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの『アウトサイダー及びその他の恐怖』。
最近のものでは、日本の作家である大迫栄一郎の『現代都市伝説考』が新たにリストに加わったと噂されている。
いずれにせよ、このコレクションは魔術に携わる者にとっては公然の秘密ではあるものの、魔術的処置により厳重な封印が為されており、
正規の手続きによっての閲覧は不可能とまでは言わないものの、非常に困難であることは間違いなかった。
現在アーカムで執り行われている魔術儀式、聖杯戦争。
その関係者の中には、ここにこそ聖杯や英霊の秘密が記された書が存在すると推測する者もいるが、入室を果たした者は未だにいない。
聖杯戦争の参加者として三画の令呪を戴くマスター、鷺沢文香は、その詳細な事実を知っているわけではない。
それでも大学図書館にアーカムの叡智が結集していることは理解していたし、元の世界へ帰る手掛かりがあるとすれば、まずここだろうと思っていた。
そして同じ学生でありながらも図書館の魔女と噂されるというパチュリー・ノーレッジならば、文香の迷いにも応えてくれるのではないか。
そう思って、以前図書館で見かけたことのある応用化学部の教授に意を決して話しかけたものの、すげなく切り捨てられ。
消沈して図書館へ実際に足を運んでみると、パチュリーは今日に限ってまだ図書館へ足を運んでいないという。
自分のなけなしの決意がことごとく空回っているように思えて、文香の長い前髪が落とす影は一層深くなった。
(そもそも……誰かに頼ろうというのが、間違いなのでしょうか……)
文香は聖杯になど興味はない。ただ自分が暮らしていたはずの世界に帰りたいだけだ。
たったそれだけのことなのに、ひとりぼっちの文香は地図もコンパスもなく荒野へ放り出されたようなもので、途方に暮れる以外に何も出来ない。
いや、本当はひとりぼっちではない。それは、分かってはいるのだが。
(……アーチャーさんは、私が話しかければ答えてくれる。だけど、言葉にしない問いに、答えをくれたりはしない。
私から歩み寄らない限り、ずっと今のような、近くて遠い距離……。でも、その一歩が、私にはあまりにも……)
文香と契約した双銃のアーチャーは、その武器そのものが象徴するかのような、抜き身の銃のような男だ。
マスターである文香が願えばどんな敵とも戦い、あらゆる障害を排除しようとしてくれるだろう。
決して口数の多い男ではないが、彼なりの誠実さで文香の事情を慮ってくれているのは伝わってきていた。
それでも、怖いのだ。何故なら、彼は銃だから。
銃である以上は、銃爪に指を掛けるのも、決意をもって弾丸を撃ち出すのも、その持ち主であるマスターの役目だ。
アーチャーにとっての決断は、完全に文香へと委ねられている。
それが、文香にとってはたまらなく怖い。
(アイドルになった時は、プロデューサーさんが手を引いてくれた……でも、今の私のそばには、あの人はいなくて……。
私の物語を読み進めるには、私自身がページを捲らなければならないのに……誰でもない、私が……自分で……っ)
自分の体がぶるぶると震えていることに気付き、文香は自分の両肩を抱いた。
それでも涙だけは――その一線だけは越えないようにと、悲鳴を上げそうな心を押し留める。
一度泣いてしまったら、もう立ち上がれなくなってしまう。そうしたら、もうあの輝くステージには手が届かない。
十二時までのシンデレラの魔法を、まだ解いてしまうわけにはいかないから。
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邪神聖杯黙示録 - Call of Fate - Session.2
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