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ジョジョ×東方ロワイヤル 第四部

1 : ◆YF//rpC0lk :2014/05/10(土) 13:29:26 1ZvMXtSg0
【このロワについて】
このロワは『ジョジョの奇妙な冒険』及び『東方project』のキャラクターによるバトロワリレー小説企画です。
皆様の参加をお待ちしております。
なお、小説の性質上、あなたの好きなキャラクターが惨たらしい目に遭う可能性が存在します。
また、本企画は荒木飛呂彦先生並びに上海アリス幻楽団様とは一切関係ありません。

過去スレ
第一部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1368853397/
第二部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1379761536/
第三部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1389592550/

まとめサイト
ttp://www55.atwiki.jp/jojotoho_row/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16334/

【参加者】
『side東方project』
【東方紅魔郷】 5/5
○チルノ/○紅美鈴/○パチュリー・ノーレッジ/○十六夜咲夜/○レミリア・スカーレット
【東方妖々夢】 6/6
○橙/○アリス・マーガトロイド/○魂魄妖夢/○西行寺幽々子/○八雲藍/○八雲紫
【東方永夜抄】 6/6
○上白沢慧音/○因幡てゐ/○鈴仙・優曇華院・イナバ/○八意永琳/○蓬莱山輝夜/○藤原妹紅
【東方風神録】 6/6
○秋静葉/○河城にとり/○射命丸文/○東風谷早苗/○八坂神奈子/○洩矢諏訪子
【東方地霊殿】 5/5
○星熊勇儀/○古明地さとり/○火炎猫燐/○霊烏路空/○古明地こいし
【東方聖蓮船】 5/5
○ナズーリン/○多々良小傘/○寅丸星/○聖白蓮/○封獣ぬえ
【東方神霊廟】 5/5
○幽谷響子/○宮古芳香/○霍青娥/○豊聡耳神子/○二ッ岩マミゾウ
【その他】 11/11
○博麗霊夢/○霧雨魔理沙/○伊吹萃香/○比那名居天子/○姫海棠はたて/○秦こころ/○岡崎夢美/
○森近霖之助/○稗田阿求/○宇佐見蓮子/○マエリベリー・ハーン

『sideジョジョの奇妙な冒険』
【第1部 ファントムブラッド】 5/5
○ジョナサン・ジョースター/○ロバート・E・O・スピードワゴン/○ウィル・A・ツェペリ/○ブラフォード/○タルカス
【第2部 戦闘潮流】 8/8
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○リサリサ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/
○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ
【第3部 スターダストクルセイダース】 7/7
○空条承太郎/○花京院典明/○ジャン・ピエール・ポルナレフ/
○ホル・ホース/○ズィー・ズィー/○ヴァニラ・アイス/○DIO(ディオ・ブランドー)
【第4部 ダイヤモンドは砕けない】 5/5
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸部露伴/○吉良吉影
【第5部 黄金の風】 6/6
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○グイード・ミスタ/○トリッシュ・ウナ/○プロシュート/○ディアボロ
【第6部 ストーンオーシャン】 5/5
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○フー・ファイターズ/○ウェザー・リポート(ウェス・ブルーマリン)/○エンリコ・プッチ
【第7部 スティールボールラン】 5/5
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○リンゴォ・ロードアゲイン/○ディエゴ・ブランドー/○ファニー・ヴァレンタイン

計90/90


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2 : 名無しさん :2014/05/10(土) 15:27:14 zmZZ3AUo0
スレ立て乙です。

      __∧/|/  ヽ//
      \   第  勝 ∠、
        >  3   っ   >
      <   部  た    ゝ
       .>  完  ッ    二=-
       .. ̄>.!  !   >
        .. ∧/〜\  /\|     ./
     ..,,_,_/,|.~|    \/   ,,___,.  /
 . ,__,-/;(|,__,)'~)~" .,_______、  /,,  "'/ ;i
,/,,,, |;;;;(,:::_,-~",)..'~,-'''''''' ~~'-/.;;",,,,  / :;;ii
(  ""\;;;(  ;;-~,')"   .   ;i;'''" "/ .;:;;iii
ヾ;;;;;;:""\ヾ,_;,-~;;;;;      .;i   /  ;:;;iii
  ヾ,,___;;;;;二"ノ;;;;;;;;;;;;,,,,,,   ,,,,,;;,,/ i::::;;;iii/
   ~''-,____,-'~'-,_;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;,_,-;;/,,,  ;;;ii/
                  /;; ''''';;;;i/
                 /i;;,,,:::::::;;;/


3 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:15:15 U7EQzrJ60
スレ立て乙です。
ええ!続きをムンムン投下したいと思うじゃあねーかッ!おいッ!


4 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:18:22 U7EQzrJ60
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『河城にとり』
【午前5時46分】サンモリッツ廃ホテル 食堂


「放送時間まであと20分あるからそれまでは各々出発の支度なり心の準備なりでもしておきなさい。
恐らく他の危険な参加者とも何度か遭遇することになるでしょうから……ねッ!」


夢美の脳天をパチュリーの拳骨が襲ったのを合図に、周りの奴らも続々と席を立っていく。
あの殺人鬼もそそくさと部屋の外へ出て行ったけど、私の気はさっきから一向に休まることなくざわついたままだ。
パチュリーの存在だけでも四苦八苦してる有様だってのに、ここへ例の殺人鬼までが現れたとあっちゃあいよいよ余裕が無い。

私たちの中であの殺人鬼の正体に気付いてる奴は恐らく私と康一、仗助の三人だけだろう。
康一が言うにはあの吉良という人間…正体を知った奴らは例外なく殺してきたらしい。
ってことは私も殺害対象に入ってるって事じゃないか、冗談じゃないよ!
私が吉良の正体知ってるってこと、絶対にバレちゃ駄目だッ!この秘密は墓まで持っていく!…まだ死ぬ気は無いけど。


ふと部屋の隅を見れば康一と仗助が何やらボソボソと話している。
オイオイ、話したいことは幾らでもあろうがあの殺人鬼はちゃんと見張ってろよ。第一級の危険人物だろう。


……しかし、私はこれからどうするべきなんだ?
吉良も危険だが、アイツは少なくとも私に敵意は無いはずだ……今のところはだけど。
それより私が今、最も懸念すべき人物は吉良じゃあない。

依然、パチュリーは私に対して疑念を抱いているはず。
その事実が私の心に重く圧し掛かり、自分でも分かりやすいほどに焦り、慄き、そして凶行に向かわせようとしている。


そうだ。私は何とかしてパチュリーを始末したいと思ってるんだ。


康一たちがホテルに着く直前のパチュリーの行動と言動は、完全に私を怪しんでいた。
それはもう間違いの無い事実として、私は今崖っぷちに立たされている。


5 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:19:24 U7EQzrJ60
パチュリーはこの後メンバーを2組か3組に分けると言った。
上手くパチュリーと離れる事が出来ればそれでいい。それがべストだ。
でももし、私とパチュリーが同じ組になってしまったら…?
それは四六時中パチュリーに見張られることと同じだし、始末されるまではないにしてもメンバーから外され、追い出されるかもしれない。
こんな化け物だらけの会場で孤立するということは、それだけで死に直結しかねない事態だ。それは避けたい。

とはいえ、この集団の中も決して安全というわけじゃあない。

殺人鬼、吉良吉影。
魔法使い、パチュリー・ノーレッジ。

この二人は私にとっての危険人物…脅威そのものなのだ。


(団全体から見れば、私も危険人物だって事は変わらないか…ははっ……)


自嘲気味に笑う私は傍から見れば滑稽な河童に見えるんだろう。自分でもそう思う。
向かうべき指針も見えないまま、私はこうして庇護されている。


ただただ、生きたい。死にたくない。
その想いだけで私は動いている。


康一と仗助が吉良を追う様にして部屋を出て行った。
吉良と接触するんだろうか…?気になるけど、精々私に火の粉を撒き散らさないで欲しい。

さて…ひとまず私にもやることはある。

『河童のアジト』で通背やらを回収して万全を整えておきたいけど、流石にコッソリ抜け出すわけにもいかないしな。
気は全ッッ然進まないけど、パチュリーに許可を取らないといけない。
私は温くなった紅茶を一気に飲み上げると、席を立ってパチュリーの前まで来た。


"
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6 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:20:33 U7EQzrJ60

「あら…随分浮かない顔してるわね、にとり?……私に何か用?」

「あのー……私、これからちょっと妖怪の山の麓にある玄武の沢まで康一連れて行きたいんだけど…良いかな?
通背がないとどうにも落ち着かないし…準備だけは万端にして行きたいから、さ」






…………沈黙。

パチュリーは私の問いかけに何も返すことなく、その冷たい瞳で私を束縛するみたいに見つめている。
これだ。パチュリーのこの瞳がキライ。
心を覗き見るような瞳がキライ。
今すぐコイツから逃げ出したい。
コイツを目の前から消し去りたい。

私は身体から漏れているらしい『負』の気配を必死で抑える。
私には見えもしない『気』だけども、魔法使いなんて連中はみんな普段から他人の気を読んで生きているのか?
だとしたら本当に気持ち悪いよ。そんなのサトリ妖怪と大差無いじゃん。
あーもう、なんか言うなら言ってくれないかなぁ…この沈黙が耐えられないんだよ、ホントに。

果たしてそんな空気を読んだのか、パチュリーはおもむろに口を開き、その透き通るような声を出した。


「―――行くのは構わないわよ。ちゃんと戻ってきてくれるのならね。
放送まで時間も無いから目的を果たしたらすぐに帰ってくること。玄関はキチンと閉めていってね」

うっさいなぁ…あんたは私のお母さんか。

「――ありがと。すぐそこだし、多分誰にも会わないと思うよ。…それじゃ、ちょっと行ってくるね」

私は逃げるようにこの場から離れる。
河童のアジトに向かいたいというのは勿論本当だし、通背が有ると無いとでは全然違う。

でも、もしかしたら私は単にこれ以上パチュリーと一緒に居たくないだけなのかもしれない。
とにかくさっさと行こう。ここに居ると息が詰まりそうだ。


「ねぇ、にとり……貴方は……」


背を向けて歩き出す私の後ろからまたしても声が降りかかってきた。
ドクンと脈打つ心臓。まだコイツは何か言い足りないのか。
勘弁してよ、そう吐き出すのをグッと抑えて私は振り向いた。


7 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:21:35 U7EQzrJ60


「貴方は……本当は――」

「ねぇパチュリー。ちょっといい?これなんだけど……」


横から入ってきた夢美の呼ぶ声がパチュリーの言葉を遮った。
会話が中断されたパチュリーは一瞬舌打ちでもするように不満気な顔に変わったが、すぐにいつもの冷淡な顔に戻る。

「……何でもないわ。気をつけていってらっしゃいな」

そう言って夢美の方へだるそうに歩いていくパチュリーを私は少しの間呆然と見送った。
気付いたら私の額は既にタラタラと汗が伝っていた。心臓の音も聞こえそうなぐらい早鐘を打っている。


アイツ…やっぱり完全に私を疑っているなぁ…
いや、こんなザマを見れば誰だって怪しむか。
どうしようか…パチュリーは本当に……本当に面倒くさい。
どうしよう…どうすれば…?

いっそ、ホントの事を話せば気は楽になれるかな……いやいや、それじゃ駄目だろ。
うぅ…頭痛い……パチュリーさえ居なくなってくれればなぁ…

とりあえず、康一を連れてアジトへ行こう。考えるのはそれからだ。



………くそぉ。


8 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:24:02 U7EQzrJ60
【河城にとり@東方風神録】
[状態]:精神疲労(中)
[装備]:火炎放射器
[道具]:基本支給品、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:生存最優先
1:康一に盾になって貰いつつ、妖怪の山の麓にあるはずの河童のアジトへ向かう。
2:パチュリーをどうにかしたい。
3:知人や利用できそうな参加者がいればある程度は協力する。
4:通背を初めとする河童製のアイテムがほしい。
5:吉良吉影を警戒。自分が吉良の正体を知っていることは誰にも言わない。
[備考]
※F・Fの記憶DISC(最終版)を一度読みました。
 スタンド『フー・ファイターズ』の性質をある程度把握しました。
 また、スタンドの大まかな概念やルールを知ることが出来ました。
 他にどれだけ情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷の住民以外の参加者の大半はスタンド使いではないかと推測しています。
※自らの生存の為なら、他者の殺害も視野に入れています。
※パチュリーの嘘を見抜く能力を、ひどく厄介に思っています。


9 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:25:10 U7EQzrJ60
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『岡崎夢美』
【午前5時47分】サンモリッツ廃ホテル 食堂


「何よ…コレ……」


PC画面から映し出された一枚の画像を見た私の率直な感想は、そんな短いモノだった。

私は普段の生活で『嫌悪』って感情はあんま抱かない。
まぁ、そりゃあ学会の頭がお固いジジイ共は嫌いだし?あいつらの物言いにはカッとなったりもする。
それでも次の機会には『見てろこのクソ野郎共!』と向上心とアンビションを燃やし、自説をより高く昇華させるためのバネにしたりもする。
だからあいつらに対しては酷い不快感、という念は持ちえてない。

だけど…だけどこの画像を見た途端、私の中には嫌悪、怒りという感情がフツフツと湧いて出てきた。


康一の持ち物であるゲームPCにはメール機能が搭載されていた。
生まれ持った学者肌である私は、後に『見なきゃよかった』と後悔する事になるそのメール欄をちょっとした好奇心から覗いただけだった。
次の瞬間、私の目に飛び込んできたショッキングな見出しが

 『花果子念報メールマガジン』
――ガンマン二人の決闘風景!――

とデカデカ飾った物騒な記事。これには流石の私も息を呑む。

映画にでも出てきそうなガンマン風な男やカタギには見えない男が、互いに銃を構えて相対している。
それだけならまだいい。記事の下部へ目を向けると、その男の死体が無情にも倒れていた。
どうやら『決闘』に敗れた、というわけらしい。ふざけている。

こんな記事を書いた狂人はどこのどいつだろう?
死んでいる男は当然ながら、私が知る由も無い赤の他人。
だけども、まるで殺人を自分の食い扶持にしか思ってないような下劣な書き方に、私の腕は怒りに震えた。
これじゃああの主催者達とやってることは同じようなもんじゃない。吐き気がするわ。

この記事からは悪意などは殆ど感じない。
どこぞの俳優が誰々さんと電撃結婚しました、みたいに日常によくあるひとコマを取材したような、他人事みたいな雰囲気で書かれている。
メール送信者の欄を見てみると、そこには『はたて』なる者が記事作成者だと分かる。
こいつがこんな底辺もいいとこな記事を書いた下衆ってわけね。


10 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:26:10 U7EQzrJ60

「姫海棠はたて…あの鴉天狗が、これを書いたのか…ッ!」

怒気を孕んだ声が後ろで見ていた慧音さんからも発せられる。
腕を組んで画面を見入る彼女は、容姿のツノのせいもあってか威圧感が物凄い。彼女もかなり高い力を持った妖怪なんだということが背中越しで感じる。

「慧音さん、このはたてって奴、知り合いですか?」

「あぁ…幻想郷の鴉天狗の妖怪であり、新聞記者だ。
普段は陰湿で知られる天狗だが…ここまで来るとそれでは済ませられなくなる。これは生ある者の倫理を侮辱した記事だ…ッ!」

うわぁ…穏健だと思っていた慧音さんが結構キレてる。
いや、そりゃそうか。私ですらかなりキテるもん。


どうやらマガジンの記事はコレだけではないみたいね。画面を操作して二報目の記事を開く。
今度は二人の女だ。頭を団子のように結った女と半泣きの金髪少女がクロスカウンターのような対比でお互いの攻撃がぶつかり合っている。
こっちは殺人の記事じゃないみたいだけど、やっぱり見ているだけで不快……ってあれ?

「この『霧雨魔理沙』って子…やっぱ私知ってる。間違いない、あの時の子よ。
…いや、でもやっぱ微妙に違うような…?ん〜〜〜……?」

う〜ん、と記憶の糸を辿る私の横で慧音さんが今度は少し大きな声を出した。

「魔理沙じゃないか!あいつまではたての取材を受けているのか!?」

おや、やっぱり慧音さんとも知り合いだった。
しかもさっきより大きく反応しているとこをみると、それなりに知り合った仲とみた。

「魔理沙は無事なのか…!?女性と交戦している様に見えるが…!」

「……この記事を見た感じじゃあ、二人は気絶してるだけで死んでるわけじゃあないみたいですよ。
場所はC-4、時間は…だいぶ前だねこりゃ。深夜1時ぐらいの出来事だ」

「…むぅ。それだけ時間が経てば二人はもうその場を離れているだろう。…死体になっていなければだが。
魔理沙も異変解決のエキスパート。無事ならばなるべく合流したい所なのだが…」

「私たちには優先すべき『目的』がある…ですよ、慧音さん。
正直私もこの魔理沙にはすごく会いたいけど…今は後回しになります」

「…分かっているさ」

そう言った慧音さんは顔を歪ませて歯痒そうに一息だけ吐いた。
結局この記事を見た私たちが得たものは、はたてに対する嫌悪感ぐらいだ。見なきゃよかった。


11 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:27:05 U7EQzrJ60
この記事に関して、我が愛しのパチュリーの意見もふと聞きたくなった。
彼女なら何て言うかしら?下らない底辺ゴシップ記事ね、と一蹴して終わりかもしれない。
パチュリーは向こうでにとりちゃんと何やら重苦しい空気になっている。

ふーむ。やっぱりあの二人、どうも『確執』があるみたいね。
後でそれとなしにパチュリーに聞いてみようかしら?

と、昔から勘の良い夢美ちゃんは思うのでした。

二人の雰囲気がいよいよ危うくなってきたっぽいので、助け舟を出す意味でも私はその空気に切り込んだ。


「ねぇパチュリー。ちょっといい?これなんだけど……」


あっ。今パチュリー心の中で絶対舌打ちした。
うんうん。不機嫌なパチュも可愛いぞ。拳骨はもうイヤだけど。
そそくさと部屋から出るにとりちゃんを視界の端に入れながら私はパチュリーに気楽に話しかけた。

「なになに?にとりちゃんとなんか話してた?」

「別に。魔女界と河童界の親睦を深めようとしただけよ」

「え〜〜?河童界も素敵だけど教授界とも親睦を深めようよ〜パチュリぃ〜〜」

スリスリと頬に擦り寄る私は早速頭にゴツンと拳骨をもらった。
ぷくりと膨らんだたんこぶを涙目で擦る私を無視し、パチュリーは鼻をフンと鳴らして椅子に座る。


12 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:28:02 U7EQzrJ60

「…どうも、きな臭いわね。貴方はどう思うの?夢美」

「あいたた……そうねー。パチュリーはあの河童さんが気になるんでしょう?」

図星を突かれたからか、パチュリーは動揺を誤魔化すように右手で髪をクルクルと弄り回している。
うんうん。動揺を誤魔化すように髪をクルクル弄るパチュも可愛いぞ。
などと余計な雑念を交えながら私は更に言葉を続けた。

「まー河童さんのこともそうだけど、私たちの間にはどうも得体の知れない空気、みたいなのを感じるわね。なんとなーく」

「どうせ科学者の適当な『勘』でしょう?その意見には同意だけど」

「パチュリー。それは私たちのことをやはり完全には信頼していない、という意味か?」

後ろに立ってた慧音さんも会話に参入してきた。
ま、私も基本信頼はしてるけど、完全に…ていうのはちょっと、ね。
無理かもねー、パチュリーは特に。


「慧音。貴方の事は信頼できる。
でもそれが『個』ではなく『集団』ならば話は全く別…それだけの理屈よ。
相手をどんどん疑っていかなければ絆は作り得ない。分かるでしょう?」

「む…確かに一理ある。
一理あるが…疑う相手との『距離』を計り違えば絆は簡単に綻び、『傷跡』を残すぞ」

「それも一理あるわね。…とにかく今は目標に向けて動きましょう。放送まで残り10分。
そろそろ腹帯を締めてかからなくちゃね」

「……放送までになんにも起こらなきゃいいけどねー」

「夢美、不吉な事を言うな。
…………ん?そういえばぬえの姿が見えないが…パチュリー、彼女を見てないか?」

「知らないわよ、お手洗いかなんかじゃないの。
にとりも康一を連れて外に出ちゃうし、ホントみんな自分勝手ね」

パチュリーは溜息を出しながら私の紅茶を自分勝手に飲む。
あっ。間接キッスだ。
なんてつまらないことを思いながら、私は時計の秒針に視線を向ける。


カッチコッチと時間は5時50分を迎え、その規則正しい旋律は私たちの心に薄い雲を覆わせるような、そんな不気味さを表現するようだった。





ちなみにはたてマガジンを見たパチュリーの第一声はやっぱり
「下らない底辺ゴシップ記事ね」
と一蹴して終了した。ドライだなぁ。


13 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:30:14 U7EQzrJ60
【岡崎夢美@東方夢時空】
[状態]:たんこぶ
[装備]:スタンドDISC『女教皇(ハイプリエステス)』
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典・確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:『素敵』ではないバトルロワイヤルを打破し、自分の世界に帰ったらミミちゃんによる鉄槌を下す。
パチュリーを自分の世界へお持ち帰りする。
1:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法、外部と連絡を取る方法を探す。
2:パチュリーが困った時は私がフォローしたげる♪はたてやにとりちゃんにも一応警戒しとこう。
3:パチュリーから魔法を教わり、魔法を習得したい。
4:パチュリーから話を聞いた神や妖怪に興味。
5:霧雨魔理沙に会ってみたいわね。
6:私の大学の学生に宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンっていたかしら?
[備考]
※PCで見た霧雨魔理沙の姿に少し興味はありますが、違和感を持っています。
※宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンとの面識はあるかもしれません。
※「東方心綺楼」の魔理沙ルートをクリアしました。
※「東方心綺楼」における魔理沙の箒攻撃を覚えました(実際に出来るかは不明)。


【上白沢慧音@東方永夜抄】
[状態]:健康、ワーハクタク
[装備]:なし
[道具]:ハンドメガホン、不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:悲しき歴史を紡がせぬ為、殺し合いを止める。
1:仲間と協力し、脱出及び主催者を倒す為の手段を探す。弱者は保護する。
2:殺し合いに乗っている人物は止める。
3:出来れば早く妹紅と合流したい。
4:姫海棠はたての行為をとっ捕まえてやめさせたい。
5:魔理沙は無事なのか…?
[備考]
※参戦時期は未定ですが、少なくとも命蓮寺のことは知っているようです。
※吉良を普通の人間だと思っています。
※満月が出ている為ワーハクタク化しています。
※能力の制限に関しては不明です。


14 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:30:34 U7EQzrJ60
【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:霧雨魔理沙の箒、ティーセット、基本支給品、考察メモ
[思考・状況]
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:霊夢と紫を探す
2:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法を探す。
3:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
4:岡崎夢美の知識に興味。
5:この先困ったことがあれば、夢美にキッチリ助けを求める…なんて勝手な約束で指切りされちゃったわ。
6:河童のことも含め、嫌な予感はするわね。
[備考]
※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けるようです。
※河城にとりの殺し合いのスタンスをかなり疑っており、問いただしたいと思っています。
※「東方心綺楼」は八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました。
•荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって八雲紫が用意したダミーである。
•荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
•荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である。
•「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
•荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。


15 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:31:23 U7EQzrJ60
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『封獣ぬえ』
【午前5時50分】サンモリッツ廃ホテル 女子トイレ


「ハァ…、ハァ…、ハァ…、ハァ……ッ!」


ホテルの女子トイレ内の個室から漏れるのは封獣ぬえの、恐怖に怯え縮み上がるような囀りだった。
よほどの恐怖だったのか、心の髄から戦慄し、声にもならぬ叫びを絞り出す。
ガタガタと肩は震え上がり、顔も白く強張って、唇も青紫に変色している様は、死神にでも遭遇したかのように震撼しているようだ。
焦点も合わぬ目で膝を曲げ、両腕で体を包み込むように抱く彼女には既に大妖怪の威厳は皆無。

震える声で独り呟く彼女の声は、監獄のように冷たく孤独なホテルのトイレ内に響き渡る。


「あ…あの『吉良吉影』って男……私たちの誰かを『爆弾』に変えたって…言ってた…ッ!
キラークイーンですって…?そんな…なによ、その能力…!うそ…嘘よ…ッ!」



ぬえは、『彼ら』の会話の一部始終を陰で聞いていた。



廊下に出た彼女は偶然にも仗助たちのやり取りを目撃、思わず陰に隠れてこっそり聞き入っていたのだ。

殺人鬼――それが吉良吉影の正体だった。

自分はもしかしたら『爆弾』になっているのかもしれない。
そう考えた途端、頭の中が真っ白になって気付けばこのトイレの個室に駆け込んでいた。
すぐに吐き気と気持ち悪さがぬえを襲い、胃の中のモノを激しく嘔吐する。


「ウッ……オェ…ッ!………くっ…ハァ…、ハァ…、ハァーー……っ!うぅ……」


16 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:33:01 U7EQzrJ60
なによ…コレ…!こんなこと…あっていいわけがないっ!
この私が…たかだか人間の男一人に、恐怖して身震いするなんて……ッ!ふざけんなっ!
確か、仗助が言っていた…!吉良の爆弾化は一度に『ひとり』までだって…!
誰よッ!吉良は誰を爆弾にしたのよッ!?
そういえば私、吉良の前をずっと歩いていた…!可能性が高いのは、私…!?
アイツに触れられた記憶なんて全然無いッ!でも、そんな根拠も…どこにもない…
もしかしてこっそり触れられた…!?分からない……どうしよう…怖い…こわい…!
死ぬかもしれない!いやだいやだいやだそんなの絶対いやだッ!!


手に持ったメスがキラリと光った。
そうだ…自分には暗殺にはうってつけのスタンド能力『メタリカ』がある。
この能力を使えば、もしかしたら吉良を殺せるかも…!

いや、それにしたってリスクが大きすぎる。
相手はスイッチひとつで人間を簡単に爆破できる、げに恐ろしき殺人鬼なのだ。
もし自分が爆弾になっていたら…それを考えると足がすくんでしまう。


(どうしよう!アイツを何とか殺さなきゃ…!でも、どうやって!?いやだ…もういやだ…!ぅあ、あぁ………!)

「あああぁぁぁぁあああああああッッ!!!」


気付けば私は頭を抱えて走り出していた。
勢いよくドアを開け、何処を目指すでもなく、夢中で廊下を駆けた。
どうしてあんな奴がこの場所に居るのだろう。
どうしてあんな奴を仲間に引き込んでいるのだろう。
怖いよ…聖…!
助けて…マミゾウ…!


何も分からず、何も考えず、正体不明の鵺はその威厳も捨て去り、ただの少女のように喚く。


17 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:34:02 U7EQzrJ60

「あら?ぬえじゃない。どうしたのよ素っ頓狂な悲鳴上げて…って、痛ッ!」


角を曲がった先を歩いていた天子に肩をぶつけた。
訝しげる彼女にぬえは向け処の無い感情を怒りへと変換し、当たり散らした。

「邪魔よ天人ッ!殺すわよッ!?」

「………は!?あっ、ちょっと待ちなさいお前、コラッ!!」

わけもわからず敵意を向けられた天子は逃げるように去るぬえを呼び止めるが、あっという間に見えなくなる。
そのただごとではない様子に天子は呆然となるも、その無駄に鋭敏な嗅覚は事件のニオイを嗅ぎ取った。


「ふーむ。なーんか、胸騒ぎがするわね……三脈の法でもやってみようかしら?」


誰に届けるでもなく吐いた呟きは、薄暗い廊下の闇に溶けて消えた。
ぬえの走り去った方向をじっと見つめながら、天子はフゥ、と小さく息を吐いてまたマイペースに歩き出す。



放送の6時まで、残り8分での出来事だった。


18 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:35:35 U7EQzrJ60
【封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:精神不安定、恐怖
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部、メス(スタンド能力で精製)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:今は慧音達と同行する。でも、どうしたら良いか分からない。
2:吉良吉影…何とかして殺さなきゃ…!
3:聖を守る為に他の参加者を殺す?皆を裏切って自分だけ生き残る?
4:この機会に神霊廟の奴らを直接始末する…?
5:あの円盤で発現した能力(スタンド)については話さないでおく。
[備考]
※参戦時期は神霊廟で外の世界から二ッ岩マミゾウを呼び寄せてきた直後です。
※吉良の正体を知りました。
※メスは支給品ではなくスタンドで生み出したものですが、周囲にはこれが支給品だと嘘をついています。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。


【比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:健康
[装備]:木刀@現実(また拾って直した)、龍魚の羽衣@東方緋想天
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:仲間たちとともに殺し合いをおじゃんにする。
2:主催者だけではなく、殺し合いに乗ってる参加者も容赦なく叩きのめす。
3:自分の邪魔をするのなら乗っていようが乗っていなかろうが関係なくこてんぱんにする。
4:紫には一泡吹かせてやりたいけど、まぁ使えそうだし仲間にしてやることは考えなくもない。
5:仗助を下僕化、でも髪のことだけは絶対触れない。
6:事件のニオイね!
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
※ぬえに対し、不信感を抱いてます。


※9人の『方針』について
この9人は互いの基本的な情報は渡しあっており、パチュリーの考察も聞いてます。
各自の支給品はまだ見せておりません(東方心綺楼など一部見せているものもあります)。
一行の目的は取りあえず『霊夢・紫の捜索』で合致しています。
今後、2組あるいは3組に分けて行動を開始、まずは地図北部の『A-1からF-3』を手分けして探索し、
12時正午にC-3のジョースター邸に集合する方針です。


19 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 16:41:27 U7EQzrJ60
以上で「蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた 」の投下終了です。
ここまで見てくださってありがとうございました。感想や指摘などあればよろしくお願いします。

もうすぐ記念すべき第1回放送ということで、生き残りの方々が無事に放送を越えられる事を祈っております。


20 : 名無しさん :2014/05/10(土) 16:42:19 eFaJysPM0
えぇ〜…殺る気と不安がムンムンわいてるじゃねーか…おい……


21 : 名無しさん :2014/05/10(土) 16:47:10 tLZmPG7s0
投下乙です

各キャラの思惑が交錯する、良い繋ぎ話だったと思います
ぬえは放送後にも不安要素がある上に、吉良のスタンドまで知って
ある意味今後が楽しみだ…ww


22 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 21:39:39 HhZlg10U0
すみません、支給品の説明を入れ忘れていたのでそれだけ。

○支給品説明

<ティーセット@現実>
パチュリー・ノーレッジに支給。
洋風の白い陶器のティーセット。
上品な造りでパチュリーは結構気に入っているらしい。
主催者の気遣いか、カップも10人分あり、紅茶もついている。


23 : 名無しさん :2014/05/10(土) 21:55:05 Kd4I/vMc0
後半投下乙です。

空気だと思ってたぬえ、密かに精神状態が悪化しっぱなしだなぁw
この上さらに追撃の第1回放送でマミさんの死亡が発表されて、ダメージはさらに加速するんだよなぁ……w

9人にもおよぶ各キャラの同行を丁寧に追ってくれたと思います。

そして本編とは関係ないけど、1000を取れなくてすまない、前スレでのズィー・ズィーェ……


24 : 名無しさん :2014/05/10(土) 22:32:00 tacNuMNsO
投下乙です。

隠し事ばっかじゃねーか!


25 : 名無しさん :2014/05/11(日) 00:14:48 z.1XTmjI0
投下乙です。

蛇=ぬえ、教師=慧音、御転婆=天子、嘘=にとり、悪霊憑き=吉良、東方、康一、魔女=パチュリー。
夢美は?


26 : 名無しさん :2014/05/11(日) 01:03:36 2kmbF9T60
てんこに負けず劣らずのお転婆で、教授だから教師でもあるし、
擬似魔法が使えるから魔女でもあり、おまけにいまスタンドも持ってるから悪霊憑きでもおk。

ほらこんなもん


27 : 名無しさん :2014/05/11(日) 09:42:05 LEo1Doc.0
投下乙です
吉良が何をしでかすかわからずめっちゃ緊張しながら読んだ
とりあえず死人は出なかったけどすぐにでも色々と爆発しそうだなぁ……


28 : 名無しさん :2014/05/11(日) 10:44:40 TJDweDaA0
埋まってる地雷大杉ィ! 
果たして いつどれが暴発するのやら


29 : 名無しさん :2014/05/11(日) 11:28:19 /XTCP4PM0
爆発(物理)


30 : 名無しさん :2014/05/11(日) 14:22:04 ALpv4ZBM0
ぬえの精神状態がいい感じ
放送終了後即死人が出そう

1点だけよく分からなかったんですが
仗助はパチュリーに吉良のこと話したんですか?


31 : 名無しさん :2014/05/11(日) 14:36:46 /XTCP4PM0
そんな描写あったかな…
問題点があるなら指摘してみたら?


32 : 名無しさん :2014/05/11(日) 15:44:15 ALpv4ZBM0
>ゆっくりだ。
>吉良をゆっくりと追い詰める…!
>この話し合いが終わった後にでもパチュリーあたりをそっと連れ出し、彼女に事の真相を伝えて慎重に動こう。
>仗助はそう考え、今のところはこれ以上吉良を刺激することをやめた。
この後すぐ吉良を攻撃しようとして???ってなった
周囲を納得させてからじゃないと自分が危険人物扱いされるから手を出さなかったんじゃなかったっけ?


33 : 名無しさん :2014/05/11(日) 15:58:07 /XTCP4PM0
パチュリーを連れ出す前に吉良に脅迫されたから話してない…はず


34 : 名無しさん :2014/05/11(日) 16:09:10 K9D0SwcY0
>>32
あー、なるほど
「今のところはこれ以上吉良を刺激させるのはやめた」って描写がされてるのに
その後の場面転換で仗助が康一引き連れて吉良に思いっきり喧嘩売ってるってことか

仗助の「自分が危険人物扱いされる〜」の部分は
その後康一(=吉良の事件の証人)と合流したから方針を変えたって考えられるけどね


35 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/11(日) 18:09:34 9VuVHnr60
特に詳しい描写はしてませんが、方針決めが終わった後すぐに吉良が一人で出ていったので、康一とまずは話をつけました。
相手が一人になれば周囲に危害はないのでその後すぐに二人で吉良を追ったわけなのですが、既に人質をとられていたために仗助たちは迂闊に吉良のことを喋れなくなってしまった、という筋です。

もし描写不足ならば、夜に改めて一部分加えた修正版を投下したいと思いますが…その方が良いでしょうか?


36 : 名無しさん :2014/05/11(日) 19:58:32 ALpv4ZBM0
吉良は自分一人で行動しないほうが都合がいいという前提を忘れていました。
仗助にとっては絶好の機会だったんですね。
指摘したのは自分だけなので描写不足ということはないと思います。
お騒がせして申し訳ありませんでした。


37 : ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:40:43 Vu4cOo0Y0
ディオ・ブランドー、ディエゴ・ブランドー、カーズ、シーザー・アントニオ・ツェペリ
投下します


38 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:42:00 Vu4cOo0Y0


無数の竜によって支配される牙城と化した『紅魔館』。
その二階の主の間にて、『王の座』を陣取るのは一人のスタンド使い。
獰猛な竜の群れを統べる帝王―――「ディエゴ・ブランドー」。

「参加者が一人か」

右腕の上には偵察役の翼竜が一匹止まっている。
紅魔館に近付きつつある参加者を発見したらしい。
軽装の男性が一人。武器らしきものは何一つとして装備していない模様。
本当に何も武器を抱えていないのか、あるいはスタンド使い等のように丸腰であろうと身を守れる術があるか。
報告された情報を認識したディエゴは思考する。

「のこのこと足を踏み入れてくるか… クク、ならばこちらも準備を行うとしよう」

ともかく、思案する彼が行うことは一つ。
己の牙城へと訪れる客人への持て成しだ。
不敵な笑みを浮かべる男は、傍らに立つ一頭の『肉食恐竜』へと静かに語りかける。




「客人サマは丁重に持て成してやらんとな… なぁ、シーザー?」




返ってきたのは意思在る言葉ではなく、理性無き獣の鳴声だった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


39 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:50:09 Vu4cOo0Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紅魔館―――1F、廊下にて。

「ほう…」

ギリシャの彫刻を彷彿とさせる肉体美を曝け出す一人の男が廊下を歩く。
男の名は「カーズ」。柱の男の一角であり、同胞達を統べるリーダーでもある。
彼が紅魔館に訪れたのは日中の拠点確保と更なる情報収集の為だ。
サンモリッツ廃ホテルで情報を手に入れた後、彼は早急に移動を開始したのである。
自らの脚による移動だが、柱の男の身体能力は吸血鬼をも上回る。
当然、疾走によるスタミナやスピードも人間とは比べ物にならないレベルだ。
故に然程時間を掛けることも無く夜明け前に辿り着く事が出来た。
あとは『幻想郷』及びその住民に関する情報を手に入れることが出来れば好都合。
出来れば書庫のような部屋を見つけたいものだ。

「成る程、窓は極力排除されているようだな」

彼は館内の廊下を歩きつつ、見慣れぬ芸術作品を審美しているかのような素振りで内装を見渡している。
エントランスと廊下以外にも幾つか部屋を訪れたのだが、この館には窓というものが殆ど存在しない。
僅かに見かける窓にも遮光の為の施しが為されており、館内の明かりの役目は証明が担っている。
盗み聞いて得た情報によれば紅魔館には吸血鬼が住まうとのことだが、この館内の構造を伺えば確かに合点が付く。

(外部からの光…すなわち日光。それを遮る為の対策が為されている。
 『吸血鬼』が根城にするにはうってつけというワケだ。そして我ら闇の一族にとっても)

この紅魔館、人間の邸宅を改造したのか、あるいは当初より吸血鬼の邸宅として建造されていたか。
幻想郷の吸血鬼が石仮面で作り出したそれと比べて能力の差異があるのかは不明だが、
少なくとも凶暴性に身を任せて暴れるだけの連中よりはまともに考えられる頭を持っているらしい。
この館の主である吸血鬼『レミリア・スカーレット』。
どれほどの力か、一度この目で確かめたいものだ―――そう思っていた。
尤も、戦った所で自身が負ける筈も無いとも考えていたが。


「情報収集も兼ねて、このまま館内の見物を続けたい所だが…」


そう呟いていたカーズが、唐突に脚を止める。
彼が視線を向けた先―――それは天井。
外観以上に広大な空間を見上げたカーズの視界に入ったものは、紅い体色を持つ一頭の翼竜。
その身を保護色に染め上げ、まるでコウモリの如く天井に張り付いていたのだ。


「どこの連中かは知らぬが、覗き見とは良い趣味とは言えんなァ?」


口の端を釣り上げながら翼竜を見上げたカーズ。
天井に張り付く翼竜は何度か甲高い鳴き声を上げる。
騒がしく鳴き立てる翼竜を弾き落とそうとしていたカーズだったが―――
唐突にその動きを止める。
何かの気配を察知した。異様な温度差だった。
複数の『生命』がこちらへと接近してきている。
その数、30体前後。体温といい数といい、参加者とは別の存在であることは明白。
廊下の奥へと目を向けたカーズは、すぐさまその正体を知ることになる。


「…成る程、な。ずいぶんと荒っぽい持て成しを受けたものだ」



廊下の突き当たりの角より、複数の翼竜達が一斉に姿を現したのだ。



天井に張り付いていた翼竜はいわば『見張り』。
見張りの鳴き声―――言わば伝達と共に『攻撃部隊』が襲撃を仕掛けてきたのだ。
彼らは獲物を見つけた狩人の如く、カーズ目掛けて殺到する―――!


「面倒なことになったが、まぁいい」


ふぅ、と一息吐きながら翼竜達を見据えるカーズ。
彼の右腕より顕現した『刃』を構えながら、騒々しい持て成しを見据えていた。


40 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:51:07 Vu4cOo0Y0


「―――流法!『輝彩滑刀』ッ!!」



カーズの右腕より顕現した光の刃―――輝彩滑刀の流法。
柱の男が独自に編み出した戦闘技術のひとつ。
その一振りが瞬時に周囲を取り囲む翼竜達を切り裂く。
首を切断され、胴体や翼を引き裂かれ、翼竜達は次々と力無く地面へ叩き落ちていく。

(やはりこの生き物…文献で目にした事があるッ!このカーズが誕生するよりも遥か古代に存在していたという『翼竜』!)

カーズの思考を余所に、増援として更なる無数の翼竜達が現れた。
彼らは間髪入れずにカーズへと目掛けて次々と襲い掛かってくる。
ある者は正面から突撃、ある者は背後から強襲、ある者は側面から牽制――――

(こいつらはただ闇雲に襲いかかっているわけではない!
 このカーズを確実に仕留めるべく互いに連携を取ってくるッ!
 まるで獲物を狩るべく地を這うオオカミの群れのようにッ!)

一対多。単独の敵に対し徒党を組み、集団戦によって翻弄する。
単純明快ながら厄介極まりない作戦―――どれだけ力で勝ろうと、手数の差は大きい。
少しずつ対処が遅れ始めていくカーズの元に、更なる『影』が飛びかかる!



「URRRRYYYYYYYYYYーーーーーーーーーーーーッ!!!」
「―――チィッ!」



死角より姿を現した『新手』がカーズへと鉤爪による奇襲を仕掛ける!
カーズは咄嗟に振り返りつつ輝彩滑刀で薙ぎ払い、『新手』の攻撃を弾いたッ!

(今度は『恐竜』かッ!?それに今のパワーとスピード…!)

奇襲を仕掛けてきた『新手』の姿は今までの翼竜や恐竜とは明らかに異なるものだった。
肌を覆うのは爬虫類のような鱗と皮膚だが、その顔立ちは先程の恐竜と比べれば比較的人間に近い形状だ。
しかし裂けた口からは牙が覗き、両手からは獲物を刈り取る鋭い鉤爪を生やしている。
一言で言えば――――『恐竜人間』。


「ほう、俺の攻撃を生身で凌ぐとはな!大したものじゃあないか」


恐竜人間―――ディエゴ・ブランドーは、不敵な笑みを浮かべながらそう言い放った。
目の前に立つディエゴをキッと睨み、カーズは右腕の刃を構える。

柱の男の首領。恐竜の統率者。二人の『帝王』が、対峙する。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


41 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:51:48 Vu4cOo0Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



においがする。
このDIOと同じ。
『奪う者』のにおいだ。



「………」

霧の湖の傍らにて。
邪悪の化身―――ディオ・ブランドーが見据えるのは『悪魔の館』。
湖内の小島に浮かぶ洋館を睨むように目を細める。

(妙な気配だ…。ジョースターとは違う…しかし、このDIOに近い『何か』があの館にはいる…)

彼が抱くのは奇妙な既視のような感覚。
あの館、地図で言う所の紅魔館とやらから不思議な気配を感じる。

「フフフ…奇妙なものだ。まるでこのDIOを引力で結びつけているかのような…」

そう呟く彼の胸中に込み上げるのは好奇心。
未知でありながら、自身と近いものを感じる存在への興味。
彼の血筋は『ディエゴ・ブランドー』の存在を感じ取っていたのだ。
尤も、DIOはそのことにまだ気付いてはいない。
彼にとってディエゴは見知らぬ存在なのだから。
故にDIOは限りなき興味と関心を抱く。



「…楽しみだ」



満月を見上げると同時に浮かべるのは不敵な笑み。
宵闇の帝王は、『恐竜の王国』への進撃を開始した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


42 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:52:26 Vu4cOo0Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「URRRYYYYYY!!!!」


幾度目の交錯か―――凄まじい瞬発力と共にディエゴが瞬時に動き出した。
恐竜化した強靭な右足による回し蹴りを放ったのだ。
カーズは即座に左腕を構え、勢いよく迫る右足を防御。
右足を受け止められたことで僅かな隙が出来たディエゴに向けて右腕の刃を叩き込もうとしたが―――

「『余所見』は禁物だぜッ!」
「ッ!」

ディエゴを切り裂かんとしたカーズの後方より姿を現したもの―――それは『肉食恐竜』!
カーズよりも一回り大きな体格を持つ凶暴な肉食恐竜が襲い掛かってきたのだ!
咄嗟に回避しようとしたカーズだったが、ディエゴに意識を向けていたが故に完全に『一手』遅れてしまう。
そのまま牙を突き立てた恐竜は、カーズの左肩から背中に掛けて荒々しく獰猛に食らい付いたッ!

「KUAAAAAA!!!」

カーズの皮膚に鋭い牙が食い込み、出血と共に熱のような苦痛が走る。
そのまま食らい付いた肉を左肩ごと咬み千切るべく、肉食恐竜は更に顎に力を込めるが―――



「!? 待て、離れろッ!」



直後、ディエゴは即座に異変に気付く。
カーズの背を抉る肉食恐竜の牙が少しずつ皮膚へと『取り込まれている』。
まるで肉体と一体化するかの如く。まるで捕食者が獲物を喰らうかの如く。
肉食恐竜は、成す術も無く己が突き立てた牙からカーズの細胞に吸収され始める―――!

「ウバシャアアアァァ!!!!」

だが、それを妨害せんとするのは複数の翼竜達。
ディエゴの側から飛び出した彼らはカーズ目掛け次々と体当たりや嘴による攻撃を仕掛けてくる。
舌打ちと共にカーズは翼竜達を自らの流法で切り裂くも、その際に生じた隙によって抵抗をしていた肉食恐竜が肉体から離れてしまう。
床へと叩き落ちた肉食恐竜は苦しむ悶えつつも即座に起き上がり、体勢を立て直した。


43 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:53:41 Vu4cOo0Y0


(やはりこの肉体そのものにも制限が掛けられているのか?忌々しい…!)

カーズの胸中に込み上げていたものは疑問。
先程から薄々と感じていたが、肉食恐竜を取り込もうとした際に確信した。
どうやら柱の男の『補食能力』にも少なからず制限が掛けられている。
本来ならば波紋を使えない有象無象の生物など触れるだけで即座に取り込み補食する事が可能だ。
しかしこの場では、恐らくある程度意識して相手に触れなければ補食は出来ない。
吸収能力自体も幾らか弱まっている―――

「URYYYYYYYY!!」
「フン!やはりこのカーズに匹敵する程のスピードとパワー…だがッ!」

翼竜による妨害の直後、間髪入れずディエゴが肉薄するッ!
そのまま輝彩滑刀を構えたカーズは、ディエゴを迎え撃つべく鋭い眼光で彼を見据える。


そして、右手の鉤爪が振り下ろされる―――



「甘い!」



輝彩滑刀の刃がそれを弾く!

間髪入れずに左手の鉤爪が薙ぎ払われる―――



「甘い!甘い!甘いッ!!」



瞬時に腕を動かし、輝彩滑刀の刃で鉤爪を更に弾く!

直後に両手の鉤爪が剣舞の如く何度も振るわれる―――



「甘い!甘い!甘い甘い甘い甘い――――甘いわァァァーーーーーーーーーッ!!!」



迫り来る鉤爪をカーズは輝彩滑刀によって次々と捌くッ!
一つ一つの攻撃を冷静沈着に対処し続けるッ!


44 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:54:26 Vu4cOo0Y0

「『甘い』だと?」

カーズの迎撃と共に少しずつ押され始めるディエゴ。
チェーンソーのような刃を持つ輝彩滑刀と獰猛な恐竜の鉤爪。切れ味、殺傷能力共に前者が上であることは明白。
故に防勢へと入ってしまったディエゴの不利は確実だ。
しかし、カーズを見据えるその表情は冷静そのものであり―――!

「ギャアアアアーーーーz____スッ!!」
「――――ッ!」

瞬間、カーズの後方より獣の方向が再び響き渡る。
ディエゴと打ち合っている最中、先程吸収し損ねた肉食恐竜が背後より突進を仕掛けてきたのだ!

「邪魔だァッ!!」

カーズはすぐさま体勢を変え、輝彩滑刀による回転切りで肉食恐竜の身を瞬時に切り裂くッ!
肉食恐竜は絶叫と共に胴体から深紅の鮮血を吹き出す。
しかし、肉食恐竜の猛進はそれでも尚止まらないッ!

「グルルルオオオオオオ!!」

胴体の裂傷のダメージをも無視し、前足の鉤爪を振り下ろしてカーズの肉体を引き裂くッ!
もはやカーズの吸収能力を意に介することもなく、捨て身の如く攻撃を仕掛けてきたのだ!
それと同時にディエゴの側から現れた複数の翼竜達もカーズを妨害すべく突撃を開始する!

「チィッ!このカスがッ!」

掴み掛かってくる肉食恐竜の腹部にカーズが右肘の打撃を叩き込み、力尽くで吹き飛ばす。
肉食恐竜は紅を基調とした色彩の廊下を転がり、床を更なる紅へと染め上げていく。
そのまま突き当たりの壁に叩き付けられてぐったりと倒れるも、複数の翼竜達によるカーズへの攻撃は止まらないッ!

「ええい、ちょこまかとッ…!」
「甘いのは貴様の方だッ!カアァァーーーーーズ!!!」

輝彩滑刀と体術によって翼竜達に対処するカーズ。
その一瞬の隙をディエゴは見逃さない。
強靭な脚力から繰り出されるスピードの勢いを乗せ、右腕の鉤爪を振るったッ!

「―――ッ!」

翼竜の妨害によって対処が遅れ、咄嗟に輝彩滑刀で鉤爪を防ごうとする。
しかし出が遅れたことにより輝彩滑刀の防御を弾かれ、カーズの身に大きな隙が生まれる。
その瞬間、ディエゴは凄まじい瞬発力でカーズの零距離まで飛び込んだ!


「チェックメイトだッ!これで貴様はオレの――――」


勝利を確信したディエゴの口元が愉悦で歪む。
この一撃で、奴を『恐竜化』して支配する!
カーズの身を鉤爪によって切り裂くべく、全力で腕を振るおうとした―――!





 ダ ン ! ! !




―――しかし、ディエゴの身体は轟音のような銃声と共に転倒し吹き飛ばされる。
突如彼の右肩を襲ったのは強烈な衝撃と激痛。
その際のダメージによって偶発的にディエゴ本体の恐竜化が解除される。
何が起こったのか理解も出来なかった彼は、漸く攻撃の正体に気付いた。


45 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:55:20 Vu4cOo0Y0

「チェックメイト?こちらの台詞だ、バカが」


それはカーズの指先から放たれたライフル弾による一撃。
事前に弾丸を取り込み、肉体を介して発射――――参加者の一人であるナズーリンを葬った能力だ。
懐に潜り込んだディエゴに右手の人差し指を咄嗟に向け、ライフル弾を放ったのだ。
柱の男の肉体があってこそ行える芸当をディエゴが予測出来る筈も無かった。

「人間が身に付けた波紋以外の技術…この恐竜化も奴らが言っていた『スタンド』の一つなのだろうな。
 我々を手子摺らせるのはJOJOのような波紋戦士くらいのものかと思っていたが、見くびっていたわ」

右肩を抑え、跪いた体勢で身体を起こした『人間』のディエゴを見下ろすのはカーズだ。
カーズは両腕を組み、涼しげな表情で余裕を装い続けている。
とはいえ、彼もまた翼竜や肉食恐竜による攻撃で消耗し少なくない手傷を与えられている。
実際、あの恐竜達による集団戦は厄介極まりない物だった。
恐竜の群れの使役―――恐らくその本質は『生物の恐竜化』。この本体の若造もまた恐竜と化して戦っている所からそう推測した。
単純明快ながら、この殺し合いの場で数の利を得られることはかなり大きい。
それ故に彼は目の前の男に警戒を感じていた。『この能力者は早々に始末すべきである』と。

そして、カーズは即座に行動を開始した―――!


「切り刻んでやろうッ!」


右腕から『輝彩滑刀』を顕現させ、一気にディエゴとの距離を詰めるッ!
その刃はディエゴの首を刈り取るべく迫り来る!

「くッ――――!」

咄嗟に恐竜化してカーズの攻撃に対処しようとするが、間に合わない!
カーズは即座に肉薄し、ディエゴに反撃の余地を与えようとしなかったのだ。
そのまま輝彩滑刀の刃が、彼の首筋へと迫る!


「う、おおおおおおおおおおおおおッ!!!」


ディエゴは雄叫びを上げながら必死に刃を躱そうとする。
そんな抵抗も空しく、彼の首に輝彩滑刀の刃が触れ――――










「ほう、既に始まっていたようだな」







―――ディエゴの後方より、突如として一人の男が姿を現す。


最初に気付いたのはカーズ。
続いてディエゴが気配に気付く。
そして、現れた男は静かに呟いた。








「『世界“ザ・ワールド”』」





――――――



―――――



―――



――






46 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:56:32 Vu4cOo0Y0



「UUUUOOOOOOOOHHHHHHHHHHH!!!」




―――カーズには、何が起こったのか理解出来なかった。
『世界“ザ・ワールド”』という呟きが耳に入った直後、何発もの凄まじい衝撃がその身を襲ったのだ。
防御や回避をする間もなく吹き飛ばされ、先程の肉食恐竜が倒れ込んでいる廊下の突き当たりの壁へと叩き付けられる。
その衝撃によって壁が勢い良く砕け散り、カーズは夜明けを迎え始めた館の外へと放り出された。
同時に壁際で倒れていた肉食恐竜もまた壁が破壊されたことで外部の庭園へと転がり落ちる。


(な…何だッ!今『何』が起こった!?)


そしてディエゴにも、目の前で起こった事象を理解することが出来なかった。
カーズが新手の攻撃によって一瞬で吹き飛ばされた。それは解る。
しかし、『どうやって!?』新手の動きはディエゴですら視認出来なかった。
奴が『突然姿を現した瞬間』『スデにカーズが吹き飛んでいた』のだからッ!



「ほう。先程から感じていた近しい気配…君がその正体というワケか」



言葉を耳にし、ハッと振り返るディエゴ。
彼の背後に立っていた者―――それは、自身と瓜二つの顔を持つ男だった。
黄金色の頭髪。透き通るような白い肌。男とは思えぬ妖しき色気。そして圧倒的な威圧感。
余りにも異質だ――――ディエゴは『新手の男』に対し、底知れぬ警戒を抱いていた。


「このDIOと瓜二つの顔をしているとはな。フフフ、興味深いじゃあないか…」


対する帝王―――『DIO』は、笑みを浮かべながら両腕を組む。


「―――さて、君は一体どんな力を見せてくれる?」


その態度は傲岸不遜。絶対強者としての余裕に満ちている。
ディエゴは現れた男の顔に驚愕しつつも、歯ぎしりと共に咄嗟に立ち上がった―――



「『スケアリー・モンスターズ』!!」
「『世界“ザ・ワールド”』」



スタンドの名を叫び、ディエゴの肉体が獰猛な『恐竜』のモノへと変化。
同時にDIOもまたすぐ側にスタンドを発現させるッ!


「フフフフ、やはり君もスタンド使いか!面白い…来るがいい」


ディエゴが発現させた能力を目の当たりにし、DIOは確信を得たように笑みを浮かべる。
直後に彼はスッと背を向け、その場から走り出す。
スタンドを携えた状態で長い廊下を駆け抜けて始めたのだ。
一見すると逃走のようにも見える。しかし、その実ディエゴを闘いの場へと誘い込んでいる。
走り出したDIOを見据えていたディエゴは、カーズによって突き破られた壁の方へと一瞬目を向ける。


(チッ、シーザーはもう使い物にならないか…!)


崩れた壁の穴の付近で倒れている肉食恐竜を見て舌打ちする。
胴体から出血を繰り返しており、戦いに駆り出すには手傷を負い過ぎている。
故に肉食恐竜―――シーザーのことは捨て置いた。
あれだけの傷を負ったのだ。どのみち奴はもう使えない。
今は、あの男を追うことが先決だ―――!


恐竜化した強靭な両足が、緋色の床を勢い良く蹴った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


47 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:57:03 Vu4cOo0Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


タダ俺ハ、戦ッテイタ。

『ディエゴ・ブランドー』ニ動カサレルママニ。

俺ノ胸ニ込ミ上ゲテイタノハ、憤怒ダッタ。

ソレハ『ディエゴ・ブランドー』ヘ向ケタ怒リダケジャナイ。

『目ノ前デ』『俺ト戦ッテイル男』ニモ、激情ノ矛先ハ向イテイタ。


何故俺ハあいツが憎イ?


何故俺は、目ノ前のアイツに怒りヲ覚えテイル?


俺は漸くソノ理由を思い出シタ。



敵ダから。



アイツが俺ノ敵ダッタからだ。

そうダ。俺ノ敵が、目の前にいる。

アイツは、俺が殺すベキ敵。

消してヤル。



アイツを、消してやる――――――!



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


48 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:58:22 Vu4cOo0Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「はァーッ………はあーっ………………」


紅魔館の敷地内、花や植物が手入れされている庭園にてカーズが立ち上がる。
あの『金髪の男』が現れた瞬間に吹き飛ばされ、その衝撃で壁を突き破り館の外部まで放り出されたのだ。
荒い息を整えながらカーズは紅魔館の壁に開いた人間大の穴へと視線を向ける。

「このままでは……夜明けが訪れてしまう……!」

そう、夜明けが―――闇の一族の大敵である『太陽』がじきに姿を現す。
今すぐに館内へと戻らなければ―――否。
己の肉体の消耗が激しすぎる。
のこのこと館の中へ戻った所で、あの二人のどちらかに狩られるのがオチだ。
その上、新手の能力は全くの未知数。下手に手出しするのは危険すぎる。


「………どちらにせよ……館へと戻ることは出来ないようだな」


そう呟き、彼が見据えた先は吹き飛ばされたことで突き破られた壁のすぐ側。
そこに見えたのは一つの『人影』。
あの場所で倒れ込んでいたのは『肉食恐竜』だった。
否、正確に言えば肉食恐竜に変えられていた『人間』だ。
あの男の能力は恐竜化。つまり、肉食恐竜の元となった人間がいるのだ。

それを裏付けるかの如く、『人の影』はゆっくりと立ち上がった。



「……フン……貴様だったとはなァ……。蘇らされて……生き恥を晒すとは、無様なものよ………ええ?」



カーズは目の前に立つ男へと視線を向けた。
胴体に大きな裂傷を負い、多量の血液を流しながらも尚、彼は立ち上がっていた。

「はァーーッ………」

男は呼吸を整えるように息を吐き出す。
彼が無意識のうちに行っていた『波紋の呼吸』がその命を繋ぎ止めていた。
竜にも似た皮膚。獰猛な牙。しかしその顔、体格は人間のもの。そして瞳には確かな『意思』が宿っている。

ゲーム開始前に付けられていた傷がごく小さなものであったこと。
ディエゴがスタンドパワーを少なからず消耗していたこと。
その上でディエゴとの距離が一定以上離れたこと。

制限とも言えるそれらの要因が重なったことにより、中途半端な形で彼の恐竜化が解除されたのだ。


「カー………ズ…………」


故に、彼は傀儡としてではなく『戦士』としてその場に立つ。
荒い息を吐きながら、目の前の『敵』を真っ直ぐに睨む―――






「カアアァァァァァァァアアァァァーーーーーーーーーーーーズッッ!!!!!!!!」






肉食恐竜―――否、波紋戦士『シーザー・アントニオ・ツェペリ』は咆哮する。

直後に両腕からシャボンカッターを生成し、カーズ目掛けて次々と放つ―――!


49 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 02:59:33 Vu4cOo0Y0

「ぬうッ!」

殺到する複数のシャボンカッターをカーズは咄嗟に回避。
シャボンランチャーを一度目にした程度の彼にとって、それは初めて見るものだった。
一ヶ月の修行を経て編み出し、戦闘の天才・ワムウとの戦闘においても猛威を振るった必殺技。

「殺傷力を増したシャボンランチャーというわけか…ッ!」

カーズは輝彩滑刀を右手に顕現させ、即座にシーザーへと接近すべく地を蹴る。
夜明けまで残り僅か。一刻の猶予もないッ!
兎に角、この男をすぐにでも殺さなければ――――


「―――MUOOOHHHHHH!!」


カーズが駆け出そうとした瞬間、突如両足のバランスを崩して転倒する。
先程躱したシャボンカッターがブーメランの如く戻り、後方からカーズの両足を抉ったのだッ!
その隙に間髪入れず再び放たれたシャボンカッターがカーズの肉体を次々と切り裂いていくッ!

「ぐ、あァッ……!」
「貴様は…ッ!この、俺が…ここで仕留めてやるッ………!!」

膝をつき、片手を地面につけ、苦痛に喘ぐカーズを鬼気迫る表情でシーザーが見据える。
命を燃やして練り上げた決死の波紋がカッターの傷を通してカーズの身を蝕んでいく。
その肉体は大きく消耗していた。ディエゴ・ブランドーとの戦闘、『世界』の打撃による着実は確実に彼の体力を奪っていたのだ。

「波紋!シャボン……カッタァーーーッ!!」
「させるかアアァァーーーッ!!!!」

再び放たれようとしたシャボンカッター。
それを妨害せんカーズは即座に左手を突き出し、指先から爆音と共に弾丸を発射するッ!
しかしシーザーはそれを俊敏な行動で咄嗟に回避。
そのままシーザーは一気に勝負を決めるべく地面を蹴り、カーズへと接近ッ―――!

「シーザー…!」

迫り来るシーザー。それを見据えるは跪くカーズ。
両足、胴体の至る所に波紋傷を負い苦しみ続ける柱の男。
だが―――その瞳から闘志は消えていない。
生への執念は、決して消えていないッ!



「シィィィィザァァァァァーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「山吹色の“サンライトイエロー”…!」



両足に波紋傷を負いながらもカーズは立ち上がり、迫り来るシーザーへと向けて駆け出す。
対するシーザーの右拳には、ありったけの波紋エネルギーが練り上げられている。

柱の男―――カーズ。
波紋戦士―――シーザー。

二人の戦士は、一気に互いの距離を詰める―――!!






「波紋疾走“オーバードライブ”――――――――ッ!!!!」


50 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 03:00:01 Vu4cOo0Y0

「UOOAAAAHHHHHHHHHHH!!」


一撃を叩き込んだのはシーザーの方だった。
渾身の波紋を帯びた彼の右拳が、突き出されたカーズの右腕に全力で叩き込まれたのだ。
絶叫を上げ、右腕を焼かれるカーズ―――彼の手首には輝彩滑刀が生成されていたが、それさえも波紋によって溶解する。
僅差でシーザーの打撃の方が早く届いたのだッ!

「勝った……ッ!」

シーザーは勝利を確信していた。
今の彼が練り上げられる全力の波紋を叩き込むことに成功したのだから。
カーズの右腕からは波紋の光が迸り、もがき苦しんでいる。



「終わりだアアァァァ!!カーズッ!!!!」



―――トドメを刺してやる。まさに今こそ、そのチャンスだ。
魂が震える。心が燃え滾る。
限界まで高ぶらせた精神は、彼の左手に迸る波紋を纏わせるッ!
奴を仕留める機会はこの瞬間しかない!
最後の一発をくれてやる!俺にとっての、全身全霊の波紋を――――!


「このまま貴様の全身を波紋で―――――ッ!!!!」









「いいや…………貴様の、負けだ……シーザー……ッ!」


51 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 03:00:29 Vu4cOo0Y0



――――ぐしゃりと、肉が抉られる音が響き渡る。

直後に溢れ出る水の如く、深紅の血液がシーザーの口から吐き出された。

唖然と口を開き、唐突に両目の焦点が合わなくなる。




館内の戦闘でシーザーが胴体に負った、輝彩滑刀による『裂傷』。
その傷口にカーズの左手が勢い良く抉り込まれていたのだ。




「フフ、フ……私の……勝ちだ………」

傷口から体内に侵入したカーズの左手。その指先がシーザーの心臓を掴む。
胴体の傷口からどくどくと血液を溢れさせる彼を、不敵な笑みを浮かべながら見据えていた。

彼は賭けに勝った。
波紋を叩き込まれた―――否、『わざと叩き込ませた』右腕は囮。
シーザーが接近し、波紋の打撃を放ってくる瞬間を狙ったのだ。
右腕に敢えて波紋を喰らわせ、シーザーが勝利を確信するであろう一瞬の隙を突いた。
言わば肉を切らせて骨を断つ。策士の彼らしからぬ乾坤一擲の勝負。
『夜明け』と『消耗』による危機を迎えていた彼は、敢えて博打に乗り出したのだ。


「あ、が……アッ…………」


傷口に手を抉り込まれ、血液で足下の地面を紅く染め上げるシーザー。
カーズと同様、彼の肉体も限界に近かった。
致命傷足り得る一撃により、波紋を練る力さえも奪われたのだ。
もはやシーザーの負けは決まったのだ。



―――勝利を確信し、『柱の男』は口の両端を吊り上げた。




「終わりだ、シーザー」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


52 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 03:01:04 Vu4cOo0Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


視界が霞む。
意識が遠くなる。
身体から、力が抜けていく。


「終わりだ、シーザー」


『敵』の声が耳に入る。
目の前に、柱の男がいる。人類の大敵がいる。
しかし、俺の身体はもう限界だった。


「う……あ……ァ……………」


屈辱に歯ぎしりをするも、もはやどうすることも出来ない。
子供の頃の記憶が。貧民街時代の記憶が。そして、波紋戦士としての記憶が。
今まで体験してきた出来事、脳裏を次々と過り始める。
走馬灯、という奴なのだろう。

父さんはこの俺を息子と知らなくても、自分の命を犠牲にして救ってくれた。
じいさんもJOJOの祖父ジョナサンのために、波紋の力を与えて死んでいったという。

なのに、俺は。
屍生人を前に手子摺らされ。
あの男にまんまと利用され。
そして―――死を目前にしながら、何も出来ずにいる。

俺は、父さんの仇を討つ事すら出来ずに。



このまま、死ぬのか?



駄目だ。こんな所で、俺は。
何もせず、無様な姿であの世に逝くなんて。
JOJOやリサリサ先生に顔向けが出来ない。
そんなのは、嫌だ。
俺は―――誇り高きツェペリ家の男だ。



「無駄だ。貴様の命は終わったのだ、シーザー・アントニオ・ツェペリ」



悪魔の囁く声が響き渡る。
まるで足掻き続けようとする自分を嘲笑うかのように。
波紋すら練れない今の俺には、どうしようも出来ない。
次第に諦観を抱き始めている自分がいた。





「………ツェペリ………の…………魂……………は…………………」





『帝王』に翻弄され続けた戦士は、掠れた言葉を漏らす。


そして―――直後に己の体内で心の臓が握り潰された。


己の無力を呪い、ただただ無念を抱き続け。


彼の闘いは、終わりを告げた。





【シーザー・アントニオ・ツェペリ@第2部 戦闘潮流】死亡




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


53 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 03:02:30 Vu4cOo0Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


紅魔館1階―――エントランスにて。



「WRRRYYYYYY!!!!」
「URYYEEEEEE!!!!」



恐竜化した拳とスタンドビジョンの拳が衝突する。
凄まじい勢いと衝撃によって地響きのような振動が発生し、互いに後方へと弾かれる。


「っ………はぁーッ……!」
「フフフ…大した実力じゃあないか。身体能力は我が『世界』に及ばないとはいえ、ここまで粘るとはな」


弾かれたディエゴは両足で辛うじて立ち、右肩を抑えながら呼吸を整える。
対するDIOは両腕を組み、余裕綽々の態度で言葉を紡いでいた。
万全の状態で戦っていたDIOに対し、ディエゴは疲弊した状態で邪悪の化身を相手にしているのだ。
カーズとの戦闘で体力を消耗しており、右肩には致命的な銃創を負っている。
幸い弾丸自体は貫通しているものの出血は未だに止まらない。
その上右腕を動かす度に傷口に苦痛が走り、思うように力を発揮出来ないのだ。

「『あの男』と死闘を繰り広げたばかりなのだろう?それでこれほどまでのスタンドパワーを発揮出来るとはな」

足下に転がり落ちた翼竜の死屍を踏みにじりながらDIOは言った。
右肩を抑える左の掌を血で滲ませ、ディエゴは歯軋りを続ける。
ディエゴとDIOの交戦はせいぜい数分程度のものだが、それだけでも互いの力量を感じ取ることが出来た。
故にディエゴは死闘を予想し、更にその身を構える。
しかし、DIOは組んでいた腕をゆっくりと下ろし始める―――


「おまけに声も顔も私とそっくりと来た…ますます君に興味が湧いてきた」


その言葉と共にDIOはスタンドを引っ込ませる。
唐突に構えを解いた彼にディエゴが一瞬呆気に取られるも、すぐに目を細めて睨み付ける。

「…ふざけているのか」
「巫山戯てなどいない。ただ私はこれ以上戦う必要がないと思っただけさ」

悠々とした笑みを浮かべるDIO。
ディエゴはそれを警戒するかの如く睨み続ける。
だが、現に目の前の男にこれ以上の戦意が無いことは読み取れた。
このまま勝ち逃げをされるのは屈辱の限り―――だが、ディエゴは自身の消耗が激しいことも悟っている。
故に戦闘の続行は厳しい。彼もまた構えを解かざるを得なかった。


「フフフ…飲み込みが早くて助かる。私は君の力を試してみたかったのだからね…」


そして、DIOは真っ直ぐにディエゴを見据える―――


「問おう。君の名は何と言う」
「………ディエゴ・ブランドー」


どこか不服げな態度で名を名乗ったディエゴ。
ククッと含むような笑みを零した直後、『帝王』は両腕を広げる。
支配者のような出で立ちを見せ、傲岸不遜な笑みと共に彼は言葉を紡いだ。




「我が名は『ディオ・ブランドー』――――さて、私と少々『話』をしてみないかね?」


54 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 03:02:59 Vu4cOo0Y0


【C-3 紅魔館 一階(エントランス)/早朝(放送間近)】
【DIO(ディオ・ブランドー)@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(微小)、体力消耗(小)
[装備]:なし
[道具]:大統領のハンカチ@第7部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、頂点に立つ。
1:ディエゴ・ブランドーと対話する。
2:永きに渡るジョースターとの因縁に決着を付ける。手段は選ばない。空条承太郎は必ず仕留める。
3:幻想郷及びその住民に強い興味。紅魔館で情報を探す。
4:古明地こいしとチルノを『天国』に加担させてみたい。素質が無いと判断すれば切り捨てる。
5:優秀なスタンド使いであるあの青年(ブチャラティ)に興味。
[備考]
※参戦時期はエジプト・カイロの街中で承太郎と対峙した直後です。
※停止時間は5秒前後です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※名簿上では「DIO(ディオ・ブランドー)」と表記されています。
※古明地こいし、チルノの経歴及び地霊殿や命蓮寺の住民、幻想郷について大まかに知りました。
※自分の未来、プッチの未来について知りました。ジョジョ第6部参加者に関する詳細な情報も知りました。
※主催者が時間に干渉する能力を持っている可能性があると推測しています。

【ディエゴ・ブランドー@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(大)、首筋に裂傷(微小)、右肩に銃創(出血中)
[装備]:なし
[道具]:幻想郷縁起@東方求聞史紀、通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、ミツバチの巣箱@現実(ミツバチ残り70%)、
    スロー・ダンサー@ジョジョ第7部(現在恐竜化して大統領に派遣中)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。過程や方法などどうでもいい。
1:ディオ・ブランドーと対話する?
2:同盟者である大統領を利用する。利用価値が無くなれば隙を突いて殺害。
3:主催者達の価値を見定める。場合によっては大統領を出し抜いて優勝するのもアリかもしれない。
4:紅魔館で篭城しながら恐竜を使い、会場中の情報を入手する。大統領にも随時伝えていく。
5:レミリア・スカーレットには警戒しておこう
6:ジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。
[備考]
※参戦時期はヴァレンタインと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※主催者は幻想郷と何らかの関わりがあるのではないかと推測しています。
※幻想郷縁起を読み、幻想郷及び妖怪の情報を知りました。参加者であろう妖怪らについてどこまで詳細に認識しているかは未定です。
※この時間より、ディエゴの翼竜が会場全体の情報偵察に飛び立ちました。特に紅魔館周辺の警備は厳重です。

○『ディエゴの恐竜』について
ディエゴは数十匹のミツバチを小型の翼竜に変化させ、紅魔館から会場全体に飛ばしています。
会場に居る人物の動向等を覗き、ディエゴ本体の所まで戻って主人に伝えます。
また、小さくて重量が軽い支給品が落ちていた場合、その回収の命令も受けています。
この小型恐竜に射程距離の制限はありませんが、攻撃能力も殆ど無く、相手を感染させる能力もありません。
ディエゴ自身が傷を付けて感染化させる事は出来ますが、ディエゴが近くに居ないと恐竜化が始まりません。
ディエゴ本体が死亡または意識不明になれば全ての恐竜化は解除されます。
また、『死体』は恐竜化出来ません。
参加者を恐竜化した場合、傷が小さい程ディエゴの消耗次第で解除される可能性が増します。
それ以外に恐竜化に関する制限が課せられているかは不明です。


55 : OOO-オーズ- ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 03:03:29 Vu4cOo0Y0


その身から少しずつ血を流しながら、敗残兵は覚束無い脚を動かす。
悪魔の館―――紅魔館から逃げるように、男は何とか歩き続ける。


(…やれやれ、とんだ失態だ)


霧の湖の側、バンダナを巻いた金髪の青年が紅魔館へと一瞬振り返りつつ息をつく。
その姿はまさしく波紋戦士『シーザー・アントニオ・ツェペリ』のものだ。
恐竜としての痕跡は一切存在しない、まさしく人間としての姿を保っている。
しかし、もはやシーザーという男の意識は存在しない。

(まさか奴ら一族の『死体』を使うことになるとは…)

シーザーの肉体を支配していたのは柱の男『カーズ』。
彼はシーザーの死体の中へと入り込み、かりそめの肉体として支配していたのだ。

カーズは紅魔館を調査し、あわよくば拠点として利用することを考えていた。
しかしその目論みはあの恐竜の男、そして新手の男によって阻まれ、敗走する羽目になった。
かろうじてシーザーの肉体を手に入れることで日光を避ける術を手に入れたものの、波紋による手傷は無視出来ない。
波紋による重傷を負った自らの左腕も切り落とした。重傷を通じて波紋が伝達し、胴体や頭部にまで達することを避ける為だ。
その上シーザーの肉体の損傷も激しい。故に次の夜まで傷を癒すべく近場の施設へと移動を開始したのだ。

(今は兎に角、日光を避けられる施設を探さねば…この肉体とて何時まで保つか解らん)

荒い息を何度か吐きながら、波紋戦士の皮を被った柱の男は歩を進める。
歩き続ける中でカーズは夜明けを迎え始めた空へと目を向ける。
徐々に光が灯り始めた暁の空は、どこか眩ゆく感じられた。


【C-3 霧の湖付近/早朝(放送間近)】
【カーズ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(中)、体力消耗(大)、左腕欠損、胴体・両足に波紋傷複数(中)、全身打撲(大)、シーザーの死体に侵入
[装備]:シーザーの死体(心臓欠損、胴体に大きな裂傷二つ、出血中)、狙撃銃の予備弾薬(5発)
[道具]:基本支給品×3
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。最終的に荒木と太田を始末。
1:ジョースター邸か廃洋館に移動。体勢を立て直す。
2:どんな手を使ってでも勝ち残る。
3:この空間及び主催者に関しての情報を集める。そのために、夢美とパチュリーはしばらく泳がせておく。
  時期が来たら、パチュリーの持っているであろうメモを『回収』する。
[備考]
※参戦時期はワムウが風になった直後です。
※ナズーリンとタルカスのデイパックはカーズに回収されました。
※死んだ筈のシーザーを目の当たりにした為、ワムウとエシディシの生存を確信しています。
※シーザーの死体の体内に侵入し肉体を乗っ取っています。
 日中でも行動出来ますが損傷と失血が激しく、長時間の使用は不可能でしょう。


56 : ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 03:05:18 Vu4cOo0Y0
投下終了です。
長期に渡る予約の拘束、申し訳ありませんでした。


57 : 名無しさん :2014/05/12(月) 09:27:32 vZW.dXdI0
シィィザーーァァァッ**
こんなこと…残酷すぎるわぁ!

DIOが大統領のハンカチを持っていることがDIOと大統領が出会った時の関係がどうなるか楽しみ


58 : 名無しさん :2014/05/12(月) 12:33:12 EiSn/hzwO
投下乙です。

カーズが失ったのは、右腕ではないでしょうか?

シーザーが不憫。
今度は日傘代わりかよ。


59 : 名無しさん :2014/05/12(月) 12:42:57 PrJT0gxA0
投下乙です

カーズとディエゴどちらに軍配が上がるか先が気になる展開だったけど、DIOが良いところ持っていったか…
カーズ無視して勧誘までしてるしww ていうか肉体に入り込めば日光気にせず行動できたのか、盲点だった


60 : ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 12:52:06 hSfhFNm60
>>58
ミスのご指摘ありがとうございます。
カーズの状態は「右腕欠損」の誤りでした。
恐縮ながらwiki収録時に修正をお願いします、申し訳ございません…


61 : 名無しさん :2014/05/12(月) 17:37:19 td/.VY0c0
シィィィィィィザァァアァァアアアア!!!!!!


投下乙です

シーザー…最後までカッコ良かったぜ…
波紋戦士の誇りは失わずに済んだ…が、やはりカーズは強かったか…
そろそろ放送にいけるかな


62 : 名無しさん :2014/05/12(月) 18:04:53 t3J2BRgE0
投下乙です

シーザーが恐竜化から意識を取り戻すシーンが印象深いですね
二部勢最初の脱落者はシーザーだったか…


63 : 名無しさん :2014/05/12(月) 18:38:58 s8SY4Kcg0
そういえばパリュリー、嘘がわかるんだったら康一の『クラスメイトに同じ名前の人がいる』も嘘ってわかるんじゃない?


64 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/12(月) 19:54:14 td/.VY0c0
>>63
康一の発言も含め、パリュリーは藁の要塞メンバーの内何名かの小さな『嘘』の気に
何となく感付いてはいます(特ににとりに対しては完全に疑っています)。
康一に関しては大きく信頼し始めているため大して気にしていませんが、
その後の夢美との会話で「きな臭いわね」と言っているように、全体の雰囲気に少しずつ違和感を感じ続けているようです。

因みに説明がくどくなりそうなので作中では削っていますが、支給品を見せ合っているわけではないのでぬえの「自分の支給品はメス」という嘘には気付かず、
また吉良の正体にも今のところ気付いておりません。
これは「吉良は15年以上もの間正体を隠し続けていることで、今更嘘の雰囲気など漏らさないから」という理由です。
自分の正体に関してはパチュリーにも気取らせることは無い…という設定です。


65 : 名無しさん :2014/05/12(月) 21:06:09 3yxxd5ZY0
オリ設定を入れるときはある程度基準作っとかないと駄目ですね
今回のパリュリーの件は特に


66 : ◆n4C8df9rq6 :2014/05/12(月) 21:51:08 Vu4cOo0Y0
うーん、その辺は別にアバウトでいいんじゃないでしょうか。
投下作品に原作と乖離し過ぎたオリ設定が出てきたらそもそも通らないでしょうし、
今まで通り「ツッコミ所があったら投下後に指摘」くらいの緩いノリでいいと思います。


67 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/12(月) 23:59:59 PrJT0gxA0
博麗霊夢、空条承太郎、フー・ファイターズ、ファニー・ヴァレンタイン、火焔猫燐
5名を予約します。


68 : ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:07:39 .Yjmq2wI0
ホル・ホース、ディアボロ、サンタナ
上記の3名でゲリラ投下します。


69 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:08:42 .Yjmq2wI0
 時刻は早朝へと進み、薄暗い魔法の森の中にも朝日が差し込み始めていた。

 そんな木漏れ日の下を一人の少年が歩いている。
 その視線は前方にも足元にも向いておらず、何もない中空を漂っている。
 足取りは酔ってでもいるかのように胡乱だった。

 その少年の名は、名簿の上ではディアボロと記載されている。
 しかし、現在の姿でならばヴィネガー・ドッピオと呼ばれるべきなのか。
 ともかく、彼は鈴仙・優曇華院・因幡との戦いに遅れを取った後、こうして魔法の森まで敗走を続けてきたのだった。

 ドッピオは、ふらふらと倒れそうな歩みの最中、そこらに落ちている小枝を拾い、耳元に近づける。
「ツー……ツー……ツー……」
 そして、それまで以上にどこも見ていない虚ろな表情で微かに呟く。

 そのまま少しの時間が経ち、急に正気に返ったように手に持った枝を忌々しげに睨みつけて放り出した。


 そのドッピオの後方十数メートル、もう一人の敗北者が木の影に身を潜めながらピッタリと後を付けてきていた。

 テンガロンハットを被ったガンマン風の男だ。
 寅丸星のハイウェイスターに敗北し、幽谷響子を見捨てて逃げる形になったホルホースだった。
 
 ホル・ホースがドッピオを発見したのは数分前に遡る。

 鉄塔からの撤退戦の後、ハイウェイスターの追跡が無いことに気づき、一息ついたのもつかの間。
 出食わすような形で、突然ドッピオが通り過ぎるように視界の奥に姿を見せたのだ。

 驚いたホル・ホースが慌てて姿を隠すも、もう一方のドッピオはその存在に気づかない。
 冒頭のように宙に視線を彷徨わせていたのが原因か、あるいはそれなりに距離があったのも幸いしたのかもしれない。

 ともあれ、こうしてホル・ホースはドッピオを発見した。

 一見すると、隙だらけなドッピオの風体は、あっさりと忍び寄れそうである。
 しかし、ホル・ホースは、近づかずに遠くから観察するに留めていた。

「チッ……らしくねーな。
 弱気になっちまってるぜ……」

 不意に、ホル・ホースの口から自虐めいた言葉が漏れる。
 その言葉通り、その行動は、慎重というよりは臆病、とても攻撃的な行動に出られる精神状態から来ているのだった。

 ホル・ホースは負けて逃げる事を恥と思うような感性はしていない。
 しかし、響子を、少女を見捨てて逃げたことで、精神に拭いがたい傷のようなものが出来てしまっているのだ。

 まあ、しかし、遠くから様子をうかがうことで見えてくることもある。
 どうもあの少年は殺し合いで精神がイカれてしまったというよりは、何かの攻撃の後遺症であんなフラフラになっているようだった。
 時折、焦点があったように辺りを見回しなどしているが、その時の様子は年格好に不相応な鋭さというか、場馴れした感じが見受けられるのだ。


70 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:09:03 .Yjmq2wI0

「だが、『鉄塔』の方に向かわねえんなら、オレには関係ないな」

 コンパスを見る限りはドッピオは北へと進んでいる。
 その危なっかしい動きを見送りつつ、ホル・ホースは呟いた。

 なにせ、今のホル・ホースには考えることが無数にあるのだ。
 何より自身が生き残ることを考えなければならない。
 その上で、聖白蓮も探さないといけないし、鉄塔の二人組にもカタを付けなければならないのだから。

 やがて、魔法の森の道無き道の、複雑に木の根が密集した箇所にドッピオの足が向いた。
 すっ転ぶ。そうホル・ホースは確信する。
 そうして、コンパスに目を落とし、東の方角に向き直った。
 追い打ちを掛ける気もないが、手を貸してやる義理もなかった。

「ム!?」

 が、その視界の端には、予想に反しドッピオが難なく根の上を越えていくのが辛うじて映った。

 直前で足元に注意したという感じではない。
 その視線は、なおも宙を彷徨っているままだ。
 どちらかと言えば、偶然か幸運が働いたように見える。

 ホル・ホースは思わず振り返り、改めてドッピオに注目する。
 その様子は相変わらず酔っ払いか何かのように見える。
 しかし、今の一事を見た後だと、別の事実も見えてくる。

 そう、改めて見るとドッピオの姿には汚れが少ない。
 少しばかり薄汚れているが、泥だとか草や葉はへばりついていない。
 つまりは、あの歩き方で、この原生林のような森の中で、一度も転倒していないことになるのだ。
 少なくともホル・ホースが見つけるより前から、この魔法の森を歩いていたはずなのにだ。

 ホル・ホースは俄然興味をひかれて、再びその後を追い始める。
 
 そして、後を追ううちに更に奇妙なことに気がついた。
 先に進んだドッピオを追おうとするのが、思いの外難しいのだ。
 より正確に言うならば、例えば一瞬その姿を見失った時などに、再び見つけるのが困難なのだった。
 移動している方角がわかっているため、すぐに追いつくことはできるが、その足跡が極端に残っていないために一瞬面食らってしまうのだ。

 ホル・ホースとて先の逃走時はともかく、追跡中である今は隠密性にはそれなりに気を使っている。
 枝を踏み折って音を立てるなど論外だし、草だのキノコだの目につきやすい箇所に跡を残さず移動をする程度の事はしている。

 だが、それと比較しても、目の前の少年の足跡の無さは一種異常だった。
 地面に落ちた落ち葉一つ踏まず、土の柔い部分に靴の跡を残すこともしていない。
 まるで、追跡不可能な正解の道がわかっているかのような軌跡だった。
 しかも、そのことを本人は意識していないかのような様子なのだ。


71 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:09:19 .Yjmq2wI0

「コイツは……使えるかもしれねえ」
 
 思わず、ホル・ホースの口から言葉が漏れる。
 才能のある相棒を見つけるのに長けた、二番手のとしての勘が冴え渡り始めていた。
 順序は予定と食い違ってしまうが、鉄塔の二人組に対抗するだけの戦力が手に入るかもしれない。
 ホル・ホースは息を呑んだ。

 時折見せる狂態が若干気にならないでもない。
 能力の方も実際のところはどのようなものなのかは全くに近くわかっていない。
 それでも、ホル・ホースは自分の直感に疑いを持つことなく、視界の奥に映るドッピオを有望株として認識した。

 そうなると、どうやって話をつけるかだが、とホル・ホースは少し考える。
 このまま距離をそっと詰め、メギャンと『皇帝』を突き付けてイニシアチブを取る。

 まずはそう思いつくも、すぐにその案を却下する。
 シュトロハイムの時に、モロにその行動をして失敗したのを思い出しのだ。
 また、相手の少年の妙な幸運らしきものを鑑みると、悪手になる予感がヒシヒシとする。
 
 ならば、いっその事、下手に出てしまって、コンビを組むことを優先するのも良いかもしれない。
 相手がドッピオ程度の少年だろうが、それ以上に子供だろうが、ホル・ホースは相棒として組むのならば頭を下げることも何ら恥とは思わない。
 『一番よりNo.2!』、その人生哲学は伊達ではないのだ。

 ホル・ホースは小さく頷いた。
 そこから後は、なんとか口八丁で鉄塔に向かわせるのだ。
 
 そうと決まれば行くだけだ。


72 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:09:38 .Yjmq2wI0

 そう、行くだけなのだが、ホル・ホースの足は一向に動かない。


「なんだ? オレはまだビビっちまってるってのか?」
 ホル・ホースが意に反して動こうとしない身体に苛立ちを募らせる。
 勝てる算段が付いてきたというのに何てザマだと、自らを叱咤する。

 だが、実のところ、それは今までの弱気とは少し様相が違う。
 勝てるかもというのが、わずかでも現実に近づいたからこそ、ホル・ホースはドッピオの方に向かいたくないのだ。
 正確に言うならば鉄塔に向かいたくなくなったのだ。
 
 世界一女には優しい男を自認する彼は、鉄塔の二人に『皇帝』を撃ちこむ事に尻込みを始めているのだった。 
 しかし、その一方で、響子のことを思い出せば、ケジメが必要だという考えも当然のように心を満たしてくる。
 そのジレンマに、ホル・ホースは身悶えする。

「チクショウ、行くも地獄に引くも地獄かよ」

 そうやって悩んでいるホル・ホースを他所に、ドッピオの姿はどんどん小さくなっていってしまう。
 ホル・ホースとて、ドッピオのことを抜きにしても決断の必要性は感じているのだが、どうしても踏ん切りが付かない。

「あーあ、響子の嬢ちゃんが復讐なんて望んでないって言い切れ、れ……」
 逃避のように、都合のいい展開を口に出しかけて、ホル・ホースは言葉に詰まった。
 その表情は忘れていた傷口を爪で引っ掻いてしまったようなものに変わっている。

 断末魔を聞きたくなかった。
 犬っころみたいに懐いてきた響子の最期の言葉が、彼女を見捨てて逃げる自分への恨み事だったらとても耐えられないと思った。

「……だから、せっかく耳まで塞いで走ったってのによお。
 あんな馬鹿でかい声で叫ばれたら嫌でも聞こえちまうじゃねえか」

 幸いにも、その内容はホル・ホースを罵るものではなかった。
 むしろ微笑ましいと言ってもいい、お人好しな内容だった。
 しかし、同時に、叶えるにはリスクの大きすぎる無理難題でもあったのだ。

 だから、意識か無意識か、聞かなかったことにした、聞こえなかったことにした。

 そのはずだったのだが、伸るか反るかの進退が窮まった事で、第三の選択肢としてそれは浮かび上がってきてしまった。
 ホル・ホースは、響子のもう一つの最期の願いである、『寅丸星を正気に戻す』を意識せざるを得なくなってしまったのだ。

 そう、あるいはその選択肢は、最も自分にあっているかもしれないとホル・ホースは考えた。
 まずは女性に優しい男という、今までの自分のやり方を変えずに済む。
 そして、響子の復讐についても、何もその手段に拘らずとも響子の遺志を叶えることで何がしかの納得を得られそうに思える。
 そう、何も問題はない。
 ホル・ホースにとって最重要である自身の命を顧みなければ、という但し書きが付くことを除けばだが。


73 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:10:16 .Yjmq2wI0

「……やっぱり、おれには無理だぜ、嬢ちゃんよお」

 寅丸星のハイウェイスターを思い出し、ホル・ホースは瞑目して呻く。
 単純な相手の強さ以上に、お互いのスタンド性能の食い合せがマズすぎるとホル・ホースは感じていた。

 ホル・ホースの『皇帝』は拳銃型のスタンド、攻撃は達者だが、防御に関しては無いも同然だ。
 そして、相手は見た限りでは自動操縦型のスタンドだった。
 その行動ルーチンに本体の防衛が入ってでもいない限り、防御は同じくザル同然だろう。

 となると、行き着く先はお互いノーガードでの潰し合いか。
 殺し合いなら上等な組み合わせだが、説得だとか話し合いとなると途端に背筋が凍るような組み合わせに変わる。

 ホル・ホースは帽子を抑えて首を振った。
 やはり賢い行いは、追跡中の少年をだまくらかして鉄塔組との決着を付けてしまうことだった。
 あるいは性に合わない復讐は投げ捨てて、この少年を生き残りへの布石のすることに違いなかった。

「だいたいよお、貸し借りは聖とやらへの伝言と、今までのお守りでチャラだぜ」
 苦々しげにそう言い放った。
 そうして自分を納得させようとした。

 しかし、山彦が、幽谷響が耳から消えない。
 あの爆音じみた叫び声は遮断したというのに、塞いだ耳と手の隙間から幽かに染み込んだ声がいつまでも耳に残り続ける。
 あるいは、かの芭蕉の名歌のごとく、染み入るからこそ強烈に印象に残ってしまったのか。

 歯ぎしりさえしながら、ホル・ホースは煩悶した。
 何を置いても生き残りたいというのは、偽りのない彼の望みだ。
 だが、その一方で、暗い感情にケリを付けたいという気持ちもある。
 自分らしく生きたいという思いも捨て去ることが出来ない。

 そうして、暫くの時間が過ぎた。

「……ああ、クソ。忘れてたぜ。
 そういや、ターミネーターからも助けてもらってたなあ」

 グルグルとあらゆる考えが頭を巡る中、不意に幽谷響子との出会いを思い出し、諦めたようにホル・ホースが呟いた。
 いかにも、嫌々やってやる、といった感じだった。
 だが、内容とは裏腹に、彼の表情はどこか晴れやかだ。
 
 自問を終えて目を開けて見れば、ドッピオの姿は既にない。
 追跡中に感じたとおり、もはや見つけるのは不可能だろうか。

「あばよ、ナンバーワン。
 ま、縁がなかったな」

 しかし、ホル・ホースは、未練もないとばかりに、ドッピオの進んでいた方角にひと声をかけて、踵を返す。

 この道を進むと決めた以上、余程の物好きか、お人好し以外は付いて来ないだろうし、逆に来てもらっても困る。
 根拠の無い印象だけとはいえ、どことなく剣呑な雰囲気を漂わせた先ほどの少年は残念ながら不適格だった。

 こうしてホル・ホースは10分に届くかどうかの、ドッピオの追跡を切り上げて、命蓮寺への道程へと戻っていった。


74 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:10:48 .Yjmq2wI0


「……しかし、やると決めた所でやっぱり『オレには』無理だぜ」

 能力の相性は先ほど考察した通りで、やはり説得には最悪だろう。
 そして、それ以上に厄介なのは、相手は知り合い以上の仲間であったであろう響子を、躊躇なく殺害するほどの覚悟を固めている事だった。
 見ず知らずのホル・ホースがどうこう説教をくれた所で馬の耳に念仏だろう。

「となると……聖白蓮だな」

 森の先に草地が見えてきた所でホル・ホースは口に出してそう呟いた。
 他にも色々と候補はいるが、やはり寅丸星を説得するとなると、聖白蓮が最有力だろう。
 
「ひひ、なんのこっちゃねえ。
 詫びを入れた後に、やることが一つ増えただけじゃあねえか」

 そして、いつもの調子を取り戻したようにそう続ける。

 ホル・ホースにも、自分が賢明とはいえない選択をしていることへの自覚は十分にある。
 だが、それでも、復讐といって女に銃弾を叩き込むことや、少女の最期の願いを無碍にすることよりは、余程自分らしい行動だと感じられた。

「コイツが丸く収まりゃよお、嬢ちゃんの望みは叶えられる。
 聖とやらにも恩が売れる。寅丸ちゃんにも巨大な貸イチだ」

 森を抜けて急速に広がる視界の中、不安を紛らわすようにして皮算用を口に出す。

「そんでもって、オレの流儀もついでに守れる。
 一石……おいおい四鳥かよ。コイツは気合い入れねえとな」

 そうして、精一杯の虚勢でもってニヒヒヒと軽薄に笑い、ホル・ホースは命蓮寺を目指して脇目もふらずに走りだすのだった。


【D-4 草原/早朝】
【ホル・ホース@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:顔面強打、鼻骨折、顔面骨折、胴体に打撲(小)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(確認済み)、基本支給品×2(一つは響子のもの)、スレッジハンマー(エニグマの紙に戻してある)
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく生き残る。
1:響子を死なせたことを後悔。 最期の望みを叶えることでケリをつける。
2:響子の望み通り白蓮を探して謝る。協力して寅丸星を正気に戻す。
3:あのイカレたターミネーターみてーな軍人(シュトロハイム)とは二度と会いたくねー。
4:死なないように立ち回る。
5:誰かを殺すとしても直接戦闘は極力避ける。漁父の利か暗殺を狙う。
6:使えるものは何でも利用するが、女を傷つけるのは主義に反する。とはいえ、場合によってはやむを得ない…か?
7:DIOとの接触は出来れば避けたいが、確実な勝機があれば隙を突いて殺したい。
8:あのガキ(ドッピオ)は使えそうだったが……ま、縁がなかったな
[備考]
※参戦時期はDIOの暗殺を目論み背後から引き金を引いた直後です。
※響子から支給品を預かっていました。
※現在命蓮寺の方向へ走っています。
※白蓮の容姿に関して、響子から聞いた程度の知識しかありません。


75 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:11:18 .Yjmq2wI0
=======================================================================
 一方、ドッピオの側はホル・ホースが立ち去ったことにも、そもそも後ろに張り付かれていたことすら気付かずに歩を進めていた。
 彼の中空に漂わせた視線の先、エピタフの予知にホル・ホースが登場しなかったためだ。

 エピタフは確かに自身の周囲で起こることは完全に予知する。
 平衡感覚にダメージを受けているドッピオが、原生林に近い様相の魔法の森で大過なく行動できるのは、これの恩恵が非常に大きい。

 しかし、一方でエピタフのみに集中する余り、その予知範囲の外の事象に対する注意が些か散漫になっているのも確かだった。
 それ故、特に出会い頭では気付けたかもしれなかったホル・ホースとの接触を逃してしまったのだ。

 ともあれ、そんなことは露も知らないドッピオの感心事は、一向に改善しない自らの体調だった。

 エピタフに精神力と集中力のかなりの部分を割いていることが問題なのだろうか。
 頭痛と平衡感覚の失調を押して歩き続けていることが原因なのか。
 ともかく、いずれにしろ休息が必要なのだとドッピオは文字通り痛感している。

 『兎耳の女』も、ひとまずは振りきったように見えるし、頃合いなのは確かだった。
 しかし、安全のためには出来るだけ距離を取りたいのも、また一方としてある。
 そうして、明確なきっかけを掴めないまま、ドッピオは惰性のように逃げ続けていた。


 と、そこで、森を進むドッピオを映すだけだったエピタフに変化が現れた。

 そこには、『ハッとしたような素振りを見せて、たたらを踏みながら木の影に隠れるドッピオ』が映っていた。
 それを見たドッピオは、ハッとしたような素振りを見せて、たたらを踏みながら木の影に隠れる。

 そして、隠れた木の影からコッソリと顔をのぞかせて、その先を見る。
 そうすると、視界の先に、バリバリと低木の枝を破壊しながら、倒れこむように獣道に飛び出してくる男の姿が入った。

 その男は腰巻き一丁の半裸という異様な風体だった。
 そして、その風体故に、遠目からでも全身に負った傷が見て取れた。

 そいつはブチャラティとレミリアによって撃退された、サンタナと呼ばれる人外の存在だった。

 呆気にとられるドッピオを他所にして、サンタナは真っ直ぐに彼の隠れた方角へと向かってくる。
 もっとも、早くに身を隠したドッピオに気付いているわけでもないようで、その歩みはゆっくりとしたものだ。
 それどころか、負傷のためか、ここまでのドッピオと同じか、それ以上にフラフラとした足取りだった。

「く……ともかくエピタフの予知だ」
 
 気を取り直したドッピオは慌ててエピタフを確認するも、予知の中の彼は『小さく毒づきながら、エピタフとサンタナを忙しなく見比べている』。

「クソッ!?」
 ここに来て使えない予知だ、そう毒づいて、ドッピオはどちらも見逃せぬと、エピタフとサンタナを交互に見比べる。
 
 しかし、ドッピオの努力を他所に、サンタナはそのままゆっくりと、だが確実に近づいてくる。

「せっかく隠れたのに見つかっちまうじゃあねえかッ!?
 予知は! 予知は出ないのか!?」

 小さく叫びながら、ドッピオの瞳がギョロリと裏返る。
 焦りで生来のキレやすさが顔を覗かせ、ベルギーワッフルのようなスタンドの腕が姿を表し始めていた。


76 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:11:39 .Yjmq2wI0


 その時、エピタフの映像に変化が現れた。

『エピタフから目を切って、サンタナに注目するドッピオ。
 突如として叫び声を上げて倒れるサンタナ。
 奇怪な動きでその姿はエピタフの予知の範囲から消える』

 不気味な予知に、思わずドッピオはエピタフから目を切ってサンタナの動きに集中する。
 ゆっくりと歩み寄るサンタナだが、不意に風に揺られた木々の隙間から漏れた朝日がその脚に当たった。

「KAAAAAAAA!!」

 その瞬間、サンタナは尋常ならざる叫びを上げて、地面に倒れ込む。
 光に触れた脚は灰色に変色していた。
 そして、瞬く間にその姿は、日の当たらない低木の茂みの中へと、這いずって消えた。

「な、んだ、アイツは……?」
 
 半ば予知で見た光景とはいえ、実際に目の当たりにすると衝撃もひとしおだった。
 毒気を抜かれたようにドッピオは呆然とサンタナの消えた茂みを眺める。

 見間違いでなければ、太陽に当たったヤツの脚は、変色というよりは石のようになっていなかっただろうか。
 茂みに逃げこむ時の動きも、匍匐前進というよりは、蛇か何かが這って移動する様を連想させる、人間離れした動きだった。

「まさか、こんな化け物までいるなんて……」
 
 ゾッとした、そんな表情でドッピオが思わず弱音を吐く。
 相手がスタンドなら、いくら奇怪な能力だろうが物ともしない心構えはあったが、こんな生物が来るというのは予想外だったらしい。

「……だが」 
 
 相手は僅かな接触でドッピオの心胆を寒からしめた化け物ではあるが、冷静になって見てみれば手負いだ。
 それも、ベストとはとても言えない状態のドッピオから見ても、死にかけとさえ言えるほどのだ。
 更に加えれば、こちらが一方的に相手を補足している状況、奇襲は好き放題にかけられる。
 太陽が弱点らしいことまで何となく察知できてしまった。

 ボスを待つことなく始末できる、何度か状況を整理した後、ドッピオはそう結論づけた。

 ドッピオは現在位置とは別に、自らの隠れ場所を探した。
 サンタナから確実に姿を隠すことができ、なおかつエピタフの有効範囲に相手を入れられる場所を吟味した。
 そして、発見した場所に慎重に歩を進める。

 戦闘の側にスイッチが入ったためか、平衡感覚の喪失は幾分かマシに感じられる。
 エピタフにも異常はなく、実際その通りに何事も無く、目標の地点へと到達が出来た。

「フン、これで、コイツも終わりだな……」

 このまま不意を打てば、ボスから借り受けているキング・クリムゾンでまず間違いなく始末できるであろう。
 安全策にこだわるのなら、少しばかり森林破壊に勤しんでやれば、太陽に弱いらしいコイツはそれで詰みだ。
 ドッピオは静かにほくそ笑む。


77 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:12:06 .Yjmq2wI0

 後は実作業に入るだけ、そこまで状況を運び、念のためとばかりにエピタフを確認する。

 しかし、そこには『攻撃には移らず、何かを考えこんでいるドッピオ』が映っていた。

 ドッピオは意外な予知に面食らうも、何か漏れていることがあるのかと思い直す。
 そうして、攻撃には移らず、考え込み始める。
 
 思い返してみれば、最初があまりにも不気味な印象だったためか、この相手を大した理由もなくブチ殺す流れになっている。
 だが、この怪人を倒した所で自分に何の得があるのだろうか、ドッピオの脳内にそんな疑問がヒシヒシと湧いてきた。

 まずは、確実な安全が手に入ることだろう。
 ごく当たり前の結論が一つ浮かぶ。
 あとはチラリと見えたが、この怪人は剣のようなものを佩いていたよう思える。
 途中で壊れなければ、それが手に入るぐらいか。

 そして、その二つで終わりだった。
 他には実入りがない。
 逆に消耗は避けられないだろうし、ヘタをすると余計な負傷さえしかねない。

 殺し合いが始まった当初のディアボロとドッピオならば、この条件でも躊躇なく相手を殺しに行っただろう。
 だが、今は当時とはあまりに状況が変わりすぎている。
 ボスは依然として通話中--気絶中--であり、その代行を任されたドッピオにしても状態は万全とは程遠い。
 更には兎女からはマトにかけられている、かなりの危機的状況だ。

 負けは絶対にないにしろ、余計な消耗が避けられないこの行動は本当に必要なのか。
 思わずドッピオは頭を抱えた。

「……どうせならあの兎とでも潰し合ってくれればいいモノを」

 ドッピオは小さく口に出して毒づいた。
 そして、意図せずに出たその言葉を、何度か頭のなかで反芻する。
 今からでもそのようには出来ないだろうか、そう考えた。

 出来れば件の『兎耳の女』が望ましいが、そうでなくとも誰か他の敵に、この茂みに潜んだ化け物をぶつける。
 そうして、自分は逃げ去るなり、漁夫の利を頂くなりする。
 奇しくもドッピオの身を隠している木陰は、サンタナからだけでなく他の地点からも見つかりにくい位置にある。
 条件はそれほど悪くないとドッピオは考える。
 更に言うなら身体を休めるにもいい状況だ。
 
 リスクはもちろんある。
 三つ巴の膠着状況を招きかねないし、最悪袋叩きにされる可能性も無いとはいえない。
 しかし、ボスからキング・クリムゾンとエピタフを借り受けている自分ならば問題なく遂行可能だ、ドッピオはそう判断した。
 特に『時間を飛ばす』のは、混乱の中から自分だけ抜け出るのにはうってつけだった。


78 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:12:35 .Yjmq2wI0

 いつしかドッピオの意思は、そのアイデアに傾き始めていた。

「……ボス、見ていて下さい。
 あの『兎耳の女』も、この『化け物』も、あなたの絶頂を邪魔をするゴミは、全て始末してみせます」

 少しの間考え込んだ後、やがて決心したようにドッピオは宣言する。
 続いて足元の落葉を一枚拾い上げ、耳へと近づける。

 そして、いつかと同じように、この世ならざる何かを見ながらにして、呟く。
「ツー、ツー、ツー……」

 暫しの後、異様な無表情から、落胆へと表情を変えたドッピオは寂しげに口を尖らせた。
 そして、クシャクシャに握りつぶした落葉を、サンタナの隠れる茂みの上へと投げつけるのだった。

 
 こうして、ドッピオは安全のためにサンタナを始末することを取りやめ、危険を承知でその存在を利用する方向に舵を切り出した。
 リターンのためには多くのリスクを取ることも厭わない、ドッピオとしての性質が露わになっていた。
 そして、時には行き過ぎるそれを諌めるはずのディアボロの人格は、未だ意識を取り戻していない。

 この行動が吉と出るのか、凶と出るのか、それはまだ誰にもわからなかった。


【D-4 魔法の森/早朝】
【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風】
[状態]:首に小さな切り傷、体力消費(大)、ドッピオの人格で行動中、
   ディアボロの人格が気絶中、酷い頭痛と平衡感覚の不調
[装備]:なし(原作でローマに到着した際のドッピオの服装)
[道具]:基本支給品×2、壁抜けののみ、鉄筋(残量90%)
   不明支給品×0〜1(古明地さとりに支給されたもの。ジョジョ・東方に登場する物品の可能性あり。確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を皆殺しにして優勝し、帝王の座に返り咲く。
1:『ボス』が帰ってくるまで、何としても生き残る。それまで無理はしない。
2:新手と共に逃げた古明地さとりを探し出し、この手で殺す。でも無理はしない。
3:『兎耳の女』は、いずれ必ず始末する。でも無理そうなら避ける。
4:側に寄って来る相手と『茂みの中の化け物』をぶつける。
[備考]
※第5部終了時点からの参加。ただし、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力の影響は取り除かれています。
※能力制限:『キング・クリムゾン』で時間を吹き飛ばす時、原作より多く体力を消耗します。
※ルナティックレッドアイズのダメージにより、ディアボロの人格が気絶しました。
 ドッピオの人格で行動中も、酷い頭痛と平衡感覚の不調があります。時間により徐々に回復します。
 回復の速度は後の書き手さんにお任せします。


79 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:13:09 .Yjmq2wI0
=======================================================================

「KUAAAA!太陽、が……!」

 魔法の森の湿度の高さと日の差し込まぬロケーションが組み合わさり、茂みの中は酷く泥濘んでいた。
 その中で、サンタナは満身創痍の身体を泥と屈辱に塗れさせて唸る。
 不覚にも太陽光を浴びてしまった脚は、その表面を石へと変えていて、すぐには動かせそうもなかった。

「………吸血鬼………人間、ごとき………がッ……!」

 それまでの虚無感とは変わり、サンタナの顔には小さな怒りが貼り付いていた。
 ろくな隠れ場所を見つけられず、こうして地べたを這いずることになったのも怒りの原因だが、それはむしろオマケにすぎない。

 サンタナにとって、同族の3人に見下されるのには諦めのような慣れがあった。
 カーズやエシディシといった年長者に、能力や経験といった点において遠く及ばないことは、その長い人生の中で嫌というほど味わってきた。
 同年代のワムウも、戦いの才においてサンタナをはるかに凌駕するのは明白だ。
 だから、諦めが付いた。

 そして、ここに来る前の最後の記憶、メキシコでジョセフ・ジョースターにしてやられたこと。
 波紋戦士に敗れることも、業腹ではあるがまだ仕方ないと自分を納得させられる。
 同族達にそのように判断されたからこそ、自分は置き去りにされたのだ。
 ジョセフに、波紋の使い手に張り合ってしまったのは未熟な自分の思い上がりで、同族たちの判断こそが冷静で正しかった。
 それだけなのだろう。

 だが、しかし、此度の敗北は別だった。
 食料でしかない吸血鬼と、吸血鬼の原料でしかない人間、それらに敗れてしまったのだ。
 その事実がサンタナの眠っていた劣等感を揺さぶっていた。

 記憶の中にある、諦めて受け入れたはずの同族達の軽蔑の視線が、新たな意味を持ってサンタナを抉る。

「吸血鬼にも劣るクズ」
「人間にすら遅れをとる恥さらし」


80 : デッドパロッツQ ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:13:45 .Yjmq2wI0

 サンタナが、その自我が、最下級として扱われても、番犬として扱われても耐えてこられたのは、偏に自らの種族が優れているという無意識の誇りのためだった。
 『柱の男』『闇の一族』として、他のすべての生命より優越した地位にあるという、無自覚な驕りのためだった。

 その土台が崩壊しようとしていた。

 否、事態は土台の崩壊よりも、なお悪かった。
 あの三人が健在である限り、一族の優生は盤石であるのだ。
 ただ、サンタナだけが、そこから落ちこぼれて、吸血鬼や人間以下の存在へと転げ落ちているのだ。

 最も格下であるから、失うものがないからこそ、サンタナは虚無でいられた。
 しかし、最も下だと思っていた地点には、更に下があった。
 何も持たないと思っていた自分にも、気付きもしなかった尊厳があり、それは今まさに失われていこうとしていた。

 それは微かではあるが、久しく感じてこなかった恐怖だった。
 そして、その恐怖はゆっくりだが確実に膨れ上がってきているのだ。

 故にサンタナはその感情を塗りつぶそうと、慣れぬ怒りでもって自らの殺意を掻き立てる。

「ち、がう……。オレは、劣って、などいない……!」

 証明しなければならない。
 この場にいる人間と吸血鬼、その全てを殺してでも、自分は優れた生物だと証明しなければならなかった。

 サンタナの胸中に焦りが生じた。
 早く、可能な限り早くそのようにして、安心しなければ、自らの精神に致命的な傷が生じかねないと感じていた。

 しかし、その思いとは裏腹に、時刻は既に早朝を迎え、これから先は太陽の時間だ。
 その焦燥と殺意は形をなすことが出来ず、発散されることもなく、サンタナの中でタールのようにドス黒く煮詰められていくのだった。

【D-4 魔法の森/早朝】
【サンタナ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(極大)、全身ダメージ(大)、全身に打撲(大)、左脇腹に裂傷(大)、脚の一部が石化、再生中
[装備]:緋想の剣@東方緋想天
[道具]:基本支給品×2、不明支給品(確認済、ジョジョ東方0~1)、鎖@現実
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:今は森の中で日光から身を隠す。
2:カーズ、エシディシと合流し、指示を仰ぐ。
3:ジョセフ、シーザーに加え、吸血鬼の小娘(レミリア)やスタンド使いに警戒。
4:同胞以外の参加者は殺す。
5:人間と吸血鬼は特に積極的に殺す。
[備考]
※参戦時期はジョセフと井戸に落下し、日光に晒されて石化した直後です。
※波紋の存在について明確に知りました。
※緋想の剣は「気質を操る能力」によって弱点となる気質を突くことでスタンドに干渉することが可能です。
※石になった足がどの程度で元に戻るかは、後の書き手さんにお任せします。

※サンタナのランダムアイテム「鉄パイプ@現実」はD-4 レストラン・トラサルディー前に放置されています。


81 : ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 05:15:05 .Yjmq2wI0
以上、投下終了です。

不備や矛盾などありましたらご指摘お願いいたします。


82 : 名無しさん :2014/05/13(火) 06:55:45 MDJm5ELE0
投下乙です!
ロワ開始時はホル・ホースに全然注目してなかったけど、まさかこんな展開になるとは思わなかった。
今後がとても楽しみ。

>とても攻撃的な行動に出られる精神状態から来ているのだった。
これは誤字だと思われます。

あと、ホテル組の話を読んだ時から気になっていたのですが、
慧音って朝日がでるような状況でもハクタク化していられるのかなという疑問が・・・。


83 : 名無しさん :2014/05/13(火) 11:42:18 QlSrVEck0
投下乙です。
ホルホースが響子のために何かしようと葛藤する描写が良かった
ドッピオとサンタナは果たして利害が一致するのか、
それともドッピオに良いように扱われるか、彼の腕が試されますね


84 : 名無しさん :2014/05/13(火) 11:46:34 Tyfz5qB.0
投下乙です。
ホルホース、打算的に見えてしっかり響子の為にケジメ付けようとしてるんだよなぁ。
やっぱり彼はこうゆう所でカッコいいから憎めない。
そして瀕死の状態で劣等感が積もるサンタナは大丈夫だろうか
ドッピオに利用されるか、それとも手を結ぶのか…


85 : 名無しさん :2014/05/13(火) 20:25:26 YrU0qS5w0
いつの間にか投下されてる!

ホルホースの誇り、利益、リスクを天秤で量り合う葛藤の描写が面白く、
まさしく彼という人間性がよく分かる話だったと思います
心理描写という点ではサンタナについても同じで、ここまで無我のように動いてきた彼が
怒りや悔しさなどの感情らしきものが初めて湧き上がってきた…というのも今後の楽しみになってきました

>>82
慧音のハクタク化は時間も中途半端だし、キリ良く朝の時間帯になったら解除とかでも良いかも


86 : 名無しさん :2014/05/13(火) 20:28:00 CDndADgE0
そろそろ流暢に話し始めそうだなサンタナ


87 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/05/13(火) 20:39:33 /1X5Rps20
投下乙です!
ホル・ホース、ドッピオ、サンタナ。三者三様それぞれの存在が出会わずともお互いに影響しあって、
葛藤や答えを深めていく様は非常に見応えがあり、しきりに頷いたり唸ったりしながら読み進めました。
三人の行く末が大いに気になります。


88 : 名無しさん :2014/05/13(火) 20:42:35 /1X5Rps20
あ、トリ付いたままだった……
すみません


89 : ◆AC7PxoR0JU :2014/05/13(火) 21:24:21 .Yjmq2wI0
>>82
ご指摘ありがとうございます。
非常に助かります。

>>69
誤:その言葉通り、その行動は、慎重というよりは臆病、とても攻撃的な行動に出られる精神状態から来ているのだった。
正:その言葉通り、その行動は、慎重というよりは臆病、とても攻撃的な行動に出られない精神状態から来ているのだった。
ですね。これは酷い。

申し訳ありませんが、wiki収録時に直していただけると幸いです。


90 : 名無しさん :2014/05/13(火) 23:16:31 HZz.D8BY0
サンタナの劣等感に共感してしまった俺…
なんだか負けんな!と肩の一つでもポンと叩いてやりたいぜ


91 : 名無しさん :2014/05/13(火) 23:27:10 GGkbyKWE0
肩を叩いたお前の手がズブズブズブ


92 : 名無しさん :2014/05/13(火) 23:40:44 ieyxMpYs0
ぶっちゃけ他の柱の男も敗走中だし


93 : 名無しさん :2014/05/14(水) 17:50:22 hST2iS3M0
最近このロワ見始めたけど頭の中に爆弾だったり、出せる支給品を狭めてたり、主催がロワの状況を殆ど把握してなかったりとこのロワ独自の要素が多いね


94 : 名無しさん :2014/05/14(水) 18:01:04 KkkF1USA0
それに何とか太陽の光を浴びて死亡エンドを回避してるしね。そう考えるとエシディシとワムウは大丈夫か?


95 : 名無しさん :2014/05/14(水) 18:45:35 0eNDmqvo0
地味に柱の男が全員第一回放送突破しそうなんだよね
ジョジョロワじゃ毎回半数脱落してただけに新鮮

ワムウはともかく、エシディシはDIOの館向かってるし大丈夫そう


96 : 名無しさん :2014/05/15(木) 21:14:36 fGhpK0Xc0
意外!それはディアボロとサンタナ!ディアボロも誰かとチームを組む日が来るかもしれない。
あとボス勢でチームフラグがないのはカーズ様だけか


97 : 名無しさん :2014/05/15(木) 21:28:03 A7KKqPhg0
仲間と会えればそのまま組むだろう


98 : 名無しさん :2014/05/15(木) 21:34:21 9vl6Ozsg0
柱の男勢は敵キャラとはいえ同族間で確かな信頼関係があるしな
ただサンタナがカーズ、エシディシと合流したらめっちゃ冷めた扱いされそう


99 : 名無しさん :2014/05/15(木) 21:43:49 SmV1cjDQ0
ワムウはお前って呼んでくれたけど
エシディシ、カーズは普通にサンタナとか呼びそうな気がする
サンタナの本名とか覚えてるのかな


100 : 名無しさん :2014/05/15(木) 21:52:32 9vl6Ozsg0
ワムウは何となく本名覚えてそうな雰囲気あったな
便宜上名簿に記載されてる名前の方で呼んでる感じだったし


101 : 名無しさん :2014/05/15(木) 22:43:12 pUUIyXKY0
さて、今日は投下が来るかな
予約期限はまだまだだし今日中じゃなくても別に問題ないけど


102 : 名無しさん :2014/05/17(土) 01:09:32 qpPnUDmo0
もう完全にこの人待ちなんだよな…


103 : 名無しさん :2014/05/17(土) 19:56:03 wAjZ79P.0
そういや明日でジョジョ東方一周年じゃない?


104 : 名無しさん :2014/05/18(日) 11:38:28 kKXleyVM0
マジですかい
ブラボー!おお…ブラボー!


105 : 名無しさん :2014/05/18(日) 12:43:57 kq1FNFio0
Congratulations…!! おめでとう…!


106 : 名無しさん :2014/05/18(日) 15:09:10 8Ebzoy8Q0
正直ここまで盛況が続くとは思いませんでした、ありがとう


107 : 名無しさん :2014/05/18(日) 15:43:48 z/dSswho0
一年かけてとうとう第一回放送目前か…
胸が熱くなるな


108 : 名無しさん :2014/05/18(日) 21:20:54 Yc4BH4dwO
天子ちゃんの胸も厚くなればいいのに


109 : 名無しさん :2014/05/18(日) 22:11:56 gW7yCouY0
大きなトラブルもなくよく一年も続けられたものです


110 : 名無しさん :2014/05/18(日) 22:22:29 CH6pS4n20
めでたいなぁ……
ところで一周年に際してツイッターでジョジョ×東方ロワのbotを作ろうと考えているのですが、
スレ主様や書き手の皆様におかれましては作ってしまってよろしかったでしょうか?


111 : ◆.OuhWp0KOo :2014/05/18(日) 23:00:15 8Ebzoy8Q0
>>110
私は一向にかまわんッッ。


112 : 名無しさん :2014/05/18(日) 23:14:49 5VZfWtLY0
短い繋ぎでもいいから投下来ないかな。むしろ繋ぎの方がいい


113 : ◆n4C8df9rq6 :2014/05/18(日) 23:18:46 kq1FNFio0
>>110
ブラボー!おお…ブラボー!
勿論大丈夫です!期待しつつ待っています!


114 : 名無しさん :2014/05/18(日) 23:55:26 MfuyLpCc0
このまま完結まで問題なく続いてほしいぜ・・・


115 : 名無しさん :2014/05/19(月) 01:23:10 8NSR2ob60
>>110
かまわん、やれ

よろしくお願いしますフォローします


116 : 名無しさん :2014/05/19(月) 02:18:21 Ldsee92s0
>>112
放送前なので多分皆自重してるんだと思うよ
予約分終わったらすぐに放送いけるといいな


117 : 名無しさん :2014/05/19(月) 21:48:59 ABme/TUc0
若干ルールから外れた提案だけど、もし最後の予約がこのまま延長とかになったら、一旦放送行かない?
このままじゃ誰一人予約しようがないしテンポも悪くなってる。
もし後から放送の内容(死亡者リストとか)と矛盾出てきたら、wiki収録時にちょろっと手直しすればいいしさ。

悪いけど、いくらなんでも遅すぎる…


118 : ◆YF//rpC0lk :2014/05/19(月) 21:51:33 aDSl0QPQ0
>>117
一応延長を設けた身として、延長には対応したいと思います
ただし破棄となった場合は速やかに第一次放送に移行します


119 : 名無しさん :2014/05/20(火) 00:03:34 6VXdoa3g0
>>111
>>113
>>115
>>110 ですが、皆様ありがとう御座います。特に問題はないようなので、
出来上がり次第またご報告に参上致します。


120 : 名無しさん :2014/05/20(火) 01:00:42 tJbG9lPw0
>>119
WRYYYYYYY!!
最高にハイってやつだ!!
頑張ってください**


121 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/20(火) 21:00:16 VxMtcrvo0
予約延長します


122 : 名無しさん :2014/05/20(火) 21:03:55 j2VLYADo0
確か先週の木曜に投下するという話だったが…


123 : 名無しさん :2014/05/20(火) 21:11:01 aqk4M4kw0
今は待とう…期限中に投下さえくればそれで…


124 : 名無しさん :2014/05/20(火) 21:11:13 P7P2mGbc0
敵のスタンド攻撃だぁーッ!


125 : 名無しさん :2014/05/20(火) 21:15:16 b2j.IDFI0
本来の期限はとっくに過ぎてるんだよなぁ…
普段ならともかく、この大事な時期にロワが止まるのは結構問題だと思う

あんまり言いたくないけど、ホントに書いてたのか不安になる


126 : 名無しさん :2014/05/20(火) 21:37:07 aqk4M4kw0
別に期限までに投下が来ようが来なかろうが第一回放送は行われるんだし
進行に関するこれ以上の心配は杞憂だと思うな
とにかく投下が来てくれるのならばそれで嬉しいし


127 : 名無しさん :2014/05/20(火) 22:27:37 m0eDbVUM0
短い話でもいいから投下してくれ


128 : 名無しさん :2014/05/21(水) 00:08:43 jMzXN77M0
他にそのキャラを予約しようとする人もいないんだし、そんな文句言うことでもないだろう


129 : 名無しさん :2014/05/21(水) 01:00:33 DHhU3XLs0
確か前回の投下の時もそうだったし、今回も2ヶ月以上破棄と再予約を繰り返してるわけだしな…
そろそろ誰かが強く言った方が良いのではと思うし、もういちど予約期限の意味を考えて欲しい。投下まで待つから。


130 : 名無しさん :2014/05/21(水) 02:44:46 xNcZQ3uU0
本来予約の意味は、書きたいキャラが人知れず被ってしまってその場面や話全体が無駄になることを防ぐ意味のはずだったしな
自分はただの一読者だから気長に書き手さん達の投下を待ってるけど、
一時停止が長すぎて企画の勢いそのものが無くなっちゃわないことを祈ってるよ


131 : 名無しさん :2014/05/26(月) 02:58:37 FeAQQExw0
書きたいと思って予約してるのだろうに何故書かないのか。書かないのなら予約するな

こんぐらいは言いたくなるよなあ。書き手の苦労もあるにはあるんだろうけどルールは守るもんだ


132 : 名無しさん :2014/05/26(月) 03:11:56 6ZzzQCuI0
やっぱり2週間もあると怠慢になるか。それでも投下してくれれば文句ないけど…


133 : 名無しさん :2014/05/26(月) 03:53:11 vIHn3UFU0
書き終わる目処がたたないならせめて早めに破棄してほしい
とはいえここまで待たせておいて破棄するのもあり得ないけど


134 : 名無しさん :2014/05/26(月) 08:28:13 jmFDuWxM0
気持ちは解るけど取り合えず投下なり何なり来るまでは待とうや
こうゆう話題ばかりだとスレの空気も悪くなるし


135 : 名無しさん :2014/05/26(月) 10:18:43 C4WikzXs0
最近読み始めてやっと追いついた
旧作の夢美がいて花映塚のキャラ1人もいないってなんか新鮮だね


136 : 名無しさん :2014/05/26(月) 11:19:55 Gq2HLpls0
そういえば花映塚キャラは普通にいないんだよなぁ
夢美は書き手枠の参戦だけどね


137 : 名無しさん :2014/05/26(月) 15:57:58 LJfom1fQ0
>>110 ですが、
試験運転も完了したので報告します。
『ジョジョ×東方ロワイヤルbot』が完成しました。
”@jojotohorowabot”でユーザー検索していただければ見つかるはずなので、
よろしくお願いします。
また、いくつか改行ミスや脱語がある場合がありますが、
随時修正を加えていきますのでご了承下さい。


138 : 名無しさん :2014/05/26(月) 16:50:01 E0wSatXI0
>>137
君、フォロワーまだだよね
はじめてのフォロワーは誰でもない!
このDIOだあ!

と思ってたら一番目をとられた
作成お疲れ様です


139 : 名無しさん :2014/05/26(月) 18:00:31 IddOPCxc0
作者急死というのも絶対にありえないワケじゃないしナァ


140 : 名無しさん :2014/05/26(月) 22:50:11 wB9hoKZc0
>>137
作成乙です!
色んな名言・迷言を楽しく見させてもらってます


141 : 名無しさん :2014/05/26(月) 23:59:43 aRyT/5nQ0
>>137
おお、作成乙です!
数々の名台詞が蘇る…


142 : ◆.OuhWp0KOo :2014/05/27(火) 00:07:29 PH1.Geq60
>>137
bot作成乙です。
フフ……これからもbotの中身増やせるように頑張らないとな……w


143 : 名無しさん :2014/05/27(火) 11:04:49 s27Swdw.0
さて、予約は今日までか


144 : 名無しさん :2014/05/27(火) 13:54:16 YOgHpHt60
批判書き込みを作品で黙らせてくれることを期待してる


145 : 名無しさん :2014/05/27(火) 14:12:21 m5dQ0hOE0
後編は後日とかなったらどうするの


146 : 名無しさん :2014/05/27(火) 15:13:57 ouC7qEU60
wikiざっと見たらリンクが機能してなかったりコピペのミスかわからんけど不自然に同じ文章が連続してたりするけどこういうのって勝手に修正とかしていい?


147 : 名無しさん :2014/05/27(火) 15:30:54 gmk3dHrg0
修正ならいいんじゃないかな


148 : 名無しさん :2014/05/27(火) 15:49:55 L2Hoi4ks0
修正した後に報告するならいいんじゃね


149 : 名無しさん :2014/05/27(火) 17:21:10 Ww8BUIUw0
したらばに毒吐きスレいるんじゃね
本スレ汚されるよりマシ


150 : 名無しさん :2014/05/27(火) 17:48:01 m6vf0BOk0
よっぽど荒れない限りは毒吐きは出来ればナシの方向で頼みたいな
投下なり破棄なりで今回の予約が済めば落ち着くだろうし


151 : 名無しさん :2014/05/27(火) 19:11:30 PN1q4fOs0
このレベルで毒吐きか。嫌な時代になったなあ


152 : 名無しさん :2014/05/27(火) 20:18:25 4g4Ix2eQ0
まぁここは平和なくらいだしね


153 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/27(火) 23:56:14 yOhWj.Zw0
投下します


154 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/27(火) 23:56:46 yOhWj.Zw0

時間は黎明から早朝へ移り変わろうとしている。
闇に覆われていた空はほんの少しだけ明るさを加えられ、黒から紫色の空へと変わろうかとしていた。
そんな空の下にある一軒の洋館に、二人の男女が大きめのテーブル越しに向かい合うようにして座っていた。

男の方は、金色の鎖などが付いた紺色の改造学ランを着ており、学帽を被った青年だ。
格好が示す通りに学生だろうが、醸し出す雰囲気には学生以上の落ち着きが感じられる。
髪の色は黒く周囲の暗さも相まってか、どこまでが学帽で髪の毛か判別がつかない。

女の方は、赤と白を基調としためでたい巫女服を纏っており、製作者の好みか本人の要望か脇の部分はなぜか露出した奇妙な一着だ。
こちらは見た目相応?の若さを感じさせ、女性と言うよりは少女と呼ぶ方がしっくりくるだろう。
髪は青年と同じく黒くショートにしており、大きな紅白のリボンが鎮座していた。

「いないわね、大統領。」
「ああ、『馬』が来るのを待つと言ってたらしいから、既にこの場を去ったかもな…。」
「これじゃあ無駄足踏まされたようなものね…、まったくあいつのせいで。」

少女は面白くなさそうにぼやく。

「だが、まったく収穫がないわけじゃあない…。ここがどのジョースターの家なのか分かった…こいつのおかげでな。」

青年はデイパックから何やら手帳を取り出すと、少女に差し出す。

「何よ、これ?」
「多くの人を巻き込んだ『未来への遺産』だ……。そして、その出発点がこのジョースター邸。
 ここはそんな…因縁の始まりの場所らしい…」
「??」


青年の名前は空条承太郎。少女の名前は博麗霊夢。紆余曲折あったが、共に殺し合いの打破のために動いている二人だ。


155 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/27(火) 23:57:10 yOhWj.Zw0

場所はC-3に存在するジョースター邸。ジョージ・ジョースター1世が建て、
ジョナサン・ジョースターそしてディオ・ブランドーの二人が育った邸宅である。
入口は3mはあるであろう両開き戸の扉、家の中に入ると右手側には2階へと続く階段があり、
正面にはテーブルや椅子、ピアノなどが置いてありエントランスとなっていた。
その他にもダイニングルーム、書斎、テラスといった空間も広く豪華な造りとなっており、部屋も無数に存在する。

二人は手早く家の様子を探るため、二手に分かれることにした。しばらくして、
この長机がある広間にて、その成果を報告しているのだった。


「『石仮面』ねぇ…」
霊夢は承太郎から手渡された手帳を見て呟く。

「じじいの話じゃ、石仮面が原因でDIOは約100年前に吸血鬼になったそうだ。そして俺の高祖父、
 ジョナサン・ジョースターはこいつの研究をしていたらしい。
 一体何が目的だったのかまでは知らないがな…」
「吸血鬼を生み出す仮面か…。こんなんであいつみたいなのが量産されでもしたら、
 毎日異変だらけになって迷惑になるだけよ。」

吸血鬼と言われて思い付くのは、我が儘な夜の帝王、レミリア・スカーレットだ。
その自由奔放さ故、殺し合いに乗るとも思えず、吸血鬼の例に漏れず戦力として一級品の存在。
今このジョースター邸に居るのもそんな彼女を探している、という理由もあった。

 あいつに会う理由は他にもあるけど…

霊夢はそんなことをぼんやりと思いながら、手帳を軽く読み流した。


「で、あんたは収穫はあったのか?」
「適当に食べ物と使えそうな雑貨を漁っただけよ、今のところはここに誰もいないみたいね。」
「調べていて分かったが…今のところというよりも、まだ誰もここを訪れていないようだな。」
「化け猫の言った通りなら、大統領ってのが居るはずなんだけどね…。まあ、まだ移動していないならの話だけど。」


156 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/27(火) 23:57:55 yOhWj.Zw0


時間は少し遡る。
二人はジョースター邸を訪れる前に一人の人物と接触していた。

「…承太郎。」
「ああ、わかっている…。あれだけ騒がしくしていればな。」

二人の視線の先には猛スピードで走っている人影が映っていた。おまけに何やらガタガタと物音も聞こえてくる。

「追われているのか?」
「それにしては元気すぎると思うけど―――ってこっちに来てるわね。」

人影は段々とその大きさを取り戻すように二人に近づいて来るが、辺りは未だ薄暗く顔を判別することは難しい。
二人は近づいて来る相手と接触するために立ち止まり、目を凝らす。
しばらくして、心当たりがあったのか先に霊夢が声を上げた。

「ああ、なんだ猫車か…」
「知り合いか?」
「知り合いの枠に妖怪を入れてもいいならね、……私はごめんだけど。」

やれやれといった風に霊夢はズイッと一歩前に出る。

「私が声をかけるわ、あいつらの扱いには慣れてるし。」
「殺し合いに乗っていたらどうするつもりだ?」
「そんなこと知らないわよ、私はただ幻想郷的解決を目指すだけだもの。」

妖怪退治を生業とする巫女が妖怪と接触する。
果たしてそれは平和的解決といくのか、どう転ぶのか気にはなるものの霊夢に任せることにした。
知った顔同士というなら、先に声をかけるのに向いているのは霊夢だろう、そう判断してのことだ。



そうこうしている間に人影はその姿を視認できる距離まで近づいて来る。

承太郎がその容姿を見て目に入ったのは、赤色の髪の頭頂にある一対の耳だ。人間には当然あんな場所に耳などあるわけがない。
さらに後ろから何やら引っ張ってきているものは、どうやらリヤカーのようだ。
手にはリヤカーを引くための握りを掴み、お腹の部分に取っ手を押し当てて走っている。
霊夢は猫車と称した相手の意味を承太郎は少しだけ理解した。


「止まりなさい!そこの猫車ッ!」
「うえッ!?」


一方相手は走るのに夢中だったのか、この距離になってようやく気が付いたようだ。驚いたように目を見開き、慌てた様子が窺えた。

「あ、あっれれ?紅白のお姉さん、いつの間に!?」
「さっきからいたわよ。声をかけないと気づかないほど急ぐなんて、一体どこに行こうってつもりよ?」
「いやまぁその。地霊殿のみんなに早く会いたくてつい、ちょっと張りきすぎちゃってさ…。別に深い意味はないよ、うん!」


157 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/27(火) 23:59:59 yOhWj.Zw0

何故か空の方を気にしながら、猫耳の少女は少し早口で答えた。

「ふーん、それよりもリヤカーなんか引いて何やっているのかしら?……こんな時に飛脚でも始めたのかしら?」

「そ、そうだねぇ♪24時間どこへでも、死体の回収ならクロネコオリンの宅急便にお任せあれ!…な〜んっちゃって。」

霊夢の冗談に合わせ、えへへ、と笑う少女だが、対する霊夢の表情は険しい。

「私の前でずいぶんと楽しそうなこと言ってくれるわね…!死体を漁るようなマネなんかしたらどうなるか―――!」
「わ、わかってる、わかってるから!お札なんか取り出さないでよ、お姉さ〜ん!」


霊夢が凄味をきかせたところで猫耳の少女は両手を上に挙げて、降参の意を示しながら、必死に懇願する。


「で?あんたは何やってんのか、教えてくれるかしら?」
「うーん、教えたいのはやまやまなんだけどねぇ…」

お燐は相変わらず忙しなく見回すが、別に誰かがいるような気配はない。

「早めに教えた方が身のためよ、猫車。」

霊夢に名前を呼ばれないことが気に障ったのか、少女は言い返す。

「お姉さん、あたいは火車だよカシャ、猫車じゃないんだけど―――っていうかあたいはお燐!火炎猫燐って名前があるんだけどなぁ。」
「はいはい、妖怪の名前なんて逐一覚えてられないわよ。あんただって私の名前呼んでないし、どうせ覚えてないでしょ?」

流石にその物言いにはお燐も黙ってはいられない。

「あんまりバカにしないでよ、あたいは鳥頭じゃないんだから!霊夢お姉さんでしょッ!」
「あら、意外ね?てっきり名前を覚えられないから、お姉さんって呼んでるかと思ってたけど。」
「あたいより、お姉さんの方が心配なんだけどねえ…。すぐに名前忘れるし…」
「うるさいわね、こちとら何体の妖怪を退治してると思ってんのよ!」


「―――猫以下か…」


ぼそりと呟いた承太郎に対し霊夢がただ黙っているわけがなかった。
ささやかな自尊心の傷を、無駄撃ち上等でお札を投げつけることで、水に流す霊夢であった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「つまり、あんたは大統領とやらに『聖人の遺体』とかいうモノを持ってこいって言われたのね?」
「うん、協力すれば地霊殿のみんなを保護して、私の元に連れて来てくれるって約束してくれたから…」

お燐は承太郎と霊夢にこれまで取ってきた行動を包み隠さずに伝えた。

屍生人ブラフォードとの遭遇し、波紋戦士シーザーとの戦いに割って入ったこと。
ブラフォードの脚が欠損したのを『聖人の遺体』によって回復を遂げたこと。
そして、『聖人の遺体』を巡る戦いで、大統領ことファニー・ヴァレンタインと戦いブラフォードが消滅したこと。
大統領から強い信念を感じ彼の人柄を信頼し、家族を探してもらうよう頼んだこと。
その代わりとして大統領が欲する『聖人の遺体』を探し出し、それを届けることを約束したこと。

「だからお願いッ!支給品に『聖人の遺体』があったら私に譲って、お姉さん!」

お燐は両手をパチンと合わせ、首を前に倒し頼み込んだ。


158 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:01:04 2KRyV9p20

「悪いけど、私もこいつもそんなミイラなんて持ってないわよ。」
「ほんとに?」
「ない物はないわ。」
「ん?あるなら意地悪しないでよ、お姉さん!」
「ああもうッ!無いって言ってるでしょ、離れなさいッ!」

お燐は目を輝かせ、霊夢の腕にひっしとしがみつく。

「霊夢、バカやってないで一つ聞きたいことがあるんだが…そこの、お燐でよかったか?」

霊夢の腕に張り付いたお燐に対し承太郎は口を開く。

「アンタ、大統領とやらに何かされなかったのか?」
「いいや、あたいには何もしなかったよ。どうして?」

承太郎はゆっくりとお燐の元へと近づく。

「どうしたのよ?」
「一応念のための確認だ。お燐、その場を動くなよ。俺は決してあんたに危害を加えない、いいな?」
「う、うん。わかったけど…?」
「いやいや、先に腕から離れなさいよ…」

承太郎はお燐を触れられる位置まで来ると、額へと手を伸ばし、髪の毛をたくし上げる。


「やはりないか…。まあ、当然だが…」
「…ああ、『肉の芽』だっけ?」

霊夢は承太郎の話を思い出す。お燐の額を覗いて何か分かるとしたらそれだけだ。承太郎はお燐から離れ、霊夢に話しかける。

「大統領は俺の知る『吸血鬼』ってわけではなさそうだな。」
「そりゃそうでしょ。」

一聴するだけだと、承太郎が的外れなことを言ってるように聞こえ、霊夢は怪訝な顔をする。

「…だが、こいつを動かすカリスマを持っている、ということだ。」
「……ああ、そういうこと。」

だが、次の言葉で納得したようだ。承太郎から少し聞いた、宿敵の話を思い出して。

「ちょっと、ちょっと!あたいにもわかるように教えてよ!」

勝手に二人で納得して、一人置いていかれていると感じたお燐は声を上げる。

「わかった、俺が説明する。まず、あんたの額を確認したのは肉の芽が埋め込まれているかどうか見ておきたかったからだ。」
「『肉の芽』って?」
「額にそいつを埋め込むことで相手を従わさせることができるモノだ。DIOという吸血鬼が使える危険な力、だな。」
「物騒だねぇ―――ってお兄さんはDIOさんのことを知ってるの!?」

お燐はブラフォードが話していた、忠誠を誓った人物について思い出す。彼女からしてみればDIOには良い印象しかない。

「…知っているが、そいつのことは後だ。俺はあんたが大統領に従ってる姿に少し不安を感じた、それだけだ。」
「ど、どうしてさ?あの人は私に大事な遺体を与えてくれたし、家族を探すのにも協力してくれる―――」



「あんたはブラフォードを殺されて、それで良かったの?」


159 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:01:54 2KRyV9p20
お燐の言葉を霊夢が遮る。霊夢と承太郎はお燐の話を聞いて、どこか怪しいと感じていた。
何故、出会って間もないとはいえ仲間を殺され、お燐は大統領を信頼しているのかを。

「私なら、仲間を殺されて黙っているつもりはないけどね。」
「あ、あたいだって、そうだよッ!……でも、あの戦いは…し、仕方なかったんだ!」

お燐はブラフォードとヴァレンタインの戦いの時のことを想起する。

「お兄さんは遺体がなくちゃ戦えなくなる、大統領さんは国のために遺体を集めなくちゃいけない。
 奪い合うしか、なかったんだよ…!」

お燐はやりきれなさを滲ませて、そう吐き出す。しかし、霊夢はさらに問い質す。


「国のためって、あんたはその意味が分かってるの?」


「そ、そりゃあ……分かってるさ!」「ウソね。」


霊夢はピシャリと言い切る。

「あんたのことだから、地底の連中を気にしてるはずよ。国―――私たちで言う幻想郷を守りたいとか、
 そんな大それたことなんかじゃないでしょ?」
「うぅ…」

自身の考えをズバリと言い当てられ、お燐はうまく言い返せない。

「別に仲間を守りたいんなら、それで結構よ。ちゃんと守ってやんなさい。でも、
 大統領は遺体のためなら、手段を選ばない奴ってことを忘れないことね。」

「…それって、つまり……」




「あんた達に牙を剥けることもあり得るって話よ。」




霊夢の言葉にお燐は即座に反応する。

「そ、そんなことないッ!だって、大統領さんはみんなを保護してくれるって言ってたし、
 何より!みんながあの遺体を欲しがるわけ―――」

「もしあんたの仲間が遺体を必要としていたら?」

「エッ!?」

お燐は呆気にとられるも、ハッとした。自分の家族がブラフォードと同じように、身体の一部を失ってしまっていた場合だ。

 もしも、みんなが遺体を使って治さないといけない怪我を負っていたとしたら、
 あたいは……きっとみんなに遺体を渡す。でも、その後は…!?

お燐の脳裏に一瞬だけヴァレンタインと対峙する自分の姿が映ってしまった。

「少しは分かったでしょ?あんたの置かれた立場が危ういものだってことは。」
「そんな……」

お燐は俯いてしまった。大統領を信頼していいのか自信を持てなくなったからだろうか。

「こいつは随分トゲのある言い方をしたが……あくまで仮の話だ。要は大統領を盲信するな、
 ということを頭の片隅に入れておいてほしい。」
「そうだよね、うん。大丈夫、大丈夫だよ……。」

今まで黙っていた承太郎がお燐をフォローする。だが、お燐は少々沈んだ表情を隠しきれていない。
承太郎はやれやれと思いながらも、結果的には自分が蒔いてしまった種を刈ることにした。


「あんたはどうしてそいつを信頼したんだ?信じるに足る、何かを感じたんじゃあないのか…?」
「…うん、そうだねぇ。何でだったかな?…ああ―――」

お燐は思い出そうとするのに1秒も要しなかった。それほど彼女にはヴァレンタインの姿が鮮烈に映ったからだろう。

「大統領さんの…言葉に嘘がなかったから……じゃあダメかな…」


160 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:04:11 2KRyV9p20

お燐はポツリポツリと言葉を吐き出す。ヴァレンタインと話して感じたこと、
彼女が彼を信頼できると思ったことを。

「嘘をついていなかった、か…」
「うん、あたいはね……大統領さんの言葉の端々に嘘を感じなかったんだ。…だから、
 正しい道を歩んでいる人だって、そう思えたの。」
「…なるほどな。確かに、嘘をついていないって言うなら多少はマシな奴かもしれんか……」

 もっとも、それを証明する手立てがあればの話だが。それに嘘をついていない、
 こう思わせる輩ってのは厄介なもんだぜ…。

承太郎は内心ではあまりヴァレンタインを信用していないものの、それを表情に一切出すことなく相槌を打つ。

「あの人はきっと、嘘を言ってなかった。だから、家族を守るって言葉も嘘なんかじゃない…!
 あたいはその代わりに遺体を集める、そう決めたんだ…!」

承太郎はお燐が話をしていくうちに、沈んでいた活力を取り戻していく様子を見て、
ヴァレンタインが彼女の支えになっていることを感じざるを得なかった。

 信頼できる相手だといいんだが……果たして、どう転ぶか。

「それにさ、さっきはお姉さんに言い返せなかったけど。大統領さんの守りたい国のこと、
 あたいなりに少しは分かってるつもりなんだ…」

「何よそれ!あんた、さっき何も言えなか―――もごご…」

霊夢が反駁しようとするも、承太郎がスタープラチナを出現させ、その口を塞いだ。

「あたいにとっての国は地霊殿、国民はさとり様にこいし様、お空、あたい。
 大統領さんの国に比べたらちっぽけだろうけど、あたいにだって守りたい国が…家族がある…!だから!」

お燐は頭を上げ、二人を見据えて力強く宣言する。

「あたいは遺体を集めるよ…!あたいの守りたい家族のために!たとえ、利用されていたとしても、
 この思いは嘘なんかじゃあないからッ!―――ってお姉さん?」

承太郎が霊夢を後ろから口を塞いでいるのを見て、きょとんとする。お燐が言い終えたのを確認し、承太郎は霊夢を解放した。

「ぶはぁッ!だったら、あんたは家族のためなら大統領とも戦えるってこと?」
「…その時は戦うよ。あたいは大統領さんを信じてるから、そうならないのが一番だけど。」

霊夢はお燐を値踏みするようにしばらく見つめるが、すぐに視線を戻した。

「そっ、だったら好きにしなさいよ。私はただ、あんたが誰かさんみたいに従うだけになってないか
 気になっただけだから。」

素っ気なく、そう言うと後ろを向いて承太郎の方へ歩いていく。

「お姉さん!」
「あー?」

お燐は先ほどとは打って変わって、明るい声で霊夢に話しかける。

「あたいだけだとさ、きっと先のことを考えたくなくて、後回しにしてたと思うんだ…!だから、教えてくれて、ありがとうッ!」
「礼を言われる筋合いなんかないわよ。それに、私の訊き方が悪かったから答えられなかったんでしょ?」

霊夢は承太郎の方をチラッと見て、お燐に視線を戻し意地悪な言い方で問いかける。

「そんなことは………あった、かな。」

お燐は否定しようとしたが、あっさり見抜かれると思い、認めることにした。失礼さを苦笑いでごまかしながら。

「多少はきつい物言いも私なりのやり方だもの、好きにさせてもらうわ。だからお互い気にする必要はない、いいわね?」

感謝するならあいつにしなさい、と承太郎を指差しながら、付け加える。

「まあ、お姉さんはいつもそんな感じだしねぇ。ここに来ても平常運転であたいはちょっとホッとしたよ。」

霊夢は一瞬ビクリとお燐の言葉に反応してしまうが、そんな自分を振り払うように早口で話す。

「……ふん!私は私よ。それに、いい加減駄弁ってないで話すこと話すわよ!…私たちの時間は有限なんだから。」


さっさと情報交換するぞ、とまくし立てる霊夢の表情ははどことなく、見ようによっては、陰っているように見えたかもしれない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


161 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:05:11 2KRyV9p20



「じゃあね、お二人さん!あたいはそろそろ行くよ!」


その後、お互いの情報を交換し終え、お燐が元気よく声を出す。

「はいはい、さっさと行っちゃいなさい。」

霊夢はさもどうでもよいと言わんばかりに、手を小さく左右に振るだけだった。

「んもう!お姉さんは冷たいなぁ…」
「お燐、俺からあんたに対して一つだけ100%確かなことを言っておく。」

承太郎はお燐の方を向き、警告する。

「DIOを絶対信用するな…絶対にな。あんたの話を聞いて、俺は大統領をひとまず信用する。
だが、DIOは他人を利用する外道だ。正しい道なんぞ歩いている輩じゃねえ。」

「…うん。でも、ブラフォードお兄さんの主だって思うと、ないがしろにはできないかな…。
お兄さんがあたいに本気で忠告してくれてるのは分かったよ。後はその時に決断するから…!」

「そうか…。だが、野郎が危険だってことはくれぐれも忘れるなよ。」

お燐は力強く頷く。承太郎は今までのお燐の様子を見て、ただヴァレンタインを盲信しているだけじゃないと、少しだけ安堵した。

「じゃあ、あんたの家族を見つけたら俺たちもできる限り協力する。あんたはひとまずE-4の人里辺りを目指すってことでいいんだな?」

「特に当てもないけどね、人が集まりそうなところを目指すよ。ウチがあればそこに行くんだけど、地霊殿は地面の下だもんねぇ…」

お燐は地面を軽くトントンと踏みつけながら答える。

「了解した。あんたが家族と再会できることを願っとくぜ。」
「お兄さんもお仲間さんと会えるといいね!それじゃあ二人ともお達者で―――」

「ちょっと待ちなさい!」

二人から離れていた霊夢が突如リヤカーを引いて、歩き出したお燐を呼び止め、ズカズカと近づいて来る。

「そのリヤカー、ガタガタと音がうるさいわよ!静かにした方が身のためじゃないの?」

近づいた霊夢はリヤカーを軽く蹴りながら言う。確かに多少の音はするものの神経質すぎるのではないか、承太郎はそう思った。

「それと、死体を漁るなって言ったけど約束を破られるのも癪だから、ミイラぐらいなら盗んでも特別に眼を瞑っておいてあげるわ。」

わかったらさっさと行きなさい、そこまで言うと再びプイっとお燐に背を向け歩く。少々けんか腰な霊夢の態度を承太郎は指摘する。

「てめえ、難癖つけるにしたって言い方ってもんが―――」

「いいんだよ、お兄さん♪」

そんな承太郎の言葉を抑え、お燐はにこにこしながら、こっそり承太郎に耳打ちする。

(お姉さんはあたいたち妖怪に好かれたくないから、ああして意地悪な言い方するんだよ。 
 まあ、実際は妖怪神社の巫女さんなわけだけどね。)
(いちいち難儀な奴だぜ。)
(そんなわけだからさ。人間のお兄さんがお姉さんを支えてやってね。)
(あんまりイエスと言いたくない注文だな…。)

そこまで小声で話すと、お燐は霊夢に聞こえる様に明るく大きな声を出し、リヤカーをエニグマの紙へと仕舞う。

「分かったよ、お姉さん!リヤカーは片づけておくし、お言葉に甘えて『聖人の遺体』だけは迷惑をかけない程度に盗んでいくからねー!」

対する霊夢は振り向くことなく、背を向けたままだが少しだけ腕を左右に振って応えた。

「それじゃ、あたい今度こそ行くね!二人とも、もし死んじゃったらあたいに連れてかれるから、くれぐれも命は大事にね♪」

「ああ、あんたもミイラ取りがミイラになるんじゃねえぞ?」
「うん!」

お燐は頷くと東の方角へと歩を進めだすのだった。その足取りは軽く、だけど、その背中には確かな家族の思いを背負っていた。


【C-3 東端/早朝】
【火焔猫燐@東方地霊殿】
[状態]:人間形態、妖力消耗(小)
[装備]:毒塗りハンターナイフ@現実、聖人の遺体・両脚@ジョジョ第7部
[道具]:基本支給品、リヤカー@現実
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を探しだし、古明地さとり他、地霊殿のメンバーと合流する。
1:家族を守る為に、遺体を探しだし大統領に渡す。
2:当てはないが、ひとまずE-4を目指す。
3:地霊殿のメンバーと合流する。
4:シーザーとディエゴとの接触は避ける。
5:DIOとの接触は控える…?

※参戦時期は東方心綺楼以降です。
※大統領を信頼しており、彼のために遺体を集めたい。とはいえ積極的な戦闘は望んでいません。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


162 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:06:39 2KRyV9p20


「…ああ、思い出すと騒がしい奴だったわね、ホント。」
「妖怪相手には文句垂れないと生きていけないのか…あんたは?」

ぶつくさとぼやく霊夢に承太郎は言う。

「とにかくだ、大統領が居ないんじゃあ話も何もできない…どこにいるのやら、だが。」
「入る前にジョースター邸の周囲は確認したし、猫車にはしばらくはここで待つとも言ってたはずよ。」

「となると―――、ヤローは俺たちとかくれんぼでもしているってのか?」
「ひょっとするとね…。ここは無駄に広いし見落としたかもしれないわ。目立つから控えたかったけど、
明るくしてもう一度部屋を見てみましょ。」

そう言って周囲の燭台に火を灯そうかと霊夢が動き出した時だった。



ドバシャアアァアアッ!



西側の壁を激しく叩く奇妙な音が外から聞こえてきた。



「ずいぶんと良いタイミングだな。」
「まったくね。あるいは、私たちが気付く前から何かしていたのかも。」

両者とも空気を読んだ間の良さに怪しさを口にする。

「なんにせよ、外に誰かいるってなら無視できない。ひとまず行ってみるわよ。」
「明らかに怪しいが、行かないわけにもいかないか…」

二人はエントランスへと進み出した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

エントランスにたどり着くと、霊夢は片耳を扉に当てると聞き耳を立てた。

「おい、迂闊に扉に近づくな…!」

承太郎は小声で注意するが、霊夢はそんなもの知らんとばかりに意に介さない。

「平気よ、近くで気配らしい気配がないもの。……代わりに遠くで物音はするけどね…」
「どんな音だ?」
「扉越しだとはっきりと聞き取れないし、口で説明できる音じゃないわね。」

二人ともどうするかわずかに思案するが、すぐに考えるのを止めた。

「しょうがねえ、だったら直接出向くとするか…」
「何がいるのやらね…」

霊夢は両開きのドアを一気に押して、外と内の境界を取り払う。
正面のみしか見えないが、用心のためジョースター邸の内側から外の様子を見渡す。

「いない…」「いねぇな…」

外は少し前までいた時よりわずかに明るくなっただけだ。ジョースター邸の南には霧の湖があり、二人がいる位置からも視認できる。


ドバドバドバ、ドバドバ―――


微かに音が聞こえ出す、さっきとは違い明確に鼓膜を叩く。

「この音は…やっぱり向こう側か!」「さっさと行くわよ!」

二人は外へ飛び出ると、ジョースター邸の西側へと駆け出した。

ドバドバ―――

しかし、二人が外へ飛び出すのとほぼ同時に、音は急に小さくなり出した。

「ちッ、勘づかれたか!?」「構わないわよ、それよりも先に見つけ出すわッ!」

二人はジョースター邸の南西の角を曲がり、視界が開けた正にその瞬間だった。


ドボオォォン


163 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:07:57 2KRyV9p20


ジョースター邸の西側に位置する、霧の湖へと至る一本の川から大きな水飛沫が上がった。
二人は一瞬驚くが、それに気取られることない。まず二人は辺りの様子をじっと見て把握するが…

「いないじゃないの。やっぱり、川の中に入ったって言うの!?」
「…かもな。さっきまでの異音といい、誰かがこの川で何かしていたようだな。」

承太郎の言葉に霊夢は疑問を口にする。

「それって、大統領じゃあないってこと?」
「一国の主が逃げるために川に飛び込むようなヤローなら別だがな…」

それもそうね、と霊夢は返す。川で水飛沫が上がったポイントへと勝手に歩き出した。
承太郎は止めようかと思ったが、どうせ話を聞かないだろうとすぐに結論が出たので、何も言わずにその後に続くことにした。


二人が川までの距離を10mほどに縮めた時だった。


ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!


川の水面から拳銃の発砲に似た音と共に無数の小さな水弾が飛び出した。
この場には二人のみ。自然と標的は霊夢と承太郎に絞られていた。

「邪魔よ…」

だが、博麗の巫女はうろたえない。裾からお手製の御札を取り出すと素早く投擲し、水弾をあっさりと相殺させてみせた。

「あんたがさっきからコソコソしてる奴?さっさと出てきなさいよ!」

声を大きくし、川にいるであろう襲撃者に警告するが―――

ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!

代わりに飛んできたのは先ほどと同じ水弾だけだ。霊夢は小さく舌打ちをしながら、再び同じように攻撃を捌く。

「とりあえずこの川になんかいるみたいだが、どうするつもりだ?」
「はぁ?近づいて来ただけで撃ってくる奴なんかに容赦しないわ。引きずり出してとっちめるまでよ。」
「迂闊に近づいて川に引きずり込まれると面倒だ…。スタンド相手だったらあんたでも対処しきれない、気を付けろよ…」
「平気よ。そんなドジ踏むほど私は抜けてないもの。」

承太郎はため息をつく。こいつの自信はどこから湧いて来るのかと。霊夢の力は十分理解しているのだが、少しは用心してほしいと思わずにはいられなかった。
だが、何度言って聞かせてもその通り動いてくれるとは考え難かった。

「やれやれだぜ…」

面倒臭い女と行動していると承太郎は再確認し、結局、霊夢の言う通り近づいてみることになった。



二人はじりじりと川へ近づく。距離を詰めるごとに水弾による攻撃は激しさを増すが、承太郎の手を煩わせることなく霊夢が全て撃ち落とした。
直線的に飛んでくる水弾程度では弾幕ごっこの申し子にとって障害にならなかったようだ。

川への距離をおよそ5mへと近づいた時、何度目になるのか、水弾が再び水面から飛び出した。

ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!
ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!
ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!


今までと比較すると圧倒的に多い量の発砲音が二人を包囲するように響き渡る。

「―――ッ!」

霊夢は川の方へと狙いを定めずに多めのお札を投げ放つ。お札は水弾を追跡し衝突、対処に成功するがこの時、霊夢は違和感を覚えた。

 おかしい…!敵の弾幕の数が発砲音に割に合わない、少な―――


164 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:10:16 2KRyV9p20

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」


振り返ると後方から飛来する水弾を承太郎がスタープラチナで弾き飛ばしていたのだ。
承太郎は叫ぶ。

「霊夢ッ!前からだけじゃねえ!後ろから、いいや360度から飛ばしてきてるぞ!」
「後ろをお願い!後は全部私が撃ち落とすッ!」

ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!
ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!

追撃にと更なる水弾を襲撃者は見舞う、音もよく聞くと前方以外からも聞こえる。霊夢は承太郎と背中を合わせる形で迎え撃つ。
本来ならスペルカードで対処したいが、霊力に余裕を持たせたい今は選択肢として考えない。

代わりに両腕の裾から腕を交差させる形でお札を大量に取り出す。一体どこにそんな数を仕舞っていたのか、そう疑いたくなるほどびっしりと手に収まっていた。

それらを取り出すや否や、周囲を見渡すことなく即投擲。

「退きなさいッ!」

一斉に放たれたお札は目標を追跡することはできないようだが、代わりに霊夢の手元から扇状に拡散し、より多くの水弾の侵入を阻むことに成功する。

しかし、一瞬で対処したものの、わずかに遅れたせいか、水弾はいくつか霊夢へと迫ってきていた。



「ふん、全部撃ち落とすといったわね、スマンありゃウソだったわ。」



飛来する水弾が顔面に迫るなら首を傾け、足に迫るなら足を上げ、胴体に迫るなら体を反らす。
数多の弾幕を切り抜けた名手とは、全ての弾幕を相殺させることができる人物ではない。自身に迫る弾幕を必要最低限の動きで避けることができる故に名手足りえるのだ。

無駄な動き一つなく鮮やかに弾幕を放ち、避け、霊夢は無傷で突破してみせた。

「承太郎、平気かしら?」
「…あんたが余分に俺の分まで弾いたおかげでな。」

霊夢が無傷だということは承太郎も無傷だということだ。プライドの高い彼女が彼にダメージを与えることは許さないからだ。

「っていうか!なんで川からだけじゃなくて、取り囲むようにして弾幕を張れるのよ?水じゃなかったの?」
「知るか。だが川以外にも敵が潜んでいるかもしれねえ…。もっとも、今は気配を感じないがな。」


二人は背中をぴったり合わせる形で霊夢は川の方を、承太郎はその後ろをジッと観察する。
承太郎は回復し上半身のみを出せるようになったスタープラチナの視覚を使い、辺りを見ようとした瞬間だった。

ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! 

「霊夢ッ!こっちからだ!」
「こっちは来てない!わたしにまかせてッ!」

霊夢は背中合わせの状態から、クルリと承太郎の横に回ると、振り向きざまにお札を投擲する。
迫る水弾とぶつけさせ、その撃ち漏らしをスタープラチナが叩き落とした。

しかし、水弾は二人に息つく暇を与えまいとさらに追撃する。

ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバシャア! ドバァ! 


「…今度は俺がやる、『スタープラチナ』ッ!」
「…ええ、後は私に任せてもらうわよ。」

今度の水弾も川からではなく、その反対側から飛来してくる。今度は承太郎が対処すべく、霊夢より一歩前に出た。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」

スタープラチナの拳が唸る。水弾を正面から殴り抜くのではなく、軌道をずらすように微妙な角度から殴り、ダメージをゼロに抑える。
本調子ではないものの正面から十数発の水弾程度なら、スタープラチナのラッシュで十分対処可能のようだ。


165 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:11:54 2KRyV9p20



「そこよッ!」



一方霊夢は承太郎が水弾を弾いている間に、相殺のためにお札を使わなかった。


水弾がある方向とは違う場所へと投げていたためだ。


彼女が投げたのは承太郎の背後。

水弾は川からではなく、その背後から来ているのに何霊夢は一体何をしているのだろうか。
だが、そこにいた。霊夢の放った『警醒陣』に触れている者が確かにいた。

「何ぃッ!?」

それは奇妙な存在だった。姿は黒色に染まった細身の体格をしていた。しかし部分的には白い部位もあり、そこは機械っぽく見える。
最後に顔の一部には黄色い横線があり、異様に面長な形をしていた。
その姿は人というよりは機械や人形に見えてしまうだろうか。

その奇妙な存在はまさに、承太郎の後頭部に手刀を叩き込まんとする寸前というところで、警醒陣を触れてしまっていた。

ビリビリとする感覚に襲われ、僅かな時間だが完全に無防備を晒してしまった。

「捕らえたわよ、奇妙な水妖ッ!」

霊夢はいつの間にか襲撃者の背後へと回り込み、後ろ宙返りから蹴り上げをかました。

『昇天蹴』、霊夢の脚にかかれば天に昇るほど高く…とはいかないが、痛みと引き換えにささやかな空中遊泳が楽しめる。
そんな彼女でも、あるものを蹴る時だけは自分が潰されないよう細心の注意を払う。御神体はくれぐれも丁寧に扱おう。

普段よりも大きな相手ではあるが、無防備さだったおかげか、大きく弧を描くように相手を蹴飛ばし地面へと叩きつけてみせた。

「ようやく釣れたか…」
「煮ても焼いても食えそうにないわね。」

二人は口々に謎の乱入者について好き勝手言うが、一体何者なのか。
答えは簡単だ。川に大きな波紋ができていることもまた、その存在の正体を雄弁に語ってくれていた。

「よくも散々やってくれたわね…!覚悟はできてるのかしら?」
「自分は水の中で悠々と構えて、一方的に攻撃とはあんまし良い趣味じゃねえな…」

そう、襲撃者の正体はこの奇妙な存在だったのだ。二人は少しづつ襲撃者の元に近寄る。

「ふん、嵌められたというわけか…、まあ構わん。もう既に準備はできているからな。」

奇妙な存在は、状況を理解しさらに二人と同じように言葉を介することができるようだ。承太郎は若干驚くも、構わず質問してみた。

「一応聞いとくぜ…質問はシンプルに。あんたは何者で、そして殺し合いに乗っているのか、この二つだ。」

霊夢はともかく、承太郎は今すぐ問答無用で攻撃する気はなかった。戦うにしても相手から情報を聞き出す必要があると判断した。
その奇抜な外見や、霊夢が知らない相手ともなれば、おそらく『スタンド』の類だろう、そう考えてのことだ。

「いいだろう、妙な名で呼ばれるのも不愉快だから教えてやろう。私の名前はフー・ファイターズだ。
そして殺し合いについてだが、私にとってそんなもの私の与り知らぬことだ。私の使命はDISCの守護、ただそれのみ。」

「DISCか…生憎、俺たちは手元にそんなもの持っていないぜ。無差別に襲うつもりだったのか?」

承太郎は支給品にそのようなもの持っていない。何よりデイパックの中身を見られたわけでもないので当然の疑問だ。

「何を言っている!貴様自身、その身体に入っているではないか!『スタープラチナ』のスタンドDISC、そして記憶のDISCを!」

しかし、その返事は全く予想外の方向へと進んだ。

「何を言っている…?俺のスタンドと記憶のDISCだと…?」
「そうだ!事情は分からんが、私が倒れた後に空条徐倫からスタンドDISCを。さらには『ホワイトスネイク』から記憶DISCを手にし復活したのだろうな。」
「空条徐倫…!?あんたは奴を知っているのか?」
「だが!そんなことはどうだっていい!貴様から最低でもスタンドDISCは回収させてもらうぞッ!」

承太郎の疑問をよそにフー・ファイターズは彼目掛けて駆け出す。


166 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:13:37 2KRyV9p20


「ちっ、どうやらコイツから色々聞き出さなけりゃいけねぇみたいだぜ…」


承太郎はフー・ファイターズの言うDISCの意味はまったく理解できなかったが、相手が空条徐倫を知っていることは掴めた。
名簿の共通点からジョースター一族の一人、というより自分の血縁の人間考えられるが、
同じ姓なのに承太郎は初めて見た名前で正体を知る必要があった。

「フーフォアアアァァアアア!」

フー・ファイターズが承太郎へ拳を振るう。承太郎のスタープラチナも構えこれに応戦した。

「オラオラオラオラオラオラ!」

両者の拳と拳が激しく衝突する。『最強のスタンド』と称される『スタープラチナ』と水棲型と思われる
『フー・ファイターズ』の拳の打ち合いは意外な形に縺れる。

 水中だけかと思ってたが…こいつ、素早いッ!

パワーに措いては『スタープラチナ』が勝っていたが、拳のラッシュのスピードでは『フー・ファイターズ』が優勢であった。
原因は霊夢との戦いに受けた『封魔陣』の影響だろうか。痛みや不自由さは失せてはいるが、
スタンドを行使するには万全の力を発揮できないでいた。

故にフー・ファイターズは力で押し負け拳にダメージが蓄積され、承太郎はラッシュの間を縫うように数発拳を叩き込まれてしまう。
両者痛み分けという状況に縺れかけた時、呑気な声が上から発せられた。


「頭上注意、たまには上を見たほうがいいわよ。」

いつの間にか、霊夢はフー・ファイターズの頭上の宙にいた。そのまま重力の助けを受け、
さらには右足に力を込めて、フー・ファイターズの右肩を勢いよく踏みにじる。

『幻想空想穴』。霊夢は瞬間移動を駆使し相手の頭上へと接近したのだ。

「ぐおぁッ!?」

さしものフー・ファイターズも完全に虚を突かれ、大勢を大きく崩す。

「おのれぇッ!よくも!」

フー・ファイターズは仕返しに、右肩に乗っていた左足を掴もうとするが…。

「そして前方注意、わき見運転は怪我の元だぜ…!」

ハッとした時は既に遅いというのはよくあること。それはフー・ファイターズにとっても例外ではなかった。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ―――」

霊夢がフー・ファイターズの肩から飛び降りたのと、スタープラチナのオラオラが炸裂したのはほぼ同時。見事な連携だった。

「オラァッ!」とラッシュの最後を締める、ドスの効いた声が響き渡る。タコ殴りにされたフー・ファイターズは
無様にも大きく吹き飛ばされ、ビシャビシャと水音を立てて地面を転がった。

「承太郎、平気?」
「おかげさまでな。…それよりも、奴に直接的な攻撃は控えとけ。おそらくスタンドのはずだからな。」

「助けたのにその言い草はないんじゃないの?」
「まあ、横槍を入れてくれたおかげで楽できたのは事実だ。だが、それよりも俺が気になったことがある…」

承太郎は一連の戦いで気づいた点を述べる。

「あいつはスタンドのくせにあんたの蹴りでダメージを受けてるってことだ。」
「…確かにそうね。それに、スタープラチナと殴りあっていた以上はスタンドってことだし……」
「ああ、なかなかよく分からん、得体の知れないヤローだぜ。」


「話は済んだか?承太郎!」


そこには殴り飛ばされていたフー・ファイターズが再び二人へと走り出していた。ダメージを感じさせないほどの敏捷さを以て。

「ほう、あれだけ殴られておいてタフな奴だぜ…。霊夢、サポートを頼む。」
「不本意だけど、了解よ。」

承太郎はフー・ファイターズと同様に加速した状態で激突できるよう駆け出し、霊夢はその場に留まる。
再び後方から水弾が飛んでくる可能性も捨て切れないと判断したからだ。


「まずは貴様の頭から、DISCを返してもらうぞッ!」
「やってみな、てめえに俺の学帽を外せるってんならな…!」


167 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:16:12 2KRyV9p20


両者、スピードを乗せた一撃を繰り出す。
初撃は重い力を込めた拳同士がぶつかったかと思えば、第二、第三の攻撃は素早さに重きを置いた拳が、衝突しあう。

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
「フーフォアアアアァァアア、ぐうっ!」

しかし、最初の様に痛み分けにはならず、十発を超えた辺りのラッシュでフー・ファイターズは音を上げてしまう。
当然だ、全力ではないとはいえ仮にも最強のスタンドのラッシュをもろに受けたのだから。

「動きが鈍いぜ…オラァ!」
「うごぉッ!ま、まだ…だ……!」

承太郎はラッシュの合間の隙に顔面へとスタープラチナの拳を叩き込む。フー・ファイターズはよろめくが、更なる追撃は許さない。

「ぐうッ!受け続けるのはマズい…だが、まだ…退かんぞ……」

しっかりと二撃目、三撃目と寸でのところで受け止める。
そこから、フー・ファイターズはラッシュをひたすらガードし続けた。
そう、ガードしたのだ。ラッシュの打ち合いに持ち込むならばともかく、
攻撃から逃れるならば、受けるよりも距離を取った方が賢い選択なのにも関わらずだ。
幸いにもスタープラチナの射程距離は短いというのに。
フー・ファイターズは何かを待つかのように、攻撃を受け続けていた。

 こいつ、何か狙って―――

承太郎がそう考えた時、背後から気配と、声がを感じ取った。

「させ――― 

「『星の白金(スタープラチナ)ッ!」

承太郎が身の危険を大きく感じた瞬間、時を、世界を支配した。
 
 まずはテメーだ…!

承太郎はまず目の前のフー・ファイターズを退けるべく、渾身の一撃で殴り抜く。
続いて背後の存在を確かめようと振り向こうとする間に…

 もう限界か…!時間が足りねえ。

未だ完全なヴィジョンでスタープラチナを出せないせいか、時止めは1秒にすら満たなかった。
承太郎が振り向いた瞬間―――つまり時止めが終わり、コンマ数秒経過した時だ。

「ぐおおッ!?」
「―――るかッ!―――ってあれ?ちょ、ちょっとぉ!?」

時止めの際に殴られたフー・ファイターズがそのまま大きく吹き飛ばされる。
それとほぼ同じタイミングに、承太郎の目の前で、ばしゃーん、と派手な水音を立てて水にぶつかる霊夢がいた。


「あんた、どうしたんだ?」
「ぶえッ……げほッげほッ…!こ、こっちが聞きたいわよ!あんたの後ろに水妖もどきがいたから、蹴飛ばしてやろうとしたの!
それで、蹴ったと思ったら…そいつはいなくて、水だったのよッ!」

「よくわからん。」
「ああ、もうッ!私だって分からないわよ!」

霊夢はガミガミと怒りながら承太郎に説明するが、彼女自身もよく状況が掴めていないようだった。

「俺もあんたと同じく後ろに誰かいると思って咄嗟に時を止めた。ヤローを殴り飛ばして、いざ振り向いたら…」
「私がいたと、でもねえ、私は見たのよ。」

霊夢は服の一部を絞りながら、説明する。

「私はあんたがあいつと殴り合ってる間、ほっといてもあんたが勝ちそうだから、周囲を見てたのよ。
特におかしいところもなかったから視線を戻したら…」
「あいつがいたってのか…」 

承太郎は今までのフー・ファイターズの攻撃から、簡単に推察した。

「水中に潜んでいた時は水を弾丸のように飛ばしていたように、あいつは水を操作できるスタンドなのかもしれんな…」
「でも、水性弾幕はおいといても、自分の分身みたいなのってできるものなの?
仮にできてもそれなりに水がないとできないと思うけど。」

霊夢の言葉に頷きながら、承太郎はふと足元を見て、ある発見をした。


168 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:18:27 2KRyV9p20


「いや、霊夢。下を見てみろ…!水はあるようだぜ…。」
「うん?あっ、ホントだ。」


承太郎と霊夢は足元を見ると水溜まりがあった。今まで攻撃されていて、気が付かなかったようだが。

「しかも、無数に……というよりも、ここら辺一帯が水浸しになっているわね。」
「奴の仕業か…?」

霊夢が言った通り、水溜まりは足元のみでなく、かなり広範囲にまで及んでいた。二人が状況を整理し、もう一度思案しようとするが―――


「ハァッハァッ、まだだ、まだ終わらんぞ!」

中断を余儀なくされた。
若干フラつきながらも、フー・ファイターズは立ち上がっていたのだ。

「ちょっと!あんたのせいでビショビショになったじゃないの!どうしてくれんのよッ!」

「ほう…!だが、私のせいではないと言っておこう。貴様も見ただろう?背後にいた私の分身を。あれで承太郎からDISCを奪い取る算段だったが…」

そこまで言うとフー・ファイターズは懲りもせず、三度、二人の元へ突撃する。

「やっぱり、あんたの仕業じゃないッ!行くわよ、承太郎ッ!」
「やれやれだぜ…」

今度は霊夢と並走する形で承太郎はフー・ファイターズを迎撃することとなった。

フー・ファイターズは走りながら、両手の人差し指からドバァと聞き覚えのある音を発しながら攻撃を繰り出していた。

当然、霊夢はこれに応戦する。お札を放ち相殺、さらにはフー・ファイターズにもお見舞いする。
しかし、フー・ファイターズは迫りくるお札を最低限対処し、なおも接近する。
近づいたら近づいたで、次は承太郎のスタープラチナと殴り合う必要もある。ダメージが蓄積された状態では、二人が圧倒するかに思われた時だった。





三者の距離を10mを切ったあたりで、異変が起きる。





フー・ファイターズへと走るお札が、時間を止められたかのように一斉に静止したのだ。
そして重力に従い、次々と地面に落ちていく。

「霊夢…?どうし…た―――」

左側で走っていた霊夢の方を向き、承太郎は声をかけるが返事はない。
返事の代わりか聞こえてきたのは、ばしゃりと水に浸かった音。



ハッとして振り向くと案の定、霊夢はいた。






「なんだとおぉーーッ!?」


169 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:22:11 2KRyV9p20






ただし、地面に横たわる状態でだが。
ここまででも十分驚きに値するだろうが、承太郎はさらに驚愕する。



見れば、霊夢の身体から無数の黒い腕が生えていたのだ。
それだけではない、霊夢の右腕から生えた黒い腕は口を塞ぎ、その他の腕は容赦なく彼女の肢体を殴り抜いていたのだから。
拳が振るわれるたびに霊夢は体をくの字に曲げるが、呻くこともできずに甘んじて受けるしかなかった。


「てめええッ!『星の白金(スタープラチナ)ッ!!」


承太郎はすかさず時止めを行使する。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

霊夢の元へ一瞬で近づくと、彼女から生えた腕を的確にスタープラチナの拳で破壊する。
高い精密性を誇るスタンドのおかげで霊夢の身体にはスタープラチナに殴られた後は一切ない。
その後、霊夢の首の後ろと膝の後ろに素早く腕を通し、負担をかけないようにゆっくりと持ち上げる。

承太郎は歯ぎしりをしながらフー・ファイターズの方へ向き直り、時間停止の終わりを感じ取った。

ドバァ、ドバァ、ドバァ、ドバァ

フー・ファイターズの指から放たれた、水弾は元のスピードを帯びて走り出す。
対する承太郎はこれをスタープラチナで軽くいなした。
状況が大きく変化しているのを察したフー・ファイターズは走るのを止めて、じっくりと観察する。

「てめえ…!ふざけたマネしてくれるじゃねえか…!」
「その様子だと、成功したようだな。所詮は生身の人間、あっさりと倒れてくれたようだ。」

承太郎は静かにだが、強い怒りを露わにしていた。一見冷静な雰囲気を醸し出しているが、仲間に手を出されて何も感じない男ではない。

「しかし、わざわざ水を被ってくれるとは好都合だった、どうやらツイているらしいな。」
「てめえが仕掛けた分身の仕業じゃないとでも言うのか…?」
「その通りだ。さっきも言ったが、私の狙いは貴様のDISCに他ならない。分身は背後からけしかけるために用いたのだが…。
 いつの間にか私は殴り飛ばされ、分身の制御ができなくなり水に戻った。」


「ちっ…!だとすると…」
「理解はできないが、きさまは攻撃される瞬間にスタンドの能力を使ったのだろう?そのせいで、わたしは吹き飛ばされ、
 分身は水へと戻り、分身に攻撃した女は水を被った。
 後は簡単だ。十分に濡れていたおかげで私の腕を作ることができたのだからな。」

承太郎は顔をしかめた。どうやら自身の時止めが仇となり、霊夢が痛めつけられた原因の一翼を担ってしまったのだから。
ぐったりとしている霊夢の身体も心なしか重く感じた。

「ふん、ショックだったか?最初から素直にDISCを差し出しておけば、女の方は無事だったかもしれんな。」
「ああ、確かに自身の不甲斐なさにむかっ腹が立つ。だが…!それ以上にあんたに対して腹が立ってしょうがないぜ…!」


170 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:24:30 2KRyV9p20


承太郎は目をギラつかせ一歩前に進む。


「さて、承太郎。その場を動かないほうがいい、と言っておこうか…」

フー・ファイターズがそう言うと、承太郎の背後から一つの水弾が飛んでくる。だが、承太郎は反応しない、する必要がないと判断したためだ。
それはかすることなく、承太郎の側頭部をただ通り過ぎる。いわば、警告のようなもの。

「周りを見てみろ、貴様はとっくに包囲されているのだからなッ!」

弱くなってきた月明かりに照らされたのは無数の水溜まり。大小様々なそれの上から黒い手が10を超えるほど存在していた。
フー・ファイターズの生み出した手の分身。それらが銃の形を模した構えを取り、人差し指を承太郎へと向けていたのだ。

「さて、その女を守りながら、果たしてどこまで戦えるか見物だな。」
「ああ、俺もそう思うぜ。あんたがいつまで余裕ぶっていられるのかってところにな…」

承太郎は不敵に笑ってみせた。

「ふん、やせ我慢を。まあいい…聞け、承太郎、貴様ら二人を生かすために一つ提案だ。」
「ほう、今更てめえが何を提案できるんだ…?」

予想外の言葉に承太郎は若干反応するが、応じる気はないのが容易に見て取れる。

「今から貴様の元に私の分身を送ろう。そいつがDISCを取り、私にDISCを素直に渡してくれたら見逃してやろうというのだ。」
「…どうやって俺からDISCを取り出す?」
「簡単だ、お前の頭を私の分身が触れれば出てくる。スタンドを介すれば取り出せるはずだからな。」

フー・ファイターズの不確かな言い方に、承太郎は問い質す。

「はず、って言うのはどういうことだ、誰かから聞いたってのか?」
「私にDISCを与えた『ホワイトスネイク』だ。そいつから私に知性を与えたDISCの守護を任されている。」
「『ホワイトスネイク』ってのは何者だ、俺は初めて聞く名前だぜ?」
「『ホワイトスネイク』は人の名ではなく、『スタンド』だ。誰が操ってるかは知らんが、そいつの能力でDISCを生成しているはずだ。
…もういいだろう、話はDISCを取り出した後にしてやる。」

 もっとも、DISCを取り出して貴様に意識があればの話だがな…

フー・ファイターズは内心ニヤリとすると、自分の分身を創り出す。すると、水溜まりから水が寄り集まり、やがて人の形へと変貌する。
最終的には顔の目の部分は出目金のように大きく飛び出ているが、フー・ファイターズと同じ身体をした分身が出来上がった。

「おとなしくしているんだな。」

分身は静かに承太郎の元へ歩き、手を伸ばせば届く位置に付いた。そしてゆっくりと腕を振り上げ―――



「誰がてめえの話に乗ると言った…!」





腕が殴り飛ばされた。


171 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:27:11 2KRyV9p20


「承太郎…!貴様、この期に及んで何のつもりだ!?」
「何を提案するかと思ったら今更おとなしくしろ、とは。聞いてあきれるぜ…!
てめえが俺に提案できるのはただ一つ……!」


殴り飛ばされた腕が地面へと落下する。


「俺からブチのめされること、それだけだ…!」



「この状況でまだそんな事にこだわるとはな、愚かな奴め。貴様は今、二人揃って助かる可能性を捨てたのだぞ!?」
「悪いがてめえの話を鵜呑みにするほど馬鹿じゃねえ。何が正しいかどうかは俺が決める。」

承太郎はフー・ファイターズをしっかりと見据え言葉を紡ぐ。

「何よりもだ…。俺はてめえがしたことをこれっぽっちも許しちゃあいねえ…!
訳の分からん因縁を付けて襲ってきた挙げ句に、仲間を…ましてや、女を傷つけたッ!
無抵抗になってからも、執拗に殴るようなヤローを俺は簡単には許さねえぜ…!」


承太郎はスタープラチナを発現させ、指をフー・ファイターズに向けて一言宣告する。



「てめえはこの空条承太郎が直々にブチのめす。」



承太郎の視線を向けられたフー・ファイターズだが多少の驚きはしたが、焦る様子はない。

「バカな奴め。粋がるのは構わんが、所詮貴様は今の状況を理解できていないだけだ…!
食らうがいい!全方位から放たれるF・F弾をなッ!」

承太郎はその場で応戦するかに思えたが、なんと素早く回れ右をすると、一目散に駆け出したのだった。

フー・ファイターズはむしろこの行動の方に呆気にとられる。しかし、
逃すまいと一斉に承太郎たちを取り囲むように無数の手が生え、人差し指から水弾が発射される。

「逃げ切ろうとしようが無駄だ!」

ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!
ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!
ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!

 今の状態じゃあ時止めできる時間が短すぎる。その上に疲労も大きすぎて使わないものにならない……だが問題ねえ…。
俺にのみ一斉に撃って来るなら水弾が集中するポイントもまた一点…!

承太郎はスタープラチナで水弾を対処しながら一気に走り抜ける。彼が考えたのはどこから放たれた水弾が最も早く自身に着弾するかだった。
しかし、承太郎を中心に円形に取り囲まれ一斉に撃たれては、動かなければ一斉に着弾するのは必至だ。

だから承太郎は動くことにした。動いた分だけ進んだ方角からの着弾が速くなり、
それらを捌いた後に後方からの水弾を叩き落とす。それが彼の判断だった。

その考えが的中し、前方から飛来する水弾はわずかにカスる程度に抑えてみせた。そして素早く振り返り、後方の水弾を対処する。

「オラオラオラオ―――ぐお!?」

承太郎の腹部を拳が突き刺さるまでは…。


「何ィッ!ま、まさ……か…!」

承太郎は殴られた腹部を見て驚いた。そこにあるのは霊夢を痛めつけた忌々しい腕。

「逃げ切るのが無駄だと言ったのが分からないか?女の身体に水分が完全に抜けきっている、とでも思っていたか?」

そう、霊夢を殴った忌まわしい腕が今度は承太郎に牙をむいたのだ。霊夢の裾辺りから生えた腕は腹部を激しく強打していた。
フー・ファイターズは一本だけ腕を生成できる程度、水分とプランクトンを温存していたのだ。

 マズい…!鳩尾でも…殴られ、た、かッ…!

怯んだ承太郎に、追撃にとばかりにもう一度叩きこまれる。

 ふざ、けるな…!仲間を手、に掛け、た腕で…俺ま、で眠ってられるか…!

飛びそうになった意識の手綱を握り締め、フラつく足に喝を入れる。

「ス、ス…タープラチナァッ!!」

承太郎は霊夢から生えたフー・ファイターズの腕をスタープラチナの拳で再び破壊した。
しかし、後方から迫る水弾がいよいよ迫っており、既に三発ほど既に承太郎の身体に着弾している。
痛みを堪えスタープラチナで対処しようとするが、フー・ファイターズは黙って見ているわけではない。


172 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:29:13 2KRyV9p20



「ふん、倒れなかったのは褒めてやる、もっともお前はここで終わりだがなッ!……喰らえッ!」



ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!
ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!
ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ! ドバァ!

おまけと呼ぶにはあまりにも多すぎる量の水弾が飛んできたのだ。今度は前方からのみだが量が多い上、承太郎の状態も芳しくない。
だから承太郎は支給品に頼ることにした。


 間に合うかどうか、分からねえが……あれを―――ってない…だと!


しかし、身につけておいたはずのそれは戦いの最中に落としたのか、手元にはなかった。承太郎は己の不運を呪うが、そんな時間はない。

 くっそた、れ…!これ以上、霊夢に傷一つ……つけてやるかッ!

承太郎は精神を集中させ、なんとかスタープラチナのヴィジョンを保つ。そして迫りくる大量の水弾を弾こうと構えた時だった。




承太郎の少し先に何かがふわりと漂っているのに気が付いた。
霧雨魔理沙の愛用品、ミニ八卦路であった。

 何ッ!?どうして…浮いているんだ?

承太郎といえど、この事実に多少は驚かざるを得なかった。それは今まさに承太郎が必要だった金属塊なのだからだ。

ほどなくして、ミニ八卦路から赤い炎が吐き出される。


飛来する水弾は、あっけなくその炎に飲み込まれた。しかも、ミニ八卦路は意志があるかのように動いている。
火を放ち続けながら、承太郎に当たろうとする水弾を狙っては忙しなく向きを変える。
最終的に、承太郎はおろかミニ八卦路にすら届くことなく全ての水弾は蒸発を遂げ、辺りは少しだけ水蒸気で包まれた。


「ば、ばかなッ!承太郎、貴様…何をした!」


フー・ファイターズはミニ八卦路が宙にあったことに気が付かなかったのだろうか。
いや、たとえ気づいても目の前の状況に理解が追い付いかないのも無理はない。


「さあな…だが、これであんたを叩きのめそうだぜ…!」


承太郎はフー・ファイターズへと駆け出す。ダメージが残っているのは承知だが、またも水弾を撃ち続けられるのもマズい、そう判断しての突撃だ。

 何よりも…!近づかなきゃあ、てめえをブチのめせないからな…!

「ふん、何をしたのか分からんが、その状態で挑んでも無駄だ…!返り討ちにしてくれるッ!」

フー・ファイターズも迎撃せんと駆け出す。
承太郎はスタープラチナを出現させると、加速の勢いを乗せてフー・ファイターズへ殴りかかる。


「オラァッ!」
「フォアアッ!」


両者の拳が激突する。
衝突した瞬間、押し負けた方が大きく吹き飛ばされた。
果たしてどちらに軍配が上がるのか―――



「うおおおおッ!?」


173 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:29:35 2KRyV9p20



吹き飛ばされたのはフー・ファイターズだった。僅かな間、殴られた衝撃で宙に浮かされ、やがて地面へと派手に転がりながら倒れ込んだ。

 何だ…?あいつ、こんなにあっさりと……

この結果にむしろ承太郎が驚いた。彼からしたらこの特攻は破れかぶれの一撃だった。
しかし、蓋を開けるとフー・ファイターズの攻撃をものともせず、むしろそれを大きく上回った。まるで…

 スタープラチナの調子が良くなった…いや、むしろ……

承太郎はスタープラチナのヴィジョンを改めて見て、合点がいった。なぜなら、承太郎はスタープラチナのヴィジョンが元通りに回復していたからだ。

 完治している…!霊夢の『封魔陣』が都合良く、このタイミングで治ったっていうのか…?

承太郎は思案しながらも、フー・ファイターズが吹き飛んだ方へと歩き出す。

 心なしか憑き物が取れたような感触がなくなっている。他に何かあるとするなら……これか。
 
承太郎は自分の近くに浮いているミニ八卦路を掴み取り、スタープラチナの視力を通して見てみた。

 見た目だけじゃあ何も分からんか…。独りでに動き出したりしたが、こいつに原因があるのか?


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


174 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:30:56 2KRyV9p20


承太郎は知らないがミニ八卦路はある異変の際、勝手に動いてくれるようになっていたことがある。
原因は打ち出の小槌による付喪神化であった。しかし、異変は既に解決しており、道具たちは少しずつ、その自律性を失われていった。
ここにあるミニ八卦路はその異変が解決して、まだ月日の浅い時の代物だった。

だが、これだけではミニ八卦は動かない上に、スタープラチナが回復した原因が分からない。

ここで付喪神化した道具が元に戻るのが遅れたという例を紹介しよう。

妖魔本を扱う本居小鈴の話だ。彼女の家の妖魔本を始めとする本は、異変解決後も付喪神化は直らず、
むしろ悪化しているところすらあった。
その原因は、打ち出の小槌の魔力に代替する妖魔本の魔力だった。

つまり、打ち出の小槌に代替するエネルギーがあれば、もう一度付喪神化することがある。
だったら、この場にあるミニ八卦路は、一体何のエネルギーによって再び付喪神化を果たしたのか。




答えは承太郎のスタンドパワーだ。




承太郎はこのバトルロワイヤルに呼び出され、常に装備していた。
付喪神化が終わって間もないという点。霊夢や魔理沙の霊力とはまた違った、スタンドのエネルギーという点。
二つの要素がミニ八卦路が再び力を集め出した要因となった。
霊夢の封魔陣が原因だと思われていたスタンドの封印も、実は承太郎が考えていたよりも早く治っていた。
それが、ミニ八卦路によってスタンドパワーを吸収され続けたせいで、上半身のみしか発現できないでいた原因だった。

要は承太郎が封魔陣によるスタンドの封印から回復したのではなく、ミニ八卦路の充電が済んだ結果、
スタンドパワーを吸収する必要がなくなり、本来のスタープラチナの力を取り戻したのだった。

これらの原因が重なっていることを二人は全く知らないのは言うまでもないだろうが。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


175 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:32:22 2KRyV9p20


承太郎は起き上がったフー・ファイターズとにらみ合う。

「さて、悪いが今の状態なら殴り合いじゃあてめえに負ける要素は一つもない…。なんなら試してみるか…?」
「ぐッ…!」

 ハッタリじゃあない、現にさっきにの一撃は最初の時と比肩できるものではなかった…!
 もう一度、全方位からF・F弾を撃つか……いや、火を噴く鉄塊に、ダメージを負っているとはいえ
 万全のスタープラチナ、また対処されるに違いない……!
 
フー・ファイターズが作戦を模索する中、承太郎は歩いていた足を止め、突拍子のないことを言った。

「あんた、人間でもスタンドでもないだろ?」
「…いきなり、何のことだ?」
「知らばっくれても無駄だぜ…。スタープラチナは五感が鋭いんでな…」

承太郎はそう言うと、スタープラチナが手を開いた。手にあるには先ほどフー・ファイターズの胸を殴った際に落ちた皮膚の一部だ。

「こいつをよく見てみると、出目金みてーなよく分からん微生物が群生しているのが見えた。てめえはこのちっぽけな微生物が寄り集まった存在ということだろ?」
「私の名前はフー・ファイターズだ、微生物でもプランクトンでもないッ!」

フー・ファイターズの言葉を軽く聞き流して、承太郎は続ける。

「そして、てめえが話したDISCで与えられた知性とやらの話…。攻撃する際も執拗に俺の頭部を狙っていた様子…。
てめえの頭にDISCがあって、そいつがスタンドの能力を生み出しているってところか?」

 こいつ…!私の正体を、仕組みを、完全に見破ったのか…!?

表情には出さないがフー・ファイターズは驚愕した。

「そして、てめえは水とてめえ自身がそこにあれば、自在に操れる。
ダメージは水をかけて増殖すれば問題ねえし、分身は作れる、指先にのみ大量に増殖させて圧縮した水弾を放つといった具合にな…」

「ふんッ!だとしたら、どうする?この大量にばら撒いた水そのものが貴様の敵だ!
そのおもちゃで全ての水を蒸発させてみせるか!?できないだろう?」

フー・ファイターズは半ば認める形ではあるが、なりふり構わず自身の優位性を宣告する。

「私を殴り殺してみせるか!?生半可なダメージなら貴様の言ったように回復してみせる、私を簡単に殺すことは不可能だッ!
それでも、貴様に打開策があるというなら見せてみろッ!」

「……確かにな、どっちも骨が折れる上に、こいつを抱えたままやるとなると危険を伴う。
だが、一つだけ言っておくぜ……てめえは俺自身の手でブチのめすとな…!」

スタープラチナの手の平にあったフー・ファイターズの一部を握りしめ、完全に破壊すると、いよいよ承太郎は走り出した。

「来るか…!」

対するフー・ファイターズは焦りがないわけではないが、動じることなく構えた。

「いいだろう!真っ向勝負ということなら受けて立ってやる!ただし、そう簡単には近づかせないがなッ!」

フー・ファイターズは周囲の水溜まりに潜めている自分自身に増殖せよ、と命令する。
すると、フー・ファイターズ本体を除いて4体の分身が姿を現した。


「「「「フーフォアアアアアアアッ!!!!!」」」」


4体の分身の内2体は承太郎へと接近し、それぞれ思い思いに攻撃を仕掛ける。
そして、フー・ファイターズ本体と共に後方に控える2体の分身。


スタープラチナへとフー・ファイターズの分身の一体が迫る。


「オラオラオラオラオラ!」

しかし、所詮フー・ファイターズの分身であって本体ではない。拳同士が衝突を繰り返すが、スタープラチナのパワーをモロに受け、両腕はあっさり破壊されてしまう。

だが、その間に承太郎へと分身の一体の接近を許す形となる。顔面へ拳を叩き込まんと腕を走らせる。

「フォアアッ!?」

顔面へ残り数十センチというところで突如として腕が焼け落ちた。
見れば承太郎の足元には付喪神化したミニ八卦路があり、そこから火柱が立っていたのだ。

「オラァッ!」

承太郎はスタープラチナの鉄拳を、攻撃の手段を奪われた2体の分身にそれぞれ叩き込む。
重い一撃は分身の胴体を貫通する威力を発揮した。スタープラチナが腕を引き抜くと、2体とも力なく崩れるが…。


176 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:35:32 2KRyV9p20



「「フーフォアアアアッ!!」」



ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!

その直後、救いの手が差し伸べられる。後ろに控えていた2体の分身は、水弾を発射する。

目標は承太郎―――と思わせておいて実は違った。2体の欠損した分身の腕や胴体へと水弾が命中。
すると、着弾したところからプランクトンが増殖、腕は再生し、貫通した胴体も修復される。

 分身は前衛と後衛に分けての攻撃と回復、本体はその指揮ってことか、だったら…

「「フーフォアアアアッ!!」」


復活を果たした2体は再び、承太郎へと牙を剥ける。今度は両者タイミングを合わせての特攻だ。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

そんなもの知ったことか、と言わんばかりにスタープラチナは2体の分身を同時に相手にしてみせた。
2体分のラッシュすら互角以上に打ち合い、ラッシュの合間に2体の分身の顔面をぶち抜き再度リタイヤに追い込む。

その直後―――

「「フーフォア―――『星の白金(スタープラチナ)ッ!』―――

時は止まった。
倒された前衛を助けるべく動いた2体の分身の声が、中途半端なところでブツ切られる。


「復活できねえように、バラバラにするまでだぜ…!」

凶暴な視線が首の吹っ飛んだ2体の分身に向けられていた。



「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァ!」



丁寧に身体の上から下へと、恐ろしいスピードとパワーを以て着実に破壊していく。そもそも既に首がなく、時間停止中という状態であまりにも無防備だった。
哀れにも分身は最終的にその場にいなかったかのように霧散してしまった。


「時は動き出す…!」


「「―――アアアアッ!?」」

分身の声が上擦り、理解できない状況にあることを大いに伝えていた。本体を含む三者には前衛の2体が消えてしまったようにしか見えないのだから。


そんな隙だらけの状態を放置する承太郎ではなかった。

「オラァッ!」

承太郎は本体に駆け寄ると共に、後衛の分身2体をスタープラチナの剛腕で、それぞれの首元に腕を激しく打つラリアットを見舞った。
ついでと言うには少々苛烈な一撃を受け、分身は派手にぶっ飛ぶ。

「いよいよ、あんただけだな…腹は括ったか…?」

承太郎はフー・ファイターズに不敵な笑みを浮かべる。だが、当の本人の目はまだ死んでいない。

「言っただろう!簡単に私には近づけさせんとなッ!」

フー・ファイターズが言い終わるのと同時に、再び周囲の水たまりから4体の分身がゆらりと現れる。

「かかれッ!」

今度は4体の分身が一斉に承太郎へと迫る。だが、承太郎はスタープラチナを構えさせず、その代わりに宙に漂うモノを掴み、構えた。


「悪いがこれ以上付き合う気はねえ…、こいつで仕舞いだ…!」


177 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:38:24 2KRyV9p20


―――ゴウッ―――


放たれるは真紅の炎。
その出発点はもちろんミニ八卦路だ。承太郎の両手に収まったそれから、勢いよく噴き出された。
先ほどオートで動いていた時よりも大きく、太い一本の炎はすっぽりと4体の分身を飲み込んで見せた。

 ホントに大した火力だぜ…!こいつら相手には火が有効なんだろうが、それ以外でも十分すぎる威力だ…!だが…

承太郎はミニ八卦路のパワーに感心したが、その一方で違和感も感じていた。
スタンドパワーによって付喪神化したミニ八卦路の性質か、承太郎が直接持つと力の消費を大きく感じた。
ミニ八卦路がスタンドパワーを充電しようと、必要以上にその力を吸収していたからだ。

しかし、その威力は絶大で4体の分身はわずかな時間しか火で炙られていないが、完全に焼失してしまっていた。
承太郎はそのことを確認すると、即座に炎を解除しミニ八卦路を投げ放った。
当然、付喪神化を果たしたおかげで地面に接触することはなく、ふよふよと浮いている。

 やっぱりコイツに何かあるみたいだな…。触っておくのはマズいかもしれん……

そう承太郎が思った瞬間だった。炎の残滓が消えゆく中に紛れて、フー・ファイターズ本体が突撃する姿が見えた。


「不意打ちのつもりだったのならバレバレだぜ…」
「その必要はない…!なぜなら、今からとっておきを食らわせてやるからな…!」


お互い相手に火花を散らしながら、接近。最後の衝突が幕を下ろす。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオオラオラオラオラァ!」
「フーフォアアアアアアアァァアアアアア!」

スタープラチナの拳がフー・ファイターズの拳がぶつかり合う。ラッシュの応酬はやはり終始スタープラチナが優勢であったが、フー・ファイターズも負けてはいなかった。

足元の水溜まりから、水を供給し破損した部分を回復しながら粘り続ける。DISCの回収、その一念が彼を突き動かすが…。


「うぐぉおッ!?」


ラッシュに徹していたスタープラチナの拳が突如、フー・ファイターズの首元に伸びる。

「捕まえたぜ…!」

スタープラチナはそのまま右腕で首根っこを掴むと、相手を地面から足が浮かせた。2m近い体躯のフー・ファイターズの身体を持ち上げてみせたのだ。

 回復させないつもりか…!

承太郎はフー・ファイターズの特徴を既に見抜いていた。ならば、回復できる水の上で闘わせてもらえるわけがない。

「オラオラオラオラオラァッ!」

承太郎は顔面に数発、スタープラチナの拳を叩き込む。仲間を傷つけた相手には遠慮なし、容赦なしの本気の攻撃だった。
本当ならばこんなもので済ませるつもりはなく、まだまだ殴ってやりたいところだが、
聞き出す情報もあるので、一先ず気絶させることを選んだ。


しかし、ここで承太郎は大きく驚くことになる。

「なにッ!?」

殴ったフー・ファイターズの面長の顔がボロリと崩れ去ったのだ。


確かに本気の攻撃であったが、今までのラッシュに耐え抜いた相手とは思えなかった。


「終わったのか…?」


顔がなくなったフー・ファイターズが何かをする素振りは一切なかった。
周囲はオートで動くミニ八卦路に任せており、仮に水弾が撃たれたら勝手に焼き払うはず。

承太郎は呆気ない幕切れに却って不信感を募らせる。

「まさか……!」 

承太郎はハッとして抱えていた霊夢を見遣る。だが、見た様子変わったところはない。いや、そもそも何かをされたわけではないから当然なのだが。

しかし…

ドバァッ!

霊夢に視線を向けていると突如前方から、いや、すぐ目の前で聞こえた。顔なしのフー・ファイターズから水弾が発せられたのだ。

だが、肝心の水弾はどこにいったのか見逃してしまった。さらに承太郎や霊夢にも着弾していない。

「こいつ……まだ、動けるってのか…?」

周囲は静けさを取り戻すが、承太郎の疑問に答える者は誰もいない。不意にフー・ファイターズの言葉を思い出した。

 DISC…!奴に知性を与えたっていうDISCがない…!俺の頭部を狙っていたように、頭に入っているはずじゃないのか!?

承太郎は動かなくなったフー・ファイターズをどうするか一瞬悩んだが、決断した。


178 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:43:23 2KRyV9p20


「死んだふりをするんだったら、もうちょっと上手にやるんだな…。こうなったら、徹底的にてめえを壊させてもらうぜ…!スタープラチナッ!!」


人間とは違う生き物ならば、首がなくても生きていると考えた承太郎は、スタープラチナの拳を振るう。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

矢継ぎ早に繰り出される鉄拳によって、フー・ファイターズの体躯は一気に破壊されていく。
しかし、心臓を始めとする臓器があるであろう上半身を狙ったものの、DISCと思しきモノは発見できない。

 DISCってのは俺の知ってるモノとは違う形なのか…?

承太郎は一向に姿を見せないDISCにそのような疑問を持ち始めた時だ。

「じょ、う…ろ…」

聞き覚えのある声が弱々しくも発せられた。

「霊夢かッ!?」

霊夢を視認する……が、目を瞑ったままだった。しかし、霊夢を見て気が付いたのだ。






頭上が一際暗くなっていることを。





嫌な予感といっしょに頭上を見上げると、信じられない光景が目に飛び込んできた。



 

「な、なにぃいぃいいーーーーーッ!?」





顔を出し始めた陽の光を遮るように、空から何かが降ってきていた。
それは雨ではなく、まして雪でもなければ、雹でも雷でもなかった。

承太郎は上空に広がる景色を見て理解した。

フー・ファイターズが如何にしてこの一帯を水浸しへと変えたのかを。そして何よりもこう思った。


179 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:46:02 2KRyV9p20





 なんで、じじいが乗ってもない車が空で…その上バラバラになってるんだ…!?





車だった。
しかも、ただの自動車ではない。外装は赤く、大きさはおそらく10m程度はある大型の車―――消防車だ。
それらが大小様々な大きさの破片となって降ってきているのだった。

 野郎がやったってのか?くそッ!今の状態だと時を止めて逃げ切るほどは出来ないッ!

「腹を括るしか…ねえようだなッ!」


承太郎は素早くスタープラチナで掴んでいたフー・ファイターズを投げ捨て、迎撃の体制を取る。


ガラクタとなった大型車の破片が周囲に降り注ぐ。


「いくぜオイ!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」


承太郎はスタープラチナで全力のラッシュをぶちかます。
ガラスの破片、外装の一部、座席、半分になったハンドルなどが、容赦なく降ってくる。
しかし、流石最強のスタンドとも言うべきか、圧倒的なパワーとスピードそして精密性により捌きって見せる。


 スタープラチナが回復していなかったら、こうはいかなかったかもしれんな。


的確に捌きつつも、内心はヒヤリとしている承太郎だった。だが、ヒヤリとするのは心だけではなかったようだ。
スタープラチナが殴るたびに何か液体が顔に付着していることに気が付いた。

 水か…?まさか雨でも降っているってのか…?

そう思い過ごそうかするが、すぐに考え直した。自分は今まで何に苦しめられたのかを。

 いや、その『水』がヤバいッ!……まさか、野郎の狙いは…そっちだっていうのかッ!?

この破片の雨がもし、フー・ファイターズの手によって引き起こされたのなら、消防車のタンクに入った水は既に…

 野郎…!そこまで考えて、こいつをぶつけてきやがったのか…!?

承太郎はこの場を離れようか逡巡するが、それができるなら苦労はなかった。破片の雨はまだ止む気配はない。
動きながらだと承太郎はともかく、抱えている霊夢への危険が大きくなる。

承太郎たちは破片の雨が止むまで、迂闊に動けなくなったのだった。

 まだ……時を止めても、この雨から逃げきれない…!クソッタレがッ!早くしねえと―――

スタープラチナが殴るたびに水が弾け飛び、承太郎や霊夢にかかってしまう。
流石に飛び散る水を対処する余裕など、今の承太郎にはなかった。

恨めしく空を睨みながら、破片を凌ぐ承太郎だったがそれも遂に終点が近づく。

 後、数発で終わる…!だが…あれを凌げる…か?

最後に承太郎を阻むのは消防車の残骸ではなく、またしても水であった。
ただし、それはばらけることなく都合よく塊となって、承太郎目掛けて落下しようとしていた。


 デカいな…これじゃあいくら殴っても意味がない―――となれば、焼き払うのみか…!


承太郎はスタープラチナで応戦させつつも、霊夢を背負う体勢へと変える。
最後に呑気にたゆたうミニ八卦路を掴み取り、天に発射口を向ける。

「頼むぜ…!水ごと焼き尽くせ…ミニ八卦路ッ!」

スタープラチナをフル稼働させながらも、なんとかミニ八卦路に力を込めて、炎を吐き出させる。
八卦ファイアは見事、落ちてくる水塊を捉えることに成功した。

「こいつで、チェックメイドだ…!オラァッ!!」

フー・ファイターズの分身さえも焼き払う火力は、水塊を食い止めるどころか、そのまま一気に蒸発させてみせた。
落ちてくる水を全てを焼き払ったのを確認すると、スタンドパワーを注ぐのを止め、宙に放った。
承太郎はそのまま地面へと座り込んだ。

「ハァ…ハァハァ……クソッ…、最後の最後まで……喰らい付く面倒な、相手だった……!」

なんとか呼吸を整えると、すぐさま自身の服をスタープラチナで観察する。

「ほとんど、あのプランクトンはいない……。それに、思っていたよりも服も湿ってないか…」

あの状況で焦っていたせいなのか、水よりもむしろ汗の方が気になるくらいだった。承太郎の心配は杞憂に終わっていたようだ。

 霊夢も平気か…―――というよりこいつに至っては……濡れていないな…。
 とりあえず一旦この場を離れるか…射程圏外に行けば無力化できる。

続いて霊夢の様子を確認するが、こちらも問題なし。彼女の首と膝の後ろに腕を通し、
負担をかけないようにそっと持ち上げる。

とりあえずはジョースター邸へと引き返すべく、承太郎は歩き出した。


180 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:48:36 2KRyV9p20


 野郎はガラクタの下敷きか。話を聞く必要があったんだがな…

(20m)

辺り一面に広がるガラクタを眺めると、掘り起こしてまで探そうと言う気になれなかった。

                                 (17m)

 奴はまだ生きている可能性がある…頭なしでも動いたのなら、なおさらだ。今は後回しだが…

      (14m)

承太郎は歩くついでに黙々と思考する。

 しかし、俺はまだしも、霊夢の服が一切濡れてなかったのが気になるな…

(10m)

(カチリ)

 だがスタープラチナの視力で見て、触っても特に水気はなく、プランクトンも当然いなかった。
 まあ、だからこ―――ドバァ!―――そ、きに…なるが…






水弾が命中した。






「な……にぃ…!?」


どこを撃てれたのかすら分かることなく、承太郎は完全に不意を突かれ、彼の意識は闇へ飲み込まれていった。


181 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:50:45 2KRyV9p20


散らかったガラクタに負けず劣らずみすぼらしいモノがあった。
承太郎に首と上半身を手酷く破壊されたフー・ファイターズだ。
ガラクタに残っていた下半身は挟まれピクリとも動いていない。
死んでいる、と何も知らない人は思うだろう。だがよく見てみると、
無事なまま残っている下半身の脚部に光沢のある円盤が肉体に収まり切れず、露出していた。

フー・ファイターズの周囲の水溜まりが少しずつ干上がっていく。その後、下半身が独りでに立ち上がると
ズズズズ、と奇怪な音を立て上半身が元の形へと形成される。

「ハァハァッ、ハァ……」

なんと上半身を完全に破壊されたはずの、フー・ファイターズが復活を遂げたのだ。

「危なかったな…、DISCの位置を変えておいて正解と言ったところか。」

そう、フー・ファイターズは承太郎に自身の命とも言えるDISCが頭にあることがバレた時、DISCの居場所を脚の方へと移しておいたのだ。

 とは言っても、私の動きを察して体を完全に破壊しようとした時は焦ったがな…

フー・ファイターズは両肩をぐるぐると回しながら、自身の状態を確かめる。水弾の乱射、分身の酷使、半身喪失からの再生、
疲労は限界に近いが身体は十分に動かせるようだ。

「奴らが立っていない、ということは作戦は成功したのか…?」

そもそもフー・ファイターズは一体何を仕掛けたのか、如何にして承太郎を追い込んだのかだろうか。

フー・ファイターズの狙いは以下の通りだ。
1.支給品の消防車をエニグマの紙に入れたまま空へと投擲し、それ目掛けて水弾を放ち破壊。
2.バラバラになった消防車で承太郎を攻撃。さらに消防車の貯水タンクのフー・ファイターズ入り(プランクトン状態)の水もばら撒く。
3.ばら撒かれた水を通して、気絶している霊夢の内部に侵入。そのまま身体を乗っ取り、破片の雨を対処している承太郎を水弾で攻撃する。

万全のスタープラチナ相手に真っ向から挑んでも勝機はない。フー・ファイターズはそう考えていた。
よって支給品と自身の能力をフルに使い、承太郎をなんとか戦闘不能に追い込もうと画策したのだ。

この作戦のカギはまだ承太郎に明かしていない能力の一つ、身体の内部に入ったフー・ファイターズがその肉体を乗っ取るところだった。
フー・ファイターズ入りの水が霊夢に浴びてしまった時、そこから彼女の肉体に侵入し、身体を操ったのだ。
おかげで、肉体の外側からしかフー・ファイターズの分身を作り出せない、という情報だけしか伝わっていない承太郎に奇襲をかけることに成功したのだった。
状態霊夢を視認した時には既に彼女の身体にフー・ファイターズの分身が潜行した後なのだから。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

フー・ファイターズは身体の調子を確認したところで、派手に散らかったガラクタの周辺を見渡す。
F・F弾の餌食になっているならば、自身の周辺に必ずいるからだ。

 やりすぎてしまったな…

フー・ファイターズは少し後悔した。彼の目的はあくまでDISCの回収だ。
自身の保身のためでもあったが、消防車を落とすような無茶はやり過ぎだったと反省する。
だが、手の内を晒され弱点も知られてしまった以上、どうしてもこの場で決着を付ける必要があった。フー・ファイターズとしても苦渋の選択だったのだ。

しかし、悩んでもいられない。即座に承太郎を発見しDISCを回収せねば、そう気を引き締めた時、目標を見つけた。

視線の先には二つの影。見覚えのある二人の標的。上々の結果に内心ほくそ笑むと、仕上げに入るべく、意気揚々と歩き出した。


182 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 00:53:50 2KRyV9p20


一人の少女が四つん這いの状態で地面を睨んでいた。その表情はあまりすぐれない、というよりは苛立ちを隠せない顔つきだ。
彼女は先ほどまで承太郎に抱えられていた博麗霊夢である。

 身体から生えてきた腕に殴られて、私は倒れた…その後はどうなったの?

未だ身体に走る痛みを抑えながら、霊夢は考える。

承太郎は霊夢のすぐ近くにいた。水弾を食らった後があるものの、脈はあり、気絶しているだけで幸いだった。
しかし、肝心のフー・ファイターズが見当たらない。周囲の様子を見てみると、当初はなかった様々なガラクタが散らばっている。
フー・ファイターズの仕業なのだろうが、今の霊夢にはその意図が掴めない。

承太郎から離れすぎない程度にフー・ファイターズを探そうと思い、身体を動かしたのだが…。

「…あっ、痛ッ!……ホントに、手酷くやってくれたわね…。」

殴られたダメージが思ったより大きく、すぐには立ち上がれそうになかったのだ。承太郎の様子を確認する時も、なんとか這って行ったという有様だ。

 無様ね、あんな妖怪もどきに後れを取るなんて…。挙げ句、こいつに私は守られながら戦ってたというなら、泣きっ面に蜂よ。

またも悔しさを噛み締める霊夢だったが、打ちひしがれたままではいられない。むしろそれらをバネに、痛みを堪え立ち上がる。
足元がフラフラと覚束ないが何とか地に足をつけ、毅然とした佇まいを保つ。
霊夢がふうっと一呼吸整えると、背後からの気配に感づいた。

ガラクタから這い上がり、復活を遂げたフー・ファイターズだった。

 あんたに任せっぱなしじゃあ、癪だわ。後始末ぐらい、私に任せてもらおうじゃないの。

霊夢は近くの承太郎を起こすことなく、振り返る。

「女の方は起きたか…まあいい……」

そこには霊夢を散々痛めつけたフー・ファイターズが歩いて来ていた。

「よくも好き勝手やってくれたわね…!きっちり落とし前つけてもらうわよ!」
「悪いが、お前は後回しだ。まず先に承太郎からDISCを奪うからな…」

霊夢は両腕を構えファイティングポーズを取り息巻くが、フー・ファイターズは霊夢のことは眼中にないとばかりに近づく。

「あんまり人をコケにするんじゃないわよ…!」

霊夢はそう言うと、デイパックから無数のお札を取り出し放つ。着ている巫女服のいたるところに
仕込んでいたお札は、濡れてしまったせいでダメになっていたようだ。

霊夢の攻撃を見ると、フー・ファイターズも流石に呑気に構えることなく駆け出す。迫るお札にF・F弾で最低限の対処をしながら。

「どうしたのよ、DISCとやらを奪うんじゃないの?」

弾幕と水弾の撃ち合いでは、手数や正確さで霊夢が圧倒していた。水弾を寄せ付けることなく、むしろフー・ファイターズにダメージを与えている。

「ちぃッ…少々鬱陶しい……だが!」

だが、フー・ファイターズは怯むことはなく、霊夢目掛けて突撃する。お札は何発か命中しているものの、足を止めるには威力不足であった。
接近して直に攻撃するつもりだろう、そう判断した霊夢は『警醒陣』を張ってこれ以上の接近を防ぐべく、霊力をより集中させる。

 あんたが近寄ることを許可しないわ、食らいなさい!

その間、フー・ファイターズが距離を大きく縮めてしまった。それでも焦ることなく、警醒陣を直接ぶつけるつもりで、タイミングを測って投げ放つ。

4枚の御札はある程度進むと、それぞれ長方形の頂点のポイントで静止。発光し、フー・ファイターズの侵入を妨げる障壁となった。



彼がその外側にいれば、だが。



「ウソッ!?な、んで?」

霊夢は括目した。フー・ファイターズは霊夢と警醒陣の間、つまり警醒陣に触れることなく突入を果たしていたのだから。

 まさか、投げるタイミングを誤った!?―――ありえない、そんなミスなんてするわけが……

「残念ながら、貴様も私の手に踊らされているのだ。」

そうこうしている間に、フー・ファイターズとの距離が5mを切った。身体の無理を押して殴り合いに興じることになりそうだ。

まずは、牽制にいくつかの御札を扇状に投げるべく、腕をデイパックへと突っ込―――


183 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:00:17 2KRyV9p20




「うぐぇえっ!?」




だが次の瞬間、霊夢の身体はフー・ファイターズから腹部を殴られ、くの字折れていた。


訳も分からず、霊夢はほんの少しだが殴り飛ばされた。
地面へと身体を放られると、今までの蓄積された痛みも刺激され、辺りをのたうち回る。

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

だが、理解不能の事態は続く。

「ふん……立て、女。」

今度は全身が痛いというのに、その言葉通り身体が動き立ち上がったのだ。


「はぁ?ちょっ、とぉ…!?……やめッ…、づ痛うあぁああッ!……う…そぉ…はぁッ、なんでぇ………!?」


霊夢は流石に耐え切れず苦悶の声を晒してしまった。

「ふむ、意識を持った相手だと、完全に制御できるのはおおよそ3m以内といったところか…」
「あんた…また、私、の身体……に何か、したって、いうの…?」

霊夢は途切れ途切れになりながら、フー・ファイターズに尋ねる。

「ふん、単純なことだ。貴様の身体に私の一部が入り込んでいる。外側ではなく内側から操作しているのだ。」

「なに、よ…それ……!」

「覚えていないのか?空条承太郎にある弾痕は貴様から受けたものだぞ?」

「今…何て、言ったのよッ!?」

「こんな風にな…!」

フー・ファイターズがそう言うと、霊夢の身体に異変が起きた。右手が人差し指を銃口にしたようなモノが、親指に引き金のようなモノが取りついていたのだ。

「これは…!?」
「貴様がそれを使って、承太郎に一杯食わせたのだ。そうでもなければ、たとえ消防車一つ犠牲にしても、奴を気絶に追い込めなかっただろうからな…」

「また……私のせい、だっていうのね…!」

承太郎のお荷物になった挙げ句、さらに足を引っ張ったという事実に霊夢は自身に強い怒りを感じていた。

「気に病むことはない。今から貴様は死に、その肉体を私が利用してやるのだからな…!」
「冗談じゃないわ!これ以上、あんたの好き勝手にされ―――むぐぅッ!?」

霊夢は言い返そうとするも、空いていた左手で自分の口を塞いでいた。

「静かにしていろ…、私の分身が入り込んだ貴様にもはや選択肢などない。」
「う、うぐうッ!」

霊夢はなんとか声を出そうとするも、自身の口を押さえ込んでいる左手の力は明らかに自分のものではなかった。

 くそッ!今すぐ、入り込んでる分身をどうにかしないと…!

「もはや、私が手を下すまでもないな。他の誰でもない、貴様自身の手で死ぬといい…」

すると、霊夢の右腕が少しずつ動き出した。そう、手の一部が銃と化した右腕が。

「ぐむッ!?ぐぐぶッ!!」

霊夢はフー・ファイターズが何をさせようとするのか、即座に察した。身体を動かそうとするが…。

 チクショウ!どうして動けないのよッ!!どうして、アヌビス神の時のように身体の主導権を奪い返せないの!?

必死に頭を回転させ、打開する術を模索する霊夢。だが、無常にも右腕は上がっていく。

 私はもう、誰にも従いたくないのよ…!こいつにも、アヌビス神にも、何よりも……太田!あんたに対して…!

銃口はついに霊夢の右側のこめかみへと到達しようとする。

 いつも通りなら絶対動けるのに…!普段の私と、今の私…一体何が違うっていうのよ……?

霊夢はそこまで考えると、ここに来て自分が何をしていたのかを掘り起こす。
いや、掘り起こすまでもないだろう、なぜならほんの数時間前の出来事だからだ。


184 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:01:17 2KRyV9p20



 ああ、そうか………私は、殺しちゃったんだっけ…?あいつを……ほとんど私が…



「これで、私の使命に一歩近づく…!私を生み出したDISCを再び、私の元で保管できるというものだ。」

フー・ファイターズの言葉も今の霊夢には聞こえてこない。 

 身体の自由がきかない?主導権を奪い返せない?そりゃあそうよ。だって、私は…

いくら霊夢が才気に満ちた人物でも、自らの手で人を殺した経験などあるはずもなかった。


 あいつを殺した…!初めて、人の命を奪った。この手で…


その暗い思いが重みとなって、彼女の自由を知らず知らずの内に奪っていたのだった。


 重い…重すぎるのよ…!この気持ちを捨てなきゃ、私は飛べない…でもッ!


「貴様の肉体を得て、承太郎からDISCを奪還する。これで…決着だ!」



 できるわけ、ないじゃないッ!一時でも、なかったことになんて……私は…できないわよ……!
 でも、それじゃあ………



不意に聞こえた気がした。


 飛べないのなら…死ぬしかないわね、霊夢。もっとも……


死神の声か、あるいは――― 


 ボムを使い切らなくても、ステージクリアはできるのよ?『抱え落ち』する『覚悟』があればね…


救いの声か。


ドバァッ!


霊夢は自ら放った水弾を受け、一瞬ビクリと身体を跳ねると撃たれた方へと飛んだ。




頭から血を流しながら、糸の切れた人形のように身体を投げ出す。
最後には重力に従い地面へとぶつかった後―――消えてしまった。


「は?」


忽然と。


フー・ファイターズはほとんど反射的に周囲を360度、ぐるりと見渡すが影も形もない。

 何が起きているッ!?女はどこだ!!

その時だ、頭上からボタリボタリと液体が降ってきているのに気が付いたのは。
ハッとした時には既に遅かった。
フー・ファイターズが見上げた時に視界を覆ったのは、白いドロワと黒い靴だ。

「ぶげぇッ!?」

顔を上げてしまったせいか、そのまま面長の顔面を思いっきり踏まれてしまった。
痛みを堪え、相手が降りた方へと向き直る。そこにいたのやはり、見失った博麗霊夢。

「貴様ぁッ!!」

間髪入れず、今度はこちらから強襲する。地を蹴りつけ、拳を握り締め、懐に一撃叩き込まんと駆ける。

対する霊夢は今の攻撃での負担か、身体がふらつき動こうとしない。


185 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:07:19 2KRyV9p20


 動けた……でも、次が正念場よ…!



霊夢はデイパックからできるだけ素早くお札を取り出す。

 あえて……同じ手段であんたを迎え撃ってやる!あんたに操られることなく戦う…!
 あいつを殺した重さを抱える『覚悟』、見せてやろうじゃないの!

4枚のお札を投擲させるが、身体の動きがどこかぎこちない。相手に操られていないか不安が溢れる。

それでも、逃げ出すわけにはいかない。知り合いを殺した罪悪感も、フー・ファイターズから受ける支配も、全て背負って飛び立つと決めたのだから。

『警醒陣』はついに光の障壁を発生させた。フー・ファイターズは―――


「同じ轍を踏むと思っていたかッ!食らえ!」


スデに迫っていた。お札の内側へと…



 また……わ、わたしは…あ、操られて…?い、いや…まだよ……!諦めてたまるかッ! 



霊夢は呼吸を整え、霊力を練り上げる。
フー・ファイターズはそんなものお構いなしに腕を走らせる。激突までにはコンマ数秒。
霊夢は両腕を左右に突き出し、息を吐き出すように、内に貯めたそれを放出する。

「吹き飛べッ!」
「なにぃッ!?」

『霊撃』。青い霊力の波が、霊夢の周囲に円形の衝撃となって現れた。
フー・ファイターズの拳は霊夢に触れるどころか、身体を大きく浮かせてしまった。

「もらったああぁッ!」

霊夢は痛む身体に鞭を打ち、僅かに助走をつけた後に自身も跳躍する。
そして、無防備なフー・ファイターズに飛び蹴りを見舞ませる―――だけに終わらず、追撃にお札を扇状に投げ放つ。

「ぐおおッ!?」

霊夢のライダーキック。お札による弾幕。立て続けにこのダブルパンチをもらったフー・ファイターズは、
その勢いのまま吹き飛ばされ、再びガラクタの方へと吹き飛ばされた。

霊夢はふわりと鮮やかに着地―――とはいかなかったが、両足を地につけることができた。


 ああ、すんごい重いわ…。これからこんなもの背負うのね、私って…
 でも、今はこれで勘弁してよね…一人までなら大量殺人犯じゃないって言うでしょ、咲夜。


手を強く握りしめ、自分が動くことを認識する。
自分の現状可能な最高のパフォーマンスだった、と安心した。
だが、これだけでフー・ファイターズが再起不能になったとは思えない。それ以前に自分の今の状態では追い詰めるのは厳しいことが分かった。

 悔しいけど、承太郎を無理やりにでも起こさないと私だけじゃ……勝てな、ん?

承太郎に近づこうとした時だ、霊夢は一つのことに気が付く。普段ならすぐにでも気づいただろうが、
今ようやく冷静な状態に戻ったため、ある感覚が刺激していることに気が付いた。

 やれやれね、結局こいつのおかげ、か…

霊夢を承太郎起こすことなく、フー・ファイターズの方へと行ってしまった。

一方のフー・ファイターズはガラクタに埋もれたのか、少し遅れて出てきた。


「やってくれたな…!まさか、今まで操られていたのは演技だったのか?」
「当たり前よ―――って言いたいけど、ギリギリだったわ。ほら、頭のところ切れてるでしょ。」

霊夢はこめかみ近くにF・F弾がかすっているところを指差す。傷そのものは大きくないが、それなりに出血しているようだ。

「何故動けた!?貴様の身体にはまだ私の分身が入っているはずだぞ!」
「知らないわよ、そんなの。私はもう二度と誰にも従わないだけよ、たとえ身体に何か入ってようと、私がそれに従う通りはないわ。」
「従わない、だと?そんなもの、答えになっていない…!ふざけているのか!?」

納得のいかない返答にフー・ファイターズは憤りを隠せない。あと一歩まで追い込んでいたとなればなおさらだ。

「それに、何故あの瞬間ギリギリに貴様は動けたのだ!従わないと言うのなら、最初から動けたはずだッ!」
「うるさいわねぇ…、別にあんたを悔しがらせるためじゃないわ。ちょっとだけ、いつもより身体が重かっただけよ。」

「身体が…重い?」

霊夢の言葉の意味が分からず、思わずオウム返しするフー・ファイターズ。

「そう。どれだけ『空を飛んで』も私はもう、いつものように飛べないのよ。だって―――」


「そいつの分も背負って飛ばないと、宙に浮かぶことはできないの。命を奪った事実からは決して逃れられない。
 いや…私は逃げない!それがどれだけ重くても、抱え落ちたりするもんですかッ!!」


186 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:11:06 2KRyV9p20


目には確かな光を宿し、フー・ファイターズに延いては全ての相手へと宣言する。


「訳の分からないことをッ!もう聞く必要はない…!貴様を殺し、その身体から直接聞き出すまでだッ!」
「やってみなさいよ?あんたにそれができるのならの話だけどね。」

霊夢は大胆不敵にもフー・ファイターズへの間合いを詰めていくように歩いて来ていた。

「忘れたのか…!この周辺に大量の水を撒いていたことを…!貴様の敵は私だけではないということをな…!」

フー・ファイターズの宣告と共に、辺りの水溜まりから無数の手が出現する。

「今の貴様の状態で、360度から放たれるF・F弾を凌げるかぁーーッ!!」

フー・ファイターズ自身も両腕を構え、霊夢を囲むように手が現れ、一斉に発射された。

ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバ…ドバァ…

だが、発射されたのはほとんどフー・ファイターズ本体からの水弾だけだった。お札をもう一度装備しなおした霊夢は、それらを難なく相殺して見せた。

「安い弾幕ねぇ、お話にならないわよ?」
「バカな!?一体何が起きている!?」

 スタンドパワーが足りない―――いや、違う!それなら、増殖させることすらできないはず…!

「これでおしまいかしら?」
「嘗めるな…!こうなったら、私の分身を作り出すまでだッ!」

フー・ファイターズのすぐ隣にある水溜まりがズズズ、と奇妙な音を立てて、集まり出すが…。

「何故だ!?うまく出来上がらない…!一体何が、どうなっているんだ!?」

そう、フー・ファイターズの分身は完成することはなかった。精々、下半身のところまでしか出来上がらず、身体を保つことができずに崩れていっているのだ。

「あんたってさあ、鼻は付いてるかしら?匂わないの…?」
「何を言っている…?」


「あんたの周りにあるのは、既に水だけじゃなくなってるって言ったのよ。」

霊夢は承太郎から借りたミニ八卦路を取り出した。

「動くと撃つ、間違えた。撃つと動く…今すぐ撃つ…うん?……とにかく!動くと撃つわ。」

「ぐっ!ここまで来て、退けるか…!こうなれば、分身などに頼る必要はない…!今度こそ私の手で貴様を葬り、勝利してやるまでだッ!。」

フー・ファイターズは言うが早いが、霊夢へと全速力で接近し出す。

「いいや…もう、あんたの負けよ。この周囲にまき散らした『水』、その上にある『ガソリン』…!
あんたが…承太郎を攻撃するために作ったこの状況…ゆえにね…!」

そう、周囲に撒かれているのは水だけではなくなっていたのだ。消防車の破片での攻撃、破壊された自身の修復のための水の供給、この二つのメリットだけではなかった。
動力であるガソリンもまた、消防車の残骸同様に、いや、それ以上に辺りに撒き散らされているのだ。

霊夢は霊力をわずかにミニ八卦路に込める。
またも付喪神となった原因は気になるが、火力が増大していると考えれば、むしろ好都合だった。



「「食らええぇええッ!!」」


187 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:13:02 2KRyV9p20



フー・ファイターズが霊夢を捉えるよりも先に、ミニ八卦路に光が灯り、勢いよく火が噴き出す。
狙いは地面、辺りに撒かれた大量の水に混ざることなく、水よりも軽いためその上に浮いているガソリン。

八卦ファイアが液体に触れた瞬間、霊夢とフー・ファイターズを分かつ炎の壁が発生した。

「ぐうおおぉぉおおッ!?」

霊夢へと伸ばした腕が一気に焼き払われ、たまらず腕を引くフー・ファイターズ。右腕はすっかり肘のところまで焼失していた。

「くっ…!ここまで来て、今更逃がしてたまるかッ!回り込んで―――」

フー・ファイターズはそれでも食い下がろうと、動こうとするが…。


「火の手が早い…!もう囲まれているだと…!」


周囲をぐるりと見渡すも辺りは火で囲まれてしまっていた。ガソリンが染み込んだガラクタが散乱していたためか、火が上がるスピードは早く、あっという間だった。
すぐさま支給品の水が入ったペットボトルの蓋を開け、中身を撒いてみるが効き目はないに等しい。焼石に水だった。

「このままでは……マズい…!」

火に飲み込まれていくガラクタ、熱さによってその形をより歪なモノへと変貌していった。絶妙なバランスで保たれていたそれらは崩れ、ガラガラと派手な音を立てる。

まるで、これからのフー・ファイターズを示すようだった。


188 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:13:35 2KRyV9p20

「決着のようだな…」

大きく火の手が上がる様を暗視スコープで注視している男がいた。3人が戦っている地点から少し離れた、ジョースター邸の北側だ。

金髪の長髪にはパーマがかかっており、そのヘアースタイルに負けず劣らない長身の美丈夫。

ファニー・ヴァレンタイン。第23代アメリカ合衆国大統領がそこにいた。

 ディエゴの贈り物を回収して、GDS刑務所に向かっていたが……少々出遅れてしまったな。

ヴァレンタインはお燐と別れた後にジョースター邸の内部の捜索はしなかった。
単にディエゴから贈られるスロー・ダンサーが予想より早かったためだ。
ディエゴは南の紅魔館で情報収集、お燐は東へと向かって行ったので、消去法で北へと向かうことにした。

しかし、湿地帯の途中まで来たところで、ジョースター邸から何やら物音が聞こえてきた。

この距離からしてただごとではない、そう判断したヴァレンタインはディエゴから連絡を取ってみるが、一向に出る気配もない。
仕方がなしに、ヴァレンタインはもう一度ジョースター邸へと戻ることにしたのだ。

戻ってきたら、既に3人とも戦っていたという流れだった。

「まあ、こうして様子を見ていたおかげで、相手の戦いぶりは見て取れた…。これから接触する上での状況は万全、というわけだ。」


幻想郷縁起に記載されていた、博麗霊夢。そして、聞こえてきた言葉から察するに、男の方は空条承太郎。火の海に閉じ込められたフー・ファイターズ。

霊夢と承太郎は両者共に、相手が圧倒的に有利な状況の中で屈することなく戦った様を見て信用できる相手だというのは伝わってきた。

 もっとも、二人が私のことをどう思っているかによるだろうがね。

来た方角によっては既にお燐と接触している。幻想郷の異変を手掛ける巫女なら、お燐から話を聞いていても何らおかしくはない。
迂闊に化けの皮を被ろうものなら、ひっぺがえされる可能性もある。慎重かつ誠実に対応しなければいけないだろう。

「だが、戦局で言うところの…『一手』とはこれからだ…。そして、私は奴らのそれを超えて見せる…!荒木と太田、二人を消滅させるためにも…!」

ヴァレンタインが回収した『聖人の遺体』をこの会場にばら撒いたこと。挙句、父の形見のハンカチまで奪ったこと。
この二つを許すつもりはヴァレンタインにとってあり得ないことだ。


暗視スコープで様子を窺うと、霊夢と承太郎が火の手に飲まれることなく、無事に戻って来たようだ。承太郎も意識を取り戻しており、二人で何やら会話していた。

 さて、彼らには一体どのタイミングで接触するべきか…?

もうすぐ放送が始まる時間だ。ヴァレンタインとしては、二人が放送を聞いてどういった反応をするのか、彼らの人となりを知るためにも少し興味があった。
ならばもうしばらく待つか、それとも時間を惜しんですぐに動くか逡巡していた時だ。ヴァレンタインは驚くことになる。

「む!?博麗の巫女がいない…!どこへ行った!?」

一瞬、自分がいることがバレたかと焦るが、頭上にも背後にも霊夢はいなかった。

「まさか…!火の手がある方へと戻って行ったのか!?」

暗視スコープで確認すると、後ろを向いた承太郎の背中から、やれやれだといった感じが見て取れた。


189 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:16:06 2KRyV9p20

「もはや、ここまでか……」

ゴウゴウと燃え盛る火の海に取り残された、フー・ファイターズがポツリと呟いた。彼は何をするでもなく、ただ佇んでいた。

 完敗だな…こうなってしまっては、手の打ちようがない……

彼とてむざむざ焼き殺されるつもりはなく、当初は強引に火の海を渡りきろうとしていた。
しかし、付喪神化し火力が増大したミニ八卦路の火力はかなりのモノだった。僅かに触れただけで、彼の身体を焼き払うほどに。

加えて、不可抗力とはいえ自ら撒いたガソリンによって、その炎は完全にフー・ファイターズを取り囲む形となってしまっていた。

フー・ファイターズにとって、もはやこの状況は完全な『詰み』そのものだった。

 このまま死ねば、私はどうなる?いや、何がどう変わるようなこともないか…。悲しむ相手がいるわけでもないしな。

何もすることがなくなったフー・ファイターズは、DISCを与えられ生きた今を振り返ってみた。

 偶然トラクターのDISCに気付いた連中を始末したぐらいだな。それ以外は………何もないか。
 そう考えると、私にとってDISCの存在はやはり外せないな…

思い出すのは理由も知らないまま、ひたすらDISCを守っていた自分の姿だ。だが、
今の彼にとってはそれが『生きる』ことそのもので、おかしいとは露にも思わないだろう。

 思えば、徐倫とエルメェスと戦い、敗北する寸前にここに呼ばれたのか…。だったら案外、死ぬ直前にまた殺し合いの場に呼ばれるのかもしれないな。―――ん?

我ながら下らない考えだな、と思いながらもフー・ファイターズは自身を振り返っていると、ふと今の自分で出来ることを思いついた。

「そうか…!一つだけ、できることがあったな。このまま死ねば、DISCは私の―「頭を冷やしたかしら?」―…!?」

フー・ファイターズの言葉を遮るように、少女の声が辺りに響いた。忘れるはずのない、博麗霊夢の声だ。
フー・ファイターズのから見て3m先で立っているのが見える。

「この熱い空間で冷える頭もない…!何をしに来たッ!私を嘲笑いに来たのか…?」
「まあ、それもあるかもね。こっちだって散々痛い目にあったわけだし。」

霊夢は痛む身体をさすりながら悪びれもなく言う。

「ふん!だったら飽きるまで、そこにいるんだな。うっかり焼け死んでも、私は知らんからな。」
「平気よ、私はそこまで間抜けじゃないわ。」

フー・ファイターズは思わずため息が漏れる。自分を死に際に追い込んだ相手が近くにいてうれしいはずもないから当然か。


「あんた、私を攻撃する気はないの?」
「そんな元気があると思うか…?生憎、こんな熱すぎる環境じゃ、煙一つ出すことができん。」
「煙なんて、そこいらで沢山出てるじゃない?」
「………」

火の海に囲まれて、本日二度目のため息が漏れるフー・ファイターズだった。
その時、彼は思い出した。ついさっき閃いた、自分のできることを。

「おい、女。一つ用件がある。」
「霊夢よ、博麗霊夢。ちゃんと名前で呼ばないと、あんたの用件なんて聞かないわよ?」

「博麗霊夢。おまえはもうすぐここを離れるのだろう?だったら、私のDISCをくれてやる。」
「はぁ!?」

フー・ファイターズの言っていることが理解できず、声を上げる霊夢。彼のDISCの存在を知っているわけではなかったので仕方ないか。

「手短に言うぞ。私がこのまま死ねば、DISCは私の死に引っ張られ消滅する可能性がある…。
 私が死ぬのは…良くはないが、この際それは置いておく。だが、DISCまで失う必要もないだろう?
 だから、今からDISCを外し貴様にくれてやる。」

「いらないわよ、そんなの。何で私にくれるのよ?」

「この空間にいるのが、貴様だけだから…それだけだ。私とて、貴様に渡したいわけじゃない…!
 だが、DISCは結局は物にすぎない。物なら誰かの手に渡って有効に使われるのが本望のはずだ。全てはDISCを思っての行動だ…!」

フー・ファイターズが言い終えると、辺りの火の勢いが更に増し、霊夢にまで迫り始めた。

「もう、終わりだな…。私を倒した証を持って、精々生き延びて見せろ。霊夢とやら。」

フー・ファイターズは残り一本の腕を自身の側頭部まで動かし、手刀を振るった。


190 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:19:58 2KRyV9p20




「勝手に決めつけないでほしいんだけど。」




いつまで経っても、腕が側頭部に当たる感触はない。見れば、腕はお札の弾幕にやられ、あっさりと壊れてしまったようだ。

「私を徹底的に消滅させるつもりか…。私に死に方を選ぶ権利すら奪おうというのか…!」
「だ・か・ら!勝手に話を進めるなって言ってんのよ!」

フー・ファイターズは怒りに震えているようだが、霊夢も霊夢で怒っているようだ。

「いつ私があんたを殺すなんて言ったの…!私はあいつらなんかに従う気は、毛筋一本分も、これっぽっちもないんだからね!」

霊夢は、ずかずかとフー・ファイターズの元へ歩いていくと、両腕を失くし、大分小さくなった彼をむんず、と掴んだ。

「何をする!この、放さないかッ!」
「いい加減、こんな暑苦しいところから出るわよ。あんたの処遇なんてその後で十分よ。」

そして、フー・ファイターズの返事も聞くことなく、『幻想空想穴』で見せた瞬間移動を用いて、この火の海から脱出を図った。
残念ながら飛距離は小さいので、連続して使うハメになったようだが。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「戻ってきたか…、勝手な行動は控えてほしいんだがな…。」
「ちゃんとこいつを拾いに行くって言ったでしょ?返事を待ってたら間に合わなくなるかもしれないんだし。」

空条承太郎は本日何度目になるか分からない、霊夢の身勝手さに辟易した。そろそろ耐性が付いてしまうかもしれない。

「それに、こいつから聞きたいことは山ほどあるでしょ?」
「ああ、確かにある。それがなかったら、あんたを絶対引き留めていただろうからな。」

『DISC』のこと、『ホワイトスネイク』のこと、そして『空条徐倫』のこと。フー・ファイターズから聞いた話は承太郎には身に覚えのないことだ。
かといって、それらに一切合切耳を貸さないのは早計である。

今置かれている状況を理解するためにも情報は必要だった。

「…というワケだから、色々聞かせてもらうわよ?」
「待て…!私のDISCの話はどうなった…!?条件を飲むと、貴様の口から言っていないぞ…!」
「同じこと言わせるつもり?私は不必要な殺しはしたくないのよ。だから、あんたの話次第で決めるつもりよ。問題あるの?」

霊夢は素直に答えたのだが、フー・ファイターズは即座に反駁する。

「不必要な殺しはしたくないだと…?私は、貴様や承太郎を殺そうかしたのだぞ…!
 信じられるものか…どうせ、期待を持たせようとして殺すつもりなのだろう…?お前なら、やりそうなことだ。」


「ずいぶん、信用がないようだが…あんた、何かこいつにしたんじゃねえのか…。」


先ほど自害したのを止めたのを根に持っているのだろうか、フー・ファイターズに疑われてしまったようだ。
挙げ句、承太郎にも一言おまけされる始末だ。それに対して霊夢は若干の苛立ちを覚えるが、それを抑えてデイパックから何かを取り出した。

「しょうがないわねぇ…、だったら『対等』に話をしようじゃないの、フー・ファイターズ。」


191 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:21:33 2KRyV9p20

霊夢の手にあったのはペットボトルだった。彼女は蓋を開けると、中身をフー・ファイターズに浴びせた。中身はもちろん…

「貴様!?何を考えている…!何の真似だ!」

水だった。基本支給品である水をフー・ファイターズに与えたのだ。そのおかげで、両腕を失い、大分小さくなってしまった身体も元通りに治っていった。

「何も蟹もないわよ。これで少しは信用する気になったでしょ?私が問答無用であんたの命を奪う気はな―――」

「動くな…!」

フー・ファイターズは右手を構え、人差し指を霊夢へと向けていた。銃口は霊夢のこめかみに向けられ、ほとんど零距離に近い位置にあった。

「何のつもり?悪いけど、あんたの弾幕なんか一つも当たらないと思うけど…?」

「貴様の『気持ち』が分からない…!火の中で貴様は言ったな…?主催の言いなりになるのが嫌だと。そのために私を殺さないとな。」

霊夢の信用の得るための行動は却って、フー・ファイターズの疑念を最高潮にさせてしまった。

「貴様の、その『自由』への執着は何だ!?不気味だ、不気味すぎる!そんなモノのために命を天秤に乗せる、貴様の『気持ち』が理解できん…!」

フー・ファイターズは大きく狼狽していた。霊夢の行動がどうしても納得いかないことが気に入らないからだろうか。

「『自由』ねぇ…。まあ、あながち間違いとは言わないけど、別に私はこの状況に命をかけてる、なんて思ってないわよ…?」

「………」

フー・ファイターズは黙り込む。霊夢に向けた右腕を下ろす素振りもなく、何か動きを見せれば、即座に水弾を撃とうという算段か。

「信用されてないようだな…」
「ホントに手がかかるわね…。良い?私は一応、あんたが無暗やたらに攻撃しないって信用してるのよ。」
「一体どこから、そんなことを判断した…!」

霊夢はペットボトルに余っていた水に気付くと、一気に飲み干す。事態の剣呑さとは我関せずと、陽気な振る舞いだ。
飲み干して、ペットボトルから口を離すと同時に話し出した。

「あんたにとって一番大切なのはDISCなんでしょ?私が火の中に来た時だって、自分の命よりも優先するぐらいに。」

「ああ…」

「そして、あんたは自分自身を作り出したDISCを守ろうっていう、私からしたら堅っ苦しい考えの持ち主よ。」

「…」

「そんな奴が、あんたとDISCを救った私を殺せるかしら?」

霊夢は意地悪そうに微笑む。先に仕掛けのもあんただったわね、と耳が痛くなるおまけ付きだ。

「ぐっ…!」

フー・ファイターズは霊夢の言う通り、銃口を向けているものの、即座に撃つつもりなどなかった。
自身が仕掛けた戦いで負け、助けられ、その上水まで与えられ、万全の状態にまでしてもらったのだ。
自身の考えが見透かされている、フー・ファイターズはそう思わざるを得なかった。

「それと承太郎。あんたの頭、スタンドで一発叩いてみなさいよ。それで白黒つくんでしょ?」
「あんたは俺に、もう一回ぶっ倒れろって言ってるのか…?」
「そうするのが一番手っ取り早いでしょ?ほら、さっさとしなさいよ!」

「待て、もういい…。」

フ二人のやり取りを見て毒気を抜かれたのか、フー・ファイターズは霊夢のこめかみに当てていた銃口を下ろした。

「おまえの『自由』への気持ち…いまいち理解できないが、おまえらとはもう闘う気がしない。そして……わたしの負けだ……完璧に。」

「…そう?それじゃあ、何から聞こうかしら?気になるのは…うん、やっぱりDISCね。―――っていうか、そもそもDISCって何なのよ?」
「そこから説明が必要か……」

ため息交じりに、フー・ファイターズは霊夢たちとの情報交換を始めることとなった。


192 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:24:31 2KRyV9p20

それから数十分経った。
フー・ファイターズから聞いた話には有益な情報が満載だったと言えるだろう。大きく分けて『DISC』、
『ホワイトスネイク』、そして『空条徐倫』の三つを知るに至った。

「あんたは、俺から見て未来の存在ってことになるのか…。しかし、俺に娘がいるとはな……」
「貴様の年齢が17歳だと…!『ホワイトスネイク』の話では確か40歳だったのだが…」
「まあ、こいつの見た目じゃあ17には見えないわよね、普通。」

各々が口々に思ったことを、漏らしていた。

「意外というか動揺する方がらしくないけど、驚かないのね、承太郎。」
「逐一取り乱したところで、何も変わらんしな…。時間を止めるスタンドがあるなら、巻き戻したり、
 先に進めたりするスタンドがあっても、まだ納得はいく。……って言っても、驚いていないわけじゃあないがな。」
「そりゃあそうよ、私ならまず信じないでしょうし。」

突然あなたの娘さんは刑務所にいます、など言われたら一蹴するものだが、承太郎は大して動揺することなく、フー・ファイターズの話に耳を傾けていた。

「それよりも今気になるのは『ホワイトスネイク』の存在だな。フー・ファイターズ、俺は確かにそいつにDISCを抜かれたんだな…?」
「そうだ、なんせDISCの内の一つを私が預かっていたのだからな。間違えようもない。」

目下、承太郎の悩みは自身を狙う『ホワイトスネイク』の存在だ。

「そして、未来の俺の娘…空条徐倫がDISCの奪還のために隠し場所へ乗り込み、あんたと戦うが、勝利。」
「私が絶体絶命のところでここに呼ばれた、という流れだ。」

承太郎はふむ、と一旦考え込むと霊夢が先に口を開いた。

「やっぱり『ホワイトスネイク』が何者かは知らないの?」
「残念ながらな…先ほど話した特徴の通り、見た目しか分からん。ここでの制限があるから、確かではないが本体から100mほど離れて行動できるからな。」
「名簿から割り出すのはちょっと厳しいかしらね…」

霊夢はゴロリと仰向けの状態で、さらにいつ取り出したのか、名簿をぼんやりと眺めながらぼやく。少々気を緩めすぎな気がしないでもないが。

「フー・ファイターズ。あんたが知っているのは空条徐倫、エルメェス・コステロ、ウェザー・リポート、エンリコ・プッチの4人なんだな?」
「ああ、ウェザーとプッチは面識はないが、囚人の身体を乗っ取った時に奪った『知性』にそいつらの名前があった。おそらく同一人物だろう、詳しくは知らないが。」

「ここにいるってことは、徐倫とエルメェスの様に二人ともスタンド使いか…?」
「そして、そのどちらかが『ホワイトスネイク』って言うの?」

霊夢は承太郎の考えていることを予測し問いかける。

「まあ、同じ時代に同じ場所にいるからな。俺と面識がある連中もスタンド使いだから、可能性はある。憶測にすぎんかもしれんが…」
「そうね、とりあえずは頭の片隅にでも眠らせとけばいいでしょ。さて―――」


霊夢は視線をフー・ファイターズへと向けた。

「―――フー・ファイターズ、あんたはこれからどうすんの?」
「ん?あっ、ああ……そうだな…」

一瞬悩む素振りを見せるが、すぐに思い出すように口を開く。

「私はDISCを集める、それだけだ。」
「結局、それなの?」
「…そうだ、私にはそれしかないからな。DISCを守ることは私自身のためでもある。」
「私たちの時みたく、殺してでも奪い取るつもり?」
「…最悪、そうなるだろうな。」

霊夢はそこまで言葉を交わすと、黙り込む。なおも人を襲うと言うのなら、妖怪退治の巫女が放っておくわけがない。


193 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:33:08 2KRyV9p20

やがて、霊夢は徐にこう言った。

「悪いけど、あんたは私たちと来てもらうわよ。それで、この殺し合いをブチ壊すの。良いわね?」
「人の話を聞いていなかったのか?私にはDISCを守る使命があるのだと。」


話の流れをまるで気にしない霊夢にフー・ファイターズは言い返すが、霊夢も霊夢で突っかかってきた。


「あんたのせいでさあ、二人揃ってボロボロなわけよ。しばらくの間、一緒にいてくれてもバチは当たらないんじゃないの?」
「ぐッ…!だが、私の使命がだな……」
「それに結局はあんたって一方的に襲った上に、ただの勘違いだったわけじゃない?
 少しは誠意ある対応がほしいかな〜って私は思うのよね〜?」
「済まなかった…!この通りだ……」
「私って一応、あんたの命の恩人なのよね?」
「………」
「だるいわー身体だるいわー」
「……」
「怖いわー饅頭怖いわー」
「…ああ、くそッ!分かった、分かった!今から6時間の間、お前たちと一緒に行動する。それでいいんだな?」

霊夢が恩着せがましく(と言っても実際命の恩人なわけだが…)フー・ファイターズに喰らい付いたお蔭で、彼が折れる形となった。

「うーん。まあ、一先ずはそれで良しとしますか。」

そう言うと霊夢は、今度は逆にフー・ファイターズへと情報を伝えるべく、名簿を開くのだった。


一先ずは、という霊夢の言葉にフー・ファイターズはげんなりとしたが、仕方ないと考えることにした。
実際に霊夢に助けられたという点は、彼にとっても気にしていたところだった。それをチャラにできるのなら、まあ納得できなくもなかった。
それに、霊夢や承太郎と話すことで得られる情報は彼にとって新鮮で、少しの間なら、そのためにいるのもいいかと妥協したのだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「まさか…手を組むつもりなのか…?」

ジョースター邸の外の影から、様子を暗視スコープで見ながら、ヴァレンタインは少なからず驚いていた。
あそこまで徹底的に相手を叩きのめして、再度その仲を保ち、協力し合うというのは流石に想定外と言わざるを得なかった。

「妖怪を引きつける魅力という天性の才能か…なかなか面白い人間だな。霊夢…」

ヴァレンタインにある『愛国心』に似た何かを持っているのでは、そう思うと少しだけ、親近感が湧いた。

「フフ、これはこのヴァレンタインも負けてはいられないな…」

ヴァレンタインはこの後、どのようにして、彼ら3人と接触しようか頭を働かせる。
協力できる間柄ならば、そのまま手を組む。彼の目的には憎き主催の打倒は当然含まれている。
協力できない間柄だったら?

「分かってもらえるように『話しをする』か…?」

黙々と、ヴァレンタインは思案し続ける。『聖人の遺体』の奪取、主催の打倒、いずれも超えるべきハードルは高い。

だが、それでもこの男はその二つのハードルを超えるために行動するだろう。
そして、その過程において彼は時に非常に徹する―――全ては愛する国のためにだ。
『愛国心』を掲げるこの男は、まずはこの3人をいかに協力するか、利用するのか算盤をはじき出した。


194 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:47:09 2KRyV9p20


 あいつは……創造主に操られている。

霊夢がフー・ファイターズと話していて感じた一番の印象だった。特に今の霊夢にとっては敏感に感じるのだろうが。

 自分のためって言ってるけど、それすらも『ホワイトスネイク』の手の平の上でしょうね…。
 ―――っていうか、何で自由になった私の元に来ちゃったのかしらね?偶然?

『創造主』の呪縛から飛び出した霊夢の元に『創造主』に未だ捕らわれているフー・ファイターズと出会った。
霊夢はこのことに何か作為的なモノがないか、ふと思ってしまった。

 考えるだけ無駄ね。今、私ができることはこいつを、私と同じように自由にしてやること。
 それが、こいつにとってそれがいいのか分からないけど……

霊夢が思うのは『創造主』に縛られた結果、何かを失う。そんな経験をしてほしくない、それだけだった。


 とりあえずは、先に『創造主』から飛び立った先輩として、あいつに道を指してやるぐらいはしましょうか?

 
そんなことをぼんやりと考えながら今、情報交換をしている。



「それじゃあ、私がここに来るまで何をしていたかでも、話しますか…」


気乗りしないが、伝えないわけにはいかないことだ。それに、もうすぐ放送が始まる。
咲夜を失った悲しみ以上の重みを感じるだろう。
だからこれから連れ添う仲間ぐらいには、せめて話そう。


自由のために失った友人を背負えるようになった霊夢だが、
果たしてそれを最後まで背負い通すことができるのか、道中で潰されてしまうのか

時計を睨みながら、彼女はただ、その時を待つ。


195 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 01:47:57 2KRyV9p20
以上で投下終了です。
状態表はもうしばらくお待ちください…


196 : 名無しさん :2014/05/28(水) 01:53:44 i1wROWCY0
投下乙です。
やはり水辺はフー・ファイターズの独壇場だな
あの主人公コンビをここまで追い詰めるとは…かなり強かった
承太郎は危うい所だったけどバトンタッチした霊夢が頑張ってくれたな
咲夜の死を背負ったことで彼女は強くなった
しかし恩着せがましくFFを連れて行こうとする霊夢は面白かったww
戦闘を監視していた大統領だが、果たして接触してくるのかどうか…


197 : 名無しさん :2014/05/28(水) 02:07:25 WXX2cXgs0
投下乙です
これで心置きなく放送にいけますね
いやあ、本当ここまで来るまで長かった。長編書くのは楽しいのかもしませんが、それで期限間に合わないなら元も子もないので、次からは堅実な投下もお願いしますよ
もちろんお願いするだけですので今回みたいな状況じゃなければ4週間でも6週間でも待ちます
どんなに遅筆でも投下が来ないよりはマシですし


198 : 名無しさん :2014/05/28(水) 02:08:47 GoubfHFY0
投下乙です。
このF.F妙に強いなw一人で主人公二人をここまで追い詰めるとは。
霊夢が飛び立つまでの心理が印象に残った。

中々投下されないことに敢えてキツく言ったけど、勿論荒らすつもりで言ったんじゃないし、危機感を持って欲しかった。
書き手としてルールを守るのはやっぱり当たり前だと思うし、今回の破棄問題は待ってる皆を裏切る行為にもなる。
もし次の機会があるならもう一度その事を意識して書いて欲しい。期限内に終わる目処がたたないようならある程度書いた後に予約するといいよ。
面白かったぜ。次の作品も見てみたいと思えた。


199 : 名無しさん :2014/05/28(水) 02:19:24 Pe5AarXQ0
多少キツい事言われたかもしれませんがあまり気を落とさないでくださいね。今回はタイミングが悪かっただけですし
ぶっちゃけ他の書き手も破棄しまくってますし


200 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 03:22:28 2KRyV9p20
【C-3 ジョースター邸(西側)/早朝】

【ファニー・ヴァレンタイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康
[装備]:楼観剣@東方妖々夢、聖人の遺体・左腕、両耳@ジョジョ第7部(大統領と同化しています)
    紅魔館のワイン@東方紅魔郷、暗視スコープ@現実、スローダンサー@ジョジョ第7部
[道具]:通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を集めつつ生き残る。ナプキンを掴み取るのは私だけでいい。
1:遺体を全て集め、アメリカへ持ち帰る。邪魔する者は容赦しない。
2:形見のハンカチを探し出す。
3:放送後、霊夢たちと接触を図る。
4:火焔猫燐の家族は見つけたら保護して燐の元へ送る。
5:荒木飛呂彦、太田順也の謎を解き明かし、消滅させる!
6:ジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。
7:ディエゴと連絡が取れないが…
※参戦時期はディエゴと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※幻想郷の情報をディエゴから聞きました。
※最優先事項は遺体ですので、さとり達を探すのはついで程度。しかし、彼は約束を守る男ではあります。



【博麗霊夢@東方 その他】
[状態]:右肩脱臼(処置済み。右腕は動かせますが、痛みは残っています) 左手首に小さな切り傷(処置済み)、
    全身筋肉痛(症状は少しだけ落ち着いてきています)、あちこちに小さな切り傷(処置済み)
    肉体疲労(中)、霊力消費(大)、全身打撲(大)
[装備]:いつもの巫女装束、アヌビス神の鞘
[道具]:基本支給品、自作のお札(現地調達)×たくさん(半分消費)
    DIOのナイフ×5、缶ビール×9、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)
    その他、廃洋館及びジョースター邸で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:この異変を、殺し合いゲームの破壊によって解決する。
1:放送を聞いた後に、紅魔館へ移動。
2:戦力を集めて『アヌビス神』を破壊する。殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:フー・ファイターズを創造主から解放させてやりたい。
4:いずれ承太郎と、正々堂々戦って決着をつける。
5:出来ればレミリアに会いたい。
6:暇があったらお札作った方がいいかしら…?
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※太田順也が幻想郷の創造者であることに気付いています。
※空条承太郎@ジョジョ第3部の仲間についての情報を得ました。
また、第2部以前の人物の情報も得ましたが、どの程度の情報を得たかは不明です。
※白いネグリジェとまな板は、廃洋館の一室に放置しました。
※フー・ファイターズから『スタンドDISC』、『ホワイトスネイク』、6部キャラクターの情報を得ました。


201 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 03:22:51 2KRyV9p20


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:右手軽い負傷(処置済み)、全身何箇所かに切り傷(処置済み)
    肉体疲労(大)、F・F弾による弾痕(処置済み)スタンドパワー消耗(中)
[装備]:長ラン(所々斬れています)、学帽、ミニ八卦炉 (付喪神化)
[道具]:基本支給品、DIOのナイフ×5、缶ビール×2、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)
    その他、廃洋館及びジョースター邸で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の二人をブチのめす。
1:放送を聞いた後に紅魔館へ移動。
2:花京院・ポルナレフ・ジョセフ他、仲間を集めて『アヌビス神』を破壊する。DIOをもう一度殺す。
その他、殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:霊夢他、うっとおしい女と同行はしたくないが……この際仕方ない。
4:あのジジイとは、今後絶対、金輪際、一緒に飛行機には乗らねー。
5:霊夢との決着は、別にどーでもいい。
6:ウェザーにプッチ、一応気を付けておくか…
※参戦時期はジョジョ第3部終了後、日本への帰路について飛行機に乗った直後です。
※霊夢から、幻想郷の住人についての情報を得ました。女性が殆どなことにうんざりしています。
※星型のアザの共鳴によって同じアザの持つ者のいる方向を大雑把に認識出来ます。
 正確な位置を把握することは出来ません。
※フー・ファイターズから『スタンドDISC』、『ホワイトスネイク』、6部キャラクターの情報を得ました。
 


【フー・ファイターズ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:プランクトン集合体(むき出し)
[装備]:なし(本体のスタンドDISCと記憶DISC)
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット2
[思考・状況]
基本行動方針:スタンドDISCを全部集めるが、第2回放送までは霊夢たちと行動する。
1:霊夢たちと同行する、一先ずDISCは後回し。
2:寄生先の遺体の確保したいが、一応提案してみるか…
3:墓場への移動は一先ず保留。
4:空条徐倫とエルメェスと遭遇すれば決着を付ける?
5:承太郎、霊夢と話すのも情報の悪くはないな。
[備考]
※参戦時期は徐倫に水を掛けられる直前です。
※能力制限は現状、分身は本体から5〜10メートル以上離れられないのと
 プランクトンの大量増殖は水とは別にスタンドパワーを消費します。
※霊夢と承太郎から情報を交換しました。



【支給品紹介】

消防車
【出典:現実】
幼い子供の将来の夢―――ではない。火災を始めとする災害に際してその鎮圧や防御を行う際に使用される
特殊な装備を持つ自動車。日本では外装は主に赤色である。
モデルは指定してないが、水槽付消防ポンプ自動車の一種ではある。


ミニ八卦炉(付喪神化)
【出典:東方輝針城】
「跡形も無く丸焼きにしてやるぜ、この八卦炉でな!」
打ち出の小槌による魔力をスタンドパワーに変換させることで、再び付喪神化を果たしたミニ八卦路。
時間軸は東方輝針城終了直後だったので、わずかに残った自律性からスタンドパワーを回収しようとしたようだ。
付喪神となったので、自律して動くことが可能、火力の増大など利点はあるものの、
これらの恩恵を受けられるのはスタンドパワーを充電した本人のみになる。さらに燃費も悪い。
他の人が使うとただのミニ八卦路として機能する。どれほど付喪神状態が続くか、充電にどれほど要するのかは不明。


202 : G Free ◆at2S1Rtf4A :2014/05/28(水) 03:41:45 2KRyV9p20
以上で投下を終了します。タイトルは「G Free」です。
問題点のご指摘、もしくはご感想ございましたらお願い致します。

それと今まで本当に申し訳ありませんでした。連絡を寄こさないわ、嘘を付くわ、
何度も破棄するわで当ロワの士気を相当下げ、空気を悪くしたのも一重に私の責任です。
もし次があるなら、最低でも期限を守りたいと思います。


203 : 名無しさん :2014/05/28(水) 15:23:54 gUuKii360
そういえば放送はもうできてるんですか?


204 : 名無しさん :2014/05/28(水) 18:13:34 Veq/m./c0
up乙です。スタンドバトルという感じが出ていてよかったと思います。
やっぱり相性しだいでスタプラも苦戦するよね・・・


205 : ◆YF//rpC0lk :2014/05/28(水) 18:24:38 IzNYPxpk0
大まかにはできていますので、明日、あるいは明後日に放送回投下予定です。


206 : 名無しさん :2014/05/28(水) 18:31:05 qem6Q9sY0
「祈って」おこうかな…放送の無事を…


207 : 名無しさん :2014/05/28(水) 19:25:42 vzJUXk7EO
投下乙です。

時止めも数には弱いってのは、原作にもあるからな。


208 : 名無しさん :2014/05/29(木) 02:00:11 0YD279fw0
投下乙です。
霊夢が咲夜のことをここまで引きずっているとは思わなかった。

>承太郎がそう考えた時、背後から気配と、声がを感じ取った。
>その上に疲労も大きすぎて使わないものにならない
>右手が人差し指を銃口にしたようなモノが、親指に引き金のようなモノが取りついていたのだ。
>霊夢を承太郎起こすことなく、
>この二つを許すつもりはヴァレンタインにとってあり得ないことだ。
誤字かな?

あと承太郎がフー・ファイターズのことを「あんた」と言ったり
「てめえ」と言ったりバラバラなのが気になった。


209 : 名無しさん :2014/05/29(木) 02:10:07 Hy5tvjK20
ジョジョは原作の時点で人称安定しないから…(震え声)


210 : 名無しさん :2014/05/29(木) 06:20:26 lXsearzI0
霊夢に強引に言い伏せられるF.Fがちょっと可愛い
このまま紅魔館行ったらいきなりどえらい面子が鉢会うな


211 : 名無しさん :2014/05/29(木) 07:26:11 L0kitia60
放送聞いて方針変えるキャラ現れるかな


212 : 名無しさん :2014/05/29(木) 15:43:05 x7YoB2jA0
承太郎が最初に取り出した手帳はジョナサンの研究ノートかなにかかな?


213 : 名無しさん :2014/05/29(木) 17:00:53 fE0j2gDM0
鬼2人死亡の影響は地味に大きそう。まあ一番ヤバそうなのは妖夢が死んだ幽々子かな


214 : 名無しさん :2014/05/29(木) 19:46:29 E6cmf7LI0
ファントムブラッドで生き残ってるのジョナサンだけってのが悲しい


215 : ◆at2S1Rtf4A :2014/05/30(金) 03:33:38 DtQymJIY0

>>208
3点ほどのご指摘ありがとうございます。

>霊夢が咲夜のことをここまで引きずっているとは思わなかった。

いくら霊夢でも仲間の死に対して免疫はないかなと考えた結果、ああいった形で覚悟を固めるという
展開にしました。私の力不足で、ちょっと強引な感じが否めないかもしれませんが…
もし、必要でしたら手直しするかどうか考えます。


以下の文章をwikiに載せる際、修正お願いします。


× 承太郎がそう考えた時、背後から気配と、声がを感じ取った。
○ 承太郎がそう考えた時、背後から気配と声を感じ取った。

× その上に疲労も大きすぎて使わないものにならない
○ その上、疲労が大きすぎるせいで使わないものにならない

× 右手が人差し指を銃口にしたようなモノが、親指に引き金のようなモノが取りついていたのだ。
○ 右手の人差し指は銃口にしたようなモノへと、親指は銃の撃鉄のようなモノへと変貌していたのだ。

× 霊夢を承太郎起こすことなく、
○ 霊夢は承太郎起こすことなく、

× この二つを許すつもりはヴァレンタインにとってあり得ないことだ。
○ この二つを許すということはヴァレンタインにとってあり得ないことだ。

× 5:承太郎、霊夢と話すのも情報の悪くはないな。
○ 5:承太郎、霊夢と話すのも悪くはないな。



承太郎がフー・ファイターズをどう呼ぶかですが、
戦っている最中は彼のことを『てめえ』、和解後を『あんた』にしようと思います。
なので、お手数ですがwikiに載せる際に以下の文章の『あんた』を『てめえ』に直してください。

×「一応聞いとくぜ…質問はシンプルに。あんたは何者で、そして殺し合いに乗っているのか、この二つだ。」
×「ああ、確かに自身の不甲斐なさにむかっ腹が立つ。だが…!それ以上にあんたに対して腹が立ってしょうがないぜ…!」
×「ああ、俺もそう思うぜ。あんたがいつまで余裕ぶっていられるのかってところにな…」
×「さあな…だが、これであんたを叩きのめそうだぜ…!」
×「あんた、人間でもスタンドでもないだろ?」
×「いよいよ、あんただけだな…腹は括ったか…?」




>>212
>承太郎が最初に取り出した手帳はジョナサンの研究ノートかなにかかな?

その通りです。状態表に記載し損ねていましたが、承太郎の道具欄に現地調達品として
ジョナサンの研究ノートを追加します。

ジョナサンの研究ノート@現地調達
ジョナサン・ジョースターが記した石仮面の研究ノート。数年前にディオとの喧嘩によって偶然発覚した石仮面の仕掛けが、
ジョナサンを大学で考古学を専攻させるほどに興味を持たせるきっかけとなった。
石仮面の情報がジョナサンの視点で載っているはずだが、肝心の石仮面を用いれば吸血鬼になれるといった記載はない。
しかし、仮面に血が付着することで、骨針が動き出し脳を刺激するという事実なら載っているとされる。


216 : 名無しさん :2014/05/30(金) 03:48:01 x4282rds0
霊夢が咲夜のことを云々は手直しどころかこの話の中でも一番印象深い良シーンだと思うのでこのままでもオッケーおけつだよ


217 : 名無しさん :2014/05/30(金) 03:58:32 D5XyvMqs0
>>215
一つ目は指摘ではなく、ただの感想なので気にしないでください。

>○ その上、疲労が大きすぎるせいで使わないものにならない
そこじゃなくて「使わないものにならない」がおかしいと思った。

>○ 霊夢は承太郎起こすことなく、
「を」を入れたほうがいいと思う。


218 : 名無しさん :2014/05/30(金) 08:20:04 029pqZUc0
霊夢→咲夜への感情は前の話の時点で伏線あったしね
実際この話においても一番印象的な所だし好き


219 : 名無しさん :2014/05/30(金) 10:15:09 AwpNy6C20
殺したやつの分も背負っていくって、超クールだぜ
実に主人公らしいじゃないか


220 : ◆YF//rpC0lk :2014/05/30(金) 19:28:51 4Mo71oss0
それでは第一回放送を行いたいと思います。


221 : 第一回放送  ◆YF//rpC0lk :2014/05/30(金) 19:31:01 4Mo71oss0

マイクテスト、マイクテスト……

おはよう、参加者の諸君。荒木飛呂彦だ。
この殺し合いが始まってから6時間が経過したわけだが、普段とは違う濃厚な時間になったと僕は確信している。
本来ベッドや布団でぐっすり眠っていたり、お酒や料理で宴会をする時間だろうからねェ、
君たちの人生において特別な時間だったんじゃないかな?
……尤も僕は呑兵衛の気持ちは分からないがね。

さて、お喋りはこれくらいにして本来の放送に移るとしよう。
先ずはこれまでに脱落した者たちの発表だ。
名簿片手によく聞いてくれよ。一度しか言う気はないからねェ。
では、ゲーム開始からこの放送までの脱落者は、

グイード・ミスタ
ナズーリン
タルカス
伊吹萃香
紅美鈴
十六夜咲夜
ブラフォード
星熊勇儀
魂魄妖夢
ズィー・ズィー
二ッ岩マミゾウ
ロバート・E・O・スピードワゴン
エルメェス・コステロ
アリス・マーガトロイド
幽谷響子
プロシュート
ウィル・A・ツェペリ
シーザー・アントニオ・ツェペリ

以上、18名だ。

素晴らしい! なかなかいいペースじゃないか!
参加者の二割がこれまでにその命を燃やし尽くしたってわけなんだからな!
個人的にはそれ以上に、予想外の名前が挙がっている事にもビックリしているよ!

脱落者18名につき、残りの生存者は72名と言うわけだな。
まぁ、中には「生きてるとは言い難い者たち」も数名いるが、そこは大目に見て欲しいかなぁ。


過去の次は未来に向けての発表だ。
ゲーム開始時に言った通り、これからは禁止エリアが一つ追加される。
追加禁止エリアは「B-4」だ。
そこにいるんだったらすぐにでも離れた方がいいぜ。
この放送が終わって10分してもいるようだったら、自動的に頭が「ドカン」だ。


これで放送を終わりにしてもいいんだが、なんだか味気ないよなぁ。
だから最後に一つ、君たちに有益な情報を話そう。

諸君の中には、日焼け厳禁な体質持ちもいるはずだ。
そんな君たちは、会場のどこかに設置された出入り口を探すといい。
ヒントを見た者なら分かるかもしれないが、実はこの会場には地下に面白いものが用意してあってね、
そいつを見つければ、太陽だって怖くなくなるぜ?


話しが長くなったようだが、これで第一回放送を終了する。
次の放送は昼の12時だ。それまで諸君の健闘を祈る。


222 : 第一回放送  ◆YF//rpC0lk :2014/05/30(金) 19:31:27 4Mo71oss0

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

一回目の放送って事もあるけど、我ながら平凡な内容だったようなきがするな。
もう少し話した方が良かったか。いや、楽しみは後に取っとくのも乙だよな。

それにしても、脳を爆破する能力、誰か攻略法見つけた人いるのかなぁ?
機器もなしに聞こえる放送、なぜ妖怪や神でも殺せるか、そこあたりを考える奴がいるといいんだけど。

ま、何にせよ後は待つだけかな。
彼女――はたてのニュースを楽しみにするとしよう。


223 : ◆YF//rpC0lk :2014/05/30(金) 19:31:47 4Mo71oss0
以上、第一回放送でした。


224 : 名無しさん :2014/05/30(金) 19:52:16 ezDxYv2w0
ワクワクだねぇ


225 : ◆n4C8df9rq6 :2014/05/30(金) 20:02:30 P711baoQ0
投下乙です!
約一年の時を経てついに放送突破…!
ワクワクが止まらねえ!

というわけで早速エシディシを予約します。


226 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 21:50:40 NpfkNSWU0
放送話投下乙です!
『いよいよ』って感じだがグッときたぜッ!!おめでたい!

いきなりになりますがゲリラ投下を行いたいと思います


227 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 21:52:56 NpfkNSWU0
木漏れ日から洩れる黄金色の疎らな線を彼女は今までにどれだけ見てきただろうか。
その悠久たる人生の中で太陽が昇り、月が顔を出し、春が訪れ、冬が到来し、その周期も数百を超えたところで彼女は数えるのをやめた。
いくら数えたところでお天道様はこれからも絶えず地平の彼方から昇り続けるだろうし、その光景は永劫不変のものなのだろう。

いい加減に見飽きたその光景を、しかし彼女は心奪われたようにじっと眺め続ける。
魔法の森の入り口に立って、東の地平の光源へと向けたその瞳は魂でも抜けたように動かない。
その美しい光景に見惚れていたわけではない。もとより普段から見る幻想郷の姿なのだ。
むしろ彼女の心を占めていたのは果てしない『寂しさ』。そして『恐怖』。

この太陽の下、日々を過ごしていた頃が最早懐かしい。昨日までの日常を思うと、とてつもなく寂しく感じる。
この太陽を二度と拝めなくなるかもしれない。これから始まる永い一日を思うと、ひどく恐怖を覚える。


―――ああ、自分はこれほどまでにこの世界を愛していたんだな。


口の中で溶けた言葉を、噛み締める。

ふと、視界がうっすらとぼやけてきた。その綺麗な髪の色と同じくらい白い指で頬に触れてみる。
――なんてことだろう、またしても自分は泣いているのか。
指先に触れた小さな真珠を拭いつつ、そんなちっぽけな自分に嫌気が差す。
今の私に比べたら、あの光り輝く黄金の真珠の何と大きいことか。
直視できない眩しさに、否が応でも孤独感を憶えてしまう。

そんな日の光から逃げるように、彼女は目を背ける。今日で見納めになるかもしれない日の出を最後まで見る気にはなれなかった。
自分はこれほどまでに弱かったのか。涙を拭きながら思う。
もはやゲーム開始時の意気込みも何処へやら。今の自分は進む『路』すら見出せない、人間以下の人形同然。
フッ、と小さな笑みが自虐気味に漏れる。これが笑わずにいられるか。


それでも、生きたい。
今はそれだけでいい。生きてさえいれば、自分自身の光の路が見えてくるかもしれないから。
その路はあの太陽に負けないぐらい爛々と光り輝くモノへ成長し、いずれは私自身をも成長させてくれることを祈って。

今は、頑張って生きよう。




「おーい、どうしたー?お前が森の中を進もうと言ったんだぞー?一人で行っちゃうからなー!」


背後から随分能天気な声が私の耳を貫いた。
その緊張感皆無な大声に私は思わずクスリと笑い、ピョンピョン跳ねる彼女の元へ太陽を背にして向かう。

この朝日を、明日からまた見られるように。



「―――うん。今行くよ、芳香!」




ああ、今の私は一人なんかじゃないんだ。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


228 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 21:54:24 NpfkNSWU0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『藤原妹紅』
【早朝】C−5 魔法の森


マイペースなキョンシー、宮古芳香とある意味奇妙な出会いを遂げた妹紅は、彼女の主である青娥と会うために魔法の森を渡り歩いていた。
崩れかけた自身の心を意図もせずにだが立ち直させてくれた芳香。
現在の妹紅の唯一と言っても良い心の拠り所である芳香の手伝いをしたい。
せめて今の自分に出来ることはそれだと、妹紅は小さく決心して芳香の横に並んで歩く。

それにしてもこの芳香という人物は色々と危なっかしい。
あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。何か興味のある物を見つけたら屈み込んでジッと見つめる。
かと思えば、思い出したようにまた行動を再開して歩き出す。
キョンシーとは皆こうなのか、妹紅はそう思いながらも芳香を急かすことなくゆっくりとここまで歩いてきた。
幼い子供のような芳香の行動に微笑を浮かべて目で追う妹紅にも、先ほどまでと比べてかなりの心の余裕が生まれている。


ふと、上を見上げてみた。
深い森ゆえに空が見えることは無かったが、なんとも気持ちの良い日差しが木々から漏れて地面に点々と彩を作っている。
まだ森の入り口なので日差しも多く照らされているが、中心部へと近づくに連れてここは光の当たらない怪奇な場所となってくる。
マイフィールドである迷いの竹林には詳しい妹紅も、この魔法の森にはさほど土地勘があるわけでも無い。
よって無駄に迷うのを阻止する為、比較的森の外周に添うような形で現在二人は北上していた。

わざわざ森の中を進んでいるのも、少しでも敵と遭遇する確率を減らすため。
万が一襲撃に遭っても、この地形を利用して多少は逃走の成功率も上がる。
とことん臆病な性格まで堕ちたもんだと、行路を提案した自らに嫌な気分になる。
とはいえもしも今襲われたら、武器も無い自分たちに果たしてどこまで抵抗できるのか。まともに弾幕を生み出せるかすら怪しい。

相変わらず妹紅の体調は精神的なものも含めて最悪だった。
二人の当面の目的地は地図でいうE-4の墓場。何故そこなのかと聞いても、芳香は何となくだ、の一点張り。
全く根拠も無いし距離も離れていたが、どうやら芳香は何故か最初からその場所に行きたがっていたようで、妹紅もとりあえずそこを目指すことにした。
墓場までの行程、敵に襲撃される可能性を考えないわけにはいかない。
そしてこの酷い体調で戦うというのはどうにも現実的ではない。
ならば最大限、敵に会わずに進む事を考えようという後ろ向きな思考のもと、妹紅は足を進める。

情けなさを通り越して怒りすら憶えてくるような消極的思考だが、今の彼女に出来るのはこれが精一杯。
敵に会いたくない。
死にたくない。
この二つばかりが妹紅の思考の大部分を占めていた。

そのうえで目的を達成しようとは随分虫のいい話だとも彼女は思っていたが、それで芳香のためになるならそれでいいではないか。
わざわざ戦場の真横を通って買い物に出掛ける奴は居ない。
危機感無く歩く芳香を横目で見ながら、妹紅は考えるのだった。


229 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 21:56:56 NpfkNSWU0

「芳香、ちょっと待って」

「んぉ?どうした妹紅、何故座る?お腹痛いのか?」

「違うわよ。もう放送の時間。これを聞き逃したら大変よ」

「包装…?何を包むんだ?おむすびか?」

どこまでも食い気の芳香のボケに、妹紅は軽く笑いつつ地図と筆記用具を取り出す。
見ると、時計の針は5時59分を指していた。
適当な石の上に腰を落とし、メモの用意をする。
主催者が言うには、これから死亡者のリストと禁止エリアの発表があるらしい。
この先の命の安全に直結する大事な情報の記録。何があろうとも、これだけは絶対に欠かしてはいけない行為だ。


―――死亡者リスト。

妹紅はふと、自分にとって縁のある二人の顔を脳裏に思い描く。

文字通り、永遠の敵である『蓬莱山 輝夜』。
これまでにずっと世話になってきた友人『上白沢 慧音』。

己のことで一杯だった妹紅は今まで彼女らのことまで考える余裕はとても無かったが、放送直前になった今、途端に心配になってきた。
自分の強さにはそこそこ自信もあった妹紅だが、現在は見るも無様。輝夜辺りに見せたら腹を抱えて笑い飛ばされそうな姿である。
私がこのザマだ。ならば彼女ら二人は無事なんだろうか?輝夜はともかく慧音は心配だ。


230 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 21:57:40 NpfkNSWU0

(あいつら、大丈夫かなぁ……生きてるといいなぁ…………もう一度会えるかなぁ……)

永い永い人生の中、妹紅は多くの別れを経験してきた。
それは蓬莱人という体質上、仕方の無い経験だったし、妹紅もいつしかそれを当たり前の出来事だと思い、感傷をひた隠しにしてきた。
そして彼女はついに人との関わりをも避け、『出会い』も『別れ』も拒絶しようとした。
そんな非生産的な日常も数百年を経て、この幻想郷へと辿り着いたことで変化が訪れる。

宿敵と再会した。彼女とは今でも楽しく殺し合っている。

友人も出来た。久しく忘れていた温かみが妹紅の心を癒した。

この二人とも時が経てばいずれ別れが訪れるのだろう。
そんなことは分かりきっていたが、その別れの時がまさか今日にも訪れるかもしれないと思うと、いてもたってもいられない。
いや、今日どころか既に別れの言葉すら言えずに二人は手の届かぬ場所まで行ってしまったのかもしれないのだ。
それとも二度と戻れぬ遠い場所まで行ってしまうのはもしや自分かもしれない。

ゾクゾクと、妹紅は震える身体を押さえ付ける。
『あの』感覚を思い出してしまった。
堕ちたら永遠に這い上がってこれない、底深い深淵の闇。
つい先刻に何度も体験してしまった、完全なる『虚無』の空間。
またもそこに放り込まれれば今度と言う今度こそ戻ってこれない気がする。


(ええいッ!あの時の体験はもう思い出さないって決めただろッ!しっかりしろよ私ッ!)


首をブンブンと振り、パシンと頬を両手で一喝。気合を入れなおす妹紅。
終わったことをいつまでもグズグズ嘆いてる場合じゃない。今はとにかく放送に耳を傾けろ。
心中でそう叱咤し、ペンを手に持ち直す。


『マイクテスト、マイクテスト……』


231 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 21:58:36 NpfkNSWU0


丁度その時だった。
耳障りなノイズと共に6時を表す放送が朝を告げた。
不思議なことにその声は頭の中に直接語りかけてきているかの如く、芯に響く音声であった。
周りを見渡しても拡声機のような設備も無い。やはり爆弾と一緒に脳を弄られているのだろうか。

ついぞ数時間前に聞いたばかりの忌々しい声が癇に障る。
最初の会場でルール説明を聞いていた時、秋の神様が出ていかなかったら奴らに突っかかっていたのは私の方かもしれない。
そしてあっけなく散ったのも、私の方かもしれない。
それを思いながら、私は背筋の凍る気持ちで放送を耳に入れていた。
最初こそ打倒主催を心掛けていたが、今の私にその熱い気持ちは既に鎮火しており、見る影も無い。
死ぬかもしれない、そんな恐怖が底から湧き上がり、心を縛る。

何気なくチラリと横を見れば、芳香が間抜けな顔して大あくびをかいていた。
ゲームのルールは殆ど理解していないのだろう。放送には全く興味が無いようだった。
つられて妹紅もやれやれと軽い溜息を出すが、そんな芳香の姿に何よりも救われる。
次の放送までにも何事無く、芳香と共に生き延びたい。
儚い想いを胸に抱き、先行きを思う。


そんな妹紅の複雑な心など知る由も無い主催の放送内容は、いよいよ要の部分にまでさしかかった。


『さて、お喋りはこれくらいにして本来の放送に移るとしよう。
先ずはこれまでに脱落した者たちの発表だ』


ここだ。放送の肝はここからの死亡者リスト。
妹紅は一層真剣な面持ちになって放送の声に意識を集中させる。
彼女にとって心を許せる知り合いなどはこの幻想郷にそうは居ない。
要は輝夜、慧音の二人さえ名を呼ばれなければそれで幾らかは安心できる。


(呼ばれないで…!呼ばれないで…!呼ばれないで…!呼ばれないで…!呼ばれないで…!)


念仏のように心の中で唱え続ける。いつの間にか妹紅の背中は汗でぐっしょりと濡れていた。
カタカタとペンを持つ手まで震えてきた。たかだか放送ひとつに本当に情けない姿だと、自らを卑下する。
慧音はともかく輝夜に対してここまでの感情を持っていたとは、自分のことながら今更驚く。
ゴクリと喉を鳴らし、放送の声を待つ。


そして主催が、出席でも取るかのような事務的口調で、一人目の名前から呼び始めた。


232 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 21:59:26 NpfkNSWU0



「―――グイード・ミスタ、ナズーリン、タルカス、伊吹萃  ドスッ  香、紅美鈴、十六夜咲夜―――」



――ピチャリ。







―――ん……?今、途中で変な音が入らなかった…?


なんだろう、鈍く、弾けるような音が…………




後ろから……聞こえた……ような………






不審な物音に振り向こうとする直前、妹紅は自分の左腕の袖に小さな異常を発見した。
和を彩る衣によく溶け込むかのような色彩の赤黒い染みは、触れればドロっとする感触であり、それはまるで――



(―――血……?)



血。
誰の?
なにコレ。
いつ付いた?
最初からあったっけ?


233 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:01:22 NpfkNSWU0

指に触れた液体を怪訝な視線で見つめながら、ゆっくり…ゆっくりと、私は背後を振り返った。

そこには予想通り、芳香が立っていた。

予想と少し違ったのは、彼女が何故かこちらに背中を向けて呆然と突っ立っていたこと。

後ろ姿なので表情は見えないけど、身体がピクリとも動いていない。

更によく見れば――いや、ほんとは最初から気付いていたけど、彼女の背中から何か紅い棒状の物が突き出ている。

その『何か』は、芳香の背中を突き破って私の目と鼻の先にまで伸びてきており、舌を出せば届くんじゃないかって距離でピタリと止まっていた。

その棒状の『何か』の先端は刀のように鋭く尖っており、切っ先からポタポタと紅い液体が滴り落ちている。

この棒状の物がなんなのか、近すぎてよく分からない。

何でそんな物が芳香の背中から突き出ているのかも理解できない。

そして、何で芳香が私の前に立ち塞がっているのか、何もかも意味が分からなかった。



それじゃあまるで、私を庇って攻撃を受けたみたいじゃない。



―――攻撃…?

頭の中で自然に浮かんだその単語が、次第に膨れ上がって脳内をグルグル駆け巡る。

放送で呼ばれ続ける名前が幾つか耳に入ってくるが、頭の中には何一つ残らない。

私は思わず指先で触れた液体を、もう一度じっくり見つめ直した。

この鮮血は、芳香の体内から飛び漏れたものだ。

キョンシーにも赤い血が流れてるんだな、なんて場違いな思考が過ぎったのは、現実逃避への自衛行為からだろうか。

視界に映る鮮血を見た私の脳裏に、一瞬『あの』記憶がフラッシュバックした。

迫り来る弾丸。男の『漆黒の殺意』。この世の何よりも真っ暗な『虚無』。

気付けば身体中が震え、足もすくんで立てない。声すら出せなかった。

最悪の現実が、声に出したくても出せない。

代わりに、その現実を私に教えてくれたのは他ならぬ彼女自身であった。


234 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:02:05 NpfkNSWU0




「―――妹紅、気を付けろ。攻撃されているぞ。誰かいる」




絡繰人形にように首だけをこちらにキリキリ回し、私に警告を発する芳香。
その表情は、胴体を貫かれているというのに全くの無表情で、痛みを感じているようには見えなかった。
あぁ、キョンシーって痛覚が無いんだっけ。
だが、痛みを感じないだけでキョンシーにも『死』はある。不死の私ですらこの世界では死ぬのだから。


「あ、あぁ……!芳、香…!生きてるのッ!?
よかっ……と、とにかくッ!その、『それ』を、ひきっ…引き抜かないと…!」

芳香の極めて冷静な声で一気に現実に引き戻された私は、しどろもどろになりながらも何とか声を絞り出せた。
泣きそうな声と顔で芳香の背から突き抜けたそれを握り締め、引っ張り出そうとする。
芳香の体内から流れ滴る血液で塗れたそれは、よく見たら『薙刀』のようだった。
腹から背にかけてこんな得物が突き刺さっているというのに、芳香は至って表情を崩そうとしない。
その冷静さが逆に私をどんどん焦らせた。

「い、今引っ張り出してあげるッ!じっとしてて…ッ!」

「いや妹紅、私はいい。それより誰かがこっちを狙ってるぞ。お前、早く逃げろ」

纏わり付く血のせいでうまく棒が握れない。得物が取り出せない。
芳香は逃げろというが、私は聞く耳持たずにコイツを引っ張り出すのに必死だ。

逃げろだって?アンタ、私を庇ってこんな目に遭ったんじゃないの?
この敵は明らかに私を狙って武器を投擲してきた。
私は放送を聞くのに夢中で、完全に周囲への警戒を怠っていたからだ。
つまりこの敵、『敢えて』放送が始まった瞬間に私を狙ってきたんだ。

死亡者のリストを聞き入れようと、獲物が完全に隙だらけになるその時をジッと待ち構えてッ!!


235 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:03:03 NpfkNSWU0

(クソ!クソォ!なんだこの『敵』はッ!いつから私たちに近づいて来たんだッ!
どこから私たちを見ているッ!?『殺し』に迷いが無いッ!!どこのどいつだッ!?)


得物を引っ張り出そうとしながら私は周囲を見渡す。
森林内は既に視界も明るいが、大きな木々や草葉の茂みも多く、敵の姿が見えない。
さっきのあの男とは違って、今度の奴は完全に私たち二人を殺すつもりで襲ってきているッ!
おまけに今回は正々堂々の早撃ち、ではなく姿を隠しながらでの不意打ち!話の通じる相手じゃないッ!

「おい妹紅、もう無理だ、私は。心臓はギリギリ外れているが、血を流し過ぎてしまった。
キョンシーだから死にはしないが、なんか体がうまく動かない。
見ろ。キョンシーにも赤い血は流れてるんだな。ひとつ発見したぞ」

「うるさいッ!私と同じリアクションしないでよッ!私のせいであんたがこんな目に遭うなんて…そんなの駄目だッ!」


私が喚きながら刺さった武器を抜こうと躍起になっているその時、周囲がカッと大きく光った。
四方八方に浮く光の弾の正体が太陽の陽射しでなければ、無数の弾幕に間違いない。
終わった。この敵は最初から首尾よく弾幕まで配置していたんだ。
私たちの周囲半径三十メートルの位置から、数え切れないほどの弾幕レーザーが一直線に向かってくる。

これだ…!敵は全てこの攻撃のために待っていた…!

私たちを発見し、周囲に弾幕を準備し、放送の時を待ち構え、まず隙だらけの私を射抜いて、最後に一気に沈めるッ!

全てはこの敵が思い描いた『デザイン』として用意されていたんだッ!


236 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:03:44 NpfkNSWU0



「うああああああああぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁあああああぁぁああッッ!!!!」



私は完全に自暴自棄に陥り、生み出せる限りの焔を滅多矢鱈に撃ち出した。
この光景は、さっきも体験したばかりの状況。
わけもわからず、恐怖を振り払うように目標無き焔の弾丸をばら撒く。
あのリンゴォにもまるで通用しなかった攻撃を、私は今また同じ様に繰り返している。
放った焔の乱れ矢は、当然のように木々や地面を焦がすばかりで、敵を捕らえることなく消失していく。

駄目だ。避けられない。
回避不能の容赦無き弾幕が、私の周りを包み込む。
眼前に迫った無数の輝く光条が私の身体中に風穴を空ける。
そんな一瞬先の未来を想像し、頭の中が真っ白になった。

足を一歩踏み外したその先の、無限が如き奈落の闇に私は永遠に堕ち続けるのか。
手を伸ばしても、誰一人として掴んでくれない。誰も助けに来ない。
私が最期の須臾ほどに短い一瞬の狭間で感じたのは、そんなどうしようもない孤独感。絶望感。



「―――――ぁ…死ん」



その須臾の間に発した、私のこの世で最期になるであろう言葉は、漏れ出した空気のように一瞬で、儚くて、意味の無いモノだった。


身体の力が抜け、グラリと地に臥す。
目の前の影が機敏に動く。反転する視界。染まる紅飛沫。
この光景も以前に見た。何度も何度も、見せられた死の刹那の画。

違う所があるならば、『あの時』と違って、世界は色を失っていなかった。
あるのは、木々の新緑と、飛び散る紅と、光の白。
なにより、私の意識はまだある。



私はいつのまにか仰向けに倒れていた。
否。倒されていた。


目の前で、私を覆うように庇ってくれた芳香の表情が、私には笑顔に見えた。
ポタポタと私の頬に彼女の血が滴り落ちる。
見れば、芳香の身体中にはレーザーで貫かれた穴が痛々しげに空いている。

首を動かしてもっとよく見れば、右腕も千切れている。左脚も膝から先が吹き飛んでいる。
胴体を薙刀で貫かれたまま、私をまたしても庇って受けた無数の傷は最早致命傷と言っても相違無い。
そんな彼女が苦しげに呟いた言葉は、未だに脳内から大音量で流れている放送の声よりも余程鮮明に、私の耳へ優しく届く。


237 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:04:57 NpfkNSWU0



「……おぅ、もこう。また、ないてんのか。
はは。みためより、なきむし、だな。おまえ」



この時、私は悟った。
芳香は、すぐに死ぬ。
私を二度も庇った傷で、『あの場所』へ旅立ってしまう。

なんで。なんでよ。
な、んで……



「芳香!!アンタ、なんで、私なんかを庇って…ッ!」

「ん、なんでだと?そん、なのおまえ…きまって、るだろう。
もこうが、しぬのを、わたしはいや、だからに、きまってるから、じゃないか」

「馬鹿ッ!!アンタが死んだら意味無いじゃないッ!!
なんで…!なんでこんな、私みたいな死に損ない、を……!」

「そりゃあおまえ、もこうは、いいやつ、だからな。しぬのは、なにより、よくないこと、だぞ」



今までに何度、人の死を見てきたか分からない。
それは不死を生きる者の『宿命』であり、避けられない『呪縛』だった。
そんな呪われた宿命が嫌で、私は人との関係から一方的に逃げてきた。
だというのに、待ち構えていた運命は再び私を残酷な宿命の檻に放り投げた。

敵がすぐそこに居るのにも関わらず、枯れ果てた涙がまたも私の視界を朧にし始める。
胴の傷に触れないよう、みっともなく芳香の胸に泣きつく私を芳香は静かに宥めた。


「いーこ…いーこ…だぞ、もこう。おまえは、いいこ、だから、しぬのが、よくない。
だから、たて。わたしはいっぽん、なくなったが、おまえには、おやからもらった、あしがある。まだあるける」

母親のような慈愛で芳香は私に勇気を分け与える。
そういう芳香は、片腕片脚の状態ながらも、フラフラと立ち上がって私の頭をそっと撫でてくれた。
その優しさに触れ、私は嗚咽を漏らしながら子供のように泣きじゃくる。
芳香は頭を撫でる間、とても死人とは思えないような綺麗な笑顔をしていた。


しかし、その笑顔もすぐに凶気なモノへと変貌していく。


カサリと、私の背後で草木を掻き歩く音が聞こえた。


238 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:06:30 NpfkNSWU0

驚き振り向いた私のぼやけた視界に映ったのは、焦げた大木の陰から現れた『敵』の姿。

『彼女』は極めてゆっくりと、無表情で私たちに近づいて来る。
いや、無表情に見えてその実、あの仮面の裏では私たちを次にどう追い詰めようかを冷静に分析し、思考している。
その証拠に溢れ出る妖気はおぞましいほどの殺気に塗れていた。


いや待て…『コイツ』、知ってる顔だぞ…!まさか、コイツが私たちを襲ったのか!?
あの情けの欠片も無い武器と弾幕で、私たちを完全に殺しに来た襲撃者の正体…!
彼女の事を詳しく知っているわけじゃないけど、まさかこんな事をしでかす悪魔だとは夢にも思わなかった。


「お…『お前』……ッ!まさか、お前が『乗って』いた、なんて……!」


私は再び恐怖に怯える。
この女のあまりにも巨大な妖気と殺気にあてられ、絶望が頭をもたげてきたからだ。
敵は歩くペースを全く落とさず、鬼畜の如き妖力をその左手に収束させながらこちらへ向かってくる。
その凄まじい雰囲気に、説得は不可能だと悟った私は、敵を迎撃する為に右手から焔を創り…


「―――あれ…」


間抜けな声を発した私は、焔を生成しようとした右手を思わず見る。


―――焔が出ない。


(な…なんで!?さっきは出せたのにッ!全然でないッ!!)

自分の人生を共にしてきた右手を信じられない目で見つめる。
マッチの火ほども灯さなくなった右手をぶんぶんと振り回すが、まるで反応が無い。
同じく左手にも力を込めるが、結果は同じ。

蒼白になった顔で前方を向きなおすと、表情も心も窺い知れぬ悪鬼が距離を縮めて来ている。
焔が出せない理由がなんとなく分かってきた。実に単純な理由だ。
立て続けに起こる強大な敵の襲撃に、私の心はもはや破裂寸前なほどまで追い込まれていた。
限界を突破した恐怖のパラメータのせいで、術式の回路がまともに働かなくなってきたんだ。

要は、今の私は正真正銘の臆病者にまで堕ちていた。それだけの話だった。


239 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:09:21 NpfkNSWU0
牙が剥がれ落ちた私は、慌てて懐に手をやる。
焔が出せないなら支給品の銃で……駄目だ!あの男に持ってかれたんだったッ!!
私は牙どころか、爪すら剥がれ落ちた最低の役立たず。この敵に勝てる道理は無くなった。

女が左腕をこちらへ向けた。その指先に集中する妖気は私にとって燎原の火。
立ってるだけが精一杯の足もこれ以上動いてくれない。もう、かわしようが無い。


女の指先が白く輝き、一本の弾幕が私の心臓目がけて飛んでくる。
躊躇無しの急所狙い。慈悲皆無の一撃が今度こそ私の命を奪いにやってくる。


瞬間、迫る光線に影が飛ぶ。


弾幕は、別の弾幕に弾かれて消滅した。


呆気にとられる私に、今や案山子同然と果てた芳香の声が叩きつけられる。


「妹紅!行けッ!!」


私にとってのヒーローの声が脳を揺さぶったと同時に、スイッチが入ったように足が動く。
そしてそれ以上、私が芳香の声を聞くことは無かった。
泣きながら、必死に逃げ出したからだ。
涙と鼻水でグシャグシャになった顔を隠しもせず、友を捨てて逃亡するこの世で最低な人間の姿だった。
とっくに私の心は限界が来ていた。

だから、逃げた。
命を三度も救ってくれた友をここに置き去りにして、とにかく逃げた。
言わなければいけない言葉があるはずなのに、命惜しさに逃げた。
激情など沸き上がらなかった。戦おうなどとは思いもしなかった。
ここで逃げずに戦っていれば、あるいは二人とも助かったのかもしれない。
その可能性を全て踏み躙り、みっともなく全力で生にしがみついた。

後ろを振り向くことは無かった。振り向けば、きっと立ち止まってしまう。




「ごめん…!ごめんなさい…!ごめんなさい…!ごめ…っ!」




誰にも聞こえない詫び言を、自分に言い聞かせるようにひたすら反復する。
ひと欠片の勇気も無い、愚かな自分を呪いながら無我夢中で走り続けた。

『人は何かを捨てて前へ進む』

誰かが言った言葉だったか、それとも本で見た言葉だったか。
唯一手に入れた友すらも捨てて、慟哭する。



―――私は…弱い……!



森の中に、ちっぽけな少女の悲痛な叫びが小さく木霊した。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


240 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:10:45 NpfkNSWU0

【C-5 魔法の森(北東)/朝】


【藤原妹紅@東方永夜抄】
[状態]:精神不安定、霊力消費(小)、服回復中?
[装備]:火鼠の皮衣、インスタントカメラ(フィルム残り8枚)
[道具]:基本支給品(芳香の物、食料残り3分の2)、写真、カメラの予備フィルム5パック
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1:生きる。もうあの『虚無』に戻りたくない。
2:芳香…ごめんなさい…!
3:『死』に関わる事は避ける。
[備考]
※参戦時期は永夜抄以降(神霊廟終了時点)です。
※風神録以降のキャラと面識があるかは不明ですが、少なくとも名前程度なら知っているかもしれません。
※死に関わる物(エシディシ、リンゴォ、死体、殺意等など)を認識すると、死への恐怖がフラッシュバックするかもしれません。
※あまりに恐怖すると、焔が出せなくなっています。
※放送内容が殆ど頭に入っておりません。
※彼女がどこへ行くかは今後の書き手さんにお任せします。


241 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:11:41 NpfkNSWU0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


「いったか」


片脚でもフラフラとバランス良く立ち尽くす芳香。
右腕を失い、左脚を失い、全身穴だらけになり、胴体には未だ鋭い薙刀が突き刺さったままの芳香はまさしく案山子同然といえる。
いくらキョンシーの肉体が強固であり、痛覚を持ち得ないとしても、既に芳香の死は免れないほどの状態であった。

それでも彼女の目はどこまでも真っ直ぐで、淀みは無かった。

怪我無く逃げ出せた妹紅を、安心した様子で見守る彼女に恐怖など無い。
勿論、自分を置いて逃げる妹紅に非難や蔑みの気持ちも全く無い。

物事を考えるのが苦手な彼女の心にあったのは、妹紅の命が助かったことへの安心。ただそれだけだ。
その持ち前の愚直さが、妹紅の命を救ったとも考えられる。
芳香にしてみれば、それで全てが『納得』出来た。
自らの行動に後悔などは塵ひとつ存在しない。


他にあるとすれば――



「さて…あとはおまえたおせば、ぜんぶまるく、おさまるな」


目の前の『女』に敗北するなどありえないという、理屈無き自信のみ。

器用にも片脚でクルリと半回転し、敵と対峙する芳香。
ボロボロの隻腕で闘いの姿勢を構える彼女は、ガラガラに枯れた、けれども普段通りのんびりした口調で敵との対話を試みる。


242 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:13:11 NpfkNSWU0

「おい、おまえ。なんだって、こんなことをするのだ?ころしたりするのは、いかんのだぞ。
もこう、は…いっしょーけんめーに、いきようと、している」

この期に及んで『ゲーム』のルールをまるで理解していない芳香は不思議に首を傾げる。
今やキョンシーである彼女の生前の姿を知っている者は本人も含めて存在しない。
どのような生き方をし、どのような人柄で、そして何を思いながら死んだのか。それは誰にも分からない。
しかし彼女は『死』に敏感だった。
その想いの根源が何処から流れてくるのか、自身にすら理解出来ないが、大切な者と永劫会うことも叶わない『死』という概念が芳香は純粋に嫌いだった。
それは彼女の靄に包まれた生前の人生に起因するのか、それ故に彼女の本能は、大切な者を『護る』ことをこの世の正義とした。

現在の主である霍青娥を死なせるわけにはいかない。
絶対に護るべき、大切な存在だ。

そして、この会場で最初に出会った人物…藤原妹紅。

色々と放っておけない彼女に芳香は好意を抱いていたし、護ってあげたいとも何となく思っていた。
それはやはり芳香の本能からの行動理念だったかもしれない。
ごく僅かな時間での触れ合いだったが、それでも芳香に分かったことはある。


妹紅は全てを失った『ゼロ』の状態から、弱々しげながらも『立ち上がろう』としている。

未だ見つからない『光の路』を探そうとしている。

少しずつだが前へ『歩こう』としている。

そんな健気な雛鳥の巣立ちを、誰にも邪魔して欲しくなかったのかもしれない。

もしも…もしも妹紅が自分のおかげでこの先、飛び立てるようになったなら。

不死鳥の如き雄大な翼で空を飛べるとするなら。



(なんだろーな、この懐かしくて…すごく誇らしげな気持ちは……。よく分からないけど……)



―――すごく、清らかだ。



芳香は笑った。
未来へと歩く為の片脚を失い、主を護る為の腕も千切り飛ばされ、既に死人としても致命傷の身体をフラフラと揺らしながら。


243 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:14:52 NpfkNSWU0
笑いながら敵を見据える。
妹紅は死なせたくない。
この先、前へ進むのは私じゃない。妹紅だ。

『生』や『死』すらも謳歌した彼女を縛るものはもう無い気がした。
キョンシーとして命令を忠実にこなす傀儡ではなく、自らの意志で考えた『一番大切なこと』。
青娥と同じくらい大切な妹紅を『護る』こと。
芳香の『路』は、そこにあった。


そして、その『路』に立ち塞がる敵は倒さなければならない。
彼女は、目の前の女のことも少しだが気になっていた。
この女は芳香の問いかけに答えることなく、ただただ無言で芳香を見つめていた。
その視線だけで人を殺せそうなぐらい殺気に満ち満ちた瞳は、芳香の決意に満ちた視線と交差する。
芳香はその視線に臆することなく対話を続けた。

「おーい、きいている、のか、おまえ。へんなやつだな。
もし、これいじょう、もこうをいじめる、なら、このわたし、が、おまえをたおすぞ。
いっておくが、わたしは、つよいぞ?きょんしーだから、しなないし、なー。わはは」

「………」

ケラケラと笑う芳香とは対照的に、静かに佇む女は依然、言葉を発そうとしない。
その特徴的な金髪と狐耳が風に揺れる。
どこまでも薄く、鋭い金眼の瞳の中心には笑う案山子のみを映していた。
そして何より強大な妖を意味する九つの尾が、威嚇するように扇状に拡がり始める。


244 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:16:26 NpfkNSWU0
女がゆっくりと腕を前方に向けた。
その動作はあまりにも自然で、優雅さを伴っていた為に、見る者が見ればうっかり反応が遅れていただろう。
まさかその菊の花のように高貴で艶やかな指先から差し向けられたものが殺気だとは誰も思わない。
しかし食べること以外にはとんと無頓着な芳香は、女の放つ美しき殺気などどこ吹く風。
なめくじみたいにすっトロい奴だな、などと呑気に考えながら、逆にこれを攻め入るチャンスと見る。

キョンシーならではの強靭な脚力で右脚に一気に力を込め、バネのように飛び込む!
その飛距離は片脚とは思えぬほど長く、一瞬にして女の頭上にまで飛び掛かることに成功した!
メキメキと左腕に力を溜めて、その豪力を敵の脳天目がけて振り下ろす。

「………!」

敵の予想外の瞬発に女は一瞬遅れを取るが、その息は全く乱れず、芳香の身体から突き出た薙刀を前に伸ばしたままの腕で冷徹に掴む。
体内に直結したままの得物を掴まれたことで、空中でピタリと動きを止めてしまう芳香。
鋭い爪による強靭な攻撃は、女の鼻先を空しく掠ったのみだ。

「おぉ……?」

自分の攻撃が命中しなかったことに不思議を覚える芳香。捲り来る戦闘の展開に脳が追いついていなかった。
次の瞬間、女は握った薙刀の柄をいともたやすく、だが力の限り引き抜いたッ!


「ッ!? ぶっ………!!」


傷口と喉奥から大量の血飛沫がシャワーのように弾けた。
刃物の先端が背中側に突き抜けていたので、引き抜かれる時、内臓を滅茶苦茶に掻き回されたのだ。
更に過大に拡がる傷。残り少ない血液を一気に失ってしまう。


しかし、彼女は倒れない。
たった一本の脚で大地に着地し、支える。
顎は上方を仰ぎ、目は虚ろ。
大量の血反吐を垂らしながら、呼吸すら出来ずに身体はグラついている。
生と死の境界線の上。芳香は薄れつつある意識で思考を巡らせていた。


245 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:17:16 NpfkNSWU0



―――ハァーーッ…ハァーーッ…ハァーーッ………

―――あ、れ…おかしいな。からだが、いうことをきかん…

―――ん…だめだ。あたまがまっしろになってきた。

―――ふしぎだ。わたしはキョンシーだというのに。しなないからだのはずなのにな。

―――そもそも、なんでたたかってんだっけ?……わすれた。

―――もこうは、どうしたかなー。またひとりでないてんだろうなー。

―――あいつ、すぐなくしなー。こんどあったら、またおむすびやるかー。

―――――――――。

――――――。

―――ん。

―――……なんか、いろいろおもいだしてきたぞ。

―――……あぁ。そうだったな。このかんかく…わたしは、しっているぞ。


―――そうだそうだ。この、なんかどうしようもない『こどく』。



―――めのまえがまっくらに、なっていく、このかんかく。




―――そうだ。おもいだした。





―――これが『死』か。





―――



――



やだなぁ、しぬのは…











▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


246 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:18:19 NpfkNSWU0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽







「―――お前は」




風前の灯にまで追い詰められていた芳香の耳に届いたのは、同じく消え入りそうな小さな小さな呟き。
これまで一語たりとも発することの無かった女の口が、ここに来て初めて動いた。
それはとてもこのような惨事を引き起こした悪鬼とは思えないほどに落ち着いていて、気品すら感じる声であった。

元は華麗に整っていただろう顔立ち。今は大量の返り血に塗れていた。
その瞳からは変わらず殺気が放たれている。
女の目からは何も感じ取ることは出来ないが、彼女が倫理を外れた極悪な心亡き殺人鬼だとは、芳香にはどうしても思えなかった。

芳香はいつの間にか自分の身体が地に倒れ臥し、目の前に立つ女から薙刀を向けられていることに気付いたが、そんなことはもうどうでも良かった。
死にゆく事を悟った自分に対し、この女は最期にどんな言葉を掛けてくれるのだろう。
それがちょっぴりだけ気になり、女の次の言葉をジッと待った。




枝葉が揺れる音だけが、一瞬世界を支配する。



「―――お前は、何故そうまでして生きようとする」



紡いだ言葉は、芳香の生き様に対するひとつの純粋な疑問。
絶望的なまでの傷を負い、それでもその身ひとつで闘う意思を瞳に宿し、最期に散りゆく彼女への疑問。
その言葉を口にした時、女の目がほんの少しだけ、悲しみのようなものに移り変わったのは、芳香の幻覚だろうか。


247 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:19:39 NpfkNSWU0

まるで予期せぬ質問に、けれども芳香は間をおかず、当然のようにあっさり答え放った。



「護りたい奴がいるからだ」



器官が潰され、呼吸も出来ないはずの死人の答えは、女の耳に、いやにハッキリと透き通って聞こえた。

その時、芳香のぼやけた視界には、女の口元がフッと笑った――ように見えた。

そして、それが彼女の見た最期の光景であった。

女が武器を振りかざす。

耳に届いたのは、迷いの消えた、女の凜とした声。





―――礼を言う。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


248 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:20:27 NpfkNSWU0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『八雲藍』
【朝】D-4 香霖堂前


フゥ、と短く息をつき、魔法の森を出る。
少し、高純度の弾幕を使用し過ぎた。疲労が溜まってきている。
足取りは決して軽く無いが、しかし悪い気分ではない。
咽返るような血の臭いが鼻につく。
顔に浴びた返り血は既に拭き取ったが、気分を不快にさせる臭いが何処までも鼻腔から離れてくれない。

だというのに今の私はどこか清清しい気持ちで平原を歩く。
ついぞ先刻まで自らの存在意義に葛藤し、憤りすら感じていたというのに。


遠くに香霖堂が見えてきた。橙との集合地として指定した建物だ。
袖を捲り上げ、右腕を見る。
あの氷妖精に撃たれた――恐らく外界武器の『銃』による――傷口は、簡素にではあるが手当ては施した。
包帯代わりに巻かれた生地はあのキョンシーの服を使わせてもらった。
自分の物を使うべきだったのだろうが、この衣装は紫様から賜った極めて大切な衣装。おいそれと破くわけにもいかない。

この傷を見る度に思い出す。
『あの戦い』で狸風情に言われた言葉を。


―――お主、本当に式としての命令で動いておるのか?儂にはそうは見えん。

―――お主は式としてではなく、八雲藍という個として動いておる。


死にゆく敗者の、くだらない負け惜しみ。
馬鹿馬鹿しい、と一笑に伏せることも出来た。

だが、簡単なはずのその行為は何故か行使出来ず、私の思考は次第に狂い、バグを生み出していた。
自分の行為は果たして敬愛する主の利を想っての行動だったのか?
紫様のため…?自分のため…?
一度思い悩めば、後は思考の迷走。
賢明である筈の高尚な頭脳は一転、世界が反転したように混乱し、崩壊…!
死に掛けの狸如きの馬鹿な論が、脳内を往々にしてのさばっていく。

結果、八雲藍という式は壊れた。


否。壊れかけた。


249 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:21:16 NpfkNSWU0

答えの見つからぬ迷霧を奔走し、いよいよ己の価値に意味を見出せなくなりそうだった。
そんな時に見つけたのがあの二人組。
一人は迷いの竹林の蓬莱人、確か名は藤原妹紅。
もう一人はあの邪仙の操る忠実なキョンシー、だったか。

特に深い情も持ち合わせていない二人。
その存在を認知した途端、スイッチが入った。
頭の中に響き続ける狸の台詞など強引に吹き払い、やるべき事を思い出す。
殺しそのものには既に迷いなど断ち切っていた。
心など捨て置き、主君の為だと言い聞かせる。

私は放送と同時に仕掛ける策を取った。
相手に気付かれぬよう周囲に弾幕を配置し、合図とともに一声掃射させる準備を施す。
後はジッと放送を待ち、相手が最も意識を耳に傾ける瞬間を狙えばいい。
狙うは焔を操る厄介な不死人。まずはそいつの息の根を止めることにした。

…のだが、憎たらしいことに傍に居たキョンシーにそれを邪魔されたのだ。
しかし関係無い。仕留める順番が入れ替わっただけだ。
厄介な焔を操ると聞いていた不死人は、意外とあっさり崩れ落ちた。警戒していただけに拍子抜けだ。

後は手筈通り、美しさに欠けるが殺傷力を重視した高密度の弾幕を展開し、それで終わり。
この間も放送は途切れる事無く頭の中で続いていたが、その内容は全て記憶している。一字一句全てだ。
当然ではあるが、紫様の名が呼ばれることは無かった事に多少なりとも安堵を覚えた。


しかし、またもや予定外の事が起きた。
あのキョンシーがまたしても不死人を庇ったのだ。


―――そこまでして、何故?


平静に見えたであろう私の心中は、実は少なからず驚愕していた。
そのうち不死人は情けない顔をしながら必死に逃げ出した。私は何故か追おうとは思わなかった。
不思議に思っていたのだ。
この死に掛けのキョンシー如きが何故、そうまでして他人を庇う?
圧倒的窮地に立たされて何故、生きようともがく?

そして、疑問が口から自然に漏れた。


―――お前は、何故そうまでして生きようとする、と。


すぐにあの世へ旅立つであろうあのキョンシーは、間も無く答えた。


―――護りたい奴がいるからだ、と。


250 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:22:08 NpfkNSWU0

瞬間、積年の難式が突然解けたように、心で理解出来た。
答えは驚くほどに単純で、当たり前の事だったのだ。
何故今まで気付かなかったのか。悩んでいたのか。

もう一度、敬愛する主君を想う。

紫様を失いたくない。

あの方さえご存命であれば、この命すら惜しくない。

この身千切れても、あの方の命は護りまする。

私のやろうとしている振舞いは、ともすれば紫様の意に反する事なのやもしれぬ。

あの方を…哀しませる結果になるやもしれぬ。

それでも。ただ、それでも。

最期まで殉じよう。己の忠義に。

私は、ただ紫様を護りたい。


その気持ちに再び気付いた時、心の曇りは一瞬で晴れ渡った。
振り出しに戻っただけだ。
主君を、護る。
私にあるのは、ただのそれだけでいい。
大して長くも無かった迷路だが、随分さ迷い歩いた気がする。
思わず笑みが漏れた。


眼下に倒れる相手に対し、敬意を表す。
彼女にも、護りたい者がいた。そこは私と共感した部分だった。
彼女を殺す事を悪いとは思わない。気の毒だとも思わない。
しかし彼女のおかげで私は思い出せた。
名が聞けなかったことだけは気がかりだったが、最期に心からの礼を彼女に。



ありがとう。使命に忠実であった死人よ。
我、主を想ってこその我故に。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


251 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:23:06 NpfkNSWU0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

永い回廊を渡り歩き、目的地の香霖堂前まで辿り着いた。
時計を見る。6時15分。
思わず眉をひそめた。私は時間には厳しい方だが、予定を15分もオーバーしているとは。
少し慌てて周辺を見渡す。橙の姿はまだ見えないようだ。
私が言えることではないが、あやつには時間を守ることの大切さも教えてやらんといかんな。

そこで私がまず気付いたのは、周囲に香る『匂い』。
どうも焦げ臭い。火事ではないが、物の焼けた匂いが鼻に纏わりつく。
そして建物の奥が半壊していた。壁に大穴も空いている。
どうやらここで『何か』があったらしいな。
やれやれ…この場所を集合場所に指定したのは間違っていたかな。


念のため周囲を警戒する。もしも何者かがこの場所に残っていたなら橙が訪れる前に『掃除』しておかねばなるまい。
…それに、そろそろ『彼女』も手放しておきたいところだ。
人の頭部は平均して約『5キロ』あるらしい。左手だけでここまで運ぶには意外と疲れるものだ。
一応、首級の『証拠』としてわざわざ切断したのだから、手荒な扱いもしたくはない。

さて、橙の主を称す私がスコア1では内心情けないものを感じるが、それでも少しは格好が付いたろう。
橙に指示した人数は『3人』の首だが、正直そこまでは期待していない。
なに、『1人』の首でも持ってこれればそれでお咎め無しとしよう。
褒美をやるといった手前、何も手持ちが無いのでは沽券にも関わるが…うむむ、どうしようか?

…まぁ、あやつなら頭のひとつも撫でてやれば喜ぶかもしれんな。
だが、無いとは思うが『もし』ひとりとして首を持ってこれなかった場合は…『罰』を与える他あるまい。
あれで中々やる時はやる式だ。期待しながら待っていよう。



「…少々、腹が空いたな」



あの死人と交わした以来の口から出た言葉は、そんな意味も持たない内容だった。
淡と呟いたその余韻は空に消え、その瞳には何の影も映さず。


八雲の忠実なる式は、血に塗れた手でそっと入り口のドアノブに手をかけた。








【宮古芳香@東方神霊廟】 死亡


252 : 羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄 ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:24:15 NpfkNSWU0
【D-4 香霖堂前/朝】


【八雲藍@東方妖々夢】
[状態]:左足に裂傷、右腕に銃創(処置済み)、霊力消費(中)、疲労(中)、所々返り血
[装備]:秦こころの薙刀@東方心綺楼
[道具]:ランダム支給品(0~1)、基本支給品、芳香の首
[思考・状況]
基本行動方針:紫様を生き残らせる
1:やるべきことは変わらない。皆殺し。
2:橙を待つ。
[備考]
※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。
※放送内容は全て頭に入っています。

※C-5 魔法の森内に宮古芳香の胴体、左腕、右脚が落ちています。


253 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/30(金) 22:28:09 NpfkNSWU0
これで「羽根亡キ少女ヲ謳ウ唄」の投下を終了します。
ここまで読んで下さりありがとうございます。

発足から1年かけての第1回放送突破おめでとうございます。
次の放送へ向けて無事に企画が進むことをこれからも祈っております。
感想、ご指摘あれば宜しくお願いします。


254 : 名無しさん :2014/05/30(金) 22:46:00 DtQymJIY0
投下乙です。

ゲリラ投下だったので一体誰が襲ってきたのか、悶々としながら読ませてもらいました
芳香は頑張ったけど残念だったねぇ…それに妹紅も立ち直れるかどうか…

それに芳香の最後の台詞が逆に藍様の覚悟を固めるというのも、なんだか歯がゆくて
いい意味で読んでて悔しかったww


255 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/05/31(土) 00:17:54 .KQBKv5U0
投下乙です
敵の正体がわからないのはゲリラならではですね
藍は芳香の言葉で覚悟完了。はたして橙はやってくるのか


ヴァニラ、チルノ、こいし、射命丸、ジョニィ、露伴を予約します


256 : 名無しさん :2014/05/31(土) 00:26:49 dMKbIjrk0
たまには安心できる予約来てくれ(切実)


257 : ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:11:11 I/1uSb/M0
投下乙です。
もこたんを護る為に頑張った芳香ちゃん…でもここで脱落か
キョンシーでありながら最期まで誰かの為に健気に戦った芳香ちゃんは本当に優しい子だったし、
それだけに最期を迎えてしまったのが悲しいなぁ…
芳香ちゃんの言葉が再起のきっかけとなった藍さまの行く末も気になる限り。
そしてもこたんますます精神不安定になりつつあるなぁ…これからの無事を祈りたいですね

何だかんだでエシディシ投下します


258 : ウェルカム・トゥ・アンダーワールド ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:12:23 I/1uSb/M0


―――Forget the hearse 'cause I never die♪
―――I got nine lives♪
―――Cat's eyes♪
―――Abusin' every one of them and running wild♪


(成る程、円盤に記録した音楽が聴ける道具なのか。説明書きによると『レコードプレーヤー』というらしいな!
 思えば人間共の娯楽品を使ってみる機会が無かった。カーズはこういった代物に一切興味を持たんからな)


―――'Cause I'm back♪
―――Yes, I'm back♪
―――Well, I'm back♪
―――Yes, I'm back♪
―――Well, I'm back, back♪
―――(Well) I'm back in black♪
―――Yes, I'm back in black♪


(しかし随分と奇妙な音だな。一体どんな楽器を使っているんだ?
 事が終わってからもっと人間の文化に触れてみるのも面白いかもしれん)


DIOの館―――1階のミュージックルーム。
年代物のレコードプレイヤーから流れているのは有名なハードロックバンドの楽曲。
柱の男『エシディシ』は未知の文化を満喫していた。
その身には数多の傷を負っているが、再生能力によって少しずつ塞がっている。


259 : ウェルカム・トゥ・アンダーワールド ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:15:30 I/1uSb/M0

数時間ほど前にスピードワゴン、リサリサの攻撃によって手傷を負った彼はB-4に位置するDIOの館へと逃げ込んでいた。
施設内で休息を取ることも目的の一つだが、何より夜明けが近いということがあった。
闇の一族にとって日光とは最大の大敵。
故に日中に身を潜める為の拠点を必要としていたのだ。
こうして日が出てくる前に辿り着く事が出来たのが幸いだった。

再生能力を有する彼はある程度の傷を癒した後、DIOの館内の探索を行った。
その最中、好奇心からミュージックルームに置かれていたレコードプレーヤーで音楽を聴いていたのだ。
人間社会で似たような物は一応目にしたことがある。それ故に使い方は直感で理解出来た。


―――Back in the back♪
―――Of a cadillac♪
―――Number one with a bullet, I'm a power pack♪
―――Yes, I'm in a bang♪
―――With a gang♪
―――They've got to catch me if they want me to hang♪


(フフフ…気に入ったぞ。かつて滅ぼした一族の連中と違い、人間はたまにこういった興味深いモノを作り出す。
 我々を拉致した荒木に太田といい、先程のスピードワゴンといい、少しは奴らに対する評価を改めるべきか?)

エシディシは両腕を組み感心した様子でレコードプレーヤーを見下ろす。
興味深い。これで少し暇を潰してみよう。そう思っていたのだが―――



(…そういえば、そろそろ放送の時刻か)



ふとした拍子に彼は思い出す。
室内に飾られている時計の時刻は―――5時59分。
そう、気がつけばもう定時放送の直前なのだ。
音楽を流し続けるレコードプレーヤーの再生を止め、両腕を組む。


(さて…この6時間で何人墜ちたのか?まずは状況を見極めさせてもらうとしよう)


放送を目前にして不敵な笑みを浮かべるエシディシ。

一体どれだけの参加者が脱落したのか。
一体このゲームは6時間でどれだけ状況が動いたのか。
一体放送でどんな情報が伝えられるのか。

期待を膨らませる様に思考する彼はまだ知らない。いや、そもそも気付くことなど出来る筈が無い。

およそ1分後、彼の余裕はいとも容易く行われるえげつない宣告によって呆気なく打ち砕かれるのだ。


260 : ウェルカム・トゥ・アンダーワールド ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:16:22 I/1uSb/M0


―――ッ岩マミゾウ ロバート・E・O・スピードワゴン エルメェス・コステ――――


どうゆう原理か、屋内においても問題なく第一回放送を聞くことが出来た。
部屋を見渡す限りでは放送の機器などは一切見受けられない。
にも関わらず、放送は滞りなくはっきりとこの耳に入ってくる。
一体どんな方法を使っているのだろうか。これも荒木や太田の能力の一つなのだろうか?


(スピードワゴン…)


一先ずは荒木が伝える死亡者の名を耳にし、数時間ほど前の戦闘を追憶する。
あの時、このエシディシに捨て身の攻撃で手傷を負わせた男。
はっきりと生死は確認していなかったが、やはりあれから命を落としたらしい。
奴が何故若返っていたのか、その疑問は未だに解き明かせない。
やはりもう少し情報の収集が必要だろうか。
情報を元にした考察は寧ろカーズの得手である為、出来ればあいつと早い内に合流したいものだ。


―――ウィル・A・ツェペリ シーザー・アントニオ・ツェペリ―――


(…フフフ、シーザーと言えばあのシャボン玉使いの小僧だったか?)


一人一人、はっきりと伝えられていく放送を聞く中で口元に僅かな嘲笑が浮かぶ。
彼の脳裏を過るのは波紋を帯びたシャボンを武器とする若き戦士。
どうやら奴もスピードワゴンらと同様この六時間のうちに命を落としたらしい。
一ヶ月の修行を経てどれだけ強くなったのかを確かめたかったものだが、所詮は青っちろい若造だったか。
シーザーの前に同じくツェペリ姓のウィルという人物が呼ばれていたのも気になるが、まあ死者のことなど気にかける必要も無いか。
そういえば名簿にはジャイロ・ツェペリとかいう名前も載っていたか?



――――――以上、18名だ。



(18名。もう少し多いかと思っていたが、まぁ十分な数だ。乗っている連中はそれなりにいるらしい。
 そしてカーズ!ワムウ!奴らはまだ生きている…やはり心配する必要は無かったみたいだな。
 それに軍人共から『サンタナ』と呼ばれていたあいつも生き残っているとはな)

同胞達が放送で名前を呼ばれることは無かった。その事実を知ったエシディシは口元に笑みを浮かべる。
カーズ、ワムウはこの6時間を生き抜いている。解り切っていたことだが。流石は我が同胞達と言った所か。
意外にもサンタナまで放送を越えられたらしい。まあ奴はどうでもいいが。

さて、次は禁止エリアだったか。
これも重要な情報だからな。しっかりと聞かなくては――――




―――ゲーム開始時に言った通り、これからは禁止エリアが一つ追加される。
―――追加禁止エリアは「B-4」だ。
―――そこにいるんだったらすぐにでも離れた方がいいぜ。
―――この放送が終わって10分してもいるようだったら、自動的に頭が「ドカン」だ。




(ん?)


261 : ウェルカム・トゥ・アンダーワールド ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:17:05 I/1uSb/M0


┣¨┣¨┣¨┣¨…



(待て、今ヤツは何と言った)



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨…



(追加禁止エリアは『B-4』?)



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨…



(ここは確かDIOの館という施設だ。
 地図は焼失してしまったが、その内容は詳細に記憶している)



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……



(では、DIOの館が配置されていたエリアは――――――)



疑惑が確信へと変わった瞬間。
彼の中の余裕が一気に瓦礫の如く崩れ落ちた。





(―――――――何イイイィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!?)





そう、DIOの館が配置されているエリアもまた『B-4』ッ!つまりエシディシの現在地なのだッ!!


262 : ウェルカム・トゥ・アンダーワールド ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:17:35 I/1uSb/M0

(は…早い!幾らなんでも早すぎるッ!まだ第一回放送だぞッ!?)


動揺の中で第一回放送が終幕を迎えた。
その顔に浮かぶのは隠し切れぬ驚愕の表情。頬を冷や汗が流れる。
予想外だった。拠点足り得る施設が存在するエリアをこうも早急に潰されるとは思わなかったッ!
闇の一族や吸血鬼のような連中を一カ所に留まらせるつもりはないというワケか!?
いや、そんなことを悠長に考えている場合ではないッ!
問題なのは『今いる場所が禁止エリアに選ばれた』ということなのだッ!


(このままでは!あと10分で俺の頭部は爆破されてしまうッ!!)


そう!今すぐにこのエリアを離脱しなければならない!
しかしどうする。DIOの館を飛び出した所で待ち受けているのは夜明けの空ッ!
闇の一族の弱点である日の光が照り付けているのだ!
その上まだ傷の治癒も終えていない。下手すれば負傷した肉体を曝け出しながら日陰をこそこそと進む羽目になる。
はっきり言って危険すぎる。乗っている参加者に見つかれば最後、格好の餌食になるだけだ。
その気になれば応戦することも出来るが、『日光』と『負傷』という点を考えれば余りにも状況は不利。
ましてや近場には先程の女波紋戦士もいる!今の状態で戦って無傷で済む保証は無いッ!



(どうするッ!無茶を承知で外へと飛び出すか!?完全に『賭け』だが、はっきり言って方法はそれしか―――――――)



なんでもいい。兎に角頭を回転させろ。
この状況を切り抜けなければ、自分はこの場で無様に爆死する!
どうする。やはり賭けに出るしかないのか――――――!?



『諸君の中には、日焼け厳禁な体質持ちもいるはずだ。
 そんな君たちは、会場のどこかに設置された出入り口を探すといい。
 ヒントを見た者なら分かるかもしれないが、実はこの会場には地下に面白いものが用意してあってね、
 そいつを見つければ、太陽だって怖くなくなるぜ?』



(…待てよ)


唐突に脳裏を過ったものは第一回放送の内容。
先程、荒木飛呂彦が口にしていた言葉を思い出す。
『会場のどこかに設置された出入り口』『会場の地下』。
数十分前のことを思い出せ。この館内を探索していた時のことだ。
このミュージックルームのすぐ側にある『図書室』を調べていた際の記憶を遡る。



(そういえば心当たりがある。あの部屋に妙な仕掛けがあったじゃあないかッ!)



絶体絶命の危機の中、微かな希望にも似た突破口を発見した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


263 : ウェルカム・トゥ・アンダーワールド ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:18:37 I/1uSb/M0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




DIOの館、1Fの図書室にて。

第一回放送前に館内を探索していたエシディシがミュージックルームに足を踏み入れる前、この部屋を調べていた。
柱の男の中でも比較的人間への興味を持つ彼は書物に対してもある程度関心を寄せている。
そんな感情もあって好奇心のままに本を手に取っていた最中、偶然部屋の隅の本棚で『それ』を発見したのだ。
きっちりと棚に揃えられた幾つもの本の裏に隠されているスイッチのような仕掛けだ。
館内全体の探索を優先して一先ずそれを後回しにしていたのだが、予想外の事態を打開するべく急遽その場へと舞い戻った―――。


(やはり!これは『隠し扉のカラクリ』ッ!)


ギィ、と鈍い音が静かに響き渡る。
本棚が回転扉の様に動き出し、隠し扉としての正体を現したのだ。
エシディシが本の奥に隠されていたスイッチを押し、棚を手で動かすことでその仕掛けは起動した。
どうやら見込みは当たっていたらしい。この隠し扉は地下へと繋がっている!


(兎に角急がねばならないッ!!)


隠し扉が開かれたのを確認し、エシディシはすぐさま階段を下っていく。
刻一刻と頭部爆破の時間は迫っている。
同胞達がこの会場のどこかで生き延び、戦い続けているのだ。
だからこそ自分もこんな所で死ぬわけにはいかない。
―――そもそも禁止エリアでの頭部爆破で死亡など、余りにも格好が付かない。
故に彼は地下へと下り続ける。
その先に待ち構えているのが地獄への門なのか、救いの道なのか。
今の彼には解らない。

尤も、答えはすぐに彼自身の目で明かされることになるのだが。


264 : ウェルカム・トゥ・アンダーワールド ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:20:54 I/1uSb/M0


ガ ァ ン ッ ! ! !


階段を下った先に存在していた鉄製の扉が蹴りによって力尽くで開かれる。
轟音と共に破壊された扉は拉げた形で吹き飛び、けたたましい音と共に床を転がった。


(やはり、まず荒木と太田が用意したのはこれか)


力尽くで扉が開かれた先、エシディシの視界に入ったのは薄暗い通路だ。
天井はエシディシの身長の数倍程の高さであり、横幅もそれなりの広さを持つ。
まるで下水道か何かの如く冷たく湿った空気が漂っていた。


そして―――通路は果てしない長さで先へと続いている。


(荒木は俺達のような日光が弱点となる種族にとってのアドバンテージとなるものを地下に用意した。
 予想はしていたが、やはり当たっていたようだな…それは地下通路ッ!
 闇の一族や吸血鬼にとっての最大のネックといえば日中の行動制限。しかし日光の当たらぬ通路が存在すればその不利は補うことが出来る)


柱の男、吸血鬼が日中に行動を制限される理由。
それは『日光に弱い』という致命的な弱点を抱えているからだ。
どれだけ身を鍛えようと、どれだけ力を得ようと、種の運命として陽の光に抗うことは出来ない。
故に太陽が昇っている間に出来ることは身を隠すことのみ。

しかし、会場を移動出来る地下通路が存在していたとすれば?

そうなれば一気に行動が容易になる。
日中の一時停止を余儀なくされていた参加者が会場の中をある程度動くことが出来るようになるのだから。

(日中は退屈になると思っていたが、やはりある程度はゲームを公平にするつもりはあるようだな)

恐らくこういった仕掛けは他の施設にも用意されていると思われる。
そもそもこの通路がどこへと繋がっているのかも解らないが、少なくともエリアから離脱出来るだけの距離はあるだろう。

(っと、いかんいかん。思考よりも足を動かすことが先だ)

頭部爆破までの時間は残り半分を切っている。
闇の一族の脚力を駆使し、全力で地下通路を走れば助かる見込みはある筈だ。
尤も、その先に何があるのか。何が待ち構えているのかは知り得ない。
ただ今の自分に出来ることと言えば、只管に前へと進むことだけだ。
故に彼は己の両足に力を込め、冷たい床を蹴り出す。



(さて――――行くか)



光の存在しない通路を。
仄暗い闇の奥底を。
エシディシは、只管に駆け抜け始めた。


今の彼にとって『足を止めること』は『無様な死を迎えること』を意味するのである。


265 : ウェルカム・トゥ・アンダーワールド ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:21:49 I/1uSb/M0

【B-4 地下道/朝】
【エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】
[状態]:全力疾走中、疲労(中)、体力消耗(中)、上半身の大部分に火傷(中)、左腕に火傷(中)、左脇腹に抉られた傷(小)及び波紋傷(小)、再生中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:カーズらと共に生き残る。
1:とにかく地下道を走ってB-4から抜け出す。
2:神々や蓬莱人、妖怪などの未知の存在に興味。
3:仲間達以外の参加者を始末し、荒木飛呂彦と太田順也の下まで辿り着く。
4:他の柱の男たちと合流。だがアイツらがそう簡単にくたばるワケもないので焦る必要はない。サンタナはまあどうでもいい。
5:静葉との再戦がちょっとだけ楽しみ。(あまり期待していない)
[備考]
※参戦時期はロギンス殺害後、ジョセフと相対する直前です。
※左腕はある程度動かせるようになりましたが、やはりダメージは大きいです。
※ガソリンの引火に巻き込まれ、基本支給品一式が焼失しました。
地図や名簿に関しては『柱の男の高い知能』によって詳細に記憶しています。
※禁止エリア内にいます。頭部爆破までのカウントダウンは残り5分程です。

※B-4 DIOの館の1F「図書室」に地下道への隠し扉があります。
会場の何処に繋がっているのか、通路以外に何か存在するのかどうかは不明です。
他の施設にも同様の隠し扉があるかもしれません。

※DIOの館の1F「ミュージックルーム」には数多くのレコードが保管されています。
ジョジョの登場人物やスタンド名の元ネタかそれに関連する曲が殆どです。
尤も、B-4が禁止エリア化したので今後聴くことは出来ないでしょう。


266 : ◆n4C8df9rq6 :2014/05/31(土) 01:22:28 I/1uSb/M0
短めですが投下終了です。
指摘や感想があればよろしく御願いします。


267 : 名無しさん :2014/05/31(土) 01:33:47 m2P7XHBk0
投下乙です
そういやB-4はDIOの館があったんだった。今後重要な施設になりそうだったのにここで禁止エリアになったのは非常に勿体ないな


268 : 名無しさん :2014/05/31(土) 09:03:20 yXELM8aA0
いいよね ブライアン・ジョンソン


269 : 名無しさん :2014/05/31(土) 15:55:48 tLgQt9pg0
投下乙です。

地下通路か…。当たり前といえば当たり前だな。
てっきり俺はエイジャの石があるかと思った。


270 : 名無しさん :2014/05/31(土) 16:09:46 yXELM8aA0
究極生命体エシディシ…あいつの顔じゃ翼生やすの似合わねえなぁー


271 : 名無しさん :2014/05/31(土) 16:25:40 vTCNbBAc0
赤石はあっきゅんに支給されてるよ
ただまぁ地下道以外に何かある可能性も示唆されてるね


272 : 名無しさん :2014/05/31(土) 18:48:51 u.N75Wbg0
こころちゃんに支給されてた石仮面って赤石はめるスペースあるかどうか描写されてたっけ?


273 : 名無しさん :2014/05/31(土) 18:51:35 eV8RxASY0
投下乙!

一気に2話投下されるとは!嬉しい限り。


274 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/01(日) 00:05:43 eR9lDfd60
河童とにとりで予約します


275 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/01(日) 00:06:30 eR9lDfd60
間違えました><
河童と康一君で予約します


276 : 名無しさん :2014/06/01(日) 01:30:28 QxBGGa2A0
とうとう名前すら呼んでもらえなくなったか…


277 : 名無しさん :2014/06/01(日) 03:56:29 M38OWGLg0
ジョニィ達とDIO組、河童と広瀬。
どちらも死亡フラグが立ったな。
前者は確実に戦闘は起こるし、後者の二人は大丈夫だとしても、残ったホテル組がな…。


278 : 名無しさん :2014/06/01(日) 05:35:58 ANQ.unEg0
そういえばヴァニラもチルノもこいしもDIO一派か。ヴァニラは勿論、意外にチルノも強キャラ臭するし結構危ないかもな。
というか文だって充分危険。


279 : 名無しさん :2014/06/01(日) 20:57:37 swpgpDZY0
今更だけどチルノがどんな形であれゲームに乗るのは意外だったわ


280 : 名無しさん :2014/06/01(日) 22:44:04 cEojSsHY0
チルノもあれで女の子だからね


281 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/01(日) 22:47:21 eR9lDfd60
質問です。
河童の通背とは何ですか?
背中の大きなリュックのことでしょうか?


282 : 名無しさん :2014/06/01(日) 23:04:00 ui5iztP20
Exactly(そのとおりでございます)
原作中でもそう呼ばれてたかはあんまり覚えてないけど


283 : 名無しさん :2014/06/01(日) 23:09:03 Hh1badcg0
このスレではそういう事になってる
ほんとは腕の事だけどね


284 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/01(日) 23:14:50 eR9lDfd60
あー、やっぱりそうなんですか。
迅速なご回答をいただき、ありがとうございます。


285 : 名無しさん :2014/06/01(日) 23:18:01 yxa4i4wc0
このスレっていうか、東方の設定って言えばいいのか

通背について原作では、
射命丸が「何らかの道具を使っているんじゃないか」と言及があったんだっけ


286 : 名無しさん :2014/06/01(日) 23:40:08 Hh1badcg0
河童の腕は伸びる
なんで伸びるかって言うと、左右の腕の骨が繋がってるので、左腕を引っ込めれば右腕がその分伸びる
その左右の腕の骨が背中越しに繋がってることを通背と言う
でも文ちゃんは河童の腕が伸びるのは、通背なんじゃなくて道具(のびーるアーム)なんじゃないかって言ってた
だったと思う


287 : 名無しさん :2014/06/01(日) 23:52:41 cEojSsHY0
ズームパンチかな?


288 : 名無しさん :2014/06/01(日) 23:56:15 yxa4i4wc0
痛みはヨガで和らげる!


289 : 名無しさん :2014/06/02(月) 10:48:17 euK8H0mIO
ヨガやると火を吹けるんだろ?(誤解)


290 : 名無しさん :2014/06/02(月) 12:45:11 ZY3a6dOM0
もこたんの炎はヨガフレイムだった…?


291 : 名無しさん :2014/06/02(月) 23:20:03 3cGRSJzo0
きっと腹式呼吸からの太陽礼拝でコンボをつなぐヨガ(物理)を扱う


292 : ◆qSXL3X4ics :2014/06/03(火) 00:23:37 9j56C.Vw0
古明地さとり、霊烏路空、秋静葉、寅丸星

以上4名を予約します


293 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/03(火) 00:28:08 wKVEk/LE0
東風谷早苗、花京院典明

の2名を予約します。


294 : 名無しさん :2014/06/03(火) 00:55:38 NjLh4CGM0
吉良吉影
予約させていただきます


295 : 名無しさん :2014/06/03(火) 00:59:00 ftmoQH1U0
早苗さんと典明くんはどんな感じになるか気になるな


296 : ◆YF//rpC0lk :2014/06/03(火) 01:01:37 GJd/OrQY0
>>294
予約時にはトリップを付けるようお願いします


297 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/03(火) 01:02:16 mpb5YBEQ0
>>2944
予約の時はトリップ必要ですね
名前欄に #pass を入力した上で書き込みすればトリップが付けられます
passの部分は自分だけのパスワードをご自由に入力すればOKです。

リンゴォ・ロードアゲイン、八意永琳
予約します


298 : 名無しさん :2014/06/03(火) 01:08:15 yQYVZCnQ0
なんやなんや今日は予約デイか
嬉しいぞい


299 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/03(火) 01:09:22 NjLh4CGM0
>>296
>>297
申し訳ありません
ありがとうございます


ではふたたび吉良吉影を予約させていただきます


300 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/03(火) 01:21:13 OaNHTVbQ0
乗るしか無い!このビッグウェーブに!
聖白蓮、秦こころ、洩矢諏訪子、リサリサ、エンリコ・プッチを予約します。


301 : 名無しさん :2014/06/03(火) 01:58:44 /bv.g5UA0
親方!空から神父が!ってなるのかな


302 : 名無しさん :2014/06/03(火) 06:08:01 ucZaJAwE0
ありゃりゃあ…プッチそっちに飛んでっちゃったか…南無。


303 : 名無しさん :2014/06/03(火) 07:51:46 EdSFcIk.0
むしろこいしと縁が深い聖がいるし案外なんとか対話できそう…?


304 : 名無しさん :2014/06/03(火) 08:27:50 c2M02ep60
いつのまにか用語集ができてるな


305 : 名無しさん :2014/06/03(火) 13:46:39 SkVNtJr.O
今にも落ちてきそうな神父


306 : 名無しさん :2014/06/03(火) 13:58:10 LadJ3UEA0
大切なのは『勝利して支配すること』だと思っている
過程や方法などどうでもいいのだからな…違うかい?


307 : 名無しさん :2014/06/03(火) 15:16:37 xRoqyvY60
それだとすでにエンポリオに殺されてないですかね


308 : 名無しさん :2014/06/03(火) 16:30:03 UzKwrK1k0
聖はまだしもリサリサがいるんだよな…
プッチがどう反応するか


309 : 名無しさん :2014/06/03(火) 20:44:56 SkVNtJr.O
リサリサがいたから、ジョースターの血統は保たれたともいえるんだよな。
当時のエリナは妊娠に気付いてなかったから、ジョナサンと一緒に死んだかもしれない。


310 : 名無しさん :2014/06/04(水) 11:05:17 GiyFVOe.0
リサリサおばさん好き


311 : 名無しさん :2014/06/04(水) 23:43:43 zbJCQmb60
女性の平均年齢が高いなこのロワ…


312 : 名無しさん :2014/06/05(木) 00:12:57 150n1eDo0
柱の男「・・・」


313 : 名無しさん :2014/06/05(木) 00:32:18 3w59JuGA0
蓬莱人だけでも馬鹿みたいに平均上げてるんだよね


314 : 名無しさん :2014/06/05(木) 00:42:28 dEO15SXs0
ワムウとサンタナの年齢が12000歳
カーズとエシディシはそれ以上…
輝夜の年齢は億単位
紫の年齢は…おっと誰か来たようだ


315 : 名無しさん :2014/06/05(木) 00:51:12 uZ8cyKhw0
えーりん、かぐや(億単位)
柱の男、てゐ、守矢二柱(万単位)


316 : 名無しさん :2014/06/05(木) 00:55:02 150n1eDo0
月組が別格すぎるんだよなあ
紫はさすがにそこまでいってない…はず


317 : 名無しさん :2014/06/05(木) 18:15:53 8X5rlLcw0
支給品がまだ不明なキャラがいればアニメでも出てきたし
イエローテンパランスのディスク出てほしいな。
本体の頭が良ければマーダーの場合でも対主催の場合でもかなり強くなりそう


318 : 名無しさん :2014/06/05(木) 18:39:16 5N2Ew8/s0
柱の男の日光対策になるしね。DIO、レミリアとは相性悪そう


319 : 名無しさん :2014/06/05(木) 18:41:41 mXPFe7ck0
ジョジョロワ2ndの悪夢


320 : 名無しさん :2014/06/05(木) 18:56:54 OiMwxaMA0
三部格ゲーでラバーソール選んだ時のテンパランスのカード!wwwwイエローテンパランス!wwwwwwってボイスが妙に好き


321 : 名無しさん :2014/06/05(木) 22:02:19 .kdWSQ8I0
ゆかりんはカーズやエシディシよりは年下・・・だと思う・・・たぶん・・・きっと


322 : 名無しさん :2014/06/05(木) 22:45:16 uZ8cyKhw0
ワムウと同年代らしきサンタナを「10分の1しか生きてない若造」呼ばわりしてたし
カーズ、エシディシは最低でも12万歳くらい行ってそう


323 : 名無しさん :2014/06/07(土) 01:36:07 /.HHf/pI0
紫も妖怪だし、東方の妖怪の設定を考えたら最長でも2000歳くらいじゃね?
ネタにマジレスするのもなんだが。


324 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/06/07(土) 12:50:55 hQkghej20
予約を延長します


325 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/07(土) 23:19:02 APBbvZzc0
投下します


326 : Dirty Deeds Done by Dirty Hands ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/07(土) 23:25:45 APBbvZzc0
ようやく辿り着いた玄武の沢の河童のアジトにて、私は思わずそんな言葉を漏らした。
幸いなことに、懐かしの我が家には、愛用のリュックと共に幾らかの工具や材料が残っていたのだ。
既に作ってあった品々は、予想通り綺麗さっぱりに無くなっていたけれど、
その元となるものがあれば、救われるものがあるし、何より技術者として嬉しい。


私はウキウキと心を弾ませ、何度も首を左右に傾け、頭を悩ませた。
だけどランラン気分でいると、それを邪魔するかのように、
隣にいた康一が猛烈な勢いで私に怒声を投げつけてきた。


「にとりちゃん、早く皆の所に戻ろうよ!! 人がたくさん死んでいるんだ!!
いつまでもここにいては危険だし、皆もボク達のことを心配しているよ、きっと!!」

「ひゅい!?」


ビクッと私の身体は竦み、両目もギュッと閉じられた。別に私自身は殴られると思ってもいなかった。
だけどそれとは別に、怒鳴り声によってか、身体の方がギャグ頭の男を思い出してしまったらしい。
私の身体は、またぶっ飛ばされるのではないかという恐怖によって、無様にも硬直してしまった。


妖怪である自分が人間に対して、随分と情けないことだ。
このことが他の人妖に知られれば、河童の間での私の立場も危うくなってくるだろう。
だけど、今回はその反応が少しは役立ってくれたみたいだった。
その証拠に、康一はすぐさま私に謝罪を入れ、物腰もさっきとは違って、大分柔らかくなった。


「ご、ごめん、にとりちゃん。急に怒鳴ったりして」

「はは……いや、別にいいんだけどね。ただこれからは怒鳴るのを止めてくれると、嬉しいかなーなんて」

「うん、気をつけるよ」

「……ありがと」

「それはそれとして、目当てのものが見つかったんなら、やっぱり早く戻った方がいいよ。
さっきも言ったけれど、多くの人達が死んでいるこの状況で、二人だけでいるのなんて危険だし、
何より吉良吉影のこともある」


327 : Dirty Deeds Done by Dirty Hands ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/07(土) 23:27:10 APBbvZzc0
「それはそうなんだけどね」


と、私は首をウンウンと一応縦に振りながら、今も尚、ここに留まる理由も話してやることにした。


「さっきの放送を聞いていただろう? 死んだ人の名前にパチュリーさんが仲良しさんがいたんだよ」

「それだったら早く戻って……」

「……戻って、彼女に何をするの?」

「それは…………」


その先の言葉を発せないまでも、顎に手を当て、一生懸命に頭を巡らしている康一。
その様子から性根の良さを感じ取った私は、同時に彼の扱い易さも見て取り、思わずニョホッといじわるな笑みを浮かべる。
だけど、それを露骨に表してしまうのは、どう考えてもマイナスだ。
私は急いで気を引き締め、代わりに真面目で、それでいて優しげな表情を康一に贈ってやることにした。


「気持ちは分かるよ。慰めてやりたい。励ましてやりたい。
これ以上犠牲を出さない為にも、早くに皆と合流して、この殺し合いの解決に乗り出したい。
勿論、私だって、そういう気持ちはあるよ。だけどさ、ちゃんとパチュリーさんのことも考えてやらなきゃだよ。
大切な人を失った。そこに次の行動を急かすような言葉を、いきなり投げかけるのは、あまりに無遠慮で酷ってもんでしょ。
この場合、気持ちの整理をつける時間を与えてやることが、大切なんじゃないかな。
そこら辺の機微を蔑ろにしちゃ、心の中にしこりができ、後々の行動にも支障をきたしかねない。
私達は仲間なんだ、運命共同体なんだ。お互いが、お互いを思いやり、助け合わないと、
この殺し合いを解決することなんか、到底無理だよ」


そこで私は一旦言葉を区切った。
パチュリーの為にという、あまりにどうでもいい嘘を喋ることに辟易し、疲れてしまったのだ。
しかし、これ以上休むと、今の嘘に呼応したセリフを康一が吐き出し、私もそれに付き合わなければいけなくなる。
そんな面倒くさいのは御免だ。「それに」と、開き始めた康一の口を塞ぐように、私は急いで言葉を付け足した。


「それに折角こうした色々な材料があるんだから、利用しない手立てはないよ。
そりゃあ、康一なんかはスタンドがあるし、他の皆も何か強い力を持っているからいいだろうけれど、私は弱いんだ。
何か身を守るための道具が必要だし、何よりも無ければ困る。それとも康一は、私が死んだって構わないって思っているの?」

「そんなことはないよ、にとりちゃん! にとりちゃんは、僕にとって大切な人だから!」


328 : Dirty Deeds Done by Dirty Hands ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/07(土) 23:27:43 APBbvZzc0
康一はブルンブルンと慌てて首を振り、私に向かって盛大な告白をしてきた。
こいつは意味を分かって話しているのだろうか。まあ、恥じ入る様子がないから、趣旨は言葉通りでしかないのだろう。
とはいえ、盟友が真摯に好意を寄せてくれるのは、純粋に嬉しかったりもする。
私は頬に上った血を誤魔化すように、コホンと咳払いをしてから、なるべく平静な様子で口を開いた。


「ま、そんな訳だからさ、私が道具を作っている間、康一は外で誰か来ないか見張っていてよ。
見ての通り、河童の家なんていうのは、岩壁をくりぬいて作った洞窟だ。
ここで敵なんかに襲われたら、逃げ場もないし、いざっていう時に大変なことになりかないからね」

「……うん、分かったよ」


康一は少し思案する素振りを見せると、私の言葉に納得して外に出て行った。
殺し合いのこと、廃ホテルの皆のこと、そして私のことを、きっとその短い間で懸命に考えてくれたのだろう。
だけど、そんな康一の背中を見送る私の中に生まれたのは、感謝ではなく、それとは逆の単なる呆れだった。


「しっかし、随分と簡単に信じてくれるなー。人が良いのか、馬鹿なのか、はたまたその両方なのか」


逃げ道は用意されている。当たり前だ。
人間の家にだって、正面玄関の他に勝手口などが取り付けられているんだから、私の家にだって当然ある。
部屋の隅にある箪笥をどかせば、地下への入り口が登場。そしてそれはちゃんと外へ続いている。
だけど、私が康一に人の良さの他に馬鹿の烙印を押すのは、何も裏口の存在に気がつかなかったからだけではない。
彼のマヌケさを決定付けたのは、ホテルで吉良吉影をチェックメイトに嵌める実に簡便な手段を、
悠々と見過ごしてしまったからに他ならない。


「そ、実に簡単なことだった。パチュリーと吉良吉影を会話させる。ただそれだけで良かったんだ」


相手は平穏を望む殺人鬼。本性を隠すために嘘のオンパレードだ。
当然、嘘を見抜く能力を持つパチュリーは、彼に疑いを向ける。
そして康一とヘンテコヘアーが、その疑念を後押し、あるいは補ってくれる。
康一たちの言葉が嘘かどうかなど、それこそパチュリーなら簡単に分かるだろう。


そこまで来たら、その後の流れも、実に容易なものだ。
確かな信頼関係が窺えたパチュリーと岡崎夢美の二人の間に、嘘や欺瞞はない。
パチュリーの発言は、どんな突拍子ないものでも、夢美は信じてくれるだろう。
そして何だか頭良さげな二人が揃えば、残りの奴らから言葉巧みに信用を得るというのも、そう難しくはない筈。


そうなれば、実質八対一の闘いだ。
その勝敗など、火を見るよりも明らかと言える。


パチュリーが嘘を見抜くことは、あの場にいた康一も耳にしていたことだ。
そうでありながら、吉良吉影が吐いている嘘のことを知りつつ、そのままにした。
馬鹿と言うより他はないだろう。


329 : Dirty Deeds Done by Dirty Hands ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/07(土) 23:28:11 APBbvZzc0

「ま、パチュリーを恐れている私だからこそ、思いついた考えかもしれないけどね。
それにそれを提案しなかった私も、十分に馬鹿かもしれない…………」


吉良吉影は、私にとっても危険な存在だ。だから自らの身を守る為にも、彼は排除しなければならない。
だけど、私は彼をチェックメイトにする手段を思いつきながら、その話を持ちかけなかった。
そんな馬鹿をした理由は、パチュリーの手にある。


「ふっふっふ。パチュリーの手って、綺麗なんだよねぇ」


私はパチュリーの薄皮を剥いた様な、白くて瑞々しい手を思い出しながら呟いた。
労働を知らない日陰女の手は、一切の汚れもなく、一つの傷もない。
私には手の美醜というのは分からないけれど、それでも彼女の手が綺麗だというのは理解できた。
そしてそんな手なら、手に異常性癖を持つ殺人鬼の関心を寄せるのではないか、と私は思ったのだ。
そうなれば、私が懸念するパチュリーを労せず始末出来るというもの。


廃ホテルでの吉良吉影は、康一と奇怪な馬糞頭にばかり目を向けていたが、
こうして時間を与えてやれば、彼もきっとパチュリーの綺麗な手に気がついてくれるだろう。
これこそが私が皆との合流を遅らせる最後の、そして最大の理由だ。


尤も吉良吉影も危険人物であることに代わりはないから、私の命は依然と脅(おびや)かされたままとなる。
だけど、それでもパチュリーを相手にするよりはマシと言える。
パチュリーに敵はいないが、吉良吉影にはたくさんいる。
つまり彼と対峙する時は、必ずしも一人である必要はないということだ。
私のような弱者にとって、孤立こそ最も忌避すべき状況である故、そういった事実は素直に有り難い。


そして闘いの相性というのもある。大魔法使いが持つ豊富なスペルは、私の攻撃全てに対処が出来る。
それとは反対に吉良吉影は接近戦を得意とするスタンド。距離を取れば、私の弾幕でも優位に事を運べるだろう。
勿論、彼にも遠距離攻撃を可能とするスタンドがあることは、康一から聞いて知っている。
だけど、それが私にもたらす危険性は極めて少ないと言える。何故なら、私は水棲動物。当然、人間より体温は低い。
熱を感知して攻撃してくる爆弾に、何を恐れる必要があろうか。


330 : Dirty Deeds Done by Dirty Hands ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/07(土) 23:28:40 APBbvZzc0
ふふふ、と笑いが込み上げてくる。
私の前途に幾らかの光が差し込んできたんだ。これで笑わずにいられるか。
とはいえ、これからの展望に期待し過ぎな面もある。
吉良吉影がパチュリーを始末してくれるかは依然と分からないし、
爆弾化のことを考えれば、彼との闘いも有利に運べる保証はどこにもない。
私が辿るべき道筋が見えたが、それはいまだにうっすらとしたものなのだ。
安心するには、まだ早いだろう。だけど、やっぱり少しばかりの安堵は得られるのも確かなのだ。
何故なら、私の足を支えてくれるアイテムを、これから作るのだから。


「さて、何を作ろうかな♪」


私は再び頭を悩ませた。廃ホテルに戻るまでの時間は限られているから、急がなければならない。
あんまりグズグズしていたら、パチュリーの猜疑心は深まるだろうし、下手をしたらそれが他の皆にも伝播しかねない。
加えて、材料の問題もある。十分とは言えないそれらでは、複雑なものでは出来ないし、作れる道具も精々が一つだろう。
何を作るかは、慎重に選ばなければならない。敵を攻撃するものか、それとも敵の攻撃を防御したり、回避したりするものか。
はたまた、敵ではなく「仲間」を欺く為の物か。「仲間」をターゲットにするのも、生き残る上で重要な選択肢の内の一つだ。


「ん?」


と、そこで私は気がついた。
手に持って回していたスパナによって、いつの間にか油汚れが手についていたのだ。
不快な感触に、私は慌てて脇に置いてあったウエスを取る。しかし、それで油を拭き取ろうとした私は途中で止めた。
手が綺麗なら、それこそ吉良吉影の欲情の対象になるかもしれないのだ。
であるのならば、やはり手を汚なくしといた方が、私が生き残る可能性は上がるのだろう。
私は手についた汚れをそのままに、作業に取り掛かることにした。


331 : Dirty Deeds Done by Dirty Hands ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/07(土) 23:30:08 APBbvZzc0
【E-1 妖怪の山 河童のアジト/朝】

【河城にとり@東方風神録】
[状態]:健康 手に油汚れ
[装備]:火炎放射器、河童の工具@現地調達、色々な材料@現地調達
[道具]:基本支給品、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:生存最優先
1:何か有用なアイテムを作り、廃ホテルに戻る。
2:吉良の関心をパチュリーに向けさせる(吉良の前で、それとなくパチュリーの手を褒めてみる?)。
3:知人や利用できそうな参加者がいればある程度は協力する。
4:吉良吉影を警戒。自分が吉良の正体を知っていることは誰にも言わない。
[備考]
※F・Fの記憶DISC(最終版)を一度読みました。
 スタンド『フー・ファイターズ』の性質をある程度把握しました。
 また、スタンドの大まかな概念やルールを知ることが出来ました。
 他にどれだけ情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷の住民以外の参加者の大半はスタンド使いではないかと推測しています。
※自らの生存の為なら、他者の殺害も視野に入れています。
※パチュリーの嘘を見抜く能力を、ひどく厄介に思っています。
※怒鳴られると、身体が竦んでしまう癖がつきました。


【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ・東方の物品・確認済み)、ゲーム用ノートパソコン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:河城にとりがアイテムを作るのを待ってから、廃ホテルに戻る。
2:仲間(億泰、露伴、承太郎、ジョセフ)と合流する。
  露伴に会ったら、コッソリとスタンドを扱った漫画のことを訊ねる。
3:吉良吉影を止める。
4:東方心綺楼の登場人物の少女たちを守る。
5:エンリコ・プッチ、フー・ファイターズに警戒。
6:空条徐倫、エルメェス・コステロ、ウェザー・リポートと接触したら対話を試みる。
[備考]
※スタンド能力『エコーズ』に課せられた制限は今のところ不明ですが、Act1〜Act3までの切り替えは行えます。
※最初のホールで、霧雨魔理沙の後ろ姿を見かけています。
※『東方心綺楼』参戦者の外見と名前を覚えました。(秦こころも含む)
  この物語が幻想郷で実際に起きた出来事であることを知りました。
※F・Fの記憶DISCを読みました。時間のズレに気付いています。



<河童の工具>
河童愛用の工具。人間が使うような工具の他にも色々あると思われる。


<色々な材料>
河童謹製の道具の元となる色々な材料。人によってはガラクタの山。
量や種類は限られており、作れる道具は一つか二つが関の山。


332 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/07(土) 23:31:05 APBbvZzc0
投下終了
以上です


333 : 名無しさん :2014/06/07(土) 23:46:40 V3OJxsKU0
嘘を重ねるとボロが出るぞ


334 : 名無しさん :2014/06/08(日) 00:00:19 j6MALXgE0
投下乙です
果たしてパチュリーの嘘を見抜く能力は十数年正体を隠し続けた吉良に通用するのか
・・・まあ書き手次第だけどね


335 : 名無しさん :2014/06/08(日) 00:22:28 hBLbfNR.0
投下乙です。
生き残る為の算段を淡々と重ねるにとり
彼女の目論み通りに事が進むかどうか
吉良もパチュリーもにとりにとっては厄介だけど、イレギュラーのぬえも潜んでるからなぁ…


336 : 名無しさん :2014/06/08(日) 00:28:03 rwu7sKRs0
投下乙です。
怒鳴られると体が竦むにとり可愛い
しかし利己的だなぁ、このまま康一くんの善意を隠れ蓑にしていたら、
康一くんが万が一いなくなった時にとりはどうするのか


337 : 名無しさん :2014/06/08(日) 12:41:46 naXInZ6g0
投下乙です。
冒頭部分がキンクリされてる気がするのだけど気のせい?
放送ないし「そんな言葉」が何を指してるのかさっぱりわからない。


338 : 名無しさん :2014/06/08(日) 15:27:04 Slp9Ut360
そういや放送の反応がまったく無いな。にとりは何らかの反応ありそうだけど


339 : 名無しさん :2014/06/08(日) 20:35:45 4oXIjHlI0
そういえば霖之助って「サバイバー」のDISC持ってたよな···。発現させてぐちゃぐちゃ(キャラとか顔とか)になる霖之助や、美少(?)女なのに汚ねぇ罵声あげて殴ったり骨折られたり目が潰れたりするのが見てみたいような···見たくないような···。


用語集の「DIO一味」にワロタwwwwww


340 : 名無しさん :2014/06/08(日) 20:37:36 Cwv53mN60
あれ床濡れてないと使えなかったよな


341 : 名無しさん :2014/06/08(日) 22:14:00 Icei3..M0
ここでも雨フラグ


342 : 名無しさん :2014/06/08(日) 22:21:42 zsnI/Gxo0
これはお漏らしフラグ…!


343 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/08(日) 22:23:49 VTJuKi/I0
>>337
お察しの通りです。
たった一行ですが、冒頭部分が抜けていました。
申し訳ありません。


「さて、何を作ろうかな♪」

この一文が一番最初に入ります。


344 : 名無しさん :2014/06/08(日) 22:41:06 J7R5hAl60
ウェザーリポートさんが活躍しますねこれは


345 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:28:59 VOHj5i8Y0
聖白蓮、秦こころ、洩矢諏訪子、リサリサ、エンリコ・プッチ投下します。


346 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:29:57 VOHj5i8Y0
静かだった。ここには4人もの種族を異にする者達が存在するのに、皆言葉を忘れたかのように、粛々と、黙々と、己が成すべきことに集中していた。
空は明るみ始めているが、鳥の鳴き声一つ聞こえない。聞こえるのはせいぜい、気絶している秦こころの寝息と、穴を掘り続ける音だけだった。
そしてその静寂を終わらせたのは、先程から独鈷を使って穴を掘り続けていた聖白蓮だった。

「このぐらいでよろしいでしょうか……?」

その目線の先には、成人男性が一人入れる程度の大きさの穴があった。

「うん、いいと思うよ。じゃあ入れようか……ほら、リサリサもぼさっとしてないで手伝って」

「……ええ」

洩矢諏訪子に促され、俯き黙ったままだったリサリサも、一人の男の死体に目を向けた。
その男こそ現状の静寂の理由。
男の名はロバート・E・O・スピードワゴン。柱の男エシディシに対し、その命をかけ戦い、そして散った、勇気ある人間だった。
そして白蓮にとっても、リサリサにとっても、大恩あるかけがえのない人間だった。
故に彼女らは戦闘が終わるとすぐ、スピードワゴンを埋葬するため墓を作り始めた。
もちろんエシディシのことを忘れているわけではない。時間的に夜明けが近く、手負いの上太陽を嫌う闇の一族であるエシディシならば、
近隣の建築物に潜伏するであろうと予測し、急がずともまずやるべきことをやった方がいいと判断したからである。

「よーし、じゃあ降ろすよ、せーの」

そうして、二人がかりでスピードワゴンの死体を運び、そっと穴へと入れた。
浮かべている最期の表情は、どことなく満足気だ。

「スピードワゴンさん……さようなら、そしてすみません……私が至らないばかりに、こうなってしまった責任、
 あなたの最期の言葉に応えることで、果たさせて頂きます。どうか何も心配なさらずに、安らかに眠って下さい……」

後悔と覚悟の入り混じった複雑な表情で、白蓮はスピードワゴンに別れの言葉をかける。
リサリサも同様に言葉をかけようとするが、冷静を保てなくなりそうで、声に出すことが出来なかった。

(スピードワゴンさん……あなたには数えきれぬほどお世話になったというのに、何の御恩も返せずこうなってしまい、
 すみません……それでも、あなたがそうしてくれたように、ジョースター家は、ジョセフは、私が必ず守っていきます。
 そして吸血鬼も柱の闇の一族も必ず滅ぼします。だからどうか、安らかに……)

二人はスピードワゴンに別れを済ませ、また無言で土をかけていった。
埋葬が完了すると、白蓮が墓石代わりの大きな石と、近くから積んできた花を供え、簡素だが墓が完成した。
そして完成と共に、諏訪子は二人に声をかける。


347 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:30:34 VOHj5i8Y0
「さて、終わったね。まあ、部外者の私が言うのも何だけど、あんた達にこれほど悲しんでもらえた程の男だ、
 ここであんた達がめそめそしていることを是とはしないはずさ、だから――」

「分かっているわ、情報交換、これからの行動指針、考えなければならないことは山ほどある。
 ここで留まる時間はない」

リサリサは諏訪子の言葉を遮り、自分の感情を隠すため、冷静を装った。

「分かっているならいいけど、無理しちゃ駄目だよ?いっそ泣きたいときは泣けばいい、叫びたいときは叫べばいい。
 溜め込むと空気を入れすぎた風船みたいに弾けちゃうよ。こんな状況ならなおさら、ね。
 泣いても聞かなかったことにしてあげるから」

「必要ないわ、それより情報交換を始めましょう」

はぁぁぁ〜と諏訪子は深い溜息を吐き、しぶしぶリサリサに従った。

(ほんとにこの娘は……生きづらい娘だねぇ……ここまで頑なだとどうしたもんか)

考えても妙案は浮かばない。それでもどうにかしてこの娘の心を解さなきゃ、厄介なことが起こりそうだなぁと思いながら、
諏訪子は情報交換に意識を戻した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


348 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:31:21 VOHj5i8Y0
朝日が少しづつ顔を見せ始める頃、会場の上空を飛ぶ、未確認飛行物体があった。

「457、461、463、467、479、487、491……クソッいつまでこの忌々しい石は飛び続けるのだッ!
 ッッ!喋ると呼吸がッ!」

神父姿の男が注連縄の巻かれた石に乗り、喚き散らしながら高速飛行している。誰が聞いても下手な冗談にしか聞こえない光景がそこにはあった。
その空飛ぶ不思議な神父の名はエンリコ・プッチ。ジョースター家の異端児、ジョセフ・ジョースターを始末すべく戦いを挑み、
その奇策に嵌ってこうなってしまっていた。
彼は今も、どこに向かうかも知れない要石にしがみつき、素数を数えて落ち着こうとしている。
と言っても、周囲の様子は夜と朝が交わり、薄くなり始めた星の煌めきと日光の煌めきが高速で行き交うので、
目に騒々しくとても落ち着いていられるものではないのだが。

(499、503、509……落ち着け……何も変わりはしない。私がジョースター共を始末することも、DIOと共に天国へ至ることも!
 所詮ジョースターも、私とDIO以外の全ての参加者も、我々を天国へと押し上げる為のただの『発射台』に過ぎんッ!!
 殺す順序が変わっただけのことだ!
 ……石が向かう方角は南西、私が元いたエリアはE-4だから、おそらくA-6、A-5、辺りに向かっているはずだ……
 そこからまた始めればいいだけのこと……)

そうしてプッチの思考がまとまり始めたその時、要石は徐々に失速していき、少しづつ高度を下げていった。

「ようやく終点か……クソ、この石は忌々しいが利用価値はある。持っていっておくか……」

地上に降り立ったプッチは、まず要石を悪態をつきながら回収し、辺りを見渡した。
周りに見えるのは草や木ばかりの平原、地図と照らし合わせてみても、先ほどの推測は間違っていなかったと確信した。

(さて、ここからどこへ向かうか……近隣にある興味を引くものといえばB-4エリアの『DIOの館』
 おそらくエジプトにあった筈の彼の館だろう。となれば彼の部下や利用できるものが集まっているかもしれない、
 行く価値はある。とりあえず周囲を少し探って、放送の後向かってみるか……)

行動指針を決めたプッチは、周囲に気を配りながら北東へと歩き始めた。
しかし先程の戦闘の疲れからか、その足取りは重い。
どんなに大きな精神力を持っていようと、プッチが39歳という衰えを感じ始める年齢であることは事実なのだ。

「クソッ!ジョセフ・ジョースターめッ……!もとよりジョースター家を誰一人として生かす気はないが、
 貴様は空条徐倫や承太郎同様、決定的な敗北を与えた上で始末してやる!
 そうだ、これも試練の一つ、この次の勝利をより強固にするための試練に過ぎない……!」

気分は落ち着いたが、未だ熾火のようにくすぶり続ける怒りを抱え、プッチは歩く。
しばらく歩くと、草が燃えるような匂いが風に乗って香ってきた。
近くで戦闘が行われたのだと推測される。

(戦闘、か……となれば参加者がいるはずだが、接触すべきか。例え殺し合いに乗っている危険人物だろうと、
 利用の仕様はある。行くべきか……)

プッチは行き先を判断するため思考しようとしたが、それと同時に放送が始まる音が聞こえ出したので、
一旦思考を止め、メモの用意をしながら放送に耳を傾けた。

(くっ、よりにもよってDIOの館があるB-4が禁止エリアになるとはな……
 まあいい、順調に18人も死んでくれているのだからな……
 しかもスピードワゴンにウィル・A・ツェペリ。
 邪魔なSPW財団の創設者と、確かジョナサンの波紋の師だったか、も消えてくれたしな。
 DIOの部下と聞いているタルカス、ブラフォード、ズィー・ズィーの死もまあ許容範囲内だ、
 最終的に天国に至るのはDIOとこの私だけなのだから……)

思考をまとめたプッチは再び歩き出す。B-4エリアが禁止エリアになった以上、
近くにいる参加者たちに接触する他無いからだ。
プッチは警戒されないよう、風が吹く先へと少しづつ近づいていった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


349 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:32:41 VOHj5i8Y0
――以上、18名だ。

放送、死亡者の読み上げ、それらが終わった時、情報交換をしていた三人はあまりの衝撃に言葉を失った。
エシディシが居ると思われるB-4エリアが禁止エリアになったことも、深く考えられない。
情報交換のついでに波紋で白蓮とこころの治療をしていたリサリサの手も止まる。
リサリサも白蓮も蒼白な表情で瞬きも息もせず止まり、諏訪子は目を深く閉じ歯ぎしりをする。

白蓮は、二ッ岩マミゾウ、幽谷響子、そして自分もよく知る幻想郷の人々やそれ以外合わせて18人の死に。

(救えなかったッ!!響子、マミゾウ!それに18人もの命をッ!)

リサリサは、シーザ・アントニオ・ツェペリ、愛する弟子の二度目の死に。

(シー……ザー……私は、あなたを……)

諏訪子は、宴会で何度も酒を酌み交わした、幻想郷の死にそうにもない人妖の死に。

(神のくせに、何も出来やしないのか……!こんな場所じゃ早苗も、神奈子も!)

それぞれ慟哭した。
何度目になるかわからない沈黙が、彼女達に訪れる。


350 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:33:09 VOHj5i8Y0
そして数分の時が経った。
おもむろに白蓮が立ち上がる。

「……行動しましょう、私達はまだ生きている。託されたんです、思いを!
 目をそらしてはいけない、生きている者が目をそらせば死んでいった者達の死は、思いは、
 そして生きた証は、失われてしまう!私達の命は既に、私達だけの命ではないのです!!」

白蓮は叫ぶ、誰でもなく自分に言い聞かせるため、みんながいてみんなが笑った、二度と戻れぬ楽園への悲しみを吹っ切るために。

そしてその思いに呼応するように、諏訪子は立ち上がる。

「そう、だよね……ごめんね、二人みたいに凄く近しい人が死んだわけでもないのに、神様のくせに動揺しちゃって……
 こういう時は"あきらめたらそこで試合終了だよ"とか言って励ましてあげなきゃいけないのに。
 ありがとう白蓮、あんたのお陰で持ち直せた。」

立ち上がった諏訪子の目にはいつもの不敵さが戻り、前を見据えていた。
そしてリサリサの方へと向き直り、語りかける。

「リサリサ……あんたはどうだい?あんたも声にこそ出さなかったが、きっと墓前で誓っただろう。
 誓いも、後悔も、愛も、前を向くためにある。なのに前を向けなければ、生きている甲斐がないじゃないか……
 悲しくたって悔しくたって、立ち上がり、立ち向かわなきゃ人は生きてて生き損、死んで死に損さ」

諏訪子はゆっくりと含み聞かせるように語った。
そしてリサリサに手を差し出す。
だがリサリサは、

「分かっているッ!私には果たすべき目的がある。そして弟子にもあった。
 きっと弟子も……シーザーも己の使命に殉じて散ったはず。
 だから私が立ち止まる訳にはいかない!」

差し出された手を、振り払った。

「リサリサ……あんた……」

傍から見ても、今のリサリサは不安定だった。使命という名の仮面にヒビが入り、剥げ落ちかけている。
そしてそんな時である。平原の向こうから、一人の男がこちらにゆっくりと歩いてきた。

「皆さん、ここはひとまず落ち着いて、近づいてくる方を見極めましょう。
 お話が出来る方ならいいのですが……」

険悪な雰囲気を断ち切り、白蓮が指示を出す。そうして男――エンリコ・プッチが近づいてきた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


351 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:34:29 VOHj5i8Y0
プッチと白蓮たちの邂逅は、結果から言えば、お互い敵意もなかったので、特に争いが起きることもなく自己紹介が済み、情報交換となった。
プッチは彼女らに近づく際、墓が建ててあるのを確認し、こんな状況で墓を作ることに時間や労力を割いていたところから、
利用できそうなお人好し達と判断したし、白蓮たちもプッチの柔和な表の顔から、一見しただけでは本性を見抜けなかったのだ。
故に話は落ち着いた方向へと向かいつつあった。
リサリサは目を閉じ押し黙ったままだし、こころも気を失っているままだが。

「そうか、君が聖白蓮か、こいし――古明地こいしから話は聞いているよ、人間と人外の融和を説く素晴らしい人間だと」

プッチは聖の名前を聞き、こいしから聞いていた情報を思い出したので、それを元に会話する。

「古明地……こいし……ああ、最近私の寺にお話を聞きに来てくれていた覚り妖怪の娘ですね。
 彼女と会ったのですか?」

プッチはこいしから聞いていた情報と若干の齟齬を感じたが、これも主催者が時間に干渉しているのだと判断した。

「ああ、彼女はこの会場で初めて出会った参加者だ。しばらく行動を共にしていたのだが、
 厄介なトラブルに巻き込まれ、離れ離れになってしまった。
 出来るならば早く再合流して保護してあげたいのだが……」

プッチは真実と嘘とを混ぜ、より相手から信頼を得られるように話した。
もちろんこいしの優先順位は低い。せいぜい自分とDIOの敵を減らしてくれていればいいな、程度のものだ。

「そうですか、確かに彼女は無意識を操る程度の能力を持っていましたが、どことなく危うげな雰囲気もありました。
 彼女もあなたのような方がいなければ辛いはず、一刻も早く合流しましょう!」

「ああ、だがその前に、ここで何があったのか、聞かせてもらえないだろうか。
 墓がある以上戦闘があったはずだから、危険人物の情報などは共有したほうがいいしな。
 もし話し辛い内容なら、掻い摘んだ話でもいい」

「……はい」

そこで諏訪子が話に割って入ってきた。

「ちょっと待った、その話は当事者である白蓮が話すのは辛いだろうから、私が話すよ。
 大体の顛末は聞いているから」

そう言うと、諏訪子はプッチに先程の戦闘の話を始めた。
エシディシとの戦いの顛末、そして墓に眠る死者はスピードワゴンであることを。


「成る程、そんな戦いがあったとは……白蓮、君には酷なことを聞いた、許してくれ」

「いえ、これもひとえに私の修行不足故……」

表向き白蓮を気遣うような事を言うプッチであったが、内心、全く別の思考をめぐらしていた。


352 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:35:48 VOHj5i8Y0
(そうか……柱の男。吸血鬼をも上回るパワーというのは本当の話のようだな……
 まあ世界を支配する能力『ザ・ワールド』を持つDIOの前には敵ではないだろう。
 それとスピードワゴンはここで死んでいたのか、どうでもいいことだが……)

そして思考の最中、今度は白蓮の方からプッチに質問が飛んできた。

「そう言えば、先程プッチさんもトラブルに巻き込まれたと仰っていましたが、
 やはり、戦いに乗ってしまった方に襲われてしまったのですか?」

「ん、ああ……」

プッチは質問の答えをどうすべきか一瞬考えた。
まさか真実である、自分がジョセフ・ジョースターを襲った結果こうなったなどとはとても言えないので、
答えを熟考した結果、先に彼女たちがジョセフ・ジョースターを知っているか聞くことにした。
知っていれば、彼と出会い偶然開かれた彼の支給品でこうなってしまったなどどうとでも言えるし、
知らなければ、ジョセフの悪評をばら撒き間接的に追い詰められると思ったからだ。

「君達は、ジョセフ・ジョースターという男を知っているかい?」

そうプッチが言った時、リサリサから何の話も聞かされていない白蓮と諏訪子は、
首を傾げたり、いえ、ジョナサン・ジョースターという方なら聞いているのですが、などと反応したが、
リサリサだけは閉じていた目をカッと開き、プッチを睨んだ。
だが、プッチはリサリサを視界に入れていなかったので、その反応を確認することが出来なかった。
それが、プッチの不運だった。
全員ジョセフのことを知らないと勘違いしたプッチは、ジョセフに関するありもしない話を始めてしまった。


353 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:36:49 VOHj5i8Y0
「そうか、知らないか……なら教えておこう、彼は……いや奴は危険人物だ。
 街中で突如襲われて戦いになったが、卑怯な搦手ばかり使ってきて、私も間一髪だった。
 なんとか動きを止めたところで戦闘不能にしようとしたのだが、奴の支給品によってグォバッッ!!」

プッツン。白蓮と諏訪子は、何かが切れる音を聞いた。
そしてその音を聞くと同時に、プッチはリサリサに殴り飛ばされていた。
白蓮と諏訪子は呆気にとられる。
しかし一発では終わらない、リサリサは一瞬にしてプッチへの距離を詰め、波紋疾走の連打を始めた。
止まらない、連打は止まらない。
だがリサリサは終始無言のままだ。
内心に渦巻く感情の暴走が、波紋にも伝わり凶暴に暴れる。

(コイツは今なんて言った?ジョセフがそんなことをするわけがない!それに戦闘不能だと?
 私は何もかも奪われた。国も、名前も、家族も、愛する弟子も二度ッ!!
 この男はそんな私から最愛の息子を奪おうとしたのか?
 何の役にも立たない神の言葉を借りただけの一介の神父風情が?一体何の権限で?
 あの子は決してそのような仕打ちにあっていい子ではない!!
 この男は嘘をついている。許せない、許せない!!)

目の前で恩人の死を目の当たりにした。弟子の二度目の死も死に目に合うことすら出来なかった。
そんな時間差のない相次ぐ悲しみにより、プッチの嘘を引き金としてついにリサリサの感情は爆発した。
その手のつけようのない激しい怒りは、まるで髪型をバカにされた東方仗助のようであったが、
それもそのはず、血縁上リサリサは仗助の祖母に当たるのだから。
それにかつてジョージ・ジョースターⅡ世が吸血鬼により殺された際、
リサリサは単身軍に乗り込みその吸血鬼を始末するという早まった行動をしたことがある。
リサリサは決して冷血なわけでもなく常に冷静なわけでもないのだ。
本当は、重すぎる使命の為、自分を殺してそうであろうとしているだけの、愛情深い女なのだ。


354 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:37:19 VOHj5i8Y0
だが突如理由も分からず殴られたプッチは溜まったものではない。

(ガバッ!これは『波紋』!こ……この女……ジョセフの知り合いか!?しかもジョセフよりも波紋が強いッ!!
 くそ体が動かせん……!素数……11、13、じゅ……クソッ!素数も数えられなくなっ……
 やっ、やめろ……やめろォオオオオ!ここで私が死ぬわけにはいかないのだーーーーッ!
 DIOッ!天国ッ!ぐあああ!薄っぺらい感情で動く女如きにィイイイイ!!)

そこでプッチは気を失った。
それでもリサリサの拳は止まらない。
呆気にとられていた二人もようやく事態の重さに気づき、急いで二人がかりでリサリサを止めにかかった。
線の細い見た目をしているというのに、二人は全力で止めなければリサリサを抑えられなかった。

「当て身!」

そして何とか白蓮がリサリサの気を失わせることに成功し、事態はようやく収拾した。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


355 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:38:36 VOHj5i8Y0
しばらく白蓮と諏訪子は呆然としていたが、こうしている場合ではないと思い、
二人でこれからのことを話し始めた。

「とにかく、なんでリサリサがこんなことをしたのか分からないけど、
 その神父さんと相性が悪いのは確かなようだ。
 一緒に居たらマズイから、二手に分かれるしか無いね……」

「そう、ですね……組み分けはどうしましょう?少なくともリサリサさんとプッチさんは別々でしょうが」

「そうだね、最初にリサリサに会ったのは私だし、これも何かの縁。私がリサリサの面倒を見るよ。
 白蓮にはその神父さんと妖怪のお嬢ちゃんを任せちゃってもいいかい?」

「はい、お引き受けさせていただきます」

「ありがとね。じゃあ私達は、B-4が禁止エリアになっちゃったし、その付近にある『紅魔館』を目指してみるよ。
 守矢神社に行きたいところだけど、リサリサが目を覚ましたらあのエシディシとか言う男を放っておけないって言うだろうしね」

そう言いながら、諏訪子は地面に蓮の葉を生み出し、それにリサリサを載せた。

「あんた達は動けないのが二人もいるから、そいつらが目を覚ましてから動けばいい。
 どこか行く宛はあるのかい?」

「ええ……とりあえず『命蓮寺』を目指してみます。
 まだ生きている弟子も集まっているかもしれませんし……」

「そっか……じゃあ私達は行くね。……そう言えば最後に一つだけ。
 あんたのその甘さが嫌いじゃないから教えておくけど、その神父さんは絶対に信用しちゃ駄目だよ……
 私は見た、リサリサに殴られ、気を失う瞬間のそいつの憎悪と憤怒に塗れた顔を……
 そいつは表向き聖職者を装っているみたいだけど、内側にドス黒い何かを抱えている……
 気をつけな……」

諏訪子は深刻そうな暗い表情をして、白蓮に教える。

「……はい、心得ました」

「うん。あとこれあげる、ほいっ」

そして表情を一転、今度は軽い人懐っこそうな笑みを浮かべ、白蓮に何かを投げ渡した。

「っと、これは……」

諏訪子から白蓮に投げ渡されたものは、紐のような道具だった。

「それはフェムトなんちゃらとか言う注連縄みたいな特別な組紐らしい。
 もの凄く丈夫なものみたいだし、そいつで縛れば殺生の嫌いなあんたでも危険なやつを行動不能にできる。
 私に支給されてたものだけど、あげるよ」

「……ありがとうございますっ!」

そう言い白蓮はまるでお手本のようなお辞儀をピシっと決めた。
された側の諏訪子も驚くような勢いを乗せて。

「おおっ、そんなにかしこまらなくてもいいよ。欲を言うなら、今ので私を信仰してくれてもいいんだよ。
 なに、別に宗派を変えろってんじゃない、こいつとなら一緒に酒が飲めるって程度の信頼も、信仰の一つさ。
 しっかしあんたほんとこういう場所には向かないやつだねぇ……」

「はい、私は仏も信じていますが、諏訪子さんのことも信じています。どうかお達者で……」

「それじゃ、またね」

こうして、諏訪子はリサリサを連れ、白蓮たちの元から離れていった。
ちなみにリサリサは蓮の葉の上に載せたまま、地面を泥のように軟化させて、蓮の葉を流すようにして移動させていた。


356 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:39:18 VOHj5i8Y0
これで、第一回放送後の白蓮たちの騒動は、ひとまず幕を閉じた。
しかし、殺し合いは終わらない。
未だ目を覚まさないこころ、プッチを抱え、聖白蓮のバトルロワイヤルは、まだ続く。


357 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:39:56 VOHj5i8Y0
【A-4 草原(A-5との境目付近)/朝】

【聖白蓮@東方星蓮船】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、魔力消費(小)、両手及び胴体複数箇所に火傷(波紋により回復中)、右足に火傷(波紋により回復中)
[装備]:独鈷(11/12)@東方 その他(東方心綺楼)
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1個@現実、フェムトファイバーの組紐(2/2)@東方儚月抄
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:プッチとこころが目を覚ましたら、命蓮寺へ。
2:プッチを警戒。
3:殺し合いには乗らない。乗っているものがいたら力づくでも止め、乗っていない弱者なら種族を問わず保護する。
4:弟子たちを探す。響子……マミゾウ……!!
5:今はこころを信用する。
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼秦こころストーリー「ファタモルガーナの悲劇」で、霊夢と神子と協力して秦こころを退治しようとした辺りです。
※魔神経巻がないので技の詠唱に時間がかかります。
簡単な魔法(一時的な加速、独鈷から光の剣を出す等)程度ならすぐに出来ます。その他能力制限は、後の書き手さんにお任せします。
※DIO、エシディシを危険人物と認識しました。
※リサリサ、洩矢諏訪子、プッチと情報交換をしました。プッチが話した情報は、事実以外の可能性もあります。

【秦こころ@東方 その他(東方心綺楼)】
[状態]疲労(中)、体力消耗(中)、霊力消費(中)、内臓損傷(波紋により回復中)
[装備]様々な仮面、石仮面@ジョジョ第一部
[道具]基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1:気絶中
[備考]
※少なくとも東方心綺楼本編終了後から
※周りに浮かんでいる仮面は支給品ではありません
※石仮面を研究したことでその力をある程度引き出すことが出来るようになりました。
力を引き出すことで身体能力及び霊力が普段より上昇しますが、同時に凶暴性が増し体力の消耗も早まります。

【A-4 草原(A-3との境目付近)/朝】

【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】
[状態]:健康、動揺、混乱、怒り、気絶中
[装備]:タバコ、アメリカンクラッカー@ジョジョ第2部
[道具]:不明支給品(現実)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と主催者を打倒する。
1:気絶中
2:スピードワゴンさん、シーザー!
3:ジョセフ……
[備考]
※参戦時期はサンモリッツ廃ホテルの突入後、瓦礫の下から流れるシーザーの血を確認する直前です。
※煙草は支給品ではなく、元から衣服に入っていたためにそのまま持ち込まれたものです。
※目の前で死んだ男性が『ロバート・E・O・スピードワゴン』本人であると確信しています。
 彼が若返っていること、エシディシが蘇っていることに疑問を抱いています。
※聖白蓮、プッチと情報交換をしました。プッチが話した情報は、事実以外の可能性もあります。

【洩矢諏訪子@東方風神録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品×1(確認済み、@現実)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田に祟りを。
1:リサリサを連れて、紅魔館を目指す。
2:リサリサが起きたら、詳しい事情をちゃんと話させる。
3:守矢神社へ向かいたいが、今は保留とする。
4:神奈子、早苗をはじめとした知り合いとの合流。この状況ならいくらあの二人でも危ないかもしれない……。
5:信仰と戦力集めのついでに、リサリサのことは気にかけてやる。
6:プッチを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降。
※制限についてはお任せしますが、少なくとも長時間の間地中に隠れ潜むようなことはできないようです
※聖白蓮、プッチと情報交換をしました。プッチが話した情報は、事実以外の可能性もあります。


358 : その血のさだめ ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:40:30 VOHj5i8Y0
◯支給品説明

『フェムトファイバーの組紐』
洩矢諏訪子に支給。
月の超科学によって作り出された、太古の昔から神を縛るためにも使われてきたもの。
細かい理論なども存在するが、要するにとても丈夫な組紐。
人一人縛れる程度の長さのものが、二つ支給されている。


359 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:41:24 VOHj5i8Y0
これにて投下終了です。
ご意見ご感想がございましたら是非。


360 : 名無しさん :2014/06/09(月) 21:46:51 .kcReDJY0
投下乙です。
リサリサ先生、やっぱり着々と擦り減ってるなあ
そろそろ諏訪子様に胸の内でも打ち明けた方が良さそうな…
プッチ神父を抱える事になった聖、紅魔館へ向かう諏訪子たちの今後やいかに

気になった所というと、聖が放送で名前が挙がった筈のナズーリンに無反応だった所かな
寺暮らしではないとはいえ一応命蓮寺の一員なんだし


361 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:46:55 VOHj5i8Y0
すみません。状態表にプッチ神父を書くのを忘れていました。
すぐに用意するので少々お待ちください。


362 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:48:17 VOHj5i8Y0
>>360 おうっ!?すみません失念していました。
差し替えの文章も急いで用意致します。


363 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 21:57:27 VOHj5i8Y0
>>349 のレスを以下の文章に差し替えです。本当に申し訳ありません。
Wiki収録時に差し替えていただければ幸いです。

――以上、18名だ。

放送、死亡者の読み上げ、それらが終わった時、情報交換をしていた三人はあまりの衝撃に言葉を失った。
エシディシが居ると思われるB-4エリアが禁止エリアになったことも、深く考えられない。
情報交換のついでに波紋で白蓮とこころの治療をしていたリサリサの手も止まる。
リサリサも白蓮も蒼白な表情で瞬きも息もせず止まり、諏訪子は目を深く閉じ歯ぎしりをする。

白蓮は、ナズーリン、二ッ岩マミゾウ、幽谷響子、そして自分もよく知る幻想郷の人々やそれ以外合わせて18人の死に。

(救えなかったッ!!ナズーリン、響子、マミゾウ!それに18人もの命をッ!)

リサリサは、シーザ・アントニオ・ツェペリ、愛する弟子の二度目の死に。

(シー……ザー……私は、あなたを……)

諏訪子は、宴会で何度も酒を酌み交わした、幻想郷の死にそうにもない人妖の死に。

(神のくせに、何も出来やしないのか……!こんな場所じゃ早苗も、神奈子も!)

それぞれ慟哭した。
何度目になるかわからない沈黙が、彼女達に訪れる。


364 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 22:00:06 VOHj5i8Y0
それと【A-4 草原(A-5との境目付近)/朝】組の状態表を以下の文章に差し替えです。
これもWiki収録時に差し替えていただければ幸いです。
お手数おかけしてしまい、本当にすみませんでした。



【A-4 草原(A-5との境目付近)/朝】

【聖白蓮@東方星蓮船】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、魔力消費(小)、両手及び胴体複数箇所に火傷(波紋により回復中)、右足に火傷(波紋により回復中)
[装備]:独鈷(11/12)@東方 その他(東方心綺楼)
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1個@現実、フェムトファイバーの組紐(2/2)@東方儚月抄
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:プッチとこころが目を覚ましたら、命蓮寺へ。
2:プッチを警戒。
3:殺し合いには乗らない。乗っているものがいたら力づくでも止め、乗っていない弱者なら種族を問わず保護する。
4:弟子たちを探す。ナズーリン……響子……マミゾウ……!!
5:今はこころを信用する。
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼秦こころストーリー「ファタモルガーナの悲劇」で、霊夢と神子と協力して秦こころを退治しようとした辺りです。
※魔神経巻がないので技の詠唱に時間がかかります。
簡単な魔法(一時的な加速、独鈷から光の剣を出す等)程度ならすぐに出来ます。その他能力制限は、後の書き手さんにお任せします。
※DIO、エシディシを危険人物と認識しました。
※リサリサ、洩矢諏訪子、プッチと情報交換をしました。プッチが話した情報は、事実以外の可能性もあります。

【秦こころ@東方 その他(東方心綺楼)】
[状態]疲労(中)、体力消耗(中)、霊力消費(中)、内臓損傷(波紋により回復中)
[装備]様々な仮面、石仮面@ジョジョ第一部
[道具]基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1:気絶中
[備考]
※少なくとも東方心綺楼本編終了後から
※周りに浮かんでいる仮面は支給品ではありません
※石仮面を研究したことでその力をある程度引き出すことが出来るようになりました。
力を引き出すことで身体能力及び霊力が普段より上昇しますが、同時に凶暴性が増し体力の消耗も早まります。


【エンリコ・プッチ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:肉体疲労(中)、波紋攻撃による痺れ(大)、全身打撲、ジョセフへの怒り、リサリサへの怒り
[装備]:射命丸文の葉団扇@東方風神録
[道具]:不明支給品(0〜1確認済)、基本支給品、要石@東方緋想天(2/3)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に『天国』へ到達する。
1:気絶中。
2:薄っぺらい感情で動く女如きにィイイイイ!
3:ジョースターの血統とその仲間を必ず始末する。特にジョセフは許さない。
4:保身を優先するが、DIOの為ならば危険な橋を渡ることも厭わない。
5:古明地こいしを利用。今はDIOの意思を尊重し、可能な限り生かしておく。
6:主催者の正体や幻想郷について気になる。
[備考]
※参戦時期はGDS刑務所を去り、運命に導かれDIOの息子達と遭遇する直前です。
※緑色の赤ん坊と融合している『ザ・ニュー神父』です。首筋に星型のアザがあります。
星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※古明地こいしの経歴及び地霊殿や命蓮寺の住民について大まかに知りました。
※主催者が時間に干渉する能力を持っている可能性があると推測しています。


365 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 22:03:21 VOHj5i8Y0
本当に何度もすいません。
>>364 の修正版状態表の白蓮の部分は正しくは以下の通りです。

【聖白蓮@東方星蓮船】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、魔力消費(小)、両手及び胴体複数箇所に火傷(波紋により回復中)、右足に火傷(波紋により回復中)
[装備]:独鈷(11/12)@東方 その他(東方心綺楼)
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1個@現実、フェムトファイバーの組紐(2/2)@東方儚月抄
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:プッチとこころが目を覚ましたら、命蓮寺へ。
2:プッチを警戒。
3:殺し合いには乗らない。乗っているものがいたら力づくでも止め、乗っていない弱者なら種族を問わず保護する。
4:弟子たちを探す。ナズーリン……響子……マミゾウ……!!
5:今はこころを信用する。
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼秦こころストーリー「ファタモルガーナの悲劇」で、霊夢と神子と協力して秦こころを退治しようとした辺りです。
※魔神経巻がないので技の詠唱に時間がかかります。
簡単な魔法(一時的な加速、独鈷から光の剣を出す等)程度ならすぐに出来ます。その他能力制限は、後の書き手さんにお任せします。
※DIO、エシディシを危険人物と認識しました。
※リサリサ、洩矢諏訪子、プッチと情報交換をしました。プッチが話した情報は、事実以外の可能性もあります。


366 : 名無しさん :2014/06/09(月) 22:18:58 xHSpx7aE0
投下乙です。
ケロちゃんよりによって紅魔館か・・・。
途中でカーズ様と遭遇したら色々とおもしろくなりそう。

ところで宝塔ってどうなったんですか?


367 : 名無しさん :2014/06/09(月) 22:23:30 GmnI2q/Y0
投下乙です
あーんプッチ様がグレイトフルボッコ
ジョセフは父親似だったのかな


368 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/06/09(月) 22:24:47 VOHj5i8Y0
>>366 oh……すみません、
白蓮の状態表の[道具]の中に、
『宝塔(スピードワゴンの近くに落ちていたものを回収)』を書き忘れました。
これまたwiki収録時に修正をお願い致します。


369 : ◆YF//rpC0lk :2014/06/09(月) 22:32:41 BqE5L1/Y0
投下乙です
プッチの野郎、思いっ切り地雷踏み抜きやがって……
白蓮さんがプッチに穢されないか、心配で眠れません!


370 : 名無しさん :2014/06/09(月) 22:44:49 GkZdPJ8U0
投下乙です。
今回のプッチは全体的に少しマヌケな印象があって、それが結構好きでしたw
諏訪子様が紅魔館行ったらDIO幼稚園に新しい園児が加わる可能性があるという事ですね


371 : 名無しさん :2014/06/09(月) 23:31:16 j7maU1lU0
諏訪子ってロリというよりロリBBAだよね。妖精やフランこいしと違って幼女扱いはあまりされてないし


372 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/10(火) 00:26:47 in0FcWfU0
予約の延長をお願いします。


373 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/10(火) 00:36:39 uTFrwxpc0
念のため延長します。


374 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/10(火) 02:01:50 MFZIJ8720
予約延長お願いします


375 : 名無しさん :2014/06/10(火) 14:34:32 6umUvsQgO
投下乙です。

紅魔館か。またリサリサが磨り減りそうだ。


376 : ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:29:06 NPVmw0ig0
投下乙です。

放送内容も相まってリサリサの心身状態が静かにゴリゴリと削られていくのは危険ですね…
でも諏訪子様が付いていてくれるなら多分、何とかなるはず…きっと…
聖とプッチが微妙に相容れそうにない雰囲気になってきましたが、個人的には今回寝てるだけだったこころちゃんが
二人とどう絡んでくるか、楽しみになってきました

それでは予約分を投下したいと思います


377 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:31:44 NPVmw0ig0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『古明地さとり』
【早朝】C-4 魔法の森


―――『想起』…!
――


『おっと、早速一人目を発見!』
『鴉符―――八咫烏ダイブ!』

『フッ、随分と貧弱な太陽だ』

『ああぁぁぁああ! 何なのよ!アンタはさ!?』

『……『覚悟』が足りないようだな、小娘』
『あの状況、貴様が真の戦士であるのならば、決して俺を離しはしなかっただろう』
『たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともだ』
『とはいえ、このワムウが少しばかり焦らされたのも事実!その『食えない』能力の厄介さも含めて、貴様を『敵』として認めよう!』



―――『想起』!
――


『ま、待ってくれ!僕たちは別に争う気はない、この殺し合いを止めるために行動しているんだ。協力してもらえないか?』
『ジョジョ!そこから離れなさい!』

『殺し合い?そんなもの関係ないわ、さっき言ったでしょう。核融合の力でこの地上を焼き尽くすと』
『手始めに命蓮寺ってところに乗り込んで焼き討ちにしてやるわ。あんたたちの始末はそのついでよ』

『…殺し合いに乗るというのか、君だって殺し合いに参加させられた仲間がいるはずじゃないのか?』

『さとり様にこいし様、お燐はもちろん私の力で助けるわ。八咫烏様の力に私のこと見直してくれるはずよ!』



―――『想起』!
――


『――君の名は『霊烏路空』、だったよな?』
『空。僕達は、君の『家族』を保護しているんだ』
『…そういや、さっきあのレミリアってコから聞いたぜ。なんつうかさ…アンタとさとりは、家族みたいなモンなんだろ?』
『俺はその、馬鹿だからよぉ〜…上手く説明できねぇけどさ』
『空がこんなクソッタレなゲームに乗っちまったら、そのさとりってコ…悲しむと思うんだよ…』
『自分の家族が罪を犯すってのは…マジで悲しいことなんだぜ』
『だからさ、空。俺達と一緒に来ねーか?荒木と太田をブッ潰して、みんなで脱出するんだよッ!』

『………ごめん』
『ちょっと嬉しかったけどさ。別に私、あなた達に着いていく気はないよ』
『じゃあね、二人とも』
『爆符――――メガフレア』



―――――
―――



378 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:32:51 NPVmw0ig0


我が愛するペットの冷淡無情な爆撃を最後として、私はおくうの記憶の深層から現世へと意識を戻す。
瞬間、肩にドッと疲れが重みとなってのしかかり、フゥと一息吐いた。

体調は依然最悪。ではあるのだが、本来私はとっくに殺されている身であるはず。
あの『悪魔』に致命傷の攻撃を受けて、そこから随分長い間昏睡していた。
私を救ってくれた参加者がいるはずだ。身体の絶望的なダメージも幾分治療されている。
この6時間、私の周りで何が起こっていたのか?私はそれを知りたい。

「ありがとう、おくう…ここでいいわ。私を下ろして。大丈夫…大丈夫だから」

「はっ!どうかあまり無茶をなさらぬよう、足元にお気をつけ下さい!」

私を抱えてゆっくりと低空飛行を行っていたおくうは、私の体調を心から心配するように気遣いの言葉を掛けてくれた。
森の中の大木の陰にそっと下り、そのまま木の幹に体を預ける。
未だ状況が分からない私はもう一度、さっきと同じ質問をおくうに投げかけてみた。

「おくう…私に一体何が起こったのか…?誰が私を助けてくれたのか…?心当たりはある?」

「それは…さとり様!当然、この空めがさとり様の危機を救って…」

「おくう。私に嘘は通じませんよ」

「……! ぁ…申し訳、ございません…」

しょんぼりという擬音が聞こえそうなほどに目の前のペットは翼と一緒に体を縮こませる。
まぁ、元々口が達者でも無いおくうにこの状況の説明は難しいと判断し、手っ取り早く彼女の記憶を読んだのも私だけど。
おくうの記憶に現れた幾つかの人物。その光景を思い浮かべながら私は今一度状況を整理する。


379 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:33:43 NPVmw0ig0

「おくう、どうやら貴方も何度かの危機に遭い、最後にあの吸血鬼と体格の大きな男性に破れ意識を失った…そうですね?」

「…はい。間違い、ありません…」

「そして、民家で目を覚ました時には私が既に治療された状態でベッドに寝かされていた…ですか。
その状況から考えて、どうやら私はその場に居た二人の男性…確か『ジョジョ』とか『億康』とか呼ばれていましたっけ。彼らに命を救われた可能性が高そうです」

「…しかし、お言葉ですがさとり様。奴ら地上の人間は我々地底の妖怪にあまり良い感情を持っておりません。
ましてや今回はこんな状況です。さとり様に危害を与えぬ者とも限りません。私はそれを思って――」
「おくう。私はこの死合いの場に降り立って、まもなく死にかけました」

おくうの言葉をピシャリと遮って、私は自らに起こった境遇を説明する。
赤い人形を従える『悪魔』との交戦。
その絶対的な『暴力』に敗北し、命を落としかけたこと。

姿勢を低くしたまま話を聞くおくうの顔色は目に見えて青くなっていき、そして話の最後には怒りへと変わっていた。


「なんという…ッ!その少年がさとり様をこんな目に…ッ!許せない!!」

とうとう我慢出来ずに怒りのまま立ち上がり、そのまま敵討ちにでも飛び立とうと興奮するおくうを私は冷静な声で宥める。
そうじゃない。そうじゃないのよ。
私に起こった体験…そしておくうの心を覗いた『ヴィジョン』の中で繰り広げられた劇で、私が見逃せない部分はそこではない。


380 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:34:31 NPVmw0ig0

「おくう、落ち着きなさい。私は、この足で歩く事こそ出来ませんが…こうして生きています。
そのことに私は今、感謝している。この命を失わずにもう一度貴方と出会えた事が…たまらなく嬉しいのです」

「は……はっ!ありがたき…ありがたきお言葉です!」

敵への憎しみが、褒められたことへの悦びへと一瞬で転換し、再び片膝をついて忠心を見せるおくう。
心を覗き見るまでもなく、主である私の言葉ひとつひとつが彼女の心に染みこんで、恍惚感を覚えていくのが分かる。
主の役に立てたことが本当に嬉しいのでしょう。私に対するその忠誠心と愛がひしひしと伝わってくる。
だが、彼女は私が言いたいこと…その本質をまるで理解出来ていない。表面でしか捉えていない。
溜め息が漏れるのを我慢し、私は歩く事もままならない足を無理矢理正座に組みかえて、子へと説教でもするみたいに目を据わらせる。


「おくう。勘違いしないで下さい。私は今、貴方を褒めているのではありませんよ。
むしろ逆…諌めているのです。貴方のこれまでの行動は、とても褒められたものではありません」

「え……」


それまでの嬉々とした心理から一転、途端に彼女の心に影が曇る。
下げていた頭を上げ、不可解そうな表情で私の目を見つめる。
『なぜ…?』『どうして…』『さとり様のおっしゃることの意味が分からない』
そんな疑問の言葉がおくうの心を次第に占めていく。

一瞬の間を溜め、私は遠慮がちに口を開いた。


「―――瀕死の私にトドメを刺す為にあの『少年』は向かってきました。
私の意識はそこで途絶えましたが、この命があるということは私を救ってくれた方は、危険を顧みず私を守ってくれたはずなのです。
そしてこの傷の治療までしてくれた…。狂気渦巻くこの地獄の世界ではかけがえのない『勇ましさ』と『優しさ』です。
本来ならば私自らが頭を下げて、彼らに限り無く大きな『感謝』を表するべきでした」

「ぁ……い、いえしかし!奴らは地上の人間です!醜く、卑怯で、さとり様を地底へと追いやったのは彼の種族です!
そのような奴らにさとり様が頭を下げることなど、あってはならないことかと…」

「違いますよ、おくう。地上だとか地底だとか、人間だとか妖怪だとかは関係ありません。
悪意、不信、暴虐、狂気…そのような暗霊の感情が入り混じり、心を弱くしてしまうこの世界において彼らのような精神はとても尊いもの。
その大恩を蹂躙しては、そもそもの大儀も失い、ヒトや妖怪ですらなくなります。
もしそれを忘れたならば…心は死に、取り返しのつかないことになるでしょう。
しかし、貴方は彼らに感謝するどころか牙を向けてしまった。私はそこを咎めているのです」

「……返す言葉も、御座いません…」


381 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:35:22 NPVmw0ig0
今度こそ完全におくうは俯いてしまった。
彼女の心象がまるで自分のことのように心に雪崩れ込んでくるのが分かる。
億康という人間が差し伸べた手を払い、暴力という形で返したおくうの感情が。
なによりも私という存在を想って行動してきたおくうの愛情が。

私は鋭く向けていた目を幾分か和らげ、俯いたままの彼女に出来る限り優しく問いかける。

「おくう。貴方は何故、あのような暴挙に出てしまったの?
私に話してごらんなさい。心を偽らず、全て話すのです」

聞くまでもない事だった。
心を読めば全て伝わってくる。彼女の意思が。忠義が。
それでも聞かずにはいられなかった。彼女自身の言葉で話してほしかった。
私はおくうの主であり、家族でもあるのだから。

やがておくうは、下を向いたままポツポツと語り始めた。

「…私は、ただ認めてほしかった。大好きなさとり様の力になりたかった…
あいつらはもしかすればさとり様に害なす者なのかもしれない…そんな理屈は本当は嘘で、建前でした。
さとり様の心がどんどん私から離れていくのが、きっと堪らなく悔しかったのです…!
こんな私でも、八咫烏様の力を使えばみんな振り向いてくれるかもしれない…さとり様も認めてくれるかもしれない。
だから、さとり様を奪われたくなかった。頭を撫でて…褒めてほしかった。
それを期待しての、独断です…。さとり様…私は、私は間違っていたのでしょうか…?」


俯いたまま不安げに語るおくうの声は、最早いつものお調子者のトーンではなく、ひどく弱々しい子供の声だ。
この子はどこまでも真っ直ぐで、純粋で、自分に正直な子だ。
だからこそ、自分が認められないことへの『恐怖』が心の底に張り付いていた。
それに気付くことが出来なかった…いえ、本当は私もそれに気付いていた。気付いていながら、放置していたのだ。
それはおくうの私に対する、一方通行の愛情以外の何者でも無かった。
我ながら呆れ果てる。これでは地霊殿の主失格だ。妹が心を閉ざすのも頷ける堕落というわけだ。
これは私の失態だ。だからこの心に決着をつけるのは私でもある…!


382 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:36:04 NPVmw0ig0

「…おくう。貴方の行動が間違っているかどうか…それは貴方自身も理解しているはずですよ。
貴方の心は全て聴こえています。それは私と貴方が既に『一心同体』と言っても良いぐらいに。
ならば逆に問いましょう。おくう、貴方が間違っていないというのならば、何故その心に『罪悪感』を感じているのですか?
億康さんの良心を踏み躙った…そのことに対して貴方は僅かながら『後ろ暗い感情』を発しています。
その罪悪感に貴方自身はもしかすれば気付いてないのかもしれませんが、私の心の目は誤魔化せません」

「罪悪…感……私が……」


不安の波が理性という名の防波堤に押し寄せ、今にも穴を穿とうとしていた。
おくうは今、動揺している。迷っている。
自身が正しいと信じた行動が、結果的に誰のためにもならず、人を傷付けるだけの行為に終わってしまった事に狼狽している。

彼女は…私のためなら何だってするだろう。
何故なら彼女は『見返り』を求めているからだ。
人に対し何かをしてあげるという行為は、全て『見返り』を期待しての行為だ。
彼女の場合も例外ではなく、それは頭を撫でてほしいとか、自分の力を認めてほしいとかいうささやかなものに過ぎない。
だから彼女もこうして私に仕えてくれているし、大切に想ってくれている。

だが、私はおくうのために何かをしてあげているだろうか?
勿論、彼女の事を家族のように大切に想っているし、だからこそ主従関係が成立する。
しかし私は彼女に対して何も『見返り』を用意しなかった。一方通行の愛情とはそれのことだ。
『無償の愛』などというものがこの世に存在するのか。少なくとも私の知る限りには無いだろう。

これではおくうが行き過ぎた行動に出るのも、起こるべくして起きた悲劇と言っても言い過ぎではない。
その一因は私にある。罪悪を感じているのは私もそうだった。
これはおくうの純一無雑な心が生み出した事件だと単純に考えてはいけない。

もし私がおくうに対し見返りを与えなければいけないというのなら…私がやるべき事とは…。


383 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:36:51 NPVmw0ig0


「おくう。どうか…どうか顔を上げてください」


顔を覆い、痛みに耐えかねる子供のように今にも泣き出しそうなおくうへと静かに語りかける。
そして私は、正座したままの姿勢で両手を地へと置き、ゆっくりと頭を下げ始めた。

「…っ!? さ、さとり様…!さとり様こそ、頭をお上げください!!」

「いいえ、そうはいかないわ。私と貴方は一心同体…。すなわち貴方の罪は、私の罪も同じです。
貴方の心に巣食う『不安』に気付いていながら、私は今日まで何も行動を起こさなかった。
主として…家族として、とても恥ずかしい事ですね…」


威厳も誇りも捨て、おくうの感情に感化された私までが泣きそうになってきた。
その情けない顔を見られたくないという意もあり、私は深々と頭を下げ続ける。
慌てふためるおくうの言葉を遮るように、私は偽り無い本心からの想いを言葉として吐露する。



「―――ごめんなさい。貴方の気持ちを私は考えていませんでした。どうか許してください」



地霊殿の主ともあろう者が、あろうことかたかだかペットの地獄鴉に手をつき、頭を垂らす。
どこぞの閻魔などがこの光景を見れば、さぞや皺を寄せながら頭を抱えることでしょう。
権威も何も無い丸裸の心で、私は目の前で困惑する少女へと精一杯の謝意を述べた。


384 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:37:27 NPVmw0ig0

「さ…とり様……!さとり、さまぁ…!わたし…!わたしは、ただ…っ!」

「ええ…ええ、分かっています。私たちは、家族ですものね…。
こいしもお燐も、きっと無事です…!また、一緒に暮らしましょう。きっと…一緒になれます…」

やがて感情の糸が切れたようにドッと泣きついてくるか弱き少女を胸に抱き、私は可能な限りの慈愛を以って彼女の頭を撫でた。
肩を震わせ、嗚咽を漏らす少女につられ、とうとう私の頬に伝った雫は何処から流れてくるものだろう。
その根源には、今まで我慢していた想い…家族とまた再会できて嬉しいという、偽り無き本音が確かに存在していた。

「おくう…!辛かったでしょう…寂しかったでしょう…!ごめ、なさ…っ!ごめんね……っ!
貴方は私の、大事な家族です…!また会えて…本当に、良かった…!ありがとう…ありがとう…!」

「うぁあ……!さ、とり…さまぁ…!わたしも…わだしも嬉しいです…!!
ひっぐ…! っあぁ……あっ、ぁああぁぁっ、あああぁぁん……」

「ええ…!まだ、遅くはないはずです…。『彼ら』に謝りに戻りましょう。
貴方は誰よりも純粋で良い子……きっと私たちを迎え入れてくれるはずよ…だから、泣かないで?」




私がやるべき事とは…おくうを今度こそ導いてあげること。
その強大な力を…誰かを傷付けることに使うのではなく、誰かを護るために使ってほしい。
主として…家族として…私がこの子を導いていかなければならない…!

その決意を心に強く、強く刻みこんで。
今はただ、胸の中で咽ぶこの子をひたすら抱きしめてやった…。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


385 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:38:11 NPVmw0ig0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

『―――以上、18名だ。

素晴らしい! なかなかいいペースじゃないか!
参加者の2割がこれまでにその命を燃やし尽くしたってわけなんだからな!
個人的にはそれ以上に、予想外の名前が挙がっている事にもビックリしているよ!

脱落者18名につき、残りの生存者は72名と言うわけだな。
まぁ、中には「生きてるとは言い難い者たち」も数名いるが、そこは大目に見て欲しいかなぁ』


――――――
―――



「………ハァーーー……っ」


息を吐き出しながら、震える指でペンを机に置く。
もう一度名簿に記載された名前を上から順に目を通していく。
幾つかの×印が意味するところは、このゲームにおける『脱落者』。

―――その数、18人。

実に参加者の2割がこの6時間の間に早々と帰らぬ者となっていた。
その2割の中に、愛する家族の名は無い。

頬に垂れる汗の粒は安堵によるものか、はたまた恐怖からか。
しかし事実として『古明地こいし』と『火焔猫燐』の名は確かに呼ばれてはいなかった。
袖で汗を拭い、古明地さとりは恐れていた『最悪の事態』は起こらなかった事にひとまず安心し、名簿を閉じる。


386 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:39:00 NPVmw0ig0
しかし、やはり不安などというものはそう簡単に払拭しえるものではない。
伊吹萃香や星熊勇儀といった地底の強靭な鬼ともあろう存在が、既にやられている。
ともすれば『優勝候補』と言ってもいいぐらいの二人が、こうも容易く逝ってしまっているのだ。
互いに潰し合う程の薄っぺらな仲ではないことは知っている。参加者の『誰か』が彼女らを殺したのだ。
それは最初に自分を襲撃してきた、あの鬼よりも遥かに鬼のような人間がまだまだこの会場に存在しているという事だろうか?
それを一瞬考えただけで、さとりの背筋は凍りつくほどに固まった。


(こいし…お燐…!お願いです…!どうか、無事でいて…!)


目を閉じて手を組み、ただひたすらに身内の無事を祈り続ける。
幻想郷には多くの神が居るが、このゲームにおいて祈りを聞き入れてくれる神などは一人として存在しない。
そんなことは分かりきっているが、それでもさとりは祈らずにはいられなかった。
何の罪も無い家族達が無残に殺されるなど、この世にあってはならないことだ。
あの子達は決して強い妖怪ではない。例の少年のように凶悪な参加者に出会ってしまえば、成す術なくたちまち殺されてしまうだろう。

こんな所でのんびりしている場合ではない。すぐにでも来た道を戻り、『彼ら』と会うべきだ。
瀕死の自分、そしておくうを受け入れようとしたあの方達なら、どんな困難もきっと乗り越えられるはず。
さとりは何となくだが、そんな気がしてならなかった。

空の心越しに覗いた彼らの姿を見た時、さとりは無意識のうちに感じた。
未来へと進む『光』を。
彼らの精神に宿る『輝く』なにかを。

そんなあやふやで根拠も無い直感だが、今の自分たちには頼る者も居ない。
彼らに会えばきっと何かが変わるはず。
このどうしようもない暗黒の盤上において、進むべき指針となってくれるような気がするのだ。


387 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:39:50 NPVmw0ig0


(ひとまず彼らに会ってみよう。まだそう遠くない所にいるはず…)


当面の標が見えた。

膳は急げという。机の上に散らばった名簿や筆記用具などを片付け、出発の準備をする。
さとりの足は、随分良くなってきてはいるがまだまだ満足に歩けないでいた。
しかし本来ならば二度と歩けないほどのダメージを負ったにも関わらず、今ではその痛みも殆ど消え、感覚も少しは戻っている。
そっと足に触れてみると、擦っているだけで心がほんのり和らぐような奇妙な感覚があった。
この謎の力にさとりはほんの少し、希望が湧いた。


(大丈夫よ…何とかなる。きっと…何とかなるはず……。でも、この足のことは置いておくにしても…)


そう。さとりの心にはさっきから言いようのない『不安』が渦巻いていた。
『今』のこの現状…いくつか不安が残る。希望もあるが…やはり不安の比率が勝っていた。

その最大の不安の種の一つが―――


「さとり様…そのー、お身体の方は大丈夫ですか…?足もそうですけど、その、お腹とか…」


横に座る空がさとりの体調を気遣ってきた。
そのぷくりと膨らんだお腹を注視しながら、「食べ過ぎには注意しないとですよ」などと非常に失礼な事を呑気に呟いている。
自身の腹部を慎重な手つきで擦りながら、さとりはこれまでの経緯を思い出す。

―――
――


………………うん。全く『身に覚えが無い』わ。

(えと…私の名前は『古明地さとり』。妹は『こいし』。ペットは『霊烏路空』と『火焔猫燐』…。
あの『荒木』と『太田』という人間に連れてこられ、今現在殺し合いのゲームに参加させられている。
これが夢ならばどんなにいいことか…でも、記憶に間違いはない…わよね?うん、これは現実、だと思う)


だとしたら、今自分に起こっている現象はどう説明を付ければいいのだろう…?


388 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:40:42 NPVmw0ig0

ありのまま今起こっている事を話すなら…
『瀕死の重傷から目を覚ませば、懐胎していた』
何を言っているのか分からないと思うけど、私も何をされたのか分からない。
頭がどうにかなりそうだわ…

正直言って、今日一番のビックリであった。
自分に何が起こっているのか。まるで理解が追いつかない。
これはどこからどう見ても『妊婦』そのもの。

念を押して言っておくが…本当に念を押すが…この自分に『そんなことをした経験』など、無い。絶対に無い。ありえない。
しかも昨日の今日どころの騒ぎではない。たった6時間昏睡してる間にこれである。


「お…おくう…?一応、聞くけどね?わ、私のこの『お腹』について何か心当たりとか…ある?」

「うにゅ?」

間抜けな表情で反応する空は何の事やらといった風だ。
試しに心を読んでみるが、肝心な部分の記憶がすっぽりと抜け落ちているのか、収穫は無かった。
さっき読んだ彼女の記憶のヴィジョンではベッドに寝かしつけられた私が映っていた。
その時点では特に異常は見受けられなかったのだから、ここに来るまでに何か『とんでもない事』が起こったはずなのだ。


389 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:41:31 NPVmw0ig0

「おくう…お願いだから思い出して…!私を運んでここに来るまでに、私に『何か』してませんか…?」

「むむ〜〜〜っ! …………いえ、特に思い出せません!」


心を読む。

『むむ〜〜〜っ! …………いえ、特に思い出せません!』


だめだこりゃ。
『なにもしてません』ではなく『特に思い出せません』ときた。
どうやら本当に綺麗さっぱり忘れているらしい。
彼女がこの会場に降り立ってから色々な出来事は記憶しているクセに、肝心要の部分が抜け落ちていたのでは困る。

しかし三歩歩く度にひとつ忘れるこの地獄鴉が一度忘れた事柄は、今後絶対に思い出すことはない習性がある事を主のさとりはよく知っていた。
頭を抱える事態がまた一つ増えたことにさとりの心はパンクしそうになるが、何とか冷静を保とうとする。


この腹部に存在する『モノ』…。
これがなんなのか、皆目見当も付かないが、不思議とコレはそう悪いモノでもないような気がした。

何か『とてつもないエネルギー』が自分の中に宿っている。

何となくだが、それだけは間違いの無い事実だと直感する。
そしてこのエネルギーがこの先の未来、自分にとって『吉』となるか『凶』となるか…。
漠然に考えながらもさとりはその事実をひとまず…ひとまずだが頭の隅に置いておく。
不安事項はそれだけではないのだ。


390 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:43:53 NPVmw0ig0

さとりは自分の腹部から隣の空へと視線を移し、先程気付いていた疑問を投げ掛けた。


「ところでおくう…さっきから気になっていたのですが、右手の『制御棒』はどうしたのですか…?」


普段ならば否が応でも目を引く我がペットの右手に装着されているはずの大きな制御棒。
今は綺麗に取り外されており、白くしなやかな腕が露出している。

「うにゅ? …………あ。ホントだ、いつ外れたんだろう…?」

まさか今頃気付いたのだろうか。空は首を傾げながら右手を開いたり閉じたりしている。
恐らく縄で縛られている時に没収されてしまったのだろうとさとりは推測するが、だとしたなら少々危険だ。

空は八咫烏の力を手に入れ、核融合という強大すぎる能力を操れるようになってしまった。
その強力な力を操るのに制御棒は本来必要無い。制御棒はあくまで制御の為の棒なのだ。
それを失ってしまったらどうなるか、想像に難くない。
…が、とはいえその制御棒も彼らが預かり持っているのならば、そう悲観することでも無い。
これから戻って、返してもらえばいいだけのこと。さとりはそう楽観し、念のために忠告を授ける。

「おくう。貴方の八咫烏の力は本来、貴方自身の能力の許容量を大きく超えている。
その力をセーブする制御棒が無いということは、核融合の力は貴方の潜在エネルギーを必要以上に引き出してしまうということ。
約束して。制御棒が無い内は絶対に無茶をしない、と」

「それは勿論!了解しました!
…それならば差し出がましいようですが私からもひとつ、さとり様にお約束して欲しいことがございます。
さとり様は治療してもらったとはいえ、未だご重体の様子。どうか…さとり様も無茶だけはしないで頂きたいのです。
その代わり…さとり様は私が命に代えても必ずお守りします」

頭を下げ、膝をつく空にさとりはふふ、と微笑する。
普段は気が抜けていることも少なくない空だが、こんな時は本当に頼もしく思えてくる。
そんなペットの姿が愛おしく感じ、さとりは彼女の頭にそっと触れながら返答した。


391 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:44:41 NPVmw0ig0

「おくう、貴方の力はね…誰かを傷付ける為のモノではないの。
それはきっと…誰かを護る為の力。とても気高くて、誇りあるモノよ。
だから貴方に『命令』します。その力でどうか、私を護ってください。
そして…また一緒に暮らしましょう。家族みんなで…!」


主の命を受けた空は破顔し、心からの笑顔になる。
今度こそ自分は愛する主から期待されている。頼られている。
その事実に空の心は有頂天、かつてないほどに高揚感を覚えた。

その大きく揺れ動く心象はさとりにも届く。
子供のように無邪気に嬉々となる空を眺めながら、ひとつの決心をした。


―――こんなゲームには絶対乗ってやるつもりはない。
―――こいしとお燐を探しだし、どうにかここから脱出してやる、と。



「さとり様…!私…私…絶っっっっ対に貴方をお守りしますッ!
こいし様やお燐もすぐに見つけて、みんなで地霊殿に帰りましょうッ!」

「えぇ…頼りにしてるわ、おくう。
…それじゃあ、早速来た道を戻って億康さん達に謝りましょうか?」


その言葉を聞いた瞬間、空は「うぇ…」と若干不満気な声を漏らしたが、その態度すらもさとりは笑い流す。
喧嘩しても仲直りが出来る子供のように、空には純粋な善心がある。それを知らぬさとりではなかった。

―――きっと、なんとかなる。

漠然で根拠も無い理だが、さとりにはそんな気がしてならない。


392 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:45:38 NPVmw0ig0
そうと決まれば早めにここを出よう。
空のデイパックはさとりが背負い、出立の準備を取る。
歩くことも出来ない為、ここへ来る時と同じ様にさとりは空が抱えて飛行することになる。
地霊殿の主として、その情けない姿に羞恥を感じるさとりだったが、こればかりは致し方ない。
ここは我慢して空の世話になろうと椅子を引いた時、さとりはふと思う。


(…結局、この『部屋』で見たものは何だったのかしら…?確かに『あの姿』はこいしとお燐に見えたのだけれど…)


さっきから二人が居るこの部屋は実に『奇妙』だった。
ここへ来る前、さとりと空が互いの思いを吐露した後のことである。
魔法の森の最深部を彷徨っていた二人は、この『大きな木』に設置されていた『部屋』を見かける。
普通の大木にドアが取り付けられていて、窓まで見受けられた。しかも窓の中には民家のような空間が広がっている。
どう考えても普通ではない光景に、次の瞬間さとり達は『驚くべき人物』を発見する。


窓の中に見た二人の人物は、後ろ姿ではあったが確かに『こいし』と『お燐』のものであった。


ドクンと心臓が早まり始めるのを抑えられず、すぐさまさとりは空に指示し、部屋の中に飛び込んだ。
部屋の中も至って普通の和風木造部屋であり、それが逆に不気味さを煽っていた。

しかし二人は警戒するよりも、何より先に家族の姿を探す。
だが、二人は居なかった。
見間違いだったのか、さとりは不思議に思いながらもそう結論付け、落胆しながら椅子の上にドカリとやや乱暴に腰を落とす。
丁度放送時間も差し迫っていた事もあり、そのまま謎の部屋で身体を落ち着けていたのだが…。



(…やっぱり私、まだ疲れているのね。二人に早く会いたいという焦燥の気持ちが幻覚を見せたんだわ…)


393 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:46:42 NPVmw0ig0

さとりの最後の不安事項がこの不気味な部屋であった。
そもそも普通、木の中にこんな空間が存在し得るだろうか?
だが実際に身を以って体験している以上、確かに存在するという事実に間違いは無いのだろう。
空は大して気にも留めていない様子だが、さとりとしてはこの空間に居るというだけで不安が募っていく。


(…出ましょう。こんな所に居ても何の解決にもならないわ)


この幻想郷では常識に囚われてはいけない。
強引な論で自分を納得させ、さとりはここを出るため空に抱きかかえられようとした。


―――その時であった。





ガラ……





引き戸を動かすかのような僅かな物音が、後方から聞こえてきた。
驚き振り返るさとりの目に映ったのは、木製の食器棚。
周りを見渡しても当然、ヒトの気配は無い。


だが、食器棚の下の戸棚が僅かに開いていた。


さっきこの部屋を調べた時、この戸は開いていたかどうか…?さとりは自信無さげに記憶を掘り起こす。
が、どうにも思い出せないし、あれはただの食器棚だ。中に人が隠れていることは考えられない。
幻覚に続いて幻聴まで聴こえてくるとは、いよいよ疲れているらしい。
それで納得させ、再び空の方へと視線を戻す。


394 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:47:32 NPVmw0ig0

「さとり様…?どうかされたのですか?」

「いえ…何でもないわ。さぁ、行きましょうか、おく――」


ズズ……




「ッ!?」


今度は勢いよく振り返り、食器棚の方へと身構える。

引き戸は――さっきよりも開いていた。

開いた戸の奥に広がる闇が、彼女の恐怖心を加速的に迫り上げた。
今度は気のせいではない。あの中に『ナニか』いる…!


「おくう…この部屋、何か分からないけど『危険』だわ…!すぐに脱出するわよ…!」


さとりは先程『悪魔』に襲撃された時の、あの嫌な感じを思い出していた。
冷や汗が頬を伝い、悪寒が戦慄と共に全身を駆け巡る。
空はさとりの言った意味が一瞬理解できず、思わず不思議そうに聞き返した。



「え?危険って、どういう――」
「今すぐここを出るわよッ!!急ぎなさい早くッッ!!!」


395 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:48:01 NPVmw0ig0

主の珍しく鬼気迫る表情に異常を感じたか、空は顔を険しく変えてさとりを抱きかかえる。
何が起こっているのか分からない。分からないが、主に危険が迫っているらしき事は理解出来た。
空は漆黒の翼とマントを大きく展開させ、さとりを抱きながら全速でドアの方向へ飛翔する。


だが、その行動は一瞬遅かった。


ガラッ!と、棚の引き戸が大きく開かれ、闇の中から『ナニか』が高速で飛び出してきたッ!しかも一つや二つではないッ!
謎の黒いナニかは瞬く間に、二人の全身にベッタリと吸い込まれるようにくっ付いてきた。
それはよく見れば影のように真っ黒な『足跡』の形を成しており、さとりが今までに見た事も無いような存在であった。


「ああぁぁ…ッ!?こ…これは…!『力』が、吸い取られて…!?」

「うああああぁぁぁッ!?な、何よこの足跡ッ!?気持ち…悪いッ!」


二人の全身に数え切れない足跡が纏わり付いていき、空達を宙から叩き落した。
ベタベタと隙間無く身体の表面を埋めようと突っ込んでくる足跡を、空は必死に振り払おうと抵抗を試みる。
が、どういうわけか『触れない』ッ!

「く…そぉ……!何コレ…触れないッ!しかも、コイツら…どんどんエネルギーを…『吸い取ってる』…!」

見る見るうちに身体から力が抜けていく感覚を感じ、二人は次第に動けなくなってくる。
やはりこの部屋は『ワナ』だった。幻覚を見せ、進入して来た者のエネルギーを吸い取るワナ。
己の迂闊さを後悔する暇もなく、さとりは絶望的状況の中、必死に突破口を考える。

こちらから触れないのなら『逃げる』しか方法は無い。
だが、どうやって?自分は足が動かず、おくうもその全身を敵に捕らわれ、翼を広げる事も出来ないようだ。

……ダメだ!突破口なんて無い!絶体絶命だッ!


396 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:48:41 NPVmw0ig0
とうとう足跡たちが身体の中に食い込み始めた。
『2度目』の死を覚悟する。せっかく救われた命が早くも無慈悲に奪われようとしていた。
意識が朦々と霞む。この世界において『弱者』は全てを貪り狩られてしまうのか。
せめて、家族の命だけは何とかしてやりたかった。

その懸命な思いが無意識にさとりの腕を動かし、隣でもがく空の肩を掴んでいた。



薄れる視界に空の不敵な笑みが映る。



「さとり様…!それ、『ナイス』です…ッ!ブッ飛ばしますから、そのまましっかり肩…掴んでてくださいね…ッ!」



床にうつ伏せで倒れたままの姿勢で右腕を前へかざし、その先端には超密度の燃焼エネルギーが集中していく。
次の瞬間、赤白く輝きを放つ右腕から凄まじい轟音と共に爆縮された高エネルギーが発射されるッ!


「―――爆符『メガフレア』ッ!!」


さとりに当たらぬよう身体を抱き寄せ、高圧縮の爆焔を部屋に撃ち込む。
狙いなど無い。空の目的は敵を攻撃することではなかった。
さとりを掴んだまま、二人は撃ち出したエネルギーの反対方向、すなわち部屋の外まで勢いのまま吹き飛ばされる!
時速60キロどころではないスピードで屋外まで吹き飛ぶ速度に、この足跡はついてこれなかった。
身体に張り付いていた足跡たちが次々に剥がれ、二人はとりあえずの危機は脱出した。
互いが離れ落ちないようにしっかりと抱いたまま、二人は部屋から数十メートル離れた地点まで大きく飛ばされ、着弾する。


「痛ったたた〜……あ、あれ…?おかしいな…『メガフレア』を撃ち出したつもりだったんだけど、今の…『ギガフレア』だった…?
い…いや、それよりもさとり様ッ!ご無事ですかッ!?少々、荒っぽいやり方でしたが、何とかアイツらを引き剥がしました!

「う……お、くう……。わ、私は…大丈夫です…ありがとう…」


397 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:49:12 NPVmw0ig0
身体を起こしながら互いの無事を確認する。
随分体力を失ってしまったが、ギリギリのところで命は助かったようだ。だがあまり楽観も出来ない。
この謎の敵の攻撃が今ので終わったとは思えない。あの足跡もすぐに自分らを追ってくるはずだ。
おくうの今の状態を考えるとあまり頼める立場ではないが、このままではまたやられてしまう。

さとりは空に向かって、急いでここを離れようと叫ぼうとした…だがその瞬間、脳内に響く『声』がそれを遮る。


『く■…奇襲■失敗■■したか…!■■し、こ■も超■るべ■『試■』…!■対に逃が■な■!』

『■の翼■持つ妖■の方…■ん■もな■火力■持っ■■わ。でも■相■が炎■操■なら…!』


相変わらずひどく靄がかかったように曖昧だが、さとりの『第三の目』には2人の心の声が確かに届いた。
近くに居る!

「おくう!貴方の右後方に居ますッ!」

その機敏な叫声とほぼ同時に、空はさとりの示す方向へと腕を構え、再度燃焼エネルギーを集中させる。
狙うは木々の陰!撃つは大火力の『メガフレア』!!
回避不能の広範囲の火焔が地を焦がしながら視界を埋め尽くし、敵の隠れる木陰へと放たれたッ!


―――が、ここで不可解な事象が発生した。


一直線に敵へと向かう爆発の如き紅焔が、突然飴細工のように軌道を上方に曲げて目標を逸れたのだ。
特大の爆焔は木々を焼け焦がしながら、そのまま朝空の彼方へと消えていった。


398 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:50:50 NPVmw0ig0

「…ッ!? あ、あれれ?なんで勝手に曲がっちゃうの!? しかも今のも『メガフレア』じゃなく『ギガフレア』だった…!」

わけのわからぬ2つの現象に頭を悩ませるも、空はもう一度攻撃を撃ち込もうと腕先へと霊力を高める。
しかし、そこですぐにさとりの制止が入って空を止めた。

「待っておくう!言ったはずよッ!『無茶はしないで』と!今の貴方は能力の制御が出来ていないッ!」

攻撃の挙動をピタリと止め、空は歯痒い思いで握り拳を作ったが、現状は確かにさとりの言った通りだった。
先の爆撃も、そして今の爆撃も共に『メガフレア』を放ったはずだ。
しかし発射されたのは上位互換である『ギガフレア』。明らかに力をコントロール出来ていない証拠だ。
加えて空は己の身に少しずつ『異常』をきたしているのを自覚し始めていた。

(う…!なんか、やっぱさっきからどうも身体が『熱い』…かも…!)

元々一介の地獄鴉に過ぎぬ妖怪に、八咫烏の強大すぎるエネルギーは不釣合いであった。
だからこその制御棒なのだが、それも無い今、核融合の力は空の身体に無尽に溜まり募るばかりだ。

これ以上空に無理をさせるわけにはいかない。かくなる上はこの自分が…!
そう思い始めるさとりだったが、またも予想外の事態が現れた。



「…妊婦さんの言う通りよ。そっちのカラスさんの『焔』の爆撃は私達には通じないわ。それでもいいのなら、どうぞ。好きなだけ撃ちなさい?」



木陰から二人の女性が堂々と姿を見せた。
一人は金色の髪と瞳で、何故か『植物』の様な物を持った小柄な少女。
もう一人は同じく金色の髪で、頭上に花を模した飾りを付けた女性であり、見れば左腕を欠損している様子だ。


秋静葉と寅丸星。
狩人と化した二人の『修羅』がさとりと空を冷たく、しかしドス黒く燃える視線で射抜いていた。


彼女らの両の瞳に映るのは、狂気にも近い『執念』。
その並々ならぬ感情を直視したさとりに戦慄、走る。


399 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:51:24 NPVmw0ig0
敵と遭遇した場合、『説得』という選択肢も頭に入れていたさとりも、その行為は『不可能』だと直感した。
わざわざ二人揃って姿を現したということは、今度こそ自分らにトドメを刺せるという『確固たる手段』があるということ。
そして自分も空も満足に能力を発揮し得ぬ現状、残る道は『逃走』だ。
碌に歩けぬ自分でも怯ませるぐらいは出来る…そう思考する矢先、自分の盾になるように前へと躍り出た影は空のもの。

「さとり様!少々の無茶でもお許し下さい!私はまだ戦えますッ!」

叫び、再び敵の二人へと腕を構える空。
だが、それを黙って見ている場合ではない。さとりはすぐに空を止める。

「約束したでしょう、おくう!!それに無駄よ!あの二人に『焔』の攻撃は届かないッ!」

慣れない大声で叫ぶさとりは考える。
先程、空が撃ち放った高威力の『ギガフレア』でさえ、敵を避けるようにして外れた。いや、『外された』。
何か『トリック』がある。しかしそれが何かと聞かれれば…皆目見当がつかない。
頼みの読心能力も制限のせいで、この距離ではあまり役に立たない。

ならば…!


「おくう退いてッ!!想起『テリブルスーヴニール』ッ!!」


前を立ち塞ぐ空を強引に退かし、さとりは残った力を振り絞って自身の切り札を発動させる。
眠りを覚ます恐怖の記憶(トラウマ)を呼び起こす白光する光源を敵に向けて放ったッ!


「!? いけません、静葉さん!あの光を見ては……うああッ!!!」

「うっ……!? ああああぁぁあああッ!!!!」


寅丸は相手の抵抗を警戒するも、既に遅かった。
さとりのテリブルスーヴニールは光を直視しただけで術中に陥る。後手に回れば、回避は殆ど不可能に近い能力なのだ。

寅丸と静葉は一瞬の隙を突かれ、自身の持つ最悪の『トラウマ』に強制的に襲われてしまう。


400 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:52:09 NPVmw0ig0


―――『想起』ッ!
――


『秋穣子よ!み・の・り・こッ!さっきから聞いてたら、いきなり拉致して、今度は殺しあえ!?あんた達何考えてんのよッ!』

『あのさぁ、君こそ僕の説明聞いてた?それとも幻想郷じゃ、丁寧に説明している相手に喧嘩吹っかけるのが挨拶なわけ?』
『ンフフ、まあまあ荒木先生。一寸待って下さい』
『ちょうど良いじゃないですか。我々に逆らったらどうなるか説明するのは、具体例を挙げるのが一番だと思いますよ。その子『神様』の部類ですし』
『そうか、それは確かに都合がいい』

『ちょっとアンタ!人の話聞いてるの!何二人で変な事言い出して……』


―――ボンッ



「う……いやぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアアアァァァア``ア``ア``ア``ア``ッッ!!!!!!!」



―――『想起』ッ!!
――


『…ご主人、もう奴はそう長くないだろう。惨いことになるが――――』

―――パァン。

『―――え?』
『ナズー、リン―――』

『何かと思えば…』
『この『カーズ』にとって、雑作もない虫ケラ共か』

『―――――貴、様ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!!!』


―――パァン。



「ひ……っ!?あ…あぁ……うぁああああああぁぁぁああああ……ッッ!!!!!」


401 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:53:41 NPVmw0ig0


絶叫。

頭を押さえ、恐怖の涙を流しながら悲鳴を上げる静葉。

失った左腕の傷口を押さえ、絶望のあまり地に転げる寅丸。

傷を抉ったその上からまた刃物で突き刺すような、そんな絶望的な悲鳴を聞きながら、さとりは空へと撤退の指示を出す。
空は慌ててさとりを抱きかかえ、黒き翼で飛翔を開始する。またとない逃げのチャンスだ。
苦痛にもたげる静葉たちの姿を視界に入れながら、さとりは自身のこの能力にやはり良い感情は浮かべなかった。
敵とはいえ、心の傷を無理矢理掘り起こして嬲るなどという悪魔のような力は、他人に恐れられて当然であった。
複雑な感情を心に宿しながらも、今はただこの敵から全力で逃げなければいけない。それのみを考える。


「さとり様!飛ばして行きますからしっかり掴んでて下さいッ!!」


核エネルギーを推進力にしての高速飛行。
低空で燃費も悪いが、主を危険に晒すわけには絶対にいかない。
空はさとりを胸に抱えたまま、全力で飛び立った。
どんどん小さくなる静葉たちの姿を後方に置き、深く暗い魔法の森を突き進む。

その時、背後から静葉の殺意に塗れた絶叫が木霊した。


「く、くそォォッ!!『アンタ達』ッ!!絶対にブッ殺してやるぅぅぅぅゥゥーーーーーーッ!!」


ゾワリ…!と、さとりの背筋に鳥肌が立った。
敵意を向けられるのは慣れていたが、あれほどまでの狂気に堕ちた『執念』を向けられたのは初めてだった。

怖かった。
すぐにこの場から逃げ出したかった。
トラウマを掘り起こした際に少しだけ覗いた彼女らの『記憶』は、愛する者を失ったことから這い出てきた、凄惨な『執念』。

―――もし、自分も愛する家族を失ってしまったら…。

―――彼女たちのように執念に取り憑かれたりはしない……そんな根拠が果たして自分にあるのか。

さとりが恐怖を覚えたのはそこであった。
震え始めた腕で懸命に空へしがみつくさとりを、ギュッと抱きしめ返す空は何を思うか。
陽も届かぬ不気味な森を突き進む二人の背中は、ひどく小さく見えた。


402 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:54:25 NPVmw0ig0


「さとり様……私は…私が、さとり様をお守りします…!必ずや…!」


腕の中でしっかりと抱かれたまま聞いた家族の決意は、さとりの心へと穏やかに染み入って聞こえた。
主である自分がこんな情けない姿を見せるわけにはいかない。
希望は、ある。
もしも『彼ら』に会うことが出来れば、この絶望的な状況にも『光の路』が見えてくるかもしれない。
それを考えると、この不安な心にも何故だか『勇気』が湧いてきた。


絶対に、あの平和な日常へと帰ろう…!家族全員で!






―――だが、運命の足音は残酷にもすぐそこへと迫ってきていた。



「さとり様ッ!またあの『足跡』ですッ!左右から追ってきますッ!!」

「…!?」


しまった!
後ろを振り返りながらさとりは悔やむ。
空の負担を考えて、速度を上げすぎないようにしたのが裏目に出てしまったのだ。
さとり達の右後方、左後方から無数の足跡が飛来してくる!


「ハァ…ハァ…ッ!さ、とり様…!速度を、上げます…!振り落とされないように…お願いします!」

空の様子がおかしい。飛行に使う核融合エネルギーをやはり制御し切れていない。
加えて先程もあの足跡に散々体力を吸われたばかりなのだ。
彼女の額に汗がダラダラと垂れ始め、かなり無理をしていることはさとりの目から見ても明らかであった。

「おくう!お願い!無理はもうしないで…ッ!このままじゃあ貴方…!」

「大丈夫、です…!あの足跡…そこまで速いスピードではないようです…。きっと、振り切れる…ハァ……ッ!」


403 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:55:59 NPVmw0ig0
苦しそうに飛び続ける空の言う通り、確かにあの足跡たちの速度はそこまで速いものではなかった。
だが、さとりはその様子を見ながらも、何か『違和感』を感じた。
左右から追ってくる足跡。
追いつくか、追いつかれるかのギリギリの距離感。
何だ。この違和感の正体は。
『何か』…重大なことを忘れているような……思い出せ…ッ!
自分の記憶の中にその正体はあるはずだ。それは何だ。
このだんだんと追い詰められているような悪寒は…………

―――『追い詰められて』……


(…………!)


嫌な予感の正体はつい数分前の記憶にあった。
まさか…と思いながらも、さとりは急いでデイパックの中の『地図』と『コンパス』を取り出す。
コンパスの指針と自分達が飛び向かっている方向を見比べる。
それは『偶然』なのか、はたまた敵に『嵌められた』か。



―――自分達は現在、『西』に向かって飛んでいる。



(マズイッ!!確かさっきまで私達がいたエリアは………『C-4』ですってッ!!)

バサバサと風に煽られる地図を苦労して広げた結果は、最悪の事実を伝えていた。
このまま逃げ続けていれば…いや、もしかしたら既に『進入』しているかもしれない…!
確か…確かさっきの放送で伝えられた『禁止エリア』の場所は…!


「おくう!!罠よッ!!私達は知らず知らずの内に『誘導』させられていたッ!!ここは既に禁止エリア…『B-4』よッ!!」

「禁止…エリアですか…?そこに入ったら、どうなるんでしたっけ!?」

進入して10分経てば、二人ともボカンだ。
二人の身体に寒気が過ぎる。すぐにこのエリアから脱出しなければいけない。
だが、どうやらそれも難しいらしい。足跡たちが右からも左からも迫ってくる。
今更方向を変えることは許されそうにない。ならばどうするか…?

決まっている。このままA-4まで直進するしかないッ!

この速度なら…恐らく10分以内に禁止エリアを通り過ぎることも難しくはないだろう。
スピードを上げたならば…もしかしたら北か南のエリアまですぐに曲がり切れる可能性はある。
だが、空の不調を考えればそれは悪手のような気がしてならない。
ここで彼女に無理をさせ、取り返しがつかない事態にまで発展する可能性もある。

どうする…!?どうすれば…この状況を切り抜けられる…!?


404 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:56:38 NPVmw0ig0


「ハァ…ハァ……!気に、しないで下さい、さとり様…!私は…貴方をお守りすると…約束、しましたので…!」


さとりを見下ろし、苦しげな笑顔で微笑む空に対し、さとりは頑張って下さい、とはとても言えなかった。


「ダメ…ダメですよ、おくう…!約束、と言うのなら貴方はもうひとつ約束をしたはずです。『絶対に無茶はしない』と…!
方向は、このままです。敵に追いつかれない、ギリギリの速度で飛んで下さい…!絶対、何とかなるはずです!」


その根拠も無い結論が、しかし空を不思議と安心する気分に浸してくれた。


(さとり様の命令なら凄く安心できる。私に勇気をもたらしてくれる!
この人のためなら、何も怖くない!つらくない!
…だから、見てろよこの『敵』ッ!さとり様を傷付けようとするコイツらは絶対に許さないッ!
今は逃げるだけだが、あとでコテンパンにボコボコにしてやるッ!!)


心中で深く決心する空は、今は主を抱えて逃げるしか出来ない。

深い森の中で、二人の逃避行は終わらない。

『光』を求めて、『希望』に縋って、終わりの見えぬ絶望の底から飛び立つ為に翼を広げる。

その先にあるのは…果たして『終焉』か。それとも…。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


405 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:57:31 NPVmw0ig0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『秋静葉』
【朝】C-4 魔法の森 西


「はぁー…!はぁー…!あいつら…絶対に許せない…ッ!すぐに追いかけて…殺してやるわッ!」


『トラウマ』に襲われた衝撃からか、涙を流しながら吐き気をどうにか抑え、代わりに唾罵を走らせる静葉。
さとり達の逃げた方向を睨みつけながら、普段吐いたことのないような悪態を吐く。

「静葉さん…大丈夫、ですか…!」

地面に手をつく静葉を心配して近寄ってきた寅丸であったが、彼女の方もあまり無事な容態ではない。
二人揃ってなんてザマだ…静葉は表情を苦渋に歪めながら悔しそうに拳を地面に叩きつけた。
その様子を眺めながら寅丸は、自らの心情を吐露する。


「静葉さん…私は先の攻撃で、かつての『部下』が殺された光景を見せ付けられました…。
『ナズーリン』…とても利口で、私の誇りある部下、でした」

「……」

「そんな彼女も既にこのゲームで殺され、私は彼女を殺した大男からも惨めに逃げおおせ…そして貴方と出会いました。
貴方と組む事を決意し、実際に大事な弟子をも殺めました。
そのことで私はやっと自分の気持ちに『区切り』を付けられたのだと…そう思っていました」

「…でも、そうではなかった」

「…はい。ナズーリンが殺される瞬間がいつまでも脳裏にこびりつき、私の『最も嫌な記憶』として襲われ、みすみす敵を逃してしまった。
それは私の『弱さ』であり、『恐れ』なのでしょう。『恐怖』を乗り越えなければ、このゲームに生き残ることは出来ません」

「…私も同じ気持ち。しかし『恐怖』は我が物にしてこそ乗り越える『価値』がある…そうよね?」

「はい。しかし無念ですが、私達はその域まで達していなかった。それ故の失態が、先の戦闘です。
静葉さんと出会った時、貴方は言ってくれました。
『強くなるには“感情”を克服しなければならない』
『最早私達に感情はない。弱者で罪人で死人なら、それに見合った戦いをすればいい』…と」

「…自分で言っておいて、全く呆れ果てる発言だったわね。私達、結局ちっとも強くなれてない。
私達は、自分に敗北したようなものよ…。お互い、随分平和ボケした人生を送ってたみたいね」


自嘲するような笑いが口から漏れ、静葉は悔しさで拳を握り締める。
そしてボソリと、彼女の口から静かなる怒りが吐かれた。


406 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 19:59:13 NPVmw0ig0

「―――このままでは、終われない…絶対に……!」

「…既に『ハイウェイ・スター』はあの二人の『ニオイ』を覚え、追わせています。
あの二人を禁止エリアに追い込む所まで詰めていますが…ハイウェイ・スターの射程距離はエリアを飛び越えてまではいけない…。
つまり私から1キロ以上離れられません。すぐに追いますか?」

「当然、追うわ。次はこんな失敗…絶対に起こさない…!少しずつでいい…『成長』しなくては…!」


そう言って静葉は手放してしまった『猫草』を拾い、追撃を仕掛けようと、敵の逃げた方向を見据える。


「静葉さん。さっきはあの地獄鴉の爆発的エネルギーを『空気』を操って逸らしました。
その猫草とやらの能力で周りに『真空』を作り、意図的に『空気の道』を生み出せば、酸素を源とする『焔』の攻撃はその『道』に沿らせて避わせるでしょう。
しかしあの妖怪の力の本質は『核融合』の能力と聞きます。
いくら真空状態でも『核融合』の力そのものをぶつけられれば、防御し切れない可能性が高いです。
『猫草』の能力を過信して、近づき過ぎないようにして下さい」

「成る程…『戦い』に関しては貴方の方が熟知しているってわけね…。
分かった、心に刻んどくわ。そして、奴らは今すぐ追って仕留める…!
禁止エリアだろうが何だろうが、知ったこっちゃないわ。
私は貴方よりも山や森を歩き慣れていると思う。先陣は私が切るから寅丸さんは後からついてきて、私をフォローしてくれる?」

「決まりですね。急いで彼女たちを追いかけましょう。私は聖のため…この闘いに必ず勝ち残る」

「私も…穣子のために、絶対…!」




かくして二人の修羅は、駆けた。

その金色に輝く髪を血の色で染めようとも、彼女たちは決して戦いをやめることはないだろう。

何故なら、二人の叶えるべき『想い』は、終焉のその『先』にあるのだから。





▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


407 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 20:00:26 NPVmw0ig0

【B-4 魔法の森 東/朝】

【古明地さとり@東方地霊殿】
[状態]:脊椎損傷による下半身不随?内臓破裂(波紋による治療で回復中)、体力消費(中)、霊力消費(中)
[装備]:草刈り鎌、聖人の遺体(頭部)@ジョジョ第7部
[道具]:基本支給品(空のもの)
[思考・状況]
基本行動方針:地霊殿の皆を探し、会場から脱出。
1:おくうと共に億康達と会って、謝る。
2:ひとまずこの敵から逃げなくては!
3:おくうに無茶はさせない。
4:お腹に宿った遺体については保留。
[備考]
※会場の大広間で、火炎猫燐、霊烏路空、古明地こいしと、その他何人かのside東方projectの参加者の姿を確認しています。
※参戦時期は少なくとも地霊殿本編終了以降です。
※読心能力に制限を受けています。東方地霊殿原作などでは画面目測で10m以上離れた相手の心を読むことができる描写がありますが、
 このバトル・ロワイアルでは完全に心を読むことのできる距離が1m以内に制限されています。
 それより離れた相手の心は近眼に罹ったようにピントがボケ、断片的にしか読むことができません。
 精神を統一するなどの方法で読心の射程を伸ばすことはできるかも知れません。
※主催者から、イエローカード一枚の宣告を受けました。
 もう一枚もらったら『頭バーン』とのことですが、主催者が彼らな訳ですし、意外と何ともないかもしれません。
 そもそもイエローカードの発言自体、ノリで口に出しただけかも知れません。


【霊烏路空@東方地霊殿】
[状態]:右頬強打、腹部に打撲(中)、体力消費(大)、霊力消費(大)、体温上昇(中)、僅かな罪悪感
[装備]:制御棒なし
[道具]:なし(基本支給品は現在さとりが所持)
[思考・状況]
基本行動方針:地霊殿の皆を探し、会場から脱出。
1:さとり様をお守りする!
2:地霊殿の住人は保護する。
3:ひとまずこの敵から逃げなくては!
4:あの人間(ジョナサン、億泰)に会ったら…謝る?う〜ん…。
5:ワムウ(名前知らない)は私が倒した(キリッ
[備考]
※参戦時期は東方地霊殿の異変発生中です。
※制御棒の喪失により核融合の能力が不安定な状態になっています。
 その為、能力使用の度に核融合の熱によって体温が際限なく上昇します。
 長時間能力を使わなければ少しずつ常温へと戻っていきます。
 それ以外にも能力使用による影響があるかもしれません。


408 : 金色乱れし修羅となりて ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 20:01:05 NPVmw0ig0
【C-4 魔法の森 西/朝】

【秋静葉@東方風神録】
[状態]:覚悟、主催者への恐怖(現在は抑え込んでいる)、エシディシへの恐怖、精神疲労(中)、みぞおちに打撲、
右足に小さな貫通傷(痛みはあるが、行動には支障ない)、エシディシの『死の結婚指輪』を心臓付近に埋め込まれる(2日目の正午に毒で死ぬ)
[装備]:猫草(ストレイ・キャット)@ジョジョ第4部、上着の一部が破かれた
[道具]:基本支給品、不明支給品@現実×1(エシディシのもの、確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:穣子を生き返らせる為に戦う。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。寅丸と共に強くなる。
3:さとりと空は必ず仕留める。
4:エシディシを二日目の正午までに倒し、鼻ピアスの中の解毒剤を奪う。
5:二人の主催者、特に太田順也に恐怖。だけど、あの二人には必ず復讐する。
6:寅丸と二人生き残った場合はその時どうするか考える。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
※猫草で真空を作り、ある程度の『炎系』の攻撃は防げますが、空の操る『核融合』の大きすぎるパワーは防げない可能性があります。


【寅丸星@東方星蓮船】
[状態]:左腕欠損、精神疲労(中)
[装備]:スーパースコープ3D(5/6)@東方心綺楼、スタンドDISC『ハイウェイ・スター』
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を護る。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。静葉と共に強くなる。
3:さとりと空は必ず仕留める。
4:誰であろうと聖以外容赦しない。
5:静葉と二人生き残った場合はその時どうするか考える。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※能力の制限の度合いは不明です。


409 : ◆qSXL3X4ics :2014/06/10(火) 20:03:32 NPVmw0ig0
これで「金色乱れし修羅となりて」の投下を終了します。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
感想や指摘、誤字などがありましたらお願いします。


410 : 名無しさん :2014/06/10(火) 21:39:43 uTFrwxpc0
投下乙です!
何はともあれおくうが改心ルートに進んでくれて一安心
しかし禁止エリア突撃、非スタンド使い、制御棒喪失とかなり危うい状態なんだよなぁ
果たしてあの二人を振り切れるのかどうか、おくうとさとりんの無事を祈りたい
そしてマーダーコンビながら着実に覚悟と結束を強めてゆく秋星コンビも今後がやはり気になる…


411 : 名無しさん :2014/06/11(水) 02:33:05 g9NYQMl60
投下乙です
異変発生中に呼ばれたお空とそれ以降に呼ばれたさとり
二人の悩みや考え方が家族として向き合えたところがスゲー良かったです

そんな二人を襲うのが、大切な誰かの為に戦う静葉と星というのも
ちょっと皮肉ですね


412 : 名無しさん :2014/06/11(水) 21:42:39 H4wtG.d.0
投下乙です。
原作の時から思ってたけどやっぱハイウェイ・スター強いなぁ。
DIOやディアボロでも楽には勝てそうにない感じ。

読んでいて気になった点は、マーダーコンビの放送パートが無いことかな。
静葉はともかく、星は聖の生死が気になるんじゃないかなぁと。


413 : ◆qSXL3X4ics :2014/06/11(水) 22:53:50 gdJJeejM0
>>412
ありがとうこざいます。
星の反応は少し考えてたんですけど放送パートを入れると、
構成上どうにもテンポが悪くなってしまいそうなのでバッサリ削りました。
やはり不自然だ、という意見が多ければ修正いたします。


414 : 名無しさん :2014/06/12(木) 00:32:37 qDCfD5rA0
投下乙です。

あ、有りのまま今起きたことを話すぜ**
起きてみたら孕んでいた。
何を言ってるかわからないだろうが、事実だ**
制御棒が無いとか、足が動け無いとか、そんなチャチなものじゃなく、もっとバトルロワイヤルの恐ろしさの片鱗をあじわった気がするぜ**


415 : 名無しさん :2014/06/12(木) 00:57:43 ziSE/Z1M0
>>413
◆qSXL3X4icsさんが必要ないと判断されたのならそのままでいいと思います
放送の描写をお空とさとりを襲う前に入れると、誰が奇襲するのか早い段階で分かって
しまいますし、襲撃後は今のところ入れる余地がないと感じたので


416 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/12(木) 23:06:19 Dez1Fq7g0
ジョセフ、橙、霖之助、てゐで予約します


417 : 名無しさん :2014/06/13(金) 07:40:22 c/PT3e160
橙と霖之助か。前から気になってたんだよね
ガンバレー!


418 : 名無しさん :2014/06/13(金) 23:22:37 o3CN6xjw0
ジョセフのあのふざけたノリはこの殺伐とした世界で一種の
癒しで有る。…気絶してるが


419 : 名無しさん :2014/06/14(土) 07:13:06 xEPTtD5k0
お前は次に「投下します。」と言う。


420 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/06/14(土) 23:19:00 2YjwVdlA0
すいません、ちょっと今日中の投下は出来そうにないので一旦破棄します
だいだい書き上がってはいるので、他の方の予約がなければ月曜以降に投下したいと思います
本当にすいません


421 : 名無しさん :2014/06/14(土) 23:25:05 cvvR1Hvw0
他の人も無理そうだな。今日中だし。


422 : 名無しさん :2014/06/14(土) 23:31:00 kYlelEOA0
他の書き手さんの期限は3人が17日(延長済み)、1人が19日だぞ


423 : 名無しさん :2014/06/15(日) 02:02:54 xU50mU260
あれ、14じゃなかった?
こりゃうっかり。


424 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 02:32:41 kRENIs/U0
予約分投下させていただきます


425 : 彼は殺しの王  ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 02:33:50 kRENIs/U0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『吉良吉影』
【午前5時55分】サンモリッツ廃ホテル 休憩室

吉良吉影が仗助と康一を脅した後

彼は一人大広間近くの休憩室にいた

誰かと一緒にいたら何か話題をふられ話しかけられるだろう

そう考えパチュリーが言った組み分けまでここでゆっくりしようと考えた

休憩室にあった少しボロっちぃソファに腰掛け

エニグマの紙をポケットから取り出すと

ゆっくりと紙を開き自らの支給品を取り出し

吉良の手にはDISCと一切れの紙が握られていた

「私のもう一つの支給品だがこれは一体なんだ…」

一緒に同封されていた紙を少し読んでポケットにその紙を押し込んだ

「『頭に挿入して使ってください』か」

「頭に挿すって…何とも言えぬ説明だな
誰もいないから今のうちに確認してみるか…」

「頭に挿すって…こういうかんじか?」

吉良は頭にDISCをくっつけるとDISCがゆっくりと吉良吉影の頭の中に入っていった


426 : 彼は殺しの王  ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 02:34:34 kRENIs/U0
「頭の中に全て入ったが…」

「特に身体的に変化はなし…どうやらハズレだったようだな…」

吉良はため息をつき足を組んでソファに座り直した

右頬に右手をついた途端吉良は驚愕した

「私の…右手が…!」

すぐさま自分の手のひらを確認すると手のひらには氷が張っていた

背後になにかいる…!

そう感じた途端すぐさま振り返るとそこには翼の無い翼竜の化石のような生き物が突っ立ていた

普通の人間ならただ驚くだけだろう

しかし吉良はスタンド使いであるためすぐに悟った

「こいつはスタンドだ…しかし誰のスタンドだ、こんな近距離なら普通もう攻撃してるはずだ…
ここはいったん離れた方が良さそうだ…」

吉良はそのスタンドを睨み付けたまま後退するがそのスタンドも吉良吉影の速さにあわせて近づいてきた

「不気味なやつだ…そっちから攻撃してこないなら私からいかせてもらうぞ」

吉良はそのスタンドに向けて自らの拳を振りかぶった

キラークイーンの全体像を出して誰かに見られたら収拾がつかなくなると考え自らのスタンドの腕だけを出して殴りかかった

そして謎のスタンドの顔に一発拳を殴り込んだ途端

吉良の頬に痛みがはしった

「うぐっ!なっなんだ!?一体?!このまま殴るのは何かやばい!」

吉良吉影はすぐさま拳の軌道を変えた

殴り抜ける前になんとか軌道を変えれたため致命傷にはならずにすんだが吉良の頬は赤く腫れていた

「こいつを殴った瞬間私に痛みが…まさかこいつ…」

吉良はポケットにあるくしゃくしゃになったメモを再度確認するとDISCについての説明が書かれていた

DISCはスタンドDISCという支給品

そして吉良が得たスタンドの名は『ホルス神』


427 : 彼は殺しの王  ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 02:35:48 kRENIs/U0
「私としたことが…ちゃんと最後まで読むべきだったな」

殴った頬をホルス神で作った氷で冷やし吉良吉影はソファに座り込んでいた

「どうやらこのスタンドは氷を作る能力があるのか」

そして今度は空中に氷を作り壁に向かってその氷を射出した

「なるほど…ミサイルのように射出することも可能なのか」

「ふふ、なかなかいいものを支給してくれるじゃないか主催者のやつら」

悪いこと続きの吉良にとってこのスタンドDISCの支給に喜んだ

壁に掛けてあった時計を確認すると短針が6時を指していた

「虹村億泰それに空条承太郎…やつらがくたばってくれるとありがたいが」

マイクテスト、マイクテスト……










…話しが長くなったようだが、これで第一回放送を終了する。
次の放送は昼の12時だ。それまで諸君の健闘を祈る

「この6時間でなかなかの人数が死んでいるな、しかし…」

「肝心の2人はまだ生き残っているのか」

「特に空条承太郎、やつだけとの接触は避けなければ…」

吉良は地図を広げ禁止エリアの確認をした

そして自分の小指に少し傷をつけ、血を出し地図の禁止エリアに印をつけた

「この傷は仗助に直してもらうとして、放送も聞いたことだし大広間に戻るかな」

吉良はソファから立ち上がり、頬を冷やしていた氷を投げ捨て大広間に向かう途中ホルス紳について考えた

こいつのことは誰にも話さないでおこうと、
戦闘をさけるために自分が生き残るためにとそして


(生き残る…もし仗助や億泰そして康一、こいつらが残りの3人になったら誰が生き残るのだろうかな)

(誰かが自らの命を絶つのだろうかそれとも阿鼻叫喚して殺し合いをするのか)

(…いや、やつらが殺し合う事はしないだろうきっとどいつもこいつも自分が死のうとするだろうな)

「どちらにしろ生き残るのはただ一人なんだ、この運命に押しつぶされるやつがでてくるのも時間の問題だろうな」

吉良吉影の足はゆっくりと大広間に向かっていった


428 : 彼は殺しの王  ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 02:37:14 kRENIs/U0
吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:ストレス 右手小指に小さな傷 右頬が少し赤く腫れている
[装備]:スタンガン@現実  スタンドDISC「ホルス神」@ジョジョ第3部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:東方仗助、広瀬康一をどうにかして抹殺する。
2:他の参加者同士で精々潰し合ってほしい。今はまだは様子見だ。
3:無害な人間を装う。正体を知られた場合、口封じの為に速やかに抹殺する。
4:空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
5:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
6:ホルス紳しかり、私のスタンドのことは誰にも話さない

[備考]

※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※自身のスタンド能力、及び東方仗助たちのことについては一切話していません。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
  ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※吉良は慧音、天子、ぬえ、パチュリー、夢美、にとりの内誰か一人を爆弾に変えています。
  また、爆弾化を解除するか爆破させるまでは次の爆弾化の能力は使用できませんが、『シアーハートアタック』などは使用可です。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。



<スタンドDISC 「ホルス神」@ジョジョ第3部>
破壊力:B スピード:B 射程距離:D 持続力:C 精密動作性:C 成長性:D
吉良吉影に支給。
スタンド像は翼の無い翼竜の化石のような姿
大気中の水分を凍らせ氷の塊をつくることができる
つららのような形に作ることも可能で
そのつららをミサイルのように射出することも可能
このつららの届く範囲はハンドガン程の範囲です
自らの体に氷を張ることも可能です
原作では車より大きな氷を作成していましたが本ロワでは制限されています
どの程度まで大きく作れるかは今のところ不明です


429 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 02:38:27 kRENIs/U0
以上で投下を終了します
誤字脱字
おかしな点があったら教えてください


430 : 名無しさん :2014/06/16(月) 03:00:05 KhJN7OXA0
投下乙です
吉良はここからどうするのか...
少し気になったのですが、一人がスタンドを二つ持つことは可能でしたっけ?


431 : 名無しさん :2014/06/16(月) 03:04:31 BWOVU9XY0
投下乙です。
新たな能力を手に入れた吉良
一人がスタンド複数に関してはスタンド使いのエンポリオがウェザー・リポートのDISC挿入できますね
ちょこっとだけ気になった点を挙げると、地図の禁止エリアに指を傷つけて血で印を付けてましたが
基本支給品に筆記用具が入ってますし普通にそっちで印付けられる気がしますね…


432 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 03:09:33 kRENIs/U0
>>430
いろいろと読み返したのですが、スタンド使いがスタンドDISCを使っている描写がなかったので可能とさせていただきたいです
もし不可能という描写があったら修正します


433 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 03:11:37 kRENIs/U0

>>431
申し訳ありません…修正します


434 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 03:14:32 kRENIs/U0
>>427

吉良は地図を広げ禁止エリアの確認をした

そして自分の小指に少し傷をつけ、血を出し地図の禁止エリアに印をつけた

吉良は地図を広げ禁止エリアの確認をした

そして筆記用具を取り出し禁止エリアにバツ印をつけていった


に修正します


435 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 03:16:35 kRENIs/U0
[状態]:ストレス 右手小指に小さな傷 右頬が少し赤く腫れている

[状態]:ストレス 右頬が少し赤く腫れている

に修正します


436 : 名無しさん :2014/06/16(月) 11:34:52 KaGA548g0
エンポリオの前例があるから通るものの、書き手さんの「使ってる描写がない=使えないこともない」理論はあまり好まれるものではないから注意な
もちろんパロロワならではのクロスオーバーや原作になかった展開みたいに可能性を広げることができるから、使い方次第だけど


437 : 名無しさん :2014/06/16(月) 14:49:16 HoRdgQuI0
ぶっちゃけこれいいの?
同時に2体使えてるし、極端な話、3枚でも4枚でも行けるって事になるんじゃないの?


438 : 名無しさん :2014/06/16(月) 15:10:41 jsKkVZEw0
ルール上は可能。
個人的にはDISCじゃなくてペット・ショップの方がいいと思った。
2体同時は多分他の書き手さんはやる気ないと思うので。


439 : 名無しさん :2014/06/16(月) 15:16:31 gkj5m6tQ0
まぁ正直一人がスタンド二つって強すぎるし、禁じ手な空気はあった


440 : 名無しさん :2014/06/16(月) 15:21:12 TZfgsrBc0
今後にも影響しそう
例えば、吉良がスタンドを二体使用している様子を他キャラが見て、真似してスタンド二体持ちが増える可能性もあるし
精神疲労を大きくするなりして、デメリットは増やした方がいいんじゃないかな


441 : 名無しさん :2014/06/16(月) 15:47:05 FhEezZAA0
議論の必要ありか・・・?


442 : 名無しさん :2014/06/16(月) 15:51:21 kRENIs/U0
二体同時に使うと疲労が溜まりやすくなるって制限をつけるべきかね
他には、スタンド像を出せるのは一体だけだが能力は二つ使えるってのは…


443 : 名無しさん :2014/06/16(月) 16:18:09 BWOVU9XY0
まあ確かにそれもそうか
スタンド使いがDISC挿入はエンポリオが実際に行っているから可能だろうけど
ただでさえスタンド持ちってだけで大きなアドバンテージなんだし、流石に一人がスタンド二つ保有は制限を重くするべきではあるか
制限を課すとしたら「二つのスタンドを保有していてもエコーズみたいに切り替えで一体ずつしか使用出来ない」とか
もしくは「スタンドパワー及び体力の消耗が激しくなる」とかそれくらいでいいんじゃあないかな

あと>>437でツッコミ入れられてるけど、その辺は流石にナシだろうな>スタンドDISCを一人に複数枚挿入


444 : 名無しさん :2014/06/16(月) 17:48:53 WVxlfUIY0
スタンドを複数獲得できるとなると組み合わせ次第でかなりヤバいな
せめて吉良とホルス神が相性が良いとか何か理由付けが欲しい
個人的には相性が良い組み合わせとは思えないけど


445 : 名無しさん :2014/06/16(月) 17:53:40 TaQoTaOs0
まあスタンドあるなしだけでも結構な戦力差になりますしね、今
二つのスタンド能力を同時に使うことはできないとか
疲労が激しくなるとか、制限は重くしたほうがいいかも


446 : 名無しさん :2014/06/16(月) 18:03:42 T33iJ9TM0
とりあえず議論スレ行きですかね
どっかのサイトに考察とか載ってないかな


447 : 名無しさん :2014/06/16(月) 18:05:42 HoRdgQuI0
極悪なコンボもそうだけど、物理無効の盾になるのがヤバいと思う
片方を壁にして、片方で攻撃とかされるとタイマンだとマズい


448 : 名無しさん :2014/06/16(月) 18:30:20 TZfgsrBc0
書き手当人がわざわざ名前も口調も変えて第三者のように議論に参加してるのはなんでだ
スタンド二体持ちはそこまでして通したい案件なのか


449 : 名無しさん :2014/06/16(月) 18:32:53 BWOVU9XY0
>>448
単にトリップ付け忘れただけでは…?


450 : 名無しさん :2014/06/16(月) 18:34:28 T33iJ9TM0
あ、本当だ
ここは書き手として堂々と意見出すべきでしたね。ここの住人は比較的穏健だから聞き入れると思いますし


451 : 名無しさん :2014/06/16(月) 18:35:48 ZzCS88Bk0
疑問スレだとFFが水を熱湯に変えるスタンドを入れられて使った例も含めて
スタンド使いもスタンドDISCを使用可能だがコントロール不能って解釈されてるな
あくまで解釈の一つにすぎないからなんとも言えないけど


452 : 名無しさん :2014/06/16(月) 18:38:25 T33iJ9TM0
続きは議論スレでやろうか


453 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 18:40:57 kRENIs/U0
申し訳ありません
トリップ付け忘れです本当に申し訳ありません


454 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 19:59:19 kRENIs/U0
投下したのを全て破棄して明日までに書き直します
皆様本当に申し訳ありません


455 : 名無しさん :2014/06/16(月) 21:01:05 UffDFjds0
文章に毎度行間挟むと少し読みにくいから全体的に見やすさを考えると良いかも


456 : 名無しさん :2014/06/16(月) 21:26:24 E9IOAz7Y0
>>451
関係ないけどあの話、個人的には水を熱湯にする能力が、
バオー来訪者の超能力者「ウォーケン」の分子振動能力っていう解釈が面白かったな
あれも制御する為のヘッドホンが外れると周囲のものが煮え始めたし


457 : 名無しさん :2014/06/16(月) 22:22:42 6osULR0MO
同じ作品からのランダムアイテムを制限したのは、DISC大量支給を防ぐ意味もあったのかな。


458 : ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 23:40:47 kRENIs/U0
書き直し分投下します


459 : キャプテン翼は映らない ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 23:41:46 kRENIs/U0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『吉良吉影』
【午前5時55分】サンモリッツ廃ホテル 休憩室

吉良吉影が仗助と康一を脅した後、彼は一人大広間近くの休憩室にいた
誰かと一緒にいたら何か話題をふられ話しかけられるだろう
そう考えパチュリーが言った組み分けまでここでゆっくりしようと考えた
休憩室にあった少しボロっちぃソファに腰掛け
エニグマの紙をポケットから取り出すと
ゆっくりと紙を開き自らの支給品を取り出すと
吉良の手には一匹の亀がつかまれていた
「私のもう一つの支給品だがこいつはいったい…」
一緒に同封されていた紙を読んでポケットにその紙を押し込んだ
「『とりあえず亀の背中の宝石を触れろ』か」
メモの通り亀の背中にはには大きな鍵がはめ込んでられており、鍵の持ち手部分には宝石がはめ込んであった
「触れるとどうなるのだろうな…
誰もいないから今のうちに確認してみるか…」
再度周りに誰もいないことを確認すると、ゆっくりと宝石に手を触れた途端
吉良の体は亀の中に吸い込まれていった


460 : 名無しさん :2014/06/16(月) 23:41:50 0JrwqOYs0
やめて


461 : 名無しさん :2014/06/16(月) 23:51:10 5NiapSqk0
そういや原作でも吉良はスタンド二つ操っていたな。


462 : キャプテン翼は映らない ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 23:51:29 kRENIs/U0

「ここは一体…?」
吉良吉影がまず周りを見渡すとそこはホテルの一室のようになっており、テレビや冷蔵庫、新品のソファに椅子に横長テーブル
そしてクローゼットがあった
「私はさっきまではボロいホテルにいたはずだが…亀はどこにいったんだ?」
再度周りを見渡すと壁に一枚の紙が貼り付けてあった
壁に貼り付けてあった紙にはこう書かれていた

『ようこそ、ここは亀の中だ。この亀の背中にある宝石に触れればこの亀に入ることが可能だし、
 出る場合はソファとかを踏み台にして天井から体を出すようにすれば亀から出ることもできる
 ちなみに、亀の中に入ってる場合でも亀の意識はあるから亀は勝手に行動するよ
 最後に注意点だが誰かがこの亀に入ってるときにこの亀を紙にしまうと
 強制的に亀から追い出されるから注意してね、それでは亀の中でゆっくりしていってね!!』


463 : キャプテン翼は映らない ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 23:52:01 kRENIs/U0
紙を読み終えた吉良は部屋の中を探索し始めた
まずクローゼットを開くとクローゼットの床にはジッパーがつけており吉良はそのジッパーを開いた
「…ジッパーを開いたが中は真っ暗だな、これはゴミ箱みたいな物かな」
「ここで用を足したりは…まあたぶん亀は平気だろうな、結構栄養にするかもな」
次に吉良はテレビを調べた
テレビの側面には26個のもボタンがついておりそれぞれ番号が振られていた
吉良は興味本位で1番のボタンを押すとテレビがつき
一人の不細工な男が崖下で転落したであろう馬車の荷物をあさっていた
「アニメか…さしずめこの話は第一話なんだろう、時間ができるかは分からないがおもしろそうだからできれば暇な時に見ようかな」
吉良はテレビの電源をけし、天井を見上げるとそこには先ほどまで自分がいた場所が映し出されていた
「亀の中というのは嘘ではないようだな…」
テーブルに置かれていた時計を確認すると短針が6時を指しており吉良は椅子を踏み台にして亀から出ると
亀を抱えさっきまで自分が座っていたボロっちぃソファにまた腰掛けた
「虹村億泰に空条承太郎…やつらがくたばってくれるとありがたいが」

マイクテスト、マイクテスト……










…話しが長くなったようだが、これで第一回放送を終了する。
次の放送は昼の12時だ。それまで諸君の健闘を祈る

「この6時間でなかなかの人数が死んでいるな、しかし…」
「肝心の2人はまだ生き残っているのか」
「特に空条承太郎、やつだけとの接触は避けなければ…」
吉良は地図を広げ禁止エリアの確認をして、筆記用具を取り出し地図の禁止エリアに印をつけた
「さて、放送も聞いたことだし大広間に戻るかな」
吉良はソファから立ち上がり、亀を紙に再度しまい
最後には誰が生き残るのかと考え出した

(…もし仗助と億泰と康一、こいつらが残りの3人になったら誰が生き残るのだろうかな)
(誰かが自らの命を絶つのだろうかそれとも阿鼻叫喚して殺し合いをするのか)
(…いや、やつらが殺し合う事はしないだろうきっとどいつもこいつも自分が死のうとするだろうな)
「どちらにしろ生き残るのはただ一人なんだ、この運命に押しつぶされるやつがでてくるのも時間の問題だろうな」
吉良吉影の足はゆっくりと大広間に向かっていった


464 : キャプテン翼は映らない ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 23:52:33 kRENIs/U0
吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:ストレス 右手小指に小さな傷 右頬が少し赤く腫れている
[装備]:スタンガン@現実  
[道具]:基本支給品 ココジャンボ@ジョジョ第5部
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:東方仗助、広瀬康一をどうにかして抹殺する。
2:他の参加者同士で精々潰し合ってほしい。今はまだは様子見だ。
3:無害な人間を装う。正体を知られた場合、口封じの為に速やかに抹殺する。
4:空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
5:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
6:亀のことは自分の支給品について聞かれるまでは黙っておこうかな

[備考]

※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※自身のスタンド能力、及び東方仗助たちのことについては一切話していません。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
  ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※吉良は慧音、天子、ぬえ、パチュリー、夢美、にとりの内誰か一人を爆弾に変えています。
  また、爆弾化を解除するか爆破させるまでは次の爆弾化の能力は使用できませんが、『シアーハートアタック』などは使用可です。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。

ココジャンボ@ジョジョ第五部
ミスター・プレジデント
【破壊力:E / スピード:E / 射程距離:E / 持続力:A / 精密動作性:E / 成長性:E】
亀のステンド使い
背中の宝石に触れると亀の中にある部屋に引き込まれる
部屋の中はテレビや冷蔵庫、ソファに椅子に横長テーブル、クローゼットがある
テレビには26個のボタンがつけられており、ジョジョの奇妙な冒険第一部と第二部のアニメを視聴することが可能です
ただしキャプテン翼はうつりません
冷蔵庫にはまだ何も入っていません
クローゼットの中にはジッパーが地面についており、いろいろな物を捨てることが可能です
ちなみにいくら物を捨てても亀には影響ありません
ちなみに荒木先生はインタビューこの亀のスタンドを、T-レックスと答えましたが
本ロワではJOJO A GOGOでの、ミスター・プレジデントでいきます


465 : キャプテン翼は映らない ◆fLgC4uPSXY :2014/06/16(月) 23:55:33 kRENIs/U0
以上で投下を終了します
誤字脱字
おかしな点があったら教えてください


466 : 名無しさん :2014/06/16(月) 23:58:32 BWOVU9XY0
修正乙です。
ココ・ジャンボに変更か
動植物のスタンド使いとなれば猫草とかも支給されてるしこれなら大丈夫そうかな
単一ジョジョロワでは支給品常連だけど、此処だと何気にようやくの登場という…


467 : キャプテン翼は映らない ◆fLgC4uPSXY :2014/06/17(火) 00:07:45 kC6aMzU.0
吉良吉影の状態ですが

吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:ストレス 右手小指に小さな傷 右頬が少し赤く腫れている



吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:ストレス

に修正します


468 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/17(火) 00:22:20 GeuhO8Yo0
ごめんなさい。執筆が間に合いそうもないため、>>293の予約を一旦破棄します。


469 : 名無しさん :2014/06/17(火) 00:47:54 hmH0kdzo0
>>465
修正投下乙です。
一つさっきから気になっていたんですが、
文の中全体に句読点を入れた方がいいかもしれません。
所々あったりなかったりしてて気になったもので。


470 : 名無しさん :2014/06/18(水) 00:57:40 Namu0Xgc0
あ、あれ…?確か今日が期限だった気が……


471 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/18(水) 01:10:38 Gc5kNYEc0
報告が遅れて申し訳ございません、一旦予約破棄させて頂きます。
ほぼ完成してるので翌日ゲリラ投下予定です。


472 : 名無しさん :2014/06/18(水) 02:23:24 obdAZzbY0
ゲリラ投下するって予告するのは暗に予約してるのと変わらないんじゃ
つまり「俺もうゲリラ投下できるほど書いてるから他の奴は予約すんなよ、空気読めよ?」ってことでしょ


473 : 名無しさん :2014/06/18(水) 02:29:47 L2Wkaync0
書き手も読み手も安心するためだよ


474 : 名無しさん :2014/06/18(水) 02:37:27 X0CsHydg0
「人間は誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる」 からね
仕方ないね


475 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/18(水) 02:57:59 Gc5kNYEc0
>>472
勿論他の書き手さんが予約して頂いても大丈夫です。
予約破棄後の24時間ルールはその為にあるのだと思いますし。


476 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/18(水) 13:22:37 ulgE.zKw0
>>468
花京院典明、東風谷早苗

再予約します。

私は、絶対書ききるマン……なんだぜ、きっと


477 : 名無しさん :2014/06/18(水) 15:49:53 AgG4FfKI0
微妙に気になってる緑コンビなんだよな


478 : 名無しさん :2014/06/18(水) 17:03:49 dmdxe0Xk0
歳もおそらく同じくらいだ


479 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/19(木) 00:01:36 nemdcAlk0
予約の延長します


480 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:11:38 YLVREm260
八意永琳、リンゴォ・ロードアゲイン
投下します。


481 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:13:34 YLVREm260


東の方角からゆっくりと光が射し始める。
夜明けの時刻が訪れたのだ。
木々の間から覗く藍色の空は徐々に澄んだ蒼へと染め上げられていく。
広大な空の遥か彼方―――――月の上では決して目にする事の出来ない情景。
下賎な地上の民に不相応な程に美しい。
しかし、そんな光景を眺めている暇は今の彼女にはない。

――――――おはよう、参加者の諸君。荒木飛呂彦だ。

このゲームにおける最初の放送が始まりを告げていたからだ。


482 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:14:59 YLVREm260

(18人…まぁ、そこそこのペースかしら)

C-5、魔法の森。
樹木の幹に腰掛ける『八意永琳』はひとまず輝夜達の名が呼ばれていないことに胸を撫で下ろす。
当然のことだが、この場において知り合いと呼べる人物は殆どいない。
故に放送読み上げられる名も知らないものばかりだが、シュトロハイムから聞いたシーザー、スピードワゴンの名は耳に入った。
老人であるスピードワゴンはともかく、柱の男とやらに対抗する術を持つというシーザーが脱落したのは少々痛手か?
否、ゲーム開始からたったの6時間で命を落とした人物だ。
その時点で実力の程度はたかが知れているだろう。

(それにしても、今の「放送」…機材の類いは一切使っていないようね。
 まるで頭の中でテレパシーの様にはっきりと聞こえてきた。
 奴らはどうやって放送を私達に伝えた?…そもそも、私達の生死を把握する手段は一体?)

先の放送でも伝えられた様に、主催者は参加者一人一人の生存状況を正確に把握している。
ゲームを促進させる為に流した虚偽の死亡者情報である可能性も考慮したが、その見込みは薄いだろう。
このゲームの会場は6×6㎢。そこに90名もの参加者が放り込まれている。
他の参加者との遭遇する可能性が高い以上、死亡者の発表で安易な嘘を流した所ですぐに暴かれる危険性があるのだ。
故に先程の放送の内容は概ね事実であると判断した。
とはいえ、参加者の生死を確認する方法も私達に放送を伝えている手段も不明のままだ。
謎は未だに幾つも残っている――――

「………」

思考を重ねていた最中、永琳があさっての方向へと目を向ける。
直後に雑草を踏み頻る足音が断続的に耳に入ってくる。
誰かがこちらへと少しずつ接近してきているのだ。
永琳は手早く名簿と地図をしまい、その場から立ち上がる。
最低限の警戒を払いつつ足音が聞こえる方向を見た。

ゆらり、ゆらりと木々の陰から姿を現す人影。
木漏れ日が射し、その姿がはっきりと見えてくる。
右手に拳銃を握り締めた白髪の男だ。


483 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:15:37 YLVREm260

「……………」

男はうんざりしているかの様に眉を顰めつつも視線を向けている。
口を閉ざたまま永琳を真っ直ぐ見据えてくる。
どこか見覚えがある。
そう思って永琳は記憶を遡り、すぐにそのことを思い出した。

(確か姫海棠はたてのメールマガジンで記事で…)

『花果子念報メールマガジン』の第一号にこの男の写真が載っていた。
B-4で発生したガンマン同士の決闘、うち片方が敗北し射殺されたという記事。
命の遣り取りをもスクープにしてしまう辺り、地上の民が如何に穢れているかが見て取れる。
ともあれ、現状の問題は目の前の男だ。
あの記事に書かれていたことが真実であるのなら。

(あの記事が真実なら、この男はスデに他の参加者を殺しているということになる)

永琳は思う。正々堂々とした決闘―――そう評すれば聞こえはいい。
しかし、その本質は殺し合いと何ら変わりない。
この男も殺人者に過ぎないのだ。
問題は『乗っているかどうか』。
もう片方の男が戦いを挑み、返り討ちに会ったのか。
もしくはこの男から決闘を仕掛けて相手を殺害したのか。
この男が抱える殺意の方向性を、殺し合いへのスタンスを見極めなければならない。

そうして永琳が思考を重ねている最中でも男は無言を貫き、彼女をじっと見つめていた。
暫しの沈黙の後、男が話を切り出す。

「質問をさせてもらう。金髪金眼の赤い服を着た少女を探している」


484 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:16:40 YLVREm260


「生憎だけど、知らないわ」

永琳はきっぱりと答えた。
事実、そのような人物のことは知らない。
知っているのは永遠亭の面々と藤原妹紅、あとはこの場で出会っているシュトロハイムくらいのものだ。
「金髪金眼の赤い服を着た少女」という特徴はシュトロハイムから聞いた波紋戦士らの情報とも一致しない。

「その子はあなたの知り合い?」
「俺がこの手で決着を付けなければならない『敵』だ」

男は淡々とそう語る。
表情は落ち着き払ったポーカーフェイスのままだ。
しかしその言葉からは微かに『憤怒』と『殺意』が滲み出てる。
本人は冷静を装ってるつもりなのかもしれないが、最早それを隠し切れていない。
その少女と一体どのような因縁があるのか、知る由もない。
ただ一つ解ることと言えば、その少女が男の逆鱗に触れるような行為をしたということだけだ。
そう、この男に殺意を抱かせる程の行為を。
故に永琳は問いを投げかけた。


「…殺すつもりなのね」
「そうだ」


男はきっぱりと返答する。
何の躊躇も無く、いとも容易く己の殺意を肯定した。
それを隠し切れていないのではなく、隠すつもりさえ無かったらしい。
やはりゲームに乗っているのか。或は殺人に対して一切の抵抗を感じない人種か。

「俺の目的はただ一つ、公正なる果たし合いだ。
 純然たる殺意による『男の価値観』、卑しさの無い正々堂々とした『決闘』こそが俺を精神的に生長させてくれる。
 あの小娘はそれを踏み躙り、決闘者であるグイード・ミスタの不意を討った」

直後、饒舌な口調で男は語り出した。
その言葉の端々から滲み出るのは『熱意』。
己の信念を貫かんとする『意志』。
それらは先程までの冷静沈着な男の様子からは見られなかったものだ。


「故に俺は決着を付けなければならない。
 男の世界を侮辱した愚者をこの手で仕留めなくてはならない」


そして、男は一息置き。




「それが俺にとっての『納得』だ」


485 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:17:14 YLVREm260

自らの信念に殉じ、己の道を進み続けるべく。
踏み躙られた誇りを取り戻し、自らの手でけじめを着けるべく。
男は、少女に挑むことを宣言する。
それは命を課してでも貫かなければならない矜持。
己に取っての『納得』を得る為の行動。

その眼に迷いは無い。
彼の瞳に宿るのは『漆黒の殺意』。
それは軟弱な価値観では踏み入ることの出来ない――――『男の世界』。

そんな男を永琳は何も言わずに見据え続けていた。
月人の灰色の瞳は、漆黒の焔を宿す瞳と相対し続ける。
彼女は何も口に出さない。男もまた、沈黙を貫く。
暫しの睨み合いが続いた後、男が再び口を開いた。


「いい眼差しをしているな」


486 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:18:42 YLVREm260

「あら、褒めてくれてるのかしら?」
「先程の小娘は期待外れだったが、お前は楽しめそうだ」

淡々と、しかしどこか期待しているかのような口振りで男は呟き出す。
軽口を適当に受け流された永琳はほんの少し不服な心境になるが、然程気にすることも無く冷静な態度で男を見据える。

少しの間を置いて、男はその肩に『精神力のエネルギー』を纏わせながら言葉を紡ぎ出す。


「名乗らせて頂こう。俺はリンゴォ・ロードアゲイン。
 スタンド名は『マンダム』…能力は『時を6秒間巻き戻すこと』。
 これから使う武器はこの一八七四年製コルト一丁。
 …俺の手の内は以上だ。お前に決闘を申し込ませて貰う」


リンゴォ・ロードアゲイン―――――――そう名乗った男の右肩に、突如奇妙な物体が出現する。
それは蛸の様な姿をした異様極まりない存在。
無数のワイヤーがリンゴォの肩と腕に捩じ込まれているかの様に絡み付いている。
永琳は唐突にリンゴォの肩に出現した物体を見て心中で僅かながら驚愕する。

(『スタンド』……?)

リンゴォが口にしたのは聞き慣れぬ概念。
時を6秒巻き戻す能力を持つという『スタンド』。
時間遡行となると、永遠と須臾という『時』を操る能力を持つ輝夜にも行えない芸当だ。
幻想郷にも数多くの異能力者が存在するとは聞いているし、強大な能力を持つ月の民も珍しくはない。
しかし、あのスタンドなる存在は自分の知識の範疇に無い全く未知のものだ。
まるで傍に立つ守護霊のような―――――思えば、メールマガジン第二号で掲載されていた長身の女にも守護霊のような存在が憑いていた。
あれも『スタンド』だというのだろうか。スタンドを持つ者はこの会場に何人もいるというのか。
兎に角リンゴォは何の躊躇も無く自らの能力を明かしたのだ。
そう、永琳に決闘を申し込むべく。


「…自分から手の内を明かすというのね」
「『公正さ』こそが掟であり、掟こそ力“パワー”だ。故に俺は全ての手の内を明かす」
「成る程、見上げたものね。それで…私に決闘を?」
「そうだ。お前の『眼』から力を感じた。
 例え何があろうと自らの意思を貫き通す『漆黒の意志』を見たのだ。
 …先程の小娘は腑抜けだったが、お前ならば期待が出来そうだと…そう思ったが故、決闘を申し込ませてもらった」


自らの手の内を明かし、正々堂々と決闘を行う。
ある意味では幻想郷におけるスペルカードルールと似ているとも言える。
しかし、リンゴォの瞳に宿る信念は寧ろ幻想郷の在り方と真っ向から反するものだ。
永琳はそれに薄々感付いていた。


487 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:19:13 YLVREm260

「…では、私もそうさせて貰うとしましょうか。
 名は八意永琳。能力は…そうね、『あらゆる薬を作ること』と『不老不死』。
 そしてもう一つ、霊力を弾丸やレーザーに変換して放つ…謂わば『弾幕』」


ほんの少しの間を置き、永琳もまた淡々と自らの手の内を晒す。
ほう、と感心した様にリンゴォは彼女を真っ直ぐ見据える。
やはり自分の見込んだ通りだったか。
この女の眼からは確かな素質を感じた。
受け身の態度を貫く『対応者』ではなく、一人の『決闘者』としての意志。
目的の為に殺意を以て立ち向かうことの出来る信念。
故に彼は期待を胸に抱いていた。

「…感謝する」
「何、貴方に付き合ってあげるだけよ。それより…もう始めるんでしょう?」
「ああ、そのつもりさ」

フッと僅かながら口元に笑みを浮かべるリンゴォ。
対する永琳は無表情のまま右手を腰に当て、身構えることも無く立ち尽くしている。
その姿からは余裕さえ感じられる程だ。
そんな永琳の態度を気に留めることも無く、リンゴォは両足を揃えて姿勢を正す。

互い睨み合うかの如く二人は視線を交わす。
暫しの静寂が場を支配する。
そして、沈黙を裂く様に二人が口を開いた。




「「――――よろしくお願い致します」」




頭を下げて一礼を行った直後、リンゴォが瞬時に動き出した。


銃を構える。
撃鉄を倒す。
引き金に指をかける。


そして、弾丸を放つ。


一瞬の動作で行われた早撃ち。
ガンマンとしての優れた技量によって為される技。
銃口より発射された黒鉄の咆哮は、凄まじいスピードで宙を裂いていく。
そのまま放たれた弾丸は風を切りながら永琳の眼前まで迫る――――――



「…へぇ」



迫り来る弾丸を見据える永琳の口元は、不敵に笑っていた。


488 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:19:46 YLVREm260

片手で顔の左半分を押さえながら永琳の身体が仰け反る。

放たれた弾丸が左目に直撃したのだ。

(何…?)

しかし、リンゴォはすぐさま違和感を覚えた。
永琳は何ら抵抗を試みぬまま撃たれたのだ。
銃弾を前にした彼女が取ったのは『首を少し横に傾げた程度』の回避行動。
脳の中枢への直撃を避けることはできたが、左目は弾丸によって撃ち貫かれていた。
眼球の半分以上を破壊され、潰れた瞼の奥底からは涙の様に鮮血が流れ落ちている。
一歩間違えば即死を免れなかったであろう。
にも関わらず、彼女は余裕を崩さなかった。
不遜な態度を保ち続けていた。


(躱しきれなかった?―――いや、『躱そうとしなかった』のか!?)


リンゴォの脳裏に憶測が浮かぶ。
永琳は避けられなかったのではなく、初めからまともに「避けるつもりがなかった」のではないか。
不死への慢心か――――否、違う。
あれはまるで『自分はお前に殺されない』とでも宣っているかのような余裕だった。
慢心などではなく、確信であるかのような。
汗が頬を流れ落ちる。
そのまま、彼は永琳へと再び眼を向けた――――



―――残された『右目』が、リンゴォを視る。

―――虚空のような灰色の瞳が、リンゴォを捉えていた。




その瞬間、リンゴォの背筋に悪寒が走った。
得体の知れない『虚無』が刹那の間だけ彼の心臓を掴んだ。
それは、永琳が反撃する為の『隙』となる。


「スペルカード――――」


左目から血を流しながらも永琳はその右手を正面へと向ける。
何かが来る。それを理解したリンゴォはすぐさま銃の照準を定め、引き金を引こうとしたが。



――――覚神「神代の記憶」。


489 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:20:21 YLVREm260

「ッ――――!!」

瞬間、突如周囲から無数のレーザーが放たれリンゴォに一斉に襲い掛かる。
リンゴォは咄嗟にその場から後退しそれらを回避。
しかしレーザーは森の樹木の隙間を交い潜り、生命を彷彿とさせる二分木の如く張り巡らされる。
さながら網目状の蜘蛛の巣にも見えるそれらのレーザーは、リンゴォの周囲を取り囲む。

そして間髪入れず、永琳の前方より無数の弾幕が放たれた。

リンゴォは頬から汗を流す。
迫り来るは無数の弾幕。
しかし、避けようにも周囲のレーザーが自らの動きを阻害する。
このままでは、躱し切れない――――!
リンゴォの判断は瞬時に行われた。
弾幕が自身に到達する寸前に、彼の指は腕時計の秒針を摘んでいた。
そして、リンゴォは自らの『スタンド能力』を発動する。



「『マンダム』ッ!」





――

―――

――――

―――――

――――――時は6秒巻き戻る。


490 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:21:40 YLVREm260

6秒前。それはリンゴォが永琳の頭部を狙って拳銃の引き金を引く直前。
永琳の片目が撃ち抜かれるほんの数瞬前だ。
巻き戻った瞬間、リンゴォは間髪入れずに永琳の急所目掛けて発砲しようとしたが――――

「今度はこっちの番よ」

それよりも先に永琳の身体が動く。
マンダムが時間を遡行させたと同時に永琳はリンゴォの動作よりも先に駆け出したのだ。
まるで時間を巻き戻すことも予想の範疇だったと言わんばかりに。
そのまま永琳は、風を切るような敏捷性でリンゴォへと接近していくッ!

「くッ――――!」

リンゴォは汗を頬から流し、迫り来る永琳に向けて何度も発砲する。
刹那の早撃ちによって放たれた弾丸のうち一発は永琳の右肩に着弾。
彼女の肩から真紅の鮮血が吹き出す。
ほんの一瞬だけ苦痛の表情を浮かべたが、それでも尚永琳は止まらない。
そのまま残りの弾丸を高い瞬発力によって回避し、リンゴォの懐へと肉薄するッ!

至近距離まで迫った永琳と距離を取るべく、咄嗟に後方へと下がろうとしたリンゴォ。
しかし永琳の方が『一手』早く動いた。


「――――覚神「神代の記憶」」


直後、再び網目状のレーザーが展開。
リンゴォと永琳の周囲がレーザーによって取り囲まれる。
後方へ下がり続けようとしていたリンゴォの動きが止まり、即座に永琳の方へと意識を向ける。
周囲を囲まれ退路を断たれた以上、最早距離を取ることなど出来ない―――!

「マンダ――――」

スタンドを発動すべく、時計の秒針を動かそうとした瞬間。
ぐらりとリンゴォの体勢が大きく崩れる。
再び接近した永琳が瞬時に足払いをし、彼の片足を刈ったのだ。
そのままリンゴォの身体が投げ飛ばされ、勢い良く背中から地面へと叩き付けられた。

衝撃で彼の右手から拳銃が離れ、雑草の上を僅かに跳ねる。
リンゴォは仰向けに倒れながら慌ててそれを回収しようとした。
しかし、それよりも先に永琳がリンゴォの拳銃を足で踏みつける。
そのまま永琳は身を屈めて手早く拳銃を回収。
右手で構えた銃口を仰向けに倒れるリンゴォの頭部へと向けた。


「勝負ありよ、リンゴォ」


灰色の瞳は冷淡に男を見下ろす。
僅か1分足らずの決着だった。


491 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:22:17 YLVREm260

「…俺が最初に引き金を引いた際、お前はまともに避けようとしなかった」
「そういえばそうだったわね」

戦闘を終えた為か、周囲に展開されていたスペルは既に消失している。
仰向けに倒れていたリンゴォが永琳に問いを投げかけた。
既に己の敗北を認めており、抵抗する様子は見せていない。
その顔に浮かべているのは死をも受け入れんとする清々しい表情だ。

「何故だ」
「……………」
「あと少しでも逸れていれば弾丸はお前の脳の中枢を破壊していただろう。
 にも拘らず、お前はまともに回避をしようとしなかった。何故だ」

リンゴォの胸中には疑問が浮かんでいた。
何故左目を打ち抜かれた時、まともに避けようともしなかったのか。
ほんの数センチ軌道が逸れていれば即死の可能性もあっただろう。
なのに、どうして永琳は躱そうとしなかったのか。

「強いて言うなら、貴方の攻撃で死なない自信があったから。
 それに私のスペルで貴方の身動きを封じれば勝手に時間を巻き戻してくれると思ったからよ。
 時間を6秒巻き戻すというのなら、6秒前までの負傷は無かったことに出来るようなものだしね」

永琳はそう返答する。
有りのままの事実を淡々と述べる様に。
リンゴォの表情が僅かに歪む。
『死なない自信があったから』。
つまり自分は侮られていたとでも言うのだろうか。

「……俺に、お前は殺せない。そう言いたいのか」
「さあ、どうでしょうね。それより、勝った側として聞きたいことがあるわ」

鋭い眼光で向けるリンゴォの言葉をはぐらかす様に永琳は話を切り替える。
何も言わず、しかし僅かながら不服な表情を見せるリンゴォ。
そんな彼を見下ろし、永琳が口を開いた。

「貴方が知っている参加者、そして今まで出会ってきた参加者について教えなさい。
 スタンドについても知る限りの提供して貰いたいわね」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


492 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:22:57 YLVREm260
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「…妹紅と会っていたのね、貴方」


木の幹に腰掛けるリンゴォ。その傍に永琳が立ち、彼を見下ろしながら呟く。
永琳はリンゴォより彼の知る参加者の情報、スタンドの概念、そしてこの6時間の内に体験した出来事を聞き出していた。
「家族を殺された」という金髪金眼の少女との邂逅。
弾丸の軌道を操るスタンドを持つグイード・ミスタとの決闘。
金髪金眼の少女による妨害、ミスタの死。
そして彼女を追い掛ける過程で遭遇した銀髪の少女――――藤原妹紅。
此処に至るまでの過程を事細かに聞き出した。

(妹紅とは一応協力関係を結べると思ってたのだけれど…
 この男の話が本当ならば、正直言って使い物になるかどうかすら怪しいわね)

リンゴォが体験した情報を脳内で租借する永琳。
彼の語る所では、妹紅は酷く精神を消耗しているらしい。
彼女は『死』を知った結果錯乱し、戦いが終わりを告げた頃には抜け殻同然になっていたという。
『前へ進む』ことを放棄した哀れな小娘――――とはリンゴォの談。
輝夜のことで協力関係を結べるだろう、と踏んでいたのだが。
その様子だと、今後妹紅と組むことは難しそうか?
例え組めたとしても『協力者』として使えるとは到底思えない。
出会ったとしても余り期待しない方がいいか。
永琳は一先ずそう結論付ける。

「ありがとう。まぁ、悪くない情報だったわ」

情報を引き出し終えた永琳は、ほんの僅かに微笑みつつ礼の言葉を口にする。
要求を飲んだ礼として、一度奪った拳銃は既にリンゴォの手元に返されている。
己の流儀を重んずるリンゴォが勝者の不意を討つような人間ではないことを理解していたからだ。
故に永琳は拳銃を渡した所で自分が攻撃される危険性は無いと判断した。
尤も、彼が所持していたもう一丁の拳銃は戦利品として予備弾ごと強引に拝借させてもらったが。

「…俺からも聞かせてもらうが、『姫海棠はたて』とやらは何者だ?」
「私も素性は知らない。記事の文面を見る限り幻想郷の住民だと思うけど」
「そうか…」

続いてリンゴォが問い質したのは姫海棠はたてのこと。
永琳による尋問の際、彼女の口からその存在を知ることになった。
同時に姫海棠はたてが自らの決闘を記事にしているということも知ることになる。
(この時、永琳はリンゴォに『メール』や『携帯電話』の概念を教えることに一苦労したという)
尤も、幻想郷との交流を持たない永琳もまたはたての素性に関しては認知していない。
それ故にはたてに関する会話はすぐに打ち止めとなった。


493 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:23:32 YLVREm260

「あぁ、最後に貴方に言っておきたいことがあるわ。
 蓬莱山輝夜、鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡てゐの三名には絶対に手出しをしないこと。
 そして彼女達と会った場合、伝言を伝えること。
 内容は…そうね。『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』。
 まぁ、放送までに貴方が会えればの話だけどね」

そう言って永琳は三人の外見に関する情報を事細かに伝える。
このリンゴォという男は約束を破ることはないだろうと確信していたが故に。
『特定の人物に手出しをしない』『伝言』という要求を提示されたリンゴォは暫しの間無言で彼女を見上げる。
その後ゆっくりと頷き、やや不服そうに条件を受け入れた。

「――――じゃあ、私はそろそろ行かせてもらうわ。
 ここまでの情報提供、感謝するわね」

それを確認した永琳はリンゴォに背を向け、足早にその場を後にしようとする。
一斉の警戒も無く彼に背を向けていた。
敗者への慢心なのか。或は、余裕の現れなのか。
どちらなのか、今のリンゴォには知る由もない。
ただ、去って行こうとする永琳に一つだけ聞きたいことがあった。
リンゴォは『敗者』として地に伏せることになった。
永琳は『勝者』。そんな彼女に問いただしたかった、ただ一つのこと。



「何故、俺を殺そうとしない」
「…さあ。何ででしょうね」



一瞬だけ振り返った永琳。
彼女の口から出たのは、はぐらかすような一言だった。


494 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:24:36 YLVREm260


(公正なる果たし合い、か)

リンゴォと別れた永琳は森の中を進み続ける。
彼女が脳裏に浮かべているのはリンゴォの語っていた理念。

―――曰く、漆黒の殺意。
―――曰く、公正なる果たし合い。
―――曰く、精神の生長。


(…馬鹿馬鹿しい)


永琳はただリンゴォの『遊び』に付き合っただけ。
スタンドとやらの能力を試す為に決闘を受け入れただけだ。
心中では彼の掲げる『漆黒の殺意』に嫌悪すら覚えていた。

己の生死すらも刹那の高揚に委ねるスタンス。
命を奪い合う死闘を賛美し、是とする姿勢。
生きることも、死ぬことも、彼にとっては一瞬の夢に過ぎないとでも言うのか。
自らの熱の為にそれらを投げ出すことも厭わないと言うのか。
はっきり言って―――――狂っている。

(リンゴォ・ロードアゲイン。貴方はその『殺意』を気高さだと思っているの?
 命を運命に預ける『果たし合い』を崇高な理念だと思っているの?
 …貴方の抱えているそれは信念なんかじゃあない。呪いの類いよ)

この男の信念に誇り高さなど存在しない。
己の狂気を妄信し、他者にまで強要する。
挙げ句の果てにそれを『高潔』だと信じて疑わない。
その姿には哀れみすら覚える。
あの男が長生きすることは決して無いだろう。
墜ちる所まで突き進み続け、己の身を滅ぼすのは解り切っている。

そして決闘の末の死を迎えた所で、彼はそれに満足するのだろう。
故に永琳は彼を殺さなかった。
少なくとも自分はあのような男を信念に殉じさせてやるつもりはない。

とはいえ、輝夜達を捜索する為の更なる人手を得られたこと、情報を得られたことは無駄ではなかった。
特にスタンドという未知の概念について知ることが出来たのは大きい。
恐らくこの会場には同様の能力者が他にも存在するのだろう。
シュトロハイムの語っていた『柱の男』共々、決して警戒を怠ることは出来ない。

(…やっぱり、そう簡単には乗り切れなさそうね)

今後新たなスタンド使い、あるいは更なる異能の存在を目の当たりにするかもしれない。
気怠げな感情を心中で抱く永琳。
しかし、彼女が足を止めることは無い。
輝夜達と共に生き続けることが、自分にとっての『贖罪』なのだから。


【C-5 魔法の森(北西)/朝】
【八意永琳@東方永夜抄】
[状態]:精神的疲労(小)、霊力消費(小)、右肩に銃創、再生中
[装備]:ミスタの拳銃(3/6)@ジョジョ第5部
[道具]:ミスタの拳銃予備弾薬(18発)、ランダム支給品(ジョジョor東方・確認済み)、携帯電話(通称ガラケー:現実)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:輝夜、鈴仙、一応自身とてゐの生還と、主催の能力の奪取。
       他参加者の生命やゲームの早期破壊は優先しない。
       表面上は穏健な対主催を装う。
1:輝夜、鈴仙、てゐと一応ジョセフ、リサリサ、藤原妹紅の捜索。
2:頭部が無事な死体、『実験』の為のモルモット候補を探す。
3:基本方針に支障が無い範囲でシュトロハイムに協力する。
4:柱の男や未知の能力、特にスタンドを警戒
5:情報収集、およびアイテム収集をする。携帯電話のメール通信はどうするか……。
6:第二回放送直前になったらレストラン・トラサルディーに移動。ただしあまり期待はしない。
7:リンゴォへの嫌悪感。
[備考]
※ 参戦時期は永夜異変中、自機組対面前です。
※行き先は後の書き手さんにお任せします。
※ランダム支給品はシュトロハイムに知らせていません
※ジョセフ・ジョースター、シーザー・A・ツェペリ、リサリサ、スピードワゴン、柱の男達の情報を得ました。
※制限は掛けられていますが、その度合いは不明です。
※リンゴォから「ミスタの拳銃」とその予備弾薬を入手しました。
※スタンドの概念に知りました。
※リンゴォに『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』という輝夜、鈴仙、てゐに向けた伝言を託しました。


495 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:25:14 YLVREm260

去ってく永琳を静かに見送っていたリンゴォ。
暫し彼女の去って行った方向を見た後、その場から立ち上がるべく木の幹へと触れようとした。
その時になって、彼は気付く。

―――カタカタと揺れ動いている。
―――右腕が小刻みに震えていたのだ。

リンゴォは自らの右腕の震えを見て両目を見開く。
震えを止めようとしたが、暫くの間それは止まることが無かった。
そしてリンゴォは、再び永琳が去った方向へと眼を向ける。
彼は半ば確信していた。



――――――俺は、あの女に恐怖していたのか。



あの女の『目』が脳裏に焼き付いて離れない。
俺が奴の左目を撃ち抜いた直後に見せた、灰色の眼。
その瞳に宿るものは『漆黒の焔』であると思っていた。
一人で勝手にそうであると確信していた。
しかし違った。
アレは気高き『漆黒の殺意』でも、『黄金の精神』でもない。

形容するのならば、生死を超越した『虚無』。
そして俺に対する『侮蔑』の眼差しだ。

奴は迫り来る銃弾を目にしながらも全く動じず、それどころか不遜に笑ってみせた。
歯向かう奴隷を見下す王の様に。
ちっぽけな獣を嘲笑う万物の霊長の様に。
その『目』に死への恐怖は一切見られなかった。
片目を打ち抜かれようと一切動じていなかった。

「…………」

そして俺はあの女に敗北した。
剰え生かされ、彼女の目的の為に利用されることになった。
俺は『敗者』としてそれを受け入れた。

だが、本当にそれで良かったのか。

決闘に負けた末にのうのうと生き残ってしまった。
まるで情けを掛けられたかの様に。
俺は、これで良かったのだろうか。
本当に『男の世界』を貫けていたのか――――――

(…今は兎に角迷いを振り払え、リンゴォ・ロードアゲイン。
 歩みを止めてはならない。そうなれば、俺は塵も同然になる)

ふらふらと立ち上がり、彼はその場から歩き出す。
今は自分のやるべきことをするだけだ。
前へ進むことを止めた瞬間、俺はただの腑抜けに成り下がる。
それだけは駄目だ。
故に――――行かなくてはならない。


心中の葛藤と動揺を抑え込み、自らの信念に縋るリンゴォ。
己の流儀の果ての『光り輝く道』を求め、森の中へと進んで行った。


496 : Border of Soul ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:26:47 YLVREm260

【C-5 魔法の森(北西)/朝】
【リンゴォ・ロードアゲイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:微かな恐怖、精神疲労(小)、疲労(小)、背中に鈍痛、左腕に銃創(処置済み)、胴体に打撲(中)
[装備]:一八七四年製コルト(1/6)@ジョジョ第7部
[道具]:コルトの予備弾薬(18発)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:公正なる果たし合いをする。
1:男の世界を侮辱した秋静葉と決闘する。
2:姫海棠はたてを探す。
3:ジャイロ・ツェペリとは決着を付ける。
4:輝夜、鈴仙、てゐと出会った場合、永琳の伝言を伝える。彼女達には手を出さない…?
5:次に『漆黒の焔』を抱いた藤原妹紅と対峙した時は、改めて決闘する(期待はしてない)。
6:永琳への微かな恐怖。
[備考]
※参戦時期はジャイロの鉄球を防御し「2発目」でトドメを刺そうとした直後です。
※引き続き静葉を追う。どこに行くかは次の書き手さんにお任せします。
※幻想郷について大まかに知りました。
※永琳から『第二回放送前後にレストラン・トラサルディーで待つ』という輝夜、鈴仙、てゐに向けた伝言を託されました。


497 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 00:27:39 YLVREm260
投下終了です。
ツッコミや感想があれば宜しくお願いします。
予約超過をしてしまい申し訳ございませんでした。


498 : 名無しさん :2014/06/19(木) 00:53:16 YgvcD3gk0
投下乙です
さすがのリンゴォもガチモードの永琳にはかなわないか


499 : 名無しさん :2014/06/19(木) 01:03:35 PWJNFvHA0
投下乙!
東方側でもある意味「異色」の月組と純粋な決闘者リンゴォが出会えば、
こんな構図になるのかと思わせるようなややダークな世界に惹き込まれました。
あくまでも人間として己を磨き続けるリンゴォと、永琳の人外的な素質が上手い対比で描かれていると思います。
永琳は半年振りの登場でスゴイ久しぶりに見た気がする。


500 : 名無しさん :2014/06/19(木) 01:03:40 DsozSIN60
投下乙です。

ついにリンゴォにも土がついたか。

計算ありきかつダメージ前提で動けるあたり
蓬莱人(というより永琳?)はやっぱり化物よりの性能なのだなあ。

そして、関わった各方面に多大な精神的影響を与えてるリンゴォが
逆にこれからどんな風に変化するのか、しないのか、とかも楽しみ。


501 : 名無しさん :2014/06/19(木) 01:14:04 0KkeOE560
投下乙です
リンゴォ…上には上がいるもんだね
公正なる果し合いに負けたが、そこで殺されなかったリンゴォのプライドが…リンゴォの男の世界は参加者達にどう影響を与えていくのか


502 : 名無しさん :2014/06/19(木) 02:42:05 Gey1UYNY0
投下乙です。
永琳や神奈子は参戦時期の関係で見てて新鮮だなぁ。

リンゴォの行動方針にはたてを探すが入っていますが理由が分かりませんでした。


503 : 名無しさん :2014/06/19(木) 02:57:35 YLVREm260
>>502
ご指摘ありがとうございます。
申し訳ございません、その部分が完全に抜け落ちていました…。
>>492の文章を以下の様に修正します。


続いてリンゴォが問い質したのは姫海棠はたてのこと。
永琳による尋問の際、彼女の口からその存在を知ることになった。
同時に姫海棠はたてが自らの決闘を記事にしているということも知ることになる。
(この時、永琳はリンゴォに『メール』や『携帯電話』の概念を教えることに一苦労したという)
尤も、幻想郷との交流を持たない永琳もまたはたての素性に関しては認知していない。
それ故にはたてに関する会話はすぐに打ち止めとなった。



続いてリンゴォが問い質したのは姫海棠はたてのこと。
永琳による尋問の際、彼女の口からその存在を知ることになった。
同時に姫海棠はたてが自らの決闘を記事にしているということも知ることになる。
(この時、永琳はリンゴォに『メール』や『携帯電話』の概念を教えることに一苦労したという)

リンゴォは思う。
姫海棠はたてとやらは低俗な記事によって『公正なる果たし合い』を茶化し、剰えミスタの屍を平然と晒したのだ。
これは『決闘』に対する侮辱に他ならない―――その胸中に浮かぶのは憤り。
故にリンゴォの方針には新たに『はたての捜索』も加わっていた。
奴は金髪金目の少女と同様、この手で仕留めなければならない下衆だ。

尤も、幻想郷との交流を持たない永琳もまたはたての素性に関しては認知していない。
それ故にはたてに関する会話はすぐに打ち止めとなった。


504 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 02:59:11 YLVREm260
すいません、鳥付け忘れていました…


505 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 03:35:30 YLVREm260
>>472
勿論他の書き手さんが予約して頂いても大丈夫です。
予約破棄後の24時間ルールはその為にあるのだと思いますし。


506 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/19(木) 03:37:48 YLVREm260
ごめんなさい、スマホからの過去の投稿がなんか勝手に重複していました…orz


507 : 名無しさん :2014/06/19(木) 12:41:38 GIj.npHQO
投下乙です。

決闘に価値を見出すリンゴォと永遠に贖罪を続ける永琳じゃ、反りが合わんよな。


508 : 名無しさん :2014/06/19(木) 18:23:26 FhshD0vs0
ドキドキした


509 : 名無しさん :2014/06/20(金) 00:49:18 8NrJDMQM0
投下乙です。

妹紅や慧音もだけど、月組も頑張っているな。復讐に生きる優曇華、必死に生きる因幡、贖罪に生きる永琳。月組三人とけいもこの二人達には頑張って生き残って欲しいね。
…あれ、五人?


510 : 名無しさん :2014/06/20(金) 00:51:35 YERD3mUw0
輝夜も書き手枠とかで是非出したかったね


511 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/20(金) 17:59:28 TRJvfebc0
藤原妹紅、蓬莱山輝夜
予約します


512 : 名無しさん :2014/06/20(金) 20:07:08 zNAgxxiI0
出会い


513 : 名無しさん :2014/06/20(金) 20:17:48 7IOF54x60
テンションの差が凄そう


514 : 名無しさん :2014/06/20(金) 21:40:20 yZlbBYs.0
妹紅→仲間も死に、自分も何度も死んで、超絶望
輝夜→漫画読んで、超楽しんでいた

明暗激しすぎてやばい


515 : 名無しさん :2014/06/20(金) 22:04:43 jQfKPQdg0
おまけにどっちも放送聞けてねえという


516 : 名無しさん :2014/06/20(金) 23:27:49 VhYcfdts0
なんとなく、展開が読めそう。


517 : 名無しさん :2014/06/21(土) 12:24:46 ASuRDb9U0
墓  碑  銘  !


518 : 名無しさん :2014/06/21(土) 14:20:06 .9CaACrc0
当たり前だけどはたては順調に敵視されていってるね


519 : 名無しさん :2014/06/21(土) 20:20:07 RRbNBt2.O
どんな状況でも、マスゴミは嫌われる。


520 : 名無しさん :2014/06/21(土) 20:31:44 7PDGp2ec0
DIOやエシディシ辺りならなんとか


521 : 名無しさん :2014/06/21(土) 20:46:22 .1OIoATk0
貴様!見ているな!


522 : 名無しさん :2014/06/21(土) 21:10:59 AUWREjJE0
受信者が対主催ばかりなのもあって悪辣さが目立つけど
逆を言えば見返り無しで勝手に情報提供してくれるようなものだし、マーダーや危険人物からすれば利用対象になりそう


523 : 名無しさん :2014/06/21(土) 21:44:37 1C0n2mug0
受信者でマーダーなのは今のとこウェザーぐらいか。永琳がびみょいけど


524 : 名無しさん :2014/06/22(日) 17:03:51 98DC9AmI0
なぜか原作の時から、ウェザー・リポートは好きだったが、ウェス・ブルーマリンは好きじゃないんだよなぁ


525 : 名無しさん :2014/06/22(日) 17:06:16 foufb1jI0
>>524
破滅願望の化身みたいな男になっちゃったからなぁ>ウェス


526 : 名無しさん :2014/06/22(日) 19:09:17 CvbbBKWY0
まるで別人…!


527 : 名無しさん :2014/06/23(月) 01:41:33 zlWEQnvo0
記憶取り戻すと、ガハハって笑っちゃうからね


528 : 名無しさん :2014/06/23(月) 01:57:46 YxvLsbNs0
ガハハッ いいマッサージだ!


529 : ◆qSXL3X4ics :2014/06/23(月) 06:44:07 UWsFtb7E0
八雲紫、宇佐見蓮子、霍青娥、ウェザー・リポート、 姫海棠はたて
以上5名捕獲します


530 : ◆qSXL3X4ics :2014/06/23(月) 06:47:11 UWsFtb7E0
捕獲ってなんだ…
以上5名予約します!


531 : 名無しさん :2014/06/23(月) 06:51:52 XZ.xOv8g0
>>529
コイツにんげんじゃねえ!


532 : 名無しさん :2014/06/23(月) 10:04:38 tXgMsA1g0
主催者かな?(すっとぼけ)


533 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/06/23(月) 13:15:34 Lxyh3l1A0
すいません。大幅に変更しなければならない部分が出てきたりして、大分遅くなりました。
一先ず完成の目処がついてきたので
ジョニィ・ジョースター、露伴露伴、射命丸文、ヴァニラ・アイス、チルノ、古明地こいし、ホルホースを予約します


534 : 名無しさん :2014/06/23(月) 18:17:13 5aNl63/60
ホル・ホースの名前の位置がなんか不穏な感じだな


535 : 名無しさん :2014/06/23(月) 18:20:28 U4wBHCrg0
露伴露伴


536 : 名無しさん :2014/06/23(月) 18:27:26 YxvLsbNs0
マジェントマジェント


537 : 名無しさん :2014/06/23(月) 21:01:04 25q5n7.w0
あっち側の世界から露伴を連れて来た!


538 : 名無しさん :2014/06/23(月) 21:18:57 2rVji6Ls0
俺、ジョニィ好きだから俺的に一番楽しみだわ


539 : 名無しさん :2014/06/23(月) 21:24:39 5aNl63/60
俺は好きなキャラが死ぬことを心配して不安になるぜ


540 : 名無しさん :2014/06/23(月) 21:26:20 iURoWOmc0
俺もジョニィとジャイロのコンビを、一番気にしている。
ホルホース追加がせめて吉兆だといいんだけど。


541 : 名無しさん :2014/06/23(月) 21:42:44 YxvLsbNs0
一瞬だけ吉兆が形兆に見えた


542 : 名無しさん :2014/06/23(月) 22:38:05 XZ.xOv8g0
>>529
ひゃっほおおぉぉおおう!!前から気になってたんだよね。コイツら。


543 : 名無しさん :2014/06/23(月) 23:47:32 UfDwxeBA0
さて、ホルホースはDIOにつくか、それとも裏切るか、選択肢によってホルホースの今後の未来が大きく変わるだろう。


544 : 名無しさん :2014/06/24(火) 00:03:57 K2ityqEc0
そういえばDIO一派勢揃いだ


545 : 名無しさん :2014/06/24(火) 13:14:33 WEwHCTfYO
ヴァニラさんがロリの可能性が微レ存…?


546 : 名無しさん :2014/06/24(火) 16:38:54 05aulml60
アイスの服勃てないな。


547 : ◆n4C8df9rq6 :2014/06/25(水) 23:49:17 w5pc4HDQ0
予約延長します。


548 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/25(水) 23:56:52 UY./1zTw0
予約延長します。


549 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 22:52:17 THmmvTwI0
投下します


550 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 22:53:57 THmmvTwI0
「焼いてしまおう」と、霖之助が言った。

「うん、それしかないみたいだし、さっさと傷を焼いちゃおう」と、てゐが言った。

「焼くな」と、ジョセフが重たい、もつれる舌で言った。

「おや、起きてしまったのか。面倒なことだ」と、霖之助が文句を言った。

「焼かなくていい。小さな傷だ。
ただ止血をして、綺麗に拭いて、二、三針縫えば、それでいいんだ」と、ジョセフは不平がましく言った。

「だけど、私はまだ一回も手術をしたことがないの。折角の機会だし、別にいいよね? 
えっと、ハサミかな? ハサミで銃弾を取り除けばいいのかな?」と、てゐが疑問を口にした。

「ハサミは危ないよ。血管や神経を傷つける恐れがある。ピンセットも見当たらないし、
ここはもう手でいいだろう。他に手はないしね……フフッ」と、霖之助が笑い声を漏らしながら答えた。

「そういえば、手は洗ったの?」

「洗ってないね」

「だから、変なマネはやめろ。病院に連れて行ってくれ」と、
ジョセフは意識が霞みのように消え去りそうなのを何とか堪えて懇願した。 

「また余計な口出しをしてきたな。
ひょっとして手術の間、こんな調子でずっと話し続けるのかな」と、霖之助は皮肉っぽく文句を言った。

「病院だ。素人の手術はやめろ。病院に連れて行け」と、ジョセフは目を開き、起き上がろうとしながら言った。

「まだ喋る元気があるのか。何か黙らせる手はないものか」と、霖之助は驚嘆しつつも、冷静に呟いた。

「全身麻酔がいいんじゃないの?」と、てゐが天啓を受けたかのように晴れやかな笑顔で提案した。

「全身麻酔か。しかし、どうやって?」

「頭を思いっきり殴るとか」

「なるほど、妙案だ。アルコールを、たらふく飲ませるとかもいいな」

「傷口に塩をすり込んで、痛みで気絶させるとかもね」

「そいつは素晴らしい。じゃあ、早速塩を取ってこよう」

「ゾォ〜。オーマイゴッド! こ、こいつら本気だ。オ、オレだけなのか。まともなのは……」


顔から一気に血の気が失せたジョセフは、失血のこともあってか、とうとう意識を失った。



      ――
 
   ――――

     ――――――――


551 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 22:55:23 THmmvTwI0
荒木の不愉快の声――第一回放送を聞き終えると、
そこに訪れたのは圧し掛かるような重たい静寂であった。
十八人。あまりに多い失われた命の数だ。
しかも、その中に異変解決において名を知らしめた二人に、強者の代表格である鬼が含まれている。
その呆気ないまでの死は、如何にこのバトルロワイヤルが危険で絶望的なものかを、
放送に耳を傾けていた霖之助達に如実に分からせてくれた。


「正直、この人数は予想外だ。最初はもっと様子見に徹するかと思っていたよ」


霖之助は椅子に座り、のんびりと、気だるそうに微笑を顔に貼り付けながら呟いた。
果たして、その仮面に意味はあるのか。その答えは彼自身も気がついていただろう。
霖之助と相対している橙とてゐも同じく放送を聞いていたのだ。
しかも、笑みによって、何とか悲観を遠ざけようとしたのは、大した力もない半妖――霖之助である。
その効果は、火を見るよりも明らかであった。


「死んだ奴らも予想外だったね」


重々しい事実に顔を上げられないのか、目を伏せたままてゐは面倒くさそうに相槌を打った。
その視線の先では、彼女の手にあるマジックペンが、縦横無尽にジョセフの顔の上を動いている。
そのいたずらは、ウサギの単なる気まぐれなのか、それとも現実逃避の一環なのだろうか。


その答えが判然としない霖之助は、ぎこちない笑みを、困ったような苦笑に変えるのが精一杯だった。
自分が何をするべきなのか分からなかったのだ。てゐを怒ればいいのか、笑えばいいのか、あるいは励ませばいいのか。
放送によってもたらされた死と絶望が、薄暗い濃霧のように辺りに漂っているように霖之助は思えた。
目と鼻の先の相手が何をしているのか、何をしようとしているか、全然見えてこない。


霖之助は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、縋るようにジョセフ・ジョースターに目を向けた。
彼こそ、殺し合いという暗中で、霖之助が確かに見つけた希望の光。
その黄金のように輝かしい光であれば、たちまちに迷霧を打ち払い、辺りを明るく照らしてくれるだろう。


だが、肝心のジョセフは、霖之助など露知らず、と呆けた顔を晒し、いまだに暢気に眠りこけている。
公然と灯された光に誘われたのは、何も霖之助だけではなかったというわけだ。
そしてそこで起きた激戦は、ジョセフの身体を痛ましいまでに傷つけた。
霖之助とてゐの慈愛溢れる治療により、どうにか彼の一命は取りとめたわけだが、
按配が優れないのか、どうにもジョセフが起きる気配はない。


552 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 22:57:33 THmmvTwI0
もしかして、このまま起きることがないのだろうか。
霖之助が俄かにそんな疑問と不安を頭に浮かべた瞬間、彼は散々と悩んでいた問題――自分のやるべきことを唐突に理解した。


(そうか。光を絶やしてはならない。僕がやるべきことは、そういうことなんだ)


光が無くなれば、そこにはあるのは暗闇ばかりである。
血と腸(はらわた)が地面を彩り、その上では屍が無残に横たわり、死臭が蔓延する。
このバトルロワイヤルにおいて、希望が無くなれば、自ずとそういった暗澹とした未来がやってくるのだ。
生憎と、そんな絶望的で、陰々滅々とした光景を好むほど、霖之助は酔狂ではない。
であるのならば、そこにはジョセフのような煌々とした光が必要となってくるのは当然の帰結。
そしてその為に何をすべきか、霖之助は簡単に思い描くことが出来た。


「じゃあ、僕は行ってくるよ」


霖之助は晴嵐が吹き抜けたような爽やかな笑顔で言った。
その変貌に面食らったてゐは物凄い胡散臭い顔で訊ねる。


「どこにさ?」

「僕の店にさ」

「正気なの? 橙の話だと、そこにいる狐は殺し合いに乗っているんだろう? 私は自殺に付き合う気はないよ」 

「自殺か……言ってくれるね。
だけど僕の店先に人妖の首を並べてもらったら、たださえ少ない客が、また一段と少なくなってしまう。
それじゃあ、この異変を生き残った所で、僕は口を糊することすら出来なくなる。
まさか、てゐは僕に飢え死にしろとでも言いたいのかい?」

「場合によっては、その方がマシかもね」


実にそっけないてゐの言葉が、深く霖之助の胸に突き刺さった。
彼女の言うとおり最低最悪の最期が訪れる可能性もあるだろう。
少し楽観視していたかもしれない、と自省しつつも、やはり霖之助は自分の行動の必要性に疑いは持てなかった。


553 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 22:58:29 THmmvTwI0
「大体、あの狐に会って、どうするの?」


無謀にも自分の考えを改める気配を見せない霖之助に向かって、
てゐは同情と嘲笑を器用にも混ぜ合わせた顔で訊ねた。


「八雲藍を説得するよ。説得して、味方にする。光はたくさんあった方がいいからね」


霖之助は、この世の絶対普遍の真理を明かすように、自信を持って答えた。
てゐからの言葉は返ってこない。しかし「君は実に馬鹿だな」と、てゐはその憎たらしい顔で存分に告げていた。
その様子に、霖之助の顔から堪らず苦笑が漏れる。


「そういった反応をするってことは、自分でも馬鹿な行いだって理解しているんだね?」


霖之助のやるせない表情から、てゐは巧みに彼の感情を読み取って見せた。
しかし、そこに表れるのは誇らしさではなく、単なる呆れの混じった溜息だった。


「まさかてゐは僕の事を心配してくれるのかい?」


霖之助は押し寄せる不安を振り払うように、努めて軽口を叩いた。


「それこそ、まさかだよ。まあ、貴方の頭の中を心配しているっていうのは事実だけど」

「随分な言い草じゃないか、てゐ」

「否定出来る要素はあるの? というか、あの狐を説得する余地なんかあるの?
殺し合いに乗るというのは、曲がりなりにも知識と経験を兼ね備えた狐が出した結論だよ。
私には貴方がその両方を、あの狐以上に持っているとは、到底思えないよ」

「これでも僕は商人だよ。ふっかけた値段で相手を納得させる手は心得ているさ」

「まともな商人なら損得勘定ぐらい出来るけれど、アンタはそれすら出来ていやしないじゃないか。アレと知恵比べするのは、百年早いよ。
何を思いついたかは知らないけれど、アンタが頭の中に描いたのは、まさしく絵に書いた餅だ! 食べる手立てはないの! 分かった!?」


馬鹿な考えを臆面もなく披露する霖之助に苛立ちが募ったのか、てゐの語調は次第に激しいものに変化していった。
しかし、それでも霖之助の自信を揺るがすには足りないものだった。


554 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 23:00:12 THmmvTwI0
「大丈夫、損得勘定はしているよ。その上での判断だ」

「じゃあ、根拠は何!? 死なない公算が高い、狐が説得出来る見込みがあるっていう根拠は!!?」

「いや、僕が言いたかったことは、そういうことじゃない。
僕が言おうとしたのは、ここで僕が死んでも、別に問題ないということさ。
実際問題、僕の死は、この異変解決の成否に何ら影響は与えない。
だけどそれとは逆に、八雲藍が持つ力や知識、経験は皆にとって必要不可欠なものとなる可能性が高い。
どうだい、てゐ? 何が損か得か、実に簡単な答えだろう?」


ペッ、とてゐは唾を吐きかけた。気に入らないのだ。
霖之助が自分の命ではなく、皆の命の為に、殺し合い全体の事を考えている。
しかも、自分のしていることは、この上なく正しいことだと言わんばかりに、霖之助は自信満々だ。
そしてその生意気な面で、てゐは霖之助に会った時から抱いていた己の苛々の原因をようやく理解した。


要するに正義感だか博愛主義だか知らない御大層な冠を掲げて、霖之助はこちらを下に見てきているのだ。
まるで自己保身を第一に考えるのは、卑小で惨めで情けない、と言外に言っているように。
実際の所は分からないが、少なくともてゐにはそう思え、自分が見下されたようなひどい恥辱を覚えた。
だからであろう。てゐの言葉に余計な棘が出てきたのは。


「アンタは八雲藍の所に行く! じゃあ、私らはどうなるのさ!?
まだ近くに馬鹿妖精はいるだろうし、また襲撃してくるかもしれないんだよ!
私達の命はいらないって!? 八雲藍の方が、私達より大切だって!?
それとも私達はこの先ずっと無事だって、根拠もなく信じているのかい!?
アンタが思い描いていることなんざ、自己犠牲に酔った単なる馬鹿の妄想でしかないんだよ!! 馬鹿ッ!!」


てゐは溢れ出す感情のまま、口角泡を飛ばす勢いで言い放った。
その常にないてゐの様子に多少泡を食ったものの、霖之助は落ち着いて返答する。


「大丈夫さ」

「はあ? 何がさ!? 本当に頭の中が腐ったの!!?」

「彼らを仕留める策がある」

「はいぃ?」


てゐは怒りも忘れて素っ頓狂な声を上げた。
自分の顔が間抜けなものになったのに気がついた彼女は、咳払いしつつ、慌てて顔に緊張の色を映す。
しかし、予想外の台詞に毒気が抜かれてしまったのか、どうにもそれは締まりのないものだった。
それがおかしかったのだろう、霖之助は声に微笑を含ませ、柔らかな口調で口を開く。


555 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 23:01:20 THmmvTwI0
「策というのは、実に簡単なもので、罠を張るんだ」

「罠?」

「そう、罠だ。階段を上った所に少し大きな部屋があっただろう? あそこの中央にこのジョセフを置く。
周りに赤いペンキをぶちまけとくと良いかもね。チルノ達はジョセフの死体を確認する為に、彼に近づくだろう。
そこを天井か梁に隠れていた君達が一斉に弾幕を放つ。これで終わりだ。ね、簡単だろう?」

「ちょ、それ、その人間も死ぬでしょ!」


と、てゐがすかさずツッコミ、続いて橙が叫び声を上げてきた。


「ダメェェーー!! ジョセフお兄さんを殺しちゃダメーー!!」


キーンと耳が響いた。
今まで霖之助とてゐの会話を静かに窺っていた橙だが、ここは口を挟むべきと判断したのだろう。
恩人の命に関わるとなれば、それもむべなるかな。
しかし、そんな必死な橙に返ってきたのは霖之助の大口を開けた笑い声だった。


「ハッ、ハハハハハハッ。冗談だよ、冗談」

「冗談?」と、橙が怒りに安心と不安を混ぜ合わせ、恐る恐る訊ねた。

「手術の時も起き上がって文句を言ってきたし、またこんな冗談を言えば、彼が目を覚ますんじゃないかと思ってね。
どうやら目論見は外れたみたいだけど」


ジョセフは変わらず目を閉じ、いびきすらかいて、眠っていた。
見たところ、霖之助の冗談はおろか、橙の金切り声も耳に入らなかったらしい。


(やれやれ、随分と冷たいんじゃないか、ジョセフ・ジョースター?)


霖之助は心の中で独りごちた。橙の指先はふやけて血が滲んでいる。
彼女は止血させる際に負わせたジョセフの火傷を少しでも癒す為、何百回何千回と冷水で絞ったタオルで患部を冷やしているのだ。
幼い少女のその献身にいまだ応えないのは、男が廃(すた)るというものであろう。
尤もジョセフが起きない要因が怪我とは別にあるとしたら、霖之助が選ぶ選択肢も変わってくる。


「詮ずる所、僕は男女の関係の邪魔をしているということかな。なら、この森近霖之助はクールに去るとしよう」


556 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 23:02:22 THmmvTwI0
霖之助が座っていた椅子から腰を持ち上げようとした。
すると、霖之助の気遣いは見当違いだったのか、
橙が急いで立ち上がり、そのあかぎれのある小さな手で、霖之助の裾を掴んだ。


「藍様の所に行くの? だったら、私も……!」


橙は目の端に涙を溜めて、霖之助を見上げながら、精一杯言葉を発した。
八雲藍にある恐怖は今なお残っているが、それを押し退け、何とか彼女は勇気を振り絞る。
八雲藍は恐いが、それ以上に優しい八雲藍に戻って欲しい気持ちがあるのだ。
だから、その為の手立てがあるのだとしたら、何とか助力したい。
橙は心の奥底から純粋にそう思った。だけど、そんな橙に返ってきたのは、霖之助のにべもない返事だった。


「いや。駄目。ノー。無理。断る」

「ふぇ?」

「君と一緒に行ったら、僕は殺されてしまうからさ」

「えーと?」

「八雲藍は八雲紫の為に早く参加者を殺したい。そしてこの殺し合いの参加者の数は多いし、会場の大きさもそれなりだ。
その上で早期の解決を望むなら、効率的に動く為、情報が必要となってくる。そこに僕と八雲藍との会話の余地があるんだけれど、
橙と一緒に行ったら、君から話を聞けばいいということで、僕の存在価値が無くなってしまうんだ。
つまり、出会った瞬間に僕の首は斬られるということになる。だから、僕の後を付いてくるのは、やめてくれ」


シュン、と橙はうな垂れた。
大好きな八雲藍に対して、何の役にも立てないという無力感が橙の中に生まれたのだ。
言い様のない哀しみが、橙を責め立てる。だけどしばらくすると、悲しいかな、
何よりも恐い八雲藍の前に行かなくて良いという安心感が橙を支配しだした。
そしてそれが済むと、今度はこの期に及んで尚、そんな感情を抱いてしまった自分に対する嫌悪感が橙を責め苛んだ。


下を見ていた橙の顔は、どんどんと陰鬱なものへと変化していく。
ひとしきりすると、もう橙が先ほど見せた一かけらの勇気は、綺麗さっぱり無くなっていた。
それに目ざとく気がついたてゐだが、別段慰めるわけでもなく、黙りこくった橙の代わりに霖之助へ言葉を放る。


「それでその先どうするの?」

「そこからは口八丁手八丁さ」

「口はともかく手なんかあるの?」

「あるよ。そこに」と、霖之助は横になっているジョセフ・ジョースターを指差した。

「……それってコレを連れて行くって事?」ポンとてゐはジョセフの軽い頭を叩いた。

「いや、そんな面倒な事はしなくても、彼自身がやって来てくれるさ」

「コレ、寝ているよ」

「起きるよ。きっとすぐに」


厚皮まとって、霖之助は疑いなく言い切った。そのどや顔に、てゐは思わずイラッとする。
しかし、彼女は山ほど思い浮かんだ反論の言葉を、霖之助にぶつけてやる気にはなれなかった。
てゐ自身も思ってしまったのだ。
幾度も逆転劇を見せ付けてくれたジョセフ・ジョースターなら、皆に危機が訪れた際に、またやってのけてくれるだろう、と。
その意を察した霖之助は慈母のような柔らかな笑みをてゐに送り、もう話すことはないだろう、と黙って家を出ていってしまった。


557 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 23:03:06 THmmvTwI0
(なんかムカつくなー)


その場に残されたてゐは、いなくなった霖之助に文句を垂れた。
異変解決の為に自信を持って能動的に動く霖之助が、あろうことか輝いて見えてしまったのだ。
勿論、霖之助の力不足な点を考慮に入れれば、彼がすることは間違いなく愚行だと言える。
だけど、それでも彼の殺し合いを無事に解決したいという信念は、愚かとは程遠いものだ。
その点では、誰から見ても素晴らしいと言えるだろう。翻って、自分はどうか。
惨め、という言葉が真っ先に思い浮かんでしまったてゐは、苛立ち紛れにジョセフの頭を叩いた。


「ねえ、てゐ、そいうの止めようよ。ジョセフお兄さんは怪我しているんだから」


てゐの蛮行を見咎めた橙はおずおずと窘めた。


「はいはい。でも、マジックペンの時も言っただろう。これも治療に必要な行為なんだよ」

「で、でも……」

「そういうのはいいから。それとも何かい? 橙はコレの怪我が治らなくてもいいと思っているの?」

「ううん、そんなことない」橙は慌てて首を振った。

「じゃあ、することしなきゃ。そうでしょ?」

「へ?」

「ほら、マジックペン。怪我を治してくれる魔法の鉛筆だ。これでジョセフの顔に落書……ゲフンゲフン!
……ジョセフの顔におまじないを書けばいい。おまじないはペンを持ったら、自然と頭に思い浮かんでくる図形だよ」

「う、うん、分かった」

(よし! 共犯者ゲット!)


誇らしげにガッツポーズを取るてゐ。しかし、それはどうにも空しいものだった。
いつもしているイタズラが埋めてくれるの暇な時間であって、自らの心ではないのだ。
何だか、てゐは自分が空虚なものになっていくような感じがした。
自分のすることが全て無意味で無価値。だとしたら、果たして、そこに存在するべき理由があるのだろうか。


558 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 23:04:35 THmmvTwI0
いやいや、とてゐは首を猛烈な勢いで横に振った。


(違うってば。何もしていないからって、自分を殺さなくてもいいの。
っていうか、私は霖之助に腹が立ってたんだよ。それを一体何故!?)


悶々と霖之助のことを考えていたら、またてゐの中に鬱憤が溜まり出した。


(大体、あいつ弱いくせに何なんだよ! 霊夢とかブチャラティとかの「力」のある人間が言うのだったら、
それは「強者の論理」として受け入れることが出来るよ。でも、あいつ弱いじゃん。私よりも弱いじゃん。
それなのに何であんな風に…………ッ!!)


最初に霖之助に会った時のような敗北感を、てゐはまた植えつけられた。
自分が卑しめられるような不快な感覚。それをこの先も抱えて生きていくのだろうか。
それはどうしようもなく絶望的で、どう考えても健康に悪いことだった。


それでは、てゐが望むような長生きは到底出来なくなるだろう。
それならば、取るべき選択肢は決まってくる。てゐは、この異変が始まって、初めてその重い腰を上げた。
自らの中に居座る不愉快な感情を拭い去り、霖之助をギャフンと言わせる神の如き一手を指す為に。


といっても、てゐは争いの渦中に身を投げ出す気はない。やっぱり自分の命は大切なのだ。
そんな掛け替えのないチップを、勝率の分からないギャンブルで失うような無謀は冒せない。
しかしだからといって、何もしないというわけでもない。
彼女には、唯一無二にして無謬なる手――人間を幸運にする程度の能力があるのだ。


そもそもの発端はジョセフ・ジョースターであった。
彼を治療している最中に、てゐは気がついた。ジョセフは並々ならぬ幸運の持ち主あることに。
かなりの浮き沈みがある(真に幸運なら、殺し合いに呼ばれない)が、その最大値はてゐが今まで出会った人間を越えている。


そのジョセフをラッキーアイテムで身を固め、さらに幸運にする能力でブーストをかければ、
かつて自分が幸運を一助として月人が施した仕掛けを破ったように、この殺し合いを打破することが出来るのではないだろうか。
てゐは、ジョセフ・ジョースターを間近で目の当たりにして、そんな風に思った。


たかだか寂れた古道具屋の主人を理由に行動を起こすのは、てゐにとって依然として癪なことだったが、
これで自らの身を危険に晒すということにはならないので、取り敢えず納得して受け入れ、
物は試しとばかりに、てゐは早速ジョセフに能力を使ってみた。


559 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 23:06:25 THmmvTwI0
バタンッ!!




「うひゃっ!!?」


突然と窓が叩かれ、その音にビックリしたてゐは叫び声を上げながら、急いでジョセフと橙の影に隠れた。
チルノ達が襲撃してきたのだろうか。てゐは恐る恐る物音がした窓を眺めてみる。


「フクロウ?」


窓辺にいたのは一羽の鳥――フクロウであった。
襲撃者の正体を知ったてゐはホッと胸を撫で下ろす。


「んー、でもフクロウって死の象徴じゃなかったっけ?」


ジョセフを幸運にして招き寄せたのが死。
自分の考えは見当違いだったのか、とてゐは顔を赤くしながら頭を掻く。
しかし、落書きだらけのジョセフのマヌケ面を見て、その考えこそ間違いである、とてゐは気がついた。


「ああ、不苦労、福籠ね。最近じゃ、フクロウは幸運の象徴だっけ。ビックリさせんなよ」


エイッ、といまだ暢気にいびきをかいているジョセフの足を、てゐは蹴飛ばした。


560 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 23:06:53 THmmvTwI0
【E-4 人間の里 虹村億泰の家/朝】

【ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】
[状態]:体力消費(小)、疲労(小)、胸部と背中の銃創箇所に火傷(完全止血&手当済み)
    DIOとプッチと八雲藍に激しい怒り、顔中に落書き、気絶中
[装備]:アリスの魔法人形@東方妖々夢、金属バット@現実
[道具]:基本支給品 、毛糸玉@現地調達、綿@現地調達、植物油@現地調達
果物ナイフ@現地調達(人形に装備)、小麦粉@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:待ち合わせ場所『香霖堂』に乗り込んで八雲藍をブッ飛ばすッ!
2:こいし、チルノの心を救い出したい。そのためにDIOとプッチもブッ飛ばすッ!
3:気絶中…
[備考]
※東方家から毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフなど、様々な日用品を調達しました。
 この他にもまだ色々くすねているかもしれません。
※虹村家の一階は戦闘破壊の痕があります。また凍り付いて破壊された『アラン』の人形が落ちています。


【橙@東方妖々夢】
[状態]:精神疲労(大)、藍への恐怖と少しの反抗心、ジョセフへの依存心と罪悪感
    指先にあかぎれ
[装備]:焼夷手榴弾×3@現実、マジックペン@現地調達
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョセフを信頼してついていく
1:ジョセフお兄さんの顔におまじないを書く
2:藍様を元の優しい主に戻したい。
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
八雲藍に絶対的な恐怖を覚えていますが、何とかして優しかった頃の八雲藍に戻したいとも考えています。
第一回放送時に香霖堂で八雲藍と待ち合わせをしています。
ジョセフの波紋を魔法か妖術か何かと思っています。
ジョセフに対して信頼の心が芽生え始めています。
マジックペンを怪我を治す為の道具だと思っています


561 : 鳥獣人物戯文 ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 23:07:43 THmmvTwI0
【因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:健康 、霖之助にゐらゐら
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品、他(コンビニで手に入る物品少量)
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくないので、異変を解決しよう。
1:保身を図りつつ、ジョセフを幸運に(利用)して、異変解決!
2:こーりんがムカつくから、ギャフンと言わせる。
3:暇が出来たら、コロッセオの真実の口の仕掛けを調べに行く。
4:鈴仙やお師匠様に姫様は…まぁ、これからどうするか考えよう。
[備考]
※参戦時期は少なくとも永夜抄終了後、制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※霖之助を見返す為、また自分の存在意義の証明の為、能動的に動くつもりです。


【森近霖之助@東方香霖堂】
[状態]:健康、不安 、主催者へのほんの少しの反抗心
[装備]:なし
[道具]:スタンドDISC「サバイバー」@ジョジョ第6部、賽子×3@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:対主催者を増やす。
1:香霖堂へ行って、八雲藍を説得する
2:ピンチの際にはジョセフが助けに来ることを祈る。
3:てゐとは上手く協力関係を築きたい。
4:魔理沙、霊夢を捜す。
5:殺人をするつもりは無い。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
※ジョセフの戦いを見て、彼に少しの『希望』を感じました。


<マジックペン>
てゐが虹村家から調達した日用品シリーズ。
筆記用具の一つ。悪辣とも言える油性マーカー。
勿論、怪我を治す効果など、微塵もない。


<フクロウ>
死に際に二ッ岩マミゾウが、スタンドDISC「ドラゴンズ・ドリーム」を変化させた鳥。
ジョセフの幸運に導かれてやって来た。


562 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/06/26(木) 23:08:32 THmmvTwI0
投下終了
以上です


563 : 名無しさん :2014/06/26(木) 23:26:04 H3v9lSnM0
ぼくが作った『説得』の流れだよッ!(どやっ!!)


564 : 名無しさん :2014/06/27(金) 00:21:43 B6HoqFEE0
投下乙です。
自分の『弱さ』を自覚しながら、それでもやれる限りの反抗をしようとするこーりんはいいキャラしてるなぁ…
しかし自分の命をも投げ出す覚悟をしているのは怖いな、無茶はしないでほしいがどうなることか
そしてドラゴンズ・ドリーム到着か


565 : 名無しさん :2014/06/27(金) 01:18:32 Qan6Sg3Q0
投下乙です
藍様をなんとか変えてあげたい橙、保身優先のスタンスが揺れるてゐ、
そして、藍様の説得に向かった香霖。弱者たちの気持ちが錯綜する良い繋ぎでした

てゐから見てもジョセフが幸運の持ち主なのは納得ww
地味に状態表の「ゐ」縛りは継続ですね


566 : 名無しさん :2014/06/27(金) 01:41:20 9XlNNFOQ0
投下乙です
てゐとこーちんの主義のぶつかり合いをメインに据えた筋が見ていて飽きませんでした
ドラゴンズドリームがいつ話に出るか地味に待ってましたが、幸運を操るてゐにはある意味ピッタリなスタンドなのではないでしょうか
そういえば確かに原作のジョセフの幸運はジョースター家随一かもしれませんね
彼らに今後どんな展開が待つのかワクワクするお話でした


567 : 名無しさん :2014/06/27(金) 11:27:09 v8lcY1oE0
投下乙〜
ジョセフに落書きする二人に和んだよ


568 : 名無しさん :2014/06/27(金) 12:49:23 ZYPIXQWQO
投下乙です。

水でも文字が消せない不思議なペン。正にマジック!

てゐが仲間を幸運にして龍夢のスタンドを使えば、敵が相対的に不運になって強いんじゃなかろうか。


569 : 名無しさん :2014/06/28(土) 00:50:46 1ofjlOIE0
投下乙です。

幸運を操るてゐと、幸運へと導くドラゴンズドリームか。
ジョセフとも相性が良さそうなスタンドだな


570 : 名無しさん :2014/06/28(土) 01:59:38 avEnA2fk0
投下乙です!

ジョセフは起きたら亡くなった者達の名前を聞いてどう行動に出るのか…


571 : 名無しさん :2014/06/28(土) 11:00:39 nL7FuEA.0
投下、乙です。

霖之助がイケメンだ……!
だが覚悟完了した藍しゃまに説得が通じるかどうか。
そしててゐちぇんは何だか面白いコンビだなぁ
あとジョセフ、さっさと起きろwヤバいぞ、色々と

そして、マミさんの託したドラゴンズ・ドリーム。こっちに届いたかー。
正しく使ってくれそうな人に届いてヨカッタナーw

……本当にヨカッタナーw


572 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:01:56 nL7FuEA.0
投下を開始します。


573 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:02:25 nL7FuEA.0
◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

光。

花京院典明がまぶたをゆっくり開くと、そこは緑の海だった。

低く輝く太陽が、一面に広がる草原を鮮やかな緑に燃やしていた。

冷たい風が草木を揺らし、さざなみの調べを奏でていた。

離れた所には、背を向けて佇む女神の姿。

その長い髪は、朝日を受けてエメラルドのように輝いていた。

未だ覚醒しきらぬ意識の中、花京院はそんな絵画のような風景を呆然と眺めていた。

こんな景色を見るのは久々だな、と花京院は思う。

思えば日本からカイロまでの旅路は、海と渇いた土地がほとんどだった。

もう何年も見ることがなかった気さえする緑一色の風景。花京院の目には染み入るほどに鮮烈だった。

今は、さっきまで激闘を繰り広げていたことも、そもそもここになぜ呼び出されたのかも忘れていた。

――しばらくの間、こうしているのもいいか。


574 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:03:01 nL7FuEA.0
ぼんやりと花京院がそんなことを考えた時、エメラルドの女神がこちらを振り向く。

……振り向こうとして、そっぽを向いてしまう。

『少女』は服の袖で顔を拭ってからもう一度振り向き、無表情でゆっくりと歩み寄りながらこう言った。

「あの……大丈夫ですか?」

返答のために花京院が身体を起こそうとすると、右の脇腹に痛みが走る。
と同時に意識が醒め、ここに来てからの事を思い出す。

僕は『八坂神奈子』という、機関銃と釣り竿のスタンドを携えた、『神』を名乗る存在と戦っていた。
劣勢に陥っていた所、『プロシュート』という、スタンド使いが味方として加勢する。
そして彼の援護の為にスタンドの『盾』を構築していたが、闘いの結末を見ること無く、僕は気を失ってしまった。
彼女は、確か……その闘いの直前まで『プロシュート』と同行していた少女だ。

「君は……! そうだ、君、機関銃と釣り竿を持った女を見なかったか!?
 金髪の、スーツを着た男は?」

「機関銃と釣り竿の……神奈子様なら、既にここを離れました」

「……神奈子『様』、だって!?」

神奈子『様』。
先ほどの襲撃者に敬称を付ける彼女は何者だ。
花京院の表情が強張る。
痛みをこらえて立ち上がり、いつでもスタンドを出現させられるように身構えた。
……よし。脇腹の傷は、動けなくなる程じゃない。

警戒の色を強める花京院を見て、少女は一瞬、固まる。
足を止め、続けた。努めて平静を装っている様子。

「スーツの男の人……プロシュートさんは、私が駆けつけたときには、既に……
 既に、神奈子様の手に掛かって……亡くなって、いました」


575 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:03:19 nL7FuEA.0
少女は言葉を絞り出した。
少女の視線の先……花京院が後ろを振り向くと、五メートルほど背後の岩陰に、先ほど共闘したスタンド使い……
プロシュートの亡骸が、仰向けで横たわっていた。
首の辺りが、異様な形に凹んでいる。首の骨を折られて死んだのだろう。
ガトリング銃を軽々と扱う『神』・八坂神奈子の腕力なら、容易だったに違いない。

「……あのっ!」

少女の声で、花京院は向き直る。

「どうして、神奈子様から攻撃を受けていたんですか?
 事情を教えていただけませんか? 私が、神奈子様を止めなければならないんです!」

嘘を言っている目ではない。
……どうやらこの少女は殺し合いに乗っている八坂神奈子と違い、逆に彼女を止めようとしているらしい。
そして今の状況から察するに、この少女が八坂神奈子から僕の生命を守ってくれたのだろう。

「なにやら、深い事情がありそうですね……。 僕の名は……」

そのままの立ち位置で、お互い踏み出せば手を取り合える距離で、二人は情報交換を開始した。


576 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:03:37 nL7FuEA.0
◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

花京院は東風谷早苗と名乗る少女に促されるままに、まず八坂神奈子と邂逅した際のやりとりを話した。
なるべく、詳細に、一字一句漏らさぬように。

「『生贄』に、『儀式』……『幻想郷の最高神』……
 ……神奈子様は本当にそう仰ったのですか?」

全く信じられない、という風な様子で早苗はしばし黙りこくる。
手持ち無沙汰となった花京院が時計に目をやると……既に6時を回ってしまっていた。

「あっ、ごめんなさい、気づかなくて」

そんな花京院の様子を見た早苗は、1枚の紙を手渡した。
参加者名簿だ。

「つい先ほど、主催者の片方……荒木飛呂彦の声で第1回放送がありました。
 ……亡くなっ、いえ、放送で呼ばれた名前の横に、印をつけておきました」

見ると、所々の名前の傍に『×』が付いている。
90人の参加者のうち、×がついているのはざっと20人弱か。
およそ5分の1が、わずか6時間で命を落としたのだ。

花京院、息を呑んで、まずは一緒に旅をしていた仲間の名前を探す。
空条承太郎、ジョセフ・ジョースター、ジャン・ピエール・ポルナレフ。
いずれの名前にも×は付いていないことに、花京院は安堵した。
仇敵・DIOにも、×は付いていない。……逆に、既にこの場で何人かの命を奪っているのかもしれない。
DIOの手下、ホル・ホースもまだ生きているようだ。
確か、奴はつい数時間前に襲撃してきた所で自滅して、重傷を負い再起不能となったはず。
そんな状態で殺し合いに呼び出されたりしたら、真っ先に命を落とすはずだが……。

浮かびあがる疑問をこらえて、花京院は鉛筆で自分の名簿に×の印を写し取り始める。


577 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:03:55 nL7FuEA.0
『×プロシュート』

印をつけ、後ろに横たわる彼の亡骸と交互に見比べる。
名前の横に付けられた鉛筆書きの×の記号に、拭い様のない重みが加わったように感じられた。
横に×と名付けられた名前の者は、彼のように、既に命を落としてしまった者なのだ。

「あの……プロシュートさんの知り合いの方、ですか?」

そんな花京院の様子を見て、早苗が尋ねてきた。

「いや……さっき会ったばかりです。君の知り合いですか?」

「私も……ここで初めて会いました。
 スタンド使いである以外、素性はほとんど話してくれませんでした。
 怖い雰囲気の人でしたけど、初対面の私に対してもなんだかんだで面倒見良くしてくれました。
 ここで手に入れたばかりの、『スタンド』の使い方について教えてくれたり……」

「スタンドを『手に入れる』……だって?」

「プロシュートさんも、驚いていました。
 この支給された『DISC』を頭に差し込むと、スタンドが使えるようになるみたいで。
 神奈子様の釣り竿のスタンドも、私と同様にDISCを支給されたのだと思います」

早苗は頭から、花京院の支給品『空条承太郎の記憶DISC』と同じ形の円盤を半分だけ引っ張りだして見せてくれている。

「『DISC』……!」


578 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:04:10 nL7FuEA.0
花京院の支給品、『空条承太郎の記憶DISC』に残されていた、最新の記憶が脳裏をよぎった。
最新の記憶……40歳の空条承太郎が見知らぬスタンドの手刀を受け、DISCを抜き取られる瞬間のことだ。
あの時確かに、記憶DISC以外にも別のDISCを抜き取られる感覚の記憶があった。
あのスタンドは、記憶だけでなくスタンドもDISC化して抜き取り、他者に与えることができる、ということなのか。

「あの、何か……」

「いや、なんでもありません……」

現状では、やはり何とも結論付けることはできない。
……そもそも、この承太郎のDISCに込められた記憶さえ真偽が不明なのだ。
今後は早苗や、あの八坂神奈子のように、DISCの力でスタンドを得る者が現れるかも知れない、
ということだけは気に留めておく。

「あの、『外の世界』では、『スタンド使い』は珍しくないのですか?」

「どうでしょうね……。僕は生まれつきスタンドを持っていたけど、
 最近までスタンドを持っている人と出逢ったことは無かった。
 だけど、今までたまたま遭うことがなかっただけで……」

「プロシュートさんみたいに、スタンド使いのギャング?……みたいな人がたくさん居るのでしょうか?」

「……そうかも知れません」


579 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:04:27 nL7FuEA.0
共闘した彼からは、芯の通った『凄み』や重い『覚悟』、そして抜け目のない『したたかさ』を感じた。
彼が言っていたように、『スタンド使いの』ギャングだったのだろう。それも相当の百戦錬磨。
自らのスタンドを駆使して、スタンド使いの仲間と共に、スタンド使いの敵を相手にして、数多くの修羅場をくぐってきたのだろう。

『自分には一生この「法皇の緑」を見ることのできる友達が現れない』などと
半年前まで思い込んでいたことが、馬鹿馬鹿しくなってきた。

花京院は思う。
もし、DIOと出逢う前にスタンド使いの友ができたなら……
『肉の芽』を植え付けられ、道を外れかけることもなかったかもしれない、と。
例えば……承太郎たちや、DISCの記憶に残っていた、
名簿にも載っている、『彼ら』のような友達と遭うことができたのなら、と。


『×紅美鈴』

「くれない・みすず……」

小さな声で、花京院が名前を読み上げる。

「……ホン・メイリン、です」

早苗が近寄ってきて、すかさず訂正に入った。

「この近く、ポンペイに亡骸がありました。
 丁重に弔われていました。……きっと彼女は最期まで、
 私の知る、やさしい妖怪の『紅美鈴』だったんだと思います」


580 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:04:40 nL7FuEA.0
「……妖怪?」

「もともと、この土地……幻想郷は、科学の発達によって存在を否定された
 妖怪や神が存在を維持するために創られた領域なんです。
 外界で幻想とされ、存在できなくなった者達が、ここでは今も生きています。
 神様である神奈子様に諏訪子様も、外界の信仰が薄れて存在が危うくなったために、ここに移り住んできたんです」

「……それから私も」

そう言うと早苗は、おもむろに足元の木の葉をつかみ、胸の前に両掌を捧げて目を閉じ、一言、何かを呟く。
すると早苗の掌の上に乗った木の葉は小さなつむじ風に乗り、くるくると回り出した。

「『風』が……!」

「これは『スタンド』ではない、『奇跡を起こす程度の能力』。
 神奈子様と諏訪子様から小さい頃より教わってきた、守矢神社に代々伝わる秘術なんです。
 その気になれば、突風だって吹かせることができちゃいますよ。
 私は、守矢神社の風祝……巫女として、お二方に付いて移住してきたのです」

固かった早苗の表情、ほんの少しだけ緩んだ。

「美鈴さんとは私が幻想郷に移り住んでから知り合いました。
 美鈴さんは姿形も人間とほとんど変わりませんけど、
 ……何というかそれ以上に、中身の方が、人間より人間じみて人間臭いヒト、でしたね……。
 ……紅魔館の門番で、よく居眠りして、咲夜さんからナイフを投げつけられたりしてましたっけ……」


581 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:04:56 nL7FuEA.0
『×十六夜咲夜』

花京院が名簿を見ると、その咲夜という名前の傍にも×が付いていた。

「……咲夜さんは、紅魔館のメイド長、でした。彼女は人間です。
 彼女がどこで、どのようにして命を落としたのか。私にはわかりません。
 まさかあの人まで死んでしまうなんて。……まだ実感が湧きませんが……。
 ですが正直信じられません。……ナイフの達人で、時間を止めることまでできるあの人が」

「時間を、止める?」

それは、未来の花京院が命を賭けて解き明かすはずだったDIOのスタンドの秘密であり、
未来の承太郎が新たに目覚める……ことになっている、スタンド能力だった。

「時間を止めるなんて、いくら貴方がスタンド使いとはいえ、流石に信じられないでしょうけど」

「……彼女はスタンド使いではないのですか?」

「違うと思います。少なくとも、スタンド像を見たことはありません。
 ……レミリアさんの事が心配。紅魔館の主、つまり美鈴さんと咲夜さんのご主人様で、
 吸血鬼なんですけど」

「……何だって!?」

「どうしました?」

「吸血鬼なら、僕も知っています」

「外界にいるなんて、始めて聞きました」


582 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:05:10 nL7FuEA.0
「……そのレミリアという吸血鬼は、『乗って』いたりはしませんか?」

「さっきあんなことがあったので、自信をもって言うことはできなくなってしまいましたが……
 少なくとも私の知る限りでは、無闇に殺しあうようなヒトではありません。
 ……貴方の知っている吸血鬼というのは?」

「DIOという男です。
 他者を害するのに全く躊躇のない悪しき吸血鬼で、スタンド使いです。
 僕たちはここに連れてこられるまで、DIOを倒すための旅を続けていました」

「……もしかしてその顔の傷跡は……」

早苗の視線が、花京院の両目に移るのが感じられた。
花京院は、エジプトの砂漠で水のスタンドの使い手に襲われた時の事を思い出した。
その時の両目の上下に残る傷跡のことを言っているのだろう。確かに、ただの学生にはあまりにも不釣り合いだ。
サングラスが無いと目立つかも知れない。夜だったので外していたが。

「ええ、DIOのけしかけたスタンド使いの攻撃によって受けたものです。
 日本からDIOの待つカイロまで、何人ものスタンド使いと戦いながら旅を続けてきました。
 名簿にあるこのホル・ホースのように、金で雇われただけと思しき者、
 DIOの細胞・肉の芽を脳に植えこまれて無理矢理操られた者、
 それから、DIOのためなら生命を捨てて良いと、そんな狂信的な気持ちで襲ってくる奴らもいました。
 僕が思うに、そのカリスマがDIOの一番恐ろしくて危険なところだ……」

「肉の芽……ですか」

考えこむ早苗を横目に、残りの×マークは黙々と、手早く書き写した。
聞きたいことは数多いが、あまりゆっくり話し込んでもいられない。
既に亡き者となってしまった彼らについて話すのは、またの機会でいい。


583 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:05:25 nL7FuEA.0
◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

プロシュートの亡骸は、ポンペイ遺跡、紅美鈴のそばの石畳の下に埋められた。

「ありがとうございました、プロシュートさんの埋葬を手伝ってくれて」

「礼を言われるほどのことはしてません。……彼が駆けつけてくれなかったら、死んでいたのは僕の方だった」

手伝ったといっても、花京院はプロシュートの亡骸を運んだだけなのだが。
穴は早苗のスタンド『ナット・キング・コール』で石畳を外すことによって、すぐに掘ることができた。
もちろん、切り落とされたプロシュートの腕も、スタンドで修復済みだ。

「あとは、美鈴さんの右足も返さないと」

そう言って、早苗はネジ止めされていた自分の右足を模型部品の様に取り外した。
それを赤毛の中華風の服装の女性、紅美鈴の脚にネジで取り付けると、何事も無かったかのように元通りとなった。
続けて早苗はデイパックからもう一つ『右足』を取り出す。
その断面はまるで模型のジョイントの様だ。
早苗の脚の断面に合わせ、ネジを差し込むと……。

「……よし。動けます。美鈴さん、ありがとうございました」

早苗は先ほどと同様に2本の脚でしっかりと地面を踏みしめ、美鈴に頭を下げた。


584 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:05:41 nL7FuEA.0
「便利なスタンドですね」

「おまけに、ルックスもイケメンなんです。
 ……では私は、これで。承太郎さんに、ポルナレフさん、
 それから、ジョセフさんとお会いできたら、よろしく言っておきます」

作業の片手間だったが、必要な情報は大方交換し終えた。
そうだ、僕達にもうここにいる理由はない。
気持ちが逸るのか、早苗は足早にこの場を去ってゆく。

「ええ、行きましょう」

取り残されぬよう、花京院は慌てて早苗の後を追う。

「えっ?」

「……えっ」

まるで予想していなかった、という風な反応の早苗。
そんな早苗の反応は、また花京院にとっても予想外のものだった。

しばしの間、気まずい沈黙が流れる。


585 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:06:02 nL7FuEA.0
◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

「どうして、貴方がついてくるのですか?」

早苗が問いかけてくる。

「戦力は多いほうが良いでしょう? あの機関銃は、ここにいるスタンド使いの中で僕の知る限り
 『法皇の結界』でないと防げません。
 君の『ナット・キング・コール』も近接パワータイプに見えますが、
 単純にスピードが速いだけのスタンドでは、あの連射は捌き切れないとでしょう。
 ……それこそ時間を止めでもしない限りは」

と答える花京院。
だが早苗は

「貴方が私わざわざについてきて、危険を冒す理由は無いのではないですか。
 これは守谷神社の、私達家族の問題なんです。私一人で行かせてください。
 貴方をプロシュートさんのように……巻き込む訳にはいきません」

と素っ気ない。

「君一人では、危険すぎます。……勝算は、あるんですか?」

食い下がる花京院に、早苗が振り向いて答え、そして尋ねた。

「仮に神奈子様と私がお互い万全の状態で、本気で戦ったとして……勝算は……それこそ万に一つでしょう。
 おまけに今の神奈子様は機関銃とスタンドまで持っています。
 でも、私が説得すれば、きっとわかってくれるはずです。
 ……見たんです。私が駆けつけた時、神奈子様が私に向けてスペルカードを放った時……神奈子様は、泣いていた。
 本心から殺し合いたいと思っている訳ではないんです。きっと……いえ、絶対に。
 ……ねえ、肉の芽で操られた人って、どんな感じなんですか。
 操られて、親しい人と殺しあうことになったら、やっぱり泣いたりするんですか」

花京院は、自身が肉の芽で操られていた頃の、忌まわしい記憶を思い出した。


586 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:06:19 nL7FuEA.0
「肉の芽を植え付けられると、ただひたすら、DIOのためだけを思って行動するようになってしまう。
 断言できます。たとえ肉親と殺しあうになっても、涙を流したりはしません。
 DIOのためにしか涙を流せなくなってしまいます」

その言葉には実感が込められていた。

それは早苗にも伝わったのか。彼女は微笑み、

「よかった、恐らく違うだろうとは思ってましたが……。
 これで……これで肉の芽で操られている可能性はなくなりました。
 安心して説得に向かえます。では……失礼」

酷く悲しそうな声で言って、小さくおじきして早足で去ってゆく。

花京院はなおも追いすがる。

「ッ……! 来ないで下さい!!」

遂に早苗が声を荒らげた。予想だにしていなかった剣幕に、花京院の足が思わず止まった。

「わからないのですか。
 きっと神奈子様、貴方の事は問答無用で襲います。
 説得の可能性があるのは私か……諏訪子様だけです」


587 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:06:34 nL7FuEA.0
そう告げて、早苗はデイパックから、太い木製の角柱……御柱(オンバシラ)を取り出し始めた。
デイパックの中に折りたたまれた紙から、ポケットの容量を無視してズルズル、ズルズルと
早苗の手で引っ張りだされたそれは、全長2メートルを優に超えている。

「これ以上、神奈子様が誰かを傷つける所を見たくは、ないんです。
 もう、神奈子様に罪を重ねさせないで。
 貴方のお気持ちは、お気持ちだけですが、ありがたく、受け取っておきます……さようなら」

早苗はオンバシラを肩に担ぎ上げ、勢い良く走りだす。
そして十分な加速がついた所で、

「『メテオリック! オンバシラァァーーッ!!』」

叫ぶと同時、早苗は御柱を担いだまま空に向かってジャンプ。
跳び上がる勢いそのままに、御柱は重力を無視して高度を上げてゆく。
早苗の身体は御柱にぶら下がる形で宙に浮き始め、遂に両足が地面を完全に離れた。

追い掛ける花京院。だが、もう遅い。
……御柱とそれにぶら下がった早苗が遠ざかってゆくのを、花京院はただ立ち尽くして見送ることしかできなかった。


588 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:06:49 nL7FuEA.0
◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

無事離陸が成功した所で、早苗はスタンド『ナット・キング・コール』を御柱の上に出現させた。
そのまま本体である彼女自身を御柱の上に引き上げ、体を横向きに、足を広げて立ち上がる。
そして両足にスタンドの『ネジ』を打ち込んで固定すると、早苗はスノーボードや、サーフィンのような体勢をとる。

「これで、このオンバシラをコントロールできる……。あまり小回りは利きそうにありませんが」

オンバシラに乗り、早苗は冷たい朝の大気を切り裂きながら行く。

(彼には『私が説得すれば、きっとわかってくれるはずです』などと言ってしまいましたが、
 果たして神奈子様を言葉で止められるかどうか)

――物心着く前から、神奈子様と諏訪子様は、私の傍におられました。
――幼い頃から、色々な昔話、そして、守谷の秘術を教えて下さりました。
――ですが、信仰が薄れた外界で、お二方は私以外には視えない存在でした。
――……いずれ完全に消滅しつつある運命だったのです。

――私の家族にも、学校の友達にも視えないのです。
――いや……外界に本当に友達と呼べる人が果たしていたかどうか。
――私にとっては家族同然の、私を語る上で欠かせない存在であるお二方。
――誰も彼女たちに、私の一部ともいえる存在に気付いてもらえないのです。
――……外界では、心の底から理解しあうことなど、誰ともできなかった。
――血の繋がった家族とさえ。

――だから、神奈子様と諏訪子様から幻想郷という土地に渡ると聞いた時には、
――迷わず私もついていくと決心しました。
――そして幻想郷に渡ったあの日から、
――神奈子様と諏訪子様の信仰のためにこの私の生命を捧ぐと決めていました。
――お二方にとって私は、何十代も続いてきた風祝のうちの一人に過ぎないのかもしれない。
――……だけど私にとってお二方は、血の繋がった両親よりも大切な存在なのですから。


589 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:07:03 nL7FuEA.0
(だから、あの時の神奈子様の涙、そして、『愛している』というお言葉……錯覚とは思えない。
 錯覚であるはずがない……私が、信じなければ)

そう言い聞かせる早苗の脳裏を、花京院から伝え聞いた神奈子の言葉がよぎった。

曰く、『この土地が決めたシステムの基本…―――『生贄』という概念』

曰く、『此度の『儀式』のルールを変えることは私にも不可能だ。生贄は89人、生存者は1人。
   『幻想郷の最高神』がそう決めたのなら、私も従わざるを得ない』

花京院は戦いの前に神奈子にそう告げられたという。
幻想郷にそんなルールがあるなど、早苗はもちろん聞いたこともない。
だが、花京院が嘘を言っているようには思えなかった。
そしてもし、その言葉を真実とするなら……
神奈子より直接伝え聞いた『愛している』という言葉と、等しく真実であるとするなら……。

(……もはや言葉など何の用も為さない、この世界にとって、
 幻想郷にとって致命的な変化が起こってしまったのかもしれない。
 ……神奈子様はそれを理解してしまわれたのか。
 故に、神奈子様は殺戮の道を選ばざるを得なかったのか)

(……だとしても、私は見たくはない! 神奈子様のあんなお姿を……!
 諏訪子様に、霊夢さんに、皆を手にかけた結果、神奈子様が最後の一人として生き残ったとして……
 89の屍の山の頂点に立つ血塗られた神として崇められて、それが何だというのか……)


590 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:07:28 nL7FuEA.0
……ならば、どうする。
説得が通じなければ……戦って、殺してでも止めるしかない。
神奈子様と諏訪子様の為にこの命捧ぐこと、惜しくはない。

だが……いざその時になってみて、死ぬのが怖くないなどとは、言えなくなるかもしれない。
だけど、その恐怖が私の弱さであるなら……それは乗り越えなければならない。
プロシュートさんが『弱さを乗り越え立ち上がれ』と遺したように、私は乗り越えてみせる。

……神奈子様と私の力の差は、歴然としている。
自分が傷つき命を落とす恐怖くらい乗り越えられなければ……万に一つの勝機さえ見いだせないだろう。

そう、あの人から教わったように……
愛する神奈子様を殺すために、『己の精神を支配する』。
愛する神奈子様を殺すために、『己を知り』、自らの能力を最大限に振り絞る。
そして『愛する神奈子様の立場に身を置いて思考』し、愛する神奈子様を出し抜いて、愛する神奈子様を殺す。
座して死を待つでもなく、昂った感情に任せるでもなく、強靭な意志と冷徹な思考でやらなければならない。
でなければ、幻想郷で出会った友たちも、見知らぬ人々も、また愛する神奈子様に殺される。
やらなければ、殺らなければならない。

――その時、早苗の背筋に冷たいものが走るのを感じた――。

もし私が弱さを乗り越えて、愛する神奈子様を冷静に、全力で殺しにかかることができた時……。
私は果たして私であり続けることができるのか。
私の姿をとっていながら、私でない、おぞましい何者かになってしまっているのではないか。

『弱さを乗り越える』ということは、
『愛する者を全力を以って殺しに掛かる』ことへの恐れさえ捨て去ることなのか。

あの人ならこんな時、何と声をかけてくれるのか。
振り返って遠ざかりゆく彼の方を振り向くが……


591 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:08:19 nL7FuEA.0
早苗の視界には、朝日を受けて輝く幻想郷の大地と、遠ざかってゆく石造りの遺跡、
そしてオンバシラ後尾にしがみつく緑色の上半身しか映らなかった。

(そう、彼は既に石畳の下で眠っている。
 もう何もレッスンを授けてはくれない)

再び早苗は前を向き、先刻神奈子が逃げ去っていった方角を目指す。

――……あらゆる『弱さ』を乗り越えた者は、一体何者となってしまうのか。

その疑問尽きぬままに。

【東風谷早苗@東方風神録】
[状態]:体力消費(中)、霊力消費(中)、精神疲労(大)、右掌に裂傷(止血済み)、全身に多少の打撲と擦り傷(止血済み)
 オンバシラに乗って飛行中
[装備]:御柱@東方風神録、スタンドDISC「ナット・キング・コール」@ジョジョ第8部
[道具]:止血剤@現実、基本支給品×2(美鈴の物)
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。この殺し合いを、そして神奈子を止める。
1:『愛する家族』として、神奈子様を絶対に止める。…私がやらなければ、殺してでも。無関係の人は巻き込めない。
2:殺し合いを打破する為の手段を捜す。仲間を集める。
3:諏訪子様に会って神奈子様の事を伝えたい。
4:2の為に異変解決を生業とする霊夢さんや魔理沙さんに共闘を持ちかける?
5:自分の弱さを乗り越える…こんな私に、出来るだろうか。
6:今、後ろに何かいましたよ!?


592 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:08:37 nL7FuEA.0
物思いにふけっていたせいか、軽やかにスルーしてしまっていた。
……もう一度早苗が振り返ると、オンバシラの後尾に、確かに緑色のスタンドの上半身がしがみついている!
つい今しがた振り切ったはずの青年のスタンド、『法皇の緑(ハイエロファントグリーン)』!
ひも状にほどけた法皇の緑の下半身が、ぶら下がった本体の青年を引っ張り上げ……遂にオンバシラに追いついてしまった!

「ゼェーッ、ゼェーッ……ハァーッ、ハァーッ……」

「貴方……! 飛行中のオンバシラにぶら下がって登ってくるなどと、なんて無茶なことを……!」

「……君がこれからしようとしている無茶にくらべれば……このくらいは……」

「ケガしてるのに、どうして、そこまでして……」

「何となく、ですが……君がこれから『死にに行く』ような目をしている様に見えました」

図星であった。早苗は二の句が継げない。

「そんな目をした人を……たとえ今日であったばかりの人であっても……
 放って置けるほど僕は冷たい人間ではない……つもりです」

花京院には、一人で神奈子の説得に向かうと言った早苗が、あの時の、
妹の仇を討ちに一人向かったあの時のポルナレフとダブって見えていた。

遠くで様子を伺っていた時の彼女とは別人のような、冷たい、思いつめた目をしているように見えた。
こちらを向いて話しているつもりで、その瞳はずっと遠くを見ているようだった。

きっとあの視線の先には、神奈子のことしか見えていないのだろう。
自分の命さえ顧みていないのだろう。

放っておいたら間違いなく彼女は生命を落とす。
さっきあったばかりの赤の他人とはいえ、……見殺しにするようなマネは、彼にはできなかったのだった。


593 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:08:58 nL7FuEA.0
「それに、君は僕の命の恩人でもある……!
 断っても無駄です、勝手に付いて行かせてもらいます……」

そう断ってオンバシラにしがみつき、こちらを見上げる花京院の瞳からは、
翠玉、いや、金剛石のように固く、揺るぎない意志の光が感じられた。

「……『ナット・キング・コール』」

「……!」

「彼の身体を、オンバシラから落ちないように固定して。
 勘違いしないで下さい、コソコソ後ろからつけ回されるよりはまだマシって判断しただけですからね?
 ……私についてきてどんな結果になったとしても、責任は持てませんからね」

「……よろしくお願いします、東風谷さん」

「……花京院くん」

沈黙。

「…………………行きましょう」

ありがとう、とは、言えなかった。
これから自分達が何をしようとしているか、想像すると、感謝の言葉は口にできなかった。


594 : Green,Green ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:09:15 nL7FuEA.0
【東風谷早苗@東方風神録】
[状態]:体力消費(中)、霊力消費(中)、精神疲労(中)、右掌に裂傷(止血済み)、全身に多少の打撲と擦り傷(止血済み)
 オンバシラに乗って飛行中
[装備]:御柱@東方風神録、スタンドDISC「ナット・キング・コール」@ジョジョ第8部
[道具]:止血剤@現実、十六夜咲夜のナイフセット@東方紅魔郷、基本支給品×2(本人の物と美鈴の物)、
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。この殺し合いを、そして神奈子を止める。
1:『愛する家族』として、神奈子様を絶対に止める。…私がやらなければ、殺してでも。無関係の人はなるべく巻き込みたくない。
2:殺し合いを打破する為の手段を捜す。仲間を集める。
3:諏訪子様に会って神奈子様の事を伝えたい。
4:2の為に異変解決を生業とする霊夢さんや魔理沙さんに共闘を持ちかける?
5:自分の弱さを乗り越える…こんな私に、出来るだろうか。
[備考]
※参戦時期は少なくとも星蓮船の後です。

【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:オンバシラにしがみついて飛行中、体力消費(中)、右脇腹に大きな負傷(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部、不明支給品0〜1(現実のもの、本人確認済み)
 基本支給品×2(本人の物とプロシュートの物)
[思考・状況]
基本行動方針:承太郎らと合流し、荒木・太田に反抗する
1:承太郎、ジョセフ、ポルナレフたちと合流したい。
2:東風谷さんに協力し、八坂神奈子を止める。
3:このDISCの記憶は真実?嘘だとは思えないが……
4:3に確信を持ちたいため、できればDISCの記憶にある人物たちとも会ってみたい(ただし危険人物には要注意)
5:DISCの内容に関する疑問はあるが、ある程度情報が集まるまで今は極力考えないようにする
[備考]
※参戦時期はDIOの館に乗り込む直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。
これにより第6部でホワイトスネイクに記憶を奪われるまでの承太郎の記憶を読み取りました。が、DISCの内容すべてが真実かどうかについて確信は持ってません。
※荒木、もしくは太田に「時間に干渉する能力」があるかもしれないと推測していますが、あくまで推測止まりです。
※「ハイエロファントグリーン」の射程距離は半径100メートル程です。


595 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:09:37 nL7FuEA.0
ナット・キング・コールの基本ステータスが判明したので、追記します。

<スタンドDISC「ナット・キング・コール」>
【破壊力:C / スピード:D / 射程距離:C / 持続力:A / 精密動作性:E / 成長性:A】
東風谷早苗に支給。
大量の螺子(ネジ)を体中に打ちこまれ、額にV字型の飾りを持った人型スタンド像を持つ、ジョジョ8部からのスタンド。
対象に螺子とナットを打ち込み、ナットを外すと打ちこまれた部位も一緒に外れる『分解』の能力。
そして、外された部位は組み替えることも出来るほか、違う物同士を接合できるなどの『接合』という応用力もある。
これにより切断された体の部位を繋げて応急処置をするという、『スティッキィ・フィンガーズ』のような扱い方も可能。


596 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 11:10:25 nL7FuEA.0
以上で投下を終了します……のぜ。


597 : 名無しさん :2014/06/28(土) 12:00:36 fHzgz/J20
投下乙です
二人とも仲良く協力できるかと思ってましたが、早苗さんがだいぶ思い詰めてるな・・・
花京院がしっかり支えてやってほしいです。
それと、シリアスなシーンの中いきなり「くれない みすず」が出てきたのは良い不意打ちでしたww


598 : 名無しさん :2014/06/28(土) 12:44:49 ReQlrIW.O
投下乙です。

殺人を止めようとする者は、殺し殺される覚悟をしなければならない……のか!?


599 : 名無しさん :2014/06/28(土) 13:15:01 DUwbnN3k0
投下乙です。
「周囲と本当の意味で打ち解けられなかった」という意味では二人とも同じだなぁ…
家族を殺してでも止めようとしてる早苗が中々思い詰めてて今後が不安だけど、
それだけに花京院にはサポートを頑張ってほしいな
気になった点を言うと、現在地と時刻が書かれてない気が…?


600 : 名無しさん :2014/06/28(土) 14:06:45 L.4Sw6DE0
緑は良いなァ…


601 : ◆.OuhWp0KOo :2014/06/28(土) 14:09:03 nL7FuEA.0
しまった、何という凡ミス

現在位置と時刻の表記です。

【B-2 ポンペイ遺跡上空/朝】


それから、以下の2文を追加で。

※早苗と花京院を乗せたオンバシラがどこへ向かっているかは、後の書き手さんにお任せします。
※花京院の具体的な体勢は、後の書き手さんにお任せします。


602 : 名無しさん :2014/06/28(土) 16:56:18 .krXF7iU0
投下乙です。
東風谷さんと花京院くんの緑コンビは果たしてあの神奈子を止められるか。
最後の掛け合いが少し微笑ましく思ってしまった。

あとどうでもいいけどオンバシラで飛行する早苗に桃白白を連想してしまった


603 : 名無しさん :2014/06/28(土) 19:22:54 1ofjlOIE0
投下乙でした。

そういえば緑コンビなのね、この二人w


604 : 名無しさん :2014/06/29(日) 21:50:14 yoNpi46k0
もう、このコンビ名はグリーングリーンズでいいんじゃないかな


605 : 名無しさん :2014/06/29(日) 21:57:38 o64GVK2I0
バナナ〜ム〜ンに乗って〜空へ〜漕ぎだ〜そ〜うよ〜


606 : 名無しさん :2014/06/29(日) 22:29:33 nRPqoDJY0
>>605
何かと思えばカービィ1面の曲か
ステージ名がグリーングリーンズだっけか
あれ歌詞あったのかw

……いまあのコンビが乗ってるのはバナナムーンでもワープスターでもなくオンバシラだがな!w


607 : ◆qSXL3X4ics :2014/06/30(月) 21:11:20 abZGfC0c0
すみません、予約延長します


608 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/06/30(月) 23:53:25 BSWkO4Ys0
予約延長します。あとドラゴンズ・ドリームが出せなくなったので、ホルホースだけ破棄します


609 : 名無しさん :2014/06/30(月) 23:58:33 ZjmqaVSU0
そうかアイテムまでの予約はなかったか…


610 : 名無しさん :2014/07/02(水) 00:33:15 KRo7PLSY0
他のスタンドディスクがないと登場できない、ホルホースさん(´;ω;`)<エンペラ


611 : 名無しさん :2014/07/02(水) 23:43:39 irWrj4CY0
俺もなんか用語集に登録されるような言葉を作りたいものだ。

>>604
分かりやすくていいと思う。


612 : ◆n4C8df9rq6 :2014/07/04(金) 15:36:14 e6EGmkc60
申し訳ございません、予約破棄します


613 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:23:35 GjLQXRhQ0
予約分投下します。


614 : 薄氷のdésastre ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:26:54 GjLQXRhQ0
『宇佐見蓮子』
【朝】D−2 猫の隠れ里 外れの廃屋








―――軋むほどに重く、沈痛な空気がこの空間の時間をゆっくり支配していく。





名簿に丁寧に印を書き足していった蓮子は、放送の声が完全に止み終わっても中々名簿から顔を上げられない。
この雰囲気の中、自分から切り込む勇気が出ないのだ。
そんな空気を直視出来ず、彼女はチラリと視線だけを上げる。

霍青娥のいつもと変わらないニコニコ顔がこの時ばかりは羨ましい。
彼女は死者の名前が読み上げられても眉ひとつ崩すことなく、マイペースに印を点々と付け足してくのみだった。
親しい者の無事に喜んでいるのか。そもそも親しい者など居るのだろうか。
その笑顔の下にどんな思惑が隠されているのか。同行者の蓮子は不審に思う。
だが、そんなことをいくら考えても無駄だということぐらいは蓮子にもとっくに分かりきっている。
この女の心の内など理解できようもないし、したくもなかった。


次に視線を横にずらすと、縛り付けられたまま意気消沈している八雲紫の様子が見える。
放送の内容は…全て聴いていただろう。だからこそ彼女はこうして俯いたまま、言葉を発することなく動じずにいるのだから。
いや、動じずにいるなんてことはあるのだろうか。それはむしろ全くの逆。


かの大妖怪・八雲紫は今、動じていた。どうしようもないほどに。


615 : 薄氷のdésastre ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:31:22 GjLQXRhQ0
人間や妖怪すらからも恐れられて幾星霜。
彼女を知る者は皆、口をそろえてこう言う。
全ての事象を根底から覆すあの能力に弱点などありはしない。
対策も防御法も一切存在しない、神に匹敵する力。
禍々しく、残酷で、美しく、不吉で、そして胡散臭い。
故に恐れられ、故に大妖怪と称された。

そして彼女は間違いなく、誰よりも幻想郷を愛す存在だった。

賢者として幻想郷の成り立ちに関わった彼女は、深い愛情を以って永く幻想郷を見守り続けてきた。
その過程で触れ合った者の数も、星の程。
全てを『家族』と呼んでも些かの違いは無く。


そんな『幻想』も、たった今崩壊した。

放送で名が呼ばれていくごとに、音を立ててバラバラと。

ひとり。またひとりと、『家族』を失っていった。

その数、18人。たった6時間で、18もの命が潰えた。

その中の内、3人の命を奪ったのは紛うことなく、八雲紫自身。


―――魂魄妖夢。友人、西行寺幽々子のただひとりの従者。彼女たちはそれこそ親子のように睦まじく見えた。幽々子に、合わせる顔が無い。

―――星熊勇儀。彼女も同じ幻想郷の仲間で友人、伊吹萃香の親友といってもよかった。萃香にも合わせる顔は無かったが、その彼女も既にこの世にはいない。

―――ズィー・ズィー。外の世界の人間で、紫とは何一つ接点も無い男。そして、紫を命懸けで守り通した何よりも貴い男。
   彼を直接殺めたのは勇儀の凶手だったが、その遠因は自分が引き起こしたようなものだと紫が思い塞ぐのも無理はなかった。



全て、全て死んだ。
右肩の脱臼がズキリと痛むが、それを意に介す余裕すらも無い。
彼女の愛する幻想郷は今この時を以って、真の意味で崩壊し始めたのだ。

何が大妖怪。何が賢者。
自分がこの手で、何を守れた? 何が出来た?

結局はあの主催者の思惑通り、見事にゲームの役割を演じきった間抜けで滑稽な『ピエロ』。
裏でほくそ笑んでいるであろう主催2人の顔が脳裏に浮かび、思わず拳を握り締める。
が、その行為もすぐに虚しくなり、だらんと腕を下げるのみに終わる。
空虚感と無力感が同時に襲い掛かり、がらんどうになった心に染みる物は何も無かった。


大妖怪・八雲紫はこの瞬間、容易くも堕ちた。鳴かぬ少女へと。


616 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:33:11 GjLQXRhQ0
そして、そんな少女へとかけることの出来る言葉を蓮子は持ち合わせていなかった。
その麗しげな金色の髪を垂らしながら顔を伏せる彼女の姿に、一体どんな言葉をかければ良いというのだろうか。
もはやメリーについて聞ける雰囲気ではない。蓮子は何も言えず、ただ黙って名簿に視点を滑らせる。

蓮子は、紫には悪いとは思いながらも心の中は安堵の気持ちで溢れていた。
親友メリーの名が放送で呼ばれることはなかった。その事実に、蓮子は心の底から只々安心した。
メリーは無力だ。危険な参加者に遭遇した時点で為す術なく殺されてしまうだろう。
同じく無力な自分は、運良く頼もしい参加者達と出会えたから死ぬことなくここに居る。
ジョニィ・ジョースターや岸辺露伴が居なければ、自分の名は今頃放送で高らかに読み上げられていただろう。
メリーもきっと、誰かに守られながら…今も生きている。

だが、次の放送時には? 今日の昼には生きていられるのか?
それを考えた途端、蓮子の心に焦燥と恐怖が湧きあがってきた。
自分だっていつ死ぬやも知れない。ましてや、この自分を縛り付けているのは究極の気まぐれ、霍青娥だ。
いつ、何をキッカケにして彼女が自分に危害を与えてくるかまるで読めない。

実際、ついさっきも何度か死にかけたのだ。
妖刀に操られた紫に斬りかかられた時。
青娥に冗談で拳銃を突きつけられた時。そのときの青娥の表情は、冗談に見えなかった。

ヨーヨーマッのスタンドDISCも奪われた以上、今の自分に戦う術は全く無い。
全く…全く情けない話ではあるが、誰かの庇護を受けていないと自分が生存できる可能性は限り無くゼロだろう。
その『庇護』してくれている対象もあの青娥では、あまりにも不安定すぎる。

蓮子は思う。何とか青娥の目を盗んで逃げ出し、元来た道を戻ればジョニィや露伴達がきっと自分を助けてくれるはずだと。
だが、この紫を放っておくのも忍びない。何とか彼女も一緒に連れて行けないだろうか。
そもそも彼女は何者なのか? ここまでメリーと酷似しているのに、赤の他人にはとても思えない。
やはり彼女の口からそれを直接聞き出さなければ、溜まり募る気がかりは吐き出せない。


しかし…。


617 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:34:06 GjLQXRhQ0

(ど、どうしよう、空気が重い…。八雲さん、もうずっとこの調子だ……何か言った方が良いのかな……、でも…)


名簿で顔を隠しながら蓮子は紫の方をチラチラと覗いては目を背ける。
青娥は端から当てにならない。ならば消沈する彼女に何か言ってやれるのは自分しかいない。


―――八雲さん。お気持ちは察しますが、どうか元気を出してください。

(いやいや駄目でしょ!あまりに無神経すぎるわ…)


―――泣いている場合ではありません。早くここを出て他の参加者を探しに行きましょう!

(正論かもだけど、守られる立場の私が言える台詞ではないわね…)


悶々と思考を重ねる蓮子は、浮いて出た案を捨ててはまた考える。
その過程で蓮子はふと、自分は紫に同情しているのか? と、小さな疑問を持った。
この女性は幻想郷の大妖怪で、最強の力を持つ屈指の権力者だという。
それがどれほど大層な位置付けなのか蓮子には想像だに出来ないが、青娥の口ぶりからもどうやら本物の『強者』らしいことが分かる。

だが、今の彼女の姿を見て畏れを抱く者は皆無だろう。
親からはぐれた幼子のように、または帰るべき巣を見失った燕のように。
いまや八雲の大妖は、蓮子と何一つ変わらない無力な少女と化していた。
その蓮子すらからも同情の念を向けられている。ただの人間の少女である蓮子から、かの大妖怪へ。
本来ならば『守る者』であったはずの彼女は、この局面において『守られる者』へと逆転してしまったのだろうか。
蓮子はそう思いながら、紫に対してどこか親近感を感じた。

その不謹慎な気持ちも手伝ってか、蓮子は何とか言葉を搾り出せそうだった。
何を言えばいいのか分からない。けれども何か言わなければいけない。
滅茶苦茶にこんがらがった気持ちで、言葉を喉元まで押し出す。
勇気を。励ましを。希望を。
とにかく、そんな言葉を繰り出すためにひと呼吸いれて、切り出す。


「ハァーーイ♪ 放送も終わったことだし、とっととここから出ましょっか♪ 蓮子ちゃん、紫ちゃんの縄を解いてあげて?」


618 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:35:11 GjLQXRhQ0
蓮子は思わずズッコケそうになった。
喉元から飛び出しかけた言葉は、あっさりと引っ込んで飲み込まれる。
人がせっかく気の利く台詞を投げようとしたところに、見計らったが如く青娥の空気を読まない声が空気を切り裂いた。
それはむしろ空気を読んだのか。蓮子はそう深読みしたが、ここはせめて形式だけでも紫をフォローするために、青娥へ突っ込む。


「せ…青娥さん…! 八雲さんがこんな状態なんですから、もう少し時間を与えてあげた方が―――」
「―――その必要は、ありません」


蓮子のフォローを遮って声を被せたのは、紫の呟くような小声。
振り向いた蓮子の瞳に映ったのは、顔を上げて二人を見つめる紫の真剣な眼差し。
八雲紫のいつもの姿…とはとても言えたものではないが、それでも気丈に振舞う彼女を見て蓮子は少し安心した。
大丈夫ですか、と声を掛けようとしたが、それは彼女のプライドを傷付けるのではないかと思い、蓮子は微笑みだけを返す。


「大丈夫〜? 紫ちゃん、結構きつそうに見えるけど、何か飲み物でも持ってきましょうか? お水しかないのだけれどね」


蓮子が気を遣ったそばからまたも青娥が言葉を刺してきた。
やはり彼女は空気を読んだうえでそんな台詞を吐いているのだろうか。
(恐らく)皮肉を込めて放った青娥の問いかけに、紫は同じく皮肉を込めたように返す。


「あら? 小娘に気を遣われるほど私は堕ちてはいないつもりですわ」

「あらら? 貴女って私よりも歳は上だったかしら?」

「人生の密度を言っているのですわ。この私が仙人の『なりそこない』と同格だと思って?」


619 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:35:58 GjLQXRhQ0
ピシ…! と空気の割れる音が蓮子の耳に鳴り響く。

自分を『仙人』と謳ってやまない青娥が、一番言われたくない言葉を突きつけられた。
普段は怒りの感情を露わにはしない青娥も、こればかりは笑って過ごせぬ態度をとる。
青娥の顔から余裕が消え去り、逆に紫の顔にはどこか勝ち誇ったようなオーラが見える。

蓮子はさきほど紫に抱いた感情を撤回した。
彼女は決して無力な少女ではない。彼女の心はまだ死んではいない。
ここにきて青娥を挑発するような態度をとれるなど、並大抵の事ではないはずだ。
互いに静かな睨みを利かせるこの構図、客観的に見れば紫が圧倒的に不利である。
武器を奪われ、身体を縛られてなお青娥と対立しようとする行為は、ハッキリ言って自殺行為のようなものだ。
そんな状況で事を荒げようとする紫の意図が、それでも蓮子には何となく伝わった。

―――この自分はまだ死んでなどいない。
―――大妖怪たる者の『威厳』、見せ付けてあげようじゃないか。

誰に見せ付けるのか。当然この場に居る青娥と蓮子へだ。
不敵に笑う紫の姿は、実際のところ『強がり』に過ぎなかった。間違いなく彼女は憔悴していたのだから。
それでもただの強気なハッタリではない。ザワザワと空気の揺れる錯覚は、現実へと変換され蓮子の皮膚にひしひしと突き刺さる。
それに負けじと青娥も額に筋を立てながら、腕を組み紫と対立する。



ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……!



ゴクリと蓮子の喉が鳴る。
この場に居る無力な者は、もはや蓮子ただひとりだった。
ブルリと身震いする。周りの気温までもが一層下がったような感覚に陥る。
戦争でも始めるかのような『敵意』が、両者の間から止め処なく漏れ続けた。

蓮子の立場としては勿論紫を応援したかった。
自分を縛る青娥を、紫がコテンパンにやっつけてしまえば万々歳だ。
そんな考えが過ぎったが、すぐに頭を振って考えを散らす。


いくら最強の大妖怪でも、この女だけは相手が悪い。


根拠の無い直感が、蓮子を戦慄させた。
『相手が悪い』というよりも『相手をしてはいけない』というのが正しいだろうか。


620 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:37:03 GjLQXRhQ0
GDS刑務所での一件で、蓮子は青娥の性格をおおよそ把握していた。
例えどんな些細な出来事でも、この女が何をキッカケにし、何を始めるかは分からない。
触らぬ神に祟りなし。彼女の行動ひとつひとつに意味など求めなくてもいいし、ましてや対立するなど実に愚かである。
向こうから関わろうとしてくるなら、無視して飽きさせるのが一番の対処なのだろう。
それを分かっててこの紫も、あえて挑発しているのだろうか。
だというのなら、せめて自分を巻き込むのはやめて欲しいというのが蓮子の本音だった。
この女は本当に何をしでかすか分からないのだから。


(や…八雲さ〜ん! 後生ですからコイツを焚きつけるのは勘弁して下さ〜い…! 私に火の粉が飛んでくるんですから…!)


ともすれば腹いせに何を命令されるか、分かったものではない。
神に祈るように必死に指を組む蓮子の姿など視界に入らぬように、二人はバチバチと火花を弾けさせる。

救世主が現れたのは意外な方向からだった。


『ご主人様…それから、八雲様……、ここはどうか気を抑えて、場を移動した方が宜しいのではないでしょうか?』


蓮子の願いを汲み取ったのか、陰からのそっと現われて言及したのはヨーヨーマッ。
実に殴りたくなるほどに落ち着き払ったトーンで、紫と青娥の間に割って入ってきた。

(…て、アンタ居たの!?)

虚を突かれた形の蓮子だったが、これを機と見た蓮子はすぐにヨーヨーマッの後を追う。


「そそそその通りですよっ、八雲さん!青娥さんもッ! い、今はいがみ合ってる場合じゃないと思いまひゅ!」


勢い余って噛んだ事も気にせず、蓮子は紫の前に腕を広げて立ち塞がる。
脚はガクガク。腕もガクガク。汗はタラタラ歯はカチカチ。
今、自分の前で睨んでいるのは幻想郷の大妖怪・八雲紫。
そして自分の背を睨んでいるのは邪仙・霍青娥。
食される寸前のサンドウィッチのレタスの気持ちを奇しくも味わいかける蓮子。


(あぁ…私、今後こそ死んだ絶対に死ぬゴメンねメリーこれは殺されるわ)


621 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:37:40 GjLQXRhQ0
頭の中で危うく走馬灯が流れ始める一歩手前、前方と後方からクスリと笑う声が同時に聞こえた。


「クスクス…♪ やーね蓮子ちゃん、これは冗談だってばジョーダン♪ 本気にしないで?」

嘘だ。さっきまでの八雲さんの眼は結構本気の目だった。

「そうよ冗談よぉ♪ ホーント、蓮子ちゃんはからかい甲斐があるわねぇ。ウフフフフ♪」

いやいや私とヨーヨーマッが割って入らなかったら絶対戦争が起きてた。間違いなく。


『…どうやらこの方達にどれだけ突っ込んでも、こちらの身が削れるだけのようですね』

ヨーヨーマッが呆れた顔で息を吐く。
二人でクスクス笑い合う姿を見ると、実は息が合う二人なのかもしれないとすら蓮子は思えてきた。
ハァ…と盛大な溜息と幸運を口から逃し、蓮子は床にペタリと座り込む。
そんな蓮子の耳元に紫はそっと顔を近づけて呟く。


「…ありがと、蓮子ちゃん。私はもう、大丈夫。 …大丈夫だから」


細々とした声でボソリと声を掛ける紫の顔色は、やはり良くない。
きっと無理をしているのだろう。そう感じた蓮子の瞳は、悲しげに微笑む紫の姿を映した。

(もしかして、元気付けられたのは私の方…なのかな)

だとしたら何と危なっかしい鼓舞の手段だろう。
冷や汗を拭いながら蓮子は未だバクバクと脈打つ心臓に手を当てる。2〜3年は寿命が縮んだだろうか。
心を落ち着かせ、深呼吸をしてから紫の縄をゆっくり外しにかかる蓮子の表情はどこか疲れていた。


622 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:38:29 GjLQXRhQ0

「…私は、このゲームを何としてでも止めなくてはならない。それが『幻想郷』を守る賢者…『八雲紫』としての、このゲームの『役割』ですわ。
 太田順也…いや、あの主催者達の『言いなり』には絶対にならない。 …なってやるものですか…!」


彼女の束縛された腕に触れると、僅かに震えているのが感じ取れた。
言葉は静かなものだったが、さっきと違って今度の怒りは本物だと蓮子は感付いた。
間近で身に受けるその怒気を受けて、さっきとは別の冷や汗を垂らす。
縄を解きながら、勇気を出して蓮子は問う。


「…あの主催者に挑む気ですか」

「ええ」


短く受け答えた紫の言葉に、強い『意志』を感じた。
そしてそんな彼女を、蓮子は心から『羨ましい』と思う。

やはりこの人は無力な少女などではなかった。
『正しい道』を進み、そして『力』と『勇気』ある人だった。
そうでなければ、あんなクレーターを作る『鬼』や『妖刀』の使い手と戦いなどしないだろう。
仲間…いや、『家族』の死に悲しみ、怒り、立ち向かいなどしないだろう。

そして、そんな彼女と自分との間には決定的に『溝』があった。
努力や才能などでは埋められない、単純な『力』の差が。
それを痛感してなお、蓮子はこの紫が途方も無い『道のり』を歩くのを手助けしたいと考え始めていた。
その過程で、きっとメリーと再会できるという事も信じて。


だがそれを行うにはやはり、大きな『壁』もある。
自分を縛り付ける邪な傍若無人が。


「紫ちゃん。貴女はあの主催者の正体に…心当たりがあるのではなくて…?」

「………さて、ね。そんなこと、この私には想像だに出来ませんわ」


どこか含むような返答をする紫に若干の違和感を感じた蓮子だが、続く紫の言葉にその違和感は掻き消された。


「それより…聞いたでしょう、青娥。私は本格的にあの主催者に立ち向かうつもり。
 でも正直なところ、この身ひとつでは些かの不安が残ります。 …私の言わんとすること、分かるでしょう?」

「んー? もしかして貴女からうば…預かった『武器』の事を言ってるつもりなのかしら?
 だとするなら困りましたわねぇ…。私もこれで『か弱い』乙女。身を守る術はそうそう手放したくありませんのに」



紫と青娥の視線が再び交差した。


623 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:39:22 GjLQXRhQ0

「…青娥? そういえば…肝心要なことをまだ聞いてませんでしたわね?
 そう、貴女はこのゲームで『どう動こうと』考えているの…? この八雲紫に是非教えていただきたいものね」

「…私が……このゲームでどう動くか、ですって? …フフ♪ これは愉快なことをお聞きなさるのねぇ…。
 貴女ほどのお方なら、それぐらいすぐに察せそうなものですのに…」

「…貴女みたいな輩が、最も『厄介』なのよ…!
 流れに逆らって川をのぼるか…、素直に従って流されるがままか…、はたまた水から上がり、水流を流れゆく者に石を投げるか…!
 『予想だに出来ない行動』を当然のように繰り出す貴女の様な輩が! 一番『危険』ッ!」



今度という今度は、空気がケタ違いに重くなった。
縄を解き終えた蓮子も思わず恐怖に覆われ、後ずさりをするほどに。
ヨーヨーマッも今回は口を挟まず、主である青娥の横に並ぶ。いつでも戦闘を開始できると言わんばかりの態勢で。
蓮子は先程、彼女ら二人は気が合いそうだと評したが…しかし実感した。
彼女らの相性はむしろ逆! 『最悪』だと!


「ねぇ紫ちゃん…貴女、右肩を脱臼してるみたいだけど…この『拳銃』…それほどまでに大きな反動があったのかしら?
 貴女の能力は強大だけど、『身体能力』だけは私が格上みたいね? こんなのオモチャみたいなものよ」


そう言って青娥は奪ったマグナムを興味ありげにまじまじと見回した後、銃身をカチャリと紫の方へ向けた。
その笑顔はさっきよりも数倍不気味に見え、これは冗談の類ではないと蓮子は感じる。
なけなしの勇気を振り絞り、蓮子は震える声で青娥へ抗言した。


624 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:40:02 GjLQXRhQ0

「せ、青娥さん! さっき言ってたじゃないですか!? 八雲さんは『大事なお方』だから殺したりはしないって…ッ!」


『もしかしたら』…これも青娥なりのただの『遊び』で、本当のところはやはり『冗談』で、次の瞬間いつものようにヘラヘラした笑みでニコリと笑いかけてくれる…。
蓮子のそんな一筋の希望は…



「気が…変わったわ」



不気味な笑顔のまま呟いた、青娥のたった一言の言葉で。



「……霍青娥。その銃をすぐに下げなさい。さもなければ……」



あっさりと、崩れ落ちた。





「ごめんなさいね…八雲紫」







吹き抜けから通り抜ける朝の風が、妙に冷たい。
二人の漏らす異様な『オーラ』は部屋内の気温を更に下げ、こころなしか吐く息まで白いようだ。
もはや汗の一滴すら出なかった。
それほどまでにこの場の空気は肌寒く、身体も凍り付いたように動けない。
幻覚なのか、白い霧まで見えてきたようで、蓮子はいよいよ身の破滅を覚悟する。


蓮子の歯が再びカチカチと鳴り始め、身の毛もよだつ寒さに腕を擦る。


625 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:40:54 GjLQXRhQ0












…………?


いや、何だ…?
これは錯覚、というよりも…本当に寒くないか…?

いや…『寒すぎる』ッ!


(―――!? え…なに、これ? 腕が…『濡れてる』…? この『白い霧』、錯覚じゃないッ!)


あまりに急激な温度の低下に、腕を擦って暖めようとする蓮子。 …だが!


(う…『動かない』…ッ!? 腕が…いや、脚も…まるで『凍ったように』全く動かないッ!!)


何がなんだか分からなかった。
目の前の二人のオーラが生んだ超常現象とでも言うのだろうか?
そう推測した蓮子は、対立しあう二人の女性を見やった。

…が。


「…霍青娥。『コレ』も、貴女の仕業だとでも言うのかしら?」

「…………いいえ。『コレ』が八雲紫…貴女の仕業ではないとしたら、この現象…この『白い霧』…」


――まさか、と青娥は聞こえないほどの小声でひとり呟いた。


626 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:41:47 GjLQXRhQ0
不穏は…静かに、風花のように、ゆらりと吹かれながら姿を現した。
今の今まで部屋内を突き刺さるように覆っていた大気は、怪異となって躙り寄ってくる。

蓮子はこの状況に理解が及ばない。ただただ目の前の大妖と仙人の挙動を交互に見つめるのみ。
紫は異様な雰囲気に顔をしかめ、己に起こる異変を冷静に整理する。
ただひとり、青娥だけは何やら察したように辺りを見回し、既に目前の紫には目もくれず。

そして彼女は似合わぬ焦燥を貼り付けた面を、少しだけいつもの余裕ある笑顔に戻して口を開いた。

「時に紫ちゃん…? 貴女って寒いのは得意だったかしら?」

「得意なら冬眠なんてしないわ。 …この状況、どうやら私達は『既に』何者かの敵の皿の上…ってわけかしら?」

「……ヨーヨーマッ。そこの吹き抜け窓から外の様子を見てくれる?」

『…分かりましたァ』


青娥は紫の問いには答えず、傍の僕に命を飛ばす。
ヨーヨーマッも周囲と同じく凍り付き始めていた足元の床を、酸性の涎で剥がし溶かせて窓まで近寄っていく。

のそのそと重そうな足取りで命令通り、窓から外を様子見たその瞬間、ヨーヨーマッの頭から上半分が切り刻まれて肉片がばら撒かれた。
ビチャビチャと吹き飛ぶ脳漿らしき中身を、青娥は極めて冷静な瞳で、笑みすら浮かべながら見下ろす。


「やっぱりね〜、そんな気がしたわ。間違いない、『彼』の次なる獲物はこの私達ってわけね」

「回りくどい言い回しは寿命を縮めるだけよ。青娥、この『敵』を知っているのね?」


二人ともヨーヨーマッの容態を意にも介せずに淡々と会話を続ける。
頭半分無くなってもフラフラと彷徨うヨーヨーマッの姿に気味悪さを感じているのは蓮子だけだ。

「スタンド使い…『天候を操る』能力者…ね。チラッとその人間の戦いを見たりしてたけど、ハッキリ言って極悪そのものよ」

そこがまたちょっぴり素敵なんだけどね、と付け加えて青娥はまたフフと笑む。
その態度に嫌気を感じつつも、紫は段々と身動き取れぬ体を擦りながら思考し始めた。


627 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:42:41 GjLQXRhQ0
天候を自由に操る。
実に簡単に言うが、これはとんでもない神業のはずだ。
詠唱も無しに、儀礼のひとつも行わずに、天気を操作する? ただの人間が?
それはあの守矢神の連中ですら行うのが容易くない、神も驚く神懸り的大儀。
いかなる大妖怪や神にも不可能とされる、桁外れの瞬間行使。
この霧によって屋内に水分を凝縮させ、徹底的に気温の低下を図る。
いつの間にか体が濡れていることに気付いた時は既に手遅れ。一気に室温を下げ、まずは手足から凍り付かせていく。
力を振り絞って脱出したところで、さっきのように『カマイタチ』で八つ裂きになるのがオチだろう。
それを予想してヨーヨーマッに様子見をさせるところに、青娥の冷酷さを感じる。

紫は骨身まで凍り付く感覚に襲われた。こんな馬鹿げた能力、強大な力を持つ自分にだって出来やしない。
かつて自分を命懸けで守り通してくれたズィー・ズィーの操るスタンドとやらは『自動車』の自由変形。
だが今回のこの敵は、それとは次元が違うレベルの能力だ。
そんな奴が今後も他の参加者を牙にかけていくとしたら…待つのは地獄絵図だろう。

そして八雲紫の為すべき事とは、そんな事態をひとつでも多く未然に防ぐこと。
だが…紫の脳裏に『前回』の悪夢が蘇る。
最悪の結果を防ぐ為に奔走した結果、残ったのは絶望。
今回も…そうなる可能性だってある。いや、もしかしたら全滅すら充分あり得るのだ。


『撤退』の二文字が紫の思考を蝕み始める。


逃げる? 今、ここで?
こんなところで逃げ出すような者が、果たしてあの主催者に敵う道理はあるのか。
自分は先ほど大妖怪としての『威厳』を示したばかりではないか。
この場を完全に収めてこその『覚悟』ではないのか。
否。敗戦濃厚の戦に見込み無しの特攻を仕掛ける愚者が、この先たった一人の命だって救えるわけがない。
劣勢を正しく理解できてこそ、見える『道』もある。

これは苦渋の決断だった。
少し以前までの紫ならば、和平を乱す悪漢は躊躇うことなく叩き伏せて来ただろう。
だが今の紫は、自信を無くしていた。
思えば既に多くを失った。これ以上、失うものがあるとすればそれは自らの『命』に他ならない。
そして最早この自分の命は、自分だけのものではない。
『命を懸けて守り通すモノ』があると言うことを、ただの人間の男に教わってしまった。
八雲紫の命はズィー・ズィーの命であり、勇儀と妖夢の命であり、幻想郷の命でもある。
誇りが何だというのだ。威厳ひとつでどれほどの善を掬えることが出来る?
このまま無策で突っ込み、むざむざ屍を晒して己の永かった人生は幕を閉じるのか?


―――唇を強く噛みしめ、紫は決断する。


生涯を幻想郷に捧げたかつての賢者は今、ただの人間に敗走を余儀なくされた。
それがどれほどに屈辱的か。どれほどに重罪か。
身を引き千切りたくなるような苦痛が心にのしかかり、けれども紫は歩みを止めることだけはしない。
己に課せられた使命だけは決して見失ったりはしない。


628 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:43:48 GjLQXRhQ0

やがて…重い、とてつもなく重い口から発せられた提案は、青娥を僅かにも驚愕させた。


「青娥…ここは一旦『停戦』よ。貴女とはいずれ決着はつけるけども、今はとにかく…この『敵』から少しでも離れなくてはならない」

「………驚いた。まさか貴女から逃走意見が出るなんて夢にも思わなかったわ。何か思うところがあって?」

「私は…自分のやるべき使命を正しく理解しているだけよ。ヘラヘラと毎日を生きているちゃらんぽらんの貴女とは違って…ね」


問いかけを皮肉で返す紫に気を悪くすることなく、青娥もここばかりは顔を引き締めて話す。


「逃げるのはいいけど…どうやって? なんとか外に這い出たところでさっきみたいに『カマイタチ』で脳味噌がシェイクされるだけよ。
 それにこの敵はきっと自分から姿を現したりしないわ。このままでも奴の攻撃は完了。どのみち3人ともアイスシェイクね」

「それって仙人流のジョーク? 貴女の事だからとっくに自分ひとりだけでも脱出する策を考えているのかと思ったけど」


既に固まり動かなくなった腕を支えながら紫はニヤリと笑う。
その言葉を受け、青娥は一瞬ポカンとなった後、口元に手を当てていつも以上に含んだ笑みを披露した。


「フ……フフフフ♪ いやぁすっかり地に堕ちたとはいえ、流石に貴女ほどの眼を誤魔化すにはまだまだ至らなかったというわけかしら?」

「だって貴女、さっきから随分機嫌が『良さそう』だわ。その顔を見れば泥酔した小鬼だって一目瞭然よ。
 何か『素敵な支給品』でも拾ってきたのかしらね?」


紫の問いに受け答えはせず、相も変わらない青娥のニヤニヤ笑いはそのまま蓮子に向けられた。
見れば蓮子の状況はかなり危ういところにまで追い込まれていた。
息も荒くなり、低下し続ける室温に耐えられず震えながら膝を折っている。
あの紫ですら抗えないほどの環境変化。人間である蓮子にどうこう出来るはずがない。

3人の中で唯一、仙人として並外れに鍛えられている青娥だけがこの低温世界で動くことが出来た。
恐らくあと2分も経てばこの場の全員は完全に再起不能にまで追い込まれるだろう。
それでも蓮子は楽しそうに、凍り付く床に貼り付いた足を強引にパキパキと動かし、まずは今にも倒れそうな蓮子を乱暴に担ぐ。
そして気楽に紫の方へ振り返り、実に溌剌とした調子で喋りかけた。



「ま! 可愛いしもべの蓮子ちゃんは元より助けるつもりだったけど…ここで貴女に『恩』を売っとくのも悪くないかもね。
 これで『貸しイチ』よ、紫ちゃん♪」






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629 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:44:42 GjLQXRhQ0
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『ウェス・ブルーマリン』
【朝】D−2 猫の隠れ里 外れの廃屋


「……妙だな。急に気流が奴らの位置を掴めなくなった。屋外へ出たわけではない。 …どこへ消えた?」


蓮子たちの潜む廃屋からはす向かいへ位置する民家。
その入り口からそっと覗き見るように顔を出す襲撃者ウェスは困惑していた。
霧を出現させ、その水分凝固により女3人(ヨーヨーマッ含む4人)の行動は確かに封じたはずだ。
例え外へ出られたところで瞬時にカマイタチを叩き込むという策だった。あとは時間をかければ勝利が確定するこの場面。
先の中華風の女や赤毛の女との戦闘により、ウェスは慎重に構えていた。接近されればウェザー・リポートでも対応できないかもと踏んでいたからだ。
じっくり、しかし確実に討ち倒さんとするウェスだったが、ここで不可解な出来事が起こる。

それまでは確かに捉えていた4人の『気流』の動きがパタンと止んだのだ。


(少し危険だが…様子を見て来るべきか…?)


短く思考した結果、ウェスは向かい民家への突入を決断した。
やはりこのゲーム、そう簡単に首を取らせてくれる参加者は少ないらしい。
相手は3人。まともにぶつかれば敗北もあり得る。それを知ってなお、ウェスは警戒しながらも民家に近づいていく。
依然、気流に反応は無い。右手に拳銃を携えたまま、ウェスは吹き抜けの窓に頭を寄せ、そっと中の様子を窺う。


おぞましいほどに白く冷たい空気がウェスの頬を通り抜けたまま、それ以外に変わったことはなかった。


中はシンとした様子で低温の世界が広がっているのみ。
床も天井もひとりの姿無く、もぬけの殻。


「……チッ」


ウェスは思わず舌打ちをした。
奇襲に失敗した。間違いの無いこの事実が彼を苛立たせたからだ。


630 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:45:51 GjLQXRhQ0
溜息を吐きながらウェザー・リポートを解除させ、部屋内の温度は瞬時に常温へと戻った。
ドカドカと乱暴に室内へ上がりこみ、改めて辺りを見回すがやはり変わったところは発見出来なかった。


――またも、仕損じた。


口の中で小さく溶けたその言葉は、次第に彼の心を焦らせてゆく。
最初に出会ったあの水色の髪の小娘。その後現われた中華風の女。赤毛のスタンド使い。金髪の少年。
かつての仲間、エルメェス・コステロは難なく仕留めることは出来たが、今回の襲撃も失敗に終わってしまった。
度重なるしくじりに、流石のウェスも苛立ちを隠せない。

ついさっきの放送で告げられた死亡者数は18人。予想以上に多く、だが気が遠くなるほどに少ない。
優勝を狙うウェスにとって残り人数72という数字は、これから戦っていく敵の数と同義。あまりにも先は長い。
気合を入れ直し、目前の獲物を獲らんと仕掛けた結果は…散々だった。
こんなことで本当に目的が達成できるのか。
眠いことをやってないでさっさと殺しにかかった方が正解だったのではないか。

いまや意味も無い自問を心に浮かべるウェスだったが、彼は立ち止まることをしなかった。
逃げられてしまったのは仕方ないことだ。それは自分の『心の隙』が生み出した失態。
…次への糧にすればいい。今回は幸いにもダメージを負うことはなかったのだから。


「やはり…ただ闇雲に襲撃するのでは限界もあるか……、どうするべきか…?」


ウェスは敵を追うことはせず、思案に耽るような面持ちで民家を出た。
彼が向かう先は里の外ではない。ふと何かに気付いたように、風が導くように、その足取りは止まらず進みゆく。









▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


631 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:46:52 GjLQXRhQ0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『姫海棠はたて』
【朝】D−2 猫の隠れ里 広場


ヤバイ。
ヤバイヤバイ。
ヤバイヤバイヤバイ。
これはヤバイわ絶対…!
あーもう手まで震えてきたわ、凄いわねコレ…!
何がヤバイって、そんなの決まってるじゃないの。



「大ッッッッッスクープだわッッ!!!!!!!!」



私は今、軽い恍惚状態で携帯電話の画面に食い入っている。
ハァハァと息が上がってるのもそのせいだと思いたいけど、これは単にアプリ『アンダー・ワールド』を連続使用した反動。
なんせ2時間前の念写を2枚も撮ったんだもん。ってことは普通に念写するより『4倍』の霊力消費。それを掛けることの2枚分。
足に重石でも吊りながら飛ぶみたいにドッと疲れが塊となって圧し掛かってきたけど、そんなの頭から忘れちゃうぐらいには興奮している。
だって私は今、完璧な『大スクープ』の激写に成功したのよ!? 記者なら誰だって興奮するに決まってるじゃないッ!


荒木達から送られてきたリストの内容にスクープの『ニオイ』を嗅ぎつけ、この猫の隠れ里まで飛んできた私をまず迎えたのはこの風景。
隕石でも落ちたのかってぐらいに地面にボッコリ空いたクレーター…焼け焦げた臭いが混ざる煙霧…。
当然私はその現場を携帯電話のカメラでカシャカシャと余さず撮ったわ。
で、歩いてくうちに見つけたのがこの3人の『遺体』。

2人は(黒焦げだけど)知った顔ね……『地底の鬼』星熊勇儀と『白玉楼の剣士』魂魄妖夢。
こっちのチビっこはともかく、ここで片腕チョン切れてブッ倒れてる鬼の方は幻想郷でも屈指の『強者』のはず。
そいつにそのまま貫かれて死んでる腕だけがムキムキ男も、幻想郷では見たこと無いがこの場でひと暴れした当事者なんだろう。
そしてこのリストによればこの場には『もうひとり』当事者がいたはずだ。そしてそいつは唯一さっきの『放送』で呼ばれてなかった者。


「『八雲紫』…! あのスキマ妖怪がこんな惨事を起こしたのかしら…。
 いえ、そうに決まってるわ! 決めつけてやる!」


既に私の頭の中では今朝の一面を飾る見出しは出来上がっている。
ここで4人が戦っていて、その中をひとり生き残った八雲紫! 『犯人』はあいつで決まり!

…まぁ、記者として一応裏を取るためにいそいそと『アンダー・ワールド』を起動。
リストの『死亡時間』を元に約2時間前の現場を激写してみたところ…


632 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:48:45 GjLQXRhQ0


「いや〜〜、それにしても『あの』八雲紫がねぇ…、全く末恐ろしいこと」


案の定、画面に写ったのは八雲紫が武器を向け、星熊勇儀と魂魄妖夢の2人を射殺する瞬間!
まさに『殺害の瞬間』という、スクープ中のスクープ写真をカメラに収めることに成功した。
思わず顔がニヤけてくる。これが笑わずにいられるかってのよ。
私も最初こそ不審がっていたけど、このアプリとリスト…思った以上に使える!
これさえあればもっと! もっともっともっともっともっとッ! たッッッくさんスクープ記事が書けるじゃないッ!!

霊力消費の疲労もどこへやら。私は鼻歌でもひとつ歌いだしそうな上機嫌で画面に食い入る。


―――待って。 ……そうだ、どうせならこの記事に『ちょっぴり』だけ色を付けたって罰は当たらないわよね?


ある閃きを思いついた私は、鬼に貫かれたまま息絶えたこの男の方を振り向き、すぐにスタンドを顕現させた。
『ムーディ・ブルース』…過去の出来事を再生させることの出来る能力。
2時間前にダイヤルを合わせ、次第に移り変わっていくその姿はかの『八雲紫』。丁度、拳銃をぶら下げて立ちすくむ姿勢で停止させた。

この現場の状況を見るに、勇儀と妖夢を殺したのは間違いなく紫だろう。
そしてこの妙な体型をした男――リストによれば名はズィー・ズィーというみたい――を直接殺ったのは、鬼の凶手。
でも、『2人』殺すより『3人』の方が事件として断然インパクトあるでしょ?

だ・か・ら・作っちゃうのよ! 『事実』を!

私はウキウキ気分で男の身体から鬼の腕を引っ張り抜き、男をそのまま仰向けに横たわらせた。
そこにムーディ・ブルースで変身させた八雲紫を立たせる。するとどうかしら?

目の前には死体の前で銃を持って立ちすくむ八雲紫の『画』が完成するってわけ!

パシャリと1枚、カメラで撮るとそこにはどこからどう見ても『男を銃殺した殺人者』の画面が写された。
これで事件はより衝撃的なモノへ変わったわ!


ズバリ見出しは―――『八雲紫、隠れ里で皆殺しッ!?』


うんうん! いいわね、絶対素敵な記事が書けるわ!
逸る気持ちを抑えつつ、早速記事の作成に取り掛かった。
もう、なんていうか『記者魂』が燃え上がるわね。それもこれもこのアプリやリスト、スタンドのおかげよ。
特にこの『ムーディ・ブルース』、本来は事件の『解決』に役立つ能力なんでしょうけど、事件の『捏造』にも役立っちゃうなんて皮肉なもんよね〜♪
それに捏造って言ったって『ほんのちょっぴり』報道に色を付けただけだし、こんなの誰でもやってるしね。問題無しよ♪


私はいつにも増してノリノリな気分で原稿を進めていき、それはあっという間に完成した。
期日直前であたふたしてる文に見せてあげたいぐらいのスピードに我ながら感心するわ。
画面に写しだされた記事は、内容的には全て同一のもの。
八雲紫が鬼を射殺する瞬間。白玉楼の剣士を射殺する瞬間。そして男を殺し、呆然と立ちすさむシーン。
『殺人鬼』八雲紫の誕生だ。この記事でゲームがどんな方向に転がりゆくか。また新たなスクープの種になってくれることは間違いないだろう。


633 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:49:47 GjLQXRhQ0


「『データ送信』…と」


フゥと一息つき、その辺の石垣の上に腰を下ろしてデイパックの中から水と食料を取り出す。
仕事の後は力をつけないとやってられないわ。ただでさえアプリの使用で体力失ってるんだし。
実に簡素なおむすびを頬張りながら、空を見上げる。


…どこかの空の下で、今も参加者達が血肉を撒き散らして鬩ぎあっている。
私の知らない場所で。私の見てないとこで。
こうして空腹を満たしている間にも事件はひとつ、またひとつと発生している。


ああ…なんて『面白い』のかしら!

『自らの足で現場に赴き、取材すること』がこれほどに魂をワクワクさせてくれるなんて、少し前までは思いもよらなかった。
次はどの現場に向かおうか。どんな記事になるのか。
それを考えるだけで涎が出るぐらいに高揚する! 居てもたってもいられなくなる!

ふと、ライバルである文を想う。
元を言えば、足で現場に向かうことの重要さを教えてくれたのは文だ。
その文も、この空の下で今も戦っているのか。または自分と同じでスクープ探しに奔走しているのか。
正直に言えば文には死んで欲しくない。生きて、私の新聞を見せ付けてやりたい。驚かせたい。
だからさっきの放送であいつの名前が読み上げられなかった時、私は心からホッとした。安心した。
私はこの先も当然死んでやるつもりなんかないし、あいつともそのうち生きて会いたい。
でも、今はまだだ。もっと、もっともっともっともっともっと良い記事を書かなくちゃ。書いてあいつを驚かせたい。
そして…あいつを負かせた後は、2人でどうにかここを脱出しよう。
あいつは私よりも全然強いんだ。だからきっと、何とかなる。


ペロリと指に付いた米粒を舐めとって水を大きく含み、食事は終了。
記者に休みは無い。事件がある限り、いつだって飛んで回らなければいけない。
自分の書いた記事は会場中に届いただろうか。皆はもう読んでくれただろうか。
読んでくれている人々の表情を想像し、少しだけ気が楽になる。
記者とは事件あっての存在であり、読む人々がいてこその記者なのだ。慈善事業でやっているわけではない。
読んでくれる者がいる限り、私が戦いをやめることはない。

…仮に私が最後の生き残りになったら、それでも私は『記者』でいられるのだろうか…?
誰も読んでくれる者がいなくなれば…それは私の記者人生に終わりを告げることと同義だ。


…やめよう、こんなこと考えるの。
今はただ、私がやりたいことをやっていきたい。


634 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:50:27 GjLQXRhQ0



「さて…! 次の事件を探しに行こうかしらね!」



翼を大きく広げ、デイパックを背負って立ち上がる。
東から立ち昇る朝日に思わず目が眩んだが、何とか踏み止まった。

次はどこを目指そうかな…♪















「動くな。妙な真似をした瞬間、お前の頭を吹き飛ばす」





瞬間、私の視界は反転しながら猛烈な勢いで地面に叩きつけられた。
受身すら取れずに顎から激突し、軽い脳震盪を起こした感覚に酔われる。


「…ッ!?」


な…ッ! 敵!?
く…! しま…った……ッ!


635 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:51:15 GjLQXRhQ0
カチャリと、頭上で不気味な機械音が鳴った。
揺れる視界の中、私の目に映ったのは銃を突きつけながらこっちを見下す、フードのような帽子を被った男。
そしてどうやら私は組み伏せられているらしい。首を精一杯回して見えたのは白い肉体の、人型のヴィジョンが私を上から押さえつける姿。
この男も……『スタンド使い』かッ! ヤ…ヤバ…ッ!


「いいか小娘。俺は今からお前にごくシンプルな質問を『2つ』だけする。
 お前がもし死にたくないと言うのなら…だ。今から言う『3つ』の事柄を全て守れ。
 『嘘を吐くな』。『妙な真似をするな』。そして『自分の幸運をひたすら祈り続けろ』…。分かったな?」


ギラリと見下す男の目は…本気だった。本気で私を殺そうとする目。
ドス黒い殺意が私の全身を覆い込み、金縛りにでもあったように動かなくなる。
しま…った…。私としたことが…敵の接近に気付かなかったなんて……!
どうしよう…! どうしよう…! 殺されちゃう…! イヤだ…! 死にたくない! 死にたくない!!


「それじゃあ質問をする。
 『お前の名前を言え』。『お前が今まで出会った参加者の場所と名前を全て言え』。
 この2つだ。10秒以内に答えなければお前のドタマの風通しを涼しくしてやるぜ」


答えたって無駄だ。こいつはどっちにしろ私を殺す気なんだ…!
逃げ…ないとッ!


「名前…私の名前は…『姫海棠はたて』よ……!」

「……姫海棠…はたて?」


クソ…! 一か八か…逃げるしかないッ!
私は…鴉天狗の『姫海棠はたて』よ! こんな…こんな人間の男ひとりに、舐められて済ますもんかッ!
スピードなら…自信はあるッ!!


「そう…姫海棠はたて。 …鴉天狗で、幻想郷の…『最速種族』よッ!! こんな風にねッ!」

言い吐き捨てぬ内に私はこっそり握っていた小石を、こいつの眼球目掛けて思い切り振り投げた!
そして当然、こいつはそれを回避する! その回避のための隙を狙って一気に力を振り絞り、スタンドの拘束から抜け出す!
たかだか人間如きが…妖怪を見下してんじゃないわよッ! パワーもスピードもこっちが『上』よッ!


636 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:51:51 GjLQXRhQ0
大きな翼を振り翳し、目にも見えぬ速度で空中に飛び出す。
脱出成功! 見下すのは『私』の方よ! あんたは地面であたふたやってりゃいいのよッ!
その銃とやらを撃ってみなさいな! 命中させる自信があるのならねッ!

心の中で勝った気になりながら私はあいつからどんどん離れていった。
このまま一目散に逃走というのは釈然としないけど、どれ! 最後にあいつの唖然とするマヌケヅラでも拝んで行くとしようかしら!

そんな勝ち誇りの気持ちで私は後方下を振り返った。
見えたあいつの表情は…ポカンと見上げるマヌケヅラでも、慌てふためるようなツラでもなかった。

ただひたすらにドス黒い『執念』が私の瞳を刺した。


「オイ…『天候』相手に空に逃げるなど、正気か?」


刹那に捉えたその言葉の意味を私が考える間も無く、すぐに『異常』が発生する。


「ん!? え…ちょ、なにコレッ!? ……あ、『雨』と…『風』ッ!? キャ…ッ!」


気付いた時、何故か私の周りだけ猛烈な『スコール』が槍のように降り注いだ。
視界を覆い尽くすほどに強烈な雨の散弾が羽ばたく翼を一瞬にして濡らし、私を再び重力と共に地面に叩きつけようとする。
バランスを崩した体勢を狙うようにして吹き込んできたのが、凄絶な『突風』!
体を鎖で縛られたまま巨大な壁にでも激突したかのように吹き飛ばされた私は、たまらず地面に撃墜されてしまう。
起き上がろうとする私の背中を翼ごと踏みつけるこいつの視線は、変わらず殺意に塗れている。

失敗した…! なんなのコイツの能力!?
私なんて所詮、ゲームを外から焚きつけるぐらいしか出来ない、卑屈な観測者で終わるのか…!
こんな風に、戦場の渦中に投げ込まれればひとたまりもないのか…! く…そォ……ッ!!



「お前…『姫海棠はたて』とか言ったな。この『花果子念報メールマガジン』とかいうフザけた新聞の発刊者か?」

「―――なんですって?」


637 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:53:04 GjLQXRhQ0
間抜けた声を発した私の頭上から男が取り出して見せたのは、銀色で板状――タブレットPC――の画面。
映しだされたその画面には確かに私が送信した『花果子念報メールマガジン』、その一面が大きく載っていた。我ながら実に綺麗で見やすく整頓された記事だと思う。

「…確かにそれは私が作った新聞記事よ。私はこんなゲームに乗ってなんかいない。
 でも、ゲームを取材して、スクープ撮って、凄い新聞を作りあげる…! それこそが私に与えられた『天命』なのよッ!
 それが…どうしたっていうの?」

「…成る程な。とんだ参加者が居たもんだぜ。清清しいほどの醜悪さだ。
 だが、お前は『丁度良い』な。その小賢しさも悪くない。
 ―――はたてとやら。お前、俺と『協力』しないか?」



………は?

『協力』ですって? たった今、私を脅し、殺そうとしておきながら、今度は協力?
こいつ…何言ってんの?


「このタブレットに送信されたお前の記事には…他にもマガジンが記載されているな。
 ついさっき発刊された『八雲紫の皆殺し』の記事……、そしてこの『空条徐倫へのインタビュー』の記事だ。
 俺はこの『空条徐倫』を探している。あいつと会話したんだろ? 徐倫は今どこに居る?」

「し…知らないわよ! 私は『アリスの家』から逃げてきたんだもん。今更行ってももぬけの殻だと思うけどね」

「…まぁいい。まだそんなに遠くへは行っていないだろう。ひとまず南へ向かうとするか。
 …で、それは別としてだ。お前、『スクープの取材をする』とかぬかしていたな。
 そのネタ作りを俺が手伝ってやると言ってるんだ。その代わり、お前は俺に参加者の有益な情報をメールを通してよこせ」


グリグリと背中を踏み躙りながらコイツは言ってのけた。
『協力』と謳ってはいるけど、その態度はもはや『威し』となんら変わりない。
自分の意にそぐわないようならいつでも殺してやるという、極めて不条理な協定…!

でも…


638 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:54:44 GjLQXRhQ0

「ネタ作りをアンタが『手伝う』…? つまり『事件』をどんどん作っていくってこと? 参加者を潰し続けて?」

「そういうことになるな。俺の目的はゲームの『優勝』だ。
 参加者はひとり残らず潰す。そのためには…ひとりでは厳しいものがあるからな。
 お前はあちこち飛び回って参加者を探していくつもりなんだろう? 人を見つけたらその都度俺にメールで情報を送るんだ。
 すぐにそいつを殺しに向かってやる。そしてお前はその現場を取材すりゃあいい。
 どうだ? お互い目的が果たせて万々歳だろう?」

「どうせ断ったらこの場で私を殺すんでしょう? 何が協力よ…!
 …でも、いいわねそれ? 報道ってのは人脈が多いほどフットワークも軽くなるもんね。
 分かった。『乗った』わ、その協定。その代わり、ちゃんと面白くなりそうな『事件』を起こしてよね。
 そしてもうひとつ! アナタの事、取材してもいいかしら!?
 『殺人者』のインタビューだなんて前代未聞だわッ! いいわよね! ね!!」

「…おい、調子に乗るなよ。俺の情報を会場中にばら撒く気か?
 お前が俺にやってもいい事は『参加者の情報を渡すこと』だけだ。俺の事は絶対記事に書くな、殺すぞ」


…ちぇっ。そんなウマイ話も無いか。
でも逆らったら間違いなく、殺されちゃうわよね…。こいつの天気を操る?スタンド、ちょっと強力すぎる…!


「それともうひとつだ。『空条徐倫』『エンリコ・プッチ』『フー・ファイターズ』…。
 この3人を見つけたら絶対に手を出すなよ。すぐに俺に連絡しろ。
 コイツらは…俺がケリをつけなければならない」

「…何か『因縁』の相手のようね。まあ、いいけど。
 それより、この足をそろそろ退かしてくれない? 協力するからさ」

「………俺は『ウェス・ブルーマリン』だ。メールアドレスは知っているはずだな?
 じゃあ、俺はそろそろ南へ向かう。徐倫が遠くへ行っちまう前にな」


ウェスはそっけなく言うと、スタンドを引っ込めてさっさと歩いていった。
私はそれをしばらく眺めていたけど、彼の姿が見えなくなるとまたバタリと仰向けに倒れた。


ハァーー……。
助かった…。これも日頃の行いが良かったというとこかしら?
いや、それどころかこれはラッキーなんじゃない!?
協力者がいればもっともっとゲームが加速するはずだわ!
私は後から好きなように現場を取材できるし、『アプリ』も『リスト』も『スタンド』もある!
ツキが向いてきてるわ…! なんかもう、私のためにゲームが動いてくれてるってカンジ!

…ただ、あのウェスって男…、優勝が目的だって言ってたわね。
だったら最終的には私すらも殺すはず。
そうはいくもんですか…! ある程度アイツを『利用』し終わったら隙を突いてチョチョイと始末してあげるわ!



「見てなさい! とにかくまずは取材よ取材ッ! スクープが私を呼んでるわーーーーッ!!」




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


639 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:55:47 GjLQXRhQ0
【D-2 猫の隠れ里 広場/朝】

【ウェス・ブルーマリン@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:肋骨・内臓の損傷(中)、背中への打撲(処置済み)、服に少し切れ込み(腹部)
[装備]:妖器「お祓い棒」@東方輝針城、ワルサーP38(8/8)@現実
[道具]:タブレットPC@現実、手榴弾×2@現実、不明支給品(ジョジョor東方)、ワルサーP38の予備弾倉×2、
ワルサーP38の予備弾×7、救急箱、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:ペルラを取り戻す。
1:この戦いに勝ち残る。どんな手を使ってでも、どんな奴を利用してでも。
2:はたてを利用し、参加者を狩る。
3:空条徐倫、エンリコ・プッチ、FFと決着を付け『ウェザー・リポート』という存在に終止符を打つ。
4:あのガキ(ジョルノ)、何者なんだ?
[備考]
※参戦時期はヴェルサスによって記憶DISCを挿入され、記憶を取り戻した直後です。
※肉親であるプッチ神父の影響で首筋に星型のアザがあります。
 星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※制限により「ヘビー・ウェザー」は使用不可です。
 「ウェザー・リポート」の天候操作の範囲はエリア1ブロック分ですが、距離が遠くなる程能力は大雑把になります。
※主催者のどちらかが『時間を超越するスタンド』を持っている可能性を推測しました。
※ひとまず南へ向かい、徐倫を探します。


【姫海棠はたて@東方 その他(ダブルスポイラー)】
[状態]:体力消耗(小)、霊力消費(中)、腹部打撲(中)、全身ずぶ濡れ
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャーの予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:記事のネタを掴むべく奔走する。
2:掴んだネタはメールマガジンとして『姫海棠はたてのカメラ』に登録されたアドレスに無差別に配信する。
3:ウェスを利用し、事件をどんどん取材する。
4:使えそうな参加者は扇動。それで争いが起これば美味しいネタになる。
5:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※制限により、念写の射程は1エリア分(はたての現在位置から1km前後)となっています。
 念写を行うことで霊力を消費し、被写体との距離が遠ければ遠い程消費量が大きくなります。
 また、自身の念写に課せられた制限に気付きました。
※ムーディー・ブルースの制限は今のところ不明です。
※リストには第一次放送までの死亡者、近くにいた参加者、場所と時間が一通り書かれています。
 次回のリスト受信は第二次放送直前です。
※花果子念報マガジン第3誌『隠れ里の事件』を発刊しました。
※はたてが今後どこへ向かうかは、次の書き手さんにお任せします。

※アプリ”アンダー・ワールド”について
 このアプリを起動時は通常の念写に加え、4時間前までならば任意の過去の時間を念写することができます。
 アプリ起動時も念写射程は通常時と変わりませんが、霊力は時間を遡る毎に増加します。
 1時間分で2倍増加し、4時間で最大16倍の消費量になります。
 時間は切り上げとなっており、例えば1分前でも1時間分と換算されます。


640 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:56:27 GjLQXRhQ0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『霍青娥』
【朝】D−2 猫の隠れ里の外れ


里内の南、周囲に民家も見えない里の外れ。
そのある一点の地面が不思議なことに、まるで水面に波立つ波紋のように緩やかに揺れた。
やがて地面から現われたのは3人の女性。そのうちひとりはピッチリとした奇妙な『スーツ』を着込んでいるようだった。


「―――プハァーーーーッ! ……ふぅ。ここまで来ればあいつも追って来れないでしょう」

「―――プハッ! …はぁ、…はぁ、…ちょっと蓮子ちゃん大丈夫?」

「―――ぶはッ! …げほっ、げほっ…! ハァ…ハァ………うう…!」


スーツを着込んだ青娥を筆頭に紫、蓮子の3人が地面から這い出てきた。
青娥と紫は比較的元気そうに立ち上がったが、未だ身体が冷え切っている蓮子は紫に引っ張り上げられながらもようやく地上に立つことが出来た。
ガタガタと震えながらも、ひとまず紫に申し訳無さそうに礼を言う。

「うう……あ、ありがとうございます、八雲さん。でもまさか地面を潜って逃げ切るとは思いもよりませんでしたけど…」

「だって地上から逃げ出したんじゃあすぐにあの凶悪な『天候』にやられちゃうわ。
 だったら『地面』に潜って逃げ出すしかないじゃない? 都合よくこのスタンドDISCがあって助かったわぁ♪」

スーツがとってもダサいのが唯一気に喰わないけどねー、と青娥は付け加えてスタンド『オアシス』を解除する。
星熊勇儀から奪った支給品のスタンドDISC『オアシス』は地面や物体を泥状にして潜り進むことが出来る能力。
低温世界に襲われた極限状態から脱出するには最適の能力だったのだ。
あの場で青娥は迷うことなく『ヨーヨーマッ』のDISCを取り出し、『オアシス』のDISCに入れ替えた。
その際、当然お供のヨーヨーマッも消滅してしまったのだが、青娥は全く気に留めていないようだ。

いつもの青を基調とした服装に戻り、そしていつもの朗らかな笑顔を浮かべる青娥に紫は言葉を投げた。


641 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:57:13 GjLQXRhQ0

「…とりあえず助けてくれたことには礼を言うわ。
 でも悪いけど、貴女はこのまま見張らせてもらう。『停戦』とは言ったけど、とても放置できるような存在じゃないもの。
 …武器だってまだ返してもらってないし、ね…」

「あら、もしかしてこのままついてくる気なの?
 私のお供には蓮子ちゃんだけで充分だって言うのに…
 ま、いいですけれど。 …寝首だけはかかれないようにね?」

「お互い様ですわ。 …それじゃあ蓮子ちゃん、行きましょうか。歩けるかしら?」

「え…あ、はい。大丈夫です…」


既に快活な足取りで歩き出す青娥の背中を眺めながら、蓮子は力なく答える。
未だ震えが止まらぬ身体は、果たして寒さによるものだけが理由だろうか。
またしても死にかけた…が、どうやら自分はあの死地から生還できたらしい。
今はじっくりと生ある喜びを噛み締めたいところだが、自分を殺しかけたことのある青娥に救われたというのも複雑な心境だった。

青娥に続くように、青娥を見張るように、紫はその後を歩いていく。
彼女の背を眺めながら、蓮子は思う。
このまま青娥についていくわけにはいかない。
だがこの人なら…八雲紫なら…、自分のこの悲劇的な状況を何とかしてくれるかもしれない。
そんな微かな『希望』を紫に感じた。


蓮子は何も出来ない自分を恥じ、それでも2人の後を追う。
メリーとそっくりな紫についていけば、いつかメリーと会うことが出来るかもしれない…。


そんな根拠も無い予感を信じて、今はただ…縋るしかない。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


642 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:58:02 GjLQXRhQ0
【D-2 猫の隠れ里の外れ/朝】

【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:疲労(中)、全身に唾液での溶解痕あり(傷は深くは無い)
[装備]:S&W M500(残弾5/5)、スタンドDISC「オアシス」@ジョジョ第5部、河童の光学迷彩スーツ(バッテリー90%)@東方風神録
[道具]:双眼鏡@現実、500S&Wマグナム弾(13発)、スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部
未確定ランダム支給品(魂魄妖夢のもの。青娥だけが内容を確認済み)、基本支給品×5
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:会場内のスタンドDISCの収集。ある程度集まったらジョルノにプレゼント♪
2:八雲紫…鬱陶しいわね。
3:八雲紫とメリーの関係に興味。
4:蓮子をDISC収集のための駒として『利用』する。
5:あの『相手を本にするスタンド使い』に会うのはもうコリゴリだわ。
6:時間があれば芳香も探してみる。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※光学迷彩スーツのバッテリーは30分前後で切れてしまいます。充電切れになった際は1時間後に再び使用可能になるようです。
※ジョルノにDISCの手土産とか言ってますが、それ自体にあまり意味は無いかもしれません。やっぱりDISCを渡したくなくなるかも知れないし、彼女は気まぐれですので。
※頭のカンザシが『壁抜けののみ』でない、デザインの全く同じ普通のカンザシにすり替えられていることに気づきました。
※魂魄妖夢、星熊勇儀、ズィー・ズィー、八雲紫の荷物を回収しました。
※『ヨーヨーマッ』のDISCを外しているので現在ヨーヨーマッは引っ込んでいます。


【八雲紫@東方妖々夢】
[状態]:全身火傷(やや中度)、全身に打ち身、右肩脱臼、左手溶解液により負傷、霊力消費(中)、体温低下
[装備]:なし(左手手袋がボロボロ)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:幻想郷を奪った主催者を倒す。
1:幻想郷の賢者として、あの主催者に『制裁』を下す。
2:大妖怪としての威厳も誇りも、地に堕ちた…。
3:青娥を暴走させないよう見張る。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
※放送のメモは取れていませんが、内容は全て記憶しています。
※太田順也の『正体』に気付いている可能性があります。


643 : 薄氷のdisaster ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 17:58:22 GjLQXRhQ0
【宇佐見蓮子@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(中)、首筋への打撃(中)、体温低下
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:メリーと一緒に此処から脱出するために、とりあえずは青娥の命令に従う。
1:八雲紫とマエリベリー・ハーンの関係を知りたい。
2:今は青娥に従う。
3:メリーとジャイロを探す。
4:いつまでも青娥に従うわけにはいかない。紫と協力し、隙を見て逃げるか…倒すか…。
5:・・・強くなってメリーを守りたい。
[備考]
※参戦時期は少なくとも『卯酉東海道』の後です。
※ジョニィとは、ジャイロの名前(本名にあらず)の情報を共有しました。
※「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力」は会場内でも効果を発揮します。

※彼女たち3人が今後どこへ向かうかは次の書き手さんにお任せします。


○支給品紹介

<スタンドDISC「オアシス」@ジョジョ第5部>
破壊力:A スピード:A 射程距離:B 持続力:A 精密動作性:E 成長性:C
星熊勇儀に支給。
地面や岩をドロドロに溶かし、その中を泳ぐことができるスタンド。
スーツとして身につけるタイプのスタンドであり近接格闘能力も高いが、そのパワーやスピードは使用者の身体能力に比例される。
溶けた地中に敵や地上に存在するものを引きずり込むことが可能。
なお、溶けた地中では視界が利かないので、音や反響を聴くなどして標的を追うしかないだろう。


644 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/06(日) 18:00:44 GjLQXRhQ0
これで「薄氷のdisaster」の投下を終了します。
最初の方タイトルが何か文字化けしてますが、気にしないで下さい…

感想、ご指摘あればお願いします。


645 : 名無しさん :2014/07/06(日) 19:18:03 5wpyJqFY0
投下乙です。
はたてはついに越えてはならない一線を超えちまったな
文がこれを知ったらどう思うだろうか

>それでも蓮子は楽しそうに、
ここは蓮子じゃなくて青蛾かな?


646 : 名無しさん :2014/07/06(日) 20:02:51 uUi6pfk20
厄介な人々だなぁ


647 : 名無しさん :2014/07/06(日) 21:43:00 .jhXj3F20
あれ、ヨーヨーマッって前回で消滅したんじゃないの。復活には一時間くらいかかるんじゃ。


648 : ◆fLgC4uPSXY :2014/07/06(日) 23:12:40 kH6cfU2.0
ジョナサン・ジオシュター
レミリア・スカーレット
ブローノ・ブチャラティ
虹村億康

を予約させていただきます


649 : 名無しさん :2014/07/06(日) 23:23:13 uUi6pfk20
なんだか穏便そうな回でヨカッタ


650 : 名無しさん :2014/07/06(日) 23:31:31 ZqnM8PO20
穏やかそうですね


651 : 名無しさん :2014/07/06(日) 23:56:50 4pHaXtWY0
しかしレミリアは従者二人が死んでいるし、ジョナサンは師の二度目の死と友人の死、
ブチャラティもミスタが死んでいるしで放送の反応が大きそうな一団だ


652 : 名無しさん :2014/07/07(月) 01:15:31 bjUf..4I0
ポークパイハット小僧がいるぞ


653 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/07(月) 02:39:41 4J5Y66G20
>>645
確かに、ここは誤表記でしたね。ありがとうございます。
>>628
>それでも蓮子は楽しそうに、凍り付く床に貼り付いた足を強引にパキパキと動かし、まずは今にも倒れそうな蓮子を乱暴に担ぐ。
を下記のように修正します。
>それでも青娥は楽しそうに、凍り付く床に貼り付いた足を強引にパキパキと動かし、まずは今にも倒れそうな蓮子を乱暴に担ぐ。

それと>>647さんの仰るとおり、ヨーヨーマッは身体が消滅すると再生に1時間ほどかかるという特徴があります。
前話においてヨーヨーマッはバラバラに切り刻まれた描写がありますが、
さらに以前に半身がガオンされた時もわりとすぐに復活した描写もありますので、今回も復活にそこまで時間はかからなかった…
という言い訳で勘弁してください…!(正直失念してましたゴメンなさいっ)


654 : ◆.OuhWp0KOo :2014/07/07(月) 03:15:18 bc2ZY18c0
>>653
ガオンされた時と違って部品は残ってるでしょうし、問題ないですよー。


655 : 名無しさん :2014/07/07(月) 06:14:59 Q9Qr0Z/U0
紫による妖夢殺害事件の記事を阿求のスマホ通じて幽々子が見たら大変悲しみそうだ


656 : 名無しさん :2014/07/07(月) 19:03:57 KdLf0X.E0
投下乙です。


···ああ···幻想郷がボロボロになっていく···鬼が二人死に、妖怪の賢者は憔悴している···。亡霊の姫の従者を賢者が殺し、更に脚色を加えた記事が書かれた···!吸血鬼の従者はも二人死んでいる···。どのみち元の幻想郷には戻れないとはいえ、これじゃあもう···


657 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/07(月) 23:31:17 Wjl92ACc0
すいません。今日中に書けそうにありません
最初の期限からずいぶんと遅れてしまって本当に申し訳ないです
一応こんどこそは近い内に書ききれると思うのですが、予約は破棄します


658 : 名無しさん :2014/07/07(月) 23:43:09 yu1392t60
前からの書き手ならともかく、新参書き手の二回予約破棄の上の次投下できます発言は信用できないなあ


659 : 名無しさん :2014/07/07(月) 23:48:17 TUIj9Iwc0
今回は支給品の件があったから仕方ないのでは?
投下を急ぐ状況でもないし


660 : 名無しさん :2014/07/08(火) 00:11:54 303KDbUs0
大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている。向かおうとする意志さえあれば、たとえ今回は投下できなかったりしても、いつかはこのロワの本当の完成へと辿り着けるだろう? 真実へ向かっているわけだからな…違うかい?


661 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/08(火) 00:30:50 7snI7Q.c0
ディオ・ブランドー、ディエゴ・ブランドー、八雲紫、宇佐見蓮子、霍青娥
以上5名予約…したいのですが間を置かずの自己リレーになってしまい、あまり良くないのかな…という気もしますので
他の方が予約したいキャラがいればお譲りします。
居なさそうならばこのまま予約したいと思います。


662 : 名無しさん :2014/07/08(火) 00:35:08 hVSSMriM0
まさかの紅魔館行きか


663 : 名無しさん :2014/07/08(火) 00:43:45 vvm1eJr60
紫と蓮子がめちゃくちゃになる絵面しか見えないww


664 : 名無しさん :2014/07/08(火) 06:21:22 P8Xi3vb.0
これは回避したい組み合わせ…!


665 : 名無しさん :2014/07/08(火) 06:45:03 JFEsM0Zw0
>>661
期待


666 : 名無しさん :2014/07/09(水) 06:46:13 naQahHZc0
ディオとディエゴと青娥に挟まれるのはいくらなんでも蓮子可哀想


667 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/09(水) 12:27:44 WEeEXWN.0
ジョニィ、文、露伴、ヴァニラ、こいし、チルノを予約します
今度こそ期限内に投下します。これで間に合わなかったら大人しく諦めます


668 : 名無しさん :2014/07/09(水) 12:51:30 F5thEVHk0
がんばれ〜


669 : 名無しさん :2014/07/09(水) 13:46:40 DGocfdKg0
がんばれ♡がんばれ♡


670 : 名無しさん :2014/07/09(水) 14:56:47 u/HcLcwQ0
がんばれ*がんばれ*


671 : 名無しさん :2014/07/09(水) 17:02:08 xPyc/gMs0
別にゲリラ投下でもええんやで


672 : 名無しさん :2014/07/09(水) 21:19:54 Tgs457iw0
あったけえ人達だ


673 : 名無しさん :2014/07/11(金) 19:59:19 CY9HP.7w0
ぽかぽか


674 : 名無しさん :2014/07/11(金) 23:02:02 iFjrPLCQ0
マジシャンズレッド!


675 : ◆fLgC4uPSXY :2014/07/12(土) 02:46:53 O1bT/Bec0
予約延長させていただきます


676 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:00:41 t7TV9noU0
予約分投下します


677 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:03:54 t7TV9noU0
―――あぁ…おかえり。どうだった?

―――ん? コイツらのことか? まぁ気にするなよ。単なる『偵察役』だ。

―――じゃあ、早速報告を聞こうか。




『ジョースター邸近くで火災…? 男女2人と妙な生物の交戦…、オイオイすぐ近くじゃあないか』

『その近くに大統領も居るな。恐らくオレが監視していることは承知だろうが…』

『魔法の森北東でも女2人が大男と交戦か。風を操るだと…?』

『GDS刑務所広場にて男女3人……、フンッ。生きていたか、ジョニィ・ジョースター』

『猫の隠れ里で女3人と男が潜伏。ここは凄まじい死闘があった後らしい』

『ポンペイで妙な紫のガス…? 触れると老化するらしく、どうやら近づけない。参加者の情報は分からず』

『レストラン・トラサルディー近くでも戦闘確認。その容姿、まさかこの紅魔館主とやらのレミリア・スカーレットか?』

『髭の男が1人、拳銃片手に森を歩いている。誰か探してんのか?』

『香霖堂で鴉が女を抱えて飛び出した。幻想郷縁起によれば霊烏路空と古明地さとりとかいうらしい』

『人間の里中で戦闘。 …アンタがさっき言ってた神父、吹っ飛んでいったぜ? ガキの妖怪と妖精も敗走していったようだ』

『魔法の森西の平原でも大規模な戦いがあったらしい。半裸の大男が森へ逃げていった』

『鉄塔の前で金髪の女2人。随分ギラついた瞳してやがる、怖い怖い…』

『カウボーイ風な男がガキを追跡している。動きからして只者ではなさそうだ』


678 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:04:37 t7TV9noU0

『兎耳の生えた女と軍服の男…? 女の方は凄く殺気立っているな…こりゃあ近づけそうにない』

『竹林内で集団を発見。ジャイロ・ツェペリ…! ウザったいな、コイツもしぶとく生きているか…!』

『馬鹿みたいに爆走する猫耳女を発見。コイツが大統領の言っていた火焔猫燐か…。なんだってこんな奴を手下につけたんだ?』

『サンモリッツ廃ホテルで参加者が篭城。 …クソ、中へは進入出来そうにないか。様子が分からない』

『ゴミ捨て場で火災。火はほぼ燃え尽きているが、中で2人の女を発見。 …火球を投げたり避けたり、ダンスの練習か?』

『翼の生えた女が飛び回っている。 …速すぎて恐竜共では追いつけない』

『竹林から出てきた女を発見。幻想郷縁起によると八雲藍とかいう大層な妖怪らしいが、随分シケた面で歩いているな…ホントに大妖か?』

『D-4を歩く軍服の…んん? コイツ、さっきは兎耳の女と一緒に居なかったか? どうなっている?』

『森を歩く銀髪の三つ編みの女。 ……ッ!? この女、尋常じゃなく危険なニオイだ…ッ! 警戒しておくべきだろう…!』

『死んだシーザーの死体にあのカーズとかいう奴が入り込んでいる…! アイツはどうやら人間じゃないらしい。 …凄まじい気迫でコイツにも近寄れそうにない』




―――まあ、こんなところか。だいぶ長くなってしまったが…。

―――正直、思った以上にこのバトルロワイヤルってゲームはやばそうだ。どいつもこいつも一筋縄ではいかない雰囲気してるぜ。

―――ん? 空条承太郎…? ああ、黒い制服を着た長身の男なら確かにすぐ北に居るぜ。

―――徹底的にマークだと? …別に構いやしないがオレはアンタの部下じゃあないんだ、気安く指図しないで貰いたいね。

―――それと…またも『お客様』だ。女3人組、この紅魔館に近づいてくる。

―――ひとりは『八雲紫』とかいう、この幻想郷の権力者らしい。

―――迎えてやれだと? いいのか? 敵は大妖怪らしいんだぜ。

―――『引力』ねぇ…、まぁアンタが興味あるんならオレもとやかくは言わないけどな。

―――それを言うなら…オレもアンタには興味があるんでね…。




―――『一巡した新世界』…だっけ? そんなものが本当にあるのかね…。




――――――


―――











▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


679 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:05:32 t7TV9noU0
『ディエゴ・ブランドー』
【早朝】C-3 紅魔館 1階エントランス



    ―――初めに…ディエゴ。可能性の話を少ししよう―――



『この地球上において、海と陸地の割合が7:3と決まっているように…存在する魂の数もキッチリと決まっているらしい』
『つまりこの地球で人間の数が増えれば増えるほど…他の生物が絶滅していると考えても差し支えなく、魂全体の数は影響なく一定だと言われている』
『だがその魂を…たったひとりの人間が何個も何万個も所有できる方法があるとしたら…その人間は何を見ると思う? その人間の先にはどんなことが起こる?』

―――いきなり何を言い出すのか分からないが…アンタは知っているのか? その『魂』を何個も所有する方法とやらを…?

『その方法を私は持っていないが…そうだな、何人か知っている。魂を幾つも所有することの出来るスタンド使いを…』
『私の友や部下にそんな者もいる。極めて稀な能力だ』

―――フーン…。で、魂を幾つも所有すると『何が起こるか』だっけか? さて、全く見当も付かないが…そんな事をすればそいつはもはや人間じゃあなくなるな。
―――『神』にも等しい人知を超えた背徳行為だ。もっともオレは神なんかもはや信じちゃあいないが…おっと、この『幻想郷』は神が住まう土地なんだっけな。まあどうでもいいか。

『神にも等しい…か。フフ……そんな能力を持つ私の友だが、同時に聖職者でもあってね。彼に聞かせたいものだ』
『恐らく彼は「スタンド能力はあくまでスタンド能力。それ以上でもそれ以下でも無い」と、返してくるだろうがね』
『…話が少し逸れたな。しかし魂をただ所有しているだけではただのクレイジーなコレクターで終わってしまう』

―――へぇ、まだ何か必要な行為があるのか?

『そうだ。それは『言葉』だったり『友』だったり『場所』だったりするんだが…まあこの辺りは追々話そう』
『とにかく、魂を集めて必要な条件を満たせば…人は『天国』へ行くことが出来る』

―――…………。

『おい、妙な顔をするな。私の言っている天国とは『精神』に関することだよ。精神の向かう所…』
『精神の力が進化し、究極的に行き着く所という意味さ』


680 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:06:45 t7TV9noU0

―――精神の力……『スタンド』を進化させる、ということか?

『流石、察しが良い。そういうことになるな。君なら私の言っていることが分かると思う』
『―――何故なら君は『私自身』なのだからね』

―――………頭イカレてんのか? ……と、言いたいとこだが――

『そう! 否定したくても君には否定できない。君自身がそう感じているからだ』
『目の前の男はまさしくオレだ――ってね』

―――………ディオ。アンタは何か知っているのか? オレとアンタの『関係』について…。

『フム…あくまで『推測』の域を出ない。最初に言った『可能性の話』とはそのことだ』
『私達は生まれた年代も、名前も、顔も、ほぼ同じだ』
『だがここへ連れてこられる前の『世界』は、君と私ではどうも違うらしい』
『プッチの話から考えて、あの2人の主催者は時間を越えて私たち参加者をこの会場に集めてきたと考えられるが…』

―――時間だけじゃなく『違う世界』からも参加者を連れてこられると?

『その可能性が大きい。実に突飛た話だが、私たちはお互い違う時間と世界から連れてこられた『同一人物』なのだろう』

―――……似たようなことが出来るスタンド使いに心当たりはあるが…。
―――だがアンタはオレによく似ているが、やはりオレそのものではない。大体オレは人間だ。吸血鬼とかいう胡散臭いバケモノじゃない。

『その通り。私と君は殆ど同じ存在で…しかし全く別の存在だ』
『この矛盾はお互いが元居た世界の『関係』にあるのではないか…と私は考えている』

―――ほお? オレがいた『世界』とアンタがいた『世界』…。何か『関係』があるというのか?

『……さっきの天国の話を覚えているか? 精神が究極的に加速したら何が起こるかという話だ』
『スタンドが加速し、精神が加速し、そして時は加速する。最終的に宇宙が行き着く所は『新しい光』という名の夜明けだ』
『これから少し難しい話をするかもしれない…だが君は聞かなくてはならない…』

―――…………続けろよ、ディオ。

『……ああ、いいだろう。長くなるがとても大切な話だ』


681 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:08:29 t7TV9noU0

    ―――天国を目指すのに必要なものはまず、『私のスタンド』である―――

『我がスタンド『世界』の先にあるものこそが人間がさらに先へ進む道なのだ。だが、それだけではまだ不十分』



    ―――必要なものは信頼できる『友』である―――

『その者は欲望をコントロール出来る者でなくてはならない』
『人というのは…その生涯で何人の人に出会うことが出来るか…。その生き方に影響を与える人というのならそう多くはないだろう』
『私はそういった人間を探し、今まで世界中を渡ってきた』
『プッチはその過程で出会った親友だが…案外この『幻想郷』でも新たな友に出会えるのかもしれないな。フフ…』



    ―――必要なものは『極罪を犯した36名以上の魂』である―――

『罪人の魂には強い力があるからである』
『だが、必ずしも36名以上の罪人である必要は無い』
『キリストでは36とは三位一体の『神』を意味する数字であるが…『3』という数字もまた神を意味する』
『悪のタガが外れた『極悪人』よりも更に強大な魂を『3つ』も集めれば、より次元の高い進化へと近づけるのかもしれない』
『この幻想郷においてそれほどまでに強大な魂となると…これはもう『神』や『大妖』などの高位な魂しかない』



    ―――必要なものは『14の言葉』である―――

  秘密の皇帝           らせん階段

        カブト虫          イチジクのタルト

      カブト虫

ジョット

             廃墟の街

    カブト虫   特異点

                 特異点

 天使                  ドロローサへの道

      紫陽花              カブト虫



『私自身を忘れないようにこの言葉を私のスタンドに傷として刻みつけておこう』


682 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:09:39 t7TV9noU0

    ―――必要なものは『勇気』である―――

『私はスタンドを一度捨て去る勇気を持たなければならない』
『朽ちていく私のスタンドは集めた罪人の魂を吸収。そこから新しいものを生み出すであろう』



『生まれたものは目醒める』
『信頼できる友が発する14の言葉に知性を示して…友は私を信頼し、私は友になる』



    ―――最後に必要なものは『場所』である―――

『新月…或いは月の魔力が最も凶暴化する満月の夜に能力は完成させなければならない』
『本来なら北緯28度24分、西経80度36分の場所へ行き『天国の時』を待つのだが…、この会場ではそれは不可能のようだ』
『さて…どうするか? 会場に『月』の重力が最も影響する『場所』があれば良いのだが…』




『―――以上が天国へ向かうための条件。大前提の話だ』
『そしてここからは『能力が完成』した時、世界に何が起こるかという話だ。ここまではいいかな?』

―――……既に突拍子も無い話だぜ。 ……だが『興味』は出てきた。
―――じゃあ、大本命の話だ。その『天国の時』を迎えるとどうなる?

『さっきも言ったが、時間という究極の概念が『世界』を伴って加速し始める』
『時の加速は無限大に拡がり、やがて宇宙はひとつの特異点に辿り着く。宇宙が一度終わりを迎えるんだ』
『無限に加速する時の中を旅してきたこの世の遍く全ての生物は、この旅を一瞬の出来事に感じるだろう』

『そして宇宙は一巡し、新しい地球が生まれる』

『それが、人類の夜明け。新世界だ』
『これは誰にも計り知ることのできない推測だが…だが確信もしている。不思議とね…そうなる『ハズ』なのだ』
『本当の幸福がそこにはある。幸福とは無敵の肉体や、大金を持つことや、人の頂点に立つことでは得られない』
『真の勝利者とは、天国を見た者のことだ。どんな犠牲を払ってでも私はそこへ行く』

―――『真の勝利者』…。
―――なんか、途方もない話だ。無茶苦茶で、馬鹿げていて、とても信じられる話じゃあない。
―――そんな世界を作れる根拠なんか何処にもありゃしない。そもそも前提である必要条件を達成することからして困難すぎるぜ。
―――例えるなら…地図もコンパスも無しに馬のみで大陸を横断するような、そんな無謀で巨大過ぎる難題だ。

『………』


683 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:10:16 t7TV9noU0


―――だから気に入ったぜ。オレも『天国』へ連れて行けよ、ディオ。



『クックク……! 君ならそう言ってくれると思ったよ、ディエゴ』

―――それで? オレのいた世界とアンタのいた世界の『関係』の話とやらはどうなった?

『一般によく知られる多元宇宙論やエヴェレットの多世界解釈…そういった『横』に繋がった平行世界ではなく、『縦』に繋がった世界…』
『それが天国だ。終わりに到着し、新しい始まりを迎えた世界…』
『ディエゴ…君はそういった世界から連れてこられた人間なのかもしれない』
『そういう意味で、私と君は『同一人物』であり『全くの別人』でもあると言ったのさ』

―――…確かに、アンタはただ『隣の世界』から連れてこられた存在ではないってのはオレにもよく分かる。
―――じゃあつまり、あの主催者はそんな世界にすらも『干渉』でき、この会場に集めてきたってのか?

『あくまでも可能性だ。だが、もはやそう思うしかないだろう』
『…私と君の間には、何か強烈な『引力』が働いている。それだけは間違えようのない事実なのだからな』

―――……ああ。オレだって感じているさ。アンタが俺に極めて近い『ナニカ』だってことはな。

『フフフ…! ならばお互い争う理由はもう無いだろう』

―――そうだな。じゃあオレはしばらく、アンタを見ているとするよ。
―――……別世界のオレは、果たしてどんな人間なのか…それをしばらく見ていたい。おっと、もう人間じゃあなかったんだっけな。

『ありがとう。ではしばらくこの紅魔館に居させてもらうよ。 …放送ももうすぐ始まるだろう』

『じゃあ改めて…』






『よろしく。ディエゴ・ブランドー』


―――ああ、よろしくたのむぜ…、ディオ・ブランドー。







▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


684 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:11:29 t7TV9noU0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




いびつな変貌を遂げた幻想郷にも朝が来た。
太陽は変わらず東から昇り、暁の光が大地に降り注ぐ。
この世界に生き物はいない。神はいない。全ての有情非情が創られたハリボテのように、ただ存在するだけだ。
あるのは『命』という神聖な神からの賜りを、血によって貪りあう冷酷無慙な催しのみ。
舞台に立たされた90もの役者は、先の放送を以って72にまで減ったことが伝えられた。


―――女がひとり、うつ伏せに倒れている。


太陽の光が幻想郷全体を覆っているが、ここ紅魔館の窓の少ない内部に光は殆ど届かない。蝋燭の薄明かりが、屋敷全体の照明を担っている。
その薄い照明に浮かぶ男の黄金の髪が、僅かな風に揺れた。彼の視線は専ら手元の古臭い書物に向いている。
階段上に聳えるように置かれたアンティークな西洋椅子に深く腰掛け、パラリパラリ…と、ページをゆっくり捲る佇まいはまさに芸術的な絵画。
男は書物から溢れる日本独特の紙の匂いを、まるでワインの香りでも楽しむかのように心地良く吸った。


―――倒れた女は、ヒトとは思えぬ威圧を放ちながら段上の男を睨みつけている。


男が読書を楽しむその時間、このエントランスホールはまるで『時』が止まっているかのように森閑としていた。
その静止時間を、時折ページを捲る音が破る。
しばらくすると、男は不意に息を吐き出した。ふぅ…というその微かな音が、この空間の時間という檻を壊し、再び針を進めさせる。
ひと呼吸置いた後、男は首だけを階下に向けた。僅かな灯りに照らされた男の口角が、不気味に吊りあがる。


「―――以上が、私の追い求める『天国へ向かう方法』だ。さて、幻想の賢者『八雲紫』はこれを聞いて、何を思う?」


聴く者を安楽に誘うような心地良い声が、この静寂なホール内に奇妙に響く。
男は本を持つ姿勢はそのままに、実に楽しげな表情で階下の女に語りかけた。
ニタリと笑う口元から覗き見える牙は、男が人間でない事を示している。


「若造の茶目にしては、あまりにも禍々しく、度を過ぎている…としか言えませんわ」


―――圧倒的な妖気を放つ、『八雲紫』と呼ばれた女は、口元から血を垂らしながらも不敵に笑む。


685 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:13:19 t7TV9noU0


    ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ……………… ッ ! 


大気が震える。地が軋む。
何人をも寄せ付けぬほどの『力』が、地に這い蹲る大妖の身体から無限の如く湧き出していた。
常人では計り知れない重圧が加速的に重さを増し、傍に居るものは悉く耐えられず、砕かれ折れてしまう程の妖気。
その混沌とした雰囲気が、あるひとつの恐ろしい事実を指し示していた。


―――八雲紫が、怒っている。


彼女を知る者がこの事実を聞いたならば、直ちに震え上がり、ただただ祈ることしか出来ないだろう。
自身の強大さを形作っている『境界を操る能力』の機能の殆どを失っているとはいえ、大妖怪たる『格』は依然健在している。

しかし彼女の放つ巨大なプレッシャーを受けてなお、この男――DIOは笑みを崩そうとしない。
まるで自身と紫の妖気との間に『境界』を作り、受け流しているかのように動じない。


「…成る程。凄まじく重々しい『力』だ。大妖怪の肩書きは伊達ではないらしい……、畏怖すら覚えるよ」


言葉の内容とは裏腹に、DIOは笑顔を作ったまま。
怒れる紫の姿から一旦視線を離し、再び本に目を戻す。

「お前は…普通の人間には無い『特別な能力』を持っているそうだな? この幻想郷縁起の項によると『境界を操る能力』だとか。
 その桁違いな力を行使すればこのDIOすらも討てるのではないか?
 そんな所で転がってないで、向かって来たらどうだ? それとも今のプレッシャーは『強がり』なのか? なあ…八雲紫」

おちょくるような真似を…! と紫は唇を強く噛み締め、握り拳を作る。
このゲームにおいて彼女の能力が著しく制限されているという事を、目の前の男は間違いなく気付いている。
気付いていながら紫をからかい、挑発するような言動をしているのだ。

(情けない…! 大妖怪である私が、こんなあられもない姿を見せるなんて…!)

DIOの指摘通り、紫の見せる威圧はいわば強がりで、体力・精神力共にボロボロであった。
そんな状態を見透かしたかのようなDIOの物言いにも、紫は屈辱を覚える。


686 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:14:20 t7TV9noU0
猫の隠れ里の一件から、既にして大妖怪の威厳は崩れ去ったようなものだ。
それでも愛する幻想郷のために、身を粉にする想いで闘う事を決意した矢先の出来事がこれだ。
先の『天候を操る能力者』相手にも、何一つ抗うこと叶わず逃走。
敵だともいえる邪仙にはついでのように助けられ、借りまで作る始末。
傷心のまま何かに導かれるように、引き合うようにこの紅魔館へ辿り着き――


―――あまりに残酷な運命の壁は、再び八雲紫の前に立ち塞がった。


油断をしていたつもりは無かったが、心に穿たれた多くのスキマはそのまま彼女の『隙』になってしまった。
今や主の居ない紅魔館の門を潜り、このエントランスホールへ辿り着いたその時。

八雲紫は突如血を吐き、吹き飛ばされた。

突然の惨事に、何も考えられなくなった。
自分に何が起こり、何故床に倒れているのか。
そんな思考は、襲い掛かる吐き気と頭痛に蝕まれて露へ消えた。
とうとう耐えられずに吐瀉し、激痛が今更になって腹部と背中を刺してきた。
涙目になりながらも何とか意識を保ち、どうやら自分は背から突然攻撃されたらしいと悟る。

だが、肝心の攻撃された瞬間の記憶は無い。
気が付けば吹っ飛ばされていたその現象に、紫はある予感が走った。

『まるで時間が止められたみたいだ』

そんな芸当が出来る者を紫はひとり知っている。
その者はこの紅魔館にも馴染みある人物だったが、彼女はもうこの世にいないはずであった。
だとすれば、この自分に気付かれずに一体何処の誰が攻撃できようか。
追撃に備える紫の耳に届いたのは、小さく椅子を引く音と本を開く音。

そして――



「君は『引力』を信じるか? この館へ足を運び、私と出会えたことに意味がある事を…?」



凍りつくほどに妖しい、男の囁きだった。






▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


687 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:15:15 t7TV9noU0
『宇佐見蓮子』
【朝】C-3 紅魔館 1階エントランス




どこからが、間違いだったのだろう。

この大きな西洋屋敷に入り込んだところから?

あの寂れた里で、八雲さんを助けたところから?

刑務所で、青娥についていったところから?

ジョニィと、はぐれてしまったところから?

わからない。

何が間違っていたかなんて、後になって考えても無駄。
ただひとつ言えるのは、この紅魔館に入り込んでしまったことだけが私の最大の失敗だ。
今はひたすら後悔の念が頭の中をグルグル回っている。あんまり回ってるせいか、吐き気が抑えられなくなってくるぐらいだ。
今のこの光景が夢であって欲しい。そればかりを祈っているけど、背筋の冷たさが嫌でも現実だと言う事を執拗に物語っている。
まるで背骨に直接ツララでも突っ込まれた気分だ。


今、私はかつてないほどに戦慄を覚えている。

心が、魂が、警告を鳴らしている。

『今すぐにこの場所から逃げろ』

わかってはいても、脚は立てず腰は抜けたまま。

私みたいな普通の人間が、こんな場所に迷い込んできたことがそもそも絶望的な状況だったんだ。

『ここ』は私のいるべき場所じゃあない。あまりにも不相応な、ちっぽけな存在だ。

あの『男』が何者かだなんて、どうだっていい。すぐに逃げなきゃダメなんだ…!

八雲さんが、一瞬にして吹き飛んだ。血を吐きながら、床に転がされた。
その醜態とも言える姿を晒しながらも、彼女は階段上に佇むあの男――DIOを睨みつけている。
彼女の圧倒的に重苦しい威圧感は、奇妙にも私の目にハッキリと見えるようだ。
そしてDIOが纏う、あまりにも禍々しい『邪気』…のようなものが、八雲さんのそれとぶつかり合う。

2人の『強者』の覇気が絡み合い、弾き合うこの空間は、ただの人間である私にはあまりに耐えられない。
心臓を鷲掴みにされたような窮屈さが私の全身を駆け巡り、恐怖に負けて涙も止まらなくなった。

出来ることなら、八雲さんを見捨ててでもこの屋敷から走り去りたい。
死にたくない。自分だけでも助かりたい。
その思いばかりが私の思考を蝕んでいく。最低な女だと思った。


(ハァ……ッ! ハァ……ッ! ハァ……ッ! …………ッ!!
 な…なんなの、よ…! あの男……!? 人間…なの…!?
 いきなり八雲さんを吹っ飛ばして、『天国』がどうとか…ッ! 尋常じゃない……ッ!!)


688 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:16:24 t7TV9noU0
DIOの白く綺麗な指がページを捲る音だけの、静かな世界が続いた。
しかし、依然としてDIOと紫の放つ気同士がぶつかり擦れ合うような、嫌な音が蓮子の耳に絶えず入り込んでくるようだった。

蓮子は――残る全ての力を振り絞り、脚を動かそうと試みた。紫には本当に悪いと思ったが、逃げる事を決意した。



「ヒトをやめて久しいが――」



その刹那に響く、妖しく不気味な声。
怯えて、蓮子の脚は再び竦む。


「――いや、君たち妖の者からすれば瞬きほどの時間かもしれないが、それでも『退屈』なる人生は私にとって苦痛でね」

「――痛いほどに分かりますわ」


静かに流れる、会話。
口調こそ穏健なものだったそれは、しかし相手の全身を突き刺すほどの殺気を纏っている。


「変化の薄い湖面に一石を投じ、波紋を立てたくなるものだ」

「一石…? 『岩』の間違いではなくて?」


紫が立ち上がろうと腕を立てる。
その周りには、凝縮されたエネルギーがフツフツと沸きあがってくるように感じられる。


「クク…! お前は本当に楽しそうな女だ…八雲紫!
 『紫』は『縁』。私はお前と『引力』のように引き合ったと表現したが、それも必然の出来事なのだろう。
 『運命』という言葉を信じるかい? このDIOとお前は『縁』があった、ということだろうさ…」


読んでいた本をパタンと閉じ懐に入れ、DIOはニタリと笑いながら椅子ごと体を紫に向けた。
たったそれだけの行為に蓮子の体に緊張が走った。溢れる涙を拭くことすら出来ないほど、身体が固くなる。
紫もそれに反応したのか、優雅さを伴うようにゆっくりと立ち上がり、DIOと完全に対峙する。


「プロポーズの言葉なら実に素敵な文句なのでしょうけど、残念ながら私と貴方は相容れない存在でしょう。
 『天国』とやらに向かうことが一旦世界の終わりを意味するのなら、それは『幻想郷』の終わりを意味するも同義。
 貴方が『外の世界』で何を始めようが知ったことではありませんが、この儚くも素晴らしい幻想郷までをも巻き込むというのなら――」


彼女の周りからおびただしい数の光球が発生する。
それはまるで空間のスキマから現われたように、激しい敵意が害意となって収縮していく。

激情を露にするように、幻想の賢者は猛る。



「――美しく残酷にこの大地から往ね!」


689 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:17:26 t7TV9noU0
瞬間、空間に亀裂が走った。
スキマから飛び出る雨あられの弾幕は、見た者を凍えさせるかの如く冷酷なオーラを纏っているようで、蓮子の表情もすぐに白くなっていく。

対してDIOは――椅子に座ったまま微動だにせず、組んだ足に手を置いていた。
微笑を浮かべたまま淡々と、座して賢者の攻撃を迎えていた。
厳かに、帝王のように、動じることなく不敵に構えるのみ。

そして蓮子の視界の端に映ったものは、攻撃を放つ紫の背後へと飛ぶ、黒い影。



「―――紫ちゃん? 『DIO様』にオイタしちゃ駄目じゃない♪」



邪仙・青娥の強靭な肉体によって紫は背中から再び強引に押し倒されてしまった。


「あ……ッ!! せ、青娥……貴女、という女は…ッ!」

「ごめんね紫ちゃん。貴女は大切な御方でもあるけど、それでもDIO様の魅力には遠く及ばないもの♪」


関節技で絞めるかのように、青娥はダメージを負った紫を容赦なく床に叩きつけた。
直後、大きく響く破壊音が蓮子の耳を貫いた。紫の弾幕がDIOの座っていた椅子を粉々にした音だ。
音に驚いて振り向いた蓮子の視界に――DIOは居なかった。
紫を最初に吹き飛ばした時のように、気付くとそこには居ない。
次々と襲い掛かる理解不能な現象が一層恐怖を引き立て、蓮子の歯をガチガチと鳴らす。


690 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:18:30 t7TV9noU0

「ん、君の名は…え〜と『霍青娥』だったかな? そうそう、この幻想郷縁起にも載っていた『仙人』、だとか」


いつの間にか階段に座り込んでいたDIOが、紫の背中に跨っている青娥へと語りかける。


「青娥と申します。以後お見知りおきを…」

「そうか、美しい容姿と名だね。中国の怪異譚を纏めた短編説話集『聊斎志異(りょうさいしい)』に登場する娘の名…だったかな?
 しかし青娥…それで君は何故、『大切な御方』であるはずの八雲紫をそうやって封じ込めているのだね?」

「先程も申しました通り、貴方が魅力的すぎるから…では駄目でしょうか?
 私は仏教ですが…語られた『天国』という世界にも、ひどく興味をそそられてしまうほど…。
 共に天国を目指す『同志』をお探しになられていると仰いましたわね? この私も、それについて行き貴方を見ていたい。
 有り体に言えば…それは貴方に対するひとつの『一目惚れ』…と言ってもいいかもしれません」


蓮子はこれ以上に無い嫌悪感を表情に出す。

まるでそうであることが当然だというように、この女は言ってのけた。
青娥の突然の裏切り。 …いや、この女は何も裏切ってなんかいない。
恐らく生まれた時から、ひたすら自分に正直に生きてきたんだ。最初に私と出会った時と、何一つ変わっちゃいない。
『邪仙』と呼ばれる彼女の本質たる所以が、真に理解出来た気がした。
こいつはこの数分で『DIOを気に入ったからついていくことに決めた』という、それだけの理由で軽々と私たちに牙を剥いた。

成る程、こいつは…なんて『邪悪』なんだ…ッ!


「お前のような尻の軽い娘如きが恥ずかしげもなく、よくも堂々と吐けたものね…! 改めて反吐が出るわ…ッ! 霍青娥ッ!!」

「あらあら、カーペットと抱擁したままの姿勢で言われても威厳に欠けるわね、八雲紫?」

紫を押さえつける青娥の手がギリリと鳴った。
青娥は背に跨ったまま、紫の首に手をかけ、そして…!

「まあ待てよ、青娥。その女はまだ殺すわけにはいかない。試してみたい事もあるしな。
 だが、君の熱い情熱はよく伝わった。もしかすれば、私と引き合ったのも紫ではなく君の方かもしれないな。
 OK! 喜んで君を迎え入れよう! 私も君に非常に興味が出てきた。
 人の道から外れた無理非道なる邪仙…このDIOとも共通するモノを持ち得た女よ!」

「感謝致します。では…今からこの霍青娥の身体はDIO様の物ですわ」


691 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:19:43 t7TV9noU0
実に清淑な振る舞いで立ち上がった青娥は、スカートの裾をひらりと摘み上げお辞儀をした。
それを見て気分を良くしたのか、DIOはニヤリと笑った後、立ち上がって階段を降りてくる。

コツリ…コツリ…と、ゆっくり一歩一歩…段を降りる度に蓮子の心臓は締め付けられる気持ちになる。
やがて倒れた紫の前にまで来ると、DIOは片膝をついて彼女に囁くように呟いた。


「さて――お前なら既に気付いているかもしれないが、実は私は『吸血鬼』でね。例に漏れず人間の血を吸って生きている。
 だが…流石のこのDIOも『大妖怪』の血などは今までに吸ったことはない。 …見るのも初めてだしな。
 果たしてそれはどんな味がするのか? さぞや唸るほどに美味なのだろうな」

「私も吸血鬼の知り合いは何人かいるけど…お前のように節操なく、下賤な者は初めてお目にかかったわ…!
 そんな男にくれてやる血など…ただの一滴だってありはしないッ!
 幻想郷の賢者であるこの私の血が、下種なお前の血と混ざり合うなど――ああァ…ッ!!」

「口を閉ざしなさいな紫ちゃん。風味が逃げちゃうでしょう?
 今の貴女は賢者でもなんでもない、器に盛り付けられた『供物料理』よ。料理が動いちゃダメじゃない」


そう言いながら冷酷に笑う青娥は、DIOによって受けた紫の背の深い傷を抉るようにグリグリと踏みつける。
その行為はさっきまで冗談で笑い合っていた時とは違い、本気で紫を嬲るような態度で残酷さに満ちていた。

そんな光景をDIOはあざ笑うように眺めている。楽しんでいるのだ。
本来なら種族上、紛れも無い『格上』である八雲紫という大妖怪を屈服させていることに至上の幸福を感じているのか。
それでも紫の瞳からは絶えずDIOらに対する敵意が流れ出てきている。
屈辱は感じても、敗北はしないという大妖のプライドがそうさせているのか。
しかし文字通り手も足も出ない紫を見据え、DIOは右手を紫の首元に近づける。


そして、躊躇うことなく血を吸い始めた。


「う…くぅ……あァ…! や…やめ……ッ! うあ…ぁぁあッ!」

「ほお…これは…。成る程、『極上』だ。
 素晴らしい…! 今までに数え切れないほど血を吸ってきたが、これほどのモノは初めてだ。これが『大妖怪』の血か。
 この身体にも馴染む…とてもよく馴染んでくるようだ。パワーが満ち溢れてくる…!」

「へぇ…私には飲血の習慣はないですけれど、試しに飲んでみようかしら?
 案外、美容にも良かったりして♪」


692 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:20:55 t7TV9noU0
隅で震える蓮子の目の前で、この世のものとは思えぬいびつな狂宴が行われている。
幻想を見守るかの賢者『八雲紫』が、邪仙と吸血鬼に残酷に嬲られ、餌食にされている。
青娥は紫の事を『供物料理』と評したが、眼前の光景はまさしく神にさしだされる『贄』であった。
血を吸う音がここまで木霊するかのように、DIOはしばらく紫の血を吸っていたが、やがて至福の笑みで立ち上がり、階段まで歩き戻ってまた座りつく。

蓮子にもはや出来ることなど、何もなかった。
この場から逃げ出す、そんな稚気さえも抱けない。
立ち上がる事すら出来ず、みっともなく涙を流しながら身体を震わすだけ。
そして蓮子は、『次は自分の番だ』と思った。
この悪魔たちが自分の存在に気付いているかは分からないが、すぐにでも殺されるだろう。
これまでも何度か生命の危機に瀕してきたが、今度こそ人生の『詰み』だ。そう感じていた。


「さて…楽しい食事も終えたことだし、改めて自己紹介しようか。
 私はDIO。『ディオ・ブランドー』という。君と同じで人間をやめた者だよ、霍青娥」

既に意識を失った紫とその身体に足を乗せる青娥を、満足げな顔で交互に眺めながらDIOは言う。
青娥は紫の背中から足を離し、DIOの前で華麗に跪く。

「君は…より力の強い『カリスマ』に惹かれ、その者についていく習慣があるらしいね。
 私の『夢』に加担してくれる…そうも言ってくれた。とても心強いよ、気に入ったぞ」

「嬉しゅうございますわ、DIO様…。
 ところでお話は変わりますが、『スタンドDISC』なる存在をご存知でしょうか?」

ふむ…? とDIOは顎に手をやる。
スタンドDISCといえば友人プッチのスタンドによって生み出される円盤。
勿論DIOは知っていたが、それを青娥が知っているのも妙な話だ、と疑問を露わにした。
その反応を見て青娥は説明する。この会場に支給されている品物の中に幾つかのスタンドDISCが紛れていることを。
そして自分がそのDISCを集めていることを。

青娥は説明を終え、最後に自身が僅かに感じていた『疑問』をDIOにそれとなく聞いてみた。

「DIO様。実を言えば私は集めたDISCをとある『殿方』に差し上げようと考えていました。
 黄金に輝く髪を持ち、『王者』の風格漂う少年…その風貌はDIO様に非常に似ておられますわ。とても他人とは思えないほど…。
 失礼ですが、心当たりなどは…? 例えばDIO様のご家族など…」

家族…その単語を小声で唱えた後、DIOは小さく鼻を鳴らした。
この自分にとって家族など塵ほども価値の無い、下らぬ存在だと疎んじていた。
少年の頃より自分を取りまいていた懐かしき環境にも、些かの温もりすら抱いたことはない。

だが――


693 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:21:41 t7TV9noU0

「『可能性』はあるな。先程より僅かに感じていた、この得も言われぬ『感覚』…。
 星のアザとも違う、もっと近しい奇妙な感覚だ。私に似た風格、か…。
 成る程、これは血と血が引き合う『親子』の感覚…。それが『心』で理解出来る…!」

「お…親子…。息子様が、いらしたのですか…」

何故か妙にションボリする青娥だが、彼女も心の内で合点がいった。
確かにあの少年とDIOはあまりに似すぎている。
遠くで眺めていただけだったが、2人が親子だというのなら納得のいく話だ。

「まあ、私も今の今までその存在は知らなかったがね。しかし、息子…か。
 このDIOの血を受け継ぐ男…面白い、是非『会ってみたい』ものだ。
 この会場には随分と楽しそうな奴が多く潜んでいるじゃあないか…! 面白くなってきた!」

「ならばその少年を連れてきましょうか? 居場所は分かりませんが、まだポンペイよりそう離れてはいないかと…」

「…いや、それには及ばない。その男とはいずれ会えるだろう。それが『必然』であり『運命』というものだ。
 青娥、君には息子よりも『別の人物』を探しだし、ここへ連れてきてもらいたい」

「別の人物…。ええ、貴方様が望まれるなら勿論尽くしますわ。それで、一体どなたを…?
 『天国』へ行く為に神や大妖の魂が必要とあらば攫ってきますし、会場に居るDIO様の『同志』や『ご友人』が他にいらっしゃるならすぐにでも探しだしてきますわ」

そうだな…とDIOは呟いた後、指を組んだ。
そのまま目を閉じ、じっくりと言葉を溜める。その間、青娥はDIOの次なる言葉をただ待った。


数秒か、はたまた数十秒かの思考を終え、DIOはゆっくりと――瞼を開ける。

口元には悪魔の如き、妖艶な笑み。


そして――帝王は唱えるように、ひとりの名をホールに響かせた。


694 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:23:18 t7TV9noU0















「マエリベリー・ハーン。その娘を、私の前へ連れてきて欲しい」














え―――



それまで隅で震え泣くことしか出来なかった蓮子が、ここへきて初めて声のようなものを絞った。
頭をハンマーでど突かれたような衝撃が走る。思考が白く染まっていく。
今、あの悪魔から発せられた名前が聞き間違いであることを祈りながら――

気付けば蓮子は声を荒げていた。


695 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:26:25 t7TV9noU0

「ど…どうしてッ!! なんでそこで、メリーの名前が…!?」


ハッとした時には遅かった。
DIOと青娥、2人が同時に蓮子を振り返る。
瞬間、息が詰まりそうなほどの圧迫感が蓮子を締め付けた。


「君は…メリー君の友人なのかい?」

「そうみたいですわ。こちらの紫ちゃんを見つけた時もメリー、メリーと喧しく、随分メリーちゃんとやらにご熱心な様子です。
 …しかしDIO様? そのメリーちゃんとは如何なる関係で?」

「うむ…実は彼女とは直接の面識は無い。そうだな…なんと説明したものか……。
 メリー君とは『夢の中』で会ったんだ。とはいっても本当に夢でお話したわけではない。
 なんとも奇妙な体験だったが、ある人物に施した私の肉体の『一部』…彼女はそれに介入してきた。
 いわば私の無意識下の中で会話した…と言うべきだろうか。彼女はそれを『境目を見る能力』だと言っていたな。
 こんな事は私も初めてだったし、とても面白い娘だと感じたよ。もう一度、彼女と会話がしたい」

蓮子はDIOの言葉を耳を疑うような面持ちで聞いていたが、同時に彼の話が嘘の類ではないとも確信を得ていた。
メリーの『境目を見る能力』の事については親友である自分にもよく分かる。理屈はよく分からないが、2人は確かに夢の中で会話したのだろう。


「そういうことでしたら、すぐにでも彼女を探しだして連れて来ましょう。
 しかし彼女の居場所も分からぬ故、少しばかり時間を要することをお許しくださいな」

「それには至らないよ。彼女の居場所なら『分かっている』。 …ディエゴ。君の出番だ」


―――……ぱたんっ


DIOが言い終わると、ホール2階の段上から本を閉じる音がした。
その音に驚き、蓮子が頭上を見上げると、ホールの闇から少しずつ人の脚が降りて来た。
蝋燭の明かりに段々と闇が払われ、やがて現われたのはDIOとそっくりの顔立ちをした、乗馬用メットを被った瞳の鋭い男。

「紹介しよう。彼もまた私の友人であり、同志でもある『ディエゴ・ブランドー』だ。
 本来なら彼に間引きを頼みたいところなんだが、彼は人に命令されて動くのを極端に嫌うみたいなんだ…」

ディエゴと呼ばれた男が2階へ続く階段からこちらをギラギラとした視線で見下ろしている。


696 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:27:07 t7TV9noU0

(いつの間に…! なにあいつ、最初からずっとこの上で読書でもしてたってわけ…!? この狂ったような騒ぎの中!?)


得体の知れない更なる人物の登場に、もはや蓮子は精神の限界が近づく。
これ以上わけのわからない出来事が襲ってくれば、ショックで倒れそうだと焦燥する。


「おいおい、元はオレが根城に決めた城だってのに今日は随分と千客万来だな?
 これ以上ここに人を呼ぶのには良い気もしないが…まっ、いいだろう。
 マエリベリー・ハーンの居場所なら恐竜共に案内させてやるぜ。ニオイを覚えさせているから迷うことなく辿り着くだろう」

階段の手すりに体を預けながらディエゴはふてぶてと言う。
そして口笛を小さく鳴らすとディエゴの懐から1匹の翼竜が羽ばたき、飼いならした小鳥のように青娥の元へ飛んできた。

「あら素敵♪ この子が案内役なのね? ありがとう、ディエゴさん」

翼竜の頭をスリスリと擦る青娥は、可愛いペットでも手に入れたかのようにご機嫌な顔になる。
DIOと青娥とディエゴ。三者三様の恐ろしい顔ぶれを、腰の抜けた姿勢のまま交互に見比べる蓮子。
そんな蒼白な顔をした蓮子を横目に入れながら、DIOは床で倒れている紫を見下ろし、また呟く。


「…確かに、メリーと話したいというのは単純な彼女への興味もある。
 だがそれ以上に気になることがあってね。それは『メリー』と『八雲紫』の関係についてだ」

それは誰に向けての言葉だったのか。
青娥、ディエゴ、そして蓮子が一斉にDIOの方を振り向いた。

「最初にこの紫を見た時、私はすぐにメリーとの会話を思い出した。彼女と紫の姿があまりに酷似していたからだ。
 そして同時にディエゴと初めて出会った時のことも思い出した。実に不思議な関係だと思わないかね?
 『私』と『ディエゴ』。『メリー』と『紫』。容姿がこれほどまでに似ている人物が、この会場に2組。
 これは偶然ではないはずだ。そこには何か『とてつもない力』…それこそ『引力』が働いているのではないか…と感じた。
 月並みな感想だが、私はディエゴのことを私の『生まれ変わり』だと思っている。『新しい世界』から来た私なのだとね。
 ならばもしかするとメリーも、この八雲紫が『新しい世界』で生まれ変わった存在なのかもしれない…。
 そう考えれば、メリーと紫は『同一人物』だと考えて差し支えは無いだろう。推測になるがね」

「…確かに、メリーちゃんと紫ちゃんの関係については私も気になっていたところ…。
 それを確かめる意味でも、メリーちゃんは必要だと…そういうことですわね?」

「ああ…頼めるかい? 青娥よ」

「…申し上げた通り、この青娥の身体は既にDIO様の物。この魂果てるまで、貴方に尽くしましょう」


697 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:27:51 t7TV9noU0
頭を下げる青娥の従順な姿を視界に入れながら、蓮子は混乱する思考の渦の中、考える。
メリーと八雲さんが…同一人物? 生まれ変わり?
突拍子も無い推測だけど、確かにそう考えるしかない。それほどに2人は何から何まで似ているのだ。
でも、それならなおのこと八雲さんを放っておけない…! 当然メリーもだ!
2人に危機が迫っている。八雲さんはまだ死んでいないみたいだけど、いつ殺されるかわかったもんじゃない!
私が…私だけが無事なんだ…! 八雲さんを助けたい! でも、メリーにも危機を知らせにいかなくては…!

どうする…どうしよう…!?
こんな状況で私なんかに何が出来るっていうの!?
でも…メリーを守らなくちゃ! ちっぽけな私でも、出来ることはきっとあるッ!

メリーを助けたい。八雲さんを助けたい。
それを考えた途端、私に少しだけ勇気が湧いてきた。

竦んで立てなかった脚は、自然に立つことが出来た。
依然震えながら、それでも一歩一歩、倒れる八雲さんに近づくことが出来た。


そして―――







「―――そういえば…君の名前をまだ聞いていなかったかな? お嬢ちゃん」



地獄の底から響いてきそうな、しかしとても澄んだ声が蓮子の体を包み込んだ。
振り向いたDIOの真っ赤な瞳を覗き込んで、蓮子は自分の体がふわりと浮いたような感覚に陥る。
どちらが上でどちらが下だか分からない、地に足着かぬ不思議な感覚と共に蓮子の意識はDIOの瞳の中に吸い込まれそうになった。
底の無いドス黒い深淵に堕ち、蓮子は――死を覚悟した。


698 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:29:02 t7TV9noU0

「どうやら君は青娥と違って力を持たない、ただの少女のようだ。
 本当ならさっさと『食糧』にでもしておくところだったが…少し『面白いこと』を考えた」

ああ、ダメだ。
こいつらの前で、『勇気』なんか何の役にも立たない。
所詮、私なんかが誰かを助けるなんて無理だったんだ。

「君はメリー君と友人なのだったね。 …どうだい? 彼女と会いたくはないだろうか?」

―――え?

「怖がらなくていい。君を彼女と会わせてあげよう…そう言ったんだ」

メリーと…会える?
本当に…? 私は…まだ生きれるの?

「そうだよ。君は…彼女を守れる力が欲しいと考えている。
 この悪意渦巻く世界で怯えているであろうメリーを守ってあげたいと考えている。 …違うかい?」

DIOの…言うとおりだ。
私は、弱い。誰かに守られてばかりだった。
ジョニィや露伴さん、八雲さん…青娥にすら助けられた。
だから、ずっと誰かを…メリーを守れるぐらい強くなりたいって願ってきたじゃない。

「安心するといい。君の願い…このDIOが叶えてあげよう。 君に私の力の『一部』を貸し与えてね…」

そう言ってDIOは、ゆっくりと私の方へ近づき、私の額に腕を伸ばしてきた。
その瞬間、言い様のない恐怖が私を襲った。
逃げなきゃダメだ。こいつは嘘つきだ。
頭でそう感じても、身体は動かない。
逃げなきゃいけないと思いつつも、私は安心したからだ。
自分はまだ、生きれる。メリーと会えるんだ。
それを思った瞬間、不安は吹き飛び、幸福すら感じてきた。



―――ああ、メリーを守れるのなら私は、なんだって出来るわ。



その思いを最後に、私はそっと瞳を閉じて…DIOの世界の中へ身を委ねてしまった。







▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


699 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:30:21 t7TV9noU0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「青娥、この蓮子も連れて行くと良いだろう。ひとりで向かうのは何かと不便だろうからな」

「あら、嬉しい♪ また蓮子ちゃんと一緒に大冒険が出来るのね♪」

『私がほんの少し眠っている間に、どうやら話が大きく動き始めているみたいですねェ…』

「改めてよろしくお願いします…青娥さん。それとヨーヨーマッも。それでは『DIO様』…必ずやメリーをここに連れてきます」


楽しそうに笑う青娥と、再び青娥が蓮子にDISCを挿入させ発現させたヨーヨーマッ。それを淡と受けて早々に玄関に向かう蓮子。
目標は…マエリベリー・ハーン。案内役の翼竜を先頭に、3人は歩き出す。
それを我が子のように送り出すDIOだったが、ここで頭上から声が降りてきた。

「おい、少し待て。メリーとやらを攫いに行くのは良いが、無策で向かう気か?
 恐竜共の情報によれば、メリーの周りには偵察が帰って来た時点で『5人』もの人間が居るんだぜ。
 しかもディオの肉の芽で操ったポルナレフとかいう奴は、ジャイロ・ツェペリや西行寺幽々子とかいう女のおかげで正気に戻されたって話だ。
 蓮子がその状態のまま向かったところで、ポルナレフと同じく肉の芽は浄化されちまうのがオチだろうぜ」

ポケットに手を突っ込ませながら階段を降りてくるディエゴ。
そんな彼の方を振り返りながらDIOは問う。

「何か提案があるようだな、ディエゴ? 言ってみてくれ」

「『保険』をかけておこうって話さ。この『刀』を持っていけよ」

そう言ってどこからともなく数匹の翼竜がバタバタと運んできたのは一振りの日本刀だった。
それを見て、蓮子、青娥、ヨーヨーマッは同時に反応する。

『おや…それは…』

「! その刀は…八雲紫を操っていた妖刀じゃないですか」

「あらホントね? 確か猫の隠れ里の古井戸の底にすっぽり落ちていったと思ったんだけど…貴方のペットが回収していたのね」


700 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:31:02 t7TV9noU0
不穏に光るその刀は、確かに紫を操り蓮子を攻撃してきたあの妖刀に違いなかった。
紫の話によれば、その刀に触れるだけで所持者はたちまち意識を刀に乗っ取られてしまうという。
その話が本当なら、蓮子たちは疑問を持つ。
触れれば操られるはずの妖刀を、何故ディエゴの翼竜は何も影響なくここまで運んで来れたのだろうか?

「何故…と言われても困るが、そうだな…。こいつら翼竜はオレの能力『スケアリー・モンスターズ』の『支配力』によって動かしている。
 この刀とオレの『支配力』…どうやらオレの方が格上だった。そんなところじゃないか?」

白い牙を見せながらくつくつと笑うディエゴ。
DIOもその刀に見覚えがあるのか、閃いたような顔を作った。

「それは…成る程、『アヌビス神』か…。この会場にまで支給されているとはな…、ディエゴ、それを少し貸してくれないか?」

何か思うところあるようにDIOは腕を伸ばし、翼竜が掴んでいた刀を両の手でガッシリと掴む。
DIOは…刀に操られる様子なく、まるで美術品を鑑定するかのように静かに呟いた。

「…ほお、このアヌビス神、既に相当の『技』を憶えているな。それなりに血も吸ってきたようだ」

『ディ…DIO様ァ!? お、お、お、お会いできて嬉しゅうございますッ!』
(チクショー! 何でコイツら、操れねェんだッ!? し、『支配力』だとォ…!?)

「ふむ…しかし改めて美しい刀剣だ。こいつを打った鍛冶屋の『執念』が刀を通して伝わる…。
 だがお前の執念は…このDIOやディエゴの『支配力』を上回ることはなかったようだ。
 蓮子よ、この刀はお前が持って行け。きっと力になってくれるだろう」

息を吐きながらしばらく刀を眺め回していたDIOは、満足した表情でアヌビス神を蓮子に譲り渡す。
蓮子はDIOに一歩近づいて、至極丁寧な動作でそれを手に取り、水に濡れたように輝く刀身をジッと覗き込んだ。

『グ…ッ! コイツも操れねえ…!? な…なんてこったい…!』

「当然でしょ。貴方とDIO様の『支配力』が同格なわけないじゃない。
 でも、まあ…良いじゃない? DIO様の敵を斬れることには変わりないんだし。
 いざって時には『身体』だけ貸すわ。貴方の『技』、頼りにしてるわね、ワンちゃん?」


701 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:32:01 t7TV9noU0
自分の思い通りにいかない事に歯軋りするアヌビス神だったが、考えてみれば蓮子の言う通りこれはそう悲観した事態でもなかった。
ディエゴが自分を古井戸の中から引っ張り出してくれなければ、恐らく永遠にあの暗闇で泣き喚いていただろうし、これからも刀の生き甲斐である『人を斬ること』が存分に行える。
そう思えば、これまでの自分はむしろラッキーだとも思えてくる。
思考が単純なアヌビス神は、蓮子の言葉に俄然やる気を見出してきた。

『そうか…そうだな…! いや、その通りだぜ嬢ちゃん!
 安心しろ! これからは大船に乗ったつもりでおれの能力と技に期待してなッ!』

(単純な犬コロね…)
「それではDIO様、今度こそ行って参ります」

「気をつけて参りますわ。ディエゴちゃんも色々とありがと♪ 楽しみに待ってて下さいな…♪」


帝王の従者へと化した2人の女と気味の悪い召使いは、重厚な扉を開け放ち光に紛れて消えた。
扉は再びゆっくりと閉まりながら、闇が潮のように光を追い出していく。



やがて紅魔館に静寂が訪れた。

後に残るのは、2人の帝王と、堕ちた賢者。
DIOはしばらくの間扉をじっと見つめていたが、やがてディエゴを振り返り、昏睡する紫を指差して口を開いた。

「さてディエゴ…私は彼女たちの帰還を待つ間、図書室にでも篭ってこの幻想郷のことを色々と調べてみることにする。
 そこの八雲紫はまだ必要だ。地下牢にでも閉じ込めておいてくれないか…と言いたいとこだが、手っ取り早い方法がありそうだな?」

「よく分かってるじゃあないか。シーザーも死んじまったことだし、手頃な奴が欲しかったとこだ。
 …だがコイツを貰っておいてなんだが、この八雲紫はさっさと殺しといたほうが良いと思うんだがな」

倒れた紫の背に乱暴に腰を落とし、彼女の頭をポンポンと叩きながらディエゴは目の前の男に忠言する。
その態度にDIOは不満を露わにすることなく、顎を撫でながらディエゴの次の言葉を待つ。

「この腑抜けた賢者様とやらは今や見る影すら無くなっちまってる。この殺し合いゲームでとことん堕ちに堕ちたんだろうさ。
 だが、一度底辺に落ちた輩が最も恐ろしいもんだ。今殺しとかないとそのうち首元に牙を突き立てられるぜ」


「恐怖しているのかね…? ディエゴ・ブランドー」


ディエゴのナイフのような視線がDIOを刺した。
DIOは安心させるように腕を広げ、柔らかな視線をディエゴに返す。


702 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:32:44 t7TV9noU0

「いや、すまない。君を侮辱する意味で言ったわけではないんだ。
 確かに君の言う事は尤もだ。一度地獄の底辺に堕ちた者はおよそ殆どがそのまま腐れ果てて死ぬ。
 だがたった1本の蜘蛛の糸を死に物狂いで這い上がってくる者も稀に存在するのだ。
 その者は全てを『捨て去り』、他人を蹴落としてでも地上へ到達する『覚悟』ある者。
 いうなれば『飢えた者』だけが勝利を獲得できる。 …君や私のような男がね」

ディエゴは小さく鼻を鳴らすと、自分の下で倒れる紫をもう一度見下ろす。
少しの間彼女を白眼視していたが、次にそっと紫の頭をボーリングの玉のように掴んだ。

「この女は全てを『捨てきれない』…このゲームを制するには器が足りない。そう言いたいのか?」

奇怪に笑うDIOの表情を無言の肯定と受け取ったか、ディエゴも黙って紫に能力を行使し始める。
次第に紫の体は皮膚が割れ始め、やがては血に飢えた肉食の獣へと変貌を遂げた。
そんな彼女の躯を椅子代わりに使い、ディエゴは冷たい瞳でDIOに視線を向けて話す。

「お言葉に甘えてこの女はしばらく借りておくが…こいつの『魂』が必要なんだろ? 天国へ行くためとかで。
 どうやってその魂を取り出す? いくつか方法があるとか言っていたが…」

「我が友人プッチのスタンドを使うのが最も手っ取り早い。彼もそのうちここへ呼び戻さなくてはな…」

「コツコツと地道な作業だな。そうまでしなくてもそのプッチとやらが天国への条件を『殆ど』満たしているんじゃなかったか?」

「彼からはそう聞いている。勿論プッチが天国へ向かう能力をこのまま完成させてくれればそれに越したことはない。
 だがプッチはあくまで私の居ない世界で、『DIOの後継者』として動いていたに過ぎない。
 このDIOという『王』が存在するこの世界で私自らが天国を完成させるということは、それはそれで意味のあることなのだ」

同志は多いに越したことはないしな…、と最後に付け加えてDIOはホールの闇へと消えていった。
後に残るのは男と1匹の恐竜。眠ったように動かないその獣を軽く擦りながらディエゴはしばらくそこから動かなかった。
深く考え耽るように、そのままジッと蝋燭の炎を見つめ続ける。
幾分かの時間が呆然と過ぎ、やがて面白くもなさそうに椅子代わりにしていた紫の体を軽く足蹴にした。


703 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:34:37 t7TV9noU0

「ディオ・ブランドー…随分と取り澄ました男だ。 …気に入らない。
 気に入らないが…オレの心のどこかで奴を認めている部分もあることは確かだ」

DIOという男をもっとよく知りたいと思った。
DIOという男が自分に如何なる影響を与えるのか興味も持った。
DIOとはまさしくこのディエゴ・ブランドーと同一の存在であり、同時に全くの『異質』な存在だと感じた。

だからこそディエゴは、そのDIOすらも自身の『踏み台』として躊躇なく利用することが出来る。

『飢えた者』だけが勝利する? その通りだ。
だったら…飢えて飢えて、そして最後にお前らの全てを奪ってやるよ…。
『力』も『天国』も、『命』もだ。ディオ・ブランドー。


―――八雲紫。今のコイツみたいにな…。


死んだように眠るこの紫は既にオレの掌中に堕ちた。
さっきも大統領から連絡が来ていたが…このことを奴に伝える気は当然無いし、ディオ達にも大統領のことは伝えるつもりはない。
大統領の奴も何か考えがあって動いているんだろうが、オレは更にその上を行ってやる。
『幻想郷』だの『祖国』だの『天国』だの、どいつもこいつもオレから言わせりゃ自惚れた気取り屋どもの集まりだ。
自分だ。結局は自分こそが『世界』の全てだ。
せいぜい頑張んなよ…。足掻いてもがいて、始まったばかりの『祭り』を楽しみな。


オレはそういう人形どもを上からとことん『支配』してやるんだからな…!



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽


704 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:36:06 t7TV9noU0
【C-3 紅魔館 1階エントランス/朝】

【ディエゴ・ブランドー@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、首筋に裂傷(微小)、右肩に銃創(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:幻想郷縁起@東方求聞史紀、通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、ミツバチの巣箱@現実(ミツバチ残り70%)、
   基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。過程や方法などどうでもいい。
1:ディオ・ブランドー及びその一派を利用。手を組み、最終的に天国への力を奪いたい。
2:同盟者である大統領を利用する。利用価値が無くなれば隙を突いて殺害。
3:主催者達の価値を見定める。場合によっては大統領を出し抜いて優勝するのもアリかもしれない。
4:紅魔館で篭城しながら恐竜を使い、会場中の情報を入手する。大統領にも随時伝えていく。
5:恐竜化した八雲紫は護衛役として傍に置く。
6:レミリア・スカーレット、空条承太郎を警戒。
7:ジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。
[備考]
※参戦時期はヴァレンタインと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※主催者は幻想郷と何らかの関わりがあるのではないかと推測しています。
※幻想郷縁起を読み、幻想郷及び妖怪の情報を知りました。参加者であろう妖怪らについてどこまで詳細に認識しているかは未定です。
※恐竜の情報網により、参加者の『6時まで』の行動をおおよそ把握しました。

○『ディエゴの恐竜』について
ディエゴは数十匹のミツバチを小型の翼竜に変化させ、紅魔館から会場全体に飛ばしています。
会場に居る人物の動向等を覗き、ディエゴ本体の所まで戻って主人に伝えます。
また、小さくて重量が軽い支給品が落ちていた場合、その回収の命令も受けています。
この小型恐竜に射程距離の制限はありませんが、攻撃能力も殆ど無く、相手を感染させる能力もありません。
ディエゴ自身が傷を付けて感染化させる事は出来ますが、ディエゴが近くに居ないと恐竜化が始まりません。
ディエゴ本体が死亡または意識不明になれば全ての恐竜化は解除されます。
また、『死体』は恐竜化出来ません。
参加者を恐竜化した場合、傷が小さい程ディエゴの消耗次第で解除される可能性が増します。
それ以外に恐竜化に関する制限が課せられているかは不明です。


【DIO(ディオ・ブランドー)@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:吸血(紫)
[装備]:なし
[道具]:大統領のハンカチ@第7部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、頂点に立つ。
1:部下を使い、天国への道を目指す。
2:永きに渡るジョースターとの因縁に決着を付ける。手段は選ばない。空条承太郎は必ず仕留める。
3:神や大妖の強大な魂を3つ集める。
4:幻想郷及びその住民に強い興味。図書室で色々調べる。
5:メリーに興味。可能なら天国へ加担させてみたい。
6:ジョルノやブチャラティにも興味。いずれ会えるだろう。
[備考]
※参戦時期はエジプト・カイロの街中で承太郎と対峙した直後です。
※停止時間は5秒前後です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※名簿上では「DIO(ディオ・ブランドー)」と表記されています。
※古明地こいし、チルノの経歴及び地霊殿や命蓮寺の住民、幻想郷縁起幻想郷について大まかに知りました。
 また幻想郷縁起により、多くの幻想郷の住民について知りました。
※自分の未来、プッチの未来について知りました。ジョジョ第6部参加者に関する詳細な情報も知りました。
※主催者が時間や異世界に干渉する能力を持っている可能性があると推測しています。
※恐竜の情報網により、参加者の『6時まで』の行動をおおよそ把握しました。
※大妖怪・八雲紫の血を吸ったことによりジョースターの肉体が少しなじみました。他にも身体への影響が出るかもしれません。


705 : カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲 ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:37:08 t7TV9noU0
【八雲紫@東方妖々夢】
[状態]:霊力消費(中)、全身火傷(やや中度)、全身に打ち身、右肩脱臼、左手溶解液により負傷、背中部・内臓へのダメージ、吸血、現在恐竜化
[装備]:なし(左手手袋がボロボロ)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:幻想郷を奪った主催者を倒す。
1:ディエゴの支配を受ける。
2:幻想郷の賢者として、あの主催者に『制裁』を下す。
3:DIOの天国計画を阻止したい。
4:大妖怪としての威厳も誇りも、地に堕ちた…。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
※放送のメモは取れていませんが、内容は全て記憶しています。
※太田順也の『正体』に気付いている可能性があります。


【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:疲労(小)、全身に唾液での溶解痕あり(傷は深くは無い)
[装備]:S&W M500(残弾5/5)、スタンドDISC「オアシス」@ジョジョ第5部、河童の光学迷彩スーツ(バッテリー90%)@東方風神録
[道具]:双眼鏡@現実、500S&Wマグナム弾(13発)、スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部
    未確定ランダム支給品(魂魄妖夢のもの。青娥だけが内容を確認済み)、基本支給品×5
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:DIOの王者の風格に魅了。彼の計画を手伝う。
2:蓮子と共にメリーを攫う。
3:会場内のスタンドDISCの収集。ある程度集まったらDIO様にプレゼント♪
4:八雲紫とメリーの関係に興味。
5:あの『相手を本にするスタンド使い』に会うのはもうコリゴリだわ。
6:時間があれば芳香も探してみる。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※光学迷彩スーツのバッテリーは30分前後で切れてしまいます。充電切れになった際は1時間後に再び使用可能になるようです。
※頭のカンザシが『壁抜けののみ』でない、デザインの全く同じ普通のカンザシにすり替えられていることに気づきました。
※『ヨーヨーマッ』のDISCを外しているので現在ヨーヨーマッは引っ込んでいます。
※DIOに魅入ってしまいましたが、ジョルノのことは(一応)興味を持っています。


【宇佐見蓮子@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(小)、首筋への打撃、肉の芽の支配
[装備]:アヌビス神@ジョジョ第3部、スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部
[道具]:基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:DIOの命令に従う。
1:DIOの命令通り、メリーを紅魔館まで連れて来る。
2:青娥やアヌビス神と協力し、邪魔者は排除する。
[備考]
※参戦時期は少なくとも『卯酉東海道』の後です。
※ジョニィとは、ジャイロの名前(本名にあらず)の情報を共有しました。
※「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力」は会場内でも効果を発揮します。
※アヌビス神の支配の上から、DIOの肉の芽の支配が上書きされています。


706 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/14(月) 22:41:14 t7TV9noU0
これで「カーニバルの主題による人形のためのいびつな幻想曲」の投下を終了します。
ここまで読んでくださりありがとうございました。

今回少しストーリーに突っ込んだり、個人的な解釈を入れた部分もあるのでおかしな箇所もあるかもしれません。
そういった点や誤字、感想ありましたらよろしくお願いします。


707 : 名無しさん :2014/07/14(月) 22:57:13 9hiSJ9n60
投下乙です

予想はしてたけど、それを上回れるほど衝撃の連続に圧巻…!
紫は恐竜化、蓮子は肉の芽の洗脳、と絶望感の展開に呼んでいて非常にハラハラさせられました
何より様々なフラグが綺麗に整合されていくのもお見事でした。

強いて気になったことを挙げるなら、アヌビス神をそのまま持てたことだけが少しだけ気になりました
面白くなる要素なのでそのままでも全く問題ないと思いますが


708 : 名無しさん :2014/07/14(月) 23:04:51 aeSl9dNI0
投下乙です
蓮子も紫も散々だなあ。不幸四天王を決めるならこの2人は間違いなく入りそう


709 : 名無しさん :2014/07/14(月) 23:19:33 2GOXhFGU0
いろんな意味で悪いひとがたくさんいるなぁ…おもしろい


710 : 名無しさん :2014/07/14(月) 23:50:17 UwsRKQAc0
投下乙です。
DIO&Dioコンビ絶好調過ぎる……
これで会場内のパワーバランスも一気に崩れましたね。
そしてはたして紫様は再起することが出来るのか……

指摘が一件。
>>690 で青娥が〜私は仏教ですが…〜と言っていますが青娥は道教です。


711 : 名無しさん :2014/07/15(火) 00:12:37 BbuJvt..0
あと、>>699 の一振りの日本刀だった。~もアヌビス神は日本刀ではないはず。


712 : 名無しさん :2014/07/15(火) 00:17:15 VxKRHxos0
投下乙です
ジョルノの血を吸ってハイDIOになる妄想をしてしまった
恥パ時のジョルノはDIO様のこと知ってるが
今DIO様に会ったらジョルノはなんて思うかな


713 : 名無しさん :2014/07/15(火) 00:18:43 IUbDOzWc0
投下乙です。
ディエゴとの同盟完了、情報網や新たな手駒を手に入れてDIO軍団が圧倒的なまでの大勢力に…
速攻で紫達を見限った青娥のタチの悪さが彼女らしい…w
しかしディエゴもただで従う訳が無かった。彼の野心はDIOに一泡吹かせるかどうか…


714 : 名無しさん :2014/07/15(火) 00:31:36 KIOlA10U0
投下乙です。
紫はやっぱり制限強いんですね。
解釈次第で色々出来てしまうから仕方ないとはいえちょっと可哀想。

DIOの状態表にジョルノとブチャラティの名前が出てますけど
2人の名前知ってるんでしたっけ?


715 : 名無しさん :2014/07/15(火) 07:52:23 ONhxj80Q0
>>711
アヌビス神の形状的に、何も知らなければ日本刀と認識していても問題ないのでは?
とマジレス


716 : 名無しさん :2014/07/15(火) 12:08:37 LYtuG1RQ0
(名前は知らない)でも入れとけばいいんじゃね


717 : 名無しさん :2014/07/15(火) 13:18:11 Nwl09pPE0
ジョルノやブチャラティ(アナスイもいるけど)


718 : ◆qSXL3X4ics :2014/07/15(火) 14:59:57 WOplP.Qk0
>>710さんと>>711さん。
ご指摘ありがとうございます。以下のように変更させていただきます。
>>690
>私は仏教ですが…語られた『天国』という世界にも、ひどく興味をそそられてしまうほど…。

>私は道教ですが…語られた『天国』という世界にも、ひどく興味をそそられてしまうほど…。
に、それと>>699
>そう言ってどこからともなく数匹の翼竜がバタバタと運んできたのは一振りの日本刀だった。

>そう言ってどこからともなく数匹の翼竜がバタバタと運んできたのは一振りの刀だった。
に訂正します。

加えてDIOの行動方針の
>6:ジョルノやブチャラティにも興味。いずれ会えるだろう。

>6:ジョルノやブチャラティ(名前は知らない)にも興味。いずれ会えるだろう。
へと訂正。
それと青娥の状態表の道具欄にスタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部の項を消し忘れていたので、
wiki収録時には削除をお願いします。
色々手間をかけさせてすみません。

最後に>>707さんの「アヌビス神の支配〜」の件ですが、
蓮子がアヌビス神よりも更に強大なDIOの支配を先に受けていたため、刀に意識を乗っ取られなかった、
…としています。作中で蓮子が言っていたように「いざとなったら身体だけ貸す」とは、
過去に霊夢がアヌビス神の使い手となっていたような状況だと考えても結構です。


719 : 名無しさん :2014/07/16(水) 19:44:12 o3RT2jI6O
投下乙です。

DIOとアヌビス神の二重支配を受けた蓮子。
これは、あれだ。
悪い男に捕まった女の子が、親友も堕とそうとする展開だ。


720 : 名無しさん :2014/07/16(水) 20:24:06 osZoAV6k0
投下乙です。

順調に勢力を伸ばしていくDIO一派に対して、
対主催組はどれだけ対抗していくことができるのか先が楽しみで仕方ない。

それにしても、OPを飾った曲がりなりにも主人公のハズの蓮子がここまで不幸だと……
正直、興奮する(病気)


721 : 名無しさん :2014/07/16(水) 20:33:55 KfhlKDac0
ヒロイン力(パワー)高いよな蓮子


722 : 名無しさん :2014/07/16(水) 22:37:21 eFgm7X5Y0
なら蓮子と最初に会ったジョニィがヒーロー役をやってくれることを信じよう


723 : 名無しさん :2014/07/16(水) 22:56:05 tcQzIbGo0
次の予約を生き残れればの話だけどね


724 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/16(水) 23:20:16 qUPZcSVc0
ジョニィの予約ですが、もう書ききってはいますが、誤字、脱字などが不安なので
延長して、明日の夜投下します


725 : 名無しさん :2014/07/16(水) 23:51:47 32yupzQI0
期待してますぜ


726 : 名無しさん :2014/07/17(木) 00:12:03 nhs6/bJQ0
ドキドキですな


727 : 名無しさん :2014/07/17(木) 00:51:11 8l7VBCic0
「祈って」おこうかな…刑務所組の無事を…


728 : 名無しさん :2014/07/17(木) 00:55:00 z/PAPDSI0
ジョニィの主人公力、必見ですな。^_^


729 : 名無しさん :2014/07/17(木) 01:04:12 qLDWmUqg0
ジョニィのどう活躍するのかが楽しみだな


730 : 名無しさん :2014/07/17(木) 01:15:54 gC1QAh960
フラグ立てすぎだろwww 
これを、これを生き残れさえすれば……(震え声)


731 : 名無しさん :2014/07/17(木) 01:24:44 z/PAPDSI0
いや、逆に俺はジョニィがこのフラグを折ってくれるのを祈っているぜ


732 : 名無しさん :2014/07/17(木) 03:50:28 d.LjNqo60
蓮子が思った以上に大変なことになってるというのに、ジョニィ達は助けにもいかずに朝ゴハンでも食べてるのだろうか


733 : 名無しさん :2014/07/17(木) 06:33:17 fNzKRN3.0
ここでジョニィ達が活躍せんとDIO勢力が広大する一方だ。


734 : 名無しさん :2014/07/17(木) 23:16:01 gC1QAh960
『ひとりの囚人は壁を見ていた』
『もうひとりの囚人は鉄格子からのぞく星を見ていた』
あたしはどっちだ?
もちろんあたしは星を見るわ… 投下が来るまで…星の光を見ていたい


735 : 名無しさん :2014/07/17(木) 23:19:45 nhs6/bJQ0
いやディスプレイとか見とけよ


736 : 名無しさん :2014/07/18(金) 01:45:13 c5A2p6Ys0
さて、投下は何時来るかな。


737 : 名無しさん :2014/07/18(金) 02:15:36 lwWq6okY0
ローゼス……いいですか。 
ロワのためにできること……それは投下を信じることです。
わたしには詳しいことはわかりません でも信じます……


738 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/18(金) 03:42:38 1kasgeDE0
すいません。ちょっと矛盾が見つかりました
致命的なものではないので修正はできますが、少し時間がかかるので投下は遅くなります
なんども約束を破って本当にすいません
もう投下するときまで黙ってます


739 : 名無しさん :2014/07/18(金) 14:02:36 cOjRD6pE0
ゆっくり待ってるぞ


740 : 名無しさん :2014/07/19(土) 13:32:15 bRj1wJ8w0
ここまで待たせるからには面白い話なんだろうなッ(プレッシャー)


741 : 名無しさん :2014/07/19(土) 13:45:06 mhpXsMts0
>>740
落ち着け…素数を…素数を数えて落ち着くんだ…


742 : 名無しさん :2014/07/19(土) 20:37:05 zn6EL3zw0
投下を待つ覚悟はいいか?俺はできてる。


743 : 名無しさん :2014/07/19(土) 22:50:32 G/Uqz1Lc0
そこで問題だ! チートマーダー2人相手にどうやって生き残るか?

3択― 一つだけ選びなさい
答え① 主人公のジョニィはチルノを上回る知略を発揮する
答え② 仲間がきて助けてくれ
答え③ 全滅する。 現実は非情である 。


744 : 名無しさん :2014/07/20(日) 00:00:26 Pg48Ztng0
…マジレスすると①希望


745 : 名無しさん :2014/07/20(日) 00:43:14 S.KzAEB20
むしろ文みたいな内側の爆弾が一番怖い


746 : 名無しさん :2014/07/20(日) 01:17:52 Pg48Ztng0
それについてはジョニィの漆黒の意思じゃなく黄金の精神に祈ろう…


747 : ◆fLgC4uPSXY :2014/07/20(日) 02:22:26 IIl1XHqU0
申し訳ありませんが書き切れなかったので一旦予約を破棄します


748 : 名無しさん :2014/07/20(日) 03:03:28 guFrb.hg0
※一旦


749 : 名無しさん :2014/07/20(日) 05:03:56 0GkItDio0
まあ、ジョナサンレミリアブチャラティと4人中3人が大切な隣人を失ってるから書きにくいわな


750 : 名無しさん :2014/07/20(日) 09:37:33 S.KzAEB20
そういや億泰とか4部勢はみんな無事だったな
まあ三人は藁の砦、一人はマーダー複数と一緒に予約されてるけどね


751 : 名無しさん :2014/07/20(日) 11:37:13 69IrCWU.0
つまり、全てはジョニィにかかっているというわけか。
恐竜と肉の芽でDIO勢が幅を利かせすぎだから、そろそろ反撃してもらいたいものだ。


752 : 名無しさん :2014/07/20(日) 12:13:45 S.KzAEB20
まあDIO勢って言っても基本的に少数で別行動だし各個撃破すりゃなんとかなる
ウェザーやディアボロ、神奈子様や柱勢みたいな強力なマーダーや危険人物もいるんだし


753 : 名無しさん :2014/07/20(日) 17:48:50 nb65/NU60
ディアボロやウェザーもDIOと協力関係になるんですね。わかります


754 : 名無しさん :2014/07/20(日) 17:53:57 VjBY0on.0
そんなの抱え込んじゃさすがにDIOの身も危ないな


755 : 名無しさん :2014/07/20(日) 17:56:32 YLlx9JzM0
ぶっちゃけDIO気付いてないけど裏切る気満々のディエゴが一番の危険要素だよね


756 : 名無しさん :2014/07/20(日) 18:10:30 S.KzAEB20
>>753
ディアボロやウェザーみたいな強マーダーが各個撃破する可能性もあるって意味だから(困惑)


757 : 名無しさん :2014/07/20(日) 18:27:05 twbiyJQU0
DIOの事だからディエゴの野心ぐらい気付いてそう


758 : 名無しさん :2014/07/20(日) 18:34:02 OoU8O38I0
むしろ気づいている可能性の方が高そう。まあ慢心して放置してるんだろうけど


759 : 名無しさん :2014/07/21(月) 18:54:42 MhlL/0A60
DIO軍団はジョジョロワ3rdで増えすぎたせいで最近一気に処理されたんだよなあ
何事も自重が大事


760 : 名無しさん :2014/07/21(月) 19:51:51 89DYLOYg0
>>759
肉の芽組とかその他DIO軍団も着々と始末されてるもんな、どの話もいい味出してるからいいけど
でもこっちのDIO軍団が同じような展開になったら悲惨すぎて確実にうぎゃああって叫ぶわ


761 : 名無しさん :2014/07/21(月) 20:02:42 /0pPCi8Q0
今回のDIO軍団は殆ど洗脳の被害者だしね


762 : 名無しさん :2014/07/21(月) 22:37:47 8v5A2H1w0
結構似たよう感じで、全員洗脳で落とされているからね
肉の芽もそうだけど、恐竜化も便利過ぎる


763 : 名無しさん :2014/07/21(月) 22:42:12 oWMked8Y0
承太郎と波紋使いがいないと肉の芽除去のリスクも大きいのが厄介


764 : 名無しさん :2014/07/21(月) 23:31:24 Sb7dxnBEO
誰かが虹村父化するフラグですねわかります


765 : 名無しさん :2014/07/22(火) 17:42:22 H5u6s90E0
>全員洗脳で

こいしちゃん「おっそうだな」


766 : 名無しさん :2014/07/22(火) 22:21:10 B5ybrW4A0
こいしちゃんは悩むヒロインみたいな感じだな。
深みに嵌ってメチャ苦しそうだが


767 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/07/22(火) 22:39:09 5DPPL.060
露伴先生のスピードと精密さならスタンドも使わずに
余裕で肉の芽を引っこ抜けるだろうな。


ところで変な質問なんですが、
妖怪、天人、魔法使いと言った方々は排泄したりするのでしょうか?


768 : 名無しさん :2014/07/22(火) 22:49:28 ENdR3Zh20
次はスカ○ロ展開か?面子的に藁の砦かな


769 : 名無しさん :2014/07/22(火) 22:56:48 05vJ4V1U0
そういえばどうなんやろ
少なくとも魔法使いは捨食の法で生きる為の食事を必要としないんだし
そうゆう新陳代謝はほぼ無さそうな気も
妖怪や天人は微妙な所…だけどやっぱり必要ないのだろうか、うーん


770 : 名無しさん :2014/07/22(火) 23:01:02 qLK8W2.c0
>>767
妖怪は個体により、天人は仙人と同じだからするだろうし、魔法使いは食事はしなくていいけど
取ることはできるから…するんじゃないかな
まぁ…能力制限があるんだし、しなければいけなくなったとすればいいんじゃない?


771 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/07/22(火) 23:33:54 5DPPL.060
御回答を頂き、ありがとうございます。
しても、してなくても、問題ないということですかね。

もう少し構想がまとまったら、予約したいと思います。
あと、さすかにスカをここで披露する勇気はありません。
いや、ここでなくてくてもだけど。
いや、というか、そもそも好きでもないんですけどね。
詳しく描写したいというわけでもありませんしね。
ただ、何となく、そういった話が思いついただけです。
本当に。


772 : ◆YF//rpC0lk :2014/07/22(火) 23:36:42 dmPLnz8Q0
何故思いついてしまったのか。深夜テンションですか?
まぁなんにしても、これからは雑談はしたらばでお願いします。


773 : 名無しさん :2014/07/23(水) 00:16:48 AwD6fr1s0
うんち


774 : 名無しさん :2014/07/23(水) 01:08:39 yBRfVigY0
さて、ジョニィ達は今日が期限だけど投下くるかな?


775 : 名無しさん :2014/07/23(水) 07:32:25 hBuznxtw0
失禁ぐらいなら許される


776 : 名無しさん :2014/07/23(水) 09:13:41 fRaf5Nnw0
雑談はしたらばでな


777 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:00:59 NjOveT2E0
ずいぶんと長い間お待たせしました
投下します


778 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:01:25 NjOveT2E0
猫の隠れ里を囲む林の中。私は平らな岩の上に膝を折って座った。
デイパックから地図を取り出して、放送で言っていた禁止エリアにDIOの館があることを確認する。

名前から判断して、本来は名簿のDIO(ディオ・ブランドー)の住処なのだろう。
DIOはヴァニラ・アイスと何らかの関係を持つ、暫定危険人物だ。
拠点になり得る場所がなくなるのはありがたい。

しかし先程知り合いの死を告げられたばかりだというのに、よくもまあ冷静に思考しているものだ。
我がごとながら少し嫌になる。
親しい者を死が始めてというわけではないし、取り乱せとは言わないが、もう少し何かあってもいいのではないだろうか。

「文、大丈夫か?」

私の感情の変化を目ざとく捉えたのか、横に座るジョニィさんが心配そうに、声をかけてきた。
前にいる露伴も、名簿に印をつけながらこちらを見ている。
だが二人が気にしているのは、私が知り合いの死にショックを受けているのではないか……ということだろう。
速く蓮子を助けに行くべき状況で、『何が起こるからわからないから、青蛾と戦う前に情報を整理しておきたい』なんて提案を飲んでくれたのも、そこら辺への配慮かもしれない。

その気遣いが余計に私の気分を暗くさせる。
私がそんな提案をした本当の理由は、青蛾に蓮子を連れて行ってもらうための時間稼ぎだ。
二人には悪いが私は一度あっただけの人間――それも何の力も持たない人間のために命を賭ける気にはなれない。
その臆病さが本当に嫌になるが表には出さず、いかにも『辛いのを耐えている』という笑顔で「大丈夫です」と答えた。

気を取り直して参加者名簿を取り出し、死亡者に印をつけていく。
幻想郷でも最強クラスの力を持つ鬼の二人が、早くも脱落している。
昨日飲みに行ったときに萃香に金を貸していたが、もう帰して貰うことはできそうにない。

紅魔館からは紅美鈴と十六夜咲夜が死亡している。
紅美鈴は元からそれほど協力な妖怪ではない。十六夜咲夜も時間停止は最長九秒までという制限を考えれば打倒なところか。
極限状況においては、極限状況において親しい存在をなくし、冷静さを失うなんてよくある話だ。パチュリーとレミリアには警戒しておこう。
同じ理屈でナズーリン、二ツ岩マミゾウ、幽谷響子を失った、命蓮寺の者もだ。


779 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:03:51 NjOveT2E0
魂魄妖夢の主の西行寺幽々子はどうだろうか。
案外ケロッとしてそうな気もするが、元々簡単に信用できる人物ではない。
アリス・マーガトロイドは特別強い力を持っているわけでもなければ、影響を与えるほど親しい者がいるわけでもない。特質することはないだろう。
残りの九人は全員知らない名前。強いて気になるのをあげれば、ジャイロ・ツェペリと姓を同じくするウィル・A・ツェペリとシーザー・アントニオ・ツェペリくらいか。

改めて見ると同じ姓の者がずいぶんと多い。私が知っている八雲と古明地を抜いても、ジョースター三人、ツェペリ三人、空条二人、ブランド―二人で四組十人だ。
参加者のほぼ半分は幻想郷の者だ。残りの半分にもきっと何らかの繋がりがある。それを解く鍵がこの同じ名字を持つ者たちにあるかもしれない。
私はその考えを二人に話した。

「僕はジョースター家に縁のあるものじゃあないかと考えている」

露伴が言った。

「ジョースター家っていうのはつまり僕の一族のことか?」

ジョニィさんが聞き返す
すでに参加者が違う時代から集められたことはわかっている。
ジョナサンとジョセフがジョニィさんの先祖か子孫という話も一度は出ていた。

「ああ。さっき話したときは性格や能力のことしか言わなかったが、実は承太郎や仗助もジョースター家の人間なんだ。苗字は変わっちゃいるがな。
つまりジョースターの者は三人じゃあなくて五人、承太郎と同じ名字の徐倫も入れば六人だ。
偶然にしちゃあ多すぎるが、そいつらを中心に集めたというなら納得がいく」
「確かにヴァニラはジョースターに憎しみを抱いていた。名簿の位置からして、たぶん承太郎か仗助の関係者なんだろう」

名簿には何らかの縁があるものが、並べて書かれているという話もすでにしている。
私達が知っているジョースターで、ヴァニラの近くに書かれているのは確かにその二人だ。

「だがそれなら蓮子はどうなんだ? 
彼女はジョースターの名前を知らなかったし、幻想郷の人間でもないぞ」
「東方や空条は知っているかもしれないぞ。あるいは先祖の姓を知らないだけで、彼女自身がジョースターって可能性もある」
「そうかもしれないが……なんかしっくりこないな」

それは私も同意見だった。宇佐見蓮子の書かれている位置からして、空条や東方の知り合いとは思えない。
かといって肝の据わった男ばかりのジョースター家と、無力な少女の宇佐見蓮子ではどうにも繋がらない。


780 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:06:17 NjOveT2E0
「……参加者が違う時代から集められているんなら、蓮子さんは後にジョースターか幻想郷に関わる人ということはないでしょうか」
「ジョースターはともかく、外に世界の人間が幻想郷に関わることなんてあるのか?」

露伴が聞いてきた。気のせいか、その目が怪しく輝いている気がする。

「幻想郷には外来人と呼ばれる外の世界から、迷いこんできた人間がいます。
蓮子さんとその友人のメリーさんはそれなのかもしれません」
「なるほど。じゃあ位置的に幻想郷の者でありながら唯一文が何も知らなかった岡崎夢美も、文より後の時代に幻想郷に来た者なのかもな」

ジョニィの言葉に「私も幻想郷の住人を全て知っているわけじゃないですけどね」と返した。

「話は逸れたが取り敢えず蓮子のことも説明できた。僕の説に反論はないな?」
「そうですね。ジョースターに縁のある者が集められているなら、空条はもちろん、ツェペリとブランドーが多いのもジョニィさんの代の縁が続いているから、で説明できますし」
「いや。それは違う。ディエゴは僕のいた時間では死んでいるし、家族もいない。ブランド―の血は途絶えたはずなんだ。それにこれを見てくれ」

ジョニィさんがそう言って名簿を置いた。

「ジョセフ、承太郎、仗助は生まれた年順に上から並んでいる。
もしツェペリ家との縁が僕の代からなら、ジョナサンとジョセフより僕が上に来るのが自然じゃあないか?」
「でもジョニィさんがその三人よりも、前に生まれているのは確かですよね。
生まれじゃなくて、単純に『今』の年齢順に並んでいるんじゃないでしょうか?」
「ジョースターの中では僕が一番若いってことか。なくはないかもしれないが……」
「まあ、その辺は他の参加者に会えば追々わかるだろ。
そろそろ行こうぜ。あんまりモタモタしてると蓮子を見失う」

もう少し時間を稼ぎたかったが、ここでゴネて疑いを持たれるわけにもいかない。私はおとなしく頷いた。そのとき、

「文!」

後ろから呼びかける声がした。
振り返るとそこには、氷のような水色の髪と透明な翅を持つ小さな子供。

「チルノさん!」

チルノはまるで逃げてきたかのように、一心不乱に走っていた。
チルノが殺し合いに乗るような奴じゃないことは、二人に話している。
私達は彼女に駆け寄った。

「文! 助けて! こいしが! こいしが!……」

チルノが目に涙を浮かべて、縋りつくように叫んだ。
私は片膝をついて目線を合わせる。彼女の肩に手を掛けて、ゆったりした口調で話す。

「落ち着いてくださいチルノさん。こいしというは古明地こいしのことですよね?
いったいなにがあったんです」
「わ、私たちずっと一緒にいて、でもこいしのおかげで私だけ逃げられて。お願い文。こいしを助けて!」

あまり落ち着いてはいないが言いたいことはわかった。
『こいしと行動を共にしていたが、敵に襲われてしまった。
こいしのおかげで自分だけは逃げられたが、このままではこいしが危ない。お願いだからこいしを助けて!』ということだろう。
チルノとはそれなりに親しい仲だ。できれば助けたいという思いは私にもある。
しかしここで私が「こいしちゃんを助けに行きましょう」と言っても、ジョニィさんと露伴は蓮子を見捨てはしないだろう。
必然的に二手に別れることになる。おそらく私とチルノ、ジョニィさんと露伴という形に。

チルノとこいしは私に比べればずっと弱いが、それでも二人がかりで一人逃がすのやっとだった相手と戦うのは危険が大きい。もしもスタンド使いであった場合、歯がたたない可能性もある。
露伴の洗脳の件もあるからこの場で断るわけにはいかない。
だがチルノを助けてやりたいからというだけで、本当にそんな危険を犯していいのか、私の中で躊躇いが生じる。


781 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:08:57 NjOveT2E0
「よし。それじゃあ猫の隠れ里には僕一人で行こう。文とジョニィは古明地こいしを助けに行ってくれ」

しかしそんな思いは露伴の言葉であっさりとかき消された。私は思わず振り返る。

「いいんですか。露伴さん」
「いいもなにもないさ。僕はできることなら最初から一人で青蛾にリベンジしたかったんだ。蓮子がいるから言わなかっただけでね。
あの女、僕を甘く見やがって……。ギャフンと言わせてやりたいんだよ、僕だけの力で。
他に助けなきゃいけない奴がいるんならちょうどいいさ。君達はそっちに言ってくれ」

自信満々に言った言葉は、紛れもない彼の本心だろう。
だがその中に僅かだが優しさや気遣いのようなものが、あるように感じられた。
岸辺露伴は自分勝手でワガママだが情のある人間だ。
ヘブンズ・ドアーで私を始末せず洗脳したのも、単に利用価値があったからだけではない気がする。だから余計に嫌なのだ。
露伴がもっと自己中心的なだけの人間だったら、隙をついて殺すことに何の躊躇もなかったのに……

「それじゃあ蓮子を助けたら猫の隠れ里で待っていてくれ。僕らも古明地こいしを助けたらすぐに行く」
「ああ。僕は待たされるのは嫌いだから、急いでくれよ」

ジョニィさんはそれだけで露伴との別れを切り上げ、チルノの側にしゃがんだ。

「チルノ、僕はジョニィ。文と一緒に君とこいしを助ける。案内してくれ」

ジョニィにそう言われてチルノが満面の笑みを浮かべる。私はその姿になぜだか強烈な違和感を覚えた。
なんだろうか。助けると言われたのだから、喜ぶのは当然なのに、私にはそれがいつものチルノなら絶対に有り得ないことのように感じた。
だけどそれも一瞬。今は「あたいどう歩いてきたんだっけ」と言いながら地図を取り出そうとあたふたして、ジョニィさんに地図を差し出されている。
その姿は私のよく知るおバカなチルノだ。
さっきのは気のせいだろうと思い、私は露伴に側に寄った。彼のことは好きになれないが、今は素直に感謝を伝えたかった。

「ありがとうございます露伴先生」
「さっきも言っただろ。あくまで自分のためだ。別に礼なんて……」

露伴は興味なさそうにあらぬ方向を見ていたが、突然悪巧みを思いついた子供のような顔をした。

「そうだな。そんなに礼を言いたいなら僕の頼みを聞いてくれ。
この殺し合いの終わったあとに一度幻想郷を取材させて欲しい。
妖怪と人間が一緒に暮らしてるなんて、まさに漫画みたいなはなしだ。是非この目で直接見てみたい」
「しゅ、取材ですか……」
「なんだよ、僕に感謝してるんだろ。だったらこれくらいの頼みは当然聞いてくれるよな?」

さっき目を輝かせたのはこれだったのか。
露伴はまるで頼みを断ったら極悪人だとでも言わんばかりに、こちらを睨んでくる。
ちょっと下手に出たら途端にこれだ。やっぱり露伴はワガママ人間だと改めて認識する。
でも、露伴が幻想郷に来たらきっと騒動を起こすだろう。それは私としても是非見てみたい。

「わかりました。私には露伴先生を幻想郷に連れて行く力はありませんが、それができる方に頼んでみます。
無事これたら私が直々に案内しますので、楽しみにしててください」
「何が案内だよ。君の方も取材がしたいだけだろ。でもそうだな。期待してるよ」

それが実現したならこんな殺し合いに巻きこまれたことにも少しは意味がある。完全に悪いばかりではない。
私は洗脳されていたときを除けばここに来てから始めて、演技ではなく心から笑った。

「文、場所がわかった。D-3の魔法の森だ。急ごう」

そう言ってジョニィとチルノは走りだした。私もすぐにあとをおう。
最後に一度だけ露伴に振り返った。

「露伴さん、死なないでくださいね」

自分の安全を考えるなら露伴には死んでもらった方がいい。でも何故か私はそう言ってしまった。


782 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:10:56 NjOveT2E0
魔法の森の中は、民家を軽々と凌ぐ木から生い茂る葉で太陽を隠され、ジメジメとしていた。
土は落ち葉に覆われて、歩くたびにガサガサと音がなる。
それは私の知る魔法の森とほとんど同じだったか、瘴気を出す茸を始めとした危険な植物はあらかたなくなっていた。
あくまで参加者同士で殺し合わせたいという主催者の配慮だろうか。悪趣味な話だ。

しかしまだ着かないのだろうか。森に入ってからもうそれなりの時間が立っている。そろそろD-3とD-4の間あたりになるだろう。
烏天狗である私の視力は人間や妖精よりずっといいが、こいし達の姿は一向に見えなかった。

「チルノさん、まだ着かないんですか?」
「まって。確かここら辺のはずなんだけど」

それが本当ならこいし達は(生きているなら)別の場所に移動している可能性が高い。
この広い会場の中で、一度見失った人間を再び見つけ出すの困難だ。私は思わず舌打ちした。

せめて行き先を示すようなものはないかと辺りを見渡すが、手がかりどころか戦いがあった痕跡すら見当たらない。
『ここら辺』というのが、やはりチルノの記憶違いなのだろうか。
そう思い始めたとき、視界の隅に青白いものが映った。
よく見るとそれは氷だった。落ち葉の下に隠れるようにして氷が張られている。私は疑問を感じた。

ここで本当に戦闘があったなら何もおかしくはない。
チルノが張ったものがそのままになっているというだけの話だ。だがそれならもっと多くの氷が残っていてもいいはずだ。
周りにも戦いの余波を受けたような傷は見当たらない。

嫌な予感がする。先程チルノに感じた強烈な違和感が私の中で蘇る。
取り敢えず氷のことを教えようと、私はジョニィさんの方を向いた。

瞬間。

パアンという音が響いた。
私は考えるよりも先に地を蹴り、ジョニィさんに向かって跳んでいた。
両手で抱き抱えて、その勢いのまま移動。一瞬前までジョニィさんがいた空間を銃弾が貫いていき、土が跳ねる。

「なにっ!」

ジョニィさんが驚愕の声をあげた。
チルノがデイパックの中から黒光りする銃を取り出す。
私はもう一度地面を蹴ろうとして――そこにあった氷に足を滑らせた。

しまった。地面の氷は一つだけではなかったのだ。私の肉体はスピードが出ていたことが返って仇となり、勢い良く後ろに倒れる。
チルノが銃口をこちらに向けた。ジョニィさんが爪弾を撃つがあっさりと躱され、奥にある木に当たった。
もうチルノの銃撃を避ける手段はない。私は思わず目をつぶった。

――突然、身体が捩れた感覚がした。全身の骨が痛みもなくありえない方向に曲がっていく。
目を開ける暇も誰かに引っ張られる。全身が浅く切られたかと思うと、背中から何かに打ち付けられた。
この感触は……木の幹?

「あ、あれ」

目を開けると私は相変わらず森の中にいた。しかしさっきとは位置が違う。チルノから二十メートル程離れた木の裏にいた。
何が何だかわからず、私は横に座るジョニィさんを見る。


783 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:14:28 NjOveT2E0

「ジョニィさん、これはどういう、ジョニィさんがやったんですか?」
「僕の『穴』のことは文も知ってるだろ。あれを使ってさっき撃った木の裏まで移動したんだ」
「『穴』ですか? でもあれはヴァニラの暗黒空間と同じで、ジョニィさん以外の人は入れないはずじゃ……」
「僕に『穴』に僕以外の人間が入れないのは、回転の力で破壊されるからだ。
逆に言えば『穴』と同じ回転を加えて、引っ張り込めば問題ないと思ったんだが……
すまない。無傷というわけにはいかなかった」

言われてみれば、身体と服のあちこちに無数の切り傷がある。
一つ一つは小さいので気にするほどではないが、なるほどさっきの浅く切られた感覚は『穴』に入ったからなのか。

「これくらい平気ですよ。ジョニィさんが『穴』に引っ張ってくれなかったら殺されるところだったんですから」
「だが文が『穴』に入れるかどうかは賭けだった。理論はあっても実際にやるのは初めてだったからな。
今回は上手くいったが、次もそのくらいの傷ですむとは限らない。もうやらない方がいいだろう」

そう言いながらジョニィさんは木の横から顔を出して、チルノの方を見た。私も反対側から同じように見る。

「ところであれは一体どいうことなんだ?
君はチルノは殺し合いに乗るような奴じゃあないと言っていたが、とてもそうは見えないぞ」

ジョニィさんの言う通り、こちらを探すチルノの目には獲物を狙う野獣のような鋭さがある。
いつものチルノとはかけ離れた姿。それを見て私の中にある推測が浮かぶ。一度ヘブンズ・ドアーを受けた私だからこそ思いついた推測が。

「もしかした操られているのかもしれません」
「文、そう思いたい気持ちはわかるが……」
「殺そうしてきたから言ってるわけではありません。なんというか、あまりにも違うんですよ。いつものチルノさんと。
私の知るチルノさんなら、たとえ殺し合いに乗ったとしても、あんなふうにはならないと思うんです」
「君の知るチルノというのが全て演技だったということは?」
「チルノさんにそんな頭はありません」


784 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:16:16 NjOveT2E0

ジョニィは顎に手を当てて何か考え始めた。私も今の状況を整理する。
敵はチルノともう一人、上から狙撃からしてきた奴。
まったく気配を感じなかったことを考えると、かなり遠くから撃たれたということだろう。相手は銃の扱いになれた人物だ。

ここまでの経緯を考えると、チルノは洗脳の影響かかなり頭が良くなっている。力も強くなっているかもしれない。
地面の氷が二つだけとは思えない。おそらく他にも罠がある。
チルノの洗脳を解く方法も不明。彼女には悪いがここはジョニィさんを抱えて飛び、逃げるのが得策。
私はそう提案しようとして、それよりも先にジョニィさんが口を開いた。

「文、チルノを助けよう」

一瞬、ジョニィさんが何を言ったのかわからなかった。

「僕のタスクは殺さずに相手を止めるにはちょうどいい。ここで洗脳を解くのが無理だとしても、気絶させて露伴のところまで連れ行けばなんとかなるだろう」
「ちょ、ちょっと待ってください!」

私は思わず立ち上がり、ジョニィさんを見下ろして言った。

「無茶ですジョニィさん! 私達はいま罠に嵌められているんですよ! 向こうはこっちを殺す気満々ですし、倒すのも難しいのに助けるなんて……
私だってチルノさんの放っておきたくはありませんが、もう一人、狙撃してきた奴だっているんです! 危険です。考えが甘すぎます!」
「文、君の言い分はもっともだ。
僕だってお人好しじゃあない。相手が自分の意思で襲ってくるんだったら、そこにどんな事情があろうと情けなんて掛けない。たとえ家族や友人が人質に取られているんだとしてもな。
でも……」

ジョニィさんは立ち上がり、私の目を真っ直ぐ見つめる。

「君の言うとおり彼女は操られているだけだとしたら、自分の意思なんてなくて、誰かに道具のように使われているだけだとしたら。
僕は助けたい。再び彼女に自分の意思で歩かせてやりたい。
それは僕だけの力じゃあたぶん無理だ。君の力を貸して欲しい」

その瞳の奥には前にも一度見た『黄金の輝き』があった。私は思わず目を逸らす。
ジョニィさんは勘違いをしている。ヴァニラとの戦いに私が割って入ったのを、私自身の意思だと思っている。だからそんな風に屈託もなく頼ってくるのだ。
違う。私はそんな善人じゃない。自分の身の安全ばかり考えて、そのためなら他人を見捨てるどうしようもない女だ。だけど……

逸らした目をもう一度合わせる。この『輝き』を見ていると私にも少しだけ勇気が湧いてくるような気がする。
もしここでジョニィと一緒にチルノを助け出すことができれば、私にも宿るだろうか。『黄金の輝き』が。

私にはジョニィさんのような誰かのために戦える勇気もなければ、主催者に立ち向かう強い『意思』もない。それでも、できることなら皆で一緒に帰りたいという『思い』はある。
ならばその思いに準じて見るのもいいかもしれない。ジョニィの中に見えた勇気と希望を信じて。


785 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:18:43 NjOveT2E0
「それで具体的にはどうします? 
相手は私のよりもずっと強そう銃を持ってるチルノさんに、姿を見せない狙撃手。
戦場は相手の案内で連れて来られた場所で、おそらく罠だらけです。何か策はありますか?」

戦うとは決めたが、無策でどうにかなる相手ではない。
私達はチルノの様子を伺いながら、話し合う。

「あいにく策と呼べるようなものは、なにもないな。取り敢えず最優先なのは狙撃手の発見だと思う。
もしかしたらそいつがチルノを操っているのかもしれないし、そうじゃなくても何か知っているかもしれない」
「それでしたら私にお任せください。
私の風を操る能力は風を起こすだけでなく、風の声を聞いたり風の噂を掴んだりすることもできます。
風を私の元へ来るように吹かして、その中に狙撃手を入れれば大丈夫です」
「よくわからないが、とにかく見つけられるんだな。それじゃあ……」

私達は同時に横に跳んだ。直後に巨大なツララが木の幹を貫く。

「見つけた!」

チルノが叫けんだ、ジョニィさんに狙いを定めた銃口から、連続で弾が吐き出される。
私は翼をはためかせて飛び、再びジョニィさんを抱きかかえた。
低空飛行して周囲の木を盾にしながら銃撃を凌ぐ、同時に風を操作。全方位から自分に向かって風が吹くよう調整する。思ったよりも風を操れる範囲が狭い。主催者の制限か。
右上後方から発砲音。狙撃手だ。身体を左に傾けて回避。
距離が遠くまだ気配は感じられない。二度の銃撃がどちらも上からだったところを見ると、おそらく木の上。生い茂る葉の中に身を隠している。

「ジョニィさん、お一人でも狙撃を避けられますか?」
「いや。無理だな」
「ですよね」

ジョニィさんを抱えたまま、私は高度を上げずに発砲音がした方角に向かう。
これでチルノが走ってくれれば爪弾の『穴』を簡単に当てられたのだが、生憎向こうも翅で飛んで追ってきた。
後ろから迫る銃弾を風で補足。上下に動いて躱す。ジョニィさんが反撃に三発。爪弾がチルノに迫る。
しかしチルノは前進を続けたまま右手を前に出した。身体の前に手鞠ほどの大きさの氷の塊を無数に生み出される。氷は爪弾を全て防ぎ、そのまま扇状に飛んで攻撃してきた。
私は上に飛んで避けようとして――気配を感じた。狙撃手が真上にいる。

「ジョニィさん! 氷はお願いします!」

咄嗟に頼んで私は前方に加速。銃弾が私の後方に降り注ぐ。
ジョニィさんは上後方に爪弾を連射。木の枝を落として氷を押しつぶす。
同時に銃撃が止んだ。チャンス。私はこの瞬間を狙って狙撃手の元へ飛ぼうとした。そのときだった。
確かに感じたはずの狙撃手の気配が消失した。

えっ、と思ったのも一瞬。少し離れた位置に再び気配が出現。チルノが氷を扇状に放つと同時に発砲した。
今は頭上を塞がれていない。私は今度こそ上に避けようした。

「文、罠だ! 上を見ろ!」
「え?」

真上に人の胴体ほどの太さを持つ木の枝。氷で幹をくっつけられているのが見える。
その氷が突如消失。木の枝が私に向かって落ちてくる。このままでは衝突する。かといって枝を避けようと減速すれば氷と狙撃の餌食だ。

私は速度を保ったまま、身体を半回転。足を上にやりにチルノ目掛けて枝を蹴り飛ばす。
チルノは両腕でガードしたが、衝撃を抑えきれずに後ろに吹っ飛んでいった。
氷と銃弾が目の前を掠める。

体制を立て直し、狙撃手の位置を指さす。すぐにジョニィさんが爪弾を撃つが、またも狙撃手の気配は消えた。
私は手近な葉の束に突っ込み、身を隠す。
下にいるチルノを見る。木の枝に視界を一瞬覆われたからだろう。チルノは私達を見失っていた。
狙撃手の気配もない。私は枝の上に立ち、ホッと一息ついた。


786 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:22:14 NjOveT2E0

「文、狙撃手が今どこにいるかわかるか?」

ジョニィさんが辺りに目を走らせながら言った。
チルノの視界から逃れた今、本来なら狙撃手を攻める絶好の機会だ。だが、

「それがだめなんです。何度か気配を感じられてはいるんですが、またすぐに消えてしまって」
「気配が消える? どういうことだ」
「おそらく古明地こいしです。彼女は自分の気配を消す力を持っています。
主催者の制限のおかげなのか、攻撃の瞬間だけは何とか感じられるんですが……」

うかつだった。チルノが名前を出していたというのに。
もっと早く狙撃手がこいしだと気づくべきだった。

「居場所がわかるのは攻撃の瞬間だけ。
それだけの時間じゃあ君のスピードでも足りないか?」
「さすがにジョニィさんを抱えた状態で、銃弾をかわしながら突っ込むのは無理ですね。チルノさんも妨害してくるでしょうし」
「まってくれ。その言い方だと僕を抱えていなくて、チルノの妨害がなければ何とかなるように聞こえるが?」
「はい。約束はできませんが、それなら大丈夫だと思います」
「……それじゃあこういうのはどうだ」

ジョニィの作戦を聞いて、私は驚くというよりも呆れてしまった。よくもまあそんな無茶苦茶な作戦が思いつくものだ。

「大丈夫なんですか? 何だかただ相手の意表をついてるだけのような気もしますが」
「だがこれなら僕を抱えなくて済むし、チルノの妨害も防げる。上手くいけばいっきに二人共止められる。君が平気ならやってみる価値はあると思う」
「……そうですね。他にいい案があるわけでもありませんし、やってみましょう」

私は深呼吸して心を落ち着かせる。
チルノの位置を確認。こちらに背中を見せた瞬間に飛び出す。
葉の揺れる音でチルノが気付き、振り返った。
ジョニィさんが爪弾を撃つ。チルノは無数の氷で防御。放たれる氷を避けながら、私はチルノの頭上を位置取る。
右から発砲音。身体をそらして回避。狙撃手はまだ気配が感じられる範囲には入っていない。

ジョニィさんが爪弾を撃ち続けるが、チルノは新しい氷を作り防御しながら、先に出した氷を射出。
右からの銃撃と下からの氷が同時に襲ってくる。
私は空中であることを生かして縦横無尽に動き、どうしても避けられない氷は蹴り壊す。
そうしてチルノの上で耐え続ける内に、狙撃手の気配を感じた。
狙い通りだ。こちらが躱し続ければ狙撃手は弾を当てるために近づかざるを得ない。

瞬間。私は両腕を離す。ジョニィさんの身体がチルノ目掛けて真っ直ぐ落ちていく。
私は気配に向かって突っ込んだ。銃声が鳴り、正面から弾が飛んでくる。それでも私は直進を止めない。
銃弾が胸に当たる直前、全神経を胸筋に注ぐ。銃弾は私の胸に突き刺さり――止まった。
私は幻想郷の中でも最高クラスの力を持つ天狗の中でも、最強の一画だと自負している。
来るのがわかっているなら、銃弾の一つくらい止められない道理はない。

幹を覆い隠すほど鬱蒼と茂った葉の中を突っ切り、銃を構えて驚愕を浮かべる古明地こいしの姿を捉えた。
私は思い切り振りかぶった拳を顔面にぶち込み、その勢いのままこいしの頭を木の幹に叩きつける。
その一撃でこいしの意識を奪った。事情がわからない以上、まだ殺すわけにはいかない。
胸に刺さった銃弾を抜き取り、ジョニィさん達の元へ向かう。

風が行く先の様子を伝えてくる。
ジョニィは落下しながら、驚きのあまり一瞬動きが止まったチルノに爪弾を連射。
チルノがハッとして氷を形成するとほとんどの爪弾は防がれるが、何発かが地面に当たった。
チルノが何か叫び氷を発射。ジョニィは自分に爪弾を撃った。
ジョニィの身体が『穴』に呑まれ、氷を空を切っていく。

ここまでは作戦通りだ。このままジョニィが、先程わざと地面に開けた『穴』から出ればチルノとの間合いはほぼ零。
氷で防がれる暇も与えず、爪弾を当てられる。私は自分達の勝利を確信する。
だがそのとき、チルノが氷である物を作った。
普通この状況では作ることはありえないそれは、私の脳裏にある考えを浮かばせた。

「ジョニィさん、だめ!」

私は速度を上げながら叫んだ。しかしその言葉が届くことはなかった。
『穴』から出てきたジョニィさんにチルノは氷の剣を突き出した。『穴』から出ることがわかっていたとしか思えないタイミングだった。
剣はジョニィさんの喉に深々と突き刺さる。チルノはそのまま剣に体重を掛けてジョニィさんの身体を縦に切り裂いた。


787 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:24:33 NjOveT2E0







「ジョニィさん!」

私が悲鳴のような声を上げてジョニィさんに側にしゃがみこんだ。
ジョニィさんは首から下を縦に裂かれて斃れている。疑問を挟む余地はなかった。どう考えても生きているはずがない。
ジョニィ・ジョースターは……、私が希望を感じた人は……、あまりにも呆気なくその生を終わらせていた。

「どうして……」

私は震える声を出しながらチルノを見る。
絞り出した声は思いのほか冷静だった。

「どうして、ジョニィさんの能力がわかったの……」
「へえ。あれだけで私がジョニィの知ってるってわかったんだ。さすがね」

その言葉にはいつものチルノから感じる、子供らしい愛嬌はなかった。
あるのは問題を説いた教え子を褒めるときのような、上にいるという絶対的余裕。
これが今のチルノの本性。私の身体に寒気が走った。

「いいわ、教えてあげる。どうせもう死ぬことになるんだから、冥土の土産よ。
答えは簡単。私は事前に聞いていたのよ。ジョニィの能力、それからあなた達が向かった方角も。
ヴァニラ・アイスからね」
「ヴァニラ……アイス……」

ジョニィさんがやっとのことで追い払ったあの男。
奴がチルノに情報を与えて、ジョニィさんを殺させた。
じゃああの戦いは何だったの?
ジョニィさんが他の参加者達のためにヴァニラを殺すといったとき、私は彼は勇気に憧れた。その気高い精神に希望を抱いた。
だが結局ヴァニラには逃げられ、しかもそのときの情報が原因でジョニィさんは死んだ。

何よそれ。
それじゃあやっぱり私の言った通り逃げるのが正しくて、ジョニィさんの行動は間違っていたってこと?
いや違う。そうじゃない。あのときのジョニィさんの行動は敬意を表すべき、正しいことだった。
間違っていたのは人ではなく場所だ。

そうだ。最初からわかっていたことじゃないか。
ここでは正しさも、気高さも、誇りも、意思も、思いも何の意味もない。
だからこそ私は殺し合いに乗ろうとしたんじゃないか。
必要なのは生き残るための『力』と『悪意』だけ。ここはそういう場所だ。

口から自然に笑いが零れる。今まで悩んで来て、辿り着いた答えが結局これか。
ただ振り出しに戻るのに随分と時間がかかってしまった。
私は呆気に取られるチルノを殺意を込めた瞳で睨んだ。チルノが一瞬たじろぐが、すぐに睨み返してきた。
やはり私はジョニィさんとは別種の存在なのだと悟る。だって誰かのために戦うときはあんなに怖かったのに、自分のために戦う今はこんなにも楽だ。

チルノは両手で銃を構えている。表情からは自身と余裕が見て取れた。
ヴァニラから私のことも聞いているのだから、何らかの作戦が練られている可能性が高い。
だが負ける気はしない。あの支給品を使えば、事チルノ相手なら絶対に負けはない。

私はそれを取り出すべく右手を後ろにやった。
瞬間、私の両足が凍りついた。


788 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:27:49 NjOveT2E0

「っ!」
「かかったわね。私が何の理由もなく話を始めたと思った?
地面を通ってあんたの真下まで氷を伸ばしていたのよ!」

チルノの指が引き金に掛かる。私は咄嗟にデイパックに伸ばしていた右手で腰裏の拳銃を抜き、チルノよりも速く引き金を引いた。
吐出された銃弾がチルノの額に向かう。情報外の攻撃に氷を出す暇もなかったのか、チルノは銃の側面で受けた。
チルノの銃が衝撃に歪む。おそらくもう弾は撃てない。

氷を出す暇を与えず続けて連射。動きが止まっている内に、左手でデイパックの中からあの支給品を取り出す。
同時にカチリと音がなった。弾切れだ。その隙をついてチルノが壊れた銃を投げてくる。
私は左手で弾こうとして――銃に赤い模様の描かれた紙が貼ってあるのを見た。

「霊撃札!」

気づいたときには遅かった。霊撃札の衝撃で紙が吹き飛び、チルノの手元へ流れていった。
チルノはそれを握りしめ、勝ち誇ったような笑みを見せた。

「残念だったわね、文。何を出すつもりだったか知らないけど……」

スパン、と。
チルノの紙が真っ二つに切れた。
私の風を物を飛ばす程度のものではない。研ぎ澄ませれば刃にもなる。
紙を切り裂く程度の威力なら、少し離れたところにも一瞬で出せる。
チルノは紙の見、私を見る。怪訝そうな顔で口を開こうとして――全身を炎に包まれた。

「あああああああああああああああ!」

チルノが悲鳴を上げて倒れる。氷の妖精にとって炎で焼かれるのは相当の苦痛だろう。霊撃札を使ったあとだから、なおさらだろう。

「手を離れたからって偶然あなたの方に飛ぶわけないでしょう。わざと掴ませたのよ」

聞こえた様子もなくチルノはのたうち回る。力を振り絞って身体中から冷気を出していた。チルノの氷は炎すらも凍らせる力がある。
私は風を吹かして炎を煽る。チルノは諦めす冷気を出し続けるが、私はその度に風を吹かせる。
繰り返す内に炎が森に引火した。私が何もしなくても木や落ち葉を燃やして勢いを増していく。

本当ならこの支給品――紙に入った炎を使えばチルノには簡単に勝てたのだ。ただチルノの命と、森が燃えることを考えて躊躇っていた。
その結果ジョニィ死に、炎も使ってしまうのだから救いようのない話だ。

足の氷が溶け始める。
もう私が消そうとしても炎は消えないだろう。
足掻く体力すらなくなったのか。チルノが力なく横たわる。助けを求めるように弱々しく手を伸ばした。
私は拳銃に弾を込め、チルノに向ける。せめて苦しみを早く終わらせてやろうと思ったが、途中でやめた。

私はこれからも誰かを殺していく。中途半端な情けを持つべきじゃない。
徐々に身体が焼けていくチルノを見ながら、ふとチルノが死について悩んでいたことがあったのを思い出した。
あのとき私はなんと言ったんだったか。考えても思い出せそうにない。
ただ、自分がチルノを殺すことになるとは、思ってもいなかっただろう。


789 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:28:34 NjOveT2E0




GDS刑務所刑務所の病室。ヴァニラは窓の外を眺めながら、ここに来た二人のことを考えていた。
チルノとこいし。この会場でDIOと出会い忠誠を誓ったという二人。
あの二人はジョニィ・ジョースター達を殺せたのだろうか。
二人とも妖怪だというが、見た目は妙な翅や触手がある以外はただの子供だ。あまり期待はしない方がいいだろう。
どちらにせよヴァニラにチルノ達のあとを追うつもりはない。

実に不愉快だが自分のスタンドとジョニィのスタンドは相性が悪い。
ジョニィの始末は他の参加者に任せるのが安全だ。

(私はDIO様にために生き延びねばならないからな)

ヴァニラは当初、DIO以外の参加者を皆殺しにしたあと、自害することでDIOを優勝させるつもりでいた。
だがチルノ達から言っていた話が本当ならば、それはDIOの望むところではない。
天国へ行くための仲間を集めているというDIO。そしてDIOの対等の友人、プッチ神父。
この世にDIOと対等の存在がいるとは、ヴァニラには到底思えないし、天国とやらも何のことだがわからない。
それでもヴァニラはただDIOが望む事を為すだけだ。


ヴァニラは一度DIOにあってお伺いを立てた方がいいかと考える。
地図を広げてDIOが居そうな場所を探す。
チルノが会ったのがD-4の湿地帯近くだと言っていた。おそらくそこから然程遠くない日光を凌げる建物の中にいるだろう。

(とすると、ここから一番近いのはジョースター邸か)

忌々しいジョースターの名を冠する邸。
ここならDIOが居なかったとしても、ジョースターの者がその名につられて集まってくるかもしれない。
皆殺しはやめるとしても、ジョースターまで生かしておく理由はない。

ヴァニラはベッドから起き上がり、身体の具合を確かめる。
多少、痛みはあるが戦うのに問題はない。あの右腕の力なのか傷の治りは異様に早かった。
ヴァニラはジョースター邸を目指し病室をあとにした。


790 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:30:10 NjOveT2E0
「チルノちゃん、本当にジョニィって人を殺しにいくの」
「当たり前じゃない。何言ってるのよ」
「でもやっぱりおかしいよ。DIOに言われたからってそんな簡単に人を殺すなんて」
「こいし、あんたまさかDIO様に逆らおうっていうの」
「そ、そういうわけじゃなくて、私達だけで判断するのはやめた方がいいってこと。
そうだ、とりあえず神父様を探そうよ。神父様には何か別の意見があるかもしれないし」」
「はあ。こいし。あんたはもともとプッチさんに言われてジュセフと戦ったんでしょ。意見なんてわかりきってるじゃない」
「そ、それは……」
「殺しをためらう気持ちは私にもわからなくはないけど、後回しにするのはやめなさい。
どうせいずれは殺さなきゃいけない相手よ。DIO様に逆らう気がないならね」
「うん……」
「話は終わりね。それじゃあ私の背中におぶさりなさい。二人で走るより、それで氷の上を滑った方が速いわ」

こいしが言われた通りにすると、チルノは靴の裏に薄い刃のようなものを氷で作り、滑りだした。

でも本当にこれでいいんだろうか。こいしは自問する。
勢いに任せて戦ってはしまったが、こいしにはあのジョセフという人間が悪人とは、どうしても思えなかった。
正しいのはジョースターの人たちで、間違っているのはDIOやチルノの方がではないだろうか。そんな考えが頭を過る。
だがどちらにせよ、今のこいしにチルノに逆らって自分の考えを押し通す勇気はなかった。







こいしが目を覚ますと、そこは葉っぱで覆い尽くされた木の枝の上だった。

「ここは……私、何をして……」

頭が酷く痛んで、記憶がはっきりしない。
視線を滑らし、自分の手の中にある銃を見てやっと思い出した。

「そうだ! 私、チルノちゃんと一緒にジョニィ達と戦って!」

眼前に迫ってきた射命丸文の姿を思い出す。あのときに気絶させられたのだろうか。
慌てて地上に目を向けて、事態が一変していることに気づいた。

「チルノちゃん!」

チルノは全身を炎に包まれ苦しそうにしていた。
炎は物凄い速度で勢いを増している。側に立っている文が何かしているに違いない。

助けないと。

そう思いこいしは銃口を文に向ける。
しかし後ひと押しで銃弾が発射されるというところで、引き金に掛けた指が止まった。

――本当にチルノを助けるべきなんだろうか?

戦いを仕掛けたのはこちらの方だ。チルノが返り討ちにあって死んだとしても、それは自業自得ではないのか?
銃を撃ったとしてもどうせまた躱される。今更何をやったって助けるのは不可能だ。

何よりも、こいしは文に恐怖を感じていた。
その瞳には先程はなかった、冷たく黒い輝きがある
もう一度攻撃されたら気絶ではすまない。きっと抵抗する間もなく殺される。
だったらこのまま逃げた方が――

「だめ! 何考えてるの!」

こいしは自分の中に浮かんだ考えを首を振って否定する。
チルノは友達だ。例え間違っているとしても、助ける手段がなくても、見捨てていいはずがない。
だけど身体が動かない。あとほんのちょっと動かせば弾が出るのに、竦んでしまっている。

「お願い。動いて。速く」

炎はどんどん強くなっている。速くしないとチルノを助けられなくなる。
幻想郷でチルノと過ごした記憶が蘇る。特別仲のいい親友というわけではなかったが、一緒に遊ぶといつも楽しかった。
このままだとそれが二度とできなくなる。そんなのは嫌だ。

「速く。速く。速く!」

こいしがどんなに願っても、指はただ無様に震えを繰り返すばかりだった。

「速く動いてよ私の身体!」

叫んだ瞬間こいしは、ハッ、した。

「嘘……なにこれ……」

こいしはゆっくりと首を動かし、周りの景色を見る。
赤く燃える森と、それを遮るように流れる澄んだ川。森の中に比べれば視界の開けた林の先に、半分朽ちかけている洋館。
そこは魔法の森の外だった。

「まさか、私、無意識に逃げて……」

足の力が抜ける。呆然と地べたにへたり込んだ。
能力に所為にはできなかった。あのとき自分は確かに逃げたいと思っていた
だからこれは無意識であっても自分の意思。
こいしはその事実に絶望して頭が真っ白になった。

黙っていると心が押しつぶされそうな気がして、こいしは叫んだ。
涙と鼻水を垂らすながら声が枯れるまで叫び続けた。


791 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:33:11 NjOveT2E0
私は森の南側から外に出た。まだこっちの方までは炎も来ていない。
だがそれは時間の問題だろう。誰かが止めない限り炎は広がっていく。
その結果、大勢の参加者が焼け死ぬかもしれない。
私はそれを想像して胃からせり上がってくるものを感じたが、何とか抑えつけた。

喉に水を流しこみながら、これからの事を考える。
殺し合いに乗るといっても、自分の力だけで最後の一人になるのは土台無理がある。
一先ず頼りになりそうな、殺し合いに反対するの者と行動を共にすべきだ。

DIOには近づかない方がいいだろう。ヴァニラから情報を得ていたことから判断するに、チルノを洗脳したのはDIOだ。
いつの間にか居なくなっていた古明地こいしは、できれば始末したい。私が森を燃やし、チルノを殺した事を広められるかもしれない。
チルノの殺害は正当防衛で言い訳できるが、森の放火は絶対にバレるわけにはいかない。

そのとき身体の中で何かが動いた気がした。
まただ。支給品を取るため、ジョニィさんの死体に近づいてから何度か同じことが起きている。
原因はわからないが、なぜだか悪いものではないという確信があった。それどころか力を与えてくれるような感覚すらある。
正体は気になるがジョニィさんのデイパックにそれらしき説明書はなく、確かめようがなかった。

私は諦めて地図を開く。目的地を定めて、そこに向かって歩き出した。
最後に一度だけ魔法の森を振り返る。
私はこれからジョニィさんや露伴の思いを裏切り、正義のない狡猾な道を行く。そこに躊躇いはない。
でも一つだけ、露伴に幻想郷を案内してやれなくなったことだけは少し残念に思った。


792 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:34:54 NjOveT2E0
【ジョニィ・ジョースター@第7部 スティールボールラン】死亡
【チルノ@東方紅魔郷】死亡
【残り69/90】



【D-2 猫の隠れ里前/朝】

【岸部露伴@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、背中に唾液での溶解痕あり
[装備]:マジックポーション×2
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:情報を集めての主催者の打倒
1:霍青娥を倒し蓮子を救出。その後ジョニィと文を待つ。
2:ついでにマンガの取材。
3:射命丸に奇妙な共感
[備考]
※参戦時期は吉良吉影を一度取り逃がした後です。
※ヘブンズ・ドアーは相手を本にしている時の持続力が低下し、命令の書き込みにより多くのスタンドパワーを使用するようになっています。
※文、ジョニィから呼び出された場所と時代、および参加者の情報を得ています。
※支給品(現実)の有無は後にお任せします。
※射命丸文の洗脳が解けている事にはまだ気付いていません。しかしいつ違和感を覚えてもおかしくない状況ではあります。
※参加者は幻想郷の者とジョースター家に縁のある者で構成されていると考えています。



【C-2 GDS刑務所/朝】

【ヴァニラ・アイス@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、左腕切断、右腕損傷(今は完治)、全身に切り傷と衛星の貫通痕(ほぼ完治)
[装備]:聖人の遺体・右腕@ジョジョ第7部(ヴァニラの右腕と同化しております)
[道具]:不明支給品(本人確認済み)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために行動する
1:ジョースター邸に向かう
2:DIO様にあってお伺いをたてる
3:プッチと地下にあるものを探す
4:ジョースターを始め、DIOの害になるものは全て抹殺する
5:それ以外の参加者はあってから考える
[備考]
※参戦時期はジョジョ26巻、DIOに報告する直前です。なので肉体はまだ人間です。
※ランダム支給品は本人確認済みです。
※聖人の遺体の右腕がヴァニラ・アイスの右腕と同化中です。残りの脊髄、胴体はジョニィに渡りました。
※チルノ達からDIOの方針とプッチのことを聞きました
※ほとんどチルノが話していたため、こいしについては間違った認識をしているかもしれません


【D-3 林/朝】

【古明地こいし@東方地霊殿】
[状態]:肉体疲労(大)、精神疲労(特大)、今は何も考えられない
[装備]:三八式騎兵銃(1/5)@現実、ナランチャのナイフ@ジョジョ第5部(懐に隠し持っている)
[道具]:基本支給品、予備弾薬×7
[思考・状況]
基本行動方針:…………
1:…………
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降、命蓮寺の在家信者となった後です。
※ヴァニラからジョニィの能力、支給品のことを聞きました
※無意識を操る程度の能力は制限され弱体化しています。
気配を消すことは出来ますが、相手との距離が近付けば近付くほど勘付かれやすくなります。
また、あくまで「気配を消す」のみです。こいしの姿を視認することは可能です。



【D-4 魔法の森近く/朝】

【射命丸文@東方風神録】
[状態]:疲労(中)、体力消耗(中)、霊力消費(小、胸に銃痕(浅い)、服と前進に浅い切り傷、露伴による洗脳は現在解除されている
[装備]:拳銃(6/6、聖人の遺体・脊髄、胴体@ジョジョ第7部(体内に入り込んでいます)
[道具]:不明支給品(0〜1)、基本支給品×3、予備弾6発、壊れゆく鉄球(レッキングボール)@ジョジョ第7部、
[思考・状況]
基本行動方針:どんな手を使っても殺し合いに勝ち、生き残る
1:力のある殺し合いに反対するものと行動を共にする。積極的には殺さない
2:古明地こいしは始末したい
3:DIOは要警戒
4:露伴にはもう会いたくない
5:体内の動き(聖人の遺体)については保留
8:ここに希望はない
[備考]
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※文、ジョニィから呼び出された場所と時代、および参加者の情報を得ています。
※参加者は幻想郷の者とジョースター家に縁のある者で構成されていると考えています。

※どこに向かったかは次の人にお任せします。


※D-3で火災が発生しました放っておくと広がっていきます



<炎@現実>
文に支給。
エニグマの紙には物体だけでなく、火や電気といったものも入れられる。
ただし一度出したらエニグマのスタンドを持っていない限り、元の紙に入れることはできない。
解説が書かれた説明書が最初は紙に結びつけてあった。


793 : 名無しさん :2014/07/24(木) 00:38:11 DoTn3N6o0
(ジョニィとチルノに関して)
簡単すぎる...あっけなさすぎる...


794 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 00:39:07 NjOveT2E0
投下終了。タイトルは『進むべき道』です
この話で問題はないでしょうか。色々と不安です
問題があったら言ってください

あとこの話が通った場合なんですが、少し長くなったので前編、後編に分けた方がいいでしょうか

今回は散々投下が遅れて迷惑を掛けました
本当にすいませんでした


795 : 名無しさん :2014/07/24(木) 00:45:35 O0ir7Z8E0
いつも覚悟して見てるけど...

いざ好きなキャラが死ぬと喪失感ハンパ無い......ジョニィ...


796 : 名無しさん :2014/07/24(木) 00:52:46 SXdUqx060
なんだか悲しいな…情けを見せた為に最悪の事態に…
なんだかあっさりし過ぎている気がしないでもないけど、誰を生かすか殺すかは書き手に委ねられているから問題ではないと思う…多分……。


797 : 名無しさん :2014/07/24(木) 00:59:40 znUAxMVM0
ジョニィ...やっと出番が来たと思ったらまさか死ぬだなんて...


798 : 名無しさん :2014/07/24(木) 01:01:59 w0oyLD4M0
…ジョ、ジョニィィィィイイイイッ!!


799 : 名無しさん :2014/07/24(木) 01:05:28 mtAypEVg0
ま!人生の終わりってのはたいてーの場合あっけない幕切れよのォー
さよならの一言もなく死んでいくのが普通なんだろーねえー


800 : 名無しさん :2014/07/24(木) 01:08:52 DoTn3N6o0
ジョジョロワの方でもジャイロが死んで再会できなかったしジョニィとジャイロを再会させない
為のなんらかの力が働いている可能性が(ry


801 : 名無しさん :2014/07/24(木) 01:12:00 mtAypEVg0
大統領の親父生存ルートがどの世界にもなかったのと同じようなものか


802 : 名無しさん :2014/07/24(木) 02:11:30 qOF4cEC60
良い意味で想定外の内容だった
ドラゴンズ・ドリームの関係でボツになった案がどんな話だったのか気になる
もし手元に残ってるなら没スレに投下して欲しいなぁ

↓誤字脱字を気にしているようなので気がついた分だけ一応報告
親しい者を死が
それほど協力な妖怪ではない
極限状況においては、極限状況において
特質することはないだろう
目を開ける暇も誰かに引っ張られる
殺そうしてきたから
私だってチルノさんの放っておきたくは
準じて
ずっと強そう銃を持ってる
頭上を位置取る
チルノは諦めす
ジョニィ死に
何のことだが
ジュセフ


803 : 名無しさん :2014/07/24(木) 02:14:24 8ZPIBF8I0
投下乙です。

おおお、ジョニィが……。
本編終了前の黄金の精神少なめで漆黒の意思マシマシなら、無事に勝ててたんだろうけど
そうすると前の話で文がデレなかったわけで。
全部うまく行く道はなかったと諦めるしかないのか。

肉の芽inチルノも、前回に続きクレバーで良かったですね。
それだけにこっちも退場はちょっと残念。


以下は、気づいた箇所の誤字です。

>>778
>紅美鈴は元からそれほど協力な妖怪ではない。十六夜咲夜も時間停止は最長九秒までという制限を考えれば打倒なところか。
>極限状況においては、極限状況において親しい存在をなくし、冷静さを失うなんてよくある話だ。パチュリーとレミリアには警戒しておこう。
>同じ理屈でナズーリン、二ツ岩マミゾウ、幽谷響子を失った、命蓮寺の者もだ。
協力>強力、打倒>妥当
極限状況においては が重複
これは細かくて申し訳ないですが、二ツ岩>二ッ岩

>>790
>「はあ。こいし。あんたはもともとプッチさんに言われてジュセフと戦ったんでしょ。意見なんてわかりきってるじゃない」
ジュセフ>ジョセフ

>涙と鼻水を垂らすながら声が枯れるまで叫び続けた。
垂らす>垂らし


804 : 名無しさん :2014/07/24(木) 02:21:50 trtS.Z5M0
投下乙です。
なんかここにきて凄い喪失感がきた…これぞロワの醍醐味か…
ジョニィはともかく(好きキャラだけど)密かに好きになり始めてた肉チルノが退場したのは残念だ。
そして最後のこいしがとても悲壮的…

前編・後編には分けなくても大丈夫な長さだと思います。
あとは全体的に誤字脱字が気になったぐらいですかね。


805 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 02:36:06 NjOveT2E0
やっぱり誤字脱字多かったですね……すいません
どうも見つけるのが苦手です

wiki収録後に直そうと思うので、報告してもらえるとありがたいです


806 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/07/24(木) 02:44:30 NjOveT2E0
あ、あと
>>802
ドラゴンズ・ドリームの方はちゃんとしたものはないので、投下はやめておきます
内容としてはチルノがちょっとだけ肉の芽に抗い、ドラゴンズ・ドリームを使って文に殺されそうなこいしを助ける
みたいな感じでした


807 : 名無しさん :2014/07/24(木) 08:23:04 ld.3jop.0
予想外な展開でした・・・
ジョニィがまさか死ぬとは
蓮子を助ける可能性もあっただけに残念
それにしてもジョースター家では初めての死者が出たね


808 : 名無しさん :2014/07/24(木) 12:59:37 IVVYcyXYO
投下乙です。

スタンドバトルは、情報漏れが命取りだからね。仕方ないね。
こいしは、頼れそうな者0、友達も見捨てちゃって、さてどうなる。


809 : 名無しさん :2014/07/24(木) 21:20:21 0zZ8gdkA0
こいしの弾数が前回から19発も使われてるけど、今回の戦いを見る限りそこまで使ってるようには見えなかったから少し調節した方が良いかもしれない


810 : 名無しさん :2014/07/24(木) 21:26:14 zw8I1bho0
それは別に良くね


811 : 名無しさん :2014/07/25(金) 01:31:36 ZzZsP5F.0
そういえば本編中、青娥がずっと青「蛾」になってた
これは間違えやすい誤字だから良い子は覚えておこう


812 : 名無しさん :2014/07/25(金) 01:36:45 GuwFRuB.0
>>811
やった!!さすが慧音先生!
俺たちが気付いてない事を平然と見抜き切るッ!
そこにシビれる!あこがれるゥ!


813 : 名無しさん :2014/07/25(金) 15:03:35 VWpHKL8s0
ジョニイイイイイイイ!
ジョニー脱落によってあややも暗黒面に。。。揺れ動きつつもほだされてる感じだったのに


814 : 名無しさん :2014/07/25(金) 15:17:44 Rk42n1nM0
改心して対主催化もあるかと思ったがそんな事はなかったぜ


815 : 名無しさん :2014/07/25(金) 17:13:45 IE.clK3E0
チルノもジョニィもおいしいフラグをいっぱい持ってたのに即死したな...、
南無。


816 : 名無しさん :2014/07/25(金) 21:46:15 EycDIccg0
ヴァニラの行動方針の「プッチと地下にあるものを探す」というのがよく分からないけど、何か抜けがある?


817 : 名無しさん :2014/07/25(金) 21:50:16 y/9E0Do.0
>>816
地下は第一回放送で言われてたことじゃない?
プッチの存在はチルノから伝えられたんだろうし


818 : 名無しさん :2014/07/30(水) 08:36:13 zjLHCMzU0
もし・・・このロワイヤルに・・・「次」があったとしたら・・・僕は脇役の活躍を見たいッ!今回出ることができなかったアナスイとかが出てくれたら・・・どんなに嬉しいことか・・・!!個人的にはウェストウッドが戦ってる所が一番見たい。


819 : 名無しさん :2014/07/30(水) 22:05:40 HCtcW4w.O
川底からのマジェントとか読みたい。


820 : 名無しさん :2014/07/30(水) 22:30:50 DANYSNys0
考えるのをやめた頃のカーズとか、とことん死にまくったディアボロとか読みたい…いや、ここのディアボロがまさにそうだったな


821 : 名無しさん :2014/07/31(木) 11:47:13 /Caoz4mk0
どのロワでも言えるけど、死亡後からの参戦ってすげーわくわくする
悪役でも主人公になれることだってあるもんな


822 : 名無しさん :2014/07/31(木) 16:24:09 yPcnRXW60
まあジョジョロワ系統は死亡後参戦できないけど(ディアボロは特殊すぎる)

そろそろ予約来ないかな〜


823 : ◆n4C8df9rq6 :2014/07/31(木) 21:18:42 4zjZLCb20
リサリサ、洩矢諏訪子
予約します


824 : 名無しさん :2014/07/31(木) 21:33:49 I5oLlELw0
おお久々!


825 : ◆fLgC4uPSXY :2014/08/01(金) 03:19:41 cwA5C1mI0
ジョナサン・ジョースター
レミリア・スカーレット
ブローノ・ブチャラティ
を予約します


826 : ◆fLgC4uPSXY :2014/08/05(火) 00:57:25 KWbsX2Is0
ジョナサン・ジョースター
レミリア・スカーレット
ブローノ・ブチャラティ
を投下します


827 : 深淵なる悲哀 ◆fLgC4uPSXY :2014/08/05(火) 00:58:11 KWbsX2Is0
ジョナサンは重い足取りで、レストラントラサルディーへと駆けていた。
彼は億泰を追わずに、レミリア達と合流することを選んだ。
それは、ジョナサンなりの考えができてしまったからだ。
もしあそこで億泰を追い、彼を止めてしまえば彼の信念…つまりは誇りをけなす事と同じと考えてしまい、億泰を追うことはできなかった。
そしてこの殺し合いで、できた掛け替えのない友、レミリアという友をジョナサンは選んだのだ。
しばらく走ると向こうから、ブチャラティとレミィがこちらへと歩いてくるのが見えた。
二人の姿が見えると、ジョナサンの足は一層に速くなり二人の元へと駆けた。
ジョナサンがレミリアとブチャラティと合流すると、まず億泰のことを二人から聞かれ
ジョナサンは億泰のことを二人に話した。

「すまない…僕があそこで億泰を引き留めていたら…」

「…いや、君が自分を責めることはない。そんな状況は誰だって選ぼうにも選べない」

そしてジョナサンは、香霖堂の大半が焼かれたことを話し
一旦レストラントラサルディーにて、ブチャラティの傷を治すために三人はレストラントラサルディーへと向かった。


828 : 深淵なる悲哀 ◆fLgC4uPSXY :2014/08/05(火) 00:58:38 KWbsX2Is0
【レストラントラサルディー 一階】
ジョナサンとブチャラティが互いに自己紹介をすると、ジョナサンはブチャラティを椅子に座らせ治療を行った。
ブチャラティを治療している途中、ブチャラティはジョナサンが自分を治療している不思議な力に興味を持ち、
ジョナサンに波紋についていろいろと教えて貰った。


「…さて治療はこれで済んだよ」

「ああ、ありがとうジョナサン」


ブチャラティの治療を終え三人は相談した結果
放送を聞き終えた後、億泰を追うことにした。
一階に用意されていた丸テーブルに備えてあった椅子に、三人は腰掛けた。
ブチャラティとジョナサンは椅子のサイズが、それなりにあっていたが、
レミリアだけは椅子に座っても頭だけが出てしまう形になってしまった。

「レミィ…その…子供用の椅子持ってこようか?」

「別に…これでいいわよ…」

顔を真っ赤にしながらレミリアは答えた。
だが更に、ブチャラティの追撃が入った。

「なんなら、ジョナサンの膝に座ったらどうだ?親子みたいに見えるからいいかもしれないぞ」

それを聞いた途端、レミリアの顔は茹でダコのように真っ赤になりブチャラティに殴りかかろうとし、ジョナサンがそれを止めた。

「止めないでジョジョ!!一発!!一発でいいから!!」

「落ち着くんだレミィ!!いいから落ち着いて!!」

発言主のブチャラティはきょとんとしており頭上には、はてなマークが浮かんでそうな表情であった。


829 : 深淵なる悲哀 ◆fLgC4uPSXY :2014/08/05(火) 00:59:13 KWbsX2Is0
なんとかジョナサンはレミリアを落ち着かせ、ブチャラティが口を開いた

「すまなかったレミリア、不用意な発言を許してくれ」

「まったく…次言ったら承知しないわよ」

ジョナサンはただ苦笑いをしており、レミリアはジョナサンの膝の上で不満そうな顔で答えた。
放送が始まるまでしばらく時間があったので、3人はそれぞれが持っている情報を出そうと話し始めた。
まずサンタナとの戦いでブチャラティが操っていた式神のような物にレミリアは興味を持ちブチャラティに質問を投げかけ
そしてブチャラティがスタンドについての説明を2人に話した。

流れからかブチャラティは危険視する人物を話した。
まずディアボロについて話し、次にレミリアと共闘し追い払った謎の男、サンタナ
そして…

「最後に気をつけるべき者は、DIO、やつはそう名乗った」

この名を聞いた瞬間ジョナサンは血相を変えてブチャラティに質問を投げかけた。
もうすでに誰か殺していたか、自分の事を何か言っていたか、
だがブチャラティはどの質問も返すことができなかった。

「…すまない、俺は逃げることしかできなかった…」

「…ディオは何を企んでいるんだ…まさかまたゾンビを増やしているのか…」

そしたどこからか声が聞こえてき、放送が始まった。
「マイクテスト、マイクテスト……」


830 : 深淵なる悲哀 ◆fLgC4uPSXY :2014/08/05(火) 00:59:39 KWbsX2Is0
放送から1分とたったこの状況は異端であった、空気は重くジョナサンとブチャラティはそれぞれ違うテーブルに座っていて
レミリアの姿は見えなかった。
ジョナサンは頭を抱えて、ブチャラティは目元を手で覆い、調理場からは誰かのすすり泣く声が聞こえていた。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

レミリアは安心していた…いや安心しようとしていた。
自分の部下…友が死んでいるはずがないと

ジョナサンは心配していた。
自分の友と師が無事であるかと

ブチャラティは祈っていた。
自分の部下、そしてトリッシュが無事であることを

3人は互いに心配をかけないようにポーカーフェイスで放送を聞こうとした。
だが現実は非情であった。
荒木の声が部屋に響く中、ついに犠牲者の発表が始まった。

「…ではゲーム開始からこの放送までの脱落者は、グイード・ミスタ」

この瞬間からだろうか、少しずつ崩壊が始まった。
まずブチャラティは歯をかみしめた。
だが荒木の声はやまない

「萃香…紅美鈴…十六夜咲夜…」

レミリアは息を飲み、頭の中が真っ白になったかと思うと
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だうそだうそだうそだうそだうそだうそだウソダウソダウソダウソダウソダウソダ…と頭の中で繰り返した。

「マミゾウ…ロバート・E・O・スピードワゴン…」

ジョナサンは拳を握りしめた。
だが彼の悲劇は終わらない

「プロシュート…ウィル・A・ツェペリ…」

ジョナサンはただ1滴涙を流した。



「…次の放送は昼の12時だ。それまで諸君の健闘を祈る。」

3人のポーカーフェイスは放送が終わる頃には崩れ去っていた。
レミリアはジョナサンの膝から降りて、ふらふらと調理場に向かおうとした。
ジョナサンは席を立ち、レミリアの肩に手を置いたが振り払われてしまった。

「レミィ、悲しい気持ちは分かる。だが急いで出発しよう」

レミリアは何も言わずに調理場へと歩いた。

「レミィ!!悲しんでいる時間はない!!こうしている間にもディオは…!!」

「近寄らないで!!!!」

大きな動物が咆吼を叫ぶかのような勢いにジョナサンは圧倒されてしまった。

「しばらく…しばらく1人にさせて」

レミリアは振り返らずに調理場へと入っていった。

「ジョナサン、心の整理も大事だ。しばらくは…しばらくはそっとしておこう」

「…ああ」

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

まだ調理場からすすり泣く声が聞こえる中ブチャラティが口を開いた。

「…なあジョナサン、君の信じられる道ってなんだい」

急な話題にジョナサンは戸惑った。

「いきなりなんだい…自分の信じられる道?」

「ああ少し聞かせてもらいたい」

「僕か…僕の信じられる道は…ディオを倒すことだ」

「DIOをか…」

「じゃあブチャラティ、君の信じられる道はなんだい?」

「俺はさっき言ったディアボロ…やつを倒すことだ」

「そのディアボロと何かあったのかい?」

「俺はディアボロを…組織を裏切ったんだ」

「組織?」

ブチャラティはヴェネチアのサン・ジョルジョ・マジョーレ島で自分の身に起こったことを手短に話した。


831 : 深淵なる悲哀 ◆fLgC4uPSXY :2014/08/05(火) 13:57:18 KWbsX2Is0
「後悔は…してるのかい?」

「後悔なんかしていない、俺は自分の道を歩みたいと思っただけだからな」

「自分の道か…」

「今俺たちの身に起こっている殺し合いでもだ、誰もが時間とともに死んでいく、自分の友が、家族が…
そんな中で自分の信じられる道を歩めることができる者が勝てるとは思っていない…だがそんな状況だからこそ、俺は自分の道を歩みたい」


ジョナサンは満を持して椅子から立ち上がり、調理場へと向かった。
ブチャラティは立ち上がったジョナサンを一目見ると安心した表情でジョナサンを見送った。



【レストラントラサルディー 一階 調理場】
レミリアはすみっこでうずくまって泣いていた。

レミリアは今二つの気持ちがあった。
一つは咲夜と美鈴が死んだことによる悲しみ、そしてもう一つは恐怖だった。
なぜ咲夜と美鈴のような強き者が死んでしまったのか…咲夜と美鈴は強い、それはレミリア自身がよく知っている。
咲夜を超える時間能力能力者がいるのか、美鈴を超える体術を扱える者がいるのか…
この殺し合いには自分が知っている能力者を超える能力を持つ者が何人いるのか…
そしてDIOという吸血鬼…こいつも自分より強い吸血鬼だったりするのだろうか…
考えれば考えるほど、レミリアの流す涙の量は増えていく。

二人の敵を取りたい、だけど家族の死を知り理解した死の恐怖
死んだらどうなるのだ、残された者はどうなるのだろうか…考えたくないことも考えてしまう



気高き吸血鬼は今、家族の死を悲しみ死という恐怖におびえる少女へとなっていた。

止まらない涙を流していると、一人誰かの足跡が聞こえた。
しっかりとした足の歩み、だが優しさを感じさせる足音にレミリアは誰が来たかすぐに分かった。

「レミィ…」

ジョナサンが来ても、レミリアはジョナサンを見ようとはせずただうずくまって泣いていた。
レミリアは無視をすると決め込んだ、無視していればそのうちどこかに行くだろうと
しかし…レミリアが予想もしない行動をジョナサンはとった。
なんと急にジョナサンがレミリアを優しく、その大きな体で抱きしめたのだ。

「ジョジョ…?」

急な行動にレミリアは一瞬泣くのをやめてしまった。

「レミィすまなかった…君の気持ちを理解せずに…」

「ジョジョ…」

「レミィ…今は泣いてくれても構わない…だけど進まなければならないんだ僕たちは…」

レミリアは何も言えずにいた。

「レミィ…僕の方を向いてくれ」

ジョナサンは一旦レミリアから離れた。
レミリアは何も言わずにジョナサンの方を向きジョナサンの顔を見た瞬間、またジョナサンはレミリアを抱きしめた。

「レミィ…生きてる者には死んだ者の声は聞こえないし…話せもしない…
 だけど亡くなった者の魂は消えない…戦士の魂は常に君と共にあるんだ。」

「だから君に誓いたい…君は僕達が支える」

レミリアはジョナサンの胸の中でゆっくりと涙をまた流した。


832 : 深淵なる悲哀 ◆fLgC4uPSXY :2014/08/05(火) 13:58:09 KWbsX2Is0
【D-4 レストラン・トラサルディー内/早朝】
【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、妖力消費(中)、右腕欠損、頭部及び顔面に打撲(小)、胴体に裂傷(小)、再生中
[装備]:なし
[道具]:「ピンクダークの少年」1部〜3部全巻@ジョジョ第4部、ウォークマン@現実、
    制御棒、命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:誇り高き吸血鬼としてこの殺し合いを打破する。
1:億泰をジョナサン、ブチャラティと共に追う
2:ジョジョ(ジョナサン)と対等の友人として認めて行動する。
3:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
4:殺し合いに乗った参加者は倒す。危険と判断すれば完全に再起不能にする。
5:ジョナサンと吸血鬼ディオに興味。
6:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。
7:最悪、日中はあのダサい傘を使って移動する。
8:咲夜と美鈴の敵をとりたい。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降です。
※波紋及び日光によるダメージで受けた傷は通常の傷よりも治癒が遅いようです。
※「ピンクダークの少年」の第1部を半分以上読みました。
※ジョナサンとレミリアは互いに参加者内の知り合いや危険人物の情報を交換しました。
 どこまで詳しく情報を教えているかは未定です。
※ウォークマンに入っている自身のテーマ曲を聞きました。何故か聞いたことのある懐かしさを感じたようです。
※右腕が欠損していますが、十分な妖力が回復すれば再生出来るかもしれません。
※スタンドについての情報を得ました。



【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:腹部に打撲(小)、肋骨損傷(小)、疲労(小)、半乾き、波紋の呼吸により回復中
[装備]:シーザーの手袋@ジョジョ第2部(右手部分は焼け落ちて使用不能)
[道具]:河童の秘薬(半分消費)@東方茨歌仙、妖怪『からかさ小僧』風の傘@現地調達、
    命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品、香霖堂で回収した物資
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:億泰をみんなで追いかける
2:レミィ(レミリア)を対等の友人として信頼し行動する。
3:レミリアの知り合いを捜す。
4:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
5:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードとタルカスの名が何故記載されている?
 『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なのか?
6:スピードワゴン、ウィル・A・ツェペリ、二人の敵をとる
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」のみです。
 コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもしれません。
※幻想郷、異変や妖怪についてより詳しく知りました。
※ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助について大まかに知りました。
4部の時間軸での人物情報です。それ以外に億泰が情報を話したかは不明です。
※スタンドについての情報を得ました。




【ブローノ・ブチャラティ@第5部 黄金の風】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、左腕に裂傷・腹部に刺傷複数(小)、胴体や両足に補食痕複数
    内臓損傷(小)、腹部に打撲(小)、幸運(?)
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:聖人の遺体(両目、心臓)@スティールボールラン、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊し、主催者を倒す。
1:億泰を追いかける
2:ジョルノ達護衛チームと合流。その他殺し合いに乗っていない参加者と協力し、会場からの脱出方法を捜す。
3:殺し合いに乗っている参加者は無力化。場合によっては殺害も辞さない。
4:DIO、サンタナ(名前は知らない)を危険視。いつか必ず倒す。
5:ミスタ…
[備考]
※参戦時期はローマ到着直前です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷についての情報を得ました。
※てゐの『人間を幸運にする程度の能力』の効果や時間がどの程度かは、後の書き手さんにお任せします
※波紋についての情報を得ました。
※ジョナサンの波紋で左腕の裂傷・腹部に刺傷複数、胴体や両足に補食痕複数、内臓損傷を回復しました


833 : 深淵なる悲哀 ◆fLgC4uPSXY :2014/08/05(火) 13:59:53 KWbsX2Is0
以上で投下終了です。
おかしな点があれば指摘よろしくお願いします


834 : 名無しさん :2014/08/05(火) 14:52:46 rUvX0ysc0
カリスマ溢れるレミリアが今は小さな少女にしか見えない
そしてそのレミリアを優しく抱き締めてあげるジョナサンは紳士の鑑や
重く心に響く良い作品だった、乙


835 : 名無しさん :2014/08/05(火) 15:13:49 S9W0e2wU0
投下乙です
ジョナサンの優しさが伝わってきました
この3人だとどこまでもいけそうな気がする


836 : 名無しさん :2014/08/05(火) 15:32:03 o9Yz6bj.0
投下乙です。
ジョナサン、まさに精神的貴族…本物の紳士だ
紳士と淑女とギャングの今後はどうなるのか
先が気になる対主催トリオだ


837 : 名無しさん :2014/08/05(火) 15:34:32 o9Yz6bj.0
っと、指摘になりますが放送直後となれば時間帯は『朝』が正しいかな…?


838 : ◆fLgC4uPSXY :2014/08/05(火) 16:49:39 KWbsX2Is0
>>837さん
ご指摘ありがとうございます

>>832
【D-4 レストラン・トラサルディー内/早朝】 を
【D-4 レストラン・トラサルディー内/朝】 に修正します


841 : 名無しさん :2014/08/05(火) 21:54:10 3miuHEDs0
正直ワロタ


842 : 名無しさん :2014/08/05(火) 22:34:02 l/YW4CZc0
なんか笑ってしまったwww

紳士淑女ペアいいなぁ・・・やっぱりジョースターさんは紳士だぜ・・・
このブチャを入れた対主催トリオには頑張ってもらいたい


843 : 名無しさん :2014/08/05(火) 22:40:02 ywBcYxxI0
投下乙です
紳士と淑女とギャング……イイッ!……億泰離脱が寂しいけど
頑張ってもらいたい3人だわ


844 : 名無しさん :2014/08/06(水) 00:08:19 09KoijMw0
投下乙です。

レミリアのマーダーフラグをへし折るだけではなく、レミリア攻略フラグを立てるジョジョ**
そこに痺れるうぅ〜、憧れるうぅ〜!


845 : 名無しさん :2014/08/06(水) 00:23:00 6uJj4Ki.0
ブチャラティって肉体はどうなってるの?


846 : 名無しさん :2014/08/06(水) 01:46:50 TyMs.dSs0
ゲリラ来たのかと思った


847 : 名無しさん :2014/08/06(水) 15:13:03 U1WhfFsQ0
正直もうジョナサンレミリアとくっつけよって思ってしまった自分がいる
エリナいるけどね☆


848 : ◆n4C8df9rq6 :2014/08/06(水) 16:46:36 bG5X8snA0
予約延長させて頂きます。


849 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/08/09(土) 22:40:02 Y5ehPXw20
上白沢慧音、封獣ぬえ、吉良吉影、東方仗助、比那名居天子、
広瀬康一、河城にとり、パチュリー・ノーレッジ、岡崎夢美
予約します


850 : 名無しさん :2014/08/09(土) 23:16:10 KkbrqlrU0
遂に来たか…!


851 : 名無しさん :2014/08/09(土) 23:23:42 sDS4LOKM0
藁の砦キター!


852 : 名無しさん :2014/08/10(日) 01:21:09 0lzTP7ZI0
丸く収まる気配が全く無い


853 : 名無しさん :2014/08/12(火) 21:26:22 h4SPCCVk0
楽しみにしてる


854 : ◆.OuhWp0KOo :2014/08/14(木) 00:19:50 jDHvD03w0
秋静葉、古明地さとり、霊烏路空、寅丸星

の4名を予約します。


855 : 名無しさん :2014/08/14(木) 00:34:11 j2K1F8cs0
果たして生還なるか、それとも…


856 : 名無しさん :2014/08/14(木) 00:48:27 PPAv2Q1g0
聖に出くわさなくてある意味助かった星ちゃん


857 : ◆n4C8df9rq6 :2014/08/14(木) 23:33:31 2JqKD0P20
申し訳ございません、予約破棄します


858 : 名無しさん :2014/08/15(金) 03:32:52 odzRIdps0
破棄やら延長やらが都筑に続いてすっかり勢いが落ちたな


859 : 名無しさん :2014/08/15(金) 10:29:11 oCbooV9E0
べつに前からこんな感じじゃない?


860 : 名無しさん :2014/08/15(金) 11:12:18 FMB3ZTas0
他所ではもっと過疎ってるところもあるし、へーきへーき


861 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/08/15(金) 23:11:33 hDw4XgQ.0
すみません。
予約延長します。


862 : 名無しさん :2014/08/15(金) 23:55:32 rI0zDp820
まあ人数が多いから…仕方ないね…
楽しみに待ってます


863 : 名無しさん :2014/08/16(土) 00:05:38 oewt.oa60
ガンバってください


864 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/16(土) 02:02:23 QVJRwA9E0
ディアボロ、サンタナ、虹村億泰、ジョナサン、レミリア、ブチャラティ
以上6名を予約します。


865 : 名無しさん :2014/08/16(土) 02:10:03 0e8cW5UQ0
紳士と淑女と時々ギャング

おっくんはどうなる…


866 : 名無しさん :2014/08/16(土) 02:14:20 1g6OlWr60
ヨンタナァ〜


867 : ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:46:15 ObNTS0SI0
蓬莱山輝夜、藤原妹紅
ゲリラ投下します


868 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:47:33 ObNTS0SI0
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



時刻は既に日没を越えている。
白いお月様が見下ろす中、私――――『藤原妹紅』は竹林の間からゆらりと顔を出す。
視線の先に立つのは長い黒髪が特徴的な一人の少女。

『おーっす…待たせた?』
『あら、ようやく来たのね』

首をこちらへと向けながら、黒髪の少女『蓬莱山輝夜』は呟く。
私を待ち詫びていたかの様に、口元には僅かに笑みが浮かんでいた。

『悪いね。慧音の手伝いしてたら遅れちゃってさ』
『いいのよ、私達の時間は幾らでも残されているわ。気が遠くなる程ね』

輝夜はくるりと身体を翻し、黒髪と着物を靡かせながらこちらを向く。
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらアイツはじろじろと私を見てくる。
もう見慣れているとは言え、相も変わらず癇に障る面構えだ。

『気が遠くなる程、か』
『ええ、私達は不老不死だもの。時間をも、死さえも超越した存在』
『故に生の実感を得られない。だからこうして時折殺し合いをしているんだしね』

輝夜と向き合いながら私は言葉を交わす。
私は一定の周期で輝夜とちょっとした待ち合わせの約束をし、こうしてたまに竹林で会っている。
腐れ縁同士による世間話を交わす訳ではない。
かといって何かしらの遊戯で親睦を深める訳でもない。

殺し合いをする為に顔を合わせているのだ。

私と輝夜の出会いと言えば、今から千年以上も前のことである。
元々輝夜は有力貴族だった私の父が熱を上げていた姫君だ。
しかしこいつは何度も求婚していた父に恥をかかせ、まんまと月に逃げた―――そう思っていた。
その後、私は輝夜の残した蓬莱の薬で不老不死の人間になった。
当初はあいつを困らせる為の意趣返しが目的だったのだが、あの時の私は魔が差してしまったのだ。
それから私は人目を避け、たった一人で生き続けた。
自らの所業を後悔し、不老不死を嘆き、ただ悲しみのままに妖怪を狩り。
気がついた時には千年もの時が流れ、私は幻想郷に辿り着いた。
そして私は輝夜と再会した。以来、同じ不老不死の肉体を持つ輝夜とは定期的に殺し合っている。
いわば不滅の身体を活かした喧嘩であり、死なない私達が命の実感を得る為の唯一の方法だ。

『ねえ、妹紅』
『…なに?』
『死ぬことって、どう思う?』

唐突に質問を投げかけられる。
いきなり何を聞き出してるんだ、こいつは。

『何となく聞いてみたくなっただけよ。
 貴女って智音や人里の人間とそれなりに関わってるんでしょう?
 妖怪や人間の命なんて、私達からすればそう長くはないのに。
 …あぁ、妖怪って言えばうちにも鈴仙とかいるけどさ』


869 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:49:30 ObNTS0SI0

神妙とも飄々とも捉えられるような微妙な表情で輝夜は言葉を紡ぐ。
いつもは私をおちょくってばかりの輝夜だが、時折こうゆう問いかけを投げかけてくる。
そう、こんな超然とした雰囲気を纏って。
当人の気まぐれなのか、それとも――――答えは解らないが、私は有りの侭に答える。

『友の死は…何度か経験してきた。悲しいけど、仕方ないって割り切る事は出来る。
 …あー、でも自分の死に関してはもう実感さえ湧かないわね。
 恐怖っていう感情すら抱けない。死が遠くなり過ぎて、幻想の様にさえ感じる』

私だって千年以上の時を生き続けている。
そんな長い歴史の中で、ごく少数ながら友人と呼べる相手が出来たこともあった。
慧音のようなお節介焼きもいれば、独りぼっちで似たような境遇の奴もいた。
尤も、昔の私はかなり荒んでいたこともあって素直に認められなかったし――――何より、相手の老いによってすぐに死別してしまう。
私はその度に心の底で寂しさを感じていたが、仕方が無いと割り切ることが出来た。
どうせ自分は永遠に独り身なのだから。寿命の差は覆らないのだから、と。

『それで思ったんだよね。不老不死って、「生きてる」と言えるのかって。
 産まれて、成長して、緩やかに老いて、死んで……生きるってそうゆうことじゃないのかって。
 でも私達は違う。成長もせず、老いることもせず、死ぬことさえなく…
 永遠を手に入れ、気が遠くなる程の果てしない時を渡り歩いている』

永遠に独り身――――そう思っていく度に、自分の『命』の価値が見出せなくなっていた。
『生きること』も、『死ぬこと』さえも自分に取って幻想へと変わりつつあった。
生きるものは成長していく。
生きるものは老いていく。
生きるものには『死』という終着点がある。
だけど、私たちにはそれが無い。
永遠となった存在は、果たして『生命』と呼べるのだろうか。

『ねぇ、輝夜。私達って本当に「生きてる」のかな?』
『生きているわ。だって私達は此処にいるもの。
 私は妹紅を見ている。貴女は私を見ている。生の証明なんてそれで十分よ』

――――輝夜はきっぱりと答えた。
私が思い悩み続けていたことを、大したことではない様に語ってみせる。
自分が相手を見ている。相手が自分を見ている。
生きている証など、それだけで十分だ―――――と。
そんなあっさりとした答えを聞いた私は、いつの間にか口元が綻んでいた。

『あんたらしい答えだね』
『生きている証明なんて幾らでも出来る。でも、私は実感が欲しいのよ。
 だから貴女と殺し合うの。何度でも、何度でも、何度でも…ね』

月明かりに照らされ、輝夜は微笑を浮かべる。
そう、私達は何度でも殺し合う。
弾幕ごっことは違う。ただ純粋に、己の力を使って命を奪っていく忌々しき争い。
何度でも死ぬ。何度でも殺される。意味の無い命の奪い合い。
しかし、終わりなき戦いに恐怖や絶望なども一瞬たりとも感じたことは無い。
何故なら、それこそが。
私達にとっての命の実感なのだから。
私達が感じられる命の鼓動なのだから。

『今日は、いい夜になりそうだわ』
『…そうかもね』
『こんなにいい月だもの』
『こんなにいい月なのに』

この須臾の昂揚で、私は生命の鼓動を感じられる。
この永遠の死闘で、私は生きている実感を得られる。
故に私は殺し合う。同じ永劫を歩む姫君と。



『本気で殺し合いましょう―――――妹紅』
『言われずとも―――――輝夜』



ああ、生きてるってなんて素晴らしいんだろう。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


870 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:50:35 ObNTS0SI0
◆◆◆◆◆◆◆


死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。


死にたくない―――――――――


「はぁ………くっ………はぁっ……!」


森を抜け、辿り着いたのは見慣れた竹林。
間違いない。此処は『迷いの竹林』だ。
無数の竹に囲まれ、その間から射す光から逃げる様に。
私は無我夢中で走り続ける。
心中で渦巻くのは―――――――恐怖。焦燥。

「っ…あ………はぁ………ッ」

何故、私は走っているんだろう。
何の為に、私は駆け抜けているんだろう。

芳香の分まで生きるため?
自分一人で逃げ延びるため?
死の恐怖から逃避するため?

(私は、あの子を『捨てた』―――――)

そうだ。私は――――芳香を捨てた。
大切な仲間を犠牲にした。
芳香は片手と片足を失った状態で、あの八雲藍に立ち向かった。
まず助かる見込みは無い――――決して信じたくない推論。
しかし、私の脳はそれを信じ込んでいた。

「彼女が死んだ」ということを確信していた。

助かる可能性など、万に一つの奇跡が起きない限り有り得ない。


『人は何かを捨てて前へ進む』


私は、一歩たりとも前へ進めない。
芳香の仇を討つことも、あの子の意志を継ぐことも、主催に抗おうとすることも出来やしない。
胸の内で、頭の中で、恐怖と絶望が濁流の様に渦巻く。
この深い竹林に迷い込んだ私自身と同じように。
私の心は、黒い泥濘の中から抜け出せない。

あの時の芳香は、何を思っていたんだろう。


871 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:51:06 ObNTS0SI0

―――――もこうがしぬのを、わたしはいやだからにきまってるから、じゃないか


私が芳香を助けていれば。
私が勇気を振り絞れていれば。
私が『前へ進む』ことが出来ていれば。

私が―――――

私がいたから、芳香は死んだんじゃないか。
芳香が犠牲になったのは、全部私のせいじゃないか。
私が何も出来なかったから。



―――――もこうのせいで、わたしはしんだんだぞ



(違う)

――――有り得ない。
私の頭の中で、芳香の声が響き渡る。
芳香の言葉が、私を責める。
違う。こんなものは幻聴だ。
あの子がそんなことを言った訳が無い。
言うはずが無い。

(言う、はずが)

頭の中で必死に否定を繰り返す。
繰り返せど繰り返せど、呪いは祓えない。
そして――――ぬらりと、私の背後に何かが憑く。

それは片腕と片足を奪われ、止めどなく血を溢れさせている少女。

私を気遣ってくれた、仲間。
私を心配してくれた、友達。
そして、


―――――なんで、おまえは、なにもしなかったんだ


私を庇って死んだ、キョンシーの少女。



「――――――――ッ!!!!」



―――――なきむしだな、おまえ



傷ついた身体で、憎悪に歪んだ表情で。
『あの子』は私を蔑む。私を責め立てる。


872 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:51:55 ObNTS0SI0

(五月蝿い!違う、違う!違う違う違う違う有り得ない!!芳香はそんなこと…ッ!!)

私の理性がそれを振り払おうとする。
こんなものは幻に過ぎない。嘘っぱちだ。
頭の中で必死にそう言い聞かせる。
だけど、声は消えない。
私を蝕む言葉をかなぐり捨てられない。
私の罪の意識を具現化したかのように、幻覚と幻聴に苛められる。

違う。
芳香じゃない。
有り得ない。
違う、筈なのに。


(違う―――――――――!)


―――――ちがくなんか、ない
―――――おまえがおびえていなければ


―――――わたしは、しななかった



「………あ、」


私の足が、止まった。
足が竦んだ。動けなくなった。
私にのしかかっていた重荷のような罪悪感。
その根源が、『芳香』の口から直接告げられた。
直後に私は、自然と両膝を地面に付く。

私は。
どうすればいい?
私は何を信じればいい?
どうやって前に進めばいい?
何を見据えればいい?
芳香の分まで―――《死にたくない》―――生きる?
私を守ってくれた――――《嫌だ》――あの子の為に――――《生きたい》―――生きる?


873 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:52:40 ObNTS0SI0
そうだ――――私は。
生きたい。死にたくない。
死にたくないんだ。
だから、あの子を見捨てて。


逃げてしまったんだ。


「あ……あああ………ぁ………」


ごめんなさい、芳香。
ごめんなさい。ごめんなさい。
全部全部、私のせい。
私が臆病だから。
私が死を恐れたから。
私が。死を、死を、死を、死を。
死を。
死に。
死にたくない。
生きたい。生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい――――――!



「―――――――――ああああああああああああああああああああアアアアァァァァァァァァァァァァァッ…!!!!!」



押し寄せたのは、罪悪感と後悔の濁流。
そして、未だ打ち克つことの出来ぬ絶望。
心が押し潰された少女は、悲痛な慟哭を上げる。
何度も何度も、泣き叫び続ける。
ただの、一人の少女のように。


―――――『人は何かを捨てて前へ進む』。ならば、お前は何を持っている?
―――――オレには既に『光り輝く道』が見えている。『男の世界』という名の路(ロード)がな。
―――――死にたがりのお前には何が見える?


あの男の言葉が、彼女の脳裏を唐突に過る。
まるで少女を追い立てるように。

そうだ。私には何が有る。
芳香を捨てた私に、何の道が見える。
『死を恐れる』私の目には、何が――――――――


(………え、)


思考の直後のことだった。
雑草を踏み頻るような音が耳に入った。
こちらへと着実に近付いてくる音に、気付いた。
これは――――足音、だ。


874 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:53:10 ObNTS0SI0
誰だ。
私を、殺しに来たのか。
私を、責め立てに来たのか。
何も無い私を、追い詰めに来たのか。
頼むから、来ないで。
お願いだから。
私を、見ないで。

しかし、そんな妹紅の感情と反して足音は徐々に近付いてくる。
竹林の影から、隙間から、少しずつその姿が露になる。

呆然と立ち尽くしながら、妹紅は――――
私は、そちらへと目を向ける。
その来訪者の正体は。



「…妹紅」
「輝、夜…」




あいつだ。
あいつは、私にとっての―――――

生の象徴であり、死の象徴。

頭の中で、記憶が、感情が。
濁流の様に渦巻く。


《吸血鬼や柱の男、妖怪に蓬莱人なんかも、この場にいる全員例外はないんだ》
《小娘、お前はどうなんだ?お前も俺の知らない『何か』なのか》
《お前は『いきもの失格』だ。虚無の『人形』はここでは必要なし》
《人間、お腹が空くと不幸せだし、逆にお腹がいっぱいだと幸せだ。》
《オレが仕留めるのは『漆黒の殺意』でオレの息の根を止めようとかかってくる者だけだ》
《ほら言ってみろ、私は別にお前を殺したりしない、死ぬのはいかんからな》
《理解しろッ!その『汚らわしい殺意』を俺に向けるんじゃあないッ!》
《私は……えーとえーと……宮古……そう!宮古芳香だ!》
《……このまま永遠に死に続ける気か?もう無駄だ。お前は何処にも到達することは出来ない》
《おい妹紅、もう無理だ、私は》
《死にたがりのお前には何が見える?》
《……おぅ、もこう。また、ないてんのか》
《そりゃあおまえ、もこうは、いいやつ、だからな。しぬのは、なにより、よくないこと、だぞ》
《しぬのは》
《ぜんぶ、おまえがわるいんだ》
《おまえのせいで》
《しんだんだぞ》
《おまえがおくびょうだから》
《わたしは》
《私のせいだ》
《でも死ぬのは駄目だ》
《死にたくない》
《怖い》
《嫌だ》
《生きたい》
《生きたい》
《生きたい》
《生きたい》
《生きたい》




《本気で殺し合いましょう―――――妹紅》



あぁ、そうか。
そうだよね、輝夜。
変わらない。いつもと同じだ。
生きるために。
■せばいいじゃないか。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


875 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:53:37 ObNTS0SI0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


皆は、生きているのかな。
何度同じことを思ったのだろうか。
先程からしょっちゅう考えている。
当然のことだろう。彼女にとってそれが一番の気がかりなのだから。

(ああもう、ちゃんと放送聞いとくんだった!)

朝日が僅かに射す中、果てしない竹林を一人の少女が進む。
『蓬莱山輝夜』。迷いの竹林の奥底、永遠亭に住まう姫君。
永遠を生きる不老不死の少女。

ゲームの始まりは――――何とも間抜けなものだった。
輝夜は支給されたマジック・ミラー号に閉じこもり、1年分のジャンプを読み漁っていたのだ。
予想外の面白さで病みつきになってしまい。
無心で漫画を読み続け。
気がつけば、全て読み終えた頃には放送を越えていた。
無論、放送の内容など聞いてなどいない。
誰が死んだのかなんて、知る筈も無い。

永遠亭の皆ならそう簡単に死ぬ筈が無い――――とも信じていた。
だが、やはり胸の内には不安と焦燥が込み上げる。
『漫画家になる!』という夢すら忘れかける程に、確かな焦りに蝕まれていく。
しかし慌てては駄目だ。私は永遠亭の姫君だ。
落ち着け、落ち着くの――――――


(…それにしても)


深呼吸をする最中に、彼女はふと周囲の竹林へと目を向ける。


―――こんなにも、深かっただろうか。


876 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:53:57 ObNTS0SI0
生い茂る竹の姿はいつも眺めている。
妖怪兎館が竹林で跳ね回る姿だって見ている。
『あいつ』と殺し合う時だって、竹林の中だ。
だというのに。


(…まるで、見知らぬ場所にいるような気分)


こうやって宛も無く地上を歩いているだけで、全く違う感覚に陥る。
それに兎の気配も、妖怪の気配すらも一切存在しない。
まるで自分だけが世界に取り残されたような。
何とも言い難い、奇妙な気持ちに襲われる。

だが、当然だろう。
今のこの竹林は、いつもの竹林じゃあない。
『殺戮遊戯』―――――その会場の一部に過ぎないのだから。

(ここもいつか、空しく血に染まってしまうのかしらね)

竹林を歩きながら、少女は想う。
殺し合いが経過してから6時間。
一体何人の参加者がゲームに乗ったのだろう。
一体何人の参加者がゲームで散っていったのだろう。
輝夜には解らない。
聞き逃したのだから、知る筈も無い。

ただ、ふと思う。
この殺し合いが加速すれば、この竹林の地ですらも紅く染め上げられてしまうのだろうか。
それどころか、何人もの参加者が『乗っている』として――――――


本当に、自分の大事な者達は無事でいられるのだろうか。



(……声?)



そんな中、輝夜は気付く。
慟哭のような。
泣き叫ぶような声が、聞こえる。


877 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:54:25 ObNTS0SI0
ドクン、と急に左胸の心臓が脈打つ。

咄嗟に左胸を片手で押さえた輝夜。
何がなんだか解らない。
だが、あの『声』を聞いた瞬間に胸騒ぎがしたのだ。

(まさか)

殆ど絶叫に近いような、言葉とさえ言えないような慟哭。
それを発したのは、私がよく知る『誰か』なのではないか。
根拠など無いが、先の胸騒ぎでそう感じたのだ。


(――――行かなく、ちゃ)


そうだ、行かなくちゃ。
ただ衝動に駆られるように、輝夜は動き出す。

目指すは『声』の聞こえた方向。
何かに絶望するような『慟哭』を耳にした方向。

輝夜は只管に走る。
竹林の中、無数の竹や筍の隙間を抜けるように走る。
何度か日差しにその身を映し出されながらも、意に介さず。
彼女は進み続ける。


(誰か、いる…!)


そして、輝夜は辿り着いた。
無数の竹の隙間から人の姿が見える。
『少女』は両膝を付き、呆然と宙を眺めている。
輝夜の存在に気付いた『少女』は、驚いたようにそちらの方を向いていた。

瞬間。
少女の姿を見た輝夜の表情が、驚愕の顔へと変わった。


(……嘘でしょ?)


『あいつ』だ。
『あいつ』なのだ。
だけど――――――あんな顔をしている姿なんて、見たことがなかった。
輝夜はそのまま驚愕を隠せぬまま、『少女』の前へと姿を現す。


「…妹紅」
「輝、夜…」


輝夜は、『少女』の名を呼んだ。
瞼が赤く腫れ、呆然とした顔を浮かべていた『少女』――――『藤原妹紅』もまた、輝夜の名を呼ぶ。


878 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:54:51 ObNTS0SI0
妹紅は唖然としたまま輝夜を見つめていた。
その表情は恐怖と絶望に飲まれ。
まるで、怯える童のように動こうとしない。

輝夜はすぐに異常に気づく。
何度も殺し合っている腐れ縁の仲だ。
妹紅のことは少なからず知っているし、それなりの付き合いもある。
だからこそ、彼女は異常だと感じた。

なんで、妹紅がこんな顔を。
なんで、あいつがこんな表情を。
なんで、あいつがこんな感情を。
なんで。
なんで。



なんで、そんなに畏れているのよ。
まるで死に怯える―――――『普通の人間』みたいじゃない。




「妹紅、あなた―――――――――――」






――――――その直後、輝夜の右腕が焔に包まれた。


え、と驚愕と共に怯んだ輝夜。
妹紅の妖術、不死鳥の焔だ。
余りにも唐突な攻撃。対処など出来る筈が無い。
その一瞬の遅れが、命取りとなる。


輝夜の身体を、絡み付くような劫火が焼き尽くす。
焔によってその視界が焼き尽くされる中、妹紅が僅かに『笑っている』ように見えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


879 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:55:39 ObNTS0SI0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


――――竹林が焔に焼かれる中、一人の少女が立ち尽くしていた。


目の前に転がるのは、全身を焼き尽くされた無惨な死屍。
こんなにも呆気ない。
ここでは、不死さえも容易く否定される。
あの男に味合わされたように――――この空間に於いて、永遠など存在しない。
そう、『人間』も、『妖怪』も。
こんなに容易く死ぬのだ。


「…ははっ」


嗤いが、口から溢れ出る。
始めは少しずつ。しかし、着実に狂気を増していく。
限界が訪れた彼女の精神の箍を破壊していく。




「はは、っははは、ふふは、はは、あはははははははははははははは――――――――!」




―――溢れる涙と共に、哄笑が響き渡った。

少女は自らを責め立てる重荷を振り払った。
狂うことで、恐怖から逃げた。
理性の箍を打ち崩すことで、絶望から目を逸らした。
光も、闇も、最早その瞳には映し出されない。


「みんな殺して――――――やり直せばいいじゃない!
 そうすれば、私は死なない!皆だって助かるもの!!」



錯乱した彼女の目に映るのは、都合の良い理想だ。
全てを無かったことにするという、ゲームそのものの否定。
そんな願いを叶えられる確証などあるはずが無い。
だが、彼女はそれに縋ることしか出来なかった。

「だから…待っててね、芳香」

死を恐れる想い。
芳香を死なせてしまった後悔。
それらから逃れる為の手段は、それしかなかったのだから。



「――――――――――私が全部、終わらせるから」



少女は笑みを浮かべ、焔に包まれた竹林を進み出す。
全てを焼き付し、殺し合いを終わらせる為に。
ただ生きる為に、不死者は狂気の沼へと沈んでいった。


【C-5 竹林/朝】
【藤原妹紅@東方永夜抄】
[状態]:発狂、霊力消費(中)、服回復中?
[装備]:火鼠の皮衣、インスタントカメラ(フィルム残り8枚)
[道具]:基本支給品(芳香の物、食料残り3分の2)、妹紅と芳香の写真、カメラの予備フィルム5パック
[思考・状況]
基本行動方針:生きる。
1:みんな殺す。
2:優勝して全部なかったことにする。
[備考]
※参戦時期は永夜抄以降(神霊廟終了時点)です。
※風神録以降のキャラと面識があるかは不明ですが、少なくとも名前程度なら知っているかもしれません。
※死に関わる物(エシディシ、リンゴォ、死体、殺意等など)を認識すると、死への恐怖がフラッシュバックするかもしれません。
※放送内容が殆ど頭に入っておりません。
※発狂したことによって恐怖が和らぎ、妖術が使用可能です。
※芳香の死を確信しています。
※輝夜を殺したと思っています。
※彼女がどこへ行くかは今後の書き手さんにお任せします。


880 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:56:07 ObNTS0SI0




「――――――……………………ッ………ぁ………………」


藤原妹紅が去ってから、暫しの時が過ぎた後。
少しだけ再生が進んだ死屍―――否、『彼女』はよろよろと立ち上がる。
覚束無い足取りで、辛うじて両足で地に立つ。

全身を焔によって焼き尽くされながらも、彼女は死ななかった。
その身が服用した『蓬莱の薬』。
それが齎す不死の力が、彼女の命を繋ぎ止めた。
尤も、制限下に置かれている現状では命を落としかねない程の重傷。
故に再生が遅れ、妹紅が立ち去るまで立ち上がることさえ出来なかった。

当然の如く、彼女の肉体は消耗している。
そのまま荒い息を整えながら周囲へと視線を向けた。

竹林が、燃えている。
撒き散らされているのは全てを灰燼に帰す無情な焔。
情け容赦もなく命を無に帰す劫火。
それらは幾つもの竹を、雑草を、無慈悲に焼き尽くしている。

これをやったのは、自分と同じ『不老不死』の姫君。
たった一人の宿敵――――のような存在。
輝夜がよく知っている少女、だが。
何かがおかしかった。

彼女は酷く怯えていた。
彼女は酷く錯乱していた。
彼女は酷く迷っていた。
そして、何より。

―――あんな妹紅の目は、見たことがない。

輝夜の知る妹紅は、生に疑問を抱いていた。
輝夜の知る妹紅は、生の実感を掴めていなかった。

妹紅は、自分と同じだった。
命の鼓動を死によって感じていた不死者。
それが。
あれほどまでに、必死で。
只管に生を渇望していたのだ。


(も、こう………っ)


あれは、本当に『藤原妹紅』なのだろうか。
本物なのか。あれが、妹紅だと言えるのか。
本物だとして――――――彼女に何があったのか。
答えは解らない。解る筈が無い。
彼女は妹紅が巡り会った悲劇を知らないのだから。
だが、故に輝夜は決意する。
真実を知る為に。


(――――追わなく、ちゃ)


身体の大半が酷く焼け爛れ。
右目は使い物にならず。
身を覆う衣服も殆ど消え失せ。
そんな死人のような姿で、彼女は歩き出す。
屍のような足取りで、焔の中を進む。


憎き宿敵を、止める為に。
愛しき同胞を、追い掛ける為に。


881 : 幻葬事変/竹取幻葬 ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:56:29 ObNTS0SI0

【C-5 竹林/朝】
【蓬莱山輝夜@東方永夜抄】
[状態]:顔の右半分火傷(大、右目失明中)、全身火傷(大)、再生中、精神疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、A.FのM.M号@第3部
[思考・状況]
基本行動方針:皆と協力して異変を解決する
1:妹紅…。
2:妹紅を追う。
[備考] 
参戦時期は東方儚月抄終了後です
第一回放送を聞き逃しました
A.FのM.M号にあった食料の1/3は輝夜が消費しました
A.FのM.M号の鏡の部分にヒビが入っています
支給された少年ジャンプは全て読破しました
黄金期の少年ジャンプ一年分はC-5 竹林に山積みとなっています

※C-5 竹林にて火災が発生しています。


882 : ◆n4C8df9rq6 :2014/08/16(土) 02:56:43 ObNTS0SI0
投下終了です。


883 : 名無しさん :2014/08/16(土) 05:00:13 evkMTibc0
投下乙です。
あややに続いてもこたんまで堕ちてしまったか・・・。
とりあえずニート姫が無事でよかった。
ここで脱落したらネタキャラすぎる。

妖怪兎館→妖怪兎達かな?


884 : 名無しさん :2014/08/16(土) 09:14:22 OpwuK9G.0
東方キャラは闇堕ちしやすいなあ


885 : 名無しさん :2014/08/16(土) 09:55:54 K2ELAYMQ0
ここまで来たらもう引き返せないな…
慧音センセーに出会おうが黄金の精神を持つ者に出会おうが立ち直れない気がする…


886 : 名無しさん :2014/08/16(土) 10:12:33 9vW6xLZE0
それでもニートなら……!
ニートならきっと何とかしてくれる……!


887 : 名無しさん :2014/08/16(土) 12:02:19 hRp7CFbkO
投下乙です。

最後の一押しをしちゃったのがその存在なら、それを止めようとするのも同じ存在。
殺し合いですっかり生の実感を取り戻しちゃった妹紅を、輝夜は止められるのか。


888 : 名無しさん :2014/08/16(土) 15:11:38 N7EOHMm20
投下乙です
輝夜はマンガ読んで退場か…と読んでて諦めてたのでちょっとホッとしたww
妹紅に救いの手を差し伸べられるのか、今後に期待ですね
それと誤字らしきものがあったので報告をば
>>868
貴女って智音や人里の人間とそれなりに関わってるんでしょう?

『智音』は『慧音』ですかね?


889 : 名無しさん :2014/08/16(土) 19:03:23 3HpHZHhs0
投下乙です
ここまで相当ひどい目に合ってきてそろそろ壊れるんじゃないかとは思ってましたが、輝夜相手にも全く情け容赦無しですね…
妹紅は二次創作だと設定的に死の概念に対して達観してることが殆どですがこのロワだと逆だから面白いです
輝夜は途中完全に死んだものだと思ってたから一安心…か?


890 : 名無しさん :2014/08/16(土) 22:41:41 nvXPEJPE0
いよいよディアボロとブチャラティか
その部の主人公とラスボスの会合は何気に初めてですね


891 : 名無しさん :2014/08/16(土) 23:03:10 OujMKC0k0
投下乙です。

輝夜久々の登場が悲惨過ぎる。
それにしても妹紅、狂ったとはいえ同じ不老不死だから輝夜を見逃すとは思わなさそうだけど。


892 : 名無しさん :2014/08/19(火) 05:14:24 z7GFtzc.0
いやブチャラティは主人公じゃねーよ!?


893 : 名無しさん :2014/08/19(火) 07:15:10 ECKvne1QO
それ以前に仗助と吉良も会ってるし


894 : 名無しさん :2014/08/19(火) 23:56:01 NvnGPYPw0
仗助と吉良
そういえばそうだった
ブチャラティも主人公格の一人とカウントしてた・・・
ジャイロとジョニィみたいに


895 : 名無しさん :2014/08/20(水) 00:07:59 AI.h8EvM0
とりあえずsageような


896 : ◆.OuhWp0KOo :2014/08/20(水) 20:40:40 7.dLrAX20
>>854の予約を延長します。


897 : 名無しさん :2014/08/20(水) 20:43:37 0aqp52lM0
「祈って」おこうかな…作品と作者の無事を…


898 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/08/23(土) 03:38:02 EjWFRjro0
申し訳ありません。
予約を破棄します。


899 : 名無しさん :2014/08/23(土) 04:22:22 MnmFviw60
あァァァんまりだァァアァ


900 : 名無しさん :2014/08/23(土) 09:22:56 /vnd1Tqg0
wikiに◆DBBxdWOZt6氏の予約が反映されていない?


901 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/23(土) 14:24:02 Yk9/i4Kg0
>>864 の予約を延長します。


902 : ◆.OuhWp0KOo :2014/08/27(水) 22:38:06 fVrZbEVM0
ごめんなさい。執筆が間に合わないので>>854の予約を破棄します。


903 : 名無しさん :2014/08/27(水) 23:02:58 37s0hraE0
か…彼は絶対書ききるマン…!


904 : 名無しさん :2014/08/28(木) 01:11:32 hnUZLwOE0
落ち着くんだ…素数を数えて落ち着くんだ…


905 : 名無しさん :2014/08/28(木) 20:29:28 VQvKma42O
12345678…


906 : 名無しさん :2014/08/29(金) 00:23:59 fDLcQ/9A0
このチンピラがオレをナメてんのかッ!
素数って言っておきながらなんで普通に数字数えてんだッ**
この…⑨がァーーッ**


907 : 名無しさん :2014/08/29(金) 14:29:27 Ibh9OPe20
そういやプッチ原作で間違えてたよな。
「28・・・違う、29・・・」って


908 : 名無しさん :2014/08/29(金) 19:06:54 opiLGNiA0
基数ならともかく偶数間違えるって神父相当焦ってたんだな


909 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 18:53:57 Yap/jkvM0
ディアボロ、サンタナ、虹村億泰、ジョナサン、レミリア、ブチャラティ

投下します。


910 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 18:54:48 Yap/jkvM0

レミリア達がレストラン『トラサルディ』から出ると、外の様子はすっかり変わっていた。
薄暗い暁から、清々しく感じるほど明るい朝へと変化し、朝もや煙る空気は鮮烈に澄んでいる。
普通の人間がこの晴天を見上げれば、今まであった嫌なことを全て忘れられるかもしれない。
しかし、その日の下にいるレミリアの表情は、この晴天に似つかわしくないほど歪んでいた。

「大丈夫かい、レミィ?やっぱりその……ユニークな傘を使うのは嫌かい?
 でも、これだけ日差しが強ければ使わないわけにも……」

ジョナサンはレミリアの不機嫌の理由をナンセンスな傘のせいだと思い、香霖堂から拝借したワイングラスで波紋探知機を作りながらも、
慎重に気遣う。が、レミリアは首を横に振って否定する。

「じゃあこの日差しか?確かに、人間だってちょっと参っちまうような日差しだ。
 吸血鬼だったら尚更……」

今度はブチャラティも落ちていた鉄パイプを回収しながら、思い当たることで気遣おうとするが、レミリアはこれにも首を横に振って否定した。

「「じゃあ一体?」」

最終的に二人の言葉が被った瞬間、レミリアは「ぎゃおーっ!」と叫んで、傘を持ったまま諸手を上げて、動物の威嚇のようなポーズを取った。
二人はレミリアの豹変に驚き、それぞれ持っていたものを落としかけ、少しだけ後ずさる。
そしてレミリアは怒りの表情を変えぬまま、一気に感情を爆発させた。

「確かに!こんなダサい傘を使うのも最悪の気分だし、この日差しも忌々しいったらありゃしないわ!
 でもそうじゃない!そうじゃなくって、何が一番ムカつくかって言ったら私!
 私は私にムカついてるの!あと私の大切な従者達を殺した下手人共!」

叫ぶレミリアの姿からは、先程までジョナサンに抱きしめられていた時のしおらしさは一片もない。
わがままで気分屋なツェペシュの末裔(自称)は、感情豊かなのだ。
悲しみの感情は一転し、今度は自分への激しい怒りへと変わっていた。

「従者が死んで、取り乱して、泣きじゃくって!……その上ジョジョに抱きしめられるなんてゴニョゴニョ……
 とにかく!自分で自分に腹が立つ……!」

いきり立つレミリアに、ジョナサンはどう言葉を掛けるべきかと考えていたが、先にブチャラティがレミリアに問いかけた。
その眼差しは真剣だ。

「そうか……で、どうするんだ?キレるだけキレてそれで終わりか?レミリア、君の『覚悟』を確認したい。
 俺も部下を殺された、俺はその落とし前は必ずつける。例え相手が誰であってもな……それで、君はどうする?
 怒りに任せて暴れるか?復讐を忘れて合理的に生きるか?どちらにせよ口だけじゃマンモーニ止まりだがな」

そう言い終えると、ブチャラティはレミリアを試すように、その瞳を覗きこんだ。
対するレミリアはふぅっと息を一つ吐き、ブチャラティの眼差しに応えるように、纏う気配と眼光を鋭くし語り始めた。


911 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 18:55:24 Yap/jkvM0

「そうね、確かにブチャラティの言う通り、億泰を追いかける前に、『覚悟』をはっきりさせておかなきゃね。
 私は、復讐するわ……紅魔の誇りを傷つけた者に、私の家族に仇なした者に……」

「レミィ……」

その言葉を聞くジョナサンは、心中複雑であった。彼は幼い頃から紳士として躾けられてきて、復讐は恥ずべきものだと認識している。
だが、彼自身、ディオの魔手により友を失い、父を失い、師を失った時、確かに復讐心を原動力にしたことがあった。
例え吸血鬼による支配を防ぐという建前があっても、その気持ちは正真正銘ジョナサンの意思だった。
故にレミリアに復讐は駄目だと言う権利はないと自覚していた。
実際今でも、ディオに対する戦意は変わらないし、師を二度目の眠りに就かせた者や友を殺した者に対して、やりきれない感情を抱いている。
だがそれでも、ジョナサンはレミリアにはそんな悲しい生き方をしてほしくないと思っていた。

そんなジョナサンに対して、レミリアは少し呆れるような微笑みを浮かべて、また話し始める。

「勘違いしないで、ジョジョ。別にあなたが気に病むことでもないし、そんなに悲しいことでもないわ。
 それに私は大切な家族を失って死の恐怖を知った……自分から死ににいくような馬鹿な真似はしない。
 私は決してあなたの考えているような不毛で愚かな殺し合いをしたいわけじゃないの」

レミリアはジョナサンに向き直り、言葉を続けた。

「誇りある者にとっての復讐とは、傷つけた誇りのそのツケの高さを、その身を以って思い知らせること。
 それに私は淑女である前に王なの。臣下を殺されて、何もしなければそれは乞食以下の王。
 応報出来なければ私は私でなくなってしまう。だから……王の誇りに誓って、私は正々堂々復讐を果たすわ」

勿論ジョジョ、あなたとの友情を裏切らない範囲でね、とレミリアは付け加えた。
そして前を向き、宣言するように誓いを声にする。

「咲夜、美鈴……あなた達の仇は必ず取る、あなた達の、私への忠義に誓って。そして下手人共……
 私の涙の一滴は、その何倍もの血で以って贖わせてやる。何滴も流したからその万倍、億倍ね。
 何故私がスカーレットデビルと呼ばれるのか、自らの血で紅色に染まった幻想郷を見て、知ることになる」

宣言する悪魔の表情は、この晴れ渡る青空のように澄み、照りつける太陽のように熱く輝いていた。
その瞳には一切の卑屈さも狂気もない。
あるのは真っ直ぐな意志と、黄金のような精神だけだった。

「なるほど……いいだろう。思った以上に冷静なようで助かる。失礼なことを言って悪かった。
 君の『覚悟』は俺がとやかく言えることではないようだ」

ブチャラティが軽く頭を下げてレミリアに謝罪の握手を差し出し、レミリアは「いいのよ、分かってもらえれば」と返し握手に応じた。
ジョナサンもレミリアの言葉を聞き、その表情を見たことで、レミリアが決して怒りや憎しみのまま復讐に生きようとしているのではないと悟り、
レミリアに笑顔を向けた。

「よしっ!これで一切の問題は無いわね!じゃあさっさと行くわよ!遅れないように付いてきなさい!」

レミリアはそう叫ぶと、後ろの二人を確認することもなく走って行ってしまった。
一瞬のことである。
ジョナサンとブチャラティは、レミリアの変化の早さに呆気にとられたが、すぐに走り出し後を追う。
呆れたような顔になり、走りながらブチャラティはジョナサンに「出会った時から彼女はこうなのか?」と問いかけると、
ジョナサンは「うん、でもそれが彼女のいいところだよ」と笑顔で返し、ブチャラティはやれやれと首を振り、「お似合いだな……この二人」
とジョナサンに聞こえないように小さな声で呟いた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


912 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 18:55:54 Yap/jkvM0

深い深い魔法の森。ここでは激しい陽光も濃く茂る木々に阻まれ、差し込む木漏れ日もまばらだ。
朝ではあるが爽やかさは無く、重苦しい湿気と、多少薄らいでいるとはいえ確かに立ちこめる瘴気が歩く者の足取りを重くする。
そしてそこを歩く者は、そうでなくとも憔悴し、その歩みの遅さは牛にも劣るものだった。
それもそのはず、その男は少女とはいえ人間を抱えて長い距離を走り回り、その上左半身に大きな火傷を負っている。
本来なら適切な治療を受け、安静にしていなければ命にも関わる重症だ。
ジョナサンの手で波紋治療を受けているものの、動き続ければ当然治りは遅い。
男の名は虹村億泰。彼を動かすもの、それは――

「あっちゃならねェんだよ……大切な家族がいるのに罪を犯すなんてことはよォ〜〜ッ!
 止めなきゃなんねェ……止めなきゃ……さとりは……あの空ってコは……俺と兄貴みたいになっちまう……ッ!」

――『後悔』と『信念』だ。億泰はかつての後悔と自分が正しいと信じる信念を杖とし、辛うじてその足を動かしていた。
億泰の双肩には、自身の過去への責任と、二人の少女の幸せな未来が乗っている。
故に、億泰の精神力は尽きない。そしてその精神力が尽きぬ限り、その歩みを止めることはない。
それが心に思ったことだけをする彼の信じる生き方だった。

そうして億泰が少しづつでありながらも歩を進めていると、唐突に場違いな声が響き渡り始めた。

『マイクテスト、マイクテスト…… ――』

おぼろげな意識で歩いていた億泰だったが、その内容を聞いているうちにそれが一回目の放送であることに気づき、
歩みを止めて耳を傾けた。誰も死んでいないことを願いながら。

『――以上、18名だ』

やがて死者の読み上げが終わる。願い虚しく18人。知り合いが誰一人として死んでいなかったとは言え、すでに18人もの死者が出ていることに、
億泰はショックと怒りを禁じ得なかった。
自分の住む街に殺人鬼がいることを知った時以上に、その衝撃は大きかった。
その上主催者はその結果を素晴らしいなどと言って悦んでいる。
吉良以上にイカれたその物言いに、怒った億泰は自らの負傷を忘れて寄りかかる木に拳をぶつけた。
拳から血が流れる。しかし、この会場内にはこの血と比べ物にもならない量の血が流れていることを思い、
億泰はやりきれない感情をただ一言「ちくしょォ……」と声に変える。
しかしそうであっても、ここで歩みを止める訳にはいかない。
ここで歩みを止めてしまえば、防げる不幸も防げなくなってしまう。
例え全てを救えずとも、自分の手が届く範囲だけでも、億泰は何とかしたかった。
そして少しだけ休憩し、思いを新たにした億泰はまた歩き出した。
その行く先には、不幸の元凶が二人。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


913 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 18:56:59 Yap/jkvM0

森の闇に人影二つ。柱の男の末席サンタナと、帝王の忠臣ドッピオだ。
その内サンタナは人間と吸血鬼に負わされた負傷の影響と、差し込む木漏れ日で茂みの中から大きな身動きを取れず、
ドッピオはこの状況で漁夫の利を得るべく、思索と体力回復の為木陰に隠れ、時折エピタフで未来予知をしながらサンタナの様子を窺っていた。
痛む頭を抑えながら、ドッピオはバックの中から時計を取り出す。時刻は5時58分、第一回放送が間もなく行われる。
誰が死のうとドッピオは特に知ったことではなかったが、敬愛するボスであるディアボロの障害になるブチャラティチームや暗殺チームのプロシュート、
ボスの娘であるトリッシュ、またボスの天敵である古明地さとりと兎耳の女などの死を期待しつつ、
ドッピオは今はまだ帰ってこれないボスのため、放送内容をメモするべくバックの中から紙と筆記用具を取り出した。やがて放送が始まる……。

――先ずはこれまでに脱落した者たちの発表だ。
  名簿片手によく聞いてくれよ。一度しか言う気はないからねェ。
  では、ゲーム開始からこの放送までの脱落者は、
  グイード・ミスタ――

主催者のくだらない前置きに辟易していると、目当てである死亡者の読み上げで、いきなり死んで欲しい人間の名が読み上げられた。
グイード・ミスタ。拳銃のスタンド『セックス・ピストルズ』の使い手の下っ端のカス。
ボスにとって死の優先順位は低いが、死んだだけでも良しとする。

――アリス・マーガトロイド
  幽谷響子
  プロシュート
  ウィル・A・ツェペリ
  シーザー・アントニオ・ツェペリ

以上、18名だ。 ――

そして更に読み上げられた中には、自身が拷問・尋問をした女と思われるアリスと、暗殺チームのプロシュートがいた。
最も死んでいて欲しいジョルノ・ジョバーナやブチャラティが居なかったことは残念だったが、18人はまずまずの人数だと満足する。

――追加禁止エリアは「B-4」だ――

次に追加禁止エリアの発表。2つ隣のB-4だった。ドッピオは自身に大きな影響は無いことを確認しメモを終えた。
後は茂みに隠れた化け物を注意深く観察しつつ、体力回復に努めるだけだ。
そうして暫くの間じっとしていると、エピタフの未来予知に、大きな変化があった。
未来のビジョンには揺らめく影が見える。

(人が近づいてくるな……)

数秒すると、森の奥から揺れる影が見えてきた。

「人が近づいてくるな……」

ドッピオはかねてからの考え通り、この状況で最も得をする立ち回りをするため、気配を殺しまずは様子を窺った。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


914 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 18:58:18 Yap/jkvM0

サンタナはなにもかもどうでもよかった。放送も、死亡者も、禁止エリアも。
唯一つ、己がアイデンティティを取り戻せさえすれば。
鳥が空を飛ぶように、魚が水を泳ぐように、柱の闇の一族にとって人や吸血鬼は支配して捕食することが当然であった。
例え一族の末席とはいえ、絶対に揺るぐことのない自負をサンタナは無意識的に持っていた。
しかしその当然が支配して当たり前だった者共に敗れたことで崩れ去り、皮肉にも敗北により、初めて自分の感情で行動することを覚えた。
だが状況は最悪だった。遅々として進まない回復に加え、不注意により片足の石化。
感情だけが先走り、体は碌に動かない。故にサンタナは初めて覚えた激情に飲まれ、半ば正気を失いつつあった。

「ち、がう……違う……っ!オレは……GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」  

隠れこんだ茂みの枝をバキバキと折り散らかす。
自己の喪失の恐怖と敗北への怒りによるストレスは、サンタナを着実に追い詰めていた。
早く、この精神的苦境を解消しなければと考えを張り巡らすが、この深い森を抜け出せば、
耐えることもままならない忌まわしい日光が降り注いでいる。どうすることも出来ない。

ザッ……ザッ…

しかしその時、サンタナは何者かが近づいてくる足音を察知した。
そのことでサンタナは一時的に冷静になる。激情は覚めることは無いが、自身の絶対性を証明するための得物を前に、
捕食者としての理性を取り戻したのだ。絶好のチャンスを逃さぬため、サンタナは近づいてくるものの様子を窺う。

「今……確かにあそこの茂みから音がしたよな……動物?いやでも今の今まで一匹も見てねぇしな……
 まさか、空か?」

来訪者は虹村億泰であった。サンタナの枝を折る音と叫びの残滓を聞き、近づいてきたのだ。
億泰はそこに自らの追いかける霊烏路空と古明地さとりがいるのではないかと考え、恐る恐る歩み寄る。
サンタナはそれを待ち構え、確実に捕食するため声を殺し待ち受ける。
じり、じりと億泰が茂みに近付く。サンタナは今にも飛び掛かりたくなる衝動を抑え忍ぶ。
5メートル、4メートル、3メートル……!サンタナはいざ吸収と身構えたが、茂みから3メートルまで近づいた時点で億泰はふと足を止めた。
憤りに身を震わせることを抑え、サンタナは歯を食いしばり目を血走らせて待つ。しかし少し待てども近づいてくる様子がない。

(UGOOOOOOOOAHAAAAAAAA!!!近づけッ!近づけッ!人間は吸血鬼になり、このオレに喰われるためにいるのだッ!
 近づきオレの贄になれいいいいいいいいいいいいいッッ!!!)

サンタナの激情は臨界点に達する。理性を手放しかけ、今すぐにでも飛び掛かっておかしくない。
対する億泰は何故立ち止まったのかというと――

(待てよ……隠れてるのがお空とは限らねェ……もしかしたらやべぇ奴が急に襲いかかって来るかも知れねぇ……
 例えばさっきブチャラティに任せた化け物のオッサンみてぇな……でも確かめねぇわけにもいかねえしな……
 どうすっかなぁ〜)

珍しく慎重であった。しかも偶然想定した敵まで一致している。(といっても後方でブチャラティと戦っていると思っているため、
本当にサンタナがいると思ってはいないが)
もし慎重でなければ、今頃億泰はサンタナの貴重なタンパク源として喰われていただろう。
だが一度気になった以上確認しないわけにもいかない。億泰はどうにか近づかず茂みに隠れた何者かを確かめるため、
あまり得意ではない考え事に耽る。


915 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 18:59:15 Yap/jkvM0

「拳銃……はもし空達だった時に危ねぇし、木の枝でつつくってのもアラレちゃんじゃねーんだからよ……
 いっそあの茂みが無ければなぁ〜……ん?茂みが無ければ?そうだ!俺には『ザ・ハンド』があるじゃねーか!!
 『ザ・ハンド』で茂みだけ削り取ればいい!そうすりゃ俺が近づかなくっても茂みの中身がわかるしな。
 俺って頭イイ〜〜!」

普通真っ先に自分のスタンドを利用することを考えつくものだが、答えに辿りつけただけ億泰にしてはマシだった。

「ザ・ハンド!!」

億泰の掛け声とともに、ロボット様な顔をした全身の各所に$と¥の模様の付いた長身の人型スタンド、『ザ・ハンド』が現れる。
能力は主に右手で薙いだ空間を削り取る能力。億泰はその能力を今、茂みに向けて使用した。

ガオオーーンッ!!

奇妙な音が響き茂みの中が白日の下に晒される。その時――

ザシュッッ!

――赤い刀身が茂みのあった場所から伸び、ザ・ハンドの胴を切り裂いた。サンタナの不意打ち、スタンドをも切り裂く天界の宝剣・緋想の剣だ。

「なっ……あっ……ッ!」

億泰はスタンドから自身にフィードバックされた腹の傷を抑え、呻きながら後退する。
幸運なことに、一瞬早く身を引いたため、傷は浅かった。

「NUUUUUUUUUUUU!!」

一方サンタナは最大のチャンスとも言えたカウンターの不意打ちに失敗し焦る。
このままでは、日の差し方によっては石化してしまう。いや、その前に不意に差し込んだ木漏れ日で再起不能になってしまうかもしれない。
考えられる手段は二つ。このまま日差しを無視して突撃し、目の前の人間を体の内側から乗っ取り肉の傘とするか、
一旦今の茂みのように隠れられる場所を探し態勢を立て直すかだ。
だが、サンタナは一瞬考えただけで、すでに体は動き出していた。
当然、前者。それが今のサンタナの答えだ。
相対する人間は先程戦った『スティッキィ・フィンガーズ』の『ブチャラティ』と同じ、人型のビジョンを操る人間。
サンタナにとっては自らの力を証明する千載一遇のチャンスだった。
故にここでサンタナが『逃げ』を選ぶことはない。
彼は既に追い詰められた極限状況で、『受け身の対応者』でなくなったのだから。

「うっ……おおおおおおおおおッ!コイツはッ!この『化け物』はッ!ザ・ハンドォォォォォッ!」

対する億泰は、自分の冗談じみた想像が当たっていたことに驚きながら、サンタナの突撃を防ぐためザ・ハンドで反撃を仕掛ける。
一瞬ブチャラティは負けてしまったのだろうか、と考えたが、考えている余裕はなかった。

ギャオオオオオオオンッッ!!

サンタナの振り下ろした緋想の剣の刀身が、ザ・ハンドに削られる!
億泰は攻撃手段を断ったと確信したが、瞬間!蘇った緋想の剣の緋色の斬撃に右足を切られていたッ!

「なッ……なにいいいいいいいいッ!」

「まず、足を奪った……!」

何故、緋想の剣の刀身は消え去らなかったのか。それは、億泰が削ったのは緋想の剣の刀身ではなく緋想の剣が纏った『気質』だったからだ。
緋想の剣は振るう相手に応じてその弱点となる気質を纏う。それは剣固有の能力として何度でも発動することが出来、故に一瞬その気質だけ
削ったとしても、再発動するのは容易だった。
サンタナはザ・ハンドを歯牙にも掛けず、確実に仕留める為億泰の右足を切り、逃げる術を奪った。


916 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:00:04 Yap/jkvM0

「やはり……オレが上だッ!吸血鬼も人間も、オレは超越しているッ!『柱の闇の一族』こそが……頂点!
 貴様達原始人は……家畜以下の存在だ……!」

そう言いながらサンタナは億泰に止めを刺すため剣を振りかざし突貫する。
幸運なことにまだこの時間帯では日陰が多く、サンタナは十分行動できた。

「人間が……『家畜以下』だぁ?ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞこんスッタコがぁぁぁーッッ!
 俺は頭わりーから難しいことはわかんねーがよぉー、俺やブチャラティがテメェに劣ってるとは一ミリも思わねーぜッ!
 暴れることしか出来ねーくせに何が『原始人』だこのタコッ!そりゃテメーのことじゃねーかッ!」

「うるさい……ぞ……人間風情が……ッ!!

億泰は臆すること無く真っ向から立ち向かう。死ぬわけにも、この化け物を野放しにするわけにもいかない。
確かな決意を宿して、ザ・ハンドを構える。

「ザ・ハンドォォォォッッ!」

ザ・ハンドの右腕がサンタナに向かって突き進む。
だが先程の攻防により、サンタナは億泰のスタンドの削り取る能力の特性や動きを見極めている。
ザ・ハンドはその削り取る動作がある故どうしても攻撃が大振りになってしまうのだ。
なのでサンタナは防御すること無く体を変形させ回避した……かに思ったが!

ゴ ッ ッ !

「グッ……ヌッ!?」

突如、サンタナの背後からその背骨を折らんばかりの勢いで苔むした岩が飛んできた。
当たったサンタナは不意を疲れたことで一瞬怯む。

「ざまーみやがれッ!俺のザ・ハンドはこういうことも出来るんだぜッ!」

サンタナにはまだ見せていなかった億泰の隠し球が炸裂する。
ザ・ハンドの応用、物体の瞬間移動能力だ。

「フッ……」

だが、サンタナはニヤリと笑った。そして笑ったまま次の瞬間、なんと体をくの字に曲げたまま、その勢いを利用して億泰に突っ込む!
人間ならば痛みに悶え行動不能になるような攻撃だったが、曲がりなりにも柱の男であるサンタナにとっては小石同然のダメージだったのだ!

「クソッ!マジかよッ!こうなりゃ一旦距離を取るしかねぇ、ザ・ハンドッ!」

サンタナの攻撃が命中する直前、億泰はザ・ハンドの能力で瞬間移動し距離を取ろうとした。
しかしそれを読んでいたサンタナは、自身の肉片を億泰に向け発射した。
ミート・インベイド(別名 憎き肉片)だ!

「なっなんじゃこりゃあああーッッ!!!すっ吸われるッ!」

攻撃は億泰が瞬間移動するまさにその時に命中した。
瞬間移動自体は成功したが、億泰の体にはサンタナの肉片がくっつき、その生命力を吸い取ろうとしてくる。
億泰はザ・ハンドで肉片を削り取ろうとするが、蠢き逃げ延びようと肉片が動きまわり、狙いを定めることが出来ない。
だが、決してサンタナが一方的に有利になったわけではなかった。
サンタナが陽の光に焼かれるのが早いか、億泰がミート・インベイドに吸い殺されるのが早いか、だ。
戦いは完全に持久戦になりつつあった。


917 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:00:36 Yap/jkvM0

(ちくしょおお……ヤバイぜ……このままじゃやられちまう……でもザ・ハンドの攻撃は通用しねぇしどうすれば……ッ!)

(どうする……奴を逃すわけにはいかない……しかし奴には逃げる能力がある。時をかければ自ずとオレの勝ちだが、
 その間に太陽がこの場に差しこむやも知れぬ……決着を急がねば……)

このように当人たちにとっては抜き差しならぬ状況であった。お互いに攻め手を欠き、しかし急がねば命の危機だ。
が、そんな中、この光景を隠れ見つめほくそ笑む者がいる。
そう、ドッピオだ。彼は参加者の潰し合いと安全の確保の一石二鳥を前に、その拳を握りしめていた。

(いいぞ、いいぞ潰し合え……しかし、あの馬鹿そうなスタンド使い……あの能力はまさか、古明地さとりを殺す際、
 邪魔をしてきた奴じゃないのか?古明地さとりがいないのは気になるが、面倒なスタンド使いが減るのは凄くいい……)

ドッピオは未だ隠れ様子を窺っていた。何故サンタナと億泰が戦い始めた時点で逃げなかったかというと、
二人とも手負いであり、勝者が決まった時点で乱入し漁夫の利を得ることが容易だと判断したからだ。
このままうまく行けば二人分の支給品を奪い取ることが出来る。
もちろん帝王のスタンド、キングクリムゾンにとって生半可な支給品など無価値なものだが、体力を回復出来るものなどあるかも知れないので、
奪う価値はある。その皮算用を浮かべながら、ドッピオは早くそれを実行するため、戦いの決着を見守った。
億泰にも、サンタナにも、勝っても負けても最悪が約束されている。
まさに絶望的な状況だった。だが、エピタフを見たドッピオの表情が驚愕に変わった、その時――

「安心するのよ!虹村億泰!」

――紅い悪魔が、真の紳士が、信義のギャングが、そこに現れた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


918 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:01:16 Yap/jkvM0

「億泰ッ!」

ジョナサンは現れるやいなや億泰に近づき、波紋でサンタナの肉片を焼ききった。

「ジョッ……ジョナサンッ!ブチャラティッ!それにレミリアの嬢ちゃんもッ!!」


「誰が嬢ちゃんよ!これでも私は500歳……って言ってる場合じゃないわね……まーたあいつね、しつこいったらありゃしない……
でも最早これまでよ、フラン流に言うなら、『あなたはコンティニュー出来ないのさ!』ってところね。
 じゃあ……ジョジョッ!ブチャラティッ!行くわよ!」

「ああ……それにしても億泰、無事で何よりだ。だが気を抜くのはまだ早いぜ……ジョナサンッ!合わせるぞ!スティッキィ・フィンガーズッ!」

「よし分かった!億泰は後ろに下がっていてくれ!コイツの相手は僕達がする!……波紋!」

三人は乱入するやいなや、サンタナへの攻撃を開始した。
まずレミリアが高速で突撃、サンタナを撹乱する。
次に先程回収した鉄パイプをスティッキー・フィンガーズが構え、その鉄パイプにジョナサンが波紋を流し込む。
そしてスティッキィ・フィンガーズの能力でその拳を高速で飛ばし、サンタナへと突撃させた。
移動中、ブチャラティとレミリアがジョナサンにサンタナの能力、特性を話していた際、
ジョナサンはサンタナが吸血鬼、またそれに類する何かではないかと推察したため、
三人で波紋を利用したコンビネーションを考えていたのだ。またそれ以外でも対吸血鬼戦で活用できる。

対するサンタナは混乱していた。ただでさえ不利な戦場で、先程敗れた吸血鬼と人間に加え、
ジョセフ・ジョースターによく似た波紋使いと思われる者さえいる。
最早逃げることすら敵わない。将棋やチェスでいう詰みの状態だった。

またドッピオも混乱していた。突然の乱入者達により算段は崩れ、動転する。
しかも乱入者の中にはあの裏切り者のブチャラティまでいる。
未だボスからの応答もなく、逃げるにも回復しきらない体調から気づかれればすぐ追いつかれてしまう。
無害を装って輪に入る手もあるが、兎耳の女に見つかった場合や行動制限のリスクが大きい。
幸い今はまだ自分の存在は誰にも気づかれていないので、ドッピオはこの場での最善策を取るため焦りながら思案した。

そうしてサンタナとドッピオが混乱しているうちに、戦いは動く。
放たれた連携攻撃をなんとか回避しようとサンタナは体をひねったが、レミリアに牽制され大きく動くことが出来ず、
その右腕にスティッキィ・フィンガーズの一撃を受ける。威力自体は大したことはなかったが波紋が流れ込み、その腕を焼き始めた。
かつて戦ったジョセフ・ジョースターの波紋とは比べ物にならないその威力にサンタナは驚愕しつつも、
波紋が全身に回る前にその腕を切り落とす。
だがその間にブチャラティとジョナサンも距離を詰め、一気に攻撃を繰り広げた。
左右から迫る攻撃に、なんとしても波紋だけは回避しようとサンタナはあえてブチャラティの方へと回避した。

「そうか……俺の方でいいんだな?いくぞッ!
 アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ
 アリーヴェデルチ!(さよならだ)」

「UOOHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!」

なんとか波紋だけは回避することが出来た。しかしその代償にスティッキィ・フィンガーズのラッシュを受け、
サンタナの体は思考もできぬほどバラバラに分割されてしまった。


919 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:02:03 Yap/jkvM0

「よし、ジョナサン!君の波紋でとどめを!」

ブチャラティはジョナサンに向き直り、止めを促した。だが、ジョナサンはワイングラスを持ったまま、止まっていた。
そこにレミリアも近づいてきて、怪訝そうな顔でジョナサンに問いかける。

「ジョジョ、何をしてるの?早く止めを刺さなきゃしぶといあいつのことだからまた悪さし始めるわよ?」

「ああ……だが気になることがある。あそこの木陰から生命反応があるんだ……誰かがいる」

ジョナサンがそうつぶやくと、レミリアとブチャラティもその木陰に目を向けた。

「……確かなことなのか?」

ブチャラティがジョナサンに小声で耳打ちする。

「ああ、確かにこの波紋探知機に反応がある。それに戦っている最中もあの木陰は視界に映っていたから、後から来たわけでないことも確かだ。
 つまり先程からそこにいたようだ……」

サンタナの肉片に気を配りながらも、ジョナサンは答えた。

「成る程……考えられるのは、ただ単に臆病な奴、何らかの理由で動けなくなってしまった者、
 もしくはコソコソと様子見をして機を窺っているゲス野郎ってところか。
 よし、とりあえず探りを入れてみるか……」

そう言って、ブチャラティは不審者が隠れていると思われる木に向かって、声をかけた。

「俺達はある手段によって君がそこに隠れていることを分かっている!だが安心して欲しい、俺達は殺し合いに乗っていない。
 信じるのは難しいかもしれないが、君が出てきてくれるなら、荷物を捨て、両手を挙げよう。
 動けない身体的な理由があるならば言ってくれ。10秒以内に何の返答もなければこちらからそっちに行く、いいな?」

そう言い、ブチャラティはカウントを始めた。
それを聞く不審者――ドッピオは、窮地に立たされた混乱で、粗暴で口汚い性質になり、必死に打開策を考えていた。

(何でここがバレちまってるんだよチクショォォォォッ!十秒後の映像ッ!確かに奴らが近づいてきている……!
 近づいてくるならキングクリムゾンで確実に一人は始末できる……しかしその後が問題だ……
 二対一、しかもキングクリムゾンの連続発動は出来ない……だが逃げるにしても回復しきらないこの体調では逃げ切れないッ!
 どうするッ!?最善策を考えるんだ!)

焦りながらも窮地を脱するため、ドッピオは何か使えるものがないかと周囲に目を見やる。
そして、ある支給品が目についた。

(もしこれが説明書通りのものならば……いや、考えている暇はない……やるしか無いッ!)

ドッピオが覚悟を決めた瞬間、ブチャラティからタイムリミットを告げる声が届く。

「オット、ノーヴェ、ディエーチ。時間だ。約束通り、こちらからそっちにいかせてもらうッ!
 ジョナサン、レミリア、気を抜かず付いてきてくれ。億泰はそこで待っていろ」

「……うん」

「ええ」

「ああ……」

三人は臨戦態勢で近づいていく。
その瞬間――


920 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:02:46 Yap/jkvM0

「――キングクリムゾン」

――時間は吹き飛んだ。
ドッピオは一気に走りだす。

(まず何とか走って距離を取る……全員を相手している余裕はないからな……
 そして!)

ドッピオは支給品から鉄筋を一本取り出す。そしてキングクリムゾンを使い、投げた。
ゆっくりとコマ送りのように進んでいく、ブチャラティに対して。

「始末するのはお前からだ、ブローノ・ブチャラティ。ボスにとってこの場で一番邪魔なのはお前だからな……」

鉄筋は高速でブチャラティに向かっていき、一瞬でその背に突き刺さった。
そしてその時点で吹き飛んだ時間は終わり、正常に時を刻み始めた。

「なッ……これはッ!ブチャラティィィィィィィ!!!」

「どうなってるのよ一体ッ!!早く!早くその鉄塊を抜くのよッーーーー!」

三人にとっては突然の事だった。気づかぬうちに多く歩んでいたかと思った矢先、前を行くブチャラティの背中から鉄筋が生え、倒れていた。
レミリアとジョナサンは周囲を見渡し、逃げ去るドッピオの姿を確認したが、ブチャラティの治療のため追うことが出来ない。
歯噛みしつつもブチャラティを救うため処置を始める。
一方ドッピオは後ろを振り返り、追ってこない連中を見てニヤリと笑う。

(追って……こないか……ならそれでいい。甘い奴らばかりのようでよかった……。
 "コレ"を使うまでも無かったが、安全を期す為にも――何ッ!?)

全てが上手く言ったと確信して、念のためエピタフを確認すると、
予知に、全く予期せぬ光景があった。自身は何故か動きを止めうろたえている。
想定に入れていなかった死にぞこないが、自分を引き止めている。
そして数瞬後、予知通りドッピオは動けなくなった。死にぞこない――虹村億泰に、その背にあるカバンを掴まれている。
ザ・ハンドの瞬間移動能力により、一瞬でドッピオに追いついたのだ。


921 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:03:26 Yap/jkvM0

「どこに……行こうってんだ?なあオイッ!」

引き止める力は万力のように強く、とても瀕死の人間には思えない。
完全に安心しきっていたドッピオは再び窮地に立ったことを認識し、焦る。

(クソッ!クソッ!死にぞこないがよぉぉぉぉ!ふざけやがって……!だがどうする?……キングクリムゾンの連続発動は出来ない……
 単純なスタンドパワーで殴り飛ばすしかないが、距離が近すぎるッ!クソ……どうにか誤魔化すしか……)

「わっうわああああひィィィ!!なんなんですかァあああ〜〜〜ッあなたァ!!?
 ぼくが何したっていうんだよぉおおおお!ぼくはただ、ここを通りすがっただけなんだよォおおお……
 さっきから気分は悪いし足はふらつくしさぁッ!!」

ドッピオは目眩をこらえ、どこまでも情けなく、非力な弱者を装いキングクリムゾンを再発動するまでの時間稼ぎを試みた。

「信じると……思ってんのかこんガキャア!俺は見てんだよッ!テメェがスタンド使ってさとりを殺そうとしてとこをよォおおおおッ!!
 テメーみてぇな自分の為なら誰が不幸になろうが構わねぇような奴がいるからッ!俺や兄貴やおやじも……!」

そう言い、億泰はザ・ハンドを出現させる。
億泰には確信があった。この男がさとりを殺そうとした犯人だと。
故に、最早演技による騙せる可能性も、交渉の余地も、どこにもなかった。

「空も……テメェのせいで消えない悲しみを背負っちまうとこだったんだッ!
 テメェみたいな不幸の元凶はこの俺の『ザ・ハンド』で削りとってやるッ!」

「うおおおおおうるせええええこのクソがァあああああああああッ!!調子に乗ってんじゃねえぞッ!
 離せボケッ!離せェえええええええええええええッ!!」

打つ手がなくなり、ドッピオは本性を露わにして暴れるが、逃れられはしない。
ザ・ハンドの右手が今、ドッピオの体を捉えた。

ガオオーーンッ!!

「ぎゃあああああああああああああああああッ!!」

ドッピオの右肩の肉がゴッソリと削り飛ばされ、尋常ではない痛みが濁流のように押し寄せる。
その影響で肩にかけていた二つのデイパックは外れ落ちた。

「ああああああああああやめろぉおおおおおおおお!!」

ドッピオはいつまで続くか判らない痛みに耐え続ける。最早何も考えることが出来なかった。
だが、痛みに耐え続けていても、中々次の痛みが来ない。
ドッピオは不審に思い、後ろを振り返ると――


922 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:04:23 Yap/jkvM0

「ち……くしょおお……」

――襲われていた。化け物に、新手のスタンド使いが。
そう、サンタナだった。
彼はブチャラティが鉄骨の攻撃によって意識を失った時、スティッキィ・フィンガーズの効果が切れ、復活していたのだ。
復活した際状況の変化に驚いたサンタナであったが、それでも彼の中にあったのは自らの汚名返上のことだけであった。
故にサンタナは彼我の状況を鑑み、厄介な吸血鬼と波紋使いの前に、瀕死の守護霊使いを確実に仕留める道を選んだのであった。
その結果、億泰がドッピオを削り飛ばそうとする瞬間億泰を襲ったため、踏み込みがあと一歩足りずドッピオは致命傷を免れたのだ。
全ては一瞬のことだった。

(チャッ……チャンスか?逃げるしか無い……!クソッ)

これが最後のチャンスと思い、ドッピオはフラフラになりながらも駆け出し、手に持っていた『壁抜けののみ』を使って、
土中に逃走経路を切り拓いていった。
そして開けた穴へと飛び込んでいく。
ドッピオが当てにしていた支給品は壁抜けののみだった。

(や、やった!どうやらこの道具は本物だった!こ、これで一先ず逃げれる……!)

だがしかし、億泰を相手にしていたはずのサンタナは何を思ったのか、急にドッピオに狙いを変え追ってきた。
猛烈なスピードで、開けた穴が塞がる前に穴に入ろうと爆進してくる。

「テッ……テメェエエエエエエエエッ!!なに近づいてきてやがる!いいかッ!俺はいつでもお前をぶち殺すことが出来るッ!
 分かったなら穴に入るんじゃねェえええええええ!!!」

ドッピオは凄み威嚇し全力で追跡を拒む。だがサンタナは臆すること無く入ってきた。
サンタナにも事情があった。このまま森にいてもいずれ日の差し方が変わり死ぬか、今の自分の状態では波紋使いに殺される。
故に億泰の体を乗っ取り肉の傘にしようと試みたが、億泰は抵抗し、余力で自分のスタンドで自分を削り取りサンタナの支配を逃れようとした。
爆弾などと違い、ザ・ハンドに削られればサンタナもどうなるか分からないので、仕方なく支配を諦めた。
その代わりに足と右腕を奪い取り自らのものとし、致命傷を与えた後今度は代案として、一か八かドッピオが切り開いていた地下に逃げる道を選んだのだ。
可能ならばドッピオを殺し、その手にある道具を奪うことも視野に入れて。
逆に殺られる可能性もあったが、それでも地上に残るより生き残れる可能性は高いと判断した。
億泰を倒せど未だ満たされぬアイデンティティを埋めるべく、熾火のように静かに熱く燃える感情を宿し柱の末席は突き進む。

(皆……殺しだ……人間も吸血鬼も……!まだ足りない……あの吸血鬼も目の前の人間も必ず始末する……そしてオレはオレを証明する……!)

対するドッピオは気が気でない。凄んでいるが体調は最悪。肩からの出血もあり余裕が無い。
キングクリムゾンを使えばどうにかなるとも思ったが、この体調では能力を使えるのは精々一回、それに使えば気を失ってもおかしくない。
どうも時間を吹き飛ばす能力を使用すると消耗が激しい。スタンドが精神の力で、兎耳の女に精神をやられてしまったからかもしれない・
そして背後にいる化け物が確実に仕留められる相手とも限らない。故に現状この状態を打破する手段は思い浮かばなかった。
なので、仕方がないので現状を認め、しばらくの間は警戒しつつ適当な距離を逃げ、地上に上がるタイミングを見計らうことにした。

(ボスぅ……すみません……こんなことになるなんて……ボスに任されたというのに……!
 ブチャラティ一人を始末した程度では釣りが合わないッ!
 絶対に……絶対にこのままでは終われないッ!ボスの絶頂は絶対なんだッ!
 二度とこんな轍は踏まないッ!今度こそ完全に完璧にボスの邪魔をする奴らを全て始末するッ!)

ドッピオは未だ目覚めないボス――ディアボロに誓いを立てた。
そして覚悟を新たにし、今はただ暗き土中を突き進む。

こうして、魔力を含む土の下、悪魔と柱は実に奇妙な呉越同舟を征く。
先の見えぬ暗黒の先にあるのは光か、闇か。


923 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:05:17 Yap/jkvM0

【D-4 魔法の森(土中)/朝】
【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風】
[状態]:首に小さな切り傷、体力消費(極大)、右肩の一部を欠損(出血中)、ドッピオの人格で行動中、
  ディアボロの人格が気絶中、酷い頭痛と平衡感覚の不調
[装備]:壁抜けののみ(原作でローマに到着した際のドッピオの服装)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を皆殺しにして優勝し、帝王の座に返り咲く。
1:『ボス』が帰ってくるまで、何としても生き残る。それまで無理はしない。
2:二度と愚かな失敗をしない。そのためにも慎重に行動する。
3:後ろにいる化け物を何とかしたい。
4:新手と共に逃げた古明地さとりを探し出し、この手で殺す。でも無理はしない。
5:『兎耳の女』は、いずれ必ず始末する。でも無理そうなら避ける。
[備考]
※第5部終了時点からの参加。ただし、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力の影響は取り除かれています。
※能力制限:『キング・クリムゾン』で時間を吹き飛ばす時、原作より多く体力を消耗します。
※ルナティックレッドアイズのダメージにより、ディアボロの人格が気絶しました。
ドッピオの人格で行動中も、酷い頭痛と平衡感覚の不調があります。時間により徐々に回復します。
回復の速度は後の書き手さんにお任せします。
※ブチャラティを始末したと思っています。

【サンタナ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(極大)、全身ダメージ(大)、全身に打撲(大)、左脇腹に裂傷(大)、
足と右腕を億泰のものと交換(まだ馴染んでいないがいずれ馴染む)、再生中
[装備]:緋想の剣@東方緋想天
[道具]:基本支給品×2、不明支給品(確認済、ジョジョ東方0~1)、鎖@現実
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:機会を窺い、目の前の守護霊使い(ドッピオ)を殺して道具を奪い取る。
2:カーズ、エシディシと合流し、指示を仰ぐ。
3:ジョセフ、シーザーに加え、吸血鬼の小娘(レミリア)やスタンド使いに警戒。
4:同胞以外の参加者は殺す。
5:人間と吸血鬼は特に積極的に殺す。
[備考]
※参戦時期はジョセフと井戸に落下し、日光に晒されて石化した直後です。
※波紋の存在について明確に知りました。
※緋想の剣は「気質を操る能力」によって弱点となる気質を突くことでスタンドに干渉することが可能です。

※二人はD-4土中を北上しています。


924 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:06:02 Yap/jkvM0

一方その頃、ジョナサンとレミリアはブチャラティの治療に奔走していた。
ブチャラティは幸運なことに、急所を狙ったはずの鉄筋が急所を僅かに外れ、即死していなかった。
因幡てゐにもたらされた幸運が未だ効果を発揮していたからかもしれないし、そうでないかもしれない。
それでもブチャラティは確かに幸運により九死に一生を得た。
だがそれでも瀕死せあることに変わりはない。
なのでまず波紋で出血を抑え鉄筋を抜き、すかさず傷口に河童の秘薬を塗りこんだ。
薬の残量に構うこと無く一心不乱に塗りこむ。
すると、残っていた秘薬の殆どを消費してしまったが、医者ですらさじを投げそうな巨大な傷口はみるみる塞がり、
ブチャラティは一命を取り留めたのだった。
そしてしばらくすると、意識を取り戻した。

「ぐっ……うぅ……俺は、一体どうなった……?」

「ブチャラティッ!」

「ブチャラティ……よかった……」

意識を取り戻したブチャラティに二人は安堵する。
だが当のブチャラティは状況を理解した後、不審げに周りを見渡し、怪訝そうな顔をする。

「どうしたのブチャラティ?まだどこか痛むの?」

レミリアがブチャラティを気遣う。
だがブチャラティは首を横に振り、二人に尋ねる。

「億泰は……億泰はどこにいる?」

言われたジョナサンとレミリアはハッとしブチャラティと同じく億泰が居たはずの辺りを見渡すが、どこにも居ない。
ついでのようにサンタナも周囲から姿を消していた。
二人がブチャラティの治療をしていた少しの間に。

「気付かなかった……まさか……一人で敵を追って……!?」

ジョナサンは走りだし、周囲を探索し始めた。

「ジョジョッ!待って私達も……!」

レミリアとブチャラティもそれに続く。
全員は必死に探し回る。誰も、楽観的な考えはしていなかった。
皆拭い去れない不安感を抱え、襲撃者が逃走したと思われる方角へとひた走った。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


925 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:06:55 Yap/jkvM0

「こっ……これは……億泰ッ!!」

三人は発見した。億泰の変わり果てた姿を。

「ジョナ……サン……レミリア……それにブチャラティも……助かったみてぇだな……よかった……」

億泰は、辛うじて生きていた。
消える間際の蝋燭のように、その残り少ない命を燃やして、億泰は口を開く。

「追おうとしたんだけどな……あいつ、さとりを襲ったのと同じやつだった。だから……だから許せなくてよ……
 でも、化け物野郎の邪魔が入っちまって……ゴホッ……このザマだ……すまねぇ……」

「ぼ、僕のせいだ………僕があの時あの魔物にとどめを刺していれば……
 億泰、喋るんじゃない……今、今波紋で手当をするから……」

ジョナサンはそう言い近付く。だが億泰の状態は、誰が見ても助かるものではなかった。
両足も、右腕もなく。左半身の一部が消失している。
生きているのが不思議なほどの重傷だった。

「いいんだよ……ジョナサン。俺が勝手にやったことだ……おめーが気に病むことなんて無いぜ……
 それに俺はもう助かんねぇ……余計な力は使わない方がいいぜ……
 それよりも伝えなきゃなんねー事がある……ゴホッゴホッ……」

助けようがなかった。既に河童の秘薬は無いに等しく、波紋も消えかけの命を救えるほど万能ではない。
三人は聞くことしか出来ない己の無力感を前に、ただ拳を握りしめることしか出来なかった。
それでも億泰の言葉は続く。

「ブチャラティを攻撃したのは……中坊くれぇで紫色の髪したやつだ……能力は分かんねぇが邪悪なやつだった……
 一撃喰らわすことだけは出来たが……再起不能に出来なかった……一応あいつの道具だけは奪っといたぜ……」

億泰は自分のすぐ近くに落ちていたデイパックを指さす。

「そして、どうやったのか知らねーが……そのガキは地面に穴を開けて掘り進んで行っちまった……
 化け物も一緒にガキに付いていった……穴は消えちまっているが、確かにあっちの方に行った……」


926 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:07:24 Yap/jkvM0

その方角は北だった。億泰の話通りであれば、乱入者と化物は北に向かって進んでいる。

「俺から言えんのはこれぐらいか……すまねぇ……勝手に追っておきながらこのザマで……」

「……そんなことはねぇさ。億泰のお陰で俺は重要な事を知ることが出来た。
 それに、お前は自分が正しいと思ったことしたんだ……
 恥じることなど何一つ無い」

「ヘヘッ……そうかな……ブチャラティ、ありがとよ……
 そうだ……最後に三人に頼みてぇことがあんだけどよォ……聞いてくれるかい?」

億泰は三人の顔をそれぞれ見て、訊いた。

「勿論、聞くに決まっているさ……」

「ええ、なんでも言いなさい」

「ああ、いいぞ」

三人共、それぞれの言葉で億泰の願いを受け止める。
億泰は目礼で三人に感謝しつつ、残された力で言葉を振り絞った。

「空を……さとりを頼む……大切な家族がいるのに罪を犯そうとしているあのコを……その家族を頼む……
 それと……よ……東方仗助って奴と……広瀬康一って奴に…………もし会ったら……言っといて……くれ……『すまねぇ』って……」

「ああ、分かった。君のその信念に誓って、絶対に約束する。だから……安心して休んでくれ……億泰」

ジョナサンは分かっていた。頼みを言い終えると同時に、億泰が息を引き取ったのを。
それでも、ジョナサンは確かに億泰に誓った。億泰の魂と誇りの安寧のため。
すると一瞬だけ不思議な光景が見えた。
億泰の魂が、こちらを見て、はにかんだような笑顔を浮かべて空に昇っていくのを。
幻だったかもしれない。しかし確かにその意志は三人に伝わった。
虹村億泰の意志は、滅ぶこと無く受け継がれたのだ。

(億泰……君の願いは確かに聞き入れた……許せないのはこれらの願いを踏みにじる『邪悪』ッ!
 絶対に止めてみせる。空も、邪悪も……!)

(バカガラスのことなんてどうでも良かったけど、一度誓ったからにはこのレミリア・スカーレット、
 必ず約束は果たすわ……そして咲夜や美鈴と同じように、あなたの敵も絶対に取る。絶対にね)

(億泰の頼みは当然果たすとして、どうやら億泰の仇の一人は俺と無関係じゃねぇ……
 それどころか確信に近づいた……ボスッ!どうやらあんたを殺す理由が更に増えたようだぜッ!)

億泰の最後の願いを聞き、三人は三者三様の思いを抱く。
一つの命が終われど戦いは終わらない。
三人は同様に怒りと憤りを抱えつつも、それぞれの思いのため、前を向いた。

【虹村億泰@第4部 ダイヤモンドは砕けない】 死亡


927 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:09:21 Yap/jkvM0

【D-4 魔法の森/朝】

【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、妖力消費(中)、右腕欠損、頭部及び顔面に打撲(小)、胴体に裂傷(小)、再生中
[装備]:妖怪『からかさ小僧』風の傘@現地調達
[道具]:「ピンクダークの少年」1部〜3部全巻@ジョジョ第4部、ウォークマン@現実、
    制御棒、命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:誇り高き吸血鬼としてこの殺し合いを打破する。
1:億泰の敵を追うか、空達を追うか話し合う。
2:咲夜と美鈴の敵を絶対にとる。
3:ジョジョ(ジョナサン)と対等の友人として認めて行動する。
4:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
5:殺し合いに乗った参加者は倒す。危険と判断すれば完全に再起不能にする。
6:億泰との誓いを果たす。
7:ジョナサンと吸血鬼ディオに興味。
8:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。

[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降です。
※波紋及び日光によるダメージで受けた傷は通常の傷よりも治癒が遅いようです。
※「ピンクダークの少年」の第1部を半分以上読みました。
※ジョナサンとレミリアは互いに参加者内の知り合いや危険人物の情報を交換しました。
 どこまで詳しく情報を教えているかは未定です。
※ウォークマンに入っている自身のテーマ曲を聞きました。何故か聞いたことのある懐かしさを感じたようです。
※右腕が欠損していますが、十分な妖力が回復すれば再生出来るかもしれません。
※スタンドについての情報を得ました。



【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:腹部に打撲(小)、肋骨損傷(小)、疲労(小)、悲しみ、波紋の呼吸により回復中
[装備]:シーザーの手袋@ジョジョ第2部(右手部分は焼け落ちて使用不能)、ワイングラス@現地調達
[道具]:河童の秘薬(9割消費)@東方茨歌仙、
    命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品(水少量消費)、香霖堂で回収した物資
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:億泰を埋葬する。
2:これからの行動についてレミリアとブチャラティと話し合う。
3:レミィ(レミリア)を対等の友人として信頼し行動する。
4:レミリアの知り合いを捜す。
5:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
6:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードとタルカスの名が何故記載されている?
 『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なのか?
7:スピードワゴン、ウィル・A・ツェペリ、虹村億泰、三人の敵をとる
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」のみです。
 コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもしれません。
※幻想郷、異変や妖怪についてより詳しく知りました。
※ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助について大まかに知りました。
4部の時間軸での人物情報です。それ以外に億泰が情報を話したかは不明です。
※スタンドについての情報を得ました。
※ワイングラスで波紋探知機を作りました。


928 : 嘆きの森 ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:09:49 Yap/jkvM0
【ブローノ・ブチャラティ@第5部 黄金の風】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、左腕に裂傷(小)、胴体や両足に補食痕複数、幸運(?)
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:聖人の遺体(両目、心臓)@スティールボールラン、鉄パイプ@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊し、主催者を倒す。
1:ボス(と思われる人物)を追う。
2:ジョルノ達護衛チームと合流。その他殺し合いに乗っていない参加者と協力し、会場からの脱出方法を捜す。
3:殺し合いに乗っている参加者は無力化。場合によっては殺害も辞さない。
4:億泰の頼みは果たす。
5:DIO、サンタナ(名前は知らない)を危険視。いつか必ず倒す。
6:ミスタ…
[備考]
※参戦時期はローマ到着直前です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷についての情報を得ました。
※てゐの『人間を幸運にする程度の能力』の効果や時間がどの程度かは、後の書き手さんにお任せします
※波紋についての情報を得ました。
※ジョナサンの波紋で左腕の裂傷・腹部に刺傷複数、胴体や両足に補食痕複数、内臓損傷を回復しました

※D-4億泰の死体の近くに支給品の入ったデイパック(億泰とディアボロとさとりのもの)が落ちています。
中身はそれぞれ基本支給品×3、マカロフ(8/8)@現実、予備弾倉×3、香霖堂で回収した物資、鉄筋(残量90%)
   不明支給品×0〜1(古明地さとりに支給されたもの。ジョジョ・東方に登場する物品の可能性あり。確認済)です。


929 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 19:11:43 Yap/jkvM0
以上で投下終了です。この話で100話目だったので戦々恐々です。
ご感想ご指摘などございましたら是非。


930 : 名無しさん :2014/08/30(土) 19:26:33 5CZICpgo0
投下乙です
億泰は形兆の元へと行ってしまったか…
億泰は最初から無茶しすぎだよ…無茶しすぎて目的も果たせない…億泰らしいがなんだか報われないな…
億泰の意思はできれば受け継いでほしいが果たして…


931 : 名無しさん :2014/08/30(土) 19:32:30 tLEuNxxI0
なかなかボス目覚めないな


932 : 名無しさん :2014/08/30(土) 19:51:53 Q1Z9rSHc0
投下乙です。
激戦の末に散ったのは億泰か…
願いを果たす事は出来なかったが、願いを託す事は出来た
受け継ぐ者達である紳士と淑女とギャングの今後を祈ろう…
しかしサンタナここで落ちるかなと思ってたけど、やはり凄まじい執念だな


933 : 名無しさん :2014/08/30(土) 20:40:51 QmoLNEnIO
投下乙です。

億泰は空にたどり着けなかったか。
ドッピオはなんとか逃走したけど、道具をほとんど失い、光が差さない地中を闇の一族と追いかけっこ。


934 : 名無しさん :2014/08/30(土) 20:46:37 rYlahkXg0
投下乙です。
億泰はやっぱ退場しちゃったか。
空も死亡フラグが立ってるっぽいのが哀しい。

ブチャラティがキンクリ中に攻撃されてるような描写があるのがちょっと気になった。
キンクリ中って確か攻撃できないはず。


935 : 名無しさん :2014/08/30(土) 20:54:23 0hYdolP.0
投下乙です。
二転三転の戦闘でしたが、生死を分けたのは乱入のタイミングだったか…
そして億泰の遺志を継いだ対主催トリオがかっこいい


936 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/08/30(土) 21:10:33 Yap/jkvM0
>>934 ご指摘ありがとうございます。すっかり失念していました。
なのでwiki収録時は >>920 の部分を以下のように修正していただければ幸いです。

「――キングクリムゾン」

――時間は吹き飛んだ。
ドッピオは一気に走りだす。

(まず何とか走って距離を取る……全員を相手している余裕はないからな……
 そして!)

ドッピオは支給品から鉄筋を一本取り出す。そして能力の効果が終わると同時に、キングクリムゾンを使い、投げた。
何も知らずに自分が元いた場所へ進む、ブチャラティに対して。

「始末するのはお前からだ、ブローノ・ブチャラティ。ボスにとってこの場で一番邪魔なのはお前だからな……」

鉄筋は高速でブチャラティに向かっていき、一瞬でその背に突き刺さった。

「なッ……これはッ!ブチャラティィィィィィィ!!!」

「どうなってるのよ一体ッ!!早く!早くその鉄塊を抜くのよッーーーー!」

三人にとっては突然の事だった。気づかぬうちに多く歩んでいたかと思った矢先、前を行くブチャラティの背中に鉄筋が投げつけられ、その体を貫いたのだ。
レミリアとジョナサンは周囲を見渡し、逃げ去るドッピオの姿を確認したが、ブチャラティの治療のため追うことが出来ない。
歯噛みしつつもブチャラティを救うため処置を始める。
一方ドッピオは後ろを振り返り、追ってこない連中を見てニヤリと笑う。

(追って……こないか……ならそれでいい。甘い奴らばかりのようでよかった……。
 "コレ"を使うまでも無かったが、安全を期す為にも――何ッ!?)

全てが上手く言ったと確信して、念のためエピタフを確認すると、
予知に、全く予期せぬ光景があった。自身は何故か動きを止めうろたえている。
想定に入れていなかった死にぞこないが、自分を引き止めている。
そして数瞬後、予知通りドッピオは動けなくなった。死にぞこない――虹村億泰に、その背にあるカバンを掴まれている。
ザ・ハンドの瞬間移動能力により、一瞬でドッピオに追いついたのだ。


937 : 名無しさん :2014/08/30(土) 22:01:49 IfL/W57g0
投げた鉄筋とブチャラティが重なってる時に時が再始動するとそうなるもんだと思ってた


938 : 名無しさん :2014/08/30(土) 22:09:59 Q1Z9rSHc0
>>937
時間を吹っ飛ばしてる最中は空間含めて物体に干渉出来ないだろうしなぁ
ただ、鉄筋投げる→時を吹っ飛ばす→時が始動→ブチャラティ回避出来ず鉄筋刺さる
とかは出来るかも


939 : 名無しさん :2014/08/30(土) 22:15:45 Q1Z9rSHc0
すまんちょっと勘違いしてた、>>938だと普通にブチャラティ回避か防御出来る余地あるわ


940 : 名無しさん :2014/08/31(日) 13:02:28 xHdoj7REO
「刺さる」過程をふっ飛ばして「貫いた」結果だけになったと思ってたけど、時飛ばし中はそもそも鉄筋を投げれないか。触れないから。


941 : 名無しさん :2014/08/31(日) 13:46:53 yWaGalt20
>>940
ゆーてもあのスタンド、時飛ばしの途中でポルポルに血糊撒いたりもしてるし……結構描写がブレブレなのよねw


942 : 名無しさん :2014/08/31(日) 15:29:28 EUy1wbA.0
まぁ・・・ナランチャを殺した時の方法だと自己完結しておく


943 : 名無しさん :2014/08/31(日) 17:54:38 GFeeWbvs0
このくらいならどうとでもなりそうだしな


944 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/01(月) 00:01:18 9.Q25aFA0
秋静葉、古明地さとり、霊烏路空、寅丸星

の4名を再び予約します。


945 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/01(月) 00:27:52 EyTDTDp60
上白沢慧音、封獣ぬえ、吉良吉影、東方仗助、比那名居天子、
広瀬康一、河城にとり、パチュリー・ノーレッジ、岡崎夢美
予約します


946 : 名無しさん :2014/09/01(月) 12:24:37 rlbVVRAk0
投下乙です
だけどキングクリムゾンの能力を使えるのはディアボロだけだったと思うんですが。ドッピオが使えるのは腕だけで
原作のリゾット戦でドッピオが自分の頭が吹き飛ぶ(ように見える)予知を見たときも
ディアボロが自分の能力ならなんとかなるから待ってろ、みたいなこと言ってましたし


947 : 名無しさん :2014/09/01(月) 12:47:20 Y5dZPZ4Y0
初登場話から普通に使ってるよ時飛ばし


948 : 名無しさん :2014/09/01(月) 12:49:48 MNBaDxrY0
前話「デッドパロッツQ」においても

>しかし、ボスからキング・クリムゾンとエピタフを借り受けている自分ならば問題なく遂行可能だ、ドッピオはそう判断した。
>特に『時間を飛ばす』のは、混乱の中から自分だけ抜け出るのにはうってつけだった。

って、ドッピオも時飛ばし使えるような地の文があるんだよね
「ディアボロが気絶しているからスタンドの主導権がドッピオに移ってる」とかそんな感じだと思ってる


949 : 名無しさん :2014/09/01(月) 12:50:48 MNBaDxrY0
あーそういえばディアボロのサポート込みとはいえ登場話でも使ってたか


950 : 名無しさん :2014/09/01(月) 17:48:23 AMORNA4.0
レクイエム後だし・・・多少はね?


951 : ◆qSXL3X4ics :2014/09/02(火) 00:42:23 WySQu7ys0
博麗霊夢、空条承太郎、フー・ファイターズ、ファニー・ヴァレンタインの4名を予約します


952 : ◆fLgC4uPSXY :2014/09/02(火) 02:47:54 3.5ySe8Q0
シュトロハイム 予約させていただきます


953 : ◆fLgC4uPSXY :2014/09/02(火) 14:44:49 3.5ySe8Q0
申し訳ありません
>>952の予約を破棄します
シュトロハイムだけではつまらないと感じてしまい誠に勝手ではありますが破棄させていただきます


954 : 名無しさん :2014/09/02(火) 15:12:52 27julV0A0
シュトロハイムって今人間の里行きじゃなかったっけ


955 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/09/02(火) 16:33:57 jc1X0z6o0
>>953 これはマナーであって絶対ではないのですが、書き込みをする際E-mailの欄に『sage』
を書いた方がいいかもしれません。
sageを書かないとスレが一覧の一番上まで上がります。
投下する際やスレが沈んでいる時上げたい際などは書かなくていいのですが、
そうでない時は基本的にsage進行がいいです。


956 : ◆fLgC4uPSXY :2014/09/02(火) 22:45:04 3.5ySe8Q0
>>955様ご忠告ありがとうございます
自分自身このようなところを利用することがあまりないので知識が乏しいことがありました
これからは気をつけていきます


957 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:16:08 DbNQ.aQo0
ものすごく長くなりそうなので
前半後半に分けて投下します


958 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:17:45 DbNQ.aQo0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『岡崎夢美』


第一回放送において、死者の名前が発表された。
それに耳を傾け、名簿にチェックを入れていると、気になる名前が聞こえてきた。
十六夜咲夜に紅美鈴。確かこの二人ってパチュリーの知り合いよね。


そのことを思い出した私は、放送を聞き終えると、早速パチュリーに声を掛けようとした。
けれど、そういった私の意図はすぐに霧散することになってしまった。
だって、その二人とパチュリーの関係が、どれほど深いものなのか、見当がつかなかったんだもの。


「ご愁傷様」や「お気の毒に」という言葉だけでいいのか、それとももっと労りをかけた方いいのか。
ちょっと真面目に考えたけれど、私は適当な言葉を上手く見つけられなかった。
とはいえ、分からないからといって、このままパチュリーを無視するというのも、どうにも素敵とは思えない。


取り敢えずは、紋切り型のお悔やみでも申し上げて、パチュリーの反応を窺ってみようかしら。
もしかしたら、そこからパチュリーと彼女達がどれほど親しかったのかを、推察できるかもしれない。
そうなれば、この状況への最適解を導き出してやれることが、この私にはできる筈。
そしてパチュリーからの好感度アップよ♪


そう意気込んだ私だけど、それもあえなく失敗に終わってしまった。
私の横から角を生やした女性――上白沢慧音が出てきて、私よりも先にパチュリーに話し掛けたのだ。


「パチュリー、こんな時に何と言ったらいいか分からないが……」

「……大丈夫よ」


慧音さんの言葉を遮り、パチュリーは何てことないように口を軽く開いた。


「お気遣い、ありがと、慧音。でも、私は大丈夫よ」

「パチュリー、無理はしなくてもいいんだぞ」


959 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:18:14 DbNQ.aQo0
パチュリーのは単なる強がりと思ったのか、慧音さんは声に柔和な響きを含ませて、優しく語りかける。
それはまるで聖母マリアが我が子キリストを慈しむような愛しき光景だ。
だけど、パチュリーは私が抱いたそんな感動をよそに、深く溜息を吐いて、面倒くさそうに応えた。


「慧音、私の年齢は知っているでしょう? 見た目通りじゃないって。
それは貴方と比べたら、まだまだ子供なんでしょうけれど、それでも私は人の一回分くらいの人生は歩んでいるわ。
その中で今まで一度たりとも別れがなかったと思っているの? 私はろくに感情を制御できない思春期の少女なんかじゃないの。
もう一度言うわ、私は大丈夫。だから心配なんかしなくても平気よ」


視線を逸らさずに真っ直ぐと慧音さんの目を見つめるパチュリー。
その力強い視線に真実が含まれていると判断したのだろう。慧音さんは安堵の混じった笑みを零した。


「そうか。それはすまない。どうやら余計なお世話だったみたいだな」

「別にいいわよ。それに私なんかより、あっちの子を気にかけてやりなさい。
東方仗助だっけ? 見た目はアレだけだど、あの子は子供なんでしょ?
霊夢や魔理沙じゃないんだし、ちゃんとケアをしてやんなきゃ、あのぐらいの年齢の子は危ないわよ」

「向こうには天子が付いているみたいがな。まあ、ここは素直にパチュリーの言葉に甘えさせてもらおう」


慧音さんの背中を見送ると、パチュリーはティーカップを口に運んでいった。
窓から注がれる朝日を浴びて、紅茶を片手に静かにくつろいでいる様は、
パチュリーの言うとおり、人の死によってもたらされる哀しみや虚しさ、憎悪とは無縁の平穏な姿と言っていい。
だけど、そんな普通である筈のパチュリーを、私はそのままにしておくことが出来なかった。
だって――


「パチュリー、そのティーカップはもう空よ」

「…………そう」


私の言葉に、はたと気がついたパチュリーは、途端に震えだした手で何とかティーカップをソーサーに戻した。
そこには先程まで確かにあった気丈さはない。寧ろ、今にも手折れてしまいそうな儚さが際立って見えていた。
ああ、私は彼女を誤解していたように思う。


当初、私はそれこそパチュリーは私の理論を実証する為の道具とか退屈しのぎの話し相手ぐらいにしか思っていなかった。
だけど、それは違ったのだ。彼女は私のように笑い、怒り、そして哀しむ。
パチュリー・ノーレッジは感情を持った生きた人間なのだ。


それに気がついた瞬間、私はパチュリーのことが急に愛しく思えてきた。
哀しみに耐え、それをひた隠し、しかし打ち震えてしまうパチュリー。
そんな彼女を一人になんかしておけない。決して哀しみに沈ませたくなんかない。
私は以前とは違った気持ちで、彼女の傍にいたいと思うようになった。
ああ、私がパチュリーに抱いてしまった感情の正体。きっとそれは――――


960 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:18:48 DbNQ.aQo0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『パチュリー・ノーレッジ』


「パチュリー、もう組み分けのメンバーは決まったのか?」


ひとしきりすると、慧音が私のところに戻ってきて、そんなことを訊ねた。
新たに注いだ紅茶の香りと味を堪能したくはあるけれど、幾分か飽きてきたのも事実だ。
私は紅茶を口に運ぶのを止め、慧音に顔を向けることにした。


「一応はね。ちょうど私も貴方に確認を取ろうと思っていたところよ」

「そうか。タイミングは良かったみたいだな」

「ええ。それで本題に入る前に確認させてもらうけれど、仗助や他の皆は大丈夫だった?
荒木の放送で結構な数の死者の名前が呼ばれたから、不安に思う人もいたんじゃないかしら?」


私は至極真っ当な質問をしたと思う。いや、それは厳然たる事実だろう。
誰かの死によって、この殺し合いのスタンスを変えるという可能性は、誰にも否定できるものじゃない。
であるのならば、皆の心境や状態を確認しとくのは、これから一緒に行動する上で必要不可欠なこと。
つまり、絶対にしなければならない重要事項なのだ。
それなのに、慧音が私に送ってきたのは、私が答えとして予想していたものとは縁遠い温和な笑顔だった。


「何がおかしいの、慧音?」


質問に答えない慧音に苛立ちを覚えた私は彼女を睨みつけ、声を低くして訊ねた。


「ああ、いや、すまない。別に悪気があったわけじゃないんだ。
ただあのパチュリー・ノーレッジが皆のことを心配しているという事実に驚いてしまってな。
いや、確かにそこは笑うとこではないのだが、何というか、私はただ嬉しかったんだ」

「失礼ね。それだと、私がまるで人非人みたいじゃない」

「いや、だから本当にすまなかった、パチュリー」


そう言い終えると、慧音は帽子を取り、丁寧に頭を下げてきた。
そこまでされたら、さすがの私でも怒りの矛を収めざるを得ない。


961 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:19:10 DbNQ.aQo0
「はぁ、まあいいわ。話を戻しましょう」


私を溜息を吐きながら、やれやれと言った具合に声を放つ。
すると顔を上げた慧音はフフッと笑い声を漏らし、隣に居た夢美からも慧音と同じような声が聞こえてきた。
途端に私の額に青筋が浮かぶ。


「二人とも、私に喧嘩を売っているの?」

「だって、パチュリーの表情がコロコロと変わって面白いんだもの」

「コロコロ?」


夢美の答えに、私は思わず眉根を寄せる。そんなに私の表情は変化していただろうか。
あれ? ひょっとして慧音に嬉しいだの、優しいみたいなニュアンスのことを言われて、笑顔とかになっていたのだろうか。
そんな無様を晒すようでは、まさしく思春期の少女ではないか。それに気がついた私は恥ずかしさから、急に頬が上気してきた。
私は自身の醜態を誤魔化すため、慌てて言葉を付け足した。


「と、とにかく、慧音! 状況は逼迫しているの! 急いで答えてちょうだい!」

「フフ、そうだな。確かに遊んでいる暇はないな。答えるとしよう。と言っても、そう大したものではないがな」

「問題ないということかしら?」

「ああ、そう言っていいだろう。仗助君は憤りはしていたものの、自らの知り合いも呼ばれていないし、
秋穣子以来、まだ実際に死んだ者も見ていないから、それほど動揺は見られなかった。
というより、『死』に対して、まだ実感が少ないのだろう。吉良さんも、そんな感じだった。
彼らに対して声を掛けるとしたら、『死』の実感を得られてからだと思う。
無論、気を緩めてはならないということは伝えといたから、安心してくれ」

「天人とあの妖怪はどう?」

「天子は人の生死に達観している節があるから、やはり誰かの死によって得られる影響は少ないみたいだったな。
ぬえの方は、すまない、少し分からない。本人は大丈夫、平気と言っていたが、それとは裏腹に顔色は優れなかった。
あまりしつこくしては、余計に苛立たせ、悪影響を与えてしまうと思って、その時はそれきりにしたが、
また折を見て、彼女に話しかけてみようと思う」

「そう。ぬえの件は、それでお願いするとして、慧音、貴方自身は大丈夫なの?」


と、慧音に声を掛けると、彼女は一瞬キョトンとした表情を浮かべ、あろうことか、大口を開けて笑い出した。
こいつ、ホントに私に喧嘩を売っているんじゃないだろうか。
私は右手で拳を作り出し、そこにあらんかぎりの力を込めて、声を絞り出した。


962 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:19:37 DbNQ.aQo0
「グーよ、慧音。今すぐその下品な笑いを止めないと、グーパンチを貴方の顔面に叩き込むわ」

「ハハハッ、いや、すまない。別にパチュリーを笑ったわけじゃないんだ。これは寧ろ、自分だ。
自分のマヌケさを笑っていたんだ。私はパチュリーをひどく誤解していたんだな、と。
お前は、もっと他人に無関心な奴だと思っていたよ。
ああ、本当に今更になって、そんな勘違いに気がついた自分が、とてもおかしいんだ。ハハハハ!」


目の端に涙さえ浮かべて、心底おかしそうに笑う慧音。
邪気のないそんな姿を目の当たりにして、私の毒気はすっかり抜かれてしまった。
この雰囲気では、どうやっても慧音を殴ってやる気にはなれない。
私は振り上げた右拳を収めて、グーパンチの代わりに、少し棘のついた声を放ってやることにした。


「私も貴方を誤解していたようね。貴方はもっと冷静で聡明な人だと思っていたわ」

「そうか? では、私達はこうしてお互いの新たな一面を知ったということだな。
うん、それはとても素晴らしいことじゃないか。私達の関係は、これで一歩先に進んだというわけだからな」


私の皮肉を慧音はさらりと受け流し、この一連の出来事を、かなり前衛的に解釈してくれた。
到底そんな素晴らしいショーが開催されたとは私には思えないが、この手の輩にそんな反論など暖簾に腕押しだろう。
私はこのまどろっこしい会話に抗議するように大きく溜息を吐いて、改めて本題へと続く言葉を切り出した。


「つまり、貴方は大丈夫というわけね?」

「ん、ああ、多分な」

「多分?」


さっきまであった慧音とは随分違う引っ掛かりのある言葉を、私は思わず復唱した。


「……ああ。それが良く分からないんだ。教師という職業のせいだろうか、人前では弱味を曝け出すのに抵抗があってな。
それでそういう生活を長年と送っていたら、いつの間にか人前では自分の悩みというものに、向き合うことすら出来なくなっていた。
だから、今の自分の心境が良く分からないし、『多分』というわけだ。勿論、荒木や太田を許せないという気持ちは変わらずにあるぞ
そこは大丈夫だ」

「そう。分かったわ」


と、何気なく答えを返す一方で、私は一抹の不安を覚えた。
慧音の言葉を煮詰めれば、要するに一人になったら、危険だということだ。
そして己の心と改めて向き合った時、一体どんな答えを出すか、本人にも見当がつかない。これは、ちょっとした「爆弾」だ。
まあ、この状況で早々に一人になる選択肢など選ばないだろうから、問題ないということには変わりないけれど。
そのことも慧音自身も気がついているのだろう。自分の返答に深刻といった面持ちを微塵も含めていない。
私は慧音の「問題」を、彼女に倣って頭の片隅へ押しやり、組み分けのメンバーを発表することにした。


963 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:20:46 DbNQ.aQo0
「それでメンバー分けだけど、三組に分かれようと思うの。一組目は仗助と天子。二組目は慧音、ぬえ、夢美。
そして最後の三組目は私、にとり、康一、吉影の四人。これで行こうと思っているけれど、どうかしら?」

「反対! はんたーい! 何で私とパチュリーが一緒じゃないのよ〜!
っていうか、パチュリー、私を心配する声が聞こえなかったんだけど、それって気のせい!?」


横で馬鹿みたいに騒ぐ夢美を無視し、私は慧音に答えを促す。
彼女は顎に手をやり、ほんの少し黙考すると、夢美とは違う落ち着いた声を返してきてくれた。


「……うむ。夢美さんが言ったからというわけじゃないが、何故そのメンバーなのか教えてくれないか?」

「そうね。まず私達幻想郷の住人はスタンドのことを良く知らない。
これではスタンド使いと戦闘になった際、後手に回ることが多くなっちゃうでしょ?
それを防ぐ為、スタンド使いをそれぞれの組に一人は入れるようにしたわ。
そして彼らを中心に、なるべく戦力が均等になるように分けたというわけ」

「ふむ。それでは何故三組なのだ? 戦力の分散を危惧するのなら、二組に分けた方が合理的ではないか?」

「その指摘は尤もだと思うわ。だけど、それだとやっぱり見て回れる箇所が少なくなっちゃうでしょ?
それで紫や霊夢と出会う機会を減らしては、この異変を長引かせることになり、結局の所、命の危険を増やしてしまう。
勿論、戦力を分散させたところで、誰かに襲撃されては元も子もないけれど、それでも最低限逃げのびるだけの戦力を、
それぞれの組に分けたと私は思うわ」

「うむ。そういった考えであれば、私も問題ないと思う。パチュリーの案に賛成だ」


慧音の首肯に、私も頷いて返す。さて、次はどのルートを通るかという話だが、
それに移ろうかというところで、夢美が物凄い勢いで私の肩を揺らしてきた。


「ちょっとー、パチュリー、何で無視するのよ〜? 私、絶対パチュリーから離れないわよ!」


そんな下らない内容のことを、何故か誇るように胸を張り、毅然と私に告げてきた。
夢美は馬鹿とは思えないから、さっき私が言った理屈が理解出来ないというわけではないだろう。
しかし、それでも夢美は自分の目的なり、感情を優先したいというわけか。


全く困ったものだ。その優先するところが、皆の利になることであれば一考に値するけれど、
夢美はただ私を自分の世界に連れていく為に、私の首に縄をつけておきたいってだけなのよね。
うん、やっぱり考慮する必要なし。私は少しいじわるな笑みを浮かべて夢美に向き直った。


「あら、夢美、困った時は助けを求めなさいって言ってなかった?」

「……え、ええ!?」


964 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:21:13 DbNQ.aQo0
次に私が何を言うか予想出来たと見える。
夢美は途端にあたふたと喚きだし、私の口の妨害へと走り出した。
しかし、私はそれを華麗にかわし、夢美に魔法の言葉を投げ掛ける。


「困ったわー我儘な子がいて本当困ったわー助けてー夢美ー」

「くッ! 何て白々しい台詞!」


やっとのことで、その言葉を吐き出すと、夢美は頭を抱えて煩悶としだした。
その苦しんでいる様からは、自分のした発言に責任を持とうとする真面目さが窺える。
夢美は、そんな責任感とは無縁の奔放な性格と思っていたから、ちょっと意外ね。
私が夢美に対する新たな認識を構築していると、彼女は突然と表情を正してきた。
どうやら、私への反論を思い浮かんだらしい。面白い。受けて立とう。


「ねえ、慧音さんてスタンド使いなの?」


と、夢美が慧音に訊ねた。
慧音は勿論それを否定する。


「いや、違うが」

「じゃあ、ぬえって妖怪がスタンド使いなの?」

「いや、おそらくだが、それも違う」


慧音の答えを聞き終えると、夢美はムフッと嫌らしい笑みを浮かべて、私に顔を向けてきた。


「ということは、パチュリー、貴方は私をスタンド使いとしてカウントしたわけね?」

「そうよ。でも、別に間違っていないわよね?」

「いやいや、パチュリー、その認識は問題大アリよ。パチュリーの知っての通り、私はついさっきスタンド使いとなったわけよ〜。
それじゃあ、スタンドに対する知識の少なさは否めない。つまり、スタンド使いと対峙した時、後手後手に回ってしまう可能性が高い。
どう? それってやっぱり危険だと思わない? うん、やっぱり私はパチュリーと一緒にいるべきよ」


実に素敵なロジックだ。整然とだってしている。
現に慧音も頷き、夢美の肩を持つ素振りを見せてくれた。
でも、私は慌てることなく、穏やかに夢美に語りかける。


965 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:21:47 DbNQ.aQo0
「ねえ、夢美」

「な、何よ」

「私は貴方と出会って、そう間もないけれど、分かったことがあるの」

「な、何?」

「貴方は知識があり、機転があり、優れた観察眼を持っているということよ。
そんな貴方なら、スタンドが相手でも、危機に陥る前に素早く相手の特性なり弱点を見抜けるんじゃないかしら?」

「まあね♪」


一瞬の間すら空けず、夢美は私にVサインを送ってきた。
こいつ、実は馬鹿なんじゃないんだろうか。そこを肯定しては、夢美の反論全てに意味が無くなるだろうに。
まあ、夢美を説得する時間が減ったことは、嬉しいけれど。


「あー、しまったー! 事実を指摘されて、うっかり肯定してしまったー!
今の無し! 今の話は無しよー、パチュリー! ね!? お願いー!!」


自分の陥った穴に気がついた夢美は、今度は頭を下げ、手を前で合わせ、猛烈な勢いで私に拝んできた。
その狂騒じみた熱心さに情を絆(ほだ)されたのかは知らないが、慧音も声を重ねてくる。


「あまり話の内容は飲み込めないが、スタンド使いになって間もないというのであれば、
夢美さんの話をもっと聞いてあげるべきではないだろうか、パチュリー」

「はぁ、慧音が相手なら真面目に話すけれど、問題ないわよ。
確かに彼女はスタンドを覚えたばかりだけど、それを十二分に使えるってことは、私の身体を使って証明してくれたしね。
スタンドにおける基本的な情報も、仗助や康一に訊けばいい。夢美、どうせ貴方なら一度聞けば、全部覚えられるでしょ?」

「そうだけど……」


一応は頷く夢美だが、それとは違って慧音はまだ少し不満顔だ。
仕方ない。もうちょっとだけ、説明しとこう。


「あとはスタンド使いと、そうでない人との意識の差もあるわね。思考の下地とも言うべきかしら。
スタンドって結構理不尽な所があるから、非スタンド使いはスタンドに攻撃されたら、まずそれへの対処じゃなくて、
抗議とか文句が思い浮かんでしまうのよね。実際、私も夢美のスタンドに攻撃されて、そんな感じだったし。
その点、スタンド使いは逆なのよ。自分もそうだからか、理不尽をちゃんと受け入れることが出来る。
そしてそこから対処法を練ることが出来るの。夢美はこういった思考の過程において、問題がない。
というか、私達非スタンド使いの中においては、誰よりも適任なのよ」

「うーむ。パチュリーの言い分は理解できた。しかし、夢美さんの方はどうだ?」


966 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:22:30 DbNQ.aQo0
「話の内容自体に文句はないわね、慧音さん。でも、パチュリーと離れ離れになるのには文句があるわ」


はぁぁぁー、と私は心の中で大きな溜息を吐く。物凄い我儘な奴ね。面倒臭い。
夢美の助手であるちゆりとやらの気苦労が知れるわ。まあ、過去に夢美も異変を起こしたことがあるっていうし、
レミィや荒木達がそうであるように、異変を起こす奴は我儘というのが、どうやら必須にして最低条件なのだろう。
そんな奴を相手にしなくてはいけないとなると、思いっきり匙を投げつけたくなるけれど、
ここでそれをしてしまっては、夢美は本当に私から離れなくなるでしょうから、本末転倒となってしまう。
しょうがないので、私はもう少しだけ夢美の説得を試みることにした。


「夢美、離れ離れになるって言っても、ほんの三、四時間でしょ。それくらい我慢しなさい」

「そうかもだけど……パチュリー、大丈夫なの?」

「大丈夫?」


あれ、何故この場面で私を気遣う言葉が出てくるのだ。
ひょっとして、私と一緒にいたいと言っていたのは、私を心配してのことなのか。
ぐるんぐるん、と頭の中がこんがらがってくる。


夢美とは、こんな人間だったか。彼女はもっと自分本位な人間だったはずだろうに。
うーん、ひょっとしてこの夢美は偽者なのではないだろうか。それとも私は夢か幻でも見ているのか。
はたまた新手のスタンド使いの攻撃でも受けているのだろうか。
んー、分からない。


取り敢えず、夢美が本物かどうかの確認の為に、一つスペルでも唱えてみよう。
本物なら、多分生き残るに違いない。何か、顔がしつこいし。
というわけで、私は早速「ロイヤルフレア」の準備に取り掛かった。
しかし、いざそれをぶっ放そうといったところで、私の手は止まる。夢美と目が合ってしまったのだ。


そこにあったのは、不安を隠すことのない夢美の沈痛とした表情。
それは正体がバレるのを恐れてのものか、それとも迫る死を恐怖してのことか。
いや、そのどちらも違うのだろう。


私は思い出してしまった。私が荒木の放送の後、夢美だけに情けない姿を見せてしまったことを。
あんな醜態を晒した後に、大丈夫などと言っても、確かに信用は得られないだろう。
それににとりと一緒のチームに私がいるということで、夢美の不安に拍車をかけてしまったかもしれない。
にとりが怪しいということも、夢美だけは知っているのだから。


967 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:23:47 DbNQ.aQo0
だとしたら、どれほど私はマヌケなのだろうか。
夢美の優しさを知らず、ただ私は彼女を自分勝手でファッションセンス皆無の赤女としか認識してなかった。
全く笑えてくるではないか。これでは慧音を怒る資格など、私にはない。
どうやら私は岡崎夢美という人間を誤解していたようだ。


それ気がついた瞬間、私の肩から力が一気に抜けていった。
それと共に、さっきまであった私の夢美に対するささくれ立った感情も嘘のように和らいでいく。
そして知らず知らずの内に、私は実に穏やかな気持ちで、夢美に話しかけていた。


「心配してくれて、ありがと。でも、大丈夫。これでも私は強いのよ。だから、私を信じて、教授」

「んー、パチュリーがそこまで言うのなら……って、え、ええ!? 今、パチュリー何て言ったの!?
今、私のこと、教授って呼ばなかった!?」

「な、何よ。教授って、貴方の愛称なんでしょ?」

「そうだけど、え、でも、パチュリー、貴方、私のことを愛称で呼びたくないって……。
え? えっと、それって、つまりそういうことよね? パチュリーは私のことを……」

「……う、うるさいわね。もういいでしょ。はい、解散!」


パン、と手を叩き、私は急いで教授の言葉を遮った。
その先に発せられるであろう単語に、妙な気恥ずかしさを覚えてしまったのだ。
あー、顔が熱い。今、絶対顔が赤くなっているわ。早く家に帰りたい。
しかし、教授はそんな私の気持ちなど露知らずと、嬉しそうに私に抱きついてくる。


「キャー、パチュリーパチュリーパチュリーパチュリーパチュリーン!
ねえ、パチュリーに愛称はないの? あるんでしょ? 私に教えてよ! ね、いいでしょ?」

「さ、さあ、どうだったかしらね」


顔の熱が治まらない私は空とぼける。


968 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:24:13 DbNQ.aQo0
だけど、そんな私の嘘を見咎めたのか、慧音が口を挟んできた。


「確かレミリアはパチュリーのことをパチェと呼んでいたな」

「こら、慧音!」

「すまないな、パチュリー。普段であれば、私も口を入れたりはしないのだが、こんな状況だろう?
無論、最悪の事態は避けねばならないということは分かっているが、もしかしたら、ということも有り得る。
だから、心残りがないよう、余計な世話を焼かせてもらったよ」


道理かもしれないけれど、随分と不吉なことを慧音は言う。
でも、このままでは一生教授に自分の愛称を伝えなかったと思うので、文句を言うのは止めにした。
そして私の愛称を知った教授は、満面の笑顔で私に頬ずりをしてくる。


「パチェ! 『ユ』じゃなくて『エ』というのがミソなのね〜♪
んー、パチェパチェパチェパチェパチェパチェパチェパチェ〜!」

「何よ、教授?」

「別に〜。ただ呼んでみただけ〜♪」

「ああ、もう! 用がないなら、一々絡んでくるな! にとり達が帰ってきたら、すぐ出発よ!
だから、その前にすることあるでしょ? さっさと仗助のところに行ってこい、バカ教授!」


そう言って、私は教授を思い切り蹴飛ばした。
しかしそれでも教授は離れようとしない。私も負けじとゲシゲシと教授に蹴りを入れるが、その攻防は一進一退だ。
この状況が呼び名で始まったのなら、やはり岡崎夢美を愛称で呼んだのは早計だったかもしれない。
私は早速後悔を覚え始め、頭を抱えていると、今度は厳しい口調で慧音が私達に口を挟んできた。


「こら、喧嘩はやめないか! これ以上、無駄な争いを続けるというであれば、
私は二人にガツンとかましてやらなければならなくなるぞ。二人は痛いのが、好きなのか?
それに、だ。夢美さんが、ここを離れる必要はないみたいだぞ」


慧音の眼元が据わり始めたのを合図に、私と教授は急いで距離を取り、姿勢を正しくする。
そして私が寺子屋の生徒よろしく慧音の台詞の続きを大人しく待っていると、
慧音はその顔を笑顔に変え、先生のように優しく答えを教えてくれた。


「噂をすれば、何とやらだ。どうやら、仗助君がこっちに来るみたいだぞ」


969 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:24:52 DbNQ.aQo0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『東方仗助』


「すんませーん、ちょっと訊きたいことあるんですけど、いいっすか〜?」


おれは康一と話していた時に抱いた違和感とそれによる疑問を訊ねるべく、パチュリーさん達に声をかけた。
康一が吉良の顔どころか、あいつの最期まで知らない。康一は、それは時間軸がズレているからだと言った。
しかし、正直、その考えはぶっ飛んでいるとしか思えねーぜ。


つーか、違う時間軸から、人間をさらってくるというのがイメージできねーし、何よりもその意味が分からねー。
なら、この問題を放って置いていいってもんじゃねえよな〜。
だけど、おれのその為の第一歩は、のっけから躓いちまうことに。
何とおれの目の前に、天子さんが無い胸を張り、さも当然のように立ち塞がりやがったのだ。


「いいわ。この私が聞いてあげるから、さっさと言いなさい」


グレート。こいつはマジで厄介だぜ〜。
天子さんは悪気があってじゃなく、百パーセント善意でやってるつーのが、何よりもヤバイ。
下手に断ったら、癇癪を起こしちまうのが、ありありと分かる。ああ、面倒クセー。
しかも、この人、何か億泰みてーで、どこか抜けているんだよな〜。まともな答えが返ってくるとは思えねえし……。
どうやって断ろう。


「仗助君、天子を含めた皆に相談したいということかな?」


おれが困っていると、すかさず慧音先生が助け舟を送ってきてくれた。さすが、慧音先生だぜ。
チラリチラリと送っていたおれの視線に気がついて、更に気を遣ってくれるとは、グレートとしか言いようがねえ。
おれは笑顔で天子さんの横を通り抜け、目的地へと向かっていった。


「いや〜、実はそうなんすよ。天子さんは元より、是非皆さんに訊きたいことがあって〜」


グサリとおれの背中に視線が突き刺さってくる感じがするけれど、恐いから振り返るのはやめとこ。
とはいえ、一応、天子さんがソファーに座ってから、おれは話を切り出すことにする。
これ以上、天子さんを刺激するのは、ヤバイからな〜。


「それで話なんすけど……」


970 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:25:21 DbNQ.aQo0
と、おれが口が開いたところで、慧音先生が手で制止を促してきた。
何だ、と思う間もなく、慧音先生が吉良の野郎に顔を向け、温かな声で語りかける。
何してんのッ、アンタッ!


「吉良さんも、こっちに来て皆と話さないか?」

「…………いや、それで見張りが疎かになっては事だ。私はこのまま外を見ていよう」


吉良の野郎はぶっきらぼうに応えると、その場を動くことなく、窓の外へ視線を向けた。
危ね〜。いや、危なくはないが、いやに緊張するぜ、あいつとの会話はよ〜。
だけど肝心の慧音先生は、そんなおれの焦りに気づくことなく話を続けていく。


「そうか。それは感心だな、吉良さん。といっても、休める時には、身体を休めなくてはならないぞ」

「ああ……分かっているよ」


そこで二人の会話は終わったが、僅かな時間とは裏腹に、おれの顔には大量の冷や汗がつたう。
こりゃ〜、おれの心臓が持ちそうにねえ。やっぱり、どこかのタイミングで吉良の正体、
もしくは危険性について、皆に伝えなくちゃだぜ〜〜……当たり前だが、吉良にばれずによ〜。


「ぬえは、どうだ? こっちに来ないか?」


ハンカチを取り出し、汗を拭いていると、慧音先生が今度はぬえさんに話しかけた。
それに対する返答は吉良の野郎みたいに冷たいものだ。


「……手を洗いに行ってくるわ」


一言だけ残して、ぬえさんは部屋を出て行った。
ぬえさんは、最初に会った時と比べて、何つーか、随分と印象が変わったなあ。
もうちっと愛想があったように思えるし、何よりももっと多弁だった気がする。
つーと、荒木の放送かな〜。あれで色々思うところがあったつーわけだよな、やっぱ。
まあ、慧音先生が色々気を配っているみたいだから、おれが出しゃばる必要はないし、
大丈夫なんだろうけれど、何か不安だな〜。このパーティーは吉良のことに限らず、
色々とヤバイ気がするっつーか……単なるおれの勘だけど…………。


971 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:27:05 DbNQ.aQo0
「それで話って何よ、仗助? 時は金なり。その言葉の意味ぐらい分かるでしょう?」


ドカンと音を立ててソファーに座り直した天子さんは、腕を組み、脚を組みながら、話を催促してきた。
懸念事項はあるけれど、このまま天子さんを放っておいた方、よっぽど面倒ごとになるな、こりゃあよ〜。
しゃあねー、話すとするか。


「そうっすね。話を聞いたらつまんねーと思うかもしれないんすけれど、どうも違和感を拭いきれないんすよね。
康一とは結構長い付き合いなんすけれど、そいつと話をしてても、何か会話が噛み合わねーんすよ。
知っているはずのことを、知らないっつーか、何つーか、そーいうのがあって…………忘れたとか、そんなチンケなもんじゃねーんすよね。
どうも最初から知らない。そんな素振りを康一が見せるんすよ」

「……貴方の話をまとめると、二人の記憶が食い違っているということかしら?」


少し考える素振りを見せると、パチュリーさんが、おれの言いたかったことを上手く整理してくれた。
おれは天子さんが言葉を入れる隙を生ませまいと、すかさず頷く。


「そうっす。普段なら、単なるおれ達の勘違いで話を済ますんですけど、
こんな状況だから、何か他に理由があるんじゃないかと思って…………そういうの分かります?」

「分かるけど……そうね。それだったら私が説明するより、慧音、貴方がした方が分かりやすいんじゃないかしら?」


パチュリーさんは何ら迷う暇もなく肯(がえ)んずると、慧音先生にバトンを渡した。
その慧音先生も何ら躊躇うことなくバトンを受け取り、おれの方に向き直った。


「うむ。まずは、そうだな、仗助君は白沢(ハクタク)というのを知っているだろうか?」

「いや、知らないっすけど…………何すか、それ?」

「うむ、白沢というのは古来中国において……」

「……あ、待って。やっぱり私は話すわ」


慧音先生が説明を始めた途端、パチュリーさんが割って入ってきた。
その無作法に頭にきたのだろう。慧音先生の目は一段と鋭くなって、パチュリーさんを睨みつける。


972 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:27:29 DbNQ.aQo0
だけど、パチュリーさんはそれを柳のように受け流し、実にあっけらかんとした顔で応えた。


「だって、慧音の話が無駄に長くなりそうだったんだもの。
白沢が貴方の力にどういった影響を与えたかは知らないけれど、今は正直どうでもいいでしょ。
話の要点は、貴方の能力の由来じゃなくて、貴方の能力そのもの。分かるでしょう?」

「いや、それはそうかもしれないが……やっぱりこういうのは最初からの方が……なあ、仗助君?」


パチュリーさんの言っていることが正論なのか、慧音先生はたじたじとなった。
とはいえ、慧音先生は喋るのを止めようとしない。というか、パチュリーさんの言うとおり、
何だか話がとてつもなく長くなりそうな気配が慧音先生から漂ってきたぜ〜。こりゃ、マズイ。
ピンときたおれは即座にパチュリーさんに向かって訊ねた。


「能力すか?」

「ええ。慧音には歴史を食べる程度の能力があるのよ」

「食べる? 歴史を〜〜? 何つーか、いまいち……いや、正直……分かりづらいっすね」

「簡単に言い換えるなら、人の記憶にある出来事を無かったことにする能力ってとこかしらね。
私自身もいまいち判然としない力だけれど、その能力を使ったとなれば、
仗助の言う噛み合わない会話が生まれることも、十分にあるということよ」


やっぱり話は聞いてみるもんだぜ。康一とは違う答えが返ってくる。
しかし、「へー」と頷くおれの脳裏に一人の忌まわしき人間の姿が映ってしまった。
つーか、これって要するにあの漫画家みたいな能力ってことだよな〜〜?
さすがにアイツほど利便性があるわけじゃないみたいだが……ゴクリ……やっぱり恐ろしいぜ〜。
他人の頭の中をいじくり回すっつーことに変わりはねーからな。
まあ、アイツが今更康一をどうこうするとは思えないし、また人の言いなりになるような奴じゃないから、
この件に関しては無関係だと思うけど…………。
そこまで考えて、ふと慧音先生はどうなんだろうと思い、何となくおれを疑問を口にしてみた。


「…………えっと、慧音先生……そんなことしたんすか?」


本当に何気なく慧音先生にぶつけた質問だが、その答えは怒り心頭となって返ってきた。こえ〜。


「そんなことするわけなかろう!! パチュリーも私がまるで犯人であるかのような言い回しはやめろ!!」

「ごめんなさいね。でも、今までの会話で幾つかの『可能性』が新たに浮かび上がってきたわね」


慧音先生の物凄い剣幕に見向きもせず、パチュリーさんは深刻な顔でそんなことを言ってきた。
パチュリーさんの目線の先には、やっぱり荒木と太田の野郎共がいるんだろうな。そういった考えの人が近くにいると、やっぱり心強いぜ
目の前のことしか見てねえ天子さんとは大違い。まあ、おれもパチュリーさんの言うところの「可能性」が思い浮かんでたりする。
間違ったら、恥ずかしいから、何も言わないけど。取り敢えずは、聞き役に徹するぜ〜。


973 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:28:16 DbNQ.aQo0
「『可能性』っすか? もったいぶらずに教えて下さいよ、パチュリーさん」

「一つ目は私達全員の記憶が食べられたのではないかということね? 私も少し記憶に違和感あるし」


夢美さんが、パチュリーさんに代わって答えてくれた。
それにパチュリーさんが頷き、補足説明をしてくれる。


「ええ。それはつまり、私達のことを知らない私達の友人、知人がいるかもしれないということ。
これからは見知った相手に出会っても、より慎重に、より警戒してという心構えが必要になってくるわね。
勿論、私達の記憶が奪われているということもあるから、見知らぬ相手にも相応の対応しなくてはならない。
そして二つ目……」


そこでパチュリーさんは視線を慧音先生に移した。
その目は力強くあれど、別に口を開く気配は見せない。
どうやらパチュリーさんは慧音先生に答えを促しているようだ。
その意図に気がついた慧音先生は溜息を吐くと、ゆっくりとパチュリーさんの言葉を付け足した。


「二つ目は私が荒木と太田と繋がっていることか? 
確かに記憶の綻びが見つかった以上、私の関与は疑われるし、また私と康一君に何の関係性もなければ、
荒木と太田が私と康一君とを繋ぐ糸であったという『可能性』は浮かび上がってくるものだ。
だが、断言させてもらうぞ。それは絶対にない!」

「あら、貴方が貴方自身の都合の悪い記憶を食べたということも考えられるんじゃないの?」


パチュリーさんが針のように尖った質問で、慧音先生を突き刺す。
だけど、それで痛みを与えることはできなかったようだ。
慧音先生は顔色一つ変えずパチュリーさんに答えを返した。


「そもそもパチュリーは私の能力を誤解している。歴史を食べると言っても、事実を無かったことにするこはできない。
あくまで、そのように認識させるだけだ。それだって対象が当たり前のこととなると、違和感を拭いきれるものではない。
つまり、私の能力を完全に作用させるには、人の認識が低いものに限るということだ。
であるのならば、実体験を伴った個人の記憶に干渉するその困難さは分かるだろう?
それに私の能力が通用するのは、精々が歴史の浅い人間くらいだ。パチュリーやこの地にいる他の妖怪ともなると、
その歴史を食べるのは無理だと言っていい。というより、不可能だ。
どうだ? これでも荒木と太田が私を味方にするメリットがあると思うか、パチュリー?」

「ないわね。嘘も……言っていないようだし。
まあ、最初からそこまで貴方を疑っていたわけではないけどね…………一応、念の為にというやつよ。
気に触ったのなら、謝るわ。ごめんなさい。問題は……これは三つ目の『可能性』に繋がることなんだけど……」

「……三つ目すか!!?」


おれは思わず叫んじまった。ひょっとしてパチュリーさん達は岸辺露伴の野郎を知っているのか!?
やっべ〜〜、こりゃまた一騒動起きるぜ。おれは早速、まだ会ってもいない奴と皆との邂逅に頭を悩ませた。
しかし、どうやらそれは杞憂だったようで、パチュリーさんはアイツの名前を出すことなく、淡々と説明を続けていった。


974 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:28:43 DbNQ.aQo0
「ええ。ここで慧音に改めて質問するけれど、貴方の能力をZUNが使ったとしたら、
誰に対しても記憶の完全削除は可能なのかしら?」

「……要領を得ないな。まず確認させてもらうが、ZUNとやらは、『東方心綺楼』の製作者であり、
またそれによって外の世界の人間の信仰を受けることになった神……つまり荒木か太田の本当の名前ということであっているか?」

「ええ、そうよ。ま、あくまで仮説の内だけど」

「うーむ…………分からない、としか答えようがないな。大体何故そんな質問をするんだ、パチュリー?」


慧音先生の疑問は尤もだ。正直、おれもパチュリーさんの言わんとしているところが分からない。
一体、さっきの質問にどんな意味があるっつーんだ? おれも慧音先生と一緒になってパチュリーさんの顔を覗きこむ。
するとパチュリーさんはかすかな笑みを零し、おれたちを焦らすように紅茶を口に運び、一息入れやがった。
おいおい、この人は意外にSか〜〜? ちょっぴりドキドキ。
おれがそんな不謹慎な感想を抱くと、パチュリーさんはそれ咎めるかのように、湿った唇を動かし始めた。


「ZUNは幻想郷を作り、そこの住人である私達を作った者として外の世界の人間に信じられている。
これって何かを想起されない? 大地を作り、人を作った。それこそ多くの人間達が遥か昔より信じるもの」

「え……えっと、それってひょっとして、あれっすか? 神様…………キリスト教の?」


おいおい、マジかよ。それはあまりにスケールが大きいだろう。
心中でそんなことを呟きながら、おれはパチュリーさんに確認を取る。
そしてパチュリーさんは、おれの驚愕とは裏腹に、実に落ち着き払って返答を開始した。


「そう、全てを知り、全てが出来る唯一神。真っ先に思い浮かんでしまうのが、それ。
これって、ZUNが幻想郷における全知全能の神として信仰されている、と考えることも出来るわよね。
今回の場合、問題となってくるのは、この全能という部分ね。
歴史の消失という慧音の能力に類似した現象を引き起こしたことから推察されるのは、
幻想郷の住人――つまりZUNが作り出したと信じられている人間や妖怪『全ての能力』を、
ZUN自身も使うことが出来るのではないかということ。……これが三つ目の『可能性』ね」

「はあ? そんなことあるわけないでしょう。それはあまりに強大過ぎるわよ。
人の信仰が薄れているというのは、守矢だっけ? あいつらがもう証明しているでしょう?
そんな中で、力を失うどころか、より大きな力を手に入れるって? 馬鹿げているわ。拡大解釈が過ぎるわよ!」


怒気の孕んだ声を、天子さんが上げてきた。つーか、どこに怒るポイントがあったんだよ。
あー、自分と同じ能力を持つというのが許せねーとかか? まあ、確かに荒木と太田が
あのマヌケ面で、おれのクレイジーダイヤモンドを使ってきたら、ちょっとカチンと来るけれどよ〜。


975 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:34:22 DbNQ.aQo0
あ、つーか、ひょっとしておれが天子さんに目を向けず、無視していたから、機嫌悪いのか。
やべえー。何かそう考えたら、天子さんがすげーおれのことを睨んでいるような気がしてきたぜ〜。
取り敢えず、おれは何も気づない振りをして、天子さんの意見に同調しとこ。それで解決するかは知らねーが。


「そうっすね〜。幾らなんでも突拍子がねーって気がしますよ、パチュリーさん」

「私だって、断定するつもりはないわよ。ただ、そういうことも考えられるって話。
大体、そこまでの能力を有するとしたら、例大祭が毎年行われるほどの信仰を得てなきゃだし、
それだったら仗助も『東方心綺楼』の名前ぐらいは聞いたことがあるでしょうしね」

「…………まあ、おれも別に祭りやそういった行事に詳しいってわけじゃありませんけどね。
知っているのなんか、精々がねぷた祭りぐれーで、他はとんとですよ」


つーか、おれが知っている知らないで物事を判断するのは勘弁して欲しいな。
プレッシャーだぜ〜〜。祭りなんか、マジで興味ねーからよ〜。
そんな気持ちから出たあやふやなおれの答えだったけれど、パチュリーさんがしたたかに受け継いで、天子さんに言葉を返す。


「……というわけよ、天子。とにかく『可能性』は否定しきれるものではないってこと。
ま、事実だったところで、貴方に何か出来るというものでもないけれどね」

「喧嘩売っているの、魔法使い?」

「それは早合点。お生憎様、私はバーゲンセールは行っていないの。
それに私だって、全知全能の神が相手では出来ることは少ないでしょうからね。
というか、この場合、重要なのは私達ではなく、仗助達スタンド使いね」

「……え、おれ……達っすか?」

「ええ。幻想郷とは関係ない貴方達なら、ZUNの掌の上から外れる。
それなら、ZUNの予想や思惑を超えて、あいつを倒すことが出来るでしょう?」


うおおぉ、またもやプレッシャー。この人、絶対Sだぜ〜〜。
まあ、でも、人様の命運をたくさんに乗せた重圧だが、実はおれは平気だったりする。
何故なら、パチュリーさんが期待するスタンド使いには、あの人が含まれているからだ。
それ即ち、無敵のスタンド使い――承太郎さん。正直あの人がいりゃー、どうにかなるだろう。
というわけで、おれは承太郎さんに代わって、パチュリーさんの期待を請合うことにした。


「まあ、任せといて下さいよ! こっちには飛びっきりの味方が付いているんで!」

「あら、分かっているじゃないの、仗助♪」


ここで何故か天子さんが満面の笑みを浮かべて、おれの肩を叩いてきやがった。


976 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:34:45 DbNQ.aQo0
話の流れからして、アンタじゃないっつーのは分かるだろうがよ〜。何でアンタが喜んでいるんだ。
ま、色々ツッコミたいけど、折角直った天子さんの機嫌を、ここでまた損ねるのは厄介極まりない。
おれは天子さんの言に頷いてやることにした。


「そうっすよ! 天子さんがいれば、百人力っす!」


うんうん、と頭を縦に振る天子さんだが、それとは反対に他の皆の視線が冷めていくような気がする。
あれ、選択肢を間違えたかな〜〜。今の台詞を無かったことにしたいけれど、残念ながらもう後の祭りだ。
ここはもう天子さんの笑顔に金銀財宝よりも遥かに高い価値があると信じて、次の質問に移ろう。


「えーと、もう一つ質問があるんですけど、いいっすか?」

「何? 遠慮せずに、さっさと言いなさい」


その言葉と共に天子さんがおれに屈託のない笑顔を向けてきた。
何だか妙に罪悪感を覚えるぜ〜。ま、ここでそんなことに拘ってもしょうがないので、おれは大人しく話す。


「あの、死んだ人が生き返るってこと、ありますか?」


辺りがシーンと静まり返った。…………いや、まあ、確かに荒唐無稽な話だよな〜。
ここで吉良吉景は実は死んだんですよって言っても、信憑性ゼロだしな〜。
さっきのこともあるし、もしかしたら、おれって皆に馬鹿って思われているかもしれない。
…………嫌だな〜。さて、ここからどういった説明をして、誤解を解こう。
そんな風に頭を悩ませていると、パチュリーさんがおもむろに口を開いてくれた。


「まずは復活の定義を教えてくれないと、話は始まらないわね」

「定義っすか? あー、別にそんな小難しいことはいーんすよ。
魂の在り処とか、そーゆーのはどーでもいいんで……。ドラゴンボールの神龍に頼んで生き返った。
そんくれーの気軽さでいいっす」

「ドラゴンボール? …………はぁ、まあ、いいわ。
死者が生者のように動くという意味合いであれば、復活は可能よ」

「え!? 可能なんすか!?」


自分で訊いといて、ビックリ。いや、でも、こんな気軽に肯定されたら、
やっぱりっつーか…………マジで幻想郷はとんでもねーぜ。


977 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:35:10 DbNQ.aQo0
「まず思い浮かぶのはゾンビやグールね」

「あー…………そーゆー方向っすか、パチュリーさん?」

「だから復活の定義を訊いたのよ! あとは、そーね、他にパッと思いつくのは反魂法ね」

「反魂法!!? まさか出来るのか、パチュリー!!?」


慧音先生が身を乗り出し、顔と声に驚愕の色を写して大きく叫んだ。
パチュリーさんは慧音先生のそんな姿を見取ると、静かに、そしてゆっくりと紅茶を手に取り、口に運んでいった。
この人は相変わらず嫌なところで間を取るな〜。
しばらくして紅茶を飲み終えたパチュリーさんだが、ようやく答えを口にしてくれた。


「出来ないわよ」

「出来ないのかよッッ!!」


おれと天子さんと夢美さん、そして慧音先生も一緒になってパチュリーさんにツッコミを入れた。
あれだけ間を取って、このオチは正直ないぜ〜。嘆息やら呆れやら憤りを見せるおれらだけど、
パチュリーさんはどこ吹く風と平然と話を続けていく。


「昔にそういったことが書かれている本を読んだだけだし、記憶が曖昧なのよ。
別に蘇らせたかった人もいなかったしね。だけど……仗助、何でそんなことを訊くのよ?
ひょっとして誰かを蘇らせたいの?」


その言葉と共に射抜くような視線がパチュリーさんの目から放たれた。
そういやー、荒木の野郎が殺し合いの優勝者には何でも願いを叶えるって言ってたしな〜。
ここで妙な疑いを持たれるのは嫌だし、素直に答えとこ。


「いや、そーゆーんじゃなくてですね。参加者名簿があるじゃないですか?
そこに死んだ奴の名前が記されていたんですよ。それでどうゆう訳だって思って訊いてみたんす」

「…………そう。それでその死んでた人って誰なの?」


うーん……ここで吉良の名前を出していいんだろうか。悩むぜ〜。
ここで吉良が死んでたっつったら、間違いなく吉良やおれに詰問するだろうしな〜。
そこで死因やそこに至るまで過程が間違いなく訊かれるだろうけど、そこで吉良が殺人犯だと隠せるか?
いや、それ自体はいずれ皆に知ってもらいたい事実だが、それ以前におれの話を信じてもらえるのか?
もう既に吉良とはお互いに今日初めて出会いましたって素振りを、皆の前で続けているんだぜ〜。
ここに来て、実は昔からの知り合いでしたーで始まるお話に、果たしてどれだけの信用が得られるっつーんだ。
つーか、無理だろ。ここは一先ず、問題の先送りだな。


978 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:37:26 DbNQ.aQo0
「あ〜、それついては後で話しますよ、パチュリーさん」

「何で今じゃダメなのよ?」

「色々と複雑なんですよ」

「…………まあ、いいわ。後でちゃんと話しなさいよ」

「はい、それは絶対に!」


グッと拳を握り締めて、おれは力強く答えた。
とはいえ、どのタイミングで吉良のことを話せばいいか分からなかったりする。
うーん、と再び頭を悩ませていると、パチュリーさんが突然と大声を上げた。


「……………あ! 今、思いついたけれど、定義に拘らないのであれば、転生も復活の範疇よね?」

「ひょっとして阿求のことを言っているのか?」


慧音先生が何やら人の名前を持ち出し、確認を取る。
パチュリーさんは、それに頷きながら質問を続けていった。


「ええ。阿求のような転生って、他の人にも可能なのか分かる、慧音?」

「どうだろうな。そもそも阿求の転生は記憶を受け継いでいるとはいえ、名前も身体も違ってくるしな。
果たして、それを復活と言っていいのか。それに転生は閻魔の許可がいるものだ。阿求が得たそれは特例と言っていい。
もし阿求以外にそれを得られるとしたら、生前にたくさんの善行を積み、死後もたくさんの善行を積んだら、と言ったところだろう。
仗助君が言う誰かとは、そんな善人なのか?」

「いや〜〜〜〜、そんなことはねーっすよ。そいつはとんでもね〜〜悪人っすから。ね〜〜〜〜、吉良さ〜〜〜ん!?」


おれはそこで吉良の方に振り向き、そんなことを言った。
これくらいなら、吉良の「スイッチ」とは関係なく、皆の警戒を少しは促すことを出来るんじゃないか。
そんな心積もりだったけれど、吉良にとっては十分に堪らないものだったらしい。
重苦しい空気を身に纏い、吉良はその能面のように冷たく、固い顔に飾った
光を映さない真っ黒な双眸を、ゆっくりとこちらに向けてきた。


979 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:38:52 DbNQ.aQo0
「…………いや……私には……何を言っているか……さっぱり……分からないな…………仗助君……」


クソ! やっぱり吉良の野郎には露骨過ぎたか。だけど、これでも皆には迂遠過ぎる言い方だ。
これで吉良の正体を察してくれというのは、到底無理な話だろ。
あー、マジどうしろっつーんだよ、コレ。おれが吉良を睨みつけながら、この苦汁を舐めていると、
慧音先生が実に素敵な声をかけてきてくれた。


「前にも少し思ったが、二人は知り合いなのか? どうにもお前達は含みのある言い方をするが……」

「確かにそんな感じがするわね」

「んー、ひょっとして仗助君がさっき言った死んだ人っていうのは……」


慧音先生に続き、パチュリーさん、夢美さんが上手い具合に頭を働かせてくれた。
これなら話の取っ掛かりとしては十分。全くのゼロからよりは、話を聞いてくれる筈だ。
これだから頭の良い人は好きなんだよ。


とはいえ、吉良がこっちを窺っている中で、この話題を続けるのは危険だ。
吉良の野郎に「どうぞ、爆弾のスイッチを押して下さい」って言うよーなもんだからな〜。
おれは歯噛みしながら、この話を打ち切ることにした。


「いや、それよりも死者復活っすよ!! 
話をまとめると、まともな状態で生き返ることはねーってことでいいんすかね?」


パチュリーさん達は目を細めて、物凄く胡散臭げな視線を送ってきてくれた。
ちょっと強引過ぎたか? だけど、何となくはヤバイっていうのを察してくれたらしい。
吉良の問題にツッコムことなく、おれの質問に答えてくれた。


「んー、まー、そういうことでいいと……」

「……ちょっと待って、パチェ。まだ私の意見を言っていないわ」


パチュリーさんの言葉を遮り、夢美さんが声を上げた。
それに対してパチュリーさんが興味津々といった顔で応える。


「そうね。教授の見地からも、こういうのは是非聞いてみたいわ」

「ぐふふ、それでは期待に応えて、披露させてもらおうかしら。私が一番に思いついたのはクローンね」

「クローン?」


パチュリーさん達が声を重ねて聞き返したのを嬉しそうに笑い、夢美さんは舌を滑らかに回していく。


980 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:41:59 DbNQ.aQo0
「まあ、あまり説明を長くしたら、パチュリーの横槍が入っちゃうみたいだから短くするけれど、
要はコピーってことね、人間のコピー。複製された人間というやつよ。
これなら、取り敢えずは見た目が同じ人間が生まれてくるでしょう? これって復活と言えるんじゃないかしら?」

「あー、いや、その、記憶とか経験も、ちゃんと備わった状態での復活を、お願いします」


おれは、おずおずと復活の定義を付け足した。
後出しで、かなり申し訳ない形となってしまったが、
夢美さんは気にせずに笑顔で、空中にパンチを打ちながら喋っていく。


「あら、そう? じゃ、二つ目ね。こっちが本命。さっきのはジャブで、これが右ストレート。
その人が生きていたという可能性世界から、こっちの世界に拉致してくること。
事実としては復活とは違うけれど、傍目からなら死者が生き返ったという風に見えるわよね?」

「あ〜、可能性世界…………他の世界ってことですよね? おれたちが住んでいるのと似たような……」

「もしかしたら、平行世界とかパラレルワールドと呼ぶのが、貴方の世界では一般的かもね。
とにかく私の可能性空間移動船があるし、そういった荒業での死者復活も可能というわけよ」


おれの質問にしれっと答える夢美さん。何つーか、康一の言う時間軸云々と同じくぶっ飛んだ考えだぜ。
まあ、こっちは予想でも何でもない実現可能なことらしいが………………
…………つーか、あれ? 康一と話が噛み合わないのも、このせいじゃね?
その考えに至るや否や、ボカッと人の頭を叩く音が響いた。


「このバカ教授!!! 何てものを作ってくれるのよ!!!」

「い、痛いわね、パチェ。何をするのよ〜」

「何をするのよ〜、じゃないわよ! 
そんなものがあったなら、今までの仮説やら何やら全てが無意味になっちゃうじゃない!」

「いや、でも、パチェ、貴方には可能性空間移動船のことは既に話していたわよね?」

「その時は貴方の起こした馬鹿げた異変に考えが回っていたのよ!!」


おれたちをそっちのけで二人は言い争いを続けていく。
しかし、何を話しているのか、さっぱり分からない。


「何を怒っているんすか?」


何気なく呟いた疑問に、パチュリーさんが青筋を立てて、おれに吼えてきた。


「可能性世界よ! そんなのがあれば、前提が変わったり、必要なくなったりするのよ!
例えばAがなければBに到達しないことであっても、世界によってはCからAへと到達することがあるかもしれない。
いえ、何もせずともBが存在するということも考えられるのよ。可能性世界っていうのは!
ちょうどそこのバカ教授が魔力のない世界から、魔力のある幻想郷にやって来たようにね!」


981 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:42:27 DbNQ.aQo0
はぁ、と気のない返事で頷くと、横にいた慧音先生が分かりやすく説明してくれた。


「つまり、だ。パチュリーは『東方心綺楼』によって信仰を得て、荒木と太田は神となったと考えたが、
そんなもの関係なく最初からあいつらは私達をどうにかする力を持っていたのではないか。
また記憶云々に関しても、私の能力に関係なく、最初からそうであった世界から連れてきたのではないか。
そんな風にパチュリーの考えを全て覆すことが、可能性世界には出来るのだ」


はぁ、と気のない返事で再び頷くと、今度は天子さんが分かりやすく説明してくれた。


「要するに、そこの魔法使いはしたり顔で得意気に説明していたけれど、
実はそれは説明でも何でもなく、自分は何も知らない馬鹿ですっていう単なる自己紹介だったわけよ」


それを耳にしたパチュリーさんはキッと天子さんを睨みつけると、
薄い紫色の髪を振り乱しながら、ボカッ、ボカッ、と夢美さんの頭をまた殴りつけた。


「い、痛ァ! って、ちょ、ちょっと待って、パチェ! 
可能性世界に全ての答えを収束させようとしているみたいだけれど、大丈夫よ。
可能性空間移動船を動かすのには、結構なエネルギーが必要だから、気軽に運用出来るものじゃないし
それに何より移動船は他の人には使えないように、ちゃんと管理しているから」

「あら!? どこかの世界には、お腹が真っ黒な岡崎夢美がいるんじゃないの!?」

「そうかもだけど、それでも大丈夫よ。
平行警察がいるもの。そんなポンポン可能性世界を行ったり来たりして、
更には多数の人間を拉致しては、エネルギーの均衡に不和が生じてしまい、
平行警察が黙っていないもの」

「警察…………可能性世界の行き来を取り締まる機関があるのね」


そこでパチュリーさんは振り上げた拳を元に戻し、ゆっくりと深呼吸を開始した。
可能性世界という可能性が低くなったことに安堵してか、気持ちを落ち着かせている。
この喧騒も無事に終わりそうだ。
だけど、夢美さんが次に放った言葉で、全てが無意味なものとなってしまった。


982 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:42:55 DbNQ.aQo0
「でも、ちょっとぐらいならバレないけどね♪」


てへぺろ、と舌を出す夢美さん。
それにイラッとしたのか、パチュリーさんはすかさず右ストレートを夢美さんの顔面に叩き込んだ。
そしてそれに続いて慧音先生が頭突きを叩き込み、仕上げとばかりに天子さんがドロップキックをお見舞いした。
その三連コンボを見事に喰らった夢美さんは壁へと吹っ飛び、そのまま身体を壁へめり込ませる。
おれもちょっとばかりムカついたけれど、さすがに女性を殴るのは気が引けたので
壁手にはまって、吐血し、鼻血を垂れ流す夢美さんをクレイジーダイヤモンドで治療してやった。


「あの、それでこの話は結局どこに落ち着くんすか? 他の世界に行けるやら行けないってみたいですけど……」


夢美さんを床に転がし、おれは改めて怒りで息を喘がすパチュリーさんに向き直った。
パチュリーさんはおれの声を耳にすると、再び深呼吸をして、少しずつ息を落ち着かせ、
言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いていった。


「そう、ね。復活の件にしては、可能性世界から、その人を連れて来たことも考えられる。
そしてラスボスは荒木や太田ではなく、可能性世界のもう一人の岡崎夢美かもしれない。今はその程度の認識でいいわ」


そう言い終えると、パチュリーさんはぐったりした感じでソファーに座り、その柔らかそうな身体を背もたれに預けた。
周りを見てみると、パチュリーさんに限らず、天子さんや慧音先生も疲れたような雰囲気を発している。
他にも訊きたいことはあったが、この様を見るに、さすがに無理というものだろう。
そして何より、窓の外を見ていた吉良の野郎がこちらを向き、おれ達の会話に終止符を打ってくれた。


「……皆……康一君と河城さんが、戻ってきたぞ」


983 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/03(水) 22:45:13 DbNQ.aQo0
前半部分は以上です
後半は、これから頑張って書き上げます


984 : 名無しさん :2014/09/04(木) 00:02:45 61ceSH3c0
投下乙です
キャラ視点で話が進行して、何を考えているのか分かるのが面白かった、特に仗助ww
ゆめパチェ遂に愛称で呼ぶ仲になって微笑ましいけど、このままだと一旦解散か
というかパチュリーのチームかなり危なっかしくて怖いわー
後半も楽しみにしてます


985 : ◆YF//rpC0lk :2014/09/04(木) 00:09:45 .vl/QcX60
乙です
教授もパチェとイチャイチャしながら考察するとは器用な女よ
そして仗助と吉良、勝つのはどっちか


そろそろ次スレを建ててきます


986 : ◆YF//rpC0lk :2014/09/04(木) 00:16:06 .vl/QcX60
次スレを建てました

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1409757339/


987 : 名無しさん :2014/09/04(木) 00:38:33 SNxkkTM20
投下乙です
もう前半のゆめパチェの心理描写が堪りません。
丁寧かつ納得のいく重厚な描写に打ち震えました。
あとは天子の底意地の悪さと仗助の悪戦苦闘が微笑ましい。
素晴らしい前半でした。後半も楽しみにしてます。


988 : 名無しさん :2014/09/04(木) 13:51:22 huAUZyJUO
投下乙です。

東方心綺楼はどっちの世界にも無いから、他の世界からもってきたんだろうな。


989 : 名無しさん :2014/09/04(木) 19:38:27 X/zfeDGk0
投下乙です
前半は考察編ってところかな。
各々の絡みに内面がよく出ていてスゴク味が出ていました。
問題は後半…とても気になります。
ぬえがお手洗いに行ったままなのが怖い…
他メンバーからもほぼノーマークなキャラだし


990 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/08(月) 00:14:02 FUVgjb6E0
感想ありがとうございます
励みになります
しかし、申し訳ありませんが
予約延長させてもらいます


991 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/08(月) 00:15:54 IW99jgq20
予約を延長します。


992 : ◆qSXL3X4ics :2014/09/08(月) 20:49:12 5O49g.JI0
すみません。予約延長します。


993 : 名無しさん :2014/09/11(木) 15:30:27 D0HAEoZw0
藁の砦組おもしれーなー
9人もの人間が集まって喋ってるだけで既に結構面白い


994 : ◆qSXL3X4ics :2014/09/15(月) 19:36:10 M64/zkA.0
期日中に完成の見込みが立たないため、予約を破棄します。すみません。


995 : 名無しさん :2014/09/15(月) 22:52:36 qr2LPbTs0
そろそろスレ埋めするべき…なのかな


996 : ◆.OuhWp0KOo :2014/09/15(月) 23:54:25 cRsedqz60
一旦予約を破棄します。

何度も申し訳ありません。


997 : Strawberry Fields?? ◆BYQTTBZ5rg :2014/09/15(月) 23:54:37 eIUsTF9s0
投下はこっちからしてった方がいいのかな?


998 : 名無しさん :2014/09/15(月) 23:58:58 JMRHx8yM0
もう残りほんのちょっとだから新スレの方から投下していったら良いと思うよ
つうわけで埋め


999 : 名無しさん :2014/09/16(火) 00:02:52 boR7tvq.0
と思ったらもう投下されてましたね、失礼しました
うめ


1000 : 名無しさん :2014/09/16(火) 00:18:13 boR7tvq.0
1000なら吉良さんの胃に穴が


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