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パラダイスドリーム・バトルロワイアル
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「さんたまりあ うらうらのーべす
Sancta Maria ora pro nobis
さんただーじんみちびし うらうらのーべす
Sancta Dei Genitrix ora pro nobis 」
その光景を形容するには、混沌の二文字で事足りた。
信(イノリ)、信(ネガイ)、信(チカイ)、信じる――勇ましき義の炎を燃やし立ち上がり、己を奮い立たせ突貫した兵達の骸が積もり積もって蛆が涌き、腥い腐臭を漂わせて終末の混沌にゆっくりと融け堕ちてゆく。
絶えず響く呪わしき歌は、世を恐怖に震撼させ高らかに破顔する魔王の僕が奏でるもの。
耳を犯し、鼓膜を溶かし、脳髄にまで至り精神病を引き起こす魔性の詩篇に他ならない。
偏に猛毒。信仰を恣意的に歪め、弄ぶ外道の跳梁だ。
この邯鄲に希望無し。
一人として余さず絶望し、散り果て、百鬼に亡ぼされ塵と化した。
そうしてまた、幾つかの世界が滅亡を遂げる。
いったい幾度、こんなことを繰り返したろうか。
十はとうに超え、ともすれば百に達したやもしれない。
それだけの試行錯誤(ころしあい)を経て、ただの一度として及第点にすら届く人物はなかった。
無双の戦士。
聡明な魔法使い。
弁舌で大軍を率い、千の絆で邯鄲を打ち砕かんと吼えた将。
それらもまた、一人残さず混沌(べんぼう)に呑まれて消え去った。
足りぬ足りぬ、これしきでは満足できぬ。
求め続け、謳い続ける魔王にとって彼らの死は等しく無価値。
「オン・コロコロ・センダリマトウギソワカ―― 六算祓エヤ滅・滅・滅・滅」
「 ――亡・亡・亡―― 」
怒り狂う龍(カミ)の祝詞と共に、千(アマタ)の信(イノリ)は再び滅亡を喫する。
結果は敗走。またしても、魔王の一人勝ちに終わった。
漆黒が降り注ぎ、歌劇は終幕を告げる。
祝福の歌声と共にけたたましく喚き狂う羽音はさながら鎮魂の聖歌。
ありとあらゆる希望が潰えたこの時、混沌(べんぼう)の地獄は遂に完成の時を迎える。
心身共に砕き折られた敗者達に……もはやこの終幕へ否を唱えることなど不可能であった。
これはユメだ。無意識の世界。覚めれば終わる泡沫の現象を、現実世界に持ち込むという蛮行なのだ。
この夢は人を殺す。この夢は歴史を変える。
紙に珈琲を零すかの如く、悪夢の津波は止まらない。
また幾つかの世界へと浸水し、破滅へ抗えと無理難題を押し付ける。
「 終 段 ・ 顕 象 ―― 」
宛ら共食いに狂する獣のように、人は殺し殺されの蟲毒を演じる。
何れ陰惨に飽いたなら、魂を重ね抗い立つが良い。その果てに――俺の望む楽園(ぱらいぞ)を見せてくれ。
救世主を迎えるのは歪んだ礼賛の謠。ここに、何十度目かの結果の見えた闘争が幕を開ける。
【――――終幕】
@wiki
ttp://www64.atwiki.jp/truthmagical/pages/1.html
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帳の落ちた暗闇に、突如としてその僧侶は出現した。
蜃気楼か陽炎を思わせる曖昧な半透明から徐々に実体がはっきりとしてゆき、最後にはちゃんとした人間の形となる。
不可解極まる超常現象に改めて驚きを示す者がないのは、この闇へ呼び寄せられた者達が皆〝異能〟の存在に対してさしたる疑問を抱かない程に非日常へと順応してしまった猛者ばかりであることを意味していた。
それに満足気な微笑を湛え、神父は不敵に僧衣に覆われたその右腕を掲げる。
民衆を焚きつける指導者然としてさえいる傲岸な態度が、何故か不思議と、これ以上ないほどに似合っている。
「ようこそ、諸君。歓迎しよう――といっても、招いたのは此方なのだがね……」
誰一人望んでこの地を訪れた者はいない。
何が行われるのか、此処が何処なのかも知らぬまま、彼らは粘つくような冥闇の中に投げ出され今に至る。
悪罵の声をあげる者もあれば、不安を多分に含んだ少女の啜り泣きまでも聞こえてくる。
だが神父はそれら全てが眼中になかった。
各々の感情を汲み取り、聖職者らしい慰めの言葉でもかけてやったところで――どの道、これから始まる戦争を回避することなど出来やしないのだから。
「あまり時間もない。私からは端的に、要件のみを述べさせて貰おう」
あくまで静かに微笑み、神父はその先の言葉を口にする。
導火線に火を灯すべく、枯草で火種を作るような繊細さで、しかしながら積み木を崩す幼児めいた破壊衝動にも駆られていた。
神父の内情は複雑怪奇。故に誰にも理解されず、理解できない。
「これより始まる遊宴を生き抜いた者には、如何なる願いをも成就させる権利を与える。
内容は問わん。富や名誉は勿論の事、永遠に尽きる事無い生命を求めようと結構だ。約束しよう、我々の提示するとある関門を突破した暁には、その願望を成就させてみせるとな。
――おっと。察している者も既に居るかもしれんが、あくまで願いを叶えることが出来るのは一人までだ。
もう分かったろう? 端的に言って、君達にしてもらいたいこととは『殺し合い』なのだよ。……こう言うと、些か陳腐な響きに聞こえるがね。だが奴にとっても、これほど優れた儀式の形はなかったらしい」
話が反れかけたな。苦笑して、再び神父の解説が続く。
「願いなど持たぬ。ヒトとしては畸形の類だろうが、そういった手合いも存在するだろうな。しかしそこはそれ、郷に入っては郷に従え、と言う他ない。どの道、この夢界(カナン)を出られるのは一人のみ。必然、誰もが則に従うこととなる。
――流石に自殺志願の感情までは抑制しかねるがな。……まあ、今暫くの内は何も考えず殺し合っていればいい。最後まで順風満帆にとはまずいくまいが、少なくとも寿命は伸びるだろう。
悪いな。生憎、私もあの英雄(ばか)の考えばかりは読めんのでね」
神父は走狗に過ぎぬ。
とある男がお誂え向きの進行役として選び出した、謂わば監督役的存在。
彼のすることは只道を示すことのみだ。終わりの見えないこの戦記を見届け、彼なりの大願を遂げる為に助力している。
戦を首謀したのはまた別の人間。姿形こそヒトを模していながら、その内面は紛うことなき魔王……そんな人間だ。
〝彼〟が求めるのは楽園(ぱらいぞ)。
救世の主を――そんな切なる願いから、この蟲毒は成り立っている。
用意された銘は救世主(イェホーシュア)。
虐殺すらも正道と成し、輝かしき道を蹂躙走破する者。
「この邯鄲(ユメ)は人を喰らい、殺す……たかがユメと侮るなよ。この世界で死することは即ち、現実世界に於いても荼毘に臥すことと同義だ。生きたくば、者共殺し合え。拗れに拗らせたその願いで生命を輝かせるがいい。
満たされぬ想い、叶わぬ大願、失った愛。さぞや苦痛であったろう、そんな重荷を抱えたまま生きるのは。だがそれも今宵までだ。喜べ、その願いは今宵、漸く叶うのだ」
神父の姿が虚空へ溶けて消え、何事もなかったかのように宵闇の静寂が戻ってくる。
しかし、既に此度の争いは幕を開けた。もはや止まることはなく、永遠に落下し続けることだろう。
勝利するのは勇猛なる魔王か、それとも千の信か。
それは未だ、誰にも分からない。
【――――開幕】
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【基本ルール】
・最後の一人になるまで殺し合いをし、生き残りを選定する。
・優勝者には願いを叶える権利が与えられ、如何なる願いをも叶えることが出来る。
・参加者全員に爆弾付きの首輪を装着する。
・首輪は禁止エリアへの侵入、会場外へ出ること、過度の衝撃を与えると爆発し対象者を死亡させる。
・プレイヤー全員が死亡した 場合、勝者はなしとなる。
・定時放送は六時間ごとに行われ、禁止エリアは放送内で指定。
【スタート時の持ち物】
・「地図」「コンパス」「筆記用具」「水」「食料」「名簿」「デジタル時計」「ランダム支給品3個」
・サーヴァントの宝具は原則本人支給とする。
・スタンドの矢の支給は禁止。
【キャラの制限について】
・制限は基本的に書き手の匙加減。
・ただし柊四四八の終段、藤井蓮の流出は原則禁止とする。
【時刻について】
深夜0時から開始する。
深夜:0〜2
黎明:2〜4
早朝:4〜6
朝:6〜8
午前:8〜10
昼:10〜12
日中:12〜14
午後:14〜16
夕方:16〜18
夜:18〜20
夜中:20〜22
真夜中:22〜24
【予約について】
・希望者は自身のトリップをつけて、登場するキャラを明言したうえで予約の旨を書き込むこと。
・予約期間は1週間。それ以内に作品が投下されなかった場合、予約は破棄される。
・延長を希望する場合は、申請すれば更に一週間の延長が可能である。
・自己リレーはやりすぎでなければまあいいです。
【状態表テンプレ】
【○日目/時間帯/エリア】
【キャラ名@作品名】
【状態】キャラクターの状態
【装備】キャラクターの装備
【所持品】キャラクターの所持品。「スタート時の持ち物」の項を参照。
【思考・行動】
0:行動の基本となる目的。
1:行動方針。
【備考】
※参戦時期や制限の内容、その他補足など
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A 森 森 森 森 川 サ サ
B 森 管 森 ネ 川 サ サ
C 森 野 野 ネ 川 野 野
D 森 野 千 街 川 学 街
E 野 デ 街 諏 橋 森 街
F 野 街 街 病 川 ア 川
G 野 街 街 街 街 研 街
【管=管理局本部@魔法少女リリカルなのは】
【ネ=ネアポリス@ジョジョの奇妙な冒険】
【千=千信館学園@相州戦神館學園 八命陣】
【デ=デパート@現実】
【諏=諏訪原@Dies irae】
【ア=アインツベルン城@Fate/stay night】
【サ=サイレン世界@PSYREN】
【研=研究所@現実】
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【相州戦神館學園 八命陣】11/11
◯柊四四八/◯世良水希/◯真奈瀬晶/◯龍辺歩美/◯我堂鈴子/◯大杉栄光/◯鳴滝敦士/◯キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ/◯壇狩摩/◯辰宮百合香/◯幽雫宗冬
【ジョジョの奇妙な冒険】10/10
◯空条承太郎/◯ジョセフ・ジョースター/◯花京院典明/◯DIO/◯ヴァニラ・アイス/◯ラバーソール/◯東方仗助/◯吉良吉影/◯ディアボロ/◯エンリコ・プッチ
【魔法少女リリカルなのは】9/9
◯高町なのは/◯フェイト・T・ハラオウン/◯八神はやて/◯スバル・ナカジマ/◯ティアナ・ランスター/◯ルーテシア・アルピーノ/◯高町ヴィヴィオ/◯アインハルト・ストラトス/◯ファビア・クロゼルグ
【Fate/Extra】8/8
◯岸波白野/◯アーチャー(無銘)/◯遠坂凛/◯ランサー(クー・フーリン)/◯ユリウス・ベルキスク・ハーウェイ/◯アサシン(李書文)/◯ありす/◯キャスター(アリス)
【Dies irae】8/8
◯藤井蓮/◯遊佐司狼/◯櫻井螢/◯ベアトリス・キルヒアイゼン/◯ヴィルヘルム・エーレンブルグ/◯ロート・シュピーネ/◯エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ/◯ウォルフガング・シュライバー
【Fate/stay night】2/2
◯衛宮士郎/◯ギルガメッシュ
【PSYREN】2/2
◯夜科アゲハ/◯天戯弥勒
50/50
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DIO、ファビア・クロゼルグで予約
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投下します
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――ファビア・クロゼルグには目的があった。
このバトルロワイアルを勝ち抜いたその先にあるものよりも、ずっと身近で重大な目的があった。
御伽話の絵本からそのまま抜けてきたような格好をした可憐な少女が月明かりに照らされ、悩ましげな表情をする様はそれだけで絵になる。葛藤と欲望が頭の中で相克している……そんな彼女のような人物こそ、こんな悪夢の中では普通と呼べるのかもしれない。ファビアという少女は、詰まる所迷っているのだ。
殺し合いを利用して目的を達成するか、それとも一旦は後回しにして殺し合いを止めにかかるか。
参加者名簿に視線を落とせば、そこには彼女が決着を着けるべき因縁の名が二つ。
高町ヴィヴィオとアインハルト・ストラトス……クロゼルグの末裔として、彼女達だけは捨て置く訳にはいかなかった。
先祖の居場所を奪い、裏切りを働いた二人の戦士へ復讐を果たすこと。入念な下調べと準備を重ね、実行の機を伺っていたファビアにしてみれば、この状況は怖いくらいに都合の良い物といってよかったろう。
ここは殺し合いの場だ。非合法行為が当然の道理として罷り通る非日常領域だ。
いずれ数時間後には時空管理局の局員たちが突入してくるだろうとファビアは踏んでいたが、それだけの時間があれば十全。
ヴィヴィオとアインハルトの両名を探し出し、報復を遂げる。手段なんていくらでもある……当初から予定していた手段を用いてもよし、殺し合いという状況を活かした不意討ちでも構わない。
とにかく、これは好機だった。
蛮行を恐怖という免罪符のもとに正当化し、且つ悠久の過去から続く怨嗟を断ち切ることが出来る。
手放しで喜んだっていいほど出来過ぎた状況……にも関わらず、ファビアの顔色は優れなかった。
体調が悪い訳ではない。
誰かに襲われることを恐れている訳でもない。
ただ――躊躇いがあった。
ファビアはただの少女だ。
幼子と言っても誤りではないだろう。
善悪の判別こそつくが、だからこそ殺人という禁忌に踏み切れるほど精神が成熟しきっていない。
殺し合いの中で戦いを仕掛けることは、普段ファビアが行っているような競技の枠を遥かに超えている。
此方に殺す気があろうとなかろうと、あっちからすれば等しく殺人者に違いない。
そうするとどうなるかは語るに及ばず。当然、あちらは殺す気で身を守りに走る。
故に、必然。ファビアもまた、相手を殺さなくてはならなくなる。
……想像できない。
復讐を掲げるからには、ファビアにだってそれなりの覚悟があった。
どれだけ泣き叫ばれようと、先祖の想いが晴れるまでは止まらず戦い続けると誓っていた。
しかし、生死に関わって来るなら話は別である。
幼い、悲しいほどに無知な子どもにとって……死という禁忌は、余りにも重く伸し掛かる。
例えば、ファビアの立つ廊下からは、淡い灯りの点いた部屋が確認できる。
人の気配も当然あった。こんな僅かな光源のみで何をしているかは定かではなかったが、中にいる人物もまた殺し合いに巻き込まれた参加者の一人であることは最早改めて確かめるまでも無い。
そしてファビアの手には今、使い慣れた魔女箒(ウィッチブルーム)が握られている。
ディパックの中には銃もあった。この箒と魔女の魔法を用い、中の人物を無力化する。
それから銃口を突きつけ容赦なく射殺する――そんなことが、自分に可能なのか? 本気で復讐を果たそうと考えるなら、そのくらいのことは出来て然るべきだというのに。
「う……」
手が震える。
震えはやがて、身体中に広まった。
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生理的嫌悪感を禁じ得ず、思わず座り込んでしまいたい衝動に駆られる。
それをどうにか堪え、ファビアはこの建物から出ようと決めた。
危険だとか、そういうのではない。
それ以前の問題だ。
他者が近くにいる、それだけの事実が今のファビアにはひどく心地悪い。
がさり、と音を立ててしまう。止まっている暇などなかった。いや、音を鳴らしたことにすら彼女は気付いていなかった。
「――――待ってくれ。可愛いお嬢さん」
だが、〝中の人物〟はしっかりと人間の存在する証たる物音を聞いていた。
ぞっとするほど妖艶で、しかし何故だかひどく穏やかな気持ちにさせてくれる声。
一目散に走って逃げ出そうとしたファビアだが、彼女はすぐにその足を止めてしまった。
鼓動が脈を打つ。それが意味するのは恐怖ではない。
ただ、この呼び止める声に逆らっていいのかと……不意に、そんな想いに囚われたのだ。
「私と話をしよう。さあ、おいで」
「…………、」
「怖がらなくてもいい。――わたしはきっと、君から恐れを取り除いてあげられるだろう」
生唾を飲み込み、ファビアは一度は背を向けた部屋の方角に踵を返す。
灯りの灯った小部屋。恐る恐る顔を覗かせ、中に一歩足を踏み入れると、そこには一人の男が居た。
ソファに腰を預け、やあ、と軽快な会釈をファビアへと投げかけてくれる。
端から見ればこの男、不審以外の何物でもない。
幼い娘に取り入り、誑かそうとしているのだと十人が見れば十人がそう思うだろう。
しかし当のファビアは彼の顔を見、声を聞いた瞬間には警戒心を喪失していた。
それほどまでに、彼には人を安心させる何かがあったからだ。
この人なら大丈夫と根拠の無い確信すら覚える。
言うなればカリスマ――それもとびきりのものを、この魔性めいた偉丈夫は放っていた。
「君は、誰かを殺したいんだね」
「……うん」
頷く。
殺したくはないが復讐はしたいなんて甘えた理屈が罷り通らないことくらいはファビアにも理解できた。
それを聞くと、男はさぞや嬉しそうに表情を喜悦で彩って言った。
「奇遇なことに、わたしも殺さなくてはならない者がいるんだ。この会場に、二人もね」
「私も、二人……」
「フフ。どうやら気が合うのかもしれないな――すると、こういう結論になる。わたし達の目的は今、競合している」
不思議な気分だった。
彼の口にしていることは、つい先程までファビアが嫌悪感を覚えていた殺人行為を行うという宣言だ。
なのに、今はさっきまであった心地悪さを全く感じない。
それどころか手伝ってあげたいとすら思う……自分でも説明のつけられない、急激な心変わりが起こりつつあった。
「どうだい、お嬢さん。わたしと、友達にならないか?」
偉丈夫は、口許から白い牙を覗かせながらそう言った。
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この男こそ、邪悪の化身。
100年前に滅ぼされるも、新たなる肉体を得て再臨した吸血鬼の王。
数多のスタンド使いをその絶大なカリスマと力で惹きつけ、狂信者を勝ち取ってきた最悪の男……。
ファビア・クロゼルグは最初に彼と会うことが出来たのを幸運だと思っていることだろう。
彼は安息をくれた。孤独に戦わなくてはならない、心の重みを取り払ってもくれた。そんな〝いい人〟――
ファビア・クロゼルグは間違いなく不運だった。
何故なら彼女が幸福と信じるその出会いは、間違いなく彼女を破滅の道へと導くものなのだから。
「――――」
こくり。
小さく、少女は頷いた。
吸血鬼DIOはそんな彼女へ、優しく微笑んだ。
その双眼の奥に、測りきれない程の邪念を渦巻かせて……
――――――――――――――――
「ヴァニラ・アイスと、エンリコ・プッチという男がいる。
どちらもわたしの友達でね。彼らならばきっと、わたしと……ファビア、君の力にもなってくれるだろう」
DIOはファビアをまっすぐ見つめて言った。
ファビアはいそいそと、名簿のヴァニラ、プッチ両名の名前を丸で囲む。
〝友達〟になることを彼女が承諾すると、DIOは先ず人探しを彼女へ頼み始めた。
ヴァニラ・アイス、エンリコ・プッチ――
ヴァニラはDIOを狂信する最右翼の部下で、プッチは彼が親友と呼んだただ一人の人間だ。
あの二人ならばまず間違いなく協力を断ることは有り得ない。それに幾つか事前に打ち合わせておきたいこともあった。
「ヴァニラ・アイスは少し気性が荒い性格だから、すぐには信用してくれないかもしれない。もしそうなったらここの場所だけ教えて立ち去るかするといい。戦ってはいけないよ。彼はとても……ともすればこのわたしに匹敵するほど『強い』んだ」
「プッチって人は?」
「プッチは話を聞いてくれるだろう。わたしの親友だからね」
吸血鬼という肉体の特性上、DIOは日光の下で行動できないという欠点を持つ。だが今の時間帯は深夜だ。彼にとっては絶好といっても過言ではない時間帯……しかし、だからと言って馬鹿みたいに外を練り歩く真似はしない。
動くべき時は見極める。他の追随を許さないほど凶悪な力を持っていながら、彼は慎重だった。
それは強者ゆえの深慮。もし、ほぼ絶対にありえないことだが……スタンド使いの可能性は無限大に存在する。この会場に自分の『世界』と、或いは『吸血鬼』の身体と相性が最悪なスタンド使いが存在する可能性だって十二分に有るわけだ。
忌々しいジョースターの血統を絶やすという重大な目的もある。ヴァニラ・アイスやプッチのように協力的な人物をまずは集めながら、ファビアのように自己へ共感する者も手駒として扱えるようにしておく。
―――それに、上手く手綱を引けなくともその時は『肉の芽』を植え付けてやるまでのこと。
「いいかい、ファビア。君はわたしが憎むジョースターの一族を、同じように憎らしいと思ってくれていることと思う。だが君だけでは、きつい言い方をするが『役者不足』だ」
「……分かってる。勝手なことはしない」
「いい子だ。高町ヴィヴィオと、アインハルトといったかな。そいつらのことは、わたしも記憶に留めておくよ」
「ありがとう……DIO」
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ファビアは力こそ貧弱だが、なかなかに従順なしもべといえた。
体よく二人を探す要員も確保できたことだし、後は事の運びを待つとしよう。
それから――特にヴァニラ・アイスには聞きたいこともある。
「じゃあ、行ってきます」
「ああ。期待してるよ、ファビア」
悪鬼は静かに闇の中で微笑む。
少女は一人、安らぎを胸に帳の落ちた闇を進んでいった。
【一日目/深夜/アインツベルン城】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品、不明支給品3
【思考・行動】
0:優勝し、願いを叶える力とやらを手に入れる。その後主催者へ報いを与える。
1:ヴァニラ、プッチと合流。ヴァニラにはどうやって生き返ったのかを問う。
2:空条承太郎、ジョセフ・ジョースターは必ず抹殺する。ジョースターの血統は根絶やしにする。
3:ファビアを利用。配下を増やしてゲームを有利に進めていく。
【備考】
※承太郎と戦う直前からの参戦です
※ファビアからヴィヴィオ、アインハルトの外見的特徴について聞きました
【ファビア・クロゼルグ@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康
【装備】ヘルゲイザー@魔法少女リリカルなのは
【所持品】基本支給品、不明支給品2
【思考・行動】
0:復讐を果たす
1:ヴァニラ・アイスとエンリコ・プッチを探す。
2:ヴィヴィオ、アインハルトについては見つけ次第手を打つ。
3:DIOへの信頼。空条承太郎、ジョセフ・ジョースターへの不信。
【備考】
※無限書庫に侵入する前からの参戦です
※DIOから承太郎、ジョセフの外見的特徴について聞きました。DIOの敵として悪印象を抱いています。
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投下終了です。
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大杉栄光、ありす、キャスター(アリス)で予約
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投下します
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恐怖はあった。
それ以上に誇らしい想いがあった。
自分の命よりも大切な仲間を守って死ねるのならば本望と心から思えた。
大杉栄光の夢は等価交換だ。
自身にとっての大切なものを差し出す代わりに、それに見合ったものをこの世から完全消滅できる解法。
一度発動されれば、誰にも防御することは不可能。消滅の取引が成立すれば、たとえ神であろうと逃れ得ない一撃必殺。
相殺の基準点は栄光の価値観に依存しきっており、即ち彼の天秤次第ではほんの粗末な品を対価として、驚くほど巨大な存在をもこの世から抹消できることを意味している。
一足す一は二にならず。零は億にも変貌する。
誰よりも他者の輝きを尊重し、ここぞという時に英雄にも優る勇気を発揮できる少年が到った誠実で残酷な夢の形。
――俺の千信(すべて)をくれてやる。
両腕から触覚、視覚。内臓器官に至るまで捧げ尽くし、愛した女に見守られる中、栄光は最後に全てを捧げそう叫んだ。
信仰を失って臍を曲げた腐れ神を鎮めるに相応しき忠の誇示。
脳裏に過るのは仲間との思い出、そして最愛の彼女へ言った台詞。
〝百万回生まれ変わっても、きっと君を好きになる〟
もしも生まれ変われるなら、またあの子に出会って恋をしよう。
これから死ぬ人間には不似合いなほど安らかな思いを胸に抱いて、大杉栄光は静かに消えていった。
「……ん」
月明かりが起きがけの視界を照らす。
意外なほどの眩しさに思わず片手で目を覆った。
寝て起きたようなぼんやりとした感覚に暫し身を委ねていると、そんな彼の顔を覗き込む小さな顔が現れる。
「――お兄ちゃん、なにしてるの?」
別にロリータ・コンプレックスの気があるわけではなかったが、純粋に可愛い子だな、というのが第一印象だった。
白い肌と銀の髪、大きな瞳は硝子玉のように美しく可憐だ。アンティーク・ドールを思わせる幻想的な雰囲気を纏う少女に驚いて思わず跳ね起きると、彼女は驚いた声をあげ尻餅をついてしまった。
硬い地面に横たわっていたからか背中に若干の痛みを感じる。一瞬呆気に取られるがすぐに我に返り、上目遣いで見上げる少女へ手を差し伸べた。ありがとうと可愛らしい顔立ちを笑顔で彩る姿に、思わず此方の頬も緩みそうになる。
……と、そうまで来た時にやっと、栄光は自身の置かれている状況を思い出した。
闇の中、漆黒の僧が語った殺し合いと大願成就の法理。
栄光には見覚えのない男だったが、その危険性と邪悪さは隠すことなく双眼に曝け出した愉悦の情が物語っていた。
近くに誰が居たかまでは、暗闇だったこともあり確認できていない。
だがとりあえず、不用意に逆らうのは危険だと判断した。
人数がどれだけ多くとも、それはあちらとて承知済みの筈。
単なる数の暴力に押し負けて白旗を揚げる程、敵が愚鈍な阿呆とは思えなかった。
狂っているとしか思えない趣向に内心強い嫌悪感を覚えつつ話に耳を傾けていると、驚くべき単語がその口から飛び出す。
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夢界(カナン)。
邯鄲(ユメ)。
人を殺し、歴史を変える悪夢……それはまさしく、栄光達が身を投じる夢幻の世界そのものだった。
しかし、解せない。
夢界で起こっている闘争は六の勢力による総力戦だった筈。
裏で糸を引く人物が居るとは聞いていたが、趣向を変えるにしても変化が大きすぎる、
というより、これではまるで別物だ。今までの戦い全ての意義を否定するような蛮行に理解が追い付かない。
ただ一つ分かるのは、この殺し合いを演出している黒幕は神父ではないということ。そこに関しては妙な言い方になるが、これまで通りだ。そして、きっとそいつを斃さない限り何も終わりはしない。
言わずもがな、殺し合いに乗るという選択肢は存在しなかった。
正確な数までは把握できないものの相当な人数が居るようだし、中には自分と同じく殺し合いを拒む参加者が一定数必ず存在する筈。そういう連中と結託し、主催陣営を討ち滅ぼしくそったれたサバトを終わらせる。
――と、彼のスタンスはごくあっさりと決まった。
そうして今に到る。
栄光は儀式(ゲーム)の概要を脳内で反芻し、神妙な顔で言った。
「そっか……もう始まってんだよな、殺し合い」
自分が間抜け面で寝腐っていた間にも、誰かの命が邯鄲の霧と消えたかもしれない。
目の前にいるこの少女だって、それどころか自分自身だって、こうしている今も誰かに命を狙われているかもしれないのだ。
戦いの経験はあるし、目の前で人が殺される光景も何度も見た。
が、こういう形式の鉄火場を経験したことは初めてだった。
それを踏まえた上で、強く思う。
「きついな、これ」
――きつい。
何しろ常に誰かが仕掛けてくる可能性を考えなければならないし、時には味方にだって注意を払わなくてはならない。
誰もが等しく被害者になる可能性を秘めており、また誰もが等しく加害者になる可能性も秘めている。
身の危険以上に下手をすると心を病みそうなものがあった。場数を踏んだ自分ですらこうなのだから、もし心得のない一般人が巻き込まれていたらと考えるとゾッとするものがある。
……心得のない一般人。
栄光は不思議そうな顔で此方を見つめる、少女の顔へ視線をやった。
「?」
「――そうだな」
人殺しが是とされる異界だからこそ、心に誓った戦真(マコト)が輝く。
殺し合いを挫く決心を胸に刻んでいた栄光は、ここに来てより一層その思いを強くした。
「殺し合いなんてさせねえ。絶対、この手で止めてやる……!」
栄光は心の優しい少年だ。
不倶戴天の敵と対峙していても、心の何処かで敵の友誼について思いを巡らせてしまう。そしてそれが要らぬ躊躇を生み、手を鈍らせる。それに悩み、葛藤し――青臭い思考螺旋の末、遂に彼は自分の夢を見出した。
誰より他者の輝き(おもさ)を大事にする彼だからこそ……こんな悪趣味で残酷な催しは許してはならないと、胸を張って断言し否定することが出来る。一度振り切ってしまえば、もう女々しく心を病むことはなかった。
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「お兄ちゃんも、この……〝ころしあい〟に呼ばれた人なの?」
「……ああ。でも安心していいぜ。このエイコー様と会えたからにはもう大丈夫だ」
にかっと笑って小さな頭に手を乗せる。
わしゃわしゃと撫でてやると、こそばゆそうに少女は目を細めた。
こんな小さな子を死なせる訳にはいかない。
大丈夫だと約束したんだから、後はそれを嘘にしないよう奮闘するだけだ。
「オレは大杉栄光ってんだけど……君は?」
「あたし? あたしはありす! よろしくね、えっと……エイコーお兄ちゃん!」
「お、おう……!」
欲情とかそういうのではなく、純粋にその向日葵が咲くような笑顔の破壊力は物凄いものがあった。
あまりの眩しさに日頃破廉恥ばかりを働いている自分が何だかとても小さな存在に思えてくる。
一人その天使めいた輝きに悶絶していると、つんつん、背中を突かれる感触があった。
怪訝な顔をして振り返り――――へ? 栄光は素っ頓狂な声を漏らす。
「あ、ありすちゃんが二人……?」
――銀の髪。白磁の肌。球体関節を思わせる模様。
唯一違うのは衣装の色か。白と黒、さながら鏡のように、寸分狂わない見た目の〝ありす〟がいる。
気配も今触れられるまで全く感じなかった。混乱する栄光の様子がおかしかったのか、もう一人のありすがくすくす笑う。それにつられてありすも笑い声を零した。どういうことだよ!? と一人栄光だけが頭を抱える。
「初めまして、エイコーお兄ちゃん。あたしはアリスっていうの」
ひとしきり上品に笑った後、黒い方のありすが元気な声で言う。
「え……えーっと……? こっちがありすちゃんで、君はアリスちゃん……?」
「そうよ。ねっ、あたし(アリス)」
「うん!」
「名前まで同じな双子なんて聞いたことないぞ……」
栄光の常識では、見てくれが似通った双子に同じ読みの名前を付けるなど考えられない。
ただ、よくよく考えれば彼女達もこの邯鄲に招かれた選ばれし者達だ。
ひょっとすると何かしらの〝夢〟を持っているのかもしれない――あくまで根拠の無い仮説だが。
ともかく、衣装の色という比較的分かりやすい見分ける特徴があるのは素直に助かった。
白い方がありす、黒い方がアリス、ああでもどっちも読みはありすじゃないかもう意味が――ひとり真剣に頭の中をこんがらがらせて唸る栄光を尻目に、二人のありす/アリスは顔を見合わせる。
「あたし(アリス)、エイコーお兄ちゃんって面白い人だね」
「そうね、あたし(ありす)。でも、このお兄ちゃん少し変だよ」
「ヘン? あたし、よくわからないわ」
「そう、変。――ねえ、エイコーお兄ちゃん」
唐突に話を振られ、栄光が反応を示そうとし、しかし目の前で見つめるアリスに言葉を遮られた。
「お兄ちゃんは――――生きてるヒト? それとも、死んでるヒト?」
その言葉は、大杉栄光が忘れていた――否、敢えて目を背けていたのかもしれない――現実を否応なしに直視させた。
-
思い出す。
記憶が蘇る。
怒れる龍神へ、己自身を捧げた記憶。
まず腕を捧げた。
それから腎臓を捧げた。
触覚を捧げ、両目を捧げ、もう片方の腕を捧げ、足も捧げた。
あらゆるモノを差し出して、それでも微塵たりとも悔いることなく……最後に、〝大杉栄光〟を対価に夢を行使した。
それが意味するところは、もう1つしかない。
「――、」
オレは。
オレはあの時、確かに――――
「そりゃ、生きてるさ」
「…………」
オレはあの時、確かに死んだ。
その事実を目を反らさず見つめていながら、栄光は笑みさえ浮かべて自身の存在を毅然と宣言した。
「オレは多分、一回死んでる。けど、今ここにいるオレは本物だ。幽霊なんかじゃない」
胸に手を当てれば、心臓は規則的な鼓動を打っている。
そして実感する。オレは確かに生きている――まだ戦うことが出来る。
だから胸を張って答えた。アリスは最初何か言いたげな表情をしていたが、納得したのか、それとも折れたのか、「そう。わかった」と短く言ってまたありすの下へとてとてと歩いていった。
あの子が何を思ってあんな質問をしたのかは栄光には分からない。
ただ――やはり彼女達は普通の人間ではないのだろう。
自分と同じく一度死んだ身なのか、それとももっと込み入った事情があるのか。
どちらにせよ、当分は彼女達と行動することになりそうだった。
◆
……そういえば。栄光はふと、自分の傍らに無造作に置かれたディパックを見つめる。
この中には支給品なるものが入っていると聞いた。食料や懐中電灯などは勿論として、殺し合いのための武器や道具も収まっているらしい。自衛の為にも中身を改めておかなくちゃな――ジッパーを開け、中身を検め始めた。
「なんだこりゃ、オルゴールにテレホンカード……ん、でもこのオルゴールはちゃんと効果を持ってるのか」
【福音のオルゴール】と大きく書かれた説明の紙を読んで、どうやら便利な品を引いたようだと表情を明るくする。
要約すると力の源を回復させたり、体を癒やしたりする効能が秘められた礼装とのことだった。
RPG等ゲームに明るい栄光は礼装のことをアイテムみたいなものとばっさり解釈し、疑念を抱くこともなく素直に幸運と片付ける。特に体力を回復できるのがありがたい。回復役のいない状況で心強い味方となってくれそうだ。
テレホンカードについては論外。それどころか偽物らしいから救いようがなかった。
あと残っているのは何本かのナイフ。一通り検分を終えると、そのまま参加者の名簿を見ようとし――
-
「……ま、予想はしてたけどよ。やっぱ居るんだなおまえら」
そこにあったのは、栄光にとって馴染み深い仲間達の名前。
ご丁寧に全員呼ばれているようだった。けれど、それを不安には感じない。
信頼しているからだ。あいつらはこんな所で死ぬようなタマじゃない。皆今頃、各々義憤を燃やし動き始めている頃だろう。
会ったらきっと、どやされるな。
ばつが悪そうに……けれど満更でもなさそうに頭を掻いて、栄光は腕を組む。
(問題はこいつらの方だ。キーラに壇狩摩……狩摩の野郎はともかく、キーラは絶対に乗ってくる)
キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ。
かつて自分を含めた戦真館學園のメンバーを事実上単独で壊滅寸前まで追い込んだ超獣。
白兵戦を挑んで勝てるとは、成長した今でも思えない。何せあの時はほぼ何が起きているのかすら分からないままに蹂躙され、呆気無くダウンさせられてしまった。
彼女はその後、あの龍神によって塵も残さず消し飛ばされたと聞いていたが……最早、死人は生き返らないという常識観念は捨てるべきだろう。他ならぬ自分自身、一度死んで黄泉返りを果たした身なのだ。
更に――キーラとはまた別なベクトルで、〝有り得ない〟名も名簿に記載されていた。
(ヴィルヘルム、シュピーネ、エレオノーレ、シュライバー。
……どういうことだ、これ? だってこいつら、神座万象シリーズのキャラだろ? まさか、こいつらが実体化させられて殺し合いに放り込まれてるってのか?)
神座万象シリーズとは、バトル物の娯楽作品だ。
座というシステムを巡って神々が争いを続け、最終的には宇宙規模の大バトルに発展するのが売り。
故に実力的には中堅ほどとされるキャラクターでもその能力や性能は極めて高く、古今東西の創作作品を見ても上位に君臨するだろう戦闘能力を誇っているのがある種最大の特徴と呼べるかもしれない。
だからこそ、これはまずい。
何かの間違いとは思うが、あの超人揃いな作品を再現した参加者が本当に存在するというのなら……極めて危険だ。
「くそっ、つくづく分かんねえことだらけだ……四四八達と早めに合流しねえと、こいつはいよいよヤバそうだぜ。
ありすちゃん、そろそろ一旦動くぞ。危ないから、絶対離れないようにな!」
名簿をディパックにしまい、栄光はありす達へ声をかける。
先行きは正直言って不安だが、足を止めているよりかは少しでも前進した方がマシだ。
迷いを吹っ切り、不安を遥かに凌駕する勇気を胸に、大杉栄光は先の見えない殺し合いの物語へ果敢に立ち向かう。
【一日目/深夜/G−3 街】
【大杉栄光@相州戦神館學園 八命陣】
【状態】健康
【装備】福音のオルゴール@Fate/Extra
【所持品】基本支給品一式、テレホンカード(偽物)@PSYREN、DIOのナイフ×10@ジョジョの奇妙な冒険
【思考・行動】
0:殺し合いの打破。主催者を倒す。
1:ありすちゃん達を守りつつ四四八達を探す。
2:キーラ、神座万象シリーズのキャラクター(特に黒円卓組)には最大限警戒を払う。
3:壇狩摩は保留。信用出来ないとは思っているが、危険人物とまでは現状考えていない。
【備考】
※鈴子ルート、死亡後からの参戦です。
-
◆
「ねえ、あたし(アリス)。エイコーお兄ちゃんのお友達は、ありすたちと遊んでくれるかな?」
「きっと遊んでくれるわ。その時は、お兄ちゃんも混ぜて鬼ごっこをしましょう?」
「そうね! あたし、何だか楽しみになってきた!」
幼い狂気は、誰にも気付かれないまま渦を巻く。
純粋無垢を地で行く童女にとって、殺戮行為は遊びの一環でしかない。
それが悪いことと理解するだけの道徳観もなく、故にありすはこの殺し合いを恐れてなどいなかった。
ムーンセルのサイバーゴースト。とっくのとうに命を落とした電子の幽霊。
彼女が喚んだのは鏡写しのサーヴァント。二人はいつも一緒で寸分狂わずおんなじ存在。
だが――今回は、少々事情が異なっていた。
アリスは知っている。
自分達があの月の聖杯戦争でどういう末路を辿るのかを一度経験している。
栄光に生者か死人かを問うたのは、遠回しな確認作業でもあったのだ。
あの時、ありすとアリスは敗走した。
敗れたサーヴァントがどうなるかは自明だ。単純、肉体を分解されて電子の海に溶けて消える。
にも関わらず、自分達はここにいる。
それだけならまだしも、どうにもありすはそのことを覚えていない――もとい、識らないようなのだ。
時系列の食い違い。
あの主催者達が諧謔のつもりで仕組んだのか、それとも単なる偶然なのか……しかしアリスはこの差異を祝福する。
この殺し合いでなら、勝ち取れるかもしれない。
ありすが幸せになり、自分も彼女の側で永遠に〝アリス〟として在り続けられる幸福な未来を。
幼い魔術師(キャスター)は一人内に欲望を秘める。
大願成就の法理を求める者が、ここにも一人――。
【ありす@Fate/Extra】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:たくさん楽しい遊びをする。
1:エイコーお兄ちゃんと、そのお友達に〝遊んで〟もらう。
【備考】
※三回戦開始直前からの参戦です
※アリスが死亡すると自動的にありすも消滅します。
【キャスター(アリス)@Fate/Extra】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:ありすを守りつつ、優勝して願いを叶える
1:エイコーお兄ちゃんについていき、〝遊んで〟もらう。
2:あくまでありすの保護を優先。他のサーヴァントには注意しておく。
【備考】
※消滅後からの参戦です
※ありすが死亡すると自動的にアリスも消滅します。
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投下終了です。
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東方仗助、高町ヴィヴィオ、衛宮士郎予約
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投下します
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「言峰、綺礼……ッ!」
伸ばした手は、虚しく空を切る。
殺し合いの開幕を告げた男は、自分にとって余りにも見覚えのある顔だった。
聖杯を巡る戦いが終結し安心しきっていた衛宮士郎の胸中を、焼け付くような激情が満たしてゆく。
――止めなくてはならない。この殺し合いは、絶対に。
手元の名簿を見れば、見知った名前がいくつか見受けられた。
遠坂やランサー、そしてあの傲岸な英雄王……ギルガメッシュ。
前者二人はまず乗らないだろうが、ギルガメッシュは解き放っておくには危険過ぎる怪物だ。
そこな奇策や力業であの黄金のサーヴァントは斃せない。
しかも問題はギルガメッシュだけではなかった。
アーチャー、『無銘』。
アサシン、『李書文』。
キャスター、『アリス』。
この三騎に至っては自分の知らない、第五次の聖杯戦争では召喚されていない英霊達ときた。
先のランサーもそうだが、真名が予め明かされているのは戦力差を埋めるための配慮なのか……それとも、聖杯戦争の枠を超えた蟲毒の宴に於いて、互いの探り合いなど無意味だと暗に告げているのか。
いずれにせよ、じっとしてはいられない。
殺し合いに消極的な参加者を保護するのは当然として、その傍ら乗った連中を無力化していかなければ必ず大きな犠牲が出る。こんなところで罪のない命が喪われるのは、士郎にとって許せる話では到底なかった。
一刻も早く殺し合いを止め、今度こそあの神父に引導を渡すこと。
楽な道のりでは決してないだろうが、不安はなかった。
否、そんなものに足を取られまごついていていい訳がない。
そんな無様を晒すことは絶対に出来ない――いつか、赤い外套の英雄に吼えた正義(じぶん)を嘘にしない為にも。
衛宮士郎は改めて強く確信し、正義の心を奮わせる。
腰掛けていたベンチから立ち上がると、肩を回して軽いストレッチを行う。
僅かな時間とはいえ気絶していたからか、全身の随所に倦怠感を感じる。
無論、そんな体調不良を残したまま人外の域に片足を突っ込んだ魔術師や、そもそも人間の枠から逸脱しているサーヴァント達と事を構えようなど自殺行為だ。少しでも身体を解しておき、いざという時支障がないようにしなければ。
日頃鍛錬の合間に行っている器械運動を行いながら、これからの行動について思考を向ける。
やはりまずは遠坂との合流だろう。ランサーもそうだが、こういう状況で乗ってこないと確信できる、信頼できる存在は非常に大切といえる。何かと優れた技術を持つ彼女なら、ひょっとすると衛宮士郎では絶対に気付けないような真実を暴くことも出来るかもしれない。……何分機械音痴のきらいがあるらしいので、首輪の解除については期待できなそうだが。
「――ん……?」
ふと、士郎は動きを止めた。
聞き間違いでなければ今、自分のものでない声が聞こえたような気がしたのだ。
女の子の声。改めて耳を澄ましてみると――やはり聞こえる。啜り泣くか細い声が、近くから漏れている。
放っておくのは忍びないし、何より危険だ。
いつどこに乗った参加者が彷徨いているか分からない以上、最悪なことになる前に見つけ、安心させてやらなければ……。
幸い、声の出所はすぐに分かった。
士郎のいたベンチから少し進んだ茂みの向こうだ。
目を凝らすとほんのうっすらとだが、金髪の小さな女の子の姿が確認できる。
こんな小さい子まで呼ばれているのか――驚くと同時に、士郎は言峰へ対してまた怒りを覚えた。
……つくづく、卑劣なコトをするヤツだ。
気に入らないし、許せない。
胸糞の悪いものが沸き上がってくるが、いま自分が憤慨していてもどうしようもないとその激情を自制する。
-
それよりもまずはあの子を保護するのが先だ。
茂みを掻き分けると小さく呻く声がしたが、怖がらせないように両手を挙げて士郎は少女の前に姿を現す。
「大丈夫、俺は殺し合いに――「もう大丈夫だぜお嬢ちゃん、この東方仗助が来たからにはよォ――……!?」――!?」
そして、瞠目した。
少女を隔てた向こう側に、自分と同じくらいの年頃だろう、リーゼントヘアーの少年が立っている。
だが驚いたのはあちらも同じようで、不良生徒がそうするように構えを取ると――
「うおおおッ、何だてめーはッ!」
「待て、俺は殺し合いに――――」
「『クレイジー・ダイヤモンド』ッ!!」
「――――ッ!?」
――少年の傍らに、突如奇怪な人型の『何か』が出現した。
全身にあるハートマークらしき模様と頸部に数本、パイプのようなものが確認できる。
どちらにせよ確かなのは、これは人間ではないということ。
人の形こそしているが細部は明らかに人のそれと異なっており、極めつけがそのピンクがかった肌の色だ。
士郎も堪らず臨戦態勢を取る。相手が仕掛けてくるというならば、不本意だが自衛だけはさせて貰おう。
暫し睨み合いが続く。
あわや一触即発の空気が流れる中、二人の男を諌めたのは彼らに左右を挟まれた少女だった。
「ぐす……あ、あの……喧嘩は、やめてください……」
一瞬呆気に取られたような顔をしてから、ばつが悪そうにまずリーゼント頭の少年が頭を掻く。
次いで士郎も苦笑し体勢を解いた。
なんとも締まらない出会いにはなってしまったが、兎角此処に、三人の殺し合いを否とする者が合流を果たした。
◆
「魔法を使えるのが当たり前の世界にスタンド能力……はは、凄い話になってきたな」
取り急ぎ殺し合いに乗らない意思を確認し合った三人は各々の素性や能力、立場などについて自己紹介がてら教え合うことにしたのだったが、誰か一人が自分のことを喋る度にもう二人が驚愕する、その繰り返しとなった。
「士郎さんの話だってとんでもなかったっスよ〜。まるで『週刊少年ジャンプ』の中の話みたいでビビったぜ」
「そ、そうですよ……でも、そんな危ない人達もいるんですよね。この会場に……」
リーゼント頭――東方仗助が興奮した調子で囃し立てると、虹彩異色の瞳を持った金髪の少女・高町ヴィヴィオが不安げに呟いた。その不安は至極もっともだ。士郎の『サーヴァント』についての話を聞いた後で、そんな怪物がこの会場に参加者として放り込まれており、しかも他者へ危害を及ぼして来るような輩までいると言われれば誰だって恐怖を覚えて当然であろう。
だが危険人物の観点で言えば、仗助の語った『触れたものを爆弾に変える能力』を持つ連続殺人鬼……吉良吉影なる人物も負けてはいないだろうと士郎は思った。
サーヴァント達はアサシンのクラスを除き、基本的には正面切っての戦闘を行うものだ。
その点に関して言えば件の英雄王も例外ではなく、故にある意味では手の打ちようがあるのだったが――話を聞く限り、吉良吉影という人物はまずそんな正攻法に訴えるような性格をしては居るまい。
影のように忍び寄り、ただ一瞬で人命を奪い去る言葉通りの殺人鬼。
仗助から情報を得られたのは僥倖だった。もし何も知らないまま遭遇していたなら、為す術もなく爆殺されていただろう。
-
「大丈夫だよ、ヴィヴィオ。おまえの友達や家族は乗る奴らじゃないんだろ?
仗助の知り合いも合わせれば、言峰のヤツへ反発する連中も決して少なくはない筈だ」
「おうよ。億泰や岸辺露伴がいればなお良かったが、なんてったってあの承太郎さんが居るんだ。
ちょっと頼りないけど俺の親父も居る……後は簡単、あのスカしたエセ神父野郎をブチのめしてやるだけだぜッ!」
士郎の言った通り、名簿にあったヴィヴィオの知る人達は見事なまでに全員殺し合いなどしそうもないいい人ばかりだった。なのはやフェイト、はやてはそんじょそこらの魔導師では相手にならないほど強い。
スバルとティアナも正義感の強い頼れるお姉さんだし、アインハルト達はかけがえのない親友だ。彼女達の顔を思い出すと、ヴィヴィオは安心すると同時に勇気が湧いてくるのを感じた。
ただ逃げるだけじゃなく、自分もこの悪夢を終わらせるために戦いたいと思えた。
昔の自分なら、きっと何も出来なかった。
でも今は違う――こんなことをするために身につけた力ではないけれど、誰かを守れる力が高町ヴィヴィオにはある。
自分を勇気づけるようにぱんと頬を両手で叩くと、不思議となんでも出来そうな……清々しい気分になる。
「……そうですよね。怖気づいてばかりじゃ、何もできませんよね。
―――よーし! 士郎さん達には敵わないかもしれないけど、わたしも頑張って戦います!!」
「へえ……なかなかグレートな根性してるじゃあねえか、ヴィヴィオッ!」
仗助はこういう熱いノリが好きなのか、自分まで燃えてきたようだった。
士郎もそんな二人の後輩を見つめながら、負けてられないな、と独りごちる。
必ずこの三人で殺し合いを終わらせよう。一人も欠けずに、悪夢から覚めるのだ。
「もうちょっと休んだら行くか。――仗助、ヴィヴィオ。絶対生き抜いてやろうな」
「もちろん!」
「言われるまでもねーっスよ士郎さん。あんたの方こそしっかりついてきて下さいよォーッ!」
ここに、三人の『主人公(ヒーロー/ヒロイン)』たちのバトルロワイアルが幕を開けた。
【一日目/深夜/E−4 諏訪原市(海浜公園内)】
【衛宮士郎@Fate/stay night】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:言峰を倒し、殺し合いを終わらせる。
1:仗助、ヴィヴィオと行動する。
2:遠坂、ランサーと合流したい。
3:ギルガメッシュと素性を知らないサーヴァント達には注意。特にギルガメッシュ。
【備考】
※UBWルート、ED後からの参戦です
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:このゲームは気に食わない。だからブッ壊す!
1:士郎さん、ヴィヴィオと行動。
2:知り合いを探す。
3:吉良吉影は必ず倒す。絶対に許しはしない。
【備考】
※吉良との最終決戦突入直後からの参戦です。
【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康
【装備】セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのは
【所持品】基本支給品一式、不明支給品2
【思考・行動】
0:ゲームを終わらせる。皆で生きて帰る。
1:士郎さん、仗助さんと行動。
2:なのはママやアインハルトさん達を探し、一緒に戦う。
【備考】
※無限書庫へ入る直前からの参戦です。
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投下終了です。
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我堂鈴子、櫻井螢、天戯弥勒予約
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投下します
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「くっ……また、面倒臭いことになったわね」
瞳に悦を燻らせた神父から淡々と告げられた内容を反芻し、我堂鈴子はそう漏らした。
平然としているようだが、内心はかなりの焦りを抱えている。
――今までの戦いは、倒すべき相手がある程度明白に存在した。
だが今回は違う。誰が敵で誰が味方なのかからしてはっきりせず、ともすれば仲間だと思っていた人間が平然と裏切り牙を剥いてきかねない。そして、そういう不安を否応なしに想起することでヒトは疑心暗鬼に駆り立てられる。
鈴子だって、伊達に場数を踏んできたわけではない。
命を賭した戦いを回避するに越したことはないだろうが、いざとなれば覚悟を決めて死線へ踏み込む覚悟は出来ている。
このゲームで真に恐ろしいのは苛烈な戦いでなく、人と人の交流の間にどうしても生じてしまう小さな摩擦が引き起こす感情の爆発だ。恐怖は時に狂気ヘと容易く形を変え、悲劇という形で数多の流血を生むことだろう。
……なんて、悪辣な。
鈴子は奥歯をぎりりと噛み締めながら、この蟲毒を演出する者達へ純粋な嫌悪を込めた独り言を吐露した。
バトル・ロワイアルという趣向については知っていた。だが、実際参加者の立場になってみるとこれほど様々な意味で滅入るものだとは思っていなかったのが正直なところだ。
――――それでも、精一杯戦うしかない。
臆することはない。このゲームに立ち向かっているのは、何も自分だけではないのだから。
参加者名簿には慣れ親しんだ大切な仲間達の名前が、ご丁寧に並んで記載してあった。
不謹慎な話だが、鈴子は彼らの存在を知って安堵の感情を覚えてしまった。
何故か? 当然だ、同じ釜の飯を食い、同じだけの鍛錬を共に積んできた戦友達という心強い味方があるのとないのとでは心の持ちようが大きく変わる。
あいつらは馬鹿だ。どうしようもなくアホで、この私になんかとても及ばない庶民ども。その癖ここぞという時には誰よりも熱くて頼りになる、そんな愛すべき馬鹿達なんだ。
何も恐れることはない。この状況は孤軍奮闘に非ず、我堂鈴子には仲間がいる。
「よくもやってくれたわね腐れ神父。精々見てなさい……――――あんた達は一人残さず、私達に倒されて終わるのよ」
願いを叶える権利。成程体の良い餌を拵えたものだと思う。
その上で断じてやろう、そんなものは不要だと。
望みとは自らの手で叶えるべきもの。
戦闘狂の異常者めいた凶行に浸り、己の手を汚して勝ち取った栄光などに価値はない。
こんな戦いは認められない。イェホーシュアだか何だか知らないが、否定し否定し否定し尽くしてやる。
「まずは、あいつらを探さないとね……」
一度頷くと、周囲に広がる見慣れない町並みに目を向ける。
邯鄲の大地としては余りにも異質な、明らかに日本のそれではない異国の風景。神父が口にしていた以上、ここも夢界の一部ということで間違いないのだろうが……如何せん何から何まで違いすぎている。
これまでのセオリーという観念は邪魔になりそうだ。あまり囚われすぎず、参考程度に思っておくのが良いだろう。
仲間達に限らず、協力者を探すのが当面の最優先事項だ。まずはこの町を散策して、それで何もないようなら移動しよう。
立ち去ろうとした、ちょうどその時。
「――ッ!」
鈴子は咄嗟に使い慣れた薙刀を創形し、振り向きざまに虚空へ向け突き出した。
まさに、実戦経験が幸いした瞬間……と言えよう。
ほぼ反射的な判断だった。死角の方向に感じた殺気をすんでのところで感じ取り、受け止める構えを取ることが出来た。
あと一秒と少し反応が遅れていたなら、今頃彼女は呆気なく袈裟斬りに仕留められていたに違いない。
-
「はぁッ!」
重心を右半身へ推移させ、半円を描くようにして得物を振り抜き拮抗を崩す。
膂力の点では力に大きな差はないようで、体勢を立て直すための離脱撃を決めるまでは比較的容易であった。
が、鈴子が攻勢に移るよりも速く閃撃が飛ぶ。
小手試しとかそういったものでは断じてないのは明白だった。
もし対処を誤れば回復手段が存在しない現状、一撃で詰む。
そういう攻撃ばかりが休む間もなく連続して繰り出され、鈴子を追い詰めていく。
「づ――……あんた、ねえ……ッ!」
一際振りの大きな一撃を見極め、それを目掛けて鈴子は敢えて回避ではなく突進に打って出る。
気魄がそのまま乗ったような急加速から振り抜かれた薙刀は、襲撃者の握る刃と正面切って鍔迫り合い――
「……!」
そのまま、砕いた。
銀の欠片が散り、敵の細い腕から繰り出される雨霰のような斬撃も当然途切れる。
切っ先を向け、鋭く眦を細めて睨み付ける鈴子。
それに対して、黒髪の麗しい襲撃者は――ふっと、小さな微笑を浮かべてみせた。
「―――やるじゃない。聖遺物を持たない人間風情と舐めてかかれば、痛い目を見るということね。勉強になったわ」
その物腰に狼狽の色は全くない。
それどころか、奇妙なほどの余裕があった。
得物を砕かれて手持ち無沙汰となった人間の台詞とは思えない……それに、聖遺物とは何のことだ?
困惑を禁じ得ない鈴子が結論に辿り着くよりも早く、魔徒は彼女の疑問の先にある解答を口にした。
「でも御免なさいね。どの道、貴女はここで終わりなのよ」
即ち、先程までの彼女は……最初から本気など出していなかったのだ。
「形成(Yetzirah)――――」
虚空に、突如として埒外の高熱が迸る。
熱はやがて炎へと変じ、一振りの剣を生み出した。
彼女の一族のみが鋳造加工する技術を持つ呪わしき鋼の刃。
聖遺物――膨大な想念を浴びることで意思と力を宿した武装がここに形を成す。
「――――緋々色金(シャルラッハロート)」
聖槍十三騎士団黒円卓第五位、獅子心剣(レオンハルト・アウグスト)。
夢界の徒へ、黒円卓の獅子が牙を剥いた。
-
◆
櫻井螢が目を覚ましたのは、伊国の町中であった。
看板を見るに、どうやらここは『ネアポリス』というらしい。
一見すると活気に溢れた町並みなのだが、当然のごとく螢以外には人っ子一人として見当たらなかった。
溢れるのは溜息。脳裏に蘇るのは、お世辞にも趣味がいいとは言い難い殺戮ゲームの解説だった。
「……成程。大体状況は理解したわ」
端的に言って、面倒なことになったと言わざるを得ない。
諏訪原の地で遂行すべき大義があったというのに、あの神父のせいで全てが台無しだ。
一人残さず自分以外を殺し尽くした者だけが、元居た世界へ帰る権利を得られる。
そして――帰還の権利を勝ち取った者は必然的に、どんな大願でも成就させる権利をも、獲得することが出来る。
その下りを聞いた瞬間に、櫻井螢のバトルロワイアルに於けるスタンスはあっさりと決定した。
殺し合いは気に食わない。
名簿に拠れば参加者には他の団員……それどころか今は現世にいないはずの大隊長までもが招かれていると言うではないか。
黒円卓に名を連ねる者ならば、優勝ではなく主催者の殺害を志すのが道理だ。
第一、二人の大隊長を敵に回す時点で自殺行為もいいところだ。正攻法に訴えてどうにもならないことは重々承知しているし、かと言ってどんな外法に出ればあれらの首級を獲れるのかさえ見当もつかない。
何事もなく自身の目的を達成する為にも、欲望に身を任せるのは有り得ない――だが。
螢はその、〝有り得ない〟選択肢を選び取った。
彼女の同胞が聞いたなら、まず正気の沙汰ではないと嘲笑うだろう。
――なんとでも言えばいい。私には、私の願いがある。
取り零すわけには、いかないのだ。
「……問題は山積みね。無策にいけば、呆気なく終わる」
勝算の高い勝負ではない。
だが、これは紛れもなくチャンスだ。
ずっと希ってきた救済の好機が、少し手を伸ばせば届く位置にある――この機を黙って見逃すことが出来るほど螢は愚鈍ではなかった。もとい、利口でもなかった。
「――ベアトリス。そして、兄さん。貴方達は必ず救ってみせる」
救うべき二人の名前を呟き、ディパックより取り出した日本刀を強く握り締める。
迷いはしない。今宵のグランギニョルは、私の勝利で幕を閉じる。
少し進んだ頃、無防備に背中を向けている青髪の女の姿が見えた。
それから、物語は今へ至る。
しかし、少女は未だ気付いていない。
否、そもそも真実として受け取っていなかった。
参加者名簿の、自分の右隣にあった名前。
あの悪辣な主催者が諧謔の意味合いで仕組んだものだと切って捨てた、ベアトリス・キルヒアイゼンの名前。
既に一つの再生は成されているとも知らずに、薄幸の騎士は殺意の炎を燃え上がらせる。
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◆
轟く剣閃。陽炎をその刀身より昇らせながら、灼熱と化した刃が鈴子の肢体へと迫る。
破段顕象――そんな言葉が脳裏をよぎった。
炎を操るという性質は一見すると単純で恐れるに足らないものに思えるが、こういう単純な能力こそ最も厄介だというのは最早通例だ。現に剣戟の度に迸る熱風を肌で浴びただけで、火に炙られたような痛みが感覚神経を刺激していく。
まともに身に受けるようなことになれば、瞬時に黒ずんだ炭の塊へ変えられてしまうことだろう。
「この……何なのよ、あんた……!」
炎熱と斬撃を同時にいなしつつ、裂帛の勢いで踏み込み、半円を描きつつ薙刀を薙ぐ。
大気を切り裂きながら迫るそれを、螢は苦もなく己の聖遺物でもって受け止めてみせる。
全霊の力を込めたにも関わらず、まるで堪えている様子がない……余程戟法に優れているものと鈴子は解釈したが、それは的を射ているようでしかし確実に外している。
櫻井螢は人間であって、人間ではない。
永劫破壊(エイヴィヒカイト)の鎧を纏うことで身体能力及び身体強度、第六感に至るまでを格段に向上させた正真正銘の魔徒だ。常時能力値が夢を使っているのと同じ状態な彼女と、身体を強化するにも意識して夢を発現させなくてはならない鈴子の間には当然僅かなれど差が生じ、本来ほんの僅かなそれは命を懸けた鉄火場で十分な敗因として機能する。
速度を乗せて降り注ぐ炎を纏った凶刃を、薙刀を回転させる事で防御する。
しかし、時偶散った火の粉が肌を撫でれば小規模な火傷を刻んでいく――かと言って痛みに手を鈍らせれば、今度は柔肌を切っ先が浅く裂いて流血させていく……有り体に言って鈴子は押されていた。
このままでは敗ける。目の前の少女に対して気になることがないわけではなかったが……兎角この防戦一方な状況を打破するのが急務だ。もし自分の予想が的中しているならば、彼女の力はこんなものではない筈なのだから。
「お返しよ。私にだって、負けられない理由くらいあるんだから!」
憤発の躍動を以って、鈴子は螢の背後へと一気に進み切る。
その際に軽度な火傷を幾つか被ってしまったが、このくらいは必要経費だ。
虚を突かれた螢が身を翻し迎撃せんとした時には既に、鈴子の薙刀が刺突という形で振るわれていた。
さしもの彼女もこれには面食らう。致命こそ避けたもののその脇腹へ裂傷を刻み付け、服の内側から血糊が滲み出してくるのが確認できた。――が、当然相手は奇策を一発決めた程度で慢心できる生易しい手合いではない。
此方も殺す気でかからなければ、まず間違いなく狩られて終わる。元より戦真館の中でも殺傷へ対する忌避感が致命的に欠落している彼女は、迷うことなく曝け出されたその白い首筋を狙う判断を下すことが出来た。
とある獣との闘争に勝利し、自分の夢を見つけた彼女は自身の性がどれほど罪深いものかを知っている。
知った上で――それがどういう意味を持つのかも把握し、了承し、命を奪う一手を下すのだ。
「――燃え滾れ」
螢の冷徹な言葉に呼応するが如く、剣の刀身は膜のように炎を展開し鈴子の視界を塞ぐ。
薙刀の斬痕が虚空にジグザグの線を刻み、劫火の障壁は容易く破られ螢の姿を暴き出すも――炎の壁を破ったことで威力の減退したそれを止めるのは螢にとって容易であったし、互角どころか跳ね除けるだけの力で迎え撃つことさえ可能だった。
「ぐ、うぅッ――――」
得物が飛んでいきそうな程の重い一撃を必死に堪え、バックステップを踏んで距離を確保する。
手に痺れが残るほどの威力に戦慄しつつ、改めてその存在の恐ろしさを噛み締めた。
しかし脅威に震えている暇はない。現に敵は既に地を蹴り躍動しており、数秒後にはまた二つの得物が衝突するだろう。
このままでは此方に勝機はない――斯くなる上は……! 鈴子は薙刀を構えた姿勢のまま、全神経を集中させる。
生み出すのは境界線。殺人者としての才覚を持った自分が獣に堕落しないための戒めのラインであり、人間社会を脅かす獣が此方へ来るのを阻む道理(ルール)の線。
「破段・顕象――」
薙刀が空を走り、都合七の軌跡を描く。
しかしそれは螢に届かない。決して的を外した位置ではなかったが……惜しくも刃は空を切る。
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「さようなら」
勝利を確信した螢は、一度止めた足を再び動かす。
たんと一度地面を蹴り、緋々色金の刃をもって我堂鈴子の首筋を切り飛ばさんと鋭い斬波を放った。
――しかし。
「な……!?」
鮮血を迸らせたのは、螢自身だった。
胴体に二つの太刀筋が刻まれ、先のものとは比べ物にならない大傷を生み出す。
咄嗟に後退する螢。聖遺物の使徒というだけあって、傷は徐々に再生を始めているが……それでもこの深さはすぐに快癒とはいきそうにもない。だが不可解だ。あの一瞬、確かに相手の斬撃は一発たりとも自分に届いていなかった筈。
なのに何故斬られたのか。そう、これではまるで、〝虚空に刃が存在していた〟かのような――
「ッ――そういうこと」
自分の身に降り注いだ謎のカラクリを理解し、螢は一人苦汁を飲む。
何ということはない。小難しい理屈など存在しない。
敵は攻撃を外したのではなく、あの薙ぎは全て虚空に刃を配置するという工程作業に過ぎなかったのだ。
刃が薙いだ箇所に不可視の斬檻を生み出し、通り抜けようとする者を切り刻む――まんまとしてやられた、というわけか。
「……認めてあげる。一本取られたわ」
「――――櫻井、螢」
「……?」
螢の顔に怪訝なものが浮かんだ。
自分は彼女にまだ名乗っていない筈。なのに今、この少女は確かに自分の名を呼んだ。
どこかで会ったことがあったかしら。問う螢に、食ってかかる勢いで鈴子は口を開く。
「名簿を見た時から、もしかしてとは思ってたけど――まさか本当にそんなことがあるなんてね。
……聞きなさい、櫻井螢! 貴女の戦う理由は察しがつくけれど……だとしたらそれは途方よ!」
「……何?」
これまで余裕を見せつけていた螢の口調が、ここで初めて剣呑な色を帯び始める。
鈴子は知っているのだ。
彼女の戦う理由を――そして恐らく、彼女の叶えたい願いも。
鈴子の世界では、櫻井螢の居る世界は一つの物語として広まっていた。
故に最初こそ何の悪ふざけかと思ったが……夢の道理を用いれば、もしやとくらいには考えてもいた。
しかし、螢が『形成位階』を開放した瞬間に仮設は確信へと変わった。
「何故なら、貴女じゃ大隊長……ザミエル卿とシュライバーに敵わない」
「……どうして貴女が、そこまでのことを知っているのかは知らないけれど」
殺意は憤激へ変わり、冷たい射抜くような視線が鈴子を貫く。
それは本物の殺意だった。知ったような口を利くなと、語るまでもなく態度で威圧している。
「そう。そんなに死にたいというのなら――――望み通り、殺してあげるわ」
――来る。
ここから先が、真に気張るべき局面だ。
かれその神避りたまひし伊耶那美は
「 Die dahingeschiedene Izanami wurde auf dem Berg Hiba 」
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詠(うた)が唱えられる。
創造位階……渇望に準じた異界を作り上げるまでに至る、そもそもからして超人以外の者には使いこなせないエイヴィヒカイトの力を高め上げた者のみに許される、有り体に言ってしまえば必殺技とでも呼ぶべき代物。
これを解き放つということは即ち戦いを終わらせにかかることと同義であり、櫻井螢が我堂鈴子をここで殺すと、先程までよりも遥かに強い想いで誓ったことを意味していた。
「来るなら、来なさいッ――」
額に脂汗を浮かせながらも、気丈にそれを迎え撃つ準備を整える鈴子。
戦いは激化する。終局へ向けて加速を始める。
――だが。二人の少女の戦いが明確な形で決着することはなかった。
「――――『生命の樹(セフィロト)』」
建物の影から、されど何に憚ることなく堂々と姿を現した赤髪の男。
鈴子と螢の視線が同時に彼へ集中した、まさにその瞬間(とき)。
螢と鈴子の両名を貫き殺さんと、アスファルトの地面を食い破り光の大樹が顕現した。
◆
「避けたか。一撃で決めるつもりだったのに、手間を取らせる女どもだ」
靴音を鳴らし、蛮行を働いた男は不遜に言い放つ。
突如出現した大樹を、鈴子は破段によって先程生み出した斬檻の残留線を利用して捌く量を目減りさせ、残った分は一際強い気魄を纏った薙刀の剛閃でもって無理矢理に叩き散らして対処。
螢は人間にあるまじきバネを用い数メートルほど跳躍すると、重力に従い墜落し行く中でさながら両翼のように炎を展開。すれ違い様に超速のトーテンタンツを刻み付け、此方も半ば強引な手法で回避してのけた。
それに驚くでもなく、事も無げな様子で悪態をつくは下手人の男。
「……何のつもり?」
「何のつもりだと? つまらないことを聞くな。これは殺し合いだろう? 俺はそのルールに準じているだけだ」
傍若無人な物言いもさることながら、この男から鈴子達は言いようのない気迫を感じ取っていた。
まず常人ではない。それに先の能力だって、一瞬反応が遅れていれば即、死に繋がっていたレベルのものだ。
戦いの仲裁に入ったお人好しとも、無策に乱入してきた戦闘狂の馬鹿ともこの男は異なる。
彼の狙いは最初から、我堂鈴子と櫻井螢、二名の参加者を抹殺することにあったのだ。
挑発的に片手で手招きをし、男は口許に高慢な微笑を湛えて二人の矛先を敢えて集中させる。
それは情けでも容赦でもない。――単に、二人纏まっていた方が仕留め易いというだけの話。
-
「来い。お前達が夢より醒める日は永劫に来ない」
彼はW.I.S.Eの創始者。
旧い生命を一新して新世界へ至り、全ての特異能力者の救済を掲げたメシア。
天戯弥勒―――最強のサイキッカーが、ここに一つの戦端を開幕させた。
【一日目/深夜/B−4 ネアポリス】
【我堂鈴子@相州戦神館學園 八命陣】
【状態】疲労(中)、小規模な火傷複数、浅い切り傷複数
【装備】薙刀@相州戦神館學園 八命陣
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:主催陣営を壊滅させて、この悪趣味な催しを終わらせる。
1:まずは目の前の男(天戯弥勒)に対処。
2:仲間及び百合香、幽雫との合流を目指す。狩摩には警戒。
3:キーラとの決着は必ずつける。
【備考】
※我堂ルート、キーラ撃破後からの参戦
【櫻井螢@Dies irae】
【状態】疲労(小)、胴体に裂傷(中/再生中)
【装備】緋々色金@Dies irae
【所持品】基本支給品一式、不明支給品1
【思考・行動】
0:優勝し、ベアトリスと兄さんを救う。
1:まずは目の前の男(天戯弥勒)に対処。
2:大隊長達には近付かない。殺し合いの過程で脱落するのを待つ。
【備考】
※共通ルートからの参戦です
※名簿のベアトリスについては確認していますが、信じていません。
【天戯弥勒@PSYREN】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:優勝して願いを叶える権利を手に入れる。
1:二人の女(鈴子、螢)を殺す。
2:夜科アゲハには警戒。見つけ次第此方も確実に殺しておく。
【備考】
※アゲハとの最終決戦前からの参戦です
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投下終了です
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壇狩摩、ルーテシア・アルピーノ予約
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投下乙です
新しいロワ楽しく読ませてもらってます
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投下します
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「邯鄲の夢、ちゅうてのォ」
書生服を纏い、煙管を構えた優男の姿は洋風な喫茶店の中で一際浮いていた。
和洋折衷という概念はこの空間には一切存在していない。レトロなデスクと温かみを感じさせる気品ある椅子に大胆に腰掛け紅茶を嗜む姿はある意味では絵になっており、しかし男に付随している得体の知れない雰囲気がそれを台無しにしている。
「あの神父が言いよっとったように、此処も大方その一部じゃろ。
よいよたいぎィ話じゃが、えらくけったいなやり方で邯鄲を攻略させようって魂胆らしいわ」
煙を吐き出し、すると男の前席へ座っている紫髪の少女は嫌そうに顔を顰めた。
こりゃ失敬。呵々と笑い飛ばす姿に隠すことなく不快感を示す少女だったが、そのあからさまな様子を見ても何ら態度を変えない辺りは流石と云うべきか。爬虫類めいた容貌を悦に歪めて、彼は説明を続ける。
「はん? 結局あなたはどっち側なのって? ――ひひ、さァてのォ。じゃが此処まで俺の話を聞いとったんさかい、分かるんと違うか? きひひっ、まあそう怒るもんじゃないぜよ、短気は損気ゆゥ諺もあろうに」
少女は不服そうに目を細めながら、小さな口を開いて「主催」と答える。
それに対し盲打ち……壇狩摩は一層笑みを深くし、正解と一言少女の答えを評した。
しかし狩摩の名は参加者名簿にもしかと刻まれており、参加者に共通し仕掛けられている首輪もその首元を包むようにあてがわれていた。解せないといった様子の少女へ、狩摩は聊か嘲笑めいた笑みを貼り付け口を出す。
「こんなはつくづくたいぎィ役目での。ちと陳腐な表現になるが、『諜報役』とでも言っときゃ分かるじゃろ?
……――そうそう、そういうことじゃ。
この壇狩摩様は主催の回し者、差し詰め大将棋の駒に混じった碁石ってとこかの。尤もやれん話じゃが、あくまで俺の役割は諜報止まりなら。邪魔な凡暗ァ吹っ飛ばすんにも自力で気張らなきゃならんけえ、しんどい仕事よ」
幼い彼女にも、狩摩の言っている大筋の意味合いは理解できた。
要するにこの男はあの神父の使い走りということなのだろう。
それに初っ端から接触できたのは紛れもなく幸運と呼ぶべきなのであろうが――どうにもこの男は信用ならない。
否、信を置いてはならないと本能が警鐘を鳴らしているのだった。
腹の中までは兎も角、蝶よ花よの扱いを受けてきた彼女にとってそれは初めての経験。
誇張抜きに、少女は生まれて初めてこれほど胡散臭い人間と出会した。
「ああ、勘違いしてるようじゃから一つ補足しとくがの。
あんなが主催の元締めと思っとったら大間違いよ。あれは……そうじゃの。『見初められた』ってところか」
だが、彼の語る情報に価値が有るのは真実だ。
主催と内通している人間から直に話を聞ける機会などそうはない。
――この機を逃すわけにはいかない。どうしても禁じ得ない疑念を押し殺しつつ先を促す。
「こん夢を仕切っちょるんは傑物よ。正味あんなが優勝者に大願成就をほいと渡すか言われれば、まあ怪しいわの」
――、少女の顔色が曇る。
「だが……『そういうもの』があるってのは、まあ間違いないわの」
大願成就の法理――あらゆる願い事を成就させる権利を優勝者に齎すと、あの神父は言った。
いきなりそんな途方もないフィクションめいた道理を持ちだされても困惑するより他ないのが正直なところだが、今この諜報塔は確かにその存在を認めてみせた。……願いを叶える力は、実在するということか。
しかしあちら側にそれを渡すつもりがないのなら、此方にしてみればそんなものは存在しないも同然だ。
必然、殺し合いへ乗る理由も消失する。
「正攻法であんなから願望器をもぎ取るんはまず無理な話。
じゃがのォ、喜べやちんまいの。お前の願いを叶えるんがまったく不可能って訳ではないけえ。
あん? どうやってって、そりゃァぶち簡単な話ぜよ」
ぱちん。
軽快に指を鳴らすと、いよいよもって壇狩摩は少女の求めていた『手段』を口にした。
「そこにあるゥ言うんなら奪えばええ。取り返される前に使っちまえばそれで万事解決――かばち垂れる間もなく勝ち逃げしたれ言うとるんよ。どの道このままじゃとお前さんの願いは叶わないけえ、覚悟決めェや」
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◆
ルーテシア・アルピーノは殺し合いに乗ることを決めた。
理由は単純。本人にしてみればひどく重要且つ一刻を争う問題であろうが、願望の成就を求める者としてはごくありふれたたぐいの大願を彼女は持っていた。――即ち、母親を取り戻すこと。
その為にドクター・スカリエッティ達に協力していた彼女だったが、どの道この凄惨なゲームから生きて帰れるのは一人のみときた。……ならば戦おう。ルーテシアは決意する。必ずや生き残り、あの優しい母を再び目覚めさせると。
行動を開始した彼女が最初の参加者(ターゲット)を見つけるまでは極めて迅速だった。
市街地の一角にぽつりと置き去られたような風情を醸し存在していた小さな喫茶店の中、呑気に腰掛けて何やら思案している男を見つけたのだ。ルーテシアは迷わず彼を殺すべく召喚獣を呼び出し、僅かばかりの慙愧の念を覚えながらも一人目の犠牲者を生み出すべく指示を飛ばさんとした。
しかし男は意味深に笑って言ってのけたのだ。
『――――囚われちょるのう』
要領を得ない台詞は、されど単なるハッタリと切り捨てられない重みを持っていた。
どういうこと? 問うルーテシアへ、男は只笑って着席を促す。調子を狂わされる想いのまま男の正面へ腰を下ろしたルーテシアへ、まず彼は壇狩摩という自らの名を名乗った。
それから彼が語ったのはこの殺し合いのカラクリと裏方……つまり主催陣営についての核心へ迫った話。
そんな事を話して大丈夫なのかと問えば、主催者共は自分へ危害を加えられないと人を食ったように笑ってのけた。
一頻り話を聞いてみた感想は、どこまで真実が疑わしい、だが一概に嘘と切り捨てるにもリスクが高すぎる――そんな至極微妙なもの。ただ、主催に内通しているというこの男を無碍に切り捨ててしまうのは愚策に思えた。
だからルーテシアは、壇狩摩を当面の間『人質』として同行させることを決断する。
不審な行動を見せるようならその場で殺す。只でさえどうにも胡散臭さの消えない、妙な男なのだ……切り捨てるタイミングを逃せば痛い目を見る、それくらいはルーテシアにも分かる。
如何せん、楽な道筋でないのは確かだ。
壇狩摩の語ったことが本当であれ嘘であれ、自分以外の49人を殺し尽くすのは至難だ。
それでも、断じて止まるわけにはいかない。
愛する母を取り戻す為になら、少女には悪魔にだってなってやれる覚悟があった。
(はてさて、どうしたもんかの。
適当に法螺ァぶっこいたのはええが、ちィと遊びが過ぎとるでよこりゃ)
ルーテシアのやや後ろを歩く狩摩。
聡明な読者諸君ならば既にお気付きのことと思うが、この盲打ちが少女へ語ったことは即興の方便である。
(甘粕に神野は言うまでもなし。鋼牙と辰宮も嵌められた側とすると……逆十字と龍神は裏方(あっち)ってとこかのォ。よいよやれんわこんなは。どうすんなら、これ。まっことたいぎィのう)
この悪夢はこれまでの邯鄲とまったく異なっている。
方式から面子まで。六勢力の概念を根本から覆すような真似を平然とやってのけるのは、成程確かにあの男らしいが……。
兎角、勝手さえ分かれば――否。分からずとも、すべきことは決まっている。
(あれこれ小難しいこと考えんのは萎えるけえの。
どう転ぼうと最後に笑うんはこの俺じゃ。精々この盤面、俺なりに楽しませて貰うとするわ―――)
盤面不敗、壇狩摩。
盲打ちの打ち筋は、未だ健在。
【一日目/深夜/E−7 市街地(喫茶店)】
【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康
【装備】アスクレピオス@魔法少女リリカルなのは
【所持品】基本支給品一式、不明支給品2
【思考・行動】
0:優勝し願いを叶える。
1:狩摩を当分人質としておく。場合によっては殺害も已むなし。
【備考】
※StrikerS本編開始時からの参戦です
※壇狩摩から主催陣営についての話を聞かされましたが、全くの適当です。
【壇狩摩@相州戦神館學園 八命陣】
【状態】健康
【装備】狩摩の煙管@相州戦神館學園 八命陣
【所持品】基本支給品一式、不明支給品2
【思考・行動】
0:平常運転。どの道最後に笑うのは自分以外に有り得ない。
【備考】
※共通ルート、戦真館が壊滅した直後からの参戦です。
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投下終了です。
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キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ、ラバーソール、遊佐司狼予約
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龍辺歩美を予約に追加します。
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投下します
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学ランに特徴的な髪型をした少年が、電柱に凭れて考え込むように顔筋を歪めていた。
端正な顔立ちが陰りを帯び、歪に形を変えた口許は邪悪さすら感じさせる。
いや、邪悪という観点で考えるならば彼は……より正しくは、彼――花京院典明の姿形を模倣した鎧の内側にいる『彼』は、紛れもなく外道、下衆の誹りを受けるに値する卑劣漢であった。
「どうなってんだ、こりゃ……クソッ、聞いてねえぞ」
男の名前はラバーソール。
百年の時を経て復活した吸血鬼DIOに金で雇われたスタンド使いの一人である。
その依頼の内容は、空条承太郎及びジョセフ・ジョースターを始めとしたジョースター一行を抹殺すること。DIOは己を脅かす忌まわしい血統との縁を断ち切り、全人類の支配を目論んでいた。
DIOへ仕えるスタンド使いの中には思わず引いてしまう程に彼を崇拝し、もし侮辱しようものなら容赦なく殺しに掛かってくるだろうイカレた狂信者が何人も居るが、このラバーソールはそうではなかった。
あくまで彼とDIOを繋ぐ縁は金のみ。仕事上の関係としての忠誠は確かに誓ったが、それで命まで擲つ気にはなれない。
ラバーソールは悪人だ。
他人の為に命をかけるなんてのは狂気の沙汰だと心から思っている。それ故に、この殺し合いでも彼はすぐに優勝を狙うことを決めた。願いを叶えるという恩賞の存在がもし本当ならばこんな美味い話はそうないし、首にかっちりと巻き付いた金属製の『首輪』……これがある限り、此方の命は常に主催者の手に握られているようなものだ。
下手に反抗的な行動を取って粛清されては敵わない。
此処は大人しく殺し合いに乗って、手堅く生き残ってご褒美にありつこうと考えていた。
「でもま……悪い話では無ェよなァ〜〜ッ。
DIOの野郎なんざよりよっぽどうめぇ汁を吸わせてくれそうだしよォーッ。ヒヒヒヒ!」
下卑た笑いを浮かべるラバーソール。
余裕綽々といった様子の彼も、最初は名簿を見て瞠目し焦りの表情を浮かべていた。
何せこの会場には自身を雇った人間であるDIOに抹殺対象のジョースター一行までも存在するというではないか。後者は元々敵対していた相手だからまだ良かったが、あのDIOと敵対せねばならない状況には流石の彼も一瞬、臆した。
しかしそんな恐怖はすぐに彼の中から消える。
ふと建物のガラス窓に写った『花京院典明』の姿を見て、自分のスタンド能力が如何に完璧なものか思い出したからだ。
スタンド名・『イエローテンパランス』。
見た目や声だけではまずバレない変装能力に、スタンドの攻撃だろうと一切通さない黄色いスライム状の鎧。
更にスタンドで『イエローテンパランス』に触れようものならばその箇所にスライムが付着し、徐々に、だが確実にそいつの身体を喰らっていく。外す手段はない――攻防一体、まさしく最強の名に相応しい完全無欠のスタンド能力!
「DIOも承太郎のヤローも関係ねえ。どいつもこいつも皆殺しにしてやるッ!
なんてったって、それを可能にする能力がこのラバーソールにはあるんだからなァ〜ッ!!」
ゲラゲラと笑うラバーソールの心中に、最早殺し合いへの恐怖など欠片もなかった。
事実、彼の能力はこのバトル・ロワイアルにて非常に大きな効力を発揮するそれだ。
人を食らうという獰猛な性質もそうだが、姿形を自在に変える能力は言わずもがな参加者間に混乱を巻き起こすことが出来る。自ら手を汚さずとも勝手に殺し合うのを誘発し、どんどん人数が減らせるという寸法。
彼も無論それに気付いている。腐っても殺し屋、自身の『武器』の特徴くらい把握していなくてどうするというのか。
すっかり機嫌を良くしたラバーソールは、名簿をディパックに押し込んで代わりに地図を取り出した。
自分がいるのはE−3。近隣のエリアで人が集まりそうなところといえば、隣にあるらしいデパートだろうか。
物色がてら行ってみるのも悪くない。コンパスで方位を確認すると、彼はデパートの方角へ足を向け、歩き出した。
それから数分した頃、突然ラバーソールは足を止める。
(……ありゃあ、ガキか)
前方に人影が見えたからだ。
路地の裏より現れた小さなシルエットは、遠目にも裕福な階級の人間であることが窺える豪勢な衣装に身を包んでいた。
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赤い外套と銀の長髪、何より雪のように白い肌。
そっちの趣味がないラバーソールをして美しいと思わせる、妖精めいた美少女。
見てくれから察するにロシア人だろうか。……どちらにせよ、都合がいい。
「やあ、お嬢さん。少しお話をしたいんですが、いいかな?」
『花京院典明』の口調で、警戒させないよう穏やかなトーンで話しかけるラバーソール。
少女はゆっくりと彼の方へ振り向く。
――その表情を見た瞬間、一瞬だけ身体が固まった。
不機嫌そうに細められた眦。
将来はさぞかし美人になるであろう整った顔立ちが、さながら威圧する肉食動物めいた気迫を放っている。
だが、彼もたかが子供の迫程度に尻尾を巻いて逃げ出すほど情けない男になった覚えはない。
むしろ舐めやがって、と苛立ちが込み上げてくる。
「僕の名前は花京院典明。このゲームには乗っていません。
それで、もしよかったら僕と情報交換でもしませんか……と思ってね」
「そうか」
少女は一つ頷いた。
そして、ふっと微笑する。
「逃走することを許す。大人しく私の前から消えるならば、この場に限り見逃してやろう」
――返ってきたのは、ラバーソールにとって予想だにしない台詞だった。
見逃してやる。聞き間違いでなければ、今この娘はそう言った。
(なんだこのガキ? イカれてんのか、この状況で……?)
不遜な物言いに腹を立てるよりも、困惑の方が優った。
武道をやっているような体つきにも見えないし、腕に至っては少し自分が力を込めればあっさり折れそうなほど細い。
なのにこの余裕。実に奇妙だ――そこで、不意にラバーソールの脳裏に電流が走る。
もしやコイツ、スタンド使いか?
スタンドは子供にも宿る。
現にDIOの部下のスタンド使いたちの中にはまだ年幼い子供も居たし、彼女もそうであったとしても何ら不思議はない。
しかし、そうだとしたら滑稽な話だ。ラバーソールは心の中でほくそ笑む。
自動防御と人に食らいつく能力を併せ持つ『イエローテンパランス』に弱点はない。こいつがどれだけ優れたスタンド使いだろうと、この俺を殺すには役者不足も甚だしい……待っているのは圧倒的な虐殺だ。
彼女が元から殺し合いに乗っていたのか、それとも自分を警戒してあんな発言をしたのかは定かではないが、どちらでも不自然ではないだろう。そんなことはあくまで瑣末だ。
「フフ、そんなことを言わないで下さいよ……」
食っちまえばそれまでのこと。
態度のデカいガキには、生きたまま食われるという地獄の苦痛で灸を据えてやろう。
柔和に笑みながら、ラバーソールは『イエローテンパランス』を発現させようとする。
最初の犠牲者となるこの少女の姿をどう使ってやろうか思案しつつ、余裕に満ちた表情で先手を切った。
「良し。ならば望み通り、死ね」
――次の瞬間、ラバーソールの身体は天高く舞っていた。
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「な……ッ、何ィィィイイイイ――――ッ!!??」
馬鹿な、有り得ない!
ラバーソールの変装は吹き飛び、露わになった素顔を驚愕に歪めて絶叫する。
攻撃を加えようとした一瞬、少女がにこりと微笑んだのが見えた。
その次の刹那にはラバーソールの下顎に……『見えない何か』が、猛烈な威力でもって殺到していた。
有生物からの攻撃であれば何であれ防御する特性が幸いし重傷にこそ至らなかったものの、とてもじゃないがその場に留まり続けることなど不可能だった。宙へ身体が舞い上がり、そのまま錐揉み回転しながら吹き飛んでいく。
(何だありゃあッ!? あれがあのガキのスタンド能力だってのか……!?)
あれほどのパワーを持ったスタンド使いは見たことがない。
おまけにスタンドの像さえ見えなかった。ラバーソールが確認できなかっただけでどこかに像があったのか、それとも彼女の力はそもそもスタンド能力とは一線を画したまた別の能力とでもいうのか。
疑問は尽きないが、今はとにかくそれどころではなかった。
冷静に『イエローテンパランス』で、落下の衝撃を防御する。
スタンド使いとして生きてきて、これほど自身の能力の有用性に感謝した日は初めてかもしれなかった。
地面に倒れ込んだ姿勢のままで暫し空を見上げ、それから起き上がると、彼は地面を力強く殴りつける。
苛立ちと不安が途端に心を侵食し始め、……されど再び、彼の表情には少しずつ笑顔が戻っていく。
「ヘヘ……随分舐めた真似してくれやがったじゃねえか、お嬢ちゃんよォ〜……」
あの破壊力は文字通り脅威だ。
『イエローテンパランス』がなかったなら、今頃ラバーソールの頭はぐしゃぐしゃの挽肉と化していたに違いない。
能力のカラクリは分からないし、仮に分かったとしても真っ向から挑みかかるのは完全に自殺行為……ならば話は簡単。
不意討ちで反応する間も与えず仕留めてやればいい。もし自分と同じ自動防御の能力まで持っているならその時こそお手上げと言う他無いが、試してみる価値はあるだろう。
それで駄目でも見つかる前に逃げ果せればいいのだ。
「だが、俺に姿を『見られた』コトを精々後悔するんだなッ!」
『イエローテンパランス』が、ラバーソールの顔を、全身を覆っていく。
肌は白磁のように白く、髪は目映いばかりの銀色に。背丈は大柄だったのが一転小柄なそれに変わり、上流階級のお嬢様を思わせる豪勢な衣服の一繊維に到るまで、寸分の狂いもなく再現される。
まさかこんな形で苦渋を舐めることになるとは予想外だったが、命さえあればやり返すチャンスはいくらでもある。
「覚悟しろッ! テメーのコギレーな顔は、この俺が好き勝手に使わせて貰うぜッ!!」
――ラバーソールは知らない。
自分が先程襲いかかった存在は、その顔を知る者には悉く警戒されるであろう『獣』だということを。
更に言えば、彼が生き延びられたこともまず間違いなく最大級の幸運であったということを。
知らぬまま、雪の妖精を象った悪党は次なる参加者を求めて歩き出す。
彼の『幸運』は、果たして何時まで続くのか――。
【一日目/深夜/D−3 千信館学園・校門前】
【ラバーソール@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】疲労(小)、キーラに変装中
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:優勝して賞品を手に入れる。
1:ガキ(キーラ)の姿を当分使う。どう利用してやろうか……
2:DIOとその仲間には一応注意。だが負ける気はしない。
【備考】
※承太郎に正体を暴かれる前からの参戦です。
※現在イエローテンパランスで変装できる人物は以下の通りです。
・空条承太郎、ジョセフ・ジョースター、花京院典明、DIO、ヴァニラ・アイス
・キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ
-
◆
「……仕留め損なったか。まったく器用な真似をするものだ――何にせよ、運が良かったな」
キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワが花京院典明に化けたラバーソールを見逃したのは、単に思案の最中だったというだけのことだ。殺し合いの裏側で糸を引いているだろう男の意図へ思考を巡らせていた……そこに彼が現れた。
別に彼が殺し合いに乗っているか否かをキーラが見抜いた訳ではない。そんなことは彼女にとって至極どうでもいい話だ。
どちら側だったところで、キーラはきっと同じ勧告を行ったろう。
その意味する所は言わずもがな一つ。彼女がこの蟲毒を了承し、殺し合いに乗ったということに他ならない。
キーラにとって人間の命とは塵だ。
信を置くという点に於いては獣に遥か劣る、救い難い愚者ども。何故そのような連中に配慮し、日和見に甘んじねばならないのかとんと分からない。ましてこの場には、尊い家族達も存在しないというのに。
此処は狩場。
鋼牙の夢を阻む愚かしい人間(エサ)共が跋扈する地獄の一丁目。
ならばどうする。改めて考えるまでもない。
単純明快、全員殺す。
それでもって大願成就の法理をこの手に収め、自分達の悲願を遂げる――倫理だ何だと、そんな下らない概念を獣は持たぬ。その点キーラはまごうことなき獣だった。人間社会を脅かす正真正銘の人獣に違いなかった。
「しかし甘粕の奴め――舐めた真似を。私と我が子らを一時とはいえ引き離すとは、万死に値する」
眦に純粋な殺意を滾らせ、キーラは彼女達しか知る由もない名前を口にした。
甘粕正彦……あの神父が邯鄲の単語を口に出したその瞬間、この蟲毒の深奥に居る者が奴だと容易に理解できた。
全く以って度し難い。気紛れに事を起こすことも、家族と引き離したことも、何から何までが癪に障る。
だが、皆殺しの末に有るという報酬は見逃せるものではなかった。
単なるその場凌ぎの嘘八百と言ってしまえばそれまでだが、忌まわしいことにキーラには分かってしまった。
報酬は確かに存在すると。殺し合いを生き抜いた者のみが、それを手に入れられると。
「皆殺しだ」
殺すのは四十九の生命。
軽い――軽すぎると、キーラはせせら笑う。
中には見知った名前が幾つも見られたが、この際関係はあるまい。
既知も未知も、等しく鏖殺する。精々良い音色で泣き叫び、我が勝利を祝福しながら死んでいくが良い。
キーラは漆黒に包まれた街頭を一人往く。
彼女へ付き従う鋼牙兵は一体たりともいないものの、それで彼女が減退している様子は見られない。
絢爛暴虐の女王は健在だった。聖絶の末にある願望器を求め、釁れの道を踏破すべく、彼女は進んでいく。
不意に、その足が止まった。
視線は数十メートル程先にある、なんてことのない民家の最上階へと向けられている。
訝しむように暫し其許を凝視すると、キーラは口許を三日月状につり上げて笑った。
「そんなに私に興味があるか、子鼠共。くく――少し遊んでやろう」
踵を返し、楽しそうに口角を歪めて……今頃必死に逃げようとしているであろう二匹の獲物を狩人は追い掛ける。
グルジェフの家系に生まれ落ちた空前絶後の怪物が、蟲毒の気枯地にて、その武威を解放せんとしていた。
【一日目/深夜/D−4 市街地】
【キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ@相州戦神館學園 八命陣】
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:皆殺し。
1:二人の獲物を狩り殺す。
2:戦真館、神祇省、辰宮の連中も見つけ次第殺す。例外はない。
【備考】
※第五層にて、戦真館を襲撃する直前からの参戦です。
※鋼牙兵はいませんが、急段の能力を使用することは可能です。
-
◆
「やべえ、バレたわ」
「え、誰に? んっ、んっ、んっ……」
「多分キーラって嬢ちゃん」
「ぶっはーーーーーーーーーーー!!!!」
双眼鏡越しにキーラを監視していた金髪の青年……遊佐司狼は、苦笑気味にそう漏らした。
支給された水を飲んでいた隣の少女、龍辺歩美がそれを聞いてぶーっと、盛大に口に含んでいた水を吹き出す。
二人は殺し合いが始まってすぐに、なんてことのない路地で邂逅した。
双方殺し合う意思がないことを確認し終えるなり、当面の拠点として三階建ての手頃な一軒家を選択し、そこで互いの持つ情報の交換を始めたのだが……ここで、歩美は遊佐司狼という人物についてを〝思い出す〟。
そう、龍辺歩美は遊佐司狼のことをよく知っていたのだ。
尤もそれは真っ当な形でではない。現に司狼は歩美のことを全く知らなかったし、歩美もそれで当然だと頷いた。
それから彼女が話したのは、俄には信じ難い話。
なんでも歩美の居た現代日本では、『神座万象シリーズ』なる創作作品として司狼達の戦いが広まっているというのだ。
最初こそ電波少女の妄想として取り合わなかった司狼だが、話の内容が真実味を帯びてくると事情が変わってきた。
自分達しか知り得ない聖槍十三騎士団の構成員の情報、それどころか現世を離れているという三人の大隊長についてまで、彼女は詳しく知っていた――それは司狼に『こいつは本物だ』と確信させるに足る根拠であった。
一頻り質問攻めにあった後、今度は歩美が自身の世界と経験してきた戦いについて語る番だった。
邯鄲の夢と、そこに鬩ぎ合う六勢力との戦いの話を語り……壇狩摩という男を倒した顛末まで歩美は話して聞かせ、漸く長引いた情報交換は終わりを迎えたのであったが。
話しすぎて乾いた喉を歩美が潤している最中、突如司狼が前述の台詞を吐き、今に到る。
「えっ、ちょっと待って、てか何してたのさ司狼くん!?」
「まあ落ち着けよ。折角双眼鏡が支給されたんだし有効活用してやろうと思ってな。
適当に覗いてたらキーラって子見つけたからずっと見てた訳さ。アレだろ、銀髪に赤いマント羽織ったちっちゃい娘だろ」
「……まずいよ、これは非常にまずいよ……!」
「うし、龍辺。逃げようぜ」
「気軽に言うなーっ!!」
歩美の記憶では、キーラは裏勾陳……百鬼空亡によって消し飛ばされた筈だった。が、名簿に名前がある以上何らかの手段で復活を果たし、再びこの邯鄲へ姿を現したという事になるのだろう。
彼女は強い。一度、歩美達戦真館は彼女一人の前に全滅を喫している。
激しい戦いを経て強くなった今でも、あの圧倒的な暴力を前にしてどれだけ保つか。
とにかく今は司狼の言う通り逃げるしかない。
もしも逃げ切れなかったならその時は――腹を、括ろう。
【龍辺歩美@相州戦神館學園 八命陣】
【状態】健康
【装備】歩美の銃@相州戦神館學園 八命陣
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:ゲームには乗らない。仲間と合流して主催へ対抗する。
1:キーラから逃げる。
2:黒円卓の団員達には警戒。
【備考】
※歩美ルート、狩摩撃破後からの参戦
【遊佐司狼@Dies irae】
【状態】健康
【装備】司狼の銃@Dies irae、血の伯爵夫人@Dies irae
【所持品】基本支給品一式、不明支給品1
【思考・行動】
0:殺し合うつもりはない。主催を倒して元の世界へ帰る。
1:キーラから逃げる。
2:黒円卓や六勢力の首領達には注意。何があろうと気は許さないようにする。
【備考】
※マリィルート、シュライバー撃破後からの参戦
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投下終了です。
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高町なのは、アインハルト・ストラトス、ヴィルヘルム・エーレンブルグ予約
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投下します
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「……ヴィヴィオさん」
闇に包まれた森林の中、アインハルト・ストラトスは小さく言葉を零した。
年こそ幼いものの、数年もすれば立派な美人に育つであろう整った顔立ち。
眼窩に収まった瞳の色は左右で異なる虹彩異色だ。
古代ベルカの『覇王』クラウス・G・S・イングヴァルトの記憶と悲願を色濃く受け継いだ純血種……それが彼女。
「殺し合いなんて……私には、出来ません」
アインハルトは小さく頭を振る。
参加者名簿には、自分の生き方を大きく変えてくれた大切な人の名前があった。
高町ヴィヴィオ。彼女の名を見た瞬間、自分は何があろうとこの殺し合いに乗ってはならないのだと理解した。
彼女が居らずともアインハルトは殺し合いに乗らなかったろうが、その存在が少女の意思をよりいっそう強固なものにしたのは間違いない。遠い先祖同士の繋がりを除いても、今やヴィヴィオは彼女にとってかけがえのない親友だったのだ。
優しいあの子のことだ、きっと今頃は殺し合いに否を唱え、怯えながらも立ち上がっていることだろう。
しかし、勇敢と無謀は似ているようでまったく違う。
最初、ゲームの説明を神父より受けた聖堂。あの暗闇の中には、数え切れないくらいの強者の気配があった。
一心不乱に身体を鍛え、武術の腕を磨いてきた自分でさえも、参加者全体で見ればその実力はまず下位の方であろう。
競技としてではなく、手段として武力を用いる者達。
こういう発言をしたくはなかったが、殺し合いは確実に進む筈だ。
理由は違えど、自分より格段に強い力を持った者がたった一つの生還権を巡って殺し合い、屍の山岳が築かれる筈だ。
――止めなくてはならない。そして、助けなければならない。
この腐りきった殺し合いを止め、大切な友人の元へ一刻も早く駆けつけ、安心させてやらなくてはならない。
無論、こんなところで死んでやるつもりもなかった。
自分にはまだ、生きなくてはならない理由がある。
悪の主催陣営を打倒し、元いたミッドチルダへの出口を開くこと。自分個人では、恐らく無理だろう。アインハルトが得意とするのはあくまで武術。そういった専門的な細かい技術はからっきしだ。
けれども、名簿には時空管理局の局員達……ヴィヴィオの母・高町なのはを始めとした自分達に何かとよくしてくれる大人たちの名前もあったことから、この心配は杞憂だろうとアインハルトは推測する。
管理局の力は大きい。どれだけ難解な細工を施していても、彼女達は必ずそれを破り、希望の活路を切り開く。
こうしている今だって、この閉鎖空間の外では管理局が躍起になって調査を行っている可能性が高い。
「大丈夫……私達は、勝てる」
胸に小さな手を当て、こくりと自分に言い聞かせるように頷く。
立ち眩みそうなくらい絶望的な状況だが、確かに希望は微量なれども存在しているのだ。
だから臆する必要はない。覇王流(カイザーアーツ)を継ぐ者として、一人尻込みしている訳にはいかない。
今、自分に出来ることをしよう。あの陽だまりに戻るために、この拳を振るおう。
恐怖は消えていた。むしろ心地よい勇気があった。
すっかり凛々しい面持ちになって、アインハルト・ストラトスは前方彼方に見える『そいつ』を見据える。
(――……物凄い殺気。あの男、相当の手練だ)
第一印象は『白色』だった。
軍服と思しき服装に身を包み、その面は色素欠乏病(アルビノ)特有の白貌。
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にも関わらず、凡そあの男からはひ弱さというものを感じない。
否応なしに薄弱を想起させる白皮は宛ら、異界の住人めいた存在感を放ってすらもいた。
アインハルトは生命を懸けた戦いをしたことがない。
だから、正真正銘の『殺気』というものを感じたのは、今世ではこれが初めてである。
が、一瞬で分かった。あの男と対話を試みるのは無意味だと。そんな隙を見せれば宜なく挽き肉にされるのが落ちだと。
古代の時代より受け継ぐクラウスの経験則が活きたのか、兎に角アインハルトは彼を敵対者として認識した。
「ハ――」
構えを取るアインハルトへ、白貌の軍人は嘲笑めいた笑いを浴びせた。
かと言ってそれは、悪罵の類ではまず間違いなくなかった。
最も近いものをあげるとすれば喜び、もしくは期待。
己の殺気を感じ取り、その上で逃げずに構えてみせる根性……それが彼の眼鏡に適ったのかもしれない。
「ガキにしちゃ良い根性してやがる。良いぜ、てめえ。なかなか楽しめそうだ」
この鬼神めいた男にとって、殺し合いとは至福に他ならなかった。
従って男は此度の遊戯の、最後の一人になるまで延々と命の奪い合いを続けるという趣向だけは気に入っていた。
差し詰め殺戮中毒(バトルジャンキー)……そんな彼の性質を鑑みれば、彼が殺し合いへ乗るのは自明であったという結論に到達しよう。男を殺し、女を殺し、老婆を殺し、赤子を殺す。犬を殺し、牛馬を殺し、驢馬を殺し、山羊を殺す。
あの似非神父はいけ好かないが、この機に乗じて『宿敵』との因縁を決着という形で清算してやるのも悪くない。
そんなことを考えつつ、この手で磨り潰す獲物を探し闊歩していた所で、虹彩異色の少女と邂逅するに至った。
これより何をするかなど改めて言うまでもあるまい。仮にアインハルトがそれを拒んだとしても、その時は逃げる背中を容赦なく刺し貫いて殺すのみ。この男に限り、非戦主義を盾に乗り切ろうなどという甘い考えは通用しない。
アインハルトの姿が、俗に『大人モード』と呼ばれるそれへ変ずる。
「聖槍十三騎士団黒円卓第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイだ。
名乗れよガキ、戦の作法も知らねえか」
「――アインハルト。アインハルト・ストラトス」
「上等」
殺人鬼らしからぬ正々堂々とした名乗りを挙げ、臆すこともなく名乗りが返ってきた事に軍人……ヴィルヘルムは精々愉しませてみせろよ、と言わんばかりの獰猛な笑みにその口許を引き裂いた。
――その次の瞬間には、ヴィルヘルムの姿は元居た座標より掻き消え。
アインハルトのすぐ前まで、僅か一瞬の間に接近を果たしていた。
(ッ、速い!)
腕を十字に交差させ防御の構えを取るアインハルトへ、ヴィルヘルムの剛拳が叩き込まれる。
エイヴィヒカイトの鎧を纏った肉体から繰り出される打撃は、何ら工夫のない一撃でさえも致死に相当するものだ。
単に格闘技を齧った程度で天狗になっている莫迦ならば、この時点で腕の骨を粉々に砕き折られていただろう。
そうなれば後は消化試合だ。力任せに何度か殴りつけてやるだけで、容易に相手を殺害できる。
試金石代わりの初撃は少女の両腕に炸裂――しかし、骨の砕ける感触も、肉が裂ける手応えもない。
-
ヴィルヘルムが追撃/後退を行うよりも先に、この隙を逃さぬとアインハルトは拳を握る。
致命的な負傷こそ避けたものの、ノーダメージとはいかなかった。
このまま何度も受けていればいずれ限界が訪れる。
それ以前に防護し損ねた時のことを考えると背筋へ寒いものすら感じる。
長引かせるのは得策ではない……ここは手堅く、迅速に勝利を勝ち取らせて貰う。
「はぁっ――!」
身を半分翻しての、勢いを帯びた蹴撃がヴィルヘルムの首筋めがけ放たれる。
インターミドル・チャンピオンシップの激戦の中で、より多くの経験を積むことによって洗練した重厚な一撃。
奥義と呼ぶほど派手な芸当ではないが、それでも勝負を確実に決着へ導く破壊力がその細脚には込められていた。
轟と大気を切り裂き、斧でも薙ぎ払うような軌道を描いてそれは目標を捉え、だが添えた左手を前に易々止められる。
――戦慄が走った。
バック宙の要領で敵のリーチから強引に脱し、掴まれていた足も自由の身となる。
……もし判断があと一瞬遅れていたなら、自分の足はきっと握り潰されていたに違いない。
この男は怪物だ。実際に戦ってみるとよく分かる――『実戦』を極め尽くした、正真正銘魔物じみた鬼であると。
「どうしたよ、軽すぎるぜ。まさかこの程度とは言わねえだろうな?」
「ッ……」
「そうだってんなら興醒めも甚だしいが……まあ、所詮中身はガキ。こんなものか」
分かりやすすぎる挑発だ。
しかし、それはアインハルトを奮起させるには十分過ぎるものだった。
断じて、こんなところでは負けられない。
こんな悪鬼に膝を屈するようであれば、それは覇王流の名に素手で泥を塗りつけることと同義。
それだけでなく、自分が大切な『彼女達』と一緒に汗水を流した時間さえ無意味なものと貶められているようなものだ。
刹那の後には、頭で考えるよりも疾く踏み込んでいた。
思考は後から自然に付いてくる。今放つべき拳は、小細工抜きの、純粋な破壊力に長けた一撃。引き離された体力の差をただ一発の的中で拮抗状態まで埋めてやれる、強力無比なる剛の技だ。
脚部に力を集中させ、練り上げた力を拳に込めて、ヴィルヘルムの胸板を打ち抜かんと乾坤一擲の奥義を放つ。
「覇王――断空拳ッ!!」
覇王流の技巧にして、アインハルト・ストラトスの最も得意とする必殺技。それは文字通りに空を断ち、風を切り裂きながら狙い通り魔人の胴体を打ち据えた。鎧でも殴ったような強固な感触。しかし――負ける訳にはいかないと歯を食い縛る。
結果、少女の打拳は彼の身体をくの字に曲げさせ吹き飛ばした。
天を仰がせることまでは叶わなかったものの、確実に痛手を負わせた手応えがあった。
常人を卒倒させる程の蹴りを打ち込んでも何ら堪えた様子のなかったヴィルヘルムへダメージを与えるほどの破壊力……真実それは『必殺』の名に違わぬ、見事なフィニッシャー・アタックだった。
それでも、白貌の魔人は倒れない。
ゆらりと体勢を整えると、――先程己が『ガキ』と謗った相手に思わぬ痛手を被らされたことに怒りを示すでもなく、真紅の双眼を喜悦で彩り、アインハルト・ストラトスを見据えた。
「やるじゃねえか。……良いぜ、てめえ。殺り甲斐がある」
-
「……!」
来る。
直感的に、アインハルトは得も知れぬ悪寒に襲われた。
ヴィルヘルム・エーレンブルグを中心として、真冬さながらに空気が不気味な冷たさを帯びていく。
それは、人間を逸脱し、吸血鬼を目指した男の本領がいよいよもって解き放たれんとしていることを意味していた。
これからだ。これからが、『串刺し公(カズィクル・ベイ)』が魔徒と呼ばれる所以だ。
「Yetzirah(形成)」
ぎちぎちと、何かが軋むような音。
それと同時に、ヴィルヘルムの総身至る所より真紅の突起物が飛び出した。
その紅は血の紅。数多の命を喰らい啜ってきた吸血鬼の牙。
悍ましい光景にアインハルトは構えを取りながらも息を飲む。
魔導師と呼ぶにはあまりにも邪悪過ぎるその魔法が、この男の異常性を証明しているように思えた。
想像してしまう。あの杭が、これまで一体いくつの命を吸い取ってきたのか――恐らく、数え切れる数値ではないだろう。
「そらよ、気張って避けろや」
杭が一斉に射出される。ガトリング砲を彷彿とさせる速度と量が、アインハルトの逃げ場を確実に奪っていく。
回避し切れる自信は正直に言って、ない。だが、あれを受けるのは何としても避けねばならないと本能が告げていた。
地を蹴り、可能な限り杭を避け、どうしても回避不可能なものは肌に直接触れないようにしながら叩き落とす。
が、全てを捌き切るのはやはり無理があった。
どうしても掠る程度の損傷は避けられず、ほんの浅い傷ですらその大きさに見合わない体力を持っていく始末。
(……この杭、私の力を吸い取っている……? まずい、このままでは――ッ)
戦況は一方的なものになりつつあった。
無尽蔵に、止むことなく放たれる杭の嵐は着々とアインハルトの余力を削り取り、かと言って反撃をしようにもやはり絶え間のない杭の弾幕掃射がそれを許さない。
姿勢を低くし、頭を狙った杭をいなし、回し蹴りで正面からの殺到を撃墜。
大きく一歩を踏み出したところで、アインハルトの膝ががくりと脱力する。
右の太腿に、完璧に避けたと思われた杭の一本が突き刺さっていた。勿論即座に抜き取ったが、一度吸われてしまったものは戻ってこない。現に立つだけでもやっとという有り様にまで、アインハルトは衰弱を余儀なくされている。
絶望的、といっていいだろう。
それでも諦めはしないと懸命に立ち上がるのは、彼女の戦いへ懸ける意地だった。
時に人は理屈で動かない。どう足掻いても勝ち目が見えない、諦めて死を享受した方が楽になれるような状況でも、ほんの一縷の望みに懸けて戦う。今の彼女は、まさにそれだ。
ここで屈すれば、必然辿る末路は死。そこにはほんの僅かな打開の活路もない、約束された詰みがあるのみ。
-
――ならば、せめて抗おう。
生命尽きる最後の一瞬まで、奇跡に縋る思いで覇王流を振るい続けよう。
消耗で震える身体を無理矢理に動かし、飛来する杭を――あろうことか、アインハルトはそのまま受け止める。
「穿衝破ッ――――!!」
後のことを考えれば、あれだけの密度で吹き荒れる杭の中、内のたった一本を受け止める為だけに足を止めるのは愚策だ。
だから使わなかった。だが、捨て身の方策としては至極上等な手段であろう。
ヴィルヘルムの顔に驚きが浮かぶ。予想だにしない行動は、確かに鬼の虚を突くことに成功していた。
それからは簡単だ。穿衝破という奥義の型通り、受け止めた杭をヴィルヘルムへと投げ返す。
速度は彼に放たれた時よりも増しており、杭を払わんと振るわれた右腕をあっさりと貫通する。
軍服に血が滲む。それを確認すると同時、アインハルトは倒れ臥した。
限界だった。今の一発を放ち切った時、彼女の体力は遂に尽きてしまっていた。
ヴィルヘルム・エーレンブルグは自身の負わされた傷から流れる血を見つめた後、変身が解け、子供の姿に戻ったアインハルトの元へと歩を進める。やがて、意識を失い苦しげに息を立てている彼女へと片腕を振り上げ、言う。
「じゃあな。案外楽しかったぜ」
そのまま、アインハルト・ストラトスの頭蓋を破砕させんと魔人の剛腕が振り下ろされ――
「そこまでだよ」
――る寸前、彼の身体を光の輪が拘束した。
「……何だ、てめえ?」
「時空管理局、高町なのは。――その子は殺させないよ。ヴィヴィオの……娘の、大切な友達なんだから」
純白のバリアジャケットを纏った茶髪の女性。
彼女がこのタイミングで間に合ったのは、アインハルトの奮戦あってのことだった。
もしアインハルトが諦めていたなら、なのはが駆けつけた時にはもう全てが終わった後であったろう。
穿衝破が稼いだ僅かな時間。ヴィルヘルムを斃すには不足だったが、それはこうして彼女の身を救う結果を齎した。
投降を促すなのは。
しかし当然ながら、ヴィルヘルムはそんな勧告は意にも介さない。
「萎えること言ってんじゃねえぞ。第一よォ――こんな緩いモンでこの俺を縛った気かよ、劣等」
硬いものに罅が入るような音がすると、ヴィルヘルムを拘束していた光輪が砕け散る。
-
自力でバインドを破壊する腕力を前に、なのはも彼が只者ではないと改めて実感させられた。
まだ子供とはいえ、一流の魔導師たちを交えた模擬戦で十分すぎる活躍を見せたあのアインハルトを一蹴するという時点でその実力は推して知ることが出来る。……気を抜けば、殺られる。これはそういう相手だ。
アインハルトをなるべく危なくないよう茂みの陰に寝かせてから、なのははヴィルヘルムを睨む。
――ここでこの男を無力化しなくては、間違いなくとんでもない犠牲が出る筈。
必ずここで倒す。決意新たに、高町なのは――『エース・オブ・エース』は白き鬼と相対する。
超人同士の戦いが、いま幕を開けた。
【一日目/深夜/A−2 森】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康
【装備】レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのは
【所持品】基本支給品、不明支給品2
【思考・行動】
0:主催者を逮捕して殺し合いを止める。
1:ヴィルヘルムを倒す。
2:ヴィヴィオのことはやっぱり心配。早めに合流したい。
【備考】
※Vivid、模擬戦後からの参戦です
【ヴィルヘルム・エーレンブルグ@Dies irae】
【状態】疲労(小)、形成
【装備】闇の賜物@Dies irae
【所持品】基本支給品、不明支給品2
【思考・行動】
0:黒円卓の同胞以外の参加者を殺し、戦いを楽しむ。
1:高町なのはを殺す。
2:シュライバーの野郎だけは例外。見つけ次第『決着』をつける。
【備考】
※共通ルート、来日直後からの参戦です
【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのは】
【状態】疲労(極大)、太腿に刺し傷、気絶中
【装備】アスティオン@魔法少女リリカルなのは
【所持品】基本支給品、不明支給品2
【思考・行動】
0:殺し合いはせず、皆で生き残りたい。
1:…………
【備考】
※ジークに敗北した直後からの参戦です
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投下終了です
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投下終了です
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辰宮百合香、岸波白野予約
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なんだこの面白そうなロワは!?
期待
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延長します
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盛大に遅れましたが、投下します
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バトル・ロワイアル。
岸波白野は静かに、その単語を口に出した。
彼女は魔術師だ。ムーンセル・オートマシンの中枢に繋がり、その手でムーンセルを封印した最弱のマスター。
月の聖杯戦争をその手で終局へ導き、正式に月の裏側の物語の制覇を成し遂げた――筈だった、のだが。
突如として白野の目の前に広がった、常闇の世界。
そこに光明が射したかと思えば現れたのは見覚えのある、黒衣の神父……言峰綺礼。その双眸に確かな嗜虐の色を輝かせて、彼は言った。曰く、殺し合い。あらゆる願望を成就させる権利を懸けた血で血を洗う蟲毒の宴。
「質悪すぎでしょ、こんなの……」
聖杯を巡る争いも大概に猛悪なものであったが、趣向の悪辣さという点では此方が明らかに勝っていた。
時折脅かされる事こそあれど、あちらはマスターとサーヴァント、二人一組同士の決闘という体裁をまだ保っていた――この蟲毒にはそれすらもない。出口だけを念入りに塞ぎ、殺戮も背徳も好きにせよと采配を擲った無法地帯だ。
臆病風に吹かれ縮こまっているのは論外だが、慢心を曝け出し無防備に出歩こうものなら未来は一つ。
如何に聖杯戦争を制した経歴があるとはいえ、今の岸波白野の隣には、共に長い戦いを馳せてきた赤い外套の相棒(サーヴァント)はいない。何の心得もない一般人にあっさり殺されてしまう程腑抜けた醜態は晒さねど、力の差が歴然すぎる相手を前にしたその時どうなるかは自明の理だ。
努めて慎重に。常に視えない銃口が突きつけられている、そんな死のイメージを頭の中に描きながら行動しよう。
胸に手を当て、深呼吸を一つ。
酸素を肺の隅々まで行き渡らせる作業を何度か繰り返すと、自然に胸の厭な高鳴りは消えていた。
取り急ぎ支給品を確認している最中に手に入れた、魔力の籠っているらしい短剣を護身用に握り締め、白野は顔を上げる。視線の先にあるのは、近未来的なものを感じさせる大きな施設だ。
管理局本部――いったい何を管理しているのだろうと、ほんの僅かな疑問を抱いたが……何の手がかりもなしにぶらぶらしているよりかは中を少しでも調べてみた方が賢明だ。
扉の向こう、よく整備された小奇麗な床に一歩を踏み出す。
地図を見る限りこの島の施設配置や地理は滅茶苦茶だ。恐らく各参加者に縁や所縁のある施設、土地を模倣して配置した、いわば張りぼてなのであろうが……流石によく出来ている。白野は場違いな感嘆の念を抱いた。
ただ、何に使われているのかはどうしてもイメージが湧いてこなかったが。病院にしてはそれらしき部屋が何処にも見当たらないし、きっとこうやって予想することにも大した意味はないだろうと早々に思考を投げ捨ててしまった。
――けれど、なんだかとても気分がいい。
こんな場所で、こんな状況でそんな感情を抱くのは不謹慎なのかもしれなかったが、岸波白野の中にある程度発散したとはいえ残留していた暗鬱とした思いは、この施設に足を踏み入れた途端何処かへ消え去っていた。
まるで可憐な百合の咲き乱れる花畑を歩いているかのよう。気分は落ち着き、さも平穏な日常を謳歌しているようなありえない錯覚すら覚え始めかける。そうこうしつつ歩む内、白野は食堂らしきフロアに立ち止まった。
(……誰かいるの?)
何しろ静まり返った夜闇の底だ、物音がすれば小さなものであっても自ずと気付く。
白野の耳に入ったのは陶器と陶器がぶつかるような、でも決して激しくはない音。
恐る恐る、念の為迎撃の体勢を整えた上で顔を覗かせると――
「…………あら、こんばんは」
――そこには、青薔薇の君がいた。
一目で上流階級の人間と万人に理解させるだろう白磁の衣装に、透き通るような青色の頭髪。顔立ちは芸術品のように美しく整っており、紅茶を啜る姿もこの上なく絵になっている。
短剣を自然と下ろし、その上品な笑顔に警戒を解除する。
……そうするまでの一瞬、百合の匂いがしたような気がしたが――気のせいだろうと、すぐに白野は忘却してしまった。
-
「あ……こんばんは」
「大丈夫ですよ。わたくしは、積極的に誰かを殺して回ろうと考えてはおりませんので」
「なんだ……ごめんなさい、ちょっとだけ心配しちゃって」
苦笑する白野に微笑みかけたまま、こくりと喉を鳴らして少女は手元の紅茶を飲み干した。
「初めまして。わたくし、辰宮百合香と申します。以後、お見知り置きを」
「岸波白野です。こちらこそよろしくお願いしますね、百合香さん」
辰宮百合香。
貴族院辰宮男爵の令嬢であり、戦真館を復興させた第一人者として知られる見た目通りの貴族令嬢。
殺し合いという極限状況に置かれてもなおその優雅さに欠片の揺るぎも生じないのは、偏に彼女もまた不条理、非科学の世界に精通しているからに他ならない。
その異能は極めて凶悪。
辰宮百合香は魔性の女だ。
情熱的に抱かれることを望み、在り来りな愛情を向けられることに飽き果てた高嶺の花だ。
しかしながら、彼女に宿ったのは傾城の香。
万人を、神仏悪魔に到るまで等しく惹きつけ心を掴む百合の華。
神霊すらもある程度の影響を被るその芳しい香りは、優れた魔術師(ウィザード)である白野をして逃れ得ぬものだった。
否、それどころか……この会場の中全てを見渡しても、傾城反魂香を破ることの出来る参加者など数える程度より存在しない。一切の殺意を持たないにも関わらず、百合香という少女はある意味で参加者殆どの命運を掌握しているのだ。
彼女を満たす者は未だ現れず。
百合香の望む愛が彼女の心に届く迄に、一体どれだけの人間が、彼女の香りに誑かされるのか――
【一日目/深夜/管理局本部(食堂)】
【岸波白野@Fate/Extra】
【状態】健康
【装備】アゾット剣@Fate/stay night
【所持品】基本支給品、不明支給品2(確認済)
【思考・行動】
0:バトル・ロワイアルの解体。
1:百合香さんと情報交換。終わり次第アーチャーを探したい。
2:他のマスターやサーヴァントには警戒しておく……?
【備考】
※CCC終了後からの参戦です
【辰宮百合香@相州戦神館學園 八命陣】
【状態】健康
【装備】ティーセット@現実
【所持品】基本支給品、不明支給品2
【思考・行動】
0:流れに身を任せる。
【備考】
※我堂ルート、空亡襲来直前からの参戦です。
※傾城反魂香の効果は健在です。百合香に惚れている者以外、逃れることは出来ません。
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投下終了です。
いつ見ても質の悪い能力。
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吉良吉影、ロート・シュピーネ予約
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これはシュピーネさんがどうなるのか楽しみ
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投下します
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吉良吉影は一人、フードコートの洒落た座椅子に体重を預け、苛立ちを隠そうともせずに爪を噛んでいた。
つい先日切ったばかりの爪がもうこんなに伸びている……過度のストレスが溜まっている兆候だ。
トラブルは向こうからやって来る。いつだって、此方の都合など知らない顔でやって来る――今回だってそう。
『平穏を何よりも愛する』彼にとってルール無用の殺し合いなど唾棄して然るべきものであったし、あのイカれているとしか思えない神父の気障な物言いを思い出しただけで腸が煮えくり返りそうな気分になる。
如何なる願いをも叶える力と言われれば、成程誰もが欲しがるに違いない。根っからの殺人嗜好者でもあれば話は別だが、言ってしまえば乗った参加者と乗らなかった参加者の違いは誘惑に勝ったか負けたかのそれだけでしかないのだ。
ならば吉良はどちらだったのか。彼にそう問うたなら、一瞬の迷いもなく断言してのけることだろう。
『わたしはそんなものに興味はない』――――と。
願いとは自らの手で叶え、掴み取るもの。そんな古臭く馬鹿らしい説教をするつもりなど毛頭ない。
至極単純な話だ。優勝し、賞品を勝ち取るという『幸福』の為に、一体どれだけの分が悪い賭けに打って出なければならないのか? 仮に賭けに勝ち続け最後の一人になることを果たしたとして、そもそも本当に願望器などという荒唐無稽な代物が存在するのか? ……てんで話にならないと吉良は思う。それほどの激しい起伏を経なければ勝ち取れない幸福など願い下げだ。
激しい喜びは要らない。その代わりに深い絶望もない。植物の心のような人生を送ること。
それが、吉良吉影という男の人生哲学。そして神父(ヤツ)は、それを手前勝手な理由で踏み躙り滅茶苦茶にしてくれたのだ。血が沸騰するような怒りをどうにか爆発寸前で抑え込みながら、嘆息する。
(神父は生け簀かない奴だった……だが、アイツを倒すために戦力を集めるなんてのは愚の骨頂だな)
流石にこれだけの凶行をやってのける男、叛逆に対しての準備をしていないとはとてもじゃないが思い難い。
例えば現在進行形で殺し合いを拒否する者達の行く手に壁として立ち塞がっている、鉄製の首輪。
吉良の首にも巻かれているそれは、ルールによれば人間を容易く即死させる強力な爆薬を詰めたものだという。
形こそ違うが、スタンド能力の関係上『爆発』という現象を目にすることの多い彼にはその厄介さが容易く窺えた。
一度でも爆発が起きれば、その衝撃と肌を焼き焦がす爆風、更には焦熱の火炎までもが同時に対象を襲う……ほぼ隙間なく肌にフィットしているこの首輪が爆ぜた日には、どんな奇跡が起きようともまず助からない。
起爆のスイッチは主催者たる神父の手に握られている。
それを鑑みれば、当分下手に打って出ることは出来そうにもなかった。
(なるべくスタンド能力の存在については隠しながら、邪魔な参加者のみに限定して排除していくとするか。でも特に優先すべきは、東方仗助、空条承太郎――こいつらだ。わたしの正体が万一バレないとも限らない)
ちらりと名簿に視線を落とせば、忌まわしい二つの名前が躍っている。
鬱陶しく嗅ぎ回り平穏な毎日を脅かす原因となった二人のスタンド使い、神父の言いなりになるのは業腹だが、機会があったなら摘み取っておくに越したことはあるまい。
幸い、この『川尻浩作』の顔はまだ割れていない筈……もう以前のようにはいかない。今度こそ、確実に消し去ってやる必要がある。彼らだけに留まらず、自分に不信を抱いたり、あろうことか正体を知った者は誰であろうと必ず抹殺する。
赤の他人の命よりも己の平穏。前ほど自由にはやれないかもしれないが、そろそろ新しい『彼女』も仕入れておきたい。
何も慌てることはない。
確かにこれは計算外の憎らしいアクシデントだが、ちゃんと弁えて行動していれば乗り越えられるものだ。
それどころか上手くやれば、自分の頭を悩ませていた正義気取りのスタンド使い達に消えてもらえるかもしれないときた。
怒りを笑いへ転換し、ひとり計略を練る殺人鬼。
実際彼は何の躊躇いもなく、誰であろうと殺すだろう。
老若男女を乳飲み子を、家畜を老婆を殺せ殺せ殺せ……その在り方はある種救世主(イェホーシュア)の伝承に似通っていながら、しかし一番肝心なところが致命的なほどに噛み合っていない。
殺人という禁忌がライフサイクルの一環になってしまった、そしてそれを難儀とこそ思えど改善しようとは微塵も考えない真性のシリアルキラー。『杜王町』という箱庭から解き放たれた『闇』が、静かながら確かに侵食を始めていた。
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「全く、やれやれだ」
ぼやきながらも、一介の凡人にしか見えないよう支給品として配られた武器の一つ、金属バットをそっと取り出す。
スタンド能力をなるだけ使わずにいくと決めた以上、スタンドとはまた別な立ち向かう手段が必要となる。
これくらいの長さと見た目なら、十分護身用と主張して通る範疇だ。
あまりのんびりとしてもいられない。早速動き出そうと席を立ち上がる吉良。
殺し合いに積極的な訳ではないのに、下手なマーダーよりも余程危険極まる『性』を有する男は、頭の中に思い描いた策略の成功を想いながらフードコートを後にし、一先ずデパートの内部を探索してみようと思い立った。
「……?」
更に一歩を踏み出そうとする。――なのに、前へ進む為に上げた片足がいつまで経っても地面に着かない。
随分長い間座っていたから、立ち眩みを起こしてしまったか……などと平和ボケしたことを考えたのも束の間、吉良は目の前が眩むどころか、自分の身体がびくともしないことに気付く。
これではまるでマリオネットだ。屈辱を覚えながらも脱出を試みるが、少なくとも彼の力では不可能であった。
「な……んだッ……これは……!」
「――ああ、あまり暴れない方が良い。蜘蛛の糸とは、獲物が暴れれば暴れるほど複雑に絡み付くものです」
怒りと混乱を含んだ発言に、返ってくる声があった。
端的に、その声からは枯れている印象を受けた。
不快感を通り越し不気味さすら感じさせる、まるで亡霊のような男の声。
「…………」
ギロリと、吉良の鋭い眼差しが己の動きを止めている下手人へと向けられる。
そこには、お世辞にも端正とは呼べない不気味な容貌をした初老の男が、下卑てすらいる笑みを湛えて立っていた。
細身の身体と生気を感じさせない出で立ちには欠片ほどの凄みもありはしなかったが、彼の纏う衣服は奇っ怪だ。
より正確に言えばその紋章。自分の記憶が正しければあれは確か、もう百年近く前に崩壊を喫したナチス第三帝国のものではなかったか。……訳が分からない。ただ一つ言えるのは、此奴は吉良吉影という人間の人生に不要な存在ということ。
「キヒ、そう怖い顔をしないで頂きたいものですね。心配せずとも、取って食おう等とは考えておりませんよ」
「――――『キラークイーン』!」
不愉快な醜男の言葉に聞き耳すら傾けぬまま、吉良は自身のスタンドを発現させる。
どこか猫のようにも見える、しかし凡そ人間には到底見えないだろう人型のそれは男の傍らへと顕現した。
今まで数え切れないだけの命を屠ってきた殺戮の女王……その能力を前にして、生き残れる者など存在しない。
「迂闊だったな。わたしなら、最初の瞬間に縊り終えていたよ」
キラークイーンは拳を握り、乾坤一擲の一撃を男の顔面目掛けて叩き込む。
格闘戦が主体のスタンドでこそないものの、性能は決して悪くない。
痩せこけた男一人を殴り倒す程度のことは造作もないし、仮に『糸』の能力を使われたとしても外してやれる自信があった。だが彼のそんな自信は、次の瞬間には粉々に打ち砕かれることとなる。
-
女王の拳は予想通り、注視しなければわからないほど極細の糸を前に止められる。
それを振り解こうとし――出来なかった。
びくともしないのだ。それこそ蜘蛛の糸に引っ掛かった蝶か何かのように、体の末端に至るまで余さず動かない。
「小心者な自覚はありましてね。万一に備え、少し縊り方にも工夫を凝らさせて頂きました」
「貴様ァ……」
「だから言っているでしょう。私は貴方を殺すつもりはない……寧ろ協力を持ちかけたいと考えているんですよ?」
男は肩を竦めて怒りを露わにする吉良を窘めると、貴族がするように深く礼をしつつ名乗った。
「聖槍十三騎士団黒円卓第十位、ロート・シュピーネ。以後お見知り置きを。
さて、早速ながら貴方への用件なのですがね。先も言ったように、一つ協力を要請したい」
「協力だと?」
然り。
頷くシュピーネの様子を注意深く観察している吉良だが、本当に危害を加えようとしている様子はとりあえず見られない。
認めたくはないが、今自分の生殺与奪は奴にある。
殺す気になれば指の一本程度で、首にも巻き付いているだろう糸を動かせばそれで全てを終わらせられる筈。
生きるためにも今は話を聞く姿勢を見せているのが賢明に違いない。
――胸の内に屈辱の炎をめらめらと燃え上がらせながら、吉良は先を促す。
「私はね、この殺し合いからの脱出をしようと考えています」
「……主催に歯向かうにしては、随分と手荒な手段を取るんだな」
「勿論、ただ馬鹿面を提げて主催を倒すぞと息巻いているわけではありませんよ。私が目指しているのはあくまでも『脱出』であって、『優勝』ではないのです。私は……この地獄絵図から逃げ出さればそれでいい」
……賢明だ。素直にそう思った。
このシュピーネという男は、ひょっとすると自分に似通っているのかもしれない。
平穏を愛し、過度の絶望が存在することを厭う。『同類』と出会ったのは吉良吉影の人生で初めての事だった。
「どだい、この殺し合いは根本からして破綻しているのですよ。出来レースにも程がある。〝エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ〟、〝ウォルフガング・シュライバー〟。まともに戦っていれば、この二人の優勝に落ち着くに決まっている!」
「なに?」
「奴らは化け物だ、人の皮を被っていながらその奥には怪物の血が通っている! ……失敬、少々取り乱しました。兎に角、私はこのような八百長試合に命を懸けるのは馬鹿馬鹿しいと思うのです。――故に」
シュピーネの恐慌具合は鬼気迫るものがあった。
これは演技などではない。心より恐れ、文字通り逃げ出したいほど其奴らを忌んでいる。
「赤と白、二人の騎士をこの蟲毒に封じ込めたまま、我々だけは抜け出す。素敵な作戦だとは思いませんか?」
「――成程。確かに理には適っているな」
正しく、吉良吉影とシュピーネの目的は競合している。
吉良は邪魔者を消し去って帰還出来ればそれでよく、シュピーネも厄介な連中から離れられれば文句は無いらしい。
-
見かけによらず物事の本質をよく見据えている男だ。
吉良が珍しく他人を高く評価している中、シュピーネは再び表情を下卑たそれへ切り替えて笑いかけた。
「それに、匂いで分かる。貴方も私と同じく、好きなことを思う存分、好きなときにして暮らしたい質でしょう」
「それは、どういう意味だ?」
「殺したい時に殺し、犯したい時に犯す。そんな悠々自適な毎日を愉しみながら、幸福に生きていたい。……なにも恥じることなどありませんよ。斯く言う私もそういう性の持ち主であります故」
そうか。
言って吉良は会話を打ち切った。
既に警戒には値しないと判断したのか、シュピーネは糸の拘束を緩めている。
しかし参ったことに、この男は本当に自分と似ている――
「では改めて問いましょう。私に協力してくれますか?」
答えを問われたので、―― 一瞬ばかり逡巡したが、すぐに答えは出た。
「――――言うまでもなく、『お断り』だ」
カチリ。
そんな軽い音が鳴って、ロート・シュピーネの命運は一瞬にして尽き果てた。
■
「ぎ……あ、ァァ……ッ!」
身体を半分以上粒子へ変えながら、ロート・シュピーネは悶絶の声をあげる。
その姿を冷めた目で見下ろす吉良吉影へ、彼は見苦しいほどに殺意を剥き出して悪罵を吐き出す。
だが所詮それまでだ。もう彼に戦う手段はない。一瞬の内に、赤蜘蛛の生命線は断絶されたのだ。
シュピーネは、何が起きたのかをすぐに理解した。
というのも、彼は見ていたからだ。吉良の手元に突如『スイッチ』のようなものが出現し、彼がそれを何気ない手付きで押した瞬間を。行為の意味を理解しかね、思わず首を傾げそうになった刹那の後には全てが終わっていた。
ロート・シュピーネの聖遺物――『辺獄舎の絞殺縄』が、木端微塵に弾け飛んだ。
彼の生命を終幕へ導いたのは、ただそれだけの現象である。
-
エイヴィヒカイトの加護さえ健在ならば、強力無比とはいえ聖遺物の関与しないスタンド能力に遅れを取ることはなかったろうが、この殺し合いに於いて、メルクリウスの法には如何な手段を用いてか若干の弱体化が加えられている。
シュピーネもそれについては承知していた。だが大した問題とは思っていなかった……聖遺物の使徒は皆超人揃い。まして形成の位階に到達している己に勝てる者があるならば、それは精々同じ黒円卓の団員程度のものだろうと高を括っていた。
かつて一度だけ、エイヴィヒカイトの加護が消滅した場面に立ち会ったことがある。
その時は半ば急襲めいていたが、それでも有象無象の人間程度ならば圧倒できると証明することが出来た。
プライドと経験。この二つが、シュピーネにある種の慢心を抱かせた。
「言ったじゃあないか。わたしなら、すぐにでも縊り殺していたと」
「キサ……貴様、ァァッ!!」
「私と貴様が似ているというのは、業腹だが認めるしかない。でも一つだけ決定的に違うところがあった」
聖遺物を破壊された者は、死ぬ。
例に漏れず、シュピーネもその運命を辿ろうとしていた。
既に殆どが塵と化し、残った頭部だけで言葉と呼べるかも怪しくなってきた呪詛を吐き連ねている。
いや――助けを求めていたのかもしれない。そんなことは、吉良には定かではなかったし、またどうでもいいことだった。
「わたしなら、たとえ同類であろうと他人に自分の性をペラペラ喋ったりはしない。
それはトラブルを招く、『愚かな行為』だからだ」
言い終えた頃には、もうそこにロート・シュピーネの姿はなかった。
残されているのは、装着するもののなくなった首輪のみ。
それをふむ、と拾い上げ、自分のディパックへとしまう。
忌まわしい品だが何かの役に立つかもしれない。本来死体からわざわざ首を切り取らないと手に入らないものなのだ、他人に見せるのは要らないトラブルを招きかねないが――戦利品がてら、とっておくとしよう。
魔人に成り果てた男を殺し、涼しい顔をして立ち去る殺人鬼。
彼の中には罪悪感など欠片もなかった。
むしろ自分の正体を曲がりなりにも見抜いた存在を消し去ったという、爽やかな達成感が満たしていた。
「――、そういえば。さっきの男は何故、自分のスタンドを破壊されたのに暫く生き永らえていたんだ……?」
ふと抱いた違和感をぽつりと口に出し、考え込むようにしながら、平穏を愛する魔物は姿を消した。
【ロート・シュピーネ@Dies Irae 死亡】
【一日目/深夜/デパート5F フードコート】
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】健康
【装備】金属バット@現実
【所持品】基本支給品一式、ランダム支給品2、ロート・シュピーネの首輪
【思考・行動】
0:生存優先。本性を隠し通して生き残る。
1:あまり積極的に殺人を行うつもりはないが、空条承太郎、東方仗助については確実に始末しておく。
2:新しい『彼女』を頃合を見て調達したい。
【備考】
※川尻浩作の顔で生活を送り始めてすぐの参戦です。
※シュピーネからエレオノーレ、シュライバーの危険性について聞きました。
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投下終了です。
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誠に勝手ながら、参加者の追加と削除を行います。
該当キャラの活躍を楽しみにしてくださっていた方々、本当に申し訳ありません。
【ジョジョの奇妙な冒険】
◯ディアボロ
を削除し、
【Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】3/3
◯イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/◯美遊・エーデルフェルト/◯クロエ・フォン・アインツベルン
の三名を追加します。
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真奈瀬晶、幽雫宗冬、スバル・ナカジマ、藤井蓮、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン予約
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まさかのプリヤ参戦かw
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しゅ、シュピーネさぁぁん!
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お茶の間のアイドルが逝ってしまわれたか
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今日中には投下できそうなのですが、蓮が入らない方がすっきり纏まりそうなので、藤井蓮を予約から外します。
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投下します
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「うう……」
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、途方に暮れながらレジカウンターの奥に蹲っていた。
ここはデパート、階層は二階の書店コーナーだ。
人気の漫画から難しくてよくわからない新書まで平積みになっており、素人目にも品揃えの良さが窺える。
だが当然、イリヤにそんなことを気にしている余裕などありはしなかった。
ある並行世界の彼女ならばいざ知らず、今此処にいるイリヤスフィールは血で血を洗うような陰惨な遊技盤に放り込まれて平然と順応できるほど、人間離れした価値観を持ってはいない。
殺し合いが始まってから早三十分。その間、イリヤはただ蹲って震えているだけだった。
『イリヤさーん……そろそろ私達もちょっとは動きましょうよー。まだ名簿や支給品も確認してないでしょう?』
「だって……」
『だってもヘチマもありません。というか貴女仮にも主人公でしょう! あーもうしゃんとしてください!!』
騒ぎ立てる相棒……カレイドルビーに押されて、漸くイリヤは自分のディパックに手を付ける。
いくら彼女でも、これがドッキリや悪ふざけの類でないことくらいは理解していた。
漆黒の中、開戦を宣言した漆黒の神父……イリヤの世界にもあの神父は存在しており、些か愉快な人格の持ち主になって彼女と邂逅を果たしたことがあった筈だったが、ついぞ彼女がそれに気付くことはなかった。
『邪悪』という概念を鍋で煮詰め、そこにありったけの毒物を加えたような――そんな人物。
あんな者を前にして、まともでいられる子女など存在すまい。
未だ覚めない胸の厭な高鳴りを抑えながら支給品を慎重に取り出し、床に並べていく。
『ふむ……どうやら、私も支給品の一つとしてカウントされているみたいですね』
「あ、でもクラスカードがあるよ。……アサシンの。いざという時には役立ちそうだね!」
『欲を言えばセイバーやランサーのものが欲しかった所ですが、贅沢は言えません。喜んでおきましょう、流石の幸運』
しかし、支給品の確認という至極セオリー通りの行動であっても、何か行動をするということはイリヤにとってプラスに作用した。結果的に当たりと呼べるものも入っていたし、気分転換としては上等だったといえる。
が、その喜びも束の間。次に手に取った参加者名簿には、最悪な事実が容赦なく並べ連ねられていた。
「美遊、クロ、凛さん……――お兄ちゃん……!!」
美遊・エーデルフェルト。
クロエ・フォン・アインツベルン。
遠坂凛――そして、衛宮士郎。
イリヤの日常を形作る大切な人達も自分と同じように此処へ放り込まれていると知り、背筋が粟立つ感覚を覚える。
もし美遊が、クロが、凛さんが、……大好きなお兄ちゃんが死んでしまったら。
そう思うだけで、叫び出したいほどの恐怖と、怒りにも似た感情に襲われた。
そしてそれは決して、過剰な悲観ではない。
ルールというものが凡そ存在しないこの場所では、人の命など即ち塵芥と変わらないのだ。
聖職者も、魔法少女も、英霊も、勇者も魔王も皆須らく、濁流の流れに押し潰される瓦礫さながらに呆気なく消えるだろう。
それは余りにも恐ろしい想像で……イリヤスフィールという少女に、絶対にこの殺し合いは止めなくてはならないのだと使命感を抱かせた。流石にそこは、多くの非日常的経験を潜り抜けてきた、ルビーの言葉を借りて言うならば『主人公』というべきか。兎も角、行動指針は一つだった。最悪の結末の回避、そして――
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「止めなきゃ。……こんなの、おかしいよ。私は、皆で殺し合うなんて嫌だ」
『賢明ですね。私もあの気障ったらしい神父の言うことを聞くのは丁度癪だと思っていたところです』
「じゃあ、こうしちゃいられないよね」
怖いという思いは今もある。
でも、皆を失わない為に殺し合いを止めると決断したからには、行動あるのみだ。
カレイドステッキを握り締め、立ち上がる。
……そうしたはいいものの、はてさてこれから何処に行こう。
うーんと考え込み始めた時、イリヤは並んだ書棚の向こうに人がいることに気が付いた。
「あ……」
整った顔立ちの、所謂イケメンと呼ばれる人種。
清潔な召し物に同じく清潔感漂う黒髪、眼鏡をかけた人相は非の打ち所もない。
既に意中の人がいるイリヤであったが、それでも一瞬気を抜いてしまう非現実感が彼にはあった。
青年もイリヤに気付いたようで、口元に薄い笑みを浮かべて此方へ視線を向け――
『……イリヤさんッ!』
「――――え?」
次の瞬間には、目の前まで接近を果たしていた。
涼しい顔のまま、欠片ほどの不自然さもなく、さもそれが常識であるかのように堂々と。
イリヤとの間合いを詰めた男は、静かにその右腕に握っていた得物を掲げる。
――細剣。宝具といった上等なものではないが、かと言って鈍かと問われれば否。
接近行動と、それを掲げる動作の意味。……もはや考えるまでもなかった。
「…………!」
――――この偉丈夫は、殺し合いに乗っている。
今までにも魔法少女として戦ったことは何度もあったが、その中でも眼前の彼は一際異質だった。
何を考えているのか分からない鉄面皮。それでいて一手一手が確実に詰ませに来ている。
レジカウンターを隔てているという地の利を応用して三まで斬撃を回避したイリヤだったが、体感的にはそれらはほぼ一発と変わるところがなかった。異様なほどの速度から繰り出される故、回数すら正確に予測させない。
『行きますよ、イリヤさん!』
「うん!」
『――コンパクトフルオープン! 鏡界回廊最大展開!!』
その口上を皮切りに、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは文字通り変身を遂げた。
-
ピンクの衣装に身を包んだ姿は、彼女のもう一つのカタチ。
プリズマイリヤ……カレイドの魔法少女の姿である。
この男は見たところ目立った魔術も武装も使ってはいないが、危険度は頭抜けている。
なるべくなら戦いたくはない相手だが……撤退を選択するにしても、相手の攻撃に対応する手段は必要だろう。
無力化できれば勿論御の字、けれど無茶はせず堅実に。
変身を完了し、魔力を用い砲撃の準備を整えた彼女に、男はしかし冷静に応じた。
「――――、」
地の利を全て無視し、剣閃により生ずる衝撃波を以って刃とする。
それはイリヤの放った魔力弾と相殺し、第三次の衝撃波を生んでカウンターにあった筆記用具などを吹き散らした。
突風めいた衝撃が止むのを待たずに男は特攻を仕掛けてくる。
咄嗟に飛び退くイリヤだったが、これで地の利は今度こそ完全になくなった。
迫る男はまるで猟犬。ストイックかつ確実に死を狙ってくる姿は寒々しい程に殺戮機械を地で行っている。
魔力障壁でそれを躱しつつ、砲撃を複数放つも、それでは全く捉えることが出来ない。
『イリヤさん、落ち着いて聞いて下さい! 私の見立てですが――あの男、どだい魔術師ですらないようです!』
「は、はあ!? 何の力も使わないでこれだっていうの!?」
『いえ、恐らく何かしらの異能は使っているのでしょう。ただ……どうもそれが、私の管轄外の方面なようでして』
混乱するイリヤの首筋目掛け、一際鋭い突きが轟く。
モロに喰らえば確実に死ぬだろう一撃をすんでで回避し、お返しとばかりに今度は踏み込んでみせた。
今まで防戦一方だったイリヤの攻勢にやや男は眉を動かしたが、彼女にそんなことを気にしている余裕はない。
魔力を――研ぎ澄ます。
厚みは薄く、形状は鋭く。
そう、刃のように。
「――斬撃(シュナイデン)ッ!」
しかしそれは彼を捉えるに至らず、その刀身で持って受け止められる。
ならば押し切るのみ。そう高を括ったイリヤだったが、次の瞬間彼女の放ったそれは霧散霧消していた。
「なっ!」
返し手は熾烈極まる斬撃が為す。
疾風めいた踏み込みから連続する突きは魔力障壁を一撃ごとに揺らす。
執事風の優男な外見に違わず太刀筋は繊細だ。それでいて、恐ろしく暴力的な殺意をも秘めている。
暫く防御と攻撃が只管ぶつかり合う時間が続いたが、男はそこでふっとあれほど激しく連続させていた攻撃の手を止める。
怪訝な顔をして動向を見守るイリヤ。
-
すると男は、初めて口を開いた。
「一つ教授をしてやろう。―――盾を過信するのは程々にした方が良い」
そして、また刃が振るわれる。
それを、イリヤもまた同じように止める。
が――細剣の強打を受けた途端、魔力が掻き乱されるのを感じた。
消されていく。イリヤの身を守っていた魔力の盾が、細剣に触れる度理不尽な勢いで摩耗していく。
崩壊は呆気なく訪れた。苦し紛れの砲撃はひらりと躱され、気付けば後ろに迫っているのは壁。
『あちゃあ……これはちょっと、不味いですね……』
「……っ……!」
支給されたクラスカードがセイバーやランサーのような、所謂武闘派のものだったなら状況は違ったかもしれない。
一言で延べて、実力が違いすぎる。
単純な能力値ならイリヤだって決して低くはない。むしろ上等な部類だろう。
ならば何がここまで戦況を分けているかといえば、それは戦闘経験だ。
一体どんな経歴が彼にあるのかは定かではなかったが、この男は間違いなく人外のそれに近いレベルの研鑽を積んでいる。
身体能力の強化と魔力瓦解の能力を踏まえずとも、彼の体術は明らかに第一線級のものであった。
じり、と後退りする。こうなればもう、有効な手立てはそれこそ撤退くらいしか思いつかない。
だが背後は壁。横にずれて逃げることも可能だろうが、眼前の猟犬もそれは予期している筈。
どうする、どうする、どうする、どうする――――思考回路がパンクしそうな程の自問を繰り返すイリヤ。
しかしそんな彼女を待たず、無情に男は最後の一手を下した。
視界がスローモーションになる。
鋭剣は突き出され、イリヤの喉元を狙った。
避けられない。障壁を貼ろうにも間に合うかわからないし、またあの瓦解を使われればそれこそ本当に詰みだ。
視界が潤む。まだ死にたくない――そんな少女の願いも、剣を携えた猟犬には羽毛の如く軽い物でしかなく。
此処に、死は執行される。
「――はあああああああァァッ――――!!」
それを阻んだのは、まだ少女期の甲高さを残した裂帛の雄叫びだった。
「――、―――」
彼女の足が纏うはインテリジェントデバイス・マッハキャリバーAX。
それは勇敢な女魔導師の、少女(イリヤ)を助けたいという感情に呼応して脚力を爆発的に加速させる。
右手に装着したアームドデバイス・リボルバーナックルに力を込め、真実全力をもって男へ奇襲する!
既に攻撃態勢へと入っていた男は、イリヤを追い詰めた戦闘経験の賜物である危機感知を用い魔導師の接近を察知。
-
流石にこの状態から回避へ移るのは後続の動作が苦しくなる為選択肢から除外、防御という形を選ぶ。
キィンッ――喧しく衝突音を鳴らし、拳と剣が衝突する。
数秒の拮抗の後、双方共に後退した。
「……もう大丈夫、助けに来たよ!」
「あ……あなたは?」
「今はとりあえず走って逃げて! ここは――あたしが食い止めるから!!」
勇猛に宣言してのけた魔導師に、剣の猟犬はあくまで変わらない冷たいままの瞳を向ける。
あまりに空虚。されど情念の存在する双眼が、彼がこれまでの経験を総動員しても勝てるかわからないほどの難敵であることを自然と理解させる。……全力でぶつかっても、勝てるかは分からない相手だ。
だが逃げる訳にはいかない。恐怖はなかった。あるのはただ、殺し合いに乗った参加者を管理局の戦士として鎮圧し、やがては安楽椅子に座ってこの悪趣味な催しを観覧しているのだろう主催者たちを打倒するという強い意思。
これはその第一歩だ。だから――真っ向から挑み、乗り越える。若き魔導師、スバル・ナカジマは決意した。
◆
『イリヤさん、その傷……大丈夫ですか?』
「……痛むけど、そんなに深くはないみたい。でも手当しないと、ね……っ」
スバルの機転によって離脱を果たしたイリヤだったが、浅いとはいえ細剣の太刀に首筋を裂かれていた。
彼女は非常に高い幸運の持ち主だ。したがって、振り返りざまの切っ先に頸動脈を切り裂かれるという、半ば事故死にも近いような死に様を辿る未来を回避することが出来た。
けれどその表情は決して明るくない。首のあまりにリアルな痛みもそうだが、助けてくれた恩人が一人で戦っているにも関わらず、一人逃げるしかない自分への無力感が彼女の胸中を占めていた。
もし他の誰かが今のイリヤを見ても、まず攻めたりしないに違いない。
彼女は勇敢に戦った。それでも殺されかけ、まさに間一髪のタイミングであの女性に助けられたから今がある。
意地を張ってあそこに残っていても邪魔になるだけだったろうし、もしその無謀が原因で命を落とすようなことになったら、それこそあの人は浮かばれない。……だから今は、逃げるしかない。頭ではそう分かっていても、心に思う所はあった。
『……あまり気に病まない方がよろしいですよ。それより今は、あのイケメンをさっきの方がばこーんとぶっ倒しちゃう絵面を想像しようじゃありませんか』
「うん……そうだよね。信じてあげなきゃ、ダメだよね」
ルビーの励ましに、イリヤは沈みかけた感情をどうにか持ち直す。
身体を張ってまで自分を助けてくれた恩人だ。勝利を信じてあげるのが筋というものだろう。
階段を降り、ひとまず鏡のあるトイレを目指す。
出血は急を要するほど酷くこそないが、万全を期すに越したことはないしやはり痛みもある。
応急処置を終えたら、今度こそ自分なりに殺し合いを打倒すべく動こう。
「――あ」
決意を新たにするイリヤは、しかしまたしても前方に人影が見えたことで思わず足を踏み外しそうになる。
何せ最初に出会った参加者があの男だったのだ。
突然の遭遇というものにすっかりある種の嫌な印象を刻み込まれてしまった彼女は動きを止めてしまう。
でも今度の遭遇者は、イリヤを傷つけようとする人間ではなかった。
-
「お……! なあお前、この殺し合いの参加者か? ――ああもう、そんなに警戒しなくても大丈夫だって! あたしは真奈瀬晶ってんだ。こんな馬鹿げたお遊びに乗るほど落ちぶれちゃねーっつの」
「うう、ごめんなさい。……私も参加者で、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンっていうの」
『おお! 仲間が増えるよやったねイリヤさん!』
「おいやめろ……って、なんかものすげーナチュラルに杖が喋ってるんだけど」
げんなり、といった様子で溜息をつく晶。
こういう訳が分からないものにはとりあえず納得しておけと、度重なる非日常の中で彼女は悟っていた。
それに今は漫才をしている場合ではない。
参加者か否かを聞いたのは様式美のようなもので、本当に聞きたいことは別にある。
「まあいいや、それより! イリヤ、お前上の階から来たんだよな? ……やっぱり、誰かがやり合ってるのか?」
「えと……、実は……」
斯く斯く然々、イリヤは先程までの戦いの一部始終を晶へ語って聞かせた。
顔を顰めて聞いていた晶だったが、その表情はイリヤが男の外見について触れた途端一変する。
「執事服に眼鏡のイケメンで、細剣……イリヤ、本当に間違いないんだな?」
「うん。ルビーも見てたよね?」
『間違いないですねー。ていうかあんな出来た見た目の人、忘れようと思ってもそう忘れられないですよ』
晶はがん、と手近な壁を殴りつける。
手に鈍痛が走ったが、気にしてはいられなかった。
「――幽雫、さん……!」
彼女はずかずかと階段を上がっていく。
イリヤとルビーが静止の声を掛けると彼女は振り向き、言った。
「あたしはその、イリヤ達を助けてくれたっていう奴に加勢してくる。お前たちは……とりあえず安全なとこまで逃げとけ。あたしも後で追いかけるから、心配すんなよな」
「そ、そんなの駄目だよ! あんなところに飛び込んでいったら、晶さん……」
「はは、イリヤは優しいな。けど、あたしも他の誰にも負けない取り柄を持ってんだよ。――首、触ってみな」
「…………!」
言われた通り、首筋に手を当ててイリヤは驚く。
いつの間にか、その傷は消え去っていた。
あの会話の中で、或いは自己紹介をしている間には既に、治癒を施されていたらしい。
『心配なさそうですよ、イリヤさん。むしろ晶さんは行かせるべきかと』
「そういうこった。あたしは優しい女だからな」
冗談めかして笑うと、晶はそのまま、未だ戦闘音の止まない書店へと足を踏み入れていった。
自分も追随しようか迷うイリヤだったが、ルビーに窘められて言われた通り、出来る限り逃げることにする。
スバル・ナカジマと真奈瀬晶、二人が無事にあの鉄火場を切り抜けられることを祈って、魔法少女は戦線より離脱した。
【一日目/深夜/デパート2F 書店→ 1F スーパーマーケット】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
【状態】健康
【装備】カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
【所持品】基本支給品一式、クラスカード(アサシン)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品1
【思考・行動】
0:殺し合いには乗らない。
1:とりあえずここから離れる。晶達にはまた会いたい。
2:美遊たちを探す。
3:執事風の男(幽雫)への恐怖。
【備考】
※ツヴァイ本編終了後からの参戦です。
-
◆
真奈瀬晶と幽雫宗冬は、本来同盟関係にある。
戦真館と貴族院辰宮は共闘戦線を結び、彼女も宗冬のことを信頼していた。
だが、彼は今晶達にとっての不倶戴天の敵……甘粕正彦という魔王の眷属になったと聞いている。
名簿で名前を見た時にももしやとは思っていたが、よもやこんなに早くその時が訪れようとは。
……見過ごしてはおけない。彼が殺し合いに乗るというならば、甘粕打倒を誓った自分達の手で彼を倒すべきだ。
意気込んで、晶は戦場へ参戦する。
宗冬はちらりと彼女を一瞥するが――そこに、かつて戦いの法を教授した先輩としての感情はなく。
偏に、彼女も又、幽雫宗冬という男にとっては羽毛の如く軽い存在でしかないと暗に告げられていた。
幽幻艶美の剣士が望むのは、愛する女を殺すことで己の愛情を証明すること。
それまでは殺し合いを加速させる歯車として廻り続けるまで。
ああ、故に――俺の愛(みち)を妨げる者など許さない。
【幽雫宗冬@相州戦神館學園 八命陣】
【状態】健康
【装備】細剣@相州戦神館學園 八命陣
【所持品】基本支給品一式、不明支給品3
【思考・行動】
0:辰宮百合香を殺し、自分の愛を証明する
1:その時が来るまでは『歯車』として行動する
2:真奈瀬晶、拳闘士(スバル)への対処。
【備考】
※水希ルート、鳴滝との再戦前からの参戦です
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのは】
【状態】疲労(中)
【装備】リボルバーナックル@魔法少女リリカルなのは、マッハキャリバーAX@魔法少女リリカルなのは
【所持品】基本支給品一式、不明支給品1
【思考・行動】
0:殺し合いを止め、主催者を逮捕する
1:幽雫宗冬を無力化する。
【備考】
※Force時間軸からの参戦です
【真奈瀬晶@相州戦神館學園 八命陣】
【状態】健康
【装備】帯@相州戦神館學園 八命陣
【所持品】基本支給品一式、不明支給品2
【思考・行動】
0:主催者を倒して元の世界に帰る。
1:幽雫を止める。
2:四四八達と合流したい。余裕があればイリヤとの再会も。
【備考】
※水希ルート、関東大震災勃発直前からの参戦です
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投下終了です。
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エンリコ・プッチ、藤井蓮、クロエ・フォン・アインツベルン予約
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延長します。
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遅れてしまいましたが、破棄します
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お久しぶりです、流行りの聖杯戦争を自分なりに書いてたりしたらこっちの更新がすっかりおろそかになってしまいました。
藤井蓮、クロエ・フォン・アインツベルンで再予約します。
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長いこと間を空けてしまいましたが、再開しようと思います
それと同時に
【赫炎のインガノック-what a beautiful people-】
◯ギー/◯キーア/◯アティ
【ドラゴンボールZ】
◯孫悟空/◯フリーザ
以上の五名を追加します。
一度自分の怠慢で停滞させてしまった企画を再始動させるのは何ともお恥ずかしい限りですが、よろしければまた暖かく見守っていただければ幸いです
ギー、クロエ・フォン・アインツベルンで予約します。
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投下を気長に楽しみに待ってます
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<削除>
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本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。
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