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ポケモンバトルコロシアイ
<font color="#ff0000">本企画はポケットモンスターの世界を舞台とした、リレー小説バトルロワイアル二次創作です。
殺人をはじめとした残酷なシーンや、グロテスクな表現が含まれています。
特に『ポケモンが人間を殺害する』という内容が主軸が置かれているため、気分を害する可能性があります。
このようなショッキングな描写がある事を踏まえた上で、十分な注意をすると共に自己責任での閲覧をお願いします。
まとめwiki:ttp://www63.atwiki.jp/pokerowa/
</font>
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【概要】
秘密組織パロロワ団による実験。
無作為に拉致された40人の一般ポケモントレーナーによるバトルロワイヤル。
二体ずつ配布されたポケモンを用いて、互いに殺し合いをしてもらう。
最後まで勝ち残った一人が多大な報酬と共に生還を約束される。
【基本ルール】
参加者はフィールド内にバラバラに配置される。
その中で自由に行動してもらい、他のトレーナーを全て殺害する。
トレーナー間のやり取りにおいて、反則行為は無いものとする。
なお、24時間に渡って死者が一人も出ない場合、主催者は実験を中止する。
【会場地図】
ttp://www63.atwiki.jp/pokerowa/pages/18.html
廃墟となった街がいくつもある無人島。
緑系統の色の明るい部分ほど、標高が高い事を示す。
街の名称や、細かい施設などは本編で随時決めていく。
【作中での時間表記】
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
ゲーム開始は12時(日中)から。
【首輪について】
直径2センチメートル程の輪っか状のモノが首にピッタリとついている。
内部に仕込まれた爆弾による参加者の束縛と、前方を向いた隠しカメラによる映像の記録を役目とする。
爆発の条件は三つ。
・手持ちポケモンが全て瀕死状態になる。もしくは無くなる。
・3秒以上、外側に強く引っ張る(具体的には輪ゴムが千切れる程度の強さ以上)。
・主催者の判断にて、爆破ボタンを押される。
当然の事だが、ポケモンのわざで外す事は不可能な仕様が施されている。
【放送について】
ゲーム開始から6時間が経過するごとに、主催者からの放送がなされる。
内容は以下の通り
・6時間ごとの死者の名前の発表
・そして現在の生存者の残り人数。
・主催者からの伝達
【支給品について】
食糧、水、ポケッチ、ポケモン×2、ランダム支給品×3、ポケモンコンバータ。
支給されるポケモンに関するルール。
・公式大会などで出場禁止とされる伝説ポケモンは支給されない(ペラップを含む)
・言葉を話すポケモンは支給されない(わざ『おしゃべり』も無し)
・「おや」は全てパロロワ団とする
ランダム支給品は、ポケモンに持たせる物であれば基本的に自由。
ただし、支給にあたって以下の制限を設ける。
・トレーナーが使用する道具(きずぐすり等)が支給される個数は1つ以下
・ポケモンに「持たせる」事が出来ない物は支給されない
・メールは支給されない
・正規のプレイでは入手できない道具は支給されない
ポケモンコンバータに関して
・第6世代における、レベルアップで覚える技、タマゴ技、3世代以降のわざマシンで覚える技、3世代以降の教え技にて習得できる技に限る
・ステータスの変更は、性格補正、個体値、努力値を変えれるものとする
・進化形態や色違いは変更出来ない
・「機械のバグによって異常な能力になる」などの理由を付けて、正規プレイで再現不能な能力にするのは禁止とする
【書き手向けルール】
予約、投下においてはトリップは必須でお願いします。
予約期限は1週間、延長でさらに1週間。
ただ、序盤は予約が殺到する可能性の高いため、とりあえず2014年12月までは延長はナシにします。
破棄する場合、再度同じキャラで予約し直すならば3日おいてください。
この辺の細かい規定は、他のロワにおける一般的範疇に準ずる事とします。
参加者のポケモントレーナーは書き手枠で、全てオリキャラです。
なのでゲーム本編やアニメに出てくるキャラクターは出さないでください(関係者としてならばOK)。
他所の版権キャラの設定のオマージュやパロディは特に規制しませんが、こっそりとお願いします。ポケモンの世界観に合わせてください。
トレーナー達の肩書きに関しては、pixiv大百科の「一般トレーナー」の記事を参考にしていただけると良いかと思います。
ポケモンのわざの効果はゲームに準じますが、解釈や描写は基本的に自由です。
ただし、解釈が本来の効果から逸脱し過ぎている場合は修正してもらうかもしれません。
また、このロワにおいては『ポケモンが殺されるSS』を厳禁とします。
直接殺さずとも、絶対に助からない処置が行われる事(ボールごと土に埋める等)も同じです。
確実な描写が無ければ例外として扱う場合もありますが、可否は>>1 が判断致します。
なお、当然ですが「ひんし」は全く問題はありません。
その他、何かしらの問題が発生した場合は>>1 が判断を下します。
それではオープニングを投下致します。
薄暗い体育館のような場所、と言えばきっと想像に難くないはずだ。
ある程度の広さのあるスペースで、邪魔になる物は何も置かれては居ない。
天井から下がる灯りが、視認には困らない程度の明るさで照らしている。
壁際には、深緑色のスーツを着た者たちがズラリと並んでいる。
スーツの胸の位置と、肩の位置には「P」と書かれたワッペンが貼られている。
まるで警備が如く、彼らは手を後ろに組んで静かに佇んでいる。
男が一人、壇上に立っている。
その風貌は堅そうな中年男性と言った風で、体躯は中肉中背、特徴に乏しい。
彼もまた「P」のマークの付いたスーツを着ている。真っ黒なスーツだった。
そして彼が見下ろす先には、立ちつくしている数十人の男女の姿があった。
広い空間の一カ所に集められた彼らは、誰もが一様に目を閉じていた。
パンッと手を叩き、男は言葉を発する。
「ようこそ、バトルロワイアルへ」
それを合図として彼らの意識は呼び覚まされた。
人間にはそれぞれ違った個性があると言うが、この時点では誰もほとんど差異は無い。
この奇妙な状況に突然放り出された事で、困惑した様子で、周囲を見渡す。
見覚えの無い空間、自分と同じく困惑する人々。
誰に話しかけるでもなく、ざわざわと呟きを漏らす。
全くもって無個性な反応、だがこれが"普通"で、正常な人間である証だった。
間もなくして、彼らのそのすべての視線は一点へと集まった。
自分たちと違う高さに立つ、スーツの男へと。
「我々はパロロワ団、そして私の名はサカモト。
諸君にはこれから我々の実験に協力してもらう」
は? と、何人もの者が同時に声をあげた。
困惑や反骨など、意味はさまざまかもしれない。
だが、彼らは等しく解答を求めていた。
『実験』とは一体何か、という解答――
「我々の支給したポケモンを駆使して、お互いにバトルし合うんだ。
最後まで勝ち残った一人だけが、莫大な報酬と、何よりもここからの生還を許される」
この状況に放り出された時点で、命を握られている予感はあった。
人質、人体実験……何にせよ自分たちの自由は奪われ、奴らの利益のための"物"として扱われるような……。
――その予感は半分だけ外れたと言えよう。
奴らの手の内とは言え、ほんの僅かな自由が存在した。
……あくまでも奴らのモルモットとして、だが。
「ご存じの者も居るだろう、所謂バトルロワイアルと言う『ゲーム』だ。
そして諸君は不運にもその参加者に選ばれたのだ、残念ながら逃げる事は出来ない」
「おうおう、好き勝手言ってんじゃねぇよオッサンよぉ」
真っ先に抗う意志を示したのは、一人の青年だった。
尖った装飾の付いた服、奇異な髪型、目つきが悪い。それらの特徴は彼の反道徳的な姿勢そのままを表していた。
人は誰もが、彼を"バッドガイ"だと認識する。
そのバッドガイの男は唾を吐き捨て、サカモトを睨みながら歩み寄っていった。
「てめぇみてぇな意味不明な奴に、俺らが大人しく従う義理なんてどこにあるんだよ、あぁ?
さっさと、帰らせろや。俺のマニューラがてめぇの退屈な面をバラバラに切り刻むぞ?」
いきり立つ彼がズボンのポケットに手を伸ばした所で……彼はピタリと動きを止めた。
怒りで紅潮したその顔が、一瞬で青ざめる。
焦った様子で全身のポケットをまさぐりだす様子は、傍から見れば滑稽の一言。
「おいてめぇ、俺のマニューラをどこへやった!?」
「先ほど言った通り、バトルロワイアルでは我々の支給するポケモンを使用してもらう。
そのため、あらかじめ所持していたポケモンはすべて我々が奪っておいた」
「な……卑怯な野郎だなお前!!」
激昂するバッドガイに気を留めず、サカモトは携帯電話のような機械を取り出した。
「諸君の首に、首輪が巻かれている事には気付いているだろうか。
ゲームにおいて、手持ちポケモンが全て瀕死になった場合。
または、首輪を無理に外そうとした場合。
そして、このように私に直接楯突こうとした場合。
……内部に搭載された爆弾を作動させる」
「は!? ちょ、待て……」
サカモトが携帯電話を操作すると、バッドガイの男の首輪からブザー音が発される。
「なんだこれは! 何をする気だ、ふざけんなクソ!!
やめろよ、音を止めろよクソ! は、何? 俺死ぬわけですか!? 冗談じゃ」
一人騒ぎ立てる声は、鼓膜に叩きつけるような破裂音に遮られた。
赤黒い霧が花火のように広がり、地面に叩き伏せられる体。
続けてゴツンと重い音が響き、醜く潰れたバッドガイの頭が転がった。
会場に幾つもの悲鳴があがった。泣き出す者も居た。
その騒がしさを遮るように語感を強めて、サカモトが話を続ける。
「死にたくなければポケモンを駆使して最後の一人を目指せ。
こちらから細かい規定は定めないが、今後諸君の助けとなる支給品に付いて説明する」
静まり返る空間には、押し殺すような嗚咽が残る程度。
多くの者は理解していた、死なないためにサカモトの言葉を聞き逃してはならないと。
ポケモンを奪われた丸腰な自分たちには、支給される品と言うのは命綱にもなりえるからだ。
サカモトは説明する。
――『ポケッチ』
曰く、最新のアプリを全て搭載させている物。
時計やメモなどの基本的なアプリは勿論の事、ルーレットやドットアートなどのマイナーなアプリも入っている。
この内、特筆すべきアプリは「つうしんサーチャー」だろう。
この機能は付近に居る参加者をサーチする事が可能であり、これがある限り潜伏は困難だと言う。
――『ポケモン』
先ほどから言われている支給ポケモン。一人に2体づつランダムに与えられる。
パロロワ団の用意したポケモンであり、種類は多種多様だがレベルは統一されているという。
当たりハズレが存在し、最終進化した強力なポケモンも居れば、未成熟なポケモンも居る。
ボールから出した者の武器となり、ジムバッジが無くとも従順に従う。
――『ランダム支給品』
三種類のランダムな道具が一つづつ支給される。
基本的にはポケモンに持たせて使う物。
――『水、食糧』
ペットボトル入りの水と、クッキーのような携行食。
一人に対し、一日分だけ支給される。
「そして我々パロロワ団が開発した試作品『ポケモンコンバータ』だ。
実に短時間で、多彩な戦略を可能と出来る、夢のような道具だ」
――『ポケモンコンバータ』
ポケモンの治療ならびに、ポケモンの能力を自在にコントロールする事が出来る装置。
モンスターボールをはめ込める(ちょうど家庭用かき氷機に似た)機械と、それに接続されたタブレット端末から成る。
ボールを設置し、タブレット操作を行う事で約15分ほどでポケモンを一体、万全の状態まで治療する事が出来る。
また同じく、端末を操作する事で、ステータス、特性、技を指先一つで任意の形に変えられる。
ただし、あくまでも種族として実現可能な範囲に限る。
また、進化させる事や、レベルを変更する事も出来ない。
「以上だ。全てバッグに入れて支給する。
これらの品を、是非とも最後まで生き残るために活用して頂きたい」
ここまで話し、サカモトは一拍置いた。
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「バトルロワイアル中、諸君がどのように行動しても、こちらから干渉することは基本的に無いと思ってくれていい。
ただし、一定の人数が生存しているにも関わらず、24時間に渡って一人も死者が出なかった場合は全員の首輪を爆発させる。
脱落者の名前と生存者の数を6時間毎に会場内に放送されるため、行動指針の参考にして頂きたい」
明日を生きるためには、ゲームを成り立たせなければならない。
一人の死ですら惜しんでいては、全ての命が無駄になる。
このゲームのルールはそんな風に参加者を追い込んでいく。
だからサカモトは確信している。24時間のうちに死者が出ない事はあり得ない、と。
「ゲームに関する事柄は以上だ。
最後に私から一つだけアドバイスを送る」
――戦いは常に、先に行動できる者が有利である。
ポケモンバトルにおいても、バトルロワイアルにおいてもだ――
僅かでも素早く動ける者が、敵を倒す機会に恵まれる。
先に武装を済ませた者が、無双できる可能性を高められる。
誰よりも早く、誰かを殺せ。
そうすればより多くのポケモンとアイテムが揃う。
それは、最後まで生き残るための重要な手札となる。
込められた意味はそんなところだ。
この助言がどれほどの効果を発揮するのか、サカモトは楽しみに思っていた。
「ダークライ、ダークホール」
足元に丸い影が現れ、そこから影を具現化したようなポケモンが浮かび出る。
ダークライが黒い球体を創り出すと共に、参加者達の意識は瞬く間に眠りの底へと沈んでいく。
悪夢はきっと、彼らが目覚めた時に始まるのだろう。
【バッドガイのズガオ 死亡確認】
【残り40人】
【主催者:パロロワだんのサカモト】
――ポケモンバトルコロシアイ ゲームスタート――
以上です。
さて、筆者は筆がとても遅いので、あらかじめ二話ほど書いておきました。
予約方法や、>>1 が想定してるSSのノリ、そして状態表のテンプレートなどの参考にしていただければ幸いです。
まずは第一話目から行きます。
新キャラクターを1名投下致します。
タイトルは「にわかのパーフェクト対戦考察」です。
「帰゛り゛た゛い゛よ゛マ゛マ゛ー゛ー゛ー゛ー゛!゛!゛」
少女は咽び泣いた。
ミニスカートのミイ♪♪♪はごく普通の女子高生。
殺し合いだなんて野蛮極まりない世界に放り込まれるだなんて、と自分の不運を心底呪った。
それと同時に、こんなところで野垂れ死にするのは私の人生じゃない! と思った。
「殺すしかねぇ……殺すしか!」
実にラジカルな決断を下す。
この世界で生き残るためには、見知らぬ誰かの命を奪う事を躊躇してはいけないのだ。
大丈夫、早いうちに物事に取り組めば、他人より一歩リード出来るって言われてるじゃないか。
これだけ早期に殺す覚悟を決めたのだ、きっと生きて帰れる!!!
ミイ♪♪♪はもはや、ごく普通の女子高生ではない……平気で人を殺す悪魔だ!
――悪魔がここに誕生したのだ。
「ククク……。さて、そうなれば準備をせねば」
一度腹を決めてしまえば、気が楽なものだ。
いかにも悪人のような顔を浮かべながら、自身の荷物をひっくり返す。
十秒前にとんでもなく無様なセリフを発していた少女の姿はどこにもない。
「いでよ! あたしのポケモンたち!!!」
『リザアアァァ〜!』
『クロ―――ッ!』
「しゃ―――! リザードンとクロ……えっと、なんだコイツ!! なんかカッコイイコウモリ!!
うはあヤベェこれ初っ端から引きが強すぎじゃない??? どうみても強そうだしさ!!!!」
全身から熱気をたぎらせる巨竜リザードンと、空気を切り裂くように高速で飛び回る黒い影クロバット。
ミイ♪♪♪はクロバットの名前を忘れていたが、勉強不足が祟った……と反省するでもなく、ただその"強そう"な姿に興奮していた。
それでも最新機種の扱いには詳しい。手際よくポケッチを操作し、手持ちのモンスタボールと連動させる。
これによってポケッチに搭載されたアプリ『ポケモンリスト』から、ポケモンの状態を確認出来るのである。
「ククク、そしてこれが支給品か……! よくわからないけど、まぁ合ってそうなのを付ければいいよね」
ポケッチは扱えても、ポケモンバトルの道具は知らない。
フレンドリーショップでは見た事無いのだから、知らないのも無理はないだろう。
支給された道具は『レッドカード』『ひのたまプレート』『パワーリスト』
簡単な説明書きがなされてるので目を通す。
「プレートは勿論リザードンに持たせようっと。
で、コウモリ君には……パワーリストが良さそう。
要はちからがパワーアップする道具だよね?
あれだけ素早いんだし、多少削ってちからに回した方がバランスが取れるハズ」
パチンパチンとリストを巻かれ、ポカーンとしているクロバット。
それを気に留める事もなく、ミイ♪♪♪はポケモンコンバータを取り出す。
「ほほ〜、これが能力を変えられる道具ねぇ。
考えうる限りの最強の構成にしなくては……!」
リザ(略称)とクロバ(略称)をモンスターボールに戻し、コンバータにセットする。
僅かなローディング時間の後に、モニターにポケモンの能力が数値化された表が映された。
「あぁ、能力とかよくわからん……。二匹とも結構能力高いみたいだし、体力とちからを上げておこう。
技は……こんなに種類があると迷うな〜。まぁバランスよく、ね。どんな状況でも対応出来るに限るからね、フフン」
知識が無くとも、どう操作すればいいのかが一瞬でわかる辺り、ミイ♪♪♪の現代っ子らしさが伺える。
彼女なりに最善だと思える構成をパパパパっと操作していく。
その後、画面下にある『変更』を押す。
バチッバチ!! と静電気のような音がして、取り付けられたモンスターボールが一瞬だけ光を帯びた。
ミイ♪♪♪はこの一連の操作を二つのモンスターボールで行なった。
それから二体をボールから出して、その様子を眺めた。
「いいね、勇敢そうな顔つきになってるじゃん」
『リザッ!』『クロクロッ』
「うむ、いい返事! ……よろしい、ならば戦争だ……!
この私が殺し合いを勝ち抜き、見事生還を果たしてやろうじゃないか……!」
殺意の波動をたぎらせて、颯爽と歩み出す。
ミイ♪♪♪の過酷な死闘が、今ここに幕を開けた――
【C-2/草むら/一日目/日中】
【ミニスカートのミイ♪♪♪ 生存確認】
[ステータス]:良好、謎テンション
[バッグ]:基本支給品一式、レッドカード
[行動方針]:殺人の意思あり
1:自らの生還をかけて容赦なく戦うぜ……!
▽手持ちポケモン
◆【リザードン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:ひのたまプレート
能力値:HP、こうげき特化
《もっているわざ》
きあいパンチ
ブラストバーン
りゅうのはどう
ほのおのパンチ
◆【クロバット/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:パワーリスト
能力値:HP、こうげき特化
《もっているわざ》
はかいこうせん
シャドーボール
さいみんじゅつ
そらをとぶ
〔トレーナープロフィール〕
|名前|ミニスカートのミイ♪♪♪|
|性別|女|
|容姿|ブロンドのセミロングヘアー。制服のワイシャツの上に黒いセーター、スカートは赤色|
|方針|マーダー候補|
|人物|『ごく普通』を自称する女子高生。よく言えば腕白な性格、ハッキリ言えば思慮に浅い。
パニック状態なのか、素なのかは定かではないが、自身の生存のために全く葛藤する事なく殺し合いに乗った。
とりあえず「ククク」などとわざわざ悪人になりきる辺り、頭のネジがいくつか飛んでいる。
キラキラしてる名前について、本人は何とも思ってない模様。彼女の周囲の人間も何も言わなかった。
ポケモンバトルが知識がろくに身に付いてないのは、彼女自身の勉強不足が祟った結果である|
以上です。
ちなみに二回目以降の登場の場合は、「○○の○○で予約」みたいにお願いします。
続けて、新キャラクターを三名投下致します。
タイトルは「かたやぶり」です。
「マンムー、じしんよ!!」
丸太のような前足が大地を粉砕する。
円形に広がり荒れ狂う亀裂にニダンギルは容易く飲まれ、その衝撃がはがねのボディにも及ぶ。
輝石の力を持ってしても、その破壊力は到底抑え切れるものではない。
瞬く間にニダンギルの体力の80%近くが失われた。
「フン……ニダンギル、せいなるつるぎ!」
二本の刃が眩い輝きを放ちながら、マンムーの肉体を次々に切り刻む。
その切っ先は弧を描きながら厚い毛皮を貫き、それと共に体液が四散する。
だが、その切れ味では、マンムーに痛手を負わせるに至らなかった。
「残念。いくら効果抜群でも、その程度の火力じゃマンムーを落とす事なんて出来ないわ。
そ、れ、に、タイプ一致のアイアンヘッドの方がもう少しマシなダメージになったんじゃないかしら?」
青みを帯びた髪を右手でかき上げながら、リゼはそう言って笑った。
――エリートトレーナー
ポケモンバトルの道を歩む者には、これほど誇らしい称号は無いだろう。
リゼは強い。
彼女が使うポケモンは、選りすぐり強さを持っている。
彼女の脳内には、勝つための戦略が叩き込まれている。
彼女の瞳は、敵がどんな行動をするか見透かしている。
ポケモンリーグのチャンピオンを超えた先、バトルのエリート達の集う世界……そこが彼女のフィールドだった。
ゆえに、このバトルロワイアルでも勝ち残る自信があった。
どんなポケモンであっても、自分なら十二分に使いこなす事が出来る。
だから、こんなところで惨めに殺されたりはしない。
「ふ〜ん、敵に塩を送るなんてずいぶんと甘ちゃんなようね……。
でも笑ってられるのも今の内よ。お嬢ちゃんは本当の戦いを知らないみたいだものね」
「ハッ、本当の戦い? 最良の選択すら理解してないような、ド素人のオカマが何を言うの?」
「こんなのは所詮お遊びなのよ。アナタがやってるのはお遊び。
だからワテクシが現実を見せてあげる、せいぜい地獄で後悔なさい、悪党」
そんな彼女と敵対する男、りょうりにんのオーレン。
趣味の悪いヒョウ柄のシャツと、黒いベスト。
黒のターバンと獣毛のマフラーを身に着けた、筋肉質で体躯のいい男だ。
彼もまた不敵な笑みでリゼを迎え撃っていた。
「悪党? フン、この状況で善も悪もあるわけないでしょ。
全部正当防衛よ、結局は最後まで生き残った者だけが笑う事を許されるの」
「だったらアナタが笑うのは間違いよ」
「好きにほざいてなさい、ド素人」
舌戦に区切りが付き、お互いが第二撃を放とうとする。
だが、その時に第三者が割り込んできた。
「ちょっと待ったああぁぁぁ!!!」
活発的な恰好をした少年、キャンプボーイのケイイチ。
どこからリゼとオーレンに気付いたのかはわからないが、走ってきたのだろう。
ぜぇぜぇと息を切らしており、ポタポタと汗が顎から流れ落ちていた。
深く息を吐き、ケイイチは二人に言った。
「アンタら、あんなオッサンの言う事に従う必要なんてないだろ!
ポケモンバトルで殺し合う? そんなの間違ってる!
なぁ、だから二人ともポケモンをしまって……」
「そんな綺麗ごとが通用すると思ってるの?
このオカマをぶっ倒したら、次はアンタの番よ。覚悟してなさい」
「そんな……!」
リゼはケイイチの言葉を切り捨てた。
こんなガキのくだらない正義感()なんて、いちいち構う必要があるものか。
この首輪が嵌められている限り、自分達には戦うしか選択肢が無いのだから。
一方、オーレンは微笑ましそうな顔を浮かべた。
小さく拍手をしながらケイイチに言葉をかける。
「ぼうや、良い事を言うわね。
そう、ワテクシたちは結束して、あの悪党に立ち向かわなくちゃいけないのよ。
でもそのためには、危険要素は排除しないといけないの。
……だから、あの平然と殺し合いに乗ったそこの女を倒すのよ!」
「待ってくれよ! だから……だからなんでバトルしようとするんだよ!」
非力な少年の声は、どちらにも届かない。
リゼもオーレンも既に戦闘態勢に入っていた。
「こちらから行かせてもらうわ、地震よッ!」
『ムウウゥゥゥゥッ!!』
轟音。
マンムーの引き起こす地震が、オーレンのポケモンに襲い掛かる。
大地の牙が足元から攻め入った先には……。
『マ〜タドガ〜〜〜スwwwwwwwww』
だが、そこにニダンギルの姿は無い。
嘲るような笑いを浮かべながら、マタドガスがそこに入れ替わっていた。
浮遊しているマタドガスに、地面からの攻撃は通用しない。
「へぇ、ド素人でも地震読みで交代するくらいの機転は効くようね。
でもって物理耐久が高く、炎技も撃てるマタドガス……これではマンムーじゃ分が悪いわね。
でも残念、私の控えには相性のいいポケモンが居るんだから。さぁ戻りなさい、マンムー!
そして――出番よ、ランクルス!!」
『らんらんらん』
マンムーに代わって繰り出されたのは、緑色のゼリーのようなポケモンランクルス。
タイプ相性も然ることながら、その耐久力はマタドガスに対して圧倒的な優位を持っている。
相手の手持ちが判明した今、リゼの勝利への道筋が明確なものとなった。
だが次の瞬間、リゼの不意に視界が真っ黒に染まる。
瞬く間に周囲が黒い煙に包まれ、マタドガスの姿を見失った。
「へぇ、ここでえんまくね……なるほど、運ゲーに賭けてくるつもりね?」
「違うわよッ!」
距離が開いていたはずのオーレンの声が、すぐ間近で聞こえた。
リゼはすぐさま声の方へと顔を向ける。そこには。
――両手にニダンギルを構え、飛び掛かってくるオーレンの姿があった。
「なッ……!?」
呆気に取られた。
このオカマの動きは予想外だった。
こんな事態、今までに一度も無かった。
――トレーナーを、直接攻撃……!?
「ちょ、待っ」
制止の声を叫ぶ暇もなく、ニダンギルの鋭利な刃がリゼの華奢な胸を貫いていた。
「がほッ……ご……」
びちゃびちゃっ、と溢れんばかりの大量の血液が吐き出される。
右手のニダンギルが引き抜かれ、力なく膝を付くリゼの首に、左手のニダンギルが横薙ぎに払われる
鈍い音と共にリゼは倒れる。首の半分ほどまで、パックリと斬られた。
「本当の戦いにはね、ルールなんて存在しないのよ?」
それが最後に耳に届いた言葉。
――卑怯だ、死にたくない、嫌だ……こんなの、イヤ……
彼女の意識が途切れる寸前、頭を巡っていたのは不条理に対する抗議だった。
【エリートトレーナーのリゼ 死亡確認】
【残り39人】
◆
「やめろ―――!!」
地震によってバランスを崩してへたり込みながら、ケイイチは叫んでいた。
彼らを止めるために、やむを得ずに自分のポケモンを取り出そうとする。
だが、周囲が煙幕に覆われてから、視界が晴れる頃には既に……。
「あ」
既に戦場は惨状となっていた。
ブロンドの女の人が血だまりの海に体を浸らせている。
「う……うわああぁぁぁ――!!!」
ケイイチは悲鳴をあげる。
そこへ、ニダンギルに付着した血をふき取りながら、こちらへと歩み寄る大男の姿が。
反射的に恐怖を感じ、脱兎のごとく逃げ出した。
――人が死んだ、殺された。平然と。
恐ろしい事だ。もう何を言ってもダメだ、俺も殺されるかもしれない。
――誰か、誰かほかに頼れる人が……どこかに……!
取り乱していなければ、この大男には話し合える余地があると判断出来ただろう。
だが、現実のスプラッタを目の当たりにして、彼の冷静さは吹き飛んでしまった。
逃げた先に居るその"誰か"が、殺し合いに乗ってない保証などどこにも無いのに。
あてもなく走りだす少年は、その思考に至らずにいる。
オーレンはその様子を残念そうに見送っていた。
「何よ、このくらいの光景で逃げるなんて、ヘタレなぼうやね……。
ワテクシもぼうやと同じ、サカモトに対抗しようと考える同志だと言うのに」
今でこそ、オーレンは洋菓子店を営む料理人である。
しかしかつての彼は、海外の傭兵部隊に所属している武人であった。
そこで培われた肉体と身体能力は、サカモトに抗う勇敢さの源である。
しかし同時にその経験は、危険分子を切り捨てる冷徹さの源ともなっている。
「ちょっと心配だけど……あの子ばかりに構っては居られないわ。
とにかく他に殺し合いに乗ってない人を探しましょう。
数を集められない事には、大きな力に立ち向かう事なんて出来ないもの」
オーレンは自らのポケモンをボールにしまった。
そしてリゼの亡骸に両手を合わせると、彼女のポケモンたちも手持ちに加えた。
【A-6/どうろ/一日目/日中】
【りょうりにんのオーレン 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3(自身2、リゼ1)
[行動方針]:対主催過激派
1:主催に立ち向かうための同志を集める
2:ぼうや(ケイイチ)が心配
▽手持ちポケモン
◆【ニダンギル/Lv50】
とくせい:ノーガード
もちもの:しんかのきせき
能力値:均等振り
《もっているわざ》
せいなるつるぎ
シャドークロー
きりさく
つじぎり
◆【マタドガス/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:なし
能力値:均等振り
《もっているわざ》
えんまく
ヘドロばくだん
どくびし
ちょうはつ
◆【ランクルス/Lv50】
とくせい:さいせいりょく
もちもの:きれいなぬけがら
能力値:HP、特防特化
《もっているわざ》
サイコキネシス
きあいだま
リフレクター
でんじは
◆【マンムー/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:かいがらのすず
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
じしん
つららばり
こおりのつぶて
ストーンエッジ
【キャンプボーイのケイイチ 生存確認】
[ステータス]:混乱
[バッグ]:基本支給品一式
[行動方針]:殺し合い反対派
1:とにかく殺し合いを止めたい
2:オーレンに恐怖
▽手持ちポケモン
◆【????/Lv?】
とくせい:
もちもの:
能力値:
《もっているわざ》
????
◆【????/Lv?】
とくせい:
もちもの:
能力値:
《もっているわざ》
????
【エリートトレーナーのリゼ 死亡確認】
[ステータス]:--
[バッグ]:基本支給品一式
[行動方針]:--
〔トレーナープロフィール〕
|名前|りょうりにんのオーレン|
|性別|男|
|容姿|趣味の悪いヒョウ柄のシャツと、黒いベスト。黒のターバンと獣毛のマフラーを身に着けた、筋肉質で体躯のいい男。|
|方針|対主催過激派|
|人物|元傭兵の洋菓子料理人。オカマ口調が特徴。勇敢な性格だが、ドライ。
殺し合いに反対する者を集めてレジスタンス的なのを結成しようと考えている。
ただ、殺し合いに乗っている者は容赦がなく、殺害も辞さない。
傭兵だけあって戦闘センスは高く、ニダンギルを両手に構えてダイレクトアタックする事で意表を突いた。
ただポケモンバトルを『お遊び』だと笑っていたが、決してその腕前が高いわけではない。|
|名前|キャンプボーイのケイイチ|
|性別|男|
|容姿|上下とも緑色の半袖短パンの制服。キャップも緑色|
|方針|殺し合い反対派|
|人物|たまたまキャンプしていた少年。割と感情のままに動いてる感があるので、素直な性格だと思われる。
間違っている事を間違っていると言える人。ただ、所詮は非力な子供に過ぎない。
ポケモンバトルにも自信があるわけでは無い模様。|
|名前|エリートトレーナーのリゼ|
|性別|女|
|容姿|ブロンドの長髪。黒のセーターとスカート|
|方針|マーダー候補|
|人物|ポケモンバトルガチ勢。高慢な面が目立つが、基本的には真面目な性格。
俗に言う厳選や努力値振りなどを知り尽くすのは勿論の事、対戦においても高い勝率を収めている。
腕前こそ相当な者だが、精神的な強さとは別問題。死に対する恐怖に飲まれ、優勝を目指す道を選んだ。
ルールに従順に生きてきたために、トレーナーを直接攻撃するという発想は微塵も無かった。|
以上です。
実はポケモンの構成や、トレーナーの説明などで、状態表を書くのがけっこう大変です。
なので技構成などは????などでボカしてくだされば、後で拾えると思います、はい。
ただ、トレーナーの説明なんかは、オリジナルなので是非ガッツリと書いて頂けると嬉しいです。
ぜひ、貴方の考えうる面白いトレーナーを参加させてください!
みなさまのご参加をお待ちしております!
何か質問がありましたらお気軽にどうぞ。
おお、面白そうなロワが。せっかくですし一つ予約を
ドクターのキリツグ、バックパッカーのマヨイ予約します
>>17
予約ありがとうございます!
ちなみに初登場時には、「新キャラクターを○人予約」みたいに、
あらかじめ肩書と名前を決めてなくても大丈夫な仕様です。
>>18
あっ…
すみません、一旦予約を破棄します
>>19
了解しました、お待ちしております
面白そうなロワですね、私、気になります!
というわけで、新キャラクターを一人予約しますー
>>21
予約ありがとうございます!
楽しみにしております!
新キャラクターを一人予約します
>>23
予約ありがとうございます!!!
新規キャラクター2名で予約させてください
新規キャラクターを二人予約します。
新キャラ2名予約します
>>25 、>>26
予約ありがとうございます!
現在6人分予約が入っております。
既に登場済みが4人。残り30人の書き手枠です。
>>27
ありがとうございます!!
バトルガールで予約します
すいません、予約人数を2名に変更してもよろしいでしょうか?
>>30
ありがとうございます!
>>31
了解です!
書き手枠28人になりました。
>>32
ありがとうございます。
新規キャラクター2名で予約します
すみません、マンムーのとくせいにミスがありましたので修正致します。
◆【マンムー/Lv50】
とくせい:あついしぼう
もちもの:かいがらのすず
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
じしん
つららばり
こおりのつぶて
ストーンエッジ
>>34
ありがとうございます!
すみません、>>11 にもミスを見つけてもらったので、修正致します。
青みを帯びた髪を右手でかき上げながら、リゼはそう言って笑った。
↓
ブロンドの髪を右手でかき上げながら、リゼはそう言って笑った。
新規キャラクター二名で予約します
新規トレーナー一名予約します
投下します
「殺し合いなんて……嫌だよ……」
森の中、一人の少女が膝を抱えて隠れるように座り込む。
少女の名は『コトリ』。
メイドの少女コトリは森の中で怯えていた。
戦うことや争いごとはあまり好きではないコトリ。
可愛いポケモンと毎日戯れる事が趣味だった。
そんな彼女はただただ怯える事しかできなかった。
「怖いよ……誰か助けてよ……そうだ、ポケモンさん……」
手持ちのポケモンを確認する。
コトリに支給されたポケモンはエルフーンとラプラスだった。
可愛いエルフーンと賢いラプラス。
一瞬、可愛いエルフーンに目がいったが、ラプラスの方に着目した。
コトリは精神が不安定ながらも必死で閃いた。
そして、震える指先でポケモンコンバータで操作する。
「……これでいいよね……」
そして、周囲を見渡して誰もいないことを確認してラプラスに指示をする。
「ラプラスさん……『ほろびのうた』」
『〜♪』
ラプラスの綺麗な歌声が周囲に響く。
コトリもその歌声に耳を傾けて聴き浸った。
そう、怖いから支給されたポケモンたちと無理心中を計ったのだ。
誰にも迷惑を掛けないように……静かに一人で……
その時である。
「おい、テメェ!」
「!?」
ヘルガーに跨り、如何にもガラの悪そうで怖そうな男が現れた。
白いツンツンの髪に赤いジャケット、そして手には鈍器……もとい、『ふといホネ』。
男はそのふといホネでコトリの頭をコンと軽く叩いた。
「テメェ、周りもちゃんと見ずに……馬鹿が!!」
「っ!? ……ご、ごめんなさい」
「チッ……うぜぇんだよ、そういうのは!
それよりも早く、そのラプラスとエルフーンをモンスターボールに仕舞いやがれ!」
「……あっ、はい」
男は機嫌が悪そうにコトリに指示する。
コトリは男に怯えながらも従った。
その男は結構近くにいたのだ。
そこでラプラスの『ほろびのうた』を聞いてしまったのだ。
「チッ……いきなり『ほろびのうた』使う馬鹿がいると思ったら、まだガキじゃねーか……
……ったく、テメェは何考えてるんだよ?」
「それは……」
「死ぬためか……」
「だって、私は……何の力もないし、誰かを傷つけるのも嫌だし……だったらいっそのこと……」
「……自殺しようとしたってか?」
「…………はい」
コン……と再び頭を軽く叩かれた。
「テメェ、馬鹿がァッ!!」
「ひっ……」
そして、罵声を浴びせられた。
「命を粗末にすんじゃねぇ!!」
「ご、ごめんなさい……」
コトリは涙目にながらも謝る。
男は渋い顔をしながら、説教する。
「人の命ってそう簡単に奪ったり奪われたりしちゃいけねぇんだよ!!」
「あのう……お兄さんは殺し合いに乗ってないの……?」
「ああァッ!? 乗ってねぇよ! つーか、俺はアイツらが気に食わねぇ!
だから、アイツらには従わねぇ! ただ、それだけだ! 文句あるか!」
「ないです」
「……まっ、生きてりゃそのうちいいこともあるんじゃねぇか?」
男は自身の後頭部を二、三度掻き、溜息を吐く。
そして、男はどこか寂しげな目をして、コトリが思いもしなかったことを告げる。
「…………守ってやるよ」
「え?」
「だから『守ってやる』って言ったんだ、聞こえなかったのか?
まぁ……俺が信用出来ねぇってなら後ろからでも攻撃でもなんでもすればいいさ」
男の声色が少しやさしく感じた。
そして、ほんの僅かだが、男の顔が穏やかな表情に見えた。
「……そんなことはしません!」
それに対してコトリは強く返す。
もう自殺することなどは考えない。
この男のように殺し合い反対の人たちを集めればどうにかなるのでないかと思い始めた。
一先ず、コトリはラプラスのほろびのうたを忘れさせて、ぜったいれいどを覚えさせる。
あと適当だった技構成・能力値を自分が思う適切な型にする。
「……えっと……お兄さんの名前は?」
「ラグナだ」
「ラグナさんって優しいんですね」
「なっ……! ……んなことはねぇよ!」
ラグナは世間一般的にバッドガイと呼ばれる男だ。
だが、彼がバッドガイになったのにも理由があった。
理不尽な暴力により家族を奪われた過去があった。
だからこそ、誰よりも強くなろうと我武者羅に生きてきた。
その結果、世間一般からははみ出した生き方しかできなくなった。
しかし、それは家族を奪った奴らへの復讐のためである、仕方ないことなのだ。
(最後の一人になるまで殺し合いだぁ!? ふざけんなよ!
もう俺からは何も奪わせやしねぇ! パロロワ団にサカモト……テメェら、ぜってぇ殺す!!)
だからこその反逆。
この反骨精神こそがラグナを支える柱である。
なお、このことについてはパロロワ団は一切関係ない。
「じゃあ行くぞ、コトリ」
「はい、ラグナさん!」
二人はラグナのヘルガーに跨りは駆けていく。
一先ずは人が多く集まりそうな市街地に向かっていく。
「で、どこに行くんですか?」
「適当に街でいいんじゃねぇか?」
「何か考えでもあるんですか?」
「んなもんねぇよ! まっ、なんやかんやでどうにかなるんじゃねぇか?」
「…………(……悪い人はないんだけど大丈夫かなぁ?)」
啖呵を切ったはいいが、サカモトを倒す方法とか首輪を外す方法などなど。
ラグナは具体的な方法を何一つ考えてなかった。
そのことに対してコトリは若干の不安を覚えたのは言うまでもない。
【C-6/森/一日目/日中】
【バッドガイのラグナ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ふといホネ
[行動方針]主催者打倒
1:コトリを守る
2:ゲームに乗った奴は倒す
3:人が集まりそうな場所に向かう
▽手持ちポケモン
◆【ヘルガー/Lv50】
とくせい:もらいび
もちもの:いのちのたま
能力値:特攻、素早さ振り
《もっているわざ》
あくのはどう
オーバーヒート
ヘドロばくだん
めざめるパワー(こおり)
◆【????/Lv?】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
【メイドのコトリ 生存確認】
[ステータス]:不安
[バッグ]:基本支給品一式
[行動方針]殺し合いには反対
1:ラグナに着いていく
◆【ラプラス/Lv50】
とくせい:ちょすい
もちもの:たつじんのおび
能力値:HP、防御、特攻、特防調整振り
《もっているわざ》
フリーズドライ
こおりのつぶて
なみのり
ぜったいれいど
◆【エルフーン/Lv50】
とくせい:いたずらごころ
もちもの:たべのこし
能力値:HP、防御振り
《もっているわざ》
ムーンフォース
やどりぎのタネ
みがわり
アンコール
〔トレーナープロフィール〕
|名前|バッドガイのラグナ|
|性別|男|
|容姿|赤いジャケットにツンツンの白髪。|
|方針|主催者打倒|
|人物|パッと見不良の青年。性格は大雑把でぶっきらぼうだが内面は優しい、口調はチンピラそのもの。
難しいことを考えるのも苦手で、行動方針や戦闘スタイルは常に正面突破。リアルファイトもそこそこ出来る程度。
過去に色々失ったようで、失うことを非常に恐れている。右腕は義手。あとロリコン。|
|名前|メイドのコトリ|
|性別|女|
|容姿|白いエプロンドレスのメイド服。ベージュ色の長い髪に緑のリボン。|
|方針|殺し合い反対派|
|人物|メイドカフェでバイトをしている女子高生。
性格はおっとりとしていて、周囲からは天然と評価される癒し系。
お菓子や可愛いものが好きな普通の少女。ポケモンバトルはあまり好きではない。|
投下終了です。
タイトルは『死んで花実が咲くものか』です。
問題等ありましたら、ご指摘ください。
>死んで花実が咲くものか
いい!カッコイイぜラグナさん!!
ふといホネを武器に戦えそうですねぇ、活躍が期待できます!
コトリちゃんも、初めに頼りになる人が駆けつけてきて良かった。
ポケモンがかなりアタリなので、是非頑張ってほしいですね…!
投下お疲れ様です!
ルールにて記述されてなかった点について質問を頂きましたので、
ここで追加したいと思います。
・メガストーンとメガリングの扱いについて
メガリングは「だいじなもの」ですが支給OKとします。
ただし、メガストーンとは別の支給品としてカウントされます。
・PPの概念について
ステータスはゲーム準拠で全て存在してるため、PPもあります。
ポケモンコンバータでは最大値を増やせないものとします。
ランダム支給品として与えられるポイントマックスなどで、PP増やすことが出来ます。
あと見落とされそうなので、改めて強調しときたい点が一つ……。
>>5 参照、ポケモンコンバータについて
>ボールを設置し、タブレット操作を行う事で約15分ほどでポケモンを一体、万全の状態まで治療する事が出来る。
なので、登場話の合間に(連戦でさえ無ければ)ポケモンを全回復させる事が出来ます。
ポケモン対戦のように消耗をあまり気にすることなく、色んな戦術を再現してくれたらなーと思います。
ポイントマックスではなく、ポイントアップでした……
お二方、投下乙です!
ポケモンではなくポケモントレーナーが主役となるというコンセプト、すばらですね!
さっそくカオスな様相を呈していますが、いったいどんな魅力的なキャラたちが揃うのか、今から期待が膨らみます!
それでは私も新規トレーナーを一名予約させていただきます
投下します
黒い男だった。
羽織るトレンチコートも黒ければ、胸元から除くシャツも黒。
よれよれの履き古しと見えるジーンズも、これまた黒。
被っている目出し帽さえも、黒。
おおよそ、黒づくめの男であった。
胸元に手を突っ込み数秒。ゴソゴソと漁った掌が掴んだのはお気に入りの煙草ではなく、モンスターボール。
チッと舌打ちを一つ鳴らし、自らに支給されたポケモン、道具を確認。
続いて『ポケモンコンバータ』と称された機械を取り出し、
「けったいなモン寄越しやがって」
こういったタブレットの操作には慣れていないのか、たどたどしい手つきでポケモンの能力、性格、技構成を変更していく。
「気に食わねえな」
本当に、気に食わない。
現代っ子ならものの数分で終えることができるだろう機械の操作に、時代遅れなおっさんである自分が悪戦苦闘しなければならないこの環境も。
よりにもよって、自分のような存在をこれみよがしに「殺し合い」という「悪」に放り込んだことも。
そしてなによりも。
あの忌々しいパロロワ団とかいう輩がおそらく意図的に自分に支給したポケモンたちのことが。
「皮肉のつもりか、クソッタレ」
思い出す。
鎮魂の塔を占拠したあの頃を。
憤怒の湖で実験を繰り返したあの日々を。
あの輝かしき「悪」の時代を。
暴虐と殺戮と略奪と征服と支配に明け暮れた「牙」の時代を。
そして、その影で犠牲にしていったポケモンたちを。
敬愛するボスのことを間違っていたとは思わない。
今更、涙を流し地べたに頭を押し付けながら謝罪する気もさらさらない。
だがしかし、「こいつら」を「あいつら」とは別個体だとわかってはいても。
突然の「再会」によって意識して、初めて、しこりは胸の奥深くに沈殿し続けていたことに気付いた。
「テメエらは道具だ。分かってるな?」
ボール越しに、ドスを効かせた声をかける。
「ふといホネ」を持ったガラガラと、「ギャラドスナイト」を持った赤いギャラドスに。
「ポケモンタワー」で、かつて殺したポケモンと、「いかりのみずうみ」で、かつて狂わせたポケモンに。
道具に話しかける意味など、ないことを自覚しつつ。
彼らの瞳に映りこむ、自分自身――ロケット団員「だった」存在に、言い聞かせるように。
たった一人の少年によって自分の古巣が壊滅して、どれだけの月日が経っただろうか。
復活を目指し仲間たちと奮起し、それもまた別の少年に潰されてから、何年の歳月が経過しただろうか。
覚えていない。ただただ、絶望し、激情し、諦念を抱いた感情の変遷だけが、ぼんやりと頭の中に残っているだけだった。
組織が潰れてから今まで、何をして生き繋いでいたのか思い出そうとしても、浮かぶのはかつての栄光の記憶ばかりだ。
今の自分は、かつてロケット団に所属し、今や生きるという本能に従うだけの肉袋と化した存在でいかない。
「かつて、じゃねえよボケが」
「まだ、ロケット団は終わってねえ」
いや、違う。
自分が、終わらせないのだ。
「気に食わねえ。俺の生き甲斐(煙草)は奪うは、誇り(悪)を強要するは、こいつら(仇)を寄越すは、気に食わねえことだらけだ。
気に食わねえが……利用できるモンは利用させてもらう」
この殺し合いは乗ることに決めた。
あのサカモトとかいう男が本当のことを言っている保証はない。
仮に生き残っても情報秘匿のために殺される可能性は高いし、ましてや大金を寄越すなんて眉唾もいいとこだ。
「組織再編の可能性が一ミリでもあるなら、な」
だが、組織が潰れてから抜け殻となっていた自分にとっては、蜘蛛の糸に他ならない。
どうせこのまま死んだように生きていても仕方のない命だ。
大金を手に入れロケット団を蘇らせる一歩を刻むという一縷の望みにかけて、足掻くのも悪くない。
殺しにも忌避感はない。「悪」の「牙」に真っ当な倫理観は必要ない。
それにここに集められた参加者は、そもそも拉致され首輪をつけられた時点で既に何を命令されても従うほかない存在なのだ。
パロロワ団にとっての自分たちは所詮、実験動物であり、研究対象であり、金儲けの道具であり。
間違っても「友達」にも「仲間」にも「相棒」にもなりえない存在であり。
対等ではなく下等であり。
……ああ、なんだ。
実験動物だった「あいつら」を思い出し。
研究対象だった「あいつら」を思い出し。
金儲けの道具だった「あいつら」を思い出し。
「因果応報ってか」
そういうことか。分かりやすいじゃねえか。
己の立ち位置は見定まった。あとは生き残るために全力を尽くすだけだ。
必要とあらば「悪」らしく「だましうち」も「ふいうち」も使いこなす必要があるだろう。
そのためには自分の戦力となるポケモンたちの「使い方」を把握しなければならないのだが……1つ、問題がある。
果たしてギャラドスはメガギャラドスにメガシンカできるのか。
ポケモンではなく自らの腕にはめた支給品を一瞥し、馬鹿にするようにフンと鼻を鳴らす。
噂には聞いていたが、まさか自分の手にはめる日が来るとは思いもしなかった、「たいせつなもの」
なにが、たいせつなものか。
「道具に絆だとか情だとか……んなもんは必要ねぇんだよ」
メガリング――メガシンカという名の新たな可能性を切り拓く道具。
本来ならばポケモンとの強い絆を持っていなければ発動しないはずのこのアイテムは、
果たして自分にとっての切り札となるのか、それともガラクタで終わるのか。
「俺たちは、ただ「牙」であればいい」
確かめるために、まずは手ごろな獲物を一匹見つけて「かみつく」のも、悪くはない。
【B-4/道路/一日目/日中】
【ロケットだんのしたっぱのタスク 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、メガリング
[行動方針]皆殺し
1:手頃な参加者に「かみつく」
2:勝つためなら「だましうち」も「ふいうち」も辞さない
3:機会があればメガシンカが行えるか確かめる
▽手持ちポケモン
◆【ギャラドス(色違い)/Lv50】
とくせい:いかく
もちもの:ギャラドスナイト
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
たきのぼり
りゅうのまい
かみつく
じしん
▽手持ちポケモン
◆【ガラガラ/Lv50】
とくせい:ひらいしん
もちもの:ふといホネ
能力値:HP、攻撃振り
《もっているわざ》
ホネブーメラン
ストーンエッジ
はらだいこ
つばめがえし
〔トレーナープロフィール〕
|名前|ロケットだんのしたっぱのタスク|
|性別|男|
|容姿|全身黒づくめ|
|方針|皆殺し|
|人物|かつてロケット団に所属し暴れまわった悪人。ボスを敬愛し、組織のことを誇りに思っている。
だが、ロケット団が壊滅し、ジョウトでの復活も失敗に終わったことにより絶望し、今まで何をするでもなくチンピラとしてその日暮らしをしていた。
口調も気性も荒いが意外と繊細で臆病。それを隠すためにわざとワルぶったり無茶をしたりするところがある。
かつて自分たちが殺したガラガラや実験の犠牲にしたギャラドスに複雑な感情を抱いている。|
投下終了です
>Raid On the City, Knock out, Evil Tusks
悪の組織に所属し、これまでポケモンを道具のように扱ってきたタスクさん。
彼に与えられたのは最強のアイテム、メガリング。
これを使うには支給されたばかりの何の思い出も無いポケモンとの絆が必要……。
彼のこれまでの生き方とは異なった道を歩めれば、上手くいけば圧倒的優位に立てる、そんな状況。
あぁ、いい立ち位置ですね……! これからの戦いを経て、どう進んでいくのか凄く楽しみです!
投下お疲れ様です!
新規キャラクター一枠予約します
予約分が完成したので投下します
「よし! 今日はタブンネを5匹も狩れたぞ!」
「しっかしクラスで噂になってたのは本当だったんだな〜。タブンネを倒したほうが強くなりやすいなんて最初に誰が発見したんだろ」
「ははっ、そんな攻撃なんか効かないってば」
「今日は10体を目的にするぞ! 頑張ろうな●●」
「お兄ちゃん、すごく強いんだね! タブンネを狩るコツとかあるの?」
「えっ、タブンネが■■■■■■だったなんてほんとうなの!?」
「嘘だ……嘘だって言ってよ……」
「僕は、僕たちは最低な人間だったんだ」
「ポケモンバトル? 僕はもうそんなことしたくない」
「なっ……育て屋の回りで○○の死体が数百体も見つかっただって!?」
「今度は××で26体の△△が変死していたのか……」
「ああ、またタブンネか。本当に酷いことをするトレーナーが居るよな、いや、僕もか……」
「プラズマ団?」
「そうか、ポケモンは人間たちから解放されなきゃいけないのか」
「あの方が負けた!? 嘘だろう!? 僕達は、ポケモンはどうなるってんだよ!!」
「そうかお前たちはロット様に付いて行くのか」
「僕はどうするかって?とりあえずイッシュをぶらぶらしようと思う」
「罪を償うためにポケモン達と生きるってのは分かる、だけど僕には無理だ」
「僕はあの方やお前たちとは違う――――ポケモンとトモダチになるなんてそんな資格はない」
☆ ★ ☆
ボールから出てきたその姿を見た瞬間、彼の目からは抑えられない感情が迸った。
幾度も目にしたことのあるそのポケモン。
曲線を帯びたフォルムに、薄白桃色と黄桃色に彩られた体。
タブンネと呼ばれるこのポケモンのことを彼は一時も忘れたことがなかった。
彼にとってタブンネとは歩んできた道と切っても切れぬ関係があった。
自身の原点として。自身の原罪として。自身の道標として。
そして命をかけた場におけるパートナーとして。
彼にとってこの選択は神から与えられた罰であるかのように思えた。
目の前に居るポケモンを巻き込んでしまったのは自分ではないのだろうか。
そんな自責の念すらフツフツと沸き上がってきた。
堪え切れず、彼は不思議そうに見つめるタブンネを力強く抱きしめる。
「ごめんな、ごめんな……」
タブンネは己の首を抱き、謝罪を繰り返しながら嗚咽するトレーナーを困惑した様子で見ていた。
時たまに困ったような視線を相方のキリキザンに向けるが、彼は知ったことかと言わんばかりに首を背ける。
タブンネという種族は耳がよく、故に耳の触覚で相手の感情を読み取ることができると言われている。
が、今の"彼女"はそんなものがなくても目の前で泣き崩れる男が悲しみに暮れていることが理解できた。
少しでも落ち着くようにと自身にしがみつく彼の背中を撫でてみても、彼は更に激しく咽ぶだけ。
このままでも自体は好転しないことを察した彼女は、別の方法を試すことにした。
彼の背中に置いた両手に薄桃色のエネルギーを集めて、解き放つ。
『いやしのはどう』
本来は体の傷を癒やすための技であるが、リラックス効果も期待できる。
タブンネは彼が落ち着くまでずっと波動を彼の体へと送り続けていた。
☆ ★ ☆
『彼女』のおかげで落ち着きは取り戻したものの、僕の心は暗鬱に沈んだままであった。
タブンネが心優しいポケモンであるということは"経験"から知っていた。
知っていたが、今はその優しさがとても痛い。
許されたかったのだろうか、断罪されたかったのだろうか、それともただ胸の内をぶつけたかっただけなのだろうか。
自分が自分でもわからないような状況の中、僕を慰める彼女へと僕は語りかける。
「聞いてくれ、僕は酷い人間だったんだ。
君みたいな心優しいポケモンの相棒になるのにふさわしく無い奴なんだ」
こう前置きし、僕は己の罪を語りだした。
思い出したくもない、だけど忘れることもできぬ忌々しき記憶。
彼女は時に顔を青くしながらも僕の話から耳を逸らさずに聴き続けてくれた。
彼は心なしか睨みつけるような表情を見せながらも話は遮らない。
それも当然だ、そう思いつつ僕は全てを吐き出してゆく。
慟哭のような断末魔のような、そんな僕の叫びを二人は最後まで受け止めてくれた。
胸中を晒しだして抜け殻のようになった僕に彼女が近づいてくる。
何をするのだろうか。
いや、何をされても構わない。
それだけのことはやってしまった。
覚悟か諦念かも分からぬ感情に支配される中、彼女は僕に近づき。
「タブンネ♪」
笑ってくれた、慰めるかのように僕のお腹を優しく叩いてくれた。
彼女の優しさが僕の胸を一番締め付ける。
だから込み上げる衝動を抑えきれずに叫んでいた。
「僕は君の仲間を沢山傷つけてきた! 踏みにじってきた!
君達はどんな悪意に晒されても抵抗すらしなかったのに!
僕ら人間はそんな君達の優しさを知りもせず、知ってすらなお君達を倒すのをやめなかった!」
なのに、なんでそんなに優しくするんだよ……。
最後の一言は声にすらならず喉に引っかかって嗚咽の一つとなって消えた。
「なぁ、僕のことが恨めしいだろう? 人間のことが憎くないのか?
仲間が何人も犠牲になったのに君はまだ人間に優しくすることができるのか?」
僕の問いかけに、タブンネは疑問の1つも抱いていない様子であった。
彼女はおもむろに楽しげな表情で僕の周囲を飛び跳ね始める。
「なにを……?」
僕には彼女が何をやっているのか分からなかった。
伝えたいことがある、それだけは理解できる。
「タブンネ〜」
呆然とする僕に対して彼女は何度も同じ行動を繰り返す。
だけど僕にはポケモンの言葉など分からない。
真剣な表情を浮かべ動き回る彼女の気持ちを受け取って応えることが出来ない。
僕の目からすればそれはただの慰めにしか思えなかった。
他の意図が存在しているのかも分からなかった。
『あの方』と同じ力さえ持っていれば、そうやって臍を噛む。
いや、もっとポケモンへの愛があれば言葉など分からずとも彼女の行動の意図を掴むことが出来たのではないだろうか。
ポケモン解放に逃げこむこと無くもっと昔からポケモンと正々堂々と接することができていれば。
そんな僕を他所に彼女はひたすら何かを伝えようと動き続ける。
「ごめん、な」
プラズマ団を抜けた後の二年間とは一体何だったのだろうか。
ポケモンと関わることを避け、人と関わることを避けて旅という名の逃避行を続けたツケがこれなのだろうか。
一度だけ訪れたホドモエシティにいる昔の仲間達は僕と違って活き活きとしていた。
生きがいを見つけ、ポケモンと共に生きてゆく道を見つけていた。
僕だけが前に進めずにいる。
ポケモンとも、己とも向き合えずに今ここにいる。
「僕なんかがトレーナーになって、ごめんな……」
自身の情けなさにまたしても涙が滲みかけた。
そんな僕を見たせいか、彼女の表情にも影が刺す。
僕は彼女にどのように声をかければいいのだろうか。
こんな僕がなんと言ってやればいいのだろうか――――。
「痛ッ〜〜。」
何かが後頭部に当たった痛みで僕の思考は強制的に中断させられる。
頭を抑えつつ、犯人のいる後ろへと振り返った。
そこにはそっぽを向いたキリキザンだけがいる。
つまり彼が何かを投げてきたのだろう。
それが何かを確かめるために下に目線を向け、『ポケモンコンバーター』を見つけた。
「これで一体どうしろってんだ?」
彼はどうして僕にこんなものをぶつけたんだろうか。
煮え切らない主人に嫌気がさしたのか?
それも当然かもしれない。
彼らは殺し合いなど望んでいるのだろう?
そんなわけがない。
殺し合いなどを強いる僕達に従おうとするなどするのだろう?
そんなわけがない。
だから。
「タブンネ〜」
彼女の真剣ながらどこか間の抜けた声に僕は再び振り返った。
見れば、彼女は両手であるものを掴んでいた。
「モンスターボール?」
僕の声にタブンネはこくこくと首を縦に振る。
パズルがようやく噛み合った。
彼女は自分をバトルコンバーターにかけろと言っているのだ。
なんで、その声を直前になって飲み込む。
今の自分に文句を言う資格などはない。
ポケモンを自由に"操作する"装置など使いたくもなかったが、震える手で手にとった。
次にタブンネの掌からボールを受け取り、ボタンを押す。
「戻れ、タブンネ」
ボールから放たれた赤い光線と彼女が同化してゆき、光は紅白のボールの中へと吸い込まれる。
早くなってゆく鼓動を深い呼吸で無理やり整えつつ、僕はボールをポケモンコンバーターへとセットした。
カチリという音とともにボールが機械にセットされ、付属の端末を恐る恐る手にとった。
これを弄れば手軽に彼女を作り変えることができる。
思わず身震いをした俺が思わず端末から視線を外すと、キリキザンと目があった。
腕組みをしながら木にもたれかかる彼の目には確かに敵意のようなものが見えた。
「友達に何もする気は無いから安心しろよ」
そう言いながら精一杯の乾いた笑みを浮かべる。
このキリキザンはタブンネの肩を持っている節があるのは分かった。
もしかして彼ら同士は「トモダチ」だったのだろうか。
殺し合いのために用意されたポケモンとしては心が優しすぎる。
けど……僕はきっとその立場に立つことなんて出来ないんだろうな。
そんなことを考えつつ、僕は液晶画面を眺めた。
………………。
…………。
……。
カタンと音を立てて僕はタブレットを取り落とした。
視界の端でキリキザンが動いている影が見えた。
そして、僕の頬に熱いものが伝う。
『てだすけ
ノーマル 20/20
いやしのはどう
エスパー 9/10
マジカルシャイン
フェアリー 10/10
なかよくする
ノーマル 13/20』
☆ ★ ☆
僕はまたしても泣き崩れてしまった。
「ありがとう、本当に、本当にありがどう」
手は最初から差し伸べられていたのだ。
彼女は、いや彼もか、とにかく僕へとトモダチになろうと言ってくれていたんだ。
あんなことをやってしまった僕ともトモダチとなってくれると言ったのだ。
今までとは違う涙が溢れて止まらない。
自分に資格があるのかどうかなんてもはや二の次であった。
彼女が願って僕も望んだ。
そうだ、僕はトモダチになりたかったんだ。
かわいそうなポケモンを見てしまって。
ポケモンのために何ができるのかを考えて。
プラズマ団の考えに触れてしまって。
だからポケモンは人間から開放されなくてはいけないと思った。
トモダチのためにできることは人間と引き離すことなんだと信じた。
僕は、僕はただ一緒に歩んで行きたかっただけなのに。
半ば力づくでボールをポケモンコンバーターから引き抜き、彼女をボールから出した。
「僕からもお願いだ、トモダチに……友達になってくれないか」
出てくるやいなや胸に顔を押し当てて咽び泣く僕の頭を彼女は優しく撫でてくれた。
時たま発せられる「タブンネ」という声に篭められた気持ちが今の僕にはよく分かった。
僕の目が罪悪感に眩んでただけなんだ。
彼女は最初の最初から僕を許していてくれたんだ。
正直な話をすれば僕はまだ僕を許せていない。
それでも僕は。
もう一度だけ彼女の丸い胴をギュッと抱きしめた。
カッコ悪いとは思う、それでも抱きしめずにはいられなかった。
そしてもう一つ、もう一つだけ決意が固まった。
「そして、もう一つ君達に頼みたいことがある」
顔を上げ、彼女の瑠璃色をした瞳を、彼の白目がちな瞳を順に見据える。
彼らにとって僕の目はどのように見えているのだろうか、そんなことを考えながら口を動かしてゆく。
「ここには、まだまだ友達が囚われている。僕の、そして君達の友達がパロロワ団に縛られている」
タブンネは愛嬌のある顔を引き締め、キリキザンは相変わらずの表情が分かりにくい顔で、されど視線は僕から外さず。
二人を見ながら胸の内から言葉を吐き出していくにつれて心の臓が燃え上がる音がした。
怖くはある、しかし勇気だけは確かに沸き上がってくるような感覚。
「なんとかしよう、助けよう、助けてもらおう」
この二人が特別に優しいだけでパロロワ団のポケモンは"殺し合い"をするための教育をされているのかもしれない。
いや、この二人だって自分のトレーナー以外とは無理矢理でも戦うようにさせられているのかもしれない。
それでも、それでもだ。
人の都合でそのようなことにされてしまったポケモンが居ていいはずがない、許されていいはずがない。
「ポケモン達を真の意味で救うために、全てのポケモンと友だちになれるように――僕は新生プラズマ団を設立する!」
叫ぶような宣誓と共に僕はカバンの中から黒く輝く石を取り出した。
これはあの方が王の器であった証の一つ。
あの方とトモダチとなった伝説のポケモンが眠りに付く時の姿と呼ばれる石。
何故これがここにあるのか、これが本物なのか。
そんなことは関係ない。
ただ、僕はこの石にプラズマ団としての誓いと願いを込める。
「改めて宣言しよう!我々新生プラズマ団は殺し合いの手からポケモン達を解放してみせる!
僕はプラズマ団下っ端のノエルからプラズマ団ボスのNになる!」
目的はあの方と同じ、トモダチのために戦うこと。
けど、一つだけたった一つだけ違うことはある。
友達のために解放するのではない、友達になるために解放をするのだ。
「キリキザン、タブンネ。至らない僕だが……どうか協力してくれないだろうか?」
この二人がパロロワ団に逆らえない可能性も考慮はしていた。
していた、が不安などはない。
タブンネは即座に満面の笑顔をこちらに向けてくれた。
キリキザンは何もリアクションを取らなかったが、それが肯定の意味合いであることは雰囲気で分かった。
「ありがとう、これから頑張ろうな!」
そう言いつつ僕は彼女の手を取った。
華のような笑みを浮かべてくれた彼女に僕も笑みで返す。
そしてキリキザンとも握手をしようと手を差し出すも、彼はその手を取ってはくれなかった。
代わりに差し出されたのは彼の入っていたモンスターボール。
僕は彼の意図が分からずに困惑する。
測りかねたか僕を見かねたのか彼はしゃがんでポケモンコンバーターを手に取る。
彼の行動に僕はますます混乱してしまった。
何をしたいのか、何をして欲しいのか、それが全く掴むことが出来ない。
回復を求めるにしても彼女はともかく彼は全くと言って消耗をしていないはずだ。
「なぁ、キリキザンはどうして欲しいんだ?」
思わず彼女へと助け舟を求めてしまった。
彼女だけではなく彼もパートナーであり、彼の心も理解しなければならないのに。
少しだけ凹んでしまった僕の心情を他所に、彼に従うかのように彼女も僕へとモンスターボールを差し出す。
「待て、待ってくれ。僕に何をしろっていうんだ!?」
困惑しながらも彼らの意図を理解しようと頭を回している内にあることに気がついた。
……彼女が、震えている。
そんなにも怖いことなのか、それは一体……?
「あっ」
気がついてしまった。
彼女が何を恐れていたのか、彼が何を促そうとしていたのか。
「お前ら……バトルコンバーターで自分の性格を変更しろって言ってるのか……?」
ポケモンというのは性格によって能力が育ちやすかったり育ちにくかったりという個体差があるのはよく知られた事実である。
例を挙げれば陽気なポケモンは比較的素早い個体になりやすい代わりに特攻が育ちにくい等のケースに見られるようなもの。
チラッと見えた彼女の性格は確か「すなお」。
すなおな性格のポケモンはどの能力も上がったり下がったりすることはない。
確かに技を見る限り1つしか攻撃技の無い彼女には攻撃力を下げて防御や特防を上げる性格にしたほうが有益であるし、それを実現するための機械もある。
勝利を追い求めるトレーナーの中には目当ての性格のポケモン以外は不要だと言う者もいるらしい。
彼女はこう言っているのだ。勝つためならば自分の性格を好き勝手に変えても良いと。
明確な畏れの混じった瞳で見つめる彼女の頭を軽く小突いた。
「機械で性格を弄くるなんてそんなことするわけ無いだろ。僕のパートナーになってくれたのはお前なんだからさ」
僕の言葉にパッと笑みを浮かべるも、次の瞬間には萎れた彼女。
力になれないかもしれないことを憂いているのだろうか?
だったならばこれだけは言わなきゃいけない。
「なぁタブンネ、僕たちはさぁ友達だろ? 君だけに無理させる関係なんて僕は望んでない。
君が足りない分は僕がサポートする、だからそんなに気にしないでくれ。
僕を相棒として頼ってくれればいいんだ。頼りないかもしれないけど、それでも」
そこから先は言わなかった。
言わないでも通じてくれると信じたいた。
視線を下に向けた彼女の顔を僕はジッと眺める。
おずおずと視線を上げる彼女に僕は笑いかける。
もしかしたらぎこちなかったかもしれない。
僕の内にある自信のなさを読み取られたかもしれない。
それでも彼女は笑ってくれた。
再度、彼女の頭に手をやった。
今度は小突くのではなく、優しく撫でる。
柔らかな毛の感触し、暖かな体温を確かに感じた。
彼女も満足してくれたのか、気持ち良さ気に目を細める。
ひとしきり撫で終わった後にキリキザンへと視線を向けると、彼は相も変わらずボールを持っていた。
「だから、そんなことしなくていいんだってさ」
少しの怒りが混ざった声を出した所で思い出したことがあった。
彼の技構成が分からない。
確かにそれは困る。
だからこそ彼はポケモンコンバーターを使えと言っているのではないだろうか。
だが、やはり機械を使って彼の情報を覗き見るのには何か抵抗があった。
これは『回復』のためにしか使いたくないと思っている。
「なぁ、今ここでお前がどんな技を持ってるのかみせてくれよ。」
そこで僕はこのように提案した。
パートナーになったポケモンの技なんてこうやって確認するトレーナーのほうが多い。
もしかしたら判断に困ることがあるかもしれないが、それでも彼と相棒になるためには必要な経験なのではないだろうか。
『あの方』の様にポケモンと友達になるための第一歩として。
しかし、それでも彼は一歩も引く様子を見せない。
ボールを突きつけたまま、身にした刃のように鋭い眼光で僕を見据える。
「お前は本当にいじっぱりなやつだなぁ」
苦笑を浮かべつつも譲る気はない。
しばらく続いた睨み合いの末、折れたのは彼の方だった。
やれやれと言わんばかりの態度で踵を返し、近くにあった木にどっかりともたれ掛かる。
そんな彼に対して楽しげにちょっかいを出しに行くタブンネと、それを鬱陶しそうに振り払いながらも本気で抵抗をしないキリキザンを見ながら僕は考える。
結局『あの方』は世界を変えることが出来なかった。
それでも彼のお陰で僕は間違いながらも正しい道へと進むことが出来た。
だから、僕に力を。
貴方が僕を変えたように、僕がみなを変えるように出来る力を。
どうか、どうか。
このダークストーンにかけて。
伝説のポケモンとすら友として歩んで行けるような力を。
僕に――――。
【A-3/森/一日目/日中】
【バックパッカーのノエル 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ダークストーン(真贋は不明)
[行動方針]対主催
1:友達のために殺し合いを打破する
2:新生プラズマ団の団員を増やす(自身がボスでなくても構わない)
▽手持ちポケモン
◆【タブンネ】
とくせい:いやしのこころ
もちもの:謎の石(謎の石ったら謎の石)
能力値:すなおHBぶっぱ
《もっているわざ》
てだすけ
いやしのはどう
ムーンフォース
なかよくする
▽手持ちポケモン
◆【キリキザン】
とくせい:まけんき
もちもの:突撃チョッキ
能力値:いじっぱりHAぶっぱ
《もっているわざ》
アイアンヘッド
ふいうち
けたぐり
ハサミギロチン
〔トレーナープロフィール〕
|名前|バックパッカーのノエル|
|性別|男|
|容姿|BW2のバックパッカーと同一|
|方針|友達のために殺し合いを打破する|
|人物|元プラズマ団員、真面目で優しいが一度思い込むと周囲が見えなくなりがち。本文中以外でのキャラ付けは後続の方にお任せします|
投下完了です
何か有りましたら遠慮なく指摘してください
>Nのプラズマ団
あぁ、ポケモン廃人への風刺で心が痛いッ……!
ポケモンの世界が営まれる上で、僕らの厳選がこういった弊害を生むと考えると、
なんだか凄くポケモンというゲームへの意識が改められる気がします。
ノエルは自分の行為に強く罪の意識を感じ、それをずっと背負ってきた。
そんな彼をタブンネは、優しく慈愛で包み込んだ。
……どちらの行為も感情も、きっとただただ純粋な心から来ているんだろうな、と思いました。
自責するほどに相手の苦痛に共感する事も、悲しむ人を慰めたく思う事も、純粋さゆえです。
この温かな関係の輪を広げるために、組織を再興する事を宣言したノエル。
彼の想いの強さを、どれだけ戦いの強さへと還元出来るのか、動向が非常に気になりますね。
投下お疲れ様です!!
新規キャラクターを二人予約します。
投下します
少年は泣きじゃくりながら、廃墟と化している町を歩いていた。
彼の名前はゴロウ。野球帽を被り、短パンを履いた、非常に活発な少年である。
夢は将来ポケモンチャンピオンとポケモンバトルをして、見事勝利して、殿堂入りをすることだった。
夢の為に彼はトレーナーを見つけたら(問答無用で)勝負を仕掛けて、ポケモンの経験値を高め、
どうやればバトルに勝つことが出来るかを、毎日夜更かししてまで考える程の、努力家であった。
今日この日、彼がこの殺し合いの場に呼ばれていなければ、彼は順当にトレーナーとしての質を高めていけただろう。
呼ばれていなければ、の話である。
「嫌だ……僕、殺し合いなんかしたくないよ……」
ゴロウは殺し合いなどしたくなかった。
活発な少年であるゴロウだったが、それと同時に彼は臆病でもある。
自分ではとても無理だし、かといってポケモンを使って誰かを殺すなどは以ての外だった。
どうすることもできない少年は、泣き続けることしかできない。
「どうすればいいの……?」
泣きながらも必死にゴロウは考えたが、結論を出すことができない。
誰かに助けを求めたいが、もしそれが悪い人で殺し合いに乗っていたら自分はどうすることもできない。
かといって自身から何かを起こそうものならば、争いは免れられない。
どう考えても最悪な結末しか連想できなかった。
一層、涙が止め処なく溢れてくる。
「うううっ……う? な、何? この寒気……」
突如としてゴロウは全身に寒気を感じた。
ぶるっと身震いをしたゴロウは、歩くのを止めて辺りをキョロキョロと見回す。
しかしながら周りには誰も存在しない。
再び全身に寒気を感じる。
「……後ろ?」
何かしらの気配を後ろから感じ、正体を確かめようとゴロウは後ろに振り向いた。
果たしてそこには、ゴロウが感じた通り何かがゴロウの後ろに現れていた。
紫色の体色に赤く吊りあがった目、この特徴的な姿は――
「――ゲンガー?」
そこにいたのは紛れも無いゲンガーであった。
だが、違和感を感じた。
ゴロウはデイバッグに入っているモンスターボールを確認しておらず、どんなモンスターが入っているか把握していない。
ポケモンがモンスターボールから勝手に出てきた可能性もあるが、デイバッグから出していないのでありえない。
――ならば、どうしてここにゲンガーがいる?
「どうして、だッ!?」
心の中で考えていた疑問を口に出した瞬間、ゲンガーが襲い掛かってきた。
すんでのところで避けることができたが、一歩間違えたら自身の命は無かっただろう。
しかし息つく暇もなくゲンガーは再び襲い掛かってくる。
「ひ、いっ……!」
ゴロウはもう一度ゲンガーの攻撃をかわし、素早く立ち上がって逃げるべく走り出す。
後ろを振り返れば、やはりゲンガーは追いかけてくる。
どうやら自分は殺し合いに乗った人間に見つかってしまったようだ。
「はっ、はっ、はっ、はっ……」
デイバッグに入っているモンスターボールを取り出して迎撃する、という考えはゴロウの中にはない。
彼の頭の中は、捕まらないようにひたすら逃げるという思考で埋め尽くされていた。
捕まれば死ぬのは明白である。まだゴロウは死にたくなかった。
「こっちだ! 早く!」
前方から男の人の声が聞こえたのでゴロウは顔を上げると、視界に男の人の姿が写った。
現れた男性は大きく手を振り、そこの民家へ逃げ込むようにジェスチャーをした後に、自身もその民家に入っていった。
助かった……ゴロウは本心からそう思った。
残された力を振り絞り、ゴロウは全力で駆け抜け民家へと入った。
全力疾走で疲れ果てたゴロウは、息も絶え絶えに地面に倒れこむ。
全身から汗が吹き出し、不快な湿気を作り出す。
「危ないところだったね……大丈夫だった?」
「はあっ、はあっ、は、はい……はぁっ、何とか……」
先程助けてくれたし、優しい声音で自身を労わってくれる辺り、この人は殺し合いに乗った人ではないとゴロウは判断した。
お礼を言いながら、その顔を見ようとゴロウは目を開ける。
広がるのは、真っ暗闇であった。
「え、これ――
言葉を最後まで発することなく、ゴロウの意識は消え去る。
同時にゴロウの命の灯火が消えた瞬間でもあった。
【たんぱんこぞうのゴロウ 死亡確認】
■ ■ ■
手に持っていたポケモン――ヌケニンを離し、モンスターボールの中に戻してポケットにしまう。
程なくして自身に支給されたもう一匹のポケモン、ゲンガーが民家内に入ってきた。
ゲンガーに労いの言葉をかけ、ヌケニンと同じくボールの中に戻してポケットの中にしまう。
戻し終わった後に男がしたのは、死体が持つバッグに入っている二つのボールの回収。
「うし。戦力確保っと。確認確認……」
最初に戦力の確保をしたいと思っていた男にとって、泣きじゃくりながら歩く少年は絶好のカモである。
この少年なら無理にバトルを挑まなくとも、頭を使えば戦わずして勝てるだろうと男は内心で確信していた。
ゲンガーを使って襲わせて、自分は少年を助ける振りをして家に誘い出し、ヌケニンの背中の隙間を見せる。
計画は面白いように成功した。苦痛を伴わず殺してやったので、それだけは少年のとっての救いだっただろう。
殺した側の身勝手な後付に過ぎないが、自分はそのほうがマシだと思っている。
「調整は……こんなモンでいいか」
次に自分がするべきことは誰かしら協力できそうな人を見つけて、その人と一緒に行動することだ。
恐らくこの殺し合いに反発を覚えている人間は、少なからずとも存在するだろう。
自分も殺し合いに対抗するというスタンスで行けば、必ずとは言えないが同行を許可してくれるはず。
そのような人間となるたけ早く遭遇し、自身の生存率を高めることが現在の最優先事項と白衣の男は定める。
その次の方針は、参加者の人数が減ってきてから考えればよい。
そうではない所謂殺し合いに乗った人間に遭遇したならば、どうするべきか。
自身より強いポケモントレーナーはいるだろうし、戦力を確保したといえども万が一の可能性は充分に考えられる。
よって戦闘は極力避けるようにしなければならない。
さて、今後の方針を固めたところでそろそろ動かなければならない。
白衣の男、けんきゅういんのケンジは対主催の人間を探すべく民家を出た。
【B-6/廃墟の町/一日目/日中】
【けんきゅういんのケンジ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式
[行動方針]生き残り重視
1:対主催の人間を見つけて協力する
2:戦闘は極力避ける
3:その後の方針は参加者の人数が減ってから考える
◆【ヌケニン/Lv50】
とくせい:ふしぎなまもり
もちもの:きあいのタスキ
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
つるぎのまい
あやしいひかり
シャドークロー
シザークロス
◆【ゲンガー/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:なし
能力値:素早さ、特攻特化
《もっているわざ》
マジカルシャイン
おにび
シャドーボール
みちづれ
◆【????/Lv?】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
◆【????/Lv?】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|けんきゅういんのケンジ|
|性別|男|
|容姿|ポケモン内におけるけんきゅういんの格好と同一|
|方針|生存重視|
|人物|何を研究しているのかは不明だが、研究員という職についている男
自身の保身が最優先事項であり、他者を考えるのは自分の身の安全が確保された後からでないと考えない
使うとギエピーと鳴くピッピ人形を作ったことがある|
|名前|たんぱんこぞうのゴロウ|
|性別|男|
|容姿|第三世代と同一|
|方針|殺し合い反対|
|人物|ポケモンチャンピオンになることを夢見て努力し続けた少年
毎日夜更かしして戦術を考えて、ポケモンを成長させる為に多少強引な手を使ってでもバトルを挑む
最近は努力値や厳選などについてを勉強し始めていた|
投下終了です
投下お疲れ様です!霊タイプはおっかないしこの対主催……。
人間とポケモンが合わさるとどんどん悪巧みも増えますねえ。
私も新規キャラクター二名予約させて頂きます。
皆様投下乙です!ポケモン世界への愛を感じてワクワクしますね。
自分も新規キャラクター×2、予約しますね。
新キャラ一人予約します。
>よわき
非力な子供なぞ、こういった場では容赦なく襲われるのみ!
ヌケニンの背中の空洞を見せて、魂を吸い取るという殺害方法には驚きました……!
ケンジ、なかなか狡猾なキャラクターです。
こういうリアルな人間のズルさがあるキャラは魅力的です。
投下お疲れ様です!
皆様、投下お疲れ様です。りょ、良作ばかりじゃないか……。
私も拙作が完成しましたので、投下します。
島の中央、そのやや北よりにある、小さなどうくつ。
水滴の落ちる音が響くなか、二つの鳴き声が聞こえた。
猛々しい声と、優しい声。
そのどちらも、どことなくリラックスしているように聞こえた。
「おーよしよし……キミ、気持ちいいか?」
奥の方に、二匹のポケモンと一人の少女――背は小さいが、出てるところは出ている――がいた。
そのうちの一匹に、少女は過剰なように撫でている。
ただ、撫でられている方のポケモンもまんざらでもないように声を上げていた。
それだけ、接し方が上手いのだろうか。まだ出会って短い間ではあるが、すでに少女とポケモンは打ち解けているようにも見えた。
「それにしても、キミ達ふかふかだね……自分が気持ちいいぞ……」
少女の近くにいた二匹のポケモンは、共に毛深く、ふさふさであった。
片や分類上は『でんせつ』として扱われているほのおタイプのポケモン、ウインディ。
片やその愛くるしい姿が人気の、くさ・フェアリータイプのポケモン、エルフーン。
共に彼女の支給ポケモンとして、モンスターボールに入っていた。
それを彼女は両方出して、こうしてスキンシップをとっている。
「はぁ……こんな現実逃避してる場合じゃないよね……」
が、それが気休めである事は彼女自身がよく分かっていた。
ここは殺し合いを強制させられている場で、たった一人しか生き残れないのだという。
その説明はとても信じられない。だが、実際にそれを理解せねばならぬものはもう見てしまった。
目の前で、人の体が―――爆発した、瞬間を。
「………っ」
思わず、涙がにじむ。
その光景を見た時は、恐怖で思わずへたりこんで、泣きじゃくってしまった。
それぐらい、彼女は普通の子でしかないのだ。
彼女の名は、ガナハ。肩書きは『ポケモンブリーダー』であるが、まだ見習いである。
遠い地方から一人上京(?)し、ポケモンのなんたるかを意欲的に学び、いつか一流のポケモンブリーダーになることが夢である、普通の少女だ。
理由なんて単純。ポケモンが、好きだから。
仲良くしたい、心を通わせたいと、幼い頃からそう強く願っていた。
「なんで、こんなことに……」
しかし、そんな夢を見る前に、こんな現実を目の当たりにしてしまった。
大好きな筈のポケモンを使って、戦って、殺して、生き残る。
どうして、こんなことをしなくちゃいけないのか。
あまりにもひどすぎる不条理に、体は震え、立ち上がる気力も起きない。
「……ねぇ」
弱々しい声で、律儀に待っている二匹のポケモンに声を掛ける。
反応は、ない。帰ってきたところで『はい』なんて喋る筈もないのだが。
「キミ達はさ、あの人達に用意されたんだよね?
『おや』が、パロロワ団って……つまり、そういう事だし」
答えを気にすることもなく、彼女は細々と話しつづける。
そんな情報は、ポケモンを出す前にポケモンコンバータという機械で確認できた。
性格やわざをこんな機械で弄るような気にはなれなかったが、その情報だけは気にかかっていた。
「だったら、やっぱりこのイベントに参加する事が幸せなの?
この殺し合いで成果を出すのが……キミ達の、望んでる事なのか?」
そうして、彼女がふと考え付いた結論を語る。
この情報が正しいならば、このポケモンはあの集団に育てられたという事になる。
なら、用意された目的に殉じる事が、一番の幸せなのではないだろうか。
そんな推測に、至っていた。
「………」
目の前にいる二匹のポケモンを、じっと見つめる。
二匹とも、何も言わない。ただ、自らの主である少女を見つめるだけ。
少女も黙りこくって、洞窟内は静寂が広がっていく。
そして、何度目かの水滴が落ちる音が響き渡った時。
「……違う、よね」
はっきりと、そう断言した。
「その目を見たら、分かるよ。キミ達は、心細いんだ。
自分とおんなじでしょ。わけの分からないところに投げ出されて、知らない人に使われて……」
何かを噛み締めるように、呟いていく。
ガナハにとって、今ここにいる二匹――例外なく、ポケモンは大切な存在だ。
しかし、この二匹のポケモンが大切だと思っているのは、別の存在なのだろう。
どれだけ愛でたって、彼女は『おや』にはなれない。
唯一無二の存在なんだ。それはきっと、家族と同じ事。
きっと、このポケモンと出会い、育てて、苦楽を共にした誰かがいる筈なのだ、と。
その事を思うと、ガナハの中でふつふつと何か、気持ちが湧き出てくる。
「会いたい、よね」
会わせてやりたい。
この二匹を、殺し合いの道具になんかしてやるものか。
『たいせつな人』に、また胸を張って出会えるように。
こんなわけもわからないまま、大切な人とお別れするなんてイヤだろう。
少なくとも、彼女自身はそうだった。
たった一人、夢をかなえるために旅立った時に、イヤという程『サヨナラ』を経験してきた。
そのすべてが、辛くて悲しくて。もうこれっきりだなんて、思いたくない。
もう一度、会いたい。そう思う気持ちは、誰だって同じ筈だから。
自分の為には、立ち向かう勇気が出なかった。
でも、今の自分は一人じゃない。この子達の為なら、反抗できる。
――彼女は、純粋だ。
影に隠れた悪意や不条理を、考えない程に。綺麗事を、期待するほどに。
傲慢な、ただのおせっかいなのかもしれない。
それでも、その純粋さで強さが生まれるのなら、悪くはないだろう。
「……よっし! そうと決まれば、まずは名前決めだぞ!」
力強く立ち上がった彼女がまず最初にやろうと決断したのは、名前付けだった。
彼女は、親しくなろうとしたポケモンには必ずニックネームをつける。
人の所有物に勝手に名前を付けるのはどうかと思ったが、現状分からないのだから仕方がない。
種族名で呼ぶのも、彼女は気が引けた。人の事を『人間』と呼ぶようなものである。
「えっと……確かキミがオスで、キミがメスだったよね」
彼女がオスだと指差したのはウインディで、メスはエルフーン。
これも、ポケモンコンバータで確認した情報だ。
ポケモンブリーダーたるもの、そんな機械に頼ってはいけないのかもしれないが、哀しきかな彼女はまだ見習いである。
確実に確認する方法は、これしかなかった。
「んー……それじゃ、キミはウイン太! いい?」
そう言って、彼女が確認すると、ウインディは吠えて反応した。
それが果たして賛成なのか反対なのか、分かる術はない。
しかし彼女は「うんうん、喜んでくれてうれしいぞ」と満足げであった。
「で、キミは……エル子…エル奈…? うーん……。
……あ! エル美、とかどう? うんうん、決まり!」
そしてエルフーンに対しても、若干悩んで命名する。
エルフーンの方も、いつもと変わらぬ笑顔で反応した。
こうして、ここにいるウイン太(ガナハ命名)とエル美(ガナハ命名)は、丁重に名前をいただいたのであった。
「それじゃ、一緒に頑張ろうね、ウイン太、エル美!
自分達が一緒に力を合わせれば、どんな事だってなんくるないさー!」
気を立て直して、ガナハは手を高く上げて決意表明をする。
『なんくるないさー』とは、彼女の生まれた地方で大体『なんとかなる』という意味合いを持つ。
厳密には違うが、それを知る者も気にする者もおそらくいないので問題はない。
大事なのは、気の持ちようだ。
そして、それに呼応するように二匹のポケモンも鳴き声を上げた。
果たして、本当に二匹が彼女の想うように愛情持って育てられたのかは、分からない。
それでも、決意した道に二匹はついていく。
持ち主に従うポケモンの定めなのか、あるいは――――
Rebellion―――胸に確かな決意を持って、彼女は『反抗』する。
【B-4/どうくつその1/一日目/日中】
【ポケモンブリーダーのガナハ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]対主催
1:ウイン太とエル美の為に、この殺し合いに反抗する。
◆【ウインディ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♂です
◆【エルフーン/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♀です
〔トレーナープロフィール〕
|名前|ポケモンブリーダーのガナハ|
|性別|女|
|容姿|腰まで届く黒髪のポニーテールに褐色肌、八重歯が特徴的で幼げな顔立ち。
服装は白いシャツにふともも丸見えレベルの短パン。ふとももが眩しい。|
|方針|生存重視|
|人物|ポケモンブリーダー見習いの元気で活発な女の子。年は十代後半だが、身長は中学生と並ぶぐらいに小さい。
ポケモンの事をとても大切にしており、意志疎通ができるとは本人の談だが、信憑性は不明。
今暮らしている地方とは遠く離れている地方生まれであり、そこの方便も使う事があるが、基本的には標準語。
良く使うのは出会いの挨拶として「はいさい」、何とかなるさといった意味合いの「なんくるないさー」だろうか。
トレーナーとしても見習い程度。ポケモンの状態はよく理解できるが、それを戦略に生かせるかは微妙。そこまで頭もよくはない。
念の為に書くが、別にテレビでよく見るあの職業というわけではないし、例のアレとも絡ませてはいけない(戒め)|
投下終了しました。
ポケモンコンバータの機能を勝手に追加してしまったように思いますし、トレーナーのパロディの件も含めて問題がありましたら指摘の方お願いします
>Rebellion
ポケモンと積極的に触れ合ってる姿は実に微笑ましい。
ニックネームもいいですね! NNがあることで、この二体は「ガナハのポケモン」として尽くしてくれるはずです!
コンバータやパロディは全く問題ありません。
おや名については「要らないかなぁ」…と思ってたので、SSにて使ってもらえて良かったです。
投下お疲れ様でした!
少年の頃に見た夢をポケットに収めたまま大人になれる人間は少ない。
大人に向かって懸命に走っている途中にいつの間にか落としてしまうか、ポケットに夢を入れたまま未来を洗濯/選択してしまうか、
あるいは、余りにも大きなソレは自分のポケットには収まらないと気づいてしまうか。
ギャンブラーのアトもそうであった、少年の頃に抱いていたポケモンマスターという夢は自分の器に大して余りにも大きすぎる夢だと気づいてしまった、
気づいた切っ掛けはたった一度の敗北だった、エリートトレーナーだった彼はある一人の少年に完膚なきまでに叩きのめされ、
その敗北を切っ掛けに彼は負けを重ね、自分の道が如何に困難であるか気づいてしまい、モンスターボールを置いて、逃げ去ってしまった。
しばらくして、彼を打ち負かした少年はリーグチャンピオンになったが、そんなことを彼は知る由もなかった。
新聞も、テレビも、パソコンも、ラジオも無い場所へと彼は逃げ出した、だから彼はそんなことを知ることは出来ないし、知らなくて良いと思っている。
見ず知らずの他人が語る輝かしい未来は彼の耳を腐らせるし、見ず知らずの他人が掴んだ輝かしい成功の眩しさは彼の目を焼いてしまう。
彼はコガネシティの地下通路で毛布とも言えないような安い布を被って眠る、コガネ百貨店だって彼の夢を買ってはくれまい、
どこにも売ることの出来ないその夢をどこかに捨て去ったと思い込み、日の光すらも避けて、彼は眠る。
偶に、彼は夢を見る。
あったかもしれない輝かしい将来の夢を、ポケモンマスターである己の姿を。
最高の夢から目覚めたアトは、自分が何でもないただの落伍者であることをすぐに思い出し、涙を流し、反吐を吐く。
もう二度と夢を見ないように、自分の中の夢の亡霊を全て吐き捨てようと、彼はひたすらに吐き続ける。
月に一度だけ、彼は地上に出る。
地下通路から出る度に、彼は太陽の眩しさを思い出して、彼は倒れた。
そして、ゲームコーナーに向かい、勝利し、ありったけの景品を持ち帰る。
エリートトレーナーだった頃、彼はわざマシンやポケモンのために、ゲームコーナーのスロットをよく利用していた。
その経験からか、彼はスロットが神がかり的に上手い。
技術が介入出来ない部分に、技術で以て介入し、容赦なく777を揃えていく。
彼が未だに持っている夢の残骸の一つだ、夢を捨て去ったというのに、かつて夢のために手に入れた技術が彼の命を支えている。
そして、地下通路に戻り、手に入れたものを売り捌き、また彼はだらだらと生き続ける。
はずだった。
「……え゙っ」
降り注ぐ陽光の眩しさに彼は倒れこみ、そして殺し合いという環境下に置かれていることに気づき、彼は吐いた。
自分の顔が反吐の海に沈むことなど気に留めず、彼は吐き続けた。
夢の亡霊すらも吐き切れないというのに今ここにある悪夢など吐き出せるはずがない、そんなことはわかっている、それでも吐いた。
そして吐き出すものが胃液しか無くなり、彼は立ち上がった。
反吐に塗れた顔面を薄汚れたコートで拭う、そして少し考えて反吐塗れになったコートを脱ぎ捨てた。
どうせ死ぬなら、少しでも綺麗な姿で死にたいと思った。
アトには、今自分に起こっていることが罰であるとしか思えなかった。
必死で逃げようとしたがポケモンマスターという夢はとうとう自分に追いついた、そして捨てた己に復讐の牙を突き立てようとしているのだと。
それでもいいと思った、何時までも無駄に生き続けるだけだ。
夢を終わらせても、自分を終わらせる勇気はなかった、それでも他人が自分を終わらせるならば、それでもいいと思えた。
「好きにしろよ、俺はもう疲れた」
地面の上に仰向けに大の字になった。
陽の光が肌に染みこんで、自分を殺すような錯覚を覚えた。
だが、それは所詮錯覚だ。
自分を殺すのは、他人の殺意であり、そして夢を捨てた過去の自分だ。
がた、と自分がいつの間にか背負っていたバッグが揺れたような気がした。
そういえば、中にポケモンがいるらしい。
逃してしまおうと、アトは思った。
わざわざ自殺志願者にポケモンを付き合わせるまでも無いように思える。
上体だけを起こし、カバンを手に持ち、中身を開く。
ポケッチ――ポケギアではないらしい、死ぬ前に数年ぶりにポケモンミュージックでも聞こうと思ったがラジオ機能は無いらしい、興味はない。
水、食糧――量と質、共に大したものではないらしい。パロロワ団は最後の晩餐だからといって気を回すつもりはないらしい。
ポケモンコンバータ――興味が無い。
そして――二つのモンスターボール。
「出ろ」
出ろ、などとまるで囚人に言うようではないか、とアトは自嘲する。
囚人なのは、アトの方だ。そしてポケモンは――生きたアイアンメイデンか、ギロチンか、あるいは電気椅子かもしれない。
モンスターボールから現れた、彼らの姿を見た時、
1秒間、アトは完全に動きを止め。
その10秒後に自身の意識が飛んでいたことに気づき、そして泣いた。
夢の亡霊が、こんなところまで追ってきたのだと思った。
No.001 フシギダネ
たねポケモン
たかさ 0.7m
おもさ 6.9kg
くさタイプ
どくタイプ
うまれたときから せなかにたねを せおっている
からだが おおきくそだつごとに おおきくなる。
No.016 ポッポ
ことりポケモン
たかさ 0.3m
おもさ 1.8kg
ノーマルタイプ
ひこうタイプ
くさむらや もりに おおく ぶんぷ。
おとなしい せいかくで
はばたいて すなをかけ てきを おいはらう。
「畜生……ッ!畜生!!」
子どものように泣きながら、アトは数年ぶりに叫んでいた。
彼らこそが、アトの夢の始まりだった。
フシギダネは、一番最初に手に入れたポケモンで、ポッポは初めて己の手でゲットしたポケモンだった。
彼らと過ごした日々は夢を追う輝かしい時代だった、そして捨て去ったのも反吐を吐き捨てたのもアトだ。
そして、二匹は再び、アトの手へと戻ってきた。
運命の悪戯か。
「ポケモンマスターが駄目なら、殺し合いで一番を目指せってか!?もう一度、やり直せってかァ!?」
――あるいは、パロロワ団の作為か。
いずれにせよ、アトの手に夢の始まりは戻った。
そして数年ぶりに取り戻した怒りの感情に引きずられて、捨て去ったはずの夢が、
見ることが出来たかもしれない輝かしい未来のイメージが、アトの心の奥底から湧き上がる。
「やり直せるなら……やり直してぇに決まってるじゃねぇかよ!!
俺だって……俺だって……俺だって……俺だってなぁッ!本当は!ポケモンマスターになりてぇよ!!でも……無理だ、無理なんだよ……」
だが、輝かしい未来は、呆気無く、過去のたった一度の敗戦のイメージの前に崩れ去る。
「帰ったところで……今から頑張ったところで……もう、アイツの背中に…………追いつけねぇよ」
名前も知らない少年の圧倒的な差、数年間燻っていた自分と今も戦っているであろう少年、
その圧倒的な差は、今では天文学的数字にまで広がっているだろう。
「余計な……お世話だ」
心配そうに彼を見つめる二匹のポケモンのことなど、アトの目には入らない。
夢は一瞬だけ蘇り、そして散った。
アトは、ただどうしようもない自分がいることに気がつくだけだ。
太陽に手を伸ばす。
太陽は手のひらに収まる、それでも届かない。
手の中にあるのは虚無だけだ。
「掴みてぇよぉ、俺だって。でもよぉ、必死こいて、必死こいて、必死こいて、それでも何も掴むことが出来ない自分に気がつくだけなんだよ。
神様よぉ……最初から夢なんて見せてくれなきゃ良かったんだ…………そしたら、俺だって……俺だって……もっと別の何かに」
自嘲の声が零れた。
「別の何かなんかねぇよ、俺にはポケモンバトルしか無かったんだ」
アトはふらつきながら立ち上がった、寝転がりながら太陽に手を伸ばしても、手は届かない。
立ち上がれば、少しは太陽に手が届くかもしれない。
アトは手の中に太陽のぬくもりを掴んだ。
「なれねぇよ、俺はポケモンマスターに。でも、いいよ。
俺は死ぬ……かもしれねぇ、でも生き残れるかもしれねぇ、そしたらもう一回…………もう一回…………
違う!俺が言いたいことはそういうことじゃねぇ!!!なりてぇんだよ俺はポケモンマスターにッ!!!!!!本当はずっと!ずっと!ずっと!なりたかったんだ!」
泣きじゃくりながら叫ぶ声が聴こえる。
泣いていたのは、アトではなかった。
エリートトレーナーだった頃のアトが、夢を追っていた頃のアトが、泣いていた。
「ゴメンな……俺、ゴメンな……皆、俺は……俺は……気づいてなかったんだ。
死ねば俺はもう二度と夢を追うことは出来ない、でも……生きてれば、また夢は追える……
例え、反吐まみれのギャンブラーになっても。だから、俺は……今まで生きていた……」
この場所で初めて、アトはフシギダネの顔を、ポッポの顔を見た。
「生きて帰りてぇ……頼む、もう一度、俺の夢のために力を貸してくれ」
「ダネ!」
「ポ!」
捨て去った夢をもう一度拾い、アトは走る。
例え、それが血塗れの道でも、夢への道には変わりなかった。
【B-1/はいきょのまちその2/一日目/日中】
【ギャンブラーのアト 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]優勝狙い
1:夢のために走る
◆【フシギダネ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
◆【ヒトカゲ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|ギャンブラーのアト|
|性別|男|
|容姿|第四世代以降のギャンブラーと同一、ただしコートは脱いでいる|
|方針|優勝狙い|
|人物|夢を追い、夢に破れ、それでも――夢が、彼を立ち上がらせた。
投下終了します
>それでも なお お前の目に あの夢が 何よりも眩しいのなら
挫折を経験し、どん底へと転がり落ちた男が見た希望の光。
バトルロワイアルに置かれた事で、心に変革がもたらされたレアケースですね。
ギャンブラーのアトは、その命を賭けた勝負に勝てるだろうか。
…支給ポケモンが良くも悪くも頼りない…。でもきっと、既にどん底に居る彼ならば、あわよくば…。
投下お疲れ様でした!
設定の不備に関していくらか質問を頂いたので、追加で設定したいと思います。
【支給品について】
・ランダム支給品は第六世代にて入手可能なものを準拠とする。(例えば、第二世代の「きのみ」や「はかいのいでんし」などはナシ)
・ポケモンの型構成は、第六世代の環境下にて再現可能なものとする。(例えば、第一世代のわざマシンや、全能力252振りなどは無し)
・ポケモンコンバータの回復機能において、15分経たずにボールを外した場合は、一切回復効果を得られない。
・また、ダメージの量や状態異常など条件が異なる場合も、治療には一律15分必要とする。
【トレーナーについて】
・所持ポケモンの数は制限されません。
・肩書きは、現時点で悪の組織に所属している場合は禁止(脱退済み、解体済みであればセーフ)。
・ジムトレーナー自体は問題ありませんが(ジムリーダーはダメ)、どこのジムのどの場所にいた特定の人物…とわかる設定は禁止です。
他に何がありましたら、気軽に尋ねてください。
>>88
◆【ヒトカゲ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
は
正しくは
◆【ポッポ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
です、フシギダネにするかヒトカゲにするか悩んでいたせいでこのようなミスを犯してしまったようです。
投下します。
「ああ、俺、最近だらしねぇなぁ……」
A-1の飛び出ている陸地の先。
一人のかいパンやろうが海を眺めながら、ぼやく。
自分の不甲斐なさを悔い、一回溜息を吐く。
男の名はビリー。孤高のスイマーであり、ガチムチ系男子だ。
「まっ、どうにかなるだろう」
支給されたポケモンを確認する。
とりあえず、戦える程度には調整する。
そこらへんの塾帰りに勝つくらいにはバトルにそこそこの自信がある。
自分好みのポケモンはいなかったが、戦えなくはない。
「さぁて、行くか」
彼が志すのは脱出。
その為には協力者が必要だ。
もしかしたら、首輪を外す手がかり等が見つかるかもしれない。
僅かな希望を信じて、ビリーは歩き出した。
「んっ……これは砂? ……アウチ!」
突如として、ビリーの周囲に砂嵐が巻き起こる。
視界が急激に悪くなり、ビリーも目を細めなけらば前すら見えない。
そんな時であった。
「先手必勝だーーーっ!!!!」
「!?」
飛び蹴り。
ポケモンではなく生身の人間が使う。
その飛び蹴りの直撃をくらい、ビリーの身体は吹っ飛ぶ。
ビリーの前には片目を鉢巻で隠し、隻眼で高々と叫ぶ男がいた。
ビリーの肉体もそうだが、この男の肉体もかなり鍛えられていることが分かる。
「シャバババ! 貴様ァ! この『からておうのガンマ』を前に図が高いわーーっ!!」
「わからん、お前が何を言いたいか? しかし……面白い奴……よし倒すぞ」
「黙れ! 思い上がるな! このド下等トレーナーがーーっ!!」
「な!? ド…ド下等トレーナー!?」
傲慢としか言いようのない態度の男。
しかし、その男――ガンマの姿を見て、ビリーはさらに驚愕する。
(宙に浮いている……?)
目の前の男は空手王であるはずだ。
しかし、その男の身体が宙に浮いている異様な光景だった。
まるでマジシャンのマジックかなにかのように。
「とうに戦いは始まっておるわーーーっ!!」
「…………どういうことなの?」
「こういうことだーーっ! シャバババーーーっ!!」
「ガハッ……!?」
再びガンマは空中を移動して、鋭い蹴りをビリーに食らわす。
脳内がパニックの状態であまりにも痛烈すぎる一撃。さらに……
(ステルスロック!? いつの間に!?)
ビリーの身体中に尖った岩が突き刺さる。
ビリーの肉体からは夥しいほどの血が噴き出す。
砂嵐で視界が悪くなっており、周りも確認できない。
心を落ち着けようにも砂嵐が酷く非常に息苦しい。
だが、それは相手も同じはずだが、ガンマは何事も無いように立っている。
(彼はポケモンを出しているようではなかった……
もしかすると、このステルスロックも砂嵐も彼が―――?
カラテとはこのようなことが出来るのか!?)
ビリーの脳内はさらにパニックに陥る。
そして、そこで再びガンマは叫びながら告げる。
「私はこの殺し合いに最後まで勝ち残るーーっ!!
何故ならば、それほどに私は己の実力に絶対的な自信を持っているからだーーっ!」
「なっ!?」
「確かにポケモンは育てれば強くなる! だが、人間だってそうだ!
ポケモンと同じ環境に身を置いていれば、自然と身体は鍛えられるーーーっ!
故に私自身は砂嵐状況下でもダメージを受けることはないのだーーーっ!!」
ガンマは高々に勝利宣言。
「くっ、だったら……うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ほう、そう来るか……」
ビリーは体勢を低くして、タックルを狙う。
これはビリーが泳ぎの次に得意とするレスリングのタックルだ。
ビリーは凄まじい勢いでガンマに迫っていく。
「だが、ポケモンを出さずにこちらにくるとは……下等トレーナーがーーっ!!
「!?」
「コイル、マグネット・パワー全開だ!」
意外! それはコイルッ!
そう、今までガンマは隠し持っていたコイルで宙に浮きあがった!
これがガンマの人体空中浮遊の正体『コイルの磁力』である。
ガンマはコイルが放っている電磁力でさらに上昇して、ビリーのタックルを躱した。
そして―――ガンマはさらに指示を叫ぶ!
「今だ! カバルドン、じわれーーーっ!!!」
ビリーがいる地面に亀裂が入ったが、ギリギリで避けることは出来た。
いくら一撃必殺といえど当たらなければどうということはない。
だが、ビリーは直感する「砂嵐もステルスロックを使ったのはコイツ」だと。
しかし、時すでに遅し。
「私の狙いはこっちだーーーっ! シャババーーーーっ!!」
ガンマはその出来た亀裂を足で思いっ切り踏み込む。
武術で言うところの所謂【踏鳴】や【震脚】などと呼ばれる行為である。すると!
「……地面が、崩れ――――?」
崖が一気に崩れ始めた。
狙いは地割れで地面にひびを入れて、地面を砕き易くするためだ。
その崩落に巻き込まれて、ビリーの身体は沈んでいく。
落ちてくる大地と石礫が次々とビリーの身体を押しつぶしていく。
そして、A-1の一部の陸と海の境界線が崩れさり……
―――新しい崖が生まれた。
(……ちくしょう…………本当、だらしねぇ、な――――)
【かいぱんやろうのビリー 死亡確認】
【残り37人】
「シャバババ! 実践不足だ! 地獄からやり直して来い!!
準備運動にもならなかったぞ!!」
『空手王』。
そう呼ばれ出したのは、何十年前になっただろうか?
もう自分に向かってくるものもいなくなった。
そのうち、あまりにも危険にも過ぎるその力が問題視された。
社会的に抹殺されたのほぼ同様の扱いを受けたこともあった。
「さて!」
ならば、いい。
自分は何も間違っていない。
間違っているのは周りの方だ。
だから…………
「殺しに行くぜーーっ!! 粛清だーーーーっ!!」
全て倒す。
【A-1/崖/一日目/日中】
【からておうのガンマ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、タウリン
[行動方針]基本:パロロワ団諸共ド下等トレーナー共の粛清
1:一先ず、人が集まりそうなところに向かう
▽手持ちポケモン
◆【コイル/Lv1】
とくせい:がんじょう
もちもの:きのみジュース
能力値:無振り
《もっているわざ》
どくどく
まもる
リサイクル
でんじふゆう
◆【カバルドン/Lv50】
とくせい:すなおこし
もちもの:ゴツゴツメット
能力値:HP、防御振り
《もっているわざ》
あくび
ステルスロック
じしん
じわれ
【かいパンやろうのビリー 死亡確認】
[ステータス]:--
[バッグ]:基本支給品一式
[行動方針]:--
※A-1の海にビリーのバッグ、モンスターボール×2、不明支給品×3があります
◆【????/Lv?】
とくせい:
もちもの:
能力値:
《もっているわざ》
????
◆【????/Lv?】
とくせい:
もちもの:
能力値:
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|からておうのガンマ|
|性別|男|
|容姿|からておう。隻眼で片目を鉢巻で隠している|
|方針|粛清|
|人物|有り余る強さを持ちながら、誰からも認められず世間から抹殺され、山に籠って修行を続けた男。
空手王の異名を持つが、ありとあらゆる格闘技に精通している知識を持ち合わせている。
また他のトレーナーを『ド下等』と罵るほど、己の実力に絶対的な自信を持っている。|
|名前|かいパンやろうのビリー|
|性別|男|
|容姿|ガチムチな肉体に黒い海パン|
|方針|脱出派|
|人物|海パンにただらなぬこだわりを持つマッチョマン。
同じ海パン仲間たちから『兄貴』と慕われるほどのいい男。|
投下終了です。
タイトルは『実践空手とポケモンを組み合わせた全く新しい格闘技とは!』です。
問題等ありましたら、ご指摘ください。
新規キャラクター1名予約します
新規キャラクター一名予約します
>実践空手とポケモンを組み合わせた全く新しい格闘技とは!
って空手王ヤバすぎるやろ、王の名に相応しすぎるやろ……。
第一犠牲者となったビリー兄貴は……仕方ないね。
ガンマの常軌を逸した戦闘能力は天下へと至れるのか!?
投下お疲れ様でした!
枠が空いているなら新規キャラクター一名予約します
新規2人予約します
・ミイ♪♪♪さんノリよすぎです
・ニダンギルでワンキル トレーナー狙いのおそろしさよ
・ラグナかっこいい 自殺技をわすれさせる、って演出いいな
・ロケットだんとプラズマだんがなんかめっさいい対比に!
・ヌケニンこわい やっぱりゴーストタイプってやばいよね
・ガナハくん! おやのことを考えるとは優しい……
・この支給ポケモンのどん底っぷりは逆に応援したくなる!
・シャバババーーーっ
投下します
アタイの なまえは アゲハ!
サワラビどうじょう の バトルガールのアゲハだ!
うまれは コガネ トシは 16
すきなたべものは ピーチパイ ついでにいうと むねは C!
カラテは まだまだ しょしんしゃだけど ハートなら だれにも まけない!
…さて アタイの ことは これくらいにして
つぎは おまえらの ことを きかせな!
どうやってって きまってんだろ! こぶしと こぶし つきあわせれば
ポケモンだって にんげんだって どんなやつとだって!
こころで つながる ことが できちまうんだ!
さあ! レクリエーションだ! かかってこないんなら …こっちから いくぞ!
▼
「どらぁああああぁああぁぁあああぁああああああああッッ!!」
日が天に昇る草原。中央に立つ一匹のポケモンに向かって、
威勢の良い咆哮と共に人間の右拳が放たれた。
アゲハと名乗った黒い胴着の少女の、ほとんど力まかせの大振り。
迫りくるその拳を前に、ポケモン――バシャーモは冷静に対処をした。
サイドステップ、たったひとつの動作で。
人ひとりぶん横に動いた二足の羽軍鶏のそばを、空回りしたアゲハの拳が、
黒の胴着を纏う身体が、白帯を結んだ端が、
スポーツシューズを履いた足が、数テンポ遅れにすりぬけていく。
空振りだ。当然のように避けられた。
たたらを踏んでアゲハはふらついた。黒のざんばら髪があられなくばさりと広がる。
あまりにぶざまな格好だ。バシャーモがアゲハを横目で見て、鼻で笑った、ような気がした。
アゲハはダン! と若草が芝のように生う地面を踏んで体制を立て直す。
顔を上げて睨みつける。コガネ人らしい強気な眉、目鼻くちびる。
そして頬にはアゲハ蝶の紋様。紫のそれは飾りではない本物のタトゥーだ。
しかし人間相手なら多少の威嚇にもなろうそれも、相手がポケモンではなんの意味も持たない。
1.9mの体躯から悠然とこちらを見下ろす猛禽の金色の眼は、いっさい揺らいでいなかった。
「やるじゃねぇかよ、さすがに!」
『……』
「けれどまだアタイを舐めてんなァ。いま鼻で笑ったろ、笑ったぞアタイにはそう見えた。
ああムカつくぜムカつくぜ。言っとくがな、いまのが最後のスキだ。
こっからもうお前にアタイを仕留めるチャンスはない。あとはアタイの必殺コンボが」
バシャーモはアゲハを見つめたまま、無言で両手首から炎を吹き出す。
「げっ」
『……』
「おい、おい、おい。“きょうてきに であうと てくびから ほのおを ふきだす”だろ?
だってのにそのすまし顔、アタイを強敵と認めてくれたわけじゃとてもなさそうだけどな。
なんだよ、つまりこういうことか? 火を噴く拳なら、人間のアタイじゃ打ちあえないだろうって?
戦いになるわけがないんだから向かってくるのはやめろって――そう言いたいのかァ?」
1.4mあるかどうかの背丈をわなわなと震わせつつ、アゲハは拳を固くにぎりしめ、
「お前なァ……あんまりなァ……アタイを!
人間をッ! 甘く見るんじゃ、ねぇぞッ!!」
バシャーモに向かって思い切り踏み込みながら、迷うことなく攻撃を繰り出した。
正拳、正拳、正拳。軽く後ろに躱されて、ならばと片脚で大地を思い切り蹴り、ロケットじみた飛び膝。
やはり横に躱されたので、着地点を軸に片脚のみ広げコンパス回転、足払い。
飛び上がられて躱される。まだだ。アゲハはさらにもう一回転しつつ体を浮かせ、
細身ながら良く鍛えられた脚を十分にしならせると、勢いを付けた回し蹴り。
重力に導かれ落ちてくるはずのバシャーモを狙った、しかしそれもまた空を切る。
空だ。まだバシャーモは着地していなかった。
ふわり宙に浮いているかのごとき、美しい跳躍体勢をアゲハは見た。
見惚れ掛けるくらいだった。ポケモンと人と、同じ跳躍時間で降下時間を検算してはならない。
ましてや”30かいだての ビルを ジャンプで とびこす”とも言われる跳躍力を持つバシャーモであれば尚更だ。
バシャーモはあっというまにアゲハを飛び越えた。音も立てず遠間に着地した。
『……』
「まったく、逃げんのが上手なやつだ! アタイとヤるのがそんなにイヤか!」
構わずアゲハは身を翻し、
「だけどな。悪いがアタイはしつこい女なんでなァ……!
お前の芯と打ちあえるまで! お前の心がアタイに振り向くまで!
どんだけ無駄だと言われようが、ガンガンアプローチしてくからな! おら、次だぁああああ!!!」
踏み込んで技を繰り出す。技を繰り出す。当たるまで繰り出す。
どれだけ避けられようとぶざまな格好になろうと、いくらだって繰り出す!
『ア、アゲハ〜ント……』
……一人の人間が一匹のポケモンにあしらわれる不毛に過ぎるその拳舞を、
どうしていいか分からないといった様子で、もう一匹のポケモン――アゲハントが遠巻きに見守っている。
だが困惑もしようものだ。こんな状況、少なくとも彼らに向かって、
「トレーナーの指示に従え」と言って送り出したおやは想定していない。
なにせ指示を一切受けていない。アゲハは二匹をボールから出し、突然自己紹介を始めたかと思えば、
「アタイと戦え」とも何ともいわずにバシャーモに向かって突然殴りかかったのだから。
お前らのことを聞かせろとかなんとか言ってたような気もするが……。
「だらぁああああぁああぁぁあああぁああああああああッッ!!」
ひらひらと悩むアゲハントを後目に、人間の方のアゲハはバシャーモへタックルを試みている。
『……フシャー』
バシャーモは回避姿勢を取る。取りながら溜め息を吐く。一体なにがしたいのだろうか。
戦ってほしいなら戦えと指示すればいいだけの話なのに。
そういう指示を受けていない以上、バシャーモはアゲハの攻撃に自分で判断して対処する。
そしてその対処選択肢は、常に回避だ。
かくとうタイプのジムを任されるような達人ならともかく、
白帯のアゲハとバシャーモがまともに打ちあえばアゲハが無事では済まないだろう。
バシャーモにはそれが分かっている。ゆえの回避なのだ。
それも分からぬまま、無意味な突撃を繰り返す目の前の、
目の前に、黒布が現れていた。
『!』
それがアゲハが身に纏っていた黒の胴着だとバシャーモが気づくのには数瞬かかった。
反射的に片手で払い、
それが手によるガードを外させる意味を持つものだと気付くのにも数瞬かかった。
気づけば、真正面からまっすぐに拳が正中線を狙いに来ていた。
白いサラシが胸に巻かれているのが見えた。アゲハが近くに踏み込んでいた。
ざまあみろと不敵に笑っているみたいだった。
バシャーモは開いている左手で、野球ボールをグローブで取るときのように、その拳を受け止めた。
奇麗な正拳だった。小柄な体躯から放たれているにもかかわらず、重い。
52kgの身体が小さくぐらつく。そして拳はすぐ引かれる。
第二撃が来る。今度はもっと深く、避けにくい場所に。――考えるより先に身体が動いた。
バシャーモは反射的に、足に炎を灯す。ブレイズキック。これで、
「それだ!」
アゲハが叫んだ。
そこでバシャーモは指示もなしに自分が技を使っていたことに気付く。
だがもう、止まらない。止められない。ぶつけてしまう。思い切りぶつけてしまう。
……目を見た。アゲハの黒揚羽色の眼が、楽しそうに輝いていた。
「さあ来い! アタイにぶつけてみろよ――お前の心をッ!!」
『――――ヴゥルシャーモ!!』
そして炎脚が振り抜かれ。アゲハはだいたい、7mほど吹っ飛んだ。
▼
「いやー、参った!! こりゃー肋骨の一本か二本は逝ったかもしれねぇな、ははっ!」
『フシャー……』
『……アゲハ〜ント』
「あっははは! なんだよお前ら、気にすんなッて! アタイがやりたくてやったことなんだから。
まあ服がセクシーになっちまったのと、拳がびみょーにヒリヒリするのが気になるくらいだよ」
数分後。草原に座り込んで、熱を持った拳に息を吹きかけながら笑うアゲハを、
対面に座るバシャーモとその頭の上に留まるアゲハントが呆れた様子で見つめている。
最終的に、ギリギリのところでバシャーモはブレイズキックから炎を消すことができた。
それでも残り火はアゲハが巻いていたサラシを焦がし、それをただのボロきれにしてしまった。
さらには胴着を振り払ったとき、手首から出していた炎は胴着も焦がしている。
そういうわけでアゲハはいま上半身にボロついた胴着を纏うだけとなっていた。みすぼらしい格好だ。
だというのに、しかもバシャーモの蹴り自体はまともに喰らった脇腹も痛んでいるのに、
アゲハは心底から面白そうに笑い、楽しそうにしているのだからおかしな話だった。
「うん。ま、こんな首輪付けてアタイを飼い殺そうとした野郎どもは気にくわねぇけど、
言うほど絶望的ってわけでもなかったな! ――少なくともお前らは、悪いやつじゃない。
人形でもない。意思があって、自分の考えがある。それならどうにかやりようはある」
『……シャー?』
「アタイとお前らはこれからダチになれるって言ってんだよ、バシャーモ、アゲハント」
さらに、アゲハは突如としてそんなことを言い出した。
「えっと……アタイはまあなんていうか、ぶっちゃけそんなに頭は良くねぇんだ。
こんなクソみてぇな実験をあいつらが何でやるんだとか、アタイのポケモンがいまどうなってるかとか、
気になることはあるっちゃあるけど、それらについてどうこう考えてもたぶん答えは出ねぇ。
それでも一個だけ出せる答えがある。殺し合いなんて、ぜってーダメだってことだ。
なんでダメかって? 当たり前だろーよ。死んだ奴とはもう二度と戦えないんだぞ?」
さっきアタイがお前の蹴りで死んでたら、
アタイとお前はもう二度と戦えなかったんだ、とバシャーモを指差す。
思わぬ一撃を喰らいかけ消化不良感を与えられたバシャーモは、アゲハの言葉にぴくりと反応する。
『……フシャー……』
「そんなの、悲しいだろ。やんなるだろ。
あれでアタイが死んだら、お前だってなんか嫌だったはずだぜ。
だからアタイたちは、そこまでやったらダメなんだ。
カラテの試合が三本で終わるのも、ポケモンバトルがひんしで勝敗を判定するのも、
楽しくて面白いバトルが出来た相手と、またいつか戦えるそのときのためなのさ」
ま、これはアタイの通ってる道場の師範の受け売りなんだけどな。
言ってまたアゲハはからからと笑った。それが肺に響いたらしく、いてて、と手で押さえてから、
「でだ。……バシャーモ、アタイがお前にケンカ吹っ掛けたのは……まー半分挨拶みてぇなもんで、
深くは考えてねーんだけど……なんつーか、確認したかったんだ。お前らと、やってけるかどうかをさ。
アタイは殺し合いなんてやるつもりは一切ねぇ。でも、逃げ回んのもキャラじゃねぇ。
だから戦う。アタイの信じる生き方を貫く。んでそれにはやっぱり、お前らの協力が必要なんだ」
『アゲハ〜ント……?』
「お前らがもし、殺し合いに協力的じゃないやつには反抗するよう言われてたり。
そもそもお前ら自身が殺し合いに積極的な性格だったり。卑怯で意地汚い奴だったり。
それと――言われたことしかできねぇ人形みたいな奴だった場合も。アタイと一緒には戦えねぇ。
でも一発ヤりあった感じ、お前らはそうじゃない。だったら――出来るってもんだ」
……バシャーモは最後までアゲハを傷つけようとはしなかったし、
アゲハントもまた、バシャーモに加勢するようなそぶりは見せなかった。
ちなみにブレイズキックもどきでアゲハが吹き飛ばされた後、二匹とも心配そうに駆け寄ってきた。
それは明らかに、二匹にまともな感性と感情が備わっていることを示していた。
だからアゲハはすることが出来る。二匹に向かって、拳を突きだして、頼むことができる。
「お願いだ、バシャーモ。アゲハント。アタイと一緒に戦ってくれ」
ポケモンと一緒に戦うバトルガールは、まっすぐに願って。
「もしも。アタイがお前らにとって。一緒に戦ってもいいと思えるヤツだったら――」
そしてそれに対して、二匹は言いきられる前に、拳に自分たちの拳を合わせた。
「……!」
『ヴゥル、シャーモ』『アゲハ〜ント』
「お前ら……!」
二匹ははにかんでいた。してやったり、といった感じの表情に見えた。
優しく合わせられた拳と拳は、アゲハと二匹の、つながりの第一歩だった。
▼
「……で、バシャーモは相手をしっかり見て動けてた。わざわざみきりやまもるを入れなくても、
そうそう攻撃を当てられるってことはないと思う。あとは、あの跳躍力を生かせる蹴り技に、
飛び道具がひとつ。……ああ、確かにな。急に接近されたときのためにカウンターも欲しいか」
「アゲハントはあまり自己主張が強くないけど、“すがたに にあわず こうげきてきな せいかく”だな。
後方でサポート……っていうか、相手にいやがらせするようなのが実は好きなんじゃねーか?
……わわ、てか力強いなお前。アタイを掴んで飛べるのかよ、っておい、どこ触って」
性格と特性は変えない。個体値もそのままにする。
ステータスはバシャーモAS、アゲハントCSにとりあえず全振り。
わざは元から覚えていて使い慣れたもの、これから必要になるものを吟味し、
手合わせをしてみた結果や支給されたもちものも考慮して、
ポケモン自身に合ったわざを相談して選ぶ。
「でだ。さっきの手合わせと、アゲハントとやった今の組手で、お前らのクセはだいたい分かった。
わざのタイミングの指示、戦況の把握と伝達――アタイに出来る限りのサポートはする。
防護プロテクターがありゃあアタイもバトルに参加できたんだが……狙えたらトレーナーを狙うくらいか」
バシャーモに続いてアゲハントとも調整のための組手(アゲハントの頭にはなぜか、たんこぶがある)を終え、
草原の真ん中、用意を整えた黒胴着の少女の横に、二匹のポケモンが並んで立つ。
アゲハの所属するサワラビ道場の基本流派は共同戦線。
ポケモンだけでなく、トレーナーもまた前線に出て、真なる意味で一緒に戦う。
つまるところアゲハにとって、
今回の実験のルールは道場でのバトルとなんら変わりない。
いつもと違うのは防護プロテクターをつけていないことと、殺しまでアリということくらいだ。
「さて。アタイたちは対等だ。だからアタイの指示を待たなくていいし、アタイに指示をしてもいい。
アタイたちにとっての最善をしろ。自分が信じたことをしろ。それ以外に、言えることはなにもねぇ」
『フシャー』
『アゲハ〜ント』
「……アタイに付いてきてくれてありがとう。力を貸してくれて、ありがとう。
アタイも、お前らに付いていけるように頑張るから。だから……こんなクソみてぇな実験を」
声高らかに、バトルガールたちは歩み出した。
「一緒に殴りにいくぞ!!」『シャーモ!』『アゲハ〜ント!!』
【B-2/一日目/日中】
【バトルガールのアゲハ 生存確認】
[ステータス]:肋骨にダメージ(軽傷のうちに入る、服がぼろぼろ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]対主催
1:この実験を殴りに行く
◆【バシャーモ♂/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:???
能力値:AS振り
《もっているわざ》
とびひざげり
ブレイズキック
ストーンエッジ
カウンター
◆【アゲハント♂/Lv50】
とくせい:とうそうしん
もちもの:???
能力値:CS振り
《もっているわざ》
おいかぜ
しびれごな
メロメロ
むしのさざめき
〔トレーナープロフィール〕
|名前|バトルガールのアゲハ|
|性別|女|
|容姿|黒い柔道着に黒髪ショート、頬に蝶のタトゥー、小柄|
|方針|熱血対主催|
|人物|もとは名のある不良だったが、サワラビ道場の師範サワラビにボコられて改心した。
スポーツマンシップに則ったケンカ・コミュニケーションを好む。ポケモンと共に自ら前線に出て
トレーナーも戦うサワラビ流バトルの教えをよく吸収し、息のあったコンビネーションによる
ゼロ指示バトルで道場での模擬戦では強かった。公式ルールでは一度も勝ったことがない。|
投下終了です
残りの予約枠、計算が間違ってないなら残り7名だと思います。
間違ってたらごめんなさいで。
ついでですが、新規トレーナーを一人予約させていただきます。
トリップ間違えた、こちらで。
投下します。
まず、ポケモンごっこのキョウコが登場する。
彼女は気がくるっていた。
ピカチュウのきぐるみを着ている内に、自分がピカチュウのきぐるみを着た人間なのか、人間のフリをしたピカチュウなのか、わからなくなっていった。
ある日、彼女は自分にしか見えないピンク模様のヤンチャムに話しかけた。
ピンク模様のヤンチャムは一般的には赤色で、その上、ポストと呼称されるべき存在であったが、
彼女はしっかりとそれが赤いポストごっこをしたピンクのヤンチャムであることを見抜いていた。
「僕はピカチュウごっこの人間なのだろうか、それとも人間ごっこのピカチュウなのだろうか」
「君にはわかるまい、なぜならば君は狂っているのだから」
成程、とキョウコは思った。
自分は狂っているから、その真偽がわからないというのは理に適っている。
では、自分はピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの
人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこの
ピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの
ピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこの
ピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの人間ごっこのピカチュウごっこの
人間ごっこのピカチュウなのかもしれないな、と彼女は思った。
さて、キョウコがこの島にきてまず最初に悩んだことは家に帰れないということである、
彼女は自分の家が本当はカビゴンであることを知っている、彼女がカビゴンの夢の中で暮らしているからカビゴンは自分が家だと思い込んでくれているが、
もしも、彼女がカビゴンの夢の中で暮らすことをやめてしまえば、カビゴンは家では無くなってしまう。
困ったなぁ、とキョウコは思った。
しかし、困ったところでどうしようもないので、キョウコはこの島で暮らすことにした。
透明なペラップも彼女な意見に賛成してくれている、もちろん透明なペラップとは一般的に空気と呼ばれているものである。
「あっ、カバンの中身を没収されちゃった。チョコレートも無いし、キャンディも無いよ、これじゃあ僕はお腹が空いて死んじゃうかもしれない」
「鞄の中身は没収されたけど、ちょっとした食べ物ぐらいならあるんじゃないかなぁ」
「駄目だよ、女の子は甘いもので出来ているんだ。甘いモノを取り上げられた女の子は死ぬしか無いんだよ」
「そういうものかな」
「そういうものだよ、僕は狂っているけど、それぐらいの道理はわかる」
「だったら、モンスターボールを確認するんだね。
もしかしたらトロピウスが甘いきのみを生らして、君を待っているかもしれない」
成程、とキョウコは思い、モンスターボールの中身を確認した。
トロピウスは入っていなかった。
「残念だ、これじゃあ死ぬしか無い」
「悲しいなぁ」
「何も死ぬことは無いよ」
「グポフwwwwwwwwwww拙者もそう思うでござもしwwwwwwwwwwwwwwwww」
キョウコと透明なペラップとの会話に加わったのは、ニドラン♂の♀とニドラン♀の♂である。
新たな二匹は一般的にはモンスターボールと呼称されるべきものであるし、会話をするというのならば中にいるポケモンを出すべきであるだろうが、
少なくとも、二つのモンスターボールが彼女にはニドラン達に見えていた。
「死ぬとwwwwwwww言ったらwwwwwwwwwキョウコ殿以外のwwwwwwwwトレーナーはwwwww殺シンガリフォヌプwwwwwwwwwww」
「僕はここで暮らすからいいけど、皆は家に帰るために殺し合わないといけないよ、なにせみんなの家はカビゴンではないからね」
「多分、巻き込まれると思うんですけど(名推理)」
「困ったなぁ……」
いつものようにポケモンに囲まれていたせいで忘れていたが、そういえばキョウコは殺し合いが行われている場所にいるらしい。
これはポケモンに相談しなければならないなぁとキョウコは思った。
「どうしようかなぁ……僕は死にたくないよ」
「殺せばいいんじゃないかな、殺される前にさ」
「ぐふひwwwwwww邪魔するやつを全員殺せばwwwwwwwwwwwwキョウコ殿はこの島で平和にwwwwwwwwwwww暮らミジングルオwwwwwwwwwww」
「そうだよ(便乗)」
「んーーーーーーーーーじゃあ、思い切って殺して回っちゃおうかな?」
「「「それがいい!!」」」
ここでメイドのクウが登場する、彼女は殺人鬼だった。
スピアーの針が人間の心臓を貫いて殺すことに対し、倒錯的な性の感情を抱いていた。
「四十人じゃ足りない……」
彼女が今までに殺した人間の数を調べることはお勧めしない、彼女自身がその数を覚えていないし、どの事件に関しても事故として処理されている、
何より暇潰しをしたいというなら、もう少し良い方法があるし、彼女が近くにいるならば、アナタが最も優先してするべきことは彼女から逃げることであるからだ。
「あァ、アタシのスピアー……アナタがいなければちっとも楽しくないし、気持ち良くもないわ」
だが、今だけは急いで彼女から逃げる必要はない。
今、彼女はスピアーは持っていないからだ。
もちろん、アナタがだらだらしていれば、彼女は己に支給されたポケモンで新しい快楽を見つける可能性がある、
急いで逃げる必要はないが、手遅れになる前に逃げたほうがいいだろう。
もちろん、命が大事でないならば彼女と会話をしても良い。
「でも、どうしてかしら……何か新しい快感に出会う気がしてならないわ。
あぁ……そう、貫くの……この拳でなああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
と言っても、もう遅かったようだ。
彼女に支給されたポケモンはエビワラーとカイリキー、彼らの拳ならば人体などさっくり貫けるだろう。
今までは細い針だった故に、今度は太い拳でぶっ貫くことに快感を見出したに違いない。
産声を上げた性的快感を中絶する趣味は彼女には無い、早速彼女は獲物を探しに行くことにした。
さて、彼女は現在、はいきょのまちその1にいる。
廃墟とはいえ、街は街である、人も集まってこよう。
ならば、獲物を探すのはそう難しくない。
「オクタンほう」
そう、オクタンほうだ。
気づくと、彼女の腹に大きい穴が開いていた。
どこから砲撃が飛んできたのか、彼女はとっさに真向かいのビルの屋上を見上げた。
成程、ポケモンごっこの少女がテッポウオを手に、ニコニコと笑っている。
余りにも楽しそうなので、彼女もニコニコと笑い返した。
そして、自分の腹部から伝わってくる熱に、官能的な思いを寄せた。
成程――最初から、こうしていれば良かったんだ。
クウは少女に対し、お礼の言葉を言おうとしたが、
口はただパクパクと開くばかりで、ただ空気がひゅうひゅうと流れる音しか発せなかった。
その場に崩れ落ちるメイドを見ながら、キョウコはテッポウオに話しかける。
「幸先いいねぇ、テッポウオ」
「せやろか」
彼女だけが音の一つも発していないテッポウオの喋る声を聞くことが出来た。
「僕はポケモンだから、人間を殺すことに抵抗はないよ。
テッポウオはどうだい?人間を殺して何か思ったかい?」
「カレー食いてぇ」
「僕はチョコレートの方が良いなぁ」
「ワシはカレーが食いたい」
「おいどんもカレーが食いたいでごわす」
「拙者も」
「アタイも」
「私も」
透明なペラップも、ビルのふりをしたカビゴンも、先程殺されたメイドの死体も、
何もかもが彼女に向けて、声をかける。
一旦、ポケモンごっこのキョウコは退場する。
彼女は気がくるっていた。
【メイドのクウ 死亡確認】
【残り36人】
A-5/崖/一日目/日中】
【ポケモンごっこのキョウコ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]マーダー
1:テッポウオで殺される前に狙撃する
◆【テッポウオ/Lv50】
とくせい:スナイパー
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
ロックオン
オクタンほう
????
????
◆【???/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
◆【カイリキー/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
◆【エビワラー/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|ポケモンごっこのキョウコ|
|性別|女|
|容姿|16歳ほどに成長したポケモンごっこ|
|方針|マーダー|
|人物|彼女は気が狂っていた|
|名前|メイドのクウ|
|性別|女|
|容姿|ポケットモンスタープラチナに登場する者と同じ|
|方針|快楽殺人|
|人物|太い拳に浮気しようとしたら狙撃されて死亡、悪いことは出来ないものだ|
>>116
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×6 ですね、失礼しました。
投下終了します。
新規キャラクターを一人予約させていただきます
新規キャラクターを二人予約させていただきます
新規キャラクター2名、投下します
───かー、ユカリはポケモンバトルが強いねぇ。
『ふふん、おばあちゃんのためにポケモン達と頑張りましたから』
───もしかしたら、じいさんのハリテヤマに勝てる日もくるかもしれないね。
『そ、そんなことないですよ!おじいちゃんのハリテヤマは物凄く強いですし……』
───大丈夫。いつか勝てるよ、ねえハリテヤマ?じいさんもユカリがハリテヤマに勝ったって聞いたら喜んで化けて出るかもしれないよ。
『そ、そうですか……?』
───ああそうさ。こりゃ私もじいさんの分まで長生きしないとね。ユカリが強くなったの見てから死なないとじいさんにユカリの成長を教えてあげられないから。
『おばあちゃん……じゃあ私、頑張ります!』
───うん、その調子だ。ああ、楽しみだなぁ。おばあちゃん、死ぬ迄にもう一つ楽しみが出来ちゃったよ。
「きんこんしき」と言えば、私の地元では私の祖父と祖母のこと指していると言っても過言ではないくらい、祖父と祖母は有名だった。
どんな相手も蹴散らす祖父のハリテヤマと。
そんな祖父を補佐する祖母のミロカロス。
その完璧なコンビネーションは、向かうところ敵なしだった。
私がポケモンバトルをしたいと言って一番喜んでくれたのも、その祖父と祖母だった。
一緒にポケモンを捕まえ、特訓し、強くなることを教えてくれた───でも。
まもなくして、祖父がこの世を去った。
私にはよくわからなかったけど、重い病気だったらしい。
その頃から祖母はまるで元気がなくなった。
だから、元気になってほしいと私はポケモンと一緒に沢山強くなった。
祖父の攻撃の強さはもう教えて貰えないけど。
祖母のサポートの強さは沢山教えて貰った。
これから私はもっと強くなる。
そうしたら祖母はもっと喜んでくれる。元気を取り戻してくれる。
待っててね、おじいちゃん。
おばあちゃんの元気は、私が絶対に取り戻して見せますから───
───でも、時間は待ってはくれなかった。
祖父が死亡してから数年後、祖母も後を追うように病気で息を引き取った。
私がこのコロシアイに呼ばれたのは、その一週間後のことだった。
◆ ◆ ◆
「……私をこんなところに連れてきて、何がしたいんでしょうね」
支給品の道具とモンスターボールを掌でコロコロ転がしながら、少女───ミニスカートのユカリは思案する。
既にポケモンの二匹はこのポケモンコンバータというらしい機械で調整は済ませている。
ボムッ、と小さな音をたてて一つのモンスターボールからポケモンが飛び出してくる。
黒い艶のある体に金の美しい模様。
げっこうポケモンの、ブラッキーだった。
頭を撫でると気持ちが良いのか、ブラッキーは目を細め体を預けてくる。
おばあちゃんの戦術……防御とサポートを得意とする私には、この子は中々相性が良かった。
「おじいちゃんも亡くなった。おばあちゃんも亡くなった。
───もう私に、強くなる理由なんてないのに」
いっそのことここで死んでおばあちゃんたちのところに行くのも一つの手かもしれない、と可笑しな事を考えてしまう。
薄く漏れた暗い笑いに、嫌な気配を察知したのか。
未だ掌に収まったままのモンスターボールがカタカタと揺れる。
「……」
その揺れるモンスターボールの中のポケモンは、私が扱ったことのないタイプのポケモンだった。
どちらかと言えば、おじいちゃんの戦術寄り───言わば、攻撃で押すタイプのポケモン。
おじいちゃんからポケモンバトルを教わることは叶わなかった私からしたら、そのポケモンは扱いに困るポケモンだった。
「…私がもうちょっと君をよく扱えるトレーナーだったら良かったのですが」
ごめんね、と。
一言謝ってそのポケモンには支給品の一つだったシュカの実を持たせてあげた。
効果抜群の、地面の技の威力を軽減させてくれるきのみ。
きっと、この子の助けになってくれるはず。
「とりあえず、行こうブラッキー。
人を探しましょう」
モンスターボールを一つポケットに仕舞う。
ブラッキーには、支給品の一つだったメンタルハーブを持たせる。
こちらもきっと、ブラッキーの力になってくれるはずだと。
このコロシアイに反対の人もいるかもしれない、だからとりあえず人を探そうと安易な発想の元歩き出す。
でも。
───生き残る気力なんて無いくせに。
心の中で、不穏な声が囁き続ける。
───死ぬ勇気も無いくせに。
そんな心の中から滲み出る負の感情に、ねっとりと心を蝕まれながら。
そんな負の感情が私に巻きついていたからなのだろうか。
私は───背後から忍び寄る、大男の姿に気づくことが出来なかった。
「ルンパッパちゃんッ!『エナジーボール』よッ!」
響く、野太い声。
振り返った時には、もう遅かった。
エナジーボールは、既に放たれていた。
防げない。
直撃する。
私では避けられない───だからこそ、私はブラッキーに頼った。
「ブラッキー!お願い!」
その言葉を受け、月光のポケモンは始動する。
エナジーボールの正面に立ち、指示を待つ。
今か今かと指令を待つブラッキーに、命を飛ばす。
「『まもる』!」
そして現れるは守護の防壁。
エナジーボールを完全に防ぎ切り、衝撃の余波すら通さない。
防ぎきったことを確認した後、私は襲撃者に抗議する。
筋肉に包まれた身体。如何にも暴力を得意としていそうなこわいかお。そしてその独特の構え。
───カラテおうと呼ばれる存在だ。
「危ないじゃないですか、当たったらどうするんですか!」
少しの恐怖を抑えながら、声をあげる。
怒鳴られたら怯むのは多分私だけど、そんなことは考えていなかった。
しかし。
帰って来たのは、私の想像を遥かに凌駕する言葉だった。
「あら、さっきまで死にそうな顔してたのに……まさかこんな機転が利く子だとは思わなかったわ!」
……言葉というか、言葉遣い?
「強くて度胸もある……そんな子、嫌いじゃないわ」
後何かナヨナヨしてる。
でも声は野太い。
「男の子だったら私のスーパーカラテホールドをサービスしてあげちゃってたわ」
御断りしたい。
オネエなのだろうか、言葉のイントネーションが、その、とても失礼なんだけど、気持ちが悪かった。
相手のペースに呑まれないように───ある程度の距離を取って、会話に臨む。
「何なんですかあなた、いきなり」
「言っておくけど、私だってコロシアイに乗った訳じゃないのよ?
こんなところに閉じ込めて殺し合えなんて、レディーに対してあまりにも礼儀が無さ過ぎるわ。ノー礼儀よ」
そう飄々と語るカラテおうが繰り出したルンパッパを、ブラッキーはまだ威嚇し続けていた。
それでも構わず、そのカラテオウは続ける。
「私だってこのコロシアイを打破する作戦があるのよ?
さ・く・せ・ん*」
「作戦……?」
警戒は解かない。
ブラッキーを目の前に配置したまま、いつでも対処できるように。
「名付けて……『ふるい落とし作戦よ!」
「ふるい、落とし……?」
そう、と人差し指を空に突き立て、彼は話続ける。
「雑魚が幾ら集まっても使えないじゃない?なら私の初撃を防げたらクリア、仲間にしてあげる。
そうすれば強い仲間が集まるわ!」
「……防げなかったら?」
「初撃を食らって動けないその子に追撃してポケモンを貰うわ。雑魚が使うぐらいなら私が使った方が強いでしょ?」
「……」
思わず、声が出なかった。
このカラテおうは弱い人を殺し、強い者だけ生かし生還しようとしているのだ。
弱い者をふるい落とし。
助かった強者だけで生き残ろうと。
ゾクリと、背筋が寒気立つような感覚。
この感覚は恐怖か、危機を察した己の心か。
どちらかはわからなかったが───こちらが行動する前に、カラテおうが動いた。
「でも私ね、一つ問題があるの」
「……?」
カラテおうは掌に収まったモンスターボールをお手玉のように放り投げては受け止め、放り投げては受け止め、私を品定めするような眼で見ていた。
「うーん……男の子だったのなら完全に合格あげちゃうところなんだけど───」
そして、一言。
目を細め、狙いを定めるように、カラテおうは言い放つ。
「───私、『女』には厳しいの』
「ッ!?『ふるいたてる』!」
膨れ上がったカラテおうの殺気に、体が自然に反応する。
ブラッキーに命じた技は『ふるいたてる』。
こうげきととくこうを上昇させる技。
これでパワーアップさせた一撃を食らわせてその隙に逃げる、というのが私の作戦だった。
先程の殺気で理解した。
いや、理解させられてしまった。
この人には勝てない───ならば、逃げるしかない!
しかし。ブラッキーの『ふるいたてる』を目の前にしても、カラテおうは一切怯まない。
ゆっくりとこちらを指差し、一言だけ呟いた。
「『しめつける』」
「ブラッキー!『バークアウ……ッ!?」
そこから先の言葉は、紡がれることはなかった。
ブラッキーは指示が飛ばないことに困惑しているのか、その場でオロオロとしていた。
声が出ない。息が苦しい。
───首に何かが巻きついている。
そのことに私が気づくまで、そう時間はかからなかった。
「ぁ……な、ん……で、どこっ……」
『何で』『どこから』。
その二つの単語を発するまで、私はたっぷりと十秒ほどの時間を要した。
「あなたが律儀に私の話に付き合ってくれている間にね、そーっと私のポケモン───モジャンボをあなたの背後に回り込ませてもらったわ。
どう、私のモジャンボの触手っ!
くねくねしてぬるぬるしてるでしょ」
気持ち悪い。苦しい。
私の思考は最早そんな単純な単語に支配されていて、話を聞く力もない。
首を絞めているモジャンボの触手をパンパン、と叩く。
緩む気配は、ない。
「モジャンボはね、普段は茂みにじーっと隠れて獲物を見つけたらその触手で絡め取る習性を持つのよ。
どう、実際に味わった感覚は」
カラテおうは私のお腹を指の腹で撫でながら、嫌な笑みを浮かべる。
あらウエストは結構細いのね、嫌いよなんて言いながら。
「さて、ルンパッパ!後はその邪魔なブラッキーちゃんを片付けてあげなさーい。
『みだれひっかき』よ、たっぷりといたぶってあげちゃって」
ガリッ、ガリッと音がする。
ルンパッパの鋭い爪に、ブラッキーが傷つけられている音だった。
ブラッキーは命令がない以上好きに動くことができず───ブラッキーの体力が、少しずつ減っていく。
それと同じように、私の意識も少しずつ遠ざかっていく。
視界が暗くなる。
死というイメージが明確に認識できる。
暗闇はが死そのもののように感じられた私は、避けようのない無力感に囚われる。
(……ごめんなさい、おじいちゃんおばあちゃん、私もそっち、に、逝く、かもしれません)
怖くないと言えば、嘘になる。
死ぬのは怖い。まだ生きていたい。
だがそれと同じくらい───もうダメだと。
諦めに近い感情が大きくなっていた。
(ごめんなさい、ブラッキー。私の力不足で痛い目に合わせて)
瞳から涙が溢れる。
怖い。死ぬのは怖い。
悔しい。何も出来ないのが悔しい。
ごめんなさい、ブラッキー。
私がもっと周りを警戒していれば、こんなことにはならなかったのに。
私がもっと強ければこんなことにはならなかったのに。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめん、なさ、い───
カタカタ、と。
その時、私のポケットの中で何かが動く。
(ぁ……?)
そのモンスターボールは、熱を発していた。
素手ではとても握られないぐらい、熱く。
その温度に比例して、更にモンスターボールは揺れ動く。
───俺を使え、と。
───俺を出せ、と。
そのモンスターボールは、その意思を熱として伝えている。
「い、いの……?」
絞められた喉から微かに漏れたその言葉は、ブラッキーが聴き取った。
未だ主人の命を待ち、暴力に晒され続けているブラッキーが、唸り声にて反応する。
───諦めるな、と。
───私がここで耐え切ってみせるから、と。
本当にそう言っているのかはわからない。
でも、私にはそう言っているように感じたのだ。
(───ぁ)
その姿を見て、私は二度目の涙を零した。
ありがとう、と。
こんな私を信じてくれてありがとう、と。
だが、今の私にはもう命令をする体力は残っていない。
だから。
だから、最後の力を振り絞って一言だけ。
一言だけ、言葉を捻り出した。
「ブラッ……キー……!
…………『バト、ン……タッチ』」
その言葉を最後に、私の意識はそこで途絶えた。
◆ ◆ ◆
「Gaaaaaaaaaaaaaaaa───!!!!!」
「え、何これ私聞いてないわよッ!さっきまでブラッキーちゃんじゃったじゃない!
まさか……これがメガシンカ……?」
月光のポケモンが吸い込まれるようにモンスターボールへと帰還し───噴火のポケモン、バクフーンが降臨する。
あらぬ方向の勘違いを勘違いを炸裂させながら、男もといオカマ───カラテおうのキョウスイは驚愕する。
それも当たり前だ。
ユカリの『バトンタッチ』の命令は消え入るほどの小さな声でしか行われてなく───そして、その声を聴き取ったのは主の命令を待ち耐え続けたブラッキーにしか届いてなかったのだから。
「る、ルンパッパ!『ハイドロポンプ』!」
オカマの命を受け大量の水流を発射するルンパッパだが、バクフーンには当たらない。
すうっ、と。
ハイドロポンプは、バクフーンをすり抜けて言ったのだ。
「パッ!?」
驚愕するルンパッパ。
これが、バクフーンの能力の一つ。
背中から吹き出す高温により、陽炎を作り出すのだ。
そうして作られた陽炎に放った水流が、本体のバクフーンに当たるはずもなく。
そして、バクフーンの周りで陽炎が揺らめき始めたということは───バクフーンの、戦闘準備が整ったということである。
「モジャッ……!?」
モジャンボ、その子を離すんじゃないわよ、とキョウスイが命令を飛ばそうとした頃には遅かった。
『しめつける』の効果持続時間を終えた上に、『ふるいたてる』でこうげき、とくこう上昇を『バトンタッチ』で引き継いだバクフーンの怒りの炎を目の前にしたのだ。
効果は抜群の炎の前に、モジャンボは驚いてユカリを落としてしまったのだ。
「Baaaaaッ!」
そこからのバクフーンの行動は迅速だった。
まずは首回りから噴出される熱で最大限の威嚇。
怒れば怒るほど燃え上がるその炎は、メラメラと火力を増す。
「熱ーーーーーーーーーい!
熱い、熱、このままじゃ、私、逝ってきまーーーーすっ!
余程熱かったのか、それともただの奇行か。
キョウスイは熱を見てエビのように後方に跳ねていく。
その隙にバクフーンは即座に地面に落とされたユカリを背負い、その強靭な脚力を持ってして───逃げ出したのだ。
「あっ!逃げたわよ、追いなさいモジャンボ、ルンパッパ!」
ルンパッパとモジャンボが必死に走って追いかけるものの、バクフーンには追いつかない。
ようきなリズムと共に戦うルンパッパと茂みの中でじっと獲物を待つモジャンボではバクフーンに比べるとスピードが落ちてしまうのだ。
故に追いつける筈もなく───五分もしない内に、バクフーンを見失ってしまった。
「もうっ!逃しちゃったじゃないのよ!
もういい、戻りなさい!」
阿修羅のように怒り狂うオカマは二匹のポケモンをモンスターボールに戻す。
そしておもむろにポケモンコンバータを取り出し、セットする。
「ったくもう、あなた達は調整し直しよッ!
良い男にしてあげるから覚悟なさいな」
ボールの中でしょぼくれるルンパッパを他所に、オカマは調整を進めていく。
技構成、能力値などをカチカチと変更していくその姿は、とても慣れた手つきだった。
そして暫くポケモンコンバータと睨めっこした後、一言叫ぶ。
「あッ!あなたこんな技覚えられるのね……強いじゃない、嫌いじゃないわ」
───争いが去り、のどかな平原にオカマの奇声が響く。
【B-5(東)/平原/一日目/日中】
【カラテおうのキョウスイ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]対主催過激派
1:弱い子からはポケモンを奪う、強い子は一緒に行動する。
2:でも女には厳しい。
◆【ルンパッパ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♂です
※技、能力値を変更しています
◆【モジャンボ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♂です
※技、能力値を変更しています
〔トレーナープロフィール〕
|名前|カラテおうのキョウスイ|
|性別|男(?)|
|容姿|髪は短く皮のジャケットを着こなすムキムキのイカツイ男|
|方針|対主催過激派|
|人物|オカマ。イケメンは好きだが特に強いイケメンを好む。
格闘術を得意としており、カラテの他にも関節技など色々。
縛られるのが好き。
全職業はヤクザだったが、運命の出会いを果たして今の職業(カラテおう)に。|
ダダッ、ダダッとバクフーンは疾走する。
己が主人を背に乗せて、西へと逃亡する。
今回は、主人の力になった。
悔しさに涙を流す主人を見捨てておけなかったからだ。
でも、それだけではない。
「───」
主人の中から、バクフーンは見たのだ。
この細い身体に宿る、優しい気持ちが。
だからこそ、この主人を助けたいと思った。
だが。
『───…私がもうちょっと君をよく扱えるトレーナーだったら良かったのですが』
私はこの娘と共に戦う『戦友』となれるだろうか、と。
私はこの娘と共に戦う『仲間』となれるだろうか、と。
未だ目を覚まさぬ己が主人を抱え、バクフーンは再び疾走する。
【B-5(西)/平原/一日目/日中】
【ミニスカートのユカリ 生存確認】
[ステータス]:気絶、バシャーモに抱えられ移動
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[行動方針]:死ぬ気はないけど……
0:気絶中
1:とりあえず他の人を探す
2:キョウスイに恐怖
▽手持ちポケモン
◆【ブラッキー/Lv50】
とくせい:せいしんりょく
もちもの:メンタルハーブ
能力値:HP、特防振り
《もっているわざ》
まもる
ふるいたてる
バークアウト
バトンタッチ
◆【バクフーン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:シュカの実
能力値:???
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|ミニスカートのユカリ|
|性別|女|
|容姿|パーカー着用、ロングヘアー、小柄|
|方針|生存方針、殺害する気はなし|
|人物|「きんこんしき」として有名な強豪ペアの孫。
攻撃の祖父・防御サポートの祖母として役割分担をしていた。
祖父と祖母を喜ばせるためにポケモンバトルを始めるが、暫くして祖父が他界。
よって祖母からしかポケモンバトルを学んでいないため、防御サポートは得意だが攻撃は苦手。
誰に対しても敬語で優しい性格だが考え込みやすい一面も。祖母は祖父の他界してから数年後に他界し、ユカリはその他界一週間後からの参戦。|
投下終了です
新規トレーナー二人予約します。
皆様投下乙です!
気付いたら肩書が被りまくっていますが、意を決して投下します。
――ヤマブキは きんいろ かがやきのいろ。
シルフカンパニーの本社ビルが見下ろすその輝きの街で、俺とイオナは育った。
俺の家の隣にイオナが越してきたのは、まだ俺がほんの小さなガキだった頃だと思う。
第一印象は、引っ込み思案で泣き虫でいつもおどおどしている女の子、ぐらいのものだ。
ホウエン生まれの人間はもっと元気で活気があると聞いていたが、イオナの性格はほとんど真逆だった。
仕方ないから同い年の俺が兄貴ぶって、街中をあちこち連れ回していた。
いつだったかゲートの係員の目を盗んで、隣のタマムシデパートまで一緒に探検しに行ったこともあったな。
あの時は二人ではしゃぎすぎて帰りがすっかり遅くなって、暗い夜道をびくびくしながら帰ったな。
そのうち草むらに浮かぶロコンの鬼火を見たイオナが大泣きして、俺だって怖かったけど、必死に励ましたっけ。
もしかしたらあの頃から俺は、あの弱虫な幼馴染を守ってやらなきゃいけないと思っていたのかもしれない。
だけど、イオナが不思議な力に目覚めたあの頃から、ヤマブキの輝きはあいつを照らしてくれなくなった。
『サイキッカー』。念力や予知、透視能力など、人間が本来持たないはずの超能力を持つ者達。
今でこそ超能力者ナツメが有名になったおかげで世の中にも受け入れられた気がするが、あの頃はそうでもなかった。
きっかけは突然だった。授業中、何の前触れもなくイオナの念力が暴走したんだ。
教科書や文房具が宙を飛び交い、教室中はパニックで、先生までが腰を抜かし、それでもイオナ本人が一番泣きそうな顔をしていた。
その次の日から、周囲のあいつを見る目は、今までと同じクラスメイトを見る目では無くなった。
そしてその怯えと好奇と排斥の目がもっと具体的ないじめに変わるのに、そう長い時間はかからなかった。
なんとかしなきゃいけないと思った。俺が幼馴染を守らなきゃいけないと思った。
格闘道場で空手を習い始めたのもその頃だ。あいつに嫌がらせをしてくる連中を何とかしてやっつけてやろうと思ったのだ。
俺は昔から体を動かすことしか出来ないバカで、おまけにあの頃はガキだったから、拳を鍛えることしか思いつかなかった。
それから間もなくして、ポケモンの扱い方を覚えた。バトルは空手ほど上達しなかったが、それでも役には立った。
思えば必死だった。家族からも腫れ物みたいに扱われていたイオナにとって、頼れる人間は俺だけだったから。
あのすがるような瞳に応えたいと思った。俺はヤマブキの輝きから置き去りにされたあいつのために、自分を鍛え続けた。
そうして、どれだけの時間を一緒に過ごしただろうか。
あの頃は疑いもなく、俺がイオナを一生守っていくんだと思っていた。
だけど、現実はそう単純ではなかった。俺が成長したように、イオナもまた成長していた。
いつの間にかイオナは自分の超能力を制御できるばかりか、自分で自分の道を選べるようになっていた。
嬉しいことのはずだった。だけど俺にはそれがひどく寂しかった。
いつまでも一緒に要られるなんてことはあり得ないと、もっと早く気付くべきだったのに。
俺達はいつの間にか、大人になってしまっていたんだ。
▼ ▼ ▼
「こうやってリキと面と向かって話をするの、何年ぶりかな」
サイキッカーのイオナが目の前で浮かべる儚げな微笑みに、リキは笑顔で応えることは出来なかった。
もう二十になるというのに、彼女はリキと初めて出会った頃と同じような、どこか子供っぽい話し方をする。
それがひどく懐かしくて、それでもリキはそれをそのまま口に出せないくらいには不器用な人間だった。
「仕方ないだろ。お前は今やヤマブキのジムトレーナーで、俺は格闘道場の空手王だ。
ヤマブキジムと格闘道場は未だに仲が悪いし、トレーナー同士が仲良くすればお互いよく思われない」
超能力の訓練を兼ねてヤマブキジムへ通っていたイオナは、数年前に正式なエスパー使いのジムトレーナーとして認定されていた。
一方のリキは空手とポケモンの研鑽を重ね、同じ頃にヤマブキ格闘道場の空手王の座を与えられていた。
しかし、かつてポケモンリーグ公認ジムの座を懸けて争ったヤマブキジムと格闘道場は、未だに水面下では反目し合っている。
流石に表向きは遺恨は残っていないような雰囲気を醸し出しているが、実際のところ積極的な交流は疎まれるような空気があった。
リキ自身は別に評判など気にしないが、せっかくのチャンスを掴んだイオナの立場を悪くするような真似はしたくなかったのだ。
皮肉にもお互いが良かれと思って選んだ道が、二人を遠ざける切っ掛けを作ってしまっていた。
実際にお互い嫌い合っていたわけではない。むしろリキは、ずっとイオナのことを気にかけていたと言っていい。
それでも、一度切れた縁というのは、気持ちだけで結べるものではないらしく。
忸怩たる思いを抱えたまま、リキは修行に明け暮れたり、道場破りに来た眼帯の格闘家と戦ったり、せわしなく日々を過ごしていた。
まるで置き去りにしてきたものを、必死に忘れようとしているかのように。
「それは、分かってるんだけどね。それでも、やっぱり寂しかったかな」
「もうガキじゃないだろ。いつまでも俺の後ろをチョロチョロするこたぁないんだ」
「うん。でもね、私、ちゃんと見てたよ。リキが頑張ってるところ」
「よせって」
疎遠になって以来ろくに挨拶すらしなかった幼馴染と今ようやく話ができているのに、突き放すような言い方しか出来ない自分が恨めしい。
しかしリキを日頃に増して無愛想にさせているのは、何も照れくささばかりではなかった。
つい十数分前にイオナと偶然再会した時、リキの心を支配したのは僅かな喜びと、そしてそれを丸ごと塗り潰すような絶望だった。
この状況で、心をささくれ立たせないでいられるほうがどうかしている。
なのに彼女はひどくいつも通りに見えて、その違和感がリキをいつも以上に無口にさせていた。
「できれば、もっと違う形で話せたら良かったんだけど、ね」
だからイオナが首元にぴったりとはまった首輪を自分で軽く撫でながら寂しそうに微笑んでそう言った時も、リキは返す言葉を持たなかった。
自分は知っている。彼女も知っている。
バトル・ロワイアル。この首輪の意味。この殺し合いの意味。
この島で出会ったということは、二人のうちどちらかだけしか生きてヤマブキシティに戻れないということ。
もう二度と、子供の頃の二人には戻れないということだ。
「……なんでそんなに落ち着いてるんだ」
リキの抑揚のない声は、それでいて確かに怒りを含んだものだった。
「落ち着いてないよ。今だって、私、すごく怖い。怖くてたまらないよ」
対するイオナの声は逆に恐れを帯びているようで、その奥にあるものを押し殺しているようにも聞こえて。
それがリキを焦らせる。目の前の幼馴染が、どこか遠くへ行ってしまいそうな、そんな錯覚。
いや、これはきっと錯覚ではない。確信だ。彼女の意志がもたらす、確信。
「――でもね、きっと私、殺されるのが怖いんじゃないの。ずっと私の側にいてくれたリキが死んでしまうのが、きっと私は一番怖い」
彼女の、その奥にあるもの。
それに気付いた時には、リキの体は言うことを聞かなくなっていた。
イオナが何気なくかざした手のひら。そこから放たれている念力が、リキの体を押さえつけている。
ヤマブキ格闘道場の空手王として鍛え続けた肉体が、不可視のサイキックパワーだけで拘束されてしまっている。
やめろ、と言おうとした。この念力ではなく、こうして身動きを封じてまで、彼女が為そうとすることを。
だけどその言葉を発する前に、リキの手持ちのモンスターボールのひとつが、紫色のオーラに包まれて浮かび上がった。
「ごめんね、ボールの中、透視させてもらっちゃった。確か交換は、反則じゃなかったはずだよね」
同じようにサイキックで浮き上がったイオナのボールとリキのボールが、空中で入れ替わる。
リキに向けてかざしている手と反対側の手でリキのボールを握ったイオナが開閉スイッチを押すと、中からスプーンを握ったポケモンが現れた。
「ユンゲラーーーッ!」
しかしその姿は一瞬。
即座に輝きに包まれたその体は一回り大きくなり、一対のスプーンを構えたより威厳のある姿へと変化した。
「フーーーディィィーーーン……!」
交換進化。
リキの手持ちからイオナへと渡ったユンゲラーは、進化条件を満たしその姿を変化させたのだ。
そのヒゲを指先で撫でながら、イオナは決然とした瞳をリキへと向けた。
「エスパータイプは私が一番扱い慣れてるからね……この子となら勝てる。きっと勝てるよ」
「……勝つ? 誰に勝つんだ。何に勝とうっていうんだ」
「あなたを傷つけるかもしれないすべて。すべてと戦って、私は勝つ。今度は、今度だけは私が守ってみせるから」
その目尻から一筋流れた雫を見て、リキは悟った。
彼女は自分を捨てる気だ。自分自身を勘定に入れていない。完全に投げ打つつもりでいる。
自分の手を血に染めてでも、リキだけを生かして帰そうとしている。
あのおどおどしていた幼馴染の、こんなにも意志に満ちた表情を見るのが、よりにもよってこんな時だなんて。
「じゃあね、リキ。ほんと言うとね、私……ずっとあなたのこと、大好き、だったよ」
彼女が最後に残した言葉に、リキは何も答えられなかった。答えを発する暇さえ与えてもらえなかった。
念力が解けた瞬間には、幼馴染の姿は忽然とその場から消えていた。
彼女の力ではない。フーディンのテレポート。戦闘から離脱するその効果をもって、一瞬で彼の前から跳躍したのだ。
リキはさっきまで彼女がいたはずの、誰もいない空間に手を伸ばした。
わなわなと震えるその手では、もはや何も掴めないと悟り、その拳を固く固く握りしめた。
「……くそぉっ!」
そして、感情の怒涛が荒れ狂うままに、膝を折ってその拳を地面に叩きつけた。
「何が守るだ、勝手なことを……誰が頼んだ、誰が俺のために死んでくれと願った!」
もはや周囲には彼女の気配などない。追おうも方角すらわからない。
どうにもならない。その現実だけが立ちふさがる。
誰も彼女に犠牲になれなどと望んではいないのに。彼女に人を殺めてなど、欲しいはずがないのに。
爆発しそうな胸の内をもう一度地面に打ち込もうとして、リキはその時、視界の端に転がるものに気付いた。
――モンスターボールだ。
イオナがフーディンと引き換えに残していった、元は彼女のボール。
何かの手がかりを期待していたわけではなかったが、リキは半ば無意識にそのスイッチへと手を伸ばした。
そして現れた光景に、息を呑む。
「これは……ゴーリキー、いや、カイリキーか!」
目の前の光景が、先ほどのユンゲラーの進化と重なる。
交換進化。
ボールから飛び出したゴーリキーの腕が二対へと増え、腰のパワー制御ベルトが音を立てて地に落ちる。
そして現れる、屈強なるその姿。リキが格闘道場で慣れ親しんだかくとうタイプ、その象徴とも言うべき鋼の肉体!
「カァァァァァァァアイリキィィィィィィィィィィイイイ!!!」
2秒間に1000発のパンチ。荒れ狂うパワーの奔流。
からておうのリキにとって、これ以上に自分に合ったポケモンはいないだろう。
それを彼女が残していった、その事実。
交換でなければフーディンは進化できなかった、というだけではないだろう。
リキが持つポケモンにふさわしいポケモンを、あえて残していった、その意味。
「俺への餞別のつもりか……こいつがいれば、容易くは死なないでくれるだろうと、そういうことか……」
カイリキーの逞しい姿を目にし、彼女がリキに生きていてほしいという思いを改めて自覚し。
リキの心の中に、炎が灯った。
それは希望であり、立ち向かう意志であり、肉体を動かす命の活力だった。
「とことん勝手なやつだ。だが、勝手なままにはしてはおかない。お前が泣き虫なのは、俺が一番良く知ってるんだ……!」
拳を握りしめる。
思えばこの拳も、ポケモンバトルも、理不尽に立ち向かうために磨いたものだった。
ならば、今回も変わりはしない。彼女を取り巻く理不尽と戦わなければならないのは、何も変わらない。
横に目をやると、カイリキーと視線が合った。その4つの拳を同じように握りしめ、力強い視線を送ってくる。
「力を貸してくれるな、カイリキー」
拳と拳を打ち合わせる。それだけで全てが伝わった。男と男の、無言の言葉があった。
そして、その身を構える。敵はここにはいない。しかし、倒すべき相手は見つかった。
戦うべきは理不尽。すなわち、このバトルロワイアルそのもの。
彼女が返り血を浴び過ぎて、もう引き返せなくなる前に。
「 ウ ー ! ハ ー ッ ! 」
烈昂の気合と共に正拳を繰り出す。
隣のカイリキーもまた、新たなる主のそばで虚空に拳を突き出していた。
阿吽の呼吸に心強さを感じながら、歩き出す。
行く当てなど知らないが、その一歩には力がある。
「何が、大好きだった、だ。勝手に過去形にするんじゃない……二人で帰るんだ、俺達のヤマブキシティへ」
ヤマブキは金色、輝きの色。
だが自分一人では、きっとその輝きは見つからない。ようやく分かった。だからこそ。
その輝きをもう一度取り戻すために、空手王が征く。
【カラテおうのリキ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]幼馴染のイオナを救い、殺し合いを打破する
1:イオナを探す
◆【カイリキー/Lv50】
とくせい:ノーガード
もちもの:???
能力値:攻撃全振り
《もっているわざ》
ばくれつパンチ
バレットパンチ
ストーンエッジ
みがわり
◆【???/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|からておうのリキ|
|性別|男|
|容姿|20歳前後。道着を着込んだスタンダードな格闘家姿。|
|方針|対主催|
|人物|無口で無愛想な格闘馬鹿。人付き合いは悪いが、仁義には厚いタイプ。
ヤマブキの格闘道場で空手大王に支持し、拳とポケモンの腕を磨いてきた。
幼馴染のイオナのことは憎からず思っているが、それを表に出せる人間ではない。|
▼ ▼ ▼
森の中。
木の幹に背中を預けたまま、イオナはただ涙を流していた。
「死にたくない……死ぬのは怖い……殺すのも、殺されるのも怖い……!」
流れるままに。溢れるままに。それの止め方を知らないかのように。
「それに、ポケモンで人を殺すなんて嫌……私、こんなことのために、トレーナーになったんじゃないのに……!」
幼馴染の前ではついぞ見せなかった本当の弱音。儚げな笑顔の下に封じ込めていた、彼女の恐れ。
「でも、リキが死ぬのはもっと嫌……私が何もかも我慢すれば、そうすれば……う、ううっ……」
気遣わしげに、フーディンがその指で彼女の手を握る。
涙でくしゃくしゃになった顔で、イオナは無理やり微笑みを作ってみせた。
「……ごめんね。君は優しいね。私、そんな優しい君に、きっとひどいお願いをしちゃうね」
細い指で、涙を拭う。願わくばもう二度と流れてほしくはないが、そうは行かないだろう。
それでも、どんなに心が悲鳴を上げていても、覚悟は決めなければならない。
「一緒に殺そう、フーディン。私に力を貸して」
フーディンが頷き、モンスターボールに戻る。そのボールを念力で浮遊させたまま、彼女は歩き出した。
ヤマブキは金色、輝きの色。
彼女にとっての輝きはただひとりのことだった。彼さえいれば、自分がいなくても、ヤマブキは輝くだろう。
脆い心を封じ込め、サイキッカーは一歩を踏み出す。
【サイキッカーのイオナ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]幼馴染のリキを生還させるため、他のトレーナーを殺す
1:敵を探す
◆【フーディン/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの:???
能力値:特攻素早さ全振り
《もっているわざ》
サイコキネシス
きあいだま
リフレクター
テレポート(緊急離脱用)
◆【???/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|サイキッカーのイオナ|
|性別|女|
|容姿|20歳前後。FRLG版に近い、長髪を後ろで一つ結びにした姿。|
|方針|マーダー|
|人物|心優しく穏やかな性格の女性。幼馴染のリキには恩と負い目、恋心を感じている。
超能力者で幼少期は辛い生活を送ってきたが、ヤマブキジムでナツメに師事し能力制御に成功する。
同時にエスパー使いのジムトレーナーとしても経験を積んでおり、バトルの実力はリキより高い。
使える超能力は念力と透視。どちらも近距離でなら強力だが、あまり遠くのものへは使えない。|
投下終了しました。しかし、まさか空手王三人目とは……。
時間と場所の記載を忘れてましたが、両者とも【C-6/林/一日目/日中】でお願いします。
投下乙です
ここで初めて知り合い同士の邂逅となりましたが奉仕マーダーとなってしまいましたか…
トレーナー自身もサイコパワーを使えるというのは驚異ですがメンタルが保つか
残されたリキも頑張って欲しいですね
まだ一枠残っているかと思いますので新規キャラ一名で予約させていただきます
皆様投下乙です!
まだ読み切ってないので感想までは書けないですが、自分も2枠の新キャラを投下します
「やっちゃえドサイドン!」
「ガアアアアアアアアアアア!!」
ちょっとした山とも見違える巨体の生物が、腕を振り上げ咆哮する。
速さこそ鈍重だが、その一撃はコンクリートの地面を抉るほどの破壊力。
だが、その一撃が抉ったのは地面だけ。
本来、ドサイドンが狙った相手に当たることはなかった。
「すばしっこいんだから。早く死んじゃえばいいのに!」
そうぼやくのは、ドサイドンに指示を出すトレーナー。
銀髪に白い肌をした、紫のブラウスと白いロングスカートを纏った少女。
外見で判断するのであれば、年齢は10歳前後というところだろう。
その名を、お嬢様のイリアスという。
その少女が戦っている相手、それはこちらに背を向けて逃げる者が一人。
真っ白な肌と長髪、白いワンピースを着た、外見年齢はイリヤスとそう変わりないだろう少女。
そして、その少女を守るように飛ぶ、一匹の鳥ポケモン。
「ピェエエエエエエエエエエエ!!」
威嚇するように翼を広げ、ドサイドンに突撃するそのポケモンはムクホーク。
ドサイドンの硬い岩の体にインファイトをしかける。
格闘タイプの効果を持つ、その鋭い一撃はドサイドンの体を揺るがせる。
しかし、それは致命打にはならない。
「無駄よ。ドサイドンの特性はハードロック、効果抜群の攻撃の威力を下げることができるんだから。
生半可な攻撃じゃ、ドサイドンはビクともしないわ」
すぐに態勢を立て直したドサイドンは、イリアスの指示によりストーンエッジを放つ。
空を舞うムクホークに襲いかかる岩の刃。それをムクホークは間一髪で避けていく。
もしそれが一撃でも命中していれば、ムクホークとて無事ではすまないだろう。
「はぁ…はぁ…、止めて…!」
その戦いの様子を、巻き込まれない場所に逃げるように走りながら伺う少女、オカルトマニアのセーキは呟く。
「来ないで…って…言ってるの……!」
彼女に戦意はなかった。
かと言って死にたいわけでもない。生きるためには戦うしかないのだ。
しかし、如何せん戦意が違いすぎた。
殺す気でかかってくるドサイドンと、ただ逃げたいがためにそれを迎え撃つムクホーク。
相性の不利もあったが、トレーナーの戦意が直に反映されているかのように戦況は傾いていた。
「全く、そんな調子じゃこの先生き残れないわよ」
さすがにそんな様子を見かねたのか、イリヤスは警告する。
「あなた、死にたいのかしら?」
「はぁ…死にたく…なんか……」
「なら戦いなさい。あのサカモトって男も言ってたでしょ?
『戦いは常に、先に行動できる者が有利だ』って。逃げ続けて後手に回ってるだけじゃ、あなたはただの狩られる者でしかないのよ?」
「…私は………」
それでも、セーキはムクホークに指示を出そうとはしない。
ため息をつきながら、イリアスはドサイドンに命じる。
「そう、なら死になさい。
ドサイドン、つのドリル」
冷酷に、そう指示を出す。
それが少女とムクホーク、どちらに向けたものであるのかは分からない。
ただ、どちらが対象であったとしてもそれを受けてただでは済まないだろう。
「死ぬ……?嫌だ……、死にたくない……」
目の前にまで迫った死。
その恐怖は咄嗟にセーキに行動させた。
「――――――――!!」
少女は、ムクホークにつけた名を叫ぶ。
その瞬間、ムクホークはドサイドンに突撃をかけた。
それはインファイトでも、ブレイブバードでもない。
閃光する体が、ドサイドンの巨体に特攻をかけるがごとく衝突。
地響きを立てながら、ドサイドンの巨体が揺らぐ。
肩で息をしながら膝をつくドサイドン、しかしその傍には地に伏せるムクホークの姿。
今放った攻撃はいのちがけ。自身の体力と引き換えに、その体力分のダメージを相手に与えるもの。
それによりドサイドンの受けたダメージはインファイトを遥かに超えるほどだった。
しかし、それでもなおドサイドンの体力は尽きない。
インファイトと命がけの二つを持ってしても、そのポケモンの体力を削り切ることができなかった。
「もうおしまい?なら死になさい。
まだいけるわね?ドサイドン」
「グルルルルルルルルル」
ゆったりと立ち上がるドサイドン。
セーキはムクホークをボールに戻し。
膝を着いた態勢で、ふと空を見上げた。
「……?」
その仕草があまりに不自然だったこともあり、思わずつられてその視線の先を見てしまう。
その瞬間だった。
「ピェエエエエエエエエエエエエエ!!」
赤い何かが閃光のごとくドサイドンに向かって突き進んでいく。
ムクホークと同じくらいの大きさだが、その速さはムクホークを上回るほど。
「戻りなさいドサイドン!」
それがたどり着く前にイリアスはドサイドンをボールに戻す。
結果、その赤い閃光の攻撃は空振り。
大きな翼を広げて現れたその姿は、赤い体と鋭い瞳を讃えたポケモン。
ムクホークと同じ鳥ポケモンのファイアローだった。
空振りに終わった攻撃を、今度はイリアスを狙って放つファイアロー。
「スターミー、10万ボルト!」
イリアスは咄嗟にもう一つのボールを取り出し、投げると同時に指示を出す。
「フゥゥゥゥゥ!」
紫の体を回転させながら現れたスターミーが指示通りにその体から電撃を放つ。
「……!お、追い風!」
そのまま突っ込んでは避けられないと判断したセーキもまた指示を切り替える。
急ブレーキをかけるように翼を前方めがけてはためかせ停止。
10万ボルトの射程に入る前に止まることでかろうじて効果抜群の一撃を回避。
そして風を体にまとわせたまま、先ほどにも増した速度でファイアローは飛び去る。
その背に主であるセーキを乗せて。
「…ふん。戻りなさいスターミー」
元々の速さに加えて追い風を纏ったファイアローを追うことは難しいだろう。
ドサイドンのダメージのこともあるし、しばらくはポケモンの治癒に専念しよう。
それにしても、少し油断しすぎただろうか。
あのくらいの相手、さっさと殺してしまえばよかったのに。
何があいつに対してそこまで気をかけてしまったのだろうか。
答えを出すのにそう時間はかからない。
似ていたのだ。あいつのあの姿が、昔の自分に。
「次に会ったら容赦しないからね」
◇
お嬢様。
一般的に考えればそれはお金持ちの少女に対してつけられる肩書である。
このイリアスもその認識で間違いはない。
だが、その内面は10歳近くという年齢には不釣り合いなほどに、歪な形に成熟している。
少女は、とある地方に住む金持ちの家の娘だった。
蝶よ花よと愛され、家に住む多くのポケモンに囲まれ、幸せに過ごしていた。
しかし、ある日を境にそんな日常は崩れる。
豪邸であった家に、強盗が入り込んだのだ。
それも個人ではなくある程度の数が集まった、強盗団とでも言うべきもの。
一人二人であればどうにかなったであろうが、ポケモンまで連れた多くのそれらには為す術もなかった。
両親の言いつけによりクローゼットの中で全てが終わるまで潜んでいたイリアス。
そして物音も人の気配もなくなった頃に出てきたイリアスが見たのは、血まみれの床の上で倒れた両親の姿と、その傍に瀕死になって蹲っていたポケモン達。
後から知ったが、両親の必死の抵抗もあって金銭面における被害はほとんどなかったらしい。
侵入者が誰だったのか、その地方に暗躍するとある組織の関連性も噂された。
その後の犯人が一体どうなったのか、イリアスは知らない。
正確に言うには、イリアスにはそんなことを気にする余裕はなかった、と言ったほうが正しいか。
一人になったイリアスを待っていたのは、彼女を誰が引き取るか、ということで親戚の人間がこぞって争いを繰り広げるという醜い光景だった。
誰から見ても、それが彼女の家の財産目当てであるということは明らか。
毎日のように繰り広げられるそんな言い争いを見ているイリアスが子供ながらにその事実に気づくまでそう時間はかからなかった。
しかし、彼女は誰にも従わなかった。
この家にいるたくさんのポケモンを住まわせることは、他の場所では不可能だから。
行ってしまえば、このポケモン達とも別れなければならないから。
さらに、自分が子供であることをいいことに一人になった時間には毎日のように色んな人が押しかけてきた。
少女には分からない難しい単語を並べて何かを買わせようとする者、親の知り合いを騙り家にズコズコと入り込もうとする者。
騙される度に、幾度となく泣いた。
自分の情けなさに、弱さに、何も知らない無知な己に。
そんな彼女を慰めたのは、いつだってポケモン達だった。
そしてある時を境にイリアスは泣くことを止めた。
誰にも屈しないと、何にも負けないと。
何があっても、この自分の育った家を、そしてここに住まうポケモン達を守ってみせると。
血反吐を吐くような思いでそんな大人たちを相手に立ち向かっていった少女は。
いつしか歳とは不相応に達観し、大人も顔負けするような腹のさぐり合い、思考能力を得た。
しかし代償として、人間の醜い面を見せられ続けたイリアスは、やがて人間に、特に大人に対しては打算や利害を通じたものしか見られなくなっていった。
だけどそれでも構わないと思っていた。
ずっと大好きなこの家とポケモン達と共に居られるのなら。
何があっても、この宝物は守ってみせる。
それが、このお嬢様・イリアスの決意だった。
◇
イリアスのスタンスは、何があってもあの家に帰ること。
ポケモン達が待っているあの家に。
だから、殺し合えと言われて戦うことに躊躇はしない。
他の人間は信用できない。
信じられるのは、ポケモン達だけ。
そうして白い少女は、ひたすら真っすぐに、歪んだ戦いを続ける。
自分を待つ者達のために。
◇
オカルトマニアのセーキ。
それがもう一人の少女の肩書。
しかし、彼女は一度としてその肩書を名乗ったことはない。
セーキは元々、森の中にある小さな村に住んでいた。
そこには元々肌白の独特な人達が住む、静かな場所だった。
幼いころから親を亡くした彼女は、姉と二人で過ごしていた。
周囲の環境には恵まれていたとはいえたった二人暮らしの家庭。だが寂しいとは感じなかった。
彼女の周りには、いつもたくさんのポケモンがいたから。
森を走り回る者、木々に登って遊ぶ者。
中でも彼女は空を飛ぶ鳥ポケモン達の背中に乗るのが大好きだった。
あの広い場所に抜ければ、どんな遠い場所まででもたどり着けそうな気がしたから。
しかし、ある日そんな場所にテレビ取材に訪れた者がいた。
元々人の出入りが多い場所ではなかっただけに、その事実に村のみんなが戸惑っており、そんな皆を尻目に彼らは森や村を回った後帰って行き。
その日から、彼らの生活は一変した。
実はその村や森には珍しいポケモン、ポケモンの進化の石やバトル用の道具の素材など貴重なものがたくさんあったのだ。
それがテレビ放送によって明らかになってしまった結果、多くのトレーナーやコレクター、あるいは企業が立ち入ってきた。
平穏だった森が荒らされるのにそう時間はかからなかった。
やがて住む場所すらも他の皆と共に追われた。
寝る場所にすらも困る有り様になってしまったセーキとその姉は、たった二人で都会に入っていった。
慣れない場所で日々の生活費を稼ぐために駆けずり回る姉。
一人になったセーキは、公園で子どもたちに混じって遊ぼうとした。
しかしその独特すぎる肌や髪、瞳は彼らにとって奇異な異物だった。
孤独を恐れる彼女が子どもたちに混じろうとする度に、まるでヒーローが怪物退治をするかのように追いかけられる日々。
そんな彼女を、皆はいつしかオカルトマニアと同列の扱いにするようになった。
一人でいることの方がマシに感じてきた彼女は、いつも空を眺めていた。
かつて鳥ポケモンの背に乗って大空を舞ったあの日々に思いを馳せるかのように。
そんな彼女の孤独を癒やしたのは、姉の存在。
仕事で疲れて帰ってきながらも、自分との時間も決して消そうとはしない。
過酷な生活だったが、その存在があったからこそセーキは生きてこられた。
しかし。
ある日、その姉も忽然と姿を消した。
数日待っても帰ってくることのない姉を探して街中を駆けずり回り。
ボロボロの体で雨の中一人、路地裏に倒れこんで雲に覆われた空を眺め。
そこを一匹の鳥ポケモンが飛んでいるのが目に入って。
それが、彼女のこの場に連れてこられるまでの最後に見た風景だった。
◇
死にたくない。
セーキはファイアローの背の上で、小さく震えていた。
そこはあれだけ憧れた大空の上。
なのに、今は全然楽しくない。むしろ後ろから迫ってきそうな死の気配に怯えることしかできない。
「怖い…、お姉ちゃん……」
ポケモンバトルなどやったこともない。
そんな彼女に戦うことなどできるはずもなかった。
「ゼロ……、レップウ…、ずっとそばに居て……」
ゼロ・ムクホークとレップウ・ファイアロー。
セーキの名付けたポケモンの名前だ。
いっそ、このまま一人、憧れた空をずっと飛んでいるだけで居られたら。
どれだけ幸せなことだろう。
そう思う少女を背に乗せ、ファイアローは静かに空を舞う。
行き先もその先にあるものも、何も分からぬままに。
【C-3/平原/一日目/日中】
【お嬢様のイリアス 生存確認】
[ステータス]:健康
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:家に帰るために戦う
1:一人で戦う。信じられるのはポケモンだけ
2:他の人(特に大人)は信用しない
▽手持ちポケモン
◆【ドサイドン/Lv50】
とくせい:ハードロック
能力値:攻撃、HP振り
《もっているわざ》
ストーンエッジ
アームハンマー
つのドリル
????
※HPがレッドゾーンまで減っています
◆【スターミー/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:特攻、素早さ振り
《もっているわざ》
10万ボルト
????
????
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|お嬢様のイリアス|
|性別|女|
|容姿|紫のブラウスに白いロングスカート、銀のロングヘアー、小柄|
|方針|生存重視
|人物|親を失った金持ちの家に住む娘。
財産目当てで近づく多くの醜い大人達を見せられたことで人間を素直な目で見ることができなくなっている。
そのため人間、特に大人に対しては不信感を露わに心を閉ざして接するがポケモンに対しては心を開き歳相応の幼い一面も見せる。
たくさんのポケモンが待っている自分の家に帰るために戦う決意をする。しかし殺人自体が可能かどうかは不明。
なお、ポケモンと過ごした経験はあるがトレーナーではないためポケモンバトルにおいては詰めや読みの甘さがある|
【C-3/平原(上空)/一日目/日中】
【オカルトマニアのセーキ 生存確認】
[ステータス]:怯え、疲労(小)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]帰りたい
1:怖い、戦いたくない。一人になりたい
◆【ムクホーク/Lv50】
とくせい:威嚇
もちもの:???
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
インファイト
いのちがけ
???
※セーキにはゼロと呼ばれてます
※瀕死状態です
◆【ファイアロー/Lv50】
とくせい:はやてのつばさ
もちもの:
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
追い風
????
????
※セーキにはレップウと呼ばれています
〔トレーナープロフィール〕
|名前|オカルトマニアのセーキ|
|性別|女|
|容姿|白いワンピース、真っ白な髪と肌に特徴的な瞳の色|
|方針|???|
|人物|オカルトマニアは変わり者な彼女に対して他者につけられた蔑称。
森でポケモン達と静かに過ごす村に住んでいたが人間の立ち入りによって棲家を追われる。
姉と二人で都会で過ごすも馴染めず、行方不明になった姉を探して駆け回っていたところで参戦。
空に大きな憧れを持っており、また野性のポケモンと長く共に過ごしたことからポケモンと少しだけ心を通わすことができる。しかしポケモンバトルの経験はない|
投下終了します
>>128
訂正箇所を発見したので修正します
ミニスカートのユカリの状態表が
[ステータス]:気絶、バシャーモに抱えられ移動
となっていたので
[ステータス]:気絶、バクフーンに乗り移動
修正します。
後タイトルがなかったのでタイトルは
「誰が為に強さは宿る」
でお願いします
>ブレイズフレンズ!
拳で語り合う事で、アゲハとバシャーモの仲が深まるのが熱くて良かったです!
初っ端からボロボロになってるけど、きっと強力なチームになると思います!
>待ちキャラって会話相手がいないと退屈だから
あぁ〜、電波目線のこのふわふわしてる世界感が心地いい……。
この人間になりきってるピカチュウが今後何を見せてくれるのかが楽しみです。
ていうか待ちキャラなのか……。
>誰が為に強さは宿る
悲しみから立ち直れない少女に、ポケモンたちが力になろうとしてくれる。
トレーナーから一方的にではなく、お互いに手を伸ばし合う……って、素敵な関係ですよね。
そして……ロワに出るオカマはホントおっそろしい……。その分キャラが濃密で見ごたえがあります。
>失われた輝きを求めて
殺し合いの環境に追い込まれ、自分にとっての希望を守るためにすべてを捨てるイオナ。
まだ希望を失わず、悲痛な幼馴染が手を血に染める前に、とめるために走り出すリキ。
どちらの希望もヤマブキ色に輝いているのに、スタンスは真逆。
彼らの見る希望に手が届くのか、それとも悲劇が待つのか……。
>交わらぬ白
どちらも重い過去を抱えていて、人よりもポケモンとの関わりが深かった少女。
少しだけ似ている所があるけれども、ほとんど違う道を歩んできた二人。
セーキはこの一戦を経て、どの方向へと進むのか。
イリアスの道は決まっている。彼女の意志は、大切な者の待つ家まで届くだろうか……。
皆様、投下お疲れ様でした!
ルールに不備があったので、後ほどまとめてからお伝えします。
不安点が残る方は、一時的に投下を待っていただければ幸いです。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
わかりました。
投下するつもりで来たのでひとまず投下だけして修正が居るなら修正します。
俺は、ポケモンを憎む――。
右手に剣を持ち、左手に盾を構え、悪竜と対峙する。
こちらの武器、及び悪竜は共に満身創痍。
勝負は次の一手で決まるだろう。
悪竜の三つ首が戦慄く。
否、三つ首のようで左右の首に意思はない。
牙を備え、多方向から襲い来る二の首と三の首も確かに脅威だが、真に警戒すべきは中央の一の首だ。
左右の首に惑わされぬよう、それでいて注意を怠らぬようにしつつも、一の首にこそ注視する。
睨み合うこと数秒、悪竜の口が僅かに動いたことを感知する。
その動きは吸い込み――ブレスの予備動作。
いける――。
盾を前へと突き出すと同時に、悪の波動が迸る。
しかし王者の盾は悪竜の吐息を遮り、この身を前へと進ませる。
これが電磁の波なら王者の盾とて意味をなさず、たまらず膝を付いていたところだろう。
だが悪竜は悪しき性に従うことを由とし、好機を逃した。
だからこれで終わりだ。
盾から聖剣を抜き放ち一の首へと向かい振り下ろす。
二の首と三の首が剣を受け止めようとするが、シールドでバッシュしながら強引に剣をねじ込む。
そして剣が悪竜の首へと食い込みそのまま跳ね飛ばそうとしたところで――剣が突如静止した後、バシュッと気の抜けた音と共に手から剣が消え失せた。
ああ、やはりか――。
それでも諦めきれずに脇差を抜く。
この戦いを始める前、聖剣で砥いで作ったただの尖った石だが、傷ついた悪竜に突き立てれば仕留めることくらい可能だろう。
だが振り下ろした刃はまたしても届くことはなかった。
再び音が響くとともに、今度は悪竜が消え失せる。
……どころではない。それまでの二つとは明らかに違った異音が、首元から鳴り響くではないか。
このブザー音には覚えがある。
あの始まりの会場で鳴り響き、一人の男の命を奪った音だ。
「……」
脇差を手放し、両手を上げる。
こちらの意思を汲み取ったのだろう、ブザー音はすぐに止んだ。
どうやら思っていたよりは有情らしい。
試してみると決めた時から命を奪われる覚悟もしていたのだが。
パロロワ団とやらは極力直接は手を下したくはないのかもしれない。
ともあれだ。
腰にマウントされた2つのモンスターボール――矛盾ギルガルドと悪竜サザンドラが入ったそれらをコンバータにセットする。
何の変哲もないボールに見えたそれに、特殊な機能が搭載されていることを確認できた。
“ポケモンを瀕死を超え殺傷しようものなら、加害者或いは被害者を自動的に回収し、殺させないようする機能”だ。
ならばモンスターボールを壊した上でポケモンを殺そうとしたらどうなるか。
答えは見ての通りだ。
意図してポケモンを殺そうものならパロロワ団の手により首輪が爆破され、命を落とす。
ボールに回収される直前にギルガルドが自らの意志でトレーナーである自分に逆らい斬撃を止めたことから、
ポケモンたちも互いに互いを殺さぬよう訓練されているのだろう。
ポケモンコンバータのような機械で刷り込まれているという線もある。
それでいて、自分で「私を殺すつもりでかかってこい」と命令したことであるとはいえ、サザンドラからの攻撃に手心はなかった。
最後の一撃――後わずかでもキングシールドが遅れていたら命はなかったことだろう。
ああ、つまり、つまりは。
このポケモンは、ポケモンたちは。
人間だけを殺すバケモノなのだ。
パロロワ団が何故そのような処置をしたのか、理由は幾つか考えられよう。
奴らはこの殺し合いを実験だと言っていた。
実験である以上は、何か目的があり、そのためにはポケモンを殺されるわけにはいけないのかもしれない。
たとえばこの殺し合いはコンバータとやらの実験であり、様々なトレーナーに弄ばれたポケモンたちをサンプルとして回収したいのかもしれない。
単にポケモン達の親がパロロワ団になっている以上、このポケモン達はパロロワ団の所有物であり、
貸しているだけの自分たちの物が壊されるのを好としないだけかもしれない。
或いは――ポケモンが人間を殺し、人間がポケモンに殺される。その構図にこそ意味があるのかもしれない。
ああ、そうだ。そうなのだ。
ポケモンは、人間を殺す。
殺し合いの始まり、意識を奪われる前に見た光景を思い出す。
影より現れた暗黒の具現たるその姿を、どうして見間違えようか。
あれは、ダークライだ。
俺の知る限りこの世で最も“人間を殺した”ポケモンだ。
忘れるか、忘れるものか。
仲の良かった少女がいた。幼かった故に理解していなかったが、もしかしたら初恋だったかもしれない少女がいた。
けれど彼女は死んだ、殺されたのだ。
永遠に覚めることのない悪夢に魘され、衰弱していく少女を見ることしかできなかった自分の無力さを覚えている。
思えばあの時からだった、ポケモンという存在に拒絶感を抱いたのは。
何故ああも父も母も妹も、周りの皆のポケモンたちと笑い合えているのかが理解できなくなってしまった。
ある大人は言った。
ダークライに悪気はなかったのだと。
悪夢の力故に人ともポケモンとも関わり合えないダークライもまた犠牲者なのだと。
なんだそれは、ふざけるな。
悪気がなければ何ら悪いことをしていなかった少女の命を奪ってもいいと、そういうのか!?
抱いたのは怒りだった。止めどない怒りだった。
ダークライへの、だけではない。
あれだけのことをしたダークライを庇おうとする大人たちへの、人間たちへの怒りだった。
何故誰もダークライを討とうとしない。何故みんなダークライを野放しにするのだ。
ダークライがポケモンだから? ポケモンだから人間は、ポケモンがどんな罪を犯そうとも許し、仲良くしないといけないとでもいうのか!
日に日に人にポケモンに怒りを募らせ、攻撃的になっていった俺を両親は心配したのだろう。
少しでもダークライのことを忘れさせようと、当時はまだダークライ出没の噂がなかったホウエン地方へと引っ越した。
それが新たなる悲劇の始まりとも知らずに。
今でもその時のことは夢に見る。
海の化身と大地の化身の激突に、太陽が燃え盛り、嵐が吹きすさび、大地が隆起し、津波が全てを掻っ攫う。
天変地異。この世の終わりとも思える地獄が目の前に広がっていた。
『あ、ああ、あああ! 父さん! 母さん! トウコ!』
父が濁流に流される。
母が大地に飲み込まれていく。
妹は元々の身体の弱さが祟り、急激な気温変化の連続に耐えられず命を落とした。
俺は家族を失った。俺だけが生き残った。
ダークライへの怒りから、次があれば今度こそは誰も殺させないと鍛え続けた対ダークライ用のポケモン達が、皮肉にも俺だけを護ったのだ。
悪夢を振り払うための力は、現実の前には無力だった。
ああ、いっそのことこの現実こそが、夢だったらよかったのに。
なあ、頼むよ、ダークライ。連れてくのは俺だけにしてくれよ。父を、母を、妹を、あの子を、俺から奪わないでくれよ……。
願いが、聞き届けられることはなかった。俺は、夢の中へと逃げることさえ許されなかった。
全てを失い惚ける俺の前で、暗雲に亀裂が入り、大地へと光が降り注ぐ。
現れた天空の神は、荒れ狂う二柱を諌め、世界を平定し、三匹のポケモン達は何処へと去っていった。
『は、はは……。なんだよこれ、なんなんだよこれ』
あまりにもあっけない終わり。あまりにも平和な解決。
あれだけのことをしでかしておきながら、ポケモンたちは誰も倒れることなく、誰に謝ることなく去っていったのだ。
なのに誰も、ポケモンを責めない、憎まない。
神々の戦いに老人たちは神々しささえ覚え、伝説のポケモンを目の当たりにしたことで喜んでいる子どもたちもいたくらいだ。
『狂ってる……。この世界は、狂ってる……』
それでも。それでも尚。俺は、狂いたくなかった。
世界が狂っているからこそ、俺だけは正気でいたかった。
少しでもポケモン達からこの世界を護れるよう、血反吐を吐きながら勉学と鍛錬に励み、国際警察になった。
ポケモン犯罪を取り締まる日々の中、俺は多くの人間とポケモン達を見てきた。
過去の事例も学んだ。
ロケット団、マグマ団、アクア団、銀河団……。
数多の組織がポケモンを使い、この世に悪をなしてきた。
ポケモンが悪だ、などと人間を棚に上げ一方的に断罪するつもりはない。
悪をなしたものが悪であり、ポケモンが被害者なときも確かにあった。
だが、ポケモンが悪をなしたことも、ポケモンで悪を成した人間も、数えきれぬほどこの世界にいた。
いつしか、俺はポケモンとは人間にとっての何なのかと考えるようになっていた。
ポケモンは人の善き隣人だと言うものがいた。
友達だとも、仲間だとも、相棒だとも聞いた。
……本当に? 本当に、そうなのか。
お前たちは本当のポケモンを知らないだけではないか。
あの人殺したちを前にしてもそんなことが言えるのか。
崩壊しても崩壊しても結成されるポケモン犯罪組織とのいたちごっこを繰り返し摩耗していく中、俺は二つの組織のことを知った。
プラズマ団とフレア団。
片や人間からのポケモンの解放、片や戦争の道具であるポケモンの抹消を謳う彼らは、俺を一つの真理へと至らせてくれた。
人とポケモンは分かたれるべきであるという真理に。
ポケモンは悪ではない。
しかしポケモンは悪魔である。
人はポケモンに焦がれる。
ポケモンを自らのものにしようとしモンスターボールを開発し、ポケモン同士を争わせ、ポケモンで戦争し、ポケモンで犯罪を起こす。
ポケモンという存在そのものが人を悪へと走らせ、悪を成す人間たちの手でポケモンもまた悪となる。
互いに互いを悪と成し、傷つけあうというのなら、人とポケモンは分かたれなければならない。
そうして俺もまた悪をなした。
プラズマ団とフレア団、二つの組織に国際警察の情報を流し、国際警察が後手に回るようにした。
その甲斐もあってかプラズマ団とフレア団は野望に王手をかけたようだが――世界は、変わらなかった。
二つの組織は崩壊し、人はポケモンたちとの関係を省みることなく、今もポケモンを傍らに置き笑っている。
それがこの世界のどうしようもない現実で、果てがこのザマだ。
情報漏洩が露見し、国際警察を追われた俺は、それでも尚悪を成すポケモンたちを狩るハンターとして戦い抜いてきた。
その俺が今やポケモンに狩られる立場にあるんだ。笑うしかない。
だってそうだろ?
誰も守れず、世界を変えられず、ポケモンも殺せないというのなら。
そんなの、嘲笑うしかないじゃないか。
世界を、人間を、ポケモンを、自分自身を――。
「……出ろ、ギルガルド、サザンドラ」
回復こそしたものの殺し合わされたばかりで息をつく間もなく呼び出された矛盾と悪竜が憎たらしげにこちらを睨みつけてくる。
それでいい。
俺は敵だ。お前たちの敵だ。
これが俺たちの距離、分かたれた溝だ。
「俺は悪を成す。お前たちを悪と成す。それが嫌なら……分かるな?」
誰も守れず、世界を変えられず、ポケモンも殺せない自分でも、ポケモンで人を殺すことは、できる。
パロロワ団に命令されたからではない。
莫大な報酬になんて興味もない。
命欲しさからでもない。
ただ分からせてやるとそう思った。
省みて欲しいとそう願った。
国際警察としての経験が言っている。
パロロワ団はいつか、瓦解するだろう、と。
ロケット団のように、マグマ団のように、アクア団のように、銀河団のように、プラズマ団のように、フレア団のように。
ならばその時、この殺し合いが明るみに出た時に、せめて、人間にポケモンとは何なのか省みさせるような、ポケモンとの関係に疑問を持たせるような傷痕を。
俺はこの地に刻もう。
ポケモンで人を殺し、ポケモンに人を殺させ、ポケモンを憎ませる、恨ませる、怖がらせる悪としよう。
いつか、だけではない。
この殺し合いを目論んだパロロワ団さえも目を覆うほど陰惨に、人間たちをポケモンたちに殺させよう。
ポケモンとの絆を掲げ殺し合いに反逆する人間も、ポケモンを道具とし殺し合いに乗る人間も、ポケモンたちと逃げ惑う人間も。
誰も彼もを惨殺しよう。
その過程でこの身が誰かに討たれるのならそれもまた本望だ。
悪は断罪されねばならぬ。
何よりこの身がポケモンに殺されることもまた、ポケモンが人を殺し、人間が命じ人間を殺させるということだ。
人とポケモンは分かたれるべきという証明となろう。
故にこそ、叫ぶ。
「俺の名はアギト! 人を、ポケモンを狩る者、アギト!
世界の真実を知らしめるため、俺を殺しに来い、人間よ、ポケモンたちよ!」
聖剣を掲げ、王者の盾を手にし、悪竜に跨がり、英雄と、魔王となりて、怒りの日よ来たれり――。
【A-3/森/一日目/日中】
【ハンターのアギト 生存確認】
[ステータス]:怒り、憎悪
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1
[行動方針]対“人間とポケモン”
1:人間にポケモンたちとの関係を考えなおさせる程の傷痕を残す。
2:1のためにポケモンにてできるだけ残虐に人を殺す。
※:ポケモンを殺すことを禁じられていることを把握しました。
▽手持ちポケモン
◆【サザンドラ/LV50】
とくせい:ふゆう
もちもの:???
能力値:???
なつき度:0
《もっているわざ》
???
▽手持ちポケモン
◆【ギルガルド/LV50】
とくせい:バトルスイッチ
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
※自身の目的に沿った構築にしたようです。
〔トレーナープロフィール〕
|名前|ハンターのアギト|
|性別|男|
|容姿|20代後半。短髪黒髪。国際警察時代の名残か、黒いつばのある帽子を被り、黒いスーツを着ている|
|方針|対“人間とポケモン”(目的はあるものの、生き残り度外視の無差別マーダー)|
|人物|深く暗い激情を胸に抱えた男性。幼なじみの少女がダークライが原因で死亡して以来、現行世界の人とポケモンの関係に疑問を持つ。
様々な経験の末に人とポケモンは分かたれるべきという結論へと至る。怒り、憎しみの矛先は、“人とポケモン”の関係性そのもの。
感情的な人物だが、国際警察として多くのポケモンや悪人と戦ってきただけ有り、腕や戦術眼は確か。
人の手に余る幻のポケモンや伝説のポケモンを裁くことを願ってきたため、強いポケモン相手ほど対抗策を講じている|
すみません、投下終了宣言を忘れていました。
後ギルガルドもなつき度0です。
投下乙です。
ポケモンを憎むがゆえにポケモンで人を殺す。
こういうポジのトレーナーは初めて見るんで面白いですね。
それでは自分も投下します
ミチオはポケモンブリーダーであったが、ポケモンが好きというわけではなかった。
特別に良い奴ではないが悪い奴でもない、しかし何故か影が薄い。
それが昔から一貫して変わらぬ彼の評価であった。
10つになる前の頃、彼はイジメられているわけでもないのにクラスの輪から外れていた。
内向的な性格をしていたせいなのかもしれない。
彼は学友と交わること無く読書ばかりしているタイプの子供であった。
好きでそうしているのであるならば彼は不幸などではなかっただろう。
だが、あいにく彼は人並みに他者との交流を求めるような人間であった。
10つになって少しの頃、彼は自分の殻を破ることを決心した。
とにかく周囲に話しかけ、脈がなければ話を続けてくれる人間と当たるまでひたすらに明るく振る舞った。
その成果もあって、彼は友達を無事に作ることが出来た。
しかしだ、彼は気がついてしまう。
休日に彼一人だけを遊びへ誘ってくれる友が誰も居ないことに。
下校時間になっても彼を待ってくれる人間は誰も居ないことに。
何をしたいかという話し合いで自分の意見だけが明らかに弱いことに。
自分の話をよく途中で遮られてしまうことに。
誘いの言葉が届くのが最後であることに。
ミチオは苦悩した、懸念した、憂悶した。
彼は自分が嫌われているのではないかと思ったのだ。
しかし、自分を悪くいうような声が一切聞こえなかったのも事実だ。
故に彼は言いようもない不安に襲われる。
自分の話がつまらないのかと考え、話題を仕入れた、話術を磨こうとした、相手の話をより丁寧に聞いた。
それでも結局は今までと変わらず。
煩慮し続ける彼であったが、正解を導き出すことは出来なかった。
そして少年から青年へと差し掛かった頃、彼はやっと苦悩の根本的な原因に気が付くことが出来た。
「あ、居たのかよお前」
悪意のない笑みを浮かべながら軽口を叩く友人の言葉、それによって不意に悟った。
自分は影が薄い人間であるのだと。
イジメられているわけでもなく、嫌われているのでもない。
ただそこにいるのに気がついてもらえないだけなのだと。
いないことにされているような人間であるのだと。
彼にはその日からの記憶はあまりない。
ただ彼は学校をやめ、ぶらぶらする日々が続いていた。
そこでミチオはあることに気が付く。
ポケモンバトルの最中だけは、勝負の途中だけはだれも彼から目を逸したりはしないと。
ミチオだけではなく彼のポケモンを見ているだけなのかもしれない、賞金のためかもしれない。
それでも彼にとって『注目』とは麻薬のようなものであった。
バトルのために腕を磨きポケモンを鍛える。
やがて、彼はポケモンブリーダーへと成長していた。
ポケモンが好きだったわけではない。
むしろトレーナーからの愛を受けて成長するポケモン達のことが反吐が出るほど嫌いであった。
それでも人間を相手にするよりはマシだからという理由でこの職を選んだのである。
当然かもしれないがポケモンを愛せない彼の仕事はとても評判が悪かった。
有能無能以前の問題である。彼がポケモンを愛さないようにポケモンも彼を愛さなかったのだ。
安かろう悪かろうの経営方針でやっとのことで生計を建てる日々であった。
☆ ★ ☆
「チッ」
廃墟にミチオの舌打ちの音が盛大に響き渡った。
眼前に居るのは「ピチュー」と「サーナイト」。
愛くるしい容姿を持つがゆえに愛好家の多い小動物型のポケモンと、人間のパートナーとして求められる全てを美しき体に秘めたポケモン。
ミチオが心の底から妬み、憎悪し、壊したいと思っていた『人気者』の姿がそこにはあった。
「外れじゃねーかよクソッ、なんでライチュウ、せめてピカチュウじゃねーんだよ!」
苛立ち混じりに振り上げた彼の右足がピチューの腹部を捉えた。
数十センチしか無い小さな体躯が砂利道を十数メートル転がってゆく。
が、ピチューも外見に反して高レベルのポケモン。
派手に飛ばされたわりにはピチューも大したダメージを受けた様子はなく、すぐに立ち上がった。
ケホケホと咳き込むその姿に、ようやく我に返ったサーナイトが慌てた様子で駆け寄る。
「おーし、そうじゃなくっちゃなぁ。少なくともこれくらいは耐えられねぇとなぁ!」
同じ他者のポケモンであっても目の前に居る二体は『客』ではない。
故にずっと隠していた衝動を思う存分にぶつけることが出来た。
口元を吊り上げて歯を見せながら楽しげな声でミチオは吠える。
しゃがみこんでピチューに怪我がないかを調べたサーナイトが信じられないものを見てしまった顔で彼に振り向いた。
普通の青年が立っていた。
身長も体格も髪型も奇抜なものではない。
服装はデニムのジーンズと薄手のTシャツにエプロンをかけたもの。
顔だけがサーナイトの知っている人間とは違っていた。
本来ならば穏やかそうであるはずの顔立ちを悪鬼の様に歪ませた男が立っていた。
今までに見たことのない悪意を目にし、サーナイトが僅かに怯む。
それが気に食わなかったのだろう、彼は再び眉間にしわを寄せ、二体のところへと歩み寄る。
「どうしたよ、ん?」
サーナイトの細首を片手で握りしめ、無理やり立たせる。
そのまま捻ってしまえば折れてしまいそうに思えるほど白く繊細な首。
命を握られているにも係わらず、サーナイトは一切の反抗をしなかった。
「んー、なるほどなるほど。パロロワ団の連中ってばいい仕込みをしてやがるな」
技を使えば人間など軽く吹き飛ばすことができる。
ミチオもサーナイトもその事は理解していた。
そして横でオロオロとしてばかり居るピチューも。
承知の上でサーナイトは為すがままとなり、ピチューもそれを止められずに居た。
「従順なのはいいことだ、たとえお前たちが彼奴等に及ばないとしてもだがな」
無抵抗のサーナイト、そして下に居るピチューと順に視線を向け、口を動かす。
満足気な言葉とは裏腹に平坦な声を出すミチオ。
そろそろ開放してやろうか。
考えた矢先にサーナイトと目があった。
紅い瞳がミチオを見据えていた。
その色は悲しみに染まり――――。
「ああクソッ!舐めやがって!俺を見下しって!
何が憐憫だ! お前の哀れみになんの価値があるってんだ!」
激昂した彼がサーナイトを路上へと投げ捨てた。
アスファルトと擦れてサーナイトの肌に擦り傷ができる。
思わず小さな悲鳴が上がった。
だが、怒りに塗りつぶされたミチオにとってそんなものはブレーキとならない。
倒れ伏したサーナイトの華奢な体を力任せに踏みつける。
「あぁっ?」
いつまで暴行を加えていたのだろうか
ズボンの裾を引っ張るような感触に彼はやっと足を止める。
犯人は誰かなど言うまでもない。
「おいおい、ご主人様に逆らうってのか、よぉっ!!」
勢いをつけて再びピチューを蹴りつける。
今度は壁に背をしたたかにぶつけるピチュー。
肺の中の息が絞りでたかのような声が漏れるも当然気にすることはない。
むしゃくしゃが更に強くなった。
かばうピチューにもかばわれるサーナイトにも。
無抵抗となった二体を散々蹴り飛ばし続けた後、彼は二体をボールへと収めた。
乱暴な手つきで半ば捩じ込むようにポケモンコンバーターへとモンスターボールを捩じ込む。
ぜぇぜぇと荒れる息を整えた後、彼の顔から表情が消える。
バトルだけが拠り所だった、唯一他者が自身を認識してくれる場であった。
故にミチオはポケモンバトルをある意味では神聖視していた。
真剣に取り組むべきものとして一点の妥協も見せなかった。
覚える技と特性と持ち物、それら全てを考慮して技を組み立ててゆく。
タッチパネル上を彼の指が踊り、優秀な手駒が組み立てられいった。
☆ ★ ☆
ボールから再び出された二体を待っていたのは気持ち悪いほどの笑みを浮かべた主人の姿であった。
それでも出された場所から離れることや敵対心を見せること無く、二体はジッと彼の指示を待つ。
「お前たちを主役にしてやるよ」
不意打ちであった。
意味のわからぬ言葉であった。
困惑する二体を他所に、彼は民衆の前にした独裁者のように、陶然とした表情で語り始める。
「いつだって中心に居たお前たちに今度もそうなるチャンスを与えてやるって言ったんだよ」
粘りつくような声であった。
彼の情念が篭められた声であった。
この言葉にあるものがミチオの20年間の全てであった。
「パロロワ団主催の演目バトルロワイアル、脚本家は俺、そして主演は俺とお前たちだ」
天を、自身の胸を、そして二体を順番に指さしてゆく。
が、指差された二体がなんらかのリアクションを返すことはない。
「嬉しいだろ? なぁ、喜べよ、笑えよ、楽しんでみせろよ」
不機嫌さをこれほどかと滲ました声。
それでも二体は顔を見合わせるだけ。
「気に食わねぇってか? おい、どうなんだって言ってんだよ?」
怒鳴りこむ一歩手前になって、ようやく二体は反応を見せた。
笑うような、困惑するような、そんな中間のような表情。
「よぉし、それでいい」
それでも彼にとっては及第点に届くものだったらしい。
もしくは先程までの暴行によって上機嫌になっただけなのか。
とにかく分かるのは、彼が一応の満足を見せたということだけ。
「誰もが俺から目を離せないようにしてやる。俺のことを永遠に忘れないように刻んでやる。
たとえこの殺し合いに敗れて死そうとも俺が誰よりも爪痕を遺せたような参加者になってやる。
ああ、そうだ! 俺が、俺が主役だ! 俺がバトルロワイアルの主役になるんだよぉ!」
理性を捨てた獣のように狂気の叫びを繰り替えるミチオ。
サーナイトの目から零れ落ちた一滴の涙に彼は気付いていたがあえて触れることはなかった。
たとえいかなる不服があろうとも自身に従う限りは気にしないことに決めていた。
だから彼は深く考えることを諦めていた。
ひとしきり叫び倒して興奮が再び収まった彼は、一人空を見上げる。
「お前らとだったらよぉ、もっとこのイベントを盛り上げられたかもしれねぇのにな」
二匹にすら聞こえないようなミチオの呟きは光の中でかき消されていった。
【B-6/路上/一日目/日中】
【ブリーダーのミチオ 生存確認】
[ステータス]:健康
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1
[行動方針]優勝狙い
1:優勝してこのバトルロワイアルの主役になる
2:だれも自分から目を背けさせない
▽手持ちポケモン
◆【ピチュー】
とくせい:ひらいしん
もちもの:きあいのたすき
能力値:おくびょうHS
《もっているわざ》
でんじは
アンコール
ひかりのかべ
いばる
▽手持ちポケモン
◆【サーナイト】
とくせい:トレース
もちもの:オボンのみ
能力値:おくびょうCS
《もっているわざ》
ムーンフォース
サイコショック
おにび
めざめるパワー炎
〔トレーナープロフィール〕
|名前|ポケモンブリーダーのミチオ|
|性別|男|
|容姿|RSのポケモンブリーダーと同一|
|方針|優勝狙い|
|人物|影が薄い青年。それが原因となって性格がゆがんでいる。本編中以外の設定は後続の方にお任せします|
投下完了です。
なにか指摘がありましたら連絡お願いします
それと後1枠残ってるっぽい気がするので予約します。
もし僕が数え間違ってたようであったら言ってください
皆様、投下お疲れ様でした。
>貝になりたいか? お断りだね
少年時代に受けた仕打ちから、完全に歪んだ人物へと成り果てたブリーダー。
実際にポケモンを苛めている描写は、やはりキツいものがありますねぇ……。
ええ、ミチオには因果応報を望みますとも。けど同時にこれからどれだけの悪を見せてくれるのか期待しております!
>Dies irae
生み出す悪夢によって大切な人を奪われた過去。
ポケモンを憎み、敵とみなした上で、ポケモンを使って戦いへ身を捧げる事を決めた。
ポケモンが悪魔であると知らしめるために。
……とても作りこまれています。アギトの生い立ちも、殺し合いに乗る理由も。
ですが、大変申し訳ないのですが、
「ポケモンを殺めようとすると首輪から警告が発せられる」という設定は定められておらず、
今後の展開の選択肢が狭まる可能性が高いため、そのまま通すことが出来ません。
これだけの力作にストップをかけるのは本当に申し訳ないのですが、ご理解をお願いします。
この設定を付加するかは運営側で議論しようと思いますが、宜しければ該当点に関する箇所の修正をお願いします。
運営側で話し合った結果、「Dies irae」は修正の必要はなく、
作中で付加された設定を採用したいと思います。
◆gET0fqCtw2様にはご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありませんでした。
また、その他にさまざまなご指摘点を頂いたので、以下の設定を追加いたします。
【首輪について】
爆発の条件に、以下を追加する
・意図してポケモンを殺害しようとした場合は警告が鳴り、それを無視し殺害に至らしめようとする
(ただし、緊急避難ともなるモンスターボールを破壊している事が条件となる)
【支給品について】
支給されるポケモンに関するルール
・ポケモンが瀕死以上の殺傷を受ける危機にある場合、その加害者及び被害者であるポケモンをモンスターボールが自動で回収する
・支給されるポケモンは、瀕死となった他のポケモンに対して、殺傷へ至るほどの攻撃を拒否する
ポケモンコンバータに関して
・そのポケモンが可能な範囲内において、レベルを自由に変更することが出来る
可能な範囲というのは、例えばフシギダネであればLv1以上、リザードンであればLv36以上という事である
・レベルアップによる進化が可能な未進化ポケモンであれば、レベルを調整した上で規定の操作を行えば進化が可能である
【書き手向けルール】
・このバトルロワイアルの会場には、いわゆる「Lv50制限」がかけられている
そのため会場内においてポケモンは経験値を得る事が出来ない
これ以外に「ポケモンを6体以上所持した場合の扱い」や「通信交換の条件」など、
具体的に取り決めていきたい内容が多々あるため、質問用及び相談用の掲示板を設けたいと考えております。
>>1
ルール改定お疲れ様です。
こちらは特に迷惑を被ってないので気にしないでくださいな。
あと、予約についてですがこちらのカウントミスだったらしいので予約を破棄します
お騒がせしてしまい申し訳ないです
皆様、投下お疲れ様です。
個性的なトレーナーの数々に、読んでいて思わず心躍ります。
それでは完成しましたので投下させていただきたいと思います。
目が覚めると、俺は森の中にいた。
なにやら珍妙な夢を見てしまったようだ。
いや、夢ではない。
見覚えのないモンスターボール。
いつの間にか巻かれていた首輪。
そして何より、今ここにいる森そのものが、夢ではないことを物語っていた。
どうやらあの男は本当に殺し合いとやらを開催するつもりらしい。
こんな物騒な催しに巻き込まれてしまったというのに、俺の気分は高揚していた。
勘違いしないで欲しいが、俺は殺人に快楽を見出す異常者というわけではない。
その理由は、俺が見ているこの風景にある。
風が木の葉を揺らし、空からは木洩れ日が差し込む。
川には綺麗な水が流れ、日差しを反射して輝いている。
寒くもなく暑くもなく、程よい穏やかな気候。
普通なら、こんなことはごくごく当たり前で、自然なことなのだろう。
だが俺にとっては、これら全てが新鮮で、愛おしかった。
俺の住んでいる場所では、何もかもが止まってしまっているのだから。
俺の暮らす星は停止している。
時を司る、時限の塔とやらが崩壊したのが原因らしい。
塔の管理者であるディアルガも、今や全く使い物にならない状態だ。
何を言っているのか的を得ないとは思うが、停止しているとしか形容できないのだから仕方ない。
太陽は昇らず、草木も成長を止め、荒れ果てた大地には空に浮いた岩盤があちこちに漂っている。
未だ生き残っている者たちを取り残し、時だけが止まっている世界。
そんな所と比べたら、例え死の危険があろうとも正しく時が進んでいるこの場所の方がよほど素敵だ。
どうやって連れて来たのか知らないが、そういう意味ではサカモトとやらには感謝している。
当分はここでのんびりと日差しを浴びていたいものだ。
しかし、ずっとこうしているわけにもいかないだろう。
あの男は一日経っても誰も死んでいない場合は強制的に全参加者の首輪を爆発させると言った。
流石に全員無事のまま二十四時間経過するとは思えないが、可能性はゼロではない。
それに、何度も言うがここは殺し合いの場。
油断したが最後、あっさりお陀仏だ。
死にたいかと聞かれれば、答えはノーだ。
未来なき世界で何年も生きてきたのだ。自殺するくらいならとっくにしている。
では、他の参加者を皆殺しにし、優勝を狙うのか。
それも違う。
元の世界に帰ったところで、再び荒廃した大地で暮らすだけだ。
莫大な報酬を貰っても使い道などない。
では、この殺し合いを破綻させ、この世界で生き続けるのはどうか。
それは面白そうだ。
この美しい土地で生活できるなんて、考えただけで心が躍る。
だがそれは恐らく不可能だろう。
首輪があっては脱出も出来ないし、参加者全員に協力してもらうことも現実的ではない。
「帰りたくもなければ死にたくもない。どうしたもんかな……」
アイツならどうするだろう。
破滅の未来を変えると息巻き、一匹の相棒と共にひたすら奔走したアイツなら。
やはり殺し合いをやめさせるべく行動しただろう。
誰もが「無理だ」「出来るわけがない」と言っても、アイツは聞く耳を持たなかった。
俺だって、無駄なことはやめろと何度も忠告したものだ。
それでもアイツは諦めようとしなかった。
そういう奴なんだ。
目的に向かってひたむきに行動すれば必ず実現すると、本気で信じている。
――やはり誰もいないと少し寂しいな。
荒んだ世界でも、俺と同じく震えて過ごす同志たちがいる。
アイツのことを考えていたら、置き去りにしてしまった彼らのことを思い出してしまったようだ。
俺はモンスターボールを一つ取り出す。
俺のいた場所ではほとんど使われることのない道具。
ヒトとポケモンは基本的に共存しており、ボールを必ずしも必要としなかったのだ。
ポケモンでもいれば気休めにはなるだろうか。
そう思い、俺は取り出したボールを空高く投げた。
「嘘だろ……お、お前……」
開いた口が塞がらなかった。
出てきたのはなんと、アイツが一番頼りにしていた相棒、ジュプトル。
流石に同じ個体ではないだろうが……。
もし意図してコイツを支給したのなら、ここの主催者はとんでもなくタチが悪い捻くれ者だ。
なのに、何故だろう。
不思議と悪い気はしない。
本来なら、ジュプトルは決して強いポケモンではない。
だが俺は知っている。ジュプトルは誰よりも強い男、いや、オスだった。
意志は鉄のように硬く、刃は鉄をも切り裂く。
アイツとジュプトルのコンビなら、本当に未来を取り戻せるかもしれないと思ったことすらある。
コイツを見ていると、どんどん自信が湧いてくる。
錯覚してしまう。こんな俺でも、アイツのようになれるかもしれない、と。
そんな都合のいい話があるはずもないことはわかっている。
けれど、どうしても賭けてみたくなる。
もう二度と拝むことが出来ないと思っていた太陽の光すら見ることが出来たのだ。
奇跡が二度起きたっていいじゃないか。
これはチャンスだ。
残された皆には悪いが、俺はこの殺し合いを脱出し、失われた時を取り戻してやる。
【C-5/森/一日目/日中】
【さぎょういんのクロノ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]対主催?
1:殺し合いを破綻させ、この世界で暮らす
2:脱出できるようなら必ずしも主催を倒そうとは考えていない
▽手持ちポケモン
◆【ジュプトル/Lv50】
とくせい:しんりょく
もちもの:???
能力値:せっかち、攻撃・素早さに特化
《もっているわざ》
すいとる
でんこうせっか
リーフブレード
あなをほる
◆【????/Lv?】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|さぎょういんのクロノ|
|性別|男|
|容姿|作業用のつなぎを着た中年の男。ヘルメットは被っていない|
|方針|対主催?|
|人物|時限の塔の崩壊により、生物以外の時間が止まってしまった未来世界の住人。
面倒見は良いが、少々利己的な性格。
荒れ果てた土地で少しでも快適に過ごせるよう、ポケモンたちと復興作業をして暮らしていた。
だが、再び時が動き出すことはないと諦めていた為、いずれは星と共に朽ち果てるつもりだったようだ。
暗黒の未来を変えるべく行動する『アイツ』とその相棒のジュプトルを冷めた目で見ていた反面、羨ましくも思っている。
投下終了です。誤字や脱字、問題点などありましたら申し付けください。
お疲れ様です
投下します
彼には昔、大切な人がいた。
彼はカントー地方のトキワシティで生まれ育った。
自然に囲まれたその環境から順調に成長し立派な男の姿。
持ち味である明るさと元気の良さを活かし地元でも人気者となっていた。
トキワシティのジムリーダーのような強くてかっこいい男に憧れ追い続けている。
彼は人々を守る職業――現代ではポケモンレンジャーと呼ばれる人になった。
当時ではポケモンと自然、人との共存を守るために活動を行っていた。
その時カントー地方ではロケット団と呼ばれる悪の組織が世界相手に暗躍中。
彼もロケット団と戦うために、世界の平和を守るために、新人ながら奮戦することになる。
彼がロケット団と初めて交戦したのはオツキミ山、ニビとハナダを結ぶ洞窟。
ロケット団のしたっぱはズバットやコラッタなどを多用、彼の敵ではない。
したっぱレベルに負ける程軟な男ではなく、相棒のストライクとサンダースと共に蹴散らす。
新人と云えどポケモンレンジャーに相応しい戦闘力で彼らを次々と逮捕していく。
そこで運命とも感じる出会いを果たす。
戦った相手の中に一人の女がいた。
一言で云えば一目惚れであり、ミドルの茶髪、彼は悪の組織に恋をした。
故に判断が遅れ、ポケモンバトルには勝利するが取り逃がしてしまう。
これが最初の出会いであり、次の出会いがシオンタウンでの遭遇になる。
ロケット団はポケモンタワーを占領していた。
彼はロケット団がガラガラを始めとするポケモン達を殺している瞬間を見ていた。
虐殺だ、ポケモン相手にポケモンではなく武力や兵器で襲うその姿に怒りが込み上げる。
許せない、許せない、許す筈がない。
弾丸のように突撃するが謎の存在に阻まれ先に進めない。
後に判明するが、その謎の存在こそが殺されたガラガラの霊であった。
進めなくて捕らえる者も捕えることが出来ないため、彼は行き場のない怒りを抱えたまま一度離脱する。
シオンタウンで心を無にして時間の流れを感じていると墓の方から泣いている女の声がした。
――この声は知っている、この声はロケット団の――あの人の声だ。
直感と激動に身を任せ墓に走って行く、考えれば中学生のような動機だろう。
墓の目の前でしゃがみながら泣いている女性、服こそ私服だが間違いない、ロケット団の女だった。
ロケット団がシオンタウンに来ているなら彼女も居ると考えるのが普通である。
しかし何故私服なのか、潜入任務なのか、非番なのかそもそも非番の制度はあるのか。
そんなこと考えもせずに気付けば声を掛けていた。
『どうして泣いてんだ……泣いているのですか』
『このポケモンに罪はないの……でも悲しい事があって死んじゃった』
「パロロワ団……聞いたこともない組織だな」
彼――トモヒサはパロロワ団なる組織に拉致され実験を強要されていた。
バトルロワイアル、簡単に云えば殺し合いであり悪の行いである。
巻き込まれる理由も見当たらない、そもそもパロロワ団とは何なのか。
ロケット団は解散したと聞いており、ここ最近ではアクア団も鎮静している筈だ。
悪の組織とは少なからず情報が流れ込んで来る物だがパロロワ団はノーマークもいいとこだ。
「巻き込まれる理由……まぁあるっちゃあ、あんのか」
癖悪そうに頭を搔きながらボヤく。
巻き込まれる理由は見当もしない、と言いたい所だが思い当たる節がある。
その前に彼の過去話の続きをしよう。
シオンタウンで出会い会話を済ませる、それだけだった。
連絡先を交換するわけでもない、ただ会話しただけ。
彼も自分の中の正義に頭を下げながら目の前の女を捕らえなかった。
今日だけ、今回限り――理由はどうであれ悪を見逃した瞬間である。
収穫、響きは悪いが女性の名前はアヤカ、そう言っていた。
この時トモヒサはとある少年と出会っていた。
その少年はラッタを亡くし悲しい瞳をしていたが、前を見つめ今を生きていた。
次にトモヒサとアヤカが出会ったのはシルフカンパニーのとある一室。
ワープする床に悩んでいたら偶然再会してしまった。運命を呪うべきか祝うべきか。
ここでアヤカもシオンタウンで会話した男性が敵であるポケモンレンジャーと認識する。
本来ならば戦うべきだが、此処は運命共同体、協力してワープする床を攻略していった。
彼らが辿り着いた時には既に物事は全て終了、しかし憧れていた存在であるトキワのジムリーダー。
サカキがロケット団のボスと知り、驚愕、世界の闇に触れているようだった。
憧れの存在と倒すべき敵、二つの像に葛藤するも隣にいる彼女は励ましてくれた。
その言葉に心が温まる、しかし彼女も倒す存在、何方にせよ彼の悩みは終わらない。
だが転機が訪れた。ロケット団の解散だ。
首領であるサカキが突然の解散宣言をし、世界は歓喜と驚愕の声で溢れ返った。
このタイミングを逃さないとレンジャー部隊カントー支部はタマムシにあるアジトへと総突入を決行。
統率が不安定なロケット団を次々へと牢屋へぶち込み快進撃を成し遂げる。
『この際トモヒサはアヤカを逃し同棲を始める』
正義の欠片も無い行いだ、言うなれば不純。子供には見せられない大人の闇。
それでも彼らは笑顔で生活していた、境遇こそ違うがお互いにお互いを信用し心を開く。
元々シオンタウンでの会話から両者悪いように認識はしておらず、トキワの隅で仲良く生活していた。
彼女の本来のポケモンであるカビゴンとラッキーは今でも印象に残っている程懐いてくれた。
だが見方によれば悪に染まった彼に天誅が下される。
ポケモンレンジャーの業務を終え帰宅しようとしていたトモヒサ。
家に帰ると迎えてくれるのは愛しの存在ではなく仕事の同僚や上司だ、しかも数は多い。
疑問に頭を占拠される、考えてみると誕生日でも無ければ記念日でもない。
性格とは裏腹に恋愛では奥手だったためヤることもヤっていない、ならば――。
『ロケット団の残党を捕まえるとは良い働きをしてくれた』
目の前が突然真っ白になった。
『サンダースッ! 十万ボル――ッあぁ!!』
全てが後手に回っていた。
相棒に命令を下すも、ベトベトンに押し潰され、姿が見えなくなっている。
自分も後ろから腕を回され、自由を奪われた、ダメだ、ヤメロ、ヤメテクレ。
このままではアヤカは牢屋に入れられるだろう、それが当然である。
元々ロケット団の残党なのだから牢屋に入っていない方が可怪しい話である。
「あー、こんな首輪まで着けてよぉ……」
殺し合いの会場に巻き込まれナーバスだ、おまけに首輪。生きている心地がしない。
彼のその後を話す。
ロケット団を匿っていた罪からホウエン地方に飛ばされた、
本来なら牢屋、或いは極刑だったが今までの功績から情けを掛けられた。
カントーの紅い弾丸、そう呼ばれていた彼に対する悲しい情け。
その後、トクサネシティで事務職に就く。
デスクワークに追われる内に彼の正義に燃える心は静まっていく。
初めの頃はトレジャーハンターとも交流があったが、今では零、気力がない。
センターに見学に来た人に対し、ロケットが打ち上げられた回数を伝える。
それが彼の日課であり、逆に言えばそれしか日常の変化を変える出来事がない。
ロケットを見ていると嘗て戦った悪の組織を思い出す。
聞けばアヤカは脱走しロケット団に戻ったそうだ。
ラジオ塔の一件から姿は確認されていないらしい。
ポケギアに連絡を入れても返答はない、生きているか死んでいるかも解らない。
その事実が彼を生の執着から遠ざけ、今では牙が抜け、死んだ目をしている。
「悪の組織ならぶっ潰す……昔の俺ならそう言った」
今は違う。
燃える理由はあるが、彼の心に火は点かない。
流されているだけの生活を送っていたため、再び悪と向き合っても何も感じない。
しかし死ぬのは嫌だ、戦う、でも面倒だ――全てが全て、面倒に感じてしまう。
大方、自分の罪が今更になって執行されるのだろう。
何故自分が巻き込まれなくてはいけないのか。
誰も答えてくれない疑問を抱きながら彼は一人静かに大地を蹴っ飛ばす。
目の前で人が襲われていたら、助けるだろう。
目の前で人が傷付いていたら、助けるだろう。
目の前で人が死んでいたら――。
「まぁ悪を倒すのに異論はない……けど、テンションが上がらない」
かつてポケモンレンジャーとして世界の為に生きていた青年は腐っていた。
【けんきゅういんのトモヒサ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]流れに任せて……流れに任せて。
1:流れに任せる。
2:悪を倒すのに文句はないが、燃えない。
※場所は後続の方にお任せします。
◆【トリデプス/Lv50】
とくせい:がんじょう
もちもの:???
能力値:体力、防御寄り
《もっているわざ》
れいとうビーム
まもる
メタルバースト
あなをほる
◆【???/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|けんきゅういんのトモヒサ|
|性別|男|
|容姿|20代前半、第三世代のポケモンレンジャーに白衣を着せた外見、髪の色は黒|
|方針|弱き人を助け悪を滅ぼす……はず|
|人物|持ち前の明るさと元気を活かし新人ながらロケット団を次々へと倒していった青年、相棒はストライクとサンダースだった。
ロケット団のアヤカに恋をし、敵でありながら特別な関係になっていく、後に生き逃し同棲する。
笑顔包まれる生活だったがポケモンレンジャーにロケット団を匿った罪でその仲を引き裂かれ、ホウエン地方に飛ばされた。
その後は宇宙センターの職員としてくだらない日常を過ごし、ポケモンレンジャー時代の面影はなくなっている。|
投下終了です
みなさま投下乙です
自分も投下します
ボールから出したポケモンを見てたっぷり十秒は息を止めていたと思う。
それを自覚して慌てて大げさに深呼吸してしまった。
そして――
「綺麗だなぁ……」
ため息と共に出てきたのはそんな言葉だった。
● ● ●
普通のじゅくがえりの女の子だった私に転機が訪れたのは秋風の心地よかったある日のこと。
家族で訪れたミナモシティで私はコンテストを見に行ったのだ。
当時トレーナーとして未熟だった私に効果の高い回復アイテムなんか必要なかったし、技マシンなんてもってのほか。
だからデパートに寄ったところで高嶺の花を見て指を咥えているよりかはコンテストを見に行きたいと思うのはある意味当然だった。
そして、そこで見たのが一人の少年。
率直に言って、驚愕だった。
何せ、彼は初出場でありながら一日で五部門全てを制覇したのだから。
確かに毎日コンテストは開催されているが、そう簡単に優勝できるものではない。
ましてやミナモシティのコンテストはマスターランク。
マスターランクともなれば出場するポケモンは全て一流だし、最高のモデルとして画家が題材にするというのもよく聞く話だ。
──中には絵を描いてもらうために何度もコンテストに出場する人もいて、それにより一層優勝の難易度が上がっているんだとか。
過去にも全部門制覇した人はいるにはいたが、初出場で、とはいかなかったし彼ほど若くもなかった。
ゆえに、私は彼に惹かれた──のではない。
ただ単純に、美しかったのだ。
かっこよさ部門を制覇したグラエナより。
かわいさ部門を制覇したエネコロロより。
たくましさ部門を制覇したラグラージより。
かしこさ部門を制覇したポワルンより。
うつくしさ部門を制覇した──ミロカロスが。
○ ○ ○
それからの私はどこか地に足がつかない気分だったと思う。
元々勉強は得意ではなかったし、日に日に増加するコーディネーターになりたいという思いと反比例するかのように成績は下がっていった。
勉強に身が入らないのだから当然だ。
でも、中途半端だったその思いを両親に打ち明けるわけにもいかず悶々としながら日々を送っていた。
そして、成績不振の理由がそんなところにあるとは露知らずだった両親が景気づけに、と連れていってくれたのがバトルフロンティア。
プレオープンということもあってバトルドームしか観戦できなかったけれど、効果は覿面だった。
だって、コンテスト会場で見たあの少年がいたのだから。
そこで私は再び魅せられた。
彼と、彼のミロカロスの強さに。
結局その少年は準決勝止まりだったが、私の心に火をつけるには十分だった。
彼のようにバトルもコンテストも両方こなせるようなトレーナーになりたい。
そしてミロカロスでうつくしさコンテストを制覇する──それが私の目標になった。
トレーナーズスクールでは私の豹変ぶりに変な噂が囁かれたらしいが、さておき。
努力に比例するかのように成績もぐんぐん伸びて、これなら親に私の夢を打ち明けてもいいかもしれないと思った矢先だった。
――私がパロロワ団に拉致されたのは。
● ● ●
突如放り込まれたこの非常事態にとっさに対応できたかと言えば嘘になる。
恐怖のあまり一時は彼らの言う通りに殺し合いに乗ることも考えたが、憧れだったミロカロスを目前にしてそんな考えは吹っ飛んでしまった。
殺し合いに乗るということは、このポケモンたちを凶器にするということと同義であり、それはこの美しいポケモンを汚すということであり。
それに気づいてしまった以上、私から殺し合いに乗るという選択肢は失われてしまった。
「……?」
ボールから出して指示も出さずに惚けていた私のことを疑問に思ったのだろう、ミロカロスが顔を私に近づけてきた。
反射的に撫でてあげたら気持ちよさそうな鳴き声を響かせる。
殺し合いの、それも道具として扱われているはずなのにミロカロスからはそんな悲しみは微塵も感じられない。
「おかしいよ……こんなの間違ってる」
思わずそんな言葉が漏れてしまった。
「フワァァァァ……?」
「あ……ごめんね、誤解させるようなこと言っちゃって。あなたのことじゃないよ」
私の呟きに反応して首をかしげるミロカロスの姿も美しかった。
ただでさえこんなに美しいのに更にあおいバンダナを巻いたらどうなってしまうのだろう。
そこまで考えて、いけないいけない、と頬をはたいて自分に檄を飛ばす。
一々仕草に見惚れているようでは、もしも危ないトレーナーやポケモンに遭遇したときに遅れをとってしまう。
でも私は死にたくなどないし、かといってたとえ正当防衛だとしても相手を殺したくはない。
となると、取れる手段は一つ。
この場からの脱出だ。
しかし、ここが砂浜でミロカロスがなみのりを覚えていても、脱出できるとは到底思えない。
命が首輪に握られている以上、それを外さないことには始まらないのだ。
「……じゃあ、やることは決まった、かな」
握りしめていたあおいバンダナをバッグに戻し、代わりにボールを取り出してもう一匹のポケモン、グライオンを外に出す。
こっちはかっこよさ部門に似合いそうだなあ、なんて思ってしまった。
これから為そうとすることは私一人では決してできないこと。
他のトレーナーの協力はもちろんだが、まずはポケモンたちに力を貸してもらわなければならない。
「あのね、ミロカロス、グライオン。私はこんな殺し合いなんて間違ってると思うの。
本当ならあなたたちの『おや』……パロロワ団が捕まってくれればいいけど、私たちだけでできると思えないし国際警察の助けがくる保証もない。
だから、せめて首輪を外して脱出はしたいの。そのために他のトレーナーと協力したいけど、みんながいい人とは限らないから……
もし、そのときが来たら止めるために力を貸してくれる? 別に相手のポケモンを倒すとか、そこまではしなくていいから眠らせる、だけ、とか……」
ポケモンたちからの視線に耐えきれず最後は小声になってしまった。
伝わってくれただろうか、と一瞬思ってしまったが、杞憂だったようだ。
まっすぐな眼差しに反対の意思はこもっていない。
二匹とも私に協力してくれるようだ。
「あ……っ!」
それに気づいて、途端に嬉しくなって、二匹の頭を撫でる。
感情の昂ぶりからか、やや乱雑だったかもしれないけれど、二匹とも嫌そなそぶりも見せることなく受け入れてくれた。
決意を新たにし、そういえば最も肝心なことをやっていなかったことを今更ながらに思い出してミロカロスとグライオンに言う。
「私はレン。よろしくね、ミロカロス、グライオン!」
【C-5/海岸/一日目/日中】
【じゅくがえりのレン 生存確認】
[ステータス]:良好、嬉しくて少し興奮
[バッグ]:基本支給品一式、あおいバンダナ、ランダム支給品×1
[行動方針]:対主催脱出優先派
1:首輪を外すため、仲間を集める
2:危ないトレーナーに会っても殺人はしたくないので足止めなどをして逃げる
▽手持ちポケモン
◆【ミロカロス/Lv50】
とくせい:かちき
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
まもる
さいみんじゅつ
あやしいひかり
こごえるかぜ
◆【グライオン/Lv50】
とくせい:ポイズンヒール
もちもの:どくどくだま
能力値:???
《もっているわざ》
みがわり
ステルスロック
いやなおと
かげぶんしん
〔トレーナープロフィール〕
|名前|じゅくがえりのレン|
|性別|女|
|容姿|黒髪ロング、服装はいわゆる学生服|
|方針|対主催脱出優先派|
|人物|やや内気な性格だが感情が昂ぶると暴走しがちな面も。
かつてミナモシティを訪れた際に見たポケモンコンテストで当時前人未到だった初出場にして全部門制覇の快挙を目撃し、コーディネーターを志す。
その結果勉強を疎かにしてしまい成績は下がってしまったが、親に連れられてバトルドームを観戦したときに前述の少年を再び目にし、バトルの強さも必要と気づいて一念発起。
その努力もあってか、バトルの腕前は同年代のトレーナーと比べると高め。
ちなみに、このような事態に巻き込まれても冷静でいられたのはミロカロスの持つちからのおかげだということにまだ彼女は気づいていない。|
投下終了です
>ときわたり
正しく時の流れる世界を手に入れる、それがクロノの望み。
主催を討った先に望むのが、この正常な世界で暮らすこと…というのは驚かされました。
彼の「世界」への執念がどれほどのものなのか楽しみですね。
>貴女がいなくてAndante
信じたものに幾度も翻弄され、空っぽになってしまったトモヒサ。
大きなものに反発できるだけの力はなく、流されていくところに一般さを感じます。
レンジャー時代の熱意が戻ってくるといいのですが……。
>ねがいごと
コンテストを、戦いを、その両方を制覇したあの少年は、あらゆる人々に影響を与えたんだなと感じられますね。
そんなレンに与えられたミロカロス、彼女にとって思い出深いポケモン。
足止めに特化した技構成は、果たしてどれほどの効果を上げるのでしょうか…!
皆様、投下お疲れ様です!!
そして、したらば掲示板を作成しました。
必要とあれば気軽に色々と使っていただければ幸いです。
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/subject.cgi/otaku/16962/
投下します。
男は昔から少し抜けていた。
風呂に入った時、たまに湯船に入り忘れる。
後輩から呼び捨てにされても、気付く素振りすら見せない。
いつも他人の話に乗っかる癖に、人の話を理解できていない。
そのあまりの間抜けっぷりに幼稚園児のようだと周囲の人々に嘲られていた。
しかし、本人はまるで気付いていない。
だからこそ間抜け。
そんな男の名前は――――からておうのミウラと言う。
「あっ、そっか……」
口をだらしなく開き、草原の上に胡座を掻いて座るミウラ。
そよ風が坊主頭を撫で、巨漢を僅かに震わせる。
からておうなのに着ているのは道着ではなく白い半袖シャツ。
下も同色のハーフパンツと、風呂上がりのようなラフな格好だ。
そこから伸びる脚の傍に転がっているのは、ミウラのバッグから散乱した荷物だ。
荷物を確認しようとして、バッグをひっくり返してしまったのである。
食糧や水の用途はさすがに理解できるが、それ以外のモノはちんぷんかんぷん。
サカモトとかいうオッサンが説明していたものの、ミウラには理解することができなかった。
腕時計のようなモノは玩具に見えるが、家庭用かき氷器のようなモノは本気で分からない。
この場でかき氷を作れとでも言うのか。
人が死んでいるのに不謹慎である。
「……許せないゾ」
脳裏を過るのはバッドガイの首が吹き飛んだ光景。
首が捩じ切れ、血が噴き出し、硝煙と血液の臭いが充満する。
人の生死とは無縁の生活を送ってきたミウラにとって、初めて体感する死の光景だった。
あれは夢などではなく現実。
信じられない、信じたくはないが、目の前で起きた現実だった。
その証拠にミウラは知らない場所に飛ばされているし、首には首輪が巻き付いている。
まるで悪趣味なAVだ。
力づくで首輪を外そうと手を掛け、恐る恐るといった様子で外側に引っ張る
首輪はぴくりとも動かない。
もう少し強く引っ張ろうとして、ミウラはその手を素早く降ろした。
「これ、外れねえなぁ」
いくらミウラが間抜けでも、自分達がいつバッドガイのように殺されてもおかしくないことは理解できていた。
力づくで引っ張っても外れるわけがないし、外れるとしてもその前に爆破されるだろう。
首輪を外すことはできない。
なら、どうするのか。
殺し合いに乗る?
誰かを殺して一人だけ助かる?
「冗談じゃないゾ」
大袈裟に首を振って、頭の中に浮かんだ考えを追い出す。
なら、ひたすら逃げ続けるか?
それも却下だ。
ミウラは一流の師範から空手を習い続けてきた『からておう』である。
空手とは体だけではなく心も鍛える武術だ。
一流の師範から指導を受けてきたミウラは、体だけでなく心も一流を受け継いでいる。
だから、ミウラが選ぶ道は最初から決まっていた。
サカモトに立ち向かうこと。
殺し合うことでもなく、逃げ回ることでもなく、それを選ぶのは――――
「当たり前だよなぁ?」
独り言を呟きつつ立ち上がるミウラ。
それがどれだけ困難なことかは考えない。
やると決まったら行動に移すのが早いのが彼の長所だ。
散乱した荷物を素早くまとめ、その場から立ち去ろうとする。
立ち去ろうとして、自分の股下に球状の物体が二つあることに気付いた。
「あっ!」
それの正体はすぐに気付いた。
モンスターボールだ。
師範のポケモンを借りてバトルをしたことはあるが、あまりの下手糞さに最近は貸してもらえない。
当然自分のポケモンも持っていないため、ポケモンに触れるのは久々だった。
「じゃあぶち込んでやるぜ!」
まるで野球の投手のような動きをつけ、支給されたモンスターボールのうち一つを地面に叩きつける。
するとモンスターボールが開き、中から一匹のポケモンがミウラの前に現れた。
全長はおよそ40センチほど。
二頭身のフォルムはまるでヌイグルミのよう。
青くて丸い頭に、深い蒼色の瞳。
空色の翼に、黄色の嘴。
シンオウ御三家の一匹として有名なそのポケモンの名前は――――
「ポッチャマ……」
ペンギンポケモンのポッチャマ。
それがミウラに支給された一匹目のポケモン。
戦力的に考えれば、間違いなくハズレに位置するであろう。
だが、ポッチャマはミウラにとって特別なポケモンだった。
最初にポッチャマを知ったのは、ミウラが子供の頃に見たアニメだろうか。
新人トレーナーの少女がポッチャマと共に旅に出るという内容だった。
そのアニメでポッチャマは感情豊かな性格付けをされ、画面の中を所狭しと動き回っていた。
悪の組織の横暴に怒り、仲間との別離に泣き、コンテストで優勝すると笑う。
子供だったミウラはポッチャマという存在に魅了されていた。
両親にポッチャマが欲しいと強請ったが、その願いが聞き入れられることはなかった。
ポッチャマがシンオウ地方の限られた地域にしか生息していないため、元々の個体数が少ないことが一点。
シンオウ地方の御三家に指定されていたため、一般への流通が制限されていたことが一点。
そしてアニメの影響により、ポッチャマの需要が爆発的に上がっていたことが一点。
これらの理由が重なり、ミウラはポッチャマを手に入れることができなかった。
子供の頃に夢にまで見たポッチャマ。
それが今、ミウラの目の前に要る。
これに興奮せずにいられるだろうか、無理だろう。
ミウラはその両腕を大きく伸ばし、ポッチャマに勢いよく抱き着いた。
「いいゾ〜これ」
頬と頬を思いっきり擦り合わせるミウラ。
ポッチャマが中途半端に伸びた髭の感触に顔を顰めているが、彼が気付く様子はない。
自らの気が済むまで、ひたすらポッチャマを愛で続ける。
二十歳を過ぎた巨漢の男が全長40センチの生き物に頬擦りをしているのだ。
非常に見苦しいし、気持ちが悪い。
「あ〜、さっぱりした」
ひと通り満足したのか、ミウラはポッチャマを解放する。
玩具にされたポッチャマの顔は大分やつれていたが、対照的にミウラの顔は艶々と輝いていた。
「あっ、そうだ」
思い出したかのように声を上げ、10メートルほど横にある大木へと視線を移す。
その双眸は先程までポッチャマを愛で続けた時とは全然違う。
獲物を定めたかのような目。
まるで野獣の眼光だった。
「おいそこのお前! さっき俺がポッチャマと遊んでる時、チラチラ見てただろ」
張り上げるような大声で大木へと話し掛ける。
反応はない。
だが、ミウラは大木の後ろに人がいることを確信していた。
「黙ってても無駄だよ、絶対見てたゾ」
反応のない相手に追撃を仕掛けるミウラ。
そこに人がいることを確信した理由は何てことはない、気配を感じたからだ。
一流の師範から空手を習い続けたため、気配を察知する技術を会得していたのである。
「ワーオ、隠れてるのバレちゃうなんて思わなかったなぁ」
観念したのか、大木の後ろから一人の少年が現れる。
年齢はミウラの半分も行ってないだろう。
黄色い帽子に体操服、ランドセルをを背負っている。
「お前名前は何だゾ」
「ぼくひで」
「ボクヒデ?」
「違うよ。僕はじゅくがえりのヒデだよ」
じゅくがえりと名乗ったヒデを見て、ミウラはなるほどと頷いた。
これほど分かりやすい塾帰りもなかなかいないだろう。
どちらかというとがっこうがえりだが、ハッキリ言えばどちらでもよかった。
「そっち行ってもいい?」
「あ、おい、待てィ!」
歩を進めようとするヒデを静止するミウラ。
「なんで俺のことをチラチラ見ていたのか説明して欲しいゾ」
ミウラの心中には少なからず疑念が渦巻いていた。
どうしてヒデが自身を観察するような真似をしていたのか、ミウラは理解することができなかったのだ。
「それは悪かったよ。おじさんが信用できる人かどうか確かめたかったんだ」
「信用? どういうことだゾ」
「えー、分かんないのぉ?」
ミウラの返答にヒデは口角を吊り上げて笑う。
「僕ね、一緒にいてくれる人を探してたんだ
こんな危なくて怖そうなゲーム、一人じゃすぐに死んじゃうもん」
「あっ、分かったゾ
殺し合いに乗ってる奴とは一緒にいれないから、俺が安全そうな人間かどうか確認したんだろ?」
「正解! やっと分かってくれたんだね」
「それでヒデは俺と一緒に行きたいのか?」
「うん、おじさんは信用できそうだから僕は一緒に行きたいな」
屈託のない笑顔を向けてくるヒデ。
だが、ミウラは快い返事ができずにいた。
目の前の少年からは、どことなく嫌な感じがする。
例えるならば汚水の溜まった側溝を覗きこむような嫌悪感。
「ダメなの?」
「えっと、その……」
可愛らしく首を傾げるヒデ。
歳相応の幼さからか、その仕草は庇護欲をくすぐられる。
だが、ミウラは返事をすることができない。
「うっ……うぅぅ……怖いよぉ」
そんな時、ヒデが声を震わせながら涙を流し出した。
「あっ! な、泣くなよ!」
「だ、だって怖いんだもん……殺されるのやだ! 死にたくない、死にたくないよぉ!」
「お、落ち着くゾ! そんな大声出したら……」
「誰か助けて!」
恐怖心に耐え切れず錯乱し始めるヒデ。
少年とは思えない野太い声を上げ、涙と鼻水を撒き散らす。
その姿を見て、ミウラはふと我に返った。
(俺は何を考えていたんだゾ)
目の前にいるのはまだ十年も生きていない小さな子供。
こんな子供の助けを拒絶するなど、からておうとして恥じることではないか。
弱きを助け、強きを挫く。
空手とはそうあるべきと、常々師範から叩き込まれていた。
この場に師範がいたら、思いっきり殴り飛ばされているだろう。
「分かった。お前と一緒に行ってやるゾ」
「……ほんとぉ?」
「本当だゾ、だから落ち着けよ」
「うん、分かった」
何度か目を擦り、涙を拭き取るヒデ。
そうしてようやく顔を上げるが、その両目は真っ赤に腫れている。
ミウラの心をズキンと鋭い痛みが突き抜けた。
こんな無垢な少年を疑うなど、普段の自分では考えられない。
初めて体感する死の気配に心を蝕まれていたのか。
だとしたら、もう一度心を鍛え直さなければいけないだろう。
「疑ったりして悪かったゾ。ちゃんと俺がお前を家に送り届けてやるから安心しろよ」
「ありがとうおじさん!」
「おい! 俺はおじさんなんて歳じゃないゾ、まだおにいさんだってそれ一番言われてるから」
「ごめんなさい、おにいさん」
「分かればそれでいいゾ。ところでなんで俺のことを信用しようと思ったんだ?」
「それはね、おにいさんとポッチャマがとっても仲良さそうだったからだよ
アレを見て、僕はおにいさんを信じてもいいって思ったんだ!」
「そうだよ。俺とポッチャマの絆は永遠だゾ!」
ポッチャマとの関係を煽てられて、ミウラは上機嫌になる。
その一方、今まで蚊帳の外にいたポッチャマは呆れたように溜息を吐いた。
○ ○ ○
確かにヒデは同行人を探していた。
そのための条件は信用できる人間であること。
だが、それだけではなかった。
ヒデが求めている条件はもう一つだけあった。
それは――――間抜けな人間であること。
(最初からマヌケ面だなって思ったけど、見た目通りマヌケだったね)
上機嫌になっているミウラを見て、ヒデは心の中でほくそ笑む。
この程度の人間なら自分の良いように利用することができるだろう。
さんざん使い潰して、最後は盾にすればいい。
そう、これが彼の本性。
ミウラに見せていた歳相応の振る舞いは全て演技。
裏の顔は卑怯で狡猾、どこまでも自己中心的なものである。
最初にバッドガイの首輪が爆発した時、ヒデが抱いたのは恐怖でも憤怒でも悲哀でもなく高揚。
まるで愛してやまないテレビゲームのような展開。
仮想空間の命ではなく、本物の命を賭けたゲームが始まった。
それに気付いた時、ヒデは湧き上がるような興奮に包まれていた。
しかも最後まで勝ち残れば、莫大な報酬を手に入れることができる。
莫大な報酬――――つまりは金。
このゲームを勝ち残るだけで、今後の人生を働かずに生きていくことができる。
無能な教師や馬鹿な同級生に媚を売らずに済む。
最高ではないか。
(サカモトってオジサンには感謝するしかないよね!)
ヒデが思い浮かべているのは、このゲームでどんどんと敵を倒していく自分の姿。
手に入れた報酬で贅沢な生活を送る自分の姿。
自分が無様に敗北し、殺される姿など微塵も浮かばない。
それは根拠のない自信ではなく、確固たる事実から裏付けされている。
その源とは、彼に支給された二体のポケモン。
ポケモンは種族による強弱の差が激しく、支給されるポケモンにもそれが反映されている。
ミウラのポッチャマがハズレならば、ヒデのポケモンは間違いなくアタリと言えた。
しかも二匹ともである。
一匹は結晶塔の帝王として畏れられ、一匹は水の都の守り神として祀られている。
人前には滅多に姿を現さない、伝説と呼ばれているポケモン。
――――エンテイ、ラティオス。
この二匹がヒデに支給されたポケモンだった。
そしてこの二匹を見て、ヒデは自身が主人公として選ばれたことを確信した。
周りにいるのは全員がモブキャラ。
伝説のポケモンの圧倒的な力で蹴散らされるのを待つだけの存在。
(でも僕は賢いからね、利用できるものはどんどん利用していくよ)
優れた人間に対し、下々の者は嫉妬心を抱く。
例えば、自分に幼稚な嫌がらせをしてくる同級生のように。
例えば、自分を露骨に無視する教師のように。
その経験から、ヒデは力を隠すということを覚えていた。
伝説のポケモンの力を簡単に見せびらかせば、敵を作り過ぎてしまうだろう。
だからこそ隠れ蓑となる者が必要なのだ。
頭の悪くてヒデの目論見に気付きそうにないミウラは適役と言えた。
(さて、僕がゲームをクリアするための道具になってもらうよ、おじさん♪)
坊主頭のアホ面を見て、ヒデは邪悪な笑みを浮かべた。
【B-4/はらっぱ/一日目/日中】
【からておうのミウラ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:対主催
1:サカモトに立ち向かう。
2:ヒデを家に送り届ける。
▽手持ちポケモン
◆【ポッチャマ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【???/???】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
【じゅくがえりのヒデ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:マーダー
1:ゲームに優勝する。
2:ミウラをとことん利用する。
▽手持ちポケモン
◆【ラティオス/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【エンテイ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
〔トレーナープロフィール〕
|名前|からておうのミウラ|
|性別|男|
|容姿|白いTシャツ、白いハーフパンツ、坊主頭、間抜け面、中肉中背|
|方針|対主催|
|人物|一流の師範をもつ空手家、21歳。
人格者の師範に鍛えられているため彼も人格者だが、頭の出来はそれほど良くない。
空手の腕前は中々だが、ポケモンバトルは非常に苦手である。
すぐに他人に便乗するなど、主体性のない場面も多々ある。
ただし勘はいい、そしてポッチャマが大好き|
|名前|じゅくがえりのヒデ|
|性別|男|
|容姿|体操着、黒いハーフパンツ、黄色い帽子、ランドセル、背は低い|
|方針|マーダー|
|人物|まだ10歳も迎えていない学生。
この年齢にしては頭が良いが、それ故に他人を見下している。
そのせいで他者から迫害されているものの、本人は自分に原因があるなどと全く思っていない。
自分以外の全てはモブキャラと考えている上、殺し合いをゲームと捉えているため、命を奪うことに何の抵抗もない。|
以上です。
>空手部・ポケモンの裏技
ぼーっとした大人と、狡猾な子供。
いやぁ何かこう、とても濃いキャラクターが参戦しましたねぇ……。
ヒデのポケモンは現状トップクラス、半端なく猛威を振るってくれそうです。
……むしろ敗北フラグなんだよなぁ……。どちらにしろ、波乱となる予感がします。
ミウラも第四のからておうとして、どんな勇士を見せてくれるでしょうか。
投下お疲れ様でした!!
遅れてすみません、投下します
☆今日の占い☆
蠍座:突然のハプニングに注意! 自分から行動するのが吉。
ラッキーカラーは黒 ラッキーポケモンは水タイプ
オカルトマニアのモカの脳裏に浮かんだのは今朝の占いに出ていた自分の運勢。
ハプニング、確かにそうだろう。殺し合いの場に拉致されるなんて最上級に不幸なハプニングだ。
ラッキーカラーの黒のゴシックドレスに身を包んだ彼女と退治しているのはくたびれたグレーのコートに片目を隠す程の長髪をした、いかにも不健康そうな肌の色をした男。
彼女が咄嗟に呼び出したポケモン、オーダイルに対抗する様に、男が繰り出したポケモンはオーロット。
タイプ相性はいたって不利。
浮かばない打開策を考える思考のループ、せわしなくモカの視点が宙を彷徨う。
モカはいじめられっ子だった。
暗く、引っ込み思案で占いというオカルトが趣味だった彼女は少年少女の残酷な排斥の標的とされるのに充分過ぎる素養があった。
モカがいじめという理不尽に対して行なったのは逃避だった。
耳を塞ぎ、目を閉じ、ただ自分の趣味に没頭するだけの日々だった。
だが、今目の前に立ちはだかる理不尽に対して、逃避という唯一の選択肢が取れない。
男の、睨めつけるような三白眼の左目が少女を無感情に見据えている。
蛇に睨まれたカエルの様に身動きも出来ず、ただ目元に涙を浮かべて怯えるモカを苛むようなその視線に耐えきれず、目を瞑る。
それは、ポケモンバトルにおいてはやっていけない、致命的なミス。
「……戻れ、オーロット」
だからこそ、モカはその瞬間に聞こえた男の発言に己が耳を疑った。
驚き、目を開いたモカの視界には、オーダイルと手に持っていたモンスターボールをしまう男の姿があった。
「え、あ、なんで……」
惚けた様に呟くモカに対して、再び男の暗い眼差しが向けられる。
ビクリと恐怖にモカの体が震えるのを見ると、男は面倒くさそうな表情を浮かべてため息を一つ吐いた。
「急にポケモンを出して来たからやる気の奴かと思って臨戦態勢だけはとっただけだ。その気はないみたいだし心配して損したよ」
心底どうでもよさそうな男の発言が、モカの中にあるいじめられた記憶を微かに刺激する。
そして、男の発言から自身の行為が相手に警戒をさせたという事実に思い至ったモカは慌ててオーダイルをモンスターボールへと戻す。
「ご、ごごごごめんなさい!私……」
「謝罪はいいさ。ただ、そんなんじゃ君、この殺し合いに生き残れないぜ?」
男から発せられた不穏当な発言がモカの心を凍り付かせる。
“殺し合い”その単語がいやでも現実を認識させる。
「あ、あなた、もしかして……」
「……君だってむざむざ黙って殺される訳にはいかないだろ? 僕はそうだ」
口元を歪める男を見て、モカは一歩後ずさる。
「首輪を外して自由になる? 首輪を外せるような奴をむざむざ殺し合いの場に呼ぶと思うかい?
ポケモンにしろ会場にしろとんでもないコストだ。なのにこの殺し合い自体が破綻するような穴があると思うかい?
生憎と僕はそれなりに現実ってものを弁えているつもりだ。いつ来るかも不明な正義の味方を待つくらいなら、優勝を目指すさ」
「で、でも殺し合いを望んでいない人だっています! その人達と力を合わせれば……!」
「根本的な解決になっていないよ。まあ百歩譲ってだ、殺し合いに乗っている人間がいないという前提で、全員が集まったとして一つの問題が生じる」
一息区切り、男は続ける。
不穏な空気を感じつつもモカは聞きいる事しかできない。
「一定時間に脱落者がいない場合、全員が死ぬ。それ自体を回避するには誰かが犠牲にならなければならない。
そこで、君に質問だ。こんな時に真っ先に犠牲にされる人物。それがどんなものか、君にはわかるかい?」
凍り付くような視線がモカを捉える。
いじめの記憶が脳裏を過り、男の言わんとした事を理解したモカの顔が青ざめる。
「理解できていても言葉にはできないかな。そう、そんな時に犠牲にされるのはいなくても変わらない奴だ。
協調性のない奴や役立たずなんかは危ない、特にポケモンバトルで相手に気圧されて目を瞑ってるような足手まといなんかは……」
「やめてッ!!」
男の声をモカの叫びが遮る。
今にも泣き出しそうな顔を俯かせ、モカはだだをこねる様に頭を左右に振る。
「……まあ、僕だって性格は悪いからね、条件としてそう大差ないさ。
ただ、これだけは忘れない事だ。僕も君も切り捨てられる側の人間だ。仲良しごっこに入れてもらったところで、その後の結果なんてわかりきっているんだよ」
男の発言はモカの心を充分すぎる程に抉っていた。
ずっと逃げ続けていたモカに、非常な現実を受け止めきる事など、できる訳がなかった。
だからこそ、次に男の口から告げられた言葉は彼女にとって望外だっただろう。
「そこで、君が生き残る為の提案が一つある。……僕と組まないか?」
「……え?」
モカは理解ができなかった。
それも当然だろう。先程まで役立たず、生き残れないと散々に彼女を否定して来た男が彼女をチームに誘ったのだから。
「正直なところ、僕はポケモンの腕だってそこまで立つ訳じゃないし、正攻法で勝ち残るのは無理がある。
ならどうするか、無害な参加者を装ってせせこましく立ち回るしかない訳だ。
そんな時に無力ば同行者がいれば説得力も増すだろ?」
「で、でも、私は人を殺すなんて……」
「そこまで強要する程鬼じゃないさ、必要がなければ手を汚すのは僕の仕事、それくらいは譲歩しよう。まあ、断るんならそれは仕方ない」
瞬間、男が一つのモンスターボールを投げつけ、モカの眼前に一体のポケモンが降り立つ。
モカの目の間に突きつけられたのは鋭い鎌。
堅い甲殻を身に纏った化石ポケモン、カブトプスが鋭い眼差しを向けていた。
「ただし、それならここまで説明した相手を生かしておく道理はないよね。
つまり、君の選択は”生か死か”という事になる」
残虐な笑みを浮かべる男に対して、モカの取れる選択肢は決まっていた。
恐怖で表情筋を引きつらせながら無言の首肯をすると、満足そうに頷いてカブトプスをモンスターボールに戻す。
「話を受けてくれて助かるよ。そうそう、名前をまだ名乗っていなかったね。
僕はエイジ、かいじゅうマニアのエイジだ。君は?」
「……モ、モカ。オ、オカルトマニアって言われてます」
「モカ、モカか。長い付き合いになるだろうし、よろしくモカ。
しかし、オカルトマニアか。なら君はオーロットの扱い方なんかもわかるかい?」
「えっと、その、交換してくれる人いなかったから、使った事ないけどボクレーならいたし、話自体は聞いてたから、多分大丈夫、です」
「充分だ。生憎と僕は怪獣グループのポケモン以外は疎くてね。君さえよければ君のオーダイルと交換して欲しいんだ。
ああ、これは強制じゃないよ。ただお互いに使いやすいポケモンを使った方がいいかなっていう提案さ」
「そ、それならいいです。私もゴーストタイプの方が使いやすいと思うから」
「うん、なら交渉成立だ。改めてこれからよろしく、モカ」
そう言って、エイジはモカへと右手を差し出す。握手のつもりだろう。
モカは逡巡する。この手を取ればモカも人殺しを許容する事になる。
だが、なによりもモカは自分が死ぬのが怖かった。
自分が誰かを殺す恐怖と、殺される恐怖。
モカはおずおずとエイジの差し出して右手を取っていた。
数年振りにした握手は、彼女の心を晴れやかにする事などなかった。
【B-3/森/一日目/日中】
【オカルトマニアのモカ 生存確認】
[ステータス]:精神疲労(中)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:死にたくない
1:エイジの指示に従う
※交換でエイジにオーダイルを渡しました
▽手持ちポケモン
◆【オーロット/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
【かいじゅうマニアのエイジ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:優勝する
1:無害な参加者を装いながら殺せそうな奴を殺していく
2:モカは一応守る。殺害も自身が主に行なって行く
3:できれば卵グループが怪獣のポケモンで手持ちを固めたい
※交換でモカにオーロットを渡しました
▽手持ちポケモン
◆【オーダイル/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【カブトプス/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
〔トレーナープロフィール〕
|名前|オカルトマニアのモカ|
|性別|女|
|容姿|ポケモンXYのオカルトマニア参照、服装は黒のゴシックドレス|
|方針|生存優先|
|人物|占いが好きな17歳の女子高生
性格が暗く引っ込み思案で人付き合いが苦手。
逃避癖があり、学校でのいじめを機に不登校気味になっていた。
物事においては消極的でプレッシャーに弱い。
ゴーストタイプのポケモンに関しては伝説・準伝説を除いて一通りの知識あり|
|名前|かいじゅうマニアのエイジ|
|性別|男|
|容姿|ポケモン赤青緑のオカルトマニア参照、服装はグレーのくたびれたコートに同色のズボンと白いシャツ 肌は土気色で不健康な見た目|
|方針|マーダー|
|人物|21歳、排他的な空気をまとっている
卵グループ:怪獣のポケモンをこよなく愛するトレーナー。
学生時代にオタクと馬鹿にされてから人格が歪んでしまっている。
必要なら非道な行為も進んで行なう打算的でリアリストな性格。
だが自分が決めた事は頑として曲げない頭の堅い部分がある。|
以上で投下を終了します。
>>197
ルールに伝説ポケモンは不可とありますよ
>>204
横からですいませんが、参加不可なのは公式大会に出せない伝説ポケモンだけって書いてますし、準伝説のラティオスとエンテイはレギュレーションの違反ではないと思います。
対伝説できるアギトもいるし準伝説でも大丈夫そうですしね
>マニアック×マニアック
分野に長けたポケモントレーナー同士のコンビですね!
あくまでも互いの利益のため、というピリピリとした関係。バトロワ的な感じで好感が持てます…!
ただ、リアリストなエイジの方針に、モカが着いていけるのかが少し不安かもしれませんね……。どうなるでしょうか。
投下お疲れ様です!!
あと、準伝説ポケモンはOKですよ。
公式大会で禁止対象となるポケモン(ミュウツーなどの高個体値伝説や、ジラーチなどの幻のポケモン)が支給出来ないのです。
予約分を投下いたします。
おまじないをとなえましょう。
やさしいやさしい、くりかえすことば。
ことばはまほうでまじないでできているのです。
それはひとのきもち。
それはひとのいのち。
それはひとの――こめられた――――つよいつよい、だれかのためのきもち。
◆
穏やかな日の光がぬくぬくと彼の頭に温もりを注ぐ。
見上げた、船の道標たる灯台は日光を弾いて目に痛い白色をしていた。
これだけ眩しいのに、彼の現実は真っ暗闇であった。
彼の名前はリヒト。世間ではホープトレーナーと呼ばれる、希望に満ち溢れた少年。
少年と言うが、彼は背も高く、おまけに顔も良くて、すこしばかりおませだった。
こんな場所に呼ばれなければ、もういくばくもしないうちに、エリートトレーナーの肩書で人生を歩んでいただろう。
彼には、女の子に優しい言葉を吐いては、袖にする悪癖があった。
悪癖とは言うが、本当の悪気はないのだ。彼はやはり頭も良かったから、決して女の子を傷つけたりはしなかった。
短い夢を一緒に見ていたかった。ちいさな、こどもにしか抱けない、温かい気持ちを。
彼は希望が有り余っていたから。希望を振りまいてなお余りあるほどに幸せで、その幸せな希望の夢を両手で抱え続けるのは辛かったのだ。
そしてきっといつか、本当の夢を共に抱ける女性と出会えると、信じていた。
コロシアイと、男は言っていた。
なんて嫌な言葉だろう、リヒトは整った眉を顰める。
言葉はもう少し丁寧に扱うべきだ、耳に聞こえがよく、傷つけにくく、なるたけやわらかなものがいい。
そして言葉に現実をすりあわせてやれば、万事この世は希望の言葉で回っていく。
「そうだよ、皆で助けあって、禍(まがつ)な言葉を正しく書き直すんだ」
声に出すと、耳に世界に響き渡る希望。
ああ、僕はきっとやれる。リヒトは恐怖も怒りも悲しみもおためごかして塗りつぶした。
それは、世間一般的に言うと『つよがり』だったのかもしれない。
荷物を確認しようと鞄を下ろした時、視界の端にたなびく何かが過った。
はっとしてその方向を見やると、崖っぷちに立つ、黄色いレインコートをまとった女性の後姿。
まるで身投げでもしそうなくらいに儚く、実体の、魂の伺えない立ち方にリヒトは慌てて彼女の背中へ声をかける。
「君、ダメだ――君!」
何がダメとは言えない。
その言葉は、不穏でしか無かった。
真っ青なリヒトとは裏腹に、振り向いた女性は笑っていた。
何をそんなに焦っているのかと、無邪気に、小首を傾げた。
「何が、ダメなのかしら?」
ああ、早とちりだったのだ。
リヒトは心の底から安心する。
口にこそ出さなかったがこの状況、閉塞感、絶望――はやまっても――何も言えやしない。
女性はトラウム、と名乗った。
雨が好きで、晴れた日にも傘をさして歩くのが趣味な……ちょっと変わった女性だ。
「こんな場所だからね、私のお気に入りの傘がないの」
「そう、それは気の毒に」
リヒトの持ち物にも傘は無かった。
何か力になってあげたいのに。
いつだって彼は、口先しか立つものはなくて。
ちくりと胸が痛む。
罪悪感か、あるいは。
トラウムは、それはそれは美しい女性だった。
黒髪で、雨がよく似合いそうな、どこか物憂げな顔立ち。
いつもおしゃべりする女の子たちとは違う、しとしとと、包み込むような魅力。
ふ、と彼女が抱えているものに目を落とす。
灰色で、ふわふわしたぬいぐるみだ。
視線に気づいたのか、彼女は目を細めて口を開く。
「私に支給されていたの、この子。私によく……似ていてね」
リヒトはそのポケモンを知っていた。
ジュペッタ、ぬいぐるみポケモンのジュペッタだ。
いやにぐったりしている、ジュペッタも悲しいのだろう。
かのポケモンは……捨てた主を探し暗い道をさまよい歩いていると聞いたことがあった。
ちくり、また胸が痛んだ。
「……大丈夫、大丈夫、僕は、あなたを守ってみせます」
少年と青年の間をたゆたう彼は、力強くトラウムの細い指先に手を添わせた。
鼓動が早くなる、これが、僕の求めていた夢。
今まで紡いできた言葉の中でも、飛び切りの希望を急いで織りなさなければ。
「僕は、僕は言葉だけは達者です。あなたが望むなら、どんな幸せだって呼び寄せる言葉を考えましょう、だから、僕と――」
言葉は詰まった。
別に思いつかなかったわけじゃない。
感極まったわけでも、舌を噛みつけてしまったわけでも、ましてやこうして止める効果をもたせたわけでもなかった。
胸が苦しい。
比喩じゃない。
表現じゃない。
痛くて痛くてたまらない。
リヒトは膝をつく。指先が彼女から離れてしまった。
息をするのが精一杯で、饒舌な口はあえぐように呼吸を試み、彼女に助けを求めぱくぱくと開閉を続けた。
するすると抜けていくそれは、さながら。
◆
トラウムには、愛した男性(ひと)がいた。
彼は優しかった。いつでも愛をささやいて、守ってくれると、君がオレの夢だと、言ってくれた。
でも彼は嘘つきだった。
彼は、彼女以外にも同じ言葉を投げていたのだ。
彼女はいつしか置き去りにされて、ただただ、過去を懐かしむように傘をさしていた。
初めて、二人で入った傘を、ずっと手に持って雨の日も晴れの日も。
雨粒は傘の内側に落ちて、落ちて、はらはらと。
「ああ……傘がないの、大切な、大切な傘が」
傘を取りに戻らなくちゃ。
彼女には一枚たりとも言の葉は届かないのだ。
愛の言葉は呪いだったから。
耳に目に口に胸に手に足に魂にこびりつく呪いだったから。
胸が、とても痛い。
こびりついたすべてが、際限なく彼女を蝕んでいく。
見下ろした少年は、すでに息絶えていた。
「戻って頂戴……」
彼女はジュペッタをボールに戻し、コンバーターにセットする。
リヒトの死体、まだあたたかいそれを撫でながら、ジュペッタの回復を待つ。
ジュペッタは何も発さずに黙々とリヒトにのろいの技をかけていた。
自身の体力を半分にすることによって、相手を徐々に死に至らしめる技だ。
ポケモン同士ならば、交換を施せばのろいは解除できる。
ならば人間相手はどうなるのか。おそらくは距離……のろいをかけたポケモンから遠ざかれば、消耗こそあれど死には至らない。
そう、ポケモンのわざなのだから、逃げられる。
人間の呪いに比べたら、なんと優しいことだろうか。
しかもポケモンののろいは自身を傷つける。
かけっぱなしでのうのうと……生きていたりはしない。
希望という暖かな呪いを、その手から口からまるで陽光のように注いだリヒトにトラウムは唇を噛み締めた。
「あなたは彼じゃあない。これ以上、私を呪わないで」
トラウムは物言わぬ彼に、雨を独り言のように零して。
「傘が……無いの……」
誰にも届かない、誰も呪わない、そんな言葉だけを内側に散らしていく。
◆
御呪いを唱えましょう。
優しい易しい、繰り返す言刃。
言刃は魔法で呪いで出来て射るのです。
それは人間の気持。
それは他人の生命。
それはひとの情念魂が込められた、鎖より絆より夢より強い強い、誰かのための気持。
【ホープトレーナーのリヒト 死亡確認】
【B-1/西の灯台/一日目/日中】
【パラソルおねえさんのトラウム 生存確認】
[ステータス]:健康、深い悲しみ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]傘を取り戻す(一応帰還)
1:言葉を掛けるものを呪う
◆【ジュペッタ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
のろい
????
????
????
◆【???/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※リヒトの手持ちポケモン、持ち物はそのままにされています。
〔トレーナープロフィール〕
|名前|パラソルおねえさんのトラウム|
|性別|女|
|容姿|27歳。黒髪で華奢な体つきに、明るい黄色のレインコートを纏っている。|
|方針|帰還|
|人物|男の言葉に振り回されて呪われてしまった女性。彼女の心にはいつも雨が降っている。|
|名前|ホープトレナーのリヒト|
|性別|男|
|容姿|15歳。セミロングの茶髪の少年。お洒落な洋服を着ている。|
|方針|対主催|
|人物|言葉を大事にする、ちょっと大人びた心優しい少年。心優しい言葉ならまかり通るわけではない。|
投下終了いたします。技の効果等問題ありましたらご指摘お願い致します。
投下します
最新のつりざお、所謂すごいつりざおが手元にないと妙に落ち着かないのが釣り人である彼――サエグサの性分だった。
下はコイキングから上はハクリューまで、いろいろなポケモンを釣り続けて数十年が経ったであろうか。
釣ったポケモンを捕まえて育てて戦ってボックスに預けて、ポケモントレーナーとして誠心誠意努力をした自分は釣り人の中では一番強いつもりだと自負はしている。
まあそれには裏があり、自分以外の釣り人は不思議なことに釣ったポケモンしか使わないらしく、当然ではあるがタイプは水タイプに偏るわけで。
つまり自分が弱点属性である電気タイプと草タイプを持っていけば、これもまた当然でわざとでもなければ負ける道理が無いわけだ。
考えてみれば至極単純な理屈で、未だに自分は釣り人兼トレーナー最強として君臨し続けている。
しかしながら全国にいるトレーナーの皆々様は、釣り人は水タイプしか持っていないという先入観が非常に強いらしく、釣り人である自分も例外ではなくカモだと思われてバトルを仕掛けられることがある。
いざバトルになって自分が水タイプではないポケモンを繰り出せば"釣り人詐欺"などと言い放ち、それで勝ってしまおうものなら"卑怯"だの"コイツは釣り人じゃない"などと暴言を吐く。
釣り人だと思って舐めてかかるからそうなるのだ、と心から叫びたいが、いやいや他のトレーナーがそう思うのも仕方ないと思って口にはしなかった。
だがトレーナーたるものどんなタイプが来ようとも対処できるような構成にするのは当然のことであり、対処を怠ったお前等が悪いんじゃないかとは思っている。
「ポケモントレーナー兼釣り人にしたほうがいいかもしれんな……」
「おんみょ〜ん」
俺の隣にいるポケモン――ミカルゲは俺の呟きに返事をしたかのようなタイミングで鳴き声をあげた。
ミカルゲが同意を示してくれたのか、はたまた別にしなくていいと反対をしたのかは、人間である俺にはよく分からない。
この場に自分以外の別の人――欲を言えば同じ釣り人がいれば解決していたのかもしれないが、残念ながらここは自分がいた土地とは全く違う土地で知り合いの釣り人はいない。
加えて言うならば、殺し合いというとんでもない出来事に巻き込まれている最中であるから、釣り人でないにしろこの呟きに対する答えを出してくれる気の良い人間などいないだろう。
よしんば答えを出したとしても殺し合いに生き残れなければ、単なる時間の浪費だし、そんなのを考えるくらいだったら他のことを考えていたほうがマシである。
そういうわけなので生き残ってからでも考えられるような、どうでもよく下らない考えは一旦頭の隅にでも放り投げて現状をどうするかを考えることにする。
「その前につりざおが欲しいな……釣りでもしねえと落ち着いて考えを纏めることができん」
釣り人のカテゴリ内では最強と自負する自分だが、同時に生粋の釣り人でもあるという自負もしている。
結局自分はポケモンバトルをするよりも釣りをすることが好きなようで、釣りをしていると心が落ち着き思考も綺麗に纏まることが多いのだ。
その為自分は大事な考え事であったりバトルの方針とか戦法だったりとかを考える際は、決まって釣りを始めて獲物がかかる間までに考えてしまうことが殆どである。
獲物がかかって必死に釣り上げようとしている間に考えていたことを忘れかけてしまうことは内緒の話である。
「木の枝……こんなもんで良いか。あとは、糸か」
手頃で丈夫そうな木を見つけて木の枝を折って、さて次はつりざおには欠かせない釣り糸を調達しなければならない。
本来ならば自分が持っているすごいつりざおを使用したいところなのだが、残念ながら手元には存在せずどうやら所持していたポケモンと一緒に没収されてしまったらしい。
ランダム支給品に支給されているはずもなく、仕方なしに自分はつりざおを作るという面倒くさいことをする羽目になってしまったということだ。
とは言うものの自分としてはすごいつりざおを手にしてからそれしか使っておらず、原点に返る良い機会だと思えばこれもまた一興である。
子供の頃に親につりざおを作ってもらい、そのつりざおを持って川へと一目散に走り、思いっきり振りすぎて川に投げ落としてしまったことは思い出として今でも記憶に残っている。
その後親にその事を告げると親は後日新しいつりざおを作ってくれた。自分は嬉しくなってまた川へ走っていったのは言うまでもない。
「ウルガモス、いとをはく」
自分に支給されたもう一体のポケモンであるウルガモスは、いとをはくという技を使用できるのでその糸を釣り糸にして使うことにした。
釣り糸としては充分な量の糸を確保できたので、サエグサはウルガモスをモンスターボールの中へ戻して地面に置き、糸を木の枝の先に釣り糸として機能する長さを残してぐるぐると巻き付けていく。
あっという間に大半の釣り人が最初に手にするであろうつりざお、ボロのつりざおが完成した。
あとは釣り針とか疑似餌でもあればつりざおとしては完璧なのだが、そんなものは今この場にはないのでこれで完成形である。
なお糸といっても獲物を捕まえる粘っこいほうの糸ではなく、頑丈で伸縮性がないほうの糸を使用している。
「うーし、つりざお完成。釣りだー釣りするぞー」
「おんみょ〜ん」
「あ、その前に技の調整をしなきゃな」
一旦ボロのつりざおを地面に置いて立ち上がり、ミカルゲをモンスターボールに戻しポケモンコンバータを取り出してセットする。
ちょちょいとミカルゲの設定とウルガモスの設定を終わしてポケモンコンバータをしまい、ミカルゲを再びモンスターボール中から出してやる。
一人で釣りをするのも悪くはないのだが、折角なんだからポケモンを――しかも持っていなかったポケモンを隣において釣りをしてみたかった。
単なる気まぐれに過ぎないが、誰かがいるのといないのとでは全然違う。主に寂しさ辺りが。
「釣ーりー、釣ーりー、釣りの時間〜」
「おんみょ〜ん」
「あ、またやること忘れてた。ウルガモス、俺が言った場所に糸吐いて」
やるべきことをまた思い出したのでつりざおを地面に置きポケモンコンバータで調整したばかりのウルガモスの技構成を変更し、いとをはくを使えるようにしてからウルガモスを召喚する。
出した命令は自分の周りにある木に糸をはいてこいというもので、吐く糸は先程の頑丈なものではなく粘っこいものである。
もちろんこれにはちゃんとした理由があり、自身は釣り糸の動向に集中して見ているから、当然ではあるが無防備な状態になるのでどうすることもできない。
そのために考え出した策は周辺に粘っこい糸をバラまき、不意打ちをしようとした相手の動きを絡め取って身動きできなくさせる、要するに足に糸を引っ掛ける古典的なイタズラを仕掛けるのだ。
付け加えるならば粘っこい糸に頑丈な糸を――それを木の枝に巻き付けておいて無理に糸から抜け出そうとした相手が動いたと同時に、音が発せられて相手の位置を察することができる警報機のようなものも兼ねている。
これにより自分に危機が迫っているということが分かり迎撃に移ることができろということだ。
ちなみにちゃんと機能するかどうかは確認していない。
誰かがかかった場合はどうするべきか。
機能するかどうかは分からないが、仮にもしも引っかかる人間がいたとして、その対処方法を考えなければ、もたもたしている内に抜け出してしまうだろう。
対策をキチンとしていなかったために、死んでしまっては元も子もない。
まあそんなのは、引っかかる人間の見た目とか雰囲気を感じればすぐに分かる話なので、問題はないのだが。
殺し合いに乗っている人間はどれだけ見た目を誤魔化そうと騙そうと、全身から悪意を漏らしているのでどう取り繕おうと間違って助けてやることはあるまい。即座に殺す。
殺し合いに乗っていない人間は乗っている人間より分かりやすく、これを間違おうものなら殺されても文句は言えない。即座に離す。
なので、人間重要なのは見た目と雰囲気である――つりびとだから舐められるのも、つりびとの格好をするのがいけないのだ。
あと常識に囚われてはいけない。これはあくまでも、ポケモンを使った殺し合いである。
「うしご苦労。もどれーウルガモスー」
ウルガモスをモンスターボールの中に戻して、もう一度ポケモンコンバータで技の構成を変更する。
その後はウルガモスの入ったモンスターボールをいつでも出せる位置にしまい、地面に置いたつりざおを手にして地面に座る。
今しておくべきことは終わったので、待ちに待った釣りの時間がやってきた。
「釣りだー、釣りの時間だー!」
「おんみょ〜ん」
ボロのつりざおを手にしてようやく釣りが出来ると感極まったサエグサは勢い良く、それはもう潔いくらいに思いっきり降り下ろした。
「あ」
勢いあまってすっぽ抜けたボロのつりざおは真っ逆さまに落ちて行き、もう二度と取ることはできない海の中へと沈んでいった。
何十年前に分かるか分からない、ボロのつりざおを作っている最中に思い出していた出来事を彷彿とさせるような、というかそっくりそのまま同じことを俺はやってしまったようだ。
気分が高揚したまま何かをするのは良くないと、あの事件以来から肝に銘じていたのに、こんなあっさりとしでかすようでは自分もまだまだということか。
そういえば自分がいいつりざおに変えてからこのような出来事をしていないのは、やはり木の枝はすべりやすいということなのかもしれない。
「言い訳はいいや……新しいつりざおを作らんと」
「おんみょ〜ん」
励ましているのかほくそ笑んでいるのかは分からないが、俺の言葉に反応したのかどうかは分からないが、とりあえず先程のミカルゲの鳴き声は好意的に解釈をしておくことにする。
さてこのままでは釣りができないので、今一度つりざおを作り直す必要がある。
嘆息しながらも、俺は放り投げたつりざおに使った木を探してその枝を折り、ウルガモスを召喚していとをはかせる。
糸を巻き付けながら、サエグサはまた溜め息を吐いた。
【A-2/低地/一日目/日中】
【つりびとのサエグサ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ボロのつりざお(手製)
[行動方針]釣り
1:釣りをする
2:その間に方針を決める
3:誰かが罠にかかったら見かけと雰囲気で判断する。
4:殺し合いに乗っていると判断したら殺す
※周囲に糸がはかれました
◆【ミカルゲ/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:いのちのたま
能力値:防御、素早さ特化
《もっているわざ》
のろい
さいみんじゅつ
かげうち
ギガインパクト
◆【ウルガモス/Lv50】
とくせい:ほのおのからだ
もちもの:もくたん
能力値:特攻、素早さ特化
《もっているわざ》
ちょうのまい
だいもんじ
むしのさざめき
ギガドレイン
〔トレーナープロフィール〕
|名前|つりびとのサエグサ|
|性別|男|
|容姿|第六世代と同一|
|方針|現時点では釣り|
|人物|つりびとの皮を被ったエリートトレーナー。釣り人最強を自負している
ポケモンバトルよりも釣りを重視し、そこまで積極的にバトルをするタイプではない
釣ったポケモンは捕まえて育ててバトルに出してはいるが、しっくりこないらしくボックスにすぐ預ける
良くも悪くもマイペースで、流されることはあまりない|
投下終了です
すいませんタイトルは「そんなことより釣りをしようぜ」でお願いします
>おまじない
優しい言葉や端麗な容姿は所詮は上辺…。心の奥底でなにを抱えているのかわからない。
青さゆえだと思いますが、そういった点がリヒトの迂闊さだったと思います。
そんな感じで、深い闇を隠し持っているトラウムさん、恐ろしい女性です…。
彼女を蝕む呪縛が、この殺し合いでどうなるのでしょうか…!?
>そんなことより釣りをしようぜ
サエグサさんのマイペースさに和まされました。
それでも罠を張ったり容赦する気はなかったりで、スキの無い人ですよね。
ポケモンはなかなか強力。彼の実力、早く見てみたいです。
皆様、投下お疲れ様です!
みなさま投下乙ですー
つりびとマイペースすぎるw
あとパラソルおねえさんの話の雰囲気が好き
◆hqMfTgg4LU氏の期限が切れていたようなので、空いた一枠を予約したいのですが構わないでしょうか?
もう予約が切れてから半日が経過していますし、問題無いと思われます。
>>223
OKです! 予約期限切れの枠は他者が予約して頂いても大丈夫です。
楽しみにしております!
最後の一枠予約します
現状の予約ってどうなってるんでしたっけ?
レス本文そのままコピペですが、今現在このようになっています。
110 名前: ◆4BAf65YklI[sage] 投稿日:2014/11/17(月) 21:33:05 ID:IzfJiRLU0 [1/2]
残りの予約枠、計算が間違ってないなら残り7名だと思います。
間違ってたらごめんなさいで。
ついでですが、新規トレーナーを一人予約させていただきます。
119 名前: ◆Bu4r51EP82[sage] 投稿日:2014/11/17(月) 22:25:02 ID:q2x35Xtk0
新規キャラクターを二人予約させていただきます
223 名前: ◆gET0fqCtw2[sage] 投稿日:2014/11/22(土) 18:38:07 ID:F1ZDeLI60
◆hqMfTgg4LU氏の期限が切れていたようなので、空いた一枠を予約したいのですが構わないでしょうか?
226 自分: ◆Kn6tS7GZtY[sage] 投稿日:2014/11/22(土) 19:26:40 ID:4a13Iq7U0 [2/2]
最後の一枠予約します
投下します
(1)
「ごめんね、シェリ……でも、もう一緒にいられないの。ごめんね……本当にごめんね……」
「まって!行かないでママ!」「ママ!!」「ママ!!!」「っ…………ママぁ……」
また、同じ夢だ。一体何度見たことだろう。眠りに落ちる度に、メルヘンしょうじょのシェリは母親との別れの夢を見る。
何度、夢の中で叫んだことだろう。何度、母親の手を引いたことだろう。それでも一度も夢の結末は変わったことはない。
その場に崩れ落ちて泣くシェリを残して母親は行ってしまう。
そして安いアパートの一室で彼女は目覚める。
酔って眠った父親のイビキはシェリに結局何も変わりはしないのだと嘲笑っているようだった。
初めてあの夢を見た時、自分は泣いていたのだろうか、とシェリは思う。
毎日、同じ夢を見ればもう慣れてしまう。涙だって枯れてしまう。
ただ、摩耗していくだけだ。
吐瀉物の滓がこびりついた洗面台の鏡でシェリは己の顔を見る。
無表情な己の顔は、喜びも怒りも哀しみもどこかに零してしまったようで嫌いだった。
だから、人差し指で己の口の端を引き上げる。
(笑えるわシェリ、大丈夫よ)
そして、心の中で呪文を唱える。
そうやって、自分を誤魔化していくしかないのだ。
足元に転がっている酒瓶を踏まないように彼女は家から出る。
音を立てれば父親が目覚める、朝に起きてしまった父親は気が滅入るような声で泣くのだろう。
酒瓶を踏んで転んでしまおうものなら、目に見える部分に傷がついてしまう。
表面上の関心しか寄せない教師やクラスメートに関心を寄せられるのは嫌だ、もしかしたら問題が解決するんじゃないかと期待してしまう自分も嫌だ。
自分で手首を切り、その結果どうなったかを彼女はしっかりと記憶している。
同情や説教、下卑た関心が欲しいのではない、自分を助けてくれる手が欲しいのだ。
そして、その手が――少なくとも学校にないことを知っている。
彼女の心とは裏腹に、空は雲一つ無い綺麗な青色だった。
もしかしたら、空には王国があって、自分はその王国のお姫様なのかもしれない。
時々、シェリはそんなことを考える。
本当はもっと幸せになれるんじゃないか、今いる場所こそが間違いなんじゃないか、誰かが私を助けてくれるんじゃないか。
都合の良い空想【メルヘン】だけが時々、彼女を現実世界から逃してくれた。
だから、彼女は傷跡を念入りに隠し、笑顔を作り、そして童話のような服を着る。
いつかシンデレラやグレーテルになれることを夢見て。
気がつくと既にチャイムが鳴っていた、急がなければならない。
潜り抜ける路地裏の中、彼女はあるものを発見した。
それはダンボールの中でじっと身を竦めていたロコンだった。
――ごめんなさい、この子は飼えません。誰か可愛がってあげて下さい。
ダンボールの表面には、女性的な字体でそう書かれていた。
ダンボールの中には、毛布とポフレが何個か入っている。
だが、関係ない。
再び、シェリは走りだす。
急がなければ学校に遅刻してしまう。
ただでさえ成績は良くないし、家は碌に勉強が出来る環境じゃない。
これ以上、教師に傷を見せるわけにはいかない。
吐瀉物を飛び越え、ポリバケツごと捨てられたゴミを避け、眠り呆けている酔っぱらいを跨ぎ、
「キュウーン」
ロコンがか細く、しかしはっきりと鳴くのをシェリは聞いた。
動きが止まる。まるで引力がロコンから発せられているようだった。
学校へ向かおうとする力とロコンの引き寄せようとする力の板挟みになり、シェリは動けないでいる。
誰かが拾わなければ、ロコンは死ぬ。
だが、この路地裏にいる誰かなどという者は、大抵は酔っぱらいか後ろめたいものを隠しに来た人間だ。
大多数はロコンなぞどうでもいいと思っているし、大多数に入らない人間はロコンを拾い上げてコンクリートに叩き落とす者か、そのままロコンを売ってしまう者だろう。
ロコンの震える体を毛布に包んで優しく抱き上げてやれる者は、多分シェリしかいない。
きっと、学校が終わってからでは手遅れになる。
でも、だ。
シェリにロコンを育ててやることは出来ない。
自分の食事すら父親の気分次第で出ないことがあるのに、ロコンに食事を食べさせてやる余裕はない。
当然、モンスターボールを買うお金も無い。シェリの家にある金というものは大抵は酒屋に流れることになる。
だからといって、狭い家の中にロコンを隠せるスペースは無いし、近所にだって隠せるような場所はない。
父親に相談して、何とかするなんていうのは選択肢にすら入っていない。痣と痛みを増やすだけだ。
「ごめんね……」
最初からロコンなど見なかった、そう思い込んで学校へ行けば良いように思えた。
一歩を踏み出せば良い、そうすればロコンの引力から解き放たれる。
一歩、たった一歩で良いのだ。
だというのに。
「ごめんね、シェリ……でも、もう一緒にいられないの。ごめんね……本当にごめんね……」
動けない原因は、ロコンを見捨てていく罪悪感だけではない。
これは何度も夢で見た光景の再現だ。
ただ、自分が見捨てられる立場から見捨てる立場に変わったというだけの。
「ごめんねじゃないよ……ママ……っ」
何を言われようが、結局、捨てられた者は呪いの様にそれを引きずっていくしかない。
だから、捨てられたくなかった。
捨てられないために、拾われないようにした。
空想【メルヘン】が必要だった。それは決して、自分を捨てたりはしないからだ。
「……ママ」
学校へ行く気はシェリの中から失せていた。怯えさせないように、静かにゆっくりとロコンのダンボールまで歩いた。
そしてロコンの体を毛布で優しく包み、そして抱きしめた。
「私が、アナタのママになってあげる」
もう一度、夢をやり直そう。シェリはそう思った。
決して娘を捨てることのない母親が欲しかった、穏やかな思い出を夢に見たかった。
けれど、それはもう――シェリには手が届かないものだ。
だから、目の前の捨てられたロコンに与えよう。
自分の与えられるだけのものを何もかも与えよう。
本来あるべきだった――ママを、つくろう。
抱きしめたロコンの体は、今までのどんな思い出よりも暖かった。
その日、シェリは街から消えた。
(2)
「ルキ……ルキィ!」
酒に酔った父親は、妻の名を叫びながらシェリを殴り、蹴り、暴言を吐いた。
ルキが家を出るまでは、彼はシェリに指の一本も危害を加えなかった、いや――家を出てからも、と言うべきだろうか。
彼女はルキの名を叫び、シェリを殴り、そして酔いが覚めて、そのことを後悔して、シェリに謝るのだ。
「シェリ、ごめんな……本当はお前のことを愛しているのに、ルキが……いや、ごめんな、本当にごめんな……許してくれ、」
シェリは父親にとってはルキの代用品だったのだろう。
本当は彼もルキを殴りたいのだ、しかし既にいなくなってしまったからよく顔の似たシェリを殴る。
そして、自分が殴りたかった相手は娘では無いことに気づき、謝り、泣く。
何度、シェリは逃げようと思っただろうか。
それでも、彼は父親で――泣いている時だけは、優しかった頃の父のように見えた。
そしてシェリが逃げてしまえば、彼は今以上に壊れてしまう。
彼はシェリを家に繋ぎ止める鎖だった。
だが、ロコンが――いや、ルキと名付けられた彼女がその鎖を断ち切った。
父に向けていた愛憎の内の愛は、全てルキに向けられた。
残る憎悪はただ一言、あんな男、壊れてしまえ。とだけ言う。
だから、シェリは家を離れ、旅を始めた。
ポケモントレーナーならば、少女であろうと旅をするのはおかしいことではない。
そして、路銀を稼ぐこともロコンが一緒にいれば容易いことだ。
むしとりしょうねん、たんパンこぞう、とにかく弱そうなトレーナーを狙った。
得られる賞金は少なかったが負けることは恐ろしかったし、自分より強い人間に暴力で勝敗を有耶無耶にされることが恐ろしかった。
彼女は初めての賞金でモンスターボールを買った。ロコンの家だ。
旅に出て良かった、とシェリは思う。父親にも学校にも邪魔されることなく、ルキと一緒にいることが出来る。
それに愛しあう家族が常に一緒にいれる、こんなに嬉しいことはない。
「ルキ!ひのこ!」
今日もまた、シェリはポケモンバトルで賞金を稼ぐ。
ルキ以外のポケモンは捕まえていない。
ルキ一匹だけで十分であるし、ポケモンの数の分、愛情は薄れるように思えた。
「よくできたわねルキ!えらいわ、大好きよルキ!本当に大好き!」
賞金を受け取った後は周囲の目も気にせず、ルキを褒めた。
ポケモンバトルで戦うのはルキだ、シェリはただ指示を出すことしか出来ない。
だから、なるべくルキが傷つかぬように指示し、戦いが終わったら精一杯労うことに決めていた。
「ルキ、傷……」
そして、もう一つ。
ルキが戦いの中で傷ついたのならば、その痛みを分け合おうと。
ルキの右前足に負ったダメージを発見したシェリは、カッターナイフを取り出し、自分の右足を刺した。
「ルキ……ごめんね、痛くなかった?ごめんね?ダメなママでごめんね。許して、ママを許して……」
突如行われた、狂人じみた彼女の行動。
周囲の人間が、先程まで戦っていたトレーナーが、彼女の元へ向かう。
だが、彼らの声は彼女の耳に入らない。彼らの姿は彼女に見えない。
「ごめんね……ごめんね……」
あの出会いの時のように、再びルキを抱き上げて彼女は歩き出す。
誰一人として、彼女たちの世界【メルヘン】に立ち入ることは出来なかった。
「ルキ……」
ポケモンセンターは泊まるには煩すぎた、かと言って彼女は野宿のための道具を持っていなかった。
彼女は新しい街に辿り着く度に、屋根のある静かな場所を探し、そこを拠点とした。
そこは船の多い街だった。彼女は使われていないボロ船に無断で入り込んだ。
ゆらゆらとゆりかごのように揺れる船の中で、ルキを抱いてシェリは眠った。
どこからか子守唄が聞こえるような気がした。
それは、母親の声のように思えたし、ルキが歌っているようにも思えた、
あるいは、自分が歌っていたのかもしれない。
「ママ……ママ……」
一筋の涙が頬を伝った。
旅に出てからシェリは夢を見ることは無くなっていた。
ただ、ぬくもりだけを抱いて眠った。
(3)
この街から船で別の地方に出ようとしたが、船のチケットは想像の二十倍は高かった。
「しょうがないね、ルキ」
「キュウーン」
むしとりしょうねんや、たんパンこぞう相手の賞金では数年はかけないと貯まらないだろう。
父親のいるこの地方は嫌だ、カントーのように他の地方まで歩いていければ良いのに、とシェリは思う。
「今度は温泉に行こっか、体洗ってあげるねルキ」
だが、どうにもならないものはしょうがない。歩けるだけ、歩くしかないだろう。
もしかしたら、他の地方まで行けるとりつかいと知り合えるかもしれない。
それに温泉は楽しみだ。まるで家族旅行のよう――いや、二人なら家族旅行そのものだ。
「楽しみだね」
「キュウーン」
嬉しそうに鳴くルキを見ていると、シェリの心も弾んだ。
街を出て、歩く。
この街に来る時も思ったが、サイクリングロードの下を歩いていると不公平さに嫌気が差す。
サイクリングロードは草むら一つ無い整えられた道路だというのに、自転車の無い者が歩く下の道路は未舗装だ。
自転車が無いからこそ優遇してくれるべきではないか、と思う。
次々と出現する野生ポケモンは得にならないので相手にしない。
「ゴホッ……」
突如、何の前触れもなく咳が出た。
「ゴホ、ゴホ、ゴホッ……」
こみ上げてきた嘔吐感にその場で崩れ落ちる。不安気にシェリを見るルキに対し、シェリは気丈に笑い返す。
「ウェッ……」
だが、込み上げる嘔吐感がすぐにその笑みを壊した。
何度もその場に吐いた、いつの間にか発熱していた。
自罰の傷口から入り込んだ雑菌か、寝床の劣悪さか、賞金の少なさから来る食事の不安定さか、あるいは全てか。
いや、原因を気にしている場合ではない。
「ル……キ……」
ふらつく足で懸命に立ち上がり、再び姿勢を崩した。
ここで死んでは、ルキを捨てることになってしまう。
進むか戻るか、どちらの方が近いだろう。
とにかく、行かなければ。
「ママ……ママ……」
結局、立ち上がる事は出来なかった、シェリは這ったままに進んだ。
不安気に己を見るルキのために進みを止めては、シェリは笑った。
大丈夫、だとか。平気、だとか。そういう言葉を言いたかったが、朦朧とした意識はただ、思い出からアトランダムに言葉を発するだけだった。
「殴らないで……ごめんなさい……」
不気味なほどに静かな日だった、誰一人としてすれ違う人間はいなかった。
それにくわえて、雨が降り注いだ。
冷たい雨が、余計にシェリの体力を奪う。
それでも、シェリは己のことなど考えてはいなかった。
ただ、朦朧とした意識の中で、ルキをモンスターボールに戻さなければならないという命令だけがぐるぐると回っていた。
それでも、実際にモンスターボールを動かすだけの体力は最早残されていなかった。
突如、世界が光に包まれた。雷雨だった。
光の中にルキは人影を見た。
助けを呼ばなければならないと、ルキは思った。
人影に向かって駆け出すルキを、シェリは止められなかった。
朦朧とした意識が、久々にシェリに夢を見せていた。
「行……か……な……い……で……マ…………」
「キュウーン!!!」
人影に向かって駈け出したルキが悲痛な叫び声を上げると同時に、遅れてきた轟音が周辺に響き渡った。
朦朧とした世界【メルヘン】の中にあるシェリにもはっきりとわかった、
それは人間によって蹴り上げられるルキであり、ルキを蹴り上げる父親の姿だった。
「シェリ、お前まで……お前まで俺を馬鹿にしやがって!!」
蹴り上げられ、宙を舞い、そして再び地に落ちたルキを父親は何度も何度も踏みつけていた。
「俺より、俺より、大事か!?こ、このケダモノが!」
いつも漂わせていたアルコールの臭いがしない、もしかしたら酒を止めたのかもしれない。
と、どこか他人ごとのようにシェリは思った。
その代わりに、父親は完全に狂気に支配されているようだった。
(あぁ、やっぱり壊れたんだ……こんなところまで追ってくるなんて…………)
ルキを助けなければ、とシェリは思う。
だが体は全く動かなかった。
「ルキ、ルキ、ルキィ!俺を見下して……お、俺を!やめろ!やめろよォ!」
最早、父親自身も誰と話しているのか、何を話しているのか、わかっていないのだろう。
ただ、妄執の結果としてルキをボロ雑巾のようになっても踏み続けていた。
「キュ……ウーン……キュウー……ン」
何故、ルキが反撃をしないのか。
何故、ルキが逃げ出さないのか。
ただ、鳴き続けるルキを見て、シェリは思った。
(パパしかいないもんね…………)
周囲に人はいない。
シェリを助けられる人間は父親しかいない、だから父親がシェリを助けるまでただ打たれ続けるままになっているのか、そうシェリは理解する。
(いいよ……逃げて……ル……)
「おっ、おっ、おおおお俺だってやれば出来るんだ!!」
勢いの良い蹴りが、ボールのようにルキを弾ませた。
ルキが、シェリの隣に倒れこむ。
「シェリ……シェリィ!大丈夫かァ?痛くないかァ?パパを大事にしてくれよ……俺が悪かった、俺が……い、今……病院に…………」
思う存分に暴れて気が済んだのか、あるいはシェリの容態に気づいたのか、父親の目から狂気が消えた。
やはり、ここにいるのは哀れな男だった。
シェリは何も考えることは出来なかった。
目に入ってくる光景には黒いもやがかかっていたし、聞こえてくる音は全て意味を理解することは出来なかった。
それでも、シェリははっきりと音を聞いたような気がした。
「この子が、元気に生まれてきますように……」
「……ママ」
「俺を馬鹿にするんじゃねえエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!」
父親の蹴りがシェリを襲おうとしたその時、シェリの意識は消えた。
「キュウーン!」
(4)
「人を殺したポケモンは……すみません、諦めて下さい。どうにもならないんです……」
.
(5)
殺し合いに巻き込まれるまで、シェリは何もしていなかった。
ただ、病院のベッドに横たわり、白い壁を見ていた。
ルキはいなくなったが、もう夢を見ることはない。
そして、殺し合いに巻き込まれ。
あの街にあったものと同じ灯台を見て、あの日以来初めて、シェリは泣いた。
支給されたポケモンはニドキングとニドクインの二匹だった。
シェリはニドキングにパパというニックネームを付け、ニドクインにママというニックネームを付けた。
「灯台を壊して!」
シェリはニドキングとニドクインに命じた。パパもママもシェリのいうことを聞いて、しっかりと灯台を破壊してくれた。
何もかも辛かった。
「人も!物も!思い出も!全部!全部!全部壊して!みんな!みんな大っ嫌い!!」
ただ、悲しかった。
何をしても、何も戻らないことだけがわかった。
だから、ただ――何もかも、壊れてしまえばいいと思った。
もう彼女が夢【メルヘン】を見ることはない。
【B-7/東の灯台/一日目/日中】
【メルヘンしょうじょのシェリ 生存確認】
[ステータス]:健康、憎悪、絶望、悲しみ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]
1:何もかも壊してしまいたい
◆【ニドクイン(ママ)/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
????
????
????
◆【ニドキング(パパ)/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
〔トレーナープロフィール〕
|名前|メルヘンしょうじょのシェリ|
|性別|女|
|容姿|深く切りつけた痕が全身にあるメルヘンしょうじょ|
|方針|破壊|
|人物|悲しい物語だぜ|
投下終了します
投下乙
メルヘンがない中に生まれて
自身がメルヘンとなって
そして狂気と現実に全てを壊されてしまった少女の悲劇…
まさに悲しい物語ですね
投下乙です
全体的に重い空気ながらも面白い話でしたが
なんというか>>235 でぶっ殺された気分になりました
あれはズルい、本当にズルい。
それとですが、予約にからておうのガンマを追加します。
リレーの方はもう始めて大丈夫ですよね
>メルヘンメン・ヘル
シェリ。その幼さでは受け止められない程の絶望を味わった少女。
この悪夢の中で、彼女の激情を抑え込める事など出来ない。
……シェリの悲しい物語、じっくりと読み入ってしましました。
初めにガッツリとそのキャラの経歴を語っていくのは斬新ですね。
正直、かなり魅入られました。彼女の今後には注目せざるを得ません……!
パパとママを引き連れて、その黒い炎はどこへ叩きつけられるのか……!?
投下お疲れ様です!!
>>239
リレーは勿論ご自由にOKです!
(4)はホント、一言で全てが伝わりますよね。凄いですよね…!
それまで抱いていた感想が最後の立った一言で塗りつぶされてしまった……w
悲しい物語だぜ
キャラクターの現在位置地図を作りましたので、SSの参考にしていただければ幸いです。
ttp://www63.atwiki.jp/pokerowa/pages/47.html
予約キャラ一名投下します。
空から降り注ぐ日の光が、小高い山に生い茂る木々を照らす。
樹木の間から光の差し込む山中を、一人の男が歩いていた。
飾りっ気のない黒と白のスポーツウェアに短く切られた黒髪。
袖口や裾から覗く筋肉、そしてそのしなやかな長身は、見る者が見れば鍛えた者のソレである事が理解できるだろう。
歩く山肌には木の根が張り、茂みが足下を覆っている。もはや山道とすら呼べない、道なき道。
そんな悪路を、男はすいすいと進んでいた。余程山歩きに慣れているのか、その姿は散歩にも近い。
「まあ、シロガネ山と比べれば散歩道にも等しいというのは違わないが」
呟きながら歩く内、男の視界が不意に開けた。
先程までは梢の隙間越しにしか感じられなかった日光が、直接肌を焼く。
「……森を抜けたのかと思ったが。ただの広場か」
人工的に作られたのか、あるいは自然の賜物か。上空から見れば、広場はまるでぽっかりと緑の絨毯に空いた穴のように見えただろう。
その広場へと、男は足を踏み出す。
「まあいい。挨拶にはもってこいか」
そう言うと、男は腰に付けた二つのモンスターボールを宙に放り投げた。モンスターボールが開き、中に入っていた二匹のポケモン――ダグトリオとシャワーズが開放される。
その姿を確認して頷き、男は自らに支給された“てもちのポケモン”へ挨拶した。
「僕の名前はショオ。山籠りしてたら奴等に拉致されてしまったただのトライアスリートだ」
◆
トライアスリート。ショオは自らのことをそう認識している。
自分のことをエリートトレーナーと呼ぶ者もいる。が、それは間違いだと思う。
別に自分はエリートではないし、自らエリートを自称するのは正直恥ずかしい。そもそも今の自分の目標はトレーナーとして大成する事ではないのだから、そういう意味でもエリートトレーナーと呼ぶのは間違いだろう。
そう、今の自分はトライアスリートである。バトルに明け暮れた時代はもう捨てた。それでいいのだ。
だが、この場ではそんな事は関係がないらしい。
最初にパロロワ団とやらに集められていた場では、老若男女様々な人間がいた。
エリートトレーナーも短パン小僧もミニスカートもトライアスリートも、皆同じくこの場では生死をかけた殺し合いを演じるのだ。
ポケモンを使う以上、そこに年齢や性別による優劣は額面上は存在しない。
「ポケモン、か」
今はボールに戻した、この殺し合いにおいて命を預けざるを得ない二匹を見やる。
ポケモンは殺し合いの道具ではない、と言うつもりはない。
古代においてはポケモンを使った戦争の記録も残っているし、悪の組織に使われているポケモンが全て厭々悪事をやっている、などという事もない。
ポケモンは悪事をする道具ではない、という言い方もまた、ポケモンに対する傲慢さではないかとショオは考える。
悪事を嫌うポケモンもいれば、悪事が好きなポケモンもいる。人間と同じだ。
ポケモンにはそれぞれ意思がある。それを考えずにポケモンに対してどうこうと言っても、それは結局人間の上から目線だろう。
最近聞こえてくるポケモンの解放がどうこうと言っている連中も同じだ。
人間の隣にいるポケモンは、その人間と共にいる事を選んだのだ。それにどうこう言う筋合いは他人にはない。
だからポケモン達に対するショオのスタイルはただ一つ。そのポケモンの在り方をただ認める事だ。
無論これはショオの個人的な考えであるため、他の考え方を否定するつもりはない。
そもそも同じ人間を認めないのでは、ポケモンの在り方を認めるなど夢のまた夢だろう。
しかしだからこそ、この殺し合いにおけるポケモン達の在り方はショオにとって気になるところだった。
ポケモンはただの殺し合いの道具であるのか、それとも人間の友人なのか、それとも人間の死を望んでいるのか。
「……ダグトリオとシャワーズには挨拶の後に質問したが、結局彼等は答えてくれなかったな。
まあ、僕は死ぬのはごめんだから死を望まれても困るんだが」
思考を切り替える。
先ほど言った通り、今の自分には目標がある。それを達成するまでに死ぬのは遠慮したいところだ。
しかし、そのためにはどうすればいいか。
「単純明快に考えれば、僕以外が死ねば元の生活に帰れるわけだが。
本当に奴らが約束を守るかどうかが問題だな」
最後に生き残った優勝者は、パロロワ団にとってみれば自分達の悪事の証拠であり同時に生き証人だ。
パロロワ団の目的にもよるが、生存者をそのままにしておくとは考えにくい。というか自分なら殺す。
生き残ってパロロワ団に忠誠を誓い団員になる? 論外だ。そんな事をしていたらショオの人生の目標は達成できない。
逆にパロロワ団に反逆を試みるならばどうするか。
この場合の問題は、自分達は奴らに一度拉致されているという事だ。
拉致の方法次第ではあるが、この時点ですでに我々はパロロワ団に先を行かれている。
首輪はその副産物に過ぎない。たとえ外せたところで、反逆が成功するかは難しいかもしれない。
ゲームに従うのも、従わないのも、最終的な不安要因は数えればキリがない。
「どちらにしろ不安要素があるなら気分で決めるか。
よし、こんな島出て行こう」
なら悩む必要はない。選択肢が等価なら気分がいい方を選べばいいのだ。
そして奴等に従って参加者を殺すより奴らの顔をぶん殴る方が気分がいいのは当然の事である。
「ゴールは決めた。後は走るだけだな」
走る。トライアスロンでも大切な事だ。
何故ならば走らなければゴールには着かない。馬鹿げた話だが真理だ。
「そう、教えよう」
地面を踏み締める。
「そらをとぶ。なみのり。かいりき。ロッククライム。これらのわざをポケモンが使え、陸海空を走破する事は簡単なのに、何故トライアスリートは自らの身でそれらを行こうとするのか」
クラウチングスタートの姿勢を取る。
「ポケモンよりも早く走るためさ」
そのために走る。一直線に。
【B-5/山中/一日目/日中】
【トライアスリートのショオ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[行動方針]:奔る。その邪魔をする者は蹴飛ばして通る。(要するに対主催)
1:今はただ走る。
▽手持ちポケモン
◆【ダグトリオ/Lv50】
とくせい:ありじごく
もちもの:きあいのハチマキ
能力値:攻撃と素早さに極振り、性格ようき
《もっているわざ》
あなをほる
いわなだれ
ふいうち
ステルスロック
◆【シャワーズ/Lv50】
とくせい:ちょすい
もちもの:オボンのみ
能力値:防御と特攻に極振り、性格ひかえめ
《もっているわざ》
ねっとう
れいとうビーム
あくび
とける
〔トレーナープロフィール〕
|名前|トライアスリートのショオ|
|性別|男|
|容姿|オメガルビー・アルファサファイアのエリートトレーナー。ただし髪は黒、スポーツウェアの色も白黒。|
|方針|対主催……?|
|人物|元エリートトレーナーのトライアスリート。昔はヤンチャしてた、らしい。
今はポケモンよりも速く走る事を唯一の目標とするトライアスリートであり、基本的に目標以外の事に対してはドライ。
とりあえず当座の目標はギャロップより速く走る事。彼は常に本気である。
最低限の良識くらいはあるが、同時に目標のためにそれを無視することをまったく厭わないタイプ。|
投下終了しました。
投下乙です。成程アスリート、実にストイックな価値観。
主催者が約束を守るのか? また簡単に拉致されている自分達が反逆したところで勝てるのか? という疑問にもきっちり考えを巡らせつつも、最後に選んだ答えがシンプルなのがまた格好良いですね。
果たして彼が見届けることになるポケモンの立ち位置はどんなものなのか、気になるところです。
それでは自分も、予約分の投下を開始します。
マイが物心ついた頃、既に親はなく、孤児を集めた施設の出身だった。
施設には同じく身寄りのない多くの子供達と、その世話をするためのスタッフ。そして、子供達のためにと彼らが連れてきたポケモン達が居た。
ポケモン達に囲まれ育っていく中で、やがて周りの大人達はマイにトレーナーの才能があることに気がついた。
マイ自身、施設どころか町の子供達の中でも自分が一番ポケモンに指示を出すのが上手いと思っていたし、それを誇ってもいた。
施設の仲間達に酷い言葉をぶつけた男子達をポケモンバトルで懲らしめたり、町に立ち寄った大人のトレーナーとの勝負でも多くの勝利を収めて褒められたり。マイにとってポケモンバトルは、自分に確かな居場所を与えてくれるものだった。
やがて11歳を迎えた日、マイは旅に出た。施設の仲間も街の皆も、挙って見送りに来てくれた。
種類によってはタウンマップにすら載っていないような、小さな町。その名を最強のポケモントレーナーの故郷として轟かせてくれるのではないかという、希望をマイに見出して。
家族と呼ぶべき町の皆から、正しく未来を渇望されたホープトレーナーだったマイは幾つかの小大会で結果を残し……しかし初めて参加したポケモンリーグで、あっさり挫折した。
一回戦二回戦を順調に勝ち進んで、観客からも期待されて迎えた三回戦。どうしようもないミスをした。
施設の頃からマイと一緒にいてくれた、一番親しいガルーラの親子。旅立つ直前、メガシンカの力を手に入れて、その後数々の強敵を打ち破る力となったポケモン。
実の両親を知らないマイが、何より信じるその力……とくせい、《おやこあい》。
その力があれば負けるはずがないと思った。いいや、負けるわけにはいかないと思っていた。
自分のことも親子の一員のように接してくれて、ここまで連れてきてくれた彼女達との絆の結晶、《おやこあい》で全ての敵に勝たなければならないとすら、思っていた。
だからその戦いでも、マイは迷うことなく初手でメガシンカを選択し――じゃくてんほけんを持っていたギルガルドによって、返り討ちにあった。
メガシンカする前のとくせいがきもったまであるガルーラを引き連れて、敵のパーティーにギルガルドがいることを理解していて。
どうしようもなく明らかな、マイの失態だった。
そしてその敗北で、マイは余りに多くを失った。
心無い一部の者からは、所詮強いポケモンの能力に頼りきりだった田舎者だと馬鹿にされ――そんな報道が、応援してくれていた故郷の町にまで轟いた。
さらにギルガルドに倒された際、何のアクシデントなのか。通常ではありえないことだが、ガルーラナイトを紛失してしまった。壊れたのか、単なる行方不明か。それすらわからないまま、マイは《おやこあい》を失った――否。ガルーラ親子から、失わせてしまった。
その顛末がトラウマとなり、観客のいる公式戦には臨めなくなってしまった。
ガルーラ達とも、あれから向き合うことができないまま、ボックスに預けっぱなしとなってしまった。
苦しい経営状況の中、大会に出るためにと支援してくれた施設にも、期待してくれた故郷にも、もう……便りの一つも、出せなくなった。
自らを知る者との連絡を絶ち、人付き合いを断ち――マイは、自分の居場所を見失った。
死にはしなかった。しかしそれは、確固とした理由があってのわけでもなく。何かしら理由があって生きているとも言い難い、生きながら死んでいるような日々を過ごした。
将来を渇望された面影もなく、バッドガールの仲間入りまでもう一歩、あるいは通り過ぎたかという頃になって――それでも一人生きていたマイは、パロロワ団に拉致された。
○○○
「――おまえさん、もう詰んでるよ」
「……っ!」
そしてマイは、この地でも敗北寸前だった。
支給されたポケモンは、決して弱くなかった。ゲッコウガとガブリアス――華やかな舞台で、今も第一線で活躍し続けている強力なポケモン達。
それも、優れたすばやさから高い打点を発揮するこの二匹ならばただバトルに強いだけでなく、そこに至る前に対戦相手を消すことも容易い。
殺し合いに乗ったマイにとっては、この上なく有力な札――勝ち抜いて行くことも容易いと思われた。
しかし、最初に発見したこの参加者は、ベテラントレーナーだけあって実力者だった。支給されていたエルレイドの相手の考えを敏感にキャッチする能力でマイの先制攻撃にも完全に対処し、そのままポケモンバトルに持ち込まれた。
それでも本来なら、おそらく支給された全てのポケモンの中でもアタリに属するだろう二匹を持つマイには、かなりのアドバンテージがあったはずだ。
だが、ポケモンを出される前に――即ち相手のポケモンを確認する前に先制で放っていた鉢巻エッジをエルレイドに受け止められてしまい、岩技で拘ってしまった。
そしてこの局面で耐久の下がる接触技である“インファイト”はないと判断して、“サイコカッター”や“れいとうパンチ”読みでゲッコウガに交代した瞬間に、“トリックルーム”の発動を許してしまったことで、そのアドバンテージは脆くも崩れてしまった。
慌てて再度ガブリアスを繰り出し、特性《さめはだ》によって接触ダメージを与えることはできたが、エルレイドの“インファイト”を二発耐えることはできなかった。
戦闘不能となったガブリアスの下敷きになりながらも、何とかマイが繰り出したゲッコウガは、エルレイドが残った体力と引換に繰り出した“おきみやげ”で攻撃力を半減させられ、時空の歪みによりすばやさが逆転した状態で、リングマとの対峙を強いられた。
“からげんき”で体力を半分以上奪われたのに対し、最大火力の“ハイドロポンプ”でリングマのHPは半分も減らない。その状況でリングマは更にかえんだまを発動し、自らやけど状態となった――特性《こんじょう》を発動させたのだ。
次は、“かみくだく”を選択するだけで――《へんげんじざい》で何タイプに変化していようと、無効化できない以上いのちのたまの反動で削れたゲッコウガも瀕死となり――手持ちを失ったマイは、首輪が爆発して死に至る。
最初から真っ当に勝負していれば、あるいは展開は変わっていたかもしれない。しかしバトルすらせずに相手を殺そうとした結果、マイは手にしていたはずのアドバンテージを失い、こうして窮地に陥っていた。
「まだ……まだっすよ……!」
それでもマイは、残された可能性を見失ってはいなかった。
「トリルの効果も切れた……今度はこっちの番からっす。急所に当てれば、まだ、あたしは……!」
優勝しさえ、すれば。
莫大な褒賞。パロロワ団が提供するというそれがあれば、せめて施設に払って貰った金銭の穴埋めはできる。
それで故郷に戻れる、とは思っていない。そんな面は下げていない。
それでも、せめて。生きているなら、この程度の精算は……っ!
「……せいぜい一割以下の可能性に、命を賭けようってのか?」
覚悟を決めんとするマイに対し、呆れたようにベテラントレーナーは呟いた。
「勿体無い真似をするな。どうしてあんなアホどもの言いなりになっているのかは知らんが、おまえさんまだ若いだろ?」
「……ハッ。だからなんすか。旦那が言った通りっすよ。あたしはガキのまま、もうとっくに詰んでるんすよ……!」
ありがちな年寄りの諌め文句に、マイは乾いた笑声で反発した。
ああそうだ。生きているなら、どん底からだろうと最低限、精算する必要はある。
だがここで潰えるのも……それはそれで、楽になれるじゃないか。
「だから……殺そうが殺されようが、どっちにせよ、これで終わらせてやる」
どの道、急所が出なければ“ハイドロポンプ”でも届かない。ならば、ここは命中安定――!
「“あくのはどう”――ッ!!」
マイの号令に合わせて、主に寄り添うように構えていたゲッコウガが、命を削ってその両手から暗黒の波動を解き放った。
大気を染めて行く闇の殺到は、しかしリングマの前方に展開された光の膜によって遮られる。
「――えっ?」
「“まもる”」
――予想外の一手に、マイは眼鏡越しに目を丸くした。
何故ならそれは、完全な悪手だったからだ。
「――悪いな」
ベテラントレーナーが小さく呟いた。続いてリングマの展開していた光の膜が失せると同時に、リングマの体を炎が走り、その巨体を仰け反らせる。ターン終了時の、やけどダメージが発動したのだ。
「な……にを、考えて……?」
今の“まもる”は無意味――否、利敵行為だった。リングマの体力がやけどで削れた分、威力の低下した“ハイドロポンプ”でも戦闘不能に追い込める可能性が出てきたからだ。
急所に当たる可能性も、依然変わりない。マイはともかく、ベテラントレーナーにとっては不利益しかない行動だった。
そして、このトレーナーはそれがわからぬような愚か者ではないと、ここまでの攻防で悟っていたが故の戸惑いだった。
「別に――こんなことで、終わら“させ”たくなかっただけだよ」
対しベテラントレーナーは、変わらぬ表情のままで告げた。
「な……っ、何を偉そうに……!」
思わず反発した、がしかし。決死の覚悟で繰り出した、幕引きだったはずの一撃を流されたのは――それでマイが有利になったとは言っても、毒気を抜くだけの効果が存在していた。
またここまでの言動から、彼がパロロワ団の思惑に乗ってはいないだろうことも理解できている。急激な虚脱感が、マイを襲っていた。
とはいえその間も、不利になった相手からの不意打ちを警戒してか。ゲッコウガは自身を盾にするようにしたまま、マイの傍らで構えていた。
「おまえさんもだが、嬢ちゃんだけの話じゃねーよ」
そう答えたベテラントレーナーが視線を向けるのは、依然マイの傍らに立つゲッコウガ。労わるように撫でるのは、彼の操るリングマだった。
「自棄っぱちになってるみたいだが、嬢ちゃんもポケモンが好きなんだったら殺し合いの道具になんかしてやるなよ。あの阿呆ども以外、誰も喜ばんぞ」
――ポケモンが、好き。
何気なく発せられた言葉に、マイは胸を刺されたような痛みを覚えた。
「……この子らは、元々そのために用意されたポケモンっすよ」
誤魔化すように、マイは何とかそれだけを搾り出した。
「パロロワ団っていう、阿呆な『おや』どもはそのつもりらしいな」
対して眼前のベテラントレーナーは相槌を打ちつつも、明確な肯定の意志は見せなかった。
「だけど人間だって、子供は『おや』の思惑全部に沿わなきゃいけないわけじゃないだろ? まぁこいつらを人殺しの道具にしたくないってのは俺のわがままだし、それこそ従う義理はないけどな」
知らないっすよそんなこと、という反駁ですらない反発は寸でのところで飲み込んだ。
――親なんて知らない、という。自分の事情を、あれこれ触れ回る気にはなれなかったからだ。
「嬢ちゃんも……何が理由かは知らないが、勝手に自分を殺して他人の気持ちに応えなきゃいけないなんて決め付ける必要はないんだぞ。義務がないからこそ、本心で応えてくれた時が嬉しいもんなんだしな」
「……また寒い説教をするってんなら、お断りっすよ」
「なら断られるのを断る」
年配だろうに、子供地味たわがままでマイの返答を退けたベテラントレーナーは、そのまま何となしと言った様子で続けた。
「それに……どうせ応えるならパロロワ団より、あいつらに捕まっている自分のポケモンの気持ちにしてやれよ」
「――っ!!」
瞬間、えも言えぬ不快感がマイを埋め尽くした。
余りにも無遠慮に、恥部と呼ぶべき心の領域に踏み込まれてそれでも暴発しなかったのは、終わることのない逡巡に囚われた葛藤と――もう何年も顔を合わせていない《おやこ》の顔が浮かんだだけでなく。路地裏での食い扶持を稼ぐために力を合わせている今の手持ちとも、決して越えたことはない最後の一線を、改めて意識したからだった。
ただ、これ以上は耐えられない。そんな拒絶の感情に支配される。
しかし葛藤の余り吐き出すべき言葉を選べず、押し黙って睨み返すしかできなかったマイに代わって、口を閉ざせとばかりにゲッコウガが相手を威嚇していた。
その拒絶の色を認識した老人は一瞬、確かに口を噤んだ。しかし次の瞬間には、得心した様子で口を開いた。
「……成程な。勝手に贖罪を設定して、それができるまではポケモン達とだって顔向けできないとか思ってる、ってところか」
見透かされた。そのことに対する驚愕と、踏み込んでこられたことへの反発心とに思考が追いつく前に、更なる衝撃がマイを襲う。
「そうだろ? ホープトレーナーのマイ……何年ぶりだったかな、思い出したよ。メガガルーラのトレーナー」
「――! あんた……っ!?」
そこまで言われて、ようやく。この瞬間まで察せなかった己の愚鈍さに腹立たしさを覚えながらも――マイは、自身が戦いを挑んだこのトレーナーの正体に気がついた。
「ベテラントレーナーの、アーサー……っ!」
目の前に立つこの老人こそ、マイの挫折の始まり――あのじゃくてんほけんギルガルドの、トレーナー。クレイジー・アーサーその人だった。
○○○
多くの場合、壮年期を以て呼ばれ出す、ベテラントレーナーという肩書き。
しかしアーサーは、既にそれを得るまでに要したのと同等の年月を、その肩書きのままで過ごしていた。
いくら旅を続けるために鍛え続け、筋骨隆々とした体格を保っているとはいえ、本来ならばとっくに隠居しているべき年頃だ。
長い経験で身に付けた、特別な技の伝授。若いトレーナー達の知らない、特別な場所の案内人。あるいはどこかのジムリーダーや、バトルフロンティアといった施設のブレーンとして腰を落ち着けられるだけの実力もキャリアも知名度も、彼には十二分にあった。
それでも彼は、未だ野を行く一人のポケモントレーナーであり続けた。
――死ぬまで俺は、ポケモントレーナーさ。
それが口癖。夢は今でもポケモンマスター。時折残念な人扱いをされるたびに嫌な顔を浮かべながらも、決して生き方を変えようとはしない。そんな様から、古い馴染みは愛情を込めクレイジー・アーサーと呼んでいた。
何が彼をクレイジーにしたのかと言えば、それはやはりポケモン達だ。
人間とは違う生き物。種族が異なる以上、言葉を交わすことはできない存在。
しかし、相互に語り合うことができずとも。確かにアーサーの言葉は通じ、お互いの気持ちを共有することができる、別種の生命。
ただ命令に従うロボットなどではなく、こちらの心に応えてくれる人外の相棒――そんな彼らと共に過ごせる素敵な喜びに、アーサーは幼い日から魅せられていた。
まだまだいろんなポケモン達と、もっともっと触れ合いたい。彼らと出会いや勝利の喜びを共有できるトレーナーでありたい。そんな願いが、未だ老兵を第一線に留めていた。
そうしてあちこちの地方を巡る中で、友は大勢できた。ライバルも居た。家族は持たなかったが、気がつけば子供代わりの弟子のような奴らもできていた。
自由気ままに生きているだけなのに、随分と恵まれたものだとアーサーは己の半生を振り返る度、頬を緩める。
ただ、友やライバルや、或いはポケモン達の中には、もう何年も会っていない者も居た。
そういう機会がない者もいれば……イッシュチャンピオンの相棒のように、永別してしまった者もいる。
アーサー自身、幼少期から手持ちにいたポケモンの過半数とは、既に別れを経験していた。
まだ存在すると思われた、一緒に過ごすはずだった時間。それが突然消えてしまう悲しみを、アーサーはよく知っている。
だからそれを強要しようとするパロロワ団には、決して許せないという敵意しか存在していなかった。
まして、己の手持ちと引き離された上で、ポケモンを殺し合いの道具にしろなどと言われてはなおさらだ。
必ずパロロワ団の目論見を阻止し、己のポケモン達を取り戻す。そう固く決意していた。
あんな悪の組織に利用されているリングマやエルレイド達にも、身の振り方を自分で選択する機会ぐらいは作ってやりたい。そんな気持ちも、この決心を後押ししていた。
とはいえ、相手は幻のポケモンであるダークライを手元に置いている。自身と並ぶベテランにして格上の実力者である、イッシュのポケモンリーグチャンピオンでさえ伝説のポケモンには遅れを取ったと聞いている。実際、長いトレーナー人生の中で何度か間近に目にした彼らの力は、友人の敗北も納得できてしまえるほどに凄まじい代物だった。
それらと並ぶポケモンであるダークライを有する敵に単独で挑むのは、いくらクレイジー・アーサーといえど自殺行為だ。故に団結できる仲間を探そうと行動を開始して、最初に遭遇したのがこの元ホープトレーナーの少女だった。
かつての活発な印象を覚える明るい色彩の格好から、紺色のシャツの上に黒いパーカーと、真逆の印象の服装に変わり。成長期故に随分大きくなっていたため、一目で遠い記憶と結びつけることはできなかったが……攻防を重ね、言葉を交わしていく中で。あの時対戦した、メガガルーラを連れた眼鏡の少女だと、気づくことができた。
元より殺し合いに乗る気はない。どうしようもない輩相手なら、正当防衛もやむを得ないとは考えていたが……アーサーは対戦当時、マイに見出した未来を思い出していた。
(まぁ、ちょっと回り道していたみたいだがな)
あの時も、手強い少女だったことを覚えている。本来彼女のレベルならまず犯さない戦術ミスがあったおかげで勝利したが、あれがなければ勝負はまだまだわからなかったほどだ。
ただ、あれから彼女の活躍を全く耳に挟まなくなり――今回の戦いで見えた脆さから推察するに、おそらくはあれも感情由来の失敗だったのだろうと、今のアーサーには推察できていた。
(確か、孤児院の出身だったか……それで、村の期待を一身に背負ったホープトレーナー……)
期待に応えられなかったことから居場所を見失い、真っ直ぐ歩けなくなってしまったのだろう少女の複雑に歪んだ表情に、アーサーは静かに対峙する。
噂を聞かなくなってしまってから、どんな世界を生きてきたのか――勝手に想いを馳せながらも、躊躇う様子からまだ一線は超えていなかったことは読み取れていた。
ただその一線を、ここでも踏み止まらせることができるのか――こちらの正体に気づいてからの様子を見るに、不安が鎌首をもたげて来る。
(強制するわけにはいかないが……俺の希望ぐらいは、伝えてみてぇな)
若い彼女には、未来がある。まだまだたくさんの人やポケモンと関わり、過ごして行く時間が。
何かで挫折したって、まだまだ立ち直りやり直す時間がある。ましてやあの年であれだけのバトルセンスに、メガシンカを可能とするほどの絆をガルーラ親子と築いていたその可能性を、こんなところで終わらせて欲しくない。
居場所なら――寂しいという気持ちに応えて傍にいてくれる者なら、少なくとも既に、アーサーにだってわかるところにいるのだから。
……とはいえ、この一ターンの猶予を得るために、余裕は全て捨ててしまった。アーサーとてまだまだいろんなポケモンに会いたいし、ギルガルド達を置いて先に逝くつもりはない。自分の方が残された未来は少ないとは言っても、やむを得ない場合には――
「――まぁ、なるようになるさ」
楽観的なベテラントレーナーは独り言ち、次に発するべき言葉について考え始めていた。
○○○
過去に縛られた少女と、未来を見据える老兵と。
再会した二人の戦いは、そう遠くはない決着に、しかし今はまだ、至ってはいなかった。
【C-2/中央道路/一日目/日中】
【ホープトレーナーのマイ 生存確認】
[ステータス]:精神疲労(中)、思考がまとまらない
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1(確認済み)
[行動方針]優勝して賞金を得る――?
1:???
【ゲッコウガ♀/Lv50】
とくせい:へんげんじざい
もちもの:いのちのたま
能力値:おくびょうCSベース(H16n-1等微調整)
《もっているわざ》
ハイドロポンプ
あくのはどう
れいとうビーム
じんつうりき
※残りHP30%ほどです。
※こうげき、とくこうが2ランクダウンしています(ボールに戻せば元に戻ります)
【ガブリアス♀/Lv50】
とくせい:さめはだ
もちもの:こだわりハチマキ
能力値:いじっぱりAS特化
《もっているわざ》
げきりん
じしん
ストーンエッジ
アイアンヘッド
※現在瀕死状態です。
【ベテラントレーナーのアーサー 生存確認】
[ステータス]:健康
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1(確認済み)
[行動方針]パロロワ団の企みを阻止し、自分のポケモン達を取り戻す。
0:マイに対処する。できれば殺したくも殺させたくもない。
1:ダークライに対抗するために仲間を集める。
2:支給されたポケモン達にも意思を聞いてみたい。
【エルレイド♂/Lv50】
とくせい:ふくつのこころ
もちもの:きあいのタスキ
能力値:いじっぱりふくつのこころ込みで最速メガガルーラ抜き残り耐久調整及びA
《もっているわざ》
インファイト
サイコカッター
おきみやげ
トリックルーム
※現在瀕死状態です。
【リングマ♂/Lv50】
とくせい:こんじょう
もちもの:かえんだま
能力値:ゆうかん最遅HAベースやけどダメージ調整
《もっているわざ》
からげんき
かみくだく
じしん
まもる
※残りHP50%以下です。
※現在やけど状態です。
〔トレーナープロフィール〕
|名前|ホープトレーナーのマイ|
|性別|女|
|容姿|地味な紺のシャツに黒のパーカー、眼鏡をかけた一見文学少女ちっくな格好|
|方針|マーダー(やや揺らぎ中)|
|人物|孤児院出身の少女。バッドガール手前だったが、手前なので(元)ホープトレーナー。
バトルの腕前は同年代中では高い方だが、ややポケモンの性能に頼り気味な面もある。
一応、路地裏生活の中でトレーナーへのダイレクトアタック等のリアルファイト戦術にも馴染みを得ているが、殺人の経験はないため実は隙ができる。
その他にも感情を割り切るのが下手なところがあり、それに由来する失敗も多い。当時の格好は眼鏡以外はXYの一般ホープトレーナーだった。
その他本文中以外でのキャラ付けは後続の方にお任せします|
|名前|ベテラントレーナーのアーサー|
|性別|男|
|容姿|カーキ色のコートに、銀に近い白い短髪をしたややマッチョな老人|
|方針|対主催|
|人物|ベテラントレーナー歴数十年のベテラントレーナー。
一応(選ばなければ)ジムリーダーやフロンティアブレーンになろうと思えばなれるだけのコネと実力はあるらしいが、
現実で言う定年を迎えても一般トレーナーとして割と真面目にポケモンマスターを目指している、夢に生きる人。
長年のトレーナー生活の中でリアルファイトにも精通しており、体を鍛えているのも自分が狙われた際のポケモンの負担を減らすため。
その他本文中以外でのキャラ付けは後続の方にお任せします|
以上で投下終了です。
タイトルは『過去と未来の再会』でお願いします。
失礼、触れ忘れたことが。
二人共オマージュキャラクターですので、問題がありましたらご指摘お願いします。
お二方とも投下乙です
ポケモンより早く走るためとはかっこいい
失敗とは連鎖しちゃうものだからな……。バトルあるある
アーサーさんはアデクさんの話とかもあって、こいつ実力者のベテランだという説得力抜群
しかしステシ、もはやダイレクトアタック対策がポケモン世界の常識になってきてやがる……w
申し訳ないですが、今書いてる話に納得できず
期限までに満足な質の話を完成させることができなさそうなので予約を破棄させていただきます
投下乙ですー
いぶし銀なベテトレのかっこよさ 相手の未来を考えてあげてるところがいいなあ
マイちゃんもかわいくて良キャラだ、そして初?のガチな感じのバトルの見応えがすごい
破棄があったようなので、
よければ新規キャラクター1名とつりびとのサエグサで予約します。
>ただ疾走する
葛藤など不要。ただ自分の進みたい道へと進もうとするショオ。
ストイックな感じです。彼ならばどんな障害物をも乗り越えそうな気迫が伝わってきますねぇ。
>過去と未来の再会
長らく生きてきた者として、若い者へと希望を託したく思うアーサー。カッコイイです……!
ホープと呼ばれつつも、周囲に振り回されることで擦れてしまったマイ。
彼女の、アーサーとの戦いの先には、どんな変化を見ることができるでしょうか。
皆様、投下お疲れ様でした!
>>258
もちろん、オマージュキャラでもOKですよ!
すみません、
追記したい部分がありますので自己リレーになりますが
メルヘンしょうじょのシェリを予約させていただきます。
>>263
了解です!
自己リレーはOKでございます。
ミイ♪♪♪とセーキで予約します
もう
途中送信でした
もう×
よろしくお願いします ◯
これはもう二周目入っていいのかな?
全員出てたっけ?
すいません、予約を破棄させていただきます
投下します
大きな大きなクジラ型のポケモンが、ゆっくりと海を進んでいる。
その背に一人、黒髪をたなびかせたナイスバディを水着に包んだトレーナーが乗っていた。
いわゆるビキニ姿の美女――ビキニのおねえさんのヘンリーは、美貌をゆがめた険しい顔で島を睨んでいた。
彼女は怒っていた。
「ふざけないで欲しいわね……!」
見渡す限りまっ平な海。雲のないからっからの空。
謎の説明のあと起き上がってみれば、彼女は大海原にひとりきりだった。憤慨だ。
自由といえばそうなのかもしれない。
支給されたホエルオーに乗って浮いていればしばらくは誰にも見られず、
探されず、意識されることもなく、何も起きず平和に過ごすことができたかもしれない。
だがいまヘンリーの首には首輪が付けられていてとても自由とは言えなかったし、
「どうして私を……! この世界レベルの美貌と魅力、そして強さを兼ね備えた私をッ!
こんな地図の端のヘンピなところからスタートさせるの! 全くもって分かっていないわ!
これじゃあ! 私の至高のビキニ姿が! 誰にも見られていないじゃないの!」
それよりなによりヘンリーは、
自分が誰にも見られていないなどという状況が死ぬほど嫌だった。
人に見られ、賞賛や羨望の気持ちを向けられるときこそが、ヘンリーが最も生を実感できる瞬間だ。
そして、自分にはそんな視線を向けられるに値するだけのものがあると、少なくともヘンリーは思っていた。
「――そう、私こそが主役。私がステージに上がらなければ幕は決して上がらない」
つまるところヘンリー……ビキニのおねえさんのヘンリーは、
「なぜならいずれ世界は、私が席巻するのだから。私は彼が造り出した……アイドルモンスターなのだから!
さっさと島に向かいなさい、ホエルオー! 世界の幕を上げに行くわよ!!」
超が付くほどの大言壮語家で、そして目立ちたがり屋だったのだ。
▼
ただし。先に言ってしまうと、そんな彼女は、無事には島に付けなかった。
当初A-1の海原へと放り出されたヘンリーがこうして島へとたどり着こうとしたのとほぼ同時に、
A-1にほんの少しだけ飛び出た高台の地形部分では以下のような戦いが行われていたのだから。
「私の狙いはこっちだーーーっ! シャババーーーーっ!!」
「……地面が、崩れ――――?」
尋常ならざるカラテを持つからておうのガンマによる、かいパンやろうビリーとの戦い。
トレーナーサーチによる先手必勝を見事に決めたガンマは勝負の〆を、
じわれからの震脚による大きな地形崩しによって決めた。
そして、A-1の一部の陸と海の境界線が崩れさり……
――新しい崖が生まれた。
無論、いわなだれどころではない土砂崩れを海に降らせながら。
「んな――――ッ!!??」
そう、島へと辿り着いたヘンリーは間の悪いことに、その土砂崩れの真下に居たのだった。
岩、岩、砂、岩。
砂、岩、岩、岩。
一つの岩の大きさだけでもゴローニャやギガイアスを大きく上回るだろうものが、面となって降ってきたのだ!
まるでアクション映画の爆破演出のようだった。スケールが大きすぎて現実感がない。
「わ、私に黙って……こんな派手なVFXを!! どこの演出家の仕業!?」
ヘンリーは自分より派手な効果演出を見せつけられて憤慨した。
いやそこに憤慨している場合じゃないだろう、
そもそもこれは本物だ! と思う人もいるかもしれない、ただこれは仕方がないことだった。
ポケウッドのスター女優を目指してアイドル稼業をしていた彼女にとって、
まだこの瞬間までは、この催しは自分の優れた演技力を買ったどこかの番組が企画し、
様々なエキストラと大量のお金を掛けて実行した何かのドッキリかもしれないという甘すぎる考えがあったのだ。
しかしそれも、岩が自分のそばに落ち、ホエルオーの背に刺さったことで否定される。
『エ゛ル……オ〜ッ!!』
ホエルオーの背から血が滲んだのを見て、ヘンリーは一気に現実に引き戻された。
「……嘘!? な、なんでッ!? ちょ、ちょっとシンボラー出なさい! 私を護りながら“コスモパワー!”」
そこからのヘンリーの行動は早かった。
もう一匹与えられていた手持ち、とりもどきポケモンのシンボラーを自分の頭上に召喚し、
宇宙レベルの神秘の力で防御力・特殊防御力を上げるコスモパワーを使って耐久力を上昇させる。
「“コスモパワー”! “コスモパワー”! そして、……“アシストパワー”っ!!」
『……くてゅ、るっ、きゅー!!!!』
そのまま続けて数回指示したあと、頃合いを見計らってアシストパワーを指示。
アシストパワーは自らにかかっている能力上昇のぶんだけ威力を上げるエスパー技だ。
通常のバトルでは専用の構成でなければまずお目にかかれない技ではあるが、
コスモパワーを3度使っているシンボラーが使えば、サイコキネシスを上回る威力へと変貌する。
不思議な鳥っぽいポケモン・シンボラーがいまいち言語化しづらい鳴き声で叫ぶと、
その姿が光輝き、溜めこまれていた宇宙レベルの力の波動が球状に放たれる。
あわやヘンリーに降り注ぐかと思われた尖った大岩や石礫は、その大いなる力でほぼ無力化された。
だがもちろんそれはヘンリーのそばに限った話だ。ホエルオーには直撃する。
「ぎゃ、あああああッ!!」
『ゥエ゛ルオ〜ッ!!!』
立っているホエルオーの背が揺れる。ヘンリーも揺れ、バランスを崩して倒れる。
地平線の代わりに見えたホエルオーの青い体躯には斑に赤の水たまりが出来つつあった。
“これはまずい”、そう思ったヘンリーの目の前でホエルオーの頭上にひときわ大きい岩が降ってきた。
ホエルオーは世界レベルのヘンリーにふさわしい大きさのポケモンだが、防御は低い。
あのレベルの岩がぶつかれば死んでもおかしくない。
ヘンリーは青ざめ、一瞬思考が遅れ、そしてそれゆえに次に起きた出来事への対応が出来なかった。
急だった。巨岩があわやぶつかるかと思われたわずか数コンマ前。
ホエルオーの身体が赤光に包まれ、モンスターボールの中へと突然戻ったのだ。
「な……」
感じる重力、浮かんで疑問、
宙に放り出されたと脳が解決するまで一秒、
ホエルオーが入ったモンスターボールが腰から離れて同じく宙に浮いているのを視認するまで二秒、
シンボラーが慌てつつもヘンリーを覆い隠すようになけなしの翼で包み込むまで三秒、
弾き損ねた追加土砂の層にすべてが飲みこまれるまでにおよそ四秒、
繋 いでいた意識が途切れるまで、五秒、
▼
「起きて、おねえさん。もう終わったよ」
「……!?」
ヘンリーが目覚めるとそこはリーグ会場のバトルコート、
ポケモンが戦うフィールドの両サイドに設置されたトレーナー用の立台の上だった。
仰向けに気絶していたらしいヘンリーに手を伸ばしてきた少年がいて、ヘンリーはこの少年を知っていた。
忘れるわけがない。
この少年は数年前、ヘンリーをこの会場で完膚なきまでに負かし、
リーグチャンピオンになって有名になるというヘンリーの夢を醒まさせた張本人だ。
「な、なんでアナタがここに!」
「ほら、次の試合もあるから早く起きて。綺麗な衣装に汚れが付いちゃうよ」
「ちょっと!?」
「さてと。僕は次はあのクレイジー・アーサーさんかあ。勝てるかな、勝てるといいなあ」
「ま、待ちなさ…………いえ……、これ、って……」
「じゃあね。いやあ、強かったよおねえさん。また戦おうね!」
ヘンリーの呼びかけに応じることなく通路の向こうへと消えていく少年の姿を、
数年前と同じポーズで自分が見送っていることに、さすがのヘンリーもここで気づいた。
さきほどの少年のセリフは。
――自分の記憶の中の少年のセリフとまったく同じだった。
さらに舞台も同じとなれば。……導き出させる答えはたったひとつだ。
「過去の夢、追体験……。それもずいぶん、意識レベルが高い……」
走馬灯なのか、それともただの夢なのか。
懐かしいような不安なような不思議な気持ちになりつつ、呆然とヘンリーは歩き出した。
歩き出そうと思って歩き出したわけではない、視界と思考以外が勝手に過去をなぞっていく。
選手控え室とステージを繋ぐ暗い通路。
かつてのヘンリーはこの通路をどんな気持ちで歩いていただろうか。
いやそんなのは決まっている。周囲に大口を叩いておいてぶざまに負け、
みじめに気絶し、助け起こされての退場なんて、
悪目立ちなんてヘンリーにとっては心臓を握りつぶされるレベルの苦痛にほかならなかった。
忘れたいほどの感情だった。
それでも追体験が止まらないのは、
ヘンリーにとって、あの少年に負けたのと同じくらいの人生の転機がこのあと訪れるからだ。
――そして今、それを彼女は――特に強く思い出さなければいけなかった。
「あー……試合お疲れ様です。エリートトレーナーのヘンリーさん」
「ねぇ、どういうことなのかしら……」
「落ち込まないことです。彼は天性だ。あれはいずれ、ポケモンマスターになる逸材です。
現実というものは残酷だ、どれだけ頑張っても努力しても、頂点には成れる者しか成れない。
そして彼は成れる人間で、貴女は成れない人間だった、それだけの話ですよ」
「……あなたのこの言葉は、嘘だったの?」
通路の途中、ヘンリーを待ち構えている男に向かって、ヘンリーは問いかける。
かつてはこの男のこの言葉に、ヘンリーは強く激昂したものだ。
しかしその一方で、才能が無かっただけというこの言葉に、ある種の納得をしてしまっている自分がいたことも事実だった。
それほどにヘンリーの戦った少年は、圧倒的だった。
「落ちついてください。貴女に能力がないと言っているわけではないんです。
ただ単純に……ポケモンバトルという土俵では、貴女はここが限界だったというだけ。
貴女は、自分が一番輝くべきだと思っている人だから。貴女にとって、ポケモンは目立つための道具だから。
トレーナーとポケモンの絆が生む力には勝てない。個人の力では、勝てないのです」
この男の指摘も筋が通っていた。自分が目立つことを1に置くヘンリーと比べれば、
自分を負かした少年はポケモンと一緒にチームで戦おうとしている意識があった。
ヘンリーの指示が独りよがりだった訳ではない。
ヘンリーは的確な指示を出した。それでも、意識の差が、あった。
そう言われればそう思わされた。一対多。勝てない道理としてこれ以上があるだろうか?
だからこのときヘンリーは、何も言い返せなかった。
「そうして口をつぐんだ私に、あなたは名刺を差し出した」
「ああ……申し遅れましたね。私はこういうものです」
「芸能事務所の、プロデューサー……驚く私に、あなたはさらに畳みかけて来たわね」
「……ポケモンリーグでチャンピオンになっても、所詮は地方レベルですよ、ヘンリーさん。
こちらの土俵では負けましたが、私は貴女の中に、世界レベルのポテンシャルを感じました。
私が貴女が輝くお手伝いをします。世界に貴女を知らしめることが、貴女の何よりの望みである限り」
そして男は言った。
芸能界に、来ませんか、と。
「この言葉は。この世界で目立つならポケモンだと安易に考えていた私にとって、衝撃的だったわ。
だからこそ強く惹かれたし、素性も分からぬあなたに付いて行った。
そしてアイドル……確かにトレーナーより私に合っていたし、楽しい仕事だった。
それを与えてくれたあなた、折れかけた私を救ってくれたあなたには、感謝していたのよ、P(プロデューサー)」
でも……。
ヘンリーは、目の前に立つ男の姿を、
暗い廊下でこちらに向かって笑いかける男の、服装を見る。
「ねえ、P……あなたのPは……プロデューサーじゃ、なかったってことなの?」
男は深緑色のスーツを着ていた。
胸と肩に、「P」と書かれたワッペンを付けていた。
名刺に書かれた男の名は、サカモト。
このコロシアイの参加者にルールを説明した男もまた、サカモト。
――これが、ヘンリーがこのコロシアイを番組だと誤解した何より大きな理由だった。
「私はあなたに……利用されたの?」
瞼の裏にうつる過去のサカモトはヘンリーの問いには答えない。
ただ、輝かしいはずだった思い出だけが黒くくすんでいって、そして見えなくなっていった。
▼
目が覚めた。
砂埃と潮が混ざったひどく泥くさいにおいが鼻を刺す。
崖下の海に新たに作られた浅い岩場の上に、ヘンリーは倒れていた。
げほっ、と口に入った泥水を吐いてからよろりと起き上がった。
悪夢を見たあとのような倦怠感がどっと体を襲って、自分を勇気づけるための言葉も浮かばない。
ビキニの無事を確認した。とりあえず、身体にも酷い外傷は無かった。
ホエルオーのボールはどこかへ流されてしまったようだ。探すにも海は広すぎた。
立ち止まっているのは怖かったので、どこへなりとなく歩き出す。
羽根に傷を受けてふらふらと飛ぶシンボラーが、所在なさそうにヘンリーの周りを舞っていた。
そして見つけた。少し歩いた岩場で見つけた。
ねじまがった人間の腕と、脚。
その近くの水面に浮かぶモンスターボール、2つ。
「……」
人の死体。
ヘンリーの前に突き付けられた、それが現実だ。
もはや信じざるを得なかった。VFXやドッキリではない、これは本物のコロシアイ。
ここはコロシアイ実験を行うためだけに占有された島。
サカモトはそこにヘンリーを放り込んだ。
おそらくは資金稼ぎの一環としてのヘンリーが、用済みになったがゆえに。
あるいは最初から、ヘンリーをこれへ放り込むところまで、決まっていたのかもしれない。
どうあれヘンリーはここではアイドルではない。
ただのビキニのおねえさんで、ひとりの参加者でしかないのだ。
「……急がなきゃ」
――戦いは常に、先に行動できる者が有利である。
ポケモンバトルにおいても、バトルロワイアルにおいてもだ――
彼に言われたこの言葉がヘンリーにそれを言わせたと、ヘンリーは気付いていただろうか。
ヘンリーは死体のそばからモンスターボールを奪い取って、崖上へと上がった。
こころもまだ、きまっていないのに。
「大丈、夫。このくらいの逆境で、こんなちっぽけな島で、私が終わるわけ、ないじゃない。
だって……だって、私が世界レベルだってことだけは、誰にも否定できないんだから……」
▼
いつだって わたしは じぶんのつよさを しんじて きた
きっとそれが わたしの つよさだったんだと おもうの
でも もし わたしが じぶんのつよさだけしか しんじられなく なってしまったら…
【A-1/崖下/一日目/日中】
【ビキニのおねえさんのヘンリー 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)、軽傷
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2
[行動方針]こんなちっぽけな島で終わらないために、
1:私こそが世界レベル
▽手持ちポケモン
◆【シンボラー♀/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの:かえんだま
能力値:????
《もっているわざ》
サイコシフト/はねやすめ/コスモパワー/アシストパワー
※残りHP30%ほどです。
※ぼうぎょ、とくぼうが3ランクアップしています(ボールに戻せば元に戻ります)
◆【????/Lv?】
とくせい:
もちもの:
能力値:
《もっているわざ》
????
※かいパンやろうのビリーによってある程度調整されています
※ビリー好みのポケモンではなかったようです
◆【????/Lv?】
とくせい:
もちもの:
能力値:
《もっているわざ》
????
※かいパンやろうのビリーによってある程度調整されています
※ビリー好みのポケモンではなかったようです
※A-1崖下にかいパンやろうのビリーのデイパックは埋まってしまったようです
▼
「……いきなりすげえもんが釣れたな」
一方つりびとのサエグサは、ホエルオーの入ったヒビ入りのモンスターボールを手に驚いた顔をしていた。
【A-2/低地/一日目/日中】
【つりびとのサエグサ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ボロのつりざお(手製)
[行動方針]釣り
1:釣りをする
2:その間に方針を決める
3:誰かが罠にかかったら見かけと雰囲気で判断する。
4:殺し合いに乗っていると判断したら殺す
※周囲に糸がはかれました
◆【ミカルゲ/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:いのちのたま
能力値:防御、素早さ特化
《もっているわざ》
のろい/さいみんじゅつ/かげうち/ギガインパクト
◆【ウルガモス/Lv50】
とくせい:ほのおのからだ
もちもの:もくたん
能力値:特攻、素早さ特化
《もっているわざ》
ちょうのまい/だいもんじ/むしのさざめき/ギガドレイン
◆【ホエルオー/Lv50】
とくせい:????
もちもの:????
能力値:????
《もっているわざ》
????
投下終了です。全員登場が遅くなってしまい申し訳ありません
なにか問題あれば言ってください、以下キャラプロフ
***ビキニのおねえさんのヘンリー
|性別|女|
|容姿|黒髪ロングでビキニ美女|
|方針|生き残り重視?|
|人物|何ごともトップを目指そうとする、目立ちたがり屋の大言壮語家。&br()
しかしチャンピオンを目指し参加したリーグでは2回戦敗退し、そこで出会ったPマークの男に&br()
連れられる形で芸能界へと進むことになった。アイドル女優としての実績はそこそこで、&br()
ポケウッドで一度だけ映画をヒットさせたことがある。本人は知らないことだが、このカルト映画の収入はものすごいものだった。&br()
世界レベルを自称するだけあって、トレーナーとしての腕もわりと高い|
投下おつー
これで全員集合かな?
世界レベルの一言で元ネタ分かるのがあの人のすごいとこだが、中々に複雑な背景お持ちな模様
では作中にも名前の出てきた
アーサーとマイ、予約します
夢から目覚めて悪夢へと。ここはコロシアイの場。
トレーナーとしてもアイドルとしても世界レベルのヘンリー。
かつてのプロデューサー、サカモト。彼は一体……。
黒い感情を抱きつつも、自分を信じる姿は勇ましいです。
ロストしかけてたビリーさんのポケモンを手に、戦いの場へと進む。
↑あ、ここの配慮ありがとうございます!
ビキニかつエリートなヘンリーの活躍が楽しみです。
そして流石つりびとサエグサ、ホエルオーを釣る。さぁどうなる!?
投下お疲れ様でした!
皆様、登場話をありがとうございました! これにて全参加者が揃いました!
それぞれが背負う、様々な物語。それがお互いにどう関わっていくのか……
あぁ、今から想像するだけでワクワクしてきますねぇ……!
ここがスタートライン、これからもポケモンバトルコロシアイをよろしくお願いします!
それでは、けんきゅういんのケンジ、ポケモンブリーダーのミチオを予約いたします。
投下します
彼女はいつも、憧れていた。
チルットの翼よりも綺麗なあの雲に。
ソルロックよりもサンサンと煌めくあの太陽に。
ホエルオーよりも大きなあの大空に。
今手を伸ばせば、その大空に手が届きそうだった。
手が届きそうなのに。
手を伸ばすことができなかった。
白の少女───セーキは、未だ震えが収まらない腕でレップウ(ファイアロー)の身体を掴み、空を飛んでいる。
速く。もっと速く。
背後から追われているような恐怖感を振り切る為、少女はレップウに飛翔を命じ続ける。
ゼロことムクホークも既にポケモンコンバータ内で瀕死状態から回復しているが───今のセーキには、繰り出す余裕などありはしなかった。
「レップウ……」
孤独と恐怖が入り混じったその震える声で、ファイアローの名を呼ぶ。
ほのお・ひこうタイプであるファイアローの身体は、ほんのりと暖かかった。
それがセーキの恐怖感を少しだけ和げてくれている。
そして少しだけ恐怖感が緩和されたからか、コンバータ内で回復に努めているムクホークのことを思い出す。
孤独感に苛まれているセーキにとっては、一体でも側を飛んでくれるポケモンが多く欲しかった。
ファイアローの背から落ちないようにそろそろとコンバータに手を伸ばす。
馴染めなかったが、都会で過ごしたこともあるのだ。
慣れない手つきとは言えコンバータ程度の機器ならば操れる。
カチャリ、とコンバータに設置されたモンスターボールを外すと、カタカタと震えるのがわかった。
中のムクホークが元気を取り戻した証拠である。
「ゼロ、お願い」
それを確認した後、セーキはモンスターボールからムクホークを繰り出そうとする。
しかし。
ムクホークが飛び出してくることは、なかった。
正解には繰り出そうとするセーキの動きが一瞬停止したのだ。
「……え?」
その理由は、ファイアローの隣。
気づかなかった。
音すらしなかった。
まるで最初からそこにいたかのような雰囲気を漂わせて───レップウ・ファイアローの隣に、黒い四枚羽が飛んでいたのだ。
「レ、レップウ、『おいかぜ』!」
気付いた時にはもう遅い。
逃走のためにおいかぜを放ったが、既に逃走するための時間は残っていない。
ぽわわわわわ───と、おかしな超音波を黒い四枚羽が放つと、ファイアローはまるで睡眠薬でも飲んだかのように深い眠りに堕とされてしまった。
「───あ」
そして。
飛んでいたファイアローが眠ってしまったのだ。
それに乗って飛翔していたセーキのその後は、分かりきったものだろう。
「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
───即ち、上空からの落下である。
◆ ◆ ◆
「っしゃー!決まったー!」
そしてファイアローから落下する少女を確認し、地上でガッツポーズを決める少女がいた。
ミニスカートのミイ♪♪♪である。
「いやー、良かった良かった、逃げられたらどうしようかと思った」
ミイ♪♪♪は勢いでこの殺し合いに乗ると宣言した後は、己のポケモンについて考えていた。
二体とも翼を持っているのだ。
何方でもいいので乗って空を飛んでみたいという短絡的思考だった。
しかしミイ♪♪♪にとってはリザードンは手に入れたことがないポケモン。
クロバットに至っては名前すらうろ覚えなのだ。
何方が乗り心地が良いかなどわかるはずもない───トレーナーズスクールで勉学に励まなかったその代償である。
悩みに悩んだ挙句、クロバットの方が速そうという理由でクロバットをボールから出した瞬間───ファイアローで空を飛ぶ、セーキを発見したのである。
そのファイアローを見たミイ♪♪♪は、あちらの方がクロバットより鳥らしい姿で飛びやすそうだったので眠らせて回収してとクロバットに命じたのだ。
ミイ♪♪♪は知らないことだが───クロバットは、本来隠密に適したポケモンである。
クロバットは2枚羽のゴルバットから四枚羽に進化したことにより、地面を歩くことは苦手になったがその分無音での飛翔を可能にしたポケモン。
その静かさは、隣を通られても気づかないほどと称されるほど。
「ククク……飛べないならこっちのもの、丸焼きだぜ」
おかしな笑いを浮かべたミイ♪♪♪は、リザードンの背に乗って飛び立つ。
狙いは、落下する少女。
その身体を業火で焼き尽くすべく、炎の竜は飛翔する。
◆ ◆ ◆
「お願い、ゼロ!」
落下するセーキは、ムクホークを繰り出し背に乗る。
これで落下の危険性は無くなったが───少し下を見ると、リザードンに乗った少女がこちらへ迫ってくるのが見えた。
ファイアローを回収して逃げようにも、クロバットが逃げ道を塞ぐ。
本来ならばトレーナーとしてここで戦うのが普通なのだが、セーキはポケモンバトルの経験はない。
そんなセーキがムクホーク一体でクロバットとリザードンの二体を相手にするなど、殆ど無理に近い。
そうこう悩んでいるうちに───ぐうぐう眠っているファイアローは地面へと落下し、見えなくなってしまった。
「レップウ…!…ゼロ、お願い」
だからこそ。
ファイアローを、レップウを救いたいがため。
セーキはここで戦うことよりも、数を減らすことを選択した。
「ふ、『ふきとばし』!」
ぶわっ!、と。
ムクホークの羽ばたきから起こった風が、クロバットに叩きつけられる。
そうするとクロバットは風に煽られ、抵抗する暇もなく、リザードンに乗って現れた少女のモンスターボールの中へと帰って行った。
しかし。
強烈な風を放った後の、技を繰り出した後のその小さな隙をミイ♪♪♪は見逃さなかった。
「一匹戻そうと無駄無駄ァ!リザードン、『ほのおのパンチ』」
「来ないで……ッ、嫌ッ!」
リザードンのほのおのパンチが直撃し、ムクホークは大きく後退する。
できるだけ衝撃を受け流すように、ムクホークは大きく旋回する。
ミイ♪♪♪もセーキも知らないことだが───これは、スカイバトルなのだ。
空中でのポケモンバトル。
ポケモンからどう落ちないように対処するかも、重要なものの一つである。
そして。
思慮が浅いとは言え人並みにはポケモンを扱えるミイ♪♪♪が乗りこなす、大型の竜ポケモンであるリザードンと。
ポケモンバトルの経験すらないセーキが乗る大型の鳥ポケモンであるムクホークでは、大きく差がついている。
乗り心地、安定性の差。
経験の差。
それらの小さな差が積み重なり、セーキの不利を作り出していた。
「もういっちょお!『ほのおのパンチ』」
「ゼロ、いや、嫌ッ!」
よって。
セーキはロクに回避指示も出せぬまま、ムクホークはリザードンのほのおのパンチの連打を食らい続けていた。
しかも、ひのたまプレートで更に威力が向上したほのおわざだ。
セーキは叫び声をあげることしかできず───あっという間にムクホークの体力は削られ、瀕死寸前にまで追い込まれていた。
「あれ……?私って強いんじゃね……?」
終始優勢であるからか、自分の腕に僅かな自信を抱いてきたミイ♪♪♪はその口を笑みで歪ませる。
そしてセーキを指差し、宣告する。
「私はママのところに帰りたいッ!だからアンタをここで倒す!」
「嫌……、死にたくない……」
「いーや殺すしかねぇ!トドメの『ほのおのパンチ』!」
聞く耳を持たないミイ♪♪♪のリザードンの攻撃が、眼前に迫る。
それでも、セーキは指示を下せずにいた。
元よりバトルの経験がないこともあるが───お嬢様のイリアス、そしてミニスカートのミイ♪♪♪。
ドサイドンにスターミー、クロバットにリザードン。
連続して襲ってきたそれらの存在は、争いに不慣れだったセーキの精神を少しずつ削り取り、不安定にさせていた。
もう、セーキには技を命じる思考回路すら残っていなかった。
残っているのは、死にたくないという願いのみ。
(お姉ちゃん、助けて……!)
強く目を瞑り迫る攻撃の恐怖に耐えるしかないセーキとムクホークに、リザードンの業火の拳が迫る。
アレが直撃すれば、火傷では済まないだろう。
死に至るほどではないにしろ、重傷は免れない。
元より人間を遥かに超えたポケモンの技だ。
当たって無事なことの方が、あり得ない。
だが。
しかし。
セーキに向けられた業火の拳は。
セーキの眼前でぴたりと静止した。
「───?」
「あれ?リザードン?」
ぴたりと静止したリザードンは、ミイ♪♪♪にとっても予想外だったようで。
二人のトレーナーは呆然としていた。
そして数秒後。
グラリと揺れたリザードンが───羽ばたくことをやめ、地面へと落ちていく。
「え、ちょっ待っ落ちっコウモリ!コウモリ出てきてーー!」
モンスターボールを操作しつつミイ♪♪♪はリザードンど共に地面へと落ちていき、そしてその姿はあっという間に見えなくなった。
そして。
先ほどリザードンがいた空にいたのは───眠らされて地面に落ちたはずの、ファイアローだった。
「レップウ!」
無事に帰還したファイアローに歓喜し、瀕死寸前のムクホークからファイアローに飛び移る。
眠らされて地面に落ちたファイアローはあの後───持っていたラムの実にて、ねむり状態を回復。
そしてリザードンに痛めつけられている我が主を確認した後、大きく飛び上がってリザードンへと技を放ったのだ。
その技は、さきどり。
相手が出そうとした技を威力を上げて先に使う技である。
ひのたまプレートで威力の上がったほのお技を、更にさきどりで威力を上げて返される。
さすがのリザードンもその威力に耐えられなかったらしく、飛行状態を維持できなくなり落下していったのだ。
「レップウ・ゼロ、一緒に逃げよう……!」
疲れ果てたゼロをボールに戻し、レップウに命じると、再びレップウは飛翔する。
目的地など決まっていない。
今はとにかく、あのリザードンから逃げるのみ───。
【C-4/道路(上空)/一日目/午後】
【オカルトマニアのセーキ 生存確認】
[ステータス]:怯え、疲労(中)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[行動方針]帰りたい
1:怖い、戦いたくない。一人になりたい
2:この場から逃げる
◆【ムクホーク/Lv50】
とくせい:威嚇
もちもの:???
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
インファイト
いのちがけ
???
※セーキにはゼロと呼ばれてます
※体力残り10%
◆【ファイアロー/Lv50】
とくせい:はやてのつばさ
もちもの:
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
追い風
さきどり
????
※セーキにはレップウと呼ばれています
※支給品の一つはラムの実でした
「く゛や゛し゛い゛よ゛マ゛マ゛ー゛ー゛ー゛ー゛!゛!゛」
少女は再び咽び泣いた。
二度目である。
途中まで完全に優勢だったのに。
クロバットがいたからこそ地面への衝突は避けられたが、あの少女には逃げられた。
これでは完全なる敗北だ。
「逃がさねぇ……殺すぜ!」
ミイ♪♪♪は思考を直様切り替える。
彼女の短所であり長所である。
こうなったらあの少女を殺すまで追い続ける。
女の執念は恐ろしいのだ、舐めてもらっては困る。
「待ってろよこらー!」
彼女は再び疾走する。
次は必ず殺す、その意思を胸に秘めて。
【C-4/道路/一日目/午後】
【ミニスカートのミイ♪♪♪ 生存確認】
[ステータス]:良好、謎テンション、怒り
[バッグ]:基本支給品一式、レッドカード
[行動方針]:殺人の意思あり
1:自らの生還をかけて容赦なく戦うぜ……!
2:あの少女(セーキ)は必ず殺すぜ……!
▽手持ちポケモン
◆【リザードン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:ひのたまプレート
能力値:HP、こうげき特化
《もっているわざ》
きあいパンチ
ブラストバーン
りゅうのはどう
ほのおのパンチ
※残り体力50%です
◆【クロバット/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:パワーリスト
能力値:HP、こうげき特化
《もっているわざ》
はかいこうせん
シャドーボール
さいみんじゅつ
そらをとぶ
投下終了です
>ひこうポケモンの戦い!スカイバトル
ミイ♪♪♪のテンションの振れ幅が面白いわぁ〜!
マザコンキャラが定着、今後もダミ声でガンガン叫ばせていきたいですね。
セーキはかなりギリギリの戦いでした。
でも危険な時に助けてくれるだけの信頼がある、というのは大きいかもしれません!
果たして逃げた先には何が待ち受けるのか……!?
投下お疲れ様です!
それでは、けんきゅういんのケンジ、ポケモンブリーダーのミチオを投下します。
タイトルは「しっぺ返し」です。
ゴゴゴゴ……と、端的な表現が相応しい。
民家を出たケンジの鼓膜には、そんな轟音が響いていた。
見渡すと、遠くにそびえたつ灯台が目についた。
海を挟んだ先にある岬。
その先端にそびえたつ白いソレが、ゆっくりと傾いていた。
「……ウッソだろ……?」
思わず呟く。
それは現実味のある光景では無かった。
迫力のある映画のシーンを見てる時の感覚。
間もなくして灯台は倒壊、巻き上がる濃い砂煙の中へと沈む。
それらの轟音と対照的に、今度は静寂が一帯を包み込む。
あの場で誰かが戦っている、とケンジは想像を巡らせた。
続けて、彼らはこの後こちらへ降りてくる、と予想した。
そして考える。
果たして、あの場に居る者と接触をすべきなのか……と。
ケンジは無意識に足を動かしながら、その二択を思考していた。
街を歩けば、水垢と錆によって風化したトタンの壁が立ち並ぶ。
これらは間違いなく数十年単位で人々の管理を受けていないだろう。
自分が踏みしめるコンクリートの道路にも、白い砂がたまっている。
おかげで一歩ごとにジャリジャリと足音がしていた。
……あっコレうるさいな……と思ったケンジは、道の端の伸び切った草を踏みながら歩く事にした。
やがて考えごとの答えが決定し、彼は立ち止る。
「現時点じゃ、あそこの連中が対主催かどうかわからないもんな。
それならば様子見に限る。うん、どっか隠れて座ってるか」
ちょうど目の前には、個人が所有するような農業倉庫がある。
変な箱とか積んであるし、あそこに腰かけよう、と思った。
体力が無いため、少し歩くだけで座りたくなる。
長年研究者をやっていると、体が衰えるのは当然だ。
そして彼が歩き出した直後だった。
唐突なジャリジャリと言う足音に気付き、即座に振り返った。
「おい、そこのオッサン」
そこに居たポケモンブリーダーの青年は薄ら笑いを浮かべて言った。
別に自分は若くは無いが、中年というにはまだ早い。
だが年齢の事よりも、休むのを邪魔された事にケンジは不満を覚えた。
「さっそくだがよ、勝負しようぜ? なぁ」
「君さぁ……間が悪いって言われない?」
思わず本心から出た不満の言葉。
それはたまたまミチオの怒りに触れる程度の破壊力を持つ挑発となった。
◆
「サイコショック」
「ちょ待ってストップストップストップ!!!!」
ミチオはキレているのか。
まだポケモンを出していないケンジを、念力で練られた粒子が取り囲む。
彼の制止の声も聞かず、サーナイトは容赦なく攻撃を決行。
「くっ、行けヌケニン!」
『ぬきゅう』
サーナイトの右手が振り下ろされると同時に、ヌケニンが飛び出す。
伏せたパートナーに覆いかぶさるようにして、サイコショックを防ぎ切った。
地面へと落ちた一部の粒子が、道路をガレキと変えて砂埃を巻き起こす。
「ゴホッ……か、間一髪……」
砂埃にむせながらヨロヨロと立ち上がる。
ミチオは腕を組んでその様子を眺めていた。
彼はヌケニンの姿を見て一言呟く。
「何だよ、ヌケニンか。珍しいのを引いてるんだな」
「さっき灯台が崩れてたが、ゲホッ、あれは君がやったのか?」
「知らねぇよ。というか灯台がどうのこうのなんて、正直興味無いわ」
「じゃあもう一つ聞きたい。君はサカモトに対抗する気は……」
「おい。俺は今ポケモンバトルがしたいんだよ、語り合いたい気分じゃねぇ」
サーナイトは第二撃の構えを取る。
慌ててケンジは応戦の準備をする。
僅かな時間で思考をフル回転させる。
相手はきっと、シャドーボールを打つだろう。
幸いこちらはタスキ持ち、一撃は耐えるはず。
ここは一撃を食らわせて、後続につなぐべき……!
「シャドークロー!」
命令と同時にヌケニンはサーナイトへ迫る。
魂を狩り取る鎌が、その華奢な体を斬りさき――
同じくして、ミチオの指示が飛んでいた。
「サーナイト、おにびだ」
「あっ……!」
ぽっ、と放たれる青い焔。
眼前に迫ったヌケニンを包み込む。
鬼火は鎌の切れ味を奪い、サーナイトへ深く突き刺す事を妨げた。
『ぬ』
途切れるような断末魔。
炎上する抜け殻を、モンスターボールからひとりでに伸びた光が回収していった。
「やってしまった」
ケンジはため息をつきながら、額に手を当てた。
咄嗟の判断とはいえ、補助技を警戒し損ねたのは痛恨のミスだ。
「ん〜〜〜? おいおいオッサン、調子が悪いのかな?
サーナイトの鬼火も読めないだとか、ヘタクソ過ぎるわ。
ほ〜ら、これからどうやって処理するんだい?
ふ し ぎ な ま も り サ ー ナ イ トなんてよぉ!?」
ミチオは嗜虐的な笑みを浮かべ、煽り、そしてあざ笑う。
彼は心底愉快な気分だった。
最強の加護をトレースした、それだけでも美味しい展開。
ましてや相手の残り一つ手持ちが、サーナイトの弱点を付けれるとも限らない。
上手くいけば既に勝利が確定しているかもしれない。
「煽る時は随分と饒舌になるんだな……。
あぁ、今のは自分でもバカだとわかってるよ。
でもそうやって笑えるのも今の内だ! 行け、ゲンガー!!」
カプセルから溢れた光から、颯爽と闇が現れた。
ゲンガーは不敵な笑みを浮かべて、自らの敵と相対する。
その充血したような赤い目が、サーナイトの紅い瞳と交差した。
…………。
サーナイトの目は悲哀を語っていた。
隣に立つ醜悪な形相の人間と、その悲しい瞳を交互に見る。
そして事情をゲンガーは察した。
察した上で――
――アッカンベー、と舌を出し、ゲラゲラと笑う。
侮辱されたケンジの代わりに、嘲り返してやっているが如く。
瞳の悲しみを一層強めたサーナイト、その口元が震えだしていた。
「……ほぉ、ゲンガーね。なるほど。手持ちの運はいいんだな、アンタ」
「ほら、これからどうやって処理するんだい?」
「主役のサーナイトが圧勝するだけのシナリオかと思いきや、面白い展開になったな」
ミチオは依然として余裕を保った表情をしていた。
「……面白い展開? やけに呑気な事を言うね、君は」
「サーナイト、絶体絶命のピンチ! ……ってとこだな」
「あぁ、このまま僕が攻撃すればサーナイトは間違いなく落ちる。
交代をしようものなら、ゲンガーの攻撃を二発食らう事となる」
「見通しが甘いな。この状況でそんなバカ正直な選択をすると、痛い目を見るぜ?」
そう言ってミチオはサーナイトを引っ込め、もう一つのモンスターボールを取り出し、投げた。
(何だ、こいつ何かを隠している……!?)
痛い目を見る、という発言が気になった。
だが考える暇は無い、ボールが地に落ちてポケモンが現れる前に技を出す必要がある。
このままシャドーボールを撃つべきか、それとも他の安定行動を……。
「ゲンガー! みちづれ!!」
咄嗟に命じたのは、一時的でありながらも強力な呪い。
どのような相手が来ても、少なくともゲンガー落とされる事は無いはずだ。
その対象は、ピチューだった。
ノーマルタイプでも無く、シャドーボールを受け止めれるポケモンでも無く、だ。
ケンジは拍子抜けし、戸惑った。
「……ピチュー!? 進化前ポケモンを何故……」
「みちづれだぁ? こっちがまだ二体残ってる状態で良くもまぁ無駄な事を。
だがキレイに引っかかってくれて俺としてはありがたいね。
でんじはだ。ゲンガーを麻痺らせろ」
「う、うるさいっ、シャドーボール!」
ガバッと開かれたゲンガーの口から、そこから黒い球体が高速発射される。
炸裂。
だが、仕留めるに至らない。
小柄な体に巻かれたタスキは、ピチューを満身創痍で留まらせる。
攻撃を止められない。
放たれた微弱な電流が、ゲンガーの神経を狂わせ、痙攣させる。
「ウッソだろ……やられた」
「さぁ、絶体絶命のピンチに陥ったサーナイトでしたが〜っ……。
ここで第二の主役の登場、その名もピチュー。
勇敢な彼は見事、ゲンガーを麻痺させる事に成功しましたとさ」
さながら物語の語り手のような口調で、ミチオは語る。
今この時、彼の勝利はほぼ約束されていたと言えよう。
『後続にシャドーボールへの対策がある』という初歩的なブラフが、こうも上手くいくとは。
「どうだ、素晴らしいシナリオだろぉ?
ピチュー、お前も雑魚なりに仕事が出来て嬉しいに決まってるよなぁ!?
ほら、一緒に笑おうじゃねぇか、勝ちだ。俺らの勝ち」
ミチオは盛大に笑った。
愉快痛快、これこそが脳内に快楽物質が溢れだす至上の瞬間。
瀕死寸前に陥っているピチューには、笑う余裕など無い。
苦痛に堪えるのに精一杯だった。
しかしトレーナーは笑えと言った。
だから、たどたどしくも、何とか笑みを作った。
「……そんじゃあ、ピチューよぉ。
とりあえずひかりのかべを積んで、さっさと死んどけや」
必死につり上げた頬に、滲み出た涙が伝った。
ケンジは人差し指で眼鏡の位置を直す。
他人事ながら、何だか嫌なモノを見てしまった。
彼はボールを一つ取り出し、ゲンガーに向けてボタンを押す。
「戻れゲンガー」
ミチオはその行動を不可思議に思ったが、すぐにどういう事かを察した。
代わりに場に現れたカモネギ。
彼は相手のピチューの様子を見て『カーカーカー!』と憤慨する。
「……クソッ、お前……既に一人殺ってやがったのか……!」
先ほどまでの笑いはこの時、完全に消えていた。
目の前の研究員には果たしてどれほど、先ほどの自分の姿が滑稽にうつっていたか。
それを考えて、彼の心は黒く染まっていった。
「そりゃあ、まずは自分の身の安全を確保したいからね。
おかげでこの通り、まだ君にやられずに済んでるわけだし」
「あっはっは、まったくよぉ、その割には無駄に冷静で呑気な野郎だなァおい……!
何だ? 普段から人体実験でもやって殺し慣れてるのかよ? あぁ? このキチガイ野郎」
ミチオの眉間にはしわが寄り、歯を剥き出し、眼には憎悪がみなぎっていた。
幸福から一転して突き落とされた不条理な現状に、彼はただ吠えた。
「……クソがッ!! ふっざけんじゃねぇーッ!!
手持ちが4体だと知ってたら、俺はてめぇに挑むものかよ!! クソ野郎ッ!!」
「お喋りはそこまでにしようか、カモネギ!」
『カー!』
いざ参らん、とばかりにカモネギはながねぎを構える。
そうだ、早くあの人間からポケモンを救い出さねばならぬ。
正義感が強いカモネギは――本気の、やる気だ。
「そらをとぶで逃げるんだ!」
『カー!?』
カモネギの両足を掴んでケンジは飛び去る。
虚を付かれたミチオはそれを妨げる事は間に合わなかった。
瞬く間に街は小さくなり、島の全域が見渡せるほどの高さに至る。
「戦力が揃ってるのは大きいけど、バランスが悪いからなぁ……。
やっぱり誰かしらの味方を探さないとダメだな」
というのも、彼のもう一体の手持ちはズルズキン。サーナイトに勝てないのだ。
あとは何よりも、自分のバトル下手をどうにかせねば、と思った。
とりあえずどこかしらに降りて、メンバーを回復しつつ……休憩を取ろう。
◆
思い切り後頭部から蹴り飛ばしてやると、ピチューは自動的にモンスターボールへ戻っていった。
それでも憂さは晴れなかった。
衝動のまま、農業倉庫の壁に蹴りを放つ。
ゴン、と固い音がしただけで、錆付いた壁はビクリともしない。
ミチオは喉を痛める程に叫びながら、壁に肩をぶつけ、平手で何度か叩き、背をもたれて頭を抱えた。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる、必ず、必ず、必ず……!」
怒りで声が震えていた。
乱暴な手付きでモンスターボールをコンバータへセットし、回復機能を作動させた。
そして自分を侮辱した相手への呪詛を叫びながら、湧き上がる怒りをひたすら周囲の物へぶつけていた。
全身からじわじわと痛みが走る頃になって、ようやくある程度の落ち着きを取り戻す。
手持ちが雑魚でさえ無ければ。
もっと手持ちの数が揃っていれば。
息を荒げながら、手札の不自由さに苛立ちを感じていた。
まともなバトルすら出来ない、このクソゲー状態は早々に打破しなければならない。
そうだ、このままでは何も出来ない。
だが俺はもっと暴れなくては気が済まない。
……。
……手段など、選んでいられるものか。
【B-6/上空/一日目/午後】
【けんきゅういんのケンジ 生存確認】
[ステータス]:良好、軽い疲労
[バッグ]:基本支給品一式×5(自身2、ゴロウ3→2)
[行動方針]生き残り重視
1:対主催の人間を見つけて協力する
2:戦闘は極力避ける
3:その後の方針は参加者の人数が減ってから考える
◆【ヌケニン/Lv50】
とくせい:ふしぎなまもり
もちもの:きあいのタスキ
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
つるぎのまい
あやしいひかり
シャドークロー
シザークロス
◆【ゲンガー/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:なし
能力値:素早さ、特攻特化
《もっているわざ》
マジカルシャイン
おにび
シャドーボール
みちづれ
◆【カモネギ/Lv50】
とくせい:まけんき
もちもの:ながねぎ(ゴロウのもちもの)
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
そらをとぶ
????
????
????
◆【ズルズキン/Lv?】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
【B-6/はいきょのまち/一日目/午後】
【ブリーダーのミチオ 生存確認】
[ステータス]:健康、怒り
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1
[行動方針]優勝狙い
1:優勝してこのバトルロワイアルの主役になる
2:だれも自分から目を背けさせない
3:研究員の男(ケンジ)に強い憎しみ
▽手持ちポケモン
◆【ピチュー】
とくせい:ひらいしん
もちもの:きあいのたすき
能力値:おくびょうHS
《もっているわざ》
でんじは
アンコール
ひかりのかべ
いばる
▽手持ちポケモン
◆【サーナイト】
とくせい:トレース
もちもの:オボンのみ
能力値:おくびょうCS
《もっているわざ》
ムーンフォース
サイコショック
おにび
めざめるパワー炎
以上で投下終了です。
すみません、予約を破棄します
長らくの拘束申し訳ありません
ギャンブラーのアトを予約します。
いまからでも参加出来る?
>>297
新たに書き手としてのご参加でしたら歓迎します。
ですが別に許可を取らずとも(まだ序盤ですし)、普通に予約すれば大丈夫です。
それではギャンブラーのアトを投下致します。
タイトルは「The Biggest Dreamer」desu。
ポケモンマスターの定義とは何か。
ポケモンリーグを突破してチャンピオンに選ばれた者?
戦いだけが全てでは無いだろう。
全てのポケモンを捕まえ、その生態を知り尽くした物?
研究だけが全てでは無いだろう。
単純な定義がなされていないのは確かだ。
しかし多くのトレーナーは、ポケモンマスターの称号を真の目標として駆け回る。
その語源はどこにあるのだろうか。
どこかのテレビで使われたのか、有名な誰かが口にしたのか。
それも今となっては定かでは無い。
ただ、この曖昧な言葉を、辞典ではこのように簡潔に綴られている。
『あらゆるポケモンを使いこなす、最強のポケモントレーナーのことである』と。
◆
「ハァッ……ハァッ……ハァ……」
他者を求めて街を駆け巡ったアトは今――道路にぶっ倒れていた。
力尽きていた。
それこそ直前まで、堕落生活を送り続けた彼の体力は完全に落ちていた。
さらには反吐を吐きまくる事で胃は荒れ切っており、こんな唐突に運動をすれば抗議してくるのも当然。
強烈な吐き気が、痛みを訴える肺が、血流上昇による頭痛が。
あと全身から吹き出る汗の不快感もだ。
苦痛が四重奏になって襲い掛かり、アトは涙を滲ませながら喘いでいる。
「苦しい」
誰に伝えるでもなく、呟く。
体力を全開まで消耗するのも久方ぶりである。
心臓がドラムのような音をかき立て、全身に向け脈を打つ感覚が懐かしかった。
……懐かしいと言っても、何の嬉しさも何もないが。
これが少年漫画や小説ならば『あぁ、これも生きてる感覚だ』だとか感傷に浸れるが、割とそんな余裕は無い。
久しぶり過ぎて、自分の限界を図り損ねただけである。
死にそう、死ぬ。本当に死ぬコレ。誰か救急車呼んでくれ。キツイ。
一番痛感したのは、"かつての自分"とは肉体的な面でも隔たりが出来ていたと言う事。
虚しかった。
フシギダネに背中を擦られながら、呼吸を整える。
その手持無沙汰な時間に、思案に暮れる。
数十分ほどは道路上でだれていただろう。
「正攻法じゃあ勝てねぇよなぁ……」
体が冷めると同時に、その思考も冷めてきたのか。
彼の心に火を灯したポケモン。フシギダネとポッポ。
この二体はサカモトの言った『未成熟なポケモン』であり、おそらくはハズレに分類される。
当然『最終進化したポケモン』と殴り合っても歯が立たない。
種族値の差は圧倒的だ。支給品や弱点に関わらず、勝利は絶望的だろう。
アトに与えられた支給品はゴツゴツメット、せんせいのツメ、ひかりのこな。
これに関してはアタリの部類だと思う。
しかし、自分の手持ちポケモンには役不足だ。
「無理くせぇ……。勝てるとしたら、ひかりのこなで攻撃を全て避けるくらいか」
ポッポが首を傾げる。
俺はハハッと乾いた笑いを漏らし、大きくため息をついた。
ヨロヨロと立ち上がり、フラフラと歩き始めた。
呼吸は整ったが、足は痺れていた。
◆
特にこれと言った前触れは無い、思い付きとは常に唐突なものだ。
一軒のマンションが目についた。
周囲の背の低い建物の中、頭一つ抜けた三階建て。
外壁はレンガ調の白いブロック(風化で灰色に薄汚れているが)で、ベランダなどの無い四角形の建物。
彼はそれを見た時に、ふと閃いたのだった。
迷う事無く実行に移してみる事にした。
「フシギダネ、戻れ」
ポケモンコンバータにフシギダネをセットする。
慣れない機器の操作に戸惑いつつも、条件に合う技を設定。
バチバチッと電気音がすれば完了。おそらくこれで合っているはず。
廃墟にも関わらず自動ドアが開いたが、アトは気に留めなかった。
一つの階につき住居は一つ。そこに扉は無い。
だいたい真ん中あたりに立ち、フシギダネに指示をする。
「フシギダネ、グラスフィールド」
『ダネッ!』
フシギダネの背中のつぼみから、ぶわっと種子が拡散される。
石造りの床から草が芽を出し、瞬く間にフロア一帯が緑のじゅうたんで覆われる。
「もう少し伸ばせないかコレ」
再度一考し、今度はポッポの技構成を変更させた。
「ポッポ、あまごいだ」
一言。
どこからともなく雨雲が浮き上がり、天井にどろりと留まった。
メカニズムも何もない、不思議でも何も無い、これが当たり前のポケモンの力。
やがて降り注ぐ雨。シャツとズボンの色を暗く変えていく。
「続けてフシギダネ、にほんばれ。そしてもう一度グラスフィールドだ」
どこからともなく室内に強烈な日光が差し込む。
水分と日光を浴び、エネルギーを得た植物たちは、グラスフィールドの後押しで一気に成長を遂げた。
アトはほくそ笑む。
この作業を三度ほど繰り返すと、背丈を超える程の高さにまで植物が生い茂っていた。
まともに身動きが取れない程、ビッシリと。
ポッポにエアカッターを使わせ、移動できるよう道を作る
そうして建物の外へ出て、自動ドアの前に立ったアトは最後の仕上げを行なう。
「フシギダネ、ひみつのちから」
この瞬間、廃墟ビルはただの廃墟ビルでは無くなった。
レイアウトが固定された、戦い余波によって破壊される事が無い空間。
茂みの中の"ひみつきち"という、独自の空間へと変貌する。
「こう上手く行くとは意外だな……。これはいい、壮観だ」
そう呟いて、悦に浸った。
グラスフィールドによって生まれたかりそめの植物は、本来なら時間経過で枯れてしまう。
だがこの"ひみつきち"空間が保つ限りは、確かな壁として現存し続けている。
ひみつのちからは、単に怪しい場所からひみつきちとしての価値を見出す技に在らず。
『トリックルーム』『じゅうりょく』のように「空間に影響を及ぼす」効果があるのだ。
だからこそ、ひみつきち内では大惨事を恐れずにポケモンバトルなどを行なえる。
アトは一度、ひみつのちからを解いた。
同時にグラスフィールドも効果を失い、元の冷たい石畳のフロアへと戻る。
「そうとわかりゃあ本腰を入れて作業するとしよう。
お前らの力を最大限活かせるフィールドを作ってやるからな。
フシギダネ、俺が指示した場所にタネばくだんを打ち込んでくれ」
『ダネ、ダネフッシ!』
「ポッポは瓦礫や砂ぼこりをきりばらいで払ってくれ」
『ポー』
◆
画一的なマンションの構造は乱され、混沌としたダンジョンへと変わる。
近くを通る者は、入口から漂う『あまいかおり』に気付く事だろう。
外観こそ、何の変哲も無い建物。
しかし扉を開けばそこには、草木の茂る薄暗い迷路が広がっている。
「誰かが入って来たら、ポッポは『どろぼう』で奇襲をかけるんだ。
そうしたら天井の穴を抜けて三階まで戻れ。いいか?」
これが成功するだけで、他の参加者よりも優位な立場を得られる。
もし侵入者が奥へと進むようであれば、足元に仕掛けた『どくどく』『くさむすび』などが襲い掛かる。
加えてフシギダネが伸ばした『つるのムチ』による攻撃。
構造を知り尽くしたポッポがヒットアンドアウェイで攻める。
……これならばきっと、最終進化ポケモンどもを相手にまともに戦えるだろう。
「ゴメンな、お前たち。俺の頭じゃこういうやり口でしか勝ち筋が浮かばねぇのさ……。
でも、それでも俺は必ず負ける戦い方を大人しく受け入れたくない。
俺は絶対に勝ち抜きたいんだ。だから……多めに見てくれ」
『ポポー!』『ダネダネ!』
「……ありがとう」
戦う力が乏しくても、このフィールドならば最大限に引き出せる。
ポッポでなければ奇襲は無しえないし、フシギダネも存分に力を振るえるのだから。
――ポケモンマスターを目指す者として、この策は卑怯ではないのか。
そんな思考がわずかに頭をよぎる。
だが俺にはこの道しか無いし、この道を進む事にためらいは無い。
『あらゆるポケモンを使いこなす、最強のポケモントレーナー』
使いこなす事とは、きっと最大限に力を引き出す事と同義だろう。
この定義が人をポケモンマスターたらしめるのであれば。
俺のこの策は決して、ポケモンマスターの道から外れたものでは無い、と。
そう信じていたい。
【B-1/はいきょのまちその2 はいきょマンション/一日目/午後】
【ギャンブラーのアト 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品(ゴツゴツメット、せんせいのツメ、ひかりのこな)
[行動方針]優勝狙い
1:夢のために走る
2:マンションに籠城し、手持ちの強化を図る
◆【フシギダネ/Lv50】
とくせい:ようりょくそ
もちもの:なし
能力値:HPとくぼう特化
《もっているわざ》
あまいかおり
つるのムチ
ねむりごな
ヘドロばくだん
◆【ポッポ/Lv50】
とくせい:はとむね
もちもの:なし
能力値:こうげきすばやさ特化
《もっているわざ》
どろぼう
おいうち
ねっぷう
そらをとぶ
以上で投下終了です。
投下乙
秘密の力はいつか使われないかと期待してたw
こういうサバイバル状況だとやはり役に立つよね
あけましておめでとうございます。
からておうのガンマとバトルガールのアゲハで投下します
▼
目と目が合ったときにはもう、
▼
眼が合った。
「…… !」
「……フハァー……」
少女――バトルガールのアゲハは呼吸を忘れて目を見開いた。
片手を前に構え、もう片手を背中に回しながら、
唾を呑みこみ、眉間にしわをよせ、ともかく周りの状況の把握に努めた。
ここははいきょの町の入り口だ。
そう、主催に反抗するため、まずは手持ちポケモンと絆を深めたアゲハは、
次に志を同じくする人を探して、人の集まりそうな場所へ向かった。
高台から建築物を探し、一番近いはいきょの町に辿り着き、
さびれたビルが立ち並ぶ目の前の土地へ入ろうとして、ふと思いついてポケッチを操作した。
つうしんサーチャー。
近くにいるトレーナーをサーチする機能だという。
有効範囲は不明だが、人探しならこれを定期的に使用すれば早いだろう、と思い使った。
結果的に、アゲハの命を間一髪で救ったのはそんな思考だった。すぐ近くにトレーナーの反応があった。
そっちを見たら。
殺気を漲らせた隻眼の男と、眼が合った。
「……マジかよ」
「運がいいな小娘ェー……いやある意味悪いのか……。
シャバババ、もう2歩ほど。いやもう1歩。
このからておうのガンマが近寄るまで気付かなければ、苦しまず楽に死ねたものを!」
「……いつから……アタイがこの距離で……気付けなかった……?」
「王者は常にベストの選択肢を取って弱者を狩るもの。
“カエンジシはミミロルを狩るのにも全力を尽くす”という諺もあろう。
そのためには先ず圧倒的な力が要るが……どんな盤面にも対応できるスキルも重要。
歩法や気の操作による隠密技能など、一流の格闘家なら得ていて当然!」
「分かるようで分からねぇ話だな……!」
「分からぬならば貴様も所詮二流ということよ!
フゥー、シャバババ……さて、手を打つ前に気付かれたのは想定外だが――」
顎をさすりながら、髪を逆立て胴着を片側はだけ、「からておう」の男は悠然と近づいてくる。
「――眼と眼が合えば闘う運命(さだめ)」
「……!」
「貴様もトレーナーならば、その掟は知っているな?
私と目が合った次点で、貴様の死はもう運命られた! さあ! 殺戮を始めるぞーーっ!!」
ごう、と。
得体の知れない圧を感じ、アゲハはその隻眼から目を逸らせずにいた。
逸らしたら、死ぬ。その確信がアゲハにはあった。
アゲハもひとかどの格闘家。つうしんサーチャーを使わずとも、周りの闘気には敏感な自負がある。
それなのにこの男、からておうのガンマは、
彼我距離にしておよそ20歩の位置までアゲハの触覚を躱しながら近づいてきていたのだ。
だだもれの殺気を、隠そうともしていないのに。よほど気配を消すすべに長けていなければこうはならない。
すなわち、アゲハより格闘家として格上。ということ。
「……勝手に運命決められてもらっちゃ困るんだけどなァ」
大口を叩くも冷や汗は流れる。
前準備なしでの対峙/相手は超乗り気な上情報も少なく/格闘家としてはこちらが格下
なかなかに最悪の条件での戦闘だ――いや、こちらは殺したくなんてないが、これは殺し合いだ。
何が起こるか、どう手を打つべきか、どうする、どうする、“アタイはどう動けばいい――”。
緊張で呼吸は早くなる。吸い込む空気が、喉にざらつく。
ざらつく?
――気が付けば、アゲハの周りの空気の色が変わっていた。砂色。
「こ、れはッ」
「1歩遅い! 貴様はすでに私の技の、確殺圏内よーーっ!」
「んなっ」
色は渦巻く。徐々にその色密度を増やしながら、アゲハとガンマを包み込むように。
すなあらし、だ。
現象確認のためにアゲハは一瞬辺りを見回した。
その隙に、目を離したその刹那に、ガンマはアゲハとの距離を詰めていた。
踏み切り、跳び上がり、足を流麗な動きで前へ、体勢を整えての――飛び蹴り!!
「さあ、先手必勝だーーーっ!!! 死ねぇーーーーッ!!」
▼
目と目が合ったときにはもう、戦いは始まっている。
▼
「くっ、そォ!」
「ム……!?」
からておうのガンマが飛び蹴りをいまにも決めようとした瞬間、アゲハの背中からアゲハの羽根が広がった。
黒地に青黄赤の紋様が入った鮮やかなそれは、
眼と眼が合ったあと、すぐ背中に回した手に握っていたモンスターボールから外に出ていて、
アゲハの意思を感じ取ってこの瞬間まで閉じられていたアゲハのアゲハントの羽根だ。
「飛べ、アゲハント!!」
アゲハントがアゲハの身体を掴み、飛びあがる。
アゲハントはそらをとぶを覚えない。上空まで人を運び、保ち続けることまではできない、
それでも小さなアゲハの身体を数メートル浮かすことくらいは可能だ。
ガンマの飛び蹴りは不発に終わる。素早く着地し空の少女を睨むガンマ。
そして笑み。
「背中に蝶を負うか! シャバババーッやるではないか小娘、だがなーッ……」
「ああ、まだ終わりじゃないんだろッ……! 分かってんだよ! バシャーモ!!」
『ヴゥルシャーモ!!』
ガンマの余裕ある笑みに対して、アゲハは挑発的に言葉を返す。
アゲハの目は空中に浮いたいくつもの鋭い岩――ステルスロックが地面に作る影を確認していた。
砂嵐に紛れてあらかじめ放たれていたその暗器はただでさえ視認が難しい。
単純にこのままアゲハントで宙を舞って逃げていれば、アゲハの身体に次々と突き刺さってしまっただろう。
「アタイを踏み台にしろッ!! “とびひざげり”!!」
『シャー……バシャーモ!!』
このフィールド全体を使った殺戮岩包囲網に対し、
アゲハは続けてボールから出したバシャーモをバレーボールのトスめいた手の動きで高く空へと打ち上げる。
舞い上がるバシャーモへ、命じたわざは“とびひざげり”。
「ほう……」
綺麗な連携にガンマが感嘆の声を漏らす。
バシャーモは膝を高く上げながら上空へ、上空へ。
ステルスロックの岩を破壊しながら跳ぶ。そしてそれはクリアリングの役割も兼ねている。
続いてアゲハは空中で、地面に水平に仰向けに寝転ぶような態勢を取った。
「アゲハント! “おいかぜ”!」
『アゲハ〜ント!!』
指示したわざは、おいかぜ。
アゲハの背中のアゲハントの、さらに背後から――つまり地面のほうから上空へ、
吹きすさぶ超自然のおいかぜが、アゲハントの足りない飛行能力を補完する。
ついでに砂嵐も一時的に振り払いつつ、風に乗ってアゲハは上昇。
バシャーモがすでに通った軌跡をなぞるように飛ぶ。
その軌道上にだけはステルスロックはまだ移動しきっていない。
ぐんぐんと、上へ――しだいに視界の砂色が薄まっていく。
フィールド影響わざはそれを起こしたポケモンを中心にした一定範囲にだけ現れる。
とにもかくにも、最優先はその範囲から離脱することだ。
塵粒が体を引っ掻く痛みに耐えながら、アゲハは祈るような気持ちで高度を上げた。
砂が晴れる。バシャーモが跳躍の頂点で彼女を待っていた。
「よし……バシャーモ! アタイを掴んで“ブレイズキック”だ!」
『シャモ?』
「あっちのビルに移るぞ!」
『……ヴゥル! シャー……シャーモ!!』
ひとまずの安堵と、しかし間髪入れずアゲハはバシャーモに次なる指示を送った。
落下しゆくバシャーモはアゲハの意図を理解するのに少しかかったが、
合点がいくとすぐにアゲハの手を取った。
同時においかぜが切れる。浮力が足りなくなり、アゲハもバシャーモも地面へとゆっくり下がる。
再度おいかぜを発動してもいいが、それではバシャーモまでは運べない。
かといって再度すなあらしに突入するのもありえない。
ならばバシャーモに運ばせる。
バシャーモは両手を背後へ。そして、手首から思い切り炎を吹き出す。
本来は蹴りの精度を高めるための姿勢制御に使うが、今回は方向制御だ。
足にも焔を纏ったバシャーモは、点火されたロケットのような軌道で――火槍となって宙を割いた。
ブレイズキック。アゲハたちは全員の落下軌道を斜め下へと方向転換する。
はいきょのまちの入り口付近にあった高いビルの屋上へと、こうして彼女たちは逃げ降りた。
転がるように受け身をとる。さびれたコンクリートの地面が視界に現れては消えた。
回転がようやく止まり、身を起こすもアゲハがよろめく。平衡感覚にダメージがいっていた。
「く……っいたた……」
『シャー?』
「あ、りがと……くっそ、あのオッサン、本気でヤバいぞ……」
バシャーモに手を差し伸べられて、どうにかふらつきながらも立ち上がろうとする。
「アタイを飛び蹴りで蹴り飛ばして、ステロで刺し殺すつもりだったんだ……。
飛ぶのが一瞬遅かったら……殺されてた。躊躇ってもんが何一つねぇじゃねーかよ。
さすがにここまで逃げれば追ってくるのに時間かかるだろうし、とりあえず仕切り直しだけど……」
『ア、アゲハント!』
「大丈夫だって、このくらい……にしても、すなあらしもステロも相手は指示してなかったな。
すなあらしは特性だとして、バンギかカバだろ……どっちもステロは撒けるけど、
あらかじめ指示してあったか――あるいはもう、すでに一戦して“慣れた”行動か……」
『シャーモ!』
「なんにせよ、今のアタイじゃ手が足りない……こっちの手持ちも見せちまったし、
おいかぜの札も切っちまった、ここは逃げるしか……どうした? お前ら、さっきから」
『『……!!』』
「何だよ、何が……」
アゲハが顔を上げる。
眼が合った。
「――――シャバババーーッ」
▼
目と目が合ったときにはもう、戦いは始まっている。
だから、
▼
「知らんのか小娘……トレーナー戦からは、降参しないかぎり逃げられないことを」
隻眼の男が浮いていた。ビルの屋上に立ったアゲハを見下ろすように。
でんじふゆうで浮いていた。
逆立った髪を結ぶハチマキの余り布さえも重力に逆立って、まるで鬼の二対の角だ。
実際に男――ガンマから放たれるオーラもまた、鬼の形をしている。
「私の攻撃を前に、焦らずポケモンを出せたところまでは褒めよう……だがそれで取る選択肢が“逃げ”など言語道断よ!
“逃げ出すケーシィは何も得ることはできない”という諺を知らんか?
私に向かってこない時点で、結局は貴様も、こうして見下される下等トレーナーにすぎん!!」
頭上にマグネットパワーを放つコイルを従え、
ガンマは腕組みをしてしっかりとアゲハの眼を見つめている。
その言葉は確かにアゲハに刺さるものだった。
初手。ガンマの飛び蹴りに対し、
アゲハントで逃げずに、バシャーモでぶつかり合う手も……今思えばあった。
いかな強者と言えどかくとうポケモンとぶつかって無事ではすまない。
そうなれば、視界も精神も削られる砂嵐の中にあっても、戦いを進められたのではないか。
ではなぜそうしなかったのか。それは簡単な話だ。アゲハには覚悟が足りなかった。
――ポケモンで人間を傷つける覚悟。
「こぶしとこぶしをつきあわせる」だけでは終わらない、殺し合いに、対峙する覚悟。
「……知ってるさ。ケーシィは、すぐテレポートで逃げっから、捕まえにくいポケモン。
それはケーシィの側から見ても、すぐ逃げるって行為を繰り返せば、経験値を得られないってことだ。
確かに……アンタの言うとおりだ。アタイはアンタに怖気づいて、逃げた」
逃げては何も得られない。
「認めたなら死ぬか?」
「そいつは出来ない相談だ。アタイはまだまだ、戦いたい」
アゲハは眼を閉じ、息を吐いて体の力を抜いた。気持ちを改め、再度眼を開く。
からておうのガンマに向かって眼を合わせる。
自分から眼を合わせていく行為。それは覚悟だ。トレーナーとして、戦いに挑む覚悟。
アゲハはガンマに、自己紹介をした。
「アタイの名前はアゲハ……サワラビ道場の、バトルガールのアゲハ。
こっちはバシャーモと、アゲハント。さっき仲良くなったばっかの自慢の仲間だ。
さっきは悪かった。もうアタイは、アンタから逃げない。アンタがアタイを殺そうとするなら」
構えて叫ぶ。
「アタイは――アタイたちは、アンタを倒すッ!!」
バシャーモとアゲハントもまた、威嚇的に構えをとってガンマを見上げた!
見上げられたガンマは、楽しそうに、アゲハのまっすぐな覚悟を嗤う。
からておうのガンマは動じない。彼は相手がどんな心境で居ようとやることは同じ。
「シャバババ、いい威勢だ。だが一歩遅い。
私の安い“ちょうはつ”ごときに踊らされるようでは、サワラビのジジイも泣くぞ?」
「な……ジジイを知ってんのか?」
「その質問も“一歩遅い”なァーー小娘。私がどうしてすなあらしと共にステロをノー指示で撒けたのか、
悠長に飛んでいる最中に考えたことはなかったか? シャババ……ならばもう一手、先を行くぞ?」
「!」
突如、ビルの屋上が揺れる。地盤が揺らぐほどの大きな揺れ。
これは、“じしん”! ビルを崩すほどの、強力な――地震、
そういえば――すなおこしを起こした相手のポケモンはこの場にはいない――!
先の会話が、その意図が。アゲハをここへ張りつけるための、ものだとしたら!
「アゲハント! アゲハ……!?」
『ン……ト……』
再度飛ばなければ、とアゲハがアゲハントの方を見る。
――アゲハントの片羽にステルスロックが刺さっている。
「な、」
「シャバババーーっ! 動いていないのになぜステロが刺さるか? そう思っているな?
なんてことはない、マグネットパワーのちょっとした応用よッ! 名付けて、“ステルス・ストーンエッジ”!」
疑問は遮られ答えだけが残った。見ればその岩に、微量の砂が付着している。
さらに、そこから砂の鎖ともいうべき微細な砂色の帯が伸び、ガンマの頭上のコイルへと繋がっていた。
でんじふゆう――電磁力で自分を浮かせる、わざ。
その“自分”とはすなわち自分に繋がっているすべてのものを含む。
砂の鎖により、コイルは自分だけでなくガンマを、そしてステルスロックをも浮かせ、自在に操っているのだ!
「アゲハント! くそっ、まずい、HPが……」
今だ続く地震に足元をおぼつかせながらもアゲハはポケッチを確認する。
ポケモンリストのアプリでは手持ちの今のHPが確認できる。むし・ひこうのアゲハントはステロを喰らい、
すなあらしをくぐってきた。HPはすでに半分を割っている。飛行能力も一時的に奪われた!
『バ、バシャーモ!』
「!?」
「シャババ、カウンターの構えか」
地に落ちかけたアゲハントを受け止めたアゲハの前に、バシャーモが入り込んで構える。
アゲハがそちらを振り向くと、揺れる屋上へ降り立ったガンマがふたたびアゲハに近寄ってきていた。
ガンマの攻撃を遮るような位置へとバシャーモは自ら動いたのだ。
だが、飛び蹴りを警戒したカウンターの構えは――不発。ガンマの思考は、自らすらも囮。
「忠犬もとい忠鶏じつにけっこう! だがバシャーモ、貴様もまだまだ遅いなァ……まったくもって、」
彼の本命は、自分の存在に注意を引きつけてからの、
「“あくび”がでるほどのノロノロ具合よーーっ!!」
後ろから屋上へ降り立ったカバルドンによる、アゲハを殺し切るための補助わざ!
▼
目と目が合ったときにはもう、戦いは始まっている。
だから、逃げるな。
戦いは常に――先に動いたものが有利になるのだから。
▼
音がした。大柄なポケモンの、あくびの音。
アゲハはアゲハントを抱えながら、思わずそちらを見た。
眼が合った。
カバルドンのあくびが、アゲハへと向いていた。
「……ふぁ……あ……!」
おんなのこらしい声でアゲハが間の抜けたもらい欠伸をしてしまう。
ガンマがそれを見て、懐かしそうに言葉を漏らす。
「その黒い胴着。ポケモンの近くで共に戦い、共に高め合うスタイル……。
いずれはポケモンとの共鳴が、ゼロ指示でのわざの発動すら可能にする、流派。
シャババ、思い出すだけで反吐が出る。苦肉にも、あやつの教えは私の中で今も根付いている」
憎々しげにつぶやくガンマは、包帯に隠したもう片方の眼を手で押さえながら、続けた。
「だがサワラビよ。“私の片目を奪った男”よ――貴様の便利なその技術は、
たった今、貴様のかわいい愛弟子を殺すために、私に使われているぞ……?」
シャババババ、と高笑いが高度三十メートルのビルの屋上に響く。
頭の中に泥のように重くのしかかってきた眠気に思考を乱されながら、アゲハはそれを聞いて思い出した。
サワラビ道場――アゲハが通っていた道場には、かつて稀代の天才と呼ばれた優秀な弟子がいた。
だが闘いに対する考え方の違いでその男は師範と仲違いし、
道場を壊すほどの大立ち回りの果てに破門となって、世間から姿を消したという。
「くっそ……ってことは、“兄弟子”かよ……アタイもびびる、わけだよな……」
片膝をつき、状況を確認。
前方にガンマ。後方にカバルドン。
こちらは手負い、動けない。しかし粘っても睡眠殺。稽古なら降参してもおかしくない状況だ。
「だけど、まだ……“負け”じゃねぇ……ッ!!」
それでもアゲハは眼を合わせ続ける。
それは反抗だ。わるあがきにも似た、アゲハの“むしのていこう”だ。
小さくたって、弱くたって。魂までは屈しない。心だけでも、戦い続ける。
アゲハは認めない。相手を殺すまで戦い合うこんな実験を――絶対に認めない!
「アゲハント!!」
『……アゲハ〜ント……ッ!!』
叫びにとうそうしんを刺激されたのか、アゲハントが幾分か戦気を取り戻している。
アゲハは指示を出す。アイコンタクトでアゲハントは理解した。
使ったのは、“しびれごな”。
あくびされてから眠るまでの間に他の状態異常になれば、ねむり状態になるのを防げる。
「さあて……やろうぜ、続き……ッ!」
「シャバババ、面白い。どこまでその羽根でもがけるか……この私が試してやろう!!」
巨大にそびえたつ岩の猛攻を前に、黒揚羽は羽ばたき続けることを選んだ。
痺れ、感覚が薄くなった身体でなおも立ち向かうアゲハのバッグの中で、
不思議な力を持った石がほのかに光を発していた。
まだ、至るには足りない。そして、それがあるいは逆転の鍵になりうることを、アゲハは知らない。
それでも確かにそこにある。
メガシンカへと至る鍵、
バシャーモナイトとメガバングルは、アゲハに確かに、支給されている。
【B-2/はいきょのまちその2 さびれたビル/一日目/午後】
【からておうのガンマ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、タウリン
[行動方針]基本:パロロワ団諸共ド下等トレーナー共の粛清
1:目の前のバトルガールを粛正する
▽手持ちポケモン
◆【コイル/Lv1】
とくせい:がんじょう
もちもの:きのみジュース
HP:■■■■■■■■
能力値:無振り
《もっているわざ》
どくどく
まもる
リサイクル
でんじふゆう
◆【カバルドン♂/Lv50】
とくせい:すなおこし
もちもの:ゴツゴツメット
HP:■■■■■■■■
能力値:HP、防御振り
《もっているわざ》
あくび
ステルスロック
じしん
じわれ
【バトルガールのアゲハ 生存確認】
[ステータス]:状態:まひ、肋骨軽傷、服がぼろぼろ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2、バシャーモナイト
[行動方針]対主催
1:この実験を殴りに行く
2:からておうのガンマを倒す
◆【バシャーモ♂/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:なし
HP:■■■■■□□□
能力値:AS振り
《もっているわざ》
とびひざげり
ブレイズキック
ストーンエッジ
カウンター
◆【アゲハント♂/Lv50】
とくせい:とうそうしん
もちもの:???
HP:■■■□□□□□
能力値:CS振り
《もっているわざ》
おいかぜ
しびれごな
メロメロ
むしのさざめき
※電磁ステロにより「うちおとす」された状態です
投下終了です。
あけましておめでとうございます、今年もポケコロをよろしくお願いします。
投下お疲れ様です!
>「!」
格闘家同士の死闘、精神のぶつかり合い。
アクティブに舞うアゲハと、そびえたつガンマ……
ポケモンとの連携攻撃の応酬、実にダイナミックです!
満身創痍のアゲハの隠し玉は、果たして逆転へともたらされるのでしょうか。
投下お疲れ様です!
ハンターのアギト、バックパッカーのノエル予約します
すみません、トリップミスです
キャンプボーイのケイイチ、バッドガイのラグナ、メイドのコトリ、メルヘンしょうじょのシェリで予約します。
一応延長申請しておきます
からておうのミウラ、じゅくがえりのヒデ、オカルトマニアのモカ、かいじゅうマニアのエイジで予約します
延長します
延長します
投下します
あと諸事情により今後はこっちのトリップで投下させていただこうと思います
IDがかっこいいですね
悪魔とは何だろう。
人が生み出した超越的存在、その負に位置する極みの概念、というのが一般的な回答だろう。
タロットカードで言うならば、裏切り、拘束、堕落、また一節には暴力、激烈を意味するとも言われる。
ならば。
この物語における悪魔とは一体何を意味するのか。
◇
ポケモントレーナーは目と目が合えばそれがバトル開始の合図。
その暗黙の掟は、舞台が殺し合いという環境に移ろうとも変わりはしない。
バックパッカーのノエルの目の前にいたのは、漆黒の翼と3つの首を備えた悪竜を連れた男。
かつて噂ではプラズマ団にいたゲーチスが連れていたとの噂もあったポケモンだ。
それを引き連れて歩く男の瞳は戦意に満ち満ちている。
いや、戦意というのも生ぬるいかもしれない。
これは殺気というものだろう。
「お前もポケモンを持っているんだろう?出せばいいだろう」
話せば分かってくれる相手には見えない。
それでもポケモンを出す時間をくれる辺り、全く話の通じないということはないだろう。
ポケモンバトルにさえ勝つことができれば、少しは話をできる可能性はある。
あわよくば新生プラズマ団としての歩みの第一歩となってくれれば。
「キリキザン、頼む」
「キシャ」
出たのは全身に刃を持った赤きポケモン。キリキザン。
(もう一体は何だ?せめてキリキザンでもどうにかなる相手なら…)
サザンドラ。悪とドラゴンのポケモン。
タイプ一致の技は二つともキリキザンには半減の攻撃。
しかしサザンドラは炎タイプの大文字、格闘タイプの気合球などを覚えることもできる。
チョッキを持たせてはいるが、気合球は当たれば耐えられるかどうか。
「竜の波動だ」
しかし思考に意識を費やす暇はない。
サザンドラの口から放たれた覇気がキリキザンに襲いかかる。
だが威力半減に加えて突撃チョッキを持たせた状態。そう大きな威力は与えなかった。
「けたぐりだ、キリキザン!」
指示と同時にその浮遊する脚部を掬うようにキリキザンが蹴りを放つ。
宙を舞っていたサザンドラがバランスを崩し、頭を地面にぶつける。
「よし…!」
格闘技は効果が抜群。
どうやら倒すには至らなかったようだが、しかし確実なダメージが与えられただろう。
対してこちらはまだダメージは少ない。次の攻撃で炎、もしくは格闘技がこなければ突破は可能だが果たしてそんな望み通りに行くかどうか。
あるいはサザンドラを戻して別のポケモンを出す可能性も僅かながらある。
果たしてどう出てくるか。
「……?」
そう思って相手の動きに気を配っていたノエル。
だがそんな時ふと違和感に気付く。
サザンドラはキリキザンの前を浮遊しており、サイズ差もそうない2匹の影が地に映っている。
それはどちらの影も自分の目の前辺りまで伸びる程度の長さしかない。
なら、その先。
相手トレーナーの下から伸びた、自分の足元まで届いている影は一体何なのだ?
ふと嫌な予感を感じたノエルは、咄嗟にその場を飛び退り。
その時だった。
影の中から飛び出した何かが、自分が一秒前に立っていた場所を切り裂いたのは。
その瞬間に発生した真空波がこちらの腕の皮一枚に傷を残す。
間違いない。今の一撃は殺すつもりで放たれたものだ。
目を凝らすと、そこにいたのは剣の形をして盾を構えたポケモン。
イッシュ地方を主な活動範囲としていたノエルには見たことがないポケモンだ。
「ほう、今のを避けられるのか」
感心したかのように呟く相手トレーナー。
彼の連れていたサザンドラの放つ光の玉、気合球がキリキザンに炸裂。
効果抜群の攻撃を受けて倒れ伏す。
もし今の一撃さえなければキリキザンに指示を送ることができたし、そうであれば気合球を回避することも可能だっただろう。
「卑怯、だとでも言うか?だがこれはポケモンバトルじゃない。ポケモンを使った殺し合いだってことは分かってるよな?」
「くっ……」
つまり最初の時点で気合球を使わなかったのは心理的優位に立たせることで注意力を落とすことが目的だったのだ。
しかし、それだけのためにサザンドラに少なくないダメージを与えたこと。そこだけが解せなかった。
「…何で最初の時点で気合球を使わなかったんだ?」
理由は分かっていても、そう聞かずにはいられなかった。
「ふん、ポケモンのダメージなどこのコンバーターがあればすぐに回復するんだろう?ならそんなに気にすることもないだろ」
「…っ」
その言葉はまるで道を違えて純粋な悪の道に走ったかつての同僚達のような考え方だった。
結果さえ得られるならポケモンを道具のように扱うこともする。
受け入れられない、受け入れてはいけない考えだった。
しかし今のノエルには成す術はない。
キリキザンは戦闘不能。
対して相手は大ダメージを負っているとはいえまだ戦闘可能なサザンドラに無傷で君臨する名前を知らぬ剣と盾のポケモン。
残っているタブンネを出したところで逆転可能とは思えない。きっと無駄にダメージを負わせるだけだ。
ならば。
「…くっ!」
逃げるしかない。
もしポケモンバトルであれば逃げるなど言語道断。しかしこれは相手も言っていたようにポケモンバトルではない、ポケモンを使った殺し合いだ。
ならば逃げたところで責めるものなどいない。
キリキザンを戻し、背を向けて全力で逃走にかかるノエル。
しかしそれを安々と見逃す相手でもなかった。
「ギルガルド、もう一回影打ちだ」
ギルガルドと呼ばれた、剣と盾を備えたポケモンは影に潜り込みノエルの逃走先へと顕現。
そして現れると同時に振りかぶった刃がノエルの足を斬りつけた。
「あ、ぐっ…!」
切り落とされることこそなかったものの、血が吹き出ると同時に感じた痛みがノエルの体を転ばせた。
転がった拍子にボールが落ちる。
それは先に戦闘不能となったキリキザンのものではない、戦わせることを拒否したポケモンの入っていたボール。
「もう一匹持っているんじゃないか。どうして出さない?」
怪訝そうにボールを拾い上げてポケモンを呼び出す相手トレーナー。
そこから現れたのは、ピンクの体毛と特徴的な耳を持ったポケモン。
「…タブンネ?」
「タブンネか、なるほどな。こいつなら逃げるしかないわけだ」
「タブンネ!!!」
現れたタブンネは、ノエルの傷に気付いて駆け寄ろうとするも、その足元に剣状態のギルガルドが投げられその足を止めさせられる。
驚くノエルの体に、身動きが取れないように相手トレーナーが体を押さえつける。
「ぐ、う……、逃げろ、タブンネ…!」
「懐かしいものだな。俺もポケモン育成に必死だった頃はレベル上げのためにたくさん狩ってたものだ。
お前も実はその口なんじゃないのか?」
「……その通りだよ」
その言葉に心を抉られる想いを感じるものの、しかし否定はしない。
それは受け入れなければならない罪そのものだから。
「…だから、俺はポケモンを、友だちと向き合って戦おうって決めたんだ…。お前のようなポケモンを道具にするようなやつにやられるわけにはいかないんだ…!」
「ポケモンを友達、か。まるでプラズマ団だな」
「……ああ、俺はプラズマ団崩れのトレーナーだよ」
「なるほどな、さっきの影打ちを避けたことといい、堅気のトレーナーではないとは思っていたが、そうかプラズマ団か」
うつ伏せに抑えられたノエルだったが、その背中の上で相手トレーナーの笑っている気配だけは感じ取れた。
何がおかしいのかは全く分からなかったが。
「世界からポケモンと人間を切り離す、か。興味深い行動理念だったが結局壊滅したんだよな?
ポケモンを友達だのと、そんな甘ったれたこと言ってるからそんなことになるんだよ」
「…!」
「世界を変えたいなどと言いながら、ポケモンのことを友達だのと甘い感情すらも捨てられずに。組織壊滅も必然だったんだろうな」
ノエルにとって、それだけは聞き流すことができないものだった。
プラズマ団で世界を変えるためになどと言って様々な許されざることをしてきたこと。
それらはまた受け入れなければならない罪だ。
だが、今の言葉はあの方、プラズマ団の王、Nの理想に対しても向けられたもの。
誰よりもポケモンを想い、誰よりも純粋で、だからこそ惹かれたあの人の願いに対する侮蔑も含まれた嘲笑。
それだけは許すことができなかった。
「黙れ!あの方のことを、お前のようなやつが―――」
「何が違う?ポケモンと人間が共に生きるからこそ人は道を間違える。
ロケット団、マグマ団、アクア団、ギンガ団、フレア団、そしてお前たちのいたプラズマ団。
一体そいつらがどれだけの悪事を働いて人を傷つけてきたと思う?
いや、そういった組織のやつらだけじゃない。
どれだけの人間がポケモンを使って悪事を、犯罪をしてきたと思う?
もしポケモンがいなかったら、そいつらは悪事をしてきたと思うか?」
その憎悪すらも感じるほどの言葉に、ノエルは何も反論できなかった。
それまで正しいと信じてしてきたこと―――ポケモンと人間を切り離すこと。
あの人の行動に、そんな解釈をする者などいなかったから。
あまりにも、ノエルにとって衝撃が大きかった。
「そう、ポケモンと人間は分かたれるべきなんだよ。
互いに影響し影響されるからこそ、人はその力で過ちを犯す。
そんな悪魔と生きる世界も、そんなことに何の疑問を持たぬ皆も、みんな狂っている。
だからこそ、俺はポケモンで人を殺す。そんな世界にほんの僅かにでも疑問を与えることができるなら、この場で俺が死のうと構わない」
そう言って、サザンドラに指示を出すと同時、その牙が腕に食らいついた。
「ガッ…、ガアアアアアアアアアアアアア!!!」
ギチギチ、と腕を”噛み砕く”ように肉に牙をたてる。
「タブンネ!?」
その悲鳴を受けてタブンネが立ち上がろうとするも、ギルガルドのアイアンヘッドがその体を吹き飛ばす。
呻くように鳴きながら地面を転がるタブンネ。
そのままギルガルドを手元に呼び寄せ、剣の部分を掴み。
サザンドラが食らいついている右腕とは逆、左肩に突き刺した。
絶叫が周囲に響き渡る。
「ポケモンにこんなことをさせる俺は悪か?ああ、悪だろうな。
じゃあ直接お前を傷つけているこいつらは何だ?
友達か?ただの道具か?それとも人をこのような道に走らせる悪魔か?」
「ぁ……お、お前は……」
答えは期待していないのだろう、とノエルは思った。
そしてきっと自分はここで死ぬのだろう、とも。
ドクドクと流れ出る血を感じながら、ぼやけていく視界の中。
そこに映ったのは、起き上がってこちらの姿を見つめているタブンネの姿。
もしこの場で自分が死ねば、あいつはどうなるのだろう。
こいつに殺されるだろうか。それとも捕まって道具扱いされる以上に辛い目に合わされるだろうか。
今の自分ではどうしようもない。
だから、せめてお前だけは逃げてほしいと。
それだけを願い、ノエルは意識を落とした。
◇
目の前のトレーナーが意識を落としたその瞬間だっただろうか。
アギトが視界の端に眩い光を放つ何かを見たのは。
「何だ?」
そちらに振り向いた一瞬後だろうか。そこから放たれた謎の光がこちらに迫ってきたのは。
咄嗟に後ろに下がりその光を避けるアギト。
結果、その場でトレーナーの体を抑えていたサザンドラとギルガルドに光が直撃。
ギルガルドは驚いた拍子に剣を引き抜いてしまい、サザンドラに至っては残り僅かだった体力を削りきられて地に伏している。
そのまま光を放っていた何かは、一気に近づいてきてギルガルドを弾き飛ばし、トレーナーから引き離す。
ギルガルドが大きなダメージを負っている様子はない。
おそらくは今放たれた攻撃に耐性があったということなのだろう。
と、目の前でこちらに攻撃を仕掛けた何者かを視認する。
”それ”は自身のトレーナーへと技を使用している。
謎の光が当てられるたびに出血が減り、与えたはずの傷が緩和されているように見える。
おそらくは対象のダメージを緩和させる技、癒しの波動だろう。
だが。
「何だ、それは?」
それを使用しているのがタブンネである。
その事実自体は構わない。
しかし、目の前にいるタブンネはただのタブンネではない。
ピンクの体毛は白く変化し、その特徴的な耳はさらに大きくなっている。
その姿はメガシンカによって変化したタブンネ、メガタブンネだ。
メガシンカ。ポケモンと人間の絆とやらで現れるという新たな進化形態。
ふざけた解説ではあるがこの場で支給されている以上、絆などなくてもトレーナーの意志によってメガシンカさせられるということもあるのだろう。
だが、一つの事実がアギトを苛立たせていた。
今タブンネがメガシンカした時はこのトレーナーは気絶していた。
そんなトレーナーにメガシンカの指示など出せるはずがない。
つまりは、こいつはトレーナーの意志ではなく自分の意志でメガシンカしたということになる。
おそらくは、このトレーナーの命を助けるために。
「何故、お前はそのトレーナーを守れる?」
「タブンネ!」
思わず呟いたそんな問いかけに対する返答は、タブンネが放ったマジカルシャインによって返された。
咄嗟にキングシールドを指示し、その一撃をギルガルドによって防ぐ。
なるほど、さっきの一撃は悪・ドラゴンタイプのサザンドラにとっては致命的に最悪な相性の攻撃だ。
しかしギルガルドにはたとえブレードフォルムとなっていたとしてもそうダメージとなる一撃ではない。
例えメガシンカしようともギルガルドに対する相性は覆せない。いや、鋼を弱点とするようになった以上むしろ悪くなった、というところだろう。
返す指示でアイアンヘッドを命令。メガタブンネは吹き飛ばされ、その体はメガシンカ態から通常のタブンネに戻る。体力が尽きたのだろう。
そのままギルガルドを掴み、タブンネのトレーナーに対して振りかざし。
視界の端に、戦闘不能となっているにも関わらず立ち上がろうとしているタブンネの姿が映る。
その時、ふと何かが頭の中でこう告げていた。
もしここでこいつを殺したら、そのイライラは解消が難しくなるだろう、と。
根拠は分からない。
だが、この苛立ちはあまりにも不快だった。
「……ちっ!」
ギルガルドを地面に振り下ろして突き立て、モンスターボールをかざす。
サザンドラ、ギルガルドはモンスターボールに戻っていく。
そして拾い上げた、タブンネのモンスターボール。
戦闘不能になったタブンネをボールに戻し、自分の二匹と共に己のコンバータに仕舞う。
ついでに相手のトレーナーのキリキザンも相手のコンバータへと入れておく。
こいつはここでは見逃しておく。
ついでに最低限生き残れる程度にはポケモンも残し、回復できるようにもしておいてやる。
そこまでして何を成そうというのか。
簡単な話だ。このタブンネを壊す。
このタブンネ自身が持つその絆を、そしてそれを通じて、人とポケモンの間にあると言われるらしい絆をも。
自分の意志でメガシンカするほどの絆、それを破壊した上で再会させ、それでこいつがポケモンをともだちだのと言っていられるかを見届ける。
無論、再び相見えることなく死んでいく可能性もあるが、それならそれで構わない。あくまで今自分の手でトドメを刺すには気が進まないだけだから。
重要なのはタブンネだ。
「……何故、お前を見ているとイライラする?」
ボールに呟きかけるも、仕舞われたタブンネは鳴き声で返事することもない。
やがて、その場に一人眠り続ける男を残し、アギトは立ち去って行った。
◇
アギトは気付いていない。
何故タブンネにこうも苛立ちを覚えたのか。
その理由に。
アギトはポケモンのせいで大切な者を、家族を失った。
その果てに見出した答えが、ポケモンを悪として人から切り離す道だった。
一方でタブンネもまた、ポケモン育成のために多くの狩りによって仲間を失ってきた。
あのトレーナーすらも過去にそれを行っていたという事実を持っている。
だが、タブンネはそのトレーナーを守る道を選んだ。自分の意志のみでメガシンカまで行って。
ポケモンは悪魔であると考えていたアギトでも、タブンネの境遇にはほんの僅かにでも思うところは存在していた。
それはきっと人とポケモンを同価値の存在として見ることを自分に強いてきたが故の感情だろう。
本人にとっては無意識下でのものになるのだろうが。
そのポケモンが行った、本来仇でもあるはずのトレーナーを守るという所業。
それに、アギト自身の心に揺さぶるものがあったということに。
彼は気付いていない。
少なくとも今はまだ。
◇
悪魔。
宗教上の絶対悪。
人を惑わし、道を踏み外させる者。
故にタロットカードでは裏切り、拘束、堕落、暴力、激烈といった意味で捉えられる。
それが正位置における解釈だ。
では逆位置において意味するものは何なのか。
見方を変えた悪魔の解釈。
それは、――――――回復、覚醒、新たな出会い。
【A-3/森/一日目/日中】
【バックパッカーのノエル 生存確認】
[ステータス]:右腕に噛み傷、左肩・両足に切り傷(どれも激しく動かさなれば安定)、気絶
[バッグ]:基本支給品一式、ダークストーン(真贋は不明)
[行動方針]対主催
1:友達のために殺し合いを打破する
2:新生プラズマ団の団員を増やす(自身がボスでなくても構わない)
3:自分を襲ったトレーナー(アギト)に対して――――?
▽手持ちポケモン
◆【キリキザン】
とくせい:まけんき
もちもの:突撃チョッキ
能力値:いじっぱりHAぶっぱ
《もっているわざ》
アイアンヘッド
ふいうち
けたぐり
ハサミギロチン
※現在戦闘不能状態です
【ハンターのアギト 生存確認】
[ステータス]:怒り、憎悪、苛立ち
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1
[行動方針]対“人間とポケモン”
1:人間にポケモンたちとの関係を考えなおさせる程の傷痕を残す。
2:1のためにポケモンにてできるだけ残虐に人を殺す。
3:タブンネは徹底的に壊し、その上でトレーナー(ノエル)と再会させる。だが別にトレーナーの生死にはそこまで執着する気はない。
※ポケモンを殺すことを禁じられていることを把握しました。
▽手持ちポケモン
◆【サザンドラ/LV50】
とくせい:ふゆう
もちもの:???
能力値:???
なつき度:0
《もっているわざ》
かみくだく
りゅうのはどう
気合球
????
※現在戦闘不能状態です
▽手持ちポケモン
◆【ギルガルド/LV50】
とくせい:バトルスイッチ
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
アイアンヘッド
キングシールド
かげうち
????
※残りHP70%ほどです
※自身の目的に沿った構築にしたようです。
◆【タブンネ】
とくせい:いやしのこころ
もちもの:タブンネナイト
能力値:すなおHBぶっぱ
《もっているわざ》
てだすけ
いやしのはどう
ムーンフォース
なかよくする
※現在戦闘不能状態です
投下終了です
すみません、ポケモン全滅で首輪爆破というルールを失念していました。
>>332 を以下に差し替えさせてください
◇◇◇
それを使用しているのがタブンネである。
その事実自体は構わない。
しかし、目の前にいるタブンネはただのタブンネではない。
ピンクの体毛は白く変化し、その特徴的な耳はさらに大きくなっている。
その姿はメガシンカによって変化したタブンネ、メガタブンネだ。
メガシンカ。ポケモンと人間の絆とやらで現れるという新たな進化形態。
ふざけた解説ではあるがこの場で支給されている以上、絆などなくてもトレーナーの意志によってメガシンカさせられるということもあるのだろう。
だが、一つの事実がアギトを苛立たせていた。
今タブンネがメガシンカした時はこのトレーナーは気絶していた。
そんなトレーナーにメガシンカの指示など出せるはずがない。
つまりは、こいつはトレーナーの意志ではなく自分の意志でメガシンカしたということになる。
おそらくは、このトレーナーの命を助けるために。
「何故、お前はそのトレーナーを守れる?」
「タブンネ!」
思わず呟いたそんな問いかけに対する返答は、タブンネが放ったマジカルシャインによって返された。
咄嗟にキングシールドを指示し、その一撃をギルガルドによって防ぐ。
なるほど、さっきの一撃は悪・ドラゴンタイプのサザンドラにとっては致命的に最悪な相性の攻撃だ。
しかしギルガルドにはたとえブレードフォルムとなっていたとしてもそうダメージとなる一撃ではない。
例えメガシンカしようともギルガルドに対する相性は覆せない。いや、鋼を弱点とするようになった以上むしろ悪くなった、というところだろう。
返す指示でアイアンヘッドを命令。メガタブンネは吹き飛ばされ、その体はメガシンカ態から通常のタブンネに戻る。体力が尽きたのだろう。
そのままギルガルドを掴み、タブンネのトレーナーに対して振りかざし。
視界の端に、戦闘不能となっているにも関わらず立ち上がろうとしているタブンネの姿が映る。
その時、ふと何かが頭の中でこう告げていた。
もしここでこいつを殺したら、そのイライラは解消が難しくなるだろう、と。
根拠は分からない。
だが、この苛立ちはあまりにも不快だった。
「……ちっ!」
ギルガルドを地面に振り下ろして突き立て、モンスターボールをかざす。
サザンドラ、ギルガルドはモンスターボールに戻っていく。
そして拾い上げた、タブンネのモンスターボール。
戦闘不能になったタブンネをボールに戻す。
相手のコンバータを確認。トレーナー名はノエルというらしい。
残ったキリキザンのHPを確認すると、どうやらつい今回復が完了した様子だ。
ならばこいつは連れて行っても問題ないだろう。
タブンネのボールは自分のコンバータに仕舞う。
こいつはここでは見逃しておく。
タブンネの技の甲斐あってか傷は命に関わらない程度には回復している。キリキザンがいるのであれば、最悪命綱は繋がっている。
そこまでして何を成そうというのか。
簡単な話だ。このタブンネを壊す。
このタブンネ自身が持つその絆を、そしてそれを通じて、人とポケモンの間にあると言われるらしい絆をも。
自分の意志でメガシンカするほどの絆、それを破壊した上で再会させ、それでこいつがポケモンをともだちだのと言っていられるかを見届ける。
無論、再び相見えることなく死んでいく可能性もあるが、それならそれで構わない。あくまで今自分の手でトドメを刺すには気が進まないだけだから。
重要なのはタブンネだ。
「……何故、お前を見ているとイライラする?」
ボールに呟きかけるも、仕舞われたタブンネは鳴き声で返事することもない。
やがて、その場に一人眠り続ける男を残し、アギトは立ち去って行った。
あと、キリキザン及びアギトの状態表を以下に差し替えます
▽手持ちポケモン
◆【キリキザン】
とくせい:まけんき
もちもの:突撃チョッキ
能力値:いじっぱりHAぶっぱ
《もっているわざ》
アイアンヘッド
ふいうち
けたぐり
ハサミギロチン
※HPは全快状態です
【ハンターのアギト 生存確認】
[ステータス]:怒り、憎悪、苛立ち
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1
[行動方針]対“人間とポケモン”
1:人間にポケモンたちとの関係を考えなおさせる程の傷痕を残す。
2:1のためにポケモンにてできるだけ残虐に人を殺す。
3:タブンネは徹底的に壊し、その上でトレーナー(ノエル)と再会させる。だが別にトレーナーの生死にはそこまで執着する気はない。
※ポケモンを殺すことを禁じられていることを把握しました。
※ノエルの名前を把握しました
>悪魔の証明
ポケモンが居なかったら、人は悪事を犯してきただろうか。
その命題に対する答えは悪魔の証明。
ではポケモンは人間にとって、悪魔か、道具か、友達か。
その答えを悪魔は証明する、人との間に絆がある事を。
タイトルとの絡みが凄く深いです。
アギトとタブンネ、どちらの意志が上回るのか…!
投下お疲れ様です!
キャンプボーイのケイイチ、バッドガイのラグナ、メイドのコトリ、メルヘンしょうじょのシェリを投下します。
視点や時間帯が異なっているため、一話を三部に分割します。
一部目のタイトルは「たんけんはっけんはいきょのまち」です。
町は静かだった。
伸び放題の草木が風にそよぐ音がハッキリと聞こえる、それほどに静かだった。
目に映る光景も、騒がしいモノは何一つない。
雲一つ無い真っ青な空と、砂の積もった道路は白っぽい灰色で。
立ち並ぶ廃墟はセピアカラーで、それに猛烈に絡みついたツタは濃い緑色で。
「よし、次はここにするぞ」
『ルガッ!』
そんな中でラグナさんの服装ってちょっと浮いてるなぁ、と思った。
真紅を基調としたジャケット。素敵だと思うけど、少し派手かもしれない。
そんなラグナさんはヘルガーから降りて、適当に目をつけた民家を指差した。
「あくのはどう!」
波紋のように広がる黒いエネルギーが、民家の玄関扉を破壊。
静かな町にスゴイ音が響いた。
ひしゃげたドアを踏みながら、彼は中へと入っていく。
私もそれに続いた。
何をするって……そうです、物色です。
というのも、私がさっき「廃墟に何か隠されてたりして」と呟いたからなんだけど。
実際にドアなんかを壊すと、少し罪悪感が湧く。
ほとんどは何も無かったけど、時々タンスとかの家具が残ってる事に驚いた。
でも、中には役立つ道具が全然無かった。
錆が侵食し過ぎて穴まで開いてるキズぐすりとか。
そのままのカタチを保ってるモノは無かった。
例え、あったとしても……。
「あ、ラグナさん! 何かありました!」
「おおっ、でかした!」
「これです!」
「それは」
「みどりのかけら」
「要らねェ―――ッ!」
ガラクタばっかり。
まぁ、貴重なモノは、元の家主が持って行っちゃうよね。
ラグナさんはみどりのかけらを指で弾きながら、私も彼に続いて廃墟を後にした。
その時。
ガラスの割れる音と、岩が崩れる音の混ざった轟音が辺り一帯を包み込んだ。
「ヒィ!」
思わず飛び上がり、音が止むまで耳を塞いだ。
「い、今の……やっぱり灯台を壊した人でしょうか」
「その可能性は高い。ここでもバトルをしているのか、それともただ破壊自体が目的なの……。
ったく、何にせよ、よくもまぁ何度も何度も耳障りな音を立ててられるもんだ」
私たちがこの廃墟街へ来る前、海を挟んだ先の灯台が崩れるのを見た。
凄まじい崩落音で、たぶんこの付近に居た人はみんな気付いてると思う。
だからその当事者ももちろん、多くの人がこの町へ来るんじゃないかって思った。
「コトリ。危険だと思うならどっかに隠れてろ。
この様子だとトレーナーにもバトルの余波が飛んでこないとも限らない」
「大丈夫です。ラグナさんにだけ任せるなんて悪いですから」
「お前は戦いがあまり得意じゃないんだろ。無理はするな」
きっとラグナさんは『守る』と言った手前、こういう戦いの場に連れまわすのに引け目を感じてる。
だから私を気遣っている。でも、そこまで甘えるのは申し訳なかった。
「私だって勉強してきたんです! だからきっと足手まといにはなりません!」
「コトリ……」
「だから、手伝わせてください!」
バトルは好きじゃ無かった。
私はポケモンさんと触れ合ったり、遊んだりする方が好きだった。
ポケモンさんが傷付くのは心が痛んだ。
でも、わかってる。今はそんな気持ちじゃダメなんだって事。
「もしポケモンが倒れれば、それだけ自分が死ぬ危険性が高まるんだ。それでもいいのか?」
「ラグナさん一人で戦うよりも、きっと二人同時の方が安全だと思うんです!」
「そりゃあそうだが……」
「ですからお願いします! 手伝わせてください!」
何もしない、なんて事は許されない。
守ってくれると言ったラグナさんに、ちゃんと応えなきゃいけない。
「まぁ、そこまで言うなら別に構わないが……」
「ありがとうございます!」
深く頭を下げた私に、ラグナさんは困惑した顔を浮かべた。
「えぇい、さっきからお前、そんな改まるな!
普通にいつも通りの喋り方でいい、その方が気が楽だ!」
「えと……うん。それじゃあ、こんな感じに普通に喋った方がいいかな、ラグナさん」
「それでいい」
敬語が落ち着かないタイプの人なのかな。
でも、少し距離が縮まった感じがしてちょっと嬉しかった。
そうこうしていると、視界の奥にどこか懐かしさのある建物が見えた。
覆い尽くす植物の隙間から見える、薄いピンク色の壁。
看板にはうっすらとモンスターボールをかたどったマークがあった。
「これ、ポケモンセンターだよね」
昔の写真でしか見たことが無い、レトロチックな外装。
だけど馴染みのある施設に安心する自分が居た。
「入るぞ」
ラグナさんに続いて、私も扉の方へ向かう。
そこには『ポケモンセンターソナイシティ』と書かれていた。
「この町にも、ちゃんと名前があったんだ」
見知らぬ場所の、異質な雰囲気が、少しだけ和らいだ気がした。
【B-6/ソナイシティ ポケモンセンター/一日目/午後】
二部目のタイトルは『にげみち』です。
かわいいおんなのこがあるいています。
花のようにはれやかなピンク色のドレスをきて、あたまには大きなリボンがよくにあっています。
おんなのこのなまえはシェリといいました。
あたまのなかにあった黒いきもちがきえて、あんしんしていました。
ジャマなとうだいをこわしたおかげでしょうか。
ニドキングとニドクインに手をひかれながら、ゆっくりとあるきました。
草木がならんださかみちを、ゆっくりとあるきました。
さかみちをのぼった先には、町がありました。
シェリのこころがざわつきました。
むかしルキとたびをした町ににていたからです。
さらにものかげから、みどり色のふくのおとこのこも出てきました。
「あっ……そこのキミ!」
シェリよりも少しだけ年上でしょうか。
とまどったようすで、はなしかけてきました。
「えーっと……俺もキミと同じ立場、のはずだ、よな? コロシアイに巻き込まれて……。
だから、その、俺はコロシアイに乗る気は無い人間だ! 本当だ!
その、落ち着いて話を聞いてくれないかっ?
俺はケイイチって言うんだけど、今は協力できる仲間を探してて……」
シェリのこころに黒いきもちがわきあがりました。
私に助けを求めている。
誰も彼も、私の声を散々無視してきたと言うのに。
自分が困っている時は、私に助けを求めるのだ。
なんて都合の良い。
この男も、どこかクラスメートに似ていた。
利口そうな顔で振る舞いながら、だけど私と関わる事は無かった。
安全で安心な状態を維持したいから、切り傷だらけの私に触れようとしなかった。
無性に不愉快だ。
この黒いきもちはどうすればきえてくれるでしょうか。
町も、人も、壊してしまえばいいんです。
そうすればシェリのこころのいやなものも、いっしょにきえてくれるんです。
シェリはパパの手をはなしました。
それをあいずに、ゆうかんなパパはじゃまものにたちむかっていきました。
◆
「メブキジカ!」
ケイイチくんはすぐにポケモンをとりだして、ニドキングとたたかわせました。
『ウッドホーン』がニドキングのむねにつきささりました。
しかし、たいする『メガホーン』で、メブキジカはかんたんにたおれました。
「ヤッベェ……」
ケイイチくんは青ざめました。
つぎのポケモンがたおれたら、じぶんがしんでしまうからです。
「頼む、メタモン!」
ボールからとびだしたメタモンは、ニドキングへとへんしんしました。
ポケモンコンバータでわざをかくにんし、そしておどろきました。
「なしくずし、あばれる、だいちのちから、メガホーン……。
まさか、デフォルトのわざしか覚えさせて居ないのか……!?」
メタモンに『だいちのちから』をつかわせると、ニドキングはたおれました。
そのとき、シェリは大きな声でさけびました。
「パパ!」
くるったようになきさけびました。
「ごめんなさいパパ! わがまま言ってごめんなさい!
悪いのは私なの! 痛かった!? 苦しかった!?
私も同じだけ痛い目に遭うから、私の事嫌いにならないで!」
「えっ……パパ、って……。あの子は一体何を言って……」
ずっとあやまりながら、パパの入ったボールをきかいにセットしました。
そしてシェリはニドクインにささやきました。
パパとおなじくらいのいたみをわたしにあたえて、と。
しかし、ニドクインは首をよこにふりました。
シェリはやりきれないきもちになりました。
そして言いました。
「だったら、周りのもの全部壊して!!」
ニドクインはあばれはじめました。
まわりの家ばかりを、こうげきをはじめました。
シェリはそこからガレキをひろいあげ、じぶんをなぐりました。
ケイイチくんはこわくなって、にげだしました。
【B-6/ソナイシティ/一日目/午後】
三部目のタイトルは『ありふれたすくいのことば』です。
「ラグナさん、カウンターの裏側にこんなのがありました!」
「何だそれは」
「ピッピにんぎょうです」
埃を叩き落として、コトリが見せつけて来た。
妙に顔のパーツの大きいピッピにんぎょうだった。
特に口が大きく、頭の半分以上を占めている。
「ピッピってこんな顔だったっけ……」
「知らねぇよ、パチモンだろ」
「それに何か一回り大きい気がする」
「だから知らねぇっての」
「可愛い〜」
「いや可愛くねぇだろソレ!」
「でもとりあえず持っていくのよね?」
「一応な」
と、他愛のない雑談を交わす最中にも。
……。
また轟音が響いた。これで何度目だろうか。
戦いの余波によるものじゃない、おそらく建物を壊す事そのものが目的に思える。
「さっさとあの野郎をぶっ殺さねぇと、町全部が壊されかねない」
行くぞ、とコトリに声をかけて、外へと向かう。
外からこちらを覗き込む一人の少年が居た。
目が合うと、そいつはサっと引っ込んだ。
コソコソする態度にイラっと来たので、即座にヘルガーに追いかけさせた。
首根っこから引きずられて来た少年をとっ捕まえる。
「おい待て、なんだテメェは!?」
「いや、その、俺は怪しいもんじゃ」
「さてはテメェが町をぶっ壊してる野郎か!」
「ちが……俺じゃない! 話せばわかる!」
「覚悟は出来てるなコラァ!!」
「待ってくれー、待ってくれー!」
「ラグナさん落ち着いて! 話を聞いてあげようよ!」
胸倉を掴んだ辺りで、コトリに抑え込まれた。
我に返った俺はとりあえずポケモンセンター内へ連れ込み、少年を問い詰める。
するとその少年、ケイイチがこの数時間の事を話し始めた。
「自分よりも年下の少女の仕業か……」
「あぁ、どうみても普通じゃない様子だった。
腕にうっすら傷の跡が見えてたし、顔は青ざめてて、眼は虚ろだった。
俺の呼びかけも聞こえてない感じだったんだ」
ケイイチが見かけた参加者は皆、どこかおかしい様子だったそうだ。
初めに会ったオネェ言葉のトレーナーは、危険排除を理由に平然と殺人を犯した。
彼に殺されたトレーナーは、ケイイチの発言を綺麗事だと切り捨てた。
そしてこの町で暴れる少女も、……正気じゃない。
「混乱してるだけとは考えられないかな?」
コトリはそう口にして、さらに付け加えた。
「小さな女の子だったら、強いショックを受けてるだけかも……。
どうにか落ち着いてもらえれば、その子なら止める事も出来るんじゃないかな」
彼女自身もコロシアイから逃れるために、自殺を図ろうとした。
目の前で人が死に、さらに自分たちに殺し合いを強いられると言うのは、それだけ人を追い詰めてしまう力がある。
コトリよりもケイイチよりも幼い少女ともなれば、錯乱して暴れ出すのは全くおかしくない。
「それならさっさと行くぞ。これ以上騒ぎを広げるのは面倒だ」
「あっ、と。その前に一つだけ質問させてくれ」
ケイイチが室内を見渡しながら尋ねる。
窓からの日の光だけではない。もっと白っぽく照らされた室内。
「……何でこんなボロボロのポケモンセンターなのに、電気が点いてるんだ?」
「たぶん、パロロワ団が電気を通してるからだと思う。
ほら、ほとんどのモノが風化してるのに、蛍光灯だけ新しいでしょ?
おかしいな、と思ってさっきスイッチを押したら、こんな風に光ったんだ」
「パロロワ団としてもこの施設を利用させたい、って事なのか。
……と言う事はつまり、あの回復する機械も使えるのか!?
逃げてきたばかりだから、メブキジカを回復させる暇が無くて……」
そう言ってケイイチは回復する機械へと向かった。
◆
ラグナさんとコトリさんのポケモンが戦っている。
「グランブル―――ッ! 『あまえる』ッ!」
「エルフーン、『みがわり』よ!」
ニドキングとニドクインの攻撃を完全に抑え込む。
少女の必死の叫びも虚しく、彼らはエルフーンと言う壁を貫く事が出来ずにいた。
ラグナさんとコトリさんがポケモンを食い止めている間、俺が女の子のところへ向かい、説得しに行く。
足場のままならないガレキの上を、メブキジカはヒョイヒョイと渡ってくれた。
「なぁ、落ち着いて欲しい。このままじゃキミ自身が危険なんだ。
騒ぎを聞きつけた誰かが、キミを襲うかもしれない。
俺たちはキミを守りたいだけなんだ、だから……信じてくれ」
俺はメブキジカから降りて、女の子へとゆっくりと歩み寄る。
「怯えなくてもいいよ、本当に危害を加えるつもりはないんだ。
だから攻撃をやめて欲しい、俺たちの話を聞いて欲しい……!」
女の子は憎悪の目で俺を睨んでいた。
俺が一歩進むごとに、一歩ずつ後ずさりをしていた。
躊躇っちゃだめだ。こっちにやましい事なんて無い。
こっちの強い想いをぶつければ、きっと相手に伝わるはずだ。
「なぁ、……ほら、大丈夫だからさ」
「どうして……、どうして私ばかり邪魔されるの……。
どうして私ばっかり嫌な目に合うの……!?」
近づいた事で、彼女の腕の傷跡が改めてはっきりと見える。
コロシアイに連れてこられる前に、虐待か何かを受けてきたのかもしれない……。
その青ざめた顔も、やつれた瞳も。そんなストレスが積み重なってきたものなのか。
「アナタの言葉なんて聞きたくない……。
何でそうやって乱暴するの? 何で私ばかり責めるの?」
彼女の抱いた悲しみが爆発して、こんな風に暴走を始めたんだ。
それを止めるためにどうすればいい?
その悲しみを俺たちが包み込んでやらなきゃいけないんじゃないか。
少女は頭を抱えてうずくまった。
今にも壊れてしまいそうな、とても繊細なものに見えた。
「俺たちはキミに乱暴なんてしない。
キミがどんなに酷い目に遭ってきたかもわかる。
だから今だけでも、少しでもリラックスしよう」
彼女に前で膝をついて、そして手を差し伸べる。
「さぁ……俺たちと一緒に」
「………………お前に」
「お 前 に 何 が わ か る ッ !!」
ガレキが俺のこめかみに叩きつけられた。
激痛に呻きながら地面に倒れる。
「壊れろ! 壊れろ! 壊れろ、壊れろ、壊れろ!!!」
頭に何度も衝撃が走り、そのたにに強烈な痛みが積み重なる。
同時に意識が遠ざかるのを実感した。
俺の言葉は届かなかったらしい。
それどころか、彼女の逆鱗に触れてしまった。
俺のやり方は間違ってたのだろうか。
助けたいって気持ちが、伝わらなかった
……そういや、ニドキングを倒した時にあの子は叫んでた。
――ごめんなさいパパ! わがまま言ってごめんなさい!
――悪いのは私なの! 痛かった!? 苦しかった!?
――私も同じだけ苦しむから、私の事嫌いにならないで!
もしかして腕の切り傷は、虐待じゃなくて、あの子が自分で付けたのか……?
何もわかってなかったよな。
◆
ラグナはケイイチを救出し、コトリと共にその場を後にした。
【B-6/ソナイシティ/一日目/夕方】
【バッドガイのラグナ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ふといホネ
[行動方針]主催者打倒
1:コトリを守る
2:ケイイチを手当する
3:ゲームに乗った奴は倒す
4:人が集まりそうな場所に向かう
▽手持ちポケモン
◆【ヘルガー/Lv50】
とくせい:もらいび
もちもの:いのちのたま
能力値:特攻、素早さ振り
《もっているわざ》
あくのはどう
オーバーヒート
ヘドロばくだん
めざめるパワー(こおり)
◆【グランブル/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
あまえる
????
【メイドのコトリ 生存確認】
[ステータス]:不安
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1、みどりのかけら、ピッピにんぎょう
[行動方針]殺し合いには反対
1:ラグナに着いていく
2:ケイイチの様子が心配
◆【ラプラス/Lv50】
とくせい:ちょすい
もちもの:たつじんのおび
能力値:HP、防御、特攻、特防調整振り
《もっているわざ》
フリーズドライ
こおりのつぶて
なみのり
ぜったいれいど
◆【エルフーン/Lv50】
とくせい:いたずらごころ
もちもの:たべのこし
能力値:HP、防御振り
《もっているわざ》
ムーンフォース
やどりぎのタネ
みがわり
アンコール
【キャンプボーイのケイイチ 生存確認】
[ステータス]:気絶、頭部に怪我(甚大)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:殺し合い反対派
1:とにかく殺し合いを止めたい
2:ラグナ、コトリと行動
3:オーレンに恐怖
▽手持ちポケモン
◆【メブキジカ/Lv50】
とくせい:
もちもの:
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
ウッドホーン
????
◆【メタモン/Lv50】
とくせい:かわりもの
もちもの:こだわりスカーフ
能力値:HP、素早さ特化
《もっているわざ》
へんしん
【B-6/ソナイシティ/一日目/夕方】
【メルヘンしょうじょのシェリ 生存確認】
[ステータス]:健康、憎悪、絶望、悲しみ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]
1:何もかも壊してしまいたい
◆【ニドクイン(ママ)/Lv50】
とくせい:????
もちもの:なし
能力値:????
《もっているわざ》
なしくずし
のしかかり
だいちのちから
ばかぢから
◆【ニドキング(パパ)/Lv50】
とくせい:????
もちもの:なし
能力値:????
《もっているわざ》
なしくずし
あばれる
だいちのちから
メガホーン
以上で投下終了です。
投下乙です
ピッピ人形……それもしかしてギエゲフンゲフン
シェリの闇は深く救いの手も届かない…。果たしてどうなってしまうのか
先が気になる展開でした
便乗して少し人数が多いですが
キャンプボーイのケイイチ、バッドガイのラグナ、メイドのコトリ、メルヘンしょうじょのシェリ、ミニスカートのユカリ、
りょうりにんのオーレン、ポケモンブリーダーのミチオ、カラテおうのリキ、サイキッカーのイオナ
以上の面々で予約します
投下します
「あ、あの……あそこに、人がいますね」
「みたいだね」
モカとエイジの前方にいるのは、白いTシャツに白いハーフパンツを履いた男と、体操服にランドセルを背負った少年の二人。
間抜けそうな面構えをした男と、年相応の幼い顔立ちをした少年のコンビである。
人に遭遇するのは市街地に入ってからだと思っていたエイジだったが、これはこれでチャンスだろうと思考を切り替える。
――なにせ相手は間抜け面と年端もゆかぬ子供、これほど騙しやすい相手はそう簡単に出会えはしないだろうからだ。
「よし、まずはあの二人からにしよう。君はいつも通りに振舞って、余計なことは喋らないように。いいね?」
「は、はい……」
警戒はしておくに越したことはない。この場合は問題はないであろうが、それでも万が一ということは起こり得る。
人は見かけによらないと言うし、あの何も考えていなさそうな面構えの男が、実は天才肌のポケモントレーナーという可能性もある。
子供の方にしたって、無邪気な振りをしていて実は腹黒いという可能性だって有り得るのだし、用心はするべきだろう――さすがにあんな年齢の少年が、そうであるとは考えたくないが……
そんなことを考えながら前方の二人の方へ向けて歩いていくと、どうやら向こうも自分たちに気付いたようで、
「あ、あそこに人がいるゾ!」
「ほんとだ、お兄さん!」
間抜け面の男は何の警戒もすることなく、コチラを指差しながら大きな声で、自分たちの存在を隣にいる小学生に教える。
少年も無邪気にコチラに大きく手を振り、おーいとやはり大きな声で呼びかけてきていた。
殺し合いの場であるという緊張感を彼らは持ち合わせていないのか、あるいは純粋に誰かに遭遇できたことが喜ばしいことであるのか。
どちらにしても大した違いなどはないが、どちらにしても自分たちには好都合だ。
「すみません、貴方たちは殺し合いには乗っていないと見受けますが……」
「もちろん! 殺し合いをするなんてとんでもないですよ! ね?」
「そうだよ。当たり前だよなぁ?」
傍から見たら、一回り上の男が子供の発言に便乗したという風に見えるが、間抜け面の男は男で確固たる意思を持っているようである。
間違いなくこの男は殺し合い反対派で、確固たる意思とは対主催であろう。
成る程――面白い冗談だ。本人の戦闘能力すら皆無そうで、しかもポケモンバトルの知識すらロクに無さそうな――何なら機械についても付け足そうか、そんな間抜け面が対主催とは実に笑わせる。
ポケモンバトルに関しては自身が言えることではないにしろ、この程度の男が何かできるとは到底思えない。
これはポケモンに期待するしかない。ポケモンが使えるのであれば、まだこの男の価値はマシだったといえるだろう。
「それはよかった。僕の名前はエイジ。かいじゅうマニアのエイジです。コチラはオカルトマニアのモカ」
「モ、モカです……よろしく、お願いします」
隣にいるモカがお辞儀すると、慌てて間抜け面の男もお辞儀をした。
それを見て子供もお辞儀をする。ぎこちなさを感じる男よりも、自然な動作で少年はお辞儀をした。
――その動作にほんの僅かであるが、エイジは違和感を感じる。
格好からしてじゅくがえりで間違いないであろうこの少年は、しかし年齢と態度とは裏腹に、しっかりとしたお辞儀ができることに違和感を感じたのだ。
そういった子供はいないことはないであろうが、それにしたってお辞儀に入るまでの動作があまりにも冷静すぎやしないだろうか。
慌ててお辞儀をするのではなく、ゆっくりと体をこちらへ向け、正面を向いて相手を見据え、腕を横にしっかりと置いて、首を真っ直ぐに体を曲げ、数秒の間静止して、元の態勢に戻る。
はたして、ここまで完璧にできるものであろうか。
だがその違和感はエイジにとってほんの僅かで、少し気になった程度のことだったので、そんな子もいるだろうとエイジは片付けてしまった。
「ぼくひで。じゅくがえりのひでだよ」
「俺はからておうのミウラだゾ。よろしく頼むゾ」
少年の方は予想通りだとしても、ミウラが発した肩書きをエイジは頭の中で反芻し、虚を衝かれた面持ちでミウラの全身を見回した。
どこからどう見てもポケモンコレクターみたいな容姿――いや、それはポケモンコレクターに失礼だろう、だがそれくらいに、からておうに見えない服装をミウラはしていた。
とするならば、彼自身に戦闘能力は多少あるということなのか。
人は見かけによらないものだ――エイジはそう、心の中で呟いた。
◇◇
ミウラが指摘をする以前より、ヒデは二人の存在に気が付いていた。
黒のドレスを着た女性と、不健康な見た目と服装の男性の二人。前者はオカルトマニアだろうが、後者は――どの肩書きか服装からは掴めないので、トレーナーと仮称する。
現時点で分かることは、トレーナーの男がオカルトマニアの女をリードしているということだけだった。
ヒデは思案する――果たしてコイツらのスタンスは一体何であるのか、殺すならばどちらを先に殺すべきか。
後者は簡単な問いであるから抜きにするとして、はてさて彼らは利用価値のある駒であるのか、それとも愚かな人間であるのか、それが問題だ。
ミウラがどういう人間であるかを確認した時と同じく、どこかへ隠れて観察したかったのだが、残念ながらここいらに身を隠す場所は無かった。
それに身を隠す場所があったとしても、ミウラが疑問に思って行動が遅れるかもしれないので、どの道無理な話なのだが。
ならば取るべき行動は会話しかない。ミウラも気付いたようだし、あの二人と接触して観察をする――
「へぇ、からておう……ってことはそれなりに戦えるってことですかね」
「そうだゾ! その代り、ポケモンバトルは全く駄目だけど……」
どうやらトレーナーの男――かいじゅうマニアのエイジは愚かな人間だったようだ……オカルトマニアのモカはその愚かな人間に付き従う、奴隷のような存在であったが。
さっきから僕らが持っている情報を尽く引き出そうとしていて、現にミウラが正直に何もかも話してしまった。
といっても自分の情報は全く出してないので、実質ミウラの情報を引き出しているだけである――その情報も、役に立つ可能性は皆無のものばかりだ。
彼らにとって役に立つであろう情報は、ミウラが持つポケモン、ミウラの超がつくほどのバトル下手、そしてミウラ自体の戦闘能力、この三点だけだった。
特にミウラが話した中で――役に立たない話、例えば生い立ちとかを除く――1番深く掘り下げられたのはバトル下手に関することで、自身がどれ程下手糞かを事細かに語っていた。
本来ならば失敗談なぞ人に語るものではないだろうが、エイジが相槌を打ったり共感したりするお蔭で、ミウラはべらべらと自分の弱点を曝け出してしまった。
ミウラは友好を深める為に話をしているつもりなので、エイジの思惑に全く気付かない。
彼が、僕ら二人を殺そうとしていることに、気付かない。
(うーん、これすごくまずいぞ。さて、さてさてどうするべきかな……)
「俺とポッチャマは凄く仲良しなんだゾ!」
「そうなんですか。是非、見てみたいです。ミウラさんとポッチャマの友情」
そんな思考をしている内に、ミウラはエイジの口車に乗せられてポッチャマを召喚しようとしていた。
エイジの狙いはポッチャマを召喚した後に自身もポケモンを召喚し、強制的にバトルに持ち込むことであろう。
例えエイジもポケモンバトルは苦手というタイプの人間であろうと、それを下回る凄まじいバトル下手なので負けることはまずない。
加えてミウラの手持ちはハズレも良いところで、いや使い方が良ければ活躍するかもしれないが、ミウラの実力では到底不可能な話なので、勝つことはまずない。
ポケモンコンバータの使い方すら知らなかった程の男なのだ。僕が懇切丁寧に教えたから何とか使えるようになったものの、そうでなければ一体この男はどう生き残っていくつもりだったのか。
余談だが口出ししたらミウラの脳がパンクする恐れがあったので、どういう調整をしたら良いかについてまでは言わなかった。恐らく技の構成は、彼の趣味による物が多いだろう。
それはさておき、このままではミウラは負けるのはほぼ確定で、盾としての役目を果たすどころか果たす前に死んでしまう。
それはまずいだろう。コイツのような間抜けで使いやすくて、しかも戦闘能力がある人間など、この先会えるわけがない。
何としてでも死守しなければ――だがすでにミウラはポッチャマを召喚すべく、モンスターボールを地面に叩きつけようとしていた。
ちなみに僕の扱いはどうなるのかというと、まあミウラとバトルする前に殺されるだろう。とりあえずそれは、さておくべきことだ。
「だ、だめ! おにいさん!」
「あっ、おい!」
叩きつけられる前にヒデはミウラの手を掴み阻止。
ミウラは訝しげにヒデを見つめる。
「どうした? 急に腕を掴むなんて……」
「お兄さん、マズいよ。この人たちは僕らを殺そうとしてるよ。ポケモンは出しちゃ駄目だよ」
「そんなわけないゾ。もしそのつもりだったら、とっくにポケモンバトルが始まってるゾ」
「そうですよ。ミウラさんの言う通り、僕もその立場だったらそうします」
妙なところで正論を吐く男だ。だが、この男は普通ポケモンバトルのことしか考えていないのだろう、ヒデは溜め息を吐きたくなるが何とか堪える。
トレーナー同士は目と目が合えばバトルを開始しなければならないのが暗黙の了解だが、それはあくまでも暗黙の了解なだけで、ここでそんなルールなどは存在しない。
ポケモンを使った不意打ちだってあろうに、トレーナー全員がきっちりバトルの形式に則って勝負をするとでも思っているのか?
仮にとっくにポケモンバトルが発生したとしても、やはり普通のポケモンバトルではありえない、トレーナーを狙う技、不意打ちが発生するのは目に見えているだろうに。
頭を抱えたくなるヒデであったが、ともかく何としてでもポケモンバトルは避けたい。
どうにかして、どうにかやって、何としてでも、阻止しなければならない。
「大体会って僅か数分だよ? 数分の間にここまで根掘り葉掘り人のことなんか聞くわけないよ! 普通は今後どうしようとか、対策を練るんじゃないの?」
「言われてみれば、そうだな……?」
いやそうだろうよ。人の生い立ち何て聞いたところで、何にも役に立たないんだから、聞くわけないだろうに。
まあ、出会って数分で即会議も珍しいだろうが。それでもここまで友好的に接してはこないだろう。
というか、エイジ側からはまだ肩書きだけしか提示されてはいないではないか。
ともあれ僕の言葉を信用し始めたミウラであるが、しかし間抜けなこの男が話を理解するのには、かなり時間を有するであろう。
あまり悠長に物事を進めていたら、シビレを切らしてエイジが攻撃を仕掛けてくれるかもしれないので、ここいらで決めに入るとしよう。
「ねえ、危ないから早く何処かへ行こうよ……僕恐いよ……」
「あっ、泣くなよ、泣くなって……」
ここいらで泣けば子供っぽいだろうし、話を強引に進めることができると思ったヒデは泣く演技へと入る。
予想通りミウラはおろおろしはじめ、どうしたものかとエイジと僕を交互に見やり始めた。
この状態でエイジが不自然な行動をとれば、自分の言っていたことが虚構ではないということがミウラでも直ぐに分かるだろう。
そうでなければミウラは僕の意見を尊重し、彼ら二人から放れてくれるだろう。
「あ、あの……ヒデくん?」
「……う?」
しかし、全く眼中になかった方向から、予想だにしなかった発言が僕の耳に入ってきた。
この話には絶対混ざらないと思っていた、エイジに脅されて付き従うだけの存在だと思っていた彼女――オカルトマニアのモカが発言をした。
カモフラ程度の存在だろうと思っていた、なのに発言をしたというのは僕の中で衝撃であった。
良心の呵責に耐えきれなかったのか、エイジのための行動なのか、判断はできない。
「大丈夫ですよ……、そんな泣かなくても。エイジさんはそんなことをする人じゃないです」
泣く子を宥めるような声。僕からしれみれば、それは人を惑わす声でしかなかったが。
とはいえ、完全に目論見が外れてしまい、さてどうしたものかとヒデは思案する。
泣くのを止めて人を信じ始める言動にするべきか、泣き続けてその言葉を否定する言動をすべきか、ヒデは悩みに悩む。
ヒデが思考する間にも、モカは笑顔で言葉の続きを言う。
「だから、安心してください。私たちは貴方たちを殺したりはしませんから……」
「……ほんとう?」
悩んだ末にヒデがとった演技は、泣くのを止めて人を信じ始めるという演技だった。
恐らくエイジには不自然がられただろうし、警戒もされるであろう。だが、モカは気付いていない。
物事に少しだけ懐疑的だけれど、ただそれだけの年相応のメンタルの少年、その程度にしか思っていないであろう。
ここがつけ入る隙となるであろうし、この関係性は大切にしたいものだ。
それに、だ。
駒が二人も増えるというチャンスを、みすみす逃すほど僕も馬鹿ではない。
ミウラより思考できるという点では厄介だが、ミウラよりも信用できないのは駄目だが、いざとなればエイジだけを殺せば済む話で、そして負けるビジョンは思いつかない。
何故ならば、自身は選ばれたもの。主人公はストーリーを成し終えるまで死ぬわけがないからだ。
まあ本当のところ、よく考えたら背を向ければミウラはまだしも、僕が殺されるかもしれないという可能性に行き当たったから、仕方なくそうしたというだけなのだが。
◇◇
目論見が大きく外れたことに、エイジは心の中で憤慨していた。
ミウラがポッチャマを召喚したら、即座に自分もポケモンを召喚して、先に子供を殺して死体を回収してから、ミウラとポケモンバトルをするつもりであった。
ミウラの手持ちのもう一体はニョロボン、戦うにはさして問題ないポケモンだ。
だからポケモンバトルに持ち込んでしまえば、味方を無くしてやれば、勝てると思っていたのだが、まさか邪魔が入ってくるとは予想していなかった。
モカの咄嗟のフォローのお蔭で、何とか逃がさずに済んだからいいものの、逃がしていたら謂れのない悪評を流されていたかもしれない。そうならない可能性もあるが。
勘が良いのか、不安からくる妄想からなのか。子供だからという理由ならば後者で話は通るが、最初に感じていたほんの僅かな違和感が、形になって表れ始ているとエイジは感じた。
――まさかそんな可能性が現実に現れ始めるとは思っていなかったが。
からておうである男ではなく年端もゆかぬ子供に警戒をしなければいけないというのは、何ともおかしな話だが、この違和感を拭えない以上そうするしかない。
モカは気付いていないようだし、指摘しても意味はないだろう。
変に意識されてミウラに気付かれたら、それこそ本末転倒だ。
(……仕方ないミウラは利用するだけ利用して切り捨てる。ヒデは……早く殺さないと手遅れになるかもしれない)
まるで得体の知れない何かを相手しているようで、このままでは危険だと感覚が告げている。野放しにしていれば自分にデメリットしかもたらさないだろう。
どうやら引き寄せたのはチャンスではなく、災いの元であったらしい。
元である本人は、無邪気に笑うばかりだった。
【B-4/はらっぱ/一日目/日中】
【オカルトマニアのモカ 生存確認】
[ステータス]:精神疲労(中)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:死にたくない
1:エイジの指示に従う
※交換でエイジにオーダイルを渡しました
▽手持ちポケモン
◆【オーロット/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【???/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
【かいじゅうマニアのエイジ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:優勝する
1:無害な参加者を装いながら殺せそうな奴を殺していく
2:モカは一応守る。殺害も自身が主に行なって行く
3:できれば卵グループが怪獣のポケモンで手持ちを固めたい
4:ヒデを何とかしないとこの先マズいかもしれない
※交換でモカにオーロットを渡しました
▽手持ちポケモン
◆【オーダイル/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【カブトプス/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
【からておうのミウラ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:対主催
1:サカモトに立ち向かう
2:ヒデを家に送り届ける
3:エイジとモカと同行する
▽手持ちポケモン
◆【ポッチャマ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【ニョロボン/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
※技の構成は自身の趣味によるものが大きいです
【じゅくがえりのヒデ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:マーダー
1:ゲームに優勝する。
2:ミウラをとことん利用する
3:殺されない為に二人と同行
4:いざとなればエイジを殺す
▽手持ちポケモン
◆【ラティオス/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
◆【エンテイ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
???
???
???
???
投下終了です
>わるだくみ
心理戦勃発。温厚なミウラとモカに対して、互いに警戒をするエイジとヒデ。
すごくギリギリな関係のチーム、どう行動していくんでしょうか。
にしても、ミウラとヒデはパロディセリフを吐くだけで面白いですよね。
投下お疲れ様でした!
ビキニのおねえさんのヘンリー予約します。
ビキニのおねえさんのヘンリー投下します。
「この崖、世界レベルね……」
ビキニのおねえさんのヘンリーは見上げる。
目の前に聳え立つは先程、新しく出来た崖。
つうしんサーチャーを見た限り、近くには誰もいない。
「あの叫んでいた騒がしい男、全くとんでもないことをしてくれるじゃないの……!」
だが、あの騒がしいおっさんがいないのは運がいい。
あの騒がしいおっさんは世界レベルのパワーを持っている。
今のこの状態で戦った場合、確実に仕留められるのは自分の方だと確信した。
「さて……」
シンボラーにはねやすめを行わせて体力を回復をさせるか。
もしくはモンスターボールに戻してコンバータ入れるか、悩む。
時間を取るか、安全策を取るか、迷ったが……
「そういえば聞いたことがある……。
あの伝説のアイドルトレーナー、スター・ストロベリーはアイドル見習いのとき、崖を登ったことがある……らしい。
世界レベルのアイドルは自分の力で崖を登る……アイドルの世界において常識であるのは確かね」
ヘンリーは自力で崖を登ることを決意した。
シンボラーはボールに戻してコンバータにセットし回復させる。
ロッククライムを覚えるポケモンがいれば、楽に登れた。
しかし、それが出来るポケモンがいないために自力で登るしかない。
ちなみに先程、手に入れたポケモンは…………。
あの世界的な配管工にそっくりなポケモン! ダイノーズ!
月の妖精! ピクシー! 勿論、二匹ともロッククライムは覚えない。
「うーん、シンボラーとピクシーでマジックガードが被ってしまったわ」
これには少しヘンリーはがっかりするが。
仕方ないね、といった感じで気にしないことにした。
ないよりはマシである。とりあえず、二匹をボールに戻す。
そして、次にランダムアイテムを確認する。
最初に出てきたのは……
「黒い鉄球じゃないの……重っ!」
そりゃ重いよ。当然、黒い鉄球だもの。
どんな飛行ポケモンでも地面に撃ち落とすくらいに重いよ。
音速で動けるポケモンもゆっくりになるくらい重いよ。
そんなものを持ちながら崖登ったら余計疲れるさ。
だから、ダイノーズをもう一度ボールの外に出し、黒い鉄球を持たせてボールに戻す。
「さて、あと一つね……出来れば世界レベルのアイテムが出るといいわね」
まるで抽選のようである。
そして、出てきたのは……
「きちょうなほねだわ!! 微妙すぎる!! カントーレベルね!!!」
これまた微妙なアイテムが出てきた。
これはホントに使えそうにないが、一応持っておく。
そして、ヘンリーは崖を登り始めていく。
右足を僅かな出っ張りにかけて、身体を持ち上げる。
右手、左手、左足と確実に上がっていく。
安全綱なしのロッククライミング。
下は極力見ないで行く。
そして、約10分後。
世界レベルの速度で崖を難なく制覇した。
しかし、結構の速度で登ったがため、手はボロボロ、身体に擦り傷と。
ヘレンはかなり痛々しい姿になってしまった。
さらに何とも言えない空腹感があった。
「ここで貴重な食料を失うわけにはいかないわ」
与えられた食料は一日分。
たった一日分である。
そこでヘンリーが取った行動。
「ピクシー、『タマゴうみ』よ!」
『ピッ!』
ピクシーをボールから出して、指示を出す。
食料が無ければポケモンに出してもらえばいい。
共生とはそういうことである。
「栄養価はあるわよね、きっと」
ラッキーのタマゴ。
ヤドンのしっぽ。
ミルタンクのミルク。
と、数々食べてきたが、ピクシーのタマゴは初体験だった。
「では、いただくわ……」
タマゴの殻を割り、中身を一気に食す。
タマゴの中身は口の中を一気に駆け巡っていく。
「……ゥンまああ〜いっ!
こんなタマゴは食べたことはない……!
まさに……これこそが真の世界レベルね……!」
大満足だった。
自分の体力もかなり回復した。
「ごちそうさまでした」
満足したところでヘンリーはピクシーをボールを戻す。
そして、コンバータにセットした時、ある衝撃的なことに気付いてしまった。
シンボラー♀ Lv50
ダイノーズ♀ Lv50
ピクシー♂ Lv50
ピクシー♂
♂
「このピクシー……♂じゃないの!!!!!!!!」
ピクシー♂でもタマゴが産める。
カントーのタマムシシティではよくあることです。
「ま……いいわ」
だが、気を取り直す。
こんなことで止まっていられないからだ。
「この格好じゃちょっとまずいわね」
夜になったら冷えて体力が奪われるのは目に見えている。
だからこそ、早めに服を手に入れる。
世界レベルのビキニ姿を見せつけられないのは残念だが、死活問題になるまえに動く。
そして、ビキニのおねえさんのヘンリーの選択は……
「服が手に入りそうな場所は……ここの近くだと南の街かしらね」
【A-1/崖の上/一日目/日中(もうすぐ午後)】
【ビキニのおねえさんのヘンリー 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)、軽傷
[バッグ]:基本支給品一式、きちょうなほね
[行動方針]こんなちっぽけな島で終わらないために、
1:私こそが世界レベル
2:あの騒がしい男を要警戒。
▽手持ちポケモン
◆【シンボラー♀/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの:かえんだま
能力値:????
《もっているわざ》
サイコシフト
はねやすめ
コスモパワー
アシストパワー
◆【ダイノーズ♀/Lv50】
とくせい:がんじょう
もちもの:くろいてっきゅう
能力値:
《もっているわざ》
????
????
????
????
◆【ピクシー♂/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの: なし
能力値:HP、特攻振り
《もっているわざ》
ムーンフォース
だいもんじ
かみなり
タマゴうみ
投下終了です。
>SEKAI NO LEVEL
自力で崖のぼりとかガッツあり過ぎィ!
いやぁ、もう…面白かったです、怒涛の小ネタに思いっきり吹きました。
果たしてヘンリーは、世界レベルの服を見つけられるのか……!? 展開が期待されますね…!
投下お疲れ様です!
延長お願いします
トリップ間違えました…。改めて延長お願いします
すみません、期限までに一部キャラの到達パートまで辿り着けそうにありませんでした
なのでラグナ、コトリ、ケイイチ、シェリの4人分を予約から取り除き、
ミニスカートのユカリ、りょうりにんのオーレン、ポケモンブリーダーのミチオ、カラテおうのリキ、サイキッカーのイオナ
以上の5人の登場パートまでを投下させていただきます
「なるほど、気持ち悪いオカマのカラテおうね」
「…えっと、はい」
道を行くのは筋肉質の男とミニスカートの少女。
名をそれぞれオーレンとユカリという。
時を遡ること数分といったところだろうか。
道に添って南下していたオーレンの目の前を、一匹のポケモンが横切っていったのだ。
意識のない少女を抱きかかえて。
声をかけて呼び止めてみたがポケモン、バクフーンは警戒していたようでこちらに近寄ろうとしなかった。
しかし抱きかかえた少女の様子を見て、傭兵時代の知識を生かした処置を施したらやがて目を覚ました。
少女の症状自体は首を絞められたことによる酸欠が意識のない原因だったが命に関わる前に解放されたらしいことが幸いだったようだ。
そして殺し合いに乗っていないという少女、ユカリの言葉を信用してオーレンは同行させることを決めた。
「からてオウ、なるほど。その男個人の力量としてもバトルのやり方としても、実際にやりあえばワテクシでもそう簡単な相手にはならないでしょうね」
「………」
「あら?どうかしたのかしら?」
「…いえ、何でも」
ユカリは少し頭を抱えたいと思ったことがあった。
目の前のオーレンという男。
自分を助けてくれたこともあるし悪い人ではないのだとは思う。
思うのだが。
(ここの男性ってこんな人しかいないのかしら……)
その喋り方といいちょっとした仕草といい。
先のキョウスイという男とかなり近い属性を持っているようにも感じられているように思えた。
それが頭を抱えたいとユカリが思った理由だ。
(悪い人じゃ、ないんだろうけど…)
「それにしても、最初の不意打ちを避けられるかどうかで仲間にするかを決める、ね。
確かにある意味では合理的な判断ね」
「…そうなんですか?」
「あら、そこに疑問を持つようじゃあなたもまだまだよ。
私達がいる場所は殺し合いなの。ポケモンバトルなんてお遊びに夢中なだけの人じゃ、確かに生き残るのは難しいわ」
「…ポケモンバトルが遊び……?」
それが聞こえてきたのは、ユカリが目の前の男が悪い人ではないという判断を下したその時だった。
「ええ、そうよ。あんなの本当の戦いってものを知ってる人からすれば、子供の遊びでしかないわ」
「…っ」
聞き間違いだと思いたかった。
しかし聞き返した結果返ってきた言葉は変わらなかった。
思わずオーレンの服の裾を掴むユカリ。
「何かしら?」
「今の言葉は取り消してください…。ポケモンバトルは遊びなんかじゃない、トレーナーの皆は真剣に取り組んでいるんです…!」
「あら。じゃあこう言うべきかしらね。ポケモンバトルなんて遊びに真剣に取り組んでいる、って」
「…!違います!
おじいちゃんもおばあちゃんも、ポケモンバトルに自分の生涯をかけて取り組んできたんです!
それだけじゃない、私だって他のみんなだって、ポケモンや自分と向き合って真剣にやってるんです!
それを遊びだとか、あなたは本当にポケモントレーナーなんですか!?」
「残念だけど、私はポケモントレーナーじゃないわ。本職はパティシエってだけの、ただの人間よ」
「だったら、そんな見下したようなこと言わないでください!何も知らないくせに!」
オーレンの言葉に、祖父母の生涯すらもバカにされたように感じたユカリは思わず声を荒らげて怒鳴っていた。
それまではちょっと口調の変わった、だけどいい人じゃないかと思っていた矢先のことだった。
それだけに、不意打ちのように口走られたそんな言葉には冷静な対応ができなかった。
「何も知らないくせに、ね」
すると、ユカリには一瞬オーレンの目が変わったようにも感じられた。
それまではまだ穏やかなはずだったその目が鋭く、まるで戦場を走る兵士のような瞳に。
「じゃあ一つ聞くわよ。
この子、私のポケモンでニダンギルっていうんだけど」
と、オーレンは自分の持っているボールを開く。
そこから現れたのは二本の剣の形をしたポケモン、ニダンギル。
ユカリもつられてブラッキーを呼び出す。
「もしこの子と対峙した場合、あなたならどうするかしら?」
「それは…、とにかくそっちの攻撃に耐えて反撃の隙を作ります」
今のブラッキーではニダンギル相手にはそう有効打はないだろう。
だがそうならば威張るからのイカサマでダメージを積み重ねていくか、あるいは鈍いを積んでのしっぺ返しといった手が有効になりそうだ。
「なるほどね。それがポケモントレーナーの判断ってこと。
だけど、私ならそうやって色々考えてるあなたを、……こうするわ」
と、オーレンはニダンギルを備えた状態でブラッキーを素通りしてユカリの元に急接近。
その眼前にニダンギルを突きつけていた。
「あなた達がポケモンにどういう指示をするかってことを考えてる間に、ワテクシはあなた達にこうやって攻撃を仕掛けることはできるのよ?
そうなった場合、あなたは適切な対処が取れるのかしら?」
目の前に突き付けられた明確な形をした死の恐怖。
初めて目の当たりにするそれに思わずユカリは言葉を失う。
「さっき戦って子も、ポケモントレーナーとしてはすごかったのかもしれないけど、それでもこうした事態には全然対処できてなかったわ。
だからワテクシにとってあなた達のバトルってのはお遊びなのよ」
「……っ、でも、ポケモンは、ポケモンバトルは人を殺すためにあるんじゃないです!」
「あなた達にとってはそうかもしれない。だけどあのサカモトって男はこんなポケモントレーナーじゃないワテクシみたいな人間も参加させてる。
つまりは、こういう手段も許容されているということよ。
それを認識できない発想がすでにあなた達ポケモントレーナーの貧困な感性を物語っているの。だから」
あなた達のポケモンバトルは遊びなのよ、と。
そうオーレンは言う。
しかしその言葉に、ユカリははい、と頷くことはできなかった。
確かにオーレンの言うことは正しいのだろう。
ポケモンバトルの常識だけでは測れない、殺し合いならではの事態が起こり得る。それは既に身を持って体験したことだ。
だが、例えそうだとしても、ポケモンは殺し合いの道具でもなければ、ポケモンバトルは殺し合うための手段ではない。
そんなことをするために、これまでポケモンバトルの勉強をしてきたわけではないのだから。
「……まだ色々言っておきたいこともあるけど、それは後回しよ。お客さんのようね」
と、オーレンがニダンギルを手から離したその時。
足音と共に現れた一人の女がこちらへとボールを掲げた。
そこから姿を見せたのは、黄色い体に長い髭をたたえ、両手にスプーンを持ったエスパーポケモン。
「サイコキネシス!」
指示と同時に、オーレンとユカリに強力な念力がぶつけられる。
しかしニダンギルとブラッキーを出していたことが幸いし、その2匹がそれを受け止めたことで事無きを得た。
思わず前に掲げた手を下げ、相手を見据える二人。
「どうやらあの子はやる気のようだけど、あなたはどうするのかしら?」
「戦いますよ…。私だって、まだ死にたくなんてないですから。
ブラッキー、お願い」
「ブラッ!」
フーディンを連れた女・イオナと、オーレン・ユカリのコンビによるポケモンバトル、いや、命をかけたバトルが始まった。
◇
「イオナ…。どこだ……!」
その頃、イオナを止めるために彼女を探すリキは、開始地点から周囲を走り回りながら駆けていた。
彼女がその手を血で染める前に止める。
もし殺してしまえば、彼女は戻ることができなくなる。
自分のために他者を殺した事実に押し潰されてしまうだろう。
それは自分がよく知っている。
そんな風に壊れていく彼女を見せられながら生き永らえたいなどとは思っていない。
だからせめて彼女が誰かと出会う前。最悪でも誰かを手にかけてしまう前に。
イオナを止めなければならない。
気持ちだけが先走り、しかし一行に彼女の姿は見つからない。
「……落ち着け、焦りは心を乱すと教えられてきただろう俺……」
と、一旦心を落ち着けるため足を止めて目を閉じ、意識を集中させる。
乱れた心を落ち着かせ、正常な判断を行うことができるように。
心から焦る想いが少しずつ消えていっている、その時だった。
ガサッ
「…!イオナ!?」
突如聞こえた、何者かの足音に気をとられ、そちらに意識が向かうリキ。
しかし現れたのは一人の男だった。
「あ、悪い。何か取り込み中だったか?」
気さくそうに話しかけてくる男。
服装から判断するにポケモンブリーダー辺りの男だろう。
「いや、大丈夫だ。俺はカラテおうのリキ。あんたは?」
「俺はポケモンブリーダーのミチオだ」
「…そうか。ミチオ、いきなりで悪いが一つ聞きたい。
イオナっていう人と会わなかったか?」
そう言ってイオナの特徴を伝えるリキ。
しかしミチオはそんな人には会ってないという。
「悪いな、俺もあんたで会うのは初めてなんだ」
「そうか…。いや、いいんだ。
俺もイオナ以外で会ったのはあんたが初めてだったからな。
もしあのサカモトの言う通りポケモンで襲ってきたらと思ってたから安心したよ」
「そうか」
「それじゃあ俺は行くけど、あんたも気をつけるんだぞ」
そう言って、ミチオに背を向けて走るリキ。
もし普段のリキであれば、こんなところでも気を抜くことはなかっただろう。
だが今の彼はまだ僅かに心に焦りを残していた。一刻も早くイオナを探しに行かなければならないという焦りを。
それ故に、ただほんの少し情報交換を行っただけの相手に、無警戒に背を向けてしまった。
本来なら分かっていたはずだった。
人がどんな笑顔を浮かべていようと、その裏ではどんな感情を秘めているのか分からないことを。
イオナを苛めてきた人間の、自分と彼女に対する見せる顔が全く違っていたことからも。
ただ、この時はその心の僅かな隙が気付かせてくれなかった。
「――――サイコショック!」
その声が聞こえてくるまでは。
◇
怒りと苛立ちに包まれていたミチオだったが、しかし彼が冷静さを取り戻すにはそう時間はかからなかった。
だがそれはあくまで一旦感情を落ち着けたというだけであり、本質的な想いは心に潜ませたままだ。
だからこそ、ミチオはただむやみなバトルを仕掛けるのではなく、まずは相手をよく観察し情報を集めてからバトルを仕掛ける。そんなやり方を選んだ。
そうして歩むミチオの目に入ったのは、一人の道着の男。
一応気付かれないようにするつもりではあったものの、うっかり物音を立てたせいで気付かれてしまった。
もし先のケンジとバトルをする前の彼であったならば、そのままポケモンバトルを仕掛けていただろう。
だが、その結果先のような手持ちの多い不利な相手にバトルを仕掛けてしまった。
あのような失態はもうしたくなどない。
だから、今考えたことを有言実行に移した。
心に秘めた闇を抑えて、子供時代の愛想のいい顔を使って、相手に接したのだ。
そして、相手・リキは言った。
彼自身の探し人以外では会ったのは俺が最初、と。
つまりはポケモンの手持ちは2匹より上という可能性は低いということだ。
無論、そのイオナとかいう女から受け取ったという可能性自体もゼロではない。
だからこそ、確実な勝利のために相手がこちらに背を向けたその瞬間を狙った。
「―――サイコショック!」
サーナイトを呼び出すと同時に指示を送り。
瞬間、念力が固体化した粒子がリキの背に飛びかかっていった。
声に反応して咄嗟に飛び退るリキ。
しかし完全に避けきることはできず、腕や腹部を掠ったサイコショックがリキの顔を歪ませる。
「ちっ、外したか」
「…何のつもりだ?」
「見りゃ分かるだろ。せめて今のをまともにくらってくれてりゃあんまり苦しませずに死ねたのにな」
脇腹と腕を庇いつつ立ち上がったリキはボールを取り出す。
「まあ失敗したものは仕方ねえ。ほら、出せよ。ポケモン持ってるんだろ?」
不意打ちに失敗してしまった以上はやり方を本来の戦いに変更する。
ポケモンバトルによる勝利、そしてその報酬として相手のポケモンを奪う。
先のケンジという男だってやっていたことだ。
「先手必勝だ、サーナイト鬼火!」
リキがモンスターボールを投げると同時、サーナイトの放った鬼火が現れたポケモンに直撃。
怪しい霊気を纏いし炎が、現れたポケモンを火傷状態に追い込む。
「リ、リッキ……」
「げっ、カイリキーかよ」
そこに現れたのは4本の手を持つ格闘ポケモン、カイリキー。
相性からすればサーナイトには完全に有利であり、さらに火傷状態に追い込んだ今ならば倒すことはそう容易くはない。
カイリキーの特性が根性、状態異常に追い込まれると攻撃力を上げるものでさえなければ。
「サーナイトのトレース……。ハ…!何だ、驚かせやがって。根性じゃなくてノーガードか。
まだ俺は運には見放されてないみたいだな!」
火力の落とされたカイリキーで、サーナイトを倒すことはほぼ不可能といってもいいだろう。
己の幸運に笑うミチオ。
「サイコショックだ!」
「バレットパンチ!」
サーナイトの放った粒子がカイリキーを打ち据えるより速く、弾丸のごとき素早いパンチがカイリキーの拳から放たれる。
鋼のごとき硬度を持ったその拳は、フェアリータイプのサーナイトには効果抜群となる威力。
しかし火傷状態のそれは、サーナイトにとっての致命打には成り得ない。
返すサイコショックがカイリキーの体に打ち付けられ、カイリキーは倒れ伏す。
「カイリキー!」
「サーナイトにカイリキーを出すなんて、あんたポケモンバトル下手なんじゃないのかぁ?
ほらほら、もう一匹のポケモンも出せよ。それくらいは待ってやる」
「……お前は何故こんな戦いに身を投じている?」
カイリキーをボールに戻しつつ、ふとリキがそんなことを呟いてきた。
「ああ?このゲームはそういう決まりなんだろ?
ポケモンを使ってバトルして、相手を殺してポケモンを増やす。
一体何がおかしいんだよ?」
「貴様!そんなことのために人の命を奪うつもりか?!」
「何々?あんたそういう正義感ぶったこというクチ?
そういうやつってさ、無償に腹が立つんだよ」
ミチオはこういう正義感ぶったことを言うやつが偽善者にしか思えない性質だった。
こういう、正しさを見せてしかも強いようなやつはいつだって集団の中では皆に認められる存在だ。
だがそういうやつこそ、俺のことを決して見はしない。
いじめられているなら助けを寄越しはするだろう。しかし最初から誰にも触れられないような存在はハナから相手にはしない。
だから、こういう男は嫌いだった。
「ほら、何ならアンタの言ってたイオナとかいう女。そいつも殺してポケモンを奪ってやろうか?」
「………」
イオナ、という女の名前を出した途端、リキの戦意が増しているように感じられた。
なるほど、そういう仲か、とミチオは察しを入れる。ますます気に入らない。
「お前は、どこまでもそんな下衆の道を行くというのだな…」
「あぁ?」
「ならば、お前はここで俺が止める!
イオナのためにも、そしてポケモン達のためにも!」
リキにはサーナイトの瞳に混じった悲しげな色が見えていた。
下衆なトレーナーだ、ポケモンに対する扱いもそういいものではないということだろう。
「能書きはいい、早くしろよ」
「俺の心に悪を砕く力があるのなら――――」
リキはもう一つのボールをコンバーターから取り出し。
「聖なる剣よ、俺に力を貸してくれ!
鉄の心を持ちし鋼のポケモン――――」
投げられたボール。
その中から現れいでしは。
「キシェァァァァァァァァァ!!!」
「なっ…、このポケモンは……」
青い体に鋭く硬い角を備えし四足のポケモン。
それはイッシュに伝わりし伝説の三闘獣が一匹。
てっしんポケモン、コバルオン。
「伝説クラスのポケモンだと…!?」
準伝クラス。高い能力を備えた、600族にも匹敵しうる力を備えたレアポケモン。
そんなポケモンまで支給され、それがよりにもよって自分の相手していたはずの者に支給されている事実に驚愕するミチオ。
しかし慌てつつもバトルは継続中であることを忘れていなかったミチオはサーナイトに指示を送る。
「お、鬼火!」
「遅い!アイアンヘッド!」
サーナイトが鬼火を放つより早く、コバルオンのアイアンヘッドが炸裂。
鈍くも激しい音と共に吹き飛ぶサーナイト。
地に倒れ伏すサーナイトに怒鳴りつけるミチオだったがサーナイトに戦う力が残っていないのは火を見るより明らかだ。
やがて自然にボールに回収されていくサーナイト。
顔を歪めながらもう一匹のポケモンを呼び出す。
ボールから現れたポケモンはピチュー。
もしサーナイトさえ戦えるならばまだ勝ち目はあっただろう。しかしピチューだけとなった今では勝ち筋が見えない。
「ピチューか…。俺も無用な殺生は好まない。
悔い改めて、正しく生きようというのなら見逃してやる」
コバルオンの放つ威圧に怯えるピチューを前に情けをかけるリキ。
その言葉を聞いて、ミチオの心中は悔しさと憎悪といったどす黒い感情が渦巻き始めていた。
(何でだよ、何でこんなのばっかりなんだよ…!
ピチューなんか支給されるわ、相手のポケモンは多いわ、挙句の果てに伝説まで相手させられるとかよぉ……!)
にが虫を噛んだかのような表情でその悔しさに耐えるミチオの心中をリキは読み取ることができず。
戦意を失ったのだと考えたリキはやがてコバルオンをボールに戻してミチオに背を向けて歩き始めた。
その様子を見ていたミチオの中で、どす黒い感情は一つの意志を形作っていた。
(……お前もかよ。お前も俺のことなんか取るに足らねえ空気みたいなやつだって思ってんだろ。所詮その辺の石ころくらいにしか見てねえんだろ……。
殺してやる、殺してやる、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、殺す!)
それは殺意。
積もり積もった境遇が、曲がりなりにもポケモントレーナーであるはずの彼に一つの行動を取らせていた。
まだボールに戻っていないピチュー。
それに対して。
「ピチュー、でんじは!!」
一つの技を指示した。
対象は、こちらに背を向けたままのリキ。
◇
「きあいだま!」
「ブラッキー、まもる!」
フーディンの放つ輝きの球をブラッキーは完全に防ぎきる。
しかしブラッキーは守ったが故の隙を晒してしまう。
「もう一回、きあいだま!」
「ブラッキーなら耐えられるはず…。バークアウトよ!」
ブラッキーの耐久ならば高火力とはいえ不一致のきあいだまくらいは耐えられる。
そう踏んでいたはずだったのにきあいだまを受けたブラッキーは立ち上がることができなかった。
どうやら今の一撃が急所に当たってしまったらしい。
「ブラッキー…!戻って!」
「サイコキネ……、!!」
と、技の指示を出そうとしたところでイオナは後ろに振り返り眼前に手をかざした。
そこにいたのは、ニダンギルを構えて突撃をかけるオーレンの姿。
「その力…、あんたサイキッカーだったのね…」
ニダンギルを構えた腕を念力で抑えられ身動きの取れないオーレン。
しかしイオナにとってもその腕力を押さえつけるだけで精一杯の状態。
フーディンに指示を出すこともままならない。
「バクフーン、お願い!」
そんな間にユカリはもう一体のポケモンを呼び出していた。
やる気に満ちているのか、バクフーンの背の炎が勢いよく燃え上がる。
イオナの指示を待って動けないフーディン。
そこに向けてバクフーンに指示を送る。
「岩なだれ!」
「っ…、リフレクター…!」
指示が間に合い、フーディンの眼前に張られた障壁が降り注ぐ岩の威力を軽減させる。
「全く、仕方ないわね。このままじゃラチが開かないわ。
ワテクシも手を貸してあげるわよ」
そんな戦いの様子を見ていたオーレンがニダンギルを下げ、ボールを投擲。
中からは先のバトルでリゼから回収したポケモン、マンムーが現れる。
バクフーンとマンムー。さらにオーレンはニダンギルを携えて攻め込んでくる。
いくらイオナ自身に強い超能力があるとは言っても対処しきるには限度がある。
一人でどれだけ対処しきれるかは分からないが、ここはもう一匹のポケモンも出すべきか。
と、モンスターボールを取り出そうとしたその時だった。
「……!」
不意に、イオナの脳裏を嫌な予感が通り過ぎた。
サイキッカーである彼女が極稀に感じることがある、いわば虫の知らせのようなもの。
気のせいかもしれないはずの何か。
しかしイオナの中の何かが、それを無視させはしなかった。
「フーディン!テレポート!!!」
焦るように指示したそれは、戦闘離脱のための技。
それを受けたフーディンは手に持ったスプーンを折り曲げると同時にテレポートを発動。
ユカリとオーレンの目の前で、一人と一匹の姿が掻き消えた。
「逃げた…?」
「何だったのかしら、全く」
持っていたニダンギルを下げ、周囲を見回すオーレン。
逃げた、と思わせて不意打ちを行うというのは戦場ではそう珍しいやり方ではない。
しかしそんな心配も杞憂であったと悟るにはそう時間はかからない。
周囲からあの女の気配がなくなったことを確認し、ポケモンを揃えてボールに戻す。
「…あの、ニダンギルを持ってるなら普通に攻撃した方が良かったんじゃ……」
「あら、そうだったのかしら。ワテクシポケモンバトルにはあんまり詳しくないのよね」
ともあれ、逃げた彼女をどうするか。
追撃して倒すべきか、それとも下手な深追いは避けて一旦態勢を整えるべきか。
ふと隣の少女に目をやる。
先の戦いで一匹のポケモンが戦闘不能となり残りの手持ちは一匹。
貴重な協力者を失う可能性と逃げた少女を見過ごす危険性。
それを脳内で天秤にかけ。
そんな時だった。
道の先、そう遠くない場所にあるらしい廃墟。
その辺りから何かを砕くような轟音が響いてきたのは。
それも一度や二度ではない。
幾度も幾度も、岩を砕き地を揺らすかのような衝撃が周辺一帯に響いている。
「何の音なの…?」
「これは戦場の臭いね」
轟音の先の廃墟を見据えて呟くオーレン。
きっとこの先にポケモンを使って破壊を行っている何者かがいるということなのだろう。
そして、おそらくはそこにはその破壊者に襲われている人が存在する可能性もある。
それが殺し合い打破の力と成り得る者であるならば見捨てる理由はない。
「あなたはここで待っていなさい。あの先はきっと本当の戦場になっている、半端な覚悟の子が向かえば、死ぬわよ」
その通りだろう。
ポケモンに殺しをさせる勇気も、相手を自分の手で殺す勇気もない。
あのような場所に向かえば、さっきのキョウスイのような危険人物と遭遇する可能性だってある。
そんな相手に、迷ったままの自分が戦えるとは思えない。
「………私も、行きます」
それでもなお、ユカリはオーレンについていくと、そう答えた。
確かに覚悟はない、勇気もない。
だけど、戦う以外のできることはあるはずだ。
元より自分の得意分野は支援、防御専門。それを生かす手段だってきっとある。
そして何より、このオーレンに舐められたままでは気分のいいものではない。
「仕方ないわね、なら自分の身は自分で守りなさいよ!」
「分かってます!」
こうして二人の人間が、崩壊を続ける廃墟へと駆けて行った。
【りょうりにんのオーレン 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3(自身2、リゼ1)
[行動方針]:対主催過激派
1:主催に立ち向かうための同志を集める
2:ぼうや(ケイイチ)が心配
▽手持ちポケモン
◆【ニダンギル/Lv50】
とくせい:ノーガード
もちもの:しんかのきせき
能力値:均等振り
《もっているわざ》
せいなるつるぎ
シャドークロー
きりさく
つじぎり
◆【マタドガス/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:なし
能力値:均等振り
《もっているわざ》
えんまく
ヘドロばくだん
どくびし
ちょうはつ
◆【ランクルス/Lv50】
とくせい:さいせいりょく
もちもの:きれいなぬけがら
能力値:HP、特防特化
《もっているわざ》
サイコキネシス
きあいだま
リフレクター
でんじは
◆【マンムー/Lv50】
とくせい:あついしぼう
もちもの:かいがらのすず
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
じしん
つららばり
こおりのつぶて
ストーンエッジ
【ミニスカートのユカリ 生存確認】
[ステータス]:気絶、バクフーンに乗り移動
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[行動方針]:死ぬ気はないけど……
0:気絶中
1:とりあえず他の人を探す
2:キョウスイに恐怖
▽手持ちポケモン
◆【ブラッキー/Lv50】
とくせい:せいしんりょく
もちもの:メンタルハーブ
能力値:HP、特防振り
《もっているわざ》
まもる
ふるいたてる
バークアウト
バトンタッチ
※瀕死状態です
◆【バクフーン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:シュカの実
能力値:???
《もっているわざ》
いわなだれ
???
???
???
◇
こんな気配は過去一度だけ感じたことがある。
昔、リキが空手の試合の前日に僅かに体調を崩していたことがあった。
周囲の人間は止めたが、その日の試合はポケモンジムに成り損ねた道場の顔を保つための重要な一戦ともいえるもの。
無理をしながらも出発する彼の背中に、妙なざわつきを感じていた。
一見普段と変わりないように見えて、ほんの僅かな体調の不具合さを見せていたリキ。
試合には辛くも勝利こそしたものの、翌日体調を大きく悪化させ入院することになった。
体調を崩しながらも試合に出たリキの様子を少しだけでも見に行こうとして、家を出たところでバタリと倒れたあの瞬間。
その光景は忘れられない。
医師の診断ではもし無理をせずその試合を休みさえすればここまでの悪化はしなかっただろうとのことだったらしい。
それを聞いて私は、もしあの時リキが試合に出ずに休むように言っていればこうはならなかったんじゃないか、と。
あの時胸の中でざわつきを感じたその時に止めていれば、と。
それ自体はあくまで思い出の一つにすぎないほどの出来事。
そして私は今、それを越えるようなざわつきを感じていた。
この殺し合いという環境の中でそれを感じること、その意味は。
(……お願い、間に合って………!!)
◇
ゲシッ、ゲシッと。
何かを殴り、蹴り飛ばすような音が響く。
大柄のリキが地面に這いつくばり。
その体を蹴り飛ばしながら腕を掴みあげているミチオの姿がそこにあった。
曲がりなりにもほとんどのポケモンの身体機能を麻痺させる補助技、電磁波。
いくらピチューのものと言ってもそれが人に向けて放たれたのであれば、多少の体格差など覆すほどのものとなってしまう。
空手王としての技量もその状態で発揮できるはずもなかった。
「このやろう!そのボールを寄越せ!」
「ぐ……」
腕に握りしめられたコバルオンのボールを奪い取ろうとするミチオ。
それでもリキは必死にそのボールが奪われることを拒んで抵抗していた。
「早く寄越せ!オラ!」
そんなリキの体を、ミチオは幾度となくその体を蹴り、殴り飛ばす。
それでも必死で抵抗していた。
このボールのポケモンが強力なものであることはリキには分かっていたから。
もしポケモンが奪われれば、きっとイオナの命を脅かすものともなるだろう。
その、彼女に対する想いだけがリキの手の内のボールを奪わせることに対する抵抗力の源となっていた。
だが、現実にはそれだけでは麻痺した肉体では奪われるのも時間の問題、もう一要素あれば崩れてしまうほどのものでしかなかった。
やがて、全く手を離さないリキに焦れたミチオは地面に落ちていた拳大の石を掴みあげ。
―――――――ゴスッ
頭に叩きつけられたそれは鈍い音を響かせた。
痛みに呻き声を上げたリキの手から力が緩む。
しかしそれでも手を離さないリキの頭に、更に2度石を振り下ろし。
握りしめられていた手から、ボールが転がり落ちた。
それを急いで拾い上げたミチオは、コバルオンをボールから呼び出す。
「やった…、俺にもついに伝説のポケモンが……!」
伝説のポケモン。
ブリーダーとして仕事をしていれば、ミチオとてそういうポケモンを持っているトレーナーに会うことは幾度かあった。
サンダー、ライコウ、スイクン、レジアイス、ユクシー、クレセリア、ランドロス。
無論、そんな彼らを見るそういうやつに限ってミチオにない独特の輝きを持っている者達ばかりであったし、それがまた羨ましくもあり妬ましいものでもあった。
その輝きがないが故かはたまた別の要員かは分からないが、自分の目で伝説のポケモンに遭遇することは一度とてなかったのだ。
そんなポケモンの一匹が、今自分の手持ちにある。
「えっと…、技構成は……、よし、試してみるか。コバルオン、せいなるつるぎ!」
そう指示を送ると、コバルオンの頭から輝く光の角が出現。
周囲にあった一本の樹の幹をバサリ、と切り倒していた。
激しい音を立てて倒れる大木。
だが、木は倒れ終わったにも関わらずまだ地響きが止まっていない。
耳を澄ますと、どうやらこの先の廃墟から聞こえている音の様子。
「暴れてる奴がいるってことか。こいつと俺の力を示すには絶好の機会じゃねえか」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべながら、コバルオンの背中に乗る。
もう地面に倒れているトレーナーには目をくれることもない。
「行くぞコバルオン!俺たちの姿を、あそこにいる奴らにも焼き付けさせろ!」
そう叫び、コバルオンを走らせた。
古代、人間同士の戦いに巻き込まれたポケモン達を導く役割を担った聖剣士の一角たるコバルオン。
その向かう先にあるのは、崩れる廃墟の中で起こっている戦い。
【B-6/はいきょのまち/一日目/午後】
【ブリーダーのミチオ 生存確認】
[ステータス]:健康、怒り
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1
[行動方針]優勝狙い
1:優勝してこのバトルロワイアルの主役になる
2:廃墟に乱入してコバルオンを操る俺の姿を焼き付けさせる
3:研究員の男(ケンジ)に強い憎しみ
▽手持ちポケモン
◆【ピチュー】
とくせい:ひらいしん
もちもの:きあいのたすき
能力値:おくびょうHS
《もっているわざ》
でんじは
アンコール
ひかりのかべ
いばる
◆【サーナイト】
とくせい:トレース
もちもの:オボンのみ
能力値:おくびょうCS
《もっているわざ》
ムーンフォース
サイコショック
おにび
めざめるパワー炎
※現在瀕死状態です
◆【コバルオン】
とくせい:せいぎのこころ
もちもの:???
能力値:ようきAS
《もっているわざ》
アイアンヘッド
せいなるつるぎ
?????
?????
◇
走るイオナの目の前を、青い巨体が通り過ぎていった。
それが何なのか、イオナは知っている。
あのポケモンが何だったのかという知識は薄いものの、リキのボールを透視した時に見えたはずのポケモンだということだけは分かっている。
どうやら通り過ぎていったあのポケモンはこっちの存在には気付かなかった様子。
あれは本当にリキだったのか?という疑問が一瞬脳裏によぎるも、そのまま足を進めたイオナの目の前に映ったもの。
「――――――あ」
そこに倒れている男。
ついさっき別れたばかりの、大切な人。
頭から血を流して地面に倒れ動かない。
だが肩が呼吸に合わせて動いているのを見るにどうやらまだ息はある様子だ。
ピピピピピピピピ
「リキ!しっかりして!!」
「……イオ、ナ…?」
よかった、と安心するイオナ。
まだ息があるなら助けられる。まだ間に合うはずだ。
ピピピピピピピピ
その時イオナは謎の電子音が鳴っていることを意識した。
何の音だ、と周囲に目を走らせていると、その発生源が首輪であることに気付く。
『諸君の首に、首輪が巻かれている事には気付いているだろうか。
ゲームにおいて、手持ちポケモンが全て瀕死になった場合。
または、首輪を無理に外そうとした場合。
そして、このように私に直接楯突こうとした場合。
……内部に搭載された爆弾を作動させる』
ふと思い出した、サカモトの言っていた言葉。
諸君の首に、首輪が巻かれている事には気付いているだろうか。
手持ちポケモンが全て瀕死になった場合。
内部に搭載された爆弾を作動させる。
ハッとして、イオナはリキのコンバータを開く。
そこにいたのは、瀕死状態になったカイリキーのみ。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ
電子音の感覚が早くなっていく。
「待って!今私のポケモンを一匹リキに渡すから、それで――――」
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ
と、慌ててボールを取り出すイオナ。
しかし首輪の音は待ってくれない。
急ぐイオナが自分のコンバータから取り出したもう一匹のポケモン、エルレイドのボールをリキに渡そうとしたその瞬間。
ピ--------------------------------------------------
首輪の音が完全に繋がり。
同時に、ボールをリキのコンバータに入れようとしていたイオナの体を、リキは突き飛ばしていた。
「リ――――――――」
キ、と。
彼の名を呼ぶまでのほんの一瞬。
なのに永遠にも感じられるほどにも感じられた、その瞬間までの中で。
イオナを突き飛ばしたリキの口が。
―――――お前は生きろ
そう呟くように動いて。
ボンッ
次の瞬間だった。
首の根本が爆発して、その頭が地面を転がったのは。
鮮血が撒き散らかされる中で、地面に横たわった首を失いしリキの体。
「あ………」
その光景にはあまりにも現実感がなくて。
まるで夢を見ているかのような、ふわふわしたものに見えて。
きっと、それを現実として受け入れることを拒んでいたのだろう。
でも、思考は現実にすぐに追い付いてきた。
周囲には撒き散らかされた血の臭いが充満し、顔には飛び散ったリキの血が僅かに付着している。
「何で………?」
そして思考が現実に追い付いてきた時、ふと口にした疑問。
それは果たして誰に向けたものだったのだろうか。
自分を突き飛ばして爆発に巻き込まれないようにしたリキに対してだろうか?
それとも、リキの首輪が爆発するきっかけとなった、もう一匹のポケモンを奪っていった何者かに対してだろうか?
それとも、殺し合いなんてものに自分とリキを巻き込んだサカモトに対してだろうか?
それとも。
リキを守ると言って彼の元を離れておきながら、結局こんな短期間彼を生かすこともできなかった自分に対してだろうか?
開かれたコンバータから、ボールが転がり落ちる。
それは、自分に最初支給され、リキに託したカイリキー。
瀕死状態にあるそれが視界に移り拾い上げるイオナ。
「―――――――――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
その瞬間、それまで押さえ込んでいた想いが一斉に溢れだし、イオナの口から慟哭の叫びが響き渡った。
リキと別れる前のやりとりが、そしてその時の決意が走馬灯のように脳裏に過ぎ去っていき。
気が付けばそれはもう手の届かない遠い過去のように見えなくなっていた。
そして、リキとの思い出が見えなくなったイオナの中に浮かび上がったのは、たった今自分の前を過ぎ去っていったコバルオン。
あれはリキのポケモンだったものだ。
トレーナーの顔は見えなかったが、きっとあの時コバルオンの背に乗っていたに違いないだろう。
そいつが、リキのポケモンを倒し、奪い、死に追いやった。
その事実に気付いた時、イオナの中の悲しみは強い怒りとなっていた。
ボールとリキのバッグを拾い上げたイオナはリキの躯から離れ静かに駆け出していた。
向かう先はすれ違ったコバルオンが進んでいた場所。
未だ何かが暴れ続ける廃墟の街。
その闇色に染まった瞳にただ一つの激情、強い憎悪を秘めたまま。
彼女が気付いていないことがある。
イオナの支給品に混じっていた一つの石。
それはメガストーンといい、ポケモンをメガシンカさせるための道具であること。
そして、リキの支給品にはそのメガストーンを通してメガシンカへと導く道具、メガリングが混じっていることに。
もし、イオナが望めば彼女の持つポケモンをメガシンカさせることは可能となるだろう。
イオナの持つメガストーンと、リキに支給されたメガリング。
二人の繋がりを、絆を示すかのように配られた二つの石。
それが彼女の行く道で何を照らすのか、知る由はない。
ただ、一つだけ言えること。
それは、例えメガシンカの輝きが彼女の行く道を、生きる道をどれだけ照らそうとも。
イオナの心を照らしていた、金色――ヤマブキの色はもう輝くことはないということ。
【サイキッカーのイオナ】
[ステータス]:疲労(中)、強い悲しみと憎悪
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3、メガストーン(イオナのポケモンをメガシンカ可能)、メガリング
[行動方針]????????
1:リキを殺した相手を追う
※リキを殺した相手かどうかはコバルオンを所持しているかで判断しています
◆【フーディン/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの:???
能力値:特攻素早さ全振り
《もっているわざ》
サイコキネシス
きあいだま
リフレクター
テレポート(緊急離脱用)
◆【エルレイド/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
◆【カイリキー/Lv50】
とくせい:ノーガード
もちもの:???
能力値:攻撃全振り
《もっているわざ》
ばくれつパンチ
バレットパンチ
ストーンエッジ
みがわり
※瀕死状態です
【カラテおうのリキ 死亡確認】
投下終了です
あと現在位置、時間の更新を忘れていました。
全員【B-6/一日目/午後】でお願いします
投下乙です!
さまざまなトレーナーが交差した結果の乱戦、非常に見応えがありました
バトル自体は今回は2方面だったけどミチオvsリキのほうの結末がイオナ側に影響を与える構成が上手い
そして出る脱落者。イオナとリキの幼馴染み設定+イオナのサイキッカー設定がこういう形で出てきたか…うわああ…
ミチオはゲス野郎のくせにバトルはけっこう上手いのが腹立つぜ
覚悟ありだけどバトルは苦手なオーレンとサポートの意思を固めたユカリ、そしてミチオがシェリ戦に向かう形かな?東側これ大波乱だなあ…w
>正しいだけでは生きられない
コロシアイの場においてはポケモンバトルは遊びなのか、それとも……。
反論を導き出せないユカリは、今後どのように成長するでしょうか。
ただオーレンさんは、ポケモンバトルも覚えようね。闇討ちよりもかげうち。
さて、安定のミチオ、後味悪い事をやり放題です。
彼がコバルオン入手となると、若干何かのフラグが立ってる感が。
そして、手持ち切れによる初の死者。
僅かに間に合わず、目の前で、しかも最もショッキングな最期。
その瞬間の現実感の無くなる感覚が、とても伝わります……。
復讐を果たせるのか、それとも無残に後を追う事となるのか。
投下お疲れ様でした!
前回の投下から一ヶ月も経っていない間でのことで恐縮なのですが
前の投下で書ききれなかったパートを含めた部分を予約させていただいきたいと思うのですが
大半のキャラが前回からぶっ続けの自己リレーとなってしまいます
もし大丈夫ならば
キャンプボーイのケイイチ、バッドガイのラグナ、メイドのコトリ、メルヘンしょうじょのシェリ、ミニスカートのユカリ、
りょうりにんのオーレン、ポケモンブリーダーのミチオ、サイキッカーのイオナ
以上の面々を予約させていただきたいのですがどうでしょうか?
>>387
OKです!投下楽しみにしております!
ありがとうございます
では改めて、キャンプボーイのケイイチ、バッドガイのラグナ、メイドのコトリ、メルヘンしょうじょのシェリ、ミニスカートのユカリ、
りょうりにんのオーレン、ポケモンブリーダーのミチオ、サイキッカーのイオナ
で予約します
なかなか筆が進められなかったのですが、やっとこさ目処が立ってきました
ポケモンごっこのキョウコ、ロケットだんのしたっぱのタスクを予約します
延長お願いします
延長します
ポケモンごっこのキョウコ、ロケットだんのしたっぱのタスクを投下します。
タイトルは「さわぐ」です。
「人間の脳は、眼に見えるものを正確に映し出しているわけではないんです。
例えば眼球のレンズは、本来、世界を逆さに映し出しています。
しかしそれを脳がそれをひっくり返して認識するため、正しくものが見えるのです」
「何をおっしゃりたいのでしょうか、リョウ先生」
「キョウコさんの場合、認識がエラーを起こしたまま、完全に定着してしまったと言う事です。
あなたの育て方……娘さんをポケモンと同じように育てた事が、幼少期の彼女の精神に過大なストレスを与えたのです。
自分がポケモンなのか人間なのか……その悩みから解放するべく、彼女の脳が都合のよい解釈をおこないました。
『あらゆる物体や生物は、本当はポケモンなのだ』、『自分も本当はポケモンなのだ』と。
幼少期という脳の成長が最も高まる時期にその認識が定着し、結果として幻覚を見続けていると言う事です」
「……キョウコを普通の子のように、スクールに通わせる事は出来ないのですか?」
「普通の子に戻すのは困難でしょう。物心着く以前から見えていた幻覚は、彼女にとっては認識する世界そのものです。
それを無理やりに引き剥がしてしまえば、発狂する事も考えられます」
「成程。……そうですね、もうしばらくは様子を見たいと思います。
なぜなら最近はどうしても外せない用事が立て込んでいますから……。
この後も、ポケモンコンテストの審査に出席しなくてはいけません」
扉が閉じた後。看護婦はドクターに言った。
「ポケモン大好きクラブの支部長で、ポケモン育成のカリスマ、か……。
どうして自分の子どもは、ありのままに愛してやれなかったんでしょうね」
◆
ポケモンごっこのキョウコが登場する。
彼女はお腹が空いていた。
「お腹が空いたな」
そう言って、赤さびだらけの扉に手を掛ける。
ギギギィッ……といやなおとが鼓膜を響かせた。
この扉は実はハガネールで、眠っていたところを邪魔されて怒ったのだ。
ごめんね、と一言詫びる。
タイルの剥がれた階段を、タンタンタンと駆けあがっていく。
一段一段登る時の上下運動で、ピカ耳のフードがずり落ちて、茶色のストレートヘアーが見えた。
キョウコはそれを神速の速さで被り直す。
「お腹が空いたな」
お腹の中でコロボーシがさざめいた。
……もう三つめのビルだ、思ったよりもここには誰も居ない。
街中なのだから、ギッシリと人間がつまってるくらいに考えていたが、そんなことはなかった。
意外と人間を皆殺しにしなくても、暮らしていけるかも、と思った。
がらんどうの大部屋を回り、今は小部屋に居る。
小部屋というか、女子トイレだ。
カラッカラに乾燥していて、壁も床もベージュ色だ。
蛇口を回しても何も出てこない。キョウコは洗面台に腰かけた。
ため息交じりに呟く。
「お腹が空いたな」
「わがままを言ってはいけません」
TOTO、とトイレのフリをしたネイティオがたしなめてきた。
「でもお昼の時間はとっくに過ぎてるし、なんなら今はおやつの時間だ。
空腹なのは当然だし、その事実を述べる事がどうしてダメなんだい?」
別に誰かに向けて不平をこぼしたのではない。
単に事実が言葉となって口から出ただけだ。
「うるさいんじゃい! さっきからブツブツブツブツよぉ!」
「キョウコ殿wwwwwww幼女みたいな言い訳やめなwwwwっシャイセwwwwww
でもwwwww幼女ならwwww拙者大wwwww歓wwww喜wwwwwwwwwwwwwwww」
腰元で二体のニドランが喚きだす。
キョウコは顔をぷくっと膨らませた。
「うるさいな、僕は君たちと違って食べなきゃ死んじゃうんだよ」
「携帯食料がwwwwあるジャマワルダナプラコwっうぇwwwwwうぇwwwwwwww」
「そうだよ(便乗)」
「わかってないな。キャンディーにチョコレート、ショートケーキにキャラメル。
プリンにマシュマロにババロアにグミにアイスクリームにようかん。
宝石のようにきらびやかで、甘い匂いを漂わせる、そんなものが食べたいな。
サカモトは気が利かない」
キョウコのわがままには応えられないが、一応甘いモノ自体は支給されている。
ナッツをベースにしたクッキー(高カロリー)と、ピタミン豊富なゼリー飲料(3秒で摂取可能)がそれだ。
それ以外にはパンの缶詰と、塩漬け肉の缶詰が支給されている。
余談だが、チョコレートやキャンディーは携行食として有用されている品だったりする。
一般的に携行食としてイメージされるのは、乾パンや缶詰などの保存の効く食品だが、それらは重量が掛かってしまう難点がある。
さらに言うとそれらは飲み込むために水分を必要とするため、飲料の負担も大きくなってしまう。
その点、チョコレートやキャンディーならば水無しで摂取可能、高カロリー、そして重量も低い。
お菓子と言えども、軍隊のレーションにも入ってるくらいに重要な食品なのである!
「まったく、サカモトは気が効かないな」
「だったらキョウコ、街の外を探した方がいいんじゃないかな。
宝石にようなお菓子は無いけれど、甘いきのみなら見つかるかもしれない」
成程、ペラップの言うとおりだ。
ビルの屋上から見渡した時、巨大なドダイトスがそびえていたのを思い出す。
あの沢山の植物の中に、実のなる木の一本があっても不思議ではない。
「そうだね、僕も街中は落ち着かないと思ってたんだ。
ポケモンだからかな、きっと森の方がリラックスできる」
キョウコは窓から配管をつたって、地上へするするっと降りた。
そして、山がそびえていた方向へと歩き出す。
「そう言えばキョウコ、君はまだ手持ちポケモンと顔合わせが済んでないんじゃないかな。
いざという時のために、なるべく早く済ませておいた方がいいよ」
「それもそうだね。まだテッポウオしか挨拶してないや」
二体のニドランに加えて、メイドから借りたカラサリスとマユルドを投げた。
それらがパカっと口を開くと、四体のポケモンが周囲に出揃った。
「水をくれ」
テッポウオはぐったりしている。
「突然失礼します。宜しければ殺し合いませんか?」
カイリキーは紳士的な態度で、両拳をガンガンと打ち付けた。
「わたしは一向に……構わん!」
エビワラーがシャドーボクシングをしながら、挑発する。
「ふぇぇ……ハッチールだよぉ……」
パッチールは泥酔していた。
「みんなよろしくね」
「「「「よろしくねキョウコちゃん」」」」
そんな感じ。以上。
挨拶を済ませたので、三体のポケモンを戻した。
テッポウオだけは武器として装備しておいた。
「さ、行こうか」
「……み、水……」
路上を颯爽と歩くキョウコを、ビルのフリをしたポケモンたちが手を振る。
カビゴンにサイドン、トリデプスにパラセクト、みんなとても大きい。
彼らに対し、キョウコは笑顔を振りまいて応えた。
この世界は本当にポケモンたちで溢れている。
◆
黒づくめの男、タスクは拍子抜けした。
彼は手近に見えた街の、ゲートの中でじっと佇んでいた。
ゲートとは、街と道路をつなぐ施設。
人通りが多く、尚且つ不意打ちされる危険が少ない。待ち伏せには最適と言えよう。
しかし、最初に出会ったのが、ピカチュウの着ぐるみパジャマを着た少女とは。
「……なんだお前は。いい年こいてポケモンごっこか?
まぁいい、手始めにお前のポケモンを頂かせてもらうぞ!
いけっガラガラ! あいつをぶち「オクタンほう」……」
タスクは反射的に、側方へと身を転がせた。
案の定、後ろで激しい音が弾けた。
少女の手に握られたテッポウオ、その口から墨がボタボタと垂れている。
その目線の先の壁は、黒のペンキをぶちまけたようになっている。
中央には強烈なヘコミが生じている……オクタンほうの水圧を物語っていた。
「てめぇ……俺を直接狙ったな……! 生意気な野郎め……」
危険を感じた時、咄嗟に身を伏せる事は、長年のクセになっていた。
植木鉢が置いてあったため、そこに思い切り腰をぶつけたが、あれに撃ち抜かれるよりも遥かに良い。
さて、長考している場合ではない。
この瞬間にも銃口は、俺の眉間へと向けられている。
「ガラガラ、ホネブーメラン!」
少女の頭部を指差した。
そうだ、初めからわかりきっていた事じゃないか。
殺し合いなのだから、人間を直接狙う方が効率的かつ迅速だと。
悪の組織に身を置きながら、どこかでそれを躊躇っていた事。
加えてこんな小娘に、その覚悟を先を越された事に、非常に恥ずかしくなった。
「だが、同じ間違いは犯さねぇ……容赦無く、ためらいなく殺ってやる!」
回転するホネこんぼうが小娘に目掛けて放たれる。
しかし少女はそれをテッポウオで受け止めた。
「うわ……っと、ゴメンねテッポウオ」
盾にされたテッポウオはピャーっと悲鳴をあげ、床に落ちた。
すぐさまボールへと戻し、少女は一目散に引き返していく。
「追えガラガラ! あの小娘を逃がすな、ぶっ潰せ!」
腰をさすりながら立ち上がり、ピカチュウそっくりの背中を追いかける。
ロケット団たるその牙は、獲物を確実に仕留めねばならない――
【A-5/はいきょのまち その1/一日目/午後】
【ロケットだんのしたっぱのタスク 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、メガリング
[行動方針]皆殺し
1:手頃な参加者に「かみつく」
2:勝つためなら「だましうち」も「ふいうち」も辞さない
3:機会があればメガシンカが行えるか確かめる
▽手持ちポケモン
◆【ギャラドス(色違い)/Lv50】
とくせい:いかく
もちもの:ギャラドスナイト
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
たきのぼり
りゅうのまい
かみつく
じしん
▽手持ちポケモン
◆【ガラガラ/Lv50】
とくせい:ひらいしん
もちもの:ふといホネ
能力値:HP、攻撃振り
《もっているわざ》
ホネブーメラン
ストーンエッジ
はらだいこ
つばめがえし
【ポケモンごっこのキョウコ 生存確認】
[ステータス]:良好、空腹
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×6
[行動方針]マーダー
1:テッポウオで殺される前に狙撃する
2:甘いきのみを探しにいく
◆【テッポウオ/Lv50】
とくせい:スナイパー
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
ロックオン
オクタンほう
????
????
◆【パッチール/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
◆【カイリキー/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
◆【エビワラー/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
以上で投下終了です。
投下乙です
ポケモンとして育てられたが故に全てをポケモンと認識してしまった少女か…
全てがポケモンに見えていながらポケモンを使って人を殺すことを躊躇わないキョウコにとってポケモンとは何なのか
そして彼女を追うタスク。数では有利なキョウコだがタスクはメガシンカポケモンを備えている
一体どうなるんだろうか
あとすみません、現在の予約期限が今日一杯ですがまだ完成に辿り着けそうにありません
今週の土日あれば完成できると思うのですがその間だけ待っていただけないでしょうか?
>>399
感想ありがとうございます!
キャラの背景や価値観など、今後どんどん語っていきたいですね。
予約待ちの件、了解しました。楽しみにしております!
期限となっていますが諸事情により一旦前半部のみの投下とさせてください
詳細は投下後に
ラグナは激しい音が響く街の中を、頭から血を流す少年を抱えて走っていた。
その後ろについて走るのは、メイド服の少女。
「おい、しっかりしろ!」
「う、動かしちゃダメです!頭の傷は慎重に扱わないと…」
走りながらも少年、ケイイチに声をかけ続けるが一向に反応しない。
瓦礫を頭に受けたのだ。打ちどころによってはそれで命を落としていた可能性だってある。
依然、彼が危険な状態にあることには変わりないだろう。
だが、休んでいる暇はない。
後ろから響く破壊音は未だに街にある建造物を打ち壊しているのだ。
「くそ、俺がもう少ししっかりあのガキの様子見られてりゃ…」
ポケモンを抑えることはできたものの、一方であの少女自身を見られてはいなかった。
結果がこの様だ。
「ラグナさんのせいじゃないよ…。私だって助けられるかもなんて無責任なこと言っちゃってたし…」
「ああクソ、この話は終わりだ!気分滅入るばっかりじゃねえか」
幸い街は一通り回っているためケイイチを落ち着けられそうな場所自体には検討がついている。
そこまであの少女が追ってこないことが安全の前提となるわけだが。
しかしそこまで辿りつけたとしても、今の自分達だけではケイイチの治癒はできそうにはない。
応急処置なら可能だろうが、今のケイイチはそれだけで済ませられるような状態ではないだろう。
「オーレンさん、そこに人が!」
「ちょっと、あなた達!」
そんな時だった。
ふとそんな二人の元に別の何者かの声が届いてきた。
◇
「骨までやられているわね。脳にダメージがあるかは分からないけど、内出血の可能性もあるわ。
しばらくは安静にしていないと命に関わるわね」
「そうか…」
ラグナ、コトリが出会った、オーレン、ユカリと名乗る二人。
外で聞こえてきた破壊音に只事ではない気配を感じてやってきたのだという。
現在5人がいる場所はポケモンセンター。
先にラグナとコトリが立ち寄り一時的に休息を取った場所だ。
「あんた、詳しいんだな。それにこんな状況だってのに妙に落ち着いてやがるし」
「ワテクシは今の仕事をする前は傭兵として色んな戦場を渡り歩いていた時期があったのよ」
「なるほどな…」
ラグナはその口調について触れることは止めておいた。
「で、あなた達は誰と戦っていたのかしら?」
「それが――――」
話したのは廃墟で出会った少女のこと。
ニドクインとニドキングをママ、パパと呼び周りの建物を破壊し続けていた子供。
錯乱していたのかと最初は思ったものの、彼女の様子を見るにそうとは思えなかった。
「なるほどね、つまりこの状況を作り出してるのは子供ってわけ」
「まあ、そうなるんだろうな」
「なら話は早いわ。その子供をやってしまえば、そのポケモン達は暴れることはないってことでしょう?」
「…おい待てよ。相手はまだガキだぞ?」
「ここは戦場よ?子供も大人も関係ないわ。増してや人を襲う立場にいるならなおさらよ」
そんな子供を一片の迷いもなく殺すというオーレンに戸惑うラグナ。
確かに言っていることは理屈としては正しい。
だが、その選択を迷わずにすることはできないものだ。
ピクリ
そんな言葉を言った時、意識がないはずのケイイチが僅かに反応したことに二人は気付かない。
「それじゃあワテクシは行くわ。この廃墟で被害が抑えられている間にケリつけないといけないし。
その間はあのユカリって子のこと、お願いさせてもらうわ」
それだけを言い残して、オーレンは走りポケモンセンターを抜け出して行った。
「殺す、か…」
そんなオーレンを追うべきかどうか迷ったものの、しかし残したコトリやもう一人の少女、ユカリ、そして意識のないケイイチを置いていくわけにはいかない。
結果として見送るしかできなかった。
「いい気分にゃ、やっぱならねえな…」
ともあれ、コトリとユカリの二人が追い付いてくる様子がない。
迎えに行った後、どうするか話し合ってからここから移動するとしようか。
そう考え、眠るケイイチをチラリと確認しコトリ達のいる部屋へと向かって行った。
薄く目を開いたケイイチに気付くことなく。
◇
ニドキングの腕が家の柱を叩き壊し、ニドクインが咆哮すると同時に地面から衝撃が発する。
その進撃を後ろで指示するのは小さな少女。
「そうよ!もっとよ!周りのもの、全部壊しちゃって!」
喜声を上げる少女・シェリ。
しかしその目には喜びの光はない。
ただ憎悪と絶望の闇のみ。
闇を闇で打ち消すことはできない。いくら破壊が少女に喜びをもたらそうと、決してそれは光となりはしない。
パパ、ママと呼ばれるポケモン達はそんな少女の言葉に従い、ただ破壊の限りを尽くすのみ。
しかしそれで十分だった。
彼女の願いは全てを壊すこと。
この悲しみしかくれない現実を、誰も救いの手を差し伸べない世界を。
「ずいぶん派手にやってるじゃない、お嬢ちゃん」
そんな時に、シェリの耳に届いてきた、男の声。
野太い声でありながら黄色さを感じさせるその声色。
「残念だけど、お遊戯の時間は終わりよ」
背後にマンムーを、両手にニダンギルを携えたオーレン。
その視線には本当の殺気が篭っている。
対するシェリは、若干気圧されつつも、鋭く睨みつけ。
「邪魔しないで!パパ、ママ、あの人を消して!!」
「全く、子供だからって甘やかしてなんてあげないわよ!」
そのままオーレンは襲いかかるニドキング、ニドクインを前に、マンムーに跨がり突撃をかけた。
◇
「…お前なぁ……、こんな時に何やってんだよ」
「ふぇぇ……」
涙目で頭を押さえながら声を漏らすコトリ。
ラグナの手にはポケモンセンター内に何故か置いてあった白いハリセン。
そしてそんなコトリの抱えているものは白く小さな箱。
「何で遅くなったのかって様子見に来たら、何呑気に菓子なんて食ってんだよ」
「そ、その、せっかく冷蔵庫の中に見つけたんだから放っておいたら勿体ないかなぁって」
「…それ食って大丈夫なのかよ」
「賞味期限は大丈夫です!」
妙に時間がかかっていることが気になって部屋に向かったラグナの目の前に入ってきた光景。
それはコトリがテーブルに置かれたチーズケーキを、ちょっと困惑気味のユカリの前で切り分けている姿。
とてもいい笑顔で振り返ったコトリを見た時のラグナの心中と言ったら一発叩きたくもなってしまった。
無論相手が女の子であることを考慮して思い切りでこそあるがハリセンで叩く程度で留めておいたが。
「少しは我慢しろ!落ち着いたら食う時間くらいできるだろうから」
「じゃあその時はラグナさんも一緒に食べましょう!おいしいんですよこれ。
洋菓子店『モンシャル』ってところのオーレンさんっていうパティシエの作ったチーズケーキなんです」
「そうか。
…ん?オーレン…?その名前ってーと」
「あっ」
コトリの言葉で思い至ったのは、ついさっき別れたあのオネエ言葉で喋る男だ。
確か料理人を営んでいる、と言っていたことから考えるとそういうことなのだろう。
「有名人だったんですね、あの人」
「そういうことだろうな」
「何か私と出会った時ってこう、人として強い印象が大きくて全然気付かなかったです」
「まあ、実際に強いみたいだしな」
「ちょっとうらやましいかも。私って、ポケモントレーナーでもなくてこの中じゃ一番足手まといな気がするからなぁ」
「だったらもうちょっと緊張感を持て。さっきみたいなことやってて、来たのが俺じゃなかったらどうしたんだよ」
「ご、ごめんなさい〜」
ユカリはそんなやりとりを繰り広げる二人を見ながら、これが彼女達の素なのだろうなと考え。
そして自分の知らないオーレンの表の顔を思い浮かべて顔を少し曇らせた。
「…?ユカリちゃんどうしたの?」
「……えっ?何が?」
「何かユカリちゃん、暗そうな表情してたから」
「いえ、コトリさん達はいいなぁって。
こんな場所に連れて来られても自分を見失わずにいられて。
自分の軸をはっきりと持つことができてて」
「そんなことないよ〜。私自身どうしたらいいか分からないし、何ができるのかも分かってないし」
何故褒められているのかもよく分かっておらぬまま、コトリはやんわりと謙遜するように否定する。
しかしユカリの表情は栄えない。
「ユカリちゃん、何かあったの?」
「…私、オーレンさんに言われたんです。この殺し合いではポケモンバトルなんて遊びだって。
おじいちゃんやおばあちゃんが一生懸命頑張ってきたポケモンバトルをそう言われて、思わずカッとなっちゃったんですけど。
でもオーレンさんにそれで殺し合いができるのかって言われて、反論できなかったんです」
そうポツポツと話し始めたユカリ。
その口調には現状の殺し合いという環境に対する大きな迷いが感じられていた。
ポケモンバトルを殺し合うことに利用する、今のこの環境に対して。
「だけど、実際にポケモンで襲ってくる人もいましたしオーレンさんみたいな、ポケモンバトルとは違う危ない現実を知ってる人もいて。
ポケモントレーナーなのにこんな場所でもポケモンで殺し合いをするなんてって迷ってる私って、やっぱり弱いんでしょうか…」
確かに自分の住んでいた世界は甘かったのかもしれない。
ポケモンバトルに命をかけるようなことはしないし、人間と戦いあるいは殺してしまうような事態にも遭ったことはない。
だけど、祖父母が生涯をかけてきたものはそういうものではないと思うのも事実だ。
「別にそれでいいんじゃねえの」
そんなユカリの悩みに対し、ぶっきらぼうな声でラグナは答えた。
「俺だって自分の住んでたようなところがアウトローだってのはよく分かってるし、いちいちそれに関係ねえやつを巻き込もうとも思わねえし。
あのおっさんがどうなのかってのは置いといても、俺だってポケモンに殺しさせるなんてのには抵抗あるしよ。
お前はお前のやりたいようにやってみりゃいいんじゃねえの」
「それでいいんでしょうか…?」
「そんなこと考えちまう時点でサカモトとかいうやつの思う壺じゃねえか。
お前はお前なりにできることを考えてりゃいいんだよ。
まあ、死なないことが前提にゃなるけどな」
オーレンに言われた、ポケモントレーナー故の甘さ。そして殺し合いという環境における適応性。
しかしラグナは木にすることはない、と。自分なりにできることをやっていればいいと言う。
その言葉だけで、少しだけだがオーレンに言われて気負っていた気持ちが楽になった気がした。
ケイイチのところに向かって急いでいくラグナの背を見送りながらコトリはユカリに話しかける。
「ユカリちゃんはポケモントレーナーなんだ」
「うん、実力のほうはまだまだだけどね…。コトリちゃんは?」
「私は、……ポケモントレーナーでもないの。
ポケモン同士を戦わせるってのも、あんまり好きじゃなかったから。なのにこんなことに巻き込まれちゃって…」
「そう…なんだ…」
「だから、私自身どうしたらいいのか分からなかったりするところがあるんだ。
ポケモンバトルとかも、私のミスとかでポケモンが傷付くのが怖いから…。
だから私の友達がポケモントレーナーになって旅立っていった時も見送るしかできなかった」
遠い場所を見ているかのように呟くコトリ。
「だけど、こういうところでポケモンやみんなを傷つけても平気だって思えちゃうようなことがあったら、私はその方が怖いって思うんだ」
「……」
もし自分がそうなってしまったら、とユカリは想像して思わず怖くなってきた。
きっと自分がそんなことを考えるようになった時には、自分すらも見失っているかもしれないから。
「おい、コトリ、ユカリ!」
そんな時だった。先にケイイチを迎えに行ったラグナの元から声が響いてきたのは。
その呼び声からは心なしか焦りを感じられる。
コトリとユカリは顔を見合わせてラグナの元に走る。
「どうかしたんですか?」
「ケイイチのやつがいねえ!たぶんだが、さっきのガキのところに行ったみてえだ!」
ラグナの目の前にあったのは、ケイイチを寝かせていたソファ。
しかしそこにあるのは治療の際についたらしい僅かな血の染みの跡のみ。
ケイイチの姿はどこにもない。
だが、彼は動けるような状態ではなかった。
もし逃げるだけならば自分一人で行くよりも皆で離れるべきなはずだ。それにそんな行動に出るとは思えなかった。
だとすれば、行く場所は一つしか考えられない。
何より、あの少女を説得したいというのはケイイチが自分で言い出したことだ。
「ちっ!あのオーレンとの話、聞かれてたのか!」
◇
ニドクインのばかぢからとニドキングのメガホーンがオーレンのポケモンに、そしてオーレン自身へも向けて放たれる。
ニドクインはオーレンに、ニドキングは彼の乗ったマンムーに向けて。
しかしオーレンはニダンギルでばかぢからを弾き飛ばし、同時にマンムーにはつららばりを指示する。
つららばりはニドキングの進行方向から僅かに逸れた位置に着弾するも、それはニドキングの意識も反らしメガホーンを外させた。
続いてマンムーにストーンエッジを指示。ターゲットはポケモンに指示を出すこともなく、ただそこで佇み続けるシェリ。
マンムーから放たれた石の刃は、一直線にシェリに向かって飛びかかり。
しかしその射線に割り込んできたニドキングの拳が、それを打ち払った。
「本当に子供みたいね…。戦いは全部ポケモン任せで、大雑把なことしか言わずに指示すら出さないなんて」
ポケモントレーナーではないオーレンにも、ポケモンバトルがどういうものなのかという一般的な知識程度はある。
少なくとも、ポケモントレーナーは動作全てをポケモン任せにしてバトルをするということはないはずだ。
だが、目の前の少女は何も指示を出さない。
はっきり言って、自分のポケモンが覚えている技すらも把握しているのか怪しいような印象すらある。
先のばかぢからとメガホーンにしても、攻撃をする際少女は何も指示を出していない。
つまりは。
(この子はワテクシのようにポケモントレーナーってわけじゃない、か。あるいは――――)
と、オーレンの目の前で、少女が石を手に持ち上げ自分の手の平に力いっぱい振り下ろす光景が目に入った。
先にニドキングがストーンエッジを受け止め、僅かではあるがダメージを受けた様子の部分に同じような痣ができている。
(――――トレーナーかどうかなんて関係ないくらいには壊れてるってことかしらね!)
彼女の境遇は知らない。だが一瞬同情だけはした。
しかし決して容赦はしない。
感情ではなく理屈で、あの子を放置しておくことがどれほどの被害につながるだろうということをはっきりと理解していたから。
「マンムーちゃん、じしんよ!!」
己の騎乗したマンムーに対し指示したのは地面タイプにして複数の相手に攻撃をすることができる攻撃、地震。
高く咆哮したマンムーは地に力を解放するかのように地面に力を込め。
次の瞬間、半径5メートルほどに渡る範囲を揺らす衝撃が放たれた。
ニドキングとニドクインは足を取られ動きを止め、衝撃が体に襲いかかった。
「嫌ああああああああああーーーーーーーーーーーー!!!」
そんな二匹のダメージを受ける様子に絶叫する少女。
ポケモンの心配をする少女だが、今彼女自身を守る者はいない。
「悪く思わないでね」
マンムーに乗っていたことで地震に巻き込まれることもなかったオーレンは、その背を蹴って飛び上がり少女の目の前に着地し。
彼女に向けて、迷うことなくニダンギルを振り下ろし―――――
「止めろーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
そこに割り込むように声が響く。
声のした方を思わず見上げると、飛び跳ねるかのように空から舞い降りオーレンに突撃をかけるメブキジカの姿。
咄嗟にニダンギルを全面に構えたことでダメージは抑えることはできたが、衝撃までは殺すことができず後ろに押し出されてしまう。
「あなた、何でここにいるのよ!」
そのメブキジカの背に乗っていたのは、キャンプボーイのケイイチ。
頭に決して軽くない傷を負っていて安静にしていなければならないはずの少年。
現に今目の前にいる少年も、メブキジカに捕まっているだけでも辛そうに見える。
「はぁ…はぁ……、ダメだ、この子は殺しちゃ……」
「何言ってんのよアンタ!そんな体でここまで来て…!早くそこを退きなさい!」
「俺が、あの子を助ける…、だから殺さないでくれ…!」
目は焦点が定まっていないし、息も絶え絶えで言葉も覚束ない様子。
しかし、自分がその背に乗ったメブキジカからは決して退こうとはしていない。
「あんたね、それで失敗した結果がその怪我じゃないの!
それにその子はさっきのトレーナー以上に話は通じないわよ!」
「それ、でもだ…」
メブキジカに乗ったケイイチは耳を塞いで塞ぎこむ少女に向かって歩を進ませ。
「――――――――――――やれコバルオン!!!」
その時周囲に聞き覚えのない大声が響き渡る。
地響きと共に轟く足音がこちらに迫り。
「アイアンヘッド!!」
突如現れた青い四脚の獣の突撃がマンムーを襲った。
鋼のぶつかるような音が響き渡りその巨体を吹き飛ばす。
「楽しそうなことやってるじゃねえか。俺も混ぜろよぉ!」
現れたポケモン、コバルオンに乗った青年が3人と多くのポケモン達を一瞥する。
メブキジカ、ニドキング、ニドクイン、そしてニダンギル。
周囲にいたポケモンに大した強ポケがいないことに若干落胆しつつも、しかし自分の存在感をアピールでもするかのようにコバルオンの背の上で立ち上がる。
「何なのよアンタ!こっちは今取り込んでるのよ、邪魔しないでくれるかしら?!」
「あぁ?何だよその気色悪ぃ喋り方は。まあいい。せいぜい伝説ポケモンを操る俺の姿を目に焼き付けてから死んでいけよ。
そうそう、名乗っておかねえとな。俺はポケモンブリーダーのミチオだ」
そう言って指示を出す青年。
コバルオンがまるで舞を踊るかのように首を振り回しながら跳ねる。
その瞬間、コバルオンの纏っていた覇気がそれまで以上のものとなっていることを感じ取れるようになる。
つるぎのまい。攻撃力を倍化させる補助技だ。
「行きなさい、マタドガス!」
対するオーレンも手に携えたニダンギルの他にマタドガスを呼び出す。
紫色の凸凹な球体がフワフワと浮きながらオーレンの指示を待つ。
「えんまくを張りなさい!」
技の指示を出すと同時、マタドガスの体から大量の黒い煙が吹き出す。
周囲の視界を封じるほどの煙幕がオーレンとミチオの周囲を覆い尽くす。
「くそっ、えんまくとかまた変な技を……。どこから……」
視界の見えない中では迂闊に指示を出しても空振りするだけだろう。
かといって積んで隙を見せるのも問題だ。
どう動くか。
と、ふとそこまでミツオが考えた時脳裏に先ほど自分がした行動が思い浮かんできた。
殺し合いという環境。相手はニダンギルを手に持った、そしてえんまくなんて実戦向きではない技を覚えさせている。
それは一体何を意味するか。
「コバルオン、煙幕を抜けろ!」
指示が早いか、その足を持って視界を覆う煙幕を抜けるコバルオン。
その瞬間、コバルオンに乗ったミチオが数秒前にいた場所をオーレンがニダンギルを持って跳びかかっていた。
「うまくいかないわね全く…!」
「そういうことかよ。なら、コバルオン、ステルスロック!」
間一髪でオーレンの一撃をかわしたミチオはコバルオンにステルスロックを指示。
突如空間に顕現した岩の破片がオーレンの行く先を阻んだ。
「ハハハ、こいよオカマ野郎!どうせまだポケモン持ってるんだろ?!」
「…舐めてんじゃないわよアンタ!」
安い挑発、しかし無様な姿を見せさせられた後でのその言葉をオーレンは冷静に受けられるはずはなかった。
マタドガスの技ではコバルオンに対抗することは不可能。一般教養レベルでそれを察したオーレンはマタドガスを戻し、ランクルスのボールへと取り替えた時。
強い殺気を感じ、思わず身を後ろに下げた。
「はああああああああああああ!!」
宙に配置された大量の岩の破片をものともせずに突っ込んできた白い体のポケモン。
腕に刃のように備え付けられた剣はコバルオンの鋼の肉体へとぶつかり、鋭く斬りつける。
「っ!」
その不意打ちにコバルオンは身を捩り、上に乗っていたミチオはその体から振り落とされる。
着地したミチオはオーレンの警戒は外さぬよう気を配りつつ襲撃者へと視線を向ける。
白と緑の細身の体に鋭い刃を備えた腕を持ったポケモン、エルレイド。
奇しくもそれはミチオの持っているサーナイトとは対極な進化を遂げたポケモン。
そしてその後ろから現れたのは、サイキッカーらしき服装をした女。
オーレンとユカリは彼女の登場に思わずそれまでの動きを止める。
それは、つい先程自分たちに襲いかかったトレーナーだったのだから。
しかしその身に纏った雰囲気はその時と比べればひと目で分かるほどに異常な覇気を纏っている。
彼女自身の発するサイコパワーが、周囲の空気を蠢かせているかのような錯覚を覚えるほどに。
「……そのポケモン。お前、どこでそいつを手に入れた?」
その鋭い殺気はコバルオンから飛び降りたミチオに向いている。
気を抜けば念力がミチオへと飛びかかるかもしれないほどの強い念が周囲を覆い尽くす。
それはまだ幼いシェリは元より、オーレン達ですらも気圧されるほどのもの。
そんな念を真っ直ぐに向けられているミチオは、僅かに怖気つつもハ、と鼻で笑い答えた。
「こいつならさっき殺したやつから頂いただけだよ。それがどうかしたか?」
「……そうか」
答えは分かっていたとでも言うかのようにあっさりと受け入れたその女、イオナは。
「お前が、お前がリキをぉぉ!!!」
その叫びと同時にイオナの指に嵌められた指輪が輝き。
それに追随するかのように、エルレイドの体が閃光に包まれる。
殻を破るかのように光が弾け、その姿が露わになった時そこにいたのは純白の体にマントをたなびかせ、片腕のみだった刃を両腕に備え付けた騎士のような外見のポケモン。
やいばポケモン、エルレイドのメガ進化形態・メガエルレイドだった。
「殺す!お前だけは絶対に!!」
「…ハハハハ、いいじゃねえか。最高じゃねえかおい!」
一方でその憎悪をぶつけられているミチオは歓喜の笑い声を上げている。
憎しみの感情を当てられ、本来ならば気圧されてしかるべき状況。
しかしミチオはその事実にむしろ打ち震えるほどの喜びを感じていたのだ。
それは何故か。
女の憎悪は自分だけにぶつけられている。それはすなわち、この女は自分だけのことを見ている事実を示しているのだから。
そう、この戦いは自分とこの女だけのものだ。
「次から次へと…、手に負えないじゃない…!」
オーレンはぼやきつつもランクルスを呼び出す。
前にはコバルオンを連れた男と自分たちを襲ったサイキッカーの女。
後ろにはあの精神不安定な子供。
ミチオと女の戦闘の合間にケイイチが気を引いてこちらの戦闘範囲からは離してくれはしたみたいだが、しかし怪我人のケイイチに任せられる存在ではない。
彼女はある意味では真っ先に殺さねばならない、最も危険とも言える少女とオーレンは認識していたのだ。
その時だった。
「すげえ音がしてるからここだろうなって来てみりゃ、どうなってんだおい」
「ラグナちゃん、ちょうどよかっ…って何でアンタ達まで来てるのよ!」
走り現れたラグナの存在に有り難さを感じつつ振り返ると、そこにいたのはコトリとユカリ。
ユカリは元々この戦場に連れてくるには荷が重いと判断しラグナに任せてきた子であるし、コトリに至っては足手まといと判断したほどだ。
「仕方ねえだろ!待ってろって言っても聞かねえし待たせてたって安全とは限らねえんだからよ!」
「ワテクシには守ってあげられないわ、そっちでちゃんと守りなさいよ!」
「言われるまでもねえよ。
おい、ケイイチ、大丈夫か!」
コトリとユカリを少し離した位置まで誘導した後ラグナはケイイチの元へと歩み寄る。
傍にいるシェリに対する警戒も忘れないために、その傍にグランブルを呼び出した状態で。
しかしその目の前で、ケイイチを乗せていたメブキジカが嘶き暴れ始めた。
「何なの…。何なのよ!」
不安定だったシェリは募らせた苛立ちを爆発させるかのように怒鳴り上げる。
移り変わる情勢についていくことができない、のみならず自分を放置して勝手に集まりゆく大人たちに不快な気持ちを抑えきれなかったのだ。
ニドキング、ニドクインに指示を送りだいちのちからをもってメブキジカを攻撃していたのだ。
「みんな消えて!パパ!ママ!お願い!」
シェリの言葉に反応するようにニドキングとニドクインはそれぞれ別の対象に攻撃を仕掛ける。
ニドキングはエルレイドに、ニドクインは傍にいたケイイチに。
「おいケイイチ、危ねえ!」
ラグナが咄嗟にグランブルを呼び出し、ニドクインの一撃を受け止める。
ばかぢからを抑えるグランブルはその腕に巨大な口のキバを突き立て、腕の力を緩ませる。
怯むニドクイン、しかし次の瞬間、グランブルの体がふらついた。
「ちっ、特性毒のトゲかよ…!ツイてねえ!」
噛み砕くを使ったことで接触したグランブルの体を、ニドクインの毒が蝕んでいた。
一端引かせるも、グランブルの体力はじわじわと減り続ける。
やむを得ずラグナがグランブルをボールに戻した時、シェリの絶叫が響き渡った。
グランブルがニドクインを受け止めた頃と時を同じくして、ニドキングはイオナのエルレイドへと跳びかかっていく。
ニドキングの頭部の鋭い角が一直線にエルレイドへと向かって突き出され。
「エルレイド、守る!」
しかしエルレイドはその一撃を守りの構えをとって防ぐ。
その後を追うように襲いかかったコバルオンのアイアンヘッドも、その防御の構えの前には破ることはできない。
攻撃を弾かれた態勢を整えるのはより小柄なニドキングの方が早い。
コバルオンの返しの一撃の態勢が整う前に、その純白の体になしくずしを放とうとし。
「邪魔を、するなぁ!!」
しかしイオナの叫びに応じるかのようにニドキングに向けてエルレイドはその腕の刃を振るう。
紫の光に包まれたその一撃は念力を刃にして相手を切り刻むエスパータイプの物理技、サイコカッター。
攻撃が届くより前にサイコカッターをその身に受けたニドキングは突き出した角を折られ、衝撃で吹き飛び壁面に叩きつけられる。
その様子を見ていたシェリの叫びが周囲に木霊し。
しかしそんな音も雑音にしか捉えていないかのように、ミチオは態勢を立て直したコバルオンに指示を出す。
コバルオンの剣の舞によって自身の攻撃力を上げられた肉体が頭を下げ突撃をかけるように構え。
「インファイト!」
「アイアンヘッド!!」
メガエルレイドの捨て身の一撃と、火力の上がったコバルオンの鋼の突進がぶつかり合う―――――
「パパ…、ママ…、ごめんなさい…私が悪い子だから…こんな…!」
シェリはそんなバトルの様子も目に入らぬかのように地に伏せるニドキングと傷付いたニドクインを見て嘆き。
ニドクインの腕の傷付いた場所に瓦礫の破片を叩きつけようとし。
その手が後ろから捕らえられる。
「やめ…るんだ…、そんなことをしても、君は…」
「うるさい!」
その手の瓦礫片をケイイチの頭に叩きつけるシェリ。
元より重症だった傷は開き、頭に巻かれた包帯から血が染み出し吹き出る。
意識が遠ざかり、その手を握る力が弱まる。
それでもシェリの手を離そうとはしなかった。
「ケイイチくん!」
その様子に慌てたコトリが、シェリの元に駆け寄りつつボールを取り出す。
「エルフーン、身代わり!」
「フー!」
振り下ろされた瓦礫の一撃を、エルフーンが身代わりで受け止める。
人間を殴ったとしても急所であるからこそ効果的なダメージをようやく与えられる程度だろうという程度の少女の攻撃ではエルフーンの身代わりを打ち崩すには足りない。
「くさ…ぶ、え……!」
掠れるような声でメブキジカに指示するケイイチ。
風に乗るような音がメブキジカの口から響き、シェリの耳へと届く。
やがて瓦礫を取り落とし、瞳を閉じてパタリと眠り込んだ。
そんなシェリの体を受け止めつつ地面に倒れこんだケイイチにコトリは駆け寄る。
「ケイイチくん!しっかりして!」
「あ…コトリさん……あの子は……?」
「今は寝てるから大丈夫。だけどここは危ないから早く離れないと…」
「おい、伏せろ!!」
その時だった。
ラグナの声が響き渡り、振り返ったコトリ達の顔に暴風のごとき衝撃が襲いかかったのは。
その頃、オーレンはぶつかり合うメガエルレイドとコバルオンに向かってニダンギルとランクルスを従えて向かっていた。
「ここはあなた達二人だけのフィールドではなくてよ!」
ランクルスのきあいだまが二匹の間に向かって放たれる。
輝く気の球をコバルオンはかわし、エルレイドは避けきれずその身に受けることとなってしまう。
しかし高い特防とエスパータイプという格闘に有利な相性を持つエルレイドには雀の涙ほどのダメージしか与えられていない。
「邪魔してんじゃねえよ!」
「邪魔をするな!!」
だがその割り込みに気を悪くした二人はさらに別のポケモンをオーレンに向かって放つ。
純白で華奢な体を持つ、ふんわりした印象を持つポケモン。
そして黄色い体に長い髭を備え、両手にはスプーンを持ったポケモン。
「そいつらを近寄らせるな!」
「この戦いの邪魔をさせるな!」
サーナイトとフーディンはその指示を受けて近寄るオーレンにめざめるパワーを、サイコキネシスを放つ。
ニダンギルをもってめざめるパワーを防ぐも、その鋼の刀身は熱を帯びて体を震わせる。
サイコキネシスは周囲の瓦礫を吹き飛ばし、オーレンの、そしてユカリやラグナ達のいる場所までその衝撃を飛ばす。
「くっ、滅茶苦茶じゃねえかこいつら…。おい、ユカリ、コトリ、大丈夫か!?」
「は、はい!」
ラグナはヘルガーを、ユカリはブラッキーを呼び出しサイコキネシスの衝撃を和らげる。
悪タイプのポケモンを持ってしても完全にはサイコキネシスを防ぎきれはしなかったものの、それでも二人が受ける衝撃をある程度は相殺してくれた。
「ユカリ!お前はコトリの方に向かえ!あいつらはお前じゃ荷が重い!」
「……、分かりました。気をつけて………あ、危ない!」
「うおっ!」
フーディンから放たれたきあいだまを間一髪で避けるラグナ。
その目から放たれる戦意はこちらに向いているが、離れた場所にいるコトリ、ケイイチ、シェリには向いていない。
それだけが安心できることだろうか。
サーナイトはオーレンの迎撃のために取り付いている状態。
ニダンギルとサーナイトであればオーレンの方が有利ではあるが、あの男がその相性を理解しているか怪しい部分はある。決着はすぐにはつかないだろう。
コトリの方を見ると、シェリは地面に眠るかのように倒れており、重症のケイイチと合わせて一生懸命介抱している。
少なくとも目の前で戦っているあの二人を差し置いて優先せねばならない状態ではない、むしろこっちに寄せてしまえば逆に危険だろう。
「まずはこいつをどうにかしねえとな…。ヘルガー、あくのはどう!」
「グルァ!」
そうしてフーディンに向き合った後、ヘルガーにあくのはどうを指示。その体から放たれた漆黒の波動がフーディンへと襲いかかる。
きあいだまを放とうとしていたフーディンは態勢を崩し動きを止める。
エスパータイプには効果抜群の一撃。しかし元々の特防が高かったこともあって一撃で倒すには至っていないようだ。
「ブラッキー!バークアウト!」
しかし続く攻撃、ブラッキーの放つ咆哮がフーディンを吹き飛ばす。
ヘルガーのあくのはどうに続くブラッキーのバークアウト。2連続の効果抜群の技であればフーディンの耐久力で耐え切ることはできない。
戦闘不能のフーディンはそのまま立ち上がることはない――――
「おい、マジかよ…」
そう思っていた矢先だった。
目の前で倒れていたフーディンがゆっくりと立ち上がったのは。
体をふらつかせ息を上がらせているその様子は確かに弱っている風ではあるが、しかしまだ瀕死とは呼べない有り様だ。
「ラグナさん、あれ!」
とユカリが示した場所に落ちているのはトゲの生えた小さな紫の物体。何かのきのみの残りカスのようだ。
「あれ、ナモのみのものです」
「こいつ、あくのはどうを軽減しやがったな…!」
フーディンに持たされていたナモのみがヘルガーのあくのはどうの威力を半減。
ブラッキーのバークアウトをかろうじて耐える程度には体力を残してしまっていたのだ。
フーディンはそのまま、ふらつきつつもスプーンを前に構える。
こちらのヘルガー、ブラッキーでは攻撃態勢が間に合わない。
「避けろお前ら!」
きあいだまか、あるいはまだ使っていない別の技か。
きあいだまであれば耐久力の高いブラッキーはともかくヘルガーが危ない。
駆け出すラグナの前で、フーディンはスプーンを曲げ。
そのまま自身の姿をかき消した。
「……は?」
「テレポート…、どうしてそんな技まで…?」
一瞬その動作への理解が遅れるラグナ。
ユカリはその技自体ははっきりと認識していたものの、しかしポケモンバトルにおいては使うことがまずないだろう技をフーディンが覚えていたことに困惑を隠し切れない。
いや、違う。
テレポートは攻撃する技ではない。あくまで相手との戦闘から離脱する時に使用されるもの。
本来トレーナー同士の戦いで途中で戦闘そのものを放棄しての離脱など有り得ない。
しかし、ここはただのポケモンバトルではない。ポケモンを利用した殺し合いだ。他ならぬオーレンにはっきりと告げられたこと。
ここから撤退したということは、フーディンが向かった場所は当然トレーナーの元だろう。
今ならば向こうに向かいオーレンの援護ができるはず。
そう思ったユカリの目の前に飛び込んできた光景。
「――――オーレンさん!」
それはオーレンが体に強い衝撃を与えられ吹き飛ぶ姿だった。
「ニダンギルちゃんどうしたの!何か切れ味落ちてない?!」
ラグナ達がフーディンを相手取っている頃、オーレンはサーナイト相手に手を焼いていた。
ポケモン相手に人間の身体能力で戦うのは無謀ではあるが、ニダンギルという相性のいいポケモンを持っている以上そこまで不利という状況ではなかった。
オーレンは気付いていない。今のニダンギルが不自然なほどの熱を帯びていることに。
それはサーナイトの放ったおにびによる火傷状態を意味していた。
本来オーレンのある程度高い身体能力と合わせれば回避も可能だったおにびだったが、ニダンギルの特性、ノーガードの影響で避けることができなかったのだ。
そしてまだ戦えると考えているオーレンは火傷の影響でニダンギル自身の攻撃力が下がっていることに気付いていなかった。
「ランクルスちゃん、サイコキネシス!」
一方で隣にいるランクルスも攻撃を放っているものの、高い特防とエスパー・フェアリータイプを持つサーナイト相手には通じる技がない。
弱点を突くことができるマタドガスを出したとしても、相性での不利は同じ。素早さが劣る分返り討ちに合う可能性が高い。
結論としてニダンギルに頼るしか手がなくなっていた。
しかし今のニダンギルは鋼タイプの技、アイアンヘッドやジャイロボールを備えていない。
さらにオーレン自身が振るっていることでシャドークローではなくきりさくやつじきりといった技を持ちいらざるを得なくなっている。
「こうなったら、でんじはよランクルスちゃん!」
ここにきてようやくオーレンはランクルスに補助技を指示。
状態異常:麻痺に陥らせて相手の行動力を大きく下げるための技だ。
「いくわよ!」
でんじはの命中を確認してオーレンはニダンギルを持って攻撃を仕掛ける。
しかし。
「…!でんじはが効いてない…?」
サーナイトの動きは鈍ってなどいない。
オーレンの攻撃をあっさりと避け、炎タイプを備えたエネルギーを放ってくる。
サーナイトが持っていたラムのみがでんじはによる麻痺効果を瞬時に治癒してしまったことをオーレンは見落としてしまったのだ。
その事実を見落とし、攻撃の一手を無駄にしたことに気付かなかった。
咄嗟に自身の体に当たることは避けたがニダンギルの体の熱が限界を迎え、一度激しく煙を上げた後その鋼の刀身をしなだれさせた。
見ると背負っていた体に当たる本体部分が目を回している。これ以上の戦闘は無理、ということだろう。
だが、武器としての使用は可能のはず、とオーレンはボールに戻すことなくサーナイトに突撃をかけ。
ニダンギルを振り上げた、その時だった。
「…あら?」
振り下ろされた手は何も持っていなかった。
戦闘可能状態を越えて瀕死となったニダンギルはモンスターボールへと自動回収されていた。
まだニダンギルを用いて戦闘を続けようとするオーレンの意志に反して。
そんなオーレンの目の前で、サーナイトは念力の塊を作り上げ。
一斉にそれを放出した。
「ぐぁっ!!」
全身に走る衝撃に吹き飛ばされるオーレン。
しかもその先にはコバルオンのばら撒いたステルスロックが散乱している空間。
サイコショックとステルスロックの衝撃が一斉にオーレンの体を打ちのめす。
「オーレンさん!」
ユカリの声が響き渡る。
急いで向かおうとするも、ステルスロックが邪魔をしてこちらに来るには時間がかかっている状況。
意識を失ったオーレンを静かに見下ろすサーナイト。
その体に未だボールに収まっていなかったランクルスが飛びついた。
一時的なものにすぎないとはいえ今の自分にとってはトレーナーである男。殺されるわけにはいかないという思いがあった。
「クル!」
「………」
地面に転がり仰向けに倒れるサーナイトの体。
しかしサーナイトはそんなランクルスに対して反撃することもなくじっと見つめるだけ。
その細い体を押さえつけていたランクルスは反撃の気配が全く感じられないことに疑問を感じ思わずその力を緩める。
やがてランクルスがその体から離れ起き上がってもサーナイトは戦意を見せない。
ただ、悲しそうな瞳をランクルスに向けるだけ。
「ヘルガー、ヘドロばくだん!」
その時、ステルスロックをくぐり抜けて現れたラグナがヘルガーに攻撃を指示。
対象は当然ランクルスの前に立つサーナイトだ。
ヘルガーから放たれた紫色の毒々しい球体はサーナイトの体に衝突して弾けその身を毒色に染め上げた。
オーレンとの戦いのダメージが残っていた体に効果抜群の一撃を受けたサーナイトは地面に倒れこむ。
「オーレンさん!」
その後ろから追いついてきたユカリは地面に倒れたオーレンに駆け寄る。
体には打撲傷や切り傷が付いているが命に別状のありそうな傷は見えない。
サイコショックのダメージが大きかった故に意識を奪われただけだろう。
と、そんなユカリ、そしてラグナの目の前で地面に倒れたサーナイトの体が光に包まれる。
そのまままるで吸い込まれるかのように光は少し離れた場所で激しい音を響かせている二人のトレーナーの元へと届く。
瀕死となっても一定時間回収される気配が見られなかったサーナイトが持ち主のボールに戻っていったのだろう。
「…俺達であの二人を止めるしかねえな……」
幸いヘルガーのダメージはほとんどない状態だ。
グランブルも毒を受けているのが少し不安だがコンバータに仕舞ってそれなりの時間が経っている。もう少しで全快状態を取り戻すだろう。
そんな時だった。
「ダメ!止めて!!」
「離せ!私に触るな!!」
後ろから激しく言い争うような声が響く。
振り返った先にあったのは、目を覚ましたらしきシェリがケイイチを殴りつけようとしているのをコトリが必死で押さえている様子。
ケイイチの傍にいるメブキジカ、エルフーンはニドクインを抑えるのに精一杯でコトリやケイイチに意識を割くことができていない。
「ラグナさん、私が――――」
「!!おい、伏せろ!!」
ユカリが急ぎそんな彼らの元に向かおうとしたその時だった。
前を見たラグナがユカリ達に向けて声を張り上げたのは。
そして次の瞬間。
見えたのは2つの膨大な光が衝突し。
その間で発生した膨大なエネルギーが地面を陥没させ、のみならず彼らのいた場所まで強烈な衝撃を巻き起こした。
さらに少し時間を遡る。
イオナとミチオは互いのポケモンを激しくぶつけあっていた。
「アイアンヘッド!」
「サイコ…いや、まもる!」
コバルオンの鋼の頭突きに対して、イオナはサイコカッターを指示しようとし。攻撃態勢が間に合わないと判断し咄嗟に守ることを指示する。
衝撃はエルレイドの体を押し出すも、ダメージはない。
睨み合う2匹、だがコバルオンは疲労がたまっているかのように息をついている。
エルレイドはコバルオンのアイアンヘッドを警戒していればいいが、しかしコバルオンはインファイトとサイコカッターに注意を払わなければならない。
メガシンカしたエルレイドの火力であれば抜群となるインファイトは元よりサイコカッターでも軽傷とはいかなくなる。
あと一つの技が分からないのが不安要素ではあるがすぐに使ってきそうな様子はない。
「さすがにダメージが大きいか…。コバルオン、こいつを食え!」
と、手を振り上げて何かを投げつけた。
飛来した小さな物体、それはオボンの実。
この戦いの場に来るまでの間になっていた実を拾ったものだ。
サイコカッターの一撃を飛び上がって避けたコバルオンは、宙を舞うそれを咥え。
「はたき落とせ!」
しかしそんなコバルオンに食い下がるように追いついたエルレイドは、オボンのみを口にしたコバルオンの顔面に強烈な張り手を喰らわせた。
その衝撃に思わずオボンのみから口を離すエルレイド。
「はははは、バカか!回復は防いだけど今のでコバルオンの攻撃力は上がったぞ!」
オボンのみを使いそこねたコバルオンの体力は回復することはなかった。しかしコバルオンに与えたダメージ自体は軽微、のみならずあくタイプの攻撃を使ったことで攻撃力を上げてしまっている。
つるぎのまいと合わせれば今のコバルオンはかなりの攻撃力を備えている。インファイトの連打で防御を幾度と無く捨てた今のエルレイドならば、当てることができれば一撃で倒せるはずだ。
そんなことを考えていたミツオはほんの僅かに意識をエルレイド、イオナから離してしまっていた。
だから気付くのが遅れてしまった。
横から飛来する瓦礫片の存在に。
「―――っ!」
避けられはしなかったものの、頭部に直撃するのは避けるように腕を上げて頭を庇う。
ドゴッ、と腕に軋むような衝撃を与えて体を後ろに下がらせた。
前腕部の痛みが体まで響く。
瓦礫が落ちても収まらぬ痛み。骨にヒビくらいは入っているかもしれない。
腕を抑えながら周囲を見渡すと、10メートルほど離れた場所にイオナの姿。その周囲にはこちらを狙うように複数の瓦礫片や木々の欠片が浮遊している。
こちらを直接狙ってきたのだ。先に自分が空手王にそうしたように。
「ちぃ」
避けられたことに舌打ちしつつ、さらに瓦礫を一つ、二つと念力で飛ばすイオナ。
飛び退いて避けながらコバルオンの後ろに退避。
飛びかかる瓦礫はコバルオンが弾き飛ばす。
「アイアン……いや」
アイアンヘッドを使えばコバルオンはその頭突きを放つためにここから離れ去る。そうなれば念力による直接攻撃を受けてしまうことになる。
せいなるつるぎを使ったとしても接近戦となることは同条件――――平常時であればそうなる。
今のコバルオンはつるぎのまい、そしてせいぎのこころによる攻撃力アップの恩恵を受けている。
今ならば行けるだろうか。あの聖剣を広い間合いで放つ攻撃が。
「コバルオン、せいなるつるぎ!」
迷うことなくミチオはせいなるつるぎを指示。
コバルオンの頭の角が光輝き、まるで剣のように形作る。
だがそれは攻撃力が上がったことに比例するかのようにその光の剣を伸ばす。
離れた場所にいるエルレイドやイオナにも届くほどに。
「行けええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
振り下ろされた剣は空を切り衝撃波を振りまきながらエルレイドの体を両断しようと迫る。
インファイトによって守りを下げたエルレイドには、半減威力であろうとも脅威になるだろう一撃。
それもまもるを使えば防げるだろう。
だが、イオナはそうはしなかった。
「サイコカッターで迎え撃て!」
「ルレィ!」
エルレイドの両腕のサイコパワーで作られた刃が、その聖剣を受け止めるように体の上でクロスし。
コバルオンのせいなるつるぎを真っ向から受け止めた。
せいなるつるぎとサイコカッター、二つの刃がせめぎ合い大気を揺らす。
エルレイドとコバルオン。
高水準の攻撃力と平均クラスの防御力を持つポケモンと高水準の防御力に平均レベルの、しかし補正のかかった攻撃力で半減技を放つポケモン。
メガシンカポケモンと伝説のポケモン。
ぶつかり合う2つの力、そこから発生したエネルギーは周囲に渦を巻き。
「殺せええええええええええええええええええ!!」
「やれえええええええええ!!」
叫び合う二人の声に応じるかのように2匹の体が押しこむかのように力を込め。
ピキッ
しかしそれはポケモンの体よりも攻撃そのものが限界を迎えた。
集まりに集まったエネルギーは、互いの刃崩壊と同時に一斉に周囲に解放され。
―――――――ゴオッ!!
2匹の立っていた地面に大きな亀裂を生み陥没させ。
まるで風神の起こした暴風のごとく、周りの瓦礫やステルスロックを撃ち上げるほどの風をまき散らした。
「うおっ!!」
吹きすさぶ風に乗り瓦礫やステルスロックが大量に飛びかう。
ラグナとユカリは風の勢いに目を開くことすらも叶わなくなる。
しかし前にいたランクルスが自衛のために貼ったリフレクターが障壁の役割を果たし、吹き飛ぶ障害物によるダメージを抑えた。
だが、暴風による風はかなりの広範囲に渡って巻き起こった。
それはシェリやケイイチ達のいる場所にも突風を吹かせるほどに。
その3人のいる場所ほど離れていれば風自体はほとんど収まっている。
しかし意識が危ういケイイチに暴れるシェリを抑えるコトリ、そしてポケモン達。
そんな各々の対応に追われる彼らにはその地点まで勢いよく飛ばされた瓦礫を守る術を持った者はその場にはいなかった。
「きゃああああああああ!!」
「コトリ!!」
様々な者の叫びが木霊する中で。
コトリ達3人と他の5人の間の空間を、降り注ぐ瓦礫の山が塞いでいき。
叫び声が聞こえなくなる頃には既に互いの姿は見えなくなっていた。
前半部の投下終了です
後半部なのですが、もう少し時間が掛かりそうな状態です
終わりは見えているのですがこれ以上の延長はさすがに気が引けるのでここで切るべきかそれとももう数日だけお待ちいただけるかの判断を仰ぎたいのですが…
>スピカテリブル
さながら戦場の如く、幾人ものトレーナーが戦いを繰り広げる。
それぞれのトレーナーの戦い方の個性が実によく描かれていて凄かったです!
コバルオンとエルレイドの、剣と剣のぶつかり合いが非常にいい絵です。
イオナの復讐と、ミチオの非道さ、どちらが上回るのかが個人的に注目してます。
気絶してしまったケイイチとオーレンの安否も気になりますね。生き残れる……?
前半戦、投下お疲れ様でした!
さて、後半部待ちに関してですが、勿論大丈夫です!
自己リレーでの予約でも全然OKですし、本日より一週間の再延長というのでもOKです。
けんきゅういんのケンジ、じゅくがえりのレンで予約します
からておうのガンマ、バトルガールのアゲハで予約します
>>418
感想とご意見ありがとうございます
予約は入れておりませんしちょっと間あけすぎた気もしますが
完成しましたので投下させてもらいます
◇
人が死ぬことは怖かった。
そんな世界とは今までもこれからもずっと縁のない世界だと思ってたから。
だけど、そんな世界に生きてきたからこそ憧れていたものがあった。
小さなころから自分のポケモン達と見た映画の中にいた者達。
悪の怪人を相手に華麗にポケモンを繰り出す正義の味方がいた。
巨大なポケモンのロボットから街を守ろうとする防衛隊の戦士がいた。
それらが映画の中にすぎないものだということは成長するにつれてやがて悟っていったが、しかしそれでも憧れは消えなかった。
だが。
カントー地方のヤマブキシティにあるシルフカンパニーを乗っ取ったロケット団を追い払ったのはたった一人のポケモントレーナーだったという話を聞いた。
壊滅したはずのロケット団の残党がまたもラジオ塔の占拠をした時、そいつらを追い払ったのもまたただ一人のポケモントレーナーだったという噂があった。
イッシュ地方でプラズマ団の首領が伝説のポケモンを操り世界を変えようとした時、もう一対の伝説のポケモンを駆ってその野望を食い止めたのもまた名も無きポケモントレーナーだったという。
そんな話を聞いた時、小さなころから憧れていたヒーローに対する強い想いが蘇っていた。
映画のような、物語のようなヒーローは確かに存在するのだと。
彼らのような、強いポケモントレーナーになりたい、という想いが熱意となって溢れていた。
だからキャンプボーイになり色んな山や川、海を一人で冒険し自分を鍛えた。
だけどポケモンバトルもそこまで強くはなれず、悪の組織と出会うことも、伝説のポケモンと出会う機会も無く。
ただヒーローの、正義の味方への憧れだけをただ燻らせるだけの日々だった。
きっと、ヒーローというものに対する綺麗な部分だけを見ていたのかもしれない。
まだ子供の考え方から抜け出せていなかったのかもしれない。
そんな時に、俺は殺し合いを開催するパロロワ団なるものと出会った。
あの最初の場所で、驚きと共に若干ではあるがこうして自分の鍛えてきたものを明かす機会に恵まれたことに歓喜している自分がいた。
だけど目の前で本当に人の首が飛んでいく光景に怖くなり。
その怯えを拭いきれぬままに、それでも殺し合う人たちを止めようとして、しかし目の前で繰り広げられたのは一人のトレーナーが首を刈り取られていく光景。
二度に渡る人の死に怖くなり逃げ出してしまっていた。
飛び散るあの赤い液体、そして動かなくなる人たち、そんなものに動じずにいられるような経験も知識もなかった。
そしてあの少女と出会い。
助けなきゃ、守らなきゃと感じていた想いがあったにも関わらず怯えからまず協力を申し出ることから始め。
襲われればその恐怖感から思わず反撃に出てしまい。
そしていざ助けようなどと、自分の満足感を満たすことしか考えていないにも関わらず思いながら助けようとした結果がこれだ。
あの子はそんな自分の気持ちを一体どこまで気付いていたのだろうか。
上辺だけで助けようとする自分の、そんな邪な思いに。
しかしあの時最初に女の子のトレーナーを殺したおっさんがその子も殺そうとしていると聞いた時。
それじゃダメなんだ、と。それじゃあの子は助けられないんだ、と。
そして自分がこんなふうになったせいであの子が殺されそうになっているんだと。
そう考えたらいても立っても居られなくなった。
俺のせいであの子が殺されそうになっていると。俺の身勝手が人を死なせようとしているのだ、と。
だけど、結局ダメだった。
確かにオーレンさんに殺されることだけは阻止できた。
でも女の子はどうすることもできなかった。のみならず、その先延ばしにしてしまった問題が別の問題――別の殺し合いに乗った人物をも呼び寄せてしまった。
全ては俺の身勝手な正義感からくる罰なのだろう。
だけど、例え罪悪感からきたものだったとしても。
あの時あの少女を助けたいと思ったその気持ちだけは真実だった。
◇
「う…、痛っ…」
突然の衝撃に吹き飛ばされたコトリは痛みに呻きながら目を覚ました。
頭から血が流れているのを感じ、ふと心配になって傷に触れてみたがどうやら頭の皮を斬っただけのようだった。
「フー」
起き上がりながら倒れた場所に振り向くと、そこにはエルフーンの姿。
モコモコとした大量の綿がその体を覆っており、さらに周辺にはたくさんの綿の切れ端が散乱している。
「…エルフーン?もしかしてあなたが?」
「フーン」
「ありがとう!」
コットンガード。
何となく戦いよりも人を守れるような技を持たせておきたいと、あの戦いの場に着く前にやどりぎのタネから変更させた技だ。
技を変えておいてよかった、と一安心するコトリ。
本来ならばもっともこもことした綿に包まれることを楽しんだだろうが、今はそんな状況ではない。
お礼をそこそこに、もう一人この周辺にいるはずのケイイチとシェリの姿を探す。
すると少し離れた場所でシェリは地面に倒れこんでいた。
ニドキングとニドクインの姿はない。ニドキングは戦闘不能状態であるため問題ないだろうがニドクインはそうではなかったはず。
そしてそこから少し離れた場所で。
「…っ!ケイイチくん!」
ケイイチが崩れた建物の傍、瓦礫に足を挟まれた状態で倒れていた。
処置したはずの傷は完全に開いたようで、頭に巻いていた包帯は真っ赤に染まりきり吸いきれなくなった血が地面を赤く濡らしている。
「しっかりして!ケイイチくん!」
考えるのは後だ。今はまず彼の体の状態を、無事を確認しなければ。
「あ、のさ……」
と、呼びかけに応じるかのように声を絞り出すケイイチ。しかし様子がおかしい。
目は半開きで焦点もロクに定まっていない。
「俺さ…小さいころからヒーローに憧れてたんだ…」
「ケイイチくん…?」
呟いている言葉もこちらに話しかけているというよりはただ空間そのものに独白するかのように焦点の合わぬ言葉を投げかけている。
きっと目はもう見えていないのだろう。下手をしたら声も聞こえていないのかもしれない。
だから、コトリはその手をしっかりと握りしめて自分がここにいるということをケイイチに示した。
「映画とかに出てくる、あ、なすごい男になり。たくて。
そんな気持ちばっかり出てきてあの、子がどうして苦しんでるのか、なんて全然分かろうとも、してなかった」
「…………」
「覚悟もなかった…。ただ。自分の気持ちを押し付けただk、だった…。
ただ、俺がバカだったんだ…。そのせいで、みんなを……」
手からケイイチの力が徐々に抜けていくのが分かった。
「みんな…、俺がバカなせいで巻き込んじまって…、ごめんな…」
「そんなこと…!違うよ!ケイイチくんは悪くないよ!悪いのは……」
そう、悪いのはこの状況だ。
他者を傷つけ殺すことを強要しているこの状況。それがおかしいのだ。
ケイイチの想いは間違ったものではない。ただ少し失敗してしまい、それが命に関わってしまったというだけのこと。
善悪で語るのならそれは決して悪ではない。
「なあ、コトリさん。勝手なことだって、分かってるけど、お願いさせてくれないか……?」
「うん……」
「あの、女の子のこと、どうか――――――」
ドン
そう言いかけた次の瞬間だった。
ケイイチのいた場所に向けて大きな岩の塊が落ちてきたのは。
コトリは反応することすらもできず。
ただ握りしめていた手を残して、グシャリ、と嫌な音を立てて岩の下敷きになる姿を見ていることしかできなかった。
思わず見上げると、そこには。
「ギシィィィィ」
瓦礫の山の上で吠えるニドクイン。
「―――全部、壊して」
そして自分の後ろから聞こえた、少女の声。
◇
「コトリ!ケイイチ!」
ラグナは閉じられた道に向けて叫ぶが声は届かない。
生きているのか死んでいるのかすらも確認を取ることができない。
そもそも声は果たして届いているのか。
このすぐ傍でコバルオンとメガエルレイドの戦いが繰り広げられている空間。
伝説のポケモンとメガシンカポケモンの戦い。
今の自分達のポケモンで太刀打ちできる相手ではない。
だが、かと言って見捨てられる相手では―――
「リッキ」
その時だった。目の前に一つの影が現れたのは。
4本の腕を持った格闘ポケモン、カイリキーだ。
「…まだいたのかよ、ち、相性が悪い…」
ヘルガーやブラッキーとカイリキーの相性は悪い。
圧倒できるとしたらグランブルだが、あっちはまだ毒状態が解けていない。できれば無理をさせたいものではない。
だが。
「贅沢は言ってられねえか…」
ボールを取り出しグランブルを呼ぼうとするラグナ。
が、その時だった。
コロン
投げ渡されたのはオボンのみ。
ポケモンが体力を減らされた際に使うことで、自身の体力をある程度回復させることができるもの。
人間にも効果はあるだろうし、使えばきっとオーレンのダメージも回復、とまではいかなくても体力の回復程度は可能だろう。
だが、カイリキーはどうしてこれをこちらに投げ渡したのか。
―――ドゴォン
そんな疑問も解けぬまま、カイリキーは壁を殴り飛ばし。
崩れた岩が、建物が2匹のポケモンがぶつかる場所と自分たちのいる空間を断絶した。
「…?」
行動の意味が分からずラグナとユカリは一瞬首を傾げる。
それは戦場では紛れも無く大きな隙だったにも関わらず、カイリキーは何もしてこない。
「…ここから離れるなら手は出さないと、そう言いたいんですか?」
「………」
返事はない。
ただカイリキーは静かにこちらに無防備な背を向けるだけ。
もし攻撃を加えればカイリキーに大きな一撃を加えることは可能だろう。
しかし、そうすれば間違いなく相手は反撃してくるはずだ。その場合オーレンはどうなるだろう?
最も自分のトレーナーを狙った存在、少なくとも都合よく見逃せるものではないだろう。ましてや今の彼は意識がない。狙うには絶好の相手だ。
だが、それでこちらが背を向けた場合に不意打ちをしてくる可能性はゼロではない。
「…ラグナさん、たぶんですが、このカイリキーは信じてもいいと思うんです」
「何でそう思うんだ?」
「勘、…ですかね。何となくですが、このカイリキー、昔私のおじいちゃんがパートナーにしてたハリテヤマに似た雰囲気を感じるんです。
力強くどんな相手をも蹴散らす強さを持っていながら、でも他人に優しかった、憧れのポケモンに」
「…信じていいんだな?」
「少なくともオーレンさんの怪我をどうにかするのを優先した方がいいのは確かです。
どうしても信じられないなら私がラグナさんの後ろを守ります」
「……」
ラグナは静かにオーレンを背負い、ケイイチやコトリが倒れているだろう場所へと向かう。
近くだったはずなのに道が塞がれたことで遠回りしなければ向かうことができなくなっているが。
ユカリはせめてもの警戒とバクフーンを呼び出し、ラグナの信頼に答えるためにカイリキーを警戒しながら彼の背を守って進む。
その間、カイリキーはずっと佇み続け。
やがて彼らが見えなくなった辺りで瓦礫の向こうへと飛び移り立ち去って行った。
◇
私は別にポケモントレーナーでもありません。
ポケモンのことは大好きだけど、ポケモンが傷付くと思うとどうしてもポケモンバトルを自分ですることはできなかっただけです。
バトル自体が問題なのではない。自分の失敗でポケモンを傷付けてしまうことが怖かった。
私には二人の幼馴染の友達がいます。
小さなころからずっと一緒にいた、大切な友達。
だけどそんな二人はそれぞれやがて別々の道を歩んでいきました。
一人はポケモンコーディネーターとしてポケモンコンテストライブに出場するため。
一人はポケモントレーナーとして自分やポケモン達を鍛えるために。
共に別々の道に旅立って行きました。
だけど私はそのことに引け目を感じたことはありません。
その二人とはちょくちょく連絡を取ることはできますし。
ライブに出場するための衣装について一緒に相談に乗ったりもしていました。
ポケモンや友達自身に合わせた衣装を考えて、時には作り。
トレーナーを目指した子には力になることはできませんでしたが、帰ってくるたびにその子の話す旅であった出来事を聞くことを楽しみにしていました。
みんなが夢を目指して成長していってる中で私だけ何もすることなく生まれ育った街で過ごしている日々。
そんな毎日で本当にいいのか、と考えたことも昔はありました。
ただメイドのアルバイトを続けながらポケモンと戯れる日々。
どこにも行かず、何か特別なことをすることもなく。
二人は変わっていっている気がしました。
夢を、自分の理想を目指して旅立って、帰ってくるたびに少しずつ成長しているように感じました。
一度そのことを友達に相談したこともありました。
すると、友達は笑って言いました。
『あなたがこうして街で暮らしているというだけで、私たちはここが私たちの帰るべき場所だって思えるんです』
『こうしてたまに帰ってくるたびに色々服のお話とか旅でどんなことがあったかってこと話せるだけで私は十分だよ』
本当にそれが自分のためになるの?二人においてきぼりにされてない?
それでも払拭できない不安をそう問いかけたりしました。
『コトリ、あなたのそのどんな他人のことも受け入れるところは長所だと私は思います。だけど少し自分のことになると気負いすぎるきらいがありますね。
もっと自分のやりたいようにしてみたらいいと私は思いますよ。あなたがどんなに変わっても変わらなくても、私達はあなたのことを嫌ったりなんかしません』
例え自分達が変わることがあっても、私たちの友情は決して変わらないと。
だから、その上で私がやりたいことをゆっくりと見つけていけばいいんだ、と。
それはこのさっきラグナさんに言われた言葉に、ユカリちゃんが感じていた悩みに近いものでした。
それが弱さならば克服していく。だけどそれが長所ならば自分自身に自信を持って胸を張っていけばいいんだと。
じゃあ、こんな殺し合いの中で私には一体何ができるんだろう。
ケイイチくんが死んで、目の前には傷だらけの子供。
そんな状況で、私がすべきこと、立ち向かい、向き合わなければならないことは何なのだろう。
私に、何ができるのだろう。
◇
◇
エルフーンがコットンガードを張って防御力を上げるが、ニドクインはなしくずしを放ち上げた防御力を貫通してダメージを与えてくる。
みがわり、アンコール、ムーンフォース。
今のエルフーンの攻撃には有効打がない。
「ラプラス、お願い!」
呼び出したのはもう一匹のポケモン、ラプラス。
氷、水の二つのタイプを持つポケモン。
彼ならばニドクインに対して強気に出ることができる。
だが。
「ラプラス!ニドクインを抑えて!」
攻撃を指示せず、あくまでもニドクインの動きを止めることを優先した。
その巨体はニドクインの体の動きを阻害し、さらにそこに加えてエルフーンが身代わりを使って攻撃を防ぐ。
攻撃すればニドクインを落とすことは容易いだろう。しかし取り押さえるとなると2体のポケモンを持ってしてようやくだ。
コトリがニドクインを攻撃できない理由。
おそらくは今ニドクインを倒してしまえば、シェリの戦闘可能なポケモンはいなくなる。
それは彼女自身の死を意味していることはサカモトの言葉から分かる。
これからの戦いは彼女を止めるためのもの。殺すためのものではないのだ。
加えて、シェリがポケモンの追ったダメージを自分に反映させるように自傷していたのは先の異常な行動から把握済みだ。
だからこそ、出来る限りポケモンを傷つけずにニドクインを止めなければならない。
これ以上、目の前であんなに小さな女の子が傷付くのは見たくない。
例えそれが一度襲われた相手であったとしても。
それが一体どれほど困難なことかは今のポケモン達の様子を見れば明らかだ。
だけど諦めるわけにはいかない。
ここでそれをしてしまえば、ケイイチの死が無意味なものになってしまうから。
「ねえ、名前は何ていうの?」
「………」
コトリはゆっくりと問いかける。
なるべく警戒心を煽ることがないように、静かに優しく。
しかし少女は答えない。
返ってきたのは敵愾心と警戒心、そして強い憎悪に満ちた視線だけ。
きっとこの子には辛いことがあったのだろう。
自傷行為に走るほど精神が病んでしまうほどの。
「あのニドクイン、ママっていうんだよね。どうしてそう呼ぶのかな?
由来があるなら、お姉さん聞きたいな」
「……」
「あなたのパパとママは、何をしてるの?」
「……―――、うるさい!」
それまで沈黙を保っていた少女は、その言葉が琴線に触れたように石を投げつけた。
思わず顔を背けるが、頭に当たったそれは鈍い痛みを残して地面に落ちた。
「ママはいなかった!パパももういない!
私がパパを裏切ったから、ママしかいないのにママになれなかったから、だからいなくなった!
だからルキもいなくなった!」
それまで溜め込んでいた想いを吐き出すかのように喚き散らす少女。
言葉には整合性が取れておらず詳しいことまではコトリにも分からない。
だが、何となく分かったこと。
少女の父親と母親はもうおらず、ルキという存在がいなくなったことと加えて全てが自分のせいだと思っていること。
「じゃあ、どうしてあの子達にパパとママって名付けたの?」
「うるさい!」
少女は手に瓦礫片を持ったままコトリの元に走りより、力いっぱい振り下ろす。
思わずそれを後ろに下がることで避けたコトリ。
「プ、ゥゥ…」
後ろで聞こえるエルフーンとラプラスの鳴き声。どうやらニドクインから少しずつだが加えられている反撃にダメージを受けている様子。
(…ごめんね、ラプラス、エルフーン……)
きっと2匹が戦闘不能になったら自分は死ぬだろう。
だが、そんな事実よりも自分のわがままに付きあわせ、その結果こうして傷ついているという事実が苦しかった。
だからこそ、急がないといけない。
「私はあなたを傷つけないから、だからもう止めよう?落ち着こう、ね?」
「嘘つき!そう言って私を無視して、私から全部奪っていったくせに!ルキのこと、助けなかったくせに!」
瓦礫がコトリの腕を打つ。
強打された場所に小さな痣ができピリ、と痛みを発する。
「痛っ…」
「みんな壊れろ!死んじゃえ!愛も、思い出も、何もいらない!」
怒りのままに、少女はボールを取り出し、中のニドキングを呼び出した。
エルレイドから受けたダメージも折れた角も既に完治している。危惧していた状況になってしまった。
エルフーンやラプラスはニドクインを抑えることに必死でこちらに呼び戻せそうにない。
「やっちゃえパパ!」
指示を受けてその腕を振りかぶり殴りかかるニドキングを前に。
コロッ
「――!」
コトリはふと手が触れた何かを投げつけた。
ポン
投げた何か―――モンスターボールは目の前で開き。
光と共に現れた何かがニドキングの腕をガッシリと受け止めた。
「ニドキング…?ううん、この子は…」
そこにいたのは同じ姿をした2匹のポケモンの姿。
2体のニドキングがガッシリと組み合い押し合っている。
しかしこっちを守るように位置したニドキングだけ僅かに色が薄い。
「ケイイチくんのメタモン…」
変わり者の特性により出現と同時に変化、そしてスカーフの効果により目の前のニドキングより素早く動けたメタモンが暴れまわるニドキングの体を受け止めていたのだ。
しかしスカーフと技の効果が合わさり、こちらの言うことを受け付けなくなっている。
このままだとニドキングとメタモンのどちらかが倒れるまで戦い続けることになってしまう。
地面を転がるように組み合う2匹のポケモン。
一撃一撃、技が繰り出されるたびに互いに傷ついていく。
「はぁ…はぁ…」
じっとその光景を見つめる少女は、ニドキングの傷ついた場所を掻き毟っている。
引き裂かれた腕の皮からはじわりと血がにじみ出ている。
その腕に残った、治りかけのカサブタが剥がれていく様子が痛々しかった。
だけど、それから目を背けるわけにはいかない。
「……離して」
ひたすらに手を掻き毟り続ける少女の手を掴むコトリ。
しかしそんなコトリの手を少女は拒絶するように振り解こうと力を込める。
「離せ!!」
「そんなことやっちゃ痛いだけだよ…」
「うるさい!お前に何が分かる!」
「あなたのことは分からない、だけどそうやって自分を傷つけてたら痛いって、苦しいってことは分かるよ!
あなたはそうやって、痛くないの?苦しくないの?!」
「――――っ」
腕に込められた力が強くなり、コトリの手を振り解いた。
敵意を込めてこっちを見返す少女の瞳。
しかしそこにはさっきまでとは別の感情が混じっているように思えた。
まるで何かに困惑しているかのような。
「……どうして?」
「だって、そんなふうにしたら私だったら耐えられないよ。痛いし苦しいし、誰も楽しくなんてならないよ…」
コトリの言った言葉は別に特別なものではない。
ただ彼女なりに思ったこと、感じたことをありのままに伝えただけだ。
少女が傷付く姿を見ていられなくて。
ポケモンが傷ついていくだけでも痛々しいのに、それと同じ傷を自分につけるなんて。
そんなこと、コトリにしてみれば考えられないことだったから。
それだけだったのに、少女の動揺が強まっていくように感じられた。
「どうして?
どうしていまさらそんなことを言うの?」
◇
シェリはあの日が来るまでは人を恨んだことはなかった。
周りの人間が自分を助けてくれなくても。
どれだけ父親が自分に暴力を振るおうとも。
助けてくれないのは当然のことだ。それは自分の手を切って学校に行った時に思い知ったこと。
ならば全て自分一人で背負い込めばいい。
それが変化していったのは、ロコンと、ルキと会ってから。
旅に出てからはあの子とは一心同体のようにも感じられたし、だからこそルキが傷付くたびに自分を傷付けることでその繋がりを強めていった。
だけど、そうしていくうちに自分の内には父親に対する憎しみも生まれていた。
他に自分が大切なものを作ってしまった以上、相対的にそうでないものに対する想いが減退していった結果だった。
では、その愛そのものを失った時どうなってしまうのだろうか。
それまで自分を助けようともしなかった者が、自分を助けようとしたルキを失わせた。
どうしてこんな時ばっかり自分に構うの?どうして手を差し伸ばしてもくれないくせに、私から大切なものだけ奪っていくの?
シェリは気付いていた。自分が配られたポケモンに対して何の特別な想いも抱いていないことに。
だけど、世界は別だ。人間は別だ。
手を差し伸べることも拒み、大切なものだけ奪っていく人々を、世界を憎悪した。
そしてこのポケモン達は力だ。今の自分にとっては
だからこそ、パパ、ママと名付けた。
だからこそ、ルキの時のように攻撃を受ける度に自分を傷めつけた。
如何にも自分がこのポケモン達に愛情を持っているかのように振る舞うことで、ニドキングとニドクインを自分と結びつけ復讐のための力として確立させるために。
現にここにいた人は悪い人達ばかりだった。
助けもしなかったのに、都合のいい時だけ自分に頼ろうとする者。
力で自分を征服しようと襲いかかる、まるで自分の父親のような者。
父親のように大声で叫び人に襲いかかる女も苛々させた。
だから全て壊そうと思っていた。
全て殺してしまえばいいと思った。
あの時ルキにした仕打ちのように。
なのに。
どうしてこの女はこんなに自分に踏み込もうとしてくるの?
―――――どうして、今なの?
◇
◇
ダメだ。
近寄るな。
それ以上踏み込むな。
シェリは拒絶するようにコトリから離れようとする。
自分に踏み込んでこようとするコトリを、無意識のうちに求めている自分がいる。
自分に救いの手を差し伸べるその手を取ろうとしている自分がいる。
だけどそれは既に捨てた思い。
全てを憎み、全てを壊そうと決意した今必要な感情ではないのだ。
「…ねえ、名前は?」
「………」
「私はコトリっていうの。あなたの名前、知りたいな」
「……………シェリ」
だというのに、気が付けば名前を呟いていた。
理性は拒絶しているはずなのに。
心の内にある何かがそれを求めているかのように。
「…、こないで!」
思わず後ずさるシェリ。
怖い。
その温かさを求めている自分が。
その温かさに手を延ばそうとしている自分が。
「怖がらなくてもいいんだよ。
大丈夫、みんながみんなシェリちゃんを傷つけたりするわけじゃない。
ラグナさんも、ユカリちゃんも優しい人だよ。だから、ね」
「…、っ、ママ、パパ!」
だから、その思いを断ち切ろうと、シェリはニドキングを、ニドクインを呼ぶ。
シェリの呼び声に答えるかのように、エルフーンとラプラスを、メタモンの拘束を振り解いてこちらに飛びかかった。
「……、こおりのつぶて!みがわり!」
そんな二匹に、しかしコトリは振り返ることなく指示を出し。
ラプラスが瞬時に作り上げた氷の塊がニドクインに直撃、怯ませて動きを止め。
襲いかかるニドキングの拳を、エルフーンの作り上げた分身が受け止めた。
ポケモン達を見ることもなくそんなことをしたコトリに驚くシェリ。
コトリはポケモントレーナーではない。
だが、今連れているラプラス、そしてエルフーンに対する信頼はポケモントレーナーのそれにも劣ってはいなかった。
だからこそ、自分の背中をポケモン達に任せられたのだ。
「くるな!」
地面に転がりつつも、咄嗟に拾い上げた棒を振り回してコトリをはねのけようとするシェリ。
そう長くはないものの先の尖ったそれは素早く振られれば人体を容易に傷つけるだろう。
そんなシェリの手をさっと捕らえ。
静かに抱き寄せて優しく抱擁した。
「――っ」
「いいんだよ、泣いても。
辛かったら、痛かったら、我慢することなんてないの」
そんなコトリに、シェリは最後の抵抗をするかのように手に持っていた棒を、コトリの肩に思い切り振り下ろされ。
グシュリ、という音と共にコトリの肩にそれが突き立つ。
「……つ、…シェリちゃんもこんな痛みをずっと味わってきたんだよね?」
しかしコトリは力を緩めることすらもしない。
「一人で閉じこもるのは、悲しいでしょ?
泣きたい時があったら、みんな一緒にいればいいんだよ…。だから、もう止めよう?」
「―――――!」
もう、とっくに枯れ果てたと思っていた。
泣けども泣けども、誰も助けてはくれないから。
ルキがいなくなった時でさえも、涙が流れることはなかった。
なのに。
瞳が潤み、視界がぼやける。
「なん、で……」
それはずっと求めていたはずのもので。
けど誰も与えてくれなかったから諦めたはずのもの。
「どうしてよ……」
だからこそ、悲しかった。
「どうして、もう少し早くそれをくれなかったの…?」
もし、その手を伸ばしてくれるのがもう少し早ければ。
ルキを失うことはなかったかもしれないのに。
求めていたものの温かさの中で、そんな小さな本音を漏らしながら。
シェリは静かに意識を落としていった。
◇
―――この子が、元気に生まれてきますように……
その言葉に聞き覚えはない。
それをはっきりと耳で聞いたことはシェリにはない。
だけど、確かにその声が母の言ったものだったことは分かる。
いつ、どこで言われたかなど覚えてはいない。
だけど、その言葉は真っ暗な闇の中で、確かな温かさを持って自分の中に届いていた言葉だったから。
◇
「はぁ……はぁ……」
「くそっ、コバルオン!」
木々はへし折れ、地面は大きく抉れ、建物は原型を残さぬほどに打ち崩され。
更地に近い状態になりつつある中心地に二人のトレーナーがいた。
その場にはポケモンこそいたものの、それを数えても直立しているのはその二人だけ。
コバルオンは地面に倒れ込み。
エルレイドはメガシンカ形態を解除されて地に膝をついていた。
どちらも傷だらけで、周囲にあるものを押し潰さんとばかりだったはずの覇気は今や見る影もない。
これ以上の戦闘は不可能だろう。
「…出せよ。まだ持ってるんだろ?」
「………」
静かにミチオはモンスターボールを取り出す。
まだ回復しきっていないフーディン、サーナイトを出すことはできない。
「どうした。もう店じまいか?」
「………」
モンスターボールを取り出そうともしないイオナに焦れるミチオ。
しかし。
「リッキ!」
地面を飛び跳ねるようにして現れた一匹のポケモン。
それこそがイオナの最後のポケモン、カイリキー。
「…お前はこのカイリキーが誰の持っていたポケモンか分かるか?」
「ノーガードでバレパンを覚えたカイリキーのトレーナーのことならな。もしかしてそいつは同じやつか?」
「そうだ、お前の殺した男のポケモンだ」
「なら話は早え。その憎しみや怒りを全部、俺にぶつけてこい」
ミチオの呼び出した最後のポケモン。
それは小さな黄色い体を持ったベイビィポケモン。
「チュゥ」
ピチューとカイリキー。
種族値の差は歴然。
技構成を見ても、最後に残しておくべきポケモンではないはずのもの。
しかしミチオには逃げようという思いは一片たりとも湧いてこなかった。
今、自分の持った感情全てをこの自分にぶつけてくれる相手がいるのだから。
それがとてつもなく嬉しかった。
「ばくれつパンチ!」
カイリキーの4本の腕から溢れる膨大なエネルギーを纏った拳がピチューに放たれる。
小柄な体は容易に吹き飛び地を跳ねる。
しかし、まだピチューは倒れてはいない。
きあいのタスキを持ったピチューは、一度だけ攻撃を耐えることができる。
「いばる!」
ピチューがカイリキーを嘲笑するような笑みを浮かべて煽り立てる。
怒りに我を忘れるカイリキー。
「もう一度ばくれつパンチだ!」
指示を送るイオナ。
しかしカイリキーはその言葉が耳に届かないかのように自身の体を殴りつける。
いばるによって混乱状態に陥っていたのだ。
「ハハハハ、でんじはだ!」
こちらの攻撃が届かぬまま、ピチューの放った電磁波はカイリキーを捉え動きを鈍らせた。
混乱と麻痺の二重の状態異常にかけられたカイリキー。
しかしピチュー自身にもばくれつパンチによる混乱は続いている。
運良く2連続で技を放つことができたが、次で混乱が解けるか、もし解けなければ自滅するか。
状況は5分5分、というにはミチオにあまりにも不利だった。
だが、彼自身はそんな状況にこれまでにないほどの高揚感を覚えていた。
(次で、…決まらねえだろうな。こっちは終わりだってのに)
だが、分の悪い賭けは嫌いじゃない。
それを乗り越えてこそ、他者に認められるようなポケモントレーナーになれるのだから。
「バレットパンチ!」
「もう一度、いばる!」
指示は同時。
二つの影が同時に動き、そして―――――
「…は、やっぱ、無理だったかぁ」
倒れていたのはピチューだった。
混乱と麻痺の二つの状態異常を乗り越え、カイリキーはその拳をピチューに撃ちこんでいた。
一方のカイリキーはふらつきながらも地を踏みしめて直立している。
つまり、ミツオの敗北だった。
カツ、カツ、カツ
既にポケモンはいない状況のミチオに、強い敵意を表しながら歩み寄るイオナ。
「あんた、さっきのやつの知り合いか?」
「ああ」
「なら殺せよ。早くしないと仇を取り損ねるぜ」
ピピピピピピピピピピピ
と、同時に首輪から音がなり始める。
ポケモンが尽きたこと、この場での完全な敗北を、死を意味する宣告音。
だが今更驚くものでもない。
覚悟はしていた。
「……何でリキを殺したんだ」
「別に意味なんかねえよ。
こんな場所だ、一人でも殺した方が目立てるだろ?」
「目立つことに何の意味がある?」
「そうでもしねえと、誰もオレのことなんて見ねえだろ」
時間が惜しいはずなのに、イオナはミチオを殺そうともしない。ただじっと見つめるだけだ。
そんな彼女の視線には、敵意こそあれ殺意はこもっていないことに、この時点でようやく気付いた。
「……やっぱり止めだ。お前に手を下すのは。
その首輪が爆発するまでの間、少しでも悔いながら死んでいけ」
そう言ってミツオのボール全てを奪った後、静かに立ち去っていくイオナ。
「ははは、マジですか」
音の感覚が短くなるのを聞き届けながら、ミツオは地面に仰向けに倒れこむ。
元々生きたいと思ってなどいなかった。
ただ、誰か一人でも多くの人の記憶に刻み込むことができるならそれでいいと思っていた。
そうして、一人の女の心に深い傷を残すという形で己の証を残すことができた。
その果ての戦いに敗れたのだ。
今更悔いることなど、何も―――――
(……はぁ、だよなぁやっぱり)
伝説のポケモンを駆り。
ポケモンバトルにも勝利してきた。
だが、それでも。
(やっぱり)
あの男のような、力強くコバルオンを操る姿のような。
これまでに会った、伝説のポケモン達を所持したトレーナー達が持っていたあの輝きのような。
(もっと、ちゃんとした形で目立てればよかったんだけどなぁ―――)
ボン
◇
リキを殺した男。
コバルオンと戦っていた時には、あれほどまでに憎悪が滾っていた。
なのに、いざこうして全てが終わり、相手の死が避けられぬ状況となってからは虚しさだけが心に残っていた。
最終的に直接手を下さなかったのは、少しでもその虚しさを紛らわそうとしたただの気まぐれ。
憎悪がほぼ消え去ってしまった今、あいつを直接殺すかどうかなど大した問題ではないのだ。
復讐心は何も生まないなどとよく言われているが、確かにそうなのだろう。
想いの全てを憎悪に費やした場合、それがなくなってしまえば残るのはただの空の心だけ。
復讐を果たしたことで死んだ人間が生き返るわけではないのだから。
だから、復讐を終えるまでに心を埋める別の何かを見つけられなければ、そいつはただ空っぽのまま生きていくだけ。
「………生きてやるさ、リキ」
そしてイオナは、その心をリキの最後に残した言葉で埋めることで、己を留めた。
「たぶんお前の望んだ私にはもうなれない。
だがそれでも、生きてやる。生きて、あの街に帰ってやるさ
ここにいる他の皆を殺してでも」
だから、イオナは修羅の道を歩むと決めた。
ボールを開き、エルレイドを呼び出す。
瀕死状態で戦うことはしばらくはできないだろう。
だが、戦いでさえなければ使うことのできる技はある。
エルレイドの覚えていたまもるを忘れさせたイオナは、一つの秘伝技を覚えさせる。
いあいぎり。
道を邪魔する木々や草花を刈ることが可能な技。
「エルレイド」
その技をもってイオナは。
「私の髪を切り落とせ」
己の長髪を断髪した。
「――――さようなら、リキ。私の思い出」
後ろに縛っていた髪はバッサリ切り落とされ。
握りしめられたそれはイオナの手から離れ、風に舞って飛んでいく。
それを静かに見届けながら、静かに廃墟の街を立ち去って行った。
【B-6/一日目/夕方】
【サイキッカーのイオナ】
[ステータス]:疲労(中)、虚無感、短髪
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3、メガストーン(イオナのポケモンをメガシンカ可能)、メガリング
[行動方針]何があっても生き残りあの街に帰る
1:そのために全ての参加者を殺す
◆【フーディン/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの:???
能力値:特攻素早さ全振り
《もっているわざ》
サイコキネシス
きあいだま
リフレクター
テレポート(緊急離脱用)
◆【エルレイド/Lv50】
とくせい:???
もちもの:エルレイドナイト
能力値:???
《もっているわざ》
サイコカッター
インファイト
はたきおとす
いあいぎり
※瀕死状態です
◆【カイリキー/Lv50】
とくせい:ノーガード
もちもの:???
能力値:攻撃全振り
《もっているわざ》
ばくれつパンチ
バレットパンチ
ストーンエッジ
みがわり
◆【ピチュー】
とくせい:ひらいしん
もちもの:きあいのたすき
能力値:おくびょうHS
《もっているわざ》
でんじは
アンコール
ひかりのかべ
いばる
※現在瀕死状態です
◆【サーナイト】
とくせい:トレース
もちもの:オボンのみ
能力値:おくびょうCS
《もっているわざ》
ムーンフォース
サイコショック
おにび
めざめるパワー炎
※現在瀕死状態です
◆【コバルオン】
とくせい:せいぎのこころ
もちもの:???
能力値:ようきAS
《もっているわざ》
アイアンヘッド
せいなるつるぎ
ステルスロック
つるぎのまい
※現在瀕死状態です
◇
「おい、コトリ、ケイイチ!」
近かったはずの場所であるはずが道が塞がれていたせいで遠回りになってしまったことに焦りながらも、ラグナはコトリ達のいるであろう場所に辿り着いた。
周囲には大量に散乱した瓦礫や岩の破片。
その中に、人一人分に当たりそうな量の血溜まりがあることに気付く。
巨大な岩の下を、何かを押しつぶしたかのように真っ赤に染めている。
その傍に落ちていた腕、そこに残っていた服の切れ端の色は見覚えがある。
「…っ!」
「ケイイチ…!」
ユカリは思わず息を飲み、ラグナもまた顔を歪める。
その傍にはニドクイン、エルフーン、ラプラスの姿。
つい先程までは戦いでもしていたのか、体力こそ残っている様子ながらエルフーンとラプラスは傷だらけではあった。
一方ニドクインはどうしたらいいのか困惑しているかのように地面に座り込んでいる。
体には氷の破片が付着しておりダメージゼロというわけではないようだ。
そしてそこからさらに周囲に目を配った時に見えたのは、ニドクインのつがいとなるポケモン、ニドキングの姿。
ニドクインと同じく、現時点では落ち着いている。
さらにその傍にはメタモンがいて。
「コトリ!!」
その近くに、こちらに背を向けて地面に座り込んだコトリがいた。
「―――あ、ラグナさん」
駆け寄るラグナの呼び声にこちらを振り返るコトリ。
掠れたような小声で呼び声に応じる違和感に、ラグナもユカリもその時はまだ気付かなかった。
「良かった、無事だったんだな。あのガキはどうした?」
「シェリちゃんなら、ここに」
と、コトリが己の膝の上を示す。
膝枕の上で、静かに寝息をたてる少女の姿。
それはさっきまで暴れていた子とは思えないほどに安らいでいるように見えた。
「この子なら、もう大丈夫です」
「本当か?」
「まだ不安はあるかもしれないけど、誰かが傍にいてあげればきっと大丈夫です。
ラグナさん、お願いしてもいいですか?」
「ああ、分かった」
「お願いします――――」
そう言う最中だった。
コトリの体が、支えを失ったかのようにゆっくりと傾いたのは。
「―な、おい!」
思わず体を支えにかかるラグナ。
その身に触れた瞬間、ラグナの手が感じ取ったのは異常に冷たい体温だった。
「あはは、何だか、安心したら眠くなってきました――」
「お前、何が―――おい、この肩の角は何だよ」
「シェリちゃんに当てられちゃったみたいです。てへへ…」
「てへへじゃねえよ!これニドキングの角じゃねえか!」
おそらくはエルレイドがニドキングの攻撃を切り払った際に折れた角。
コトリの肩に刺さったのはそれだった。
そして、それはただ刺さっているわけではない。
どくタイプを持つニドキングの、折れたとはいえその毒がしっかりと染み込んだ角。
ポケモンにも強い毒を当てる技だ。増してや人間の体で耐えられるようなものではない。
「ユカリ!毒消しでもモモンのみでも何でもいい!解毒に使える道具は―――」
「さっきの建物から持ってきたものが一つあります!だけど……」
「よこせっ!」
奪い取るようにそれをユカリの手から奪うラグナ。
傷口に毒消しの薬品を使い込む。しかしコトリの調子が治る気配はない。むしろどんどん脈が小さくなっていく。
もしニドキングの角を刺されてすぐであったならば間に合ったかもしれない。
だが、時間が経った今既に毒は全身に巡ってしまっていた。
傷口だけに毒消しを使っても、もう手遅れだった。
「――ねえ、ラグナさん」
「黙ってろ!クソ、薬が足りねえ!せめてもう少し―――」
「―――さっきのチーズケーキ、私の分はシェリちゃんにあげてください」
「……っ」
聞き取るのがやっとの声で、そう懇願するコトリの言葉に思わず動きを止め。
やりきれなさを発するかのように右腕で地面を殴りつけた。
地面が砕け義手がきしんで体へと響く。
思い出すのは、その義手を得るきっかけになったあの事件。
弟や妹、家族を失ったあの日のこと。
今自分の目の前で、また仲間が死のうとしている。
あの時のように。
それが悔しくて仕方なかった。
「………」
「ラグナさん…」
小さく呼びかけるユカリの声に意識を戻したラグナは。
「…お前はよくやったよ。だから、もう休め」
自身のそんな想いを押し殺すかのように、コトリを労うような言葉をかける。
コトリは、そんなラグナの言葉を受けて弱々しくえへへ、と笑い。
「おやすみ、なさい。今日は、少し寝過ごしちゃうかな――――――」
そんな言葉を最後に、その手からすっと力が抜けていった。
もう開くことはないその少女の瞳を前に。
「…くそ」
耐えていた想いを吐き出すように。
「ちくしょおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
その亡骸を抱きかかえたまま、慟哭の叫び声を上げた。
「コトリさん…」
目の前で、そして自分が知らないところで確かに失われた命を前に。
目から零れ落ちる涙を必死で堪えながら、ユカリは未だ意識を取り戻さぬオーレンの傍で、彼の言っていた言葉を思い出す。
ここで行われるのはただのポケモンバトルではない、命のやりとりをする戦場なのだ、と。
その事実を、改めてユカリは思い知らされた。
(違う…、こんなのポケモンバトルじゃない…。私の知ってるポケモンバトルは、もっと明るくて……)
こんな、悲しく苦しいものではないはずだ。
あんな、怒りや憎悪をぶつけて戦うものではないはずだ。
しかし目の前で繰り広げられた戦いは、死は紛れもない現実。
自分の考えが甘かったのだと、痛感せざるをえなかった。
自分なりのやり方で生き残る、とそう言ったはずだった、その自信が急激に小さくなっていくのを感じていた。
(おじいちゃん、おばあちゃん……、私、どうしたらいいの…?)
ユカリは問い続ける。
強い迷いの、悲しみの答えを。
【B-6/ソナイシティ/一日目/夕方】
【バッドガイのラグナ 生存確認】
[ステータス]:疲労(大)、悲しみ
[バッグ]:基本支給品一式、ふといホネ 、チーズケーキ
[行動方針]主催者打倒
1:コトリ……
2:シェリの面倒を見る?
※チーズケーキはソナイシティの建物で見つけたものです。ポケモンに持たせることはできません
▽手持ちポケモン
◆【ヘルガー/Lv50】
とくせい:もらいび
もちもの:いのちのたま
能力値:特攻、素早さ振り
《もっているわざ》
あくのはどう
オーバーヒート
ヘドロばくだん
めざめるパワー(こおり)
◆【グランブル/Lv50】
とくせい:いかく
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
あまえる
かみくだく
【ミニスカートのユカリ 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[行動方針]:死ぬ気はないけど……
1:私は、どうしたらいいんだろう…
2:オーレンの言葉に対する迷いと若干の憤り
3:キョウスイに恐怖
▽手持ちポケモン
◆【ブラッキー/Lv50】
とくせい:せいしんりょく
もちもの:メンタルハーブ
能力値:HP、特防振り
《もっているわざ》
まもる
ふるいたてる
バークアウト
バトンタッチ
◆【バクフーン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:シュカの実
能力値:???
《もっているわざ》
いわなだれ
???
???
???
【りょうりにんのオーレン 生存確認】
[ステータス]:ダメージ(大)、気絶
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3(自身2、リゼ1)
[行動方針]:対主催過激派
1:主催に立ち向かうための同志を集める
2:廃墟に向かい、暴れている何者かを倒す
3:ぼうや(ケイイチ)が心配
▽手持ちポケモン
◆【ニダンギル/Lv50】
とくせい:ノーガード
もちもの:しんかのきせき
能力値:均等振り
《もっているわざ》
せいなるつるぎ
シャドークロー
きりさく
つじぎり
◆【マタドガス/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:なし
能力値:均等振り
《もっているわざ》
えんまく
ヘドロばくだん
どくびし
ちょうはつ
◆【ランクルス/Lv50】
とくせい:さいせいりょく
もちもの:きれいなぬけがら
能力値:HP、特防特化
《もっているわざ》
サイコキネシス
きあいだま
リフレクター
でんじは
◆【マンムー/Lv50】
とくせい:あついしぼう
もちもの:かいがらのすず
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
じしん
つららばり
こおりのつぶて
ストーンエッジ
【メルヘンしょうじょのシェリ 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)、精神不安定?、睡眠中
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]
1:?????????
◆【ニドクイン(ママ)/Lv50】
とくせい:????
もちもの:なし
能力値:????
《もっているわざ》
なしくずし
のしかかり
だいちのちから
ばかぢから
◆【ニドキング(パパ)/Lv50】
とくせい:????
もちもの:なし
能力値:????
《もっているわざ》
なしくずし
あばれる
だいちのちから
メガホーン
※コトリ、ケイイチの支給品が放置されています
【キャンプボーイのケイイチ 死亡確認】
【ブリーダーのミチオ 死亡確認】
【メイドのコトリ 死亡確認】
※メブキジカ、メタモン、ラプラス、エルフーンは現在トレーナーがいない状態です。
投下終了です。問題点などあれば指摘お願いします
あとすみません、いくつかの箇所で名前を間違えている箇所がありました
wikiなどに収録された際ミツオと記載された箇所をミチオに直しておきます
誰からも腫れ物扱いを受け、自傷し、奪われ、ボロボロになったシェリ。
彼女に必要なのは、その悲しみを包み込んでくれる慈愛。
コトリがそれを与えてくれた事で、きっと彼女は救われた。
……いやぁもう、これだけでかなり心にクる流れです。
だけどそれ以上に、ケイイチとコトリがどんな背景を背負っていて、どうしてシェリを救いたいと思ったのか。
そこに凄く深みを感じました。
二人とも今とは違う自分に変わりたかった、だからその気持ちに正直に動いた。
悲惨な最期を迎えたけれど、きっとなりたい姿になれたと思います。
ケイイチもそうです、彼が背中を押さなければ別の結末になっていました。
完全燃焼したミチオは少し清々しい感じですが……最高に身勝手な生き様ですよね……。
イオナはマーダーとして完全に出来上がりましたが、果たして今後の展望はどうなるんでしょうか。
新たな変化が訪れるのか、それとも最大の脅威として君臨するのか。
そういや、初めてポケモンが6体揃いましたね。尚且つ手持ちに準伝説がいる状態、結構凄い……。
大変面白かったです!
2編にも及ぶ大作、投下お疲れ様でした!
予約分を延長しておきます
延長します
期限に間に合わないため、予約分を破棄します…
投下します
できればもう少し遠くまで逃げたかったが、小柄なカモネギにそこまでさせるのは酷だし、何より腕が疲れてきたので、町からそこそこ離れた位置にケンジは降りた。
足を解放されたカモネギは先ほどのケンジの行為を責めているのか、カーカーと周りで鳴き声をあげながらバサバサと羽ばたいている。
ポケモンバトルをする気満々だったカモネギの行為に僕は水を差したわけだから、この怒りは当然のものだし、また申し訳ない気持ちになった。
「いや、悪かったって。でもさ、あの状況じゃああするしかなかったんだ……。作戦は考えたけどさ、成功率がゼロに近いし……」
瀕死のピチューを倒すことは容易なのだが問題はサーナイトで、トレースしたヌケニンのふしぎなまもりはもうないが、無かろうがそのポケモンは厄介極まる。
カモネギはタイプ一致ではないにしろ有効打はあるが、全ての種族値で劣るので、素早さ勝負で負ける。ズルズキンはタイプの関係上、フェアリータイプの技を出されたら確実に一発で沈んでしまうし、素早さも低かった。
彼らを囮にして、ゲンガーをコンバータで回復させる時間を稼ぐなんて作戦も考えはしたが、サーナイトで攻撃をされる可能性があるので除外。ヌケニンがいない以上、今度は避けられない。
消去法で考えていった結果生まれた作戦が、やられる前にやれ、という作戦と呼ぶのも烏滸がましい何かだった。
そんな手しか思いつかなかったから逃げたのだ。バトルの最中に相手に背を向けるというのはやってはいけない行為であったが、命には代えられないし、何よりもあれは正規のバトルではないから問題ないだろう。
というか、自分にトレーナーとしての誇りは無きに等しい。
「戻れカモネギ。……回復させてから休憩しようかな。っと、その前に確認確認」
カモネギをモンスターボール内に戻し、ゲンガーとヌケニン、ついでにカモネギをポケモンコンバータにセットして回復させる。
作業が終わったケンジはモンスターボールをしまい、ポケッチの機能を用いて近くにトレーナーがいないかを確認した。
結果は反応なし。少しの間は安心できそうだと、胸をなでおろしつつ地面に座り込む。
この島に飛ばされてようやく、しっかりとした休憩がとれそうだった。
「休む暇なかったし……。戦力確保してその場から退避、かと思えば殺されかける。……町は駄目だな」
間髪を入れずとまではいかないが、若干の間を空けてこれなのだから、町の中に居続けられたもんじゃない。
殆どの人は誰かしらと遭遇したいと考え、他の人に会える可能性の高い町へ来るはず。当然殺し合いに反抗する人も来るだろうが、殺し合いに乗った人が来ることもある。
そういうリスクをふまえて、あえてそのリスクを冒して町へ行くにはあまりにも自分は非力すぎる。バトルが下手で運動もできないというのは致命的すぎた。
自身のバトル下手が如実に現れていたのが、先ほどの少年とのバトルだろう。自身の考えが足りず稚拙な命令を出した結果、危うく死にかけたのだから始末に負えない。
少年の安っぽい挑発に乗ってしまったのも良くなかった。普段の自分なら有り得ないが、ゲンガーがいるからという慢心もあって、自分は勝てるだろうと思い込んで調子に乗ってしまったのだ。
結果として、これも普段の自分なら有り得ないのだが、相手の行動に困惑して焦ってしまい、みちづれを選択するというミスを犯してしまった。
シャドーボールを使えばピチューは確実に沈んでいたし、あやしいひかりを使えば確実ではないにしろ行動は制限できた、にも関わらずこれなのだからどうしようもない。
会えれば重畳、会えなければ地獄。そんなギャンブルに身を預ける程、ケンジは楽観的ではなかった。
「バトル下手の原因は分かっているつもりなんだけどな。視野が狭い、これに尽きる」
補助技の存在を一切考えなかったためにヌケニンを瀕死に追いやり、相手の言葉に惑わされて攻撃をせずゲンガーを麻痺にさせてしまう。どれもこれも自分の浅慮さが引き起こした事態だった。
いつもそうだ。バトルになると一つの物事を考えただけで突っ走り、その度に相手から手痛い反撃を何度くらったことだろう。
ポケモンの特徴や特性、技などはおおよそ把握しているというのに、バトルになると一切考慮せず考えるのだから何のための知識なのか。相手の弱点タイプだけは考慮しているようだが、それだけで勝てる程甘くはない。
……問題点を自覚しているのにも関わらずバトル下手を治していなかったのは、バトル下手であることが深刻な問題を引き起こすとは考えていなかったからだ。
もっとも、深刻な問題というのが殺し合いにおいて不利になる、なんて誰も考えもしないであろうが。
「次は意識すれば問題ないか……? いや、真面目にバトルをする意味はないし、ポケモン使って相手を倒せばいいだけだし……」
わざわざトレーナーに勝負を挑んでポケモンを全て倒すよりも、トレーナーを不意打ちするほうが労力が少ないことは言うまでもないこと。
気付かれていない状態なら最良であるが、別にポケモンバトルの最中でも不意打ちをしようが構わないし、むしろ戦法にそれを入れなければ、自分は呆気なく死んでしまうだろう。
相手の攻撃を誘発させてゲンガーのみちづれでトレーナーを殺す、ズルズキンのどろぼうとカモネギのはたきおとすで手持ちを無くさせる、直接攻撃、など方法だけは腐るほど……とまでは言うまいが、それなりに考えていた。
こういう時の悪知恵だけは頭が冴え渡る……どうせならその思考力を、ポケモンバトル中にも欲しいのだが、そう思っても実行しないのが自分だった。
「んー、難しいな。制圧力の無さが致命的だし、四体同時運用するかな」
などと考えつつ、そろそろ動き出そうと考え、近くにトレーナーがいないかを確認するためにポケッチの機能を使用する。
反応が一つ――それも結構近い位置に、反応があった。
ゆっくりと反応がする方向へ向くと、学生服を着た女の子が遠巻きにこちらの様子をうかがっていた。
「……またか」
泣き虫のたんぱんこぞう、どす黒さの塊のじゅくがえりの少年に続いて、今度はじゅくがえりの少女ときた。
どうにも自分は少年少女に縁があるらしい。その手の趣味ならば泣いて喜びそうな縁だろう。
だがそんな趣味ではないし、前述した少年から手痛い仕打ちを受けたケンジは、うんざりするような気持ちで少女を眺めていた。
◇◇◇
私の目の前にいる人、白衣を着て眼鏡をかけた男の人は、くたびれた表情をして私の方を見ている。
またか、男の人はそう呟いて、少しの間をあけた後に地面から立ち上がり、私の方へと歩き出した。
またか、その言葉は一体どういう意味だろう。私の同年代の人に遭遇したことがあるのだろうか。
だとしたら何故、その人とは同行していないのだろう。
やや距離を置いて男の人は止まり、口を開いて言葉を発した。
「君は……誰だい? 見たところ、学生なのかな?」
「あっ、は、はい。私、レンっていいます。えっと、あなたは……殺し合いをどう、思います?}
「そうだね。良くないことだと思っているよ。できれば打破したいところだね」
男の発した言葉は殺し合いに反抗する意を示すもので、早くも私は強力することができるかもしれない人と会うことができた。
白衣を着て眼鏡をかけた格好はまるで研究員のようで、もし研究員だったなら頭が良いのではないか、そんな期待を私は抱く。
首輪について、何か分かるのではないかと期待を抱く。
だけど、その前に気になっていること――どうして誰とも同行していないのか、それを聞きたい。
私よりも前に、それも私と同年代の人と会っているのに、どうして男の人は一人で地面に座っていたのだろう。
「まだ名乗っていなかったかな。自分はケンジ。研究員をしている」
「研究員……! もしかして、首輪について何か分かりますかっ」
「首輪……? ああ、首輪か。考えてなかったから、全く分からないね」
「そ、そうですか……」
どうやら首輪については頭に浮かんでいなかったようで、つまり男の人は脱出については考えていなかったようだ。
しかし研究員ではあったので、今後首輪を調べる機会があれば、何か分かるかもしれない。
……先に発言されてしまって、聞きそびれてしまった。次はしっかりと聞かねば。
「さて、ここでは何だし、何処かの町へ行って、首輪について考えるとしよう。君が歩いてきた方向に行こうか」
「あのう……、そこより近くの町へは行かないんですか?」
「あっちは危険だから止めておいたほうがいいよ。殺されかけたからね」
「そうなんですか……、っ! 殺されかけたって!」
さらりと。
男の人、ケンジさんは何てことのないかのように、殺されかけたという言葉をさらりと口に出した。
脳の認識をすり抜けていきそうなくらいに、自然に吐き出された言葉だった。
「殺されかけたって……まさか、私と同年代の……」
「その通りだよ。正しく君と同じくらいの少年だった。……本当に、あの時の自分が腹立たしいね」
ケンジさんは苦々しい面持ちでメガネを元の位置に戻しつつ、二つのモンスターボールを取り出す。
それを他所に私は、同年代の人が殺し合いに乗っているという事実に、少なからずショックを受けていた。
もし私も一歩間違えていたらそのようになっていただろうし、現に最初になりかけていたのだから恐ろしい。
頭の中を切り替えて、ケンジさんの方へ向くと、彼の手には二つずつモンスターボールが存在していた。
「どうして、四つも……?」
「……同行していた人がいたんだ。その人が持っていた、二つのモンスターボールだよ」
「えっ……? そ、その人はどこに……」
「不意打ちを仕掛けられて咄嗟に対応できなくてね……、死んでしまった」
「っ!」
殺し合いに巻き込まれたことは理解して飲み込んでいるつもりだったが、まさかもう死人が出ているなんて考えていなかった。
この島に飛ばされてまだ時間はそれほど経っていないというのに。既に殺し合いは始まっている。
どうにも、その言葉には、現実味がなかった。死んでしまったという言葉を頭の中で反芻させることしか、私にはできなかった。
「悲しいことに、僕のポケモンでは太刀打ちできなくてね。モンスターボールと彼に支給されたアイテムだけ持って逃げてきたんだ」
「……………」
「お話はこれくらいにして、そろそろ行こうか。ここは危険だから、早く離れないとね」
「は、はい……」
頭の整理がついていない私には気付いていないようで、ケンジさんはモンスターボールをしまうと、私が歩いてきた方向へ歩き出した。
慌てて私も歩き出す。目指すは、こことは違う町。
まだ頭の整理はついていないが、私は言っておきたいことが一つあった。
「あの、ケンジさん」
「何かな?」
「これから、よろしくお願いします」
「……こちらこそ」
【C-6/平原/一日目/日中】
【じゅくがえりのレン 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、あおいバンダナ、ランダム支給品×1
[行動方針]:対主催脱出優先派
1:首輪を外すため、仲間を集める
2:危ないトレーナーに会っても殺人はしたくないので足止めなどをして逃げる
3:ケンジと行動。町へ向かう
▽手持ちポケモン
◆【ミロカロス/Lv50】
とくせい:かちき
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
まもる
さいみんじゅつ
あやしいひかり
こごえるかぜ
◆【グライオン/Lv50】
とくせい:ポイズンヒール
もちもの:どくどくだま
能力値:???
《もっているわざ》
みがわり
ステルスロック
いやなおと
かげぶんしん
【けんきゅういんのケンジ 生存確認】
[ステータス]:良好、
[バッグ]:基本支給品一式×5(ゴロウ2)
[行動方針]生き残り重視
1:レンと行動。町へ向かう
2:戦闘は極力避ける
3:その後の方針は参加者の人数が減ってから考える
◆【ヌケニン/Lv50】
とくせい:ふしぎなまもり
もちもの:きあいのタスキ
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
つるぎのまい
あやしいひかり
シャドークロー
シザークロス
◆【ゲンガー/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:のんきのおこう
能力値:素早さ、特攻特化
《もっているわざ》
マジカルシャイン
おにび
シャドーボール
みちづれ
◆【カモネギ/Lv50】
とくせい:まけんき
もちもの:ながねぎ(ゴロウのもちもの)
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
そらをとぶ
はたきおとす
エアスラッシュ
リーフブレード
◆【ズルズキン/Lv50】
とくせい:だっぴ
もちもの:おおきなねっこ
能力値:特防、素早さ特化
《もっているわざ》
どろぼう
ドレインパンチ
ビルドアップ
かみくだく
投下終了です。タイトルは「トリック」で
問題点があれば指摘をお願いします。
敗北を経験したケンジの戦略分析。
四体同時運用を考えるなど、徐々にポケモンバトルのセオリーから外れてくのは良い感じですねぇ。
そしてレンは、相手の言葉から即座に推測を立てていける辺り、頭の回転が早いようだ。
ケンジが既に一人を殺めている事実も、今後気付く可能性がある……?
ただ同時に、彼が首輪解体のカギになるかもしれないというのが複雑なところ。どうなるでしょうか。
えっと、指摘点がございます。
前話でケンジが戦った相手はじゅくがえりの少年ではなく、ポケモンブリーダーの青年です。
なのでそれに関する箇所の修正をお願いします。
すいません、別のキャラと混同してました。
泣き虫のたんぱんこぞう、どす黒さの塊のじゅくがえりの少年に続いて、今度はじゅくがえりの少女ときた。
どうにも自分は少年少女に縁があるらしい。その手の趣味ならば泣いて喜びそうな縁だろう。
だがそんな趣味ではないし、前述した少年から手痛い仕打ちを受けたケンジは、うんざりするような気持ちで少女を眺めていた。
↓
泣き虫のたんぱんこぞう、どす黒さの塊のブリーダーに続いて、今度はじゅくがえりの少女ときた。
まだ地面に降り立ってからそれ程時間は経っていないというのに、もう三人目と遭遇するとは、自分は何て運が良いのだろう。
――などと心の中で自嘲しながら、うんざりとした顔でケンジは少女を眺めていた。
に修正します
>>452
了解しました!
投下お疲れ様です!
からておうのガンマ、バトルガールのアゲハを再予約します
からておうのガンマ、バトルガールのアゲハで投下します。
タイトルは「リングアウト」です。
力が入らない。
微弱な電気が身体に残り、ビリっとした感覚が不定期に走る。
すると一瞬、関節の糸が切れたようになり、思わずへたり込みそうになる。
これがマヒという感覚か。
ポケモンバトルでの状態異常に掛かる事など、そうそうあるものではない。
道場で修業の身であるアゲハも、これは初めてだった。
素早さの低下は別に身体が重くなったわけでは無いのだと知った。
スタンガンに近い感覚。脚にしっかりと力を預けられないのだ。
マヒの感覚に慣れないまま、目の前の格闘家に勝つ事など出来るのか。
絶望的でしかない。
だが、
それでも――
折れてしまえばそこで敗北だ。
負けないと信じている限り、希望はある。
だからアゲハは凛とした表情で、ガンマの目を見据える。
勝負はまだ、続いている。
◆
砂嵐に煽られ、ビルの屋上はゆっくりと揺れている。
ガンマは一時的にでんじふゆうを解き、コンクリートへと足を付けた。
地に足を付けても、身の丈3メートルにも及ぶ彼の目線からは見下ろす事に変わりない。
吹き抜けた強い風が、アゲハの生傷に砂を叩きつける。
彼女はほんの僅かに顔を歪める。それを合図にガンマが足を踏み出した。
「シュハァ―――ッ!!」
『ヴァルシャアアァァモッ!!』
戦闘が再開する。
先陣を切ったのはバシャーモだ。
両脚から噴射した火炎が速度を高め、迫りくるガンマを迎え撃つ。
その灼熱を纏わせた右脚が、弧を描くように動き――
『シャアアァァァァ―――――ッ!!!!!』
ブレイズキック。
斧のように振り下ろされる一撃。
それを受けたのはガンマではなく、寸前に踊り出た『まもる』体勢のコイルだった。
「あのコイル……まもるを覚えてるのかよ……!」
「愚か者め! この私を狙う事など見通していたわーっ!」
バシャーモが飛び退くと同時に、ガンマも高く跳び上がる。
太陽を背に、地に生じる影。
「狙いはお前だぞ、アゲハント!!」
『ハ……!』
咄嗟にアゲハントは、真上へと攻撃照準を向けた。
『ア、アゲハ〜〜〜ントッッ!!』
音波から生み出される衝撃波による攻撃、むしのさざめき。
避けようも無く、その巨体に浴びせられる。
だが、しかし――
「しゃらくさい!」
一喝。ガンマは体勢を崩さず、弾丸のように突き進む。
生身の人間がポケモンの攻撃を平然と耐えたのだ。無茶苦茶である。
いや、これもガンマならば当然の事と言えよう。
山の中で戦いを積み、鍛え上げられた頑強な肉体。
そこに適応し、岩に匹敵するような耐久性を持っていても、不思議では無い!
――不思議では無いのだ!
むしタイプの攻撃など、効果はいまひとつだ!!!!!!!!!
「フライングプレス――――ッ!!!」
修行により会得したポケモンのわざ。
クレーターが生じる程の一撃、耐性が有利なアゲハントと言えども受けきれまい!
砂煙が巻き上がる――
『ア……アゲハン……ト……』
ギリギリの所で身をよじって回避……ッ!
さざめきによって、僅かだが狙いを逸らせたのかもしれない。
「うらぁぁああああああああああああああああああッッ!!!」
ガンマが身を起こす前にアゲハが接近。連撃を叩き込む。
マヒ状態であろうと、正拳の速度は平常時と寸分違わない破壊力。
しかし空手の腕前の差は圧倒的だった。
敵の剛腕は、アゲハの連突きを軽々と防御していく。
「(く、全然手ごたえが無ェ……、まるで大理石を殴ってるみたいだ……)」
皮膚が硬いと言う意味では無い。
ガンマの防御姿勢は、単に腕で受け止めているものでは無いのだ。
正拳をはらい落とすかの如く、受け流す。ダメージを通さない。
だからこそ彼の防御は、鉄壁以上に鉄壁。破壊する事は容易では無い。
「シャババ、ぬるいぞアゲハーっ! おまえの攻撃など私には全く通じないぞ!」
「う、るせェ――!」
挑発のままに、思い切り振りかぶった上段回し蹴り! 盛大に空振った!
ガンマは後方へローリングし、でんじふゆうにより宙へ浮く。
その時、フィールドに響いた『ぶわーっ』と奇妙な音。
カバルドンのあくびが、バシャーモを捉えたのだ。
逃れられない眠気が意識を強制的に揺さぶる。
「バシャーモ!」
このまま眠られてしまえば、後はもうカバルドンの地震で一網打尽。
チェックメイトへの準備が着々と完了しつつある。
……と、ここでアゲハは敵の行動に無駄があると気付く。
「(どうして今、じしんを打たなかった……?
わざわざ眠らせなくても、バシャーモは下手したらやられていたハズ……)」
やはり気付くのが一歩遅い。
アゲハの気付いた通り、ヘタをすれば敗北していた状況。
どうして、という疑問を浮かべた時には、既にガンマはその原因を勝手に解説していた。
「カバルドンへの砂の鎖を切れているだと!?
そうか、私がアゲハの相手をしている間に、バシャーモが切り裂いたと言う事か……!」
でんじふゆうの効力を失ったカバルドンは、今にも崩れそうな屋上に降りてしまった。
もしここでじしんを打てば、自分もビルの崩壊に巻き込まれてしまうだろう。
カバルドンは、それを恐れた。
結果としてあくびを選択。アゲハ達に猶予を与える事となった。
「グム〜ッ……やりおるではないか!
だがあいにくだな、お前たちを奈落へ叩き落とす準備は出来ている!」
ガンマは再度屋上へと着地。
片足を高く上げ、ひび割れたコンクリートへと思い切り踏み込む。
ビシッ
と、明らかに嫌な音が下から聞こえて来た。
「え」
アゲハの立っていた場所が唐突に傾いた。
今の"震脚"によって亀裂が広がり、屋上の一角がなだれ落ちようとしているのだ。
それは数刻前、かいパンやろうのビリーを崖へと飲み込んだ技!
「うそだろォ!?」
怪力っていうかもうコレ色々ずるいだろ、と感じたが、とにかく脱出を図らねばなるまい。
無論、仁王立ちで妨げようとするガンマをかいくぐらねばならないのだが……。
突如。バリリッ、と電気の走るような感覚、アゲハはへたっと膝を着いた。
「(く、このタイミングで……痺れ……)」
立ち上がる事が出来ないまま、地滑りのように足場が崩れていく。
アゲハの身体が、逆さまに宙へと投げ出される。
「シャババ、己の悪運を恨むがいい、シャバババババ――――――ッ!!!」
視界全体に、真っ青な空が広がった。
その中心には高笑いするガンマ。その姿も、声も、みるみる遠ざかる。
――これで終わり……これで死ぬ……?
『死』を実感した。
どれだけ身体能力があろうと、この高さから転落すれば二度と立ち上がれない。
身体の芯に氷を差し込まれたように、震えが走った。
アゲハは静かに目を閉じた。
拳を硬く握って、叫ぶ。
「そんなの認めるか!!! アタイが、こんな終わり方するものかよ!!!
当然だろ、バシャーモッッ!!!!」
バッと目を見開いた先には、鳥に似た真っ赤な顔があった。
バシャーモは二本の腕でアゲハを抱え、大地で受け身を取る。
「痛ッてェ〜……」
『シャー……』
よろり、と腕から降りたアゲハは二、三度咳き込んで、砂の混ざった唾を吐き捨てた。
ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
そうして待機するバシャーモを見据えた。
「信じてたよ」
痺れが少しづつ収まり、フラフラとアゲハは自分の脚で立ち上がる。
「……って、胸張って言えたら良かったけど。
一瞬だけ、ホントに死ぬと思った。助からないって思った」
ついさっき、もっと高いところからブレイズキックで降りたって言うのに。
こんなにも頼もしい仲間がいる事を、あの瞬間に頭からぶっ飛んじまった。
不測の事態になると、こうも簡単に弱気になっちまうだなんて……。
「それを一言謝りたい。ポケモンを信じてなきゃ、その、トレーナーとして未熟だから。
だから……だからもう、もう何が何でも信じるからな。
もう絶対にブレないからな。
アタイも、本気でお前たちに応えるから。……だから、信じろよ!」
『……シャッ!』
「いいか、バシャーモ」
『フシャ』
「ぜッッッ……てぇーに、勝つからな!!」
『……シャアァッ!!!』
太陽の日差しよりも眩しい、強い輝きに包まれた。
虹色にも見えて、桃色にも見える。そんな光。
「それ、アタイのバッグ……。
お前さっきの間に、わざわざ持ってきたのか?」
『フシャ!』
「フシャじゃねーよ! なんだお前余裕じゃねぇか!」
見た事の無い道具だ。宝石のような石に、よくわからない腕輪。
それぞれが共鳴するように光を発している。
「あぁ、今なら使い方がわかるぜ……。
……直感でわかった!」
メガストーン『バシャーモナイト』を投げ渡し、左手にメガバングルを装着。
腕を突き上げて、叫ぶ。
「見せてくれ……お前の本気の本気の本気の、本ッ気をさァッ!!!!」
『バシャアアァァァァァアァァァッッ!!!』
気付けば、砂嵐はやんでいた。
◆
カバルドンが戦闘不能となる瞬間を、ガンマは見逃した。
とびひざげりは音速の如く放たれ、振り返ると、屋上からリングアウトするカバルドンの姿があった。
メガバシャーモ。
上半身を覆う白い体毛は、空を切り裂くような独自の形状に変化。
四肢に纏う炎は抑えられんばかりに燃え続け、周囲に陽炎を揺らめかせる。
「ほう!」
メガシンカの存在は知らない。
だが、その姿は覚醒を遂げたものである事はわかる。
未知の現象。限界を超える力を目の前に、心が躍る。
「魅せてくれるではないか。この僅かな時間でポケモンの力を引き出したとは」
「へへ……どうだ。こりゃあ形成逆転じゃねぇのか?
もう砂嵐も収まった、カバルドンはもう居ない。
そのコイル一体で、どうやってアタイたちと戦おうって言うんだ?」
「シャバババ!! 思い上がるなド下等トレーナー!!
既にお前の敗北は決定しているぞ―――ッ!!」
ガンマが指差す先には、力尽きたアゲハントの姿があった。
「一つはお前の手持ちも残り一体だと言う事。
そしてもう一つ、バシャーモの様子を見るがいい」
「んな……」
膝を着き、倒れ伏すメガバシャーモの姿があった。
先刻カバルドンの放った『あくび』がここに来て意識を奪ったのだ。
「やはり忘れていたか、ド下等トレーナー!」
「だ……だけどバシャーモが目覚めれば、コイルの一体くらい……!」
「シャバババ、レベル1コイルを知らないとは失笑ものだな」
「レベル1……コイル……?」
レベル1コイルとは、HP満タンからは決して一撃では瀕死にならない特性『がんじょう』を利用した戦略。
ダメージを受けるたびに『きのみジュース』で体力を回復させ、さらに『リサイクル』で道具を元に戻す事でいつまでも生き残れるのである。
「バシャーモが眠りから醒めたらすかさず『どくどく』を使い、じわじわと死に追い詰めるのみ。
そうなればお前の勝ち筋はただ一つ。死ぬまでの数回だけ使える『ブレイズキック』でコイルをやけど状態にする事のみ。
僅かな運ゲーに身を任せるしか、生き残る道は無い!」
希望の見いだせない現実を、アゲハの胸に付きつける。
だが、それでもアゲハは平然と向き合って見せる。
「ハッ、わざわざ勝ち筋の解説どうもな。だったらアタイは、その可能性を引き当ててやろうじゃないか!」
「くだらん事を言うな、貴様それでも空手家かーっ!」
「えっ」
思わぬ一喝、呆気にとられる。
「運ゲーの糞試合なんて、みっともない展開はやめるんだ――っ!」
「えっそれアタイに言ってんの!?」
「真の空手家であるならば……」
ガンマは帯を解き、胴着を脱ぎ捨てた。
そうして『押忍』の構えを取り、ゆっくりと歩み寄る。
「正々堂々、実力で決着をつけようではないか」
バシャーモの覚醒、アゲハの不屈の精神。
それらを見せつけられた上で、運による決着は望まない……と、ガンマはそう思っているのか。
ただ、どちらにせよアゲハの勝ち目は薄いだろう。
男女差によるアドバンテージ。
巨漢ガンマと小柄のアゲハ、その体格は二倍は異なる。
実力においても、長年の修業を積んだガンマとは経験が圧倒的に違う。
加えてアゲハはマヒ状態。いささか無茶である。
「……上等だ」
だが、アゲハはその戦いに乗った。
勝ち負けなどどうでもいい。
自分自身の心が、これを望んでいる。それ以上の理由は無い。
◆
「シャバ―――ッ!!」
顔面に迫る二発を回避。
続けざまに飛ぶ前蹴りが胸部に刺さる。
お返しに放った突きは、ガンマへと届かず。
肩甲骨辺りに手刀を叩き落とされる。
振り下ろされる拳、薙ぎ払われる脚、次々に繰り出される打撃の応酬。
ガンマの攻撃は全て、鉄球のような鈍器に近い破壊力がある。
アゲハの必死の防御(空手技術では無い、感覚的な防御姿勢)では、あざが形成されていくばかり。
「だらあああぁぁぁぁぁぁ―――ッッ!!!」
巨漢の周囲を飛び回るように動き、ハイキックや回し蹴りなどの足技をガンガン放つ。
半端ないバランス感覚から成る、軽快な動作によるダイナミックな攻撃、必殺コンボ、それこそがアゲハの武器。
しかし、どの技も巨大な手のひらによって妨げられる。
見切られている。
ゆえにほとんどダメージが通る事は無い。
「シャバババ、その蹴り本気か? まったく効かないぞ」
「チッ……」
「蹴りというものは……」
ガンマの体勢が大きく傾く。
「こういうものを言うんだーっ!!」
体重を込めた強烈な蹴りが、アゲハを身体ごと吹っ飛ばした。
よろめきながら起き上がる小娘に対し、ガンマは嘲笑をぶつける。
「フン、それでも先ほどよりは威力が上がっている。
マヒ状態から貴様自身の"こんじょう"を目覚めさせた、といったところか。
だがやはりその子猿のような体格では、勝負にならないようだな!」
「……ハッ、言ってくれたな……。まったく、どいつもこいつもアタイがチビな事を指摘しやがる。
けれど言っとくがな……それを口にした時点でお前の負けで決まりだ。
チビだと思って甘く見てきた奴は全員――例外なく地面に寝そべるハメになったからなァ!」
アゲハが跳び上がりながら接近する。
「バカの一つ覚えが! 蹴り合戦なら私が制したはず――っ」
左側から叩きつけられたアゲハの飛び蹴りを受け止める。
防御が左側へ集中したその瞬間。アゲハは両脚で大地を蹴った。
「……む?」
バネの反動が如く跳び上がる、懐からのロケット頭突き!
ガンマのアゴを強烈に打ち抜くッ!!
「ングッ……」
よろめくガンマに追撃のローキック。
軸足の関節に響かせる一撃。
「シャボ〜〜ッ!」
見事にダウンを奪い取る。
そのままアゲハはマウント体勢をとり、ガンマの首を狙う。
だが、またしても襲い来る、シビれ――
ガンマを目の前にして、力無く膝から崩れ落ちた。
「ク……ソ……」
ぐっと伸びた片腕がアゲハの胸倉を掴み、地面へと叩きつけられる。
頭蓋骨を押さえつけられた状態で、マウントを奪い返すガンマ。
顔面をわしづかみされ、上半身が持ちあがった状態から、後頭部をコンクリートへと叩きつけられる。
「ガッ……!! グ……痛……ぃ……」
二、三度ほどぶつけられ、アゲハは気絶した。
「不意を打たれたとは言え、この私からマウントを取るとはな……。
だがあいにく、ここで終わりにさせてもらおう」
アゲハの首に手を掛けた時、強烈な熱風が皮膚を吹きつけた。
『フシャァァ……!』
メガバシャーモは既に目覚めていた。
その振る舞いから、ガンマを威圧しているのは明らかだった。
「支給品の身でありながら、敗北したトレーナーを自らの意志で救おうと言うのか」
その問いへの答えなど、もはや語るまでもあるまい。
数時間の関係であっても、彼らは既に信頼と絆で結ばれているのだから。
グラ……と、建物が大きく揺れた。
下層の方からただならぬ騒音が、少しづつ音量を増していく。
「フン……このままコイルと戦わせていたら、その前にビルが崩れるな。
バトル中となってしまえば、でんじふゆうを使える余裕も無い。おそらく共倒れだ」
ガンマは大人しく、アゲハから手を離した。
そうしてでんじふゆうで飛び上がる。そのまま街の中へと去っていく。
「シャババババ……! 今回は引き分けだ。
だが次に会う時が、お前らの命日となるだろう!!」
轟音と共に崩壊していくビルを背に、メガバシャーモはアゲハを担いでその場を後にした。
【B-2/はいきょのまちその2/一日目/午後】
【からておうのガンマ 生存確認】
[ステータス]:アゴを打撲
[バッグ]:基本支給品一式、タウリン
[行動方針]基本:パロロワ団諸共ド下等トレーナー共の粛清
1:殺しに行く
▽手持ちポケモン
◆【コイル/Lv1】
とくせい:がんじょう
もちもの:きのみジュース
HP:■■■■■■■■
能力値:無振り
《もっているわざ》
どくどく
まもる
リサイクル
でんじふゆう
◆【カバルドン♂/Lv50】 (瀕死)
とくせい:すなおこし
もちもの:ゴツゴツメット
HP: □□□□□□□□
能力値:HP、防御振り
《もっているわざ》
あくび
ステルスロック
じしん
じわれ
【バトルガールのアゲハ 生存確認】
[ステータス]:状態:気絶、まひ、肋骨軽傷、全身にあざ、後頭部を打撲、服がぼろぼろ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2、バシャーモナイト
[行動方針]対主催
1:この実験を殴りに行く
2:からておうのガンマを倒す
◆【バシャーモ♂/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:バシャーモナイト
HP:■■■■□□□□
能力値:AS振り
《もっているわざ》
とびひざげり
ブレイズキック
ストーンエッジ
カウンター
◆【アゲハント♂/Lv50】 (瀕死)
とくせい:とうそうしん
もちもの:???
HP:□□□□□□□□
能力値:CS振り
《もっているわざ》
おいかぜ
しびれごな
メロメロ
むしのさざめき
以上で投下終了です!
投下乙です!
ガンマさんの圧倒的なフィジカルに立ち向かうアゲハ……!
実にカッコよかったです! 果たして次会う時にリベンジは出来るのか楽しみです。
ギャンブラーのアト、ビキニのおねえさんのヘンリー、からておうのガンマ、バトルガールのアゲハ予約します。
投下します
―――その光景はまるで服を着たバンギラスが暴れているようにも見えた。
秘密基地と化したマンションの一室からアトは外の様子を伺う。
砂嵐の中、辛うじて見えたのが一人の隻眼の空手王と一人のバトルガールが戦っている姿。
見たところ、隻眼の空手王のポケモンはカバルドンとコイル。
バトルガールのポケモンはバシャーモとアゲハント。
そして、生身で戦う二人。
格闘技の経験が無いアトでも分かる。
優勢なのは明らかに空手王の方であった。
男女の体格差から来るパンチやキックの蹴りの重さが文字通りの桁違い。
それだけならまだしも、一番の特筆点はその男のフィジカルの高さ。
ポケモンの攻撃を普通に耐えるタフネスさ。
「アイツ、マジ化け物かよ……」
アトは戦慄を覚えたの同時にサカモト恨んだ。
ポケモントレーナーを集めたって言っていたのにあんなバンギラスみたいな奴呼びやがって……
優勝を狙う自分にとってあんな奴と戦うなんて御免被りたい。
出来ればどっかに他の所にいって勝手にくたばってほしい。
―――――ギロリ!!
隻眼の空手王が今、こっちを睨んだような気がした。
確実にこっちえお睨まれているような感覚に陥る。
嫌な汗が止まらない。
両足が震え始めて、思うように動けない。
だが、それは正しい反応。
『絶対的な恐怖』
立ち向かう勇気を持たぬ者。
それが今の彼である。
(まるで『へびにらみ』と『にらみつける』……そして『プレッシャー』を同時に受けているようだ……
勝てるのか、俺と……俺のポケモンたちが、あの……本物のモンスターに……?)
◇ ◆ ◇
「なにやら騒がしいわね」
廃墟の北側くらいの入り口。
世界レベルのビキニを着た女性ヘンリーがここに来た。
廃墟とは地図に載っていたが、ここまで廃墟とは思ってもいなかった。
砂嵐で視界が悪い。
出来れば世界レベルのゴーゴーゴーグルが欲しい。
(まさかとは思うけど、あの騒がしい男がいるんじゃないの……?)
嫌な予感が過る。
砂嵐をスタート地点でも目撃したのが幸いだった。
(ここまで来て引き返すの?)
自分の世界レベルの判断力を信じるなら街の中を進みたい。
だが、女の勘では引き返すべきであると告げている。
その時である、ヘンリーの前にそのポケモンは現れた。
『フシャァァ……!』
「メ、メガバシャーモ!?」
メガバシャーモ。
メガシンカするポケモンは過去に何匹か見たことある。
だが、それよりもヘンリーの目に入ったのはボロボロになったバトルガールだった。
「ちょっとボロボロじゃない!? どうしたの貴女!?」
『シャァァ……!』
「何? この子を回復させたいの?」
世界レベル……いや、普通の優しさを持つヘンリーは少女を介抱することにした。
息はまだある、応急処置をすればまだ助かる。
「ピクシー♂の産みたてタマゴよ、飲みなさい」
「………………………………ごふっ」
アゲハの口の中に栄養満点のピクシー♂のタマゴを流し込む。
無理矢理にでも飲まさないと危険な状態と判断したのだ。
すこしでも体力を回復させれば一先ずはなんとかなる。
そして、この廃墟で何が起こってるか聞けると考えたのだ。
「気が付いた? 何があったのかしら?」
「……この廃墟から、は……逃……げろ……」
「えっ?」
「あのオッサンは……危険、だ……」
その言葉を告げるとバトルガールはまた気を失った。
砂嵐、オッサン、危険。
ヘンリーはこの単語で合点がいった。
「……一旦、引きましょう! ええ、そうしましょう!」
この廃墟の街には近づかないほうがいい。
世界レベルの判断力で一瞬で判断した。
「……………ついでよ、ついで」
ヘンリーは気絶したアゲハを背負った。
こんな場所で放置したら、あの危険なオッサンがくるかもしれないと判断したからである。
それは世界レベルでもなんでもなく、普通レベルの判断であった。
【B-2/はいきょのまちの北側の入り口付近/一日目/午後】
【ビキニのおねえさんのヘンリー 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)、軽傷
[バッグ]:基本支給品一式、きちょうなほね
[行動方針]こんなちっぽけな島で終わらないために、
0:廃墟から離れて、この子(アゲハ)を安全な場所に送る
1:私こそが世界レベル
2:あの騒がしい男を要警戒。
▽手持ちポケモン
◆【シンボラー♀/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの:かえんだま
能力値:????
《もっているわざ》
サイコシフト
はねやすめ
コスモパワー
アシストパワー
◆【ダイノーズ♀/Lv50】
とくせい:がんじょう
もちもの:くろいてっきゅう
能力値:
《もっているわざ》
????
????
????
????
◆【ピクシー♂/Lv50】
とくせい:マジックガード
もちもの: なし
能力値:HP、特攻振り
《もっているわざ》
ムーンフォース
だいもんじ
かみなり
タマゴうみ
【バトルガールのアゲハ 生存確認】
[ステータス]:状態:気絶、まひ、肋骨軽傷、全身にあざ、後頭部を打撲、服がぼろぼろ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜2、バシャーモナイト
[行動方針]対主催
1:この実験を殴りに行く
2:からておうのガンマを倒す
◆【バシャーモ♂/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:バシャーモナイト
HP:■■■■□□□□
能力値:AS振り
《もっているわざ》
とびひざげり
ブレイズキック
ストーンエッジ
カウンター
◆【アゲハント♂/Lv50】 (瀕死)
とくせい:とうそうしん
もちもの:???
HP:□□□□□□□□
能力値:CS振り
《もっているわざ》
おいかぜ
しびれごな
メロメロ
むしのさざめき
◇ ◆ ◇
(どうやらここにはもう一匹、ド下等トレーナーがいるようだな)
ガンマは辺りを確認する。
周囲にトレーナーがいれば、つうしんサーチャーを使えば一発で分かることだが……
このガンマはそれを使おうとはしない。
何故なら、それほどまでにガンマは己の実力に絶対的な自信を持っているからだ。
「シャバァ……コイルも気付いたようだな」
あまいかおりに釣られてコイルがその方向に向かおうとする。
ガンマはそれを制止させて、コイルをモンスターボールに戻す。
「ここかァ〜?」
あまいかおりの発生源に辿り着いた。
野生のポケモンを群れを引き付けるにはもってこいのいい匂いだ。
ガンマが見た限りはは普通のマンションのようにも見える。
「シャバーッ!!」
ガンマは廃墟のマンションの自動ドアの扉を蹴り破った。
だが、次の瞬間であった。
『ポポー!!』
「シャバラ!?」
▽ガンマはポッポにタウリンを盗まれた!
不意討ちとはいえ、たかがポッポに泥棒された。
少々だがダメージを受けたが動くには全く問題ない。
そのポッポは泥棒した直後、すぐに上の階に飛んでいった。
「ほう……ド下等にしては少しは考えているようだな……。
だが、これではっきりしたぞ……!」
ガンマは無造作に壁を殴る。
今流行の壁ドンと呼ばれる行為とは程遠い壁ドン。
「シャダァッ!! 粛清と行こうではないかーーっ!!」
目の前には生い茂った草むらの迷路。
ガンマは気合いを入れて進む。
◇ ◆ ◇
「クソ……タウリンってなんだよ、タウリンって……!」
ポッポが盗んできたタウリンを投げ捨てる。
この殺し合いにおいて努力t……基礎ポイントを上げるアイテムは外れアイテムである。
何故なら、ポケモンコンバータがあるのだから、基礎ポイントの調整は可能なのだから。
ガン! ガン! ズガァン!!
轟音と衝撃でアトがいるマンションが揺れている。
(来てる……アイツが確実に登ってきている……!
大丈夫だ……ここまで来るには俺が考えた罠を掻い潜らないとならない。
ここに来たら奴だって……状態異常で体力も大幅に削られているはずだ……
そうなったら、フシギダネとポッポだって倒せる……はずだ。
いや、入ってきたら速攻逃げることも視野に入れるべきか……)
真っ向勝負で倒せないかもしれない。
だからこそ策を練る。
ここへの出入り口はアトの目の前にある扉一つ。
そこ以外から出入りは出来ない。
後ろには窓がある、もしものときはそこからポッポのそらをとぶを使えばいい。
だが、考えは刹那に打ち砕かれた。
「殴り込みの時間だーーーっ!! シャバァーーーっ!!」
「なっ!??」
完全に予想外の場所からガンマが飛び出してきた。
前のドアではなく、アトの背後から飛び出してきたのだ。
そう、ガンマはマンションの壁を壊して外から中に侵入してきたのだ。
「ど、どうやって……ここに……!?」
「壁にひびが入っていれば『いわくだき』が使える!」
「『いわくだき』を使えるポケモンなんて……」
「そんなポケモンは必要ないーーーっ!!」
鍛えた拳は岩をも砕く。
ガンマは外から殴って窓がある全ての部屋を確認して回ったのだ。
「ここ3階だぞ!?」
「秘伝技に『ロッククライム』という技があることも知らんのか?」
「そんなまさか……アンタがその技を使うポケモンを持ってるなんて……」
「はぁ? だから、そんなポケモンは必要ないーーーっ!!」
ガンマはマンションを己の拳で殴り、穴を開け、その出来た穴に足を突っ込み、登る。
それを繰り返し、マンションを壁伝いに登りあがっていったのだ。
ついでに侵入の際に秘密基地にあったフラッグも取っておいた。抜け目ない。
「流石に自分がいる部屋には罠を仕掛けてはいないようだなーーっ!」
「なんて酷いことを……折角作った罠満載のひみつきちだったのに……」
「シャバババ〜〜! 罠というものは引っかかる前に潰してしまえば、何も恐れるものではない!
私の美学は先手必勝! 『攻撃を受ける前に加えるものだ』というのが信条でなぁーーっ!!
その点、貴様のポッポの最初の奇襲は見事だったぞ!
……だが、所詮はド下等の考えるようなこと! それだけだったがなぁーーっ!」
「……そ、それでも俺はポケモンマスターになるまではこんなところでは……」
「ポケモンマスターだと? ……シャバババ! 笑わせるな!」
「……ひ、人の夢を笑うなッ!!!」
自分の夢を馬鹿にされて怒らない人間などいない。
だが、怒っていても事態は好転などはしない。
最悪の状況のピンチである。
「貴様はサファリゾーンに行ったことがあるか?」
「? アンタ……何言ってんだ?」
「サファリゾーンで投げるものを知っているか?」
「それはサファリボールと……まさか!」
ガンマは口角を上げてにやけるように笑う。
その手には砕いて手頃な大きさになったコンクリの欠片。
「シャバァ!!」
大きく振りかぶって手に持ったコンクリの欠片を投げる。
ガンマによって投げられたコンクリの欠片はアトに向かって飛んでいく。
「……つ、つるのむち!」
『ダネー!』
それをアトはフシギダネのつるのむちで防ぐ。
だがガンマは右と左、両方の腕から連続でコンクリの欠片を投げつける。
これくらい幼少の頃からイシツブテ合戦で無敗を誇ったガンマにとって造作もないことなのだ。
「シャバ! シャバ! シャバ〜〜〜〜ッ!」
連続でコンクリの欠片を投げていく。
そして、投げると同時に距離をじりじりと詰めていく。
前に投擲すれば、その分、ガンマ自身の身体も前に進む。
「シャバーッ!!」
『ダネフッシー!?』
「フシギダネ!?」
至近距離からの投石で今まで攻撃を防いできたフシギダネが飛ぶ。
フシギダネのつるのむちでも防ぎきれないほどの威力になっていたのだ。
アトの腹部に着弾する。
あばら骨の数本が折れた。
呼吸をするのも苦しくなった。
投げたコンクリの欠片が顔面を掠める。
視界に自分の血が入る。
意識が飛びそうになった。
後ろに徐々に下がっていたアトの身体が壁に当たった。
これで意識を辛うじて繋いだが、完全に追い詰められた。
「シャバババ、追い詰めたぞ、ド下等トレーナー。後ろは貴様が作った大量のトラップだ。
貴様ならどうする? 前に進んで死ぬか、無様に逃げて死ぬか?
さあ、貴様ならどちらを選ぶ? それともギャンブラーらしく天運に祈るか〜〜?」
相手との実力差は歴然。
アトが勝てるチャンスなど本当に万に一つしかない。
瞬時に出た逃走の方法は二つだけ。
一つはこの罠満載の秘密基地を突っ切る。
もう一つはガンマの横を抜けて、窓からポッポで外に逃げる。
どちらもリスクが高すぎる、分が悪すぎる。
(この状態で逃げ切れる可能性は……高いのは後者!)
一瞬だけでいい。
あの怪物(ガンマ)の隙を付いて、横を走り抜けることが出来れば逃げ切れる。
そう、考えないと『やってられないぜ、チクショウ!』という考えだけが残ってしまう。
(光の粉で目暗まし……それしかない)
チャンスは一度だけ。
生き残るか死ぬか。成功確率は絶望的だがやるしかない。
だが、アトが覚悟を決めた瞬間。
ガンマはアトとの間合いを一気に詰めた。
「シャバッ!」
「!?」
パァン! と大きな破裂音のような音が鳴り響いた。
ガンマはアトを殴ったのではない。
ガンマはアトの目の前に両手を突き出して掌を合わせて叩いたのだ。
所謂『ねこだまし』。ハリテヤマなどがポケモン相撲で極稀に使う技だ。
この猫だましではダメ―ジなどは与えられない。
だが、この破裂音でアトは僅かであるが怯んでしまった。
アトの思考と全身の筋肉が一瞬停止した隙を逃さないからこそ、ガンマは空手王なのだ。
「曲りなりにポケモンマスターを目指しているなら知っているだろう……『はっけい』という技を!
たかが『はっけい』と言えど……『密着至近距離からのはっけい』ならどうなるかその身で味わうといい!!!」
「なっ……!?」
「その叶わぬ夢を抱いて死ねーーっ!! シャバラーーーーッッ!!!!」
ここはもうガンマの制空圏である。
ガンマは素早い動きでアトの背後を取った。
そして、床を思い切り踏み込み、身体を半回転させて背中を向ける。
武術における『鉄山靠』もしくは『鉄山靠』と呼ばれる技の動き。
そこから放たれる技は『インファイト』でも『ばかぢから』でも、ましてや『たいあたり』でもない。
『はっけい』
漢字で書けば『発勁』である。
歴とした格闘ポケモンが使う格闘タイプの技である。
効果は相手の体に衝撃波を当てて攻撃し、麻痺状態にすることがある。
『発勁』は『インファイト』や『ばかぢから』のように強靭な五体と素早い動きを用いる技と違い。
筋力を細かく活用した独特の重心操作を行なうことで強烈な打撃力を作り出す技である。
剛ではなく柔の技。だが、剛の者が柔の技を使いだしたらどうなるであろうか?
その威力はHB振りのイワークをも打ち砕く……かもしれない。
ガンマはポケモンではない。
技は4つ以上使える。
そんな『発勁』がアトの身体にクリティカルヒットする。
まるでトラックと正面から衝突したような衝撃を全身に受ける。
背中からの発せられた勁が衝撃波となり、アトの身体を容易く吹き飛ばした。
ガンマが突き破ってきた壁の穴からアトの身体が外に投げ出された。
アトは外に出ることは出来たが、それは最悪の形であった。
(そんな……俺の夢はこんなところで……)
アトの感覚が徐々にスローモーションになっていく。
しかし、身体は麻痺しているのか……動いてはくれない。
(……クソ、こんなところで終わるなんて……)
廃墟の冷たい風が身体に受けながら地に堕ちていく。
(……俺の夢は……まだ――――――)
グシャリと短く鈍い音がマンションの下から聞こえた。
―――――もう彼は夢を追えなくなった。
【ギャンブラーのアト 死亡確認】
◇ ◆ ◇
「…………こうなることはわかっていたのだ」
ポケモンバトルとは到底言えない戦いを制したガンマ。
マンションから降り、アトの死体からフシギダネとポッポのモンスターボール。
そして、盗まれたタウリンとアトが持っていたアイテムを回収した
「所詮はド下等トレーナー……『ワン・オブ・ゼム』にすぎぬわ」
ガンマが認めたトレーナーなど世界に数えるほどしかいない。
自身の片目を奪ったサワラビ。
ヤマブキシティにいた自身を退けるほどの空手使いの男リキ。
虐殺王と怖れられた伝説の格闘兄弟のゴールとシルヴァ。
ガンマ自身が唯一の盟友と認めた鋼ポケモン使いのシン。
性格が非常に捻れたドグサレ外道だったが実力は本物だった電気ポケモン使いのサイくらいであった。
「……私は『ポケモンマスター』の称号などとうの昔に超えておるわーーーっ!!」
先程、アトの夢を笑ったのではない。
自身がすでに通過したポケモンマスターという称号を笑ったのだ。
「私が欲しいのはポケモンマスターをも超えた称号……
あらゆるポケモンの技すら使いこなす、最強のポケモントレーナーの称号……」
ガンマが欲しいのはその先にあるもの。
それこそが……
「……『ポケモン・ザ・ポケモン』の称号! ただ一つだーーっ!!」
言葉の意味はわからんがとにかくすごい自信だ。
【B-1/はいきょのまちその2 はいきょマンション周辺/一日目/午後】
【からておうのガンマ 生存確認】
[ステータス]:アゴを打撲
[バッグ]:基本支給品一式、タウリン、ゴツゴツメット、せんせいのツメ、ひかりのこな、秘密基地のフラッグ
[行動方針]基本:パロロワ団諸共ド下等トレーナー共の粛清
1:殺しに行く
▽手持ちポケモン
◆【コイル/Lv1】
とくせい:がんじょう
もちもの:きのみジュース
HP:■■■■■■■■
能力値:無振り
《もっているわざ》
どくどく
まもる
リサイクル
でんじふゆう
◆【カバルドン♂/Lv50】 (瀕死)
とくせい:すなおこし
もちもの:ゴツゴツメット
HP: □□□□□□□□
能力値:HP、防御振り
《もっているわざ》
あくび
ステルスロック
じしん
じわれ
◆【フシギダネ/Lv50】
とくせい:ようりょくそ
もちもの:なし
能力値:HPとくぼう特化
《もっているわざ》
あまいかおり
つるのムチ
ねむりごな
ヘドロばくだん
◆【ポッポ/Lv50】
とくせい:はとむね
もちもの:なし
能力値:こうげきすばやさ特化
《もっているわざ》
どろぼう
おいうち
ねっぷう
そらをとぶ
投下終了です。
アゲハとの戦闘直後にアトの屋敷へ殴り込み。
あれカバルドン回復させなくていいのか……と思ったら、まさかの単身攻略。
強い! ガンマ強すぎる!! 個人的にフラッグを回収しておいた辺りがツボ!
本人がポケモン並のパワーで暴れるのは、反則的でありながらも逆にスカっとしますねぇ。
アトは大志を抱いていましたが、力技だけでなく意志のぶつかり合いでも敗北していたと思います。
ポケモンマスターを超える、ポケモン・ザ・ポケモン。そりゃ勝てない。
投下お疲れ様です!
ポケモンを極めるとオレ自身がポケモンになることだになってしまうのか
ガンマさん強い強すぎる。バッフロンでも叶わなそう。
投下乙です。
アトくんは災難だったね…正々堂々裏ワザ使われちゃ無理だわ…w
完成が見えたら予約しようと考えているうちに、予約し損ねていました。
ベテラントレーナーのアーサー、ホープトレーナーのマイでゲリラ投下します。
タイトルは「おきみやげ」です。
鬱蒼と茂った草陰に、首の無い死体を見た。
少女は「ようやく見つけた」と安堵し、だけど心がキリキリと痛んだ。
爆発によって漂う焦げた臭いはまだ強く残っていて、胃に不快感をもたらした。
まともに嗅がないよう呼吸を止めた状態で死体へと近づき、その手元に置かれた二つのモンスターボールを拾い上げた。
そして、目に焼き付けるようにまじまじと死体を見た。
正直、気持ちが悪過ぎて見たくなかったが、目を逸らしてはいけないんだと思った。
何故なら男がこのような死体となったのは、自分のせいだから。
少女の胸の中に今、ドロドロと罪悪感が渦巻いていた。
けど、このドロドロとした気持ちはそれだけじゃない。
物凄く"納得"のいかない事が、彼女を悩ませていた。
だからこそ少女は、男の死を割り切る事が出来なかった。
"仕方ない"の一言で終わらせる事が出来なかった。
「旦那はいったい、あたしにどうして欲しいんすか……?」
少女――ホープトレーナーのマイは、息苦しさに悩まされていた。
しかし、目の前に横たわる死体、ベテラントレーナーのアーサーは何も答えてはくれない。
◆
決着を前にしたポケモンバトルは、そこでずっと止まったままでいる。
何故ならあたしが、アーサーの語る言葉を遮る事が出来なかったから。
旦那はあたしがずっと抱えてきた葛藤や苦悩をみんな見透かしていた。
自分にとってとても深刻で、もっと複雑な問題だと思っていたのに、いとも容易く言い当てられた。
なんか単純な事みたいに言われるのは、正直不満だった。
けれど、彼が自分の事をどこまでわかっているのか知りたかった。
だから黙ったまま、彼の話に耳を傾けていた。
アーサーはあたしのしてきた事を否定したりしなかった。
何が正しい選択肢だったのか、なんてわかりきった事を語る大人でも無かった。
今後、この戦いから脱出した先、あたしはどうすればいいのか。そんな提案だけを語る。
まだやり直せるんじゃないか、と思い初めていた。
この暗闇の中から抜け出せる道があるんだ、と思った。
最後にアーサーは言った。
お前さんが俺の言葉に従う義理はどこにもない。
だが、もしその気があるのであれば、俺と一緒に来て手伝ってくれ。と。
とても嬉しかったはずだった。
だけどその時にあたしの口から沸き上がった言葉は、アーサーの気持ちを一蹴するものだった。
――そもそもあたしがこんな状態になったのは、あの戦いに負けてガルーラナイトが無くなったからっすよ……?
それは心の動きとは関係の無い、アーサーの知らない事情。
確かに大会での敗北をきっかけに、あたしは故郷やポケモンとの関係を絶っていた。
だけど、少なくともポケモンとも向き合えなかったのは、それだけが原因ではない。
――ガルーラナイトが壊されなければ、イレーナ達……あのガルーラたちと戦ってこれたはずなんだ!
気が付けば、あたしは「壊れた」と言う、不確かな事実を断言していた。
そして、もしもこうだったらうまくいった、とイフの世界を叫んでいた。
単なる言いがかりに近いものだった。
そうして口にしているうちに、黒い感情が溢れてきて止まらなくなった。
悲しみか、怒りか、そんな感情でいっぱいになった。
もう、自分を抑え切れなくなっていた。
――全部、何もかも、あんたがあたしの希望を奪ったんだッッッ!!!
憤りのままに"ハイドロポンプ"を命じた。
それが、超えちゃいけない一線を超えた行為だって思い出したのは、その後だった。
後悔が頭を駆け巡り、しかしもうどうしようも無くなった。
一度引き金を引いてしまったら、発射された弾丸を止める術は無い。
アーサーも、リングマに"からげんき"を命じた。
とても悲しそうな顔をしていた。
ついさっきまで『味方』だった彼を、『敵』に変えてしまったのだと思い知った。
そうして刹那的に取り戻した冷静さも、バトルの顛末によって吹き飛んでしまった。
ハイドロポンプは、リングマのすぐ横を掠めた。
外れたのだ。
茫然としているうちに、リングマの攻撃がゲッコウガの肉体を宙へと打ち上げていた。
またしてもあたしは、アーサーに敗北した。
どこまでも運命は無慈悲だと思った。
そして、その残酷な現実を私はすぐに信じる事が出来なかった。
嘘、嘘、嘘……と呟きながら、落下するゲッコウガを受け止めようと駆け寄る。
そうして、思ったよりも重かったゲッコウガに潰され、地面に頭を打った。
遠くなる意識の中で、ピピピピという電子音が耳元に響いていた。
◆
細長い芝生に頬を撫でられて、目を覚ました。
ぼんやりとした視界には、薄暗くなった空が広がっていた。
またたきをした事で、ぼんやりとした視界は眼鏡が外れていた事だけでなく、泣いていたためだと気付いた。
多分頭がズキズキと痛いせいだ。
意識を失いながら涙が流れていたために、目じりからこめかみにかけて濡れている。
痛いよ……と子供のような泣き言が口から零れた。袖口で顔を拭った。
落ちていた眼鏡を拾う。ヒビが入っていた。
「……なんで生きてるんすかね」
首輪は確かに鳴っていたはずだ。
手持ちが全滅した事に間違いはない。
だけど、生きている。
手持ちには、ガブリアスが居なかった。
代わりにリングマが居た。
何を意味しているのか、すぐにわかった。
「アーサーはどこへ行ったんすか!? アーサー!!」
周囲に男の姿は無かった。
フラフラと立ち上がり、よろけながら付近を歩き始めた。
彼が今どうなっているかは、想像に難くない。
戦えるポケモンが居なくなった者として処刑されているだろう。
「どうして……」
大して関わりがあるわけじゃない。
たった一度、対戦相手として相まみえただけだ。
なのにどうしてあの老人は、あたしの死を引き受ける真似をしたのだろう。
きっと彼だって生きたかったはずなのに。
少なくとも彼自身のポケモンを、パロロワ団から取り返すまでは。
「意味わからないっすよ! あたしに何かを託したつもりっすか!?
あたしみたいな人間に何を任せられるって言うんすか!!」
自分は何て馬鹿な人間なんだろう、と思った。
どうしてあんな事をしてしまったんだろう、と考えた。
どこまでも自分勝手な事を叫んで、理不尽ないちゃもんを付けて、攻撃をした。
アーサーの事がそんなにも憎らしかったんだろうか。
違う。
……きっと、自分は彼に心を許していた。
信じられる大人だと認識していたんだ。
だから、ずっと抱えていた悲しみを、わがままを、受け止めてほしかったのかもしれない。
でも、のぼせ上がった勢いで、あそこでハイドロポンプを打てばアーサーが死ぬって事を忘れていて……。
「馬鹿過ぎる……あのまま死んでしまえば良かったのに」
こんなにも馬鹿な自分が生かされる程の価値なんて、あるわけが無い。
差し伸べられた手を遮って、全て人のせいにして、挙句不運によって無様に負けた。
自業自得もいいところ。馬鹿には相応しい死に方だったじゃないか。
生かされてしまった今、自分は何をすればいい?
彼の意志を継いで、サカモトへの反逆に身を投じるべきなのか。
「……だったら、自分でやれば良かったじゃないっすか」
ほとんど見ず知らずのあたしに託すべき意志じゃない事は明白だ。
だから納得がいかなかった。
◆
そうして、ようやくアーサーの死体を見つけた。
そう遠くへ離れる事こそ出来ないだろうが、少なくともマイがすぐ見つけてしまわない程度に隠されていた。
そんなにも自分に配慮してくれる、アーサーの思考が全くわからない。
どんなに考えてもわからない。
当然だと思った。
だって、自分はアーサーの事は何も知らないのだから。
マイの境遇に対して憐れみをもったのか。
老い先短い老人だから、若者に生きてほしいと思ったのか。
……そんな親切心で命を譲るほど、彼は慈悲深く、甘い人間だったのだろうか。
全ては憶測に過ぎない。
どうしてあたしを助けたのか。
あたしに何を求めているのか。
「わからない」という気持ちが、杭のようにマイの心の中に打ち込まれていた。
でも、当人が死んでしまった今、どうしようもなくなった。
その答えは永久に闇の中に消えてしまった。
いや――
「……アーサーを知ってる人が、ここに居るかもしれない」
ふと、脳裏に浮かんだ一つの可能性。
生前、彼はトレーナーとしてそれなりに名の知れた人だった。
マイが知らない事情や、過去の話を知っている者は少なくないだろう。
その者がこのコロシアイに呼ばれているかは別として、だが。
それでもクレイジー・アーサーの真意が知りたい、という気持ちがマイの行動を決めた。
ここで相まみえる、あらゆる人に、彼の事を尋ねてみよう、と。
答えがわかるまで、もしくは自分が死ぬまで。
ただ……。
「実質、あたしがアーサーを殺した……と知られたらヤバイっすけどね……」
下手をすれば世界中に敵を作る事になるかもしれない。
この事実だけは上手く隠し通さなくては、と思った。
【ベテラントレーナーのアーサー 死亡確認】
【C-2/中央道路/一日目/夕方】
【ホープトレーナーのマイ 生存確認】
[ステータス]:後頭部にケガ(気絶したレベル)、精神疲労(大)、
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×2(確認済み、アーサーから一つ取得)
[行動方針]アーサーの情報を得る
1:多くの参加者と接触し、話をしたい
2:一応、アーサーの意志を組み、対主催に立とうとは考えている
3:アーサーが自分の代わりに死んだ事実は隠す
※瀕死のポケモンを元気なポケモンと交換する事で、首輪のアラームを止める事が出来ます。
【ゲッコウガ♀/Lv50】
とくせい:へんげんじざい
もちもの:いのちのたま
能力値:おくびょうCSベース(H16n-1等微調整)
《もっているわざ》
ハイドロポンプ
あくのはどう
れいとうビーム
じんつうりき
【ガブリアス♀/Lv50】
とくせい:さめはだ
もちもの:こだわりハチマキ
能力値:いじっぱりAS特化
《もっているわざ》
げきりん
じしん
ストーンエッジ
アイアンヘッド
【エルレイド♂/Lv50】
とくせい:ふくつのこころ
もちもの:きあいのタスキ
能力値:いじっぱりふくつのこころ込みで最速メガガルーラ抜き残り耐久調整及びA
《もっているわざ》
インファイト
サイコカッター
おきみやげ
トリックルーム
【リングマ♂/Lv50】
とくせい:こんじょう
もちもの:かえんだま
能力値:ゆうかん最遅HAベースやけどダメージ調整
《もっているわざ》
からげんき
かみくだく
じしん
まもる
以上で投下終了です
つりびとのサエグサ、ハンターのアギトで予約します。
つりびとのサエグサ、ハンターのアギトを投下します。
タイトルは「うっかりや」です。
そろそろ頃合いかな、とつりびとのサエグサは釣り糸を引き上げた。
水平線に沈もうとする夕日は、辺りを鮮やかなオレンジに染め上げる。
太陽と反対側の空は薄暗く、ぽつぽつと星が輝いていた。
サエグサの丸まった背の方には、コイキングが山積みに積まれている。
彼らを収納するモンスターボールなんて無いので、こんなぞんざいな扱いになざるを得ない。
だが、彼らは丈夫なのでこのくらいなら平気なのだとサエグサは知っていた。
そこそこ時間が経っていたが、コイキングたちはしきりにびたんびたんと体を弾ませ、ヒレをひらひらと動かしていた。
「釣りはいいねぇ、人類が生み出した文化の極みだ」
『おんみょ〜ん』
「いやぁ充実の一日だったな」
今日の収穫を眺めて、サエグサは満足げに呟いた。
キラキラと光るウロコは、さながら赤い財宝の山だ。
彼はお宝を一匹手に取って、海へと放流した。
キャッチアンドリリース。
逃がす事に名残惜しさは無い。釣る事自体が彼の目的なのだから。
水しぶきが高く上がり、赤い影は海へとするりと去って行った。
これを数十回繰り返した頃には、財宝の山はさっぱり無くなっていた。
果たしてどれくらいの時間が経ったのかな、とサエグサは思った。
彼がこの会場で目覚めた時、確か太陽はてっぺんにあったはずだ。
となると正午から夕方まで、大体6時間近くは経過したのだろう。
「俺の罠も作動した様子は無ぇようだし、その間誰も来なかったんだな。
いやぁ釣りが邪魔されなくて良かったよ。なぁミカルゲ」
『おんみょ〜ん』
ミカルゲは平坦な鳴き声で答えた。
楽しみが終わったところで、ここで「さて、これからどうしようか……」だなんてボケた事は言わない。
サエグサはこの後どうするかを、ちゃんと考えていた。
彼はマイペースだが、ぼんやりと釣りだけに集中する男では無いのだ。
ただ別に、特別なにかスゴい事をしてやろう、とは思ってない。
基本的には自分の安全を優先し、どこか目立たない場所に隠れていようと考えている。
ただし、他の参加者と接触する場合は、必ず一対一の状況に限定する。
危惧すべきは複数の参加者に立て続けに襲撃される事。それだけは避けなくてはいけない。
……と、その程度だ。
幸運な事に、先の釣りでホエルオーのモンスターボールを入手したので、手持ちは三体だ。
シングルバトルであれば、そこまで苦戦しないだろう。いやー釣りやってて良かったわー、釣り最高。
とりあえず、協力者が出来るまでは慎重な行動を心掛けたい所だ。
その上でとても便利なのが、このポケッチの『つうしんサーチャー』という機能。
これを定期的に確認すれば、不意の襲撃だけは防ぐ事が出来ると言って間違いないだろう。
ポケッチの赤いボタンを何度か押すと、液晶画面にはこのように表示される。
つうしん じょうきょう
20メートル 00
50メートル 00
100メートル 00
200メートル 00
▼
それぞれ0〜20m、20〜50m、50〜100mの距離に居る参加者を表示する。
画面上の三角ボタンをタッチする事で、探索距離を1キロまで伸ばす事が出来る。
ちなみにこれは周囲360度を全てサーチしているわけではない。
ポケッチの上部を向けた方角の、直線距離で判別している。
海側を向いている今、サーチ出来ないのは当然。
しかし、身体をゆっくりと回転させてみると……。
つうしん じょうきょう
▲
200メートル 00
300メートル 00
500メートル 00
1000メートル 01
おおよそ南側の方、500m〜1000m間に参加者がいると表示された。
警戒はすべきだが、まだ慌てるような時間では無いだろう。
「近づかれる前に移動だな。んじゃ移動するぞー、戻れミカルゲ」
サエグサはミカルゲをモンスターボールに戻し、ウルガモスのモンスターボールに手をかけた。
とりあえずウルガモスに『そらをとぶ』を覚えさせ、上空から街の様子なんかを見ておきたい。
「おぉっっとと、手が滑った」
デニムのポケットに指が引っかかり、ボールがコロンと落ちた。
海の方に転がる前にささっと屈んで手で押さえた。
「危ねぇ、せっかくの手持ちが海に落っこち……」
ふと、視界の端に不自然な影が見えた。
細長い棒状の影だった。
「ん?」
これは? と言いかけた時。
影の中から銀色に光る何かが真っ直ぐに突き出してきた。
手に握られたボールを、またしても取り落とす。
「ぐぇッ……」
襲撃だと認識出来た時、既に首の真ん中を深さ2センチほど斬られていた。
何者かのギルガルドの放った『かげうち』だ。
気管を伝って肺に流れ込む血に苦痛を覚え、咳き込みながらもボールを拾おうとする。
しかし、当然そのような猶予など与えられるはずもない。
ギルガルドの『せいなるつるぎ』が、サエグサの腹部を貫く。
バケツの返したような水音と共に、黄色い芝生が赤黒く染まった。
ごぽごぽという呻き声が響くうちに男の動きが止まる。
ウルガモスのモンスターボールは最後まで閉じたままだった。
◆
無数に張り巡らされた細長い糸が、ハンターのアギトの目の前でキラリと光る。
慎重に移動していたため、トラップに引っかかる事無く済んだのだ。
彼は己のギルガルドが、身体を赤く染めて戻って来たのを確認し、モンスターボールを一つ投げた。
タブンネが飛び出した。
「この糸に向けて『こごえるかぜ』だ」
ひゅうっと吹き付けた白い風が、周囲の木々もろとも粘性のある糸を凍らせる。
軽く蹴りつけてやると、糸はペキっと簡単に砕けた。
倒れ伏したつりびとの元へ行き、タブンネに『だいもんじ』を命じた。
当然タブンネは嫌がった。しかしどれだけ嫌がろうと、ポケモンはトレーナーには逆らえない。
ほどなくして、刃物で切り刻まれた人間は、黒くボロボロのマネキンのようなものへ変わった。
アギトはつりびとの持ち物を回収する。
回収したものの中に、ポケッチが含まれていた。
ちなみに今、彼自身の腕にはポケッチが着いていない。
数刻前、サザンドラに乗り上空からつりびとの姿を確認した。
つりびとがチラチラとポケッチをチェックしていた事から、『つうしんサーチャー』を使っている事がわかった。
そうして彼は考えた。『つうしんサーチャー』が探知しているのは、他者のポケッチでは無いだろうか、と。
その仮説を実践するために、林の中――ここから500mちょっと離れた位置――にポケッチを隠した状態で接近した。
張り巡らされたトラップの向こう側にギルガルドを出現させ、『かげうち』で奇襲を命じた。
「反応無し、か」
つりびとのポケッチは液晶が消えたまま、ボタンを押しても動かない。
電波も発信されてないようで、自身のポケッチから『つうしんサーチャー』を使ってもサーチされる事は無かった。
持ち主の死亡が確認されると、機能を停止させられるのか?
「予備として使わせちゃあくれない、ってか」
それほど期待はしてなかったので、あまり気にしなかった。
端を指先でつまんだ状態から、バッグの中へすとんと落とした。
現在、彼の手持ちは六体となった。
ギルガルド、サザンドラ、タブンネ、ミカルゲ、ウルガモス、ホエルオー。
運が良い、と思った。バランスもそれほど悪くない。
夕日を背にして、アギトは小さくほくそ笑んだ。
殺戮は続く――。
【つりびとのサエグサ 死亡確認】
【残り28人】
【A-2/低地/一日目/夕方】
【ハンターのアギト 生存確認】
[ステータス]:憎悪
[バッグ]:基本支給品一式、不明支給品×1、サエグサのバッグ(基本、不明×1、ポケッチ)
[行動方針]対“人間とポケモン”
1:人間にポケモンたちとの関係を考えなおさせる程の傷痕を残す。
2:1のためにポケモンにてできるだけ残虐に人を殺す。
3:タブンネは徹底的に壊し、その上でトレーナー(ノエル)と再会させる。だが別にトレーナーの生死にはそこまで執着する気はない。
※ポケモンを殺すことを禁じられていることを把握しました。
※ノエルの名前を把握しました
※自身の目的に沿った構築にしたようです。
※サエグサのポケモンコンバータは拾いませんでした。
▽手持ちポケモン
◆【サザンドラ/LV50】
とくせい:ふゆう
もちもの:???
能力値:???
なつき度:0
《もっているわざ》
かみくだく/りゅうのはどう/気合球/????
◆【ギルガルド/LV50】
とくせい:バトルスイッチ
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
アイアンヘッド/キングシールド/かげうち/せいなるつるぎ
◆【タブンネ】
とくせい:いやしのこころ
もちもの:タブンネナイト
能力値:すなおHBぶっぱ
《もっているわざ》
てだすけ/だいもんじ/ムーンフォース/こごえるかぜ
◆【ミカルゲ/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:いのちのたま
能力値:防御、素早さ特化
《もっているわざ》
のろい/さいみんじゅつ/かげうち/ギガインパクト
◆【ウルガモス/Lv50】
とくせい:ほのおのからだ
もちもの:もくたん
能力値:特攻、素早さ特化
《もっているわざ》
ちょうのまい/だいもんじ/むしのさざめき/そらをとぶ
◆【ホエルオー/Lv50】
とくせい:????
もちもの:????
能力値:????
《もっているわざ》
????
以上で投下終了です。
投下乙です
乙
投下乙
なんかある種のノリが発生してるような……。
とりあえず皆様、感想ありがとうございます。
投下乙です
さすがハンター、頭を使って自分の消耗を最低限まで抑えてキルカウントをあげたか
サザンドラにギルガルド、ウルガモスと強ポケも集まってきてさらに手強いマーダーに…
投下おつー
流石はハンターかつ元国際警察。罠解除はお手のものか。
サーチャーの仕様にも気づいたし、手持ちも増えて着実に厄介さを増しているな
おじょうさまのイリアス、ポケモンブリーダーのガナハ、ロケットだんのしたっぱのタスク、ポケモンごっこのキョウコ、
トライアスリートのショオ、オカルトマニアのセーキ、パラソルおねえさんのトラウム、ミニスカートのミイ♪♪♪で予約します
予約延長します
おじょうさまのイリアス、ポケモンブリーダーのガナハ、ロケットだんのしたっぱのタスク、ポケモンごっこのキョウコ、
トライアスリートのショオ、オカルトマニアのセーキ、パラソルおねえさんのトラウム、ミニスカートのミイ♪♪♪で投下します。
タイトルは「そこに空があるから」です。
「私とした事が……ぬかったわね……」
ぜぃぜぃと肩で息をしながら、おじょうさまのイリアスはギリリと爪を噛んだ。
周囲を取り囲む鬱蒼とした木々は、どこまでも冷たく広がっている。
葉と葉の隙間からカーテンのように差し込んだ光は、もうとっくに見えなくなった。
時間が過ぎるほどに、少女たちを包み込む闇は一層強まっていく。
胸の奥に湧き上がる、無力感。
イリアスは堪らず声を上げた。
「なんで麓に辿りつけないのよーッ!!!」
数時間ほど前。森に入った結果、出られなくなった。
思えばこれまでの彼女の人生のうち、まともに登山をした経験が無い。
「ドサイドン、とにかく真っ直ぐ進むのよ!
そうすればこんな森、いつか絶対に突っ切れるハズなんだから!!」
ドサイドンの肩の上に乗り、枝をかき分けながらひたすら進む。
まさか同じ所をグルグル回っている……なんてベタな状況に陥ってる事に少女が気付くのはいつだろうか。
◆
「なんくるないさー!!」
そう意気込んでいたポケモンブリーダーのガナハだった。
しかしその意志はすぐに折られてしまう結果となった。
街には少女の悲鳴が響き渡った。
他でもないガナハ自身が発したものだった
「お、女の人が……な、内臓……ひっ……!」
最寄りの街で目にしたのは、コロシアイの凄惨な現実。
アスファルトに横たわるメイドの女性、その背中から飛び出したピンク色のぐちゃぐちゃとした中身。
ここで声を上げれば身を危険に晒すとはわかっていた。
しかし、決して強くない少女は恐怖を抑えられなかった。
そしてすぐさま口を押さえて声を止め、その場から走って逃げた。
路地裏のゴミ箱の裏に隠れ、ウインディに抱き着いて泣いた。
「助けてウイン太、自分、もう、イヤだ、怖い……」
ガナハの脳内には、あの惨状がくっきりと焼き付いている。
自分もきっとああなるのかと考えると、気がおかしくなりそうだった。
大通りの方から2つの足音が聞こえてきた。
すぐさまウインディをボールに戻し、ゴミ箱の影でぎゅっと身を縮めた。
「待ちやがれガキ! ちょこまかと逃げんじゃねェ!」
ドスの利いた男の怒号。
強力な攻撃で壁が壊される音、多量の水がザバっと地面を叩く音。
コロシアイが行われている真っ最中だった。
この男が、この街で人を殺してまわっているんだと確信した。
男たちが去った後に、ガクガクと震える足で無理やり立ち上がった。
早く街から逃げなくては、自分も殺されてしまう。
路地裏から顔を出すと、すぐ横にスポーツウェアの男が居た。
「ひえぇっ!」
咄嗟に逃げようとして、段差につまずいて転んだ。
「こ、殺さないでください!!」
「待ってくれ、僕にそのつもりはない。
さっきのロケット団の男を尾行していただけだ」
「……ホント?」
彼はトライアスリートのショオと言った。
体格は大きいが、彼の落ち着いた佇まいによってガナハはパニックを起こさずに済んだ。
「ピカチュウのきぐるみを来た女の子を追いかけ回しているようだ。
あれを見逃すのは良くないとは思ったが……」
「えっと……その人達は、あっちの方に行ったぞ!」
「いや、まずは君の方が心配だ。立てるか?」
「う、うん。一応……」
そうは言うものの、ガナハの足にはアザが出来ていた。
転んだ時、地面に打ち付けたようだ。
「驚かせてすまない」
「だ、大丈夫だ! このくらい」
「一旦どこかマトモな場所に腰を落ち着けよう。
ケガの様子を見るべきだし、今後の事も話した方がいい」
追いかけられている子の事はいいのかな……とガナハが尋ねる。
仕方ない、と一言ショオは答えた。
正面から暴漢に立ち向かうほどの危険は冒せない。
自分一人で救える人間の数は限られているんだ、と。
暴漢に追われる少女を放置するのは心残りだったが、ガナハはその意見を受け入れた。
ガナハとは違って、ショオはとてもリアリストだ。冷淡に感じるほどに。
でも、それはガナハにとっては頼もしいものに感じた。
さっきのような恐ろしい事態になっても、適切に対処をしてくれるような気がした。
そして二人はその場を後にした。
◆
オカルトマニアと呼ばれた少女セーキは、村と思わしき場所へと降り立った。
立ち並ぶ家々は、長年の経過で背の高い木に覆われており、上空からではなかなかわかりづらい。
だが、元々の育ちが小さな村だった事もあるのだろう。
何かピンと来るものを感じ、こうして辿り着いたのだった。
ボロボロの寂れた木造の建物が大半を占める中、頑強な造りをしたポケモンセンターを見つけた。
【ポケモンセンター ヒカワタウン】
このような見知らぬ空間において、ポケモンセンターという見覚えのある施設に安堵を覚えた。
建物の中でイスに腰掛けて、レップウと共にじっと過ごした。
傷付いたゼロは、ポケモンコンバータで回復させた。
センター内の回復の機械を使わなかったのは、この施設自体を利用した事が無かったため、知らなかったのだった。
ゆったりとした時間が流れていた。
数時間もの間、誰もこのポケモンセンターを訪れなかったからだ。
セーキは二匹の鳥ポケモンたちと親睦を深めていた。
じゃれあったり、一緒に走り回ったりして遊んだ。
お腹が空いたら、バッグに入っていた簡素な食事を取った。
そうこうしているうちに、空が暗くなってきた。
セーキはポケモンセンターの明かりを消した。
外から目立ってしまうと、また襲われるかもしれない。
そして薄暗いと、不安がこみ上げてきた。
「ねぇ…、もっと近くに来て…、ゼロ…レップウ……」
ぎゅっと二匹を抱きしめた。
温かな体温に包み込まれる事で、セーキは恐怖を堪えていた。
◆
灯台が建設された西の岬は、周囲よりも少しだけ標高が高い。
てっぺんに登れば、山の向こうまでは見えないものの、麓の街は一望出来る。
パラソルおねえさん――傘は無いのだけれど――のトラウムは、ぼうっと街を見下ろして時間を過ごした。
時折尋常じゃ無いほどの轟音が響き、そのたびに街の一部が壊れていく。
サカモトの言葉に踊らされる人々があそこには居るのだろう。
ただただ、他人事のように冷めた心で、そう思いながら眺めていた。
戦いに身を投じる人々のことを、初めこそ自分と違う生き物のように錯覚していた。
しかし、少し考えて自分も似たようなものなんだろうな、と気がついた。
どのくらい前だったかな。……まぁ、いいや。
私が愛したあの人が、私の隣から居なくなった後。
それからずっと、今まで、思い出の傘を握りしめてきた。
当然、そのことについて声を掛ける人は何人も居た。変だと指摘する者も居た。
周りにどんなに不思議に思われても、私は傘をずっと握りしめていた。
こうしていればあの人はきっと、私の事を思い出してくれるかもしれない。
もう一度、あのひとの優しい言葉を聞けるかもしれない。
傘がある限り、私には最後の希望が残っている。
愛の言葉。
私も、他の参加者と同じ、言葉に踊らされている。
……でも私は構わない。だって、希望が無ければ生きる意味なんて無いのだから。
空の端に黒い雲が見えた。
「雨が降るわ」
トラウムはそう呟いて、一階へと降りた。
一階には、壁にもたれかかって眠るように死んでいるリヒトがいる。
扉をくぐり、夕焼けに包まれた砂利道を、長靴で踏みしめた。
早く傘を探しにいかなくちゃ。
◆
ミニスカートのミイ♪♪♪
「くっ少女を追いかけていたら、クロバットに乗って海の上に来てしまったぜ」
すると目の前に黒い影がいっぱい見えた
「シュサイシャホウソウ! シュサイシャホウソウ!」
「そうかもう6時間経ったのか」
ペラップの群れが口々に喋りながら会場の方へ飛んでいった。
しかし、そのうち一匹だけがミイ♪♪♪の側で止まる。
「ホウソウヲキキタクバコウゲキスルナ」
「くっ黙って見てるしかないようだ」
ペラップはそれぞれの参加者のもとへ一羽づつ送られた。
戦いは続く・・・
【B-3/森の中/一日目/夕方】
【お嬢様のイリアス 生存確認】
[ステータス]:健康
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]:家に帰るために戦う
1:一人で戦う。信じられるのはポケモンだけ
2:他の人(特に大人)は信用しない
3:何とかして森から脱出する
▽手持ちポケモン
◆【ドサイドン/Lv50】
とくせい:ハードロック
能力値:攻撃、HP振り
《もっているわざ》
ストーンエッジ
アームハンマー
つのドリル
????
※HPがレッドゾーンまで減っています
◆【スターミー/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:特攻、素早さ振り
《もっているわざ》
10万ボルト
????
????
????
【B-4/はいきょのまちその1/一日目/夕方】
【ポケモンブリーダーのガナハ 生存確認】
[ステータス]:良好、足にケガ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]対主催
1:ウイン太とエル美の為に、この殺し合いに反抗する(けれど死ぬのが怖い)
※ロケット団のしたっぱのタスクの声を聞きました、彼を危険人物だと認識しました
◆【ウインディ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♂です
◆【エルフーン/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
※♀です
【トライアスリートのショオ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[行動方針]:奔る。その邪魔をする者は蹴飛ばして通る。(要するに対主催)
1:今はただ走る。
2:ガナハとの情報交換が出来る場所を探す
3:ロケット団のしたっぱのタスクを警戒
▽手持ちポケモン
◆【ダグトリオ/Lv50】
とくせい:ありじごく
もちもの:きあいのハチマキ
能力値:攻撃と素早さに極振り、性格ようき
《もっているわざ》
あなをほる
いわなだれ
ふいうち
ステルスロック
◆【シャワーズ/Lv50】
とくせい:ちょすい
もちもの:オボンのみ
能力値:防御と特攻に極振り、性格ひかえめ
《もっているわざ》
ねっとう
れいとうビーム
あくび
とける
【C-4/はいきょのむら/一日目/夕方】
【オカルトマニアのセーキ 生存確認】
[ステータス]:怯え
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[行動方針]帰りたい
1:怖い、戦いたくない。一人になりたい
2:この場から逃げる
◆【ムクホーク/Lv50】
とくせい:威嚇
もちもの:???
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
インファイト
いのちがけ
???
※セーキにはゼロと呼ばれてます
※体力残り10%
◆【ファイアロー/Lv50】
とくせい:はやてのつばさ
もちもの:
能力値:攻撃、素早さ振り
《もっているわざ》
ブレイブバード
追い風
さきどり
????
※セーキにはレップウと呼ばれています
※支給品の一つはラムの実でした
【B-1/西の灯台/一日目/夕方】
【パラソルおねえさんのトラウム 生存確認】
[ステータス]:健康、深い悲しみ
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]傘を取り戻す(一応帰還)
1:言葉を掛けるものを呪う
2:傘を探しに行く
◆【ジュペッタ/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
のろい
????
????
????
◆【???/Lv50】
とくせい:???
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
????
【C-7/海上/一日目/夕方】
【ミニスカートのミイ♪♪♪ 生存確認】
[ステータス]:良好、謎テンション
[バッグ]:基本支給品一式、レッドカード
[行動方針]:殺人の意思あり
1:自らの生還をかけて容赦なく戦うぜ……!
2:あの少女(セーキ)は必ず殺すぜ……!
3:放送を聞いたら島に戻るぜ……!
▽手持ちポケモン
◆【リザードン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:ひのたまプレート
能力値:HP、こうげき特化
《もっているわざ》
きあいパンチ
ブラストバーン
りゅうのはどう
ほのおのパンチ
※残り体力50%です
◆【クロバット/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:パワーリスト
能力値:HP、こうげき特化
《もっているわざ》
はかいこうせん
シャドーボール
さいみんじゅつ
そらをとぶ
以上で投下終了です。
この後、定期放送を予定しております。
パロロワ団のサカモトを投下します。
『第一回定時放送』
数十羽のペラップたちは散り散りとなり、会場中の参加者の元へと飛んでいく。
ポケモンコンバータによって発せられる特殊な電波を受け取っているのである。
そのうちの一羽、リーダーのペラップだけは上空に留まっていた。
6時が訪れ、まさに正確なタイミングでハイパーボイスを使った。
ただのハイパーボイスではない。
サカモトから吹き込まれた声、言葉を、そのままテープレコーダーのように再現し、放送が開始された。
この六時間を生き延びた諸君、ご苦労。私はサカモトだ。
告知通り、放送を開始する。
ゲーム開始から今までに脱落した者の名前を発表する。
エリートトレーナーのリゼ
たんパンこぞうのゴロウ
かいパンやろうのビリー
メイドのクウ
ホープトレーナーのリヒト
ベテラントレーナーのアーサー
カラテおうのリキ
ギャンブラーのアト
キャンプボーイのケイイチ
ブリーダーのミチオ
メイドのコトリ
つりびとのサエグサ
以上の12名だ。
現在の生存者の数は28人。
スタートダッシュと言うべきか、やはりこの序盤こそがチャンスだったと理解頂けただろう。
私のアドバイス通り、素早く動けた者は今、動けていない者よりも高い戦力を得たはずだ。
中には既に手持ちを6体揃えている者も居るようだな。
未だに2体しかポケモンを持っていない者は、せいぜい注意したまえ。
次の放送はまた6時間後となるのだが……。
どうやら雨が降るらしいな。
それほど長くは続かないみたいだが、土砂崩れなどには気をつけたまえ。
あぁ、それと……みずタイプのわざの威力が上がる。
こういった環境変化にどう対応するのか、トレーナーとしての腕前が試されるな。
次までに誰が勝ち残るのか、楽しみにしているぞ。
それではまた。
以上でございます。
バッドガイのラグナ、ミニスカートのユカリ、メルヘンしょうじょのシェリ、りょうりにんのオーレンで予約します。
延長します
バッドガイのラグナ、ミニスカートのユカリ、メルヘンしょうじょのシェリ、りょうりにんのオーレンを投下します。
タイトルは「アフターグロウ」です。
ポケモンセンターのロビー。
ラグナとユカリは、バサバサッという羽ばたきの音が聞いた。
ペラップがいた。
襲撃を警戒し、二人は咄嗟に戦闘態勢を取った。
「てめェ、どこから入ってきやがった!」
『テイジホウソウ! サカモトニヨルホウコク!!』
「サカモトからだと?」
初めの空間での事を思います。
確かに会場内に放送を流す、という話はしていた。
しかしまさか、わざわざポケモンを寄越してくるとは思わなかった。
コストの無駄ではなかろうか。
二人はペラップの口を通じて、死者の名前と生存者の数を伝えられた。
目の前のとは別に、屋外でも他のペラップが同じように放送を叫んでいるのが聞こえる。
一匹は会場全体に放送し、他は参加者を追跡して直接知らせているのだろう。
……
それではまた
言い終わり、飛び去ろうとしたペラップを黒い影が飛びかかる。
ヘルガーがペラップの首をとらえた。
バサバサと暴れながら、ペラップは必死に叫ぶ。
『ハナセ!』
「あァ? 主催者からの差金をまんまと返すと思ったか?
奴の情報を洗いざらい吐いて貰おうか」
『ペラップ、ジョウホウ、シラナイ。
インプット、サレテナイ』
「そうか、じゃあ腹いせにこのまま噛み砕いてやるよ」
『ペラップ、タオシチャダメ。ホウソウ、キケナクナル!
アト、クビワ バクハツスル! ヤメヨ? ヤメトコ?』
「クソッ、胡散臭ぇ話し方しやがって……」
しぶしぶとヘルガーに離してやるよう指示した。
ペラップは天窓の鍵をクチバシで開けて、どこかへ飛び去っていく。
「おい、サカモトに伝えておけ! テメェだけは必ず殺してやるってよ」
小さくなっていく影に向けてラグナはそう叫んだ。
◆
狂騒に包まれたソナイシティは今、静寂を取り戻している。
ただ、乾いた鉄錆と草木の匂いは消え、どろりと湿った血の臭いが漂っていた。
くっきりと刻まれた戦いの爪痕の、後片付けをしたのはラグナとユカリだった。
気を失ったオーレンとシェリをポケモンセンターに運びこむ。
ポケモンセンターは、トレーナーたちの休息施設でもある。
宿泊用の部屋2つ、それぞれのベットに二人を寝かせ、応急処置を施した。
ユカリが看護をしている間、ラグナは惨劇の場所へと戻った。
支給品のバッグを回収し、それから自身の手持ちからグランブルとヘルガーを出した。
ポケモンに手伝ってもらいながら、コトリとケイイチ、そしてもう一人の遺体を運んだ。
空いている部屋一つをマンムーの「ふぶき」でカチコチに凍らせ、そこに三人の遺体を並べた。
「様子はどうだ?」
「大丈夫だと思います。二人共、落ち着いてますから……
ラグナさんの方も大丈夫ですか?」
「あぁ。一応、一段落ってところか。
……だがまだ安心は出来ねぇ、いつ襲撃されるかわからん。
一端ロビーへ戻ろう」
入り口はヘルガーに見張ってもらいながら、ソファに座って身を休ませた。
クッションのやわらかな感覚は疲労感をどっと引き出し、二人はうとうととまどろみかけた。
前述した放送が始まったのは、そんなタイミングだった。
ペラップが立ち去った後。
この短い時間で多くの人が死んだという事実に、心が曇らざるを得なかった。
緊張感が改めて呼び起こされた事で、眠気は吹き飛んでいた。
「みんな……結構簡単に人を殺せるんですね……」
「どうかな。死にたくねーから仕方なくやってるって奴も居るんじゃねぇの?」
「……そうですよね……」
「サカモトが扇動したように、手持ちを揃えねぇと負けるリスクが高まるからな。
だから他の連中は必死なんだ。その結果が今の放送の通りさ」
ポケモンバトルによってぶつかり合う以上、ポケモンの所持数は『格差』となる。
二体のポケモンだけでは、当然四体のポケモンに勝つのは難しい。
四体持っていてもまだ、六体揃っている相手には不利だ。
最低でも二人は殺さなくては、数だけで押されるリスクは取り除けない。
しかも「手持ちが二体」という同じ土俵に立つ者が多い内でなければ、乗り遅れてしまう。
「みんな必死なんですね……」
「そりゃそうだ」
「私は他の人みたいに意志が強くありませんから、殺人なんてきっと出来ません……」
「……意志の強さは関係無ぇよ」
そうですか? とユカリは尋ねる。
「人の命を奪う原動力ってのは優勝賞品だけじゃない。
死に対する恐怖、これだけでも人間を突き動かすには十分だ」
サカモトは約束した。
『最後まで勝ち残った一人だけが、莫大な報酬と、何よりもここからの生還を許される』と。
当然、報酬に惹かれて戦いに乗る者などそうそういないだろう。
多くの者は、ただ自分の命が愛おしい。それを守ろうとしているだけ。
でもそれは生きようとする意志なのではありませんか、とさらに尋ねた。
「死の恐怖に屈して、誰かの命を奪うとか……んなもん意志の強さじゃねぇ。
つーか自分の本来の意志に反してんだからよ。
お前さっきから自分の事を弱いって言ってるが、俺はそうは思わないね。
ここに来てすぐに、一度殺されかけたって言ってたな。それでもまだ平静を保ってられてんだ。
コロシアイをしたくないって意志を貫いてる。
そんなら"弱い"って事はねーんじゃねぇの?」
ユカリに自信を付けさせるような優しい言葉を、彼はぶっきらぼうに言った。
フォローではなく、本心からそう思ってるんだと伝わる。
だけれど、ユカリは首を横に振った。
素直に受け止められなかった。
「……違います、私はラグナさんが思っているような、強い人ではありません……」
「あ? どう違うんだよ」
「私は……"生きたい"という気持ちが薄いんです」
ラグナの顔が僅かに歪んだ。
それは『死にたがり』に対する苛立ちだ。
この人わかりやすいな、とユカリはうっすら思った。
「望んで死にたい、とは全く思ってません。
ですが、生きてても仕方ないような、そんな気持ちを抱えて、このコロシアイに連れてこられました」
「……」
ラグナは黙ったまま、天井を見上げた。
コロシアイ以前に何があったか、なんて聞き出すのは野暮だと考えたからだ。
話すも話さないも、お前の好きにしろ。といった風だ。
ユカリは話し始めた。
自分は地元で有名なトレーナーである祖父母に育てられた。
幼い頃からずっと彼らに憧れいてて、少し前に自分もバトルの道に進もうと決めた。
けれどそれからすぐに、おじいちゃんが亡くなった。
おばあちゃんからサポートの技術を学んでいたが、結局何も成す事無く彼女も逝ってしまった。
ポケモンバトルをしてきた時間は決して長くは無い。
しかし、祖父母の姿はユカリがずっと以前から目標としてきたものだ。
共に暮らしてきた心の支えであり、目標である祖父母を失って、自分の生きる意味がわからなくなった。
「……つい先週のことでした、亡くなったのは。
全部どうでも良くなって、ですから殺されそうになってもすぐに自覚が出来なかったのかもしれません」
「なんだ。肉親が死んだばっかりなら、誰だってそういうテンションだわな。
死んでもいいとかバカな事をあんまり言うな、時間が経てば治る」
「……そういう言い方は無いと思います」
「そういう言い方しか出来ねぇんだよ、俺は」
しれっと開き直るラグナに、ユカリは呆れたようにため息をついた。
「もう……嫌です」
「ユカリ?」
「ラグナさんの事ではありません、このコロシアイが、です」
そう言ってまたため息をつく。
今度は、気を静めようとしているため息だった。
「私もここで死んじゃうんでしょうか」
「バカ言うな」
「……どうして言ってはいけないのでしょうか。
自分は死なないって思ってても、それは……単なる気休めでしょう?」
淡々と口にするユカリの目は潤んでいた。
「怖いんです。自分がいつ死んでしまうのか、考えると。
モジャンボに首を絞められた時、凄く苦しかった。
きっと、ケイイチさんやコトリさんみたいに、瓦礫に押し潰されたり、角で突き刺されたりしたら、もっと苦しいし、耐え切れないくらい痛い。
怖い。死にたくない。家に……帰りたい……」
雫は頬を伝い、スカートの裾に小さな染みを作った。
ユカリが口にした『死にたくない』は、『生きたい』とは別の感情だった。
ただ純粋に、苦痛を味わう事への恐怖。
そして、覚悟もままならない『死』に対する恐怖。
大人びた立ち振舞いをしていても、まだ少女のあどけなさを残すユカリには耐えられなかった。
顔を埋めて涙を流す少女の頭に、ラグナはぽんと手を置いた。
「安心しろユカリ。俺が……」
守ってやる――と言おうとして、彼はためらった。
既に一度約束をして、結局果たせなかったのだから。
「……俺はもっと強くならなきゃいけねぇ……」
弱い者を守るのは、力を持つ者の責任。
そんな考えから思わず口走った、赤面モノのキザな言葉。
今にして思えば、それがどれほど無責任なものであったか。
6時間も経たずして、結局コトリを死なせてしまった。
ユカリに対して何も言えず、ただただ、気を落ち着かせるように頭を撫でた。
何の救いもない、慰めに過ぎないものだとわかっている。
だけど、むやみに希望を抱かせるようなマネは許せなかった。
静かに時間だけが流れていく。
【B-6/ポケモンセンターソナイ/一日目/夜】
【バッドガイのラグナ 生存確認】
[ステータス]:疲労(大)、悲しみ
[バッグ]:基本支給品一式、ふといホネ 、チーズケーキ
コトリのバッグ(不明支給品×1、みどりのかけら、ピッピにんぎょう)
ケイイチのバッグ(基本支給品一式、ランダム支給品×3 )
[行動方針]主催者打倒
1:コトリへの罪悪感
2:強い力が欲しい
3:シェリの面倒を見る?
※チーズケーキはソナイシティの建物で見つけたものです。ポケモンに持たせることはできません
▽手持ちポケモン
◆【ヘルガー/Lv50】
とくせい:もらいび
もちもの:いのちのたま
能力値:特攻、素早さ振り
《もっているわざ》
あくのはどう
オーバーヒート
ヘドロばくだん
めざめるパワー(こおり)
◆【グランブル/Lv50】
とくせい:いかく
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
あまえる
かみくだく
【ミニスカートのユカリ 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)、
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[行動方針]:
1:死ぬのが怖い
2:オーレンの言葉に対する迷いと若干の憤り
3:キョウスイに恐怖
▽手持ちポケモン
◆【ブラッキー/Lv50】
とくせい:せいしんりょく
もちもの:メンタルハーブ
能力値:HP、特防振り
《もっているわざ》
まもる
ふるいたてる
バークアウト
バトンタッチ
◆【バクフーン/Lv50】
とくせい:もうか
もちもの:シュカの実
能力値:???
《もっているわざ》
いわなだれ
???
???
???
【りょうりにんのオーレン 生存確認】
[ステータス]:ダメージ(大)、気絶
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3(自身2、リゼ1)
[行動方針]:対主催過激派
1:主催に立ち向かうための同志を集める
2:廃墟に向かい、暴れている何者かを倒す
3:ぼうや(ケイイチ)が心配
▽手持ちポケモン
◆【ニダンギル/Lv50】
とくせい:ノーガード
もちもの:しんかのきせき
能力値:均等振り
《もっているわざ》
せいなるつるぎ
シャドークロー
きりさく
つじぎり
◆【マタドガス/Lv50】
とくせい:ふゆう
もちもの:なし
能力値:均等振り
《もっているわざ》
えんまく
ヘドロばくだん
どくびし
ちょうはつ
◆【ランクルス/Lv50】
とくせい:さいせいりょく
もちもの:きれいなぬけがら
能力値:HP、特防特化
《もっているわざ》
サイコキネシス
きあいだま
リフレクター
でんじは
◆【マンムー/Lv50】
とくせい:あついしぼう
もちもの:かいがらのすず
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
じしん
つららばり
こおりのつぶて
ストーンエッジ
【メルヘンしょうじょのシェリ 生存確認】
[ステータス]:疲労(中)、精神不安定?、睡眠中
[バッグ]:基本支給品一式、ランダム支給品×3
[行動方針]
1:?????????
◆【ニドクイン(ママ)/Lv50】
とくせい:????
もちもの:なし
能力値:????
《もっているわざ》
なしくずし
のしかかり
だいちのちから
ばかぢから
◆【ニドキング(パパ)/Lv50】
とくせい:????
もちもの:なし
能力値:????
《もっているわざ》
なしくずし
あばれる
だいちのちから
メガホーン
以上で投下終了です。
コトリとケイイチの所持ポケモンについての記述が抜けていたので、修正致します
――――――――
【バッドガイのラグナ 生存確認】
[ステータス]:疲労(大)、悲しみ
[バッグ]:基本支給品一式、ふといホネ 、チーズケーキ
コトリのバッグ(不明支給品×1、みどりのかけら、ピッピにんぎょう)
ケイイチのバッグ(基本支給品一式、ランダム支給品×3 )
[行動方針]主催者打倒
1:コトリへの罪悪感
2:強い力が欲しい
3:シェリの面倒を見る?
※チーズケーキはソナイシティの建物で見つけたものです。ポケモンに持たせることはできません
▽手持ちポケモン
◆【ヘルガー/Lv50】
とくせい:もらいび
もちもの:いのちのたま
能力値:特攻、素早さ振り
《もっているわざ》
あくのはどう
オーバーヒート
ヘドロばくだん
めざめるパワー(こおり)
◆【グランブル/Lv50】
とくせい:いかく
もちもの:???
能力値:???
《もっているわざ》
あまえる
かみくだく
◆【ラプラス/Lv50】
とくせい:ちょすい
もちもの:たつじんのおび
能力値:HP、防御、特攻、特防調整振り
《もっているわざ》
フリーズドライ
こおりのつぶて
なみのり
ぜったいれいど
◆【エルフーン/Lv50】
とくせい:いたずらごころ
もちもの:たべのこし
能力値:HP、防御振り
《もっているわざ》
ムーンフォース
やどりぎのタネ
みがわり
アンコール
◆【メブキジカ/Lv50】
とくせい:
もちもの:
能力値:攻撃、素早さ特化
《もっているわざ》
ウッドホーン
????
◆【メタモン/Lv50】
とくせい:かわりもの
もちもの:こだわりスカーフ
能力値:HP、素早さ特化
《もっているわざ》
へんしん
本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。
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