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ジョジョ×東方ロワイヤル 第五部

1 : ◆YF//rpC0lk :2014/09/04(木) 00:15:39 R/1NDip.0
【このロワについて】
このロワは『ジョジョの奇妙な冒険』及び『東方project』のキャラクターによるバトロワリレー小説企画です。
皆様の参加をお待ちしております。
なお、小説の性質上、あなたの好きなキャラクターが惨たらしい目に遭う可能性が存在します。
また、本企画は荒木飛呂彦先生並びに上海アリス幻楽団様とは一切関係ありません。

過去スレ
第一部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1368853397/
第二部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1379761536/
第三部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1389592550/
第四部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1399696166/

まとめサイト
ttp://www55.atwiki.jp/jojotoho_row/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16334/


【参加者】
『side東方project』

【東方紅魔郷】 2/5
●チルノ/●紅美鈴/○パチュリー・ノーレッジ/●十六夜咲夜/○レミリア・スカーレット

【東方妖々夢】 4/6
○橙/●アリス・マーガトロイド/●魂魄妖夢/○西行寺幽々子/○八雲藍/○八雲紫

【東方永夜抄】 6/6
○上白沢慧音/○因幡てゐ/○鈴仙・優曇華院・イナバ/○八意永琳/○蓬莱山輝夜/○藤原妹紅

【東方風神録】 6/6
○秋静葉/○河城にとり/○射命丸文/○東風谷早苗/○八坂神奈子/○洩矢諏訪子

【東方地霊殿】 4/5
●星熊勇儀/○古明地さとり/○火炎猫燐/○霊烏路空/○古明地こいし

【東方聖蓮船】 4/5
●ナズーリン/○多々良小傘/○寅丸星/○聖白蓮/○封獣ぬえ

【東方神霊廟】 2/5
●幽谷響子/●宮古芳香/○霍青娥/○豊聡耳神子/●二ッ岩マミゾウ

【その他】 10/11
○博麗霊夢/○霧雨魔理沙/●伊吹萃香/○比那名居天子/○姫海棠はたて/○秦こころ/○岡崎夢美/
○森近霖之助/○稗田阿求/○宇佐見蓮子/○マエリベリー・ハーン

『sideジョジョの奇妙な冒険』

【第1部 ファントムブラッド】 1/5
○ジョナサン・ジョースター/●ロバート・E・O・スピードワゴン/●ウィル・A・ツェペリ/●ブラフォード/●タルカス

【第2部 戦闘潮流】 7/8
○ジョセフ・ジョースター/●シーザー・アントニオ・ツェペリ/○リサリサ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/
○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ

【第3部 スターダストクルセイダース】 6/7
○空条承太郎/○花京院典明/○ジャン・ピエール・ポルナレフ/
○ホル・ホース/●ズィー・ズィー/○ヴァニラ・アイス/○DIO(ディオ・ブランドー)

【第4部 ダイヤモンドは砕けない】 4/5
○東方仗助/●虹村億泰/○広瀬康一/○岸部露伴/○吉良吉影

【第5部 黄金の風】 4/6
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/●グイード・ミスタ/○トリッシュ・ウナ/●プロシュート/○ディアボロ

【第6部 ストーンオーシャン】 4/5
○空条徐倫/●エルメェス・コステロ/○フー・ファイターズ/○ウェザー・リポート(ウェス・ブルーマリン)/○エンリコ・プッチ

【第7部 スティールボールラン】 4/5
○ジャイロ・ツェペリ/●ジョニィ・ジョースター/○リンゴォ・ロードアゲイン/○ディエゴ・ブランドー/○ファニー・ヴァレンタイン

残り68/90


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2 : 名無しさん :2014/09/04(木) 13:52:50 I1irQxzgO
スレ建て乙です。


3 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/15(月) 23:58:39 IRJX5c0E0
こっちに投下します


4 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/15(月) 23:59:18 IRJX5c0E0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『吉良吉影』


(忌々しい…………クソッタレの東方仗助めッ!!)


私はそう吐き捨てずにはいられなかった。
あのガキは、あからさまな悪意をもって、明らかにこの吉良吉影を挑発してきてやがる。
あの脳タリンめッ! 人質の意味を理解していないのか……ッ!!


…………いや、理解しているのだろう。理解して、この私に突っかかってきているのだ。
人質は、私を守る盾。いわば、私の生命線でもあるのだ。
それ故に簡単には爆破しないと高を括り、その範囲内で皆に警告を与えようとしているのだろう。


あのクソカスがッ! やはり東方仗助、そして広瀬康一の存在は、私のストレスだ。
場合によっては、もう少しの間、生かしてやってもいいと思っていたが、それは私の勘違いだった。
あの二人は、早急に排除しなければならん。ストレスを排除してこそ、そこには平穏が訪れるのだから。
だが、ここで下手を打っては、ガキ共以外の奴らも私にストレスを与える敵となりかねん。


ふと、ガリガリと爪を噛む音が聞こえてきた。どうやら、知らず知らずの内に、私はまた爪を噛んでいたらしい。
このような悪癖をあからさまに見せては、無用な憂慮を慧音さん達に与えてしまう。
平時であれば、そんなものはどうとでもないが、今は他人からの気遣いは余計なお世話、寧ろ不快でしかない。
…………私の癖は誰かに見られたりしなかっただろうか。


目が合った。


確認の為に、私が辺りを見回したところで、いきなり河城にとりと視線が交錯したのだ。
そしてそのガキは一瞬にして目を逸らし、パチュリーとかいう紫女との会話に戻っていった。
私の不安は杞憂だったか。その思いと共に安堵を得たかったが、どうやら状況は私の予想以上に悪い方向に転がっていたようだ。


河童のクソガキがッ! 探るように何度もこっちに視線を向けてきやがる!
この恐れを感じさせる目は、私の癖を見たからという、しょうもない理由からではない。 
広瀬康一めッッ!! 私のことを喋りやがったな!!!


5 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/15(月) 23:59:55 IRJX5c0E0
私は、すぐにその結論に達することが出来た。
私の正体を知ったとなれば、河童の恐怖も私を窺うような態度も頷ける。
イライラさせやがって…………あのクソカスがッ! 
人質の話をしてから一時間もしない内に、あの時の取り決めを破りやがった。


怒りと共に私は思わず爆弾のスイッチに手をかける。
ここであいつらに制裁を加えてやったら、どれほど気分が晴れるだろうか。
大人を舐めるという愚かしさを、是非ともガキ共に分からせてやりたい。
しかし、それが出来ないという現状が、余計に私を苛立たせていった。


人質を失ってしまっては、闘いの幕が上がるのと同義だ。
そうなれば仗助と康一は、周りの制止など聞かずに遮二無二なって、私へ襲い掛かってくるだろう。
無論、私とキラークイーンが負けることなど有り得ないが、それでそれ以降の状況が良くなるとも思えない。
私は手傷を負い、要らぬ不信感を慧音さん達に植えつけてしまうことは確実だ。
それはストレスとは無縁の平穏と、余りにかけ離れている。


私は舌打ちしながら、スイッチから指を離した。
だが、このまま何も気づかなかった振りをして、のんびりしているというわけにはいかない。
あの二人に時間を与えてしまえば、いずれは外堀を埋められて、ここにいる皆が私と敵対することになってしまう。
そうなっては、例え人質があったとしても、最悪としか言いようがない。
それを防ぐ為にも、仗助と康一は早急に始末しなければならないだろう。
さて、その方法を、と早速思案を巡らせていると、また河童と目が合った。


(一々、こっちを見るんじゃあない! マナーも知らないのか、河童という生き物は! 全くもって忌々しい!)


そう心の中で吐き捨てる私だが、そこで河童の手が目に入った。
肌は白く、爪も手入れされた小さな手だ。だが、そこには一際目立つ不自然さがあった。
汚いのだ。油汚れだろうか。まるで手そのものを貶めるように黒い筋が手を彩っていた。


(何だ、あれは? ……気にならないのか? 手が汚れているんだぞ)


手とは、顔のように絶えず外に晒している部分だ。否応にも目に留まる。
そしてそれは他人のというだけでなく、自分の目にも入ってくるのだ。
それを、あいつは気にならないのか? あいつではない私だって、こんなにも気になるものだぞ。


……洗ってやりたい。河童の手を洗って、綺麗にしてあげたい。
…………いや、ダメだ! そんな奇行を繰り広げては、皆からの注目を集めてしまう。
ふぅ、ふぅ……落ち着け、落ち着くんだ。手の汚れだって、大した問題じゃない。
実際、他の奴らだって、気にしちゃいないじゃないか。ここは落ち着いて、冷静に行動するんだ。


外の景色でも見て、気持ちを落ち着けてみよう。ほら、見ろ、吉良吉影。
とても素晴らしい光景じゃないか。緑が広がり、遠くには青い川が流れている。
陽射しも柔らかで、ピクニックにでも行きたい気分にさせてくれるじゃないか。
ほら、あそこの木陰なんかは、お弁当を食べるのにちょうどいい。
あそこでサンドイッチを手に取って……手に…………手………………。


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"
6 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:01:59 qdroEhXA0
(……………………クソッ!! ダメだッ!! やっぱり気になる!! 河童の手を綺麗に洗ってやりたい〜〜!!)


ガリガリガリガリガリッ!


私の動揺に呼応するかのように、私の爪が削られていく。
だが、私の指先から血がポタリ、と流れ落ちたところで、
横からもう一つの手が飛び出し、私の腕を掴んできた。
ああ、この手を見間違える筈もない。「慧音さん」だ。


「吉良さん、やめないか! 血が出ているぞ!」


慧音さんが、怒ったように口を開く。だが、そんなものに耳を傾けている余裕があるか?
目の前には「慧音さん」がいて、私の手をそっと柔らかに包んできているのだ。
東方仗助、広瀬康一、そして河城にとりが与えたストレスによって心が磨耗していた私は、
突如として現れた「慧音さん」の救済とも思える優しさに甘えずにはいられなかった。


「アフウウウ〜〜〜〜〜〜〜〜」


私は「慧音さん」に頬ずりをした。滑らかな白い肌。
そのキャンパスに私という色を染め付けるかのように、何度も頬をすり寄せる。
ああ、やはり「慧音さん」は美しい。あなたがいてくれて、本当に良かった。
あなたとこうしていると、とても落ち着く。不安が、苛立ちが癒されいくのを感じる。


シャブシャブ チュバチュバ

ペロンペロンペロン


気が付くと、私は愛情を込めて「慧音さん」を舐め回していた。
それはとても濃密で、とても素晴らしい二人の睦み合い。
時間の経過さえ、忘れさせてくれる至福の時と言っていい。
たが、それは残念ながら、僅か一瞬で終わりを迎えることになってしまった。


7 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:02:27 qdroEhXA0
ガンッ、と東方仗助が横からいきなり私を殴ってきたのだ。
無防備な態勢をしていた私はその衝撃をもろに受け、堪らず身体が床へと吹っ飛ぶ。


「おい、てめえ、吉良!! まさか、てめーが自分で化けの皮を剥いでくれるとはな〜……!!」


口の中にある血の味を感じながら、私は仗助を睨みつける。
どうやら私はあの美しい手を目の前にして、我を失うというとんでもない失態を演じてしまったようだ。
ここから挽回は出来るだろうか、この状況を上手く言い繕うことは出来るだろうか。
私は必死になって頭を動かしていると、今度は慧音さんが、いきなり仗助の頭を叩いた。


「コラ、仗助君!! いきなり人を殴りつけるとは、一体どういう了見だ!!?」

「痛ゥッ……慧音先生、どうもこうも……って、アーーーー!! バッチィィーーーー!!!
吉良の唾液が、おれの髪に〜〜〜〜〜〜!! どうしてくれるんすか、慧音先生!!!?」

「今、私はそんなことを問うたのではない!! 何故、暴力を振るったかと訊いたのだ!!」

「暴力って……今、慧音先生は、おれに何をしたんすか!? 見てくださいよ、この髪型〜〜。
崩れちまったじゃないですか……おまけに唾で汚くなっているし〜〜」


二人は、そのまま私を置き去りにして、下らない言い争いを続けていく。
別に私も二人を放っておいても良いが、それでは解決には繋がらないだろう。
「慧音さん」のおかげで落ち着きを取り戻した私は、冷静に言葉を選択して、彼らに投げつけてやった。


「…………すまない、慧音さん。どうやらこの殺し合いという状況に、
自分で思っていた以上に恐怖や不安を感じていたらしい。……死……というものが、どうにも頭にチラついてしまってね。
脅迫観念というのかな? それで少し理性のタガがはずれてしまったようだ。本当にすまなかった、慧音さん」

「……いや、私自身は、その、別に気にしてないが……」

「それと仗助君を、どうか怒らないでやってくれ。彼がしたことは、正義感からとうい立派なものから出た行動だ。
つまり、仗助君は慧音さんや皆を守る為に、私を殴りかかってきたというわけだ。
結果こそ、単なる勘違い…………私は皆を傷つけるつもりはないからね……
とにかく、そんな正義感……死者を決して出してはならないという立派な志は、
褒められこそすれ、決して貶められるものではない。……誰かが死ぬなんてことは、本当に辛いことだからね。
そうだろう、慧音さん…………そして、仗助君?」

「むぅ……確かにそうだな。すまなかったな、仗助君」

「……それで釘を刺しているつもりかぁ〜、吉良さんよ〜〜?」


素直な慧音さんと違い、クソッタレの仗助は露骨な反感を示してきた。
そういう思わせ振りな態度をやめろって言ったことが分からんのか、このクサレガキはッ!
クソ! ここでこのガキの面を見ていたら、私はまた限界を迎えかねん。


「……おい、待ちやがれ! どこへ行くつもりだ!?」


私が無言で立ち上がり、去り行く姿勢を見せると、
東方仗助が私の背中に怒声とも言える言葉をぶつけてきた。
私は振り返り、慧音さんの顔を見つめながら答える。


「……少し、外で頭を冷やしてこようと思ってね。行ってきてもいいかな、慧音さん?」

「あ……ああ。だが、分かっているとは思うが、遠くに行ってはならないぞ。
それと誰かが来たら、すぐに私達のところに戻ってくること。それだけは守ってくれ、吉良さん」

「ああ…………それじゃ行って来るよ。また後で、『慧音さん』」


8 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:03:29 qdroEhXA0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『上白沢慧音』


「慧音先生! 大丈夫っすか!? 何かされませんでしたか!?」


吉良さんの背中を見送った後、横から仗助君の怒鳴り声が私の耳に入ってきた。
何をされるも何も……と、ベチョリと吉良さんの唾液が付いた手を掲げてみせる。
心配に染まっていた仗助君の顔は、途端に犬の糞を眼前に突きつけられたような嫌悪に満ちたものへ変化した。
そしてそのままゆっくりと後ずさりし始める。……こういう時、私は一体どうすればいいのだろうか。


「随分と積極的なアプローチだったわね。あいつ、貴方に気があるんじゃないの?」


仗助君の脇からピョコッと湧き出た天子が、私をからかうように言ってきた。
人命が関わるこの地で、そのような軽薄とも思える態度は褒められたものではない。
私は目を一際鋭くして、天子へ説教を開始する。


「不謹慎だぞ、天子。吉良さんが不審な挙動を取ったのは、吉良さんの言ったとおり精神が参ってのことだ。
殺し合いという悲惨な状況を考えれば、誰だって吉良さんのようになる可能性がある。
それなのに、吉良さんを揶揄するなど、人として、天人として、恥であると知るべきだ」

「はぁ、うるさいし、つまらないわね、貴方って」

「むっ……ちゃんと聞いているのか、天子?」


馬耳東風と言った姿勢を見せる天子の耳に、ちゃんと言葉を入れようと私は彼女の肩を掴む。
しかし、そうしようと伸ばした手は呆気なくかわされ、空を切ることとなってしまった。


「ちょっと! そんな汚い手を、こっちに伸ばさないでよ!」


天子は仗助君の背中に隠れ、失礼な台詞を遠慮なくぶつけてきた。
どうやら彼女には言葉だけでは足りないらしい。
私は意気込みも新たに天子を掴まえようと、再び彼女に手を向ける。
すると、彼女の前にいた仗助君は「げっ」などと言い、天子と一緒になって私から逃げ出した。
………………そんなに私は汚いのだろうか。


9 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:03:53 qdroEhXA0
だが、事実はどうあれ、天子と仗助君の人の善性をかなぐり捨てたような振る舞いは咎めるべきだ。
今の彼らのような行動は、下手をしたら、いじめを誘発するかもしれない。
それでは社会を構成する一員として、この先、問題しか残らないだろう。
私は手を洗うよりも、まずは彼らの性根を叩き直すのが先決だと思い、
手を前に掲げながら、天子と仗助君へ猛然と走り出した。


「……みんな、一体何を遊んでいるんだーー!!!」


私が足を動かす否や、今度は康一君の怒鳴り声が、私の耳に入ってきた。
ひょっとして私は天子や仗助君と一緒になって遊んでいると思われているのか。


「こ、康一君、待ってくれ。それはひどい誤解だ」

「そ、そうだぜ、康一……おれたちは別に遊んでいるわけじゃー……」


私に続いて仗助君が弁を抗するが、康一君は首を横に振り、聞き入れてくれない。
これは教師として、人の先達として、自分がちょっと情けなくなってくる。
しばらくすると、私があたふたと大人気なくしているのに呆れたのか、
康一君の後ろから、パチュリーが溜息を吐きながらやって来た。


「皆で楽しんでいるところ悪いんだけど、吉影も部屋から出て行ったことだし、
今が何かを話すにはちょうどいいんじゃないかしら、仗助?」


そういえば、仗助君は吉良さんに対して、随分と思わせ振りな発言をしていたな。
パチュリーの質問によって、私はそんな記憶を掘り起こしたが、仗助君は私とは違う反応を示してくれた。


「なっ…………な、何を言っているのか、さっぱり分かりませんよ〜、パチュリーさ〜ん」


軽く口笛を拭きながら、惚ける仗助君。……十分過ぎるほど怪しい。
そしてそれに触発されたかのように康一君の顔は蒼くなり、大量の冷や汗がそこに生まれていた。


10 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:05:00 qdroEhXA0
「ちょ、ちょっと待って……何故、パチュリーさんが吉良のことを気にするんだ……?
ま、まさか、き、吉良のことを喋ってしまったのかーーー!! 仗助君〜〜〜〜〜!!!?」

「お、おい、馬鹿ァ! 康一ィッ!!」


仗助君の言葉に康一君はハッと慌てて両手で口を隠す。
確かにそれで口は隠れたみたいだが、吉良さんについての隠し事があるということは、
ありありとした形で皆に知らせてくれていた。


「これで吉影のことで何かを隠しているというのは証明出来たわね。
それについて問題がない、もしくは貴方達だけで解決出来るというのなら、私は口出ししないわ。
だけど、手の負えないというのであれば、私が手を貸してもいいわよ、こんな状況だしね。どうする?」

「いや、その……」


パチュリーの申し出に、いまだ仗助君は決断を出来ないようだ。
それに対して、パチュリーは事前に用意していたかのように、即座に言葉を付け足す。


「大丈夫。この部屋からは音が漏れないわ」

「…………魔法ってやつすか?」

「ええ、魔法。そして今が、もしかしたら千載一遇のチャンス……かもしれないわよ?」


後押しするかのようなその言葉で仗助君と康一君はお互いを見合う。
そして二人は小声で何言か言い合うと、やがて頷き合い、
迷いの晴れた力強い視線を私達に向けてきてくれた。


「それじゃあ、聞いてください。実は……」


仗助君のその言葉で始まった内容は、実に驚くべきものだった。
吉良さんは殺人鬼であるを皮切りに、彼の所業、彼の能力、そして彼の最期。
それを語り終えると、今度は何故それを今まで喋らなかったのかという理由で
私達の顔を蒼ざめさせてくれた。


11 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:05:33 qdroEhXA0
「……以上っす。全てを信じろっつーのは無理だって分かっています。
だけど、この話をしたことは吉良の野郎にはバレずにお願いします。
そして、もしほんのちょこっとでいいんで、それを信じてもらえたなら、
あいつと関わるのだけは止めといて下さい。……お願いします」


そう言って、仗助君は深々と頭を下げた。
話の内容は突拍子もないものだ。全てを信じるというのは仗助君の言ったとおり無理な話だろう。
だが、それが真実であった場合、どうなるか。我々は仗助君を信じなかったという罪で
手痛い代償を支払わなければならなくなるかもしれない。それは何としても願い下げたいところだ。


「どうしたんすか、慧音先生? 急に立ち上がって……」

「うむ、吉良さんのところに行って、少し話をしてこようと思ってな」


仗助君の問いに、私は毅然と答えた。
皆の命を守る為の最善の選択。それは吉良さんを説得し、改心させることだろう。
そうすれば、皆を悩ます問題は全て解決出来ることになる。
そういった旨のことを続けて言ったら、仗助君はいきなり立ち上がって、声を大にして叫んできた。


「アンタッッ!! 一体、何を聞いていたんすかーーーッ!!! その耳は単なる飾りですか!!
吉良の野郎は殺人鬼なんすよ!! そんな聞き分けのいい奴じゃないんすよ!!
大体、人の言うこと聞くような奴だったら、殺人なんか最初からしてねーでしょ!!?
そんな簡単なことも分からないんすか!! 慧音先生はーーーー!!!?」 

「そうですよ!! あいつは人の命を何とも思っていないクズ野郎です!!
それにあいつが改心なんかするはずがない!! 例え改心したって許せるような奴じゃない!!」


仗助君に続いて、康一君も唾を飛ばすかのような勢いで怒鳴ってきた。
その物言いから、吉良さんが如何に危険な人物かというのを如実に分からせてくれる。
しかし、それでも私は意見を変える気は毛頭なかった。


「では、おまえ達は犯罪者は何をしても許されないと考えているのか?
懺悔をしても、贖罪をしても、普通の人のように扱うのは間違っていると思うのか?
あまつさえ、おまえ達はそのチャンスを与えることも許さないというのか?
おまえ達は一体何様のつもりだ? 私にはおまえ達の方が、よほど恐ろしい考え方をしているように思えるぞ」


12 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:06:20 qdroEhXA0
全てを切って捨てるなど間違いだ。私は仗助君達にそう伝える。
だが、彼らは納得する姿勢を露ほど見せてくれない。それどころか、二人は私の前に壁となって立ち塞がってきた。
これはいよいよ強硬手段に出るべきか。そう考えたところで、パチュリーが私を諌めるように声を掛けてきた。


「慧音の考えには、私も反対よ」


その発言に私はムカッっとする。私の主張は絶対に間違っていないはずだ。


「何故そう思うんだ、パチュリー!? おまえの考えを、是非とも聞かせてもらおうじゃないか!」

「貴方が爆弾にされている可能性が高いから」


予想外の台詞に私は言葉を失う。いや、それ自体は全く考慮していなかったわけじゃないが、
それは私が吉良さんとの話を取りやめにする理由になるのか。
そういった疑問が私の顔に出てしまったのか、パチュリーはそのまま説明を続けていった。


「まず爆弾にされたという可能性から話すわね。それは至って単純で、皆の位置から割り出した確率よ。
仗助が暴れた時に誰かが爆弾にされた。まずは、にとりは除外されるわね。吉良から一番遠くへ一瞬で吹っ飛んでいったわけだし。
そして次に私ね。仗助の行動で、私は仗助達一行は敵と認定し、距離を取ってスペルの準備に取り掛かったわけだから、うん大丈夫。
仗助と康一に関しては考慮する必要はないでしょ。二人を爆弾にしたのなら、二人はもうとっくにいなくなっているでしょうからね。
つまり、誰が爆弾となったか……その答えとなるのは、吉良の近くにいた残りの貴方達というわけよ」


そう言って、パチュリーは私と天子、床で気絶している夢美さんを見る。
ここにいないが、ぬえも候補には含まれているのだろう。
逃れようがない絶対的な死を、今までにないほど近くに感じる。
だが、それでも、と私は震える手足を抑えてパチュリーを睨んだ。


「それで何故吉良さんの説得が駄目になると思うのだ? まさか私が臆して、言葉も発せなくなるとでも思ったか?」

「まさか。貴方のそういった馬鹿な所は、死んでも直るようなものでもないでしょ」

「…………それは褒めているのか、それとも貶めているのか?」

「好きな方を選んで結構よ。それよりも私が言いたかったのは
命を握られた者と命を握った者が、同じテーブルに座ることが出来ないということよ。
両者には明確に上下関係が存在するのは分かるでしょう? わざわざ下の者の意見を尊重する道理が、どこにあるというの?」

「…………それでもお互いに話をすることは出来る」

「爆弾にされたのが百パーセント貴方だというのなら、私も止めはしないけれど、事実はそうでないでしょう?
さて、貴方の我儘を横にいる天子は許してくれるかしら? 私だって、教授が死ぬとなれば、些か以上の抵抗はするわよ?」


13 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:07:38 qdroEhXA0
そう言われてしまうと、上手く反論は出来なくなる。
だけど、このまま手をこまねいていても、状況が好転するというわけでもない。
そこのところを、パチュリーはどう考えているんだ。
疑問に思った私は素直に訪ねてみた。


「安心して、慧音。別に貴方の考え全てを否定するつもりはないわ。吉影の説得には私が行く」


パチュリーのハッキリとした答えに、おお、と思わず私は感嘆の声を上げる。
そしてそれと同時に、仗助君と康一君が一緒になってブーッと水を噴き出した。
ハンカチで急いで口の周りを拭いた仗助君は、今度はパチュリーに食って掛かる。


「一体、何を考えているんすか、パチュリーさん!!?
吉良のことを話したのは、皆に危険な真似をさせる為じゃないんすよ!!」

「分かっているわよ。それで答える前に確認するけれど、日常に戻る為なら吉影は手を組んでもいいって言ったのよね?」

「言いましたけれど…………って、まさかッ!! パチュリーさん!!?」

「ええ、そういうこと。慧音には悪いけれど、私のは改心させる為じゃなく、共闘する為の説得というわけね」


一時的な同盟というわけか。確かにそれ自体は私の目的とするところではないが、
吉良さんと一緒にいる時間が増えれば、自ずと彼と話をする機会も増えていくことになる。
それに共闘が相成れば、爆弾化という懸念事項も解消されるやもしれない。
そうなれば、吉良さんの説得する道筋は、今よりかは見つけやすくなるだろう。
そう結論づけた私だが、やはり仗助君達には納得いくものではなかったらしい。


「パチュリーさんも勘違いしていますよ!! あいつは人と仲良しこよしっていうよーな奴じゃないんすよ!!」

「そうですよ! 第一、危険です! 背中なんか、とても任せられるような奴じゃ、ありません!
一体どこに吉良と手を組む必要があるっていうんですか!?」


仗助君と康一君が一緒になって目をむき出し、パチュリーに迫る。
しかし、別段、彼女は慌てるでもなく、落ち着いて紅茶のカップを手に取り、
会話によって渇いた喉を潤すと、改めてゆっくりと説明を続けていった。


14 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:08:05 qdroEhXA0
「別に私は皆で和気藹々を目論んでいるというわけじゃないわよ。
でも……そうね、確かに共闘という言葉に語弊があったかもね。
より正確に言うのなら、吉影の能力で実験してみたいことがあるから、彼を利用したい……ってとこかしらね」

「…………実験?」


ヒートアップしていた二人の感情が、肩透かしを食らったのか、たった一つの単語で熱が下がっていく。


「ええ、実験。吉良は何でも爆弾にすること出来るんでしょう?
果たして、その対象が魔力や結界といったものにも通ずるのか。そういったことを確認してみたいのよ」

「……それって必要なことなんですか、パチュリーさん?」


康一君がおずおずとパチュリーに質問を返した。


「さて、ね。必要かどうかは分からない。この場を脱出する、もしくは荒木達を倒すに当たって、
思わぬ糸口が、もしかしたら見つかる…………かもしれない。その程度のことだし」

「その程度のことで、パチュリーさん達を危険に晒せっていうんですか?」

「あら、優しいのね。でも、別に危険なんかないわよ」


意味不明だ。康一君が巧みに表情を変化させ、そのことを伝えていた。
その顔はちょっと面白くはあるが、いつまでもそのままにしとくのは可哀想なので、彼に代わって私が訊ねてみる。


「どういう意味だ、パチュリー?
危険を排除する方法があるというのであれば、それは皆で共有すべき事柄じゃないのか?」

「共有するって言ってもねぇ…………別に今すぐに吉影を説得しに行くわけじゃない。これで分かる?」

「…………残念ながら、言葉遊びをしている余裕はないな」

「はぁ、いいわ。この後、組み分けして、それぞれの別のルートを通るということは話したわよね。
それで爆弾になった者は無事に解除されるというわけ」


そこまで言われて、ピンとくるものがあった。


「そうか! 射程距離か!」

「ええ、そうよ。吉影のスタンドは近距離型で、爆弾化もそのタイプのスタンドの能力。
であるのならば、キロ単位で離れれば、その能力も無効となってくる筈……と考えているけれど、
そこんとこどうかしら、仗助に康一?」


15 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:09:03 qdroEhXA0
その質問に仗助君と康一君はお互いの顔を見合い、
それから仗助君が代表して、答えを発表した。


「そうっすねー。その点は、ちゃんと確認したわけじゃないから、絶対とは言えないんすけれど、
パチュリーさんの言った通りかもしれません」

「心もとない答えね」と、パチュリーが声に失望に混ぜて言う。

「すんません」

「まあ、でも、危険性が減るということには変わりはないわ。
組み分けのメンバーも、人質になった可能性が高い者は吉影と離れ、
可能性が少ない者が吉影のいる組に集まったしね」

「でも、それじゃあパチュリーさんとにとりちゃんの危険性が無くなったというわけじゃないですよね?」


表情を正すことに成功した康一君が、今度はハッキリとした声を届かせてくれた。
それに対し、パチュリーは笑顔でこう言う。


「大丈夫よ。危険がないと言った一番の理由。それは私が強いからよ」

「パチュリーさんが……ですか?」


仗助君と康一君が、パチュリーの姿を上から下まで何度も目線を往復させて、声を唱和させた。
二人の疑いを隠すつもりのない様子を見て、パチュリーは堪らず苦笑を漏らす。
そしてパチュリーはそんな二人の疑問にに答えるかのように、竹箒を取り出した。


「これね、空を飛べるのよ。空を飛んで、こうね」


パチュリーの指先から出た火の玉が仗助君と康一君の目の前を通り過ぎていく。


「今の攻撃を空から雨のように降らせることが、私には出来るわ。
近距離型のスタンドを持つ二人に聞くけれど、それを全部かわせる? そして空を飛ぶ私を攻撃出来る?
これで納得出来たかしら? まあ、康一とにとりが、ちょっととばっちりを受けるかもしれないことが
問題といったら、問題だけど……まぁ、そこらへんは愛嬌よね」


16 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:10:03 qdroEhXA0
最後のはパチュリーなりの冗談なのだろうが、
人を傷つけてしまう可能性を含ませる冗談は、とてもではないが、笑えるものではない。


「パチュリー」


私は声を低くしてパチュリーを睨みつけた。


「はぁ、分かっているわよ、慧音。そこらへんも、ちゃんと考えて行動するわ。
だから、にとりも康一も、安心していいわよ。というか、戦闘になる可能性は、そう高いものではないのよね。
慧音の手を舐めるとか、しゃぶるとか、奇天烈な行動を取ったりもするみたいだけれど、
吉影の打算的な部分も見え隠れした。なら、ちゃんと彼にとって利する部分を提示してやれば、
戦闘の回避自体は、そう難しいものではない筈よ」

「見込みがあるということか。それならば、私から口を挟むことはないな。
尤も私も吉良さんの説得を諦めたわけではないということは、ここでちゃんと申し入れとくが」


パチュリーの考えに私は頷いて返す。それでは、他の皆はどうだろうか。
そのことを訊ねてみるが、他に吉良さんに対しての有効な策が思いつかない以上、
皆もそれを受け入れるより他なかった。そのことを確認すると、パチュリーは改めて皆に話しかけた。


「分かってはいると思うけれど、もうこの話はここでおしまいよ。
吉影について何かを知っているというのが、この場で気取られてしまったのなら、
人質をどうこうすることは、私達には出来ないんだからね。
彼については、何も知らない振りをすること。いいわね?
彼への説得は、ホテルを出発してから、一、二時間後とするわ。
それなら、他の組とも十分に距離が離れるでしょうからね。そこらへんもちゃんと留意しといてね」


これで一応の閉幕は迎えたが、仗助君と康一君の顔は依然と晴れやかなものに変化はしていなかった。
吉良さんへの危機感、そしてその吉良さんを早くに……という気持ちが、まだ彼らの中にあるのだろう。
危機感自体は持っていて当然だと思うが、吉良さんへのあからさまな害意は、やはり見ていて気持ちいいものではない。
彼らの年齢を考えれば、それは尚更だろう。子供が持つべきものは、もっと前向きで明るい夢や志が相応しいのだから。
その辺りも、吉良さんと同様に、どうにか改善していきたいものだが…………困ったものだなぁ。


17 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:28:48 qdroEhXA0
そこで頭を掻こうとした手がゴツンと私の角にぶつかった。
困ったと言えば、これもそうだ。夜が明けても、いまだにワーハクタクの状態なのだ。
戦闘面ではこちらの方が頼りになることは確かだが、やはり不慣れなこの姿では動きづらいところもある。
本当にどうしたものか。そうやって頭を悩ませていると、パチュリーが突然と私に話しかけてきた。


「ねぇ、慧音、今まであまりに泰然としていたから、気がつかなかったけれど、
何で貴方はそんな姿をしているの? 聞いた話では、満月の晩だけど、その姿になるというけれど」

「うむ……」


何故、変身するか、か。昔はそんなことを良く考えていたものだ。
そんな風に昔日に思いを馳せていると、パチュリーが溜息を吐き、何やら話し出した。
どうやら私が何も知らないと判断したらしい。そこらへんには異を唱えたくはなるが、
今までのパチュリーを見るに、知識を披露するというのが、彼女のコミュニケーションの手段の一つなのかもしれない。
だとしたら、今、差し伸べられているのは友好の手ということになるのだろう。
勿論、それを無下にするほど、私は野暮ではない。私はパチュリーの話を大人しく聞くことにした。


「……っと、その前に教授、いい加減に起きなさい。魔法の授業よ」


パチュリーが放った魔法という単語に反応して、床で気絶していた夢美さんが跳ね起きる。


「え!? うそ!? 魔法を教えてくれるの、パチェ!? やったー!!」

「嘘よ」


ズコーッと夢美さんが再び床に倒れ落ちる。
その姿にパチュリーは微笑を零し、今度こそ説明を続けていった。


「これから話すことで、夢美には手伝ってもらいたことがあったしね、それで起きてもらったわけよ。
さて、ここでさっきの話に戻るけれど、満月とそうでない時との差って何か分かる?」

「イテテっ……一般的には潮の満ち干が挙げられるわね。
オカルト的なのだと高揚感を得る、殺人事件が起きやすい、女の子の日に影響を与えるというのもあるけど」


パチュリーの質問に夢美さんは身体を起こしながら答える。
だが、パチュリーが求めている答えは、そうではないだろう。


「魔力か?」


私は答えの確認を取る。
そして思ったとおり、それは正解だったようだ。


18 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:30:35 qdroEhXA0
「ええ、そうよ。月には魔力があり、満月となる晩には、多くの魔力が地球へ注がれる」

「ちょっと待って! 月の観測はイの一番に始めたけど、そんなデータは取れなかったわよ!」


夢美さんが反論するが、月に魔力があるというのは、厳然たる事実だ。
おそらく夢美さんのそれは単なるミスか、可能性世界とやらで、片がつくものなのだろう。
パチュリーもそう判断したのか、「それはご愁傷様」と簡単に告げるだけで、すぐに話を戻す。


「つまるところ、慧音がワーハクタクになるのは、周囲の魔力の濃度が関係している。……違うかしら、慧音?」

「うむ、それが主要因かは分からないが、間違いなく関係しているだろうな。
…………そして今も私がこの状態なのは、満月の晩と同じく周囲が魔力に満ちているからということか?」

「ええ、実際に私も魔力を感じるわ。そして当然、疑問が湧いてくるわよね。
何故、満月でもないのに、こんなに魔力が満ちているのか、と」

「それは分かるが、それでどうするつもりなのだ。
確かにそこから色々推理なり憶測を並べ立てられるだろう。
例えばこの擬似的な幻想郷を維持させるの必要だとか、空を飛べなくするなどの色々な制限をかける媒介となっているとかな。
だが、魔力が実際にある以上、そこから逃れる術はないだろう?」


そういった質問を私がすると、パチュリーはすっくと立ち上がり、胸に手を当て、厳かに答えた。


「あら、忘れたの、慧音? 私は魔法使い。魔力を自由に扱うことこそ、魔法使いの力であり、誇りでもあるのよ」


うーむ……答えになっているようで、答えになっていない。
パチュリーが何か格好つけて言っただけに、色々と台無しだ。
とはいえ、ここでそれを指摘するのは、いかにも卑俗だ。
私は喉まで出掛かった文句を飲み込み、もう一度訊ねた。


19 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:31:11 qdroEhXA0
「………………つまり、どうするのだ?」

「つまりね、周囲にある魔力を私が全部頂いちゃおうってわけ。
それで慧音に教授、そしてそこの天人にお願いしたいというのは、
貴方達の通るルートにも魔力が満ちているかどうかを確認してもらいたいってことよ。
それでその情報を元に魔力の中心地となっている場所を見当をつけて、そこで私が事に及ぶつもり」

「魔法使いならではの発想だな。
だが、この地にある魔力を大量に消費するということだが、問題はないのか? 
必ずしも、それは荒木達に打撃を与え、私達の利点となるとは限らない。
例えば、もし魔力がこの地を作り上げる土台みたいな役割を担っていたとしたら、私達もただでは済まないだろう?」

「確かにそこにはギャンブル的要素があるわね。まあ、そこまで土地に密着しているものだったら、
私は簡単にそれを判別出来るけど…………でも、そうね、そうなった場合は外的刺激から身を守る魔法を、皆にかけるわ。
それに教授もいるしね。貴方のスタンドなら、宇宙船とか潜水艦とかにも化けられるんじゃない?」

「物凄い無茶ブリね、パチェ。さすがにそこまで複雑な代物は無理よ。
だけど、宇宙空間や海中でも大丈夫な箱というのは、作り出せると思うわ」

「というわけよ、慧音。最悪の場合でも、一応の保険を掛けられるというわけ」

「うむ。で、あるのならば、問題ないな。道すがら確認しておこう。天子もよろしく頼むぞ」


そこで私は仗助君にほっぽり出されて口を閉じていた天子の肩に手をかけ、声をかけた。
そして、べちょ、という音と共に天子の服の肩に染みが広がっていく。ああ、まだ吉良さんの唾液が乾いていなかったのか。
その悲惨な結果を目に留めた途端、天子は悲鳴を上げて、私に文句を言ってきた。


「ぎゃー!! ぎゃー!! ちょ、ちょっと何をしてくれちゃったのよ!!
着替えはないのよ!! ああ、もう!! 洗ってくるわ!!」


20 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:31:29 qdroEhXA0
天子は急いで部屋を出て行った。慌ただしい奴だ。
しかし、その様を見て、私は部屋を出て行ったもう一人の妖怪のことを思い出した。


「そういえば、ぬえの奴が戻ってくるのが遅いな。もしかしたら、何かあったのかもしれない。
確か……お手洗いだったな。私も手を洗うついでに、様子を見てこよう」


私がそう言うと、夢美さんとパチュリーも一緒に行くと言い出した。
そして仗助君も髪をセットし直すとかで立ち上がり、康一君もそれに付いてトイレに行くという。
さて、これでこの部屋に残るのは一人ということになるが……。


「どうする、にとり、私達と一緒に来るか?」


一人では寂しいし、何よりも危険だろうと思い、私はにとりに誘いの文句を投げかけた。
だが、彼女は私の思っていた以上に心が強く、気の利いた妖怪であるらしかった。


「……いや、それで入れ違いとかになったら、嫌でしょ? 私はここで荷物番でもしながら、待っているよ」

「そうか。見かけによらず、と言ったら失礼か? だが、ここは素直にお願いするとしよう」

「う、うん、分かったよ……気をつけて」


21 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:33:21 qdroEhXA0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『封獣ぬえ』


(どうやら気づかれなかったみたいね)


私は部屋の片隅で河童のにとりを眺めながら心中で呟いた。
彼女をはじめ、他の奴らも私に気づく素振りさえ見せなかった。
途中から皆がいるこの部屋に入り、魔力がどうのという話を、一緒になって聞いていたのにも関わらずだ。


これは成功と言っていいだろう。
この「メタリカ」というスタンドを使い、砂鉄を保護色として塗り替え、自らの身に纏わせること。
つまり、これは正体を判らなくする程度の能力を、更に発展させた私の新たな能力――正体を知られなくなる程度の能力だ。


その「メタリカ」の使い方に気づいたのは、まさに僥倖だった。
吉良吉影の能力で間近に迫った私の死から逃れたい。その死の呪縛から解放されたい。
外の暗がりで一人蹲り、そんなことを一心に思っていたら、
スタンドが私の想いに呼応するかのように動き出し、砂鉄を私の身体にくっつけ始めたのだ。


その後程なくして、砂鉄を保護色に変えられると知ったけれど、勿論、そこに苦労がなかったというわけではない。
意識して行おうとした途端、急にスタンドを動かす難易度は増したし、
自分が動きに合わせて、保護色を塗り替えていくというのは、至難の技だった。
それに何より、スタンドの能力を私の全身に作用させると、短時間でも精神の疲労の度合いが大きかった。
だけど、それでも頑張り、私の新たな能力を何とか様に成なるまでにしたのは、
ひとえにそれこそが聖を守り、私の命を守ることに直結していたからに他ならない。


即ち、完璧なる吉良吉影の暗殺の為だ。
奴を殺せば、私は爆死などという不安から解消され、
そして危険な人物を排除するということで、聖を守ることにも繋がるのだから。


「メタリカ」は光明だ。
一人怯えていた私を優しく包み込み、この先に光があると知らせてくれた。
「メタリカ」の能力に、私が元々持つ能力を合わせれば、あら不思議
それはまさしく正体不明。襲撃者が誰で、どこにいるかは、相手には百パーセント判らない。
ここまで私をヴェールに隠せば、どんな相手とだって、戦闘は優位に運べる。
そして襲撃者が私だと判らなければ、仮に私が爆弾となっていても、吉良が爆破するということにはならないだろう。


22 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:34:29 qdroEhXA0
確かパチュリーとかいう女は、この後でメンバーを分けて行動すると言っていた。
なら、吉良を殺すのは、その時だ。さすがに、今ここで行動を起こしては、不在となる私が疑われるし、
もし私が爆弾となっていたら、そこで全てが終わってしまう。そんな馬鹿で悲惨な結末は御免こうむりりたい。


いまだにこの殺し合いにおいて、最終的にどうしたいかというのは判らないけれど、
今ここで何をしなければならないということは、簡単に判る。
荒木の放送で聖が親しくしていた妖怪の死を知り、その思いは一段と強くなった。
別に私自身、その妖怪の死に哀しみなど抱かないが、聖は違うだろう。


私を受け入れてくれた聖。彼女が両腕を広げ、私に見せてくれた笑み。
それは太陽の光のように私を優しく包み込み、温かな気持ちにさせてくれた。
そんな彼女の笑顔が損なわれるのは、あってはならない。そんな彼女を悲嘆に暮れさせてはならない。
それが今の私の純粋な気持ちだ。


この地にはマミゾウ程の妖怪を、死に至らしめることが出来る奴がいる。
吉良も、おそらくその内の一人だろう。だからこそ慎重に、そして確実に事を運ばなければならない。
その理由を、友人であり、大妖でもあるマミゾウは、その死でもって、私に教えてくれた。
それは勿論、喪失感や悲哀などという、この殺し合いにおいて無意味な感情ではない。
彼女ほどの妖怪でも、簡単に死ぬということ。つまり、生のあっけなさだ。


吉良は死に直結した能力の持ち主だ。であるのなら、慢心は一層排除せねばならない。
幾年月も時を過ごした妖怪としての誇りは、単なる戯言としか機能しない。
全力をもって吉良を殺せ。誰にも知られることなく、素早く奴を殺せ。
完璧な暗殺だ。それでもって聖は救われ、私は救われる。


(さあ、死の恐怖を振りまく人間よ! 正体不明の私に怯えて死ぬがいい!!)


が、…………それはそれとして、この目の前の河童は何をやっているんだろう? バッグに何を入れているのか?
河童のバッグは背中に背負っている奴だと思うから、あれは河童以外の誰かのなのだろう。
うーん……一体、河童は何をしたいんだ? 気になるな〜。
まあ、それを訊いたら、私の新たな能力がバレるから、何も言わないけど……。


23 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:36:00 qdroEhXA0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『河城にとり』


「ふぅー……設置完了」


私は額に湧き出た汗を、腕でグイッと拭いた。
作業は、ある物をバッグの中に入れるというだけの単純さだけど、
その効果の程を考えるとやっぱり冷や汗っていうのは出てしまうよ。
だって、今、パチュリーのバッグの中に入れたのは、爆弾なんだもん。


河童のアジトで頭を何回も捻って、作り出したのが、まさにソレだ。
私は考えた。如何にパチュリーと吉良を排除して、私の死を遠ざけるか。
そして導き出した答えが、パチュリーを爆殺して、その罪を吉良に擦り付けるというものだ。


誰かが爆死したとなれば、仗助と康一は私が何かを言うまでもなく吉良に襲い掛かってくれるだろう。
そして私もそれに乗じて吉良に攻撃を加えたり、混乱するであろう他のメンバーを説き伏せたりして、康一達をサポート。
これで私を悩ましてくれる憂鬱の種が二つとも消えて無くなってくれるという正に一石二鳥の策。
名づけて「バッグがピカッ――」作戦だ。


あとは、パチュリーがバッグを持ち上げたところで、私がこのリモコンでスイッチを押す。
ただそれだけでパチュリーはボンッ! 続いて吉良も皆の手によって死体と成り果てる。
勿論、吉良の爆弾によって、他の誰かが死ぬことなるだろうけどれど、それも些末なもんだろう。
だって、それは私じゃないもん。よくよく考えれば、簡単に分かることだった。
仗助の馬鹿が暴れた時に爆弾にしたって吉良が言ってたけど、その時の私は吉良が遠くにいた。
その中で吉良が皆の目を盗み、スタンドの手を伸ばして、私を爆弾にするのは不可能ことだ。あー、安心。


そして私は今、運に恵まれていることを自覚した。
最も最も最も最も最も難しいと思っていたパチュリーのバッグに爆弾を仕込むという作業が、
廃ホテルに戻るや否や、成し遂げることが出来たのだから。まさしく幸運の極みだ。


おまけに危惧していたパチュリーの質問も、難なくやり過ごすことが出来た。
殺し合いのスタンスを改めて問われた際に「無事に殺し合いを解決したい」という私の答えで納得してくれたのだ。
勿論、それは嘘ではないから、パチュリーの嘘発見器は機能しないだろうけど、
「無事に」という部分を問い詰めていけば、きっと私からはボロが出ていたことだろう。
だけど、そうなることは、なかった。


24 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:37:38 qdroEhXA0
事前にパチュリーの質問を想定し、嘘と判定されないような微妙な言い回しの答えを、
たくさん用意していた私の周到さも勝因として輝いているだろうけど、やっぱりパチュリーの詰めの甘さが目立った。
私が河童のアジトへ行く前のパチュリーだったら、疑心に疑心を重ねて、ねちっこく私をいたぶり、
自分が望む答えが出るまで、決して私を解放しなかっただろう。


でも、パチュリーは、私が想定していたほどの厳しさを見せなかった。
彼女が疲れていたのか、他に懸念事項があったのか、はたまた床で気絶していた夢美を気にしていたかは知らないけれど
理由はやっぱり一つの言葉に帰結すると思う。私は幸運だったのだ。


「何だよ、ラクショーじゃん! イエイ! よっしゃー!」


私は誰もいない部屋で勝利の雄叫びとダンスを繰り広げた。
それこそ胃に穴が空きそうなほど懸念していた事柄が、すぐに消えてなくなってくれたのだ。
それによって高ぶる気持ちが、私の身体を動かしてやまない。
これが勝利の美酒というやつか。フフ。


そのまま美酒に舌鼓を打っていたいけど、残念ながら気になることが、ないわけでもい。
どうも、吉良が私のことをチラリチラリと見てくるような気がするんだよなー。
もしかしたら、私と話していたパチュリーの方に目を向けていたのかもしれないけれど、
ここは念には念を入れて、予防策を打っておいた方がいいだろう。
吉良は、すぐに死ぬことになるとはいえ、それでもやっぱり殺人鬼に関心を持たれるのは、心臓に悪い。
私は再び工具を取り出し、その油汚れを手に擦り付けた。


「ただいまー!」


しばらくすると、その天人の声と共にバンッと大きな音が立てられて、部屋の扉が開いた。
目を向けてみると、天人が隣を歩く慧音に文句を言いながら、部屋に入ってくる。
慧音は再三と謝罪を入れているみたいだが、天人は変わらずご立腹の様子だ。


「にとり、何か変わったことはなかったか?」


慧音は私と目が合うと、助かったとばかりに急いで私のところに寄ってきて、そんなことを訊ねてきた。
私は手に持った工具をバッグにしまいながら、なるべく落ち着いて返答する。


25 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 00:39:38 qdroEhXA0
「別に……何もなかったよ」

「ぬえは戻ってこなかったのか?」

「見てないけど……見つからなかったの?」

「うむ…………しかし、しょうがないな。もう一度、私がホテルの中を見てこよう」


慧音がそう言って、足を動かそうとしたところで、ぬえの声が突如としてドアの方から聞こえてきた。


「私なら、ここにいるわよ」

「おお、ぬえか!? 一体、どこに行っていたんだ!? 心配したんだぞ!!」


ぬえの姿を目に留めた慧音は急いで彼女の方へ駆け寄っていく。
その様子からして、随分とぬえを探して回ったと見える。
そうして何言か言葉をかわしていると、その後ろからパチュリーと夢美が部屋に入ってきた。


「はぁ、邪魔よ、慧音。おしゃべりなら、椅子に座ってしなさい」

「もう……何をむくれているの、パチェ? 大人気ないわよ」

「一体、誰のせいで、そうなったと思っているのよ! よくも、まあ、あんなことが平気で出来たわね!?」

「ちょ、タンマ! いや、ギブよ、パチェ!」


二人が行ったトイレで、何かあったのだろうか。二人は前よりも激しくどつき合いの漫才を繰り広げている。
……少し二人の距離が縮まっているようにも感じるのは、気のせいかな?
まー、どうせすぐ死ぬ人のことなんか、どーでもいけど。


「……二人とも、静かにしてくれないか。そんな喧騒を起こしては、危険な人物を呼び寄せてしまうかもしれないだろう?」


扉の奥から低い声と共に吉良が現れた。
途端に私の額には冷たい汗が滲み、喉が緊張でゴクリと音を立てる。
その音があまりに大きかったのか、吉良が一際目を見開いて、私を見つめた……ような気がする。
恐怖からか、私は吉良から逃れるように、すぐに視線を逸らした。


それによって吉良は視界から消えたが、冷静になって考えてみると、この反応は不審過ぎる。
露骨で過剰とも言える自分の行動を自省していると、パチュリー達が実に普通に吉良と会話している声が耳に入ってきた。
吉良が危険な奴だと皆も知っているのに、よく平気なものだ。まあ、パチュリーは吸血鬼二人を身近に置いているから、
この程度の危険なんか今更のことなのかもしれないけど。……他の奴らは知らない。多分、馬鹿なんだろう。


「いまいち、髪型が決まんねーな〜〜」

「いや……もう十分に決まっているよ、仗助君」


吉良が部屋に入ってから、大分経った後、髪をいじる仗助とそれを誉めそやす康一が入ってきた。
仗助は部屋に入っても、窓のガラスにうっすらと写る自分の顔を見ながら、何度も髪に櫛を入れている。
私がそんな彼を横目で見ながら、溜息を吐いていると、突然と仗助は私に振り返った。


26 : 名無しさん :2014/09/16(火) 01:37:58 lmOEksZU0
今すぐ投下できないなら後からでもいいのよ?


27 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:21:00 qdroEhXA0
>>26
お気遣いありがとうございます。
優しさが身にしみました。



それでは続きを投下します


28 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:22:20 qdroEhXA0
「ヒッ!!」と思わず私の口から悲鳴が漏れる。


「どうっすか〜〜、にとりちゃん? おれのヘアースタイル?」


恐る恐る顔を上げて仗助を見てみると、人懐っこい笑顔が、そこにはあった。
てっきり私の心の声が外に漏れたのかと思ったが、それは杞憂だったらしい。
私は二の轍を踏むまいと、頭をフル回転させて、慎重に言葉を選び取る。


「か、かっこいいよ……しびれたね」

「……そっか〜? ま、にとりちゃんが言うなら、そーなんだろうな」


やはり私には運が巡ってきている。
その証拠に、仗助は機嫌が良さそうに櫛を、胸の内ポケットへしまっていった。
ふっと視線をズラすと、仗助の後ろで康一と天人が私にグッと親指を上げているのが目に入った。
何だか良く分からないが、私は頷き、ホロリと涙を落として、彼らとこの喜びを分かち合った。


「さて、皆も揃ったことだし、これからの行動・指針を改めて説明するわ」


仗助の髪のセットが終わったのを合図に、パチュリーが皆の前に立って、弁舌を始める。


「前にも言ったけれど、これから三組に分かれて動いてもらうわ。
一組目は仗助と天子。二組目は慧音、ぬえ、夢美。そして最後の三組目は私、にとり、康一、吉影の四人ね」


相変わらず、とんでもないメンバー分けだ。
パチュリーと吉良をどうこうするとうい画策をしていなかったら、私は間違いなく卒倒していただろう。
とはいえ、今だって平然となんかしていられるような状況でもないけれどね。
後ろ手に握った爆弾のリモコンスイッチをいじりながら、私はどうにか平静を装い、パチュリーの話に耳を傾ける。


「前もって言っておくけれど、このメンバー分けに対しての文句は受け付けないわ。確定事項よ。
それでルートだけど、一組目がD-1へ進み、そのまま結界沿いを行く、一番の長距離コース。
二組目はE-2へ下り、そのまま西を行くコース。そして三組目はF-1へ進み、そこからF-3に下って、西へ行くコースね。
目的地は先に言ったとおりC-3のジョースター邸。最優先目標は紫と霊夢の発見及び確保。
分かっているとは思うけれど、極力、戦闘は避けるように。これは弾幕ごっこやその他の遊びとは違うの。
命をかけた殺し合いよ。戦う場合は、常に多勢で無勢に挑むように。リスクは最小限にね。
それと何度も言うようだけど、天子、慧音、教授には道中での魔力の確認を、お願いね。
フゥ…………私から以上ね。他に誰か皆に伝えたいことがある人っている?」


29 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:22:50 qdroEhXA0
パチュリーが、ひとしきり皆の顔を見渡すが、誰も何か言う気配を見せない。
そこでパチュリーは一つ頷き、皆に号令を打った。


「よし! それじゃあ、出発よ! 皆、行きましょう!」


その台詞で皆が立ち上がり、各々が置いてあったバッグを手に取りにかかる。
そして今こそが、パチュリーを爆殺する絶好の機会と私は見た。
肝心の彼女はバッグの前で咳を二、三度すると、いよいよその手をバッグに手を伸ばす。
さあ、死への秒読み開始だ。それに伴って、爆弾のスイッチを握る力も強くなっていく。


「ちょっと待って下さい」


康一がパチュリーに声を掛けた。まさか、気づかれたのか?
私はパチュリーが反応する前に、康一に訊ねた。


「ど、どうしたのさ、康一!?」

「あ、いや、パチュリーさんの具合が悪そうだから、代わりに僕が荷物を持ってあげようかなって……」

「ダメ!!!」


パチュリーが答えるよりも早く、私は康一に向かって叫んだ。
事態の危急さに、思わず私が口を開いてしまったが、この状況で、この私の言動は、どう考えてもアウトだ。
パチュリーがものすごーーーーく目を細めて、私を睨んできた。


「何でダメなのよ?」

「いや、その……ね。ほら、バッグに武器とか支給品とかも入っているだろう?
それを自分以外に預けたら、色々と不信感を助長しちゃうかもじゃん?
少なくとも第三者から見たら、対等な関係が築かれているとは思わないよね?
それってさ、誰かと交渉する際にさ、あんまり良い印象は持たれないんじゃないの?」


パチュリー対策第二弾。全部疑問文で答える。疑問文なら、嘘も本当もないだろう。
それが功を奏したのかは知らないけれど、パチュリーは私を責め立てるようなことはなかった。


「…………別にその程度のことは、私は気にしないけどね。
でも、まあ、バッグを持つ程度で苦なんか感じないし、今回は康一の気持ちだけ貰っておくことにするわ」


30 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:23:27 qdroEhXA0
パチュリーはそう言って、再び自分のバッグに手を伸ばす。
その真っ直ぐに目的地に向かう彼女の手に安堵を得たのか、
爆弾のスイッチを握る私の手の力も、期待と共に段々と強くなっていった。


「ちょっと待って」


今度は岡崎夢美がパチュリーに声を掛けた。こいつは何か色々と勘の鋭さを見せた人間だ。
もしかして爆弾に気がついたのかもしれない。その焦りからか、私はパチュリーよりも早く口を開いてしまった。


「ど、どうしたの!?」

「え、いや、ほら、パチュリー、まだティーカップに紅茶が残っているよって」

(そんな下らないことで呼び止めるなよ、人間!!)


私の心中の叫びに同意するかのようにパチュリーは、呆れた顔で席に戻る。
そして残った紅茶を一息で飲み干すと、パチュリーはその勢いのまま、再度バッグへ手を伸ばした。
それに伴って、爆弾のスイッチを握る私の手の力も、グンと強くなっていく。


「ちょっと待ってくれないか」


よりにもよって吉良が声を掛けてきた。コイツは爆弾にするという能力持ちの云わば爆弾のスペシャリストだ。
もしかしたら、私がパチュリーのバッグの中に仕込んだ爆弾に気がついたのかもしれない。
不安からか、私の顔から汗が飛び出し、喉からも声が押し出された。


「どど、ど、どうしたの!?」

「いや……ティーカップを片付けずに出て行くのかな、と思ってね。
小さなことと思うかもしれないが、どうも気になってね……すまない、パチュリーさん」


パチュリーは再び席に戻り、ティーカップを手に取る。
しかし次の瞬間、ティーカップは床へと落ち、ガシャンと無残にも砕け散った。


「はぁ、ダメね。こういった作業は、いつもメイドに任せていたから、
どうにも不得手だし、何よりもテーブルを綺麗にするっていう発想が出てこなかったわ……」


パチュリーは頭を掻きながら、申し訳なさそうに呟く。
というか、ティーカップの取っ手を持って、それを落とせるものか?
そこまで考えて、ああ、わざとか、と納得することが出来た。
吉良の能力を知った今なら、吉良の近くにあったものを自分の懐にしまい込む様なことは出来ないよな。
まー、私が爆弾を仕込んだから、そんなの意味ないんだけど。


31 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:23:54 qdroEhXA0
私のほくそ笑む姿など、パチュリーの目には入らなかったのだろう。
彼女はカップの破片をゴミ箱に捨てると、何ら疑うことなく、バッグへと手を伸ばした。
さあ、いよいよ死は間近だ。緊張によってか、爆弾のスイッチを握る私の手は汗で濡れてくる。


「ちょっと待ってもらっていいっすか?」


仗助が、クソッタレの仗助が、マヌケな声で口を挟んできた。
こいつは……こいつは、とにかく嫌だ。関わりたくない。しかも、こんなタイミングなんて尚更だ。
その恐怖と嫌悪感が、この場から早く逃げ出せ、と私の足に命令してくる。
だけど何をトチ狂ったのか、その電気信号で動いたのは、よりにもよって私の口だった。


「ななな、何だよ〜、どうしたっていうのさ〜?」

「いや、にとりちゃんの顔がすげー蒼いし、汗でびっしょりだぜ〜。
どっか身体の具合が悪いんじゃないかと思って……大丈夫か?」

(余計なお世話だ! コンチクショー!!)


そう叫びたい。叫びたいけど、心の中で留めておく。
というか、どう答えればいいんだ。パチュリーも見てる中で、嘘はつけない。
体調を聞かれて、疑問文で答えるって、なんか変だろ。
……ああ、もう考えるのが面倒臭くなってきたなぁ。もういっそここで爆発させてやろうか。
そんな投げやりな気持ちが私の心の中を占有し始めたが、最後に残った私の理性が、何とか頑張ってくれた。


「辛いよ。だけど、ここで音なんか上げられないでしょう? だから、するべきことは、ちゃんとするよ」


会心の台詞だったらしい。仗助は何か感動し、康一の背中を頑張れよ、頼んだぞと言いながら叩く。
パチュリーも私の発言に何の疑心も抱かず、バッグへ手を伸ばしていった。
さあ、これでもう問題はないだろう。私の逸る気持ちに呼応するかのように、スイッチを握る手が熱くなってくる。


「……ちょっと待って」


最後の最後でパチュリーが、自らを呼び止めた。
やっぱり私のこれまでの挙動は不審だったか? 私の目論見は露見してしまったのか?
私の目の前には破滅の未来が色濃く見えてきた。ああ、やっぱり馬鹿なマネはするんじゃなかったよ。


32 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:24:39 qdroEhXA0
しかし、次の聞こえてきたパチュリーの言葉で、それは無用な心配だと私はすぐに知ることが出来た。


「……ちょっと、お手洗いに行ってくるわ」

「もう……パチェったら、さっきも行ったでしょ? 紅茶の飲みすぎよ」

「う、うるさいわね」

顔を赤くするパチュリーを、夢美がやんわりと咎める。
だけど、パチュリーは急いでいたのか、ろくに耳に入れず、部屋を出て行ったしまった。
彼女達のやり取りは、気の抜けるものなのかもしれないが、
今の私からすると、単に気を揉ませて、私を焦らしているようにしか思えない。
ああ、早く帰って来い、パチュリー。


「よし! それじゃあ、出発よ! 皆、行きましょう!」


程なくして戻ってきたパチュリーは、爽やかな顔で、これまた爽やかな声を部屋に行き渡らせた。
その台詞で皆が立ち上がり、各々が置いてあったバッグを手に取りにかかる。
そして今こそが、パチュリーを爆殺する絶好の機会と私は見た。
彼女はバッグの前で咳を二、三度すると、いよいよその手をバッグに手を伸ばす。
さあ、爆弾のスイッチを押す準備は万端だぞ。私はこの機会を逃さぬよう、思い切りそれを握り締めた。


「ちょっと待って下さい」


康一が、また皆を呼び止めた。……ああ…………もういいや。どうでもいい。爆弾のスイッチを押そう。
度重なるやり取りに磨耗した私の心は自棄となって、スイッチに手をかけた指に力を込める。
だけど、後一ミリ押し込んだら作動するといったところで、私の動きは止まった。


33 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:25:24 qdroEhXA0
「天狗でしたっけ? その人から? いや、妖怪から? とにかくメールが来ました」


という康一の言葉で、私の好奇心が自棄を押し退けて、打ち勝ってしまったのだ。
私はそのまま興味にそそられて、パソコンの画面を見てみる。
すると『八雲紫、隠れ里で皆殺しッ!?』という見出しで、八雲紫が死体を前に銃を持つ写真が、デカデカと載っていた。
これは一体何を意味しているのだろうか。頭を捻っていると、パチュリーがバッグを持って私の横にやってきた。


「これは……ふむ……そーね。皆、ちょっとこっちに来てくれる。
記事の内容は取り敢えず置いといて、これには八雲紫の写真が載っているわ。
これが私達の探し人の顔よ。知らない人は、これを見て、覚えておいて」


私が顔一杯に汗をかきながら、急いでパチュリーから距離を取ると、
それに取って代わるかのように皆がパチュリーの周りに集まりだした。
これでは爆弾を起動させられない。爆発なんかしたら、パチュリー以外の皆にも被害が及ぶからね。
そうしてスイッチから一旦手を離すと、何だか急に頭が冷静に回転しだした。


(あれ? ここでパチュリーを殺すのって本当に正しいのか? 彼女は集団の要となれる人だ。
それを失っては荒木達を倒す可能性を著しく下げてしまうのでないだろうか。
吉良のことだって、皆が彼の危険性を知った今なら、ここで何が何でも始末する必要はないように思える。
それにもしかしたら、パチュリーが言ったように、吉良の能力は何らかの事態において、
解決の糸口になるということも考えられる。やっぱり殺すというのは、時期尚早……というか、これって単なる私の臆断じゃないのか?)


しかし、冷静になったらなったで、また私の顔は恐怖で蒼ざめてきた。
パチュリーのバッグには爆弾が入っているのだ。それは私の立派な殺意の現れ。
つまり、ゲームに乗っている証拠と言っても過言ではない。
それがパチュリーや他の皆にバレてしまったのなら、ろくな結果が待っているとは思えない。


勿論、その爆弾を私がセットしただなんてことは、すぐには分からないだろうけれど、
いつまでも隠し立てることも出来ないということも事実だ。なんせ相手は嘘を読み取るパチュリーなのだ。
言い逃れなど、延々とは続けられない。


やっぱりここでパチュリーを殺そう……それで平和になるんだ。私は決意も新たにパチュリーを睨む。
だけど、そこでまたパチュリー不在の問題が、私の頭をかすめてしまった。
彼女の死によって、この殺し合いを生き残る可能性を減らしては、元も子もないではないか、と。
ああ……ここに来て、私はパチュリーと吉良を殺していいのか、分からなくなってきてしまったよ。


34 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:26:30 qdroEhXA0
【E-1 サンモリッツ廃ホテル/朝】

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:頭に切り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの打破
1:天狗からのメールを確認 
2:霊夢と紫を探す・第一ルートでジョースター邸へ行く。
3:吉良を仲間になんかできるのか? やっぱり……。
4:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
[備考]
※幻想郷についての知識を得ました。
※時間のズレ、平行世界、記憶の消失の可能性について気付きました。


【比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:健康
[装備]:木刀@現実(また拾って直した)、龍魚の羽衣@東方緋想天
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:天狗からのメールを確認
2:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第一ルートでジョースター邸へ行く。 
3:主催者だけではなく、殺し合いに乗ってる参加者も容赦なく叩きのめす。
4:自分の邪魔をするのなら乗っていようが乗っていなかろうが関係なくこてんぱんにする。
5:吉良が調子こいたら、ぶちのめす。
6:紫には一泡吹かせてやりたいけど、まぁ使えそうだし仲間にしてやることは考えなくもない。
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
※ぬえに対し、不信感を抱いてます。
※吉良の正体を知りました。


【岡崎夢美@東方夢時空】
[状態]:健康
[装備]:スタンドDISC『女教皇(ハイプリエステス)』
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典・確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:『素敵』ではないバトルロワイヤルを打破し、自分の世界に帰ったらミミちゃんによる鉄槌を下す。
パチュリーを自分の世界へお持ち帰りする。
1:天狗からのメールを確認 
2:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第二ルートでジョースター邸へ行く。 
3:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法、外部と連絡を取る方法を探す。
4:パチュリーが困った時は私がフォローしたげる♪はたてやにとりちゃんにも一応警戒しとこう。
5:パチュリーから魔法を教わり、魔法を習得したい。
6:霧雨魔理沙に会ってみたいわね。
[備考]
※PCで見た霧雨魔理沙の姿に少し興味はありますが、違和感を持っています。
※宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンとの面識はあるかもしれません。
※「東方心綺楼」の魔理沙ルートをクリアしました。
※「東方心綺楼」における魔理沙の箒攻撃を覚えました(実際に出来るかは不明)。
※吉良の正体を知りませんし、パチュリーが彼と交渉するのも知りません。


35 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:27:00 qdroEhXA0
【上白沢慧音@東方永夜抄】
[状態]:健康、ワーハクタク
[装備]:なし
[道具]:ハンドメガホン、不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:悲しき歴史を紡がせぬ為、殺し合いを止める。
1:天狗からのメールを確認
2:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第二ルートでジョースター邸へ行く。 
3:もう少し時間が経ったら、ぬえのメンタルケアを行う。
4:殺し合いに乗っている人物は止める。吉良さんを説得して、改心させる。
5:出来れば早く妹紅と合流したい。
6:姫海棠はたての行為をとっ捕まえてやめさせたい。
[備考]
※参戦時期は未定ですが、少なくとも命蓮寺のことは知っているようです。
※吉良の正体を知りましたが、まだ改心の余地があると思っています。
※ワーハクタク化しています。
※能力の制限に関しては不明です。


【封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:精神疲労(大)、吉良を殺すという断固たる決意
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部、メス(スタンド能力で精製)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:パーティーが分かれたら、吉良を暗殺しに行く。
2:慧音達に同行しながら、危険な奴を殺していく。
3:皆を裏切って自分だけ生き残る?
4:この機会に神霊廟の奴らを直接始末する…?
[備考]
※吉良の正体を知りました。
※メスは支給品ではなくスタンドで生み出したものですが、周囲にはこれが支給品だと嘘をついています。
※スタンド「メタリカ」のことは、誰かに言うつもりはありません。
※「メタリカ」の砂鉄による迷彩を使えるようになりましたが、やたら疲れます。
※皆が行う吉良の爆弾解除と彼への説得を知りません。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※河城にとりが他人のバッグに何かを仕込むのを目撃しました。


【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ・東方の物品・確認済み)、ゲーム用ノートパソコン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:天狗からのメールを皆に見せる。
2:霊夢と紫を探す・第三ルートでジョースター邸へ行く。
3:吉良を仲間になんかできるのか? やっぱり……
4:仲間(億泰、露伴、承太郎、ジョセフ)と合流する。
  露伴に会ったら、コッソリとスタンドを扱った漫画のことを訊ねる。
4:河城にとり、東方心綺楼の登場人物の少女たちを守る。
5:エンリコ・プッチ、フー・ファイターズに警戒。
6:空条徐倫、エルメェス・コステロ、ウェザー・リポートと接触したら対話を試みる。
[備考]
※スタンド能力『エコーズ』に課せられた制限は今のところ不明ですが、Act1〜Act3までの切り替えは行えます。
※最初のホールで、霧雨魔理沙の後ろ姿を見かけています。
※『東方心綺楼』参戦者の外見と名前を覚えました。(秦こころも含む)
  この物語が幻想郷で実際に起きた出来事であることを知りました。
※F・Fの記憶DISCを読みました。時間のズレに気付いています。


36 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:27:46 qdroEhXA0
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:ストレス
[装備]:スタンガン@現実
[道具]:基本支給品、ココジャンボ@ジョジョ第5部
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:天狗からのメールを確認 
2:河童の手を綺麗に洗ってあげたい〜〜!! 
3:東方仗助、広瀬康一を出来る限り早く抹殺する。
4:無害な人間を装う。正体を知られた場合、口封じの為に速やかに抹殺する。
5:空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
6:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
7:亀のことは自分の支給品について聞かれるまでは黙っておこうかな
[備考]
※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※自身のスタンド能力、及び東方仗助たちのことについては一切話していません。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
  ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※吉良は慧音、天子、ぬえ、パチュリー、夢美、にとりの内誰か一人を爆弾に変えています。
  また、爆弾化を解除するか爆破させるまでは次の爆弾化の能力は使用できませんが、『シアーハートアタック』などは使用可です。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※正体が皆にバレてしまったことは、まだ知りません。


【河城にとり@東方風神録】
[状態]:精神疲労(小)、手に物凄い油汚れ
[装備]:火炎放射器 、リモコンスイッチ@オリジナル
[道具]:基本支給品、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、F・Fの記憶DISC(最終版)
    河童の工具@現地調達、色々な材料@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:生存最優先
1:パチュリーを殺るか、殺らないか。それが問題だ。
2:パチュリーのバッグに仕込んだ爆弾をどうにかしたい。
3:知人や利用できそうな参加者がいれば、ある程度は協力する。
4:吉良吉影を警戒。手を汚くしてれば、関心は持たれないよね?
[備考]
※F・Fの記憶DISC(最終版)を一度読みました。
 スタンド『フー・ファイターズ』の性質をある程度把握しました。
 また、スタンドの大まかな概念やルールを知ることが出来ました。
 他にどれだけ情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷の住民以外の参加者の大半はスタンド使いではないかと推測しています。
※自らの生存の為なら、他者の殺害も視野に入れています。
※パチュリーの嘘を見抜く能力を、ひどく厄介に思っています。


37 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:28:29 qdroEhXA0

【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:霧雨魔理沙の箒、ティーセット、基本支給品、考察メモ、小型爆弾@オリジナル
[思考・状況]
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:天狗からのメールをチェック 
2:吉良と交渉して、彼の能力を利用する(結界の破壊etc...) 
3:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第三ルートでジョースター邸へ行く 
4:魔力が高い場所の中心地に行き、会場にある魔力の濃度を下げてみる
5:状況が落ち着いたら、河童と改めて話をする
6:紅魔館のみんなとの再会を目指す
[備考]
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けるようです。
※河城にとりの殺し合いのスタンスを疑っており、問いただしたいと思っています。
※河城にとりが仕込んだ小型爆弾には気づいていません。
※「東方心綺楼」は八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって八雲紫が用意したダミーである。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは幻想郷の全知全能の神として信仰を受けている。
荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である。
荒木と太田、もしくはそのどちらかは「幻想郷の住人全ての能力」を使うことができる。
荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。
「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
ラスボスは可能性世界の岡崎夢美である。



[全体の備考]
※会場(最低限東北部)には満月の晩と同じだけの魔力があります。
※第一ルートはE-1からD-1へ進み、そのまま結界沿いを行くコース。
※第二ルートはE-1からE-2へ下り、そのまま西を行くコース。
※第三ルートはE-1からF-1へ進み、そこからF-3に下って、西へ行くコース。



<小型爆弾>
河城にとりが河童の技術をもって作り上げた高性能爆弾。
大きさは手の平大で、バッグにもすっぽりと入る。重さは軽い。
威力は人一人を殺すのには申し分ない。


<リモコンスイッチ>
遠くから小型爆弾を爆破させる為のボタン。


38 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/16(火) 22:30:04 qdroEhXA0
以上です。
投下が遅れて申し訳ありませんでした。


39 : 名無しさん :2014/09/16(火) 22:56:54 nTs0DlJc0
後編投下乙です
キャラクターが生き生きと描かれていて、9人とも上手に捌けていたと思います
それだけにパチュリーのバックに爆弾が仕込まれた時は、この流れが一変しそうで非常にヒヤヒヤしましたww
とは言っても以前油断ならない状況ですが・・・
吉良のストレスも心配だけど、今後はにとりの方ももっとやばそうだなぁ


40 : 名無しさん :2014/09/16(火) 23:25:13 OU3ptfhI0
哀れ吉良。ステルスの扱いの悪さは最近のロワの宿命


41 : 名無しさん :2014/09/16(火) 23:32:44 pVDmyCMw0
投下乙です。
藁の砦は水面下で駆け引きが繰り広げられててやっぱり面白いなぁ…
全員に正体を知られた吉良はまさに四面楚歌だけど、何気ににとりの今後も気になる。
狡猾だけど肝心な所でボロ出しまくってるのが痛い。
一瞬冷静になるけど結局引くに引けなくなってる迷走っぷりも何とも抜けてる…まぁ何だ、頑張れ河童。
そして段々覚悟決め始めてるぬえも怖い


42 : 名無しさん :2014/09/17(水) 01:16:50 LuwBfKtg0
投下乙です。
吉良にぬえににとりと火薬庫の中でファイアーダンスを踊りたくっているような惨状ですね……w
最早なにが引き金になって争いが始まるのか読めない。
善悪抜きにして人の不完全さが際立つ素晴らしい描写でした。
面白かったです。


43 : 名無しさん :2014/09/17(水) 05:22:42 GVuNKn9k0
投下乙です
にとりは軽く積んでないかこれ。
爆弾が見つかればアウト
たとえ起爆してもキラークイーンの爆弾喰らったら跡形も残らないから威力の違いでばれる危険があるし…。
あとぬえは吉良のスタンドの詳細な情報を聞き逃したのが痛いな。
第一の爆弾しか把握してねえ・・・。
吉良はもうこれ第3の能力に目覚めかねんレベルの窮地だw


44 : 名無しさん :2014/09/17(水) 12:46:12 GsOAjWL20
投下乙
合理的に考えれば、対主催を生存させてマーダーを排除すればいいと思うんだけど、にとりの精神では冷静な判断は難しいかな
一方ぬえは不安定とはいえマーダーだけ狙おうとしてるからにとりほど心配はしてないけど


45 : 名無しさん :2014/09/18(木) 01:11:36 1sklxruMO
投下乙です。

手フェチの前で手を油塗れにするのは挑発だよね〜w
あんまり汗をかくと、綺麗なお手々から油汚れが落ちちゃうよ。


46 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:44:37 pHLzhfWg0
ゲリラ投下を開始します。


47 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:45:16 pHLzhfWg0
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

うっそうとした森の木々を縫うように、大きな黒い鳥が低空を飛行していた。
その鳥は枝葉に何度も翼と顔をぶつけながら、それでもそのスピードを緩めることはなかった。
ヒタヒタと追いすがる『足跡』から逃れるため、懐に抱きかかえる主を守るため、止まる事は許されなかった。

『逃飛行』は続く。

古明地さとりがお空の背中越しに後方を覗くと、『足跡』は相変わらずこちらの後をついてきている。
どうやらあの『足跡』、ある一定以上の速度は出せないらしい。
相変わらず油断のならない状況だが、現在目に見えている分だけマシというものだ。
何しろさっき木の中で奇襲を受けた時は、どこからどうやって現れたかもわからなかったのだ。
あれから目を離すのは、危険だ。
このまま一定の速度で逃げ回り続けている限りは、奇襲の心配はない。

とにかく今はこの禁止エリアとなってしまったこのB−4エリアを脱出しなくては。
あの足跡への対処は、その後だ。
先ほどまでの記憶を頼りに現在位置を推測する。
ここから最短距離でB−4エリアを脱出するなら、南へ進めばいい。


「お空、南へ進んで下さい。太陽を右手に見ながら進むのです。
 絶対スピードを落としちゃダメ。あ、無茶もいけませんよ!」

「……ッ! 了解しました! さとり様!」


さとりの指示に、お空は目いっぱいの声を絞り出して返す。
顔を見上げると頬に引っかき傷ができて、前髪には小枝がひっかかっていた。
八咫烏のエネルギーを宿したお空の飛翔は、出力と最高速度は凄まじい反面、小回りはまるで利かない。
速度を落とさずに、森の木々をかわしながら飛ぶのはさぞ大変だろう。
おまけに今はヒト一人抱えているというのに、不満の声をおくびにも出さない。心の中にも現れてこない。
聞こえてくるのは、主である私を守ること。今はそれで頭がいっぱいのようだ。
時々道を誤ることもあるけど、お空はどこまでも真っ直ぐな子だ。
彼女の真っ直ぐさが、歩くこともできない体たらくの自分の現状と比べて、眩しい。


48 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:45:42 pHLzhfWg0



“■■■■■■ ■■■■”



……幻聴?
お空?……必死の形相で前方を見ている。無駄口を叩いている余裕などなさそうだ。
辺りを見回すが、相変わらず足跡が追ってきているだけだ。
……先ほどの奇襲もあって不安だが、今は幻聴は無視。自分にできることをやらなければ。


「さとりさm……むぐう」

「いいから少しでもお腹に入れておきなさい。
 あの『足跡』に奪われたエネルギーを、少しでも取り戻さないといけないのですから」


空の口に、握り飯が押し込まれた。
さとりはお空にしがみつく両腕の袖の中から触手を伸ばし、デイパックの中から食料を取り出していたのだ。


「もぐ。口を、もぐ、開けて。もぐ、水です、もぐ」


咀嚼する間を与えず、今度は口元にボトルを突き出す。ついでに自分の口にもおにぎりを押し込む。
米粒を水で無理矢理流し込ませる。(ちょ、きついです、さとり様!)という心の声が聞こえたが、無視だ。
今は残念ながらゆっくり食事を楽しむ余裕はない。


「頭からかけます」


そう言って今度はペットボトルを持った触手をお空の頭上に伸ばし、ドボドボとひっくり返す。
お空の頭と背中から湯気が立ち上り、後ろの方へ流れていくのが見えた。
彼女の体温が異常に高いのは気のせいではないらしい。
やはり普段ならお空の右腕にあるはずの制御棒が無いせいなのか。


49 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:46:03 pHLzhfWg0



“mo■■re c■■s”



まただ。
周囲は……やはり足跡が追ってきているだけ。誰かが声をかけてきた様子はない。
耳元で話しかけられたように聞こえたのだが……。
さとりはおにぎりを押し込みながら周囲を見回し、気付く。
日の光が、後方から差している。日の出から間もない現在、西に進んでいるということだ。


「お空、そっちは『西』です! 禁止エリアの奥に進んでいます!」

「わかっています、さとり様……でもこの足跡が、邪魔して……!」


やはり……!
想定はしていたが、こちらを禁止エリアから脱出させまいと追い込んできている。
あの足跡から目を離すのは危険すぎる、だが、あの足跡をどうにかしなければ脱出は不可能。

お空には無理をさせてしまうが、上空を塞ぐ枝葉を焼き払って、樹木の届かないところまで高度を上げれば……。
飛行の障害物が減って、今のように足跡に追い込まれる事はないか……?
どうする……!
さとりが思考をめぐらそうとしたその時、『第三の目』が、別の声を捉えた。
今度は『外』からの声だ。


『喰■え■■■■■ェェ■■ーー■ッ!!』


右前方の木陰!
木陰に、先ほどの襲撃者の片割れ、赤い服の女がいる!

「お空! 右から!」

「!!」


50 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:46:24 pHLzhfWg0

その瞬間、さとりとお空の二人を、衝撃が襲った。
飛行する姿勢が崩れ、失速しかける。


「お空!!」


お空の口から聞くまでもなく、さとりの『第三の目』はお空の脚を何かがかすめたことを知る。


『これしき……!』


そして、それが大したダメージでなく、すぐに立て直せることも。

だが第三の目は、襲撃者のさらなる攻撃の予兆も捉えていた。


『く■■! ■う一発! 翼■狙え■、足■止ま■■ず!』


こちらが反撃する余裕もないのを良いことに、並走してさらなる攻撃を仕掛けようとする襲撃者。
女の手に持った植物は、さっきお空の焔を防いだ物体だ。
そこから、『丸い何か』が飛んできている。
『水中のガラス球』のように、透明だが、そこにあるとハッキリわかる何かが!


「お空、高度を下げて!」


さとりの指示にお空は地面スレスレまで高度を下げる。
さとりの背中が地面にこすれそうなほどの高度に。
『丸い何か』はお空の翼の上ギリギリをかすめ、左手、襲撃者と反対側の木にぶつかる。
……その瞬間、何かがぶつかり破裂した箇所から風が吹き出し、お空は突如バランスを崩す。

あの顔のついた植物が出す『丸い何か』とは、『空気の塊』だったのか?
……そうに違いない。
先ほどお空の焔を逸らしたのも、空気の塊で焔の燃焼をコントロールしたからなのだ。


51 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:46:54 pHLzhfWg0

と、呑気に謎解きをしている状況ではなくなってしまった。
思わぬ気流の乱れにバランスを崩したお空、僅かだが高度が低下した。
地面スレスレを飛行していた現在、それは致命的である。
胸元に抱きかかえていたさとりの背中が地面をこすり、ブレーキとなってしまう。


「さとり様! ……まずい、失速する! 追いつかれる、あの変な『足跡』に!」


必死に翼を羽ばたかせて高度を上げようとするお空だったが、


「終わりです」


襲撃者が無情なる一撃を放っていた。
再び植物から放たれる空気の塊、いや、『空気弾』とでも言うべきか。
今度は、かわせない。かわしようがない。
そして、余波だけであの威力の空気弾。直撃を受ければ、撃墜は免れない。
撃墜イコール、死だ。今度あの足跡に取り付かれたら、死ぬ。


(ああ、私、最期までお空の足手まといになっちゃった……ごめんね、お空)


そんな下らないことを思うさとりに、再び、あの幻聴が聞こえてくる。



“movere crus”


52 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:48:01 pHLzhfWg0

幻聴ではない。今度は、はっきり聞こえた。
さとりのお腹の中から、いや、お腹の中に入り込んだ何かから。
英語か、違う、どこの国で話されているのか、聞いたこともない言語。
だが、『第三の目』を介さずとも、その意味する所だけは何故かはっきりと伝わった。



“movere crus”

――『脚を、動かせ』と。



「お空! 私に、しっかりと捕まって!」


さとりは、ただしがみつくだけだった両の『前脚』をお空から離し、前方の上空へと向けた。
天を仰ぎ、祈るように。

さとりの両袖から、小さな風切り音が鳴る。
両袖から、鞭を振るうように鋭く、『第三の目』のコードが伸びる。
二本のコードは乾いた音とともに、上空に伸びていた太い枝を掴んだ。
そして枝に巻きついたコードは、二人の体を力強く引っ張り上げた。
襲撃者の放った空気弾も、『足跡』も追いつけない程の勢いで。

かくして二人は体勢を立て直す。
驚愕の表情を浮かべる顔面を地面に叩きつけた襲撃者を置き去りにして、足跡からの『逃飛行』はまだ、続く。


53 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:48:50 pHLzhfWg0
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

目の前に伸びた枝に、片腕のコードを伸ばし、キャッチ。
コードを縮める勢いと振り子の原理を利用し、前進する。
枝を掴んだら、もう片方の腕のコードを伸ばし、更に遠くの枝にコードを伸ばして、再び前進。
基本はその繰り返しだ。

サードアイから伸びるコードを手足のように操ることのできる、さとり妖怪ならではの芸当である。
コツを掴めば、地面を走るよりずっと速く移動できる。

『脚を動かせ』という声をきっかけに窮地を脱した時、さとりは閃いたのだ。
足が動かなくとも、私にはこの両腕とコードがある、と。
もはや森の中を移動するのにお空の手を借りる必要はない。

実際、今もさとりは追ってくる『足跡』から一定の距離を保って逃げ続けることができていた。


「さとり様、すっげー! まるで……猿みたいです!」


さとりに並んで飛行するお空が感嘆の声を上げる。
うら若い少女を形容するのにいささか不適切な表現が含まれていたことは、ここでは指摘しないでおく。
二人が別行動できるようになったことで、ようやくこの状況を打開し、
襲い来る『足跡』を攻略する糸口がつかめるかも知れないのだ。


54 : 呼び覚ませ、猿人時代の魂 ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:49:43 pHLzhfWg0
「お空、ここは二手に別れましょう。
 あの『足跡』は、おそらく一度に一つの目標しか追うことができません。
 挟み撃ちの際、足跡を分裂させずに別の者で襲わせたのがその証拠。
 現在足跡にマークされていない貴女は一旦、木々の上空に逃れてください
 私が森の中を移動して『足跡』を引きつけます」

「さとり様……それではまたあの女が!」

「ええ、あの『猫草』を持った襲撃者はまた私の行く手を阻んでくるでしょう。
 ……その時にこの『目』で何とか『足跡』の攻略法を探ってみます」


さとりは胸の『第3の目』をパチパチと瞬きさせて続けた。


「情報を聞き出したら、私が上空へ弾幕を放って合図します。
 お空は合図のあった場所へ向かい、襲撃者を攻撃して下さい。
 ですが、攻撃は一度だけ。貴女もかなり消耗しているのですから。
 攻撃の後は南で、B−5エリアで落ち合うこととしましょう。
 いいですか。深追いは禁物です。あくまで逃走の補助と考えて下さい」


良いですねお空、とさとりが口に出した時、既にお空は樹冠を突き破り、はるか上空へ飛び立っていた。


「ほんと、その行動力は頼りになる子なのだけど……話は最後まで聞いてたのかしら」


小さくなってゆく影を見上げながら、さとりは心配そうにつぶやいた。


55 : 呼び覚ませ、猿人時代の魂 ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:50:12 pHLzhfWg0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「くそっ……」


地面に突っ伏した静葉は、それだけ呟いて立ち上がる。

あと2分もしないうちに、後から追ってきている寅丸さんが
『ハイウェイ・スター』で再び私の位置まで二人を誘導してくれるはずだ。
脱出に必要な時間も考えれば、次が最後のチャンスだろう。
次で必ず二人とも仕留める。そうでなければ寅丸さんに無理を言った申し訳が立たない。

……そう、静葉がわざわざ手を下さずとも、
寅丸さんの『ハイウェイ・スター』のみで二人を仕留めることは可能だろう。
何しろ、静葉のいる位置まで二人を追い込むことができる程、
『ハイウェイ・スター』を上手く操作することができるのだから。肉食獣の本能とでも言うのだろうか。
わざわざ静葉を追撃に出すまでもない。
彼女なら二人をこのB−4エリアから脱出を許さずに10分間近く追い回し、
自爆に追い込むことなど容易いに違いない。

だが、静葉はこうしてここにいた。
『虎の威を借りて』いるだけでは、強くなれない。
いずれはその虎さえ打ち倒し、あの計り知れない主催者たちに挑まなければならないのだから……。

あの大怪我を追っていたさとり妖怪が先ほどの窮地で思わぬ力を見せたように、
自らを窮地に追い込まなければ、成長することはできない。
……思えば、不条理だ。滑稽だ。自分を成長させようとしたはずなのに、敵の方が成長してしまっている。
ならば、それさえも自分の糧にしてみせる。
……でなければ、私に待つのは惨めな結末だけだ。


56 : 呼び覚ませ、猿人時代の魂 ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:50:32 pHLzhfWg0

静葉が気を取り直すと、枝葉のテンポよく揺れる物音が近づいてきた。
寅丸さんが、上手く誘導してくれた様だ。

……待て、様子がおかしい。
あの地獄鴉は、こんな音で飛ばない。
まるで、これは……。

静葉の視界に物音の正体が映る。


「何、アレ……猿!?」


静葉は思わず叫んだ……猿だ、猿がいる。古明地さとりが『足跡』を引き連れて向かってきている。
古明地さとりが両腕の袖から伸びるコードを交互に伸ばし、
空中に伸びる木々の枝を手繰りながら移動している。猿のように。
その速度は『ハイウェイ・スター』にも劣らない。
実際、彼女は追いすがるあの『足跡』から一定の距離を保ち続けている。

近づいてくるさとり。
猫草をさとりに向けて構える静葉。

そこで浮かぶ、疑問。
あの地獄鴉はどこへ行った?
……さとりを置いて一足先に脱出したか?
あれほど必死に守ろうとしていたご主人様を置いて?

そんな静葉に向かって、さとりが話しかけてくる。


57 : 呼び覚ませ、猿人時代の魂 ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:50:57 pHLzhfWg0

「ごめんなさいねぇ、一人で来てしまって。
 お空には、途中で見つけた虎の妖獣を襲わせたわ。
 今頃、彼女は『トラ焼き』になっているんじゃないかしら」

「なっ……」


静葉は木の上を俊敏に渡るさとりに懸命に並走しながら、彼女の後ろを見る。
……さとりの後を追う『足跡』は、『ハイウェイ・スター』は未だ健在。
つまり、本体の寅丸さんは無事で、今も射程距離内に、つまり私達と同じB−4エリア内に居る。


「……なるほど、ね」


こちらを横目で見るさとりが、ニヤリと厭な笑みを浮かべた。
彼女の胸に付いた目玉も、間近からしっかりとこちらを見ていた。
心を、読まれた。


「……カマを掛けたのね!」


静葉は猫草から空気弾を乱射しさとりを狙うも、まるで当たらない。
こちらの狙いを読んでいる上、触手を使った巧みな身のこなしで狙いを絞ることができないのだ。


「攻撃の意思しか読めなくなったわね。残念。質問タイムはお開きかしら」


おもむろにさとりの『第三の目』が上空を向き、一筋の光を放った。

……狼煙だ。
誰に向けて? あの鴉しかいない。
足跡はひとつの目標しか追えない。さとりが足跡を引き連れているということは、あの鴉はフリー。
何を知らせた? この場所の、私だ。
狼煙の意味を察した瞬間、静葉の勘が最大音量で悲鳴を上げる!!


58 : 呼び覚ませ、猿人時代の魂 ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:51:16 pHLzhfWg0

!!Caution!!  Caution!!  Caution!!  Caution!!


朝だというのに、太陽がいつの間にか『真上から』激しく照りつけている。
パチパチ、と、薪の燃えるような音が頭上で広がる。

見上げると、頭上の枝葉が綺麗に消えて無くなり、まばゆい光の球と円い青空が出現していた。
木々の間近に出現した『太陽』の放つ熱が、枝葉を一瞬の内に発火させ、焼きつくしたのだ。
円い青空はその跡だ。
青空の縁が火の輪を描き、その中央に映るは勿論、もちろん黒き凶つ鳥の影!


!!Caution!!  Caution!!  Caution!!  Caution!!


「核熱、『核反応制御不能』!! 消し飛ばせェェェーーーーーッ!!」


凶つ鳥は叫び、右手を静葉に向け振り下ろす。
光の球がいくつにも分裂し、静かに飛来する。
ギラギラとした球体は森の木々を飲み込み、瞬時に蒸発させながら大地へと吸い寄せられてゆく。
一つ一つの狙いは大雑把。だがそれ故に巻き込む範囲は広大で、静葉の足で逃げ切る事は不可能。
静葉があの攻撃から生き残る方法はただひとつ。


!!Caution!!  Caution!!  Caution!!  Caution!!


「ス、『ストレイ・キャット』!! 防御をー!!」


59 : 呼び覚ませ、猿人時代の魂 ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:51:54 pHLzhfWg0

猫草を天にかざし、防御を試みる静葉。
だがさすがの猫草もあの巨大な熱量を前に恐怖し、暴れだしている。
両手から抜けだそうとする猫草を、静葉は何とか押さえつける。


「うっ!」


その時静葉の左手の甲に、鋭い痛みが走った。
静葉の頭上を超え、逃げ去ろうとしていたさとりが、コードに持った草刈り鎌で静葉の手を切りつけていたのだ。


「浅い……『空気の塊』に阻まれたか。いずれにせよ、私ができるのはここまでね」


静葉の手から、猫草がこぼれかける。
降り注ぐ無数の光球を尻目に、さとりは足跡を引き連れ、樹の枝を伝って静葉とお空の元を離れていった。


「い、いやあああああああああ!!」


響き渡るは静葉の悲鳴のみ。
幾つもの白熱する火球は不気味なほど静かに大地に着弾し、辺り一面を白く焼きつくしていった。


60 : 呼び覚ませ、猿人時代の魂 ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:52:09 pHLzhfWg0

◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


「ハアッ、ハアッ……」


さとりはお空の攻撃の巻き添えを食わぬよう、全速力で樹上を渡っていた。

ほぼ作戦通りだ。襲撃者の片割れをおびき出し、
あの『足跡』……『ハイウェイ・スター』の情報を聞き出して攻撃を加えることに成功した。
しかし……。


「お空、逃げる手助けで良いと言ったはずだけど……」


アレはさすがにやり過ぎだ。
制御棒を失った空、やはりエネルギーを制御できていないのだろうか。
それとも私の話を最期まで聞いていなかったのだろうか。


「力を使い果たしていないかしら……って熱い!」


全速力で離れている途中のさとりだったが、攻撃の余波で背中が熱い。
振り向くと、お空の攻撃による巨大な熱量の余波は爆心から100m以上離れ、
今も逃げ続けているさとりの背後にも及び、木々を炎に包んでいた。
分厚い炎と煙に阻まれ、お空と襲撃者の様子はとても伺えそうにない。

そこでさとりは気付く。
さとりを追ってきているはずの、足跡の姿が見えない。

振り向くと、20mほど離れた場所で、置いてけぼりを食らっていた。
燃え盛る地面の上をいくつもの足跡がピクピクとうごめいている。


61 : 呼び覚ませ、猿人時代の魂 ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:52:37 pHLzhfWg0

「追い掛けて来ない? こちらの姿が見えていないの?
 ……あの足跡は、どういう原理かは判らないけど、炎で撹乱できるのかしら?」


……じっくり様子を伺いたいところだったが、ここはまだ禁止エリアの中。
さらに、さとりの足がかりとなる樹木は爆心地から広がる炎で次々焼け落ちようとしている。
お空は心配だが、この場に長居はできない。
確か、命蓮寺の妖獣(寅丸星という名だったか)と
同じエリアに居なければ『足跡』が追ってくることはできないはずだ。
さとりは再び木々をコードで手繰り、B−4エリアからの脱出を目指した。

そこでさとりは、ふと、疑問を抱く。
我ながら、よくもこれほどまでに達者に木々を渡れるものだ。
生死の掛かった状況で必死だったとはいえ、あまりにも上手すぎる。

さとりは、今のように木々を渡った経験はない。少なくとも、記憶にはない。
いつも住んでいる地底にこの様な森は存在しないのだ。
おまけにこのさとり、自慢ではないが運動神経には全く自信がない。
こうして身体を動かすのは、苦手な方であると自覚している。

だというのに、今日初めて挑戦したはずの木々を渡る動きが、
歩いたり飛んだりするのと同じくらい、身体に染み付いた動作であると感じていた。
何故だろう?


62 : 呼び覚ませ、猿人時代の魂 ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:53:37 pHLzhfWg0

……猿だ。
答えは、お空とあの襲撃者が教えてくれていた。
そうだ、私は、『覚(サトリ)』とは、猿だったのだ。
思い出した。『覚』は、元々は狒々(ヒヒ)……つまり猿の姿をとった妖であると言い伝えられていた。

太古の昔、まだ地上の森の中で暮らしていた『覚』は、
今の私のように、サードアイから延びるコードを『脚』として、木々を伝って移動していたのだろう。
人間達はそれを見て、『覚』が猿の妖怪だと言い伝えるようになったのだろう。

今考えついた私のこの説に根拠など、ない。
強いて言えば、木々の渡り方を覚えている、この私の身体が証拠だ。

……それにしても、不思議なものだ。
このお腹の中の『モノ』から響いてきた声がきっかけで、私は歩く術を思い出したのだ。
これが何なのか、相変わらず判らないままだが……
私にとって『吉』となってくれるモノであることは間違いなさそうだ。

僅かながら、光明が見えてきた。
それを実感すると、自然と『足取り』が軽くなる、古明地さとりだった。


63 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:54:02 pHLzhfWg0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


静葉は、左手の甲に走る痛みで目を醒ました。


(生き、てる………)


静葉はうつ伏せに倒れていた。
胸から感じるのは湿った土と枯葉の感触。背中に感じるのは炎の燃える熱気。
パチパチと草木が燃える音。遠くの方から樹木が軋みを上げて倒れる音が響く。
左手の傷は浅くはないが、動かせないほどではない。
……目立つケガはそれだけらしい。あちこち火傷しているようだが、いずれも軽度に感じられた。
あの時必死で押さえつけた猫草が守ってくれたようだ。

目を開き、首だけを動かして辺りを見回す。
あちこちで炎が燃え盛っており、煙が空高くまで立ち上っているのが見える。
静葉の周囲に限れば、炎の勢いは比較的穏やかだ。
当然だ。あの火力を間近で受けたのだ、燃えるものはすぐに燃え尽きてしまったようだ。
猫草は、無事だ。炭化した樹木の残骸の根本に転がっている。デイパックも一緒だ。
静葉からは、5メートル程離れている。
……何かごほうびでもあげようか。でも一体、何をすると喜ぶのか。
そんな呑気なことを考えながら立ち上がろうとした所で、空から誰かが降り立つ足音が聞こえた。
静葉は息を殺し、薄目でこの恐るべき破壊を引き起こした者の様子を伺うことにする。


64 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:54:24 pHLzhfWg0
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

「フーーッ……。」


深く息をつき、ゆっくりと地面に降り立つお空。


「まさかまだ姿が残っているとはね……」


地面に突っ伏した静葉を睨み、お空は呟く。
あの猫みたいな草で、またも焔の直撃を避けたらしい。
目眩ましで良かったところ、火力の調整をちょっとだけミスってしまった。
完全に『制御不能』だった。いやあ、本当に、ほんのチョットだけしくじった。
そして『制御不能』のエネルギーをぶっぱなしたせいで、またも身体が熱い。
とにかく、身体を冷やさなければ。

お空はデイパックからペットボトルを取り出し、中の水を頭から被った。
頭に当たった水は弾けるように沸騰し、たちまち白い湯気となった。
残った何本かのボトルを全て空け、ようやく顔を水が伝う程度には冷却された。
空となったボトルはデイパックに元通りに収めた。また使うためだ。

その間、ずっと静葉を見張っていたお空だったが……。
目標に動く気配は無し。目立った火傷は無いように見える。
……ショックで気を失っているだけなのか?
だったら、わざわざ止めを刺さずこのまま立ち去るのもアリか。
ここは禁止エリア、あと数分もしない内に私も奴も頭が爆発して死ぬ。
直接ぶっ飛ばしてやれないのはちょっと心残りだが、長居は禁物だ。
霊力の消耗も激しい。

それにさとり様は、今もあの『足跡』のオトリを引き受けてくださっていることだろう。
さとり様、無茶をなさっていないだろうか。
早く合流して、お助けしなければ。さとり様のことが心配だ。


65 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:54:54 pHLzhfWg0
ああ、そうだ。
家族がどこかで危険に晒されてるかもしれないって……こんなに不安なんだ。

お燐とこいし様は、今頃どうしてるのかな。
今の私達みたいに、悪いヤツに襲われて追い回されてないだろうか。
さっきまでの私みたいにところかまわずケンカをふっかけて、
返り討ちに遭ったりは……してないよね、きっと。
お燐は私と違って頭良いし。こいし様は……ちょっと不安だなぁ。

うーん、さっき言ってたバッテン傷の人間の言ってることが、ちょっとだけ分かった気がする……。
『自分の家族が罪を犯すってのは…マジで悲しいことなんだぜ』かぁ……。
もしお燐やこいし様が誰か殺しちゃったら、
そいつの仲間は地霊殿のみんなのことを恨むんだろうなぁ……。
地底に落ちてきた怨霊にも『家族を手に掛けたあやつだけでなく、一族郎党みんな恨んでやるぅぅ』
みたいなこと言うヤツいっぱいいるし。

あの最初に燃やしてやった、風を起こすキワどい格好のマッチョの男に仲間がいたとしたら、
やっぱり私だけじゃなくてさとり様たちの事も恨むんだろうなぁ……。
あのマッチョの仲間ってやっぱり、アイツみたいにキワどい格好のマッチョばっかりなのかなぁ……。
何かヤだなぁ。……負けはしないけど、あんなのに追い回されるのは、生理的にやだなぁ。
あんな格好のマッチョたちが、私達のことを知ったら、さとり様たちまで狙うことになるのかぁ……。
……ダメ! 危険すぎるよ! 主に絵ヅラが!!
……じゃなくて、お燐たちじゃ、あのマッチョに太刀打ち出来ないかも……。
ああ、私が撒いたタネで家族みんな、危険な目に遭うのかぁ……。

そう思うと、お空の頭に重石のように残り続けていた感覚が、
バッテン傷の人たちから逃げて来て、ずっと感じていた感覚が重くなってくるのを感じた。
そっか。こういうのを、罪悪感っていうのか。
頭の中に居座った重石がずるりと溶け、背中の辺りからまとわりついてくる気がする。
もし私に殺されたマッチョの仲間がお燐たちを殺したら、お燐たちは私を恨むのだろうか。

……いや、お燐たちが私を恨むかどうかは、関係ない。
穢れてしまう。私自身が、私を許せなくなる。
穢れてしまった私に、さとり様に愛される資格はない。
……たとえさとり様が変わらず愛情を注いでくれたとしても、穢れてしまった私はさとり様に近寄れない。
さとり様まで穢してしまうから。


66 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:55:43 pHLzhfWg0

……すぐにお燐たちを探しに行かなきゃ。
さとり様をお助けしたら、すぐに。

でもその前に、バッテン傷の人と、ちっこい吸血鬼とビリビリする技を使う人にも謝っておこう。
私のしでかしたことで、お燐たちに迷惑かけたくないからね。
許してくれるか、わからないけど。
でも、それでも。
一度、会って謝ろう。

……そうやって、『謝る』って心に決めたら、ちょっとだけ、気分が楽になった……気がする。
さあ、倒れてるアイツはもう放っておこう。
さとり様の元へ急がなきゃ。


「運がよかったわね。今回は見逃してあげるわ。
 ……聞こえてるかどうかは知らないけど」


言い残して飛び立とうとしたお空の眼前を、光弾が横切る。


「待って下さい」


お空が振り向くと、あの襲撃者がゆっくりと立ち上がっていた。


67 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:56:12 pHLzhfWg0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


見逃してやると言い残し、地獄鴉が立ち去ろうとする。
止めを刺す必要はないと判断したのか、主との合流を優先したのか。
ともかく私は、その時『助かった』と感じた。
猫草を手放し、ハイウェイ・スターとも分断され、
武器も仲間も失った私は丸裸の状態だ。
あの鴉も相当消耗しているようだが、それでも私の手に負える相手じゃない。
だからここで見逃してもらえるのは本当に幸運だった。助かった。

……助かったと、思ってしまった。

ああ、情けない、無様で、惨めなことだ。
秋静葉、お前は武器がなければ、仲間がいなければ、手負いの敵一人倒せないのか。
そんな調子であのエシディシを倒せるのか。
ハイウェイ・スターを操る寅丸さんを倒せるのか。
あの太田と、荒木の元に辿り着けるのか。
穣子を、取り戻せるのか。復讐は、果たせるのか。

……確かに、武器を持つことも、仲間と組むことも、策を練ることも、
勝ち残るためには当然必要なことだろう。
だけど、だけど結局……最後に勝敗を決定づけるのは、丸裸の、徒手空拳の『私』だ。
運良くほぼ五体満足の私と、激しく消耗した敵で一対一。
この状況で私に勝ち目が無いと判断しなければならない現状は……ハッキリ言って『詰んでいる』。
ここで命をつないだとしても、必ずどこかで私は死ぬ。
私自身の力の無さによって。

だから私はあの鴉に戦いを挑み、勝利しなければならない。
彼女を乗り越え、いや、彼女に勝てない自分自身を乗り越え、私は強くなってみせる。


68 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:56:34 pHLzhfWg0

「待って下さい」

「何よ。私は忙しいの」


苛立った声で、地獄鴉が振り向く。


「貴女をこのまま逃がすわけにはいきません。
 貴女を、ぶっ殺させて下さい。……私の手で、死んでいただきます」


静葉は空の目を真っ直ぐ見ながら、そう告げた。


「あなた、バカなの?
 ここでこれ以上戦ったら、二人共助からないよ。
 ……あなたが、何の為にそんなに必死なのかは知らないけどさ、
 私はさとり様をお守りしなきゃいけないの」

「大事な人なのですね」

「そうよ、大事な人。私の大事な家族なの。
 ……あなたには、いるの? いるんでしょ?」

「穣子という妹が、いました。
 ……ですが、ここに呼び出されて最初に、あの二人の男によって殺されました。
 それこそ『鉛筆をベキッとへし折る』みたいに」

「……!」

「だから、家族を守る為に戦う事ができる貴女が、少しだけ羨ましい。
 私には、そのチャンスさえありませんでした。優勝して穣子を生き返すしか、手がないのです。
 ……同情してくれとは言いません。戦って下さい、私と」


69 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:57:12 pHLzhfWg0

「……バカっ!!」

「時間なら、あと2分程なら戦っても大丈夫」

「違う! アンタがここにいる人たち皆殺しにして、
 その、ひねりこ」

「みのりこ」

「そう、みのりこ! みのりこって人を生き返らせても、その人絶対喜ばないよ!!
 『私一人のために、何人の人が死んだの!? お姉ちゃん何人殺したの!』って!!
 アンタ、自分の罪を家族にまで背負わせる気なの!?」

「そうですね、穣子を生き返す時は、何も知らないでいてもらいましょうか。
 彼女にまで、罪を背負わせる訳にはいかないもの。
 自分の罪は、地獄まで背負っていくつもりです」

「わかった。……わかったわ、アンタは、何もわかっちゃいないってことが。
 私もまだちょっとしかわかっていない……家族が罪を背負うってこと。
 だけど、アンタがこれから何人も殺して、みのりこって子をわざわざ生き返して、
 その子まで悲しい目に合わそうっていうなら、アンタは今すぐここで焼き殺す!
 この地獄の業火でね! さとり様には悪いけど、ちょっと地獄の出張サービスが必要ね!
 私はお空、霊烏路空! 私こそが、地獄よ!!」


もはや戦いは避けられないことを悟るお空。
静葉に向き直り、戦闘の体勢を取った。


「何と言われようと、穣子は私の大切な妹。あの男たちに復讐を果たし、絶対に取り戻します。
 私は秋静葉と申します。……よろしく、お願いします」


彼らが行った決闘の前の礼儀作法……意識した訳ではないが、静葉の意思が自然と、口からこぼれ出ていた。
小さく礼をし、空と相対する静葉。
その瞳には小さな漆黒の炎が宿っていた。


70 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:57:37 pHLzhfWg0

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


秋静葉はわずかに足を広げて立ち、掌を重ね、お空に向けて真っ直ぐ腕を突き出す構えを取った。


「葉符……『狂いの落葉』」


お空に向け走りだす静葉。
素早く両手を広げ、赤い手のひら大の物体をいくつも投げ放った。
赤い木の葉。血で、静葉の左手の傷から流れる血液で染められた落ち葉である。
紅葉は手裏剣のように回転し、大きな弧を描きながらお空へ殺到する。

彼女の手で塗られた木の葉は紅葉となり、霊力を込めればある程度自由に操ることができるようになる。
例えば、このスペルカード『狂いの落葉』の弾幕のように。
『紅葉を司る程度の能力』。
現在の彼女が唯一持つ武器である。

……だが。


「グラウンド、メルト!」


お空が右掌を地面に向けてかざし、核エネルギーを照射。
光線が地面をなぞり、軌道から火柱が吹き上がる。
火柱に近づくだけで静葉の放った落葉はあっさり燃え上がり、力を失った。
彼我の力の差はそれほどまでに大きい。


「……ッ!」


火柱は全く勢いを失うこと無く、静葉に向けて襲いかかる。
静葉は横っ飛びして地面を転がりつつ、辛くも火柱を回避。通り過ぎた後には炎の川ができた。
その隙にお空、本命の一撃を放たんとする。


71 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:58:07 pHLzhfWg0

「光熱、『ハイテンション ……ぐっ!!」


右腕を掲げ、スペルを宣言しようとしたお空の首筋が、突如切り裂かれる。
首の左から吹き出る血液。
静葉の放った『狂いの落葉』の1枚が、お空の背後から迂回する軌道で飛来し、
核の焔を逃れてお空の頸動脈を切り裂いたのだ。
首から吹き出る鮮血はお空の体熱によってすぐさま血煙へと変わる。
それでも、お空は止まらない。血管一本で彼女の生命には届かない。


!!Caution!!  Caution!!  Caution!!  Caution!!

「……『ハイテンション……」


つい今しがた決意を新たにしたはずの静葉が、再び戦慄に打ち震えた。
お空の右腕から出現しようとするそれは……
もはや剣(ブレード)と呼べるような代物ではない。
それは剣と呼ぶにはあまりに長く、太く、熱く、大雑把で、
幾つにも枝分かれしていて、その上蛇がのたうつように凶暴に荒れ狂っていた。
それはまさしく荒ぶる火龍、そのものだった。


72 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:58:33 pHLzhfWg0

!!Caution!!  Caution!!  Caution!!  Caution!!

「ブレエェェェェーーーーーー」


お空は出現した火龍を左肩に構え、
その勢いを地面に踏ん張って抑えこみつつ、周りを一気になぎ払いにかかる。
パワーが大きすぎて、ロクに狙いを付けられないのだ。
だが、それは些細な問題だ。
時計回りにグルっと360度一回転。それで終いだ。


!!Caution!!  Caution!!  Caution!!  Caution!!

「ェェェェェェェェーーーーーード!!』」


立ち上がった静葉だったが……この攻撃をどうかわす?
いつもの弾幕ごっこなら、炎の回転に合わせて、こちらもお空の周りを旋回してかわすのがセオリー。
だが、回転が速すぎる。烏天狗でも無い限り無理だ。
地面をえぐり、地中に潜る。鬼のような腕力が無いとそれも無理。
木登りしようにも、先ほどの攻撃でここはもう更地だ。無理。
防御……私が河童でここが水場なら、水の壁を張って一撃ぐらいは凌げるかもしれない。
つまりそれも無理。無理無理蝸牛。
残る手は一つ。跳躍して縄跳びのように回避する。
焔は巨大だが不規則にうねっており、私が跳んだところに運良くうねりの谷が来れば、かわせるかもしれない。

「はあっ!」


73 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:59:30 pHLzhfWg0

迷う暇などない。
火龍が大地を焼き払いながら静葉に迫って来る。
静葉は火龍の衝突する直前のタイミングにあわせて跳び上がった。


「あっ……」


がっ、駄目ッ……!
うねる焔の山が、火龍の背が、ぶつかってくる。
……ツキに見放されたか、秋静葉。
否、結局ここで運に頼らざるを得ない程度なら、それまでのこと。

そこで静葉の目に映ったのは、お空の頸動脈を切り裂いた『狂いの落葉』のひとひら。
お空の背後から回りこむ軌道で飛ばしたそれが、静葉自身に向かってきている。
偶然か必然か、熱気に晒され燃え上がりつつあったその赤い落葉の一枚が、
静葉の右足、靴底の下に滑り込んだ。まだ、命運は尽きていない。

……静葉は願った。
私が紅葉を司る神であるならば、落葉よ、今一度私の思うとおりに動いて欲しい、と。
宙を舞う力を失った私に、この中空を踏み切るための足場となって欲しい、と。
その願いに、落葉が応える。

右足の落葉が一瞬だけ、静葉の体重を支えるべく、空中に固定される。
静葉の右足はしっかりとそれを踏みしめ、2段目の跳躍を行う。
両足を走り幅跳びのように高く上げ、スカートの裾をわずかに焼きながら、
静葉は遂に火龍を飛び越した。


74 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/18(木) 23:59:54 pHLzhfWg0

着地目標は、熱い焔のその中心、霊烏路空。
吹き上がる熱気がチリチリと熱い。
こんな時に、こんな時なのに、こんな時だからこそ、か……
あの男の顔が、分厚い唇が、肌から立ち上る熱気が思い出される。


(最後の蹴り、悪くなかったぞ)


……接近戦だ。
霊力のケタが違いすぎる。霊力を使った戦い……弾幕では勝ち目がない。
殴り合いのケンカなんて経験無いけど、勝機はそこにしかない。


「うるぁああああああああ!!」

「そんな、跳んだ!! どうやって!?」


驚愕するお空、反応が一瞬遅れる。
反撃しようにも、『ハイテンションブレード』の大出力がアダとなる。
気を抜くと、ブレードの反動でバランスを崩してしまう。
……つまり、無防備。
ガラ空きとなったお空の左半身めがけ、静葉は飛び蹴りを放つ。
そして……。


75 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:00:45 GOZ.hVA20

バキリ。


木の枝が折れるような、乾いた音。
静葉の全体重を乗せた右足が、お空の左膝を踏み抜いていた。
左膝が内側に破壊され、ひしゃげる。
左脚の支えを失い、お空の身体も左に傾く。
それでも空は止まらない。脚の一本で彼女の生命には届かない。


「こんのおおおおおおお!!」


お空は倒れこみながらも、荒ぶる右腕を左腕で引っ張り寄せ、静葉に向けようとする。
対する静葉、地面に降り立つと腰を落とし、握り拳を腰に構えた。

静葉がこの世に現れてからの長きに渡る間、
毎年秋の終わりを告げる度に、幾度と無く繰り返してきた動作だった。
ある時は蹴りで、ある時は拳で、
赤や黄色に染まった木々を揺さぶり、散らせるために繰り返してきた動作だった。
人の身では一生掛かっても不可能な数だけ、繰り返してきた動作だった。
一瞬の間に行われた動作。だが気の遠くなる程の反復を経た、
流麗かつ洗練されたその動作は、妙にゆっくりとして見えたことだろう。


「風ノ拳『フォーリンブラスト』」


静葉はそのまま腰と腕の捻りを加え、まっすぐに右の拳を突き出した。
空手でいう、正拳中段逆突きである。
静葉の拳がお空の胴体を、赤の目を捉えた。
辺りに低い音が一つ響く。


76 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:01:01 GOZ.hVA20

必殺の威力を秘めた拳と霊力弾がお空の身体に突き刺さった。
赤の目に螺旋のヒビが入り、静葉の拳と一緒にお空のみぞおちに3寸減り込んだ。
お空の背中からは風に舞う紅葉の様に血煙が噴き出た。
お空の右腕の火龍が、姿を消した。
静葉の拳が、お空の生命に届いたのだ。


「え、あ……ゴボッ……」

「…………」


お空は煮え立つ血液を口から吐き出しながら、静葉に身体を預けるようにゆっくりと倒れこんでくる。
静葉は拳を収め、そのままの体勢で自分より頭ひとつ以上大きい彼女の身体を黙って受け止めた。
お空の身体に帯びている熱が徐々に収まりつつあるのを感じた。

もういくばくもなく、お空は息絶える。
静葉はそんな彼女の最期を、看取ってやりたいと感じた。
くだらない感傷か……違う、これは……感謝だ。
彼女との戦いが、自分の中に眠る力をいくつも呼び覚ましてくれた。
だから私は彼女に感謝している。
身勝手なことだ。……彼女にとって私は、殺してやりたいほど憎い相手のはずなのに。


「……なさい」

「!!」


その通り、お空にとって静葉は主の命を狙う敵。死んでも滅ぼさねばならない敵だった。
静葉に覆いかぶさるようにしてのしかかっおた空は、そのまま静葉の背中に腕を回し、組み付いていた。
腕を振り解こうとする静葉だったが、離れない。
どこにそんな力が残っているのか。
命燃え尽きるその瞬間まで、地獄鴉は止まらない。


77 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:01:23 GOZ.hVA20


「さとり様、ごめん! 『アビス………』」


お空の全身が再び高熱を発し始める。
胸のヒビ割れた赤の目が、最期の輝きを放つ。


「ぎゃああああああああああああ!!」


灼熱の赤の目を、顔の左側に押し当てられた静葉。
身体が焼ける響きを、内側から感じた。
鼻孔の中が肉の焼ける匂いで満たされた。
薄れゆく意識、痙攣する四肢。
さらに温度は急上昇してゆく。
今度こそ最期を確信した静葉の目に映ったのは、


78 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:01:36 GOZ.hVA20


「『ハイウェイ・スター』! 間に合って下さい!!」


寅丸星の姿だった。
ハイウェイスターに食らいつかれ、残るエネルギーを奪われたお空。
遂に地面に崩れ落ちた。


「ぐっ、うう……
 とらまる、さん……」

「静葉さん、無事ですか!?」
 ……貴女、その顔……!」

「ん?」

「ああ、ケガの具合は後です!!
 時間がない、肩を貸しますから走って下さい!」

「寅丸さんはこの地獄鴉を担いで行ってください。……まだ息があります。
 私は猫草を拾ってから追いかけます」

「……分かりました。……遅れないで下さい、静葉さん」


静葉の言葉の意図を察した寅丸星は、ぐったりするお空の身体を担ぎ上げ、東に向けて駆け出した。
焼け残っていた猫草とデイパックを拾い上げた静葉も、彼女に続いた。


79 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:01:54 GOZ.hVA20
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「この辺りまで来れば、大丈夫なはずです……」

「……そうですね……ここがまだ禁止エリアの中だったら、私達もう死んでます……」


二人は火の海となった森をくぐり抜けて何とかC−4エリアへと脱出を果たし、木陰にへたり込んで息を喘がせていた。


「寅丸さん、あのさとり妖怪は……?」

「ごめんなさい。匂いを追えず、見失ってしまいました……
 一面が炎に包まれた影響で、煙と、気流の乱れが酷くて、嗅覚が役に立ちませんでした……。
 静葉さん、その……火傷は大丈夫ですか……?」

「うーん、鏡が無いからわからないのですけど……あまり大丈夫じゃ無さそうですね。
 最後のアレは、焼けた鉄を押し当てられたみたいに熱かったですし。
 触ってみると、顔の左半分がドロドロのグズグズです。焼かれた所の中心は痛みを感じません。
 寅丸さんから見たら、どんな感じですか?」

「…………その…………何と表現すればいいでしょうか」

「……その反応で、だいたいわかりました」

「……ごめんなさい」

「謝ることありませんよ。この程度は覚悟の上です。
 それに、治す手段はあるわけですから」

「そうでしたね。わざわざ彼女に止めを刺さずにおいたのもこのためですし」


80 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:02:10 GOZ.hVA20

そう言って、寅丸星は頭から『ハイウェイ・スター』のDISCを取り出した。
静葉は黙って受け取ったDISCを自分の頭に差し込む。
静葉の目の前には地面に横たわるお空の姿があった。


「『ハイウェイ・スター』」


紫色の人型のビジョンが、今度は静葉の手によって出現した。
『ハイウェイ・スター』は知覚を本体の嗅覚に依存するスタンド。
人間並みの嗅覚しか持たない静葉にコントロールできるスタンドではないが、
この距離なら関係ない。


(寅丸さんが来ていなければ、私は貴女の道連れになっていました。
 ……勝負は、貴女の勝ちでした。……ありがとう、ございました)


星に聞こえないように、静葉は小さく呟く。
『ハイウェイ・スター』は微かに呼吸をしていたお空に容赦無く喰らいつき、残る養分を全て吸い尽くした。


「寅丸さん……どうですか?」


先ほど『ドロドロのグズグズ』になっていた顔の左側に触れながら、静葉は星に問いかけた。
火傷の痛みは引いていた。左手の切り傷も塞がっていた。
だが……


81 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:02:29 GOZ.hVA20

「……跡に残ってしまっていますね」

「やっぱり……」


無事だった顔の右半分と手で触れた感覚が違っていたから、何となくそんな気はした。
覚悟の上だったとはいえ、顔立ちの良さには密かな自信を抱いていた静葉。少しだけショックだった。


「静葉さん、それも治らない傷では無いと思いますよ。
 ほら、私の左腕も、二の腕までは生えてきてますし」


星はそんな静葉の様子を察し、気遣いの言葉を掛けてきた。
一方で静葉は、ふと、どこかで話に聞いたこんなことを思い出していた。

何かしらの強い想いの篭った傷跡は、長い間残り続ける、と。

あの地獄鴉だって、必死だったのだ。
この火傷の跡には、相応の念がこもっているはずだ。
私達が、いや、私が闘う相手の多くが、彼女のような必死な想いを抱いて立ち向かってくるに違いないのだ。
……そうだ、この傷は、始まりに過ぎないのだ。


「……寅丸さん、すぐにあのさとり妖怪を追いましょう。
 南の方に逃げたはずです」

「傷は大丈夫ですか、静葉さん」

「ええ。それより、『ハイウェイ・スター』の弱点を知られたかもしれません。
 ……彼女は優先して片付けなければなりません」


二体の夜叉は再び立ち上がり、歩き出す。
……彼女たちに休息の時は、まだ訪れない。


82 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:02:48 GOZ.hVA20

【C-4 魔法の森 西/朝】

【秋静葉@東方風神録】
[状態]:顔の左半分に酷い火傷の痕(視覚などは健在。行動には支障ありません)
精神疲労(中)、霊力消耗(中)、肉体疲労(小)
覚悟、主催者への恐怖(現在は抑え込んでいる)、エシディシへの恐怖、
エシディシの『死の結婚指輪』を心臓付近に埋め込まれる(2日目の正午に毒で死ぬ)
[装備]:猫草(ストレイ・キャット)@ジョジョ第4部、上着の一部が破かれた、服のところが焼け焦げた
[道具]:基本支給品、不明支給品@現実×1(エシディシのもの、確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:穣子を生き返らせる為に戦う。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。寅丸と共に強くなる。
3:さとりは必ず仕留める。確かB−4エリアから南に逃げたはず。
4:エシディシを二日目の正午までに倒し、鼻ピアスの中の解毒剤を奪う。
5:二人の主催者、特に太田順也に恐怖。だけど、あの二人には必ず復讐する。
6:寅丸と二人生き残った場合はその時どうするか考える。おそらく寅丸を殺さなければならない。
[備考]
※参戦時期は少なくともダブルスポイラー以降です。
※猫草で真空を作り、ある程度の『炎系』の攻撃は防げますが、空の操る『核融合』の大きすぎるパワーは防げない可能性があります。

【寅丸星@東方星蓮船】
[状態]:左腕欠損(二の腕まで復元)、精神疲労(中)、肉体疲労(小)
[装備]:スーパースコープ3D(5/6)@東方心綺楼、スタンドDISC『ハイウェイ・スター』
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を護る。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。静葉と共に強くなる。
3:さとりは必ず仕留める。確かB−4エリアから南に逃げたはず。
4:誰であろうと聖以外容赦しない。
5:静葉と二人生き残った場合はその時どうするか考える。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※能力の制限の度合いは不明です。
※ハイウェイ・スターは、嗅覚に優れていない者でも出現させることはできます。
 ただし、遠隔操作するためには本体に人並み外れた嗅覚が必要です。


83 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:03:07 GOZ.hVA20

◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

お空が、まだ来ない。

B−5エリアの森の中、さとりは木の枝に腰掛け、
『足跡』に用心しつつ、お空が追い付いてくるのを待ち続けていた。
北の方角、お空がまだいるはずのB−4エリアを見ると。
森の木々や煙と炎に阻まれた先で、小さな光が1回、一際大きな光が1回、
そしてもう1回光が輝くのが見えた。
さとりが見間違えるはずもない、お空のエネルギーによる光だ。

それから何分も待ち続けているが、お空の姿は見えない。
B−4エリアを脱出していなければ、とっくに頭を爆破されている時間だ。

あの子のことだ、落ち合う場所を忘れてしまい、見当外れの所に向かっているだけかもしれない。
けど、あの子のことだ。きっとこの場所を思い出してくれるに違いない。

心でそう願っていても、頭ではうすうす解っていた。
……きっとお空は助からなかったのだ。

それでも、さとりは何分でも、何時間でも、少なくとも次の放送までは彼女をここで待ち続けるつもりでいた。
それが家族の義務だと信じていたからだ。

だが、彼女のぽっこり膨らんだお腹がそれを許してくれなかった。
さとりは目眩がする程の空腹に襲われていた。
本来妖怪である彼女は、多少の間なら、飲まず食わずでも何ともない。
だが今回ばかりは事情が違った。
ほんの少し補給できた分を差し引いても、『ハイウェイ・スター』にエネルギーを奪われ過ぎていたのだ。

食料も無しにこのままここで待ち続けていては、栄養失調で失神、最悪餓死してしまう。
それだけは避けなければならない。
さとりは苦渋の思いでこの場を発ち、まずは食料を探すことを決断する。

断腸の思い。だがそんな時でも、腹は減る時は減るのだ。


84 : ノーカラテ・ノーサヴァイヴ ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:03:30 GOZ.hVA20

【B-5 魔法の森 北/朝】
【古明地さとり@東方地霊殿】
[状態]:脊椎損傷による下半身不随?内臓破裂(波紋による治療で回復中)、極度の空腹、
体力消費(大)、霊力消費(中)
[装備]:草刈り鎌、聖人の遺体(頭部)@ジョジョ第7部
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:地霊殿の皆を探し、会場から脱出。
1:食料を確保する。
2:億康達と会って、謝る。
3:襲撃者(寅丸星と秋静葉)との遭遇を避ける。(秋静葉の名前は知らない)
4:お腹に宿った遺体については保留。
[備考]
※会場の大広間で、火炎猫燐、霊烏路空、古明地こいしと、その他何人かのside東方projectの参加者の姿を確認しています。
※参戦時期は少なくとも地霊殿本編終了以降です。
※読心能力に制限を受けています。東方地霊殿原作などでは画面目測で10m以上離れた相手の心を読むことができる描写がありますが、
 このバトル・ロワイアルでは完全に心を読むことのできる距離が1m以内に制限されています。
 それより離れた相手の心は近眼に罹ったようにピントがボケ、断片的にしか読むことができません。
 精神を統一するなどの方法で読心の射程を伸ばすことはできるかも知れません。
※主催者から、イエローカード一枚の宣告を受けました。
 もう一枚もらったら『頭バーン』とのことですが、主催者が彼らな訳ですし、意外と何ともないかもしれません。
 そもそもイエローカードの発言自体、ノリで口に出しただけかも知れません。
※両腕のから伸びるコードで、木の上などを移動する術を身につけました。
※『ハイウェイ・スター』について、情報を得ました。
 ○ハイウェイ・スターは寅丸星の能力。寅丸星と同じエリアが射程距離。
 ○ハイウェイ・スターは一定以上のスピードを出せない。
 ○ハイウェイ・スターは一度に一つの標的しか追えない。
 ○ハイウェイ・スターにこちらから触れることはできない。
 ○ハイウェイ・スターに触れられると、エネルギーを奪われる。
 ○ハイウェイ・スターは炎で撹乱できる。(詳細な原理はまだ知らない。)


85 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/19(金) 00:03:51 GOZ.hVA20
以上で投下を終了します。


86 : 名無しさん :2014/09/19(金) 00:34:14 Y1c4RDNk0
投下乙です。
グワーッ!お空が……色々と気付けた矢先に……
そして公正なる果たし合いの結果カラテと消えない傷を得た静葉様。
無情で悲しいけれど深妙で面白い話でした。


87 : 名無しさん :2014/09/19(金) 00:56:29 yUvlUwTk0
きっとそうなるとは思っていたがここでお空退場か…
さとりの生死、そして修羅の道を行く2人はこれからどうなっていくのか…


88 : 名無しさん :2014/09/19(金) 09:55:03 K5oMB9As0
さとりってディアボロからも狙われて大変だなオイ


89 : 名無しさん :2014/09/19(金) 11:38:48 oLra9UZ.0
投下乙です。
家族を守るために立ち上がったおくう。
その前に立ちはだかったのは家族を取り戻すために戦う静葉。
対照的な二人の奇妙な繋がりと激突が実に印象的でした。
マーダーでありながら少しずつ成長し、漆黒の殺意に目覚めていく静葉は今後が気になる。


90 : 名無しさん :2014/09/19(金) 13:57:29 E956hDcIO
投下乙です。

出会う敵みんなから狙われるさとり。
それだけ、読心が恐ろしい能力って事だな。


91 : 名無しさん :2014/09/19(金) 14:23:56 CQPmoAHc0
投下乙!
【Strawberry Fields?? 】
前話に続いて複雑に交差する9人のドラマは見てるだけでワクワクしました。
にとりも吉良も危険思考だけど一番ヤバイのは他からはほぼ完全ノーマーク扱いのぬえな気がする。
誰がいつ死ぬか分からない均衡状態がハラハラします…

【ノーカラテ・ノーサヴァイヴ】
お空…そんな気はしたが地霊殿組の最初の脱落者になっちゃった…
お空も静葉も最後に自分の意思を吐き出し合い、ぶつかり合い、そして静葉が制した。
両者の成長が染みる面白い話でした。


92 : 名無しさん :2014/09/19(金) 23:21:25 o5aTiXxI0
投下乙
お空のこと好きだっただけに辛い
でも、家族のことで怒る姿は彼女らしかったし、最後まで貫いたお空は立派だよ


93 : 名無しさん :2014/09/20(土) 16:36:53 LUEb13oQ0
投下乙
なんて熱い戦い…
前半の逃避行も後半の一騎打ちも読んでいてゾクゾクした
静葉の決意と空の奮戦にはとても興奮したし、名作が読めていい気分だ


94 : ◆YF//rpC0lk :2014/09/23(火) 21:17:16 SspMWokg0
まとめwikiについてお伺いします。
現在◆.OuhWp0KOo氏の作品をまとめているのですが、氏の作品名は『呼び覚ませ、猿人時代の魂』『ノーカラテ・ノーサヴァイヴ』のどちらなのでしょうか?
それとも前編後編でそれぞれ分かれていますか?
前編後編の場合、どこから明確に分けるべきでしょうか?


95 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/23(火) 21:41:52 ulFwuNLs0
>>94
まとめwiki編集お疲れ様です。


>>62までが『呼び覚ませ、猿人時代の魂』
>>63以降が『ノーカラテ・ノーサヴァイヴ』の前後編で書いたつもりでした。

わかりにくかったみたいでごめんなさい。


96 : ◆YF//rpC0lk :2014/09/23(火) 22:47:36 SspMWokg0
>>95
有難うございます。
該当箇所を修正しました。


97 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/09/27(土) 01:12:47 MdLuGNYQ0
古明地こいし、ワムウ 予約します


98 : 名無しさん :2014/09/27(土) 01:44:38 zGZGCXcA0
ワムウも子供には優しい


99 : 名無しさん :2014/09/27(土) 19:53:51 7OU3Oj/c0
無害な女子供には優しい


100 : ◆qSXL3X4ics :2014/10/03(金) 00:18:40 SaOsPYh20
主人公組の話がどうにもまとまらないので、申し訳ないですが完全に白紙にします(既に破棄はしてましたが)

代わりにではないですが、射命丸文、火焔猫燐、ホル・ホースの3名を予約します


101 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/04(土) 01:27:38 P7zP8gvc0
予約を延長させていただきます


102 : 名無しさん :2014/10/06(月) 22:16:57 aexQgiq.0
今更だけどメタリカって制限で姿を消すことはできなくなってなかったっけ?


103 : 名無しさん :2014/10/06(月) 22:24:37 wgp1pReQ0
まぁ正体を解らなくする能力を活用したと考えれば何とか…


104 : 名無しさん :2014/10/06(月) 22:25:19 wgp1pReQ0
正体を解らなくする能力+メタリカの活用の方が正しいか


105 : 名無しさん :2014/10/06(月) 23:06:55 aexQgiq.0
一応正確な文は

「制限により鉄分を纏って姿を隠すことは不可能になっている」

だし、正体を判らなくする能力も消えるわけじゃないから、難しい気もするけど……


106 : ◆n4C8df9rq6 :2014/10/07(火) 00:16:03 cVWzCwqc0
メタリカのスタンドDISCを支給した者です。
一度wikiに収録されてからの大幅な修正というのも書き手様にとって負担になってしまうと思うので、
恐縮ながらメタリカのスタンドDISCの説明文の変更は大丈夫でしょうか?
自分自身であの制限は無い方が良かったかなとも感じていたので…


107 : 名無しさん :2014/10/07(火) 00:39:21 nvL42oCc0
吉良がバイツァダスト習得したように、ぬえも「身の危険」+「正体不明の能力」でメタリカの幅を広げたって感じだし
現状維持で問題ないんじゃない? 
説明文の変更も 不可能になっている を 難しくなっている って直す程度で個人的には大丈夫だと思う


108 : ◆YF//rpC0lk :2014/10/07(火) 21:34:54 RL62inJk0
今のところメタリカが使用されたのが登場時と該当する話だけのようですし
透明化もメタリカの魅力だと思いますので、>>107のような修正をwiki上で行います。


109 : ◆n4C8df9rq6 :2014/10/07(火) 22:33:04 cVWzCwqc0
>>107
>>108
了解です、御意見および修正ありがとうございます。


110 : ◆qSXL3X4ics :2014/10/10(金) 19:40:48 uO19fA6E0
もう大体は出来上がっていますが、本日中には厳しいので一旦延長します


111 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:51:37 4x.XbAVA0
古明地こいし、ワムウ、投下します


112 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:52:00 4x.XbAVA0

暁の空の下を風が駆け抜ける。
柱の男・風のワムウは襲い来る眠気と脱力を精神力ではね除け、何とか目的である廃洋館に辿り着いた。
表情は依然、形容出来ぬほど歪んでいる。
一万と数千年を生きたワムウでさえ、己が感情を持て余し整理できずにいた。
だが弱点である太陽は登りつつあり、外で思索しているわけにもいかないので、
ひとまず陽の光から逃れるべくワムウは館の中へと入った。


113 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:52:35 4x.XbAVA0

ワムウは館の中に入ると、まず探索することから始めた。
いざという時地理を把握していなければ、戦闘になった時不利になるからである。
見渡すと館はそれなりに広く、外観からは考えられないほど整頓されていた。
入り口であるエントランスホールであれば戦闘をするにも十分な広さがある。
造りは二階建てのようで、二階にも多くの部屋があった。
先に二階から全ての部屋を見て回ったが、二点ほど気になることがあった。
一つは、一室だけベッドもシーツが無い。他の部屋には会ってそこにだけないのは不自然だ。
今は何の気配もないが、おそらく先にこの館に入ったものが持ち去ったのだろう。
二点目は、どの部屋にも共通して、各種様々な楽器があった。
弦楽器、吹奏楽器、鍵盤楽器、打楽器など、年代物やどこの国の物かも分からないものまで含めて複数置かれていた。
館の住人の趣味だと考えられるが、あいにくワムウには楽器への興味など一切なかったので、一瞥すると再び探索に戻った。
続いて一階の奥の部屋へと進む。
一階の奥はリビングとなっており、隣室には客室やキッチンやバスルーム、トイレなどもあった。
おそらく館の住人たちはこのリビングでくつろぎ、生活を送っていたものと思われる。
そして更に調べてみると、キッチンの奥に勝手口を発見した。
これで地理的に把握が必要であった出入口や窓の位置を全て知ることが出来たので、
ワムウは位置的に最も条件が良いリビングで待機することを決めた。
リビングの奥にある暖炉の前にどっしりと座り込み、ワムウは傷の回復を待つ間、思索を始めた。


114 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:53:20 4x.XbAVA0

何故、自分は奥義である神砂嵐の隙を突かれて敗北し、経験したことのない敗走を情けなく味わったというのに、
屈辱や怒りと共に喜びと楽しさを感じているのか。
ワムウには自分の感情が分からなかった。
本来ならば相応のショックを受け、呆然としていてもおかしくない。
ある意味この経験したことのない感情の昂ぶりが一種のショックなのかもしれないが。
思えば敗走といいこの昂ぶりといい、この殺し合いの場に来てからワムウは初めて味わうことばかりだった。
そう、今の今までワムウは無類無敵、敗北を知らない歴戦の戦士だった。
だからこそ、今の感情がある。
ワムウは純粋なまでに、生来の格闘者だった。
一万数千年の生の中一度の敗北もなければ、額に傷を付けられることすら、
一月ほど前ジョセフ・ジョースターにやられるまでなかった。
故に格闘者として確固たる自信を持っていたし、その実力はワムウの主であるカーズやエシディシも一目置くほどで、
自他ともに認める『戦闘の天才』だった。
だが同時に、一万数千年の時は、彼に『敵』を与えなかった。
宿敵である波紋戦士も惰弱。主と戦うなどもっての外であるし、同輩であるサンタナも落ちこぼれ。
ワムウにとっては強者こそが真理であり、勝者こそが正義であり友情であるのに、永い長い時の中、ワムウは孤独だった。
しかし、この殺し合いの場に来てからは違った。
翼の娘、ジョリーン、マリサ。半日も経たぬうちに三人もの素晴らしい戦士と相まみえ、戦った。
恋い焦がれた闘争がここにはあったのだ。
それは戦士として至上の喜びであったし、ずっと待ち望んでいたことだった。
それでもワムウは一戦士である前に、主のために戦う戦士、そしてそうしてきた時があまりに長すぎた。
戦士としてのワムウと、カーズとエシディシのためのワムウ、そのせめぎあいも混ざり、
今のワムウの混沌とした感情を形成していたのだ。
つまり今ワムウが感じている全ては正解であり、それ故に混乱へとつながっていたのだ。
言葉にまとめてしまえばそれまでだが、思い悩む当のワムウは中々整理がつけられずにいた。
果たして自分はどうすべきなのか。
この場に主たちがいればワムウは思い悩むこともなかっただろう。
命令さえあれば私情より忠義を優先できるのだから。
だが今この場に主たちはいない。同じ地にいれども傍にはいない。
一万数千年の絆と一万数千年の渇望、相反する考えが混在し、ワムウを思い悩ませる。


115 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:53:55 4x.XbAVA0

ワムウはしばらく考えていたが、一旦思索を止め、一向にまとまらない思考と昂ぶる感情を少しでも落ち着けるべく、
立ち上がりキッチンへと向かった。
そして水を貯めている瓶に頭を突っ込む。
冷水がワムウの高まった体温を下げるが、心の内にまでは作用してくれない。
ワムウはしばらくそうしていたが、突然、どこからか声が響き顔を上げる。
すわ敵かとワムウは一瞬のうちに臨戦態勢に入ったが、よく聴けばその声はおよそ六時間前に聴いた、
主催者の一人”荒木飛呂彦”の声だ。

「成る程、これが放送とやらか」

最初言われていた放送のことを思い出し納得する。
禁止エリアや死亡者の情報は必要なので、ワムウは思考を切り替えた。
まず死亡者から読み上げられる。
死者の総数は18。その中でワムウが知る名はシーザー・アントニオ・ツェペリ一人。
友を殺された怒りで無謀にも自分に挑みかかってきた未熟な波紋戦士だった。
より強くなり再戦を挑んでくることを期待していたが、それは叶わなかったようだ。
同じツェペリ姓のウィルという名も気にはなったが、所詮は死者。
ワムウは何の感慨もなく死者たちの名を死者として記憶する。
だがその死者の数と、死者と自分の違いを考えた時、ワムウには思うところがあった。
続いて禁止エリアの発表。これはエリアB-4と遠く、今の所何の影響もなかった。
そして最後に、おそらく自分や他の柱の一族、吸血鬼たちに対しての言葉。
曰く会場内には地下が存在し、その中には太陽を克服出来る『面白いもの』とやらがあるとのこと。
ワムウはこの洋館内の地下までは詳しく調べていなかったので、傷が回復し次第探索することを考えた。
そして、放送は終わる。


116 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:54:21 4x.XbAVA0

ワムウは放送が終わったことを認識すると、またリビングに戻った。
そして、思索を再開する前に、突如ワムウは奇行に走った。
なんとワムウは突き立てた親指を自らの眼の前に構え、その瞳を刺し抉ったのだ。
勿論ワムウは気がふれた訳ではない。
それはワムウにとっての精神回復の儀式、スイッチング・ウィンバックにあたる行為だった。
だがなぜ突然その行為をしたかといえば、放送を聞き、ワムウは考えたのだ。
果たして死者と自分になんの違いがあったのかを。
一戦目の翼の娘との戦いの時はまだよかった。十全いつも通り、自身の戦闘スキルを駆使し最大限の戦いをした。
偶然がなければあのまま翼の娘を仕留められただろう。
だが二戦目、ジョリーンとマリサとの戦いは違った。
決定的に、浮き足立っていたのだ。戦えないことに感情を乱し、ようやく出会えた敵を前に、
まるで飢えた野獣のように盲目に戦ってしまった。結果虚を突かれ、情けなく敗北を喫した。
もし、相手に波紋や太陽の力があれば、もし自分が屈強な柱の一族でなければ、
自分がこの放送の19人目として読み上げられていても何らおかしくなかった。
だが自分はこうして生き延びている。多少の手傷を負ったのみで、その傷も治りかけている。
このままでは二戦目と同じことを繰り返すだけではないのか?。
そう思ったが故に、ワムウは自らへの戒めとして眼を抉ったのだ。
そしてその傷をあえて残すことで、反省を心体共に深く刻み込んだ。
すると、鋭い痛みは冷水などよりずっと、ワムウの精神を落ち着けた。
この傷が治るのは、ワムウが真に自身の感情を克服出来たと確信する時だろう。
そうして、落ち着きを取り戻した精神で、ワムウは再び思索を再開した。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


117 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:55:23 4x.XbAVA0

あてどもなく、幽鬼の如く彷徨う影一つ。
閉じた恋の瞳、古明地こいしだ。
こいしは相次いだ混乱と悲劇と自責で、茫然自失となりながら、ただ歩くことしかできなかった。
もともと一度は壊れた心だった。だが、地底を出て、幻想郷の不思議な住人達と触れ合ううちに、
その心は少しづつ柔らかくほぐれ、こいしの心は少しだけ元に戻りかけていた。
しかし、そんな時に起きたこの凄惨な殺し合いは、孵化したばかりの蝶の様に柔く脆い
こいしの心を、再びボロボロに叩き壊したのだ。
利用され、翻弄され、その果てに助けられたかもしれなかった友達を見捨てた。
ただでさえ不安定だった心は、自責の念がとどめとなり、いびつに歪み、考えることを放棄させた。
今はただ誰かの肌のぬくもりが、優しい言葉が、欲しかった。
だが同時に、こんな自分が優しくされる価値はないとも思っていた。

「お姉ちゃん……お燐、お空……私……私……」

姉やそのペット、親しい人達の顔が浮かんでは消える。
何が正しいことなのかを見失ったこいしの、最後の寄る辺は『家族』だった。
だが声を出せども、その声に応えるものはいない。
差し込む暖かな日差しも、絶望的な孤独と虚無感を埋める役には立たない。
そんな風に、消えてしまいそうな足取りで彷徨っていた時である。
先程森を抜けた際発見した、朽ちかけの、古い洋館のような建物の門前に辿り着いた。
門が開いていて、明らかに先に入ったものがいる痕跡があったが、
こいしは迷うことなくその洋館に入っていった。
理由は、そのボロボロな外装が今の自分にお似合いだと思ったし、
幻想郷には珍しい洋風建築がどこか地霊殿を思い出させたからだ。
もちろん大きさも華美さも地霊殿とは比べ物にならないが、今はただ、何も考えずに休める場所があればよかった。
それに例え人がいても、それが自分に害なす存在だとしても、
自分は誰かに殺されても仕方がない奴だと思っていたし、だれでもいいから人に会いたかった。


118 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:56:14 4x.XbAVA0

扉を開くと、それなりに広いエントランスホールがあった。
窓からカーテン越しに差し込む光だけの、ぼんやりとした明るさでいまいち仔細な内装は分からないが、
外装に比べれば幾分も整頓されている。
二階建てのようだが、人の気配は一階の奥から感じるのでこいしはそのまま一階を進む。
そして開け放たれた扉からリビングと思われる部屋を覗くと、いた。
やはりこの館には先客がいたようだ。
暖炉の前に座り込み、まるで石のように動かない。
変わったセンスの持ち主の多い幻想郷においてもなお憚られるような服装の、
屈強な肉体を持った男性だった。
見るからに危険な雰囲気を醸し出している。
しかし擦り切れすぎて、こいしは恐怖を感じることすら忘れていた。
何の警戒もなく無防備に、ただフラフラとその男――ワムウに近づいていった。

「ねえ、おじさん」

無音に近しい部屋に、朧気な声が響く。
歴戦の戦士ワムウと言えど、突如、意識の外から話しかけられたことには驚愕した。
今になってみれば部屋の気流の乱れからも何者かが侵入したことは明らかだったが、
気付かずにここまで接近を許してしまった。
だがワムウは動じない。何故なら侵入者にあまりに気迫がなかったのだ。
殺気どころか何の覇気すら感じない。真昼の月のようなぼんやりとした存在感。
目の前にいるかさえ辛うじてしかわからない程だ。
ワムウの判断からすれば、そのような気勢の者が例え自分に戦闘を仕掛けてきたとしても、
自分が負ける道理は一切ない。それに相手は少女のようだった。

「貴様、どうやってここまで接近したか分からんが、即刻立ち去れ。
 さすれば命は獲らん」

低い凄みのある声で、わざと恐怖を感じて逃げるように殺気も織り交ぜて、ワムウは忠告をした。
ワムウは戦士であれば女だろうと容赦はしないが、そうでない女子供をいたぶる趣味はなかった。
主達の命令でさえ躊躇してしまうほどだ。
それが例え殺し合いの場であったとしても、必要に迫られるまでその考えを改める気はない。
だが――

「お願い……何も悪いことしないから……一緒にいさせて……
 一人は嫌なの……お願い……」

――少女は、こいしはワムウの忠告を無視して、その場に座り込み懇願した。


119 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:56:41 4x.XbAVA0

その後ワムウがどれだけ立ち去らせようと脅しても一切逃げようとせず、すがるような瞳でその場にいつづけたので、
ついにワムウ側が折れた。
決して同情したわけでもセンチになったわけでもない。
ただどう言っても聞かないならばどうしようもないので、条件付きでそこにいることを許可したのだ。
その条件とは、決してワムウの行動に干渉しない。敵が来れば安全は保証しない。基本的に相手はしない。
その三つだ。守れなければ力づくで追い出すと宣言したが、こいしは「それでもいい」というので話は成立した。

そうして話が落ち着くと、一転してこいしはワムウに次々と話しかけた。

「ねえおじさん、おじさん名前なんて言うの?私は古明地こいし。こいしって呼んでね」

「……ワムウ。風のワムウだ。言っておくがおれは最低限のことしか相手はせんぞ。あまり話しかけるな」

「へぇぇ〜、おじさんワムウさんっていうのね。ワムウおじさん!変わった名前ね。
 それでワムウおじさんは何をしてる人なの?私ちょっと世間知らずだからおじさんみたいな人見たとない」

「…………」

「大道芸人?剣闘士?それとも宇宙人だったり!?」

「…………」

「おじさんの友達とか家族もそんな恰好なの?もしそうなら人類の夜明けだねそりゃ」

「…………」

ワムウが一切相手をせずとも、こいしは言葉を止めない。まるで言葉を止めれば死んでしまうかのように、話し続けた。
言葉を絶やさぬことで忘れようとしていたのかもしれない。今の状況を、自らの罪を。


120 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:57:14 4x.XbAVA0

だがしばらく話し続け、話の内容が身の上話に変わり始めた頃からこいしは再び暗い表情になり、うつむきがちになっていった。

「私ね、覚っていう心を読むことの出来る妖怪なの。でもね、ほんとのことを知りたくなくて、嘘をほんとと信じたくて、
 誰からも嫌われたくなくって、心を読むための第三の瞳を閉じちゃったの。
 そうすれば嫌われずに済むと思ったから……。
 でも現実はそうじゃなくて、誰からも認識されなくなるだけだった……」

「…………」

「そう言えばおじさんの両目も潰れているけど何かあったの?
 だれかから何かされた風には見えないけど」

こいしは答えが帰ってくることを期待せず質問をしてみたが、これにはワムウは答えてくれた。

「これはおれ自身への戒めだ。二度と感情を乱さぬためのな」

ワムウはそのことを自分に再認識させるように短く答えた。

「そっか……おじさんは見た目だけじゃなくて強いんだね……私は逃げるために眼を閉ざしたけど、
 おじさんは立ち向かうために光をなくしたんだ……。
 私は……弱くて……ここに来てからも何も変わらなくって……
 何を信じていいか分からなくって、流されて、人を傷つけて、友達を……見捨てて……!
 無意識なんて言い訳にならないの……!全部……全部私が弱いから……
 だから神父様も、あのお兄ちゃんも、チルノちゃんも……!私が、私が!」

「そうだな」

「えっ?」

こいしの慟哭を、突如ワムウは肯定した。

「おれから言わせれば、貴様が弱いことが全ての原因だ」

ワムウはそう断言した。


121 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:57:48 4x.XbAVA0

「そう……だよね……」

こいしは体育座りの体勢で、自分を抱きかかえるように体に腕を回しうつむく。

「私……どうしたらいいんだろう……寂しくって怖くって、私なんて誰にも関わるべきじゃないのに、
 おじさんにも迷惑かけて……本当にごめんなさ――」

「『強さ』とはなんだ?」

ワムウはいきなりこいしの言葉を遮り、こいしに問う。
ある種その問いかけはワムウ自身への問いでもあるのかもしれない。

「えっ……えーと……それは力が強かったり、凄い能力があったり、誰かを守ることが出来たりすること、かな?」

こいしは少し考えてみたが、一般的な答えしか浮かばなかった。
その答えを聞きワムウは語り始める。

「それがお前の答えか?確かにそれもあるかもしれない。だがそれは強さの一側面、強さの結果に過ぎん。
 強さにはそれの源となる各々の信念がある。おれにとっては強者こそが真理であり、勝者こそが正義であり友情、
 この掟こそ信念。故に強者を尊敬し全霊を尽くし闘う、それがおれの強さだ。そしてその信念は一つではない。
 ある者は友の復讐を果たすために、ある者は家族を守るために、ある者は己が願いを叶えるために、
 潜在する力以上を発揮する。お前はそれが無い故に弱い、故に流される、故に失う。
 もう一度考えてみろ、お前にとっての強さを。他人のものではない自分自身の信念を」

そう言い、ワムウはまた黙った。
ワムウはこいしの後悔を、弱さを、その吐露を聞くことで、自身の答えを見出していた。
二戦目、ジョリーンとマリサと戦った時は、闘いに溺れ自己を、信念を見失っていた。
闘うことだけに心を奪われてしまっていたのだ。そのことが分かった。
自身の強さ、その根源は始めから何も変わらない。掟を貫く、それさえ守れればそれでいい。
忠義も己が願望も、掟さえ守れば真実は後からついてくる。
正しさを見失い翻弄されるこいしを見て、それに気付くことができた。
そしてその礼代わりに、こいしに助言を与えた。


122 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 22:59:41 4x.XbAVA0

そうして会話が終わると、こいしは急にうとうとし始めた。

「ふふっ、おじさんのおかげかな……少しだけ心が軽くなって眠くなってきちゃった……」

こいしは目をこすりながら呟く。
今まで起こった凄惨な出来事は、こいしの体にも心にも重い疲労を与えていた。
当然のようにそれは眠気に直結する。

「寝たければ寝るがいい。もっともおれは傷が治り次第再び行動を開始するがな」

「ええ〜おじさんともうちょっと一緒にいたいな……でも……眠いや……
 おじさん、お休み……きっとまた、お話しようね……」

そう言い終えると、こいしは眠りに就いていた。
その寝顔は安らかとは言いがたいが、館に入ってきた時に比べれば少しは生気を取り戻している。
ワムウとしてはこれ以上世話を焼く気もないので、自身の回復を図るため瞑想を始めようとした。
が――

「ヌウウッ……!」

――それは無意識だった。こいしは眠りに落ちた完全に無意識の状態で、ワムウに気づかれること無く、
そのたくましい足を抱きまくらにするようにして抱きついていた。
これには流石のワムウも困惑する。


123 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 23:00:12 4x.XbAVA0

「おい、貴様離れろ、意識があるのだろう、おい」

呼びかけてもこいしは一切答えない。当然だろう、寝ているのだから。
無意識の願いが、無意識にこいしを行動させたのだろう。
ワムウは何度揺さぶっても声をかけてもこいしが目を覚まさないので、
一旦起こすことを諦めた。足を思い切り振れば離れるだろうが、
より面倒なことになりそうなので自身の傷が回復するまでの間、その状態であることを容認した。
歴戦の戦士ワムウであろうと、無意識少女の奇行にはペースを乱される。
それでもとにかく、ワムウ自身の道は定まった。
この殺し合いの場であろうと掟を貫く、ただそれだけだ。


124 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 23:00:51 4x.XbAVA0

こうして、柱の男と覚れぬ覚りの奇妙な朝は過ぎていく。
柱の男との添い寝など、地球史上初めてのことだろう。
目を潰し苦悩した純粋な二人は、奇縁を共にする。
寂れた洋館の中で、ただゆっくりと時間は進んでいった。


125 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 23:01:39 4x.XbAVA0

【D-3 廃洋館内/朝】


【古明地こいし@東方地霊殿】
[状態]:肉体疲労(大)、精神疲労(大)、睡眠中、ワムウの足に抱きついている
[装備]:三八式騎兵銃(1/5)@現実、ナランチャのナイフ@ジョジョ第5部(懐に隠し持っている)
[道具]:基本支給品、予備弾薬×7
[思考・状況]
基本行動方針:…………
1:少女睡眠中。
2:自分自身の『強さ』を見つける。
3:ワムウおじさんと一緒にいたい。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降、命蓮寺の在家信者となった後です。
※ヴァニラからジョニィの能力、支給品のことを聞きました
※無意識を操る程度の能力は制限され弱体化しています。
気配を消すことは出来ますが、相手との距離が近付けば近付くほど勘付かれやすくなります。
また、あくまで「気配を消す」のみです。こいしの姿を視認することは可能です。

【ワムウ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:全身に中程度の火傷(再生中)、右手の指をタルカスの指に交換(いずれ馴染む)、頭部に裂傷(再生中)、
失明(いつでも治せるがあえて残している)、足にこいしが抱きついている
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:掟を貫き、他の柱の男達と合流し『ゲーム』を破壊する
1:傷の回復が終わり次第、廃洋館内の地下を調べる。
2:カーズ・エシディシと合流する。南方の探索はサンタナに任せているので、北に戻る。
3:霊烏路空(名前は聞いていない)と空条徐倫(ジョリーンと認識)と霧雨魔理沙(マリサと認識)と再戦を果たす。
4:ジョセフに会って再戦を果たす。
5:主達と合流するまでは『ゲーム』に付き合ってやってもいい。
6:こいしが面倒。
[備考]
※参戦時期はジョセフの心臓にリングを入れた後〜エシディシ死亡前です。
※失明は自身の感情を克服出来たと確信出来た時か、必要に迫られた時治します。


126 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/10/11(土) 23:04:58 4x.XbAVA0
これにて投下終了です。
タイトルは「ワムウとこいしのDOKIDOKI添い寝物語」です。
長い時間かかった割に短くてすみません。
ご指摘、ご感想などあれば是非。

そう言えば、廃洋館はプリズムリバー邸だという前提で書いてしまっていましたが、
よろしかったでしょうか?


127 : 名無しさん :2014/10/11(土) 23:57:39 3q0biWq20
投下乙です。
確固たる強さを持つワムウ、自分の弱さに囚われるこいしちゃんの邂逅
苦難の連続だったこいしちゃんだけどようやく安らぎの時間を得られたか
強者であるワムウおじさんとの出会いが彼女にどんな影響を与えるか気になるな
そしてこいしちゃんに引っ付かれるワムウ爆発しろ


128 : 名無しさん :2014/10/12(日) 00:22:39 A.P9qa6EO
投下乙です。

ジョセフの次に会ったまともな相手がワムウとは奇妙な。


129 : 名無しさん :2014/10/12(日) 00:23:29 MAdJb00w0
ちょっとワムウの爆弾だけ爆破してみない?


130 : 名無しさん :2014/10/12(日) 00:25:12 a9vjovsU0
原作で火炎瓶投げられて爆発してたからそれで勘弁してやって


131 : 名無しさん :2014/10/12(日) 00:52:02 qLQjJF4I0
おのれいワムウ*それでも戦闘者かッ*はやくその場所を変わるのだ**
投下乙です


132 : ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:30:32 JY8yVGgY0
投下乙です。
ワムウおじさんの戦士としての優しさが沁みる話でした。
こいしちゃんの心もかなりボロボロだけど果たしてこの先まともな道を歩めるのか…
今はただぐっすり休んで欲しい。

それでは予約分を投下したいと思います。


133 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:35:47 JY8yVGgY0
――Q.それでは次の質問ですけど、『スティール・ボール・ラン』レースとは一体どのような催しなんですか?

『まあ、簡単に言えば乗馬による大陸横断レースだ。
 総距離約6,000km。世界中から集まった参加者は3,600人を超え、優勝賞金はなんと5,000万ドル(60億円)の超大規模な大会さ』


――6,000km! 幻想郷の何十倍もの距離を馬のみで! あや〜それは無謀というか、鴉天狗でさえ骨の折れる距離ですね〜。
  で、ジョニィさんはそのレースに出場してたわけですか。

『ああ。もっとも賞金が目当てではなく、半身不随だった脚を再び動かすための旅だったんだ。
 僕が出会ったジャイロという男…彼に『回転』の秘密を教えてもらうため、レースの出場を決意した』


――この名簿にもある『ジャイロ・ツェペリ』さんですか。 …でも、先ほど聞いた話によれば彼は既に……

『死んでいる。僕の目の前でヴァレンタイン大統領と戦って死んだはずなんだ。
 しかし名簿によれば彼は生きてこの会場に居るらしい。ならば僕はなんとしても彼に会って伝えたい言葉がある。
 蓮子を救出したらジャイロを探しだし、あの主催者達を叩き潰すつもりだ』


――大切な、御方なんですね。 …見たところジョニィさんは普通に歩けてるようですが、それもジャイロさんのおかげですか?

『勿論だ。かけがえのない彼の存在とツェペリ家の回転の技術……、まあこれは詳しくは教えられないけど。
 …それとある人物の『遺体』の力のおかげ、かな』


――遺体…?

『僕とジャイロはその遺体をめぐる戦いに巻き込まれた……いや、自ら入り込んだ。
 全ての部位を集めると究極の力が手に入るという、聖人の遺体。
 SBRレースとはつまり、その遺体を集める為に大統領が仕組んだ計画だったんだ』


――お、おお…! 俄然話が大きくなってきましたねッ!
   それで! その遺体とは誰のものだったんです!? ヴァレンタイン氏との決着は!? レースの優勝者は!?

『おいおい、文……、インタビューに答えるとは言ったが、少し突っ込み過ぎじゃあないのか?
 …ホラ、向こうで露伴が苛立たしそうにコッチ睨んでるぞ。そろそろここを出発したいんだが…』


――えーーーーそんなぁ〜! もうちょっと! 最後にインタビューっぽい締めを一言だけお願いします!

『やれやれ……どこの世界もマスコミは似たようなもんだな。わかったよ、君は命の恩人だ。答えよう』





――それでは……貴方が大切な人に一番伝えたい言葉を、お願いします。


『……親愛なる友人ジャイロ・ツェペリに、“ありがとう”と』


134 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:37:09 JY8yVGgY0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『射命丸 文』
【朝】E−4 命蓮寺 本堂


私はどうしてあの人との会話を今更思い出しているのか。
堕ちた道を往くと、心は既に決めている。過去の追憶に意味なんか無い。
それでも、こうやって薄暗い寺内の木造床に寝っ転がって天井を見つめていると、物思いに耽たくもなってしまう。

そういえば…『双竜頭の間』もこんな風に薄暗い部屋だったなぁ。
あの時は岸辺露伴が居たっけ。漫画のネタになりそうなものを発見するたびに足を止めてさらりとスケッチに精を出すような、変な男。
その異常ともいえる好奇心だけは記者である私も見習う所アリ、といったものかしら。
そしてあの時の私はといえば、露伴の体よく動くだけの傀儡。
愚かにもあの主催達へと反抗心を燃やしていた頃の、現実も見れない馬鹿な小娘。

鴉天狗のプライドも粉々。ほんっっとーにムカつくわ。 ……露伴にも、自分にも。

このまま暗い天井を見つめているとその時の事を思い出して、どうにもイライラが収まらない。
軽く唸り声を上げて半身を起こし、膝に顎を乗せる。
ここは由緒正しい妖怪の寺(歴史は浅いが)。露伴がそれを聞けば目を輝かせながらスケッチ片手にお寺参りを開始していただろう。
洗脳されていた頃の私だったら、文句と不満を織り交ぜ更に特盛りの苛立ちをスパイスした言葉をぶつけ続ける姿が目に浮かぶ。
それでも、心のどこかではそんな掛け合いをまるで楽しむかのような、腑抜けた自分がその光景にいた。
露伴がかつて言った言葉のように、私もこの手にカメラがあれば横に並んでカシャカシャやっていたかもしれない。もっともこの寺の取材は何度か経験済みだけど。


―――いっそ、私の記憶がずっと戻らなければ良かったのに。


一瞬浮かべてしまったその言葉に、自分でも驚くほど嫌気が刺す。


135 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:37:51 JY8yVGgY0
何を考えているのよ、私は…!
あのままジョニィさんや露伴についていったところで、無事な生還を遂げられるはずがない。
なにしろ相手は未知数の巨悪。自分とは格が違う。
私は既にしてこの道を選んでしまっているのだ。
チルノも既に殺害している。彼女は最期の最期、私に命を乞ってきた…ように見えた。
その縋る手も見捨て、命を燃やし尽くした。もう後戻りは出来ないのだ。
一縷の希望でもあったジョニィさんも、あっさりと死んだ。私は何も出来なかった。

どうすればいい…? 私にどうしろっていうの…?
そんなこと、決まっている。当初の目標に戻っただけじゃない。

狡く、醜く、意地汚く、みっともなく足掻いて、もがいて、騙して、裏切って、そして最後のひとりになる。
これこそが鴉天狗、射命丸文の選んだ道。生き様なの。

―――なのにどうして、こんなにも胸が痛いのよ…。


私は……私は、自由になったはずなのに。
迷いもしがらみも、全てから解放されたはずなのに。
独りぼっちはこんなにも怖いと、初めて感じた。
心の闇に、圧し潰されそうだった。
私の選んだ道は、これほどまでに孤独の道だったのか。
私は……こんなにも弱い女だったのか。

ジョニィさんなら…どうしただろうか。
普段なら心中見下していたはずの人間という種族である彼は、本当に気高い精神をしていた。
妖怪の私から見た彼の、いうなら『人間賛歌』というものは、眩しいほどに輝いて見えた。
千を生きてきた私から見た、たかだか人間の数十にも満たない人生。
私たちから見ればなんの価値も無いような、瞬きの時間。
…でも、それがどうした。
人間から見れば、そのたった百にも満たない時間こそが人生の全てだったのだ。
私はそれをジョニィさんに教わった。
教わったまま…彼は死んだ。


彼を守ることが出来なかったことが悔しい。
彼の意志を継ぐ勇気が無かった自分の臆病さが悔しい。
彼の歩む道とは正反対の道を行く自分の滑稽さが悔しい。
何もかもが悔しくて、私は無尽に焦燥を募らせる。


136 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:38:42 JY8yVGgY0

――くそっ。

くそぉ…!

(くそ…クソ……ッ!)

「クソォォッ!」


頭をムシャクシャに掻き毟りながら、思わず大声を出して拳を床に叩きつける。
何をやっているのよ……私は…!
ジョニィさんの『正しさ』も! 『気高さ』も! 『誇り』も『意思』も! 『想い』も!!!
この場所では何の意味もないッ!!
それを理解できたからこそ、私は他者の命を『奪う側』に戻ってきたんじゃないの!?

なんてザマよ……射命丸文!
とっとと目を覚ましなさい! 正義ごっこはもう終わったのよ!

私は…これからも全てを『捨てて』しぶとく生き残ってやるッ!



荒い息を落ち着かせるように、私はゆっくりと立ち上がって窓の方を見やった。
西の空がぼんやりと赤く染まっている。
朝焼けの方角ではない。私が燃やし拡げた火災によるものだろう。
あれから30分は経っただろうか。魔法の森の火災はじわじわと炎の威力を強めて被害を拡大させていく。
このままいけば森の全域が焼け野原になるのも時間の問題か。


「…いや。今はまだ明るいけれど……一雨来るかしら」


窓から見える空模様は今のところ陰りは無い。
だがこれでも千年以上、この空を己の庭として翔び回ってきたのだ。
天候の神様の機嫌など、なんとなく分かってしまうもの。
多分、数時間後には雨が降る。ならばあの火災も思ったよりは拡がらないかもしれない。

(こんなハリボテの世界にも…雨なんて降るのかしらね)

そんなことを思いながら、私は呆然と赤い空を見つめ続けていた。


137 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:39:40 JY8yVGgY0
だからだろうか。
気が緩んでいた私の耳に微かに聞こえた人の声。
それに気付いた瞬間、私は情けなくも肩を大きく震わせ、外からの死角に隠れる。
本堂の入り口からそっと顔だけを覗かせると、外に居たのは赤髪の猫又妖怪。
あの特徴的な猫耳と二又の尾は知っている。

地霊殿の火車『火焔猫燐』。
彼女の無防備な背中がこちらを向けて立っていた。


「おっかしいなー。この辺りで人の叫び声が聞こえたと思ったんだよねー」


大きな独り言と共に彼女は首をキョロキョロさせて声の主を探している。
私は思わず舌打ちした。さっきの叫喚が外にも聞こえてしまったか。

どうする? 私の知っている限りではあの妖怪は大した力じゃない。
私の当面の目的である『強い者と行動を共にする』の条件に当てはまるような奴じゃない。


…ここで仕留めるか。


見たところ仲間はいないようね。
だったら事は簡単。何気なく近づき、隠し持った拳銃で脳天にズドン。
それで終わり。私、殺人数2人目。なんのトラブルも無し。あんな弱小妖怪、生かしておく価値も無いわ。
死体を運ぶ火車が死体になる。ミイラ取りが…ナントカってやつよ。

そう決めた私はすぐさま行動に移った。
マヌケそうにあっちを向いて棒立ちする彼女に気付かれないよう、そっと入り口から外に忍び出る。
スイッチが入った瞬間、私の頭の中は嘘みたいにスゥッと透き通っていく。
さっきまでの葛藤はなんだったのか。気持ち悪いぐらいに呼吸が静かだ。
あぁ、やっぱり私とジョニィさんは根っこから違う。
自分が生きる為に引く引き金の、何と軽いことか。

一歩、また一歩。
ゆっくり音をたてずに背中へと忍び寄る。
コイツはまだ気付かない。それでよく今まで猫の妖怪なんかやっていられたものね。
やっぱりダメ。相棒としては全然不合格。
恨むなら自分の力の無さを恨んで死んでね。

とうとう残り1メートルまで近づき、足を止めて懐の拳銃を取り出す。
この距離なら外さないし、致命傷確実。

躊躇なく、息の根を止める。



(Good morning,or DIE……おはようございます、それでは死んでください)



少しだけ祈り、そして指にかける力を強める。
照準はその小さな頭のてっぺん、脳神経をバッチリ破壊する。


さようなら、お燐さん。


138 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:40:37 JY8yVGgY0






あとほんの少しだけ、指に力を込めれば銃弾が発射されるところで、私の視界は突然グラついた。
思わず拳銃を取り落としそうになるところを寸でのところで掴み直し、慌てて懐に仕舞い込む。

(う…! な、なによ…急に目眩が…!?)

頭が痛い…! こんな時に……体調が…!


「う…ぁ痛ッ!? な、なにコレェ…!?」


見れば目の前の彼女も頭を押さえて唸っていた。
尻尾を逆立ててぐりんぐりんと曲げては伸ばしている。
2人して同時に目眩ですって…? どんな、偶然よ…ッ!


「ッッ痛たた……ぁあー、なんとか治まってきたかな――――――およ?」

「………………あ」


悶えていた彼女と目が合ってしまった。最悪。
拳銃は仕舞い込んでいたから、まだ誤魔化し通せる。
いや、待って。もう強行的にさっさと始末しようかしら…?
…いやいや落ち着きなさい私。
不意打ちが失敗した以上、考え無しの戦闘は危険よ。相手の支給品次第では返り討ちの可能性も少なからずある。

得意の商売フェイス、商売フェイス…!


139 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:41:29 JY8yVGgY0

「や………やぁ、これはこれは地獄の黒猫、お燐さんではないですか。
 こんなところで会うなんて奇遇ですね! どうでしょう、ここはひとつ昨今の地獄の流行についての取材でも…」

しまった、つい仕事グセで余計な一言を付けちゃった…
目の前の彼女はネコ科特有のツリ目をパチクリと瞬かせながら私を見て驚いている。
私は引き攣った笑みを作ったまま、数秒の沈黙が流れた。

やがてお燐は呆然とした表情を満面の笑みに変えて、テトテトとこちらへ近づいてくる。

「あぁ! お姉さんアレだ! いつぞや紅白のお姉さんと地獄に遊びに来てくれた天狗だね!」

…あぁ、そんなこともありましたね。
もっともアレは別に遊びに行ったわけではないし、そもそも陰陽玉で地上から交信してたから私の姿を知ってるわけがないんだけど。

「あはは、声を聞けば一発だよ〜♪ 地上はどう? 平和でやっていけてるかな?」

なんか、相変わらず無駄に元気な娘だ。調子良く尻尾までフリフリと振っている。
しかしコイツ……特別仲が良いわけでもないのに随分と馴れ馴れしいわね。
今のこの状況、分かっているのかしら?

「幻想郷の地はいつだって平和ですよ。暇が売れたら大儲けできるってぐらいにも暇ですけど。
 でもお燐さん? 今のこの状況はとても平和とはいえませんよ。
 この場に居たのが私だったから良いものの、危険な人物だったらどうするんですか」

「やー…メンボクない。でも、うん。会えたのが天狗のお姉さんで良かったよ。優しそうだからねぇ♪」

…どうやら私は舐められてるのかしらね。
目の前のニヤけたユル面に天狗の鉄拳をブチ込んでやろうかと一瞬考えたけど、それは我慢して聞くべきことを聞こう。


140 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:42:01 JY8yVGgY0

「それはどうも。 …ところでお燐さんひとりですか? ここに来るまで誰かと会ったりは……」

「あ! そうだそうだよ! ここに来る途中魔法の森を横切ってきたんだけど、ボウボウと森が燃えてたのさ! もうべらぼうに!
 まーあたいもこれで火車やってるし、炎なんか怖くないんだけどねぇ。大丈夫かなぁ……」

それは多分私の仕業だろうけど、そんなことが聞きたいんじゃない。
知りたいのは『情報』だ。この娘を始末するのはその後でも良いでしょう。

「森の火事ならここからでもとてもよく見えますよ。
 誰の仕業かは存じませんが、環境破壊も度を越えてますね。嘆かわしいことです。
 …それで、お燐さんがここに来るまで誰かと出会ったりしましたか?」

「ん? 会ったよ、紅白のお姉さんと黒くてデッカイお兄さんにさ。すぐに別れちゃったけどねぇ」

紅白…霊夢か。
正直言うと、あまり会いたくないかな。あの巫女は無駄に勘が良すぎる。
私が優勝を狙ってることもあっさりバレそうだし、隠れ蓑には不適切。


「霊夢さんと…誰ですって?」

「霊夢お姉さんと承太郎お兄さんだよ。2人はパートナー同士みたいだったねぇ。
 承太郎お兄さんは一見強面だったけど、話してみたら案外優しいところもあったよ」


承太郎。露伴の言っていた最強のスタンド使い、空条承太郎か。
聞けば相当に優秀で頭も切れる男だとか。
興味はあるけど、ますます近づけそうにない。パスパス。
…とまで考えた所でふと疑問に思った。

「…あれ? そんな強そうな方々と出会えたのに、どうしてお燐さんは彼女らと一緒に行動しなかったんですか?」

さぞ強かろう2人に会っておいて、コイツはどうして別れてわざわざ単独行動なんてしてるのか。たいして強くもないクセに。
ま、大体分かるんだけど。

「おおっとー待ってください。言わなくていいです、当ててみましょう。
 そうですね……霊夢さんに邪険にされたってのがまずひとつとして、他に何か貴方自身の『目的』があったとかですか?」

「ちょっとー邪険にされたってのは余計だよー!
 でもさっすがジャーナリストの勘はスゴイね! あたい、今ちょっと『探し物』してるのさ♪」

「探し物…ですか?」

はて。こんな恐ろしい会場の中、何を探してるというのか。
見たところ大好きな死体集めでもなければ、マタタビや猫じゃらしに飢えているわけでもなさそうだ。

「まぁ……言うなら『死体』かねぇ。ちょっとその辺ではお目にかかれないような『レア物』の」

前言撤回。やっぱり火車はどこへ行っても火車だったか。
私は冷えた目線で若干後ずさりした。


141 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:42:41 JY8yVGgY0

「あ! ちょっとちょっと変な勘違いしないで欲しいなぁ!
 死体集めはあたいの趣味だけど、今回のはもうちょっと尊い行為だよ!」

「死体集めに尊いもなにも」

「ちょいと! あんま死体を馬鹿にしないで欲しいね!
 って、こんなことが言いたいんじゃなくてさ、単刀直入に聞くけどお姉さん『聖人の遺体』ってのに心当たりあるかな?」

「聖人の、遺体……ですか? よく分かりませんけど、私はそんなもの持って―――」



―――待って。『聖人の遺体』……ですって?



その言葉を聞いた瞬間、脳内に蘇った。
GDS刑務所で、彼と交わした興味本位のインタビュー。


―――『僕とジャイロはその遺体をめぐる戦いに巻き込まれた…いや、自ら入り込んだ』

―――『全ての部位を集めると究極の力が手に入るという、聖人の遺体』

―――『SBRレースとはつまり、その遺体を集める為に大統領が仕組んだ計画だったんだ』



ジョニィさんは言っていた。
自らの半身不随を治すため、友人と共にその遺体を集めていたと。
その遺体には聖なる力が備わっており、様々な力を与えてくれると。
その過程でヴァレンタインという男と闘い、死闘の末に倒したと。


ジョニィさんの集めていた『希望』が、この会場にも存在している…?



(――――――ッ!!)



今、完全に理解した…
ジョニィさんの亡骸に近づいた時に感じた、謎の『感覚』。
身体の中で何かが動き出すような、違和感の『正体』。
間違い、ない。



ジョニィさんの『希望』が、私の中に入り込んでいる…!


142 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:43:59 JY8yVGgY0

「……? お姉さん?
 どうしたの? 胸に手を当てていきなり黙りこくっちゃって…」

「…………あ、い…いえ、なんでもありません。
 ところで……お燐さんは何故、そのような物を…?」

「あー、コレ言っちゃっていいのかなぁ? あんま話さない方がいいのかもしんないなぁ。
 んーーー……、ま! 霊夢お姉さん達にも話しちゃってるし、いっか!」


それから私が聞いたのは驚きの内容。
ヴァレンタインがこの会場においても聖なる遺体を探し回っていること。
お燐がヴァレンタインと『約束』を交わし、遺体集めに奔走していること。

ヴァレンタインの事を話す彼女は『コレ言ってもいいのかな』といったものではあったけど、どこか『期待』に満ちていた。
彼のことを『妄信』、とまではいかないけど、相当に『信頼』を寄せているかのように話していた。
さっき会ったばかりの人間に対してそこまで期待するなんて、ヴァレンタインという男はかなりの『人格者』なのだろうか。

でも、私は知っている。
詳しく聞いたわけでも無いが、ヴァレンタインは……ジョニィさんの敵だった。
遺体を揃え、聖なる力を手に入れようとしたヴァレンタインは、ジョニィさんたちを何度も殺害しようと目論んだ。
そして、最期にジョニィさんの手によって……死亡した、らしい。

この娘はよりによってそんな人を『正義の人』と信じ、あまつさえ彼のために遺体を集めている…?


―――ふざけるな。


アンタが、ジョニィさんの何を知っているの。
あの人は自分の信じる道を突き進んで、そして死んだ。
私の中に眠る遺体は、彼の突き進んだ証。
彼が再び立ち上がれるようになった『軌跡』の証であり、『奇跡』の証でもある。

これは絶対、渡せない。アンタにも、ヴァレンタインにも。


143 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:44:25 JY8yVGgY0

「…お燐さんは、その遺体とやらを持ってるんですか?」

「うん。大統領さんから『両脚』の部位を預かってるんだ。
 少しでも集めてあの人の元へ届けないとね。さとり様たちを守ってくれるって言ってたし」

呆れた。どこまでお人好しなんだか。
そんなの嘘に決まってるでしょう。アンタはヴァレンタインに『利用』されてるに過ぎないのよ。
そんなことにも気付かずにヘラヘラ笑いながらヴァレンタインの傀儡になっている彼女を見てると虫唾が走る。

露伴に洗脳されてる頃の私を思い出すから。


「なるほど、お燐さんの目的は理解できました。
 私は遺体を持ってませんので尽力することは出来ませんが、他の情報を提供することぐらいは出来ますよ。
 どうです? こんな所で立ち話もなんですし、中でじっくりとお話を伺いたいのですが」

「うん、勿論さ♪ いや〜ここで天狗のお姉さんに出会ったのは幸運だったかもねぇ」


そうね。全く幸運だわ。
貴方のおかげで遺体の存在を知る事が出来たんですもの。

さて、適当に情報を聞いたらこの娘はさっさと始末しましょう。
私は遺体集めそのものには興味はないけど……ついでだからアンタの『両脚』も頂いていくとするわ。
死体集めが趣味の貴方には、丁度良い末路でしょう。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


144 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:45:11 JY8yVGgY0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『火焔猫 燐』
【朝】E−4 命蓮寺 本堂



天狗のお姉さんは嘘をついている。



お姉さんが最初にあたいの後ろから近づいてきた時、確かに感じたんだ。

あたいの体内の『両脚』が騒ぎだしたのを。

それは頭痛という形であたいの頭を襲ったけれど、すぐに治まった。
一瞬、何が起こったのか分からなかったけど、後ろで笑いながら近づいてきたお姉さんを見てすぐに悟った。

―――このお姉さん、『遺体』を持ってる……って。


あたいったら早速ラッキー♪
まさかこんなに早く遺体を見つけちゃうなんて、いやはや自分で自分の才能が恐ろしいね♪

…でも、その後お姉さんはハッキリと言った。
聖人の遺体など『持っていない』って。
あたいはその言葉がすぐに嘘だと気付いたけど、とりあえずその場は流した。


んー……これってどうするべきなんだろう?


案1
『またまたぁ〜! そんなこと言って、嘘ばっかりィ! ホントは持ってるんでしょ?』
なんて猫なで声を出してスリスリと迫ってみようか?
でも前にそれやって霊夢お姉さんに鬱陶しがられちゃったからなぁ…


案2
『ねぇ〜え〜〜ん♪ 遺体くれたらイ・イ・コ・ト……してあげるんだけどナァ〜♪』
と、猫を被って言い寄る…のはない。これはないや、うん。
大体あたいにそんな色気なんてないし……いや、これ以上自分で言うのはやめよう…空しくなる…


案3
強行的に遺体をネコババ!
…う〜ん、あたいにしては暴力的だねぇ。でもコレが一番現実的なのかなぁ。


145 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:46:08 JY8yVGgY0

ここまで考えたところで、あたいはふと大統領さんの言葉が浮かんだ。


―――家族を守りたければ『戦え』。愛国心とは『家族愛』の事だ。泣いてばかりでは家族は救えない。


…そうだ。
あたいがこんなところで悩んでる間にも、みんなが苦しんでいるかもしれないんだ。
自分に出来ることをやらなきゃ。あたいだって戦えるんだ。
あたいは死体のエキスパートだ。聖人だろうが怪人だろうが死体なら持ち帰るのがあたいの仕事。

盗んでやる…! このお姉さんから、遺体を奪うッ!

だから、それまで無事でいてよ…! さとり様! こいし様! おくう!



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


146 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:46:45 JY8yVGgY0


「―――私の支給品はこの拳銃だけでした。まあまあ当たりの支給品なのではないでしょうか」


そう言ってお姉さんは拳銃という武器をあたいに見せてくれた。
愛想の良い笑顔で惜しげもなく支給品を見せつけ、それをすぐに懐に仕舞う。
お姉さんはそのままあたいに顔を向けてニコニコ顔を作ったまま、会話が途切れた。
さあ次は貴方が支給品を見せる番ですよ、といったお姉さんの笑顔を眺めながらあたいは思考する。

やっぱりこの人、『嘘吐き』だ。

この人が遺体を所持してるのは分かってる。
それなのにその事を言わないなんて、隠し事がある証拠。
その遺体は元は誰のモノ? 誰かから奪ったの? その人は今どこでどうしてるの?

あたいの遺体も狙っているの?

考えれば考えるほど疑心暗鬼に包まれてくる。
あーもう、こんなのあたいのキャラじゃないはずなんだけどなぁ…

でも、よく考えたら親しくもない相手にいきなり所持品を全部公開すること自体おかしいことなのかな。
この遺体も見た目はグロテスクだし、へんに見せつけると相手が驚いちゃう、って思っての嘘かも。
んー、じゃあ考え無しに遺体を持ってることを話しちゃったあたいの方が危機感足りなかったのか。

…ダメだぁ、よくわかんないや。
とにかく今は会話を続けないと。


「あたいの支給品はただのリヤカーと、大統領さんから借りた遺体、それとナイフだよ」

このナイフも本当はブラフォードお兄さんの物だったけど……それを言う気にはなれなかった。
毒が塗ってあるらしいこれをあたいが使う時が、もしかしたら来るかもしれない。

「なるほど、お互い身を守る術は揃えてるという訳ですね。
 じゃあ次はお燐さんが出会った人物についてですけど…」

「うん。さっきも言った通り霊夢お姉さんと承太郎お兄さんとはジョースター邸の東で会ったよ。
 2人とも異変解決に向けて動き出してるみたい。
 それと、承太郎お兄さんが言うにはDIOさんって人物は近づいたら危険だってさ」

「……! DIO…!」


ここまでほとんど柔らかい印象だったお姉さんの表情が、初めて険しくなった。
その顔には、どこか軽い『恐怖』のような感情が見えたような気がしてあたいは心配になる。


147 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:47:42 JY8yVGgY0

「お姉さん、DIOさんを知ってるの?」

「…いえ、直接は知りません。ですが、彼の部下らしき人物と遭遇しました。
 名前は『ヴァニラ・アイス』……空間を飲み込む能力を持ち、とても残虐な気性の持ち主でした。
 私と……私の仲間は、GDS刑務所でそいつと闘い、そして奴は逃げ出した。
 …倒しきることが、出来なかった。その、せいで…ジョニィさんは……」

なんだろう…お姉さん、『悲しんでいる』…?
そして…『怒っている』、ようにも見えた。
あたいはその『ジョニィ』って人を知らないけど、お姉さんにとってその人はどんな人物だったんだろう…

「…もしかして、そのヴァニラって人にジョニィさんは…」

「…確かに、間接的にジョニィさんを殺めたのはヴァニラといっても良いかもしれません。
 ですが直接ジョニィさんに手を下したのは……チルノさんです」

チルノ…?
ああ、確かこいし様が地霊殿に帰ってきた時、たまに話していたねぇ。
こいし様が言うにはちょっと頭が弱いけど、無邪気で可愛らしい妖精だって聞いてたけど…

「私の推測では、チルノさんはDIOに操られていたと考えています。
 あのチルノさんはあまりにもいつもの彼女とは様子が違いすぎましたから」

操られていた……って、もしかして承太郎お兄さんが言っていた『肉の芽』…!
じゃあ、やっぱりブラフォードお兄さんの主であるDIOさんは危険なヒト、なのかな…


「チルノさんは激しい闘いの末、ジョニィさんと『相討ち』になりました。
 そして残った仲間の古明地こいしも、チルノさんを見捨てて何処かへ逃げ去りました。
 それが、私が先ほど体験した出来事です」


そっか………




――――――って、


「………………え」


今、このお姉さんの口からさらりと出た名前は、あたいの聞き間違いじゃなければ…


148 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:48:20 JY8yVGgY0

「ちょッ……! お、おおおお姉さんッ!? い、今、誰が何処へ逃げたって言ったのさッ!?」

「……ん? …………あ、そういえば古明地こいしはお燐さんの…」

「だ、大事なご主人さまのひとりだよッ!!
 こいし様が、お姉さん達を襲ったのかい!? う、嘘…ッ!」

「いえいえ、残念ながら事実です。
 お気持ちは察しますが、彼女は明確な殺意を持って私たちを撃ってきました。
 ゲームに『乗っている』としか…」

「そんなわけないッッ!!!」


静かな寺内に怒号が響き渡った。
温厚だと思っていたあたいの大声に驚いたのか、お姉さんは座ったまま固まっている。

だって、そんなわけないじゃん。
こいし様が、そんな…人を撃ったなんて……あたいは信じない。信じたくない。
そうだよ…、あの人はちょっと不安定なところはあるけど、純粋で、優しくて、心地の好い、そよ風のような方だ。
何者にも縛られず、気ままで穏やかに生きていくあの人が誰かを本質的に傷付けることなんて―――


あっ……


「―――肉の、芽……?」


ふと、頭に思い浮かんだ単語。
承太郎お兄さんの言葉が瞬間、鮮明に蘇る。


『額にそいつを埋め込むことで相手を従わさせることができるモノだ。DIOという吸血鬼が使える危険な力、だな』


可能性はある。
あたいを冷ややかな目で見つめているお姉さんに、食って掛かるように問い質した。


149 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:48:53 JY8yVGgY0

「お姉さんッ! あの、こいし様の額には何か埋め込まれていなかった…!?」

「わわ! 何ですか急に…!
 額……と言われてもあの時はそんなの確認する暇も無かったですよ」

少し困ったような顔をしながらお姉さんは後ずさりした。
あたいは何も言えなかったけど、もしお姉さんの言ったことが本当ならこいし様はきっと肉の芽によって操られてるに違いない。
多分、そのチルノって妖精もそうだったんだ。

「……どうやら、何かものしり顔のようですね。事情を聞いても…?」

お姉さんが険しい表情で聞いてきた。
あたいは説明する。承太郎のお兄さんから聞いた『肉の芽』の性質について。
最後まで聞き終わったお姉さんは納得したように頷いて口を開く。

「なるほど……と、いうことはつまりこいしさんは既にDIOの傘下に入ってしまった可能性が高そうですね」

やっぱりそうなってしまうのかな。
あたいはやりきれない思いで拳を握る。
どうすればこいし様を助けられる? 肉の芽って簡単に引っこ抜ける物なの?

ブラフォードお兄さんも、肉の芽に支配されていたのかな……

「……あの、お姉さん! お願い! あたい、お姉さんについていっても良いかな?
 そんな状態のこいし様をこのまま放っておけないよ! 今もどこかで誰かを傷付けてるかも…!」

「……はぁ?」

あたいはたまらなくなってお姉さんに詰め寄る。
遺体も大事だけど、こいし様はもっと大事だ。
あたいひとりじゃあこいし様を助けられないかもしれない。
でもこのお姉さんはきっと強い。この人と2人ならこいし様も助けだせるかもしれない。


「ちょっと待ってください。何で私がそこまでしなくちゃならないんです?
 私はついさっき彼女に銃を向けられたばかりですよ? ハッキリ言ってもう会いたくはないんですが」


150 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:49:41 JY8yVGgY0
ハッキリ断絶された。
なんだいケチ、とまでは言えなかったけど、無理のない話かもしれない。
それならあたいひとりで……といきたいところだけど、お姉さんは遺体も持っている。
ここで遺体を奪う千載一遇のチャンスをむざむざ放棄し、何処に居るかも分からないこいし様を探しに出るのもなぁ…


あの時、大統領さんはあたいに約束してくれた。
自分の手伝いをしてくれれば、家族を探しだして守ってくれると。
あたいは彼の誠意に答えてあげたい。遺体を手に入れるということは、それがあたいの『戦い』になるんだ。
その戦いがそのまま家族を守ることに繋がるんだ!
しばらくお姉さんと同行して隙を見て盗むか、何なら今ここで奪わなければあたいはこのまま『臆病者』で終わってしまう!


「お願いだよッ! お姉さん強いんでしょ!?
 あたいに出来ることは何でもやるからさ! せめてあたいと一緒に行動してほしいんだ!」


強引にお姉さんの肩を掴んで押しせめる。
本当に無茶なことを言ってると思うし、迷惑な行為だろう。
でも、この距離まで密着すればお姉さんの遺体を取り込んで盗めるかもしれない…!
お姉さんには悪いけど、このままごねるようなら、今ここで奪って逃げるッ!

この遺体は価値の分かる者の手にしか渡っちゃダメなんだと思う。
それは多分、大統領さんだ。あたいやこのお姉さんにとってはこの遺体は所詮『猫に小判』だ。
何故かは分からないけどこの人は、『遺体を持っていない』とあたいに嘘を吐いた。そこにはきっと他意がある。

『嘘吐き』にこの遺体はきっと相応しくない。
大統領さんのように、誓いを守る『正しい人』こそが遺体の所有者となるべきなんだ!


ごめんね、お姉さん…! でも、これがあたいの選んだ『正しい道』! あたいなりの『戦い』!



「ちょ……! しつこいですよお燐さん! 行きませんったら行きませんッ! 離してくださいッ!」

「そこを何とか……! あたいひとりじゃあ不安で不安で…!」


揉めるようにお姉さんの身体を掴んで離さない。
今だ…! お姉さんの体内から遺体を取り出して……!




「―――人の遺体を盗む気? いい加減にしなさいよ、この泥棒猫」


151 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:50:23 JY8yVGgY0



カチャ



「―――え」



突然耳に響く冷たい声と、冷たい音。
あたいの額には不気味に光る銃口が突きつけられている。


「もういいわ。聞きたいことは全部聞けたもの。悪いけど貴方はここで終わり」


さっきまでとは全然違う、お姉さんの低い声。
その瞳には冷たく黒い輝きがある。

―――殺される。そう感じた。


「貴方のご主人……古明地こいしは、私の獲物。残念だけど貴方に家族なんて『守れない』。
 貴方を殺して遺体も奪ったら、すぐに彼女も殺しに行くわ。
 …それじゃあ、故郷の地獄に帰りなさい」


あまりに突然の事態に身体が動かない。
声も出せずに、家族すら守れずに、あたいの人生は幕を閉じるのか。

い…いやだいやだいやだッ!
そんな…死ぬなんて、絶対に―――




バン!




















▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


152 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:51:38 JY8yVGgY0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『ホル・ホース』
【朝】E−4 命蓮寺 正門前


「あーーあー……」


この上なく気だるい溜息を吐きながら明るくなってきた空を仰いだのはホル・ホースだった。
ズレ落ちかけるカウボーイハットを片手で押さえながら、そのまま数秒の沈黙が流れる。


(ま……分かっちゃいたんだけどなぁ…。こうハッキリ伝えられちゃあ流石にくるぜ)


『もしかしたら』……可能性は薄いが、有り得たことだ。
先ほどの放送によって直に伝えられた『彼女』の名は、ホル・ホースの心に幾分かの傷を付けた。
自分は彼女の死ぬ瞬間は見ていない。寅丸星に襲われたが、奇跡的に逃げ延びてどこかで生き残っているかもしれない。
ホル・ホースは現実主義者ではあったが、そんなあられもない光明が心の何処かに張り付いていた。

そんな薄い希望も、完全に消滅した。

「死んだ者は死んだ者……だぜ、ホル・ホース。現実見やがれ。
 今更都合の良い展開なんか望んじゃいねえよ。こりゃ映画の世界じゃねぇんだ」


既に闇の世界に身を堕としているカウボーイ被れの自分は、死の覚悟なんてとっくに完了している。
だが―――

「ヌルくせー表世界で暮らしてたガキぐらいは……せめてベッドの上で死なせてやりたかったもんだなァ…」


誰に語るわけでも無いその空虚な言葉は、空へと消えた。
キュッと帽子を被り直し、再び前を向く。
過去を振り返ってセンチな感傷を抱くなど自分の性ではない。
今の自分に出来ることは、響子が今際の際に遺した想い……すなわち寅丸星の目を覚まさせることだ。
果たして成功率はどれほどのものだろう。せめて五分程度の勝率は欲しいところだ。

そしてその成功率を限りなく底上げしてくれる人物であろう聖白蓮の治める『命蓮寺』。
彼女の手がかりが掴めるかもしれないという淡い期待を抱きながらホル・ホースはこの場所へ来た。

(……にしても、ジャパニーズ・キャッスルっつーのはどうにも異様だぜ…)

立派に聳え立つ正門を潜り、石の敷き詰められた道を警戒しながら進む。
ホル・ホースとて日本の様式美には疎く、初めて間近で見る和の景色は目を惹かれる物ばかり。
イマイチ用途の掴めない灯篭をコツコツと軽く叩いてみたり、嗅ぎ慣れない木造物の独特な匂いに心浮かれて鼻歌まで歌いだす始末。
こう見えて彼は『芸術』や『美的文化』の嗜好を多少なり持ち合わせている。
間近で見る日本の洗練された芸術に心奪われかけ、この場が殺しの場であることすら忘れそうになってしまった。

「ここが……響子の嬢ちゃんが通っていた寺、か。オレには綺麗すぎる場所でどうにも落ち着かねえ…」

必然的に浮かぶ彼女の顔をブンブンと振り払い、先へと進む。
それに先ほどから足元をよく見れば、何人かの足跡を確認している。既に誰かがこの場を訪れているのだ。
鬼が出るか蛇が出るか。本堂へと近づくたびにホル・ホースは警戒を強めながら、自らのスタンドである『皇帝』を構える。


153 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:52:36 JY8yVGgY0
やがて足を踏み入れたのは一際大きな本堂。
意を決して侵入するホル・ホースの耳に初めに入ったのは女の声だった。


「行きませんったら行きませんッ! 離してくださいッ!」


(女の声…! 少なくとも2人は居るみてーだが、様子がおかしいな)

機敏な動作で入り口の死角に移動し、そっと中を覗き込む。
女2人。片側は頭に猫耳、二又尻尾のおまけ付き。
その姿を見てホル・ホースはまたも彼女を思い出す。

(ワンコの次はニャンコかよ…! 半信半疑だったが響子の嬢ちゃんが語った『幻想郷』っつーのはどうやらマジらしい)

となれば彼女らに聞けば聖白蓮についての情報が分かるかもしれない。
しかし何か様子がおかしい。揉め事か…?
慎重に事を見ていたホル・ホースに緊張の汗が伝う。

その時、猫耳の少女に掴まれていたもう片方の黒髪の女が拳銃を取り出し、相手の額に突きつけた。

(!! …オイオイ、ご勘弁願いてぇぜ……、ここまで来てトラブルには関わりたくねぇんだがな…!)

反射的に回れ右。触らぬ神に何とやらだ。
ここまで来て収穫ナシというのは痛恨だが、この場に目的の人物は居ない。
逃げ足の早さには定評のあるホル・ホースはすぐさま決断した。

音をたてぬよう、静かにこの場を去ろうと足を動かして――止めた。

まただ。またも自分は女を見捨てて逃げようとしている。
手の届く距離で、今回こそは救えるかもしれないというこの場面で、見ぬフリして去ろうとしている。

どこまで男を下げれば気が済む、ホル・ホース。
そうやって目の前の災を避け続け、進む先に何が待っている。
男なら誰しも心に『地図』を持っている。荒野を渡りきる自分だけの地図を。
腹に据えた、たった一つの『指針』だけは見失ってはならない。


「……そう、だったな。オレの心の地図に…『後悔』だけは持ち込んじゃいけねえ」


俺が後悔するのは……『あの時』までだぜ。 ――響子の嬢ちゃん。



伏せていた面をキッと上げ、退きかけていた足を勢いよく前に動かす。
眼光炯々に変化した目つきを『敵』と捉えた人物に刺す。

一瞬の早業。
扉の前に躍り出たホル・ホースは声を発することなく、七メートル先の黒髪の少女に『皇帝』を撃ち放った!
炸裂音と共に軌道を描くように発射された弾丸は、女が突きつけていた銃のみを弾き飛ばし、彼女の殺戮の手段を奪う。


154 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:53:21 JY8yVGgY0

「ッ!? 誰です…ッ!?」

「おおーっとォー! フォークダンスの練習中失礼するぜッ!
 そこのお前ッ! 両手を挙げてその場から動くんじゃねえぜッ! そっちの猫ちゃんもまだ動くなよ!」

突然の乱入者に戸惑う文。
それはお燐にとっても同じで、2人してホル・ホースの方を同時に振り向く。

「オレはある人物を尋ねてこの場所へ来た! 話の分かりそーな奴は見た感じそっちの猫の嬢ちゃんだな。
 まず聞くが、こいつはいったいどーいう状況だ? お嬢ちゃんはそっちの黒髪の女に襲われていたって認識で間違いないか?」

予想だにしないタイミングでの男の登場に、文は思わず心の中で舌打ちした。
今の場面を人に見られるとはかなりの痛手だ。
第三者の接近に気が付かぬなんてポカをやらかしてしまった。まず確実に弁明できる状況ではない。

チラリと挙げた右手を見る。
銃で撃たれたにも関わらずほとんど傷が無い。あの距離から銃だけを弾き飛ばすようにギリギリ掠らせて狙ったのだ。
達人級の仕業。主導権を向こうが握っている限り、下手に反撃するのは悪手だろう。
仮に逃げ切れたとしても、自分の危険性について情報をバラ撒かれることは間違いない。

だが、それでも今は逃走を試みるしかない。
鴉天狗のスピードなら、可能だろう。
漆黒の翼を広げ、一か八かの飛翔に挑むその時、お燐の狼狽する声が文を驚愕させた。





「あ、あの! 待って待って帽子のおじさん! あたいとこっちのお姉さんは、その…『友達同士』だよ!
 あたいを助けようとしてくれたのは嬉しいけど……だから、えと、早まらないで!」





「「―――――――――は?」」




文とホル・ホースの間の抜けた声が重なった。
コイツ悪いやつだからそのまま撃っちゃって!ぐらいの台詞を覚悟していた文からすればまるで予想出来ないお燐の発言である。


155 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:54:10 JY8yVGgY0

「あーーー……オレにはお前が銃を突きつけられてたように見えたんだが?」

皇帝を文に向けながらもホル・ホースはお燐の言葉に首を傾げた。

「あ、あれはぁー……うん、ささいなすれ違いだよ! ちょっとした意見の相違!
 ケンカケンカ! あ、はははー……」

ちょっとしたケンカがどのような経緯で拳銃を突きつけられる事態になるのだろうか。
女の子のピンチを救うため、アメリカンコミック・ヒーローのようにジャジャーンと颯爽登場したのはいいが、状況が違ってきている。
微妙に引き攣った笑顔を見せるお燐の姿にホル・ホースは大きな違和感を覚えるが、殺されかけていた本人がそう言うのならそうなのかもしれない。

「それじゃあなにか? お前さんら2人は友達同士だったがささいな口論で殺人事件に発展しそうになった。
 今は反省しているのでここはみんな仲良く穏便に事を進めよう……こういう事か?」

「いぐざくとりーだよおじさん! 文お姉さん、さっきはあたいも言い過ぎたからさ、また『一緒に』頑張っていこう?」


お燐の眩いほどの笑顔が、文に向けられた。
瞬間、文は察する。お燐の突然の妙な発言。
まるで自分を助けるような物言いの奥に隠された真意……その魂胆が。


(コイツ……もしかして私の『遺体』を逃さないために敢えて私を庇ったってワケ…?)


なるほど彼女の目的が遺体ならばここで私を逃すことは望む展開ではない。
それならばいっそのこと身近に置いて、寝首でも掻いてやろう……そんなところか。


(舐めてくれるじゃない…! 本当に、どこまでも躾のなってない泥棒猫ね。 ……いいわ、私にとっても悪くない展開だもの)


156 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:54:42 JY8yVGgY0
この聖人の遺体は彼女にとってそこまで執念を燃やすべき案件なのか。それともこれも大統領とやらの人格の成せる業か。
だが自分にとってもこの遺体は何故か絶対に渡したくない、己の意思を超えた物になってきている。
その想いが果たしてジョニィの遺志に通ずるところがあるのか、とにかく文は遺体を誰かに渡すなんて事は絶対にしたくなかった。

それに加え、自身のとりあえずの行動スタンスである『強い者に蓑隠れ』が達成できそうだ。
目の前で素晴らしい銃技を披露してくれたこの男と行動を共にすることは、自分の生存確率を上げてくれるだろう。
鬱陶しく付いてくる猫娘もそのうち遺体を奪いに仕掛けてくるはずだ。
その時は『正当防衛』という大義名分で返り討ちにしてしまえば、ホル・ホースにも筋の通った言い訳がたつ。

所詮は化け猫の急ごしらえで作った浅知恵。
鴉天狗である自分とは妖怪としての『クラス』が違う。


「そうですね。さっきは少しやり過ぎました。すみません、お燐さん。
 なにぶんこんな状況ですので、ついカッとなって……
 また、『一緒に』頑張っていきましょう!」

「うん! 『一緒に』頑張ろう、お姉さん!
 それとおじさん! あたいはお燐! 『火焔猫燐』! こっちのお姉さんは鴉天狗の『射命丸文』お姉さんっていうんだ!
 誰か探してるのならこっちのお姉さんに聞けばわかるかも。ものしりだからね」


やや強引に話を進められたホル・ホースは困惑しながらも、この場は武器を収めることにした。
やはりさっきの光景はオレの早とちりだったか…?
そんな疑問もあるにはあったが、女性を傷付けるのはやはり己の主義に反する。
このまま戦うことも無く、目的の情報を手に入れることが出来れば万々歳。
戦力増強という点でも、見たところ妖怪である彼女らをうまく相棒と出来たならば良い事尽くめだ。

だが……

(猫耳のお嬢ちゃんの方はともかく……あっちの文とかいう黒髪娘の方はどうも“クセー”んだよなあ。
 さっきの一場面を考慮するとか以前に、オレの長年の『勘』が疼いてやがる)


157 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:55:46 JY8yVGgY0
長い間汚い仕事に手を染め、その都度にベストパートナーを選んできたおかげで、人を見る目は抜群に培われてきた。
その自慢の鑑識眼を信じるのならば、この黒髪とは行動を共にしたくはない、というのが本音だった。
しかし聖白蓮の捜索に行き詰まりを感じているのもまた事実、というよりこの広い会場でたった一人の人物を当てなく探すというのがそもそも無謀だ。
どうも彼女たち『幻想郷』に住まう者は横の広がりが大きいらしい。
ならばここは人脈を武器として確かな情報を確実に拾っていった方が有益かもしれない。
なにより聖捜索中に例の2人組と出会ってしまったら能力の相性ゆえ、今度は逃げ切れない。やはり相棒は必要なのである。


「……オーケイ。まずはお前さんたちの話を聞こうじゃねえか。
 オレはホル・ホース。女には世界一優しいナイスガイだぜ」

彼女らのどこか嘘くさい態度に不安はあるが、ここはホル・ホースが目先の利を取る形となった。


(やれやれ……女の嘘は許すのが男ってもんだ、が……このホル・ホースにどこまでの器量があるかねェ……)


願わくばかつての無様を晒しださぬよう、男は自分だけの指針をもう一度噛み締める。

そして互いの喉笛を狙う鴉と猫は、それぞれの思惑を胸に秘めながら男についてゆくと決めた。
文は黒い感情を静かに燃やし続ける。


(例え卑怯と罵られようと、私は最後まで生き残る…! そしてこの遺体だけは、誰にも渡すつもりはないわ!)


体内から僅かに感じる確かな力は、文がかつて光を見出した人間の残滓。
今となっては意味のないそれを守り通す気持ちの正体は、未だ掴めない。
無意味で余計なだけのその感情を捨て去る勇気は無かった。
非道なる殺し合いに身を投じ、心を任せるだけの機械となりつつある自分にとっての唯一のアイデンティティーと成り得るものが、この遺体な気がした。
それはかつて無気力に生きていたジョニィ・ジョースターが感じた希望を、自分も同じようにこの遺体に感じているのかもしれない。

故に射命丸文は戦う。この『希望』を陥れようとする火焔猫燐は、完膚なきまで叩き潰さなければいけない。



そして、家族を守るために戦うことを決心したお燐はその『希望』を集めることに徹する。
お燐はかつてなく、燃えていた。


(この人…『こいし様を殺す』つもりだ…! そんなこと、あたいが絶対にさせないッ!
 戦うことが家族を守ることに繋がる……大統領さんはそう言ってくれた。ここであたいが戦わなきゃ、家族みんなバラバラだ!
 絶対に遺体を奪ってみせるッ! ……そしてっ!)


待ち受ける結果は分からない。
だが文がこのままこいしを始末しようというのであれば……手を染めることも、厭わない。
このホル・ホースと行動を共にする手前、文も強行手段に出るわけにはいかないだろう。そのための同行の提案なのだから。

いずれにせよ、文だけは逃がさない。逃がしてはならない。



こうして3人が一堂に集まり、表向きは平穏を保つ同盟のように見えた。
だが3人の指針は全て違う方向を向いている。

籠に隠れながら狡猾に息を潜めようとする鴉天狗。
籠の中の鳥を狙うため、小さな爪を磨く黒猫。
男の信念を守り通すため、先の見えぬ荒野を歩き続けるカウボーイ。

針の先に何があるか。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


158 : カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜 ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:57:09 JY8yVGgY0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
【E−4 命蓮寺 本堂/朝】


【射命丸文@東方風神録】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、胸に銃痕(浅い)、服と前進に浅い切り傷
[装備]:拳銃(6/6)、聖人の遺体・脊髄、胴体@ジョジョ第7部(体内に入り込んでいます)
[道具]:不明支給品(0〜1)、基本支給品×3、予備弾6発、壊れゆく鉄球(レッキングボール)@ジョジョ第7部
[思考・状況]
基本行動方針:どんな手を使っても殺し合いに勝ち、生き残る
1:ホル・ホースと行動を共にしたい
2:火焔猫燐は隙を見て殺害したい。古明地こいしもいずれ始末したい
3:この遺体は守り通す
4:DIOは要警戒
5:露伴にはもう会いたくない
6:ここに希望はない
[備考]
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※文、ジョニィから呼び出された場所と時代、および参加者の情報を得ています。
※参加者は幻想郷の者とジョースター家に縁のある者で構成されていると考えています。
※火焔猫燐と情報を交換しました。
※古明地こいしが肉の芽の洗脳を受けていると考えています。

【火焔猫燐@東方地霊殿】
[状態]:人間形態、妖力消耗(小)
[装備]:毒塗りハンターナイフ@現実、聖人の遺体・両脚@ジョジョ第7部
[道具]:基本支給品、リヤカー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を探しだし、古明地さとり他、地霊殿のメンバーと合流する。
1:家族を守る為に、遺体を探しだし大統領に渡す。
2:射命丸文が持つ遺体の奪取、及び殺害…?
3:ホル・ホースと行動を共にしたい。
4:地霊殿のメンバーと合流する。
5:ディエゴとの接触は避ける。
6:DIOとの接触は控える…?

※参戦時期は東方心綺楼以降です。
※大統領を信頼しており、彼のために遺体を集めたい。とはいえ積極的な戦闘は望んでいません。
※古明地こいしが肉の芽の洗脳を受けていると考えています。

【ホル・ホース@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:鼻骨折、顔面骨折、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(確認済み)、基本支給品×2(一つは響子のもの)、スレッジハンマー(エニグマの紙に戻してある)
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく生き残る。
1:響子を死なせたことを後悔。 最期の望みを叶えることでケリをつける。
2:響子の望み通り白蓮を探して謝る。協力して寅丸星を正気に戻す。
3:火焔猫燐、射命丸文と話をする。
4:あのイカレたターミネーターみてーな軍人(シュトロハイム)とは二度と会いたくねー。
5:誰かを殺すとしても直接戦闘は極力避ける。漁父の利か暗殺を狙う。
6:使えるものは何でも利用するが、女を傷つけるのは主義に反する。とはいえ、場合によってはやむを得ない…か?
7:DIOとの接触は出来れば避けたいが、確実な勝機があれば隙を突いて殺したい。
8:あのガキ(ドッピオ)は使えそうだったが……ま、縁がなかったな。
[備考]
※参戦時期はDIOの暗殺を目論み背後から引き金を引いた直後です。
※響子から支給品を預かっていました。
※白蓮の容姿に関して、響子から聞いた程度の知識しかありません。


159 : ◆qSXL3X4ics :2014/10/12(日) 19:59:07 JY8yVGgY0
これで「カゴノトリ 〜寵鳥耽々〜」の投下を終了します。
ここまで見ていただいてありがとうございました。
指摘、肝臓などあればお願いします。


160 : 名無しさん :2014/10/12(日) 21:07:22 ECaURzt60

投下乙です!
さあドロドロして参りました。感情の整理を付けられぬまま打算的に気を狙う射命丸。
一貫して家族のためでありながら、家族のために暴走の危機を孕むお燐。
己の器とポリシーの両天秤、嬉しくない両手に花のホル・ホース。
三者三様いつ悲劇が起こってもおかしくない様相はまるでプチ藁の砦。
それぞれのキャラの感情の機微を仔細に情緒豊かに書きだす様は流石でした。
面白かったです。


161 : 名無しさん :2014/10/13(月) 00:24:49 9e4G4sEQO
投下乙です。

遺体を巡って争う、烏と猫。
ここは地獄のゴミ捨て場!


162 : ◆.OuhWp0KOo :2014/10/19(日) 00:03:17 AJ30rGJE0
八雲藍、鈴仙・優曇華院・イナバ、八意永琳、リンゴォ・ロードアゲイン

の4名を予約します。


163 : 名無しさん :2014/10/19(日) 01:45:22 Qf5G12RQ0
これは何かが起こる


164 : ◆at2S1Rtf4A :2014/10/19(日) 09:24:02 3iw8ghNE0
多々良小傘、ジョルノ・ジョバァーナ、トリッシュ・ウナ
の3名を予約します


165 : 名無しさん :2014/10/20(月) 03:18:40 zozGnbgQ0
待ってたんだぜ


166 : ◆qSXL3X4ics :2014/10/24(金) 01:29:35 Ox/QLlmU0
マエリベリー・ハーン、ジャン・ピエール・ポルナレフ、稗田阿求、西行寺幽々子、
ジャイロ・ツェペリ、豊聡耳神子、宇佐見蓮子、霍青娥、東風谷早苗、花京院典明

以上の10名予約…したいところですが宇佐見蓮子と霍青娥がかなり自己リレーになり、
自分でも流石にどうなのかなと思うので、もし書きたい方が居るのなら喜んでお譲りします。
居ないようならばこのまま予約したいと思います。


167 : 名無しさん :2014/10/24(金) 06:47:39 /6lzk6R60
書けるネタがあるのであれば書くに越したことはないと思いますよ
誰に迷惑をかけると言うわけでもありませんし


168 : ◆n4C8df9rq6 :2014/10/24(金) 13:35:06 2d5PEUF.0
空条徐倫、霧雨魔理沙、ウェス・ブルーマリン、姫海棠はたて
予約します


169 : 名無しさん :2014/10/24(金) 15:49:55 ogfQ/32M0
ひさしぶりの予約ラッシュか


170 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/10/25(土) 01:49:11 S7T6I68o0
>>166
予約人数の多さにビックリ。
大変かと思いますが、頑張って下さい。


私も負けじと荒木と太田で予約します。


171 : ◆at2S1Rtf4A :2014/10/26(日) 10:42:18 H8EdDedI0
予約延長させてもらいます


172 : ◆.OuhWp0KOo :2014/10/26(日) 23:38:22 kgGLP7cY0
予約を延長します。


173 : ◆n4C8df9rq6 :2014/10/31(金) 00:54:02 jZUlcouo0
延長させて頂きます。


174 : ◆qSXL3X4ics :2014/10/31(金) 00:57:10 GergcItw0
すみません予約延長させて頂きます


175 : 名無しさん :2014/10/31(金) 17:24:32 1Jt.hZqQ0
ここまでテンプレ


176 : 名無しさん :2014/10/31(金) 18:10:42 ra5YP37U0
予約延長や予約破棄しなかった人いるの?


177 : 名無しさん :2014/10/31(金) 21:57:49 jZUlcouo0
別にわざわざそうゆう書き込みする必要ないやろ


178 : 名無しさん :2014/11/01(土) 00:00:40 auzZkOtg0
>>175
天ぷら大好きです。


179 : 名無しさん :2014/11/01(土) 00:43:20 yAluG5/60
>>178
わかさぎ姫「煮て良し、焼いて良し、でもタタキと天ぷらはいや!」


180 : 名無しさん :2014/11/01(土) 01:11:17 EGgmGysAO
>>179
じゃあ踊り食いで


181 : 名無しさん :2014/11/01(土) 01:14:28 /Or5JNt.0
わかさぎ姫ロワに出したい


182 : 名無しさん :2014/11/01(土) 01:15:45 xzL0qbck0
やめてやれ過酷すぎる


183 : 名無しさん :2014/11/01(土) 01:23:12 Uftsv0nQ0
開始位置が陸地だったせいでピチピチもがいてるわかさぎ姫がんばれ


184 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/11/01(土) 06:20:24 lWvQTx9s0
すいません。
予約を破棄します。


185 : 名無しさん :2014/11/01(土) 23:17:49 NRiqOA3I0
やっぱりな(レ)


186 : 名無しさん :2014/11/02(日) 00:04:13 k.duhpOEO
やっぱりね(ロ)


187 : ◆LtQWBy/YiA :2014/11/02(日) 01:55:00 1dxJKQEw0
エシディシ
予約させていただきます


188 : ◆fLgC4uPSXY :2014/11/02(日) 02:02:21 1dxJKQEw0
申し訳ありません
名前の欄の#後ののスペルミスをしておりました

再度書き込ませてもらいますが
エシディシを予約させていただきます


189 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/02(日) 23:08:44 YjQ20Ak20
すみません、予約を破棄します。


190 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/02(日) 23:54:39 u23bq1As0
遅くにすみません。たった今完成しました、ですが
このままではお見せできないので、あと二時間ほどいただいてもよろしいでしょうか?

もしダメでしたら11月4日にゲリラ投下したいと考えております。


191 : 名無しさん :2014/11/03(月) 00:01:27 aTx4eo3k0
おーけー
問題ないわ
ゆっくりでいいのよ


192 : 名無しさん :2014/11/03(月) 00:09:16 DFx3vmDM0
いいですかローゼス
私達にできること…それは二時間後の投下を信じることです
信じることが私達の戦いです


193 : 名無しさん :2014/11/03(月) 01:29:28 tiNL.wAk0
前回の2話がすごくよく出来てたので安心して待てるぜ


194 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 01:56:35 FDgf65gg0
お待たせしました、投下します。すごい不安だ…


195 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 01:57:21 FDgf65gg0
いま、生きているんだ、私…

小傘がそんな当たり前なことをぼんやりと思ったのはジョルノ、トリッシュとの話を終えてしばらくしてのこと。
尤も、つい先ほどまで半死半生の最中だった彼女にとって、ようやく二人の質問責めから解放されたのだから、寝ぼけてたってしょうがない。

 私が持ち直したことを喜んでくれて、なんだか恥ずかしい……

常日頃、人間を驚かせることしか頭にない小傘にとって、どうにも面と向かって感謝されたり、喜ばれたりする経験は少なかったようで、二人の気持ちを察するには至らなかった。
そのせいか、体育座りの姿勢で抱えた膝の上に埋めた顔はほんのりと赤い。

 でも、悪くないかもしれない…こういうのも…

人間を驚かすことが生き甲斐の付喪神としては、他人に喜ばれることを良しとするのは少々おかしいかもしれない。
だが、いつぞや文屋に語った『物が人に合わせる』という行為がなしえて得ることができた結果と思えば、存外悪い気はしない。

 ん?今の私って、もう付喪神じゃないのかな? 依代壊れちゃったし…

彼女のトレードマークの一つであった茄子色の唐傘は傍になく、代わりに何の変哲もない透明なビニール傘が横たわっているだけである。

 まあいいか、そんなこと。今はもうちょっとだけ、このままでいたいな…もうちょっとだけ……

無自覚ながらも、喜びを感じているその表情は緩み切った笑みを描いていた。満足感に浸りながら、静かにまどろみへと引きずられていく小傘であった。

だが、彼女に与えられた休息の時は少なく、しばらくもしない内に目を覚ますことになる。




「マイクテスト、マイクテスト……」


あまりにも不穏な目覚めのベルが鳴りだすのは、目と鼻の先のことであった。


196 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 01:58:21 FDgf65gg0



赤毛の少女は自身の体温が上がっているのを、汗がジワリと浮き上がっているのを感じた。
その異常が感情の戸惑いによるものだと気が付くのに時間がかかるほど、彼女は愚かではない。
少女の名はトリッシュ・ウナと言う。

あいつが、死んだって言うの…!?

焦燥の原因は仲間であるミスタの訃報にあった。
それは決して、死ぬ可能性を考えていなかったという慢心からくるものではない。
わずか6時間の間に死ぬようなヤワな仲間ではない、という信頼してのことであった。

 そうよ、タフなあいつのことだもの…!今回だって、きっと…

こめかみにほとんど同時に3発受けた銃弾をスタンドで捌く、20発の弾丸を身体に受けて絶命しなかったなど、ミスタの不死身とも言うべき頑丈さは彼女もよく知っていた。
今回もそうなのだと湧き上がる何かに任せて、ミスタ生存の判を押そうとした。

 いや、だとしたらおかしい…腑に落ちない……

だがそれは叶わない。それはやはり幸か不幸か彼女は愚かではないからだ。

チラリと目線を小傘に移す。ある意味、彼女の生存がミスタが辛うじて生きている、という可能性をより非現実的なものへと変えてしまっていた。
小傘は3時間もの間魂が抜け落ちていた、いわば仮死状態にあったが、そんな彼女は放送で呼ばれることはなかった。
要は死んでいた小傘の復活さえも主催者たちには理解の範疇だったのだ。
そんな彼らがミスタの生存と死亡を間違えるものだろうか。

さらに主催者はこう言っていた。

「まぁ、中には『生きてるとは言い難い者たち』も数名いるが、そこは大目に見て欲しいかなぁ。」

『生きてるとは言い難い者たち』言い換えるならば、『死に瀕している者たち』とも言える。主催者はそんな『死に瀕している者たち』を脱落者として挙げていない、と明言した。

もし、ミスタが仮に生きていたとしたら、当たり前だが放送で名前が挙げられるはずがないのだ。小傘の復活さえ見抜いた主催者が死にかけた参加者を見過ごすはずもない。
それでも、それでもミスタが生きているという妄言を語るならば、彼は現在小傘以上のダメージを受けて、かつ仮死状態にでも至っているということになる。
それならばあるいは主催者すらも気づきはしないかもしれない。



尤も、そのような状態から彼を救う術があるならばの話、だが。



よって、グイード・ミスタは持ち前のタフさを武器にギリギリ生き延びている、という可能性は限りなく0だった。現実は非情だった。


197 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 01:58:47 FDgf65gg0

「トリッシュ、小傘、ただいま戻りました。」

不意にジョルノの声が軽トラック内に響き、トリッシュはハッとした。
そういえば放送中の襲撃に備えて、彼が周囲を哨戒することを買って出たことを思い出す。

 切り替えないとね。いつまでも挫けてるわけにはいかないもの… 

いつの間にか熱かった身体の熱はどこへやら、代わりに汗をかいたせいで、すっかり冷え切ってしまっていた。
深呼吸を数度繰り返し、冷えた身体を隠すように平静の衣を纏う。
それだけで意外と気持ちは落ち着くもので、却ってそんな自分にわずかばかり嫌気がさした。

「トリッシュ、ミスタのことですが…」

ジョルノがやや苦し気な面持ちでそう切り出そうとして、トリッシュは腕を突き出し手の平を彼へと向けた。
これからあなたが言わんとすることはわかっている、だから言わないでくれと伝えるために。

「そうですか… なら、僕から言うことは何もありません。受け入れることは苦しいでしょうが、堪えてください。」


198 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 01:59:39 FDgf65gg0


「待って…!ジョルノのちょっと!待って!」

踵を返そうとするジョルノに私は思わず声をかけたわ。ほとんど反射的に。一体何のつもりなのか、私にもわかっていなかったのに。

「はい? どうかしましたか?」

ジョルノだって何で呼ばれたのかわからないって顔に書いてあるわ。そりゃあそうよ。私がこれ以上話すなって伝えておきながらこれだもの。


「ねえ、ミスタは……本当に死んだと思う?」


…我ながらブッたまげたわ。ちょっと何言ってるのよ?さっき決心したでしょ?気持ちを切り替えたんでしょ?


「絶対とは言い切れませんが、恐らくは…」
「放送の内容に嘘があった、なんて考えられないかしら?主催者が私たちを混乱させるために虚偽の情報を流したっていうのは。」

私はジョルノの言葉を遮るように早口で捲し立てたわ。その先は聞く気がないって風にね。

「確かにそうですね。もし彼らの狙いがそれならば、今のあなたはまさにその通りになっていますし。」

「そうでしょ!死んでもいない誰かが、脱落者として呼ばれることもあり得るわよね!?」

…皮肉で返されたのに、何あっさり同意してるのよ!ああーもう!ジョルノだって額押さえて空を仰いでるじゃないの!

「………トリッシュ、貴方が言いたいことはわかりました。ですが、正直に言って貴方の考えに同意することはできません。」

「どうして!?」

「今の貴方は浮き足立っている。確かに主催者が脱落者を偽り、僕たちを混乱に陥れようとするかもしれない。
だが、貴方はその逆だ。勝手にミスタが生きていると決めつけ、情報を精査することを投げ出してしまっている。」



「そんな貴方の言葉を鵜呑みにはできません。」



「じ、じゃあ貴方はミスタが……死んだってことでいいの?それで本当にいいの!?」
「構いません。」



「どうして……どうしてよ!?あんたたちギャングってのは……!どうして仲間が死んだかもしれないってのに、そうやって涼しい顔してんのよ!!」
「…」


「あんただってホントのところは、ミスタが生きているんじゃないかって思ってるんでしょ?」



「二度同じことは言いません。僕は無駄が大嫌い、それが答えです。トリッシュ」


199 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:00:31 FDgf65gg0

結局ジョルノとの口論の後、小傘と何やら話をすると彼は再び外へ行ってしまった。
何やら用があるとのことだが、トリッシュが立ち直るのに時間を与えたのだろうか。
一方のトリッシュはと言うと、薄暗い軽トラックの荷台の天井をぼんやりと眺めていた。

 どうして、あんなこと口走ったのかしら…?

トリッシュからしたら、ミスタの一件ついてはすっぱりと割り切っていたつもりでいたというのだ。それがこのざまである。
ただ、彼女の胸中にある思いはそんな自分に茫然としているだとか、ショックを受けているとかではなかった。
純粋に自分の気持ちのほどを知りたい、それだけだった。これ以上ジョルノに迷惑をかけないために、そのために静かに考えを張り巡らせていた。
そういった意味で彼女は普段のサバサバした態度に宿る聡明さを感じる、
いつものトリッシュだった。

むしろ、彼女の隣にいる誰かさんの方が明らかに落ち着きがなかった。
何やら時折チラチラとトリッシュを盗み見ていた様子も伺えるが、当のトリッシュにはバレバレであった。
言うまでもなく正体は、付喪神の消費期限が切れた付喪神、多々良小傘である。

 …っていうかこの子、さっきまで割と元気そうだった気がしたけど?

トリッシュ自身は放っておいても構わないのだが、黙々と考えている様が却って恐怖を煽っているかもしれないことに気付いた。
先ほどのやり取りで言葉を荒げた自分と二人きりなのだ、多少なりビクつかれてもしょうがない話である。

 とりあえず、誤解を解いておいた方がいいわね。話しかけますか……

正直言えばあまり気乗りしないがそれでも話しかけるのは、不用意に脅かすのは自分の良しとするところではないし、責任を感じる自分もいたからだ。

「小傘ちゃん、さっきは悪かっ「うひゃあっ!!」

トリッシュから話かけてくるとは考えてなかったのか、小傘は大層驚いた様子だ。
文字通り飛び上るほど驚いたのか、上擦った吃驚の声を漏らすだけでなく、身体も体育座りの姿勢からビシッとした直立不動へと移行してしまった。

「ちょっと、ちょっと。そこまでビビらなくてもいいんじゃないの?」

そんなに怖い顔していたかしら、と思うトリッシュに小傘が慌てて弁明した。

「ご、ごめん!つい驚いちゃって…」

 この子驚かせるのが得意だったわよね?それがこの調子で大丈夫なのかしら…?

「ま、まあ、とりあえず安心していいわよ、取って食いやしないからね。」

苦笑いを浮かべ、トリッシュは自分の右隣を指差しながら小傘に座るよう促す。

「う、うん…」

小傘は誘われるがままに、しかし、おずおずとした感じで座した。

「改めて言うけど、さっきは取り乱して怖がらせちゃったわね。ごめんなさい、小傘ちゃん。」
「そ、そんなことない!私怖がってなんかいないし………もちろん!驚いてもないよ!」

両手を左右に振りながら、トリッシュに非はないと言い表す小傘。ただ、その様子は狼狽しているのが見え見えだったし、
後半の陳述に至っては驚かせることが性分の自身への見栄はりのためにも聞こえる。
そんなダダ漏れの意図を感じると、自然と笑みもこぼれるものかもしれない。


「ふふふ、わかったわかった。それじゃ私の勘違いってことにしておくわ。」
「そうよ!だから気にしなくてもいいからねっ!」


200 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:01:07 FDgf65gg0
少なくとも、トリッシュはそんな彼女を見て愉快な人間(忘れ傘)だと感じたらしい。当の小傘は念を押し終えると、ふいー、と一息漏らし安心したようだ。
トリッシュはそんな様子を見ると嗜虐心というにはあまりにもささやかなものだが、少し困らせてみたくなった。

「じゃあなんで、私のことを盗み見てたのかしら?」
「んえっ!?」

小傘、本日二度目の驚嘆。
やはりというか、彼女にとっては上手に気付かれることなくトリッシュの様子を伺えていたと思っていたようだ。

「ええっとぉ………それは、その…」

小傘はどうしようどうしよう、といった風に困惑している。視線を周囲に漂わせる様は、そこいらに答えが転がっているのを期待しているように見えなくもない。

 ふふ、意地悪もほどほどにしないといけないかな?

トリッシュはと言うと、視線こちらを向いていないことをいいことに、ニヤニヤとした表情で小傘を眺めている。
適当なところで助け船を出そうか、トリッシュはそう思った時だった。


「いやまあその……そ、そんなことより何か話をしませんか?」


小傘はビクビクといった風に話を切り出す。

話ってまた、藪から棒ねぇ…

まあ大方、単刀直入に本題から入りづらかったのだろう。あるいは、ただ単純にトリッシュが怖かったから盗み見ていた、といったところか。
かと言って、そこを言及すれば小傘がより当惑するのは目に見えていたし、戸惑う彼女を眺めるのは見ていて可愛らしいのはいいだろう。
だが、それではいつまで経っても彼女は警戒しっぱなしだ。流石にそれは気の毒である。

「OK。それじゃあ、お話と洒落込みましょうか。」

なので、トリッシュはこれを快諾した。妖怪界とギャング界(トリッシュは違うけど)の親睦を深めるのも、悪くないだろう。

…って言っても、何を話したらいいかしらね?そもそも話は合うのかしら?

最もな疑問である。見た目こそ年齢の開きを感じさせない両名だが、小傘は百年の歳月を経て付喪神へと昇華した妖怪で、
幻想郷の妖怪の例に漏れず、見た目と年齢がどこまで一致しているのか、甚だ疑問である。



「それじゃあ…!今から私が話をするわ!私が最近驚かせてきた人たちの話をねっ!」



だが、そんな疑問などどこ吹く風か。小傘が快活な声でトリッシュに話しかける。

はぁ、と思わずトリッシュは口から声を、目を見開いて、小傘に視線を注ぐ。先ほどとは打って変わった小傘の様子に驚きを隠せない。

なんか急に元気になってない? まさか単にこの話がしたかっただけなの!?

小傘の豹変ぶりにトリッシュは、ふつふつと疑問が沸き上がるが、当の小傘は語り始めていた。
まあ、沈んだままでいられるよりいいか、と思ったトリッシュは一先ず話を聞くことにした。


201 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:02:07 FDgf65gg0


「はい!私の話はおしまい!」

小傘はそう言って話の幕を引いた。結局、先ほどの台詞のような感じで終始楽しそうに語る小傘であった。

話した内容は彼女が最近住みかとしている、命蓮寺の墓場での出来事だ。
なぜそのような場所に居着いているのか、と問うと単に墓場という地形に物を言わせれば、簡単に驚いてくれるとかなんとか。
小傘はそうやって、自身が人間をバッタバッタと驚き倒す快刀乱麻の活躍を語ってくれた。

だが、その活躍ぶりは快刀乱麻と言うよりは七転八倒そのものだった。それを小傘が何かにつけて、
こう驚いただのなんだのと脚色した感じで、無理矢理な部分が多々見られる内容。
そんな内容を力強く語るのだから、驚かせたことより、それを語る小傘の方が滑稽になったのは言うまでもない。
特に愉快だったのが、誤って命蓮寺に住まう妖怪を驚かせてしまった時の話だろうか。
折角なので、小傘の曲解したものをシンプルに砕いたものを一部紹介しよう。


最初に相対したのは鼠色をしたネズミの妖怪。放っておけば死ぬような妖怪だが、一丁ここいら相手をしてやる。
いつもの手段と隠れ場所。ひっそり潜んで息殺し、行くぞやるぞと息を巻く。ヒョイと飛び出て、舌を伸ばし、ばあっと果敢に驚かす。
しかしそやつの心は冷血か、氷水に浸けたビールのような視線を送るだけ。
それでもわちきは雨にも負けずと水無月の湿気を漂わせながらも付きまとう。すると相手も観念したか、褒美を取らすと依り代と瓜二つの傘を差し出した。
これにはわちきもびっくり仰天。しかし、姑息にもその隙を付いたか、気付いた時には唐傘二つとわちきが一人。

お次は犬耳生やした山彦妖怪。朝の目覚めはいつだって、こやつの読経から始まりうかうか二度寝することも許されない。
声の大きさならば、日頃研鑽を積むわちきにも分があるというもの。
なれば即決。墓石の影に身を潜め、うわあっ!と飛び出てやれば、相手は自慢の耳が逆立ちさせ、全身の毛をおっ立て驚いた。
だがしかし!それが眠れる獅子を呼び起こす!
う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっ!!!!!
妖災一過。目覚めた時には辺りの墓石が荒れに荒れ、にこやかな尼さんから山彦と仲良くお説教。

最後に出でたるは見慣れぬ狸尻尾の妖怪。辺りを見渡しているがよもや、先刻の尼公の差し金か。たとえ新参者とは言えど、この多々良小傘容赦せん。
郷に入っては郷に従え、我が物顔でわちきの聖地を侵す輩はおったまげ、ぶったまげることを教えてやろう。
さあ、その墓石から動いた時、お前のさい・・・って今だあぁッ!
!?墓石の影にいたのは…わちき? まさか未来のわちきが過去のわちきを見て…!
!?!?あれ、墓石もわちきに!?!? 
!?!?!?わちきだらけになって!?!?!?
大小ばらばらなわちきに囲まれ埋め尽くされ、まさに四面楚歌の八方塞がり。数の暴力に流石のわちきも、ひええ、と叫んで駆け出した。
スタコラサッサ、ホイサッサ。


まあ、要は語っていた小傘も聞いていたトリッシュも楽しめたというわけだ。
ただ、その面白いというベクトルは小傘の望む方向を向いてはいなかっただろうが。

「ふっふっふ、満足してもらえた?」
「ええ、とっても。楽しませてもらったわ。ありがとう。」


202 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:03:17 FDgf65gg0
トリッシュは皮肉ではなく、純粋に楽しめたからこそ素直に礼を言った。
だからこそ小傘の活躍がイマイチ覚えていなかったのが少々申し訳なくもあったが、それも合わせてお礼の意に込めたつもりである。

そんなトリッシュの考えなど知る由もなく、小傘はにこにこ顔である。もうちょっと疑いなさい。

「結局、私を元気付けるために素敵なお話をしてくれて、嬉しいわ。」
「う、うん……」

しかし、次の言葉を耳にした小傘の表情に影が差す。女心と秋の空とは言ったものだが、それをこうも表情に出してしまうのはよろしくない。
おかげで、トリッシュは小傘が何か言いたいことがあるのを容易く察することができた。

「そういえばお話しましょ、ってことだったけど、本当は何か言いたいことがあって、私の方を見てたんでしょ?」

小傘は、うんともすんとも言わずにただ沈黙を続ける。だが、その面持ちが徐々に固くなってきていたり、顔には所々汗が浮き上がっていたり、と図星であることを暗に示していた。

「私も貴方に謝ることがあって、それで、話しかけようとしてたの…」

「私に?」

予想外の言葉に答えるのが一瞬遅れるトリッシュ。はて、何のことやらと彼女には思い当たる節がないようだ。
だが、こちらに視線を送る小傘を見るにふざけているだとか、いい加減な気持ちは欠片も見えない。意を決して伝えようとする小傘の姿に、
トリッシュは一つの考えが浮かんで―――すぐに押し込め、こう思った。


「その…私のせいで」


聞かない方がいい、と。





「ミスタさんが死んだかもしれないって思って、だから……ごめんなさい!ぃいいっ!?」


頭をぺこり、と下げようかした瞬間。
トリッシュが四つん這いの姿勢で一気に近づき、小傘の顔へと詰め寄る。小傘が声を上げた時には顔と顔がぶつかるかと思うほどに距離まで寄っていた。


203 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:03:51 FDgf65gg0
「ひえっ!?」
「続けて」

小傘はドギマギするが、トリッシュは冷静そのものだ。トリッシュにとっては、ただ単に大事な話を聞き逃さないために近づいただけである。
ついでに言えば彼女を護衛した彼らの動きを習ったものだから、少々奇抜な動きだったかもしれないが。

だがそのせいで、小傘は口をパクパクしてるだけで声が出ていない。

「もしかして、私たちに会う前にミスタに会ったの!?」

トリッシュは我慢しきれず自分から尋ねる。小傘はと言うとまだ腰を抜かしているのか首を左右に振って否定の意を示すだけだ。

「ちょっと?何とか言ってもらえないとわからないで「あぁうぇっと……近いッ!!近すぎるよッ!!」

ようやく空気が肺に行き届いたのか、抗議の一声を上げる小傘。


ついでに座ったままズサリと大きく後退する―――がトラックの狭さゆえに後頭部を激しくぶつける始末。
痛ぁ、と頭を抱えてうめきながら、ぺたんと顔面を荷台の床につけた。
トリッシュはと言うと、それもそうね、と小さく呟くだけで大したフォローもない。


「それよりも教えて!じゃあ貴方は何だって自分のせいで彼が死んだって言うの?」


尤も、それは致し方ないことだろう。仲間死に際を知っているかのような口ぶりをされれば、それに食いつくのは至極当然のことだ。
だが、そんな彼女の態度が引き金になったか、小傘は思いっきりぶちまけた。

「だってッ!私なんかを助けるために…!何時間も費やしちゃって、そのせいでミスタさんに会えなかったんじゃないかって思って…だからッ!」


「ごめんなさいッ!!」


どこか謝る雰囲気ではないが、小傘は言い切った。まあ、却ってこの方がしどろもどろにならず、トリッシュにはっきり伝えることができてよかっただろう。



そう、はっきりと伝えることができたのだ。



「………っきに、気にする必要はないわよ。ホントに。別に私たちが勝手にやったことなん、だから…」

「ほんと「ええ本当よ!だから気にしないでちょうだい!貴方のせいじゃない!これで…!良かったのよ…」

トリッシュは小傘の言葉を覆いかぶさるように捲し立てる。小傘はそんな彼女の様子におかしいと思ったが、自らこれ以上デリケートなことに突っ込むには至らなかった。


204 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:04:52 FDgf65gg0
一時の静寂が軽トラック内を再び包む。


 大丈夫、大丈夫。私は取り乱していない。平気……平気よね?


トリッシュはついそんな自問する。先ほどのジョルノとの口論ようになっていやしないか、彼女の不安はそこにあった。

 小傘を救わなかったらなんて、考えるだけ詮のないこと。わかってるわよね、私?

胸に手を当てて自らの心中を推し量る。大丈夫平気だ、と何度自問しても返ってくる。いい加減ばからしくなってくるぐらいそれを繰り返し、ようやくふうっと一息ついた。


「トリッシュさんは、やっぱりっ、その…ミスタさんが、いなくっ、なって」


小傘は声を震わせながら、ポツリポツリと漏れる言の葉に意味を与える。


「寂しい、のかな……?」


一方トリッシュは沈黙を遵守するのみ。先ほど黙っていた小傘と立場逆転である。ならば、彼女もまた図星なのだろうか。



「もし、えっと……寂しいんだったら、その私を………私を最後の…最後まで使ってくれませんか…?」
「……どういうこと?」



ここでトリッシュはようやく言葉を返す。単純に小傘の言葉の真意を量り兼ねたからだ。

「ジョルノさんに言われたの。安全な場所を見つけたら、そこに君を置いていくかもしれないって…」

ジョルノがそんなことを…

小傘の状態を考えたら、ある意味当然かもしれない。彼女の頭部に入ったスタンドDISC、これのおかげ小傘は一命を取り留めた。
それがどのような拍子で外れてしまうのか、外れたらどうなるのかは未だに不明なのだ。
だったら、彼女をこのまま引き連れての行動は大きな危険を伴う。ジョルノはそこを危惧していたのだろう。

「貴方の安全のためよ。彼も意地悪でそんなことは言わないわ。」
「それはわかっているの!だから……その、貴方の寂しさを、私で埋められたらって思って…」

「私はもう一人でいたくない。でも二人の邪魔にはなりたくない。だから、私が貴方の隣にいてもいいっていう意味を与えて…!私に居場所を与えて!」

小傘はトリッシュの両腕をそれぞれの腕で掴みながら、必至の様相で希求する。


205 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:05:39 FDgf65gg0



「私にミスタさんの代わりでいさせてください!お願――



ドッゴオォン!!



軽トラック内に重い異音が響く。小傘の言葉が最後までトリッシュの耳に入ることはなかった。
異音の正体はトリッシュを見ればすぐにわかる。軽トラックの鳥居めがけてスタンド『スパイス・ガール』の拳を打ち付けたのだ。
見れば、あとわずかで鳥居を突き破らんとするほどの一撃を放った。

小傘は一瞬何が起こったのかわからなかったが、やがてハッとする。




地雷を踏みぬいたことに。




「あいつが死んだからって…!その穴をあんたが埋めてみせるだってぇ!?冗談じゃない!冗談じゃないわよッ!!」

トリッシュは小傘へとゆっくりと詰め寄る。わざとだ。相手にプレッシャーを与えるように。怒りを誇示するように。ゆっくりと。

「あんたがあいつの何を知っているの?あんたはあいつがどんな音楽が好みなのかも知らないんでしょ!?
私は知っているわ!好きな音楽はカーペンターズ。そして、何よりあいつが最も嫌いなものは数字の4。」

トリッシュは尚も歩みを進めながら一息で一気に言い切る。一方の小傘はそれに合わせて一歩一歩後退するが、途中で腰を抜かしてしまう。

「あいつの代わりなんていない!鞍替えすることなんてできないッ!できるわけがないでしょうがッ!!」

尻餅を着いた小傘はそれでも手足を動かして引き下がるが、思うように力が入らない。顔には恐怖が張り付いており、今にも泣きだしそうだ。

「それに付け込んであんたは…!自分の都合を、寂しいなんて安っぽい感情だって決めつけて!そんなものを私に押し付けないでよッ!!」

すっかり動かなくなった小傘を捉えるのは容易で、トリッシュは小傘と顔面同士ぶつかる距離まで近づき、
そう吐き捨て、小傘の眼を射抜くように眼を合わせた。小傘はうわ言のように意味を成さない言の葉が漏れるだけで、ただ震えていた。

かたや怒り、かたや恐怖。お互い渦巻く感情に包まれ大きく肩で息をする。向き合った状態ゆえに、お互いの吐いた息が当たっているがそんなものお構いなしだ。

ほんの数秒だけ、そうしているとトリッシュはすっくと立ち上がる。へたり込みひたすら呼吸を繰り返す小傘を見下ろすと何故だか気分が晴れるのを感じてしまう。

「寂しいって言うのなら、誰かを驚かせばいいじゃない?今まで通り、それで満足していればいい。そうでしょ?」

そう言ってトリッシュは外へと飛び出そうとした。どこへ行くでもない、ただこの場にいたくなかった。それだけだ。

「ま、待ってえぇええッ!!」

だが、トリッシュの片足を小傘の両腕がひっしと絡められていて、思わずつんのめりそうになる。

「ちょっと、離しなさいよ!」

一瞬、蹴飛ばしてしまえ、と悪魔の声が聞こえたが、さすがにそこまで至るのはトリッシュの倫理が良しとしなかった。



「もうダメなの…!ここじゃあ、誰かを驚かしたって…!また殴られちゃうから……誰かの傍にいないと、私だって本当は寂しいよぉ…」



小傘は痛むはずのない腹部を片手で抑えながら、涙目に涙声でトリッシュに訴える。

 …そう、か……!この子、あの男を驚かそうとして…

今の小傘に寂しさを埋める手立てはない。寂しさを相手を驚かせることで満たしていた彼女だが、この殺し合いの場においてそんなことしようものならどうなるだろう。
現に小傘はそれをよく、本当によく身を以て味わった。そんな彼女は今、少しずつ飢えてきているのだ。



「お願い…!どこかに行くなら連れてって…私を一人にしないで……置いてかないで!置いてかないでよぉおッ!」



小傘の悲壮な願いに、流石のトリッシュも躊躇してしまう。だが、その一方でここで認めたらミスタを軽んじてしまうような気がした。

二つに揺れるトリッシュが選んだ結果。



「く、来るんじゃあねーわよッ!」



片手だけとなった足の拘束をスタンドで振り払い、自由となった両足で軽トラックの床を思いっきり蹴り付け、そのまま大きく跳躍。
トラックの幌が肌を擦る感触が過ぎ去ると、足は地面へとたどり着いていた。

結局わからなかった。小傘に手を差し伸べるべきだったのかどうか。わかったのは、彼女を蹴飛ばして無様にもトラックから転げ落ちろ、
と思う自分もいたし、彼女の好意を無下にしたくない、という自分もいたこと。


トリッシュは駆け出した。逆巻く思いを振り切るように。後ろめたい思いから逃げるように。


206 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:06:26 FDgf65gg0



唐突だけど、僕が思うに墓標は必要ないものだと考えている。
墓の持つ役割は死んだ後に故人に思いを馳せるためのものだって解釈してるけど、
生憎そんな場所に行ってわざわざ思い返す必要はない。無駄だと思う。
何故かって?そんなのはすごく単純だ。

故人を想起したいなら、その場で目を閉じて思いを馳せればそれで十分だからだ。

貴方にとって、そして故人にとって、真に大切な人ならば、きっとそれだけで故人は貴方に勇気を与えるだろうし、その気持ちは浮かばれるはずだ。
それにそっちの方が素敵じゃないかな?常に自分の近くで守ってくれてるような気がしてさ。
僕はできれば、そんな風に誰かに勇気と希望を与えていけたらって思う。
……おっと、悪いけど僕は今すぐ死ぬつもりは毛頭ないってことは予め断っておくよ。
そして、僕の仲間は少なくとも、僕に勇気と希望を託してくれる。彼らと過ごした時間は短いけど、その分濃密な時間を過ごせたと確信している。

そして、おそらく君も僕に与えてくれるだろう。登る朝日よりも眩しい『覚悟』を掲げた『友』グイード・ミスタ。
惜しむらくは、もう少しの間だけでも貴方が照らす『道』を歩んでいたかった。三人、トリッシュと僕そして貴方とだ。

本当に、本当です。


207 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:07:14 FDgf65gg0


用がある、と言い残し軽トラックを後にしたジョルノ・ジョバァーナ。
彼は軽トラックが小さく見える程度の距離を空けて、一人で何やら作業をしており、たった今終わったようだ。

 こんなものですかね。

周囲はだだっ広い草原とポツリポツリとまばらに突っ立っている樹木、そして先述の軽トラック。
そして、ジョルノの目の前にある彼の腰まである高さの物体が一つ。
ジョルノの腕の一回り小さい太さの二本の木の枝、それぞれを蔓で縛り十字に組まされている。
地面に突き刺さっている様はもちろんアレだ。



墓標である。



 うーん、ちょっと簡素すぎるかな? ホントは墓石が良かったのですが、まあこれ以上は労力の無駄遣いですね。

ジョルノは軽く伸びをすると、座るにはちょうどいい大きさの石に腰掛ける。座るのにちょうどいいと言ったが、もちろん墓石として使えそうな代物である。
ぼんやり周囲を見渡し、彼は何を考えているのか。視線は結局、簡素な墓へと戻ってきて、やがて閃く。

 花だ。何か足りないと思ったら、それがなかった。まあ、花くらいは折角だし用意しましょう。すぐできますし。

では、一体この墓標に何を献花させたものか、ジョルノは思案しこれまた即座に閃く。

「『ゴールド・エクスペリエンス』」

自身のスタンドを発現させると、右腕を振り上げ墓碑の目の前の地面を殴る。物質に生命を宿す力を秘めたその能力に従って、小石や砂は花へとその姿を変えた。

「まあ、貴方にはお似合いの花だと思いますよ、ミスタ。もし、嫌だと言うなら頑張って這い上がってきてください、それじゃ。」

ジョルノはまた明日にでも会える友人にサヨナラを言うように、素っ気なく伝え、踵を返した瞬間だ。

十字の組み木があるだけのみすぼらしい墓に咲く花々は、どこか恨めし気に見える。大小様々、色も選り取り見取りとこれだけだと彼の意図が分からない。
君にはどんな花もお似合いだ、という意味だろうか。だが、ちょっと見ていれば割とあっさりわかるものだろう。
これらの花でもたった一つだけ統一されたものがあるからだ。

軽トラックの方を見やると、こちらに向かって誰かが走ってくるのが見える、というよりはもうすぐそこに近づいていた。
それがトリッシュだとすぐに気付いた彼は、やれやれ、とぼやきながら駆け出す。何事もなければいい、と叶わない願いを抱きながら。


208 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:08:09 FDgf65gg0


やりすぎた。何もかも。

トリッシュは深い反省と自己嫌悪に駆られながら走る。何もあそこまで言う必要などなかった。
小傘の言ったことが気に入らなかったら、軽く嗜めるだけで十分のはずだ。あそこまで激情に身を任せる必要など、欠片もないというのに。

 何が…!安っぽい感情、だ!

理性を失って怒り狂う自分の方がよっぽど愚かだった。浅はかだった。拙かった。
そして何よりも許せなかったのは、仲間のために自分はここまでできる人間なのだ、という優越感に似たものを感じたことだ。

ミスタの死に怒りを感じ、それを軽んじた小傘を言葉で叩きのめす行為。
そこに自分は仲間に対して、強い信頼と優しさを以て行動したという実感を感じることができたのだ。
ジョルノがミスタの死に何もしなかったのと、違って私はここまでできるのだと。

 そんなもの、糞食らえもいいところに決まっているじゃないッ!

だが、トリッシュはそれが間違いだと良くわかっていた。それは、彼女を護衛したブチャラティチームは決まって、仲間の死に対して冷静だったからだ。
理不尽な死を与えられたアバッキオとナランチャ。それでも彼らは静かな怒りだけを抱えながら進んでいくことを選んだ。
一見すれば、そこに優しさなどない。いや実際、優しくないかもしれない。

その代わり、彼らはそれぞれが歩む『道』に対しては一切の妥協はなかった。
たとえ道半ばで誰かが倒れたとしても、それを受け継ぐ確かな繋がりはトリッシュも良く知るところであった。

 それがわかっていながら…!その場で見ておきながら!彼らに惹かれていながら!どうして私は!

そこまで考えると、視界の揺れが止まっていた。元々強い興奮から息を切らしていたのに、その後の全力疾走でついに足が根を上げた様だった。

なし崩し的にその場に力なく尻餅を着いた。

 ああ……ホントに、どうしようもないわね。

近くに参加者を狙う敵がいないとも限らないというのに、軽トラックにいる小傘とて安全ではないというのに、酷く気怠い気持ちが身体を包む。


「今日の私って、本当に「『一味違う』ですか?」!?」


背後に誰かいるなど露程も頭になかっただろう。反射的に立ち上がって振り返る。

「こんなところで何やっているんですか、トリッシュ?」

声色で予想はついていたが、やはりそこにはジョルノがいた。正直今の彼女にとって対面したくない相手だろう。
尤も、一人でいたかった彼女からしたら、誰が来たところで会いたくない相手へと化けてしまうだろうが。

トリッシュはばつが悪そうな表情をするだけで、何も言い出そうとしなかった。したくても何から話せばいいのか、わからなかったというのも勿論ある。

「トリッシュ…?僕だって全てがわかるわけではありません。精々、急ぎの様子でないところから、
小傘の身に何かが起きたからここに来た、というわけじゃない。…ってことぐらいしか想像できません。」

「ごめんなさい、ちょっとだけ待ってくれない…?」

短く、素早くそう言ったトリッシュの表情は憔悴し切ったものだった。

「あんまり待てないのが正直なところですけど………ん? おや?」

ジョルノは何かに感づいたかのように周囲を見渡す。トリッシュもそれに倣って360度ぐるりと見渡すが何もおかしなものは見当たらない。


209 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:08:58 FDgf65gg0

「何かあったの?」
「ええ。どうやら獲物に引っかかってくれたみたいです。」

ジョルノは満足げに答えると、デイパックから地図を広げ出した。

「…よかったら、私の理解に届く範囲でお答えしてもらえる?」
「むしろ、貴方の方に聞きます。まだ気付かないのですかってね。夜が明けた今、奴らの動きは筒抜けになります。
不穏な動きをする輩の居場所を突き止めませんとね。」

トリッシュはまだ理解に追いついていなかったが、次の瞬間そこに追いつく。
ほんの一瞬彼女の周りが少しだけ陰り、すぐ元に戻った。頭上に何かあることを察するのに十分な要素だ。
そしてその影は南へと走っていくことが、辺りに広がる草原が如実に教えてくれた。

最後にトリッシュは南の空を見上げた。そこにいたのは。

「何よあれ!鳥……なの…?」

上空に見えたそれはトリッシュの言った通り、遠巻きでしか見れないせいか鳥のシルエットにしか見えない。

「さて、どうでしょうね。ここからじゃあイマイチ判別がつきません。しかし、この場に生物の類はいないはずです。はっきり言って滅茶苦茶怪しい、なので…」

「なので…?」







「撃ち落とします。」







「へ?」

トリッシュは素っ頓狂な声を上げた瞬間だ。


ドグオォオォオオオン!


トリッシュが見上げていた鳥のシルエットから突如、轟音が鳴り響き、爆風に包まれた。


「ベネ。一先ず成功です。後はあれが生きているのかどうかだけだ。」
「ジョルノ、ちょっとついていけないわ。一人合点してないで教えてちょうだい。」

「トリッシュ、ちょっと自棄になっているからと言って、考えることを放棄するのは良くない。
貴方に何があったのか今追及することはやめますが、僕は尋ねられれば答える辞書ではありませんよ?」

涼しい顔で軽くあしらわれたトリッシュは、流石に癪だったか今までのジョルノの言葉を思い起こし、尋ねる。


210 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:10:29 FDgf65gg0

「……あれが貴方のさっき言っていた獲物なの?」
「少しは調子が出てきましたね、半分正解です。」

ジョルノはにこやかに答えるが、半分正解、という程度で褒められても、その程度しか求められていないような気がして、それはそれで腹が立った。

「あの爆発、貴方の支給品を使ったの?」
「いいえ。先の戦いで、あの男が使ってきたものです。僕がリンゴへと変換させた、あの手榴弾をね。こっそり拝借しました。」

「……抜け目ないわね。あれ?でもそれって爆発する寸前だったんじゃあ…?」
「その通りです。尤もリンゴに変えている限りはただのリンゴです。ですが、能力を解除すると即座に爆発するので、ここで使うことにしたんですよ。」

トリッシュはそれを言われてゾッとした。ジョルノがうっかり眠ったり、気絶でもしたら能力が解けて爆破。三人揃ってただでは済まないだろう。

「……しかし、一筋縄じゃあいかないですね。」
「何がよ?」

ジョルノが先ほど爆破した空を指差す。そこには確かに爆風を受けた鳥のシルエットが相も変わらず飛翔している姿があった。

「うっそ…!?じ、じゃあ…あれってまさか……」
「手榴弾の爆発を食らっても平気だとしたら、スタンドでしょう。十中八九、ね。」

まあ予想の範疇でしたが、とジョルノはぼやく。

「予定なら、撃墜したあれの肉片でも使って僕のスタンドで生命を与え、追跡させようって腹だったんですけどね。」
「うーん、でもこのままじゃあ結局、相手の居所は分からず仕舞いってわけ?」



「まさか、さっき言ったでしょう?予想の範疇だとね。」
「えっ!?」



「半分正解、と僕が答えた貴方の質問、トリッシュ。覚えていますか?」
「えっと……あれがジョルノの言ってた獲物、だっけ?」

「そうです。そしてその問いの答えですが―――」

直後、ジョルノとトリッシュの頭上に再び幾つかの小さな影が過ぎ去って行った。

「えっ!?」









「獲物もエサも一つだけじゃあないってことです…!」









先ほどと同じような鳥のシルエットが南へと羽ばたいていく。

「これで、とりあえずは追跡可能です。あの鳥のようなスタンドは僕のゴールド・エクスペリエンスで命を与えた果物を持ち去ってくれました。
それがどこにあるかはもちろん把握できます。」

「いつの間にこんな大掛かりな準備してたの?」
「放送前に周囲を哨戒した時に、上に何かいるのを感じましたからね。そこらへんの草やら木切れを動物に変えて動かして、その後は果物になってもらいました。」

トリッシュはよくもまあそこまで用意できたな、と舌を巻く。

「それじゃあ、相手の居場所の特定は可能ってことね。」
「敵であるとまでは断定できませんが、ね。ただ味方なら、あれを使役して情報収集に勤しんでいるはずなので、接触する価値はあるでしょう。」

「そうね。そうと決まったら行きましょう、ジョルノ…!」
「待ってください、トリッシュ。貴方は大事なことを忘れていませんか?」

トリッシュはほんの一瞬だけ、ジョルノの言葉の意味が分からなかったが、すぐに自分の状況を思い出した。

「あ……」
「歩きながらで構いません。何があったのか教えてもらえますね、トリッシュ?」
「…ええ、ぜひとも聞いてちょうだい。」

小傘と別れて、ジョルノと行動していく中で、彼から与えられた刺激で無気力な自分は消え失せていた。

いつまでも腐っているわけにはいかない。過ちを犯したなら取り返す。それも今すぐ、今すぐによ!

ジョルノ・ジョバァーナと言う人物は強いカリスマ性を持った人間だ。だが、それは道行く人全てを惹きつけるものではない。
自分と道を同じくする者にのみ、その心を技を焚き付け引き出させる、そんな変わった魅力のある人物、かもしれない。


211 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:11:28 FDgf65gg0



「仲直りしましょう。」



シンプルな答えである。
ジョルノはトリッシュの話を聞いて、開口一番そう言った。

「貴方自身、自分の非を認めている以上、小傘にその思いをちゃんと伝えてあげることが一番の方法です。」
「まあ、そうなるわよね…」

ジョルノの言葉に理解を示しているトリッシュ。だが、その様子はモゴモゴと何か言いたげな感じを漂わせていた。

「何か心配でも?」
「……あの時だって、そうだったのよ。貴方にミスタが死んだことを改めて言われた時もそうだった。」

トリッシュは絞り出すように言葉を紡ぐ。

「頭では理解していたけれど、心が理解に追いついていなかったのかしら? 駄々をこねる子供のように貴方の言葉を拒絶したでしょう…
ああならないか、私はすごく不安なのよ。」
「そうでしたか…」

今は反省しているが、それがまた自身の突飛な行動で壊れてしまわないか、トリッシュの一番の懸念であった。

ジョルノは少しの間逡巡した後、道から外れた質問へと至る。


「突然ですが、トリッシュ。貴方は今、夢がありますか?」
「はい?」
「夢や目標。まあ、そんな感じのものです。」


トリッシュもジョルノと同様にしばし思考した後に返す。

「ない、わね…… 情けないことに。ここに来たのもあいつを倒して間もなかったし、考える余裕もなかったわ。
尤もあいつをもう一度倒すのはもちろんなんだけど、それを夢や目標って言うのはごめんよ。」

「それじゃあ、ちょっとした目標でも持ちましょうか?」
「ジョルノ……悪いけど、私が今目標を持つのにどんな意図があるの?」

トリッシュはジョルノがなぜ急に夢やら目標やらの質問をするのか、理解できなかった。

「んー……至極単純ですが、目標があれば頑張れる。ものすごく砕いてしまうと、大方そういう意味です。」
「岩が石になる程度に砕いてもらえる?」

トリッシュの言葉にジョルノは少し微笑んだ後、何故だか嬉しそうな表情で語った。

「貴方を護衛した僕たちは、きっと生きていく上でそれぞれ目標があったのだと思います。
だからこそ、仲間が絶えても進んでいけた。受け継いでいくことができた。
確固たる意志を持つことで、自分が確立されるはずです。自分の考えとブレるなんてことは起きるはずがありません。」

はっきりと明瞭に、自信と確信に満ちた声がトリッシュの鼓膜を叩く。

「貴方が正しいと思う何かを掲げて下さい。すぐには難しいことは百も承知です。ですが……今の貴方なら、あるいは一つの目標があるのではないですか?
大切な何かを失って嘆くことができるなら、新たにそれを築き上げ守ることの大切さもまた理解できるはずですよ?」

「ここで、それを守れるかしら、今の私に?」

言い終えた後トリッシュは下唇を少し噛む。

「トリッシュ、最初から下を向いていては成せるものも成せませんよ?そして目標は自分より少し高いところの方がいい。
高すぎるといつまでも達成できずに苦しんでしまいますからね。
ですから、最初の目標達成を目指すにはちょうどいいと思います。これからのためにもね。」

目標への第一歩、軽トラックに潜む寂しがりやとの再会はすぐそこへと迫っていた。


212 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:12:38 FDgf65gg0



「それじゃあ、行きましょうか。」
「ええ…!」



一瞬立ち止まりジョルノはトリッシュと顔を合わせ、確認する。澄んだ瞳には迷いの色は感じられない。後はそれを小傘へと伝えきる、それだけだった。
それは軽トラックとの距離が10m程度を切ったあたりのことだ。





何かが軽トラックの幌の中を飛び出した。運良く幌から這い出ることができた、そんな力ない動きだ。
それは人ではなく、小さい何かだった。





表面に光沢でもあるのか、朝日に照らされて反射した光が二人の眼を一瞬だけ突き刺し、目に留まった。





「「!?」」





二人はほとんど同時に地を蹴って、急いで落ちた物体へと近づく。本来なら慎重に動くべきなのは理解していたが、一つの可能性の前にそんなものは吹いて飛んだ。





「何よ……これ………!」





トリッシュはそれを拾い上げ、まるで夢でも見ているかのように呟き、叫ぶ。







「どうして、こんなものが落ちているのよ……!小傘ああぁああッ!!」







トリッシュは軽トラックの荷台へと飛び込む。ジョルノもその後に続き突入する。
落ちていた物体とはスタンドDISC。小傘の命を救ったそれが今トリッシュの手の中にあったのだった。


213 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:13:32 FDgf65gg0

荷台の中は予想していた通りの状態だった。小傘が横たわっていることを除いてだが。

トリッシュは小傘に近寄り、腕を掴む。
触れた瞬間、身体特有の温もりを感じ安心し―――直後絶望する。

「トリッシュ!そこを退いてくださいッ!早くッ!!」

ジョルノはトリッシュを半ば突き飛ばすように退けると、彼女は尻餅を着いて座り込む。そのまま彼は小傘の右腕を掴み、異変に気付く。


「そんな…!脈が……ない…?」


唖然とするジョルノだったが、気持ちを即座に切り替えスタンドを呼び出す。


「『ゴールド・エクスペリエンス』ッ!」


生命を授ける彼のスタンドは同時に、生命を探る力を有する。かつてのディアボロとの戦いでも、正体を見破る際に用いたように。

だがしかし―――


「な、い…?」


―――そこに無い物だとしたら、見つけることなど不可能だが。




トリッシュは茫然とする。そうするしかできなかった。できることと言えば己を責めることだけだ。
自分の言葉の暴力に目の前の妖怪はあっさりと地に伏せてしまったことに。
取り返しのつかないことになったことに。

ただただ絶望に叩き落された。


「くっ、トリッシュッ!何をしているんです、早く来てくださいッ!」
「……わ、わかったわ。」


このまま終わるわけにはいかない、ジョルノの言葉に引き戻された彼女は彼の元へと歩み寄る。


「DISCを!スタンドDISCを、早く小傘の頭に入れてあげてください!」
「分かってる!」

願いを込めた、届くように。


 お願いよ、間に合って! 私に謝らせる機会をもう一度だけ、お願い!


けれども―――


ヴゥァチィィイインッ!!


―――届かない。

「嘘でしょ!?何でDISCが…は、弾かれるのよおぉお!?」

DISCは吹っ飛んでいった。軽トラックの幌から飛び出るほど勢いよく。
既に死した小傘の身には死を以てスタンドDISCを引きずることもできないのだろうか。
慌ててジョルノが回収のために外を見たが、落ちた地点がわかっていない今は草の高さに阻まれてしまい、
先ほどと違ってどこに落ちたのか見当もつかなかった。

「そんな……」

流石にジョルノも想定していなかったか、立ち尽くすしかできない。

「何やっているのよ、ジョルノ!探すわよ、意地でも見つけ出すんだからッ!!」

言うが早いがトリッシュは荷台を飛び下り、探し出す。ジョルノもそれに合わせて草を掻き分ける。
両者ともにその表情は厳しく、縋る可能性の小ささを理解していても。


214 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:14:39 FDgf65gg0


10分もの捜索の末、ジョルノはDISCを探すことを諦めることをトリッシュに提案した。
もちろん、最初は強く拒んだトリッシュだが、小傘の状態を説明し、
頼みのDISCを発見したところで同じ結果は目に見えている、と根気よく説得することで断腸の思いで決断してくれた。


多々良小傘を諦める、という決断を。


「何で……失くさないと、気付けないのかしら、ね?」


ジョルノは返す言葉が見つからなかった。トリッシュの独白は続く。


「私はあの子から、何を受け継げばいいの? いや、その資格もない、か…… 私が私からあの子を拒んだんですもの…」


ただ草原に立ち尽くし、トリッシュは嘆く、ただ嘆く。


「確かにそうです。貴方には彼女の何かを受け継ぐことはできない。」


ジョルノは絞り出すように言葉を紡ぐ。多少傷ついてでも、奮い立たせなければならない、そう確信していた。





「背負って生きましょう。死ねば物を言うことはありません、嫌がることもありません。無理やりに無理やりにでも、小傘を背負って生きていけばいい。
受け継ぐなんて綺麗ごとじゃあなくても、その枷が貴方の生きる目的になり、支えになります。ただし―――」





一瞬間をあけて言った。

「―――その重みに潰された時、その時が終わりの時でしょう。貴方の、ね。」


「ええ、そうね。本当に…」


トリッシュはゆっくりと軽トラックへ向け歩き出す。ジョルノは放っておけば倒れそうな彼女を後ろから追った。
ほんの数秒で軽トラックの荷台の前へと戻ってきた。けれども、トリッシュはそこに来てピタリと動きが止まってしまった。
当たり前か。ここを開ければいよいよ、彼女は小傘の死を受け入れ、背負い生きていくことが始まるのだから。


ジョルノはトリッシュの手を無言で掴む。トリッシュはビクッと反応するものの、彼の顔を見て本当にささやかながら安堵を得た。
貴方一人で歩む必要はない、そう語りかけてくれたような気がしたから。


「「行きましょう。」」


深い後悔の念を抱えた少女は、あまりにも暗い生への糧を得て、どこへ向かうのか。
わずかにわかるのは、その第一歩はここから始まる、ということだけだ。
それは幽々たる物語の始まりを感じさせた。
さながら舞台の幕が上がるように、二人は同時に軽トラックの幌を捲る。

二人の物語の新たな章の幕が上がった。


215 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:15:28 FDgf65gg0
















「おっどろけぇえええッ!!!!」
















そして、下がった。





「う、うわああっぁぁぁああああッ!?!?」





二人ともバカみたいに良い反応をしてくれた。
どれくらい驚いたかと言うとビビった反動で荷台から滑り落ち、草村に逆戻り。その後、盛大に尻餅を着く程度に驚いた。

しかし、尻の痛みなどどうでも良かった。痛みに悶えるよりも先に見るべき相手がいるからだ。


216 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:17:04 FDgf65gg0



「う、そ……でしょ…?」
「しん、じられない……」



立っていた。態勢は仁王立ち。


右腕を『く』の字に折って右手は脇腹に当てたポージング。


左手には新調したのに、少々ボロそうなビニール傘。


傘の先端を荷台の底へ突きつけた姿はどこか勇ましい。


だが、それを無駄にしてしまう、にんまりとした、したり顔。


「やったわ!すごいでしょ!」


ピョンピョンと飛び跳ねるその様は、心なしかこの殺し合いの場に来て一番の喜びを得たようでもあった。

そう、多々良小傘は生きていた。まあ、DISCで繋ぎ止めている命で生きている、というのは少々不適格ではあるが。



荷台の中で小傘が語ってくれた。一連の騒動はすべて二人を驚かすために自分が仕組んだものだと。

まずは軽トラックから飛び出たスタンドDISC。あれは小傘に入っているスタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』ではない。
小傘の支給品の一つ、ジャンクスタンドDISCセットだった。あれを一つ適当に引き抜きジョルノたちが近づく瞬間を見計らって、荷台から転がした。
小傘に再挿入しようとした時も、すでに『キャッチ・ザ・レインボー』は入っているので、ジャンクスタンドDISCは弾かれたのだった。

次は何故、脈拍が途絶えていたのに生きているのか。だが、小傘は何のことを言っているのか、わからないと言った感じで答えない。
試しに腕を掴んでみると、体温が低くなっているだけで、ちゃんと脈を打っていた。
さらにはゴールド・エクスペリエンスで触っても、なお生命エネルギーを感じ取ることができた。
こうなってくると、もはや訳が分からない。
結局、ジョルノの診断ミス、ということと相成った。

最後になぜこのような、酔狂なことをしたのかについてだが。それは、一連の会話から聞いてもらった方がいいだろう。


217 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:19:10 FDgf65gg0


「小傘、言いたくないのなら構いませんが、なぜこのようなことをしたのですか?」
「……」

小傘は黙っていた。やはり言いたくないことなのだろうか。

「じゃあ、どうして首を左右に振るんですか?」

そう、小傘は黙ってはいるものの、時折首をフルフルと動かし、否定の体を見せた。
これには流石のジョルノも困ってしまう。時間の無駄をするわけにもいかないので、小傘が妥協してくれるような言葉を脳内で選定している時だ。


「小傘。貴方が貴方だから、私たちを驚かそうとしたんでしょ?」


小傘は待っていました、と言わんばかりに視線をトリッシュへと向けた。

「私が何がきっかけでプッツンしたか。覚えているわ、よーく、ね。それは貴方がミスタの代わりでいたいから、という言葉だった。」

小傘の表情とは対照的にトリッシュは苦い表情で語る。

「だから、代わりになれないことを知った貴方は自分で出来ること、自分だから出来ることを私たちに見せたかった。そうすれば一緒にいられるから。」

「化け傘の貴方にできること、それはやっぱり相手を驚かすこと。だから、貴方なりに全力で驚かそうとしてくれた。」

「私なんかの妄言に貴方は親身になって受け取ってくれて、私は嬉しいわ。」

「トリッシュ!」

小傘はぱあっと表情を輝かせて、駆け寄ろうとするが。

「履き違えないでッ!」

思わず、小傘はビクリと止まってしまう。しかし、トリッシュの表情と声色こそ怒りが見えたが、
そこにあるのは『恨み』だとか『嫌悪』を含まない怒り方で、誰かを彷彿とさせる雰囲気を醸し出していた。

「私が嬉しかったのは、貴方が私のために行動してくれたことじゃあないの…」

先ほどの不思議な怒りはもう見えない。

「貴方は怯えていたはずよ、驚かすことに。あの天気男に手酷く痛めつけられたからね。
だから、貴方は一肌を求めて寂しさを紛らわすことにしようとして、私に近づいた。」

そこに軽蔑も侮蔑もない。

「きっかけは私の独り善がりの言葉。だけど貴方はその恐怖を乗り越え、今ここにいる。
私はその一助になれたことが嬉しいのよ、小傘。」


「トリッシュ…」


「そして、だからこそお願いしたいの!私たちと一緒についてきて!私はまだ自分の正しい道も見出しきれない未熟者だけど、
前向きで眩しい想いを持つ貴方の様な人に、私の『道』を照らしてほしい!」

「トリッシュの『道』?」

「そう、私はもう仲間を失わないでいたい。綺麗ごとってのはわかってるけど、あいつを失って理解した私の正直な気持ちよ。
寂しがりやの貴方だって、一人じゃあ嫌でしょ? きっと貴方にぴったりだと思って誘うわ。」

「……でも、私が一番一緒にいたいのはジョルノとトリッシュなの。それでも、いいの?」

「今は、それでも構わないわ。でも、その考えは割とすぐに変わるはずよ。」
「何で、そんなあっさり言い切れるの?」


トリッシュは小傘に近寄ると、耳元で伝えた。

「私が貴方に会ってくれたから、そう言い切れるのよ。」
「えっええ!?」

小傘は一瞬、顔が派手に紅潮したのが自分でもわかった。だが、それに気付いた時、すでにトリッシュもジョルノも笑いを噛み殺していた。

「ちょっと、妖怪の純情を弄ばないでよ〜!」
「そんなつもりはなかったわよ、さっきのは私の本心。嘘じゃあないわ。」

さらっと訂正されて、それはそれでモゴモゴと何か言いたげな様子になる小傘だった。


218 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:21:23 FDgf65gg0


「さて、ジョルノ。例の敵の居所はどう? わかったかしら?」
「ええ、スタンドに運ばれた果物はいずれもC-3南西辺りに集められています。おそらく紅魔館に潜んでいるでしょうね。」

三人はそのまま今後の行動方針を決めるべく作戦会議を始めていた。

「この存在が敵であるか、どうかは現状判断できません。わかっているのは相当な数のスタンドを使役していること、
それを生かして情報収集と物資の回収をしていることだけです。そしてやり方が賢い、逆に言えば狡猾ですけどね。」

「あてもなく行動するよりは行ってみたいと思うけどね、私は。」
「私たちがここで会ってる人って今のところ、あの天気男だけだもんね。」

二人は割と積極的に動く気はあるみたいだが、不安材料が多さから躊躇したいのが正直なところだ。

「それと何とも言えない情報が一つあります。」

「どんな情報よ?」


「僕の首の付け根のところにある星型のアザ。それが、どうやら紅魔館にヒットしているみたいです。」

「…ってことは最悪の場合は……」
「はい、件の天気男が潜んでいる可能性。さらに悪いと紅魔館にいるスタンド使いと組んでいるかもしれません。」

「そりゃちょっと厄介だわ。物理的な攻撃なら私のスタンドでどうとでもなるけどねぇ…」
「まあ、それでも僕たちはまだ対処の手段がある方ですけどね。移動手段も持っていますから逃げれないこともないです。
それと付け加えると、アザの反応はほかにもあって…」
「うーん。あ、そういえば私のスタンドって確か…」

こうして3人は、しばし頭をぶつけながら思案する。3人揃って文殊の知恵となるか、どうか。


しかし、このチームのブレイン、ジョルノは一つの懸念を抱えていた。
ほかでもない、多々良小傘に対してである。

死んだふりをした彼女を触れた時、確かに生命エネルギーは感じなかった。
ただ、ゴールド・エクスペリエンスの能力が一部制限されていることは確認済みだったので、
あるいはそれが原因で生命エネルギーを感知しきれなかったのかもしれない。
むしろそうあってほしい、のが彼の嘘偽りのない願いである。

だが、小傘の身体を触った二回目は触って分かるほど体温が落ちていた。
一度死を受けた身体。体温の急速な低下。ジョルノには嫌な予感しかない組み合わせだ。

もし、君が彼と同じ状態にあるとしたら、どう声をかけるべきなんでしょうか?

ジョルノは一旦その考えを胸に仕舞いこむ。まだ決まったわけではない、だが早い内に小傘に確認をとっておく必要がある、そう静かに決定を下した。

これから進む道がどうか、彼女たちの道と一緒にあることを願わずにはいられなかった。


219 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:22:56 FDgf65gg0
状態表しばしお待ちください


220 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:39:02 FDgf65gg0

【B―2 草原地帯/朝】


【ジョルノ・ジョバァーナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:軽トラック@現実(燃料100%、植物を絡めて偽装済み)
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ東方の物品の可能性あり、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:ブチャラティに合流したい。
2:トリッシュの道の一助となる。
2:小傘を連れて行くが、無理はさせない。
3:ディアボロをもう一度倒す。
4:小傘の様態をもう一度確認する
5:あの男(ウェス)、何か信号を感じたが何者だったんだ?
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限として、
『傷の治療の際にいつもよりスタンドエネルギーを大きく消費する』ことに気づきました。
 他に制限された能力があるかは不明です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※小傘の状態の異変を感じていますが、どういったものか、あるいはその有無は次の書き手の方にお任せします。
 ジョルノだって勘違いするかもしれませんし

【トリッシュ・ウナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(小)、精神疲労(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を築き上げ守り通す、主催者を倒す
1:ブチャラティに合流したい
2:ジョルノ、小傘と共に歩んでいきたい
3:ディアボロをもう一度倒す
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限は未定です。
※血脈の影響で、ディアボロの気配や居場所を大まかに察知できます。

【多々良小傘@東方星蓮船】
[状態]:???、体温低下、精神疲労(小)、疲労(中)、妖力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:化け傘損壊、スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット3(8/9)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュ、ジョルノの二人のために行動したい
1:自分を認めてくれた二人のために生きていたい
2:トリッシュの道の一助となる
3:そういえばDISC回収した方がいいかな?
[備考]
※化け傘を破損して失った魂の一部を、スタンドDISCによって補うことで生存しています。
 スタンドDISCを失ったら魂が抜け、死にます。


221 : 人妖彼岸之想塚 ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:45:08 FDgf65gg0
すみません、紅魔館のこと忘れてたので、>>220はなしでこちらを参照ください

【B―2 草原地帯/朝】


【ジョルノ・ジョバァーナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:軽トラック@現実(燃料100%、植物を絡めて偽装済み)
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ東方の物品の可能性あり、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:紅魔館へ向かうか、あるいは危険を避けて行動するかの判断
2:ブチャラティに合流したい。
3:トリッシュの道の一助となる。
4:小傘を連れて行くが、無理はさせない。
5:ディアボロをもう一度倒す。
6:小傘の様態をもう一度確認する
7:あの男(ウェス)、何か信号を感じたが何者だったんだ?
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限として、
『傷の治療の際にいつもよりスタンドエネルギーを大きく消費する』ことに気づきました。
 他に制限された能力があるかは不明です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※小傘の状態の異変を感じていますが、どういったものか、あるいはその有無は次の書き手の方にお任せします。
 ジョルノだって勘違いするかもしれませんし

【トリッシュ・ウナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(小)、精神疲労(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を築き上げ守り通す、主催者を倒す
1:ブチャラティに合流したい
2:ジョルノ、小傘と共に歩んでいきたい
3:ディアボロをもう一度倒す
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限は未定です。
※血脈の影響で、ディアボロの気配や居場所を大まかに察知できます。

【多々良小傘@東方星蓮船】
[状態]:???、体温低下、精神疲労(小)、疲労(中)、妖力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:化け傘損壊、スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット3(8/9)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュ、ジョルノの二人のために行動したい
1:自分を認めてくれた二人のために生きていたい
2:トリッシュの道の一助となる
3:そういえばDISC回収した方が
[備考]
※化け傘を破損して失った魂の一部を、スタンドDISCによって補うことで生存しています。
 スタンドDISCを失ったら魂が抜け、死にます。


222 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/03(月) 02:46:34 FDgf65gg0
以上で投下終了です。
誤字脱字、ご指摘、ご感想よろしくお願いします。


223 : 名無しさん :2014/11/03(月) 03:32:37 BYMw3qIc0
くそっ、驚かせやがって!w
ミスタ死亡で動揺するトリッシュと、過去を語る小傘からの二人の仲違い、
そしてジョルノは本当に15歳とは思えないほど達観してるやつだなぁ
からのトラックを転がり出るDISCのシーンで、マジで死んだかと思ったじゃねえかwww
小傘の奴、この回で相当なエネルギーを得てそうだw

……という訳で、乙ですw


224 : 名無しさん :2014/11/03(月) 03:44:11 tiNL.wAk0
正直言って


相当焦った。
今回は小傘ちゃんに一本取られたよ。
前回前々回も思ったけどキャラクターの揺れ動く心象が凄く丁寧に描かれてると思う。
面白かったです、この調子で次の作品も楽しみにしてます。
しかし早くもジョルノとDIOがかち合うのかぁ……どうなる。


225 : 名無しさん :2014/11/03(月) 04:19:56 OPDmqWGo0
投下乙です!
小傘ちゃんがここまで驚かせるのを大成功している話を見たのは初めてです。
当然自分もものすんごく驚かされましたw
そして地味に小傘ちゃんの武勇伝が死んだ命蓮寺の三人というのが心に来る……
丁寧な心理描写に広がる怒涛の展開、非常に面白かったです。


226 : 名無しさん :2014/11/03(月) 19:26:43 kMM5GXSg0
投下乙です
この三人だったら適当に放送後の反応とか情報整理とかするだけだと思っていた、予想外にドラマがありました
ジョルノとトリッシュの絡みも新鮮ですね。考えて見ればこの一緒にいるのに、原作では全然話してない。
しかし驚かせるためにDISCがなくなってしまったけど、もしかして情報見れなくなったんじゃあ…

あと一つだけ気になるところが。
私の理解力がないせいかもしれませんが
「私が貴方に会ってくれたから、そう言い切れるのよ。」
っていうセリフの意味がよくわかりませんでした


227 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/04(火) 00:06:19 VebN8iBU0
>>226
ご指摘ありがとうございます。

すみません、ケアミスです。誤字です。これじゃ意味不明です。

「貴方が私に会ってくれたから、そう言い切れるのよ。」

が正しい形ですね。

念のため意味の方も補足すると、
小傘のおかげで自分は変われたことを遠回しに伝えている台詞です。
面と向かってお礼を言われることにそろそろ慣れたかもしれない小傘ですが、
それとなく伝えられた感謝の言葉が不意打ちだったのか、思わず顔を紅潮させたって感じです

駄文失礼しました。改めてご指摘ありがとうございます。


228 : 名無しさん :2014/11/04(火) 01:24:17 n4/aJvYo0
投下乙!
トリッシュと小傘の気持ちのぶつかり合い、ジョルノらしい仲間への誇り。
大きく見れば放送後の反応を描いているだけのようですが、トリッシュや小傘の為す事を改めて
認識させ、各々の道らしきものが見えてきた話でした。
特に小傘の武勇伝語りのシーンは趣向を凝らしていて面白かったです。

ひとつだけ、新しく出たジャンクスタンドDISCの支給品説明・注釈が無かったのでそれだけ付け加えた方が良いと思います


229 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/04(火) 02:22:51 VebN8iBU0
>>228

ご指摘ありがとうございます。
何度か出ている支給品なのですっかり忘れていました。

DISCの説明と併せて小傘の状態表も一部付け加え、
ジョルノの状態表もスケアリー・モンスターズの項目を追加します



【ジョルノ・ジョバァーナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:軽トラック@現実(燃料100%、植物を絡めて偽装済み)
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ東方の物品の可能性あり、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:紅魔館へ向かうか、あるいは危険を避けて行動するかの判断
2:ブチャラティに合流したい。
3:トリッシュの道の一助となる。
4:小傘を連れて行くが、無理はさせない。
5:ディアボロをもう一度倒す。
6:小傘の様態をもう一度確認する
7:あの男(ウェス)、何か信号を感じたが何者だったんだ?
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限として、
『傷の治療の際にいつもよりスタンドエネルギーを大きく消費する』ことに気づきました。
 他に制限された能力があるかは不明です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※ディエゴ・ブランド―のスタンド『スケアリー・モンスターズ』の存在を上空から確認し、内数匹に
 『ゴールド・エクスペリエンス』で生み出した果物を持ち去らせました。現在地は紅魔館です。
※小傘の状態の異変を感じていますが、どういったものか、あるいはその有無は次の書き手の方にお任せします。
 ジョルノだって勘違いするかもしれませんし


【多々良小傘@東方星蓮船】
[状態]:???、体温低下、精神疲労(小)、疲労(中)、妖力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:化け傘損壊、スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット3(8/9)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュ、ジョルノの二人のために行動したい
1:自分を認めてくれた二人のために生きていたい
2:トリッシュの道の一助となる
3:そういえばDISC回収した方がいいけど、どうしよう?
[備考]
※化け傘を破損して失った魂の一部を、スタンドDISCによって補うことで生存しています。
 スタンドDISCを失ったら魂が抜け、死にます。
※ジャンクスタンドDISCセット3の内1つを現在地周辺に落としました。
 草に阻まれて闇雲に探すのに時間がかかるので、見つけるなら一工夫必要です。

<<支給品紹介>>

ジャンクスタンドDISCセット3(9/9)
フー・ファイターズがエートロの遺体に寄生する前から守っていたスタンドDISC9枚。
プッチ神父がスタンド使いを殺害しながら生成したきたもの(数えてみたら全部で二十三枚あった)。
参加者の誰が使用してもスタンド能力は利用できない仕様。説明書付き。
それぞれの説明書かスタンドDISC内に、主催者から参加者にとって
(ゲーム進行に置いて)有益な情報が一つ入っている。
このDISCセットにはコロッセオの真実の口についての情報が記載されている。
全部集めた人には何か良いことが(荒木談)


230 : 名無しさん :2014/11/04(火) 02:53:31 uaSyJrs.0
>>229
修正乙です。
ただDISCとセットになってる有益な情報はそれぞれ異なってたような気が…?
小傘ちゃんが気付いていない可能性もあるので後続に任せる形でも大丈夫そうかも


231 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/04(火) 13:22:23 VebN8iBU0
すみません。コピペしたまんまでした
訂正したものを再度貼っておきます


<<支給品紹介>>

ジャンクスタンドDISCセット3(9/9)
フー・ファイターズがエートロの遺体に寄生する前から守っていたスタンドDISC9枚。
プッチ神父がスタンド使いを殺害しながら生成したきたもの(数えてみたら全部で二十三枚あった)。
参加者の誰が使用してもスタンド能力は利用できない仕様。説明書付き。
それぞれの説明書かスタンドDISC内に、主催者から参加者にとって
(ゲーム進行に置いて)有益な情報が一つ入っている。
このDISCセットにどんな情報が入っているのかはまだ確認されていない。
全部集めた人には何か良いことが(荒木談)


改めてのご指摘ありがとうございます。


232 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/11/04(火) 19:35:58 A.I.vDxM0
.OuhWp0KOo氏に聞きたいのですが破棄したキャラを再予約する予定はあるでしょうか?
もし無いなら私の方で鈴仙、永琳、輝夜、妹紅を予約しようと思うのですが


233 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/04(火) 20:58:13 S/TVdSA20
>>232
すみません、再予約する予定でした。
八雲藍、鈴仙・優曇華院・イナバ、八意永琳、リンゴォ・ロードアゲイン、蓬莱山輝夜
の5名を予約します。


234 : 名無しさん :2014/11/04(火) 21:45:30 n4/aJvYo0
増えたw


235 : 名無しさん :2014/11/04(火) 23:20:17 uaSyJrs.0
永遠亭組が3人か、どうなることか


236 : 名無しさん :2014/11/05(水) 02:59:34 h5wsV5iA0
なお


237 : 名無しさん :2014/11/05(水) 14:41:43 J92bCP/k0
そういえばDioの恐竜が爆発喰らってもスタンドだから平気ってなってるけど
別の話でカーズが普通に倒してなかったっけ


238 : 名無しさん :2014/11/05(水) 15:14:15 B7ysUE7A0
あくまで非スタンド攻撃で傷つけられないのはスタンドビジョンだし
既存の生物にスタンドの能力が付加されてるだけの恐竜には普通に攻撃通りそう


239 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/07(金) 00:41:43 MWZyU0Wc0
>>237 >>238
大変遅れてしまい申し訳ありません、ご指摘ありがとうございます。
自分も当初は爆破でダメージが入る路線で書いていたのですが、
スタンド相手に効かないかな?と考え直して、現在の形に収まりました。

それでは訂正した文章の一部を投下します。


240 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/07(金) 00:43:04 MWZyU0Wc0

「……あれが貴方のさっき言っていた獲物なの?」
「少しは調子が出てきましたね、半分正解です。」

ジョルノはにこやかに答えるが、半分正解、という程度で褒められても、その程度しか求められていないような気がして、それはそれで腹が立った。

「あの爆発、貴方の支給品を使ったの?」
「いいえ。先の戦いで、あの男が使ってきたものです。僕がリンゴへと変換させた、あの手榴弾をね。こっそり拝借しました。」

「……抜け目ないわね。あれ?でもそれって爆発する寸前だったんじゃあ…?」
「その通りです。尤もリンゴに変えている限りはただのリンゴです。ですが、能力を解除すると即座に爆発するので、ここで使うことにしたんですよ。」

トリッシュはそれを言われてゾッとした。ジョルノがうっかり眠ったり、気絶でもしたら能力が解けて爆破。三人揃ってただでは済まないだろう。
そんなことを思っている間に、ボトリ、と何かが落下した音を耳が捉える。確認するまでもなく、件の鳥に似た何かが落ちた音だ。
さっさと煙が上がっている方へと歩いていくジョルノにトリッシュはため息を一つついたのだった。






「ジョルノ、これは何かしら?」
「煙ですね。」「見れば分かる。」

煙が上がった場所、そこには撃ち落とした鳥がそこにいるはずなのだが。勢いが衰えた煙がわずかに燻っているだけであった。

「そもそも手榴弾なんかで爆破したら何も残らないんじゃないかしら?」
「いや、それこそ考えられない。あの高さから見て、野鳥の一二回りは大きいはず……粉微塵になるなんて、とても…」

ジョルノらは知る由もないが、ここにあったのはディエゴ・ブランドーのスタンド『スケアリー・モンスターズ』から恐竜へと変えられたミツバチである。
手榴弾の爆発によってミツバチは木端微塵に吹き飛び即死。
翼竜としてのスタンドのビジョンが剥がされ、地面に激突する頃には爆風の煙を見つけるのを手間取るほど微かなものとなっていた。

「一筋縄じゃあいかないですね。予定なら、撃墜したあれの肉片を僕のスタンドで追跡させようって腹だったんですが。」
「あれがスタンドだったとしたら、そもそも爆撃で消し飛んだりはしないだろうし…」

まあ予想の範疇でしたが、とジョルノはぼやくが状況を見るだけだと、どこか負け惜しみ臭く聞こえる。

生物を恐竜化させる彼の能力は、図らずともジョルノの追跡の手から逃れることに成功したのだ。
ジョルノはこのことに少々頭を悩ませたが、しばらくすると徐に口を開いた。




「ですが、この状況、考えようによっては悪くないです。むしろ良い。」



ジョルノの意味深長な発言にトリッシュは思わず彼の方を向く。

「どういうことよ?」

流石に痺れを切らしたトリッシュはジョルノに問いかけた。

「僕のスタンド『ゴールド・エクスペリエンス』は生命を起点としたスタンドのビジョンを物質に与えることができます。
そしてそれは形を保てなくなるか、あるいは僕の勝手で解除することができます。」

トリッシュは話の内容を租借するように、うんうんと首を縦に振る。
ジョルノはと言うと、例えば、と付け足して足元の小さな石を拾い上げゴールド・エクスペリエンスに触らせた。
触れられた小石はムクムクと不気味に動き出し、徐々に肥大化し、一つの命が宿る。


「これを先ほどの上空にいた鳥のようなもの、と思ってください。」


カラスである。さながら忍び装束のように黒一色を纏った鳥だが、憐れにも密命を果たすこともできぬまま敵の手に堕ちてしまったようにもがく。


「これをこうします。」


ゴールド・エクスペリエンスが手刀による突きを繰り出す。目標はカラスの胴体。
ジョルノの手は嘴を掴んでいたので何に阻まれることなく、あっさりと胴体を貫通。バタバタと鬱陶しかった羽音が急に止み静かになる。
息絶えたカラスはやがて元の小石へと、いや、バラバラになった小石へと姿を変えて地面へと落ちていった。
ゴールド・エクスペリエンスの能力が解けた、という説明は不要だろう。


「分かりますか、トリッシュ?」


ジョルノはトリッシュを試すように尋ねる。わかるだろう、と期待をその目に込めて。
彼女は一瞬、理解に追いつかず焦りを見せたが、わずな時間を与えることで理解を追い越す。


「似ているっていうの、ジョルノ…?貴方のスタンドと相手のスタンドが?」
「ベネ…!その通りですよ、トリッシュ。」


241 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/07(金) 00:44:13 MWZyU0Wc0


ジョルノは満足げな表情で肯定。逆にトリッシュはと言うと、正解を言い当てれてホッとした様子だ。

「相手も僕と同じように何かに生命を宿させた。この方法ならば、証拠が一切残っていない今の状況の説明が付く。
今のは手刀でやりましたから、少なからず原型を留めています。ですが…」
「手榴弾の爆発。そして、生命を宿した対象が小さいものなら、容易に証拠隠滅ってわけ、ね…」

トリッシュはふー、と一息大きく吐き出し、言葉を続ける。

「これを使役していたスタンド使い。よく考えてるわね、足が付かないようにまで気を配るなんて。」
「んー、おそらくその点は副次的なものかもしれません。あるいは、そういったものでないとスタンドの能力を発揮できなかったとか…」

トリッシュはジョルノの曖昧なこそあどに目を付け、いや耳を付ける、口を開く。

「そういったもの?」
「……ここからは憶測が含みますが。例えば、僕は『物質』に生命を与えますが、相手のスタンドは『生物でないと』先ほどの鳥の姿になれない、とかです。」

「貴方の能力と完全に一致しているわけではないってこと?」
「ふふふ、そんな感じです。それに、相手は同時に何匹も使役していま―――」

ジョルノは一瞬ハッとして、口を押えるが、トリッシュは疑問符を抱えて彼を見るだけだ。

「ん?続けてよ、ジョルノ?」

「ああ、すみません。それに、僕のゴールド・エクスペリエンスではもっとシンプルな行動、物質に依存した行動をとらせるしかできません。
だったら、既に生きている生物を使えるスタンドならあの鳥のように偵察させるといった行動を取らせられる、という意味です。」

ジョルノは何故だか早口でさっさと言い切ってしまう。まるで言って不味いことを揉み消すかのように。
わずかに訝しがるトリッシュだが、彼の説明に納得をしている様子で、深く言及する気はないようだ。


「うーん、だとしたら、なおさら相手の追跡ができないのが悔しいわね…」





「まさか、さっき言ったでしょう?予想の範疇だとね。」
「えっ!?」





あの時の負け惜しみは上っ面だったのか、それともまだ意地を張るのか、と疑問が湧くトリッシュだが、ジョルノは言葉を続ける。


242 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/07(金) 00:44:38 MWZyU0Wc0

「半分正解、と僕が答えた貴方の質問、トリッシュ。覚えていますか?」
「えっと……」

トリッシュはさっきまで別の論点だったので、思い出すのに一瞬より長い時間を要したが、やがて閃く。



「手榴弾の爆発。あれがジョルノの言ってた獲物、だったっけ?」



「そうです。そしてその問いの答えですが―――」



直後、ジョルノとトリッシュの頭上に再び幾つかの小さな影が過ぎ去って行った。


「えっ!?」










「獲物もエサも一つだけじゃあないってことです…!」










先ほどと同じような鳥のシルエットが南へと羽ばたいていく。

「これで、とりあえずは追跡可能です。あの鳥のようなスタンドは僕のゴールド・エクスペリエンスで命を与えた果物を持ち去ってくれました。
それがどこにあるかはもちろん把握できます。」

「いつの間にこんな大掛かりな準備してたの?」
「放送前に周囲を哨戒した時に、上に何かいるのを感じましたからね。そこらへんの草やら木切れを動物に変えて動かして、その後は果物になってもらいました。」

トリッシュはよくもまあそこまで用意できたな、と舌を巻く。ジョルノは相も変わらずさわやかな顔。まあ、その内心は少々ホッとしているかもしれない。かもしれない。

「それじゃあ、相手の居場所の特定は可能ってことね。」
「敵であるとまでは断定できませんが、ね。ただ味方なら、あれを使役して情報収集に勤しんでいるはずなので、接触する価値はあるでしょう。」

「そうね。そうと決まったら行きましょう、ジョルノ…!」
「待ってください、トリッシュ。貴方は大事なことを忘れていませんか?」

トリッシュはほんの一瞬だけ、ジョルノの言葉の意味が分からなかったが、すぐに自分の状況を思い出した。

「あ……」
「歩きながらで構いません。何があったのか教えてもらえますね、トリッシュ?」
「…ええ、ぜひとも聞いてちょうだい。」

小傘と別れて、ジョルノと行動していく中で、彼から与えられた刺激で無気力な自分は消え失せていた。

いつまでも腐っているわけにはいかない。過ちを犯したなら取り返す。それも今すぐ、今すぐによ!

ジョルノ・ジョバァーナと言う人物は強いカリスマ性を持った人間だ。だが、それは道行く人全てを惹きつけるものではない。
自分と道を同じくする者にのみ、その心を技を焚き付け引き出させる、そんな変わった魅力のある人物、かもしれない。


243 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/07(金) 00:49:31 MWZyU0Wc0
>>210の文章を>>240,241,242の文章に差し替えていただけると、おそらく問題ないと思います。

もし、この内容でも問題がありましたらご指摘お願いします。

そして、ご指摘したいただいたお二方ともありがとうございます。
おかげで能力を正しく理解できたと思います


244 : ◆n4C8df9rq6 :2014/11/07(金) 00:52:41 pbcMzhGc0
申し訳ございません、予約破棄します

>>243
修正乙です。それで大丈夫だと思います


245 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:32:39 9YPE1RqQ0
>>243
修正乙です。Dioの能力に関してはこの認識で問題無いと思います。

これから投下したいのですが…すみません、まだ全部は書けておりません。
それでもあまりお待たせするのも忍びないので、まずは前編を投下して後日に残りを投下する形とさせて頂きます。


246 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:37:36 9YPE1RqQ0
『マエリベリー・ハーン』
【?】?−? ???????


―――私は星を見ていた。


廃れた石段から仰ぐ満点の星空は、地平線から天頂にかけて光の砂粒のように広がっている。
光害のない澄んだ空気の空に広がる星の海を見ていると、日常の悩みしがらみなんかすっかり忘れてしまいそう。
持参してきた温かいお茶を水筒の容器に注ぐと、コポコポと小気味良い音と共に湯気が立ち昇った。
フーフーと息を吹きかけ、少し冷ます。私はちょっぴり猫舌なの。

チラリと腕時計に目をやる。いつかの誕生日記念に親友から贈られた大切な時計だ。
針は23時32分を過ぎたところで、私はいつもの事だと分かっていながらもいつも通りの溜息を吐く。
そんな私の姿を見計らったかのタイミングで、この静かな空間に似つかわしくない露骨な足音と聞き慣れた元気溌剌な声が響いた。


「やー遅れちゃったよ、メンゴメンゴ! 今日は2分19秒の遅刻かな?」


神社の石段の下から駆け上がってきたのは、我が親友であり相棒でもある宇佐見蓮子のバイタリティー溢れる姿。
トレードマークであるいつもの黒い帽子と赤いネクタイに、今日はマフラーとカーディガンを着こなしてのスタイルだ。
蓮子と待ち合わせをすると毎回私が彼女を待つ羽目になるのはもはや秘封倶楽部の風物詩であり、今夜もやっぱり私はこの寒空の下で体を擦りながら暇を潰すことになった。

「あのね蓮子、人がシャーベットアイスになりそうな気温の中待ってたっていうのに、第一声がその台詞なの?」

「だから謝ったじゃないー。お詫びにさ、ホラ! シャーベットじゃないけどアイス買ってきたんだ。一緒に食べようよ」

とても反省しているようには見えない態度で蓮子は私にストロベリーのカップアイスを手渡した。
大晦日の深夜、この寒空の下で私は何故コンビニアイスを食べなくっちゃあいけないのだろう。せめて体が温まる物をお土産に選んで欲しかった。

「寒いからこそのアイスじゃないの」とは蓮子の弁。わからないでもないけど、この仕打ちはあんまりよね。
大体、時間が正確にわかる能力を持ってるクセに、そのうえで遅刻するとは宝の持ち腐れとしか言えない。
そろそろわざとやってるんじゃないかと思えてきた。

「まぁまぁ、せっかくの年越しなんだしいつまでもむくれてるとキュートなお顔が台無しだゾ♪」

ちょっぴりムカついたのでほっぺをひっぱたいてやろうかという思考が過ぎったけど、それはやめにしてアイスの蓋を顔面に投げ付けてやった。
好物のストロベリー味といえど真冬に食べるのはやっぱりふさわしくない。せっかくだから頂くけど。 …あ、美味しい。

「あはは。メリーったらわかりやすいよねー。じゃ、私も頂きますか! 横失礼〜」

袋からバニラアイスとついでにお酒を取り出しながら蓮子は私の隣に腰掛けた。
それから、私たちは何も言わずお互い同時に空を見上げた。

数瞬の静寂。


247 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:39:04 9YPE1RqQ0
今日は12月31日。大晦日だ。
この場所は都心から少し外れた場所にある、寂れた神社の境内。
長い長い石段を上がった先にある、私たち2人だけが知ってる秘密のスポット。
眼下には都会の人工光群。真上には自然の光輝。人工と自然の境目に位置するこの場所は私のお気に入りだった。
石階段を一段一段上がるたびに有像と混沌から解き放たれ、朧気で虚ろな境界線へと踏み込んでいくこの感覚。
だからなのか、この場所は『結界』の紐がゆるい。
この世のどこかであり、どこでもない世界に近しい場所。

そんな魅力的な土地で私と蓮子は、毎年正月を迎える。
「これから毎年ここで年を越そうよ!」そう言い始めたのは確か蓮子の方からだったかな。
それからは毎年この場所にお互い集まって、夢を語ったり、次に行くオカルトスポットなんかを決めたり、安物のお酒を呑み交わしたりするようになった。
今年も終わりが近づいて、いつもの様にこの場所へと赴いて。
いつもと同じ様に蓮子が遅刻して。
いつもの同じ様な会話をして。
いつもと同じ様に笑い合って。




―――あれ?




いつもと同じなはずなのに、いつもとは何かが違う『違和感』。
どうしてだろう? だって今蓮子としているこの会話もいつもと同じ普通の会話なのに。
お昼にカフェで食べたフルーツパフェの話だとか、蓮子と一緒に行ったハーブティのお店の話だとか。
全部いつも通り。大学のカフェで蓮子と話すような内容と何ひとつ変わらないのに。
だってこの後、きっと蓮子はいつも通りのくだらない話をしだすわ。
昨日はそんなに呑んでいないはずなのに妙に頭がズキズキするだとか、本当にどうでもいい話をきっとしだす。


あれ? どうして私は蓮子がこの後話し出す内容がわかっちゃったのかしら?

…そうだ。『違和感』の正体はこれよ。

さっきから私は、蓮子と会話する内容がなんとなくわかっちゃってるんだ。
次に行くオカルトスポットの場所も、明日の初詣はどうするかっていう内容も、全部、ぜーんぶ私にはわかってる。
あらかじめ未来の記憶を刷り込まされたような、デジャヴ…みたいな感覚?
だから、私の目の前で喋り続ける蓮子は次にきっとこう言うわ。


「……うぅ、頭痛い。おっかしいなぁ、昨日はそんなに呑んでいないはずなのに」


248 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:39:57 9YPE1RqQ0

私の予想通り、蓮子が頭を押さえながらぼやいた。

ああ、そうか。これはもしかしなくても、夢なんだ。

そろそろ年も移り変わろうかという間際になって、私は驚くほど素直にその認識を受け入れた。
そうよ、これは夢。全て私の幻想なんだわ。
だってそうじゃなきゃ説明が付かないんだもの。
私の右手にいつの間にかあの『白楼剣』が握られているなんて。


直後に、ガチャンと空にヒビが入った。


世界から急速に色が失われ始めていく。
夜空の光も。眼下の喧騒も。目の前の蓮子からも。
世界がモノクロに混ざり、『ねずみ色』の境目へと吸い込まれていく。
カランカランと、握っていた白楼剣が音を立てて落ちてしまった。

「ねぇメリーどうしたの? 顔色悪いわよ、あなたも二日酔い?」

気付けば私の体は汗でグッショリ濡れていた。
俯く私を、蓮子が心配そうに覗き込んでいる。


私は…私はこの場所を知っている!
このねずみ色の世界を知っている!


「…メリー。具合が優れないようなら少し眠る? 私の膝を貸しても良いよ、返すなら」

冗談じゃないわ。この寒空の下で眠ったらそれこそ二度と起きられない。何言ってるの蓮子。

「それもそうね。じゃあそろそろ『起きる』? こんな世界、つまんないでしょう?」

……? 『起きる』ですって? 本当に何を言い出すのよ蓮子。

……あぁそうよね。やっぱりここは夢の世界なんだ。
でも、やっぱり私はこの場所を知っているわ。
白黒テレビ色の竹林。表情が真っ黒いシルエットに覆われたポルナレフさん。彼の額に潜むドス黒い『芽』。
私は、またしてもこの世界に放り込まれている。このままだと…

「そうね。このままだとメリーが目覚めなくなっちゃうわね。
 だったらさ……『こっち』に来なよ、メリー。抗うことなんてないわよ。
 『なるようにしかならない』という力には無理に逆らっちゃ駄目なんだから」


249 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:40:56 9YPE1RqQ0
口に微笑を掲げた蓮子が、蹲る私を見下しながら手を差し伸べている。
思わずその手を取りそうになった。
どこかで除夜の鐘が鳴り響いている。
視界の端に映った腕時計の針は、零時を回っていた。


「Happy New year! おめでとうメリー! そして
 Happy New world! 『新たな世界』よ! こっちへおいでよメリー!」


いつかどこかで聞いたことがある、そんな言葉だった。
どこだろう……? どこで聞いたんだっけ……
視界がグルングルンと揺れる。
虚無の星空が私をジッと見つめていた。
あまりの居心地の悪さに、私は蓮子の手を取ろうと腕を伸ばし――


カタン


右手が地面に転がっていた白楼剣に触れた。


「さぁ、目を覚ますのよ
 夢は現実に変わるもの
 夢の世界を現実に変えるのよ。 ……そうでしょう、メリー?」


私の友達―――宇佐見蓮子の言葉が、脳内を駆け巡る。
軋む頭で、私は無意識に白楼剣を拾い上げた。


「なんなら、試しにその剣で私の『芽』を貫いてみる…?

 私、メリーになら何されてもいい か も 」


そう言って蓮子は帽子を脱ぎ捨て、その綺麗な髪を私の前にさらけ出した。
蓮子の瞳は、いまやなんの光も映さない真っ黒な虚無に纏われている。
彼女の両手が私の肩を掴んで離さない。私は生まれて初めて、蓮子の事を『怖い』と感じてしまった。


250 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:41:37 9YPE1RqQ0
蓮子の瞳に吸い込まれそうな感覚に陥る。
ダメだ。私は彼女に抗えない。彼女の世界を、壊せない。
いつの間にか私の頬には雫が伝わっていた。
なんで…? 蓮子の事が怖いから?


ううん、違うわ。私はきっと―――


「嬉しいわメリー。私のために泣いてくれてるの?
 私だって…泣きたいぐらい嬉しいんだよ? だって貴方とまた生きて出会うことが出来たんだもの!」

え…? 本当、に…?
貴方も、私のために涙を流してくれるの?

「あ…あぁ…! 蓮子…っ! 蓮子ぉ…! 私…っ、わたしも…嬉しいの!
 蓮子に、ずっと会いたかった…! 生きて……また貴方と話したかったの……っ!」

「うん……メリー。私もだよ。私もずっとメリーとこうして話したかったんだよ?

 もう離さないわ。メリー。貴方だけは……二度と誰にも 渡 さ な い 」


カラン カラン   カランカラン  カラン


指からすり落ちていくように、白楼剣が石段の下まで転げ落ちていく。
でも、そんなことはもうどうだっていいの。
だって、こうしてまた蓮子と再会出来たんだもの!

あぁ…ありがとう……! 神様がいるのなら、本当にありがとう!



ひどく涙を流しながら私たちは、互いに抱擁し合った。

さっきは蓮子の事を怖いなんて思ったはずなのに、今ではむしろ何よりも愛おしく感じた。

蓮子の髪の匂いがスゥ…と鼻腔をくすぐる。蓮子の腕が私の背中を強く抱きしめる。

そして私の意識は

黒く、深い深淵の底に堕ちていった。

幻想なんかじゃない。これこそが、幸福という名の現なんだ。


―――最後にそんなことを思いながら、私の意識はそこで暗転した。




男のけたたましい雄叫びがほんの僅かに聴こえた、気がした。




★ ★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


251 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:42:20 9YPE1RqQ0
☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 Chapter.1 『銀屑のはぐれ星』


『ジャン・ピエール・ポルナレフ』
【早朝】D−6 迷いの竹林


「本当に、君たちには申し訳ないことをしてしまった。
 頭を下げて赦されるものではないとは分かっているが、この罪を償えるものならなんだってしよう」


白銀の戦士、ジャン・ピエール・ポルナレフは物堅い謝罪と共に、この場の全員に向けて深く頭を下げた。
彼の目の前にはつい先刻、激しい争闘を繰り広げた相手らが様々な胸中を抱えながら黙して見据える。

西行寺幽々子は似合わぬ厳格の表情で、彼の下げた頭頂を凝視しており、
稗田阿求は幽々子の後ろに隠れるようにして、多少不安かつ怯えの色を見せており、
豊聡耳神子は瞳を閉じ、腕を組んだまま動かず、
ジャイロ・ツェペリは彼らとは少し距離を置いた位置の木の幹に身体を預け、
マエリベリー・ハーンは地面に膝を落とし、何やら形容し難い表情で彼を見つめており、
その傍らの地面の下にはツェペリの亡骸が既に埋まっていた。


―――沈思黙考。


深い深い静寂の中、ポルナレフはただジッと頭を下げ続けた。
その場にいる誰もが言葉を発することを淀ませる。
無理もない話だ。ポルナレフはついさっきまで彼らを追い詰めていた敵。
幽々子の全身を刻み付け、瀕死状態にまで至らせ。
その凶刃は結果的にツェペリの命までをも奪い。
様々な修羅と偶然を突き抜け、尊い犠牲を出しながらの苦しい勝利。
そんな死闘を演じ合った相手が昏睡から醒めた途端、のうのうと謝っているのだ。

無論、それは本来のポルナレフの意するところではなく、彼の額に巣食っていた邪悪の根源『肉の芽』による支配だという事などは全員理解もしていた。
真の悪は背後で糸を操っていた『DIO』であり、ポルナレフこそ被害者であったことに些かの間違いも無い。
そんなことはわかっている。わかっているが、誰しもがその事実を割り切れない。
ポルナレフは確かに、ツェペリという一粒の光明を潰してしまったのだ。その事実に善心も悪意も関係ない。

特に…ツェペリを心の拠り所として大きく信頼していたメリーの喪失の痛みたるや、計り知れないものであった。
今でこそ気持ちは落ち着いているものの、彼を喪った直後は消沈して塞ぎこみ、心が安定するのに幾分の時間を必要としたほど。

この数時間で起こった悲劇は、只の少女であるメリーには重すぎた。


252 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:45:02 9YPE1RqQ0


(……当然の帰結だ。これも全ては俺の心が未熟だったせい。DIOの恐怖に屈服した俺という『負け犬』が起こした惨劇……)


―――赦される、筈もない。


頭を垂らしたままグッと唇を噛み締めて、ポルナレフは心の奥底から悔いた。
先刻の戦いから暫くの時が経ち、昏睡から目を覚ましたポルナレフは彼ら5人と真の意味で対峙する。
意識を覚醒させた時には既に、偽りの剣と正しき拳を交えた相手はこの世から去っていた。
亡骸は土に埋められ、愛用していたハットをそっと置き伏せただけの、簡素な墓。
目の前にある其れを、ポルナレフは直視できなかった。

支配されていた間の記憶は、存在していた。間違いなく、己が手をかけたのだ。
状況を全て理解した途端、頭を鈍器で殴られたような重い衝撃が走った。

自分は何ということをしてしまったのだ。

悔しさと罪悪感で心が濁っていく。唯一の救いは、幽々子と呼ばれた淑女の命があったことだろう。
彼女にも大変なことをしてしまった。自分の信じてきた『騎士道精神』が、音をたてて崩れ去っていくようだった。
弱き心が引き起こした惨事に、こうしてただひたすらと頭を下げるのみの自分に腹を立て、情けなく、無様だと感じた。


それでも、もしそんな愚かな自分が赦されたのならば。
あわよくば、せめて彼ら彼女らをこの先、護ってあげたい。
自分の信じてきた『騎士道精神』を、もう一度だけ自分自身に信じさせてほしいと、心から願う。


実に都合の良い、希望的観測。
ありえない。ふざけてる。手前勝手甚だしい。
なんだ、俺は結局自分のことしか考えてないじゃないか。
何が騎士道精神。何が護ってあげたい、だ。
つまるところ俺はこれまで培ってきた騎士道を裏切りたくないから、正当化したいがために彼らを護りたいだのと宣っているんだ。
そんな独り善がりな気持ちで彼らに……ツェペリさんに赦してもらおうなどとは、エゴが過ぎるぜ…。


―――やはりこのポルナレフ……彼らとは共に居られない。このまま潔く去り、せめてあのDIOを討って自決するとしよう。
   それが俺なりのケジメ。せめてもの『贖罪』って奴、だな……。


253 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:46:03 9YPE1RqQ0
ガサリと、草の根を踏む音が耳に聞こえた。
足取りは重く、小鹿のように朦朧とした間隔でこちらに迫る。
顔を伏せたままのポルナレフに小さな影が落ちた。


「顔を上げてください、ポルナレフさん」


メリーの果敢無げな声が、ポルナレフの脳を僅かに揺らす。
怒り、非難……そんな咎のような感情などではなく。
ほんの些々たる励の意が、その言葉には確かに混じっていた。

「……『勇気を持ち、自分の可能性を信じてほしい』。これはツェペリさんが亡くなる間際に遺してくれた言葉です。
 あなたは今、己の罪に苛まれ、苦しんでいるのでしょう。DIOに利用され、ただ言われるがままに私達を襲ってしまった。
 きっと本来のポルナレフさんはとても気高く、誇り持った男の人なんだと伺えます。
 それだけに、今の自分が許せない。赦されてはいけない。だから悔やんでいる。
 もしかしたら……ツェペリさんの死をこの場の誰よりも悲しんでいるのは、ポルナレフさんなのかもしれません」

ツェペリの死を、ポルナレフが悲しんでいる。
それはいかにも的を射た発言で、それ故にポルナレフは困惑した。
さっき会ったばかりの、ろくすっぽ会話もしたこと無いような少女に内心を見抜かれていることに。
ポルナレフは思わず面食らったような表情でメリーを見上げる。

「すごく…わかったような事を言っているのだと思います。私にはあなたの気持ちが理解出来る、なんてとても言えません。
 ですが私はあなたが、ここに居る誰よりも『正しいことの白』の中に居るということが、よくわかるんです。
 ……どうか、『立ち上がる勇気』を持ってください。あなたにはまだ、たくさんの『可能性』があると思います」


メリーが無意識の内に侵入したポルナレフの肉の芽の『境目』の世界。
そこで彼女が見たものはモノクロの竹林の、『白』のポルナレフ。そして『黒』のDIO。
あまりにもドス黒く邪悪に彩られたDIOの黒は、正しき白のポルナレフを喰らい尽くすように覆ってしまった。
その直前に見たポルナレフの顔はシルエットのように黒く塗りつぶされていて表情がわからなかったが、
今になって思えばメリーには彼が泣いているかのようにも見えたのだ。

「ああ。この人の心は本当に優しい精神をしていて、きっと正しい人間なんだわ」などと一瞬のうちに思いもしたが、それ以上の思考は直後に現われたDIOが許さなかった。
その一瞬の狭間に感じたメリーの予感は、『境目を観測できる力』を持つ彼女にとって真にリアルな感情で彼女に痛感させた。
ポルナレフの意識下に精神を置いたメリーだったが故に、彼が持つ本来の心…いわば『黄金の精神』がメリーの心にも直接伝わったのだ。

そんなメリーがこれ以上、ポルナレフを咎める筈もなく。

「ポルナレフさん。あなたは幽々子さんの胡蝶の弾幕を、恐れることなく飛び越えてきました。それは『勇気』です。
 そしてあなたはまだ生きているじゃないですか。生きるということは、それだけで大きな『可能性』…なんだと私は思います」

ツェペリの掲げた『勇気』と『可能性』は確かにポルナレフの精神にも燻ることなく存在していた。
「まぁ、そのどちらも私には欠けているんですけどね」とメリーは一言付け加える。

そんなことはない。そんなわけが、なかった。
幽々子が倒れたあの時、メリーは白楼剣を握り締め全力で立ち向かったではないか。
それが勇気と言わずして何だ。彼女は、恐怖しながらもなお自分の信じられる可能性を突き進んだのではないのか。

メリーの足が一歩近づき、その手がポルナレフの目の前に差し向けられる。


254 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:47:04 9YPE1RqQ0

「一緒に『立ち向かい』ましょう。私もポルナレフさんも、きっとまだまだ『途中』なのだと思います。
 ツェペリさんの生き方を受け継いで、これがその最初の一歩。私達には、あなたの力が必要です」


メリーから差し出された右手を目にし、静かに果てていくだけだったポルナレフの心の奥から何かが込み上げる。
彼女は笑っていた。
拠り所を失ったばかりなのに、彼女はポルナレフを必要だと言ってくれたのだ。
内心に宿っていた動揺がスゥ…と氷解していく。

自分がこの10年間で積み上げてきた剣は、精神は、今確かに必要とされていた。
思えば妹を殺されたあの日から、ポルナレフは常に孤独であった。
妹の無念を晴らすべく、ただそのためのみに己の精神を磨き上げてきた。
辛いと感じたことは、ある。
その度に孤独に磨り減らされた心が、復讐心を糧に燃え上がった。
怨毒の鎖に絡まれた心の行き着く先に、平穏など無いと理解もしていた。
仇敵に然るべき報復を与えた後に、自分を受け入れてくれる居場所など最早ありはしないと、覚悟もしていた。
ポルナレフには、真の意味での友も仲間も持ち得ることが出来なかったのだ。

「俺…は……、必要とされている、のか…? こんな俺にも、居場所があって…いいのか…?」

その呟きはすぐに霧散しそうなほどにか細く口から漏れた。
メリーの手を取るものか、未だ迷いはある。
だが、彼の眼には仄かな『光』が灯り始めているようだった。


その時、それまでは黙して語ることは無かった西行寺幽々子がすくりと立ち上がった。
まるで重力など存在しないようなフワフワした足取りで彼女はメリーの横に立ち、ポンとその手をメリーの肩に添える。
「Mr. ポルナレフ? 貴方にとっても二度目の講演になるのだけど」と前置きし、彼女はいつものようにあっけらかんとした口ぶりで語り始めた。

「人間って困難に衝突した時、二つの選択肢があると思うの。『立ち向かう』か『立ち止まる』かの二択ね」

幽々子が語り始めた内容は、かつてツェペリがポルナレフに向けて放った主張。
DIOの支配を受けていたポルナレフの記憶にも、彼の勇猛たる弁はしっかり張り付いている。

「で、貴方って確か妹さん?の仇を討つ為に今までを生きてきたって言ってたわね。
 これから言うことは決して貴方の生き方を侮辱するわけでも否定するわけでも無い」

彼女が今から何を言おうとしているのか、ポルナレフには何となくわかってしまった。
何も初めてではない。こんな理屈は今までに何度も人から諭されてきたのだから。
それを予感してなお、ポルナレフは幽々子の語りを聞き入れる。
彼女が纏う不思議な空気はなんというか、人を穏やかな気持ちにさせてくれるのだ。


255 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:48:19 9YPE1RqQ0

「妹さんの無念を晴らすためにひたすら剣を磨いてきた。おそらく1年や2年なんてものではない日々、それのみに没頭したのでしょう。
 でも復讐の心に駆られたところで、貴方の魂は永遠に休まることは無い。確実に地獄行きね」

亡霊の姫である私が言うと説得力あるでしょ?などと彼女はおちゃらけて付け加える。
そんな冗句を無視し、ポルナレフは視線を鋭く変えて言い放った。

「……俺に復讐をやめろって言うんなら、残念だがお姫様。そんな台詞は耳にタコが出来るぐれーに聞いたぜ」

「いえいえまさか。復讐上等。仇討上等よ。心に怨み辛みを遺したまま死なれても厄介な悪霊と化すだけ。
 それならばいっそスカッと無念を晴らし、心の蟠りも柵もぜーんぶ斎戒させた方が後世のためにもなるわ。
 ―――でも、それは果たしてツェペリの言ったような『人間賛歌』を謳歌することになるのかしらね?」

「……煙に巻くような言い回しはやめて、そろそろハッキリ言って貰いたい」

「ええ言うわ。そんなんじゃあ貴方、永遠に『立ち止まった』まんまよ。DIOと一緒。
 宝の持ち腐れとはこのことね。剣が泣いてるわ」

幽々子の言い草はどこか飄々としていたが、その言葉は確かにポルナレフの心を強く揺さぶった。
まるで死んだツェペリが彼女の口を借りて叱っているようだった。
これにはポルナレフも怒気を強めて反論する。

「俺に、どうしろと言うのだ…!
 唯一の肉親である妹は辱めを受けて殺された! この無念を…俺は誰に向ければいいッ!?
 俺は何処に向かって『立ち向かえ』ばいいッ!? 俺の剣は何のためにあるのだッ!!」


「貴方の剣は弱き者たちを護る為にあるのよ、ポルナレフ」


実に簡単な事のように幽々子は答を出した。
あまりにも自然に、緩やかな口調で返されたのでポルナレフも一瞬言葉に詰まる。

「貴方はきっと、これまでの人生を孤独と共に過ごしてきたのでしょう。
 多分、その剣で誰かを護るなんて考えもしなかったんじゃないかしら?
 だったら私が貴方の剣に意義を…『生命』を与えてやるわ。もう一度言うわね」


―――貴方の剣、私たちの為に使って貰います。貴方の居場所は、今日からここよ。


256 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:49:04 9YPE1RqQ0
その亡霊姫の言葉は、これまで孤独に生きてきたポルナレフにとっては大きく意味のある言葉となった。
思えば、姿すら知らない仇を仮想の敵と見定め、何年も何年もひたすらに剣を振ってきた。
その年月の中で、意思の在る相手とも剣を交わした経験は当然ある。
だがその剣先は結局、何処とも向けられることなく虚空に浮くのみであったのだ。
自分の振るう剣に意義があるとすれば、それは憎しみの相手を斬り刻んだその瞬間だけ。
それはつまり、自身の写し身である『銀の戦車』に意義など在って無いようなものなのだ。
ポルナレフは時々、そんなことを思うようになっていた。

今日まで。今のこの瞬間まで。

だがそんな孤独を、メリーと幽々子は言葉一つでいとも容易く振り払ってくれた。

内側から錆びかけていた剣に、矜持と居場所を与えてくれた。

ポルナレフの胸中は号泣していた。絶叫していた。感動していた。

自尊心からか、その感情を面に出すことはどうにか抑えた。女の前で泣くなどという事は、彼は恥だと思っているからだ。

感動のあまり顔を俯けるポルナレフに対して、幽々子は更に語る。

「貴方…自分の『プライド』を護る為には痛みを避けないタイプでしょう?
 誇り高い殿方は好きだけど、でも躍起になっちゃダメ。貴方はきっと、さっきまでこう考えていた。
 『自分の犯した罪の贖罪、それはDIOを討ち取ることで初めて達成される』……ひょっとして相討ちにでもなるつもりだったんじゃない?」

そうだ。それは確かに幽々子の指摘通りだった。
もしもポルナレフがこの場の誰からも拒絶され赦しを得ることが出来なかったのなら、せめて諸悪の根源DIOをひとりででも倒し、その後は自決するつもりだったのだ。
しかしその図星を気取られる訳にもいかなかった。男として、これ以上情けないところを剥がされたくないという思いもあった。


257 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:49:43 9YPE1RqQ0
だがポルナレフのその最終防壁は意外な角度から攻撃された。
これまで目を瞑って押し黙っていた豊聡耳神子が、突拍子なく腕を解いて沈黙を破ってきたのだ。

「君の無機質的な欲は最初から聴こえていたわ、ポルナレフ。
 『こんな自分が赦される筈も無い』『この無念はDIOを倒して初めて浄化される』……とね」

「……アンタは?」

「豊聡耳神子。西洋人には馴染みの無い名前だろうけど、ただの高名な宗教家よ」

「……成るほど。それで、アンタは俺に一体何を説いてくれるんだ?」

「君の自己犠牲溢れる心には道徳家としても一理無くは無いけど、一言だけ言わせて貰う。
 今の君がひとりだと考えるのは間違いよ。君の事を思っている人がこの世に誰もいないと考えるのは違う。
 君は既に私の仲間。マエリベリーや幽々子の仲間なんだから。勿論、阿求とかもね」

「えっ! ……あ、そ、そうですよ、ポルナレフさん! あなたの剣はとても頼りになります、から……?」

いきなり笑顔で話を振られた阿求は、しどろもどろになりながらも何とか言葉を捻り出した。
阿求の本音としては、ツェペリに手を下したポルナレフについては、やはりまだ多少の恐怖心は残っていた。
だが、それすらもこの太子様には見抜かれている上で理解を求められているのだと、阿求は抵抗を諦める。
阿求自身の選択は今なお『感情』よりも『理性』を取らざるを得なかったのだ。
そんな彼女の内なる葛藤に気付いてか気付かずか、神子は意味深な笑みを作りながら話を戻す。

「―――まっ! そーいう事よ、ポルナレフ。
 『得る』ために、人は競う。君がこれから先、『何か』を得たいと言うのなら、その磨き上げた剣術で私たちを護って欲しい。
 これは君が眠っている間に決めた、私たち全員の総意よ」

「ていうか、オレには何も話振らねーのかよ…」

ジャイロが端でひっそりと不満を漏らす。
神子はそれを華麗に無視すると、壇上から退場していく演説家のように成し遂げた表情でトコトコと元の位置に戻った。

ポルナレフはまた、押し黙った。
もはや虚勢も意地も張れぬ。DIOと相討ちしてでも、という自己満足な逃げ道も塞がれた。
ボロボロと剥がれ落ちていく驕りと見栄で塗り固められた、錆び付いていくだけだった精神の殻が浮き出る。
殻の中から現われたモノは白銀のように煌びやかで、矜持を見出すことが出来た新たな精神世界。


258 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:50:35 9YPE1RqQ0
ポルナレフは笑った。
妹が殺されたあの日から、心の底から笑える日が来たのは初めてのように感じる。
メリーがもう一度前に進み出て、その手が彼の前に再び差し出された。
その新たな希望を、今度は迷うことなく手に取る。

「よろしくお願いします、ポルナレフさん」

メリーが微笑む。

「あんた達の命、俺に預からせてくれ」

つられてポルナレフも屈託無く笑う。


誰かを護る為の剣など、考えもしなかった。
ポルナレフにはそれがこの世の何よりも素晴らしいことのように思え、また笑みが零れる。
彼の怨恨に満ちていた人生が、心が、一瞬の内に晴れ渡るようだった。
勿論、妹の件は未だに心のしこりとなって拭い切れない。元よりそれほど凄まじい執念と覚悟を固めた決意だ。


だが、それでも。
恐らくこれなんだ。俺が求めていたのは。
ああ……俺が憧れて、恋焦がれて、でも心のどこかでは無理だと諦めた。
俺は『復讐者』だ。俺の剣はまさしく不倶戴天の敵を串刺しにしてやる事のみに磨きをかけてきた。
そんな俺が、自分のことしか考えられなかった俺が、誰かの為に剣を振るうってのも―――


―――案外、悪くねーかもしれねぇなァ……



邪悪の人形にまで堕とされていた心は、光を取り戻し始めた。
その小さな光明は、男が本来持っていた『黄金の精神』へと成長し、尊い正義の心を滾らせた。
ウィル・A・ツェペリの掲げた『勇気』は、『可能性』は、確かにこの男にも受け継がれたに違いない。

ジャン・ピエール・ポルナレフはその日、幼き頃に憧れたコミック・ヒーローの世界へと踏み込むことが出来た。





Chapter.1 『銀屑のはぐれ星』 END

TO BE CONTINUED…


259 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:51:22 9YPE1RqQ0
☆ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ★ ★ ☆ ☆


 Chapter.2 『記憶する幻想郷』


おはようございます、稗田阿求です。
この手記を御覧になっている貴方のお時間帯がいつなのかは計り様がないのですが、私の感覚では朝なのでとりあえずは“おはよう”なのです。
とは言っても貴方からすればさっきぶりなのかもしれません。まあそこはあしからず。

さて、この数時間で色々な事が起こりました。
肉の芽の支配から解かれたポルナレフさんを仲間に迎え入れたり、最初の放送が始まったり、幽々子さんが大変な状態になったり……
あっ、この項を貴方が読んでいる時点ではまだ放送の事は書き記しておりませんでしたね。そこは追々。
私も暇を見つけては筆を走らせたりもしていますが、正直怖いんです。
これを書いている今にも、何かが襲ってきそうな気がして、手記が途中で終わっちゃうなんて事になったら……
そんなことを考えるようになってきました。

……ごめんなさい。前置きがくどいと読みたくもなくなりますよね。
モタモタすることもありませんし、早速書き記していきましょう。
それでは、素敵な貴方に安全なバトロワライ……もういいか。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


260 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:52:06 9YPE1RqQ0
『稗田阿求』
【早朝】D−6 迷いの竹林


「それでは……行ってきます、ツェペリさん。どうか安らかに眠ってください」


手を合わせ幾秒かの祈りを捧げた私とメリーさんは、そっとツェペリさんのお墓の前から立ち上がる。
竹の大群から漏れ出した斑の朝光が、彼の象徴たるハットに注ぎ込まれ反射を繰り返しています。
もうすぐ放送の時間。おそらく、ツェペリさんの名前が呼ばれることでしょう。
それを聴いた私やメリーさんは果たして平静でいられるのでしょうか。
……いえ、私はともかくメリーさんは強い娘です。きっと彼の死を受け入れていることでしょう。

危惧していることはそれだけではありません。
考えたくもない事ですけど、放送で呼ばれる名前はもっと……もっと多いと思います。
そこに私たちの友人、知り合いや仲間の名が呼ばれない保障などあるのでしょうか。
私たちの誰かが取り乱さない保障などあるのでしょうか。

少なくとも、私自身は誰の名前が呼ばれようとも取り乱すことはないと思っています。
薄情な女……と、つくづく自分でも痛感します。
だって私はあの時、幽々子さんを一度『捨てた』。
あの方がそう願ったとはいえ、私の理性は冷たい選択を選んでしまったのだ。
しかもあんな危険な場にメリーさんを置いて、醜く浅ましくそのまま馬を走らせて逃げた。

結果的にはその選択が在ったからこそ、こうして私たちは生きてこの場にいる。
でも結局メリーさんとはあれ以来、会話らしい会話をしていません。
仲直り、と言うとケンカしたみたいですけど、それは私の思い違いかもしれませんね。
私ばかりが空回りして、生き方を見出せずに、彼女との距離を自ら遠ざかっている。

そんな気がしてなりません。


「あの、阿求さん」


って、は…ハイッ! ななななんでしょうかメリーさん!

横に並んでいたメリーさんが急にこちらの顔を覗きこんで話しかけて来た。
突然だったのでつい情けない反応をしちゃったけど、ここは咳払いをして落ち着かせる。
彼女はひと呼吸置いて、どこかソワソワしながらもゆっくり語りだした。

「あの……貴方が今思い悩んでいる事はわかります。大体の事は、神子さんから聞いたから」

向こうで神子さんがチラチラと(意地の悪い笑みで)こちらを気にしている。
あの方は恩人でもあるけど、今だけはちょっぴりイラッとしました。
結局、最後まで彼女の世話になってしまうのですねと、せめてもの抵抗に私は溜息を吐いた。


261 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:52:51 9YPE1RqQ0


「あの、阿求さん! ありがとうございますッ!!」


…………え?
メリーさんがいきなり深いお辞儀をしながら私にお礼を言ってきた。
わけのわからない私は間抜けな反応をしたのかもしれない。

「あの時、幽々子さんが倒れた時……私は自棄になってたわ。
 貴方が神子さんやジャイロさんを連れてきてくれなければ、私も幽々子さんも肉の芽に支配されたポルナレフさんに殺されてたと思う。
 それなのに私……今までお礼すらせずに泣いてばかりで……ごめんなさいッ!」

もう一度深い礼と共にメリーさんは頭を下げた。

……なんだ、やっぱり私が空回ってただけなんだ。
メリーさんに恨まれていてもおかしくないと、勝手に思い込んでいた。
彼女を死地に一人残して逃げ出した私は、彼女に責められて当然なんだと思い込んでいた。
でも、違った。彼女はこんなにも草原のように広々とした心を持っていたんだ。

瞬間、私の心に溜まり積もっていた不安、歯痒さが幾分か溶けた。
鉛を付けられたみたいに気だるかった気持ちがスッと軽くなった。

「メリーさん、どうか頭を上げて? 私の方こそ……ごめんなさいっ! 私、貴方を見捨てるような真似を……」

「い、いえいえ! だけど結果的には阿求さんのおかげで私たちは……!」

「いえいえいえ! そんなのはただの結果論ですし、メリーさんの勇気があったからこそ……」


互いに顔を紅く染めるほどの、敬虔の応酬。
少しの間の後、私たちは同時に噴きだしました。
なんか、さっきまで悩んでたことが馬鹿らしいです。


262 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:53:40 9YPE1RqQ0

「ふふ……ねぇ、阿求さん?」

「はい」

「私たち、もうお友達よね?」

「はい。 ………ええッ!?」

あまりに自然に飛び出たその単語。思わず変な声が出ちゃいました。
妖怪も月までブッ飛ぶ衝撃、って奴でしょうか。
あわあわと動揺する私を見ながらメリーさんはなんだか意地悪な笑みを漏らしています。あ、この人たぶんSの素質ある。

「私ね、子供の頃から友達とか殆ど居なくて……多分、こんな能力を持ってるせいでしょうね。クラスでもずっと浮いてたわ。
 でも、大学に入って…あ、大学ってのはおっきな寺子屋みたいな施設のことね。で、そこで蓮子と初めて出会ったの」

蓮子……さっき言ってた御友人、宇佐見蓮子さんのこと、ですね。

「蓮子と友達になって、秘封倶楽部を作って、それから私たちは色んな場所へ行ったわ。
 一緒にいるのが、すっごく楽しくて…あの娘と一緒なら、どこでも最高に楽しい。
 あの娘ほど気の置けない親友はいないの。 ……貴方には、そんな人がいるかしら?」

頭の中を一番に過ぎったのは親しき友人、本居小鈴の笑顔。
歳も近く、親友と言ってもいいのかもしれない。
でも……私は何となく、その名前を出すのを一瞬躊躇してしまった。
その無言をどう受け取ったか、メリーさんはちょっぴり大人っぽい微笑を湛えながら話し続ける。

「蓮子のおかげで私にも少しずつ友達が増えてきて、性格も随分明るくなった、と思う。
 ねえ阿求さん。友達ってとっても素敵なのね。そのことに気付くのに、私は少し遅くなっちゃった。
 でも、だからこそ、私は貴方と友達になりたい。心からそう思うわ」

私より年上で背も高いメリーさんは、少しだけ目を落としながら互いに体を向け合いました。
その言葉にまたしても頬の熱を感じてきた私とは違って、今度の彼女は大人の雰囲気、というやつでしょうか。なんだか余裕ある佇まいを感じます。
その姿を見てほんのちょっぴり対抗心、みたいなものを燃やした私は子供っぽいと思いつつ、少しだけ意地悪な言い方をしてしまいました。


263 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:54:13 9YPE1RqQ0

「私と友達になりたいのなら条件がありますよ、メリーさん?」

「あら?」

この台詞を聞いても不快な表情も驚くような仕草も特にしないメリーさん。
やっぱりなんだか大人だなぁ。 ……むぅ、ちょっと憧れちゃいます。

「私のことは『阿求』と、呼び捨てで呼んでください。さん付けなんて余所余所しいですからね」

「あらら、じゃあ私からも条件があるわね」

これは私にも予想が付きます。
きっとメリーさん……いや、メリーは次にこんな条件を出すでしょう。


「私のことは『メリー』と呼んで。友達をさん付けなんて水臭いもの」

「あはは。それじゃあ、よろしくお願いします。メリー」

「ええ。よろしくね、阿求」


私たちはお互い、心から笑いあいました。
この地獄のような世界でも、友達が出来た。
それってなんて素晴らしいことなのでしょう。
ツェペリさんも空の上から私たちに向けて微笑んでくれてるような気がします。


「今度、阿求にも蓮子を紹介するわね♪ 貴方もきっと彼女を好きになると思うわ」


それは……とっても素敵ですね。
もしここから生きて帰れたら、私もメリーに小鈴を紹介しよう、かな。
なんとなくですけど、小鈴と蓮子さんは気が合うのだと思います。 ……ふふ♪


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


264 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:54:47 9YPE1RqQ0


さて、いかがでしたでしょうか?

……いかがでしたでしょうか、なんて聞かれても困りますよね。
なんだか私の独り善がりというか、自叙伝みたいな物になってきました。
メリーと本当の友人となれたこと。実は結構(というかかなり?)嬉しいんですよ?
最初にこの会場で目を覚ました時、私の心は恐怖と絶望に飲み込まれていました。
孤独の恐怖。泣きたくなるほどの絶望。
そんな中で幽々子さんと出会い、メリーやツェペリさんと共にポルナレフさんと戦って(私は大したことしてないけど)、
神子さんジャイロさんが助けに来てくれて……そして、友達が出来た。
皮肉なことにこの非道なるゲームのおかげで私は『絆』を作ることが出来たんだと思います。
そしてそんな『絆』を綴っていくのがきっとこの手記、なのでしょうね。

今はただの紙ですけど、その内この手記にも何か『名前』を付けた方が格好も付くかもしれません。
鈴奈庵で借りた外の世界で最も売れた(らしい)ベストセラー本によると、こう記されてありました。

ヨハネによる福音書 第一章2‐3節『言は初めに神様と ともにあり 全てのものは これによってできた』

いわゆる『言霊』みたいなものでもあり、なんにでも『名前』はあるものです。
だから私はこの手記にも名を付けてあげるべき、なのだと思います。

……まぁ、今はちょっと思い付かないので、とりあえず手記の続きでも綴っていこうかな。
そうですねぇ……、そういえば私、ずっと気になってる方がいたんですよ。
あの人は一体何者なんだろう…って。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


265 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:56:41 9YPE1RqQ0

「え? 神子さんが何者か、ですか?」

「あぁ、そうだぜ。他人の欲の声を聴くだとか、ついでにあの底意地ワリー性格が天性から来る性格なのかとかな」

私たち一行はポルナレフさんを迎え入れ、とりあえずこの迷いの竹林を出るために道なき道を歩いていました。
先頭はポルナレフさんと幽々子さんが警戒しながら歩き、私やメリーみたいに力の弱い人は真ん中。
最も警戒が難しいことを理由に、最後尾の警戒は神子さんとジャイロさん自らが買って出てくれたというわけです。
で、そんな大切な任を放棄してジャイロさんはいきなり私に近寄って神子さんのことを聞いてきました。

「……私からすればジャイロさんの方が何者なのかがずっと気になってるんですが」

「オレはただの医師だ(副業ではな)。それよりあの妙チクリン女だぜ。
 さっきからあの野郎、オレの事を上から目線でやれチクチクといびってきやがる。
 そろそろあのセンス悪い髪型ごと上から踏みつけてやりたいね。馬で」

毅然な態度でジャイロさんは言いたいこと言ってます。正直、気持ちは少―しわかりますが。

「陰口は陰で話すものよジャイロォ?」

「ウッセ! どこで話したって聴こえてるんだろ地獄耳」

後方から神子さんがジト目でジャイロさんと、ついでに私も睨まれました。
心の声がしっかり届いてしまったようです。本当にメンドクサ…おっとっと。

しかしなんというか……神子さんから2人のお話を聞いた時にも思いましたが、水と油といいますか、
犬猿の仲、というよりはジャイロさんが一方的に馬鹿にされてる印象を受けます。
とばっちりを喰らうのは嫌なので、形式だけでもフォローしときますか。

「あの方は基本篤実なお人ですけど、一度舐められたら一生からかわれますよ。お気の毒でしたね」

「いやいやそんなことないわよ阿求。私はジャイロという人間をひとりの対等な存在として……」

「テメっ! さっきからそればっかじゃねーかよ! ったく、うさんくせー宗教家がいたもんだぜ」

「宗教を悪く言うものじゃないし、私のことを悪く言うのはもっとNGよジャイロ。『敬意を払う』って言ってくれたのはありゃ嘘かしら?」

「あっ出た! それだよそれッ! 困った時はその台詞ッ! 仕舞いにゃ蹴飛ばすぞこのヤロー!」


やんややんやとジャイロさんが意地になり、それを神子さんが更に焚きつける。
水と油、というよりは火と油ですね。この漫才にもそろそろ見飽きました。


266 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:57:35 9YPE1RqQ0

「ふふ。ジャイロさんと神子さんって仲が良いんですね」

横に並んで歩くメリーが、檻の中のお猿さんのケンカを眺めるような目で上品に笑ってます。他人事だと思って…

「でも、そういえば私もジャイロさんや神子さんのことよく知らないんですよね。ねぇ阿求?」

え、何でそこで私に振るの。本人が居るんだから直接聞けば良いのに。
でもまあ、そうですね。私から言える事といえば……

「神子さんは『厩』から生まれたという逸話もある、結構すごい聖人らしいですよ」

「へぇ? なんか意外ですね。私は人を出生で判断したりはしないですけど、なんか…………意外ですね?」

あっ、メリーが一瞬顔を歪ませたのを私は見逃しませんでしたよ。
珍しい私の攻撃が意外にも効いたのか、神子さんがほんの少し動揺しながら否定してきた。

「ちょちょ…! ま、待ちなさい阿求? 高貴な私がそんな臭うところで生まれたわけがないでしょう。
 いいですか? 新人さんの教育には節度と慥かさを以って教授するべきです。しかも稗田の立場なら尚更であり―――」

「―――その『聖人』ってとこなんだがな……」

捲くし立てるように反論する神子さんの言葉を遮ったのは、ジャイロさんの低い呟き。
今までの彼が纏っていた空気、とでも言うのでしょうか。それが一段重くなった気がしました。

「あら……? 最初に言いませんでしたっけ、私が豊聡耳皇子――かの『聖徳太子』なる聖人だって」

えーそれ言ってないんですか。いの一番に言うべき肩書きのような。
ほら、メリーも口元を手で押さえて驚いてますよ。

「いや、聞いたには聞いたんだがよ……悪いが未だ信じられねーんだよなァー」

ジャイロさん、言っちゃいました。どうやら御二人が信頼しあってるというのは嘘だったようですね。
でもそんなこと言ったらまた神子さんが……

「…………ジャ・イ・ロォ〜〜〜? 君はまたしても鉄球を放り投げられたいようね? ……そのダサい帽子の上に」

あーあー言わんこっちゃないですよ。
神子さんの背後に『 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 』みたいな擬音が見えるようです。

「大体神子が何百年も前の人間だったってンなら何で今も生きてんだよ? 神や妖怪じゃあるまいしよォー」

「ですから私は『聖人』だと言いましたでしょう。それにずっと生きてたわけではなく、ついこの間長い眠りから醒めたところです。
 『聖人』とは死後、2度の奇跡を起こした人物を言うみたいですが、私が蘇った時点で充分奇跡なのよ。
 第一、その規定は外界の人間が勝手に創立した形式のようなもので、主観的見解に基づく判断です。要するに聖人は聖人です」

蘇ったのなら死後も何もないじゃないですか、って突っ込むのは野暮なんですかね。最後もなんか強引だったし。


267 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:59:01 9YPE1RqQ0

「いや……まぁ、悪いな神子。お前を疑っちまった。どうもオレは『聖人』って言葉に敏感になってるらしい」

「……君のそーいう素直に謝るところは私も好きだけど、どうやら『ワケあり』のようね。
 まさかとは思うけど、聖人の知り合いが私以外にも居たりとか?」

「……これは部外者が軽々しく踏み込んでいい問題じゃねえ。オレらには計り知れない……巨大な闇の真実だ」

「聖人の存在はいつの世も闇に隠れたりはしない。絶対にね。それに私だって正真正銘の聖人仲間よ」

「…………駄目だ、言えるわけがねぇ。 ……つっても、お前には隠し事は出来ねぇみてーだがな」


「――――――ッ!!! なん、という……ッ! これは……また、『超大物』が出てきたわね……!」


……驚いた。あの豊聡耳神子が、見たことないような蒼白な顔で冷や汗を流してます。
彼女、一体ジャイロさんの心の中の『何を』聴いてしまったのでしょうか?
ジャイロさんの知る聖人とは一体どなたの事なんでしょう。
私としても俄然興味はありますが、知るのが少し怖くもなってきました。
ジャイロさんを巻き込む『闇』……、彼は自分をただの医師だと言っていましたが、あの鉄球の技術といい、不思議な人物です。
確かにこれは部外者が軽々に触れられる話ではないのかもしれません。

「オレはスティール・ボール・ラン・レースに出場し、友人ジョニィと共に聖人の遺体を集めていた。言えるのはそれだけだ」

「―――なるほど、ね……、その遺体が全て揃えば恐らく、それはあらゆる人間から『尊敬される遺体』となるでしょう。
 『尊敬』は『繁栄』だもの。遺体を揃えた人間は間違いなく真の『力』と『永遠の王国』を手にすることが出来る。
 全く……私の最終目標である『不老不死』すら程度の低い、ちっぽけな話に聞こえるわね」

神子さんが立ち止まり、竹林の群を見上げます。
一風に揺られザワザワと自然の音色を奏でる彼らの姿がまるで己の生命力を誇示してるように見えて、神子さんも思わずその音楽に耳を傾けているのでしょうか。
その情景に見惚れてか、私も彼女に倣って竹林の新緑を仰ぎ、そのままの時間が過ぎ去ろうとした頃。

虫の鳴くような呟きが、メリーの口から漏れたのです。


「すてぃーるぼーるらんレース……? どこかで聞いたような……」


268 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 01:59:25 9YPE1RqQ0

あれ? 知ってるんですかメリーさん。

「んーー確か昔、世界史の授業で習った気がするわ」

昔……? ジャイロさんの口ぶりからすれば、SBRレースはつい最近の催しみたいですけど。

「あ……そうだったわね、言うのを忘れてた。
 これは私の推察なんだけど、どうも私たちはお互い違う時間軸からこの会場へ呼び出されてるみたいなの。
 ツェペリさんとの会話で偶然気付けたのだけど、私の生まれた時代はかつてレースが行われた時代の遥か後だもん」

ええ! 初耳ですよそれ!?

「違う時間軸、ねぇ。充分あり得る現象だとは思ってたわ。
 ジャイロの言っていたヴァレンタインの『平行世界移動能力』然り、名簿に死者の名が記載されていた事実然り。
 つまりジャイロとマエリベリーが住んでいた世界は時代こそ違うけど、同一線上……のモノだと考えても良さそうね」

神子さんが顎に手をやり、なにやら納得したように顔を頷かせていた。
こんな時、思考が柔らかい人は尊敬できる。

「なぁなぁメリー。SBRレースで優勝した奴の名前って覚えてるのか?」

えぇ? そーいうのって聞いちゃってもいいんですかジャイロさん。
なんかズルイ気が……

「ごめんなさいジャイロさん、そこまではちょっと……思い出せそうにないです」

申し訳なさそうな顔でメリーもやんわりと謝った。
ジャイロさんもちょっとした興味で聞いただけらしく、大して言及せずに会話も終了した。

丁度その時、前方を歩いていた幽々子さんがこちらを振り向いて呼びかけてくれました。


「みんなー、ようやく竹林を抜けたみたいよー」


その声で私たち4人が同時に前を見やる。
鬱蒼と生い茂った竹群の世界から解放され、東から昇ってくる朝光が視界を塗りつぶす。
目の前には一本の川があり、そのせせらぎだけがこの静寂なる空間を絶えず流れている。

思えば、随分長くこの竹林に閉じ込められていた気がします。
この開けた視界に広がる清清しい自然も、幻想郷の住人にとっては当たり前の景色だったはずなのに。
空に浮き上がりゆく太陽が、私たちを出迎えるみたいに荘厳たる煌きを放ち続けていました。

私はそれを見て一言だけ、
「あぁ、この場所に帰ってきたんですね」なんて見当違いの郷愁を口にしそうになりました。
でも、帰ってきたのではありません。私たちはきっと……これから立ち向かっていくのでしょう。

地獄の使者が迎えに現われたかのように、『ソレ』は突如響いてきたのですから。



『マイクテスト、マイクテスト……』



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


269 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:00:05 9YPE1RqQ0

これで、ひとまず筆を置いておきます。
私はこの後に起こったことを恐らくずっと忘れないでしょう。
あの主催の凍り付くような声が、今でも頭の中を離れません。
まだたったの6時間ですが、間違いなく自分の人生の中で最も恐ろしい6時間だったと思います。

……でも、私には友が、仲間が居てくれています。
みなさん本当に優しくて、私には過ぎた人たちです。
私が決める運命。私の道というのは何なのか。
答えは、まだ分かりません。
でも、今この瞬間にある『絆』を、私は守りたい。
絆を紡いでいきたい。
これはきっと、そのための手記。

叶うことなら、私の大切な友達がずっと笑顔でいられますように。

それでは、また。




Chapter.2 『記憶する幻想郷』 END

TO BE CONTINUED…


270 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:01:29 9YPE1RqQ0
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆ ☆


 Chapter.3 『墨染の桜、不修多羅に舞いて』


『西行寺幽々子』
【朝】E−6 迷いの竹林前





『―――――― 魂 魄 妖 夢 』





―――ぇ……っ…………


不明瞭な、呟きとも取れぬ僅かばかりの音が幽々子のイチゴの様に鮮やかな唇からそっと吐き出された。
軽快なトーンとは裏腹に、男の読み上げる内容はまさしくこの世のあらゆる不吉を象徴したモノ。
点鬼簿を読み上げる死神の如く、主催者荒木の声が続々と死者の名を連ねていくその中に。


天衣無縫の亡霊、西行寺幽々子の最も愛する従者の名はあった。


「……? 幽々子さん……?」

放送を聞き逃さぬよう、荒々しくもしっかりとメモ書きを綴っていたポルナレフの心配する声が彼女にかかる。
続いて阿求がハッとしたように幽々子へと振り向いた。
彼女のその様は名簿へと目を落としたまま、焦点は一向に動かずに震えていた。

「……ぁ…ぅ、…う、そ……よね……? ねぇ……今の、名前……ようむ、って……聞き間違い、よね……っ?」

瞬間、この場の全員が理解する。
彼女に、彼女の愛する者の身に、何があったのか。

「……ねぇ! ポルナレフ! 今のッ! 私の聞き間違いよねッ!? 何かの間違いなのよねッ!?
 妖夢は……ッ! 妖夢が私を残して逝っちゃうなんて、有り得ないものッ!! そうでしょうッ!? ねぇ阿求!!」

段々と荒くなる口調に、普段の物腰柔らかな彼女の面影は失われていった。
いきり立ち、ポルナレフの胸倉を掴み、かつてなく取り乱す亡霊の姫君の姿に、誰一人声をかけられなかった。


271 : 名無しさん :2014/11/07(金) 02:03:23 whG5rWEM0
投下乙です
ポルナレフの誇り高き騎士道精神
そしてポルナレフの白を見つけたメリー
二人の関係のこれからが楽しみです
続きも頑張ってください


272 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:03:28 9YPE1RqQ0
予測していなかったわけではない。
起こり得た事態だと、いずれ至る現実だと、誰しもが心の底に予想していた悲劇だった。
親しき者の死。そんな悲しい出来事が、必ず近く訪れる。
だが、だからこそ人は禍を見ぬフリをする。来たる未来から顔を背けようとする。
都合の良い物事の側面だけを見ようとし、幸せのみを追求する。
不幸な事故にあった他人の記事を、『自分でなくて良かった』と安堵し、気楽に考え、すぐに脳裏から消去する。

故にこの場の6人も、心のどこかでは親しい者に対して『きっと大丈夫だ』と根拠のない平穏を望んでいたのだろう。
『アイツなら大丈夫だ』『彼女ならきっと生きている』『死んでいるはずがない』
そこに至る要因は信頼か、不安の裏返しか、それは各々で違ってくる。


だが現実は非情であった。


「ねぇ! どうして誰も何も言わないのよ! それともやっぱり今のは聞き間違い!?
 そうよ、きっとそうに決まってる! だって私ここに来てまだ一度もあの子と話してないし、それに妖夢だってきっと私を探して―――」
「―――気の毒だが幽々子。 ……放送で呼ばれたのは確かに『魂魄妖夢』の名よ。彼女は死んだ」


狼狽する幽々子の言葉を遮ったのは、豊聡耳神子の冷静な声。
滲む瞳を閉じ、いや、いや…と耳を塞ぐ幽々子。
だがどんなに声を拒絶したところで、頭の中では今なお主催の忌まわしげな演説が脳を揺らしている。

「魂魄妖夢では力が至らなかった。序のふるいに掛けられ、落とされてしまった。そういう事になるんだ」

神子の語りかけは温情でも憐憫でもなく、決定された事実を淡々と述べただけだった。

「おい、神子…!」

これにはジャイロも声を荒げる。
ここに来ての『亀裂』……メリーも阿求も、そんな不安を心に抱く。
だが神子はそんな彼女らの憂慮を払拭させるかのように、凱旋将軍を思わせる立ち振る舞いで幽々子の傍まで歩を進め、蹲る彼女へ向けて言い放った。


273 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:04:44 9YPE1RqQ0

「西行寺幽々子。君は誰だ?」

顔を伏せる幽々子の後頭部に、天資英邁の仙人が言の葉をぶつける。
幽々子は、答えない。

「……ならば私が代わりに答えよう。
 貴様は白玉楼の、幽冥楼閣の佳麗なる姫君ではなかったのか?
 蒼天の幽玄剣士、魂魄妖夢の敬慕する唯一無二の存在ではなかったのか!」

幽々子の肩が僅かに揺らいだ。

「私は妖夢をよくは知らない。だが君は彼女を誰よりも知っているはずだ。
 ならば彼女がこの舞台に立たされた時、何よりも優先し、誰よりも護ることを考えた人物が居たことぐらいは容易く察せるだろう」

幽々子の嗚咽は、止まっていた。

「そんな彼女が今の君を見たら、彼女は呆れるか? 失望するか?」

―――しない、わね。きっと……

「声に出しなさい! 西行寺幽々子ッ!」


「……あの娘なら、私に対して落胆の念を持つよりも……きっと何より最初に自分を恥じる、でしょう。
 『幽々子様を悲しませたのは己の未熟のせいだ』って……、愚直なあの娘のことだもの、きっと最期まで使命に殉じようとした……
 それすら全う出来ずに逝っちゃって……哀しかったでしょうね…っ……悔しかったでしょうね……っ!」

「ならば妖夢の魂が安らかに眠れる方法とは何だ? 妖夢の望みとは何だ!
 主である貴様が為すべき事とは何だッ!」

「私が……為すべき、こと…………」

「そうだ。そして今ッ! この死合の世界には『2種類』の存在しか居ないッ!
 『立ち上がった者』と『立ち止まる者』だッ! 貴様はどちらだッ!?」

「…………ゎ、たし……は…………っ……」


274 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:05:23 9YPE1RqQ0
苦悩し、儚げを絵に描いたように弱弱しくなる幽々子に、ポルナレフと渡り合った時のような覇気は無い。
それほどまでに幽々子の心の比重では妖夢の存在が占めていた。本人も気付かぬうちに。
神子は膝を折り、そんな幽々子の震える両肩に手を掛ける。

「……泣くなとは言わないわ。精神を落ち着かせる時間も大切だもの。でもこれだけは言わせて貰うわね。
 君は既に一度“死んだ身”。亡霊として、と言う意味でなくこのバトルロワイヤルの悪意に、DIOの邪悪に殺されたばかり。
 そんな君の魂をもう一度だけ反魂させてくれたのがツェペリさんなのよ。
 彼は再び『可能性』の火を君の命に灯した。その意味を、よく考えなさい」


最後にそれだけを言うと、神子は立ち上がって何事も無かったかのように元の位置に座り、名簿を手に取った。

伏し目がかった幽々子の瞳に、未だ光は戻らない。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


275 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:05:58 9YPE1RqQ0

「アンタ、意外とイイとこあんだな。 ……悪ィな、さっきはアンタを『冷たい女だ』と思っちまった」

放送も終わり、暫しの休憩を取っていた神子の下にジャイロが寄る。
彼の顔は穏やかであり、またどこか申し訳なさそうな表情も交えていた。

「いえいえ。仏教の目指すところとは一切の苦しみからの解放。
 私は幽々子の苦しみを根本から取り除くことは出来ません。言葉で人を導くというのは……本当に難しいことです」

「そうだな……オレにも導いていかなきゃいけねえ友がいたよ」

「ジョニィ・ジョースターですね」

「ああ……。もっともそいつは自分の力で立ち上がり、そしていつの間にかオレと肩並べて走るようになってた。
 きっとアイツはすぐにオレを追い越すだろう。その成長を見届けるのが……オレの最後の役目ってワケさ」

最後とは何の意味だろう。
神子がそう思うよりも早く、ジャイロの心の声が素早く耳に雪崩れ込む。
ジャイロ・ツェペリという男がこのゲームに参加させられる前、親友とひとつの『約束』を交わし、最終決戦に挑もうとした気持ちが。
彼はもしかしてその『敵』と死ぬ覚悟を持ってぶつかるつもりだったのでは……、そこまで理解し、すぐに頭を揺らし耳当てを押さえた。

(これは……私如きが軽々と触れていい気持ちではないわね……。彼を侮辱する行為になってしまう)

この時ばかりは自らの能力を恨み、聴かなかった事にした。
侘びとして本心からの気持ちを、神子は送った。


「会えるといいですね。友人に」

「ああ。……会えるさ」


二人は小さく笑い合い、また絆を深めることが出来た。
少なくとも、神子はそう感じた。

「もしよォ、ジョニィの奴に会えたらお前のことを紹介してやらねーとな」

「おや。おやおやおや。これは随分と気が早いわねぇ。ジャイロは私をなんて紹介するつもりかしら?」

「アホかッ! 友人としてに決まってんだろーがッ! 話に流れで分かんだろォーがそれくらいッ!」

「おやァ〜〜? 私は『そんなこと』一言も言ってないのだけど、ジャイロは一体『何を』考えてたのかしらね? ん?」

「お〜ま〜え〜なァァアア〜〜〜〜! やっぱ紹介してやらねーーッ!!」

「クク……! いやぁ、ほんっと…おも、しろい……わねぇ、ジャイロは……! クスクス……!」


朝焼けの草原に聖徳道士の忍び笑いと、鉄球使いの拗ねた叫びが響き渡った。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


276 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:06:33 9YPE1RqQ0

「大丈夫かしら、幽々子さん……」

ちょこんと石に座り、神子から借りた名簿を自身の名簿に写し書きながらメリーはそんなことを呟く。
さきほどの幽々子の一件から放送のメモどころではなかった一行は、こうしてひとりずつ神子の名簿を回しながら死亡者のメモを書き写していた。
十人の人間の話を同時に聞くことができる神子の耳だけが、揉め事の中でもしっかりと放送内容を記憶していたのだ。

「大丈夫ですよ、きっと。あの方はとっても強くて凄いですから、立ち直れる人だと私は信じています」

阿求はそんなメリーの不安を杞憂だと聞かせるように、精一杯の笑顔を作って見せる。
そんな彼女の優しさにメリーはまた、薄く微笑んだ。
やがて全てのメモを取り終えたメリーはペンを置き、ポツポツと語り始める。

「……ねえ、阿求。私って多分ひどい女だと思うわ」

「……どうしてそう思うのですか」

「幽々子さんがあんな事になっているというのに、今の私の心の中は安堵の気持ちで一杯なのよ。
 親友の蓮子の名前は放送で呼ばれることは無かった。そのことに私は今、心の底から安心してしまっているの。
 確かにツェペリさんの名前が名簿にあることは……凄く悲しいと感じてる。でもそれ以上にメリーの無事を喜ぶ自分もいる。
 幽々子さんは大切な人を亡くしたばかりだというのに……これが自分本位でなくて何だというの?」

その告白に阿求はどんな返答をするべきか一瞬悩んだが、同時に納得出来た気持ちでもあった。
人里に住居を構える阿求は九代目稗田家の当主という立場を担ってはいたが、神々や妖怪と親交がそれほど深くはない。
並居る屈指の妖怪共々ですら6時間の間にこうも脱落していく様に恐怖こそ覚えれ、死別に嘆くほど親しい存在がいたわけではない。
精々が友人、上白沢慧音の名が呼ばれなかったことに安堵したぐらいだ。
それはつまるところ、

「メリー、その感情は人間なら…ううん、良心を持つ者なら妖怪だって誰だって持ち得て当然の感情だと思います。
 友人や身内、愛する人が無事で良かった。そう思うのは当たり前なのです。私だってそうです。
 だからメリーが気に病む必要は無いはずですよ」

今の自分に言えることの精一杯だった。
阿求は当たり前の事を当たり前に述べただけ。なけなしの勇気付けだ。
それでもメリーが少しだって元気になれるなら。
あの豊聡耳神子の求心力ほどとはいかずとも、少しだってメリーの顔を前に向けられるのなら。
微力ながら、メリーの力になってあげたい。
そして勿論、幽々子の力にもなってあげたい。

阿求は本心からそう願う。


277 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:07:10 9YPE1RqQ0

「……うん。そうよね、貴方の言う通りよね。
 ありがとう、阿求。私、ここに来て随分弱気になってたみたい」

「私なんかで宜しければいつでもご相談に乗りますよ?」


二人は小さく笑い合い、また絆を深めることが出来た。
少なくとも、阿求はそう感じた。





『―――ズキュウウゥン♪』





不意に阿求の荷物から響く、この世界に似つかわしくない陽気で奇妙な電子音。
思わずビクリと反応した阿求は何事かと、おそるおそる自分のデイパックへと手を入れた。

スマートフォンだ。音の発信源は確かにこの機械からだった。

一応の操作は何とか覚えた阿求だったが、未だ用途の掴めぬ現代機器の取り扱いには苦戦するばかり。
だがそこで、このメンバー唯一の現代人であるメリーは彼女の持つ支給品に興味を示した。

「あら? それ、古い型だけど『スマホ』じゃない。それが阿求の支給品?」

「『すまほ』…? メリーはこの機械を知っているのですか?」

「知ってるも何も、私達の世界でスマホを知らない原始人は居ないわよ。それは結構古いタイプみたいだけど」

もしかして遠回しに馬鹿にされたのだろうか。
ちょっぴり不満を抱えながら阿求は専門家に機器を手渡すことにした。
メリーは手馴れた手つきでスイスイと画面を弄り、ものの数秒かからずに音の正体をあっさりと突き止める。

「……どうやらメールが届いたみたい。差出人は……『姫海棠はたて』? これは……メールマガジンね」

スマホだのメールだのと、次々に知らない単語が飛び出してくる。
だが阿求はたった一つ、『姫海棠はたて』の名は知っていた。
そういえばあの鴉天狗も『花果子念報』なる低級新聞を発刊していた気がする。
よくわからないが、そのスマホなる機器の画面で彼女の新聞が見れるということだろうか。
だとすればビバ・人類の進化。外の世界では思った以上に技術進歩の発達が著しいらしい。


「――――――っ!! ぇ……こ、れ……、この…ひとって……っ!」


画面を見たメリーの顔が一瞬にして蒼白となる。
只事ではない事態を感じた阿求は反射的に画面を覗き込んだ。


「え……っ! この人、メリー……いや、………八雲紫、さま……!?」


その画面に写っていた人物は、スマホを持つ人物と瓜二つの―――



―――八雲紫が、魂魄妖夢を射殺するその瞬間だった。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


278 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:07:55 9YPE1RqQ0

「私ねぇ、妖夢と会えたら貴方をあの娘の師匠にさせようかな、なんて思ってたわ……。
 貴方の剣術って凄かったじゃない? きっと妖夢の良い訓練相手になると思ってたのよ……」

「いや俺なんて……精々が炎なんかを斬れるぐらいで、ケーキのロウソクに火を灯す時ぐらいしか役立ちませんよ」

「……炎を? 凄いじゃない、人間が雨を斬るのにも三十年かかると言われてるわ。益々妖夢の師匠にはピッタリね……」

「……俺もその妖夢さんと剣を交えてみたかったですよ」

「ふふ……そうね。 ……『世の中を思えばなべて散る花の わが身をさてもいづちかもせむ』、か」


―――それはどんな意味なのですか。

異国の詩に興味を示したポルナレフは、けれどもそんな疑問の言葉を投げ掛けることすら憚られた。
謳う幽々子の横顔があまりにも儚げで、それは吹けば消え去るほどに、または蜻蛉のように繊細な表情だったからだ。

この世に存在する限りは人とは儚いもの。
きっと、どこへ行くことも出来ない。

華麗なる蝶が如く、幽々子はそんな詩を口ずさんだ。


三角座りのまま消沈の解けぬ幽々子は、愚痴を零すように細々と隣のポルナレフへ語りを続ける。
ポルナレフはそれを真剣に聞き入れ、幽々子の気が済むまで優しく傍で見守っていた。
狂った己の凶行を止め、『矜持』と『居場所』を与えてくれた華胥なる亡霊、西行寺幽々子には恩がある。
それを省いても、彼女にはつい護ってあげたくなるような空気を醸し出していた。

―――きっと彼女を慕っていたという従者も、彼女を真摯に尊敬していたのだ。


「その妖夢って子は、貴女の大切な人だったんですね」

「……家族、かしら。娘といっても良いのかもしれないわね……」

その容姿すら知らぬ半人半霊の気持ちに同調し、ポルナレフは心から想う。


俺は妖夢ではない。彼女の代わりに幽々子さんの支えになる事など、出来よう筈が無い。
だが俺は戦士だ。幽々子さんを護る『盾』ではなく、敵を斬り裂く『剣』として彼女を護る。
家族を失った幽々子さんへの恩を返す唯一の使命こそがそれなのだ。
魂魄妖夢の無念を晴らすべく、彼女の『魂の剣』は俺こそが受け継がなくてはならないッ!
おこがましい気持ちだと思われようが、そいつが俺の『騎士道』なんだッ!
俺がこれから振る剣は、妖夢の剣だと思えッ!

俺に斬れねぇーモノなんぞ、あんまりねぇぜッ!!


279 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:08:34 9YPE1RqQ0

「―――ふふっ」

幽々子が聊かに笑った。

「ふ…っ、ふふふ……。貴方、面白いわねぇ。今の、声に出てたわよ……? ホント、そーいう愚直なとこ、あの娘にそっくり」

「え……えぇ! で、出てました、か……? いや、恥ずかしいな……あはは……」


二人は小さく笑い合い、ほんの少しだけ幽々子の気持ちを救うことが出来た。
少なくとも、ポルナレフはそう感じた。





「メリー!? どうしたんですかッ!?」





背中から聞こえてきた阿求の驚く声に、ポルナレフと幽々子が同時に振り向く。
メリーが何事か蹲っていた。阿求が彼女の背中を揺すっている。

「どうした!? メリーに何かあったのか阿求ちゃん!!」

ポルナレフが慌てて駆け寄ろうとするが、メリーはよろよろと立ち上がりながらそれを制する。

「大丈夫、です……ただの、立ち眩みですから……!」

「ほ、ほんとに……? でもスマホの画面を見た瞬間、急に……―――っ!」

そこまで言いかけて阿求は思い出した。
先刻、ポルナレフを支配していた肉の芽をメリーが覗き見た瞬間。
阿求が何の気無しに『八雲紫』の名を口にした瞬間。
メリーの意識は混濁し、境界の世界へと旅立ったことに。


280 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:09:02 9YPE1RqQ0

(わわ……! しまった私としたことが!
 メリーには『八雲紫』様に通ずる語句や光景はNGだと幽々子さんに言われたというのに!)

まさかスマートフォンの画面にかの大妖怪、八雲紫の姿が写し出されていたとは露にも思わない阿求は自らの失態を恥じた。
それを見てしまったことをきっかけとし、メリーはまたしても深く昏睡してしまうところだった。
しかしさっきの画面に写されていたのは確かに……紫だった。しかも見るもおぞましい光景として。

(紫様がまさかあんなことを……? ううん、きっと……きっと何かの間違いに決まってる!)

あの方は『あのようなこと』を仕出かす御方じゃない。
首を振り、先ほどの画面の光景を即座に否定する阿求。
それよりもまずは、メリーの体調の心配をせねば。

「本当に大丈夫ですか? 少し横になった方が良いかもしれません」

「……うん。でも、本当に大したことないのよ。だから心配しなくても良いわ」

「きっと疲れが溜まってたんだろう。もう少し落ち着ける場所を探して、ゆっくり休もう」

ポルナレフもメリーを心配して肩を貸す。
阿求はその様子に少しだけ安心し、さきほどのスマートフォンの『記事内容』をこれからどうみんなに説明するかを悩み始め、








「――――――ゆ、かり…………?」






幽々子が地面に落ちたスマートフォンを拾い上げている姿を目撃し―――絶句した。

画面には幽々子の無二の親友が、幽々子の誰よりも愛しい従者を撃ち殺す残虐な記事が眩く写し出されていた。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


281 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 02:12:34 9YPE1RqQ0
ひとまずここまでが前編になります。
残りも大部分は終わっているので、あまりお待たせする事はないと思います。

期限内に全て完了させることが出来ず、申し訳ございませんでした。
後日、ゲリラという形で残りを投下する予定です。


282 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/07(金) 02:29:23 MWZyU0Wc0
投下乙です!どうせID見えてるしこのままで

ポルナレフとの和解を始め、各キャラクターの仲が深まっていくのが本当に最高でした
その一方で放送を皮切りに不穏な流れ。そこから立ち直ろうとするゆゆ様、
そして、最後の紫の妖夢殺害のシーンと。
刻々と変化する状況を、豊富な描写で映された文章に何度も感嘆の声が漏れるほどでした

後半本当に楽しみにしております、無理に期限内に収めようとせずに程よく頑張ってください


283 : 名無しさん :2014/11/07(金) 04:14:20 6CwpplJI0
心を込めて投下乙と言わせて欲しい
氏の書く文章は本当に濃い、凝縮されている
ポルナレフが奮い立つところから、幽々子に台詞を返す神子、読んでいて興奮せざるを得なかった
後半は悲しい展開になりそうですが、期待してます


284 : 名無しさん :2014/11/07(金) 11:23:02 IQGu.YIQO
修正乙です。

「無生物を生物に変える」ゴールドエクスペリエンスと、「動物を恐竜に変える」スケアリーモンスターズは似てるね。


投下乙です。

メリーの親友は黒に呑み込まれ更にメリーを引きずり込もうとしており、幽々子の親友は従者の仇。
こわいわー、友達こわいわー


285 : 名無しさん :2014/11/07(金) 13:29:52 o7GvQOqE0
前編投下乙です
竹林組、放送前に各々の形での結束
生きる意味を見出したポルナレフを始めとしてチームの絆が深まったのは嬉しい限り
それぞれのキャラの描写が色濃く書かれてていい見応えでした
しかしはたての記事はやっぱり悪質だなぁ、特定の参加者に絶大なダメージ与えてくる…
「紫が妖夢を殺した」ということ自体は事実なのが尚更面倒な所
ここから幽々子様がどうなるか、そして残りのキャラがどう絡んでくるか…


286 : 名無しさん :2014/11/07(金) 17:04:48 bbqIq/Qc0
投下乙・・・なんですがちょっと気になる所、というより今後の展開に関して心配になるところが
メリーたちが放送が聞いたのはE-6で、同じ頃蓮子たちは猫の隠れ里にいます
そこから湖の反対に行って紅魔館に入ったあと、迷いの竹林を目指すと結構な移動時間になるます
ここからメリーたちが竹林に戻って、しばらく滞在するような展開じゃないと会うのは難しいと思うのですが大丈夫でしょうか?
余計なお世話とも思ったのですが、気になったので書かせて頂きました
対策を考えてあるならこの書き込みは無視して、どうぞ執筆を続けてください


287 : 名無しさん :2014/11/07(金) 17:11:30 xpSj634A0
乙。
毎回毎回最後に誰か引っ掻きまわすなぁ。いつも。


288 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/07(金) 17:34:23 9YPE1RqQ0
>>286
ご指摘ありがとうございます。お答えします。
と言ってもあまり深い内容まではお答えできませんが、各キャラがその時間帯何処で何していたかの時間関係は、
実は毎回(無駄に)脳内ではキッチリ決めておりますので、その辺りは不自然の無いようにしております(多分…)
「それでもやっぱりここはおかしいよ」などの指摘があればどんどん突っ込んでくれても構いません。

みなさん御感想ありがとうございます。とても励みになります。


289 : 名無しさん :2014/11/07(金) 21:31:37 9xhGVY4s0
投下乙です
幽々子とポルナレフ、ジャイロと神子、メリーと阿求それぞれが良いコンビ
それだけに阿求の手記とかポルナレフの改心を嫌なフラグに感じてしまうのが怖いところ

妖夢を紫が撃つという光景を幽々子がどう受け止めるのかが、恐ろしくも楽しみです


290 : 名無しさん :2014/11/07(金) 23:38:32 jJFdQDHU0
投下乙です!

実に濃厚でした。1キャラ1キャラごとの複雑な心境の変化を丁寧に、
そして密度高く表現された文章に、放心しました。
どのキャラも余すこと無くその魅力を発揮していて、一気に読み進められました。
非常に面白かったです。
後編も楽しみにしています。


291 : 名無しさん :2014/11/07(金) 23:51:28 jJFdQDHU0
あ、それと誤字?報告です。

>>275
「いえいえ。仏教の目指すところとは一切の苦しみからの解放。
 私は幽々子の苦しみを根本から取り除くことは出来ません。言葉で人を導くというのは……本当に難しいことです」
の神子のセリフの、『仏教』が、神子が信奉している宗教が『道教』なので若干違和感があるのですが、
仕様でしょうか?もしそうでしたらすみません。

>>276 
『確かにツェペリさんの名前が名簿にあることは……凄く悲しいと感じてる。でもそれ以上にメリーの無事を喜ぶ自分もいる。』
の『メリー』の部分は『蓮子』ではないでしょうか。

報告は以上です。失礼しました。


292 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/08(土) 02:59:58 ReG.8YPo0
>>291
ご指摘ありがとうございます。
まずは前者の「仏教」発言ですが、神子は表向きとしては仏教を広め、自分自身は道教の研究をしている
…らしいので、恐らくこの解釈で間違ってはいない、かと思います。多分。
後者の誤字は私のミスです。ですので>>276のメリーの台詞、

「確かにツェペリさんの名前が名簿にあることは……凄く悲しいと感じてる。でもそれ以上にメリーの無事を喜ぶ自分もいる」

の「メリー」の部分を「蓮子」へと訂正します。すみませんでした。

それとついでになりますが>>280の最後二行にエンドテロップを入れ忘れていたので、修正verを追加します。


293 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/08(土) 03:01:55 ReG.8YPo0

(わわ……! しまった私としたことが!
 メリーには『八雲紫』様に通ずる語句や光景はNGだと幽々子さんに言われたというのに!)

まさかスマートフォンの画面にかの大妖怪、八雲紫の姿が写し出されていたとは露にも思わない阿求は自らの失態を恥じた。
それを見てしまったことをきっかけとし、メリーはまたしても深く昏睡してしまうところだった。
しかしさっきの画面に写されていたのは確かに……紫だった。しかも見るもおぞましい光景として。

(紫様がまさかあんなことを……? ううん、きっと……きっと何かの間違いに決まってる!)

あの方は『あのようなこと』を仕出かす御方じゃない。
首を振り、先ほどの画面の光景を即座に否定する阿求。
それよりもまずは、メリーの体調の心配をせねば。

「本当に大丈夫ですか? 少し横になった方が良いかもしれません」

「……うん。でも、本当に大したことないのよ。だから心配しなくても良いわ」

「きっと疲れが溜まってたんだろう。もう少し落ち着ける場所を探して、ゆっくり休もう」

ポルナレフもメリーを心配して肩を貸す。
阿求はその様子に少しだけ安心し、さきほどのスマートフォンの『記事内容』をこれからどうみんなに説明するかを悩み始め、








「――――――ゆ、かり…………?」






幽々子が地面に落ちたスマートフォンを拾い上げている姿を目撃し―――絶句した。

画面には幽々子の無二の親友が、幽々子の誰よりも愛しい従者を撃ち殺す残虐な記事が眩く写し出されていた。





Chapter.3 『墨染の桜、不修多羅に舞いて』 END

TO BE CONTINUED…


294 : ◆fLgC4uPSXY :2014/11/09(日) 23:48:38 5rv4LPOU0
申し訳ありません
予約延長させてもらいます


295 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/11(火) 20:39:35 CBL7Gu7o0
>>233の予約を延長します。


296 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:13:18 zan3qhFo0
お待たせしました。続き投下します。長いです。


297 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:15:14 zan3qhFo0
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ☆ ☆


 Chapter.4 『ブレイク・マイ・ハート/ブレイク・ユア・ハート』


『マエリベリー・ハーン』
【朝】E−6 太陽の畑


波乱から始まった夜は明けた。
空の暁は波紋を拡げ始め、地獄のような一日の始まりを否応無く彼らに伝えてくる。
頭に霞がかった暗霊たる不安の雲がメリーの胸中をこれ以上無いほどに圧迫し、苦しませる。
あの新聞記事は……あの恐ろしき内容は果たして真実か、虚像か。
画面に写し出されていた人物は、まさしく自身の写し絵とも言える姿。聞くによれば大妖怪『八雲紫』その人。

派手な見出しでデカデカと載せられていたタイトルは―――『八雲紫、隠れ里で皆殺しッ!?』

吐き気すら催しそうな低俗な内容には流石のメリーも憤りを覚えたが、何よりも。
会ったことすらない人物、八雲紫がそのような邪知暴虐を行うとはメリーにはとても思えなかった。
何故だろう。自身の姿と生き写しとはいえ、他人は他人だというのに。
どういうわけかメリーにはこの紫が、自分が世に生まれた時から一緒だったという錯覚が頭を支配していた。

彼女の正体を知りたい。
彼女の正体が怖い。

相反する二つの感情がぶつかり、摩擦し、火花を生む。
それでもメリーの所属する秘封倶楽部とは、世界の真実を追究し、結界を暴くことを理念として動くものだった。
この世の真実とは得てして隠蔽されるものであり、ただの少女である自分がその存在を露わにすることに何の意味があるのか。

夢と現実は違う。だから夢を現実に変えようと努力できる。
そんな親友の言が頭を過ぎった。
在り得ない事を一つずつ消去していけば、最後に残るのはたった一つの『真実』。
ならば私は『真実』を追いかけていきたい。
八雲紫が自分にとって何なのかを、私はどうしても知りたい!


人知れず決意を固めていたメリーに神子の声が掛かった。

「この辺りで一息入れましょう。みんな自分が思っている以上に疲れが溜まってるわ」

先導する神子が振り返り、足を止める。
そこは辺り一面、黄色に輝いていた。朝光の反射を輝かせながら咲き誇る向日葵畑はメリーがこれまでに見たことも無い程に綺麗な景色。
思わず感嘆たる溜め息が漏れる。
所狭しとそよ風に揺れる向日葵の海に飛び込んでみたい気持ちはあったが、それを何とか抑えて後方のポルナレフへと声を掛けた。

「ポルナレフさん……あの、幽々子さんの様子はどうですか?」

ポルナレフが背負った幽々子をチラリと見るが、その表情は芳しくない。
彼の背にてまるで眠り姫のように深く眠る幽々子だが、その目には腫れた痕が僅かに見える。
メリーの心配する声に首を振って返したポルナレフは、幽々子を草のベッドにそっと横たわらせた。

眠り続ける幽々子を周りの向日葵たちがまるで母親のように見守る。そのざわめきは子守唄のようで。
そして彼女の優美な寝姿は幼き頃に読み聞かされた白雪姫のようだとメリーは思い、不謹慎だとすぐに首をブンブンと振る。

「幽々子さんは俺がこのまま看ている。 ……メリーも阿求ちゃんも、もう少し休んだ方がいいぜ」

責任を感じているのか、ポルナレフはゆっくりと幽々子の傍に腰を下ろし、労いの言葉を掛けてきた。
根っからの紳士なのか、フランス人らしく女性には一際気を遣う性格なのか、彼は疲れひとつ見せずにここまで幽々子を背負ってきたのだ。
ジャイロが馬に乗せようかと提案するも、目立つからという理由で拒否。
メリーは彼を心から優しい人だと尊敬するようになってきた。
やはり肉の芽で垣間見た本来の彼という存在は、間違いなく『正しいことの白』に居たのだと確信できる。

この人はイイ人だ。
こんな優しい人が幽々子さんを守ってくれているのなら、きっと何とかなる。幽々子さんもすぐに正気に戻ってくれる筈だ。
だから幽々子さんは、彼に任せよう。
メリーは思い、それと同時に先程の出来事を想起し始めた―――


298 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:16:56 zan3qhFo0
親友の姿を画面の中に見た時の幽々子の取り乱しようは、それは酷いものだった。
しまった、と阿求が慣れぬ機敏な動きでスマートフォンを取り戻そうとも時既に遅し。
幽々子は一瞬の呆けの後、狂ったように喚き、叫び、泣いた。
飼い猫のように穏やかで大人しい雰囲気を持つ彼女が、まるで幼子のように感情を散らした。
その光景にメリーも阿求も怯懦するばかりで、神子ですら手を焼いた。
ポルナレフの必死の呼びかけも聞く耳持たず、感情の槌の降ろし処を見失った彼女に対しとうとうポルナレフはスタンドでの当身を行使。
どうしようもなく暴れていた故の苦渋なる行動だったが、やはり女性に対して暴力を働いたという自責の念がポルナレフの心から剥がれなかった。
それも大恩がある筈の彼女へ、だ。

ポルナレフは生来お調子者と呼べる性格ではあったが、情には厚く恩を大切にする好漢。
『自分こそが彼女らを護る』とハッキリ誓った途端の有事、行為に歯軋りするポルナレフを責める者など居なかった。
目に見えて重苦する表情のまま気絶する幽々子を、ポルナレフは誰に言われるまでもなく背負い、彼女を安全に寝かせられる場所まで運ぼうと進言する。
先のいざこざによってこの場に危険人物が近づいてくると不味い。とにかくここを離れようという主旨だった。


―――そのような成り行きから数百メートル足を運んだ一行が見た景色が、この太陽の畑だった。
花は、人を落ち着いた気持ちにさせてくれる。
まるで天国にでも舞い降りたかのように現実離れした土地ではあるが、この向日葵畑に由縁ある妖怪に詳しい阿求だけは落ち着かない。
普段の幻想郷ならば『あの妖怪』の活動場所なだけに阿求は息が詰まる思いだった。

「彼女がこのゲームに呼ばれていないことが果たして幸なのか不幸なのか……何故か助かったよーな気がします」

「……阿求、どうかした?」

傍に立つメリーが独り言に反応した。
何でもないですと返し、そう…とまた黙る。


「……阿求。私、紫さんに会いたいわ」


暫しの沈黙の後、ゆくりなくメリーが呟いた。
阿求は再びメリーがその言葉をきっかけとして倒れないか心配し横を見やったが、彼女の瞳は固かった。
朧気ながらもある種の『決意』めいたものを感じ取った阿求は、「会ってどうするのですか」とは言えなかった。
ついぞ先ほど見た『記事』を忘れたわけではないだろう。
阿求とて、あの妖怪の賢者があのような惨事を引き起こすわけがないと信じたかった。
だがしかし、このデスゲームが経過して6時間。既にして18もの命が潰えている。
もはや誰が殺戮を肯定するのかわからない事態と化しているのだ。


果たしてこのままメリーを紫と引き合わせてよいものか。
『もし』……万が一、あの方が殺しに積極的な姿勢だったならばメリーはどうなる?
メリーはこんな私と友達になりたいと言ってくれた。
私もメリーと友達になることを快諾し、嬉しく思った。
だからこそ、揺れ動く。
メリーと紫を会わせるべきか。
単純な天秤で量り合わせているわけではない。友の生き死にに直結しているのだ。
しかしこのメリー、あの賢者と並々ならぬ関係があるのでは……とも思っていた。
ならば自分如きが彼女らの邂逅に楔を打ち込むことなど、水差しでしかない。


つまりは、今の阿求がメリーの決心に返す言葉などは持ち合わせていなかった。


(『感情』と『理性』……、私はどちらを選択すれば……!?)


かつて『可能性』を信じられたツェペリのように自分はなれるのか。
勇気が足りない。僅かに、一押ししてくれる何かが欲しい。


299 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:17:33 zan3qhFo0

「あらら? やっぱり『カウンセリング』は必要かしら、阿求?」


出た。我らが先導士、豊聡耳様だ。

「出た、とはお言葉じゃない。人を神出鬼没みたいに」

言葉にしてませんし、まさしく神出鬼没じゃないですか。

「それはそうと阿求、またしてもお悩みのようね? 今度の選択はどちらを取るつもり?」

あくまでも対岸にて見物するかのような構えで不敵に笑う彼女。
しかし、私には分かる。
彼女はただ茶化しにきたわけではないことが。
『あの時』とは違い、今の私には神子さんがいる。ジャイロさんも、ポルナレフさんも付いてくれてる。
それはひとしおの『勇気』だ。この太子様は私に選択の勇気を与える為に現われたんだ。
もしも私が選択を誤っても、仲間が支えてくれることでしょう。

だから私の『感情』は、ひとつの答を導いてくれた。


「メリー。紫様に会いましょう。貴女はきっと、彼女に会わなくてはならない。そんな気がするんです」

「……ありがとう」


一言だけの礼を言って、メリーは微笑んだ。
ああ。益々紫様との生き写しのようだ。

「君の、いや君たちの『道』は決まったようね。それでこそ私の教え子よ」

「道教に入信した覚えはありません。 ……でも、ありがとうございます。神子さん」

「おやおや、私は高みで見物していただけよ?」

いつものように惚ける神子さんには、やはり言葉は通じないようです。
ならば心の声でせめてものお礼を。本当にありがとうございます、神子さん。
……あ、ちょっと照れてる。こうかは いがいと ばつぐんだ。


300 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:18:48 zan3qhFo0

「よう。どうやらやることは決まったみてぇーだな………って、どうした神子? 顔が赤ぇーぞ」

ジャイロさんが見計らったように入ってきました。
紅潮を彼に見られたくないのか、顔を背けて咳払いしている。少し面白い。

「コ、コホン……! まあ、ともかくっ! これで総意は取れたわ。マエリベリーも良いわね?」

「はい。皆さんにご迷惑お掛けするようですけど、私はこのまま紫さんに会いに行きたいと思います」

「言っとくけど、八雲紫が虐殺現場に居合わせたのは間違いないと思うわ。
 少なからず、彼女の襲撃の可能性を想定しておいた方がいい。オーケーかしら?」

「覚悟は、出来ています」

「ん、よろしい。私やジャイロは博麗の巫女とジョニィ捜索を考えていたけど、後回しになりそうね、ジャイロ?」

「ジョニィの奴はそう簡単にくたばるような男じゃねーよ。オレもメリーらに協力させてもらうぜ」

「危険から女子を守り通す事こそ、男子たる者の高尚なる気格よ。期待してるわね、ジャイロ」

神子さんから軽く肩を叩かれたジャイロさんは、おくびには出そうとしないがどこか張り切っているような目つきです。
私は本音を言えば……ジャイロさんには申し訳無い気持ちもありました。
聞くところによるとジャイロさんはそのジョニィさんとは無二なる親友らしい。
その彼よりもメリーの決意を優先し、付いてきてくれるというのは本当にありがたいことです。
それにメリーだって件の蓮子さんとは大の親友だと聞くもの。
互いが互いの無事を信じ、なおも自分の道を選択できるという心の強さが羨ましい。

……って、あれ?

「メリー、そういえば貴方、蓮子さんは探さなくて良いのですか?」

ジョニィさんはともかく、蓮子さんはメリーと同じで殆ど一般人の女の子であるはず。
放送では呼ばれなかったとはいえ、現在も無事だとは限らない。

「勿論、蓮子も探しだすわよ。私と蓮子の2人揃って初めて秘封倶楽部なの。その絆は絶対に壊させないわ。
 ……案外、近くにいたりしてね。なんとなくそんな気もする」

おおう、これが親友同士の絆の力という奴なのかな。私と小鈴には足りないものだ。

「その紫さんを探すの、当然俺も手伝わせてもらうぜ。
 俺だってメリーには恩がある。君たちを護ると約束したんだからな」

幽々子さんの傍で彼女を看ていたポルナレフさんも少し離れた場所から会話に入ってきました。
相変わらず幽々子さんが目覚める気配は無さそうです。

「それに俺だけじゃねえ。きっと……幽々子さんだってその友人に会いたがるだろう。
 だがこんな調子で2人が出会ったら、待つのが『最悪な結果』というのも充分あり得るんだ。
 そんな時、誰かが彼女らを止めてやらなくちゃならねえ。俺の剣は、そのためにある」

ポルナレフさんの表情はどこか辛そうでした。
最悪の結果。私にだって、想像はつきます。
もしもそんな結果が訪れたとして、そして考えたくもない事ですが……もしも紫様と幽々子さんが袂を分かったとして。
ポルナレフさんの剣は、紫様に向けられる事もあるかもしれません。
そんな……そんな悲しい出来事、私は認めたくない。
親友同士で争うなんて事が、あっていいわけありません……!


301 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:19:44 zan3qhFo0

「阿求の考えてる通り、友同士で戦うなどあっていいことではないわよ。
 阿求もメリーも、ついでにジャイロも友達は大切にしなさい」

「ついでで悪ィーんだがよー、ホラ! 特に綺麗な向日葵を一本摘んできたぜ。オレの国だと珍しかったからつい、な」

「……何やってるんですか、いい大人が。あまり花をむやみに摘むものではないわよジャイロ」

無邪気な笑顔で自慢げに向日葵を神子さんに見せびらかすジャイロさんは、なんだか子供みたいでした。
もしかして元々、はしゃぐ性格なのでしょうか? 意外です。

「むやみじゃねーよ、オメーにやるって言ってんだよ。意外と花とか愛でそうな奴だからな、お前さんは」

「………………え」

おや。これはこれは。

「オメーがダチ大事にしろって言ったばかりじゃねーか。
 信頼の証に花ぐれー贈ってもバチ当たらねーだろ。神子だって女の子だしよ」

「……ジャイロ。君って意外と女性に優しかったりするんですか? 驚きました」

「あのなー! オレだってオンナの子には優しくするぜ! 嫌なら返せ!」

「あっ! 返さないわよ! せっかく摘んだのに勿体無いじゃない!」

そう言って神子さんはいそいそと向日葵を大事そうに仕舞いました。
そうですよね。聖人といえど神子さんだって女の子ですし、男の人に花を貰って嬉しくないわけないですよね。
ていうか、神子さん結構嬉しそうですね。
ジャイロさんもこの様子だと向日葵の花言葉なんて知らないんだろうなあ。

「―――っ! 阿求〜〜っ……っ!」

心の声を聴いたのか、神子さんがちょっぴり恥ずかしそうに私を睨みつけました。
別に怒られるようなこと何も思ってないですよ。
ただなんか、そーいうの良いなって。うんうん。


「友……か」


ふと、ポルナレフさんが誰にも聞こえないぐらいに小さく呟きました。



「俺には……遠い存在、だな……」



彼の横顔に見えた笑みは今にも消えそうなほどに霞みがかっていて、私にはそれがとても寂しそうに見えたのです。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


302 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:20:29 zan3qhFo0
一行が太陽の畑にて足を休め、半刻ほどが経過した。
未だ目覚めぬ幽々子を見守るポルナレフは食事も取らず、ひたすらに献身的であった。
メリーや阿求は支給された食料での朝食を取りながら会話したり、阿求は自身が書き記していく手記作成に時間を割いたりもした。
そのうちに太陽はどんどん上昇していき、向日葵畑の影の高さも伸びてくるようになった。

「本当に18人もの人が死んじゃったんでしょうか……。
 この空の下でこうしていると、なんだか殺し合いに巻き込まれていること事態、遠い幻想だったんじゃないかって思えてきます」

阿求が、メリーに言った。

「本当に……こんな状況でなければお弁当持参で蓮子と一緒に来たかったぐらいだわ。
 でも、私たちは尊い人を確かにひとり、亡くしてしまったわ。それだけは忘れてはいけない」

メリーが、阿求に返答した。

風が靡き、彼女らの髪をそっと撫でた。
草花の掠れ合う音の大群が、気持ちよく耳を通り抜けた。
時折、ジャイロが神子に文句をぶつける様子が見られた。
それを受け、また神子が意地悪く笑った。
たまに通る無言の空間で、阿求のペンが紙を滑らせる音だけが届いた。
思い出したかのように阿求がスマートフォンを操作し始め、すぐに飽きてまたペンを取った。
風に乗って、幽々子のおっとりした寝息が聴こえてきた……気がした。


本当に、本当に、平和と見紛うかのように何も無い時間が続いた。


303 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:21:13 zan3qhFo0





「そう言えば」


阿求がまたも思い出したかのように、荷物をゴソゴソと漁り始める。
幽かな予感、でも何でもなく。
それは本当に偶然であり、たまたま思い出したから覗いてみようといった思考だった。
果たしてデイパックからはもうひとつの電子機器が取り出された。
それは先の有事で神子に使用され、そのまま阿求の手に帰って来た『生命探知機』なる道具だった。

「……? 阿求、それ…確かポルナレフさんが最初に持っていた……」

「ええ。他の生命に反応してその居場所を特定できるらしい機械、みたいです」

何の気無しに取り出したその機器の電源を入れ、電子音と共に画面に光が点る。



「―――あれ?」



阿求の軽い疑問符が口をつく。


「ねえ……メリー? 私たちって、全部で何人でしたっけ……?」


質問の意図が読めぬメリーだったが、疑問に答えるべく片手で指を折っていく。
考えるまでもなく、『6人』だ。

「ですよねぇ……。 ………あれぇ?」

阿求は周りへと忙しなく首をキョロキョロ回す。
自分たち6人の他には、広大な向日葵ばかりが風に揺れ動くのみだ。
この生命探知機の索敵範囲は半径100メートルとされている。
自身の持つこの探知機を中心として、そこから半径へと索敵されるのであれば。




間違いなく、この画面には『8人』の生命反応が存在していることを示していた。




阿求が探知機を取り出したことは、本当にただの偶然であった。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


304 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:23:19 zan3qhFo0

「なあ神子。今……歌思い付いた。考えたのよ。
 作詞作曲ジャイロ・ツェペリだぜ。聴きたいか? 歌ってやってもいいけどよ」

「ずいぶん……君、暇そうじゃない」

ジャイロと神子がそんなくだらないやりとりを始めてから暫くが経つ。
飽きずに調子の良いギャグだのなんだのを聞かされ、いい加減神子も辟易……しているかと思えば満更でもない様子。
互いに余程暇だったのか、小一時間漫才を繰り広げていた。
尤もそろそろ神子の目も、付けっぱなしにしたテレビの砂嵐のように虚ろで色味が無いモノへと変貌しつつある。

「聴きたいのかよ? 聴きたくねーのか? どうなんだ? オレは二度と歌わねーからな」

「…………じゃあ、聴きたくない」

「そうかいいだろう。タイトルは『ピッツァの歌』だ。オホン……ン、歌うぜ」

「よして」

「Oh…ピッツァ ピッツァ・イタリアーノォ〜〜〜♪」

「やめて」

「夢見るような 恋のアローマァ〜〜〜♪」

「ちょっと」

「アナタに〜♪  届きタ・マーエェ〜〜〜♪」

「聞きなさい」

「オレの店にィ 来てタモーレ〜〜♪ アン・ターラァ〜〜〜♪
 …………つぅーーー歌よ。 ……どォよ? 因みに『チーズの歌』っつぅーのもあってだな……」



「――――――ッ!!! ジャイロッ!!」



それまでとの雰囲気を一変させ、突如神子の張り裂ける声がジャイロの鼓膜を貫いた。

「うぉッ!! な、なんだよ急に大声出しやがって……、そんなにオレの歌を気に入って―――」

「チーズの歌は後で死ぬほど聴いてあげるわ! それより警戒して! 『何か』近づいてくるッ!!」

神子の鬼気迫る面持ちに只事ではない事態を察したジャイロも腰の鉄球に手をかける。
彼女の鋭い聴覚が捉えた心の声がただの人のソレであったなら、ここまで気を乱したりはしない。
しかし、ソレは邪に塗れた濁りそのもの。そして間違いなく、神子の見知った声色。


(この……蛆の如く絶えず湧き出てくるかのような底の見えぬ『欲』の塊……! 『奴』か!)


神子のよく知るその声の持ち主は、彼女の恩人でもあり、そして同時に師匠でもあった。
そして神子は、その存在の性質を誰よりも深く理解していたに違いなかった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


305 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:25:26 zan3qhFo0
初めは機器の調子が悪いのかと思った。
阿求に現代技術の知識など殆ど無かったし、だからこそ機器が示す事実を深く考えてなどいなかった。
生命探知機の反応数が合わない。
その事実がまさか『敵襲』を意味することなど、これまで禍根の中に身を置いた経験のほぼ無い阿求では認識に至らなかったのだ。

画面が映す黄点の総数は、阿求ら一行の総数とは数が合わない。
10メートル程離れた場所で点滅する2つの点はポルナレフと幽々子のものとみて相違ないだろう。
20メートル後方の――こちらへ近づいて来ているが――点2つも神子とジャイロのものだということは分かる。
そしてこの場に居る阿求とメリーの2点を合算すれば全部で点6つ。その程度の足し算を間違えるなどあり得ない。
画面を凝視する阿求の中で徹底的に辻褄が合わないのは―――



―――2人しか居ない筈のこの場に、現在『4つ』の生命反応が存在しているということであった。



「これって……どういうことなんでしょうか、メリ―――」


呼びかけて、阿求の息が止まる。
振り向いた先に居るはずのメリーの姿が見えない。
呆然も一瞬の後、阿求は自身の認識が誤っていたことに気付く。
メリーはすぐに見つかった。
視界の下、然程背の高くない阿求の腰よりも更に低い位置でメリーは立っている。
いや、埋まって―――ッ!?


「え……」


短く驚愕し、口走った悲鳴は阿求か、メリーか。
メリーの身体が見る見るうちに沈んでいく。
沼に嵌まったかのようにズブズブと、ゆっくりだが確実に引き摺り込まれていくさまに、2人の思考が追いつかない。
この場所に沼など無かったはずだ。しかもメリーの場所の地面だけコールタールのようにドロドロした粘稠の液体が彼女の腰まで包み込んでいる。
探知機の反応が故障ではなかった事を今更ながらに理解する。地面の下に何者かが居るのだ。

「メリーッ!!!」

反射的に腕を伸ばす。
正体不明の恐怖に慄き、助けを求めるメリーの腕を強く掴み、

―――しかし、それ以上に強靭な見えない謎の力によってすぐに引き剥がされ、メリーの姿はそのまま地中へと



「―――器が小さいと淵から零れ出す邪念も抑えきれないか? 『漏れて』いるぞ、欲が」



沈みゆくメリーを支え、不敵に笑う聖徳道士が窮地を救った。
彼女の腕は地面から突き出すメリーの右腕を逞しく掴み離さず、そしてもう一方の腕は何も無い『虚空』へと向けられ同じ様に掴んでいる。


306 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:26:12 zan3qhFo0

「久方ぶりね、青娥。ところで貴方って仙人から忍者へと転職でもしたのかしら?
 『隠れ身の術』と『土遁の術』の両方を使えるなんてねぇ。今度私にもご教授願いたいわ」

左腕のみでメリーを地面から引き揚げ、右腕は空中を掴みながら話す神子は余裕を保ったままだ。
その神子の掴んでいる空間が徐々に色を現し始めた。
次第に形作られてゆく色味は最終的に人の形をとり、そこに現われたのは頭部まで覆われたピッチリとしたスーツの女性。
艶かしいボディラインが浮き彫りになるスーツは外界で言うところの『ライダースーツ』のようだったが、
黄土色の色彩と頭部までスッポリ隠している容姿を見た神子の第一印象は「……ダサッ!」だった。

そんな神子の無粋な感想を知ってか知らずか、『河童の光学迷彩スーツ』とスタンド『オアシス』の機能を解除した彼女……

―――『邪仙』霍青娥が陽気な挨拶と共に、非常ににこやかな笑顔で完全にその姿を現した。



「YEAH! ずぅ〜〜〜〜っとお会いしたかったですわ、豊聡耳様ぁ〜?」



無邪気がそのまま大人に成長したような美女の微笑みだった。
先の不埒が無ければ、青娥の雰囲気は日常でもよく見るそれだ。
その通常営業すぎる様子に神子はどことなく安心したような奇妙な郷愁感を覚えるが、同時に不気味にも感じた。
メリーが地の沼から這い上がり、動揺と恐怖から息を切らしている。
そんな彼女をひとまず後ろに下げ、神子は臨戦体制に入った。
当初から危惧していた通り、青娥の性格から言って彼女がこの殺戮遊戯に簡単に飲み込まれる可能性は予想できた。
だがしかし、どうにも理屈に合わない。
この邪仙に何の理由があって我ら6人を襲撃する意味があるというのか。
目的はゲームの優勝か。単に殺戮を楽しむ為か。それともこれが青娥なりのコミュニケーションの手段か。

違う。どれもこれも『この女らしくない』。 ……ならば、

「私も超会いたかったですよ青娥。それで……これはどなたの入れ知恵ですか?
 どうせまた惚れた相手の尻でも追っかけてるんでしょう?」

彼女のことだ、いつものように才能ある者へと入れ込んでいるのだろう。
その者の『命令』さえあれば大喜びでの二つ返事に決まっている。
問題は入れ込んでいる相手の懐次第でこの女は『善』にも『悪』にも転がり込む可能性を持っているという事だ。
今回の場合は……思考するまでも無い。

つまり今のコイツは『悪の手先』として動いている。それ以上でもそれ以下でもなかった。


「下品な言い回しはおやめ下さいな豊聡耳様。青娥は青娥ですよ。
 ……にしても、流石は豊聡耳様。そのセンシブルな耳の良さではうっかり陰口も叩けませんわねぇ」

「陰で話そうが何処で話そうが、貴方の欲の声は大き過ぎます。
 心のボリュームを調整する術もないと、奇襲も意味を為しません」

「有難き一助の言、肝に据えておきますわ。
 そうですね……やはり豊聡耳様はとても素晴らしいお方です。 ……だからこそ恐ろしい」

「……」

「このままではやはり、お使いもままなりません。
 心の欲を聴かれるなんて、普通はたまったものじゃありませんもの。 ……ですので」

桜の花弁を貼り付けたような淡い色の指先がその唇へと上品にあてがわれた。
一度見れば脳裏へと悠久に残る程に蟲惑的な美貌の持ち主は、



「豊聡耳様には今この場で死んで頂きたく思います」



それはそれは残酷なまでに、豊聡耳神子へと笑いながら告げた。


「……上等。その邪なる心に、一寸ばかし灸を据えてやろうッ!」


307 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:27:38 zan3qhFo0
青娥から放たれたほんの僅かな邪気が、神子の神経を擦った。
膨れ上がる怒気は、我儘を言う稚児に親が抱く程度の、僅かな焔。
しかし青娥の掴めぬ真意に神子が感じた予感は、凄まじい凶兆。
最早、灸を据える程度で鞘に収まる事態ではなくなってきた事を本能で感じ取った。

「ジャイロ、フォローを頼む。マエリベリーと阿求は離れてなさい。ポルナレフは彼女らと、幽々子をお願い」

ポルナレフは一言頷き、一線を退く。
ジャイロが鉄球を回転させ、ギャルギャルギャルと歯車のかち合うような音を漏らせる。
神子が迎撃の構えを取り、グツグツと霊力を沸かせる。

この場において、青娥だけが不気味に笑い立っていた。



―――火蓋を切ったのは、青娥



「オラアアアァァーーーーーーッ!!!!」


いや、初動を制したのはジャイロの早業―――ッ!


「せっかちな殿方は嫌われますわよ♪」


――――― ヒュッ ―――――


否。ジャイロではなかった。
誰よりも早く初動を制したのは、この場に居ないはずの第三者。
ジャイロの鉄球投擲モーションから攻撃に至るまでの時間はコンマ1秒を優に切る。
その狭間、青娥が口を吊り上げ呟いたのを、神子は見逃さなかった。

「ジャイロッ! 攻撃をやめ―――」


バシャッ!


視界の範囲外から『何か』が発射された風切り音と、
その『何か』が回転する鉄球へとぶつかり弾けたような音が響いた。

攻撃の中止は間に合わず、代わりに響いた音はコンクリートに水を叩き付けた様な、歯切れ良い破裂音。
投擲された鉄球が青娥にぶつかる前に、その鉄球目掛けてどこからか『液体』が飛んできた瞬間を神子の目が捉えた。
液体は鉄球の回転により周りに弾け、スプリンクラーの要領で広く拡散された。


308 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:28:24 zan3qhFo0

「何ッ!?」「ぐあ……ッ!!」「キャアアアアッ!?」「シルバー・チャリオッツ!!」

大きく弾け飛んだ液体がジャイロ達を襲う。
それは毒か化学薬品か。皮膚に触れたその箇所から焼けていった。
ジャイロは身体の数箇所を焼かれ、神子は頭部を押さえ蹲り、ポルナレフはスタンドの剣捌きを以って傍らの少女らを液体から護った。

(くッ! 油断、したッ! 青娥の他にも隠れた敵が……!? どこだ……ッ)

神子は蹲ったまま周りを注意深く見渡すが、背の高い向日葵に囲まれ敵の姿が視認出来ない。
ジャイロの先制は、失敗したッ!


ダメージを庇いながらジャイロは疑問を巡らせる。
自分の鉄球技術には絶対の自信と尊敬の念を置いてきた彼である。
この敵はその鉄球の早撃ちよりも早く、投擲された鉄球を狙い撃ってきた。しかも決して近くない距離から。
あり得るか? それは一体どんな反射神経と速度だ?
不可能だ。ならば収束される事実はひとつしかない。

―――この敵は、オレの鉄球の回転を『知っていて』対処してきやがった……ッ!

ツェペリ一族の『回転』の技術を知っている者はそう多くない。
この技術を知っている『誰か』が蚊帳の外から、初めからオレの鉄球を狙っていやがった。そして先制したんだ。

「『誰』だッ!? く……ッ! おい神子! 大丈夫かッ!」

「なんとか…! この耳あてが犠牲になってくれた程度で済んだみたい」

言うが神子は、ゆっくり立ち上がって無事を見せた。
代わりに彼女のトレードマークであるヘッドホンが、酸に焼かれた無残な姿で地に落ちる。
自分の不手際で彼女の顔に傷を付けるところだったと、ジャイロは安堵の息を吐く。


―――その一瞬の隙を青娥は見逃さない。


目にも止まらぬ足の運びにより、ジャイロが気付いた時には腰を低くした青娥の姿が既に足元にあった。
迎撃の態勢すら取れぬ瞬速。青娥が懐から『缶状』の物を取り出し、ジャイロの眼前に突きつけた。

「貴方の鉄球には注意しろって『彼』から御達しがあったのよ♪ 自慢の回転、ちょっと封じさせてもらうわね♪」

おどけるような声色と共にジャイロの眼球に噴き掛けられたのは小型の『スプレー』だ。

「―――ッ!?!? ぐあああァァアア……ッッ!!! て、テメ、ッ………!!」

催涙スプレー。
青娥が魂魄妖夢の支給品から奪った携帯武器だ。
これを顔面に噴出されればしばらく涙も止まらず、とても戦える状態ではなくなる。
ジャイロは顔面を押さえ、たまらず怯んだ。おかげで視界は醜悪。つまりこれで……

「つまりこれで貴方の『黄金長方形のスケール』とやらを使った回転は封じたわけね♪
 何も見えないんじゃあ周囲の風景からスケールを読み取るなんて出来ないんでしょ?」

「………!? な、に……ッ!?」


309 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:28:47 zan3qhFo0
青娥が嫌味を含めて言い放った単語でジャイロは確信する。
黄金長方形のことまで知られているとなるとこれはもう容疑者は殆ど絞れる。
このやり口、そして青娥が口走った『彼』とやらの存在。
間違いなく、青娥のバックにはあのDioか大統領が付いている!

「てめえらッ! 何人組だァーーーーーーッ!?」

「ポルナレフッ! 君は離れて彼女たちを護ってなさいッ! 敵は『他に』いるっ!!」

ジャイロと神子が同時に咆えた。
見るに見かねたポルナレフも出したスタンドの剣を収めるしかない。自分には戦えない者を守護する任がある。

「く、くそっ……!」

悪態を吐きながらポルナレフはメリーらを連れてその場を離れた。確かに敵はまだ他に隠れているのだ。
自分までが出払ったらメリーらを護る者が居なくなってしまう。

「み、神子さん…!! ジャイロさーーんッ!!」

ポルナレフに強引に連れて行かれ、メリーが叫んだ。

「とっとと離れて隠れてなさいッ! この狼藉者は私が裁くッ!!

言うが否や、神子が高め上げた烈々たる霊力は彼女の周囲を取り巻き、なおも力を底上げしていく。
聖人の無尽蔵とも言うべきエネルギーが濃縮され、超常的なほどに纏め上げられたその力の向かう先は目の前の女だ。
それでも神子の膨大な力と対峙してなお笑っていられるのは、邪仙青娥本来の性格故か。
しかし一見余裕を見せる青娥も、聖人の轟然たるオーラを受けて丸裸の気合で応じるわけにもいかない。

邪悪を具現化したかのような青娥の内包する念が、静かなる唸りを上げてゆく。


「青娥ァァ…………ッ!!! 巫山戯にしては度が過ぎているわ……ッ!! もう貴様を恩人とは思わんぞ!」

「一寸先はジェノサイド、ですわ♪ 復活したばかりの豊聡耳様には申し訳ないのですが、もう一度深い眠りについて頂きます。
 尤も、次は起こしてくれる方なんていませんけども……ね」


聖なる仙人と、邪なる仙人がぶつかった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


310 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:30:14 zan3qhFo0
戦いが始まった。
彼女らの戦闘に影響されぬよう、ポルナレフらは歯痒く思いながらもあの場から離脱する。
遠くに見える神子と青娥の熾烈な闘争は、阿求が普段見る弾幕戦とは一線を画すほどの修羅であった。
ゾクリと、肌に突き刺さる恐怖が阿求の身を強張らせる。
それと同時に脳裏では先ほどのポルナレフとの死闘が蘇った。

また、誰かが死ぬのかもしれない。

不吉な予感など頭を振って払い飛ばし、今は指を重ねて祈ることしか出来なかった。
そしてこの場において戦闘が不慣れな者はメリーも同じだった。
阿求が横を見やればメリーもまた、同じ様に目を瞑って祈っている。
祈る人間も捧げられる神もこの遊戯では等しく一個。その行為に最早意味など無いのかもしれない。
それでも。ただそれでも。


「神子さん……! ジャイロさん……! どうか、無事でいて……っ!」


無力な2人の少女の懸命な祈りは、自分に出来ることの精一杯の所作を表していた。

そしてポルナレフもまた、震える拳を強く握っていた。
自分に新たな居場所と生き甲斐を与えてくれた仲間が激闘を繰り広げている。
遠くでただ見守るだけの自分。
戦えぬ者を守護する事こそが自分の本分だと、頭で言い聞かせる。
現に先程も、謎の敵の酸による攻撃からメリーらを守ったのはポルナレフだ。
その謎の敵にしてもそこらの向日葵畑の陰にまだ隠れているに違いない。
隠れた敵がこちら側を襲ってきた時、迎え撃つのはポルナレフしかいないのだ。

だから、こうしてひたすら何も出来ない自分自身に耐えている事こそが己の仕事だ……!

チラリと足元に寝かせた幽々子を確認した後、ポルナレフはメリーと阿求に声を掛ける。なるべく平静を装って。

「メリー、阿求ちゃん。そこらの向日葵には近づかない方が良い。隠れた敵が何処に潜んでいるか分からない」

警戒しながら『シルバー・チャリオッツ』を顕現させる。
もし怪しい人影が覗いたその瞬間、敵をアジの開きにするつもりだ。

ポルナレフの警告を受け、阿求は立ち上がる。
……が、メリーはどういうわけか足を崩したまま立ち上がろうとしない。

「メリー……? どうしましたか?」

「……もう、いやよ」

鮮明としない呟きに、阿求の動きが止まった。

「もう嫌ッ! 戦って戦って、それで何が得られるというの!?」

ずっと抱えていたものが堰を切ったように溢れ出す。
度重なる刺戟に、只の少女であるメリーの心は限界に近づいてきた。
しかし彼女の脳裏に巡るのはかつての老獪なる波紋戦士の台詞。


―――『勇気』を持ち、自分の『可能性』を信じてほしい。わしから言えるのはそこまでじゃよ。


彼が今際に遺した真意。
ただそれだけが、メリーの心が奈落に転落するギリギリの崖際で奮い立たせる導因となっていたのだ。

「ツェペリさんは私の事を『立ち向かう最中』だって言ってくれたけど、無理よ……!
 私なんかには、もう……無理なのよぉ……っ!」


311 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:31:07 zan3qhFo0
嗚咽を漏らすメリーに対して、友である阿求はどう声を掛けたらいいか悩んだ。
無力な点では彼女もメリーと同じである。だから阿求は痛いほどにメリーの気持ちを理解出来た。
言い淀む阿求だったが、代わりにポルナレフの誠意がメリーの涙を止める。

「……メリー。ツェペリさんの件は本当にすまないと今でも思っている。
 その俺が言うべき台詞などではないが、今の君の言葉は君たちを命懸けで守ったツェペリさんへの……
 そして同じく君たちを守るために向こうで戦っている神子やジャイロへの『冒涜』の言葉になるぞ」

そしてまた同時に、メリーの言葉はポルナレフへの冒涜とも同義。
彼もまた苦しんでいるのだ。苦しみながらも必死に自分自身と戦い、メリーらを守っているのだ。
ポルナレフの言葉の節から、自分が言ったことが目の前の彼をも蔑ろにするという事に気付いたメリーは己を恥じる。

「……そうでした、ね…。 ……ごめんなさい、ポルナレフさん。私、ちょっと弱気になっていたみたいです」

「なぁーに、いいってことよ! 女の子はやっぱ笑顔だぜ! それも可愛い娘の笑顔なら尚更だな!」

ポルナレフの表情が二カッと咲いた。
メリーは彼がこれほどまで清らかに笑えることを初めて知り、また笑った。
遅れて、自分が『可愛い』と褒められたことに気付き、少しばかり頬を紅潮させた。
そのやり取りを傍で見守っていた阿求も、友として何も言えなかった不甲斐無さより、友の笑顔が見れたことが何より嬉しい。

思わず顔が綻ぶ阿求に、



―――ピピピ!



不穏のベルが新たな波乱を運んできた。

聞き覚えのある電子音。3人の中に緊張が走る。
阿求は慌てて荷物から生命探知機を取り出し、画面を食い入るように覗き込んだ。

その画面には、後方からひとつの生命反応がこちらへと近づいている事を示していた。

「さっきのヤローか!?」

ポルナレフがスタンドの剣先を相手に向ける。
向日葵畑の向こうから、走ってこちらまで向かってくるのが見えた。
メリーはすぐにポルナレフの後ろへ隠れようとして―――思わず足が止まった。

その姿を凝視する。あれは、女だ。

東から昇り来る太陽の逆光で視認し辛いが、どうやら黒い帽子を被っている。

手を振っているようだが、顔は見えない。

長めのスカートを懸命に走らせており、よほど急いでいるらしい。

どこかでみたような……。
シルエットの姿に、メリーは疑問を感じ―――



「メリーーーーーーーーーーーー!!!!!」



間違えるはずが無かった。
その声を聴き違えるものか。
その姿を見紛うものか。

親友のその笑顔を、メリーが忘れるわけがなかった。


312 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:31:41 zan3qhFo0



「蓮子ーーーーーーーーーーーー!!!!!」



ああ、これは夢じゃないだろうか。
こんな酷い現実にも、希望は確かにあった。
ツェペリさんの言った通りだ。『勇気』と『可能性』さえ信じれば、いつかは光が見えてくる。
さっきまでクヨクヨしていたのが全て馬鹿馬鹿しく感じてきた。
たった1日と経っていないのに、彼女のその笑顔が随分と懐かしく思える。
私は居るかも分からない神様へと、ここへ来て初めて心の底から感謝することが出来た。

本当に……本当に、会いたかった。
無事で良かった……! 生きていて、本当に良かった……!


私の目と鼻の先で、親友である宇佐見蓮子が嬉しそうな笑顔で駆け寄ってきたのを見た時、

私は本当に涙を流すぐらい嬉しかったの……! 貴方もでしょう? ねえ、蓮子!


「メリーーー!!! 私! 蓮子よっ! あぁメリー……!
 良かった…メリーとまた生きて会えて、本当に良かったぁ……!」

「蓮子っ!! 本当に蓮子なのね!! よか……っ、良かったぁ……!」

「嬉しいわメリー。私のために泣いてくれてるの?
 私だって…泣きたいぐらい嬉しいんだよ? だって貴方とまた生きて出会うことが出来たんだもの!」

「あ…あぁ…! 蓮子…っ! 蓮子ぉ…! 私…っ、わたしも…嬉しいの!
 蓮子に、ずっと会いたかった…! 生きて……また貴方と話したかったの……っ!」

「うん……メリー。私もだよ。私もずっとメリーとこうして話したかったんだよ?
 もう離さないわ。メリー。貴方だけは……二度と誰にも――――――」



「―――待て。そこで止まるんだ、蓮子とやら」



ピタリと、一瞬にして空気が凍った。
声の主はポルナレフ。
そのスタンド『シルバー・チャリオッツ』の銀色に光る剣先は、蓮子へと真っ直ぐ向けられていた。
彼は極めて冷静に、現状を理解していた。
駆け寄ろうとしていた蓮子の足が、メリーの5メートル目前で止まる。
メリーは困惑した。

「ポルナレフさん! あの子は宇佐見蓮子っていって、私の親友なんです! 敵では―――」

「俺達はつい先程、あの青娥とかいう女と『もうひとり』、何者の攻撃を受けている。
 向日葵の陰からあの女を隠れながらフォローしていた敵を思い出すんだメリー。青娥には『仲間』がいる」

「……えーっと、ポルナレフさん、ですか? あの、初めまして、宇佐見蓮子と言います。
 皆さんがメリーをこれまで保護してくれてたんですね。友人の私から、まずはお礼をさせてください」

蓮子はポルナレフの警告に全く竦まず、それどころか笑みを崩さずに綺麗なお辞儀をして見せた。
その誠実な態度を見ても、ポルナレフは剣を下げない。
寧ろ、この緊迫した状況下で笑みを崩すことなく頭を下げる蓮子の冷静さを見て、剣を握る力を益々強めたほどだ。


313 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:33:58 zan3qhFo0

「ほ、ほら! 蓮子もこう言ってます! そ、それに……ポルナレフさんのさっきの言葉を借りるなら、
 こうやって頭を下げる蓮子に対して剣を向けるなんて、それは私と蓮子の友情に対する『冒涜』なのではないですか!?」

「君と蓮子の友情を軽視しているわけでは決してない。もし蓮子が『白』だと判明したならば、俺もこの無礼は詫びると約束しよう。
 ……時に阿求ちゃん。君が今持つ『生命探知機』で俺達以外の反応はあるか?」

唐突に自分へと声が掛かった阿求は動転するが、言われたとおりに手に持つ探知機の画面を確認する。
画面には自分や蓮子、眠っている幽々子含め『5人』。間違いなく自分たちの反応のみを映していた。
青娥急襲時のように、地面の下に潜んでいましたなんてことは無いはずだ。
そうなるとやはり、この蓮子こそが先程陰から攻撃してきた青娥の仲間だという可能性はある。
さっき阿求が探知機を覗いた時は『8人』。青娥の他に『もうひとり』近くに誰かが潜んでいたのだから。
考え込むポルナレフ、慌てふためるメリーや阿求をよそに、ここで頭を上げた蓮子が反論した。

「あの! ポルナレフさんが警戒するのもわかります! こんなタイミングで知らない人物が現われたら普通は誰だって怪しむと思います。
 結果から言えば、私は確かにあそこで戦ってる『霍青娥の仲間』……と言えるかもしれません。
 少なくともここまでの道のりを共に歩いてきたことは事実です」

「え―――」という短い声がメリーから漏れ、その表情が一瞬にして絶望へと転換した。

「でも! 私はあの女に強引に連れられてるだけです!
 アイツは私を自分の言いように利用して吐き捨てるだけの『邪悪』なんです! 本心ではあんな奴、仲間だとか思ってないッ!」

「……さっき俺達を『酸』のようなもので攻撃した奴は?」

「青娥のスタンド『ヨーヨーマッ』です。
 強力な酸性を持つ唾液を操る、召使いのような気持ち悪いスタンドです。
 きっとそいつに陰から攻撃されたのだと思います」

「……青娥は何故俺達に攻撃を仕掛けてきた? 奴の狙いは何だ?」

「……正直言って、私にはわからないです。アイツの考えてることなんて、何も。
 あの女は自分の気の赴くままに動いて平気で他人を害するような、自分のことしか考えてない奴です。
 今回のコレも、面白そうな奴らを見つけたからと言って、大して何も考えずに襲撃しただけだと思います。
 私だってあんな奴の傍に居るのは嫌だったけど、私なんかがひとりで会場を動けないから……ここまで一緒に行動していたんです」

そう言って、蓮子はもう一度頭を下げた。
今度のその行為は謝意からのものではなく、自分を信じて欲しいという訴えから来るもの。
ポルナレフはだんまりし、顎に手を当てて考える。
しかしメリーは今度こそ蓮子を100%信じれたものとし、そんな期待を込めてポルナレフに振り向いた。

「ほ、ほら! これで疑いは晴れました!
 さっきのあの攻撃はアイツのスタンドだったんですっ! だから蓮子は―――」

「―――ああ。わかった、信じよう」

そう短く言って、ポルナレフはスタンドの剣を下ろした。
その言葉に、なによりもメリーと蓮子が笑顔に変わる。



「だが、君と蓮子の友情をあと『1%』信じたい」



ポルナレフは宣言した。あくまでも冷たく。


314 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:34:54 zan3qhFo0

「俺は君たちの『友情』を今……100%信じることにした。しかし、もう『1%』だけ信じさせてくれ。
 蓮子のメリーを想う友情の『裏』のさらなる『裏』に、『だまし討ち』と『裏切り』が潜んでいない事を…」

「な…何を言ってるんですか……? ポルナレフ、さん……?」

メリーは困惑するしかなかった。
100%信じてくれるのなら、他に何が彼を疑わせているのだろう。

「蓮子…君は先程2回、『礼』をしたな? “ありがとう”の礼と、“信じてください”の礼だ。
 だが日本では知らないが、世間一般では『礼』というのは相手に対する『敬意』が含まれる。
 君は先程、2度とも『脱がなかった』ね? これは大人の社会ではありえない」

ポルナレフが一体何を言おうとしているのか、メリーには理解できなかった。
一方の蓮子は、ただじっと……ポルナレフの言葉を静かに聞いている。

「君のその可愛い『帽子』の事を言ってるんだ。
 目上の者へ頭を下げる時というのは普通、被っている帽子は脱がなくてはならない。だから―――」

ポルナレフは……実のところメリーと蓮子の友情を疑ってなど、毛頭無かった。

「―――だからもう一度改めて礼をお願いできるだろうか?
 今度はその『帽子』をきちんと脱いで、“『額』がしっかり見えるほどに”ね。
 きっと何事も起こらないのだろう。“何も起こらない”……それでいい」

ポルナレフには気の知れた友人などは居ない。
復讐に身を委ね、孤独に生きてきたといっても良いだろう。
だからこそ、メリーと蓮子の友情が、絆が何よりも羨ましかった。

「何も起こらなければ全てが終わる事が出来る…。それで『101%』信じられる」

そんな自分がよりによってこんな少女達の絆を疑うことなど、この上なく浅ましい行為だと思った。
だからこそ、ポルナレフは彼女達の友情は最初から全く疑ってなどいなかったのだ。

しかし、だからこそポルナレフには分かる事があった。



「“脱いでみろ”。宇佐見蓮子」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …………… ッ !



蓮子の腕が、ゆっくりと。
ゆっくりと、トレードマークの帽子に手を掛け始める。

ポルナレフには友情が分からない。
しかし、たとえ彼に何よりも代え難い友人が、仲間が居たとして。


そんな絆の全てを喰らい尽くす様な『邪悪の芽』が存在する事を、ポルナレフは身を以って理解していた。
邪悪なる芽の支配を受けたポルナレフだからこそ、『幽かな予感』があったのかもしれない。

その邪悪の名は……


315 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:35:28 zan3qhFo0











「――――――全く、油断ならない男。DIO様の仰った話では、ポルナレフはもう少しアホだと聞いていたのだけど」







殺気を感じた。
前方と―――後方から。


「―――ッ!? 『シルバー・チャリオッツ』ッ!!」


後方の向日葵の陰から、液体状のものがポルナレフへと飛び掛った。
一瞬早くそれを感知したポルナレフは、持ち前のスタンド技術を以ってそれを防御。


「きゃ……ッ!? れ、蓮子……?」


その隙を突かれ、“帽子を脱いだ”宇佐見蓮子が瞬く間にメリーを捕らえて引き寄せた。
左腕でガッシリとメリーを盾にするように押さえつけ、右腕にはデイパックから取り出したのだろうか、不気味に光る刀をポルナレフへと差し向けている。

「一手上へ行ったのは……私みたいですね、ポルナレフさん。
 あ、そこを動かないでくださいね。動けばメリーを殺します」

あまりにも冷淡且つ残酷に蓮子は言い放った。
信頼する蓮子が自分を盾にする構えで、そして聞いたことの無いような冷たい声で『殺す』などと口走った。
メリーは予想だに出来ない展開に頭が回らず、自分を躊躇無く殺すと言った親友へと呂律の回らぬ口調で語りかけることしか出来ない。

「え……蓮子? な、え……一体、何を…してるの……? い、痛いわ!」

「少し静かにしててねメリー。暴れなければ、そしてあの男が何もしなければ貴方だけは傷付けない」

懸命に首を回したメリーの視界に、帽子が取れて露わになった蓮子の額が映る。
『それ』は二度と忘れる事がない、あの肉の芽の姿が彼女の額に巣食っていた。
ポルナレフの時と同じだ。よりによってDIOは、この自分の親友を眷族に選んで従わせている。
事態を完全に理解したメリーだったが、その事実はなにより彼女を絶望の奈落へと突き落とした。

「れ…蓮子ッ! 私よ! 同じ秘封倶楽部のメンバー、メリーよッ! 思い出してッ!! 貴方はDIOに操られているだけで―――!」

「―――DIO様の侮辱はやめなさい。この肉の芽は私の『恐怖』を取り除いてくれる素晴らしいおまじないなの。
 あの方を悪く言うようならいくらメリーでも……本当に殺すわよ?」

メリーの首にかかる力が一層強まる。
耳元で囁いた蓮子の声色は……妖艶なる美女のように妖しく、鉄のように冷え切っていた。
メリーの腰が抜けて崩れ落ちそうになるが、掴む蓮子の腕はそれすらも許してくれない。


316 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:36:16 zan3qhFo0

「……阿求ちゃん。俺から絶対離れるなよ」

「あ…ぁ……っ…」

代わりにポルナレフの傍で阿求がペタンと腰を落とした。
その瞳は僅かに潤んでいる。


『ご主人様ァ〜。帽子、落ちましたァ』

不気味な声が茂みから湧いて出てきたと思えば、そこには緑色の皮膚をした不気味なスタンドがヘコヘコと姿を現した。

「ん。ありがとう、ヨーヨーマッ」

ヨーヨーマッと呼ばれたそのスタンドは地に落ちた蓮子の帽子をゆっくり拾い上げ、主人の元へ返す。
刀を握った手で帽子を被り直し、額の肉の芽は再び隠れた。

「成るほど……さっきからウロチョロしていたストーカー野郎はお前のスタンドだったってわけかい。
 スタンドなら生命探知機にも反応しねーわな……ッ!」

ギリリと、ポルナレフは象をも殺しそうな殺気で拳を強く握る。

「れ……蓮子…! お願いだからやめてよ……! 私達、親友同士だったじゃない……!
 何でこんな、なんで…なんでなの……!?」

「……メリー。あなた、人が何のために『生きる』のか、分かる? 理解してる?」

突然の質問にメリーは一瞬、言葉を詰まらせるもどうにか返事する。

「そ、そんな哲学的なことをいきなり言われても、私は蓮子みたいに頭が良くないから分からないわよ……!」

「そう……まあ、大学で教えてもらうようなことでもないけどね。
 私はね、『恐怖』を克服することが『生きる』ことだと思ってるわ。
 例えば私は……多分メリーもそうだったと思うけど、このゲームに参加させられてかつてない恐怖を味わっていたの」

その言葉にはメリーも同意だ。
思い返せばこのゲームが始まった当初は、恐怖に涙したり嘔吐までした気がする。

「でもね、DIO様に出会って私は恐怖を取り除いてもらった。克服したのよ!
 その瞬間、私は人生で一番の『幸福感』を感じたわ! 安心したのよッ!
 あの方はね、メリー。世界の頂点に立つ者よ。ほんのちっぽけな『恐怖』だって持たない方なの! 素晴らしいでしょう!!
 ……そして勘違いしないでね、メリー? 私は本当にあなたを大切に想っているのよ。 だ か ら ―――」




―――あなたの恐怖を取り除いてもらって、私と『一緒』になろう? ねえ、メリー……




突然、世界にヒビが入ったような錯覚に陥る。
メリーの視界がグルングルンと揺れた。
この得も言われぬ不可思議な感覚は、以前どこかで……


「Happy New year。おめでとうメリー。 そして
 Happy New world。『新たな世界』よ…… こっちへおいでよメリー……」


そう、確か以前に……ポルナレフさんの肉の芽に、入り込んだ時のような……
そんな、得体の知れない感覚、が……私の中に―――



身も凍りつくような親友の囁きを最後の意識とし―――

メリーの意識は真っ暗な深淵へと、再び身を堕としていった―――



男のけたたましい雄叫びがほんの僅かに聴こえた、気がした。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


317 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:38:34 zan3qhFo0


―――耳を背けたくなるほどの破壊音。


黄色い海を掻き散らす大津波を思わせるほどに撃滅的な衝撃が轟きひしめく。
周りの花という花は花弁すら残らず、流星群かと見間違えるような大量の弾幕と光撃の爆発音が空気を振動させる。
最終的にこの長いデスゲームを制そうという結果をまるで考えない、全力全開のスタイルだった。
霊力は今後を考えて温存する、力の消費は最小限に、などといったみみっちくてつまらない考えなど、今の彼女には毛頭無い。

―――あるのは、友に仇為さんとするたわけに怒る激情と。
      自身が永き修練の末に会得するに至った、卓越した力と技量の解放感、そして快感ッ!


すなわちそれらこそが、


「仙符『日出ずる処の天子』ッ!」「光符『グセフラッシュ』ッ!」「『輝く者の慈雨』ッ!」「秘宝『聖徳太子のオーパーツ』ッ!」「名誉『十二階の冠位』ッ!」「デザイアの求魂ッ!」「道符『掌の上の天道』ッ!」「徳符『神霊のプレスティ−ジ』ッ!」「光符『救世観音の光後光』ッ!」「十七条のレーザーッ!」「光符『無限条のレーザー』ッ!」「『十七条の憲法爆弾』ッ!」「人符『勧善懲悪は古の良き典なり』ッ!!」「神光『逆らう事なきを宗とせよ』ッ!!!」「『我こそが天道なり』ッ!!!!」「ラストワード『詔を承けては必ず鎮め』ッ!!!!!」



―――豊聡耳神子という聖人の真相であった。



「――――――………ッ!!!!」


慈悲も手心も、一切合切を捨てたその聖人の暴走にも似た猛攻は、青娥の潜在能力を軽く上回る。
只でさえ視認するのも難儀なほどの物量弾幕。しかもその一発一発が殺人的に重い。
幾多もの技の中の無数に等しい流星を、全方位から襲うあらゆる弾幕を、青娥が耐え切る道理は無かった。
自分が攻撃に転ずる針の穴ほどの隙間すら、見出せない。
或いは神子の霊力切れによる自滅も視野に入れていたが、かの聖人がそんな初歩を晒すべくもなく。

即ち、青娥が取るべき行動選択の余地は、神子の繰り出す凄まじい速度と気迫の応酬の回避ただ一点。

青娥とて無益に齢を重ねてきただけの怠惰者ではない。
気が遠くなるほどの錬丹に身を委ね、強靭な肉体と精神力を手に入れた仙人なのだ。
一手誤れば深手は免れない弾幕の全てを、冷静にグレイズ(直前回避)しながらも思考は決して中断しない。


(ちょ……ッ!!! …っとォ!! 随分な挨拶じゃないッ! ま、さか…あの方の…力が……ッ…これほどとは!!)

「やりすぎよぉーー豊聡耳様! それにお花が可哀想ですわ! 私を殺す気なんです?」

「ああ、去ね!」

全く間髪置かず突き返された。
その言葉の示す通り、神子の発射する弾幕は徹底して無慈悲を貫く。
青娥は手も足も出ない状況に困ったような苦笑を浮かべるが、未だ防戦一方の展開を崩せそうにない。


318 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:40:16 zan3qhFo0
そしてこの戦いに与するもうひとりの人物、ジャイロ・ツェペリも神子の圧倒的な優勢を前に傍観者となりつつあった。
青娥の不意打ちにより視覚を奪われてしまった彼が黄金の回転を攻撃手段に選ぶことが出来ない今、戦力も半々。
仮に手を出したとして、ハッキリ言って猫の手にしかなりそうにないことは自明。
故に彼はその手に握った鉄球の向け所も見つからず、半ば諦観の気持ちで2人の…いや、神子の戦いを数歩下がった位置から見ていた。
『見ていた』と言っても彼の視界は涙によって劣悪。
神子には敵うべくもないが、鉄球の回転振動から空気を伝う『音』を、耳で『視る』ことが出来るほど彼の聴覚は優れている。
だからこそ視界を殆ど奪われた状態でも、戦いの構図はおおよそ理解出来ていた。

(聖人だとは聞いていたがアイツ……! まさかここまでかよッ!?)

これは己の出る幕は無いか……?
そう思い始めていた矢先、戦いの音が止まった。
直後、隣で神子が降りる気配を感じたジャイロは霞む視界の中から言葉を掛けられる。

「フゥーーー……。流石にしぶといわね。ジャイロは大丈夫? ハンカチ、必要かしら?」

「悪ィがハンカチ一枚じゃあ足りなさそうだぜ。 ……それよりまだ仕留めきれねえのか? 苦戦してるわけでもなさそうだが」

「アイツ、致命傷に成り得る攻撃だけを最小限の動きで回避し続けているわ。伊達に仙人やってないってところかしら」

「お前さん、耳が良いんだろ? 奴さんの狙いとか目的とか分からねーのかよ」

「……あの邪仙の欲なら、さっきからずっと聴いてるわ。 ……聴いてるんだけどねぇ―――」

神子は耳の後ろに手を当て、再度敵の狙いを聴き定めるために集中した。
青娥の華麗なるその服装も数多の弾幕を掠って既にボロボロ。にも拘わらず、彼女の表情は依然余裕を含んでいる。
その余裕な邪仙の心の欲はと言えば……


(う〜んやっぱり豊聡耳様はお強いかたですわねえはっきり言って勝ちの目なんてみえてこないですしでもまさかあれほどまで末恐ろしい御力を有していたなんてこれはちょっとした誤算でしたかしら…あー!! お洋服もこんなにボロボロじゃない! 全くさっきもヨーヨーマッに散々穴空けられたばかりですのに厄日かしらそうねそれにしてもあのジャイロという殿方なんだかとっても素敵な鉄球持ってらっしゃるわねぇ回転の技術って一体どんな力なのかしらそれに黄金回転って響きがなにより素敵ですしあぁまた疼いてきましたわ私の悪いクセですね豊聡耳様はともかくジャイロさんはスタンド使いかしらそれとももしかしてもしかしてスタンドDISCなんて持ってないかしらいえ彼だけではなく向こうの4人の内誰かがDISCを所持してる可能性はありますわあぁ考えれば考えるほどワクワクしてきましたわね欲しいわねえスタンドDISCもし持ってたらどんな能力? 人を紙にしたり天候を自在に操ったり出来る方々がいらっしゃるんですものきっとこの会場にはもっともっと素敵で愉快で面白いスタンドDISCをお持ちの方がいるに違いありませんわあぁDISC DISCスタンドDISC DISC DISC欲しい欲しいDISC欲しいDISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC DISC欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜)


「うるッッッッッさ!!!!!!!!!!!」


反射的に耳を押さえた。

心の声故に直接鼓膜を叩いているわけではないが、青娥の底見えぬ欲の声に神子は思わず耳を塞がずにはいられなかった。
ここまで大きい欲の声も神子にとっては初めての体験。
耳あてが無いことが更に青娥の欲の声をストレートに流して感じ取ってしまう。
殺戮劇という、この超刺激的な催しが彼女の好奇心に火を点けてしまったのか。普段からは考えられぬ声のデカさだ。
頭の中で邪なる欲がキンキンと反射を繰り返す。あまりの欲の声の大きさにジャイロやそれ以外の心が聴こえない。
そしてそのあまりにも大きな雑音故に、先の身を隠した敵の不意打ちへの反応が遅れたのだ。
皮肉だが、耳あてを失ったことで神子の事実上の能力は用を成さないモノと成り果てた。


319 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:41:16 zan3qhFo0

「〜〜〜〜〜ッッ!!! う〜〜〜〜〜………!!
 ……そ、そういうわけよジャイロ。残念だけど、今この場において欲が聴けるのはあの声のデカ過ぎるクソッタレ青娥ぐらいよ。
 しかもまともな思考が読めそうにない。私の頭今、七日酔いでフラフラになった鬼の脳内よりもキンキン言ってるわ」

今ならコイツにどんな暴言考えても何も気付かれなさそうだな、などと暇なことをジャイロは考える。

「コラ! 何かイヤミっぽいこと考えたでしょ!」

ポカリと頭を小突かれる。顔に出てたらしい。

「っつー事はアイツの本心で考える狙いなんてさっぱり、って事なんだな?」

「ま、そうなるわ。元々アイツだって何かデッカいことしでかしてやろう、なんて女じゃなかったと思うけど……」

そうなるとやることは単純だ。
心がまともに読めないなら、口で吐かせればいい。

「適当に懲らしめて無理矢理吐かせるわ。そう難しいお題じゃない」

「さっき『去ね!』とか叫んでたクセに」

もう一度ジャイロを小突き、さあ仕上げだと言わんばかりに骨を鳴らす。
もはや青娥との弾幕合戦など神子にとっては児戯に等しかった。


「あらあら豊聡耳様ぁ〜? 得意の読心術はどうしたんですか?
 私はこの通り、まだまだピンピンしてますわよ♪」


―――だと言うのに、青娥のこの余裕は何処から染み出てくるものだろう。
その解せぬ振る舞いの根源に、神子は若干の不気味を覚える。

「さっきの様なザマでほざくわね。何を企んでるか分からないけど、そう上手くいくと思う?」

「ところがいくのよ♪ ……ビジュアルがアレでしたのであまり連発もしたくなかったのですけど……
 やはり貴女様を打ち倒すのは同じ土俵では難しいみたいで―――」

それならばと、言葉を続け……

「目には歯を。圧倒的な弾幕には……『スタンド』で勝負するに最早些かの躊躇も抱きませんわね!」

地を泳ぐスタンド『オアシス』。
先程、青娥がメリーを拉致せんと土中から急襲してきた能力へとスタイルを変換させる。
出る場所はしっかり出た彼女の美しい曲線を表現するようなスーツ型スタンドを纏い、

同時に勢いよく向日葵の残骸が積もる地の底へと潜った。

「あのダサいセンスのスーツもスタンドなの? ジャイロ」

「恐らくは。スーツのように身に纏うスタンドはオレも知っている。能力も見ての通りだろう」

何故あの女がスタンド能力など有しているのか?
そんな些細な疑問など端に追いやり、神子は鼻を鳴らした。

次の瞬間、彼女は大きく跳躍する!

「地中なら姿を隠せるなどという見当外れの企みならば浅慮ね、青娥!!」

叫び、大胆不敵に笑む!

空中から地へ向けて、再び怒涛の攻撃を連射した。
姿見えずとも、敵の大き過ぎる欲の声は神子にとって明らかに確然たる目印。
その欲の真意掴めずとも、神子の能力は確かなアドバンテージとして彼女の優勢を語っていた。

誤算だったのは……


320 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:42:03 zan3qhFo0

「………ッ!! 疾い!?」

地中を移動する青娥の速度が、地上での動きよりも遥かに正確無比で予測不能。
欲の声を聴く神子の『先手』の、もう一段先を往く『先手』によって捕捉不可能なレベルに達していたことだ。

(くっ……! 目で追うならともかく、声を聴いて追うのでは捕らえ切れない…! カジキかアイツは!!)

上空からの攻撃が全ていなされていく。
地中にいるのだから奴からこちらの攻撃が見えているわけではない。
青娥は『適当』に地面を進み、『勘』で弾幕を回避しているに過ぎない。
しかし寧ろ、青娥の大き過ぎる欲の声に惑わされているのは神子の方だった。
普段頼りにしている『五感』の一部を封じられた神子こそが、実の所この戦いにおいて本来の力を上手く発揮出来ずにいたのだ。

波紋のように大きな“土”しぶきを上げながら猛スピードで進む青娥の先には―――!


「―――ジャイロォォオオッ!!」


黄金回転を失い、神子と同じく自身の本領が発揮出来ないジャイロが立っていた。

「……クッ!! テ、メェ……ッ!」

攻撃の目標が自分へと転換されたことを知ったジャイロは反撃の構えをとる。
その手には当然ッ! 『鉄球』が回転の唸りを上げているッ!

視界は未だ霞んでいるが、全く見えぬわけでもない。黄金回転が使えずとも、鉄球の攻撃力は強力。
眼下の地面から土が盛り上がった。
攻撃の瞬間だ。敵は攻撃する時だけは地面からその顔を出さなければならない筈だ。

(―――その瞬間にッ!!!)

青娥が上半身だけ覗かせ、右腕から繰り出される豪速の貫手を


「オレの『鉄球』を喰らええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーーッッッ!!!!」



バ キ ィ ィ ッ !!



鉄球は―――敵への致命傷には至らなかった。
鈍く響いた低音は、青娥の左腕による防御のもの。
その防御を、鉄球は貫くことが出来なかった。
ジャイロは、鉄球の回転の技術に自信を持ってはいたが、決して『過信』していたわけではなかった。
『黄金の回転』を封じられていても、この至近距離なら敵の防御を貫けるなどという『自信』はあっても『過信』は無い。

誤算だったのは……仙人の『耐久力』。
ジャイロは、敵を見くびっていたのだ。

青娥の不気味な薄ら笑いが、頭部まで覆われたスーツの隙間から覗く。


321 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:42:29 zan3qhFo0


(殺られ―――!)


青娥の上半身だけ覗かせた態勢からの、右腕から繰り出される豪速の貫手が


ジャイロを庇って間に飛び降りてきた神子の肉体の中心を―――貫いた。




「――――――が……っ…………!!」




鉄球を振り抜いた姿勢のまま、ジャイロの体が硬直する。
眼前で撒き散らされた紅い飛沫が、顔へと付着した。
ぬっとりと、生ぬるい感触。


「素敵で高尚な貴女ならきっと、彼を庇うと思ってましたわ……。豊聡耳様……♪」


ジャイロの手が彼女を救うように、
神子の手が彼を求めるように、
2人の伸ばした腕は―――


紡がれること叶わず、神子の身体は地中へと引き摺り込まれた。



「神子ォォォォオオオオオオオオオヲヲヲヲヲーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!!!!!」



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


322 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:43:01 zan3qhFo0

(ここは……地面の中か。 ……妙にドロドロしている)

腹の穴から流れ出る自身の血が、泥と混ざり合って不快な臭いを醸す。
真っ暗だ。何も見えない。
しかし、傍若無人な邪仙の声だけはこの闇の空間によく響いてきた。

「流石は豊聡耳様……あの攻撃でも即死なさらないなんて、全くもって敬服いたしますわ」

「……そう、思うなら…さっさとここから出して、欲しい……わね……!」

息絶え絶えながらも、私は奴と会話を交わす。
姿は見えないが、奴のキンキン響く欲の声は目の前数メートル先から聴こえてくる。

「駄目よ♪ 貴女はとても素敵な女性ですけれど、それでもDIO様の魅力には遠く及ばないもの♪」

DIO……!
またしてもその名か……! お前を、操っているのはDIOかッ!

「確か……いつだかの三者会談で、あの青臭い坊主に言われた言葉が…あったわね……!
 『力を持つといつかは欲望に身を滅ぼされる』……この言葉、青娥は…どう思う?」

「欲望も自分自身のひとつ、切っても切り離せない真理ですわ」

参った、わねぇ……
コイツも、あの時の私と同じ言葉で返すなんて、ね……
そりゃあ、そうか。私に道教を教えてくれたのは他の誰でもない。
目の前の、コイツなんだから。

「……豊聡耳様? これでも私は貴女を敬っております。
 ですからそろそろ楽にしてあげますわ。私の欲の声にもウンザリでしょうし、ね」


カキンッ―――


目の前の闇から、何かピンを引き抜いたような音が聴こえた。
マズイ……青娥は、まだ何か……ッ!



――― ド ン ッ ッ ッ ッ !!!!!!!!!!!!!!!



「ッッ!?!?!? ウアア……ッ!!!」


何、が……起きた!?
とてつもない爆音。何か、音響兵器のようなものを……!


323 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:43:49 zan3qhFo0

「音響爆弾……ていうらしいですわ。
 ただでさえ桁違いの聴覚をお持ちである豊聡耳様の、しかもリミッターの耳あてが無い状態で、そのうえ音をよく通す液体状の地中で喰らったんですのよ?
 私はもちろん耳栓をしてましたので大丈夫でしたけど、貴女の鼓膜は確実に破壊されたでしょうねぇ?」

青娥が何か言っているようだが、声にエコーが掛かったみたいに聴き取れない。
耳鳴りが止まない……! 欲の声すらも、聴こえない……!

「私の欲の声が煩そうでしたので消してさし上げました。御気分はいかかでしょう?」

持てる力の全てを出して弾幕を生成し、発射する。
だが最早方向感覚も分からない。
頭が、痛い……!

「こんな理不尽な状況になってまで戦おうとする意思……真に尊敬の念を禁じえません。
 正直言って、苦しむ豊聡耳様を私はこれ以上見たくありませんので。 ……終わりにしましょう」


―――ドンッ!!
         ―――ドンッ!!


「――――――ッッ!!!」


もはや遠くなのか近くなのかすら分からない、炸裂音。
直後に私の腹に新たに空けられた穴。
火傷しそうなほどの熱。痛み。

―――撃た、れた……!?


「一番厄介だった貴女を最初に消すことが出来て安心したやら、ホッとしたやら、ですわね。
 ……さようなら。今までありがとうございます」


そんな青娥の言葉が聴こえた気がした。
何も、見えない。
何も、聴こえない。
命の焔が、だんだんと消滅していくのがわかる。


324 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:44:27 zan3qhFo0


何も見えない暗闇の空間。
腹に空けられた穴は、自身の肉体の避けられぬ『死』を予感していた。


『死』

それは私が最も畏怖し、回避しようとしてきた『終焉』。
結局、己が捧げてきた永い永い努力による『不老不死』の実現は、今この瞬間に潰える。


「…ふ、ふふっ」


笑いすら出てくる。
不死を求めた人生の最期が、赤の他人を庇った末の朽果てなど皮肉もいいところ。
死に場所が棺要らずの土の中、というのも出来過ぎた末路だ。


―――いや、赤の他人というのも彼に失礼すぎるわね。


短い時の中でも分かることはある。
ジャイロは、実に『イイ男』だった。
信頼に値し、己の背中を預けられるほどの安心感が彼には確かにあったのだ。
そんな友を最期に守ることが出来た、と言えば優越になるだろうか。
だが、『誇り』はある。

……そう、だな。
こんな幕引きも結構……悪くは、ない。


聖人も、ヒト……か。





―――薄くなっていく視界に、僅かな光が差した。

   彼の声が、聴こえた気がして。

   彼の腕を、無意識に手に取った。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


325 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:45:08 zan3qhFo0

「テメェ……ッ! 青娥ァァアアーーーッ!!」

地中に引き摺り込まれた神子を探すため、鉄球の回転で穴を掘り出した時には手遅れだった。
ジャイロの腕には血塗れた少女の身体が寄りかかっている。

貫手によって腹に空けられた風穴。
既にその機能を失った両耳。
大型の拳銃で撃ち抜かれた2発の銃創。

医者のジャイロでなくとも、神子の死が免れないものとなっていたことは明白。
ぐったりと目を閉じ、急速に冷えていく身体。
その呼吸もだんだん薄まっていく。
自らを聖人と称し、人を超えた者だと自負した彼女は、


ただの少女のように、ジャイロの腕の中で小さくなっていた。


「最期に人の腕の中で死んでいくなんて、実にロマンチストですわねぇ。豊聡耳様もきっと本望でしょう」


ゆっくりと地面の中から這い出てくる青娥は、そう言い笑う。
表情とは裏腹のその言葉の冷たい内容に、ジャイロの中で何かが切れた。
左腕で神子を支え、右手には唸りを上げる鉄球。


「青娥アアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!」


怒りの咆哮と共に真っ直ぐ投げられた鉄球は、鈍い音を響かせて青娥の元へ飛び向かっていく。
それを見据えてなお、青娥は笑みを崩さない。
かろうじて相手の居場所は把握できるが、ジャイロの視界は未だに滲んでいる。
周りの風景から黄金長方形のスケールなど、とても発見できるような状態ではない。
回転の技術とはいかに正確なスケールで回せるかが命なのである。

故にこの攻撃が青娥の防御を突き抜ける道理など、あるわけがない。


「私、しつこい殿方もお嫌いでしてよッ! 何度やっても無駄 ―――『 パ ァ ン ! 』――― です、わ………っ?」



ブシュウウゥゥ



(―――えっ…………)




ジャイロの投げ放った黄金回転の鉄球が、邪仙青娥の右手と脇腹の肉を吹き飛ばした。


326 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:45:46 zan3qhFo0


(………え、っ……な、んです……て………?)


消滅した手首から先を信じられない様な目で見つめる。
続いてボトリと、血肉を撒き散らしながら吹き飛んだ右手が地に落ちた。
ブシュウと、シャワーのように脇腹から血飛沫が噴き出る。

何が起こった……?
ジャイロの黄金回転は、視界を奪ったことで封じたはずだ。
ならば今のこの鉄球の回転の威力をどう説明する?


「………ッ!! アナタ、今…何を……ッ!!」


ダメージの衝撃で『オアシス』が解除された。
初めて焦りの表情を露わにした青娥は、目の前の男をキッと睨みつける。
対するジャイロは、それを超える静かなる怒りをその瞳に宿していた。

彼の手には、横たわる神子と―――彼女の胸に捧げるように置かれた一本の『向日葵』が寄り添っていた。


「この向日葵は……さっきオレが神子にあげた奴だ。
 ……神子の奴がこの辺一帯めちゃくちゃにふっ飛ばしやがったからな。まともに形残ってる花がこれしかなかった」


その言葉が何を意味しているのか、青娥には分からなかった。
ジャイロは神子に祈りを捧げるように、目を閉じて静かに語り続ける。

「オレが神子を地面から引き揚げた時、コイツの手にはこの向日葵が握られていたんだ。
 言葉にされなくたって分かるぜ。オレには欲の声とやらは聴けねーが……神子の考えてることはすぐに分かった」

神子の胸に置かれた向日葵は、光を反射して悠然と輝いている。
その花にそっと手をやるジャイロの手は、震えていた。
それは怒りからか、悲しみからか。

「お前さんはよぉ、オレ達『ツェペリ一族の回転』を舐めてたんだ。勘違いしているぜ。
 最初にスプレーを噴き掛けた時、“これで貴方の黄金回転を封じた”とか寝ぼけたこと言ってたな。
 オレの視界を封じれば、周りの風景のスケールを読み取れねえ……『とでも思ったのか』?」

青娥は、仙人としての肉体の耐久力に自信を持ってはいたが、決して『過信』していたわけではなかった。
『黄金の回転』を封じれば、鉄球の力に耐えれるなどという『自信』はあっても『過信』は無い。


誤算だったのは……ツェペリ一族の『技術』。
青娥は、敵を見くびっていたのだ。


327 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:46:12 zan3qhFo0

「目が『視え』なくてもよォー、こうやって自然の花に直接『触れれば』よォー……
 黄金長方形のスケールぐらい、肌で正確に感じ取れるぜッ! そうすりゃ『完璧な回転』を生み出せるッ!
 ……つーか、自然物に手で触れてスケール測るなんざ、初歩の初歩の初歩の初歩の初歩中の初歩だぜッ!」

―――もっとも、これはお前がいたからこその『反撃』だぜ、神子……

唇を噛み締めながら心の中でジャイロは神子にこの上ない『感謝』を示した。
視力を奪われ、手の届く範囲にあった最後の黄金長方形のスケールが神子の託した一本の向日葵だったのだ。
ジャイロの手から伝った神子への向日葵は今、再びジャイロの元へと帰って来た。

神子の、ジャイロへの最期の『花向け』だった。



(最後の最後に、してやられましたわね……、ジャイロ・ツェペリと、豊聡耳様に。 ……ツェペリの技術、惚れ惚れしましたわよ♪)


―――でもそろそろ、『潮時』かしら。


青娥の肉片を吹き飛ばした鉄球が、弧を描きながらジャイロの元へ帰って行く。
アレをもう一度喰らうのは懲り懲りだ。腹のダメージも軽くは無い。
自分をここまで追い込んだ二人に、青娥は最後の崇敬を送り、



『河童の光学迷彩スーツ』を起動して、二人の前から姿を消した。



「……ッ!? 消えやがった……ッ! 待ちやがれテメェーーーーーーッ!!!」


咆えても敵の姿は既に音沙汰もなく。
青娥は拍子抜けするほどに、あっさりと逃亡した。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


328 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:48:44 zan3qhFo0


――――――

   ―――――

―――

  ――。


あぁ、久しく忘れていたこの温かい感覚。
思えば人の温もりなどいつ振りだろう。
人の上に立つ者としてあるまじきこの堕落したような気持ちは。
でも思ったよりは、悪くない……わね。

ジャイロ、青娥を……撃退したみたい。
流石、私の信頼する友人、ってとこかしら。

もう私の耳は聴こえない。彼の言葉も欲の声も、聴く事が出来ない。
それでも誰かの腕の中で死ねるなんてことは、聖人……いや、『人』としての最期の贅沢かもしれないわね。

周りの花、全部吹き飛んじゃったわね……。酷いことをしたわ、ごめんなさい。
それでもジャイロ。貴方のくれた向日葵が、貴方自身に力を与えたはずよ。
貴方の一族の『誇り』って奴かしら? それは確かに守られた。
……私もその一助になれたかな、なーんてね。


瞼を開けると、予想通り彼の顔が近くにあった。
私の視界もぼんやりとしていて彼の表情は分からないけど、もしかして結構悲しんでくれてる?
いえ、この男だったらもしかすると怒ってるのかもね。『なんでオレを庇いやがったんだー』って、ね。
いやだって、大切な友を助けるのは当たり前でしょ?
ホントはねぇ、すっごい嬉しかったのよ? ……貴方がくれた向日葵のことよ。
こんなこと恥ずかしくて言えるわけ無いでしょう。 ……私も一応、女ですし。


―――そろそろ、眠くなってきたわね……


最期に、何か言ってあげた方が良いのかしら?
そう、ねぇ……

チーズの歌、結局聴けなかったわね、とか。

生きてたらバンドでも組む? とか。

絶対ジョニィに再会しなさいよ、とか。


違う。どれもこれも言ってあげたいけど、違うわ。
もう、本当に一言だけ言えるのだとしたら、その台詞は違う。
今、私が言えることは……ジャイロに掛けてあげなきゃいけないことは……もっと切実で、緊急を要することだ。


329 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:49:14 zan3qhFo0
青娥は……『あの時』、何と言った?
思い出して。奴の言葉を、一字一句違わずに。


―――『一寸先はジェノサイド、ですわ♪ 復活したばかりの豊聡耳様には申し訳ないのですが、もう一度深い眠りについて頂きます』


いきなり地面の中から現れては舐めたような物言い。
ジェノサイド……


―――『一番厄介だった貴女を最初に消すことが出来て安心したやら、ホッとしたやら、ですわね』


聴覚を失った時、青娥が囁くように放った言葉。
うっすら、意識の深層下で聴こえたような、そんな言葉。
私を、最初に……だと?


思えば何故青娥は私を地面に引き込んだ後、『さっさと』殺さなかった?
鼓膜を破壊したり、わざわざ急所を『敢えて』外すように撃ったり……
私を『即死』させることは奴にとって『不都合』だったのか……?
おかげで奴は私とジャイロの思わぬ反撃を喰らい、まんまと逃走する羽目になった。
その逃走にしたって、いやにあっけない。
まるで最初から『逃げること』を視野にしていたかのような。

逃げる……? 奴の口ぶりは、私達を『全滅』させるかのような意思があったというのに『逃げる』……?


……意識が、霞んできた。

待って。そういえば、思い出してきた。
地面の中で私が視覚も聴覚も奪われた時。

―――奴は、私に確かに『何か』仕掛けた。

何をしたのかは、分からない。
でも、これだけは理解出来る。


―――霍青娥。あの女は、どんな者にだってその本質を制御出来ない……『大邪』。


私の敗因は、奴の『邪念』を量り違えたことだ。
奴の『邪』には底が無い。
底が無い故に、まさしく無邪気といったところか。

……奴の目的が、見えてきた気がした。
恐ろしい女だ……! あの女は、『何だって』やる気だ……!

奴は……“逃げるつもりではない”!
全員『虐殺』する気か!
あろうことか、この私を『利用』して!!

奴が私を即死させなかったのは、自分だけが逃げる時間を稼ぐ為だ!
恐らく、私の『死』をトリガーにした『何か』を仕掛けて!


彼に……伝えないと……ッ!
ジャイロ……ッ! あの女を甘く見ないでッ!!
奴は……『悪魔』!




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


330 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:50:04 zan3qhFo0

「神子ッ!! おい、テメェッ!! まだ死ぬんじゃねえぞッ!!」

ジャイロが消え去った青娥を追う事は出来なかった。
透明化の術を持ち、かつ視界の速やかな回復も期待出来ない以上、追跡は不可能だと判断したからだ。
いや、実のところ彼には追跡の術はある。
支給品の『ナズーリンのペンデュラム』をすぐさま使用すれば透明であろうと青娥の追跡は可能なのだ。
その効果範囲は半径200メートル。それ以上離れれば完全に逃げ切られることになる。
時間は残されていない。

それを理解してなおジャイロは、神子の傍を離れることが出来なかった。
ジャイロは医師だ。倒れ伏せた神子がもう長くない状態でない事は分かっていた。
それでも懸命に声を掛け、止血を施す。
助からない命だということを理解していながら、彼は敵を追う本分よりも神子を看取ることを選んだ。

行動に理論的な意味を求める自分らしくない。
だが自分がこのまま青娥を追ったとして、神子はたった独りぼっちで死を迎えることになる。
それはどれほど悲しい人生の最期だろう。
彼女の……豊聡耳神子という存在の最期に、『敬意』を払わなければいけない。
神子の生きてきた『誇り』を守ってやることこそが、友である自分がしてやれる最後の手向けだ。


「…………ジャ、ィ……ロ………」

「……!! 喋るなッ! 今、鉄球の回転で止血してるとこだ!」


そんなジャイロの思いが実を結んだ。
神子が微かに瞼を開ける。しかし、


「――――――ッ! ――――ッ!」


既に神子の耳にはジャイロの声など届かない。
聴覚を失った彼女の世界に、音が入り込むスキマなどもはや無かった。

(まいった、わね……。他人の声が聴けなくなるのが、こんなに悲しいなんて……)

それでも、目の前の男が懸命に自分の名を呼び続けていることだけは分かる。
消えかけの命を、もう一度灯らせようと一生懸命なのが分かる。

(馬鹿……、早く青娥を…追いなさいよ……)

青娥がまだ何か企んでいることは予想がついていた。
すぐにここから離れないと、ジャイロが危険だというのに。

(私なんか放っといて……早く、行って……! でないと、貴方も、危ない……ッ!)

最期に一言だけ、口を開く力が残っていた。
伝えるべき事実がある。
さあ、私から離れて奴を追いなさい。
青娥の攻撃は、恐らくまだ終わっていない。
何をやっているの。私はもう無理なんだから。
貴方は自分やメリーを守ることだけ考えなさい。
だから、もう……いいのよ。


そんな警告を、最期に伝えなければ。


331 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:50:32 zan3qhFo0







「ジャイロ………あり、がと……ね…………」







―――意を決した彼女の口から出た言葉は、警告でも助言でもなく。


ジャイロ・ツェペリへの、限りない『感謝』だった。



(―――何、言ってるのよ、私……)


ジャイロへと危機が迫っていることは明白なのに。
一刻も早く彼をこの場から逃げるよう、忠告しなければいけないのに。

どうして私は涙なんか流しながら、そんな意味の無いような言葉を選んだのか。

いや。本当は、自分でも分かっていた。
彼の優しさが、彼の腕を伝わって私の心に直接響いてくるのが。
彼が敵を追うことよりも私を優先してくれたことが、きっと何よりも嬉しかった。
独りで死んでいくことがたまらなく怖かった。
不老不死を求めて生きてきた私の最期が孤独だなんて、これ以上無い屈辱だった。
彼はそんな私の最期の『生の誇り』を守るために、こうして傍に居てくれている。

その心が、本当に嬉しかった。
だから、私は本心からのお礼を捧げた。



―――幸せ者ね……私も。



神子はどこか安心したような顔で眠りについた。


彼女の最期を自分の腕の中で見守ったジャイロは、安らかに眠るその頬に伝わる雫をそっと拭き取り、ゆっくりと地面に寝かせた。
せめてもの弔いとして、一輪の向日葵を彼女の手に握らせて。


「神子……お前の気高い『生き様』と太陽のように大きくて明るい『意志』に、オレは何よりも『敬意』を払うぜ。
 ……そしてすまなかった。ジョニィに紹介するっつー『約束』……守れなかったな」


自分にはやるべきことがまだ、ある。
男は背を向け、歩き出した。
かつて『聖人』だと言われた、ひとりの友の意志を受けて。
その手に鉄球を携え、戦火に身を投じる。





【豊聡耳神子@東方神霊廟】 死亡
【残り 66/90】

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


332 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:53:50 zan3qhFo0




























自分の右腕に突如、熱い痛みが走ったことにジャイロは遅れて気付いた。


肘から先が千切れ落ち、鈍い音と共に鮮血が舞う。


何が起こったのか理解出来ないジャイロは、自分の落ちた右腕の切断面を見つめることしか出来なかった。





Chapter.4 『ブレイク・マイ・ハート/ブレイク・ユア・ハート』 END

TO BE CONTINUED…


333 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:57:12 zan3qhFo0
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★   ★ ★


 Chapter.5 『DEAD DREAM』


『ジャン・ピエール・ポルナレフ』
【朝】E−6 太陽の畑


攻防は十分にも及ばぬほどに僅かなもの。
しかし、ポルナレフと蓮子、剣と剣のぶつかり合いは優に千を越えるほどの斬り合いによって今なお続いていた。
その卓越した技量の剣撃は、離れた場所で戦いを見守る阿求の目には無数の火花が散っているほどの錯覚を起こす。

「ポルナレフさん……! メリー……!」

戦う力を持たない阿求には手を組んで祈ることしか出来ない。
肉の芽に支配されていたポルナレフが、今度はメリーを救うために剣を振るっている。
その相手はあろうことか、メリーの親友である宇佐見蓮子その人だ。

蓮子の額の芽を直視し、気絶してしまったメリーを後ろに下げた蓮子。
その瞬間、戦いが始まってしまった。

ああ、運命というものはどこまで残酷なのだろう。
どうして蓮子までもがDIOの支配を宿してしまったのか。
どうして蓮子がメリーを連れ去ろうとしているのか。
阿求には何も分からない。
何も分からないから、祈るしか出来ない。


「ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラアアァァァーーーーーーーーーーッッッ!!!!」


ポルナレフが高らかに咆え続け、『シルバー・チャリオッツ』の剣を目に見えぬ速度で突く! 突く! 突く! 突く!
対する蓮子は涼しい顔で『アヌビス神』の刀を以っていなし続ける。
その後ろでは気を失ったメリーの身体をヨーヨーマッが支え、観戦していた。

「さっきから全く手加減ナシですか。私、これでもメリーの親友なんですよ?」

「やかましいッ!! お前の芽を潰して、目を覚まさせてやるって言ってんだーーーッ!!」

「私に手を出せばメリーは殺すと言った筈ですが」

「お前たちは明らかにメリーを攫うために近づいてきた!
 そのお前らが簡単にメリーを傷付けるわきゃねーからな! ハッタリだろーがッ!」

「……ただのアホじゃあなさそうね」

凄まじい剣の嵐の中、2人の言葉が交わう。
しかし、徐々にポルナレフの剣が押され始めた。
ポルナレフは手加減などしているつもりは無いが、恩人であるメリーの親友を斬り付ける事にはやはり抵抗があった。
対して蓮子はポルナレフを完全に殺す気で刀を振るっている。
その意識の差が2人に優劣を付け始めた。
そして蓮子の操る刀のスタンド『アヌビス神』の特性も、蓮子優勢の一因を語っている。

(いいゼいいゼ蓮子の嬢ちゃん!! そのままクソッタレポルナレフを百枚にオロしちまおうぜェーーーッ!!!)

「……戦ってるのはあくまで私の身体よ。あまり無茶をさせすぎないで欲しいんだけど」

(おっと女の子の蓮子ちゃんにゃあやっぱキツイかい? だが安心しろォ! 俺様はことポルナレフにおいてはもう負ける気しねェーッ!)

蓮子の意識がDIOによって支配されている以上、アヌビス神がDIOの支配を上書きすることは出来なかった。
故に蓮子がアヌビス神を握っていても、彼女の意識が刀に支配されることはない。
しかしアヌビス神の能力が蓮子を剣の達人へと変貌させ、ポルナレフをも上回る剣士を誕生させた。
そしてアヌビス神の『一度受けた攻撃を憶える能力』は、長期戦になるほどポルナレフにとって絶対的不利。
蓮子の手数がポルナレフを上回り始める。


334 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:57:59 zan3qhFo0

(ウーーッシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャァーーーッ!!)

「く……ッ! やはりコイツの刀! さっきからだんだん『強くなって』きてやがる……ッ!」

劣勢を悟り狼狽するポルナレフは、一度大きく間合いを取る。
既に彼の肉体の所々には刀の切り傷があった。
対する蓮子の身体には……一切の傷が無い。
剣と剣による正面からの斬り合い。
その結果、目に見えて蓮子に軍配が上がり始めている。
ポルナレフの心には焦りと屈辱がざわめきたっていた。

(クソ……ッ! あの妙な刀も恐らくスタンド……! こんな女の子にいい様にあしらわれるなんざ、俺のプライドが許さねえぜ!
 だがどうする……!? このスタンド、相当強い……!)

荒い息遣いを隠すように顔の汗を拭う。
最早単純な力や技術押しでは敵わなくなってきた。

『敗北』の二文字が頭を過ぎる。


(負け……だと!? 俺が負けりゃあ誰がメリーを救う! 女一人護れねえで何が騎士道だ!
 皆の命を護ってみせると……誓ったばかりじゃねえかッ!)


例え死んでも護り通すものがあった。
それは自尊心や自己満足などではない、彼にとってはかけがえのないモノ。
再び『シルバー・チャリオッツ』の剣を構える。
蓮子の構えは素人そのものであったが、あの妖刀から生み出される攻撃の軌道はまるで読めない。
恐らくあの刀のスタンドに『意思』のようなものがあって、それが蓮子を突き動かしているのだとポルナレフは当たりをつける。

『刀さえ破壊できれば』……そう思索していたその時。


「蓮子ちゃ〜〜〜ん! ただいまぁ♪」


場にそぐわぬ締まりない声で青娥が戻ってきた。

「おかえりなさ……わ。どうしたんですかその右手とお腹の怪我。まさか『失敗』ですか?」

「いえいえ、ちゃあんと『仕掛けて』きたわよぉ♪ でも、ちょっと反撃されちゃってねぇ……
 蓮子ちゃんの方もメリーちゃんは確保できたみたいね。よぉお〜〜〜しよしよしよしよしよしよし♪」

「やめてください……。目的を果たしたならさっさと行きましょう」

(青娥……ッ! じゃあジャイロと神子はやられたのか……!?)

青娥は怪我こそしていたが、彼女がここに居るということはジャイロと神子はどうなったのか。
こんなふざけた女1人にあの2人がやられたとは考えたくなかったが、この青娥という女はどうも底知れぬモノを感じる。
しかし万が一彼らが敗北したのなら、今度この2人と対峙するのはこの自分だ。
緊張と戦慄の汗がポルナレフを伝う。
その動揺を打ち払い、チャリオッツの剣を一振りして敵に向けた。


335 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:58:29 zan3qhFo0

「おい、テメエらッ!! ジャイロ達をどうした!? メリーを何処へ連れて行く気だッ!?」

「悪いですがポルナレフさん。勝負はここでお開きです。
 私たちが貴方に直接手を下す必要は『無くなりました』から」

「ごめんなさいねぇポルナレフさん? 急ぐ用事が出来てしまいましたので。
 それにジャイロさん“は”まだ生きていますわ。早く会いに行ってあげた方がよろしいかと」

そう吐き捨てた後、青娥と蓮子はメリーを連れてあっさりと踵を返していく。

「待ちやがれッ! そう簡単に逃げられてたまるかッ!」

それを見逃すわけにはいかないポルナレフは追おうと駆けた。
その時、足元に小さな缶の様なものが転がっていることに気付く。
次の瞬間、辺りを覆う爆音と衝撃。
凄まじい爆音にたち眩み、膝を突かずにはいられなかった。
青娥の放った『音響爆弾』がポルナレフの視界と聴覚を奪い、暫くの間その行動を封じたのだ。


彼が何とか立ち上がれた時には、既に彼女らの姿は見えなかった。


「………クソッ!! 何やってるんだ俺はッ!!」

呆然と立ち竦んだ後、悔やむ様に足踏みするポルナレフ。
とにかく後を追わなければ……! そう思ったのも束の間。


「あ……ぁ、ポルナレフさん……!」

陰ながら戦いを見ていた阿求がよそよそと現れた。
彼女はおよそ半泣きになってポルナレフに駆け寄り、その場でくたっと腰を抜かしてしまう。

「ポルナレフさん……メリーが、メリーがぁ……!」

「阿求ちゃん、大丈夫だ。メリーは俺がすぐに助けに行く! だから泣かないでくれ!」

「グス……っ、はい……」

震える阿求の頭を撫で、笑顔を作って勇気付ける。
しかしメリーを攫われたことによる自責の念は拭えない。
とにかく、今はすぐさま敵を追わなくてはならない一刻を争う状況。
それに青娥が最後に放った言葉も気になる。


「阿求ちゃん! 俺はジャイロ達の様子を見てくる! ……幽々子さんを頼む!」


眠る幽々子を阿求に任せ、ポルナレフは仲間の元へと飛び出した。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


336 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 15:59:02 zan3qhFo0

「……青娥さん、その傷は大丈夫なんですか?」

「……正直、ちょっと危ないかも。早いとこ治療しないと死んじゃうわ」

「簡単に治療できるような軽い怪我には見えませんが」

「大丈夫大丈夫♪ 仙人にはキョンシーを使っての蘇生術もあるんだから!
 その辺の死体の肉体を使えば治療出来るわよ〜」

「……私の身体を治療には使わないでくださいよ」

「あははバレちゃったぁ〜?
 まぁ仙人ジョークは置いといて、早くここから逃げ出さないと巻き込まれちゃうわ」

「スタンドDISCを欲しがってた割には『アレ』、あっさりと使っちゃうんですね」

「だって〜、流石の私でもあんなのいらないわよぉ。
 『死ななきゃ能力が発動しない』なんて全然面白くないじゃない?
 だから死ぬ直前の豊聡耳様の頭に差し込んできちゃったわ♪」

「……青娥さんって本当に容赦ナシですよね」

「豊聡耳様の欲も私に負けず劣らず巨大ですのよ。
 遍く全ての生き物は欲によってこの世に産まれ、そして最期には欲によって朽ちるのです。
 ……あの方の最期の欲は凡庸でもあり、高潔でもあり……だからこそ本当に美しかった」

「分かったような分からないような。
 まあ、とにかくその傷を治療したら早くDIO様の元へ急ぎましょう。
 ……ヨーヨーマッ。しっかりメリーを運んでね。私の友達に傷でも付けたら怒るわよ?」

『かしこまりましたァ、ご主人様』


337 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:00:12 zan3qhFo0
【E-6 北の平原/朝】

【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:疲労(中)、右手欠損、右脇腹損傷、全身に唾液での溶解痕あり(傷は深くは無い)、衣装ボロボロ
[装備]:S&W M500(残弾3/5)、スタンドDISC「オアシス」@ジョジョ第5部、河童の光学迷彩スーツ(バッテリー60%)@東方風神録
[道具]:双眼鏡@現実、500S&Wマグナム弾(13発)、催涙スプレー@現実、音響爆弾(残1/3)@現実、基本支給品×5
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:DIOの王者の風格に魅了。彼の計画を手伝う。
2:死体の肉体を使って身体の治療。その後メリーを連れて紅魔館へ帰還。
3:会場内のスタンドDISCの収集。ある程度集まったらDIO様にプレゼント♪
4:八雲紫とメリーの関係に興味。
5:あの『相手を本にするスタンド使い』に会うのはもうコリゴリだわ。
6:時間があれば芳香も探してみる。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※光学迷彩スーツのバッテリーは30分前後で切れてしまいます。充電切れになった際は1時間後に再び使用可能になるようです。
※DIOに魅入ってしまいましたが、ジョルノのことは(一応)興味を持っています。


【宇佐見蓮子@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(中)、肉の芽の支配
[装備]:アヌビス神@ジョジョ第3部、スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部
[道具]:基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:DIOの命令に従う。
1:DIOの命令通り、メリーを紅魔館まで連れて来る。
2:青娥やアヌビス神と協力し、邪魔者は排除する。
[備考]
※参戦時期は少なくとも『卯酉東海道』の後です。
※ジョニィとは、ジャイロの名前(本名にあらず)の情報を共有しました。
※「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力」は会場内でも効果を発揮します。
※アヌビス神の支配の上から、DIOの肉の芽の支配が上書きされています。
 現在アヌビス神は『咲夜のナイフ格闘』『止まった時の中で動く』『星の白金のパワーとスピード』『銀の戦車の剣術』を『憶えて』います。


【マエリベリー・ハーン@秘封倶楽部】
[状態]:気絶中(蓮子の肉の芽の中?)
[装備]:なし
[道具]:八雲紫の傘@東方妖々夢、星熊杯@東方地霊殿、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と一緒に此処から脱出する。ツェペリさんの『勇気』と『可能性』を信じる生き方を受け継ぐ。
1:蓮子……どうして?
2:八雲紫に会いたい。
[備考]
※参戦時期は少なくとも『伊弉諾物質』の後です。
※『境目』が存在するものに対して不安定ながら入り込むことができます。
 その際、夢の世界で体験したことは全て現実の自分に返ってくるようです。
※ツェペリとジョナサン・ジョースター、ロバート・E・O・スピードワゴンの情報を共有しました。
※ツェペリとの時間軸の違いに気づきました。
※竹林で落とした八雲紫の傘と星熊杯を回収しました。


338 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:01:49 zan3qhFo0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

それは本体の『死』をトリガーとし、殺されることによって初めて発現するエネルギー。
瀕死であった神子が気付かぬ内に頭に仕込まれ、そしてその悪夢の『スタンド』はこの世に顕現してしまった。
永永無窮のエネルギー。
空空漠漠の射程距離。
電光石火の牙。

この世のあらゆる狂気と絶望を体現したかのような禍々しさは、死によってその存在を確立させた。
無我の悪魔であり、最早食べることのみを機能として動き出した不死のスタンド。

―――そのスタンドの名は、



――――――

―――




ウジュル、ウジュル。
そんな不気味な『食事』の音を、ジャイロは呆然と立ち竦みながら耳に入れていた。
喰われているのは、千切れ飛んだ自分の右腕だ。
喰っているのは、『骨』とも『肉塊』とも形容し難い『ナニカ』。

散らし尽くされた大量の向日葵の残骸。
その上を紅色で彩るように流れる鮮血。
その上でハイエナが血肉を貪るように一心に続けられる食事。

ウジュル、ウジュウジュウジュウジュウジュルルルル。

血液が逆流を開始するように、失った右腕から血のシャワーが噴き出る。
遅れてポツポツと、顔中から汗がドッと染み出してくる。
グラリと視界が揺れ、倒れそうになった足を必死に持ちこたえた。
目の前で行われている晩餐から、視線が外せない。

ふと、蠢く『ナニカ』の傍の地面に目が行った。
血文字だ。血によって何か書かれていた。


339 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:02:34 zan3qhFo0

『敵スタンドの名はノトーリアス・B・I・G』

     『助けてくれ』             『お願いだ』

         『神子が死体になってしまった』

   『喰われるのは嫌だ』         『神子はカワイソーにゾウキンのように捨てられた』

             『殺されることによって初めて作動するエネルギー
                       死体だからもう殺すことはできない』

         『もう助からない』

                   『死ぬ前に』   『故郷ネアポリスの
                              ピッツァが食べたい』



            ―――『ジャイロ・ツェペリ』―――



(敵……スタンド……? 『ノトーリアス・B・I・G』……だと?)


誰が書いたモノだこれは。
誰の攻撃だこれは。
死体……? 喰われるだと……?
目の前の『コイツ』が書きやがったのか?
それとも……オレか?

コイツが美味そうに喰ってんのは、オレの『腕』か?
これは、スタンド攻撃……
殺されることによって初めて作動するエネルギー……だと。
まさか、神子のスタンド……?

違う。


「―――あ」


短く零れ落ちた呟き。
それと同時に、残った左腕で腰のホルダーから鉄球を取り出す。


「―――ッッッッの女ァァァァァアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!」


怒りが爆発した。
これが誰の攻撃によるものか、考えるまでも無い。
あの邪仙・霍青娥の攻撃は終わっていなかった。
奴は逃げ去る直前、最後の最後で神子に『何か』したのだ。
死ぬことによって発現するスタンド。
そんな悪魔のようなカラクリを、奴は神子に植え付けて逃げ去った。
奴はあろうことか、神子の死を『利用』したッ!
この上ない、『生』への冒涜だッ!

絶対に、絶対に許さねェッ!!


340 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:03:54 zan3qhFo0


「何喰ってんだテメエエエエェェェェェーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」


左手で鉄球を投げるモーションを取る。
未だに視界は青娥の催涙スプレーにより完調ではない。
若干の視界の滲みでも、黄金長方形のスケールの読み取りを狂わせてしまう。
そんなことは関係あるかとでも言いたげに、ジャイロは手に持つ鉄球を回転させ……


『食事中』だった敵スタンドが、突然ジャイロの振りかぶった左腕目掛けて飛んできた。


(な……にィィーーーッ!? なんだコイツ!? 目標をオレの腕にいきなり変えやがったッ!)

死ぬことで発現する能力。言うなれば『本体』のいないスタンドだ。
本体がいないのに、自分の攻撃が『見えている』?
ありえない。ならば考えられることはひとつしかない。
コイツは何かを『探知』し、それに向かって自動的に攻撃する『自動操縦型スタンド』だッ!
しかし……!

(避けるのが間に合わねえッ! 『速い』ぞコイツ!)

左腕もが敵の餌食になることを覚悟したジャイロだったが、

―――敵は何故かジャイロの『腕』ではなく、手に持った『鉄球』へと喰らいついた。

思わず鉄球を手放す。敵スタンドはそのまま回転する鉄球を覆い尽くすように隙間無く齧り付いた。
不可解ではあったが、自分が鉄球すら握れない身体になるのはとりあえず免れたらしい。
だが、今度は肝心要の鉄球が奪われてしまった。
肉と骨を混ぜ合わせた悪趣味なオブジェのようなスライム型の『ナニカ』が、ボリボリと音をたてて鉄球を喰らい尽くしていく。
身体から失われていく血液が止まってくれない。
霞みゆく思考の中、必死に考えを巡らせる。

敵本体は居ない。
鉄球も無い。
どうする。この『化物』を完全に殺害するにはどうすればいい?

「く………ッ!」

打開策が思い付かない。
こんな時、ジャイロの傍にはいつもジョニィ・ジョースターが付いていた。
ジャイロが危機に陥った時にはジョニィが。ジョニィが危機に陥った時にはジャイロが。
2人は互いに助け合い、笑い合い、そして長い長いレースの道のりを常に隣同士で走ってきた。
そのジョニィもここには居ない。今は居ない相棒を考えてもどうにもならない事態なのだ。
赤いマントも腰のサーベルも、何の装備も無い状態で暴れ牛の前に投げ出された闘牛士。
そんな闘牛士が選択し得る行動など、みっともなく無様に闘技場から逃げ出すことだけだ。


341 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:04:30 zan3qhFo0

―――今ならコイツから逃げられるかもしれない。

今にして思えば青娥があっさりと逃走を選んだのは、このスタンドの攻撃に巻き込まれないからだった。
しかし仮に逃げたとして、果たしてその行為は正解なのか。
最悪、向こうにいるポルナレフやメリーたちを巻き込む形になってしまいかねない。
そもそもポルナレフたちは無事なのだろうか? 青娥には仲間もいた。そいつに襲われていないだろうか。
やはり向こうも心配だ。この化物とあの青娥は後で必ずブッ殺すとして、今はコイツから距離を置きたい。
ジャイロがそう結論付け、ゆっくりとこの場から離れようとした瞬間……


またもや敵スタンドが食事をやめ、高速で突っ込んでくる!
この敵の攻撃条件が掴めない。次に攻撃を受けたら間違いなくやられる。
防御も反撃も出来ない。万事休すか。
絶望的な死を覚悟したジャイロだったが、敵は何故か“ジャイロの横をすり抜け”見当違いの方向へと飛んでいった。
驚くジャイロの見つめる先、そこには……

「ジャイロォッ! 大丈夫かッ!?」

ポルナレフがこちらへと向かって走って来ていた。


「ポルナレフゥゥゥウウウウーーーーーッッ!!!!! こっちへ来るんじゃねェェエエエーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」


ガバリと、巨大な鮫のように大口を開いて飛び向かう敵スタンド。
ジャイロの叫びはこの状況の緊迫さを表しており、自身に危険極まりない何かが迫っていることを瞬時に悟り、
何より目の前に迫る怪物がポルナレフにかつてない危険信号を与えていた。
全身の毛が逆立つほどの『脅威』を眼前の化物から感じ取ったポルナレフは咄嗟にスタンドを展開。
『シルバー・チャリオッツ』の一閃を繰り出す!

―――が!

目で捉える事も困難なチャリオッツの剣撃を、敵スタンドは形態を変化させて容易に掴んだ。
アメーバを思わせる半固体状の敵スタンドがチャリオッツの剣先を飲み込み始め、徐々に徐々にチャリオッツ本体へと蝕んでいく。
その薄気味悪い外殻以上に、ポルナレフはこの化物の『スピード』に何より恐れを抱いた。
自分のチャリオッツの剣術、特にその攻撃のスピードには誰にも負けない自信があった彼であった。
そのチャリオッツの至近距離からの攻撃をあっさりと捕らえ、今こうしてじわじわと敵の魔の手が伸びて来ている。
自信すらへし折られそうな敵の超絶なスピードに、ポルナレフは恐怖し慄く。

「ジャ……ジャイロォッ!! 何だこの化物はッ!? とんでもねえ動きしたぞ今ッ!!」

言い終わらない内にも敵スタンドが剣を完全に飲み込み、続いてチャリオッツ本体に飛び掛った!
先程よりも化物の体積が『増えている』。肉もスタンドも飲み込み、大きく成長していっている。
そして次にこの化物はチャリオッツに喰らい付き、それはすなわち本体であるポルナレフへのどうしようもないダメージへと繋がる!

「――――ガ、ハッ!」

「ポルナレフウウウゥゥーーーーーッ!!!」

近距離での白兵戦ならばポルナレフのシルバー・チャリオッツを凌駕するスタンドなどはそうそういない。
そのポルナレフが何も出来ずに易々と懐に潜りこまれたのだ。
当人は勿論、それはジャイロにとってもかつて味わったことの無い最悪の相手だと痛感する。
化物がチャリオッツの胸部をガツガツと喰い、吸収していく。血反吐を吐くポルナレフ。
ジャイロは考えるよりも先に、地面に落ちていた鉄球を拾った!
化物に喰われ尽くされたそれはもう球体と呼ぶには些か不似合いであり、既に鉄球としての戦闘能力が失われている。
それでも強引に回転させ、絶体絶命のポルナレフを救うためにジャイロはもう一度投擲を試みるしかなかった。
ポルナレフの皮膚が見る見るうちに喰われていき、辺りにおぞましい悲鳴が轟く。

ジャイロの手から鉄球が離れる直前。
ポルナレフを喰らっていた敵スタンドが、今度はその心臓を標的と定め魔手を伸ばしたその瞬間。


―――敵スタンドは突然チャリオッツから興味を失ったように離れ、そのまま上空へと飛んでいってしまった。


342 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:06:12 zan3qhFo0
あまりに不意の奇行。
何かに反応していったのか、敵の姿が暁光の空へと消えていく。
それに安心したのか、ガクリと膝を突いたポルナレフだったが幸いにして命はあった。

「……ッ!? な、何だァあの化物ヤローは? 散々暴れまわった挙句、とっとと逃げちまいやがったぞ……」

「くっ……ハァ…ハァ……! ジャ、イロ……今の奴は……? それに……」

―――神子は何処にいる……?
ジャイロは当然その質問を予想していたが、いざ聞かれるとやはり口篭る。
その様子を一目見、ポルナレフも瞬時に理解した。彼女の身に何があったかを。
2人の間には一瞬の沈黙が流れたが、時は一刻を争う事態だという事も理解していた。

神子と青娥の戦いの瑣末、現れた蓮子に拉致されたメリー、今しがた襲われた怪物スタンド……
事は既にして、抜き差しならない状況にまで追い込まれている。
それを互いに確認し合えば、最早為すべき事は理解、共鳴した。

青娥をブッ飛ばして、メリーを救出する。

つまるところ、今一番に為すべき目的はそれに間違いない。
ジャイロは己の失態で神子を失い。
ポルナレフは己の未熟でメリーを攫われ。
男はふつふつと心に闘争心を滾らせる。
互いに「すまなかった」とは言葉にしない。
ゴタゴタぬかす暇があったらとっとと追うぞと言わんばかりの鋭い瞳を燃やし。

青娥達の去っていった方向を目に定めて―――





「うおおおぉぉぉぉーーーーーーーーッッッ!?!?」

「きゃああああああああああぁぁぁぁッッッ!?!?」


ド ォ ォ オ オ ー ー ン ッ !!


―――その方向、正確に言えば更にその上空から悲鳴と地鳴りと共に2人の男女が降ってきた。


「おわあッ!? な、なんだあ……ッ!?」

「さっきの化物スタンドかッ!?」

すぐに戦闘の姿勢をとったポルナレフとジャイロ。
目の前の土埃の向こうに先の敵スタンドの姿を仮想し、神経を集中。
落下の衝撃で発生した軽いクレーターと煙幕が、中々敵の姿を見せてくれない。
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。タラリと緊張の汗が一粒滴る。
十数秒ほど空気が硬直した中、ついに晴れた土埃から覗かせた者は……



「むきゅ〜〜〜……。 痛ったぁ〜〜〜……む、無茶しすぎですよぉ……!」

「東風谷、さん……重い、です……」

「あ! す、すみません……! ……って、重いってなんですか重いって!
 私はこれでも日々苦労しながら健康と食事量との戦いを続け、先日やっっっと3キロのダイエットに……」



現れた少年と少女は、静かなる情熱の緑と鮮やかなる華麗の緑。


『奇跡の少女』東風谷早苗と、



「―――花京院、典明……!」


「……ポル、ナレフ?」




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


343 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:06:46 zan3qhFo0
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆   ★ ★

『花京院典明』
【朝】E−6 太陽の畑 近隣上空


もうどれほどになるだろうか。
朝靄の冷たい風を頬に受けながら、この悠久なる大地の空を飛び続けるのは。
星と太陽が入れ替わり、この世界の朝を初めて体験する花京院典明は、目の前の少女の風に靡く後頭部を見つめながらそう思った。

たまに地上を見下ろせば自然豊富な大地の美しさを感受し、思わず感嘆の息を漏らす事もここ数度。
よくよく考えてみれば自分は滅多に出来ない体験をしているのかもしれない。
飛行機から地上を見下ろす時とはまた違った感動が心に浮かび出てくるのを、外界の人間である花京院が止める事叶うわけもなく。
すぐにその考えを不謹慎だと振り飛ばし、また目前へと視線を戻す。
自分らの真下では今も殺戮が行われているかもと考えると、楽観的な思考など邪念として捨て払わずにはいられなかった。

先程からこの『オンバシラ』は轟々と突き進み、だが緩やかに湾曲したり高度を上げ下げしたりと忙しない。
目標人物である『八坂神奈子』の姿など一向に見つからず、花京院の心には次第に焦燥心が生まれてくる。
巨大な森林上空を走ったり、気になる所では館の隣で何かが燃えている光景まで目撃した。
それでもこの高度、このスピードで豆粒ほどに小さな人物ひとりを見逃すことなく飛行を続けるのは至難だ。

上空を飛行し続けるこのオンバシラの舵取り役は目下の所、目の前の東風谷早苗なる少女が握っていた。
というよりは、オンバシラの操作など不可能である花京院には黙って乗客で在り続けることしか出来ない。
元より彼は無理を言って彼女に付いて来た身。自分がどうこう口出しできる立場では無いのだ。


だから、これまでの空路を殆どの会話もなく、飛んできた。
気まずさも当然あったが、それ以上に花京院は早苗を信用して相乗りしているのだ。
だがその信用も数分、数十分経つにつれると段々疑心が生まれてくる。

その内花京院は早苗を怪しむようになっていた。
こちらからでは彼女の顔色を窺うことは出来ないが、その後ろ姿からでも確固たる信念は知れる。
迷うことなくこの空のサーフィンを決行した彼女だ。早苗という少女はあらゆる意味で真っ直ぐな少女だった。

それでも、『もしかして』……『まさかとは思うが』……
そんな懸念が花京院の心の大部分を占めるようになった頃。

とうとう花京院は意を決して、兼ねてより口には出すまいと忍んできた『質問』をぶつけることにした。


「あの、東風谷さん」

「………何ですか、花京院くん? 喋ると舌、噛みますよ」

「僕は君を信頼してこのオンバシラへと乗り込みました。だから今まで敢えて聞かなかったのですが……」

「…………」





「―――八坂神奈子の逃げた方向、勿論知った上で追跡してるんですよね?」


「…………………………………………」





その溜め息が漏れるほどに長い長い無言は、花京院の『疑問』を『確信』へと変えるのには充分過ぎる時間だった。


344 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:07:32 zan3qhFo0

「…………あのですね、東風谷さん」

「だってっ!! 仕方ないじゃないですか!!! 煙幕が晴れた時には神奈子様の姿はすでに見えなかったんですからっ!!!
 それにそれに! 勝手に付いて来たのは花京院くんであって、それはいわゆる自己責任って奴で!!
 えっとえっと………つまり〜〜〜〜〜っっ!!!」

「つまり、八坂神奈子の逃げた先の見当は全く付かない、ということですね?」

「はいッッッッ!!!!!!」


今までの捜索は一体なんだったのだろう。
近年稀に見るほどに良い返事を耳に入れながら、花京院は額に手を当てて呆れる仕草をひとつ。

「あの、どうしてそれをもっと早く言ってくれなかったのですか……?」

「だ、だってだって背中の花京院くんの視線が段々プレッシャーに感じてきちゃって、言うに言い出せなかったんですよ〜っ!!」

自分はそれほど眼力を発していたのだろうか。
どうやら東風谷早苗という人物は思ったよりもずっと天然だったらしい。

「……戻りましょう。もうかなりの距離を飛んで来てしまっています。このままだと会場の『外』に出かねません」

この会場に『外』などあるのだろうかと、ふと思ってしまう。
だがこのままエリア外から出てしまえば最悪、脳内爆弾が発動しかねない。
時間のロス。それだけの事だと自分に言い聞かせ、溜息を漏らすのは我慢した。




……………………?

花京院の案に、早苗がまたもや無言になる。
それを訝しげていると、早苗がゆっくりと、かつ半涙目でこちらへと振り返った。
その年相応の乙女らしい仕草に花京院は不覚にも、少しだけ鼓動が早まった気がした。



「…………戻れません」

「……………………はい?」

「このオンバシラ、スピードはありますけど小回りが殆ど効かないんです!
 このままゆったりと旋回してれば会場外へはみ出しちゃいますよぉ〜〜〜っ!!」

どうやら鼓動が早まったのは別の意味だったようだ。

「な……なんですってッ! じゃ、じゃあ今すぐ降りてくださいッ!! 下手すれば僕達、文字通りの『自爆』ですよッ!?」

「お……降りるって、どうすればいいんでしょう……?」

目眩がした。
この両の足にしっかりとネジが張り付いていなければ、確実に自分の体はヒモ無しバンジーを体験していただろう。


345 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:08:04 zan3qhFo0

「き、君は何も考えずに操縦していたのか!?」

「ご、ごめんなさわわぁ〜〜〜ん!!! ででででも大丈夫ですっ! オンバシラに注いでいる霊力の注入をやめれば……」

「……着陸はどうするのです?」

「…………………………」

自分が目覚めた時に感じたこの少女への『女神』のようなイメージ像が、派手な音をたててバラバラと崩れてゆく。

「じょ、冗談じゃあないぞ! こんな馬鹿みたいな事故で死んでしまうなんて僕はごめんだ!」

「あーーー!!! なんか私のせいにしてる流れですけど、勝手に付いて来たのは花京院くんなんですからね!?
 どんな結果になっても責任持てませんって私言いましたからね!?」

「それにしたってこんな結果になるなんて思わないでしょう! そもそも東風谷さんが黙っているのが悪いわけで―――」


ド ガ ン ッ !!


互いにいがみ合う中、突如響く轟音。
続いて足元を大きく揺らすほどの振動が2人を正気にさせた。

「……ッ!? なんだ今の揺れは……!?」

「わ、わかりません……。それに気のせいか、スピードも高度も『落ちて』いるような……」

言われてみれば段々とオンバシラの速度が落ちてきている。
花京院の額に嫌な汗が流れた。乗った乗り物が墜落するジンクスが、まさかあの血統から自分にも移ったんじゃないだろうか。

「東風谷さん、態勢を立て直してください! どんどん落ちているぞッ!」

「やってますが……駄目ですッ! 調整が出来な―――」

不意に早苗の声が止まった。
見れば、彼女はこちらを振り向きながら固まっている。

「……東風谷さん?」

「……花京院くん。 ……う、後ろ」

後方を指差しながら彼女は引き攣っている。
その指の指す方向を花京院はおそるおそる……振り返った。


爆進するオンバシラの最後尾。
ピタリと張り付くように―――『ソレ』は居た。


ウネウネと蠢き合う皮膚。腐ったスライム状の形態。
丸い目の中には光も焦点も無く、不気味な唸り声が歯の揃った口腔から響いてくる。
バスケットボールほどの大きさはあるだろうか。いや、僅かにだが成長している様子が見られた。
『喰って』いるのだ。このオンバシラから湧き出るエネルギーを。
このエイリアンのようにグロテスクな風貌を見て、花京院は直感する。

「スタンド……!? 地上から乗り込んできたのかッ!」

だとすれば本体はどこから操っている? 飛行するオンバシラに飛びついてくるなど相当なスピードと射程距離のスタンドだ。


346 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:08:51 zan3qhFo0

(僕達を攻撃するつもりか!? しかしコイツ……何か『ヤバイ』ぞッ! 嫌な禍々しさだ……!)

オンバシラの速度が落ちているのは間違いなくコイツの仕業だ。
すぐにコイツを倒さないとこのままでは墜落してしまう!
思うが否や、花京院は即座に攻撃に移った!


「エメラルド・スプラーーーーッシュ!!!!」


散弾銃のように発射された煌びやかな弾幕は、後尾にしがみつく敵目掛けて光を放ちながら飛んでいく。
この至近距離でこれだけの数の攻撃を躱すことなど到底不可能。花京院はそう思った。

しかし攻撃が命中する前に敵スタンドは形態を変化し、数本の触手のような物でなんとエメラルド・スプラッシュの弾幕を全て掴み取ったのだ。

「GYYYYAAHHHHHHHHHHHHーーーーーーーーーッ!!!!!」

猛獣のような咆哮。花京院は背筋を凍らせる。
今のありえぬ動き。1つ2つ弾くならともかく、コイツは放った弾幕全てを『掴んだ』のだ。
とても遠隔操作のスタンドとは思えない正確な動きと超スピード。まともに戦えば負傷必須だ。

(……おかしい、理屈に合わないぞ。これほどのスピードと正確性、本体がどこか近くに潜んでないと納得出来ない……!)

空を飛んでいるのにどこか『近く』?
やはり妙だ。この速度と高度を飛ぶオンバシラの上まで地上から遠隔操作する者など……
それにさっきのコイツの動き、どこかで本体が見ていないと反応できるようなスピードではない……!
いや、『探知』か……? コイツは僕達の『何か』を探知して、『自動的』に攻撃してるんじゃあ?

『自動操縦』! だから遠隔操作でもあんなスピーディな動きが出来るッ!


「か…花京院くんッ! もう無理です! 墜落しますッ!」

「東風谷さんッ! 足に固定させた『ネジ』を外すんです! 早くッ!」

今はこの敵よりもまずは無事に着地出来ることが重要だ。
早苗は言われたとおりに『ナット・キング・コール』でオンバシラと足を固定させたネジを外し、2人の足を自由にさせた。

「それで、この後はどうするんですか!? 花京院く―――」

早苗が言い終わらないうちに花京院が彼女の身体をガシっと抱きしめた。
これには流石に早苗も仰天する。

「わあっ!?!? ちょ……! 花京院くん!? どこ触って……!!」

「飛びますッ!!!!」

フワ……

一瞬だけ重力から解放された感覚を味わい、次の瞬間2人の体はオンバシラから投げ出された。


「キャアアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッッッ!?!?!?!?」


早苗の絶叫をよそに、花京院はすぐに自分のスタンド『ハイエロファント・グリーン』を展開させた。
スタンドをヒモ状に細く分け、何重にも薄く重ね合わせる。
やがて出来たそれをマットの代わりとし、自分たちの下に敷く。
多少の空気抵抗も生まれ、落下の速度を減少させてくれる。
すぐ真下の地上では、黄色い草原が広がっていた。地図によれば確かここは『太陽の畑』と書かれた向日葵畑。
花を潰してしまうのは心痛いが、土も柔らかいだろう。死ぬことはないはずだ。

上を見れば、さっきのスタンドはオンバシラの上に張り付いたままだった。

(追って来ない……? 何故……?)

最悪、落下しながらの戦闘も考えていた花京院にとっては僥倖だが、何か引っ掛かる。
だが何となく、敵の『特性』も見えてきた気がした。

考えるのも束の間、すぐ下には地上が見えている。
花京院は広げたスタンドのマットを今度は何重にも網のように重ね、『ネット』を生成。
落下の衝撃に備え、早苗を抱きしめる腕に一層力を込めた。

そして―――


「うおおおぉぉぉぉーーーーーーーーッッッ!?!?」

「きゃああああああああああぁぁぁぁッッッ!?!?」


ド ォ ォ オ オ ー ー ン ッ !!



早苗の奇跡を操る力かは定かではないが、2人は無事に怪我なく『着陸』した。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


347 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:09:56 zan3qhFo0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「―――花京院、典明……!」


「……ポル、ナレフ?」


2人の男が向き合っていた。
それは遥か遠いエジプトへの路を共に旅してきたかけがえのない仲間。
花京院の感覚ではつい数時間別れていただけに過ぎないが、実に数年ぶりの再会のようにも思えた。
思いがけない『友』との出会いに、花京院の心もすぐに喜びで満ちる。

「ポルナレフ! 心配したぞ! だが…あぁ、無事で本当に良かった……!」

落下の衝撃で多少ふらついたが、花京院はすぐにポルナレフへと駆け寄った。
しかし、


「それ以上近づくなッ! 俺の許可なく足を動かせば瞬間、細切れにしてやるからな。まず色々質問させてもらうぜ」


2人の間には、致命的な『ズレ』があった。
花京院の足が止まる。

「ポルナレフ……!? 何を突然言い出す?」

「貴様はジョースター一行の花京院典明だったか? 悪いが俺はよく知りもしねー奴をそう易々と近づけるほどアホじゃねーぜ。
 まず、何だっていきなり空から降ってきやがる? 人間大砲の練習でもしていたか?」

ポルナレフはそう制し、『シルバー・チャリオッツ』の剣を向けてきた。それは間違いなく花京院もよく知るスタンドの姿だ。
だからこそ花京院は余計に混乱する。ポルナレフが今放った言葉の意味がよく分からなかった。

「おいポルナレフ! お前はジャン・ピエール・ポルナレフだろう!? 僕のことを忘れたとでも言うのか!?」

「あぁ? だから花京院典明だろう? 随分馴れ馴れしい奴だな」

「ポルナレフ……? 何だ、コイツらお前の知っている奴か?」

「あの……花京院くん? どうしましたか? ポルナレフさんって、確か花京院くんのお仲間でしたよね……?」

相方の様子にジャイロと早苗も疑問を投げてきた。
花京院は動揺する。まるで自分の事を殆ど知らないかのようなポルナレフの口ぶり。
これでは自分の気が違っているみたいではないか。
だが事実、彼は僕をよくは知らないと言い、僕だけが彼を仲間として見ている。
これはどういうことだ? この一方通行の理解はどう解釈すればいい?
まさかコイツ、足を滑らせて頭でも打って……いやいや、彼は確かにマヌケな所はあるがそこまでマヌケでもない、と思う。
目の前のポルナレフの瞳には、嘘や演技の色は見えない。それは確かに『警戒』しているような目をしていた。


348 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:10:48 zan3qhFo0
花京院は混乱を極める頭をどうにかして冷静に考え、ひとつずつ順序立てて考えることにした。
もし考えを誤れば最悪、花京院は仲間の手によって斬り裂かれることになりかねない。
落ち着いて、ロジックを組み立てるように思考する。

そもそも不可解なのはあの『名簿』と支給品の『記憶DISC』だ。
死んだ者の名が載る参加者名簿。未来の承太郎の記憶。
荒木と太田が『時間を操る』能力を有している可能性は最初に考察したばかりだが、しかしそんなことが本当にありえるのか?
いや、これを確かめる簡単な方法があった。

「ポルナレフ……。ひとつ聞きたいが、君はこの会場に連れて来られる前、『何処』に居た?」

「……おい、質問してるのはこっちだぜ。次ナメた口きくと八つ裂きにして―――」

「―――頼む。答えて欲しい。 ……ポルナレフ」

深く頭を下げる花京院を見て、ポルナレフは何故だか答えなくてはいけない。そんな気持ちになった。

「……中国のタイガーバームガーデン。そこで『魔術師の赤』のアヴドゥルや貴様たちと戦おうとしていた。
 次の瞬間、俺は気付いたらここに連れてこられていた。これがお気に召す回答か?」

バラバラだったピースがカチリと組み合った。

それと同時に花京院は途方も無い脱力感に覆われ、目の前が真っ暗になった。
ここにいるポルナレフは確かに花京院の知る男であり、そして花京院の知らない男だった。
50日間に渡るエジプトへの旅は花京院にとって、そしてその仲間達にとって何にも代えがたい物となった。
しかしこのポルナレフはその思い出も、絆も、一切を持ち合わせていないポルナレフ。
友情を何よりも大切に想う花京院にとってその事実は、この上なく辛い衝撃を与えた。

「そう、か……そうか……。君は……僕の知っているポルナレフでは、なかったのか……」

「……花京院典明、アンタ…俺のことを知っているのか……?」

項垂れる花京院を見て、流石にポルナレフも違和感を覚えてきた。
何か会話が噛み合わない。まるで自分と花京院が友人同士だと言わんばかりだ。
重苦しい雰囲気が漂う中、ポルナレフの後ろに立つジャイロが口を開く。

「おいお前さん、あんたこのポルナレフをよく知っているみたいだな?
 ……オレにも何となく察しがついてきたぜ。神子やメリーが話していたな。
 このゲームの参加者はどうも『違う時間軸から連れてこられた』と……。
 オレの言いたいこと分かるかポルナレフ?」

「………!」

ジャイロの言葉を受け、ポルナレフにもようやく察してきた。
DIOの支配から解かれたとはいえ、この花京院はポルナレフの最後の記憶の上では敵ではあった。
今のポルナレフの居場所は、幽々子やメリーらの隣であることは間違いない。花京院は自分からすれば赤の他人も同然。
だがこの花京院の表情は、何か自分達の間にどうしようもない『ズレ』が存在するのではと思わせるには充分だった。

こんな時、どうすればいいのか分からない。
だがこのままでは『納得』することも出来ない。
ポルナレフという男は、花京院と同じ様に友情を何よりも大切に想う人間だったからだ。

「……花京院典明。次は俺の質問だ。 ……俺はあんたにとって『何だ』?」

答えを聞くのが少し恐ろしくもあった。
もしもポルナレフの想像している通りの答えだったならば、2人の中で決定的な『何か』が壊れてしまう気がする。
それでも聞かないわけにはいかない。それがポルナレフにとっての『納得』であった。
伏せていた顔を上げた花京院の表情はとても辛そうであり、それがポルナレフには泣いて見えた。


349 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:11:25 zan3qhFo0


「―――このDISCを頭に挿してください。それで全てが……理解出来るはずです」


しかし花京院が次に言った言葉は、ポルナレフの予想にしない内容だった。
そう言って差し出された彼の手には1枚の『DISC』。円盤だ。
わけがわからなかったが、花京院の目は至って真面目である。
怪しみながらもポルナレフはそのDISCを受け取り、躊躇しながらそれを頭に挿して―――


―――そして、一瞬で全て理解出来た。


未来の空条承太郎の記憶。その中に眠る50日の旅が鮮明にポルナレフの中に蘇る。
いや、それはここにいるポルナレフ自身体験したことの無い、いわば偽りの記憶。
未来のポルナレフが体験するはずだった数々の出来事が、まるで走馬灯のように頭に流れ込んでくる。


―――『いっておくがジョースターさんッ! 俺はこのままおめおめと逃げ出すことはしねーからなッ!』
―――『僕もポルナレフと同じ気持ちです』
―――『いやだッ! 俺は逃げることだけはできねえッ! アヴドゥルとイギーは俺のために死んだッ!』
―――『承太郎……この旅行は…実に楽しかったなあ……色んなことがあった…』
―――『まったく、フフフフフ…。本当に…楽しかった…50日間じゃったよ』
―――『花京院! イギー! アヴドゥル! 終わったよ……』
―――『つらいことがたくさんあったが…でも楽しかったよ。みんながいたからこの旅は楽しかった』
―――『そうだな……楽しかった…心からそう思う…』
―――『それじゃあな!! しみったれたじいさん! 長生きしろよ! そしてそのケチな孫よ! 俺のこと忘れるなよ!』
―――『また会おうッ! わしのことが嫌いじゃあなけりゃあな! …マヌケ面ァ!』
―――『忘れたくてもそんなキャラクターしてねえぜ…てめーはよ。元気でな……』



―――『あばよ……』



映像はそこで途切れた。
否。堪らなくなってポルナレフが自ら取り出した。

所詮は他人の記憶。自分が体験したものではない。
だが空条承太郎というかけがえのない仲間の記憶は、DISCによってポルナレフの脳にリアルな感情と情景をもたらした。

ポルナレフには気の知れた友人などは居ない。
復讐に身を委ね、孤独に生きてきたといっても良いだろう。

だが確かに……確かに自分には仲間が居た。友人が居た。想い出があった。
孤独だった自分の人生には、何よりも大切な『居場所』があったのだ。
それを知れただけで、失った幸せを取り戻せた感覚になれた。

彼は同時に恥じた。
仕方の無いこととはいえ、目の前の花京院との友情を侮辱したも同然だったのだから。
しかしこんな自分が許されるのなら、もう一度。

「すまねえ……! す、まなかった……『花京院』……っ! 俺は……おれは……っ」

もう一度だけ、『友』でいて欲しい。
涙を流しながら懇願するポルナレフの姿に、花京院は。

「……これは、『仲直りの握手』だ。 ……ポルナレフ」

涙を溜めた笑みを浮かべながら、腕を差し出す。
その言葉の意味はかつての花京院とポルナレフの2人しか知らない、深い意味となるもの。
故にDISCにも存在しなかったその記憶が無い今のポルナレフでは、その言葉の真の意味は計れない。
しかし不思議なことにポルナレフには、その『仲直りの握手』が2人にとって大きな意味となることが何となく分かった。

ポルナレフは間を置かず、その握手に応えた。
嗚咽を流し震える友の肩を、花京院は優しく叩く。



はぐれた銀屑の星は、いま再びかつての煌きを取り戻した。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


350 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:11:59 zan3qhFo0

「そうか……、じゃあ君はこのままメリーさんを助けに行くのだな」

「ああ! お前の事も心配だが、彼女達も俺の『居場所』に違いねえ! そこだけは曲げられねえぜ!」

「フフ……。やはりポルナレフはポルナレフのままだな。いつもの真っ直ぐな君だ」

「あー? なにワケのわからねえこと言ってんだよ花京院」

あれからすぐにお互いの状況を簡潔に話し、4人は状況を再確認した。
青娥急襲のこと。神子の死。攫われたメリー。
八坂神奈子を探してこの地まで来たこと。途中謎のスタンドに襲われたこと。
ポルナレフとジャイロはすぐにメリーの救出に向かうという。
花京院は仲間として彼らに同行したい気持ちもあったが……

チラリとジャイロの傷の手当をしている早苗の方を振り向く。
ジャイロの千切れた右腕は、早苗の『ナット・キング・コール』によって応急の接合処置は施されている。
所々喰われた肉片の欠損は目立つがこれで以前のように鉄球を投げられるはずだ。
手持ちの止血剤でジャイロの手当てをしながら早苗は花京院の視線に気付き、申し訳なさそうな顔をした。

「私も出来ればメリーさんの救出をお手伝いしたい所ですが……私にはやるべきことがあるんです。
 すみません。でも花京院さんが御友人を協力したいのであれば私は止めたりなんかしません」

花京院と早苗の方も、やるべき使命はあった。
逃げた神奈子を追い、その凶行を止める。
花京院の天秤は多少揺らいだが、それでもポルナレフの事を信頼して、こう言った。

「ポルナレフ。僕たちの方も優先すべきことがあります。ですから残念ですが、君の方を手伝うことは難しいようです」

「ああ。お前ならそう言うと思ったよ。 ……早苗ちゃん、しっかり守れよ」

「君こそ、メリーさんを絶対救ってくださいね」

まるで昔からの親友同士のような会話。
そんな台詞にポルナレフは心の中が温かくなる。


「さあ、オレの方も治療は終わったぜ。そうと決まったらさっさと行くぞ、ポルナレフ
 ……神子の仇は絶対に取らなくちゃならねえからな」

ジャイロが繋ぎ終えた右腕をグルングルン回しながら歩き始める。
ポルナレフもすぐにそれに倣い、覚悟を固めた。
神子を失った事実は、ポルナレフにも大きな衝撃を与えたのだ。
これ以上、誰も失わせない。そんな覚悟で2人は歩き出す。

「花京院くん。 ……私達もそろそろ」

「……ええ」

こんな狂ったゲームの中でも、彼らには彼らの道がある。
願わくばもう一度、彼らの道と僕らの道が交差することを願って……

ポルナレフたちを見送りながら、「そういえばオンバシラを失ったから次からは歩きですね」と花京院が早苗を振り返った

―――時だった。



「―――東風谷さん。振り返らないで下さい。 ……ゆっくりです。ゆっくりこっちへ、歩いて来て下さい……!」



花京院の顔色が激変した。
早苗の、いや早苗の『後方』を凝視しながらゆっくりと手を差し出している。
その様子に早苗はただならぬ予感を感じ、冷や汗を流しながら―――後ろを振り返った。


351 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:12:28 zan3qhFo0



「GYYYYYAAHHHHHHHHHHーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」



そこには再び悪魔が居た。
さっきよりも更なる巨大な姿で、その獰猛な牙を早苗に光らせて。

「ひ………っ!!」

「東風谷さんそこを決して動くなッ!!! こいつは何かを『探知』してそれに向かって動いているッ!
 ポルナレフゥーーーッ!! ジャイロォーーーッ!! さっきのスタンドだァーーーッ!!」

すぐさまポルナレフとジャイロを呼び戻し、花京院は思考を開始した。
ジャイロ曰く、このスタンドは本体が既に死亡しているという、今までの常識を覆すスタンド。
ならばやはり『自動的』! コイツは何を探知して動いているッ!?

ジャイロは最初、コイツは回転する鉄球に向かって攻撃してきたと言う。
そして次に走り寄って来たポルナレフを襲い。
窮地の所を今度は空に向かって飛んでいった。
恐らく飛行する僕たちを感知して!
最後に飛び降りた僕たちを無視し、飛び去っていくオンバシラに残ったまま飛んでいった。
コイツが今この場に居るのは多分、オンバシラのエネルギーを全て喰らい尽して落下したからだろう。
そしてここまで近づいて来た。
もう確実だ……! コイツの探知している物が分かった!

「おい、花京院……このバケモン、さっきよりデカくなってねーか?」

「おい……おいおいおいおいおいこんな奴どーやって倒すんだ?」

「ポルナレフ、ジャイロ。よく聞いてください。コイツは恐らく『動いているもの』を最優先で攻撃してきます。
 それもその速度が速ければ速いほど、より速いスピードで追いついて来るのでしょう。
 減速しながら落ちる僕たちに反応せず、コイツは飛行するオンバシラにしがみついたままだった。
 至近距離でのエメラルド・スプラッシュも全て受け止められたんだ。絶対に素早く動いてはいけませんよ……!」

花京院、ポルナレフ、ジャイロが3人並ぶように戦闘態勢をとった。
花京院たちと敵との間に挟まれるような形で、固まって動けない早苗が膝を振るわせる。

「東風谷さん、ゆっくりです……! そこからナメクジのようにゆっくりとこちらへ戻って来てください……!」

「なななナメクジって、この状況でそんな悠長な……!」

「早苗ちゃん早く! いや、遅く! 中国人のする太極拳のようにゆっくりとだぞ……!」

「…ポルナレフ、君たちはすぐにメリーさんの元へ向かってください。コイツは僕と東風谷さんで何とか……」

「バーーーカ! 俺を舐めてんじゃねえぞ、お前達だけで戦わせるわけにはいかねえだろーが!
 みんなでコイツを『秒殺』してすぐにメリーを追うぜ!」

今やこの怪物は人間大ほどの大きさにまで巨大化している。オンバシラのエネルギーを取り込んで成長したのだろう。
果たしてこんな敵が倒せるのか……? だが花京院らが旅した中で、無理だ無謀だのなんて言葉は無かった。


コイツはこの世から消さなければならないッ!


『法皇』と、『銀の戦車』と、『鉄球』を構え、不死の化物との戦いが始まった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


352 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:13:03 zan3qhFo0
【E-6 太陽の畑/朝】

【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:体力消費(中)、右脇腹に大きな負傷(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部、不明支給品0〜1(現実のもの、本人確認済み)、基本支給品×2(本人の物とプロシュートの物)
[思考・状況]
基本行動方針:承太郎らと合流し、荒木・太田に反抗する
1:目の前のスタンドを倒す。
2:東風谷さんに協力し、八坂神奈子を止める。
3:承太郎、ジョセフたちと合流したい。
4:このDISCの記憶は真実?嘘だとは思えないが……
5:4に確信を持ちたいため、できればDISCの記憶にある人物たちとも会ってみたい(ただし危険人物には要注意)
6:青娥、蓮子らを警戒。
[備考]
※参戦時期はDIOの館に乗り込む直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。
 これにより第6部でホワイトスネイクに記憶を奪われるまでの承太郎の記憶を読み取りました。が、DISCの内容すべてが真実かどうかについて確信は持ってません。
※荒木、もしくは太田に「時間に干渉する能力」があるかもしれないと推測していますが、あくまで推測止まりです。
※「ハイエロファントグリーン」の射程距離は半径100メートル程です。
※ポルナレフらと軽く情報交換をしました。


【東風谷早苗@東方風神録】
[状態]:体力消費(中)、霊力消費(中)、精神疲労(小)、右掌に裂傷(止血済み)、全身に多少の打撲と擦り傷(止血済み)
[装備]:御柱@東方風神録、スタンドDISC「ナット・キング・コール」@ジョジョ第8部
[道具]:止血剤@現実、十六夜咲夜のナイフセット@東方紅魔郷、基本支給品×2(本人の物と美鈴の物)
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。この殺し合いを、そして神奈子を止める。
1:後ろのスタンドをどうにかする。取り込まれたオンバシラも取り返したい。
2:『愛する家族』として、神奈子様を絶対に止める。…私がやらなければ、殺してでも。無関係の人はなるべく巻き込みたくない。
3:殺し合いを打破する為の手段を捜す。仲間を集める。
4:諏訪子様に会って神奈子様の事を伝えたい。
5:3の為に異変解決を生業とする霊夢さんや魔理沙さんに共闘を持ちかける?
6:自分の弱さを乗り越える…こんな私に、出来るだろうか。
7:青娥、蓮子らを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくとも星蓮船の後です。
※ポルナレフらと軽く情報交換をしました。


【ジャン・ピエール・ポルナレフ@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(中)、身体数箇所に切り傷、胸部へのダメージ(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:メリーや幽々子らを護り通し、協力していく。
1:メリー救出。
2:花京院たちと協力してこの敵を秒殺する!
3:仲間を護る。
4:DIOやその一派は必ずブッ潰す!
5:八坂神奈子は警戒。
[備考]
※参戦時期は香港でジョースター一行と遭遇し、アヴドゥルと決闘する直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。3部ラストの承太郎の記憶まで読み取りました。
※はたての新聞を読みました。


【ジャイロ・ツェペリ@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(中)、身体の数箇所に酸による火傷、涙と洟水(現在ほぼ沈静)、右腕欠損(ネジで固定)
[装備]:ナズーリンのペンデュラム@東方星蓮船 、ジャイロの鉄球@ジョジョ第7部(欠損多し)
[道具]:ヴァルキリー@ジョジョ第7部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョニィと合流し、主催者を倒す
1:目の前のスタンドを倒す。
2:メリーを救出。
3:青娥をブッ飛ばし神子の仇はとる。バックにDioか大統領?
4:ジョニィや博麗の巫女らを探し出す。
5:リンゴォ、ディエゴ、ヴァレンタイン、八坂神奈子は警戒。
[備考]
※参戦時期はSBR19巻、ジョニィと秘密を共有した直後です。
※豊聡耳神子と博麗霊夢、八坂神奈子、聖白蓮、霍青娥の情報を共有しました。
※はたての新聞を読みました。

※E-6 太陽の畑に豊聡耳神子の死体が置かれています。


353 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:13:51 zan3qhFo0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽





「ポ……ポルナレフさんッ! ジャイロさぁーんッ!!」

「……っ!? 阿求!? 来るなッ!! 危険だッ!!」


動けば殺られる膠着状態が少し続いた中、遠くから阿求が駆け寄ってきた。
その様子は周章狼狽といった感じで、躓きそうになりながら慌てて向かって来ている。
ポルナレフは阿求を近づかせまいと大声で叫んだが、彼女はそれどころではないほどに取り乱していた。

「ごめんなさいッ!! わ、私のせいで…私が止めるべきだったのに……ッ!」

要領無く、なんとも的を射ない言葉だったが、ポルナレフは直感的に嫌な予感がした。





「―――幽々子さんが……っ! 幽々子、さんが……っ!」


「―――な、に……? 幽々子さんが、どうしたって……!?」







▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


354 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:14:29 zan3qhFo0





ひた、ひた、ひた。

行き処を見失った亡霊のように。
死してなお動き続ける亡者のように。
空虚を宿した瞳で、取り留めの無い足取りで、目覚めた女は歩く。

力無くだらんとぶら下げた右腕には従者の愛刀。
この刀で誰を斬らんとするのか。
何も、何も分からない。
彼女には、何を信じて良いのか分からない。

ただひとつ。
『彼女』に会わなければ。
その想いひとつで、泳ぐように進む。




「ゆかり…………あなた、いま………どこに…いるの………? ねえ、……ゆかり………どうして……」




Chapter.5 『DEAD DREAM』 END


355 : DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想 ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:15:21 zan3qhFo0
【E-6 北の平原/朝】


【西行寺幽々子@東方妖々夢】
[状態]:茫然自失、霊力消費(小)、疲労(小)、左腕を縦に両断(完治)
[装備]:白楼剣@東方妖々夢
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。しかし…
1:紫に会って真偽を問う。
※参戦時期は神霊廟以降です。
※『死を操る程度の能力』について彼女なりに調べていました。
※波紋の力が継承されたかどうかは後の書き手の方に任せます。
※左腕に負った傷は治りましたが、何らかの後遺症が残るかもしれません。


【稗田阿求@東方求聞史紀】
[状態]:疲労(中)、自身の在り方への不安
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン@現実、生命探知機@現実、エイジャの赤石@ジョジョ第2部、稗田阿求の手記@現地調達、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いはしたくない。自身の在り方を模索する。
1:私なりの生き方を見つける。
2:メリーを助けたい。
3:幽々子さんも追わなきゃ…!
4:主催に抗えるかは解らないが、それでも自分が出来る限りやれることを頑張りたい。
5:荒木飛呂彦、太田順也は一体何者?
6:手記に名前を付けたい。
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談以降です。
※神子が死んだことはまだ知りません。
※はたての新聞を読みました。


○支給品紹介

<催涙スプレー@現実>
魂魄妖夢に支給。
相手の顔面に向けて噴射する小型スプレーの防犯・護身グッズ。
カプサイシンを主成分としたOCガス(トウガラシスプレー)がスプレー缶より勢いよく噴射される。
これを顔面にスプレーされると皮膚や粘膜にヒリヒリとした痛みが走り、咳き込んだり涙が止まらなくなるなどといった症状が現れる。

<音響爆弾@現実>
星熊 勇儀に支給。
3個セットの非破壊・非致死性手榴弾。安全ピンを抜いて数秒後に爆発する。
爆発時の爆音・閃光により、付近の者に一時的な眩暈、難聴、耳鳴りなどの症状を起こす。

<スタンドDISC「ノトーリアス・B・I・G」@ジョジョ第5部>
破壊力:A スピード:∞ 射程距離:∞ 持続力:∞ 精密動作性:E 成長性:A
魂魄妖夢に支給。
自動操縦型のスタンド。本体が死亡することによって初めて発現する。
本体がいないため射程距離がなく、肉体やスタンドなどのエネルギーを取り込んでいくので持続力も無限大である。
またエネルギーを取り込む度に巨大化していく。
近くにあるものの中で『最も速く』動くものをそれと同じスピードで最優先に追跡し攻撃するが、逆に速く動きさえしなければ攻撃されることもない。
細切れになっても破壊されても永遠に再生を繰り返し、実質的には不死のスタンド。完全殺害不可能。


356 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/13(木) 16:18:24 zan3qhFo0
これで「DAY DREAM 〜 天満月の妖鳥、化猫の幻想」の投下を終了します。
相当長くなってしまいましたが、ここまで見てくださった方ありがとうございました。
また、期限超過申し訳ございません。
感想、ご指摘ありましたらお願いしましす。


357 : 名無しさん :2014/11/13(木) 23:16:05 U5RhIdZQ0

長ァァァァァァァァいッ!説明不要!!

ホントに長編投下乙です
色々褒めちぎりたいけどどこから褒めりゃいいのかよくわかりません!

個人的にはグッと来たのが、死に際の神子がジャイロに向日葵を託したシーンでしょうか
視界不良のジャイロが黄金長方形のスケールの発見、反撃に繋がるのが最高でした。
女の子喜ばせたものが、今度は主人公の力になって戻ってくるんだから熱くないわけがない。
神子の回想でも 『他人の声が聴けなくなるのが、こんなに悲しいなんて……』が本当に切ないの一言。

そんな展開をぶち壊した青娥ちゃんホントだいきらい。だいすき


358 : 名無しさん :2014/11/14(金) 02:09:12 CPKQs8460
邪仙に幽々子に神奈子にどっちに行けばいいの!?そしてスターダスト達が色々欠けつつも集う!
…イギーはともかくなんでアヴさんは参戦できなかったんや…


359 : 名無しさん :2014/11/14(金) 23:49:19 d.yPFECQO
投下乙です。

親方!空から女神が!

鉄球は高速回転だし、チャリオッツはスピードが武器だし、ノトーリアスとは相性悪いな。

幽々子様は当分追えないだろうな。


360 : 名無しさん :2014/11/15(土) 00:43:25 W.VAkANw0
投下乙だけどいくつか疑問点があったので書く

その1幽々子を安全に休ませられる場所として太陽の畑が選ばれたのはなぜ?
青娥達に発見されてることからして、身を隠すに適した訳でも無さそうだし
ただ休ませるにしても永遠亭に引き返した方が良いのでは?

その2アヌビス神はデイパックに隠せるの?
Dioはアヌビス神の紙は回収してないし、デイパックに入れるのは無理なのでは?

その3なんでノトーリアス・B・I・Gはポルナレフ達の近くにいるの?
花京院達の落下よりも早い速度で進むオンバシラを乗って行ったんだから、もっと遠くにいるのでは?

4その時間は午前くらいでいいんじゃない?
朝のままだと蓮子達が朝だけで7、8エリアくらい動いてることになる。
さすがに時間が経つのが遅すない?


とりあえすこの4つが気になった
自分が細かいこと気にしすぎなだけの気もするが、気になっちゃったものは気になっちゃったので、できれば答えて欲しい


361 : 名無しさん :2014/11/15(土) 11:07:59 QSNMfS/60
>>360
その2に関してはアリスやうどんげが永遠亭で回収した医療器具等の物品をデイパックにしまっていたり、
支給品でもジャンクDISCセットという形で複数のDISCがいっぺんに支給されてますし
デイパックの収納に関しては「その気になれば一つのエニグマに複数収納できる」くらいでいいんじゃないんかなと思います


362 : 名無しさん :2014/11/15(土) 13:30:22 m5eimG220
>>360
>太陽の畑が選ばれたのはなぜ?
危険人物はマップ隅のただの花畑なんかにわざわざ来ない。
永遠亭は施設だから目立つ。

>デイパックに入れるのは無理なのでは?
デイパックから取り出したのかどうかは明確には描写されていない。
紙から出したってことでいいのでは?

>もっと遠くにいるのでは?
オンバシラから二人が落ちた後、情報交換とかしてたからある程度時間はたっている。


時間は自分も気になった。
あと脱字があったので報告。
>何者の攻撃を受けている


363 : 名無しさん :2014/11/15(土) 16:08:17 W.VAkANw0
>>362
>危険人物は隅のただの花畑なんかにわざわざ来ない.
マップ
遠くからわざわざは来ないかもしれないけど、近くにいればちょっく覗くくらいはするんじゃない?
その辺の草原とかに比べれば目立つし、実際蓮子達は覗いてるし
隠れるなら竹林に引き返した方がいいんじゃないかと思ったんだよ

>デイパックから取り出したのかどうかは明確には描写されていない。
紙から出したってことでいいのでは?
一つの紙には一種類の物しか入れられないと思ってんだよ
だからアヌビス神を紙に入れるには他の支給品を出さなきゃいけないと思ってた
でも考えてみれば妖夢のデイパックを青娥が回収してんだから、その中にアヌビス神の紙は入ってるか
ここは問題ないわ。qSXL3X4icsさん、ごめん

>オンバシラから二人が落ちた後、情報交換とかしてたからある程度時間はたっている。
時間が経ったから来たのはわかるんだけど、視界に入らない程遠くに行ったはずなのに、何でポルナレフ達に近づいて来たかたかってこと
原作見た感じ普通に視界に入るくらいのものしか襲ってなかった気がしたから

と言うか指摘したクセに自分の文章説明不足過ぎるな
判りにくくてすまん


364 : 名無しさん :2014/11/15(土) 18:23:04 2zL9t5ow0
一応基本支給品もそれぞれエニグマの紙に入れられてるみたいだし
たとえ妖夢のデイパック回収してなくても基本支給品の紙を使えば普通に代用はできそう
取り出した基本支給品のひとつはデイパックになら直に突っ込めそうだし


365 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/15(土) 21:44:49 DUSwGXuk0
>>360
ご指摘ありがとうございます。納得頂ける答えになるかは分かりませんがお答えします。

まずその1。舞台を太陽の畑に選んだ理由ですが、これはメンバー内に迷いの竹林を掌握できている者がおらず、
距離的に1キロほどある永遠亭にまで真っ直ぐ辿り着けるか怪しいものだったからです。
また舞台のギミックなど、メタ視点な理由もあります。
にゃんにゃん達が真っ直ぐ主人公達の場所を目指せたのは匂いを覚えたDioの翼竜が案内していたからです(前話参照)。

次のその2の「デイパックにアヌビス神は入るのか」ですが、これは手持ちのエニグマの紙に収納しています。
過去にてゐが一枚の紙に色々なコンビニ品を入れまくっていた事もあり、紙には何種類の物でも入れることが出来ると判断しました。

次のその3ですが、これについては全くのその通りであり、実は結構痛い点です。
ノトーリアスから一旦逃れる→情報交換で少し時間が経つのでその間に近づかれる、といった苦し紛れな展開になってますがやはり少し無理があるかもしれません。
後に少し修正版を出そうかと思います。

最後のその4、時間ですがこれは少し悩みました。
午前の時間帯にしようかとも検討しましたが、それだとジャイロ達が2時間の間ほぼ何もせずに太陽の畑で呑気に過ごしていたことになり、
実質的に貴重な『朝』の時間がほぼ潰されてしまうのは少し勿体無い気もしたからです。
で、青娥たちの移動した距離なんですが朝になって猫の隠れ里を移動し、紅魔館へ。
そこから太陽の畑へ真っ直ぐ進めば地図上の距離だとおよそ4マス無いぐらいなので、全体合わせて約6キロ。
人が1キロ歩くのに約12〜13分だと言われてますから1時間少しあれば辿り着ける距離ではあります。
ジャイロ達が竹林そばで放送を聴き、すぐに太陽の畑へ移動してそこから半刻(1時間)過ぎた程で青娥の急襲を受ける。
あまり時間を明確にすると後の時間辻褄合わせが(リレー的な意味で)ややこしくなりそうなので、敢えて時間をぼかすような表現はそこそこあります。
自分でも無理があるかないかのギリギリの時間想定で進めましたが、それでも午前中の方が自然であれば変更したいと思います。

以上が(ちょっと厳しい)回答です。
これで納得のいくものになっているかは計れませんが、ご指摘は作品を見返せる良いきっかけなのでどんどんバッチコイです。
ありがとうございます。


366 : 名無しさん :2014/11/15(土) 23:36:41 W.VAkANw0
>>365
返信ありがとう

その1は自分が細かいこと気にしすぎなだけの気もするし、それでいいと思う。修正は必要なもんではない

その2は穴だらけに指摘だった。これについては本当にすまん

3は修正するそうだから飛ばしてその4
>それだとジャイロ達が2時間の間ほぼ何もせずに太陽の畑で呑気に過ごしていたことになり
ロワだと一回の戦闘に二時間近くかかることもよくあるし別にいいと思う
むしろ時間を進めることを躊躇って、次の放送までのテンポが悪くなる方が問題だと思うんだよね個人的には。日中動けない人達もいるし
あとあんまり一つの時間で動けると、参加者に近くにいる意味が薄れる気がするっていうのもある

あとこれは指摘じゃなくてふと疑問に思ったからついでに聞きたいんだけど、翼竜ってどうやってメリーのニオイ覚えたの?
DIOは直接あったわけじゃないからニオイまではついてないと思うし、なんかメリーのニオイがついたもの持ってったっけ?


367 : 名無しさん :2014/11/16(日) 00:06:19 Mfbmw4WYO
>>366
メリー達の事を報告した翼竜が、案内したんじゃないか?


368 : 名無しさん :2014/11/16(日) 00:50:15 4R8uVcT20
>>366
時間に関しては第一回放送前でも深夜から一気に早朝へ行った組もいますし
個人的にはそんなに厳しく見なくてもいいんじゃないかなぁと思いますね
最終的な判断は書き手さんに任せていいと思います

メリーに関しては以前の話でディエゴが複数の翼竜で会場全体を偵察してましたし
>>367氏の言う通り翼竜を使って偵察と案内をしていたのでは


369 : ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:05:19 I/IZV8j20
エシディシ
投下します。


370 : 大脱走  ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:06:14 I/IZV8j20

ぽつぽつと点滅している数々のランプ。
打ち付けられたコンクリートがはげている。
そんなじめじめとした薄暗い地下通路を一人の男が一心不乱に走っていた。
彼は柱の男の『エシディシ』
彼は数刻前、禁止エリアとなったB-4から抜け出すために、
DIOの館にあった地下通路から駆けていた。
その表情はどこかイライラしているように見える。


しかし流石と言うべきだろうか。
彼の走るスピードはまるで馬を超えるように速い。
『二足歩行の生物が馬より速く走る』
たしかにそんなことはありえない。
平坦な道の常識では、
だが彼の姿を見れば納得…………
時速30キロは出てる。
いや時には40キロはでているか…………
だが……しかし考えれば、100メートルを10秒で走っても時速36キロだし、
長距離マラソンを2時間で走っても時速21キロだ。
だが実際に40キロ近く出ているからしょうがない。
しかもその秘密は彼の走りのフォームに理由があるようだ……


あのフォームなら納得……!
見ろ!彼の走っているときのフォームをッ!!


371 : 大脱走  ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:06:56 I/IZV8j20

ならば解説しよう
時速40キロを出せる走り方があるということを…
人間は走るときに、足が地面を蹴る「衝撃」というものがある。
その「衝撃のエネルギー」がヒザの関節や筋肉に負担となって疲労となる。
その負担はどんな強靱な脚力を持ってしても逃れることができない生理機能!!

だが彼…「エシディシ」の場合は違う!!
彼は走るときに「かかと」が地面に一瞬しか触れていないのだ!!
かかとが地面に触れたとしても!!!
決して!!踏み込んではいないのだ!!
すぐに「着地の衝撃」はつま先へ移動し……
その瞬間!!エシディシはその「移動の衝撃」を利用し!!
地面を前へと蹴り進む!!

つまりだ!!
彼は「着地の衝撃」をヒザ方向ではなくッ!!
前方へと逃しているのだ!!
結果として、エシディシの脚に疲労やダメージはなく……
むしろ!!逆に!!そのエネルギーを利用しッ!!!
加速の為に使っているのだ!!!!

この地下通路が傾きが小さいとはいえ、下り坂となっており蹴って飛べば飛ぶほど……
さらに!!さらに!!加速がついて彼のスピードは速くなっていくッ!!
そしてまた蹴ったッ!!
蹴ったッ!!蹴ったッ!!
45キロは出ているだろうッ!!

柱の男の性質上怪我をしようがすぐに直るため
彼の足の「かかと」にタコやスリへりはなく……
少年のように柔らかいはずだ。

おっと、だが自分もまねをしようと思わないでくれ。
体格の割には長い脚と、一瞬で体重移動できるスピードが必要だ。


372 : 大脱走  ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:07:34 I/IZV8j20
しかし……そんな「走り」をどこでエシディシは学んだのだろうか。
柱の男と呼ばれている彼らは生物界の頂点に君臨している。
言ううなれば「偉大な生き物」だ。
きっと、彼自身が理解していなくても自然とそのような走りになるのだろう。
彼の速い足のおかげかついに地下通路の終わりが見えてきた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「200…いや300m程は走ったな…」

彼が行き着いた先、地下通路のゴールは小さなじめじめとした丸い部屋だった。
今来た道を振り返ると、自分が通ってきた通路の壁に文字が書いてあった。
「TOM」と書かれておりご丁寧に「トム」とふりがなで書いていた。

「この地下通路に名前でもつけたのか…まったく人間がやることに理解はできんなぁ!!」

エシディシはフンッ!!っと鼻息を出すと、
走らされたイライラをぶつけるように自分が走ってきた地下通路にツバをはいた。

「それでだが…この部屋の真ん中に置かれているこれは一体なんだ?」

部屋の中央の台座にまるで取ってくださいと言わんばかりに、
一枚のDISCが置かれていた。
始めて見る物だがエシディシは迷わず手に取り、そのDISCの近くに置いてあった一枚の紙を読み出した


373 : 大脱走  ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:08:25 I/IZV8j20
『おめでとう、どうやら君が一番乗りみたいだね。
これが僕の言ってた「この会場の地下にある面白いもの」さ。
これがあれば太陽なんか怖くなくなるぜ、
まあ太陽が怖くなくなるのは吸血鬼や柱の男だけだろうけどね。
だが太陽が怖くない人でもこれがあれば楽にいろんな奴らのふところにに飛び込めるはずさ。
なぜかって?まあ騙すヤツの仲がいいやつとか…家族とか…そういうのにこのDISCを使えば簡単に化けることができるから
楽にふところに飛び込めるってわけさ。
あの一番最初に死んだ…あきみのりこ…だったけなそいつの姉の秋静葉に化けたりすれば簡単に近づけるって事。
だけど体格差には気をつけろよ、少女と柱の男とかじゃ体格差がありすぎるからな、普通に考えて化けることができないからな。
それじゃあこのアイテムを有効活用して、せいぜいあがいて見せてくれ』


374 : 大脱走  ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:09:20 I/IZV8j20
エシディシはまた「フンッ」と鼻息をだし紙の裏面を読み出した。
裏面にはDISCの使い方…そしてそのDISCを頭に挿したときに使えるスタンド名も書かれていた。
その名は…

「イエロー…テンパランス…か」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

エシディシは次に部屋を見渡すと自分が走ってきた物とは別の地下通路を二つあることに気づき、
またそのトンネルにも名前が書いてあることに気づいた。
一つは「Harry」と、「ハリー」とふりがながうたれており。
もう一つは「Dick」と、ふりがなは「ディック」とうたれていた。
そしてこの部屋には地上に上がれそうな階段のような物なく、
どうやら「ハリー」か「ディック」を選ばなければならないらしい。

エシディシはどちらを選ぶか部屋の中を歩いているとふとしたことに気づいた。

(しかし…なんだかこの部屋は臭うな…まるで肉が腐ったようなにおいがするな…)

それもそのはずだ、なぜならこの地下室は墓場の近くにあるのだからだ。


375 : 大脱走  ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:09:48 I/IZV8j20
数刻考えたエシディシは「ハリー」を選ぶと、また地下通路を走り始めた。


376 : 大脱走  ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:14:49 I/IZV8j20
【E-4 地下室/朝】
【エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】
[状態]:全力疾走中、疲労(中)、体力消耗(中)、上半身の大部分に火傷(中)、左腕に火傷(中)、左脇腹に抉られた傷(小)及び波紋傷(小)、再生中
[装備]:イエローテンパランスのDISC
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:カーズらと共に生き残る。
1:トンネルの「ハリー」の行き着く先へと向かう。
2:神々や蓬莱人、妖怪などの未知の存在に興味。
3:仲間達以外の参加者を始末し、荒木飛呂彦と太田順也の下まで辿り着く。
4:他の柱の男たちと合流。だがアイツらがそう簡単にくたばるワケもないので焦る必要はない。サンタナはまあどうでもいい。
5:静葉との再戦がちょっとだけ楽しみ。(あまり期待していない)
[備考]
※参戦時期はロギンス殺害後、ジョセフと相対する直前です。
※左腕はある程度動かせるようになりましたが、やはりダメージは大きいです。
※ガソリンの引火に巻き込まれ、基本支給品一式が焼失しました。
地図や名簿に関しては『柱の男の高い知能』によって詳細に記憶しています。



※E-4の墓場に近くに地下室がありますが、トンネルを使わなければ来ることはできません
また、トンネルの「ハリー」と「ディック」がどこに続いているかは後の書き手さんにおまかせします


377 : 大脱走  ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:15:44 I/IZV8j20
以上で大脱走の投下を終了いたします
おかしなところやミスがあったら教えてくださるとうれしいです。


378 : 大脱走  ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:18:18 I/IZV8j20
もうしわけありません修正します
【E-4 地下室/朝】
【エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】
[状態]:全力疾走中、疲労(中)、体力消耗(中)、上半身の大部分に火傷(小)、左腕に火傷(小)、再生中
[装備]:イエローテンパランスのDISC
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:カーズらと共に生き残る。
1:トンネルの「ハリー」の行き着く先へと向かう。
2:神々や蓬莱人、妖怪などの未知の存在に興味。
3:仲間達以外の参加者を始末し、荒木飛呂彦と太田順也の下まで辿り着く。
4:他の柱の男たちと合流。だがアイツらがそう簡単にくたばるワケもないので焦る必要はない。サンタナはまあどうでもいい。
5:静葉との再戦がちょっとだけ楽しみ。(あまり期待していない)
[備考]
※参戦時期はロギンス殺害後、ジョセフと相対する直前です。
※左腕はある程度動かせるようになりましたが、やはりダメージは大きいです。
※ガソリンの引火に巻き込まれ、基本支給品一式が焼失しました。
地図や名簿に関しては『柱の男の高い知能』によって詳細に記憶しています。
※左脇腹に抉られた傷(小)及び波紋傷(小)、は柱の男の再生能力で完治しました。


379 : ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:31:19 I/IZV8j20
>372の

今来た道を振り返ると、自分が通ってきた通路の壁に文字が書いてあった。
「TOM」と書かれておりご丁寧に「トム」とふりがなで書いていた。


今来た道を振り返ると、自分が通ってきた通路の壁に文字が書いてあった。
「TOM」と書かれておりご丁寧に「トム」とふりがながふってあった。

に修正します


380 : 名無しさん :2014/11/17(月) 02:39:05 RTSwGL760
投下乙です
なんだか…このエシディシとイエローテンバランスという組み合わせ…そしてこの走法の解説…どこかで見たことが…うっ…頭が…


381 : 名無しさん :2014/11/17(月) 02:40:50 ZdBXo0CI0
投下乙ですが、大して労せずスタンドDISCを入手するというのは少々やりすぎではないでしょうか?

地下道の存在だけでも、主催の言っていた「地下に面白いものが用意してある」は十分満たしていると思いますし
支給品をただ渡すだけの話ならば、個人的にはですがこの話がある必要性が薄いと感じました。

苦言を呈しましたが、ご考えください


382 : ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:41:24 I/IZV8j20
たびたび申し訳ありません修正します

>>373

あの一番最初に死んだ…あきみのりこ…だったけなそいつの姉の秋静葉に化けたりすれば簡単に近づけるって事。



あの一番最初に死んだ…あきみのりこ…だったけなそいつに化けたりしたら姉の秋静葉とかに簡単に近づけるって事。

に修正します


383 : ◆fLgC4uPSXY :2014/11/17(月) 02:46:41 I/IZV8j20
>>381さん
アドバイスありがとうございます
確かにあなた様の言う通り簡単に与えすぎたかもしれません。
ましてやそのスタンドDISCを与えたのは柱の男ですし…
エシディシが強化されすぎたかもしれません。
なので
>>372>>374
を書き直します。
投下して早々で、申し訳ありませんが修正させていただきます。


384 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:02:34 qKJzt1Rc0
投下を開始します。


385 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:02:58 qKJzt1Rc0
D-4エリア南西部、永琳は魔法の森をやや北寄りに東進していた。
永琳の視界、密生する木々の先に、ようやく開けた土地が見え始めていた。
森を抜けたすぐ先に、こじんまりとした西洋風の建物があった。


(レストラン・トラサルディとはあの建物かしら)


レストラン・トラサルディは、永遠亭の面々の仮の集合場所と定めた場所である。
先ほど別れた決闘狂いのガンマン・リンゴォに永遠亭の面々あてで言伝を頼んでおいた。
彼一人で時間までにどれだけの人数に声を掛けることができるかは分からないし、
あの後また誰かに決闘を仕掛けてそのまま死んでしまっているかも知れないが。
集合時刻は本日正午。
時計を見ると、まだ昼には早い時刻だ。朝というにも少々遅いが。


(少し、到着が早かったわね)


さて、と、首を傾げる永琳。
このままレストランに留まって輝夜たちの集合を待つか。
それとも、自分自身も彼女らの招集に出向くべきか。
そこで足を止めた永琳は、あることに気付いたのだった。

どこかから生木の香りが漂ってきている。
永琳が香りの元に振り向くと、森を抜けた訳でもないのに妙に光量が多い空間が広がっていた。
すぐ目の前の平地と大差無いほど明るいように見える。
あの空間だけ、木々がごっそりとまるごと倒され、日光を素通しにしているのだ。
このバトルロワイアルの戦闘によるものに違いない。
生木の香りは、倒され、折れた森の木々が発していたのだ。

辺りに人の気配は無し。
戦闘はもう終わった後だ。
永琳は倒れた木々に近寄り現場の検分を続けた。
永らく生きてきて尚、天才たる彼女の好奇心は衰えないのである。


386 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:03:14 qKJzt1Rc0

倒木は概ね東西に伸びる帯状の範囲で倒れており、全て東から西に向かって倒れている。
東の木々はまるごと倒されているが、西の方に進むにつれて倒れていない木も現れ始め、
西の端では細く、弱い木しか倒れていない。
また、倒木の重なり方から判断するに、東から西に向かう順番で木々が倒れている。
そして、木を倒す手段。
木は根こそぎ倒れている他は、力任せに何かをぶつけてへし折られたようであり、
焦げ跡や刃物の切断面は見つからない。
つまり、この木々を倒したのは東から西に向かって森の中を通過した、大きなエネルギーの『何か』のせいである。
足跡やワダチが見つからないことから、『何か』とは飛行する物体か、突風か……あるいは衝撃波か。

……などと思案するまでもなく、『答え』は見つかった。


(地上の妖怪……ね)


木々のなぎ倒された『始点』と思しき場所に、骨と皮だけになった『穢らわしい物体』が横たわっていた。
ワンピースのスカートを着ていることで、この物体が少女だったとわかる。
身長はてゐ以上、鈴仙未満といったところか。
頭には獣の耳。この妖怪の少女が森林破壊の犯人に違いない。
恐らく、『ヤマビコ』だ。
『ヤマビコ』の能力で音波を収束・増幅し、衝撃波として撃ち出して、この様な破壊を引き起こしたのだ。
だが、結局最期の力を振り絞ったと思しき攻撃は無駄となり……

(確かシュトロハイムが言うには、柱の男は獲物の養分を皮膚から直接吸収して仕留めるらしいわね。
 あるいは、吸血鬼にでも絞り尽くされたか)

こうして、見るも無残な穢らわしい亡骸を晒すことになったのだろう。


387 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:03:33 qKJzt1Rc0

……だが、この安らかな死に顔はどうだろう。
干からびた身体も相まって、まるで『即身仏』だ。
年若い少女である彼女が、今わの際にこの様な表情を浮かべる境地に至ったのは何故か。
彼女の人となりを知らない永琳にその理由を知る術は無かったのであった。


(ともあれ、これも貴重なサンプルね……あまり状態は良くないけれど)


永琳は支給品を閉じ込めていた『紙』を一枚取り出し、両手で広げた。
死体は肉塊だ。『モノ』だ。モノであるならば、拳銃を収納していたこの『紙』に収めて持ち運び易くできる。
広げた『紙』を両手で持ち、内側だった方を亡骸に押し当てる。
そのまま『紙』を折り曲げると、予想通り亡骸も一緒に引きずり込まれ、畳み込まれた。
即身仏もかくやという御尊顔の、何と薄っぺらいことか。
永琳は折りたたまれた『紙』を両掌で押さえつけ、感触を確かめた。
何と薄く、軽い。手を離せば、風で飛んでいってしまいそう。
死せる亡骸の何と儚き事か。
故に我々は死を厭い、月へと逃れたのだ。
久方ぶりに目の当たりにした『ヒト』の死にしばし思いを馳せる永琳。

その間も『紙』はずっと両掌の間にあった。
つまり、仏教における礼拝の仕草、合掌の仕草である。本人の意識するところではなかったが。


388 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:03:49 qKJzt1Rc0

数十秒か数分かの間、永琳が『祈りを捧げて』いると、彼女の懐で振動が走った。
慌てて『紙』をデイパックに収め、懐の振動体を取り出す永琳。


『着信中』


永琳の支給品である携帯電話が、マナーモードで着信を知らせていた。
電話を受けると、聞こえてきたのは永琳のよく知る声だった。


「もしもし? 師匠ですか? 八意永琳様ですか? 私です。鈴仙・優曇華院・イナバです。」

「ええ、私よ。永琳よ。シュトロハイムに会ったのね」

「はい。あの機械混じりの人間から、師匠の電話番号を教わりました。師匠、お怪我はありませんか?」

「私を誰だと思っているのよ、ウドンゲ。もうじきに、五体満足よ。
 それより丁度良かったわ。ウドンゲ、いま何処に居るの? 貴方と輝夜とてゐに伝えたいことがあるのよ」

「……『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』、ですか?」

「リンゴォにも会ったのね、話が早くて助かるわ」

「差し出がましいようですが、レストラン・トラサルディーは、危険です。
 先ほど、私はあの場所で待ち伏せている者から襲撃を受けました。
 私は何とか逃げることができましたが、まだ奴がそこにいるかもしれません。
 あの場所は集合場所には適さない、と私は判断します。
 それからもう一つ……申し訳ございません。今、私は集合に応じることができません。どこであろうと」

「……何があったのか、順を追って話してもらえるかしら」


389 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:04:15 qKJzt1Rc0
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

それから永琳は鈴仙の現在までの経緯を訊いた。
ゲームの開始直後、いきなりスタンド使いの人間が覚(サトリ)を攻撃するところを目撃してしまったこと。
それを見て怖くなって永遠亭まで逃げてきたこと。
錯乱したまま永遠亭に辿り着いて魔女に会い、介抱を受けたこと。
そこで先ほど覚を襲っていたスタンド使いに襲撃を受け、今度は必死の思いで撃退したものの、
魔女は助からなかったこと。

まずはそこまでである。
襲撃者の操るスタンドは強力なスピードとパワーを持つ上、『時間を数秒間吹き飛ばす』という能力を持っていたらしい。
スタンド能力には、時間に干渉する能力が多く存在するのだろうか。


「……そんな敵を相手にして、よく無事だったわね。
 それに、今度は貴女、逃げないで戦ったのね」

「あの時は……ただ、必死だったんです。友達を、アリスを守らなきゃって。
 アイツはすごく怖かったけど、絶対にアリスを失いたくなかったんです」


そこで永琳は違和感を感じた。
鈴仙は『覚』や『魔女』などという地上の妖怪について、まるで知り合いか、友達であったかの様に話すのだ。
鈴仙が地上に流れてきてからもう40年程になるが、
それから今までずっと彼女は永琳達とともに歴史の止まった永遠亭に隠れ住んでいた。
その間永遠亭を訪れることができる者はごく限られており、
月で生まれ育った鈴仙が永琳の知らぬ間に地上の者と知り合いを作ることなどできるはずはないのである。

……まさか。
永琳の脳裏に、ある大きな『疑問』が浮かぶ。
それを永琳が口に出す間も無く、鈴仙は報告を続けた。
つい数時間前まで、永遠亭で暮らしていた家族と話すような調子で。
そういえば、些細な事だが、少し彼女の口調が永琳の知るそれより馴れ馴れしいような気がする。
ともあれ、まずは鈴仙の報告を最後まで聞くことにする。
質問はそれからだ。

さて、永遠亭を発った鈴仙はその後シュトロハイムに遭い、情報交換を行ったようである。
そして――


「第一回放送の後に、ドクロの口ヒゲの人間と遭いました。
 師匠から伝言を預かっていた、リンゴォという名前の男です。」


390 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:04:33 qKJzt1Rc0

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「そこの男、止まりなさい」


鈴仙の言葉を耳にして、男はそのゆっくりとした足取りを止めた。
第1回放送からしばらく後、魔法の森、C−5エリア北端付近でのことである。


「…………」


鈴仙は木の幹の陰から半身で身体をのぞかせて右手で銃の形を作り、人差し指を男の方へと向けている。
緩慢な動作で、男は鈴仙の方へと顔を向けた。
無表情だった男は、声の主の姿を見て何かを口に出そうとした。
鈴仙はそんな男の様子を構わずに続ける。


「おかしなマネを見せなければ、私はあんたに何もしないわ。
 ただ、私の質問に答えてくれるだけでいい」

「…………『可能性』は……僅かにある、か。だが…………」


男がつぶやくと、鈴仙はすかさず遮った。


「私の質問に答えなさい。……それ以外であんたが口を開くことは許さない。
 ……『ディアボロ』、という男を見なかったかしら」

「見ていない」

「どうしてそう言える?」

「オレがここに呼び出されてから、会った『男』は『グイード・ミスタ』だけだ。
 後は全員『女』だ」

「……本当かしら?」

「物証は、出せないな。……お前にこの言葉を信じてもらう他ない。
 ただ、俺は『嘘』が嫌いだ。この場で嘘を教えるのは『公正』でないからな。
 『公正』でない離れた卑劣な行為は、精神の力を削ぐ」


疑う鈴仙に、男は語る。
寡黙そうに見えて、コイツ意外とおしゃべりだ。
それにしゃべる時の男の目はキラキラと澄んでいて、何だか……そう。
厳しい修行を重ねた徳の高い僧侶に見えた。
彼の言うことに嘘は無さそうだ。


「……嘘は言っていないのね?」

「ああ」

「わかった。行ってよし」


391 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:04:52 qKJzt1Rc0

右手の銃を下ろした鈴仙に、今度は男が問いかけた。


「待て。長い髪に兎の耳……。お前は、鈴仙・優曇華院・イナバで間違い無いな?
 ……八意永琳という女から、伝言を預かっている」

「え、ええ。……なんだ、それを早く言ってよ」

「言おうとしたら、お前が遮ったのだ」

「ごめん。……それで師匠は何と?」

「『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』、だ。確かに伝えた」

「……ありがとう」

「もう一つ尋ねるが良いか?」

「何よ」

「『秋静葉』いう名の娘と、『姫海棠はたて』を探している。
 『静葉』は金髪に金色の眼、赤い服を着ている女だ」

「……ここではまだ見ていないわ。彼女がどうかしたの?」


男は、


「……あの小娘はグイード・ミスタを殺害した。あの小娘は殺し合いに乗っている」


とだけ短く答えた。男の声色からは憎しみがにじみ出ている。
そこで鈴仙は『察した』のだ。


「……私と同じように、友達の仇を討ちたい、というわけね」


……と。


392 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:05:10 qKJzt1Rc0

「断じて違う。……そんな『受け身』な理由ではない。
 ……俺はそのような汚らわしい『対応者』などではない」


男は鈴仙を穏やかな視線で見据え、静かな口調で否定した。


「……アンタも、私の『復讐』を否定するのね。どうでもいいでしょ、私のことは!
 アンタが静葉を追うのとどう違うっていうのよ!」

「俺はグイード・ミスタと公正な果たし合いに臨み、人としてより高度な領域に『生長』しようとしていた。
 ……秋静葉は、その決闘に横槍を入れ! グイード・ミスタを妨害し! 公正なる決闘を汚したのだッ!
 彼が俺の友人だったからとか! そのような『甘っちょろい』理由で静葉を追っている訳では、断じてないッ!」


態度を豹変させ、声高に主張する男の様子を見て、一旦頭に血の登りかけた鈴仙は自分が一気にクールダウンするのを感じた。
コイツに、話は通じない。言葉は通じるけど、決して解りあう事のできない人種だ。
そう思うと、もう彼に何を言われてもへっちゃらだった。


「……理解したわ。アンタ頭のオカシイ人なのね」

「……一般的な現代の『社会的な価値』と離れていることは、承知している。
 静葉の行方は知らないと言ったな。では、姫海棠はたては知っているか」


393 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:05:35 qKJzt1Rc0

「……そいつは何したの?」

「公正なる果たし合いを低俗な新聞記事に貶め、『電子メール』とやらを使って触れ回っている。
 奴も、この手で殺さなければならない。奴を知っているか」

「……『烏天狗』のやりそうなことね。姫海棠はたてなら知ってるわ。ここではまだ見てないけどね。
 直接は殆ど会ったことないけど、姿形は知ってる。
 紫のチェックのスカート、白いブラウスを着た、長い茶髪をおさげにした女よ。
 烏天狗は、手強いわよ。せいぜい共倒れになって二人共死ねばいいのよ」

「……情報提供、感謝する」

「……私からも一つ訊いて良い? アンタみたいなのが、どうして師匠から伝言を預かったの?」

「……………………」

「師匠と決闘して、負けたんでしょ」


男は黙って頷いた。


「そんな所だと思ったわ。良かったわね、まだ命があって。
 ……万一、アンタが師匠を殺したりしてたら、その時は私が……」

「お願いだからやめてくれ、君まで『対応者』に成り下がるのは。
 君にはわずかだが『可能性』がある。
 ディアボロとやらを追うのは、単なる『仇討ち』ではない、俺にはそう感じる。
 ……どうか、見つけ出してくれ。復讐の『先』にある、君の真の目的を。
 俺はリンゴォ・ロードアゲイン。……また会おう」


言い残して、ゆっくりとリンゴォと名乗る男は歩き去っていったのだった。


394 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:05:52 qKJzt1Rc0

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


「……と、まぁ、そんな感じの変な奴でした」


鈴仙がリンゴォとの経緯を永琳に話し終えると、彼女はくすくすと小さく笑い、


「思った通り、約束は守る男のようね」


とつぶやいた。


「全く、いくら師匠が強くても、あんなの相手にするなんてやめて下さいよ……」


呆れる鈴仙をよそに、永琳は


「それで?レストラン・トラサルディーが危険というのは、どういうことなのかしら?」


……と、次を促す。
鈴仙から出てきたのは、


「私はそこで、『八雲』の狐から襲撃を受けました」


永琳がつい先程、電子メールで目にした名だった。


395 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:06:09 qKJzt1Rc0

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「地図の通りね、本当にあった。ここにこんなレストラン無かったはずだけど」


リンゴォとの邂逅から程なくして、鈴仙はレストラン・トラサルディーに到着していた。
幻想郷ではあまり見ない西洋風の造りの、こぢんまりとしたレストランである。
どうやら、外界からこの幻想郷に流れ着いた建物であるらしい。
ならば、永琳のもつ携帯電話と連絡を取るための『電話』が使えるかもしれない。
電話線が生きているかは不明だが、元の家主の携帯電話が残されている可能性もある。
そう考えて、鈴仙はこの聞き慣れない名の建物に足を運んだのである。


「イタリアって国の料理の店なのね」


レストランは開けた土地に建っており、少し離れた所には偏屈な半妖の男が営む古道具屋が見えた。
周囲に人の気配は無し。窓を覗こうにも、雨戸が閉まっていて中の様子を伺うことはできなかった。
鈴仙は自分の能力で屋内の『波長』を読み取ろうと試みるも、失敗。
地上から月の同胞まで届いていたこの能力も、今や板切れ一枚にさえ遮られてしまう始末であった。
内部の様子は、直接目で見て確認しなければいけない、ということである。

鈴仙は恐る恐る正面の出入口に近づき、勢い良くドアを開け放った。


「貴方は、八雲の……」


そこには、一人の妖獣が立っていた。月には生息していない、『あの時』に初めて出会った獣。
背中に広がるその九本の尻尾を見間違えるはずもない。狐の妖獣、八雲藍だ。


「………………」


藍は何も言わずに袖から手を抜き出し、手招きする様に左手をかざす。
ふと、目が合った。その瞬間、鈴仙は

(喰われる)

……と思ったのだった。


396 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:06:25 qKJzt1Rc0

「い゛っ!」


鈴仙の背後上空からレーザーが何本も撃ちだされる。
前方に飛び出し、それを辛うじてかわす鈴仙。
レーザーの着弾した床のじゅうたんは弾ける様に燃え上がった。当たったらタダではすまない出力。
恐らく屋根の上にでも潜ませていたのだろう。式神による遠隔操作の攻撃。


「げえッ!?」


更に飛び出した鈴仙の鼻先に、薙刀の切先が飛び出してきた。
藍は袖の中に薙刀を収納した『紙』を忍ばせていたのだ。


ガキッ!ガリッ!


鈴仙は倒れ込みながらも、紙から取り出した鉄筋で藍の突きを何とか逸らした。
『鉄筋』を納めた『紙』を、いつでも取り出せるように隠していたのだ。
偶然にも両者は、同じ方法で武器を隠し持っていた。
故に、鈴仙は藍の攻撃を間一髪で予測し、防御することができたのだった。

だが、立ち上がる間もなく床に転がる鈴仙に対し、藍は容赦なく薙刀を突き立ててくるのだった。
何度も何度も、鈴仙目掛けて刃を突き下ろす。


ドン! ガキン! ドスン!! ドスン! ガキーン! ドン! ドン! ガキィン!


「うっ、うっ、うわあああああっ!」


鈴仙は床を転がるように逃げながら、藍の突きを必死にかわす。
月で教わった『銃剣術』の経験が生きていたのだった。
鉄筋から火花が散る程の苛烈な攻めを繰り出しながら見下ろす藍の眼差しは、ただただ冷酷・機械的で、
さながら殺人機械いや、殺兎機械といった様子であった。
こんな状態で長くは保たない。いや、長くは保たなかった。


397 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:06:44 qKJzt1Rc0

「ぐっ!」


腹を思い切り踏みつけられ、動きの封じられた鈴仙に迫る、トドメの一突き。
頼みの鉄筋は、いつの間にかまっぷたつに折れていた。


「シ……『シュトロハイム』!」


万事休すかと思われたその時、鈴仙は叫ぶ。


「なっ!?」


鈴仙はブレザーのポケットから紙を取り出すと
中から軍服姿の大男が飛び出したのだ。


「ぬううううううん!」


大男の放った裏拳が、藍の横面を強かに捉えた。
予想外の角度からの攻撃で藍が大きくよろめく。


「逃げるわよ、『シュトロハイム』!」

「鈴仙よ! 待たんかアァーーーーーーーッ!!」


その隙に藍の足元をすり抜け、レストランから飛び出す鈴仙。
『シュトロハイム』を紙に戻し、姿を消して脱兎のごとき勢いで走り去ったのだった。


398 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:07:03 qKJzt1Rc0

△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△


「……取り逃がしたか」


……藍は玄関口から走り去っていった鈴仙の姿を探したが、既に見えなくなっていた。
確か、光の波長を操り、姿を隠すという玉兎の能力だったか。
あの手合いは、逃げに回られると本当に骨が折れる。
手当をしたとはいえ、足に傷を追っている。深追いは無用か。
永遠亭の月人などを連れて戻って来られたら、流石の藍でも苦戦は避けられないだろうが……。
『紙』の中に隠れていたあの軍服の男も気掛かりだ。確か『シュトロハイム』という名だったか。
紙に『参加者』を収納する事はできないはず。
それに、あの男に殴られた感触……鋼鉄のような義手を付けていた割には、軽い。
『木材』か何かのようだった。
あの兎は視覚をごまかすのは得意だが、あのタヌキのようにモノを化けさせる能力まではなかったはず。
……となると、あのタヌキが引き連れていた『ドラゴン』のような、藍にとって未知の『何か』なのかも知れない。


「さて……一旦、香霖堂に戻って、それからどうするか……」


藍は芳香を仕留めてすぐ香霖堂に向かい、橙を待っていたのだった。
だが時間を大幅に過ぎても橙は来なかった。
藍が橙の事を待ちわびながら香霖堂の外を見回した時に、偶然遠くで鈴仙の姿を見かけ、
香霖堂の近くにあったこのレストランで罠を張る事を思いついたのだった。
……結局仕留めることはできなかったのだが。


「ゴホッ……煙いな、ここは」


気がつくと、レストランの中は煙が充満していた。
レーザーを撃ち込まれたじゅうたんが燃えているのだ。
もはやこの場に長居は無用。藍はコンコンと咳込みながら、レストラン・トラサルディーを後にした。


【D-4 レストラン・トラサルディー/朝】
【八雲藍@東方妖々夢】
[状態]:左足に裂傷、右腕に銃創(処置済み)、頬を打撲、霊力消費(中)、疲労(中)、所々返り血
[装備]:秦こころの薙刀@東方心綺楼
[道具]:ランダム支給品(0~1)、基本支給品、芳香の首
[思考・状況]
基本行動方針:紫様を生き残らせる
1:やるべきことは変わらない。皆殺し。
2:香霖堂に戻り、橙を待つか、探しにゆく。
[備考]
※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。
※放送内容は全て頭に入っています。

※C-5 魔法の森内に宮古芳香の胴体、左腕、右脚が落ちています。


399 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:07:52 qKJzt1Rc0

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「……という訳です。それから八雲藍から逃れた私は、現在、人里の家で師匠に電話をかけています。
 表札に『広瀬』という苗字が記されていた家です」

「……そう。その狐は八雲藍、という名前なのね?」

「はい。師匠も、『あの時』に姿を見たことがあると思います。八雲紫の傍にいた、あの狐です」

「『あの時』……それは、貴女にとって、『過去』の事なのね」


ここに来て、永琳の疑問は確信へと変わったのだった。
このウドンゲは、『未来』からやってきている。
……あるいは、永琳が『過去』から呼び出されたのか。
永琳は眉間を押さえ、目をつむり、何度か大きく息をついた。
そして覚悟を決めた永琳は、


「……ウドンゲ、これから貴女にいくつか質問をするわ」


と切り出したのである。


永琳は鈴仙から、まず『あの時』の顛末について聞き出した。
永琳にとっては『現在』進行していた出来事。
鈴仙にとっては『過去』となった出来事で、人々の間で『永夜異変』と名付けられた出来事。


時系列は、正しく時間が進行していたとすれば、永琳がここに呼び出された時刻のすぐ後のこと。
八雲紫を含む何組かの人妖に、永遠亭の面々は『スペルカードルール』に則った決闘で打ち負かされ、
永琳の計画は潰えてしまったのだった。

この事件で地上の人と妖が協力する姿に心打たれた輝夜は、永遠亭に掛けられた時の停滞の術を解いた。
そして、彼女は地上の民の一員として暮らすよう事を選んだという。
私は薬師兼医者となり、里の人々に名医だと評判になっているのだという。
その時以来、輝夜も永琳も笑顔を見せることが多くなった、ともウドンゲは語っていた。


ここまで聞いて、永琳は自分の耳を疑った。
だが、ウドンゲが嘘を言っているようには思えない。
小心者の彼女のこと、こんな嘘を言えば永琳には必ず判る。
これはウドンゲにとっての『事実』なのだ。
……そして、永琳に訊かれるがままに、ウドンゲは更に信じられない事実を電話越しに話すのである。


400 : 希望の未来へレディー・ゴー! ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:08:27 qKJzt1Rc0

『永夜異変』から少し後、月の玉兎の間で流れた地上からの侵略者の噂。
当初、侵略者はかつて地上へ逃れた輝夜と永琳ではないかという噂が流れていたらしい。
だがその侵略計画は、以前永遠亭に乗り込んできた人妖の一部が進めていたものだった。
侵略者一味はロケットで月に到着したものの、月の防衛を担っていた綿月依姫に敗北し、地上へと送還されたという。


更に後の話。これが永琳にとって最も信じがたい事件だった。
あろうことか依姫とその姉の豊姫が、永遠亭にやってきたのだ。
「急に八意様の顔が見たくなったので、地上に降りてきた」という。
月の都の使者として、罪人である永琳達を討伐する為ではない。
プライベートで、今も敬愛する師である永琳に会いたいがためにわざわざ地上に来たというのだ。
つい先日、『鈴仙』の脱走から欠員が出ていた玉兎の兵隊に、新たな『レイセン』が配置された事もその時知った。
もはやウドンゲが召集を受けることも無くなったのである。


「………………」

「『あの時』から私の知る『現在』までに永遠亭で起こった大きな事件は、そんなところです。
 ……お師匠様? ……ししょー。
 ……30分程したら、またかけます。ここの番号は、XXX−XXX−XXXXです」


茫然自失としていた。
私としたことが、ウドンゲにまで気を遣わせるとは。
まったく理解が追いつかない事ばかりである。
竜宮城から帰ってきた浦島太郎にでもなってしまったかのようだ。

永琳は一旦携帯電話を懐に収めると、デイパックから水を取り出し、ゆっくりと飲み下した。
そして、近くの木の根元に座り込むと、うずくまって腹を押さえ、肩を震わせて息を殺し、


「うッ、くふっ、ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっ」


笑った。

……全ては私の杞憂だったらしい。
私は一体何のために偽物の月を用意してまで、月の使者を欺こうとしたのか。
綿月姉妹が私達を正式に討伐しにやってくる危険性が完全にゼロになった訳ではない。
だが、少なくとも鈴仙の語る『未来』からは、それは感じられなかった。
ウドンゲの語る未来で、私たちと月の都は緩やかに和解への途を歩んでいるように思えた。
私の想像よりずっと、世界は優しさに満ちていたのだ。


「ふっふっふっふっふっふっ、あっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」


401 : 希望の未来へレディー・ゴー! ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:08:51 qKJzt1Rc0

「……はあ……」


そして、ひとしきり笑った後、涙を拭って溜息を付いた。
今我々がバトルロワイヤルに参加させられているという現状を思い出したのだ。
おまけに参加者の命を握る主催者達は、何らかの形で時間を超える能力を持つことが確実という、
嬉しくない新事実まで判明したのだ。
ウドンゲから未来の話を聞いただけで、現状は何も改善していないのである。

それに考えてみれば、主である輝夜が『いつ』からここへ来たのか分からない。
時の止まった永遠亭で隠遁生活を送っていた頃の彼女なら、穢れを取り除き、月への帰還を望むだろう。
もし輝夜がウドンゲの語る未来からやってきたとすれば、
彼女は地上の『永遠亭』での日常を取り戻したいと願うだろう。
全ては彼女次第なのだ。

結局、永琳の為すべき事が変わる訳ではない。
輝夜、ウドンゲ、てゐを生還させる。可能なら、自分自身も。
そして、輝夜の希望を叶えるため、主催者の持つ謎の技術の奪取。
そのためにこの場で採る方針も変わらない。

だけど、『希望』だけは湧いてきた。
千年を超える程の永い間、天を仰ぐ度に怯えてきた相手は私たちを赦してくれるかもしれない。
生きて、皆でここを脱出することさえ叶えば……。
もう歴史の停滞した隠れ家で、私達の恐怖さえもずっと停滞させて、永き時を過ごし続ける必要はないのだ。
……そう実感すると、喜びで胸が熱くなった。
久方ぶりに、永琳は変化を放棄したはずの肉体に流れる血潮を、脈打つ鼓動を……『生』を実感していた。


402 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:09:32 qKJzt1Rc0

20分後。永琳はレストラン・トラサルディーの外壁を背に寄りかかり、再び携帯電話を取り出した。
レストランの中に先程鈴仙を襲撃した獣の姿は無く、ドアも開け放たれていた。


「ウドンゲ、いるわね? 私よ。永琳よ」


永琳は自分の口から出て行く声に、力がこもっている事を実感した。
それは、受話器の向こうのウドンゲにも伝わったらしい。
安堵の溜息が聞こえてきた。


「お師匠様……。大丈夫そうですね。
 もし私が逆の立場だったら、ショックで寝込んでいたかもしれません」

「今度は私が今まで会った人物を伝えるわ。
 ウドンゲ、貴女と面識のある人が居るなら、教えてくれるかしら」


今度は永琳がこの場での経緯をウドンゲに話した。
支給された蓬莱の薬、シュトロハイムとの賭け試合に、リンゴォとの決闘のこと。
ついさっき拾った、干からびて死んだヤマビコの死体。聞けば幽谷響子という名の、命蓮寺の妖怪だという。
夜はパンクロックのバンドをやっていて、ウドンゲもファンだったらしい。
この場にウドンゲの知り合いは……幻想郷の住民は多いらしい。
だとすると、サンプル集めの為に無闇に参加者を捕獲するのは難しくなる。
ウドンゲ一人なら、現場を目撃されない限りはどうとでも言いくるめる自信があるが、
輝夜とてゐの知り合いでもあるとなれば話は別だ。……少し、面倒なことになる。

そして、携帯電話に届いた『花果子念報メールマガジン』。
最初の記事において、リンゴォと決闘したとされている男……グイード・ミスタは、ウドンゲも知らない人物。外来人なら当然か。
メールの主、烏天狗の姫海棠はたてもウドンゲと顔見知り程度。烏天狗なら、こんなくだらない記事を書いても当然、とも。


403 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:09:50 qKJzt1Rc0

「それから、貴女を襲撃した八雲藍という妖獣に関係するかも知れないことなのだけど……。
 『八雲紫』という人物と何か関係があるかしら?」

「師匠とは面識がまだありませんでしたね。八雲紫は、八雲藍のあるじです。……彼女が何か?」

「私の携帯電話の電子メールに、彼女がゲームに乗り3名を殺害した、という情報が届いたわ。
 記事の内容を話すわね」

「そんな……!」


新しい記事、D−2エリア・猫の隠れ里で起こったらしい戦闘の記事『八雲紫、隠れ里で皆殺しッ!?』について、永琳は話す。
八雲紫が3名を銃殺したという記事。
被害者の一人、腕だけマッチョ、他はガリガリのヘンテコ男は外来人らしく、当然ウドンゲとも面識なし。
どんな姿なのか、密かに学術的な興味が湧く永琳。写真を見られないのがもどかしかった。
地底の鬼、星熊勇儀は鈴仙も姿形以外はあまり知らない、という。
白玉楼の庭師、魂魄妖夢は、ウドンゲも良く知る人物。
『永夜異変』のすぐ後、満月の見過ぎによる後遺症の治療のため、永遠亭で治療を受けた……らしい。
だが彼女も八雲紫に殺されたと話した時、ウドンゲの驚愕の声が聞こえてきた。


「……ウドンゲ、貴女はどう思う? この記事について。
 貴女の知る八雲紫は、この殺し合いに、進んで乗るような人物かしら?」


ウドンゲは、それはない、と断言した。
八雲紫は誤解を恐れずに言うなら……永琳に似たタイプの人物だと、彼女は語る。
優れた頭脳と、あらゆる境界を操る強大な力を持っているが
常人には理解し難い言動を取ることがあるという。
だがそれでも、彼女は幻想郷の人妖と自ら殺し合いに乗る人物ではない……と、言う。


「どうしてかしら?」


鈴仙は更に語る。
紫は、妖怪達の存続のため、幻想郷を現在の形に作り上げた妖怪の一人なのだという。
だから、幻想郷の住民を自分の意思で殺害することは考えにくい。
その記事に載っているように、外来人の男を殺害することに大したためらいはないだろう。
鬼……は、知っての通り好戦的な種族なので、襲撃を受けた所を自衛の為やむなく殺害したのかもしれない。
だが、妖夢は八雲紫の親友、西行寺幽々子の従者なのだ。
大切な幻想郷の住人であり、親友の部下でもある妖夢を、紫が襲う事は考えられない。
妖夢も、少々突っ走りがちなところはあるが、自分から殺し合いに乗るようなことは無い。
……と、ウドンゲは語った。


404 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:10:07 qKJzt1Rc0

とはいっても、ウドンゲが言うにはこの殺し合いの参加者のうち、
幻想郷の住民が少なくとも約半数を占めている、とのことだ。
現在の幻想郷の創設者である八雲紫と、主催者の関係について、永琳は勘ぐらざるを得なかった。


「……でも、幻想郷の住民であるはずの貴女は、紫の部下である藍に襲われたのよね」

「それは藍の独断ではないか、と思いますが……。お互いが連絡を取り合うのが難しい状況ですし」

「この携帯電話じゃあ写真も見られないし、今の段階では、何とも言えないわね。
 ……警戒するに越したことはないけど」

「……そうですね。藍の式である、猫の妖獣の橙にも気をつけてください。
 彼女はさほど力のある妖怪ではありませんが、念のため」

「では、『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』。これに変更は無し。
 姫やてゐにあったら、忘れずに伝えること。
 レストランは、ひとまず安全よ。もう誰も居なかったわ。今こうして電話する私の他はね。
 私は、一旦レストランを離れて……そうね、頭に仕掛けられた何かを解除するヒントを得るために、
 解剖できそうな死体のサンプルを探してみることにするわ。
 死体といえば……貴女、永遠亭で魔女が死んだと言っていたわね? 永遠亭に、彼女の死体はある?」

「えっ…………ええ。状況が状況です。致し方ありません。
 アリスは、永遠亭の庭に埋めました。彼女も、納得すると思います。
 ……それと、さっきも言いましたが、私は集合に応じることができません」


永琳が理由を問う前に、ウドンゲは続けた。


「……どうしても、やらなければならないことがあります
 私は、アイツを殺したい。アリスの仇を、ディアボロをこの世から殺(け)してやりたいんです」


ウドンゲの、静かな決意表明。
だが、受話器を通しても分かる、強い意志の篭った言葉。
あれほど従順だったウドンゲから初めて受ける、師への反抗。


405 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:10:24 qKJzt1Rc0

「仇討ちとは……たった数年の間に貴女も変わったものね。
 ……アリス、だっけ? 彼女とは、親しい仲だったの?」

「いえ……。ここ呼び出される前は、魔法の森のキノコ狩りで世話になったのと、
 人里などで時々会うくらいのもので……」

「では、どうして彼女にそこまで入れこむの? 悪いことは言わない、仇討ちなんて止めなさい。
 親の仇という訳でもあるまいし」

「嫌です」

「そんなこと続けたら、貴女……死ぬわよ
 ディアボロという男に返り討ちに遭う……それならまだ良いわ。
 奴とは関係ない、どこの馬の骨とも付かない者に殺されるのがオチよ。
 貴女は、死ぬのが、戦うのが恐くて月から逃げてきたんじゃないの?」

「……怖いですよ、ええ、アイツと戦うの、すごく怖かったです。
 一回撃退できたのが、不思議なくらい。今度戦ったら、死ぬかもしれません」

「そんなに怖い思いをして、どうしてディアボロを追うの?
 臆病者で月から逃げてきた貴女が、友達の仇を討ちたいとまで思える様になったのは、正直嬉しく思ってるの。
 だけど、貴女には今、『友達』より大事な永遠亭の『家族』がいるでしょう?
 貴女の『勇気』を、今度は『家族』のために活かしてほしい。
 復讐心を忘れろとまでは言わない。だけど……貴女は、もう死んでしまった『友達』の復讐にかまけて、
 今生きている『家族』まで喪う気なの?
 私は貴女の為に言っているの……自分の気持ちと向き合って、よく考えて欲しいの」

「自分の、きもち……」

「………………………………………………………………」

「………………………………………………………………」


沈黙する二人。
お互いの耳に聞こえるのは、静かに流れるホワイトノイズだけだった。

そして、


「………………………………………あッ、」


鈴仙が口を開く。


406 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:10:45 qKJzt1Rc0

「……ッ、だ、ダメです。ダメです!……うう、忘れるなんて、やっぱり……!」

「アリスの声、アリスの手、アリスの温もり、アリスの匂い……あの時、確かに……私は、私は……!
 今までずっと生きてきて、足りなかったものが、心に空いてた隙間が……満たされてたんです!!
 あの時、あの瞬間に! もう忘れてしまったのか、それとも最初から欠けていたのか!!
 あの時、私は初めてそれに気付くことができたんです! 忘れるなんて……できない!
 私の心に空いた隙間、アリスを奪ったアイツを、ディアボロを殺すことでしか満たせない!!
 ごめんなさい!師匠!!無理です!! 復讐やめるなんて、無理です!!」


鈴仙は叫んだ。酷い餓えや渇きを訴える様に、心から渇望していた。そんな叫びだった。
そして、呼吸を整えて、改めて鈴仙は宣言した。


「……師匠、貴女の言うとおり自分の気持ちに向き合いました。
 申し訳ございません。やっぱり私は、復讐をやめることができません。
 師匠たちとは別行動をとり、ディアボロを殺(け)します」

「今になって思えば、あの時アリスが見せてくれた優しさは、偽りのものだったのかも知れません。
 錯乱していた私を落ち着かせ、あわよくば懐柔し、利用するための。
 でもその時、私は自分に欠けていた、大切なものが満たされていると感じました。
 今でもそれが何かは解りません。……ですが、一度触れてしまったら、求めずにはいられないものなのです。
 ですから、それを奪ったディアボロを、私は追います。私の心に欠けていた、その何かを、二度と忘れないために。
 ……そしてその何かの正体を知るために」

「……ではウドンゲ、貴女は『家族』より『友達』をとる訳ね?」

「私の『気持ち』に正直になった結果です」

「それなら、もう私から言うことは何も無いわ。達者で、『鈴仙』」

「…………はい、失礼します……『八意様』」


しまった、と永琳は思った。
そっと受話器を下ろす音が聞こえた。


407 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:11:01 qKJzt1Rc0

「……まさか本当に縁を切られるとは」


……まずい。
この言い方では、完全にこちらから三行半を突きつけたようなものだ。

約40年前、地上に流れ着いた鈴仙に永琳が与えた名……『優曇華院(うどんげいん)』。
『ウドンゲ』の呼び名は、二人の師弟の繋がりを示す名だ。
最後、あえてウドンゲを『ウドンゲ』と呼ばなかったのは、師弟の縁を切るという、脅しのつもりだった。
ほんの警告のつもりだった。
ちょっと脅せば、ウドンゲなら簡単に謝って泣きついてくるに違いないと、思い込んでいた。
月を逃げ出した彼女に、永遠亭以外の居場所はないのだから。
だが永琳の予想に反し、ウドンゲは電話を切る時、確かに永琳の事を『師匠』でなく『八意様』と呼んだ。
彼女は名を捨てたのだ。これでは本当に縁が切れてしまう。

意地を張り合っていられる状況ではない。何とか謝らなければ。
永琳は慌ててウドンゲの掛けてきた番号に発信した。
祈るような気持ちで、携帯電話から流れる呼び出し音に耳を澄ます。

・・・・

・・・

・・



およそ30回ほどのコール音が繰り返されたか。
呼び出しには、誰も応えない。
もう一度発信する。

・・・・

・・・

・・



応答は無し。……遅かった。
ウドンゲは既に出発してしまったのだろうか。それとも、敢えて電話に出ようとしないのか。


408 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:11:16 qKJzt1Rc0

自責の念が永琳を襲う。
永琳よ、私は何をムキになっていた。何を焦っていた。
復讐を思い留まらせるにしても、もっと言い方があったハズだ。
彼女の『仇討ち』に対する思いは、本物だった。電話越しでも分かる程に。
彼女に『復讐』と他の何かとの『選択』を迫れば、何を置いても『復讐』を選ぶと、そんな凄みを感じた。
事実、私がウドンゲに『家族』との選択を迫り……捨てさせてしまったのだ。
演技でも何でも、もっと別のやり口で、彼女の意志を尊重し、優しく説得すべきだったのだ。
……あの地上の魔女がそうしたような、優しさを示してやるべきだった。

だが、私にはそれができなかった。我慢ならなかった。
強硬に『選択』を迫り、それでも当然ウドンゲは自分たち『家族』の方を選んでくれると思いたかった。
見ず知らずの地上の魔女と同じ土俵で勝負すること自体が、永琳にとっての敗北だった。

そこで、永琳は悟る。
私は、恐れていたのだ。
たかが兎一匹の心が、自分の元を離れていく事を。
……ああ、私は顔も知らない地上の魔女に『嫉妬』していたのだ。
穢らわしい感情だ。
この穢れに塗れた大地に放り出されてから半日にも満たない間に、私の心は地上の穢れに汚染されていたのだ。


永遠亭のこれまでの日々を思い返してみれば、嫉妬するのもおこがましい。
ウドンゲが地上に流れ着いてから40年、私は一度としてあの魔女の様に、
ウドンゲを抱きしめてやったことがあっただろうか?
月の使者に怯え続けていた私にそんな事を考えつくはずもなく、
ウドンゲをずっと都合のいい小間使いとして使い走ってきただけではないのか?

私や輝夜ほどではないにせよ、永い月日を生き続けてきたウドンゲ。
にもかかわらず、彼女は『人間』とさほど変わらぬ心と姿を持っているのだ。
同じ年頃の見た目の人間と同様に、『母の愛』に飢えていたとしても、不思議ではないのだ。
彼女はずっと『母の愛』を求め続けていたのだろうか。
永遠亭で私の弟子として働く間も、そして、
あれほど臆病だった彼女が、『永夜異変』で自分も戦うと言い出したあの時も。
いつか私から、『母の愛』を授けてもらえる事を期待して、彼女は私に付き従っていたのだろうか。
今までの永琳からすれば、想像もつかない事だった。故に、後悔のしようもなかった。

……あるいはウドンゲの知る未来の私なら、いつの日かそれを叶えてやることができたのかもしれない。
だが今更それを想像してみようにも、詮ないことだった。


409 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:11:35 qKJzt1Rc0

永琳は携帯電話を懐に収め、これからの行動方針を思案する。
ウドンゲは確か人里にいたか。すぐに向かえば直接会えるかもしれない。
だが、会ってどうする。彼女の処遇をどうするにせよ、しばらく頭を冷やすための時間が必要だろう。
……お互いに。この地の歴史は停滞など、していないのだから。
来るべき再会の時まで、彼女の命があれば良いが。

それより私には為すべきことがある。頭の中に仕掛けられた爆発する『何か』の解析及び除去。
第二回放送まではまだ少し時間がある。
『サンプル』は一つ確保したが、カラカラで状態は良くない。
永遠亭に埋葬されている魔女の遺体で二つ目。ウドンゲの話によれば、頭部は無事。
永遠亭には、検死解剖のための道具もある。少し距離があるが、そこへ向かうのが最善だろうか。
周囲の空を見回すと、魔法の森や竹林のそこかしこから、空に向かって煙が立ち上っている。
あちこちで、大規模な火力を行使した戦闘が展開されているのだろう。
そこへ向かえば更なる『サンプル』の確保も期待できる。
もちろん、姫やてゐと合流できるなら、それが最優先だ。

さて、どこへ向かうか。
八意永琳は、思い兼ねる。


【D-4 レストラン・トラサルディー/午前】
【八意永琳@東方永夜抄】
[状態]:精神的疲労(小)、霊力消費(小)、右肩に銃創(塞がりかけ)、再生中
[装備]:ミスタの拳銃(6/6)@ジョジョ第5部、携帯電話(マナーモード)
[道具]:ミスタの拳銃予備弾薬(15発)、ランダム支給品(ジョジョor東方・確認済み)、
 幽谷響子の死体、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:輝夜、ウドンゲ、てゐと一応自分自身の生還と、主催の能力の奪取。
       他参加者の生命やゲームの早期破壊は優先しない。
       表面上は穏健な対主催を装う。
1:輝夜、てゐと一応ジョセフ、リサリサ、藤原妹紅の捜索。
2:頭部が無事な死体、『実験』の為のモルモット候補を探す。永遠亭に行けば、機材とアリスの死体を確保できるが……。
3:しばらく経ったら、ウドンゲに謝る。
4:基本方針に支障が無い範囲でシュトロハイムに協力する。
5:柱の男や未知の能力、特にスタンドを警戒。八雲紫、八雲藍、橙に警戒。
6:情報収集、およびアイテム収集をする。携帯電話のメール通信はどうするか……。
7:第二回放送直前になったらレストラン・トラサルディーに移動。ただしあまり期待はしない。
8:リンゴォへの嫌悪感。
[備考]
※参戦時期は永夜異変中、自機組対面前です。
※行き先は後の書き手さんにお任せします。
※ランダム支給品はシュトロハイムに知らせていません
※ジョセフ・ジョースター、シーザー・A・ツェペリ、リサリサ、スピードワゴン、柱の男達の情報を得ました。
※『現在の』幻想郷の仕組みについて、鈴仙から大まかな説明を受けました。鈴仙との時間軸のズレを把握しました。
※制限は掛けられていますが、その度合いは不明です。
※スタンドの概念を知りました。
※リンゴォに『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』という伝言を輝夜、鈴仙、てゐに向けて託しました。
※『広瀬康一の家』の電話番号を知りました。


410 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:11:51 qKJzt1Rc0

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

「…………はい、失礼します……『八意様』」

鈴仙は震える手でそっと受話器を下ろした。

八意様から頂いた『優曇華院』の名を剥奪され、これで私は永遠亭の一員では無くなった。
覚悟していたことだ。
永遠亭の一員としての義務より、友の仇討ちという私情を優先した結果だから、当然だ。
これが自分で選んだ『運命』なのだ。いや、選ばざるを得なかったのだ。
選択の余地が無い程に強く望むからこそ、『運命』なのだ。

鈴仙にとってディアボロを討つことは、単なる『復讐』では無くなっていた。
アリスからもらった、言葉にもできないほど曖昧模糊としていて、それでいて忘れることのできない、強くて暖かな感情。
鈴仙にとって未知だったその感情を追い求める術は、アリスを奪ったディアボロを追うことしかないのであった。


「周辺に人影は無し! ……あの狐も追ってきてはおらんぞ」

「『シュトロハイム』、ご苦労さま」


鈴仙は玄関口で番をする『シュトロハイム』に声を掛け、広瀬康一の家を後にした。


「鈴仙よ……永琳と何かあったのか? 電話で激しくやりあっていたようだが」

「何でもない……何でもなくなったのよ。さあ、ディアボロの行方を追いましょう」


広瀬邸を足早に去ってゆく鈴仙。

後ろから電話のベルの幻聴がかすかに聞こえてきた。
並んで歩くシュトロハイムには聞こえていないようだ。広瀬邸からはもう距離がある。
そうだ、これは幻聴だ。情報交換は済ませた。今『八意様』と話す事は、もうない。
まさかあの『八意様』が、永遠亭に対する裏切りを許して下さるはずがない。
『優曇華院』という名の剥奪を撤回して下さることなど、あり得るはずがないのだ。
……私がいくらそれを望んだとしても。
だから、これは幻聴だ。電話のベルなんて、聞こえるはずがない。
いくら私がもう一度お話したいと願ったとしても、これは幻聴に違いないのだ。


411 : Other Complex ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:12:24 qKJzt1Rc0

――地球から見た月の『染み』を錯覚した人間たちが、『玉兎』を産んだ。
――そして『玉兎』に名と姿が与えられ、『鈴仙』は産まれた。
――『鈴仙』に血の繋がった母は存在するのか?
――兎なら、地球の獣と同様に子を産み育ててもおかしくはないのかも知れない。
――妖である以上、名と姿が与えられただけの存在である『鈴仙』に母はいないのかも知れない。
――その答えは『不明』。鈴仙自身にも、である。

――だが事実として、人と、地球の獣と似た姿を与えられてしまった鈴仙は、
――人と同様に母の愛を渇望するようになってしまったのだった。
――母とは何かもよく知らないままに。

――玉兎は、人の幻想から産まれた妖怪たちは、何を求め、どこへ行くのか。
――その答えは……。

【E-4 人間の里/午前】
【鈴仙・優曇華院・イナバ@東方永夜抄】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、渇望、強い覚悟
[装備]:スタンドDISC「サーフィス」
[道具]:基本支給品(食料、水を少量消費)、シュトロハイム化サーフィス人形(頭部破損・腹部に穴(接着剤で修復済み)、全身至る所にレーザー痕)
ゾンビ馬(残り40%)不明支給品0〜1(現実出典)、鉄筋(数本)、その他永遠亭で回収した医療器具や物品
[思考・状況]
基本行動方針:アリスの仇を討ち、自分の心に欠けた『何か』を追い求めるため、ディアボロを殺す。
1:未来に何が待ち構えていようとも、必ずディアボロを追って殺す。確か今は『若い方』の姿だったはず。
2:『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』という伝言を輝夜とてゐに伝える。ただし、彼女らと同行はしない。
3:ディアボロに狙われているであろう古明地さとりを保護する。
4:危険人物は無視。特に柱の男、姫海棠はたては警戒。危険でない人物には、ディアボロ捜索の協力を依頼する。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※波長を操る能力の応用で、『スタンド』に生身で触ることができるようになりました。
※能力制限:波長を操る能力の持続力が低下しており、長時間の使用は多大な疲労を生みます。
波長を操る能力による精神操作の有効射程が低下しています。燃費も悪化しています。
波長を読み取る能力の射程距離が低下しています。また、人の存在を物陰越しに感知したりはできません。
※サーフィス人形の破損は接着剤で修復されましたが、実際に誰かの姿をコピーした時への影響は未定です。
※シュトロハイムに変化したサーフィス人形は本体と同程度の兵器を駆使できますが、弾薬などは体内に装填されている物のみです。
 また、機械化の弊害なのか鈴仙がシュトロハイムの波長をうまく感じ取る事はできません。
※『八意永琳の携帯電話』、『広瀬康一の家』の電話番号を手に入れました。


412 : Other Complex ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:12:40 qKJzt1Rc0

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


――『6000秒』戻る――

時は、リンゴォが鈴仙と別れた直後に遡る。
森の中を、隙のない足取りで歩むリンゴォ。
その様子と裏腹に、彼の胸中では焦りが頭をもたげていた。


(あの鈴仙という小娘、行動の動機は仇討ちなどという、『受け身』なものだったが……。
 悪くない眼をしていた……。仇討ちという表面的な理由の裏に、何かを追い求めていたのかも知れない。
 本人にその自覚があるかは知らないが)


リンゴォは立ち止まり、じっと右手を見た。その手は僅かだが震えている。
鈴仙の殺意は、未熟ながら本物だった。


(俺があの娘の前に立ち塞がり決闘を挑めば、奴は全力でこの俺を殺しに掛かってくれるだろう。
 だが……俺では、奴を殺せない。『約束を反故にする』という卑劣さを引きずった俺ではな。
 よしんば殺せたとして……更なる『精神の高み』に届くことなど、できはしない)


彼を縛っていたのは、永琳と交わす破目になった約束。

『蓬莱山輝夜、鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡てゐの三名には絶対に手出しをしないこと』
『彼女らに伝言を伝えること』

彼を公正な決闘で破った永琳が、命を奪う代わりにリンゴォに課した枷である。
こんなことはリンゴォにとって未体験だった。
彼の世界で、決闘の敗北と死はイコールで結びつく。
リンゴォは永琳と戦うまで一度も決闘で敗北したことは無かったし、
決闘に敗北した結果待ち受けるのは、『死』の他に存在しないと思っていた。
リンゴォの初めての敗北で、死を与えられる代わりに課せられた枷は、命より重く感じた。
永琳との約束を無下に破ることは、彼には不可能に感じられた。

……だが、それでもリンゴォは『輝ける道』を歩むため、
『漆黒の殺意』を秘めた者との決闘を望まずにはいられなかった。

そんな彼の前に現れたのが、皮肉にも『漆黒の殺意』を秘めながら
『約束』によって手を出すことを禁じられた少女、鈴仙だった。
彼のまっすぐ歩んできた『輝ける道』に、初めて矛盾が生じてしまったのだった。


413 : Other Complex ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:12:57 qKJzt1Rc0

リンゴォは苦悩した。
課せられた『約束』と、今まで歩んできた『道』の狭間で。
今まで歩んできた『道』をまっすぐ行けば、『約束』は守れない。
『約束』を守り続ければ、輝ける『道』を歩む事はできない。


(……なるほど、今になって解る。
 あの女に断じられた通り、俺のこの生き方は、一種の『呪い』かも知れない)


苦悩の結果リンゴォは、人生で初めて『妥協』する事を選んだ。

それは、可能な限り永琳との約束を果たした後、彼女に再戦を挑み、『約束』のうち不可能な分を撤回させること。
つまり、蓬莱山輝夜、鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡てゐの3名に永琳からの伝言を伝えてから、
永琳に再戦を挑み、勝利して『鈴仙たちに手を出さない』という約束の撤回を取り付けるのである。
その際、永琳が望むなら永琳の生命を奪わずに勝利せねばならない。
そして永琳の約束を撤回した後に、初めて鈴仙との決闘に臨める。

……これが最も矛盾が少なく、『納得』のゆく方針に思われた。
未知の強者ひしめく戦場で、想像するだけで震えの来るほど困難な過程だ。
最も、死線をくぐることそのものを生きる目的とする彼に過程の困難さを問うのは無意味なことだが。
それに、強者が他に多数存在するのなら、それはそれで都合の良い事だ。
『約束』とは関係のない彼らとは、今まで通りに何の制約もなく決闘を挑むことができるのだから。

などと考えながらリンゴォが歩みを進めていると、周囲の様子が変化していた事に気付いた。
いつの間にかジメジメした原生林ではなく、竹林に入り込んでいたのだ。遠くで炎がくすぶっているのが見える。
地図を見ると、確かここは……『迷いの竹林』だったか。
名前通りの土地柄だとすれば、あてのない人探しで足を踏み入れるべき所ではない、か。

リンゴォが引き返そうとしたその時、視界に人型のシルエットが入った。
天然の竹の垣根を幾つか超えた先で、真っ黒い人の形をしたものがノロノロと動いている。

リンゴォは極力気配を殺し、動く黒い物体に近づいた。
やはり、ヒトだ。体つきからして、若い娘のようだ。
一糸まとわぬ全裸体。だが、その姿に劣情を催す男はほぼ存在しないだろう。
全身の皮膚の大半が真っ黒に炭化して、ボロボロと黒い欠片をこぼしている。
肘やあばらなどはところどころ白い骨が露出している。
肉の焼け焦げる臭いまで漂ってきた。
どこからどう見ても、焼死体。だが、『それ』は確かに二本の足で立って歩いている。

「・・・・・・!」

『歩く焼死体』がようやくリンゴォに気づき、声にならない声を上げる。
そして、赤い表情筋と白い歯の露出した横顔をこちらに向けてきた。顔の正面が明らかになる。
今まで顔の右半分しか見えていなかったが、左半分だけは奇跡的に軽傷であったようだ。
僅かに頭髪が残っており、黒い瞳がこちらの姿を捉えている。
そこでリンゴォが気付く。
永琳から聞いた人物の容姿の特徴が、『輝く夜』の様に美しいと形容していたその顔かたちが、辛うじて判別できたのだ。

「お前は……『蓬莱山輝夜』、なのか……?」


414 : Other Complex ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:13:16 qKJzt1Rc0

【C-5南部 迷いの竹林/朝】
【リンゴォ・ロードアゲイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:微かな恐怖、精神疲労(小)、疲労(小)、背中に鈍痛、左腕に銃創(処置済み)、胴体に打撲(中)
[装備]:一八七四年製コルト(6/6)@ジョジョ第7部
[道具]:コルトの予備弾薬(13発)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:公正なる果たし合いをする。
1:男の世界を侮辱した秋静葉と決闘する。
2:姫海棠はたてを探す。
3:ジャイロ・ツェペリとは決着を付ける。
4:アレは蓬莱山輝夜、なのか……?
5:輝夜、てゐと出会ったら、永琳の伝言を伝える。永遠亭の面々にはまだ手を出さない。
 永遠亭の3人への伝言を済ませた後に永琳と再戦し、勝利する。その後、鈴仙に決闘を挑む。
6:次に『漆黒の焔』を抱いた藤原妹紅と対峙した時は、改めて決闘する(期待はしてない)。
7:永琳への微かな恐怖。
[備考]
※参戦時期はジャイロの鉄球を防御し「2発目」でトドメを刺そうとした直後です。
※幻想郷について大まかに知りました。
※永琳から『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』という輝夜、鈴仙、てゐに向けた伝言を託されました。

【C-5南部 迷いの竹林/朝】
【蓬莱山輝夜@東方永夜抄】
[状態]:顔の右半分火傷(大、右目失明中)、全身火傷(大)、再生中、精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、A.FのM.M号@第3部
[思考・状況]
基本行動方針:皆と協力して異変を解決する
1:誰……?
2:妹紅…。
3:妹紅を追う。
[備考] 
参戦時期は東方儚月抄終了後です
第一回放送を聞き逃しました
A.FのM.M号にあった食料の1/3は輝夜が消費しました
A.FのM.M号の鏡の部分にヒビが入っています
支給された少年ジャンプは全て読破しました
黄金期の少年ジャンプ一年分はC-5 竹林に山積みとなっています


415 : ◆.OuhWp0KOo :2014/11/17(月) 14:15:31 qKJzt1Rc0
以上で投下を終了します。
タイトルは、
>>401までが『希望の未来へレディー・ゴー!』
>>402以降が『Other Complex』
として下さい。


416 : 名無しさん :2014/11/17(月) 15:52:29 ZdBXo0CI0
投下乙です
鈴仙と永琳の気持ちのすれ違いがなんとも言えねぇ…
時系列による誤解を払拭、未来に希望を持てた永琳だけど
小さな嫉妬に揺らされる姿は彼女の持つイメージからしたら「らしくなく」
新鮮な一面が覗けた一話でした


417 : 名無しさん :2014/11/17(月) 18:11:21 Wn0CBK..0
投下乙です。
時間軸の違いを認識した永琳の感情が印象的だなぁ。
やっと得られた未来への希望の一つを沸き上がった嫉妬で図らずも手放してしまった永琳
冷静沈着に動きつつも永遠亭の家族を大切に思う彼女の一面が見れて何となくほっとしました。
そして永琳への敗北の末に初めて『妥協』を選んでしまったリンゴォの今後も気になる
輝夜との出会いはどう転がるか…


418 : 名無しさん :2014/11/17(月) 18:20:14 UKSGpzVs0
果たして鈴仙は復讐の先の物を見つける事ができるのだろうか
そういやジョジョも復讐者キャラ多いな


419 : 名無しさん :2014/11/17(月) 18:34:54 5pZZJqdQ0
投下乙です
うどんげと永琳の電話を中心に、他のキャラも含めて進行する展開が面白い。
そして師弟の様々な齟齬が、全体的な視点から見られる読み手からすると、
物凄くやきもきさせられます。
あとリンゴォの出した結論が実に彼らしいw無謀だろうとどこまでも一本気。
読了後の切なさも含めて、非常に面白かったです。


420 : 名無しさん :2014/11/18(火) 00:09:57 7Utn08lMO
投下乙です。

時間のズレはお互い理解できたけど、心の変化の度合いを読み違えた。
事実だけ知らされても、同じ時を過ごしてない事による溝は埋められないな。

リンゴォが輝夜から妹紅の事聞いたら、興味を持つだろうか。


421 : 大脱走 ◆fLgC4uPSXY :2014/11/18(火) 01:52:40 Au3Vw4Yg0
>>372>>374
の修正版を投下します


422 : 大脱走 ◆fLgC4uPSXY :2014/11/18(火) 01:53:32 Au3Vw4Yg0
しかし……そんな「走り」をどこでエシディシは学んだのだろうか。
柱の男と呼ばれている彼らは生物界の頂点に君臨している。
言ううなれば「偉大な生き物」だ。
きっと、彼自身が理解していなくても自然とそのような走りになるのだろう。
彼の速い足のおかげかついに地下通路の終わりが見えてきた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「200…いや300m程は走ったな…」

彼が行き着いた先、地下通路のゴールは小さなじめじめとした丸い部屋だった。
今来た道を振り返ると、自分が通ってきた通路の壁に文字が書いてあった。
「TOM」と書かれておりご丁寧に「トム」とふりがなで書いていた。

「この地下通路に名前でもつけたのか…まったく人間がやることに理解はできんなぁ!!」

エシディシはフンッ!!っと鼻息を出すと、
走らされたイライラをぶつけるように自分が走ってきた地下通路にツバをはいた。


423 : 大脱走 ◆fLgC4uPSXY :2014/11/18(火) 01:53:51 Au3Vw4Yg0
すこし気分がはれたエシディシは、部屋の中央に台座があるのを見つけた。
まるで何か秘密があるかのようにその台座は鎮座していた。
試しに台座を叩いてみたが何も反応はなく、次に強めに叩いたがびくともせず、壊れそうな様子はなかった。
この台座が何か気になるエシディシだが台座のどこをみても仕掛けのような物はなかった。
台座の事をあきらめたエシディシは、
次にエシディシは部屋を見渡すと自分が走ってきた物とは別の地下通路を二つあることに気づき、
またそのトンネルにも名前が書いてあることに気づいた。
一つは「Harry」と、「ハリー」とふりがながうたれており。
もう一つは「Dick」と、ふりがなは「ディック」とうたれていた。
そして壁面に一つ地上へと上がれそうなはしごが備え付けられており、
そのはしごの先の天井には大人一人が通れそうな扉が備え付けていた。
しかし今は日中、その扉を開けた瞬間日光が入ってきたしまえばエシディシ自身にはどうすることもできず死んでしまう。
そのためどうやら「ハリー」か「ディック」のどちらかを選ばなければならないらしい。

エシディシはどちらを選ぶか部屋の中を歩いているとふとしたことに気づいた。

(しかし…なんだかこの部屋は臭うな…まるで肉が腐ったようなにおいがするな…)

それもそのはずだ、なぜならこの地下室は墓場の近くにあるのだからだ。


424 : 大脱走 ◆fLgC4uPSXY :2014/11/18(火) 01:54:19 Au3Vw4Yg0
「Harryか…Dickか…」

2つのトンネルの前でじっくりと考えたエシディシはあることを思い出した。

(そういえばHarryという単語には、古期英語で…「軍隊が略奪する」の意があったな…)

そのことを思い出すと彼はへの形になっていた唇をニヤリとさせた。

「フフ…いいだろう!!ならば我ら柱の男がこの殺し合いの勝利をいただくという願望を込め!!
あえて…あえてだ!!人間がした行動にのってやって!!この、Harryを選ぶとしようッ!!!」

フフフと笑いの余韻を終えたエシディシは「Harry」の先へとまた駆けだした。


425 : 大脱走 ◆fLgC4uPSXY :2014/11/18(火) 01:58:38 Au3Vw4Yg0
【E-4 地下室/朝】
【エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】
[状態]:全力疾走中、疲労(中)、体力消耗(中)、上半身の大部分に火傷(小)、左腕に火傷(小)、再生中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:カーズらと共に生き残る。
1:トンネルの「ハリー」の行き着く先へと向かう。
2:神々や蓬莱人、妖怪などの未知の存在に興味。
3:仲間達以外の参加者を始末し、荒木飛呂彦と太田順也の下まで辿り着く。
4:他の柱の男たちと合流。だがアイツらがそう簡単にくたばるワケもないので焦る必要はない。サンタナはまあどうでもいい。
5:静葉との再戦がちょっとだけ楽しみ。(あまり期待していない)
6:地下室の台座のことが少しばかり気になる。
[備考]
※参戦時期はロギンス殺害後、ジョセフと相対する直前です。
※左腕はある程度動かせるようになりましたが、やはりダメージは大きいです。
※ガソリンの引火に巻き込まれ、基本支給品一式が焼失しました。
地図や名簿に関しては『柱の男の高い知能』によって詳細に記憶しています。
※左脇腹に抉られた傷(小)及び波紋傷(小)、は柱の男の再生能力で完治しました。


※E-4の墓場に近くに地下室があります。
墓場のどこかから地下室に入れる秘密の入り口があります。
地下室には意味ありげな台座がひとつあります。
またトンネルの「Harry」「Tom」「Dick」があり、「Harry」はDIOの館、1Fの図書室に繋がっています。
トンネルの「Harry」と「Dick」がどこに続いているかは後の書き手さんにおまかせします


426 : 大脱走 ◆fLgC4uPSXY :2014/11/18(火) 02:01:09 Au3Vw4Yg0
以上で大脱走の
>>372>>374の修正版の投下を終えます。
おかしな点などがあれば教えてくださるとうれしいです。


427 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/20(木) 05:26:10 7hDso6fw0
お待たせしまいましたが修正版投下します。

まずは時間帯ですが>>337の状態表
【E-6 北の平原/朝】を【E-6 北の平原/午前】
に変更。次に>>352の状態表
【E-6 太陽の畑/朝】を【E-6 太陽の畑/午前】
最後に>>355の状態表
【E-6 北の平原/朝】を【E-6 北の平原/午前】
に変更します。全てのキャラの行動終了時の時間帯を【朝】から【午前】へと変更です。

次に>>346>>350>>351のレス修正版です。
手間になりますがwiki収録時はこちらの物に差し替えていただければ幸いです。


428 : >>346 ◆qSXL3X4ics :2014/11/20(木) 05:28:45 7hDso6fw0

(僕達を攻撃するつもりか!? しかしコイツ……何か『ヤバイ』ぞッ! 嫌な禍々しさだ……!)

オンバシラの速度が落ちているのは間違いなくコイツの仕業だ。
すぐにコイツを倒さないとこのままでは墜落してしまう!
思うが否や、花京院は即座に攻撃に移った!


「エメラルド・スプラーーーーッシュ!!!!」


散弾銃のように発射された煌びやかな弾幕は、後尾にしがみつく敵目掛けて光を放ちながら飛んでいく。
この至近距離でこれだけの数の攻撃を躱すことなど到底不可能。花京院はそう思った。

しかし攻撃が命中する前に敵スタンドは形態を変化し、数本の触手のような物でなんとエメラルド・スプラッシュの弾幕を全て掴み取ったのだ。

「GYYYYAAHHHHHHHHHHHHーーーーーーーーーッ!!!!!」

猛獣のような咆哮。花京院は背筋を凍らせる。
今のありえぬ動き。1つ2つ弾くならともかく、コイツは放った弾幕全てを『掴んだ』のだ。
とても遠隔操作のスタンドとは思えない正確な動きと超スピード。まともに戦えば負傷必須だ。

(……おかしい、理屈に合わないぞ。これほどのスピードと正確性、本体がどこか近くに潜んでないと納得出来ない……!)

空を飛んでいるのにどこか『近く』?
やはり妙だ。この速度と高度を飛ぶオンバシラの上まで地上から遠隔操作する者など……
それにさっきのコイツの動き、どこかで本体が見ていないと反応できるようなスピードではない……!
いや、『探知』か……? コイツは僕達の『何か』を探知して、『自動的』に攻撃してるんじゃあ?

『自動操縦』! だから遠隔操作でもあんなスピーディな動きが出来るッ!


「か…花京院くんッ! もう無理です! 墜落しますッ!」

「東風谷さんッ! 足に固定させた『ネジ』を外すんです! 早くッ!」

今はこの敵よりもまずは無事に着地出来ることが重要だ。
早苗は言われたとおりに『ナット・キング・コール』でオンバシラと足を固定させたネジを外し、2人の足を自由にさせた。

「それで、この後はどうするんですか!? 花京院くん!」

「今すぐオンバシラの飛行を止めて下さい! 着地は僕が何とかします!」

「………ッ!」

焦りつつも言われた通り、オンバシラへの霊力の注入をストップする。
一瞬だけ重力から解放された感覚を味わい、次の瞬間2人の体はオンバシラと共に地上へと真っ逆さまに落ち始める。
だがこの敵はその程度では追跡をやめない。
張り付いていたオンバシラから離れ、空中を落ちながら花京院へとその邪悪な牙を向けて飛びかかった!

「き、来ましたよーッ!? こんな空中でどうやって追い払うんですかッ!?」

「エメラルド・スプラッシュで駄目なら粉々にするしかありませんッ! 東風谷さん、オンバシラを持ってください!」

花京院の意図が分かったのか、すぐに早苗は共に落下するオンバシラを脇で抱え込み、再び最大の霊力を込め始めた。

「メ…『メテオリックオンバシラァァーーーーッ!!!』」

軍艦の大砲を思わせる強力無比な巨大光弾が花京院に飛びかかる敵スタンドを丸々飲み込んだ。

「GYAHHHHHHHHHッッッ!!!!!!」

白光のレーザーに焼き尽くされ、その悪魔のスタンドは粉々に消滅する。
喜ぶ間も無く、撃ち込んだ反動で吹き飛ばされる早苗。

「きゃあああああぁぁぁーーーーーーーッ!?!?!?」

「東風谷さんッ!! 掴まって下さいッ!」

絶叫する早苗をスタンドで掴んで抱き寄せ、花京院は更にハイエロファント・グリーンを展開させた。
スタンドをヒモ状に細く分け、何重にも薄く重ね合わせる。
やがて出来たそれをマットの代わりとし、自分たちの下に敷く。
多少の空気抵抗も生まれ、落下の速度を減少させてくれる。
すぐ真下の地上では、黄色い草原が広がっていた。地図によれば確かここは『太陽の畑』と書かれた向日葵畑。
花を潰してしまうのは心痛いが、土も柔らかいだろう。死ぬことはないはずだ。

花京院は広げたスタンドのマットを今度は何重にも網のように重ね、『ネット』を生成。
落下の衝撃に備え、早苗を抱きしめる腕に一層力を込めた。

そして―――


「うおおおぉぉぉぉーーーーーーーーッッッ!?!?」

「きゃああああああああああぁぁぁぁッッッ!?!?」


ド ォ ォ オ オ ー ー ン ッ !!



早苗の奇跡を操る力かは定かではないが、2人は無事に怪我なく『着陸』した。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


429 : >>350 ◆qSXL3X4ics :2014/11/20(木) 05:30:07 7hDso6fw0

「そうか……、じゃあ君はこのままメリーさんを助けに行くのだな」

「ああ! お前の事も心配だが、彼女達も俺の『居場所』に違いねえ! そこだけは曲げられねえぜ!」

「フフ……。やはりポルナレフはポルナレフのままだな。いつもの真っ直ぐな君だ」

「あー? なにワケのわからねえこと言ってんだよ花京院」

あれからすぐにお互いの状況を簡潔に話し、4人は状況を再確認した。
青娥急襲のこと。神子の死。攫われたメリー。
八坂神奈子を探してこの地まで来たこと。途中謎のスタンドに襲われたこと。
ポルナレフとジャイロはすぐにメリーの救出に向かうという。
花京院は仲間として彼らに同行したい気持ちもあったが……

チラリとジャイロの傷の手当をしている早苗の方を振り向く。
ジャイロの千切れた右腕は、早苗の『ナット・キング・コール』によって応急の接合処置は施されている。
所々喰われた肉片の欠損は目立つがこれで以前のように鉄球を投げられるはずだ。
手持ちの止血剤でジャイロの手当てをしながら早苗は花京院の視線に気付き、申し訳なさそうな顔をした。

「私も出来ればメリーさんの救出をお手伝いしたい所ですが……私にはやるべきことがあるんです。
 すみません。でも花京院さんが御友人を協力したいのであれば私は止めたりなんかしません」

花京院と早苗の方も、やるべき使命はあった。
逃げた神奈子を追い、その凶行を止める。
花京院の天秤は多少揺らいだが、それでもポルナレフの事を信頼して、こう言った。

「ポルナレフ。僕たちの方も優先すべきことがあります。ですから残念ですが、君の方を手伝うことは難しいようです」

「ああ。お前ならそう言うと思ったよ。 ……早苗ちゃん、しっかり守れよ」

「君こそ、メリーさんを絶対救ってくださいね」

まるで昔からの親友同士のような会話。
そんな台詞にポルナレフは心の中が温かくなる。


「さあ、オレの方も治療は終わったぜ。そうと決まったらさっさと行くぞ、ポルナレフ
 ……神子の仇は絶対に取らなくちゃならねえからな」

ジャイロが繋ぎ終えた右腕をグルングルン回しながら歩き始める。
ポルナレフもすぐにそれに倣い、覚悟を固めた。
神子を失った事実は、ポルナレフにも大きな衝撃を与えたのだ。
これ以上、誰も失わせない。そんな覚悟で2人は歩き出す。

「花京院くん。 ……私達もそろそろ」

「……ええ」

こんな狂ったゲームの中でも、彼らには彼らの道がある。
願わくばもう一度、彼らの道と僕らの道が交差することを願って……

ポルナレフたちを見送りながら、すぐに自分達もここを発つため落ちたオンバシラを拾うために振り返った

―――時だった。



「―――東風谷さん。振り返らないで下さい。 ……ゆっくりです。ゆっくりこっちへ、歩いて来て下さい……!」



花京院の顔色が激変した。
早苗の、いや早苗の『後方』を凝視しながらゆっくりと手を差し出している。
その様子に早苗はただならぬ予感を感じ、冷や汗を流しながら―――後ろを振り返った。


430 : >>351 ◆qSXL3X4ics :2014/11/20(木) 05:30:49 7hDso6fw0



「GYYYYYAAHHHHHHHHHHーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」



そこには再び悪魔が居た。
さっきよりも更なる巨大な姿で、その獰猛な牙を早苗に光らせて。

「ひ………っ!!」

「東風谷さんそこを決して動くなッ!!! こいつは何かを『探知』してそれに向かって動いているッ!
 ポルナレフゥーーーッ!! ジャイロォーーーッ!! さっきのスタンドだァーーーッ!!」

すぐさまポルナレフとジャイロを呼び戻し、花京院は思考を開始する。
この怪物はバラバラになってなどいなかった。
その不死なるスタンドの僅かな破片がオンバシラへと取り憑いたまま、再生と構成を繰り返しながら巨大化していたのだ。
オンバシラに溜まった膨大な霊力を取り込み、自分の物にして再び復活した。
全く不死身なスタンドだ。こんな敵をどうやって倒せばいいのか。
ジャイロ曰く、このスタンドは本体が既に死亡しているという今までの常識を覆すスタンド。
ならばやはり『自動的』! コイツは何を探知して動いているッ!?

ジャイロは最初、コイツは回転する鉄球に向かって攻撃してきたと言う。
そして次に走り寄って来たポルナレフを襲い。
窮地の所を今度は空に向かって飛んでいった。
恐らく飛行する僕たちを感知して!
最後に飛び降りた僕たちに反応し、オンバシラを離れて攻撃してきた。
もう確実だ……! コイツの探知している物が分かった!

「おい、花京院……このバケモン、さっきよりデカくなってねーか?」

「おい……おいおいおいおいおいこんな奴どーやって倒すんだ?」

「ポルナレフ、ジャイロ。よく聞いてください。コイツは恐らく『動いているもの』を最優先で攻撃してきます。
 それもその速度が速ければ速いほど、より速いスピードで追いついて来るのでしょう。
 至近距離でのエメラルド・スプラッシュも全て受け止められたんだ。絶対に素早く動いてはいけませんよ……!」

花京院、ポルナレフ、ジャイロが3人並ぶように戦闘態勢をとった。
花京院たちと敵との間に挟まれるような形で、固まって動けない早苗が膝を振るわせる。

「東風谷さん、ゆっくりです……! そこからナメクジのようにゆっくりとこちらへ戻って来てください……!」

「なななナメクジって、この状況でそんな悠長な……!」

「早苗ちゃん早く! いや、遅く! 中国人のする太極拳のようにゆっくりとだぞ……!」

「…ポルナレフ、君たちはすぐにメリーさんの元へ向かってください。コイツは僕と東風谷さんで何とか……」

「バーーーカ! 俺を舐めてんじゃねえぞ、お前達だけで戦わせるわけにはいかねえだろーが!
 みんなでコイツを『秒殺』してすぐにメリーを追うぜ!」

今やこの怪物は人間大ほどの大きさにまで巨大化している。オンバシラの無尽蔵なエネルギーを取り込んで成長したのだろう。
果たしてこんな敵が倒せるのか……? だが花京院らが旅した中で、無理だ無謀だのなんて言葉は無かった。


コイツはこの世から消さなければならないッ!


『法皇』と、『銀の戦車』と、『鉄球』を構え、不死の化物との戦いが始まった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


431 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/20(木) 05:33:28 7hDso6fw0
以上、修正版です。
破片がオンバシラに取り憑き、原作でもあったようにゆっくり再生していた感じへとなりました。
多分これで問題は無い…はず?


432 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/23(日) 00:00:58 9RWyLDsQ0
もはや!「限界」だッ!押すねッ! 書き込むポチッ

東風谷早苗、稗田阿求、花京院典明、ジャン・ピエール・ポルナレフ、ジャイロ・ツェペリ

5名を『予約だッ』!


433 : 名無しさん :2014/11/23(日) 00:30:12 9JYYup.A0
>>432
おお・・・!!


434 : 名無しさん :2014/11/23(日) 02:44:04 FLnK0klk0
早速っ


435 : 名無しさん :2014/11/23(日) 10:15:09 YQJ0AI3.0
いきなりか!


436 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/29(土) 12:26:51 9Wg2O5Zo0
すみません、予約延長します。
一つ質問ですが、御柱は現在ノトーリアス・B・I・Gに取り込まれていると解釈してよろしいでしょうか?
早苗の状態表の装備欄に御柱があるところから、そこらへんに転がっているのを拾ってノトーリアスを発見したような感じにも読めます

作中の描写では御柱を拾おうとしたところノトーリアスを発見した様子だったので、個人的には
御柱を取り込んだ状態のノトーリアスがいた、と思うのですが…

宜しかったらお答えください


437 : ◆qSXL3X4ics :2014/11/29(土) 14:20:55 ejc6C.t20
御柱は現在ノトーリアスに丸々取り込まれた状態です。
ノトーリアスを引っペがせばまた使用できるかと思います。
早苗の状態表に御柱があるのはミスでした。こちらは後にwikiの方を修正しようと思います、すみません。
執筆の方、応援してますので頑張ってください


438 : ◆at2S1Rtf4A :2014/11/29(土) 14:36:51 StcwLcGk0
ご返答ありがとうございます

おかげで内容を訂正せずに済みそうです。
なんとか期日に間に合わせるよう全力を尽くさせてもらいます


439 : ◆at2S1Rtf4A :2014/12/06(土) 23:31:30 H.OqJCIw0
すみません明日中の投下は厳しそうなので
予約を一旦破棄します。


440 : ◆at2S1Rtf4A :2014/12/08(月) 00:01:21 T1boRUS.0
東風谷早苗、稗田阿求、花京院典明、ジャン・ピエール・ポルナレフ、ジャイロ・ツェペリ

5名を再予約します


441 : ◆qSXL3X4ics :2014/12/11(木) 00:55:49 PGPuo4rs0
ジョナサン・ジョースター、レミリア・スカーレット、ブローノ・ブチャラティ、秋静葉、寅丸星
以上5名予約します


442 : 名無しさん :2014/12/12(金) 00:25:11 atgk753I0
本日ジョジョ東方ロワ語りなので貼っとく
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1403710206/l50


443 : ◆at2S1Rtf4A :2014/12/15(月) 00:42:13 WTOFKzN20
すみません
予約延長します


444 : ◆qSXL3X4ics :2014/12/17(水) 16:54:47 toCZyu0c0
すみません
予約を延長します


445 : ◆at2S1Rtf4A :2014/12/22(月) 23:59:37 oYUEPoJI0
投下します


446 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:00:10 AcCfbNzQ0


「なんてこった…!それじゃあ、幽々子さんは今たった一人で……!」


いざ、目の前の巨悪を討たんとする4人の元に届いた一つの知らせが届く。


幽々子が目を覚まし、いずこかへと行方を晦ましたのだ。


その場に居合わせた人物曰く、声をかけても応じる様子もなく、かと言って自身の力では気絶させることができるわけもなく、
こうして彼らの元へと馳せ参じた次第だった。

何故、幽々子が行方を晦ましたのだろうか。まさか、事態を察して囚われの身となったマエリベリーの救出に行ったのか。
普段の聡明な幽々子ならば、それを期待してもいいだろう。


だが、子を想う母親のように、従者の死に深い悲しみを受けていた彼女には少々無理な話だというものだ。


あるいは、友人と似た姿をしたマエリベリーを護ることが幽々子の支えとなっていたのならば、自らを鼓舞し立ち上がったかもしれない。

けれども、不運なことに彼女は目にしてしまうのだ。その友人が自身の従者を殺す様を。そこにどんな意図が隠されているとも知らずに。

その瞬間、彼女の時間は吹っ飛んだのかもしれない。友を護るべく命をかけたことなど。その友人に従者を殺されたのなら。

今の彼女にはマエリベリーはもう映らないのか、それはまだ分からない。気付いてもらうこと期待するしかない。

彼女を慕う者がいることを。


「畜生がッ! 秒殺だッ! 今すぐてめえをぶっ潰す!!」


幽霊に命を与えられた男、ポルナレフは即座に敵へと相対し直すと、スタンド『シルバーチャリオッツ』を顕現させ、駆け出す。
その動きに応じるように、敵もまた豪速を以て忍び寄る。最も間近にいた標的など目もくれずにポルナレフへと直進する。


敵の名は『ノトーリアス・B・I・G』。
二本の前脚と丸っこい胴体、最後に細長いひょろっとした尻尾、とシルエットだけなら案外可愛らしいマスコットになれるかもしれない。
だが、生憎と可愛らしいと呼ぶにはあまりにも面妖な肉体、いや肉塊そのものだった。

申し訳程度に二本の前脚と顔の一部が奇妙な外殻に覆われているが、スライム状の肉がほとんどを占めており、ひたすら不気味に蠢いているのがよく見える。
さらに、その大きさは2m近くまで成長してしまい、身体の一部はハムスターの頬袋のように、異常に盛り上がっていた。


瞬く間にしてポルナレフとの間を詰め寄ると、加速したまま大きく跳ね上がり、口をバカみたいに広げると、そのまま喰らい付こうとする。
スピードに感けた単純な動きだが、その速度は尋常ではないほど速い。


 へっ!そう何度も食らうわけねーだろうが!


ポルナレフは敵の突撃を知っていたかのように、チャリオッツの剣先を敵に向けたまま、彫像の様に一切の動きを放棄した。

すると敵もまたハッとしたかのように急に動きが鈍らせた。だが中空に浮いた状態で勢いを殺せるわけもなく、そのままチャリオッツの剣へと突っ込む。


グ ジ ュ ア ァ ア ア ッ ッ ! !


肉片や血をチャリオッツや地面へと派手にブチまけながら、串刺しとなった無様な敵の姿が出来上がった。

とは言っても、あまりの大きさ故に刃に納まることなく、剣の椀鍔の部分で引っかかっているが。

残りの図体の半身ほど力なく地面に垂らしており、その様はより一層の憐憫を誘った。


 ざまぁねえな!そのままてめえを口裂け女にでも仕立ててやるぜッ!


ポルナレフは血飛沫と白い煙を上げながら悶え苦しむ敵に容赦することなく、ゆっくりとゆっくりと徐々に徐々に剣を動かす。
別に苦痛を与えるためにこうしているわけではなく、こうでもしないと相手に手傷を負えさせることができないからだ。



だがそこで、不意にポルナレフがピタリと動きを止めてしまう。


447 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:00:55 AcCfbNzQ0



ねえ、ぞ…!?



手応えがないのだ。肉を切り裂いているはずなのに、あまりにも軽すぎる。

ポルナレフが混乱する中、剣が刺さり上体が吊るされていたはずのノトーリアスがビタンと地面へと着地する。


なんだとォ…!?


チャリオッツの獲物。細く鋭い刀身が消え去っていた。
僅かずつにしか動かしていないが、チャリオッツの剣は当然スタンドエネルギーを介して生み出したビジョン。


こいつ、喰らっていやがってたのか…!?


取り込まれたのだった、ノトーリアスの身体に。
さらにこちらを嘲笑うかのように、刺突し切り裂いていた傷口はその剣のスタンドエネルギーを以てすっかり塞がっていた。


 冗談じゃねぇぞ…!剣を喰われた俺がこいつにどう対処できる…!?


柄のみとなった自身の獲物とノトーリアスを視線のみを動かして見返すが、妙案がすぐに浮かぶわけもなく、
仕方がなしに一旦距離を置くしかないと判断。非常にゆったりとした速度で後退を始める。

先に交戦したダメージが残る身体はどうにも調子が悪いのか、身体の至る所から痛みが走る。


 くっそたれがッ! 俺のスタンドじゃあどうあがいたって駄目だってことなのか!?


悔しさを噛み締めながら、敵に目線を逸らさず、後退していたその時。

ポルナレフにはノトーリアスの顔が突如、自身の方を向いたように見えた。


 落ち着け、ポルナレフ。あいつが動くわけねーだろうが…!見間違いに決まってんだろ!


ポルナレフはその時少なからず焦りを覚えたが、だからと(ズサ…)いって急げば確実に喰われることは明白。
今この時、何(ズズ…ズサ)もしないことこそが『覚悟』だと己(ズサリ、ズサリ…)に言い聞かせ、動くことはもちろん呼吸すらも抑えるが。





 見間違いじゃねえ…!?俺は止まってんだぞォッ!どうなっ―――





ブ シ ュ ア ァ ッ ! !





「な、にぃいぃィッ!?」


血が噴き出た。

出所はポルナレフの胸郭から腹部にかけて。彼は正に血の気が引いたように青ざめる。尤もそれは、出血のせいではないのだが。



敵が出血の動きに反応し、駆け出していたからだ。


ずっと目視していたはずなのに今やそいつはポルナレフの目と鼻の先。


あまりの速度ゆえ彼の目は焦点を合わせられず、その姿はボケて見えた。



 やべえ、喰われ…る……



ついにノトーリアスはポルナレフの身体に飛び付いた。スライム状の肉体を直に触れるせいで気味の悪い触感に包まれゾッとした瞬間。


448 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:01:44 AcCfbNzQ0



「そこを退かないかァッ!エメラルドスプラッシュッ!!」



今まで一騎打ちでもしていたかのような、静かなる戦場に裂帛の声が響く。

声の主の隣に立つ緑色の体躯を持つ人型の何かは、両掌から鮮やかな翠緑色の宝石のビジョンを射出する。

その人型の何かとはもちろんスタンドだ。その名は『法王の緑(ハイエロファントグリーン)』。

花京院典明が操る精神の具現が友の窮地に手を差し伸べる。


ノトーリアスはすぐにでも捕食可能だったポルナレフを無視し、オーバル・ブリリアントカットされた宝石の元へ殺到。
二本の前脚など知ったことかと、スライム状の肉体を駆使し無数の触手にすると、十数はあるそれらをあっさりと掴み取って見せた。


 やはり、エメラルドスプラッシュを凌いできたか…!


直撃を受ければ大ダメージ必至の花京院の十八番は既にこの敵に破られている。
しかし、それをもう一度目の当りにされると一層不愉快だった。

花京院の目の前の地面に着地したノトーリアスはまた一回り大きく成長を果たしていた。
まったくもって嬉しくない成長だった。


 くっ、本当にすくすくと育ってくれるな…!親の心子知らずだ、こいつは…


生憎とノトーリアスの親でもなければ、一児の親でもない花京院が当然この敵に対して一切の情など湧くはずもなかった。
いやこんな利かん坊が相手では、たとえそのどちらであっても親心もクソもないだろうが。

花京院の焦燥と怒りから思考が脇道に逸れたが、どの道即座に攻撃するわけにはいかなかった。
遠隔操作型である『法王の緑』は直接的な攻撃を得意としていない。殴りかかったところであっさり取り込まれるのが関の山。
虎の子のエメラルドスプラッシュは近距離で射出したが、(ズザザザザ)それさえも取り込んで見せたのは記憶に新しい。

一言で表せば、詰みの状況。彼もまた一人ではどうこうできないのだったが、そんなことは百も承知。
あくまでもポルナレフ(ズザザザザザザザザ)を一旦助けるための行動だったのだから。
だが、安心するには早い。出血が治まっていないポルナレフの元へ再び高速で接近し始めていた。


 再びポルナレフを狙うつもりか、助けなければ…!だが、この距離では……!


先ほどは捕食される寸前でエメラルドスプラッシュを射出して、花京院の目の前で止まったのだ。
今、至近距離で迂闊に撃てば花京院を捕捉される危険が大きい。

だがこの男、花京院典明は友と言う括りにおいては表面には現れぬほど熱いモノを持つ好漢。
そこまでギリギリまで待つことそのものを自身が許さなかった。


「くっ、やるしかない…!エメラル「秘術『グレイソーマタージ』!」


449 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:04:15 AcCfbNzQ0


花京院の決断の瞬間より一手だけ早く、『命名決闘法(スペルカードルール)』の宣言を告げる少女の声が響いた。
愛用の大幣は手元になく、素手でだが一筆書きの五芒星を目前に描き、霊力を解放。

五芒星の五つの頂点が白い輝きを発した瞬間。そこを中心とし、光弾が五つの方向へ拡散していく。


「汚名返上です!ポルナレフさんには触らせませんよ?」


自身の目の前にノトーリアスがいるのにも怯むことはなく、ふんす、と鼻息を鳴らし息巻く少女の名前は東風谷早苗。
少しどころかそろそろ矯正が必要なほど色々とズレてしまっているが、今回はそのおかげで花京院とポルナレフを引き寄せるという、ちょっとした奇跡を起こし現在波に乗っていた。
残念ながら、そのせいで対峙すべき相手と一気に離れてしまったのだが。目下その失態を取り戻さんと奮起していた。


一方のノトーリアスはまたもや触手を巧みに操り、計25発もの奇跡の弾幕を捕捉。
接触の際にスパークし、わずかに肉片が散らかったものの、全てを貪り散らかすと修復のみならず成長を果たした。


うーん…弾幕もダメですか。早くしないと御柱(オンバシラ)が溶けちゃいそうなんですけど……


ノトーリアスの尾っぽあたりに見られる局所的な膨らみ。
ややあって、早苗と花京院が仲良くタンデムした乗り物、いやいや強大な武器である御柱がそこに眠っている。
彼女にとって武器としての扱い以上に何としても(ズザザザザ)取り返したい一品だった。


 いえ、絶対にそれは返してもらいますよ…!


三度動き出したノトーリアスに今度は全力で叩き潰さんと先ほど以上に霊力を充填し、弾幕生成の準備をする。
出力を最大まで上げれば、あるいは突破できるかもしれない。そう願って虎視眈々と好機を探る早苗であったが。


「東風谷さんッ!今はまだ早い!僕と君でこいつの注意を逸らすことが先決だ!」


『法王の緑』にエメラルドスプラッシュを発射させつつ、花京院は早苗へと叫びながら、走り出していた。

花京院の言葉が打ち水になったか、早苗は漲る霊力を自身へと押し込めると、
彼の言葉の意図を理解し、違う弾幕の準備をしつつ彼との距離を取るように走りだした。


450 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:04:40 AcCfbNzQ0


「ポルナレフ!平気か?今、鉄球の回転で止血する、横になってろ。」


右手に歪な鉄球を旋回させつつ、片膝を着いたポルナレフの元に一人の男が近づく。


ジャイロ・ツェペリである。彼もまた戦う術はあるのだが、早苗や花京院と違って、愛用の鉄球は一つ限り。
失えばそれこそ何もできなくなる。それに彼の鉄球の回転も、先刻の3名と同様に既にノトーリアスには通用しなかった。
あの場で迂闊に投擲するのは取るに足らない『感傷』。そう思い留まったがゆえに、待とうとする『覚悟』を選び取ったのだ。

ポルナレフの傷を見ると一つ一つごく小さいが、十を超える箇所から出血が見られた。
傷の種類もバリエーションに富んだ歪な形ばかりで、古傷が開いたとは思えない、不可解なものばかりだった。


「しかし、何だってお前の上体から急に血が噴き出した? 心当たりはあるか?」

「いや、わからねえ。俺はあいつに触ってもいないし、チャリオッツだって剣こそ喰われたが、それだけだ。」




「もしかしたら…」




仰向けで倒れているポルナレフは顔を歪ませ、口惜しい、そんな気持ちの声を絞った後に、

この場に居合わせた最後の一人がポツリと呟く。


幽々子失踪の火急の知らせを寄越した稗田阿求だ。


「返り血、ではないでしょうか?」

「阿求ちゃん、流石にそいつは…」「…続けてみろ、阿求。」


言葉の意味の理解にわずかに時間を要したが、二人は思い思いに反応する。
相反する両者の答えに、阿求は二人の顔を窺ってオドオドするが、時間も心許ない今無駄な時間は使えない、と合理的に考え、手早く伝える。


「ポルナレフさんが最初に放った突き。あの時に飛び散った敵の血液、それがスタンドに付着しました。
スタンドのビジョンそのものはエネルギーの塊なので、そのままゆっくり食い破られたのではないか、と。」


阿求はおずおずとした風に自信なさ気に語る。彼女とて、ノトーリアスを見るのはつい先ほどのこと。
その醜悪な姿に卒倒することなく、冷静に状況を見ることができたのは、ある意味でこの場における成長であるというのは皮肉なものだが。


「た、確かにあいつの血は浴びたがよぉ…」「いい線イっていると思うがな?」


またも両者意見が食い違い、阿求は再び困り顔。
だが、語尾が次第に尻すぼみとなっていくポルナレフと、明確に肯定してくれたジャイロを見ると、そっと胸を撫で下ろした。


「おそらくだが、血ではなく肉片だ。傷のバラけ具合も、何かが付着したような感じに見えなくもない。
もし、返り血からも捕食されていたら、上半身の皮を丸ごと引ん剝かれてたかもな…」


小さく「うげぇ…」と漏らすポルナレフ。冗談でも笑えない話だった。



しかし、こんな化物を一体どう相手にすればいい…? いっそチリにでもしないと、コイツはくたばってくれそうにもない。今の俺にできるのか…?



口にも表情にも出さないが、ジャイロはこの状況に対し己の出る幕があるのか、疑問を抱かざるを得なかった。
鉄球の回転、投擲、この2つの工程を無くして彼の攻撃は成立しない。そして、その両方とも相応のスピードが発生するのは言うまでもないことだ。
絶望的なまでに相性が悪い、本来なら避けなければならない、そんな相手だ。


だが―――


451 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:05:04 AcCfbNzQ0


「肉片になってでも襲い掛かってくるなんざ、ホントにとんでもねえ相手だぜ…!どれだけ執念深いんだ、ヤローは!」


ポルナレフの言葉がジャイロの内から火が灯る。烈火の如く、たぎる『漆黒の殺意』。


―――だからと言って退くわけにはいかない。


「死人の怨念、そう………神子はそのために、そのためなんかに利用された……! 絶対に! 逃がさねぇ…!」


ギリギリと歯を食いしばらせ、左手は力拳を握りしめ、怒り心頭の様子を露わにするジャイロ。

脇に置いたデイパックから覗くのは、彼にしては丁寧に落り畳んだ一枚のエニグマの紙。





「『敗北を刻み付ける』?『完膚無きまで叩き潰す』? そのどちらでもねえ…!
『塵に還す』しかねえって言うんならやってやるぜ……!ただし……! てめえを『この世から完全に消し去る』っておまけ付きでなぁ…!!」





死の『尊厳』、命の『誇り』共に死刑執行官としての職務を受け継ぐ彼にとって、第一とする信条。
そして、彼自身もその二つを胸に抱いて、『誇り』と『納得』のある職務を全うしたい、それが彼をスティール・ボール・ランへと引き寄せた。


だから許せない、許せるわけもない。絶対に、絶対にだ。


こんな殺し合いの場でも確かな信用、いや信頼と呼ぶべき感情を抱けた友人を殺した相手を。
最低最悪の方法で現れた敵を。

だが、そんな彼でも今はどうすることもできない。今は味方の傷を癒し、ただ対抗策を練らなければならない。
役割を果たすことも必要だとわかっていても、そのことがただひたすらつらかった。

これもまた『感傷』なのか、そう思う彼の背中は、表情など写るはずもないのに、わかるわけもないのに、

手に取るようにわかるほど、憤怒と無念、そして不条理さにもがいていた。


452 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:05:33 AcCfbNzQ0







「〜〜!?か、花京院く〜んッ!?もももっと…もっと早く助けてくださいよぉ〜〜!!い、いまま、一瞬、あれに触っちゃいいいましいたよぉ!!??」

「東風谷さん!僕だって!先ほど髪の毛毟られかけたんですッ!!少しペースを上げてください!!」







ぎゃあぎゃあ、と大声でお互いを罵り合う二人。割と呑気している雰囲気を漂わせるが、実のところ全く持ってその逆。
危険水域120%オーバー待ったなしの状況であった。


因みにこの二人、お互いの声は届いていなかったりする。それでも話している感じになっているところ、多少は馬が合うらしい。


花京院と早苗の両名はポルナレフの治療に専念できるように、ノトーリアス・B・I・Gを引きつける役目を自ら買って出た。
と言うよりも、大きなリスクなくこの敵への対処ができるのはこの二人しかいないのだが。
早苗の弾幕と花京院のエメラルドスプラッシュ、この二つを交互に撃ち合うことで敵の注意を何とか釘づけにすることができている。

さらに片方が攻撃する間に、もう片方はそれを追い越さない速度で移動することで、なんとか距離を取ることに成功した。

尤も、これはただの時間稼ぎにしかならず、いや時間稼ぎにしたって下策中の下策でしかない。
弾幕の霊力、エメラルドスプラッシュのスタンドエネルギー、それらを喰らうことでノトーリアスは更なる成長を果たしてしまっているからだ。
そして当然、こちらはいつまでも弾幕を張り続けることは不可能。無暗矢鱈と使うわけにはいかない。

いい加減見切りを付けなければ、倒すことすら困難になってしまうのは目に見えていた。


 くっ!5分は経った…!もう治療は済んでいるはずだ、だが…


安全のために距離を取ったのが、ここに来て障害となった。
3人から離れた時のように、一方の弾幕に構っている間に、もう一方が移動することで合流しようかと思ったが、それが今はかなりリスキーだった。


 東風谷さんに近づいた、今だ…!


スタンド『法王の緑』の両掌から、ここに来て何十回目かのエメラルドスプラッシュを射出。放たれるや否やノトーリアスは超急接近。

エメラルドスプラッシュの射出速度を遥かに凌駕する速度を以て突撃すると、大口開いて纏めて捕食した。



だが、それで終わりではない。



   ガリ! ガリ! ガリ! ザ ザ ザ ザザ ザザ ザッ ッ ! !



追跡目標は失ったものの、突撃した勢いはあまりにも大きく、そのまま地面を激しく滑りに滑って滑り続ける。
そして、思い出したかのように急遽、花京院の目の前ギリギリでようやく停止。



まだ、終わりではない。



 うおぉぉおッ! またか! 今度は……マズいッ!!



あろうことか、花京院はこのタイミングで一歩、二歩と後退してしまった。
動かなければ安全という絶対的な不文律を破って、だ。もちろん彼が恐怖に屈しただとか、そんなチャチな理由によるものではない。
だが当然、それを放っておく敵ではない。蔦のようにしなやかに伸びた触手がついに花京院の胴体をグルリと旋回。


 ぐッ!? しまったぁッ!! 捕まるッ!!


もはや須臾の時すら待たずして、捕縛されてしまうのは明らか。


453 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:06:01 AcCfbNzQ0




「させませんッ! 奇跡『白昼の客星』!!」





だがしかし、奇跡の使い手は瞬く時の、その間隙を見事に縫い付けて見せた。


スペルカードの宣言と共に、早苗から見て正面の位置より10m離れた上空にまばゆい光彩を放つ星が出現。


そしてその瞬間、触手は客星に気取られ、花京院を締め付けることなかった。


ほんのわずかな隙が生まれ、即決即断、躊躇なく彼は身を屈めた。


まるで、客星が上空から花京院を見ているかのように、彼の動きと完全に同期したタイミングで弾幕は展開を始める。


最後を迎える星がもたらす爆発。
一つの星でありながら、明け空に更なる輝きを与え、闇夜を塗り替えるその煌めきは白妙の光となって、幾重にも降り注ぐ。


花京院が立ち上がった時にはノトーリアス既に過ぎ去り、上空にある客星めがけて触手を伸ばしていた。


「はぁッ……はぁはぁ…ははは、はぁ…」


息切れと共に乾いた笑いが漏れる。全身から汗という汗が浮き出て、服はぐっしょりだ。
ノトーリアスが迫りそして早苗の元へと戻る間、十秒にも満たない時間、確かに死にかけた。

身を伏せたタイミングも、弾幕の射出と同時にしなかったら、触手は反応し花京院を捕捉。そのまま早苗の元へと連れ去られていたに違いない。
そして、じわじわと消化される結末が待っていたのだろうか。


 まったく、これじゃあ……しばらくは東風谷さんに頭が上がらないな…


今やノトーリアスは早苗と花京院の愛情をたっぷりと受け、全長5mを優に超す化物と化した。この体躯で瞬く間に100m程度の距離を詰めてくるのだ。
そこで生まれる風圧は、まず間違いなく確実に一歩はよろめき、『動いて』しまう。そうなればそこに反応したノトーリアスに察知され、喰われかねない。

現に今花京院が死にかけたようにだ。冒頭に二人がぎゃあぎゃあ言っていたのも、これらに起因するものだった。

対抗策は一つ。
より早いタイミング、より遅い弾幕の射出速度だ。だが、前者はともかく後者は花京院には少々慣れていないことだ。

いつだって敵に対して全力の攻撃を放ってきたのだから、イマイチ加減の容量が掴めない。
だが、泣き言を言っていられるわけもなく、言えば即死のこの状況。花京院は腹を決めるのみだ。


 客星の光が弱まる… スタンドはイメージだ。速度を抑えた……エメラルドスプラッシュを……撃つ…!


『法王の緑』の両掌が光り輝く。見飽きた光景だが、これから広がるその様は一味違うことを願って。


「行け…! エメラルドスプラッシュ!」


先刻のそれと比べて、確かに弾速は格段に落ちた。
花京院はふと、一回死にかけたおかげかな、と下らない考えが走るが、瞳は前方を見据え注意を怠っていない。
ノトーリアスも先ほどよりも減速しているのが見て取れる。


だが、ここに来て意外なことが起きた。


454 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:06:21 AcCfbNzQ0



ノトーリアスが突如あらぬ方向を向いて静止したのだ。

しかも、距離はちょうど花京院と早苗の中心と絶妙なポジションというおまけつきで。

その後ハッとしたかのように、迫りくるエメラルドスプラッシュに喰らい付く。
そしてさらにもう一度、先ほど見た方向に、ほんの一瞬反応を示す。

突然の奇行はそこで終わり、それ以上その場を大きく動くことはなかった。



 な、何だ!? 一体何が…?



花京院にとって嬉しい誤算なのは確かだが、原因が分からないのはあまりにも危険すぎることだ。
スタンドの一番恐ろしいところは、その未知の部分が明らかにされていないがゆえに理解することなく一方的に殺されること。
状況が好転したからといって、諸手を挙げて喜べば、いつの間にかより深い落とし穴に転じることだってあるのだ。


しかし、今回は思いのほかあっさりと、理解が追いついた。それはノトーリアスの動きを見れば分かる。
あまりに唐突なことなので止まったかに見えたが、あれは何かに反応した動きだ。

ノトーリアスが花京院から視線を逸らした時、エメラルドスプラッシュ以上に速く動いた誰かがいた。

そして、その動きを即座に止めたのだ。この状況でその動きをできる人物など一人しかいない。


花京院はゆっくりと、だがしかし確信に満ちた思いを胸に、その方向を見る。


白い歯を少し覗かせニカっと笑うその様を見ると、不思議とこちらもつられて笑ってしまうのが妙に懐かしい。

こんな絶望的な状況にも勇気が湧いてくる『友人』、ジャン・ピエール・ポルナレフ。
先ほどの負傷から、どうにかこうにか復活を果たしたようだった。

こちらも笑い返しておいた。尤も、鈍い彼が気付いてくれるかどうかは少しと怪しいものだが。
まあ、労いの言葉など後で幾らでもくれてやるとしよう、小さく笑いながら、そう思う花京院であった。


455 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:08:22 AcCfbNzQ0




静寂。





戦場は再び静けさに包まれた。しかし、周囲に漂う張り詰めた空気から、それが一時の安らぎでしかないことを如実に語っていた。


あれから何分経っただろうか。
化物『ノトーリアス・B・I・G』に対抗すべく各人、対抗策を練っているという状況だが、誰かが手を挙げる様子はなかった。

ただひたすら、無意味に、時間が過ぎているような気さえする。
垂れ下がる沈黙がますます一つの考えへと収束しそうになっていく。


果たしてこの化物を倒す手段があるのか、と。


そしてこの状況、最もソワソワしている素振りで気が気でなかったのが、東風谷早苗である。
まるでその熱い視線を穴を開けるかのようにノトーリアスを見つめている彼女。
もちろん、そこにある思いは淡い恋慕の情などでは一切なく、恨みがましさ一点張りの視線を送っているのだが。


 あぁぁあ…! 早くしないと、御柱が溶けちゃいますよ…!! 早く、早く何とかしないと……


そう、ここまで搭乗してきた乗り物、御柱の安否が彼女の最たる懸案事項だった。

すっかり成長したノトーリアスの尾にあたる部位に飛び出ている何か。

初めて見る人には歪なでっぱりにしか見えないが、彼女の慧眼はしかと、その正体を見極めていた。

とは言ったものの、不定形な体躯の敵を考えれば、ただの出っ張りである可能性もある。

触れた対象を取り込む性質を鑑みれば、ひょっとせずとも、消化されていそうなものだが。


 いえいえ、そんなはずはありません! あれが御柱に決まっています!


などと心中で無茶をのたまいながら、彼女なりに必死に思考を張り巡らせる。


 で・す・か・ら!無茶じゃないですって! だって今の御柱はスピードも霊力もない、ただのオブジェですよ! あんな物食べたらお腹壊すはずです!


……とりあえず、まあ彼女なりに考えているのだ。きっと。


456 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:09:29 AcCfbNzQ0


 そう、あの敵はスピードのあるモノに反応して動いているんです。ですので、弾幕での攻撃はどうあっても厳禁。


ひとまず、彼女は今のところ分かっている敵の能力を振り返る。


 そして、反応した標的を捕食します。人、スタンド、弾幕、うぅ…入れたくないですけど、御柱……


未練がましさが少々残るものの、ようやく御柱への執着心を捨て去ったようだ。


いえ! やっぱり御柱はあるに決まってます!あると言ったらあります!


紫電一閃の掌返し。これもまた、常識に囚われない秘訣なのかもしれない。


 だから……もし、御柱が残っているのは確実とするなら、ですよ…? もちろん、その理由は……
今の御柱が何の霊力もスピードもないモノだから捕食されていないから、なんです。


自分の都合に合わせた解釈だが、あながち間違いではないだろう。ノトーリアスが取り込んだまま、消化し切れなかったらの話にはなるが。


 つまり、捕食し切れないモノで攻撃するのが……有効、なのでしょうか? ですけど、一体……何が…?


思うは易し行うは難し。そんな都合の良いモノがどこにあるだろうか。
仮にあったところで、それはスピードを出すことは許されないのだ。

捕食は免れても一時的に取り込まれるのは避けられない。それこそ、早苗が未だ存命していると仮定した御柱のように、だ。


 仮定ではありません!決定事項ですよッ!!


…………はい。


 必ずやると決めた時は『直線』なんです! 今の私は何が何でも『直線』で突っ切るのみですよッ!


そう自信を奮起させながら、ノトーリアスから目線を離さず、悶々と考える早苗。
直線なのは大いに結構なのだが、その前提が果たして『必ず』と言えるのか、それが思い込みだとしたら、その時は自らを危機へと誘う。
それを彼女はどこまで理解しているのか。



 動いていない、捕食できそうにない………



だがしかし、今回ばかりはその徹底した思考の偏りが、一計を閃くきっかけとなった。







 !!?? ありました!!!これです、これしかない!!!!!







手を組んで不敵に笑った時、それは勝利の瞬間とは誰が言ったか。
生憎と手は組んでいないものの、早苗の表情は口の両端を吊り上げたように、にんまりと厭らしく微笑んだのだ。


今、奇跡の少女は捲土重来を起こすべく、立ち上がる。


457 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:10:52 AcCfbNzQ0


 やれやれ、やはり遠いな……


ふーっと吐く息さえも満足に勢いよく出すことも躊躇われるこの状況、花京院にとって少々頭が痛かった。
結局あの後一人でしばらく思案したもののすぐには思いつくことはなかった。
それによくよく考えれば、妙案が浮かんだところでこの怪物を一人で退治できるとは考え難く、まず確実に協力が必要だということに気付く。
そんなわけで、一旦はポルナレフらの元へ戻ることにしたのだ。

じわりじわりと歩くものの、その距離が完全に詰めることは難しい。
ようやく、花京院が動き出した地点からポルナレフらまで半分と言ったところか。

だからと言って、ここで急いては事を仕損じる。そのことをしっかりと理解し、ゆったりとした亀の歩みを維持して堅実に進むのだったが。


 そういえば、東風谷さんはどうしている…?


ふと、自身の相方のことが頭を過った。先ほど鮮やかなお手前で窮地を救ってもらったのだが、
どことなく、いや結構ズレた感性の持ち主なのは、もう既に味わっている。
ノトーリアスが動いていないところを見ると、杞憂なのだろうが、一応その姿を確認したくなった。


 東風谷さんは……っと、いたいた。


上半身には白色の上着を下半身には青色のスカートを履いた東風谷早苗を目視できた。

どういった構造になっているのか、肩と腕の境目の部分を包むはずの布がない奇抜な巫女服も、見慣れば案外しっくり来るものだな、思った。
青のスカートの方も白い御幣があちらこちらに見えて、私は巫女ですよ、とアピールしていると考えるとそれはそれで可愛らしい、などとどーでもいい考えが頭を走る。
それに、今現在何やら緊張した面持ちも、初めて対面した時のことを思い出す。


 おっとっと、現を抜かしている場合じゃないな、早くポルナレフ達の元へ急がなければ…


こんな様子では後でポルナレフにからかわれ兼ねないな、と思いフッと笑ってしまう。

だが、まあそれはそれで悪くないかもしれない。
正確に言うと違うが、あの日を共にした友人とここに来て新しくできた仲間。そんな中にいられる自分がやけに幸せな人間に思えた。


 ん? ちょっと待て…


花京院は一歩進んで、心中首を傾げた。早苗の見えた位置が少々おかしいことに気付く。
もう一度振り向き、確信に至った。


 東風谷さん……まさか、あれから一歩も動いてないのか…!?


花京院の不安は的中。早苗の今の位置はノトーリアスが停止した時とほとんど変わっていなかった。
今までの時間一体何をしていたのか、そう問い詰めたくなる彼だったが、ここはグッと堪える。


 どうにかして伝えないと、しかしどうやって……


とは思ったものの、声を上げないで早苗に気付かせることなど出来るのだろうか。
それに、大声を上げれば敵が反応する可能性も否定はできない。

そこで、花京院はとりあえずゆっくりとだが、大きく腕を振ることにした。





 ノトーリアスは……動かない、な。東風谷さん…!こっち向いて下さ―――


458 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:12:32 AcCfbNzQ0





花京院の思考が止まる。別に早苗が動き出したわけじゃない。

もし、そんなことでもしたら彼は卒倒していただろう。



にたぁ、と笑ったのだ。不敵というか不気味に。一体何が面白かったのか、花京院は知る由もなく静かに目を伏せるしかなかった。



 東風谷さん………すごく、その……ワルそうな顔を、しています…



もうちょっとだけなんとかならなかったのか、と思う。
もっと、こう、少女っぽい感じと言うか、どうせならイタズラっぽくというか、こう…なんとか。


 いや、花京院。今はそれどころじゃない、前を見ろ、現実と『立ち向かえ』。


目を開くと、いつもの早苗の姿があった。花京院は先ほどの光景をただの夢なのだということにした。
現実と向き合うのは誰だってつらいことだ。

さらに幸いなことに花京院の方を向いていた。お茶目なことに早苗も花京院と同じように片手を挙げて合図していた。



 ほら見ろ、花京院。こんな可愛らしい少女の仕草をした彼女があんなあくどい顔などするものか、さっきのはDAY DREAM。そう、白昼夢なんだ。



何度かその思考を反芻し、気分が落ち着いたところで、早苗にポルナレフ達の元へ戻るよう身振り手振り伝えようとする花京院だが。
彼女の方を見ると逆に向こうから伝えることがあるのか、何やらゆっくりとした動きでジェスチャーをしている。





1.徐に両手をパンと合わせる。


2.右手の人差し指と中指を伸ばしVの字に形作る。





そう、確か紅海を渡ろうかした時に見たハンドシグナルで…… そうそう、ポルナレフも知っているやつじゃあないか!


察しの良い花京院はこの二つだけで、すぐにその意味を把握した。


459 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:13:49 AcCfbNzQ0







 ……パンtm………いや、いやいやいやいや! ちょっと待て!! 待ってくださいッ!! 東風谷さん!!!





大いに理解には苦しんだが。


何やっているんですか!ジェスチャーはともかく、いいえジェスチャーもですが、こんな状況で一体何を考えているんだ、あの人は!!??


思わずノトーリアスがいることを忘れて、何回も頭を振る花京院。すぐにハッとして動きを止めたものの、敵は彼の動揺などお構いなしにちゃっかり反応していた。



 あ、危なかった…! こんなノリで襲われてしまうなんて笑い話にもならないぞ…! こんな役回り、ポルナレフが担うべきじゃあないのか!?



少々理不尽な八つ当たりが混ざっているが、花京院は何とか平静を取り戻す。
もう一度早苗の方を見れば、心配そうに彼の方を見ていた。さらに、音を発さずに口パクで伝えてきた。


 大丈夫ですか? 最後まで見てください?って言っているのか?……まさか、まだ続きがあるのか?


確かに花京院が知っているそれも、後二つほど動きがある。

だが、うら若き乙女にそんなことさせたくない、というか見たくないのが彼の心からの願いだった。

なので、早苗に向けて両腕を伸ばし手を開く。待ってほしい、という意だ。


 何なんだ…!? さっきの表情といい、あのジェスチャーといい、彼女は僕をからかっているのか…!?


状況が状況だけに、花京院の心中は穏やかではない。信用すべきかどうかも少々怪しくなるほどに。

だが、早苗がこちらを見る目には悪意の欠片すらないように見える。彼女の黒の瞳はどこまでも澄んでいた。



 ……まさか、僕の考え過ぎかもしれない。でも、全部が全部、僕の一人相撲じゃあない、ですよね?



何だか急に恥ずかしくなってきた花京院はオホン、と一つ咳払い。
口パクで大丈夫だと伝えると、早苗は安心したように微笑んだ。対照的に彼の方は、げっそりとしてしまっていたのだが。


460 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:14:26 AcCfbNzQ0


早苗は再びジェスチャーを始めた。


1.徐に両手をパンと合わせ、ぺこりと頭を下げる。

2.右手の人差し指と中指を伸ばしVの字に形作る。ついでに、口も両端を真横に伸ばす。


問題のシーン。花京院は人知れず、自分の勘違いであってくれ、とひたすら祈っていた。


3.自身の目の前で、両手を球状になるよう包む形で合わせる。


 違った…! だが、あれは何をして…


4.手はそのままの形を維持しながら、正面を向いた身体は半身へと徐々に移行。右足を腰の高さまで持ち上げる。

5.両腕を後ろへと引かせると、ついに両手を放し、右腕は放物線を描く。腕が突き出ると同時に持ち上げていた足を大きく踏み込ませる。



 投球フォーム…か? ゲーム『Oh !! That’s a Baseball !!』で見たことのある構えだ… だがしかし、何を投げるつもりだ…?



6.最後にあるモノを指差した、その先にあるのは―――





―――ノトーリアス・B・I・Gだった。



 どういうことだ…!? あいつを投げるだと!? 何の意味がある? というか出来るわけがない!



花京院は混乱するが、ここで早苗が両手を突き出して口パクで伝えてきた。


 エメラルドスプラッシュ…か? 何でそれを撃つことがノトーリアスを投げることに繋がる? 撃ったところであいつはそれを追うだけだ。
 そして、それを東風谷さんが弾幕で誘導して……それを、繰り返す…


その様相はまるで。


 まさか、さっきの投球フォームはノトーリアスでキャッチボールしようって意味なのか…? 最初のブイサインはそれを2回やろうってことか…?


要するに先ほどの時間稼ぎをもう一度やろう、花京院にはそう捉えることができた。


 だが、一体何のために? 彼女のことだ、何か狙いがあるだろうが……


ここに来てちょっと抜けているところが露呈しているものの、早苗の起点の良さは既に花京院自身、身を以て理解している。
彼としては彼女の作戦に乗ることにやぶさかでない。


問題はこの状況にある。早苗の考えた作戦を知るのは、彼女のみということだ。

もし、彼女が想定外の事態に追い込まれたら、作戦の知らない花京院ら4名の対処は完全に後手に回る。
それは5人全員の危険となることは明白だ。


相手が相手だ。拙速で挑むべきじゃあない…… ここは一旦戻るべきだと、僕は思う。


花京院はポルナレフらの位置を指差して、戻るよう指示するが、早苗は頭を振って断った。
さらに、手を合わせてぺこりと一礼。協力してほしい、という意味なのだろう。


461 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:15:37 AcCfbNzQ0


 ……やっぱりダメか… まあ、東風谷さんが急いでいる理由は想像が付く。



御柱。ノトーリアスに取り込まれたそれの奪還。彼女の内にある目的を花京院は察していた。


 実際はあんな無茶な使い方をするような代物とは思えない。むしろ、あんな使い方を知っているということは…


少なからず早苗と縁のある品なのだろう。だからこそ、すぐにでも取り返したい。あんな無茶なジェスチャーをしてまで。
対抗策を閃いたのなら尚のことだ。きっと彼女は今、居ても立っても居られないはず。


それがたとえ、僕の敵に至る相手の物だとしても…… 協力しないわけにはいかないか…


大方、早苗の様子からして諏訪子、もしくは一度対峙した神奈子のものだという事は想像に難くない。
初めて話した時も、固い表情がほぐれた際には二人の名があった。

残念ながら早苗の複雑な事情を知る由もない花京院には、理解することができない。
だが、彼女にとって二人の存在がどれほど支えになっているかは容易に理解することができる。


花京院で言うポルナレフらを指す『友人』とは違った何か、それは―――


 ―――『家族』か……? そういえば僕は相当な親不孝者になるんだったな。


DISCを通して見た未来。DIOのスタンド能力の解明と引き換えに死に至る自分の姿を彼は知っている。


 僕だって、『家族』は彼らと出逢うまでの孤独の世界を埋めてくれた。父さんも母さんも…僕にとって大事な存在だということに何ら変わりない。


親不孝者が言うにはちょっと説得力に欠けるか、と思いながら小さく笑う。



 彼女の願いは僕にも通じるものがある。だったら、僕はそれを快諾したい。間違えたのならそれを補ってやればいい。
それに、勝手に付いて来た僕にようやく胸襟を開いてくれたんだ。協力しないのは男が廃るんじゃあないだろうか…?



自分でも少々甘い考えだと思ってしまったが、彼にはなんとなく彼女のことを放っておけなかった。



突然だが、とある人物は臭いで人となりを区別する、というぶっ飛んだ特技を持っている。

生憎と、花京院にそんな特技はない。チェリーを下の上で弄ぶという、視覚的にも擬音的にもアレな悪癖ならあるのだが、それは割愛しよう。

早い話、同じ生き方をしてきた者同士ゆえに感づいたのかもしれない、ということだ。

敬愛する二柱を唯一『視る』ことができた存在がゆえに、理解してもらえぬ思いに苦悶し続け、孤独であった東風谷早苗。

スタンドを『見る』ことのできる者などいないと思ったがゆえに、周りと真に打ち解けることができなかった花京院典明。

花京院は早苗の事情など知りもしない。だが、ひょっとしたら、もしかしたら、なんて思っているのかもしれない。いや思っている。

『スタンド使いは惹かれあう』。字面の意味は違うが、まあ要はこんなことなのだ。

長きに渡り、内なる孤独を抱え続けた者が持つ雰囲気を花京院が嗅ぎ付けた瞬間だった。



そうなると……決まり、かな?



花京院はそう心中で自分の気持ちに整理を付けると、早苗を見据える。彼女は一瞬ビクリとする。


彼が事に応じてくれるのかどうか、先の返答を見れば、再び断られるだろう、そう思っていたの違いない。


だがしかし、彼が大きく頷く様子を目で捉えると、不安げな表情をなどどこ吹く風とすっ飛んだ。


勢いよくお辞儀をし、顔を上げた彼女の顔は嬉しさと感謝でほころんでいた。


いつも緩やかな迷走を繰り返す二人なのだが、今この時、初めてお互いの気持ちが一つに固まったのかもしれない。


462 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:16:43 AcCfbNzQ0


 良かった…! 花京院くんも協力してくれるみたいで…!


早苗はひとまずホッとした様子を見せる。だが、そんな素振りを見せた自分を即座に是正する。
花京院は、あくまで彼女に勝手に付いて来た相手だ。
だと言うのに、ここに来てこちらから協力してほしい、と言うのは少々虫のいい話だろう。


早い話、彼女なりに気兼ねするところがあったのだ。


だからこそ、もっとしっかりした自分を見せなければ、という気負いゆえ今はキリっとした表情をしている。

今更遅いとか、野暮なことは言いっこなしである。



早苗は自身を指差しながら、霊力を充填する。2回だけのキャッチボール。その始球式を務めるのは自分だと意味だろう。
花京院はそれに頷くのみ。彼女の作戦を信頼すること、今の彼にはそれしかできない。
だが、スターダストクルセイダースのブレイン担当の彼は、万一の不慮の事態に対処する心構えを一切崩していない。







「行きますッ!開海『海が割れる日』!!」







白波一閃。早苗の両脇の空間から突如、水圧カッターのように鋭い波飛沫が大地に一筋の直線を描きながら駆け出す。

同時にまた敵も躍動する。その速度は異常にして絶対追随。
大地を這うように走っているはずなのに、どこからその速度が生まれるのか。
ノトーリアス・B・I・Gがついに不動の呪縛から逃れ、獲物へ向かってただただ走る。


「ッ!!」


早苗の目の前まで近寄ると急停止。大きく二手に分かれた弾幕に対して、敵は触手を伸ばし吸収を狙う。
迫る暴風に一、二歩よろめくものの、未だ弾幕は健在。早苗本人は事なきを得るに終わり、だがしかし、弾幕は養分として捕捉されてしまう。


 弾幕を二手に分けてもしっかり捕捉してきますか…!


改めて敵の強大さを目の当たりにする早苗。鋭い弾幕の射出も多少の出血に終わり、傷はもう塞がっている。
だが、彼女の瞳は揺れることはあっても、恐怖に屈してはいない。それはなぜか。





「エメラルドスプラッシュッ!」





彼女の意図を理解できずとも信頼し、支えてくれる相手がいるからだ。
法王の緑の両掌が唸りを上げる。次々と射出される翡翠色の鮮やかな弾幕。問題の射出速度は既に克服している。
普段より遅めの速度を維持し、あくまで敵の引きつけが目的だという花京院の役割の表れだ。


ノトーリアスは再び大地を蹴り、駆け出す。目標は当然、飛来する宝石の群れ。一点集中の弾幕をその巨体に見合った大口で一気に喰らい付く。


やがて勢いを殺す気もないまま、花京院の目前まで一気に迫り、そして止まる。


463 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:17:10 AcCfbNzQ0


だが、減速したエメラルドスプラッシュのおかげで、以前ほどの速さはなく、彼をふらつかせるにはいささか無理があった。

そよ風を受け、揺らぐのは彼の精神ではなく、特徴的な素敵前髪。

心なしか、虚ろなその瞳で恨めし気に彼を睨んでるように見えなくもない。


 一合凌いだ…! しかし、東風谷さんだって迂闊に動けないはず。


一体何を始めるのか、果たしてその準備は整っているのか、花京院の疑問は尽きない。


 いや、僕は僕の出来ることを果たす。彼女が心置きなく戦えるよう全力を尽くす。それだけだ。


「『ナット・キング・コール』! お願いしますッ!!」


早苗はDISCから得た仮初の守護霊を召喚し、即座に命令する。
スタンド『ナット・キング・コール』は握り締めた両手を開くと、そこにある大量の螺子を投擲し始めた。


されど、ノトーリアスは一切動じる様子を見せず、早苗の元へと突き進むのみ。
やはり、直接的なスタンドを介した攻撃はその身に取り込んでしまい決定打にならない、ということなのだろうか。


ノトーリアスは螺子を投げているナット・キング・コールめがけ、ついに大口を開く。


しかしながら、早苗はそれを無視。
ナット・キング・コールのビジョンそのものに打ち付けられた螺子が飛び散っているのかのように、ひたすらに投げるだけ。



一点集中。
ただ一つの動作を延々と繰り返す様は、どこかしら狂気染みた様相を呈している。

だが違う。
それは彼女の両足を見れば自ずと理解できるはずだ。その両脚の震えは一体どういう意味なのだろうか。迫り来る轟音が彼女を揺らしているのか。

それも違う。
彼女とてこの瞬間の連続、その間隙の全てに恐怖を抱きながら立ち向かっているのだ。弱さを乗り越える、その意味に苦悶しながらも。



「そういうことか…! 邪魔立てはさせないぞ、ノトーリアス・B・I・G!」



早苗の意図を察した花京院は、その狙いを成功へと導くため再度エメラルドスプラッシュを発射。

何度も敵の動きを見せられた花京院の射出タイミングは絶妙の一言に尽きた。
ノトーリアスの触手は、ナット・キング・コールの薄皮一枚持っていくのみに留め、標的をエメラルドスプラッシュへと無理やり移行させる。

早苗の行動時間をギリギリまで引き延ばすための、ファインプレーをここ一番で成し遂げて見せた。



ノトーリアスがエメラルドスプラッシュに構っている間も、早苗はその速度を追い越さない程度に螺子を放り続ける。



 確かにこれなら、スタンドも弾幕を介することなく、奴を攻撃できる…! だが、成功するのか…!?



迫り来るノトーリアスを目で捉えながらも、早苗を案ずる花京院。

彼女は二回で大丈夫と言っていたが、万一の際はフォローできるよう心構えをして、今は佇む。



そして、敵はエメラルドスプラッシュの全てを捕食し終えると、即刻、対象を切り替え―――なかった。



 何だ…!? どうして動かない!?



花京院の目の前で呆けているノトーリアスは動こうとする気配がない。早苗の方を窺おうにも敵の巨体に視界を阻まれてしまっている。


 終わった…? ついに仕掛けるのか……?


その時だった。

ノトーリアスがゆっくりと動き出し、花京院の視界も徐々に広がっていく。
そう、早苗の方へと向かっているのだった。


464 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:17:34 AcCfbNzQ0



 準備の準備ができました…! 後は……



早苗はゆったりと迫り来るノトーリアスを見据える。距離は十分。さらに歩みは愚鈍そのもので、今現在は脅威足り得ない。
だけども、少々不可解だ。早苗もナット・キング・コールもその場を動いていない。

彼女の動きと言っても、少しだけ荒れた呼吸を繰り返しているだけで、本来ならば探知されることはないはずである。


一体ノトーリアスは何の動きに反応しているのか。


コロン…ボ ト リ……


この音を聞いている存在はいないはずだ。

それほどまでにちっぽけな物が発した音。

とは言ったものの一寸の虫にも五分の魂。

それ、いや、それらが何を起こすのか。



……ッ! 一つ落とした……思った以上に、難しい……!



早苗は先刻より苦しそうに呼吸を荒げ、その振動が一筋の汗を重力へと捕捉させ、顔を走る。


 上手く、タイミングを、揃えることに……集中しないと…


早苗は思い描く、自らのイメージを。


だが―――


465 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:18:01 AcCfbNzQ0


回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る



「あぐぁ…ッ痛ぅ!!」



―――早苗の頭に鋭い痛みが走る。痛みは一時的に彼女の平衡感覚を失わせ、大きくたたらを踏ませる。
それは当然ノトーリアスも同調して動くことを意味した。

何とか我に返った時、わずかだが敵に距離を詰めることを許してしまった。


 まだ、です。距離はあります…… これは…あくまで……確実に成功させるための、調整……段階的にやれば…


思考とは裏腹にその表情に余裕はない。
軋む頭に鞭を打ち、再び目を閉じる。五感を極力排除し、内なる精神の手綱を握り締める。


回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る

 ゆっくりと少しずつ、蛇口をひねる様に…

回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る


 くうぅうッ! まだまだぁ…!…もっと、もっとです!!


回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る



 急がなくては…! 花京院くんに誘導して、もらうわけ…にはいか…ない…! こっちが、持ち…ません……!



回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る



 まだ、終わらない…! これ以上は……増やせない…! 敵は…どこまで近づいて? 本当に成功するの? 花京院くんが助けてくれる? 失敗して……



回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る


466 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:18:29 AcCfbNzQ0





違う、そうじゃない! Lesson1『己の精神を支配しろ』 呼吸を整え、平静を保て!







回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る



 あの人はいない。だけど彼の言葉は私に勇気を与えてくれる。恐怖も不安も全て抱えて、この敵を乗り越える!



回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る




 スタンドのイメージを塗り替える! 『回る』んじゃあない!! 私の手で!! この意志で!!! 『回れ!』!!!!




回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!回れ!






 そして……『回れ!』と心の中で思ったその瞬間!! その時、既に…『完了している』!!!






全ての雑音が泡沫の夢のように消えた。

だが、確固たる事実は生き残るはずだ。

真の行動の末に広がる、この世界の真実だとしたら。


467 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:18:54 AcCfbNzQ0





ゆっくりと目を開く。まず、最初に写ったのはノトーリアス・B・I・G。

距離は10m程度あるかないか、といったところか。

だがしかし、早苗の関心はそこになかった。おそるおそる、視線をある場所へとずらす。



偶然か、あるいは奇跡か、狙ったのだろうか。だが、それは丁度早苗とノトーリアスの最短距離を二分する位置にあった。



一筋の長く浅い大地の亀裂。


だがそれだけならば、どこにでもある些末な景色の一つに過ぎない。


問題はその割れ目から、何かが突出しているのだ。


螺旋状の溝が掘られた細長い円柱状の物体。



それは螺子。



数百は下らないであろうそれらは。


ある螺子は先端を上にして、ある螺子は頭を上にして。


ひび割れた大地とその周り突き刺さる形で、びっしりと敷き詰められていた。


468 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:20:34 AcCfbNzQ0





 レッスンの成果の証を今ここで打ち立てて見せる! 見ていてください、プロシュートさん…!!





もはや、在りし人となったスタンドの恩師の姿を胸に、早苗は描く。徒手空拳の五芒星を。


一画。生憎とそこに意味はない。だが真意はそこにある。


二画。スタンドは自身の精神が物を言う性質を持つ、精神の具現。だから早苗は心で理解した。


三画。これから巻き起こす奇跡はスペルカードではなく、スタンドの力。だが彼女はこの軌跡に祈りを乗せた。


四画。無駄と言えばそれまでだが、魔を退ける文様は、確かに彼女の心を安らかなものへと導いていった。


五画。先のスペルカード然り、空間に描く五芒星然り、全ては奇跡へとつなげるための布石なのだから。












「―――『ナット・キング・コール』!!! 神の歩まれたその道を境目とし! この地を『分け隔て』!! 楔を『解き放て』!! 番の大地を生み出すべく『分解せよ』!!!!―――」












ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!


469 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:21:09 AcCfbNzQ0

百花斉放。地面に突き刺さった螺子のナットが狂ったように旋回し出す。

早苗の動きから既に動き出していたノトーリアス・B・I・Gはここでさらに疾駆する。

即座に最短距離のナットを喰らい付くべく跳躍した。





ガオンッ!! ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴッ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … … …





頭から突っ込み、その一口で外れた数十のナットや螺子を捕食するが、それでもなお飽き足らない。

なんと跳んだと同時に触手を引き延ばし、口では喰らいながら尚もその身に取り込まんとする。

恐るべき執念は外れた螺子とナットの全てを掴み取ることに成功させる。





   ゴ ゴッ ゴ ゴ ゴ ゴ ッ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ … … ゴァンッ ! ! !





そのまま地面へと着地――――――できなかった。





「GYHA!?」





頭を下に向け、無様に驚くその様はあるいは可愛らしいかもしれない。

降りるべき大地はもうそこにない。あるのは深淵のみ。

無重力に抱かれて、未知なる世界への旅路を待つだけとなった。





そう、早苗は大地に深い地割れを創り出すことが狙いだった。

ナット・キング・コールの『分解』の能力を利用して。

螺子をばら撒き、抉じ開けるための螺子のナットを一気に外すというもの。



開海『海が割れた日』を発動したのも、大地を二手に『分解』するためのイメージを築き上げる布石。

奇しくも『御神渡り』をモデルとするスペルカードが、大地に巨大な地割れを引き起こさせたのだ。



だが、この強大な敵が地の底に叩き付けられた程度で死に至るだろうか。

少なくとも早苗はこの問いの答えに対して、ノーであった。

何より御柱は未だノトーリアスが取り込んだままである。

奪還のために奮闘したのにこれではあまりにも本末転倒。

早い話、早苗はこのままノトーリアスを逃がすつもりは毛頭ない。

奇跡の成功に酔いしれることなく、彼女はジッとノトーリアスを見据え、機を窺う。

奈落へと歩み始めた敵が地平線から消える瞬間を―――

―――正確には、化物の尻尾のおまけとなった『それのみ』をこの大地へと残す間隙を。

狙いは一つ。更なる奇跡の軌跡に奇跡をおっ被せること。

奇跡を締めるのもまた奇跡の元にある。


470 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:21:56 AcCfbNzQ0












「―――『ナット・キング・コール』!!! 汚れし殉教者の道を絶て! この地を『接ぎ当て』!! 今一度番を『妻合わせ』!! 袂を分けし坤神を『接合せよ』!!!!―――」












ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!


螺子のナットが悲鳴を上げ出し、蜘蛛の子散らすように旋回し出す。

あれで終わりではなかった。大地には未だ無数の螺子が打ち付けられており、ナットは螺子の頭を目指し駆け上がる。

それに呼応して、ばっくりと割れていた大地は瞬く間に閉じられていく。



「GYYYYYYYYYAAAHHHHHHHHHHHHHH!!??」



当然、二分した大地の間にいるノトーリアスを挟み込んで。

迫り来る大地に構ってしまっているせいか、地表に上がることも叶わない。

さらに、大地というあまりにも絶対的な不動の存在は、正に天敵。

体躯が完全に固定された瞬間、更なる悲鳴を上げる。





「GYYYYYYYYYYYYAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!」





最初に血飛沫がバカみたいに飛び出す。噴水というよりは、間欠泉と言うべきほど驚異的な高さに打ち上げられるそれは凄絶と言うべきか。

さらには、モクモクと白い煙が狼煙のように天へと昇っていく。運命の奴隷が安息の地へと還るかのように。

そして絶叫する。










「GGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!」










   ゾ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ オ オ オ オ オ ォ オ オ ン ン … … … … …


471 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:22:46 AcCfbNzQ0


大地が閉じた時、そこは気に恐ろしい景色が広がっていた。



血の海と称すべき夥しい量の血液、弾幕と悪魔の蹂躙によって滅茶苦茶にされ血の海に浮かぶ向日葵、そしてその中心に立つ血に濡れた少女。



狂気的な絵画の世界に引きずり込まれたような光景。



それを眺めていた4名は、呆けたように佇む少女が駆け出したところで、これが現実なのだと引き戻されるのだった。


472 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:23:34 AcCfbNzQ0


早苗は花京院の元へ走り寄りながら、バシャバシャと飛沫を上げながら、大声で叫ぶ。



「…や……ややや、やりました〜〜〜!! やりましたよ、私!!! ねぇ、どうですか!? ねぇったら、花京院くん!!??」



そして走った勢いに任せて花京院へと飛び付いた。早苗の華奢な腕が花京院の首に巻きつく。


「おぐぅえ…! こちやさん……ほんとうにじつにみごとでした。ぼくにはとてもできません。くるし…」

「もう! 心が込めてないですよ!! それそれっ!!」

「くびががぐぁ、おも…いからですよ。はやく…はなれって…くだ、さ……」


「その辺にしときなよ、早苗ちゃん? じゃなきゃ、花京院がぶっ倒れちまうぜ?」


二人が乳繰り合っている横から声が聞こえた。ポルナレフである。後ろにはジャイロと阿求も連れている。


「大丈夫とは思うが、ケガはねぇか? しっかし、あんな方法でやるとはな… ブッたまげたぜ……」
「お見事でした、早苗さん。本当にお疲れ様です。」

「えへへ、いやぁ、うふふ?」


称賛と労いの言葉に素直に照れる様子を見せる早苗。両名のおかげで花京院から腕を離してあげることに成功。
花京院は数度咳込むだけで、幸いにも事なきを得た。


「ほれ、花京院。おめえも早苗ちゃんに言うことあるだろうがよ?」
「急かさなくて結構ですよ、ポルナレフ。彼女の活躍ぶりは僕が良く分かっているんですからね。」


「そりゃあそうだな! お前が一番早苗ちゃんのことはわかっているんだもんなぁ〜?」
「……誤解を招く発言はよしてください。何より彼女に失礼でしょうに…」


指で花京院をちょんちょんと突っつきながら、ポルナレフはニタニタと意地悪に笑う。
あくまで花京院は冷静に対処するが、そこに一人割って入る。





「そんなっ! 花京院くんなら私のこと、一番わかってくれていると思ったのに!?」

「東風谷さんも、です。 …悪乗りしなくていいですよ……まったく…」


473 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:27:51 AcCfbNzQ0



一人で御柱の回収に向かった早苗は、血の海に物怖じすることなく、ズカズカと進んでいく。
足首が浸かる程度になったそこは、相変わらず向日葵の花が幾つも浮いており、不気味な空間と化していた。



「はぁふぅ………」



ため息交じりに二酸化炭素を追い出す彼女は一体何を不満に思うのだろうか。
感謝の思いを半分しか受け取ってもらえなかったからか。考えたくない事実を突きつけられたからか。慌てふためく花京院を見ることがでなかったからか。


 多分、全部なのよねぇ。 だってあの流れじゃないと、とても言えなかったのに……


早苗なりの混じりっ気のない素直なお礼だったのだが、如何せん花京院は義理堅いというか何というか。
仲間、友人という括りにおいて、彼は明確な線引きを求める男であった。そして、それは早苗とて例外ではない。

エジプトへの50日の旅そのものが彼の真っ当な友人が出来た日数なのを考えれば、それも少々致し方ない。
そんな彼だからこそ、彼女の思惑はあっさりと見抜かれてしまった。

別に彼女に彼と友人になる資格のない人間というわけではない。それならば、そもそもそんな義理堅さなど目に写りはしないだろう。
むしろ、その資格がある故の彼の態度、そう捉えるのが自然だ。

とは言っても、早苗からしたら自身に非があるのでは、と勘繰ってしまうものである。
生憎と幻想郷に彼の様な人種(妖怪も神もいるけど)は、なかなかお目にかかれないのも起因していた。


まったくもってお互い難儀なものだった。


 私、甘えちゃってるのかなぁ…… 『弱さ』か…


小さな自責の念は未だ掴めぬLesson4へと連想させた。そういえば先の戦いでようやっとLesson1を乗り越えられた感覚というか、胸を張って言えるような感じになった。


 これでようやくLesson1だもの。先は長くて遠い。もっと頑張らないとね…!


早苗は素早く気持ちを切り替える。うだうだしても何も始まらない。少なくとも今思い悩むことは彼女の中では『弱さ』と捉えたようだった。
それに別に花京院から拒絶されたわけでもないのだ。

気付けば、周りは血の海ではなくなっていた。ちょうどここら辺一帯が先ほど地面を抉じ開け、閉じた場所のようだ。
無理やり開け閉めしたせいで、ここの大地が盛り上がっているのだろうか。



「……と言うことは…? あ!? あった、あった!」



養分足り得ないそれはノトーリアスにとってもはや無用の長物だったのだろう。

ノトーリアス・B・I・Gの尻尾から飛び出ていた御柱は、頭から突っ込んでいった敵の身体と大地と挟み込むことで、見事救出されたのだ。

そんな御柱は早苗のすぐ近くを転がっているのが視界に入り、手を伸ばし掴み取る。ズシリとした手応えを感じ、何故だかホッとした。


むぅ…ちょっとみすぼらしくなっちゃいましたねぇ……


しかし、一時的にでもノトーリアス・B・I・Gに取り込まれたせいなのか、虫食いチーズのように所々溶けているのが見て取れた。


いえいえ、すこ〜しだけ軽くなった気がしますし…うん、軽量化に成功したということで良しとしましょう。


中々前向きな考えで一蹴してしまう早苗であった。
目的を果たした彼女は回収した御柱をエニグマの紙に仕舞う、ではなく、唐突にそれを両手で天へと大きく振りかぶる。


474 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:32:02 AcCfbNzQ0




「それっ!」





そのまま円柱で言う底の部分を地面へ向けて、思いっきり振り下ろす。育ちの良い地面は思いの外あっさりと、御柱が自立する程度に突き刺さった。



今度はその場から一歩下がり、御柱へ向けて頭を垂れる。90度きっかりと。

2秒ほどして頭を上げると、もう一度同じように頭を落とす。

再び頭を上げると、目の前まで両手を叩き合わせる。パンパンと小気味いい音が響く。

最後にもう一度、下半身に対して直角になるように上半身を傾ける。

『二拝二礼一拝』という、神社に参拝する作法、あるいは神遊びの始まりの挨拶だ。

尤も、最近は一々堅苦しいと苦言を呈されたので、執り行うことはすっかりなかったのだが。


 そういえば、幻想郷に来る前は良くやってましたねぇ…


信仰が廃れ、神奈子と諏訪子の存在が危ぶまれた結果、早苗以外からは視えなくなってしまったあの頃。

神社に訪れて『二拝二礼一拝』をすれば、幼き日も、幻想郷に来て間もない日も、どこからともなく二人が来てくれたというものだ。

早苗たちが幻想郷に行き付いた後も行き付く前からも存在する確かな風儀。

目の前にそびえ立つミニチュアサイズの御柱もまたそうだ。

守屋神社ごと越してきた彼女にとって、貴重な幻想郷と外の世界が地続きとなっている代物と言える。


だからこそ、この戦いの勝利と、新たに固めた決意の報告に御柱を打ち立てたのだった。


 神奈子様……貴方を必ず止めて見せます。花京院くんと一緒に、です。それまで待っていてください。


ゆったりと目を伏せ、すっかり離れてしまった相手のことを静かに想う。

改めて胸に灯す確かな願い。それは勝手に着いて来たと自称する堅物な彼と共に、仕える一柱の凶行を止めて見せるというもの。



「さあて、行きましょうか!」


475 : 母なる坤神よ、友と共に ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:32:40 AcCfbNzQ0
快活な声を合図に、神妙な表情を脱ぎ捨て眼に明るい光を灯す。
まずは目の前の御柱を引っこ抜くべく近づくと、両腕をグルリと回して足を踏ん張らせる。


「むむ!? 思ったより深く突き刺さってるみたいですね!? ふぅーはぁー…ふんぬぬぬぬぬぬぬ!」


御柱は地中深くに埋まっていたのか、中々地表へと顔を出さない。

地面に埋まった大きなモノを引っ張り出す。これではまるで『おおきな―――



 うーん、花京院君たちにも手伝ってもらわないといけないかしら?



―――かぶ』って、ますますそれっぽくなっていくからやめなさい。

当然カブではないので、あえて言うなら『おおきなおんばしら』か。いや、御柱そのものは小さくされているから『ちいさなおんばしら』か。

ここは元ネタの『おおきなかぶ』の対となるよう『ちいさなおんばしら』の方がおあつらえ向きだろう、うん。……極めてどうでもいいが。

などとこちらが遊んでいる間に彼女の方に動きがあったようで。結局、自力で引き上げることにしていた。

まあ、自分で埋めた物が取り出せませんでした、と言うのは少々恥ずかしいのだろう。


「もう、ちょっと…で、取れ、そうですね……って、あれ、れ?」


あと一息で引っこ抜けそうというところで、早苗は気付く。

力強く踏ん張っていた両足が足首ほどまで埋まってしまっていたのである。







うん、と首を傾げ、やがてその重大な事実に絶望し、声を上げた。







「いやいやいや! わわ私は重くないですよッ!! さっきも言ったでしょ! ダイエットに成功してですねぇ―――」







勝手に弁明する彼女のことは他所に置いておこう。

おそらく、あの悪魔が降らせた大量の血が染みこんだせいで、ここら一帯がぬかるんでいるのだろう。



しかしまあ、見事にずっぽり収まったものである。足首は埋まってしまったが、果たして抜け出せるのだろうか。



某九代目サヴァンが見た日には、これぞまさしく動かぬ証拠、と上手いこと言ってくれるだろう。





「もう! こんなところサッサとおさらばしますよッ!!」





結局、御柱は完全に抜けていないのだが、デイパックからエニグマの紙を取り出す。

ただ努力と失態の甲斐あって、殆ど地表に上がったので、このまま仕舞おうという魂胆なのだろう。

最初っからこうしていれば良かったなどと、ぶつくさぼやきながら紙を開封する早苗。





斯くして、御柱を回収した彼女は花京院らの元へと合流するべく、まずは泥に埋もれた足首をどうにかするのであった。





TO BE OF GOOD CHEER … … … !


476 : ◆at2S1Rtf4A :2014/12/23(火) 00:37:54 AcCfbNzQ0
これをもちまして前編の投下を終了します

もうちょっとだけ続くんじゃ、なので後、数日お時間をいただければ幸いです

どうしても書きたいので何卒お待ちしていただければ、と思います。

最後にご指摘などありましたら、お願い致します


477 : 名無しさん :2014/12/23(火) 01:12:51 jDpmu3gwO
ノトーリアスが染み出してくるのかな?
いつ早苗が食われるのかとヒヤヒヤしてる。


478 : 名無しさん :2014/12/23(火) 06:12:19 I.Jns47c0
乙です

早苗マジ主人公。
いやーめでたしめでたs………ってまだ前編かーい!

みんな笑顔でいられますように


479 : 名無しさん :2014/12/23(火) 17:17:09 JT44p4xQ0
前編投下乙です…前編!?
もはやこれで決着が着いたかのような決戦ぶり…w
似た者同士の早苗さんと花京院くんは見事な連携と意思疏通っぷりだった
兄貴のレッスンを胸にスタンドパワー全開でノトーリアスを封じ込めた早苗さん、お疲れさまやで!
このまま平穏に終わればいい…けど、ノトーリアスが本当に再起不能になったかどうか…


480 : 名無しさん :2014/12/23(火) 17:27:15 cemluSO20
まあ言ってしまえばこの程度で死ぬわけないなあいつ


481 : 名無しさん :2014/12/23(火) 19:16:31 y.b.9X6s0
これで死ななかったらどうするだよ感もあるけどねww


482 : 名無しさん :2014/12/24(水) 14:17:02 qEszHk820
投下乙
早苗熱いよかっこいいよ


483 : ◆qSXL3X4ics :2014/12/25(木) 03:59:20 mwEt9M0M0
すみません。ちょっと期限内には無理そうなので予約破棄します。
申し訳ないです


484 : ◆YF//rpC0lk :2015/01/03(土) 01:09:28 6m7j6Tuc0
◆at2S1Rtf4A氏へ
投下有難うございます。
前編の投下より10日経過していますが、後編の投下の予定はございますか?
前半より2週間後の1/6までに後編の投下をお願いいたします。
それ以上経過するようでしたら、大変申し訳ございませんが、>>1の独断で破棄扱いといたします。


485 : 名無しさん :2015/01/03(土) 10:48:07 /y4lfrmg0
年を跨いでまでお待たせして本当に申し訳ありません
今日中に投下させていただきます。


486 : 名無しさん :2015/01/03(土) 10:49:41 /y4lfrmg0
トリ


487 : ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:01:18 vot/ybEY0
投下します。


488 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:02:39 vot/ybEY0



「あの、ジャイロさん……」

「……あんだよ、阿求。」


ポルナレフさん達が談笑している間、私はジャイロさんに声をかけました。


「……差し出がましいとは思うんですけど、その、気を落とさないで下さい。」

「あぁ!? どういうこったよ、それは…?」


ジャイロさんはぶっきらぼうにすっ呆けるだけ。
私は神子さんではありませんが、声の端々から感じます。やりきれない思いが。



「貴方は自分で決着を付けたがっていたはずです。……あの敵との。」

「……だったら、どうする?」



ジロリとこちらを見る眼には、これ以上踏み込むな、と警戒しているような雰囲気を醸し出していました。



「あいつを掘り起こして見るか? そしていっちょ思い知らせてやるか? 『尊厳』を踏みにじった落とし前を付けるために?」

「……ッ」



ドスの入った声が私へと突き立てられます。怖い。身長差も相まって上から、もの凄い力で押さえ付けられるような感覚を覚えました。





「仮に生きてたところで、できやしねぇのにな…! 結局俺は、野郎を潰すことに何一つこの力を使えなかったって言うのに!
 その癖、俺はケリを付けたがっている…! これじゃあ餓鬼のワガママと変わりゃしねぇ…!!」





静かですけど、本当に悔しさが滲み出た彼の姿がありました。
ギリリと噛み締める歯は、本来なら金色の輝きを見せるのでしょうけど、今はとても影っているように感じます。



「私たちは、確かにあの場では何もできませんでした、でもそれを次に生か―――「俺は『納得』がしたいだけだ!!」―――



ジャイロさんは私の言葉を遮って声高に主張します。でも、私だって…


「あの時、あの場所で俺のできる『納得』はその一回キリだ! それを逃したら次はねえんだよ!
それを塗り替えられるのは本当の『選ばれた』『奇跡』しかない!!


次に生かすなんてねえんだよ、と彼はもう一言ダメ押しに付け加えます。


「いいえ! 貴方には『納得』してもらわないといけません!」

「『納得』を強要して『納得』足り得ると思ってんのか?」


うぅ、勇み足で返した結果、言い包められちゃってます。彼の言う通りではあるんですが、だったら、そう……



「『妥協』してもらえますか? ジャイロさん。いや、してもらいます…! この結果で十分じゃあないですか!」



これしかありません。彼をこれ以上思い詰めさせないためには。





「ナメてんのか…!? てめぇ…!!」


489 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:04:56 vot/ybEY0

胸ぐらをグイッと掴まれ、あっさりと持ち上げられます。くるしい…



「男には『地図』が必要だ…! 荒野を渡り切る心の中の『地図』がなぁ…!! そして『納得』は俺の中の『地図』なんだよ…!!」



押し殺したような声ですが、却って威圧的な印象を受けます。




「てめえなんかがよぉ…! 勝手に捻じ曲げようとするんじゃあねぇ!!」

「うぅっ…… !? つぅあッ!」




ジャイロさんが言い終えると一緒に呼吸が急に楽になりました。その代わりに、お尻を強かに打ち付けちゃいましたけど……





「げほっ、うぅっ……で、ですけど… いつだって『納得』できるわけないですよね? それだったら亡くなった神子さんのことは『納得』いくんですか!?」


「てめええええぇぇぇえええええええーーッッ!!! くっだらなぇ揚げ足取りに神子を持ち出すな!! 汚らわしいぞッ!」





再び私は宙に吊るされちゃいました。息苦しい、でも私が言わないと…



「いいえ!! 下らな…いことじゃあ、ありません…! 貴方の生き方……は、ここではあまりに…も自分に厳しすぎます……」

「それがどうしたッ! てめえなんかに心配される謂れはねぇッ!」



一瞬、彼と目が合ってしまい、鬼のような形相で私を睨み付けているのが良く見えました。本当に怒らせちゃっています。それでも…





「私の生き方は、もっと、もっっと弱い…!『納得』なんって、どこにも、ありません……」

「……知るか…!お前自身が『納得』の生き方をするかどうかなんて興味ねえ。」





私は何とかそのまま離そうとするジャイロさんの腕を掴みます。まだ、言い終えてませんから…!





「私は戦う力なんて、ありません…! 幻想郷の住人なのにッ…! ……弾幕さえ私はッ…撃てない………!」

「だったら、すっこんでりゃあいい…! 俺の生き方に口を挟むんじゃあねぇ…!」





「能力も役、には立ちません。スタンドもぉ…ありません。回転や波紋っの技術もない。役立たず……っ役立たずなんです!……っわた、しっは…!」



「だから、すっこんでろって「でも、それでも、まだ生かされています。『妥協』し続けて……」





私は弱く賢い。だからこそ、出来ることと出来ないことなんてすぐにわかってしまいます。
努力とかそういったちっぽけなモノでは超えようのない壁があることなんて、すぐに…


490 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:05:18 vot/ybEY0


「『納得』をっ…目指せる貴方が羨ましいのだと思います。貴方に『妥協』して……ほしいのは私が、息苦しいから、
 惨めなっ気持、ちを分かち合ってほしい…からなのかもしれません。ですけど…!」





「これが私の『指針』なんです… 荒野を渡り切る心の中の『地図』を進むための標。惨めなコンパスです。
 でも『納得』だけでは貴方の『地図』は、いつかそれに載っていないところまで進んでしまう気がしたから…
『妥協』という『指針』を忘れないでくださ―――」


あっ… またしても浮遊感が。落ち―――


「けっ! 余計なお世話だぜ… おい、平気か?」


―――るっと思ったけど、降ろしてくれたんですね。


「はっい、大丈夫、です。それよりも「あーあー! 聞こえない聞こえないね! てめえの話なんざ聞いていねぇよ〜だっ!」


うわぁ… 子供みたいな態度。いや、私も子供なんですけど…


「俺のことが心配だって言うんなら、最初に一言、そー言ってりゃいいんだよ。子供らしくわかりやすくな。」


「最初に気を落とさないでくださいって言ったじゃあないですか!? それに子供って貴方のその態度も大概子供ですよっ!!」


「あー? 俺は24歳なのよん。おたくと違ってちゃーんと酒を飲めんだよ。」


「なっ! バカにしないでください! 幻想郷のお酒はいくつからでも、誰でもウェルカムなんですよっ! 私だって飲めます!!」


うーん、私の言ったこと理解してもらえたのでしょうか…… 何か私も相手のペースに乗せられちゃった気がします。
結局、しばらくの間あーだこーだ言い合っちゃいましたし…

でも、これで良かったのかも。彼の生き方にこれ以上ケチをつけるわけにはいかなかったし。
その生き方を捻じ曲げるかどうかは結局のところ彼次第なのだ、少なくとも今の私じゃあ立ち入れない。


神子さんなら、私なんかよりも、もっと上手に出来るんだろうなぁ…なんて思わずにはいられない。


貴方が亡くなったことが未だに信じられません。唐突過ぎて、涙も流れないくらいに。
貴方と違って、戦う力のない私ではきっと彼を支えることはままならないでしょう。
貴方に救われたように、私には人一人、言葉で支えることもままならないでしょう。

でも、せめて後者だけは残された私でも、やっていこうと思います。

隣に立って、戦う力はなくても、それだけは。
たとえ、それが口先だけの奴だと罵られても。


491 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:07:59 vot/ybEY0

雑談もそこそこにして、私たちはそろそろ幽々子さんとメリーを追うべくここを発とうとしました。


「ポルナレフ、そろそろ行くぞ。っと、早苗はどこに行っちまったんだ?」

「ああ、分かってる。ほら、あそこにいるだろ?」


ポルナレフさんは早苗さんのいる位置を指差します。あっ、いました、いました。―――ってあれ?


「一言礼を言ったら行くとしよう。俺たちがこうしていられるのも早苗ちゃんのおかげだしな。」


何でしょう、この違和感は?


「ジャイロさん。ちょっといいですか?」
「何だ?」

「何でここにある血の海があっちに引いていくんでしょうか?」
「は?」


私はすぐ近くまでにじり寄って来ていた血の海を指差します。

早苗さんが奇跡を起こした地点から大量に噴き出したあの悪魔の血は、確かにこちらへとじわじわと広がっていました。

ですが、今は月の引力に引き寄せられるように、元の場所へと戻ろうとしています。


「知るかよ、んなもん。地面にドでかい穴でも開いたんじゃあねえのか?」


もう! 少しは真面目に考えてもいいんじゃあないでしょうか!?
あんまり役に立ってくれないジャイロさんは置いといて、私は早苗さんがいる地点をじーっと見ます。




「……地面がせり上がっている?」




やっぱり、おかしい…! 最初に『覚えた』景色と違う…!
今この瞬間『覚えた』景色ともズレが出ている。要は……今も地面が盛り上がっている…?


「でも、何でそんなことが…?」


地面の中に何かいる? ここに生き物がいるなんて思えな……







「!!!」







全身に凄まじい寒気が走りました。恐るべき事実がこの大地に眠っていることに。


い……る。生き物じゃない、アイツが……!?


私はゆっくりと腕を動かしジャイロさんのマントをギュッと掴みます。
声を大にしてみんなに伝えたいですが、そうもいきません。



ちょっと!? 早く気付いて下さいよ! ああ、もう…じれったい、それ!



「うおッ!? 何すんだよ、阿求! つまらねえ仕返しの仕方だなぁ、オイ! 構ってほしけりゃ他にもやり方があるだろ?」



構ってほしいとか、そういう次元の話じゃあないですよッ! いやまあその、確かに構ってほしかったのは本当ですけど……
…って、いやいや! 深い意味じゃあなくって!? ……って話が逸れてるゥゥッ!!


492 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:09:41 vot/ybEY0



私は一旦深呼吸をします。こんなことしている場合じゃないのに…


(それどころじゃありませんッ! 真面目に話を聞いて下さい!)


小声ですが、緊張感をもってジャイロさんに話しかけます。最初からこうしてれば良かった…


「わーったよ。んで? どうしたんだ?」


(小声で話してくださいッ! 地中にいます。アイツが……)


「オイオイ。冗談言うにしたって、もっとマシなものがあるだろ?
 ……ったく仕方ねえ、じゃあここで一つ俺が愉快なジョークを―――(冗談じゃあありませんッ! そんなの聞きたくないです!!)―――


あっ、流石に今のは効いたみたいですね。へこんでる。かわいそうとは……思わないけど、うん。
…だ・か・ら! こうしている場合じゃないですって!





「…ったくよぉ……ジョニィも神子もちゃ〜んと聞いてくれたってのに、お前はよぉ…なんっか冷てぇなぁ…」

(お願いですから、私の言うことを信じてください。それと、ショック受けてないで立ち直って下さい!)





「ジョニィはバンド組むかって言ってくれたのに、神子は大声あげて喜んでくれたのに、お前はよぉ……」





あっ、だめだ……この人。今まで自分の冗談を否定されたことないみたい……
思った以上に深刻そう。もう! 遊んでる場合じゃあないのにッ!





(歌もジョークも後で死ぬほど聴いてあげますからッ!)


「…へんっ、どうせ嘘なんだろ……そうやって持ち上げようとしたって…」


(そうだ! 貴方の歌とかジョークとか、どうにかレコーディングして持ち帰りたいな〜! 私の家には立派な蓄音機があるから、それでみんなに聴かせたいな〜!)







「マジっすか!!?? よっし決まりだ!!! 約束は守れよ!! 今度こそは、なッ!!!」







チョロいですよ、この人!? もっとねちっこく来るかと思ったんですけど…… それに、今度こそって一体何の?


(んで、阿求? 話ってのは何なんだ? 手短に頼むぜ…)


切り替え早いなぁ… まさか、さっきの全部わかっていて、私をからかっていた…? いやいや、流石に考え過ぎか……


(えっと、さっきから周りの景色が刻々と変わっています。地中に何かいるとしか考えられませんッ!)
(地中って言うと、あの化物がかよ?)

(それしか考えられません。)
(…わかった。ちょいと待ってろ。)


493 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:10:46 vot/ybEY0


ジャイロさんはそう言うと、腰に取り付けたポーチから鉄球を取り出します。
二回りほど小さくなっていますが、その代わりに歪な不定形から球形のそれへと直されています。
ポルナレフさんが鮮やかにカットしてくれたんです。


(ちょっと待って下さい! 回転なんかしたら察知されるんじゃあ!?)
(安心しろ、回転速度はギリッギリまで落とす。まず、敵がいるかどうか、見極めてからな!)


掌の中心に乗った鉄球はどういう原理なのか、ジャイロさんが動かした様子もないのに、いつの間にか回り出していました。本当に不思議。


そして地面へ片膝を付ける感じにしゃがむとそのまま回っている鉄球を地面に押し当てます。
何をしているのでしょう? 鉄球の振動波を通してソナーでしたっけ? そういう用途も使えるんですかね?
ほんの数秒そうしていると、彼はやがて鉄球の回転を止めて立ち上がりました。



「マジかよ…! いやがった…… しかもさっきと違って相っ当でけぇし……何より、近い…!!」
(そんな……)





「ポルナレフ、花京院! 奴はまだいやがるぞ!」







「ジャイロ、いきなりどうし―――「ノトーリアス・B・I・Gだ…!! まだくたばっちゃいねぇ、早苗の足元すぐそこまで迫ってやがる!!!」―――







「何だとォ!!??」「本当なのか、ジャイロ!!??」



「鉄球の振動波を利用して確認は取った。間違いねぇ…… 断言できる!!」


「時間がない…!即刻、敵の意識をこっちに向けさせる、じゃなきゃ早苗は引きずり込まれてお終いだ!
 ポルナレフ、お前は全開速度でチャリオッツを動かせ!花京―――「わかってます、東風谷さんとやったようにやるんですね?」



物分かりが良くて結構だ、と一言付け足してジャイロさんは二人に目を配ります。



「ポルナレフ、頼みましたよッ!!」「くっそぉッ! 任せやがれってんだ!!」



信じられません。ポルナレフさんも花京院さんもあっという間に事態を飲み込みんだようです。
それ以上の言及もなしに、二人は即座に地面の様子をうかがいながら、急ぎながらもゆっくりと距離取ります。

本当は聞きたいことが沢山あったでしょうに…
特に、花京院さんは口調こそ落ち着いていますが、顔には多くの汗を浮かべているのが良く見えました。

どういった経緯なのかは知りませんけど、早苗さんとはとても息が合っていたのは先の戦いでも目の当りにして記憶に新しいです。
きっとここに来て親しくなった、貴重な間柄なのでしょう… 私とメリー、あるいはジャイロさんのように。



まだ、間に合うはずです。幸いなことに、さっきから早苗さんはほとんど動いていません。
あれなら、敵に察知されることはないですし。こちらに引き付けるのが先になるはず。


494 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:11:27 vot/ybEY0

……ちょっと待って。





どうして? 早苗さんは動いていない? こっちの意図を一切知らない彼女がどうして?





まさか、動かないのではなくて、既に―――



「―――ッ待って!ポルナレフさん!! 今すぐスタンドを使って、敵を引きずり出してください!! 花京院さんは走って下さい!!早くッ!!!」



「阿求、落ち着け! まだ敵は地中にいる。今の内に距離を―――「彼女は既に捕まっていますッ!!今すぐしないと間に合いませんッ!!信じてッ!!!」―――



ほんの数瞬の静寂が私たちを包んだ時、ジャリっとした砂が擦れる音が静けさを引き裂きました。



音の方に反応すると、花京院さんが脇目もふらずに駆け出していました。
ポルナレフさんがチャリオッツを傍らに出します。あの時見せたように、鈍く光る鎧を外して。
二人とも私の意図を汲んでくれるみたいです。


「やるぞ、ジャイロ、阿求ちゃん…! 下がってろ…! 始めるぞォ…!!」


「お願いします!」「…ったく、任せるぜ、ポルナレフ!」




その瞬間でした。

















「ゥウウぁぁぁあああぁあああぁぁあぁあああああぁああああ゛ぁ゛ぁあ゛あぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛゛ア゛ァ゛あ゛ア゛あ゛ぁア゛ア゛゛あ゛゛あ゛あ゛ぁア゛゛ッッッ!!!!!」














人の声とは思えないような悲鳴が聞こえたのは。



「くっそおおおおおお、間に合いやがえぇええええええええッッ!!! チャリォオォオォォオオオッッツ!!!!」


495 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:11:53 vot/ybEY0
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド



チャリオッツが目にも止まらぬ速さで動き出します。残像が1体、2体と思ったら既に8体も!





ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド





それに呼応するかのように、地面はビシっと音を立てて私たちと早苗さんがいた場所を繋ぐように一筋の細い地割れが出来上がりました。







ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド 







そして、そのラインに沿ってある場所は隆起を起こし、またある場所は沈下し出します。

原因はそこを通る一つの影。急速に地表を這い上がりながら、こちらに急接近しています。もう間違いありません。










┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨










ついにその姿を地表へと完全に曝け出しました。加速十分のままこちらに飛びかかるその様は何度も見た怨敵、ノトーリアス・B・I・G!


「ジャイロォ!! 阿求ちゃんッ!! 早苗ちゃんの元まで行ってくれ! 頼むぜぇッ!!!」

「言わずもがなだッ!」「は、はいッ!」


私とジャイロさんは飛び出します。目標はポルナレフさんの言った通り、早苗さんがいるであろう地点。
迫り来るノトーリアスのことなどお構いなしの全力疾走です。そのまますれ違うように一気に駆け抜けます。
もちろん、スケープゴートを用意していなければこんな真似はできません。



「エメラルドスプラッシュッ!!」



そんな身代わりの一人、花京院さんは3名から大きく離れた位置にいました。当然、ポルナレフさんと共にノトーリアスの足止めをしてもらいます。



「確かに聞こえたぞ! 東風谷さんの悲鳴をッ!! ただでは済まさないぞ、ただではァッ!!」



怒り心頭もするはずです。早苗さんのあの悲鳴、何かあったに違いないのですから。
花京院さんのことなので、やるべきことは理解しているんはずですから、激昂し過ぎることはないでしょう。
代わりに私たちが行って、早く安心させないといけません。


私は脇目もふらず、必死にジャイロさんの背中を追いかけました。


496 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:12:32 vot/ybEY0


「おい、早苗ッ!平気なんだろうなぁ!?てめえはよぉ!!」



私たちは今、斜面を下っています。


地中から這い上がったノトーリアス・B・I・Gが先ほどまで潜伏していた場所は巨大なクレーターと化していました。
そして、早苗さんは下っている坂の真下に横たわっています。



「くっそッ!! おい! 返事の一つぐらいしねぇかァッ!!」



ジャイロさんは怒鳴り散らしながら、斜面を一気に駆け下りて行ってます。
生憎と運動音痴な私はゆっくりと下っていくしかありませんでしたが。


「くぅ…こんなところでも足を引っ張って…私は…って、うわわわ!」


引っかけていた片手の指が浅かったのか、思わず態勢を崩しかけ、後ろから転げ落ちそうになりました。
私は斜面にうつ伏せの姿勢の身体を預けるようにして、何とかずり落ちながらも進んでいます。
ただ、地面を触りながら進んで行ったおかげであることが分かりました。


地表の地面の触感は湿っている。そして……少しでも指をひっかけると……うん、乾いた触感だわ。


そう、斜面の表面は湿り気があるのに、中の土は乾いた触感になっていたのです。
さらに、表面の土を触ると手には薄くなった赤黒い液体が付着していました。


 これはノトーリアス・B・I・Gの血、なんでしょうね…… そしてここの地面の状態からするに、おそらくは………


何故、二つに隔てた大地に挟まれてもなお、復活を果たしたのか、私は一人納得をしていた。
いや、納得などいくものか。こんな理由で生き延びていられるなど、捏ね繰り回した屁理屈のように見苦しい。理解に苦しむ。
だが、敵は今も我が物顔で大地を闊歩しているのだ。なんという不条理だろう。理不尽だろうか。



 本当に私たちはこの化物を退けることができるの?



彼らが戦っている間、何度も頭を掠めた疑問がより確かなモノになって、私にのしかかる。
いや、戦うのは私じゃあないか。それなのに、何がのしかかるだ…… ホントに呆れる。呆れ果てる。

………やめよう。自嘲めいた言動も思考も面構えも、今は抜きにしないと。
私でも何かできることはあるかもしれないから。早く、降りよう。



「おい、バカ野郎!! 早苗! 動くな!! 余計なことするんじゃあねぇッ!!」



私は思わず後ろを振り向きます。

ジャイロさんは既に早苗さんの元にまでたどり着いており、早速治療している姿が見えた瞬間。


497 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:13:30 vot/ybEY0

ゴ オ オ オ ォ オ オ ォ オ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ! ! !





私の頭上スレスレを巨大な物体が掠めていきました。物体が過ぎ去って行った方に髪の毛がぶわっとなびきます。



「今のってまさか!」



もちろん、ノトーリアス・B・I・Gではありません。でも、それ以外で超高速で飛翔する物体となると一つしかありません。


すぐさま見上げると、山なりに飛んでクレーターを脱出する御柱がチラリと見えて、すぐにクレーターのが視界を遮りました。


反射的にもっと良く見ようと、私はそのまま手を伸ばして身体を支え………切れない…





 ……って、ちょっと! 手を放したら落ち………!!





咄嗟に手を戻そうとするも時すでに遅く、そのまま後ろ返りの要領で斜面を転げ落ちました…
幸い、底に近かったので大事なく済みましたが…
私はふら付きながらも泥をはたきつつ、ジャイロさんに駆け寄りながら尋ねます。


「ジャイロさんッ! 今のは一体!?」
「俺も知るかよ! 早苗、一体なんであんな真似をした!? 安静にしてれば助かるって言っただろうが!!」


駆け寄っていた足が止まりました。







「ヒドい…なんで……こんな…………」







スカートから覗かせている部分は既に無く、代わりにあるのは大きな血溜り。


そう、彼女の両脚はありませんでした。





―――

――――――

―――――――――


498 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:14:05 vot/ybEY0


「あれ、何か足が動かな、い?」



両足首まで地中に埋まってしまった早苗は、御柱を仕舞う直前にその異常に気付いた。
ぬかるみに嵌ったというレベルを超えて、両足が動かせないことに。


 何!? 足元に……何かが絡みついている!!??


疑問の氷塊を求めた彼女は、そのまま反射的に下を見た。




「な、何なんですか…これは!? いや……こいつは、まさかッ!!??」




地の色は赤茶色。

茶色の土と赤い血から成る、泥のような『ナニカ』がそこにはいた。
早苗のくるぶし辺りに無数の触手となって纏わりついているのが見て取れた。
その醜悪さに思わず視線を逸らすと、彼女の更に奇異なるモノを目にする。

大地の至る所から蛆が蠢めき出すかのように、徐々に徐々に赤黒く変色を始めていた。
まるで地面の下に『ナニカ』がいるかのように、ズブズブと大地を引き込んでいく。



 もう、既に大地の一部となって……



地の底の深淵に封じられた『ナニカ』は今一度、地表へと舞い戻った。


自ら滴らせた大量の血を標とし、染み渡りゆく大地をその液状の体躯を活かし、ただただ動き続けた。


さらに、この大地はあまりにも肥沃だった。夏には一帯を覆う大量の日輪が咲き乱れる、太陽の畑。


その養分を喰らいに喰らった。『エネルギー』なら何でも良かった。自ら流した血が染みる『動き』を捉えて。


『太陽』の『大地』そして赤い血が『水』とするなら、なるほど『生命』の息吹が吹き付けるのも頷けるというものだ。


尤も、この『ナニカ』は不帰なるモノで『生命』もクソもない化物なのだが。


そう、ついに大地に芽吹いたのだ。


巨大な絶望の大輪の新芽が。





「ノ…トーリ、ア…ス…・B…・I・G………!!!」





早苗は声を詰まらせ、震わせ、その忌むべき名を呼んだ。信じられなかった。

もう、目の当りにすることなどないと思っていた。

自らが語るであろう誇らしい武勇伝になる、とさえ思っていた。

粉微塵にされて打ち砕かれた。どこにでもある掃いて捨てる程度の幻想へと取って代わられたのだ。





「そんな………」





それ以上、二の句も告げることもできず、茫然とする。

だが、早苗が絶望に打ちひしがれようと関係などない。

既に彼女は敵の手中にあるのだから。


499 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:16:01 vot/ybEY0



   ギ シ リ リ リ … ギ シ … …



「えっ!? ちょっと!?」


右足首に小さな痛みを感じた。恐ろしいまでの圧迫感。

早苗は直感的に嫌な予感がし、歯を噛み締め合わせる。

だが、動くことはできない。逃げることはできない。



   ギュ リ リ ギリ ギシ ッ …グリギシ ッ …  ギュ シ コ  ン ッ… … !



 ああぁぁあぁあぁあぁああああぁあぁぁああああああぁぁああああッ!?




右足首が折れた。


軋むような不快な音は上げることのできない少女の断末魔の第一声を担った。
荒い息を吐き出しながらも、なんとか口を真一文字にして耐える早苗であった。

本当は声を大にして叫びたかった。
だが敵と密着している今、大声など上げてしまえば確実に反応されると判断したが故だった。

早苗は自身の冷静さに有難さと恨めしさを感じた。


「うぅあぁああ… 痛ぁ………」


小さく呻くように痛みを訴えることしか、彼女にはできない。





 誰か…! 気付いて…! この、ままじゃ…ぁあぁぁああああああああああぁああああぁあ!! いや! やめてっやめてぇえッ!!








   ギュ リ リ ギリ ギシ ッ …ギリギシ ッ …  ギュ シ コ  ン ッ… … !





「〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!」






もう片方をダメにされた。ゆっくりと万力の様な力を込められて。

骨が折れる時こんなにも音が耳に届くのか、などどうでもいいことなど考える余裕もない。
痛みを口から吐き出すこともできず、身体を動かして痛みを紛らわせることもできない。

ないないづくしの八方塞がり。彼女はいつまで『持つ』のだろうか。





 ああぁあああァァアアッ!! もう嫌ぁ… 痛い、よぉ……





早苗は視線だけを下に向ける。記憶通りならば、確か脛の辺りまでしか触手は伸びていなかったはずだ。


500 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:18:16 vot/ybEY0
「うそよぉ……な、んでぇ…?」





痛みで回らなくなってきた舌足らずな口で疑問を吐き出す。





触手は膝にまで浸食していた。





鉄球使いはかく語りき。『筋肉とは強く掴めば掴むほど、反応してしまうものだ。』


声を押し殺そうが、身体を動かすまいが、筋肉の動きをどうこうできるわけではない。


距離を少しだけでも取れていれば、このような微細な動きに反応されることはないだろう。


だが、生憎と早苗とノトーリアス・B・I・Gの距離はゼロ。逃げ場はない。


触手は早苗の筋肉の反応を察知し、這い寄っていたのだ。


少女の儚い抵抗など無意味に等しい。




   ギシィ
            ピシッ

         ギ ュ リ … 

                  グ シ … ギ ュ リ リ … 

        ボキリッ

              ギュ リ リ ギリ ギシ ッ 

    ベキッ





 うぁぁあああああぁああああああ!! 止めてやめてヤメテェ!!! そんなに一気にやられたらぁあああああああああぁああああ!!!!!





              ボギンッ

  ギリリリ
                 
       メ シ …  グ チ ャ …  


             ギ ュ ル リ … グ リ ン…… カ ッ コン


      
       グ シ … ド グ チ ャ ア





「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!!!」


501 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:19:18 vot/ybEY0
ホんトっほ、んどうに、もうやめでぇッ! っこのままじゃ死んじゃう…ハヤく… 誰かぁっ…!!







そして、彼女の筋肉の反応に合わせて、またも触手が上へと這い寄るのを目撃する。


そう、この先に待つのは無限ループしかないのだ。一度捕らえられれば逃げることは罷り通らぬ蛇の道。


その事実を目の当たりにして、早苗はどうしようもない失意に駆られる。





 ぜんっしんを、くだ、かれれって死ぬ…? 生きたっまま、くっくわれる…? からだをっ溶か、されってしし死ぬ…?あぁっぁあああああぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!
 ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダイヤダイヤダイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!!もうヤダ!!これ以上は!!!!これ以上は苦しみたくないよォ!!!!!





許しを請うことは許されず、ただ苦痛を許容し続けるしかない。


一瞬で腕や脚を失くすような痛み以上に厄介な責め具。


初めて体験するそれは彼女の精神を蝕ませるのには十分だった。





   ギ シ ィ … … ピ シ ッ ギ ュ リ … 





「んんんんぶっふぅッッ…うぁあ…」





口を塞いでいた両手に力はもう入っていない。自ら外した。放棄した。
だらりとぶら下がった手には堪えに堪えた唾液や唾が付着し、それが地面だったモノへと滴となって一筋落ちた。


502 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:20:01 vot/ybEY0



   グ リ … ギ ュ リ リ … ボキリッ



「……ぁああぁあ……ああああああ…ぁあああああああああああ」



だらしなく開いた口は痛みと呼応するように声を漏らすだけだ。



   ギュ リ リ ギリ ギシ ッ ベキッ



「っうぅぅぁああああぁあああああああぁあああああああああああぁあああぁああああああああああああああああああああああ」



次第に大きくなっていく声と共に触手の締め付けは苛烈さを極めた。



          グ チ ッ

       ギ ュ リ リ リ … グ シ … ボギンッ
 

              ギ ュ ル リ … グ リ ン…… カ ッ コン …
 
  メ シ …  グ チ ャ …    
           ベキンッ
                

  グ シ … ミ チ リ … … ド グ チ ャ ア ッ ! …










「ゥウウぁぁぁあああぁあああぁぁあぁあああああぁああああ゛ぁ゛ぁあ゛あぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛゛ア゛ァ゛あ゛ア゛あ゛ぁア゛ア゛゛あ゛゛あ゛あ゛ぁア゛゛ッッッ!!!!!」


503 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:23:08 vot/ybEY0

あらん限りの声を吐き出した。
もう、この後どうなるかなど知ったことか、と思わせる思慮も理性も何も無い本能の叫びだった。



だがしかし、これで終わりではない。



痛ましすぎる悲鳴は更なる責め具の呼び水となって、その身に降りかかった。










   グ ジ ュ ル … … ブ チ リ … … グ チュ ァ… メ キシ、グチ… …   ブ  ヂ  ン ッ  … …!










「!!!???ああ゛あ゛???ア゛ァ゛あ゛ア゛あ゛ぁア゛あ゛あ゛゛ア゛ァ゛あ゛ア゛あ゛ァア゛ァ゛ア゛あア゛ァぁア゛ア゛゛あ゛゛あ゛あ゛ぁア゛゛あ゛゛゛ッッッッ!!!!!!」










脚を絞り千切られた。ゾーキンの水気を切るように。

いともたやすく、えげつなく、肉を、骨を、神経を、まとめて捩じ切ってみせた。

早苗は二度と声が出なくなるかと思わせるほど、更に声を張り上げる。

もう、何が起こっているのか、分からなかった。

両脚の大腿の中ごろから下全てを失った彼女は、ほんのわずかな間、重力に従って落下する。





だがしかし再び触手に捕縛されることはなかった。





早苗をキャッチしようとした触手群は瞬きをする間にそこから姿を消していた。

新たなる標的が、生きの良い獲物が現れたからだ。地中から這い上がり爆走していた。

8体の残像を引っ提げる『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』の元へと。

凄まじい地響きを引き連れて、蹂躙した大地には地割れの後を残して。

早苗はボロゾーキンのように打ち捨てられ、ノトーリアス・B・I・Gの巣へと転げ落ちた。


504 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:23:41 vot/ybEY0


今、ジャイロさんは鉄球を回して押し当てることで止血を行っています。

鉄球が回っている箇所は早苗さんの太ももの部分。
そう、そこが彼女にとって一番下の体の部位になります。

当然骨と肉が露出しており、骨に至ってはささくれた小枝のようになっていました。



早苗さんはどうやら意識があるらしく、治療が続いている最中も意味の成さない言葉をぼそぼそと呟いていました。

治療の様を見ていましたが、出血の量は治まってきたものの、未だ肉の断面は塞がり切る気配がなく、今も体外へと血が抜けていっています。

ジャイロさんはしきりに悪態をつきます。きっと本来なら治せるのでしょう。ですが、制限を受けたこの場所においてはそうもいかないのでしょうか。





ですが、治療の甲斐あって、早苗さんが眼をはっきりと開けてくれました。


「うっあぁあ、みな…さん。にげ、てくだ。さい……逃げってぇ。」


狂ったように叫んだせいで声はすっかり潰れてしまったのでしょう。上手くしゃべれない姿が本当に痛ましい。



「……お前はあいつから俺らを逃がすために、御柱を飛ばしたって言うのか?」


「私っにはあい、、つを、倒せる、なんって思えなくって……それで…………ごえんなあ、い」



表情も以前の快活さは影はすっかりと鳴りを潜め、今はもう弱々しく大人しい。



「安心しろ、上は静かになっている。お前の目論見通りに御柱を追跡した。」
「よかっったぁ。」




「だから、今は黙ってろ。」



ジャイロさんはぶっきらぼうにピシャリと言い切ります。余計な体力を使わせない気遣いゆえでしょう。
荒い呼吸と鉄球の旋回音だけが周囲を一旦包み込みます。

ですが、それもわずかな間だけ。地面を駆け足で下る足音が背後から聞こえ出します。







「ジャイロ! 今のは一体何なんだよォッ!! あのド腐れ野郎、御柱向かって素っ飛んで行ったぞ!!」
「東風谷さん! 大丈夫ですか!?」







ポルナレフさんと花京院さん、彼らもどうやら無事にすんだようです。

本当に早苗さんのおかげです。後は彼女のことが本当に気がかりで。


505 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:24:12 vot/ybEY0




「こ、東風谷さんッ!? 一体何があったんだ、ジャイロ!!」





「ガタガタ抜かすな。気が散っちまう。」


ジャイロさんは同じように素っ気なく返すだけです。実際に相当気を遣っているのでしょう。


「すみません。私たちも早苗さんに何をされたのか、まだ聞けていなくて、見当もつかないんです……」


彼の代わりに、説明したいところですが、私も早苗さんがどのような目にあったのか、私だって想像できません。


…いや、想像はできるか。ただ、それを伝えたところで、何になるだろう。彼の怒りが増長するだけで何の解決にも至らない。


だから、私は伏せておくことにした。吐き気のするような絵面を思い浮かべるのは私だけでいい。



「畜生がッ!! どうしてだ! 普段ならとっくに治せている怪我だってのに、どうして塞がんねぇんだよッ!!」



ジャイロさんは回していた鉄球を手中に収め、地面を思いっきり殴りました。よほど悔しいのでしょう。
早苗さんの足元を見れば、見えていた肉と骨の断面を覆うように新しい皮膚が出来上がっていました。


「皮膚を伸ばしきれねぇ。これ以上やれば全身から血が噴き出る……限界だ………」


よく見ると、包まれた肉の断面の一部から未だに出血が続いているのがわかります。


「ジャイロ、早苗ちゃんは止血剤持ってたんじゃねえのかよ!?」

「デイパックがねえんだよッ!! どっかに落としたか、あるいは……」

「あの化物に奪われたか、ですね…… 他に手立てはないんですか!?」



「………………『俺』にできることは、ない。」



驚くほどあっさりとジャイロさんは匙を投げました。



「…そうだ! 東風谷さん、スタンドを、ナット・キング・コールを出してください!
 脚のほんの先端だけを切り離せば、出血は抑えられる! さあ、早くッ!!」



脚を切り離して出血を防ぐ? 何だかよくわかりませんが、花京院さんの口振りからして、そんなことができるようです。でも、今の早苗さんは…





「東風谷さん?」


506 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:25:23 vot/ybEY0





「ごめんなっさい…何だっか、今ぁスタンドッ出せなくって……その、ホントにすみ、ません。」





「なっ、何を言っているんだ!? スタンドが出せない、だと!?」







「御柱、飛ばした後、スタンド出そうと思っても、出なくって、あっ、はは。や……やっちゃいましたぁ………」







霊力を酷使し過ぎたのでしょう。先の戦いでのスタンドをフル回転させていましたし。
何より、両脚をほとんど失ってしまった状態で御柱を動かすような真似をしたら……



「だったら、どうして!! 御柱を飛ばしたりなんかしたんだ!!! もう少し待ってさえくれれば…!」



花京院さんの言葉尻は窄んでいきます。失礼ながら、逃げる手段はなかったのでしょう。
ジャイロさんが鉄球を回し続ける以上、引き付ける相手は必要でした。
あの化物は本当に質が悪い。陽動の途中で、二人が思わぬ事態に巻き込まれていたかもしれません。



「一刻も早く、逃げて…ほしかったんです。」

「何だって?」

「あっ、あいつ…に、は、勝ててません……無理っです。」



声を、身体を、大いに震わせて、眼には涙を浮かべて、早苗さんは言い切ります。




「あ、ああっんな目に合うのなんかぁあ………、わた、し一人で十分ですよぉ……」


「東風谷さん………」




言い終えるとえっぐえっぐと嗚咽し出す早苗さん。私はどうすればいいのでしょうか。こんなときに。
手酷く痛めつけられた彼女を。これから死に逝くかもしれない彼女を。
助けられる手段なんて、見つからない。掛ける言葉なんて、見つからない。


それはここにいる全員も同じだったのでしょう。早苗さんがむせび泣く音だけが周囲を包みます。



結局、そんな状態を破るのも、泣き止んだ彼女でした。







「もう、いいんです。このまま楽に逝けるなら、もう。」






沈黙は諦めの混じった無念の肯定。
私はもちろん誰も、彼女の言葉を否定できません。賛成できません。


せめて彼女の気持ちを楽にさせるような言葉をかけられないのでしょうか、私は。
数百年に及ぶ知識の巻物である私は、沈黙を堅守するしかない。


507 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:28:09 vot/ybEY0





「最後に、花京院君………そのっ、いいですか?」

「……」





花京院さんは黙ったまま早苗さんに近寄ると両膝を地に付けます。





「あのっやっぱり、あの時のぉ…分の、お礼、言わせてっくれっますか?」

「……」

「お願い、します…!」

「……」





尚も花京院さんは黙っています。答えてあげてほしい。一番彼女のことを理解している彼に。



「イジワルしないでくださいよぉ……こんな時までぇっ……!」

「……」



早苗さんは泣いているのに、どこか嬉しそうで、それが余計に儚く見えてしまいます。







「もうっ……! かっ、勝手にぃ、言っちゃいっっますからっ…! 一緒に来てくれてっありが……ブぶっふ!?」







吐血!? 一瞬驚いてしまいましたが…





「東風谷さん。よ〜く考えた結果、やっぱりお礼は受け取れませんよ。」





なんてことはなく。花京院さんが早苗さんの口を塞いだだけです。紛らわしいですね。


508 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:29:04 vot/ybEY0










「僕がこれから、貴方を救って見せますからね…!」

「ぶぇっ…!?」










私はもちろん、全員が花京院さんに視線を送ります。そっと、早苗さんの口元から手を放す彼の様子には余裕さえ感じます。


「マジかよ…本当に出来るのかッ!? なぁ、花京院ッ!?」

「できます。やらなきゃあいけないんですからね…! ただ……」


協力が必要になりますが、ね。と付け足しながら、早苗さんとポルナレフさん、ジャイロさんに目を配らせます。

要は、はい。私以外、です……



「助かるんですか…わたし、は……」

「できます。」



力強く頷きつつ、短く答える彼の姿は意固地になっている様にも見えます。



「でも……わわ、わたし、は、その、あ、あの……」

「どうしたんです?」



どこか強迫的で、圧力を与えるような印象を受けます。







「うぁっ、あっ、も、もういいんです! 私はもう、ここまでで! ここまでっで、いいんです!!」







早苗さんは花京院さんの服の袖をギュッと掴み取るどころか、腕に飛び付きます。
そして、彼女の身体は泣きじゃくっていた時と同じように震えていました。







「やはり、東風谷さん。貴方はスタンドが使えないのはそこが原因ですね。」

「ひっぇ…」







心象を見抜かれたのか、早苗さんは震えとは違うビクリといった感じの筋肉の反応を見せました。


509 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:29:39 vot/ybEY0










「だ、だだって!! 何度も!何度も!!何度もぉ!!! 骨を折られてっ砕かれて!!! 最後には引き千切られてぇッ!!! それなのに意識はあって………!!!」










文字通り、口角泡を飛ばす勢いで、早苗さんは捲し立てます。







「あんなことされるなんて思ってなかった!!!! あんな痛い思いなんてもうッしたくない!!!! あんなにされるぐらいならぁッ!!!!!」












「私はっ風祝でなくたってぇ………なくたってぇ……………くても……うぅあぁ……! 死んじゃっあ…… 死んじゃってもォおおおおッ!! うぁっあぁあああああああ!!」





それより先に続く言葉を彼女は言えませんでした。きっと本当は、違うはずですから。





「死にたくはない… 風祝で在りたい… でも、あんな思いは、もうイヤなんです…… ワガママですよね、わたし…… 『弱い』くせに… 耐えることもできないなんて……」






「どうしたらいいのか、わからないよぉ……… 花京院っ君… 」



家路へと帰れなくなった幼子のように、彼女は尋ねます。最も親しい相手に。
ちょっとした優しさに触れれば溶けてしまいそうな、どんな言葉でも鵜呑みにしてしまいそうなほど、今の彼女は危ういものでした。


510 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:30:17 vot/ybEY0






「東風谷さん。そんなことは誰だって一緒だ。逃げちゃあいけない。」





ですが花京院さんはあくまで、突き放した感じに言葉を並べます。甘えは許さない断固とした構え。
腕に絡みついた早苗さんをゆっくりと寝かせながら。



「『立ち上がって』『乗り越える』それしかないんだ。君には八坂神奈子を止めるという目的があるだろう?」


「わかってます、わかってるんです……私か諏訪子様しかできない、やらなきゃあいけない。
 でも………『弱い』私よりも、諏訪子様の方がきっと上手くやってくれそうで…」



花京院さんはすっかり変わってしまった早苗さんを見て、何を思ったのでしょうか。こんなにも頼りない姿の彼女を見て。


「それじゃあ一つ、君にお願いだ。僕が勝手に来るんじゃあなく『君』が僕を連れて行ってほしい。八坂神奈子の元へと。」
 
「え……!?」


「君の目的に僕も巻き込めと言っているんだ。キッチリとした形でね。二人でなら諏訪子様以上の力だって出せる。
 僕の力で君の『弱さ』を補ってあげられる。だから君が逃げていい理由にはならないはずだぞ?」

「うぅ……」


「君の目的は、僕と一緒に八坂神奈子を止めることだ。これで君だけの問題じゃあなくなった。勝手に投げ出すことは僕が許さないぞ。
 それに、君のせいでこんな場所に飛ばされたんだ。責任は取ってもらわないとね。」

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい…! ……ごうぇ!?」


本当に申し訳なさそうに謝る早苗さんは、上唇と下唇を摘ままれてアヒルのような顔にされます。すぐに放しましたけど。
花京院さんは責を求めているわけではない、ということでしょう。





「私は『弱い』ままでいて、いいんですか? 貴方がその、私を………支えてくれる、から……」





「違うぞ、東風谷さん。」





短い拒絶。彼女の表情に思わずヒビが入ります。



「君は変われる。そして、そのことを僕自身、本当によーく分かっているつもりだ。」



ちょっとだけ天を仰ぐ、花京院さん。一体その視線の先に幾つもの情景が映ったのでしょうか。


511 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:31:55 vot/ybEY0





「僕がかつて『恐怖』を『仲間』と共に『乗り越えた』ように、君の『弱さ』だって『仲間』の僕と共に『乗り越えられる』ことを僕は知っているからね。」





きっと、それは今の彼足り得る日々を見ていたお天道様なのかもしれません。





「『弱さ』を『乗り越える』… 花京院君と…?」





「そうだ。だから、まだ諦めないでほしい。一緒に着いて行かせてほしい。僕の願いも糧に『立ち上がって』『乗り越えて』ほしい。」





切望。彼自身の心からの願いに、私は聞こえました。





「どうして…?どうして、貴方は……わ、私なんかを、その、き、気遣ってくれるんですか?」





早苗さんは戸惑います。なぜこんなにも、自分へと向き合ってくれるのか、分からないのでしょう。


「………」


花京院さんは、何かを言おうとしますが代わりに出てきたのは……


512 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:32:46 vot/ybEY0
「さあね、そこんところだが僕にも良くわからない、かな。」










そこをはぐらかすなんて、かなりのイケズですね。いや、ホント。

まぁ、何かしら意図があるとは思いますけど。だけど、それ早苗さんにはわからないですよ。



「へ? な、何ですか、それは!?」

「続きは後で話すそう。君の状態は一刻を争う。東風谷さん、選んでほしい、僕を八坂神奈子の元へと連れていってくれますか?」



ジッと彼女を見据える目線は放すつもりなどない、と言っているようでした。



「……本当なら、あの後…私が、先に言うつもりだったのに…………」



「どっち何ですかッ! 東風谷さん!」



花京院さんは答えを催促します。先ほどとは打って変わった、確信のある声色で。



「私なんかを、こんなにも必要とされているなんて思いませんでした………」



静かに、彼女は語り出します。





「…わかりました。私の導きの元に貴方を連れて行きましょう。風祝の元にこそ、八坂の神風は常に吹き征くものですから。」





先ほどのしおらしさはもう見えません。厳かに言の葉を紡ぐその様は、祀られる風の人間、東風谷早苗です。







「何より『弱さ』を『乗り越える』ヒントを貴方に教えていただけました。『仲間』と共に越えるという標を。だ、だから、そのォ……」







ですが、その格式ある姿はこの言葉を境に崩れていきます。でも、そんな『弱さ』を持っているのもまた、東風谷早苗なのです。


513 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:33:30 vot/ybEY0










「助けてくださいッ! まだ、まだっ、死ねない!! 私が死ぬには残していくものが多すぎます!!


 神奈子様に諏訪子様、そしてプロシュートさんの教えがまだ残っているんです!!! 花京院君、お願い、します。たっ、助けてぇ……」










再び起き上がって、花京院さんの腕にしがみ付く早苗さん。涙をボロボロ流しながら訴えます。
確かに全てを投げ出すにはまだ早すぎる。彼女の背にはまだ多くのモノが乗っかっているのですから。



「もちろんです。そのために僕がいるんですから。」



花京院さんは、それが当たり前だといった感じに答えます。あくまでも余裕がある態度を大きくは崩さないというか、何というか。







「ですが、東風谷さん。貴方は少なくとも弱くはないと僕は思っている。本当に本当に良く耐えて、頑張ったんですからね。」







花京院さんは右腕に張り付いた早苗さんの頭をポンポンと軽く叩き、撫で上げます。
すると彼女は頭の上にスイッチでもあったかのように、涙をくみ上げ声を上げ出しました。





「うううぅうっあああぁあぁあっあぁああぁあぁぁあああぁああああ!! …あ……うぁっ、あっぁあああ…… そぉあんでぅよおお、わたぁしは、わた、あああああ!!」





きっと今この瞬間、彼女は彼の優しさを一身に感じたのでしょう。ようやく、認めて貰えた。自分の苦しみを、どうしようもない状況の中それでも戦っていた自分を。









「えぐっ、ああううあああぁあぁあっ……うぅ…すみまぁせっん、ごぇ、ごめんっなぁさいっ! うぅうぅううっ…!ホぉンッットに。ああああ、あぁ、ありがとっう…!」


514 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:34:05 vot/ybEY0
「では、当て身」

「ございうぇぇッ!?」



ええ!!??ちょ、ちょっと。酷くないですか!? 折角黙って、茶々入れるのは控えてたのに、描写だけに専念してたのに、雰囲気台無し。ちゃぶ台返し。


あ〜あ、早苗さん気絶してるし。



「ジャイロ、ポルナレフ! 彼女の命を救いたい! 協力してください。」

「いいけどよォ…花京院、おめえ、流石に今のはねえと思うぜ…俺は……」「まったくだ。こりゃあ、起きたらおかんむり間違いなしだぜ…」


ほらほら、ポルナレフさんに続いてジャイロさんまで、こんなに言ってるんですからねぇ…


「僕だって好きでやってるわけじゃあありません。それに時間がない…! もう一つ了承を得る必要があるんですから…! ジャイロ、貴方にです!」


すっくと立ち上がり、ジャイロさんに向かって歩きながら、言葉をかける花京院さん。その表情はどこか固く、厳しい。




「…………まあ、大方予想はついてる。ただ、おめえの今の行動でもっと怪しくなってきたんだがなぁ…? どうやるつもりだ…?」

「? 意外ですね。暖簾に腕押しになるかと踏んだのですが…?」



「ただじゃあ寄越せねぇのは変わりねえぞ。俺はあらゆる観点から見て、今、この態度で臨んでいることを…決して! 忘れんな。いいな?」

「だったら大丈夫です。相応の成果と可能性を提示してやりますよ。」



「けっ、なら、見せてもらうぜ。」


お互いどこか剣呑な雰囲気を漂わせています。何が始まるのでしょうか。


「ポルナレフ! 僕が指示した通りに剣を振ってくれ。正確さが命だ。頼んだぞ!」

「お、おう! 何だかよくわかんねえが俺に任せろ!!」


ポルナレフさんに一声かけると、花京院さんは再び早苗さんの元に戻り片膝を付きます。



「東風谷さん。苦しいでしょうが、やりますよ…! 『法王の緑(ハイエロファントグリーン)』ッ!!」



スタンド名の宣言と同時に、少々不気味な全身煌めく緑色の人型が傍に立ちます。一体何をするのでしょうか。
そう思った矢先、彼のスタンドの肉体に一本の長い長い螺旋を描かれます。
そして、足先から螺旋のラインに沿うように、肉体が帯のように剥がれていってます。



ここで花京院さんは徐に、仰向けになっている早苗さんの口を開けさせます。まさか…



一本の薄っぺらい帯となったスタンドはなんと、彼女の口内に次々と殺到します。ちょっと、怖い光景ですね。



「まさか、花京院の奴。スタンドを使って、早苗ちゃんの身体を操るつもりか?」



ポルナレフさんは何やら知っている口振り。でも、気絶した彼女を操って何を……





「違うぞ、ポルナレフ。操るのは彼女じゃあない。操るのは―――





その時です。早苗さんの身体の傍に何やら見覚えのある影が見えます。あれは……


515 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:35:13 vot/ybEY0





―――彼女のスタンドだ…!!」





『ナット・キング・コール』です! 花京院さん、スタンドを通してスタンドを呼び出して見せました!
……あれ、でも、何だか今にも消えてしまいそう、すごく透けて見えます。



「ぐぅううぅううッ!! な、慣れないことをするもんじゃあないですね…!! 思った以上に、こいつはッ!!」

「やれそうなのかッ? おい、花京院!?」



花京院さん自身、初めてやることなのでしょう。精神的な負担が大きいのか、苦悶の表情を隠せずにいます。





「やるに決まっているでしょうッ!! これは僕にしかできない!! 僕だけが彼女を救ってやれるんですから!!!」





「『ナット・キング・コール』!! 君が拒もうと、もはや無駄なことだ!! この花京院典明!
 君を操るイメージしか持ちえていないということを、そして東風谷さんを救ってやれる人間なのだということを、見せてやろうッ!!!」  





花京院さんが力強く命令した瞬間、『ナット・キング・コール』はそれに呼応するように、ビジョンをより明確なモノへと昇華していきます。





「さあ!! 出し惜しみはなしだッ!!! ありったけのナットとボルトを寄越してもらうぞ、『ナット・キング・コール』!!」





『ナット・キング・コール』はゆっくりとですが、棒立ちの状態から解放されます。錆びついた機械に油が差されるように。
両手を握り締め開かれると、まるで手品か、時を止めたかのように、そこにはナット付きのボルトが沢山溢れていました。





「さあ、ジャイロ! これが彼女を救う可能性です! 協力してほし―――「丁重に扱えよ。一応、そいつも女なんだしな。」―――





ジャイロさんいつの間にやら、花京院さんの元へ近づいて……って!!


それは!? 東風谷さんの隣に置いてあるのは!! どうしてここに!!??










「すまない。そして礼を言わせてほ―――「やめとけ。俺は今、お前と話す気はねえ、既に先約が入っているからな。」―――










豊聡耳神子さんの死体。

上半身にこそ損傷の激しいそれとは対照的に、下半身には大きな傷は見受けられません。まさか……


516 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:36:03 vot/ybEY0





「ポルナレフ、君の出番だ…! 東風谷さんの足の長さに見合うように…! 両脚を切り落としてくれ…!! 頼む……!!!」





やはり、そうですか。正確な剣捌きを誇るチャリオッツで、早苗さんに合った『脚』を用意すると。



「くそったれ……! やるしか、ねえなあ…… 任せやがれ…! 寸分違わず、綺麗に切り落としてやらぁッ!! 花京院!! すぐに繋ぎ止めろよォッ!!」



細く鋭い風切り音が一回。追うように、もう一回。

私には音を感じ取ることしかできないほど早く、気付いた時には、早苗さんの足元に神子さんの両脚が並べてありました。



「ぐぅううううっ、うおおおおお!! 『ナット・キング・コール』ッ!! 行けえッ!!!」



スタンドの両手の指に挟まれた8つの螺子が投げ放たれます。片脚に4つずつそれぞれ、飛んでいきます。
吸い込まれているかと見間違うほど正確に、螺子は早苗さんの大腿と神子さんの大腿の繋ぎ目へと突き刺さります。
そのまま脚を貫通し、螺子の頭とナット付きの先端が小さく顔を見せるところで停止。
ナットが螺子の頭を目指し、早苗さんの脚へと侵入を果たした時。


全ての螺子は最初からなかったかのように、消え去りました。





そこにジャイロさんが鉄球を取り出して、早苗さんに近づき屈みます。旋回を繰り返す鉄球を彼女の脚へと押し当てるために。



「ジャイロ…! どうなんだ!? 早苗さんの脚は繋がったのか!?」


「…………………」



ジャイロさんは花京院さんの方を見ることなく、鉄球を早苗さんに押し当てたまま黙っています。



「どうなんだ!? できなかったら、もう一度やらなければいけない!! 頼む、教えてくれ!!」


「『聖人の遺体』は二度、奇跡をもたらす、か……」


花京院さんを見ないで無関心そうに一言ぼやくと、立ち上がります。



「当たり前か。『聖人』様のご遺体を使っておいて、失敗なんかありえねえよな、神子。後一回きっと何かを起こしてくれるんだろ?」



そのまま鉄球を掴み取ると、何事もなかったかのように歩き出します。


「そ、それじゃあ!! 東風谷さんは!?」

「みなまで言うかよ…てめえで確認してやれってんだ。」


ジャイロさんは用が済んだと言わんばかりに、サッサとその場から離れます。


「すまない。ジャイロッ!! 本当に助かった、ありがとう!!」


背を向けた彼に対して、ふらつきながらも立ち上がり、深々と頭を下げる花京院さん。


「けっ、とっと寝てろってんだ。おめえに使う鉄球の分はねえからな。」

「…うっ、はい。そ、そうさせて、もらいます。」


言い終えるが否や、花京院さんのところの重力が一気に増したかのように、べたりと尻餅を着けるとそのまま横になってしまいました。
相当、消耗したのでしょう。横になると即座に寝息が聞こえてきました。しかも体の良いことに早苗さんの隣で眠ってます。


まさか、狙ってあの位置に移動したんですかね? 朴訥と見せかけて中々の手練れ…


517 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:36:43 vot/ybEY0


何はともあれ。一件落着ですね。
一時はどうなるかと思っていましたが、今この時全員が無事でいられるなんて、思いもしなかった。
本当に、本当に良かった…





「さてと、阿求、ポルナレフ。準備したらそろそろ出ていくぞ。」

「はい?」

「おい、ジャイロ。まだここを離れるには早すぎるぜ。二人が眼を覚ますまで、一旦ここで待つのが先決だろ?」



ポルナレフさんの言う通りです。私たちは急がないといけないことは確かですが、それが原因で倒れたらお話になりません。
そんなこと、彼だってわかっているはずですが。


「ああ、言い方が悪かったな。訂正するぜ。俺一人で少し出ていく。お前らはここで待ってればいい。」

「はいぃ!?」

「お前一人でメリーたちの救出に行くつもりか? それこそ無茶だぜ! 敵は青娥ってババアだけじゃあねえんだぞ!
 メリーを人質に取っているのは親友の蓮子だ。それにスタンドを全部で合わせて3つ相手は使える。勝負になんねえぞ!」


逸る気持ちもあるのでしょうが、ここは抑えてほしいです。
ジャイロさん何やらこっちを見て驚いています。いや、どちらかと言うと呆れているって感じの。





「あのなぁ… お前らこそ、忘れてねえか? 敵はもう一人いんだろ。ああ、一人じゃねえか。一体ね、一体。」





人じゃない時点でかなり限定されると思うんですけど。……って、この人、まさか…!!





「いやいやジャイロさん!! ッちょ、ちょっと待ってください!!貴方、この期に及んでまだ戦うつもりなんですか!?」





「何がこの期に及んでだ。この期に及んだからこそ、余計逃げるわけにはいかなくなったんだろ。」



「おい、阿求ちゃん。ひょっとして俺が想像している通りの相手なのか…? まさかな〜、それはないよな〜 なあ、ジャイロ。
 おめえも心臓を悪くするようなジョーク言うんじゃあねえよ、な?」


ポルナレフさんも額に一筋の汗を滲ませつつも、肘でジャイロさんを突っつきます。このこの。


518 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:40:18 vot/ybEY0







「ジョークじゃあない。俺は今からノトーリアス・B・I・Gを殺しに行く。お前ら二人はここで待ってろ。」







い、言っちゃいました…この人……。目を見れば分かります。本気も本気、所謂マジって奴ですか。
でも、あまりにも絶望的すぎます。これじゃあ死にに行くようなものです。


「無謀にもほどがあるぞ、ジャイロ! 早苗ちゃんの決死の覚悟で俺たちは今、生き延びれているんだぞッ!?
 命を棄てる様な真似は俺が認めねえぞッ!!」


ポルナレフさんはさっきとは打って変わって、激昂します。



「ポルナレフ、勘違いすんな。俺は断じて、命を棄てるような真似はしねえ。あいつを倒して、もちろん生き延びる。ただのそれだけだ。」

「あっさり言ってくれるじゃあねえか…! オメーの鉄球も俺のチャリオッツもどれだけ不甲斐なかったのか、もう忘れちまったのかよ。
 オメーの頭は鳥頭なのかよ、アーン!?」

「俺よりお前の頭の方が鳥が寄って来そうだがなぁ…?」
「あんだとぉ…!?」


ああもう、二人そろって一言余計ですよ。
彼のダサい帽子だって鳥の巣みたいな代物に見えますし、って、ダメだダメだ。
これじゃあ、ミイラ取りがミイラになっちゃう。


「ちょっと二人とも落ち着いて下さいッ! つまらない言い争いは控えて貰いますよ! ジャイロさんも、もっとこっちが分かるように説明してください。」


何とか睨み合う二人の間に割って入って言い聞かせます。


「まあ、構わねえよ。どの道お前ら二人の協力も少なからず必要だからな。」

「私とポルナレフさんに、ですか?」

「何だよ、結局俺の力がいるんじゃねえかよ…」



「だが、行くのは俺だけだ。お前らまで来なくていい。」



あくまで自分の力だけで倒す気概の表れでしょうか。
できれば、いえ、行くのは止めてほしい。あまりにも危険すぎます。

「それじゃあ、話すとするか。あいつをどうやって殺すのか、その方法をな。」


519 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:40:55 vot/ybEY0

ジャイロさんは話し終えると、彼の言う準備とやらを済ませ、ヴァルキリーに騎乗して南西へと向かって行きました。

早苗さんが安全を考慮したのでしょう。この殺し合いの地の隅の隅、E-6。

一体の化物と一人の人間以外は、その場には誰もいないはずです。

結局止めることのできない私は、ただ彼の帰りを待ち続けます。


520 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:42:13 vot/ybEY0

 久しぶりだな。こうして、一人で走るのは…



ジャイロはぼんやりと思う。思えばSBRも1stステージ以降は相棒ジョニィ・ジョースターと共にゴールを目指していた。

大地を踏みしめる蹄の音が愛馬ヴァルキリーのみということもあってか、いつになく新鮮に感じたのだろう。

しかし、草原を駆け抜ける視界に相方がいないのは、どうにもしっくりこないジャイロであった。



 まあ、ジョニィのことなら、ほっといても平気だろ。心配するなら、あいつを殺しに行った奴の方が心配するぐらいだぜ。



相棒ジョニィはSBRを経て、劇的なまでの生長を果たした。

スタンドを会得し、『聖人の遺体』を巡る争いを通じ、過酷なレースを駆け抜け、生来持っていたと思われる全ての側面が曝け出された。

それはある意味で生長と呼ぶよりは、下手をすれば歪んでしまったと言ってもいいほどに、やるときはトコトン最後まで殺る人間となった。

それについての是非はここでは問わない。ジャイロが思うのは、彼のそんなやるときは殺るという姿勢だった。



 俺はあいつみたいに、きっとあそこまでは踏み込めねえんだろう。あれはあいつだからこそできる、飢えた者が手にできる姿勢。だが、見習うべきところは確かにある。



凶暴にして時に横暴な彼の側面を思い出しつつ、愛馬を走らせる。
ノトーリアス・B・I・Gは実を言うとクレーターを出てからとっくに視界の中に入っていた。
E-6の南西の隅にこいつはいるのだが、南西に向かいながらだと、ぶっちゃけてデカすぎて視界に入らざるを得ないのだ。
あまりにも巨大に膨れ上がったそいつも見据えながら、ジャイロはさらに思う。



 そもそもあの敵に一切の情けなんかはない。だが、だからと言って、そこで止まっていては届かないかもしれねえ。あのクソッタレを確実に消し去るためにも…



E-6の中央ほどまで走っただろうか、ノトーリアスもついにヴァルキリーの動きに反応を示し、走り出した。

馬の走る速さはおおよそ時速60kmと言われているが、敵はそれを明らかに追い越して余りある超スピード。

両者の距離は一気に縮まり始める。



ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド … … …



地鳴りを上げてこちらに突っ込んで様は、まるで小さな山のようだ。

だが、ヴァルキリーは速度を落とさない。怖い者知らずなのか、それとも無知なのか、主の命令に忠実に、ただただ大地を踏みしめ突き進む。





ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド … … …


521 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:42:46 vot/ybEY0







 さて、いよいよだな…… もう、こうなったら、信じるしかねえ。俺の回転の『技術』を、ジョニィの『在り方』を。コイツにブチ撒け、道を開く!







右手の手綱を握り締め、左手には鉄球を旋回させる。回転するそれは重力から逆らうように、掌の上に張り付くようにして回り続ける。


一球限りの一発勝負。回りゆく鉄球のなんと小さいことか。正にゾウとアリが対峙するかのように絶望的な力の差が見える。


それでも、ジャイロの眼には確かな光が煌めいて―――いや、違う。灯る光はどこまでも暗い炎。


敵が倒れ逝くその時まで、決して消えることのない『漆黒の意志』。





┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨






けたたましい地鳴りを取り巻きに突っ込んで来るノトーリアス・B・I・G。

その音に揉み消され、まるで静寂を引っ提げて駆け抜けるジャイロ・ツェペリ。



対象的な両名は今、最後の激突を果たす。


522 : 夥しき喰悦の明け空  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:43:24 vot/ybEY0


中空に走る小さき影。


それは黄金律に定められし円旋を描き、天へ昇る。


その軌跡は龍の子供が空の彼方へ、雲の向こう側へと帰るかのようだった。


龍が現れし時、幻想の地は決まって篠津く雨に見舞われる。


博麗大結界の時然り、仙人に遣わされた時然り。


尤も今回はそうじゃあない。荒天とは程遠い晴天だ。


快晴の空はどこまでも澄み渡る。







―――影が灯した白熱は、そのまま膨れ上がるように、世界を果てしなき白へと染め上げた―――







光彩。光輝。閃光。閃耀。煌めき。輝き。


光を捉えた言葉は数あれど、いずれも似つかわしく、霞んでしまう。


いっそ、そんな言葉の全てを呑み込んでしまうような、『ナニカ』がそこにあった。


それはまさしく、その名に相応しい光彩を、光輝を、閃光を、閃耀を、煌めきを、輝きを放ち、且つそれらに属さないモノ。





原初の光、太陽。










「技術『日出ずる処の処刑人』」










誰から聞いたのか、やんごとなき女の子たちのお遊び『命名決闘法』

誰かが時折見せた、自らの人間性すら捧げ対象の殺害を誓う『漆黒の殺意』

祖先から受け継がれる、人を生かすべく磨いた『黄金の回転』





悪魔を『塵に還す』べく閃いたジャイロ・ツェペリの最後の切り札。


それは、全方位、全角度に向けてのレーザー照射によって、ノトーリアス・B・I・Gを溶殺するというものであった。


523 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:45:57 vot/ybEY0



「ちょ、ちょっと! 勝手に漁らないでくださいよ!!」


如何にしてノトーリアス・B・I・Gを撃退するのかを説明すると言ったジャイロさん。
ですが、彼は突如私の背後に移動し、そのまま背負っているデイパックを漁り出しました。



「これじゃあねえ、これでもねえ…っと……おっ! これだこれだ!!」



「背中を触られているようでとっても不快だったんですけど! ジャイロさん!!」



…ってこっち全然見てませんし。まったくもうっ! 勝手が過ぎますよ!



「それで、ジャイロ一体何が必要だったんだ…? こう言うと悪いが、使えそうな物なんてなかった気がするんだが…」



ポルナレフさんの治療が済んだ後に、私たちはノトーリアス・B・I・Gをどうにかすべくこっそりと話し合っていました。
その時に再度、支給品を確認したりしたんですけど、結局は早苗さんと花京院さんが先に仕掛けたんですよね。
何もしてなかったんじゃあないんですよ?



「こいつだぜ…!」



エニグマの紙から取り出した中身は、綺麗さだけが取り柄のみょうちきりんな赤石、そう、確かエイジャの赤石です。
花より団子。こんな殺し合いの場において全く役に立たない無用の長物―――と認識していた支給品。
その有用性に理解したのは、ほんの偶然です。

えーっと、ポルナレフさんが治療を終えた後、彼がノトーリアス・B・I・Gを一瞬引きつけた時でした。
取り出した瞬間に日光を受けたそれは、突如弾幕顔負けのレーザーを発射。
エニグマの紙が一瞬で貫通し、レーザーは地面に細く深い穴を穿つのを目の当たりにしました。
持ち方が悪かったら、私の掌にも穴ができていたでしょう。物騒すぎます。



「それを、どう扱うつもりなのですか? 確かに強力なレーザーを撃つことはできますけど、十中八九こちらに飛び付いてきます。」



あの化物を殺し切るより早く、こちらが狙われるのは火を見るより明らかです。
じゃなければ、これを使ってみたものですが…



「どうもこうもねえよ。単純明快、こいつを回して投げつけるのみ、だ。」


524 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:46:30 vot/ybEY0


そう言って、ポルナレフさんの右手を掴んで掌に受け渡します。



「そういうわけだから、頼むぜポルナレフ。そいつを綺麗な球形になるようにカットしてくれ。」


「別に構わねえが…こいつを投げたらどうなるんだ? もったいぶらず説明してみろよ、ジャイロ。じゃなきゃあ、俺は手を貸さねぇぞ?」



尤もです。いつまでも焦らしたって、こっちも向こうも困るだけなのに。


「エイジャの赤石。どんな代物か俺も知らんが、取りあえず分かっているのは日光を吸収した瞬間、その反対側から高出力のレーザーを撃ってくれる道具、だ。」


私もポルナレフさんもふんふん、と頷きながら説明に耳を傾けます。


「生憎と、今のままじゃあ一発撃っただけで、こっちに飛び付かれて負け。それっきりだ。……そこでだ!」


「球状にカットして『黄金の回転』で回す。こうすりゃあ、一瞬でこいつは全面から光を吸収できる! どっからでもレーザーを照射できるってわけだ!」


ジャイロさんはにたり、とした表情でこちらを見て得意げに言い放ちます。ですが、釈然としません。
見下ろされながらのドヤ顔されるのも癪ですし、ここは一つ水を差してやりましょう。



「危ないのではないでしょうか?」



エイジャの赤石から発せられたレーザーの威力を目の当たりにしていた私はそう思いました。
ジャイロさんが言ったことが万が一可能だとしたら、赤石を中心にした全方向からのレーザーの射出することになります。
逃げ場なんてありませんし、ちょっとやそっとの壁なんて貫通してくるでしょう。



「お前、意外と鈍いな… 察しの良いお前なら気付くと思ったんだけどな? 俺はこれからどいつを相手取ると思ってんだぁ?」



底意地の悪そうな顔をして、ジャイロさんは屈んで、わざわざ目線をこちらに合わせてきました。
……これはこれで腹が立ちます。これから誰を倒すって、そんなの決まって―――



「―――まさか、アイツを!!」


525 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:50:29 vot/ybEY0


神々が下した神罰の如く、全てを焼き払わんとする『エイジャの赤玉』から放たれる熱線。


その場にいるものは等しくその身を焼かれる運命しかなく、それはこの現象を引き起こした当人もまた例外ではない。


ジャイロ・ツェペリはそれを投げる瞬間、ヴァルキリーを加速させる。


だがしかし、ノトーリアス・B・I・Gをすれ違うように横を通り過ぎようとするも間に合わない。


身に過ぎた力を振るった代償を求めるかのように、光はすべてを包み込んだ。


『そして誰もいなくなるか?』


526 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:50:48 vot/ybEY0







「ふい〜、間一髪だったぜ……もうちょっと早くしてくれなねぇとこっちが危ないんだがなぁ―――







どういうことだか。ジャイロもヴァルキリーも健在だ。二人の元にはあの光は届いていない。


いや、あの光など最初からなかったかのように、元の景色に戻っている。一体何が起きたのか。







―――えぇ? ノトーリアス・B・I・Gよォ?」







「GGGGGGGYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!」







凄惨な悲鳴が聞こえた。

凄絶な光景が広がっていた。



ノトーリアスは数十いや、数百にも及ぶ触手を全身から伸ばし目の前の何かを包み込んでいる。いや、包み込もうとしている最中だ。


だが、何度やっても失敗に終わるのみで一向にそれを掴むことなど叶わない。それが何なのか、名前を出すまでもないだろう。


そう、憐れにもこいつは選んでしまったのだ。太陽の如き代物をその身に取り込もうというあまりにも恐れ多い真似を。


ならば、神々も良しとするわけにはいかない。過ぎたる力を持とうとする者は遍く淘汰せんと、その威光を以て焼き払う。


動くモノ全てを狙う自動性が仇になった。何者をも追い越そうとする速度は光さえも捉えてしまった。



「しっかし、ここまでヤバいことが起きるとはな…」



ジャイロはポツリと呟く。企てた張本人とは思えない発言ではあるが、それも致し方ない。
彼も赤石を支給された阿求も、『エイジャの赤石』の実情など、これぽっちも知りもしない。


本来ならば結晶内で光を何億回も反射し、一点から放出されるものを、
球形に仕上げ『黄金の回転』を用いることで一っ跳びに、全方向から射出するなど荒唐無稽にもほどがある。


ただ回転しているだけでは、こんな大規模破壊などありえない。
それが今あり得ているのは、偏に『黄金長方形の軌跡』での回転に『無限に続く力』のを求めたツェペリ一族の研鑽され続けた『技術』の賜物だろう。

『エイジャの赤石』は『波紋』の如き周波を放つ『黄金の回転』と降り注ぐ『日光』が何らかの形で作用されているのか。
積み重ねた『技術』はすれ違った『次元』の壁を突き破ってきたというのか。




ジャイロはせいぜいこの推論の半分も持ち得ていない。だがしかし、結果は見事に彼の期待を裏切って余りあるものとなっていた。


527 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:51:22 vot/ybEY0

「GGGGGGGYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!」





肺活量など知ったことか、とけたたましい叫び声が響き続ける。


未だなお触手を伸ばして掴もうとするが、やはり叶わない。焼くに焼かれを繰り返す。




だがしかし、そうは問屋が卸さない。

放った『エイジャの赤玉』が回転が弱まり出し、大地へと落下を始めていた。




回転が止んでしまえば、ノトーリアスに取り込まれてしまう。


回収しようにも未だ触手は球状に赤玉を取り囲んでおり、迂闊に手元に引き寄せれば、とんでもないおまけとなってやって来る。


敵はなおも叫び声を上げるほどのダメージを受けているが、未だ健在なのには変わりない。


後、数瞬で回転が停止する。幾度となく鉄球を回してきたジャイロには、それを見ずとも身体が覚えていた。


その時、ジャイロが取った行動とは―――


528 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:52:04 vot/ybEY0














「行くぞォ、もいっぱあああああつッ!!」















―――もう一球目の投擲であった。


新たに天空へと投じられるそれも、加工された『エイジャの赤石』


その代わり、最初に放ったそれよりもさらに小さく小指の末節程度の大きさしかない。


だが、『黄金の回転』を加えられたそれは、投げられた瞬間、日差しを取り込み出し、新たな日の出を向かえる。


膨大なエネルギーの塊に吸い寄せられるように、触手の群れは飛びかかった。


先ほどまで光を放っていた、一投目の『エイジャの赤石』のことなど完全に無視して。







「へっ! できる男ってのは事前の準備を怠らねぇんだぜ……!」







落ちてくる赤玉を回収できる位置まで、ヴァルキリーを走らせるジャイロ。
してやったり、とその表情はニヤリと口の両端を吊り上げて、嘲笑っていた。
そう、彼とて回収が容易にはいかないことなど想定済みだった。


だから用意したのだ。二球目のエイジャの赤玉を。


一方に構っている間に、もう一方を投げる。サルでもわかる単純な作戦。
だが、自動性に従うだけのノトーリアスは一度嵌ってしまえば抜け出せない無限ループと化す。





 そーゆーわけだから、てめえはもう終わりだぜ。ノトーリアス・B・I・G…!





後はこの工程を繰り返すのみ。
拾っては投げ、拾っては投げ、相手が弱ってきたなら、回転の度合も変化させれば、自身が巻き込まれることもない。



回転が止まり、一点から照射されるレーザーに注意を払い、横から掠め取るようにエイジャの赤玉を回収した。


529 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:54:23 vot/ybEY0



「ッ!! こうしちゃいられねえッ!!! 次の準備をしねぇとォッ!!」



ジャイロの脳内にカウントしていた赤玉の回転数が、ボーダーラインに到達し出していることに気付く。
即座にヴァルキリーに跨り、先ほど突っ込んだエニグマの紙を右手に持ちながら、手綱を握り駆け出した。
加速が十分ついたところで、エニグマの紙を開封、右手で影を作りながら、左手に乗せた瞬間に回転を加え始める。





「ぐぅええっ!! ちっくしょォォオォォオオオオォ、熱いッ!! 回りやがれぇッ!!!」





赤玉は回転し出すが、それと同時に左手にもう一つの穴が出来始めていた。



 まだだ! もう少し……! ………よっし回った!!



回転が『黄金の回転』へと昇華したのを確認すると、赤玉をわずかに浮かせるように左手を動かす。
浮いた赤玉を人差し指と親指で掴み、安定させる。
既に放った赤玉の回転が止まる瞬間と、手元の赤玉が発光し出す瞬間を見計らう。





「まだまだ行くぜえぇッ!! もいっぱあああああつッ!!!」





上空めがけて、赤玉を投げ放つ。
もはや3度目ともなると、ありがたみも薄くなるだろうが、その威力は依然変わりなく振るわれる。
そして知啓を持ち得ない愚者たるあの化物は、疑うこともできないまま、その光を取り込もうとする。



ジャイロはそのままヴァルキリーを走らせ、落ちてくる赤玉を待つ位置へと移動する。
掌にはさっきより小さな穴が出来上がり、親指と人差し指の末節が溶けきってしまっているが。



「はぁはぁッ…! マズっいな… 投げるたびにこれじゃあ、最後にはっ…どうなることやら、だぜ……」



額には脂汗を滲ませて、誰に言うでもなくぼやいた。
既に左手の掌に二つの風穴、そして小指以外の末節部分は溶解して失われている。
現在も、かなりの激痛がジャイロを悩ませているが、そこはなんとか気合で持ちこたえている。



 まずは、落ちてくる赤玉を回収しないといけねえ…!


530 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:54:42 vot/ybEY0



ノトーリアスの魔の手から逃れ、落ちてくるエイジャの赤玉をじっと見据えるジャイロ。
一点から降り注ぐレーザーの位置は、回転が停止するタイミングを予め知っている彼だからこそ、見切ることができる。
だがしかし、迂闊に掴もうとすれば、先刻のように指や掌が溶かされてしまう。



 下手すりゃあ、二度と鉄球を投げられなくなっちまう…! それだけは、なんとしても避けねえと、マズい…!!



故に素直に素手で掴むような真似をするわけにはいかない。
そこで、取り出したるは―――やはり、エニグマの紙であった。



 さっきと同じ要領で、こいつに仕舞いこむ…!



赤玉がジャイロの目の前を通り過ぎようとする瞬間、彼は開いた右手を横に素早く振るった。
人差し指と中指の上にはエニグマの紙を乗せて、素早く動かすことで重力に負けることなく、紙は指に張り付いたまま。


触れた時、紙を半分に折るようにすることで、何とか無傷で回収して見せた。



 つっても、投げる時はこうもいかねえだろうが……



手を使わなければ、回転を加えることができない以上、油断できない状況には変わりない。
出来るだけ早く『黄金の回転』に至るまで赤玉を旋回させ、遠くへと投じる。


でなければ、赤玉の異常なまでの発熱で、ジャイロの手は溶かされ、そこから落としてしまう。





だが、今しばらくの間はノトーリアスは先ほど放った赤玉を狙っているおり、ほんの一時の余裕があった。





だから気付いた。



そして動悸が加速した。



最後に己の眼を疑った。


531 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:55:40 vot/ybEY0












「どういうこった……!? オイ!! どうなってんだぁ、コイツはぁあああああああああああアアアアァアアアアァァッ!!??」













ジャイロはあらん限りの声を上げて叫ぶ。

ノトーリアス・B・I・Gに向けて。



「GGGGGYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!」



まるで、彼の叫び声に対抗するかのようにバカでかい声で応戦しているように見えるが、生憎と先ほどから延々と叫んでいるだけである。


この化物が叫んでいる理由は、ジャイロが企てた作戦に大嵌りしているからに他ならない。


ノトーリアスを見ると、相変わらず全身の至るところから触手を引き延ばしていた。


そして数m先の目の前に宙に浮いているであろう『エイジャの赤玉』を包み込んでいる。


だが、当然それを捕捉することは出来ない。赤玉が放つ強烈な赤光に阻まれ、ひたすら焼かれ続けるからだ。


何層からもなる触手の壁を突き破ってくるほどのそれは、そこから日光を再吸収しつつ回転が止まるまでレーザーを放ち続ける。


回転が止まったら、もう一つの赤玉を回して投げれば、そちらを喰らい付くので、後はひたすら繰り返すのみ。そのはずだった。









「何で、なんでコイツはぁあああ!!! さっきよりもデカくなってやがるんだああああああああああああああッ!!!!!」









そう、ノトーリアスの体躯が先ほどよりも肥大化を遂げているのだった。


あれだけレーザーによる破壊を繰り返したにも関わらずだ。
何故だと訴えるジャイロだが、その一方で薄々一つの予感はしていた。
だが、まさかここまで来て覆されるとは思わなかった、考えたくはなかった。




あの威力のレーザーを喰らい、そのエネルギーを通して成長を果たしているのだと。


532 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:58:44 vot/ybEY0





 どうすればいい!? この状況を、俺はどうすれば………





中空に舞う赤玉の回転が停止するのを感じ取り、手元の赤玉を回し投げつける。
また一つ手に風穴が開き、指の一部が失われるも、意に介す余裕などない。
ヴァルキリーを走らせ、落ちてくる赤玉の回収に向かいながら、ジャイロは思案する。




 こいつにレーザーが効いていないワケじゃあない。ダメージはあるが、それ以上に膨大なエネルギーを触手を通して喰らっているって感じだ。




ノトーリアスを見ればよくわかるが、触手の方は次から次へと殺到しているものの、
巨大な球状になったまま留まっている。あっという間に溶かされているからなのだろう。
そして、本体はと言うと一切動いていない。光を追跡するために巨大な図体では追い越せないという、自動性が下した判断ゆえか。


その代わりに、本体はしばらくすると動きを見せた。ちょうど、ジャイロが赤玉を回収する寸前に。



 !? レーザーが弱ってきた瞬間、か?



ボコリ、ボコリと異音を立てて、ノトーリアスの体躯が一気に肥大していくのだ。


今までジャイロは回収に気取られていたせいで、この時になって気付いたのだろう。
そして、彼が手元の赤玉を放った瞬間、再び本体は蠢くのを止めた。
だが、その短い間にその体躯は以前の一回りは成長を果たしてしまっていた。



 どういうことかわからねぇが、こいつがデカくなるのに若干のラグがある、のか?



さながら小さな太陽の如き、膨大なエネルギーを取り込むのには易々とはいかないのだろうか。
スピードに置いては天下無双のノトーリアスだが、成長することに置いてはそこから一歩退いた力の持ち主だからだろうか。
だが、こんなことが分かったからと言ってジャイロに成す術があるのだろうか。





 もっと…………もっと、出力の高い、レーザーを撃てればいい、のか……?





不穏なことを考え出していた。そして―――










 ………できない、わけじゃあねえな… だが、『今』は…… いや、『このまま』だと、できねぇ……


533 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 02:59:09 vot/ybEY0










ノトーリアスの成長容量を上回るような、より凶悪なレーザーを放つ。
絶望的な状況で得た、ほんのわずかな光明。
ジャイロは既に一計を閃いていた。


策と呼ぶにはあまりにもおこがましいほど安直なそれを。



 やるなら、一旦アイツを引きつけないといけねえ… だが、あの量の触手を引きつけられるのは、この赤玉しかない……



仮に『黄金の回転』を与えた鉄球を投じても即座に捕まってしまい、自身の描くビジョンには到達できないとジャイロは踏んでいた。


だが、いつまでも赤玉を投げ続けていたら左手は、ハチの巣へとその形を歪んでいくだけでもあった。





 どっちを選んでも、茨の道か…… どうすればいい?




そんな時、ふと何時ぞやの友人の言葉が脳裏を掠めた。







     「ジャイロ…… 迷ったら『撃つな』……………だ!」







「俺はお前の言葉を信じるべきなのか? ここで待つのは逃げじゃあねえのか?」





     「ジャイロ…… 迷ったら『撃つな』……………だ!」





つい尋ねてみたものの、返ってくる言葉はない。『漆黒の殺意』を宿した瞳の彼だけがいるのみ。



 そうだな。レースにおいて、拙速は常に身を滅ぼすことは重々理解しているつもりだ。



勝利者の資格。それは常に温存する余裕を持ち続けることが大事だ。仕掛ける瞬間は決まって、限界ギリギリの寸前の寸前。
尤も、この言葉をそれを意味していた、というわけではないのだが。まあ、言葉の意味などその時々で移ろうものだからしょうがない。



 お前の『在り方』にちょっとだけ頼らせてもらうぜ、ジョニィ。


534 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:00:41 vot/ybEY0





「ジャイロさん… 貴方はどうして、戦いに行くのですか……」



ポルナレフさんに一対の『エイジャの赤玉』を作ってもらっている間、私はジャイロさんにそう尋ねました。




「あぁっ!? 今更何聞いてんだよ? あんな奴ほっといたら何しでかすか、わかんねーからだろうが。」



またです。この人はすぐに私の言葉を煙に巻く。せめてもうちょっと上手く誤魔化してほしい。
私が踏み込めない言葉で、しっかりとシャットアウトすれば、追及する気はなかったのに。例えば、そう……



「貴方の手で神子さんの仇を取りに……ですか?」



貴方が言わないなら私から言いますよ、ジャイロさん。



「残念ながら、あの化物が神子を殺したワケじゃあねえ、仇はあのクソッタレの自称仙人様だ。お生憎様だったな。」



ジャイロさんは素っ気なく言い放つだけ。生憎と、私だってそのことはポルナレフさんから聞いています。
これは自然な形で尋ねるための前振りなんですから。



「だったら、神子さんの仇を討つためにも、ここは一旦諦めようとは考えないんですか?」


「どうしてそうなるんだ?」



事の重大さを本当にわかっていないのか、あるいはやはり私を煙に巻いているのか、私の方がこんがらがってきました。



「貴方の作戦が無謀すぎるからに決まっているじゃあないですか! もし、作った赤玉が機能しなかったら、貴方はその時点で死んじゃうんですよッ!」

「それはない。ツェペリ一族の技術は必ず応えてくれる。」



「上空に投げた赤玉はノトーリアス・B・I・Gが常に触手で取り囲んでいるはずです! 一体どうやって、投げた赤玉の回転が止まるタイミングを認識するんですか!?」

「何千回、何万回も回してきたん俺なら、見る必要なんかねえよ。感覚で分かる。」



「ノトーリアス・B・I・Gの反応が遅れて、レーザーが先に貴方に到達したら、どうするんですか!」

「チョイと不安だが、まあイケるだろ。相手が早いほど、より早く動くみてえだし。」



私の方をニヤニヤしながら、見下ろすジャイロさん。正面から論破させられる気なんかさらさらないぞ、と言わんばかりに。
私をからかうのは、この際構わない。だけど、どうして貴方は……!


535 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:01:03 vot/ybEY0




「だったら!! 担当直入に言います!! 貴方はどうして、こんな分の悪い戦いに挑むんですかッ!!!」



私はムキになったのでしょう。声を荒げて食って掛かります。


「私は戦いのことなんか、分かりません。だから、貴方に助言することもままならない未熟者なのはわかってます。
 でも、きっと……いえ、確実に! 予期しない事態が貴方を襲います!! そういう相手なのはあの場にいた私でも良く分かっているつもりです!!」


勝てたと思ったら、あっという間に覆されていたあの状況。寸でのところで命を繋ぎ止めた早苗さん。
彼もまた、その犠牲になることを想像することは本当に容易いことでした。



私は彼を止めたかった。



辛くも生き残ったこの状況、不確実な方法でしか戦えない化物、理屈で考えたらそうじゃあないですか。
いや、あの時のような『理性』と『感情』のぶつかり合いとは思えない。それとはまた別次元の話。


どちらにも相応の可能性と正当性があったあの時とは違います。
今回はどちらが危険なのか益があるのかどうか、火を見るより明らかなのですから。





「それなのに、神子さんの仇討ちでもないのに、どうして貴方は戦おうとするんです……?」





思い上がりも甚だしいでしょうが、今しかないんです。私の手によって彼が生き残るかどうかを決められるのは。
戦場では私の言葉なんて何の役にも立たない。今、彼と向き合っている瞬間でしか、止めることは出来ないのですから。


早苗さんが決死の思いで掴んだ一時の安寧を無駄にしてはいけない。犠牲になった神子さんの分まで生きなければいけないんです。
そう思うのは間違っているのでしょうか。


私にはわからなかった。彼の考えが。


それとも、いや、ひょっとしたら本当におかしいのは私なのではないでしょうか?



あの時、メリーも幽々子さんも置いて行って逃げた私。
その後も、連れ去られていくメリーに何もできず、彷徨う幽々子さんを無理やり引き止めることもできない私。
2度も繰り返す過ち。


自分の命惜しさと弱さを盾に逃げ続けているから、何も変わっていないのではないか。
戦うことを最初から投げ出して、できることしかしない私。
そこからはもう永遠に抜け出せない。


536 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:02:21 vot/ybEY0

違う…! 違います! 私は……ただ!! 彼を神子さんのように死なせたくないだけです!! 私が何もできないまま、死に目にすら立ち会えず死んでしまった彼女のようには!!
涙を流さなかったのも、彼に気を遣わせたくなかっただけで、こんな独り善がりでも私は! 私なりに『立ち向かって』いる………はず、―――「おい、阿求!!!」――― なんです……




ハッとすると、ジャイロさんがかなりこちらに近づき、真上から見下ろしていました。私の顔を見ないようにして。



「人に質問しといて、聞いてないってのはよろしくねーんじゃあねえの?」

「どうせ…… 貴方はちゃんと、答えて、くれない…でしょっ…?」



何を思ったのか少し声が湿ってます。何が気を遣わせたくなかった、だ………


どうしてジャイロさんが不必要なまでに近づいているのか、分かるくせに。どうして私はこんなにも不甲斐ないんだ。


私の涙はきっと、誰よりも安い。






「確かにこれからの戦い、神子の仇討ちにはならねえ……… だが、このままだと俺は青娥に挑んでも、負けるかもしれねぇ…」


「柄にないことを……言うんですね。」



意外も意外、大意外です。



「だってそうだろ。あの化物から逃げ出したままじゃあ、俺らは間違いなく負け犬だ。その精神状態は戦いのどっかで足を引っ張る。」



「それに、俺はそのやりようのない気持ちを青娥にぶつけなきゃあいけなくなる。バカみたいに激昂してな。そうなりゃあ、足元を掬われる、そういう手合いだ、あの女は。」



「気高く、静かに、だが殺意は絶やすことなく、アイツの喉笛を切り裂く。そのために、俺はここで一つの決着を付ける…! 勝利への感覚を見出すためにも…!」



やっぱり私には、よくわからない。わかったのは私では止められない何かを彼は持っていること。それは私と彼の力の有無によるモノではありません。
ただ盲目的に挑んではいないということ。何かその先に彼が求めているということを感じました。


537 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:02:44 vot/ybEY0


「お前にはわかんないかもしれねえが、『男』ってのは『勝利』を得ようと飢えなければいけない生き物なんだよ。真っ当なアンタには理解できない倫理観の欠けた話だ。」


「勝利、ですか…」


「ああ、俺は今、その感覚を掴み始めている。勝利を目指していれば見える光が、道を照らし始めているんだぜ…!」



言葉尻にニョホホ、と笑うジャイロさん。私は力なく笑うしかなかった。自分の小ささと彼の良く分からない大きさを感じてしまったから。


やっぱり私じゃあ役不足ですね、神子さん。


だけど最後に、いや最後って言っても悪い意味じゃあなくってですね。



一つ聞いてみたくなりました。なんてことない、ただ私が安心したいがために。





「もしも、照らしていた光が見えなくなったら! 追いつめられて、道が閉ざされてしまったら! 貴方は、どうするつもりなんですか……」





「おいおい、そういうことは言いっこなしだぜ? 俺は勝ちに行くんだからよ。」





「お願いです!」





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538 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:04:20 vot/ybEY0


―――阿求、俺の方が知りてぇんだぜ…? こういう時、俺はどうすりゃあいいんだろうな?


状況は好転しなかった。


一分にも満たない間、ジャイロは投げるたびに溶け落ちていく左手を眺めながら、赤玉の投擲と回収を繰り返し続けていた。


当然、ノトーリアス・B・I・Gには決定打を与えることはできないまま、時が過ぎる。


他に何か手立てはないか考えるものの、見える道筋は一つのみだった。


勝利への光は斯くもか細いものなのか、と痛感してしまっていた。





 もう、腹を括るしかねえな…! このままじゃあ、右手まで溶かして投げるハメになる。そいつだけはごめんだぜ…!





もはや慣れた手付きで超高温の赤玉に回転を加え、真上に投擲するジャイロ。
既に左手は六つの風穴が開いてしまい、指に至っては人差し指と中指の基節骨の部位を残すのみという、動くのが不思議なほど無残な姿になっていた。



鉄球を投げた瞬間、彼は首に下げていたナズーリンのペンデュラムを掴み取る。



 結局、こんなチンケな手段に頼ることになりそうだな……



ついでにホルスターに仕舞っておいた、二回りほど小さくなった鉄球も取り出す。
ジャイロは、赤玉を投擲するつもりはなかった。



彼の狙いは、上空で舞う赤玉が停止した瞬間に、ノトーリアスの注意を引くために、鉄球とペンデュラムを投げつけることにある。



 ヴァルキリーを止めてさえいれば、確実にこの2つを喰らい付くだろう。だが、デカすぎる障害がある。



果たして、その壁を乗り越えることができるのか。いや、すり抜けることができるのだろうか。
ジャイロ自身、はっきり言って自信がなかった。
『できるわけがない』と言っていいほど。





     「ジャイロ…… 迷ったら『撃つな』……………だ!」





 わりぃな、ジョニィ。負けるつもりは毛筋一本分もねえが、チョイと分が悪い戦いになりそうだぜ……





手綱を操り、ヴァルキリーをゆっくりと静止させる。





 『できるわけがない』か…… だが、その言葉は自らの眼で以て真実を見通すための道標だ。今度は俺が試される、ジョニィに『黄金の回転』を教えたように……


539 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:06:33 vot/ybEY0





重力に負けることなく、赤玉は回転を続ける。





 あれでも、結構分かりやすく教えてやったんだからな?
 つーかよぉ、あれフツー教えちゃあいけねえもんだし、あんま他人にご鞭撻するほど、俺は出来たアレじゃあねえし…





回転の勢いが少し欠けたのを感じた。





 今度は俺一人だ。教えてくれる相手は隣にはいねぇ。俺の方が、あの時よりヤバいんだからな!
 ……ったく、お前がいてくれたら…………もっと、もっと楽に仕留めれた自信があるってのにな〜俺はよぉッ!





赤光の勢いが減退し始め、ノトーリアスの肥大化が始まり出す。





 いよいよか。……大丈夫だ、迷いは無い…! 必ずだ…! 必ず成功させてやる!





カウントダウンが始まる。ジャイロ・ツェペリの命運を分かつ瞬間に向かって。


それと呼応するように、彼の両掌に乗せた鉄球とペンデュラムはいつの間にやら旋回し始めていた。


騎乗したヴァルキリーのたてがみを視界に入れ、回る軌跡は『黄金の回転』。


後は機を待ち、善を尽くす。静かに目を伏せ、芽吹くを待つ―――


540 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:06:57 vot/ybEY0







 な、にィィィイィイイ…!?







―――はずだった。







左手に乗せたペンデュラムの回転が弱まり出したのだ。


勢い良く右に回ったかと思ったら、突如、反対方向を回ったりしており、狂ったコンパスの様に忙しない。


当然、歪すぎる回転は明らかに『黄金の回転』のそれではない。







 なんてこった……… もう、俺の左手は……回転を与えることもままならねえのか………







弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂とはこのことか。


更なる七難八苦がジャイロの身に降りかかった来た。


指の無い穴だらけの左手を見て、彼が強い失望に駆られるのも無理はない。


ひょっとしたら、もう二度と左手では回転させることなどできないのかもしれない。


それは彼のアイデンティティを失うことと同義。そして今この瞬間、





それを悔やむ時間さえないのだ。













「くそッッおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!! やってやるぞォッ…! ……ノトーリアス・B・I・Gゥゥゥゥウウウウウウッ!!!!!!」













ジャイロは吠えた。
せめてこの怒りを腹の底から追い出さねば、声にしてブチ撒けなければ、気が済まない。
果たして、その行為は彼を鼓舞し力になるのか。


もしくは………


541 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:07:25 vot/ybEY0






ジャイロはペンデュラムを右手に乗せて回した。鉄球と相部屋になるが、そんなことお構いなしだ。


『黄金の回転』を得たペンデュラムは勢いよく回り出すが―――











 今度こそ、やってやる…! 喰らいやが―――!? な、にィィッ!!??










またしても、止まった。


狂ったコンパスではなかったのだ。


ペンデュラムは一つの向きを指し示したのだ。


凧型のそれはジャイロ自身を指し、彼の求めたモノが背後にあることを教えた。










 一体何が、起きてい―――「ジャイロォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!」


542 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:08:46 vot/ybEY0





声が聞こえた。聞き覚えのある声が。思わず後ろを振り向いた。小さなシルエットのアイツがいた。







「俺が奴を引きつける!!!! お前は赤玉を回収しろォォォオッ! いいなぁッッ!!!!!」







ジャン・ピエール・ポルナレフ。阿求らを護るべく残った彼が、決戦の地へと馳せ参じたのだ。



この時ジャイロが思ったのは、何故彼がここへ来たのか、何故自分の作戦を知っているのか、ではなかった。







「やめろおおおぉぉぉおお!!! ポルナレフゥゥゥウウウウウウウウウウウウウ、危険だぁッッ!! 退けェッ!! 退けぇぇえええええええええええええええええッッ!!!」







警告。今回の陽動は陽動では済まない。確実な犠牲が出ることを彼は瞬時に理解していた。







「怖気づくなァァァアアアアアアアアアッッ!!!! チャンスは一回キリだッッ!!!! 行くぞォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!」







チャリオッツを顕現させながら、走り続けるポルナレフ。既に鎧は外してあった。


もうどんな言葉でも、彼は止められない、そう突きつけられた。





 あのバカ野郎はッ!!! どうして来やがった!!! 捨て鉢にでもなるつもりなのかッ!!!!





チャリオッツが眼で捉えきれない速さで動き始める。


543 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:10:24 vot/ybEY0







     ―――ジャイロ……―――







 迷いがある。確かな迷いが…! だが、これ以上の好機もまた、二度とないのはわかってる!! だが………お、俺はァッ!!







     ―――迷ったら―――







 ここで撃たなかったら、俺は敗北する…! だが、撃てば勝機はある……! 撃たなければ、ポルナレフを救える…! だが、撃ってしまえば……ポルナレフはァ……ッ!!!







     ―――『撃つな』……………だ!―――






 どうして、俺は……いつも! ネットに弾かれたボールの行方を! 決めなきゃあならねえッ!!! クソッ!! くそおおおおおおおおおおッッ!!!!!






     ―――『撃つな』……………だ!―――






 ……………『撃つ』しかねぇ…!! 迷いはあっても…俺は『撃つ』しか……ない! 俺は、ポルナレフが助かる可能性を、迷いを、俺は捨てきれねぇからなッ…!!!







     ―――『撃つな』……………だ!―――







 都合の良い時だけ、お前の言葉を頼りにしてるな、俺は。見習うと言っても、難しいもんだ……







     ―――『撃つな』……………だ!―――







 だが、これが俺の生き方でもある、か…… 俺は『受け継いだ』人間だから、お前みたいに『捨てきれない』。


544 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:11:16 vot/ybEY0







     ―――…………―――






 俺は『撃つ』。迷いがあっても、それを抱えてでも、な。









人は何かを『捨てて』前へ進む。


だが、彼は『拾う』意志までは『捨てなかった』。捨てきれなかった。


とはいっても、結果はポルナレフを捨てたことほかならない。


それでも迷いは捨てなかった。


多くの矛盾と葛藤を抱えて。


ジャイロは勝機を掴む権利を得た。


捨てたがゆえに前に進めたのだ。


瞳の翳りが濃ゆくなった気がした。


545 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:12:20 vot/ybEY0





赤玉の落下地点へとヴァルキリーを走らせる。

上空にいるはずの触手はいない。全て明後日の方向へと殺到しているから。

それは矢の如き速度で、そちらへと向かい、次々と大地に突き刺さっていく。

そして、本当に悩んでいたのがバカらしくなるほど、あっさりと、呆気なく、赤玉を回収できた。





「………」





そのまま2枚のエニグマの紙を開いて、エイジャの赤玉を取り出す。

残り少ない左手全てを使い切るように、赤玉を回転させつつ動かしていく。

身体の組織が溶け合ったモノが、地面へと滴るが、そんな些末ごと彼は意に介さない。

やがて一対の赤玉は完全な『黄金の回転』へ移行する。





「…………」





それだけだ。

それだけで準備は終わった。





「……」





2つの赤玉が浮き上がるように、ヒョイと左腕を動かす。


代わりに左手だったモノは、そんな勢いにすら耐えられず、地面に落ちた。


回転した赤玉は右手の指の間に鮮やかに収めると、次の瞬間には、そこになかった。






2つの赤玉は宙を舞った。





ジャイロがその時目にしたのは、世界が明滅し移り変わる様と、彗星の如き速さでそれに群がるとするノトーリアス・B・I・G。

視界を遮ってもその存在を誇示する、明る過ぎる世界に包まれたかと思えば、それが幻だったかのように、即座にこの世界へと引きずり降ろされた。


546 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:13:56 vot/ybEY0







「GGGGGGGYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!」







 一つでダメなら二つ同時にブチ噛ますしかねえだろうが…!



より強力なレーザーを照射するために、振り絞った結果生まれたのは、これだった。
彼自身も安易過ぎると思ったし、半ば破れかぶれだったのだが、これがどうしてか功を奏している。

ここからは見ることはできないが、もし一方の赤玉から放たれたレーザーを取り込み、もう一方もそのレーザーを取り込んでしまっていたら、
全方位から放たれ続ける赤玉のレーザーは回転すればするほど、加速的にその威力を増すだろう。



砂漠かと錯覚するほどの暑さ。

遮るモノがあっても明る過ぎる視界。

いずれも、先ほどまでのエイジャの赤玉では成し得なかった現象が広がっていた。





後は『黄金の回転』が続く数十秒を待つのみであった。





だが、ジャイロはここで、さらに思わぬ行動に出た。





ヴァルキリーを走らせたのだ。
これがここから離れるための行動ならば、まだ分かる。

だが違った。
上空に移ったノトーリアス・B・I・Gの元へと駆け出していたのだ。





 ここで確実にてめえを始末する、しなきゃあいけない。もう一歩踏み込んで『一手』先を行く…!


547 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:14:27 vot/ybEY0




身を焼かれるほどの熱気、烈日が生んだ劣悪すぎる視界、激しさを増した耳を劈くような化物の絶叫。



異常すぎるこの空間にいるにも関わらず、ヴァルキリーの動きは一切精細を欠けることのない、淀みない走りを生んでいた。



馬は非常に賢く、乗り手の言動も態度も察することのできる生き物。故にジャイロの意志に呼応し、それに近づこうと走りを加速させる。





 この赤玉のレーザーでくたばらなかったら、俺の負け。だったら、俺は赤玉の回転にロスタイムを与える…!





手綱を持つ右手の隙間に、張り付くようにして回転する鉄球。
そう、ジャイロは考えていた。この敵はこの程度ではくたばらない、もう一押しする必要がある相手だと。





 『黄金の回転』を纏った鉄球を2つの赤玉に叩き込む…! もう一度赤玉を回転させるためにな。





ビリヤードで球同士が衝突し、回転を加えるように鉄球で赤玉を弾こうというのだ。
そのためにヴァルキリーで接近していた。最短距離まで詰めるために。
しかし、思うは易いが行うは難し、という奴で決して容易に成功するとはジャイロも思っていない。だが、





「『できるわけがない』とあえて言っておくか。その言葉の先に広がる『道』に『光』があると信じて。一つしかない『道』を祈って…!」





この方法一つしかないのだ。

言い換えれば他の手段は選べない、ということ。

そして、その唯一の術も不確か極まるものになる。

四方八方を断崖絶壁で囲まれ、絶体絶命の四面楚歌。

それでもジャイロは征く。征かねばならない。

捨てた者に許されるのは前に進むことのみ。


548 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:14:59 vot/ybEY0




鉄球を地面へと接触させ、振動音からノトーリアス・B・I・Gは既に地面にいないことはわかっていた。
か細い触手をいくら寄越しても、瞬く間に消え去ってしまうので、いよいよ重い腰を上げたのだろう。

今、ノトーリアスはスライム状の体躯を活かして、2つの赤玉を球状に取り囲んでいるはずだとジャイロは理解していた。
そして、彼は最後に見た記憶と肌で感じる光の強弱を頼りに、おおよその位置を割り出した。
それほどまでに暑い日差しを受けつつ、ノトーリアスが上空にいるであろう位置を円を描くように走り続けていた。



     ―――『黄金の回転』の回転時間は残り半分―――



 今が回転のピーク。ここからは僅かだが減速を始める。だったら―――



ゆっくりと、慎重に、眼を見開き、そして閉じた。
しばらく眼を閉じていたので、流石に眩しかったが、それでも何度も目を瞬かせることで眼を開くことができた。



 ―――よし、眼を開けていられる。心置きなく、奴を狙い撃ちできるな。



一分にも満たない間に世界は一変していた。と言うと大げさだが、それほどの変化があった。



ジャイロの視界に移るモノ全てが白一色に染まっているからだ。


目の前のヴァルキリーの頭やたてがみ、手綱を握る右腕、地面に至るまで、ジャイロの眼に光を訴えてくる。
雪化粧した大地から反射される光と違った美しさを感じさせるものの、どこか高圧的で彼自身、不気味の一言に尽きる光景だった。
そうでなくとも、ジャイロにとって迷惑そのものであった。



「……ちっ…! 黄金スケールが見えない……か…」



『黄金の回転』に必要な、およそ9:16の黄金律、大自然が生み出した息吹を眼で確認することができなかった。
赤玉から放たれる光が本来の姿をブレさせてしまっているためであった。


 ………こいつを、また使うことになるとはな…


一輪の太陽の花を取り出す。そう、神子に託した代物であり、手向けとなった向日葵。


あの時も視界を遮られた状況を覆し、黄金スケールを触覚を通して読み取らせてくれた。
早苗を救出する際に、引っ張り出したつもりだったが、未だエニグマの紙に紛れていたようだった。


 使わせてもらうぜ、神子。


別にヴァルキリーのたてがみでも構わなかったが、見つけてしまったのなら使え、ということなのだろう。
ジャイロはなんとなく、そう思うことにした。



 まあ、あの赤玉の光も太陽みてえなモンだしな、安い願掛けみたいなもんだ。



安い、などと言うと誰かさんにドヤされるだろうかなどと、どーでもいい考えが過ったが、口にしなければバレないだろう。
いやいや、思った時点でバレるのだろうな、と思い返す。


ほんの一瞬、眩し過ぎるこの空間においても、翳り冴えていたジャイロの表情に光が差した。
それだけだ。でもきっと十分だろう。


549 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:15:35 vot/ybEY0

     ―――『黄金の回転』の回転時間は残り四半分―――



ジャイロは上空を見上げる。
眼を細めれば何とか見ることのできる程度だが、敵の姿をその眼に収めることができた。



巨大な黒の太陽。ジャイロは敵を見てそう思った。


だが、当然それは八咫烏がINした地獄烏の掲げる黒点ではなく、燦然と降り注ぐ光を一身に受け止める貪欲な死骸であった。


彼の予想通り、ノトーリアスは全身を使って2つの赤玉を取り込もうともがいていた。


身体は原型を留めておらず球状を成しており、今なお聞こえる絶叫が一体どこから発せられるのか窺い知ることはできない。





その代わりに一つの吉報を掴むことができた。





 ダメージはある…………!! まだ、エネルギーの取り込む余裕がないからな……!





敵の体躯が以前のそれよりも、すっかりスケールダウンしてしまっていた。


球状となっているにも関わらず、その違いが明確に分かるほど。


むしろ、あれだけのレーザーを浴び続けて尚、活動を続けていることの方が異常なのかもしれないが。


ジャイロは一旦緩めていたヴァルキリーの速度を上げると、敵の周囲を旋回させていた軌道を修正する。





目標は当然、ノトーリアス・B・I・G。





右手には手綱と鉄球を、手を失った左腕は、花を決して崩さぬように、優しくそっと胸に抱きかかえる。


腕の触感を通して、脳裏には絶対的な美しさの基本が宿る黄金スケールが写った。



「行くぞ、ヴァルキリー。俺たちにだって太陽の『光』がある。『道』は間違いなく照らされている。」



彼らの眼が見据える先に写っているのは、きっとノトーリアス・B・I・Gでも、その奥にあるエイジャの赤玉でもない。

遥か遠くから煌めいている『光』であり『世界』。

それをコイツが遮っていると言うのなら、無論、蹴散らしていくだけだった。



     ―――『黄金の回転』の回転時間は残り八半分―――



ヴァルキリーが駆けた。


550 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:16:17 vot/ybEY0



明る過ぎる光が見せる変わり映えの無い景色が、あっという間に移り変わっていく。


化物の絶叫より蹄の音を耳が捉え、何か物足りないような、そんなナイーブな気持ちが一瞬湧いた。


前方から吹き付ける風は、暑苦しいこの世界できっと自分は一番涼めているのを感じさせてくれた。


ジャイロはここに来て、どこまでも落ち着いた、かと言ってメランコリックに陥っていない、自然体となっていた。


そこに大きすぎる気負いはなく、かと言って全てが上手くいくと楽観視しているわけでもない。



ジャイロ自身なぜこんな白黒はっきりしない心持ちなのかわからなかった。



だが、別段彼は疑問視しなかった。あるいは今この状態こそが、いつも通りの自分であり、それは自身らの最高の力が発揮できる状態なのだと思えば。


そのまま淀みない動きで、右手の甲に乗せ回していた鉄球を手中に収める。


脚の裏は鐙をしっかりと踏みしめ、両脚を内側に寄せてヴァルキリーとジャイロ自身をピタリと固定する。


間合いを見切る。投球のモーションと到達点を確かな観察眼を以て、即座に割り出した。


上体は風に煽れらているように大きく反らせ、飛投距離の拡大を狙う。


右腕を引き絞り、右手は投石器のようにカクンと傾けた瞬間。


ゴォッと鈍い風切り音を奏で鉄球は疾駆した。





―――『黄金の回転』の回転時間は残り十六半分―――






きっと、これがこの戦いの最後の一投。


551 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:16:43 vot/ybEY0





―――赤玉を360度取り囲む化物の表面は、ボコリと音を立て再生したり、クレーターのように一部がへこんでいたりと歪な球状を保ちながら蠢いていた。



―――だが、鉄球は突入を果たす。どこかの居眠り門番よろしく、拍子抜けするほどあっさりと、だ。





 レーザーを構っている間は、鉄球は無視する。防御もザル。『黄金の回転』ならば問題なく突き破れるはずだ。





―――化物の肉体を一筋の直線を描いて破壊する。





 問題は次だ。全方位からのレーザーを避けれるわけがない。だったら、必要なのはタイミング。





―――『黄金の回転』の回転時間は残り三十二半分―――





ここは赤玉が回転する本当にわずかな空間。
その周りには当然ノトーリアスの肉体がびっしりと敷き詰められており、何としてでも奪わんとしていた。


そして、それを後押しするように、今この瞬間から、レーザーの嵐は目に見えて弱まっていた。


触手の動きもそれに応じて鈍るが、それ以上に数が物を言う、あっという間にそれらは迫った。
『黄金の回転』の限界が迫っているのだ。





 回転がほとんど止まった今ならば、僅かなレーザーしかない瞬間なら、俺の鉄球も突っ切れるはずだ…!





     ―――『黄金の回転』の回転時間は残り六十四半分―――


     ―――『黄金の回転』の回転時間は残り一二八半分―――

     ―――『黄金の回転』の回転時間は残り二五六半分―――
     ―――『黄金の回転』の回転時間は残り五一二半分―――
    ――――『黄金の回転』の回転時間は残り一〇二四半分―――


552 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:18:06 vot/ybEY0



白に染まっていた世界が、元の景色へと戻っていく。

黄金のスケールも今なら容易に読み取れるだろう。

化物の絶叫も静まり、静謐が辺りを包む。

暑苦しかった気温もガクッと下がり、涼しい風が吹いた気がした。







それが怖気だと理解するのに時間はかからなかった。







「はぁッはぁ……はっはぁっ、どうして何も起きない…! くっそぉ……どうして…だぁ……!!」







ジャイロは言葉尻を枯らしながらも呻く。そこには悔しさがありありと染み出ていた。





鉄球は赤玉へと接触することはなかった。

レーザーで焼き払われたというわけではなく、それ以前の問題。
鉄球は赤玉がいるわずかな空間に到達できず、第一の関門、ノトーリアス・B・I・Gの肉の壁を超えることができなかった。



―――今も、鉄球はそこに埋まっている。



それは単純にノトーリアスが鉄球の動きを捕捉したからに他ならない。


レーザーを構っている間は平気だろう、というジャイロの前提そのものが、既に間違いだったのだ。
いや、間違いと言うのは正しくない。彼がもっと早く投擲していれば、ノトーリアスは反応を示さなかったのだから。


そう、レーザーの勢いが強い間に鉄球を投じていれば、ノトーリアスの肉の壁を突き破れていたのだ。
既にレーザーが弱まったタイミングで鉄球を投げたばかりに、ノトーリアスも他の物体に反応する余裕があった。





要はモタモタせずにさっさと投げていれば良かった、ということになる。





だったらあの時、仮にもっと早く鉄球を投げていたとしよう。
ノトーリアスの肉体を問題なく通過できるのだ。早めに投げていたのなら、赤玉に『黄金の回転』を纏わせることができたはず。


だが、そうは問屋が卸さない。ノトーリアスの身体を突き破ったとしても、その先にあるのはレーザーの嵐。


『黄金の回転』で回っていようが、いまいが、ちっぽけな鉄球は即刻溶解あるのみ。赤玉にカスりもしない、論外であった。
せめて、レーザーが弱まったタイミングで突入しなければ、とても赤玉へとたどり着けない。





要は急ぎ過ぎず程よく待ってから投げればよい、ということになる。


553 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:18:54 vot/ybEY0




ここまで話せば、もう分かるかもしれない。

この作戦に大きな矛盾が存在することを。


遅く投げれば肉の壁に阻まれてしまう、かと言って、早めに投げればレーザーの餌食になる。

ジャイロはこの相容れない2つを両立しなければならなかった。

そのために彼は、すべてを承知の上であのタイミングで鉄球を放ったのだ。





肉の壁を突破し、レーザーに焼き尽くされない瞬間を狙って。





だがしかし、そんな絶妙なモノが果たして存在したのだろうか。


鉄球の回転を知り尽くした彼が、絶好の状態で挑んだにも関わらず見出せない瞬間など。


最初っからそんなモノ有りはしなかったのではなかったのだろうか。





だとしたら、ジャイロに何の選択肢が残っていたのだろうか。

反撃のアイデア閃いたジャイロはそれを捨てて、仲間が来て助けてくれるのを願うのだろうか、現実は非情だと諦めるのか。

自らの力量次第で勝てるかもしれない策を閃いておいて。もはや動けるのは阿求のみという状況で。ポルナレフによって切り開いた道だというのに。





あるいはそれらすべてをひっくるめて、彼は『すでに』『追いつめられてしまった』のだろう。





自ら退路なき『道』へと。


554 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:20:13 vot/ybEY0



影が降りてくる。もはや、目的のブツはその身に取り込んだ。重力に従い、大地へと舞い戻る。



ジャイロは自分の周囲が一気に暗くなるのを感じ、見上げた。







 『正しい道』を進んできた、はずだってのにな……… 俺は………これでも…







避けられない、そう判断せざるを得なかった。

自分を中心に影は100mを優に超えているのが分かった。

仮に今からヴァルキリーを走らせたところで、抜け切るのは不可能。

そうでなくても、そんな速度で移動してしまえば追跡されるのは明白。

何もしないことが、今できる精一杯の策に帰結するのは却って笑いが出てくる。



見事なまでの袋小路。



鉄球も赤玉もない、あるのは一頭の愛馬と道を示すペンデュラム。
まだ身体は十分に動けるというのに、愛馬も絶好調で走れるというのに。



後、ほんの数瞬で死ぬのだ。


555 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:20:39 vot/ybEY0





 あまりにも、あっけねえ。我ながら、本当に、な……





走馬灯の代わりに、ふとある言葉を思い出す。







――― もしも、照らしていた光が見えなくなったら! 追いつめられて、道が閉ざされてしまったら! 貴方は、どうするつもりなんですか…… ―――



 ああ、阿求。お前の言う通りになっちまったようだ…



――― おいおい、そういうことは言いっこなしだぜ? 俺は勝ちに行くんだからよ。―――


――― お願いです!―――



 ……その答えなら、俺は知っているんだぜ、阿求? だが言っちゃあいけねえ。そいつは自分で体験してナンボのものだと思うしな。



『何かの力』によって引き起こされる偶然の連続の賜物、それは―――





 お前自身で掴んで見せろ、阿求。『選ばれた』『奇跡』って奴を、な……





醜悪な肉体がすぐそこまで迫る。





 俺には、その資格がなかったみたいだぜ…… ちくしょぉ……





ジャイロ・ツェペリは静かに目を瞑った。

まだ死ねない、ここで終わりたくはない、そんな悔恨だけが彼の胸中を包んでいた。


556 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:21:09 vot/ybEY0



―――赤玉はどことも知れぬ犇めく肉の中で、わずかながら光を灯していた。
   だがそれは、赤玉の中を無数に反射し続けるだけしかできない、まさに風前の灯であった。
   そして、それさえも間もなく消滅する。全ての光は等しく、この化物に飲み込まれるしかないのだ―――





―――もし、こいつを焼き払える光があるとずれば、それはもっと未知なるエネルギーが必要だろう。
   誰も知り得ぬ正体不明のエネルギー。ノトーリアス・B・I・Gでさえ、捉える事の出来ない超越した『ナニカ』が―――







         ―――ギャルギャル……ギャル…ギャルギャルギャルギャル…ギャル―――







―――往生際の悪い鉄球が在った。負けを認められないそいつは未だに回転を止めないでいた。肉の壁に密閉されながらも。
   渾身の一投だが生んだ賜物。だがそれは今や化物が気に留めることもない程度の旋回でしかない。一体その回転にどれほどの意味があるのだろう―――










     ―――ギャル……ギャ……ギャリ…ギルギャ…………ギャリ…ギャ…ギャ、ギギギィ……ィ―――










―――止まった。きっと
   彼が潰えた、その瞬間と一緒に―――


557 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:21:54 vot/ybEY0










     ス ゙ ス ゙ ス ゙ ス ゙ ス ゙ ズッ ス ゙ ス ゙ ス ゙ ズ ズ ス ゙ ズ ズ ス ゙ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズズ ズ ズゾ ゾ ゾ ゾ ゾ ゾ ゾゾズゾズズゾ … … …















―――ソイツは立っていた。そして突然現れた。



―――肉の中にいた。そうするのが当たり前のように、突っ立っていた。



―――鉄球の隣に立っていた人型のビジョン。まるでそこから染み出たように。



―――ソイツは幽霊のように肉の壁をすり抜け、いずこかへと消えていった。



―――それだけだった。


558 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:22:45 vot/ybEY0










 暑い……… 眩しい……… 何よりも……………











ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル! ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!


「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」







「うるっっせぇえええぞォォッ!!! ってえええェェエエエおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!??」






ジャイロ・ツェペリは眼を覚ます。非常に劣悪な中での覚醒であった。



「何だ…!!?? 何が、どうなっていやがる!!!???」



ノトーリアス・B・I・Gに潰され、そして死んだ。少なくとも、彼はそのつもりでいた。だが違った。





 この暑さを、この眩しさを、俺は知っている…… だが、なぜ今起きて………いや、それよりもだ…!





右手で手綱を握るよりも先に、帽子を目深に被り、その上に取り付けているゴーグルを愛馬に無理やりつけさせる。





「ヴァルキリー!!! 走れッ!!!! こっから抜け出すぞォッ!!!!」





いやがるヴァルキリーを命令で誤魔化させる。尻跳ねするのかと思いきや、主人のかけ声に応じ大地を蹴り、駆け出した。
この場にいるのは危険のだと、動物の本能が理解しているからだ。





 今までのよりもヤバい…!!!突っ立てたら、こっちまで丸焦げになっちまうぞ…!!!





ジャイロは上を見て確認しようとしたが、止めた。危険すぎる。下手をしなくても目が潰れる。

それに見らずとも、途轍もない圧迫感を上から感じ取ることができる。





 今、俺らは奴の真下、しかもかなりのゼロ距離ッ!!


559 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:23:51 vot/ybEY0





ヴァルキリーは疾駆する。


感じる風はどこまでも迸る熱風。


愛馬の速度と共にジャイロの焦燥も加速する。


尻に火が付いているかのように、下痢したニワトリみてーに、ただただ必死に走る。





だが火が付いたのは尻ではない。





「くっそォッ!! アチイッ!! マジで焼け焦げちまうッ!!!」 



ジャイロの上着がブスブスと煙が立ち上り始めていたのだ。

さらには、愛馬のたてがみも同様に燻り出すのを彼の嗅覚が察知する。





「ヴァルキリー!! 頼む、もっともっと急いでくれぇッ!!!!」





「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」




ジャイロの声は果たして、ヴァルキリーに届いたのだろうか。
ノトーリアスのバカでかい音声によって塗りつぶされたはずである。
化物は更に悲痛なものへと変わっていく。


凄まじい勢いで破壊と再生を繰り返している。


ジャイロは呼吸を止めていた。吸い込む空気が熱せられていて、肺が焼かれると判断したからだ。
肌を刺す白い閃耀は、そこから全身から火が噴き出るかと思うほど熱い。





「GGGGGGGGGGGGYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!」





けたたましい叫び声が相変わらず、耳を劈く。


だが、その声量は先ほどのそれよりも劣っていた。



 遠ざかった、のか……!?


560 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:24:18 vot/ybEY0



上から押し潰されそうな圧迫感も消え失せ、身を焼くほどの光もわずかに和らいだ気がした。





いいぞ、ヴァルキリーッ!!! そのまま突っ切っちまえええええええええええッ!!!





ヴァルキリーはトップスピードを迎え、さらに加速する。


白い景色が少しずつ元の色のそれへと変化していく。





「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」





またもバカでかい咆哮が鼓膜に優しくない刺激を届ける。



 くっそおッ!! 声が近い!? まさか…………俺らを追跡していやがるのかッ!?



ジャイロは決して背後を振り向いたりはしなかった。態勢を崩し減速してしまえば、それこそ捕まってしまいかねない。





「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」





「GO! ヴァルキリーッ!! GOッ!!! GOッ!!!! グゥゥゥオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォオォオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」





「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
 HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」





人と化物の騒々しいデュエット。


それは偶然にも同じタイミングでピタリと静止して、いや呑み込まれた。


内包していた光が膨れ上がるように、世界を白へと染め上げた瞬間に。


561 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:24:58 vot/ybEY0



太陽は麗らかな光を届ける。


荒れに荒れた大地であろうと、地に伏した男であろうと、跨られている馬であろうと、それに跨っている男であろうと。


日差しは先の見えぬこの地であっても等しくその身体を暖め、見果てぬ者たちの道を指し示してくれる。


そこには身を焼かれるほどの白熱も、眼を閉ざさなければ進めないほどの光芒もない。


安寧の地へと早変わりしていた。





「はぁ、はぁはぁ……はぁーッ………くっそ、はぁっ……奴はいった―――





穏やかな空間に生まれ変わったこの地の住人の第一声。





―――い、アチィッ!? やべぇッ!! うぉッ!?おい、暴れんなぁッやめろッ!!! ヴァルキリー!!」





お互い、所々ブスブスと煙を燻らせながら、ジャイロはヴァルキリーを宥める。

だが、黒いたてがみに火の気が移っているのに待っていられるわけがなく、後ろ足でジャイロを尻っ跳ねようと必死だ。



「どわあぁああああッ!! 落ちぃるッ!! バァカヤロッ!!! ちったあ、待ちやが……れぇぇえええ!?」



愛馬が身体を揺らすごとにジャイロの声色もブレにブレる。
何とか内側に両足をがっちりと押さえ込むことで、振り落とされないようにするも時間の問題だ。
それでも踏ん張った甲斐あって、デイパックからペットボトルを取り出すことに成功。
それを自身の頭から被るようにして振り撒く。
もう一つ取り出して、愛馬にもかけてやり、ようやくその場を収めることができた。



そして気付いた。こんなことをしている場合ではないことに。



「ノトーリアス・B・I・Gは、くたばったのか…?」



走ってきた方向の後ろを振り向くものの、いなかった。
グルっと全ての方角を視界に入れるものの、やはりいなかった。
いないものはいない。ないものはないのであった。いや、あるというわけではなくってないという意味でだ。



 あの時、確かに回転音が聞こえていた。レーザーが放たれていたわけだ…… どういうわけか、再び赤玉は回転を始めたってことになる………



ジャイロはつらつらと、あの逃走劇の瞬間を振り返る。



 俺の鉄球が赤玉のトコまで届いたのか…? いや、しかし……それは幾らなんでも遅すぎるんじゃあないか?



完全に赤玉が回転を停止してしまうかどうかの境目を彼は狙っていた。
ジャイロが押し潰されかけた瞬間は、どう考えても遅いの一言。


だが、あの暑さと眩しさは間違いなく、赤玉のそれだ。しかも、俺は都合よく巻き込まれなかった。まるで、俺の意志が働いていたかのように……


思えば、ノトーリアス・B・I・Gもジャイロを追跡していたのではなく、あの巨大な叫び声は単なる断末魔の叫びだったのではないか。
あれほどのレーザーが放たれているあの状況でこちらを追ってくるなど在り得ないのだから。


562 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:25:43 vot/ybEY0


 『ナニカ』が赤玉に作用したって言うのか? あの状況で? 一体どんな手段なら赤玉を回転させられるって言うんだ……よぉ……?


そもそも、ジャイロは鉄球と赤玉しか使っておらず、他の要素が作用するとは考えられない。
そこで、ジャイロの脳裏に一つの答えが湧き出る。



 待てよ……もし、俺の鉄球が『防御を突き破るための回転』になっていたら……? 中世騎士の甲冑をブチ破る回転を、俺の鉄球が纏っていたなら……!?



ノトーリアス・B・I・Gの肉体も赤玉のレーザーの嵐も突き破れていたのではないか、ジャイロは今更閃いていた。



 いやいやジャイロ、そうじゃあねえだろ。もし、その回転が生まれていたら、それこそ、もっと早く赤玉に到達できていたはずじゃあねえのか?



生憎と、ジャイロはノトーリアス・B・I・Gの体内を覗いていたわけではないので、そこで何が起こっていたのか知る由もない。

スタンドへと昇華した『黄金の回転』のエネルギーが全てを突き破り、赤玉へと未知なる『回転エネルギー』を与えたことなど。

それはノトーリアス・B・I・Gでさえ、取り込むことはできない『次元』をも抉じ開ける力の存在などとは。



 そもそも、回転しないことにはレーザーは放てない。だったら、俺の鉄球が干渉したのはまず間違いねえ……



だが、その片鱗を掴み、勝機を引き寄せたことには違いないのだった。



 俺はまたも『選ばれた』のか……? だが、今度のは犠牲を払いつつ、だけどな……



ジャイロは首にぶら下げていたナズーリンのペンデュラムを掴み取る。
じっくり探したいのはやまやまだが、あちこちに大小様々なクレーターがあり、それらを全て探すのはあまりにも手間だった。



「人様の忠告を無視しやがったバカヤローを探さねえとな………」



2つの赤玉を手にするために身を挺した男を忘れてはいなかった。


「反応あり、か……」


彼の名前を、容姿を、性格を、想起しペンデュラムに念じ、あっさりと一つの方向を指し示した。



漏れたレーザーが生んだ穴よりも一際大きいクレーター、あの化物が突っ込んだと思われる場所。



 いるんなら、やっぱりそこだろうよ。アイツは…



我ながら少々女々しい行動だったのかもしれない。
ペンデュラムで探してから、自ら逃げ場を断ってからご対面しようなど。

ジャイロはヴァルキリーを走らせクレーターに近寄る。
ノトーリアスに両脚を喰らわれた早苗のことを彷彿とするようなシチュエーション。



 無事でいるんだろうな!? ポルナレフ!



だが、今回は手元に鉄球がない。致命傷を負っているとしたらまともに治療することは叶わないだろう。
だから祈るしかなかった。彼の無事を。
巨大な半円状の穴の端から、覗き込むようにジャイロは見る。





横たわった姿の彼を発見した―――







 満足気なツラ、しやがって………


563 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:26:47 vot/ybEY0







―――はずだった。







「いねぇ……!?」







確かに今、ジャイロはポルナレフの顔が見えたはずだった。

それが忽然と消えてしまっていた。





「おい、ポルナレフ!? てめえ、どこに―――!!??」




顔を上げると、いた。


寝たままの姿勢で空を飛んでいた。



 何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何なんだ!!??



放物線を描くようにクレーターから抜け出ると、そのままの勢いでジャイロをも飛び越し背後にて、着地。

ジャイロはと言うと、その珍妙な軌跡に合わせて眺めていた。







「パンパカパーン!!! 探し者は俺のことだろう!? ペリペリく〜ん??」







「ずいぶん…てめえ…暇そうじゃあねえか…ポルナレフよぉ!!」







五体満足でニヤニヤしながら、ポルナレフは立っていた。
ジャイロは強張っていた表情を破顔してしまった。
それが目の前の男の意図だとするのなら、素直に喜ぶのはやぶさかではなかった。


564 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:27:31 vot/ybEY0



「しかし、まあよく無事だったな。もうダメだと俺は思っていたんだが。」


「けっ! 俺が無策で突っ込んでいったと本気で思ってんのかよ? 一回キリ、俺は確かにそう言ったんだぜ?」



チャリオッツを隣に出し、レイピアをジャイロより少しずらして構える。


「こういうこった!!」


細く鋭い風切り音がジャイロのすぐ横を、瞬きを許さないほどの速度で過ぎ去って行く。
チャリオッツの剣先の中ごろまでが、消失してしまっており何が起きたのか容易に想像できた。


「なるほどね。そいつを飛ばして、狙いを逸らしたと。その間に移動して奴から逃れた、そういうことか…」


「奥の手って奴はここぞと言う時にこそ使うってもんだからな!」



ポルナレフは鼻高々と自慢げに語るのを見て、ジャイロはふと疑問に思ったことを口にする。





「ん? つーことはだな…… お前は今まで何していたんだ?」

「………何にもしてねえ。お前の戦いぶりを眺めていただけだ。」





両者しばしの沈黙。

――――――――――――――――――――――――――

おいおいポルナレフ、お前はあれだけカッコよく登場しておいて、自分は死んだふりして決着を付けるのは俺任せかよ。



ジャイロがいっそそのように笑い飛ばしてしまった方が良かったのかもしれない。
ポルナレフはきっとそれに合わせて、程よく怒りの体を示し、お互いの空気は和らぐだろう。


だが、ポルナレフがあまりにもあっけなく自分の醜態を晒すことに、ジャイロは違和感を覚えた。
やたら潔すぎるというか、何というか。
だから待つことにした。彼の言葉を。その先に続く彼の在り様を。


やがてジャイロが言葉の続きを待っていることを察したポルナレフは、溜息を漏らして続けた。根負けした、と言わんばかりに。



「……俺の剣は弱き者たちを護る為にある。幽々子さんはそう仰っただろう? だから、何もしなかった。認めたくはねえが、俺じゃあアイツには勝ち目がないからな……
 俺にはまだ護るべき相手と仲間、そして幽々子さんがいる。」



苦々しく吐き出し始めた。



「情けねえ話だとは思う。だが、あの人から与えられた『生命』を! 何も成し遂げずに投げ出すわけにはいかなかった!
 ついでに言っちまうと、本当はここに来るつもりもなかったぐらいだ……」



「だが、阿求ちゃんがお前が企みそうなことを悶々と考えているのを見て、俺がそいつを代わりにやれると分かった以上、来ないわけにはいかなかった!」



「尤も、それでも俺の命が危ぶまれない範囲でしか、協力しちゃあいねえがな…… 悪かった、ジャイロ。それが今の俺の―――「『在り方』何だろ?」―――!」




ジャイロがポルナレフの台詞の続きを察して、言葉をおっ被せる。口を吊り上げ、ニョホホ、とみょんな笑いを見せる。


565 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:28:18 vot/ybEY0



「ポルナレフ、今横たわっている『結果』を見てみろ。」



頭を下げたポルナレフは、その言葉を境に顔を上げる。



「俺たちは今、出来うる限りの力を尽くして最上の『結果』を得ることができたんじゃあねえのか? 少なくとも俺はそう思うし、けっこー『納得』してるんだぜ?」



「お前の話を聞いて、勝手ながら『納得』できた。さっきのアレは俺の行動が生んだ『選ばれた』『奇跡』じゃあない。
『偶然』の連続の代物じゃあない、俺とお前、阿求がそれぞれに動いた『結果』が生んだ賜物だってことをな。」



「確かに『過程』は大事だ。だが『結果』が残らねえと、何をほざいてもそいつは認められない。だが、アレは俺たちの『結果』を集まりだ。
 ポルナレフ、お前がその『過程』で何を思っていようが、俺がそれを咎める権利はねえぜ。」



「それに『在り方』は人それぞれ。結局、俺も誰かさんの真似ができたようで、できちゃあいない。『道』ってのはどうも、千差万別らしい。」



「おい、ジャイロ。俺にはお前の言ってることが半分ぐらいしかわかんねえぞ。日本語を話せ。ここは幻想郷だ。」

「うっせえ、全部独り言だ。バカヤロー。」



自称、長々とした独白を終えたジャイロは、少々バツの悪そうに語り出す。



「それに阿求にも言ったが、今回の俺の行動は、己の身勝手さから生んだもの。お前と阿求もそれに振り回されただけで、毛ほども気にすることはねえよ。」


「ああ、まったくだな。もし、お前が死んでいたら、俺たちは『全員生き残った』って胸を張ることもできなくなる。
その精神状態はか・な・ら・ず!脚を引っ張る。そうだよな、ジャイロ?」



しっかりと話を聞いていたのか、意地の悪い返され方をされたジャイロであった。


「へっ! 裏を返せばそういうことになるな。まったく……すまなかったな。」


「結局のところ、お互い様ってわけだ。まあ、つくづく運のある奴だぜ……」


ポルナレフは半ば呆れ気味にぼやく。それほどのミラクルだと言いたいのだろう。


「それと、謝罪は俺だけじゃあねえだろ―――「つーかよぉ、お前のおかげで俺は生きていられているんだ。文句言えるわけねえだろうが! このスカタンがよぉ!」―――


乱雑。
ポルナレフの言葉の意味を感じ取り面倒くさがった彼の対処法がだ。

強引過ぎる話の腰の折り方。どこのポルナレフの台詞からなら、この台詞が当てはまるのか、そんな国語の問題が作れそうだった。
ついでに調子良くポルナレフの背中をバシンと一発引っ叩く。



「てめえ! 文句言わねえって言ったそばから何言ってやがる!!」



話の流れを無視し挙句理不尽な悪口のダブルパンチをぶつけられると、ポルナレフとて火が付くと言うもの。


566 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:28:51 vot/ybEY0


「そういえばだな〜、俺を驚かせたのも、あの後ワザと突っ込まれそうな態度を取ったのも、意図があったワケなんだよなぁ……??」


「〜〜!? て、てめえ!!」



隠しておいたものが今になって暴かれて、ギクリという擬音語が聞こえてきそうなほどポルナレフは良い反応を見せた。



「自分から道化に走るなんて、よほど気にしていたんだねえ〜?? いや〜実に堅物で献身的な姿勢だねえ〜〜?? なぁ〜そうだろぉ……ポルポルく〜ん?」

「てんめえええええええええええええ!!! 余計なことを次から次へと、のたまってくれるじゃあねえか!! てめえはもうおしまいだ〜〜!! 」



痛いところをモロに突きまくられ、ポルナレフはついに顔を真っ赤にしてジャイロに飛びかかる。

一方ジャイロは回れ右して走り出し、そのまま素早く愛馬に跨り激を飛ばす。



「行くぞ、ヴァルキリー!! 阿求たちのところまで駆け抜けるぜえッ!!!」


「くっそ!! 逃がすかよぉッ!! 待ちやがれぇえ、ジャイロ!!!!」



ポルナレフの奮闘空しく、ジャイロは一足先に素っ飛んで行く。



 まあ、感謝の言葉は後でアイツと一緒にまとめてしてやるぜ!



相手をからかった後に妙な優しさを見せる。

『在り方』は人それぞれと問いた癖して、そんな飴と鞭を使い分けるその様は、ほんの少しだけ、誰かさんの臭いを嗅ぐわせた。

尤も、今のはただ単に逃げ出したかっただけなのかもしれないのだが。

とは言っても、それがジャイロ・ツェペリの生き方

『受け継いだ者』の『在り方』―――なのかもしれない。





【ノトーリアス・B・I・G@第五部 黄金の風】 完全消滅


567 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:29:48 vot/ybEY0
【E-6 太陽の畑/午前】


【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:睡眠、体力消費(大)、精神疲労(大)、右脇腹に大きな負傷(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部、不明支給品0〜1(現実のもの、本人確認済み)、基本支給品×2(本人の物とプロシュートの物)
[思考・状況]
基本行動方針:承太郎らと合流し、荒木・太田に反抗する
1:東風谷さんに協力し、八坂神奈子を止める。
2:承太郎、ジョセフたちと合流したい。
3:このDISCの記憶は真実?嘘だとは思えないが……
4:3に確信を持ちたいため、できればDISCの記憶にある人物たちとも会ってみたい(ただし危険人物には要注意)
5:青娥、蓮子らを警戒。
[備考]
※参戦時期はDIOの館に乗り込む直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。
これにより第6部でホワイトスネイクに記憶を奪われるまでの承太郎の記憶を読み取りました。が、DISCの内容すべてが真実かどうかについて確信は持っていません。
※荒木、もしくは太田に「時間に干渉する能力」があるかもしれないと推測していますが、あくまで推測止まりです。
※「ハイエロファントグリーン」の射程距離は半径100メートル程です。
※ポルナレフらと軽く情報交換をしました。



【東風谷早苗@東方風神録】
[状態]:気絶、体力消費(大)、霊力消費(大)、精神疲労(極大)、出血(極大)、両脚欠損(ネジで固定)、重度の心的外傷
[装備]:スタンドDISC「ナット・キング・コール」@ジョジョ第8部
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。この殺し合いを、そして花京院君と一緒に神奈子様を止める。
1:『愛する家族』として、神奈子様を絶対に止める。…私がやらなければ、殺してでも。
2:殺し合いを打破する為の手段を捜す。仲間を集める。
3:諏訪子様に会って神奈子様の事を伝えたい。
4:2の為に異変解決を生業とする霊夢さんや魔理沙さんに共闘を持ちかける?
5:自分の弱さを乗り越える…こんな私に、出来るだろうか。
6:青娥、蓮子らを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくとも星蓮船の後です。
※ポルナレフらと軽く情報交換をしました。
※痛覚に対してのトラウマを植え付けられました。フラッシュバックを起こす可能性があります。


【稗田阿求@東方求聞史紀】
[状態]:疲労(中)、自身の在り方への不安
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン@現実、生命探知機@現実、エイジャの残りカス@ジョジョ第2部、稗田阿求の手記@現地調達、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いはしたくない。自身の在り方を模索する。
1:私なりの生き方を見つける。
2:二人の帰りを待つ。
3:メリーと幽々子さんを追わなきゃ…!
4:主催に抗えるかは解らないが、それでも自分が出来る限りやれることを頑張りたい。
5:荒木飛呂彦、太田順也は一体何者?
6:手記に名前を付けたい。
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談以降です。
※はたての新聞を読みました。


568 : 回天伝説 〜True Executioner?  ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:30:36 vot/ybEY0

【ジャン・ピエール・ポルナレフ@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、身体数箇所に切り傷、胸部へのダメージ(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 、???(※)
[思考・状況]
基本行動方針:メリーや幽々子らを護り通し、協力していく。
1:阿求らの元へと戻る。
2:メリー及び幽々子の救出。
3:仲間を護る。
4:DIOやその一派は必ずブッ潰す!
5:八坂神奈子は警戒。
[備考]
※参戦時期は香港でジョースター一行と遭遇し、アヴドゥルと決闘する直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。3部ラストの承太郎の記憶まで読み取りました。
※はたての新聞を読みました。
※ノトーリアス・B・I・Gが取り込んでいた支給品のいずれかを拾ったかもしれません。次の書き手の方にお任せします。


【ジャイロ・ツェペリ@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:騎乗中、疲労(大)、身体の数箇所に酸による火傷、右手人差し指と中指の欠損、左手欠損
[装備]:ナズーリンのペンデュラム@東方星蓮船、ヴァルキリー@ジョジョ第7部
[道具]:太陽の花@現地調達、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョニィと合流し、主催者を倒す
1:阿求らの元へと戻る。
2:メリー及び幽々子の救出。
3:青娥をブッ飛ばし神子の仇はとる。バックにDioか大統領?
4:ジョニィや博麗の巫女らを探し出す。
5:リンゴォ、ディエゴ、ヴァレンタイン、八坂神奈子は警戒。
6:あれが……の回転?
7:遺体を使うことになる、か………
[備考]
※参戦時期はSBR19巻、ジョニィと秘密を共有した直後です。
※豊聡耳神子と博麗霊夢、八坂神奈子、聖白蓮、霍青娥の情報を共有しました。
※はたての新聞を読みました。
※未完成ながら『騎兵の回転』に成功しました。




※以下の支給品が消滅しました。
・エイジャの赤石@ジョジョ第2部
・エイジャの赤玉(2/2)@ジョジョ第2部
・ジャイロの鉄球@ジョジョ第7部


※以下の支給品をポルナレフが入手した可能性があります。使い物にならないかも。
・十六夜咲夜のナイフセット@東方紅魔郷
・御柱@東方風神録
・止血剤@現実
・基本支給品×2


【支給品紹介】

【エイジャの残りカス@ジョジョ第2部】
エイジャの赤石だった物。
二つの穴が開いてしまっており、もはやレーザーを放つことも石仮面の骨針の押しにも使えない、まさに残りカスとなってしまった。
柱の男が見たら、卒倒間違いなしである。不意打ちには使えるかも。
しかし、エイジャの赤石がなければ、『柱の男を倒せなくなる』という言い伝えがあるのだが、果たして……


【エイジャの赤玉@ジョジョ第2部】
ジャン・ピエール・ポルナレフ制作の球状にカッティングされたエイジャの赤石。二つあった。
ジャイロが奇策のために用意してもらった代物で、『黄金の回転』の『無限に続く力』を与えるために鉄球の形を模している。
大きさは指の第一関節程度しかない、非常に小さな仕上がりとなっている。
日光と回転を加えるだけで全方位にレーザーをブっぱなすトンデモ兵器だが、防御の手段を講じないと自滅必死である。


【太陽の花@現地調達】
某妖怪の根城『太陽の畑』に咲く向日葵の一輪。もはやこの会場においては絶滅危惧種となってしまった憐れなお花。
何の変哲もないただの向日葵だが、ジャイロの確かな鑑定眼によって選ばれた『黄金スケール』の宿る向日葵である。
触覚による『黄金スケール』の把握に成功できる程度の美しさを誇る。
ジャイロの扱いが良かったおかげか、あれほどの戦いの中でも痛めたりしていない。なお、花言葉の意味は……


569 : ◆at2S1Rtf4A :2015/01/04(日) 03:33:14 vot/ybEY0
投下終了です。
ご指摘ご感想ありましたらお願いいたします。


570 : 名無しさん :2015/01/04(日) 04:07:37 oFTlosl20
投下乙です
早苗がノトーリアスに蹂躙されているシーンは目を背けたくなった…
描写が上手すぎて痛みと早苗の恐怖がリアルに想像できてしまう
心も体もボロボロな早苗に力強く言い聞かせる花京院が頼もしくて惚れる

そしてジャイロ大活躍ッ!!
やべえこれジャイロ死ぬんじゃねってハラハラしながら読んでいた
生きていて良かった…。しかしボロボロになってしまったな
ジャイロと共に最後まで戦いぬいたヴァルキリーにも賞賛をあげたい


571 : ◆YF//rpC0lk :2015/01/04(日) 12:47:43 iqGd87Nc0
投下乙です
無視できぬ被害を被りながらもB.I.G.相手に勝利するとは……
赤石についてはカーズは泣いていい


572 : 名無しさん :2015/01/04(日) 13:33:21 NmNsjVYQ0
長編投下乙
早苗は前編でやり切った感があったから脱落するもんだと思ってたが、またもや乗り越えてくれたなあ
ジャイロも生きてるし、すっげー安堵した
手頃な死体見つけてチャリオッツ&ナットで手をなんとかしたいところだな


573 : 名無しさん :2015/01/04(日) 13:52:30 7BCEWleoO
投下乙です。

ノトーリアスは「ノトーリアスより遅いもの」ならダメージ与えられるけど、破片がエネルギー吸収して復活しちゃうから、倒そうとしたら焼き尽くすしかないのかな。

早苗はこれから、何本の脚を乗り換えてくのだろうか。


574 : 名無しさん :2015/01/04(日) 13:53:10 /M1jKMEU0
何て事だ……新年早々、凄いのを読んでしまった……!
ノトーリアスに喰われる早苗さん、痛そう……そりゃあ、ここで死にたくなるってのも分かるくらいに……
そして、そんな彼女を支える花京院くん!典ちゃん!お前ら本当に名コンビだな!
こんな状況でも漫才できるなんて!
傍でツッコむAQNもいい味出してるぜ!!

・・・で、ジャイロVSノトーリアス!!
柱の男どもが聞いたら卒倒しそうな手段を使っても倒せないなんて、コイツどれだけしぶといんだよ!!
そこで出てきたのが……アレだ!未完成らしいけど!!

で、土壇場でジャイロを助けに出てきたポルナレフ!!
決してここで死ぬつもりはない、だけど手は尽くす
在り方を確立したもの同士の渋い友情を見せてくれたな!


575 : 名無しさん :2015/01/04(日) 13:57:00 eKBYTkkE0
乙、とりあえずジャイロ生きてて良かった…ジョニィについで死なれたらと思うと…


それと赤石についてはカーズが黙っちゃいないぞ


576 : 名無しさん :2015/01/04(日) 23:59:32 CUtHAbn60
投下乙です。
無傷…ではないけど、犠牲ゼロの勝利!!
殆ど不死身めいたノトーリアスはまさに化物だったけど、まさか誰一人欠けることなく切り抜けるとは
とりあえず皆そろそろゆっくり休め


577 : 名無しさん :2015/01/05(月) 00:51:48 xNMQ2rcs0
投下乙です!
ノトーリアスに喰われる早苗さんは見ていてひたすら痛々しかった…
思えば竹林組も肉ナレフ戦→青娥・肉蓮子戦→ノトーリアス戦と死闘続きなんだなあ。しかも休んでる暇はない。
途中の当身は不意打ちで笑ったW

ひとつだけ気になる点がありました。
神子の遺体の脚を剣で切断する場面がありましたが、これはナット・キング・コールで普通に分解できるのではないでしょうか。
以前、早苗が美鈴にやってたみたいに。

気になる点はそれだけでしょうか。
青娥急襲から続いた大激闘もひとまず終え、果たしてメリー救出なるか。楽しみです。
支給品や神子ちんの遺体、向日葵などの面白い使い方、最初から最後まで先が読めない凄いクオリティだったと思います。
あけましておめでとうございます。


578 : ◆at2S1Rtf4A :2015/01/05(月) 02:08:12 mE2RmTDM0
みなさまもろもろのご感想ご指摘ありがとうございます、やったね。

>>577
花京院はスタンドを無理やり動かしている、という点を考慮した結果、ポルナレフに両脚の切断を任せました
それに精密性動作性:Eのナット・キング・コールですし、思うように動かすのは難しいはずです
加えて、早苗さんの大腿の断面は皮膚で塞いでいるので、それを薄く切り落とす必要があります

スタンド操作の難しさ、神子の脚と早苗さんの皮膚のカットを考えた結果、
ポルナレフに白羽の矢が立ったというワケです、素早い剣捌きは彼の十八番ですから


579 : 名無しさん :2015/01/05(月) 08:37:39 QNkUX5kM0
よく考えられてるよなあ
書き手さんにも安らかな休息を与えたい


580 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/01/09(金) 01:44:34 Drwy5M3E0
投下乙です!
もの凄い迫力と勢いあるお話でした。ただただ凄い。
ミンチ機と化したノトーリアスのくだりは読んでて辛くなるほど迫真の描写でしたし、
その後の緑コンビの掛け合いもシリアスとギャグが綺麗に混ざり合っていて楽しい。
そして覚悟を決めるジャイロも本当にらしさがあふれていてカッコ良いいし、
めまぐるしく変わる状況にめげずに真剣に立ち向かい行動する阿求も健気。
あとポルナレフもいぶし銀の活躍が痛快で良かったです。
各キャラの個性が光る素晴らしい作品でした。


581 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/01/09(金) 01:47:08 Drwy5M3E0
こうも素晴らしい作品直後の予約は中々のプレッシャーですが、自分も
岸辺露伴、姫海棠はたて、荒木飛呂彦、太田順也 の4名を予約します。


582 : 名無しさん :2015/01/09(金) 02:40:43 tE4Yhb/A0
岸部露伴は烏が好き


583 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/01/16(金) 01:02:24 ze9u34E20
予約延長します


584 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/01/23(金) 22:51:36 fPvjI9s20
すみません。予約を破棄します。
予約されたい方がいらっしゃれば気にせず予約されてください。
もしいらっしゃらなければ明後日に再予約をさせていただきます。
本当に申し訳ありませんでした。


585 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/01/25(日) 23:34:06 eAzMb31s0
岸辺露伴、姫海棠はたて、荒木飛呂彦、太田順也 の4名を再予約します。


586 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/01(日) 23:46:34 cd2hjuSY0
すみません、予約を延長させていただきます


587 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:31:23 ReCJsiTI0
投下します


588 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:33:03 ReCJsiTI0


吹きすさぶ風を身に受け、漫画家岸辺露伴は歩く。
目指すは猫の隠れ里、そしてそこにいるであろう邪仙、霍青娥。
協力者であった文とジョニィの二人と別れてひた進む。

元々は三人で、さらわれてしまった宇佐見蓮子の救出と、霍青娥という危険人物の排除をするはずだったのだが、
突如現れたチルノという水色の髪の少女から、危険人物に襲われている友人を助けて欲しいと言う要請が舞い込み、
結果的に露伴の進言によって二手に別れて行動することとなった。
露伴にとってはこちらのほうが好都合であり、むしろ舞い込んだトラブルを好機と捉えていた。
それは自身をコケにした邪仙への、単独でのリベンジチャンスであるからだ。
露伴は自分が誰かを小馬鹿にするのは構わないが、逆に馬鹿にされることは絶対に許さない。
ましてそれは自身のミスによって起こってしまったことなのだ。
絶対に自分の力で雪辱を果たさなければならない。
文とジョニィの前では出来る限り冷静を装っていたが、内心には激情が昂ぶり続けている。
それに元より露伴は青娥のように軽薄で気まぐれな輩は大嫌いなのだ。
好奇心にかまけて他人を振り回す様など虫酸が走る。
かくして露伴は、汚されたプライドと溜まった鬱憤を晴らすため、
いかにして邪仙を屈服させるか考えを巡らせて歩き続ける。


589 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:33:57 ReCJsiTI0


しばらく歩いて行くと、風景は見晴らしのいい平原へと変化した。
敵を見つけやすいが、逆に見つけられもしやすい環境。
先手を取られる愚を避けるため、身をかがめ慎重に歩きながら周囲を探索する。

「さて、どこに行ったか……おそらくここではすぐ先程大きな戦いがあったはずだ。
 となれば霍青娥もそこにいた何者かと接触しているはず……
 ム、何だあれは」

露伴が遠方に目を向けると、その先には廃屋のようなものがいくつか建っていた。
しかし一軒だけ何か様子が普通ではない。直ぐ様様子を調べるため、廃屋に近づきつつ適当な距離で止まり、
大きめの石に身を隠して観察を始めた。

(あれは……霧か。何故か一軒の廃屋の周辺だけ霧が立ち込めているぞ……
 おまけにただの霧じゃない。あれは極低温の環境だけで確認される氷霧に近しいものじゃないのか?
 おかしい……この気温で発生するはずがない。それにあの廃屋一軒にだけ発生してる時点で異常だ……)

現在の気温は体感で春先程度。そして湿度も霧が発生する程ではない。
明らかなる不自然だ。そして更に観察を続けると、新たな発見があった。

(ん?霧の流れに指向性があるな……霧の廃屋だけに気を取られていたが、
 確かに発生源が存在する。霧に包まれた廃屋の斜向かいから霧は流れている。
 となると――)

――スタンドか。
超常現象といえば導き出される答えは一つ。勿論風を操る天狗の文のような特殊能力者の例外はあるが、
スタンド被害の経験が多い露伴はスタンドの仕業だと結論づけた。

(能力は、霧を操作する能力か?しかしそうすると、何故決定力のない霧を仕掛けている……?
 持久戦に持ち込んで疲弊させて叩く?いや脱出されれば元も子もない。 
 だとするとまだ何か奥の手があるのかもしれないな……ムッ!)

観察しながらしばらく考察していると、状況に変化があった。男が一人、斜向かいの小屋から慎重に出てきた。
その隣には人型のビジョン。やはりスタンド使い。
おそらく霧のスタンド使いだろう。その男は霧の廃屋に近づき、窓から屋内を確認している。
突然こうして出てきたということは、何かあったのだろう。

そして確認が済んだかと思うと、突如霧がまるで最初から無かったかのようにピタリと止み、
男は乱暴な所作で廃屋へと入っていった。
これで霧のスタンド使いがあの男であることはほぼ確定。
しかし一体何があったのかと露伴がまた観察を続けていると、
少しして男は廃屋から出てきて、ふと何かに気づいたように南の方向へと歩き出していった。


590 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:34:37 ReCJsiTI0


露伴は男が見えなくなったのを確認すると、岩陰から出て、廃屋の集落へと近づいていく。
果たして何があったのかを調べるために。

「……こりゃ酷いな」

廃屋は、温度こそ周囲と大差ない程度まで戻っていたが、
未だ霧の影響として各所が凍っていた。
屋内にもいくつかその痕と思われるものが確認できる。
しかし中はもぬけの殻。誰も居ない。
中に誰かいたのであれば脱出をしたはずだが、露伴が見ていた限り誰も廃屋から出てきてはいない。
床が掘られた痕跡もなし、壁の何処かが壊されている様子もない。
あの霧のスタンド使いは最初から誰も居ない廃屋に向かって一人相撲をしていたのだろうか。

「いや、そうか……中にいたものも『スタンド使い』という可能性があった。
 それならば合点がいく。あの男はまんまと一杯食わされてご立腹ってところだったのかな?」

あの男の動きから見るに、確かに男は中に人間がいることを確信していた。
実際いたのだろう。しかし中にいた者の何らかの能力により男に気づかれること無く脱出をした。
そう考えるのが自然だ。

しかしだとしても、結果的に露伴にとってこの攻防戦は何の意味も持たない。
霍青娥を発見できず、数十分とはいえいたずらに時間を消費してしまった。
急いで廃屋の風景をスケッチにまとめると、男が歩いて行った方向と同じ南に、露伴はまた歩き出した。
理由として、男の足取りは何か確信めいたものがある動きだった。
つまり行く先には何か、もしくは誰かがいるはずと、そう露伴は考えた。
それが霍青娥であることを願いながら、露伴はまた慎重に歩を進めていくのであった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


591 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:35:32 ReCJsiTI0


露伴が丁度廃屋の調査をしていた時、姫海棠はたてはろくでもない目にあっていた。
便利な能力を与えられ、特ダネを手に入れ、歓喜冷めぬまま記事を書き発刊。
そして小休止として一旦栄養補給を済ませ、
更なる特ダネを求めていざ進まんとした時だった。突然の襲撃。
はたてとしては屈辱的なことに、接近されたことに気付くことさえ出来なかった。
襲撃者は前述の、露伴が霧のスタンド使いと仮称していた男――ウェス・ブルーマリン。
銃をつきつけ一方的な主張を繰り広げるその男には、一切の甘えだとか妥協といったものは感じられない。
ただただ深い『憎悪』と『執念』だけを感じる怨霊のような男だった。
肉体より精神に比重を置く妖怪としての本能が、はたてに警鐘を鳴らしていた。
この男は危険だと。
生命の危険を感じたはたては一か八かで逃れるべく逃げの一手を打ったが、無意味だった。
男はスタンド使い。それも生半可な能力ではない。
スコールと突風を操られ、一瞬でまた捕まった。

翼を踏みにじられ、今度こそ一巻の終わりと思ったが、意外なことを男から告げられた。
協力をしろとの『命令』。提案などではない。
男はメールを受信できるツールを持っており、はたての刊行するメールマガジンを知っていた。
故にそこに利用価値を見出したらしい。
協力の内容は、男はネタ作り、つまり事件を提供する。
そしてその代わりはたては参加者の情報を男に提供する、という内容だ。
拒否権がない上、はたて自身有益に思うところがあったので承諾した。
そして承諾するやいなや男はすぐに何処かへと歩き去っていった。

と、そんな内容のろくでもない目。
スクープのことを考えることで自らを奮い立たせ、男への苛立ちを忘れようとしたが、
どうも落ち着けば落ち着いてくるほど苛立ってくる。


592 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:36:46 ReCJsiTI0


「あーもうムカつく〜〜!!人間のくせに何よっ!」

石ころを蹴飛ばす。と同時に風が吹いてきた。

「……って寒っ……そういえばアイツのせいで全身びしょ濡れだったんだ……
 くそ〜絶対事が済んだらぶんのめしてやるんだから!
 でもその前にとりあえず服乾かさなくちゃ……
 こんなくだらないことで体力消耗してる場合じゃないし」

シャツを摘んで浮かす。ぴったり張り付いていて気持ち悪い。
何より春先程度の気候とはいえ、全身が濡れていれば結構寒い。
服を乾かすための火を起こすべく、薪を探す。
ちなみに火により例え煙が発生しても、天狗であるはたてならば風を少し操るだけでどうにでもなる。

とりあえず辺りを見回すが、すぐには見つからない。
しばらくして、ようやく一本目の薪を見つけ、手に取り顔を上げた時であった。
男と、目が合った。
先ほどのウェスではない。ヘアバンドをした若い男。
今度こそ先手を打たれるものかと身構えた時であった。

「ヘブンズ・ドアー!」

「な……えっ」

男は目にも留まらぬ速さで空に線を描き、帽子をかぶったコミック漫画のキャラクターのようなビジョンが浮かび上がる。
それを見た瞬間、はたては一瞬で本へと変化し、何が起きたかも理解できずに崩れ落ちた。


593 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:37:50 ReCJsiTI0


「この命令を書くのも三度目だが、『30分意識を失う』と書き込んだ。
 文の時のこともあるからな。先手必勝といかせてもらったよ。
 ……どれどれ、時間が惜しいし早速読ませて頂こう。果たして『シロ』か『クロ』か」

男――岸辺露伴は、周囲を警戒しながらも嬉々として本となったはたてのページに手をかける。
霧のスタンド使い、ウェスを追い歩いた所、全身ずぶ濡れの少女が突っ立っていたので迷わずスタンド攻撃した。
という所で少々ひとでなしな行為だが、状況が状況だけに仕方ない。
それに、露伴はここに来るまでに荒れ果てた大地と3人の惨たらしい死体を発見した。
死因と推察されるものから考えればこの少女は犯人でないかもしれないが、目撃者や関係者である可能性は十分ある。
霍青娥や先程のスタンド使いの行方も知っているかもしれない。
話すか話さないか不確かな口頭による問答よりも、
他人の体験を自らのリアルに変えるヘブンズ・ドアーの方が確実であった。

だが懸念事項もある。スタンド使用による疲労だ。体力は休憩により多少回復したとはいえ、心もとない。
マジックポーションはあくまで緊急時の最終手段なので、基本的には節約を心がけなければならない。
それ故とりあえず必要最低限の命令だけ書き込み、急ぎはたてを読み始めた。


「えーなになに。名前は『姫海棠はたて』ねぇ……変な名前だ。そして『種族』……やはりコイツも『鴉天狗』か……。
 羽は任意で出し入れ出来るのか今は確認できないが、見た目の感じがなんとなく文と似ていたからな……
 しかも新聞記者であることも同様。そういえば文からの幻想郷住人の情報の中にいたな……
 確か、同族の三流新聞記者とか言ってたかな。
 しかしここまで文と似通ってくるとなーんか嫌な予感がするが、ゲーム開始後のスタンスはどうだ?」

露伴は文の時のことを思い出しながら、はたてのページをなれた手つきで一気に捲る。
少し惜しみながらも何百年分かのページを飛ばすと、目的であるゲーム開始後のページに辿り着いた。
この後にもページがそれなりに残っているので、ゲーム開始後に多くの体験をしているらしい。

『大スクープだ!!!』
『90人によるルール無用の殺し合いなんて願ったり叶ったりの刺激的なネタ!』
『自らの足で現場に赴き、取材する』
『このゲームを徹底的に『取材』する! 』

(…………なんだコイツは……文以上に正気じゃないぞ。初っ端からここまで吹っ切れているとは……
しかし、頭の中身は文より少なそうだ)

露伴の嫌な予感は予想を上回る形で的中した。文以上にプッツンした新聞記者だ。
この時点でこの先に希望的内容が書かれていないことが予期される。


594 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:38:48 ReCJsiTI0

(とにかく続きを読むか……)




『参加者を煽るのもいいかも』
『事件は盛大な方がいいネタになる』




(…………)




『死なないように立ちまわる』
『文々。新聞のスポイラー(対抗新聞)として、出し抜く程の記事を書くッ!』
『でも文には死んでほしくない』
『記事を書かずに、死ねるか!』

(文とはライバル関係のようだな。ライバルってのはいまいちぼくにはよく解らないが、
 良い関係のようだ。コイツ、根は悪くないヤツなのなのかもしれないな……)

ライバルを思うところや、生きがいに燃えるその思考からは、多少の純粋さが垣間見られた。
もっとも純粋だからといって何をしてもいいわけではない。
そして次のページには、大きな変化があった。

『銃声が聞こえてきた』
『念写してみたら写ってる写ってる!』
『二人の男が睨み合って対峙している』
 
ページには鋭い眼光で睨み合う二人の男の写真が載っている。

(念写だと……?ジョセフ・ジョースターのハーミット・パープルのような能力か?)

急ぎ曲げて栞を作っておいたページまで戻り確認すると、記述があった。

『念写をする程度の能力――カメラにキーワードを打ち込むと、それにちなんだ写真が見つかる能力――』

(カメラにキーワードを打ち込むってのはイマイチ理解できないが、
 やはり似たような能力か。便利だが、他人の体験を想像で後追いするだけの下らん能力だな)

そう断定すると、また直近のページまで戻り読むのを再開する。


595 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:39:44 ReCJsiTI0


『現場に急行。おっ!これはこれは……!』
『殺人事件勃発!』
『念写で写しだされた男の一人が射殺死体になっていた』
『こうしちゃいられない、私も取材頑張ろうっと』

(既に、殺人事件を取材していたか……やはり文とは違うな)

次の写真は3発の銃創を受けた男の死体の写真だ。
はたては、殺人事件は記事にしたくないというスタンスの文とは対照的だ。
どんなネタであろうとセンセーショナルでインパクトがあればそれでいいというスタンス。
そのスタンスからはポリシーなど無い浅薄さと未熟さが透けて見えてくる。
机上で考えたような、正しいように見えて実際は単純で青い考え方だ。
文の時に感じた奇妙な親近感とは全く別物の、憤りのようなものを感じながらそれでも読み続ける。

『白黒魔法使いの叫び声が聞こえてきた所、念写したらバッチリ!
 弾幕と入道使いらしき女の放ったパンチのクロス・カウンター!
 ツイてるわ!』
『現場急行!今度は現場の写真!』
『二人とも頭をぶつけて気絶してるだけね』
『殴り合いの理由は……うわぁ……要修正』
『事実は小説よりも奇なり、やっぱり現場って面白い』

今度は女同士の殴り合いの現場。少女の発射する光弾とスタンド使いの女のパンチのクロス・カウンター。
そして現場に駆けつけたはたては二人に対して何をするでもなくひたすら取材を続けている。
一通り撮影を終えれば二人をベッドに寝かせはしたが、それも善意からくる行動ではなく、
早く目覚めさせネタを提供してくれることを期待しての行動だ。
最早わざわざ反応するまでもない自分本位な方針。しかしそこから続く記述には興味を引くものが在った。

(花菓子念報メールマガジン……ねぇ……)

記述に書いてあるのは花菓子念報メールマガジンについてだ。
はたては携帯をいじる際、ちょっとした操作ミスから見知らぬアドレスが複数登録されている事に気づいた。
疑問に思ったが、直ぐ様そのアドレスが他の参加者の支給品ではないかと推察し、
それを利用してメールという形で、新聞を発刊出来るのではないかと考えついたのだ。
どうやらはたての持っている『カメラ』は露伴の知る携帯電話のようで、露伴の知るそれより多機能な代物のらしく、
メールを送れるだけでなく写真も撮ることや念写もでき、更にメールに写真を添付して送ることが出来るらしい。
露伴はこの発想自体は素直に感心した。
そして記事を一気に書き上げ登録されている全てのアドレスに対して送信し、
記念すべき第一号を発刊した。


596 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:40:58 ReCJsiTI0
なるほどねぇ……FAXやコピーの進歩にも驚いたものだったが、こういった技術も存在するのか。
 これは意外と使えるかもしれんな)

露伴は思案しながらページを捲る。
はたては発刊後もなおカメラをいじくり、自身の能力の制限を把握していた。
露伴のヘブンズ・ドアーの制限同様、能力使用に疲労が伴うほか、距離も自身から1エリア分の距離まで。
疲労の大きさは対象との距離に比例するらしい。

そして把握した直後、気絶していたスタンド使いの方の女が目覚める。
はたては直ぐ様インタビューを試みた。
はたてはまず名前を尋ねているが、その名は露伴にとって多少の驚きがあった。

(空条……徐倫か)

露伴の知る、最強のスタンド使い・空条承太郎と同姓。自身の推察では同じジョースター家の一員と仮定していたが、
写真に映るその姿から半ば確信が得られた。所々、承太郎と似ている。
先ほどの話し合いで考えたように、参加者はがそれぞれバラバラの時間軸から集められているならば、
おそらく1999年より未来の、承太郎の娘だろう。

その後徐倫は逆にはたてにいくつもの質問をしてきたようで、はたては

『人が話をしている時は話し終えるまで話しかけちゃいけないって寺子屋で習わなかったのかしら!』
『インタビューするのは私、されるのはあなたなの!』

と少し不機嫌になっている。
だが徐倫がはたての行動の真意を訊いてきたことで一瞬で上機嫌に戻り、
一言『取材よ!』と受け応えている。

まともに考えて、徐倫が東方仗助や空条承太郎と同じタイプの人間であれば、
はたての続いて答えた『ゲームの参加者への突撃インタビュー!』という言葉は悪い冗談としか受け取らないだろうし、
まして殺人事件の記事を『記念すべき第一号』などと言って見せたり、

『やっぱりこーゆう過激な殺人事件は、記事のネタとしても面白そうじゃないかなーって?』

などとのたまえば、
正義の怒りを燃やすに決まっている。
案の定、徐倫はスタンドではたてを攻撃。戦闘が勃発する。
はたての記憶に映るビジョンを見ると承太郎と同じ近距離パワータイプのスタンドのようだ。
しかしはたてはそれを鴉天狗特有のスピードであしらい、
有利になるや尊大な態度に変わって高説を垂れる。
ヘブンズ・ドアーの内容からも、はたてが煽動行為やこの殺し合いの取材に、
一切の躊躇や良心の呵責を感じていないことが読み取れる。
はたては自分自身の行為が悪だと気づいていない。

だが、こうして戦闘中にいい気になっていれば必然足をすくわれる。
先ほどの殺人現場で回収し腰に隠し持っていた拳銃を、
徐倫のスタンド能力(恐らく体を糸のように変化させ、それを自由自在に操れる能力だろう)によって奪われ形勢逆転。
殴り飛ばされる。このまま再起不能かと思われたが、しかしはたてはしたたかだった。
徐倫と少女が気絶している間にくすねていた支給品、

スタンドDISC『ムーディー・ブルース』の能力――過去の出来事をリプレイすることが出来る能力――

を発動し、先ほど殴りかかってきた徐倫の攻撃をリプレイさせることで油断を誘い、鋭い蹴りの一撃をやり返した。
そして直ぐ様退路を確保し、足早に逃げ去る。
文もそうであったが、鴉天狗という種族は高慢で尊大だが、それ相応の実力があり頭も切れる、
非情にめんどくさい種族のようだ。はたても多分にもれず、慢心は多いが機転は利くらしい。
もっとも、相手の性質を見極められずこうして争いの発展してしまっている時点で未熟なのだが。


597 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:42:19 ReCJsiTI0
だがそれでも逃げ延びることは出来た。
そして、ここからの内容が、露伴にとってもっとも衝撃的な内容だった。

『えっ何!?電話!?』
『ど、読者……かな?と、とにかくでなくちゃ』
『この声、荒木ッ!?』

「荒木だとッ!」

思わず、露伴は声に出して叫んでしまった。
しかし例えこれが露伴でなかったとしてもこの反応は当然だろう。

超ビッグネーム。この殺し合いの主催の片割れの名が、突然出てきたのだから。

「これは……姫海棠はたて、コイツ、思った以上に貴重な体験をしているようだな……」

参加者多しといえど、ゲーム開始後に主催と接触した参加者などそうはいないはず。
強力な情報アドバンテージを前に、自然とページを捲る手に力が入る。
露伴は、意を決して内容を精読した。 
会話の内容の事実を要約すると、

・はたての携帯に登録されていたアドレスの中には主催者のアドレスもあり、
 メールマガジンは主催者にも届いていた。

・主催者ははたてのメールマガジンを気に入ったらしく、より書かれることを望んでいる。

・そして援助を申し出てきた。理由は『ただ楽しみたい』。それにははたての記事がベストであるから。

・援助内容は、放送直前になる毎に情報の書かれたリストを送ることと、
 はたての携帯に隠された機能があるという助言だった。

以上の内容だった。

はたては主催者の援助とその内容に懐疑的であったが、
通話直後、恐らく死亡時間、死亡場所、そしてその場にいた者の名前と思われるものが列記されたリストがメールで
送られてきたことで、真意はともかく援助は事実であると認識した。
そして確かに、主催曰くはたての懸念を解消できる代物、
隠された機能――アプリ「アンダー・ワールド」は存在した。
その機能は念写補助。
具体的には過去の現象を念写する機能であり、現在から4時間前までの現象を念写する事ができるらしい。
一応代償として霊力消費量とやらが増加するらしいが、それでも破格の機能、そして優遇だ。
まるで最初からはたてが念写で状況をかき乱すことを想定していたような周到ぶりに、露伴は憤る。


598 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:43:06 ReCJsiTI0


そしてはたては当然、荒木の提案に乗った。
完全なる利害の一致に、断る理由などどこにもないのだろう。
はたてはリストを確認し、その中で知った名である死亡者と殺人者の名を発見すると、
大スクープの匂いを感じ取り、迷うこと無く猫の隠れ里へと前進した。

この時点でようやく露伴が現在いる猫の隠れ里と話がつながった。
既に十数分読み続け、予想以上に長く濃密な体験に露伴は重い疲労を感じるが、
疲労ごときで止まるわけにはいかぬほど重要な体験ばかり故、露伴はマジックポーションの使用も念頭に入れながら、
またページを捲った。 

そしてページを捲るやいなや、真っ先にでかでかと書かれた

『大ッッッッッスクープだわッッ!!!!!!!!』

の文字に露伴は面を喰らう。

どうやら猫の隠れ里の先ほどの殺人現場にて、『アンダー・ワールド』を駆使することによってスクープを得たらしい。
書かれていることによれば、現場には4名参加者がいた。
内3名は死亡し、1名は生存。そしてただ一人生き残ったその参加者は、幻想郷の賢者と呼ばれる八雲紫。
確かにスキャンダラスな状況だ。しかも『アンダー・ワールド』の念写によって、
『魂魄妖夢』と『星熊勇儀』を殺害したのは八雲紫であるという確証も得られた。
はたては余程嬉しかったのか、1ページまるまる興奮と喜びの感情で埋め尽くされていた。
そこまでは、まだよかった。だがそこからは露伴にとって度し難い内容だった。

「姫海棠はたて……タブーを犯したな」

小さく、つぶやく。露伴は元よりはたてにまともな報道は期待していなかったが、一縷の期待も枯れ果てた。
はたては、捏造というタブーを犯した。
過去をリプレイするスタンド『ムーディー・ブルース』の能力を悪用し、
八雲紫が殺していないはずの『ズィー・ズィー』という男の死まで八雲紫に仕業に仕立て上げ報道したのだ。
『八雲紫、隠れ里で皆殺しッ!?』などという低俗な見出しまで付けて。
憶測と推察だけで記事を書くにとどまらず、
過程をすっ飛ばして得られた念写という結果を更に歪曲し、発信した。
露伴は芸術追求の為、時には他人を巻き込むことをもいとわないが、リアリティを汚すことだけは絶対にしない。
漫画と新聞というコンテンツの違いはあれど、何よりもリアリティを重視する露伴にとって、
はたての行為は許せるものではなかった。


599 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:43:52 ReCJsiTI0


はたてはその後、先ほど露伴が遠巻きに観察した霧のスタンド使い
(ウェス・ブルーマリンと名乗ったらしい)
と遭遇し、逃げようとするも強風と豪雨の妨害を受け墜落し踏みつけられ、
殺人によるネタ作りをする代わりに情報の提供をしろ、という一方的な協力関係を結ばされる憂き目にあっていたが、
それでも露伴の溜飲は下がらなかった。

だが苛立ちにかまけて冷静さを欠くほど露伴は短気ではない。
先ほどの男について、見逃すべきでない情報がいくつかある。
まず男のスタンド。これは霧を操る能力以外にも、雨や風も操れるようだ。
霧、風、雨、と来れば、単純に考えて気象を操る能力だろう。
露伴の知るスタンド能力の中でも、群を抜いて優秀な能力だ。
規模や威力も、凍てついた小屋や鴉天狗を飛行不能に追いやる様を見れば十分なものがある。
そしてさらに問題なのは、その強力なスタンド使いが殺し合いに乗ったキレた殺人鬼だということだ。
はたての記憶から読み取っただけでもその異常性が見て取れる。
主催者を相手取る前に、大きな障害になるだろう。

次に男の正体。男は興味深いことをはたてに言いつけている。

『空条徐倫』『エンリコ・プッチ』『フー・ファイターズ』

この3人を見つけたならば手を出さずすぐ連絡をしろと。
コイツらは自身の手で決着をつけると。
つまりこの3人と何かしらの因縁があるということだ。
文とジョニィと話した際、名簿には何らかの縁があるものが、並べて書かれていると推定したが、
名簿のその3人の近い位置に『ウェザー・リポート(ウェス・ブルーマリン)』という名がある所から、この説はほぼ確定する。

そしてこの二つの情報を整理すると、ウェス・ブルーマリンは優勝狙いの無差別殺人鬼であり、
3名の参加者と因縁を持っている、ということだ。
恐ろしい相手だが先んじてその存在や能力を知ることが出来たのは幸運だった。


600 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:44:36 ReCJsiTI0


以上で、露伴ははたてがゲーム開始後からヘブンズ・ドアーによって本にされるまでの記憶を読み終えた。
随分と長かったので、重力が何倍にもなったかのような重い疲労を感じるが、得られた収穫の大きさから比べれば問題ない。
それに露伴は、ここからまた更に疲労を重くする行動を取ろうとしていた。
故に迷うこと無くマジックポーションの入った紙に手をかける。
が、その時。

ピロロロロッ! ピロロロロッ!

「ッッ!?」

突如として鳴り響く電子音。
露伴は驚愕しつつもすぐに臨戦態勢に入り、周囲を警戒した。
よく耳を澄ますと、音の発生源は近い。
そう、姫海棠はたての携帯電話から電子音は鳴っていた。
この状況ではたてに電話をかけてくる者で予想されるのは、
便宜上はたてと協力関係にあるウェス・ブルーマリンか、
援助者である主催者・荒木飛呂彦だ。
どちらが出たとしても対応は不可能に近いので、出るかどうかを露伴は逡巡する。
しかし出ないのも不自然だし、相手がウェスであれば不審に感じて戻ってきてしまうかもしれない。
同時に、はたてに仕掛けた30分意識を失うという命令のタイムリミットも既に残り半分を切っている。
故に、早く決断しなければならない。


601 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:45:24 ReCJsiTI0


露伴は意を決して、電話の応答ボタンをプッシュした。
一旦無言で出方を窺う。

「もしもーし。あれ?ちゃんと出てますよねぇ?露 伴 先 生 ?」

(くっ!この声、荒木飛呂彦ッ!もしや僕の行動は全て筒抜けなのか?)

電話の相手は荒木飛呂彦だった。しかも応答した人間がはたてでなく、露伴であることに気づいている。
盗聴、盗撮、位置測位のいずれか、もしくはその全てがされている可能性がある。
一瞬動揺したが、覚られる訳にはいかない。冷静に、向こうの狙いがなんであるかを見極めなければならない。

「フンッ、何が露伴先生だ馴れ馴れしい。
 ……どうやら全てお見通しってところかい?荒木飛呂彦。
 まさかこんなに早く君と話すことになるとは思わなかったよ」

露伴は本心からそう告げる。

「ふふ、知ってることは知っているだけで、知らないことは知りませんよ。
 ただ、もしかしたら露伴先生が、僕達にとって不都合なことをしてしまうかもと危惧しただけです。
 僕としても、主催者が干渉しすぎるのはあまり面白くないと思っていますしね」

荒木は声色を変えず、淡々と話す。ただ会話の内容から露伴は大体の狙いを察することが出来た。

「不都合なことだって?中々面白いジョークじゃないか。君達にとっては僕の能力そのものが不都合なくせに」

ヘブンズ・ドアー。いくつかの制限が付いているとはいえ、人の行動を意のままに出来るその能力は十分な脅威だ。
元から主催者にはマークされていたのだろう。

「そう、確かにそうなんですがね……時に露伴先生。貴方は今姫海棠はたてと同位置にいますが、
 これから彼女に何をするつもりでしたか?今はそこが問題なのです……。
 返答によっては……」

荒木は少し声を低くして言葉を詰まらせた。どうやら姫海棠はたての扱いが問題らしい。

「返答によっては殺すのか?もしそうだとしたらそいつは随分な話だ」

露伴は言われるより速く最悪の可能性から聞く。


602 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:46:06 ReCJsiTI0


「いやいやいや、まさかそんなつまらないことするわけ無いじゃないですか。
 それに返答に問題がなければなーんにもしませんから。
 で、どうなんです?ちなみに嘘をついちゃいけませんよ。
 嘘は分かっちゃいますから」

冗談とも本気ともつかない語調で荒木は語る。どちらにせよ信用してはならないが、
はたてが目を覚ますタイムリミットが近いのでこれ以上会話を長引かせるわけにもいかない。
露伴は素直に全てを話す。

「読心術でも使えるっていうのかい?……まあ時間も無いし正直に言うさ。
 はっきり言うと、僕はヘブンズ・ドアーではたてを奴隷にして、
 花菓子念報とやらを僕好みのリアリティある読んでもらえる新聞にするつもりだった。
 君達がコイツをやけに優遇してくれるお陰で色々便利だしな。
 これで満足か?満足したなら電話を切らせてもらうぞ」

偽らざる本音だ。念写能力に加えてムーディー・ブルースのスタンドがあれば、
情報戦において圧倒的優位に立つことが出来る。それに露伴がはたてにムカついていたのも大きな理由だ。
そして全てを言い終わると同時に通話終了をほのめかす。
勿論これで終われるとは思っていない。

「そうですか……あっ、ちなみに電話を切らないほうがいいですよ。
 切ったら死にます」

「……やっぱり脅すんじゃないか。まあ大体理由は察せるが一応聞いてやる。
 何が目的だ」

予想通りの反応だった。そしてその理由も当然予想出来る。
そもそもはたての記憶を読んだ際、荒木の意図など既に分かっているのだから。

「目的って言うほどのことじゃないんですがね。僕達とっては今の花菓子念報がいいのです。
 僕達が彼女に期待しているのは正義感あふれる真面目な報道じゃなくて、
 いっそ清々しいほどに下衆で煽情的な、捏造とゴシップの塊のような報道なのです。
 あと、彼女の今の能力を正しいことに利用されたら、真面目な参加者に不公平ですしねぇ」

「どうせそんな理由だろうと思った。ようはコイツの煽動行為で争いが激化することを望んでいるんだろう?
 それと真面目な参加者ってのは『乗った』奴らのことか。まったく公平過ぎて泣けてくるね。
 それで、僕にどうしろと?このまますごすご何もせず回れ右して、
 『生きているからラッキーだ!』とでも言えばいいのか?」

露伴にとってここまでは想定内。ここからが問題だ。
果たして荒木が何を言ってくるか。

「いやーそこなんですがね、姫海棠はたてに命令を書きこむのをやめて欲しいのも確かなんですが、
 さっき行った通り、主催者が参加者間のやりとりに干渉しすぎるのは良くないとも思っています。
 それに一人の参加者に肩入れしすぎるのはフェアじゃないし、ゲームの公平性を疑われることですからね。
 そこで、不公平にならないよう露伴先生に提案します。
 願いを一つ、叶えてあげますので、姫海棠はたてに何もしないことを『納得』して頂けませんか?
 詭弁だとは思いますが、露伴先生自身がその条件を飲めば、
 『強制』ではなく『同意』による平和的解決ということに出来るので。
 あ、勿論叶えられる範囲内で、ですよ」


603 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:47:00 ReCJsiTI0


荒木が提案してきたことは、露伴の想像よりずっと平和的なものだった。
はたてに関する記憶を抹消して放逐するとか、ヘブンズ・ドアーに新たな制限を課されるとか、
そんなことを想像していただけに、若干の拍子抜けを感じる。
むしろ逆に、願いを叶えるという実益あるおまけまでついているので、メリットのほうが大きい。
だが。

「ふーん……じゃあ叶えられる願いの回数を増やせとか、今すぐゲームを中止して元の場所へ帰せとか、
 そういうのはだめだってことか。それで、その条件を飲めば僕の命を助けてくれる、と」

露伴は、誰も居ない虚空を睨みつけ、静かに言う。

「ええそうです。約束を違えたりはしないので安心してください。ギブアンドテイクです。
 さあ、願いを……まあ……

そして。


だが断る、と貴方は言うでしょうねぇ……」
「だが断る……ハッ!?」

露伴は自身の好きな事である『自分で強いと思っているやつに「NO」と断る』通りに要求を拒否しようとした。
それは露伴自身のポリシーのようなものでもあったし、大上段からにやけ声の一方的な話に鬱憤が溜まっていたし、
なにより乗ったかのように見せかけて断った時、どのような反応をするか期待していたからだ。
しかし、見抜かれていた。まるで最初からそうだと分かっていたように。

「やっぱり。驚かなくてもいいですよ。
 先生は僕のことを知らないでしょうが、僕は先生のことをよーーく知っているので。
 こんな上からの一方的な交渉じゃあ先生はうんと言わないでしょう」

(コイツ……まさか僕のヘブンズ・ドアーと同じような能力でも持っているのか……?
 それとも本当に読心能力でもあるのかもしれない……クソッどうする……
 屈辱だが、条件を飲むしかないのか……!?)

ゲーム開始前の説明の時からそうであったが、この荒木飛呂彦という男は得体が知れない。
横にいた大田もそういった意味では同じなのだが、特に荒木には形容しがたい奇妙な雰囲気を感じる。
まるで全てを知っているかのような余裕のある態度が、その奇妙さを助長し不気味ですらある。
露伴が生きてきた20年の中で、このようなタイプの人間はまるで見たことがない。
絶望するにはまだ早いが、対処の活路は見えない。
だがしかし、今はとにかく自分の処遇がどう転ぶかが肝要だ。
露伴は余計な怯懦を振り払い、率直に自身の処遇を訊いた。


604 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:47:31 ReCJsiTI0


「当然だろう。で、条件を飲まなければどうする気だ?」

「露伴先生には『消えて』いただきます……と言いたいところですが、僕達としてはそれじゃつまらない。
 先生にはもっと活躍して欲しいのです。
 ですので言い方を変えます。これは交渉ではなく僕達からのお願いです。
 願い1つを対価に、今はまだ姫海棠はたてに手を出さないでください。お願いします」

答えは意外、先ほどと変わらぬ平和的内容。そしてお願いという言い回しまでしてきた。
開幕早々逆らう少女を爆殺するという所業を見せつけてきた人間と同一人物とは思えぬほど甘い。
つい今しがた言っていた、干渉し過ぎたくないとかフェアがどうとかいう話は本心らしい。
ようはゲームの進行自体はまっとうまともに進んでいって欲しいのだろう。
ただ『面白くなりそうなこと』の方が優先順位がずっと高いようだが。

(ここで断れば本当に命は無いだろうな……だが、安易にコイツの言う通りになっていいのか?岸辺露伴。
 結局それじゃあ命惜しさに主催者に屈したってことじゃないか……
 屈さずこの場を切り抜けなければ青娥の時の屈辱の二の舞いだ。
 考えろ……僕自身が納得してこの場を切り抜ける方法を……)

露伴は思考する。ここで安易な願いを言って事なきを得た所で、主催者には永遠に勝てないだろうし、
なにより露伴のプライドがそれを許さない。妥協は敗北主義の考えだ。故に最適解を見つけ出さなければならない。
最適解には必須条件が二つある。
まず一つ目、それははたてを上回る力を得ることだ。
当初考えていたのははたてを従属させることだが、これは最早直接的には不可能だ。
荒木はその点において一切妥協する姿勢を見せない。
露伴は自分の溜飲を下げるためと、その利便性の高さ故はたてを従属させようとした。
なのでその代替、もしくは上位互換となるような力を得ること、それが必須だ。
だがそれの枷となるのは、荒木がそんな願いを認めるか、だ。
はたてに一方的な援助をしていて公平性を語る二枚舌だが、
その基準の根底は面白いかどうかという単純なものだ。
だから結果的に面白みが薄れてしまうと判断されれば、その願いは却下されてしまうだろう。
つまり二つ目の必須条件として、荒木が面白いと思うものでなければならない。
以上二つが条件だ。その条件を満たす願いが浮かばなければ露伴は精神的に敗北し、
そしてその敗北は弱さに繋がり、やがて荒木や青娥を倒す以前に破滅を迎えるだろう。
そうならない為にも、露伴は最適解を模索する。

(『はたて』、『花菓子念報』、『願い』、『荒木』、『面白さ』か……
 ようは情報通信や情報伝達が出来て、はたての俗悪コンテンツを上回る面白みがあるものだ……
 面白み……そうか!最も僕好みで納得出来る手段があるじゃないか!)

露伴はこの短い時間でなんとか答えに辿り着いた。荒木が乗るかどうかという懸念は消しきれないが、
露伴にとっては考える限りもっとも素晴らしい答えだ。
後はなんとか荒木をその気にさせるのみ。


605 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:48:01 ReCJsiTI0


「そうまでして姫海棠はたてに拘るのか理解できないが、分かった、願いを聞いてやるよ。
 僕としては命を賭けてまではたてに拘る気はサラサラないしね」

「よかった、それじゃ早速願いを……」

「ただし条件がある。僕が君に願いを叶えてもらったとして、後からその願いにケチをつけないこと、だ。
 それを認めてくれるならば僕は納得する。勿論安っぽい口約束じゃないぞ。キチンと誓ってもらう」

例えこの場で願いが叶えど、今回の介入のようなことが起これば無意味だ。
なので露伴は念を入れて条件を提示した。荒木の公平性へのこだわりも鑑み、誓いという言葉も入れて。

「そうですか……まあ願いの内容を聞いてみないことには明言出来ませんが、問題なければその条件を飲みましょう。
 それで、どんな願いでしょうか」

帰ってきた荒木の返答は当り障りのないものだったが、とにかく願いを言うしかない。
露伴は満を持して、堂々と願いを言う。

「そうか、その言葉決して忘れるなよ。じゃあ言うぞ……僕の願いは――
 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


606 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:48:32 ReCJsiTI0


所変わって、アルコールとお香のような香りが漂う、仄暗い部屋に男が二人。
露伴の願いを叶えた荒木は電話を切り、自分の相方である大田と会話をしていた。

「ンフフ、まあ面白いとは思いますが、本当にあの願いを叶えちゃって良かったんですか?荒木先生?」

大田はグラスに入った酒を手で弄びながら、痩せた顔に笑顔を浮かべて訊く。
その声色、態度からは本気で心配しているような素振りは見えない。

「流石に、ちょっと緩すぎたかもしれないね。あの岸辺露伴が僕の言葉に折れたんだから、絶対なにかする気だろうし。
 でも何より彼の願いを聞いたその時、面白い!って思ってしまったんだ。それに僕もマンガ家だしねぇ……。
 ま、面倒を防ぐためにこっちからもいくつか条件を付けさせてもらったし、多分大丈夫だよ」

荒木はモニターを見つめながら淡々と言う。

「僕としても、僕のところのはたてと荒木先生のところの露伴先生が対抗するのは、実に混沌としていて、
 この世界らしくて、お酒が美味しくなりそうなので楽しみなんですがね。
 まあ楽しくなるだけなって足元を救われないよう、気をつけませんと」

そう言うと、大田は手に持ったグラスを一気に傾けて、中身のビールをうまそうに飲み干した。

「そうだね……まあ今はともかく楽しくなることを期待して眺めようじゃないか。
 しかし、君にとってお酒が美味しいのはいつものことだろう?」

「ンフフ、確かにそうなんですが、『朝酒は後を引く』という言葉がある通り、
 時、場所、状況でお酒の味は変わるものなんですよ。結局いつ呑んでも美味しいんですけどね。
 さて、じゃあ荒木先生の言う通り、会場に思いを馳せて幻視でもしましょうか。
 でもその前に新しいお酒を」

大田はそう言い、新しい酒を探しに置き場所に向かった。
ゲーム開始時から呑み通しだが、その足取りは確かだ。
荒木はそんな大田を苦笑しながら見ていたが、すぐにモニターに向き直り、
凄みのある不敵な笑みを浮かべた。

「さてと、これでもっと楽しくなりそうだな。頑張ってくれよ、姫海棠はたて、岸辺露伴」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


607 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:49:20 ReCJsiTI0


「ふう〜〜〜……」

電話が終わった露伴は、ゆっくりと深呼吸をしながら携帯を元あった場所に置き直す。
そしてストレッチをしつつ、これからのことを考え始めた。

そう、露伴は願いを認められた。

『僕の願いは、この岸辺露伴に漫画を描かせろ、だ』

という願いを。それだけ聞けばどうということはないマンガ家らしい願いだが、
その願いには、勿論意図があった。
まず願いの内容を仔細に言えば、『はたてのメールマガジンのように、漫画をメールで配信出来るようにしろ』
というものだ。
画像を添付してメールを送る技術があるならば、それは新聞形式以外にも、
つまり漫画の配信にも使えるのではないかと露伴は気づいた。
そして全ての支給品の出元である主催者なら、その手段を与えることも可能であろうと睨んだ。
情報を発信する者を従えるのではなく、自分自身が情報を発信する側になればいいと露伴は考えたのだ。
それにそうすれば、自分の漫画の力で真っ向からはたての新聞モドキを叩き潰すことも出来るとも。
マンガと新聞とではそのコンテンツの持つ力、意味は異なるが、読んでもらうという一点においては同様だ。
より読ませる力があるものがこの場では強い影響力を持つ。
結果的にその願いは『通信機器』、『マンガ道具一式』を同時に望むという大きな願いであったが、
荒木はその願いを面白がり、前記二つの道具だけでなく『モバイルスキャナー』という、
紙媒体のマンガを取り込むことでメールで送信可能な形式に変化させられる道具まで与えてきた。
曰く写真ではマンガの魅力を十分に映し出すことは難しいと思ったから、だそうだ。
まさに至れり尽くせりだが、何もなしに済むほど甘くはなく、当然条件付きだ。
その条件は、今あったことやはたてが煽動行為や捏造報道を行っているという事実を発信してはならない。
マンガ以外の紙や文章を発信することもNG。ゲームの進行を著しく妨げる行為も駄目。
という三つの条件だ。露伴は三点目の条件だけ曖昧だったので文句を言ったが、
余程悪質な行為でなければ許容範囲なのでそれで納得して欲しいと言われ、仕方なく折れた。

以上が、岸辺露伴の願いの結果とその全容だ。露伴は望む願いを叶えおおせたが、
この願いを活かすことが出来なければ勝利ではない。
故に、これからどうするかが肝心だ。
しかし今露伴が考えていたのは、願いをどう活用するかのことではない。
それ以前に直近の別問題があった。

後数分もせず目を覚ます、姫海棠はたてをどうするかだ。


608 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:50:19 ReCJsiTI0


出会って早々ヘブンズ・ドアーで失神させてしまった以上、
何も知らない初対面な風を装っても無駄だろう。
かと言って考えなしにそのまま話そうとしても、敵とみなして襲いかかってくるかもしれない。
逃げるのも、既に文の存在により鴉天狗の敏捷を知っている露伴からすれば論外だ。
なので、いかにしてはたてを面倒を起こさず対処するか、それが露伴の目下の悩みだ。
先ほどから考え通しで、スタンド使用の疲労も合いまりいよいよ体が休憩を欲しているが、
ここが正念場。出来る限りマジックポーションを節約するためにも、自然回復で凌ぎたい。

「ふーむどうするかな……荒木との駆け引きに構いっきりでそこの所をすっかり失念していた。
 大体コイツのリアクションとその対処は想像がつくがね」

ヘブンズ・ドアーでその体験を読んだので、露伴ははたての性格を粗方理解している。
問題はどう切り込んでいくだが、その突破口もある程度見当がついていた。
あとはうまくはたてを考えている通りに誘導できるかだ。
加減を間違えれば即、面倒なことになるが、他の方法を考えている時間もない。

「う……うーん……あ、あれ?私……何でこんな所で……?」

そうこうしているうちに、はたてが目を覚ました。

「えーっと……あー!そうだ!変な男にいきなり襲われて、体が本みたいになって、それで……
 ハッ!あの男は……って後ろにいるぅ!?」

はたては見事なまでに動転していた。さしもの優秀な鴉天狗の頭脳も、
理解不能の体験に巻き込まれれば陰るものらしい。

「やあ」

「やあじゃないわよっ!あんた一体何者!?私に何をしたの!?事と次第によっては酷いわよ!」

はたては熱り立ち次々と怒鳴り立て臨戦態勢だ。対する露伴は猛牛を相手取る闘牛士のように、
飄々と応対する。

「まあまあ、落ち着けよ。質問の答えはひとつずつだ。まず僕の名前は岸辺露伴。マンガ家だ。
 そして君に何をしたかというと……まあそれはどうでもいい。重要な事じゃない」

「重要に決まってるでしょうが!あんたフザケてるの?人をおちょくってるんだったらぶっ飛ばすわよ!」

露伴の不誠実な回答にはたては怒りを更に煽られ、拳を突きつけて威嚇する。
今にも殴りかかりそうな勢いだ。


609 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:51:20 ReCJsiTI0


「まあ待てよ。僕は君と闘うつもりはない。うーん、僕が君にしたことか……
 ま、簡単にいえば僕の能力なんだが、どんな能力かは教えられない。
 君だってこんな状況で他人に安々と自分の能力を教えないだろう?
 ただ何もしていないことだけは保証するよ。そんなことよりも、
 僕はある手段によって君の花菓子念報とやらの存在を知ってね……」

「おっ!何をしたのか曖昧にされたままなのはアレだけど、読者ね!
 それでそれで?どうだった私の記事?」

話題に自分の新聞が出た途端、はたては急に怒りを好奇心に変えた。
余程承認欲求が強いらしい。
露伴もそんなはたての気質を考えた上での話題のすり替えだ。

「感想かい?一言で言うなら『最低』ってところかな」

そして、酷評。
折角話題をすり替えて怒りを逸らしたのに、露伴は褒めるだとか嘘の感想をいうだとか穏便な事は一切せず、
ただ思ったままはたてに酷評を告げた。

「なっ……そう……あんたもそーいうくだらない正義感とか安っぽい感情で物事を考えるタイプなのね」

はたては興奮から一転、今度は一気に冷め、露伴を睨みつける。
空条徐倫が花菓子念報を読み、怒りの炎を燃やして殴りかかってきたように、
目の前の男は自分と波長の一切合わないタイプだと気付き、
乱れた感情が急速に冷えきっていく。

「いやそうじゃない。単純に僕は読み物として、コンテンツとして、
 つまらない低劣なものだと思っているのさ。そこに正義感という補正は無い。
 君の新聞は全く読んでもらえるものになっていない」

だが更に露伴は追い打ちをかける。
ともすれば自殺行為でしか無い煽りだ。

「あんたいったい何が言いたいわけ!?闘うつもりはないとか言ってるけど手の込んだ自殺志願者か何か?
 人様の新聞をボロクソに言って……!
 そんなに死にたいならすぐに楽にしてあげるわよ……!」

はたては最早いつ攻撃してもおかしくないほどの殺意を露伴に向ける。
意図の見えない言動に苛立ちは臨界間際だ。
能力の未知さが懸念事項だが、はたては自分の速さなら勝てると踏んでいる。
しかし、いざ攻撃せんとはたてが構えたその時、露伴は静かにつぶやいた。

「僕のマンガと君の新聞で勝負しないか?」と。


610 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:52:28 ReCJsiTI0


露伴が唐突に投げかけてきた言葉は、はたてにとってまたも理解不能で判断に困る、
意図不明のものだった。いきなりこの男は何を言い出すのかと、
頭のなかでクエスチョンマークが乱舞している。

「あ、あんたいきなり何を言っているの……?もしかして気でも触れてるの?
 勝負?」

「いいや、正気さ。大真面目。まあ何が言いたいかというと」

露伴ははたてに真っ直ぐ向き直り告げる。

「僕は君の新聞を認めない。僕がマンガ家としてなにより大事にするのは、
 作者自身のリアリティだ。
 どんな奇妙なことも、現実味を帯びた正確な描写で描かれることで、
 いっそ生理的な嫌悪を覚えるほどに感情を動かされる。
 リアリティこそが作品に命を吹き込むエネルギーであり、リアリティこそがエンターテイメントなのさ。
 マンガだろうが新聞だろうがリアリティがなければ僕は真に人に読んでもらえないと思っている。
 しかし、君の新聞からは一切リアリティを感じない。
 いかにも人が興味を引くようなセンセーショナルなネタばかりだが、
 人が読むのはそのネタ、浅瀬の部分だけさ。決して君の書いた新聞だから読むわけじゃない。
 想像や捏造によって手の加えられた紛い物に、人はゴシップ以上の価値を見出さない。
 倫理も信念も魂もない、上っ面だけの三流新聞以下のものだね。
 だが、君はそれを認めはしないだろう。今書いているその花菓子念報こそが、今の君にとっての最高なのだから」

「それで、何が言いたいのよ……!」

露伴は持論と、正直な感想を粛々と言い続ける。
次々と露伴に否定され、はたては悔しさから目を伏せ拳を強く握りしめるが、威勢は失わなず、
強く真意を問う。

「僕が君のスポイラー(対抗コンテンツ)になって勝負してやるって言うのさ」

「はあっ!?」

スポイラー、それこそが露伴の真意だ。直接的に花菓子念報を潰すわけでもなく、
はたてに命令を書き込むわけでもなく、真っ向から勝負する。
それが露伴の考えたはたてへの対処であり、自身が花菓子念報とはたてに感じた憤りを公正に晴らす手段だ。
露伴がはたての性格を鑑みて導き出した答えは、その高い好奇心と対抗心を刺激するというやり方だった。

「僕はさっき行った通りマンガ家だ。
 それに運良く支給品によって、描いたマンガを君のメールマガジンのように、
 発信することが出来る。つまり僕はマンガで、君は新聞で、競うわけさ。
 勝敗を明確に判断する材料は無いが、作品の反応で大方分かるだろう。
 君も自分の作品に自信があるだろう?まさか得体も知れないこの僕に負ける気はしないよなぁ……?
 さてどうする。この勝負、受けて立つかい?」

露伴はニヤニヤと笑いながら間延びした声ではたてを煽る。
誰がどう聞いても挑発しているようにしか聞こえないし、実際挑発だ。
ヘブンズ・ドアーで攻撃したことを忘れさせ、ついでにはたてを勝負の土俵に引きずり込む。


611 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:53:01 ReCJsiTI0



「受けて……受けてやるわよ!人の新聞をボロクソにけなしたこと絶対後悔させてやるわ!
 今まで以上に最強になった私の花菓子念報にびびって後悔しても遅いんだからね!」

そしてはたては乗った。見え透いた挑発であることも、話題そらしだとも気づいていたが、
それ以上に露伴の物言いに我慢ならなかった。
はたてはもとより負けず嫌いの気質と上昇志向の気質を併せ持っており、
勝負と聞けば受けて立たずに入られない。
それに、作品に受けたそしりは暴力でなく作品で見返さなければならないとも思っている。
露伴の見立て通りだった。

「そうかそうか。分かった勝負成立だな。僕もこれから頑張るとしよう。
 君の新聞も……まあ少しは楽しみにしているよ……お互い頑張ろうじゃないか、フフ……」

「私もあんたのリアリティがどうだとかいうのは作品を読んで判断してやるわよ!
 口だけじゃないってことちゃんと証明して見せてよね!
 天狗はマンガにも詳しいんだから!」

互いに言葉を掛け合い、これで戦いの火蓋は切って落とされた。
あとは言葉でなく互いの作品によって語られるだろう。

「じゃあ僕はこれで失礼する。ネタ探しもしなくちゃならないし、行く場所があるんでね。
 君も勝負の前にくだらないことで命を落とさないように。それじゃ」

そう言い露伴ははたてに背を向けた。

「あんたも精々気をつけることね。もし何も出来ずに死んだら大笑いしてあげるわ!」

はたても露伴の背に言葉を投げかける。
露伴は手だけをヒラヒラと振って返事をし、そのまま歩いて行った。


612 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:53:35 ReCJsiTI0


「ハァ〜……行っちゃった。結局一体何だったのよアイツ。
 人間のくせして全然物怖じしないし生意気だし得体も知れないし。
 おまけに口車に乗せられて変なことになっちゃった……
 結局何されたのかも分からずじまいだし……」

はたては座り込み、肩をがっくり落として嘆く。
終始露伴のペースに乗せられて、情報も引き出せなかった。
ウェスといい露伴と言いこの会場にはろくな人間がいないのかもしれない。

「でも!勝負となったら負けないよ!
 絶対に私の花菓子念報の素晴らしさを分からせてやるんだから!
 今に見てなさい!気合入れていくわよー!」

はたては顔を上げて拳を前に突き出して気合を入れる。
くよくよしていても仕方ない。今はただとにかく取材あるのみだ。
アプリもリストもスタンドも協力者も依然変わらずあり、はたてに吹く神風は未だ止んでいない。

(ウェスも、露伴とか言う奴も、私が必ず打ち倒してやるんだから……
 私はこれで間違っていない、間違っていないはずなのよ……
 スポンサー(主催者)だってそれを望んでるんだから……)

しかし実ははたては露伴の言うことに少しだけ気づいていた。
文のスポイラーになり、彼女の取材スタイルに学んだはずなのに、
今現場にいるとはいえ、自分がやっていることは結局後追いではないのかと。
文に宣言したような『人間が記事まで読むような新聞』を書けていないのではないのかと。
それでもはたては止まらない、いや止まれない。
最早この取材スタイルから後戻りはできないのだ。
決意を新たにし、はたては立ち上がった。

「って寒っ……」

そして自分の服が未だ濡れていたことを思い出し、またのそのそと薪を集め始めるのだった。
今の花菓子念報を文が読んだらどう思うのかな、などと考えながら。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


613 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:54:26 ReCJsiTI0



一方露伴はゆっくりと、考え事をしながら歩いていた。
はたての問題がうまく終わったので、いよいよ何を描くかを思案する。
ちなみに当座目指しているのは、猫の隠れ里の見晴らしのいい場所だ。
霍青娥が発見できなかった以上、むやみに歩きまわるより一度ジョニィと文と合流した方がいいと露伴は判断した。
待つ間に同時に休憩とネタを考えられるので丁度いい。

(しかし……短い時間の間に随分色々なことがあったな……
 康一くんに出会ってスタンドのことを知った時ような衝撃の連続だ。
 だがそれがいい。創作意欲がふつふつと湧いてくる。
 なによりマンガが描けるようになったってのは大きな収穫だ。
 この体験をマンガに活かせないのは惜しい話だからな。
 荒木もはたても青娥も関係ない、僕は僕自身の体験による読んでもらえるマンガを描くだけさ……
 ま、そのついでに全員必ず叩き潰してやるよ。
 さて、まずどんなネタで描くか……フフ……)

露伴は抑えきれない笑みを手で覆いながら歩いて行く。
読んでもらうためだけにマンガを描く露伴だ、こうしてマンガを描けるようになったことの喜びはなにより大きい。
常軌を逸したこの世界でもやることは変わらない。
岸辺露伴は自身のマンガを読んでもらうため、動く。


614 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:55:41 ReCJsiTI0

【D-2 猫の隠れ里前/朝】

【岸部露伴@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(小)、背中に唾液での溶解痕あり
[装備]:マジックポーション×2、高性能タブレットPC、マンガ道具一式、モバイルスキャナー
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:情報を集めての主催者の打倒
1:ジョニィと文を待ちながらマンガのネタを考える。
2:はたてのスポイラー(対抗コンテンツ)として勝負してやる。
3:主催者(特に荒木)に警戒。
4:霍青娥を探しだして、倒し蓮子を救出する
5:射命丸に奇妙な共感
6:ウェス・ブルーマリンを警戒
[備考]
※参戦時期は吉良吉影を一度取り逃がした後です。
※ヘブンズ・ドアーは相手を本にしている時の持続力が低下し、命令の書き込みにより多くのスタンドパワーを使用するようになっています。
※文、ジョニィから呼び出された場所と時代、および参加者の情報を得ています。
※支給品(現実)の有無は後にお任せします。
※射命丸文の洗脳が解けている事にはまだ気付いていません。しかしいつ違和感を覚えてもおかしくない状況ではあります。
※参加者は幻想郷の者とジョースター家に縁のある者で構成されていると考えています。
※ヘブンズ・ドアーでゲーム開始後のはたての記憶を読みました。
※主催者によってマンガをメールで発信出来る支給品を与えられました。
 操作は簡単に聞いています。


615 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:56:06 ReCJsiTI0

【D-2 猫の隠れ里 広場/朝】

【姫海棠はたて@東方 その他(ダブルスポイラー)】
[状態]:体力消耗(小)、霊力消費(中)、腹部打撲(中)、全身ずぶ濡れ
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャーの予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:記事のネタを掴むべく奔走する。
2:とりあえず服を乾かす。
3:掴んだネタはメールマガジンとして『姫海棠はたてのカメラ』に登録されたアドレスに無差別に配信する。
4:岸辺露伴のスポイラー(対抗コンテンツ)として勝負し、目にもの見せてやる。
5:ウェスを利用し、事件をどんどん取材する。
6:使えそうな参加者は扇動。それで争いが起これば美味しいネタになる。
7:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※制限により、念写の射程は1エリア分(はたての現在位置から1km前後)となっています。
 念写を行うことで霊力を消費し、被写体との距離が遠ければ遠い程消費量が大きくなります。
 また、自身の念写に課せられた制限に気付きました。
※ムーディー・ブルースの制限は今のところ不明です。
※リストには第一次放送までの死亡者、近くにいた参加者、場所と時間が一通り書かれています。
 次回のリスト受信は第二次放送直前です。
※花果子念報マガジン第3誌『隠れ里の事件』を発刊しました。
※はたてが今後どこへ向かうかは、次の書き手さんにお任せします。


616 : ダブルスポイラー〜ジョジョ×東方ロワイヤル ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/08(日) 23:56:54 ReCJsiTI0


○支給品説明

『高性能タブレットPC』
主催者が岸辺露伴の『マンガを発信させろ』という願いのため用意した道具その一。
その性能は東方紅魔郷から東方輝針城まで遊ぶことが可能な程高性能。
色々なアプリを実行することが可能だが、どの程度か不明な範囲で制限がかけられている。
もちろんメール機能は使用可能。電話機能も付いており、主催者が直接コールすることも可能。
この会場に存在する全てのメール受信可能な機器のアドレスも入っている。
おまけで大容量モバイルバッテリー付き。

『漫画道具一式』
主催者が岸辺露伴の『マンガを発信させろ』という願いのため用意した道具その二。
露伴が望むマンガ道具全てが揃っている。

『モバイルスキャナー』
主催者が岸辺露伴の『マンガを発信させろ』という願いのため用意した道具その三。
絵や文章の書かれた紙を取り込むことでそれをデータ化することが出来る。
持ち運び可能で、対応した機器に繋げればそのデータを送ることが可能、同時に充電もされる。
性能も高く、短時間で取り込めて画質も十分。ただし画像を綺麗に取り込むのに少しコツがいる。
説明書付き。


617 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/02/09(月) 00:00:17 lXQFGkVY0

以上で投下を終了します。
感想・ご指摘などありましたら是非。
そして長期間のキャラ拘束、本当に申し訳ありませんでした。
今後は二度とこのようなことがないように努めます。


618 : 名無しさん :2015/02/09(月) 01:51:39 oN7LHPlo0
投下乙です。
荒木先生との交渉で岸辺露伴先生の不定期連載が配信決定だ、やったぜ。
リアリティを何よりも重視する漫画家・岸辺露伴とインパクトの為に捏造も行う新聞記者・姫海棠はたて
対照的なダブルスポイラーの間で勃発したまさかのジョジョVS東方の結末やいかに


619 : 名無しさん :2015/02/09(月) 12:20:59 sbH4Hw8E0
投下乙!
ゲームとはまた違う所で勃発した創作者同士のプライドと意地を賭けた戦い
面白くなってきましたね。この戦いを通じてはたてに何らかの成長の意志が芽生えれば良いところ
露伴が何処に行っても露伴なので(?)見ていて楽しいです
この2人の対決がどこに着地して何を生むのか、先が楽しみになってきました


620 : 名無しさん :2015/02/09(月) 13:28:40 GQ3ylEdE0
投下乙です
新聞記者と漫画家、話題性のみを求めるかリアリティを追及するか、
はたてと露伴、それぞれの属性を巧みに生かした話でした
一方で、荒木と太田の会話も気になりますね。
彼らの目的の一端も匂わせて、ますます楽しみです


621 : 名無しさん :2015/02/09(月) 18:03:42 plGk2ATg0
投下乙。

リアリティを重視する漫画家と、
捏造も厭わない新聞記者。
中々面白い対比の関係が生まれそうです。


622 : 名無しさん :2015/02/09(月) 20:54:01 nFnH05zU0
感想!書かずにはいられないッ!

キャラクターの間口の広げ方が光る良いお話でした

露伴は同行者が死亡に離反、怨敵の娘々は既にもぬけの殻と
フラグがボドボドだったので退場もやむなしと思っていたのですが、
はたてと主催が絡むことで、異種格闘ならぬ異種メディアのダブルスポイラーとなるとは予想外!
それを手にする閃きが露伴らしいのもまたニクい!
ジョ東代表のダブルスポイラーがどう活躍するのかしないのか大変興味深いところ
まあ、殺人ゴシップまき散らすだけじゃ、はたてに勝ち目はなさそうですけど、どうなることやら


623 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/01(日) 22:12:09 X4S9ldSY0
藍とリンノスケで予約します


624 : 名無しさん :2015/03/01(日) 22:19:06 sHDwUiNg0
藍と霖之助……

あっ(察し


625 : 名無しさん :2015/03/01(日) 22:36:29 hSy5eeEY0
落ちたな…(確認不要)


626 : 名無しさん :2015/03/01(日) 23:47:41 hWMlgd.M0
やめんか
香霖を信じるんじゃ


627 : 名無しさん :2015/03/02(月) 00:43:52 mUYXvJLk0
霖ちゃん頑張って(半笑い)


628 : 名無しさん :2015/03/02(月) 03:08:14 nk7u83Nw0
霖之助さんならきっと逞しくらんしゃまを説得してくれる


629 : 名無しさん :2015/03/02(月) 06:53:03 /hp5nx9U0
察し良すぎィ


630 : 名無しさん :2015/03/03(火) 21:41:54 1CCPHjKo0
あかん、これじゃサバイバーのDISCが藍の手に落ちるぅ


631 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/07(土) 23:58:38 bE4Cj9w.0
予約延長します


632 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/15(日) 22:40:16 oxS0tXhk0
投下します


633 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/15(日) 22:44:06 oxS0tXhk0
実にかぐわしい朝餉だ!
目を向けてみると、食卓には色とりどりの食事が並べられていた。


銀色のツヤを持ったご飯は、優しい光を目に照り返し、
大根と油揚げの味噌汁からは、湯気に乗った味噌の香りが心地よく鼻を刺激する。
これだけでも、ご飯を口に放っていくことは出来るけれど、やっぱりおかずは欲しいところだ。


その点においては、この食事を用意してくれた八雲藍は抜かりないと言える。
ご飯の味噌汁の間には、程よく焼けた鮭の切れ身が、静かにかしこまっていた。
魚といえば、焼いたとしても、随分と匂いが際立つが、この部屋にはそんな嫌な煙はない。
僕の家に換気を働かせる機能は生憎と置いていないことからして、八雲藍が何かしらの工夫を凝らしてくれたのだろう。
そういった気遣いが、嫌味なく焼き魚を食卓に飾らせている。


一汁一菜。満足といって差し支えないが、、ここまで揃っているとなると、
もう二品欲しくなってくるのは、僕の我儘だろうか。
しかし八雲藍のことからして、案の定というべきか、目を焼き魚から上に移してみると、
そこにはキュウリの浅漬けとサツマイモの甘露煮が小鉢に入って置いてあった。


そのキュウリのツヤと言ったら、どうだろう!
光沢も良く、色合いも濁ったものではない、はっきりとした緑だ。
見た目だけでシャキッとした食感をイメージさせてくれる。
サツモイモだって、食欲を湧きたてるような鮮やかな黄色だ。
サツモイモが持つ甘味が、見ているだけで舌の上を踊る。


ああ、僕はそれをもう一度、一から順繰りに眺めて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
色々あったせいで、ろくに物を口に入れていないし、僕に支給された食べ物は味気ない乾パンだ。
これらのご馳走を見れば、喉を鳴らしてしまうのは致し方ない。
とはいえ、このまま箸を持ってしまうのも、どうにも躊躇してしまうことだ。


「……毒が入っているとでも思うか? その必要がないことは、店主、お前が良く分かっているだろう?」


僕の逡巡が容易に見て取れたのだろうか、目の前で割烹着を着た八雲藍が微笑を携えて、そんなことを言ってきた。
彼女の言うとおり、かの八雲藍が僕を殺すのに、わざわざ毒殺などという面倒な手段を取る必要性はないだろう。
僕と彼女の力の差は歴然。彼女が軽く僕の頭を撫でるだけで、僕は簡単に死んでしまうのだろうから、それも当たり前の話だ。
遅まきながら、僕はその事実を確認すると、急いで箸を掴み、勢いよく食事にかぶり付いた。


634 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/15(日) 22:49:13 oxS0tXhk0
      ――
 
   ――――

     ――――――――



朝食を終えた後は、八雲藍が注いでくれた熱いお茶を、僕はゆっくりと口に運んだ。
何とも奇妙な時間の過ごし方だ。殺し合いに乗っているという八雲藍との対峙は
もっと切羽詰ったものになると思っていた故に、随分と肩透かしを喰らった結果となってしまった。


とはいえ、それも当然のことだったかもしれない。
僕が八雲藍と今こうしてのんびりとしていられるのは、先ほど述べたように、圧倒的な実力差があってのことだ。
僅か一瞬。それだけで勝敗が決してしまう為に、彼女は余裕を持って、僕と接していられるというわけだ。
勿論、この広い会場で効率的に動く為の情報が欲しいということも十分に考えられるだろう。


ともあれ、これは僕にとっては僥倖ということになる。
こうして彼女と戦闘ではなく、会話をするチャンスが巡ってきたのだから。
僕はもう一度お茶を口に含み、喉を潤すと、改めて会話を切り出すことにした。


「食事、ご馳走様。もてなしは、僕としては嬉しい限りだけど、何故二人前も用意してあったんだい?
ひょっとして、この香霖堂で誰かと待ち合わせでもしていたのかな?」


まずは事実確認から、と八雲藍の反応を窺いつつ、話を始める。
しかし、予想どおりというか、予想外というか、彼女はすんなりと口を軽く開いた。


「ああ、実はここで橙と待ち合わせをしていてな」

「橙と?」

「ああ……残念ながら、ここには来なかったがな。店主は橙を見なかったか?」


さて、ここはどう答えるべきか。
本当のことを話したら警戒を与えてしまうだろうし、
話さなかったら、八雲藍の僕への関心は薄れて、用済みとなってしまうかもしれない。
僕がそうして答えあぐねていると、彼女は突然と顔に憂慮の念を色濃く映し、重々しく口を動かし始めた。


635 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/15(日) 22:51:18 oxS0tXhk0
「もしかしたら、私は橙に誤解を与えてしまったかもしれないんだ」

「誤解?」

「ああ。この場に来て、最初に会ったのが橙なのだが、当初それこそ私は怒り心頭でな。
幻想郷を破滅させかねない異変、紫様への敵対行為、そしてそれを察するどころか、
それらを防ぐに当たって何の役にも立てなかった自分への怒りが私を支配していたのだ。
今はある程度、冷静さを取り戻したが、橙に会った時は、それこそ怒り狂っていたと言っていい。
そしてその状態で私は『紫様を早くに見つけ、保護しろ。それを邪魔する者は殺せ』と橙に命じたのだ。
その時は何とも思っていなかった、今になって思い返せば、橙は随分と怯えていたように思う。
そう、まるで私がこの殺し合いに乗っている。そのように思わせてしまったかもしれないのだ」


溜息を吐き、悲嘆に暮れた様子で話を終えた八雲藍。
それを聞いた僕はそう来たか、と感心する一方で、さもありなんとも思った。
幻想郷を管理者たる八雲紫の式の八雲藍が、この異変に対して抱く激情は、当然推して知るべきだろう。
そしてそれを受けたのは、見た目どおり幼い橙だ。そこに何かしらの誤解が生じても、おかしくない。


というより、八雲藍が言ったことのほうが、真実味があるように思える。
彼女の幻想郷での役割も考えれば、荒木達に反抗するのは当たり前のことだ。
この場には幻想郷を維持するに当たって重要な人妖が集められている。
それらを失ってしまえば、それこそ彼女の主たる八雲紫の失望は免れないのだから。


しかし、ここで素直に八雲藍を信じて、僕が見聞きした全てをあけすけに話すわけにはいかない。
僕の判断には僕の命はおろか、橙、てゐ、ジョセフ達の命も掛かっているのだ。
早まった決断をしてはいけない。といっても、彼女の話が嘘かどうかなど、僕には分からない。
それを判じるには、あまりに情報が少ないと言える。


それならば、どうするべきか。やや早すぎる嫌いもあるが
僕は八雲藍のスタンスを変える為に、と用意しておいた取って置きのカードを出すことにした。
それ即ち、僕が彼女の主である八雲紫と出会い、言伝を預かってきたというものだ。


元より僕は真っ正直に八雲藍を説得出来るなどとは露ほど思っていなかった。
妖怪である彼女に人間の持つ良識や倫理観を持ち出しても、無意味なことであろうし、
荒木達を倒す、ないしはここの脱出を最優先にと持ちかけても、その成功の可能性を僕からは提示出来ないのだから。


だが、そういった内容の言葉を八雲紫から預かってきたとしたら、どうだろうか。
彼女のことだから、この異変を快く思っていないことは確実だし、それと同様に反意を抱くことにも疑いはない。
その彼女の実力も八雲藍なら十分に知っている上、あの胡散臭い妖怪が何か解決策を思い浮かんでいても不思議はない。
そして何よりも八雲紫の言葉は、式である八雲藍に対して法律として機能する。
これなら八雲藍を説得するに当たって、何の問題もないと言えるだろう。


僕は早速八雲紫に会った旨を告げようしたが、それを遮るように急いで八雲藍がパンと手を叩き、
さっきと打って変わって嬉しそうに僕に語りかけてきた。


636 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/15(日) 22:53:04 oxS0tXhk0
「だが、暗い話ばかりではないぞ! 実は私は紫様と会って話をしたのだ!」

「……え? って、ぅえええッッ!!?」


八雲藍の思いがけない台詞に、僕の口から堪らず変な声が漏れ出た。
全く予想していなかった展開故に、僕の思考は真っ白に染め上げられる。
その僕の様子が可笑しかったのだろうか、八雲藍はますます笑みを深めて、口を滑らかに動かしていった。


「驚くことはないだろう。私は紫様の式だ。その繋がりを辿れば、私達が出会うことなどは最早必然だ」

「う、うん」

「それで、だ。何と紫様は、この異変を解決する妙案を思いついたらしい。さすがは紫様だな。
そしてここから重要なのだが、その策を講じるに当たって、結構な人数が必要みたいなのだ。
そういう訳で私は紫様から、参加者を集めてこいとの命令を受けてきた。
改めて問うが、店主、近くで誰かを見なかったか? この場に連れて来られてから、誰かと出会わなかったか?
私は一刻も早く紫様の助けとなりたいのだ。店主、お前もこの異変を解決したいという気持ちは私と同じだろう?」


今度は一転して、切実な表情で僕に訴えかけてくる八雲藍。
僕は「そうだね」と軽く受け流しながら、お茶を口に運んでいったが、
そんな余裕綽々の態度とは裏腹に、内心ダラリと冷や汗を流していた。
当たり前だ。これにはどう受け答えればいいのか、さっぱりと分からなかったのだから。


そもそも考えてみれば、八雲藍のこういった台詞は当たり前のことだった。
八雲紫の言葉がどれほど重いのかは、八雲藍自身が一番良く分かっている。
であるのならば、僕のような考えを持つ輩に対して何らかの予防策を講じるのは当然の成り行き。
この状況は、ひとえに僕の見込みの甘さが招いた結果と言っていい。


しかし、それはそれとして、これから僕は八雲藍にどう対処すればいいのだろうか。
彼女の発言は、すごくもっともらしいが、同時に嘘という可能性もある。
その真偽は幾ら頭を悩ませても、残念ながら僕には一向に分からない。


というか、僕が八雲藍を説得しに来たのに、逆に僕が彼女に説得されつつあるというのは、一体どんな喜劇だ。
全く笑えないぞ。そんなところから妙な反骨心が湧き出て、彼女の発言を嘘と思いたくなる。
だけど、感情に任せての決断など、悪手でしかない。


僕は逸る気持ちを抑えるように深呼吸して、もう一度考えを整理した。
この場合には、やはり僕が八雲紫と出会ったとカマをかけてみるのが正解か?
それで彼女の嘘が見て取れるようなら、そのまま僕の当初の策を実行すればいいし、
彼女が本当のことを言っているようだったら、問題はないのだから。


637 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/15(日) 22:54:09 oxS0tXhk0
だけど、そうしようと思って動かした口だが、そこからは言葉を上手く発することが出来なかった。
恐かったのだ。彼女の発言が本当であるのなら、僕は子供の戯言にそそのかされたマヌケということになる。
この状況を顧みて、それを慎重と判断してくれるのなら万々歳だが、無能と目されたなら、目も当てられない。
加えて、僕は彼女の敬愛する八雲紫の名を持ち出して、騙そうとした不逞の輩。そこに余計な情けを期待するのは無理なことだろう。
荒木達に一矢すら報いることの出来ない、そんな無意味で情けない最期を迎えるのは、恐怖以外の何物でも表せない。


それに彼女の発言が嘘だとしても問題だ。僕が彼女が主張する八雲紫を否定する。
それはつまり僕が八雲藍より、あの胡散臭いスキマ妖怪を詳しく、具体的に描写しなければならないということだ。
それも八雲紫を誰よりも知る八雲藍に対してだ。とてもではないが、成功への道筋など見つけられない。


…………いや、問題はそこではないだろう。
元々綱渡りの覚悟で、ここにやって来たのだ。その程度の危険は今更だ。
では、一体どこに問題があるというのか。結局の所、それはここに帰結する。
橙を信じるか、それとも八雲藍を信じるか、だ。


だが正直な所、それすらも分からない。
橙にしろ、八雲藍にしろ、彼女達の言葉は一々が真に迫っていたし、二人の人間性(?)を考えるにしても、
彼女達のことは、そのほとんどが人伝に聞いたあやふやな情報でしかない。
残りの僅かの割合で僕の見識が占めるが、それだってほんの少しの時間を共にして得たものだ。
そんな希薄なものを根拠にして、まともな判断など下せようはずもない。
であれば、どうすべきか? 一体僕はどちらを信じるべきなのだろうか?


「どうした? さっさと答えないか、店主。何も喋ることがないというのであれば、私は先を急がせてもらうぞ」


一種の親しみやすさを感じさせていた八雲藍だが、ここに来て一気に冷然とした雰囲気が伝わってきた。
まるでナイフを喉元に突きつけられたような冷たい感覚。どうやら空になった湯飲みを何回も口に運び、
時間を稼ぐという手段は使えなくなってしまったようだ。もう悠長に頭を抱えている暇はない。
だけど、そんな絶体絶命のような状況で、何故か僕は笑うことが出来た。


天啓のように思い出したのだ。僕には、この状況を上手く好転させることの出来る支給品があったことに。
僕に支給されたのはスタンドDISC、そして賽子。一見すれば、ハズレとも思える品々だ。
実際、僕も今までそう思っていた。だが、使い方を知れば、その意味合いは変わってくる。
そして僕はより確かな未来を手繰り寄せる為、一つの支給品を意気揚々と取り出した。


638 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/15(日) 22:57:48 oxS0tXhk0
「……賽子? それをどうするのだ? 何か意味があるのか?」


言葉ではなく、賽子を取り出した僕に苛立ったのか、八雲藍は怒りの口調を露にした。
彼女の目つきも、それに伴って鋭くなる。日頃の僕なら、それに幾らか気おされていたかもしれない。
だけど今の僕は演技などではなく、しっかりと自信を持って、僕は八雲藍に返事をすることが出来た。


「あるよ。それにこれを放ったら、ちゃんと話すよ、色々とね」


そう言って、僕は三つの賽子を握り締めた。
賽子を取り出した理由。それは勿論、博打をする為だ。
つまり、丁が出たら橙を信じる、それとは逆に半が出たら八雲藍を信じるという賭け。
もっと分かりやすく言えば、僕は自分の運命を運否天賦に任せることにしたのだ。


正気の沙汰とは思えないぶっ飛んだ発想だが、別に僕は狂ってはいない。
まとまな頭脳で、冷静に判断を下した結果だ。
その成因となるのが、ここに来る前に出会った因幡てゐだ。
彼女には「人間を幸運にする程度の能力」がある。
彼女の恩恵を受けた人間が迷いの竹林を脱出できるように、
僕もこの思考の迷路を脱け出すチャンスを、幸運の兎との出会いにより得た。
それこそが、この運任せの博打というわけだ。


僕は再び深呼吸をして、てゐの小憎たらしい顔を思い浮かべながら、賽子を投げる。


さあ、出た目は丁か、半か!?




【D-4 香霖堂/朝】

【森近霖之助@東方香霖堂】
[状態]:健康、不安 、主催者へのほんの少しの反抗心、お腹いっぱい 、幸運??
[装備]:賽子×3@現実
[道具]:スタンドDISC「サバイバー」@ジョジョ第6部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:対主催者を増やす。
1:丁か、半か?
2:丁なら八雲藍の説得、半なら情報提供 。
3:魔理沙、霊夢を捜す。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
※ジョセフの戦いを見て、彼に少しの『希望』を感じました。
※てゐとの協力関係は、彼女の能力を利用した博打と考えています。


【八雲藍@東方妖々夢】
[状態]:左足に裂傷、右腕に銃創(処置済み)、頬を打撲、霊力消費(中)、疲労(中)、森近霖之助に若干の苛立ち
[装備]:割烹着@現地調達
[道具]:ランダム支給品(0~1)、基本支給品、芳香の首 、秦こころの薙刀@東方心綺楼
[思考・状況]
基本行動方針:紫様を生き残らせる
1:森近霖之助から、より正確な情報を得る 。
2:やるべきことは変わらない。皆殺し。
3:橙におしおき。
[備考]
※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。
※放送内容は全て頭に入っています。
※ケガや血は割烹着で上手く隠れています。


<割烹着>
香霖堂に置いてあった日用品シリーズの一つ。
衣服の汚れを防ぐために羽織って着るエプロンの一種。
日本で考案されたもので、着物の上から着用できる。


639 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/15(日) 22:58:23 oxS0tXhk0
以上です。


640 : 名無しさん :2015/03/15(日) 23:44:17 Zmr0guyY0
投下乙……って、ここで終わるんかーい!(ガビーン)

どうして二人が食卓を囲んでいるのか疑問が付きませんでしたが、成程らんしゃま余裕たっぷり。
らんしゃま自ら紫に会ったとのたまわれた時点でこーりんは既に袋小路。
案の定こーりん通夜会場と化した香霖堂で、今まさしく賽は投げられる!

そういえば、この作品のタイトルはどうなされるのでしょうか?


641 : 名無しさん :2015/03/16(月) 00:29:28 FyoCYNrc0
なんて生殺しな締め…えげつない終わりかただ(誉め言葉)
らんしゃまの頭の回りっぷりがおっかなくてゾクゾクします
こーりんの賽子がどんな運命を招くのか先行きが楽しみな話でした


642 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/03/16(月) 00:36:23 usq3ysX60
タイトルは「リンノスケ・ザ・ギャンブラー」です。
久しぶりの投下なので、すっかり忘れていました。


643 : 名無しさん :2015/03/16(月) 02:14:23 AIe3m6X.0
投下乙です。
まさに『策士の九尾』らしいお話。
今までの藍の行動を俯瞰的に見れる読み手側としては、
その恐ろしさがひしひしと伝わってきました。
そして霖之助の賭けがどうなるのか非常に気になる幕引き。
一見和やかながら終始緊迫感のある素晴らしいお話でした。
面白かったです。


644 : 名無しさん :2015/03/16(月) 03:31:14 0IYaQopI0
投下乙です。
ただ粛々と殺戮を尽くすマーダー…ではなく一手一手相手の道を塞いでいくような
いかにも藍様らしい思考的な絡め方でした。
やはり頭脳面においては一歩も二歩も抜きん出るこの九尾相手に凡夫のこーりんが
どう戦っていくか…と色々な予想はしていましたがなるほど運頼みと来たか…
凄く良い所でバトンが渡される形だったけどジョジョ東方では意外とこの手の引きは珍しいのかな?
次のリレーが俄然楽しみになってきました。


645 : ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 15:57:11 sIAFW9gM0
これよりゲリラ投下します


646 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 15:59:40 sIAFW9gM0
『ジョナサン・ジョースター』
【午前】C-4 魔法の森 西


ジョナサンは魔法の森の中でひとり、片膝をついて悔しそうに顔を歪めていた。
彼の眼前には草のベッドにて横たわる、かつては少女だったものの『ナニカ』。
骨と皮だけになったソレは干からびたミイラのようなものに見えたが、ジョナサンはソレが『彼女』の亡骸だということを一目で察した。
察してしまった。
漆黒の翼を持ち、溌剌と幻想を生き、そして家族を何よりも愛した純粋なる少女。

『霊烏路空』の変わり果てた姿がそこにあった。

ほんの数時間前に彼女と戦い、言葉を交わし、その人となりは片鱗ではあったが把握できた。
地上を焼け野原にするだとか物騒な野望を叫びつつも、彼女の家族を想う気持ちは本物であったとジョナサンは思う。

悪い娘ではなかった。
億泰が語った必死の言葉を聞いた時、この娘が一瞬浮かべた安心する様な表情をジョナサンは見逃さなかった。
なにより彼女がジョナサン達から逃げ出す直前に呟いた言葉は敵意や悪意といった類ではなく。


『―――………ごめん』


謝罪。
悲しげな表情で、空は確かに謝ったのだ。
億泰の言葉が少し嬉しかったとも言っていた。

悪い娘ではなかった。
霊烏路空という少女は、本当にどこまでも純粋で、本当に家族の事を愛していただけであった。
億泰の言葉は彼女に届かなかったわけではない。
その心に響いたからこそ、彼女は謝った。そして、逃げるように去ってしまった。
もう一度再会すれば、言葉を交わす機会さえあれば。
今度こそ彼女を正しい道へと誘うことができる。
ジョナサンはそう確信していたし、だからこそ追いかける億泰を止めなかった。

―――結果、億泰は死に、空も目の前で悲惨な骸を晒していた。

空は…悪い娘ではなかった…ッ!
普通の人間と同じに家族を愛し、故郷を愛し、仕事に一生懸命の……ッ

「―――ただの少女だったッ!!」


647 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:00:36 sIAFW9gM0
ジョナサンは静かに激昂した。
自分の選択は間違っていたのか…?
やはりあの時、強引にでも億泰を止めるか彼を追えば良かったのではないか。
今となっては意味の無い後悔が押し寄せる波となってジョナサンを襲う。
これでは自分たちに遺志を託して逝った億泰が浮かばれない。
全ては……何もかもが遅かったのだ。
震える唇を噛み締め、拳をグッと握り締める。

(すまない…! すまなかった……億泰、空……ッ!)

億泰の遺した言葉も、もう二度と彼女には伝えられない。自分の非力さを呪い、無念の言葉も露へと消える。
レミリアとブチャラティにも何と言えば良いのか。
ジョナサンは目を閉じ、数十分前の別れを回想する―――。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


648 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:01:17 sIAFW9gM0
ジョナサンたち一行は億泰の遺体を埋葬した後、すぐにこれからの行動指針を話し合った。
『空とさとりを追う』『敵を追う』。その両方をやるためには二手に分かれる必要があったのだ。

「俺は敵を追うぜ。あの化け物もそうだが、もうひとりの敵…。俺は奴と必ず決着をつけなければならない」

ブチャラティはどこか遠くを見据えてそう宣言した。
彼の瞳にはどこか宿命に燃えるような、確固たる決意の炎が燻りをあげている気がして。
彼にしかわからない因縁があるのだろう。ジョナサンはそんな予感を感じ取り、その決意を尊重した。

「私もあのふざけた原始人とはいい加減ケリをつけたいわね。……ジョジョ、貴方は?」

レミリアがジョナサンを見上げながら問う。
彼女の子供のような体躯から仰がれる視線は、その外見とは裏腹に千秋の生から蓄積された確かな重みが見て取れた。
レミリアと過ごした時間はごく僅かだが、ジョナサンの意思は彼女にも既に分かりきっている事だろう。
それだけの絆は、築き上げられたと思う。

「空たちを追うよ。彼女とはきっと分かり合える。億泰の遺志を受け継がなければ、彼の魂は永遠に眠れないだろう」

故にジョナサンは強き意思で迷わず応えた。
レミリアも少しの微笑を交えて頷く。

「あなたならきっとそう言うと思ったわ。……しばしお別れかしら?」

「またすぐ会えるさ。僕の『覚悟』と君の『誇り』が磁石のように引き合って…!」

「当然よ。人間の『運命』というものは決まっているわ。
 不可知の運命を恐れず、暗闇の荒野を進み、苦難の道をも勇み歩く……あなたという男はそんな素敵な人間。
 ならば私たちを結ぶ『運命の紅い糸』は再び互いを引き寄せる。…必ずね」


649 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:01:46 sIAFW9gM0
そう告げてレミリアはスッと左手を差し向け、何も言わずにジョナサンを見つめる。
「握手かな?」などと幼稚な考えは彼女の「察しろ」とでも言わんばかりの鋭い睨みを受けてすぐに訂正。
これでもジョナサンは英国貴族の出。淑女の扱いも苦手分野ではあるが学んできた。
片膝を折り、彼女の凄絶なほどに白くしなやかな手を取る。どこまでも冷たく輝く、真冬の渓流のような肌だった。
同じ吸血鬼でもやはりディオとは全く異なるものなんだな、という思考も早々に流し、次に浮かんだ人物は愛する女性の姿。
これからする行為はエリナへの裏切りにならないだろうか、と不安にもなったがそれも一瞬。
あくまで親愛の証であり、絆の再確認というだけだ。レミリアもそれを分かっている。
半ば自分への言い訳のように、少しだけ躊躇した。少しだけ。


そしてジョナサンはそっと優しく、レミリアの手の甲に口づけを落とした。
騎士が姫に忠義を誓うように。
紳士が淑女に親愛を示すように。


視線の関係上ジョナサンにはレミリアの表情は読めない。
それでも彼女の肌から唇を通して伝った僅かな震えが、彼女がその行為に慣れていない事を知るには充分過ぎるものだった。
冷たかった肌も僅かに熱くなり、紅潮も見える気がした。
「可愛いな」などと言ったら彼女は怒るだろうから心の中だけに留めておくとする。

ジョナサンがゆっくりと顔を上げた時には普段の彼女の表情に戻っていた。
ブチャラティも空気を読んだのか、数歩距離を開けて二人の儀式を邪魔せぬように見守っていた。どうやら彼も紳士的なギャングのようだ。
やがて口を開いたのはレミリアの方からだった。

「……もう行くわ。忘れないでジョジョ。
 私たちの『運命』に微笑むのは女神なんかじゃない。この吸血鬼『レミリア・スカーレット』よ」

「ああ! 必ずまた…!」

「無茶はするなよ、ジョナサン。億康やあの敵たちが落としていった支給品は三人でそれぞれ分けておいた。
 俺達も目的を果たしたらすぐに合流する。それまで…女は護れよ」

「ブチャラティもありがとう。二人とも気をつけて…!」


三人はそれぞれ向き合い、拳を重ね合わせた。
紳士と淑女とギャング。本来決して交叉するはずがなかった各々の路は交わり、今また離れようとしている。
だが『運命を操る吸血鬼』レミリア・スカーレットは言った。

血で血を洗うこの死の地にて、運命の糸は再びこの男女を手繰り寄せると。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


650 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:03:36 sIAFW9gM0
こうしてジョナサンとレミリア、ブチャラティ達は目的の為に一時道を分けた。
それから約一時間の時が経ち、ジョナサンはこうして今、己の行動が一足遅かったことを痛感し嘆いている。

霊烏路空。
彼女のどこに殺される理由があったというのだ。
危険な少女ではあった。一度は死闘を繰り広げたりもした。
しかしその心の根に広がるものは青空のようにどこまでも透き通った純一無雑さ。
彼女にも護りたいものがあった。愛する者がいた。
家族を護りたいと思う心はジョナサンにも痛いほどよく分かる。
空の無念を、億康の無念を、晴らすことが出来なかった。


「……いや、」


そういえば。
何故今まで忘れていたのかと自分でも迂闊だった。
あまりにショッキングな遺体を見つけて失念していたのか。肝心な人物がここには居ないことを思い出す。
その空の愛する家族『古明地さとり』の姿が見当たらない。
空をこのような姿に変えた『敵』に襲われたのだと予測は出来るが、何せあの重傷だ。
波紋の効果で致命的な部分の損傷は回復させてはいるが、それでもまだまだ歩くには至らない状態の筈。
さとりの死体はここには無い。一人で歩き回ることも考えづらいが…

彼女はどこだ…!? 探して保護しなければ…!


「……ん?」


慌てて立ち上がりかけるジョナサンの視界の端に、ふと映った。
悲惨な姿に変えられた空の干からびた左手、その手元の地面に。



『 さと さま B 5 
    たすけ  おねが 
       それと  ごめ なさ  』



不恰好で崩れ崩れ。所々消えてはいるが。
そこには確かに空の懸命な想いが、確かな文字としてなぞらえてあった。


651 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:04:36 sIAFW9gM0
敵の手により敗北した空は消えゆく最期の灯を、死力を尽くして光を灯した。
静葉と星がこの場を去った後にも、彼女は生きていた。生きて、何とか遺言を託そうと文字を遺した。

誰に?
自分を救おうとした、あの少年に。

空は願った。
あのバッテン傷の少年の名は何と言ったか。確か横にいた大柄の人間が名前を叫んでいた気がする。
おく…なんとか、だ。忘れた。
忘れたが、大切な主人との『待ち合わせ場所』は何とか覚えていた。
無我夢中だった。死にかけの身体を動かし、指で文字を書いた。
不思議なことに、あの男の子が自分を追って来ている予感がした。
だから、家族を助けてやって欲しかった。…自分では護れなかったから。
読み書きは苦手だけど、ちゃんと伝わってくれるだろうか。

ああ、それと……もう一度謝ろう。
『ごめんなさい』って、きちんと謝ろう。さとり様にもそう言われた。


そんな想いを胸に遺し、少女は逝った。
ボロボロになった文字から、彼女の願いが伝わってくる。
ジョナサンはギリリと歯を食いしばり、拳を震わせた。

空の無念。
億康の無念。
そして空の『言葉』を、億康に二度と伝えることが出来なくなってしまった己の無念。

自分の中にあるまじき忌まわしげな気持ちが、脱力感と共にフツフツと沸き上がってくる。
億康の時は間に合わなかった。
今回もまた、一足も二足も遅かった。
次は。
次こそは…!
空の『家族』こそは!
救ってみせるッ! 護ってみせるッ!
空の無念を晴らす事こそ億康の無念を晴らす事でありッ!
空の家族を救ってやる事こそ二人の無念を晴らす事ッ!

空の遺体は埋葬してやりたかったが、生憎と迫る時間はそれを許してくれそうにない。
まるで血を抜かれたかのような遺体は、吸血鬼にでもやられたのだろうか。殺害方法がわからない。
しかし彼女を葬った『敵』は次にさとりをも殺そうとするだろう。
そうなる前に……さとりはこの自分こそが探し出して保護するッ!

全てが終わってしまう前に…ッ!


「空。君はここに…置いて行く。もう誰も君を…これ以上傷つけたりはしないように、決して……」

―――だが君を必ず故郷の『家』に連れて帰る。



小さく呟き、予めレミリアから渡されていた空の遺品ともいえる制御棒を取り出す。
横たわる空の傍らにそっと置き、ジョナサンは地を駆けた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


652 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:05:41 sIAFW9gM0
『ブローノ・ブチャラティ』
【午前】D-2 地下 地霊殿


コツン……コツン……コツン……


レミリアの真紅のように紅い靴と、ブチャラティの丁寧に磨かれた革靴の小気味良い足音が地下空間に響き渡る。
ここは地下道。恐らく主催によって用意されたであろう、『人外』のための闇の根城。
億康を殺害して逃走したサンタナと、ブチャラティに致命傷を与えた謎の少年を追って、地下の深く深くまで潜り込んだ二人を待っていたのは広大な闇の路。
スティッキィ・フィンガーズから生み出された地面のジッパーの道を辿ることで、この地下空間へと到達する事は容易だった。
気分の悪くなるような地中遊泳を終え、重力の実感を噛み締めたその場所は一本の長い通路。
ゴツゴツした岩や砂が乱雑した洞窟というよりは、人工的に整備されたトンネルのような場所だった。
薄暗くはあるが両壁には一定の間隔で洋灯も備え付けてある。懐中電灯の電池切れを心配する必要も無さそうだ。



100m……200m……500m…………

既に1km以上は歩いただろうか。随分広大な通路のようだった。
地上ではとっくに魔法の森を抜け出る距離を歩いた。レミリアが日光が苦手なのを考えると、敵が地下を逃げている事はこちらにも都合が良い。

そのレミリアだが、地下に着き「奴らは北に進んでいるんだったわね」と当たり前のようにブチャラティの前を歩き始めて以来、会話はしていない。
失ったばかりの部下の事を考えてでもいるのか、それとも半身を失った悲痛な姿の億康の最期の頼みを思い出しているのか。
後方を歩くブチャラティには彼女の表情は見えない。そもそもレミリアと出会ってから数時間。
まだまだブチャラティは彼女を知らない。彼女の背景を知らない。彼女の強さや弱さは垣間見たが、それだけだ。
この静かな追跡劇の中で友好を深めるような会話を行うほど、ブチャラティもコミュニティに長けているわけではない。
元々口数が少ない男でもある。一本道で敵が北に進んでいるのなら、それを追うだけ。淡々としたものだ。


653 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:06:36 sIAFW9gM0
そういえば、途中地上へと上がる梯子をひとつ発見した。
歩いてきた体感距離とコンパスの針を信じるならば、梯子の先には地図でいうD-3の『廃洋館』に繋がっているのだろう。
地上への扉のフタに最近開閉した跡が無かったので、敵はこの扉は無視したものと考えたが…
それ以前に前を歩くレミリアがさっさと前進して行ったのでブチャラティも首を横に振っただけで扉は無視した。
その梯子の横の壁にも『Harry』と意味不明な名前が彫られたプレートが掛けられていたのを不審に思う。
大方、主催の趣味で宛てられたこの通路の名称、といった所か。





「―――私の『運命を操る程度の能力』は」


突然レミリアがこちらを振り向くことなく呟いた。
完全に不意打ちでの発言だったのでブチャラティは一瞬、思わず歩みを止める。

「相手が本来辿るはずだった人生という道の選択肢を増やしたり、あるいは減らしたり…
 他人の歩む道と交叉させたりなんかして……それは私自身、意図したりしなかったりで作用する能力なんだけど…」

依然歩きながら喋り続けるレミリアの言葉を邪魔せぬよう、ブチャラティも黙って歩く。
幼子のような体格のレミリアの徒歩速度は、ブチャラティよりも少し遅い。それに合わせて少し余裕を持った速度を保つ。

「まっ、要するに他人の運命をほんのちょっぴり掌の上で転がしちゃう力なわけ。
 それは上に転がしたり下に転がしたり、なんかのきっかけでどこかに転落させちゃったり…私の気まぐれでね」

レミリアの能力の事は触れる程度には聞いていた。
なんとも曖昧な能力だが、しかし彼女の言わんとしてる筋が見えない。

「でもね、転がした先にはどんな着地点が見えるかだなんて、そんなの分かりっこない。
 あくまで『運命を操る』だけであって、『運命のその先を見る』能力ではないわ。
 私らしい、随分と自分勝手な能力じゃない? くくく…」

皮肉を込めたような嘲笑が前方の少女から漏れ出た。
その冷たい嘲りはまさしく悪魔のそれだなと、ブチャラティは内心思う。


654 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:07:07 sIAFW9gM0

「……何でも、アンタ達の世界の人間に……なんだっけ? そうそう『ロケランジェロ』って彫刻家が居たみたいね。
 パチェの蔵書から偶然、外の世界の美術史書を発見してね。……まあ偶々見る気になったんだけど。
 他にはえーっと、そう…『レオパルド・ダ・ピンチ』? よね。彼ら、非常に偉大な芸術家だったみたいね」

ここで彼女の記憶違いを訂正するのは簡単だが、話の腰ついでに彼女のプライドまで折りそうなのでやめた。

「ロケランジェロの言ったとされる言葉、私も気に入ってさ。しっかり覚えてるわ。
 『わたしは大理石を彫刻する時…着想を持たない。“石”自体が既に彫るべき形の限界を定めているからだ。
 わたしの手はその形を石の中から取り出してやるだけなのだ』……素敵じゃない?
 彼は『究極の形』は考えてから彫るんじゃなく、既に石の中に運命として『内在している』という考えの持ち主だったのね」

500年を生きた吸血鬼でもやはり人間の美的感覚は共有できるらしい。
ブチャラティは幼少の頃、両親に連れられて行った美術館の事を思い出した。

「『ダ・ピンチ』にしてもそう。幻想郷には馴染みが無い、優れた画家や彫刻家は自分の『魂』や物の『運命』を目に見える形に出来る…
 私の『運命を操る能力』とは似て非なる、極限まで技を昇華させ自在に操れる人間が彼らなのよ。そこの所は尊敬出来るわ」


―――でもね。


そう言葉を続けてレミリアの足がピタリと止まった。
いつの間にか目の前にはせま苦しい通路から一転、巨大な大口を開けた空間が広がっていた。
否応にもまず目に入ったのがその空間の支配者とばかりに聳え立つ大きな洋館。
だがそんな異様な景色を意にも介さぬ様子でレミリアはブチャラティをゆっくりと振り返った。
その瞳には真紅の色が鋭い輝きを放っている。見ているだけで吸い込まれそうだった。

「私にだって他人の『運命を見る』ことくらい、多少の心得はあるつもりよ。
 『運命のその先』は見えなくとも、その人の運命が『何処』に向かって伸びてるのか……ほんのちょっぴりだけ」


655 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:07:36 sIAFW9gM0

レミリアはジョナサンにこう告げた。
自分たちを結ぶ『運命の紅い糸』は再び互いを引き寄せる、と。

ジョナサンはレミリアにこう告げた。
彼の『覚悟』と彼女の『誇り』が磁石のように再び引き合う、と。


「ジョジョと私は……必ずまた出逢う。それは勘でも何でもない、このレミリア・スカーレットの『運命』。それくらいは何となく分かる。
 ……でも、」

直後、レミリアの表情に陰が落ちたような気がした。

迷い。

彼女の表情を端的に表すとしたら、ブチャラティにはレミリアが迷っているかのように見えた。
何か、言うべきか言わないべきか、そんなことを迷っているかのような少しの一面。
これから彼女が言うことが、ブチャラティにとって決して良い内容ではないということを感じ取るには充分な“間”。


そして。





「―――ブチャラティ。貴方の『運命の糸』は途中でプツリと切れている。初めて私と逢った時から、糸は途絶えていたの」






沈黙が制した。


656 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:08:07 sIAFW9gM0
レミリアの表情は変わらず目の前のブチャラティを見据えている。
その瞳の色にはほんの少し、『哀しげ』な感情が混ざっていることにブチャラティは気付いた。
対して宣告を受けたブチャラティ自身はまるで動揺などしない。
それはギャングという闇の世界で暮らしている環境で培われた『覚悟』の賜物なのか。
ここまで共に戦ってきた友人の言葉の重みを知らないブチャラティではない。彼女の放った言葉がどんな意味を持っているのか。
ブチャラティは静かに瞼を下ろした。

「どんな人間や妖怪だって未来を辿る運命の道というものはあるわ。ただし『例外』も存在する。
 死人……俗に言う『幽霊』なんかは私の能力でも彼らの運命が見えることは無い。当然ね、死んでるんだもの」


ブチャラティ、貴方は―――


そう続けようとしたレミリアの言葉を、ブチャラティは掌を突き出して制止する。
言葉の拒絶ではない。ブチャラティはそんなに弱くないことをレミリアはよく知っている。
ならば彼の制止の意味する所は。

「……言わなくていい、レミリア。自分の身体だ、自分が一番理解している」

それだけを言って、ブチャラティは伏せ目がちに首を軽く振る。

何故。
最初にブチャラティを見た時、既に彼の『運命の糸』は途絶えていた。
その事実を言い出すことが、レミリアには今まで出来なかった。
彼が先程あの少年から受けた致命傷は確かにジョナサンが完治させた筈で。
あるいはこの『運命の終焉』はその時の傷によるものだったのかもしれないと、レミリアは不安を募らせた。
しかしこうして完治した後も、ブチャラティの運命は変わらず途絶えたままだ。
道の先に大きな断崖絶壁がぽっかりと開いているかのような、そんなどうしようもない未来の行き止まり。

ありえない。普通ならばこんな事態、絶対に。
もしも『この先』死ぬ未来の人間だとしても、その運命には様々な道が分かれている。
レミリアはそういった者が辿る未来のルートをほんの少し変えたり、『死』までの道のりが見えたりもする。
しかしあくまでも『ほんの少し』。決定された未来までも曲げたりは出来ない。

だが今のブチャラティの状況は。
『この先』などといった可能性は、無い。
『既に』閉ざされている。運命が全く見えない。
言うならそれは、闇が支配する道なき道を、永遠に照らされる事のない暗黒の海原を、光源なく手探りで進んでいるようなものだ。
幻想郷でたまに見かける『幽霊』といった、既に未来が閉ざされた運命と同じモノだった。
しかし彼の肉体は霊魂のように不安定な存在ではなく、どう見ても人間にしか見えない。だからこそレミリアは困惑し、今まで黙っていた。

最初に逢った時から空白の運命で。
その原因が先程の負傷ではないとしたなら。
ブチャラティはこの地へと呼び出される前から既に―――


657 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:10:38 sIAFW9gM0



「―――海、というのは幻想郷にはないのか?」



脈絡なく、ブチャラティはぽつりと一言発した。
急な話題にレミリアも目を少しだけ丸くする。


「見た事が無くても話くらいには聞いた事はあるだろう。俺は小さな漁村の生まれだ。海にも多少詳しいし心が落ち着く。
 父親も立派な漁師でな、まだガキだった俺を自分の船で何度も海原へ連れ出してくれた。イタリアの海は本当に綺麗なんだ」


海。
幻想郷には存在しない、想像し得ない程に巨大な湖。
レミリアが居を構える紅魔館の周りにも霧の湖が広がっているが、アレとは全く比べ物にならない大きさなのだろう。
本ではよく目にするし、吸血鬼のレミリアでも密かに大きく憧憬を抱いている存在でもある。

「だが、海というのは世界で最も危険な場所でもある。
 水難事故に遭った場合、全体の発生件数の割合では死亡率は約50%だという。これは交通事故などよりも圧倒的に高い数値だ。
 そしてそういった水難事故の発生数が世界的に最も高いのはやはり海。
 知識無き半端者が海へ出ると骸すら帰って来ないことも多い。海をナメた奴は死ぬ」

「世界に比べたら人間なんて蟻以下のちっぽけなモンよ。
 そんな蟻達が大自然の深淵深くまで潜って行こうってんなら、知と準備を蓄えて立ち向かうことが常識でしょう?
 それすら行わない愚か者は死んで当然。この星の良い養分になるだけよね」

「どんなに下準備を施したところで『運』が悪けりゃあベテランだって死ぬ事もある。
 特に…夜の海はとびきり危険な世界だ。周り全てが何も見えない闇の空間。
 星の光も気休め程度。目印無しではとても怖くて航海できない。道なき道を進むなんてのは不可能なんだ」

レミリアにとって夜こそが自身の吸血鬼としての本領を発揮できる時間帯。
光こそが生命線、という人間の習性は正直理解は出来ない。
吸血鬼なのだから当然なのだが、それほどに海というのは危険な場所らしい。

「もし今の俺が永遠に照らされる事のない暗黒の海原を浮かんでいるというのなら、『光』が必要だ。
 死んでゆくだけだった俺の心を照らして、道を指し示す『灯台』の光が」


658 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:11:13 sIAFW9gM0
少し空気が変わってきた。
ブチャラティの目がどこか遠い所を見据えながら、薄く瞬きを繰り返す。

その瞳は、せつなく見えた。

「灯台は知っているか? 海の男の、希望となる救い火だ。
 イタリア・カプリ島の最先端プンタカレーナには南イタリアの重要な拠点である灯台が設置されてあるんだ。
 世界で最も美しく碧い海と呼ばれるカプリの海でも夜はやはり危ない。
 灯台とは、そんな道なき道を迷う海の男たちに手を差し伸べる、『希望』そのもの。
 レミリア。お前は俺の『運命の糸』が見えないと言ったな。
 その通りだ。今の……いや、以前までの俺は何処へも進むことの出来ない、ただの『抜け殻』だった。
 前も後ろも見えず、己の使命までも見失って光を求め彷徨う『死人』も同然だったんだ」


―――そんな俺の前にある日、ひとつの『灯台の光』が現れた。


往昔を回顧する老人のように語るブチャラティの言葉を、レミリアはただ黙って聴き入れる。
せつなく見えたその瞳も、だんだんと光を灯していくように漲っていく。

「男の名はジョルノ・ジョバァーナ。
 彼は、俺にとっての灯台だった。そして俺の『意志』を受け継いでくれる希望だった。
 ジョルノ(GIORNO)は俺の国の言葉で『日、明けた白日』という意味も持つ。
 ……本当に、太陽のように眩しい光だ、アイツはな……」

ジョルノ・ジョバァーナ。
確か名簿で見た名だった。このブチャラティにとってそれほどに大きな意味を持つ存在。
その男に、少し興味が湧いた。

「ゆっくりと死んでいくだけだった俺の心は…アイツのおかげで生き返ることが出来た。
 もし俺の運命の糸の先がプツリと切れているのだとしても、その先端は誰かの運命に繋げることが出来る。結ぶことが出来る。
 それを俺はジョルノから学ぶことが出来たよ」


659 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:11:40 sIAFW9gM0
つくづく人間とは儚く面白い生き物だなと、レミリアは思う。
強く長命である吸血鬼や幻想郷の妖怪たちはそんな考えは出来ない。
自分の意志を、他の誰かに紡ぐなど。
または、他人の意志を受け継ぐなど。
あのジョジョも、『受け継いだ』人間なのだろう。
だからこそ強い。芯が揺れない。

しかし。

「―――貴方という人間の、『弱さ』……そして『強さ』。少しだけ、理解できたかもしれない。
 でも、違う。そうじゃない。
 私が聞きたい事は、そうじゃあないのよ……!」

レミリアの『運命を操る程度の能力』で見ることが出来る他人の運命は、
そんな人の強さや弱さといった精神的な概念ではなく。
もっと直接的な、肉体的なものである筈で。
すなわちブチャラティの『運命の糸』が既に途絶えているという事実が示す先は―――

「ブチャラティ! 貴方の肉体は既に……ッ!」

「言わなくていいと言った筈だ。
 この『運命』を俺は既に受け入れている。『その時』が来るまでに俺はやるべきことをやらなければならない。
 レミリア。もしも俺に『何か』あった時、またはお前に抜きさしならない状況が迫った時。
 ジョルノに会いに行け。必ずお前の助けになってくれるはずだ」


キッと前を向き、歩き出すブチャラティ。
立ち止まるレミリアを追い越し、躊躇なく巨空間の入り口へと入り込む。
その大きな地下世界の真ん中に聳え立つ洋館の名は『地霊殿』。
奇しくも現在ジョナサンが捜索している古明地さとりの『家』となる建物だ。
自分たちのターゲットはこの地に潜んでいるのか。
ブチャラティはその正門を堂々と潜った。


その背中を、レミリアはじっと見つめる。
彼女が見ているのはブチャラティか。
それとも彼に纏わり付く不完全の運命か。

わからない。
レミリアにはわからない。
どうしてブチャラティが、そんな宿命を背負ってまで歩き出せるかがわからない。
人間の弱さと強さを理解することが出来ても、
自身の決定されたどうしようもない『未来』を反抗もせずに受け入れ、それでも前を向いて歩き出せるなんて。
強者であるが故に、わからない。

人間が、目醒めることで何か意味のあることを切り開いて行く『眠れる奴隷』であることを、祈ることもない。
悪魔は決して何者にも祈らないのだから。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


660 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:13:05 sIAFW9gM0
【D-2 地下 地霊殿/午前】

【ブローノ・ブチャラティ@第5部 黄金の風】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、幸運(?)、肉体の老朽化
[装備]:閃光手榴弾@現実×1、マカロフ(8/8)@現実、予備弾倉×3
[道具]:聖人の遺体(両目、心臓)@スティールボールラン、鉄パイプ@現実、香霖堂で回収した物資、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊し、主催者を倒す。
1:ボス(と思われる人物)を追う。
2:ジョルノ達護衛チームと合流。その他殺し合いに乗っていない参加者と協力し、会場からの脱出方法を捜す。
3:殺し合いに乗っている参加者は無力化。場合によっては殺害も辞さない。
4:億泰の頼みは果たす。
5:DIO、サンタナ(名前は知らない)を危険視。いつか必ず倒す。
[備考]
※参戦時期はローマ到着直前です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※てゐの『人間を幸運にする程度の能力』の効果や時間がどの程度かは、後の書き手さんにお任せします。
※原作でディアボロから受けた傷による肉体の老朽化が進行しつつあります。


【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、妖力消費(小)、右腕欠損、再生中
[装備]:妖怪『からかさ小僧』風の傘@現地調達
[道具]:「ピンクダークの少年」1部〜3部全巻@ジョジョ第4部、ウォークマン@現実、
    鉄筋(残量90%)、香霖堂や命蓮寺で回収した食糧品や物資、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:誇り高き吸血鬼としてこの殺し合いを打破する。
1:咲夜と美鈴の敵を絶対にとる。
2:ジョナサンと再会の約束。
3:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
4:殺し合いに乗った参加者は倒す。危険と判断すれば完全に再起不能にする。
5:億泰との誓いを果たす。
6:ジョナサン、ディオ、ジョルノに興味。
7:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。


[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降です。
※波紋及び日光によるダメージで受けた傷は通常の傷よりも治癒が遅いようです。
※「ピンクダークの少年」の第1部を半分以上読みました。
※ジョナサンとレミリアは互いに参加者内の知り合いや危険人物の情報を交換しました。
 どこまで詳しく情報を教えているかは未定です。
※ウォークマンに入っている自身のテーマ曲を聞きました。何故か聞いたことのある懐かしさを感じたようです。
※右腕が欠損していますが、十分な妖力が回復すれば再生出来るかもしれません。
※ブチャラティの肉体に疑問を持ち始めています。

※億泰とディアボロとさとりの支給品はジョナサン達に拾われ分けられました。
※地下トンネルの「Harry」は「廃洋館」と「猫の隠れ里」に繋がっています。
 また猫の隠れ里の地下には「地霊殿」の施設が存在します。


661 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:13:55 sIAFW9gM0
『ジョナサン・ジョースター』
【午前】B-5 魔法の森 北


油断を、していたのかもしれない。

B-4区域は禁止エリアだった為にC-5を経由し、空のメッセージ通りB-5へと到着したジョナサン。
そこで彼を待っていたのは目標人物の古明地さとりではなく、北の方角から勢力を伸ばしつつある火の手だった。
遠方から無数に立ち上がる黒煙。鼻腔にひりつく焦げ付いた臭い。
最近嗅いだばかりの臭いだ。香霖堂での一件。
この火事を招いた犯人はもしや空なのか。
遠くに見える火災を横目に、そんなことを考えながら疾走していた。

その思考が、油断を招いたのか。


「ギニャアアァァーーーーーッ!!!」


猫の叫ぶような吼え声と共に突然ジョナサンの右腕に衝撃が走った。
見えない何かに横から思い切り吹き飛ばされ、たまらず転倒する。

「グ……ッ!? な、何者!!」

近くに敵が居る可能性は重々承知していた。
空という少女を無残な骸に変えた殺人鬼が。
かつて戦った切り裂きジャックや暴君タルカスのような残虐な悪鬼が。
吸血鬼ディオのような悪の王が。
この殺し合いには何人も潜んでいるという可能性を考えていた。

億康も殺された。空も家族を護って死んでいったのだろう。
そしてそいつが今度はさとりをも亡き者にしようとしている。
許せない。
許せるものか。
そんな『悪』は絶対にこの自分が……ッ


「倒してみせるッ! そこに隠れている奴、出てこいッ!!」


662 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:14:38 sIAFW9gM0
師から学んだ波紋の呼吸を開始する。
滾る血液がビートを刻み始める。
いつでも戦闘を開始できる態勢だ。先程の不手際はもうやらない。


がさり、と。


数メートル前方の茂みから人影が現れた。

「―――ッ!?」

一瞬だけ、呼吸が乱れる。
どれほどの悪人かと思えば現れたのは………ただの、少女。

二人いた。
片方の少女は、しかし片腕が無かった。
頭に花を模した飾りを乗せ、東洋の衣装を着飾っている。
もう片方の赤い服を着た少女は隻腕の少女よりも少し背が低い。
何故か植木鉢のような物を抱えている。
特に目に付くのは、顔の左半分に拡がる酷い火傷。

二人共が共通して金色の髪。
そして二人共が尋常でない怪我を負っている。

だがジョナサンが何よりも驚愕したのは、二人の瞳の色だった。


―――なんて……なんて凄絶で、悲しい瞳をしているんだ……


ジョナサンが想像していた殺人鬼のそれとはまったくかけ離れた容姿で。
もう後には引けなくなった、『覚悟』を極めた冷たい瞳。
言うなら、『漆黒の炎』。
少女特有のあどけなさや純粋な色なんて全く見えない。
いや、純粋といえば純粋なのだろうか。きっと彼女らはどこまでも純粋に決意を固めている。
これが本当に女の子の表情なのか。こんな表情は見たことが無い。
今まで戦ってきた屍生人や吸血鬼といった人外の化物とも違う。
『負』の奈落へと自ら堕ち、呑まれようと身体を預けた『修羅』が二人。


思わず、構えを解いた。


663 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:15:28 sIAFW9gM0


「……空を、あの翼の少女を殺したのは、君たちか?」


ジョナサンは『迎撃』より『対話』を選んだ。
彼女たちがかつての友人ディオとは、根本から違うと感じたからだ。
スピードワゴンはディオを、環境で悪人になったのではなく『生まれついての悪』だと称した。
だが彼女たちは、そうは見えなかった。
この吐き気を催す殺戮の遊戯という『環境』で悪に堕ちてしまったのではないだろうか。
そう、直感したのだ。
スピードワゴンがこの場に居ればまた『アマちゃん』だと、溜息を吐かれるかもしれないな。
そんな事を思考の端で考えながら、それでも彼女たちのことについて知らずにはいられなかった。


「そうよ。あの鴉の妖怪を殺したのは私たち。貴方にも死んでもらうわ」

赤い服の少女が一歩前に進み出て答えた。
思ったとおり、全く話の通じない相手でもなさそうだ。
しかし、「殺した」と答えた少女の瞳にはまるで躊躇や迷いが無い。
本当に、殺すつもりで、殺したのだ。

「……何故だ? どうして彼女を殺した?」

「恨みは無いわ。むしろ彼女には感謝しているくらい。
 もし途方もなく高い、てっぺんが見えないほどに高い山があったとして、自分がその山の頂に辿り着かなければいけないとして。
 貴方、目の前に聳える断崖をひとつひとつ自力で登り詰めていく? それとも楽なコースを選んで行くのかしら?
 ……私は登るわ。何としても。己の『生長』のためならどんな手を使っても。
 霊烏路空は、そのうちのたった一つの崖だった。まだまだ、頂点は見えない」

その声に感情は見えない。
見ているだけで息苦しくなりそうな顔だった。
彼女にも何か、辛い…とてつもなく辛い出来事があったのかもしれない。
ジョナサンは戦慄すると同時に、一気に毒気を抜かれた気分になった。
何となく、彼女の目的が見えた気がする。


664 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:16:45 sIAFW9gM0

「誰かを……救おうとしているのか」

「秋穣子。大切な家族が殺された。私は……見ていることしか出来なかった」

秋穣子。
聞いた名前だ。確か、最初の会場で主催に殺された女の子の名前。
そういえば目の前の少女の容姿はその秋穣子によく似ている。恐らく、姉妹だろうか。

「ゲーム優勝の『願い』で……その子を生き返らせるつもりなのか?
 他の全ての参加者を皆殺しにしてまで、家族である君がその手を穢してまで……?
 例えその子が蘇れたとして、血で穢れた君の手を見たら彼女は悲しむだろう」

「……貴方まで、そんなことを言うのね。知った風なことを…!」

目の前の少女の声色に怒気が孕む。
知った風なこと、と彼女は言った。
家族が殺される悲しさを知りもしないで、上辺の同情をかけられている、と思われているのだろう。

違う。
ジョナサンにも覚えのある気持ち。
愛した父親を目の前で殺された、不甲斐ない気持ち。
家族に手をかけた相手を憎しむ気持ち。
胸の内側から次第に膨れ上がって、破裂しそうになるほどにどうしようもなく苦しい気持ち。

彼女を、彼女たちを救ってあげたい。
しかし方法がわからなかった。
かつて父を殺した憎むべきディオを、『その恨みを晴らすため』に討たんとした時の様に。
部下を殺され復讐に燃えるレミリアの様に。
この少女にも復讐を促せば、彼女は救われるのか。
共に主催を打倒しようと手を差し伸べれば、彼女に笑顔は戻ってくるのか。


無理だ。

父を殺された時、一度はディオを炎に燃える館で倒した時だってジョナサンの心は晴れたりしなかった。
そんな自分だからこそ本能で分かってしまう。

例え復讐心を満たした所で、家族を失った心の穴までは絶対に満たされはしないのだということが。


665 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:17:19 sIAFW9gM0


「……僕は君たちとは、戦えない」


本音が、漏れた。
今まで対峙したことの無い、全く新しい敵の出現に戸惑うしかなかった。
会場で最初に襲い掛かってきた敵、空だったのならば、あるいは説得も出来ただろう。言葉が心に届いただろう。
だが目の前の二人は……説得は不可能だ。既に覚悟を固めている。

「吐き気がするほどの『アマちゃん』なのね、貴方。
 『君たちとは戦えない』ですって? 甘いわよ。大甘。
 既に戦いは『始まっている』わ。そして早くも終わりそうよ。
 今回の『崖』は、大して苦労せずに登れそうね」


―――ゴボ  ゴボゴボ  ゴボォ


「……っ!?」


奇妙な音が近くから零れた。
水面から気泡が漏れるような、そんな不穏な音が。

「私がただペラペラと不幸自慢をするだけの醜い女に見えた?
 ただの『時間稼ぎ』よ。貴方が死ぬまでのタイムリミットを縮めるだけの、ね」

にゃおんと、少女の持つ植木鉢が動き、鳴いた。
よく見ればそれは猫のような顔を持つ植物で、彼女はただそれを抱いていたわけではない。


ゴボ ゴボ……


音の出処がわかった。
ジョナサンは慌てて己の筋骨隆々な腕を見やる。
腕の血管内にビー玉サイズの『何か』が侵入している。音の正体はこれの気泡だ。


666 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:18:02 sIAFW9gM0

「これは……ッ!?」

すぐに指で血管を押さえるが気泡は止まらない。
手首から腕へ。腕から体内へ向けてどんどんと登ってくる。
恐らく最初に攻撃された時だ。あの時、手首から何か仕掛けられた。
今度は花飾りの少女が答えた。

「ご存知ですか? 人の血管内に10cc以上の『空気』を入れるとその空気はどんどん脳や心臓へと向かって行き、
 最終的には空気で血管が塞がれる……俗に言う『空気塞栓』を起こし、ただちに死に至るということを」


空気ッ!

どうやら自分は血管に空気を入れられていたらしい。
恐らく赤い服の少女の持つ植物、あれが作用させた結果なのだろう。
まんまと嵌められ、呑気に会話などしてしまっていた。
医学に詳しくないジョナサンだが、確かに彼女の言った通り血管に空気を直接入れられると危険なのは知っている。
そして見た限り、完全にこれは10cc以上入れられている…ッ!
指で押さえようがどうやっても登り詰めてくる空気を止める事が出来ない。

「……そっちの君も、誰かを救うために殺し合いに乗ってるのか?」

「寅丸星と申します。私の一番大切な人を護るそのために、貴方には死んで頂きます」

寅丸星と名乗ったその少女も、赤い服の彼女と同じに誰かを護る為に自らの手を穢す覚悟を決めていた。

二人とも、本気だ。
本気で『捨て』ようとしている。
人が人で或る為の。
或いは妖が妖で或る為の。
或いは神が神で或る為の。
最も大切な部分を捨てて、血を流して、自らをも犠牲にして、
たった一人の存在の為に、穢れを良しとし、呑まれる。

ジョナサンとは闘う動機の『格』。その次元から違っていた。
相容れようが無い。ならばどうするか。


「……僕の名は『ジョナサン・ジョースター』。
 君たちの闘う『覚悟』、その理由はわかった。そっちの君、名前を聞いても…?」

「秋静葉と申します。……よろしくお願いします。
 もっとも、もう既に決着はついているかと思われますけど」


ゴボ ゴボ ゴボ ゴボ ゴボ


空気の玉が腕を通り過ぎ、体内へと侵入する。
限界が来た。


667 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:18:39 sIAFW9gM0


「寅丸星。そして秋静葉。
 正直な所、僕には君たちに対してどう接すれば良いかわからない。
 けれどもありがとう。最後に君たちの名前が聞けて、良かった」


血液の塞栓は免れない。
そのはずなのに、ジョナサンは極めて落ち着き払った姿勢で少女に礼を言う。

その姿勢は真の紳士と称するにふさわしく。

勝ちを確信したはずの少女二人の額に、一粒の汗の玉が滴った。


「コオオオォォォォ〜〜〜〜〜〜〜……………ッ!!!」


波紋の呼吸。
ツェペリから受け継いだ生命エネルギーはジョナサンの体内を巡り、力に変えた。
仙道を学び、究極の呼吸法のリズムを体得したジョナサンに精神の乱れは無い。

そして波紋の呼吸は『血液』をも自在にコントロールする。

「ムンッ!!」

凄まじい気迫と共にジョナサンは体内の血液中の空気のみを瞬間的に逆流させ、傷口へと押し出した。
例え数十匹の毒蛇に噛まれようとも、その毒のみを体外へと放出する術を持つジョナサンには朝飯前の技術。

かくしてこの危機を無傷で切り抜けたジョナサンはその場でくるりUターン。敵に背を見せ、猛ダッシュで逃げ出した。
これに驚愕したのは静葉と星。
勝ちを確信した瞬間、何事もなく鮮やかに切り返した男の技に一瞬行動が遅れた。
その隙を見計らっての、いきなりの逃走。

「な……ッ!? あの男、今何を……!!」

「………ッ!! 寅丸さん、ボケッとしないで!!
 貴女の『スタンド』をッ!!」

相方に叫ばれ、敵への追跡手段を可能とする『ハイウェイ・スター』をすぐさま発現する。
空気を血液ごと弾いた男の妙技は警戒するべき脅威だが、こちらへ反撃することもなく逃走。
窮余一策の末が逃げの一手など、笑いを通り越して不可解だ。
こうも迷いなく逃げに転じることが出来るだろうか? そこまで柔い男にも見えなかった。


668 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:19:08 sIAFW9gM0


そういえば。


静葉の脳裏に、ある可能性が生じた。
自分は先程倒した鴉妖怪の生死を確認するのを怠った。
『もし』あの時、鴉がまだ生きていて。
今のジョナサンという男に何らかの手段であのさとり妖怪の居場所を伝えられたとしたなら。
現在自分たちが目下捜索中の彼女の元へと先に辿り着いたなら。

―――なんとしてもあの男よりも先にさとりへと辿り着かなければならない……!


「ハイウェイ・スターッ!! 今の男の『ニオイ』を覚え、追うのですッ!」


背を見せ爆走するジョナサンに星の叫びが叩きつけられる。
確かに男の逃げ方には『迷い』が見られない。きっと何かを目掛けて走っている。
油断していたのは自分たちの方だ。
この会場に居るのは誰も彼も一筋縄ではいかない猛者ばかり。
悠長に会話して、相手に情報を与えていたのは自分たちだった。

「……ですがしかしッ! ハイウェイ・スターの追う速度は時速30km!
 貴方がどんなに速い脚を持とうとも、精々が私のスタンドとは五分五分でしょう!
 常に全力で走り続けられる人間など居ないッ!! すぐにバテて足を止める筈……ッ!」

確かに普通の人間ならハイウェイ・スターとの鬼ごっこをやった所で、すぐに憔悴し捕まるだろう。
しかしジョナサン・ジョースターはそういう意味では普通とは違っていた。
彼は波紋戦士。
波紋の呼吸を操る猛者。
例え100km走っても呼吸を乱さず全開で走る術を持つ。


「……この『足跡』! ブチャラティから聞き及んでいた『スタンド』なる能力の一端かッ!?
 もしもこの足跡が空をあんな身体にした手段なら、絶対に捕まるわけにはいかないッ!
 生憎僕はラグビーの試合では『重機関車』と異名を取った選手ッ! ちょっとやそっとのタックルじゃあ止まらないぞッ!!」


その異名の通り、波紋の呼吸を機関車の排煙のように放出させながら足跡の追跡を振り切る。
まず何より優先なのが『古明地さとりの保護』。彼女はこのB-5のどこかに居るはずだ。
後ろの二人よりも必ず先に見つけ出して護らなければいけない。
そして可能ならそのまま彼女たちを何とか無力化したい。
この自分に出来るだろうか……?
いや、億康や空の無念のためにも。
必ずやり通さなければならないッ!!


ここにジョナサン・ジョースターの、逆転トライへの敗けられない試合が展開する。

両者にとってのゴールラインは、古明地さとり。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


669 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:20:14 sIAFW9gM0
【B-5 魔法の森 北/午前】

【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:腹部に打撲(小)、肋骨損傷(小)、疲労(小)、波紋の呼吸により回復中
[装備]:シーザーの手袋@ジョジョ第2部(右手部分は焼け落ちて使用不能)、ワイングラス@現地調達
[道具]:河童の秘薬(9割消費)@東方茨歌仙、不明支給品0〜1(古明地さとりに支給されたもの。ジョジョ・東方に登場する物品の可能性あり。確認済)、
命蓮寺や香霖堂で回収した食糧品や物資、基本支給品×2(水少量消費)
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:古明地さとりの捜索・保護。
2:レミリア、ブチャラティと再会の約束。
3:レミリアの知り合いを捜す。
4:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
5:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードとタルカスの名が何故記載されている?
 『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なのか?
6:スピードワゴン、ウィル・A・ツェペリ、虹村億泰、三人の仇をとる。
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」のみです。
 コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもしれません。
※幻想郷、異変や妖怪についてより詳しく知りました。
※ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助について大まかに知りました。
 4部の時間軸での人物情報です。それ以外に億泰が情報を話したかは不明です。


670 : Bloody Tears ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:20:41 sIAFW9gM0
【秋静葉@東方風神録】
[状態]:顔の左半分に酷い火傷の痕(視覚などは健在。行動には支障ありません)、精神疲労(小)、霊力消耗(小)、肉体疲労(小)、
覚悟、主催者への恐怖(現在は抑え込んでいる)、エシディシへの恐怖、エシディシの『死の結婚指輪』を心臓付近に埋め込まれる(2日目の正午に毒で死ぬ)
[装備]:猫草(ストレイ・キャット)@ジョジョ第4部、上着の一部が破かれた、服のところが焼け焦げた
[道具]:基本支給品、不明支給品@現実(エシディシのもの、確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:穣子を生き返らせる為に戦う。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。寅丸と共に強くなる。
3:ジョナサンより先にさとりを見つけ、仕留める。
4:エシディシを二日目の正午までに倒し、鼻ピアスの中の解毒剤を奪う。
5:二人の主催者、特に太田順也に恐怖。だけど、あの二人には必ず復讐する。
6:寅丸と二人生き残った場合はその時どうするか考える。おそらく寅丸を殺さなければならない。
[備考]
※参戦時期は少なくともダブルスポイラー以降です。
※猫草で真空を作り、ある程度の『炎系』の攻撃は防げますが、空の操る『核融合』の大きすぎるパワーは防げない可能性があります。


【寅丸星@東方星蓮船】
[状態]:左腕欠損(二の腕まで復元)、精神疲労(小)、肉体疲労(小)
[装備]:スーパースコープ3D(5/6)@東方心綺楼、スタンドDISC『ハイウェイ・スター』
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を護る。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。静葉と共に強くなる。
3:ジョナサンより先にさとりを見つけ、仕留める。
4:誰であろうと聖以外容赦しない。
5:静葉と二人生き残った場合はその時どうするか考える。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※能力の制限の度合いは不明です。
※ハイウェイ・スターは、嗅覚に優れていない者でも出現させることはできます。
 ただし、遠隔操作するためには本体に人並み外れた嗅覚が必要です。

※C-4魔法の森にある霊烏路空の死体の傍に制御棒が置かれています。


671 : ◆qSXL3X4ics :2015/03/20(金) 16:23:48 sIAFW9gM0
これで「Bloody Tears」の投下を終了します。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
感想・ご指摘あればお願いします。


672 : 名無しさん :2015/03/20(金) 17:10:52 gj.rk2cE0
意外ッ!それはゲリラ投下!!

安定の対主催チーム、ここに来て一旦解散と相成りましたか…う〜ん口惜しい。
さらに肝心のお空は既に亡くなって、億泰の遺志を遂げることもできず結果散々、泣きっ面に蜂…
それでも今度はお空から託されたメッセージがジョナサンを突き動かす、というお話。
ジョジョのテーマの一つとも言える『受け継がれる意志』が垣間見えたような気がします、実に乙です

それと『億泰』の名前が>>649-652の間だけ『億康』になっていました、このダボがああぁーーッ!!


673 : 名無しさん :2015/03/21(土) 01:13:11 QVLg0N7A0
投下乙です。
紳士と淑女とギャング、一時解散。しかし作中の二人の会話から、
もう一度巡り合えるだろうという奇妙な安心感があります。
そしてジョナサンとマーダーコンビ。
億泰の遺志、空の死、そこからさらに受け継ぐジョナサン。
対するは少女不相応の凄みを持つ二人。
戦わないという選択肢がジョナサンらしくて良かったです。
素晴らしいお話でした。


674 : ◆.OuhWp0KOo :2015/03/21(土) 02:36:41 fNpZ68xk0
投下乙です。

くそう、俺は何度この書き手に『敗北』を刻みつけられ続ければならない……?

紳士淑女の別れのシーン、
空の残したメッセージを受け取った時と、マーダーコンビと対峙する際のジョナサンの心情、
そしてレミブチャの運命と、人間の強さについて語らうシーン。
どこを取っても、氏の作品は全ての登場人物が『生きて』いる。
ジョジョ原作に出てきそうな具体例の使い方や、感情・情景の使い方が本当に上手であると、感じます。
素晴らしい作品だったと思います。
いつも、こんな私の作品の後に繋いでくれてありがとう。

ファニー・ヴァレンタイン、博麗霊夢、空条承太郎、FFを予約します。


675 : 名無しさん :2015/03/22(日) 11:28:24 l3c9A9eA0
しばらく見ないうちにすばらしい作品が次々と・・・
おお!ディモールトベネ!


676 : 名無しさん :2015/03/23(月) 00:35:55 n1uETLac0
ジョナサンが静葉と会った時の心情描写が印象に残ったな
ジョナサンも復讐者だったんだよな…やり切れない心情がうまく表れてたね
ブチャラティとレミリアの海と灯台の話もすごくディモールト・ベネ!


677 : ◆qSXL3X4ics :2015/03/24(火) 01:55:30 Jn5mHI4A0
皆さん感想ありがとうございます。
◆.OuhWp0KOo氏の作品も毎回ハラハラさせる素晴らしい物ばかりで読む側としても本当に楽しませてもらってますよ。
あと誤字の件ですが確かに>>649-652の間だけ億泰の字が間違ってましたね。
すみません。こちらはwikiに載せた際に修正をしたいと思います。

八意永琳、藤原妹紅の2名を予約します。


678 : ◆.OuhWp0KOo :2015/03/28(土) 01:02:36 .iSYeixg0
>>674の予約を延長します。

やったぜ。>>677


679 : ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 12:56:56 WRa02jHs0
ランチタイム投下します


680 : ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 12:58:10 WRa02jHs0
それは“世界最悪”の男がこの世に落とした一冊のノート。
かつて世界と時間を支配した男が遺した、決して紐解いてはならない“禁忌”(タブー)。
人類不可侵領域であったそのノートは、世に解き放たれる事なく一人の男によって焼失された。


男の名は『空条承太郎』。
多くの代えがたい犠牲を払い、帝王DIOを討ち倒した男。


彼の、いや彼らのディオ・ブランドー討伐という勲章は、世界を救ったという事実に些かの間違いは無い。
それでも彼らの『勇気』を知る者はたった一握りの数なのだろう。
およそ殆どの人類は世界が救われたという事実にすら気付かず、今日を過ごしている。
だが承太郎たちは世界を救うために旅をしてきたわけではないし、ましてや賞賛されたいがために血を流してきたのではない。

母親を救うため。
そして友を助けるため。
そんなシンプルで、ありふれた理由。

かくして承太郎たちは目的を達成することが出来た。
犠牲になってしまった戦友たちは、本当は悔いがあったのだと思う。
それでも死にゆく彼らは最期の瞬間まで、遺志を託して逝った。
彼らの犠牲あって、この世は救われたのだ。

友の遺志を受け継いだ承太郎は思う。
DIOのような邪悪を、二度と生み出してはならない。
力を持つ者とは、その『責任』が問われる。


故に承太郎はエジプトで発見したこのあまりに忌まわしいノートを直ちに焼却した。
倫理的にも、また人として根源的な部分がこのノートの存在を否定せざるをえなかった。
その後、SPW財団内においても存在自体が第三種極秘事項“トップシークレット”扱いとされた異物。
今やノートの内容を知る者は、死んだDIOを除いて空条承太郎ただひとり。

本来ならノートの存在はこのまま誰にも知られることなく、ひっそりと深淵の闇へと沈む筈だった。




―――しかし今、葬られた闇のページが再び捲られる。

―――『月の頭脳』と称された、天才医師の手によって……





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


681 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:00:26 WRa02jHs0



『天国に行く方法があるかもしれない』



―――この手記に度々出て来る『天国』というワード…そして『ディオ・ブランドー』という男……


   パラ…


『必要なものは信頼できる友である』
『彼は欲望をコントロールできる人間でなくてはならない』
『権力欲や名誉欲、金欲、色欲のない人間で、彼は人の法よりも神の法を尊ぶ人間でなくてはならない』
『―――いつかそのような者に、このディオが出会えるだろうか?』
『私の対極とも言える、そんな人物に』
『いや、私は出会わなければならない』
『そのような友と、出会わなければならない』


―――ただの地上人にしては、あまりにも邪悪すぎるわね……。『ブレーキ』のない悪、といった所かしら……


   パラ…    パラ…


『このような記録を残すことは危険でもある……』
『このノートが例えば、かつての宿敵ジョナサン・ジョースターのような者にでも見られたら相当にまずいことになる』
『そういう人物には私の“目的”を知られたくない』
『知れば“彼”は、“彼ら”は、きっとそれを妨げようとするはずだ』


―――なるほど。道理でこのノート、高度な暗号化の施し、それに所々曖昧にぼかされているわけか。
―――全く、解読するこっちの身にもなって欲しいものね。


   パラパラ…     パラ…  パラ……


『だから“天国へ行く方法”をこんな風に記録することは、非常にリスキーだ』
『だがそのリスクを、私は冒さなくてはならない』
『これは私の頭の中だけで、私だけが理解していればいいこと、ではないのだ』
『まだ見ぬ友にその方法を理解してもらうためには、それを文章化し、そして体系化しておく必要がある』
『もしも私がいなくなったとしても―――その方法を実行できるように』


―――永い時間を生きてきて、様々な『ヒト』と触れ合ってきた。
―――その中には鳥肌の立つほどに不快な『悪』も多くいた。
―――でも、このDIOという男はその誰とも『違う』。
―――地上にも、月にだってこんな次元の考えをする者はいなかった。


   パラパラパラ…  パラパラパラ…


『真の勝利者とは“天国”を見た者のことだ』
『どんな犠牲を払っても私はそこへ行く』
『組織や己のスタンドさえ犠牲にしてでも』


―――…………。


   パタン。


―――ふぅ……。



―――なるほどね。面白い男じゃない……ディオ・ブランドー。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


682 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:01:37 WRa02jHs0
『八意永琳』
【午前】D-6 迷いの竹林 永遠亭


まず初めに誤解のないよう言っておくと、私はこのまだ見ぬ男DIOに同調したわけではない。
むしろ軽い『戦慄』を覚えたぐらいだ。私ともあろう者が。


「荒ぶるしか脳に無かった猿(ましら)が、随分な果てへと進化を遂げたものね」


一言だけの軽い感想を終えて、永琳はそっとノートを閉じた。
自身の支給品である『DIOのノート』を手に取り、ここまでの移動ついでに暗号の解読を行ってきた。
ノートの内容は余程見られたくない物だったのか、解読は普通の人間ならば困難を極めるものだろう。
年頃の乙女の日記でも盗み見るような気持ちでページを捲り始めたのだが、蓋を開ければ出て来たのは悪魔も逃げ出す見解の叢り。

―――曰く、『天国』。

本の随所に出て来るこの単語は、余程DIOという男を惹き付けて止まないらしい。
許されざる蛮行に踊るひとつの狂った宗教、と簡単に吐き捨てる事も出来ない。
それほどの魅力が、このノートにはあった。

永琳とて月の賢者と呼ばれた天才。
このノートに触れた時から並々ならぬ存在感が永琳の興味を惹いた。
初めは徒歩での移動ついでの暇潰しにと、暗号の解読に勤しんだ彼女。
最高の頭脳を持つ彼女にとっては、解読にそう長い時間は掛からなかった。
果たして永琳は、ノートという媒体を通してDIOの言葉に耳を傾け始めた。


まず、このノートに記されている事柄はどう控えめに言っても『非人道的』だった。
悪逆非道の限りを尽くした体験記……というのも少し違う。
人類を超越した吸血鬼が自身の目的を書き記した、天国へ向かうための方法。
あまりにも、突飛過ぎて、常軌を逸している。

正直に言おう。
しかし永琳は、その内容を垣間見てあろうことか『奮って』しまった。
DIOの記した文字の、文節の、文章のひとつひとつに釘付けになってしまった。


『天国』 『魂』 『スタンド』 『宇宙』
『未来』 『引力』 『時間』 『世界』
『らせん階段』 『ドロローサへの道』 『特異点』 『天使』


まるで蜜のように甘い言葉の誘惑。
一言で言えば、『カリスマ』。
そんな雰囲気を、言葉の節々から否応にも感じさせる魅力。


故に永琳は戦慄した。


生粋の研究者気質である永琳にとってもDIOの考える『天国へ行く方法』は難解かつ深遠。
それだけに余計彼女の探究心を刺激した。
邪悪の化身と呼ばれるDIOが一体何を考え、何を企み、どう生きたのかを、知らずにはいられなかった。
知りたいと、思ってしまった。


そして、そこで本を閉じた。


683 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:03:08 WRa02jHs0
先述した通り、永琳は決してDIOに同調したわけではない。
面白い男だとは感じても、どれほどの興味が湧き出ても、
この男は紛うことなき『邪悪』だったからだ。

DIOに心酔し、慕う数多の部下と同じ道を辿るほど永琳の良心は欠けてなどいなかった。
どころか、DIOを愚かだとすら思った。


彼は…究極の難題に挑戦しようとしている。
それは千年以上も昔に、主である蓬莱山輝夜が5人の男へと与えた無理難題よりも遥かに多難だった。
だというのに、彼は『執念』とも言える欲深さを以って狂気染みた目的を達成しようとしている。
どこまでも欲望に忠実で、『生』を全うしようとしているその執念は、不死の永琳にとっては素晴らしく映った。
己の呪われた運命に抗うことをやめた永琳と、歩みを止めることなく運命と闘い続けるDIO。
自分と同じで既にヒトをやめた彼は、それでも自分に無いモノを持っている。
そう。DIOは生を『謳歌』しようとしたのだ。
そこだけは、本当に尊敬した。


しかし彼は『孤高』だった。
どこまでも……歪にさえ見えるほどに前向きの彼は、どこまでも自分勝手だった。
ノートを通しておよそ推測されるDIOの性格は『傲慢』『自信家』『理知的』、そして何よりも『負けず嫌い』。
人間の『頂』を飛び越えて、それこそ天国へ届くほどに登り詰めようとした彼は、他の全ての存在を置き去りにしようとした。
誰よりも強い自信と、誰よりも強い力を持った男は。
その素晴らしい力を正しいことに使おうとはしなかった。

そんな“元”人間の彼が究極の高みまで登ろうとしている姿は……月人の永琳から見れば非常に滑稽にも映る。
思えば先刻遭遇したリンゴォも方向性の違いはあれど、ある意味ではDIOと似ていた。
目的のためなら他の何者をも擲ち、終点の見えない高みまで突き進む孤高さ。
リンゴォと同じに、このDIOという男も呪われた信念でも持っているのか。
人間とはどいつもこいつも、これほどに愚かなのか。

どうしてもっと『妥協』できない?
どうしてもっと『自由』に生きれない?
害毒の鎖に縛られた『運命』とやらに、何故そこまで怯える?
短い時間を生きるしかできない種族が、何故そこまで生き急ぐ?


―――所詮はイエローモンキーね。


かくして月の賢者は地上の猿を見下した。

どれほど夜空の月に焦がれ、手を伸ばそうとしても。
その行為は結局の所、水面に映った月を掻き回そうとしているだけだ。
彼らはそれに気付くことも無く、死ぬまでその行為を止めようとはしない、いや出来ないのだろう。
伸ばしたその手が月にまで触れることは無い。
妥協を学べ。
自由を探せ。
それが地上の民の―――人間の生き方だ。
我々月の民が永い永い時間をかけて模索した、賢い生き方なのだ。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


684 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:04:50 WRa02jHs0

さて、とはいえこのDIOという男。
そしてこのノートに記される天国へと行く方法。
非常に危険ではあるし、同時に興味も尽きない。
少なくとも永琳はこのノートを通すことでDIOへの関心が際限なく湧き上がったのは事実だし、それは否定出来ない。
彼の持つ『カリスマ』は間違いなく、本物の輝きだったということだ。
だがしかし、このノートには決定的に足りない項があった。

『天国』とは何なのか。
そこに辿り着いた者は、『何』を見るのか。
肝心要の部分が、このノートには記されていない。

よもや死によって辿り着けるとされる『あの』天国ではないことは流石に承知している。
それはある意味、不死人である永琳が最も見たい景色なのかもしれないが、そうではない。
月の頭脳を持つとされる永琳でも想像だに出来ぬその景色は、彼女の知的探究心を刺激する。
なんなら天国へ向かうその方法、私が成就させちゃおうかしら? などと軽い冗談を吐ける余裕だってある。

もっとも、永琳もこのノート全てに目を通したわけではない。
まだまだ見落としている部分もあるかもしれない。
暇が出来たらまた続きでも読むとしようか。
読みかけの小説に栞を挟むかのような気軽さで、ノートの続きに想いを馳せる。


「さっ。読書タイムも程ほどに、やるべきことは山ほどあるわ」


キィ…と、愛用していた椅子を揺らし、背伸びをしながら立ち上がる。
休日の午後の茶店ならば小説の1冊も読み通せるだろう。
しかしこの場所は血生臭い戦場。もっと言うなら、破壊の跡がすっかり目に付く我が家だ。


685 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:05:36 WRa02jHs0

永琳が自宅の机などで読書に勤しむことになった経緯はこうだった。

時を遡ること半刻。時計の針も9時に到達しようかという時刻。
ウドンゲから電話で聞いてはいたが、この診療所もご他聞に漏れずバトルフィールドの役割として大活躍だったらしい。
魔女の遺体をサンプル蒐集するためにここまで真っ直ぐ足を運んだが、まず来てみてビックリ。
数え切れぬ客を招き入れた愛着すらある玄関扉が、廊下の壁にめり込んでいる。
一体どれほどの怪力者が来客したのか。扉くらい静かに開け閉めして欲しい。

次に応接間からお茶の間に至るまで、あらゆる弾幕痕が流星でも襲来したかのように部屋中を蜂の巣にしていた。
ふすま、障子、天井、床下……あぁ、お気に入りの化粧鏡まで。
…まず間違いなく、ウドンゲの仕業だった。
緊急事態だったとはいえ、これだけ穴だらけの欠陥住宅で冬を過ごすことは難しいだろう。
このゲームが終わったならばウドンゲにはすぐに修理してもらおう。……1日で。


そんなこんなで、気だるい気持ちを抑えながらも永琳は庭先に出た。
…縁側の傍に何本もの鉄の棒が突き刺さり、不気味なオブジェを形作っていた景色には目を瞑った。
事前に聞いていたとおり、庭の隅には確かに何かを埋めたような跡がある。

永琳はアリスという魔女とは会ったことも見たことも無い。
これからやることには少しの引け目は感じるが、別段気の毒とは思わなかった。
しかし永琳も一人の医者であり、血の通った月人だ。
ヤマビコ妖怪の時と同じく、目を瞑り祈りを捧げる。
せめてその魂だけは、安らかに『天国』へと逝け。

思えば職業柄、死体にメスを入れることはあっても、墓荒らしの真似事などとんとやった記憶が無い。
少なくとも永き人生の中で、そのような行為が必要な場面に立ち会ったことは無いと思う。
心の中で一言「ごめんなさいね」と呟き、数十秒間の黙祷を終える。

墓のすぐ傍にはシャベルが放置されたままだった。恐らくウドンゲが使ったものだろう。
体力仕事は慣れたものだ。シャベルを手に取りせっせと土を掘り起こしていく。
弾幕で軽く穴を開けても良かったが、死体にまで穴を開ける可能性を考えるとその案は却下。

こうして永琳は魔女の亡骸と対面した。
死因は失血だろうか。胸部に大きく穴が開いている。
見知らぬ他人とはいえ、このような惨状は見るに耐えない。
デイパックからエニグマの紙を取り出し、前回と同じ様に遺体を紙に収納する。
一枚の紙に遺体を二つも同居させるのもどうなのだろうとは思ったが、とにかくこれで『サンプル』は増えた。


686 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:09:17 WRa02jHs0

掘った土を埋め直すことも無く、次に永琳は屋敷へと上がり、己の仕事場へと足を運んだ。
遺体のサンプル回収も重要だったが、永遠亭での目的は他にもある。


「……どうやらここは比較的被害が少ないみたいね」


立ち並ぶ医療機器や薬品が数多く揃うこの作業場は、戦闘による被害は殆ど無かった。
ここが無事ならばお茶の間の一つや二つ、安いものだ。
とはいえこの場所もどうやら人の手が加えられているらしい。
幾つかの医療道具や薬品が持ち去られていた。ウドンゲか、それ以前に誰かがこの場所へ来たのか。
幸いにも全ての道具が無くなっているわけではなく、ホッとしながらそれらの道具をデイパックに詰めていく。

そしてここへ来た最大の目的が、目の前にある技術の結晶“X線撮影装置”…いわゆる『レントゲン』である。

何に使用するかは今更語ることもない。
参加者全ての生殺与奪を握っているとされる脳内の爆弾、それの解析だ。
被験者は自分。
手馴れた手つきで機械を起動、すぐに撮影の準備に取り掛かった。
ありがたいことに電源は生きている。無駄骨にはならずに済みそうだ。
愛用のナース帽を脱ぎ、早速正面と側面からの写真をパシャリ。結果を待つ。

とはいえ実のところ、永琳は撮影結果にはあまり期待してはいない。
まず、主催は『脳に爆弾を仕掛けた』とは一言たりとも発言していないからだ。

『僕たちは君たちの脳を爆発させる能力がある』

最初の会場では確かに奴らはそう言っていた。
この台詞のニュアンスから考えて、爆弾などという可視的な物質を使用している可能性は低い。
そもそもそんな小型爆弾を参加者の脳内ひとつひとつに設置していくなど、手間も掛かるばかりで非効率だ。
恐らく不可視の存在……所謂『オカルト』『呪い』そして『スタンド』。
そんな常識外れな能力の可能性が高い。その中で更に高い可能性を持つのは『スタンド』か。

それも単純な爆破能力などではない。
奴らはいともたやすく神や蓬莱人を殺してみせると言いのけたのだ。自信たっぷりに。
ここまでの数時間でこの能力に太刀打ちできるほど、流石の月の頭脳でも見通しが立たない。


しかし、だが……何か糸口が。
針穴ほどの光明でもいい。
死中求活のための、足掛かりが欲しい。
ここで自分が光を見出さねば、誰が輝夜たちを守るのだ。

それに少し、釈然としない。
小骨が喉に引っ掛かったような、不快な違和感。
なんだろう。何処かで、何かを見落としている。

ええいしっかりしろ、八意永琳!
私は月の賢者とまで呼ばれた天才だったろう!
なんだ、この違和感は……? 思い出せ……ッ!






ピーーーーー!






何万通りもの可能性の海を模索する永琳を、無機質なレントゲンの音が現実へと引き戻した。
思考を中断され、苛立たしげに席を立った永琳は乱暴に写真を手に取る。



撮影結果は、『異常ナシ』だった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


687 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:10:38 WRa02jHs0

少し、疲れたのかもしれない。
肉体的に、というよりも精神的に。
レントゲン写真については元より期待の範疇外。それほどダメージは無い。
どころか、数ある可能性の一つを潰せただけでも儲けものと捉えよう。

未だ永琳の心を揺す振っているのはウドンゲから聞いた衝撃の事実。
永琳のまさしく与り知らぬ所で、月との交友が良好の関係を進んでいたこと。
それと、ウドンゲそのものとの絶縁も理由に値する。
短い間に色々な事が起こりすぎて、心に少しの平穏が欲しかった。

蓬莱人であろうとも疲弊はする。
そんな疲れを吹き飛ばす意味でも、少し足を休めることにした。
薬品や資料が並ぶ机に腰を下ろし、一息つく。


そう言えばと、永遠亭に至るまでに読み進めておいた『あのノート』でも開くか。
支給品であるDIOのノートを再び手に取り、その異様とも言える内容を頭に入れ始める。
どうも自分は常に脳を使い続けていないと落ち着かない性分らしい。
熱いお茶でもあれば最高だが、それも虫の良い話と諦め、素直に本の虫となる。


―――――

―――




「さっ。読書タイムも程ほどに、やるべきことは山ほどあるわ」


以上が、永琳が永遠亭に到着して半刻足らずの出来事だ。
しかし出来事、と呼べるほどに劇的な何かがあったわけでも無い。
やったことと言えば墓荒らしと、記念撮影と、読書ぐらいだ。
暗雲立ち込める現状を打破する手段も思いつかない。
そんなゆったりとした時間を過ごし、時計は10時を回ろうかという頃合。

つくづく自分が嫌になってくる。
少なくともやることはハッキリしているのだ。
約束の時刻まであと2時間。
その時、伝言を聞いてやって来た輝夜やらてゐやらに、まさか『それでは脱出の策をこれから皆で考えましょう』などと言える訳がない。
彼女たちは恐らく自分に大いなる期待を寄せている筈だろう。

『あの天才ならば』
『永琳ならば何とか脱出の手立てを編み出している筈だわ』

皆の期待の眼差しがありありと想像できる。
彼女たちを裏切らないためにも、この月の賢者が動かないわけにはいかない。

……そもそも、ウドンゲはともかく輝夜たちが今も無事だとは全く限らない。
こんな所で他人の日記などに読み耽っている場合では、ない。考えるまでもなく。
永琳は折角の落ち着いた気持ちを、深い溜息と共に体外へと吐き出した。
げに恐ろしきDIOのカリスマ。ノート1冊で永琳のキャラクター像もあわや崩壊寸前だった。
永遠亭の大黒柱も何たる無様。これではウチのお姫様を笑えない。


688 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:11:44 WRa02jHs0


「……さあさあ! 元気出していこう永琳! 輝夜に呆れられちゃうわ!」


両頬にピシャリと一喝を入れ、心機一転を目指す。
頭に浮かぶは姫と兎たちのニヤけた嘲笑。
そんな日常を少しだけ思い出し、永琳もクスリと口元がニヤけた。
どうやらウドンゲとの電話後の大笑いの時から、頬の筋肉が少し緩んだらしい。

そう。
皆で生きて脱出。
つまりは、それさえ叶えば『幸福』な日常を手にすることが出来る。
それはこのゲームが始まる前の日常よりも、少し違った幸福。
月の恐怖から解き放たれた、ほんの少しだけの『優しい世界』。


戻りたい。
いや。
手に入れたい。

そんなささやかな、優しさを。



希望を胸に、逆転の一手を指すその駒を。
私を誰だと思ってる。
お前たちが駒として召喚し、地を這う蛇だとタカを括り笑っている相手は、月の頭脳だ。
白旗を挙げるには早すぎるだろう。
このままで終わるわけがないだろう。


「―――精々、高みから胡坐掻いて見下していなさい。……でも忘れないで。
    貴方達がそこから天罰を下せるように、この地上から月へと辿る方法なんて、いくらでもある。
    水面に映る月なんて掬わなくても、手を伸ばせば月には届くのよ」


なんなら撃ち落してあげようかしら?
窓から覗く朝空に紛れる、既に見えぬ月影を仰ぎながら永琳は宣戦布告を唱える。

かくして天才は、勝利の酒に酔う想像を誇った笑みで讃えながら、
その一歩を踏み出す――――


689 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:14:41 WRa02jHs0




―――ギィ……ギィ……―――




(………!!)


その時、木の板を踏み締める音が聞こえた。

永琳は静かに、だが飛びつくように耳を床に押し当てた。
外の廊下にひとり。こちらへと近づいてくる。
足取りは軽いようであり、重いようでもある。
フラフラと覇気の無い歩行。警戒しながら歩くような動きではない。
同時に、僅かなる衣擦れの音。
長い着物の裾を引き摺るような、そんな音。
きっと女性だろう。



…………はて。



どうも、聞いたことのある足音のような気がする。
最近、身近で聞いたような足音。可能性はそう多くない。

『長い着物の裾』……!





トクン、と。


心臓が大きく脈打った。

逸る焦燥を、鼓動する左胸を手で押さえつけ、

足音の主が、部屋の入り口で止まった。

スゥー……っと、緩やかに開かれる障子の向こうに居た者は――――





「…………輝夜?」





長い“黒髪”を揺らし、よく知っている“着物”を纏った『彼女』がいた。


690 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:16:00 WRa02jHs0
自身も敬愛する永遠亭の主であり、月の姫君。
『美しい』という言葉でさえ彼女の美を形容するには物足りない。
月の光に咲き出た夜の花。

永遠の姫『蓬莱山輝夜』。



―――その生涯の“友”……『藤原妹紅』の変わり果てた姿がそこに居た。



永琳とて妹紅とは付き合いが長い。
主である輝夜とは正反対の“銀髪”を揺らし、不死鳥の象徴である“焔”を表したような紅いズボン。
奔放で気が強く、意外と面倒見も良い。
輝夜との日課である“殺し合い”も、最近では嬉々として楽しむ節も見られる。

正直に言えば、永琳はそんな妹紅が結構好きだった。
輝夜も妹紅のことが好きだったのだろう。
愛する娘に初めて出来た親友。
永琳が妹紅に抱くのはそんな母性のある、微笑ましい気持ち。


だが、目の前にいる妹紅から感じられるのは、生気の無い抜け殻のような感情。
病を患った精神病患者のそれと似ていた。
瞳の奥には『虚無』。何も映し出されていない。


(―――まるで、『幽鬼』じゃない……。一体、何があったらそんなカオ出来るのよ……妹紅)


絶句した。
あらゆる絶望を孕み、希望も廃れた、そんなカオ。
それに……なんだって輝夜と同じ“黒髪”に染め、輝夜の持つ“火鼠の皮衣”を纏っている?
一瞬、本当に輝夜かと見間違えた。それほどに、似ていた。
姫と同じ容姿で、よりによって私の前に現れて。
一体それは何への当てつけだ。


691 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:16:59 WRa02jHs0


「随分とノーフューチャーな表情してるのね。……『地獄』でも見てきたのかしら?」


あっけらかんと皮肉たらしく言う。
事情は大体にだがリンゴォから既に聞いていた。
その『地獄』にまで妹紅を叩き落したのは他ならぬ彼なのだから。

だから予想は出来ていたのだけど、予想以上だった。
『死の淵』に呑まれたからといって、ヒトはここまで壊れるものだろうか。
それとも、その後にも何か『酷い出来事』を体験したとでも?
真っ白だった髪も漆黒のように黒くなっちゃって……恐怖体験したならば髪は白く抜けるのが常識でしょう。逆じゃない。



―――んて、ない。



目の前の『人形』をどう扱ったものかを思案する永琳の耳に、蚊の鳴くようなか細い声がかろうじて届いた。
思わず聞き流してしまいそうな、まるで気力の無い声が。
故にそれが妹紅の口から発せられたモノだと気付くのに、若干の遅れが生じた。







「――――――『地獄』なんて、無かった。『あそこ』には………何も、なんにも無かった」







黒い火の粉が、舞った。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


692 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:19:16 WRa02jHs0
『藤原妹紅』
【午前】D-6 迷いの竹林 永遠亭前


藤原妹紅は恐怖に肩を震わせていた。
それもそのはず。彼女は放送を聴いていない。
故に禁止エリアが何処に設置されているのか、知る手立てが無い。


(―――死ぬ)


放送が始まり、エリアを二つ通過してきた。
もし今居るこの場所が禁止エリアに指定されていたら……?


(―――死ぬ…)


死んでいた。二度。
二度も、死ぬ可能性を通過してきた。
さながら蜘蛛の糸よりも細い綱渡りを、意味も無く行っている。


(―――死ぬ……!)


支給の地図にはくっきりとエリアが線引きされている。
しかし当然だが現実にはそんな柵など無い。
何処から何処までが次なる区域なのか。正確には分からない。
三歩先に見える地面が、全て地雷原に見えてくる。

運が悪ければ―――そこで、終わり。


(―――死ぬッ! 死んじゃうッ!)


693 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:22:08 WRa02jHs0
嫌だ嫌だ何で私がこんな目に……!
このエリアに入って何分経つ……!?
3分…? 5分…?
10分にも感じるし、1分も経ってない気もする。
もし……もし10分経ってたら、私はすぐにも爆発して! 死んじゃうかもしれない!
嫌だ……! お願い……お願いだから、爆発しないで……ッ!


死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!!!



―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…!
―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…!
―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…!
―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…!
―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…! ―――ハァ…!




――――――――――――ドクン

――――――ドクン

―――ドク

―ン。






心臓の鼓動だけが耳に響く。

歩くのもやめ、座り込みながら耳を塞ぐ。

鬱陶しい鼓動の音だけが、今だけは何よりも救いの音色に聴こえた。

生きている。

自分はまだ、生きている。


694 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:22:52 WRa02jHs0


「―――――――――ハァ…! ハァ…! ハァ…! ハァ…!」


生の実感と共に、ドッと汗が噴き出た。
ガクガクと小刻みに震える身体を、強引に両腕で押さえる。


今回も、生き延びた。





―――――――――く、ふ



「……ふ、っく、はは……っ あは はははははははははははははーーーーーーーーーーーッ!!!」



ねえ、見てる? 芳香!
私、また生きたよッ! ホラ!
あっはは! 嬉しいよ! ほんとに、こんな嬉しいことないよ!
生きてるんだ! なによりそれが嬉しいのよ!
生きてる生きてる! 見てよ! ねえったら!



「ははは……見てよ、お願いだから、さぁ……」


695 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:23:25 WRa02jHs0
もはや正気ではいられなかった。
狂気でいることが、この世界では正しく正常で。
迫り来る恐怖から逃れる唯一の逃げ道なのだ。

こんな事があと何回続く?
一歩を進むごとに死の呪縛から逃げ続けなければならないのか。
これでは精神が保たない。
すぐに壊レテしまう。
でもまだマダ狂ってなんかいない狂ってナンカ。
私ハ狂っていないクルってない来るってクル繰るッテ――――――




「あ……………家だ」




いつの間にか歩き出していた。
どこかで見たような、竹林の屋敷。
誰の家だっけ……? あぁ、そうだ。

輝夜だ。

あいつの家だ。
輝夜……あいつは元気かな。
死んでないかな。

あっ もう殺したんだっけ。私が。

そうだそうだった。焼いたんだ確か。
なんだよ、随分あっさり死んだなぁ。
今までずっと殺し合ってきた日々はなんだったのかしら。

まぁ、死んだんならいっか。
みんな殺さないと、私が死んじゃうしね。


あそこには誰か居るのかしら。
居るなら全部燃やさないと。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


696 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:24:29 WRa02jHs0


「――――――『地獄』なんて、無かった。『あそこ』には………何も、なんにも無かった」


永琳の奴が、可笑しいくらいに的外れなことを口出してきた。
『地獄でも見てきたのかしら』だって……?

見てきたよ。
『虚無』を。

この世界には『地獄』も『天国』も、ありゃしないんだ。
『在』るのは、『無』だけ。
『無』だけが、『在』った。

コイツはなんでそんなことも知らないんだ。
月の賢人として、持て囃されたクセに。

……あぁ、そっか。
コイツも私や輝夜と同じ『蓬莱人』だったわね。
それじゃあ想像も出来ないわよね。『死後の世界』なんて無いということが。
だから私は言ってやった。
『地獄なんて無かった』という、どうしようもない事実だけ。

そして、すぐにコイツにもそれを身を以って教えてやりたくなった。
私と『同じ場所』に連れて行きたくなった。
だって、貴女も私と同じ『呪い』に苦しんでいたんでしょう?
不死という呪縛から逃れようと足掻いてきたんでしょう?
分かるわよ、その気持ち。


―――すぐに、楽にさせてあげるね。……ねぇ、永琳?


697 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:25:05 WRa02jHs0


「……一瞬で終わるよ永琳! 私の時と同じ様にッ! 私の時と同じ様にィィイイイーーーーーーーッ!!!!」


慟哭のように咆えた。
絶望を象徴するような闇を抱えた焔が、飛ぶ。
ほぼ同時に、永琳が舌打ちと共にバックステップでそれを回避した。
情け無用の先制。不意打ち。
死なないためには、相手より先に殺す。
簡単な理屈だ。あの九尾だってそうしたんだから。

右腕に宿ったのは『漆黒の焔』。
何故かいつもの焔とは違うけど、なんだよ出るじゃんか。焔。
どうして九尾の時は出せなかったのさ。
それに輝夜の時は焔はまだ『紅色』だった気がする。


……あれ。
今気付いたけど、私の髪も『黒色』じゃん。
なんでだろう。これじゃあ輝夜とお揃いだ。忌々しい。

でも、そう………遥か昔の事だけども。
人間だった私はまだ、黒い髪を自慢にしてた気がする。
よく手入れして、たくさん伸ばして。
でも、そんな自慢の髪は誰にも褒められなかった。
お■様も、誰ひとりとして。
私は望まれない子だったんだ。
髪が銀に変色したのは、蓬莱の薬を飲んだ後からだっけ。
記憶の奔流に埋もれてしまうぐらい昔。
だからもう、あまり覚えてない。

でも今は、昔のまま。
きっと、蓬莱人ですらない今の私だから髪も昔に戻っちゃったのかな。

……あぁ、『黒』は怖い。
否応にも『あの場所』を想起させる。
そんな私にとって恐怖でしかないその焔の黒色は、でも何故だか希望の灯火にさえ見えてきて。


―――この希望の黒焔で私は、私以外を殺す。



「そして、全部を無かった事にするのよ。芳香も輝夜も、みんな戻ってくるの」



    ―――ピクリ。



その言葉を耳に入れた瞬間、永琳の表情が固まった。
ほんの一瞬だけ彼女の時が止まり―――


空気が豹変した。


698 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:26:17 WRa02jHs0



轟、と。



カマイタチでも起こったかのようなひと薙ぎの風。
思わぬ突風に瞬きしてしまった妹紅の、コンマ1秒の隙。
その致命的な油断の間に、



―――永琳が背後に回りこみ、激しい衝撃と共に床に組み伏せられた。



「あ……ッ!!」

「輝夜が、何ですって……?」


鬼神の如き、有無を言わさぬ迫力の声だった。
さっきまでとは一層違う、氷のように冷たい声。
鞘から解かれた抜き身刀のような殺気が、背中越しからヒシヒシと伝わってくる。


「ぁ、や……ッ! やめて……ッ!! やめ―――!」

「貴女、輝夜に会ったの? 彼女に何をした?」

「こ……殺したのよ! アイツは……私が殺した…ッ! 芳香も死んだッ!
 でも! 全部元通りにするんだッ! 私が優勝して、願いを叶えてもらって……!
 全部『無かったこと』にするのよッ! そうすればみんな生き返るッ! 輝夜も、芳か―――グアァ……ッ!?!?」


押さえつけられた右手に熱い電気が走った。
メスだ。医療道具のメスが突き立てられていた。


―――い…痛い痛いイタイいたい……ッ!!!


「……『死者の蘇生は一人限定』。……最初にそう説明があった筈よ」

「蘇生じゃないッ!!! 全部元通りにするだけ……ッ! じ、時間の逆行よッ!!」

「主催からそう説明があったのは、『忠告』のため。
 『そんな都合の良い話があるわけが無いだろう』という、貴女みたいな愚者へと忠告するためにそう言った」


699 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:27:03 WRa02jHs0


    ザクリ。


今度は左手に電気が走った。
両手共に、まるで磔のようにメスを突き立てられた。
どれだけ力を込めても、コイツの腕は全く振りほどけない。
まるで鬼だ。

『死』よりも『虚無』よりも、今は何よりこの女が恐ろしい。


―――嫌だ(怖い!)助けて(痛い!)殺される(死にたくない!)悪魔だコイツ(殺さなきゃ!)身体が動かない(どうする!)


 殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
(殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)


「やめろォォオオオヲヲヲヲーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!」


背後を取られ拘束され、挙句に磔にされた妹紅に残された術など、内包する妖力をしこたまに放出するしかなかった。
背中から燃え上がる黒焔を幾千もの針のように噴出し、圧し掛かっていた永琳ごと包み込む。

「………ッ!!!」

寸前、エネルギーの集束を察知した永琳は飛び退って離れた。
妹紅の背から燃え上がった鋭い黒焔はそのまま天井を突き破り、一瞬にして炭化させる。
咄嗟の判断が無ければ永琳の身体も燃える針山に貫かれ、黒焦げにされていただろう。

「う、ァ………ハァ…ッ! ハァッ…! く、そぉ……ッ!」

一方、瞬間的にとはいえ一気に力を使用した妹紅は疲弊を免れない。
両手に刺さったメスは焼かれて炭と化し、床への拘束はひとまず脱した。
炎を無効化する『火鼠の皮衣』を着ていたことも幸運だ。
これが無かったら恐らく、自らの炎に焼かれて悶え苦しんで死んでいたのかもしれない。

不死だった時代の、自虐的な性格が私の枷になっている。
もっと、自分の身体を大切にしろよ!
この世界では……死んだら終わりなんだぞ!

心中でそう叱咤した妹紅が立ち上がると、永琳の姿が見えなかった。
いかな永琳でも今の妹紅に迂闊に近寄り、火達磨になるのは御免だと判断したか。
ここは屋内。隠れる場所も多い。


700 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:27:55 WRa02jHs0


「えーりん……? 痛いじゃないのよぉ……。どこに隠れたの?
 かぐやの所まで送ってやるからさぁ……出てきてよォー……!」


嘘だ。
輝夜の所なんて、無い。
死んで逝き付く場所なんて無いんだ。
死んじゃったら、全部無くなっちゃうんだよ。
魂も、想いも、信念も、ぜーんぶ。
だから人は生き返らない。魂は戻ってきたりはしない。
だから私は時間を廻す。全てを無かったことにする。
あのリンゴォもやっていた。短い時間とはいえ、時間逆行は可能なんだ。
私は皆のためにやってるのに。
皆が幸せに笑えるためにこんなに頑張ってるのに。
それを。
それをそれを。
それをそれをそれをそれをそれをそれをそれをそれをそれをそれをそれをそれをそれをそれを――――――!



「なんでお前は邪魔をするんだアアアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」



怒りが湧き上がってきた。
こんなにも私は独りぼっちで頑張っているのに。
永琳の奴は簡単に否定するんだから。
偉そうに威張り散らして、御高説垂れて、何様だ。

燃やしてやる。
お前という肉体も、魂も、笑みも匂いも誇りも目の前から全部燃やしてやるッ!!


ラストワード―――『フェニックス再誕』


背から生える両の翼は黒の焔から成り、
その姿は不死鳥というよりも、もはや猛り狂う怪鳥の如し。

敵の姿が見えないのなら、目の前の光景全てを焼け野原に変えてしまえばいい。
制御なんてしなくていい。
この敵さえ消してしまえば、一時の平穏が得られる。

―――死ななくて、済むッ!!


701 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:31:48 WRa02jHs0







『ウドンゲ、いるわね? 私よ。永琳よ』





(――――――……ッ!?)


背後から奴の声がした。
ありえない。いつの間に背後まで隠れた。

弾幕を繰り出すその刹那、私は背後の声に誘き寄せられ、つい振り返ってしまった。



そこには1台の……見たことも無い小型機器が落ちていた。



声の主は、それだった。


(―――しまっ)


謀られた……!
悟り、すぐに振り向くも、遅かった。
電光石火の如く影が走り、それは一瞬にして妹紅の傍まで跳んだ。


ピシリ、と。


意識に亀裂が入った。
唐突に暗くなる景色。
瞼が意思に関係なく落ちていく。

堕ちて――――――







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――■■■■■。










「『三界の狂人は狂せることを知らず。四生の盲者は盲なることを識らず。
 生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く。死に死に死に死んで死の終りに冥し』。
 ……貴女は、自分が狂人だという事にすら気付いていない。
 真実を見抜く眼を持ち合わせない者は、己が何ひとつ見えていない事すら知らない。
 貴女もそんな『生』と『死』の輪廻に、いい加減に飲まれてしまいなさい。

 ……もう疲れたでしょう」



最後に届いた囁きは、底冷えた否定。
永琳の言葉を意識の奥で咀嚼しながら。



私の意識は、再び旅立った。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


702 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:33:40 WRa02jHs0


「ふぅ……。何とか成功したわね。念のためあの時の会話を『録音』しておいて良かったわ」


妹紅を行動不能にした永琳は小さく独り言を漏らし、床に落ちた携帯電話を拾った。
妹紅の『黒翼』を見た彼女は即座に『ヤバイ』と判断。
物陰に隠れながら支給品の携帯電話を弄り、それを気付かれぬように床を滑らせ妹紅の背後に設置した。

『会話録音機能』。
永琳の携帯電話には事前に掛けた相手との通話を録音する機能が備わっている。
ウドンゲとの通話を予め録音しておき、その会話を再生して聴かせた。
簡単な陽動だ。まんまと隙を生み出せた。

「……この幻想郷において、死後の世界の存在を考えることほど無駄な時間も無いというのにね」

もっとも、このゲームではその限りではないのかもしれない。
死んだ後に逝く場所など、死んだ者にしか分からない。
蓬莱人ならばなおさらのこと。

永琳は床に突っ伏した妹紅を軽蔑するかのように見下す。
彼女が先に放った言葉。


『こ……殺したのよ! アイツは……私が殺した…ッ!』


輝夜が、既に殺されている……? 妹紅の手によって……?

……戯言だ。
そう容易く否定できるほどの根拠は持ち合わせていなかった。
だが、輝夜の力は強大だ。永琳ほどとはいかなくても、限りなく強大。
狂い堕ちた妹紅にやられてしまうほど弱くない。

妹紅の言葉を否定出来得る根拠があるとするならば、それは自分と輝夜との『信頼』の他ない。

とはいえ、妹紅が輝夜を襲ったことは事実だろう。
永琳は、だから怒った。キレたと言っても良い。
心の底から殺してやりたいと思った。
知った仲など関係なく、完膚なきまで蹂躙してやりたいと思った。

だが、輝夜の悲しい表情が脳裏に一瞬浮かんだのだ。
永琳の冷たい心の奥に残った良心が、その行為を踏み留めた。


―――だから、薬を使って一時的に仮死状態にせしめた。


703 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:37:19 WRa02jHs0

永琳とて月人きっての天才医師であり、ここはそんな医師の診療所。
『あらゆる薬を作る程度の能力』を持つ永琳にとって、人間を仮死状態に落とす薬品の調合はそう困難ではない。
妹紅の隙を突き、薬品を染み込ませたハンカチを嗅がせて意識を落とした。

こうして取り敢えずの窮地は脱したが、さて。
『彼女』をどうするか?
このまま放置するのは却下だ。
無難に『サンプル』として持ち運ぼうかと考えたが、あくまで仮死状態であり『死体』ではないのでエニグマの紙には収納出来そうにない。




…………ん?




いや、待て。
仮死状態だから紙には入らない……?


頭の中で作成途中だったパズルの、新たなピースが見つかった。
数万のピースの山に埋もれていた、ひとつの欠片。
そんな、光明を見出す感覚。


このエニグマの紙には、基本的には生物をこちらの意思で入れる事は出来ない。
それが出来るのは、元より主催側の裁定から『許可』されている支給品扱いの生物のみ。
『生きている者』は紙から弾かれ、
『物や死体』は紙に許可される。

紙――もとい、主催から。

今。
床で寝転がっている妹紅は、一時的にとはいえ『死体』だ。
『仮死状態』……呼吸や心肺が停止し、一旦は命が無いとされる状態をいう。
今……妹紅は間違いなく『死んでいる』。
自然蘇生するまでに数時間は掛かる見通しだが、『気を失っている』とか『意識が無い』とかではなく、確かに死んでいる状態なのだ。
自分の調合した薬だ。絶対の自信はある。


エニグマの紙を広げ、ゆっくりと妹紅の傍まで近寄る。
額の汗が鬱陶しい。汗を拭いてくれる助手は、もう居ない。

問題は……主催の『裁定』に引っ掛かるかどうか。これは賭けだ。


そっと、妹紅の身体に広げた紙を被せた。


704 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:40:15 WRa02jHs0










――――――紙に、入ってしまった。


驚くぐらい、あっさりと。






最後のピースが、唐突にはまった。
ずっと違和感を覚えていた部分があった。

それは初めに配られた『ゲームルールメモ』の【禁止エリア】についての項。


―――脳の爆発以外の要因で死亡した場合、以降爆発することはない。誘爆もなし。


これだ。
言葉の意味は、読んだ通りなのだろう。
だがよくよく考えてみれば、この説明の必要性が感じられない。

脳の爆破にON・OFFの概念があると仮定して、
禁止エリアに侵入後10分で自動的にスイッチは当然だがONとなる。
他にも参加者が主催たちの不利益になる行動を起こした時、あの秋の神のように手動でもONに切り替えられる。
たった今エニグマの紙に吸い込まれた妹紅は、紙から――言い換えれば主催からは『死亡』状態にあると裁定を受けた。
死亡……つまりはスイッチがOFFから動かない状態とも言える。

主催たちが参加者の動向を何処まで把握しているかはわからない(十中八九、居場所ぐらいは知られているだろうが)。
盗聴器の可能性は無い。レントゲン写真にはそんな物仕掛けられていなかった。


監視カメラはどうだ?
……それも考えにくい。
このだだっ広い会場全てに満遍なく、死角のひとつも作らずにカメラを設置するなど到底不可能だ。
例えば、まさしく神の様に天上からこちらを見通していたならば、お手上げだ。成す術が無い。

しかし、もしかしたら主催は案外参加者の動きを知らないのではないか?
把握できるのは精々、参加者の『生死』と『現在位置』程度の可能性もある。


またはもうひとつの可能性として、参加者の誰かに偵察・報告の役割を担う『スパイ』をこっそりと潜ませている可能性だ。
第三者から聞き及んだ情報を眺め、客観的にショーを楽しむ。
奴らの考えそうなことだ。少なくとも自分ならば、そういった存在の一人二人を送り込むだろう。

ゲーム参加者の殆どの人物像を知らない永琳では、疑わしいスパイの存在を絞りきれない。

……だが、あらゆる可能性を模索しても、現状そういった『ジョーカー』の役を持たせるならば―――


705 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:42:08 WRa02jHs0


「―――姫海棠はたて、かしら。一番可能性が高いのは」


天才が導き出した結論は、ジョーカーは彼女だという可能性。
確証は無いが、実際彼女は『花果子念報メールマガジン』などという低俗な記事を既に各方面に送り回っている。

新聞という媒体を通し、会場の様子をエンターテイメントとして発表している可能性もゼロでは無い。
主催と何らかの繋がりを持っていても、不思議はないのだ。
可能性は……精々5%未満といった所だが。

幸いというべきか、永琳の持つ携帯電話にもはたてのアドレスは登録されている。
接触しようと思えば出来るのだ。
だがリスクもある。
こちらの行動がはたてを通して主催へと伝わることも充分あり得る。
永琳としてはなるべく隠密を通したい。
はたてへの接触に関しては、こちらの『実験』の後ででも遅くはないだろう。


思考が横道に逸れたが、つまりは永琳のこれから行う『実験』が主催に把握される可能性は高くは無い、ということだ。


実験とは、まず禁止エリアに赴き保存しておいた『死体』をひとつ置き捨てる。
この時、同時に仮死状態である妹紅の身体も並べる。
当然自分はすぐにそこから離れ、10分経った後にまた戻ってくる。

『脳の爆発以外の要因で死亡した場合、以降爆発することはない。誘爆もなし』
ルールのこの文章を信じるなら、少なくとも死体の方の頭部は無事だろう。爆破スイッチは二度とONには上がらない。


これはつまり、爆弾が『解除』されているという事だ。


じゃあ、一方の妹紅はどうだろうか?
現在の妹紅は紙に入っている。仮初ではあるが死亡状態だ。

ならば仮説が正しければ、死体と同じに妹紅の頭部も無事な筈……!

とはいえその後、妹紅が仮死から復活した場合はどうなるか。
ルールには『死亡した場合、以降爆発しない』とは記されているが、例外もあるだろう。
主催が参加者の生死を把握している以上、すぐにも復活に気付かれる。
運が悪ければすぐにも禁じ手を行った『罰』が下されるかもしれない。

しかし、それはそれでいい。
そうなった場合でも、罰が下されるのは『妹紅』のみの可能性が高い。
この実験に関わったのが八意永琳だということは、直接現場を見られてない限りは主催側からは知り得ないだろう。
実験結果は確実に得られるということだ。

しかし主催に知られたもしもの場合の事も考えておかなくては。
永琳はメモ用紙を机から取り出し、自身の考え、実験過程や結果を書き記しておくことにした。
例え自分が消されたとしても、他の勇気ある誰かが輝夜たちを守り通してくれるように。
そんな希望を願いながら、スラスラとメモを取る。


706 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:43:32 WRa02jHs0




「さてと。……10時前か。あまり時間は残っていないわね」


キィ…と、愛用の椅子を再び揺らし、背伸びをする。
永琳は頭の中でもう一度、これからの実験のシミュレートを開始した。

B-4またはF-5へと赴き、サンプル死体と妹紅の身体を一つずつ放置した後、すぐにエリア外へ避難。
10分経って様子を確認し、サンプル達を回収。
妹紅の頭部が無事ならば、それは主催に『死んでいる』ものと判断されたということだ。
そして正午に待ち合わせてある輝夜やてゐと会うため、レストラン・トラサルディーで待機。

……本来ならすぐにでも実験など放り出して輝夜を探しに行きたい。
輝夜の強さは理解しているが、妹紅に襲われたらしい彼女が完全に無事だとも思えない。
だが、自分にはやるべきことがある。
輝夜への信頼を自ら否定して、成すべき事も成さないのは愚か者のやることだ。
信じよう。輝夜の無事を。

そしてレストラン・トラサルディーで放送を迎えた後。肝心なのはここからだ。
正午をまわっても妹紅の肉体はまだ復活しない。そんな風に『殺した』のだから。
絶対に聞き逃せないのは放送の『死亡者の発表』だ。
もしも妹紅の頭部が無事で、実験が限りなく良好を辿っていたならば、放送では『藤原妹紅』の名が呼ばれるだろう。

ここで初めて実験を『成功』とする。
主催を騙し通せたという確かな『結果』が欲しい。

その後、妹紅は復活し、主催も妹紅の復活を察するだろう(察することが出来なければそれはそれで大成功だ)。
それはいい。妹紅はどうとでもなる。

この実験で知りたいのは『主催が参加者の生と死をどこで区切っているのか』だ。

肉体の仮死状態を主催が『死亡』と捉えるのならば。
例えばだが、『仮死状態のまま動き回る術』があれば、事実上の脳内爆弾は解除となる。爆破スイッチは二度とONには上がらない。

しかしひと口に『仮死状態のまま動き回る』と言っても、それはつまり脳が死んだ状態で肉体を動かすということ。

死んだ人間の肉体に脳を移植するというのはどうだ……?
自分なら可能だが……手術に時間が掛かりすぎる上に100%成功の策ではない。

人形に魂を憑依させるわけでもない。そう簡単には………………


707 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:44:29 WRa02jHs0


「…………『魂』?」


ふと、思い浮かんだ説。

死んだ人間に生きた人間の魂を入れ込む。

死体は『入れ物』として扱い、その肉体を自由に操る。
前述した『ルール』により、その肉体は主催によって爆破されることはないだろう。
なんにせよ参加者の死体はあの主催にとっての『ルール外』。捨てた駒だ。


―――その捨てた駒を利用すれば、主催を騙し抜ける……!


問題は『魂を抜き取る方法』。
それも生きた人間の魂を別の死体に入れ込むというのだ。
そんな都合の良い手段が―――



「―――あるかも」



ここに来て永琳の記憶に先ほど読んだ『DIOのノート』が蘇った。
『魂』を抜き取り『集める』。
天国へ行く方法とやらにも多少の興味はあるが、間違いなくDIOという男は魂を取り出す方法を知っている……!

試してみる価値は充分にある。
勿論リスクは存分に高い。
だが、ここで動かずして何が月の賢者か。


―――禁止エリアでの実験。

―――仲間との再会。

―――はたてへの接触。

―――そしてDIOへの接触。


目眩がするほどに茨の道だが、もうやるしかない。
腹は括った。
後は……『運』を味方につけられるか。
私にその資格があるか。


かつて無いほどに、永琳は燃えた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


708 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:45:33 WRa02jHs0
【D-6 迷いの竹林 永遠亭/午前】

【八意永琳@東方永夜抄】
[状態]:精神的疲労(小)、体力消費(小)、霊力消費(小)
[装備]:ミスタの拳銃(6/6)@ジョジョ第5部、携帯電話
[道具]:ミスタの拳銃予備弾薬(15発)、DIOのノート@ジョジョ第6部、永琳のアブナイ薬@現地調達、永琳の実験メモ@現地調達、幽谷響子とアリス・マーガトロイドの死体、
    仮死状態の藤原妹紅、永遠亭で回収した医療道具、基本支給品、基本支給品(芳香の物、食料残り3分の2)、妹紅と芳香の写真、カメラの予備フィルム5パック
[思考・状況]
基本行動方針:輝夜、ウドンゲ、てゐと一応自分自身の生還と、主催の能力の奪取。
       他参加者の生命やゲームの早期破壊は優先しない。
       表面上は穏健な対主催を装う。
1:爆弾解除実験。まずはB-4かF-5の禁止エリアへ。
2:輝夜、てゐと一応ジョセフ、リサリサ捜索。
3:しばらく経ったら、ウドンゲに謝る。
4:基本方針に支障が無い範囲でシュトロハイムに協力する。
5:柱の男や未知の能力、特にスタンドを警戒。八雲紫、八雲藍、橙に警戒。
6:情報収集、およびアイテム収集をする。
7:第二回放送直前になったらレストラン・トラサルディーに移動。ただしあまり期待はしない。
8:リンゴォへの嫌悪感。
[備考]
※参戦時期は永夜異変中、自機組対面前です。
※ジョセフ・ジョースター、シーザー・A・ツェペリ、リサリサ、スピードワゴン、柱の男達の情報を得ました。
※『現在の』幻想郷の仕組みについて、鈴仙から大まかな説明を受けました。鈴仙との時間軸のズレを把握しました。
※制限は掛けられていますが、その度合いは不明です。
※『広瀬康一の家』の電話番号を知りました。
※DIOのノートにより、DIOの人柄、目的、能力などを大まかに知りました。現在読み進めている途中です。

○永琳の実験メモ
 禁止エリアに赴き、実験動物(モルモット)を放置。
 →その後、モルモットは回収。レストラン・トラサルディーへ向かう。
 →放送を迎えた後、その内容に応じてその後の対応を考える。
 →仲間と今後の行動を話し合い、問題が出たらその都度、適応に処理していく。
 →はたてへの連絡。主催者と通じているかどうかを何とか聞き出す。
 →主催が参加者の動向を見張る方法を見極めても見極めなくても、それに応じてこちらも細心の注意を払いながら行動。
 →『魂を取り出す方法』の調査(DIOへと接触?)
 →爆弾の無効化


709 : Second Heaven ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:46:41 WRa02jHs0
【藤原妹紅@東方永夜抄】
[状態]:発狂、体力消費(中)、霊力消費(大)、両手の甲に刺し傷、黒髪黒焔、仮死(inエニグマの紙)、再生中
[装備]:火鼠の皮衣、インスタントカメラ(フィルム残り8枚)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:生きる。
1:みんな殺す。
2:優勝して全部なかったことにする。
3:―――仮死状態―――
[備考]
※参戦時期は永夜抄以降(神霊廟終了時点)です。
※風神録以降のキャラと面識があるかは不明ですが、少なくとも名前程度なら知っているかもしれません。
※死に関わる物(エシディシ、リンゴォ、死体、殺意等など)を認識すると、死への恐怖がフラッシュバックするかもしれません。
※放送内容が殆ど頭に入っておりません。
※発狂したことによって恐怖が和らぎ、妖術が使用可能です。
※芳香の死を確信しています。
※輝夜を殺したと思っています。
※現在黒髪で、炎の色が黒くなっている状態です。彼女の能力に影響があるかは不明です。
※現在仮死状態です。少なくとも正午を過ぎるまで目覚めませんが、外的要因があれば唐突に復活するかもしれません。


○支給品紹介

<DIOのノート@ジョジョ第6部>
八意永琳に支給。
かつて空条承太郎の手によって焼き捨てられ、プッチ神父が切望したDIOのノート。
世界の深淵でDIOが探し求めた『天国へ行く方法』が記されている。
用心深いDIOはノートの所々を高度に暗号化、曖昧にぼかしている。

<永琳のアブナイ薬@現地調達>
天才医師・八意永琳が自信を持って調合した、人を一時的に仮死状態にする薬。
テトロドトキシン(フグ毒)などをふんだんに使用し、天才的な比率でギリギリ死なないような調合が施してある。
貴重な薬で量は控えめ。無駄遣いは出来ない。
なお、この薬が誕生するまでに、可愛い助手の必死な悲鳴が夜な夜な聞こえてきた経緯があったことは言うまでも無い。

<永琳の実験メモ@現地調達>
永琳が自身の実験過程を書き起こしたメモ。
自分がいつ死んでも、他者に希望を遺すための大切な記録。
主催への反抗を露骨に表したものなので、信用する者にしか見せない。


710 : ◆qSXL3X4ics :2015/03/28(土) 13:51:24 WRa02jHs0
これで「Second Heaven」の投下を終わります。

いわゆる首輪解除への取っ掛かりですが、これ系の話は初めて書いたので、
「ここおかしいよん」みたいな矛盾があったら遠慮なく指摘してください。

ここまで見て下さってどうもありがとうございました。


711 : 名無しさん :2015/03/28(土) 21:47:48 tLPVJYSs0
投下乙です
永琳にDIOノート……聡い人に持たせると、後々何かしらの影響を及ぼしそうですね。
そして妹紅。最早板についてきたその悲惨さ。
爆弾解除の足がかりとして大きく前進しましたが、果たして妹紅に救いはあるのか。
面白かったです。


712 : 名無しさん :2015/03/29(日) 22:05:45 JsBDecNs0
燃え尽きたよ…真っ黒にな…(仮死)

宿敵を火だるま(瀕死)に自身はイメチェンを果たした妹紅だったけど、流石に相手が悪かったか
しかし、えーりんは毎度他を寄せ付けない強さで圧倒するねぇ、見てて安心感あるというかなんというか
冷徹な一面も覗かせる彼女だけど、それはやっぱりウドンゲから知り得た希望への歩みの裏返しでもあるしなぁ
けれども彼女の周りの翳りが見え始め、それに直面した時に希望を投げ出さずにいてくれるかどうか
行く先を見守っていきたいですね


713 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/01(水) 02:49:59 GuOOF4VU0
ジョセフ・ジョースター、橙、因幡てゐ、ルドル・フォン・シュトロハイム
以上4名予約しますぬん


714 : 名無しさん :2015/04/01(水) 07:34:05 Lmt.aCZE0
予約のペースが早過ぎる…!
これは、時が加速しているのか…!?
それとも今日の日付……まさか!


715 : 名無しさん :2015/04/01(水) 23:35:57 L9RBAX1M0
ああ、そのまさかだ……


716 : ◆.OuhWp0KOo :2015/04/04(土) 22:41:04 yl1W3l2Q0
>>674
予約を一旦破棄します。すみません


717 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 16:50:45 0T3yJDGw0
投下します


718 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 16:52:35 0T3yJDGw0


因幡てゐの人生観は、その永い妖生涯の黎明の頃より『自由に生きる』というものであった。


常に健康に気遣って生きてきた故の冥利か。
ある時、彼女は自分が気付いた時には既に妖怪兎として自覚し始めた。
それからの彼女の人生はというと、しばらくは大きく変わった事もなく、昨日と同じように生を謳歌するだけの毎日を送る。

食べるという行為が好きだった。
好き嫌いは多く我儘の彼女ではあったが、自身を長生きさせてくれる毎日の食事に感謝する礼節は忘れたことがない。

話すという行為が好きだった。
彼女が妖怪に転じて最も有難みを感じた能力は、仲間の兎以外の生き物とも会話を楽しめたことである。

歩くという行為が好きだった。
妖怪と化してグンと伸びた行動範囲は、様々な地方に赴きその土地を物見遊山するのに大きく役立った。

眠るという行為が好きだった。
明日へと憂鬱を残すことなく、流れる雲の様子を見ながら夢の世界へと飛び込むのはとても幸福なことだ。

もはや四季の移り変わりを数えるのも億劫になるほど永く生きた人生。
勿論トラブルや苦労も少なくはなかったけども、持ち前の狡賢さと幸運でその全てを乗り越えてきた。

自分が自分たる由縁とは『何物にも縛られず』、『常に楽しく自由に生きよう』という信念の下に存在する。
時には笑いながら人々へと悪戯を仕掛け、無意義な自己満足心を満腹にしてきた。
偶にやり過ぎて手痛いしっぺ返しを体験することもあるけども、反省の心など一晩経てば綺麗さっぱり霧消した。
『ストレス』は自分の人生には似合わない物だ。
健康の大敵にもなるそれを、てゐはなるべくのこと回避しながら生きる毎日を過ごす。
彼女の喜怒哀楽が激しいのは、そんなストレスを放出するためなのかもしれない。

おかげでこれまでの人生…因幡てゐはとてもハッピーに過ごしてきた。
そんな彼女の生き方は傍から見れば、不誠実、怪しからぬと非難を浴びるものではあったが、そんな声などなんのその。
自由に生きる彼女を止められる者など、この世にもあの世にもありえないしあってはならない。
地獄の最高裁定者である四季映姫ですら、因幡てゐの本質を正すことは出来なかったのだから。

自分がやりたいことは何をやったって気持ちが良い。
自分のやりたくないことからは全力で逃げる。

そんな『自由さ』こそがてゐの心にいつだって平穏をもたらしてきた。


―――『人にはそれぞれ定まった運命がある』と誰かが言った。
自分の自由な人生が誰かに敷かれたものだとはてゐは認めない。
ましてそれが明瞭不明の『運命』などという曖昧な概念によって決められているものだなんて。
自由を愛すてゐが、自由とは対極に位置するようなこの言葉を認めることは主義に反する。
だが、数え切れない齢を重ねたてゐもこの歳になってようやく噛み締めはじめることがある。

人は遅かれ早かれ、誰しもが足踏みをしたり遠回りをするもの。
しかし結局は自分の『向かうべき道を歩んでいくものだ』という事を。


ここに来ててゐは自分の運命についてようやく、嫌々ながらも、全く気は進まないが、正面から向き合うことを考え始めた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


719 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 16:54:23 0T3yJDGw0
『因幡てゐ』
【朝】E-4 人間の里 虹村億泰の家前


さて、あの根暗メガネが意気揚々と出て行ってすぐ。
私はというと橙を引き連れて外に出た。
特に目的なんかありゃしないけど、何となくだ。外の空気が吸いたくなった。

「て〜ゐ〜…。ジョセフお兄さんを置いて何処に行くのさ〜」

うっさいな。別に、そこまでだよ、そこまで。
そんな棘のある言葉で返そうとしたけど、振り向くのも面倒なのでイライラオーラを振り撒くことで返答した。

どうもさっきから私らしくない。
ストレスを溜め込むなんて健康にも良くないし、いつもみたいに悪戯で発散することも出来ない。橙に当たり散らすのも惨めだ。
イライラの捌け口として一番適している霖之助というサンドバッグもさっさと死地へ向かった。奴はどうやら自宅を死に場所に選んだらしい。
こうして私は感情の槌を何処に振り下ろすか決めるべく、あてなくフラフラしているという訳だ。


「……橙はさぁ、これからどうするわけ?」

「私は……ジョセフお兄さんに付いて行きたい。藍様を元の優しかった藍様に戻したい…!」


かァ〜〜! これだよ。
ジョセフに付いて行くってことの意味分かって言ってんの?
アイツは起きたらすぐにでもアンタの大好きな藍しゃまの所に殴り込むつもりだよ?
霖之助の九尾説得大作戦とやらが大失敗に終わる結果なんて目に見えてる。
まず! 確実に! 九割九分九厘! 戦いになる!
ジョセフならともかく、おチビちゃんの橙が付いて行って何の助けになるって言うのさ。
猫の手にもならないでしょ。猫のクセして。

そして私がそれに付いて行ったところで、兎の手にもならない。猫と同等だ。
ジョセフがあの凶悪九尾と戦う? それはそれは結構なことだ。
なんたって怖い危険人物を減らしてくれようってんだ。大賛成だよ。
私に出来る限りの事もやってやるさ。持てる幸運の全てをジョセフにくれてやっても良い。
どーせ幸運なんて物はその辺に転がってる小石みたいなもんだ。私には別段貴重なモンでもない。


720 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 16:56:10 0T3yJDGw0


「………おっ。『三つ葉のクローバー』じゃん。私にしては珍しい」


歩いていると道端に三つ葉のクローバーを発見した。
私からすりゃ四葉なんかよりも全然珍しいな、もはや。

「てゐ? どうするのそれ?」

「んー? 何知らないの? 三つ葉のクローバーだって『幸運』を象徴するんだよ。他にも『希望』とかね」

全く最近の若い奴らは幸運のアイテムといえばやれ四葉四葉だとかすぐはしゃぎだす。
ちょっと目を凝らしてみれば三つ葉も四葉も大して変わんない『吉』を秘めてるって分かんないかなあ。

ま。丁度いいな。
あのジョセフの今日のラッキーアイテムは『三つ葉のクローバー』。
私がそう決めたからそうなんだ。後でアイツのポケットにでも突っ込んどくか。
因みにラッキーカラーは『ホワイト』で、アンラッキーカラーは『レッド』。兎印のお墨付き鑑定だ。
必勝祈願に大根でも差し入れしてやるか。台所にあったらだけど。

……そんなわけで、私はこうして柵の外からアイツを応援するくらいしか出来ない。
っていうか当たり前だろ。私は戦いは基本専門外。幸運分けてあげるだけ頑張ってる方だ。
それでジョセフが負けたり死んだのならもう知らない。
私がそれ以上この因縁に介入する余地なんかありゃしないんだから。


「てゐー。そろそろ帰らないとジョセフお兄さんが……」

「あーーハイハイ分かってますよっと。モドレバイーンデショー モドレバー」


橙が不満げに催促してくるのでクローバー片手にUターン。
こうして私の意味も無い現実逃避タイムは終了。
もう後は野となれ山となれだ。出来るだけはやりました。
私はせめて、勝利の報告ぐらいなら待っててやってもいい。


……いやいや、私は行かないからな?
確かに霖之助の馬鹿たれやジョセフの戦いっぷりを見てちょっとは、ちょーーっとは刺激されたよ?
うん、白状するよしてやるよ。私は刺激されたんでしょーよアイツらに。
何を刺激されたって? 知るか。
兎に角、私の心の奥の、今はもう忘れてしまった『何か』がちょっとだけ蘇った気がするんだ。
もしかしたらアイツらなら(いや霖之助は無いな)このサイテーな異変をどうにかこうにか解決できるかもって思ってしまったんだ。
しまいには橙ですら一緒になってやる気が出てるときてる。

で? 私はといえばどうなのさ。
おうちでご飯作って勇者を待つお母さんの係だ。自分でもちょっぴり情けない。
精々の痩せた粋がりとして自分の能力をジョセフに使ってやってるけど、それだけだ。
ハッキリ言って怖い! 行きたくないんです! 悪い!?

多少は、ほんの少しだけはこの自分も頑張ってみようかな?とは思ったりもしてるよ。
でもわざわざ戦場の渦中に身を投げ打つなんて余程の強者かトチ狂った馬鹿野郎のする行いだ。
私はあくまで蚊帳の外から支援するくらいだ。このラインは絶対超えない。
ジョセフとか霖之助とかには感化されたりはしないからな。私は私の道を往かせてもらう。
誰にも自分のレールは変えさせない。私は『自由の兎』なんだ。
昔からそうしてきた。自分の生き様くらい自分で決めさせて欲しいね。

臆病兎と呼んでくれて結構。
兎に角! よーするに私は絶対!!


―――絶っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜対に戦わないッ!!!


721 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 16:58:13 0T3yJDGw0
















「―――そこのお前たち。随分と隙だらけだがそんな調子じゃあ戦場ではあっという間にやられるぞ?」




――――――ッ!?


「な……ッ!? え、あっ……ど、『ドラゴンズ・ドリーム』!!」


本気でビビッた。
思わず反射的に、ついさっき手に入れた能力『ドラゴンズ・ドリーム』を出してしまった。
振り返ると同時、傍らに龍の守護霊を出し、似合わない攻撃の構えを作りながら謎の敵を迎え撃つ。
私たちに背後から近づいてきたのは図体のデカイ軍事服を着たオッサン。
なんだか只者ではない雰囲気を纏うソイツは、腕を組みながら余裕の表情でこっちを見下ろしている。


「……ムッ? 成るほど。そいつがあのウサギ女の言っていたスタンドとかいう人形か……。思ったより丸っこいようだが」


コイツ、スタンドを知ってる……!
どうする!? 私だってさっき手に入れた能力でまだろくすっぽ使いこなせない能力だぞ!
橙は……ダメだ! 毛を目いっぱい逆立てて威嚇してるつもりだろうが、足震えてるよ。
逃げ……ダメダメ! ジョセフの奴がこの家で寝てるんだ!
ここで私たちがコイツを食い止めないとアイツ殺されちまうじゃん!


722 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 16:59:06 0T3yJDGw0


「フム……。この古臭い家に誰か仲間がいるのか? お前ら、無意識に玄関を守ろうとしてるようだが」


ゲェーッ! ば、バレた!
く、クソォ……! もう、破れかぶれだ! やるしかないじゃんか!
わ、わわ私が何とか撃退して、アイツ守ってやらないと……ッ!

『希望』を、失ってしまう!


「か、か……………かかって来なさいこの、デカブツスカタン野郎ッ!!!!」

「ジョ……ジョセフお兄さんには、ゆ……指一本触れさせないもんッ!!」


言った……言ってしまった……。
喧嘩口上、フッかけちゃった……やるしかなくなっちゃった……。

の、能力……! ドラゴンズ・ドリームの能力……!
あーもうすっごいややこしかったんだコレ! 確か、『風水』……!
こ、『殺しの方角』から入って……いや、まずは安全な方角を見極めて……ッ!

「おい」

やる……! やってやる、コイツを倒してやる!
せめて動けないアイツを私が守らなきゃ……!

「おい…聞いているのか」

私だってそれぐらいやらないと、霖之助に笑われるし……!
追い詰められた兎の……牙ってやつを、見せつけてやるよ!
妖怪兎、なめんじゃ――――――




「―――聞かんかァァァアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!」


「!!?!?!??!?」





――――――――――――――――――え な、なに……?


思わず自分の長い耳を塞いだ。
隣の橙も涙目で猫耳に手を押し当てている。


723 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 16:59:58 0T3yJDGw0


「………フゥーーー。ようやく聞く気になったか、この小娘共が」


……なにィ? よりによってたかだか人間如きに(だよね?)小娘扱いされるとは屈辱だ。
何を聞いて欲しいのか知らないけど、随分上からの物言いじゃないの。この若造めが。


「そんなに構えんでも俺に戦う気なんかありゃあせんわッ!
 やれやれ探したぞ、ウサギ耳の女……『因幡てゐ』だったか?」


「……………………えゐ?」


マヌケな声を出したと思う。
兎の牙とやらもどこへやら。私の緊張の糸は一瞬にして途切れた。

「全く鈴仙といい、ウサギってのはどいつもこいつも人の話を聞かん連中なのか? なんのための長い耳だ?
 お前、てゐとやら。……『八意永琳』からお前の事は聞いている。ひとまずそのスタンドとかいうのを引っ込めろ」

「……あ、え……? お、お師匠様が……?」

糸が切れたようにぺたりと座り込む、というよりかは腰が抜けた。
八意永琳。その名前を聞いただけで私の心にはこれ以上ない安堵が五臓六腑に染み渡る。
それに『戦わなくていい』という、その事実が何より安心した。


そして直後に、自分の行動が信じられなかった。
私は今、何をしようとしていたんだ?
コイツと『戦おうと』して。
ジョセフを『守ろうと』していたのか?

……おいおい。馬鹿か私は。
つい今の今まで「戦いたくない!」つって逃げ腰マンマンだったのは誰よ。
何やる気出しちゃってるの。逃げなよ、脱兎の如く。
大事なのは自分の命でしょ。ジョセフなんかどうだっていいじゃん。
どうしちゃったってのよ、私は。


額にはいつの間にか、びっしょりと汗をかいている。
私は鬱陶しげに、ただただ気だるい気持ちでそれを拭った。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


724 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:01:20 0T3yJDGw0

「おうジョジョ。相変わらず無駄に元気そうだな。このシュトロハイム、死ぬほどお前に会いたかったぜ」

「ブァ〜カ! 元気なわけあるか、コッチは撃たれてんだぜ。サイボーグ野郎のお前とは身体の作りが違うの! わかるゥ?」

「あ………そう、だよね。痛かったよね……本当にゴメンなさい、ジョセフお兄さん……」

「あ、あーー……いやいや、それは違うぜ橙。お前はワルくねー。ワリーのはお前に命令した藍様だぜ」

「クッ……ブァッハッハッハッハーーーーーッ! 何だジョジョおい! 少し見ない間に子供まで誑かすようになったか!」

「ンなわけあるかァーーーッ!! てめーシュトロハイム! 俺を馬鹿にしに来たってんなら今すぐ帰りやがれッ!」


なんだ元気じゃん、と私は度々呆れの溜息を吐いた。
霖之助との愛ある看護が効果を成したのか、私たち3人が家の寝室に戻るとジョセフは既に起き上がっていた。
この喧しいデカブツのシュトロハイム曰く、ジョセフとはどうやら並々ならぬ因縁があるらしい。
そんな因縁なんか知ったこっちゃないが成る程、確かに仲は良さそうに見える。
正直な所、コイツの傲慢そうな性格からいって話す内容は半信半疑ではあった。
しかしまぁ、これで頼りになる仲間が一人増えたってところじゃないの。
私はコイツ、苦手なタイプだけど。


「……それで、だ。ジョジョよ。シーザーのことだが……」

「………あぁ。放送なら、何となく聴こえてた。夢の中でな……」


ストレッチなんかしながら、ジョセフは言う。
その瞳は……強く見せてはいるけど、哀しげで泣いているように見えた。
シーザーってのは確か、放送で呼ばれた名前。
このフザけたひょうきん者が、強く情を寄せるような相手だったのかね。

「アイツは……シーザーは、またしても俺の居ない所で戦って、勝手に死んじまった。……それが俺には何となく分かる」

「……それでどうする。奴を殺した相手を捜して仇討でもするか?」

「……なんせ『2回目』だ。もう涙すら枯れちまったよ。
 今すぐアイツを殺ったクソ野郎を捜してブチのめしてーが、今の俺は気丈に振るわなきゃならねー。
 俺には俺のやるべきことがある。……シーザーの奴ならそれを分かってくれるだろうさ。
 それが俺の貫き通す『仁』てやつなんだろーよ」


725 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:02:11 0T3yJDGw0
どうしてコイツはそんなに色々背負ってられるんだ、と思う。
話を聞いてりゃ、シーザーとかいう奴とジョセフは親友かなんかだったらしい。
その大好きな親友の仇を置いてでも、橙を救うつもりなのか?
橙に泣いてお願いされたから、八雲藍をこれからブッ飛ばすなり説得なりをしようというのか。
自分が死ぬかもしれないのに? 馬鹿か。

思えば古明地こいしに対してもコイツはそうだった。
単に『優しい』って言葉だけで片付けるには、何かが違う。根本的に。
何故他人に対してそこまで真剣になってくれる? 怒ってくれる?
少しくらい弱音吐いたって誰も責めやしないだろうに。
そんなんだから橙にも、霖之助にも、……私からも期待されるんだよ。
わからないよ。全然理解できない。

コイツは一体、なんなんだ。


「フンッ! 貴様のしけたツラなど見たくないわッ!
 だがお前の『やるべきこと』とやら、この俺も見届けようッ!
 大体の話はこの娘っこ共から聞いた。標的は『八雲藍』とかいう妖の女だな」

「ほ、ほんとっ!? おじさんも藍様を元に戻してくれるのっ!?」

「あーん? お前も来るのかよシュトロハイム? そりゃお前は結構頼りになる奴だけどよォー」

「あったり前だろォォがァーーバカモンッ!!
 いいかッ! 万が一お前に何かあってみろッ! 一体だァーーれがあの凶悪柱の男四人衆を倒すのだッ!?
 俺に全部相手にしろっていうのかッ!!」

「ボクちゃんは全部ひとりでブッ飛ばしたんだがなァーーーシュトちゃんよーーー。
 それにリサリサだっているでしょーがよォ〜〜あの鬼教師のオバハンがさぁ〜〜」

さっきこのシュトロハイムからチラリと聞いた話だ。
柱の男とかいう化け物集団“サンタナ”“エシディシ”“ワムウ”そして“カーズ”。
聞いてるだけで冷や汗が出るような不気味超人変態一族らしい。絶対関わりたくない。
しかしそいつらを一人でやっつけただって? このジョセフが? マジ?


726 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:02:45 0T3yJDGw0

「待てぇぇいッ! おいジョジョ! 柱の男4人を全部ひとりでやっつけたァ〜〜〜?
 俺はお前が以前、サンタナとエシディシを倒したというのは報告で聞いたが他の2人まで倒したとは聞いとらんぞッ!」

「ハァ? おいおい機械化の弊害で脳みそまでポンコツになっちまったのかァ〜?
 お前たちナチ公は俺がワムウを倒した現場に直接やって来たんだろォーが!
 っていうか、俺とお前が協力してカーズをマグマに叩き落して倒したんじゃねーかッ! この会場に連れられる前に!」

「待て待て待てぇぇぇええええいッ!!! さっきからお前、何を言っておるのだッ!?
 俺たちが会場に連れられる前はスイス国境の山小屋に居たろォーが!」

「いやいやいやいつの話をしてんのよシュトロハイムくゥ〜〜〜んッ!?
 その調子じゃあ脳みその修理は終わってねえみたいだな! オイルは足りてるか? 植物油でいいならあるけどよォ!」

「俺を機械と一緒にするなァァァーーーーッ!!! 大体何だ貴様のその顔はッ!!
 それはアメリカで流行のメイクかなんかか、ンンーーーーッ?」

「機械じゃねーかッ!!! ………って、あン?
 ゲッ! なんじゃこりゃアーーーーーッ!?!?」

しまった落書きがバレた! …そりゃそうか。
しかも話が変な方向に曲がり始めたぞ。
どうも二人とも会話が噛み合ってないみたいだけど。
見ろ。橙もどうしていいかわからずオドオドしてるじゃん。
仕方ないから私が舵取り役になってあげるか。気は進まないけど。

「はいはいストップストーーーーップ!!
 ちょっと落ち着きなよ2人とも。私たちまだ状況整理も出来てないだろ。
 少し座って、順番に話そうよ」

ぱんぱんと手を叩いて2匹の暴れ馬を落ち着かせる。
私だって分かんないことだらけなんだから、あんま手を煩わせんなよ。


「あーー……そうだったな、すまねえ。
 えーと……ところでアンタ、どちらさん? それにもうひとりメガネの兄ちゃんがいなかったっけ?」


……てめえ、あたしゃアンタの命の恩人だぞ。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


727 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:03:38 0T3yJDGw0
ジョセフが顔の落書きを洗い流したあと、私たち4人は円卓を囲み互いに持てる情報を出しあった。
シュトロハイムの語った鈴仙復讐ひとり旅にも仰天したけど、それ以上におったまげたのは参加者間の『時間のズレ』だ。
ジョセフが空の星となった神父から聞いた話によると、アイツはジョセフの『未来』を知っていたらしい。
それは未来予知だとか頭のイカレた戯言だとかではなく、どうやら真に迫った迫力を備えていたとか。
そもそも名簿に死んでいるはずの参加者が羅列している時点でおかしい。
シーザーや柱の男は生き返ったのではなく、死ぬ前の『過去』から主催者に連れて来られたのでは。
それが私たち4人が出した、漫画みたいな話の最終見解だった。

んなアホな。
そう言いたかったし、実際言ってやった。
でもそのアホみたいな話を否定できるほどの材料だって持ち合わせてない。
私は渋々、お師匠様に悪戯を咎められたような不満げな表情を作って口を閉じた。
幻想郷でも過去類を見ない、解決難易度SSS+級のミッション・インポッシブルだ。助けてくれ霊夢。


「―――さってと。んじゃあ行くとすっか」


程なくジョセフが立ち上がった。
何処へ行くって? そんなこと分かりきってる。

霖之助のアホがここを出てから20分経つ。
あの貧弱メガネがそろそろ九尾の朝メシになってるかな?って時間だ。
多分、説得は無理だろう。逆に九尾に説得されてたりしてね。

「……アンタ達も八雲藍の説得に向かうつもり?」

一応は聞いてみたが、この破天荒男にそんな消極的な行動は期待できない。

「説得出来るようなら最初からゲームなんか乗らねーだろ。
 まず、橙を泣かせた『仕置き』をしてやる! 話はそっからだぜ」

概ねその通りだ。いやいや全く正論。
んなこたァ私にもわかる。どう考えても説得なんて選択肢は地雷だ。
それを何故だかあのメガネは自信満々だったけど。

「橙は良いの? コイツ、アンタのご主人様をブッ飛ばそうとしてるよ」

「……本当は嫌、だけど……それでも私は行くよ。ジョセフお兄さんについて行く」


……なんなのさ。
どうして霖之助も、橙も、皆そんなに前見て歩けるのよ。
どうして私だけが、こんなにも惨めな気持ちになるのよ……。


728 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:04:23 0T3yJDGw0

「……橙。アンタ、霖之助についてくるなって言われてなかったっけ?」

霖之助の弁では、対等なリソースとなる情報を渡し得る人物を増やしたくないらしい。
橙まで来れば霖之助の存在はあの狐にとって不要。豊かな情報源も二人と要らないとのこと。

「でも、私だって藍様ともう一度お話したいから……。いつもの優しい藍様が見たいから……」

「橙もついでに霖之助とかいうメガネ君も、殺させはしねーよ。
 それに万が一つに説得の可能性があるってんなら、それはやっぱり橙ぐれーしか見込みねーからな」

それか八雲紫だろうね。
ったく、あの胡散臭いスキマ妖怪も、自分の式が2人とも大変なことになってんだからさっさと助けに来れば話は早いのに。
まさかあの大妖怪に限って既に誰かにやっつけられちゃったなんてことはあるまい。


「ジョジョよ。もし戦闘になれば俺もお前に協力してやらんこともないが、策はあるんだろうな?」

「誰に向かって言ってんの? 愚問だぜシュトロハイム。
 俺はいつだって兵法書の『孫子』に従う。勝利の確信があるから戦いに出向くってわけよ」

本当かなぁ。
ジョセフが凄い奴だってのはもう分かってるけど、今度の敵はあの策士の九尾だぞ?
付け焼刃で脳みそ膨らませたさっきの馬鹿妖精とは根本的に格が違う。
正真正銘の『大妖』だ。人間が普通に戦っても勝てやしないんだから。


「……それで、てゐはどうする? 俺達と来るか?」


ジョセフが荷物の確認をしながら、そんなわかりきったことを聞いてきた。


―――わかり、きったこと。


そのはずなのに。
自分から戦いの渦中に突っ込むのは馬鹿のすること。
そう、思ってたじゃない。

何を、言葉に詰まってるんだ私は。
もう充分頑張ったろ。能力だって惜しみなくジョセフに使ってやった。
後は臆病兎に出来ることなんて無いだろ。


729 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:04:53 0T3yJDGw0


―――『僕に何が出来るか…それはまだ見当も付かない。分からないから…抗う価値もあるというものさ』


唐突に、かつての霖之助の言葉が脳裏に浮かんだ。
達観したような、悲劇のヒーローにでもなったつもりの台詞。
思い出したらまたムカついてきたので、私はそのあやふやな気持ちを振り払うようにジョセフの誘いを拒絶した。

つまりは『ここに残る』、と。


「……そーかい。じゃ、また『後で』な。それと、治療してくれてありがとうよ」


そう言ったきり、ジョセフは背を向けて行ってしまった。結構あっさりと。
橙も一度だけこっちを振り返ったけど、すぐにパタパタとジョセフの後ろについていく。


「……八意永琳の連絡先は確かに伝えたぞ。奴もお前を心配しているようだった。……達者でな」


最後にシュトロハイムもそう言い残して出て行き、とうとう私は独りきりになった。
一気に、この家が広く感じた。
自然と浮かび出た笑みは、誰への皮肉なのか。
兎は寂しいと死ぬ、だなんて迷信は一体誰が広めたんだろう。
兎側からすれば全く迷惑なデマだ。兎はむしろ本来は孤独な生物だというのに。
どうして独りが、こんなにも寂しいと感じるのか。

私は。
私にだって。


730 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:05:32 0T3yJDGw0


「あ…………電話……」


そうだ。お師匠様が、私を待ってくれている。
そうだよ。どうして今まで考えつかなかったのさ。

あの無敵の賢人なら。
頭の良いお師匠様なら。
事情を話せばきっとすぐに良い解決策を導き出してくれる。
私の助けになってくれる。

私はすぐに電話を探して、受話器をとった。
そして番号を押そうと指を掛けて――――――そこで止まった。


お師匠様に電話して、どうするんだ?
知り合いがみんな殺されるかもしれません。どうか知恵を貸してください。
そう、頼み込むつもりか?

私は師匠の性格くらい、少なからず理解してる。
お師匠様は優しい。意外と献身的なところがある人だ。
そして、それと同じくらいには冷たい部分がある。
私が危ないことに足を突っ込もうとしていると分かれば、迷わず身を引けと忠言してくれるだろう。
そんなつまらないことで命を落としてどうする。
悪いことは言わないからやめておきなさい、と。
淡々と、冷徹にそう言ってくれる。

そこがお師匠様の冷たいところであり、優しいところでもあるんだ。
感情よりも理性で判断できるっていうか。
粛々と私の身だけを案じてくれるだろう。

とにかく断言できる。
今ここでお師匠様に電話しても、八雲藍討伐及び説得に関しては無益な結果にしかならないということが。
それどころか、今すぐ合流の命が飛ぶことだろう。
そうなれば今後ジョセフたちと再会することすら叶わないかもしれない。


731 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:06:30 0T3yJDGw0


「―――いや、何言ってんだ私は……っ」


またもや自分の考えが信じられなかった。
お師匠様や姫様との合流は本来、一番に成すべき優先事項の筈だろう。
それを差し置いて、何を私はジョセフたちのことを気にしてなきゃならないってのさ?

くどいけども、私は出来る限りのことはやったじゃん。
後は向こうが勝手に異変の解決に向けてどうにかやってくれるでしょう。
お師匠様たちと合流できれば、身の安全は更に確実なものとなる。万々歳だ。
だから私のここからの行動として正しいのは、やっぱりお師匠様たちとの合流でありジョセフ達は二の次三の次の筈だろう。



―――『ジャアヨー、ドウシテお前さんはオレのDISCを差シタンダイ?』



……いつの間にか私の『中立』のスタンドが話し掛けてきた。


『アノ軍人のオッサント出会ッタ時ダッテソーサ。
 アノ時のお前さんはジョセフを守ロウトしてたんじゃネーノ?』

ペラペラとうるさい奴だ。
そうよ。悔しいけど、アンタの言ってる通りよ。
私はあの時、無意識にもジョセフを守ろうと動いた。
動いてしまった。
今でもその感情の正体が分から―――


『―――ワカンネー、トデモ言うツモリカ?
 言い訳ニモナッテナイネェー。ホントは分カッテルクセにヨー』


うるさい。


『DISCで生ミ出シタトハイエ、オレダッテお前さんの心の具現ナノヨー?
 お前さんが何を考えているカ、手ニ取ルヨウに分カッチマウゼー』


うるさい……っ


『……オレの前のご主人サマはヨォー、死ヌ前に願ッタンダ。
 正シイ心ヲ持つ者の元に、コノDISCが届クヨウにッテヨー。
 主催者をブッ飛バスためへの、イチカバチカの大博打ッテ言ッテヨォー』




「うるさいってのよッ!!!! 分かってるわよ、私にだってッ!!!!」


732 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:07:08 0T3yJDGw0


叫ばずにはいられなかった。

本当は最初から全部、理解していた。

私が霖之助に嫉妬しているってことが。

私が橙を羨ましく思ってることが。

私がジョセフのようになりたいってことが。

そんな馬鹿馬鹿しくて、浅はかな思いが心のどこかで燻ってるってことが。

でも、素直になれなくて。

勇気が出せなくて。

だって私は臆病だから。

自分が第一だって、ズルく考えてるから。

そんな自分が誰かのために戦おうだなんて。

全く、滑稽で馬鹿げた話。

でも、『フクロウ』が私の元に飛んできて。

それに触れた途端、何となく感じてしまったから。

何処かの誰かの、儚くも強い『決意』みたいなものが。

だから、このDISCを使った。

こんな自分でも、誰かの役に立てるのなら。

少しぐらい、頑張ってみようかな……って。



『オレは中立ダカラヨォ〜〜、オマエに頑張レとか言ワネェーケドヨォ〜〜……
 モー少しぐらい、自分に素直にナッテモイインジャネーノカナー』



マ、言イテェーコトはソレダケだよ。
ドラゴンはそれだけ言って、さっさと消えてしまった。

本当に、何て勝手な、奴。


733 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:08:10 0T3yJDGw0


「……あ〜〜〜〜、もう……ッ!
 それもこれも全部霖之助が妙にはりきるから、私までおかしくなっちゃったんじゃない……ッ」


半ば八つ当たり。
憤慨のような気持ちで、もはやヤケクソといっても良かった。

でも。



「〜〜〜〜〜〜ッ! た、戦わないからね……ッ! 私は絶対……ッ!」



少しだけ勇気を出してみた私の顔は。

どこか、スッキリしていたのかもしれない。

私はそんな表情を浮かべながら受話器を置き、外へと踏み出した。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


734 : 燃えよ白兎の夢 ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:11:52 0T3yJDGw0
【E-4 人間の里 虹村億泰の家/朝】

【因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:健康
[装備]:閃光手榴弾×1@現実、スタンドDISC「ドラゴンズ・ドリーム」@ジョジョ第6部
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品、他(コンビニで手に入る物品少量)
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくないので、異変を解決しよう。
1:……皆のとこまで行ってみるかぁ。た、戦わないけど!
2:こーりんがムカつくから、ギャフンと言わせる。
3:お師匠様には後で電話しよう。
4:暇が出来たら、コロッセオの真実の口の仕掛けを調べに行く。
[備考]
※参戦時期は少なくとも永夜抄終了後、制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。


【ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】
[状態]:体力消費(小)、胸部と背中の銃創箇所に火傷(完全止血&手当済み)、DIOとプッチと八雲藍に激しい怒り、てゐの幸運
[装備]:アリスの魔法人形@東方妖々夢、金属バット@現実
[道具]:基本支給品、毛糸玉@現地調達、綿@現地調達、植物油@現地調達果物ナイフ@現地調達(人形に装備)、小麦粉@現地調達
    三つ葉のクローバー@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:待ち合わせ場所『香霖堂』に乗り込んで八雲藍をブッ飛ばすッ!
2:こいし、チルノの心を救い出したい。そのためにDIOとプッチもブッ飛ばすッ!
3:シーザーの仇も取りたい。そいつもブッ飛ばすッ!
[備考]
※東方家から毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフなど、様々な日用品を調達しました。
 この他にもまだ色々くすねているかもしれません。
※因幡てゐから最大限の祝福を受けました。
※ポケットに入っている三つ葉のクローバーには気付いていません。


【橙@東方妖々夢】
[状態]:精神疲労(小)、藍への恐怖と少しの反抗心、ジョセフへの依存心と罪悪感、指先にあかぎれ
[装備]:焼夷手榴弾×3@現実、マジックペン@現地調達
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョセフを信頼してついていく
1:藍様を元の優しい主に戻したい。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
※八雲藍に絶対的な恐怖を覚えていますが、何とかして優しかった頃の八雲藍に戻したいとも考えています。
※ジョセフの波紋を魔法か妖術か何かと思っています。
※ジョセフに対して信頼の心が芽生え始めています。
※マジックペンを怪我を治す為の道具だと思っています。


【ルドル・フォン・シュトロハイム@第2部 戦闘潮流】
[状態]:永琳への畏怖(小)
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りである肉体
[道具]:蓬莱の薬、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ドイツ軍人の誇りにかけて主催者を打倒する。
1:ジョセフと共に行動し、ひとまず八雲藍の沈静化を図る。
2:リサリサの捜索と合流。次に蓬莱山輝夜、藤原妹紅の捜索。その他主催に立ち向かう意思を持つ勇敢な参加者を集める。
3:殺し合いに乗っている者に一切の容赦はしない。特に柱の男及び吸血鬼は最優先で始末する。
4:蓬莱の薬は祖国へ持って帰る。出来ればサンプルだけでも。
5:ディアボロ及びスタンド使いは警戒する。
6:ガンマン風の男(ホル・ホース)、姫海棠はたてという女を捜す。とはいえ優先順位は低い。
[備考]
※参戦時期はスイスでの赤石奪取後、山小屋でカーズに襲撃される直前です。
※ジョースターやツェペリの名を持つ者が複数名いることに気付いていますが、あまり気にしていないようです。
※輝夜、鈴仙、てゐ、妹紅、ディアボロについての情報と、弾幕についての知識をある程度得ました。
※蓬莱の薬の器には永琳が引いた目盛りあり。

※また4人全員が参加者間の『時間のズレ』の可能性に気付きました。


735 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/05(日) 17:15:01 0T3yJDGw0
これで「燃えよ白兎の夢」の投下を終了します。
ここまで読んで下さってありがとうございます。

続いて八坂神奈子を予約します。


736 : 名無しさん :2015/04/05(日) 19:16:04 M8sOlF2c0
投下乙です。
前半の5部っぽいてゐの人生観や性格の説明が好きです。
すごくてゐらしさ感じるし、あれのお陰で後の葛藤がよく分かるので良いです。
あとジョセフとシュトロハイムはやはりというべき安定感。
コミカルだけどしっかりしているこの二人が揃う状況には同時に安心感を覚えます。
そして『ドラゴンズ・ドリーム』こいつはもうなんかわけわからないけど良い奴ですよね。
ある種『ヘイ・ヤー』のような活躍。
これによっててゐが加わり、これからの活躍が楽しみな一団となりました。
面白かったです。


737 : 名無しさん :2015/04/05(日) 21:31:42 EBjsa3uQ0
投下乙
東方ロワと今ロワで真逆なキャラが増えてきたなあ


738 : 名無しさん :2015/04/06(月) 21:47:55 4lliNaMY0
投下乙
てゐの心理描写が面白いなあ
彼女の決意が未来を良い方向へ持っていってくれるといいな


739 : 名無しさん :2015/04/07(火) 08:27:43 ctoY64MY0
これでメガネの兄ちゃんがねかえっちゃってたりしたら滑稽だなぁ


740 : 名無しさん :2015/04/09(木) 15:27:07 Sp0/NUiE0
まだ第一回放送越えてないのは
承太郎、霊夢、F・F、大統領、魔理沙、徐倫、神奈子、カーズ

承太郎達と神奈子は予約来てたから残りは魔理沙、徐倫、カーズの3人か


741 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/12(日) 04:08:53 knVYFQFU0
予約を延長します。
それと前回の話で支給品の説明を入れるのを忘れていたので入れておきます。

○支給品説明

<三つ葉のクローバー@現地調達>
幸運の素兎、因幡てゐが人間の里で見つけた何の変哲も無い三つ葉のクローバー。
四葉のクローバーは幸運の象徴として有名だが、実は三つ葉も幸運や希望の象徴である。
てゐにとっては四葉よりも三つ葉の方が珍しいらしい。
持っていると良いことがあるかも?


742 : ◆.OuhWp0KOo :2015/04/13(月) 06:09:52 KfIb7Vrk0
ファニー・ヴァレンタイン、博麗霊夢、空条承太郎、FFを予約します。


743 : 名無しさん :2015/04/13(月) 21:39:33 9lEH/kNo0
これで残りはカーズ様だけか


744 : 名無しさん :2015/04/13(月) 21:45:37 Gob27Z7I0
徐倫、魔理沙「」


745 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/14(火) 02:37:19 gEg/ZrTI0
投下します


746 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:38:59 gEg/ZrTI0
『八坂神奈子』
【いつかの日】外の世界 守矢神社


「今日でひとまずこの世界ともお別れねぇ……」


守矢の山の神、八坂神奈子はどこかノスタルジックな表情を交えて夕焼けの空を仰いだ。
昔から愛してやまない地元の酒を大きめの盃でトクトクと注ぎ、ゆっくり味わうように口元へ注いでゆく。
普段ならばウワバミの如くもっと豪快な呑みっぷりを披露する彼女だが、今日ばかりはそんな気分ではない。
外の世界での最後の晩酌になるかもしれないその瞬間のひと口ひと口を、丁寧に味わっていく。
酒など何百何千と飲み干してきた彼女だが、やはり飲み慣れた地元の酒というのは格別に自分の舌に合うものだ。

極上の酔い心地に浸かっていると、横から細くしなやかな腕が猪口を持って伸びてきた。
神奈子はフッと微笑を浮かべ、それにも酒を注いで酌をしてやる。


「ありがと。…………でも、この空は“向こう”に行っても同じ空さ」


守矢の土着神、洩矢諏訪子も郷愁を交えた表情で猪口に注がれた酒をクイとひと口仰ぐ。
その幼い外見には似合わぬどこか粋な雰囲気を纏う諏訪子とも、交わした杯の数は星の程。
大昔には色々と因縁もぶつけ合ってきたりした神奈子と諏訪子だが、現在はこうして酒を交わす程度には親交も深い。

家族、と言っても良いのだろうか。

神奈子は横の諏訪子に対して、そんな認識を傾ける。
遥か昔には曲がりなりにも本気で命を取り合った相手。
何がどうなって今に至るのか、その過程を思い出すのも今となっては無粋だ。
喧嘩だって日常茶飯事。だが少なくとも諏訪子には好意を抱いている。間違いなく。


(―――家族というよりは、友達なのかもしれないね)


さっぱりした性格の神奈子だったので昔の因縁などを今更持ち出したりはしない。
“友達”などという、自分にしてはやや女々しい単語ではあるが、諏訪子に対して使うのはまあやぶさかではなかった。
現にこうして今でも共に酒を酌み交わしているではないか。
間違いなく洩矢諏訪子は自分にとっての『友』なのだろう。

もうひとつ、空になった杯に酒を注ぐ。


「そうだね……この広大な星にも浮かぶ空はたったひとつ。
 “あっち”に行っても同じ空の下で、私たちはこうやって同じ酒を呑むんだろうねぇ」


またひと口。
沈む夕日に照り返る神奈子の佳麗な唇へと酒が吸われてゆく。


747 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:40:22 gEg/ZrTI0
二人が並んで座るのは守矢神社の屋根瓦の上。
黄金に輝き沈む太陽を眺めながら、じっくり酒と会話を交わしていく。

眼下には暁に染まりゆく見慣れた町並み。
果てなく昔より慣れ親しんできたこの町も、時代の波に呑まれ段々と都会化してきた。
神として永く見守ってきた土地だったが次第に人口は増え、それに伴って自然の風景も少なくなってきた。
そうして人間の技術革新は目を見張る速度で突き進み、人々は篤い信仰を忘れていった。
神である神奈子や諏訪子にとって、神々が信仰されなくなるというのはひとえに自身達の存在の消失に繋がる。

信仰を忘れ、科学や情報を頼り始めた人間は、彼らの叡智の結晶である『技術』を以ってして栄え始めた。
ほんの昔には、人間たちは不都合なことがあればすぐに神に泣きついてきたというのに。
作物が育たない。
疫病をなんとかしてくれ。
雨を降らして欲しい。
そんな我儘勝手な人間の祈りを神々はその度に成就させ、その報酬として信仰、崇められてきた。
土地によっては何と同属の人間の生命を贄として捧げられてきた習わしすらあった。

神と人。
それは片方が欠如すればもう片方もいずれは滅ぶような、危ういバランスの上に成り立っていた。

しかしそれも今は昔の関係。
ものの数百年で人間はいつしか神の力に頼らずとも、自分たちの力だけで問題ごとを解決してくるほどに進化したのだ。
それは神々には持ち得ない、『個』ではなく『集』の力。
永い歴史と多くの人たちの知や努力によって、人間は技術を物にし、進化させてきた。
気付けば神々の存在は書物やお話の中だけで完結していき、やがて忘れ去られた。


神奈子はしかし、神々が信仰されなくなる原因だとも言える人間の技術革新というものが嫌いにはなれなかった。
永く人々を見守ってきた神奈子だから、人間の『成長』を眺めていくのは楽しかったのだ。
人が自分たちの力だけで困難に立ち向かうようになったのであれば、それもまた善し。
もはや神などは前時代の遺物なのかもしれないとすら思えるようになってきた。

しかしだからといって、このまま自分らの存在が消失していくのを胡坐かいて待つわけにもいかない。
神奈子と諏訪子は、以前より講じていた『策』をとうとう決起することにした。

それは、まだ神々の存在が当たり前のように人々に信じられている幻想の土地へ赴くというものだった。
俄かには信じられないが、この日本にはまだそういった非常識な閉鎖空間があるとのこと。
神奈子と諏訪子の強引な神力によって、その世界へ守矢神社ごと引っ越そうというのだ。
そして赴いた先で、非常に平和的かつ親睦的営業で再び信仰を集めようという一計だった。


その一世一代の大掛かりな引越しを明日に控えた今日。
もはやこちらの世界に未練は残したつもりはない。
憂心があるとするなら―――、


「早苗は向こう行っても寂しがるだろうねー……。あの娘、まだまだ人生これからって年頃なのにさ」

「私たちがやろうとしていることは……あの娘から両親や友達を取り上げようって行為みたいなモンさ」


―――娘のように可愛がってきた早苗までもが、神奈子たちと共について来てくれるということだ。


748 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:41:08 gEg/ZrTI0
これには神奈子たちも度肝を抜かれた。
本来ならばこれは神側である神奈子と諏訪子らの問題。
人間の、そのうえまだ少女である早苗までついてくる道理は無い。
向こうの土地に渡れば、もうこちらの世界に戻ってくることはないだろう。
たかが十と少しを生きただけの早苗には、辛い境遇になることは間違いない。


―――「それでも私は、神奈子様と諏訪子様に生涯を捧げたいのです」


困惑する神奈子たちに早苗は迷わずハッキリそう言い放った。
本気の眼だった。
早苗という少女は本気で今までの生活を捨て、神奈子らと共に在ることを決心したのだ。
便利な生活も、学校の友達も、血の繋がった家族とさえも別れ、全く未知の世界へ共に飛び込んでくれると。

早苗の覚悟が本気だと悟った神奈子たちは、精一杯の慈愛で彼女の頭を撫でてやった。
そして一言「ありがとう」とだけ言って感謝した。


「あの娘は表面では強がってはいるけど、本当は何処にでもいるようなありふれた女の子さ。
 悲しまないワケがない。平気なワケがない。……私たちもとんだ罪作りな神様だ」

茜色を帯びた遠くの雲を見据え、むなしく零した。
杯の酒に映る自分の顔には、口元に自嘲めいた微笑を携えている。

「それは言わない約束って言われてるでしょ。神奈子らしくないねー。もしかして後悔してる?」

あっけらかんと諏訪子は言う。
後悔しているか、と言われたら……しているのかもしれない。
本来は糸を引かない性格である神奈子も今回ばかりは頭を抱えた。
自分はどうやらこと早苗に関してだけは甘い。諏訪子にもよく言われることだ。

「“こっち”と違って私たちには“向こう”の勝手が分からない。早苗からしたら不安でしかない筈さ。
 そんなあの娘が気丈に笑顔で振舞ってるんだ。私たちがその意思を無下にしちゃあいけない」

「ようはちょっぴり後悔してんじゃん。あっははー神奈子お母さんもいい加減子離れしなきゃだねー!」

ケラケラと諏訪子はこちらを指差して笑う。
それに触発して神奈子が顔を紅くしてムキになる。
守矢の家ではありふれた日常。
そんな平和な日常は、新たな土地へと渡っても決して変貌することはないだろう。

早苗と神奈子と諏訪子。
3人の『家族の絆』は何よりも固く、優しい愛で溢れているのだから。


749 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:41:47 gEg/ZrTI0


「―――神奈子様ぁーーーー諏訪子様ぁーーーーっ! お夕食の支度が整いましたぁーーーー!
 降りてきてくださーーーーいっ!」


離れの社務所から早苗が元気よく声を張り上げてきて出てきた。
早苗の方は既に両親と夕食は済ませた筈だが、今日だけはもう一度神奈子らの晩酌に付き合ってくれるそうだ。
「最後の夜くらい家族と長く過ごしてあげたらどうだい」と神奈子は提案したが、早苗の方も「晩酌だけは!」と主張を譲らない。
これには神奈子たちも苦い笑みで折れるしかなかった。もっとも酌ならつい今しがた交わしたばかりだけども。

諏訪子が屋根からぴょんと身軽に降りる。
やれやれとばかりに神奈子は空の酒瓶を抱え、それに続いた。


敷石の上を神奈子と諏訪子と早苗は並んで歩く。


「ねえねえ神奈子はさー、向こうにあると思う? 『海』!」

「あー? あるわけないだろう、山奥の辺鄙な土地らしいし。
 前から思ってたけどアンタ、カエルのクセに海で泳いで平気なの? ていうか向こうでも泳ぐ気?」

「ちっがーう! いや、違くはないけど!
 もしあったら『また』3人で一緒に見に行こうねって話だよ!」

「いいですねー海。いつかの時は諏訪子様、はしゃぎまくって筋肉痛になったりしてましたもんねー」

「全く、神様が筋肉痛だなんて人様が聞いたらなんて思うだろうね」

「い、いいだろー別に! 神奈子こそ結構はしゃいでたクセに!」

「お二人とも喧嘩はやめてくださいよー、出発は明日なんですから。
 ……そうですねぇ。私はあっちでも少年ジャンプが見れればすごくありがたいんですけどねぇ」

「……早苗、それは流石に無理だよ」

「あはははっ、早苗らしくて良いじゃないか。

 ―――でも、そうだねえ。どんな場所なんだろうねぇ、“幻想郷”ってところは……」



3人はまだ見ぬ土地に想いを馳せる。
来る者全てを受け入れるという『幻想郷』は、この家族たちも聖母のように優しく受け入れてくれるのだろう。
その土地ならば、3人の『家族の絆』は永劫に守られるのだろう。


きっと。
きっと。








守矢が幻想郷へと渡る、つい1日前のありふれた出来事だった。






▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


750 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:43:25 gEg/ZrTI0
『八坂神奈子』
【その日:朝】D-1 守矢神社





(――――――仕損じたッ! 仕損じたッ! 仕損じたッ! 仕損じたッ!! 仕損じたッ!!!)








家族の絆はその日、突然引き千切られた。








(出来なかった……ッ! あの娘を本気で、撃てなかった……ッ!)


純粋なる希望と、ありふれた願いと、ささやかな憧憬を望んで触れた幻想の世界は、


(私が、やらなきゃダメだったというのに……ッ! 私が……私が……私がッ!!)


いとも簡単に、彼女たちの理想を粉々に踏み潰した。


(私が早苗を……殺してあげなきゃダメだったのにッ!!)


幻想郷が彼女たちに与えたものは、信仰や幸福などではなく、


(―――殺せなかった……っ! 喪うことに恐怖して、しまった……っ!)




家族同士で殺し合う『殺戮遊戯』という、残虐で酷悪な悲劇だった。


751 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:45:07 gEg/ZrTI0


「―――、ぁ……ここって…………ウチだ……」


考え得る限り、最悪の再会を果たしてしまった早苗との交錯から僅か後。
無秩序が支配するグチャグチャな意識のままに、ここまで歩いてきてしまった。

目の前には―――なんと皮肉なことか。
昔より慣れ親しんできた我が家……守矢神社の鳥居が蒼然とこちらを見下ろしていた。
意識して目指して来たわけではない。
ボロボロの肉体と、磨り減った精神状態のままにフラフラと辿り着いただけだ。
魂が導かれたのだろうか。
神奈子はその事実にさして疑問を抱かず、丁度良いとばかりに本殿へと潜り込んだ。


とにかく今は、消耗した身体を癒さなければ。


混濁した精神状態の中でも、道中で聴こえた放送の内容はしっかりと頭に入れておいた。
木造の床に腰を下ろし、名簿を取り出してぼんやりと印を付けていく。
この6時間で死んだ者は18人。神奈子自ら手を掛けたあのプロシュートも勿論含まれている。
早苗の名は無く、何処かにいるであろう諏訪子の名も呼ばれなかった。


―――そのことに、心の底から安堵した。


直後に気付いた。
何故、安堵?
自分はついさっきまでその早苗を殺そうとした張本人ではなかったのか。
友である諏訪子の息の根を止めようと歩き回っていた筈ではないのか。

何で、安心したんだ。
私は、皆殺すつもりなんだぞ。
早苗も諏訪子も、遅かれ早かれ死ぬ。
それは既に決定された事実。
あの幻想郷最高神が下した『生贄選び』という儀式を根底から覆すことが不可能なら、
私はそれに倣って、従わなくちゃあならない。

何故ならそれが幻想郷の『しきたり』であり、
そこに住む者の『法』なのだから、だろう。

それを心で理解してしまった神奈子は、当然のように法に沿う。
実際のところ納得など出来ないし、愛する存在を手にかけることほど辛い出来事も無い。
しかし、神奈子は意識の奥にすり込まれてしまった。
儀式に“興じろ”と。
幻想に“同調しろ”と。

これが幻想郷でのルールだというのなら。
この世界の頂点がそう決めたのなら。
一柱である神奈子は溶け込むしかない。


752 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:46:08 gEg/ZrTI0
だというのに、神奈子はあろうことか『安心』してしまった。
放送で早苗や諏訪子の名が呼ばれなかったことに「ああ良かった」と思ってしまった。
腹を括った筈なのに、どうして今更情などが湧き上がってくるのか。
だが神奈子は自分の内奥に潜む感情の正体をとうに見破っていた。
人であろうと神であろうと、どんな存在にだって『それ』はある筈だ。


―――人と人との『家族愛』。それだけは、どんな者にだって冒していい領域ではない。


誇りのため。家族のため。
それを守るために命を懸けるということは、美しき『気高さ』となる。
人も神も関係なく、家族を愛すという心だけはこの世でもっとも美しい『徳』なのだ。
その『徳』という気高さが、あの時神奈子の手を止めてしまった。
心にタガを掛けてしまった。

早苗たちと元の平和な家族に納まるということは―――もう決して来ないだろう。

それが分かってしまったからこそ、自分はこの儀式に溶け込んだというのに。
自分の中に迷いが生じているせいで、早苗は殺される。
自分があの時に殺せなかったせいで、早苗は殺される。
何処かの誰かの、吐き気を催すような『暴力』にあの娘は殺される。
そんなことが許されるわけがない。
そんなことを許して良いわけがない。


―――私たちの『家族愛』を引き裂くことが許されるのは、それはきっと私たち『家族』だけ。


故に私は早苗を殺す。諏訪子を殺す。
他の誰でもなく、この八坂神奈子だけがあの娘たちを殺す……!
誰にも邪魔はさせやしない。
例えあの最高神であろうと邪魔はさせるものか。
これは究極的には、私たち家族の問題となる!


753 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:46:40 gEg/ZrTI0


ふと、殿内の仄暗い天井を見上げた。
シンと静寂な神社の敷地にいると、色々なことを思い出す。


「さな、え……………………」


愛する娘の名をそっと、小さく零す。
その名前は頭の中で何度も何度も反響し、神奈子の脳を痛烈に揺さぶり抉っていった。

愛する娘の名前。
愛する娘の表情。
愛する娘の仕草。
愛する娘の声。

瞳を閉じれば色褪せない思い出と共に、その全てが鮮明に蘇る。
あの幸せだった日々は、もう此処には無い。
家族が残した温もりも、香りも無い。

愛 夢 希望
しかし彼女たちと過ごした日々を、神奈子は決して忘れはしない。

既に心は決めた。
次だ。
次に逢った時こそ、本気で早苗を『救おう』。
この醜悪な儀式から、早苗を救ってやらなければ。


「―――救う。『殺す』、か…………………」


早苗は、今の自分の姿を見てどう思っただろうか。
あの時の早苗は泣いていた。
もしかしたら、私も泣いていたのかもしれない。
早苗の方も、次こそは私を本気で殺しにかかってくるのだろうか。

……無理だろう。あの娘は本当は強くなんかない。
家族である私を殺そうとするなんて、出来っこない。


754 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:47:56 gEg/ZrTI0


―――『あの娘は表面では強がってはいるけど、本当は何処にでもいるようなありふれた女の子さ。
     悲しまないワケがない。平気なワケがない。……私たちもとんだ罪作りな神様だ』


ついぞ昨日、諏訪子と交わした会話を思い出す。
その会話の意味も昨日と今日とでは、まるで違う意味のように感じる。
もはや手の届かないほど昔のことのように懐かしむが、たったの昨日話したばかりの内容なのだ。
それが今では信じられない。まさかこんな事になるなんて。
早苗を巻き込んでしまったことに、心底後悔してしまう。


果たして早苗は家族である私を殺すことができるのか。
子供は、死を理解していない。
人間が死ぬということは知っていてもそれがどういうことかわかっていない。
なんとなく自分も周りの人たちもいつまでも生きていると思っている。
そんな子供たちも、親しい人を失っていくうちに、理解していくことになる。
永遠などなかったのだ、ということを。


早苗は弱い。
強い表面を出そうとしているだけに、ひとたび殻が割れればその心は脆い。
そんな弱さを乗り越え、立ち上がることが出来るほどにこの儀式は温くない。
愛する家族を殺すために、己の精神を支配出来るほど強くない。
愛する家族を殺すために、自らの精神を知って理解出来るほど強くない。
愛する家族を殺すために、私の立場に身を置いて思考出来るほど強くない。
あの優しい娘には、強靭な意志と冷徹な思考を私に向けることなんて出来やしない。

もしあの娘が弱さを乗り越えて、私を冷静に、全力で殺しにかかることができた時……。
早苗は果たして早苗であり続けることができるのか。
早苗の姿をとっていながら、早苗でない、おぞましい何者かになってしまっているのではないか。


『弱さを乗り越える』ということは、
『愛する者を全力を以って殺しに掛かる』ことへの恐れさえ捨て去ることなのか。


それは今の私にも言えることだ。
もう己の弱さは捨てた。
あとは『その時』が来るのを待つだけだ。
いや、待ってばかりではいけない。
自分から立ち向かっていかねば、きっと早苗は他の誰かに殺されてしまうだろう。
それだけは、本当に嫌だ。


755 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:48:30 gEg/ZrTI0

故に私は、家族を殺すのだ。

家族が家族を傷付けて幸せになれるのか。

いまあの娘は何を見ているのか。

何を感じているのか。

きっと同じ空の下で私を想っているのだろう。

人は人を愛さなければならない。

もしも私があの娘に殺されるのであれば、それは本望だ。

あの娘は親の愛に気が付かなくてはならない。

私を殺すことが出来た時、それがあの娘の人生の始まりとなる。

あの娘がこれからどのような大人になるのか。

それを眺めていくことが出来なくなってしまったのは、本当に残念だ。



諏訪子は、私と同じ考えをするだろうか。
……難しいかもしれない。アイツと早苗は正真正銘、血の通った同じ血族だ。
諏訪子もなんだかんだ言って、早苗には大層甘いのだから。


「やはり……早苗を手に掛けるなら、私が……ッ」


しかしそれよりも前に、諏訪子とも対峙するかもしれない。
その時が来れば……大昔の因縁に決着をつけるだけだ。
先に諏訪子を振り落としてしまえば、心に残った最後のわだかまりも霧消するかもしれない。
完全に吹っ切れる為の『儀式』だと思って、先に諏訪子を探すか。


756 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:48:57 gEg/ZrTI0



なんにせよ、今は……疲れてしまった。
少しだけ、横になろう……。
ほんの少し、ほんの少しだけ、今は眠りたい。



人間の叡智であり、同時に殺戮の道具でもある技術革新の象徴。
その禍々しげなガトリング銃を肩から下ろし、倒れるように横になる。
人間の道具が好きな神奈子も、『コレ』だけは好きになれなかった。


やがて、静まった殿内に微かな寝息が聴こえ始めた。
彼女が見る夢は、幸せであった過去の日常か。
それとも、これから始まる地獄への前奏曲――プレリュード、か。


眠る彼女の頬には、一粒の雫が哀しげに伝っていた。


彼女の名を、八坂神奈子という。
一柱の神でありながら、東風谷早苗の愛する家族であった。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


757 : Mountain of Faith/Face of God :2015/04/14(火) 02:50:10 gEg/ZrTI0
【D-1 守矢神社/朝】

【八坂神奈子@東方風神録】
[状態]:体力消費(大)、霊力消費(大)、右腕損傷、身体の各部損傷、早苗に対する深い愛情
[装備]:ガトリング銃@現実(残弾80%)、スタンドDISC「ビーチ・ボーイ」@ジョジョ第5部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:主催者への捧げ物として恥じない戦いをする。
1:『愛する家族』として、早苗はいずれ殺す。…私がやらなければ。
2:洩矢諏訪子を探し、『あの時』の決着をつける。
3:力を使い過ぎた…今は休息が必要だ。
[備考]
※参戦時期は東方風神録、オープニング後です。
※参戦時期の関係で、幻想郷の面々の殆どと面識がありません。
 東風谷早苗、洩矢諏訪子の他、彼女が知っている可能性があるのは、妖怪の山の住人、結界の管理者です。
 (該当者は、秋静葉、秋穣子、河城にとり、射命丸文、姫海棠はたて、博麗霊夢、八雲紫、八雲藍、橙)


758 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/14(火) 02:52:32 gEg/ZrTI0
これで「Mountain of Faith/Face of God」の投下を終了します。
ここまで見てくれてありがとうございます。感想・指摘などあればお願いします。

続きまして上白沢慧音、封獣ぬえ、吉良吉影、東方仗助、比那名居天子、
広瀬康一、河城にとり、パチュリー・ノーレッジ、岡崎夢美
以上9名予約しまう


759 : 名無しさん :2015/04/15(水) 01:19:18 UN7mvBfw0
投下乙です。
神奈子様……初っ端から苛烈にして覚悟完了していたかに見えたけれど、
その実未だ愛情を捨てられていなかった……
本当に不幸なすれ違いで、ロワに巻き込まれるという悲惨さを強烈に感じるお話でした。
面白かったです。


760 : ◆.OuhWp0KOo :2015/04/20(月) 00:30:25 687KDojg0
>>742の予約を延長します。
予測変換で『え』を入れたら『延長』が出てきてしまったが、それでも俺は……


761 : 名無しさん :2015/04/20(月) 00:59:20 GxZC/ZfM0
絶対書き切るマン


762 : 名無しさん :2015/04/20(月) 14:13:38 LdWzQoxE0
何週間もかけて長編書くよりも、短くてもいいから予約を守ってほしいというわがままな読み手様


763 : 名無しさん :2015/04/20(月) 18:12:17 iwexY88A0
個人的にはどんなに延長しても良いから名作書いてほしいなあ


764 : 名無しさん :2015/04/20(月) 20:38:11 9YAo4zR20
書き手が納得した作品を作る
俺らは待つ
それでいいじゃない(ニッコリ)


765 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/21(火) 20:38:47 fQgASt6c0
先ほど完成しましたが、現在投下できる環境にはいないので日付越えて深夜1時くらいに投下開始します。
お待たせしてすみません


766 : 名無しさん :2015/04/21(火) 21:01:42 4Pm9/iVs0
あの頭数を1週間で仕上げた…だと…!
めっちゃ楽しみ、乙溜めて待つぜ!


767 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:13:40 uvEDXnvk0
お待たせしました。投下します


768 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:18:41 uvEDXnvk0


―――『人狼』というゲームがある。


村人に化けて潜む狼――『人狼』を、村人たちが協力し、話し合い、推理し、そして投票によって狼と思われる人物を一人ずつ処刑していく。
人間に化けた人狼は一目では判別はつかない。
故に村人は様々な画策と知略によって彼らを追い詰め、正体を見極めなくてはならない。
村人側がとる戦法は非常に多種多様で、時には堅牢な慎重性で攻め、時には大胆な計略を用いて狼を炙り出す。

対して人狼側も自分の正体がばれぬよう、狡猾な誘導で村人を騙し通す。
裏切りと欺きと謀略の刺し合いの末、狼たちは一人また一人と村人を喰い殺していく。
そんな『騙し』のせめぎ合いが熱狂を呼び、一部の人々から高い人気を誇る。


……といった内容のゲームがこの『人狼』だ。




さて、この場には一つの『集団』がある。
9人の『村人』という彼ら彼女らが、ひとつの目的を目指して集まり団結した、所謂『対主催』のチームだ。

だがその実態は、非常に脆く醜い。
彼らの中の何人かは既に気付いている。
この集団の中には、人を人とも思わぬ血塗れた『狼』が隠れ、その牙を隠しているということを。
狼を暴き出し、どうにかして『処刑』しようと企てる者もいる。

既に水面下では赤い火花が飛び散り、今にも燃え上がらんとしている状況。
だが彼らの誰一人として、集団の中に紛れる『狼』の数など把握出来ていなかった。
誰が何を考え、どの村人を喰わんとしているのか理解できている者などいなかった。
つまるところ、影の中に浮かぶ『真実』という小さな光を見ている者など、この場には存在しない。


―――もしもそんな者がいるとすれば、天上から全ての万物を見下ろすような、まさしく『神の視点』を持つ者だけなのだろう。


例えば、そんな神の視点を持つ者がこの集団を覗いていたとして。

吉良吉影という『狼』が、自身の正体を知る者の抹殺を企てていたり。

東方仗助という『村人』が、吉良吉影という狂気の『狼』から仲間を守るため奮闘していたり。

河城にとりという『狼』が、パチュリー・ノーレッジという利口な『村人』をひどく鬱陶しく思っていたり。


そんな各々宿す因縁の関連性など、全てはきっと掌の上なのだろう。
しかし、天上で微笑みながら――あるいは胸を高鳴らせ夢中になりながらも9人を見下ろす神がいたとして。


『悲劇』という名の爆弾に火が付くその瞬間までは―――
『不穏』という名の導火線が伸びるその先までは―――



――――――『未来』の事までがわかる神などというモノは、この世に存在しない。



3人から始まった『藁の砦』は、紆余曲折を経て『要塞』へと成った。
しかし藁などが積み上がれば積み上がるだけ、燃え上がった後の被害は計り知れなくなる。
知識の魔女は当初、こう考えていた。
9人もの烏合の衆が集まったところで、待つものは『自滅』なのだと。
そうかもしれない。
しかし、そうはならないかもしれない。
だからこそ魔女は戦力を優先し、集団をより堅固な壁へと進化させるに至ったのだから。
未来の事など知りようがない故に、決断したのだ。



この判断が『吉』と出るか『凶』と出るか。
そこから先の未来は神すらも踏み込めぬ領域。

だが、ひとつだけ知り得る事があるとするならば―――


―――導火線には、既に『点火』が成されている、という事だけ。












           【Fire up】―点火開始―

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


769 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:21:00 uvEDXnvk0
[-00:10:30] [-00:16:04]

『河城にとり』
【午前7時1分】E-1 サンモリッツ廃ホテル 玄関前


薄暗い廃ホテルから一歩外へ踏み出せば、空には白く輝き昇りつつある太陽。
その光輝に思わず目が眩み、河城にとりは右手を瞼に当てて陰を作った。
浮かぶ表情は普段通りの、河童妖怪らしい瑞々しい顔。
しかしその仮面の下では、その腹の底では動揺と恐怖が湯水のように溢れ出てきていた。

にとりは―――未だ『爆弾』を回収できていない。

パチュリーのディパックに仕掛けた小型爆弾は、とうとう爆破させる踏ん切りを付けられずに今に至る。
早くパチュリーを始末したいという保身と、集団の要となる人物を消すことによる失策の天秤に揺られ続けていた。

そもそも……パチュリーは自分にとって本当に害ある存在なのか?
今までに散々疑いを掛けられてきた事実は見過ごせないが、しかし今のところの実害は皆無だ。
現在の自分は様々な思考を辿ってきた故に生じた、ひとつの被害妄想に陥っている状態なだけではないのか。
パチュリーは魔女だが、鬼や悪魔ではないだろう。
むしろ自分がパチュリーに向ける悪意の方がチーム全体、果てはゲーム全体で見ればよっぽどタチの悪い扇動者なのではないのか。
仮にパチュリーを始末したとして、その後の自分が必ずしも安全を約束された環境に居座れる可能性は薄い。
パチュリー・ノーレッジという魔女は間違いなく、この異変を突破するのに何かしら役立つ知識と魔法を備える女なのだろうから。

ならばこのまま現状維持を貫けばいいのかというと、そうも言ってられない。
パチュリーの荷物に仕掛けた爆弾という名の『殺意』だけは誤魔化しようがないからだ。
今は見つかってないが、いつどの瞬間に誰かの目に止まるとも分からない。
ならばもういっそここで爆破させようか。
そう思いたくとも、前述した理由により迂闊な判断では爆破出来ない。
荷物に仕込む時はあれほどあっさり成功したのに、そこから取り出すとなるとコレが中々チャンスが来ない。

そして幸か不幸か、にとりはこの後のチーム分断でパチュリーとは同班。
今ここで焦って爆破するよりも、いずれは爆弾回収の『チャンス』は来るかもしれない(もしパチュリーと違う班であるなら、そもそも最初から無理してパチュリーを殺す必要は無いのだが)。


(く……クソっ! 頼むから見つかってくれるなよ……! せめてみんなと別れた後まで……保ってくれェ〜〜〜ッ!)


結果、にとりは運を天に祈ることのみで何もせずにいる。
表情の上では平静を保ってはいても、内心では滝のような汗が絶えず流れ出ていた。
もし……もしも爆弾が見つかったのであれば、少しの口八丁で時間を稼ぐことは出来ても。
いずれは自分のやったことだとバレてしまうだろう。
そうなってしまった時には―――


―――ポケットの中に握る『リモコンスイッチ』が、汗ばんで気持ち悪い。


(私だって……殺したくて殺すわけじゃあないんだからな……!
 頼むから私を『殺人者』にしないで、くれ……!)


770 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:21:52 uvEDXnvk0
込み上げてくるのは後悔と恐怖心ばかり。
それでも一度は確かに殺意を呑んだ者の責任というのだろうか。
心の中に付き纏う悪魔は、決して離れてくれずに『災厄』を呼び寄せる。

『命』を『運』んで来ると書いて『運命』とは誰かが言った言葉。
だが『命』を運び『奪』っていくのもまた『運命』なのだとしたら。
河城にとりに纏わり付く『運命』は、彼女の命を奪っていくのか。
または彼女の秘める『運』が、全く違う『天命』をもたらしてくれるのか。

異変の炎は、刻一刻と拡がりを見せ始めている。
その片鱗は、パチュリー・ノーレッジの口から高らかに吼え拡がっていった。


「さ。皆、覚悟は出来てるわね? もう一度これからの各自の動きを確認するから少し集まって頂戴」


バサリと地図を広げ、全員の注目を己の指に集めさせた。
悩み続けていても仕方が無いと、にとりは暗い面持ちでテクテクとパチュリーの元に歩いていく。


「まずは仗助・天子のAチーム。フットワークのありそうな貴方達2人は一番長いルートを通ってもらうわ。
 このホテルから真っ直ぐ結界沿いに西へ。端っこのA-1まで突き当たったらそのまま南下してジョースター邸まで集まること」

ツツーっと、パチュリーの細い指が地図の上を滑っていく。
仗助はその様をフンフンと頷きながら眺め、天子は木刀を威勢よくブンブンと振り回す。

「任せなさいッ! この比那名居天子とその下僕、仗助があっという間にあのスキマ妖怪と紅白巫女を拉致してきてやるわッ!」

「誰も誘拐の真似事をして来いとは言ってないわ。2人を見つけたらなるべく平和的な同行をお願いするわね。
 それとさっきも言った通り、道中での魔力の確認もお願いね。天人サマ?」

多分に皮肉を込めてパチュリーは天子へと念を押すも、既に彼女の意識は自分に任せられた任命へと向けられ燃え上がっていた。
やれやれとパチュリーは溜息を吐き、仗助の方にコッソリと耳打ちを施す。

「……暴れ馬のフォロー、貴方にお願いしても良いかしら?」

「……手綱ナシでは自信無いっスけど、やれるだけは努力します」

頼りのない応答ではあったが、この東方仗助はあの広瀬康一と同様、やる時はやる子なのだろう。
パチュリーもそれを感じ、仗助の背中をバシッと叩くことで気を入れてやった。

その2人の様子を仲良くしているものだと勘違いしてか。
岡崎夢美が頬をブーブーと膨らませながらパチュリーに抱きついた。


「パチェーーー!! それでそれで! 私&パチェの班はどのルートだっけッ!!」

「勝手に事実を曲げないでね。アンタと慧音、ぬえ達3人のBチームは第二ルート。
 私とにとり、吉影、康一のCチームは4人で第三ルート。変更は御座いまっせん!」

言い終わるやパチュリーの拳骨がまたしても夢美の脳天に轟く。
既に見慣れた漫才の光景だったが、夢美はコブを擦りながらも全く反省する様子は無い。
未だ班構成に納得がいかないのか、騒ぎ立てまくる夢美をそっと押し退けて上白沢慧音が発言した。

「私たちBチームは地図上で言えば……このホテルから1マス下り、そこからB-2まで西行き、ジョースター邸まで引き帰るルートだな」

「ええ。中心部に近いルートを歩く分、それだけ参加者とも遭遇しやすくなるかもしれない。
 勿論、中には危険人物とも鉢合わせる可能性もある。
 皆ももう一度確認するわ! く・れ・ぐ・れ・も! 戦闘は避けて通るようにお願い!」


771 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:23:41 uvEDXnvk0
パンパンと手を叩き、パチュリーは目的の再確認をさせる。
今回の目的は霊夢と紫の捜索が最優先事項であり、危険人物の掃討ではない。
回避できる戦闘は極力、回避する。
それがこのゲームを生き残るために最も必要な戦法だと彼女は考えているからだ。
しかし、そうは思っていない者も少なからず居たらしい。
ご存知、比那名居天子は戦う気満々だとでも言いたげに木刀を天へと向けて叫んだ。


「弱い者が無理に戦う必要は無いわ! パチュリーの考えには一理あるけど、私は強いのよ!
 危ない思考の輩はこの私が全員、ブッ潰すッ! その分、他の弱者は安全になるって道理よ! 間違ってる!?」

このゲームにおいて一番危ない思考の輩はお前なんじゃないのか、口には出さずとも仗助の目はそれを如実に言い表していた。
とはいえ仗助も天子の考えに理解がないわけではない。
というか、どちらかと言えば仗助は天子寄りの意見であり、彼女と同じく危険人物はなるべくブッ飛ばして無力化したいとも思っていた。
天子番長と舎弟仗助の意見が初めて一致した瞬間である。
が、その記念すべき瞬間を仗助は全然嬉しくも思わず、逆に天子と同意することはイコール面倒だなと考え、沈黙のみを味方とした。
一方、味方のいない天子に対しパチュリーはここぞとばかりに刺す。

「貴方の考えにも一理あるけどね、天子。でもそれは時と場合によるわ。
 鼻高くして踏ん反り返ってる隙だらけの貴方を、その敵は狡猾に攻めてくる場合もある。
 『勝てない』と思ったら素直に退いて、みっともなくても良いから逃げ出しなさい。
 天人のプライドと命、どっちが大切なのかをもう一度噛み締めて」

「はあ? プライドを捨てるくらいなら死んだ方がマシよ!
 陰険な地上の魔女如きがこの私の誇りを語るなんブバっふ――!?」

「そーそーようは『臨機応変』に対応しろっつーことなんスよねパチュリーさんの言いたいことはッ!」

次第に声色が熱くなってきた天子の口を横から塞ぎ、仗助は慌てて間を取り持つ。
天子も天子だがパチュリーもパチュリーだ。
台詞のひとつひとつに一々棘を含ませる彼女の悪いクセは天子に対してもまるで物怖じしない性格のようで。
全くどうして幻想郷の女はこうも危なっかしいひとクセふたクセある人物ばかりなのだろうと、仗助は自身の性格を棚に上げて呆れ果てた。

「んーーーんーーー! ……ぷはァ!! ちょっと何するのよ仗助、苦しいじゃないの!
 下僕如きがよくも私の華麗な唇に触れてくれたわ―――」

「―――あの! パチュリーさん!」

傍から見ていて埒が明かなくなったのか、康一も慌てて天子の言葉を遮って質問を投げかけてきた。

「さっきの『案山子念報メールマガジン』なんですけど……」

康一は先程PC画面で目にした気になる記事についての出来事を簡単に思い出していく。
その記事は康一にとって――いや、その場の多くの者にとってある種ショッキングな記事だった。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


772 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:24:39 uvEDXnvk0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
[-00:20:15] [-00:25:49]

―――『八雲紫、隠れ里で皆殺しッ!?』

その恐ろしいタイトルはさておき……はて、八雲紫とは最近どこかで聞いた名だった気がする。
というか、今から自分たちが探しに向かうターゲットの一人ではなかっただろうか。
呑気しながら浅い記憶の引き出しを探っていた康一が答えを手繰り寄せると同時、一緒に画面を覗き込んだ慧音が蒼白な顔で叫ぶ。

「―――八雲紫!? それに、この画面は……ッ!」

映し出された画面内の写真には自分も知る幻想郷の住人『魂魄妖夢』や『星熊勇儀』など、計3人の参加者を殺害してるとおぼしき八雲紫の凄然な姿があった。
彼女の幻想郷に対する想いはこの慧音もよく知っている。だからこそ信じられなかったのだ。

「八雲紫が―――殺し合いに乗っている……!?」

思わず喉から出たその言葉の意味をよく考える。
ありえないと否定したい。
しかしそれならばこの記事自体の信憑性はともかくとして、この写真の語る意味するところは。
見る限りでは、どう見ても紫にしか見えない人物の、どう見ても殺人の瞬間を捉えた写真にしか見えない。
確かに大スクープではあった。……信じたくない悪夢のように。

「パチュリー……お前は『これ』を、どう考える?」

「……この記事は十中八九、『嘘』が混ざっている。
 でもどこか真に迫るような『真実味』が見える気もする……そんなところかしら」

どちらにせよ彼女への遭遇及び接近には最大の注意を払って身構えることね、そう言い残してパチュリーはPC画面を早々と落とした。
パチュリーの答えは微妙に曖昧ではあったが、この記事の写真は確かにリアル過ぎる。
おかげで記事を目にした各々は目的人物の顔をこれでもかというほど詳細に記憶に刻み込まれる程度の効果はあった。
少なくとも紫が先ほどまで『猫の隠れ里』に居たという情報は得られたのだ。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


773 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:25:31 uvEDXnvk0
[-00:06:40] [-00:12:14]

ホテル食堂でのそんな出来事を康一は、駆け抜けて思い出し終えた。
あのような生々しく血生臭い現場写真を見てしまったのだ。
いくらスタンド使いとして戦ってきた康一も、こればっかりは気分も最悪だった。
そんな康一の不安げな表情を汲み取り、パチュリーも少し俯き加減に考える。


「ふむ……そうね。肝心なことを言っておきましょうか。
 特に『猫の隠れ里』を通る第二ルートの教授や慧音たちBチームに強く念を押したいのだけど……
 もしもターゲットの霊夢や紫が『乗って』いたのなら、それは考えられる限りの『最悪』よ。
 私たちの最終目的、その前提から崩れるだけでなく、このゲーム…果ては元の幻想郷そのもののバランスまで揺らぎかねない。
 出来ればだけど、その時は『力づく』で連れて来て欲しいわね。……ま、無いとは思うけども」

パチュリーたち幻想郷の住民にとっては『ありえない』事態故に、今までその考えに至らなかった。
異変解決でその名を広く轟かせるあの『博麗霊夢』と。
幻想郷を創った妖怪の大賢者の一人であるあの『八雲紫』とがゲームに『乗って』いた場合。
それはつまり本当の意味での『幻想郷の崩壊』を示す絶望であり、同時に主催に対抗する一切の手段の消失。
完全に光が絶たれ、よもやこの自分達ですらもゲームに興じるしか道は無くなるのだろうか。

……いくら考えていても、今はその答えを導き出せそうにない。
考えるのは、『そうなった場合』の後からでも遅くはないのだろうか。
数字をゼロで割るような、そんな証明を求められているかのように思考の迷路に迷い込むくらいならば。


「その時はこの私があいつらをブッ飛ばせばいいだけじゃないッ! ねえ仗助!!」

「え。
 ………あ、ええ、その通りですよ天子さん! パチュリーさんの不安なんか俺のクレイジー・ダイヤモンドで月までブッ飛ばします!」

正義の鉄槌というよりかは、個人的な恨みで霊夢や紫をハリ倒せる免罪符を手に入れただけのように見える天子と、
急に振られて思わず同意しただけのように見えた仗助が形だけでも元気付けてくれた。
信憑率皆無とはいえ実際に証拠写真の存在がある紫はともかく、あの霊夢までが一緒になって殺戮に興じるとはとても思えない。
杞憂だと思い、今は自分らに出来る戦いをやろう。

パチュリーは少々弱気になった自分を勇気付けてくれた仗助(のみ)にほんの少しの笑みを返し、いつの間にか腰に抱きついていた夢美を邪険に思う。

「パ〜〜〜〜〜〜チェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜………あたしゃ寂しいよォ〜〜〜ン……! よよよよ…………」

懐いてくる子犬を優しく引き離す、というよりかは鬱陶しく血に吸い付いてくる蛭を引き剥がすような強引さで夢美を押し退けた。
パチュリーにとって厄介なのは、この岡崎夢美という女が自分のことを本気で心配しているという一点に尽きる。
夢美は自分の身を心の底から案じてくれ、その感情がちょっぴりだけ行き過ぎているだけなのだ。
それをよく理解できているからこそパチュリーは夢美のことを嫌いにはなれない。

(つくづく面倒な相棒を手に入れてしまったものね……)

そうは思いつつもこのままではいつまでも出発できない。
あるいはいつまでも親離れできない子を持つ母親の苦労を身に沁みながらパチュリーは駄々っ子の教育を開始した。


774 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:27:22 uvEDXnvk0

「いい教授? 貴方の心の奥の奥のそのまた奥、その最底辺に眠るなけなしの米粒みたいな優しさは私もギリギリ理解しているつもりよ」

「ここは怒ってもいい所よね?」

「黙って聞く所よ。それでも貴方の優しさという名の『一方通行』の想いは決して私のためになるわけではないわ。
 私と教授の間には『信頼』が足りない。それは時間を掛けて培うものでも、ましてやベタベタとくっつくことで育むものでもない。
 『また明日ね』と言われて『バイバイ』と返せるような気軽さで、互いを信じることによって手に入れていくものよ。
 それで教授? 貴方は私の『またね』という挨拶に、一方通行で傍迷惑なラブコールで返答するわからず屋なのかしら?」

「………………! わ、わかったわパチェ! 『また』! 絶対『また』会おうね!!」

果たして何処が夢美の琴線に触れたのかは定かではないが、とりあえず彼女はパチュリーの説得にいたく感動したらしい。
うるうると涙目になってまで手を振り、大げさな茶番芸まで見せ付けてくれた。
何だかんだ上手いこと言って夢美を丸め込んだことに一安心したパチュリーもこれにてようやく行動に移せる。
仮にも教育者の立場である筈の彼女を、図らずも教育してしまった点については複雑ではあったが。


……抱きつかれた温もりをほんの少し『寂しい』と思ってしまったことには誰にも言えない。



夢美といえば、と。
パチュリーはふと、かなり重要なことを今更ながらに思い出した。
そういえばここにいる夢美はもしかしてあの吉良吉影の『正体』を知らないのではなかったか。
吉良の恐るべき正体を仗助が食堂で明かした時、夢美は(原因が何だったか覚えてすらいないけど)気絶していたはずだった。
自分たちが爆弾にされているかもしれないというとんでもない話の最中、あろうことか彼女はスヤスヤ夢の中を飛んでいたのだ。
その能天気ぶりに多少ムカついたので、このままで良いだろうという悪魔の囁きも聴こえたが、流石にそうはいかない。
夢美にもこの事実を伝えるべきなのだが、しかし吉良の居る今この場で伝えるわけにもいかなかった。

パチュリーは荷物の整理の最中である慧音を掴まえてそっと耳元で囁いた。


「慧音。吉良の『爆弾』……そして彼への『説得』についてだけど……」

「ああ、分かっているよ。夢美に伝えるのだろう? 後で私の方から伝えておこう」


流石に慧音は話が早かった。
爆弾の件云々もそうだが、その殺人鬼をパチュリー自ら説得しに行くことなど今話せば100%止められる。
どころか「代わりに私が説得する!」くらいは余裕で言うだろう。
皆が分かれた後で、夢美と同じチームの慧音から話を通しておけば面倒は最小限に抑えられる(※ゼロではない)。
慧音に軽く礼を述べ、時刻の確認をすると―――

現在時刻7:06。

予定より少し遅れている。
ジョースター邸での待ち合わせは正午だが、時間通りに回れるだろうか。
少しの焦りを見せ始めたパチュリーは最後にもう一度手を叩き、皆の注目を集めた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


775 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:28:04 uvEDXnvk0
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[-00:05:27] [-00:11:01]

『東方仗助』
【午前7時6分】


「―――じゃ、皆準備できたわね? もうここには戻って来ないと思うわよ」

「はいはーい! 私は完全完了準備オッケーです!」

「待ちくたびれたくらいよ。そろそろ身体を動かしたいところなのよね」


パチュリーの掛け声にややテンション高めの夢美と、天子が伸びをしながら返答した。
仗助もそんな天子の傍に付き、気合を入れ直す。

状況は―――ハッキリ言って不安の割合が多くを占める。

なんと言ってもあの殺人鬼が今なお、この場の誰かを爆弾に変えている事実はどうあっても変えられないのだから。
仗助はパチュリー、にとりらと共に出立の準備を整える吉良を横目で睨んだ。
奴の爆破能力に『射程距離』の概念があるならば、確かに吉良とその他のメンバーを出来るだけ引き離すのは上策かもしれない。


「パチュリー。それとにとり、康一君。……吉良さんも。気をつけてくれ」

「パチェ〜〜〜〜っ!!!! 『また』ね! 『また』ね!! 『また』ね!!! 『また』ね!!!!」


パチュリー率いる4人のCチームがいよいよ出発を開始する。
慧音が激励を送り、夢美がブンブンブンブンとそれはそれは大きく手を振っている。
吉良を有するこのチームが目下のところ一番の不穏だと仗助は考えているが、その心配は一人の親友が打ち払ってくれるだろう。


「―――吉良のヤローは、お前に任せるぜ。……康一」

「―――うん。僕が必ず、皆を守るよ。仗助くんも、天子さんをフォローしてやって。……あの人、結構危なっかしそうだし」


違いねェ、と仗助はニタリと苦笑する。
互いに一言だけの言葉を交わし、後は何もいらなかった。
親友の力はお互いしっかり理解出来ている。
康一が必ず守ると言ったならば、きっと彼は全力を尽くしてその約束を違うことはしないだろう。
チームの中で『爆弾化していない』と確信出来る者も自分を除けば康一ただひとり。
彼だけが吉良と唯一、対等な対峙が可能な者。
しっかりと吉良の動向を見張ってくれる広瀬康一という男は、仗助が本当に頼りにしている男なのだった。


776 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:28:49 uvEDXnvk0
軽く手を振り、少年の短い別れは終わった。
東へ向かう彼ら4人の姿がだんだん小さくなっていくのを見届けていると、仗助の耳に今度は優しい大人の声が掛かってきた。


「仗助くん。それに天子も。くれぐれに無茶はするんじゃないぞ。……特に天子は、その……」

「何よハクタクセンセー? まさかとは思うけど私の力を疑っているワケ?
 それなら何度も言うように心配要らないわ! この無敵天人比那名居天子が、あ!!!!っという間に悪者を叩きのめすからッ!」


2人が心配しているのは実力ではなくその自信過剰な性格なのだが、こればかりは生来治らない性なのだろう。
仗助もいい加減彼女の性質は理解出来ているので、ここからは天子のフォローという仕事が増えそうだ。
お調子者の上司を持った新入社員の気苦労を若くして味わうことになりそうだと、仗助は深い溜息を吐く。


「……慧音。そろそろ、私たちも……」


どこからいつの間に現われたのか。
封獣ぬえが仗助と慧音の会話に割って入って来た。
彼女の表情はどこか暗く、しかし何故かその中に不安という色は見えないように感じた。
だが彼女にも色々あったのかもしれないと、仗助は内心ぬえを心配する。
やはり放送のショックが多少なりともあったのだろう。
そのとき辺りからぬえの様子はずっとおかしかったのだから。


「慧音さん! ぬえちゃんも! 私たち栄光のBチーム――いえ、『輝く明日への教師チーム』も早速出発しましょう!
 素敵な巫女さんの霊夢ちゃん、スキマ大妖怪のゆかりんさん共々パパっと捕まえちゃって、さっさと合流場所でパチェを待つのよ!」

「お前は霊夢たちを探しに行くのか、パチュリーと再会する為に行くのか、どっちなんだ……」


慧音がげんなりと夢美にツッコんでいく。
この人騒がせなお姉さんと行動を共にするのはひと苦労だなと、仗助は同情の意を慧音に向けた。
何だかんだでやいのやいのしながら南の方角へと歩を進める彼女ら3人を眺める仗助。
その大きな背にバシンと力強い震動が響いた。


「さッ! 後は私たちだけね仗助! 精々、主である私の足だけは引っ張らないようにお願いしたいわ!」


……夢美の万倍人騒がせなお姉さんを忘れていた。
これから数時間、彼女と2人旅を味わうことを考えるとひと苦労どころの話ではない。

「目指すは西よ! 言っとくけど天人の脚力は人間の比じゃないわ。
 『特別』に! 『今回』は! この私がアナタに歩幅を合わせてあげるわね! 優しい主で感謝しなさい!」

「ワー ソイツハ オキヅカイ アリガトウゴザイマッスー」

「……何か釈然としないノリだけど…ま!いいわ! じゃあこの私率いる『麗しき非想非非想天の天子様!チーム』出撃よ!」

ひとりしか居ないお連れのどこが“率いる”なのか、とか。
そのキラキラしたチーム名の中にはもしかしなくても俺を含めてるんだろうなぁ、とか。
歩幅を合わせるなどと言った次の瞬間、彼女の姿は既に自分の遥か前方を爆走している、とか。
そもそもそっちは太陽が昇り来ている方向なので恐らく西ではなく東なんじゃないだろうか、とか。

既にしてツッコミきれない天子の数々の行動は、仗助にもう一度盛大な溜息を吐かせるのには充分すぎる理由だった。
そのまま東に向かうパチュリーたちと合流しかねない天子を連れ戻すために、仗助は渋々彼女の背中を追いかける。


走りながら仗助は白い朝空を見上げ、これからの行く末に憂いを感じた。
どこまでも続く空は、自分たちの出発を歓迎しているようには見えなかった。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


777 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:29:33 uvEDXnvk0
【E-1 サンモリッツ廃ホテル前/朝】

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:頭に切り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの打破
1:霊夢と紫を探す・第一ルートでジョースター邸へ行く。
2:吉良を仲間になんかできるのか? やっぱり……。
3:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
[備考]
※幻想郷についての知識を得ました。
※時間のズレ、平行世界、記憶の消失の可能性について気付きました。


【比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:健康
[装備]:木刀@現実、龍魚の羽衣@東方緋想天
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第一ルートでジョースター邸へ行く。
2:主催者だけではなく、殺し合いに乗ってる参加者も容赦なく叩きのめす。
3:自分の邪魔をするのなら乗っていようが乗っていなかろうが関係なくこてんぱんにする。
4:吉良が調子こいたら、ぶちのめす。
5:紫には一泡吹かせてやりたいけど、まぁ使えそうだし仲間にしてやることは考えなくもない。
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
※ぬえに対し、不信感を抱いてます。
※吉良の正体を知りました。


778 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:30:58 uvEDXnvk0
[-00:0:04] [-00:05:38]












































    ドグォオオン―――!












天子の走っていった東の方角から仗助の耳に轟いたのは、そんな破裂音。


779 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:31:21 uvEDXnvk0


映画なんかでよく聞くような大胆で派手に盛ったSEではなく、
仗助自身、最近どこかで実際に聞いた音によく似ていた。


そう、例えば吉良吉影の繰り出す空気弾が爆発した時のような―――










「――――――あ?」










息と共に小さく漏れた、意味も成さない言葉が。
この空気に、これ以上なく不穏な寒さを予期させた。




―――ずっと、嫌な空気は感じていた。






▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


780 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:33:07 uvEDXnvk0
[+00:00:41] [-00:04:53]






パチュリーは呆然としながらも、『ソレ』を前にして動けずにいた。

河城にとりは腰を抜かして地面にへたり込み、『ソレ』を空白の目で見つめていた。

離れた所から無表情の仮面を被った吉良吉影が、『ソレ』を黙って見下ろしていた。

だらんとぶら下げた木刀を携えた比那名居天子が、『ソレ』を見て言葉を失っていた。




音を聞いて駆けつけた仗助の目に飛び込んできた光景が『ソレ』だった。
爆発の余韻だけが空を響かせ、残るは静寂。

今、この場で何が起こった。
誰が、何を目撃した。
この事象を説明できる者は居ないのか。
誰もが言葉を詰まらせ、発せることが出来なかった。



「――――――いて、くれ」



静寂を最初に打ち破ったのは、後方からその死のような静けさを眺めていた男。

東方仗助は、言葉に成らぬ言葉を漏らしながら『ソレ』に近づく。


「―――どいて、くれ……ッ! 皆、どけ……ッ! そこをどけェェーーーッ!!」


唖然とする天子を荒々しく押し退け、
へたり込むにとりの肩に足をぶつけ、

猛然と『ソレ』の元に駆け寄る。






「――――――康一ィィィイイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」






顔の原型が判別できないほどの爆死体と果てた“康一”と呼ばれた『ソレ』は。
爆発の跡地で、無残な骸と化していた。



「クレイジー・ダイヤモンドォォオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」



駆けながら、慟哭が如く吼える。
あらゆる物を『治す』能力。
この世の何よりも優しい能力と称されたその力は。
命を『繋ぎ止める』力はあっても。




―――命を『呼び戻す』力は、無い。






【広瀬康一@第4部 ダイヤモンドは砕けない】 死亡
【残り 65/90】


781 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:34:17 uvEDXnvk0
[+00:01:27] [-00:04:07]


「おい! 今の音は何だッ!? 何があった……―――ッ!!」

「なによ……これ…………っ」

「嘘………」


騒ぎを聞きつけ駆け戻って来た慧音と、夢美と、ぬえが、惨劇を目にした。
そこに居たのは変わり果てた友人を懸命に治療する仗助と。
それを見守る――というよりも未だ信じられない眼差しで眺める周囲の面々と。



体の前面部が焼け焦がれ、ズタズタに切り刻まれた康一“だったモノ”が倒れている。



下顎がまとめて吹き飛び、
黒く焦げた胸部からは白い骨が飛び出していて、
破れた喉を含め呼吸器官も全て深刻な傷を負い、
肺の中もグズグズに破裂し、それだけでも致命傷。
右肩から先の腕が丸ごと消失し、数メートル先の地面に千切られたまま落ちており、
他にも身体のいたる所の皮膚が抉られ、そこから流れるドロドロした大量の血液が地面に血溜まりを形容している。


誰がどう見たって、『即死』だった。


仗助の能力は傷付いた身体を完全に癒せるものだと聞いてはいても、
果たして即死の人間を復活に至るまでに治せるのか。

恐らく―――不可能だろう、と。
この場の全員が、悟った。
それを一瞬で悟れるほど、康一の負ったダメージは深刻だった。

それを誰よりも理解している筈の仗助は、何も言わず懸命に治療を進める。
まだ、間に合うかもしれない。
もしかしたら助けられるかもしれない。
根拠の無い空白の希望に縋り、必死にその手を伸ばそうとする。

かつて親友の虹村億泰が吉良吉影から受けた絶望的なダメージを、ギリギリの状態から奇跡的に復活できた時のように。

だから仗助はその手を止めない。
可能性が1%でもある限り……いや、たとえ無くたって。
康一の命を助けられるのは自分しか居ないのだから。


782 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:35:06 uvEDXnvk0


ほんの短い間。
仗助が康一の身体を治療しているほんの短い間。
この場に流れる静寂と寒気が身をつつみ、時間も空気も凝結したような感覚を覚えた。
仗助も、彼を眺める周囲の者達も、皆。


しかし、そんな沈黙もすぐに崩れた。


「吉良吉影ッ!!! アンタが……アンタが康一を爆弾で殺したのねッ!!!」


眠った沈黙を撃ち崩したのは、殺気立った形相で吉良を指差したぬえ。
この場の誰もが初めて目にした、彼女の鬼面のような表情が真っ直ぐ吉良を見据えた。


「みんな聞いてッ! 今までずっと涼しい顔してたこのスカしたブタ野郎の正体はッ!
 『人や物を爆弾に変える能力』のスタンド使いッ! イカれた『殺人鬼』なのよッ!!」

「――――――………っ」


今にも殴りかかっていきそうな勢いで怒号を放った彼女に物怖じしたのか、吉良がここで初めて動揺の色を見せた。
ぬえが当初に見せていた弱々しい印象やぶっきらぼうな雰囲気は既に面影に無い。
あるのは罪深き殺人者を糾弾し、処刑に追い込む暴衆のような豪気だった。


「え……えぇ〜〜〜ッ!? 吉良さんがさ、さ、さ、『殺人使い』で、『スタンド鬼』ッ!?
 爆弾って……どういうことぬえちゃんッ!?」


ぬえの言葉に大きくショックを受けたのはただひとり。
この場で唯一、吉良の『正体』を知らなかった夢美だけが驚愕した。


「この男は普通の一般人を装って、陰から私たちを殺すチャンスを伺っていたのよッ!
 その証拠に康一も爆弾で殺されたッ! コイツはゲームに『乗って』いたのッ!!」

「なっ……! 何を突然言い出すんだぬえさん! 私がスタンド使いなワケが……ッ!」

「嘘ッ! 私見てたんだから! アンタがホテルで仗助と康一と会話してる所を陰からッ!
 アンタが爆弾のスタンド使いで、どーしようもなくクレイジーな人殺しだって会話をねッ!」

「グ………ッ!?」


なんて迂闊な失態だと、吉良は過去の行動を恥じた。
まさか『あの』会話を見られていたとは、最大のミスだ。
どうする……これでは言い逃れようが……ッ!

しかし、何かがおかしい。
全く辻褄が合わないのだ。

―――そもそも、


「待てッ! 私は広瀬康一を殺してなどいないッ!! 何かの間違いだッ!!」


783 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:35:43 uvEDXnvk0
吉良は反論をした。
自分がスタンド使いだという事はともかく、康一を手に掛けたのは違うのだと。
しかし、

「へえ!? 殺人鬼の言うことなんて誰が信じるものかしら! 仗助も言ってやってよッ!
 この男はアンタと康一の『敵』で、正真正銘の『殺人鬼』だってことをッ!」

「………………………っ」

論証など無い吉良の反論に、ぬえは声を高くして言い返す。
あわよくば仗助をも味方に付けようと彼の傍に立つが、当の本人は黙って俯きながら治療の手を止めない。

「…まぁいいわ。とにかく吉良! ただひとつ言えるのはアンタは私たちの『敵』!
 これからどういうことが起こるのか、理解できてるんでしょうねッ!」

「―――――くッ!! け、慧音さんッ! 貴方も何とか言ってやってくれないか!? 彼女は思い違いをしている!」

「え、あ………っ! い、いや、私は………!」

吉良は頼った。
自分たちを信じ、守って見せると誓い放った慧音ならばもしかしたら自分を信じてくれるかもしれない、と。
だが助けを求められた慧音は期待に反してバツが悪そうに目を背けた。
それはしかし、慧音からすれば……いや。
この場の殆どの者からすれば至極納得のいく反応であったろう。

何故なら―――


「―――無駄よ、吉影。貴方の仮面の裏に隠してきたという『本性』……。既にここに居る全員が知っているわ」


「―――――――なに?」


パチュリーがスペルカードを繰り出す構えで、一歩前へ踏み出た。
その顔に勇ましさはあったが、警戒と不安の示す割合の方が色濃く現れていた。
更にパチュリーに続いて天子が木刀をブンと一振りし、大きく吉良の前へ一歩乗り出して宣誓する。

「ニッブい男ねアンタも! アンタの正体はホテルの中で、とっっっっくの昔に皆にバレてたって言ってんのよ!」

「――――――っ」

大胆不敵に構える天子の表情にいつもの横柄な笑みはない。
あるのは目の前の『悪』を退治してやらんという確かな正義と、粛然たる自信のみ。
現実としてひとりの仲間が殺されたのだ。ここで奮起せねばいつ奮起する。
そんな真っ直ぐな想いが、彼女の武器を握る手の力を強くした。

「いやいや私は初耳なんですけど!? ちょっ 私だけ除け者だったの!?」

「……教授。後で詳しく話すから今はスッ込んでて。……面倒くさいから」

「ひどっ!!」

話に付いていけてない夢美を強引に下げ、パチュリーも吉良を囲むように戦闘の態勢を作る。
吉良を無力化するため、今にも戦いを仕掛ける気の天子とパチュリーを見て慧音は、自分もなし崩し的に吉良を囲む。
彼女も納得出来ない部分はあったが、この吉良吉影という男が間違えようのない殺人鬼なのはどうやら事実らしい。
故に、迎撃の用意はしなくてはならない。
チームの命を守るというのは、自ら誓った言葉なのだから。


784 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:37:40 uvEDXnvk0


「ク……ソカス、どもめェェ……ッ! だがひとつ忘れているぞ……!
 私はお前たちを既に『爆弾』にしているということをッ! そこから一歩でも近づいてみろッ!
 その瞬間、私は躊躇無く『スイッチ』を押すッ! 木っ端微塵にしてやろうッ!」


吉良はもはや冷静な仮面など脱ぎ捨て、スタンド『キラークイーン』を出現させる。
既に全員に自分の正体を話していたなど、まさか仗助や康一がここまで軽率な奴だったとは予想外だった。
人質まで取っているのによくも軽々と話せたものだと、吉良は驚きを通り越して疑問を覚えた。

何故そんなことが出来た……?
それにコイツらは自分が爆弾になっていると知っていて向かってくるというのか……?
この私がチョイと指に力を込めれば、自分が吹き飛ぶかもしれないという可能性を覚悟してまで……?

吉良のそんな疑問は、次なる天子の言葉によって潰された。

「ハン! クソカスなのはアンタの腐れ脳みその方じゃないの?
 アンタの能力『キラークイーン』の爆弾化は『一度に一つ』まで。知ってるのよ!
 だから“康一を爆弾にし、爆破した”今! アンタに残ってる『人質』なんていう札は既に無いのよッ!!」

「………ち、違うと言っているだろうッ! 私が爆弾にしたのは康一じゃあないッ!! お前たちの誰かひとりだッ!!」

「ギャーギャーうるさいわね。もういいわ、そーいうのは地獄の閻魔にでも泣きついていなさい。
 罪深き悪人にかける情けナシ! 死んで地獄へ逝きなさいッ!」


死人に口は無ければ、罪人にも反論する権利など無いとでも言うように。
怒涛の勢いで天子は捲くし立て、眼前の『悪』を裁くことのみを正義の行動とした。
今やパチュリーもぬえも、慧音ですらも吉良を庇おうとは思っていなかった。
彼を説得し味方につけるという思惑も、この場で康一が殺された以上破綻せざるを得ない。
吉良が過去犯してきた許されざる『殺人』という罪は、どこまでも彼を孤立させた。

吉良吉影という男は、紛れもないこの世の『悪』だった。

それを今更疑う者など誰一人として居ない。
これで戦いの構図は、完全に決定した。
悪を裁く側の天子やパチュリー、ぬえや慧音。ついでに夢美。
一方、吉良は独りだ。

キラークイーンは一撃必殺の威力を持つスタンドだが、多勢には向いていない。
多方向から同時に畳み掛けられれば最初の一人は始末できても、残りの相手を全て迎撃出来るかは怪しい。


ここに来て吉良は、絶体絶命。完全に不利な状態となった。


どうしてこんなことになった。
今、何が起こっているのだ。
何が間違っていたのか。
自分の犯したミスは何だ。
万事休す、なのか。

―――かくなる上は、戦う道しかないのか。

吉良の瞳が一層おぞましく変化した。
男が見せた瞳は、まさしく長年人を殺し続けてきたそれ。
それを受けた天子も怯まず、より激しく燃え滾って睨み返す。


一触即発。


極めて緊迫した空気に散る火花が、今にも戦いの導火線に点火せしめんとしたその時。




「――――――………クレイジー・ダイヤモンド」




冷ややかな男の声が空気をそっと裂いた。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


785 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:39:19 uvEDXnvk0
[-00:05:36] [-00:11:10]

『河城にとり』
【午前7時6分】


(――――――やめよっか、パチュリー殺すの……)


それが私の最終的に下した、か弱き決断だった。
何度も何度もスイッチは押そうとした。
でも、無理だった。
それはチームの要を殺すことに対する罪悪だとか、
その後の処理に状況改善は見られるのだろうかとか、
そんな回りくどい言い訳はナシに、ハッキリスッパリ言うのなら―――


―――要は、私はただ臆病なだけだった。


スイッチにかけた指がどうしても震えてしまう。
邪魔者を殺そうという確かな殺意を燃やした瞬間、汗は止まらず足が竦んでしまった。
私の甘い心が決断を鈍らせ、無駄な時間がズルズルと現実逃避の妄想に甘んずってしまう。
保身が第一とはいえ、こんな私でも何となく感じていることはある。


人の命を、そんなに軽々しく扱ってはいけない。


殆どの者は子供の頃からそんな認識を育み、それはこの世の常識として心に植えつけていくのだろう。
私だって例外じゃあない。良心ぐらい、持ってる。
異変に対してこうも能動的に動こうとするパチュリーの生命を、私如き臆病者が刈り取るだなんて不条理極まる。

いや、これも言い訳か。

うん。もう一度ハッキリ言おう。
私には、無理だ。
誰かを殺して、素知らぬ顔でのうのうと生き続けるなんて。
きっとその内、心が圧し潰される。壊れてしまう。
所詮は低俗妖怪の河童。細々と生きて、何もトラブルの無い人生を平和に送りたい。
都合の良い、まこと自分勝手な理想と偽善だとは理解してる。
でも、でも……


それが私の……ささやかな、願いなんだ。




「―――じゃ、皆準備できたわね? 朝食も取ったし、もうここには戻って来ないと思うわよ」


パチュリーが手を叩いて出発を合図した。
これからしばらくは4人で異変解決の第一歩に乗り出していくんだろう。
私も、パチュリーと一緒に……。


しかし最大の懸念は、残ってるんだ。
何としてもあの『爆弾』は回収しないとマズイ。あれだけはマズイ。
アレを見られてはいくら何でもオシマイだ。早く行動に乗り出さないと……!


786 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:40:12 uvEDXnvk0


「―――吉良のヤローは、お前に任せるぜ。……康一」

「―――うん。僕が必ず、皆を守るよ。仗助くんも、天子さんをフォローしてやって。……あの人、結構危なっかしそうだし」


仗助と康一の、そんな会話がチラッと耳に入った。
2人の会話はそれだけで、後は腕を交わし合って終わり。
たったそれだけで2人の仲の良さというか、意思が通じ合っているのかなぁと私は感じる。
なんか、良いな。羨ましいよ。
私にはそんな相手、居ないし……。

康一は、私を守ると言ってくれた。
あんなチビのクセして、偉そうにそう誓ってくれた。
私はアンタを利用したいとしか考えてないってのにさ。

……どこまで私は惨めなんだろう。
人を頼って、利用して、最後には捨てることすらも厭わない。
今もこうして、自分のことだけしか考えていない。


ねえ、康一。
アンタ、私を守ってよ。
こんなに苦しんでる私の心に、気付いて欲しいよ。
だって言ったじゃん。アンタ、言ってくれたじゃん。
私を絶対に守ってくれるって、そう言ったじゃんか……。

どこまでも…どこまでも惨めで、愚かで、勝手なエゴだ。
それを自分で理解してはいても、私は誰かに縋らずにはいられなかった。
私はこのまま、ずっと独りなのかな。



(―――いっそ、)



そうだ。
いっそ、『信頼』してみようか。
仗助と康一程の関係とまではいかずとも。
私も誰かを――例えば『康一』とかを、信じてみようか。
康一と信頼関係を築けば、私の悩みを聞いたりとかしてくれるんじゃないのか?



そこに打算はあるかもしれないけど。
これ以上、独りで悩むのはもう―――キツイよ……。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


787 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:40:54 uvEDXnvk0
[-00:02:49] [-00:08:23]


東に向けて出発した私たち4人。
魔法の箒に乗ってゆっくり進むパチュリーを筆頭に、
少し離れた場所を吉良が歩き、そして康一、私が疎らに団を形成していた。


「あの……………康一」


前を歩く康一に向けて、おずおずと話しかける。
というよりも、“口に出してしまった”と言った方が正しいのかもしれない。
それは心の限界が来たのか。
自然と、康一に話しかけていた。
無意識にこいつを頼りにしていた、のかもしれない。

「…? なんだい? にとりちゃん」

「ぁ………あ、いや……少し、話があるんだけど、さ……」

深刻そうな面構えで康一を呼び止め、前を歩く2人から少し離れる。
こんな話、とても聞かれたくないからだ。最悪、私の命にすら関わる。
私は深呼吸を二回して、もう一度心の中で会話のシュミレーションを行う。

………大丈夫だ。康一なら、きっと大丈夫。
人間にも『良い』人間と『悪い』人間の2種類が居る。
コイツは、『良い』人間だ。だから、話してもいい。

私は康一を『信頼』、してみよう。

「あ、あのさ! ……実は康一に、ていうか皆に隠していることがあるんだ」

「隠していること?」

「う、うん……絶対誰にも言わないで欲しいんだけど……その、な?」

ヤバイ。心臓がめっちゃバクバクしてる。
これから私が告白する内容を考えたら当たり前か。落ち着け、私……!
ここは教会の懺悔室だ。そして私は神父に『あやまち』を告白する信者だと思え。
神父は告白された罪を口外するようなことは絶対にしない。
康一は神父だ。康一を、信用するんだ……!




「落ち着いて聞いて欲しい。今、パチュリーさんの荷物には……………

 ――――――『爆弾』が入っている」




「………………え? ば、ばくだ―――ッ」

(シィーーーーーーー!!! ばっ……デカイ声を出すなって!)


788 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:42:10 uvEDXnvk0
慌てて康一の口を塞いだ。
こんな会話を人に聞かれたら私の人生ジ・エンドだ。
私は人指し指を自分の唇にあてがい、それを確認した康一がモゴモゴと頷くのを見てそっと手を離す。

(―――プハァーーー……! ば、ばばばば爆弾だって!? 何でそんな物がパチュリーさんの荷物に!?)

(入れたのは…………………………私だ。私が、パチュリーさんのバッグに入れた)

(え!? な、なんでにとりちゃんがそんな物を……!)

康一の反応は当然で然るべきものだ。
勿論、私もその反応を予想していたわけだが……

どう、する。ここで正直な話をするのか?
『パチュリーに怪しまれてたんで爆弾を使って殺そうとしてました』と?
とても、言えない。そこまで言ってしまえばいくら康一とて、私を突き放すだろう。

いや、でも……康一なら?
コイツは私を守ってくれると言ってくれたんだ。
もしかしたら……もしかしたら康一なら、それでも私を責めないのかもしれない。
現に私はこうして康一に全てを明かそうとしている。
それは私が既に『殺意を抱いていない』証拠だ。
ギリギリの所で踏みとどまった……、それを康一は理解してくれるだろうか。
本当に、私はパチュリーを殺すことをやめたんだ。
それを康一は分かってくれる。『信頼』とはそういうことだ。


―――でも……でも…………!


(私はこの爆弾で……………………『吉良』を倒そうとした、から)

(………ッ! 吉良を!?)


私はまた『嘘』を吐いてしまった。
パチュリーを殺すためではなく、吉良を殺すために爆弾を用意したという、『嘘』を。

言えなかった。やっぱり本当の事を言えなかった。
チームの中核であるパチュリーを殺すということは、誰にとっても『悪』と呼べる行為なのだろう。
だが吉良を倒すためと言えば。
殺人鬼であり、仲間を人質にとっているという卑劣な『悪』を倒すためだと言えば。
康一も喜ぶまではなくとも、まだ納得してくれると思ったから。
そして、私を責めないでくれると思ったから。

それは裏を返せば、もし事実を言えば康一は私を否定するかもしれないと思ったということだ。
私がパチュリーを殺そうと企んだことが分かれば、康一は私を責めるのかもしれないと思ったということだ。


つまるところ、私は結局康一を『信頼』出来なかったということになる。
康一にすら否定され、完全に孤立してしまうのが怖くて怖くて仕方なかった。


チクリ、と。
心に針が刺さった感覚を覚えた。


789 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:42:50 uvEDXnvk0

(で、でも吉良を倒すのに何でパチュリーさんの荷物に爆弾を入れたの!?)

(ま、間違えちゃったんだよ! さっきホテルで私以外のみんなでトイレに行ったろ!?
 その時に爆弾を仕込んだんだけど……吉良の荷物と間違えてパチュリーさんの荷物に……)


これも、嘘だ。
正直少し怪しい嘘だけど、でもこう言うしかないだろ。
大体、吉良は用心深いのか、常にディパックを持ち歩いている。
そんな簡単に吉良の荷物に爆弾を仕込めりゃ最初からそうするだろうに。
だがその嘘は何とか功を奏したようで、康一はまるで疑いもせずに信じきっていた。

(もしかして……にとりちゃんがさっき河童のアジトで作ってた物って……)

(う、うん……。吉良を倒すための爆弾だよ)

(あ、危ないよ! あの吉良に罠を仕掛けようとするなんて、一歩間違ったら殺されてたよ!?
 いや、現に今もパチュリーさんが爆弾を抱えてるだって!? どうしてもっと早く言ってくれなかったの!)

(だ、だって私……その、実はパチュリーさんにあまり快く思われていないみたいで……
 もし彼女に本当の事を言ったら、きっと……下手すれば仲間から追い出されてたかもしれないと思って……)

(………)

(だから、康一に打ち明けたんだ。私を守ると言ってくれた康一なら、そんな私を否定しないでくれると思って。
 頼む康一! お前の遠隔スタンドでパチュリーのディパックからこっそり爆弾を抜き取ってきてくれないか!?)

嘘と真実を上手く織り交ぜ、私は精一杯康一に頭を下げた。
康一を半分騙していることになるけど……それでも私の想いに嘘は無い。
もうパチュリーを殺そうだなんて考えてないし、康一からも拒絶されたくない。


独りで悩んで怯えるなんて……もう嫌だ!


(……分かった。分かったよ、にとりちゃん。
 ひとりで勝手に吉良を攻撃しようとしてたことには少し怒っているけど……
 君がボクを信頼して話してくれたことについては、とても嬉しい)

「―――え……! と、ということは……!」

「うん。ボクはにとりちゃんの想いを尊重したいと思う。
 その代わり約束して。もう絶対にひとりで悩まないって。これからはボクを頼ってよ!
 約束しただろ? 『君を守る』って」


私は久しぶりに破顔した。
心の根っこに貯まっていたモヤモヤが綺麗に消えてなくなった感覚だ。
嬉しい。心から嬉しかった。


私は、独りじゃないんだ……!


「あ…ありがとう! ありがとう康一! それじゃあ早速爆弾を……!」

「それなら、もう『ある』よ。ここに」


790 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:43:33 uvEDXnvk0

そう言って康一は自分のスタンド(エコーズだっけ?)をパチュリーの傍から呼び戻した。
その手には……いつの間にか我が傑作発明品である高性能小型爆弾が抱えられていた。

「うおッ! て、手際が良いな……!」

「まあ、パチュリーさんが爆弾抱えてるなんて知ったらモタモタ出来ないからね」

「恩に着るよ康一! さっ! そいつはこっそり処理するから渡してくれ!」

本当に安心した。
パチュリーの私に対する疑念が消えたわけではないけど、ひとつの懸念は無くなったんだ。
人に信頼されるということの、何と気持ちの良いことか。
心が一気に晴れ渡った気分だ。今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく思う。
やっぱり、殺し合いなんて良くないよな!
パチュリーたちと力を合わせれば、この異変も何とかなるような気もしてきたぞ。
うんうん、そうだ。
やめよう。もう誰かを陥れようだなんて、やめよう。
随分調子良いのかもしれないけど、結局それが一番なんだ。
今の私なら例えパチュリーに疑われてたって、きっと大丈夫。
だって私には康一がいる! 康一がついてくれているから!


だから――――――




「―――でもにとりちゃん。このことをパチュリーさんに話しておかないのはよくないと思う」






―――――――――――――ん?






「君がひとり、爆弾で吉良を倒そうとしていたこと。
 事故とはいえ、うっかりパチュリーさんを危険に晒したこと。
 その非を、彼女に説明もナシに無かったコトにしようとするのはチームの亀裂を生む原因になると思うんだ」






―――――――――――――え。






「だから、ボクはパチュリーさんにきっちり謝っておくことが大切だと考えるよ。
 彼女も怒るかもしれないけど、ボクからも一緒に謝るから。
 誠意を持って謝ればきっとパチュリーさんだって許してくれるさ。
 そしてその後、皆で吉良を倒す策を一緒に考えよう。ね?」


791 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:45:21 uvEDXnvk0



――――――おい。


――――――まて。まてまて。


――――――ね?じゃないでしょ。ちょっと。



「パチュリーさんにはボクから話を通してくる。にとりちゃんはここで待ってて!」



――――――いやいやいやいや! ちょ……っ!



そう言って康一はパチュリーの元へ駆け寄って行く。
全てが丸く収まるものだと疑わないような表情で。
私が話したことが全て『事実』だと疑わないような表情で。


康一は知らない。
私がパチュリーを一度は『殺そう』としたことを。

康一は知らない。
パチュリーに私の内心を疑われ、彼女に怪しまれていることを。

康一は知らない。
その爆弾を彼女に見せた途端、私のパチュリーに対する『殺意』が決定的なものだと判断されてしまうことを。


『この爆弾は吉良を倒すために用意しました』
そんな嘘、康一には通じてもパチュリーには通じない。
あの女には嘘を見抜く力があるのだから。
しかし事実として、私は既にパチュリーを殺す気は失せている。
それをいくら説いた所で、またパチュリーに嘘を見抜ける力があった所で。
目の前にあんな爆弾を見せられてはアイツが納得してくれる筈もない。
あの爆弾はパチュリーを殺すために作られたという確かな事実は、変えられないのだから。



「待っ――――――!」



呼んで、どうするんだ?
康一になんて説明すればいい?
今の話は嘘だったんです、と。
そう言うつもりか?
どうする……!? 康一になんて説明する……!?


『パチュリーには言わないでくれ』
(どうして?)

『さっきの話には嘘がある』
(嘘とは何のことだい?)

『爆弾で殺そうとしたのは吉良ではない』
(じゃあ誰を殺そうとしたんだい?)


だ、駄目だッ!!
どう止めようとしたって『質問』が返ってくるに違いない!
そうなってしまえば、私の立場は最初に逆戻りだ!
私の吐いた『嘘』で、まさかこんなこと……ッ!
ど、どうすりゃいいんだ!?
とにかく止めないと……ッ!
爆弾がパチュリーに見られてしまう前に……
康一を止めなきゃッ!


止め――――――




コロン、と。

ポケットの中の『リモコンスイッチ』が、転がった。


792 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:47:58 uvEDXnvk0




それに気付いた私は、震える手でスイッチを取り出した。


―――爆弾は今、康一の腕の中に収まっている。


無機質に光るそのスイッチを、私は焦点の合わぬ眼で見つめる。


―――爆弾という『証拠』さえ消してしまえば。


自分が今、『考えていること』の恐怖のあまり、思わずスイッチが手から弾かれたように零れた。


―――広瀬康一という『証言者』さえ消してしまえば。


コロコロと転がり草むらに隠れたスイッチを、慌てて探す。


―――康一を爆弾で消した『としても』、吉良の能力にやられたとか何とか口を合わせていけば。


スイッチはすぐに見つかり、私はそれをギュッと腕の中に抱きしめる。


―――爆弾の事を知っているのは康一だけ。私がやったなんて、分かりはしない。




―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン

―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン

―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン

―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン ―――ドクン


793 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:48:34 uvEDXnvk0












































[±00:0:00] [-00:05:34]













ド グ ォ オ オ ン ――― !













▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


794 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:49:38 uvEDXnvk0
[+00:00:09] [-00:05:25]





想定していた以上に重く響いた爆音が、耳を劈いた。
瞬間、全身を突き刺す熱風と砂煙が通り抜け、私の意識は『その』光景に釘付けになった。



―――目の前で、康一が吹き飛んで、倒れた。



体の前面部が焼け焦がれ、ズタズタに切り刻まれた康一“だったモノ”が倒れている。
何で……? どう、して……?
ば、爆弾……? 爆弾が、ばく…はつ、しちゃったの……?



―――『お前が、スイッチを押したんだ』



頭の中で、声が響く。
不快でおぞましい、でも私によく似た声が。



―――『康一を殺したのは、お前だ』



違う。



―――『お前が、やったんだろう?』



私じゃ、ない……っ!



―――『お前だ』



違うッ!! 私はスイッチを押してなんか、いないッ!!!

違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う

私じゃないッ!!!!



震える手の中に収まったスイッチが、不気味に光る。
まるで私を嘲笑うかのように。
お前が殺したのだと糾弾するように。


795 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:50:23 uvEDXnvk0


全身の力が一気に抜け、腰を抜かしてへたり込む。
魂が抜けたみたいだった。

目の前で、康一が死んだ。
殺したのは―――ワタシ……?
違う。私は押してなんか、いない。
押してしまいたい、と迷いはしたけど。
否定したくても、握ったスイッチが現実を否応に見せ付けてくる。
不安と恐怖と疑念とが、心に澱むようにどんどんと堆積していく。



「クレイジー・ダイヤモンドォォオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」



いつの間にか、仗助が駆け寄ってきていた。
その顔には見たことのないような焦りが張り付いている。
康一“だったモノ”をそのスタンドで懸命に治療している。
でも、いくらコイツの能力でも……既に『死んだ者』を復活することなんて出来るのか?


無理、だろう。
康一は、死んでしまっている。




「おい! 今の音は何だッ!? 何があった……―――ッ!!」

「なによ……これ…………っ」

「嘘………」


慧音も夢美もぬえも、信じられないといった顔でこの惨劇を目にした。
もう、何も考えられなくなってきた。
なんでこんなことに……?
私の、せいなのか……?


「吉良吉影ッ!!! アンタが……アンタが康一を爆弾で殺したのねッ!!!」


ぬえが怒りの形相で、そんなことを言い放った。
吉良ではない。康一を殺したのは私の爆弾だ。
それを知っているのは私だけだけど、今ここでそんな真実を話せるわけがない。
皆、吉良が殺したものだと決め付けているだろう。
まさか私がやったものだとは思ってもいないだろう。


―――いや、違う……ッ! 私じゃない……ッ!


どれだけ自分の中でそれを否定しようとも、確たる証拠が私の手の中に握られている。


(………!! や、やばいっ! 『コレ』が見つかったら、私が疑われちゃう……ッ!)


その時、私は『殺人の証拠』を握ったままだと今更気付いた。
これが見付かったら終わりだ。
私は焦燥しながらも、周りに気付かれぬようスイッチをポケットの中にそっと隠した。
これではまるで『私が殺しました』と言っているようなものじゃないか。
殺人の証拠隠滅に奔走する犯罪者そのものだ。


796 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:51:21 uvEDXnvk0


「ハン! クソカスなのはアンタの腐れ脳みその方じゃないの?
 アンタの能力『キラークイーン』の爆弾化は『一度に一つ』まで。知ってるのよ!
 だから“康一を爆弾にし、爆破した”今! アンタに残ってる『人質』なんていう札は既に無いのよッ!!」

「………ち、違うと言っているだろうッ! 私が爆弾にしたのは康一じゃあないッ!! お前たちの誰かだッ!!」


呆然とする脳に周りの会話が入り込んでくる。
もう何も分からない。
康一を殺したのは…………私なのか?

吉良の必死の弁明が、今の私とダブって見えた。
もし康一を殺したのが私“なのだとしたら”、吉良は冤罪ということになる。
あの男は冤罪の罪で、これから叩き伏せられることになるのだろう。
それ自体は、私に罪の意識はない。
吉良が倒されるのなら、それは誰にとっても万々歳な結果なんだ。

そして私は思ってしまった。


『康一が死んだことで吉良が倒されるのなら、もしかしたら康一は死んで良かったのかもしれない』、と。


吐き気がした。


そして直後に、私はまた気付いてしまった。


(―――いや、待て……!? 皆は吉良が人質を殺したと『思い込んでいる』……!!)


だからこそ天子たちはこうも大胆に吉良を攻撃しようと追い込みをかけ、当の吉良はこうして窮地に陥っている。


―――でも、『吉良の人質爆弾はまだ生きている』……ッ!!


「ギャーギャーうるさいわね。もういいわ、そーいうのは地獄の閻魔にでも泣きついていなさい。
 罪深き悪人にかける情けナシ! 死んで地獄へ逝きなさいッ!」


天子が今にも吉良に攻撃を仕掛けようと踏み込んだ。
吉良が『人質』を爆破しようと、スイッチに指を掛けている。


797 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:51:51 uvEDXnvk0


(ま……マズイッ!! 私が爆弾にされている可能性は確かに薄い!
 吉良が最初に人質を取ろうと動いた時、私は仗助にブッ飛ばされていたからだッ!
 互いの位置関係から考えて、吉良のスタンドが私に触れたことは考えにくいだろうッ!
 でも、そんなの分からないッ! 仗助がプッツンした瞬間に吉良が人質に触れたなんて、そんなの奴の『嘘』かもしれないッ!
 本当のところは結局吉良にしか分からないんだからッ! 私が爆弾にされている可能性だってゼロじゃないッ!!)


天子が、吉良に駆けた。


「ばっ……馬鹿! やめ―――!」


私は思わず声を出した。
その制止は、間に合わない。
吉良の指が、スイッチに掛かる―――!




「――――――………クレイジー・ダイヤモンド」




冷ややかな男の声が空気をそっと裂いた。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


798 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:52:25 uvEDXnvk0
[+00:03:04] [-00:02:30]


「康一は死んだ……」


仗助はそれだけを言ってクレイジー・ダイヤモンドを背後に出し、ゆっくりと顔を上げた。
その静かな、そしてどこか怒っているような声がこの戦慄した空気に割り込んできた。
天子も吉良も攻撃の手を止め、周囲の皆が一斉に仗助の方を振り向く。
気付けば康一の身体は既に綺麗に治され、傷一つない健常者そのものまでに治療が進んでいた。
仗助の腕から優しく地面に寝かされた康一は、とても死んでいるようには見えない。
眠っているみたいに、その瞳を閉じて動かない。
二度と覚めることのない、深い、深い眠りの中で、夢を見ているかのように。

私は一瞬、本当に『康一はただ眠っているだけでは?』と思った。思いたかった。
でも、仗助は言ったんだ。何かを悟った表情を刻んで、確かに言った。
『康一は死んだ』と、滲んだ目頭で。

その言葉は同時に、私の奥底に燻る希望も絶望へと変貌させた。

「仗助君……」

慧音も、心を抉られるように沈痛な声で仗助を心配している。
私は声が出なかった。
こんな顔をした仗助に、なんと声を掛ければ良いのかがわからない。
もしかしたら恨みを晴らそうと、吉良に飛び掛っていくのだろうか。
友の命を侮辱した吉良を倒すため、その拳を振るうのか。


しかし、私が予想した仗助の次なる言葉は、思わぬ内容で始まった。


「康一を殺しやがった奴は――――――吉良じゃねえ」



―――ドクンッ



鼓動が、聴こえた気がした。


799 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:52:55 uvEDXnvk0


「吉良のスタンド『キラークイーン』の爆弾は……対象を木っ端微塵に破壊する。
 爆破された奴は、骨も魂すらも残りゃしねえ。……だが、この康一の身体は違う。
 まだ随分と肉体が残っていた。“まるで本物の爆撃を受けた”みてェーに、だ」


何を、言うつもり……だ。


「そもそも俺も康一も爆弾にされてなんかいなかった。
 もしされてりゃ吉良のヤローは最初っから俺達を爆破してただろうからな」


待、て……。お願いだから、待って……!


「康一の傍に小せえが、なんかの『破片』が落ちてた。これを今から―――」


仗助のクレイジー・ダイヤモンドがその破片を掴み、そして―――


「―――『直す』」


やめ―――!
お願い! やめてくれッ!!



私の悲痛な心の叫びは、誰に届くこともなく。

最悪の結果が、目の前に落ちてきた。



「仗助……! それは……!?」


パチュリーがそれを見て驚愕する。
クレイジー・ダイヤモンドの掌に乗せられたそれは―――


800 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:54:31 uvEDXnvk0



「ああ。―――小型の、『爆弾』でしょうね」



止める間も無く、それはほんの一瞬で完成……いや、『復元』した。
破壊された筈の爆弾はあっという間に見えない破片を寄せ集め、凡そ原型に近いモノがそこにあった。
所々の破片は消滅していたり、おそらく中の爆薬までは復元してはいないのだろうけども。


「爆弾……!? 何でそんな物を康一君が……っ!?」

「それは……分かりません、慧音先生。でも、さっきから少し『気になる』ことがあるんスよ」


そんなことを言って、仗助は見た。

―――私の方に、ゆっくりと首を回して。

正確には、私の『手』を。


「……にとりちゃん。その『手』についてなんスけど、どうしてそんなに油で『汚れて』るんです?
 まるで――『何か』を作った痕みたいっスよね。例えば―――」

「 違 う ッ ッ ! ! ! 」


乱暴に、私は否定の声を荒げた。
強く拳を握り締め、座り込んでいた態勢から思い切り立ち上がった。


「……俺はその汚れについて聞いただけっスよ。どうしたんすか、いきなり大声出して」

直後にハッとした。
しまった、と。私はつい汚れた手を背中に隠す。
まさか吉良からの関心を遠ざけるためにわざと汚したこの手のせいで、疑われるなんて。

「この汚れは……! ど、『泥』だよ! さっき転んじゃって、そのせいで……!」

「泥……? 今は御覧の通り晴れてるっスよ。どこに泥が溜まってるんスか? 『それ』……工具の油汚れっスよね」

仗助は完全に私を疑っている。
そりゃあ、そうだ。それは紛うことなき『真実』なんだから。
もう、言い訳が出来ない。頭の中がグチャグチャで、目眩がしてきた。


―――それでも、それでも……ッ!!


801 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:54:59 uvEDXnvk0


「違うッ!! 私はスイッチなんか『押していない』ッ!!
 康一を殺したのは私じゃないッ!!! 信じてくれ……っ」


確かに、私の中の悪魔はあの時、囁いた。
『康一を殺してしまえ』『口を封じてしまえ』と、そう囁いた。
それでも、違う……っ! 私は、絶対に殺してなんか……ぃ、んだよォ……っ!

周囲の私を見る目が、一気に冷ややかなモノへと変わった気がした。
誰も彼もが私を人殺しの目で見ているような、そんな目で。
『お前がやったのか』『どうして康一を殺したんだ』って、言っているような目で。

それとも康一を殺したのはやっぱり―――私、なの?

あの時、私の中の悪魔が無意識にスイッチを押しちゃったの?

そうであるなら―――なんだ、やっぱり人殺しは私じゃないか。

私は他人から……自分からすらも信じられずに、独りで虚しく踊り続けているだけなのか。




……違う。

…………違うよ。

私が、私は―――


「殺してなんかないッ!! なあパチュリーもなんか言ってやってくれよッ!!
 お前、嘘がわかるんだろッ!? 私が誰も殺してないってこと、わかってるんだろおおッ!!」

「………………っっ」


802 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:55:34 uvEDXnvk0
私の悲痛な叫びに、パチュリーは狼狽しているだけで何も答えてくれない。
当然、なのかもしれない。
私が康一を殺したのか、それとも殺していないのか。
実のところ私自身、わからなくなってきた。
そもそも爆弾を爆破できたのはスイッチを持つ私しかいないんだから。
本当に私がスイッチを押したのかもしれない。そんな疑惑が心の隅から生まれてきているのだ。
そうでなくともパチュリーは元々私のことを疑っていた。
信用して貰えないのは、当たり前だ。

どうしてこんなことになってしまったんだ……?
もう、何が本当で……何が嘘なのか……
わかんないよ……っ!

それでも、私はやっていないんだと。
真っ白に染まった頭の中で、私は全てを吐き出してやりたくなった。


「け、慧音……っ! アンタ、先生なんだろっ!? 子供たちに道徳を説く、立派な人なんだろうっ!?
 だったら信じろよッ! 私がこんなに言ってるんだッ! 信じてくれたっていいじゃないかッ!! ねえったら!!
 夢美もッ! さっきからなに黙ってンだよッ!? アンタも私を疑ってるのかッ! どうなのさ!?
 オイ天子! お前も何か言ってやれよッ! お前さっきまで吉良を疑ってたろッ! もう心変わりか!? なあッ!!
 吉良ッ!! この……人殺しめッ!! 元はといえばお前のせいじゃないかッ!! 全部お前が悪いんだッ!!
 何とかしろよッ!! 皆して私を疑ってるのかよッ!! なあッ!? なんだよその目はッ!!
 康一は私を信じてくれたぞッ!! 康一だけだッ!! アイツだけが私に最後まで優しかったッ!!
 私じゃないッ!! 私はやってないッ!!! 頼むよッ!! なあ みんなぁ――――!」




「――――――わたしを、信じてくれよぉ…………――――――」






その言葉を最期に私の白い意識は、黒に染まって途絶えた。

二度と浮かび上がることのない、暗闇の底に沈んだまま――――――。






▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


803 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:56:55 uvEDXnvk0
[+00:00:50] [-00:4:44]

『吉良吉影』
【午前7時13分】


私がこれからの前途を憂鬱に思う気分で歩いていた時だった。
後方から、轟音が耳に飛び込んできた。
私が扱う『キラークイーン』で人間を爆破させた時のような、そんな音が。
驚き、振り向いた私の視界に映ったモノ。
それは私にとっても信じ難い光景だった。
あの『康一』のチビがケムリ噴かせて、あられもない姿でくたばっているという光景が。


「――――――康一ィィィイイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」


クソッタレ仗助が情けない声を出して走ってきた。
その御自慢のスタンドで康一を治すみたいだが、どうみてもソイツは『即死』だ。
良いザマだなと笑ってやりたくなる衝動をどうにか抑え、私は平静を繕う。
そして疑問が頭を駆け巡った。当然、康一の『死因』だ。

言うまでもない事だが、私がやったのではない。
私が爆弾に変えて人質にしているのは『アイツ』なのだ。康一ではない。
ある意味では私の目的が半分成就されたようなラッキーだが、ここで「バンザーイ」と喜ぶほど能天気でもない。
『誰か』が康一を狙って殺した……? しかしその理由は?

「おい! 今の音は何だッ!? 何があった……―――ッ!!」

私がその場で思考を続けていると慧音さんたちも駆け寄って来た。
いや、待て……。この状況、少しマズイかも知れない……!
康一の損壊状態はどうも『爆弾』で吹き飛ばされたようだ。
一応、私も爆弾のスペシャリストではある。十中八九、康一は『爆死』だ。
それを仗助が見たらどう思うだろうか。
誰かを『爆弾』にしていることを知っている仗助が、今の康一を見たら。
いや、仗助だけでなく、あのにとりとかいうガキも私の正体を知っていた節がある。


―――この『惨状』を、私の仕業だと勘違いするかもしれない……!


そうなれば非常にマズイ……!
しかし、それを危惧していた次の瞬間、とんでもない台詞が私に飛んできた。


「吉良吉影ッ!!! アンタが……アンタが康一を爆弾で殺したのねッ!!!」


―――何だって……?


804 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:57:26 uvEDXnvk0
確かコイツはええと、封獣ぬえとかいうガキ。いや名前などどうだっていい。
今、このガキは私を指差して何と言ったんだ……?
コイツが叫んだ言葉の意味が一瞬理解できなかった。
それだけではない。次にこのガキは更にブッ飛んだことをぬかしやがった。


「みんな聞いてッ! 今までずっと涼しい顔してたこのスカしたブタ野郎の正体はッ!
 『人や物を爆弾に変える能力』のスタンド使いッ! イカれた『殺人鬼』なのよッ!!」

「――――――………っ」


息が止まった。
私の『正体』がバレていた、だとォ……ッ!?
仗助ェェ……ッ! いや康一のクソチビが話したのか……ッ!!
とにかく、このガキの口を止めなければ……ッ!
だが、どう誤魔化すべきか言いあぐねる私に更なる口撃が飛び込む。


「この男は普通の一般人を装って、陰から私たちを殺すチャンスを伺っていたのよッ!
 その証拠に康一も爆弾で殺されたッ! コイツはゲームに『乗って』いたのッ!!」

「なっ……! 何を突然言い出すんだぬえさん! 私がスタンド使いなワケが……ッ!」

「嘘ッ! 私見てたんだから! アンタがホテルで仗助と康一と会話してる所を陰からッ!
 アンタが爆弾のスタンド使いで、どーしようもなくクレイジーな人殺しだって会話をねッ!」

「グ………ッ!?」


まさか『あの』会話を見られていたとは、最大のミスだ。
どうする……これでは言い逃れようが……ッ!

しかし、何かがおかしい。
全く辻褄が合わないのだ。

―――そもそも、


「待てッ! 私は広瀬康一を殺してなどいないッ!! 何かの間違いだッ!!」


これは本当だ。
康一が死んでくれたのは本当に嬉しいが、その罪を私に擦り付けられてはたまらない。


805 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:58:31 uvEDXnvk0

「へえ!? 殺人鬼の言うことなんて誰が信じるものかしら! 仗助も言ってやってよッ!
 この男はアンタと康一の『敵』で、正真正銘の『殺人鬼』だってことをッ!」

こ…、のメスガキがァァ……ッ!
人が下手に出ていれば有ること無いこと適当ほざきやがってッ!
仗助の次はお前から消してやろうか! その珍妙な羽根を毟って博物館に寄贈してやるぞッ!

……などという憤慨こそあったが、私はどうやらまだギリギリ理性を保つことが出来ている。
落ち着け……落ち着くんだ吉影……! まだ、何とか誤魔化す事は出来る筈だ!
このメスガキをキラークイーンで木っ端微塵にしてやりたい衝動を抑えて、ここは慧音さんを頼ろう。
彼女のクソが付くぐらい真面目な正義感ぶりならば、私を庇ってくれるかと期待したからだ。

しかし予想に反して、何故か慧音さんの反応が良くない。
まさか彼女ともあろう者までもが、こんなガキの妄言を信じているというのか。


「―――無駄よ、吉影。貴方の仮面の裏に隠してきたという『本性』……。既にここに居る全員が知っているわ」

「―――――――なに?」


………全員?
私が長年隠してきた『本性』が、よりによってコイツら全員に知られているというのか?

「ニッブい男ねアンタも! アンタの正体はホテルの中で、とっっっっくの昔に皆にバレてたって言ってんのよ!」

天子とかいう生意気なガキまで一歩踏み出し木刀を向けてきた。だがそんなことはどうでもいい。
私の正体が既に全員にバレて、いた……ッ!?


―――仗、助ェェエエエ………ッ!! キサマ、まさか全員に話したというのかッ!!


心の中が怒りに満ちてくるのを感じる。
どうやら仗助のアホ頭は人質の意味を理解していなかったらしい。
パチュリーや天子、慧音さんまで私の周りを囲んで戦闘の態勢を作ってきた。
もうなりふり構っていられない。
私は一般人の仮面を脱ぎ捨て、とうとうキラークイーンを出現させた。

ハッキリ言って、相当頭にキテいる。
だが、まだ『詰み』ではない。

「ク……ソカス、どもめェェ……ッ! だがひとつ忘れているぞ……!
 私はお前たちを既に『爆弾』にしているということをッ! そこから一歩でも近づいてみろッ!
 その瞬間、私は躊躇無く『スイッチ』を押すッ! 木っ端微塵にしてやろうッ!」

人質はまだ生きている。
殺してやる……ッ! 殺してやるぞ……ッ!


806 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:58:57 uvEDXnvk0

「ハン! クソカスなのはアンタの腐れ脳みその方じゃないの?
 アンタの能力『キラークイーン』の爆弾化は『一度に一つ』まで。知ってるのよ!
 だから“康一を爆弾にし、爆破した”今! アンタに残ってる『人質』なんていう札は既に無いのよッ!!」

……! そこまで、知られているだと……ッ
関係あるか……ッ! お前たちが私に攻撃するなら私もそれに対応せざるを得ないぞッ!
確実にひとり、いや『ふたり』は瞬殺出来る。だが、しかし……
キラークイーンはそもそも基本的に手で触れなければ攻撃できないし、爆弾にも出来ない。
これだけの相手を同時に相手するのは……正直、厳しい。


―――大事を取って、人質は爆破しておくか。


キラークイーンの爆破スイッチを指に掛ける。
押すのにコンマ1秒と掛からない。だが問題はその後だ。
どうやってこの場を切り抜ける? 逃げるというのも足が付く。出来れば全員始末したい。
畜生めッ……! どうしてこんなことになってしまった……!?
……ダメだ! どう考えたって切りぬける方法が分からない!

クソがッ! この吉良吉影が切りぬけられなかったトラブルなど一度だって無いんだッ!
来る……! 天子の奴が来るぞ……ッ!
もう…駄目だ……ッ! とにかく『人質』を爆破しなければ『第一の爆弾』は使えないッ!

『限界』だッ! 押すねッ!




「――――――………クレイジー・ダイヤモンド」




キラークイーンの指がスイッチに掛かったその瞬間。
私にとってどこまでも憎々しい声が鳴った。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


807 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 01:59:35 uvEDXnvk0
[+00:03:12] [-00:2:22]


どうやら、状況が変わってきている。
まさしく一触即発の状況でこの場が爆発するその瞬間。
コイツは、言った。


「康一を殺しやがった奴は――――――吉良じゃねえ」


まさか敵である仗助の奴が庇ってくれるようなことを言い出すとは、正直驚いた。
コイツにとっても私は敵の筈だが、だからと言って友人を殺した『真犯人』を見つけられぬまま私を倒すのは自分でも許せなかったのか。
そう、『真犯人』だ。康一を殺したのは私ではないのだから、他に殺した奴がいる筈だ。
あろうことかそいつは私にこのまま罪を擦り付けようとしている。
それを考えたら私はまた、無性に腹が立ってきた。
仗助にそれを気付かされるというのは、それはそれで腹の立つことではあるが。

そしてその仗助はお得意のクレイジー・ダイヤモンドで実演して見せた。
爆弾の『破片』が復元され、元通りの形に戻っていくマジックを。
それらは段々と原型への逆行を開始し、最終的には手のひら大の鉄の箱……

つまりひとつの『爆弾』が完成したということだ。

ここからは私も冷静を取り戻していった。
少なくともこれで私が『冤罪』だったということにはなりそうだ。

ここでひとつの当然な疑問が生じる。
じゃあ一体、康一を殺した奴は誰なのか?
私に罪を着せようと画策した卑怯者は誰だ?
まさかそいつはどさくさに紛れて私を『殺そう』などと思ったのではないだろうな?

―――許せん。そいつが私の『平穏』を乱した輩なのか……!


そして、『真犯人』は思ったより早く特定できた。


「……にとりちゃん。その『手』についてなんスけど、どうしてそんなに油で『汚れて』るんです?
 まるで――『何か』を作った痕みたいっスよね。例えば―――」

「 違 う ッ ッ ! ! ! 」


河城にとり。
反応で分かった。コイツで決まりだ。
この河童のガキが、私を陥れようとしたのか。


808 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:00:30 uvEDXnvk0


「この汚れは……! ど、『泥』だよ! さっき転んじゃって、そのせいで……!」


醜い。


「違うッ!! 私はスイッチなんか『押していない』ッ!!
 康一を殺したのは私じゃないッ!!! 信じてくれ……っ」


醜い……!


「殺してなんかないッ!! なあパチュリーもなんか言ってやってくれよッ!!
 お前、嘘がわかるんだろッ!? 私が誰も殺してないってこと、わかってるんだろおおッ!!」


醜い醜い醜い……ッ!
私は『闘い』が嫌いだ。
『闘争』は私が目指す『平穏な人生』と相反しているからだ。
だからこの『バトル・ロワイヤル』とかいう胸糞悪いゲームでも、極力地味で目立たぬよう行動したかった。
仗助と康一はいずれ始末するつもりだったが(康一は死んだがな)、それ以上の波紋を拡げるつもりは無かった。

―――無かったというのに、このクソガッパはッ!! あろうことかこの私に罪を擦ろうとしたッ!!

いや、それどころかまさかコイツはッ!
あの爆弾はそもそも私を殺すために用意したのではないだろうなッ!?
コイツが康一を殺すメリットは殆どない。そしてコイツは私の正体を知っていたのならッ!
私を『排除』するため、爆弾を仕掛けようとしたのならッ!
私はコイツを許せないッ!!


809 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:01:03 uvEDXnvk0
だが―――だが、キレるな吉影……ッ!
落ち着けよ……。怒って我を忘れると碌な結果が起きない……ッ
ここは……ここは……冷静に……ッ



冷静に……ッッッ



「け、慧音……っ! アンタ、先生なんだろっ!? 子供たちに道徳を説く、立派な人なんだろうっ!?
 だったら信じろよッ! 私がこんなに言ってるんだッ! 信じてくれたっていいじゃないかッ!! ねえったら!!
 夢美もッ! さっきからなに黙ってンだよッ!? アンタも私を疑ってるのかッ! どうなのさ!?
 オイ天子! お前も何か言ってやれよッ! お前さっきまで吉良を疑ってたろッ! もう心変わりか!? なあッ!!
 吉良ッ!! この……人殺しめッ!! 元はといえばお前のせいじゃないかッ!! 全部お前が悪いんだッ!!
 何とかしろよッ!! 皆して私を疑ってるのかよッ!! なあッ!? なんだよその目はッ!!
 康一は私を信じてくれたぞッ!! 康一だけだッ!! アイツだけが私に最後まで優しかったッ!!
 私じゃないッ!! 私はやってないッ!!! 頼むよッ!! なあ みんなぁ――――!


――――――わたしを、信じてくれよぉ…………」





(――――――なれるか)












[+00:05:33] [-00:00:01]

   ―――カチリ―――





 ド グ ォ オ オ ン ッ ッ ! ! !























【河城にとり@東方風神録】 死亡
【残り 64/90】
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


810 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:04:28 uvEDXnvk0
[+00:05:42] [+00:00:08]



―――この吉良吉影が人質と称して『爆弾』にしていたのは、河城にとりだった。



私は最初、仗助に対しこう説明した。
『仗助…お前がさっき我を見失って暴れていた時に少し『細工』させてもらったよ』と。

そんなものは奴を撹乱させるための『嘘』だ。
私が動いたのはそれよりももっと前。
パチュリーから連れられたホテルの部屋に入り、康一どもと合流したその時だ。
奴らは友人と再会できた嬉しさで気が緩んだのだろう。
私もその場に康一の奴が居て驚いてはいたが、その『隙』を狙ってやった。
康一の近くでマヌケそうに突っ立っていたにとりをキラークイーンで触れたのだ。
奴とより近そうにいる関係の相手を人質に取れば、後々脅しやすくもなる事を考えてだ。


だが、にとりを人質に選んだのは『幸運』だったのかもしれない。

第一に、簡単に私の気を晴らすことが出来たからだ。
結果的にはにとりは、どういう経緯があったのか知らんが康一を殺した。
そして私はそのことで周囲から疑われ、抜きさしならない状況に陥った。
私の平穏が完全に乱されたのだ。許せるわけがない。
だから『スイッチ』を押した。奴を粉々にして私の気もスッキリしたかったというワケだ。

そして第二に、彼女を殺すことは必ずしも私が凶行に走ったと周囲から捉えられるとは限らない。
何故ならにとりは、私が言うのもなんだが『殺人者』だったからだ。
チームの中の良心とでも言える広瀬康一を、その手で爆破した人殺し。それが河城にとりの本性といった所か。
その罪深きにとりを“裁いてやった”私は、果たしてそこまで責められるべき『悪』か?
しかも康一は仗助の大切な友人。仗助としてもにとりに対し並々ならぬ思いを向けていただろう。

だが、正義感ぶった仗助は恐らく次にこう言う。


「吉良ァァァアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!! テ、メェ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


ほうらな。分かりやすい直情バカだ。
だがにとりを粉々にしてやったことで私のアツくなった頭も若干スッキリ冷えてきた。


811 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:05:09 uvEDXnvk0
さてさて、しかし肝心なのはここからだ。
私は依然、この窮地を脱したとは言い難い。
今度こそ冷静になって話を進めるのだ吉影よ。
そう、『話』をするのだ。ここで戦うことは誰にとっても『吉』とはならない。
まず私はスタンドを引っ込め、出来るだけ落ち着いた声で怒れる獅子を宥める。


「落ち着けよ仗助。そのイカした(イカレた)髪型が乱れているぞ?
 見ての通り、私が人質にしていたのはにとりだ。彼女を爆弾に変えていた。
 だが康一を殺したのもまたにとりだ。私はその危険人物であったにとりに『罰』を与えただけだぞ。
 いわば『正当防衛』とも言える。彼女はもしかすれば私を殺すつもりなのかもしれなかったのだからな」

「ぬかせッ!! まだにとりの奴が殺したとは決まってねえだろーがッ!!!」

「ンン? そのにとりを『追い詰めた』のは一体誰だったかな?
 お前は康一を殺された怒りで彼女を追い詰めようとした。違うか?」

「そ、それは………ッ!」

どうやら図星のようだ。
強力なスタンド使いとはいえ、やはりガキ。
後先考えず、その場その場の思いつきで行動するからこんな羽目になる。

「だが私は実を言えばお前には感謝しているぞ、仗助。
 あわや康一殺害の罪をにとりから被せられる所だった。そこをお前が真犯人を見つけてくれたのだ。
 いや、本当に危なかったんだ。お前が居なければ私は今頃、再起不能ぐらいにはされていただろうからな」

「……………………クッ!!」

そう喚いた仗助は拳を一発、実に悔しそうに地面に打ち込んだ。
最高だった。もはや先程の絶望感も彼方へ吹っ飛んでいった。


私がそうやって優越に浸っていると、慧音さんが私を見咎めるように口を挟んできた。


「吉良さん。そんな言い方はあんまりだろう。仗助君は親友を亡くしたばかりだ。
 それににとりに対する物言いだって目に余る。彼女は最後まで『信じてくれ』と訴えかけていた。
 そんな彼女をまるで人殺しのように非難するのは惨いというものだろう。もしかしたらにとりは康一君を―――」

「―――『事故』…で殺してしまったのかもしれない、と?」

「………っ!」

「言わせて貰うが慧音さん。いや、本当に私が言うのもなんなんだがね。
 『事故』だろうとなんだろうと、あの爆弾はにとり少女の紛れも無い『殺意』の表れではないかね?
 しかも下手をすれば死体として地面に転がっていたのは康一君ではなく『私』の方かもしれなかったのだ。
 そんな文字通りの『爆弾』をあのままチームの中に潜ませていたら、それこそもっと大変な『悲劇』が起こったのかもしれない」

「ッ! だ、だが何も聞かずにいきなり爆破するなど―――」

「失礼だが慧音さん! ……いや慧音さんだけではない。
 にとりさんが『信じてくれ』と必死な表情で訴えかけていた時、ここの皆は彼女をどう思っただろうか?
 ……私の目には誰も彼もが『お前がやったのか』『どうして康一を殺したんだ』と言っているように見えたよ。
 本音では、誰一人にとりさんを信じている者は居なかった。……康一君は違ったかもしれんがね」


今度こそ慧音さんも、その他の奴らも皆して口を黙らせた。
やはり皆してにとりを人殺しだと決め付けていたんじゃあないか。


812 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:06:03 uvEDXnvk0
フン……実にくだらん。何が『信頼』だ。
結局のところ、私たちは互いのことを何一つ知らない『紛い物の結束』だったというワケだ。
力ばかり寄せ集めようと、知恵を出し合おうと、いくら要塞のような集団を作ろうと……


―――所詮は『藁』で出来た要塞だ。ほんの少しの天候の悪化で吹き飛ぶような。


「それで―――どうするかね? さっきの続きとして、私を皆で襲うかね?
 私自身はそれでも構わないのだが、やはり本音では戦うことはしたくない。
 そこでだ……。ひとつ『交渉』をしようではないか」

「交渉……だと? テメエ……! 何考えてやがる……ッ!」

「にとりさんは康一君を殺した。私はその罰としてにとりさんを殺した。
 各々不本意な所はあるだろうが、これでひとまず話を丸く『収めよう』じゃあないか……!
 しかも私は既に人質を失っている。お互い『イーブン』な立場ということになる。
 私とてこのままチームから追い出されるというのは難点が大きい。再起不能にされるなど以ての外だ」

私は大仰に両手を広げ、次の台詞のために息を溜めた。
ひと呼吸の間を置き、仗助を見下ろして言ってやる。


「お互い今までの確執を水に流し、再び私を『仲間に迎えて』欲しい」


吐き出した台詞を自分の中でもじっくりと噛み締め、返答を待った。



プ ッ ツ ー ー ー ン 、と。



張った弦が切れたような、そんな音が聞こえた気がした。
しかも、二方向から。


813 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:06:38 uvEDXnvk0

「ザッッッッッッッケんじゃねえッッッッッッ!!!!
 どのツラ下げてそんな台詞吐けるんだコラァアアーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」

「ザッッッッッッッケんじゃないわよッッッッッッ!!!!
 どのツラ下げてそんな台詞吐けるのよアンタはァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」


プッツン仗助と、プッツン天子が同時に私へと吼えた。
仗助は予想していたが、まさかこの女もここまで短気だとは……。


「仗助ッ! アンタは黙ってなさいッ! コイツみたいな危なっかしい輩は私が吹き飛ばしてやるわ!」

「天子さんこそ後ろ引っ込んでてくださいよ……! 元々吉良のヤローは俺の因縁の相手でもあるんスッ!」

「主の命令よッ! 下僕はそこで指咥えて見てりゃあいいのよッ!」

「ケンカってのはよォーー、まず舎弟の方から出るモンじゃあねぇっスかねー?」

「私に逆らうっての!!」

「なんすか!!」

「なによ!!!」


……コイツらアホは一体どうしてこの状況で喧嘩できるんだ? これでは話が進まないだろう。


「……いいわ。仗助、アナタにも納得できる解決法を提示してあげる」

「ほォーー奇遇っスねーー。実は俺も同じ事考えてたんスけどねーー」

「へえ? いいわ、それなら一緒に言い合いっこしましょう」

「いいっスよ。それじゃあ……せーーのっ―――」



「「――――――ふたりで一緒にコイツを地の果てまでブッ飛ばすッッッッ!!!!」」



な……ッ!? なんでそうなるんだ、この脳筋どもが……ッ!
くそ……ッ! この馬鹿どもでは話にならん! 誰か話の通じる柔らかい頭の相手が好ましいが―――!




「―――おやめなさいな、仗助。天子も」




危うくスタンドを出しかけた私の耳に届いた声の主は、

パチュリー・ノーレッジのものだった。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


814 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:09:31 uvEDXnvk0
[+00:00:58] [-00:04:36]

『パチュリー・ノーレッジ』
【午前7時13分】


参った。出発を目前にしてこの『アクシデント』……本当に参ったわ。
やっぱり『9人』というのは多すぎた。私ではとても制御し切れなかった。

康一が死んだのを見て最初に思ったことが、それだった。

あの時、情けなくも私は事態の把握に頭が追いついていなかった。
何故康一が死んだ?
誰が康一を殺した?
彼は直前までにとりと話していたみたいだけど、まさか彼女が?
しかし理由が無い。康一を殺すメリットがあるのは現状、吉影だけだ。
死因も爆死みたい。爆死といえばやはり吉影が怪しいけど…
何故、今? このタイミングで?
事故? それとも故意に?
私のミス? 防げた災難だった?
吉影が爆弾にしていたのは……実は康一だったの?
もっと周りをよく見ていれば康一は死ななかった?
どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?


荒波のように襲い来るクエスチョンを、処理しきれなかった。
マズイ……! 良くない兆候だ……!
ここは冷静にこの場の『真実』を見極めないと、取り返しが付かなくなる。
そう判断し、何か言うべき言葉を発そうとした次の瞬間、思いがけない人物が口を開いた。


「吉良吉影ッ!!! アンタが……アンタが康一を爆弾で殺したのねッ!!!」


ぬえ……!?
貴方、まさか―――!


「みんな聞いてッ! 今までずっと涼しい顔してたこのスカしたブタ野郎の正体はッ!
 『人や物を爆弾に変える能力』のスタンド使いッ! イカれた『殺人鬼』なのよッ!!」


馬―――鹿っ……!
そんなことは知っているわよ!
それを『今』! 吉影の目の前で言ったりしたら……ッ!

「え……えぇ〜〜〜ッ!? 吉良さんがさ、さ、さ、『殺人使い』で、『スタンド鬼』ッ!?
 爆弾って……どういうことぬえちゃんッ!?」

違うアンタはどうだっていい! 少し引っ込んでなさい!
っていうより、どうしてぬえが吉影の正体を知っているの……!?
仗助が吉影の正体を私たちに話した時、ぬえは居なかった筈だけど……

「この男は普通の一般人を装って、陰から私たちを殺すチャンスを伺っていたのよッ!
 その証拠に康一も爆弾で殺されたッ! コイツはゲームに『乗って』いたのッ!!」

「なっ……! 何を突然言い出すんだぬえさん! 私がスタンド使いなワケが……ッ!」

「嘘ッ! 私見てたんだから! アンタがホテルで仗助と康一と会話してる所を陰からッ!
 アンタが爆弾のスタンド使いで、どーしようもなくクレイジーな人殺しだって会話をねッ!」

仗助たちと吉影の会話を覗いていた……!?
確かにそれならぬえの強気な姿勢もわかる……でも、待って。
じゃあつまり、ぬえは『知らない』……?
私がこの後、吉影を『説得』して何とか味方に引き込もうと考えていることを!


815 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:10:44 uvEDXnvk0
ヤバイわね……! かなり、困ったことになった……っ
ぬえは自棄っぱちになっている。今ここで吉影を殺そうと、私たち全員を巻き込んで。
だからこうも強引に吉影を刺激している……。
いえ……でも康一が『爆弾』で、たった今吉影が人質を失ったのなら……!
彼を倒すチャンスは『今』……!

でも、『何か』がおかしい。わからないことが多すぎる。
康一はそもそも何故死んだ? 本当に吉影の仕業なの?


「…まぁいいわ。とにかく吉良! ただひとつ言えるのはアンタは私たちの『敵』!
 これからどういうことが起こるのか、理解できてるんでしょうねッ!」


く……っ! ぬえがこれ以上、吉影を挑発するとマズイ!

……仕方ない、か。予定が大幅に変わるけど……


「―――無駄よ、吉影。貴方の仮面の裏に隠してきたという『本性』……。既にここに居る全員が知っているわ」

「―――――――なに?」


今、ここで吉影を再起不能にするしかない……ッ!
スペルカードの準備を整え、私は吉影の前に踏み出た。
吉影の説得はもう無理ね……。

納得できないけど、彼にはここで御退場してもらう。


「ばっ……馬鹿! やめ―――!」


天子が吉良に駆け行った時、誰かの声が場に響いた。
その叫びがにとりのものだと気付いた瞬間、



「――――――………クレイジー・ダイヤモンド」



仗助の覇気の無い声が響いた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


816 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:15:33 uvEDXnvk0
[+00:03:35] [-00:01:59]


仗助のおかげで康一を殺したのは吉影ではなく、にとりだと判明した。
私は正直な所、それでも疑問は尽きない。
どうして彼女が康一を殺すに至ったのか。その殺意の根幹が掴めない。

いや……結局、それは『事故』だったのでしょう。
にとりが殺そうとしたのは康一ではない。
そして吉影でもない。


―――彼女が殺そうとしたのは、きっと……『私』。


にとりは私に対して明らかに『敵意』、みたいなものを抱いていた。
と言っても、それは周囲を飛び回る蝿を鬱陶しがるような、そんな些細なものだったのかもしれない。
だからと言って、まさか彼女が私を殺そうとするまでは思いもしなかった。
にとりの『気持ち』を、計り違えていた。
もしかしたら死体になっていたのは康一ではなく、私だったのかもしれない。

胸を撫で下ろす気持ちね……。あわや死ぬ所だった。
不謹慎にも、私はそんなことを考えていた。

でも、わからない所がまだある。


「殺してなんかないッ!! なあパチュリーもなんか言ってやってくれよッ!!
 お前、嘘がわかるんだろッ!? 私が誰も殺してないってこと、わかってるんだろおおッ!!」

「………………っっ」


にとりが恐怖に歪んだ表情で私に助けを求めてきた。
確かに私には相手の『嘘』の気を読む力がある。
その私を以ってしても、今のにとりの気持ちがわからない。

彼女の心は今やグチャグチャ。混濁としていてあらゆる気が混ざり合っている。
にとりは今、非常に混乱している。
康一を殺したのは『自分ではない』、『自分なのかもしれない』……そんな矛盾した二つの気持ちが垣間見える。

ああ……なんだか私もわからなくなってきたわ。
少なくともにとりは私を殺そうとあの爆弾を用意したのは間違って無いと思う。
その対象が何らかの原因により、私から康一に移ったというだけで、にとりは間違いなく『危険人物』だった。
所謂『殺人者』と言うべきかも知れない。
だって、そもそも爆弾を起動できたのはにとりだけで、康一が爆弾により死んだというのならば。

やっぱり康一を殺したのは河城にとりだった。そういうことになる。
その事実に、故意も不本意も関係ない。


にとりの処遇を考えていた私の耳に、





   ―――カチリ―――





そんな、不吉な音が聞こえて、


河城にとりは目の前からいなくなった。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


817 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:17:08 uvEDXnvk0
[+00:06:26] [+00:00:52]


吉影が爆弾に変えていたのはにとりだった。
この『爆弾』という言葉には色んな意味が含まれているのだけど、とにかく吉影は今…人質を失っている。
それにこれは絶対誰にも言えないようなことなんだけど……


にとりが死んだことで、私は少しホッとした。


彼女は間違いなくチームに亀裂を入れかねない『因子』で、
実際、にとりのせいで康一が死んでしまった。私だって殺されるとこだったかもしれない。
人の自然な心理として、そりゃあ少しぐらいは安心するわよ。
勿論これが倫理的に褒められるものではないし、吉影に対して「ありがとう!」と感謝する気は毛頭無いわ。

感謝はしないけども、このことで吉影と『対等な立場』を築きやすくなった。
もしかしたら、まだ彼を説得する余地はあるかもしれない。
どう話を切り出そうかと思考していると、吉影は思わぬ提案を出してきた。


「お互い今までの確執を水に流し、再び私を『仲間に迎えて』欲しい」


まさか彼から言い出してきてくれるとは、僥倖だ。
吉影とは元々説得するつもりでいた。予定はかなり狂ってしまったけど……
ここで彼を仲間に引き込めば、いや仲間とはいかずとも手を組んでくれる関係を築ければ……!
にとりと康一を失った穴を埋めるには充分。まだ手遅れにはならない。

でも……


「ザッッッッッッッケんじゃねえッッッッッッ!!!!
 どのツラ下げてそんな台詞吐けるんだコラァアアーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」

「ザッッッッッッッケんじゃないわよッッッッッッ!!!!
 どのツラ下げてそんな台詞吐けるのよアンタはァーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」


―――そうなるわよね、やっぱ。


天子はともかく仗助は元々、吉影と敵同士だったらしいし……
一筋縄ではいかない、かしらね。
でも、何はともあれ『味方』は必要になる。
仗助には悪いんだけど、ここは我慢してもらうわ。


「―――おやめなさいな、仗助。天子も」


殴りかかる仗助と天子のふたりを止め、私は間に入った。


818 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:18:33 uvEDXnvk0

「……何すかパチュリーさん。止めないでくださいよ」

「そうはいかないわ。直球で言わせてもらうけど、私は吉影の交渉を呑むつもりでいる」

「……ッ!! 本気っスかパチュリーさんッ!?」

「ちょっとアナタ、なに言ってるのよッ!? コイツは殺人鬼なのよッ!?
 今ここでブチ殺しておくべきだわッ!!」


……?
仗助が怒るのは分かるけど、さっきからぬえまで妙に興奮してるわね……?
まあ、そうなるかもしれない。康一爆破の件に関して吉影は『無実』だけど、『殺人鬼』なのは事実なのだから。
でも、ここで退くわけにはいかない。


「殺人鬼如きがなによ。こう見えて私は魔女なの。いざとなれば大釜で煮込んで食べるくらいしてやるわよ。
 それに彼を私が説得するというのは元々全員で決めていたことでしょう? 予定が早まっただけじゃない」

「ま、待って待ってパチェ待って!! 『説得』って、私それも聞いてないわッ!! どんだけ仲間ハズレよ!?」

ちっ……うるさい教授がまた割り込んできた。
めんどいから、後でにして欲しいんだけどなー。

「ああ!? 舌打ちッ!! 今舌打ちしたでしょ!!!」

「……教授。私のことを心配してくれるのはとても嬉しいわ。
 でも大丈夫よ。吉影が私に危害を加えることは絶対にさせない。……勿論、皆にも、ね」

「当ッッッたり前よ!!! おい吉良!!!!!さん!!!!!
 もしも私の教授に指一本でも触れて見なさいッ!!! 私があなたを異次元空間のスキマに叩き落してあげるわッ!!!」

「……これから『仲間』になろうって者を傷付けたりはしないよ。
 爆弾に変えて人質にもしない。約束しよう」

「吉影。貴方が考えていることを当てて見せるわ。
 『自分の正体を知る者を残らず始末するつもりではあるが、果たしてそれはこの『幻想郷』の住民にも当てはめるべきだろうか?』
 答えは『ノー』よ。私たちは元々外の世界の貴方の犯罪なんかに興味はないわ。
 貴方が外でどんなに人間を殺そうとも、それは幻想郷には全く関係ない埒外の出来事。
 私たちは貴方の『性質』には全く干渉しない。その代わりに貴方も幻想郷の住民には『干渉』しない。
 交渉するにあたって、私たちが貴方を仲間に加えるにあたって、それが絶対条件よ。
 これが出来ないなら、私は今すぐ貴方を攻撃するつもりでいる」

「………ふむ。じゃあ例えば―――例えばだが、私がそこの幻想郷の住民ではない仗助を今から始末するとしたらどうする?」

「受けて立つぜェーッ!! テメェ吉良ッ!!!!」

「貴方は黙ってて。……質問の答えだけど、それも『ノー』よ。
 仗助は私たちの仲間であり、この異変を打破するのに大きく役立つ能力を持っている。
 異変が解決して元の世界に戻ったなら好きなだけ殴り合って頂戴。
 彼だけじゃない。著しく仲間内の『和』を乱すのは厳禁。当然、キラークイーンで仲間に触れようとした瞬間、貴方を攻撃させて貰う」

「……幻想郷の住民であっても、敵であったり私に危害を加えようとした相手の場合は?」

「正当防衛を行使する権利は誰にでもあるわ。ただし、極力戦闘は回避して欲しいけどね。
 貴方にとっても自分の『本性』は隠しておきたいでしょう?」

「ふむ………………………………、確かに、互いに『利』はある、か…………。
 ………わかった。その条件、受け入れよう。だが、もしも君たちが私の正体を他の誰かに伝えたりしたなら―――」

「わかってるわよ。こっちも貴方の正体を無闇に口には出さない。これで交渉は成立かしら?」

「いいだろう。君たちにも手は出さないし、“今は”仗助とも休戦といこう。……康一も死んでくれたしな」


ギリリ……!と、仗助が視界の端で拳を握り締めているのが見えた。


819 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:19:03 uvEDXnvk0
残酷なことをしている、のだと思う。
仗助にとって吉影は倒すべき敵なのだとは理解しているし、決して彼らは手を組めるような関係には無いとも思う。
でも、仗助は今きっと複雑な心境を泳いでいる。
友人である康一を殺され、殺したにとりはよりによって敵である吉影に殺された。
向け処のない怒り……自分は誰に対して拳を振るえばいいのか。その憎しみの矛先が、見付からない。

私とて仲間を爆破した吉影をこのまま仲間に迎えようとなど、普通なら思わない。
でも、薄情なことを言うようだけど……『にとり』は少し、別だ。
彼女があのまま生きていればチームに更なる亀裂が生まれていたと思うし、実際康一は彼女に殺された。
にとりが死んだ事もこのチームの未来にとっては『プラス』になっている気もする。
あるいは、吉影はそこまで計算してにとりを殺したのかもしれない。
それはとても褒められた行為ではないけど、確かに吉影は集団の大きな戦力にも成り得る人材。
仗助はそこの所を、悔しくも理解している。だから余計に怒りが湧いて来る。

もしかしたら彼が一番怒りを感じているのは『自分自身』なのかもしれないわね……。


「……これで交渉は成立ね。色々大変なことも起きたけど、私たちの目的はまだ続いている。
 厳しいこと言うようだけど、悠長なこともしてられない。待ち合わせに変更はナシ。正午に『ジョースター邸』に集合よ。
 私たちCチームも、康一とにとりが欠けてしまったけど……チーム組み分けに変更は―――」

「―――待って、パチェ」

説明の途中で教授がまた入り込んできた。
とても、真面目に心配するような目で。


ええ、わかっているわよ……貴方の言いたいこと。


「パチェはこれからその、吉良さんと2人で行動するんでしょう?
 ………私も一緒に―――」

「―――気持ちだけ、受け取っておくわね。
 でも貴方が私たちと一緒に来たら、Bチームは慧音とぬえだけになる。
 もしも彼女らがスタンド使いに襲われたら、抵抗は難しくなるでしょう。
 仮にも今の貴方はスタンドを持っているんだから、彼女たちについて守ってやんなさい。……ね?」

「……でも!! それでも私はパチェが心配なのッ! もしも貴方に何かあったら私―――」



「―――じゃあさ、私がパチュリーのチームに入って吉良を見張っとくわ」



そう言って私の前に悠然と歩いてきたのは―――封獣ぬえだった。


「私も一応、大妖怪なんだしさ。力には自信、あるから。
 もしも吉良が何かしてきたら串刺しにしてやることくらい、出来るわよ」

「ぬえ……? でも……」

「“でも”、なに? 夢美も慧音と2人なら互いに守りやすいでしょ。
 それとも……私じゃ不満?」


ぬえの眼が、ギラリと光った。
この子……最初会った時よりも、かなり雰囲気が変わった気がする……。
でも、確かにぬえも居れば吉影だってそうそう迂闊に凶行には走れないでしょう。

―――仕方ない、か。

「じゃあ、ぬえ。同行をお願いしてもいいかしら? 教授は……また今度ね」

「……ええ、任せなさい」


―――その時。

―――ぬえの瞳がほんの一瞬だけ、吉影を睨みつけたような……そんな気がした。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


820 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:19:59 uvEDXnvk0
[+00:12:01] [+00:06:27]



「康一を……弔う時間をくれねえっスか……」



沈痛な面持ちで提案した仗助の頼みを、私たちは勿論了承した。
綺麗に治った康一の身体を優しく土に埋め、墓を作ってあげた。
彼を穴に入れる作業は、仗助にやらせるのは酷だと判断した慧音が代わってくれた。
身近に居た人が死ぬなんて経験は初めてではないけども、やっぱり慣れるものではない。
康一の荷物は仗助に渡した。彼が持つべき……なのでしょうね。

にとりの身体は完全に消滅するほどバラバラになっていた。
その事実を再確認し、改めて吉良吉影という人間の『怖さ』を知る。
アレを敵に回すことは悪手だ。私の判断は間違っていない……そう思いたいものね。

そのにとりの墓も作ってやるべきだと慧音が言った。
彼女の遺体はもう無いけど、一緒に作ってやることにした。
流石に殺した相手のすぐ横に作るのもあんまりなので、康一の墓とは離れた場所に作ったけども。
そして彼女の荷物も話し合った結果、火炎放射器とかいう物騒な現代武器と河童の工具は得意そう(?)な教授に。
大振りの剣がこれまた得意そうな天子へと渡った(というよりブン奪られた)。
他にもスタンドDISCとはまた違うらしい円盤があったけど、用途が不明なので取り敢えず私が所持することになった。


821 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:20:31 uvEDXnvk0





「―――随分、予定が遅れたわね……」

私はボソリと、そう漏らした。

「ああ……。随分と、随分と色々な事が変わってしまった、な……」

慧音もどこか心此処に在らずといった面持ちで返した。

「天子……。貴方、仗助よりも人生の先輩なんだから、仗助のコト……頼めるわね?」

少し声を落として天子に伝える。
友を失ったばかりの仗助には……誰かの優しさが必要なのだから。

「……下僕の世話くらい、主である私の当然の義務よ。
 それより……吉良のことはまだ認めてないわよ、私……!」

不満げに言い去った天子は、やはり私の判断に不服みたいね。
彼女の性格からして、自分が間違っていると思う相手を野放しにするのは許せないんでしょう。
わからないでもない、けど……。何とか気持ちに折り合いをつけて欲しい、と言ったトコかしら。
私からすれば仗助も天子もまだまだお子様なんだから。

「パチェ……! 絶対、絶対無理しないでね……!」

そして、教授か。
この子もまだまだ子供なんだけどねぇ……。色んな意味で。

「無理はしないわ。それより貴方こそ気を付けなさい? たった2人なんだから。
 …………それじゃあ、『また』ね?」

「……! うん! 『また』……!」

2度目の別れになるけど、今回は少し違うのかもしれない。
既に2人も死んでしまった……いえ、死なせてしまったのだから。
私にだって責はある。その圧力に圧し潰されて破滅を迎えることだけは……したくない。

「パチュリー。……そろそろ」

ぬえが急かすように催促してきた。
……どうも、この子の本質が読めない。吉影とは別の意味で、わからない。


―――『封獣ぬえ』。
大昔からその正体が掴めない妖怪であり実際の所、今の彼女の姿が『本物』なのかも知り得ない。
人々を翻弄し惑わしては、笑いながら去っていく謎の多い妖怪とは聞いているけど……。
正体が判らない存在ほど恐ろしい物もない。触れたくない物もない。

正直……私は彼女が少しだけ、怖い。
今からの数時間一緒に行動して、少しでもぬえのことが理解できれば良いんだけど……。



「じゃあ……皆。今度こそ準備はいいわね?」



私の合図を皮切りに皆の注目が向けられた。
今回の目的……出だしとしては『最悪』の一歩を踏んでしまったけども。

もう、二の轍は踏まない。
私たちがやらなきゃ、誰がやる。
とことん行くしか、ないんだから……!



「――――――行くわよ!」



チームは再び、3つに分かれた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


822 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:22:33 uvEDXnvk0
【E-1 サンモリッツ廃ホテル前/朝】

【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:霧雨魔理沙の箒、ティーセット、基本支給品×2(にとりの物)、考察メモ、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第三ルートでジョースター邸へ行く。
2:魔力が高い場所の中心地に行き、会場にある魔力の濃度を下げてみる。
3:異変解決の足掛かりとして、吉良の能力を利用したい。
4:ぬえに対しちょっとした不信感。
5:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
[備考]
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けるようです。
※「東方心綺楼」は八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって八雲紫が用意したダミーである。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは幻想郷の全知全能の神として信仰を受けている。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「幻想郷の住人全ての能力」を使うことができる。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。
 「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
 ラスボスは可能性世界の岡崎夢美である。


【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:スタンガン@現実
[道具]:基本支給品、ココジャンボ@ジョジョ第5部
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:しばらくはパチュリーたちと手を組むしかない、か…
2:東方仗助とはとりあえず休戦?
3:空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
4:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
5:亀のことは自分の支給品について聞かれるまでは黙っておこうかな。
[備考]
※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
 ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。


【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:精神不安定、頭に切り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、不明支給品×2(ジョジョ・東方の物品・確認済み。康一の物含む)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの打破
1:霊夢と紫を探す・第一ルートでジョースター邸へ行く。
2:康一…
3:吉良のヤローがなんかしたら即ブチのめす。休戦? 知るか!
4:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
[備考]
※幻想郷についての知識を得ました。
※時間のズレ、平行世界、記憶の消失の可能性について気付きました。


【比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:健康
[装備]:木刀@現実、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、龍魚の羽衣@東方緋想天
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第一ルートでジョースター邸へ行く。
2:下僕のアンタが落ち込んでたら私まで暗くなっちゃうでしょーが!
3:主催者だけではなく、殺し合いに乗ってる参加者も容赦なく叩きのめす。
4:自分の邪魔をするのなら乗っていようが乗っていなかろうが関係なくこてんぱんにする。
5:吉良のことは認めてない。調子こいたら、即ぶちのめす。
6:紫の奴が人殺し? 信じられないわね。
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。


823 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:23:15 uvEDXnvk0
【上白沢慧音@東方永夜抄】
[状態]:健康、ワーハクタク
[装備]:なし
[道具]:ハンドメガホン、不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:悲しき歴史を紡がせぬ為、殺し合いを止める。
1:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第二ルートでジョースター邸へ行く。
2:殺し合いに乗っている人物は止める。
3:出来れば早く妹紅と合流したい。
4:姫海棠はたての行為をとっ捕まえてやめさせたい。
[備考]
※参戦時期は未定ですが、少なくとも命蓮寺のことは知っているようです。
※ワーハクタク化しています。
※能力の制限に関しては不明です。


【岡崎夢美@東方夢時空】
[状態]:健康、パチェが不安
[装備]:スタンドDISC『女教皇(ハイプリエステス)』、火炎放射器@現実
[道具]:基本支給品、河童の工具@現地調達、不明支給品0〜1(現実出典・確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:『素敵』ではないバトルロワイヤルを打破し、自分の世界に帰ったらミミちゃんによる鉄槌を下す。
パチュリーを自分の世界へお持ち帰りする。
1:パチェが不安! 超不安!! 大丈夫かしら…
2:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第二ルートでジョースター邸へ行く。
3:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法、外部と連絡を取る方法を探す。
4:パチュリーが困った時は私がフォローしたげる♪はたてや紫にも一応警戒しとこう。
5:パチュリーから魔法を教わり、魔法を習得したい。
6:霧雨魔理沙に会ってみたいわね。
[備考]
※PCで見た霧雨魔理沙の姿に少し興味はありますが、違和感を持っています。
※宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンとの面識はあるかもしれません。
※「東方心綺楼」の魔理沙ルートをクリアしました。
※「東方心綺楼」における魔理沙の箒攻撃を覚えました(実際に出来るかは不明)。


※全員が吉良の正体を知りました。同行するらしい彼に多少なりと警戒はしています。
※全員がはたての書いた紫についての記事を読みました。紫には警戒しています。
※サンモリッツ廃ホテルの近くに康一、その少し離れた所ににとりの墓があります。
※にとりの「小型爆弾@オリジナル」は爆薬を抜かれ、ホテル近くに捨てられています。

<各チームのルート>
※第一ルートを通る『仗助・天子チーム』はE-1からD-1へ進み、そのまま結界沿いを行くコース。
※第二ルートを通る『慧音・夢美チーム』はE-1からE-2へ下り、そのまま西を行くコース。
※第三ルートを通る『パチュリー・吉良・ぬえチーム』はE-1からF-1へ進み、そこからF-3に下って、西へ行くコース。


824 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:25:29 uvEDXnvk0









































―――『人狼』にはひとつ、『狂人』と呼ばれる役職がある。



彼らは『村人』の側に属していながら『人狼』の味方をする。
彼らの目的は人狼の勝利だ。人狼側が勝利することで狂人も一緒に勝利することが出来る。

狂人の役目は『騙ること』。
村人のチームに上手く溶け込み、翻弄した発言で人狼をサポートするのだ。
村人の混乱を目的とした彼らは自分の正体を明かさず、陰から常に場を混乱させる発言を怠らない。


この9人の集団に起こったひとつの『悲劇』は、偶然の連鎖によるものではない。
いや、確かにひとつひとつの些細な偶然が今回の悲劇を生んだのかもしれない。

封獣ぬえが偶然、吉良吉影の正体を知ってしまったからその後、彼を刺激したのかもしれない。
吉良吉影が偶然、河城にとりを爆弾にしていなかったら彼女は死ななかったのかもしれない。
河城にとりが偶然、手を汚していなかったら東方仗助に疑われることもなかったかもしれない。
東方仗助が偶然、パチュリー・ノーレッジらに吉良の正体を漏らしてしまわなければ、吉良はこうも追い込まれなかったのかもしれない。
パチュリー・ノーレッジが偶然、河城にとりに懐疑心を持たなかったら彼女は爆弾を作ることはなかったかもしれない。

全ての事象はほんの些細な事柄で決定される。
他愛も無い『if』が、その場限りにおいては救いをもたらせてくれるのかもしれない。

だが、この悲劇が単なる『偶然』の連鎖で生まれたモノだとは限らない。
『偶然』ではなく『必然』という名の他意によって生み出された結果なのだとしたら。

この集団の誰もが『彼女』という『狂人』の存在を意識出来ていなかったとしたら。

それは『if』(もしも)ではなく、引き起こされた『正体不明の運命』。



―――正体不明の狂人は、戯けた。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


825 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:26:36 uvEDXnvk0
[-00:03:08] [-00:08:42]

『封獣ぬえ』
【午前7時9分】


「慧音、夢美。ゴメン、私ちょっと忘れ物しちゃったみたい。先に行ってて」


Bチームの私たち3人は霊夢と紫を探し出すため、南へと向かって歩き出した。
ありふれた適当な文句を彼女たちに言い残し、私は当初の『計画』を実行するべく動く。
『メタリカ』によって姿を消した私は、東……すなわち吉良のチームへと隠れながら追いかける。

計画とは無論、今なお私たちの誰かを爆弾にしているという、卑劣な吉良の『暗殺』。
このメタリカの能力があれば暗殺は容易。誰にも気付かれずに奴を殺せる筈……!
そしてとうとうチンタラ歩く吉良の姿を捉え、私は躊躇無く殺しにかかる―――!

―――予定ではあったが、いざ殺す直前になると不安が押し寄せてきた。

襲撃者の正体(つまり私だ)は本当にバレないのか?
私が慧音たちの前から離れている間に吉良が襲われれば、真っ先に私が疑われないか?
そもそも透明だからといって、誰にも姿を見られることなく暗殺は完了できるのか?
吉良を即死させることが出来れば上出来だけど、反撃の隙を与えたら私は無事でいられるのか?
なんかの拍子で透明化が解ければ、その時点で私はアウトだ。


……少し、単純で浅知恵すぎる作戦ではないか?


今になって私は臆してしまった。
自分の正体が判明される事こそ昔から恐れてきた鵺という種族の特性。
ここに来て何たる無様だと、自分に喝を入れようとするけども、足は中々動いてくれない。

段々と焦燥を募らせる私の身にその時、ツキが舞い降りた。


「落ち着いて聞いて欲しい。今、パチュリーさんの荷物には……………

 ――――――『爆弾』が入っている」

「………………え? ば、ばくだ―――ッ」


ばくだ……何?
近くに居たにとりと康一の会話が偶然私に聞こえてきた。
こっちには気付いてないらしい。そのままボソボソと会話を続けている。
私はというと、非常に気になる単語が飛び出てきたそのナイショ話に聞き耳を立てていた。
そしてにとりは次に仰天するような台詞を放った。


(私はこの爆弾で……………………『吉良』を倒そうとした、から)


吉良を……倒すだって!?
俄然私はその会話に興味を持った。
話がよく見えないけど、康一は当然として河童までもあの吉良の正体を知っているのか?
そしてどうやらこの河童は、勇敢にもあの殺人鬼を爆弾で倒そうとしていたらしい。
ということはつまり、わざわざこのぬえ様が手を下す必要は無いということになる。
ワオ! それって超ラッキーってことじゃない!?


826 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:27:06 uvEDXnvk0

(で、でも吉良を倒すのに何でパチュリーさんの荷物に爆弾を入れたの!?)

(ま、間違えちゃったんだよ! さっきホテルで私以外のみんなでトイレに行ったろ!?
 その時に爆弾を仕込んだんだけど……吉良の荷物と間違えてパチュリーさんの荷物に……)


そういえば、この河童がさっきホテルで誰だかの荷物に何か入れていたのを見た気がする。
あれは爆弾だったのね……河童も恐ろしいことを考えるものだわ。
とにもかくにも、これで私の不安は解消した。
このまま待っているだけで、私は何の苦労もなくあの吉良が爆死するところを見学できるからだ。
その瞬間を今か今かと待ちわびながらも、隠れて会話を聞いているとどうも話が違った方向に進んでいった。


「―――でもにとりちゃん。このことをパチュリーさんに話しておかないのはよくないと思う」


康一がそんなことを言う。
どうでもいいからさっさとその爆弾とやらを吉良の野郎に仕掛けてきなさいよ!


「君がひとり、爆弾で吉良を倒そうとしていたこと。
 事故とはいえ、うっかりパチュリーさんを危険に晒したこと。
 その非を、彼女に説明もナシに無かったコトにしようとするのはチームの亀裂を生む原因になると思うんだ」

「だから、ボクはパチュリーさんにきっちり謝っておくことが大切だと考えるよ。
 彼女も怒るかもしれないけど、ボクからも一緒に謝るから。
 誠意を持って謝ればきっとパチュリーさんだって許してくれるさ。
 そしてその後、皆で吉良を倒す策を一緒に考えよう。ね?」


……なんか、この流れは吉良を倒すような話じゃなくなってきたようだ。

なに呑気言ってるんだろう、この男は。
私が爆弾にされちゃってるかもしれないのよ?
そんなふざけた正義感振りかざして、もし私が爆死したらどう責任とってくれるの?
皆で吉良を倒す策を考える? バッッッカじゃない!? 遅いっつーーーのッ!
私がこんなに苦労して奴を殺そうと頑張ってるってのに、随分平和な頭してるのね?


「パチュリーさんにはボクから話を通してくる。にとりちゃんはここで待ってて!」


コラ待ちなさいよ! ……なんて声を出すわけにもいかない。
どうしよう……これじゃあ最初の障害に逆戻りじゃない……!
何とか……何とかしないと……!


その場で頭を抱えていたら、河童の奴が青い顔して何か取り出したのが見えた。
アレは……何かの『スイッチ』かしら?

もしかして、爆弾の――――――


827 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:28:45 uvEDXnvk0


「――――――っ!」



脳裏に過ぎった、『悪魔の策』。



私は逸る気持ちとは裏腹に、頭の中では冷静に『ある予測』を立てられていた。
『もしも』……もしあのスイッチが康一の抱える爆弾の物だとして。
それを今、私が『押して』やったら……当然だけど康一は爆死するでしょう。

すると……どうなる?
誰が康一を爆破したかって話になるだろう。
吉良の正体が殺人鬼だということを知るのはその時点で、私を除けば仗助とにとりだ(他にもいるかも知れないけど)。
後は私が上手いこと口を合わせて『吉良の仕業』だということに仕立て上げれば……!


―――ごく自然に、私は皆を巻き込んで吉良を攻撃できる口実を得る。


いや、私は皆を上手く口車に乗せるだけで、実際には吉良を攻撃したくない、というか近付きたくもない。
煽るだけ煽いで私はこっそり引っ込む。後は皆が勝手に吉良を攻撃してくれる!
そうよ! 吉良の奴だって全員から『敵』だと認識され、同時に攻撃を受ければひとたまりもない筈!

最後の問題は『人質』。
私が爆弾にされている可能性がある以上、私自身も迂闊に仕掛けられない。
でも、そうよ! こっちにはなんと言っても仗助の『クレイジー・ダイヤモンド』があるのよッ!
たとえ私が爆破されたとしても、恐らく仗助の『治す』能力は吉良の爆破スピードよりも一瞬速く治せるッ!
つまり皆が吉良に攻撃する瞬間、私は仗助の隣に『ベッタリくっ付いて』いれば私は死ぬこともない!
爆弾が私じゃなく、他の誰かだった場合は……その人はご愁傷サマ♪ 知ったこっちゃないもん。

そしてこの作戦は『秘密裏』に行わなければ意味がない。
例えば私が吉良の正体を皆に喋っても、「それなら共に皆で吉良を打倒しよう!」と一致団結とはいかない。
だって人質が取られてるんだもん。お人好しのあいつらはきっと人質の命を優先して、吉良を攻撃することは出来ないでしょうね。
クレイジー・ダイヤモンドで爆殺を防ごうにも、すぐに治せるのは仗助の傍に居る奴だけ。
もし仗助の近くに居ない奴が爆弾にされていたら、そこで終わり。だからお人好しのあいつらはその策を使わない。
そもそも皆に吉良の正体を話すタイミングなんて、もう無い。


結局、今ここで康一を爆死させ、その罪を吉良に擦り付けるのが一番確実で楽チンってワケよ。


そこまで考えたら、私は急に希望とやる気がムンムン湧いてきたわッ!
すぐにメタリカで作ったメスを取り出し、鉄分の構成を変化させる。
メスから姿を変えて私の手の中に現れたのは、河童が持っているモノそっくりの『リモコンスイッチ』。
外見を変化させただけの紛い物だから当然これを押しても爆発なんて起こらない。

あとはコイツを―――河童の持つスイッチと入れ替える。

透明とはいえすぐ近くに私が居るってのにコイツは全然気付かない。
なんだか震えて動揺しまくってるみたいだけど、丁度良い。
本物のスイッチを河童の手から弾き、草むらの中に転がせる。
急いでそいつを手に取り、代わりの偽物をその辺に放り出した。
案の定、河童は偽物を拾った。随分ニブイ奴ね、コイツ……。


もうあまり時間は無いわね。それじゃあモタモタすることもないし―――



じゃね♪ 広瀬コーイチくん。



―――カチリ、と。

私は躊躇いなく、スイッチを押した。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


828 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:29:48 uvEDXnvk0
[+00:02:33] [-00:03:01]


作戦は面白いほど計画通りに進んでいった。


スイッチを押して康一が爆死したのを見届け、すぐに私は慧音たちのところまで戻った。
そして彼女たちと共に何食わぬ顔で爆発音を聞きつけ、康一の惨状に驚く。
見るも早く、それを吉良の仕業だと声高らかに叫び上げる。
吉良の正体を殺人鬼だと口走って、全部ぜーんぶ吉良に押し付けてやる。
勿論、ここは『人質』のことは伏せておいた。
余計なこと言って、吉良を攻撃することに躊躇いの心を持たせることもない。

何だ、簡単じゃん。
予想通り康一は爆死したし、
予想通りそれを吉良のせいに出来たし、
予想通り吉良は焦っている。
何もかも順調だった私の計画は―――


「無駄よ、吉影。貴方の仮面の裏に隠してきたという『本性』……。既にここに居る全員が知っているわ」


―――しかしこのパチュリーの台詞から、何かが狂いだしてきた。


「ニッブい男ねアンタも! アンタの正体はホテルの中で、とっっっっくの昔に皆にバレてたって言ってんのよ!」


…………………は?

え、え……ちょっ、と…待ってよ……?
……『知ってた』? 吉良の正体を、みんなが……? とっっっっくの昔に……?
いつ? ホテルで、ですって? 私の居ない間に、そんな話を……?
な、なによソレ! それならわざわざ康一を殺して吉良に罪を擦り付けた意味が……!

―――いや、あるのか?

皆は今、康一が爆破されたことで『爆弾は康一だった』って思ってる。
『人質が居なくなった今なら吉良を好き勝手攻撃できる』って、皆は考えてるんじゃない?
……それはそれで、結果オーライって奴なのかもしれない。
このままの流れで皆が吉良を倒せば、何も問題はない筈だ。
いや、当然吉良がいつ人質を爆破してもいいように、私は仗助の傍についているけど。


うん、まあいいじゃん! 少しビックリしたけど、大丈夫大丈夫―――!



―――どころではない、予想外の事態が発生した。



「康一を殺しやがった奴は――――――吉良じゃねえ」



(仗、助ェ〜〜〜ッ!!? ア・ン・タ……! この期に及んで何を言うつもりよ……ッ!?)



私にとって最大の予想外だったこと。
それは私がこの場でクレイジー・ダイヤモンドの順応力を忘れていたことと、仗助が思いの外、クールだったこと。
この土壇場で仗助が爆弾の破片を『直して』復元するという、とんでもないことをしてくれやがったのだ。


829 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:30:51 uvEDXnvk0


「……にとりちゃん。その『手』についてなんスけど、どうしてそんなに油で『汚れて』るんです?
 まるで――『何か』を作った痕みたいっスよね。例えば―――」

「 違 う ッ ッ ! ! ! 」


くっ……!? ヤバッ……犯人が吉良からにとりへと転換されてきている……!
私の仕業だとバレてないだけまだマシだけど、このままだと吉良を犯人に仕立て上げられなくなる……!
そうなったら吉良を皆でボコる流れを作れなくなってしまう!

焦り始める私だったけど、当のにとりは私の100倍は狼狽しているみたいだった。


「違うッ!! 私はスイッチなんか『押していない』ッ!!
 康一を殺したのは私じゃないッ!!! 信じてくれ……っ」


ええ、そうでしょうね……! アンタは殺していない。殺ったのは私だもん。
本物のスイッチはどさくさに紛れてさっき捨てておいたから、私が疑われることはない。
でも、ここに来て私の計画は既に破綻している。
私はこんな状況を作りたかったんじゃない。この後どうすればいいんだ?


考え込む私をよそに、にとりの悲痛な叫びはどんどんヒートアップしていき―――


「――――――わたしを、信じてくれよぉ…………――――――」


彼女の最期の言葉を聞くその瞬間も、私は自分のことで精一杯だった。



―――爆発音が轟いて、河童は突然死んだ。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


830 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:34:52 uvEDXnvk0
[+00:07:02] [+00:01:28]


結論から言って、結局私の計画は『失敗』した。


吉良はにとりを殺し、その後何事も無かったかのように『仲間に迎えてくれ』だとか宣った。
当然私は憤慨した。ふざけんなと言いたかった。
河童が死んだことで私が『爆死』する可能性は無くなった。それはいい。
でも、アイツを再び仲間として迎え入れる……!? 冗談じゃないわッ!

私は康一を殺したかったわけでも、にとりを殺したかったわけでも……、ましてや吉良を仲間にしたかったわけでもない。
アイツをこの世から消してやるそのためだけに計画してきたのッ!!


「直球で言わせてもらうけど、私は吉影の交渉を呑むつもりでいる」

パチュリーが真顔でそんな事を口走った。
なによ……ソレ……ッ!

「ちょっとアナタ、なに言ってるのよッ!? コイツは殺人鬼なのよッ!?
 今ここでブチ殺しておくべきだわッ!!」

見境もなく私は却下した。こんな奴を自分の近くに置いておくなんて狂ってるとしか思えない。
それでもこの魔女は、引き下がろうとしなかった。

「殺人鬼如きがなによ。こう見えて私は魔女なの。いざとなれば大釜で煮込んで食べるくらいしてやるわよ。
 それに彼を私が説得するというのは元々全員で決めていたことでしょう? 予定が早まっただけじゃない」


―――説得……!? そんなの……そんなの私は聞いていなかったぞッ!!


「ま、待って待ってパチェ待って!! 『説得』って、私それも聞いてないわッ!! どんだけ仲間ハズレよ!?」


どうやら夢美の奴も聞いてなかったらしい。
なんなのよ、コレ……ッ!! フザ、けんな……ッ!!


「……これで交渉は成立ね。色々大変なことも起きたけど、私たちの目的はまだ続いている。
 厳しいこと言うようだけど、悠長なこともしてられない。待ち合わせに変更はナシ。正午に『ジョースター邸』に集合よ。
 私たちCチームも、康一とにとりが欠けてしまったけど……チーム組み分けに変更は―――」


私の意見も聞く耳持たず、殺人鬼を仲間にしてしまった……
吉良は私たちに手は出さないと約束されてはいるけど、そんなの分かるもんか。
やっぱり我慢ならない……! 吉良吉影は、殺さなきゃダメな人間なんだ……ッ!


831 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:35:35 uvEDXnvk0


「パチェはこれからその、吉良さんと2人で行動するんでしょう?
 ………私も一緒に―――」


夢美がパチュリーを心配して同行しようとせがんでいる。
フン……こんな根暗魔女、吉良と2人きりにして殺されちゃえばいい―――

……待てよ? いや、それなら『いっそ』……!


「―――気持ちだけ、受け取っておくわね。
 でも貴方が私たちと一緒に来たら、Bチームは慧音とぬえだけになる。
 もしも彼女らがスタンド使いに襲われたら、抵抗は難しくなるでしょう。
 仮にも今の貴方はスタンドを持っているんだから、彼女たちについて守ってやんなさい。……ね?」

「……でも!! それでも私はパチェが心配なのッ! もしも貴方に何かあったら私―――」


いっそ、私が吉良の近くに居れば……

―――そうすれば、きっと吉良を『暗殺』するチャンスがでてくる……!


「―――じゃあさ、私がパチュリーのチームに入って吉良を見張っとくわ」


私は覚悟を決めて、パチュリーにそう進言した。
私と吉良とパチュリー、3人のチームで動けば……私も吉良を暗殺しやすくなる!
もう吉良の爆弾は解除されている。これ以上怯える必要なんて……無いッ!
対等な条件での『1vs1』なら……見込みがでてくる!


「私も一応、大妖怪なんだしさ。力には自信、あるから。
 もしも吉良が何かしてきたら串刺しにしてやることくらい、出来るわよ」

「ぬえ……? でも……」

「“でも”、なに? 夢美も慧音と2人なら互いに守りやすいでしょ。
 それとも……私じゃ不満?」


たとえ吉良がパチュリーに何かしてきたとしても、守ってやるつもりなんて毛頭ない。
なんなら2人とも始末したって構わない。
皆には後から「危険な人物に遭遇して2人はやられました」とかなんとか誤魔化しておいてさ。


「じゃあ、ぬえ。同行をお願いしてもいいかしら? 教授は……また今度ね」

「……ええ、任せなさい」


とにかく、吉良は殺す……!
コイツは殺す……ッ!
こんな殺人鬼を野放しにすれば聖だって危ういんだ!

だから。



―――死の恐怖を振りまく人間よ。正体不明の殺意(わたし)に怯えて、死ね。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


832 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:36:24 uvEDXnvk0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽









【Reignition】―『再点火』開始―









▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


833 : COUNT DOWN “NINE” ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:37:29 uvEDXnvk0
【封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:精神疲労(中)、吉良を殺すという断固たる決意
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:隙を見て吉良を暗殺する。邪魔なようならパチュリーも始末する。
2:皆を裏切って自分だけ生き残る?
3:この機会に神霊廟の奴らを直接始末する…?
[備考]
※スタンド「メタリカ」のことは、誰かに言うつもりはありません。
※「メタリカ」の砂鉄による迷彩を使えるようになりましたが、やたら疲れます。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※メスから変化させたリモコンスイッチ(偽)はにとりの爆発と共に消滅しました。
 本物のリモコンスイッチは廃ホテルの近くの茂みに捨てられています。


※ぬえ以外の全員、康一を殺したのがにとりだと思っています。


834 : ◆qSXL3X4ics :2015/04/22(水) 02:42:05 uvEDXnvk0
これで「COUNT DOWN “NINE” 」の投下終了です。

かなりゴチャゴチャした人間関係の把握に苦戦しました…
もしかしたら変な矛盾とかおかしい所もあるかもしれません。
その時は指摘の方もお願いします。
長かった藁の砦編、ひとまず1stパートの終わりです…!


835 : 名無しさん :2015/04/22(水) 10:36:55 0Naj3MtY0
投下乙と言わざるを得ない…!

祝★藁の砦★炎上記念★

なんつーか各人の錯綜が錯綜を極めて、こっちも良い感じにポルナレフ状態で楽しめたぜ…!
それとカウントダウンの演出いいね、面白い!演出の意図に気付いたのが一回目の爆破で
もう来ないだろーって思いつつ、時間表示見てなかったから二回目も見事にブッ刺さったぜ……
演出の意図を理解して読めた人には、また違った印象を与えることもできるしこのSS然りyouのSS内での工夫は最高に光ってるぜ!

にとりと康一は残念だったね、康一はまだしも、にとりはまだまだ混乱する様が読めるかと思ってたが、まあここまで来ると誰が落ちるか落とすか頭が痛いな…
だけど逆にこの流れに持ってくることで、一旦仕切り直しの状況に持ち込みつつ、不穏な藁の砦は健在だという展開は実に見事、そして脱帽! 
藁の砦をどう爆発させるかは妄想しても、一斉点火して大喝采させるしか思いつかんかったから猶更だ、すごい(小並感)
取りあえずぬえちゃん脱空気化おめでとう! でもパッチェさんは殺さないでね!




にとりと康一


836 : 名無しさん :2015/04/22(水) 10:38:14 0Naj3MtY0
貼り付けミスった、許してちょうだい


837 : 名無しさん :2015/04/22(水) 10:49:10 osuTX8wk0
おお、投下乙です
ここまで人間関係のややこしかった藁の砦を見事に裁いて炎上、再点火フラグまでたてた手腕、素晴らしいの他ありません
にとりは今までのツケが巡り巡り回る形で死んでしまいましたね
康一くんの死に怒る仗助と天子のコンビは息がぴったりで直情でまっすぐな感じがグッと来て好きなコンビになりました
ぬえさん、一気にどす黒さを見せて頭角に出ましたね
吉良暗殺を企てる彼女が度のような顛末を辿るのかとても楽しみになる話でした


838 : 名無しさん :2015/04/23(木) 06:29:19 tD4Ql86o0
あー、やべー、すげー虚しい。
そりゃ予約時点で誰か死ぬって分かってたけれど、
ここまでポッカリと心に穴が空くとは思ってなかった。

とはいえ、面白くもあった。
ただ無情にキャラを突き放して殺すとことから来る虚しさではなく
ちゃんとキャラに見せ場を持たせ、劇的な最期を迎えさせた上で、心に来るこの喪失感。
あー、マジ心の余韻がたまんねー。


839 : 名無しさん :2015/04/23(木) 08:21:21 YKoA/1JI0
投下乙です。
死因のせいで吉良が疑われて仗助が真犯人を見つけるまでの流れがとても良かった。

矛盾ではないけどスタンドで周囲に気付かれずにバッグの中身取り出すのって難しそうだなと思った。
あと「もしも私の教授に」が間違いなのかわざとなのかちょっと迷った。


840 : 名無しさん :2015/04/24(金) 20:32:54 2XhRgeWE0
投下乙です!
こんなにも火種が溜まっていたこの集団がどうなるかとハラハラしましたが……まさかこんな結果になるとは!
康一くんが殺されて、その犯人がにとりだと疑われて、それにキレた吉良がにとりを殺す。
そんでその真犯人はまだ生きている状況で、一同は行動する。
バトルロワイアルの恐ろしさを久しぶりに実感いたしました!


841 : 名無しさん :2015/04/26(日) 08:16:50 VrGiGdDY0
このロワの死者って何かをやり遂げて満足したように死んでいくキャラが多いけど、にとりは真逆の死に方だったなあ
化けて出そうな、そんな怖さがある

そういえばパチュリーは嘘を見破れるから、あの時にとりがスイッチを押していないことに薄々気付いてるんじゃないかな
ぬえへの不信感も併せて、謎を解いてくれると期待してる


842 : ◆.OuhWp0KOo :2015/04/27(月) 19:54:07 XfJLCmX20
すみません。またも執筆が間に合いそうにないので、予約を破棄します。


843 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:19:47 SFuw.NRs0
ゲリラ投下を開始します。


844 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:20:39 SFuw.NRs0
タイトル:痛みを分かち合う程度の能力


845 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:20:57 SFuw.NRs0

――第一回放送が終わった。

「……承太郎、今呼ばれた中に……確か居なかったわね?」

博麗霊夢が、努めて声に感情を込めぬように尋ねた。

「……ゼロ、だ。直接会ったことがあって、名前を知っている人物に限っていえば、だがな。
 『シーザー・アントニオ・ツェペリ』、『ウィル・A・ツェペリ』、『スピードワゴン』
 ……皆、俺の時代にはスデにこの世にいない人物だ。
 ただ、『タルカス』と……どこかで見た名前だ。確か……世界史の資料集とか、だったか。
 大統領に倒されたとかいう『ブラフォード』も、だ。
 あとは、聞いたことの無ぇ名前だ。もしかしたら、だが……まだ生きてる『ホル・ホース』、『ヴァニラ・アイス』の他に、
 オレたちがブチのめしてやったDIOの手下もこの場に呼び出されて、今、名前を呼ばれたのかも知れねーがな」

とりあえず、身近な知り合いは呼ばれなかった。
承太郎はそんな安堵をなるべく声色に出さぬよう、努めて事務的に答えた。

「……そのDIOの手下とやらの名前は、判らないのか」

「名を聞く間もなくブチのめしてやったことは一度や二度じゃねーからな……フー・ファイターズ、お前は」

「ああ。『エルメェス』という名があった。お前の娘、空条徐倫と行動を共にしていたスタンド使いだ。
 ……霊夢、お前は」

フー・ファイターズが、機械的に尋ねた。

「……『ナズーリン』、『伊吹萃香』、『紅美鈴』、『星熊勇儀』、『魂魄妖夢』、
 『二ッ岩マミゾウ』、『アリス・マーガトロイド』、『幽谷響子』、そして『十六夜咲夜』。
 ……承太郎にはさっきひと通り話したとは思うけど、私の知り合い……
 幻想郷の住民は、さっきの第1回放送とやらで呼ばれた18人の中に、9人いたわ」

「…………」

承太郎は反応を返すことができなかった。
……ただ帽子の鍔をつかみ、黙って俯いていた。
霊夢の方を見ないようにしながら。

先ほど情報交換を行った通りであれば、このバトルロワイアルに参加させられた90人のうち、
およそ半数が幻想郷の住人……関係の深さに程度の差はあれど、みな霊夢の友人と言って良い。
今告げられた死者18人のうち、9人がそうだった。
――確率的にいえば、妥当な割合だろう。
いや、DIOやその手下たちのような超危険人物も多く参加する中で、
戦い慣れていない者も多いと聞く幻想郷の住人たちは、良く生き残っている方ではないのか。

そんな考えが自身の頭の中に浮かんだことを、承太郎は嫌悪した。


846 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:21:16 SFuw.NRs0

(……辛ぇだろうな)

――そういえば、というのも奇妙な話だが、承太郎自身、3人のかけがえのない友を喪ったばかりだった。
彼らを喪いながらもDIOとその最後の部下、ヴァニラ・アイスを斃したのが、エジプトはカイロの、日没直後の話。
その次の日の朝にポルナレフと別れてジョセフと共に日本行きの旅客機に搭乗し、
――この、日本の山奥に存在する秘境・幻想郷に呼び出され、殺し合いに参加させられたのだ。
幻想郷に呼び出されて6時間。彼らの死からまだ、丸一日も経っていない。
だというのに、その事実にあまりショックを感じていないことを承太郎は自覚する。

アブドゥル、花京院、イギー。(この場に呼び出された花京院はどうやらまだ生きているようだが)
彼らとの縁は、いずれもDIOを追う旅にまつわる――非日常の中でのものだった。
自分も含めて、刺客の攻撃を受けていつ死んでもおかしくない――そんな旅だった。
彼らの死が、悲しくない訳ではない。
だが、それでもこうして平静を保っていられているのは、
『覚悟』を持っていたお陰だろう。非日常の、戦場の中で生きる覚悟を。

もし、戦いの場でない日常の中で突然親しい者が死んだとしたら――。
例えば、カイロへの旅立ちの日――母・空条ホリィがDIOとの運命の引力によって、母自身を蝕むスタンドを呼び覚まされたあの時、
母に残された時間が『80日』でなく、『6時間』だとしたら――。
つまり、共に日常を生きていたはずの母が殆ど打つ手無く『突然死』に近い形で死亡したとしたら――。
きっと承太郎とて取り乱さずにはいられなかったに違いない。

霊夢はまさに今、そんな目に遭わされているのだ。
横目で、名簿を手に俯いて立ち尽くす彼女を見やるが――長い髪に隠れ、表情を伺う事はできない。
――こういった気遣いは、どうにも不得手だ。
そもそもついさっきまで赤の他人だった同士でどうにかできる問題なのか。

「……何見てるのよ承太郎。こっちの様子をチラチラと」

気づかれた。

「あんたに気遣われなくても、このくらいなんてこと無いわよ。
 こちとら鬼さえ泣かす無慈悲で薄情な博麗の巫女よ。祓ってきた妖怪は今まで数知れず。
 妖怪や妖怪に付き従う人間がこれくらい死のうと、どうってことないわ。
 あんたなんかに気遣われる筋合いなんて、無いのよ」

フンッと鼻息を一つついて、霊夢は承太郎の方に向き直った。
そしてすまし顔で歩き出すと、承太郎の前を通り過ぎてゆく。


847 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:21:33 SFuw.NRs0

「……霊夢、どこへ行く気だ?」

「ちょっと『雉を撃ちに』、ね。少ししたら戻るから、ついて来ないで」

「……10本も飲むからだ、ビールを」

承太郎は呆れ顔で漏らした。

「待て、霊夢」

「何よ、FF(フー・ファイターズ)」

「女性の場合、排泄に行く際の表現は『花を摘む』、では……グワッ!」

側頭部にアヌビス神の鞘を叩き込まれたFFを尻目に、霊夢は少し離れた低木の茂みの陰へと消えていった。

「……それを言ったら、わざわざ『雉』とか『花』とか言う意味がなくなるだろーが」

「……むう、難しいな……」

凹んだ頭をうつむかせて、しょんぼりするFFに承太郎は耳打ちした。
この生き物に耳という部位が存在するかはひとまず置いておくとして。

「FF……霊夢の様子を見に行けるか? ……コッソリとな」

「体内にペットボトルを仕込めば、多少の時間なら何とかなる。
 ……確かに、排泄中はどうしても無防備になるからな」

「……ああ、そうだな……。
 俺が行ったら覗き魔になっちまうしな」


848 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:21:53 SFuw.NRs0

FFはゆっくりと霊夢の消えていった茂みに近づいた。
そろり、そろりと気配を殺し、首尾よく霊夢の背後に回り込むことができた。
霊夢はしゃがみこんでいる。こちらに気づく様子はない。
野外で排泄を行うなら、当然その姿勢をとっているはずである。

だがFF、そこで気づく。

(下着を脱いでいない……)

彼女は、うっかり下着を脱ぎ忘れたまま排泄行為に及ぼうとしている。
霊夢は下着を脱がないままに排泄の姿勢をとり……今まさにプルプルと身を震わせて――『力んで』いる。
下着を脱がずに排泄を行っては、下着を汚してしまい、不衛生だ。
糞尿に汚染された衣服は周囲に強い臭気を発散し、行動の隠密性を著しく損ねる。

(止めなければ……!)

駆け寄ったFFが目にしたのは、震える身を抱き苦しそうにうずくまる霊夢の姿だった。
頬を涙が止めどなく伝い、歯をを食いしばり、声を押し殺してうめいていた。
痛みをこらえて、苦痛をこらえているように見えた。

その様子はFFの目には、霊夢が酷い傷を負って苦しんでいるように見えた。
失礼とは理解していたが、FFは霊夢に声を掛けずにはいられなくなった。

「さっきの傷が、痛むのか?」

ようやくFFの存在に気付き、ハッと我に返った霊夢。
涙を袖で拭い、向き直ってから、突き放すように言った

「来るなって、言ったでしょ。この変態」

「排泄中はどうしても周囲への警戒が薄くなるからな……。
 すまない……先ほどの戦闘の傷がそこまでひどいとは思わなかった。
 すぐに手当を。私のプランクトンを傷口に詰めれば、止血にはなるはずだ」

「…………」

霊夢はFFの顔を見て一瞬固まった。
そして2呼吸ほどの後に、得心した様子で、

「……そうよ、さっきので傷口が開いたからついでに手当てしてるのよ」

「ではやはり、私が手伝った方が……相当に、苦しそうだったぞ。
 本当に、いいのか?」

「……ええ。見張るのは構わないけど、離れて、あっち向いてて」

「わかった」

FFは霊夢に背を向け、彼女の元を立ち去ってゆこうとした。
1歩、2歩、3歩と進み出た所で――不意に腕を掴まれた。

「待って。……やっぱり、待って。お願い……そばにいて」

振り返ると、そこには涙を流し訴える霊夢の顔があった。
流れ落ちる涙を拭おうともしない、その瞳と視線が合った時。
FFは胸に――ヒトでいう胸の部位に、何かで締め付けられるような、そんな痛みを感じたのだった。
身体を構成する分身たちにダメージはない。その痛みの正体を、FFはまだ知らなかった。


849 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:22:11 SFuw.NRs0

   ○    ○


少女の押し殺した嗚咽だけが、周囲に漏れ出ていた。
霊夢は先ほどまでと同様に、うずくまって震えていた。
FFはその傍に座り込み、霊夢の様子を見守っている。

一体霊夢は私に何がしたいのか。私に何を期待しているのか。
FFは霊夢が呼び止めた意図を、さっぱり理解できないでいた。

見たところ、外傷は――少なくとも、今までの傷口が開いたという様子はない。
FF自身が彼女に与えたダメージも、放送以前の通り、このように苦しむ程では無かったはず。
――では、何故彼女は苦しんでいる?
内臓など、外観では判らない部位に傷を負ったのか?

「霊夢、本当に傷は大丈夫なのか?」

「大丈夫……うっ、ぐずっ……傷はッ、本当に、大丈夫だから……」

「では、なぜ苦しんでいる?」

「悲しいのよ、友達を失って……FF、これがッ……『悲しみ』なのよ」

「……それを私に教えるために、わざわざ呼び止めたのか?」

「ええ……分からない?
 だって……『自由』ってッ……まず心が『自由』じゃないといけないでしょう……」

FFには霊夢の言葉の意味が理解できなかった。
FFに敗北を認めさせた『自由』とは、『悲しみ』という耐え難い苦痛をもたらすものなのか。

『悲しみ』も、言葉は知っていても、それがどの様なものであるかはいまいち理解できなかった。
刑務所の外れでDISCを守っていた頃は、人の感情に関心など沸かなかった。
プランクトンにスタンドと知性を与えられた新生物『フー・ファイターズ』にとって、それは理解の及ばない感情だった。
フー・ファイターズという種族は、全てが一つの意識を共有した存在。
同族が死ぬということは、彼にとっては水さえあればすぐに治るような、ちょっとした傷を負う程度のことに過ぎない。
そして自分以外の生物は全て異種であり、異種族が死のうと、傷つこうと、知ったことではなかった。
だから、人は仲間が死んだら悲しい、ということを、理解できなかった。

――私を負かした『自由』とは、一体何だ? そして、その自由がもたらす『悲しみ』とは?


850 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:22:31 SFuw.NRs0

「霊夢、お前の言っていることが、さっぱり理解できない」

「……そう」

「だから、提案、いや……頼みがある」

「……何よ」

「今一度、私をお前にとりつかせてほしい。
 人間でなく、友もいなかった私にはお前の苦しみが、『悲しみ』という感情がわからない。
 お前が友を喪ってどうしてそんなに苦しそうなのか、理解できないのだ。
 私がお前にとりついて、お前の知性を、今感じている『悲しみ』を体験させてもらうことはできないか」

「…………」

FFの真剣な問いかけに、霊夢は無言で同意する。
そう、FFは真剣だったのだ。
自由がもたらす悲しみとは何なのか、知りたい。
そしてそれ以上に、本人も意識しないところで、
彼は初めて得た仲間の苦しみをどうにかしたいと感じ始めていたのだった。

FFはゆっくりと霊夢の鼻先に指を差し出した。
霊夢はそれをそっと手に取り、桜色の唇に口づけするように、近づけていった。
黒い泥か、水ごけのようなFFの分身たちが、ゆっくりと霊夢の中に流れ込んでいった。


851 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:22:51 SFuw.NRs0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『咲夜は……ほとんど私が殺してしまったようなもの』

『レミリアとパチュリーにどんな顔して会えばいいか、わからない』

『美鈴も、咲夜が生きていれば、彼女も助かったのかも。
 他のみんなも、私が最初からあんなゲームになんて乗っていなければが助けられたのかも』

『たった6時間で9人。『あの男』に殺しあえと言われてしまった以上、幻想郷は本当に終わりなのかもしれない』

『『あの男』が幻想郷という世界に飽きてしまったから、外界の強い人間たちを呼んで殺し合いを開かせたの?』

『それほど、最初に会ったあの男は私には絶対的な存在に感じられた……。
 最初あの男から聞いた言葉は神のお告げの夢……『霊夢』に感じられた』

『友達を、咲夜を殺す罪の意識さえ心の奥底に押し込めてしまえるほどに』

『私ってば、ホント薄情な奴ね。
 友達を殺すのは平気でも、負けるのは我慢できないなんて』

『実際9人も死んだけど、意外と平気。……押しつぶされるほどじゃない。
 こんな薄情な私に、友達を守ることなんてできるのかしら』

『……妖怪なら、いっぱい祓って、いえ、殺してきたからね。やっぱり私は、薄情者なのかも』

『これからもいっぱい人も、妖怪も死んでいくんでしょうね。
 だったら、これくらい薄情でないとやっていけないのかも』

『そんな薄情者の私なのに……!
 どうしてこんなに身体が重いの!?
 どうしてこんなに胸が苦しいの!?』

『手足は水浸しの綿みたいに重いし!』

『胸は鉄のサラシを巻いたみたいに苦しいし!!』

『頭なんて脳味噌が鉛にすり替わったみたいにボーっとして働かない!』

『何もする気が起きないのよ!!』

『立ってるのも、息するのも嫌になって、このまま何もせず寝そべっていたい!』

『そのまま泣き叫んでしまいたい!』

『こんな時に!
 こんな時なのに!!
 こんな……悲しんでられる時じゃないのに!!
 私ががんばらなきゃ! もっと、もっといっぱい友達が死んでいくのに!!』

『……どうして動けないの! どうしてこんなに辛くて、苦しくて! 悲しいのよ!
 何者にも縛られない、博麗の巫女が!!』

『このまま『あの男』の言うとおりに、皆死んでいくなんて……悔しくてしょうがないじゃない!!』


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852 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:23:12 SFuw.NRs0

「……霊夢、わかった。もういい。もう……たくさんだ。
 お前の悲しみ、苦しみ、絶望は……痛いほどよくわかった」

分身を霊夢の体内から引き戻したFFは、頭を抱えながらこぼした。

「霊夢……どうしてお前はこんな苦しみを抱えながら、『自由』であることにこだわるんだ?」

「証だからよ。
 この身を締め付けるような悲しみは、私が咲夜たちを大切に思っていた証。
 私は、友達を喪って、悲しむ事ができる。
 この感情は、私のもの。誰にだって、奪わせないわ。
 なんて……私も丸くなったものね。少し前までだったら、想像もできなかった。
 ……ついさっきまでだって、そうだとは思わなかった。友達を喪うと、悲しいなんて。
 ねえ、FF。私……最初は殺し合いに乗っていたの」

「ああ、さっきお前の中に入り込んだ時に、わかった。
 霊夢、お前も、私と同じだったのか」

「ええ。アンタが『ホワイトスネイク』の使い手に生み出され、操られていたように
 私も、主催者だった『太田順也』の言いなりだったのよ。
 ここに来る前に私は咲夜を傷つけ、倒れた咲夜は別の誰かに殺された。
 私の落とした妖刀を持ち去ってね。
 ……彼女は、殆ど私が殺したようなものなのよ」

「……そうか。
 では、今はどうして殺し合いを止めようとしている?」

「私が咲夜を倒した後に、承太郎が現れた。
 私はあいつとも戦って……殆ど相打ちに近い形で倒れたの。
 その時持っていた妖刀を落とした私は考えたわ。
 私の持っていた妖刀には人を操るスタンドが宿っていた。私には通用しなかったけど。
 だから今まで私は妖刀に操られていたということにして、
 承太郎に一旦ついていって、不意を討って殺そうって、ね」

「合理的、ではあるな」

「太田の言いなりの操り人形として動くなら、ね。
 けど、私にはできなかった。
 そんな手を使うのは、あいつとの勝負に、負ける気がして。
 あいつに負けると思うと、とても悔しくて。
 一回あいつを殴り倒して、参ったって言わせてやらなきゃ、どうにも気がすまなかった。
 そうするには、妖刀を落としてからも、承太郎に挑戦する必要がある。
 操り人形の範疇を逸脱した行為ね。
 ……そうして私は操り人形としての役割を捨てて、承太郎に再戦を挑み、私に、『博麗霊夢』に戻ることができた。
 ……妖刀を持って逃げた奴に咲夜が殺されたのはその時よ。
 私は、『博麗霊夢』は、咲夜の死を悲しんだ。悲しみなんて、感じるはずないって思ったのに」


853 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:23:30 SFuw.NRs0

「傍から見れば、支離滅裂だな。お前の行動」

「……返す言葉もないけど、まあ、そういうことよ。
 そういう意味では、承太郎も、私の恩人ね……あっ、今のだけは、あいつには言わないでよね。
 ……つまり、私が何を伝えたいかっていうと!」

「ああ」

「悲しみも、悔しさも、全ての『感情』はその人自身のもの。
 そう感じる心を誰かに奪わせるなんて、あっちゃいけないことなの。
 ……それが『自由』ってことだから。
 だからFF。12時になって、約束の時間が終わったら、アンタはアンタ自身の『感情』に従って行動しなさい。
 まぁ、またDISCを奪おうとして他の奴を襲うっていうなら、私がぶちのめすけどね。
 アンタにも私にも、『自由』は存在するんだから」

「感情……人ならざる私にも、あるのか?」

「あるはずよ。人にだって、妖怪にだって感情はある。
 アンタに無いとは思えない。……だからこそ、私に負けを認めたんでしょ?」

「……そうだったな」

「じゃ、私の話は終わり。FF。見張るなら離れて見張ってて。
 私は、もう少し泣く」

「……ああ……いや、ちょっと待て。
 ……お前はまだ、我慢しているんじゃないのか?」

「何をよ」

「泣くことを、だ。
 本当はもっと大声で泣き叫びたい、それほど悲しいんじゃないのか?
 さっきお前の中に入り込んだ時に、そんな声が聞こえた」

「それは、できないわ。だって、承太郎に聞こえるじゃない」

「人間とは、難しい生き物だな……。それなら、これでどうだ?」


854 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:23:59 SFuw.NRs0

FFは急に何か閃いた風に手を叩くと、霊夢の鼻の穴に指を突っ込み、
霊夢の体内に再度侵入した。
抗議の声をあげようとした霊夢だったが、

(声が出ない!! FF! アンタ一体何したのよ!!)

「お前の肉体を操って、声帯の機能を一時的に停止させた。
 今のうちに、好きなだけ泣き叫ぶといい。
 もっとも、その声が彼に聞こえることはないだろうがな」

(え……)

「さあ、今のうちだ。……本当は泣きたいほど悲しくて、悔しくて、苦しいのだろう?
 私にも、うんざりする程に伝わって来る」

(でも……)

「あれほど他人に操られる事を嫌がっていたお前が、
 どうして再び私の侵入を許した?
 本当は、自分の苦しみを、誰かに理解して貰いたかったのではないのか?」

(……それは)

「生き残る可能性を、この殺し合いを破壊する確率を少しでも上げたいなら、
 泣けるうちに好きなだけ泣いて、少しでも心の重荷を取り除く事を推奨する」

(いいのね? FF)

声なき声は既に涙ぐんでいた。


855 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:24:21 SFuw.NRs0

   ○    ○


――そして霊夢は、思いっ切りに泣いた。
泣き叫んだ。大泣きに泣いた。
間違いなく、彼女の人生で初めての経験だった。

霊夢はみなし子として生まれ、博麗の巫女としての素質を見出されて拾われた子だった。
物心付いた頃から、修行の人生。(あまり取り組みは真面目ではなかったが)
それなりに大事に育てられはしたが、それは彼女が次代の博麗の巫女だったから。
今の自分のように、感情のままに大泣きするような自分の弱みを、他人に見せることはできなかった。
弱みを誰かに見せた瞬間、博麗の巫女・不適格として、捨てられるかもしれないと思ったからだ。
そんな彼女のサガは、霊夢が成長し、正式に博麗の巫女を襲名して、
気のおけない友人たちが出来てからも、ずっと意識の底に残り続けていた。

霊夢はこの日生まれて初めて天を仰ぎ、声なき声で泣き叫んだ。


DISCを守るため、ただそれだけのためにロボットの様に生きてきたFFの考え方はどこまでも合理的で、
それでいて人の心の痛みを理解することのできる彼は、ひょっとして世界で一番優しい存在なのかもしれない。
――霊夢はそう思ったのだった。


856 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:24:39 SFuw.NRs0

                    ●

                    ●

                    ●

「……そろそろ戻ろうか、FF」

どこかスッキリとした、そんな表情で霊夢は言った。

「……少しは、楽になれたか」

「ええ……ざまぁ無いわね。アンタに教えてあげるつもりが、逆に助けられるハメになるなんて。
 でも……ありがと、だいぶ肩の荷が降りた気がするわ」

「そこまで苦しかったなら、承太郎に構わず泣けばよかっただろうに。
 そういう『自由』だって、あったのではないか?」

「それは……何か嫌。
 あいつだけには、どうしても情けないところを見せたくないのよ。
 泣くのが『自由』なら、あいつの前で強がっているのもまた『自由』ってことよ」

「『自由』に生きるというのも、難しいのだな……」

と、神妙な表情のFFの横で、霊夢はしゃがみこんだままの姿勢で、おもむろにスカートに手を掛けた。
放送の直後、霊夢がこうして茂みに隠れたのは承太郎に気付かれずに泣くためであるが、
尿意を催していたのもまた事実だったのだ。
何しろ彼女は数時間前に缶ビール10本を飲み干したばかりである。
出したくならない方が不自然である。

霊夢はスカートを下ろそうとしつつ、FFにあっちを向いているよう告げようとした。
まさにその「あっち向いてて」の「あ」が霊夢の口からこぼれようとした瞬間に、

「あ……」

霊夢は下腹部の違和感に気づいてしまったのだ。
――尿意が消えている。膀胱の張りも全く感じない。
涙を流したせい? いやいやまさか、いくらなんでもそんな量は流さない。
では、茂みに隠れる直前まで確かにあったはずの尿はどこに行ってしまった?

スカートに手を掛けたまま固まる霊夢に、FFが気を利かせて教えてくれた。

「霊夢、排尿の必要はない。さっきお前の中に入り込んだ時に、私が吸収させてもらったからな」

「……えっ?」

青ざめた顔でFFの顔を見上げる霊夢。
哀れFFは彼女の心境を察する間もなく、淡々と続けた。

「どうせ排出する水分だしな。こちらとしても、陸上で貴重な水分が補給できて、助かった」


857 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:25:21 SFuw.NRs0

   ○    ○


「お待たせ。……承太郎、見張りをよこすならちゃんと言ってよね」

「ああ、すまなかったな……」

FFを引き連れて戻って来た霊夢がわりあい元気そうなのを見て、承太郎は内心で安堵した。
放送直後の、見苦しい程に取り繕った霊夢の態度は、もう見られない。

(やれやれ、気を使うまでも無かったか。
 このくらいで……と言えるハズもない出来事だが、
 それでも、このくらいで折れるタマじゃなかった、か)

「……FFも、その、何つーか……ご苦労、だったな……。
 認識が甘かった、人間相手じゃなければ覗かれても大丈夫だと思ったんだが……」

恐らく覗き魔としての制裁を受けたのだろう、頭部がボコボコに凹んだFFに、
承太郎は心からの労いと謝罪の言葉を掛けた。

「そうじゃなくて……これはだな……。……いや、止そう。この話は……」

FFはその時あった出来事について、決して語ろうとはしなかったのだった。

「さ、行きましょ、承太郎……って、アンタ何してたの?」

「……コレか?」

承太郎は、右手を胸の高さで空に向けて、左手でその中の何かをいじり回してるようだった。

「承太郎、そんなに珍しいか? 私の身体は」

承太郎の手にあるのは、他でもない『フー・ファイターズ』の身体の一部の、プランクトンである。
承太郎はそれを指で摘んだり、太陽の光に透かしてみたり、先ほどから実に興味深そうにいじり回していたのだった。

「ああ、珍しいぜ……刀や、犬や、鳥のスタンド使いは見てきたが、
 まさかプランクトンの群体がスタンド使いになるなんてのはな……」

「まったく、FFは、FFよ。コイツがどんな生物かなんて、今はそんな事に構ってる場合かしら?」

「いーや、重要だぜ? この生物がどんな特徴を持っているか知っておく……
 ……つまりは、味方がどんな強みと、弱みを持っているかを知っておくのはな。
 ……スタンドで戦う場合において、最も重要なのは『情報』と言って良い」


858 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:25:40 SFuw.NRs0

承太郎は語る。

承太郎達はエジブトへの旅路を最大6人のスタンド使いで旅をしていたが、
襲い来る敵の数は常にそれ以下で、多くの場合、たった1人であった事を。
そしてそれにも関わらず、承太郎達は何度も全滅の危機に晒されてきた事を。
圧倒的な戦力の差を覆すもの。
それはひとえに、情報の差であった。
襲いかかる敵はこちらのスタンド能力の特性はおろか、
旅の現在位置・ルート・交通手段、そしてスタンド使い自身の性格・生い立ち・癖に至るまで、詳細に調べ上げていた。
こちらの情報はDIO達に筒抜けになっていたといっても過言ではなかった。

だから船や飛行機に乗れば毎回決まって敵の襲撃を受けて破壊されたし、
行動を別にして人数の減った所を襲われる所もままあった。
時には友の肉親の仇をけしかけてチームを分断させられたことさえあった。

逆に敵のスタンドについて、こちらは全く知らない事が殆どだった。
スタンド攻撃を受けていると気付いた時には、既に絶対絶命の状況と判るのが常だった。
敵の未知のスタンド能力を解き明かす為、ただそれだけの為に命懸けのギャンブルに出なければならないことさえあった。
実際、花京院は、本来であれば――と、そこで承太郎は、口を噤んだ。

「……ごめん、悪かったわ」

霊夢は心底申し訳なさそうに、頭を下げた。
気のせいか、彼女の頭の大きなリボンまで落ち込んだ猫の耳のようにおじぎしている様に見えた。

「いや、気にするな。
 それに、ここに来て、また会えるんだ。恐らく……この場だけだがな。
 ……『いつ』の花京院かはわからねえから、複雑だがな」

「……けどさ、承太郎」

「……何だ、霊夢」

「さっきからその『スタープラチナ』が書きまくってる、
 FFの『スケッチ』はさ、本当に必要な情報なの?」

「…………」


859 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:26:03 SFuw.NRs0

霊夢に向かい、情報の重要さについて説く承太郎の傍に立つ、『スタープラチナ』。
彼はさながら電動ミシンの様なスピードと正確さで、承太郎の手のひらの水たまりで泳ぎまわるFFの個体を拡大スケッチし続けていた。
流石に声には出さないものの、『オラオラオラオラ!』と叫び出さんばかりの迫力で水たまりを睨みつけながら、鉛筆を酷使していた。
様々な角度から、白黒写真のように、精密に描かれたFFの50倍拡大スケッチ達。
彼らは次々に増殖を続け、既にA4サイズの紙を埋め尽くそうとしていた。

「ほう……これは中々、正確なスケッチだな。
 スタープラチナの能力については、先ほど見せてもらったが……。
 スタンドには戦うだけではない、この様な使い方もできるのだな……」

「FF、アンタまで……」

感心しきりの表情でスケッチを覗きこむFF。
霊夢も、この時ばかりは頭を抱え、呆れ返ってしまったのだった。

「まったく、あんたって結構細かいというか、マニアックなところがあるのね。
 そんなでっかい図体してる割に。
 いや、身体が大きいと、逆に細かいこと気にする性格になるのかしらね?
 霖之助さんも背は高い方だけど、かなりのうんちく屋さんだもの」

「なんだ、そりゃ……まあ、俺は学者志望だから、そういう部分は否定しねーが」

「何それ、全然イメージに合わない。
 兵隊か、吸血鬼専門のハンターでもやってるのかと思ったわ」

霊夢は彼の第一印象とは余りにかけ離れたその言葉に、思わず吹き出してしまった。

「って……そういえば、承太郎? 私あんたの事何も知らないわ。
 さっき、あんたの仲間や、敵のことについては妙に詳しく話してくれたし、
 私の知り合いについても詳しく聞き出そうとしてたのは正直ヘンに思ったけど、今の話を聞いて納得がいったわ。
 けど私、あんた自身の事は何も知らないわ。
 スタンド使いで、ジョースターって一族の人間ってこと以外は。
 あんた、いったい何者なの? どうして自分の事はほとんど話そうとしないの?」

「どうしてって、見ての通りだからだ……。
 ……俺はただの高校生だ、時々『不良』って頭につくがな。
 学校ってシステムが幻想郷にあるかは知らねーが」

承太郎のあっけらかんとした答えに、霊夢は食って掛かった。

「ああん? ……そんな訳ないでしょう?
 外界の学生がどんなのかは人づてだけど、だいたい知ってるわ。
 ただの学生が吸血鬼退治とか、そういう戦いに巻き込まれる訳、ないじゃない」

「……そこはもう話したはずだぜ。
 呪いに掛かった俺のオフクロを救うため、俺たちはエジプトに向かい、DIOを倒したってな。
 ここでもう一度やり直すハメになっちまったがな」

「……本当に? それ以前は修行とか、戦う訓練とか、何にもしてこなかった訳?」

「全く無ぇな。スタンドに目覚めたのも、オフクロが呪いに掛かる少し前だった。
 まだ3ヶ月も経ってねぇ」

「そう……」

すると、霊夢は一転して黙りこくり、承太郎の顔を見上げるのをやめて

「…………」

「……悔しい」

と漏らしたのだ。


860 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:26:27 SFuw.NRs0

「ん?」

「何だか、すっごく『悔しい』わ」

そして霊夢は語り出した。どこか、遠くの方を見つめながら。

「私はさ、物心ついたころから妖怪退治の『博麗の巫女』として、修行を積んできたの。
 ……まぁ、あんまりマジメに修行した記憶はないけどさ。
 とにかく! 私はどんな妖怪でも退治できる自信があった。
 実際、鬼だって、吸血鬼だって、神様だって、時には人間だって退治してきた。
 命のやりとりはしなかったにせよ、ね。
 この名簿にある、知ってる名前も、殆ど私が退治したことがある奴ばっかりよ。
 負けたことなんて、片手で数えられるくらいしかないわ。
 あんたに、そう、あんたに……負けた、のも数に入れてね」

霊夢の言葉に、徐々に怒気がこもり出した。

「私、あんたに負けて、すっごく悔しかった。
 ……そして今、あんたがどんな奴か知って、更に悔しさが湧いてきたわ。
 スタンドとかいうのに3ヶ月前突然目覚めるまでは、
 戦いとも妖怪とも無縁で、のうのうと日常の生活を送ってきた、とか。
 スタンドに目覚めたら目覚めたで、あんたのお母さんを救うためにDIOを倒した……のは良いとして、
 その後は戦いとも関係無さそーな学者先生を目指してた……なんていうね、
 そんなマイペースな生き方してたあんたにこの私が負けたなんて、悔しくてしょうがないわ」

そして霊夢は殆ど叫びだしそうになっていたのを押さえて、

「だからっ! ……だからね」

承太郎の正面に回りこみ、

「承太郎。……もう一度、私と勝負しなさい!
 全てが終わった後、この殺し合いをぶっ壊して、太田と、荒木を懲らしめてやった後に」

と、承太郎の目の前に右の拳を差し出したのである。


861 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:26:45 SFuw.NRs0

――さて、面倒くせーことになった、と承太郎は思った。

この女の身勝手ぶりはここ数時間で何度も思い知らされてきた通りだが、
まさか堂々と喧嘩を申し込まれるとは思ってもみなかった。
承太郎は不良やチンピラどもに喧嘩を挑まれることは何度となくあったし(もちろん挑まれる度に返り討ちにしてやった)、
女子生徒にデートを申し込まれることも何度となくあった(もちろんチャラチャラした女は嫌いなのでシカトしてやった)。
だが、女に正面から喧嘩を挑まれることは彼の経験からしても初めてのことだった。

――こんな挑戦、無視だ、無視。

承太郎には、自分より頭一つ以上も小さい――体重など、自分の半分ほどしか無さそうなやせっぽちの女を殴る趣味など無い。
一方的に殴るだけでなく、コトによっては承太郎だってタダでは済まない。
まさか命懸けで殺し合えとまでは言ってこないだろうが、
素手で殴りあうにせよ、スタンド・お札何でもアリのルールでやりあうにせよ、この女は相当に手強い。
それは、今までこいつの戦いぶりを身をもって体感してきたから、明らかだった。
こんな挑戦受けたって、どちらかが、あるいは両方ともがケガをするだけで、何の利益も無いのだ。
霊夢の気が済むかどうかだけ、それだけの問題だ。
霊夢が殺し合いに乗るなんてくだらねーと思ったのは承太郎に負けたのが悔しかったから、らしい。
ではもしここで挑戦を蹴ったら、再びこの女は太田とやらの操り人形に逆戻りするか――そんなことはありえねー、と断言できた。
さっきも、知り合いが死んだと判って相当に堪えていたのを、承太郎は知っていた。
アレほど露骨なタイミングで“雉撃ち”に行っていたのだ。
ここで霊夢の挑戦を断っても、この女は殺し合いを打破するための仲間でいてくれることだろう。
だから、この挑戦は無視する。
しかし結局、ここでNOと言った所で、この殺し合いを破壊し、DIOと主催者を打倒して、それぞれの日常に帰ろうした所で――
そこで――霊夢はこちらの返答などお構い無しに一方的に殴りかかって来る。そんな光景しか想像できなかった。
何しろ承太郎と決着を付けない限り、霊夢の気は済まないだろうから。
この女は、自分の感情にどこまでも正直だ。こちらの事情などお構いなしだ。
結局この女、こちらの返答など、聞いていないも同然なのだ。

「……やれやれ」

承太郎はしぶしぶながら、霊夢の差し出した拳に――
蜜柑の様に小さく丸い拳に自分の拳を軽くぶつけ、挑戦に応じたのだった。

「ん、良しっ」

テメーは何様のつもりだ、と毒づきたくなる様な高慢な口ぶりの霊夢。
だが、その雲間から太陽が覗いたような笑顔の前に、さしもの承太郎も毒気を抜かれてしまったのだった。
来たるべき決着を付けた時、その顔が見るも無残なアザだらけにならない保証はどこにもないというのに、である。

「……で、ルールはどーするんだ」

「考えとくわ」

「……やっぱりな」

そしてこの回答である。
承太郎はまたやれやれ、とこぼしそうになるのをこらえつつ、
一人蚊帳の外に居たFFに目を向けた。
FFは、まだ先ほどの『自画像』のスケッチを眺めていた。


862 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:27:03 SFuw.NRs0

「なあ、承太郎。ここに書いてある生物は何という名前だ?
 ……この生物は私ではないし、私はこのような姿の生物を見たことがない。
 少なくとも、グリーンドルフィン刑務所の周辺には生息していない生物だ」

FFが指した紙の隅には、鋭く細長い三角形の皮膜の翼に、
細長いクチバシと、同じくらい細長いトサカを持った鳥のような生物がスケッチされていた。
だがこの生物は鳥ではないし、コウモリでもない。鉛筆で描かれたこの生物のスケッチは白黒写真のように精密だったが、
羽毛の類は一切描写されていなかったからである。

「ちょっと、私にも見せなさいよ」

霊夢が承太郎とFFの間に割って入り、爪先立ちで背伸びして、スケッチを覗きこんだ。

「……妖怪、ではないわね。承太郎は知ってるの?」

承太郎はしゃがみ込み、小さな声で答えた。
承太郎がしゃがみ込むと件のスケッチも低い位置に移動し、3者の目線もそれに合わせて移動した。
――つまり、自然と3者が頭を突き合わせ、スケッチに覆いかぶさる形になった。
口元の動きも、スケッチの絵も周囲からは見えない。

「コイツはプテラノドンだ……恐らくな。
 大昔……およそ6500万年前に絶滅した、恐竜の一種だ」

「恐竜? 名前は聞いたことあるけど……」

「その口ぶりじゃあ、幻想郷にも恐竜は棲息してねぇらしいな……。
 ……俺の世界、外界でも、恐竜は骨の化石しか見つかっていねえ。
 もし生きてる恐竜が発見されたら大騒ぎだ。
 ……だが、コイツはさっきその辺を飛んでいた。何匹も見たぜ。
 一般的に知られている想像図通りの姿で……ただし、翼開長7メートル以上もある想像図とは違う、
 センチメートル単位のミニマムサイズでな」

「誰かのスタンド……か?」

「ああ。十中八九な」

霊夢も、FFと同じ結論に辿り着いたという風に頷いた。
……だが、この場合周囲を飛び回っているものの正体が何かはあまり重要ではないのだ。


863 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:27:25 SFuw.NRs0

「何だって良いわ。要は、コイツらは斥候、あるいは見張りって所でしょ?」

「その可能性が高い……今はまだ、知らんぷりしとけよ」

「……あまり良い気分がしないわね。とっとと巣をツブしたいところだけど」

……とは言うものの、この実在するはずのない生物の実在するはずのない姿に対して、
現状で打つ手は全くないのであった。この生物に見張られている事に気づかないフリをするのが、せいぜいである。
何しろ、この生物の親玉が何者か(もしかしたら主催者かも知れない)、
そいつが危険な人物かどうか、そいつはどこに居るのか、この生物はどれくらいの数がいるか、
この生物がどれほどの視力・聴力をもっているか、など……。何一つ不明なのだ。
そもそも――

「承太郎、そもそもアンタはどうやってこれを見つけたの?」

「『スタープラチナ』だな」

承太郎が答えるより早く、FFが答えた。
プテラノドンの周囲に描かれたFFの分身の精密なスケッチ。
それを可能とする『スタープラチナ』の視力が、昆虫ほどのサイズで周囲に潜む斥候をも見つけ出したのだ。

――やれやれ、と霊夢は心の中で溜息をついた。

見張りの件で、またあいつに差を付けられちゃった気がするわ。
結局、私は幻想郷という小さな井戸の中で粋がっていた蛙に過ぎないのかもしれない。
それに、あいつとの勝ち負けにこうまでこだわってしまうなんて、我ながらどうかしてるわ。

でも、どうしてこんなにあいつと張りあわずにはいられないのか、ようやくわかった気がする。
さっきあいつに話したとおり、私は物心ついてからずっと修行してきたのに、
あいつが特別な力に目覚めたのがほんの最近だってこと。

それからこれは『勘』でしかないのだけど、特別な力を持っているだけじゃなくて、
特別な運命を背負っているのよ、やっぱりあいつは。
生まれつき『博麗の巫女』としての力を持って生まれた私と同じくらいに、特別なのよ。
ひょっとしたら、私の知らない半分の参加者は、承太郎か、あいつの一族と何らかの関係があるのかも。
それくらいに、特別な存在なのよ。空条承太郎という存在はね。

だとしたら、あいつには尚更情けないところは見せられないわね。
大げさな言い方かも知れないけど、お互いの世界の代表者同士、なんだから。
――とにかく、私は負けないわよ、承太郎にも、もちろん主催者のあいつらにも。

決意を新たにした霊夢は、ジョースター邸の方から男が近づいてくるのを目撃した。
長い金髪に、服の上からも判る引き締まった長身の中年の男である。
霊夢たちがその姿を遠目に認めると、男はジョースター邸に引き返してしまった。
だがその様子に敵意は感じられず、むしろこちらを手招きしている。
その男は、屋内に3人を招き入れようとしているように思われた。


864 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:30:27 SFuw.NRs0

   ○    ○


ジョースター邸本館、正面の扉を開くと、やはりその男はいた。
邸内正面の階段の下、女性の石像の傍で、こちらを待ち受けるように佇んでいた。
承太郎と霊夢は、ひと目でその男が高貴な立場の人間である、と感じた。
遠目からもひと目で判る長い金髪は、毛先がカールしてきれいに整えられていた。
そして身に纏った明るい色のジャケットは袖と襟にフリルがあしらわれていた。
そして何よりその立ち姿が――19世紀の英国貴族の邸宅の中で佇むその立ち姿が――
一枚の絵画のように調和していたからだ。

「お初にお目に掛かる。そこのリボンの少女は……『博麗霊夢』くんで良かったかな?
 お燐……火焔猫燐くんから、話は聞いている」

「ええ。私が『博麗霊夢』で間違いありません。
 貴方は『ファニー・ヴァレンタイン大統領』……ですね?
 お燐から姿形の特徴は聞いておりました」

「とりあえず話をしよう、ってことらしいな……『空条承太郎』だ」

ヴァレンタインの問いに、霊夢は警戒を解くことなく答えた。
承太郎も同じく、である。
――但し、霊夢の口から敬語が飛び出したことについて、内心大いに驚愕していたのであるが。

「では、そこの君は……」

「『フー・ファイターズ』だ」

「では、これまでのことについて、情報交換することにしよう。
 『誰の目にもつかない』、部屋の中で、な……」

                    ○

                    ○

                    ○

先ほどまで邸内の探索を行っていた大統領の先導で、3人はジョースター邸の一室に案内された。
承太郎と霊夢にとっては既にひと通り調べた場所である。
だが朝の日差しで照らされた邸内は、壁から天井、階段の手すりからドアノブに至るまで豪華な装飾が施されている事が判り
屋敷の建設にいかに多くの手間暇が掛かったかを伺わせた。

(こんな屋敷が現代に残ってたら、間違いなく文化遺産だな……)と承太郎。
(承太郎の実家がこんなお金持ちってのは……何かムカつくわね)と霊夢。
(この一面に施された精密な細工も、みな人の手を掛けて作ったものなのか……。
 実用に資する訳でもないのに、理解に苦しむな……)とFF。

思い思いの3名をよそに、先頭を歩く大統領がドアの前で立ち止まる。

「食堂だ。話し合うなら、ここが丁度いいだろう」


865 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:30:45 SFuw.NRs0

「……ここなら、『虫』などが入り込むことは無いと思うが」

入り口に経ったヴァレンタインは、慎重に部屋の中を見回しながらつぶやいた。
大統領の肩越しに、承太郎もこっそりと『スタープラチナ』の視力で部屋の中を覗きこむ。
動く物の姿はない。

「よし、ここが良いだろう。この『食堂』なら、話し合うには丁度良いだろう……」

大統領が戸を開き、3名を部屋の中に招いた。
部屋には白いテーブルクロスのかぶさった細長いテーブルと、何脚かのイスが備えられていた。
先ほど承太郎と霊夢がいた食堂である。

ヴァレンタインがテーブルの中央に、そして他の3人は彼に向かい合う位置の席についた。
窓はおろか、カーテンも閉め、シャンデリアと燭台の光が部屋を満たしている。
大統領が口を開いた。

「君たち3人の先ほどの戦い、見せてもらったよ」

「……見てたのなら、助けて下さっても良かったのでは?
 私のことは知っていたのでしょう?」

不満そうに霊夢が答えた。

「そこはお詫びしよう。
 何分こういった場だ、よく知らない相手との接触は慎重にならざるを得ないのでね。
 ……だが、結果だけ言えば、手出しせずにすんで良かったと思う」

「私のことか」

「そうだ。フー・ファイターズ、という名前だったね?
 まさか博麗くんが君を手懐けることになるとは思わなかったよ」

「……霊夢の手助けをするのは正午まで、という約束なのだがな」


866 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:31:03 SFuw.NRs0

「ヴァレンタイン大統領……あんたの目的は何だ?」

承太郎の問いに、ヴァレンタインは淀みなく答えた。

「この馬鹿げた殺し合いからの脱出、主催者への報復、
 そして参加者にバラバラで配られているであろう『遺体』の回収だ」

「お燐っていう妖怪から聞いた通り、か……。
 最初の2つはともかくとして……『遺体』というのは何だ?」

承太郎たちは、彼にとって遺体がどれほど重要なものなのか、見極めなければならなかった。
お燐の話によれば、このヴァレンタインという男は殺し合いに積極的でないにもかかわらず
『遺体』の獲得のためにブラフォードという屍生人を殺害している。
聞いた話では、片足を失ったブラフォードは『遺体』の両脚を得て歩く力を取り戻していたというが……。
返答次第では、この場で交戦ということも十分に有り得る。

「これを見て欲しい」

そう言って大統領が左手をかざすと、左手の中から木の枝のような物体が出現した。

「これが『聖人の遺体』、左手の部位だ」

「……カラカラに干からびているな」

FFにとってそれは馴染み深い物体であった。彼はDISCに近づく人間を何人も殺してきたのだ。
時には、人体の水分を奪い尽くすという手段で。
見たところ、それはただのミイラの一部でしかなかった。

「現在私はこの左腕と両耳を持っている他、両脚をお燐に託して他の遺体の回収を依頼している。
 君たちも、遺体を見つけたら可能であれば回収を頼む」

ヴァレンタインがそう言って左腕を戻すと、聖人の左腕はめり込んでいく様にして彼の左腕の中に戻っていった。

「ヴァレンタイン大統領、貴方はどうして遺体を集めているのですか?
 『聖人の遺体』とおっしゃいますが……それは、一体誰の遺体なんですか?」

「『聖人』とはおよそ1900年前に没したと推定される、ある人物のことだ。
 ……この『遺体』には、『信用』が集まる。聖人であるが故の信用がね。
 いや……途方も無い程の『信用』を集めたために、聖人となったと言うべきか。
 この遺体の全身が揃った際に集まる『信用』は図り知れない。
 アメリカ合衆国という広大な国を治めるには、その『信用』が不可欠なのだ。
 だから私は、どうしてもこの『遺体』を集め、帰還しなければならない。
 もちろん、この殺し合いを打破する上でも『信用』を集めることはもっとも重要だ」

「『信用』が、か?」


867 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:31:28 SFuw.NRs0

フーファイターズにとってその言葉は、今ひとつ腑に落ちない概念であった。

「その通り。この殺し合いを打破するためには、互いに力をあわせるための『信用』こそが最も重要だ。
 彼は私を害しないだろう、彼といれば私にとって吉になるだろう、というお互いの信用がね……。
 殺し合いに乗った者から身を守る為の戦力、我々を縛る頭の中の爆弾を除去するための知識や技術、
 主催者たちの元へ辿り着くための移動手段、一人ですべて併せ持つことは到底不可能だ。
 だが、複数人で集まれば、いつ背中を撃たれるかわからない。そこで、お互いの『信用』が必要になってくるのだ……」

「……まあ、正論だな」

「……ですがヴァレンタイン大統領、この殺し合いを打破するために『信用』を集めるのは良いとして、
 『遺体』を集めるのは貴方でなければならないのですか?」

一応の同意を示す承太郎の隣で、霊夢が問うた。

「私でなければならない。そうだ。現職でアメリカの大統領を務める私でなければな。
 私には聖人の遺体に集まる『信用』を、国民のために正しく扱う責任がある。
 他の『無責任』な者達には渡せない。
 ……とはいえ、私は不安なのだ。『信用』は力だ。だが、力でしかない。
 邪な意思を持つ者に『聖人の遺体』が渡れば、間違った力の使い方をされるかも知れない。
 お燐に会ったのであれば、私とブラフォードとの経緯についても聞いたことだと思う」

「……遺体を譲ってくれなかったために、貴方がブラフォードを殺害した、と聞きました」

「……彼を失いたくなかった」

沈痛な面持ちで、ヴァレンタインがこぼした。


868 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:31:49 SFuw.NRs0

「ブラフォードは、主君であるDIOに尽くすため、両脚の遺体を必要としていた。
 既に片足を失っていたブラフォードに、聖人の遺体の両脚の部位が歩く力を与えていたのだ。
 DIOでなく、私に付くよう説得したが、無駄だった。故に、殺害してでも奪わざるを得なかった。
 ……この遺体は、1つの部位だけでも『奇跡』と呼ぶにふさわしい現象を起こす力を持っている。
 命懸けの殺し合いがもうそこかしこで始まっている。
 『奇跡』を、『遺体』を必要とする者はブラフォードだけでなく、何人も現れることだろう。
 故に君達にもお願いしたい。……遺体を、一刻も早く私のもとへ集めて欲しい。
 私の知る限り、少なくとも『ジョニィ・ジョースター』は、遺体を求めるために動いているはずだ」

「ジョニィ・『ジョースター』、か」

「彼について話しておこう。彼は没落貴族で、騎手の家系であるジョースター家に生まれた男だ。
 彼もまた天才と呼べる技量の騎手だったが、ある日ごろつきとのいさかいで下半身不随となってしまった。
 私の調べによれば、彼は……不随となった半身の治療の手がかりをつかむため、『遺体』を集めている。
 漆黒の炎とでも表現できようか、強い意思を瞳に宿した青年だった……」

「そして、Dio、『ディエゴ・ブランドー』。
 現在私と彼は協力関係を結んでいるが……警戒したまえ。
 彼のスタンドは生物を恐竜に変える。
 既にミツバチを小さなプテラノドンに変え、全域に飛ばして偵察に当たらせているようだ」

「……わざわざカーテンを閉めたりしたのは、そのためか」

その後も、4人のこれまでの経緯と知り合いの情報交換は何事もなく行われた。
お互い明確に敵となりうる人物、危険と判る人物についての情報は教えあったが、
それぞれの味方についての情報は概略のみに留め、能力の詳細までを教える事は無かった。
現在いますぐ敵対する理由は無いが、今後どうなるかはお互い確証が持てなかったためだ。
故に暗黙のうちに、双方がそれで合意していたのだ。
結果として、以下の情報をお互いに共有することとなった。


869 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:32:09 SFuw.NRs0

霊夢、承太郎、FFからヴァレンタインに与えられた情報
・DIO(ディオ・ブランドー)、ヴァニラ・アイス、ホル・ホースの容姿とスタンド能力の詳細
 (DIOが肉の芽で人を操ることができるということも)
・花京院典明、ジャン・ピエール・ポルナレフ、ジョセフ・ジョースターの容姿と、スタンド使いであるということ。
 (承太郎がスタンド使いであるということは既にヴァレンタインに知られていたため、
  彼の仲間もスタンド使いであることは隠しようがない、と判断した。能力の詳細は教えていない)
・空条徐倫、エルメェス・コステロの容姿と、スタンド使いであるということ。
 (このバトルロワイアルに参加させられる直前はFFと敵対していたが、
  承太郎の娘とその友人であるため、能力の詳細を伝えることはしなかった)
・人を操るスタンドを宿した妖刀、アヌビス神について
 (霊夢が最初ゲームに乗っていたことは、伝えなかった)
・FFはスタンド使いによってスタンドDISCを与えられて生み出された生命体であること
・参加者の時間軸のズレについて
 (承太郎が1988年から、フーファイターズが2012年からやってきたこと)

ヴァレンタインから霊夢、承太郎、FFに与えられた情報
・Dio(ディエゴ・ブランドー)に幻想郷縁起が支給されたため、
 そこから得た情報で幻想郷の住民について大まかの事は知っているということ
・ジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリの容姿と能力の詳細
 (ジョニィはタスクAct3まで、ジャイロはボール・ブレイカーをまだ覚えていない)
・Dio(ディエゴ・ブランドー)の容姿と能力の詳細、そして現在紅魔館にいること
 (この情報は、ヴァレンタインから教わったということは秘密ということにした。
  今は協力関係だが、彼の性格からして今後確実に敵対することになるだろう、とも伝えた)
・リンゴォ・ロードアゲインの容姿と能力の詳細
 (リンゴォの性格から、能力を教えても問題ないとヴァレンタインは判断した。
  ヴァレンタインの本来の時間軸であれば、彼は既にジャイロたちに敗れたはずだ、とも伝えた)

共通の疑問点
・ジョースター家について
 承太郎はジョニィの事を知らない。馬乗りの家系だなどと、聞いたこともない。
 ヴァレンタインはジョニィ以外のジョースター家の家系を知らない。
 同姓の別の家系か?→ジョースターは珍しい姓だ。その可能性は低い。
・ブランドー家について
 承太郎の時代、ブランドー家についての記録は無い。
 生まれた時代とスタンド使いという共通点から、DIOとディエゴは親戚関係の可能性がある。
 だが、ディエゴがスタンドを使い始めたのはヴァレンタイン調べでレース途中から。生まれつきではない。
 血縁でなく赤の他人の可能性もあるが、今は何とも言えない。


870 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:32:27 SFuw.NRs0
                    ○

                    ○

                    ○

「……と、まあこんな所か」

ヴァレンタインはあらかたの情報を話し終え、三者の顔を見回した。
――彼らの表情は相変わらず硬いままだ。
とてもこちらを信用してくれているようには思えなかった。
このまま彼らと別れたとして、いつ背中から襲われるか判ったものではない。
自分は殺し合いに積極的に乗っている訳ではないものの、
遺体を集める為ならいつ殺人を犯さないとも限らない危険人物には違いないのだ。

あと『一手』、欲しい。
特に博麗霊夢、彼女は人のみならず妖怪からも信用を集める不思議な人望があるようだ。
ついさっきまで敵対していた人ならざる者であるフー・ファイターズを時間限定とはいえ、手懐けているように。
彼女からの信用は、名簿に多く載る幻想郷の住民達の信用を得ることに直結する。
何としても、信用が欲しい。
大統領は心細い時の癖で懐に手を伸ばし――そしてあるものが無いことに気がついた。

「……ああ、それと、もう一つ探して欲しいものがあった」

「何でしょうか、ヴァレンタイン大統領」

「ハンカチだよ。無地で、1847年9月20日、私の誕生日が刺しゅうされている。
 ……これは『遺体』と違って、奇跡を起こす力を持っているという訳ではない。
 アメリカという国にとって大きな影響力があるものではないのだ。
 だが私にとっては『遺体』の次に大事な、父の形見なのだよ。
 このバトルロワイアルに呼び出されるにあたって、どうやら没収されてしまったらしい。
 『遺体』と同じように、他の参加者の手に渡ってしまったのだと思う」

長くなるがよろしいか、と前置きして大統領は続けた。

「ハンカチは、私が7歳の時に父から受け継いだもの。
 軍人だった父は敵兵の捕虜となり、酷い拷問を受けた。
 お前の隊は何人いるのか、武器は何を使っているか、狙撃兵はどこにいるのか……などとね。
 父は決して口を割ることは無かったが、心が挫けそうになった。
 そんな時、私の誕生日が記された、あのハンカチが父の支えとなったのだ。
 だが捕虜は衣服さえ着ることができない、穴という穴を痛めつけられる。
 牢屋にも隠せない、では、どこにハンカチを隠したか?
 父は拷問ですでに潰されていた左目の中に心の支えであるそのハンカチを隠し、
 最後まで拷問に屈することなく、部隊の仲間を守り抜いて、死んでいったのだ。
 ……父から受け継いだハンカチは、私の愛国心の原点なのだよ」

ヴァレンタインの語りは熱を帯びだした。


871 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:32:45 SFuw.NRs0

「私は決して私利私欲の為に『遺体』を使わない、と私の愛国心に賭けて誓う。
 アメリカという国を一つにまとめるため、『遺体』が必要なのだ。
 人ならざるフー・ファイターズくんや、
 妖怪達と共存する土地に生きてきた博麗くんには理解できないことかも知れないが、
 私がまだ君達くらいの年頃には、同じ人間の肌の色の違い、ただそれだけで奴隷とするかしないかを区別し、
 その奴隷制の存続の有無、それだけでアメリカを二分する内戦が起こったのだ。
 奴隷制が無くなった今でもアメリカは不安定だ。
 父を殺した『戦争』を再び起こさないためにも、『遺体』の集める信用はどうしても必要なのだ。
 ……話が少々脱線してしまったか。とにかく、ハンカチも見つけたらぜひ確保を頼む」

「ああ、わかった。ハンカチについても、出来る範囲だが協力しよう」

「私も……良く、分かりました。ヴァレンタイン大統領、貴方が遺体を求める理由……。
 但し、一つだけ約束があります。
 たとえ遺体のためであっても、今話した私達の仲間と、幻想郷の住民達を襲うことはしないで下さい。
 もし、約束を守れないのであれば……」

霊夢は約束を守ることを期待していなかった。遺体を求める動機が強すぎる。
遺体を求めるのは、私利私欲の為でなく、自分の国のため。
アメリカほど大きな国でないにせよ、幻想郷という一つの国の統治に加担する霊夢にそれは大いに響いた。
だからこそ、約束などで彼を縛ることはできない。国の為ならば、きっと破る。

「『約束』しよう。……こちらの正当な防衛以外で、君たちの仲間は襲わない、とね」

だが、敢えてヴァレンタインは約束した。

「え……」

その余りに淀みない返答に、霊夢は一瞬面食らった。

「君の『信用』を得るためだ。
 約束できないのであれば、攻撃も辞さない。君は、そう言いたいのだろう。
 ……私としてもそれは避けたいのだ。君達3人とこの場で交戦して私が勝利したとしよう。
 その後遺体を首尾よく集めたとしても、私がここを脱出し、アメリカに持ち帰ることができなければ意味が無い。
 君が妖怪たちから慕われる不思議な魅力を持っているのは知っている。
 君と協力関係を結ぶことで得られる『信用』は、
 このバトルロワイヤルを打破する上では必要なものだと、考えているのだよ」

「本当に?」

「ああ。『約束』しよう」

「頭の爆弾を解除したり、主催者の連中を倒すのも、手伝ってくれますか?」

「それも『約束』する。私のできる範囲ならば、何だってしよう」

「もう一度聞きますが、貴方から私達の仲間を襲うことはしないと、約束できるのですね?
 ……例えそのヒトが『遺体』を持っていたとしても」

「『約束』する」


872 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:33:03 SFuw.NRs0

「…………」

霊夢は左右に座る承太郎、FFと顔を見合い、小さく頷いてから――

「わかりました。貴方の事を信じましょう。
 そこまで言われて貴方を信じなければ、私達が悪者になってしまいます」

――初めてヴァレンタインに笑顔を見せたのだった。――苦笑いではあるが。
さらに霊夢は、デイパックから缶を取り出し、大統領に投げ渡した。
ヴァレンタインがそれを受け取ると、冷たい。その缶は結露で表面に水滴が付くほど冷たかった。

「これは……缶ビールか?」

「ぜひ、お近づきの印にと思いまして……お酒は苦手ですか?」

「いや、ビールは好物さ。……ん?」

ヴァレンタインは缶を見て戸惑った様子を見せた。
逆さにしたり、ひっくり返して底の面を覗きこんだりしている。

「心配しなくても、ビールに変なものは何も入っていませんよ。……缶詰めで密閉されていますから」

「いや、そうではなくてね……ああ、このツマミを折り返して開けるのか」

「大統領、アンタ本当に19世紀からやってきたみてーだな……」

「……では、頂くとしようか」

そう言うとヴァレンタインはデイパックから鉛筆を取り出した。
そして缶ビールの側面、底に近い部分に鉛筆を突き刺してその穴を口で塞ぐと、
上部のプルタブを開いたのだった。

「ブッ、ガブッ、ガブッッ! ゴブッゴブッゴブッゴブッゴブッ!
 ゾブッ、ゾブッ、ズズゥーーーーーッ……プハーーーーッ
 YES! YES、YES! イェ……おっと、失礼。
 いや、缶ビールはこうして飲むに限るよ」


873 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:33:21 SFuw.NRs0

口元を袖で拭いながら、ヴァレンタインもようやく笑顔を見せたのだった。
一瞬あんぐりとした霊夢だったが、すぐ気を取り直してデイパックを床に下ろすため、視線を落とした。
霊夢の膝の上、テーブルに隠れたスカートの上で、黒っぽい泥がジュルジュルうごめき、

『ノマセタ』

という文字の形になった。
霊夢はそれを見るとすぐに身体を起こして視線をテーブルの上に戻し、手の平で泥を押しつぶすと

『ウゴカスナ』

と潰れた泥の上に指でなぞった。
霊夢、承太郎、FFの3名は交渉のテーブルで、
こうした水面下のやりとりを行っていたのである。
泥が再び動き出し、

『イ』『イ』『ノ』『カ』

と、順番に文字を描いた。
膝の上に置いた手の平の感覚でそれを読み取った霊夢は泥を押しつぶすと

『イイ』

となぞる。
すると泥は

『ワ』『カ』『ツ』『タ』

『J』『モ』

『オ』『ナ』『ジ』『イ』『ケ』『ン』

と、順番に文字に変化した。

かくして、霊夢がヴァレンタインに投げ渡した缶ビールを通じてヴァレンタインの体内に入り込んだFFの分身は、
当初の役目を果たすことなくFF本体の操作射程外に離れ、やがて消化・吸収される運命が決定した。
当初の役目とは、勿論ヴァレンタインの体内に侵入して、彼の体内で増殖して身体の自由を奪うこと。
では、FFはどのようにしてヴァレンタインの体内に侵入したか?
霊夢の『ビールに何も入っていない』という言葉に嘘は無かった。
FFの分身は冷えて結露した缶ビールの側面に付着していた。
砂粒のように小さな分身の一匹は、ヴァレンタインの目を欺いてビールに紛れ、
体内に入り込むことに成功していたのだった。

だが、霊夢たちはまさにそのヴァレンタインを拘束するチャンスを敢えて手放してしまったのだった。


874 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:33:40 SFuw.NRs0

                    ○

                    ○

                    ○

その後、霊夢、承太郎、FFの3名は大統領と別れ、ジョースター邸の厨房でFFの体内の水を補給し、館を出た。
既に一度見て回った場所である、特に有用な情報を得ることはできなかった。
本棚の資料などを詳しく漁ればまた違う情報を得ることができたのかも知れないが、今そこまでする理由は無かった。

「……さて、どこに行きましょうか。紅魔館にはディエゴっていうのがいるだけみたいだし。
 今は一応、敵じゃないのよね。情報集めに便利な能力を持ってるみたいだし、頼ってみる?」

ジョースターの門前で、霊夢は二人に問いかけた。
肩にはつい先程ジョースター邸でちゃっかり失敬したモップの柄を担いでいる。
殴るための用途なら、アヌビス神の鞘よりもこちらの方が、元のお祓い棒に形状が近くて扱い易いと気づいたのだ。

「……どうにも信用できねー奴だがな、ディエゴって奴は」

「お前の仇敵、DIOの親戚の可能性があるからか?」

「それもある……それに大統領から聞いた話では、性格までDIOにソックリときたもんだ。
 おまけに大統領の味方のはずなのに、ディエゴにオレたちとの話を聞かれねーように用心するどころか、
 スタンド能力まで詳しく教えてくれやがった。大統領もディエゴって奴のことは、全く信用してねぇみてーだ。
 まるで『時期が来たら奴は別に始末してくれて構わねー』って言ってくれてるみてぇだったぜ」

「まぁ、話を聞く限りだと、あんな奴信用しろって方が無理な話よねぇ」

「紅魔館に行くにしても、備えは万全にしておく必要があるだろーな……。
 紅魔館の方に、オレの同族の、星のアザを持った奴がいるみてーだしな」

「備え、か……そうだな、水のペットボトルを体内に仕込んでも、
 この身体で陸上を動き回るのには限度があるしな。
 ……承太郎と霊夢の分の水ももらったが、大統領との情報交換を終えた頃には殆ど空になっていた。
 この家で水を補給できなければ危ない所だった」

「何とかなんないのかしらね、その体質」

「人の身体……新鮮な死体があればそれに入り込んで動く事ができる。
 水分の消費も、ずっと少なくできるだろうな。
 このまま動くなら、水分が減りすぎた時はお前たちの体内に避難させてもらうこともできるがな」

「新鮮な死体……か。心当たりが無い訳ではないな」

「……廃洋館の、咲夜。
 私が言う筋合いは無いんでしょうけど……もし咲夜の身体を使うのなら、大事に使うのよ。
 既に亡骸とはいえ、むやみに傷つけるようなマネしたら、レミリア達が……悲しむわ」

「……ああ、その時は大事にすると約束しよう。
 なあ、霊夢に承太郎。……本当に良かったのか? ヴァレンタインの事は。
 さっき交わした『約束』を守ってくれる保証などない。
 あの時に倒しておくべきだったのではないのか」


875 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:33:57 SFuw.NRs0

「さっきヴァレンタインに話した通りよ。
 あそこまではっきり約束する、と言われた以上、こちらから断るなんてできないわ」

「しかし……」

「FF、アンタの心配することもまぁ、わかるわ。
 向こうがいつ『約束』を破るか、保証なんて無いも同然。
 確かにこんな約束、障子紙みたいに簡単に破れるわ。
 ……だけど、障子紙を破った奴には、家主からの制裁が来る。
 仮にも一国の主なら、それを理解できないハズがないわ」

「……承太郎、お前は、どうしてヴァレンタインを信じようと思った?」

「おおむね霊夢と同意見、ってトコだ……。
 それに、あの交渉の場で不意討ちのようなマネを仕掛けるのは、ちと汚ねーだろ。
 少なくとも、奴には奴なりの正義がある、そんな相手に汚ねー手は使えねぇ……。
 もちろん、向こうが卑怯な手を使ってきたなら話は別だがな」

「承太郎、アンタでも迷ったりすることはあるのね。
 ……ってFFを通じてテーブルの下で密談しようって提案したのは、アンタじゃないの。
 急に足元からドロドロしたのが登ってきて、ビックリしたわ」

「アレは必要な備えをやったってだけだ。
 ビールに混ぜてFFを仕込むことを考えたのは、霊夢。おめーだ。
 澄ました顔の下でエゲツねぇこと考えつきやがる」


876 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:34:17 SFuw.NRs0

――こうして3者が歩き出した時、FFがふとつぶやいた。

「『卑怯』、か……。また一つ、理解できないことができたな。
 どんな手段を用いても、生き残れば、目的を達成すればいいのではないのか?」

すると承太郎が立ち止まり、FFに向かって振り返ると言った。

「スタンド使いの戦いなんて、何でも有りだからな。そういう事を考えたくなるのも理解できる。
 いや、そういう考え方こそが自然なのかも知れねー。
 ……だが、スッキリしねえだろ。相手が正々堂々と来てるのに、卑怯な手で勝ってもな」

霊夢も

「それに、ルールの無い戦いを際限無く続けたら、お互い生命がいくつあっても足りないわ。
 戦いといってもどこかで一線を引いて、踏みとどまる必要があるのよ。お互いが生きていくためにはね」

と続いた。

「うーむ、霊夢の言い分は何となく分かるが、な……。
 ところで二人とも、『遺体』の方はどうする?
 こちらで集めて大統領に提供すれば、奪い合いの危険は減ると思うのだが」

「持ってる奴に遭ったら、あまり大事な物じゃねえ風にそれとなく聞いてみて、
 要らなさそーならもらっときゃ良いんじゃねえのか」

「そうね。……問題はあのブラフォードっていうゾンビ騎士みたいに、『遺体』の奇跡を目撃しちゃった人よね。
 知らないヒトなら警告だけしとくとして、知ってるヒトが『遺体』を後生大事に持ってたりしたら……面倒ね。
 聞けば、よほどのご利益があるみたいだもの、あの『遺体』」

「霊夢、まさか『遺体』を大統領からネコババしようなんてことは……」

「……しないわよ。アレをご神体にしたら、博麗『神社』じゃなくなっちゃうでしょ」


877 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:34:35 SFuw.NRs0
【C-3 ジョースター邸(門前)/朝】
【博麗霊夢@東方 その他】
[状態]:右肩脱臼(処置済み。右腕は動かせますが、痛みは残っています) 左手首に小さな切り傷(処置済み)、
    全身筋肉痛(症状は少しだけ落ち着いてきています)、あちこちに小さな切り傷(処置済み)
    肉体疲労(中)、霊力消費(大)、全身打撲(大)
[装備]:いつもの巫女装束、モップの柄
[道具]:基本支給品、自作のお札(現地調達)×たくさん(半分消費)、アヌビス神の鞘
    DIOのナイフ×5、缶ビール×8、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)、
    その他、廃洋館及びジョースター邸で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:この異変を、殺し合いゲームの破壊によって解決する。
1:紅魔館へ移動。もしくは、廃洋館で咲夜の遺体を回収。
2:戦力を集めて『アヌビス神』を破壊する。殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:フー・ファイターズを創造主から解放させてやりたい。
4:全てが終わった後、承太郎と正々堂々戦って決着をつける。
5:『聖なる遺体』を回収し、大統領に届ける。今のところ、大統領は一応信用する。
6:出来ればレミリアに会いたい。
7:暇があったらお札作った方がいいかしら…?
8:大統領のハンカチを回収し、大統領に届ける。
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※太田順也が幻想郷の創造者であることに気付いています。
※空条承太郎@ジョジョ第3部の仲間についての情報を得ました。
また、第2部以前の人物の情報も得ましたが、どの程度の情報を得たかは不明です。
※白いネグリジェとまな板は、廃洋館の一室に放置しました。
※フー・ファイターズから『スタンドDISC』、『ホワイトスネイク』、6部キャラクターの情報を得ました。
※ファニー・ヴァレンタインから、ジョニィ、ジャイロ、リンゴォ、ディエゴの情報を得ました。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:右手軽い負傷(処置済み)、全身何箇所かに切り傷(処置済み)
    肉体疲労(大)、F・F弾による弾痕(処置済み)スタンドパワー消耗(中)
[装備]:長ラン(所々斬れています)、学帽、ミニ八卦炉 (付喪神化)
[道具]:基本支給品、DIOのナイフ×5、缶ビール×2、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)
    その他、廃洋館及びジョースター邸で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の二人をブチのめす。
1:放送を聞いた後に紅魔館へ移動。もしくは、廃洋館で咲夜の遺体を回収。
2:花京院・ポルナレフ・ジョセフ他、仲間を集めて『アヌビス神』を破壊する。DIOをもう一度殺す。
その他、殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:『聖なる遺体』を回収し、大統領に届ける。今のところ、大統領は一応信用する。
4:大統領のハンカチを回収し、大統領に届ける。
5:ウェザーにプッチ、一応気を付けておくか…
6:霊夢他、うっとおしい女と同行はしたくないが……この際仕方ない。
7:あのジジイとは、今後絶対、金輪際、一緒に飛行機には乗らねー。
8:全てが終わった後、霊夢との決着を付けさせられそうだが、別にどーでもいい。
※参戦時期はジョジョ第3部終了後、日本への帰路について飛行機に乗った直後です。
※霊夢から、幻想郷の住人についての情報を得ました。女性が殆どなことにうんざりしています。
※星型のアザの共鳴によって同じアザの持つ者のいる方向を大雑把に認識出来ます。
 正確な位置を把握することは出来ません。
※フー・ファイターズから『スタンドDISC』、『ホワイトスネイク』、6部キャラクターの情報を得ました。
※ファニー・ヴァレンタインから、ジョニィ、ジャイロ、リンゴォ、ディエゴの情報を得ました。


878 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:34:57 SFuw.NRs0

【フー・ファイターズ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:プランクトン集合体(むき出し)
[装備]:なし(本体のスタンドDISCと記憶DISC)
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット2
[思考・状況]
基本行動方針:スタンドDISCを全部集めるが、第2回放送までは霊夢たちと行動する。
1:霊夢たちと同行する、一先ずDISCは後回し。
2:寄生先の遺体を確保したい。
3:墓場への移動は一先ず保留。
4:空条徐倫とエルメェスと遭遇したら決着を付ける?
5:『聖なる遺体』を回収し、大統領に届ける。
6:大統領のハンカチを回収し、大統領に届ける。

[備考]
※参戦時期は徐倫に水を掛けられる直前です。
※能力制限は現状、分身は本体から5〜10メートル以上離れられないのと
 プランクトンの大量増殖は水とは別にスタンドパワーを消費します。
※承太郎、霊夢と情報を交換しました。
※ファニー・ヴァレンタインから、ジョニィ、ジャイロ、リンゴォ、ディエゴの情報を得ました。


[モップの柄]
霊夢がジョースター邸で調達した。木製のモップの柄。
バトルロワイヤル原作でもお馴染み、清掃用のモップから柄だけを取り外したもの。
手に馴染む太さとちょうどいい長さで、棍棒の代用としては十分。
現在は霊夢が装備中。


879 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:35:18 SFuw.NRs0

「……行ったようだな」

ヴァレンタインはジョースター邸本館2階のベランダで、敷地を去る三者を見送っていた。
ベランダの出入口から、もう一人のヴァレンタインが顔をのぞかせた。

「困難な話し合いだったが、よくやってくれた。『もう一人の私』よ」

「結局、『基本の私』の力が必要な事態にはならなかったようだな」

霊夢たちがヴァレンタインと情報交換を行っていたのは、本来の参加者である『基本のヴァレンタイン』――ではなかった。
食堂で話し合いに出ていたのは、彼のスタンド能力・D4Cで呼び出された『並行世界のヴァレンタイン』であった。
『基本のヴァレンタイン』は食堂での話し合いが破談となり、戦闘となった際に備えて食堂の外で待機していたのだった。

「では、私は持ち場に戻るとしよう。後は頼んだ、基本の私よ」

「ああ」

『並行世界のヴァレンタイン』は『基本のヴァレンタイン』に『聖人の左腕』を返すと、
カーテンと窓のすき間に入り込んだ。
風でカーテンがはためくと、『並行世界のヴァレンタイン』の姿は既に消えて無くなっていた。

「……どうにか、凌いだか」

ここで霊夢たち三名と話し合いを試み、一応の信用を得ることができたのは大きな成果だった。
彼女らがジョースター邸に近づいた時に不意討ちを仕掛ければ、
少なくとも一人以上を仕留め、生き残りからも姿を知られずに逃げ切る自信があった。
話し合いを試みれば、お燐を通じて自身の行動を知られている危険性があった。
『遺体』欲しさに他の参加者を殺害するという行動を。(実際に知られていた)
こうして『並行世界の自分』を話し合い役に出すことができるとはいえ、
話し合いは最もリスキーな選択だった。

そんなヴァレンタインが敢えて話し合いという最もリスキーな行動に出たのは、
『信用』が必要だったからに他ならなかった。
既に霊夢達に話したように、脱出の手段も、主催者との戦いも、一人で全てどうにかするなど、到底不可能だと、
ヴァレンタインは理解していた。大統領の政務と同じだ。一人で何もかもはできない。
目的達成のために『信用』のある協力者はどうしても必要だった。
その点Dioは有能だが、信用ならない。
いつでも『切れる』よう、彼の情報はこれからもバラ撒いておくこととしよう。
――もちろん、プテラノドンを会場全域に飛ばしているDio本人にバレない状況で、だが。
最悪Dioは、霊夢達や他の誰かに殺害されてしまっても構わない。


880 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:35:39 SFuw.NRs0

霊夢たちの『信用』を得るために払った対価は安くない。
先ほど交わした約束で霊夢、承太郎、FFの知り合いを下手に襲撃することができなくなった。
彼らの見ていない所で殺ったからといって嘘をつくことはできない。
『幻想郷縁起』で得た情報によれば、心を読む能力や心の中を聞き取ることのできる者たちもいる。
霊夢らが次に遭った時に、彼女らと合流していない保証はない。
だから話し合いの際も、全て包み隠さず話した上で『信用』を勝ち取る必要があったし、実際その通りにした。
失くしていたハンカチの話で情に訴えたりもした。(どの程度効果があったかは不明だが)

とにかく、3名から一応の信用を得ることができたのは大きな成果だ。
フー・ファイターズ。
どう見ても人でない外見は他者を警戒させるだろうが、戦いぶりを見た限り、使いでのあるスタンド能力だ。
空条承太郎。
17歳の割に、相当な場数を踏んでいるようだ。スタンドは単純なスピードとパワーが凄まじい。
スタンド能力は――見たところ、リンゴォと同様の、ごく短い時間を操作できるものなのかも知れない。
そして彼らの仲間もまた、スタンド使いのようだ。
そして、博麗霊夢。
彼女自身の実力もさることながら、彼女と友好関係にある参加者は実に半数を占める。
『信用』を集めることが脱出の上で重要ならば、彼女から信用を得るのが最も早道だ。

だが、『信用』は貨幣のように、人と時と場合によって価値を変えるもの。
彼らの『信用』が価値を持つのは、脱出の手段を確保して遺体を総取りし、
ヴァレンタインが最初にナプキンを取る、その時までだ。
結局、不易不変の『信用』を持つのは『聖なる遺体』だけなのだから。

【C-3 ジョースター邸(本館ベランダ)/朝】
【ファニー・ヴァレンタイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康
[装備]:楼観剣@東方妖々夢、聖人の遺体・左腕、両耳@ジョジョ第7部(大統領と同化しています)
    紅魔館のワイン@東方紅魔郷、暗視スコープ@現実、スローダンサー@ジョジョ第7部
[道具]:通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を集めつつ生き残る。ナプキンを掴み取るのは私だけでいい。
1:遺体を全て集め、アメリカへ持ち帰る。邪魔する者は容赦しないが、
 霊夢、承太郎、FFの3者の知り合いには正当防衛以外で手出しはしない。
2:形見のハンカチを探し出す。
3:火焔猫燐の家族は見つけたら保護して燐の元へ送る。
4:荒木飛呂彦、太田順也の謎を解き明かし、消滅させる!
5:ジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。
6:ディエゴとは相変わらず連絡が取れないが…
※参戦時期はディエゴと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※幻想郷の情報をディエゴから聞きました。
※最優先事項は遺体ですので、さとり達を探すのはついで程度。しかし、彼は約束を守る男ではあります。
※霊夢、承太郎、FFと情報を交換しました。彼らの敵の情報は詳しく得られましたが、
 彼らの味方については姿形とスタンド使いである、というだけで、詳細は知りません。


881 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/10(日) 16:37:23 SFuw.NRs0
以上で投下を終了します。

>>864以降の部分のタイトルは、
信用は『パワー』だぜ
でお願いします。


882 : 名無しさん :2015/05/10(日) 20:50:02 YEbukivc0
投下乙です!
この霊夢はやっぱりひと味違っていいなぁ……感情的で少女らしくて、
博麗の巫女ではない博麗霊夢としての道を歩んでいる。
そこに承太郎とFFが混ざることで奇妙な安心感と微笑ましさがある。
大統領との会談も、双方抜け目なく大統領のしたたかさが表れていて素敵でした。
面白かったです。


883 : 名無しさん :2015/05/11(月) 00:24:53 BRct2v8M0
投下乙です。

うーん、感情を押し殺し泣く霊夢に『泣けばいいと思うよ』と言い、泣き叫んだ霊夢の体液を拭うフー・ファイターズは漢の鏡やな。


884 : 名無しさん :2015/05/11(月) 00:29:01 XTTzM0iQ0
>>883
なお、『巫女茶』も一緒に飲み干した模様


885 : 名無しさん :2015/05/11(月) 01:51:40 MX1WTwKU0
>>884
やっぱ、霊夢君の…『巫女茶』をホンマ、最高やな…!(マジキチスマイル)
>>881
投下乙ー
フーファイと霊夢の掛け合いが実に良い…!機械的?な思考のFFと感情的とも言える霊夢の考えの相違と歩み寄りのトークが実に良い!(くどい)
そんな似つかない二人が行動を共にするのは、それぞれの根っこに『操られた(若しくは、ている)者』同士の縁があるからで
妖怪バスターな霊夢によって退治された色々と妖怪なFFだからだと考えると、ああ^〜たまらねえぜ!
取りあえず、両名の『自由』への道程を期待したくなった、そんな感想。
逆に承太郎との掛け合いはそこそこ傍若無人ないつもの霊夢さん。
だけど幻想郷において限りなく天才肌の霊夢が悔しいと思う相手がいて、弱みを見せないよう背伸び(と言うと可愛く聞こえる)する様は
中々見れない貴重なワンシーンだなぁと思いましたァン!


886 : ◆qSXL3X4ics :2015/05/11(月) 01:55:25 .mdR//z20
投下乙です。
ここの霊夢は少女相応の人間らしさを見せてくれて可愛い…!
東方ロワの方の霊夢が色々とやばかったので余計に安心できる。
霊夢が己の歩んできた人生を振り返り、承太郎と比べて悔しがるシーンが好きですね。
そして大統領。他のジョジョラスボスとは少し異質な彼はこのロワでも芯がブレない。
暴力という力ではなく、自身の立場や信念でさえも武器に変えて有利な立場を作っていく大統領は流石としかいえない。
あとどうでもいいけど承太郎と大統領、ビールイッキ飲みという特技が共通してるねw

キャラの魅力を存分に引き出す面白い話でした。
ひとつだけ指摘を言うならば>>846での
「母に残された時間が『80日』でなく、『6時間』だとしたら――」
の部分は『50日間』の間違いかと思われます。

最後に即リレーになりますが
博麗霊夢、空条承太郎、フー・ファイターズ、ディオ・ブランドー、ディエゴ・ブランドー、八雲紫、多々良小傘、
ジョルノ・ジョバァーナ、トリッシュ・ウナ、洩矢諏訪子、リサリサ、宇佐見蓮子、霍青娥、マエリベリー・ハーン、姫海棠はたて
以上15名を予約します


887 : 名無しさん :2015/05/11(月) 02:02:17 MX1WTwKU0
日も跨がずに即刻予約ぅううううううううゥウウウウウ??
挙句、15人予約だとおおおおおォォオオオ!!!!
何考えてんだ、この書き手はあああァアアアア!!??

メッチャ楽しみにしてます(真顔)
いや、マジでどうなるんだこれ…(戦々恐々)


888 : 名無しさん :2015/05/11(月) 02:06:03 vta7uiqs0
前半の霊夢とFFのやりとりが心に来る
FFはロワを通じて成長できるだろうか、すごく期待
投下乙でした


889 : 名無しさん :2015/05/11(月) 16:12:55 nNkCrC1c0
ここの霊夢は少女としての不安定さと成長があって好きだ
大統領も約束は守る人なんだよな
目的のためならば手段を選ばないが
キャラクターの心情を伝える良い話でした


890 : ◆.OuhWp0KOo :2015/05/11(月) 19:27:15 XTTzM0iQ0
みなさん、感想ありがとうございます。

>>886
>>「母に残された時間が『80日』でなく、『6時間』だとしたら――」
確認したら、たしかに正しくは50日でした。
承太郎のスタンド習得日の記述について、wikiに収録後に修正することにします。

>>以上15名を予約します
_人人人人_
>  !?  <
 ̄Y^Y^Y^Y^ ̄


891 : 名無しさん :2015/05/12(火) 17:23:53 ipvMOFeA0
この予約は穏やかじゃないですね
これは嵐のように大荒れになるぜ


892 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/05/17(日) 02:07:35 2544DhFU0
聖白蓮、秦こころ、エンリコ・プッチ、秋静葉、寅丸星、古明地さとり、ジョナサン・ジョースター
以上7名を予約します。


893 : 名無しさん :2015/05/17(日) 02:13:08 g4BaTHus0
>>892
おっと、こっちでも嵐の予感・・・!


894 : 名無しさん :2015/05/17(日) 09:37:51 EEm3NYwk0
ヤな奴らが出会っちゃうか…?


895 : 名無しさん :2015/05/17(日) 14:57:46 zij6xGko0
静葉ネキ頑張れ


896 : 名無しさん :2015/05/17(日) 15:15:57 /6RgHdFM0
むしろメンツ的に星頑張れ


897 : 名無しさん :2015/05/17(日) 20:19:59 dvKVyW3.0
こころちゃんの参考に深秘録届くのを待ってたら先を越されたでござる、悔しいのうw w 悔しいのうw w 悔しいのう…
投下楽しみにしてまーす(プレッシャー)


898 : ◆qSXL3X4ics :2015/05/18(月) 01:55:25 ajkXfWCg0
予約を延長します


899 : ◆DBBxdWOZt6 :2015/05/24(日) 22:41:14 V/fU2i5I0
すみません。予想以上に身の回りが忙しくなってしまい、
延長しても書ききれる可能性が低いので予約を破棄します。
落ち着けば再予約しようかと思っていますが、
書かれる方がいらっしゃれば気にせず予約してください。
本当にすみませんでした。


900 : 名無しさん :2015/05/24(日) 23:37:51 o6n/8dbE0
悲しいなぁ…(諸行無常)


901 : 名無しさん :2015/05/25(月) 00:11:24 Sm84UJw.0
爆弾不発


902 : ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:25:27 CpkoH4SI0
前半投下します。


903 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:27:01 CpkoH4SI0
『十六夜咲夜』
【黎明】D-3 廃洋館 外


まず…『彼』との出会いは“静止した時間の中”という極めて稀な空間の中での出来事だった。

ふわり、と傷付いた身体を持ち上げられる感覚。俗に言う“お姫様抱っこ”という奴だ。
少なくとも自分の記憶にはこんなことをされた経験などない。恐らく、幼少の頃からも。
だから実際の所、かなり戸惑った。ましてや相手は見知らぬ『男性』だ。
これが日常ならば、情けなくも多少の赤面と共に必死の抵抗ぐらいしていたのかもしれない。
だが、今は博麗霊夢との『殺し合い』の真っ最中。しかもあわや死ぬ所だった。
間違いないのは、彼は私を助けてくれたという事実であり、そのことにお礼をしなければならないということである。


「あ、貴方は一体……」

「黙ってろ、傷に障る。しかし、状況がさっぱり掴めねえ、だが……
 そうだ、やることはハッキリしている……!」


たったそれだけの言葉を交わし、彼は妖刀携える霊夢と再び激突した。
あの男は何者なのか? 彼の背後に立つように現れた守護霊のような像は何なのか?
静止した時間の中を動ける人間と出会ったのは初めてだ。
私は男に礼を言うのも忘れ、しばし彼と霊夢の戦いを離れて見ていた。
援護したい気持ちもあったけど、とても動けるような状態ではない。見ることしか出来なかった。

その内、男と霊夢が互いに吹き飛ばされて倒れた。ダブル・ノックアウトという奴だ。
倒れたまま動けない彼に私は必死で這い寄った。霊夢はきっとまだ、戦う気だ。
見れば彼の右手には霊夢の札が貼られていた。アレを剥がさなければ。

「少々痛みますが……我慢して下さい」

自慢のナイフで彼の右手を呪う札を、皮膚ごと引っぺがした。
滅多に触ることのない男性特有のゴツゴツした手に驚く暇もなく、荒療治な『治療』は終わった。
彼に礼を言われると、私はすぐに意識が遠のいてきた。
少々、力を使いすぎた。


「おい……あんた、名前は」

「自己紹介は……後にしましょう。彼女は……霊夢は、まだ、戦う気です」

「何?」

「そして、ごめんなさい……私、貴方の言う通り……無茶、し過ぎた。
 ……後、お願いします。……そのあと名前、必ず…………おしえ……」


ああ、情けない。
紅魔館のメイド長を冠する十六夜咲夜ともあろう者が、助けられた相手に礼も出来ず、名を伺う事も出来ないなんて。
助けられっぱなしって言うのも癪だし、礼だけは必ずしないと……!
紅魔館に属する私が借りを作るということは、お嬢様自身が借りを作らされることと同義。
礼も…名前すら聞かないというのはお嬢様の『恥』になる。それだけは、駄目……!

……瞼が重くなってきた。
お嬢様は……レミリア様は今頃何処に居られるのか。その実力からいって死ぬことはないだろうけども。
美鈴は無事なのだろうか。彼女は強いけど、あの性格がそのうち身を滅ぼしそうで少し怖い。
パチュリー様は私などよりも圧倒的に博識なお方だが、戦いには向かない身体。やはり心配だ。

そうね……やはり、私がここで倒れちゃ駄目。
紅魔館のメイド長が、真っ先に死ぬようなことがあってはならない。
少し……少しだけ休もう。その後に彼の名前をお聞きしなければ。



―――ほんの少し、だけ……眠、って……………………。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


904 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:28:53 CpkoH4SI0
『フー・ファイターズ』
【朝】D-3 廃洋館 外


まず、初めに脳内に奔流のように入り込んできた記憶は『名前』だった。
脳内、というのもおかしな話だ。
私は元々プランクトンであり、物事を考える脳など持ち合わせていなかったのだから。
DISCによって『知性』を手に入れ、新生物へと進化した『フー・ファイターズ』でも脳という神経の中枢は存在しない。
神経組織が脳と同等の働きをしているだけ。その細胞に記憶を刻み込まれているのだ。

しかし、この『十六夜咲夜』という人間の遺体を墓から掘り起こし、その肉体に寄生した今……感覚で分かるのだ。
私の体には確かに脳は存在し、血液が流れ、この者の記憶がこのフー・ファイターズの意識と合致したことが。
とはいえ、他人の肉体を乗っ取ったことは別に初めてではない。何度か経験したことのある行為だ。
だから生まれて初めて手に入れた人間の肉体や思考に戸惑いを覚えるとか、興奮するとか、そんな感動はない。


最初に生まれた意識――『十六夜咲夜』の記憶から『フー・ファイターズ』の記憶へと流れ着いた意識――は、名前。


私は『十六夜咲夜』という、確かにひとりの人間として、ふたつと無い『一個』として、今ここに立っている。
『私』は『わたし』。
『オレ』でもなく、『あたし』でもなく、十六夜咲夜としての『私』。
『フー・ファイターズ』でもあり、『十六夜咲夜』でもあり、そのふたつの存在が一個として成り立っている矛盾。

かつて生きた『十六夜咲夜』という名前を手にし、今の私は在る。
フー・ファイターズとしてDISCを守っていた頃は名前など気にしていなかった。
名前とはその個人個人を明確に指す為の『識別番号』であり、常に独りであった私には必要なかったからだ。


今は違う。
形式的に行動しているだけの関係ではあるが、仲間は居る。独りではない。
故に名前は必要であり、『F・F』という呼称を既に貰っている。最初にそんな呼称を付けたのは……確か霊夢だったか。
ならば私は……一体『何者』なのだろうな?
私は『F・F』として彼らと行動するべきか、『咲夜』として行動するべきか。
その両の存在として行動する『私』とは、果たして誰なのか?

……くだらない。
少し前までなら、こんなくだらないことで悩むなど決してなかったろう。
『私』の中で何かが変わってきているのか? 生まれ始めているのか?


ならばその『正体』を、私は知りたい。


905 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:30:57 CpkoH4SI0

「あーー…………『F・F』? いや『咲夜』? それとも『咲夜・ファイターズ』とでも呼べばいいのかしらね?」

「……混ぜるな。器は咲夜でも私は『フー・ファイターズ』という確かな意識の集合体だ。お前の言う『咲夜』は既に居ない」


―――それは霊夢、お前自身が一番良く知っているはずだ。と続くはずだった言葉は喉を出てこなかった。


「……そう、よね。咲夜は、もう…………」


私の言葉に霊夢はまたも暗い表情を見せた。
少し、気遣いの無い言葉だっただろうか。
胸の奥がチクリと痛みを覚えたような感覚。
これは……『悲しみ』か? 泣きそうな顔の霊夢を見て私は、心を痛めているとでも言うのだろうか。
ヒトの肉体を手に入れた私だが、この『心』という概念はどうにも理解し難い。
だがこの胸の痛みを感ずるに、この咲夜という少女にも人並みの心が在ったのだろうな。


泣き足りないというのならば私の胸でも借りるか? と、提案しようとしたが、横には承太郎もいる。
汚名返上。今度こそ気を遣うところだ。
よって私は言葉ではなく、行為で霊夢を慰めた。
頭を撫でるという行為。
これには相手の高揚や動揺した気持ちをおさめるという役割があるらしい。
俯く霊夢の頭にそっと手を乗せ、優しく擦ってやった。
この咲夜という人間は霊夢よりも身長が高いのでやりやすかった。

「ちょ……! な、なに子供扱いしてんのよっ! やめなさい!」

「む? はて……何か私の行動が間違っていたか?」

「咲夜がそんなことするか! わかったわかったから! その手をどけなさいっ!」

……怒られてしまった。
やはり『心』というものを知識で知ってはいても、理解することは難しいようだ。

「……やれやれだぜ」

横の承太郎も口癖らしきものを零して首を振る。


906 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:32:06 CpkoH4SI0
そうだ……彼には言いたいことがあったのだ。
私がこの咲夜の肉体に這入って、名前の次に浮かんで来た強烈な『記憶』はこの承太郎であった。
だから私は『F・F』ではなく『咲夜』としての言葉を彼に伝えなければならない。
さっきまでの男のような低い響きの声ではなく、十六夜咲夜本人の上品で美しい声を以って伝えなければ。


「承太郎……私――咲夜は貴方にひとつを伝え、ひとつを聞かねばなりません」

「うおっ……いきなり女の声と口調になるんじゃねえよ、驚いた……」

「咲夜が意識を失う直前までに心に強く想っていた事柄なのです。
 故にこれはF・Fではなく咲夜として貴方に語りかけていますわ。
 まずはひとつ……さっきは危ない所を助けていただき、本当にありがとう」

「何だか変な気分だが……しかし俺は結局お前の命は助けられなかった。
 お前は……十六夜咲夜という人物は俺を恨む権利はあるんだぜ」

「それでも、この咲夜の肉体に残った記憶は確かに貴方への感謝の念が熱く御座います。
 紅魔館のメイド長としての……ひとりの人間としての『在って当然』な心、なのだと思っております」


そのまま咲夜としての『私』は、丁寧な45度の最敬礼を承太郎に向けた。
この肉体に深くこびり付いている『マナー』が、一寸の失礼もなく流動のように動いた。
咲夜という少女はよほど礼儀正しく教育されたのだろうことが分かる。


「そしてもうひとつ。貴方に聞きたいことがありました。
 是非……『お名前』を聞かせてくれませんか?」

「……確かに、F・Fとしてのお前は俺の名前を知っているが、咲夜としてのお前にはまだ自己紹介もしてなかった。
 空条承太郎、だ。奇妙な感覚だが……あんたの名前も聞いておきたい」

「十六夜咲夜と申します。……不束者ですが、これより正午までお供させていただきたく思います」


これで、F・Fとしての私が果たすべき義務は伝え終わった。
お互い変な顔をしているのかもしれない。このやりとりが、少し可笑しく思えてきたのだ。


「ほお……なんだ、てめえも人並みに笑えるんじゃあねえか」

「…………え?」


笑っている……? 私が……?
承太郎の言葉に驚き、自分の手でペタペタと頬を触ったりしてみる。
……よくわからない。わからないが……なんとも不思議な気持ちだ。
いかな知性を与えられた私でも、今まで一度だって『笑う』という感情を持ったことはない。
つまりこれは『咲夜』という人間が元々持っていた行動の残滓に過ぎず、F・Fである私がそれを真似ただけだ。


……なので、この胸に込み上げてくる形容し難く不可思議な気持ちに何の意味も無い。


907 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:33:35 CpkoH4SI0


「―――ぃと、……てた」


………?
両手で頬の肉を引っ張っていた私の耳に辛うじて届いた小さな呟きは、霊夢のもの。
見れば彼女は俯いたまま、ピクリとも動かない。
承太郎には情けない姿を見せたくないと強がっていた彼女だ。ここで泣いたりはしないだろう。


「その余裕しゃくしゃくな声……二度と聞けないと思っていた……」


二度目の台詞はよく聞こえた。
そして痛感した。彼女が何を思っているのかを。
やはり私を……『咲夜』を間接的にとはいえ殺してしまった事実が効いているのか。
本来なら泣きたい気持ちで一杯なのだろうが……先ほどあれだけ泣いたのなら湧き出る涙も枯れてしまったのだろう。
仮初めではあるが咲夜そのものの声に懐かしさを感じ、感情がまたも昂ぶったということか。
正直、そんな霊夢を見ていて私もどこか心苦しさはある。

ならばと、私はひとつの『提案』をしてみることにした。


「霊夢……お前が―――いや、貴方が良ければ私はこのまま『十六夜咲夜』として行動してもいいのよ?」

「………え?」

「気休めだとは分かっているわ。十六夜咲夜は確かにこの世には既に居ないし、私はその抜け殻と記憶を本人の許可も得ずに動かしているだけに過ぎない。
 それでも貴方の心に圧し掛かる重みが少しでも軽減されるのなら私は尽くしたいとも思っている。
 『フー・ファイターズ』としての性格や個性自体、ホワイトスネイクから与えられただけでそこまでこだわりがあったわけでもないし……。
 今はこの女に残った『記憶』にも興味は……あるしね」


無論、DISCへの執着は未だ健在だ。
しかし、人としての新たな個性を得た私はもう少し、この『心』というモノを理解したい。
この寄生主……『十六夜咲夜』に残った想いは、あまりにも無念だ。

彼女には慕う者がいた。
『レミリア・スカーレット』という吸血鬼だ。
それは主従という関係だが、フー・ファイターズとホワイトスネイクというような一方的な服従でもないらしい。
何と言えばいいのか……そう、一言で言えば彼女たちの間には『信頼』があった。
私のようにただ命令され、漠然とDISCを守っていたような空っぽの関係ではない。
咲夜という人間は好きでレミリアに従っていた女であり、そこには何としても主を守り通すという強い信念があった。

……そして、主人に会えることなく死した。


「私の中に眠る無念の残留。その根源であるレミリア・スカーレット……お嬢様との『絆』、かしら、これは?
 そう……その気持ちを私は知りたくなってきた。好奇心って奴よ。
 この宿主は『主従』という関係に縛られながらも、『自由』に生きているという矛盾した人間だった。
 全くもって私の理解の範疇に無い気持ち。私はそれを知りたい。だから私は『十六夜咲夜』としてこのまま貴方にしばらく付いていきたい」

「………好きに、しなさいよ。
 その代わり……アンタのことは今まで通り『F・F』って呼ばせてもらうわよ。
 アンタ……咲夜じゃあないんだし」

「ええ。心得たわ。……宜しく、霊夢」

「なーんか、変な感じだわね……。
 それと、ね? これはF・Fではなく咲夜に言いたかったこと、なんだけど……」

「……?」

「その……………………ゴメンなさいっ!!
 わた、私……! アンタに酷いことしちゃって……本当にごめん!!」


908 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:34:06 CpkoH4SI0
今度は霊夢が私に対して頭を下げてきた。
彼女はずっと、謝りたかったのかも知れない。その言葉にはそれほどに誠意がこもっていた。
もしも咲夜だったら、彼女に何と言っただろうか?
何も言わずに、この真珠のように白くしなやかな細腕で抱きしめてやるのだろうか。

……どうも違う気がする。ならば、うん。


「博霊の巫女ともあろうアナタが、ずいぶん丸くなっちゃってるじゃない。
 ホラ、いつもの無駄に生意気な勢いは何処行っちゃったのよ。そのみすぼらしい頭上げて」

「なっ!? こ、こっちは真面目に謝ってんのに何その物言い! そんなとこまで咲夜の真似しなくてもいいでしょーが!」

「ウフフ……まあまあ。怒ると福が逃げちゃうわよ?
 私が……咲夜がいいって言ってるんだから、その謝罪はレミリアお嬢様と会うまでとっときなさいな」

「嬢ちゃんがた……と言ってもいいのか知らねえが、戯れもいいがそろそろここを離れようぜ。
 どうも周りの雰囲気が怪しくなってきやがった」


何処へ行っていたのか、承太郎が茂みの方から数本のナイフを持って歩いてきた。
あのナイフは確か、本来の私が霊夢と戦った時に使用したままその辺りに落としたナイフ。
私たちが今こうやって話している隙に抜け目無く拾ってきたのだろう。ちゃっかり5本ある。
私の『墓』に目印として刺していたナイフと合わせてこれで6本。
元々私はナイフ投げという、およそメイドには相応しくない特技を持っていたらしい。
武器として少しは心強くなるだろう。そんな得物を承太郎から受け取りながら、私は南の森を眺めた。


「煙……が上がっているわね。火事かしら?」

「誰かが交戦したってとこかしらね。どうするの? 承太郎」

「……俺たちは全員結構な負傷なり消耗なりしている。
 今あの場に近づくのは正直言って危険がデカ過ぎるぜ」

「気になるところだけど……その通りね。
 これから少しずつ休息をとりながら移動して、とりあえずは『紅魔館』を目指すとしますか。
 ついでに朝食もどこかでとりましょう。お腹ペコペコよ」

「ええ。私も……あの場所には赴いておきたいもの。
 もしかしたら……お嬢様が居るのかもしれない」

「少なくとも『ディエゴ』とかいう恐竜ヤローと『星のアザ』を持った奴はいる。
 あるいはそのディエゴがアザの所持者なのかもしれねーがな」

「館に着くまでには万全の体調にしておけってことね。
 ……F・F。その、首の怪我は大丈夫なの?」

「私にとって肉体の負傷はそれほどの負荷にはならないわ。
 継ぎ目はどうしても残るけど、それよりも水の補給の方が大事よ」


そう言って私は首に残った『継ぎ目』を擦った。
アヌビス神の切れ味は相当に鋭く、しかしこの場合鋭すぎた故に切断面を繋げるのには苦労はなかった。


「じゃあ行ってみるか、紅魔館に。
 こんな目立つ場所でグズグズしてたら誰か来ちまうぜ」

「うん。…………あ、そういえば咲や…じゃなくてF・F。
 アンタまたさっき笑ってたでしょ。人を小馬鹿にしたような意地悪さで」

「……そう? きっと気のせいですわ」

「いーや! あの笑みは私を馬鹿にしてた笑みよ!
 アンタ本当は人間の感情とか普通にあるんじゃないの? そのうえで私をからかってたとか!」

「なんだ、アナタも意外と元気じゃない。
 ……にしても、この『スカート』という服飾はどうにもスースーして落ち着かないわね。
 私の知っている知識では『メイドさん』という職種の制服は例外なくロングスカートであったように思えるのだけど」

「……やれやれ。本当にウルセー女どもだ」







こうして承太郎と霊夢と、咲夜の抜け殻を被ったF・Fはこの場を後にした。
そんな彼らには与り知らぬことだが、この場をすぐに去ったのはひとつの『幸運』だったのかもしれない。
この廃洋館には強大な超生物である柱の男がひとり、『ワムウ』が既に居座っていた。
一度訪れた施設だという理由として、彼らが館の内部に入らなかったのは間違いなく幸運であったと言えよう。

そして彼らが去った直後には、燃え始める南の森からひとりの少女がまたこの廃洋館を目指して足を踏み入れることになる。
心を完全に磨り減らした『古明地こいし』が、重い足取りでこの地へと辿るのだ。
双方がもし出会っていればという仮定を考えることに、意味などない。


彼らの全く別々の運命はこの時、既に決定されているのだから。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


909 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:35:05 CpkoH4SI0
『姫海棠はたて』
【午前】D-2 猫の隠れ里 広場


パチパチと柔和な音をたてて燃える焚き火で濡れた服を乾かしながら、姫海棠はたては考えていた。
あの憎たらしい人間の男、岸辺露伴はハッキリと言った。

自分の書いた新聞は『最低』だと。
ひとつのコンテンツとして『つまらない低俗なもの』だと。
他者に全く読んでもらえるものになっていないのだとまで。

いつどこで案山子念報を読んだのかは知らないが、自分の新聞をここまで直接的に貶されたのは初めての経験だった。
湧き上がる感情は怒りと悔しさと、燃え上がるような敵対心。
射命丸文の発行する『文々。新聞』に加えて新たなライバルが現れた、といった所か。

何故あんなぽっと出の、記者ですらない人間にああも見下されなくてはならないのか。
無名マンガ家の心得なんて知ったこっちゃないが、奴は生意気にも自分にアドバイスのようなものまで勝手に授けていった。
曰く、作品に必要なモノは『リアリティ』だと。
どんな奇妙なことも、現実味を帯びた正確な描写で描かれることで読者は感情を動かされる、とかなんとか。

ハァ〜〜〜? リアリティ〜〜〜〜〜?
青い……! 青い青いッ!
あのヘンテコヘアーなクソマンガ家は新聞を書くって難しさが全くわかってないッ!
リアリティを追求して正確な記事を書いて、それがウケたらだ〜〜れも苦労はしないっての!
鴉天狗の新聞は元々競争率も高い。現実味を帯びただけの新聞なんてそれこそ上っ面で固めた低級な作品よ。
私の新聞はそんなんじゃあない。読者に楽しんでもらうため、常にエンターテイメントを求めた強烈な娯楽作品だ。
アイツはその辺を根本から履き違えている。人間と妖怪では所詮、嗜好ひとつ取っても分かり合えたり出来ない。


「そもそも新聞とマンガを比べるってのがおかしな話よね」


気付いてはいけない真理に気付いてしまったはたては乾いた服を着ながら一人ごちる。
あの岸辺露伴という人間のマンガ家、何を考えてあの提案をしたのか。
アイツは恐らく、かなり自分本位な性格をしているとみた。
そして、そんな自信家な男がこの自分に勝負を申し込んできた理由は?
アイツが本当に自分の方が優れたクリエイターだと言うのなら、そもそも勝負など申し込まないだろう。

分からない。あの人間が考えていることがさっぱり分からない。
分からないが、申し込まれた勝負なら逃げ出したりはしない。
勝てる自信は勿論ある。
奴はさも自分の新聞がひとつの作品として落第点みたいに言及したが、そんなのはアイツが勝手に言っているだけだ。
少なくともこっちには『面白い』と言ってくれた読者がちゃんと存在する。
このゲームの主催者、荒木と太田という特大なスポンサーが判を押しているのだ。


(大丈夫……私のやり方は間違っていない。このスタイルは、このまま貫く)


半ば自分自身で気持ちを後押しするように、はたては心の中で呟いた。
もっと自信を付けていいと。
もっとネタを集めろと。

しかしその呟きこそが、はたての心のどこかで不安の芽が芽吹き始めているという証拠に彼女はまだハッキリと気付いていない。
漠然と澱む不安は気の迷いだと一蹴し、再び翼を広げて大地を蹴る。
露伴に見せ付ける初めの作品は、今までよりも更に『強い』ネタが欲しい。
誰もが目を引くような……それでいて永劫、記憶に残るような。


さて、どこへ飛ぶべきか……?



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


910 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:37:28 CpkoH4SI0
『宇佐見蓮子』
【午前】C-5 魔法の森


宇佐見蓮子の表情はいたって平静に見えたが、その内心では目の前の光景に少なからず動揺していた。


DIOの下した命令は予定通り滞りなく、目的のメリーを攫うことに無事成功。
作戦通り、ノトーリアス・B・I・Gとやらのスタンドは追跡者を虐殺してくれているだろう。
追っ手はいない。後はこの『お使い』を完遂するために紅魔館へと真っ直ぐ帰るだけだった。
しかし……全ての計画が逐一ミスも無く成功したわけでもない。
アヌビス神を装備した蓮子はおかげさまで殆ど無傷。ポルナレフとの戦いはノーダメージで潜り抜けられた。

問題は……青娥の状態だった。
脇腹の肉を抉り取られ、右手にいたっては丸々吹き飛ばされている。
普通に考えて重傷だ。ここまで歩いてくるだけでも相当の血を流していた(一応、血を辿られて追われることも考えて服の切れ端を包帯としているが)。
生憎と治療道具も無い。最悪、彼女を切り捨てても紅魔館へと戻ろうかと決心し始めていたところだ。
元々蓮子もこの青娥という人物が好きではない。嫌悪すら抱いているくらいだ。
なので彼女が顔中に汗を垂らしながら苦しそうな表情で歩いているのを見て、内心「ザマミロ&スカッとサワヤカ」の笑いを抑えるのに精一杯だった。
とはいえこの青娥もDIOの忠実なる僕として有用な戦力なのも間違いない。
彼女曰く、死体を使って治療は可能とのことらしいので、帰り際に死体のひとつも探す手伝いぐらいはしてやった。


その努力が報われたのか、魔法の森を少し入ったところで死体は見付かった。
全く強運の女だ。同行者の命がひとまず助かりそうだというのにまるで嬉しそうにしない蓮子が、見つけた死体の報告を青娥にしようとした

―――その時だった。


「芳香ァ!!! あなた、どうして……っ!?」


自身の大怪我の状態も顧みず、青ざめた顔の青娥が『芳香』と呼ばれた少女のバラバラ死体に駆け寄ったのだ。
その少女はまず、『首』が無かった。
『右腕』も『左脚』も吹き飛ばされていた。
本来ならその有り様に吐き気のひとつも催すところだが、そんな気分も霧消した。


(こ、こいつ……まさかとは思うけど………………泣いてない?)


自分は世にも珍しいものでも見ているのだろうか。
あの傍若無人で自分勝手で冷徹で意地悪で穢れた底無しの邪な、あの邪仙“霍青娥”ともあろう女が。


死した知人に必死に声を掛け、あまつさえ涙まで流しているなどと。


「芳香! 芳香ぁ……っ! あぁ、どうしちゃったの……?
 誰にやられたの……! あなたをこんなカワイソーな姿に変えたのは誰!?」


911 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:38:20 CpkoH4SI0
……なんとまぁ。
鬼の目にも涙とは言うが、コイツにも大切な人は居たということだろうか。
なんせ今まで崇めていた豊聡耳神子とやらも躊躇なく殺害したばかりか、その肉体を使って『化け物』を生み出したばかりなのだ。
血も涙も無い奴と思っていた人物が目の前で……恐らく本気で嘆き、悲しみ、涙を流している。
蓮子としては動揺する他ない。彼女の新しい側面が見えたということか。
後ろでメリーを背負っていたヨーヨーマッですらそのマヌケそうな面を唖然とさせていた。


やがて落ち着いた青娥がゆらりと立ち上がり、近くに吹き飛んでいた『芳香』の右腕を手に取った。
その一挙手一動にビクつく蓮子も、黙って成り行きを見ていることしか出来ない。
死体の右手を左手で持ち、ジッと見つめる青娥の表情は髪に隠れて窺えないが……


次の瞬間、青娥は持った死体の右腕にいきなり噛み付いた!


「ちょ……っ!? 何やってんですか青娥さんッ!?」


突然の奇行に思わず叫ぶ蓮子を無視し、青娥はガブガブリと死体の腕を喰いちぎり始める。
仙人ならではの強靭な肉体を使ってか、そして青娥は噛り付いたまま右腕の手首から先までもブチブチと筋肉の繊維ごともぎ取った。
何をするのかと思えば、失った右手の代替品が欲しかったらしい。
が、今度は手に入れたその右手首を何故かポイと地面に投げ捨て、手首の無くなった右腕の方を頭上まで持ち上げた。
そして次にその切り口に大口を開けて構えた。まさかとは思うが……。
蓮子の想像したとおり、右腕の切り口から噴き出す赤黒い血を青娥はまるでジュースでも飲むかのように、天を仰ぎながらゴクゴクと自分の喉に流し込んでいく。
俗に言う『イッキ飲み』という技だ。

なんとも強引でストレートな栄養補給方法である。
死体の血で失った血液を補給しているつもりなのだろうが、見た目にも気分が良いものではない。
そういうことをやるならせめて一声かけて欲しかった。この女の辞書に気遣いという単語が存在するのなら。

「ング……ング……ング…………プハァ!! ……あら、少々下品でしたわね、ごめんなさい」

そういう問題ではない。

「まあ、これで失血死なんてことにはならないでしょう。
 蓮子ちゃん、針と糸なんて持ってたりしない?」

「針と糸、ですか? 一応、持ってますが」

青娥の口の端に血が垂れているのを出来るだけ見ないよう、蓮子はデイパックをごそごそと漁りだした。
前にGDS刑務所でジョニィと物資捜索していた時に偶然見つけた物だ。
蓮子はそれを手渡し、青娥も地面に落とした手首を拾って口に咥えなおした。
やはりというかなんというか、手首の接合は糸による縫合という実に原始的な方法を行うらしい。
もう少しオカルト的だの魔法的だのを期待していた蓮子からすれば少々肩透かしだ。

「……そんなんでくっ付くんですか? 青娥さん、医者じゃないですよね?」

「ん! はいほーふほ〜♪(大丈夫よ〜♪)
 ほひはほ ふーひほ ほへへはっへはんふぁはは〜(芳香の修理もこれでやってたんだから〜)」

「……全然わかりません」


912 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:39:07 CpkoH4SI0
手首を咥えながら左手のみでスイスイと肉に糸を通していく彼女の手つきは慣れたものだった。
そのシュールな光景を眺めること数分。青娥の失った右手首から先は、芳香の手首にいとも簡単に繋がった。
だがいくらなんでもそれだけで神経やら筋肉繊維やらは繋がったりしないだろう。
蓮子がその疑問を口に出す前に青娥はいつもの朗らかな調子で答えた。

「よ〜し! 後はキョンシーを作る時と同様に蘇生術を使って……
 あ! 蓮子ちゃんは見ちゃダメ! この術は企業秘密なんだから! あっち向いてて!」

この人はさっきからおままごとでもしているつもりなんだろうか。
何度目になるか分からない呆れ顔と共に蓮子とヨーヨーマッは文句ひとつ言わず、くるりと後ろを向く。


(ご主人様も苦労しますね……)

(お互い様よヨーヨーマッ。……それよりもメリーはどう? まだグッスリ?)

(ええ。まるで童話にでも出てきそうなプリンセスのようです。目覚めるまで、まだかかるかと思われます)

(ならいいわ。紅魔館まで無事にしっかり運んで頂戴ね)

(御意、でございますゥ)


青娥が呪文のような何かを唱える姿を背に、蓮子とヨーヨーマッはひそひそと短い会話を終える。
メリーはあの時、蓮子の肉の芽をその視界に入れ、蓮子の囁きをその耳に入れた瞬間に眠りについた。
恐らく、メリーの『能力』が関係しているのだろう。その副次的作用で彼女は今も寝息ひとつ立てずに眠っている。
その寝姿はまさしくプリンセスのようだと、蓮子は少しの羨望と嫉妬を覚え、メリーの髪を撫でた。


「お待たせ二人とも♪ 痛みは残るけど、とりあえず応急の処置は施したわ」


青娥がこれ以上なくニッコリと笑み、繋がった自身の右腕を見せ付けてきた。
多少の青白さは残るが成る程、既に神経は修復しつつあるらしい。
ぎこちなく五本の指をグイグイと曲げてアピールしている。
もっとも、人間と同じ構造の左手と比べて今度の新しい右手は異様に長く鋭い爪がこれ以上なく不気味だ。

「芳香はキョンシーだから見た目に反して怪力っていうのと、この鋭い爪が特徴なの。
 私としては不恰好であまり気に入らないのですけども……ま! これで芳香と一緒の肉体になったと考えれば愛着も湧くというものですわ」

新たな腕に喜んでいるのか、青娥はその爪を握ったり開いたり触ったりして遊んでいる。
新品のおもちゃを手に入れて興奮する男の子みたいねと、蓮子はどうでもいい感想を浮かべた。
さっきまで泣いていた彼女はどこにいったのだろうと考えるも、常に風のように吹き荒れる感情こそが青娥の本質なのだろう。
その姿もまさしく『無邪気』とも言える。まったく彼女の性格が掴めない。


「治ったのならそろそろ戻りましょう。DIO様もきっと待ちくたびれてますよ」

「あ! 待って待ってまだお腹の傷が治ってないわ! こっちも芳香の肉をくっ付けないと死んじゃうもの」

「……急いでください。その芳香さんを殺した奴が近くに居ないとも限りません」

「もし居たら私がそいつをブチ殺してキョンシーにしてやりたいわ。芳香の仇を討たないと可哀想だしね。
 あ、それと芳香のお墓も作ってあげないと。……その時はキョンシーじゃなくって、ゾンビ? になるのかしら」

「……どうでもいいですから、早くしてください」

「わかってるわよ〜蓮子ちゃんも随分可愛げがなくなっちゃったわね! ビクビク怯えてた頃のアナタの方が好きだったわ」


不満げに文句を言いながら青娥は次に芳香の胴を貰うため、死体の傍にしゃがみ込んだ。



「―――ごめんなさいね、芳香。あなたの仇は、私が必ず取ります。なのでもう……ゆっくりとお休みなさいな」



確かに聞こえた青娥の呟きは、とても儚げで憂いを帯びているようにも感じた。
母性溢れる、聖女の姿がそこにあった。


分からない。やっぱりこの女が、全然分からない。
蓮子は複雑な表情を作り、しばし彼女の祈りを見届けた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


913 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:40:24 CpkoH4SI0
『ディオ・ブランドー』
【午前】C-3 紅魔館 地下の大図書館


ひどく薄暗く、かび臭い空間。
周りには膨大な書物の数々が並びたてられた巨大な本棚が無尽蔵に取り囲んでおり、圧巻ともいえる風景だった。
後期ゴシック様式で建造されたリオの幻想図書館は、その教会のような様式美と古い本の中に醸し出される荘厳さがまさに『幻想的』であるが……。
ここ『幻想郷』に存在する大図書館は、それとも一線を画する存在感を遺憾なく発揮している。
こんな場所が外の世界にあれば確実に世界遺産として登録されているだろう。それほどに人間の心を突き動かすような広大さがある。

しかし、広大さはあっても開放感はあまり感じられない。
地下ゆえに窓の一切が無く、むしろ心を締め付けられるほどに周りを取り囲む本の数々。
幻想郷の人口の少なさから考えれば、この図書館の巨大さはあまりにも世界観に不釣合いだった。
図書館の主はこれほどの膨大な蔵書に全て目を通しているのだろうか? だとすればよほどの勉強家か、暇人なのだろう。


そして、その“暇”を持て余す男――DIOは、この薄暗く巨大な空間の中心に居た。


(『博霊大結界』……『命名決闘法』……こっちの比較的新しい本には『吸血鬼異変』とやらの概要も……)


吸血鬼DIOは青娥と蓮子への『お使い』を命令した後、ずっとこの図書館に篭っていた。
元々、勉強家で好奇心の強いDIOという男であったが、彼はこの幻想郷という世界にひどく惹かれていた。
神や妖怪……そして吸血鬼が人間と共存し、危ういバランスながらもその関係が成立している。
この一点のみをとってもDIOが興味をそそられることはなんら当然の事象であり、ならばこの世界をもっとよく知りたいと彼が行動に出るのはそれがDIOたる所以。

とにもかくにも、まずは彼らのことをよく知り、深く理解していかねば何もままならないとDIOは思う。
古明地こいしやチルノからは軽く話を聞いてはいたが、やはり自らの目で見て体験しなければ知識とは真に理解できるものではない。
例えば……先ほど相対した『八雲紫』の力の片鱗。あれは凄まじいものだった。
あれでも本来の実力の半分も無いのかもしれない。それは主催から彼女の力が大きく制限されているのかも、といった理由が半々。
それだけでなく、彼女はひどく憔悴していたようにも思う。恐らくここに来るまでに『何か』を体験し、精神力が大きく削られるほどに。

勉強した所によれば『妖怪』とは人間に比べて、その存在定義は『肉体』よりも『精神』への比重が大きいらしい。
つまり奴らを殺すなら銃などの武器では本来効率が悪く、ならばその精神を畳み掛けろ、ということだ。

『幻想』に対抗するなら『現実』。
それもこの上なく酷く、醜く、惨く、厳しく、えげつなく、残酷なエグさを以って現実を突きつける。
命名決闘法などという女の子遊びではなく、本気で殺し合う世界。
そんな世界だからこそ奴ら幻想郷の住民は、その精神をじわりじわり削られ、最後には滅する。
故にあの大妖怪、八雲紫は情けない醜態を晒し、このDIOに微塵の傷ひとつ付けること叶わずに堕ちた。

もし奴が万全の状態で敵対してきたのなら……このDIOといえどただでは済まされなかっただろう。

対して我らがスタンド使い――そうでない者もいるが――はどうだろう。
スタンドとは『精神の象徴』。
この精神が強ければ強いほど、スタンドも比例して強力になるパターンが多い。
だが、殆どのスタンド使いは一般人と変わらぬ一個の『人間』であり、その肉体は脆く弱い。
幻想の民と比較して見れば、あまりにも脆弱な肉体。
人間と妖怪が普通に戦っては、成す術なく人間は喰われる側に追い込まれるだろう。
だからこそDIOは肉体の限界を感じ、人間をやめたのだ。

つまり……人間の弱点は『肉体』であり、妖怪の弱点は『精神』ということになる。長所はその逆だ。
まるで対極に位置するような力関係……偶然ではないだろう。


914 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:41:53 CpkoH4SI0


(荒木と太田とやらは、オレ達を呼んで最強決定戦でもやりたかったのか……?)


名簿ひとつとってもある程度の推測が出来る。
この90人の名が載った名簿。半分は幻想郷の住民として、もう半分は恐らく……DIOやジョースターとの因縁を起因とした関係者達。
ジョースター一族に何らかの関係を持つ者達が名簿の残り半分を占めているものだと見る。
そいつらをまとめて呼び出し、互いに戦わせることにどれほどの意味があるのか?
主催の目的が未だ見えない……が、その影に包まれた片鱗だけは少し見えてきた。


(このゲーム……大別すればオレやジョジョの一族との因縁を根に持つ者、そして幻想郷の民という二つの集団が混ざっている)


何故この二つの世界が選ばれたのか?
戦いの舞台を幻想郷にした理由は?
荒木と太田の正体は何だ?
まだまだゲームの全貌は闇に包まれている。
だが……最後に帝王として勝利するのはこのDIOだ。
『過程』や『方法』なぞ、どうでもよい。


最後にたった一つ。あるのは『勝利して支配する』というシンプルな思想だ……ッ!






「ギーー ギーー!」


小さな獣の鳴くような引っ掻いた声がDIOの背後から聞こえた。
DIOはそれを聞くとぱたん、と本を閉じた。彼からの『合図』である。


「……君も読書はどうだ? 本は良い。著者の思考、人生観、本性……あらゆる性質を浮き彫りにしてくれる。
 ましてやここにある本はどれもが全く常識に縛られない、実に幻想的な物ばかりだ」


言いながらゆっくりと振り返り、DIOは口の端を持ち上げながら背後のディエゴへと語りかける。
彼の周りには数匹の翼竜が取り巻き、図書館の静寂をギーギーと打ち破っている。
そしてその隣……翼竜よりも一際大きいサイズの恐竜が唸り声を立てながらディエゴへと寄り添っていた。
今は見る影も無くなってしまった大妖怪、八雲紫の変わり果てた姿だった。


915 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:42:31 CpkoH4SI0


「オレならさっき読んださ……少しだけどな。それよりも、だ。幾つか報告がある。
 『ジョニィ・ジョースター』が死んだ。殺ったのはアンタのところのチルノ、そして古明地こいしだ」


それを聞いたDIOは更に大きくニタリと笑い、白い牙が薄暗い空間で不気味に光る。


「だがそのチルノも鴉天狗の『射命丸文』に殺された。50:50(フィフティー・フィフティー)の戦績って奴だ。
 古明地こいしの方は逃れ、現在廃洋館にいるという報告を受けている。それが一つ目の報告だ」


肉の芽を埋め込んだチルノが早くも殺された。
その報はDIOにとってマイナスの結果ではある。しかし元々そこまで大きな期待をしていたわけでも無い。
いや、どころか彼女は因縁の相手である『ジョースター家』らしきひとりを早くも消し去ったのだ。
それは嬉しい結果だ。チルノを駒のひとつに加えておいて正解だった。
こいしの状態は……時が経てばいずれ結果は見えるだろう。


「次だ。青娥と蓮子がメリーを捕獲し、現在こちらへと帰ってきている。
 その青娥は結構なダメージを負ったらしい。ま、死んだら死んだでその程度の奴だった、ってことだな」


上々だ。敵は多数と聞いていたが問題にはならなかったらしい。
青娥……あの女は使える。奴には善なるタガがない。素晴らしい悪への『素質』がある。
奴は極めて忠実な下僕となり、これからもこのDIOへと服従してくれるだろう。
しかし……優秀ではあるが、自由奔放過ぎるその性格ゆえに扱いにくい。完全に御することは難しいだろう。
ならばいっそ、ある程度は自由にさせておいた方が良いのかも知れない。
常に手元に置いておくより、放し飼いにした方が窮屈にはならないだろう。首輪は付けさせてもらうがな……。


「最後の報告だ。アンタのお気に入りの空条承太郎。それと博麗の巫女、博麗霊夢がこの紅魔館に近づいてきている。
 アンタが一番消し去りたかった奴が早速ノコノコと現れたってワケだ、喜べよ」

「来たか、承太郎……!」


星のアザは先ほどからジョースターの接近を否応に伝えてきていた。
だがまさかいきなり承太郎とは……。それに博麗霊夢、この幻想郷にてトップクラスの力を持つと聞く。
面白くなってきた……ッ!


「それと他にも一人、妙なのが仲間にいるようだ。
 人間ではない新種の生き物……奴らは『フー・ファイターズ』と呼んでいたみたいだが、そいつが一緒にいる。
 おまけにそいつは死体に寄生できる能力を持っているらしく、現在は銀髪の女の死体を操っている。
 放送で呼ばれた参加者の誰かなんだろうが……この幻想郷縁起にもそれらしい特徴の人物は載っていない。神とか妖怪じゃないのかもな」


フー・ファイターズ……確かプッチから聞いていた参加者の一人。
DISCによる『知性』を与え、プランクトンから進化した新生物だとか。
成るほど、興味はある。霊夢とそのフー・ファイターズとは会ってみたいが……


916 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:43:32 CpkoH4SI0

「ディエゴ。君は承太郎のみ、ここへと連れて来て欲しい。
 やつは私が――必ず潰す。他の二人は……まあ好きにしてくれ」

「簡単に言ってくれるな? 聞けば霊夢とやらは、相当に手練らしいぜ。おまけにもうひとりオレが相手にしろって?」

「人数を言うのなら納得の采配だと思うがね。
 私は1対1。君の方も……2対2で丁度良いだろう?」


そう言ってDIOはその指先をディエゴの隣……八雲紫へと向けた。
もはや意思なき肉食獣をチラリと横目に入れ、ディエゴはやれやれと言わんばかりに首を振る。


「勘違いしないでくれディエゴ。キミが人に使われることが嫌いなのは知っている。
 だからこれは私からの『頼み』さ。それにキミが強いことも知っているよ。
 能力の話ではない。そのどこまでも勝利に固執する貪欲さ……その気持ちひとつで大概の相手には勝てるだろう」


何を根拠に言ってやがる、とディエゴは内心DIOを軽蔑した。
DIOのその全てを見通すような瞳が嫌いだった。
頼みだとは言いつつも、結局は人を使い魔にするその傲慢さが嫌いだった。
人を上から見るようなその余裕が嫌いだった。

だが、的を射ている。
これから三人もの相手を迎撃するのに敵の戦力を分散させるのは基本の戦法だし、時を止めるとかいう厄介な相手をDIOが担ってくれるのなら大喜びで受け入れよう。
それにディエゴ自身、これまでの戦い全てを生き延びてきたのにはひとえに『勝利への貪欲さ』があったからなのだ。
『スティール・ボール・ラン』レース序盤で最初の遺体を奪って以来、幾度も戦いはあった。
それは決して楽なものではなかったが、ディエゴは知恵と経験を駆使し時には運にも助けられ、その全てを生き延びた。

次も同じだ。オレは絶対に負けない。どんな手を使ってでも勝利してやる。

ドス黒い執念を胸に秘め、ディエゴはDIOの『頼み』に頷いた。


「オーケー! お互い殺る気はマンマンというわけだな。
 私もこの肉体にはまだ完全に馴染めているわけではないが……しかし何故かな。
 “全く負ける気がしない”のだよ……ッ! フッフッフッフッフッフ……!」


段々とDIOの機嫌が上り坂へと変化してきたのを境に、ディエゴは何も言わずにくるりと向きを変えた。
ディエゴは奇しくも……DIOと同調していた。
何故かな、今の自分も誰かに負ける気はしない。悪くない気分なのだ。
それは決してDIOにそう言われたからだとか、彼に期待されているからだとかではない。
理由はわからないがしかし、この男と一緒だと誰にも負ける気はしない。

着々だ。『帝王』への座は着々と築かれている。
他の全てを踏み台にして、『奪う者』であるディエゴは少しずつ『上』へと這い寄っていく。
まずは客を迎えるために、その足をエントランスホールへと向けた。


背後では、未だに人外の吸血鬼が気分よく笑っている。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


917 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:46:08 CpkoH4SI0
『空条承太郎』
【午前】C-3 紅魔館 正門前


ハッキリ言って最低最悪の気分だった。
この精神に食い込むかのような圧迫感。
邪悪の権化を目にするかのようなドス黒い感覚。
嫌というほど味わってきたこの感覚をまさか再びこの身に味わうとは。
承太郎は額に垂れる汗を拭きもせず、ポケットの中をまさぐる。
そういえばタバコは無いのだった。それに気付き、代わりに深い息を吐くと共にお決まりの台詞を漏らす。


「やれやれだ……。まさか昨日味わったばかりのこの感覚をまたも味わうとはな……」

体感では24時間も経っていない。承太郎からすればついさっきの出来事であった。

「このイヤ〜〜〜〜な妖気……、承太郎。もしかしてアンタの『お友達』かしら?」

隣の霊夢も紅魔館を見上げながらそんなことを聞いてくる。
表情は平静だが、普段よりも若干声に締まりを感じる。

「ああ、どうやらそのようだぜ。このオーラは間違いねえ。……奴はついさっき倒したばかりなんだがな」

承太郎の目つきが変貌した。
いつだって他を寄せ付けない、孤高のような瞳を持っていた男だが……ここに来てそれはさらに鋭く、熱く変化した。


「……“DIO”だ。奴はこの館に潜んでいる」


100年の仇敵を館に見据え、その足を一歩前に踏み出す。
断ったはずの因縁が、再び承太郎の前に立ちはだかった。
その因縁を前に逃げ出すわけには―――いかない。


「霊夢。そしてF・F。テメーらの意見を聞くぜ。俺はこれからDIOのヤローをもう一度、完膚なきまでに倒す。
 だがテメーらは奴とは何の因果も関係もねえ。ここで待っているのもいいし、何なら逃げ出したって構わねえ。
 俺はテメーらについて来いと『命令』はしねえ。一緒に来てくれと『願い』もしない。
 俺の元々の仲間達は命を懸ける『覚悟』があったが、テメーらにまでその覚悟を強要させるつもりは――っ痛ッ」

長々と語る承太郎の台詞に嫌気が刺したのか、霊夢は不機嫌な顔を作って承太郎の広い背中を蹴った。

「馬鹿、今更なに言ってんのよ。私はそのDIOとやらを倒すためなんかに大切な命を懸けようなんて微塵も思っちゃいないわ。
 でもね承太郎! アンタ『私と勝負する』って約束忘れたとは言わせないわよ!
 その約束を守らせるためなら命なんていくらでも懸けてやろーじゃないのッ!」

全く臆することなく霊夢は足を一歩、ドスンとやや乱暴に前方に踏み出した。
異変解決のエキスパートである霊夢は、いつものように悪者を退治するだけだ。
自分にとっての悪者とは目下のところ、彼女の最終目的を邪魔しかねないDIOという吸血鬼である。

「……やれやれ。どこまでもじゃじゃ馬娘だな、オメーさんは」

「褒め言葉と受け取るわね。生憎吸血鬼ぐらいなら退治の経験はあるわ。
 適当に懲らしめて、レミリアの執事にでも従属させてあげるわ。年中無休の無給でね」

腰に手をあて、偉そうに張り上げる霊夢を見て承太郎は内心、安堵の気持ちもあった。
仲間が居ることの心強さはある。だがそれ以上にここで霊夢が臆するようなことがあれば、それは霊夢ではない。
しかし霊夢ならば必ずそう言うだろう、という奇妙な信頼が承太郎の心には芽生え始めていた。
同時にDIOの執事姿という世にも恐ろしいイメージを思い浮かべ、げんなりする思いと共に軽く笑いが漏れる。

「……何笑ってんのよ? 私、何か変なこと言った?」

「いーや。それでこそお前だな、って思っただけだぜ」

「そ。」

たいして興味無げな返答をし、霊夢は後ろを振り返った。
もうひとりの仲間の言葉を、二人はまだ聞いていない。


918 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:49:15 CpkoH4SI0

「F・F。アンタどうする? 12時まで同行しろとは言ったけど、別に命まで張れとは言わないわ」

「私は………………同行させてもらいますわ。
 『咲夜』の記憶が、怒っている。この紅魔館は私の、そしてお嬢様たち皆の『家』。
 家というのはどんなに離れていても最後には必ず帰り着く、心の寄り添いとなる場所……。
 それを何処の馬の骨とも分からぬ輩が土足でドカドカと上がり込まれたらたまったものじゃないわ。
 お嬢様がお帰りになる前に館を綺麗に『掃除』するのはメイドの仕事よ」

「……咲夜が、そう言ってるの?」

「ええ。それと同時に『F・F』としての私も、霊夢を危険な目に遭わせたくないと思っているわ。
 アナタにはもっと色々教わりたいもの。狭い世界で暮らしていた私に『自由』を与えてくれたアナタから……」

優雅に、しかしどこか『決意』を思わせる身振りでF・Fはその佳麗な足を前に一歩踏み出した。

承太郎と、霊夢と、F・F。
向けるべき眼差しを一点に見据えた三人の肩が、紅魔館の大きな正門に並んだ。
三者の足は既に門の中へと一歩踏み入れている。
今はもう居ない門番の姿を霊夢とF・Fは少しだけ想い、そしてすぐに振り払う。
向くべき場所は過去には無い。前にある。


後戻りは―――するつもりはない。


体調は万全、とまではいかないが、ここに着くまでには既に備えてきた。
承太郎は帽子を深く被り直し、かつてを思い出す。
そう……母を救うため、日本からエジプトまでの長い道のりを行く、あの時の最初の一歩を。
祖父が高らかと叫んだ言葉を、今度は自分が叫ぶ。
性に合わないとは思いつつも、その短い言葉は仲間との決意を高めあうため、勇気となる。

短く息を吸い、肺の底から押し出すように、今は懐かしき台詞を承太郎は響かせる。





                「 行 く ぞ ! 」





一行は悪魔の館へと、突入を開始した。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


919 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:51:01 CpkoH4SI0
玄関扉の重い開放音と共に、館内に光が射した。
紅魔館・エントランスホール。承太郎たちを初めに出迎えたのは、赤を基調とした装飾の大広間だった。
内部には日光が長く伸びてはいるが、その隅々には闇が残る。


「いきなり散らかっているわね……。この戦闘の跡は一体誰が掃除するのかしら?」

まず第一にF・Fが物怖じなく侵入し、広間の状態を軽く嘆いた。
床の窪みや壁の破損。何者かの戦闘の跡だろう。

「散らかした跡なんて散らかした奴に掃除させりゃいいのよ。
 もっとも、私が初めてこの館に来た時も大概に暴れた気がするけど」

F・Fの後に続くように霊夢がいつもの調子で侵入した。
それを呆れるような声で承太郎は後ろから注意する。

「おい……迂闊に中へ飛び込むんじゃねえぜ。DIOの前にスタンド使いが一人や二人いるはずだ」

「大統領が言っていたディエゴって奴? そこら中の闇に紛れて私たちを監視してる恐竜共のボスね」

霊夢がチラと睨んだ部屋の隅の闇に『奴ら』は大量に居た。
ギィギィと小さく甲高い鳴声でこちらを威嚇するように監視している『翼竜』だ。

「さっきからずっと俺達を見てやがる。
 大統領の奴には悪ィが、ディエゴやらとは早速戦うことになりそうだぜ」

「……一応、大統領からディエゴの情報を聞いたってのは内密の話ね。
 彼の立場が悪くなるし、知らぬ存ぜぬを通しましょ」

「にしても、隅っこにわらわらとまるで鼠ね。監視役という意味でも。
 鼠避けの絵とか置物とか、里で売ってたりしないかしら?」

霊夢とF・Fがひたすら足を進める様を見て、承太郎も諦めて内部へ入っていった。
霊夢はともかくF・Fまでこうも恐れ知らずな性格になるのは、やはり元の咲夜の性格が多大に影響しているのだろうか。

ホールの中心にまで足を進めた時、奥の扉から音が響いてきた。
ひとりだ。誰かひとり、こちらまで歩いてきている。


「……出迎えだぜ。引き締めな」


すかさず『スタープラチナ』を出現させ、迎撃の態勢をとる。
霊夢とF・Fも敵を見定め、各々に構えた。



「―――これはこれはお三方。麗しいお嬢さんもおいでで。オレはディエゴ・ブランドー。
 ようこそ紅魔館へ……。ここまでの旅路は辛かったろうに。お前たちを心から持て成すぜ」



現れた男はまだ若く、しかし一目で只者ではないと思わせる眼光を滾らせていた。
乗馬用ヘルメットに金髪。大統領から聞き及んだ『ディエゴ・ブランドー』と見て間違いない。

(コイツがディエゴか……ッ! 成るほど、あのヤローの傲慢なツラにそっくりだぜ)

承太郎はこの男を見て思わず激昂しそうになった。
想像以上にDIOと酷似している。見た瞬間、すぐに殴りかけたぐらいに。


920 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:52:39 CpkoH4SI0


「『ようこそ紅魔館へ』……と言うのはアナタが吐く台詞ではございませんわ。
 この家はレミリア様の居場所。アナタたち野蛮な種族のものではない」


ディエゴの言葉に、まずはF・Fが少々の苛立ちを交えて返答した。
自分の中に眠る『咲夜』の記憶が彼らに対して怒っている。
『家』という概念は本来のF・Fには理解し難いものだが、それ故に理解したい気持ちでもあるのだ。
この咲夜の記憶を通してF・Fは色々なことを学んでみたいと思った。
そして、それを邪魔するディエゴたちは恐らく自分や咲夜にとっての『敵』なのだろうとも思った。

「敵は―――『排除』します」

ナイフを取り出し、いつでも投擲できるよう構える。
咲夜の記憶の見よう見まねだが、何故だか外す気がしない。

「アンタ、私たちをずっと覗いてたでしょ? 気持ち悪いったらありゃしないわ。
 その辺にいるネズミ共、まとめて引っ込めないとひどいわよ」

F・Fに続き、霊夢もディエゴを『敵』と見据える。
それなりに宜しくやっていたレミリアの家が、見ず知らずの男たちに蹂躙されているというのは気分が悪い。
モップの柄という武器は格好がつかないが、それでも霊夢が振舞えば何故かそこそこの絵にはなっている。

「テメーのキザな挨拶なんぞ聞きたかねえぜ。とっととDIOに会わせな」

女性陣(※片やプランクトン)の後に続くはやはりこの男、承太郎。
百戦錬磨のスタンド使いが、目の前の鼻につく男を眼前に睨み倒している。
そんじょそこらの一般人ならそれだけで卒倒しそうな『メンチ切り』だ。

「おっと怖い怖い……。恨まれたもんだなァ、オレもアイツも。
 だがDIOに会いに来たってんなら話は早い。奴さんもお前に会いたがっていたぜ、承太郎。
 オレはそれを邪魔するつもりはないし……行きなよ。案内ならコイツがやってくれるさ」

そう笑い飛ばしたディエゴの腕に1匹の小さな翼竜が飛んできた。
DIOの居る場所への『案内役』というわけだろうか。その翼竜に攻撃の意思は見えない。


「―――ただし、行くのは『承太郎』だけだ。お嬢さん方二人はここでオレと談笑でもしながら待つ……ってのはどうだい?」


そう来るだろうな、と承太郎は思った。
ただの『出迎え役』としてこのディエゴが姿を現したわけではない。
現に、コイツは『殺気』を隠そうともしていない。今、ここで『殺る気』になっている。

「それもいいけど……もっと素敵な別の方法を私から提案してあげるわね」

「ほお。是非、お聞かせ願おうか」

「『今ここで三人がかりでアンタをボコボコにしてDIOに会いに行く』……ってのはどうかしら?」

何の思い迷いもなく、霊夢は言ってのけた。
3対1だとか、そんな些細なことなど考えない。今はとにかく、目の前にある障害をひとつずつ蹴り壊していくのみを考える。

ある種堂々とした姿の彼女を、しかしディエゴは動揺ひとつせずクックッと笑う。


921 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:53:31 CpkoH4SI0

「……面白い。面白い女じゃあないか博麗霊夢。
 成るほど、幻想郷随一の力を持つ巫女というのは伊達じゃあなさそうだ。
 あの『八雲紫』とかいう腑抜けた妖怪とは一味違うな」



――――――ピクリ。



霊夢の眉が、その言葉に反応してつりあがった。
続く言葉は、重みと迫力を一層供えて吐き出す。

「……誰とは違うって?」

「八雲だよ、『八雲紫』。あのスキマ妖怪とかのことさ。ケッサクだったぜ?
 幻想郷の賢者と呼ばれ、強大な力を振るう大妖怪の八雲サマが、無様に地を這い尻振って逃げ出そうとする姿はなァ……。
 一撃だ。たったの一撃であの女は紙切れみたいに吹き飛んだよ。クックック……ッ!」



    ガ キ ィ イ イ ン ッ ! !



霊夢による瞬速の攻撃がディエゴを襲った。
隣に居た承太郎ですら反応に遅れたほどに疾い、怒りの一撃。
だがディエゴはそれを容易く受け止める。所詮は棒切れによるもの。重い一撃にはならなかった。

「随分行儀の悪い女だ。巫女ってのはもう少し穏やかでないと務まらないものだと思っていたが」

「最近の巫女はアンタが思うほど綺麗なモンじゃないのよ。
 それより聞き捨てならない台詞をぬかしてたわね。……紫はどこ?」

霊夢の持つ棒がギリギリとディエゴの鋭い爪を震わせる。

だが―――そこまで。
所詮人間の少女である霊夢の腕力が、大の男であるディエゴの腕力に敵う道理は無い。


「霊夢! 迂闊に近寄るんじゃねえッ! そいつの『能力』を俺たちはまだ知らねえッ!」


先走った霊夢を戒めるように承太郎は叫ぶ。
能力を『知らない』とは嘘だ。既に大統領から事細かく聞いている。
しかしそれをディエゴにわざわざ悟らせることもない。
相手のことを何も知らないという体で戦えば奴は油断をする“かもしれない”。言うだけならタダという奴だ。


922 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:53:58 CpkoH4SI0


「霊夢、そこをどきなさい! いくわよ『F・F弾』ッ!!」


言うが否や、F・Fの指がトリガー状に変形し、得意のF・F弾をディエゴ目掛けて撃ち込むッ!
けたたましい銃声と共に4発の弾が霊夢の脇を掠め、ディエゴに―――


「―――遅すぎる。眠っていても避けられそうだぜ」


命中しなかった。
ディエゴはただ首を左右に振っただけでF・F弾を全て難なく回避する。

「くっ……!? この男、速いッ!」

これが『恐竜の能力』か。
自身の身体能力を近接パワー型と同等のパワー・スピードまで飛躍させる能力。

しかし『パワー・スピード』での世界なら、この男の独壇場。


「いくぜ……『スタープラチナ ザ・ワール――――――!?」


時を止め、すかさずラッシュを叩き込もうとする……その瞬間にディエゴは『消えた』。
いや、消えたのではない。『跳んだ』ッ!

「流石に時を止められては厄介なんでな。承太郎……お前と戦うのはオレじゃない」

スタープラチナの目だけが追っていけたディエゴの背中は、承太郎らよりも10メートル先に居た。
助走なしでの跳躍でこれほどの距離を一瞬にして跳んだ相手に承太郎は汗をかく。
時を止める能力も案の定知られているようだ。それ故に奴は承太郎を『最警戒』している。
簡単に射的距離内に入って来ることはしないだろう。

「霊夢と……F・Fだっけか? お前らはオレが遊んでやる。
 こっちへ来いよ。八雲紫にも会わせてやる。まだ死んじゃあいないぜ」

「待ちなさいディエゴ! アンタは私が絶対にブッ飛ばすッ!」

ディエゴは振り向きながら挑発し、現れた扉とは別の扉まで突っ走った。
それを怒りの表情で追い叫ぶ霊夢。

「待て霊夢! 罠だ! 行くんじゃねえッ!」

承太郎は静止するも既に霊夢はディエゴの後を追い、遠く離れている。
敵は確実にこちら側の分断を狙っている。相手がディエゴ一人とも限らない。

「承太郎! 霊夢は私が! アナタはDIOをッ!」

その霊夢の後をF・Fは早くも追っていた。
どうする……? 彼女たちに任せるか。
敵がこちらを分断させるということは、逆に言えば敵も分断するということだ。
ここでディエゴを放っておき、DIOとの戦闘中にハサミ討ちの形にされる方がよっぽどマズイ。

なにより……

「……どーしても俺だけは追わせたくねえらしいな、奴は」

霊夢とF・Fが追っていったその扉を阻むかのように、今までこちらを見ているだけだった翼竜の群が行く手を阻んできたのだ。
この数を全部相手にするのでは時間と体力の浪費。
それならば……


「DIOのとこまで案内してもらおうか……。奴は俺がもう一度灰にしてやる……!」


ディエゴの放った『案内役』の翼竜が、闇に誘うように奥の扉を進んでいった。
承太郎は最後にもう一度霊夢たちの進んだ方向を見やり、すぐに『敵』の居る『地下』へと視線を向ける。


一段にジリジリと焼けるような首のアザが、その先にいる『邪悪』をこれ以上なく示していた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


923 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:55:32 CpkoH4SI0
『博麗霊夢』
【午前】C-3 紅魔館 廊下


(懐かしい光景だわね……)


ディエゴの背中を追い、紅魔館の紅い廊下を爆走しながら霊夢は過去に耽る。
あれはいつだったか……そう、確かいつだかの睦月に起こった異変。
後に『紅霧異変』と名付けられたその異変は霊夢にとって初めての大きな異変解決。
故に思い入れも深い……と思いきや、たいして良い思い出なんか無かったりする。

あの時は今と違って、空を飛びながら長〜〜〜〜い廊下を突き進んでいったものだ。
本来ならこの紅魔館、十六夜咲夜の能力によって空間を弄られ拡張されている。
その咲夜も居ない今、中国の万里の長城を思わせる程に長かった廊下は元々の館が持つ寸法までに戻っているのだろう。


(後ろで付いて来るアイツは……咲夜じゃないのよね)


霊夢後方で同じく猛然と走るF・Fをチラと振り返り、胸がキュッと締め付けられる。
その麗しい銀髪と華奢な身体つきはまごうことなく咲夜のものだ。
紅魔館の空間拡大を維持させていた張本人の身体であるが、それは単にF・Fが借りているだけの器に過ぎない。

レミリアが見たら、やはり怒るだろうか。
かつて戦ったフー・ファイターズという敵が今では共に戦ってくれる仲間。
そんな使い古された少年漫画の王道のような展開が、霊夢は好きではない。
そもそも彼女自身、仲間などというぬる臭い関係を必要としない人間。
人間にも妖怪にも興味は然程示さず、誰に対しても必要以上に一歩踏み込まない『平等』な性格だった。
承太郎に対しても『いずれブッ飛ばして勝つッ!!』くらいの自己満足的な認識しかしていない……筈だった。


(その筈なのに……どーして私は今もこうしてアイツを『心配』してるのかしらねぇ)


いわゆる一種の『つり橋効果』という奴なのだろうか。
共に危機的状況に陥ったことで、『信頼』……みたいなものが生まれてきている。
F・Fの中の咲夜が言ったように、私は『丸くなってきている』のかもしれない。

心に栄え始めた僅かな『温かみ』を意識しながら、霊夢はそんなことを思った。
まあ……承太郎なら大丈夫でしょ、という軽い気持ちで吐き捨てて。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


924 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:56:08 CpkoH4SI0


「ここは……ホールね。何度かレミリアのパーティでもお世話になったっけ」


敵を追って辿り着いた空間は、これまた紅をふんだんにあしらった内装の大部屋。
過去に開催されたパーティでも多用された舞台付きのイベントホールだ。

「ここでひと暴れしようってことね。でもいいの?
 広い場所ならアンタより私の方が地の利はあるわ」

「なに、オレも実際、博麗霊夢の実力って奴を知りたくてね。それに『弾幕』ってのは美しく広がってこそ趣があるモンなんだろ?
 幻想郷の麗しいレディーに合わせた会場を用意させてもらったのさ。不服かい?」

ここまで何ひとつ攻撃の素振りを見せずに逃げ続けたディエゴがホールの舞台の上に飛び乗り、両手を広げて見せた。
既に勝った気でいるのか、それとも高揚して『ハイ』になっているのか。

その余裕っぷりが、気に入らない。

「あんまりモタモタしてられないし、二人がかりで攻撃させてもらうわよ。
 こっちが勝ったら紫の居場所を教えてもらうからね」

「くれぐれも館を散らかさないで欲しいわね霊夢。
 モップ持って来るんなら棒の部分だけじゃなくて先端の繊維の方も持ってきて欲しかったわ」

後から追いついたF・Fも霊夢の横に並んだ。
二人はそれぞれモップの棒と数本のナイフという、ややバランスの偏った得物だ。
対するディエゴは無手。しかしその無手の中に眠る十の爪は、見た目通りの鋭さがあるのだろう。
接近戦では先ほどの焼き増しにしかならないのかもしれない。だが幻想の民にはもうひとつ、頼もしい手段がある。

「外の住民であるアンタにも分かりやすいよう、『弾幕勝負』ってのを特別に体感させてあげるわ。
 それとF・F、アンタは弾幕張れるの? いくら咲夜の記憶があるとはいえ、それを咲夜そのものの実技にまで模倣するってのは……」

「……難しい、かもしれないわね。ぶっつけ本番の弾幕勝負は」

「でしょうね。アンタは無理せず、『F・F弾』で援護して。私が奴を仕留める」

「おーい、弾幕を見せてくれるんなら早く見せて欲しいんだがな。それともこっちからいくか?」

ディエゴが嘲笑い、腕を組みながら催促してくる。
それを合図とし、霊夢はいつもやるような弾幕ごっこを開始―――しかけたその時。


「これがアンタの『弾幕』ってわけ? あまり生き物を粗暴に扱うものじゃないわ」


ホールの隅の闇に紛れる翼竜! 翼竜!! 翼竜!!!
ムクドリの大群にも見えたその翼竜たちの塊は、彼らの紅い皮膚色も相まってまるで『紅霧』。
皮肉にもこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットがかつて巻き起こした『紅霧異変』の霧にも似たそれは、ディエゴが繰り出した無数の下僕。
部屋の端から端まで覆いつくされたその紅い弾幕は、霊夢目掛けて変幻自在にうねりながら飛んでくるッ!

だが集合性の高い彼ら生きた弾幕は、霊夢にとって絶好の的。
一匹の大蛇のように巨大な群れを形成しながら飛来するその弾幕は、あっけなく穴を穿たれて形状を崩す。

「避けるだけが弾幕ごっこじゃないってね。そこらを飛ぶ鴨を射る方がよっぽど難しいわよ?」

霊夢は左腕を前方に突き出し、いつもの弾幕を発射しただけ。
今までに幾百幾千幾万と放ってきた、己を象徴ともする光輝。
それと同じ数だけの妖怪や妖精、時には神様だって撃ち落してきた弾幕はもはや彼女の身体の一部が如く躍る。
たとえ暴れ馬の上からでも目標物の中心を正確無比に射抜く流鏑馬の達人。


つまるところ―――博麗霊夢の真髄は、敵を削ぎ他者を欺く殺し合いではなく、やはり『弾幕戦』でこそ光る。
幻想郷の土壌において、彼女のスタイルは全く持って『無敵』なのだ。


925 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:57:14 CpkoH4SI0


「勝負の種目を違えたんじゃない? 私に弾幕で挑もうなんざ、チルノが目隠しでLunaticモードに挑戦するようなもんよ」


自信を明け広げるでもなく、淡々と平静に霊夢は言い放つ。
その間にもディエゴの操る翼竜は縦横無尽に霊夢へ迫るが、それらの軌道を読むように躍り、回避し、撃つ。
数々起こった異変の全てを解決してきた霊夢にとって、その行動は息をするように慣れ親しんだ運動。
才気溢れ、卓越した技術に裏打ちされた彼女の一手一手が少しずつ……少しずつディエゴの駒を撃ち落としていった。

当然ディエゴも考え無しに翼竜を使役しているのではない。
生きる弾幕の『司令塔』である彼はその名が示すとおり、常に戦況を読んで命令を施している。
滅多矢鱈ではない、最小限の犠牲と動きで目の前の強敵二人を攻めているのだ。
こちらとて翼竜の数は無限ではない。充分すぎるほどに配下はいるが、このままではいずれ『燃料切れ』にもなりかねない。


「F・F弾ッ!!」


叫び、霊夢の弾幕よりも遥かに高速の弾幕を撃つのは『謎の銀髪メイド』。
彼女もまたディエゴの攻撃を避け続け、霊夢の陰から銃弾を絶え間なく撃ち込んでくる。
恐竜化したディエゴにとってその程度の銃弾を見極めるのはわけないが、それにしても鬱陶しい。

(あのメイド……『人間』じゃあない。
 偵察した恐竜共の情報によれば『フー・ファイターズ』とかいう生き物が死体に取り憑いているのだという)

『スタンド』とも『プランクトン』とも違う、全く新しい生物。
水を使っての分身だとか、相手を操る能力だとか、未だなお未知数の相手。
その『未知数』という部分が、ディエゴの意識に僅かだが『警戒』を与えていた。

―――霊夢の弾幕とF・Fの銃弾の同時攻撃を、跳躍で回避する。

(オレとしちゃあ『接近戦』の方が断然得意分野。そもそも翼竜による突撃自体、大した攻撃能力も無い。
 『感染化』させるのはオレ自身が奴らに傷を付けないと不可能。だが―――!)

相手は流石に最強の巫女だけはある。ディエゴのスピードでも全く近づけないのだ。
撃ち出された弾幕の軌道は経験からの『先読み』か、はたまた単純な『勘』か。
とにかくディエゴの『読み』を常に一手上回った軌道で、正確にこちらの動き出す道のりを邪魔してくる。
おまけに相手は二人。迂闊に近寄って掴まえられでもしたらもう一方に攻撃される。

―――霊夢の投擲した霊力の札を、翼竜の盾で防ぐ。

仮に霊夢相手の接近戦ならば自信はある。
先ほども組み合ったが、単純なパワーとスピードなら『あの時』列車で戦った大統領のD4Cの方がよほど恐ろしい。
かの博麗の巫女といえど、取っ組み合いの喧嘩になれば近接型スタンドの領域には届かないだろう。
しかしあのF・F……奴は別だ。接近して負ける気はしないが、敵のスタンド能力……その『未知数』という部分が行動を躊躇させる。
最初に大統領と戦った時も、敵の未知なる能力が故に一度は敗北した。敵スタンドの『情報』が全く無かったからだ。

―――霊力弾の陰に隠れたF・F弾を、翻って回避。



弾幕ごっこにおいて、幻想郷の住民それぞれの名だたる強者は自信ありげにこう語った。

――『弾幕はパワーだぜ』。
成るほど。スタンドバトルでも肉弾戦となった時、攻撃・防御の両面において頼りになるのは結局『パワー』だ。

――『弾幕はブレイン。常識よ』
これも真理だ。スタンドバトルとはそもそも、初撃を仕掛ける前に勝てる状況と過程を作っておくというのが前提の『頭脳戦』なのだから。

――『弾幕なんて勘ひとつあれば充分じゃない』
実は勘というのは馬鹿にならない。最後に戦いの命運を分けるのが“勘”……言い換えるなら『運』だったというのはよくある話だ。


弾幕ごっこに言える事柄は、同時にスタンドバトルに言える部分もある。
弾幕ごっこでの最重要項なんてものはディエゴの知ったことではないが、少なくともスタンドバトルにおいての最重要項は熟知している。
それはひとえに『情報』の有無。これに尽きるとディエゴは言い切れる。

スタンド戦で最も重要なのは『情報』なのだ、と。


926 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:59:13 CpkoH4SI0
初めに大統領と戦った時はハッキリ言って手も足も出なかった。
相手の能力があまりにも未知数であり、王族護衛官ウェカピポの犠牲で何とか生還できたほどだ。
『情報』が無かった故にディエゴは、D4Cとは『パワー』が互角であるにもかかわらず窮地に陥った。
自身の身体が千切れ飛ぶ中、死ぬ思いで『頭脳』を駆使し、『運良く』近くに居たジョニィ・ジョースターを引き寄せることが出来た。
あの時は本当に危なかった。『パワー』も『頭脳』も『勘』も、安心をもたらす『情報』という武器には勝らないとディエゴは考える。
そしてその後に戦った大統領との『二戦目』は、敵スタンド能力の『情報』があったが故に対策も備えられ、結果かなり健闘できた。

いや、健闘どころかあのまま戦っていたら勝利していたはずなのだ。
最後の最後、大統領に『トドメ』を加えようと列車から飛び出した―――瞬間に、このゲームに呼ばれたというのは運命の悪戯か。


話が脱線したが……だからこそディエゴはこのゲーム全体の『情報』を掌中とし、操作せんと翼竜を放っていた。
ディエゴは弾幕ごっこなどをやっているつもりは微塵だって無い。
SBRレースでも散々やってきたスタンドバトル……広義でいう『殺し合い』をやっているのだ。
ルールという枠組みの中で行う女の子のお遊びである弾幕ごっことは一線を画す、本物本気の命の取り合い。
そういった意味では、あの霊夢よりもF・Fとかいう生き物の方が厄介だ。

確かに霊夢の才能や技には素晴らしいものがある。まったく完全無敵かもしれない。
しかし恐らく、彼女には『殺し』の経験が殆ど無いのだろう。
妖怪退治を生業にしていても、ルールのある幻想郷に住む限りでは鍛えようがない『殺しの覚悟』。
このバトルロワイヤルを生き抜くのに必要なその『素養』が、霊夢には足りてない。圧倒的に。


だから―――

だからこそ―――



「まずはッ!! キサマだッ!!! 博麗霊夢ッッ!!!!」



跳んだ。
ディエゴは、霊夢とF・Fの攻撃が止んだ一瞬の間を狙い、磨いておいた爪と牙を光らせて疾走した。
部屋に放っておいた大量の翼竜をもディエゴの両周り前方へと集結させ、肉の壁を形成。
迎え撃つ霊夢たちの弾幕を全て翼竜で受け流し、受け止めての全力疾走。

一撃だ。
ディエゴはこの一撃に賭けた。
盾にした下僕の壁はその殆どを剥がされ、敵へと到達する頃には既に数えられる程度の数となっていた。

無茶無謀の、一撃。
もしこれを外せば、敗北が決定するであろう一撃……!


ターゲットは――――――ッ!


「―――ダンスの相手は、私でいいのね? 恐竜人間さん」

「SYYAAAAAAHHーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!」


927 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 02:59:57 CpkoH4SI0
霊夢の正中線上を掻っ捌かんとする、目にも止まらぬ豪速。
多くの翼竜の犠牲によって一度だけ生まれた接近の隙は、全てを切り裂かんとする暴竜の慈悲無き爪で清算される。

対する霊夢は弾幕を撃ち直す時間もない。
目の前には古代の帝王。ひび割れた皮膚から覗く尖った牙。
その腕から振り下ろされる凶器は、日本刀のように研ぎ澄まされた白の鉤爪。
こちらに残された選択肢は、近接戦のみ。
あの凶悪な爪を受けきれる武器はあるのか。

モップの柄。話にならない。

ナイフ……は、F・Fに全て渡している。

アヌビス神の鞘。これが一番マトモそうに思える。


「―――全部、いらない。ダンスってのは優しく相手の手を取るものよ」


しかし霊夢の選んだ選択はその全てを躊躇いなく捨てたッ!
こともあろうに、あのディエゴ相手の全力攻撃を、素手という腕二本で受け止めようとしたのだッ!



       ――― ス パ ァ !! ―――



結果は予想に反することなく、無残に落ちてきた。
ディエゴの両爪による一閃は、空気と共にそのまま霊夢の両手首に線を走らせた。
その線もすぐに上下に乖離され、博麗霊夢は―――ニタリとした笑みと共に“バラバラになった”。

「―――ッ!? なに、ィ……ッ!? これは……霊夢の体が、『紙』に……ッ!?」

あまりに手応えのない感覚に驚く暇もなく、ディエゴの目の前に立っていた霊夢は一瞬にして『人型の紙』へと変化した。


―――博麗霊夢の『刹那亜空穴』。


それは無論ただの紙ではなく、札で作った霊夢の『身代わり』。
攻撃を受けると同時にバラバラになった幾重ものお札が、変わり身の術よろしく霊夢への攻撃の肩代わりとなったのだ。
そして、それは『防御』と同時に『攻撃』にも転じるッ!
人型となった大量の札は、空振りして隙を生んだディエゴの体全体へと覆い、炸裂するッ!

「う、おおおおおおおおおおおぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

絶叫にも似た、咆哮。
すかさず両腕を前面へと回し込み、ガードへと移る。
気休め程度の防御態勢だが、これだけの札による当身技。まともに受けるわけにはいかない。


「『チェックメイド』よ、ディエゴ」


悪魔の犬が囁く、冷ややかな呟き。
防御態勢をとるディエゴの背後から、その声は聞こえた。
F・Fが一本のナイフを手に取り、背を狙っていた。

前門からは霊夢の刹那亜空穴。
後門からはF・Fのナイフ。
チェスでいう詰み(チェックメイト)の状態。

完全に予測された連携だった。
霊夢たちはディエゴが必ず接近してくると読み、事前にこの罠を仕掛けていたのだ。
翼竜をデイパックから呼び出すには時間が掛かる。肉の壁はもう使えない。
いかな恐竜の動体視力でもナイフだけならともかく、この距離この数の札は避けようもない。


―――チェックメイト。
霊夢という少女は、ディエゴの行動までとっくに予測していたのだろう。
これが博麗霊夢の天変を予測する『勘』なのだろう。
彼女の望む結果を導き出す、未来を予測する能力なのだろう。


だとすれば。
だとすれば。





「――――――全てオレの予定調和だな。博麗の巫女サマ?」





「――――――なんですって?」


928 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 03:01:15 CpkoH4SI0
技を放ったはずの霊夢の方が、困惑した。
前面に回した防御の腕の隙間から覗かれた、相手の不敵な笑みと白い牙は。
ディエゴが最後に見せたその表情の意味するところは。
確かに聞いた呟きは、負け惜しみの一種では、なく。


    ド ッ パ パ パ パ パ パ パ ア ア ア ア ァ ァ ン ッ !!!!


音が舞った。
霊夢の霊撃が炸裂したような音が。
花火が咲いたような気持ちの良い音が。
ディエゴの防御の上から断続的に流れ、そのまま惰性に従って吹き飛ばされてゆく。

霊夢の放った刹那亜空穴は、確実にディエゴを襲ってダメージを与えたのだ。


そして―――F・Fが放つ筈のナイフは、いつまで経ってもディエゴの背中を貫かなかった。



「な――――――に………?」



代わりに聞こえたのは、F・Fの呻く声。
代わりに見えた光景は、F・Fの首が紅く裂かれる瞬間。

かつてアヌビス神に切り落とされた咲夜の首が、再び裂け目を入れられた。


「グ…………ぷ……っ」


紅い線が、F・Fの……咲夜の身体に、もう一度大きな裂傷となって加えられた。

バシャリ、と。
その赤黒い血液が霊夢の頬に飛び散る。

(なん、で―――)

ガクリ、と。
糸が切れた人形のようにF・Fの膝が崩れ落ちた。

(なんで、『この事態』を、予測できなかった……!)

ガシャアァン、と。
前面部への強い衝撃を喰らったディエゴが、吹き飛んで転がった。

(少し考えれば、『他の存在』が居る可能性を予測できたはずじゃない……!)

ギョロリ、と。
陰からF・Fの隙を突き、首を掻っ切った『ソイツ』がこちらを睨んだ。

(私の……ミスで……?)

グルルル、と。
獰猛に唸る『ソイツ』が、今度はこちらをターゲットに変えた。


霊夢はここへ来た時の承太郎の台詞を、走馬灯のように思い出していた。


『―――おい……迂闊に中へ飛び込むんじゃねえぜ。DIOの前にスタンド使いが一人や二人いるはずだ』


敵がディエゴ“ひとりだけ”とは限らない。どうしてもっと早くに気付かなかったのか。
もうひとり……いや、“もう一匹”、居た。

つい先ほど大統領から聞いていたはずだ。ディエゴ・ブランドーの『スケアリー・モンスターズ』について。
他の生物を『恐竜化』させ、支配下に置くことができる。
普通に考えれば、ディエゴが既に誰か参加者を恐竜化させて傍に置いている可能性に行き着いていたはずじゃないのか。
何故その考えに至らなかった。

ディエゴの嘲笑が脳裏に蘇る。


『―――八雲だよ、『八雲紫』。あのスキマ妖怪とかのことさ。ケッサクだったぜ?
 幻想郷の賢者と呼ばれ、強大な力を振るう大妖怪の八雲サマが、無様に地を這い尻振って逃げ出そうとする姿はなァ……。
 一撃だ。たったの一撃であの女は紙切れみたいに吹き飛んだよ。クックック……ッ!』


思えばその言葉を聞いた時から霊夢は怒り、焦っていたのかもしれない。
その挑発にいてもたってもいられず、勝負の先が見えていなかったのかもしれない。


だからこそ、目の前でF・Fの首を切り裂いた『ソイツ』の存在に気付けなかった。


929 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 03:02:12 CpkoH4SI0

「ク……ッ! 強力、だな……! 今のは、効いたぜ……!
 だが一手上をいったのはやはりオレだ。まずはお前を潰すとは言ったが……ありゃウソさ。
 そっちのメイドがちょこまか邪魔だったんでね、そいつからやることにした」

霊撃を喰らって吹き飛んだディエゴが、首を押さえながらよろよろと立ち上がる。

「オレの最後の一撃は……失敗するだろうと踏んでの攻撃だった。
 お前らに攻撃の『チャンス』を与えるための攻撃だったんだ。
 人は勝利の目前が『最も油断しやすい』。そこのメイドがオレに攻撃する瞬間、確かに隙が生まれた。
 予め部屋の隅に保護色で『擬態化』させておいたペットにそこを狙わせた」

霊夢の目の前に居るその『恐竜』は、他の小さな翼竜と違って格段に『凶暴』だった。
そいつこそが、F・Fの隙を突いて攻撃した張本人……もとい張本“獣”だったのだ。
保護色で一向に目立たなかった皮膚が、元の体色へと移り戻っていく。
その鉤爪から、ベッタリと鮮血が滴り落ちる。


「そっちのメイドさんはダンスの相手が足りなかったようだからな、オレの気遣いで用意しといたぜ。
 ……なあ、霊夢。どんな闘いにおいてもカードの『切り方』ってのは、色々あるんだが……

 ―――ここぞという時までに温存するほど、効果はあるんだぜッ!!」


ディエゴが再び霊夢を刈り取らんと駆け、同時に恐竜も飛び掛っていくッ!

「状況は逆転して……『2対1』だなァ霊夢ッ!! もっとも今度はこっちが2人だがなッ!!!」

霊夢は傍で倒れるF・Fを横目で見やる。
ドクドクと首から溢れ出す多量出血。首筋を切られたが、完全に両断はされていない。

次に目の前の敵を見据えた。
左右両方向から迫ってくる敵。そのどちらから迎え撃つか……?


―――決まっている。弾幕で負傷した『ディエゴ本体』だ。


襲い来る敵を前に霊夢はその足を一歩後ずさり―――しない。


「ひるむ……! と 思ってんの……? これしきの事でッ!!!」


博麗霊夢は屈しない。
後ろは……過去へは、振り向くだけ。決して後戻りなどしない。

「アンタを潰せばッ!! こっちの『オオトカゲ』だって無効化できるッ!!」

だから彼女は前へと走ったッ!
立ちはだかる障害を、全て蹴り壊していくためにッ!

ディエゴは立ち上がり、駆ける素振りを見せてはいるが……それは本当に『素振りだけ』だ。
防御したとはいえ至近距離であれほどの霊撃を受けたのだ。本来、しばらく立ち上がることさえ難しいダメージのはず。
あれは立ってるフリさせているだけの格好。その両手両足はすぐにファイトできる状態ではない。


―――ならば霊夢の意思はッ! 勝利への『路』を飛ぶのみッ!


「ディエゴォォォオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!」


恐竜を無視し、ディエゴへと一直線に跳ぶッ! 飛ぶッ!





「――――――言ったはずだぜ? 全てオレの『予定調和』だってなァ?」




   パチン




ディエゴが再び不敵に笑い、指を鳴らした。


「スケアリー・モンスターズ……………解除」


930 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 03:04:20 CpkoH4SI0


その音と共に、ディエゴの操っていた恐竜が支配の呪いから放たれた。
霊夢に迫っていた恐竜は一瞬で元の形を取り戻し、『人型』へと収縮していき―――




「霊夢っ!!助けっ―――」




霊夢の良く知る大妖怪・八雲紫の姿へと逆行した。

支配から逃れた彼女は、友人への『救い』を第一声とした。



「――――――ゆか、り?」



―――霊夢の足が、止まる。



ガシィ! と。

隙だらけの霊夢の首を、ディエゴが掴み上げた。


「『カードの切り方は、ここぞという時まで温存する』……。
 これも言ったはずだな? 切り札は最後までとっておけ、ということだ」

「グ…………ッ! か、ハァ…………ッ!?」


霊夢の軽い体重が、宙に浮く。
ディエゴの状態は……確かに戦闘を続行できるほどではなかった。
このまま霊夢の首をへし折るほどのパワーは残っていない。
しかし、その必要はない。この男が再び『スケアリー・モンスターズ』を発動させれば、それで終わり。
発動条件は……相手に傷を付けるか、こうやって直に触れること。ただのそれだけだ。

「う……あ、ぁ…………っ!」

ピキピキと、霊夢の皮膚がひび割れていく。恐竜化の兆候だ。
その過程をディエゴは楽しむかのように見上げて望んでいる。
口の端から覗く白い牙が、霊夢には悪魔に見えた。

「お、前……! ディエゴッ! やめな、さい……やめて……っ」

DIOから受けた傷が未だ深いのか、紫は懇願し、地を這いながらディエゴへと腕を伸ばそうとしている。
血の垂れたその顔をディエゴは面白そうに見下し、顎の下から蹴り飛ばした。

「幻想郷の賢者がオレに頼みごとか? 実に貴重な体験だが……
 そうだな……、『幻想郷を丸ごとオレに寄越してくれる』ってんならこの手を離してやってもいいぜ」

「………………………ッ!!」

何も出来ない。
紫は、何も出来なかった。
いい様に操られ、抵抗ひとつ叶わず、果てには咲夜をもその手に掛けてしまった。
放送で呼ばれた咲夜が何故ここに居るのかとか、そんな疑問すら吹き飛んだ。

身体が、動かない。
弾幕ひとつ、飛ばせない。
霊夢を、助けられない。

ズィー・ズィーの時と同じなのか。
また、誰かを救えずに嘆くことしか出来ないのか。
霊夢は……、せめて霊夢だけでも、助けないと……ッ!
本当に、幻想郷は完全に崩壊してしまうッ!


八雲紫はこの時、心の底から悔しがった。立つことすら出来ない自分に本気で嫌悪した。


931 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 03:05:38 CpkoH4SI0


そしてそんな友人の這い蹲る姿を眼下に見下ろす霊夢。


(なん……て、情けないカオ……してん、のよ…………アンタは)


意識がディエゴに喰われゆく中、霊夢もまた紫と同調する気持ちだった。

身体が、動かない。
弾幕ひとつ、飛ばせない。
紫を、助けられない。

そこで倒れてる奴は、何故ああも消え入りそうな顔をしている?
今までに見たことのないような、悲しみと、無念と、喪失感が混ざった表情じゃない。
どうしたのよ、紫。
アンタ、強いんでしょ? 最強の妖怪なんでしょ?
八雲紫ともあろう大妖怪が、誰かに助けを求めるな。私を助けようとするな。そんな目で私を見るな。
F・Fのことはアンタが気にする事じゃない。悪いのはこの男よ。

私は太田の操り人形として支配され、そして咲夜を結果的には殺してしまったわ。
だから、アンタまで同じ道を辿って欲しくない。
誰かの意志で無理やり人の命を奪わされるなんて……私だけで十分よ。


「幻想郷の巫女と賢者の二人をペットにするってのもオツなもんだな。お前はもう終わりだ、霊夢」


耳から脳へと嫌味な声が入り込んでくる。
意識が、飛ぶ―――!
コイツに、身も心も支配、されてしまう―――!

重い。重すぎる。
また、なの?
咲夜の命を奪った私に、またこの仕打ち?
誰かに支配されるなんてのはもうまっぴらだと、誓ったばかりじゃない……!
命を奪った事実からは、決して逃げない。
その気持ちがどんなに重くとも、私は全て『背負う』と決めたから……ッ!

私はもう、誰にも屈しないッ!
『空を飛べ』ッ! 博麗霊夢ッ!
全部背負って、自分に勝てッ!!



「―――空を飛ぶ、程度の……能力…………」



小さく、儚く、彼女の口から漏れたのは―――たったそれだけの一言。


932 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―  ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 03:08:04 CpkoH4SI0



「――――――ん?」



既に顔面の殆どの皮膚がひび割れ、長い尾が飛び出し、牙と爪が生え揃った『半恐竜人間』。
そんな死に体の霊夢の口から漏れた言葉の意味を、ディエゴが思考する余裕は―――なかった。



     ス パ ッ !



動かないはずの霊夢の左腕が。
鋭い爪を携えた霊夢の左腕が。


「ウガッ―――!?」


ディエゴの右目を一閃した。


(クッ……!? 何だコイツ……オレのスケアリー・モンスターズの支配に抵抗しやがった……!)


思わず霊夢の首を放してしまい、右目を押さえる。
深くはないが、その攻撃は何よりディエゴのプライドを傷付けた。

「フ、フフ……。イタチの……最後っ屁、ってやつ、よ…………」

重力を足に感じ着地した霊夢は、ディエゴに負けないほどに不敵に笑った。
既に力が入らない膝を左手で押さえながら、次に霊夢が示したポーズは―――


「―――アンタは……『くたばれ』」


中指を立てるジェスチャー。
ディエゴの国では、撃たれる覚悟のある人間が向ける仕草だった。


(今の私では……ここまでが限界、ね。……情けないわ。
 でも、これでいい。私はもう、絶対誰にも屈しない。操られない)


挑発を受けたディエゴが、ゆっくり歩いてくる。
どうやらかなり、『キテる』ようだ。ザマァみなさいと、霊夢は内心ほくそ笑む。
こいつは紫にあんな顔をさせた。あんなことを言わせた。その罪は重い。
まだまだ、こんな切り傷じゃあ物足りない。

―――だけど、もう。



(―――ゴメン、紫。F・F。……承太郎。…………私、ここまでみたい)



ディエゴの腕がその頭上に振りかざされる。
男は静かに……だが怒りに満ちたように霊夢と対峙した。


「やって、くれたな……ッ! たかがカスの、小娘ごときが……ッ! だがやはりお前は“甘い”ぞ。
 最後の最後で感情を捨てきれなかった。オレなら例え母親が盾にされようが、躊躇なく引き裂いていたぜ……ッ!」




              「こ ん な フ ウ に ッ ! ! !」





――――――霊夢の体が……深く、残酷に切り裂かれた。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


933 : ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 03:11:42 CpkoH4SI0
これで前半は終了です。後半は本日中に……投下してみせるッ!

大丈夫かとは思いますがスレが足りなかった時のことを考えて新スレを建てられればお願いします。


934 : 名無しさん :2015/05/25(月) 04:03:15 yrDMOhUw0
投下乙
後半、ドキドキしながら読んだ
正直不安しかない、それでも希望を信じたい
みんな死なないでくれ…


935 : 名無しさん :2015/05/25(月) 07:58:00 PHAqimzE0
凄くドキドキして続きが気になる(小学生並みの感想)


936 : 名無しさん :2015/05/25(月) 10:05:13 Wdu36I9o0
うぉおお、すごいハラハラする
後半が待ちきれないぜ


937 : ◆qSXL3X4ics :2015/05/25(月) 21:40:03 CpkoH4SI0
すみません結局間に合いませんでしたほんっとうにごめんなさい…!
でも本編は終わって後は推敲だけなので完成次第すぐに投下します。
申し訳ないです…


938 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 12:58:53 82SUI4g20
大変お待たせしました。これより後半投下します。
色々と遅れてしまい、大変申し訳御座いません。

投下の前に補足。wiki収録時には
>>916までを「紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その①」
>>917からを「〜その②」
の分割でお願いします


939 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:02:02 82SUI4g20
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『空条承太郎』
【午前】C-3 紅魔館 地下の大図書館


翼竜に案内されたその空間は、巨大な蔵書部屋……所謂『図書館』のような場所だった。
地下へ地下へと階段を下った先に、日光などひとつとして届かない。
しかし完全なる『闇』というわけでもない。点々と灯された照明器具が、承太郎の足元を照らしている。

環境。戦闘は充分すぎるほどに『可能』。広さも申し分ナシ。かび臭さと埃っぽさは多少気になるが、戦闘に影響もナシ。
装備。頼りになるミニ八卦路は直接触れているとマズイようなので紙に入れている。問題ナシ。
体調。霊夢やF・Fとの戦闘による負傷や疲労はあったが、この館に来るまでには既に万全にしている。問題ナシ。
懸念。敵はDIOひとりとは限らない。霊夢たちがディエゴを抑えているので奴の乱入は考えにくいが、警戒は必要。

歩みを止め、前方を鋭く見据える。そこは図書館のおよそ中心部。
長テーブルに高く積み上げられた本の山々が、視界を多少悪くしている。

その本の山の隙間で、何かが微かに動いた。

冷たい感覚が、一層研ぎ澄まされる。




「知っているか? この幻想郷には……いや、“元”の世界の幻想郷と言ったほうが正しいか。
 『博麗大結界』なる、常識と非常識の結界が張られているそうだ。
 百数十年前に張られたそれは博麗の巫女と八雲紫、及びその眷属が代々管理している、とか」


落ち着いた、しかし癇に障る声が静かに響いた。
ああ……本当に最低最悪の気分だ。承太郎は心の中で唾を吐く。
50日という遥か長い旅路の末に、3人という戦友の犠牲あって死ぬ思いで倒したはずの。
承太郎の感覚ではつい数時間前に粉々にしたばかりのはずの。


―――吸血鬼DIOの声だった。


「外の世界に住む我々が『科学の文化』を持っているのに対し、幻想郷では『精神・魔法の文化』が発達しているようだ。
 この互いに決して相容れない、全く対極にある文化が故に……常識は常識足りえ、非常識は非常識足りえる境界が存在する」

反吐が出るほどに憎らしい相手の声を聞くことの、何と『無駄』なことか。
しかし承太郎は決してそれ以上DIOに近づかない。
周りの気配は目の前の男ひとり。この部屋に居る者は自分とDIOの2名のみだ。

「一般の論で言えば……我々が持つスタンドは本来『幻想』にあるべき産物なのだろうな。
 となれば、スタンド使いは幻想郷に住まう資格を有し、またこの世界のバランスを著しく傾けたりはしないのだろう。
 そうでなくとも私は吸血鬼。幻想郷に跋扈する妖怪どもとどこが違うのか? きっと本質は同じなのかもな……」

エジプトで対峙した時のような迫力や傲慢さは今のコイツからは感じられない。
むしろ真逆。実に優雅で紳士的な態度が見て取れた。

「何が言いてえ」

しかし承太郎は男が被る仮面に騙されない。
コイツの本性などとうに知れているし、ひと皮剥がせば簡単にその攻撃性が露わになるだろう。
かくして承太郎はここで初めて男との『会話』を成立させた。
幻想郷の由来や今昔になどさして興味はない。今、自分の心にあるのは―――


「俺はもう一度てめえを倒しに来ただけだ。殺し合いだとか、幻想郷がどうのだとかは関係ねえぜ。
 てめえが妖怪たちと同じ本質だと? 面白い冗談だぜ。“元”人間の吸血鬼気取りが」


闘争。
すなわち今の承太郎にはそれしかない。
この男には100年も前から大勢の人間があらゆる物を貸していた。
幾里もの果て、エジプトでDIOを倒しそれらは取り返したものだと思ったが……。


940 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:03:38 82SUI4g20

「フフ……クックック………ッ! “元”人間……そのとおりだ。
 この紅魔館の主レミリア・スカーレットやらとは違い、私には払拭できない『人間』としての過去がある。
 100年前、石仮面により吸血鬼となったが……根本を言えば私と、そしてお前も人間なのだ。どれだけ強かろうがな」

ガタリと椅子を動かす音と共に、男は本を閉じて立ち上がった。
一挙一挙が絵になるような優雅さ。だが承太郎からすればその全てが苛立ちを覚えさせる。
嫌味なほどに“黄”をてらった服に、黄金の髪。この薄暗い部屋でも目立つなりをしている。
男はこちらを向くことなく横顔のまま、その余裕を崩さずに語りを続けた。

「幻想郷縁起という書物によれば、ここ幻想郷にはそんな“元”人間は案外珍しくないらしい。
 亡霊の姫として幽霊の管理をする者。仙人に憧れるも成り損ないの邪仙に堕ちた者。
 天界に住まうことを許された天人くずれの者。大昔に人間をやめた大魔法使いの尼僧である者。
 ……どうだ? 彼女らに比べればこの私の方がよっぽど『常識的』だと思わないか?」

言いながら男はコツコツとゆっくり音を立てながら、テーブルを大きく回りこんでくる。
承太郎はそれを細い目つきでじっと凝視しながら構え、しかし会話を絶やすことはしない。

「俺はてめえと世間話をしに来たワケじゃねえ。
 それに人間をやめてから今まで多くの命を奪ってきたてめえが常識的だとは全く思わねえぜ」

「……幻想郷にはひとつ、『妖怪は人間を襲うもの』『人間は妖怪を退治するもの』という規律があるそうだ。
 いやそれは規律というよりかは、それこそ『常識』であるらしいのだがね。
 そしてもうひとつ。『外の世界から迷い込んだ人間を、妖怪は喰ってもいい』という規律もあるらしい。
 さて、承太郎? さっきも言ったように私は吸血鬼でありスタンド使い。非常識世界である幻想郷に生きる『資格』はあると思うんだ。
 そんな私が“もし”幻想郷に来たとしたら……『喰われる側』かね? それとも……『喰う側』になると思うかね?
 『襲う側』か? はたまた『退治する側』か? 私は『人間』か? 『妖怪』か?
 首から上は元の『吸血鬼』だが、ボディはかつて戦った男のもの……『人間』だ。その『境界線』はどこにある? この首のキズかね?」

長々と、だが決して早口にはせず。男はゆったりとその疑問を承太郎にぶつけてきた。
会話でも楽しんでいるつもりなのか。ここは街角カフェの一席ではない。殺し合いという名の広大な円卓だというのに。

彼が丁度言い終える頃には足も止め、いつの間にか男と承太郎を結ぶ直線距離は10メートル。間を遮る物は何もない。


―――二人の男が、決闘者のように視線を交えた。


「……てめえが吸血鬼だろうが妖怪だろうが関係ねえ。だが敢えて、てめえの言い分で言わせてもらうなら……
 てめえはこれから『裁かれる側』で、俺が『裁く側』だということだッ!」


承太郎が眼光を光らせ、『スタープラチナ』を発現させるッ!


「わかりやすいな承太郎ッ! だがひとつ訂正させてもらうならッ!
 オレが『上に立つ側』でありッ! キサマはオレに蟻のごとく『踏み潰される側』だということよッ!!!」


空気が震った。吹くはずのない風が鳴いた。
これまでの紳士な態度も一変。とうとうDIOがその本性を剥き出しにしたッ!
同時に現われた『ザ・ワールド』が、両者の間に激しい火花を打ち散らかすッ!


941 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:04:52 82SUI4g20
今にも激闘が繰り広げられそうなピリピリした空気の中、数瞬の間が流れる……!
その“間”に、DIOは再び落ち着いた――しかし深淵のような殺気の声で口を開いた。

「オレがさっきから何を言いたいかというと、だ。……承太郎ォ?
 ジャパンという黄金の国は実に面白いなァ〜〜? お前もこの国に住んでいるのなら少しは愛着ぐらいあるのだろう?
 オレ自身、この幻想郷も結構気に入っているぞ。空気も美味いし、その名を示すとおり幻想的な世界だ」

今度は承太郎、返答はしない。
ただただ敵との間合いを見測り、射程距離ギリギリの境界に立つ。

「だが、この幻想郷のルールという危ういバランスには大いに疑問を抱いている。こんなシステムがあと何十年続く?
 現にここでは、幾度となく幻想郷を揺るがした異変が起こり続けているという。オレからすれば穴だらけの欠陥システムよ。
 だったらいっそ……一度壊してしまえば良いのだ。そう、幻想郷の住民を全て滅ぼすことのように。
 丁度―――このバトルロワイヤルという殺戮遊戯の行いのように」

しかしいつにも増して喋る野郎だ、と承太郎は思う。
まるで幻想郷博士だ。そんなにこの世界が気に入ったというのか。

「『もしも』この幻想郷の万物を創りだした神がいるとして……やはりその神もこの世界のシステムには疑問を感じたのではないか?
 だからバトルロワイヤルを開催したのか? あるいは―――あの主催どもがその万物の神なのかもしれんなァ?」

DIOが横歩きに移動すると同時に、承太郎もそれに伴って歩く。
互いに視線は外さず、スタンドの構えは解かず。
決して必要以上に近づかず、離れ過ぎず。
近距離スタンド同士の応酬では『間合い』が大事だ。このDIOに対しては特に。

「神がそれを望むというなら……このDIOも加担してやらんでもない。
 ……『皆殺し』という形でな。もっとも、オレにはオレで『別の目的』は存在するが」

もう一度DIOは足を止め、再び膠着状態が始まった。

焦らすような溜めの後、DIOはペロリとその妖艶な唇を舐め―――牙を見せて一言だけ放った。



「賢者の一角『八雲紫』は既にこのオレの掌中に落ちた。『博麗霊夢』もすぐにディエゴが刈り取ってくれるだろう」



          ―――ピクリ―――



承太郎の眉が一瞬だけ僅かにつりあがり、反応を示した。
その際を狙ったかのように、DIOがここで初めて前へと動き出すッ!


(時を止められる―――!)


直感的に承太郎は感知した。
その息詰まる一瞬の狭間で、考えを流動的に巡らせる。

DIOは果たして“どこまで知っている”?
目の前の男はこの空条承太郎の『能力』について知っているのか、知らないのか。
つまりは承太郎がかつてDIOとの一騎打ちの結果、土壇場で『時間停止能力』をモノにした事実をだ。

もしもDIOが、承太郎のスタープラチナは時を止められることを知らないとしたら、戦いは途端に承太郎有利の展開になる。
時を止めてハイテンションになったDIOがノコノコ近づいて来たところを、時止め返しで逆にブッ飛ばしてやればいいだけだ。
しかし承太郎が時間を止められることをDIOが『知っていた』としたら……?

可能性は幾つも考えられる。
DIOはディエゴと組んでいる。会場中の情報を掌握しているであろうディエゴから承太郎の能力の片鱗でも聞いた可能性。
承太郎の能力を知っている他の参加者と既に接触し、間接的に聞いた可能性。
DIOが『呼ばれた』時間軸が、承太郎が時止めを取得した後だという可能性。

―――考えても答えは出せない問いだ。ならば承太郎のやることはシンプル。


(DIOが何を策していようと……俺が止められる『2秒』という時間の中でスタープラチナをブチかますだけだ)


942 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:05:33 82SUI4g20


そしてDIOの唇が、その名を呟いた―――



             『 世 界 ―― ザ ・ ワ ー ル ド ―― 』



ピキン。



無音の世界で、鉄糸が切れたような音が錯覚した。
瞬間、拡がる『DIOの世界』。
静止したように冷たかった図書館が、完全に停止する。
動く者はDIOのみ。承太郎は―――停止したままDIOを迎える。

(まだだ……まだ時を止め返すな。ヤローがもっと近づかねえと意味がねえ)

獲物を狙う獅子のように。
草葉の陰で潜む蛇のように。
承太郎は、勝利を確信できる『最高の瞬間』を狙って、あえて動かない。
敵の喉笛は……まだ遠い。


「聞こえているのだろう? なあ承太郎」


鬱陶しい声がこの世界に響くその間、承太郎にはDIOの走りがスローモーションのように見えた。

「狸寝入りの真似事はよせ……。お前が止まった世界で動けることは知っている。
 果たして『何秒』動けるんだ? 2秒か? 3秒か? まさか5秒も動けないよなあ……?」

エジプトの時と似たようなこと聞きやがって……。
承太郎は表情には出さずとも、心で毒づく。
だが、そんなことを聞いてくるということはつまり、DIOは知らないのか? ……俺が何秒動けるのかを!

「もしお前が長い時間を動けるのなら……お前という男を侮ってうっかり近づきすぎるのは賢い者のすることではない」

まさか……と、承太郎は予感する。
DIOが足を止めた。まだスタープラチナの射程距離外だ。
そして奴がニタリとこれ以上なく傲岸に、楽しそうに笑い、懐から取り出した『ソレ』は―――


「そこで承太郎! きさまが何秒動けようと関係のない処刑を思いついた……」


ズラァーと手の中に収められた『ソレ』は、銀色に輝くナイフ。おそらく厨房かどこかで失敬した物だろう。
かつて行われたその悪どさ極まるやり方を、まさかいきなり使ってくるとは思わなかった。
意表を突かれた、という思いは拭いきれない。

「逃れられるならやってみろッ! 喰らえィッ!!!」

ザ・ワールド――『世界』から繰り広げられた、無数の雨あられ。
銀色の五月雨のように承太郎に降り注ぐナイフの全てが、その目前で取り囲むようにピタリと止まった。

(『動いて』弾き落とすか……!? いや、この数は……ッ!

いくら止まった時の中で動けようと、すでにDIOの術中。全てのナイフを振り払うまでには至らないだろう。
あの時のようにマンガ雑誌を制服に仕込むことなどしていない。
かつて霊夢が咲夜に対抗した時はまな板を使ったものだが、それを承太郎は知らない。

「ん〜〜? 動かないのか承太郎? それとも実は動けないの か な ?
 すぐに動いてナイフを振り落とさないと、アイアン・メイデンもビックリの悲惨な蜂の巣になるぞ?」


(迷っている暇は……ねえようだなッ!)


承太郎の選択は―――


943 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:06:31 82SUI4g20


「………時間だ。『ゼロ秒』! 時は動き出す」


無音だった世界が、爆発するように一斉に動き出した。
無数のナイフが空気を裂く音を醸し出し、そして―――


             「―――スタープラチナ ザ・ワールド」


再び静止する、無音の世界。
承太郎を串刺しにするはずのナイフが、またも宙に止まる。





――――――――――





「―――むっ?」


再び止まった時が、三度動き出す。
承太郎が居た位置には既に誰も居なく、空いた空間をナイフが虚しく通り過ぎるだけだった。
DIOが視線を横にずらすと、そこに承太郎は居た。ほんの数メートル横に移動しただけだ。

初撃は、かわせた。


「…………フフフフ。ハァーーーッハッハッハッハァーーーッ!!!
 なるほどなぁ承太郎! 今のでよく分かったよ。ククク……そうかそうか。お前が止められる時間はその程度か」


DIOの攻撃は失敗した。
そのはずだというのに、この男の大笑いのワケは。
いや、DIOの目論みはまんまと成功したッ!


「『2秒』! お前の止められる時間は2秒といったところかな!?
 もしもそれ以上止められるというのなら、お前は時間停止切れのオレを追撃するためにもっと近寄ってきているはずだからなぁ!」


まさしくDIOの言った通りだった。
彼は……やはり承太郎が時を止められることを知っていた!
その停止時間を測るために、初撃から得意技を披露しておいて、あえて近づき過ぎなかったのだ。
承太郎が時を止め返すことを読み、その射程距離ギリギリまで近づいた。
そして承太郎が攻撃してくるかこないかの距離を測り、時止めの『持ち時間』を逆算した。

「フフフ……間違いない。この距離でお前がオレに突っ込んでこなかったということは、お前が止められる時間は2秒!
 この数字が値千金! たった数秒差だが、このDIOに遥か及ばない絶望的な差だ!」

承太郎は戦慄する。
やはりコイツは俺の能力を知っていた……どころか、まんまとその停止時間まで探られてしまった。
『3秒』あれば、コイツに接近出来ていただろう。
『4秒』あれば、少なくとも拳は届いていただろう。
『5秒』あれば、すかさずラッシュの速さ比べまで持ち運べただろう。
しかし『2秒』……接近してもぎりぎりカウンターで返される、絶妙に惜しい時間。
DIOはそこまで計算して立ち回りを考えている。ムカつくが、本当に利発な奴だ。

汗が頬を伝い、床に垂れる。


944 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:07:26 82SUI4g20

「動揺しているな承太郎? 図星といったところか。
 だが……だがな承太郎。オレは嬉しそうに見えて―――はらわたが煮え繰り返しそうに怒っている……ッ!」

様子が一変。
何がDIOの堪忍袋に影響を与えたのか、いきなり青筋を浮き彫りにし始めた。

「今こうしてキサマの能力を実感して、改めて許せない気持ちだ……ッ!
 ジョースターの血族ごときが我が『時の世界』に入門するどころか、自在に世界を『支配』するまでに至りッ!!
 よりによって我が唯一無二のスタンドの名までキサマの能力名に組み込むとはッ!!
 『スタープラチナ ザ・ワールド』だとォ……? 吐き気がするッッ!!! その名を使うのはオレひとりで十分ッ!!」

「何に怒り出したかと思えばくだらねえ……。コイツは俺のスタンドが到達した新しい境地だ。
 なにもてめえだけが時を支配できるわけじゃねえ。俺にもその『素質』があったってだけの話だぜ。
 『ザ・ワールド』を冠する名がひとつだけだってんなら丁度いい―――。

 ――――――てめえが消えりゃあ、時を『支配』するのは俺だけになる」


今度は承太郎がニタリと笑み、挑発する。
彼にとって、時を支配するだとかの独占欲や帝王論などどうだっていい。
挑発することで憎きDIOが激昂する、その姿が見れればおもしれえ。それだけだ。
そして激情という感情は精神に隙を生み出し、攻撃のチャンスを作ってくれる。
かつてDIOが祖父ジョセフの血を吸い、わかりやすいほどに自分を挑発してきた時のように。
それに逆上し、状況を悪化させてしまった時のように。

今度は承太郎がDIOを挑発した。


「……ときに承太郎よ。この幻想郷に話に戻るが、どうやらここの住民にも『時間に干渉できる』能力の持ち主が何人かいるらしい。
 まったく世界は広いと思わないか? オレやお前だけではなく、『他にも』いるのだという。……戯けたことだが」

その言葉を聞いて承太郎は、名も聞けなかった『女中風の女』の姿をそっと思い出し……今ではF・Fと呼ばれるその者と霊夢の安否を少しだけ心配した。
だが今は目の前の敵を潰すことだけを考える。
承太郎の挑発が効いたのか効いてないのか。DIOは声の中に怒りを匂わせてはいたが、あからさまに剥き出しにするまではいかなかった。

「そんな奴らもこのゲームに参加しているならば……お前も、そいつらもすぐに潰してやる……!
 帝王は常にひとりッ! 取るに足らない存在ばかりよッ!」

「……ああ、もういい。口を閉じな。
 てめえの逆恨みにもならねえ論理はこれ以上聞きたかねえ。
 霊夢たちが待ってるんでな、そろそろ仕舞いにさせてもらうぜ」



轟、という風切り音と共に駆けたのは―――DIOッ!



「口を閉じるはキサマの方よ承太郎ッ! キサマの停止時間は既に知れたッ! もう警戒の必要はない……!
 直接ッ! この『世界』の拳で骨肉まで微塵にしてくれるわァーーーーッ!!!」

やはりなのか、挑発は無事効いているようだ。
結局の所は承太郎もDIOも、一番の武器はその『拳』ッ!
だが承太郎は拳をブチ込むための『一手』をまず打った!

さっきDIOから乱れ撃ちにされたナイフの内の一本、空中でちゃっかり掴み取っておいたそれを―――

「オラアッ!!」

下手投げで思い切りブン投げたッ!

一直線に投げられたそれを、向かってくるDIOは首を動かしただけで他愛なく回避する。
ナイフはその軌道のままDIOの後方を飛び、虚しく闇に消え去った。

「そんな小手先でこのDIOを脅かせるかッ! さあ、スタンド射程範囲内だぞッ!! 時は止めないのか承太郎!?」

まだ止めない。必要ない。その手には乗らない。
時間停止能力者同士が戦った場合、時止めとは基本的に後出しが有利なのだ。
もし先に止めてしまったなら、その分時止めの『持ち時間』を減らしてしまう。
そこを相手に時止め返しされた場合、持ち時間が少ないほど不利に陥ってしまうのは言うまでもない。
無論、両者の時を止められる時間に差がある場合はその限りではない。


945 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:08:37 82SUI4g20

「オラアァッ!!」

「無駄ァッ!」

鉄の塊同士が衝突したような、鈍く重い音。
星の白金――スタープラチナと、世界――ザ・ワールドの拳がぶつかった。

「凄まじいパワーだな、『星の白金』! だが時を止めるまでもなく、キサマのスタンドはこのDIOの『格下』だッ!」

「…………!! ほお、そうかい。だったら―――こんなのはどうだ?」

拳と拳が密着され、両者の振動が互いに感じられる距離で承太郎は笑う。
その視線の先……DIOの後方上部に、動く気配。収束するエネルギー。

「遠慮なくアイテムを使わせてもらうぜ。『ミニ八卦路』だ……!」

「ムッ!?」

その小さな気配を察知し、振り返ったDIOの目に映った小型の浮遊物体。
承太郎の支給品『ミニ八卦路』が燃え上がる炎を噴き出した!

「SPW財団の資料やじじいから見聞きした話によれば、てめえは俺のひいおじいちゃん……ジョナサン・ジョースターに『三度』敗北しているらしいな。
 そしてその三度とも全てが『炎』に塗れてやられたとか。だったらこの支給品はてめえにとって『悪運の炎』になるわけだ」


DIOの脳裏に蘇る忌まわしい記憶。
最初は焼えあがるジョースター邸。慈愛の女神像に貫かれ、焼け苦しんだ。
次にウインドナイツ・ロットでの館。宿敵ジョナサンの持つLUCK&PLUCKの剣に炎を纏わされ、気化冷凍法を破られた。
最後は沈みゆく豪華客船。結果こそ痛み分けであったが、船の爆炎に巻き込まれその後100年間を海底で眠る屈辱を味わった。

DIOが『氷』――アイスとするなら、彼にとって確かに『炎』――ファイアーは過去に越えられなかった壁。
その忌むべき炎に……またしてもやられるわけには―――


「―――いくものかァァァァアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」


             『 世 界 ―― ザ ・ ワ ー ル ド ―― !!! 』


DIOが、承太郎より『先』に時を止めた。

背後には大津波が如く襲い来る炎の壁。当然、後退など有り得ない。
前方には……承太郎がいつの間にか距離をとっていた! DIOが振り向いている隙に大きく離れたのだ!

「この『世界』の時止め時間を少しでも削る考えか? なまっちょろい考えだぞッ!
 策を弄すれば弄するほど、人間には限界があるッ! それを今からその身に叩き込んでやろうッ!」


―――1秒経過ッ!


DIOが承太郎に向けて疾走するッ!
ナイフはもう無い。己の……『世界』の拳のみが敵を打ち崩すッ!


―――2秒経過ッ!


『世界』の拳が承太郎に迫るッ!
止まっていた承太郎の時間は―――その機を狙って動き出すッ!


             『 星 の 白 金 ―― ス タ ー プ ラ チ ナ ―― !!! 』


承太郎の狙いは最初からたったひとつ。

―――DIOが何を策していようと……己が止められる『2秒』という時間の中でスタープラチナをブチかますッ!!

ここから始まる2秒間で全てのケリをつけてやる。
承太郎は最大全力のスタンドパワーを『星の白金』の両拳に込めたッ!!


946 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:14:39 82SUI4g20


―――3秒経過ッ!


二人が一斉に大きく動き出した。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!!」


分子レベルで駆け巡る破壊衝動。疾風怒濤。無秩序の豪撃。
より早く、速く、疾く―――!
より重く、強く、深く―――!
打てるコースを刹那に見切り、乱撃のスキマを潜り抜けて流星の拳を繰り出す。
飛び掛かる敵の拳を正確無比に防ぎ、致命を直前回避――グレイズ――する。
その様は無限なる弾幕の如し。ただし、幻想少女たちがやるごっこ遊びといった生易しい遊戯ではない。
本気の殺し合い。魂と魂がぶつかり合う、真の『闘い』。
千を越えるほどの火花散る、さながら星雲状態の空間。しかし両者の心に燃えるものはたった一つのシンプルな思い。


―――『コイツに勝つ』ッ!!


瞬く間に展開する激しいラッシュの連打! 連打!! 連打!!! 連打!!!!! 連打!!!!! 
両者一歩も退かず、極限まで時間を濃縮した1秒が終了する……!


―――4秒経過ッ!


DIOが時を止めて4秒が経過した頃、承太郎の心に小さな『違和感』が芽吹き始める。
エジプト・カイロで散々撃ち合った相手だ。その間合いも、拳の速さ重さも、打撃の癖すらも感覚で覚えている。
『あの時』と『今』のDIO……そのスタンド『世界』も、どこか『違う』……!


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!」


拭いきれない『違和感』はすぐに『不安』にまで開花し、承太郎の額に嫌な汗を流した。

―――重い。そして、速い。

DIOのスタンドはこれほどまでに強烈であっただろうか……?
確かに『世界』は超強力。スタンドパラメータひとつとっても文句の付けようのない、まったく恐ろしいスタンドだ。
しかし曲がりなりにも承太郎の『星の白金』は、その『世界』にすらも打ち勝った最強のスタンド。


―――押され、ている………ッ!?


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!!!」


最強の『星の白金』が、徐々に『世界』の拳に押され始めた。


(こ、こいつ……ッ! エジプトの時よりも………『強く』なっている……ッ!?)


不安は承太郎の心を茨のように取り巻き、確信に至る。
DIOのスタンドは以前戦ったときよりもパワーが『重い』。スピードが『速い』。


947 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:15:29 82SUI4g20


―――5秒経過ッ!


DIOがこのバトルロワイヤルに参加した時点で、『世界』が止められる時の限界は『5秒』だった。
そして承太郎の『星の白金』が止められる、または止まった時の中を動ける時間は『2秒』だった。
DIOが時を止めてから『3秒』が経過した時点で承太郎は大きく動き始め、拳のラッシュを展開。

そして今……『5秒』が経過し、二人の時止め終了時間が偶然重なった。
いや、偶然などではない。承太郎はDIOと自分の時止めが同時に終わるよう、調整して最初に距離をとった。
連続で時間は止められない。ここからは互いに動き出した時の中で、引き続きラッシュの撃ち合いを続けるのだ。
しかし時間が動き出すということはDIOの背後に設置した『ミニ八卦路』が文字通り、DIOに火を噴くということ。
全身粉砕か、火達磨か。DIOが辿る道はその二つのどちらか、あるいは両方ッ!

そして今、時は動き――――――


「まだまだまだまだァァッ!!! 第2ラウンドだァァァアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!」


―――出さない。止まったままだ。


(DIO……ッ! こいつ、やはり間違いないッ! 『成長』してやがる……! 時止めの『持続時間』が……5秒よりも長いッ!!)


計算が外れた。DIOの『世界』は5秒以上に時を止められた。
『DIOの世界』で、承太郎はこれ以上動けない。置いていかれる―――!


「終わりだァ承太郎ッ!!」


―――『成長』。

しかしそれを言うなら承太郎の『星の白金』も成長し、時の世界に入門したことだってある。
スタンドとは精神の具現。
本人の思いひとつで強くも弱くもなるのなら―――!


「――――――オラァァアアッ!!!!」


『止まった世界』の中で、『世界』の拳を『星の白金』は弾いた。


「いくぜオイッ!!」


承太郎もこの土壇場で成長する。時止めの持続時間が延びたのだ。
それはなにより目の前の『邪悪』を打ち倒さんとするため。
『勝つ』ための成長ッ!


「流石だな承太郎! キサマならきっと『動いてくる』と思っていたぞッ!! それでこそ殺し甲斐があるというものッ!!!」


―――6秒経過ッ!


自分の成長がどこまで時止め持続時間を延ばしてくれたのかはわからない。
だが、1秒でも早く! 決着はつけるッ! DIOにラッシュを叩き込むッ!!

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!!!」


―――が……!

(何故だ……! こっちは完全に全力のスタンドパワーを出してんだぜ……! だが、今のコイツは……ッ!)


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ…………ッ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!!!」


DIOが時を止めてから6秒が経ち、ここで完全に『優劣』が付いた。
『星の白金』が競り負ける。
空条承太郎が、敗北する……!


948 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:16:15 82SUI4g20
一撃。
承太郎は初めて『世界』の打撃を受ける。
『星の白金』でさえ、見切れなかった一撃。

二撃。
ひとたびダメージを受ければ、次に襲い掛かる拳の群も防げない。
右肩に破壊的な衝撃。木の折れるような、鈍い音が自分の中に響く。

四撃。
間髪入れず刺してくる圧倒的なパワー。
もはや全く衝撃を受け流せない。

八撃。
意識が―――飛ぶ。
今まで自分が殴り飛ばしてきた敵スタンド使いは、皆このような重苦を味わってきたのだろうな、というあられない思いまでが浮かぶ。

十六撃。
完全に防御する腕が止まった。
『世界』の拳全てをその身に喰らいながら承太郎はふと、先ほどのDIOの台詞を思い出していた。


―――『賢者の一角『八雲紫』は既にこのオレの掌中に落ちた。『博麗霊夢』もすぐにディエゴが刈り取ってくれるだろう』


三十二撃。
機関銃の乱射でも受けたと錯覚するような、骨の隅々が粉砕された苦痛を味わいながら、承太郎は自身の『敗因』を悟った。

(そういやあ……霊夢の奴がチラッと言っていたな。『八雲紫』とかいう大妖怪の存在を…………)

走馬灯のように過ぎ去るその記憶は、承太郎にひとつの『推測』を与えた。
DIOは……既に八雲紫に会い―――恐らくその血でも吸ったのではないか、と。

吸血鬼のDIOにとって人間の血など、どれだけ吸ったところで精々身体を馴染ませるための『栄養分』。
その身をパワーアップにまで至らせるには、『ジョースターの血』でも吸わなければ為されない。

だが―――例えば『大妖怪』の血など吸えばどうなるか。
予想は……難くないだろう。実際に今、身を以って体験している。
合点がいった。『世界』の拳が前の時より速く、重くなっているその理由。
時止め静止時間が延びた、その理由。


―――DIOは間違いなく八雲紫の血を吸って力を上げている。


承太郎が最後に真実に辿り着いた時には既に『敗北』の後。
もはや立つことも困難。自分は―――敗けてしまったのだ。
正真正銘、真正面から戦い、真正面から敗けた。
スポーツの試合であればむしろスッと清清しくもなるだろう。だがコイツ相手には……屈辱しか感じない。


(―――悪ィ、霊夢。F・F。……じじい。花京院。ポルナレフ。…………俺は、コイツに敗北した)

(―――だが、)


949 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:17:00 82SUI4g20


―――7秒経過ッ!


「勝ったッ! 死ねィッ!」


勝ち誇ったDIOがトドメの一撃を入れようと迫り―――



     ス パ ッ !



敗北したはずの承太郎と『星の白金』の右腕が。
ボロボロである承太郎と『星の白金』の右腕が。


「ウガッ―――!?」


勝利を確信し、ほんの僅かに油断したDIOの左目を一閃した。


「フ、フフ……。流星指刺(スターフィンガー)……! イタチの……最後っ屁、ってやつ、だぜ…………」


三十二撃の拳を喰らっても、承太郎は倒れない。
『星の白金』の指先に力を一点集中。瞬間的に伸縮させるその技が承太郎にとっての最後の技になった。
今ので力尽き果てた。もう、動けない。

それでも承太郎は倒れない。

「……100年前、ジョースター家を乗っ取ろうと画策した時も……、
 俺のひいおじいちゃん『ジョナサン・ジョースター』と3度に渡って戦った時も……、エジプトで俺達と戦った時も……」

それでも承太郎は不敵な笑みを絶やさない。

「……てめえの計画は過去、一度として、成功した試しなんざねーんだよ……!」

それでも承太郎の心は砕けない。

「……今回の『ゲーム』も……DIO! てめえという『悪』は…………俺たちに……敗けるぜ」

フラフラの身体で、最後に目の前の男に示したポーズは―――


「―――てめえは……『くたばりやがれ』」


手の甲を相手に向け、人差し指と中指を立てるジェスチャー。
いわゆるVサインを裏返すこの仕草は『Fuck off』。最上級に悪いスラングである。
DIOの国では、撃たれる覚悟のある人間が向ける仕草だった。

左目を縦に切り裂かれたDIOは怒りで瞼を痙攣させるも、すぐに取り直す。
そして動けずに膝を支える承太郎の背後にツカツカと回り込み―――

「俺“たち”……だと? フンッ! 他のジョースターの血統共のことか? まさかあの霊夢とかいう巫女のことではないだろうな?
 なんにせよ、みっともない負け台詞だったなァ……!」

DIOが承太郎の首をガッと掴む。
195センチの体格を軽々と持ち上げ、目の前にある―――火を噴いたままで止まった『ミニ八卦路』へと突き出した。

「キサマの敗因は『情報』……その思い込みだ。『思い込む』ということは何よりも『恐ろしい』ことなのだよ。
 我が友から聞いていたぞ。非情に腹立たしいことだが、キサマがエジプトにてこのオレを討ち倒したという未来を。
 一度戦ったのだから、ラッシュの対決では絶対に『負けることはない』……そう“思い込んでいた”。
 このDIOが大妖怪の力を吸っていた可能性など露にも考慮せずにな……だから敗けたのだ。
 スタンド戦において『情報』とは特に重要な要素……キサマならよく分かっているだろう?」

DIOはプッチ神父からエジプトでの承太郎との戦いの瑣末を聞き、承太郎はその経験から『今度も負けない』という自信があった。
その思い込みをDIOは利用し、ラッシュ対決に持ち込んだ。
二人が二人共、『自分が勝つ』という強い自信を持っていた。―――結果、勝利者はDIO。


「これで『8秒』経過だ……ッ! まさかキサマが止めた時の中を『5秒』も動けるとは……驚いたな。
 その大健闘を称え……キサマは『火炙りの刑』だ。『悪運の炎』とはキサマのことだったなッ!」


―――8秒経過。



             『――― そして時は動き出す ―――』





――――――承太郎の全身が、残酷に焼き尽くされた。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


950 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:18:54 82SUI4g20
『ディエゴ・ブランドー』
【午前】C-3 紅魔館 廊下


紅い廊下に点々と形作られてゆく、赤い染み。
再び恐竜化された八雲紫の背に運ばれる、博麗霊夢とF・Fの身体から滴る血だった。
ドシドシという重い足音と共に無感情に歩く肉食獣を連れ歩きながらディエゴは耽る。

博麗霊夢についての記述は多少ながらこの世界の本で触れている。
幻想郷でも有名な妖怪退治の巫女。物心ついた時から修行を積み、『博麗の巫女』として生きてきた。
そんな彼女が生まれ持っていたのは『天性の才能』。巫女として充分すぎるほど、有能な力を持っていた。
大した努力もなく、与えられた役目を担い、全ての異変を解決してきた。

―――そう、博麗霊夢は『天才』だった。間違いなく。

対するディエゴはというと、イギリス競馬界において『異例の天才』という肩書きは持っていたものの、その過程は霊夢とは随分違っている。
生まれた時から下層階級での貧困家庭。傲慢で最低だった父親の行方はわからず、母親の一途な愛のみで育ってきた。
その母も若くして社会に殺された。そんな社会の奴らに復讐すべく、ディエゴは憎悪にまみえる『奪う側』に回った。
ディエゴには何も無かった。生きるために必要な『金』も『地位』も『名誉』も、全て他人から奪ってきた。
目的のためなら何だってやってきた。それが自分にとって『必要』だと考えていたからだ。

そんな『持たざる者』だったディエゴが、『持つ者』である霊夢を憎らしく思うのは彼からすれば当然の思考。
博麗霊夢のような、最初から全てを持ち、周りから持て囃される『甘ったるい天才』が大ッ嫌いだった。
だからその全てを『奪って』やりたかった。

奪って、這い蹲らせて、その命すらも奪う『侵略者』ディエゴ・ブランドー。
男は、ドブ川の中から這い上がるような執念で『勝利』をもぎ取った。
博麗霊夢はその執念に敗北したのだ。


「クソ……ッ! 右目が……! 最後の最後で油断した……!」


裂かれた右目を押さえ、恨めしげに霊夢を睨む。
今すぐに八つ裂きにしてやりたい気持ちはあったが、そうはいかない。
DIOから霊夢の肉体の回収を頼まれている。蹴ってやりたい頼みだったが、何故だか「まあいいか」という気持ちになった。
どうもあの男と対すると、調子が悪くなる。負ける気がしないという気持ちにはなるが、気に入らないのだ。

巫女を恐竜にするのも一興と考えたが、何故だかこの女には恐竜化が半分ほどしか効かない。余計な肉体強化をさせてしまい、先の不手際を被ってしまった。
どうせこの女は『致命傷』だ。じきに死ぬ。
そう思い、今はDIOと待ち合わせるために廊下を歩いている。


一方の『F・F』と呼ばれていたこっちの銀髪メイド。
こちらはとっくに『死亡』している。急所への一撃、即死だった。心臓も停止している。
一度死んだ肉体を操っているらしいが、よくわからない生物だ。
肉体の方の銀髪女の情報もほとんど無い。ディエゴが恐竜情報網を使用した時点で彼女は既に死んでいたからだ。
死体を恐竜には出来ない。精々がDIOのおやつにでもなるだろう、という程度の気持ちで運んでいるだけだ。

「……フン。さっさと運びなよ、八雲の妖怪」

八雲と呼ばれた意識なき獣は、何も言葉を返さず二人を運ぶ。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


951 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:19:57 82SUI4g20


「遅かったな。しかし無事に霊夢らを始末できたようで何よりだ。流石はディエゴ」

「これが無事に見えるってんならすぐに目を医者に見せた方がいい。……その切られた左目も一緒にな」


ディエゴがエントランスホールに赴くと、既にDIOは階段に座して待っていた。
その左目は承太郎との戦いで負傷したのか。ディエゴの右目と同じ様に縦に切られている。

「……どうやら傷の治りが遅い。これも制限とやらか。
 お互い、苦労したな。私の方もほんの少し、しっぺ返しを受けた」

DIOは左目を軽く撫で、足元に倒れる承太郎を恨めしげに睨んだ。
戦いに敗れた空条承太郎。その身体は全身焼け焦げ、ピクリとも動いていない。
その身体の傍にはミニ八卦路も転がっている。どうやら炎を出し尽くして力を失ったらしい。

「殺したのか?」

「いや、しぶとくもまだ息はあるようだ。ジョースターは総じて『強運』だからな。
 だがすぐに死ぬ。その前に頂ける血液は全部吸っておこうと思ってね」

DIOの肉体は元を言えば100年前に奪ったジョナサン・ジョースターの肉体。
生きているジョナサンが会場のどこかに存在していることを考えると奇妙だが、とにかくその肉体は未だDIOの頭部とは馴染んでいない。
完全に馴染ませるにはあとひとり……ジョースターの人間の血が必要だった。
その血を吸い、肉体が完全にDIOと馴染んだ時、吸血鬼として更なる力を得る。

「どんなに強靭なパワーを手に入れても、日光という弱点は消せないんだろう?
 吸血鬼ってのは厄介なリスク背負ってんなぁ。オレだったらまだ人間の方がマシだと思うがね」

吸血鬼という未知なる力に興味がなくはなかったが、太陽の下を一生歩けない体などディエゴはゴメンだった。
地位を得るためという名目上では天才ジョッキーとして名を売っていたが、馬を走らせることはディエゴなりに好きではあった。
もし自分が吸血鬼などになればそれは永劫叶わなくなるのだろう。
既に自分は『スケアリー・モンスターズ』という、人間を超える肉体能力を手にしている。不死など馬鹿馬鹿しい。

「肉体の構造上、という意味でなくても人間のやれることには限界がある。
 私は吸血鬼になったことを後悔したことなど一度もないよ。血の味を楽しむのもオツなものだ」

ディエゴの軽い皮肉にも嫌な顔ひとつせず、DIOはそう言って霊夢に視線を向けた。

「博麗霊夢……博麗大結界の管理人で、幻想郷バランスの一端を担う巫女か。
 フフ……今まで吸ってきた女の血は数知れど、巫女の血となるとさぞかし美味だろうな。
 古代ローマの処女神ウェスタに仕える巫女は、処女でなくなると力を失うと聞くが……東洋の巫女はどうかな?」

紫の背に乗せられた霊夢の体を、片腕で乱暴に持ち上げて床に落とした。
ジョースターの血というメインディッシュの前にまず、巫女の血を吸って傷を癒そうというのだ。
仰向けに転がった彼女の右肩から腰にかけて大きくナナメに切り傷が広がり、赤い巫女装束が血で更に赤黒く染まっている。

「大妖の次は巫女の血か。アンタも中々大喰らいだ……、今までに何人吸ってきたんだ?」

「君は今まで食ったパンの枚数を覚えているのかい?」

性格の悪い男だ、とディエゴは卑しく思う。
パン一つまともに食べられなかった幼少時代を思い出しながら、ディエゴは紫の体に背を預けながら『ショー』を眺めることにした。

その時―――


952 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:20:36 82SUI4g20



「―――アンタ、たち………、ゆる、……さ…な、ぃ……わよ…………」



力ない、今にも潰れそうな声が微かにだが漏れた。
その声を発した本人……霊夢が頭上のDIOを倒れたままで睨む。


「ほう! まだ意識があるとは、流石に博麗の巫女はゴキブリ並みの生命力だな。
 ……だが安心して逝け。その生命力をこれから奪ってやるのだからッ!」


面白そうに叫んだDIOは、霊夢の首元に思い切り指を突き刺し、その血を躊躇いなく吸い始めたッ!


「―――っ!? く、ああぁ……! や、め…………、DI……O…………っ!!」

「ンン〜〜! どうだ霊夢? 純潔を穢される気持ちというのは!
 お前の綺麗だった血を今! このDIOがゴクゴク飲んでいるぞッ!」


ディエゴが彼の『食事』を見るのは2回目だが、相変わらず不快な光景だと息を漏らす。
女を弄び、落ちるとこまで落として嬲った経験は何度かあるが、そんな経験と目の前の光景とがダブって見えたからだ。
『持つ者』から全てを『奪う』ことに幸福感を感じるディエゴは、やはりこのDIOとよく似ている。自分でもそう思ったのだ。
まるで自分を鏡写しで見ているみたいだと、思わずその光景から目を逸らす。本当にどこまでも嫌な奴だ。

そして、DIOの『食事』は終わった。いや、『前菜』を食べ終えたと言うべきか。


「……で、感想は?」

「……『格別』、の一言でしか言い表せないな。体内の血が全てサラサラに洗浄されていくようだよ。
 オードブルとして頂くにはあまりにも美味な一品……。更に力が満ち足りていくようだ。
 これは……クク……! 食事の順番を間違えたかな?」


邪悪のオーラ、とでも表現すべきだろうか。
DIOの表情から滲み湧き出るその感情が、ドス黒く煌いているように見えた。
傷を負った左目も見る見ると塞がっていく。霊夢の血を吸った作用だろう。

霊夢の肉体から、生命の源でもある血液が失われた。
人は総血液量の約30%を失うと生命維持が極めて困難になると本で見たことがある。
DIOがどれだけ吸ったのかは知ったことではないが、これだけ急速に血を失えばすぐにでも死ぬだろう。
天下の博麗の巫女サマが、全くあっけないもんだと思う。
どちらにしろ霊夢を恐竜化できない以上、生かしておくこともない。

霊夢の体から『命の消滅』を感じながら、ディエゴはそれをただ冷たく見下していた。


953 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その③  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:21:09 82SUI4g20


「―――さて。次は『メインディッシュ』……ジョースターの血だ。
 承太郎。キサマの血で私の肉体は完全に馴染み、最強となるのだ。
 やはりこの体に一番しっくりくるべき血は大妖や巫女ではなく、ジョースターであるこそがふさわしい」


クルリと向きを変えたDIOが、承太郎の体に近づいていく。
承太郎の肉体も瀕死。全身砕かれた骨と焼け焦げた肉から、更に血液まで絞り尽くそうというのだ。全くえげつない。
DIOはコイツらジョースターを最も警戒しろとオレに言ったが、正直肩透かしだ。
オレからすればジョニィやジャイロの方がまだ危険だったが、そのジョニィも既に死亡。本当にあっけないもんだ。


―――これにてオシマイ、だな。


ディエゴが感慨なく心で呟き、そして『あること』に気付いた。
それは今までこの部屋に承太郎の焼けた臭いが漂っていたのでわからなかったが……


(―――ん? この『ニオイ』は…………)


クンクンと、自身の武器でもある恐竜の鋭い嗅覚に意識を研ぎ澄ます。
こいつは…………!


「さて……正直言ってお前をこのゲームで早めに殺せてホッとしているぞ。まったくジョースターの血統は厄介な奴らだったからな。
 しかし最後は意外とあっけないものだったな。では、血を吸われて私の礎になるがいいッ! Good Bye承太郎!!」


DIOの指先が倒れた承太郎に迫る。



――――――その時ッ!



「DIOッ! 外から参加者だ、多いぞッ!!」



      ド ッ ゴ オ オ オ ォ ォ ォ ン ッ !!!!



ディエゴの声が響き渡り―――次の瞬間、轟音と共に館の玄関が吹き飛ばされた。

「―――ッ!?」

承太郎への無慈悲な食事が寸前で止められる。

現れたのは―――軽トラック。
荷台には数名の女。どいつもこいつも――震えている者もいたが――ひと筋縄ではいかなそうな、強者の風格。


そして運転席からDIOを強く睨みつけている金髪の少年。
この中で最も『修羅』を経験してきたかと思わせる、そんな只者でない風格を持つ者―――



―――『黄金の風』を纏っているかのようなオーラの少年が叫んだ。



「承太郎さん! 霊夢さん! あなた達は僕らが必ず助けますッ! いま少し辛抱をッ!」



ひと際の朝風が、この場を通り抜けた。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


954 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:22:28 82SUI4g20
『ジョルノ・ジョバァーナ』
【20分前】B-3 霧の湖のほとり


ジョルノ、トリッシュ、小傘たち三人が軽い朝食を取りながら、大きな湖の畔にて対岸の紅魔館を見据え今後を考えていた時だった。

「ねえ二人とも。向こうから誰か来るよ」

小傘が西の方角を指差したその先をジョルノとトリッシュが振り返った。
手に持っていたおにぎりもすぐに飲み込み、気持ちを入れ替えて目を細める。

「あれは……子供? みたいですね。妙なモノに乗ってゆっくり近づいてきます。トリッシュ、警戒してください」

ジョルノもイタリアのギャング。子供が銃を隠し持ち、平気で命を奪うような世界で生きている。
たとえどんな者が相手でも油断は出来ない。殺し合いという環境がジョルノをいつも以上に慎重にさせていた。
トリッシュも傍に立ち、ジョルノに倣う。その背に小傘を隠れさせて。
向こうの参加者もジョルノたちに気付いたようで、ゆっくりゆったりとこちらまで向かってきた。

まず気になったのが相手の乗る『乗り物』……と表現していいのかどうか。
『蓮の葉』だ。何故か地面に浮かんでおり、その上に乗っている。
次に気付いたのが、子供の他に『もうひとり』乗っていた。寝ているのか、気絶しているのか。女性だった。
向こうに敵対心は無いのか、特に何を仕掛けるわけでもなく、そのままジョルノらの手前数メートルで止まり―――


「やあ」


片手を上げ、呑気な声で挨拶してきた。
それは能天気というよりもどこか『余裕』のある様子であり、ジョルノはその姿に多少違和感を感じた。

「おっと、お食事中かい? それは失礼したね。
 あぁ、そんな警戒しないでよ。見ての通り、こっちには攻撃する意思なんてありゃしないから」

「見ての通りというのなら結構怪しいんですがね。
 まず、その女性はどうしたのです? 気絶しているようですがキミの仕業でしょうか?」

「あー…うー…、これは話すと長くなっちゃうんだけどね……。まあ、まずは自己紹介といこうか。
 私は洩矢諏訪子。こっちの彼女はリサリサ。ゲームには『乗ってない』から安心しなよ」

諏訪子と名乗った女の子は気さくに会話を続ける。
ジョルノも多少は凄味を出して質問したはずなのに、彼女はそれを少しも気にする風でもなく笑顔まで作っている。
それがジョルノの感じた違和感。彼女の物怖じしない様子が、とても見たとおりの子供には見えなかったのだ。

「私はあんた達が乗ってないと思って接触してきたのさ。それに後ろに隠れてる妖怪のお嬢さん。
 あんた『付喪神』でしょ。前に早苗から聞いたことあるけど……『小傘』だっけ?」

突然自分の名を当てられた小傘はビクリと震えるも、相手の屈託ない様子に敵だとは思えなかった。
それに……どうやら彼女は見た目通りの年齢ではないことも何となく感じ取った。恐らく、自分よりももっと『上位』の存在。
妖怪である小傘は、諏訪子が永きを生きる『神』なのだと直感する。


「少し話をしよっか。お互いに今まであったことを、朝ご飯でも食べながらね」


おにぎりを取り出しながら諏訪子は、地面に降り立った。
彼女の様子に『敵意』は感じない。ジョルノもとりあえず、ここは諏訪子に従う形をとることにした。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


955 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:23:11 82SUI4g20


「―――そっか。お互い、難儀したね」


諏訪子の心からの労わりの言葉を締めとして、一通りの情報交換は終了した。
ジョルノはウェス・ブルーマリンとの激闘を。
諏訪子はエシディシとの激闘を。
互いが互いに、ひとりの犠牲者を出している。その事実に、さしもの諏訪子も厳しい顔をした。

「アナタみたいな子供が『神サマ』ねえ……。全く幻想郷ってのはどこまでも摩訶不思議なところね」

呟いたトリッシュを含め、ジョルノですら俄かには信じられない、洩矢諏訪子の正体。
しかし妖怪である小傘の方は当然のように受け入れているので、恐らく真実なのだろう。それにしたって幼い容姿ではあるが。

「まあそれが外の人間の正しい反応さ。だからこそ私たち守矢はこの幻想郷に住処を移したんだ」

おにぎりを頬張りながら諏訪子はトリッシュの反応に理解を示した。
その器の大きさを感じる態度にジョルノはやはり確信する。目の前の子供は真実を言っているのだ、と。


「さてさて、私の方も食事を終えたことだし……あんた達は向こうに見える紅魔館に行くんだろう?
 どうする? 私たちも同じ目的地だ。ここは一緒に向かうのが筋だろうけど」


館を指差し、諏訪子が提言してきた。
ジョルノが首のアザに感じる反応もいつの間にか『二つ』に増えている。
加えて先ほど確認した『空飛ぶ生物を操るスタンド使い』の存在。彼らが敵かどうかは見極めておきたいところだが……。







「―――お前たちッ!! ハァ……ッ ハァ……ッ! さ、参加者だなッ!?」


唐突に降って聞こえた、何者かの必死な声。
いきなりの乱入者の声の主を探すも、その姿は見えず。

「私は、ここだ……! ハァ……ッ 湖だ……ッ!」

その場の全員が声に導かれ、湖を見た。
水面から半身だけを覗かせ、頼み込むように両手を地に付けた『異形』。

「……な、なんだこいつ!? 水妖ッ!?」

「いや、違う……! スタンド、なのか……!?」

面長の外見に黒い色の体形。その異様な姿に諏訪子は妖怪かと驚き、ジョルノはスタンドかと警戒する。
だがどれも完全な正解ではない。その生物はひどく狼狽した様子で頭を下げて言った。


「詳しく話している時間はないッ! 私の名は……フー・ファイターズ! 『F・F』とでも呼んでくれ……!
 とにかく、お前たち5人を危険人物ではないと信じ、頼みがあるッ!」


956 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:24:12 82SUI4g20
その『F・F』なる生物は懸命だった。
息も上がり、よく見れば身体もボロボロ。
諏訪子よりも更に数倍怪しい存在に少しだけ迷ったが、どうやらかなり切羽詰っている状況のようだ。

「F・F……? わかりました、まずは話を聞きましょう」

「ちょ、ちょっとジョルノ? こんなヘンテコな奴の話を聞くっていうの?」

「……小傘の時のことを思い出してください、トリッシュ。
 あの時、僕たちに助けを求めてきた小傘と今の彼……F・Fは様子が似ている。
 どうやら彼にはのっぴきならない状況が迫っているようです。聞いてあげましょう」

「……恩に着るッ!」

ジョルノの返答にF・Fが頭を下げ、早口で現状を説明し始めた。


「時間がないから簡潔に言う! あそこに見える紅魔館、あの場でディエゴという男にやられた……!
 恐竜という生物を操るスタンド使いだ。仲間の博麗霊夢も殺される……! 私はなんとか『肉体の殻』をそっと捨てて、ここまで泳いできた。
 他にも承太郎という仲間もいたが、彼もDIOなる敵と交戦中だろう。二人をどうか助けてやって欲しい……!」

「恐竜!? それってジョルノ……!」

「ええ、件のスタンド使いでしょう。それよりも……」


ジョルノは顎に手をあて考える。確かに状況はかなりクレイジーらしい。
そしてF・Fが言い走った『その男』の名。ジョルノは聞いたことがあった。

―――DIO。

碌に会話もしない母親から名前だけは聞いていた。写真も常に財布に入れて持ち歩いている。
同姓同名……であるのならどれだけ良かったか。
ジョルノはその男がどんな人物で、何をしたのか、何を企んでいたのかはまるで知らない。本当に名と容姿だけしか知らないのだ。
名簿で初めてその名を見つけた時、柄になく動揺した。そして『会いたい』とも思った。


何故ならそのDIOとは―――ジョルノ・ジョバァーナにとって正真正銘の『父親』だからだ。


その父親が今、あの館にいてF・Fの仲間を手に掛けようとしているという。
首のアザの反応から、DIOがあそこにいるということは事実だろう。恐竜のスタンド使いと一緒にいるという情報も一致している。
だが……すぐにそれを信じるわけにもいかなかった。

いや―――信じたくなかった。父がこのゲームで誰かを襲っているなどと。


「……F・F。ひとつだけ聞かせてください。
 その霊夢さんと承太郎さんという方は、あなたにとってなんなのですか?」


ジョルノにしては判断を遅らせている質問だった。
時間が無いのは分かっている。霊夢も承太郎もF・Fにとっての仲間だということは既に聞いた。
だが、心のどこかでF・Fの言葉を信じたくないとも思っている。
もしかすれば、自分は今から父親と戦うことになるのかもしれないのだ。軽率な判断は出来ない。

だから、ジョルノはひとつ……F・Fの本心を聞き出したかった。


957 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:24:47 82SUI4g20

「……霊夢たちは、そうだな。……私にとっては恩人だ。
 ついぞさっき共に行動し始めたばかりで、その同行も正午までという約束。
 正直を言うと、命を懸けてまで助ける者達ではない―――はずだった」

「ではどうして?」

「……そこのところだが、私にはよくわからない。
 実際、私はここまで必死に逃げてきた。貴重な死体という殻まで捨ててきてな。
 DISCを守るためだけの操り人形だった私に、もし『恐怖』があるのだとしたら……
 それは『仲間』を喪うこと、なのかもしれない。私に『自由』を教えてくれた、彼らという仲間を……
 そのことを考えたら……途端に恐ろしくなった。 仲間など、以前の私には考えられなかったというのに……『感情』とは不思議なものだ。
 私がその未知なる感情に悩んでいる時、お前たち5人を見つけたのだ」


F・Fが霊夢の体内に入り込み、共感した気持ちは強烈な『悲しみ』だった。
幻想郷の友達の多くを喪った霊夢の気持ちを理解するため。
そんな苦しみを抱えながら『自由』であることにこだわる霊夢へと近づきたいため。
霊夢という人間を、悲しいという感情を、自由を求める生き方を、理解したかった。

そして霊夢の体内に入り、擬似的に、間接的にだが、理解は出来た。
理解出来たが故に……F・Fは恐怖してしまったのだ。霊夢たちを……『友達』を喪うということに。
友という概念もF・Fからすれば複雑で難しい。しかしたったひとつ、確実に言えることがあるとするなら。


「―――霊夢と承太郎を死なせたくない。喪いたくない。……頼む! 私に手を貸してくれッ!」


たったひとつのシンプルな答え。
霊夢は自由へとこだわる理由を『証』だと言ってくれた。
友を喪って悲しむことができる感情は、その友を想っていた何よりの証なのだと。
F・Fは、自分にもその証を示せる感情を持っているのかもしれないと思い始めていた。
霊夢たちを死なせたくないと想う感情こそ、まさしく『フー・ファイターズ』が存在したというこの世にふたつとない証。
この感情、この証こそ、初めて生まれたフー・ファイターズの『誇り』なのかもしれない。

誇りは、守らなければいけない。


「あの、えっと……ジョルノ、トリッシュ! 私……この、人? 妖怪? いや……『F・F』さんを助けてあげたい」


そこで発言したのは小傘だった。
彼女はオドオドとしながらも、どこかハッキリした意思でジョルノに強く頼み込んできたのだ。

「私たちを助けてくれたあの赤い髪の女の人は……命を懸けてくれて、そして死んでしまった。
 あの人は私のせいで、死んじゃったの……!」

「小傘!」

「聞いてトリッシュ! ……でも、でもね。最初に私を助けるために飛び出したあの人は……何というか、気高かったの。
 綺麗で、カッコ良くって、困っている人を見かけたら迷わず助けるような、そんな女の人だった。
 私、凄く羨ましかった! 私も誰か人の役に立ちたかった! あんな女の人になりたいって思ったの!
 だから……だからね……! 上手く言えないけど、その……!」

「……そう。ええ、貴方の気持ち、わかったわ。小傘」

トリッシュの温かい言葉を聞いて小傘もパアっと笑顔を作る。
人に捨てられた古傘の付喪神だからこそ、人の役に立ちたいというささやかな願いを内に秘めていた。
その気持ちが、今のトリッシュにはよくわかる。

「でも貴方ひとつ忘れてるわよ。小傘は既に命を懸けてジョルノを救ったってこと」

「……あっ」

からかうように小傘の額をチョンとつつき、トリッシュは微笑む。
小傘もまた、頬を赤く染めて小さくなった。


「……どうやら決まったようですね。僕も腹を決めてF・Fさんを手伝いましょう。
 諏訪子さん、僕たちは今から紅魔館に向かいますが……」

どうしますか? という問いが、ジョルノの表情には言外に表されていた。
諏訪子としても断る理由はない。乗りかけた舟である。
しかし諏訪子にもひとつ、気掛かりはあった。それは―――


「―――話は、聞いていたわ。ずっとね」


丁度諏訪子が返答を迷っていた時、心中の人物が話に入り込んだ。
いつの間にか、リサリサが半身を起き上がらせて全員を見渡している。


958 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:25:23 82SUI4g20

「リサリサ! あんた、起きてたの!?」

「おかげさまで、ね。頭も随分冷えてきた……と思ったのに、今またフツフツと煮えてきたところよ。
 あの神父については一旦置いておくとして……F・Fとやら。さっき言ったことは本当なのかしら?」

リサリサの眼光は真剣だった。
今の今まで気絶していた女性とは思えない威圧感。その視線にF・Fは少しだがたじろいだ。

「あ、あぁ。私は霊夢たちをたすけ―――」


「―――違う。私が聞いているのは、あの紅魔館に『DIO』が居るのか、ということッ! ただのそれだけッ!」


リサリサは聞き捨てならなかった。
DIO。彼女にとってその男の名は何よりも憎い、全ての根源!
ジョースター家に『因縁の種』を植え付け、ジョナサンに倒された後もその『因縁』は愛した夫を間接的に殺害。
リサリサ――エリザベス・ジョースター――というひとりの人生を狂わせた最悪の男があの館にいるッ!
その情報が、冷え切ったリサリサの頭と心を再び滾らせたッ!

「リサリサ……? もしかして最初にあんたが言っていた『早急に倒す敵』っていうのは……」

「本当は別にもいるけど、もしそのDIOまでがこの会場にいるというのなら……
 どうやら『ターゲットリスト』にひとり、加えられたようね。―――『最優先掃討人物』にッ!!」

立ち上がり、燃え上がるような瞳でリサリサは激情した。
その彼女の様子を見て、またも諏訪子は頭を抱える。
全く、冷静さを取り戻せていない。どころか更に焚き上がっている。

(ひえ〜〜〜……だ、だめだこりゃあ……! ここまでくるともうリサリサの『気質』だよぉ〜)

かくなる上はとことん彼女を支えてやるしかないらしい。
諏訪子は先知れぬ不安を胸に、疲れた顔でリサリサを見上げた。
しかしそんなリサリサに、ジョルノは険しい顔で疑問を投げ掛ける。


「……リサリサさん、でしたっけ? あなたはそのDIOという男がどのような人物か知ってらっしゃるのですか?」

「……ジョルノ・ジョバァーナだったかしら? 勿論、知っているわ。嫌というほどにね。
 それより貴方……気になっていたのだけど、見た目が随分『あの男』と似ているのね……?
 どんな『関係』なのか……聞いても?」



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ………… ッ !!!



諏訪子の耳にはそんな擬音が聞こえてくるほど、この場の空気は静かな『熱』に包まれていた。
なんか、ヤバイ気がする……!
諏訪子のそんな勘が働き、慌てて話題を遮る。ケロちゃんブロック!

「ちょ、ちょっとちょっと! 今はいがみ合ってる場合じゃないでしょ!
 えーとF・Fっ! とにかく私たち全員、霊夢たちを助けることに決めたから! 早く向かうよホラ急いでッ!」

「あ、あぁ……すまない」

後半はすっかり蚊帳の外になっていたF・Fだったが、兎にも角にも同行してくれるらしい。
妙にモヤモヤするが、確かに諏訪子の言う通り、今は時間が無いのだ。

「むっ! 確かに今は時間がありませんね。僕は無駄が嫌いなので、まずは人命優先に動きましょう。
 リサリサさんも、僕のことについては後で話します。いいですね?」

「……オーケー」


短い返答だが、これで全員の意見は決まった。
ジョルノはすぐにエニグマの紙からトラックを出し、運転席に飛び乗った。


「車で向かった方が早い! 僕が運転しますので、みなさんは荷台に乗ってください!
 F・F、君は助手席に! 敵の能力、状況、館に着くまでに詳しく話してくださいッ! 作戦を立てます!」




―――空条承太郎、博麗霊夢の救出作戦開始ッ!




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


959 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:26:28 82SUI4g20
舞台は紅魔館玄関口、エントランスホール。
F・Fが目撃した光景は、想像以上に深刻だった。

倒れた博麗霊夢。空条承太郎。
その承太郎の血を今にも吸わんとしているDIO。傍らに立つDioことディエゴ・ブランドー。
恐竜の背に乗せられた死体は、先ほど捨てた十六夜咲夜のもの。

こちらの戦力はジョルノ。トリッシュ。小傘。リサリサ。諏訪子。そして、F・F。
数の上では有利。だがあの二人―――特に吸血鬼DIOの能力は異常だ。
承太郎と同じく『時を止める』能力。その承太郎も見るも無残に焼かれている。
二人は……生きているのか!?


「ディエゴ……この紅魔館周りの恐竜網は重警備だったはずだが?」

「霊夢との戦いでここら一帯の翼竜共は、殆ど連れ戻して使っちまった。
 それにアンタが持ってきた承太郎の焦げたニオイがオレの鼻を鈍らせてたんだぜ。お互い様さ」


突如の乱入者にも大した動揺を見せないDIOとディエゴ。
だがその表情はいかにも『面白くない』といった感じで、大いに不満が漏れている。


「……DIOッ!! 死ぬほど会いたかったわよ……! 貴方には大きな『怨み』があるッ!」


トラックの荷台に立ったのは波紋戦士リサリサ。
彼女とDIOとは直接の面識はないが、その容姿や出で立ちは恩師スピードワゴンから散々と聞かされた。
なにより、彼女の肉体がッ! 血がッ!
目の前の悪こそが、この世から絶つべき『諸悪の根源』だと伝えているッ! 奮えているッ!

「んん……? え〜〜〜っと、失礼だが何処かで会ったことがあるだろうか? 麗しいマドモアゼル」

「かつては捨てたこの名を、再び名乗らせてもらうわッ! 我が名はエリザベス・ジョースター!
 我が夫ジョージ・ジョースターの無念のために! 死した一族の魂のやすらぎのために!
 そして我が養父ストレイツォを狂気に堕とした元凶DIOッ! 貴様は死をもって償わせてやるわッ!」

「ジョージに……ストレイツォ……なるほど、お前がエリザベス・ジョースターか。死んでいると思っていたが」

DIOは合点がいったと、軽く頷いた。
宿敵ジョースターの家系、そのルーツはとうに調べ上げている。
エリザベス・ジョースターは夫ジョージ・ジョースターⅡ世の無念を晴らすため、軍に単身乗り込み死亡したと聞いていた。
彼女は『それ以前』からゲームに呼ばれたのか、はたまた実はその後も生きていたのか。
それを判断する材料はないが、DIOにとってそれはどちらでもいいこと。
だがジョナサンのことについてはともかく、彼女の言うジョージⅡ世やストレイツォの件はDIOからすれば逆恨みもいいところ。
的外れの怨恨で討ち倒される謂れなど、ない。

「あの時、船でジョジョに救われた赤子がこうも成長し、私に牙を剥けて来るとはな。
 ジョースターの恐ろしいところはまさに『そこ』よ。
 どいつもこいつもがこのDIOを邪悪と決め付け、その『因縁』を私の運命にしぶとく絡めつけてくる。
 こうして100年経った今も、奴らは仲間を揃え最期のその時まで私に立ち向かってくる。
 自分たちこそが『正義』の人間なのだと正当してな。……反吐が出そうな精神だ」

「お言葉だけどDIO。今の私は正義などという大層な主義を抱えて貴様と相対しているのではない。
 今のエリザベス・ジョースターは……恨みを晴らすためにDIO! 貴様を殺すのよッ!」

「フン……! どこかで聞いた風なことを……!」

「リサリサ……」

二人の会話を諏訪子は傍らで聞いていた。
それは初めて耳にした、リサリサの心からの吐露。本音。激情。
彼女の復讐を止められるものなどこの世には居ないのだろう。それほどに大きな怒りを感じる。


―――だが、誰かがどこかでストッパーを掛けてやらなければリサリサはそのうち身を滅ぼすに違いない。


960 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:27:45 82SUI4g20

(あーもー! どうして今も昔も人間って奴はみんな命を大事にしないのさ! 寿命だって短いくせして!)

神として人間を永く見てきた諏訪子は、そんなリサリサに説教を説くような視線を投げた。
しかし今にもDIOらに飛び掛かっていきそうなリサリサを押し留めたのは諏訪子ではなく、運転席のジョルノだった。

「リサリサさん、敵は時を止めるスタンド能力者。迂闊に飛び掛かっていかないで下さい。
 これは承太郎さんたちを救う作戦です。戦うことは二の次。辛いでしょうが肝を据えてください」

「…………ッ!」

敵に聞こえないよう小さな声で、ジョルノは言いきかせた。
しかしその腹で、ジョルノこそDIOに対し並々ならぬ思いを持っている。
自分と似た容姿。髪色。
なにより首のアザとはまた違うシグナル……言うなら『魂同士が感じる波動』。
トリッシュとディアボロのように、あそこに立つDIOに対しジョルノは親子の絆のような独特の感覚を理解した。
実際に目の前で対峙することでよくわかる。ゲーム序盤から感じていた謎の感覚は、あのDIOから発するものだ。

彼と拳でなく、言葉を交わしたい。
生まれて初めて会う父親を、もっとよく知りたい。
複雑な心境がジョルノの意志を揺らす。

だがしかし……

だがしかし―――ッ!


「―――F・F! 撃って下さいッ!!」


今はそんな個人の感情よりも優先するべき命がある。
その黄金に輝く瞳は決意の証。
父であるDIOとの敵対を意味するその言葉が、銃弾となってDIOへ迫る。

「F・F弾ッ!」

荷台から飛び出したF・Fが咆哮し、4発の銃弾全てを敵目掛けて撃つッ!
しかしそれを手もない軽やかな動作で避けたDIOは、続いて横のディエゴに話しかけた。

「あの面妖な生物……承太郎たちの仲間である『フー・ファイターズ』本体だろう。
 君の隙を突いてそこのメイドの殻を捨て、他の参加者を呼んできたみたいだが……ちょっとした『ミス』を犯したなディエゴ?」

「…………チッ」

DIOの皮肉にディエゴは、返答の代わりに舌打ちで返した。
確かにメイドの肉体は死亡していた。完璧に頚動脈を切り裂いたのだ。
だがおそらくF・Fの寄生した肉体に、物理的ダメージの効果は薄いのだろう。
急所への攻撃程度なら水分を補充すれば何ということもないらしい。思った以上に厄介だ。
あの生物の情報の不足、これが原因で新手を呼ばれる結果になった。やはりスタンド戦で『情報』は重要だということを噛み締める。

苛立たしげにするディエゴをよそに、DIOはリサリサとF・Fから……次にジョルノへと視線を変えた。


961 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:28:20 82SUI4g20

「そこの黄金の輝きを持つ『キミ』……今、躊躇なく私を撃てと叫んだ君は『何者』だ?
 是非、名前を教えてくれないか?」

「……僕が何者か、という問い。その答えは貴方も知っているのではありませんか?
 僕が貴方の『正体』に気付いているように、貴方も僕の『正体』に気付いている。
 この首の『アザ』の感覚もそうですが……もっと近しい『肉体』の繋がりという奇妙な『感覚』によって」

「私は感覚などという曖昧な波長ではなく、君自身の『言葉』を聞きたいのだよ。
 何なら私の方から名乗らせてもらおう。私の名は―――DIO。ディオ・ブランドーという。
 スタンドの名は『世界 ―ザ・ワールド―』。君もスタンド使いなのだろう? ……是非、それを見せてくれないか」

そう言って惜しげもなくDIOは自身の具現……『世界』を繰り出した。
瞬間、この場に吹き荒れる威圧感が風となり、ジョルノの黄金の髪を揺らす。

「……ジョルノ。ジョルノ・ジョバァーナ、です。
 そして僕のスタンド名は……『黄金体験 ―ゴールド・エクスペリエンス―』です。言えるのはそこまで、ですが」

DIOに続きジョルノも名乗り、その黄金に輝くスタンドを発現させる。

「ほう……どこか私の『世界』にも似ているな。―――流石は『親子』、といったところか」


―――親子。


DIOはそう言い、ジョルノもその言葉でようやく100%の確信を得た。
その瞬間、彼の中で何かが崩れた。どうしようもない、何かが。
心のどこかで『父』の残影を捜し求めていたジョルノにとって。
ギャング組織のボスとはいえ、15歳の少年であるジョルノにとって。

目の前で二人の尊い命を吸おうとしている男が『父』だという現実は、冷たい残酷だった。


「ジョルノ……。少し、話さないか? 私は別にお前に危害を加えようとは思わん。
 どこか落ち着ける場所で、父と息子ふたりの会話がしたいんだ」

「……貴方が今まで家族を放って、何処で何をしていたのだとか……そんなことを今更問おうとは思っていません。
 貴方と話がしたいという気持ちは確かにありますが、残念ながらそれは『次の機会』としましょう。
 今はそこの『ふたり』をこちらへと渡してください。治療しなければ」


DIOの安らかにも聞こえる誘いを拒絶し、ジョルノはただただ現状を把握するのみに努めた。
個人的な感情よりも人命。猛るリサリサにそう言い宥めたのはジョルノ自身だ。
あそこに倒れるふたりの損傷状態は……おそらく極めて『危険』だ。
今すぐに治療しなければ死ぬ。そして肉体を治療する術を持つ自分こそがこの作戦の要ならば。


―――ふたりは必ず、救うッ! なんとしてもッ!


962 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:28:55 82SUI4g20

「……次の機会、か。残念だよ、ジョルノ。
 悪いがこのふたりは今ここで死ななければならない。―――特に、こっちの承太郎だけはなッ!」

「させないッ!!」

DIOの腕が承太郎に向けて振りかざされる。
車を降りたジョルノは駆けた。スタンド『黄金体験』を疾走させ、『世界』にぶつかってゆくッ!

「来るかジョルノ。少し、父と遊ぶか?」

父と子。
両者が構えたスタンドの拳は、決して交えることのない『親子の絆』もろとも粉々に破壊した。



            「「無駄ァ!!!」」



ガアアァァァンと、激しい重打撃音がエントランスホールに奏でられた。
『黄金体験』と『世界』の拳が。
ジョルノとDIOの拳が。
息子と父親の拳が。

無情に、対立した。

「ほお……中々のスピードだな。しかし……肝心のパワーがちと足りんな。ちゃんと食事はとっているか?」

「………くっ!?」

たった一発の拳を交えただけで身に染みた、『世界』の圧倒的パワー。
骨に響く、その豪腕。
ジョルノのゴールド・エクスペリエンスは、パワー自体はC。近距離型の中では下位に相当する。
まともにやり合えば『世界』の持つスペックに敵う道理はないのだ。


―――ならばまともに戦う必要など、ない。


「今ですF・Fッ!」


ジョルノが発した言葉はF・Fに向けて。
背後のトラックにいるはずの、ではなく。
『前方』……DIOらの後方で起き上がった『彼女』に向けて。



「―――ええ。グラッツェ(ありがとう)、ジョルノ」



その声の主は……ディエゴたちに刈り切られたはずの―――『十六夜咲夜』のもの。
確かに首を切られ、恐竜化した紫の背に乗せられていたはずの十六夜咲夜の死体。

その死体に再び乗り移った『F・F』が、咲夜の体を借りて起き上がった。

「悪いわね。最初に撃ったF・F弾はDIOを狙ったものじゃない。この私の体に入り込むために撃ったのよ」

同時に荷台に居た『分身』のF・Fがドロリと溶けた。
F・Fが初めに撃ったF・F弾の中には、既に本体の組織を混ぜ込んでいたのだ。
その本体組織が隙を見計らい、咲夜の体に侵入。負傷した肉体の首の傷もF・Fの能力にとってはかすり傷にしかならない。


―――おかげで承太郎と霊夢の体に近づけたッ!


963 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:29:44 82SUI4g20


「ディエゴ……貴方、ちょっとムカつくから―――これでも喰らってなさいッ!」


咲夜の肉体を手に入れたF・F は起き上がって間髪入れず、ディエゴの右側から強烈な回し蹴りを叩き込むッ!
その方向は霊夢が裂いたディエゴの右目。『死角』からの攻撃! 恐竜の動体視力でも『視えなければ』避けようがないッ!

「が……ッ!」

霊夢との戦いで万全ではない身体に思い切り叩き込まれた回し蹴りは、ディエゴをそのまま壁まで吹き飛ばした。
咲夜の肉体も元々は体術を得意としている。大の男を蹴り飛ばすことなど容易なのだ。

「ちぃ……ッ! プランクトンめ、味な真似を……ッ!」

「貴方の相手は僕ですよ……! ハァッ!!」

ジョルノも決してDIOを逃がさない。
今の自分に与えられた役目は、この男からF・Fを守ること。少しでも時間を稼ぐこと。
ゴールド・エクスペリエンスの第二撃目が、DIOを襲うッ!

そしてその間にもF・Fは負傷した霊夢と承太郎を担ぐ。
承太郎ほどの大男を担いで数メートルの距離を走るのは至難だが、筋力はF・F本体に依存できる。
霊夢を背負い、承太郎は引き摺ってでも敵から離す!
とにかくこのふたりは本当に瀕死なのだ。今のF・Fはもはや何が何でもふたりを救うつもりでいた。
傍に落ちていたデイパックも道具も抜け目なく回収し、全力でトラックまで走るッ!


―――が! 最後に立ちはだかるのはやはりこの男ッ!


「F・Fとやら。コイツらに随分ご執心みたいだが……だがその行為はキサマの寿命を減らすだけの虚しい行為にしかならないッ!」


ジョルノの拳を受け止めたまま、DIOが首だけをF・Fに回して高らかに叫んだ。

瞬間―――



             『 世 界 ―― ザ ・ ワ ー ル ド ―― !!! 』



静止する世界。
その中を動ける者は今やDIOのみとなった。
動きを止めるジョルノを無視し、その体躯を一瞬でF・Fの前に移動させ……


『世界』の腕が ――承太郎に ――霊夢に ――F・Fに 振りかざされる。


964 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:30:59 82SUI4g20

「どんな足掻きを見せようと無駄だ、無駄。
 この『DIOの世界』を認識できる者は……これから死ぬことになるからだ。
 まずは―――承太郎、キサマの血を抜き取る。この『血』は貰っ……」








        「――――――<咲夜の世界>――――――」







誰も動かないはずの。
DIO以外の誰もが動いてはならない世界で。


―――その『人間』は、確かにそう呟いた。


「―――――――――なに?」


『世界』の腕が止まる。
かつて十六夜咲夜であったその肉体が。その目が。


―――DIOを見ていた。


次に動いたのは、その女の腕。
スローモーションのように動いた彼女の手の中には、一本のナイフが握られ―――

   ―――ヒュン―――

音は無かったが、DIOの耳にはナイフが風を切る音が錯覚のように聞こえた。
気付けばすぐ目の前には空中で静止したままのナイフ。


―――そして時は動き出す。


「なにィイイッ!? こ、この女……『止まった時』の中を……!
 『世界』ォォ! 弾き飛ばせェッ!!」


目前数センチで放たれた高速のナイフを、すんでのところで弾いた。
十六夜咲夜の……F・Fのカウンターは失敗。
しかし、DIOの防御行動の隙にF・Fはかろうじて距離をとることが出来た。


「―――! 一瞬は何とか、動けた、わね……! ハア……ハア……! まだほんの『一瞬』……程度だけれど……っ」


『時の止まった世界』に入門する術を持つ者はDIOと承太郎だけではない。
今や『器』のみといえど、F・Fが操る十六夜咲夜もその『資格』は所持している。
しかし『器』のみ故に、F・Fでは咲夜本人のように自在に時を操ることまでは出来ない。
彼女の『記憶』から時間を操る能力者だということは知っていても、それをいきなりコントロールするほどF・Fは器用ではなかった。

動けたのはたかが一瞬。
されどその一瞬こそが、F・Fにとって千金に値する一瞬。
止まった時の中で掴んだ須臾ほどの一瞬が、『世界』の拳から逃れるチャンスを作った!


「ジョルノ!!! F・F!!! 車出すわよッ!! 早く乗ってッ!!」


運転席に陣取ったトリッシュが叫んだ。
ジョルノとF・Fが倒れた承太郎と霊夢を荷台に乗せたことを確認し、すぐにアクセルを全開にする。
最後にジョルノはDIOをひと睨みし、そのままトラックは唸りを上げた。
排煙を煙幕のように一気に噴かせ、8人はあっという間に玄関から爆走し、紅魔館を脱出する。

それは見事と言えるまでの、逃走っぷりであった。


965 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:32:27 82SUI4g20






「―――逃げられちまったなぁ、DIO」


腕を擦りながら起き上がってきたディエゴの皮肉にも、DIOは反応しない。
今、彼の頭の中にある感情は―――


(―――我が止まった時の世界に入門してくる奴らが……一人ならず、二人も……ッ! 許せるものかッ!)


怒りだった。
こうも他人の庭に土足で上がり込まれては、さしものDIOも我慢ならない。
その怒りはなるべく顔に出さず、DIOは極めて平静に相方へと語りかけた。


「ディエゴ……知っての通り、私は太陽の下に出られない。
 君には何度も申し訳ないんだが……もうひとつ頼まれてくれないか?」

「奴らを『追撃』しろってか? オレはそれなりにダメージを受けているんだがな」


ディエゴがその嫌な顔を全く隠さずにDIOを睨みつけた。
数秒、ピリピリとした空気が流れ―――


「―――『貸し』だ。これでひとつお前に貸しが出来た。
 オレだって奴らをこのまま逃がすのはゴメンだからな」

「……すまないね」


互いに何かを感じ取ったのか。
奴らは共通の敵でもある。ディエゴとしても何とか始末したい相手だった。
すぐに紫を呼び、その上に跨る。その格好は天才騎手“貴公子”ディエゴ・ブランドーがレース上で見せる眼差しだ。

最優先ターゲットは『空条承太郎』『博麗霊夢』。そして『フー・ファイターズ』。

深追いはするつもりはない。せめて3人の『誰かひとり』でも始末したい所だが……。
周りの奴らが厄介だなと、ディエゴが思案しながらも紫を駆け出そうとしていた時。
後ろからDIOの待てが掛かった。


「―――それとディエゴ。奴らの中に『面白いヤツ』が混ざっていた。なんなら『そいつ』だけでもここに連れて来てくれてもいい」

「……『あの女』のことか? 承太郎とかはいいのか?」

「承太郎……そして霊夢には、これ以上ない『敗北』を刻み込んでやった。その心に完璧な『傷』をだ。
 もし奴らが復活し、再びこのDIOの前に現れたとしても……奴らは勝てんだろう。
 スタンドとは精神そのものだ。敗北によって心が弱くなれば、当然スタンドも弱くなる。
 奴らを逃がしたというのなら、それはそれで構わない。……君に頼んでおいてなんだがな」

「………フン」


ディエゴは鼻を鳴らし、『馬』と共にトラックの後を追走し始める。
それはまるで、レースの開幕を象徴するようなディエゴのいつもの走りだった。

そんな彼の後ろ姿を見送るDIOの顔に、疲れは見えない。
あるのは土産の帰りを待つ、薄気味悪い笑顔だけだった。

なんにせよ、空条承太郎と博麗霊夢はもう『再起不能』だ。
どんなスタンド能力だろうが、肉体は治せても心に受けた『絶対的敗北』という傷は癒せない。


―――勝利者は、このDIOだ。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


966 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:33:01 82SUI4g20
【DIO(ディオ・ブランドー)@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:精神疲労(中)、吸血(紫、霊夢)
[装備]:なし
[道具]:大統領のハンカチ@第7部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、頂点に立つ。
1:部下を使い、天国への道を目指す。
2:永きに渡るジョースターとの因縁に決着を付ける。承太郎はもう再起不能ッ!
3:神や大妖の強大な魂を3つ集める。
4:ディエゴ、メリーの帰還を待つ。
5:ジョルノとはまたいずれ会うことになるだろう。ブチャラティ(名前は知らない)にも興味。
[備考]
※参戦時期はエジプト・カイロの街中で承太郎と対峙した直後です。
※停止時間は5→8秒前後に成長しました。霊夢の血を吸ったことで更に増えている可能性があります。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※名簿上では「DIO(ディオ・ブランドー)」と表記されています。
※古明地こいし、チルノの経歴及び地霊殿や命蓮寺の住民、幻想郷についてより深く知りました。
 また幻想郷縁起により、多くの幻想郷の住民について知りました。
※自分の未来、プッチの未来について知りました。ジョジョ第6部参加者に関する詳細な情報も知りました。
※主催者が時間や異世界に干渉する能力を持っている可能性があると推測しています。
※恐竜の情報網により、参加者の『6時まで』の行動をおおよそ把握しました。
※八雲紫、博麗霊夢の血を吸ったことによりジョースターの肉体が少しなじみました。他にも身体への影響が出るかもしれません。


967 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:35:29 82SUI4g20
『ジョルノ・ジョバァーナ』
【午前】C-4 霧の湖のほとり


「ジョルノッ! ふたりの容態はどうなの!? 早く治してッ!」

「わかっています。落ち着いてF・F……!」


紅魔館を離れ、激走していくトラック。
幌は邪魔になるからと突入前に取り払っておいたおかげで、受け付ける風が全員の髪をなびかせている。
荷台の上には諏訪子、リサリサ、小傘、ジョルノ、F・F。
そして焼き焦げた空条承太郎。
深く切り裂かれ、血液を吸われた博麗霊夢。
運転席にはトリッシュが慣れない手つきでハンドルを握っている。

「ジョルノ! これからどこへ向かえばいいの!?」

「とにかく今は館から離れます。湖沿いを東回りに走らせてください」

運転席から大声で叫ぶトリッシュに対し、ジョルノの声は冷静なものだった。
しかし声に反し、彼の額には既に冷や汗が流れ始めている。

状況は……思った以上に最悪だ。
生命を操るゴールド・エクスペリエンスが承太郎と霊夢の身体を同時に触れ、『診察』しているが……


「―――まずい。ふたりとも『死にかけ』です……! 既に心臓が動いていない……!」


承太郎と霊夢が死にかけている。
その言葉にF・Fはいてもたってもいられなかった。

「彼の方は……臓器や骨といった、とにかく内部への損害が大きい。
 火傷した皮膚も一から新しい皮膚を作らないと……!」

「こっちの霊夢は肩から腰にかけての裂傷が深いわ……! 全く『血』が足りていない……!
 私の『プランクトン』が血液の代わりになれるけど、いつまでもは保たない! 急いでジョルノ!」

F・Fが煽るようにジョルノを急かし、自身も治療に加担する。
だがF・Fの能力は元々治療するためのものではない。精々が応急処置にしかならない。
それほどにふたりの容態は深刻だった。

「見たところ……緊急を要するのは彼女の方ですね。すぐに血液を作らないと……だが『治り』が遅い……!」

ジョルノは霊夢の巫女服もはだけさせ、デイパックの水を手に取り『血液』へと変える。
しかしさっきからやはり能力の治療が遅い。これもゲームの制限のようだ。


「―――ジョルノ・ジョバァーナ。お取り込み中失礼だけど、貴方にひとつ聞きたい」


そう言ってこの騒乱状態の中に割って入ったのはリサリサだった。
彼女の冷たい視線は治療するジョルノを鋭く見下ろしている。

「貴方がDIOの『息子』だというのは……本当なの?」

「リサリサ! 今はそんなこと言っている場合じゃあ―――!」

「―――本当、のようです。僕も先ほど知りましたが」

諏訪子の仲裁の声を遮って、ジョルノは真実のみを言った。
間違いのない現実……ジョルノにとっては多少なりとも衝撃の事実を。

「……そう。で、貴方は父親に対してどう思っているのかしら」

「…………………彼には色々と思うこと、言いたいこともありますが……
 ただ、一目見た瞬間に『邪悪』だと感じました。僕の中で彼を“許せない”、という気持ちはあります。……複雑ですが」

リサリサにはこのジョルノが何者なのか、どんな人間なのかがわからない。
しかし、そう答えたジョルノの中に『真実』を見た気がした。
悲しみの心。怒りの心。正義の心。
それらが混ざり合ったジョルノ・ジョバァーナという少年に対し、リサリサは思う。
この少年は『悪い人間』ではない。あのDIOの最悪な遺伝子など、彼には受け継がれてはいないのだろう、と。


―――少し、安心した。


968 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:35:58 82SUI4g20


「こっちの彼の治療は私の波紋で治します。貴方は彼女をお願い」


リサリサはすぐに承太郎の身体を波紋で治療し始める。
本音を言えばDIOの前から逃げるというのも納得できなかった。
しかし―――特にこっちの制服の男……『空条承太郎』には何か、奇妙な親近感を感じる。
彼を死なせてはならない……そんな思いがリサリサの心に生まれたのだ。

「リサリサ……」

そしてそんな彼女を後ろで見つめるのは諏訪子。
今まで危なっかしかったリサリサの挙動もひとまず落ち着いたようだ(ジョルノに食って掛かった時はヒヤリとしたが)。
この場において諏訪子は微妙に蚊帳の外ではあったが、霊夢のことは勿論知っている。
結界の管理人である彼女が死ぬことは、幻想郷が崩壊することに繋がる。
しかしそれ以前に、親しい顔見知りが死にかけているのに自分は何も出来ないというのが悔しい。
ジョルノの治療を祈るように見つめ、見守っていく。神が祈るというのもおかしな話だと自覚しながら。


「諏訪子さん……霊夢とこの男の人、大丈夫かなあ……」


諏訪子の横で同じ様に見守る小傘が不安げに聞いてきた。

「きっと大丈夫さ。リサリサとジョルノを信じなよ。
 信仰ってのは必ず誰かの力になる。祈りを聞いてくれない神様なんていやしないよ」

ニコリと笑って元気付けてくれる諏訪子の笑顔につられて、小傘も微笑む。
かつて自分もジョルノたちに命を救われた小傘だから彼らを信頼できる。きっと救ってくれる。


だから祈ろう。幻想の神にではなく、ジョルノを信じる自分自身の心に。









     ド ブ ン ッ !



「………!?」


頬に感じていた風が、突然止まった。
地から伝わる振動は一瞬の無重力を与え、それはこの場の全員が理解する。
この“アクシデント”にジョルノは、運転していたトリッシュに事態の現状を聞く。

「トリッシュ!? どうして車を止めるんだ!?」

「ち、違うわよ! タイヤが泥に嵌まって動かないの! てか私、免許なんて持ってないんだから車のことなんて聞かないでよ!」

泥……? 雨も降っていないのに何処にタイヤが取られるほどの泥などあるのだろうか。
しかし現にトラックは完全に動きを止め、どころかズブズブと地中に“埋もれて”いっている。
異様な事態にジョルノは霊夢の治療を一時中断、荷台から顔を覗かせ周りを見渡すも……沼らしきものはない。

地面が『泥』のように溶けだし、見る見るうちにトラック全体を飲み込んでいるのだ。


969 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:36:37 82SUI4g20


「な、なによこれぇぇぇーーーーーーーーッ!?」


トリッシュの叫喚が響く中、ジョルノだけはこの光景に『覚え』があった。
地面をドロドロに泥化し、地中を泳ぐスタンド。かつてそんなスタンド使いと戦ったことがある。
だがそのスタンド使いの名前など名簿にはない。考えられるのは……!

「トリッシュ! これは恐らくスタンド攻撃です! 僕たちがローマで戦ったスタンド使いと同じ能力……『地面を泳ぐスタンド』ッ!」

「え……ブチャラティが倒したっていう、あの!?
 じゃあこれは誰かが『スタンドDISC』によって手に入れた能力だっていうの!? 小傘と同じように!」

獣のように鳴り続けるアクセル音がひたすらに空回りする。
敵襲ッ! DIOの追っ手か、はたまた別の危険人物か……!

「ジョ……ジョルノ〜!? こ、これ大丈夫なの!?」

「新手のスタンド使いッ!? こんな時に……!」

「……敵の姿が見えないわね」

小傘とF・Fとリサリサがそれぞれの反応を示し、周囲を警戒したその時……



「せーの…………え〜〜〜〜〜〜〜〜〜いっ!」

「……!?」



雰囲気に合わない気楽な声と共に傾くトラック。荷台の全員が横倒しになろうとする車体に掴まるが、その行為は空しく失敗に終わる。
意識のない承太郎と霊夢を筆頭に、次々に荷台から滑り落ちるジョルノたち。眼下には底無し沼と化した地面が大口を開けているッ!

(やばい……何者かがトラックを地面の下から持ち上げているッ! 引き摺りこまれたら身動きが取れないッ!)

「れ、霊夢ッ! 承太郎ッ! 今助けるわッ!」

『沼』に落ちた二人をF・Fが飛びつくように救出に向かう。
F・Fの本体『フー・ファイターズ』の能力は、元々水の中で真価を発揮する。
しかし下にあるのはあくまでドロドロの『地面』。F・Fといえど果たして無事で済むのかわからない。

「F・Fッ!! 迂闊に飛び込んではいけないッ!! この敵は―――ぐあッ!?」

手を伸ばしたジョルノの後頭部を突然襲う痛み。
吹き飛んだジョルノは重力に抗うこと出来ず、無情にもそのまま沼に落ちてしまったッ!


「ごめんなさい。『貴方』はなるべく傷付けたくなかったのだけど、少し引っ込んでてもらうわね♪」


反転しながら落ちゆく視界の中、ジョルノが聞いたのは透き通った女性の声。
刹那に見えた彼女の姿はスタンドの『スーツ』で覆われており、それはまさしく以前ローマで見たスタンド『オアシス』のヴィジョン。


―――霍青娥の、無邪気な声が全員を戦慄させた。


(ふむぅ。紅魔館から飛び出してきたこの獰猛な乗り物をとりあえず『罠』に嵌めたは良いけど、まさか『彼ら』が乗っていたなんてねえ)


青娥はゲーム序盤に覗いていた光景を想起する。
天候を操る男と激闘を繰り広げた金髪の少年。そしてその仲間である赤毛の女。
何故彼らが紅魔館から逃げるように出てきたのはわからないが、ここで出会ったのも何かの縁。
遠目から見えた走る乗り物が通るであろうこの位置を泥と化し、何となく仕掛けてみた。

しかし青娥はDIOに心酔しているとはいえ、『王者の風格』を持つジョルノに対し敵対しようとは思わない。
彼女からすれば“面白そうだったので少しちょっかいをかけてみた”だけの軽い気持ちである。


―――そう、『最初は』そんな軽い気持ちだった。だがそんな時、彼女の耳に聞き捨てならない単語が入ってきて『気が変わった』。


970 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:37:23 82SUI4g20


(えぇ〜〜〜っと、『あの娘』は、と……いたいた♪)


既に3分の2以上、沼に浸かってしまった横倒れのトラックの荷台に立ちながら彼女は『ターゲット』の姿を探す。

……居た。沼に半分溺れ、泣きそうな顔であっぷあっぷしている。

それを目撃した青娥は、途端に顔を喜色満面に変えて飛ぶ!
目的人物の目の前に着水、いや『着地』した彼女が楽しそうな笑みで語りかけた。


「―――ごきげんよう。不躾ですが、先ほど運転席の娘が叫んでいた『小傘』というのは貴方のことね?」

「………え、ええ!? なな、何か用っ!?」


その返答を“YES”と受け取った青娥は……不気味なほどに妖艶な笑顔を作った。
ぞくり、と。
小傘の背筋が震えた。
それは『殺気』といったモノではなく、まるで『面白いオモチャ』でも見つけたような、底知れぬ無邪気な笑顔だった。

トラックを沼に沈めた青娥はさっき、確かに聞いた。
運転席の娘――トリッシュがはっきりと叫んだその言葉を。
その瞬間、青娥の目的は決まってしまった。もはやジョルノなどどうでもいい。


「―――ちょっとその可愛いおでこ、失礼〜〜〜♪」



   ズ ブ リ ……!



「…………………………え」



青娥の可憐な指が、小傘の額に『侵入』し、そして―――


「出て来た! これが貴方の『スタンドDISC』! も〜〜らいっ♪」


小傘の能力DISC。
小傘の生命線。
小傘の魂の欠片。
今の『多々良小傘』という存在をこの世に繋ぎ止めている唯一の『希望』―――


―――『キャッチ・ザ・レインボー』のDISCが、青娥の手に握られていた。


「これさえ貰えればもう貴方たちに用は無いわ〜。グッバ〜〜イ♪」


「――――――ぁ、待っ


小傘の声はそこで途切れた。
DISCによって補っていた、己の魂の欠片が奪われた。
身体から抜け出るのは、小傘の透明な魂。
DISCが無ければ、ただの抜け殻に逆戻り。
あれが奪われるということは、小傘の肉体が『死亡』することと同じ。

伸ばした手が、だらんと果てる。
意識が―――消失する。


971 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:38:08 82SUI4g20


「な、なんですってえええぇぇぇぇぇぇェェェェェーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」


その一部始終を運転席から弾き飛ばされたトリッシュは見ていた。
突然現れた謎の女に、仲間の『命』を奪われた。
あまりにも、一瞬。何ひとつ抵抗できなかった。

敵を追わなければ。
小傘を救わなければ。
しかし、無尽蔵に漂う泥の海がそれをさせてくれない。


「私が離れれば多分、泥も元通りになるわよー! それじゃあ後は何とか頑張ってね〜〜」


対して、青娥の調子はというとあまりにも悪気の無い様子。
小傘のDISCがまさか彼女の命を繋ぐ無二の希望だとは、青娥は当然知らない。ちょっとした強盗のようにしか考えていないのだ。
しかし例えその事実を青娥が知っていたとしても、彼女なら迷わず喜んでDISCを奪うだろう。
それこそが霍青娥。それこそが邪仙。


だからこそ、そんな『邪悪』を許せない神様がいた。


「―――待ちなよ、邪仙。こんなことしでかしてグッバイの一言で済ませようなんて、ちょっと調子に乗りすぎでしょ」

「……!」


地中の中から足首を掴まれる感覚。
そのまま引きずり込まれた青娥の前には―――洩矢の土着神『洩矢諏訪子』が睨みをきかせていた。


「地面の下は私の『庭』だ。アンタじゃない。……出ていきな」


―――源符「諏訪清水」


「―――うッ!?」

諏訪子の口からうねる水流がまるで蛇の如く発射されるッ!
地中でまともに喰らった青娥は大きく吹き飛び、地面から飛び出して数メートル転がったッ!

「みんなこの蓮の葉に乗って!」

すかさず得意の蓮の葉を生み出し、その浮力によって全員とトラックを地中にまで持ち上げた。
地中を潜るオアシスに対し、諏訪子の宿す能力は相性が良かったのだ。承太郎も霊夢もひとまず傷に触る事もなかったらしい。
しかし……

「小傘ッ!! しっかりしなさいよッ!! 小傘ァ!!」

ピクリともしない小傘を懸命に揺さぶるトリッシュ。
彼女の魂は、未だ青娥の手の中にある。
万事休す、か。


「―――いいえトリッシュ。小傘は助かりますよ」


如何なる状況も冷静に分析し、常に最良の選択を取るジョルノがトリッシュの肩を叩いて言った。


「ゴールド・エクスペリエンス……小傘のDISCには既に生命を植えつけてある。DISCは持ち主である小傘の元へ戻ってきます」


パチン、と指を鳴らしたその時、万物を司る黄金の能力が花咲いた。
青娥の持つDISCが『トンボ』へと姿を変え、その手を離れる!


972 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:38:42 82SUI4g20


「いった〜〜い……! あのチビ神さま、やってくれましたわね―――って、あららら?」


手を伸ばして捕まえようとするも、既に遅し。
あっという間に小傘の下に辿り着いたトンボは、元の円盤の形を取り戻して小傘の額に再び入っていった。


「―――ん……、あ…あれ? 今わたし、幽体離脱とかしてたような……」

「小傘……、馬鹿ッ! 心配かけさせんじゃないわよ!!」


泣くような声でトリッシュは小傘の頭をはたき、胸を撫で下ろす。
本当に危機一髪。ジョルノと諏訪子のおかげでこの急襲は何とか凌ぐことができた。

「三人共早く車に乗って! さっさとあいつから逃げるわよッ!」

F・Fが承太郎と霊夢の体を荷台に寝かせて叫んできた。
今はとにかく、安全な場所で瀕死の二人を治療することこそ第一。トリッシュも運転席に飛び乗り、エンジンを蒸かす。
ぐん、という衝撃がトラックを揺らし、泥ではなく固定された地面へとタイヤが擦れる。
法定速度なし! 目一杯にアクセルを踏み込み、全速を繰り出すッ

これで一安心―――としたいところだがそうもいかなかった。更なる“現実”が敵意を振り撒いて追撃をかけてくる。


「み、みんな見て! 後ろから……なんかいっぱい飛んでくるよ!」


小傘が指差した後方の空から、大量の『群隊』が猛襲して来るのが見えた。
空を隠すほどの大量なる生物。まさしく―――


「……早くも追っ手です。数え切れないほどの『翼竜』……F・Fと戦ったというディエゴが操る部下でしょう」

「ディエゴ……ッ! とことん追撃をかける気ね……!」


ギリリ、と歯を食いしばる音がF・Fから漏れる。射殺すような視線を敵へと投げるが……


「トリッシュ、加速してください! こっちには瀕死の二人がいるッ!
 奴の狙いは彼らですッ! 絶対に追いつかれてはマズイッ!」

「翼竜を操ってるディエゴ本体を倒せばいいんじゃないかしら……?」

「あれほどの翼竜がいたのではそれも厳しいでしょう。隙を突かれてこの二人が攻撃されれば、それで終わりです。
 それほどに二人の容態は“死にかけ”ですから。僕とリサリサさんも治療だけで手一杯。加勢は期待しないで下さい」


F・Fの意見をジョルノは一蹴する。
今なお目覚めない承太郎と霊夢の体をジョルノとリサリサは一心に治療を進めるが、制限のせいもあり思うように進まない。
とにかく、まずは追っ手から逃げ切ることが優先。


「……了解しましたわ。二人の治療は、ジョルノとリサリサにお任せします。
 諏訪子、小傘。私たち三人が殿を務めるわよ。奴らから完全に逃げ切るまで皆を守り通すの!」

「おっけ! あんな空飛ぶトカゲ、ミシャグジ様が喰らってやるよ!」

「……え? え、えーーー私も数に入ってるのーーーッ!?」


F・Fはトラック後部に立ち、今度こそ霊夢を……二人を守らんと迎え撃つ。
彼らには恩があるのだ。まだまだ学びたいことが沢山ある。


その命は―――絶やさないッ!



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


973 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:39:06 82SUI4g20

「よお。酷い目に遭ったなぁ、邪仙サマ?」

「あら、ディエゴちゃん。貴方も彼らを追ってるの?」


腰を擦りながら起き上がる青娥の前に、紫に乗ったディエゴが現れた。
その頭上には数え切れないほどの翼竜が意志を持った霧のように羽ばたき、騒々しい鳴き声が飛び交っている。

「空条承太郎と博麗霊夢にトドメを刺すためにな。
 それに―――あの『洩矢諏訪子』とかいうチビもターゲットだ」

「あの土着神を……? あぁ、そういえば神とか大妖の魂も集めてるんでしたわね。
 ならば手をお貸ししましょう。私も―――小傘ちゃんの持つ『スタンドDISC』がどーしても欲しくってねえ」

ゾッとするほどの喜びに溢れた声が溢れ、青娥は『新しいオモチャ』を見つけた。
彼女は自分の望む物は何だって手に入れる。何をしてでも手に入れる。その目的のためには手段など選んでられない。
そして飽きたらあっさりと捨てるのだ。次なるオモチャを探しに、食欲でも満たすかのように。


「私にはディエゴちゃんみたいな馬は持ち合わせておりませんので……そろそろ『アレ』を使いましょうか。ねー蓮子ちゃん?」

「全く……お願いですから、ハア……ハア……、勝手にあちこち、行かないでくださいよ……!
 DIO様にメリーを、ハア……ハア……、届けなくっちゃ、いけないんですから……!」


朗らかな声で呼ばれたのは肩でゼエゼエ息をする蓮子。青娥が好き勝手な行動するので付いて行くのもひと苦労らしい。
そんな蓮子の辛そうな様子を意にも介せず、青娥はニコニコと手を差し出してくるばかり。
文句を言う気力も無くなり、渋々とデイパックから支給品の入った紙を取り出して開く。

「青娥さんさっきはコレ、乗りこなせずに大苦戦してたじゃないですか。第一免許持ってないし」

「さっきは森の中だったから乗れなかっただけです〜。それにここ幻想郷に免許は必要ありません。
 この青娥が生まれた時代は馬車しか走っていなかったというのに、外の科学は随分発達しましたわねぇ」

紙から現われた物は、蓮子の支給品である鉄の馬・オートバイだ。
さっき魔法の森を通っていた時に、青娥が少しだけ試運転してみたが結果は惨敗だったらしい。

「今度は大丈夫ですわ! 絶対絶対DISCを手に入れて見せるんだから〜!」

「そいつも小型の『自動車』の一種か? オレのシルバー・バレット(馬)とどっちが速い? ついてこれるか?」

ディエゴも未来の科学を半ば初めて目撃し、興味を示す。
トップスピードなら馬などよりは比較にならないだろうが、乗りこなす操縦者が多少心配ではある。


「なんにせよ、ひと狩りおっ始めるとするか。奴らに追いついて承太郎、霊夢を今度こそ始末する。ついでに諏訪子も捕らえるぞ」

「ラジャー♪ あっ 蓮子ちゃんはメリーちゃん連れて先にDIO様のもとに連れてってね。それじゃあ行ってきます♪」


言うだけ言って青娥もディエゴもトラックを追って行ってしまった。
けたたましいエンジン音と翼竜の鳴き声だけが余韻に残り、二人の後ろ姿を蓮子は呆然と見送るしかなかった。
最初から最後まで振り回されっぱなしの環境に、そろそろ嫌気がさす。
主であるDIOのためならば何だってするつもりの蓮子ではあるが、どうやら選ばれた相方というくじ運は無かったらしい。


『ご、ご主人様ァ〜。や、やっと追いつきました、よ……!』


メリーを背負って今更ノコノコ現れたヨーヨーマッの声にイラッとしつつ、しかしその背に眠るプリンセスの寝顔を見ると怒る気も失せる。
代わりとばかりに大きな溜息をついて、まずは届け物を完了するためにその足を紅魔館へと向け歩き出した。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


974 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:41:11 82SUI4g20
『姫海棠はたて』
【午前】C-4 霧の湖のほとり 上空


「うっわわッ!? なにアレっ!? なになにアレなにっ!? 事件!? 事件ねこれはッ!!」


ネタを探して奔放するはたてが紅魔館近くを飛翔していた時のことだった。
眼下の陸では爆走する鉄の馬と何人かの参加者、それを追うオオトカゲやら小さな鉄の馬やらそれに跨る邪仙やら金髪の男やらなにやら。
極め付けには大量の空飛ぶトカゲまでもが追いかけてきており、明らかに参加者同士の追走劇、所謂『カーチェイス』が始まっている。

はたては興奮しながらカメラで何度もパシャパシャとシャッターを切る。
自身も飛行しながらの撮影だが鴉天狗にそんな悪環境は問題にならない。とにかく枚数を撮って撮って撮りまくる!

そう、はたては『生の』殺し合いというものを初めて体験する。
体験するというのは自分が事件の当事者になる、という意味でなく第三者として。
カメラや写真を通してではない、初めて自分の目で直接『生の殺し合い』というゲームを目撃しているのだ。
いわば岸辺露伴の言う『リアリティ』というものを今まさに体験している。それははたてにとって新しい世界。


なるほど、実際に体験してみれば彼の言ったことがよく理解出来る。
事件の熱。興奮。空気。感動。
そのどれもが間接的に念写していたものとはまるで別次元だ。
文はこれほどの現場を、毎日体験していたのか。
……自分が今までいかに無知であったかが分かる。


「しかも……あの荷台で死に掛けてるのって『博麗霊夢』じゃないっ!? ウワーオまじかぁ〜〜スッゴ!」


再びシャッター音を二回切る。
確かにトラックで倒れているのはこの幻想郷を代表する巫女、博麗霊夢で間違いない。
そしてもうひとり、横に倒れている黒焦げの男はリストで霊夢と一緒にいた『空条承太郎』、なのか? ……そういうことにしよう。
空条徐倫と同じ性なのは親類だからだろうか? まあ、そんなことはどうでもいい。


「『博麗霊夢、空条承太郎二名が完全敗北ッ!! 幻想郷の未来はッ!?』……うん! 記事の見出しはこんなところね!」


既に脳内では案山子念報最新誌が組み上がっている。
間違いなく大スクープだ。しかも今回は完璧に自分の実力での撮影。誰にも文句は言わせない。

「ウェスーーー!! ウェスウェスウェスーーー! 参加者参加者! 大量! 取り放題撮り放題よッ!
 ったくどこいんのよアイツ! 参加者みんな逃げちゃうわよっ!? 報道は新鮮さが命なんだからっ!」

上空を飛びながらはたてはウェスから聞いたアドレスにメールを打ち込む。
自分らの居場所と簡単な現状を書き込み、急いで発信した。来るかどうかはわからないが、来なかったら蹴り飛ばしてやる。


「もっと! もっともっと事件を起こすんだッ!
 見てなさい文! 露伴! 絶対に最強の記事を書いてやるんだからーーーっ!!」


はたてはまだ、気付かない。
彼女は結局、自分の新聞を自分のために書いているということに。
報道とは第三者へ届けるもの。自分のためだけに作っているのでは勝つことは出来ない。
露伴は『読者』のためにマンガを描いている。自分の自己満足を満たすことを考えたことなど一度だってない。
勝負ばかりを見ているはたてのままでは、絶対に勝つことが出来ないだろう。


彼女がそれに気付けるのはいつになるだろうか。
今はただ、自身の記事にこれだけの『項』を筆走らせ―――事件を追走する。




  ――案山子念報第4誌――

【博麗霊夢】   ―――再起不能
【空条承太郎】 ―――再起不能

   『両二名:生死不明』

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


975 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:44:27 82SUI4g20
【午前】C-4 霧の湖のほとり

【博麗霊夢@東方 その他
[状態]:体力消費(極大)、霊力消費(極大)、右肩脱臼(処置済み。右腕は動かせますが、痛みは残っています)、
    左手首に小さな切り傷(処置済み)、あちこちに小さな切り傷(処置済み)、右肩から腰にかけての大裂傷、失血、瀕死
[装備]:いつもの巫女装束(裂け目あり)、モップの柄
[道具]:基本支給品、自作のお札(現地調達)×たくさん(半分消費)、アヌビス神の鞘、缶ビール×8、
    不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)、廃洋館及びジョースター邸で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:この異変を、殺し合いゲームの破壊によって解決する。
1:現在、意識不明。状況はかなり深刻。
2:戦力を集めて『アヌビス神』を破壊する。殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:フー・ファイターズを創造主から解放させてやりたい。
4:全てが終わった後、承太郎と正々堂々戦って決着をつける。
5:紫を救い出さないと…!
6:『聖なる遺体』を回収し、大統領に届ける。今のところ、大統領は一応信用する。
7:出来ればレミリアに会いたい。
8:暇があったらお札作った方がいいかしら…?
9:大統領のハンカチを回収し、大統領に届ける。
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※太田順也が幻想郷の創造者であることに気付いています。
※空条承太郎@ジョジョ第3部の仲間についての情報を得ました。
 また、第2部以前の人物の情報も得ましたが、どの程度の情報を得たかは不明です。
※白いネグリジェとまな板は、廃洋館の一室に放置しました。
※フー・ファイターズから『スタンドDISC』、『ホワイトスネイク』、6部キャラクターの情報を得ました。
※ファニー・ヴァレンタインから、ジョニィ、ジャイロ、リンゴォ、ディエゴの情報を得ました。
※ディエゴ、DIOから受けた傷は深く、回復したとしても時間が掛かると思われます。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:体力消費(極大)、精神疲労(極大)、全身何箇所かに切り傷(処置済み)
    F・F弾による弾痕(処置済み)、全身骨折、全身火傷、瀕死
[装備]:長ラン(所々斬れています)、学帽、ミニ八卦炉 (付喪神化、エネルギー切れ)
[道具]:基本支給品、DIOのナイフ×5、缶ビール×2、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)
    その他、廃洋館及びジョースター邸で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の二人をブチのめす。
1:現在、意識不明。状況はかなり深刻。
2:花京院・ポルナレフ・ジョセフ他、仲間を集めて『アヌビス神』を破壊する。DIOをもう一度殺す。
 その他、殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:『聖なる遺体』を回収し、大統領に届ける。今のところ、大統領は一応信用する。
4:大統領のハンカチを回収し、大統領に届ける。
5:ウェザーにプッチ、一応気を付けておくか…
6:霊夢他、うっとおしい女と同行はしたくないが……この際仕方ない。
7:あのジジイとは、今後絶対、金輪際、一緒に飛行機には乗らねー。
8:全てが終わった後、霊夢との決着を付けさせられそうだが、別にどーでもいい。
※参戦時期はジョジョ第3部終了後、日本への帰路について飛行機に乗った直後です。
※霊夢から、幻想郷の住人についての情報を得ました。女性が殆どなことにうんざりしています。
※星型のアザの共鳴によって同じアザの持つ者のいる方向を大雑把に認識出来ます。
 正確な位置を把握することは出来ません。
※フー・ファイターズから『スタンドDISC』、『ホワイトスネイク』、6部キャラクターの情報を得ました。
※ファニー・ヴァレンタインから、ジョニィ、ジャイロ、リンゴォ、ディエゴの情報を得ました。
※停止時間は2→5秒前後に成長しました。
※DIOから受けた傷は深く、回復したとしても時間が掛かると思われます。


976 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:44:54 82SUI4g20
【フー・ファイターズ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:十六夜咲夜の死体寄生中、体力消費(中)、首に裂傷(処置済み)
[装備]:DIOのナイフ×11、本体のスタンドDISCと記憶DISC
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット2
[思考・状況]
基本行動方針:スタンドDISCを全部集めるが、第2回放送までは霊夢たちと行動する。
1:霊夢たちを助けたい。一先ずDISCは後回し。
2:レミリアに会う?
3:墓場への移動は一先ず保留。
4:空条徐倫とエルメェスと遭遇したら決着を付ける?
5:『聖なる遺体』を回収し、大統領に届ける。
6:大統領のハンカチを回収し、大統領に届ける。
[備考]
※参戦時期は徐倫に水を掛けられる直前です。
※能力制限は現状、分身は本体から5〜10メートル以上離れられないのと、
 プランクトンの大量増殖は水とは別にスタンドパワーを消費します。
※ファニー・ヴァレンタインから、ジョニィ、ジャイロ、リンゴォ、ディエゴの情報を得ました。
※咲夜の能力である『時間停止』を認識しています。現在0.5秒だけ動けます。


【ジョルノ・ジョバァーナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(中)、精神疲労(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:軽トラック@現実(燃料90%、荷台の幌は引っぺがしている)
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ東方の物品の可能性あり、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:追っ手を振り切りつつ、承太郎と霊夢を治療。
2:ブチャラティに合流したい。
3:トリッシュの道の一助となる。
4:小傘を連れて行くが、無理はさせない。
5:ディアボロをもう一度倒す。
6:小傘の様態をもう一度確認する。
7:あの男(ウェス)、何か信号を感じたが何者だったんだ?
8:DIOとはいずれもう一度会う。
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限として、
 『傷の治療の際にいつもよりスタンドエネルギーを大きく消費する』ことに気づきました。他に制限された能力があるかは不明です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※ディエゴ・ブランドーのスタンド『スケアリー・モンスターズ』の存在を上空から確認し、
 内数匹に『ゴールド・エクスペリエンス』で生み出した果物を持ち去らせました。現在地は紅魔館です。
※小傘の状態の異変を感じていますが、どういったものか、あるいはその有無は次の書き手の方にお任せします。
 ジョルノだって勘違いするかもしれませんし


【トリッシュ・ウナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(小)、精神疲労(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間を築き上げ守り通す、主催者を倒す
1:追っ手を振り切る。
2:ブチャラティに合流したい。
3:ジョルノ、小傘と共に歩んでいきたい。
4:ディアボロをもう一度倒す。
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限は未定です。
※血脈の影響で、ディアボロの気配や居場所を大まかに察知できます。


977 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:45:22 82SUI4g20
【多々良小傘@東方星蓮船】
[状態]:???、体温低下、精神疲労(小)、妖力消費(小)、スズラン毒を無毒化
[装備]:化け傘損壊、スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット3(8/9)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:トリッシュ、ジョルノの二人のために行動したい
1:追っ手を振り切る。
2:自分を認めてくれた二人のために生きていたい
3:トリッシュの道の一助となる
4:そういえばDISC回収した方がいいけど、どうしよう?
5:あの仙人、私狙ってる!?
[備考]
※化け傘を破損して失った魂の一部を、スタンドDISCによって補うことで生存しています。
 スタンドDISCを失ったら魂が抜け、死にます。
※ジャンクスタンドDISCセット3の内1つを現在地周辺に落としました。
 草に阻まれて闇雲に探すのに時間がかかるので、見つけるなら一工夫必要です。


【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険 第二部戦闘潮流】
[状態]:健康、DIOへの憎しみ
[装備]:タバコ、アメリカンクラッカー@ジョジョ第2部
[道具]:不明支給品(現実)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と主催者を打倒する。
1:追っ手を振り切りつつ、承太郎と霊夢を治療。
2:DIOは絶対に滅する!
3:スピードワゴンさん、シーザー!
4:ジョセフ……
5:この承太郎という男、ジョセフに似てる…?
[備考]
※参戦時期はサンモリッツ廃ホテルの突入後、瓦礫の下から流れるシーザーの血を確認する直前です。
※目の前で死んだ男性が『ロバート・E・O・スピードワゴン』本人であると確信しています。
 彼が若返っていること、エシディシが蘇っていることに疑問を抱いています。
※聖白蓮、プッチと情報交換をしました。プッチが話した情報は、事実以外の可能性もあります。


【洩矢諏訪子@東方風神録】
[状態]:霊力消費(小)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品×1(確認済み、@現実)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田に祟りを。
1:追っ手を振り切る。
2:守矢神社へ向かいたいが、今は保留とする。
3:神奈子、早苗をはじめとした知り合いとの合流。この状況ならいくらあの二人でも危ないかもしれない……。
4:信仰と戦力集めのついでに、リサリサのことは気にかけてやる。
5:プッチを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降。
※制限についてはお任せしますが、少なくとも長時間の間地中に隠れ潜むようなことはできないようです。
※聖白蓮、プッチと情報交換をしました。プッチが話した情報は、事実以外の可能性もあります。

※彼らがどこまで逃げるか、次の書き手さんにお任せします。


978 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:45:58 82SUI4g20
【ディエゴ・ブランドー@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:体力消費(中)、霊撃による外傷、首筋に裂傷(微小)、右肩に銃創(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:幻想郷縁起@東方求聞史紀、通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、ミツバチの巣箱@現実(ミツバチ残り50%)、
   基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。過程や方法などどうでもいい。
1:青娥と共に承太郎、霊夢、F・Fを優先的に始末。諏訪子の身柄確保。
2:ディオ・ブランドー及びその一派を利用。手を組み、最終的に天国への力を奪いたい。
3:同盟者である大統領を利用する。利用価値が無くなれば隙を突いて殺害。
4:主催者達の価値を見定める。場合によっては大統領を出し抜いて優勝するのもアリかもしれない。
5:紅魔館で篭城しながら恐竜を使い、会場中の情報を入手する。大統領にも随時伝えていく。
6:恐竜化した八雲紫は護衛役として傍に置く。
7:レミリア・スカーレットは警戒。
8:ジャイロ・ツェペリは必ず始末する。
[備考]
※参戦時期はヴァレンタインと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※主催者は幻想郷と何らかの関わりがあるのではないかと推測しています。
※幻想郷縁起を読み、幻想郷及び妖怪の情報を知りました。参加者であろう妖怪らについてどこまで詳細に認識しているかは未定です。
※恐竜の情報網により、参加者の『8時まで』の行動をおおよそ把握しました。

○『ディエゴの恐竜』について
ディエゴは数十匹のミツバチを小型の翼竜に変化させ、紅魔館から会場全体に飛ばしています。
会場に居る人物の動向等を覗き、ディエゴ本体の所まで戻って主人に伝えます。
また、小さくて重量が軽い支給品が落ちていた場合、その回収の命令も受けています。
この小型恐竜に射程距離の制限はありませんが、攻撃能力も殆ど無く、相手を感染させる能力もありません。
ディエゴ自身が傷を付けて感染化させる事は出来ますが、ディエゴが近くに居ないと恐竜化が始まりません。
ディエゴ本体が死亡または意識不明になれば全ての恐竜化は解除されます。
また、『死体』は恐竜化出来ません。
参加者を恐竜化した場合、傷が小さい程ディエゴの消耗次第で解除される可能性が増します。
それ以外に恐竜化に関する制限が課せられているかは不明です。
博麗霊夢は『空を飛ぶ程度の能力』を持っているので、今のところ半分ほどしか能力が効きません。


【八雲紫@東方妖々夢】
[状態]:全身火傷(やや中度)、全身に打ち身、右肩脱臼、左手溶解液により負傷、背中部・内臓へのダメージ、吸血、現在恐竜化
[装備]:なし(左手手袋がボロボロ)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:幻想郷を奪った主催者を倒す。
1:ディエゴの支配を受ける。
2:幻想郷の賢者として、あの主催者に『制裁』を下す。
3:DIOの天国計画を阻止したい。
4:大妖怪としての威厳も誇りも、地に堕ちた…。
5:霊夢…咲夜…
[備考]
※参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
※放送のメモは取れていませんが、内容は全て記憶しています。
※太田順也の『正体』に気付いている可能性があります。


【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:疲労(中)、全身に唾液での溶解痕あり(傷は深くは無い)、衣装ボロボロ
[装備]:キョンシーの右腕、S&W M500(残弾3/5)、スタンドDISC「オアシス」@ジョジョ第5部、
    河童の光学迷彩スーツ(バッテリー60%)@東方風神録
[道具]:オートバイ@現実、双眼鏡@現実、500S&Wマグナム弾(13発)、催涙スプレー@現実、音響爆弾(残1/3)@現実、
    基本支給品×5
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:DIOの王者の風格に魅了。彼の計画を手伝う。
2:ディエゴと共に承太郎、霊夢、F・Fを優先的に始末。諏訪子の身柄確保。そして何より小傘のDISC♪
3:会場内のスタンドDISCの収集。ある程度集まったらDIO様にプレゼント♪
4:八雲紫とメリーの関係に興味。
5:あの『相手を本にするスタンド使い』に会うのはもうコリゴリだわ。
6:芳香殺した奴はブッ殺してさしあげます。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※光学迷彩スーツのバッテリーは30分前後で切れてしまいます。充電切れになった際は1時間後に再び使用可能になるようです。
※DIOに魅入ってしまいましたが、ジョルノのことは(一応)興味を持っています。


979 : 紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ― その④  ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:46:31 82SUI4g20
【宇佐見蓮子@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(中)、肉の芽の支配
[装備]:アヌビス神@ジョジョ第3部、スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部
[道具]:針と糸@現地調達、基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:DIOの命令に従う。
1:DIOの命令通り、メリーを紅魔館まで連れて帰る。
2:青娥やアヌビス神と協力し、邪魔者は排除する。
[備考]
※参戦時期は少なくとも『卯酉東海道』の後です。
※ジョニィとは、ジャイロの名前(本名にあらず)の情報を共有しました。
※「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力」は会場内でも効果を発揮します。
※アヌビス神の支配の上から、DIOの肉の芽の支配が上書きされています。
 現在アヌビス神は『咲夜のナイフ格闘』『止まった時の中で動く』『星の白金のパワーとスピード』『銀の戦車の剣術』を『憶えて』います。


【マエリベリー・ハーン@秘封倶楽部】
[状態]:気絶中(蓮子の肉の芽の中?)
[装備]:なし
[道具]:八雲紫の傘@東方妖々夢、星熊杯@東方地霊殿、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と一緒に此処から脱出する。ツェペリさんの『勇気』と『可能性』を信じる生き方を受け継ぐ。
1:蓮子……どうして?
2:八雲紫に会いたい。
[備考]
※参戦時期は少なくとも『伊弉諾物質』の後です。
※『境目』が存在するものに対して不安定ながら入り込むことができます。
 その際、夢の世界で体験したことは全て現実の自分に返ってくるようです。
※ツェペリとジョナサン・ジョースター、ロバート・E・O・スピードワゴンの情報を共有しました。
※ツェペリとの時間軸の違いに気づきました。
※竹林で落とした八雲紫の傘と星熊杯を回収しました。


【姫海棠はたて@東方 その他(ダブルスポイラー)】
[状態]:霊力消費(小)、腹部打撲(中)
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャーの予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:眼下の大スクープを引き続き取材。その後に記事の作成。
2:岸辺露伴のスポイラー(対抗コンテンツ)として勝負し、目にもの見せてやる。
3:ウェスを利用し、事件をどんどん取材する。
4:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
5:ウェスーーー! 早く来てーーー!
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※制限により、念写の射程は1エリア分(はたての現在位置から1km前後)となっています。
 念写を行うことで霊力を消費し、被写体との距離が遠ければ遠い程消費量が大きくなります。
 また、自身の念写に課せられた制限に気付きました。
※ムーディー・ブルースの制限は今のところ不明です。
※リストには第一次放送までの死亡者、近くにいた参加者、場所と時間が一通り書かれています。
 次回のリスト受信は第2回放送直前です。
※花果子念報マガジン第3誌『隠れ里の事件』を発刊しました。


○支給品説明

<オートバイ@現実>
宇佐見蓮子に支給。
陸王RT-2型。サイドバルブ750cc、22馬力。前進4段ロータリー式フットシフト、ハンドクラッチ。
二輪駆動であるため当然、山道や森などの悪路の走行には向かない。
なお、本編には全く関係ないが『東方深秘録』では聖白蓮の使用するオカルトが『ターボババァ』である。
疾走するバイクを相手にブチ当てて轢くという鬼のような必殺技だが、かなり危険な技なので良い子も悪い子も真似してはいけない。
そして当たり前だが幻想郷には自動車学校も免許センターもない。良い子も悪い子も乗り回す時は必ず免許を取得しよう。(※慧音談)


<針と糸@現地調達>
ジョニィと蓮子がGDS刑務所の食堂で手に入れた、何の変哲も無い針と糸。
持ち合わせておくと色々便利かもしれない。
ホッチキスで腹の傷を治す激動のジョジョワールドにおいて、針と糸はまだ治療に向いている方である。
しかしゾンビ馬の糸でもない限り、普通は治ったりしない。普通は。


980 : ◆qSXL3X4ics :2015/05/27(水) 13:53:55 82SUI4g20
長かったですがこれで「紅蒼の双つ星 ― ばいばいベイビィ ―」の投下を終了します。
今回の話はジョジョ東方ロワ中盤へのターニングポイント的位置付けで書いてます(個人的に)。
なので妥協はせず、突っ切りました。次からは少し大人しめの話を書いていこうかと思います。

それと>>945の承太郎の台詞
「SPW財団の資料やじじいから見聞きした話によれば、てめえは俺のひいおじいちゃん……ジョナサン・ジョースターに『三度』敗北しているらしいな」
の「ひいおじいちゃん」の部分は「ひいひいおじいちゃん」の誤りでした。すみません。

それではここまで読んでくださってありがとうございます。
感想ご指摘あれば宜しくお願いします。


981 : 名無しさん :2015/05/27(水) 14:05:09 zCGYVyc60
投下乙です
DIOs vs主人公ペアの初戦は主人公ペアの敗北か…
敗北から再び二人は立ち上がれるのでしょうか
ジョルノが救援に来たときにはテンションが上がり、青娥襲撃の時もいったいどうなるのかとハラハラしました
FFの時間停止の入門や諏訪子のかっこよさ、リサリサの宣戦布告などたくさんの見せ場があった素晴らしい話でした


982 : 名無しさん :2015/05/27(水) 14:06:01 kWIPtjHE0
投下乙!
この段階で承太郎とDIOのバトルをいきなりやっちゃうのかと思ったがさすがに決着はつかなかったかー
ジョルノ達が突入してからの展開がとにかくスピーディーで緊迫感もぱなかった
前半でF・Fがあっさりやられすぎじゃね?と思ったけど助けを求めていたとは…おまけに時止めまでやっちゃって
承太郎と霊夢は容体もさることながら刻みつけられた敗北に立ち向かえるのかどうか
予断を許さないし続きが楽しみです!

一つ指摘というか疑問ですが、霊夢の状態表にディエゴの恐竜化についての記述がないのは大丈夫なのでしょうか?


983 : 名無しさん :2015/05/27(水) 21:46:56 Ilx1LhUQ0
投下乙です!
すげえ!とにかく…すげえ!
まさか第二回放送前に主人公チームvsDIOコンビが勃発するとは…
スタンドバトルと弾幕ごっこを絡めた霊夢&FFvsディエゴ、
時間停止能力者同士の駆け引きが繰り広げられた承太郎vsDIOと兎に角熱い戦いの連続でした
幻想郷について吸血鬼である自身を絡めて言及するDIOが印象的
主人公二人はここで脱落かと思ったけどFFが頑張った…!
対主催チームvsディエゴ&青娥の逃避行は続きがとても気になる引きでした
はたては相変わらずで逆に怖いぞ!


984 : 名無しさん :2015/05/27(水) 22:01:23 YBYbPyoY0
投下乙!
承太郎が負けることは覚悟してたが、死ぬ前に救出されてホッとした
それでも安心できない展開
氏が言うように、この逃走劇の終わりが重要なターニングポイントになると思います
誰が死に誰が生き残るのか、対主催陣営にとってもマーダーにとっても重要な局面
続きが待ち遠しいです

一つ指摘、上の人に加えて、ディエゴの目の負傷が状態表に追加されてなかったです


985 : 名無しさん :2015/05/27(水) 23:17:52 FRTNlRS20
第一回放送越えてないキャラはカーズ、魔理沙、徐倫だけか


986 : 名無しさん :2015/05/28(木) 00:07:33 y0tfA5sk0
カーズ様はまだシーザーの中に潜ったままなのか


987 : 名無しさん :2015/05/28(木) 10:44:02 kraP/DRY0
投下乙
いやーWディオつえーな、ディエゴの目潰しは後続にまで響くだろうけどDIOへのダメージは回復したし、流石の強さだ
それはともかく、逃走劇いいね!なんかこういうの好きだ
第3勢力が乱入、急造メンバーが希望の星を助けるべく突撃!逃走!ってなんか好き……なんかいいんだよ!
何にしても力作の投下乙でした!


988 : ◆RzdEBf96bU :2015/05/28(木) 18:05:45 kXzIL1XM0
カーズ予約します


989 : 名無しさん :2015/05/28(木) 18:44:51 cmV3X2620
カーズ様キタ-


990 : 名無しさん :2015/05/28(木) 19:35:14 lWGgjKh60
kーzキター


991 : 名無しさん :2015/05/28(木) 19:43:28 BkxLl0M.0
ジョリーンどこいたっけな
パパのピンチに駆けつけることはできるのか…いや、ロワのフラグ的には会わない方がいいのか…


992 : 名無しさん :2015/05/28(木) 22:01:29 OiZfEglY0
魔法の森の北部らへんにいたけど、ワムウとの戦いで魔理沙共々疲弊してた記憶


993 : ◆BYQTTBZ5rg :2015/05/30(土) 06:35:10 q4SUdC6c0
ジョースケと天子で予約します


994 : 名無しさん :2015/05/30(土) 09:38:42 zJpsm7iQ0
早速予約来たか、天子ちゃん年長者の風格を見せられるか


995 : 名無しさん :2015/05/30(土) 09:48:30 9UriCh6I0
もうすぐこのスレも終わりか

つらいことがたくさんあったが… でも楽しかったよ
みんながいたからこのスレは楽しかった


996 : 名無しさん :2015/05/30(土) 12:01:14 5vaiwfq.0
>>995
なにお別れムード全開になってんだよ
スレは一巡してまた新しいスレが建つんやで
先に向こうで待ってるからな(キメ顔)


997 : ◆YF//rpC0lk :2015/05/30(土) 21:28:00 8LV0Dgok0
次スレですよ〜
ジョジョ×東方ロワイアル 第六部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1432988807/

皆様のおかげでこのスレも6スレ目まで突入です
wikiの方は近日中に編集します……遅れちゃって済みません


998 : 名無しさん :2015/05/30(土) 21:41:11 lgtaoKUI0
新スレ乙!さてこっちは埋めるか


999 : 名無しさん :2015/05/30(土) 21:41:38 lgtaoKUI0
埋め


1000 : 名無しさん :2015/05/30(土) 21:52:07 2TBEMIVM0
禁じ手の>>1000ゲット


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