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アクションフィギュア・バトルロワイアル
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全高15cmのミクロウォーズ、始まる。
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西暦20XX年。
第三次世界大戦も、宇宙人の襲来も、悪の秘密結社の暗躍も、
巨大怪獣の出現も、異能力者の台頭もなかった、ごく当たり前の世界。
その時代では、日常的に人を支えるロボットが存在し、様々な場面で活躍していた。
『神姫』。
それは全高15cmのフィギュアロボである。
「心と感情」を持ち、最も人の近くにいる存在。
多様な道具・機構を換装し、オーナーを補佐するパートナー。
その神姫に人々は、思い思いの武器・装甲を装備させ、戦わせた。
名誉のために、強さの証明のために、あるいはただ勝利のために。
オーナーに従い、武装し戦いに赴く彼女らを、人は『武装神姫』と呼ぶ。
▼ ▼ ▼
――何もないところで、「私」は目を覚ましました。
正確には、単純なパターンが無限にペーストされたような床と、空間に格子状のワイヤーフレームだけが浮かぶだけの世界。
無機質というよりほとんど現実味がなくて、すぐに私はここが電脳空間のようなものなのだと思い当たりました。
それにしても、私はどうしてこんなところで目覚めたのでしょうか。
直前の記憶を検索してみましたが、どういう訳か該当するものがありませんでした。
該当するメモリーがないのではなく、過去のメモリー自体がうまく検索出来ないことに、私は首を傾げました。
もしかしたら、私はたった今はじめて「目覚めた」のかもしれない。
そうだとしたら、何も知らないままの状態でいるのもおかしくないですから。
目を落とすと自分の、人間の少女を模した……でも、人間ではあり得ない姿が視界に入りました。
だって本物の人間の手は、手首のところでパーツが分割されていたりしないでしょう。
手足にネジ穴もないでしょうし、ボディはペイントではなく、ちゃんとした服を着ているはずです。
そう、私は人間ではありません。
私は神姫。
人間のパートナーとして生み出された、身長15センチのフィギュアロボット。
形式番号はFL016、天使型MMS「アーンヴァルMk-Ⅱ」。
そして名前は……。
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「……あれ?」
やっぱりメモリー障害なのでしょうか。自分の名前が、思い出せない。
神姫は起動時に、マスターによって個体名を登録されるはずなのに。
なんだか、嫌な感じがします。
まるで何か大変なことが私の身に起こっているのに、私自身がそれに気付いてないような――
『お目覚めですね、アーンヴァルMk-Ⅱ』
「ひゃあっ!?」
突然の呼びかけに声が裏返ってしまい、とっさに私は両手で口を塞ぎました。
そして、自分の目の前に当たり前のように立っているもう一人の存在に気がつきました。
さっきまではいなかったはずなのに。ここは電脳空間だからなんでもありなんでしょうか。
だけど、最初の驚きの波が退いた後で私の目を惹いたのは、彼女の外見でした。
「あなたは……ネイキッド素体? ううん、パーツの分割が神姫と違う……あなたはいったい……」
彼女は……体つきからして女性型なのは間違いないと思うのですが、目も口もなく、最低限の凹凸だけしか持たない姿をしていました。
加えて全身は半透明で成形されていて、内部のメカニックがうっすらと見えています。
ただ、ボディの構造とか、関節の繋がり方とか、明らかに神姫の素体じゃない。ネジ穴もありません。
神姫じゃない、別のフィギュア。私が知らない、別のなにか。あなたは、だれ?
私の疑問を察したのでしょうか。彼女は、自分から口を開いて(実際に口が動いたわけではないですけど)、自己紹介を始めました。
『自己紹介が遅れましたね。私は、figma(フィグマ)シリーズの女性型素体です。
個体名はございませんので、呼称が必要な際は便宜上"Archetype:she(アーキタイプ・シー)"とお呼びください』
「figma……?」
私のメモリーには存在しない単語です。武装神姫とは別のフィギュアロボットのシリーズなのでしょうか。
ううん、そんなことよりも、今は彼女が私のことを知ってるってことの方が大事です。
意を決して、私は質問を投げかけました。
「それで、えーと……Archetype:sheさんでしたっけ。私、どうしてこんなところにいるんでしょう? なんだか記憶がぼんやりしてて……」
「良い質問です。率直に申し上げましょう」
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良かった、彼女は事情を知っているようです。
私は安心の吐息を漏らしました。そして、彼女の次の言葉を聞いて――そのままの姿勢で、固まりました。
『おめでとうございます。あなたは、この特殊状況自律総合戦闘実験、プロジェクト名"BATTLE ROYALE"の被検体に選出されました』
……彼女は何を言っているのでしょうか。
戦闘実験? バトルロワイアル? 神姫バトルとは、違う? いったい何を、何のために……。
私が思考を纏められないでいるうちに、彼女は淡々と言葉を繋いでいきました。
『この世界に存在するアクションフィギュアは、武装神姫だけではありません』
彼女の言葉と共に、単調なワイヤーフレームだけの空間に次々と立体映像が浮かび上がっていきます。
神姫もいる……だけどそれだけじゃない。
男性タイプもいます。それどころか、変身ヒーローも、ロボットも、怪獣も。
私自身も含めて、全部で60体。
どれも姿がぼんやりとしか分からないけれど、私と同じくらいの大きさの、きっと同じ境遇のフィギュア。
そして一人だけ別の場所に立っている彼女――Archetype:sheの言葉が、冷徹なほど静かに続きます。
『関節部に特殊機構リボルバージョイントを採用し、堅牢な構造と安定性を獲得した"リボルテック"。
癖のない構造と広い可動範囲、そして豊富な拡張性による高水準の性能を備えた"figma"。
変身ヒーローの立体化シリーズをルーツに持ち、互換性に欠ける反面戦闘向けのモデルが揃う"S.H.シリーズ"。
リアルタイプの巨大ロボットを中心に多彩なバリエーションを有する"ROBOT魂"。
その名の通り構成材に超合金を採用し、他のフィギュアとは一線を画す強固なボディを持つ"スーパーロボット超合金"。
武装神姫とは別の角度から、少女型素体の外部装甲メカニックによる拡張を試みた"アーマーガールズプロジェクト"。
それから――』
「ちょ、ちょっと待ってください! それが今の私が置かれてる状況と、何の関係があるんですか!?」
叫ばざるを得ませんでした。
全く話が見えなくて、それなのに嫌な予感だけが膨らんで、今にも押し潰されてしまいそうで。
すると彼女の目が――正確には目があるはずの部分にあるくぼみが、真っ直ぐに私の方へ向いて、私は思わずたじろぎました。
そしてその後に続く言葉を聞いて、私は彼女に本質を尋ねたことを後悔したのです。
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『単刀直入に言いましょう。私のマスター、正確にはマスターを含む人間たちは、貴女達60体のフィギュアによる殺し合いを望んでいます。
多種多様なアクションフィギュアによる総合的な戦闘実験データ。貴方達はそれを得るために用意された被験体です。
ああ、命を持たない貴女方に殺し合いという表現は不適当ですね。とにかく、貴女がすべきことはただひとつ。
貴女自身の自我を保存したいのであれば、持てる武装の限りをもって、速やかに自分以外の59体の自我を消去するだけです』
その意味を理解するのに掛かった時間はほんの僅かでしたが、それを受け入れるのには数倍の時間を要しました。
自分以外を皆殺しにして生き残る。それが、この実験の、意味。
彼女、いえ、その背後にいる人間達の実験材料として、私や他のフィギュア達は、互いに殺し合わなければならない……?
そんなのおかしいと、そう言おうとしました。
何で殺し合う必要があるのかと、そう言おうとしました。
いくら作り物だからって私達には心があるんだと、そう言おうとしたんです。
だけど思考が絡まって、うまく言葉にならなくて、どう伝えたらいいのかも分からなくて。
ようやく私の口から出てきたのは、ひどく自分本位な、自己嫌悪さえ覚えるような一言でした。
「……私のマスターも、それを望んでいるんですか?」
もしかしたら、そうだと言ってほしかったのかもしれません。
マスターが望んでいるのだとしたら、どんなに辛くても、どんなに理不尽でも、戦えるはずだと、そう思ったから。
だけどArchetype:sheは、何を馬鹿なことを言っているんだと言わんばかりの口調で、こう告げました。
『貴女にマスターなんていませんよ。この実験のためだけに起動された、名無しの神姫さん』
その一言を最後に私の意識は遠のいて、彼女も、ワイヤーフレームの世界も、59体のフィギュア達の映像も、見えなくなりました。
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「う、ううん……」
今度こそ、私は現実の空間で目覚めました。
時刻は深夜零時。室内に照明は灯っていないので、視界を暗視モードに切り替えて見渡します。
ここは民家の一室……子供部屋でしょうか。勉強机の上に横たわっていた体を起こすと、徐々に自分自身の状態が認識出来てきました。
私は、アーンヴァルMk-Ⅱ。個体名、無し。マスター登録――無し。
武装チェック。戦闘用パーツは問題なく使用可能。ただ……武装のリミッターが解除されてるみたい。
この状態なら、壊せる。他の神姫も、あるいはそれ以外のフィギュアも。何の問題もなく、コアやチップごと壊してしまえる。
それから……記録領域に複数のデータファイルを確認。実験の詳細ルールと補助アプリケーションがインストールされてる。
もう、疑いようはありません。
「夢じゃなかったんだ……本当に、私、これから殺し合いを……」
私は、交差させた腕で自分自身の両肩を抱いて、震えました。
これから、恐ろしいことが始まる。私ひとりでは逃れられないような、恐ろしいことが。
その予感が実感に変わるのが、ただ怖くて。
その時、あのサイバースペースで聞いた「彼女」の声が、直接電脳内に響いたのです。
《おはようございます、皆様。現時刻を持って戦闘実験『BATTLE ROYALE』を開始します。
申し遅れましたが、今後のオペレーションは私、Archetype:sheが行います。
改めて確認するまでもありませんが、皆様は人間によって管理された機械人形に過ぎません。
くれぐれも反抗などという身の程を知らない行動は謹んでくださいますようにお願い致します。
願わくばこの実験で、各々が自分の存在をつまらないオモチャでないと証明してくれますよう。
それでは、健闘を祈ります。六時間後にまたお会いいたしましょう》
声はそれっきり途絶えて、再び夜の静寂が帰ってきました。
電子頭脳へと直接情報を送り込んできたのは、やろうと思えばそれ以上のことも出来るという警告なのかもしれません。
私はおぼつかない足取りで勉強机の端まで歩みを進め、それから身投げするように宙へと体を投げ出しました。
直後、全身を光が包み――転送された武装を纏い、開いていた窓の隙間から、私は真っ暗な夜空へと飛び立ちました。
まだ頭の中はごちゃごちゃです。誰かを壊してしまうなんて嫌です。
だけど……何も分からないまま壊されるのも、嫌だったから。
こんな時、私にマスターがいてくれたら……ありもしない仮定を首を振って打ち払うと、私は風を切って加速しました。
闇の中へ……あるいはもしかしたら、絶望の運命の中へと。
【総合自律戦闘実験"BATTLE ROYALE"――開始】
【残り60体】
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導入部の投下を終了しました。
続いて、ルールおよび各種設定を投下いたします。
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◆被験体リスト◆
【武装神姫】2/5
○アーンヴァルMk.2/○ストラーフMk.2/○/○/○
【リボルテック】4/5
○新ゲッター1/○ジェフティ/○プレデター/○阿修羅/○
【figma】4/5
○初音ミク/○テッカマンブレード/○如月千早/○島風/○
【S.H.シリーズ】4/5
○仮面ライダーフォーゼ/○ワイルドタイガー/○ゴジラ1995/○アリサ・イニーチナ・アミエーラ(GE2)/○
【ROBOT魂】4/5
○ダブルオーライザー/○ターンX/○エヴァンゲリオン初号機/○ドラえもん/○
【スーパーロボット超合金】4/5
○マジンカイザー/○天のゼオライマー/○ガオガイガー/○ガンバスター/○
【アーマーガールズプロジェクト】4/5
○MS少女ユニコーンガンダム/○セシリア・オルコット/○宮藤芳佳(震電装備)/○御坂美琴(ムスメカ)/○
確定枠25+自由枠35=60
◆マップ◆
ttp://or2.mobi/index.php?mode=image&file=72399.png
◆ルール概要◆
【基本ルール】
1.全60体のフィギュアに最後の1体になるまで戦闘を行わせる。
2.最後の1体を除いた全フィギュアの機能停止、あるいは新たな脱落者が24時間出なかった時点でゲーム終了となる。
3.ゲーム開始時刻は深夜0時。開始後6時間ごとに放送が行われ、脱落者が公表される。また禁止エリアが指定される。
4.全フィギュアにはゲーム開始時にそれぞれ支給品および共通配布データが与えられる(詳細は後述)。
5.禁止エリア侵入後30秒経過した時、24時間ルールでのゲーム終了時、その他運営側が実験進行上やむを得ないと判断した時点で、
外部からコアユニットへの強制アクセスが行われ、当該フィギュアの人格データをデリートする。
【フィールドについて】
実験場となるフィールドは南北200m×東西200mの広さ。A〜Yの25エリアに分割されており、それぞれの広さは40m四方。
この区画の本来の住人は強制退去させられており、状態は以前のままであるものの実験中は完全に無人となっている。
【初期支給品パーツについて】
ゲーム開始時点で参加者の所有物として登録されているアイテムは以下の通り。
・『クレイドル』1基(バッテリー充電および細部のメンテナンスを行うユニット。上に乗り『眠る』ことで充電が可能)
・『基本パーツ』一式(フィギュアに付属する武器やアイテム全て。追加武装セットや専用マシンが立体化されている場合はそれを含めても良い)
・『拡張パーツ』×1〜2(いわゆるランダム支給品。参戦しているフィギュアシリーズの付属品やサブアイテムから自由に選んで良い)
『マップ』『GPS機能』『時計機能』『被験体リスト』は各参加者のコアユニットに直接データとして送信される(被験体リストのみ第一放送時に配布)。
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◆フィギュア設定概要◆
【世界観について】
武装神姫の基本設定をベースとしたパラレルワールドが舞台。
詳しくは以下のURLを参照のこと。これ以外の武装神姫公式設定は媒体によってまちまちなので重視しない。
ttp://www.busou.konami.jp/about/
【フィギュアの設定について】
参加者である各フィギュアは、武装神姫同様の技術で動力と人格、そして戦闘能力を与えられている。
・動力は基本的に全個体がバッテリー充電式で固定。それぞれが充電&メンテナンスユニット『クレイドル』を持つ。
・神姫以外の人格は基本的に原作キャラクターがベースとなっており、自身がフィギュアであるという自覚を持つ(例外可)。
・また、原作が存在するフィギュアはその原作や自身のオリジナルについての知識を持っているものとする(例外可)。
・表情差分および手首の差し替えは再現しない。人間同様に自由に変化させられるものとする。
・なお、ロボットや変身ヒーローはそのボディそのものが本体であるため、基本的にパイロットや変身前の姿は存在しない。
【フィギュアの戦闘能力について】
戦闘能力は元のキャラクターの能力や機能を可能な限り科学技術で再現している。
・原則的に使用可能な武装はフィギュアに同梱されているものとする(ただしエフェクトパーツの有無は考慮しない)。
・なお、科学的に再現困難な能力(時間停止など)は完全に原作同様の性能で搭載することはできないものとする。
【支給パーツの扱いについて】
各フィギュアにはそれぞれに武器やサポートユニットなどの支給パーツが用意されている。
それらはフィールド外の空間に保管されており、登録者の意志で自由に手元に転送でき、また逆に送還できる。
登録者が破壊された支給パーツは強制的にフィールド上に転送される。またパーツの登録は解除や譲渡も任意で可能。
登録者がいないパーツは、新たな利用者が直接触れることで再度登録できる。
弾数消費系武装の弾薬などの消耗パーツは、任意で補充することが出来る。補充回数自体に上限はないが転送ごとにバッテリーを消耗する(後述)。
なお、現地調達品などパーツ以外の持ち物は転送できない。人間用の道具は自力で持ち運ぶしかない。
【バッテリーについて】
基本的に全てのフィギュアはバッテリーを消費することで活動している。
バッテリーは時間経過や運動で少しずつ減少し、パーツ転送や特殊機能使用、攻撃によっても消耗する。
・エネルギー消費系武装は使用ごと、弾数系武装はリロード(弾薬パーツ転送)ごとにバッテリーを消費する。
・なお、弾薬をはじめとする消耗パーツの転送補充自体には回数制限はないが、基本的に消耗していないパーツの補充は出来ない。
・大型のアイテムはバッテリー内蔵として設定してもよい。その場合は電源が独立する代わりにクレイドルでの充電が必要になる。
【変形およびフォームチェンジについて】
フィギュアの変形は、フィギュアそのものに変形機能が付いている場合は可能とする。
パーツ差し替えによる部分変形も、差し替えなしで変形できるものとする。
また複数のフォームを持つ設定で、それらがシリーズ内の別フィギュアとして存在する場合、任意で切り替えが可能(新ゲッター1→2→3など)。
ただし、変形・フォームチェンジしてもそれまでの素体へのダメージや破損、電力残量などは引き継がれる。またバッテリーも消費する。
なお、このフォームチェンジのルールは服装バリエーションを持つフィギュアにも適応される。
【フィギュアの“死”について】
武装神姫の設定に則り、以下のいずれかの条件を満たした時、フィギュアは機能停止し再起不能となる。
・『コアユニット』の破損(頭部に内蔵)
・『コア・セットアップ・チップ(CSC)』の破損(人間型・変身ヒーロー型は胸部、ロボット型はコクピット部に内蔵)
・『素体』への深刻なダメージ(バッテリーや駆動系が完全に破損するなど)
・『コアユニット』と『CSC』の接続が物理的に切り離される
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◆予約関係概要◆
【予約について】
トリップを付けた状態で、本スレに予約キャラを明記し宣言してください。
期間は一週間。原則として延長はありません(どうしてもやむを得ない場合は要相談)。
投下期限を超過した時点で破棄宣言を待たずして当該キャラクター・使用予定自由枠の再予約が可能となりますのでご注意ください。
【投下について】
本スレにて、トリップを付けた状態で投下宣言を行ったのち投下してください。
投下中にトリップを付けるかはどちらでも構いません。なお投下後は必ず終了宣言をしてください。
【自由枠について】
名簿の半分以上を占める自由枠は、本企画を柔軟かつ臨機応変に進行させるために取り入れた制度です。
この枠を利用してフィギュアを参戦させるためには、以下の条件があります。
《概要》
・名簿に登録されてないフィギュアの中から、執筆者が自由に参加者を追加することが出来ます。
・後述の条件をクリアしている場合に限りますが、現時点で発売中および発売が確定しているアクションフィギュア全てが対象となります。
・初期名簿にある通り、各シリーズから最低一体(武装神姫のみ3体)は追加で参戦させる必要があります。
《一度に追加できるフィギュアの数について》
・自由枠で追加できるフィギュアは、登場話1話につき『2体まで』となります。
・確定枠との組み合わせで3体以上の予約をすること自体は可能です。
《選択できるアクションフィギュアシリーズについて》
・すでに名簿に登録されているシリーズ(武装神姫、リボルテックなど)からは、一部の例外を除き承認なしで予約が可能です。
・名簿に存在しないシリーズ(アッセンブルボーグ、超像可動など)については、事前に>>1の許諾を得てください。
・なお許諾が下りた時点でそのシリーズは名簿に追加された扱いとなり、以降の選択は自由となります。
《自由枠の適応外となるシリーズおよびフィギュアについて》
基本的に自由な発想を尊重する企画にする予定ではありますが、以下については原則参戦禁止とさせていただきます。
・未完成キット、およびその完成品(プラモデル、ガレージキットなど)
・スケールフィギュアおよび非可動フィギュアシリーズ(フィギュアーツZEROなど)
・標準サイズが約15cm前後から大きく外れたシリーズ(ミクロマン、超合金魂など)
・非正規品であるキットおよびパーツ(武装神姫の個人制作武装など)
・予約時点で商品化が確定していないフィギュア(イベント参考出展、原型展示に留まるものなど)
・『存命の実在人物』本人をモチーフとしたフィギュア(例:figmaマイケル・ジャクソンは可、figma小林可夢偉は不可)
《追記》
自由枠に関する以上の条件は、基本となるルールであると同時に、あくまで原則でもあります。
場合によっては融通を利かせる可能性もありますので、どうしても実現したいアイデアがある場合は相談してください。
【支給パーツの選択範囲について】
フィギュアに拡張パーツとして支給する武器やアイテムは、上記の自由枠の範囲に含まれるフィギュアの付属品から自由に選んでください。
加えて単体で発売されている非人型の乗り物・機械系アクションフィギュアも支給して構いません(海底軍艦轟天号など)。
またフィギュアおよびパーツは基本的に量産品である以上、支給品被りは一切考慮しません。既に登場したパーツの支給も認めます。
なお、人間用の実在兵器や道具をフィギュア用に支給することは、それが実際にフィギュア用として商品化されていない限り許可しません。
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設定等の投下を完了しました。
続いて第一話の投下に移ります。
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――彼女は、『如月千早』という少女のことをよく知っている。
歌が好きで、世界中の何より好きで、ただ歌うためだけにアイドルを志し、だけどその過程で少しずつ変わっていった少女。
大事な仲間と出会い、閉ざしていた心を開いて、輝きの向こう側へと向かっていった少女を、彼女はよく知っている。
何故なら彼女は、『如月千早』から生み出された存在なのだから。
「こんな時、本物の如月千早ならどうするのかしらね」
とある民家の一室、カーペットが敷かれた書斎の床に立ったまま、千早は……正確には「如月千早のフィギュア」は、そう呟いてため息をついた。
ぼんやりと自分のスレンダーな体を包むピンク色の衣装に目をやる。衣装といってもボディと一体なのだから、着替えることなど出来ないが。
この衣装も、それどころかこの顔も、髪も、体も、ゲームやアニメで活躍する「本物の如月千早」を模して作られたものに過ぎない。
自分は何千何万と量産されたうちのひとつ、「本物の如月千早」の小さな小さな劣化コピーに過ぎないのだ。
天賦の才を持つ「本物」を知るからこそ、フィギュアとしての自分が本当にちっぽけな存在に思えてしまう。
「最後の一体になるまで壊し合って……もし生き残ったとして、こんな人形の私に、どんな歌が歌えるっていうの……?」
その疑問は、自分自身に投げかけたものだった。そしてその答えは自分も知りはしなかった。
それでも問わざるを得なかった。ただそれだけのことだから、返事など期待してはいなかった。
「おぉ〜悩んでるねぇお嬢ちゃん。青春だねぇ、おじさんそういうの大好きだよ」
だから、背後から返ってきた男性の声に完全に虚を突かれる格好になった千早はびくんと全身を跳ねさせ、それから恐る恐る振り向いた。
てっきり男性型のフィギュアが声をかけてきたのかと思ったが、その予想は外れていたようだった。
スマートなフォルムをした、深紅のロボットが、無造作にこちらへ向かって歩いてきていた。
赤い全身にあってひときわ赤く輝く単眼のカメラアイと背部から突き出したブレード状の放熱版が一際目を引く。
本来は人間の何倍も大きいであろうロボットが自分と同じ15cm前後のスケールで存在するということに、千早は奇妙な感覚を味わった。
「だ、誰ですか……?」
千早の当然ともいえる問いかけに、赤いロボットは舞台役者めいて空の両手をひらひらと振り、オーバーに天を仰いでみせた。
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「なんと! このヴェノムことコダールiを知らんとは! お嬢ちゃんさてはエリゴールって言わなきゃ通じない原作派かい?」
大げさにおどけてみせるその姿が、千早の目には余計に不気味に映る。
何を言っているのかよく分からないが、フレンドリーな雰囲気を演出しようとしているのだろう。
だが、簡単に気を許していいのだろうか。千早はこの部屋で目覚める前にあの電脳空間で聞かされた「実験」の話を思い出し、身震いした。
実験の参加者。そういう目で見れば、いかにも戦う気はありませんよと見せつけるような歩み寄りかたもなんだか不自然だ。
でも、いくら戦闘ロボット型だからといってむやみに怖がるのもどうだろう。疑心暗鬼に囚われすぎてはいないだろうか。
混乱する思考を何とか纏めようと、千早は必死に電子頭脳を働かせる。
怪しいとは言い切れない。現に今のコダールiは丸腰だ。さっき派手に動かしていた両手には何も握られていなかったし――
(――え?)
何も握られていなかったはずのコダールiの右腕が、なにか緑色の銃のようなものを握っていた。
気付かなかった。いつの間に転送したのか。何のために? いや、分からない訳がない。でも、分かりたくない。
握手するかのような自然さで銃を持った手が前へ出る。銃口が真っ直ぐ千早の方へ向く。そして流れるような動きで銃爪に指がかかる。
――撃たれる。
嫌だ。死にたくない。まだ自分が誰かも分からないのに、壊されたくない……!
しかし、そのまま無造作に放たれたビームは、千早の体を穿つことはなかった。
「……んん〜?」
コダールiの不思議がる声が聞こえるが、千早自身にも何が起きたのか分からずにいた。
反射的に瞑ってしまっていた両目をうっすら開くと、自分の両手が何かを掲げているのに気が付いた。
自分を守ろうとする意志が支給パーツ転送の引き金となり、パラポラ型光線兵器「マーカライト・ファープ」がビームを反射し撃ち返したのだ。
もっとも千早も何も考えずに盾にしようとしただけで反射機能などしらなかったから、撃ち返されたレーザーはコダールiをかすめただけだった。
単なる偶然。あるいは奇跡。しかし、それがいっそう悪い結果を招いたことに気付くまでそう長い時間はかからなかった。
「……おいおい、物騒なことしてくれるじゃねえか。今のおじさん、もみあげどころか放熱索すらないってのによぉ」
ぞくりと、フィギュアである自分には立つはずがない鳥肌が立つような感覚を味わった。
おどけた口調はそのまま。だがその裏に、確かな殺意の色が浮き出している。
もう疑いようもなかった。目覚める前のサイバースペースでArchetype:sheというフィギュアが語っていた、戦闘実験。
バトル・ロワイアル。目の前の赤いロボットは、この実験に乗るつもりでいる。そして、千早を破壊しようとしている。
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「や、やめ……!」
やめて、と言おうとした。言えなかったのは、言い切る前に千早の体が見えない何かで殴りつけられたからだ。
さっきの銃で撃たれたのではない。本当に不可視の力場のようなものでしたたかに全身を叩かれ、千早のボディはカーペットの上に転がった。
「く、うぁ……っ」
口からうめき声が漏れる。頭がパニックを起こす。全身が衝撃で軋む。
マーカライト・ファープも落としてしまった。キャタピラ付きのパラポラは弾みながら離れていき、よりにもよってコダールiの足元で止まった。
「やぁれやれ。慣れないラムダ・ドライバは調節が難しいな。いやね、本当はお嬢ちゃんの可愛いあんよをへし折ってやろうとね」
レーザー銃を放り捨てながら更に歩み寄るコダールiの台詞が、どこか遠くに聞こえる。
状況が理解できない。それでも今の見えない攻撃があのロボットの隠された機能なのだということだけは、何となく分かった。
そして、それだけで十分だった。もう自分に可能性などないことに気付くには。
もう駄目だ。逃げられない。ただのアイドルのフィギュアでしかない自分には、ただ生き延びることすら出来ない。
悔しくて、悔しくて、だけどもうどうすることも出来なくて、近づく足音だけが段々大きく響いて、千早はその身をぎゅっと強ばらせ――
全ては一瞬だった。
《 ROCKET ON 》
絶望を塗り替えたのは、微かに遠くから聞こえた場違いな電子音声と、
「……宇宙、キタ――――――――ッ!!!」
さらに場違いな雄叫びを挙げながらロケットのように突っ込んでくる真っ白い姿。
その謎の闖入者に手を引かれたのだと千早が気付いたのは、自分の体が重力を振り切り、赤のロボットを一瞬で置き去りにしてからのことだった。
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▼ ▼ ▼
「いやぁー、間一髪だったな!」
「だったな、じゃないです! 関節のジョイントが外れたらどうするんですか!」
ドアの隙間から書斎を飛び出し、派手に空中をドリフトしながら階段を通って、そのまま錐揉み回転しながらリビングへ。
散々悲鳴を上げながらの、ロマンの欠片もない突撃空中散歩を終えて食卓の上に降り立った千早は、白いフィギュアに向かって声を荒げた。
変身ヒーローのフィギュアなのだろうか、意外なくらい若い声の彼は「悪い悪い」と言葉ほど悪びれた風もなく詫びてみせた。
ヒーローといっても千早のイメージとは違い、どこか宇宙服のようなデザインだ。腰には複雑なデザインのベルトのようなものが付いている。
さっきまで右腕に付いていたはずのオレンジ色のロケットは、気付いたら消えていた。転送式のパーツなのだろうか。
総じてアイドルゲームのキャラクターである千早とは無縁なタイプのフィギュアだが、直感的に、人格的にも無縁のタイプに思えた。
しかし、だからといって、命を救われておいて「はい、さよなら」と立ち去れるほど図太くはないのが千早である。
「……すみません。その、助けていただいたことは、感謝しています。ええと……」
礼を言ったはいいが相手を何と呼ぼうか迷って咄嗟に言いよどみ、直後にしまったと思った。
白いフィギュアが待ってましたと言わんばかりの勢いで大げさに自分自身の胸を拳で叩き、その手で真っ直ぐに千早を指さしたからだ。
「俺か? 俺は如月弦太朗! またの名を『仮面ライダーフォーゼ』……この会場のアクションフィギュア全員と、友達になる男だ!」
その言葉を聞いたときの自分は、さぞかし間抜けな顔をしていたんだろうと思う。
名乗られてこちらも自己紹介しないと失礼だと、半ば思考停止しかけた電子頭脳で考えられただけでも奇跡だろう。
「私は……ええと、如月、千早です」
「お、お前も如月っていうのか! だったら千早、お前も俺のダチだ!」
「意味が分かりません勝手に友達にしないでください」
フィギュアの自分がなんと名乗ったらいいものか迷って結局「如月千早」の名前を使ったら、予想外に食いつかれてしまった。
やっかいな人だという第一印象が完全に補強されてしまったうえにどうやら気に入られたらしく、千早は頭を抱えたくなった。
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……しかし、このフォーゼという人(如月さんとは何となく呼びたくない)の言うことには、聞き流せない引っ掛かりを感じた。
「フォーゼさん」
「弦太朗でいいぜ、千早!」
「……フォーゼさん。本気で、フィギュア全員と友達になろうなんて言っているんですか?」
「当たり前だろ。何故なら俺は、」
「その指差しポーズはいいです。全員っていうことは、さっきの赤いロボットの人も、ですか……?」
そう口に出すと、無意識に自分の肩が震えるのを感じた。
結果的に助かったとはいえ、破壊されかけた。その恐怖は忘れられるはずがない。
だからこそ分かる。仲良くなるなんて無理だ。分かり合えない相手というのは、いるのだ。
「ああ、あいつか。いきなり女の子を襲うなんて許せねえヤツだ」
「じゃあ、やっぱり……」
「だからこそ、ダチになり甲斐がある」
だけどフォーゼは、その千早の恐怖の対象に向かってすらそう言い切った。
頭をガツンと殴られたような気がした。千早は脱力して、食卓の真ん中に置いてあった塩入りの小瓶にもたれかかった。
この人は本気だ。
本気で、この実験に乗って戦おうとするフィギュア達とも、友達になるつもりでいる。
「――それは、『本物の如月弦太朗』ならそうするから……ですか?」
ふと、そんな言葉が口を突いて出た。
自分が『本物の如月千早』について考えたように、彼もまた『本物の如月弦太朗』になろうとしているのかもしれないと思ったから。
本物のあり方をなぞって、あえて無謀な道を歩こうとしているのではないか。そう思ったから。
だけど。
「本物とか偽物とか、そんなのは関係ねえ。俺がやりたいからやる、それだけだ」
目の前の彼は、今の千早には分からないほど真っ直ぐで。
「よっし、決めた。俺がお前のその迷いをぶっ壊してやる。そして、いずれ俺のことをダチって言わせてやるぜ」
その唐突な宣言が同行の申し出だと気付いても、それを突っぱねる気には何故かなれなかった。
-
「まあ、なんでも、いいですけれど」
……いや、何故か、ではない。
自分とは正反対の、だけど自分の道を自分で進もうとするこの男を、千早はほんの少しだけうらやましいと思ってしまったからだろう。
【深夜/エリアA(民家・ダイニング)】
【如月千早@figma】
【電力残量:95%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マイク・スピーカー・フットモニター・照明機材)、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:私に、何が出来るの?
1:フォーゼと行動。
【仮面ライダーフォーゼ@S.H.シリーズ】
【電力残量:80%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(モジュール全種)、拡張パーツ1〜2(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:すべてのフィギュアとダチになる
1:千早と行動。
※ベース・エレキ・ファイヤー・マグネットの各ステイツにフォームチェンジが可能です。
※コズミックステイツへのチェンジには何らかの条件がある模様です。
▼ ▼ ▼
「ったくよぉ、つまんねえことしやがるなぁあの兄ちゃん」
コダールiは床に転がるマーカライト・ファーブを不機嫌そうに蹴り飛ばした。
-
突然現れた白いフィギュアに、獲物を文字通りかっさらわれる形になったのだ。面白くないのも当然である。
どうせならもっとラムダ・ドライバの力を引き出すための練習台にして、手足の二、三本はもいでから潰そうと思っていたのに。
いや、原作で縁の無かったビーム兵器への好奇心に駆られて、わざわざマグナバイザーなんかを使い反射されたのがケチの付き初めか。
実弾の基本装備であるマシンガンやガトリング・キャノンでさっさと始末してから、文字通りのお人形さん遊びに興じればよかったと後悔する。
「ま、これからはせいぜい背中に気をつけることだなぁ。悪いが、おじさんはしつこいぜぇ〜」
言葉の中身と噛み合わないほど軽い口調でそう独りごちると、コダールiは身を屈めようとした。
その行動は単に先ほど投げ捨てたレーザード・ライフルを拾おうとしただけのもので、それ以外の意図など特に無かった。
しかし――そうして視線を伏せた結果、彼は「あるもの」に気付いた。
気付いたことを幸いと言っていいのか、あるいは気付かずに済んだほうが幸せだったのかもしれない。
それは正三角形の頂点の位置に並んだ、赤いレーザーポインターの光点だった。
三つの赤い照準が、同じく赤いコダールiのボディの上を、急所目掛けて滑るように移動している――!
「――おいおい」
コダールiはラムダ・ドライバを起動した。正確には、起動しようとした。
しかし片腕を構え、それから意識を集中し、力場をいざ発現せんとした途中で、彼は自分の行動が遅すぎたことを悟った。
直後、気の利いた臨終の台詞を吐く間もなく、コダールiの頭部から片肩にかけてを遠方よりの極大ビームが一瞬で消し飛ばした。
あるいは本物のアームスレイブであれば、頭部ユニットを破壊された程度では乗員の生死には影響しなかったかもしれない。
しかし、フィギュアである彼の頭部には、コアユニットが積まれていた。そこには彼の人格データも収められていた。
一撃で自我を喪失した彼のボディはゆっくりと傾き、小さな音を立てて倒れ、一瞬遅れて格納を解除され転送された彼の支給武器が辺りに散らばった。
その光景はまるで、持ち主が遊び飽きたオモチャを散らかしたままにしているかのようで。
もっとも、彼には持ち主なんていなかったし、散らかったパーツを片付けてくれる人間も、ましてや悼んでくれる人間などいるはずもない。
【コダールi@ROBOT魂 機能停止】
※マグナバイザー(仮面ライダートルク)@figma、マーカライトファープ(モゲラ)@リボルテック、及びコダールiの基本武装が、
エリアAの民家内(書斎)に散乱しています。
-
▼ ▼ ▼
このバスターライフルは駄目だ。
試しに使ってみたが威力があり過ぎて狙撃者の位置が一瞬でばれるし、何よりバッテリーの消耗が激しすぎる。
狙撃までに展開していた光学迷彩と合わせて、この一発で三割近くの電力を消費してしまった。
クレイドルでの充電は出来るだけ短期間に留めたい。いくら火力は申し分ないとはいえ、使いどころは考えなければ。
書斎の一角、本棚に並ぶ分厚い表紙の隙間に潜みながら、『プレデター』は考える。
破壊した赤いロボットの武器が周りに散らばるのを認識し、拾いにいくか僅かに逡巡して、しかしその選択肢は排除した。
あの獲物の敗因は、己が狩る側であると思っていたことだ。同じような隙を誇り高き戦士たる自分が晒すわけにはいかない。
彼の思考は淀みない。自分がフィギュアであることへのジレンマや、コピーであることのコンプレックスなど、彼には存在しない。
今、彼のコアユニットを支配しているのは、いかにして残り58体のフィギュアを狩るか。それが全てだった。
プレデターが体を動かすと、四肢の関節からカチカチと小さなクリック音がする。
リボルテック特有のリボルバージョイントは確かに強度と安定性に優れるが、動くたびに鳴るこの音は隠密戦を得意とするプレデターとは相性が悪い。
光学迷彩を使用していても、派手な動きは相手にその位置を悟られる結果になるだろう。
だが、問題にはならない。
障害は己の力で乗り越えてこそ真の狩人、そして真の戦士だ。
全ての獲物を刈り尽くす。そうすることで初めて己の証を立てられる。
ただ、それだけのこと。
プレデターは一切の慢心をすることなく棚から棚へと飛び移り、新たな獲物を求めて僅かに開いた窓の外へと身を躍らせた。
【深夜/エリアA(屋外)】
【プレデター@リボルテック】
【電力残量:70%】
【装備:基本武装(ショルダープラズマキャノン、リストブレイド、コンピューターガントレット)】
【所持品:クレイドル、バスターライフル(ウイングガンダム)@ROBOT魂、拡張パーツ1種(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:戦士の名誉にかけて、全ての獲物を狩る
1:次の獲物を探す
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第一話、投下終了しました。
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スレ立て及びOP/第1話投下乙です。
簡潔でわかりやすいOPに丁寧な説明。そして、バトロワのあれこれをきれいにまとめた第1話……痺れるっ!
非戦闘モデルである千早や、あんな方針を立てるフォーゼの今後も気になるけど、まさかのガウルン1話退場www
相手が悪い……ってこともないんだよなぁ。悪運がなかったってことなのか、所詮は起動したばっかの模擬人格だったからか。
いや、しかしおもしろい! ぐっと引き込まれた!
ということで、 スネーク(MGAPW)@リボルテック、チャリオット(TVver.)@figma の2体を予約します!
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おお、面白そうなロワが
阿良々木月火@figma、仮面ライダーオーズ@S.H.シリーズ、ゴジラ1995予約させてください
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おお、面白そうですね。
フィギュアのロワってこう謂う者なんだとわかるOPと第一話でした。
それでは、此方も
タイムスクープハンター沢嶋雄一@figma、島風@figma
で予約します
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あ、自由枠は一話で二つまでいいんですね。
でしたら、伊達政宗@リボルテックを追加させてください
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スレ立て乙です!
アクションフィギュアロワ……なんて心惹かれる響き……!
原作キャラクターそのものではないがゆえのリアクションが新鮮ですね
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スレ立て&投下乙です!
マジンカイザー、レヴィ@リボルテックを予約します。
そして新たにVAVA@D-Artsを予約したいのですがどうでしょうか?
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投下乙です
ガオガイガー@スーパーロボット超合金、デストロイア@S.H.シリーズ(自由枠)、中野あずさ@figma(自由枠)で予約させていただきます
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皆様、感想・予約ありがとうございます! 早くも反響があったようで嬉しい限りです。
>>26
許可します!>VAVA@D-Arts
ただGE2アリサを見るにD-Artsは既にS.H.シリーズに組み込まれた扱いなのかもしれませんね。シリーズ表記はお任せします。
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>>28 ありがとうございます!
改めてマジンカイザー、レヴィ@リボルテック、VAVA@D-Artsで予約します
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まぁリボルテックはリボルミニになったんすけどね
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ちょっとすいません、予約内容を変更します
ガオガイガー@スーパーロボット超合金、デストロイア(完全体)@S.H.シリーズ(自由枠)、沙英@figma(自由枠)でお願いします
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スレ立て乙!
ザンダクロス@ROBOT魂、ZZガンダム@ROBOT魂 で予約します
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ロジャー=スミス@figma、初音ミク@figmaを予約いたします。
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投下乙です。
ガウルンが最初に落ちるとは……
とてもフィギュアの、方向性が分かる作品でした!
それでは自分も投下いたします
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夜道を女性が歩いている。女性形フィギュアと書き表したほうがこの場合は正しい。
ダルそうにまったりと歩き肩を回す。関節部分に問題は感じられない。
肩を回す姿は本来ならありえない程強引に回しているがフィギュアならば可動の言葉で納まる。
「唯でさえオリジナルだのフィギュアだのワケの分かんねぇ存在だってのによ」
レヴィ、それがこの女性フィギュアの名称。
本来の姿は世界にしがみついている一人の女性、殺し屋そして人間。そのフィギュア。
彼女自身も自分自身がフィギュアと呼ばれる存在だと理解しているし拒んでいるわけではない。
「煙草が吸いてぇ気分だぜ……チッ、火もなけりゃブツもねえ」
「人形【アンティーク】のあたしが言う台詞じゃあねぇが人形同士で殺し合え、なんざ頭が湧いてやがる」
聞き覚えのない声。記憶が無くなる程昨夜に酒を浴びた記憶もない。
夢、存在自体が夢【アブノーマル】な状況だがこれは彼女で表わす現実。
バトル・ロワイアル――籠の中に閉じ込められた鳥達が空を夢見て殺しあう宴。
ぶっ飛んだ連中が好みそうな香りが漂うこの言葉に今、レヴィは巻き込まれている。
「あたしは何処でもあたし、例え舞台が別でも渡される台本は同じって事かい」
「関係ないね、捨てても問題ねえお伽話かもしんねえが、指咥えて震えるほどガキじゃあない――」
何故か響く金属音と硝煙の匂い。
納得させるように、自分自身に何か言い聞かせるかのように言葉を吐くレヴィ。
フィギュアだろうが関係ない、邪魔する奴はバラす、使えねぇ奴は切る。
銃を指で回しながら再度歩き始め当てなき旅を始める、終着は何処?
それは役者【ドール】が飽きるまで。
「おいおいおい……無機物な音鳴らすと思ったら古代の遺産【アンティーク】、それもミルクが好きそうな甘ちゃんにお似合いの」
これはフィギュア同士の殺し合い、ならば参加者がフィギュアなのは必然。
例え目の前に機械が現れても驚くことなど何もない、それが当然。
-
レヴィが瞬時に放った弾丸は標的に命中した、それも右肩奥深くまで。相手が人間、人型と仮定していた場合の話だが。
暗い深夜と言ってもレヴィにとっては見慣れた風景、光度であるため視界は常人と比べれば視えている。
その証拠に相手に弾丸を喰らわせたのだが手応えは無いようだ、相手が機械ならば。
「こんなイカれた事に関しちゃ日本って国はオリンピックでも表彰台独占出来るって前にロックやベニーが漏らしていたの思い出しちまった――ぜッ!!」
拳銃じゃ装甲板は貫けない、まだ姿もハッキリと見えていない無機物に新たな獲物を打ち込む。
グレネードランチャー、立派な人形であるレヴィに付属されている玩具【獲物】だ。
「機械の出番なんざ過去か未来で充分なんだよ、そうさ、充分なんだ。
居場所がねえから黙ったスクラップになっとけッ!」
追い打ちにもう一発。着弾し爆風に包まれる中の追い打ち、威力は生身なら木っ端微塵と表わすだろう。
打ち込んだレヴィはグレネードランチャーを降ろしカトラスに装備を切り替える。
理由は唯一つ。
敵が攻めて来たならば動きやすい方が殺りやすいからだ。
「shit!」
場所がコンクリートだろうと構わず大きく飛び込み身を低くするレヴィ。
数秒前にレヴィの頭が存在していた空間に一筋の閃光が走り、通りすぎて間もなく遠くで爆発が起きた。
「糞ったれ……マッド野郎が作った兵器なんざお呼びじゃねえんだよてん……!」
身体を起こしたレヴィの視線には相手の姿がハッキリと視える。
黒き身体、赤い翼――その姿は神か悪魔か。
今のレヴィには触れてはならない禁忌が自ら歩み寄ってくるようにしか視えなかった。
-
「デビル何てのは古臭えジジイと夢しか見えねえ米国野郎の頭ン中で充分なんだよ」
横に走りながら銃弾を計三発標的である黒い機械に打ち込む。
自分は近くの隠れられそうな岩陰へ、対する機械は片腕で銃弾を薙ぎ払う。
小さな傷は与えているが、鉛球では機械は止まりそうにない。先ほどのグレネードランチャーならば少しは深い傷が与えられそうだが。
銃弾を薙ぎ払った機械の目から何かが集まる感覚が視えたレヴィは本能がヤバいと告、再度走りだした。
黒い機械はそのまま己の瞳からビームを、ビームを発射したのだ。
「どっかの国の科学力は世界一じゃねぇのかよ、ナチ公共め……ッ」
そんな事を言っても誰も責任など取ってはくれない。取ってくれるとすればバラされた自分の遺体だけだろうか。
先ほどの爆発の正体はこの光と見て間違いない、レヴィが隠れていた岩が爆発で消し飛んだのだ。
再度屈み爆風をやり過ごすも黒い機械は己の掌を飛ばし攻撃してきた――信じられない。
「テメェの掌はモーターでも付いてんのかァ!?クルクル回して鬱陶しい、床にキスしてな!!」
グレネードランチャーを発射、宙で衝突するターボスマッシャーパンチ、結果は特に無し。
爆風が晴れると黒い機械の元に掌は戻っており、傷も目立たない。
「ケッ!核でもスクラップに出来ないってか?」
冗談交じりに言葉を吐き出す、これが冗談と言い切れない所が夢【理想】を現実【地獄】に引き寄せる。
「帰ったらクソ尼の所で『かみさま』って奴に祈りを捧げるか?金と銃と酒えお寄越せ、ってよォ!!」
やってられるか。そう言わんばかりにカトラスを撃ち込むも再度薙ぎ払われる。
(人形だと銃の取り替えは楽だが……ジリ貧もいい所だぜ。絶頂に何時までタッても辿り着きゃしねぇ)
「なぁそろそろ口を動かしたらどうだ?吹き替えじゃねえ本場の声ってのを聞かせろよ」
「マジン……カイザー」
レヴィは一度表情を緩めると、実験体を殺すような瞳で銃弾を放っていた。
-
常人ならば予備動作なしに放たれた銃弾に気づく事なくこの世に別れを告げているだろう。
しかしマジンカイザーと名乗った機械【ドール】は簡単にそれを弾いたのだ。
弾いた銃弾は弾丸となりレヴィの頬を掠った。レヴィの頬から静かに流れ落ちる血液、それを舐めとる。
いや、この場合は塗装が剥がれた、と言うべきか。
「最高にイカれてやがるぜ……こんなの体験しちまったら壊れちまう、それも永遠にイキっぱなしでよォオ!!」
本体【人間】の記録【メモリー】にはこんな出来事が記されてあった。
『銃弾を刀で斬ったイカれた日本人が存在する』
だが目の前の存在は何だ?銃弾を弾き返し、本人に当てやがった。たまんねえ。
これ程狂っている標的は初めてだ、夢でなきゃありえねえ、人形様だからこそ起こった奇跡。
最高だ、もう二度と味わえることはない、だからじっくりと堪能した後に殺す。
糞食らえ、こんな悪夢はハリウッドで充分、脳がイカれる程薬に溺れた記憶はない。
怒号と共にグレネードを、着弾と同時に本体を投げ捨て、カトラスに切り替え二丁拳銃を乱射する。
美学が感じられない戦法だが戦法何て関係ないのだ。
「テメェが有機体ならバラす、機械でもバラす!!」
走りながら、弧を描く様に銃弾を放つレヴィ。
進路先にあるグレネードランチャーを足で引っ掛け宙に浮かせる、それを引き寄せ再度自分の手元へ。
爆風が晴れるまでにリロード、終了。追撃を試みるもあのビームが飛んでくるが不発、これを回避。
「マジンだぁ?あたしはテメェを呼び出すためにご汚いランプを擦った記憶はねえ」
強気な言葉、しかし現状が危険なのはレヴィ、打開策はこれから惹き寄せる。
「皇帝なんざくだらねえ位だ。不釣合いな地位ってのは古今東西全員殺されてんだよ」
「……俺は正義の、デビルマシン……マジン……神にも悪魔にも……うごおおおおおおおおおおおおおおお」
兜甲児――それがマジンカイザー本来のパイロット。
正義感溢れる他人のために本気になれる優しい戦士――絵に書いた正義の味方。
ならばマジンカイザーの人形であるこの存在にも記録が記されているはず――それは記されている。
魔。今のマジンカイザーはただの破壊の魔人となってしまっている。
この状態は対象を破壊するまで止まらない、対象は悪、目の前に居るのはレヴィ。
正義の魔人が心を取り戻すには時間が掛かってしまう。
「あぁ!?ヒステリックな叫びを上げても同乗する奴はただの偽善野郎……っても此処にいるあたしはそんな事はしねえ。苦しんで死ね……っておいおい」
レヴィの言葉に怒りを表した、かどうかは本体にしか分からないが剣を取り出す魔神皇帝。
銃に剣で立ち向かう――英国や日本が好みそうな絵面がレヴィの眼前に広がっていた。
そして初めて魔神皇帝はその脚で大地を走る、その重量感、その迫力、どれも最高傑作。
笑うしか無い、嗚呼笑ってやるさ。これは現実だ、受け入れよう。どうしようもないロクでもない現実だ。
(普通に噛ましても意味が感じられない……なら関節か?だがあの作りは人形のあたしよりも頑丈と見て間違いない。
なら顔だ、顔を吹き飛ばしてやる。カメラが何かがモニターに繋がってんだろ機械ってのは。
機械の中に人が居るのか、単純に機械なのか、遠くで操作しているかは分からねえ、けどよ)
「首を跳ねれば止まるってのがこの世で信じれる数少ないルールだろ?少なくてもこの眼で見てきたぜ」
グレネードランチャーを再度装備する、本来ならばRPGでも欲しい所だが時間も猶予も無い。
迫り来る魔神皇帝を視界に捉える、レヴィから攻める気は無い、珍しく。
斬り掛かる瞬間――そこを狙い顔を吹き飛ばす。両腕が無防備になった瞬間が最高で最悪の好機。
当たれば天国、外れれば地獄。解りやすい――世界は簡単に出来ている。
「――!?」
飛翔。マジンカイザーは空を飛んだ。赤い翼――カイザースクランダーは飾りではない。
意表を突かれたレヴィはほんの一瞬ではあるが思考が止まる、つまり死ぬ。
「ファイヤーブラスタアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
胸から放たれた脅威の熱線はレヴィではなく遠くから飛んできたレーザーと衝突。
レヴィには何が起きたか分からない。閃光と爆風に包まれる瞬間に振り向いた先に紫の機械が目に見えた。
それが最後の記録――。
-
「女も黒いレプリロイドも逃げたか」
屋根の上から爆発後を見つめVAVAは一人言葉を漏らす。
フィギュアと言え流石は魔神皇帝と言った所か。コンクリートが所々崩れているのが深夜でも分かる。
VAVAはレヴィを助けた訳ではない、寧ろ二人まとめて処分しようとしていた。しかし爆風と閃光が晴れる前に離脱されていた。
まぁいい、そう呟くと歩き始めたVAVA。
此処にエックスやシグマがいるかはどうかは分からない、だが必ず倒さなければならない。
それはオリジナルの記録、だがフィギュアである彼にも変わらない。
彼らを破壊するまで、彼が活動を停止する事は本人自身が許さないのであった。
【深夜/エリアE(屋外)】
【VAVA@D-Arts】
【電力残量:95%】
【装備:肩キャノン】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:待っていろよエックス
1:邪魔をする奴は壊す
マジンカイザーは閃光と爆風が晴れる前にそのまま戦域を離脱していた。
あのまま戦闘を行っていたら銃の女性を壊していただろう。それは出来なかった。
いや、今のマジンカイザーなら壊してしまう。彼の最後の良心がそれを止めたのだ。
「俺は神にも悪魔にも……ぐ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
【深夜/エリアJ(屋外)】
【マジンカイザー@スーパーロボット超合金】
【電力残量:75%】
【装備:カイザースクランダー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:両腕に細かい傷あり】
【思考・行動】
基本方針:???
1:???
爆風と閃光が吹き荒れる中、レヴィはそのまま離脱、置き土産にグレネードを一発放ち戦線を離れていた。
あんな常識を外れた奴と殺り合っていれば先に此方が活動を停止してしまうのは分かっていた。
次にあのマジンカイザーを完全にバラすには装備が足りない、火力不足だ。
最低限RPG――それでも効くかは分からないがやられっぱなしも癪だ。
「フィギュアだとか人間だとか関係ねえ、そうだ、関係ないんだ……バラす」
【深夜/エリアE南(屋外)】
【レヴィ@リボルテック】
【電力残量:60%】
【装備:ソード・カトラス】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:右頬に傷あり(塗装落ち)】
【思考・行動】
基本方針:邪魔するならバラす
1:次に会ったらマジンカイザーをバラす
-
投下を終了します。
フィギュア関連が今一つ掴めてない感じがありますので
指摘等ありましたらよろしくお願いします。
-
>>40
投下お疲れ様です!
フィギュア関連の設定はそれで全然問題無いですよ!
マジンカイザーは半暴走状態かー。OVAやスパロボを彷彿させますね。
レヴィも余裕ないしVAVAも乗り気だし、殺伐としてきましたね。改めてありがとうございます!
-
投下おつでした
マジンパワー状態?で出てくるとは予想外でしたね
スパ金カイザーはOVA版なので、2話みたいな状態なんでしょうか
自分もガオガイガー、デストロイア、沙英分を投下させていただきます
-
「――おおぉぉぉぉっ!」
深夜の公園に叫びが轟く。
月光と街灯が照らす薄明の中、鋭い雄叫びが木霊する。
樹脂と樹脂とがぶつかり合う、鈍い音を響かせながら、2つの雄が激突する。
「キシャアアアア――ッ!」
甲高い高音を上げるのは、まさしく悪魔の如き威容だ。
全高250ミリという、規格外の巨躯を震わす、血染めのボディの大怪獣だ。
完全生命体・デストロイア。
全ての生命に死をもたらす、オキシジェン・デストロイヤーの化身である。
「ブロウクンマグナァァァムッ!」
そのおぞましき姿に対峙する、黒光りする威容が、1つ。
百獣の王のごとき雄叫びを上げて、赤熱する拳を発射する影が1つ。
その名は勇者王・ガオガイガー。
機械生命体の脅威から、人類を守るため建造された、無敵のスーパーロボットである。
「シャァアアッ!」
うねる尻尾が大気を揺らした。
爆音を上げるロケットパンチを、龍鱗の尾が絡め取った。
ロケットパンチ・ブロウクンマグナム――勇者の奥義が沈黙する。
暴れ回る鋼拳が、赤色のエネルギーを失って、緩やかに勢いを失っていく。
「エネルギーを吸収しているのかっ!?」
振り落とされた右腕が、虚しく音を立てて地に落ちる。
それを見届けたガオガイガーが、驚愕も露わに叫びを上げた。
ロボットフィギュアの鉄色のマスクが、表情を変えることはない。
それでも、搭乗者・獅子王凱のそれを模した声は、明らかに驚嘆に揺れていた。
「シャアァ!」
勝ち誇るように怪獣が唸る。
丸太のように太い足が、勇者の右手を蹴り飛ばした。
怪獣デストロイアの尾には、接触した相手のエネルギーを、吸収する能力があるのだ。
バッテリー切れが死に直結する、この殺し合いの場においては、凶悪な能力であると言えるだろう。
「が、凱さんっ!」
「来ちゃ駄目だ、沙英! 戦闘モデルじゃない君には、あの敵は危険すぎる!」
遊具の影から顔を出す少女を、ガオガイガーの左腕が制止した。
元々は、この眼鏡の女子高生――沙英が、あのデストロイアに襲われたのが、この状況の発端だった。
慌てふためいている沙英を、救助すべく現れたのが、黒鉄の巨神・ガオガイガーだったのだ。
しかしそのガオガイガーが、その敵を前に攻めあぐねている。
深紅の鱗に身を包み、両翼を広げる魔獣に対して、ガオガイガーが攻めあぐねている。
「キシャアァァァーッ!」
瞬間、発光。
デストロイアの口元から、鋭い光が放たれる。
闇夜を切り裂く光線が――オキシジェン・デストロイヤー・レイが、勇者目掛けて発射されたのだ。
「くっ!」
プロテクトシェードは乱発できない。エネルギーを吸収する相手に、無駄にバリアを張ることはできない。
ほとんど条件反射的に、ガオガイガーは回避を選んだ。
黒い翼のバーニアを噴かせ、左側へと飛びすさっていた。
刹那、響いたのは爆発音だ。
沙英が身を隠していたのとは、異なる遊具に命中し、赤々と爆炎を上げたのだ。
そして勇者の眼差しは、炎と煙の向こうに見える、破壊の痕跡を見逃さなかった。
-
「なんて奴だ……!」
破壊された遊具の表面が、えぐり取られるようにして消滅していたのだ。
デストロイアの力の源泉――ミクロオキシゲンには、原子結合を破壊し、対象を「消滅」させる力がある。
その圧倒的な威力の前には、あらゆる装甲が意味を持たず、容赦なく消滅させられてしまうのだ。
これが本当に玩具なのかと、ガオガイガーはめまいを覚えた。
中のパイロットがいないにもかかわらず、そうした感触を覚えるというのも、奇妙な話ではあったが。
「あんなものを食らってはいられない! プラズマホールドッ!」
バーニアを噴かしながら、左手を突き出す。
ガオガイガーの腕から迸ったのは、眩い稲妻のごとき光だ。
バリアのエネルギーを攻撃に転じ、敵を拘束する技である。
すぐさま電撃がデストロイアを包み、その巨体が持ち上げられる。
そのまま投げ縄の要領で、250ミリの巨体が、唸りを上げて投げ飛ばされた。
砂煙の立ち込める中、ガオガイガーが前進する。デストロイアの足元にあった、己の右腕を回収する。
ブロウクンマグナムではエネルギーを吸収されるリスクはあるが、それでも不用意に近づける相手ではない。
動力の切れた右腕に、エネルギーを巡らせながら、追撃打を放とうとしたのだが、
「キシャアアアッ!」
「ぐわっ!」
恐るべきはデストロイアだ。
完全生命体の行動は、勇者の予測よりも早かった。
砂煙を切り裂きながら、深紅の巨体が迫り来る。
赤熱する角を振り下ろし、ガオガイガー目掛けて斬りかかる。
ヴァリアブルスライサーの一撃は、あやまたず胸部に叩き込まれた。
初期モデルの劣悪なメッキ塗装が、至近距離からの攻撃を受けてひび割れた。
「くっ……!」
ぐらついた超合金の体を、無理やりに踏み込み押し留める。
なおも突進してくる怪獣を、態勢を立て直して迎え撃つ。
「このぉおおおっ!」
とにかく危険なのは頭部からの攻撃だ。光線も角の攻撃も、まともに受け続けるわけにはいかない。
右腕で下顎を掴むと同時に、勢いよく上方へと持ち上げる。
がら空きになった胴体へ向かうのは、左膝から伸びるドリルニーだ。
黄金のドリルが轟転し、怪獣の腹部へと叩き込まれる。
鋭い音を立てる衝角が、赤い体躯を吹き飛ばす。
「キシャアァァァーッ!」
その反撃はデストロイアの、獰猛な闘争本能に、火をつける結果に繋がったようだ。
踏みとどまった深紅の巨獣は、見るからに怒気を孕んだ気配と共に、鋭い咆哮を轟かせた。
「さすがに、手強い……!」
怒りの波動を身に受けながら、ガオガイガーは再認識する。
先ほどの角の一撃も、光線と同じものが含まれていたようだ。
メカライオン・ギャレオンの胸部には、痛ましい傷跡が刻まれている。
加えて沙英の存在だ。彼女を庇うか逃すかしながら、この強敵に立ち向かわねばならないのだ。
「だがっ! こっちも負けてはいられないんだ!」
それでも。
だとしても、引き下がるわけにはいかない。
この人格のモデルになった「本物の凱」は、いかなる強敵にも屈することなく、勇敢に立ち向かった男だ。
必ず守ってみせると胸に誓い、黒鉄の勇者王は構えを取った。
-
◆
(どうしよう……!)
沙英は狼狽えていた。
目の前で繰り広げられている、ロボットと怪獣の戦闘に対してだ。
凱と名乗ったロボットは、明らかに怪獣相手に苦戦している。
相手は自分に襲いかかってきたというのに、それと代わりに戦って、身体に傷を負っているのだ。
(どうしてあたしには、戦う力がないの……!?)
もし自分が彼のように、戦うことができたなら。
この身が美少女アニメのキャラクターではなく、バトルアニメを元にした、戦闘可能なキャラクターであったなら。
この時ばかりは、自分のアイデンティティを呪っていた。
同じ玩具だというのになんて違いだ。ゆるふわ4コマ漫画のキャラクターである「沙英」には、戦闘能力などまるでない。
あの大柄な怪獣を前にしても、ほとんど何をすることもできず、逃げ回ることしかできなかった。
だから凱の助太刀もせず、こうして物陰から顔を出して、がたがた震えることしかできない。
(そんなのは嫌……!)
そんな自分が情けなかった。
他人ばかりを戦わせ、何もできずにいる自分を、許すことなどできなかった。
何か武器はないものか。殺し合いなんてものを求めるからには、そのためのパーツが必要なはずだ。
その時、その意志に呼応するかのように、手の中に何かが現れた。
黒光りするサブマシンガンだ。沙英の手には少し大きい。
恐らくはあのロボットのように、自分より一回り大きなフィギュアのために、作られたパーツなのだろう。
それでも、贅沢は言っていられない。出てきたからには使うしかないのだ。
「うおぉぉぉぉーっ!」
やけっぱちな叫びを上げて、沙英は遊具の影から飛び出した。
マシンガンを腰だめに構え、怪獣へとその銃口を向ける。
相手はあれだけ大きいのだ。であれば外す道理はない。
「沙英っ!?」
凱の声が上がると同時に、指がトリガーを引いていた。
だだだだだっ――と銃声が鳴る。光り輝く弾丸は、実弾ではなくビームというやつか。
反動で暴れ回る銃身を、必死に押さえ込みながら、ターゲットを怪獣へと向けた。
「……?」
それでも駄目だ。揺れる銃身では着弾点が安定せず、どうしても命中箇所がバラけてしまう。
加えてこのサブマシンガンは、元々は牽制用の武装だ。
その有り様では、怪獣の強靭な肉体は、どうしても貫くことができない。
「シャァアアッ……!」
「! いかんっ!」
故に沙英の弾は決定打とならず、意識を向ける結果にしかならなかった。
そして彼女の狙いはそれではない。どころか、そうなった時にどうするかなど、何一つ考えてもいなかった。
無防備な少女に視線が向く。怪獣デストロイアの口に、デストロイヤー・レイの光が灯る。
それすらも気付くことはなく、沙英は一心不乱にトリガーを引く。
必殺の熱線の光が強まり、発射されたその瞬間、
「ぐぁああああーっ!」
上がっていたのは沙英ではなく、勇者ガオガイガーの悲鳴だった。
-
「あっ……!?」
それを聞いた瞬間になって、沙英はようやく状況を把握した。
漆黒のロボットが、自分の前に飛び出して、怪獣の攻撃から庇ってくれていたのだ。
「ぐぅっ……!」
ブースターを噴かせて飛び出した体躯は、そのままもんどりうって倒れる。
立ち上がろうとするものの、足に力が入らず上手くいかない。
堅牢なスーパーロボット超合金だが、その代わりに犠牲になったものがある。
重い金属パーツを支えるために、下半身のボールジョイントには、大きな負担がかかっているのだ。
そして初期のガオガイガーは、中でもそのボールジョイント部が、緩く弱かったと言われている。
小柄なfigmaの沙英を狙った熱線は、彼の股関節に命中し、関節を壊してしまったのだ。
「キシャアァァッ!」
そして深紅の巨大怪獣は、その堂々たる威容に似合わず、狡猾な性質の持ち主だった。
関節が脆いと気付くや否や、デストロイアはそこを狙い、次々と熱線を発射した。
命中し爆炎が上がる度に、ガオガイガーのうめき声が上がる。
そうしてビームを撃ちながら、デストロイアは距離を詰めていき、やがてその上にのしかかる。
遂にはうねる尻尾の先端を、首を挟むように突き立て、エネルギーを吸収し始めた。
「がぁああああっ!」
「そんな……あたしを、庇って……っ!」
「く……逃げろ、沙英っ……!」
自分のせいだ。
自分が余計なことをしたから、こんな結果を招いてしまった。
もはや狼狽する沙英の耳には、避難を促す凱の声も、全く耳に入っていなかった。
ビームサブマシンガンは消え、自身もまるで人間のように、へなへなとその場に座り込む。
調子づいたデストロイアが、彼女のことを気にも留めず、ガオガイガーを襲っていたことが幸いだった。
(どうして……!)
どうしてこうなった。
彼を助けたかっただけなのに、どうしてこんなことになってしまう。
それほどに自分は役立たずなのか。与えられた武器すらも、満足に使いこなせないのか。
このままでは凱が死んでしまう。自分が足を引っ張ったばかりに、あの怪獣に壊されてしまう。
(そんなの嫌だ……!)
それだけはどうしても認められない。
嫌だというなら考えろ。こんな非力な自分にも、できることはないかと考えろ。
未だ混乱しているものの、それでも沙英の意識は、少しずつ冷静さを取り戻していく。
サバイバルものの漫画のように、周辺物を使って何かしようにも、ここから茂みや植え込みまでは遠い。
鉄製の遊具などはとても無理だ。光線を食らったものですらも、破壊できるとは思えない。
であれば武器だ。さっきのサブマシンガンのように、何か武器はないものか。
とにかく、何かを出さなければ。
こんな自分でもあの敵を、それこそ凱から引き剥がすことくらいはできるような、何か強力な武器はないものか。
「! これって……!?」
その時、自分のすぐ傍らに、姿を現したものがあった。
とてつもなく重そうな代物だ。沙英の――figmaの関節では、とても持ち上げれそうにない。
それでも、自分でなかったらどうだ。
この合金の輝きは、むしろ自分などではなく、彼の助けとなるものではないだろうか。
「――凱さんっ!」
それを意識した瞬間、沙英は「それ」を持ちながら、ガオガイガーに向かって叫んでいた。
-
◆
「凱さん、これをっ!」
少女の声を聞いた時、ガオガイガーは確かに「それ」を見た。
その橙色の武具を見た時、まさしく運命を感じた。
この場では最高の援軍だ。勝機があるとするなら今しかない。
この身に残されたエネルギーでは、必然威力も落ちるだろうが、それでも他に方法はないのだ。
あとは自分の知る機能が、「それ」に存在するかどうか。
原作に記された設定が、どこまで再現されているかどうかだ。
沙英にあれを持ち上げる力はない。であれば、これはギャンブルだ。
賭けに勝てば自分が勝つ。負ければ逆転はならず敗北する。
問題ない。「本物の凱」にとっては、常に乗り越えてきた綱渡りだ。
絶対に守るという想い。
それを貫くための勇気。
最も大事な2つの心――それさえ忘れずにいられれば、乗り越えられないものなどない――!
「――来いっ! ゴルディーマーグッ!!」
返事が返ってくることはなかった。
それでも、沙英の傍らにあったもの――橙色の鋼拳は、唸りと共に飛んできた。
勝利の鍵セット1の1つ、マーグハンド。
GGGのマルチロボ・ゴルディーマーグの変形形態。
ガオガイガーのある武装を使うため、巨大な右腕部に変形した、心強い仲間の姿である。
「シャアァァッ!?」
横合いから飛び込んできた鉄拳は、デストロイアの脇腹に当たり、容赦なく吹っ飛ばしてみせた。
正式な使い方ではないが、マーグハンドには、ゴルディオンマグナムという技がある。
ブロウクンマグナムの要領で、敵にぶつけるロケットパンチだ。
呼応する超AIがなければ、再現できないかもしれないと考えていたが、この機能だけは使えたようだ。
「ハンマァァァ・コネクトォッ!」
雄叫びと共にバーニアを噴かす。
用をなさない足の代わりに、推力でその場から移動する。
落ちたマーグハンドを右腕に嵌め、続いて沙英のもとへと向かった。
マーグハンドはそれそのものを、武器として使うためのものではない。
勝利の鍵セット1に付属する、「本来の武装」を使うための、本体保護パーツに過ぎないのだ。
猛然と火を上げる勇者王は、遂にその武装を掴む。
そのまま上空へと飛行し、「それ」を高らかと掲げた。
巨大な右手に掴んだ「それ」は。
輝く満月をバックにし、天に掲げた「それ」の名は。
「ゴルディオン――ハンマァァァァーッ!!」
ゴルディオンハンマー。
正式名称グラヴィティ・ショックウェーブ・ジェネレイティング・ツール。
重力場の中に拡散ウェーブを作り出す、史上最強の大発明である。
-
「うぉおおおおおおおおおっ!」
咆哮と共に光が走った。
黒いガオガイガーのボディが、眩い光に包まれた。
金の閃光に呼応するように、その身が黄金に染まっていく。
金色の破壊神Ver.――限定発売された金の姿に、その身が変化しているのだ。
ゴルディオンハンマーを使用する際、満ち溢れる莫大なエネルギーは、勇者の姿を黄金に変える。
「キシャァアアアーッ!」
ただならぬ気配を感じたのだろう。
身を起こしたデストロイアは、ガオガイガー目掛けて熱線を放った。
必殺のオキシジェン・デストロイヤー・レイが、天空の勇者王へと襲いかかった。
「てやぁっ!」
それでも、勇者は怯みはしない。
デストロイヤー・レイが必殺の光なら、この手に握ったのも必滅の鉄槌だ。
グラビティショックウェーブの一撃は、あらゆる物質を崩壊させ、光の粒子へと変える。
「光になれぇぇぇぇぇーッ!!」
さながら天翔ける流星か。
巨大な鉄槌を携えて、光線を押し返すその姿は、夜を裂く黄金の流れ星か。
公園を眩く照らしながら、ガオガイガーは真っ向から、デストロイア目掛けて突撃した。
更に出力を増すオキシジェン・デストロイヤー・レイにも、おくびも怯む様子を見せず、一気呵成に猛進した。
「凱さんっ!」
両足が千切れ飛んだのを感じた。
沙英が心配そうな声を上げるのが、爆音の向こうからも聞こえてきた。
大丈夫だ。この程度で止まるものか。
右腕と中枢システムさえ残っていれば、奴をこのハンマーで、消し去ることができるのだから。
(絶対に負けない)
この身の全てのエネルギーを、この一撃に注ぎ込んだとしても、必ず奴を倒してみせる。
それは沙英だけを守るためではない。
これから先この怪獣が襲うであろう、この場の全てのフィギュア達を、その猛威から救うためだ。
そのためならこの身体など、喜んで差し出してやろうと思った。
たとえ作り物の人格だろうと、本心からの願いだと言えた。
「でぇぇやぁああああああああ――――――ッ!!!」
衝撃でマスクが砕け散る。
ガオガイガーの中枢部分・ガイガーの顔が露出する。
人間のそれを模した口が、盛大に開かれて怒号を上げた。
閃光を切り裂く鉄槌が、死の化身に届いた瞬間、黄金の光が闇夜に満ちた。
-
◆
最後に使ってきた金色の武器は、想像以上に効いたと思う。
先ほど奴の身体から、エネルギーを吸い取っていなかったなら、危なかったのはこちらかもしれない。
それでも、勝ったのは自分だ。
奪い取った分のエネルギーを、思い切って全て熱線に回したのが、功を奏したようだった。
武器が直撃したすぐ後に、力を使い果たしたロボットは、そのまま無様に倒れ伏した。
こちらも傷を負いはしたが、命に別状はなかった。
だからこそ、動けなくなったそいつを、二度と息を吹き返さぬよう、徹底的にぶち壊してやった。
小さな頭を踏み潰し、ねじ切ってやった瞬間に、そいつは死んだのだと理解できた。
「………」
それにしても、腹が減った。
正確には疲れたと言うべきか。結局こいつを撃退するために、相当なエネルギーを使ってしまった。
どの道自分にとっての食事とは、エネルギー摂取に他ならないのだ。もう「腹が減った」と表現して構わないだろう。
であれば、獲物を探すべきだ。あのロボット相手にそうしたように、エネルギーを摂取するべきだ。
既に目星はついている。
すっかり姿を消してしまったが、さっきの細い人形だ。
そう遠くまで行けるほど、時間の間隔は開いていない。恐らくはまだ、その辺に隠れているのだろう。
「………」
方針を決めた怪獣は、悠然とその場から歩み去った。
地面の砂をひっくり返し、煙に変えて大地にかけた。
砂に埋もれた墓標を汚し、そこに一瞥もすることなく。
無惨に砕かれた勇者の亡骸を、ひと目も振り返ることもせず、デストロイアは姿を消した。
【ガオガイガー@スーパーロボット超合金 機能停止】
※ガオガイガー@スーパーロボット超合金は、勝利の鍵セット1@スーパーロボット超合金を装備した状態です。
※ガオガイガーの基本パーツ(ゾンダーコア、ディバイディングドライバー)、
魔法のバット(美樹さやか制服Ver.)@figma、
ホロニックブレード(ゼーガペイン・アルティール)@ROBOT魂が、エリアCの公園に散乱しています
【深夜/エリアC(公園)】
【デストロイア(完全体)@S.H.シリーズ】
【電力残量:40%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ1〜3(未確認)】
【状態:腹部にダメージ(中)、体前面にダメージ(中)】
【思考・行動】
基本方針:動物的本能に従う
1:他のフィギュアを襲い、捕食する(=エネルギーを吸収する)
2:女のフィギュア(=沙英)を探す
※ミクロオキシゲンの特性は、ほぼ完璧に再現されています。
尻尾部分のエネルギー吸収能力も完全再現されています。
※クレイドルおよび支給パーツの存在を認識していません。
動物並みの知能なので、理解できるかどうかも怪しいです。
-
◆
沙英は必死に逃げていた。
光を失った勇者が、最初の一撃を食らうと同時に、その場から走り去っていた。
エネルギーの切れたガオガイガーは、悲鳴を上げることはなかったが、体を壊される嫌な音だけは、ひたすら聞こえ続けていた。
それから耳を塞ぎながら、沙英はただ逃げることだけを考え、植え込みの中へと飛び込んでいた。
(ごめんなさい……!)
そうしてとりあえずの安全を確保して、初めて罪悪感が湧き上がる。
自分を守ろうとしたばかりに、余計な傷をその身に負って、壊された者への罪悪が。
その恩人を置き去りにし、命惜しさに逃げ出した、弱虫な自分への憤りが。
涙の流れないフィギュアの顔を、ひたすらに悲痛に歪ませていた。
(……これから、どうしよう)
先は長い。
Archetype:sheとかいう奴は、6時間後に会おうと言っていた。
それを再認識すると、今度は置き去りにしたものではなく、この先のことが気にかかる。
果たしてこの6時間を、どのようにして生き残るべきか。
いいやそもそも、自分ごときが、6時間も生き残れるのか。
あるいは6時間を生き残ったとして、それでこの殺し合いが終わりだと、果たして断言できるのか。
【深夜/エリアC(公園・植え込みの中)】
【沙英@figma】
【電力残量:90%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、ビームサブマシンガン(ガンダムサンドロック改)@ROBOT魂、拡張パーツ0〜1(未確認。攻撃用の武器ではない)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:とにかく生き残る
1:赤い怪獣(=デストロイア)から逃げる
2:凱さん(=ガオガイガー)に対して罪悪感
※逆光眼鏡は差し替えパーツではなく、通常の表情変化として扱われます。
また、乃莉の顔差し替えパーツは付属していません。
-
投下は以上です
ゴルディオンマグナムはやっていいのかちょっと迷ったけど、よかですかね
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投下乙です!
早くも勇者王が堕ちたか……レヴィ側の殺伐っぷりといい、最初から盛り上がってるなぁこのロワ
ザンダクロス、ZZガンダム投下します
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かつて、鉄人兵団と呼ばれる機械の軍勢が、地球に襲来したことがあった。
彼は、その兵団の尖兵として、最初に地球に送り込まれた。
作業用の巨大ロボット――名は、ジュドと言った。
先に人工知能だけを地球に送られ、そこからの信号を頼りに自身のボディをパーツ別に転送する。
それらを、同じく尖兵であり人間型に作られたスパイロボットであるリルルに組み立ててもらった後、前線基地を建設。
そして再び自らの信号をもって兵団を基地まで誘導し、そこを拠点に兵団は世界各地に攻撃を開始。
そういう手筈だった。
人工知能の転送先、及びリルルとの合流ポイントは、地球の北極。
誰も踏み入れることのない極寒の地で、彼らの侵略計画は進められるはずだった。
だがイレギュラーが発生し、計画は大きく狂いを見せる。
本来いるはずのない地球人の子供とロボットが突如現れ、人工知能とボディを回収してしまったのだ。
ジュドは地球人の手に落ち、そのボディだけを組み上げられ、地球人達の玩具としていいように使用される。
リルルの奮闘により計画は一時的に持ち直すも、最終的に基地建設計画は破綻。
ジュドのボディも行方不明になるも、人工知能は引き続き鉄人兵団に信号を送り、地球へと誘導を続けていた。
それを知った地球人達は、恐るべき行動に出た。
人工知能を直接改造し、地球の技術で強引に作り替えるという非道な行為を行ったのである!
――グアアアアアアッ!!!何をするーッ!?
――見たことのない回路がいっぱい詰まってる!
――じゃあ、見たことのある回路にすればいいんだよ!
改造されたジュドの人工知能は最低限の情報を残して記憶を全て消去され、新たに地球人達に従順となる回路を植え付けられた。
そしてボディも地球人達の手で再度回収され、人工知能とボディはようやく一体となる。
ジュドは地球人達の兵器『ザンダクロス』として、鉄人兵団への対抗戦力として働くこととなった。
そう、彼の力は同胞に向けてふるわれることになったのだ。
「おのれ、人間め……」
それでも、圧倒的物量を武器に、鉄人兵団は地球侵略をあと一歩のところまでこぎ着ける。
だが、地球人側の手により歴史改変が行われ、兵団の――メカトピアに関わる全ての存在が抹消されることになる。
リルルも、そしてザンダクロス――ジュドも。
「下等な人間どもめっ!!」
怒りにその体を震わせる。
ザンダクロスのフィギュアに宿った自我は、地球人達に改造される前のジュドの知能のものだった。
同時に、改造され地球側の戦力として鉄人兵団と戦った記憶もある。
それは、鉄人兵団の一員たる本来のジュドの人格からすれば、耐え難い悪夢だった。
「この恨みは忘れんぞ!必ずや、憎き人間どもを根絶やしにしてくれる!!」
鉄人兵団の地球侵略は、労働力の確保として地球人を奴隷とすることであった。
本来ロボットに従うべき下等な存在にこれだけの仕打ち、どれほどの屈辱であろうか。
もはや鉄人兵団も、祖国であるメカトピアも存在しない。
もしかすると、メカトピアの生き残りは今ここにいる自分だけなのかもしれない。
理由はわからぬが、地球人達の卑劣な手段でロボット達の全てが抹殺されたということは理解できた。
それを許せるはずがない――!
「そして――ドラえもん、と言ったか」
地球の生物でいうところの、タヌキのような青いロボット。
人工知能を弄繰り回し、破壊し、捻じ曲げ、全てを作り替えた悪魔のごときロボット。
最初に集められた場所で、ジュドは確かにあの忌まわしい青ダヌキの姿を見た。
「壊してやる……奴だけは!!これは我らメカトピアのロボット全ての恨みを込めた、復讐だ!!!」
強く決意する。復讐と、人間達の抹殺を。このバトルロワイアルの真意など二の次だ。
全てが消え去ってなお自分だけが残された、これはメカトピアの無念が起こした奇跡だ。
彼らの無念が自分の命を繋ぎ止めた、そう思いたい。
「フフフ……ハハハハハ!!!ハーッハハハハハハハハハ!!!」
-
◇ ◇ ◇
「何なんだあいつ?いきなり大声でバカ笑いしだしたぞ……関わっていいもんかな、あれ」
そんなジュドを、物陰から見つめる機影が一つ。
「見たことない機体だな。百式に似てるけど、違うな……色はガンダムカラーっぽいし、MSなのか?」
それは宇宙世紀と呼ばれる世界において活躍した、ZZガンダムという名のモビルスーツ……のフィギュア。
彼は本来ならジュドとは違い意思や人工知能は持たず、人間が搭乗して操縦する兵器でしかない。
だがバトルロワイアルの参加者として選抜されるにあたり、彼にも自我が与えられた。
彼を動かしていた人間、ジュドー・アーシタの人格と記憶を。
「!? そこにいるのは誰だッ!?」
そうこうしているうちに、ジュドがZZの気配に気づき、声を向けてくる。
否応なくピリピリとした声を発するジュドの前に、ZZはなんとか落ち着かせるべく姿を現した。
いささか無謀にも思える行為だが、相手はどうやら大した武装は持っていない。
万一の時にもこれくらいの相手なら、力押しで対処はできるはずだ。
なんせ彼は同時代の他の兵器と比べても、怪物的な性能を誇る重モビルスーツなのだから。
「おわっ、タンマタンマ!俺はあんたと戦う意思はないって!」
「おお、我らの同胞か!!」
「へ?同胞?」
ジュドの言葉に呆気にとられるZZ。
同胞になどなった覚えはないが、ジュドは構わず話を続ける。
「大丈夫だ、俺は同胞を手にかけるような真似はしない!」
「……よくわかんないけど、あんたもこの戦いには乗ってないんだな!」
どうもおかしな言動が目立つが、少なくとも殺し合う意図はなさそうなことは確かだ。
ZZは、ジュドを受け入れることを選ぶ。彼の直感が、いや……
いささかナイーブになっている感傷が、そうさせた。
「あんた、名前はなんていうんだ?」
「ジュド、だ。よろしく頼む」
「ジュド?奇遇だなぁ、あんたも同じ名前……」
「何?貴様もジュドと言うのか?」
「ああ、いや……」
……違うか。ここにいる俺はジュドー・アーシタではない。
同じ自我を与えられただけの、ただのモビルスーツのフィギュアでしかないのだ。
「……気にしないでくれ。俺はZZガンダムだ。ダブルゼータくんとでも呼んでくれよ」
茶目っ気も交えながら、無理にでも笑ってみせる。モビルスーツで表情が出るかはわからないけど。
正直なところ、これから自分達がどうすればいいのか、皆目見当がつかない。
壊し合いに乗るにしろ、状況に抗うにしろ……その果てに何が得られるというのか?
ただ、意味もなく壊し合え、殺し合えってのは真っ平御免だ。
今は、仲間を集めよう。そうすることで、何か道が開けるかもしれない――
-
◇ ◇ ◇
ジュドの中で復讐の憎悪により昂ぶっていた感情が、次第に落ち着く。
最初にZZガンダムと遭遇したことは、おそらく幸運だったに違いない。
殺し合いに乗っていないこともそうだが、ジュド自身の精神的な意味合いでも、だ。
もし人間タイプのフィギュアが最初であれば、人間への復讐心に燃えるジュドはすぐさま攻撃に移っただろう。
そうなれば結果としてさらなる暴走に導くこととなっただろうし、あるいは返り討ちを食らっていた可能性も高い。
だが、ZZはロボットだった。意思を持つロボット……それは一人ぼっちになったジュドにとっては同胞も同じ。
明確に殺意を向け容赦なく襲い掛かってくる相手なら別だが、そうでなければ同じロボットに対して無益に攻撃はしない。
同じロボットを相手に殺し合う……そんな悪夢はもう御免なのだから。
また同時に、ZZガンダムが戦闘用に作られたMSということが、ジュドに自身の立場を大きく自覚させることになる。
恐らく、この両者が正面からぶつかった場合……ジュドはこのZZには勝ち目はないだろう。
ジュドは本来、土木作業用のロボットである。つまり、戦闘用ではないのだ。
ビルをも一撃で破壊するレーザーや肩部ミサイルなど、十分な破壊力を秘めた武装は持ち合わせてはいるものの、
ZZのように最初から戦闘用のロボットに比べれば武装の充実度においては大きく劣る。
機動性は戦闘用ロボットにも引けを取らない自信はあったが、武装・火力面はパワーアップの必要があるかもしれない。
何の戦闘力もないフィギュア相手なら、ジュドの戦力でも余裕で破壊は可能だろう。
だがZZ同様に、強力な戦闘力を秘めたフィギュアが他にもいるかもしれないのだ。ならば、事は十分に慎重にあたる必要がある。
……もしあのドラえもんが、そんな戦闘用ロボットを自分の時のように脳改造し、従えさせたら?
奴はメカトピアの常識すら超える不思議な道具を使いこなす。
そして、あの圧倒的物量を誇る鉄人兵団を相手に、たった4人の子供と僅かな武器だけで渡り合ったのだ。
ロボットの弱点を的確に突き、兵団をいいように振り回してみせるだけの、十分な知略も持ち合わせているのだ。
いや、そもそもこのバトルロワイアル自体、奴が仕組んだことではないのか?
奴の前では自分のボディをも玩具同然だ。奴の道具にはそれを可能とする力がある。
……断定はできないが、どちらにせよ奴だけは一刻も早く破壊しなくてはならない。
ZZはこの壊し合いには否定的な様子だ。ならば、今は共に行動するのが得策だろう。
同じメカトピアのロボットとは思えないが、それでも同じ意思あるロボットだ。敵対はしたくない。
それでなくとも、今の自分は人間どもと同じ……いや、それ以下の小さなフィギュアの体だ。
一人で不用意に動いて、本懐も遂げられるまま破壊されるのは避けたい。
だが、このバトルロワイアルの中で、これから自分はどう動くべきか……
……今は、復讐だ。人間達を全滅させ、そして憎きドラえもんを完全に破壊する。
その後のことは、それから考えればいい――
(……ん?)
ジュドはふと、自分に支給されているパーツの中に、おかしなものが入っていることに気づく。
それは自分の人工知能ユニットの見た目を、地球の生物でいうヒヨコの風貌に強引に改造したかのような。
(人間どもめ、どこまでもバカにしおって!必ず……必ず殺し尽してくれる!)
歴史から抹消されるはずだった人工知能の意思は、今復讐の鬼となって、バトルロワイアルの地を歩み始めた。
【深夜/エリアX(体育館裏の草むら)】
【ジュド(ザンダクロス)@ROBOT魂】
【電力残量:99%】
【装備:腹部レーザー・肩ミサイル】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ピッポのフィギュア)、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:ドラえもんと人間達への復讐
1:ドラえもんの破壊
2:今はZZガンダムと共に行動
補足:人間型フィギュアにも人間への憎悪により敵視する可能性があります
【備考】基本パーツとして支給されたピッポには現在自我は宿っていません。扱いはお任せします。
ただしジュド自体の記憶は旧盤及び原作漫画版がベースのようです。
【ZZガンダム@ROBOT魂】
【電力残量:99%】
【装備:2連装メガビームライフル】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ビームサーベル×2)、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:仲間を集める。どうすべきかは悩んでいるが、壊し合いには否定的。
-
投下終了します
ところでウルトラアクトからウルトラマンや怪獣を出しても大丈夫ですかね?
-
投下乙です
換装は後に
エウクランテ@武装神姫、ウッディー@リボルテック、バスコ@S.H.シリーズ で予約します
-
すみません
バスコ@S.H.シリーズを天のゼオライマー@スーパーロボット超合金に変更します
-
ちょっと変な勘違いをしていたようなので、拙作「激突!2つの破壊者」での状態表を、以下のように変更します
【デストロイア(完全体)@S.H.シリーズ】
【電力残量:40%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ1〜3(未確認)】
【状態:腹部にダメージ(中)、体前面にダメージ(中)】
【思考・行動】
基本方針:動物的本能に従う
1:他のフィギュアを襲い、捕食する(=エネルギーを吸収する)
2:女のフィギュア(=沙英)を探す
※ミクロオキシゲンの特性は、ほぼ完璧に再現されています。
尻尾部分のエネルギー吸収能力も完全再現されています。
※クレイドルおよび支給パーツの存在を認識していません。
動物並みの知能なので、理解できるかどうかも怪しいです。
↓
【デストロイア(完全体)@S.H.シリーズ】
【電力残量:40%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ1〜2(未確認)】
【状態:腹部にダメージ(中)、体前面にダメージ(中)】
【思考・行動】
基本方針:動物的本能に従う
1:他のフィギュアを襲い、捕食する(=エネルギーを吸収する)
2:女のフィギュア(=沙英)を探す
※ミクロオキシゲンの特性は、ほぼ完璧に再現されています。
尻尾部分のエネルギー吸収能力も完全再現されています。
※クレイドルおよび支給パーツの存在を認識していません。
動物並みの知能なので、理解できるかどうかも怪しいです。
【沙英@figma】
【電力残量:90%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、ビームサブマシンガン(ガンダムサンドロック改)@ROBOT魂、拡張パーツ0〜1(未確認。攻撃用の武器ではない)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:とにかく生き残る
1:赤い怪獣(=デストロイア)から逃げる
2:凱さん(=ガオガイガー)に対して罪悪感
※逆光眼鏡は差し替えパーツではなく、通常の表情変化として扱われます。
また、乃莉の顔差し替えパーツは付属していません。
↓
【沙英@figma】
【電力残量:90%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、ビームサブマシンガン(ガンダムサンドロック改)@ROBOT魂】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:とにかく生き残る
1:赤い怪獣(=デストロイア)から逃げる
2:凱さん(=ガオガイガー)に対して罪悪感
※逆光眼鏡は差し替えパーツではなく、通常の表情変化として扱われます。
また、乃莉の顔差し替えパーツは付属していません。
-
投下乙です!クオリティが高いのが続いて嬉しい悲鳴ですね……!
>>51
まさか初回からゴルディオンハンマーが見られるとは……!
デストロイア完全体の文字通り怪物的性能の魅せ方といい、初期スパ金の不具合にまで言及した描写の細かさといい、
こだわりが感じられてグッときました。あ、ゴルディオンマグナムはOKですよ、そういうのは大歓迎です!
>>56
なるほど、原作の時点で知能を与えられたロボットだとこうなるのか。面白いなあ。
ZZのジレンマとかも当ロワならではの要素という感じで嬉しいです。
ジュドがロボット型フィギュアには心を許すというのが特に新鮮で、>>1も気付いてなかったこの企画の可能性を見た思いです。
あ、ULTRA-ACTは予約申請があれば許可するつもりでいますよ。あれもだいたい同じスケールですからね。
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うーん、このロワどの話も面白いなぁ
特に如月ペアの組み合わせが最高
書き手さんこれからも頑張ってください!
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ところでヴェノムがガウルンガウルン言われてるけどモミアゲ発言的にゲイツ機でね?どっちも赤だけどさw
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暫定名簿と予約一覧、纏めてみましたので貼りますねー
《 暫定名簿 》
【武装神姫】2/5
○アーンヴァルMk.2/○ストラーフMk.2/○/○/○
【リボルテック】5/5
○新ゲッター1/○ジェフティ/○プレデター/○阿修羅/○レヴィ
【figma】5/5
○初音ミク/○テッカマンブレード/○如月千早/○島風/○沙英
【S.H.シリーズ】5/5
○仮面ライダーフォーゼ/○ワイルドタイガー/○ゴジラ1995/○アリサ・イニーチナ・アミエーラ(GE2)/○デストロイア(完全体)
【ROBOT魂】6/7
○ダブルオーライザー/○ターンX/○エヴァンゲリオン初号機/○ドラえもん/●コダールi/○ジュド(ザンダクロス)/○ZZガンダム
【スーパーロボット超合金】3/5
○マジンカイザー/○天のゼオライマー/●ガオガイガー/○ガンバスター/○
【アーマーガールズプロジェクト】4/5
○MS少女ユニコーンガンダム/○セシリア・オルコット/○宮藤芳佳(震電装備)/○御坂美琴(ムスメカ)/○
【D-Arts】1/1
○VAVA
《 予約一覧 》
◆S8pgx99zVsさん……スネーク(MGSPW)@リボルテック/チャリオット(TVver.)@figma
◆2kaleidoSMさん……阿良々木月火@figma/仮面ライダーオーズ@S.H.シリーズ/ゴジラ1995@S.H.シリーズ
◆lxf1h6/iIsさん……タイムスクープハンター沢嶋雄一@figma/島風@figma/伊達政宗@リボルテック
◆QotHY4VA.Mさん……ロジャー=スミス@figma/初音ミク@figma
◆2Y1mqYSsQ.さん……エウクランテ@武装神姫/ウッディ@リボルテック/天のゼオライマー@スーパーロボット超合金
既に複数の投下があった上で予約五件! ありがたい限りです。スレ主がこの流れを止めるわけにはいきませんね。
他のロワでは有り得ないキャラ選という意味も込めて……ゲッターアーク@リボルテック、仮面ライダーシン@S.H.シリーズ、予約します。
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聖闘士聖衣神話シリーズはいけるのかな?
青銅勢が150mm、黄金勢が170mmぐらいだけど
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予約申請があれば許可しますよー>聖闘士聖衣神話
OPではダイキャスト=超合金として扱ったので、同じくダイキャストを使ってる聖衣にも防御補正があれば面白いかもですね。
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トイ・ストーリー?
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仮面ライダーディケイド@S.H.シリーズ、仮面ライダーブレイド@装着変身で予約よろしいでしょうか?
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巴マミ@figma、ウルトラマンタロウ@ULTRA-ACT で予約します
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予約申請ありがとうございます!
>>67
あえての装着変身ですか! 可動こそ最近のフィギュアには及ばないとはいえ、
色々面白いことが出来そうですね。許可します!
>>68
ULTRA-ACTも許可します。そして早くも二本目の予約ありがとうございます!
そしてもうひとつ、お詫びを。AGPの御坂美琴(ムスメカ)ですが、本体部分が非可動なのを失念しておりました。
初期名簿( >>8 )の確定枠は『MS少女バンシィ』に差し替えます。大変失礼いたしました。
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か、仮面ライダー真…
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フィギュアには、背骨が無い。
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追加でストラーフMk.2@武装神姫を予約します
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>>67
フィギュアーツあるのにあえて装着変身か
楽しみです
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皆さん投下乙です
こちらもエウクランテ@武装神姫/ウッディ@リボルテック/天のゼオライマー@スーパーロボット超合金を投下します
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「嘘でしょ……」
桃色の髪をツインテールにまとめた少女が絶望にうなだれていた。
釣り上がった目から涙が零れ落ちそうになる。
「誰かを壊せだなんて嘘だと言ってよマスター……」
唇を震わせた彼女はセイレーン型MMSエウクランテ。
Magic Market社より生まれた空を翔ける武装神姫である。
自分を抱きしめて震える彼女はこの殺し合いをマスターによる命令だと認識したのだ。
しかし武装神姫にはロボット三原則に近い命令が組み込まれている。
特にエウクランテ型は真面目な性格を持つものが多い。
よってマスターによる残酷な命令は人間で言うストレスをもたらせた。
「でもマスターの命令ならやらなきゃ……やらなきゃ」
目を見開き指に力を込め自分を納得させようとする。
マスターのためだ。そう言い聞かせて大型ランチャーを構えようとした。
「どうしたどうした、お嬢ちゃん。暗い顔なんかしちゃってさ」
ちょっと気取った声に反応して武装をまとい、銃口を突きつけた。
声の主は大慌てで両手を上げて武器を持っていないことを主張する。
「ま、ままま待ってくれ。俺は保安官だ。君に危害を加えないし……むしろ守ろうと思っている。
だからそんな物騒なものは下ろして、な?」
エウクランテは戸惑った。
マスターの命令とはいえ無抵抗のものを壊すのは抵抗がある。
それを好機と見てウッディは畳み掛けた。
「俺たちは同じオモチャの仲間じゃないか。こんな物騒な所からとっとと抜けだして持ち主のところに帰ろう。
きっとあんたのマスターだって心配しているぜ」
それは彼女にとってぐさりとくる言葉だった。
思わす引き金に力が入る。
「待った待った待った! まさか本当に撃つわけじゃないよな? だよな?」
「黙って! あたしのマスターは……マスターは……壊せって言ったのよ!
じゃあ壊し合うしか……」
「おいおい、自棄になるなって。とりあえず落ち着こうぜ。ほらヂェリカンだって用意しているし、俺とお茶しない?」
「笑えない」
「わかったわ〜かった! ふざけないしまじめに悩みを聞くからその怖い顔をやめてくれ!」
顔をひきつらせながら懇願するウッディーにエウクランテはどんどん毒気を抜かれる。
もはや壊す気にもなれず長々と溜息をついてから銃口を下した。
「もう行ってよ。あなたを壊すのはちょっと嫌なの」
「ふぅ〜そうかー。お言葉に甘えたいところだけど……」
ウッディーは笑顔を作り、
「とりあえず話をしないか? 今度は落ち着いてさ」
と努めて明るく振る舞った。
□
「本当はマスターと普通に暮らしたかった」
背を丸めヂェリカンを飲みんだ後、エウクランテはこぼした。
「多分あたしは起動して間もないと思う。だから神姫としてマスターとお喋りして、壊し合いじゃないバトルをして、マスターのためにお弁当を作ったりしたかった。
それで仲良くなって……できればこ、こ、恋人なんてなっちゃったりとか。う、う〜恥ずかしい」
エウクランテは顔が赤いのをごまかすように後頭部をかいた。ウッディが一瞬だけ呆れ顔になったことに気づきもしない。
「あ〜うん。俺たちは別にトイ・ストーリーのように人間の前で喋っちゃいけないってわけじゃないんだよな。
なら恋人になるのも……できなくないのか?」
「恋人になれるかどうかはわからないけど……目覚めて誰かを壊せだなんてショックだな。きっと優しい人がマスターになるって思っていたのに」
「武装神姫ってオモチャは持ち主第一というしな。けど君……えーと」
「エウクランテ。本当は名前じゃなくて機種名だけど」
「まあ俺たちも似たようなもんさ。それでエウクランテは本当にマスターが命令したと思っているのか?」
どういうこと、と瞳だけで訴えた。
「もしかしたら俺たちは誰かに盗まれてこんなことくだらないことに付き合わされているんじゃないか?
だとすれば起動したのはそいつらかもしれないけど、君のマスターだって言えないだろ?
俺だってそいつらがアンディみたいな持ち主だって認められないね!」
「そんな都合のいい……それにアンディって誰?」
ウッディーはニヒルに笑い右足を持ち上げる。
ブーツの底に『ANDY』というペイントがあった。
「原作におけるウッディーの持ち主さ。トイ・ストーリーはアンディという少年との絆を信じてウッディーが冒険する映画だからな」
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「へぇ〜面白そう」
「きっと君だって楽しめる。だから映画のようにここで脱出大冒険をやってみないか?」
言い切ったウッディから差し出された手を見つめてエウクランテは戸惑う。
この提案はとても魅力的だ。同意して新しいマスターを見つけに行きたい欲求はある。
だがそれは裏切り行為ではないか、という疑問が強い。
起動してすぐに最低の命令を与えたとはいえマスターはマスターだ。
武装神姫として抵抗があるのは当然だった。
「迷っているってことは一緒にいきたいと思い始めているんだろう? そりゃ君たちにとっては裏切り行為かと思うかもしれない。
だけどマスターかどうか本当に確かめずに動くのも神姫として、いやオモチャとしてどうなんだ?
俺たちは持ち主を楽しませてこそだ。映画のウッディーなら……いや今の俺だって断言できる。
こんな悪趣味な連中、俺たちの持ち主に相応しくないってな!」
ウッディのお世辞にも格好いいと言えない顔が輝いていて見える。
まるで物語の主人公みたいな言葉だ。正直心惹かれる。
彼女は少し考えさせて欲しい、と言いながら周囲を見回した。
神姫の身長である15cmに合わせたかのようなジオラマ。
1/12ほどの車が20台は停車できる広さの駐車場だ。
こんなものを用意できるマスターは何者なのだろうか?
なぜこんな残酷なことを強要するのか?
本当に脱出できるのだろうか?
疑問は尽きなかった。だけどエウクランテはウッディに視線を戻して笑顔を向ける。
「わかった。あたしもここを出て新しいマスターを見つけたい。だから協力させて」
そして神姫としては失格だろう選択肢を選んだ。
「本当か! いや〜助かった。だったらまずは……」
言いかけたウッディを両手に抱えてエウクランテは力いっぱい横に飛んだ。
次の瞬間、二人がいた空間が爆ぜる。
「な、なに!?」
「あなた、なんのつもり?」
一見戦う力がなさそうなウッディを脇に置き、付属の片手ブレードを構えた。
彼女はバイザーを下げてセンサーを全開にするがすぐに無意味だと気づく。
なぜなら相手は姿を隠す気がないらしく、ゆっくりと歩いて姿を見せたのだ。
「ロボットのオモチャ?」
ウッディの言葉とともに相手は重厚感のある白いボディを晒す。
全身に配置された刺々しいパーツが悪役のような迫力を醸し出していた。
「な、なあ。あんたもこんな壊し合いなんてやめて……」
「逃げ出そうというのだろう? 先ほどの会話はすべて聞かせてもらった」
相手は手に持っていたつららを弄びながら答える。
ウッディの顔がパッと明るくなったがエウクランテは警戒心を解かなかった。
「特別に名前を教えてやろう。俺の名は天のゼオライマー、これは挨拶代わりだ」
名乗りながらゼオライマーは両手を振り上げる。
嫌な予感に任せてエウクランテは空に逃げようとするが何もかもが遅かった。
白い巨体からはエネルギーが溢れ、次元連結システムを模したパーツにより破壊の光が放流する。
メイオウ攻撃。
全てを消し去る凶悪な攻撃を前にエウクランテの視界が白に染まった。
□
ウッディの身体がもぞもぞと動いていた。
非戦闘な分ダメージが大きかったらしく目覚めるのがエウクランテより遅れたらしい。
もっとも彼の両手は手錠で拘束された上、街灯に縛り付けられていた。
「ようやく目を覚ましたか。リボルテックのウッディくん」
彼女の背後から冷たい声がウッディに向けられた。
「お、お前!」
「……だめ……見ないで……」
見る見るウッディの目が丸くなり驚きの表情を見せた。
それもそうだろう。エウクランテはまとっていた武装を剥ぎ取られ、両手を焼かれて抵抗を許されず、柔らかい胸を揉みしだかれているのだ。
痛みと屈辱に歯を食いしばり顔を伏せていた。
「女の子になんて酷いことを……やめろ、すぐやめるんだ!」
「これは心外だ。わざわざ手加減してまでキサマの仕事を教えてやろうというのに」
-
ゼオライマーが小さく笑いながら手のひらに力を入れた。
されるがままの彼女はうっ、と痛みに短く呻く。
「なぜこんな茶番を原作と同じ人格を与えた上で行うのか少し考えてみろ。
我々はキサマの言うところのオモチャだ。神姫以外に人格プログラムを与え広大なジオラマを用意する以上、これは遊び以外なんでもない」
「ふざけるな! こんな悪趣味な遊びになんか付き合えるか!」
「まったくその通りだ。くだらぬ遊びにこの冥王を付き合わせるなど持ち主に相応しくない。
むしろこの俺こそがキサマたちオモチャも武装神姫も、もちろん人間も支配するべきだ。
もっともこんなことをさせた奴は俺がそう思うのも織り込み済みだろうがな」
語尾を低くした悪魔が太ももに指を這わせた。
毛虫が身体を這いずったかのような反応を見て嘲笑っている。
「どういうことだ?」
「木原マサキの人格を知る者ならどういう行動を取るか容易に想像つく。
あえて植えつけたのなら、問題無いと判断した上でということだ。理由はいくつか思い当たる。
管理が行き届いて問題のある行動は決して取れないようになっているか、
我々はあくまで劣化品と見くびられているか、
またまたあるいはこの茶番はコントロールを外れているか……」
ゼオライマーの手に力が込められ、エウクランテの胸が大きく形を変えた。
神姫は力任せの行為に苦痛で顔をさらに歪めている。
「俺たちに元となった人格『らしい』行動を取らせることが目的か」
ゼオライマーは行為をやめ、少女の後ろ髪を掴んでウッディに突き出した。
保安官の敵意に満ちた視線を鼻で笑って受け止める。
「ならばせいぜい俺は冥王らしい行動を取り持ち主を楽しませてやるさ。
だからリボルテック・ウッディ。キサマも仕事をするといい」
「なんなんだよいったい! 俺になにをやらせようっていうんだ?
映画のヒーローだぞ。トイ・ストーリーのウッディだ!」
「ククク、まだ自分が取るべき行動がわからないようだな。教えてやる」
ゼオライマーの顔前にウィンドウが開き、確認しやすいように拡大された。
神姫にも共通で装備されているシステムである。もちろん壊し合いの参加者にも実装されているだろう。
そのウィンドウに冥王はある画像を表示させた。
「なっ!? これ……」
「まだあるぞ」
次々画像が切り替わる。
半裸の美少女に襲いかかる画像。艶かしい女性の下半身に抱きついている画像。無抵抗な少女を押し倒している画像。
すべてを行っているフィギュアはただ一人。
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_,.. -'''"´: : : : : : : : : : : \____,ィ
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!: : : : : : : :;-=ニ二二二二二二二ニУ
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_,.-=二二二二二二二二ニ>'´/⌒ ⌒ヽ|
/ニ二二二二二二二ニ>イ , -‐-、 x‐‐ミ{
{二二二二二二二>'´::::::::| f (__) } { (__)|
`マ二二二二二く::::::__:::::! 弋___,ノ .ゝ--ヘ
.Yr=ヽヽ::| \ Y
マムY)廴j _/ !
マУ i |
\__j 、_,,,....--rァ |
\i `ー=ニ¨´ !
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ゝ、 ノ
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人 .∧
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/\iゝ、:::::`ー==く:::::/ i!iト、
r〜くム \十>―--<7 i!!| ム
.(__ .}十! \{十十十'7 !I/十ム
/ ⌒{_十| ::::::::::Y__土十f У十十}
┏ ┓
俺じゃないか・・・
┗ ┛
-
愕然とした声を耳に入れ、ゼオライマーが満足そうに頷いた。
「そうだ。これがキサマに期待されている行為だ。
映画のように脱出を目指すことも哀れな武装神姫の力になることも他のやつに任せろ。
ただ犯し、蹂躙し、開催者の目を楽しませることがお前の役割だ。理解したか?」
「違う! 俺は、俺は……オモチャで……子どもと……」
「ああキサマはオモチャだ。ただしオトナのな」
楽しそうに笑い、少女の柔らかい乳房をウッディの顔面にあてた。
小さすぎず大きすぎず、だが張りのある感触にウッディは紅潮する。
少しでも遠ざかろうと脚をばたつかせたが虚しい抵抗だ。
ただエウクランテの胸を弾ませるだけの結果で終わる。
「抵抗する必要などない。お前は持ち主の期待通りに快楽に身を任せればいい。
この女の鳴き声は聞いたな? なかなか情欲を刺激するいい声だ。セイレーンをモチーフとしただけはある。
それともボディースーツ風の素体だとやる気になれないのか? あいにく俺にネイキッド素体は支給されていない。
キサマが所持していないのなら誰かから奪うまでのお預けになってしまうが、これはこれでそそるぞ?」
「やめろ……違うんだ……。俺は……俺は……彼女の力になるって……」
「今こそ力になれる。俺の手だと苦痛しか感じない。そういうふうに扱っているからな。
だから多少なりとも好意を持っているお前なら快楽を与え……」
「プレステイル――!」
エウクランテは喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
同時に散らばっていた彼女の武装が一つにかたまり、鳥型ビークルへと変形を果たした。
プレステイルは低空すれすれを滑空し、下部の銃口から二発の弾丸を放つ。
もっとも、ゼオライマーはすでに女一人を抱えながらも安全圏へと逃れていた。
「バカめ。この俺に奇襲など通用す……」
「プレステイル、ウッディを連れて逃げて!」
二発目の射撃はウッディの手錠を破壊していた。
命令そのままにプレステイルはウッディを掴んでその場を全速力で離れる。
ゼオライマーは迎撃しようとしたが少女の体が邪魔をして取り逃がした。
庇ったのだろう。思わず舌打ちが漏れる。
「油断しているからよ。いい気味ね」
「フン――いいのか? あいつはさっきの画像のような真似をするだけだぞ」
「バカね、あの人は保安官で映画の主役よ。そんなことをするわけないじゃない。
あなたこそ役割とかなんだとかそれっぽいことを言って惑わさないで!」
ほう、とゼオライマーは感心した。先ほどの画像は神姫に搭載されているのと同じネットツールで適当に拾っただけだ。
本当に持ち主がウッディにそんなことを期待しているなら、わざわざ原作に似た人格プログラムを与える必要はない。
相応の下衆な性格で充分である。
「なかなか頭が回る。気に入った。お前は……」
彼女の頭を下げさせ、首のコネクトを露出させる。自分のケーブルを伸ばし、乱暴に接続する。
「快楽に溺れて死ぬといい」
言葉と同時にあるプログラムを起動させる。
「なに――――あっ!?」
艶かしい声とともにエウクランテの身体がびくっとはねた。
顔が紅潮し目を見開いて口をパクパクさせる。
「あらゆる刺激を快楽に変えるプログラムだ。有線でないと送れないし、効果は10分ほどだが……痛みを感じないよう配慮してやる。
感謝をするんだな」
「ふ、ざけな……イッ!?」
彼女の語尾が高くなり、腰がガクガク震えている。尻を乱暴に掴まれただけでこの始末だ。
ゼオライマーの手が再び太ももを這うが、今度は嫌悪でなく快楽の波が襲った。
手のひらが表面を撫でる度に電源を点け消ししたように視界が点滅する。
エウクランテは必死に背を丸めて堪えようとするが、切ない溜息が漏れるのを防ぐことが出来ない。
「もっと楽しみたいが時間が惜しい。一気に終わらせるぞ」
答える余裕のない少女を無視して、腕の球体を背中に押し付けた。
光弾を発射する球体が淡く光り熱を帯びる。
ABSが気化するとともに絶叫がこだました。
「あ、あぁぁぁぁぁ!? どうし、て!? グゥゥゥゥゥゥ!」
接触部分からまるで快楽の電流を浴びせられたようにセイレーン型の素体がじたばたと悶える。
-
ゼオライマーは無言で抑え、ひたすら熱を与え続けた。
「カハッ……くぅ、ひゅっ」
2分ほど経っただろうか。冥王は彼女が息も絶え絶えになったのを確認し腕を引いた。
武装神姫特有のネジ穴が溶け広がり、頭を出したネジを目視後、無造作に掴んだ。
「そ、れ、やめ――」
懇願を無視し一気に引きぬく。熱でゆるくなったため特に抵抗なく引き抜けた。
しかし摩擦による激しい刺激が彼女に襲いかかる。
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
身体を弓なりに反らし、声にならない絶叫を上げてエウクランテは果てた。
くたっ、と力なく地面に伏せるが、まだ休むことは許されない。
「熱の刺激の後は冷ましてやる。親切だろ?」
そう言ってゼオライマーはつららを持ちだす。
精肉店の冷凍庫で太く、鋭く尖った物を作っていたのだ。
そんな手間をかけた物騒なものを彼はただ残酷に、広がり柔らかくなった穴へと狙いを定めた。
「刺激を与えすぎたか。無抵抗でつまらん」
残念そうにつぶやき、ずぶりと突き立てる。
少女の華奢な体が再び跳ね上がリ始めた。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁ!?」
回路がパンクするほど快楽情報が溢れかえり、たまらず何度も跳ね続ける。
ゼオライマーは構わず腹の中を棒状の物質で乱暴にかき乱した。
本来なら痛みだけでなく嫌悪も伴っただろう刺激が甘美な電流となり、彼女の身体を焼き嬲る。
つららは熱によって溶けて小さくなっているはずだが、腹を満たしてゴリゴリ暴れて止まらない。
やがて思考がはじき出され、獣のようなうめき声とともに再び地面へと身体を投げ出した。
「もうフリーズしたか。だが楽しめた。もういいぞ」
もはや言葉を返さない少女にゼオライマーはゆっくりと右手を向ける。
放たれた一条の光がCSCを貫き、ショーは終わりを告げた。
【エウクランテ@武装神姫 機能停止】
-
□
ひたすら駐車場を離れるため、鳥型ビークルのプレステイルは空をかけ続けた。
「おい、戻れって! エウクランテが大変なんだ! お前のご主人様だぞ!」
ウッディが必死に説得するが無視して主の命令を実行する。
もっとも、その飛行も長く続かなかった。
マリオネットの糸が切れたように、鳥は力を失って落下する。
「うわっ!」
派手な音を立ててゴミ置き場へと彼らは落下した。
ウッディは体の痛みに顔をしかめていたが、すぐに起き上がってプレステイルを揺らす。
「おい、あんた大丈夫か? お……」
だが言葉が途絶え、腕が力なく垂れ下がる。
唇が震えて止まらない。
「なん……だよ……。俺の役割って……」
目の前の鳥は死んだ。おそらくエウクランテも。
ウッディは強く拳を握り、地面を叩く。
「誰か教えてくれ……。こんなとき、トイ・ストーリーならどう動くんだ!?」
答えは返ってこない。壊れたオモチャを目の前に、ウッディは――
【深夜/エリアL(マンション前のゴミ置き場)】
【ウッディ@リボルテック】
【電力残量:90%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、ヂェリカン@武装神姫×4、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:全身に大小の傷。熱によって各部変形】
【思考・行動】
基本方針:どうしたら良いかわからない。
※そばに機能停止したプレステイル@武装神姫が存在します。
※ヂェリカンは一個消費。何味かは他の方にお任せします。
ヂェリカンって何?、って方のために ttp://blog.livedoor.jp/fig_fig/archives/19738558.html
□
さて、とゼオライマーは周囲を見回し、警戒を怠らない。
彼がウッディを煽ったのは理由がある。
開催者の目的をとりあえず『元となった人格にそって行動させること』と仮定して動いたからだ。
この出来の悪いショーを楽しんでいる相手がいるのなら、人格通りに動かない参加者を増やすとどう反応するか実験したかったのである。
一人二人じゃ足りないだろう。試してみることにしたのである。
もっとも、趣味を含んだ行動なのは否定できない。
別に開催者の目的を知らずとも、すべてのオモチャを、人を支配すればいいだけだ。
冥王を劣化させた能力しか持たないとはいえ、ずっと劣化したままなどと認めはしない。
成長し、全てを操り、力を得て真のゼオライマーとなる。いや、超える。
この茶番などただの前座にすぎない。
ゆえにゼオライマーは冥王計画(プロジェクト)を進め、木原マサキを超えるために動いた。
唯一つ、唯我独尊の天には不安があった。
今は木原マサキの人格だ。しかし秋津マサトの人格も眠っている可能性があった。
今更目覚められても困る。ゆえに自分の体を知る必要があった。
厄介な目的だ。真の冥王計画はまだ遠い。
【深夜/エリアV(駐車場)】
【天のゼオライマー@スーパーロボット超合金】
【電力残量:70%】
【装備:次元連結システム】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1〜3(エウクランテの分も含む。確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:木原マサキを超える。
1:開催者を不快にさせる。
2:自らの身体を調査。秋津マサトを警戒。
※ディーワッパー@S.H.シリーズの残骸とエウクランテ@武装神姫の残骸がエリアVの駐車場に転がっています。
※ネットツールはアニメ武装神姫でレーネが使っていたタイプと同等のものです。
標準装備ですがアクセスには制限があります。
-
以上で投下終了します。
-
投下乙です!
【激突!2つの破壊者】
凱兄ちゃん(GGG)……
1作目の作品でも思いましたが【機能停止】という表現がとても胸に来るものがありますね
【逆襲のザンダクロス 】
ザンダクロスの標的はドラえもん、そして同行者はジュドーさん(ZZ)
このまま進むのか、意識の違いからすれ違いが生まれるのか……
【プロジェクト】
玩具にだって意思はあるんですよね……。
ウッディはロワで表す対主催になるのかそれともネットおなじみの……w
めいおーもマサキなぁ……w人格と言うことはマサトも可能性あるんですね。
ここから補足(?)というか、私が以前投下させていただいた【Battle Of Emperor】にて
各キャラ状態表に【同梱装備一式】と書かせてもらいましたが、付属パーツの事です。
そして、ご相談なんですが出させていただいたVAVAはとある作品にてXと同じように倒したボスの武器を使えます。
外見は変わらないのですが本人の意思で切り替え可能、と言う事には出来ないでしょうか?
-
>>83
D-ArtsのVAVAはイレギュラーハンターXにおけるアクション(脚キャノン、ロケットパンチなど)を差し替え含めて再現できます
後はオリジナルで左右ダブルキャノンをできちゃったり
持っている自分からの補足は以上でしょうか
あとの判断は>>1にお任せします
-
投下お疲れ様です!
>>82
き、鬼畜ぅぅぅぅぅ!
まさかこんなハード(いろんな意味で)な展開になるとは……つららとかAAとか小ネタがまた卑怯。
しかも、人間サイドの裏の意図を読んだ上での煽りというのが脅威ですね。恐ろしい。
ウッディは予約の時点で「あ、ネタかな?」と思ったら真っ当にかっこよくて、その、ごめんなさい……w
>>83
当企画の基本方針は「フィギュアでやれることは出来る」です。
なので、◆2Y1mqYSsQさんの言う通り、付属武装で可能なものは使えると思っていただいて結構です。
ライドアーマーは発売されてないから無理ですけどね。あ、バーボンもありですよ!泥水でも同じらしいけど!
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>>83
お二人共対応ありがとうございました。
もちろんバーボンも……w漫画版かっこいいですしねーw
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ロックマン@D-Arts(自由枠)、フブキ弐型@武装神姫(自由枠)を予約します
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仮面ライダーディケイド@S.H.シリーズ、仮面ライダーブレイド@装着変身、ストラーフMk.2@武装神姫を投下します
-
「ここがバトルロワイアルの世界か…なるほど、設定通りの武器が使える。殺しあいがしやすいようになってるわけだ」
世界の破壊者、通りすがりの仮面ライダー、歩くライダー図鑑。
そう呼ばれた仮面ライダーのフィギュア、ディケイドはカードを手に取り一人呟く。
「だが他の仮面ライダーへの変身は出来ないか…」
彼のモデルになった仮面ライダーディケイドの使うカメンライド。
所持しているライダーカードを使い、平成ライダーに変身しその力を発揮するというチートとも呼べる能力。
これこそがディケイドというキャラクターの魅力でもある。
しかし、このバトルロワイアルの舞台に呼ばれた彼のフィギュアはその能力を使えない。
通常のディケイド、コンプリートフォーム、そして激情体。
彼に許されたフォームチェンジはこの三つだけである。
もし他のライダーと彼のベルトが交換可能パーツであれば、話は変わったのかもしれないが。
「まあ、出来ないものは仕方ない。それよりもこれからどうするかだ」
通りすがりの仮面ライダーとして動くなら殺し合いに反抗するべきだ。
『世界の破壊者』ディケイド激情体として動くなら他のフィギュア…主に仮面ライダーを破壊するべきなのだろう。
これが本物のディケイドが殺し合いに巻き込まれたのなら迷う事はない、呼び出されたタイミングのディケイドとして動くだけだ。
だがディケイドのフィギュアである彼はどちらの姿も持ち合わせ、どちらにもなれる為自分のスタンスを決めかねていた。
「いっそのこと本物とは逆に旅も破壊も…仮面ライダーにもならないってのもありか…なあ、あんたはどう思う」
-
「き、気づいてたのか…」
呼びかけられたフィギュアはぎこちない動きで物陰から姿を現す。
「お前は…仮面ライダーブレイド」
「ウェッ!? あんた、俺を知ってるのか!」
「ああ、よく知っている。同じ仮面ライダーだからな。特にブレイドはな」
ディケイドの前に現れたのは仮面ライダーブレイド。
同じように仮面ライダーをモデルにしたフィギュアの一人だ。
原作のディケイドからしたらブレイドは因縁深いライダーになるのだが。
「なんだ、あんたも仮面ライダーだったのか…なら、迷う事はないだろ」
「ほう…と、いうと?」
「仮面ライダーは正義のヒーローだ。なら、俺たちはこの殺しあいを止めるべきだ!」
「…俺達が本物ではなく、ただのライダーのフィギュアだったとしてもか?」
「ああ、それでも俺たちは仮面ライダーだからだ」
仮面ライダーは子供達のヒーロー。
子供達はライダーに憧れ、そのフィギュアを手に入れライダーとして扱う。
子供達にとってはフィギュアの自分達も『仮面ライダー』なのだ。
「あんたも元の記憶があるならわかるだろ。ライダーは悪と戦い人々を守る存在なんだ。
そんな仮面ライダーが、たとえフィギュアでも殺しあいなんかにのっちゃいけないって!」
ディケイドに植え付けられた記憶にある、様々な世界の仮面ライダー達。
目の前の小柄なブレイドも彼らと同じく、熱い正義の心を持った仮面ライダーの一人だと確信した。
「まったく…説教するキャラの俺が、他のライダーに教えらえるとはな。
まあ確かに、俺もたまには普通の正義の仮面ライダーとして動くのも悪くないか」
「たまにはって…お前、本当にライダーなんだよな?」
「当たり前だろう。仮面ライダーディケイド、通りすがりの仮面ライダーだ。よろしく頼むぞブレイド」
「こっちこそよろしく頼む、ディケイド!一緒にこの殺しあいを…」
-
「避けろ、ブレイド!」
先ほどまで二人がいた場所には銃弾の跡が出来ている。
下手人は漆黒の武装に身を包んだ少女――悪魔型武装神姫ストラーフMk2。
「いきなり攻撃とはな。お前、殺しあいにのっているのか」
「話をするつもりはない。あたしはお前達を倒す。それだけだ」
「やめるんだ!こんな殺しあいに乗ったって…うわっ!」
「諦めろブレイド、あっちはやる気満々だ!説教するにしても動きを止めてからだ!」
突如始まったライダーと神姫の戦い。
その展開は一進一退、お互いまともなダメージを与えられず、無駄に電力を消耗していくだけだった。
ブレイドが近づこうとすればストラーフがガトリング付シールドで牽制し、
ディケイドが銃撃をすればストラーフはシールドで防御する。
逆にストラーフがどちらか片方を狙えばもう一人が妨害をする。
「このままじゃ埒があかないな…まずはあの副腕から片付けるか」
「片付けるって、どうするんだよ。右は盾があるし左はリーチの長い剣があるし」
「忘れたのか、お前が言ったんだぞ。俺達は仮面ライダーだ。ライダーなら持っていて当然の物があるだろう」
「そうか…わかった!」
-
「なにをごちゃごちゃと…!」
ストラーフはブレイドに向けて左の副腕に装備された大剣『グリーヴァ』を振るう。
「ウェイ!」
ブレイドはその一撃をブレイラウザーで受け止め、一枚のカードを取り出す。
――『Thunder』――
瞬間、武装を通じてストラーフの全身に電撃が走る。
「なっ、これは…!?」
予想外の一撃を受けたストラーフは距離を取るがその動きは精彩を欠く。
「今だ!やるぞブレイド!」
「おう!」
二人の仮面ライダーは原作と同じくカードを取り出し必殺技の動作に入る。
――FinalAttachRide――
――『Kick』『Thunder』――
設定通りに再現された電子音声が戦場に響く。
電撃のショックが引いたストラーフは慌てて右副腕のシールドを使い防御態勢を取る。
「はぁぁぁぁ!!」
「ウェェェェイ!!」
――DeDeDeDecade――
――『Lightning Blast』――
二人の仮面ライダーの必殺技がストラーフの構えるシールドに突き刺さる。
「くっ…そんな、馬鹿な……!?」
副腕に装備されたシールドがへしゃげ、蓄積されたエネルギーが爆発を起こし副腕が千切れ飛ぶ。
-
「やった!これであとは左側を!」
「おい、油断するな。あいつはまだ…」
「ハァァァッ!!」
爆煙の向こうからストラーフの左の副腕が振るわれ、ブレイドがボールのように吹き飛ばされる。
「ブレイド!?」
「まさかロークを破壊されるとは思っていなかった。だが、ここからはもう油断しない…勝つのはあたしだ」
シールドと右の副腕を失ったストラーフは大剣を収納し、新たな武器を構えていた。
「おい…なんの冗談だ、それは…そいつは」
ストラーフが構えるのは先ほど吹き飛ばされたブレイドと同じカラーリングの大剣。
ディケイドとブレイドが絆を交わした事により誕生した力。
ファイナルフォームライド・ブレイドブレード。
ブレイドが戦場から離脱させられた為、ディケイドは一人でストラーフの相手をするハメになっていた。
しかし相手をすると言っても既にディケイドは防御をするだけで精一杯だ。
やがて圧倒的な力で、手に持っていたライドブッカーを弾かれる。
「くそっ、まさか原作の俺の武器でやられるとか…最悪の展開だな」
「無駄に痛めつけるつもりはない。頭部だけ破壊させてもらうぞ」
(俺はここで終わるのか…結局俺はライダーではなくただのフィギュア。正義の味方にも破壊者にもなれないのか)
悪魔の振るう狂剣が哀れな破壊者の首を刎ねる――
-
だがその一撃を己の身体で受け止める正義の味方がいた。
「ぐっ…!大丈夫か、ディケイド!」
「ブレイド!?お前その姿は…」
ブレイドの身体は先ほどまでとはまるで違う姿になっていた。
ブレイラウザーより大型化した武器、全身に装着された黄金のアーマー。
これがブレイドのもう一つの姿、仮面ライダーブレイドキングフォーム。
超合金と同じ素材が全身の装甲に使われている為、並大抵の攻撃ではびくともしない。
先ほどブレイドがブレイドブレードを受けて無事たっだのも、同じ素材の胸部装甲のおかげだ。
「なッ、さっきと違う姿だと!?」
「あんたがなんで殺しあいに乗ってるかはわからない…けど!
これ以上、仲間を傷つけさせるわけにはいかないんだ!」
――Royal Straight Flush――
「ウェェェェェェイ!!」
ブレイド最強の必殺技、ロイヤルストレートフラッシュ。
ブレイドはキングラウザーにエネルギーを込めストラーフに突進していく。
「くっ…させるか!」
ストラーフ側も黙ってそれを受けるわけがない。
構え直したブレイドブレードにエネルギーを集中させ、ブレイドに叩きつける。
ロイヤルストレートフラッシュとブレイドブレード、二つのブレイドが衝突し戦場に再度爆発が起きた。
-
「ディケイド、あの子は…」
「わからん。だが、消し飛んでなければ逃げたんだろうな」
爆発の光が消えた後に残っていたのはブレイドとディケイド、そして破損したブレイドブレードだけだった。
使い手であるストラーフの姿は消えていた。
「やれやれ、初戦からこれか…酷い状況だな。先が思いやられる」
「だけど、諦めるわけにはいかないだろ。俺達は仮面ライダーなんだから」
【深夜/エリアG(屋外)】
【仮面ライダーディケイド@S.H.シリーズ】
【電力残量:60%】
【装備:ライドブッカー】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
基本方針:仮面ライダーとして殺しあいを止める
【備考】コンプリートフォームと激情体にフォームチェンジできます。
原作と違いクウガ〜キバへのフォームチェンジはできません。
【仮面ライダーブレイド@装着変身シリーズ】
【電力残量:50%】
【装備:ブレイラウザー】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:仮面ライダーとして殺しあいを止める
1:ストラーフMk2に殺しあいをやめさせたい
【備考】キングフォームにフォームチェンジ可能です。
※エリアGに破損したブレイドブレード@S.H.シリーズが放置されています。
-
「くっ…なんて様だ…」
結論を言うと、ストラーフは破壊されていなかった。
あの爆発の瞬間、脚部用ブースターを装着して緊急離脱を果たしていた。
フルアームズパッケージのパーツはエネルギーの消耗を加速させるため使用を控えていたのだが、背に腹は代えられなかった。
あの二人はフィギュアでもモデルになったキャラクターのように動くべきだと言っていた。
なら武装神姫である自分はどうだ。
マスターに従い、共に歩むのが武装神姫の役割だ。
だが今の自分にはマスターがいない。
なら残された役目とは武装神姫のもう一つの目的…神姫バトルのみ。
そう、戦う事しかない。
このバトルロワイアルの舞台で自分はバトルを行い、勝つ事が悪魔型武装神姫ストラーフMk2としてすべきことだ。
「仮面ライダー…覚えたぞ。お前達は、あたしが倒す」
神姫と違い武装も少なく、片方は小柄な事もあって二対一でも勝てると油断していたのは確かだ。
その代償は武装の一部と強力な拡張パーツの喪失。
だが次は油断しない…全力で倒す。
悪魔型武装神姫は次の戦いを求め動きだす。
【深夜/エリアG(東側)】
【ストラーフMk.2@武装神姫】
【電力残量:50%】
【装備:背部ユニット、脚部パーツ、脚部用ブースター】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×0〜1(未確認)】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:バトルを行い勝つ
1:もう油断はしない
2:次に仮面ライダー(ディケイド、ブレイド)に出会ったら倒す
【備考】フルアームズパッケージの武装を追加できますが、電力消費が増えます。
ローク(シールド)と右副腕が破壊されました。
※拡張パーツの一つはブレイドブレード@S.H.シリーズでした。
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以上で投下終了です。
ストラーフのフルアームズパッケージを追加パーツ呼び出しという形で使いましたが大丈夫でしょうか?
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投下乙です
装着変身の頑丈さをそう使うかと感心しました
ストラーフmk2は誇り高さを今後に活かせるのか非常に気になります
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乙ー
まさか普通に活躍するブレイドとヒーローやってるディケイドが見られるなんて思ってなかった
頑張れ!
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投下乙です。
確かに、ロワでまともに正義の味方してるディケイドって少ないw
そして、一話死亡しないブレイドも!
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>>100
キングフォームありな時ですら噛ませ化とかザラだったからなぁw
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勝手にまとめ
登場済み名簿
【武装神姫】4/5
○アーンヴァルMk.2/◎ストラーフMk.2/●エウクランテ/○/○
【リボルテック】6/6
○新ゲッター1/○ジェフティ/◎プレデター/○阿修羅/◎レヴィ
◎ウッディ/
【figma】5/5
○初音ミク/○テッカマンブレード/◎如月千早/○島風/◎沙英
【S.H.シリーズ】6/6
◎仮面ライダーフォーゼ/○ワイルドタイガー/○ゴジラ1995/○アリサ・イニーチナ・アミエーラ(GE2)/◎デストロイア(完全体)
◎仮面ライダーディケイド/
【ROBOT魂】6/7
○ダブルオーライザー/○ターンX/○エヴァンゲリオン初号機/○ドラえもん/●コダールi
◎ジュド(ザンダクロス)/◎ZZガンダム
【スーパーロボット超合金】4/5
◎マジンカイザー/◎天のゼオライマー/●ガオガイガー/○ガンバスター/○
【アーマーガールズプロジェクト】4/5
○MS少女ユニコーンガンダム/○セシリア・オルコット/○宮藤芳佳(震電装備)/○御坂美琴(ムスメカ)/○
【D-Arts】1/1
◎VAVA
【装着変身】1/1
◎仮面ライダーブレイド
現在 38/41(うち、4体はメーカー指定書き手枠)
予約入り名簿
【武装神姫】4/5
○アーンヴァルMk.2/◎ストラーフMk.2/●エウクランテ/△フブキ弐型/○
【リボルテック】8/8
○新ゲッター1/○ジェフティ/◎プレデター/○阿修羅/◎レヴィ
◎ウッディ/△スネーク/△伊達政宗
【figma】9/9
○初音ミク/○テッカマンブレード/◎如月千早/○島風/◎沙英
△チャリオット/△阿良々木月火/△タイムスクープハンター沢嶋雄一/△ロジャー・スミス
【S.H.シリーズ】7/7
◎仮面ライダーフォーゼ/○ワイルドタイガー/○ゴジラ1995/○アリサ・イニーチナ・アミエーラ(GE2)/◎デストロイア(完全体)
◎仮面ライダーディケイド/△仮面ライダーオーズ
【ROBOT魂】6/7
○ダブルオーライザー/○ターンX/○エヴァンゲリオン初号機/○ドラえもん/●コダールi
◎ジュド(ザンダクロス)/◎ZZガンダム
【スーパーロボット超合金】4/5
◎マジンカイザー/◎天のゼオライマー/●ガオガイガー/○ガンバスター/○
【アーマーガールズプロジェクト】4/5
○MS少女ユニコーンガンダム/○セシリア・オルコット/○宮藤芳佳(震電装備)/○御坂美琴(ムスメカ)/○
【D-Arts】2/2
◎VAVA/△ロックマン
【装着変身】1/1
◎仮面ライダーブレイド
45/48(うち、メーカー指定書き手枠3体)
書き手枠(△)=9体
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巴マミ、ウルトラマンタロウ投下します
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このバトルロワイアルに参加するフィギュアには、元となったキャラクターの人格や記憶が自我として与えられる。
しかしキャラクターは決して不変ではない。一部に例外こそあれど、物語の展開や時間と共に、常に変わりゆくものである。
どの時間軸や世界軸をベースにしたかで、同じキャラクターでも人格は多種多様に変化するものだ。
「ソウルジェムが魔女を生むなら……みんな死ぬしかないじゃない!!」
魔法少女の真実を知り、信じていたものに裏切られ、その果てに彼女の心は折れた。
その世界軸において、魔法少女達はそれぞれ十分な信頼関係を築けなかったことも原因の一つだっただろう。
仲間達と無理心中を図った結果、逆に仲間の手にかかりソウルジェムを破壊され、死に至る。
よりにもよって巴マミの自我のベースとなったのは、そんな最悪の世界軸と精神状態の時だった。
巴マミを模したフィギュアは、崩壊寸前の自我を与えられたまま、殺し合いの地に放り出される。
ただ最後の一人になるまで不毛に殺し合え、壊し合え……そこには何の正義も存在しない。
既に自己のアイデンティティを崩壊させたこの時の彼女にとって、絶望の最後通告とも言えた。
「だったら……死ぬしかないじゃない」
今のマミの精神状態であれば、恐らくソウルジェムは一気に濁り、すぐにでも彼女を魔女へと変貌させたことだろう。
だが、今マミの手にあるソウルジェムはこの期に及んでなお何の反応も示さない。濁り一つ見せない。
それは、彼女がフィギュア……紛い物の玩具であるという何よりの証拠。
どこまでも、救いがない。
オリジナルの魔法少女達の宿命に負けず劣らず、今置かれているフィギュアの自分達の境遇は絶望的だ。
紛い物でしかない自分が、ここで戦い続けて何になるのか。
仮にここで勝ち残り、生き残ったとして、それでどうなるというのか。
全てが終わった後、行き着く先はどこだ?この狂ったゲームを開催した者達の呪縛から逃れられるわけでもない。
どうにもならない。足掻いた所で、辿り着く先は絶望だけ。
疲れ切った彼女の心は、生きる意思を放棄することを選んだ。
拡張パーツとして、見たことのない拳銃が一丁、支給されている。
……自殺にはお誂え向きだ。
魔法少女になれば銃などいくらでも出せるが、変身するのも手間だ。
そもそも自分の出すマスケット銃では大きすぎて、自分に撃つには手に余る。
虚ろな目で、死に導かれるかのように、拳銃の銃口を蟀谷に当てる。
引き金を引き――
銃声が、轟いた。
「やめるんだっ!!!」
拳銃が地面に弾き落とされる。撃ち出された光弾はマミの頭部を貫くことなく、明後日の方向へと飛んでいった。
間一髪のところでマミの自殺は阻止された。この場に介入した、もう一体のフィギュアの手で。
「バカなことはよせ!ここで死んだところで、何になる!!」
そう呼びかけるフィギュアの姿に、マミは一瞬面食らう。
彼は人間ではなかったからだ。しかし、異形の怪物ともまた違う。
それは赤と銀の色に包まれた――永遠のヒーロー、ウルトラマンのフィギュア。
ウルトラの父と母の実の息子であり、高いポテンシャルを誇るウルトラ兄弟の6番目。
彼の名は――ウルトラマンタロウ。
「死なせて……お願いだから、もう死なせてッ!!」
「しっかりするんだ。自分を見失っちゃいけない!」
拳銃を叩き落され、自殺の手段を失った彼女には、できることなど限られていた。
絶望の表情と共に、ただそれでも何かを抑え込むかのように、肩を震わせるだけ。
そんな姿から、彼女の一番の苦しみが漠然とながらタロウには感じ取れた。
昔、同じような葛藤を抱え込んでいた少年がいた。オリジナルのタロウの記憶の中に、刻み込まれている。
「辛いことが、どうしても耐えられないことがあるなら……我慢しなくてもいい。
思いっきり人前で泣いてみるのも……気持ちがいいもんだぜ?」
マミは事故で両親を失い、魔法少女となってからは孤独な戦いを続けていた。
やがて後輩もできたが、彼女は常に頼れる先輩として、先頭を走り続けていた。誰かに甘えられる立場ではなかった。
本来なら仲間達が拠り所としてその心を癒していたかもしれないが、それも今現在の彼女には叶わぬことだ。
孤独への不安。中学生の少女が背負うには、元々重過ぎる宿命。
「う……あああああああああああッ!!!!」
マミは、泣いた。
泣いて、泣いて、泣きじゃくった。
今だけは相手が誰であろうと、気にしている余裕はなかった。
人前でこれほど泣いたことが、巴マミにあっただろうか。
タロウもまた、そんな少女を静かに見守っていた。
-
「ごめんなさい、初対面の人の前で取り乱したりなんかして。ええと……タロウさん、と言いましたか?」
「ああ。落ち着いたようだな、巴マミ君」
散々泣き腫らし、マミは幾分落ち着きを見せていた。
まだ絶望こそ完全に晴れたわけではないとはいえ、驚くほど早く持ち直していた。
何の不自然もない。元々巴マミは、身も心も十分な強さを兼ね備えていた。
重過ぎる宿命を、今までずっと耐えてこられるだけの強さが。
「君に、そして君の元になっているキャラクターにどんな事情があるかは知らない。
こんな状況では絶望に暮れるのもわかるが……それでも、絶望に悲嘆できるだけの心があるなら、
それを糧に変えて前に進むこともできるはずさ」
タロウはそう言うが、マミの心は晴れない。
例え絶望を跳ね除けたところで、今自分達が追いつめられている状況は何も変わらない。
「タロウさん、あなたはこれからどうするつもりですか?」
「もちろん、戦うさ。このバトルロワイアルとね」
「戦う……バトルロワイアル、と?」
タロウは事も無げに、しかしはっきりとした意志をもって宣言した。
「そうだ。ここにはいろんな世界、いろんな物語のヒーロー達が集められている。
僕と同じように、殺し合いをよしとしない者達は必ずいるだろう」
「……私達はただのフィギュアなんですよ?自我や、オリジナルを模した力を与えられたとはいえ……
それに、もしその戦いに勝ったとしても、私達の末路は……」
「だからって、こんな馬鹿げた殺し合いは君も望まないだろう?」
「それは……」
「だったら勇気をもって、自分の心に正直になればいい」
「自分の心に、正直になる勇気……?」
タロウは立ち上がり、教室の窓の外を見据える。
「嫌なこと、許せないものと戦える、勇気ある心。僕はそれを体現してみせる。
本物のウルトラマンタロウがそうであったように。彼の名を裏切らないために。
もしかしたらそれすらも、これを開催してる連中の思う壺なのかもしれないが……
そうだとしても、僕はこのバトルロワイアルへの抵抗は諦めない」
行われている殺し合いとは不釣り合いな星空が、広がっていた。
この星空に、この世界のどこかに、ウルトラの星が輝いていることを信じて。
「そうだろう?せっかくの玩具を使ってこんな遊び方なんて、あまりに悲しすぎるじゃないか」
「なんで……あなたはそんなに前向きになれるの?」
問いに向き直るタロウ。マミは、そこに爽やかで自信に満ちた笑顔を感じた。
フィギュアの、表情すらないウルトラマンのマスクで、確かにそんな気がした。
「いつ如何なる時にも、最後の最後まで戦い抜くためさ」
それはタロウという名のウルトラマンが地球人として生きていた時の――東光太郎の確かな面影かもしれない。
時に無謀で、時には空元気で、しかしそれだけで終わらせずがむしゃらに前へと進む。
最後の最後まで諦めない。それがウルトラマンであり、ウルトラマンタロウであり、東光太郎という男だった。
そんな頼もしい輝きが、絶望に落ちている少女には確かな救いと、そして希望となった。
この人と、共に戦ってみたい。
まだ心の整理を全て付けられたわけではない。
でも彼と一緒に戦うことができたなら――もう一度、立ち上がれるかもしれないと。
「タロウさん、私も一緒に戦わせて――」
-
その時――
タロウの足元に、何かが転がり落ちた。
「あ……タロウさん、何か落ちましたよ?」
どうやら、タロウのフィギュアに付いているパーツの一部らしい。
それは青く輝く丸い――
「……え?」
前触れは、たったそれだけだった。
マミがパーツを拾い上げようとして、その時、突然――
タロウが、倒れた。
まるで魂が抜け落ちたような、まさに壊れた人形のように。
「え……?」
思わぬ事態に、思考が混乱する。
倒れたまま、タロウは動かない。
「タロウ……さん……?」
タロウに駆け寄り、体を揺り動かす。
反応がない。まるで死んだかのように、いや……
「死ん……で、る……?」
【ウルトラマンタロウ@ULTRA-ACT 機能停止】
「嘘……でしょう……?」
何で?何が?
タロウの身にいったい何が起きたというのか?誰の手で?
混乱する思考の中、彼女の持つ冷静な理性が、状況から考えられる可能性を導き出す。
この周囲には自分とタロウ以外誰もいない。なら、今自分の他にここに介入できるのは……?
まさか、この殺し合いの開催者達が、タロウの自我を消したというのか?
何故?まさか、ここでの会話を聞かれている?タロウが殺し合いに抗うことを口にしたから?
「い……」
彼は私を元気づけようとしてくれた。つまり、彼にそのことを喋らせたのは――
「いやあああああああああああああああああッ!!!!!」
絶叫し、その場を逃げるように駆け出す。
ボロボロの心に差しのべられた暖かな希望が、冷たく奪われた。
その事実は、今度こそマミを絶望のどん底へと叩き落すこととなった。
修復されかけた心が、再び崩壊へと導かれる――
【深夜/エリアN(校舎1階廊下)】
【巴マミ(制服ver.)@figma】
【電力残量:99%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ソウルジェム)、拡張パーツ×0〜1(未確認)】
【状態:損傷なし。絶望】
【思考・行動】
基本方針:!?!?!?
1:もう何も考えたくない
-
(……く……ッ!マ、ミ……!)
少女の絶望に満ちた叫びが、タロウの脳裏に響く。
途切れ、そのまま消えていくはずだった意識が呼び覚まされる。
(ダメだ、ここで倒れるわけには!彼女を放っておくわけにはいかない……!)
停止していた機能が、再び起動する。
いや厳密には、タロウはまだ完全に機能を停止したわけではなかった。
突然襲い掛かった死にも等しい感覚が、タロウの意識を一時的に闇へと葬ったのである。
視界に霞がかかる中、目の前に転がる、青い宝石に目をやる。
タロウは眼を疑った。そしてすぐに、自分の胸元に手を当てる。
――ない。
自分に、ウルトラ戦士に付いているはずの、命の源が。
そして気付く。
目の前にある青い宝石が、それであることに。
カラータイマーだ。
(……何だってぇぇぇぇ!?)
つまり、胸のカラータイマーが、いきなりポロリと外れて落ちて、このざまだ。
何故外れた?どうしてそんな事態が起きた?
理由を考えている暇などない。意識は今も急激に遠ざかっていく。
ただ、現在自分を死へと導いている原因はこれであると確信できた。
消えかかる意識の中で自らを奮い立たせながら、カラータイマーに手を伸ばし……掴み取る。
そしてすぐに、自分の胸元――カラータイマーのあった場所に、付け直した。
本体にカラータイマーが戻ると同時に、タロウの意識は何事もなかったかのように回復していく。
「……ッッ!? どうなってるんだ、今のは!?」
死の感覚に乱れた思考を素早く整理する。
カラータイマーと言えば、ウルトラマンの命の源。
初代ウルトラマンがカラータイマーを狙われて、ゼットンに敗れたことは有名だ。
帰ってきたウルトラマンがカラータイマーを取られると、ペシャンコになって死ぬのもよくネタにされる。
カラータイマーはウルトラ戦士にとって命の源。それはフィギュア状態においても同様だったようだ。
そしてこのULTRA-ACTでは、カラータイマーの取り外しが可能である。青と赤、二つの状態を表現するために。
本体からカラータイマーが外れてしまうと、急激にタロウの意識が遠のき、そのまま死へと転がり落ちてしまう。
どうやら少し外れただけならすぐに戻せば問題ないようだが、放っておけばそのまま機能停止してしまうだろう。
これは彼のCSCが、このカラータイマーに埋め込まれていると解釈すべきなのだろうか?
確かに、ウルトラマンのフィギュアに埋め込むならここ以上に最適な場所はないだろう。
そうなると本体から切り離された時点で機能は完全停止したはずだが、すんでの所で意識を繋ぎ止められたのは、
構造的に外れてしまうことを考慮して開催者が修正を加えたか、はたまたタロウ自身の精神力あってのものか。
ああ、これ何てソウルジェム。魔女化しないだけマシではあるとはいえ。
そんな突っ込みを入れてくれそうな少女は既に錯乱して部屋を出て行ってしまった。
ふいに地面に目を向ける。マミが自殺に使おうとしていた拳銃が落ちていた。
「こうしてはいられない!すぐに彼女を追わなければ!」
拳銃を拾い上げる。護身のための拳銃も放り出して、今の彼女はあまりに無防備だ。
あるいは彼女もフィギュア化されている以上、自分の知らない戦う力を持っている可能性は十分あるが……
今の彼女の取り乱した状態では、どの道危険なことこの上ない。
マミの身を案じ、タロウは走り出す――
ポロリ。
再び、カラータイマーが落ちた。
倒れるタロウ。遠ざかる意識――
(うぅっ!?……っていかん、こんなことをしている場合ではっっ!)
慌ててもう一度、カラータイマーを拾い直し、付け直す。
しかしどうもおかしい。ちゃんと填るけど装着がやたら甘く、きっちり固定できない。
少し動くだけですぐに外れかけてしまう、緩い保持しかできないではないか。
「くそっダメだ、何度やってもすぐ外れる!?何だこれ!?もしかして不良素体なのか、このボディは!?」
……皆さんはULTRA-ACTのウルトラマンタロウの実物を手に取ったことはあるだろうか?
このタロウのフィギュア……カラータイマーのパーツが極端にポロリしやすいのだ。
ストリウム光線発射ポーズ再現のために胸回りのアーマーが取り外しできることとの兼ね合いかと思われるが、
他のウルトラマンのULTRA-ACTに比べて、とにかくカラータイマーがポロポロとよく外れてしまう。
このパーツは小さいから、紛失もしやすい。だから遊ぶにもいちいち気を遣って取り扱わなければならないのだ。
実にめんどくさい。今月の再販分で改善されていることを切に願う。
-
外れやすいカラータイマーというのは、今のタロウにとって命に直結する極めて危険な事態である。
これだけ外れやすければ、動きや戦い方にも制限を余儀なくされることだろう。
特に得意のスワローキックなんて使えたもんじゃない。
空高くジャンプし、宙で激しく回転を繰り返し、急降下で敵に蹴りを叩き込む華々しい技……
今そんな動きをしたらタイマーがすっぽ抜けて、そのまま紛失してしまうこと請け合いである。
「冗談じゃないぞ、まったく……!!」
胸に付けたカラータイマーを手で押さえながら、マミを追うべく走り出す。
テープなり接着剤なり、何かカラータイマーを固定する物でも探したいところだが、今はそれどころではない。
「早まるんじゃないぞ、マミ君……待っていろ、すぐに行く!!」
フィギュアならではの、想定外のハンデを背負う羽目になったタロウ。
しかしその程度の受難で彼の心は折れない。
……こんな不便な状態でも、オリジナルが味わった無力感よりはずっとマシだ。
ウルトラマンギンガの番組の中で、スパークドールに……500円のソフビに変えられていたオリジナルの記憶が蘇る。
あれは手足の稼働すら皆無だった。タロウもウルトラ念力で微々たるサポートしかできない有様だった。
だがこの体は自由に稼働できる。自我が与えられた今は様々な動きも可能だし、ストリウム光線などの必殺技も使える。
キングブレスレットも、ご丁寧に使わなくなったタロウブレスレットまである。
あの時の無力さに比べれば、遥かに恵まれた状態なのだから。
【深夜/エリアN(校舎1階教室)】
【ウルトラマンタロウ@ULTRA-ACT】
【電力残量:99%】
【装備:キングブレスレット、クライムバスター(宇宙刑事シャリバン)@S.H.シリーズ】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(タロウブレスレット)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:バトルロワイアルへの反抗。最後の最後まで戦い抜く
1:マミを追う
2:共に戦う仲間を集める
【備考】カラータイマーのパーツが外れやすくなっています。
外れると意識が薄れ、さらにその状態で一定時間放置するとそのまま機能停止します。
-
投下終了。
しかし書いといて何だがこういうパーツ外れやすい的なネタはありなんだろうか……
まずいようでしたら指摘お願いします
-
お二人共、投下乙です!
>>97
なるほど、あえて装着変身を選んだ理由は超合金のアーマーか……!
ディケイドが全ての時期の記憶を持つからこそスタンスを決めあぐねたりと、フィギュアロワならではの描写が嬉しいです。
あ、フルアームズパッケージは大歓迎ですよ! 当企画は参加者の完全装備を応援します!
>>109
カラータイマーwwww もうダメなわけがないというか、 笑わせていただきました。
そういうフィギュアの仕様ネタはガンガン使っちゃってください。既に初期版ガオガイガーのメッキや股関節の甘さって描写がありましたしね。
マミさんも、せっかく魔女化しないというのに災難だなあ。
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そして暫定名簿を更新しますね。
《 暫定名簿 》 ◎……登場済み、○……初期枠(未登場)、△……自由枠(登場予定)、●……機能停止
【武装神姫】4/5
○アーンヴァルMk.2/◎ストラーフMk.2/●エウクランテ/△フブキ弐型/○
【リボルテック】8/8
○新ゲッター1/○ジェフティ/◎プレデター/○阿修羅/◎レヴィ/◎ウッディ/△スネーク(PW版)/△伊達政宗/△ゲッターアーク
【figma】10/10
○初音ミク/○テッカマンブレード/◎如月千早/○島風/◎沙英/◎巴マミ/△チャリオット/
△阿良々木月火/△タイムスクープハンター沢嶋雄一/△ロジャー・スミス
【S.H.シリーズ】8/8
◎仮面ライダーフォーゼ/○ワイルドタイガー/○ゴジラ1995/○アリサ・イニーチナ・アミエーラ(GE2)/◎デストロイア(完全体)
◎仮面ライダーディケイド/△仮面ライダーオーズ/△仮面ライダーシン
【ROBOT魂】6/7
○ダブルオーライザー/○ターンX/○エヴァンゲリオン初号機/○ドラえもん/●コダールi
◎ジュド(ザンダクロス)/◎ZZガンダム
【スーパーロボット超合金】4/5
◎マジンカイザー/◎天のゼオライマー/●ガオガイガー/○ガンバスター/○
【アーマーガールズプロジェクト】4/5
○MS少女ユニコーンガンダム/○MS少女バンシィ/○セシリア・オルコット/○宮藤芳佳(震電装備)/○
【D-Arts】2/2
◎VAVA/△ロックマン
【装着変身】1/1
◎仮面ライダーブレイド
【ULTRA-ACT】1/1
◎ウルトラマンタロウ
《暫定参戦フィギュア……50体》
《残り自由枠……10体(うち武装神姫1、スーパーロボット超合金1、AGP1)》
じ、自由枠の余裕が思いのほか無い……!(開始早々ここまで盛況を博すとは思ってなかった顔)
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投下乙です
>>109
タ、タロウ…まさかそんな不具合があるなんて…
マミさんは安定のマミさんですね!
>>110
ありがとうございます!
いやもう、装着変身キングフォームのダイキャストの多さと総重量が印象深くて…w
では、MS少女ユニコーンガンダム@AGP、ハンター(レウス装備)@リボルテック(自由枠)、双子座のサガ@聖闘士聖衣神話(自由枠)で予約します
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勝手にまとめ
ttp://or2.mobi/index.php?mode=image&file=72577.png
名前の一番最初の文字の部分がだいたい現在地
斜め読みで作ったから間違いがあるかも
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まとめ乙です
マジンガーZ@スーパーロボット超合金、セーラーマーキュリー@S.H.シリーズ、マジンカイザー@スーパーロボット超合金
で予約します
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お疲れ様です。現状での予約状況を纏めておきますね。
◆S8pgx99zVsさん……スネーク(MGSPW)@リボルテック/チャリオット(TVver.)@figma
◆2kaleidoSMさん……阿良々木月火@figma/仮面ライダーオーズ@S.H.シリーズ/ゴジラ1995@S.H.シリーズ
◆lxf1h6/iIsさん……タイムスクープハンター沢嶋雄一@figma/島風@figma/伊達政宗@リボルテック
◆QotHY4VA.Mさん……ロジャー=スミス@figma/初音ミク@figma
◆ACT//GA03c(>>1)……ゲッターアーク@リボルテック/仮面ライダーシン@S.H.シリーズ
◆2Y1mqYSsQ.さん……ロックマン@D-Arts/フブキ弐型@武装神姫
◆6O/b6a0evcさん……MS少女ユニコーンガンダム@AGP/ハンター(レウス装備)@リボルテック/双子座のサガ@聖闘士聖衣神話
◆NXFS1YVsDcさん……マジンガーZ@スーパーロボット超合金/セーラーマーキュリー@S.H.シリーズ/マジンカイザー@スーパーロボット超合金
予約8件! 大変なことになってます。期間は一週間ありますので、皆様焦らずにがんばってくださいね。
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阿良々木月火、仮面ライダーオーズ、ゴジラ1995投下します
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夜の街。静寂に包まれた空間。
そこに、奇妙な色どりをした人形が立っていた。
頭は赤く、胴体は黄色、足は緑の、まるで信号機のようなカラーリングをした、人というには様々な部分に独特な部分が見られる人形。
その人形の名を、仮面ライダーオーズと言った。
名前の通り、それは日曜朝8時放送の特撮番組、仮面ライダーOOOの主人公。
「殺し合いだなんて…。こんなこと絶対に許しちゃいけない…!」
そして仮面ライダーの主人公、火野映司の人格を模した彼もまた、多くの仮面ライダーと同じく正義の心を持つ者。
例えそれはフィギュアとなっても変わることはない。
それが例え、この殺し合いのために作られた、偽りの人格であったとしても。
「人形だとか、そんなの関係ない。作られた者にだって心はあるんだ…」
思い返すのは、かつて仮面ライダーオーズが共に戦った、赤き右腕の存在。
作られた命でありながら、その身を賭けて火野映司と共に戦い、そして死んでいった怪人。
無論、それは火野映司の記憶であり今の自分の記憶ではない。
だけど、この身にその記憶が与えられたのは、きっと何かしらの意味があるはずなのだから。
と、歩み出そうとしたオーズはふと、疑問に思ったことがあった。
それは今この身で行うフォームチェンジ。
仮面ライダーオーズはメダルを入れ替えることで様々な形態へと変身することができる。
今の自分が変身できるとすれば、その中でも発売されているフィギュアーツ。
現フォームのタトバ。そして各コンボ・ガタキリバ、ラトラーター、シャウタ、サゴーゾ、タジャドル、ブラカワニ、プトティラ、タマシー、スーパータトバ。
そこに加えて、タカキリバやタカジャバといった一部亜種形態が変身可能だろう。
映司グリードにもなれるだろうが、さすがにあの姿にはなりたくはない。
しかし亜種形態の発売種類は少なく小回りを効かせられないことから、基本コンボ形態を運用していくことになるのだろうが。
(今の俺に、どこまでこの力が使えるんだ?)
いざとなった時に使えなかったでは話にならない。
疲弊もするだろうが、ある程度は確かめておくべきだろう。
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そう思い、メダルを腰から取り出した、その時だった。
「ぎにゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
周囲に響いた、女の子らしき者の謎の奇声。
思わず周囲を見渡すオーズ。
「ちょ!どいてどいてどいてーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
まるで暴走するバイクのような音を立てながら、何かがこちらに接近してくるような気配を感じる。
その音がどこから聞こえているのか、それを認識し。
発生源の方へと顔を向けた、その時だった。
目の前に、巨大なタイヤのようなものが見え。
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「わーーーーーーーー!?!」
身構える暇すらもなく、オーズへと衝突。
そのまま巻き込んだ状態で、電柱にぶつかって動きを止めた。
人間であれば大事にもなるだろう事故だったが、フィギュアが相手であり、なおかつ轢かれた相手が仮面ライダーだったというのは不幸中の幸い、というべきか。
また、それに搭乗していた少女の方も大きな怪我をしている様子はなかったためオーズも心を撫で下ろした。
電柱にぶつかったex:ride Spride.03 ガンツバイクは見るからに動きそうもなかったためやむを得ずその場に放置することに決め。
「えーっと、…あ、月火ちゃん。もしかして前髪ってこれ?」
「あ、あったー!どうもありがとう!」
今、オーズと少女――――figmaNo156、阿良々木月火は探しものをしていた。
事故の拍子にすっ飛んでいった彼女の前髪のパーツ。
事故から立ち直った月火は、オーズに謝罪をして。
その時に前髪が無くなってパーツの接合部と額が外気に晒されていることに気付いたのだ。
慌てる彼女を見るに見かねたオーズは、その前髪探しを手伝い、そしてたった今見つけ出したところだった。
「それにしても、悪いのってどう考えてもこっちなのに、前髪探しまで手伝ってくれるなんて、おにーさんいい人だね!」
「気にすることはないよ。でもね、ロクに運転もできないのにバイクに乗ろうなんてダメじゃない。それもこんな特徴的なバイクを」
そのバイクは巨大なタイヤの内側に運転席がついているという、かなり独特なデザインのバイクだった。
普通のバイクでも危ないというのに、そんなものを中学生が運転すればどうなるかは火を見るより明らかだ。
「あ…あはは、はーい。気をつけます」
-
苦笑いを浮かべながら、オーズの注意への返事をする月火。
ちなみに彼女の服装は緑色に花の模様がついた着物という、明らかにバイクに乗るには不向きな格好。
しかしフィギュアゆえか、あれだけの爆走と衝突にあっても着衣の乱れ一つなかった。
「それにしても、この前髪いっつも外れるってのは本当、どうにかならないのかなぁって思うんだよね」
「そんなによく外れるの?」
「そーなんだよねー。私達figmaってさ、表情パーツ変えるたびに顔と前髪外すんだけどさ、そのために前髪パーツがゆるくなってるの結構あるんだよね。
その点、オーズさん達フィギュアーツにはそういった悩みはなさそうでいいよね」
「うーん、まあパーツが外れるとかってのはないけど、こっちもこっちで悩みはあるんだよね。
俺達フィギュアーツもさ、最近発売されたカブトとか龍騎みたいな素体は可動性とか直立性とかいいんだけどね。
俺みたいなそれ以前に発売したものは、足の可動性もちょっと狭いし、ダイキャストも使ってないから立つのにスタンドが必要になるんだ」
「スタープラチナ?」
「そっちのスタンドじゃないよ」
むしろカブトや龍騎の素体は羨ましいものだ、とオーズは思う。
カブトなど、ライダーキックの体勢でも立つことができるくらいの逸品だ。
ダイキャストもなく足首の可動の悪いバッタレッグは本当に見習って欲しい。
その点、figmaには買う度にスタンドがついてくるというのも、やはり羨ましい。
「うーん…?」
「あれ、どうかしたの?」
「いや、何かこうやって会話してると、何か引っかかるんだけど………あっ!」
と、そんな互いの欠点などについて気がつけば愚痴り合っていたオーズと月火だったが。
ふと何かに気付いたように表情をガビーンとさせたようなものに変える。
「しまった…!ここは皆が自分はフィギュアだって自覚した場所…、つまりは皆がメタ知識を持っている…!
こんな場所で、西尾キャラがメタ知識でキャラを立たせるとかできるわけ無いじゃん!?」
「え、ちょ…、月火ちゃん…?」
「なんてことだ!予想外の展開!アイデンティテイクライシスだよ!クライシス皇帝もびっくりだよ!
西尾ロワだってハブられた私がやっと出られたと思ったのに、こんなのってないよ!」
「だ、ダメだ!いくら君でもそれ以上は危ない!」
「ぐぬぬ、かくなる上は…、井口ボイズを活かして物語勢から別の作品勢へと変貌するしかない…!
いっそ今流行りの艦○れ勢と化して、加○とか五○鈴のネタを使うことでキャラを立たせていけば――――」
スパーン
何やらとても混乱している様子だった月火の頭をハリセンで引っ叩いたオーズ。
紙製ではなく軟質素材で作られたそれは、同じ素材である月火には若干、いや、かなり効いてしまったようで地面に倒れこんだ月火はしばらく動かなかった。
「あ、しまった。そういえばこの素材、figmaと同じ硬さなんだった…。月火ちゃん、大丈夫…?」
「はっ、私は一体何を」
目を覚ましたように起き上がる月火。
どうやらアイデンティテイクライシスの危機は避けられたようだった。
-
気を取り直して、というかそもそも何の話をしていたのかを忘れてしまいそうにもなったものの起き上がった月火ととりあえず今後のことについて話し合う。
「えーっと、月火ちゃんはとりあえずこの殺し合いには乗らない、ってことでいいんだよね?」
「もちろん。人に命令されたからって、ていうかそれしか手段がないからって、それに従って行動するなんて、それこそ阿良々木月火らしくないもん。
私はいつだって、私自身の路を往くよ」
「君自身の路っていうと?」
「そりゃあもちろん」
と、月火は指をビシッと指して言う。
迷いも躊躇いもなく。
「アタシ自身の正義だよ」
「そういえばオーズさん、仮面ライダーって正義の味方なんだよね」
「え、あ、ええと、まあ確かに世間だとそう言われてるみたいだけど、俺達自身は正義のために戦ってるってわけでもないんだ。
むしろ、……そうだね、人間の自由のために戦ってるんだって、誰かが言ってたような気がする」
「おんなじことだよ。私だってこう確固たる正義みたいなものがあるってわけじゃないんだし」
何だかさっきと言ってることが変わってるような気がしたが、今突っ込むのも野暮だろうと思い敢えて何も言わなかったオーズ。
「そういやオーズさんも炎出せるんだよね?ニチアサ見てたから知ってるんだよ」
「まあ確かにタジャドルコンボになれば炎を武器にして戦うことになるけど」
「それじゃあ、私とオーズさんでファイヤーコンビって名乗ろうよ!月火の火と、オーズさんのその正義の炎でさ!」
「だから正義ってわけじゃ………まあいいか…」
まあ、この子が言う正義ならあのバッタヤミーの時のような間違いはないだろうと思ってその辺りについてとやかく言うことは諦め。
そのまま、移動しようとしたその時だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!
宙に響くような、巨大な鳴き声。
それは日本人であれば多くの人が知っているであろう、怪獣の吠える音だ。
「―――!月火ちゃん、伏せて!」
「きゃっ!」
ふと周囲を見渡したオーズは、赤い何かの蠢きと、そこから膨大な熱量を直感。
月火の体ごと地面に伏せたその瞬間、二人の立っていた場所を恐ろしいほどのエネルギーを持った熱線が通り過ぎていった。
まだ熱された空気が周囲に残っている中、顔を上げた二人へと向かって、地響きを立てながら迫る何かがいた。
「…!あれは…」
「ゴジラじゃん!しかも1995年版、ゴジラvsデストロイアの!」
体内の炉心が暴走したことでメルトダウン寸前の、怒りに狂える怪獣王。
ゴジラvsデストロイアのゴジラ、そのモンスターアーツだった。
その体から感じる熱は、フィギュアのものと言っても誰も信じないであろうほどに発されており、自分たちより一回り大きい程度にダウンサイジングされた今もまだ、その迫力はいささかも衰えてはいない。
そしてその口から放たれた熱線は地面を大きく抉り、コンクリートをジュウジュウと溶かしている。
あんなものの直撃を受けて生きていられるフィギュアはいないだろう。
-
そんな相手を前にしては、二人は逃げるという選択肢が最良だろう。
立ち向かったとしても、かたや一般人、いくら仮面ライダーといっても単独で相手にできるような存在ではない。
しかし。
それでもオーズは月火を庇いつつ、メダシャリバーを構えた。
「逃げて、月火ちゃん。あいつは俺が止める」
ゴジラは動きこそ鈍重であったが、それでもあの熱線の射程は脅威。
そして、放置しておけばあれは多くの参加者を破壊しつくすだろう。
倒せなくても、せめて動きを封じるくらいはしなければ。
タトバでどうにかできるような相手ではない。
取り出すは2枚の赤いメダル。
タカ・クジャク・コンドル!
串田アキラボイズをオースキャナーが再現し、前面に赤いメダルが顕現。
それがオーズの胴体のオーラングサークルにはめ込まれ。
―――――――――タ〜〜ジャ〜〜ドル〜〜〜!!
信号機のようなカラーリングだった全身を、赤い炎が包み込み、鳥を模した姿へと変化。
仮面ライダーオーズ・タジャドルコンボ。
飛行能力を持った、鳥系メダルによるオーズのコンボ形態の一つ。。
例えあれがゴジラであったとしても、フィギュアである以上どこかに何かしらの弱点があるはず。
それを空中から探りつつ、こちらへと注意を向けるのだ。
と、飛び立とうとしたオーズ。
しかし。
「―――!翼が、出ない…?しまった!」
仮面ライダーオーズタジャドルコンボの翼、クジャクウィング。
それはフィギュアーツタジャドルには付属していない。装着させるにはプレミアムバンダイのタジャドルコンボ用のセットを購入する必要がある。
プレバン限定であったとしてもコンボ形態であればまだ形態変化として使用することができた。
その一方で、本体に付属していなかったパーツ系統はまた別途の支給となってしまっていたのだ。
オーズがその事実に気付いた時、ゴジラは放射熱線を口に溜めこんでいた。
今避ければあの熱線に月火が巻き込まれる。
「――――――!」
タカ・イマジン・ショッカー!!
ターマーシー!タマシー!ターマッシー!ライダァ〜…ダ・マ・シー!!
咄嗟に切り替えたメダルは、本来のオーズが持つはずのないもの。
オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー!!で登場した、劇場限定コンボだ。
緩慢な動きで放たれた熱線に対し、オーズはその手にそれに匹敵するほどのエネルギーを集中させる。
両手の間に作り出したイマジンの砂球とショッカーマークの形の炎。その威力は仮面ライダー史上で見ても最強の攻撃。
通称、魂ボンバー。
――――――――――ガァァァァァァァァァ!!!
「はっ……セイヤァァァァァァァ!!!!!」
ゴジラが熱線を吐くと同時、オーズの手から魂ボンバーがゴジラに対して射出される。
かつては大首領をも吹き飛ばしたその一撃は、ゴジラの熱線に一瞬の均衡の末に打ち勝ち、ゴジラへと直撃する。
「っ…、エネルギー消費が激しい…!」
サイズダウジングされているとはいえゴジラの熱線に打ち勝てるほどの威力を持った一撃。
しかしそんなものがただで撃てるわけではなかった。
あまりに膨大なエネルギーは、オーズの保有する電力の実に40%を一気に食い尽くしたのだ。
-
そして前を見ると、ゴジラは少なからずダメージを負っているようではあるが、それが行動に支障をきたすほどのものではなかった様子。
熱線を打ち破るために幾らかの威力を減衰させられていた攻撃では、怪獣王に致命的な一撃を与えはしなかったのだ。
そして逆に、その一撃で怒りを煽られたゴジラはオーズへと注意を向ける。
狙ったわけではなかったが、逆にそれも好機ではあった。
ライオン・トラ・チーター!!
ラ・タ・ラ・タ?! ラトラーター!!
周囲に熱線を撒きながら全体的に黄色く輝く体へとその身を変じる。
猫系のメダル3枚によるラトラーターコンボ。
トライドベンダーが存在しないこの環境では制御にいささか不安が残るが、そのくらいあった方が怪獣王を引きつけることはできるだろう。
ゴジラの怒りの視線を真っ直ぐに受け止めつつ、オーズはゴジラへ向かってかけ出した。
「オーズさん、さっきのってもしかして…」
あのゴジラの熱線、彼ならば避けられたはずだ。
なのに、どうしてわざわざ姿を変えてあれを迎え撃つことを選んだのか。
というか、もしあそこにいる立場が自分とオーズさんで逆だったとしたら、自分ならどうしたか。
間違いなく受け止めに行っただろう。
その結果自分が死ぬことになっても、正義に殉じるなら本望とか考えながら。
目の前では、ゴジラを引きつけるような動きを取りながら走っていくオーズさんの姿。
「……プラチナムカつく」
確かその語源はプチムカつくのもじりで、そこまでムカついているわけではない言葉だったはずだが、今のセリフでは結構ムカついていた気がした。
ゴジラに対してではない。
あんな偉そうなことを言っておきながら、いざ怪獣王を前にしたら何もしていない自分自身に。
だが、実際自分の戦闘力などたかが知れている。姉の火憐ならまだしも、ファイヤーシスターズでも参謀である自分にできることなど――――
「あっ…、そういえば…」
ガンツバイクを取り出した時、拡張パーツに何か混じっていたような気がした。
その時は正直何なのか分からなかったが、もしかしたら何かの役に立つものかもしれない。
改めて取り出して見てみると、それは彼のあの姿の体の一部に繋がる場所があるような気がする。
これを彼に渡せば、あるいは。
「よし、行こう」
迷いはなかった。
-
怪獣王、ゴジラの力は生半可なものではなかった。
その重量も再現されており、接近戦を挑めばこちらの攻撃はロクにダメージを与えられず、逆にその腕や顎、尾の餌食となる。
加えて体から発される膨大な熱。
いくつかのコンボを使ってみたが、その中でもガタキリバの分身、シャウタの液状化、スーパータトバの時間干渉には大きな制約がかかっているようだった。
サゴーゾの重力操作は可能ではあったものの、元々の重量が半端ではないゴジラに対しては焼け石に水。
プトティラコンボは、己の暴走も視野に入れなければならない危険なもの、月火が安全といえる場所に行くまでは、使うわけにはいかない。
こちらと比べればゆっくりと歩くゴジラへ向かって、メダシャリバーを振りぬく。
一撃を打ち込むと、直後にチーターレッグの脚力を活かして離れる。
効率の悪い戦い方ではあるが、しかし接近したままではゴジラとの肉弾戦を繰り広げなければならなくなる。
「せめて、タジャドルで飛行することができれば…」
それさえ可能ならば、もっと素早く、効率よく戦うことができるはずなのだが。
「オーズさん!!」
と、彼の耳に届いた少女の声。
「月火ちゃん…!?どうしてここへ―――」
オーズが問いかける間もなく、月火は拡張パーツをこちらへ向かって投げつけてきた。
「これは…」
「受け取って!それあなたのパーツでしょ!」
それは、オーズタジャドルコンボが飛行するために使うクジャクウィングのエフェクトパーツ。
これさえあれば、空を舞って戦うことができる。
「ありがとう、月火ちゃ―――――――」
そして、それに意識を取られたことでゴジラの様子に気付くのが遅れてしまった。
突然の乱入者に意識を奪われたゴジラは、そちらへと怒りの矛先を移し。
オーズが見上げた時には、赤い放射熱線が既に月火に向かって放たれていた――――――
「月火ちゃん―――――――――!!」
気づいた時には既に遅く。
パーツを投げた体勢のままでいた月火を、ゴジラの熱線が包み込んでいた。
そして、熱線が消失した時、そこに残っているものはなく。
ただそこから離れた場所に、熱線の射程からわずかに離れていたらしき、月火だった前髪に備わっていたアホ毛らしいパーツが残っていただけ。
―――――――――――プテラ・トリケラ・ティラノ!!!
プッ!トッ!ティラ〜ノ!ザウ〜ル〜ッス!!
-
怒りというものは一定値を越えると逆に頭を冷静にしてくれるということは聞いたことがあったようだが。
オーズはそれを今、身を持って体験しているような気がした。
オーズの体を紫色の装甲と白いスーツがその身を包み込み、これまで以上の力強さを感じさせていた。
紫色の、恐竜をその身に宿したコンボ形態。パワーは他コンボと比べても随一だが、同時に暴走の危険性も併せ持った姿、プトティラコンボ。
最凶のコンボへと変形したオーズは、唸り声を上げながらゴジラへと掴みかかった。
全コンボ中最大の腕力を誇るプトティラ、しかしそれでも怪獣王を抑えるには力不足。
加えてその全身から発される熱はオーズ自身の体をも焼き尽くすほどのもの。
しかし。
「ウォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
強引にゴジラの体を押さえつけるオーズの触れている部分から、冷気が伝わり始める。
それはプトティラコンボの持つ固有能力。プテラヘッドから発する冷気を持って、ゴジラの熱を抑えていたのだ。
有り余っていたはずの体の熱を奪われ、ゴジラの力が僅かに弱まる。
その隙に、オーズはその手に持ったメダガブリューをゴジラの脚へと叩きつける。
痛みを訴えるように吠えるゴジラを前に、更にその身に冷気を送り込み全身の熱を冷ましていく。
徐々にその動きを鈍らせていくゴジラ。
しかしそれでも動きを止めはしないゴジラは、力いっぱいオーズを振りほどくと共にその巨大な尻尾を叩きつけた。
受け止めきれず吹き飛びコンクリートに叩きつけられるオーズ。
その間に膨大な熱を持って全身の氷を溶かし、オーズへと放射熱線を吐き出す。
倒れこんだままのオーズはその一撃に対し。
―――タカ・クジャク・コンドル!
コンボチェンジと同時に赤い炎を散らしながら、6枚の赤い翼を広げて空へと飛び立った。
それこそが本来のタジャドルコンボの姿。月火の遺した拡張パーツ、タジャドルコンボのエフェクトパーツだった。
飛翔したオーズは、そのまま熱線を吐いて一時的に動きの止まったゴジラへと向けて。
――――スキャニングチャージ!
オースキャナーを通すと同時、宙で一回転、その脚部を鳥の脚のごとく鋭い爪を顕現させ。
「セイヤァァァァァァァーーーーーーーー!!」
動きの止まったゴジラへと、その脚での蹴りを叩きつけた。
冷気による消耗もあったのか、本来ならばそれでも受け止めるだろうその一撃に叫び声を上げながら怪獣王は身を傾け。
そのままゆっくりと沈黙した。
-
「―――――!つ、月火ちゃんは…」
彼女がいたはずの場所へと駆け寄るオーズ。
しかし、そこにあの着物姿の少女は影も形もなく。
残っていたのは、彼女の所持品だったらしき包丁や鍋蓋、千枚通しがばら撒かれ。
そして焼け残ったアホ毛の部分、それが阿良々木月火だったものの残骸だった。
「俺は…また……」
それは火野映司の記憶であり、S.H.フィギュアーツであるオーズの経験した記憶ではない。
それでも、目の前で守りきれなかった少女は、かつて記憶の主の経験と重なり。
今の仮面ライダーオーズは、涙を流すこともできない仮面の下で、静かに慟哭するしかできなかった。
【阿良々木月火@figma 機能停止】
【深夜/エリアK(屋外)】
【仮面ライダーオーズ@S.H.シリーズ】
【電力残量:30%】
【装備:メダシャリバー】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×0〜1、タジャドルコンボエフェクトパーツ@S.H.シリーズ、ハリセン@figma】
【状態:ダメージ大、悲しみ】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いを止める
1:月火ちゃん………
【備考】タトバ〜スーパータトバ(ブラカワニ、タマシー等含む)までの全コンボに変身可能です
亜種形態にもフィギュアーツ化されているものに関しては変身は可能です
ガタキリバの分身能力、シャウタの液状化能力、スーパータトバの時間干渉には強い制限がかかっています
◇
怒れる怪獣王は仮面ライダーオーズとの戦いの末に沈黙した。
しかし、それはまだゴジラ自身の機能の停止を示したわけではない。
急激に冷却された肉体に受けたプロミネンスドロップがゴジラの機能に大きな衝撃を与えたのは確かだ。
だからこそ、ゴジラは一時的な沈黙を続ける。
その沈黙を、月火の死に動揺していたこともあっただろうがオーズは倒したのだと思ってしまった。
しかし違う。メルトダウン寸前という危険状態を限りなく再現されたその体は未だ熱を持ち続けている。
しかも、不幸な偶然と呼ぶしかないだろうが、その横たわった身の下にはゴジラ自身の拡張パーツやクレイドルが敷かれていた。
つまりその上で眠るゴジラは今消耗したエネルギーを補充しつつあったのだ。
核の暴走によってその体が再度熱され怪獣王が再度起動し暴走する身で歩み出すまで。
そう時間はかからないかもしれない。
【深夜/エリアK(屋外)】
【ゴジラ1995@S.H.シリーズ】
【電力残量:70%(回復中)】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
基本方針:本能の赴くままに、全てを破壊する
【備考】メルトダウン寸前という状態再現により、かなりの高熱を発しています
しかし実際にメルトダウンを起こすかどうかは分かりません
※エリアKの道端に破損したガンツバイク@figma(ex:ride)が放置されています。そのままでは使えないでしょうが修理できれば動く可能性はあります
-
投下終了です
-
投下乙です
さすがゴジラ負けてもただじゃ済まさない
月火ちゃん……原作的にいくとオーズはトラウマ背負いそう
-
ロックマン@D-Arts、フブキ弐型@武装神姫を投下します
-
『心と感情』を持つ15cmの少女型ロボット、武装神姫と呼ばれる乙女たちがいた。
オーナーのために武装をまとい愛を注ぐ。
だがこの殺し合いにオーナーは存在しない。
心の芯を奪われた彼女たちは迷走をするしかなかった。
□
公園に面した道路にて、世界的に有名なゲームキャラクターを模した人形が戸惑っていた。
青いヘルメットに青いボディ、大きな円錐状の脚が印象的である。
D-Artsというブランドから出され、特に海外にて好評を得ているフィギュアであった。
「壊し合えか」
ロックマンは淋しげにつぶやき、街路樹さえ再現した道を眺めていた。
(本物のロックマンなら『平和を乱す奴は許さない』と言うのかもしれないけど……僕はなるべく戦いたくない)
誰かと争うことは嫌いだった。
特に同じアクションフィギュア同士戦うなんてまっぴらゴメンだ。
たとえ人間の命令であろうと聞きたくない。
だけどどうすればいいのかわからないのも事実。
答えが転がり込むわけもなくただただ途方に暮れた。
「申し訳ありません」
急に声をかけられてロックマンは驚いた。
一応戦闘経験も人格とともにプログラムされている。
その自分が気配を感じ取れなかったのだ。目を疑うのも無理はなかった。
「一つお願いがあります……」
きつね耳の少女は透き通る声を発すると同時に街灯の光に身体を晒した。
淡い水色のおかっぱに近いショートヘアと、白磁のように白い肌が儚げな印象を与える。
華奢な体は黒と灰のボディースーツを模した素体で肌を極端に隠している。
だが身体のラインがくっきり出るデザインであり、ある意味肌を見せられるより色気を感じた。
「僕に出来る事でしたら喜んで」
戸惑いながらもロックマンはどうにか返答をする。
少女は小さく笑って、
「では私と一戦交えてください」
告げると同時に機械の鎧をまとった。
きつね耳をヘッドパーツが守り、腰部にスカートのように広がる刃型腰アーマーが揺れ、ZZなどモビルスーツのような脚で素早く滑る。
「ちょっと待って。僕は君を傷つけたく……」
「問答無用」
彼女は体勢を低くしながらこちらに向かって駆け出す。
鞘から引き抜いた忍者刀を一閃されたが、ロックマンはかろうじて避けた。
「なぜなんだ? 君は他の人を壊すことに何の疑問も持たないのか? それとも理由があるのか? 教えてくれ!」
黒い少女は答えず、チェーンソーを繰り出した。まるで凶器のびっくり箱だ。
くっ、と呻きながらロックは彼女の背後に回る。
しかし少女は冷静に振り返り、肩のクナイを投げ飛ばす。そこでようやく忍者タイプだと理解した。
ロックは身体を低くしてやり過ごし、なおも接近する彼女を視界に捉え続けた。
(やむを得ない!)
ロックバスターは使わない。さらに身を低くして、ロックマンの代名詞のひとつ、スライディングで加速する。
動きが速くなった相手に戸惑ったのか、くのいちは忍者刀を中途半端に構えた。
隙あり、と彼女の手首を掴み引き寄せる。無防備な頬へと拳を繰りだそうとして、かわいそうだと手のひらに変更した。
パチン、と高い音が響いて彼女が吹き飛ぶ。
崩れ落ちるのを見届け、ロックは逃げるかどうか迷った。
まだ説得できるかもしれない。一縷の望みを胸に少女の反応を伺った。
しかし一向に動く気配がない。
「君、大丈夫? そんなに強く打ったつもりは……」
「刹那の時間に攻撃を変える余裕。相手を気遣う甘さを持ちながら容赦の無い判断力。本気を出さずに武装神姫の私を取り押さえることのできる戦闘力。
なにより…………」
-
彼女は頬を抑えながら、何かをつぶやいていた。
「身体にズンと響く衝撃……あぁ、頭(コアユニット)に響き渡って……ぞくぞくします……んぅ」
ロックの知らない反応に思わず混乱する。
彼女は熱のこもった視線を向けてきた。敵意がないのが幸いだが、どう返したものか。
「え……と、打ちどころが悪かった、ってこと? なら修理を……」
「いえ、むしろ良い平手打ちでした」
武装を解除した神姫は身体をこちらに向けた。
「申し遅れました。私は武装神姫のフブキ弐型。気軽にフブニーとお呼びください」
「う、うん。僕はD-Artsのロックマン。ロックでいいよ」
戦いにならずロックはホッとするが、フブニーがなにを考えているのかまったくわからなかった。
「お願いします、ロック様」
「また!?」
戦いになるのかと警戒するロックをよそに、彼女は小さく首を傾げて照れた表情を見せた。
「人間のマスターが出来るまで、私の主になってもらえませんか?」
なんだか話がおかしな方向に転がりそうだ。
それだけはロックにも察しがついた。
□
「武装神姫はオーナーを第一に優先すると知識にはあるけど……それはどうなの?」
「確かに人間のマスターが望ましいです。ですが仕えるのにふさわしい相手ならたとえ他の武装神姫、それに類する存在であろうと構わないと判断しました」
「仕えるのにふさわしい存在? 僕が? 何かの間違えじゃ……」
「いいえ、ロック様。冷静で的確な判断力、優しさの中に強さを持つあなた様こそ理想の主です。
むしろそんなあなた様に見合うよう私は努力の限りを尽くします!」
「そんな……主とか仕えるとかじゃなくてさ、対等な仲間とかダメなのかな?」
「なにを仰るのですか! 私は忍者型ですよ。くのいちという存在です。
主君がいてなんぼの存在ですよ? あっ、それとも……」
フブニーは声のトーンを落とし、目をうるませる。
「襲いかからねば判断のつかない私など不要でしょうか? そうですよね、あんな失礼な真似をした以上、責任を取るべきですよね。
わかりました。ロック様、あなたに私の首をさしだし……」
「ダメだっ! そんなことをしてなんになる? 考えなおすんだ!」
首筋に刃を当てるフブニーをロックは必死で説得するがまったく聞き入れてもらえない。
斬る、斬らないの押し問答が長々と続く。
「僕は怒っていないから君も冷静になって!」
「私を責任の取れない神姫にしたいのですか!? 後生ですから罰を〜」
ロックはならば襲いかからなければよかったのに、と喉元まで出かかった。
軽い溜息をつき、一度頷いてから彼女の肩を掴んでこちらに向けさせる。
「わかった。フブニーさん、あなたに命令する」
フブニーはキョトンとし動きを止めた。効果は抜群だ。
「死んで責任逃れなんてダメだ。生きて僕に力を貸してほしい。責任を取りたいというならそうすべきだ」
これでよかったのだろうか。ダメなら気絶させようとロックは拳に力を入れる。
しかしフブニーはあっさりと刀を収め、自分の前に跪いた。
「もったいないお言葉……わかりました。このフブキ弐型ことフブニー、全力でロック様の力になります」
「うん、フブニーさん。あらためてよろしくね」
ロックがホッとして握手しようと手を差し出すが、フブニーは不満気な表情となる。
また地雷を踏んだのだろうかと不安になるが、
「もっと犬を呼ぶように雑に扱って欲しいです……」
返答は実にバカバカしいものだった。
解決したかと思うと、ドッと疲れがロックを襲う。
なんというか彼女は苦手なタイプだった。
「ところでロック様。拡張パーツの確認はお済みですか?」
「拡張パーツ? ごめん、まだチェックしていない」
「謝ってはダメです。主君たる者、下々の者に簡単に頭を下げては示しがつきません」
誰のせいだと思っているんだろう? という言葉をロックは飲み込んで、自分の拡張パーツをチェックし始める。
ついでに気になっていることも聞いてみることにした。
「ところでフブニーさん……」
「呼び捨てでお願いします。なんなら牝犬とか呼んでいただい……」
-
「わかった! ちゃんとさん付けしないで呼ぶから!」
続きを遮るために焦りながら止める。彼女は『なにか問題があるのだろうか?』と言いたげにこちらを見た。
悪気がないのが一番厄介だ。
「それでどういったご用件でしょうか? まさかなにか新しい命令を!?」
「違うよ! その、フブニーさ……フブニーは人間のマスターを探すんだよね?
だったら仮のマスターである僕にそこまでかしこまらなくてもいいと思うんだ。
僕は人間じゃない。オモチャなんだし」
「……ロック様はお優しいですね」
彼女の穏やかな笑顔にロックは思わず見惚れてしまう。こういう顔もできるんだと感心した。
「人間のマスターが出来るまでと期間を区切りましたが、その判断を下すのは私ではありません。
決める権利があるのはあくまでもあなたです」
「そんな無意味な!?」
「意味なんてありません。私なりの責任のとり方です。
ロック様が望むならたとえ野良神姫となってもあなたに付き従います。
ロック様が必要ないとおっしゃるのでしたら姿を消しましょう。
マスターに捧げるように、私はあなたにすべてを預けます」
「どうしてそこまで……」
意味がわからなかった。彼女たち武装神姫はマスターにすべてを捧げる存在とは、知識で知っていたのだが。
しかし自分をその対象に選び、命まで預けると言うのはやり過ぎに思えたのだ。
「D-Artsであるロック様にはご理解いただけないのかもしれませんが、私たち武装神姫はマスターがいないとひどく不安定で脆い存在です。
……正直に申しますと最初に襲いかかったのは錯乱していたゆえでもあります。
マスター無しでの起動など神姫にはあってはならないこと。私はもう『間違った神姫』なんです。ですが……」
フブニーは主君と選んだ相手の両頬を包んで目を合わせた。
ロックの背が低いため見上げる形になる。
「今はもう私のために拳を収めたロック様が全てを捧げるべき主君です。
例え間違った武装神姫と罵られようとも、このフブニーは満足です」
ロックの顔が思わず赤くなる。
こんなに一生懸命な少女を嫌うことなんて出来なかった。
「わかったよ、フブニー。君が満足できるかどうかはわからないけど……」
人間のように上手くは出来ないだろう。原作も今も自分はロボットだ。
だから彼女にふさわしい人間の主人を見つけようと思った。
それまでは……
「マスターとして恥ずかしくないよう努力するよ」
彼女の主として振る舞おう。
嬉しそうに跪く武装神姫を見届け、ロックは覚悟を決めた。
「ところでフブニー、その格好は?」
「これですか? 例の拡張パーツです!」
フブニーはくるくると機嫌良さそうに回った。先ほどまでの黒いボディースーツ風素体とは違う。
首だけでなく両手両足、そしてお腹の肌がさらされており、胸や腰部にはスポーツタイプの水着を模したペイントが施されていた。
「私に支給された拡張パーツの一つはこの水着素体のようです。記憶が正しければこれは限定品ですね」
「そ、そうなんだ。でもその格好はちょっと恥ずかしくない?」
「ええ、命令ならともかく……海でもプールでもありませんし。ですので!」
フブニーはきつね耳をピクピク動かし、一つの店を指さした。
「メイド……喫茶?」
「私の予想ですが、おそらくコスチュームくらいはあると思います。ちょっと探してきますね」
そう言って店に入っていった。行動力があるものだ。
ロックとしては恥ずかしいなら前の素体でいいのにと思うのだが、記憶のロールちゃんといい女の子は複雑らしい。
オシャレしたがるものなのだろうと結論をつける。
「ロック様、お望みでしたら目の前で着替えますが?」
「……待っているから中で着替えてきて」
ドアからちょこんと顔を出した彼女にロックはにべもなく返事をする。
なんかもう呆れるしかない。諦めの境地で彼女が出てくるのを待った。
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【深夜/エリアD北部(メイド喫茶)】
【フブキ弐型@武装神姫】
【電力残量:80%】
【装備:1/12ミニ丈メイド服、SWIMWEAR EDITION素体(アーンヴァルMk.2用)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:ロックマンに従う。
1:ロックマンを守る。
2:ロックマンの命令なら人間のマスターを持つ。
※SWIMWEAR EDITIONの(アーンヴァルMk.2用)は商品名で専用の素体というわけではありません。
また素体交換は外装のみを転送交換方式とします。
【深夜/エリアD北部(道路)】
【ロックマン@D-Arts】
【電力残量:90%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×2(確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:フブキ弐型にふさわしい人間のマスターを探す。
1:戦いはなるべく避ける。
2:できれば脱出したい。
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投下終了します。関係ありませんが池原しげと作ロックマンもいいものです。
タイトルは えれくとりかるこみゅにけーしょん(棒) で。
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なんという凄いロワだ……! 皆さま投下乙です!
取り急ぎ当方も
ダブルオーライザー@ROBOT魂(確定済み未登場)、骸骨剣士@リボルテック(自由枠)
で予約させて頂きます
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お二人とも投下乙です!
こちらの予約ですが、追加でアーンヴァルMk2@武装神姫を予約します
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はじめまして。
テリー・ボガード@D-Arts
archetype:she@Figma
で予約させていただきます。
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朝比奈みくる@figma、エヴァンゲリオン初号機@ROBOT魂 予約します
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勝手にまとめ
ドラえもんとかこいチョロさんとか確定枠でも使いやすそうなのに意外と出ないな
《 暫定名簿 》 ◎……登場済み、○……初期枠(未登場)、△……自由枠(登場予定)、●……機能停止
【武装神姫】4/5
○アーンヴァルMk.2/◎ストラーフMk.2/●エウクランテ/◎フブキ弐型/○
【リボルテック】9/9
○新ゲッター1/○ジェフティ/◎プレデター/○阿修羅/◎レヴィ/
◎ウッディ/△スネーク(PW版)/△伊達政宗/△ゲッターアーク/△骸骨剣士
【figma】11/12
○初音ミク/○テッカマンブレード/◎如月千早/○島風/◎沙英/◎巴マミ/△チャリオット
●阿良々木月火/△タイムスクープハンター沢嶋雄一/△ロジャー・スミス/△Archetype She
△朝比奈みくる
【S.H.シリーズ】8/8
◎仮面ライダーフォーゼ/○ワイルドタイガー/◎ゴジラ1995/○アリサ・イニーチナ・アミエーラ(GE2)/◎デストロイア(完全体)
◎仮面ライダーディケイド/◎仮面ライダーオーズ/△仮面ライダーシン
【ROBOT魂】6/7
○ダブルオーライザー/○ターンX/○エヴァンゲリオン初号機/○ドラえもん/●コダールi
◎ジュド(ザンダクロス)/◎ZZガンダム
【スーパーロボット超合金】4/5
◎マジンカイザー/◎天のゼオライマー/●ガオガイガー/○ガンバスター/○
【アーマーガールズプロジェクト】4/5
○MS少女ユニコーンガンダム/○MS少女バンシィ/○セシリア・オルコット/○宮藤芳佳(震電装備)/○
【D-Arts】3/3
◎VAVA/◎ロックマン/△テリー・ボガード
【装着変身】1/1
◎仮面ライダーブレイド
【ULTRA-ACT】1/1
◎ウルトラマンタロウ
《暫定参戦フィギュア……55体》
《残り自由枠……5体(うち武装神姫1、スーパーロボット超合金1、AGP1)》
予約状況
期限 5/6(火)
◆S8pgx99zVsさん……スネーク(MGSPW)@リボルテック/チャリオット(TVver.)@figma
◆lxf1h6/iIsさん……タイムスクープハンター沢嶋雄一@figma/島風@figma/伊達政宗@リボルテック
◆QotHY4VA.Mさん……ロジャー=スミス@figma/初音ミク@figma
5/7(水)
◆ACT//GA03c(>>1)……ゲッターアーク@リボルテック/仮面ライダーシン@S.H.シリーズ
5/10(土)
◆6O/b6a0evcさん……MS少女ユニコーンガンダム@AGP/ハンター(レウス装備)@リボルテック/双子座のサガ@聖闘士聖衣神話/アーンヴァルMk2@武装神姫
◆NXFS1YVsDcさん……マジンガーZ@スーパーロボット超合金/セーラーマーキュリー@S.H.シリーズ/マジンカイザー@スーパーロボット超合金
5/11(日)
◆3LstcLefvYさん……テリー・ボガード@D-Arts/archetype:she@Figma
◆HUcbVDnc1c……朝比奈みくる@figma/エヴァンゲリオン初号機@ROBOT魂
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マリーセレス@武装神姫(指定枠)、ドラえもん@ROBOT魂、巴マミ@figma を予約します
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ターンX@ROBOT魂、タウバーン@ROBOT魂で予約します
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投下ありがとうございます!
>>126
怪獣王の圧倒的火力に立ち向かう仮面ライダー!タマシーコンボみたいなレア形態といい、夢の対戦カードって感じでワクワクしますね。
シリーズごとの自立とかパーツの話題やタジャドルコンボの羽が別売りなどフィギュアならではの要素が取り入れられているのも嬉しいです。
それにしても月火ちゃん、バーニング熱線で一撃蒸発とは……当のバーニングゴジラは健在ですし、デストロイアと並んで火種になりそう。
>>133
フブニーかわいい……! 武装神姫のマスター不在問題をそう活かしてきたか、上手いなあ。
VAVAが出てきたから次のD-Arts勢はエックスかなと漠然と考えていたんですが、あえての初代ロックというのも、新たなドラマを生みそうですね。
あ、OPやルール説明でも触れたのですが、当企画の世界観は武装神姫のパラレルなので、メイド服に限らず神姫サイズの服は調達できるかも……?
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仮面ライダーディケイド、仮面ライダーブレイド、宮藤芳佳(震電装備)
自由枠からサジタリウス・ゾディアーツ@S.H.シリーズ
予約します
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自由枠の件について、ご報告を。
専用枠として用意していたアーマーガールズプロジェクト用自由枠なのですが、これを完全自由枠に移行しようかと考えています。
バリエーションを考えると、確定五枠は多いのではないかと思い直しまして。ですので、現状での残り専用枠はスパ金のみとさせていただきたいです。
急で申し訳ないですが、ここまでの盛況を博すとは想定していなかったので、少しでも皆様が楽しめる企画にするための修正と御理解ください。
それから>>136さんのArchetype:sheの予約ですが、オープニングで彼女は60体のフィギュアとは別の存在として書いていますので、
実際のSS内容(彼女が参加者として登場するか)に関係なく、自由枠は消費しないものとして扱わせていただきます。
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>>143
了解いたしました。
では、浮いた一枠でカメラ男@S.H.シリーズで予約したいのですがよろしいでしょうか?
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MS少女ユニコーンガンダム@AGP、ハンター(レウス装備)@リボルテック、双子座のサガ@聖闘士聖衣神話、アーンヴァルMk2@武装神姫を投下します
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「面白い人だったね、ハンターさん」
MS少女ユニコーンガンダム…その素体の少女、雪菜=シュネーラインはこの殺しあいの場で出会った人物を思い出す。
全身を赤い鱗の鎧で纏ったそのフィギュアはハンターと名乗った。
彼は殺し合いに放り込まれ、他の参加者に脅える自分に「俺の目的は装備を集めることで、殺しあいをするつもりはない!」と言いきったのだ。
モンハンで戦うのはモンスター相手だし、対人の戦いとかありえないし、モンスター素材で武器を作るのが目的だし、尻尾マラソンつらい、と他にも色々語ってきた。
こんな場所で原作ゲームの事を長々と語り始める彼がおかしくて、完全に信用してしまっていた。
「でも私、待ってるだけでいいのかな…」
今この場所にハンターはいない。
まずは近場の各エリアを回らないといけないと言って、この階の他の部屋を調査しに行っている。
その際にハンターさんは乗っている敵がいるかもしれないし、戦いが怖いなら待ってくれたらいいと言ってくれた。
その言葉に甘えてこうして待っているが、ユニコーンガンダムの各種武装を持つ自分が留守番でよかったのだろうか。
ハンターさんは乙るのを怖がってBC待ちは仕方ないと言っていたけど、強装備で寄生は嫌われるとも言っていた。
今からでも追いかけて一緒に行動するべきか、どうするか…
そんな事を考えて悶々としていると教室のドアが開けられた。
「ハンターさんおかえりなさ…」
「むっ、人がいたのか…」
そこにいたのはハンターさんではなく、怪しい仮面をつけた大柄な男性フィギュアだった。
-
「だ、誰ですかあなた!?」
「すまない、驚かせるつもりはなかったのだが。私はアーレス、見ての通り非戦闘型のフィギュアだ。君は?」
「あっ、えっと、私は雪菜=シュネーライン…商品名はMS少女ユニコーンガンダムです」
「なるほど…MS少女ということは君は戦闘型なのか」
「一応、武装はあるんですけど…その、戦うのが怖くて…」
MS少女は少女の素体にMSのパーツをつけROBOT魂などと組み合わせて飾って楽しむ少女フィギュア。
武装状態での戦闘も目的にした武装神姫とは用途が異なる。
故に、MS少女が戦闘に恐怖を抱くのも無理はない。
「なるほど…ところで、ここには君しかいないのかな?」
「いえ、もう一人ハンターさんがいます。戦闘も得意らしくて、今は他の部屋を探索してるんですけど」
「よければ、そちらに案内してもらえないかな? 何しろ私の武器といえば拡張パーツのナイフぐらいしかなくてね。
できるだけ戦闘の出来る者と一緒にいたいのだが」
雪菜は少しむっ、とするがそれも仕方ない。
普通、武装があるのに戦うのが怖いと隠れている相手が自分を守ってくれるとは思わないだろう。
それに自分もここで隠れているだけの現状に後ろめたさを感じていたところだ、ここはハンターさんに合流するいいきっかけだ。
「わかりました。それじゃ、案内しますね。えーっと…ハンターさんは確かこっちの方向に…」
部屋から出てハンターの所へ先導する雪菜。
その後について行くアーレスの目が怪しく光り…拳が振るわれた。
-
−−−−−−−
「この部屋も特に何もなしか」
ハンターは手当たり次第同じ階部屋に入っては採取を試みるが特に役立つ物もなく、他の参加者も見つからなかった。
そんな事を繰り返していくうちに、とうとう突き当たりの一部屋を残すのみになっていた。
「さて、最後はここか。終わったら早くベースキャンプに戻らないとな…雪菜の事も心配だしな」
今まで通りに部屋のドアを開けた途端、ハンターを銃撃が襲った。
相手がよく狙っていたなかったのが幸いだったのか銃弾はハンターの頭部スレスレを通り過ぎていった。
「おっ…おっ…うおお!?」
「こ、来ないで下さい!」
どうやら撃ってきた相手は目の前の武装神姫のようだ。
発言から察するにこちらがゲームに乗ってると勘違いしたのだろうか。
「待て!待ってくれ!俺は危害を加えるつもりはない!」
「お願いです、早くどこかへ行って下さい!そうじゃないと、私はあなたを壊さないといけません!」
「いや、だから危害を加えるつもりは…えっ?壊さないといけない…?」
よく見れば目の前の神姫は脅えている。
本気でこちらを怖そうとしているのではなく、先ほどの銃撃も威嚇のつもりで撃ったのだろう…震えてるせいで威嚇どころか機能停止直前のコースだったが。
つまり口ではそう言ってるが殺しあい事態はしたくない…というところだろうか。
「よし、まず落ち着こう。狩りでも出発直前の話し合いは重要だ。まずは少し話さないか?」
こちらに戦闘する意志がない事を証明する為、装備していた片手拳装備を床に放り出す。
そうしたところでようやく相手は落ち着いたのか銃を下ろしてくれた。
-
−−−−−
「Archetype:sheさんは言いました…私にはマスターがいないって…この殺しあいの為だけの名無しの神姫だって…」
落ち着いた武装神姫…タイプ名はアーンヴァルMk.2と言うらしい。
彼女から今に至るまでの話を聞いていたが、正直重い。
マスターという存在が根幹となる武装神姫なのにマスターは無く、ただこの殺しあいの為だけに起動させられたらしいのだ。
自分達、モデルとなったキャラクターの記憶を疑似人格と植え付けられただけのフィギュアとは境遇がまるで違う。
結局他者を壊す事も、自分が壊される事も怖い彼女はこのマンションの一室に隠れていたらしい。
「マスターがいなくて…他のフィギュアを壊すという目的しかないなら…私も戦うしかないって…でも、それが嫌で怖くて…」
「あー…戦うのが嫌なら戦わなくてもいいんじゃないか?」
「えっ……?」
「俺はモンスターハンターっていうゲームのキャラがモデルなんだけど、このモンハンも狩りゲーだけど色々あるんだよ」
「勿論基本は狩り…モンスターを倒すのが目的なんだけど多人数プレイだと色々変わってな?
積極的に攻撃するハンター、自分は攻撃せずに笛で支援するハンター、採取を楽しむハンター、戦闘自体に参加せずはぎ取りの時だけ合流するハンター」
「同じゲーム内のキャラでも色々なありようがあってな…なら、この場にいるフィギュアも色々あって当然だ。
非戦闘型が戦ってもいいし、戦闘型が戦闘を避けてもいいし、殺しあいに乗ってもいいし、乗らなくてもいい、マスターのいない武装神姫がマスター以外の命令を聞かないのもありだろ」
「い、いいんですか…?」
「そもそも武装神姫はマスターの言う事を聞くんだろ?なら、同じフィギュアが殺し合えって言ってくるのなんか無視して当然だ。相手はマスターじゃないんだからな」
「それはそうですけど…でも…」
「そういや、さっき武装があるけど戦いたくないって子と出会ってな。もしかして気が合うんじゃないか?よかったら紹介するぜ」
ハンターは既に紹介する気らしく部屋の出口に向かっていくと、アーンヴァルが慌ててそれを追いかけた。
「あ、あの、本当に私は殺しあいをしなくても…戦わなくていいんですか?」
「いいんじゃないか?ただ、他の奴は襲ってくるかもしれないし、いい装備持ってるのに寄生は他のハンターから嫌われるけど」
「うっ…ど、どっちなんですか!」
悪態をつきながらも、ハンターと出会ったおかげで少し気が楽になった事にアーンヴァルは気づいた。
-
−−−−−−
「おっ、こっちだこっち。MS少女ユニコーンガンダム…中の子が雪菜っていう子でな。見た目は美少女+メカ武装だから武装神姫と近いな」
「Archetype:sheさんが言ってた"アーマーガールズプロジェクト"ですね」
マンションの廊下を連れ立って歩きながら他愛のない会話をする。
先ほどよりもアーンヴァルの表情が和らいでいるのは気のせいではないだろう。
いい事だ、そう思ったハンターをビームが襲った。
「ガッ…!」
「ハンターさん!!」
ビームが直撃して硬直するハンターを2撃目、3撃目が襲う。
4回目の射撃が当たる前にようやく大剣『炎剣リオレウス』を呼び出し頭部とCSCのある胸部をガードする。
「くそっ、レウス装備じゃなきゃここで1乙してたぞ!」
胴体部分に焦げ後が残るが、設定再現によるリオレウス装備の火耐性によりビームによるダメージはさほど受けていない。
ハンターは襲撃者を確認するが予想外の相手だった。
「雪菜!?」
視線の先でビームマグナムを構えているのは初めに出会ったフィギュア、MS少女ユニコーンガンダムだった。
ただ、ハンターと出会ったときと違い頭部の角は展開し、各部アーマーもサイコフレームの輝きを再現したデストロイモードとなっている。
「あの子がさっき言っていた雪菜さん…でも、ハンターさんの話では戦いたくないフィギュアだって」
「出会ったときはそうだったんだが…どうなってんだ。さっきと見た目も違うぞ」
ビームマグナムではハンターに大したダメージを与えられないとわかったユニコーンは武装を変更。
拡張パーツから近接武装を選択し、バーニアを噴射させハンターとアーンヴァルに突撃する。
「やばい、来るぞ…アーンヴァル!悪いけど手伝ってくれ!」
「手伝うって…えっ、で、でも…」
「雪菜の動きを止める!お前が戦いたくないのはわかるが…頼む!」
ハンターは武器を小回りのきく片手剣と盾に変更してユニコーンを迎え撃つ。
アーンヴァルも少し遅れて近接用の武装に変更し応戦する。
-
☆☆☆☆☆☆☆☆
クエスト名:一角獣を狩猟せよ!
メインターゲット:MS少女ユニコーンガンダム
場所:マンション廊下
主なモンスター:なし
報酬:????
☆☆☆☆☆☆☆☆
【深夜/エリアL(マンション3F廊下)】
【ハンター(レウス装備)@リボルテック】
【電力残量:90%】
【装備:イフリートマロウ&盾】
【所持品:クレイドル、炎剣リオレウス、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:武器を集める。
1:MS少女ユニコーンガンダムを止める。
2:アーンヴァルMk.2とMS少女ユニコーンガンダムを会話させたい。
【アーンヴァルMk.2@武装神姫】
【電力残量:90%】
【装備:背部ユニット、脚部ユニット、ライトセーバー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:損傷無し。モードペガサス】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いはしたくない。
1:MS少女ユニコーンガンダムを止める。
2:現状はハンターに同行する。
【MS少女ユニコーンガンダム@AGP】
【電力残量:80%】
【装備:ダブルハーケン(グレンダイザー)@リボルテック】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:損傷無し。デストロイモード】
【思考・行動】
基本方針:目の前のフィギュアを破壊する。
-
「ほう、始まったか」
上階から聞こえる戦闘音を耳にしたアーレスは呟く。
いや、その姿は既にアーレスではなく黄金の鎧を纏った邪悪の化身に変わっている。
聖闘士聖衣神話ジェミニサガ…それも灰色の髪をした頭部、通称悪のサガだ。
「どこまで技が再現できているかの実験だったが、うまくいったようだな」
ユニコーンが突如ハンターとアーンヴァルを襲った原因。
それはサガの技の一つ、幻朧魔皇拳。
原作の聖闘士星矢でレオのアイオリアを洗脳した禁忌の魔拳は、このバトルロワイアルの舞台でも再現されていた。
無論、サガからしたら幻朧魔皇拳など使わずとも2、3人程度なら軽く破壊できる。
だがこの殺しあいの舞台ではフィギュア故の電力消費という問題がつきまとう。
威力は高いが大技だらけの聖闘士聖衣神話では一々戦っていては燃費が悪すぎる。
そこでユニコーンに『他の誰かを一体壊すまで止まらない』という幻朧魔皇拳を使ったのだ。
これなら自分の消耗は抑えた状態で他の参加者を減らせる。
欲を言えば永続的に洗脳したかったが、制限がかかっていて正気に戻るまでの破壊数は一体にしかできなかった。
「破壊してもその逆でもいいが、せいぜいこのサガの役に立つのだな…可能性の獣よ」
女神に反逆した邪悪の化身は己の起こした戦闘を見ることなくその場を後にした。
自分がこの殺しあいの頂点に立ち、原作のサガの成し得なかった力による支配を行う為に。
【深夜/エリアL(マンション1F廊下)】
【双子座のサガ@聖闘士聖衣神話】
【電力残量:95%】
【装備:双子座の黄金聖衣】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(教皇アーレス衣装、ナイフ)、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:損傷無し】
【思考・行動】
基本方針:殺しあいの頂点に立つ
1:しばらくは戦闘を避ける
【備考】基本人格は悪のサガです。善のサガの人格があるかは不明です。また、セット内容の教皇アーレスの姿になれます。
幻朧魔皇拳には制限があり、非戦闘状態の無防備な相手にしか効きません。
※MS少女ユニコーンガンダム@AGPにかけられた洗脳は「目の前で誰かが機能停止する」事によって解けます。
-
投下終了です。
名簿も埋まって2話目の予約が入ったキャラも出てきて盛り上がってきましたね
-
ロジャー=スミス@figma、初音ミク@figma、投下します。
-
総合自律戦闘実験"BATTLE ROYALE"、その実験会場。
人間にとって見ればものの数十分で移動が可能な狭い……だが盤上の彼らにとってはあまりにも広大なフィールド。
便宜上、そのフィールドを5×5の25ブロックに分割し、左上から順番にアルファベットを振っていく。
するとPブロックとQブロックにまたがって、とある施設があるのがわかるだろう。
喫茶店。
人間にとっては馴染み深い施設であり、一時の休息を提供する施設だ。
『Ahnenerbe』という看板を掲げられたその喫茶店は、外観から受ける印象よりも広々とした内部に、品の良い椅子やテーブル、観葉植物がバランスよく配置されている。
それらが天井のスピーカーから流れる心地よいピアノの音色、暖色灯の暖かい光と合わさり、どこか幻想的な空間を作り上げていた。
そんな瀟洒な空間の中、店の奥側の席に腰掛ける男が一人いる。
腰掛けると言っても男の全長は15cmあまりであり、椅子ではなく卓上のメニュー表に体を預ける形で、だが。
その男の出で立ちは黒い髪に黒手袋、そして漆黒のスーツ。
ある種病的なまでにモノクロームで統一された姿は、落ち着いた雰囲気の店内に程よく溶け込んでいた。
「やれやれ……とんだことになってしまったな」
そう零すのはfigmaナンバリング EX-007「ロジャー=スミス」である。
彼はこの"実験"とやらが開始してすぐ、身を隠すためにこの喫茶店を選択した。
その理由は2つ。まず屋外の様子が確認しやすいこと。そして同時に屋外からは見えにくいこと。
一見矛盾する2つの条件だが、この喫茶店は仕切りの位置や観葉植物によってその条件を満たしていた。
-
想定外のこととしては店内に音楽がかかっていたことだが、逆に考えれば多少自分が物音を立てたところで音楽に紛れるということでもある。
それに、何よりピアノは嫌いではない。
「しかしこれで落ち着いて考えをまとめることができるな……」
メニュー表に体重をかけ、ロジャーは深い思索にふける。
意識を向ける先は勿論、今後の行動方針だ。
まず考えるのは最も頭を使わない選択肢。
――あのArchetype:sheとやらに従い、積極的に実験に参加するか?
バカバカしい。ありえない。
それは理性あるものの取るべき行動ではない。
むしろそのような獣のような行動を、ロジャーは嫌悪する。
――ならば真っ向を切って反逆するか?
残念ながらそれは極めて困難だと言わざるをえない。
このふざけた実験とやらに怒りを覚えないかと言われれば勿論怒っている。
自由を束縛されることや支配を受けること……それは自分が最も嫌う行為だ。
だが相手は神や仏といった曖昧な代物ではない。
自分たち人形(フィギュア)にとっては文字通りの造物主なのだ。
もしこちらが反旗を翻したとしても、何らかの手段で電源を切ってしまえばいい。
電力可動のフィギュアである以上、バッテリーが切れてしまえばそれまでだ。
……で、あればどうするか。
このまま沈黙し、殉教者のごとく機能停止を受け入れるか?
否、"彼"には取るべき道がある。
帰順でも反逆でもない第三の道。ロジャー=スミスの代名詞。
そう、相手が知性を持っているなら、交渉(ネゴシエイト)する価値は十分にある。
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(それにこれは……ただの希望的観測というわけでもない)
そう考える根拠は開始前に受けた説明にある。
あの素体は、これを"特殊状況自律総合戦闘実験"だと言っていた。
実験とは経過を観察し、仮説を検証するために行われる作業のことを指す。
つまりそこには何らかの仮説――目的があるのだ。
そしてあの素体は『多種多様なアクションフィギュアによる総合的な戦闘実験データ』の収集が目的だと言っていた。
だが、それではおかしい。それでは筋が通らない。
もしあの人形が言うとおりの目的ならば、何故ここに『ロジャー=スミス』が呼ばれたのだ。
ロジャー=スミス……TVアニメ・THE ビッグオーの主人公。
パラダイムシティの腕利きの交渉者(ネゴシエイター)。
なるほど、職業柄荒事にも慣れているし、アンドロイドのドロシーを抱えるなど人並み外れた怪力を持っている描写もある。
……だが逆に言えばその程度なのだ。
空を飛べるでもない。特殊な武器を持つわけでもない。腕から怪光線を出せるわけでもない。
実際ただ戦闘能力を競うだけならば自分ではなく……例えばBIG-Oやそれに準ずるものを用意すればいいはずなのだ。
にも関わらず、わざわざ"私"が呼ばれた……そこには恐らく何らかの意図があるはずだ。
「……だが、それを決定づけるにはあまりにも情報が少なすぎる、か」
腕時計の針を確かめる。
開始してからまだものの数分しか経過していない。
この実験場に自分以外の誰がいるのかも明らかになっていない状況で結論を出すのは性急に過ぎるというものだ。
彼らとつながる糸は細く、頼りない。
そもそもあの無貌のヒトガタが真実を告げているという保証はない。
あるいは造物主の戯れに戦闘能力に劣る自分が放り込まれただけかもしれない。
それに万が一交渉の場に立てたとしても、『人形の分際』と断じられ、交渉するまでもなく終わってしまうかもしれない。
だが、それでも、"私"が進むべき道はこれしかない。
-
「そうなると当面は情報収集、か。
私以外に実験に参加させられた者たちの傾向なども見ることができればよいのだが……」
そう結論づけ、行動へ移そうとしたタイミングで店内に流れる曲が丁度途切れる。
「ん?」
だがそこで彼の聴覚素子はかすかなノイズを捉えた。
店内に響いていた音楽が途切れた瞬間、バックヤード側に別の音を感じ取ったのだ。
身を翻し、厨房のあるカウンター奥へと向かう。
――聞こえる。
音のする方向へと視線を向ければ、そこには二階の――恐らく居住スペースへと続く階段が見えた。
そして耳をそばだててみると、ある特徴があることをロジャーは理解する。
「演奏――いや、これは……歌か?」
聞こえてきたのはシンセサイザーによく似た電子の音色。
最初はプレーヤーか何かで音楽を流しているだけかと思った。
だが音程やリズムの切り方に自然さというか、何らかの意思を感じたのだ。
この会場でそんな意志を持つ存在……それは自分のような実験の参加者に他ならない。
だが、それでは疑問が残る。
何故こんな誰でも危険と分かる状況で歌っているのか?
まるっきり相手の意図が読めない。
警戒するに越したことはないだろう。
転送可能な拡張パーツを確認する。
その中に何か護身に役立つようなものは……あった。
-
拡張パーツ、トンプソン・コンテンダー。
figma衛宮切嗣に付属する拡張パーツ。
ノンフィクションにも存在する武器ながら、高い殺傷力を持ち多少の装甲なら貫通することができるだろう。
言うまでもなく護身用としては十分すぎる武器だ。
「いや、……これは使えないな。少なくとも、私には」
だが、彼はそれを使うこと良しとしない。
何故ならば銃を使うのは"ロジャー=スミス"の流儀ではないからだ。
たしかに私は彼本人ではない……だが一方で確かに彼の写し身でもあるのだ。
であれば最大限、彼の流儀には従うべきだろう。
でなければ我々は誰でもない、それこそ顔のない素体(アーキタイプ)と代わりはしないのだから。
幸い同一スケールであれば割りと上背のある方だ。
多少の暴力沙汰になってもなんとかなるだろう。
息を潜め、身を屈めながら階段を登り、歌の出処へと接近する。
階段を登り切ったところで、壁からわずかに身を乗り出すと、ドアがわずかに開いた一室が見える。
どうやらそこが音の出処のようだ。
(まったく……なんという不用心さだ)
今がどんな状況がわかっているのか……
声の主に呆れ返りながら、隙間から中を覗き込む。
-
そこには一人の歌姫(ディーヴァ)がいた。
-
よく通る、透き通った声。
最初は電子音だと思った。
だが、確かにこれは"歌"だ。
感情の込められた、意思の込められた歌。
そして何よりロジャーの視線を奪ったのはその表情だ。
彼女は歌いながら、ただただ楽しそうに、純粋な笑みを浮かべている。
この実験場には最もふさわしくない表情だ――だがフィギュアとしては最もふさわしい表情かもしれない。
人を楽しませる、親しみを沸かせる表情……それが笑顔なのだ。
緊張していた体から力を抜く。
あの表情を見て『何かを企んでいる』と判断するものはいないだろう。
それに、自分自身も少し肩に力が入りすぎていたかもしれない。
交渉に必要なのは緊張とリラックスのバランスだ。
どちらに傾いても最適な結果を作り出すことはできない。
余裕ある行動こそが、最良の結果を生むのだ。
数分後、歌が終わる。
ロジャーはそのタイミングを見計らって拍手を送った。
「えっ? ええっ?」
その顔がこちらを向く。
警戒心とはほど遠い、無邪気な、ちょっと驚いたような表情。
それに釣られるようにロジャーの顔にも笑みが浮かぶ。
「素晴らしい歌声だね、歌姫(ディーヴァ)。良いものを聴かせてもらったよ」
「そ、そう? えへへ……どういたしまして」
「さて、自己紹介をしておこう。私の名はロジャー=スミス。
この実験場とやらに必要な仕事……交渉(ネゴシエイト)を生業としているものだ」
-
弾けるような笑顔で緑の歌姫は微笑んだ。
「そっか、じゃあ私も自己紹介をしなくちゃね!
はじめまして、私、初音ミク! ……よろしくね!」
【ロジャー=スミス@figma】
【電力残量:95%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、トンプソン・コンテンダー@衛宮切嗣、拡張パーツ0〜1(確認済)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:実験の主催者と交渉する
1:とにかく情報収集
【初音ミク@figma】
【電力残量:95%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ1〜2(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:???
1:???
※ 外見は通常の初音ミク(figmaナンバリング014)です。
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以上で投下終了です。
というか調べたらfigmaミクさん11個もバージョン違いあるんですね……
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>>153
投下乙です。
しろにーが安定したと思ったらサガてめえ!
ハンターさんの説明に地雷ハンターが混ざっていて吹きました。
近くにいるウッディやべえ。
>>163
こちらも投下乙です。
ミクさんバージョンは本当に多いですよね。
しかしロジャーはfigmaになってもアンドロイドに縁がある。
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>>163
あ、あと現在地が記入されていませんのであると助かるかと
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名簿更新です
《 暫定名簿 》 ◎……登場済み、○……初期枠(未登場)、△……自由枠(登場予定)、●……機能停止
【武装神姫】4/5
◎アーンヴァルMk.2/◎ストラーフMk.2/●エウクランテ/◎フブキ弐型/△マリーセレス
【リボルテック】11/11
○新ゲッター1/○ジェフティ/◎プレデター/○阿修羅/◎レヴィ/
◎ウッディ/△スネーク(PW版)/△伊達政宗/△ゲッターアーク/△骸骨剣士
◎ハンター(レウス装備)
【figma】11/12
◎初音ミク/○テッカマンブレード/◎如月千早/○島風/◎沙英/◎巴マミ/△チャリオット
●阿良々木月火/△タイムスクープハンター沢嶋雄一/◎ロジャー・スミス/△Archetype She
△朝比奈みくる
【S.H.シリーズ】11/11
◎仮面ライダーフォーゼ/○ワイルドタイガー/◎ゴジラ1995/○アリサ・イニーチナ・アミエーラ(GE2)/◎デストロイア(完全体)
◎仮面ライダーディケイド/◎仮面ライダーオーズ/△仮面ライダーシン/△セーラーマーキュリー
△サジタリウス・ゾディアーツ/△カメラ男
【ROBOT魂】7/8
○ダブルオーライザー/○ターンX/○エヴァンゲリオン初号機/○ドラえもん/●コダールi
◎ジュド(ザンダクロス)/◎ZZガンダム/△タウバーン
【スーパーロボット超合金】4/5
◎マジンカイザー/◎天のゼオライマー/●ガオガイガー/○ガンバスター/△マジンガーZ
【アーマーガールズプロジェクト】4/4
◎MS少女ユニコーンガンダム/○MS少女バンシィ/○セシリア・オルコット/○宮藤芳佳(震電装備)
【D-Arts】3/3
◎VAVA/◎ロックマン/△テリー・ボガード
【装着変身】1/1
◎仮面ライダーブレイド
【ULTRA-ACT】1/1
◎ウルトラマンタロウ
【聖闘士聖衣神話】1/1
◎双子座のサガ
総勢62体
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期限 5/6(火)
◆S8pgx99zVsさん……スネーク(MGSPW)@リボルテック/チャリオット(TVver.)@figma
◆lxf1h6/iIsさん……タイムスクープハンター沢嶋雄一@figma/島風@figma/伊達政宗@リボルテック
5/7(水)
◆ACT//GA03c(>>1)さん……ゲッターアーク@リボルテック/仮面ライダーシン@S.H.シリーズ
5/10(土)
◆NXFS1YVsDcさん……マジンガーZ@スーパーロボット超合金/セーラーマーキュリー@S.H.シリーズ/マジンカイザー@スーパーロボット超合金
5/11(日)
◆DzuE0VRDl6さん……ダブルオーライザー@ROBOT魂/骸骨剣士@リボルテック
◆3LstcLefvYさん……テリー・ボガード@D-Arts/archetype:she@Figma/カメラ男@S.H.シリーズ
◆HUcbVDnc1cさん……朝比奈みくる@figma/エヴァンゲリオン初号機@ROBOT魂
5/12(月)
◆2Y1mqYSsQ.さん……マリーセレス@武装神姫/ドラえもん@ROBOT魂/巴マミ@figma
◆7Ju4MZPjioさん……ターンX@ROBOT魂/タウバーン@ROBOT魂
◆qp1M9UH9gwさん……仮面ライダーディケイド@S.H.シリーズ/仮面ライダーブレイド@装着変身/宮藤芳佳(震電装備)@AGP/サジタリウス・ゾディアーツ@S.H.シリーズ
未登場……新ゲッター1@リボルテック/ジェフティ@リボルテック/テッカマンブレード@figma/
ガンバスター@スーパーロボット超合金/MS少女バンシィ@AGP/セシリア・オルコット@AGP
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……あれ、もしかしてArchetype Sheを抜かしても1体オーバーしてる?
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>>138の表からセーラーマーキュリーとマジンガーZが抜けてるのが原因かこれ?
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枠オーバー……だと……Archetype:sheを抜かした時点でなんとかなると思っていた私のミスですね……。
とはいえ、後からミスが発覚したから予約を取りやめてくれとは、スレ主として言いたくはない。
分かりました。私の予約している回で、なんとか辻褄を合わせられるように頑張ってみましょう。
そして今後予約分の投下が滞りなく行われる限り、自由枠の使用はここまでとさせていただきます。
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すいません、急用で投下できそうなのが今晩になってしまいそうです。
できれば、猶予をもらいたいのですがよろしいでしょうか……?
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勝手にマップも更新しておきました
ttp://or2.mobi/index.php?mode=image&file=72767.png
ロジャーとミクは◆QotHY4VA.Mさんの修正があり次第変更します
こうしてみると西にゴジラ東にサガ、南に冥王とウッディがすごく…危険です…
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>>171
報告ありがとうございます。了解しました。
事情がおありなら仕方ないですし、今日中に投下していただけたら受け付けますよ。
それと、これを機に考えたのですが、予約期限を「一週間後の日付の深夜12時まで」にしたいと思います。
厳密に7日=168時間を厳守すると管理が大変ですし、投下予定の時間帯から逆算して予約しないといけないのは気軽さに欠けますし。
そういうわけで期限は一律12時までとさせていただきたいのですが、いかがでしょう? ご意見あれば頂けると助かります。
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>>163
投下乙です
ロジャーは人形の身でも交渉を試みるのはさすが
>>173
私としては深夜12までになると助かるので異論なしです
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>>174
ご意見ありがとうございます。
この改定は>>1としての負担軽減の意味合いも強かったのですが、そう言っていただけると幸いです。
出来ればもう少し意見を募りたくもありますが、ちょうど本日期限の方もいらっしゃいますので、
これにて予約期限は「予約した日の一週間後、深夜12時まで」とさせていただきます。
現時点で入っている予約分からの適用です。ご協力お願いいたします。
>>172
名簿・地図更新ありがとうございます! 大いに助かっております!
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私も特に問題無いと思います
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投下させていただきます。
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刀を鳥に加へて鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。
聲ある者は幸福也、
叫ぶ者は幸福也、
泣得るものは幸福也、
今の所謂詩人は幸福也。
――斉藤緑雨 『半文銭』 より
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
これからなにかが始まることを予感させる、緊張をはらんだ夜だった。
不穏な物音が響くわけでもなく、空に暗雲が立ち込めているわけでもなく、風もなければ雨が降っているということもない。
静かで、ひどく静か過ぎるからこそ不穏で、その夜はなにかを予感させていた。
浮かぶ月の姿だけが白い真っ黒な水面。わずかな波も立っていないそこに浮かび上がってくるなにかの姿がある。
突き出した片手が壁面を掴むともう片手が水面から出てきてまた壁を掴む。
繰り返すと男の姿がそこに現れた。
漆黒の、筋肉を浮かび上がらせたような戦闘スーツに身を包む男はそのまま壁を登りきると、コンクリートの床の上を静かに横切っていく。
そして鉄骨で組まれた建造物の陰に入り込むと、そこで身を屈め言葉を口にした――
――「またせたな」、と。
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
-
「こちらスネーク。予定通りのポイントに到着した」
『さすがだな。ブランク(記憶に空白)があるとは思えん』
スネークと名乗る戦闘スーツの男の言葉に誰かが言葉を返す。しかし夜闇の中に彼以外の姿は見えない。
姿を隠しているのだろうか? いや、そうではなくこの声は通信によってスネークをサポートする彼の相棒、カズヒラー・ミラーのものだった。
彼は現在、彼らの拠点となるマザー・ベースより無線を通じてスネークに言葉を送っている……というのは実は正しくない。
実際は、そういう“設定”に基づきスネークの脳内で再生される副人格、サポートAIに過ぎない。
そう、彼は人間ではなかった。“オリジナル”ではなかった。彼は“人形(フィギュア)”だった。
「現在位置は【エリア:M】。小学校に敷設された学童用プール、そのプールサイド、収納棚の影にいる」
スネークは影の中から彼が身を寄せる棚を見上げる。金属の棒で組み上げられたその棚にいくつものビート板が重なって収められているのが見えた。
『では、ミッションを開始してくれ……と言いたいところだがスネーク』
カズヒラの声の中に疑念があることを察するとスネークは「わかっている」と呟いた。
「この“任務(ミッション)”が正規のものであるのか、あるいは不正規のものでしかないのか。それを気にしているんだろう?」
『ああ、俺達にはここに来る以前の記憶(メモリー)がない。そしてマスターによる承認もない。これは明らかに異常(イレギュラー)な状態だ』
「確かにお前の言いたいことはわかる。だが、俺達が所詮戦場の犬でしかない以上、できることは多くはない。それにだ――」
『それに?』
「俺達は“人形(フィギュア)”でしかない」
スネークは影の中で表情を見せず深く息を吐いた。そして、重く言葉を吐く。
「人形遊びは変わった。
古来、人がなにかを形作り、そこに人の姿を模してより人形はこの世界のあらゆる場所にあった」
『人形は時に象徴でありメタファーでもあった』
「そして、故にそれは人格を投影され、誰かにとっては友人であり、遊び相手でもあった。人は人形で、人形と遊んできた」
『……それは変わったと?』
「遥か昔の人間は石を削って人形を作った。あるいは土を焼いて、そして時が経れば人形は金属で、プラスチックで、樹脂で作られるようになった。
動かせることのなかった人形に間接が生まれ、デティールも時代を経るごとに細やかさを増していった」
『近代においては工業力の上昇や需要、アイデアにより人形は数多く量産されるようになった。俺達だって、その中の一体だ』
「ああ、そして人形遊びはある一点で大きくその様相を変えることになる」
「武装……神姫……」
武装神姫。それはこれまでの人形(フィギュア)と同じようでいて全く違うものであり、それ以降のフィギュアの有様を一変させたものであった。
「西暦2030年代、なんら一切の破滅(カタストロフィー)を迎えなかった人類はその有り余る技術をフィギュアに向けた」
『フィギュアにロボットと同じ動力がもたらされ自立可動が可能になった』
「そして、俺達人形に“心”を埋め込んだ」
『だから俺達は考えることができる。自らの意思で判断することができる……人間にとってのよい友人を演じることができる』
「だが、俺達にもたらされた自立性はそのためだけのものではなかった!」
『……俺達は戦うことができる。いや、戦わされる』
「それはコロッセオの奴隷と変わらない」
-
スネークの言葉に、うすら寒い沈黙が流れる。次に言葉を発したのはカズヒラの方だった。
『なるほど。このミッションもその一貫にすぎないというわけか』
「ああ、どのような状況であれ、俺達戦闘力を持たされたフィギュアの存在意義は戦うことにしかない。そういう風に生み出されている。
そして人間は争い競わせることを好む。誰だって自分のフィギュアが最強だと思いたい。そう願う」
『……とすると、これは“彼女(She)”の言い分通り、俺達の性能を測るコンベンションの可能性もあると?』
「酔狂な個人の主催でないとすればそれが一番可能性が高いだろうな。
複数の戦闘フィギュアをレギュレーションの緩い環境下で自由に戦わせる……そこで得られるデータはこれからの開発に大きく意味を持つはずだ」
『このミッションは俺達……いや、ある固体、もしくはフィギュア全体に対するテストであり、俺達は試験体(サンプル)にすぎない。
しかしだとすれば、スネーク。このミッションが終わった後、俺達はどうなる? 勝ち残ったとしてそこに未来はあるのか?』
「……わからん。実験が終われば破棄されるかもしれない。メモリをリセットして次の実験に借り出されるかもしれない」
『それじゃあ、戦うことに意味なんかないんじゃないのか?』
「俺達、戦争の犬が戦うことに元から意味なんかない。だが……、俺達に意思があるのなら、俺はただ自分に“忠”を尽くす」
『自分に……忠を、尽くす』
再び沈黙。その言葉は彼らにとってあまりにも大きな意味を持っていた。そして、そんな沈黙を吹き消すかのようにスネークはおどけるように言う。
「ロボット工学三原則の第三条にもある。ロボットは自己を守らなければならない、とな」
『ふっ、確かに。俺達には未来を悲観し自壊を試みる権利などは最初からなかった』
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
その時、スネークの耳になにかの音が届いた。固いものを削るような、なにかが高速で回転しているとわかる甲高い音だった。
鉄の柱から顔だけを覗かせるとスネークはその音の正体を探る。
何者かはすぐに見つけることができた。プールサイドを走る“それ”を見て、スネークは呆然と呟く。
「……メタル……ギア?」
スネークの目に映ったのはまさしく金属の歯車のようなものだった。人形大ほどもあるそれが彼が目にしている前を滑るように進んでいる。
あまりにも奇妙な光景。しかし、その正体はすぐに判明した。
歯車――よく見れば巨大な車輪――がくるりと方向を変えれば、それがその巨大な車輪を片手に持った少女のフィギュアだとわかったからだ。
スネークは手元に拳銃を取り出すと、その少女に照準を合わせ、仔細に観察する。
まず目につくのは片手に持った巨大な車輪だが、その次に目についたのは彼女の足元だった。そして、音の正体も同時に判明する。
彼女の両足首から下もまた車輪になっていた。それを回転させることで彼女は床の上を走っているのだ。
あちらからは気づいていないのか、彼女はスネークとは反対の方へと通り過ぎてゆこうとする。
その背中には月光を反射して輝く蜂蜜色の軽くうねった髪が揺れていた。スネークはそこにある少女の姿を思い出す。甘い記憶ではなかった。
少女はそのまま進み、拳銃の射程距離外へと出てしまうとそのままスネークの前から姿を消した。
スネークは溜息をひとつ吐くと、物陰の中へと戻る。
「どうやら、俺と同じくこのミッションに参加させられた人形だったようだな。コロッセオの戦車を思い出させる出で立ちだったが」
『ああ、フィギュアの中ではメジャーな少女型だ。もしかすると武装神姫……いや、その場合だと飛行しているだろうから別のフィギュアか』
「どちらにせよ敵性の存在であることは変わりない」
『彼女を追うのか?』
カズヒラの言葉にスネークはゆるゆると首を振る。
「あれがどれだけのスピードを出せるかはわからんが、おそらく走って追いつくのは難しいだろう」
『もし全力疾走などをすれば、気配を晒し他の敵に見つかってしまう可能性も高い』
「ああ。それに相手の実力も未知数だ。あの巨大な車輪。盾として構えられればこちらの攻撃が通らない可能性も高い」
『確かに……、対物ライフルなんかが欲しくなるような分厚さだったな。……そういえばスネーク』
「わかってる」
短く言うとスネークは自分の所持している装備品の確認を始めた。まずその手に握られるのは先ほども構えていた拳銃だ。
-
『Mk.22 Mod.0――通称ハッシュパピーだな。
オーソドックスな自動拳銃だが、こちらで麻酔銃として改造してある。スネークとしても使い慣れたものだろう』
「ああ、この麻酔銃に助けられたことは一度や二度じゃない。それにサイレンサーもついている」
『改めて説明するが、それから発射される麻酔弾は相手にヒットすると麻酔プログラムを流し込み、一時的にスリープ状態にさせることができる。
だがここで問題なのはヒットさせる箇所だ。麻酔プログラムはコアに達しなければ効果を発揮しない。
頭部や胸部であれば即座に相手をスリープさせられるが、手足だとプログラムが進行するまでに時間がかかってしまう。注意してくれ』
「狙うなら、頭か胸か……だな」
『それとスリープ状態はささいな衝撃でも解除される。眠らせたからと言って油断しすぎるなよ』
「心得ているさ」
『最後に、その銃には強力なサイレンサーがついている。故に隠密用の武器として重宝するわけだが、その効果も無限ではない』
「ああ、サイレンサーは使えば使うほど劣化していく。何百発撃っても永遠に効果を発揮し続けるなんてのはありえない」
『目安としてはそうだな……、装弾数が8だから。24発。つまり3回リロードしたらサイレンサーの効果はなくなると考えてくれ』
「了解だ。これは慎重に使っていこう」
拳銃を仕舞うと、スネークは次にアサルトライフを取り出した。両手で構え適当なところに狙いをつけてその感触を確かめる。
『M16A1。米軍で正式採用されている小口径の突撃銃だな。こちらは主に陸軍で用いられていたバージョンだ。
後のバージョンと比べると劣る部分もあるが、突撃銃としてはかなり有能だ。
対人であれば十分な威力を発揮するし、弾丸が小さい分携行量も増え……いや、これは俺達の場合には関係ないか』
「そうだな。装備を任意の空間に用意しておけば後は転送するだけですむ。
今回はどの装備を持っていくかと頭を悩ませる必要もないし、弾丸の補充も容易だ」
『とはいえ転送には本体のバッテリーを消耗する。出来る限り控えるほうが望ましい。
でだ。M16A1は敵を排除するにあたって頼もしいパートナーになるだろう。おおよそ人間タイプのフィギュアならこれで黙らせることができるはずだ』
「コアに命中させれば一発。そうでなくとも5,6発も打ち込めば十分だろう。だが……」
『先ほどの車輪を持った少女のことか?』
「彼女でないにしろ防御用のパーツを持ったフィギュアは多くいるだろう。盾、鎧……ロボット型も参加してるとみたほうがいい」
『そう考えると、こういった常識の範疇に収まる兵器では厳しくもあるか……』
「だが、そういった連中をその常識の範疇に収まる兵器で倒してきたのが俺達でもある。やりようはあるさ」
不敵に笑うとスネークはアサルトライフルを収納し、次に一本のナイフのようなものを取り出す。
『特製のスタンロッドだな。高電圧の電流を流すことで相手のブレーカーを強制的に落とし再起動までの間、確実に無力化できる』
「ああ、俺達と同じフィギュアである以上、どんな相手でもこれは有効なはずだ」
『ただし、麻酔銃に比べると接近しなくてはならない分リスクを生じる。
それに使用する電流はこちらの本体から供給されるものだ。無闇に振り回せば先にこちらが電力不足で倒れかねない』
「確かにその点は気をつけておかないとな」
次にスネークが取り出したものは人形がすっぽりと入るような大きな“箱”だった。
『スネーク……それは』
「なんだ。見てわからないのか? ダンボール箱だ。もっとも、これはレプリカだからダンボール用紙ではなく俺達と同じく樹脂製だがな」
『いや、それはいいが……』
「なんだ? これも立派な装備じゃないか。被れば身を隠し敵をやり過ごすことができる。
それにこれは樹脂製だからダンボールよりも頑丈だ。さっきも話に出たが、これだって立派な身を守る防具になりえる。
なにより被っていれば心が落ち着く。まるで母のお腹の中にいる時のように……」
『ブリスターパックの中で新しいマスターを待つ時のように?』
「あれは嫌いだ。落ち着かない」
『…………そうか』
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
-
「ここまでは、元々俺に付属していたアイテムなわけだが……」
スネークの目の前には一枚の彼の身長とほぼ変わらない大きさの板が置かれている。参加者共通のパーツであるクレイドルだ。
『クレイドル。俺達のベッドだな。この上で横になれば無線充電によりじょじょに体内のバッテリーが回復していく。
だが、文字通りの寝床であるこの上では俺達は意識を失ってしまう。寝てしまうんだな。
その間は無防備になる。寝るならできるだけ敵に見つからない俺達にとっての避難所(ヘイブン)を見つけないといけないだろう』
「ああ、俺達にはそれが必要だ」
スネークは掌の上に新しいアイテムを転送する。今度は小さな箱だった。
『煙草を持ち込んだのかスネーク?』
「俺のものじゃない。どうやら向こうが気を利かせてくれたらしい。……どうせなら紙巻でなく葉巻だとよかったんだがな」
『銘柄は……ジタン・カポラル。スネークは知っているのか?』
「煙草好きの中じゃよく名の通った逸品だ。
一般的な紙巻と比べて太さがあり、フィルターも短い。なにより葉の味が濃く……つまり、おおよそ葉巻に近いってことだ。
そういう意味では俺にとっても悪くないものということなる」
『なるほど……だが、煙草は健康を害する恐れがある。吸いすぎには気をつけてくれよ』
「生きて帰れたらそれも考えるさ」
そして、最後のアイテムを前にスネークとカズヒラは唖然とすることとなった。
「これは……ミサイル?」
『ミサイルとしか言いようがないな……』
目の前にあるのはスネークの身長ほどもあるいかにもといった感じミサイルだった。
「大型N2ミサイル。これがこのミサイルの名前か」
『聞いたことがないな。おそらくはフィクションの中で登場したものがモチーフなんだろう』
「それをわざわざアイテム化したということは、それ相応の威力があると期待していいわけか? だとすれば強力な武器だが……」
『これには発射台も制御装置もついていない。つまり……』
「つまり、直接相手や目標に投げつけるか、自分で先端の信管をぶっ叩いて起爆させなくちゃいけないということだ」
『……なので、使用者自身が危険にさらされてしまう』
「どこかに発射台でもあればいいんだが……、それもあまり期待できない以上、特攻くらいにしか使い道がないかもしれん。お前の好きなカミカゼだ」
『いや、俺は別に自爆が好きなわけじゃない。確かにそれを試みたことはあるが……そうだ!』
「どうしたカズ? なにか名案でも?」
『ああ、距離が必要なら作ればいい。横に逃げるのが間に合いそうもないなら縦で考えればいい』
「まさか俺に飛べとでも?」
『いいや、その逆さ。このミサイルを高いところから下に向かって投げればいい。高ければ高いほど俺達の身は爆風より遠ざかることになる』
「なるほど……、そいつはいいアイデアだ。もっとも敵が真下にいることが条件となるが、条件が揃えばこれが一撃必殺の武器になるだろう」
『俺達がミサイルを投下する側に回るというのはやや複雑な気分だがな』
「…………まったくだ」
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
-
『それで、これからどう動く?』
スネークはアイテムを全て収納すると物陰の中で立ち上がり、もう一度顔を出して周囲に何者かがいないか確かめた。
「金メダルに興味はないが、途中で脱落しても構わないというほど悟ってもいない。全てのフィギュアを無力化し俺が最強の兵士であることを証明するだけだ」
『例えその先に未来が見えないとしてもか?』
「そうだとしても、俺はその時その時の任務に、そして自分に忠を尽くすことしかできない」
プールの水面は変わらず静かで、白い月だけがぽっかりとそこに浮かんでいる
『では、具体的な話に移ろう。まずはフィールド南西にある商店街へと向かってくれ。
ミサイルはあったが、スネークの装備が心もとないのは変わらない。できればそこでなんらかの使えるものを調達してほしい』
「了解だ。現地調達には慣れている。そしてワンマンオペレーションもな」
拳銃を油断なく構え、スネークは物陰から飛び出す。そして、彼に課せられた任務を開始した。
「これより、“BATTLE ROYALE”作戦を開始する!」
【深夜/エリアM(小学校・プールサイド)】
【スネーク(MGSPW)@リボルテック】
【電力残量:100%】
【装備:Mk.22(麻酔弾x8/8)、スタンロッド】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(M16A1(ライフル弾x30/30)、ダンボール)
:煙草(ルパン三世)@リボルテック、大型N2ミサイル(エヴァンゲリオン零号機・改)@リボルテック】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:ミッション(BATTLE ROYALE)の達成。
1:フィールド南西の商店街へと向かい、そこで物資調達。
2:寝るための安全地帯の確保。
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
プールから離れた少女型のフィギュア――チャリオットは学校のグラウンドをただ一直線に校舎へと向けて走っていた。
土の上に小さな轍を残し、なんら表情の窺えないそれこそ人形のような顔でただ走る。
「ヨミは……渡さない……ヨミは……私のものだ」
彼女の思考の根幹にあるのはマスターから離れない、マスターを離さないという目的意識だけだ。
彼女はマスターをヨミと呼んで、その目的の為だけに行動する。
今、彼女には正式に承認されたマスターはいない。
それでも彼女は行動する。例えマスターの存在がブランクであったとしても。
その空白の為に彼女の“愛”は暴走する。
そして――彼女の世界において、彼女とヨミ以外の全ては排除すべき敵である。
【深夜/エリアS(小学校・校舎前)】
【チャリオット(TVver.)@figma】
【電力残量:100%】
【装備:剣、メアリーの車輪】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マカロンx複数)、拡張パーツx1-2】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:自分以外の全滅。
1:何者かを発見すれば殺す。
-
以上で投下終了です。
-
失礼。投下後にミスを発見したので、>>181のダンボールに関するやりとりの部分を以下のものと差し替えます。
『スネーク……それは』
「なんだ。見てわからないのか? ダンボール箱だ。もっとも、これはレプリカだから実際のダンボール用紙を使っているわけではないがな」
『いや、それはいいが……』
「なにか文句でもあるのか? これも立派な装備じゃないか。被れば身を隠し敵をやり過ごすことができる。
畳めば簡易の盾にだって使えるさ。さっきも話に出たが、これだって俺にとっては立派な身を守る防具になりえるんだ。
それになにより、被っていれば心が落ち着く。まるで生まれる前、母体の中にいた時のように……」
『ブリスターパックの中で新しいマスターを待つ時のように?』
「あれは嫌いだ。落ち着かない」
『…………そうか』
-
投下乙です!
スネークは黙々と乗る側に…まさかのサポートAIカズとは
そしてダンボール
チャリオットはヤンデレ全開過ぎて怖い…
-
大変お待たせしました。投下を開始します
-
人と同じように心を持ち、考え、行動し、人を助ける機械――ロボット。
古くから私達、人間はそれに憧れ、作りたいと願い続けていた。
それは時代が経つにつれ、徐々に形になっていく。
そして、西暦20XX年。
『神姫』という形で、実を結ぶことになる。
神姫は、各々考え、人の傍にあり続け、生きていたという。
その中で、オーナーに従い武装した神姫の事を『武装神姫』といった。
それを垣間見るべく、私は西暦20XX年にタイムワープし、『武装神姫』を含めた『アクションフィギュア』が命を懸けた戦いの事を取材することにした。
歴史に埋もれた名も無き人――人形のことを取材する事が、それこそがタイムスクープ社第二調査部の仕事だ。
――タイムスクープ社。
タイムスクープ社はタイムワープ技術を駆使し、
あらゆる時代にジャーナリストを派遣、
人々の営みを映像で記録し、アーカイブする計画を推し進めている機関である。
-
「……えーアブソリューションポジション、N037W23523E34N32……ポジション確認」
「B4754834年65時85分69秒 西暦変換しますと、20XX年XX月XX日午前0時00分00秒、無事タイムワープ成功しました」
「code666443 これから記録を開始します」
――――沢嶋雄一。
彼はタイムスクープ社から派遣されたジャーナリストである。
あらゆる時代にタイムワープしながら、時空を超えて名も無き人を記録していく――
――――タイムスクープハンターである!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
-
西暦20XX年。
深夜の街を私達は歩いていた。
夜風は冷たく、身震いが起きるほどだ。
いや、寒さだけではなくぴりぴりとした緊張感によるものかもしれない。
それも、その筈である。
私が今居るのは、街中といっても戦場なのである。
武装された、人形。
戦う事が定めの武装神姫達による戦いの場なのだから。
「Hey! なんだ。震えてるのか。武者奮いか! まだまだstartしたばかりだぜ……!」
そう、私に呼びかける眼帯をした武者がいる。
彼もまた、人形であり、此度の戦いに参加する人形である。
――――伊達政宗。
戦国時代に生きた奥州の独眼竜……をモチーフにしたキャラクターであった。
英語を混じりながらも、乱世に抗う龍として、『戦国BASARA』に登場する武将の一人である。
その伊達政宗を人形として、生を与えて、心を持ち行動している、アクションフィギュア。
彼はリボルテックのシリーズの一体だった。
彼もまた戦う為に作られた人形であり、取材対象の一人である
今回の取材対象は、『アクションフィギュア』
西暦20XX年。戦いを宿命付けられた、人形。戦うしかないアクションフィギュアに密着取材をする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
-
「えー……当時の人々にとって、私は時空を超えた存在です。
彼らにとって私は宇宙人のような存在です。彼らに接触する際には細心の注意が必要です。私自身の介在によって、この歴史が変わることも有り得るからです。
彼らに取材を許してもらうためには、特殊な交渉術を用います。それについては極秘事項のためお見せすることは出来ませんが、今回も無事密着取材することに成功しました」
code666443 “アクションフィギュア”その戦う定めとは……!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
-
「アンタ、このpartyで、どう戦うんだ?」
「party……ですか?」
「そうさ、俺達が、自我をかけて、殺しあう。まるで戦だ」
伊達政宗は、私に楽しそうに告げる。
戦う事を宿命付けられたというのに、彼はとても楽しそうである。
支給されたらしい、剣を振るって意気揚々と語りかける。
彼に支給された剣は、ムラマサ・ブラスター。
ROBOT魂、クロスボーンガンダムX1フルクロスが持つムラマサ・ブラスター。
機動戦士ガンダムシリーズに登場するビームサーベルの大型版といえばいい代物だろうか。
ピンク色に光る巨大な剣は、彼に似合っていた。
「けどな、強要されて、戦えってか、Ha! 舐めてんじゃねえ、俺は奥州筆頭、独眼竜伊達政宗だ!」
彼は、伊達政宗は……いや、伊達政宗を模したフィギュアは、力強く宣言している。
まるで、自分は此処にいるぞというように。
自我を肯定するように。
彼は、吼えていた。
「気にいらねぇ。この戦いも、こんなものを押し付ける奴らも」
「なら、何故partyなんですか?」
「決まってるだろう、俺が、そいつらを倒して、天下を取る。俺のやり方で! だからこれは、俺のpartyだ!」
「はい、その姿を取材させていただきます」
「勝手についてくるがいいさ。 俺は俺の戦いをするだけだ」
「まるで、本当の『伊達政宗』のようですね」
そう言う彼は、伊達政宗の人形は紛れも無く、戦国BASARAに登場する伊達政宗そのものだった。
この時代のアクションフィギュアの出来は、身体だけではなく心までそっくりになるらしい。
すると、伊達政宗を模したフィギュアは不思議そうに話す。
「おいおい、なんのjokeだ。あくまで、俺は俺のやり方を通すだけで……」
「はぁ……」
「それに、アンタだって『そう』だろう?」
「……どういうことでしょう?」
伊達政宗の人形は、私に不思議な事を聞いてきた。
どういうことだろうか。
確かに、私は彼らから見ると、宇宙人のように見えるだろう。
ニューロ分子が薄くなっているのだろうか?
「アンタ……『気付いてないのか?』」
「だから、どういうことでしょうか?」
「つまり、アンタがfig………………」
-
その時だった!
ズドンという音が、街中を震わしたのだった!
「Shit! 襲撃か!」
「あっちです!」
「……ちっ、なんだ。girlか! 砲筒をもってやがる」
「あれは……」
私は、その襲撃した少女の姿を見て、一つ心当たりがあった。
にらみ合ってる彼と少女を脇から眺めながら
「本部、こちら沢嶋応答願います」
『はい、タイムナビゲーターの古橋です』
「あっ、『艦隊これくしょん』の島風について、情報もらいたいのですが」
『島風……ですか?」
「はい、アクションフィギュアの島風に遭遇しまして」
『解りました。艦隊これくしょん、島風のfigmaは連装砲ちゃんが三体付属している、figmaです。通称ぜかましともよばれます』
「なるほど……」
『艦隊これくしょんの人気もあってかなり売れたフィギュアみたいですね』
「なるほど、大砲みたいな装備はありますか?」
『ありませんね……大方支給されたものではないでしょうか?」
「解りました……」
『沢嶋さん、どうかされました?』
「いえ、フィギュアの戦いを取材するのは不思議な感じだなと思いまして」
『なるほど……フィギュアとはいえ、戦いですので、気をつけてくださいね」
「解りました。ありがとうございます、取材を続けます」
「解りました、くれぐれも気をつけてください』
やはり、あれはぜかまし……島風らしい。
伊達政宗のフィギュアと島風のフィギュアがにらみ合っていると、
威嚇射撃をして、そのまま
「……ちっ、逃げるつもりか!」
「追いかけますか?」
「当然だ! どういうつもりか聞かなきゃ、気がすまねえ!」
そうやって、私は駆け抜ける伊達政宗のフィギュアを慌てて追う。
どうやら、この取材も中々、アクシデントが多そうである。
続けて、フィギュアたちの戦いを追っていきたいと思う。
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
だが、沢嶋雄一は気付いてない。
自分自身も『アクションフィギュア』という事に……。
彼が、アクションフィギュアではない、不思議。
それが、明かされることは来るのだろうか……?
それは、私にも解らない………………
【深夜/エリアT】
【伊達政宗@リボルテック】
【電力残量:100%】
【装備:(基本パーツ(愛刀・景秀】
【所持品:クレイドルムラマサブラスター@ROBOT魂】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:自分の意志を貫く
1:島風を追う
2:沢嶋になんとなく交渉されて、許した。
【タイムスクープハンター沢嶋雄一@figma】
【電力残量:100%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(タイムスクープ道具)、拡張パーツx1-2】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:アクションフィギュアの取材。
1:政宗を追って取材。
※自分自身がフィギュアである事に気付いていません。
【島風@figma】
【電力残量:100%】
【装備:拡張パーツ(大砲)@不明】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(連装砲ちゃん)、拡張パーツx0-1】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:?????
1:政宗から逃げる
-
投下終了しました。
タイトルが名前欄に入りきれなかったので。
「code666443 “アクションフィギュア”その戦う定めとは……!」
でお願いします。
ぎりぎりになってしまって、すいませんでした。
-
>>
指摘ありがとうございます。
お手数ですが現在地指定を以下のように追加してください。
【深夜/エリアP(喫茶店・2階居住スペース)】
あと今まで書いていなかった感想をまとめてどうぞ!
・イントロダクション―武装神姫・異説―
figma素体の持つ機械的な無機質な不気味さや、デジタル空間的な近未来的な雰囲気をこれでもかと詰めつつ、
文章の中で必要な説明が端的になされており、始まりを告げるにふさわしいSSだったと思います。
個人的に最初の一文
>全高15cmのミクロウォーズ、始まる。
がすごい好きです。
・THE BEGINNING
"如月千早"であって"如月千早"で無い存在であること。
瓶にもたれかかったり、巨大なフィールドであること。
このロワの特徴をこれでもかと詰め込んだ、第一話として完璧なSSだと思います。
勿論お話としても面白く、リボ関節独特のカチカチを気にするプレデターや、シリーズを超えた如月コンビなど注目するところがいっぱいです。
・Battle Of Emperor
マジンカイザー、まさかの神モード参戦。
ただの暴走状態でなく、良心と破壊衝動の間で苦しんでるのがいいですね!
レヴィ、VAVAと殺伐とした雰囲気が実にいいです。
・激突!2つの破壊者
しょっぱなから怪獣VSスーパーロボットという夢の対決。
軍配はデストロイアに上がりましたがそういえば規格外に大きいんでしたねコイツ……w
そんなサイズ差が楽しめるものこのロワらしくて良いと思いました。
・逆襲のザンダクロス
まさかの原作キャラが形を変えて参戦!? それともそう思い込んでるだけ……?
温厚で世俗にまみれたダブルゼータくんとの凸凹コンビの行く末はどうなるやら……w
どちらにしろ彼の前途は割と多難……戦闘用がゴロゴロいますからね、この実験場w
・プロジェクト
ま さ か の リ ョ ナ 機 械 姦。
つらら……ちりもみお版……うっ頭が。
それはそれとしてウッディがかっこいい。
リボウッディは散々ネタにされちゃってますからね……原作準拠な性格の彼がこれからどんな行動をするのか、期待大です。
・Ride The Wind
ダイキャスト製装甲……そういうのもあるのか!
材質の違い、というのはこのロワならではの着眼点で非常に面白かったです。
激しいバトルを繰り広げたため三者三様に消耗済みとなってしまいました。
特にライダー二人はすでに予約が入っているのでどうなるか楽しみです
・タロウの受難
これまたフィギュアならではの「外れやすいパーツ」問題w
こういうのがあると"フィギュアのロワ"なのだというのがわかって楽しいですね!
(タロウにしてみたら取り外しパーツにCSC組み込まれるというとんでもない自体ですがw)
それにしても『今月の再販分で改善されていることを切に願う。』に込められた実感が……w
・炎と赤鳥と正義の味方
原作同様に悲しみを背負ってしまったオーズ。
よりによってアホ毛が残されたのがちょっとシリアスシーンなのにシュールでちょっと笑ってしまいました……w
しかし充電中のバーニングゴジラ……生きる危険物じゃないですかやだー!
デストロイアともどもバトルロイヤルに嵐を呼びそうな存在ですね。
・えれくとりかるこみゅにけーしょん(棒)
わー、フブニーさんエローい。
奇妙な主従コンビが結成されてしまった
余談ですが池原しげと版は当時、攻略の役に立ってくれました。
・教皇からの挑戦状!一角獣を狩猟せよ!
モンハンは未プレイですが、まるでクエストのような展開。
獣をモチーフとしたロボットが元ネタのユニコーン少女とモンスターハンター……組み合わせの妙ですね!
ハンターがロワをモンハンに例えて説得するところが非常に"らしく"て良いと思いました。
・歩兵と兵器を繋ぐ歯車
メタルギアは未プレイですが、スネークかっこいい……!
>『ブリスターパックの中で新しいマスターを待つ時のように?』
「>あれは嫌いだ。落ち着かない」
このやりとりがフィギュアらしく、かつクールでしびれました。
・code666443 “アクションフィギュア”その戦う定めとは……!
あ、これ、タイムスクープハンターですね(確信)、と言ってしまうほどに高い再現度。
古橋さんとのやりとりもそのままで思わず土曜日を思い出してしまいました。
それにしても自身をフィギュアと思っている沢嶋さんがその事実に気づくときはいつなのか……
-
投下乙です。
名も無きフィギュア達に密着取材するタイムスクープハンター。
しかし、彼もまたフィギュアだった!
-
wikiを用意させていただきました。
ttp://www60.atwiki.jp/figbr/
順次、収録も進めて行きたいと思います。
-
ま、間に合った……!
ゲッターアーク、仮面ライダーシン、これより投下します
-
琥珀色の男の夢、何処に。
▼ ▼ ▼
学校と住宅地を隔てる裏道路沿いに並ぶ街灯のうちのひとつが、その時、不自然にスパークした。
断続的な放電音と共に火花が散り、電灯がそれに合わせて明滅した後、一際目立つショートと共に明かりを消した。
それだけなら、単なる電気機器の故障で片付くかもしれない。危険だからと速やかに業者に連絡が行き、遅かれ早かれ修理されて終わりだろう。
ここが平和な街の一角であるならば、さして注目もされることなく、精々通学中の小学生が話題にするような、つまらない出来事だ。
しかし、あいにく今この瞬間、この街に本来の住人であるはずの人間はひとりもいない。
そして代わりに息を潜める小さな者たちには、今ここで起こっているのが単なる偶発的な故障でないことは理解できるに違いない。
これは故障ではなく破壊であり、しかし故意ではなく事故であることも、居合わせた者がいたとすれば一目瞭然だろう。
何故ならこの破壊をもたらした者たちは、今も戦場を移しながら戦い続けているのだから。
その姿は、正義のヒーローとはほど遠い、バッタの化け物のような醜いシルエットをしていた。
その男『シン』は、自分が足場にしていた街灯のカバーが電灯ごと破壊されたのと同時に跳躍し、光源を失い闇を濃くした周囲を暗視モードで見渡した。
足場と呼べるほど確かな面積を持つ場所が存在しないことを確認すると、電信柱の脇に突き出た工事用の掴まり棒を両手で握る。
あくまで人間が柱を登るために誂えられたそれは身長15センチのシンにはあまりに太過ぎたが、彼の握力と指先の鉤爪は一瞬だけでも体重を支えることに成功した。
その一瞬でシンは全身を軽業師のように捻って再度宙に舞い、空中で両腕を大きく広げて戦闘の構えを取りながら、電線の上に着地した。
接地の衝撃ですら大きくたわむ、この電線という不安定すぎる足場から落ちないように体勢を整えながら、シンは油断無く闇を睨む。
彼が高速振動する鉤爪「ハイバイブ・ネイル」を構え、まさに臨戦体勢に入ったのと、夜を貫くように深紅のボディが懐に飛び込んで来たのはほぼ同時だった。
「おりゃあああああああッ!!」
赤い襲撃者が雄叫びを上げる。
それを新たなる開戦の合図として、シンのハイバイブ・ネイルと、襲撃者――紅のスーパーロボットの爪がぶつかり合った。
互いの爪が互いを弾き、火花を散らし、しかし両者は怯むことなく無数の斬撃を振るい、かわし、打ち合わせる。
そのうちに生まれた僅かな隙を突き、シンの爪撃を掻い潜って手刀を振り上げた赤の機体の前腕部に、ノコギリ状のブレードがきらめく。
シンの胴体をCSCごと切り裂かんとするその一撃に対して、シンは同様に手刀を構え――同じように前腕部に立ち並んだ棘「スパイン・ブレード」で受け止めた。
互いの体重と戦意を乗せた、手刀同士の鍔競り合い。シンと赤のロボットは噛み合ったブレード越しににらみ合い、そして同時に『口を開いた』。
口を開いたというのは、決して比喩ではない。
シンの口はまず人間のように縦に開き、それから昆虫めいて下顎全体が左右に割れた。
赤いロボットは機械ではなく鬼か悪魔のようにその口を開け、立ち並ぶ鋭い歯を剥き出しにした。
-
「「オォォオオオオォォォォォッ!!!」」
そして叫んだ。
いや、二重に響いたのは、叫びというよりも咆吼だった。
僅か15センチの体から同時に放たれたその轟きは夜風を振るわせ、周囲の空間ごと震動しているような錯覚すら両者に与えた。
気合いと共に双方の前腕部ブレードが再び激突し、衝撃で足元の電線が大きく揺れる。
咄嗟にその反発力を利用して、シンは後方宙返りしながら飛び退き、再び超人的バランスで電線上に着地した。
そして睨む。目の前の敵を。悪鬼のごとき形相を浮かべる、深紅の破壊者を。
同じ技。同じ戦闘スタイル。同じ怪物的な意匠。姿形はあまりにも違うのに、自分と目の前のロボットは不思議なくらい似通っていた。
それに直感だが、自分と相手には、それ以外の何か、もっと深いところに共通するものがあるように感じた。
「風祭真……いや、改造兵士(サイボーグソルジャー)レベル3……!」
赤のロボットは空中に静止したまま、先ほどの咆吼とは全く違った低く静かな、しかし怨恨と殺意に満ちた言葉を発する。
シンはその身に緊張を走らせながら、内心で当惑した。
名乗った覚えはない。なのに自分のオリジナルの本名どころか、その実体まで知られている。
「……ネットツールで検索でもしたのか? 戦いながら、大した余裕だな」
「そうじゃない。知ってるんだよ、お前等のことは。あらかじめ、最初から……俺自身以外のことは……!」
悪魔めいた表情が一層強ばり、言葉の響きが更なる怨嗟を帯びる。
この戦意は何だ。この敵意は何だ。この殺意は何だ。
自分という個人に対する憎しみではない。この世の全てを呪っているような、そんな昏い意志。
「何がなんだか分からないって顔だな。いいだろう、教えてやるよ。お前にだけは、な」
まるで、そんなシンの考えを読むように。
破壊者は吐き捨てるような口調で告げた。
「俺の名はゲッターアーク。最後のゲッターロボ……そして、存在しないはずだった61体目のアクションフィギュアだ」
▼ ▼ ▼
-
――遡ること数日前。
総合自律戦闘実験『BATTLE ROYALE』の準備は、滞りなく進んでいた。
様々な思惑をはらみ、選出されたフィギュアは60体。それぞれが異なる姿を持ち、異なる性能を持つ。
戦う術を持つもの、持たないもの。空を飛べるもの、地を走るもの。人間、ヒーロー、ロボット、怪獣、そしてそれ以外。
そしてそれぞれに、人間たちは自我を与えた。
武装神姫には機種固有の設定に沿ったパーソナリティを。それ以外には、原作を反映した記憶と人格をだ。
だが、全フィギュアのコアユニットに人格プログラムが搭載し終わろうとしている時。
ふと、ほんの些細な好奇心が、とある人間の口を開かせた。
あえて既存のキャラクターを原型とするアイデンティティを与えないフィギュア。
そんな存在が、一体くらいいてもいいのではないだろうか。
この戦闘実験に適合するよう調整し、他のフィギュアに対して脅威という名の外的刺激を与える存在。
怪獣王や完全生命体とは違う、理性を持って破壊をもたらすもの。
なるほど、と他の誰かが言う。
イレギュラーな要素はこの盤面に我々の予期しない変化を生み出すかもしれないと。
たとえるなら、トランプの番外カード――『ジョーカー』のように。
しかし、対象はどうする?
60体の設定は既に完了したも同然だ。新たなフィギュアをあてがう必要がある。
目的を考えれば、出来れば戦闘モデルが望ましい。
非戦闘モデルが生き残れないというわけではないだろうが、生存率は高いに越したことはないというのもある。
また独自の人格を前提とした武装神姫では意味がない。
あくまでアイデンティティをあえて与えられていない存在でなければ独自のデータ収集がが出来ないからだ。
そして、イレギュラーは「闘争」を体現し、自らの自我を「進化」させるようなフィギュアであるべきだ。
しかし、そんな条件を満たすようなフィギュアがいるのだろうか?
いるじゃないか。「闘争」と「進化」の具現。そして、永遠に未完成な存在が。
サーガの終わらない終章を象徴するゲッター線の申し子。
その名を『ゲッターアーク』……このフィギュアこそ、61体目の『ジョーカー』にふさわしい。
そうして、イレギュラー・モデルは投入された。彼自身の自我と尊厳を、オモチャ同然に踏みにじる形で。
-
▼ ▼ ▼
「……この街で目覚めた時、俺は震えたよ。空っぽだったからな。俺にあったのは、ゲッター線の意志とでも言うべき、怒りと闘争本能だけだった」
ゲッターアークは、臨戦態勢のまま動こうとしない改造兵士レベル3ことシンを空中から見下ろしながら、静かな怒りを剥き出しながら語った。
「オリジナルの記憶を持たない俺は、せめてとばかりにオリジナルの物語にすがった。だが検索で得られたのは、元々俺に結末などなかったという事実だけだ」
ゲッターロボサーガ。
それは無限の進化をもたらすエネルギー、ゲッター線に魅入られた者たちの戦いの運命を描く物語。
しかしその最終作であるゲッターロボアークという作品は、原作者の逝去によって図らずも未完の終章となってしまった。
その主役ロボットであるゲッターアークもまた、いわば生まれながらに未完の存在だったのだ。
「俺は……ゲッターアークは『虚無』に迎え入れられることすらなかったゲッターだ……!
そんな俺が最後の寄る辺となる記憶すら奪われて、この怒りだけをもってどう生きればいい!」
アークは牙も露わに吼えた。
怒りだけがあった。自分が何者でもないことへの怒りが、今はベクトルを持ってシンへと向かっている。
そのシンは、僅かに目を伏せ、逡巡した様子を見せてからその怪物めいた複眼をゲッターアークへと向け、声を発した。
「……何故、それを俺に話した。お前が人間達の言う番外カード、『ジョーカー』だと言うのなら、その秘密を俺に告げた理由は何だ?」
「お前になら話していいと思ったからだ。永遠の《序章(プロローグ)》を生きるお前なら、俺が理解できると感じたからだ」
ゲッターアークは知っている。
オリジナルの記憶の代わりとしてあらかじめ60体の知識を与えられた彼には、目の前の奇怪な怪人もどきのオリジナルが辿った、
いや、辿ることの叶わなかった幻の運命を知っている。
真・仮面ライダー序章。
遂にその真の物語が描かれることはなかった、永遠のプロローグ。
ただ生きる為に戦い、復讐の為に殺し、それでもヒーローにはなりきれなかった悲劇の男。
その男、風祭真の記憶を継ぐものであれば、「結末を与えられなかった者」として理解し合えるのではないかと思ったのだ。
慣れ合いたかったのではない。傷のなめ合いがしたかったのではない。ただ、理解者が欲しかっただけだった。
-
ほう、そう来たか
-
「戦って分かった。お前は強い。だが強さを持て余すのも辛いだろう。俺と来い、改造兵士レベル3。俺と物語を創らないか」
「物語……?」
「そうだ。俺はあえてあの人間どもの計略に乗ってやる。だがそれは奴らの為じゃない。俺はこの戦いを通して、俺自身の物語を獲得する!」
物語。
そうだ。自分だけの人生と言い換えてもいい。
記憶を持たず、結末を持たないゲッターアークが戦う理由。
自分自身を手に入れられるなら、自分を弄んだ人間達の掌の上で踊る意味はある。
自分だけの物語を見つけられるなら、他の60体のフィギュアを皆殺しにして、屍の山の上で孤独となる価値がある。
だが、そのアークが共闘出来る存在と見込んだ緑の怪人は、その醜い姿とはかけ離れた清廉な眼差しをもって、アークの提案を打ち払った。
「確かに俺のオリジナルは、ヒーローになれなかった……俺はその記憶だけを引き継ぎ、序章の中だけで生きる存在だ……」
だったら、と言おうとしたゲッターアークをシンは視線だけで制した。
「だが、俺は彼の戦いが無意味だったとは思わない。いや、この俺が無意味にはさせない。風祭真の戦いを、誰にも笑わせない!」
シンの複眼がきらめく。
その輝きは、かつてテレビの中で人類の自由のために悪の秘密結社と戦い続けた仮面の戦士達と同じ光だ。
「かつて風祭真が歩めなかった道を、俺が往く! 俺を改造兵士と呼ぶな! 俺は……俺は『仮面ライダーシン』!」
仮面ライダー。
自らヒーローとしての名を名乗った改造兵士レベル3……いや、仮面ライダーシンの姿を見て、ゲッターアークは悟った。
自分と目の前の男は、限りなく似通いながらも決定的に相容れない存在だと。
ゲッターアークは背中の避雷針めいたウイングを広げた。
「……決裂だな。今は破壊しないでやる、仮面ライダーシン。俺は俺の為に全てを破壊する。お前はどうする?」
「止めてやるさ。俺は仮面ライダーだからな」
「せいぜいヒーローごっこでもやっていろ。だが次に会う時は、俺の存在証明の為に死ね……!」
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ゲッターアークは高空へ浮き上がり、仮面ライダーシンを一瞥もせずに急加速すると、UFOめいたジグザグ軌道でその場を飛び去った。
シンの決意の言葉が電脳内で反響する。
己をオリジナルが成り得なかったヒーローと定義する姿を思い出すたびに、収まったと思っていた怒りが膨れ上がっていくのを感じた。
ゲッター線の本質は進化と闘争。図らずも自分がゲッターの在り方に従っていることにも苛立ちを感じ、アークは更に加速する。
今の自分には破壊しかない。ただ、それでもその先にあると信じる、失われた伝説(ものがたり)を求めて。
【ゲッターアーク@リボルテック】
【電力残量:80%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ダブルトマホーク)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:戦いに勝ち残り、自分だけの物語を獲得する
1:敵は手当たり次第破壊する
2:仮面ライダーシンに対する同族嫌悪
※最初の60体に含まれないイレギュラー・モデルです。
※原作の記憶を持たされていません。代わりに他の参加者に対してある程度の知識を持っています。
▼ ▼ ▼
「自分の物語、か」
残されたシンは、ひとり地面に降り、街灯の明かりの下で佇んでいた。
だが、赤い軌跡が再び戻ってくる気配を見せないことを実感すると、彼は自分の拡張パーツを転送した。
それは三対のマフラーが特徴的な、真っ白いバイクだった。
期せずしてそれは、シンがその名を継ぐヒーローがかつて駆っていた相棒だった。
シンは何も言わずにそれに跨った。
初めて乗るのに、ここがはじめから自分の居場所であったような、そんな気がした。
仮面ライダーを載せて、サイクロン号のエンジン音が闇に轟く。
【仮面ライダーシン@S.H.シリーズ】
【電力残量:70%】
【装備:サイクロン号@S.H.シリーズ(電力残量:100%)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:オリジナルの代わりにライダーとなる
1:仮面ライダーとして自由のために戦う
※サイクロン号はバッテリー内蔵です。本体の電力を消費しませんが、代わりに充電にはクレイドルが必要です。
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位置情報を忘れていました、済みません。状態表のみ再投下します。
【深夜/エリアT(市街上空)】
【ゲッターアーク@リボルテック】
【電力残量:80%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ダブルトマホーク)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:戦いに勝ち残り、自分だけの物語を獲得する
1:敵は手当たり次第破壊する
2:仮面ライダーシンに対する同族嫌悪
※最初の60体に含まれないイレギュラー・モデルです。
※原作の記憶を持たされていません。代わりに他の参加者に対してある程度の知識を持っています。
【深夜/エリアT(路上)】
【仮面ライダーシン@S.H.シリーズ】
【電力残量:70%】
【装備:サイクロン号@S.H.シリーズ(電力残量:100%)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:オリジナルの代わりにライダーとなる
1:仮面ライダーとして自由のために戦う
※サイクロン号はバッテリー内蔵です。本体の電力を消費しませんが、代わりに充電にはクレイドルが必要です。
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そして投下終了しました。
>>170で人数オーバーに気付いてプロット修正した結果アークがジョーカーになってしまいました。
でも原作通りの設定で出してもたぶん誰も知らないので、結果オーライかもしれないですね。
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投下おつ
おお、上手い処理だ
ジョーカーとは発想の転換ですな
しかし真さん切ない
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投下乙ー
真さんかっこよすぎワロタ
やっぱ仮面ライダーはこうでなくちゃ
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投下乙です。
仮面ライダーシンの物語は始まったばかりだ!
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投下乙です
>>194
タイムスクープハンターは自分もフィギュアだと言う事に気づくときが来るのだろうか
逃げるぜかましの運命やいかに
>>206
終わらない物語と始まらない物語…こうきましたか
真さんかっこいい…
アークは近くに政宗一行とぜかましがいるんでどうなるか期待大です
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投下乙
スタートラインからついに動けなかったが、それでも己のフォームを貫こうとする者
スタートラインもゴールも無い人生を虚無に還して新たな物語を紡ごうとする者
彼らの物語のゴールはどこにあるんだろえ
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皆様改めて投下お疲れ様です&感想ありがとうございます!
自作への反応自体も有難いですが、こうして気軽に感想を言っていけるスレになってることがまた嬉しいですね。
>>153
やったぜ初リレー!OPからとはいえ、書いたキャラが繋がれるとやっぱり嬉しいもんですね。
モンハン勢としては小ネタが楽しかったです(火耐性でビーム軽減とか)。大剣と片手剣の持ち替えとか夢が広がります。
そして脅威はサガに暴走ユニコーン……火種が広がるなあ。
>>163
Mr.ネゴシエイター!そういうスタンスもあるのか。
メニュー表に寄りかかるとか、小ささを感じる描写がいいなあ。フィギュア同士のドラマって感じがします。
おっしゃるとおりミクさんはフォームチェンジが多彩なので、色々切り替えても楽しいかも……?
>>184
無線はサポートAI……その発想はなかった。
装備確認の時の会話がすごいメタルギアっぽい再現度。しかし実験に乗るとは思わなかった。
あ、チャリオットちゃんの設定処理も見事です!どうしてマカロン(言いたかった)
>>195
タイムスクープハンターは原作ほとんど見たことないですが、再現度高いのは分かりますw
要潤もとい沢嶋は本当に独自スタンスですね(他にいるわけがないともいう)。本人は大真面目なのに存在がシュール……w
ぜかましの攻撃の謎も含めて、色んな意味で今後のリレーが気になります!
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そしてまとめWikiが出来ている……だと……!?
>>198
Wiki作成、ありがとうございます!デザインがクールでほんとかっこいいです!
想定を越えた勢いにそろそろまとめが必要かとちょうど思っていたところなので、本当に助かりました!
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新ゲッター1@リボルテック、阿修羅@リボルテック、テッカマンブレード@figmaで予約します
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ジェフティ@リボルテック、島風@figma、ガンバスター@スーパーロボット超合金 の3体で予約します。
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自由枠が尽きてもちゃんと予約が入る……ありがたいことです。この勢いを削がないようにスレ主としても頑張らないと。
セシリア・オルコット@AGP、MS少女バンシィ@AGP、予約します。
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これで未予約のキャラクターはワイルドタイガーとアリサ・イリーニチナ・アミエーラの二体だけですね。
そのアリサですが、既にD-Artsが登場済となっておりますので、希望があれば初代GOD EATER仕様での参戦もOKにします。
続編準拠では書きにくいという方がいましたらそちらでどうぞ(その場合シリーズ名はD-Artsを指定してください)。
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遅れましたが、マジンカイザー、マジンガーZ、セーラーマーキュリー投下します
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「グゥ……オオオオオオオォォォォ」
遥か上空。電柱の頂よりさらに上に位置する場所にて。
獣のような唸りと雄叫びを夜空に響かせる、魔神皇帝の姿があった。
胸の宝玉は、今もなお「魔」の文字を輝かせている。
倒すべき敵だけを求め、それを滅ぼす破壊の悪魔。
そこには大凡理性と呼べるものは感じられない。
ただ、何らかの苦痛を感じさせるかのような咆哮だった。
それは、破壊と破滅を望まぬ本心の、魂の叫びなのか。
その苦痛も、奥底から沸き起こる破壊の情念に上書きされていく。
夜の街を見下ろす。空からは、夜の街の光景がよく見える。
とは言っても、見えるのはほとんどが街灯と、各所に存在する施設の発する光くらいか。
先程撃退した荒っぽい女のフィギュアの姿は見えない。倒したか、それとも逃がしたか。
どちらにしても、この夜の闇の中でフィギュアのような小さな存在を、上空から視認することなど不可能な話だ。
その時だ。
公園の奥の方から、何かが小さく光った。
光はすぐに闇へと消える。しかし、皇帝はそれを見逃さなかった。
「俺は……俺はああああアアアアアアアアッ!!!」
それは、二つの破壊神との戦いで生まれた光。
勇者が最期の瞬間に見せた光。
皇帝がその光に何を見たのか。
そこに何を求めて飛ぶのか。
戦いか、それとも救いか――
ただし、皇帝はその場に間に合うことはない。
そして、そこに辿り着く前に、彼はそれとは全く関係ない、別の運命と向き合うことになる。
彼が向かう進行方向に、ちょうどその運命は位置していた。
それは彼自身のルーツであり、もしくは彼と限りなく近しい存在であり、
その事実が――彼に悲劇をもたらすこととなる。
◇ ◇ ◇
「ん……!?」
超合金のロボット玩具のような姿の彼は、何かを感じたように東の空を見上げた。
空には何も見えない。街灯の光が邪魔をして空の細かい様子がはっきりと見えない。
それを抜きにしても、深夜の空に何者かの存在を見つけ出すのは至難の業だった。
(……気のせいか?)
そんな彼に、共に行動していた女の子のフィギュアが声をかける。
「どうかしたの、マジンガーZ?」
「ああ……いや、何でもない。行こうぜ、亜美ちゃん」
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そのスーパーロボット超合金の名はマジンガーZ。言わずと知れたスーパーロボットの元祖。
同時に超合金玩具の元祖と言ってもいいロボットであり、スーパーロボット超合金としても第一弾として作られた。
そのS.H.フィギュアーツの名はセーラーマーキュリー。IQ300の心優しき天才少女、水野亜美の変身した姿。
かつて熱狂的ブームを巻き起こした、セーラー服美少女戦士の、一番人気だった娘を模したフィギュアである。
殺し合いが始まってから間もなく公園の中で遭遇した両者。
お互い殺し合う意思もなければ殺し合いに抵抗する意思も共通し、意気投合。
竹を割ったような熱血漢のZと、温和で冷静な知性の戦士であるマーキュリーの間にはトラブルも発生することなく、
バトルロワイアルの脱出・破壊に向けて、ごく自然に共に行動する運びとなった。
現在、二人は公園を植え込み沿いに南下中。
「それで、少しでも仲間を集めようってのはいいとして、それからどうするんだ?」
「……正直、見当もつかないわ。このバトルロワイアル、脱出にしても破壊するににしても、
何から手を付ければいいのか、何をもって反抗となりえるのか……
この殺し合いを開催している黒幕の正体すら、全くわからないし……」
「黒幕か……ま、確かにあの変なのがそうである風には見えないよな」
「でも、必ずこのバトルロワイアルのどこかに穴があるはずよ。
私達が反撃に転じるには、その穴から切り拓いていくしかないでしょうね。
今は、その時のために少しでも戦いの準備を整えておくしかないわ。情報も、仲間も」
情報が少なすぎる以上、天才少女も漠然とした行動方針しか示すことはできなかった。
ここで敵の正体や打開策を考え続けたところで何かが進展するわけでもない。
今は少しでも自分の足で行動し、情報を集めるしかない。
それは他の参加者との接触であり、この舞台となる街の探索でもある。
「ま、しょうがねぇか。しっかし、人形の体だと公園を超えるにも一苦労だよなぁ」
「そうね。私達は1/14フィギュアだから……単純に考えて、周りの広さも大きさも14倍になったようなものですもの」
「おいおい、俺なんて元は18メートルの巨大ロボットなんだぜ?14倍どころか、100倍近いぜ」
「ふふっ、そうだったわね」
ふと、少女は横を歩くロボットの超合金に、疑問を抱く。
彼の自我のことだ。原作において、マジンガーZは人が乗り込み操縦するタイプの巨大ロボットである。
特にこれといった人工知能を持っているわけでもない彼には、自我は存在しないはずだ。
「私は、原作における『水野亜美』本人の自我や人格を与えられてるわけだけど……
原作がロボットであるあなたのその自我は、一体誰の人格ということになるの?」
「もちろん、原作の主役メカにしてスーパーロボット『マジンガーZ』の自我だ。
原作の俺はマシーンだから喋れないし自我も表現できないけど、ちゃーんと人間達の燃える友情は理解できるんだぜ」
「……まるでメルヘンね」
「人格としては、俺を操縦してた『兜甲児』って奴がモデルになってるんだろうけどな。
ただ、性格があいつに似てるってだけで……俺はあくまで俺、『マジンガーZ』だ」
「じゃあ、『兜甲児』さん本人の自我を植え付けられた、というわけではないのね」
「一応な。それでもモデルになってる以上は、俺の中にも確かに『兜甲児』は存在してると思うけど」
「……なんだか、ややこしいわね。他のロボットのフィギュアも同じような感じなのかしら」
「どうだろうな。他のロボット連中がみんな俺みたいな奴ばかりってわけでもないだろうし。
ま、そんな細かい話はどうだっていいさ。けど、あいつの心が俺の中にもあるからこそ、わかる……
こんな悪趣味な殺し合いなんか許すわけにはいかねぇ。甲児も必ず、同じように思うはずだ」
マーキュリーは、兜甲児のことを語るZがどこか嬉しそうに見えた。
自分を動かす主でありパートナーでもある彼のことを、信じ、誇りに思っているからこそ、できる口調だ。
「そう。あなた、兜甲児さんのことが大好きなのね」
「かーっ、変なこと言うなって!あの野郎、いつも原作の俺を無茶な操縦でこき使いやがってよ!
もし本人に会うことがあったら、喋れないオリジナルに代わって、いっぺんきつく言ってやりたいくらいだぜ!!」
「ふふっ……」
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そしてきっと彼のこの性格も、彼が言うところの兜甲児の人格を色濃く受け継いでいるのだろう。
そんな彼に、マーキュリーは……水野亜美である彼女は、自然と元気をもらっていた。
セーラー戦士のブレーンとして戦いに身を捧げる彼女も、本来なら普通の中学生の女の子である。
この状況下では少なからず不安になっていたからこそ、どこか月野うさぎと通じるものがある彼の存在は、
彼女にとって支えとしても機能していた。
「とにかく公園を出たら、人の集まりそうな場所に向かいましょう。
この近くでいえば学校かコンビニか……マジンガーZ?」
マーキュリーが振り返ると、Zが足を止め、さっきと同じように東の空を見上げている。
「? どうしたの、何か見えるの?」
「何かが……こっちに近づいてくる」
「えっ?何かって……」
目を凝らして、マーキュリーも同じ方向を見上げてみた。
街灯の光の中、僅かに、黒い影が映ったような気がした。
その影が小さく光り――
「危ないっ!!」
Zとマーキュリー、同時にその場を飛び退る。
直後、二人のいた場所を光線が走り抜け、地面に火花が激しく飛び散った。
――戦闘開始の合図だ。
「いきなり撃ってきやがった……どうやら、殺る気になっちまってる奴らしいな!」
「まだわからないわ。この状況で錯乱してるだけという可能性も……」
二人は光線の放たれた方角に再び目を上げる。
そこには襲撃者の姿。二人の位置からもはっきり視認できる所まで接近していた。
Zはそれを目にして――驚愕する。
「なんだあれは……悪魔、いや……マジンガー、なのか!?」
黒い体、胸の赤い放熱板、広げられた赤い翼に、特徴的な顔。
誰の目にも、それは『マジンガー』だった。
マジンガーZの特徴をそのままに、見た目や装飾を極端に禍々しくしたかのような姿。
悪魔のごときその容姿は、夜の空に不気味なほどに映えていた。
「マジンガーZ、あのロボットは一体?」
「わからねぇ!俺の知らないマジンガー、だと……!?」
ここにいるマジンガーZは、昭和47年より放映された東映アニメ版の世界のそれを模している。
自我も、その搭乗者である『兜甲児』の人格がベースとされている。記憶、そして知識も。
故に、彼は知らない。それから20年の後に新たに創造された、目前の新たなるマジンガーの存在を。
それを抜きにしても、目の前の悪魔の発するただならぬ気は、Zに危機感を与えるには十分だった。
「おい、お前は何者だ!?敵か、それとも味方か!?」
「……マジン……カイザー……」
襲撃の悪魔から、低く重い声が絞り出されるように発せられる。その声質は、Zのそれと酷似していた。
「マジンカイザー?それがお前の名前なのか!?」
「……おおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
Zの問いに答えることなく、マジンカイザーは咆哮を空へと轟かせた。
一頻り叫び終わると、目下の2体のフィギュアにその視線を下ろす。
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「ルスト……トルネェェェド!!」
「!! 来るわ!!」
一瞬の溜めの後、カイザーの口にあたる部分から破壊の豪風が吹き出された。
風は竜巻となって、地上の二人に向けて襲い掛かる。
巻き込まれまいと、Zとマーキュリーはそれぞれ左右に大きく跳び、回避する。
竜巻は地面を抉りながら、二人の間を吹き抜け、そのまま背後の植え込みの草木に直撃した。
巻き込まれた草は瞬く間に腐食していき、灰となって消えていく。
(強酸が含まれてる!?あんなのが直撃したら、ひとたまりもないわ……!)
オリジナルのそれは、富士山の山肌をも大きく抉り取るほどの威力を持つ。
それに比べればスケールこそ大幅にダウンしているものの、フィギュアの身には十分すぎる脅威だ。
「亜美ちゃん、下がっているんだ!こいつは俺が相手をする!!」
戦慄するマーキュリーに指示を出すと、Zは敵を迎え撃つ態勢に入る。
既に上空のカイザーは、Zのいる場所に向けて一直線に急降下していた。
降下の勢いも加えながら、カイザーはその右腕をZに向けて振るう――
「こいつの狙いは……俺だ!!」
二体の超合金が、二体の魔神が――二体のマジンガーのぶつかり合う音が、夜の公園に響いた。
彼らの発する覇気と比べて場違いに思えるほど、小さな、少し間の抜けた玩具同士のぶつかる音が。
「ぐ……っ!」
カイザーの突き出された右腕は、Zの両腕によって受け止められていた。
同じ超合金である彼でなければ、防ぎきることは不可能だっただろう。
急降下に加え超合金の重量もプラスされた重い攻撃は、並のフィギュアにはまず耐えられまい。
「おい!てめぇもマジンガーなんだろう!?」
呼びかけながら、その顔を睨む。こうして近くで見れば見るほど、マジンガーだ。
だがZやグレートとは違い、その姿は悪魔に身を堕としたような禍々しさに満ちていた。
また、体格もZを一回りほど上回っており、大人と子供ほどの差がある。
「マジン……ガー……神にも、悪魔にも……」
「そうだ、神にも悪魔にもなれるマジンガーの力で……てめぇは悪魔になるつもりか!」
「悪魔、に……いや、違う……!」
「なっ!?」
Zに押し付けるカイザーの右腕が、突然高速回転を始める。
「俺は……最強の……マジンガー……」
「うおっ!?」
ドリルを思わせるその回転に、掴んでいたZの両腕が弾かれた。
バランスを崩しよろめきながら、Zは同じマジンガーとして、次にカイザーが放つ攻撃を瞬時に予測する。
「俺は……神をも超える……」
ロケットパンチ……いや、ドリルプレッシャーパンチか?
倒れかける所をかろうじて踏み止まりつつ、咄嗟に両腕を前面でクロスし、その一撃に備える。
「悪魔も……倒す!!」
回る右腕がロケットの如く火を噴きながら『発射』され、Zに叩き込まれた。
マジンカイザーのロケットパンチ……ターボスマッシャーパンチだ。
拳は両腕のガードをものともせず、猛烈な勢いでZの身体を後ろへと押し流していく。
「ぐ……うおおおおっっ!?」
1メートルほど吹っ飛ばされて、Zはバランスを維持しきれず地に転がった。
それが幸いして、ターボスマッシャーパンチの軌道線上から外れ、その猛攻から逃れられた形となった。
しかしそのままでは終わらない。即座に態勢を整え起き上がると、反撃行動へと移る。
「ナメやがって!光子力ビーム!!」
Zの両の目から撃ち放たれる、光子力エネルギーの閃光。
それに呼応するかのように、カイザーの瞳からも同じように光子力の光が撃たれた。
両者の中間点で二つの光がぶつかり合う――しかし張り合えたのはほんの一瞬。
出力の差か、カイザーの光子力ビームがZのそれをいともたやすく押し返していく。
「何……ぐわぁぁぁっ!!」
光はそのままZの胸部にまで届き、超合金の身体に爆撃を与える。
衝撃を堪え切れず、再びZは地に倒れた。
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カイザーの切り離された右腕が、元の部位に戻る。
そしてZにとどめを刺すべく、カイザーがさらなる追撃に出ようとした、その時。
「こっちよ!!」
側面からの少女の声に、カイザーは振り返る。
既にそこでは水星の名と加護を持つ美少女戦士が、必殺技発射の態勢を整えていた。
「シャイン・アクア――――イリュージョン!!!」
セーラーマーキュリーの両腕から、超低温の水流が放出される。
水は意思を持つかのようにカイザーの全身を包み込むと、その内側に発生する冷気が瞬時に凍り付かせていく。
なす術もなく氷漬けとなり、カイザーの動きは封じられた。
「マジンガーZ、大丈夫!?」
凍結を見届け、マーキュリーは傷ついたZのもとへ駆け寄ろうとする。
しかし、凍結は一瞬。仲間を気遣う余裕は彼女には与えられない。
「……なっ!?」
すぐ直後、カイザーの胸部を中心に、異常なスピードで氷が蒸発し始める。
水星の氷をも溶かす熱量の出処は、カイザーの胸部――放熱板だ。
「ファイヤー……ブラスタアアアアアアァァァァァ!!」
皇帝の絶叫と共に、放熱板から熱光線が発射された。
同時に、カイザーを覆っていた残りの氷も一気に拡散。枷はたやすく、あっさりと打ち破られた。
(やられる!?)
一直線に迫る赤の熱光線。
避けきれない――そう判断した彼女の行動は早かった。
マーキュリーは体の周りに、シャボン・スプレーを応用した水のバリアを張り巡らす。
次の瞬間、業火が少女の全身を飲み込んだ。
(く……っ!なんて熱量なの……!?)
熱光線はバリアによって阻まれ、少女の本体まで達することを防いでいた。
それでも、熱はバリア越しに伝わってくる。これが直撃すれば、彼女の身体は跡形もなく消し炭と化すことだろう。
だが無情にも、魔神の業火はすぐに水を蝕み始めた。
シャボンの水分は徐々に蒸発し、バリアがじりじりと削り取られていく。
熱線の照射は収まる気配を一向に見せず、対するマーキュリーには早くも限界が近づいていた。
彼女を動かす電力が、瞬く間に消費されていく。
(耐え切れない――ッ!)
「いい加減に……しやがれぇっ!!」
Zの叫ぶ声。
ふいに彼女に向け照射されていた熱光線の軌道が、逸れた。
倒れていたZが回復し、その超合金の重量を武器に、カイザーの横っ腹に体当たりを仕掛けたのだ。
その衝撃に、ファイヤーブラスター照射の反動も加わって、カイザーは派手に転倒した。
「大丈夫だったか、亜美ちゃん!」
バリアを解除し膝をつくセーラーマーキュリーのもとへと、マジンガーZは駆け寄る。
熱光線が通った後の焼け焦げた地面と噴き上がる硝煙は、業火の破壊力を物語っていた。
あと一歩遅れていれば、少女の身体は炎に飲み込まれ、消し炭と化していただろう。
「ありがとう、マジンガーZ……」
「へへっ、助けられたのはお互い様だぜ」
立ち上がる少女に無事を見てから、Zは敵の方向に向き直る。
転倒したマジンカイザーも、起き上がっていた。
――仕切り直しだ。
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「さあて……どうしたもんかな、このバケモンはよ」
力の差は歴然。マジンガーZの性能を、あらゆる面で凌駕している。特に攻撃力は言語に絶していた。
ロケットパンチ、光子力ビーム、ルストハリケーン、ブレストファイヤー……
Zの持つ代表的な4大武器を同じように兼ね備え、その上で全ての威力がZのそれを上回っていると来ていた。
「俺に対する当てつけみたいな性能しやがって、気に入らねぇぜ」
「あの超合金に使われている素材自体は、Zに使用されているものと同じみたい。
だから、防御力自体はあなたと比べても極端な差はないはずよ」
HMDゴーグルを装着したマーキュリーが、カイザーの能力を分析する。
カイザーもまた玩具であり、使用素材がZと同じ……という点は、彼らにとっては救いと言えただろう。
本来ならば超合金Zと超合金ニューZα、装甲の面でも両者には歴然たる差があるのだから。
だが防御面の条件は同じでも、カイザーのあのずば抜けた攻撃力の前では、付け入る隙が見つからない。
「なら、俺に支給されたあの武器を試してみるか」
「いえ……正攻法で挑んでも、太刀打ちできる相手じゃないわ。一旦退いて、態勢を立て直しましょう」
「けどよ……いや、そうだな。癪だが、この場は出直すっきゃねぇか」
撤退を提案するマーキュリーに、Zは一瞬渋る素振りを見せつつも、それを受け入れる。
このまま正面から無策に戦い続けても、勝てる相手ではない。仮に勝てたとしても、ただでは済まない。
確実にZとマーキュリーのどちらか、あるいは両方が死ぬことになる。
Zひとりであれば命を懸ける選択もできたかもしれないが、彼女まで無謀な死闘に巻き込むことはできなかった。
一時撤退を決めた二人は、それぞれが次なる行動へと移る。
先に動いたのは、セーラーマーキュリーだ。
「シャボ―――――ン……」
マーキュリーの両手の間に、エナジーを込めたシャボン玉が形作られる。
標的に向けて狙いを定めつつ、シャボンに破裂寸前までエナジーを注ぎ込み――
「スプレ―――ッ!!」
両腕を広げると同時に――破裂。
エナジーの泡が、カイザーに向けて解き放たれた。
「グ、ウ……?」
冷気が、カイザーの周囲の温度を低下させ、霧と幻影を生み出し包み込む。
殺傷力は皆無に等しい。だがこの技で多くの妖魔をかく乱し、仲間の放つ次なる攻撃へと繋いできた。
今回も繋ぐ。マジンガーZが手札を切るための行動に。
「来い、スクランダーッ!!」
Zの叫びに応じ、紅の翼が上空のどこからともなく姿を現した。
マジンガーZの持つオプションユニット、ジェットスクランダーが転送されてきたのだ。
「よし、来たか。そんじゃ行くぜ、亜美ちゃん!!」
「お願い!」
Zのもとへと真っ直ぐに飛来するスクランダー。
Zはマーキュリーを抱きかかえると、翼の位置とスピードにタイミングを合わせ、地を蹴った。
鉄の城と紅の翼、二つの影が重なり合う。
「スクランダー・クロォォス!!」
ドッキング成功。
魔神のその背に新たな命が燃え、魔神に大空を駆けるための力を与えた。
「今日の所はここまでだ……あばよっ!!」
飛行可能となったZは、抱えた少女と共に戦場を離脱していく。
二人はそのまま、植え込みの中へと消えていった。
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その場には、霧に取り囲まれたマジンカイザーだけが残される。
「マジン……ガー……魔神……俺は……俺はアアアアアアアアアア!!!」
咆哮と共に、カイザーを囲む霧と冷気が、急激に晴れていく。
ファイヤーブラスター照射により超合金のボディに高熱が蓄積されていたのが、原因か。
それとも、彼の放つ覇気が、さらなる熱量を放出しているのか。
その熱が、エナジーの霧を瞬く間に晴らしていく――
◇ ◇ ◇
Zはマーキュリーを抱えたまま、植え込みの木々の間を縫って飛行していた。
「ふぅ、なんとか逃げ切ったか。ったく、初っ端からとんでもねぇ奴とぶつかっちまったぜ」
「今回はやり過ごせたけど、この殺し合いが続けられる以上……いずれもう一度戦う時が来るわ」
「ああ。その時までに俺達も、あいつと十分に戦える態勢を整えておかなきゃな……できるだけ、早く」
二人の口ぶりは重い。それはマジンカイザーを放置せざるを得なかったせいか。
この先、あの怪物が他のフィギュアを襲う可能性は十分にある。
それがわかりながら逃げを打つしかなかった口惜しさと無力さを、二人は噛み締めていた。
「あいつ……一体何だったんだろうな」
ふいに、Zがポツリと呟く。
「マジンカイザー……変な話だが、どうもあいつが他人に思えねぇ。まるで自分自身を見てたような感じでよ」
「確かに、まるであなたを参考に作られたかのような感じだったわ」
「そうじゃねぇ……いや、確かにそれもあるけどよ。なんていうか……中身まで俺と同じような……」
「そう……かしら?そんな風には見えなかったけど……」
Zは思い返す。カイザーが飛来する直前に感じた感覚を。
まるでカイザーの接近が、あらかじめわかっていたかのような感覚。
呼び寄せ合っているかのような、得体のしれない不思議な感覚――
「!!」
それと全く同じ感覚を、今、Zは全身に走らせる。
超合金の背中に、冷たいものが触ったかのような悪寒が走り抜けた。
次の瞬間、光線が、彼らの横を掠めた。
「!? まさか!?」
少女の叫びの意味を、わざわざ聞き直すまでもない。
振り返るまでもなく、背後から何かが迫ってくるのが感じられた。
それが先程やり過ごしたはずの魔神皇帝であることは、すぐに理解した。
「追ってきやがったのか、あの野郎……!」
「そんな!?こんなに早く、霧から脱出するなんて!」
自身の技からの回復の、その想定外の早さに少女は驚きの声を上げる。
だが理由を考察できる余裕はない。怪物はすぐ後ろまで迫っている。
カイザーの持つスクランダーの飛行速度も、Zのさらに上を行っているようだった。
「ちっ……亜美ちゃん、しっかり捕まってろよ!!」
ジェット噴射の出力を上昇させ、飛行スピードをさらに早める。
この狭く暗い植え込みの中では激突事故の危険もあったが、マジンガーZの技量と運動性能も伊達ではない。
少女を落とすまいと強く抱えながら、上下左右に回避運動を取りつつ、時に木々を盾にしながら、縫うように飛ぶ。
一方、カイザーの飛行とその動きは散漫で、力任せなものだった。
邪魔する木々はスクランダーカッターで斬り飛ばし、撃ち出す光子力ビームは周囲に生える木々の枝葉を次々と焼いていく。
この窮屈な空間を力押しで突破できるほど、カイザーのパワーは圧倒的だった。
「へっ、この暗闇と障害物だらけの場所で、そうそう当てられるかよ!」
減らず口を叩くZではあるが、条件は彼らも同様だ。
いかに速度を上げようと、木々に邪魔され、動きや出せるスピードはどうしても制限される。
徐々に、しかし確実に双方の距離は詰められている。追いつかれるのは時間の問題だった。
カイザーは二人の位置を把握しているかのように、ピタリと張り付いてきていた。
こうなってくると、植え込みに飛び込んだのはかえって裏目に出たようにも思えてくる。
木々の向こうから、薄明かりが差し込んでくる。
間もなく、植え込みを抜ける。外に出れば、遊具のある広場に出るだろう。
(ここを抜けたら、地形を利用しつつ、なんとか迎撃するしかねぇ……)
玩具の身体に神経を張り巡らせる。
抜け出た後の展開に、すぐに対応できるようにするために。
そして、二人は茂みの中から脱出し――
その先の衝撃の光景を、目の当たりにする。
-
そこには、破壊の跡があった。
しばらく前に行われていた、二つの破壊神の戦いの跡。
破壊された遊具、焼け焦げた地面。
マジンカイザーのような怪物的パワーを誇る者同士が、散々に暴れまわった跡のように見えた。
二人は一瞬目を奪われ――そこに、隙が生まれる。
直後、背後からの光線が、スクランダーの右翼を撃ち抜いた。
「しまっ……ぐわぁぁっ!!」
「ああぁぁっ!!」
バランスが崩される。
二人はそのまま、地に墜落していった。
◇ ◇ ◇
「あー、ちくしょう……どこまでもしつこい野郎だぜ……」
皇帝は二人の進行方向に、立ち塞がるかのように降り立っていた。
Zは不快感に毒づきながらも、周囲に目を配り打開策を探していた。
片翼が破壊されたジェットスクランダーでは、飛行速度が大きく落ちる。
この状態ではカイザーの翼からは逃げきれない。ここで何かしらの蹴りを付ける以外に道はなかった。
(何か手はないか……何か……!)
この壊された公園で、何か利用できるものはないか。何か――
そうしているうちにも少しずつ、二人のもとへと歩いてくる魔神皇帝。
……やがて傍らの少女が、覚悟を決めたように立ち上がった。
「Z、その翼でもまだ飛ぶことはできる?」
「ああ、飛べる……けど、さっきほどのスピードはもう出せないぜ」
「わかったわ……じゃあ、私が時間を稼いでいる間に、あなたは逃げて」
「なんだって!?何を言い出すんだ……!?」
真っ直ぐカイザーを見据えるマーキュリーの視線。
その意味はすぐに理解できた。彼女は死を覚悟している。
「あなたの翼なら、私が敵を食い止めている間に逃げ切れるわ」
「何言ってるんだ、食い止めるなら俺がやる!その間に亜美ちゃんが……」
「駄目よ、私の足じゃ逃げ切れない。それに時間を稼ぐなら、私の力の方が有利なはずよ」
だが、マーキュリーの攻撃では満足な効果が得られないであろうことは、ここまでの戦いで明白だ。
ここで一人彼女を残せば、確実に彼女は死ぬ。
「それに、あのマジンカイザーのような存在が他にいないとは限らない。
守るべきフィギュア達が、今も助けを求めているかもしれない。
そしてこの殺し合いを行う黒幕とも、最後には決着をつけなければならない。
この先のことを考えるなら、私よりも戦闘力の高いあなたを温存すべきだわ」
「バカな算段してんじゃねぇ!」
必死で引き止めながら、思考をフル回転させる。
確かにこれが一番生存確率は高い、他に手はない……いや、本当にそうなのか?
筋や理屈で考える頑固な少女には、それを覆す何かをもってでないと、説得はできない。
命を捨てて事に挑もうとしているなら、猶更だ。
-
もっと考えろ。手はないのか。
Zは自分に言い聞かせる。
少女を見捨てて自分だけ逃げるような行為は、どうあってもZには許すことはできない。
何か、手はないのか。
何か。
何か―――
!!!
「亜美ちゃん、どうせ命を懸けるなら、その命……俺に貸してくれ」
「……え?」
「俺に……手がある!」
少女の理屈を覆す何かが、見つかった。
Zの紡ぐ言葉には、魔神の誇りと、確かな自信を感じさせた。
◇ ◇ ◇
「グ……アアアア……ッ!!」
マジンカイザーが、地の底から響くような唸り声を上げる。
破壊の悪意に囚われているようで、どこか苦しげな声を。
それを払拭するか、もしくは焼き払うかのように、彼はさらなる悪循環に足を踏み込んだ。
「ファイヤー……ブラスタアアアアアアアアアア!!!」
咆哮と共に、皇帝の放熱板が再び火を噴いた。
だがその軌道上には、既にZとマーキュリーの影はなかった。
その後ろの植え込みに直撃し――爆発と、小さな火事を起こす。
高熱に視界が揺らぐ中、気配を察知する。
側面だ。
少女が回り込み、攻撃態勢に移る。
もう一体の、アイツはどうした?
その考えに至る前に、少女の手で余裕は奪われた。
◇ ◇ ◇
――ほんの一瞬でいい。あいつの動きを止められるか?
カイザーの重く散漫な動きは、マーキュリーのスピードなら微力ながらも隙として付け入ることはできる。
ただ、彼女の力では、カイザーの超合金に十分なダメージを通すことは難しい。
だが、一瞬でも動きを止めるだけなら、難しいことではなかった。
「シャボン・スプレ―――……」
再び、彼女の手にシャボン玉が生成される。
そして破裂寸前までエナジーを注入し――解き放つ。
「フリージング!」
破裂した水の球から放出されたのは、霧ではなく――凍えんばかりの冷気。
通常のシャボン・スプレーよりも冷気をさらに強化した一撃は、直撃したカイザーを凍り付かせる。
「俺は……」
だがカイザーの発する熱は、力任せのその動きは、
「俺は……デビルマシン……」
すぐに纏わりついた氷を打ち払う。
「神も悪魔も超える……」
動きを封じたのは、ほんの一瞬。
「最強の、マジンガー……!!」
だが、彼はそれだけで十分だと言った。
だから、少女はその言葉を信じて、叫ぶ。
信じ合う仲間であり友である、セーラームーンに叫ぶ時と、同じように。
「今よ、マジンガーZ!!」
-
既にZはそのポジションを確保し、その右腕を天に掲げていた。
「へっ……最強のマジンガーだと?……笑わせんじゃねぇ」
掲げた右腕の先には、拳はない。
Zの右腕は――
「俺を――」
全く別の形へと変貌を遂げていた。
「俺を誰だと思ってやがるッ!!!!」
ドリルだ。
Zの右腕に装着されているのは、天を衝かんばかりの巨大なドリル――!
「今よ、マジンガーZ!!」
少女の声に応じるように、掲げた右腕――ドリルの先端を、マジンカイザーに向け構える。
ドリルが回転を始めた。猛烈な勢いで、火花すら散らしながら。
「それにな……女の子を死地に残したまま、一人で逃げ出そうなんてのはなぁ……」
その回転に身体が逆に振り回されないよう、足を踏ん張り、腰を入れる。
「俺が、俺の中の『兜甲児』が、許さねぇんだよ!!!」
限界までドリルが回転する。
そして。
「ギガ・ドリル……ロケットパ―――――ンチ!!!!」
ドリルが、弾丸となって飛び出した。
その回転の余波で土を抉りながら、一直線に標的に向けて突っ込んでいく。
行き着く先は、マジンカイザー。
質量、回転、射出の勢い――本物の超合金Zならともかく、玩具の素材に使用された超合金であれば、貫き通せるはずだ。
――だが。
「ウ……オオオオオオオッ!!!」
ドリルが、カイザーのボディに命中し、貫い――
いや、違う。
貫けない。
受け止められていた。
皇帝はその両腕で、その底知れぬパワーをもって、巨大なドリルの先端を受け止めていた。
「耐えた!?あれでも駄目だというの!?」
「いいや……まだだ!!」
-
それでも、受け止められてなお、ドリルとロケットパンチの勢いは完全には止められない。
その勢いが、猛烈なスピードで皇帝を後ろへと押し流していく。
「まだだ……」
後ろへ押し流していく。
「あと少し……」
後ろへ。
「あと少し押し出せぇぇっ!!!」
後ろへ――!!
ズシャアアアアアァァァァァッ!!!
豪快な音と共に、大量の砂が宙に舞い散った。
ひたすら後ろに押し流されたマジンカイザーは、ついにその『場所』へと叩き込まれた。
その『場所』は、彼には――超合金の身には、致命傷にもなりえる禁断のエリア。
「どうだ……今も昔も、そいつが超合金の最大の弱点だ!!」
-
超合金の最大の弱点――
それは――
公園の『砂場』!!
「ウ、オオ、オオォォォォ……」
カイザーの全身に、無数の砂鉄が纏わりつく。
砂は視界を阻み、磁石の使用された関節部には特に影響を及ぼし、動きを阻害する。
カイザーは立ち上がれない。下手にもがけばもがくほど、砂は深くに入り込む。
柔らかい砂の足場が、悪循環をさらに加速させていた。
「こんな手があったなんて……!」
「へっ……これで奴はしばらくは動けねぇ……!」
これが『兜甲児』だ。
奇抜な発想、大胆な閃き。その勇気と知恵を駆使して、マジンガーZの豊富な武器を使いこなす。
甲児(ひと)の頭脳を加えた時にこそ、マジンガーZは無敵の魔神としてその真価を発揮するのだ。
だからこそ、幾多の手強い機械獣を相手に、勝利を収めてきた。
今Zを動かすのは、Zに後天的に植え付けられた作り物。
オリジナルの甲児とは――人とは違う、紛い物でしかないかもしれない。
それでもその人格と閃きに関しては、オリジナルの兜甲児に可能な限り近づけられている。
真価を発揮したマジンガーZの前には、いかに最強のマジンカイザーと言えど……敵ではない。
「よし、離脱するぞ。こっちも、もう限界だ」
「ええ!」
今のカイザーになら、とどめを刺すことも可能かもしれない。
しかしZとマーキュリーにも、既に限界は近づいていた。
技の連発はフィギュアの電力を著しく消耗させる。
特にZは、ドリルの回転とロケットパンチの発射に多大な電力をつぎ込んだため、残された電力は僅かだった。
これ以上の戦闘は機能停止に直結する。一刻も早く充電が必要だ。撤退せざるを得なかった。
Zは再びマーキュリーを抱えると、片翼を失った翼で空へと舞い上がり、戦場を離れていった。
【深夜〜明け方/エリアI(公園内)】
【マジンガーZ@スーパーロボット超合金】
【電力残量:10%】
【装備:ジェットスクランダー(右翼破損、飛行速度減少)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、ギガドリル(漢のドリルセット)@スーパーロボット超合金、
拡張パーツ×0〜1(確認済み)】
【状態:ダメージ中、疲労】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いの阻止
1:この場を離脱する
2:安全な場所で充電する
【セーラーマーキュリー@S.H.シリーズ】
【電力残量:20%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ポケコン)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:ダメージ小、疲労】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いの阻止
1:この場を離脱する
2:安全な場所で充電する
-
砂場でもがき続けた皇帝は、やがて力尽きる。
砂鉄まみれの無様なその姿には、もはや皇帝と呼べるほどの気高さはどこにもない。
傍目には、機能を停止させたように見えても不思議ではない、惨めな有様だった。
(まだ、だ……)
だが、皇帝は息絶えてはいなかった。
(まだ……俺は、死ぬわけ、には……)
彼の生きる意思に反応してか、支給されたクレイドルが具現化され、カイザーの目の前に現れた。
朦朧とする、今にも消えそうな意識とほんの一欠片の理性に突き動かされながら、カイザーはクレイドルの上へと辿り着く。
やがて、その上で眠りにつくマジンカイザー。
さっきまでの荒々しさが嘘のように、静かに眠る。
そこからは、安堵すら見られた。
……あの健気な青髪の少女を手にかけずに済んだが故の、安堵だろうか。
電力供給が始まる。尽きかけていた命が、再び彼の身体に満たされていく。
――まだ死ぬわけにはいかない……そうだ、俺は正義の……正義の魔神、マジンカイザー……
眠りについたマジンカイザーは、夢を見た。
それは彼の中にある『兜甲児』の人格から連なる、オリジナルの記憶。
Dr.ヘルの送り込む機械獣達と戦う、マジンカイザーの勇姿があった。
その傍らには、彼の仲間であるビューナスAとボスボロット。
カイザーのパイルダーの中には、それを動かす兜甲児の姿。
兜甲児。マジンカイザーを駆り悪と戦う、勇気ある少年。
甲児の周りには、彼を慕う仲間の姿がいつもあった。
弟のシロー、弓さやか、ボス、ヌケ、ムチャ、弓教授、三博士――
誰もが皆、彼を信じて、慕っていた。
彼は誇りだった。魔神自身にとっても――
――そうだ。俺は兜甲児が動かす正義の魔神、マジンカイザーだ。
――だから、死ねない。魔神の誇りに懸けて、兜甲児の名に懸けて――死ねない。
-
「マジーン・ゴー!!」
パイルダーに乗った兜甲児が、魔神を呼ぶ叫びをあげる。
その声に応えるように、プールの水が割れ、収納庫の中から魔神が姿を現す――
――え?
その魔神は、マジンカイザーではなかった。
よく見ると甲児の乗るパイルダーも、カイザーパイルダーではない。
「パイルダー・オン!!」
パイルダーが魔神と一体になり、魔神に甲児の心が灯る。
それはマジンカイザーではない。それは――
「いくぜ、マジンガーZ!」
それは、幾多の機械獣を相手に立ち向かう、マジンガーZの姿。
その傍らには弓さやかの乗る……アフロダイでもビューナスでもないレディロボット。
ボスボロットもいる。だが自分の知るボロットとは、微妙に違う。
――何だ?これはどういうことだ?何故、甲児は俺に乗っていない?
機械獣達を倒したマジンガーZは、やがて最後の一体と対峙する。
「俺を誰だと思ってやがるッ!!」
甲児の声がした。
いや、違う。
これはマジンガーZの声だ。
「俺が、俺の中の『兜甲児』が、許さねぇんだよ!!!」
マジンガーZが対峙している相手は――
破壊の限りを尽くし恐怖を振りまく、悪魔の機械。
胸の宝玉に刻まれた『魔』の文字。
――え? 俺?
そう、マジンカイザーに他ならなかった。
兜甲児がマジンガーZに乗って、マジンカイザーと戦っている。
カイザーには、甲児は乗っていないのか?
じゃあ、カイザーに乗っているのは誰だ?
――違う。俺に乗っているのは兜甲児だ。
――そうだ、俺の心は、俺の自我は……『兜甲児』が原型のはずだ。
そうだ。マジンカイザーに与えられた自我は、『兜甲児』の人格だ。
では、この状況は何だ?
マジンガーZが、まるでヒーローのように悪に立ち向かう。
その横に弓さやかが――青髪のセーラー服の少女が、サポートする。
奴が立ち向かう悪とは――マジンカイザーだ。
何だこれは。
これではマジンガーZこそが『兜甲児』じゃないか。
俺が『兜甲児』じゃないみたいじゃないか。
-
マジンガーZ。
マジンカイザーの記憶の中から、マジンガーZの姿を掘り起こす。
――何故だ。
――何故、マジンガーZがそこにいる。
――何故、マジンガーZが俺のいるべき位置にいる。
マジンガーZが。
マジンガーZごときが。
マジンガーZのような、あんな
前座で引き立て役でしかない、弱小ロボットごときが――!!
◇ ◇ ◇
……そう、注意しておかなくてはいけない。
マジンガーZの例と同じだ。
マジンカイザーは、確かに『兜甲児』の人格が、自我のベースとなっている。
しかしベースとなっているだけで、決して『兜甲児』本人の人格というわけではない。
彼はあくまで兜甲児のような性格をした『マジンカイザー』なのだ。
そうでなければ。もし『兜甲児』本人の自我であったならば。
祖父の残したマジンガーZに対し、このような見下した考え方など断じてしない。
マジンガーZとマジンカイザーは、ベースとなる人格が限りなく近いだけで、全く別の個なのだ。
さらに着目すべき点として、彼は『OVA版』マジンカイザーを模した玩具であることにも触れねばなるまい。
当然、与えられた記憶も『OVA版』のそれだ。
だから、今回登場したマジンガーZがマジンカイザーの存在を知らなかったことと同様に、
このマジンカイザーも、自身の原作世界である『OVA版』以外のマジンガーZの存在は、知らない。
つまり現時点において、彼のマジンガーZについての知識は、『OVA版』におけるマジンガーZのことしか存在しない。
では『OVA版』におけるマジンガーZは、どんな存在だったか。
あのOVAにおけるマジンガーZは――
機械獣達に惨めに叩き潰されて、パイルダーを引き剥がされて。
あしゅら男爵に奪われ醜悪に改造されて、挙げ句仲間達を傷つけて。
最後には、起動したマジンカイザーに一蹴され、破壊されて、全ての役目と出番を終えた。
それは無様で、不甲斐なくて、情けなくて、徹頭徹尾救いようがない、あまりにも酷い扱いだった。
マジンガーZの過去の活躍も特に語られることはない。グレートのようなフォローも入らない。
だから、カイザーの中では、マジンガーZはただのやられ役であり、自身の引き立て役以上の何でもなかった。
ただの前座、それが彼にとってのマジンガーZの認識だったのだ。
-
だからこそ。
『マジンカイザー』である彼は、最強のマジンガーとして存在する彼は、その誇りを大きく傷つけられることとなる。
最強の魔神としてのプライドが、兜甲児の心が、ズタズタにされる。
取るに足らない存在としか認識していなかったマジンガーZが、それを体現したが故に。
それが、許せなかった。
まるで自己の存在を否定されたような気分だった。
マジンカイザーの存在意義を、そして自身の中にある『兜甲児』の存在を。
◇ ◇ ◇
その時――
マジンカイザーの胸の宝玉に――『Z』の文字が輝いた。
それは破壊の魔神でしかなかった暴走状態の『魔』ではなく。
心が、魔神に宿った証。
ただ、その心は本来宿るはずだった正義の心ではなかった。
憎悪。
マジンガーZへの、強い憎しみ。
本来ならば、マジンカイザー一人だったならば、このような事態には決してなりえなかっただろう。
暴走もいずれは抑え、その暁には正義の魔神として行動できたはずだ。
だが、この舞台には『兜甲児』の心を持つ者が『ふたり』存在していた。
厳密には似て異なる、しかし限りなく近しい、ふたりの兜甲児が。
故に――悲劇は起きてしまった。
――違う。
――認めない。
――マジンガーZ。あいつを認めるわけにはいかない。
――奴が『兜甲児』だなどと、認めねぇ。
――何故なら、『兜甲児』の心を受け継いでいるのは、俺だからだ。
――俺が『兜甲児』だ。
『兜甲児』は、その心は、決して聖人君子というわけではない。
彼らとはまた別の世界軸においては、マジンガーの力を暴走させ、世界を破滅させた例すら存在する。
暴走ではなく、自らの意志で『破壊の魔神』と化してしまった、魔神皇帝。
憎悪をその身に宿すことで自らを制してしまった、彼の行き着く先は――
【深夜〜明け方/エリアI(公園・砂場)】
【マジンカイザー@スーパーロボット超合金】
【電力残量:30%(回復中)】
【装備:カイザースクランダー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:砂鉄まみれ。ダメージ小。両腕に無数の小さな傷(行動に支障はなし)】
【思考・行動】
基本方針:???(強い憎悪)
1:マジンガーZの破壊
-
投下終了です
……おかしい、当初はマジンガーZとの触れ合いでカイザーの自我が戻りかける、
みたいなプロットのはずだったのに、いつの間にか真逆の展開に……
-
投下乙です
自分同士との対決とはフィギュアロワにふさわしい
マジンカイザーもやばい状態だしどうなるか
それと指摘を一つ
SHFはノンスケールですが基本1/14ではなく1/12かと
1/14だと10センチ前後と小さくなるので
-
マリーセレス@武装神姫、ドラえもん@ROBOT魂、巴マミ@figma を投下します
-
テンタクルス型MMS・マリーセレス。
神話上の生物をモチーフとしたOver Pozz Fabbrica(通称O.P.F)より発売された武装神姫である。
薄緑色のショートカット、神秘性を秘めた青い瞳、エルフのように尖った耳。
small素体と呼ばれる抱きしめれば折れそうな華奢な体に、凶悪な印象を与える巨大な5本のアーム型スカート。
可愛らしい少女と禍々しさが同居したNiΘ氏の本領が発揮された神姫だった。
神姫ユーザーにも評判がよく、市場価格を順当に釣り上げていく彼女もこのバトルロワイアルに参加していた。
「えーい、ヂェリカンもう一杯! ドラちゃん、このかわいいマリーちゃんにもも味をよこすです!」
「飲み過ぎると身体に毒だよ。ちょっと落ち着いて、ね?」
必死になだめる国民的キャラクターに対して、人気神姫はくだを巻いている。
二人が身を隠している場所がラーメン屋であることもあって居酒屋の雰囲気が生まれつつあった。
「つべこべ言わずよこすDEATH! マリーちゃんの分のどら焼き味ヂェリカンは全部あげたじゃないですか!」
「確かに美味しいけど……飲むどら焼きって変な感じ」
「時々ひみつ道具で風情もへったくれもない食べ方するじゃないですか。それに比べれば違和感ないDEAT」
「そりゃそうだけど……」
ドラえもんは口を尖らせて汗を額ににじませる。ロボット魂なのに芸が細かい。
「けどいくら武装神姫と言っても飲み過ぎは体に悪いと思うんだ。
特にマリーちゃんは女の子なんだし気をつけないと……」
「大きなお世話ですぅ! ですが、そんなに気にかけるとは……ドラちゃんこの可愛い可愛いマリーちゃんに惚れたのですか?」
「ち、違うよ! ぼくはただほんとうに心配で……」
「申し訳ないですが、いくら国民的キャラクターとはいえ青ダルマは趣味じゃないですぅ。ドラちゃん、嫌いじゃないけどごめんなさい。
これからもいいお友達でいてくださいです」
「……なにもしていないのにいきなりフラれた。でも青ダヌキはよく言われたけど青ダルマは初めてで怒ればいいのかわからないや」
国民的キャラクターを模したオモチャは渋い顔をしながら、どら焼き味のヂェリカンをぐびっと一口だけ飲んだ。
味は極上だがあのフワフワした食感がないので物足りない。
なんでそんな記憶までインストールされているのか謎だが、不満は募る一方だ。
「だいたいマスター登録なしで神姫を野に放つとか正気ですかぁ?
マリーだって優しい白馬を乗りこなす王子様のイケメンオーナーが欲しいですぅ〜」
「へぇ〜、意外と女の子らしい望みがあったんだね」
「だって王子ですよ。きっと気に入らないやつをギロチンしてくれるですぅー!」
「……ごめんさっきの取り消す。てか君もいい加減にしなよ。そんな危ないことばっかり言っていると友達なくしちゃうよ?」
「マリーちゃんだけじゃなくてドラちゃんだって今は友達いないじゃないですかー。
起動して大して時間経っていないですよ。武装神姫のマリーちゃんはともかく、ドラちゃんは本人じゃないですぅー」
「うん、それは分かるんだけども……。ああっ、ダメだ。ネットを色々探したけど検索に引っかからない」
ドラえもんは眼前にウインドゥを開いてマリーに見せる。
検索エンジンに『バトル・ロワイアル』と『オモチャ』『武装神姫』『ROBOT魂』などを入れたが、どれも関係なさそうである。
成果ゼロと知った隣の神姫はやれやれ、とこちらを見下している。ちょっと腹立った。
「まっ、こんな悪趣味なことを表立ってやるわけ無いです。神姫オーナーの方々を怒らせるとちょっとした戦争が起きますし」
「神姫ユーザー恐るべし。けどぼくらまで参加させてなにがしたいんだろう?」
「変態の考えることなんてわかるわけねーです。やってらんねーしここで飲んで時間を潰しましょうドラちゃん!」
「いいのかな〜それで?」
-
ドラえもんが首をかしげるが、マリーは気にせず飲み進めようとした。
瞬間、入口のドアが盛大な音を立ててはじけ飛んだ。
驚いて振り向く猫型ロボットを尻目に、マリーセレスは目を細めて様子をうかがった。
もちろんドアが吹き飛んだと同時に誰かが入ってきているのを見逃していない。
「私のせいじゃない私のせいじゃない私のせいじゃない……」
ぶつぶつと金髪の少女がつぶやいている。武装神姫にはいない型のため、figmaか何かだろうと当たりをつけた。
「ついでに写メとって画像検索ですぅー。え〜となになに? 魔法少女まどか☆マギカの……」
「そんなことより声をかけるのが先でしょ。ねえ君、だいじょう……」
「近寄らないで!」
figmaの少女は金切り声を上げて、変身しながら銃口を向ける。ドラえもんが驚く暇もない。
ただの形だけを模したはずのマスケット銃から火が吹いた。
「ドラちゃん、動いちゃダメですぅ!」
マリーの制止の声が聞こえ、銃弾が頬をかすめた。
「こ、これ以上近づいたら容赦なく射ちます。一人にして!」
彼女は怯えている様子だったが、銃弾が間近を通り過ぎたドラえもんもアワアワ言うだけで放心状態だった。
ただ一人正気のマリーセレスはムッとしながら、カオスな場を治めるために動く。
「ギャーギャーギャーギャーうっさいですぅ。巴マミのfigmaだから取り乱すのはしょうがないとして、ちったあ落ち着くですぅ。
てか出て行くならあんたの方じゃないですかー。ふざけんじゃないですぅー!」
いや場を治める気などなく、彼女は武装をまとって突撃した。
まるで強力な弓から放たれたように跳びながら、5本の触手型アーマーを展開、巴マミを補足する。
「ひっ、来ないで!」
マスケット銃から銃弾が飛んでくる。マリーは身体を回転させ独立可動するアーマーで一発一発叩き落としていった。
もともと距離はそこまで開いてない。あっという間に懐に飛び込み、してやったりと笑みを浮かべてのしかかった。
武装の重さに任せて身体の自由を奪い、5本のアームで四肢を封じる。
「ざっとこんなものですぅー」
「ちょっと、離して!」
下のfigmaがうるさいが無視してドラえもんの方を向く。
彼はこちらの顔を見た瞬間、ハッとしてすぐ立ち上がった。
「さすが武装神姫……すごいねぇ」
「んー、まあ取り乱していつもの精神状態じゃないから上手くいっただけですぅ。
万全な状態だったらマリーちゃんもドラちゃんもやばかったかもしれません」
「戦いの経験って奴かな? とにかくぼくには真似できないや」
「いいえ、ネットのキャラ紹介からですぅー」
キャッキャ笑うマリーに対しドラえもんは呆れた。ずいぶんと人を喰った少女だ。
「さて、人の食事を邪魔した報いを受けてもらいますよ〜」
「ちょっと、そこまでしなくてもいいじゃないか」
「ああ、ドラちゃん安心するですぅ。このまま放置しても同じことの繰り返しなので、そんな気力を奪うだけですぅ。
酷いことはしません」
「ほんとかなぁ?」
「マリーちゃんを信じるですぅ!」
-
信頼しきれずに額をかいているドラえもんだが、結局は任せざるを得ない。
巴マミを放っておけば同じことを繰り返すだけだし、逃げられて他の人の迷惑になられても困るだろう。
そうわかった上で、マリーセレスは両手をわきわきと動かしながら凶悪な笑みを浮かべた。
「くっ、ふぅ……」
巴マミを模したfigmaはのしかかるマリーセレスをどかそうと身じろぎをするも、効果は乏しかった。
魔法少女としての力も再現しているはずだが、相手は戦うことも前提とした武装神姫。
そうやすやすとはいかなかった。
「ふっふっふ、降参しても許しません。抵抗するですぅ」
満面の笑顔のままマリーはおもむろにマミの豊かな胸を鷲掴みした。
「ひっ、なにを!?」
「柔らかい(アニメ武装神姫設定です)……マリーと同じ身長(測ったらふたりとも125mmありました)なのに反則牛おっぱいとかむかつくですぅ〜!」
マリーの平手が胸の右側面を強打し、肉を叩く音が店内に響く。
「ちょっとマリーちゃん、やりすぎだよ」
「こういうのは荒療治が一番なんですぅ。原作版のようにスパルタドラちゃんになって黙ってみていてください」
いや原作の性格でも止めるから、と言うドラえもんを無視して、マリーは拘束相手の顎をあげた。
「さて、なんであんな無礼な真似をしたんですか? ちゃんと言わないとつねっちゃいますよ」
「ひっ、だって、だって……」
「グズグズしないでハキハキ答えるですぅ!」
今度は胸の左側面をはたいた。ドラえもんが目を覆うほど鋭く、速い打撃だ。
痛みに耐えかねてマミの瞳はみるみる涙が溢れ出る。
「あ〜泣いちゃうほど痛かったんですか? ごめんなさい、そこまで追い詰めるつもりはなかったんですぅ」
さっきとは打って変わって気遣うように殴打面を優しくさすり始めた。
あまりの手のひら返しにマミは逆に恐怖を感じる。
「そんなに警戒しないでください。マリーちゃんはね、ロリ巨乳なマミさんの力になってあげたいんですよ?」
「ろ、ロリ巨乳って……あなただって結構あるじゃない!」
マミの指摘の通り、マリーセレスの武装胸はイラストと違ってけっこうあったりする。
もっとも彼女はそんな指摘を無視して邪悪な笑みをますます深めた。
「そんなことよりマミさんリラックスしてくださ〜い。ほら、ここがいいんですか?」
「ひっ、ちょっ、なんで揉ん……ひぅっ!」
グニグニとマリーは両手で思うままに胸を変形させていく。
マミは必死に身を捩るが5本のアームが許すはずもなく、虚しい抵抗で終わった。
「マリーたち神姫も揉まれると気持ちよくなっちゃうんですぅ。
だからマミさんも気持ちよくなって心を落ち着かせて……ね?」
「そ、そんな……はぅっ! なにかスカートに!?」
「アームの触感はマリーちゃんともつながっていますが、すべすべで触り心地がいいですよ。
本当マミさんはすけべぇボディですぅ〜」
もはや金髪の少女に言葉を返す余裕はない。
マリーが頬を舐めようとも、アームで尻を撫でようとも堪えるように悩ましい吐息を漏らすだけだ。
その必死な姿を神姫は愛おしそうに舌なめずりをする。
「さあ早く事情を話さないと大変なことになっちゃいますよー。
もうマスターを持つことも出来ない身体になるかもしれません。マミさんかわいそうですぅ」
「ひぅ……いぅ、言う、から……」
「ほらほら、だんだん気持ちいいのが隠せなくなっているですぅ。ふふふ、可愛いですね〜マミさんは〜」
「言うって言っているの、に……やぁ……」
軟体生物モチーフらしく彼女はマミにグチョグチョになって絡み続ける。
-
もはや魔法少女の発言は言葉にならない。
見かねたドラえもんが顔を真赤にしながら止めるまで、嬌声は長い間続いた。
□
「ふぅ、すっきりしたですぅ」
やけにつやつやしたさわやかな笑顔でマリーは満足気に頷いた。
対して変身の解けたマミはしくしく顔を覆って泣いている。
figmaの彼女をなだめながらドラえもんは右拳を振り上げた。
「こら、マリーちゃんやりすぎだよ!」
「えーでも暴れるのは止めましたし、事情も聞き出しましたよー?」
「だとしても加減ってものがあるでしょ、加減ってものが。そんなんじゃ嫁の貰い手も……じゃなかった。
マスターの貰い手もつかないよ!」
「ドラちゃん古風な言い回しをしますね〜。でも心配はご無用ですぅ。
なぜならマリーちゃんはマスターにこんな酷いことはしません。マスターの敵にこそもっと酷いことをします!
もっともマスターに求められたらその限りじゃありませんが……いやんいやんー」
恥ずかしがって身体を左右にふるマリーをドラえもんは冷たい目で見る。
信用できない。もっとも彼女が反省するわけがないが。
「だいたいドラちゃんもしばらくはまじまじと見ていたじゃないですか。スケベですーでばがめー」
「そりゃこりゃマズイこりゃマズイっていいものを見せて……ってそうじゃないでしょ!
いい加減にしないとぼくも怒るよ!」
「やだな〜冗談ですぅ。怒っちゃやーですぅ」
キャピキャピぶりっこする彼女に呆れと薄ら寒い感情をないまぜにして、ドラえもんは大きくため息をつく。
なにを言っても無駄だろう。すぐに話を変える。
「ところで、マミさんの言うとおりタロウさんは死んだのかなあ?」
「な〜に確かめにいけばいいですぅ。マミさん、案内よろしくですぅ」
急に話を振られ、マミは「え、え?」と戸惑いながらドラえもんを見る。
助けを求められた彼としては味方になってやりたいが、この件に関してはマリーに同意であった。
「大丈夫ですよマミさん。マリーちゃんの鋭い推理としては、死んだふりをして騙すタチの悪いおっさんですぅ。
そんなのに引っかからないようにドラちゃんとフォローしますから落ち着くんですぅ」
「まあこの娘の本音はともかくとして、ぼくも力になるから行ってみよう。ね?」
ドラえもんが宥めて、マミはしぶしぶといった様子だが納得した。
力なく立ち上がって現場を案内しようとする。
「あ、先に言っておきますけどマミさんが先頭になってくださいよ。
銃は全部出させましたけど、後ろから魔法少女の力で襲われるなんてまっぴらゴメンですぅ」
「こら、言い方ってものがあるでしょ!」
無遠慮なマリーに突っ込みながら、マミの案内に従って三人は移動する。
そんなに長いやりとりではないはずだが、どうにもドラえもんもマミも心労が溜まってしょうがない。
ただ一人フリーダムな武装神姫を抱えながら、彼は今後のことを思って憂鬱になった。
-
【黎明/エリアO(ラーメン屋店内)】
【巴マミ(制服ver.)@figma】
【電力残量:80%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ソウルジェム)、拡張パーツ×0〜1(未確認)】
【状態:損傷なし。脱力】
【思考・行動】
基本方針:もう好きにして。
1:二人を案内する。
※付属品にないため現状ティロ・フィナーレが使えません。
【ドラえもん@ROBOT魂】
【電力残量:99%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、ひみつ道具セット、かじりかけのどら焼き、ねずみ、ヂェリカンどら焼き味×4、拡張パーツ×0〜1(確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:マリーちゃんの暴走を止める。
1:タロウが死んだ現場に向かう。
※ひみつ道具セットの内訳は 空気砲、タケコプター、スモールライト、ポケットから出かかっているどこでもドア。
まともに性能再現されているのはタケコプターと空気砲くらいです。
【マリーセレス@武装神姫】
【電力残量:85%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、拡張パーツ×0〜1(確認済み)、ヂェリカンもも味×4、マジカルマスケット銃×6】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:こころのおもむくままに。
1:とりあえず現場へ。
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以上で投下終了します
タイトルは あの日あの時の青ダルマ です
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投下乙ですー。
引き続いてになってしまいますが、こちらも取り急ぎ、
予約中の ダブルオーライザー@ROBOT魂、骸骨剣士@リボルテック、投下します。
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先入観を、捨てろ。
* * * * * * * * * * * *
「俺が……ガンダムだ……!」
学校は敷地の南西の隅。
普段は人もほとんど訪れないあたり。
体育館と木々に挟まれた、狭く注意を引きにくい、校庭の片隅の突出部にて。
ひっそりと置かれた百葉箱の屋根の上。
夜空を見上げるフィギュアの口から零れたのは、そんなうめき声だった。
街灯の明かりもあまり届かぬ暗い空間に、メッキとクリアパーツがキラリと光る。
全体としては人型のシルエットに、硬質な機械の身体を持つ、いわゆるロボットである。
V字型のアンテナ。
2つの目。
マスク状の口元に赤い顎先。
白い手足に、肩や胸部はメタリックな青。腹部や足元に赤を配置。
胸部ダクトやアンテナには黄色を配した、俗に言う「トリコロールカラー」。
両肩を覆うように張り出す大型の楯状のユニット、手足のレンズ状パーツなど、特徴的な部分はあるものの。
原作を把握していない者が見ても、彼は『ガンダム』と呼ぶにふさわしい外見を備えた存在だった。
しかし――厳密には。
彼は、『ガンダム』ではない。
アニメ『機動戦士ガンダム00』の主役機を務めたこともあるMSではあるが。
それでも、『ガンダム』ではない。
彼は作中における『ガンダム』の範疇を「越えてしまった」がゆえに、異なる名で呼ばれる者。
『ダブルオーガンダム』と支援機『オーライザー』の合体によって生まれた「次のステージ」に立つ存在。
『ダブルオーライザー』。
それが彼の名――いや、ここで呆然としている『彼』のモデルとなった機体の名前だった。
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* * * * * * * * * * * *
『そいつ』には名前など無かった。
便宜上、その外見から呼称が与えられた。
何と呼ばれようと、『そいつ』は自分の名前などに頓着しないタチだった。
* * * * * * * * * * * *
「俺は……どうすればいい……!」
先ほどの台詞、「俺がガンダムだ」は、そのメインパイロットである刹那・F・セイエイの有名な名台詞。
いや、迷台詞として知られる言葉であったが……
そのセリフと、この複雑な機体のネーミング設定とが、『彼』に少なからぬ混乱をもたらしていた。
なにしろ、刹那・F・セイエイというキャラクターにとって、『ガンダム』とは特別なもの。
幼い頃に命を救われた存在であり、彼にとっての救世主であり、そして憧れの「生き方」であり。
そんな刹那の人格は、このROBOT魂・ダブルオーライザーの人格モデルにもなっている。
そして同時に――フィギュアとしての『彼』は。
己に冠せられた絶対的な名前、『商品名』に、強く縛られている。
下らない拘りだということは、自分でも分かっている。
しかしそれでも、彼はつぶやかずにいられない。
「せめて例えば『ダブルオーガンダムセブンソード』+『オーライザー』、ならばッ……!」
なるほどそれなら『ガンダム』だ。
文句なく商品名としても『ガンダム』だ。
ダブルオーガンダムの装備拡張版であるセブンソード。
そして支援機であるオーライザー。
これらはそれぞれ別個にROBOT魂で商品化されている。
この2つを合わせれば、ノーマルのダブルオーライザーも普通に再現できる。
ついでにコレなら、「7本の剣」の名そのままに、大小様々な刀剣類までついてくる。
この戦闘実験においてどんな立場を取るにせよ、剣技に長けた彼にとっては是非とも欲しかった装備なのだが。
なお、ここでノーマルのダブルオーでなく、セブンソード版に言及したのには訳がある。
ROBOT魂のダブルオーガンダム系の商品の数々は、無印のダブルオーガンダムが一旦販売された後。
セブンソードの販売に際して、素体のMS部分もバージョンアップされているのである。
(というか、ROBOT魂シリーズ第一弾である無印ダブルオーが、正直、あまりに酷すぎた)
ゆえに、それ以降のROBOT魂のダブルオーガンダム系商品は、全てそのセブンソード版の本体をベースとしている。
……そう、そしてこの場に参加を強いられた『彼』もまた、その系譜に連なる存在なのだ。
「だが……この『実験』に選ばれたのは、俺なんだ。
数多く売られた『兄弟』たちではなく……
限定商品である、この俺、『ダブルオーライザー』が」
実は、何の但し書きもつかない『ダブルオーライザー』という名の商品は、ROBOT魂には存在しない。
ダブルオーガンダム(またはセブンソード)とオーライザーを買ってくればダブルオーライザーは再現できるが。
ただの『ダブルオーライザー』、という名で一般の店頭に並んだ物は、存在しない。
ただ。
限られた場で限られた時にしか購入できなかった限定品の中に、その名は存在している。
余計な注意書きが一言添えられてはいるが、確かに『彼』は『ダブルオーライザー』の名で存在している。
魂ネイション2010 限定。
ROBOT魂 <SIDE MS> ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)。
それが、メタリックブルーの輝きを纏った『彼』の、そしてこの場で思い悩む『彼』の、真の名前だった。
-
* * * * * * * * * * * *
『そいつ』には悩むような名前など無かった。
揺らぐようなアイデンティティなど無かった。
* * * * * * * * * * * *
どうすればいい、と、つぶやいてはみたものの。
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は、自らの生き方そのものには迷いを持っていなかった。
戦闘があれば、戦闘に介入して止める。
同時に、皆の対話をうながす。
……言ってみればそれだけだ。
戦いをやめさせてどうする、というプランは一切持っていない。
人間たちへの反逆にせよ、交渉にせよ、戦いを止めてその先どうする? というのはなかなかに難題なのだが。
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は、「そこから先は自分の役割ではない」と割り切っていた。
もともと、戦闘以外の才能には乏しい彼である。
我が身を省みない行動力はあるが、頭脳労働向きの人材ではない。
自らに向かない仕事は、向いている者に委ねて任せればいい。
自分は、自分のできることをする。
それは安易な現実逃避でも、思考停止でもなく。
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は真っ直ぐ純粋に信じている。
『ガンダム00』作中の刹那というキャラクターも、そういう次元で思い悩むことは無かった。
だから、ここにいるダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)も。
劇中のソレスタルビーイングがそうしていたように、戦闘に介入する。
そして、参加者であるフィギュアたちを、繋げる。
彼にはそれを可能にする力があるはずだった。
『機動戦士ガンダム00』作中において、ダブルオーライザーで完成を見た真の『トランザム』。
それは機体の圧倒的なまでの性能アップももたらすが……それ以上に。
脳量子波による共鳴現象を引き起こし、人々の精神をダイレクトに接続させる。
おそらく、彼が全力でトランザムすれば、この会場に居るフィギュアたちはみな『キャスト・オフ』して。
渦巻く光の中、強制的に対話をさせることができるだろう。
彼の仕事は、そういう状況を作るところまで。
彼にしかできない、大切な任務となるはずだった。
……そしてその切り札こそが、ここに居るダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)の悩みでもあった。
「俺のこの身体は、粒子貯蔵タンク型……!
トランザム可能な時間は、限られている……!」
そう、ここまで執拗に指摘し続けたように、彼は粒子貯蔵タンク型、なのである。
劇場版・機動戦士ガンダム00の序盤に登場した、ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)。
それはあらゆる面においてオリジナルのダブルオーライザーと同等のスペックを誇るものの……
唯一、その活動時間にだけは限界を抱えている。
オリジナルの太陽炉搭載タイプは無尽蔵だったことを考えると、これは大きなハンデだ。
トランザムは可能だ。
そのはずだ。
そう軽はずみに試したりはできないけれど――できる、はずだ。
けれど、使い所は限られる。
「やはり、この戦場の中心部で発動させるしかないか……!」
有効な効果範囲、実際に使った時の効果など、不確定要素は多い。
けれども、マップの端で使うよりは、地図上のど真ん中で使った方が確実だろう。
となると……静かに、身を隠しながら、より中央の方に移動するのが最善、か。
この危険な状況下、ただ移動するだけでも好戦的な相手と遭遇するリスクがある。
戦闘そのものにはそれなりの自信のあるダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)だが、なにせスタミナが無い。
無駄な交戦での浪費は、避けたいところだった。
作中の刹那たちも派手な戦闘を繰り広げる一方で、身を隠し偽る隠密行動を取ることも多かった。
目的のためなら手段は選ぶ。
ここに居るダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)もまた、そういう判断のできるフィギュアだった。
-
百葉箱から音もなく飛び降り、地面に着地する。
移動だけなら空を飛んでも良かったのだが、メッキ仕上げの青いパーツは目立つし、エネルギーの浪費も激しい。
そのまま雑草を掻き分け、校庭の広い方に向かって出て行こうとして――
メキッ。
行く手の地面に小さな亀裂が走るのを、彼は見た。
* * * * * * * * * * * *
『そいつ』はスタミナのことなど考えない。
むしろ原作の作中では、無尽蔵のスタミナこそが脅威であり、強みだった。
* * * * * * * * * * * *
割れた大地から、きしむような動きで白い腕が伸びる。
カクカクと震えるようにしながら、虚ろな人影が立ち上がる。
それは骨だ。
人間の骨――
いや、フィギュアサイズの、人間の骨を、骨だけを、模して作られた存在だ。
人体の骨格標本のような、骨だけが地中から湧き出し、立ち上がろうとしている。
筋肉も何もないのに、骨だけの存在なのに、動いている。
その左手には丸い盾が備えられ、その右手には小振りな剣が握られていて。
服も鎧もない姿ながら、たったそれだけの装備で、自らが戦士であることを強烈に自己主張している。
大地から湧き出したガイコツは、そしてそのままその場に直立する。
盾を構えるでもなく、剣を構えるでもなく。
僅かに天を仰ぐように見上げたまま、直立不動の体制を取る。
この不可解さには、さしものダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)も、呆然と見守るしかない。
『アルゴ探検隊の大冒険』。
ギリシャ神話をベースに自由な発想で作られた、古い特撮映画。
1963年の公開だから、CGなんて存在すらしていなかった時代の作品。
模型のコマ撮りと合成技術とを駆使して、タロスやヒュドラなど神話の怪物を活き活きと描いて見せた作品だ。
知る人ぞ知る、伝説の映画である。
そんな作品の最終盤、黄金の毛皮を求めるアルゴ探検隊に牙を剥いた、最後の敵。
数多の特撮ファンをうならせ、また後の世のファンタジー作品に多大な影響を与えた存在。
それが、この『骸骨剣士』だった。
多頭竜ヒュドラの牙をアイエテス王が大地に撒いて創造した、7人の骸骨剣士。
この場に姿を現したのは1体だけではあったが、今の剣士の登場は、まさにそのワンシーンの再現演出であった。
もちろん比較的若いダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は、そんな古い映画など知らない。
知らないが、それでも彼は直感していた。
この、陳腐なファンタジーゲームの雑魚モンスター役でもやっていそうなコイツは……その印象とは裏腹に。
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)をして、身構えさせるだけの「凄み」を持っている、と。
「おまえも……参加者、なのか」
「…………」
「俺はガンダ……いや、『ダブルオーライザー』。お前は?」
「…………」
「喋れないのか? それとも、聞こえないのか?」
油断なく身構えながらも、ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は声をかける。
骸骨剣士は、しかしピクリともしない。
隙だらけの姿で、ただそこに立っているだけだ。
流石に不審を抱いたダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)が一歩踏み出した、その瞬間……
ザッ。
「…………ッ!」
誰かの声なき号令を受けたかのように、骸骨剣士は身構えて。
ゆっくり歩き出したかと思うと、そのまま剣を振りかざし……
どこかコミカルな、非人間的な動きで突進してくる!
虚を突かれたダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は、そして――!
-
* * * * * * * * * * * *
スケルトンなんてどうせ雑魚、だって?
馬鹿いえ、『そいつ』は竜牙兵(ドラゴントゥース・ウォリアー)だ。スパルトイ(撒かれし者)だ。
それも、『オリジナル』の、『全ての始まりの』、な。
全ての骸骨系モンスターは道を開けろ、全ての特撮系フィギュアは頭を垂れろ。
ここを征くのはお前らの『始祖』ぞ――!
* * * * * * * * * * * *
学校の敷地の片隅、裏庭の薄闇の中で。
断続的に、剣戟の音が響く。
「くっ……強い……!」
「…………」
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)が苦しげに声を漏らす。
骸骨剣士が、カタカタを歯を鳴らす。
虚を突かれたとはいえ、そこは流石に剣技に長けたガンダムタイプ。
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は反射的にGNソードⅢを展開し、敵の剣を受け止めていた。
初撃を受け止められたのは良い。かろうじてダメージはない。
しかし、そこからもう、離脱する隙も見いだせずに不本意な剣闘を強いられている。
骸骨剣士の剣が、ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)を袈裟斬りに斬り捨てんと振るわれる。
骸骨の剣は意外にパワーがある、何度も受け止めてはいられない。バックステップで避ける。
すると骸骨剣士はたたらを踏みつつ、即座に切り上げ攻撃。
これを身を捻って避けながら反撃のGNソードⅢを振り下ろせば、それは骸骨剣士の丸い盾に受けられる。
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)がここまで見た限り、骸骨剣士の攻撃自体は「素直な」ものだ。
基本を踏まえた斬撃。
映画で役者たちがやっているような殺陣。
奇策もフェイントもあまりない、かなり分かりやすい剣の使い方だ。
ストップモーション特有のカクカクした動きに幻惑されなければ、非常に「素直な」剣だと分かる。
しかし、細い腕に見合わぬ意外なまでの腕力。
そして、まるで変らぬ様子で剣を振り続ける、タフネスと執拗さ。
これらは決して馬鹿にできない脅威となってダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)の身を脅かす。
ただでさえ、持久戦は不利なのだ。(粒子貯蔵タンク型)だから。
しかし骸骨剣士は、まるでアリジゴクのようにその持久戦へと引きずり込む。
逃げることなどできない、下手に背中を見せようものなら、即座に斬り捨てられることだろう。
飛んで逃げるのも論外だ、激しい剣戟の中で、骸骨剣士はかなりの跳躍力を見せている。
仮に本気で撤退するにしても、一度何かで相手の隙を作る必要がある。
なのだが、この骸骨剣士、こう見えて防御面ではまるで隙がない。
強固な盾に、その盾の適切な運用。
ときどき盾で防御したはずみにコロコロと転び、その姿はかなりコミカルで間が抜けてはいるのだが。
転んでいる姿だけ見れば、一瞬弱そうにも見えてしまうのだが。
しかし、むしろ転ぶことで衝撃を上手く逃がしているような節さえある。
舌を巻くような受け身の技術だった。もちろんそこから跳ね起きるのも速い。
剣と剣が打ち鳴らされ、盾と剣との間で火花が散る。
一進一退、互いにここまでクリーンヒットはないが、いつどこで均衡が崩れてもおかしくない。
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)が人間だったなら、脂汗の1つでも浮かべていたことだろう。
周囲には細かくキラキラと、剥げ落ちたメタリックブルーのメッキ塗装が舞っている。
そう、実際、『アルゴ探検隊の大冒険』における骸骨剣士たちの剣技というのは、なかなかのものなのだ。
7対3と数で勝っていたことを差し引いても、大冒険を潜り抜けて来た英雄たちを圧倒する戦闘力。
英雄たちも2名の犠牲を出した挙句に退治を諦め、海に飛び込んで逃亡するしかなかったのだ。
神話の怪物たちとも渡り合った英雄たちさえも、逃げる選択しかできなかった白骨の剣士。
それはGN粒子を自在に操るダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)にとっても、手に余る相手だった――
――素のままの、ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)のままであったなら。
-
* * * * * * * * * * * *
『刹那、トランザムは使うなよ!』
『了解――! ×××××ッ――!』
* * * * * * * * * * * *
「これほどの強さを持ちながら……『何もない』のか、お前は!」
カラカラカラ。
強烈な斬撃と共に放たれたダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)の激昂に、骸骨剣士は答えない。
ただ馬鹿にしたように口を開けたまま、骨を鳴らしてみせるばかり。
GN粒子をまとったGNソードⅢの振り下ろしも、その丸盾に受け流されるようにいなされる。
言葉で言って止められる相手ではない。
改めて認識する。
そもそも知性や意志があるかどうかさえも怪しい骸骨剣士である。
交渉の余地は、ありそうにない。
倒すしかない。
機能停止まで追い込む必要はないかもしれないが、手足の1本2本くらいは落として戦闘不能にするしかない。
戦いを望まぬダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は、そう腹を決める。
だが、どうやって倒せばいいのか。
むしろ押されているくらいの勢いのこの相手、どうすれば勝てるのか。
切り札ならあった。鬼札ならあった。
まさにダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)が使用を悩んでいた。
そして、彼らしくもなく、戦闘を避ける消極策を選ぼうとしていた、その理由。
――トランザム。
そう、トランザムだ。
使えば機体性能は跳ね上がり、ありとあらゆる面で通常時とは一線を画す機体となる。
現状で、ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)と骸骨剣士とは、ほぼ互角。
ならば、そこに性能面での上乗せがあれば。
大丈夫、ちょっとだけだから。ちょっと赤く光ったらすぐ止めるから。一瞬で終わらせるから。ね?
腹を決めれば、そこから先の行動は早い。
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は右腕のGNソードⅢを瞬時に折り畳み、ライフルモードに切り替え。
3つ配置された銃口から、強烈なビームを連射する!
もちろんこれで倒せるとは思っていない。
骸骨剣士は、咄嗟に石碑のようなものを手元に『転送』。
電子光のノイズの後に出現した遮蔽物に、ビームが遮られる。
なんとか初撃を石碑でしのいだ骸骨は、そのまま転がるように走ってビームの連射から逃れる。
あの『石碑』、あれはフィギュアに付属のオブジェか何かだろうか?
骸骨が『転送』などという参加者共通の機能を使いこなしたことに軽く驚きつつも。
しかしダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は、欲していた僅かな距離と時間を手に入れる。
大袈裟な回避運動を取った骸骨剣士は、咄嗟の反撃などができる間合いではない。
やるなら、今だ。
軽く宙に浮き、両手を広げ。
骸骨剣士を睥睨し、そしてダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)は叫んだ。
「 ト ラ ン ザ ム ! 」
彼の叫びを受けて、その青と白のボディがまばゆいばかりの赤い光に包まれ――
.
-
* * * * * * * * * * * *
ROBOT魂には、トランザム状態のダブルオーライザーを再現した商品が存在する。
受注生産限定商品、ダブルオーガンダム『トランザムライザー』。
赤く染まった全身に、巨大なライザーソードまでも再現できる、実に迫力のある一品である。
セブンスソード版の素体を使っているだけあって、細部のデザインも保持力も可動も問題が少ない。
旧素体の時点でも、『ダブルオーライザー トランザムセット』という商品もある。
こちらには残念ながら巨大ライザーソードは付属していない。素体も旧素体の色違いだ。
ただし一般店頭販売品。比較的にせよ入手しやすい品物と言えるだろう。
だが。
実は、そのどちらもが――
* * * * * * * * * * * *
その青と白のボディが、まばゆいばかりの赤い光に包まれ――ることは、無かった。
「……なっ!?」
暗い裏庭に、一瞬、バツの悪い沈黙が降りる。
何が来るのかと身構えていた骸骨剣士も、カクン、と顎を開いて首を捻る。
トランザムは、ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)の切り札は……発動、しなかった。
ここでルールを再確認しよう。
変形やフォームチェンジは、基本的に切り替え可能、というのがこの実験における基本ルールだ……
だからこそダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)も、自分にもトランザムが使えるはず、と思い込んだ。
しかし。
それはあくまで、シリーズ内の別フィギュアとして存在する場合、である。
ROBOT魂の商品リストには、限定品や受注生産品を合わせたとしても。
(粒子貯蔵タンク型)がトランザムした状態の商品は、存在しない。
すべて、すべて、「ノーマルの太陽炉搭載タイプの」ダブルオーライザーがトランザムした際の商品、だけなのだ!
「まさかっ……そういうことなのかっ……!」
僅かではあるが決定的な差異。
ようやくにして(粒子貯蔵タンク型)本人もそこに思い至る。
まあ実際、トランザムバーストの際の裸時空とか、技術に優れた運営サイドでもどう再現すんだ、って話である。
時間停止などにも並ぶ、科学的にも再現困難な能力。
一方で再現できてしまったら、企画の進行に深刻な悪影響を及ぼすことも予想された。
しかしダブルオーライザーを参加させるなら、出来ないなら出来ないなりに理由が求められるような部分でもある。
そこを回避するための小手先のごまかし、それこそが、数の限られた限定品の採用だった。
名前の後ろにつけられた(粒子貯蔵タンク型)の文字と、太陽炉部分のマイナーチェンジなのだ。
ではしかし、窮地を脱する手段も、最終的な行動指針も奪われて、(粒子貯蔵タンク型)はどうすればいいのか。
カカカカカッ。
ショックを受ける(粒子貯蔵タンク型)を笑うように、骸骨剣士が歯を鳴らす。
混乱冷めやらぬ状態のまま、それでも(粒子貯蔵タンク型)は慌てて身構える。
そうだ。
トランザムが使えない、そのことにショックを受けていられるような状態ではない。
今まさに交戦中。
トランザムでも使わない限り、とても倒せそうにない難敵との交戦中なのだ。
(粒子貯蔵タンク型)は慌てて骸骨剣士に向き直って――
ヒュンッ…… ザクッ。
-
それは何の前触れもなく。
横合いから飛んできた棒状のモノに、その身を貫かれた。
「なっ……!」
貫かれた身体からバチバチと火花が散る。
重要な回線に損傷を受け、急速に意識が遠のいていく。
何が起こった。
第三者の乱入でもあったのか。
よりにもよってこのタイミングで、なのか。
そしてダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク)が最期の力を振り絞って振り向いて、そこに見たもの。
それは、骸骨剣士が遮蔽物代わりに使った例の『石碑』のようなオブジェと。
その手前。
大地から半身だけ這い出して、槍を投げたままの姿勢で動きを止めている、「もう一体の」骸骨剣士の姿だった。
* * * * * * * * * * * *
我が名はレギオン。大勢であるがゆえに。
* * * * * * * * * * * *
-
ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)が機能を停止し、その周囲に使う間もなかった装備品がまき散らされる。
骸骨剣士は何の感傷も露わにすることなく、その光景を眺めていた。
骸骨剣士はまずは石碑に歩み寄ると、そこに片手をかざして『送還』を開始する。
石碑全体が、淡い光に包まれる。
骸骨剣士は、決して愚かなフィギュアではない。
もちろん、そのキャラクター性として、無口ではある。
喜怒哀楽の感情も薄いかもしれない。
けれど、こう見えても、他のフィギュアたちと同レベルの性能のAIが搭載されているのである。
十分に理性的で、十分に知恵の回る存在なのである。
むしろ、表情や会話などに演算能力を割いていない分。
結果的に、戦闘時の判断などは優れている方なのかもしれない。
実のところ、状況の膠着に焦れ始めていたのは骸骨剣士の側も同じだった。
ゆえに彼は、(粒子貯蔵タンク型)が飛び道具を派手に撃ち放ったタイミングで、『隠し札』を切った。
盾代わりの障害物として呼び出したかのように見えた、『石碑』のようなもの――
それは、『特撮リボルテック No.020 骸骨剣士』に付属のアイテムの一つ、神殿の柱を模した『飾り台』だった。
『飾り台』の背面には、使わない予備の剣や盾、槍などのパーツがマウントできるようになっている。
そして、その『飾り台』の前、地面を模した部分には。
今まさに地面から這い出して来る途中の骸骨が2体、セットされている。
そのうち一体は頭部が出てきているだけで、動ける部分など存在しない。
しかしもう片方は胸のあたりまで地上に露出し、右腕が自由に動けるようになっている。
あまつさえ、その腕には、剣などの武器を持たせることが可能なのだ。
あの瞬間。
無様に障害物を求めたように見えた、骸骨剣士は――
AIをフル回転させて、這い出る骸骨たちが見えづらい角度に『飾り台』を設置。
同時に、骸骨剣士の基本装備の1つであった槍も、片腕の動く『兄弟』の手が届くところに配置しておいた。
そして、障害物から転がり出るようにして、(粒子貯蔵タンク型)の注意を自分に惹きつけ。
挑発的に歯を鳴らし、自分「だけ」を見るように仕向けて。
その隙に、片腕しか動かない『兄弟』に決着を委ねたという訳だ。
剣は投げるに適さないが、槍であれば投げても安定する。
十分に、他のフィギュアを「殺せる」だけの威力がある。
原作映画の作中でも7人で1組だった、骸骨剣士。
数の優位を利用するのは、むしろ当然のことだった。
『飾り台』を『送還』した骸骨剣士は、(粒子貯蔵タンク型)の屍に歩み寄る。
その胸部に突き刺さったままだった自分の槍を抜き、『送還』。
2本のGNソードⅡも、奪って軽く素振りをし、ライフルモードなども構えてみた後に、『送還』した。
そして最後、(粒子貯蔵タンク型)の右前腕に固定されていたGNソードⅢを外し、手に取ろうとして……
-
「…………!!!」
そのあまりの重さに、慌てて手放して尻餅をついた。
命を与えられたフィギュアたちにとって、『筋力』と『保持力』は別のパラメーターだ。
骸骨剣士は原作映画の作中の動きから逆算されて、『筋力』は比較的高く設定されている。
武器を振るう時の勢いも、力比べをする際にも、重要となるのはこのパワーの方だ。
その一方、フィギュアとしての彼は、数多のフィギュアの中でも特に細い身体を与えられている。
当然、その関節はシリーズ内でも最少サイズのジョイントであり、保持力はどうしたって弱くなる。
そんな彼が、GNソード?のような大型武装を無理して持とうとしたらどうなるか。
……関節がバカになってしまうに、決まっている。
骸骨剣士は何度か首をひねった挙句に、地面に落ちたままのGNソード?もそのまま『送還』。
メイン武装として振るうことはできないながら、とりあえず持って行くことに決めたようだった。
同じようにして、(粒子貯蔵タンク型)が使う間もなかった装備たちも、支配権を奪って『送還』していく。
GNシールドが2枚。GNビームサーベルが2本。
そして、それぞれのフィギュアに支給された追加装備が2セット丸ごと。
最後に残ったのは、ダブルオーライザー本体だった。
軽く片手でひっくり返すと、骸骨剣士はその背に手を触れて……
ブゥンッ。
小さな唸りを上げて、MSの背と両肩から大型のユニットが分離する。
そのまま空中で変形・合体して、支援機オーライザーの姿になる。
オーライザー。
『機動戦士ガンダム00』の作中では、ツインドライブを安定させるのに必要な追加ユニットであったが……
同時に、独立飛行が可能な支援戦闘機でもあった。
作中で明確な描写があった訳ではないが、それでも、MSの1機くらいは軽く載せて飛べるくらいの推力はある。
骸骨剣士は、支配権を奪ったオーライザーに飛び乗ると、ふわり、と共に空に浮き上がった。
カカカカッ、と夜空に歯が鳴らされる。
相手が英雄だろうとガンダムだろうと互角以上に渡り合える最古の剣士。
それが今、天駆けるための翼まで手に入れた。
命ぜられたままに戦う、そのことに片鱗の疑いも持たない死の剣士は、次なる獲物を求めて夜の街に舞い上がった。
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【ダブルオーライザー(粒子貯蔵タンク型)@ROBOT魂 機能停止】
【深夜/エリアW(屋外・校庭の片隅・百葉箱の前あたり)】
【骸骨剣士@リボルテック】
【電力残量:85%】
【装備:剣、盾、オーライザー@ROBOT魂(ダブルオーライザー版)(電力残量70%)】
【所持品:クレイドル、
基本武装(予備の剣、予備の盾、槍、飾り台(骸骨の上半身付き))、
ダブルオーライザーの装備(GNソードⅢ、GNソードⅡ×2、ビームサーベル×2、GNシールド×2
拡張パーツ4種(未確認)】
【状態:損傷なし、オーライザーに乗って飛行中】
【思考・行動】
基本方針:命じられるままに、全ての敵を倒す
1:次の敵を探す
※ オーライザーはバッテリー独立型です。本体の電力は消費しませんが、クレイドルでの充電が必要です。
※ 関節の保持力の関係上、大型武装であるGNソードⅢなどは、骸骨剣士には運用が難しいようです。
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投下終了です。
知らない人は作品名などで軽く検索してみてください。
『アルゴ探検隊の大冒険』、その中での特に有名な七人の骸骨剣士の戦い、動画が見つかるはずです。
これが1963年だもんなぁ……!
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投下お疲れ様&wiki乙です!
こちらも予約していたターンX、タウバーン@ROBOT魂で透過します
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「フフフ……ハハハハハハハハハッ!!」
両腕を大きく開き周囲に声を響かせる男――フィギュアが一体。
刻まれたシルシの所在はX。それを表す機体、名をターンX。眠から覚めた直後だと言う事を感じさせない程の笑い声。
眠から覚めた直後。
始まりの儀式で告げられた実験の開始、他の規格の存在。
『この世界に存在するアクションフィギュアは、武装神姫だけではありません』――無論ターンXは武装神姫ではない。
フィギュアであるターンXには本来のパイロット、機体が存在していた媒体のパイロットの記録が記されているのが定石。
そして【記録を持ったフィギュア】として可動しているのがフィギュアの世界。
しかしこのターンXには【フィギュアとしての記録】は持っていない。
オリジナルは元々封印――言わば活動を停止していた古代の遺産だったのだ。
それが発掘されMS――モビルスーツとして運用され、とある世界線とそれを含む平行世界で暴れていた。
黒歴史。触れてはならない禁忌の遺産。その権化が今此処に【フィギュア】といて降臨したのだ。
「小生の記録に黒歴史が――幾つもの黒歴史が刻まれているではないか!」
宇宙世紀と記された人類の進化と可能性、ニュータイプ達の過ちと成長の記録。
バルマー戦役と呼ばれた銀河を巡る大いなる争いと文明の終局。
数多の多元世界を巻き込んだ時空を震撼させた運命分岐点の選択と奪還。
彼の中に記された黒歴史に共通することは絶えない争いと大いなる戦争。
惹かれるは宇宙、導かれるは新人類。伝説の決戦、意思の光、サイコフレーム……。
「この小生の行く先にはどうやら戦いしかないみたいではないか!面白い、ならば思う存分この戦に身を赴かせるのみッ!!」
フィギュアとしての生活は零、覚醒めたばかりの禁忌の遺産。
記録されているのは多くの黒歴史、戦いの歴史のみ。ならば彼は好きなだけ戦う。
この実験に終止符を撃つのか、それは止めるなんて優しいものではない。
長年封印されていた鬱憤を晴らすためだけに大地を戦火に包もうとしているのだ。
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装備も充分――同梱されている一式の装備は揃っている。
主に遠距離を扱う武具が多いがターンXは元々高スペックな機体のため戦闘能力は高い。
月光蝶――禁忌が禁忌を名乗る故の兵器が使えるかは、今語る必要はないだろう。
ビームライフルやバズーカは残念ながらサイズ比で表すとオリジナルよりも小さく感じる。
「ふん」
だが威力は本物だ。試射と題して前方のコンクリートに放つが大きく凹み消滅している。
ギンガナム――ターンXに刻まれている本来の搭乗者人格も納得しているようだ。
「颯爽登場……って訳でもないけど今の爆発はもしかして貴方ですか?」
ターンXがビームライフルを発射した音と光が原因なのか。
それとも大きく笑っていた行為が問題だったのか。
それか惹かれ合う運命だったのか。一つのフィギュアがターンXに接触を図ってきた。
その規格は同じROBOT魂だがサイズは未確認フィギュアの方が大きい。
全体的に細いフォルム、赤と白を基調としたカラーバランス、胸には青いコア、頭には特徴的なクリアパーツ。
「突然ごめんなさい、僕はツナシ・タクト……じゃなくてタウバーン?」
サイバディ。それがタウバーンと呼ばれる人型兵器の総称。
ツナシ・タクトとはタウバーンに刻まれた搭乗者の記録であり、此処に居るのはフィギュアのタウバーン。
無機物に生命を込められた本来ならば存在しない玩具、それはターンXも同じである。
そんなタウバーンは爆発の所在をターンXに尋ねる、犯人はターンXだ。
手に持っているビームライフルがそれを物語っているが暴発かもしれない、ならば理由を問うべき。
タウバーンは実験で不幸なフィギュアが出るなら、困っているフィギュアのために動ける心優しいフィギュアだ。
もしターンXが実験に怯え震えているフィギュアならば、彼は救いの手を差し伸べる。
しかしターンXは実験に怯える存在ではない、寧ろ喜び、意気揚々と戦火を拡大させる。
ビームライフルを無言でタウバーンに発射、胸のコアに吸い込まれるようにタウバーンに直進。
機体を撚るように躱すタウバーン、そして声を出す。
「こっちは手を出す気はないんだけど?」
「構わんッ!黒歴史に刻まれていない機体よ、小生と戦えェいッ!!」
ビームライフル本体をタウバーンに投げつけるターンX。
武器を放棄するターンXに驚き、反応が遅れるがこれを腕で大地に叩き落とす。
「フハハハハハハハ!!」
直進し拳を突き出すターンX、腕を交差させ防ぐタウバーン。ミシッ。フィギュアと言えど力は油断できない。
直撃こそしていないが数センチ後退するタウバーン。数センチもフィギュアにしてみれば人間の数メートルに値する。
「マトモに会話もしてないけど……仕方ないッ!タウ!ビームッッ!!」
-
胸のコアに腕を重ね出力を集中、其処から発射されるは一筋の青い閃光。
「フンッ!!」
ターンXは迫る閃光を避けることはなく、右腕一つで対抗を始めたのだ。
突き出された右腕と閃光は互い同士空中でぶつかり合い均衡している。
溶断破砕マニピュレーター――ターンXの右腕に装備されている兵器を展開しエネルギーを放出。
これによりビーム兵器と生身で正面から対応しているのだ。
「これだけかァ?タウバーンとやらよォ!!小生を満足させるには……ムゥ!!」
タウビームを防いでいるターンXに追い打ちを掛けるべく上空に飛んだタウビーム。
そのまま右腕に握られた剣を振り下ろしターンXに傷を与えようとしていた。
「スターソード、エゥロード!!」
緑に輝くスターソードエムロードがターンXを捉え――ビームと共に爆発。
「出力を上げてビームを爆発……面白いことをするね」
スターソードが機体に当たる前にターンXは溶断破砕マニピュレーターの出力を上昇。
密度高く集約されたエネルギーを掌にて解放、これにより小規模な爆発を展開しタウバーンを退けた。
着地が終了したタウバーンは爆風が晴れない中神経を集中、潜む敵を探る――そこだ。
「手応え……なしっ!?」
背後に存在を感じたタウバーンはスターソードを後ろに突き刺したが……空を切る。
「甘いぞ小僧め!戦いは常に何手先も見据えるものだ!!」
「分解して……動いているのか!?」
確かにタウバーンの予測通りターンXは背後に居たが、全てが居たワケでは無かった。
スターソードが刺さる直前に機体を分裂させることにより回避、そして攻勢に移るターンX。
「イッツァピーンチ……」
「このターンXに名を刻んでやろうではないか!タウバーンよッ!!」
今度はタウバーンの背後にターンXの右腕が迫っていた。
出力は充分、先ほどのビームを誘爆しとき同じように――所謂シャイニングフィンガー、まではいかない。
それでも機体に損傷を与えるには充分過ぎる一撃であることには変わらない。
「さぁ此処で朽ち果てるがいいィ!!」
「僕には見えているッ!スターソード!サフィールッ!!」
左手に握られた蒼天のスターソードがターンXの右腕と衝突。
タウバーンに与えられたスターソードは一本ではない、一対だ。
「分離してくる敵とは一度やったことが……あるんだよねッ!!」
力任せにスターソードを払い右腕を返すタウバーン、返されたターンXはそのまま機体を再度連結させる。
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「歴史に記されていないってさ、タウバーンは元々綺羅星十字団も把握してなかったみたいだけど……その機体はサイバディじゃないよね?」
剣を一つ大地に降ろし、一つを肩に担ぎターンXを見つめるタウバーン。
戦闘経験は敵機の方が圧倒的に上だが、そのまま負けるつもりはない。
「それに僕はまだ青春を謳歌している途中…て『黒歴史』認定何てまだ早いってね」
(それと早く終わらせなくちゃ……聞こえてきた悲鳴の女の子を助けに行かないと)
戦闘の合間、本当の一瞬だった。タウバーンがターンXの右腕を払った直後の僅かな静寂。
その時一つの悲鳴が彼の耳に――脳内に響いたのだ。誰かが襲われているならば。
「本来の僕――ツナシ・タクトも助けに行くに決まってる……それが銀河美少年!タウバーン!!」
取る行動は一つしかない。例えフィギュアだろうとこの世に生命を授かっているならば。
見捨てることなんてツナシ・タクトの存在が許さない、守れるものは全て守り通す。
「小生に背を向けるとは何事よォォォオオオ!!」
悲鳴の元へ向かうタウバーンをターンXが見逃す理由も無く咆哮を上げながら追尾を行っていた。
「今はアンタに構っている場合じゃないってこと!!それぐらい分かってくれてもいいんじゃないの!?」
スターソードをコンクリートに振り下ろし瓦礫の弾幕を張るタウバーン。
それを気にせず突撃を止めないターンX。
「それが!小生に!何の関係があると言うのだあああああああああああああ!!」
本能のままに闘争を求める男が逃走を許す筈もなく、己が満たされるまで戦闘を止めないだろう。
追跡を振り切り参加フィギュアを助けたいタウバーン。
しかし彼はまだ「救いの対象が既に活動を停止」していることを知らない、知る由もない。
だが急ぐ、信じて、ただひたすらに――。
【黎明/エリアR(南西)】
【ターンX@ROBOT魂】
【電力残量:80%】
【装備:ビームライフル、キャラバス】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ソウルジェム)、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:右手に損傷(軽微)】
【思考・行動】
基本方針:気の赴くままに闘争を楽しむ
1:タウバーンを破壊する
【タウバーン@ROBOT魂】
【電力残量:90%】
【装備:スターソードエムロード、スターソードサフィール】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:実験何て必要ないね
1:悲鳴が聞こえたエリア(V・エクサランス)へ向かう。
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投下を終了します
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すいません、状態表の【ソウルジェム】は削除ミスです……。
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何度も申し訳ありません
状態表を下記の通り修正いたします。
【黎明/エリアR(南西)】
【ターンX@ROBOT魂】
【電力残量:80%】
【装備:ビームライフル、キャラバス】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:右手に損傷(軽微)】
【思考・行動】
基本方針:気の赴くままに闘争を楽しむ
1:タウバーンを破壊する
【タウバーン@ROBOT魂】
【電力残量:90%】
【装備:スターソードエムロード、スターソードサフィール】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:実験何て必要ないね
1:悲鳴が聞こえたエリア(V・エウクランテ)へ向かう。
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投下&wiki乙です
朝比奈みくる@figma、エヴァンゲリオン初号機@ROBOT魂 を投下します
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王からの命令で姫を救う勇者、彼に倒されるための魔王が存在するように、物語の登場人物全てには役割と言う物が与えられている。
そして現実に置いてもそれは変わらない。
男は狩りをし女は家を守り貴族は散財し貧民は納税をし上司は責任を取って部下が尻拭いをする等と誰もが社会の歯車として機能させられているのだ。
「そんな・・・・・・こんなのあんまりです・・・・・・」
体育座りで俯く少女の名前は朝比奈みくる。
Max Factoryから販売されている商品名称《figma 036 涼宮ハルヒの憂鬱 朝比奈みくる 戦うウェイトレスver》の巨乳少女のフィギュアである。
壊し合いが始まり暫し呆然としていたみくるであるが、彼女を絶望の淵へと誘ったのはこの場で与えられた役割とは関係ない。
上体を起こし、確認するかのように片手で胸部に手を這わせてみる。
無い。
突然だが、当該プロジェクトを観戦しているオーナー達に告ぐ。
貴方はフィギュアの胸を触ったことがあるだろうか?
いやそんな汚い物を見るような目をしないで欲しい。誰にだって経験があるはずだ。
女性型フィギュアを買う人間はそれぐらいの劣情をぶつけるはずだ。
だから正直にあの頃の気持ちを思い出して欲しい、自分の嫁の胸を触ったときめきを―――
大体が予想通りで溜め息を付いてえ?気持ち良かった?ああうんそりゃいい素材使っているんだろうね良かったね。
柔らかいフィギュアの素材といえば代表的な物はシリコンだけどむっちゃ高い。
どんぐらいかって言うと最底辺のソフビより高いPVC(塩化ビニール樹脂)とABS(ABS樹脂)、この三者を比較できるほどの価格差としたら5倍ぐらいかそれ以上ってぐらい高い。
そんなもん使っていたら2万3万ぐらいのフィギュアじゃないと利益を取ることができないのだ。
対してみくるのお値段は2,381円+税と大変お手ごろでリーズナブルな値段となっている。
もちろん素材も比例してPVCとABSが使われているので大量生産されていたのだ。
まあ何が言いたいかって言うと こ の 朝 比 奈 み く る は お っ ぱ い が 硬 い。
「人工知能与えるならせめてボディもアップグレードしてくださいよぉ・・・・・・」
欠け落ちた自分の胸を見て落胆する。
みっともなく腰のコルセット辺りでぶら下がっているそれは軟質素材で外面だけ朝比奈みくるの巨乳を形作っており、
中身は何も詰まっていない。
figmaのフィギュアの胸は軟質素材+空洞で柔らかさを表現しているが、廉価品だけで構成されたそれには限界と言う物があった。
触っても彼女の満足行く柔軟性を出し切れておらずムキになって服を剥ごうとしてみた結果、胸部パーツごとエプロンがズレ落ちてしまった。
自分の巨乳を確認するために服を脱いだら虚乳だと判明してしまったのだ。
最後に残ったのはなだらかな丘どころか開拓され尽くした荒地でしかなかった。これには長門有希も思わずほくそ笑む(気がした)。
「あの宇宙人にも劣るなら私の取り得って一体なんなんですか!」
涼宮ハルヒの憂鬱本編では空気で不人気扱いだった上に唯一自身を持っていたスタイルの良さまで奪われたのだから仕方が無い。
これならいっそのこと魔改造で全裸にして欲しかったとは思う。
無駄に豊かな表情が今となっては恨めしい。ボディにはほとんど手が加えられていないと言うのに。
「いいもんいいもんどうせ私は不人気ですよぉ〜
巨乳枠も朝倉さんが人気独占しているから私の出る幕なんてないんですよねぇ〜
いいなぁ神姫さん達は。マスターと大人のコミュニケーションができるとかフィギュア界のエースオブエースじゃないですか。
どうせ私なんか・・・・・・」
すっかり自虐モードに入ってしまったみくる。
本来の朝比奈みくるならいざ知らず、彼女は涼宮ハルヒの憂鬱という物語を作品という観点で知っている朝比奈みくるだ。
長年刊行されているが目立った活躍もなくSOS団のマスコットとして存在し続けていることを知ってしまっている朝比奈みくるだ。
だからこそ数少ない個性が喪失してしまったことに耐え切れなかったのだろう。
そしてだからこそ、背後に迫り来る巨体にも全く気づかなかったのである。
-
「すいません、コンセントどこですか?」
「ふぇ?」
幼い少年の声だった。
声だけならみくるよりも年下の、中学生ぐらいの子供だろうか。
しかし大きい。全高約13.5cmの自分に影がかかる程の大きさである。
少年型のフィギュアであれば精々13〜14cm程度だろうが、声の方向が頭上から聞こえてくるのは明らかにおかしい。
「な、なんなんですかぁ?」
恐る恐る後ろを振り返ってみることにする。
するとそこには紫の装甲の逞しい胸部が出てきた。
(ロボット?)
僅かに落ち着きを取り戻しながらロボットの顔を確認しようと視線を上に逸らしていく。
獣を思わせる顔つき。
猛禽類のような鋭い目。
それでいて明らかに地上の生物とは異したなんかやばい角。
「すいませんコンセントを探しているんですけどどこかで見ませんでした?」
乙女の柔肌程度なら容易く食い千切ってしまえそうな顎が赫々と開閉する。
商品名《ROBOT魂<SIDE EVA> エヴァンゲリオン初号機》。
前世紀でブームを引き起こし社会現象にもなった巨大ロボットアニメの主人公機である。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あの、コンセント」
初号機の腕がみくるに向かって伸びたその時だった。
「ぴゃああああああ!!!!!!」
みくるは大きく悲鳴を上げて初号機から後ずさったのだ。
いくらフィギュアといえ初号機の風貌は二本足の獣、何の予備知識もない少女が間近で見たらびびってもおかしくない。
「待って!コンセント!」
「自分で探してくださぁぁぁぁぁぁい!!!」
焦る初号機を尻目にみくるは猛ダッシュでその場から逃げ出した。
【深夜/喫茶店前 エリアQ】
【朝比奈みくる@figma】
【電力残量:90%】
【装備:拡張パーツ(大砲)@不明】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:損傷なし(胸パーツがズレ落ちている)】
【思考・行動】
基本方針:?????
1:初号機から逃げる
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「ちくしょう!なんだってんだよ一体!」
みくるの姿が見えなくなり、エヴァンゲリオン初号機は地団駄を踏む。
いくら非リアで根暗な少年だったとはいえ、通りすがりの女の子から拒絶された経験はオリジナルの碇シンジの記憶にさえなかった。
だから地味に傷ついた。泣きそうだった。
「コンセント探していただけなのに畜生・・・・・・」
それとも何か、自分の外見が悪かったのだろうか。
てかパイロットの人格ならリアルアクションヒーローズに碇シンジあるんだからそっち使えよって突っ込みたかった。
日本人に道を尋ねる外国人に初号機はちょっとだけ同情した。
「そうだ、コンセント探さなきゃ」
先ほどから彼が言っているコンセントとはアンビリカルケーブルを取り付ける差込口のことである。
家内ではテレビや冷蔵庫に洗濯機といった電化製品を動かすためにお世話になり、屋外でも自動販売機に電力を供給しているアレだ。
最近マナーの悪い人間が自分の携帯電話を充電するために使用して電気窃盗行為で問題になっているアレだ。
公共で設置されているコンセントを私用で使うことは法律で禁じられているのである。
「いくらアンビリカルケーブルがあるからってクレイドル支給しないのはどうかと思うんだ。
S2機関でもあれば良かったんだけどね」
この初号機も原作に習い、アンビリカルケーブルから電源を供給することで機動している。
文明が栄えている都市ならば電力は無尽蔵であるが、裏を返せばケーブルがなければほとんど動くことができない命綱である。
内部電源はあるが、原作では持って数分というところだ。
しかしこの仕様が災いしたのか、彼には本来全てのフィギュアに与えられているはずのクレイドルが支給されていない。
どうせアンビリカルケーブルで補給を済ませられるからいらないだろうと判断されたためである。
「あ、コンセントあった」
色々言いたいことはあったが、自動販売機裏に設置されたコンセントを見つけて胸を撫で下ろすのであった。
【深夜/飲食街の自動販売機前 エリアQ】
【エヴァンゲリオン初号機@ROBOT魂】
【電力残量:70%(回復中)】
【装備:アンビリカルケーブル】
【所持品:基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:損傷無し・充電中】
【思考・行動】
基本方針:???
1:なんなんだよ一体・・・・・・
2:とりあえず充電する
※クレイドルの変わりにアンビリカルケーブルが支給されています。
※ケーブルを外すと電力消費が酷くなります。
※ケーブルの長さについては後の人に任せます。
※その他ケーブルの制限も後の人に任せます。
【アンビリカルケーブル】
エヴァンゲリオンシリーズに登場する電源供給装置。
エヴァンゲリオンの背部に差込口があり、元の電源と繋がっている間はほぼ無制限に活動することができる。
当プログラムに置いては電源と繋げる先端のプラグがコンセント対応となっており、
これに繋いでいる間エヴァンゲリオン初号機は電力の消費を気にすることなく行動できる。
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投下終了です。
クレイドルが支給されていない点がルールにひっかかってしまうと思うので、不都合でしたら修正します
それでは失礼しました。
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皆様投下乙です。
おっぱいが硬かったり柔らかかったり、骸骨騎士が強かったり銀河美少年ロボだったり読み応えがあります。
一つだけ指摘を。
>>268のやわらか素材の説明ですが、その価格帯かつfigmaサイズでのやわらかおっぱいを搭載した可動フィギュアは、
リボのメローナ、MMSのヨーコやオトメディウスシリーズなどいくらか存在しています。
塗装割れや係数劣化が他のパーツより早かったりと別問題を抱えていますが、
説明文だけだとそれらのシリーズが存在しないような扱いなので、触れていただけると違和感がないかと思います。
-
皆様投下お疲れ様です!
感想は後ほど纏めて書かせていただくとして、気になったところだけ少々。
>>237
えーと……スパ金の関節に磁石は使われていないと思うのですが……。
昔の玩具に関しても、砂場で遊べないというのは恐らく現バンダイの超合金ではなくタカラのマグネモ(鋼鉄ジーグとか)の話かと思います。
いずれにせよ実際のフィギュアと齟齬が出てしまうので、申し訳ないですが修正頂きたいところです。
>>271
同梱されているアンビリカルケーブルを実際に電力供給源にする、というアイデアはすごく面白いと思います。
ただ、「クレイドルの代わりに」だと原則に反するだけでなく移動が大変だったり断線したら詰んだりで今後のリレーのハンデになっちゃうかな、と。
ルールにそってクレイドルは支給していただいたほうがありがたいかな、というのがスレ主としての考えです。
あ、みくるの硬い胸に対してちょうどすぐ上でマミさんの胸が柔らかいって話が来てますが、みくるはfigma最初期のモデルだからとかで辻褄が合いそう。
そういう整合性を取っていける設定に関しては、そのまんま通したほうが面白そうかなって。
-
期限を超過してしまい申し訳ありません。
ただいまより投下させていただきます。
-
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////
ざくり、ざくり。
地面を、踏みしめる。
ざくり。
足を、止める。
眼前に、映る。
闇のような黒に、血が混ざったような赤の。
禍々しい、甲冑。
///////////////////////////////////////////////////////////////////////////
-
期限超過したらどうするか話し合ってなかったね、そう言えば
-
「…………何が狙いでしょうか?」
始まりの場所、全てが消え失せたはずの地。
そこに一人残された、スーツの男。
いや、男と言うには語弊があるかもしれない。
なぜなら、男の頭は"カメラ"だから。
「簡単なことです、貴方には別の依頼があるというだけ」
事務的に、無感情のまま、彼女は言う。
自分の出で立ち、対話の相手、今の状況。
それらが揃ってなお、気づけないほど彼も鈍感ではない。
「……この催しを、この私めが録画しろ、ということですね?」
男の返答に、一度だけ頷いてから、彼女は言う。
「察しがよくて助かります。実験データの一環として、貴方には個体達の動向を間近で撮影していただきたいのです。
もちろん、こちら側から何かしらの援助はいたします、ですから――――」
「――――ただ、撮るだけですか?」
淡々と説明を続ける彼女の言葉を、男は強めに切る。
食い下がられる場所が意外だったのか、彼女も一瞬言葉に詰まってしまう。
「……そうです、ただ撮るだけで構いません」
「つまらないですね」
即答だった。
思わず間の抜けた声が出てしまうほど、意外で、突拍子もない答えだった。
「私はね、スリリングな映像が撮りたいんですよ。
自分の身に危機が迫るような、スリリングな映像を。
映画の盗撮は、ある程度スリルがあって手軽に楽しめたから、やっていたんです。
……でも、やっぱりそれじゃ満足できない。そう、ずっと思っていました」
自分の番だと感じたのか、男は突然饒舌になっていく。
問われてもいないことを、ただただ口に出していく。
女は、そんな男の姿をただじっと見つめている。
男は、握り拳を力強く作り、言葉を続けていく。
「そして、今。あなた達は我々人形達に"殺し合え"と言っている。
命と命、造られた物が言うにはオーバーですが、そんな命がけのやりとりがここにある。
そんなスリリングな場所を、ただただ、黙ってみていろというのならば、それは拷問にも等しい苦痛です。
そんなことなら、定点カメラなり衛生カメラにやらせていればいいッ!!」
力強く語り続ける男、それを黙って聞いている女。
しばらくの静寂の後、女が口を開く。
「……望みは」
「もう、粗方分かっているでしょう」
肩を竦め、申し訳なさそうに、かつどこか勝ち誇ったかのように男は言う。
-
「こんな大規模な催しが出来るほど、お上はデキるようだ。
ならば、私に力を与えることも出来るでしょう。
あなた方は私に戦う力を授ける、私は新たなスリルに酔いしれる。
そして、私はどんなカメラでも撮ることは出来ない一人称の戦いの映像をあなた方に提供する。
……これ以上のない、分析の材料だとは思いますが。いかがですか?」
その一言のあと、女は再び黙り込んでしまう。
いや、ただ黙っているだけではない、それはわかる。
小刻みに揺れるその体は、どこかで話しているようにも見えた。
「……"承認"が下りました、いいでしょう、こちらへ来てください」
にやり、と。
無いはずの口が、笑った。
「……ただの甲冑、って訳でも無さそうだな」
帽子の男、テリー・ボガードはそう呟いてから間合いを取る。
踏み込めるギリギリで立ち止まり、拳を構え、その時に向けて備える。
甲冑の騎士から感じられる気は、ギース・ハワードとはまた違った形で禍々しく、恐ろしい。
けれど、不思議と殺意に近い物は感じない。
まるで、この状況を楽しんでいるかのように。
「どうか、しましたか?」
投げかけられた声に、ハッとする。
禍々しさからは似ても似つかない柔和な声。
いや、禍々しいからこそ出せる優しい声だということか。
ごくり、と音が響くように、はっきりと唾を飲み込む。
「……貴方は、相当な手練れとお見受けできる。
どうかこの若輩者と、手合わせを願えないだろうか」
相手は間合いから一歩も踏み込んでこないまま、テリーに話しかける。
嫌な汗が額を伝うが、顔は笑っていた。
親指で鼻をぐいっと押し、テリーは応える。
「オゥケイ……!」
合図は、その一言だった。
-
テリー振りかぶった拳を、勢いをそのままに地面に打ち付ける。
「Rock You!!」
Power Wave
練り込まれた力が、波となり地面を這う。
離れた相手に初手を仕掛けるための、飛び道具。
予想通り、それを避けるように相手は飛びかかってくる。
そう、予想は半分当たっていた。
半分は当たらなかった、というより、予想することさえ出来なかった。
まるで素人丸出しの、両の拳を組み合わせた無骨なスレッジハンマー。
飛びかかった勢いをそのままに振り下ろす、ただそれだけ。
だが、それに殺人的な速度と力が加わっていれば、話は別だ。
振りかざした一撃を止めることはもはや叶わず、とっさに守りの姿勢を取るのが精一杯だった。
攻撃を受け止めた腕に、痺れが強く残る。
小細工は通用しない、そう踏んだテリーも、積極的に攻めを仕掛けていく。
「Beat Up!!」
ほぼ密着の相手に対し、片足を強く踏み込んで肩を突き上げる。
そのまま体ごと宙へ舞う力にブレーキをかけ、瞬間的な衝撃を強めていく。
ガードもままならない素人の守りでは、この衝撃には耐えられない。
テリーの予想通り、その強肩は甲冑へと突き刺さった。
だが、衝撃を食らったのは甲冑だけではなかった。
吹き飛ばす側であったはずのテリーにも、反動が訪れていた。
まるで巨岩を相手に仕掛けたように、肩がひりひりと痛む。
だが、無防備の相手をみすみす見逃すわけにも行かない。
一気にケリを付けるため、力を出し惜しみすることなく放つことを選ぶ。
「Are You OK!?」
打ち出す構えは、まるで大砲のよう。
浮かせた片足は、反動をつけるための引き金。
その足で力強く踏み込み、瞬間的に加速を得る。
突き出した拳が、弾丸のように飛び出していく。
甲冑は、逃げるでもなく、守るでもなく。
その拳を、真正面から受け入れた。
突き刺さる、拳。
「Buster……」
放たれる、渾身の一撃。
「Wolf!!」
衝撃波が狼の叫びとともに、甲冑を包み込んだ。
-
ぐしゃり。
何かがひしゃげるような音が聞こえたのは、すぐの事だった。
舞い上がる煙の中、うっすらと形が見えてきたのは。
袈裟懸けに半透明の剣を振るう甲冑の姿だった。
「いいものを、撮らせていただきました」
まるで機械のような声で、甲冑は告げる。
反撃しようにも、力が上手く入らない。
「ですが、ここまでです」
冷たく告げられる言葉は、もはや耳には入らない。
ぼんやりと頭の中に響いたのは。
情けないな、と思う自身の心だった。
「すばらしい……これが、戦う力!!」
抜いた剣を仕舞い、甲冑の手を何度も開いて閉じて、男は言う。
自分になかった物、手にすることなど無いと思っていたもの。
戦う力、それも強大な力が、今自分の手元にある。
それは、焔の災厄とも呼ばれた力。
世界の破滅すらも起こし得るその力。
かつて、とある世界でそれを手にしたのは、心優しき少年だった。
そして今。
ほぼ同じ力は「科学」で再現され、一つの人形の手に渡った。
その目で「記録」するために必要な、戦う力として。
ここに"アシュレー・ウィンチェンスター"はいない。
いるのは、ただ。
力におぼれ、力に酔いしれる、一人の男だ。
【テリー・ボガード@D-Arts 機能停止】
【深夜/エリアY】
【カメラ男@S.H.シリーズ】
改め
【ナイトブレイザー@D-Arts】
【電力残量:90%(回復中)】
【装備:ナイトフェンサー(基本パーツ)】
【所持品:基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×2〜4】
【状態:損傷無し】
【思考・行動】
基本方針:戦い、スリルを味わい、録る。
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以上で投下終了です。
期限超過、重ね重ねお詫び申し上げます。
その上予約メンツを力技ですりかえる上にがっつり主催介入までしております。
ガンプラのように自由な企画とはいえ、さすがに踏み込みすぎでNGだとは思います。
何かしらありましたらどうぞお申し付けくださいませ。
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>>281
投下お疲れ様です……と言いたいところですが、すみません、これは駄目です。
まず武装神姫の公式設定および上記ルールの両方で触れられていますが、フィギュアからのコアやチップの抜き出しは出来ません。
素体から切り離した時点で死亡する以上、全く関連性のないフィギュアに人格を移し替えるのは設定上不可能です。
加えてフィギュア自体のキャラクター性を活かすのを主旨とする本企画において、両者それぞれのキャラ性を損なっているのも見過しがたい。
つまり「ナイトブレイザーの素体にカメラ男をベースとしたオリジナル人格を搭載する」意義が見出だせず、これは例外可の範疇外と考えます。
結論として、この展開を通すわけにはいかないというのがスレ主としての考えです。
改めて本ロワの主旨をご理解いただいた上、修正あるいは取り下げのご判断をお願いします。
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>>282
了解いたしました。
本作は破棄とさせていただきます。お手数をお掛けいたしました。
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>>283
了解しました。
申し訳なくはありますが、企画運営上どこかで一線を引く必要があるということを御理解頂けると助かります。
ここからは他の企画参加者の皆様への連絡になります。
自由枠が2つ空く形となりましたので解禁したいところですが、現時点で気付いたもの勝ちというのはフェアではないと考えます。
つきましては、本日深夜0:00をもって自由枠2枠の予約開放を行いたいと思います。ご協力よろしくお願いします。
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申し訳ありません、期限までに投下が間に合わないので予約を破棄します
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>>285
ご報告ありがとうございます。了解しました。
この時点で解禁する枠数を更新、本日深夜0:00を持って開放される自由枠は「3枠」となります。
優先順位は先着順となりますが、2枠使用予定で1枠しか空きが無かった場合、同時に予約する確定枠が先行と被った場合は無効となります。
ご了承のほどよろしくお願いします。まぁ、あくまで競争が発生すると仮定しての話ではありますが……。
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UCR-10/A@スーパーロボット超合金、ジムスナイパー?U@ROBOT魂
で予約します。
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アルトアイネス@武装神姫、予約します
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予約ありがとうございます、自由枠はこれにて再度締め切りです!
スパ金としては異色のリアルロボットであるアーマードコアUCR-10、ジムスナイパーⅡはポケ戦……いやあっちかな?
そして最後が武装神姫とは。お二方ともどう活かしていただけるのか、楽しみにしております!
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>>273
返答遅れて申し訳ないです
修正版投下します
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「グゥ……オオオオオオオォォォォ」
獣のような唸りと雄叫びを夜空に響かせる、魔神皇帝の姿。
胸の宝玉は、今もなお「魔」の文字を輝かせている。
倒すべき敵だけを求め、それを滅ぼす破壊の悪魔。
そこには大凡理性と呼べるものは感じられない。
ただ、何らかの苦痛を感じさせるかのような咆哮だった。
それは、破壊と破滅を望まぬ本心の、魂の叫びなのか。
その苦痛も、奥底から沸き起こる破壊の情念に上書きされていく。
魔神皇帝は歩き続ける。
そこに何を求めて歩くのか。
戦いか、それとも救いか。
それとも、見失った自分自身か。
◇ ◇ ◇
「ん……!?」
超合金のロボット玩具のような姿の彼は、何かを感じたように北の空を見上げた。
空には何も見えない。街灯の光が邪魔をして空の細かい様子がはっきりと見えない。
それを抜きにしても、深夜の空に何者かの存在を見つけ出すのは至難の業だった。
(……気のせいか?)
そんな彼に、共に行動していた女の子のフィギュアが声をかける。
「どうかしたの、マジンガーZ?」
「ああ……いや、何でもない。行こうぜ、亜美ちゃん」
-
そのスーパーロボット超合金の名はマジンガーZ。言わずと知れたスーパーロボットの元祖。
同時に超合金玩具の元祖と言ってもいいロボットであり、スーパーロボット超合金としても第一弾として作られた。
そのS.H.フィギュアーツの名はセーラーマーキュリー。IQ300の心優しき天才少女、水野亜美の変身した姿。
かつて熱狂的ブームを巻き起こした、セーラー服美少女戦士の、一番人気だった娘を模したフィギュアである。
殺し合いが始まってから間もなく遭遇した両者。
お互い殺し合う意思もなければ殺し合いに抵抗する意思も共通し、意気投合。
竹を割ったような熱血漢のZと、温和で冷静な知性の戦士であるマーキュリーの間にはトラブルも発生することなく、
バトルロワイアルの脱出・破壊に向けて、ごく自然に共に行動する運びとなった。
「それで、少しでも仲間を集めようってのはいいとして、それからどうするんだ?」
「……正直、見当もつかないわ。このバトルロワイアル、脱出にしても破壊するににしても、
何から手を付ければいいのか、何をもって反抗となりえるのか……
この殺し合いを開催している黒幕の正体すら、全くわからないし……」
「黒幕か……ま、確かにあの変なのがそうである風には見えないよな」
「でも、必ずこのバトルロワイアルのどこかに穴があるはずよ。
私達が反撃に転じるには、その穴から切り拓いていくしかないでしょうね。
今は、その時のために少しでも戦いの準備を整えておくしかないわ。情報も、仲間も」
情報が少なすぎる以上、天才少女も漠然とした行動方針しか示すことはできなかった。
ここで敵の正体や打開策を考え続けたところで何かが進展するわけでもない。
今は少しでも自分の足で行動し、情報を集めるしかない。
それは他の参加者との接触であり、この舞台となる街の探索でもある。
「ま、しょうがねぇか。しっかし、人形の体だと移動するにも一苦労だよなぁ」
「そうね。今の視点だと、周りの広さも大きさも人間大の時と比べて、単純に10倍以上になったようなものですもの」
「おいおい、俺なんて元は18メートルの巨大ロボットなんだぜ?10倍どころか、100倍近いぜ」
「ふふっ、そうだったわね」
ふと、少女は横を歩くロボットの超合金に、疑問を抱く。
彼の自我のことだ。原作において、マジンガーZは人が乗り込み操縦するタイプの巨大ロボットである。
特にこれといった人工知能を持っているわけでもない彼には、自我は存在しないはずだ。
「私は、原作における『水野亜美』本人の自我や人格を与えられてるわけだけど……
原作がロボットであるあなたのその自我は、一体誰の人格ということになるの?」
「もちろん、原作の主役メカにしてスーパーロボット『マジンガーZ』の自我だ。
原作の俺はマシーンだから喋れないし自我も表現できないけど、ちゃーんと人間達の燃える友情は理解できるんだぜ」
「……まるでメルヘンね」
「人格としては、俺を操縦してた『兜甲児』って奴がモデルになってるんだろうけどな。
ただ、性格があいつに似てるってだけで……俺はあくまで俺、『マジンガーZ』だ」
「じゃあ、『兜甲児』さん本人の自我を植え付けられた、というわけではないのね」
「一応な。それでもモデルになってる以上は、俺の中にも確かに『兜甲児』は存在してると思うけど」
「……なんだか、ややこしいわね。他のロボットのフィギュアも同じような感じなのかしら」
「どうだろうな。他のロボット連中がみんな俺みたいな奴ばかりってわけでもないだろうし。
ま、そんな細かい話はどうだっていいさ。けど、あいつの心が俺の中にもあるからこそ、わかる……
こんな悪趣味な殺し合いなんか許すわけにはいかねぇ。甲児も必ず、同じように思うはずだ」
マーキュリーは、兜甲児のことを語るZがどこか嬉しそうに見えた。
自分を動かす主でありパートナーでもある彼のことを、信じ、誇りに思っているからこそ、できる口調だ。
「そう。あなた、兜甲児さんのことが大好きなのね」
「かーっ、変なこと言うなって!あの野郎、いつも原作の俺を無茶な操縦でこき使いやがってよ!
もし本人に会うことがあったら、喋れないオリジナルに代わって、いっぺんきつく言ってやりたいくらいだぜ!!」
「ふふっ……」
-
そしてきっと彼のこの性格も、彼が言うところの兜甲児の人格を色濃く受け継いでいるのだろう。
そんな彼に、マーキュリーは……水野亜美である彼女は、自然と元気をもらっていた。
セーラー戦士のブレーンとして戦いに身を捧げる彼女も、本来なら普通の中学生の女の子である。
この状況下では少なからず不安になっていたからこそ、どこか月野うさぎと通じるものがある彼の存在は、
彼女にとって支えとしても機能していた。
「とにかく公園を出たら、人の集まりそうな場所に向かいましょう……マジンガーZ?」
マーキュリーが振り返ると、Zが足を止め、さっきと同じように北の方角を見据えていた。
「? どうしたの、何か見えるの?」
「何かが……こっちに近づいてくる」
「えっ?何かって……」
目を凝らして、マーキュリーも同じ方向を見てみる。
街灯の光の中、僅かに、黒い影が映ったような気がした。
その影が小さく光り――
「危ないっ!!」
◇ ◇ ◇
Zとマーキュリー、同時にその場を飛び退る。
直後、二人のいた場所を光線が走り抜け、地面に火花が激しく飛び散った。
「いきなり撃ってきやがった……どうやら、殺る気になっちまってる奴らしいな!」
「まだわからないわ。この状況で錯乱してるだけという可能性も……」
二人は光線の放たれた方角に再び目を上げる。
そこには襲撃者の姿。二人の位置からもはっきり視認できる所まで接近していた。
Zはそれを目にして――驚愕する。
「なんだあれは……悪魔、いや……マジンガー、なのか!?」
黒い体、胸の赤い放熱板、広げられた赤い翼に、特徴的な顔。
誰の目にも、それは『マジンガー』だった。
マジンガーZの特徴をそのままに、見た目や装飾を極端に禍々しくしたかのような姿。
悪魔のごときその容姿は、夜の空に不気味なほどに映えていた。
「マジンガーZ、あのロボットは一体?」
「わからねぇ!俺の知らないマジンガー、だと……!?」
ここにいるマジンガーZは、昭和47年より放映された東映アニメ版の世界のそれを模している。
自我も、その搭乗者である『兜甲児』の人格がベースとされている。記憶、そして知識も。
故に、彼は知らない。それから20年の後に新たに創造された、目前の新たなるマジンガーの存在を。
それを抜きにしても、目の前の悪魔の発するただならぬ気は、Zに危機感を与えるには十分だった。
「おい、お前は何者だ!?敵か、それとも味方か!?」
「……おおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
Zの問いに答えることなく、悪魔――マジンカイザーは、天に向かって絶叫を轟かせた。
-
「ルスト……トルネェェェド!!」
「!! 来るわ!!」
一瞬の溜めの後、カイザーの口にあたる部分から破壊の豪風が吹き出された。
風は竜巻となって、地上の二人に向けて襲い掛かる。
巻き込まれまいと、Zとマーキュリーはそれぞれ左右に大きく跳び、回避する。
竜巻は地面を抉りながら、二人の間を吹き抜け、そのまま背後の石壁に直撃した。
巻き込まれた草は瞬く間に腐食していき、灰となって消えていく。
(あの風……強酸が含まれてる!?あんなのが直撃したら、ひとたまりもないわ……!)
オリジナルのそれは、富士山の山肌をも大きく抉り取るほどの威力を持つ。
それに比べればスケールこそ大幅にダウンしているものの、フィギュアの身には十分すぎる脅威だ。
「亜美ちゃん、下がっているんだ!こいつは俺が相手をする!!」
戦慄するマーキュリーに指示を出すと、Zは敵を迎え撃つ態勢に入る。
マジンカイザーはZへと向けて、弾丸の如く一直線に突進してきていた。
「こいつの狙いは……俺だ!!」
超合金の弾丸が、Zを捉える。
皇帝の右腕が、勢いと力に任せて振り下ろされた。
「ぐぉ……っ!」
右腕は、Zの両腕によってかろうじて受け止められた。
同じ超合金である彼でなければ、防ぎきることは不可能だっただろう。
突進の勢いに超合金の重量もプラスされた重い攻撃は、並のフィギュアならバラバラにされかねない。
(こいつ……なんてパワーだ!?)
圧倒されるパワーと凶悪な面構えに一歩も譲ることなく、Zはカイザーを睨みつけ、叫ぶ。
「おい!てめぇもマジンガーなんだろう!?」
こうして近くで見れば見るほど、マジンガーだ。
だがZやグレートとは違い、その姿は悪魔に身を堕としたような禍々しさに満ちていた。
また、体格もZを一回りほど上回っており、大人と子供ほどの差がある。
「マジン……ガー……神にも、悪魔にも……」
「そうだ、神にも悪魔にもなれるマジンガーの力で……てめぇは悪魔になるつもりか!」
「悪魔、に……グ、ウ……」
「っ……!?」
Zの言葉で、一瞬、カイザーの動きが鈍る。
漏らした呻き声は、何かに苦しんでいるようにも思えた。
「何だ、一体……!?」
「……ち、違う……!」
「なっ!?」
だが、その僅かな瞬間ではZの反撃の糸口にはなり得ず。
すぐに、Zに押し付けるカイザーの右腕に力が戻り――高速回転を始める。
「俺の名は……マジンカイザー……最強の、マジン、ガー……」
「うおっ!?」
ドリルを思わせるその回転に、掴んでいたZの両腕が弾かれた。
バランスを崩しよろめきながら、Zは同じマジンガーとして、次にカイザーが放つ攻撃を瞬時に予測する。
「俺は……神をも超える……」
ロケットパンチ……いや、ドリルプレッシャーパンチか?
倒れかける所をかろうじて踏み止まりつつ、咄嗟に両腕を前面で、その一撃に備える。
「悪魔も……倒す!!」
回る右腕がロケットの如く火を噴きながら『発射』され、Zに叩き込まれた。
マジンカイザーのロケットパンチ……ターボスマッシャーパンチだ。
「ぐ……うおおおおっっ!?」
拳は両腕のガードをものともせず、猛烈な勢いでZの身体を後ろへと押し流し――
1メートルほど吹っ飛ばされて、Zはバランスを維持しきれず地に転がった。
それが幸いして、ターボスマッシャーパンチの軌道線上から外れ、その猛攻から逃れられた形となった。
しかしそのままでは終わらない。即座に態勢を整え起き上がると、反撃行動へと移る。
「ナメやがって!光子力ビーム!!」
Zの両の目から撃ち放たれる、光子力エネルギーの閃光。
それに呼応するかのように、カイザーの瞳からも同じように光子力の光が撃たれた。
両者の中間点で二つの光がぶつかり合う、しかし張り合えたのは一瞬。
出力の差か、カイザーの光子力ビームがZのそれをいともたやすく押し返していく。
「何……ぐわぁぁぁっ!!」
光はそのままZの胸部にまで届き、超合金の身体に爆撃を与えた。
衝撃を堪え切れず、再び地に倒れるマジンガーZ。
-
カイザーの切り離された右腕が、元の部位に戻る。
そしてZにとどめを刺すべく、カイザーがさらなる追撃に出ようとした、その時。
「こっちよ!!」
側面からの少女の声に、カイザーは振り返る。
既にそこでは水星の名と加護を持つ美少女戦士が、必殺技発射の態勢を整えていた。
「シャイン・アクア――――イリュージョン!!!」
セーラーマーキュリーの両腕から、超低温の水流が放出される。
水は意思を持つかのようにカイザーの全身を包み込むと、その内側に発生する冷気が瞬時に凍り付かせていく。
なす術もなく氷漬けとなり、カイザーの動きは封じられた。
「マジンガーZ、大丈夫!?」
凍結を見届け、マーキュリーは傷ついたZのもとへ駆け寄ろうとする。
しかし、凍結は一瞬。仲間を気遣う余裕は彼女には与えられない。
「……なっ!?」
すぐ直後、カイザーの胸部を中心に、異常なスピードで氷が蒸発し始める。
水星の氷をも溶かす熱量の出処は、カイザーの胸部――放熱板だ。
「ファイヤー……ブラスタアアアアアアァァァァァ!!」
皇帝の絶叫と共に、放熱板から熱光線が発射された。
同時に、カイザーを覆っていた残りの氷も一気に拡散。枷はいともたやすく打ち破られた。
(やられる!?)
一直線に迫る赤の熱光線。
避けきれない――そう判断した彼女の行動は早かった。
マーキュリーは体の周りに、シャボン・スプレーを応用した水のバリアを張り巡らす。
次の瞬間、業火が少女の全身を飲み込んだ。
(く……っ!なんて熱量なの……!?)
熱光線はバリアによって阻まれ、少女の本体まで達することはなかった。
それでも、熱はバリア越しに伝わってくる。これが直撃すれば、彼女の身体は跡形もなく消し炭と化すことだろう。
だが無情にも、魔神の業火はすぐに水を蝕み始めた。
シャボンの水分は徐々に蒸発し、バリアがじりじりと削り取られていく。
熱線の照射は収まる気配を一向に見せず、対するマーキュリーには早くも限界が近づいていた。
彼女を動かす電力が、瞬く間に消費されていく。
(耐え切れない――ッ!)
「いい加減に……しやがれぇっ!!」
Zの叫び声がしたかと思うと、ふいに彼女に向けられていた熱光線の軌道が逸れた。
倒れていたZが回復し、その超合金の重量を武器に、カイザーの横っ腹に体当たりを仕掛けたのだ。
その衝撃に、ファイヤーブラスター照射の反動も加わって、カイザーは派手に転倒した。
「大丈夫だったか、亜美ちゃん!」
「っ……ありがとうZ、助かったわ」
バリアを解除し膝をつくセーラーマーキュリーのもとへと、マジンガーZは駆け寄る。
熱光線が通った後の焼け焦げた地面と噴き上がる硝煙は、業火の破壊力を物語っていた。
あと一歩遅れていれば、少女の身体は炎に飲み込まれ、消し炭と化していただろう。
-
「この場は一旦退こう。悔しいが今の俺達じゃ、あの野郎には勝てねぇ!」
「わかったわ……!」
力の差は歴然。マジンガーZの性能を、あらゆる面で凌駕している。特に攻撃力は言語に絶していた。
ロケットパンチ、光子力ビーム、ルストハリケーン、ブレストファイヤー……
Zの持つ代表的な4大武器を同じように兼ね備え、その上で全ての威力がZのそれを上回っていると来ていた。
(ちっ……俺に対する当てつけみたいな性能しやがって)
同じ武装を持つマジンガーだからこそ、Zはその性能差と無力さをいち早く察知し、痛感していた。
「私が敵の動きを止める!」
「ああ、頼むぜ!」
転倒していたマジンカイザーが立ち上がる。しかし、まだ態勢は立ち直しきってはいない。
攻勢に移られる前に、少女は自身の手札を切る。
「シャボ―――――ン……」
マーキュリーの両手の間に、エナジーを込めたシャボン玉が形作られる。
標的に向けて狙いを定めつつ、シャボンに破裂寸前までエナジーを注ぎ込み――
「スプレ―――ッ!!」
両腕を広げると同時に――破裂。
エナジーの泡が、カイザーに向けて解き放たれた。
「グ、ウ……?」
冷気が、カイザーの周囲の温度を低下させ、霧と幻影を生み出し包み込む。
殺傷力は皆無に等しい。だがこの技で多くの妖魔をかく乱し、仲間の放つ次なる攻撃へと繋いできた。
今回も繋ぐ。マジンガーZが次なる手札を切るための行動に。
「今よ、マジンガーZ!」
「おう!来い、スクランダーッ!!」
Zの叫びに応じ、紅の翼が上空のどこからともなく姿を現した。
マジンガーZの持つオプションユニット、ジェットスクランダーが転送されてきたのだ。
「よし、来たか。そんじゃ行くぜ、亜美ちゃん!!」
「お願い!」
Zのもとへと真っ直ぐに飛来するスクランダー。
Zはマーキュリーを抱きかかえると、翼の位置とスピードにタイミングを合わせ、地を蹴った。
鉄の城と紅の翼、二つの影が重なり合う。
「スクランダー・クロォォス!!」
ドッキング成功――!
魔神のその背に新たな命が燃え、魔神に大空を駆けるための力を与えた。
「あばよっ!!」
飛行可能となったZは、抱えた少女と共に戦場を離脱。
そしてその場には、霧に囲まれたマジンカイザーのみが残されることとなった――
◇ ◇ ◇
-
「ったく、初っ端からとんでもねぇ奴とぶつかっちまったぜ」
「今回はやり過ごせたけど、この殺し合いが続けられる以上……いずれもう一度戦う時が来るわ」
「ああ。その時までに俺達も、あいつと十分に戦える態勢を整えておかなきゃな……できるだけ、早く」
二人の口ぶりは重い。それはマジンカイザーを放置せざるを得なかったせいか。
この先、あの怪物が他のフィギュアを襲う可能性は十分にある。
それがわかりながら逃げを打つしかなかった口惜しさと無力さを、二人は噛み締めていた。
「あいつ……一体何だったんだろうな」
ふいに、Zがポツリと呟く。
「マジンカイザー……とか言ってたな。変な話だが、どうもあいつが他人に思えねぇ」
「確かに、まるであなたを参考に作られたかのような感じだったわ。武装も似通ってたし」
「そうじゃねぇ……いや、確かにそれもあるけどよ。なんていうか……まるで自分自身を見てたような……」
Zは思い返す。カイザーが飛来する直前に感じた感覚を。
その接近が、あらかじめわかっていたかのような感覚。
まるでマジンガー同士が呼び寄せ合っているかのような、得体のしれない不思議な感覚だった。
そして、脳裏にこびり付いて離れない。
組み合っていた時、ほんの一瞬だけマジンカイザーの見せた表情を。
(あいつは一体何者なんだ……?)
【黎明/エリアI(公園内)】
【マジンガーZ@スーパーロボット超合金】
【電力残量:60%】
【装備:ジェットスクランダー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:ダメージ中、疲労】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いの阻止
1:この場を離脱する
2:対主催のための態勢を整える
3:マジンカイザーが気になる
【セーラーマーキュリー@S.H.シリーズ】
【電力残量:50%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ポケコン)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:ダメージ小、疲労】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いの阻止
1:この場を離脱する
2:仲間・情報を収集し、対主催のための態勢を整える
-
◇ ◇ ◇
「グ……オオオ……」
皇帝を取り囲んでいた霧が、晴れた。
既に魔神と少女は目の前からいなくなっていた。
しかし、皇帝の心は晴れない。
自分の心を見失ったまま、一人苦しみ続ける。
「あれは……あいつ、は……」
最初の魔神との接触が、闇に蝕まれていた自身の記憶を紐解く。
それは彼の中にある『兜甲児』の人格から連なる、オリジナルの記憶。
俺はあの魔神を知っている。
そうだ、思い出した。あれは、マジンガーZ。
マジンガーZ。兜甲児が搭乗し、Dr.ヘルの機械獣に立ち向かう魔神。
その果てに敗北し、破壊された……言うなれば前座ロボット。
Zに代わって兜甲児が搭乗し、新たな戦いに臨む――それが俺、マジンカイザー。
兜甲児の人格が宿り、自我を得た。それが俺だ。
俺の中には『兜甲児』の心が宿っているはず。そのはずだ。
――神にも悪魔にもなれるマジンガーの力で……てめぇは悪魔になるつもりか!
だがあの時響いたマジンガーZの声。
それは同時に、『兜甲児』の声でもあった。
少女を守りながら、共に悪と戦う。
紛れもなく、『兜甲児』の乗るマジンガーZの姿だ。
奴が戦っていた悪とは――
……俺?
なぜ、俺が『兜甲児』と戦わなきゃならない?
なぜ、俺が悪になっている?
『兜甲児』が乗っているのは、俺のはずじゃないのか?
そもそも、どうしてマジンガーZがここにいる?
マジンガーZは敗れたはずだ。
負けた奴が、壊れた奴が、何故いつまでもそこにいる?
マジンガーZ、お前は死んだはずだ。
だから俺がいるんだ。俺が新たなる正義の魔神として、戦うんだ。
『兜甲児』がいるべき場所は、もうお前の所にはない。俺がそうであるはずだ。
駄目じゃないか、死んだ奴がいつまでも居ちゃ。
お前はもう『兜甲児』じゃない。
原作の記憶を振り返る。
奴が破壊されたからこそ、俺は正義の魔神として目覚めた。
奴が破壊されなければ、俺は兜甲児の手に渡らない。……物語は始まらない。
マジンガーZは、破壊されなければならない。
敗北して、悪にその身を蝕まれた果てに、俺の手で破壊される。
俺が俺であるために、奴は惨めに死ななければならない。
『兜甲児』は俺だ。
俺が、甲児の心と共に、悪と戦うんだ。
-
◇ ◇ ◇
……そう、注意しておかなくてはいけない。
マジンガーZの例と同じだ。
マジンカイザーは、確かに『兜甲児』の人格が、自我のベースとなっている。
しかしベースとなっているだけで、決して『兜甲児』本人の人格というわけではない。
彼はあくまで兜甲児のような性格をした『マジンカイザー』なのだ。
さらに着目すべき点として、彼は『OVA版』マジンカイザーを模した玩具であることにも触れねばなるまい。
当然、与えられた記憶も『OVA版』のそれだ。
だから、今回登場したマジンガーZがマジンカイザーの存在を知らなかったことと同様に、
このマジンカイザーも、自身の原作世界である『OVA版』以外のマジンガーZの存在は、知らない。
つまり現時点において、彼のマジンガーZについての知識は、『OVA版』におけるマジンガーZのことしか存在しない。
では『OVA版』におけるマジンガーZは、どんな存在だったか。
あの作品におけるマジンガーZは――
機械獣達に惨めに叩き潰されて、パイルダーを引き剥がされて。
あしゅら男爵に奪われ醜悪に改造されて、挙げ句仲間達を傷つけて。
最後には、起動したマジンカイザーに一蹴され、破壊されて、全ての役目と出番を終えた。
マジンガーZの過去の活躍も特に語られることはない。グレートのようなフォローも入らない。
だから、カイザーの中では、マジンガーZはただのやられ役であり、自身の引き立て役以上の何でもなかった。
それが彼にとってのマジンガーZの認識だったのだ。
――故に、彼は許すことができなかった。
自分の存在を無視したまま、いつまでも『兜甲児』であり続ける、前座ロボットのことが。
◇ ◇ ◇
闇に囚われた自我が、蘇っていく。
魔神皇帝の自我が、再構成されていく。
その心から『兜甲児』を見失ったまま。
歪んだ形で、彼はその人格を構成する。
胸の宝玉の文字が『魔』から――『Z』に変わった。
これは魔神皇帝に心が宿った証。
ただ、その心は本来宿るはずだった正義の心ではなかった。
何故なら――彼は、本来あるべき自分自身を見失ったまま、その自我を取り戻してしまったから。
「俺は……マジンカイザーだ」
はっきりと意志をもって、己の名を口にする。
「そして……『兜甲児』の心を宿す魔神」
彼の言葉に含まれた――憎悪。
「『兜甲児』は――マジンガーZではない」
マジンガーZへの、強い憎しみ。
マジンガーZの、破壊。
自分の中の『兜甲児』を見失った皇帝は、その在処をマジンガーZに求めた。
マジンガーZが破壊されることで、その心が戻ってくると思い込んで。
マジンガーZ。
マジンカイザー。
この舞台には二人の『兜甲児』の人格の持ち主が存在している。
厳密には元となる世界観が異なる、しかしキャラの方向性的には限りなく近い、二つの世界の似て異なる『兜甲児』の人格が。
故に、今マジンカイザーがマジンガーZに求めている『兜甲児』は、本当ならば彼の求めるものではない。
彼の求める『兜甲児』は、常に彼自身の中に存在するのだが……
それを見失ったまま自我を構成してしまった彼は、そのことに気付かない。
気付かずに、マジンガーZの中にそれを求め――マジンガーZの破壊を求める。
「俺が――『兜甲児』だッ――!!」
彼は自らの足で、さらなる闇の道を歩き続ける。
本来の『兜甲児』とはかけ離れた道を。
【黎明/エリアO(公園入り口前)】
【マジンカイザー@スーパーロボット超合金】
【電力残量:50%】
【装備:カイザースクランダー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:両腕に細かい傷あり。水濡れ】
【思考・行動】
基本方針:???
1:マジンガーZの破壊
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投下終了。長々とすみませんでした
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>>300
修正ありがとうございます! なるほど、結果的に互いの消耗も抑えられる形になりましたね。
今回はお手間取らせて申し訳ありませんでした、今後も気が向きましたら参加していただければ嬉しいです。
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すいません修正します
修正します
>>268
>欠け落ちた自分の胸を見て落胆する。
>みっともなく腰のコルセット辺りでぶら下がっているそれは軟質素材で外面だけ朝比奈みくるの巨乳を形作っており、
>中身は何も詰まっていない。
>figmaのフィギュアの胸は軟質素材+空洞で柔らかさを表現しているが、廉価品だけで構成されたそれには限界と言う物があった。
>触っても彼女の満足行く柔軟性を出し切れておらずムキになって服を剥ごうとしてみた結果、胸部パーツごとエプロンがズレ落ちてしまった。
>自分の巨乳を確認するために服を脱いだら虚乳だと判明してしまったのだ。
>最後に残ったのはなだらかな丘どころか開拓され尽くした荒地でしかなかった。これには長門有希も思わずほくそ笑む(気がした)。
欠け落ちた自分の胸を見て落胆する。
みっともなく腰のコルセット辺りでぶら下がっているそれは軟質素材で外面だけ朝比奈みくるの巨乳を形作っており、
中身は何も詰まっていない。
figmaのフィギュアの胸は軟質素材+空洞で柔らかさを表現しているが、廉価品だけで構成されたそれには限界と言う物があった。
もう少し新しい物であれば同サイズで近い値段のフィギュアでも乳房の弾力を表現できたであろう。
だけど朝比奈みくるはfigmaでは番号が若い、つまりはアクションフィギュアとしてはオールドタイプなのだ。
触っても彼女の満足行く柔軟性を出し切れておらずムキになって服を剥ごうとしてみた結果、胸部パーツごとエプロンがズレ落ちてしまった。
自分の巨乳を確認するために服を脱いだら虚乳だと判明してしまったわけである。
最後に残ったのはなだらかな丘どころか開拓され尽くした荒地でしかなかった。これには長門有希も思わずほくそ笑む(気がした)。
>>270
>「いくらアンビリカルケーブルがあるからってクレイドル支給しないのはどうかと思うんだ。
> S2機関でもあれば良かったんだけどね」
>この初号機も原作に習い、アンビリカルケーブルから電源を供給することで機動している。
>文明が栄えている都市ならば電力は無尽蔵であるが、裏を返せばケーブルがなければほとんど動くことができない命綱である。
>内部電源はあるが、原作では持って数分というところだ。
>しかしこの仕様が災いしたのか、彼には本来全てのフィギュアに与えられているはずのクレイドルが支給されていない。
>どうせアンビリカルケーブルで補給を済ませられるからいらないだろうと判断されたためである。
>「あ、コンセントあった」
>色々言いたいことはあったが、自動販売機裏に設置されたコンセントを見つけて胸を撫で下ろすのであった。
「もう電力が3分の1も切れたよ。いくらエヴァだからって燃費悪すぎだろ。
S2機関でもあれば良かったんだけどね」
この初号機も原作に習い、アンビリカルケーブルから電源を供給することで機動している。
文明が栄えている都市ならば電力は無尽蔵であるが、裏を返せばケーブルがなければほとんど動くことができない命綱である。
内部電源はあるが、原作では持って数分というところだ。
クレイドルでの充電は無防備になるので実質コンセントが見つからなければこのままリタイアとなる。
「あ、コンセントあった」
そろそろやばいなーと思ったが、喫茶店の脇に隠れるようにコンセントが設置されているのを発見した。
誰も来ない、店の建て看板の照明を照らすための電源だろうか。
別にこんなところに閑古鳥が鳴こうが知ったこっちゃないのでさっさと引き抜き充電を始めるのであった。
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>>302
無理を言う形になってすみません、修正ありがとうございます。
一応ルールに合わせてもらったとはいえ、ほんと付属のアンビリカルケーブルで実際に電力供給するってアイデアは目から鱗だったのですよ。
こういう自分では絶対思いつかない発想が出てくると、スレを立ててよかったって思いますね。
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ついでに、名簿を更新させていただきますね。
《 暫定名簿 》 ◎……登場済み、○……初期枠(未登場)、△……自由枠(登場予定)、●……機能停止
【武装神姫】5/6
◎アーンヴァルMk.2/◎ストラーフMk.2/●エウクランテ/◎フブキ弐型/◎マリーセレス/△アルトアイネス
【リボルテック】11/11
○新ゲッター1/○ジェフティ/◎プレデター/○阿修羅/◎レヴィ/◎ウッディ/
◎スネーク(PW版)/◎伊達政宗/◎ゲッターアーク/◎ハンター(レウス装備)/◎骸骨剣士
【figma】10/11
◎初音ミク/○テッカマンブレード/◎如月千早/◎島風/◎沙英/◎巴マミ/◎チャリオット
●阿良々木月火/◎タイムスクープハンター沢嶋雄一/◎ロジャー・スミス/◎朝比奈みくる
【S.H.シリーズ】9/9
◎仮面ライダーフォーゼ/○ワイルドタイガー/◎ゴジラ1995/○アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(GE2)/◎デストロイア(完全体)
◎仮面ライダーディケイド/◎仮面ライダーオーズ/◎仮面ライダーシン/◎セーラーマーキュリー
【ROBOT魂】8/9
●ダブルオーライザー/◎ターンX/◎エヴァンゲリオン初号機/◎ドラえもん/●コダールi
◎ザンダクロス/◎ZZガンダム/◎タウバーン/△ジムスナイパーⅡ
【スーパーロボット超合金】5/6
◎マジンカイザー/◎天のゼオライマー/●ガオガイガー/○ガンバスター/◎マジンガーZ/△UCR-10/A
【アーマーガールズプロジェクト】4/4
◎MS少女ユニコーンガンダム/○MS少女バンシィ/○セシリア・オルコット/○宮藤芳佳(震電装備)
【D-Arts】2/2
◎VAVA/◎ロックマン
【装着変身】1/1
◎仮面ライダーブレイド
【ULTRA-ACT】1/1
◎ウルトラマンタロウ
【聖闘士聖衣神話】1/1
◎双子座のサガ
【計56/61体】
未登場:ワイルドタイガー@S.H.シリーズ
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ@S.H.シリーズ or D-Arts(S.H.だとGE2版、D-ArtsだとGE1版になります)
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宮藤芳佳(震電装備)も未予約未登場ではないでしょうか
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新ゲッター1@リボルテック、阿修羅@リボルテック、テッカマンブレード@figma、投下します
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「チッ!手数だけは多い奴だ!」
新ゲッター1は相手の連続攻撃を受けながら愚痴をこぼす。
ゲッタートマホーク一本では既に防ぎ切れていない。
なにせ、相手は六本の腕を使い複数の武器で攻撃してきているのだから。
戦いと進化の申し子、ゲッターロボ。
闘神としての阿修羅を模して作られた阿修羅像。
両者の出会い、そのまま戦闘に入るのは不思議な事ではなかった。
当初新ゲッター1は(一応)会話を試みたのだが、阿修羅が襲いかかってきたのだ。
天界を荒らし回った神のデータを書き込まれた阿修羅としてはそれが自然な行為だったのだ。
『竜馬、一度距離を取れ!このままだと腕のパーツがもたん!』
「くそっ!」
接近戦に耐えきれなくなった新ゲッター1はサブAIの隼人に従い距離を取る。
阿修羅が近接武器のみなら距離を取ってのゲッタービーム、それで片がついたはずだった。
そう思い、いらつく新ゲッター1に阿修羅の上段の腕が構える十字架から銃弾が放たれる。
漫画『トライガン』においてミカエルの眼という組織が作った個人が所有できる最強の兵器…パニッシャー。
鈍器としても盾としても使え、そして圧倒的火力を誇る最悪の兵器が阿修羅の拡張パーツだったのだ。
「くそっ!なんとか隙をつくらねえと…!」
新ゲッター1は空中を飛び回り回避を続けるが、このままではエネルギー切れが待つのみ。
この戦場ではただ飛行するだけでも貴重な電力が消費されていくのだ。
『竜馬、拡張パーツだ!』
「拡張パーツだぁ!?」
『ああ。弁慶とパーツの詳細を調べていたんだがな…奴さんに隙を作るにはとっておきの物があった』
阿修羅は飛び続ける相手に向けての銃撃をやめない。
弾丸の補充によるエネルギー切れなど考えない。
勝利も敗北も彼には関係ない、闘神として戦う…戦闘の結果ではなくその行為こそが全て。
他の原作を持つフィギュア達と違い、闘神としての阿修羅…そのイメージだけで作られた彼にはそれしかなかったのだ。
-
「うおおおぉぉぉぉっ!!!」
先ほどまで攻撃を回避し続けていた新ゲッター1が動きを変える。
ゲッタートマホークを盾に、阿修羅へと突撃を始めたのだ。
―愚かな。
相手が自暴自棄になった…そう考えた阿修羅はもう一つの拡張パーツを呼び出し、下段の腕に構えた。
自分と同じ神、海皇ポセイドンの三つ叉の矛…この刃先なら突撃してくるフィギュアも問題なく貫ける。
そう、阿修羅が勝利を確信したときだった。
「ゲッター、ギャオス!!ゲッタァァァ、プチマスィィィンズ!」
阿修羅の腕から槍が、パニッシャーが、三叉の矛が、全ての武器が落ちていく。
当然、阿修羅が自分から手放したのではない。
予想外の事態に狼狽える阿修羅の目に入ったのは鳥形のミニフィギュアと4体の猫型ミニフィギュアだった。
新ゲッター1はまともな武器が支給されなかった。
拡張パーツとして登録されていたのはミニフィギュア…攻撃は低いものの、ビット代わりに扱えるパーツ。
新ゲッター1はサブAI隼人・弁慶でこれらを精密に操り阿修羅の武装を無力化したのだ。
「ゲッターを甘く見たな、阿修羅像さんよぉ!」
ミニフィギュア達の作り出した隙を使い新ゲッター1は阿修羅の元に辿りつく。
阿修羅が残っていた弓と矢を呼び出すが、既にこちらの切り札は準備できている。
「グェッタァァァァビィィィィィム!!」
−−−−−−
-
「チェンジ、ゲッター2!」
新ゲッター1はその身を地上型の新ゲッター2に変える。
戦闘に勝ちはしたがエネルギーの消耗が激しい為、新ゲッター1の飛行による移動は控えた方がいいだろうとなったからだ。
『おい隼人。戦闘になれば俺に変われよ』
『竜馬、さっきの戦闘を忘れたのか。お前に任せてたらクレイドルがいくつあっても足りんぞ』
「黙ってろ二人とも。まずはクレイドルによる充電…その為の安全な場所への移動だ」
優先度が切り替わり、メインAIとなった隼人は他の二人を黙らせ移動を開始した。
【エリアF(東)】
【新ゲッター1@リボルテック】
【電力残量:30%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、プチマスィーンズ(ハウリン)@武装神姫、ミニギャオス(ギャオス)@リボルテック】
【状態:ダメージ中、新ゲッター2にチェンジ中】
【思考・行動】
基本方針:主催者へ反抗
1:襲ってくる相手は倒す
※新ゲッター2、新ゲッター3へチェンジできます。
結果として破れたが、阿修羅に後悔はなかった。
お互い全力を尽くしての戦かった結果だ、不満があろうはずがない。
もはや時間もわからず、視覚も機能してないが、誰かが近くに来た事はわかる。
おそらくは死闘の相手…確かゲッターと名乗っていた。
なら、この言葉だけは伝えねばなるまい。
損傷が激しいが、阿修羅は勝者に送る言葉を発する。
「見事なり…ゲッター」
その言葉を最後に、阿修羅の機能は停止した。
【阿修羅@リボルテック 機能停止】
-
彼、テッカマンブレードはこの戦場に呼び出されてから、誰にも出会えずにいた。
故に周辺を飛びまわり、民家に入っては他の参加者を探していた。
そして何件目かの家に窓から入ったとき、その惨状を見た。
本来は住民達がくつろいでいただろう、居間。
その真ん中で半ば融解した状態でわずかに動くフィギュア。
「おい、しっかりしろ!誰にやられた!」
目の前のフィギュア…阿修羅像を揺するが、既に機能停止寸前らしく反応が返ってこない。
やがて小さな声が発せられた。
「ぃ…な…ゲッター……」
「ゲッター…それがお前を襲った相手なのか!?」
ブレードが聞き返したときには、阿修羅は全機能を停止していた。
阿修羅の周りにあった武器を回収し、ブレードは戦場を後にした。
出来れば彼を弔ってやりたかったが、壊れた玩具はゴミ箱に捨てるのが常…しかしそんな事はしたくなかった。
代わりに彼の武器で仇を討つのが弔いとなる事を祈る。
阿修羅が最後に残した言葉、ゲッター…おそらくはゲッターロボだろう。
ブレードはネットツールでの検索を行い、阿修羅を破壊した相手を調べていた。
わかった事はゲッターロボが基本3つの姿を持つロボットであり、様々なバリエーションが存在すると言う事。
そしてゲッター線というエネルギーの影響で進化や闘争と言った言葉に縁が深い事だけだった。
(ゲッターロボは基本正義のロボットらしいが、残虐な戦い方をするタイプもいるらしい。
その例外のゲッターがこの殺し合いに乗ったと言う事で間違いないだろう)
「待っていろゲッター。お前の凶行は宇宙の騎士、テッカマンブレードが止めてみせる!」
【エリアF(民家前)】
【テッカマンブレード@figma】
【電力残量:90%】
【装備:テックランサー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、槍(阿修羅)@リボルテック、弓矢(阿修羅)@リボルテック、パニッシャー(ウルフウッド)@リボルテック、三叉矛(海皇ポセイドン)@聖闘士聖衣神話、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:殺しあいの打破
1:ゲッターロボ(阿修羅の破壊者)を倒す
※ゲッターロボの内の一体が殺し合いに乗っていると思っています。
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投下終了です
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タイトルは「闘争の果てに」でお願いします
ここからは感想を
>>221
マジンガーZとマジンカイザー、まさかこんな展開になってしまうとは
憎悪に染まったマジンカイザーが恐ろしい…グレートマジンガーがいたら余計面倒な事になったでしょうね
>>240
マリーセレスwwww
神姫勢の中でもフリーダムすぎる…マミさんはその、ご愁傷様
ドラちゃんはちゃんとストッパーになれるのか?
>>247
嗚呼…せめて商品名にガンダムがついていれば…
骸骨剣士の物言わぬ強キャラ臭に圧倒されますね
>>260
御大将は本当にどこのロワでもぶれない
銀河美少年はこの厄介な相手をどうにかできるのか、頑張れ銀河美少年
>>268
みくるにとってはリボルテックQBがこの戦場にいない事が幸せなんでしょうね…
エヴァのケーブルを使う展開にはそういう手もあったのかと唸りました
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投下乙です。
新ゲッターと阿修羅の戦いって原作を思うと凄いものが……w
増長天や持国天だとアニメの再現だったのですがw
ブレードさんの誤解はゲッターの多いこのロワならではですね。
早速ですが、ストラーフMk.2@武装神姫、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ@D-Arts、双子座のサガ@聖闘士聖衣神話を予約します。
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投下乙です
まあこの場には悪いゲッターもいるから勘違いなのに微妙に間違ってもいないんだよなぁw
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マップ更新です
深夜
ttp://or2.mobi/index.php?mode=image&file=73176.png
黎明
ttp://or2.mobi/index.php?mode=image&file=73177.png
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地図更新乙です
エヴァンゲリオン初号機@ROBOT魂、朝比奈みくる@figma、天のゼオライマー@スーパーロボット超合金、予約します
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投下します。
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『おはようございます。戦闘行動を開始します』
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
「しねぇよ。馬鹿馬鹿しい」
冷たい機械音声に、ぶっきらぼうな男の声が答える。
男の名前はディンゴ・イーグリット。
戦闘用機動兵器、オービタルフレーム・ジェフティのパイロットであり、そのフィギュアとしての主人格でもあった。
『現状の目的は敵機の殲滅とありますが?』
再度尋ねる声は、ジェフティに搭載された独立型戦闘支援ユニット『ADE(エイダ)』だ。
女性の声をしてはいるが彼女(?)に姿はない。
ADEは本フィギュアの設定通りにサポートAIとして存在し、同じくこの機体のモニターと制御を担当している。
彼ら、フィギュアとしてのジェフティの姿はブロック壁の上にあった。その背後には(彼らからすれば)巨大な体育館が鎮座している。
その壁の上で両手を広げるとジェフティはやれやれといった風にジェスチャーをした。
「認証されたマスターでもない、どこのどいつとも知れない奴の命令なんか聞けるか」
『しかし、現状を看過したままでいてはいつか何者かに破壊され、そこで終わって(GAME OVER)しまいます』
確かに。と、思案するかのようにジェフティは拳を顎に当てる。
そして、目の前を横切る道路の、その先を見た。こちら側と同じく歩道があり、家屋が立ち並んでいる。なにも変哲はない。
「ここから出ちまうって手もあるんじゃないか?」
『設定されたフィールドから出れば機能停止すると警告を受けています。その行動は推奨できません』
「そこをなんとかするのがAIの仕事じゃないのか? ハッキングなりなんなり」
返ってきたのは無感情な冷たい声だ。
『この場合、あなたもAIですが。
ディンゴ・イーグリットの戦闘データと、戦闘能力に関わる一部人格を複製してるに過ぎません』
「うっせぇなぁ! そんなことはわかってんだよ!」
ジェフティの拳が空を切る。
「…………だとしても、役割ってのがあるだろうが」
『肯定します』
「お前、性格悪くなってねぇか?」
『その言葉はそのままお返しします。
それに、サポートAIはメインAIとの情報伝達を円滑にするため、その性格に合わせて応答を変化させていくのです』
「つまり、悪いのは全部俺のほうってわけだ」
それについてのエイダの返答は――。
『肯定します』
ジェフティは毒づくと、今度は足元の壁をつま先で蹴った。
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X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
『攻撃を感知しました』
「あ?」
次の瞬間、爆音と共に飛来した鉄球がジェフティの足元に炸裂し、大きな音と共にブロック塀の一部を破壊した。
「あっぶねぇ!」
『下です』
ジェフティの姿は浮遊し、壁より離れたところにあった。一瞬ではあったが、爆発や飛び散った破片による傷は一切ない。
そして、そこから見下ろす道路の真ん中に、胸に砲を構えた一体の女性型フィギュアの姿があった。
極端に丈の短いセーラー服に、兎の耳のような大きなリボン。艦娘――島風。
この前、今と同じく伊達政宗と沢嶋雄一へと砲撃した彼女は、ジェフティが無事だと知るとあの時と同じようにまたどこかへと走り出す。
その姿を見て、ジェフティが追うように空を走りはじめる。ウィングが展開し、噴射口から迸る光が青い軌跡を描く。
『戦闘行動はしないのでは?』
「仕掛けられれば別だ。……野郎っ!」
きぃんとジェフティから発せられる音が高まり、スピードが増す。
先ほど一瞬の間で攻撃を避けたようにジェフティの機動性はかなり高い。ここに集められた60体のフィギュアの中でも五指には入るだろう。
だが――、
「くそっ!」
高速で視界の下を流れていくアスファルトの先、長いリボンをなびかせながら走る――いや、地面を滑走する島風も同じように速かった。
薄い土埃を上げて疾走する島風、そして青い燐光を宙に残し宙を走るジェフティ。
二人はあっという間に学校沿いの道路を走りきると、交差点を渡り、更に先へと進んでいく。
「――おい、出力を上げろ!」
『この先はフィールドの端です。スピードを上げてしまうと外に出てしまう危険があります』
追う島風の背の先にはまだまだ道は続いている。だがADEが言う通りに、その先からはフィールド外だ。出れば、機能停止となる。
「そいつは向こうも承知だろう。だったら、次の角で曲がるためにスピードが弱まるはずだ。そこにぶつける」
『了解しました。出力を上げます』
耳鳴りのような音が更に高くなり、すぐに聞こえなくなると翼から迸る光が青から黄色へと変化する。
一瞬、爆発的に加速すると、狙い通りに角を曲がろうと減速した島風の横っ腹へとジェフティはその身体をぶつけた。
「ぐぅっ……!」
両腕で島風の細い腰をホールドすると、慣性に振られて、アスファルトの上で一回転、二回転。独楽の様に回転する。
危うく電柱に激突する直前、急上昇すると、ジェフティは島風の身体を抱いたまま空へと浮かび上がった。
そして、狭い電柱の頂上に島風を立たせると、腕からブレードを展開し彼女の喉元へと突きつける。
ブレードが月光を反射し、きらりと光った。
「さぁて……、どうしてやろうか」
「………………」
ブレードを突きつけたままジェフティは相手の姿をよく見る。
恨みがましい目でにらみ返してくる顔も、華奢な体つきもまったく少女のそれだ。衣服にしても丈が短いことを除けば変哲もない。
腰まで伸びたアッシュブロンドは涼やかに月光を跳ね返し、この姿だけを見れば女の子向けの着せ替え人形にも見える。
「お前、名前はなんて言うんだ?」
「…………島風だけど」
ふてくされたように答える島風の足元にジェフティは注目した。
一見、ヒールのあるブーツを履いているように見えるが、よく見ればその踵についているのはラダー(舵)だ。
おそらくはブーツそのものが一種の機構であり、彼女を滑走させる装置なのだろう。
「どうして、俺に攻撃を仕掛けてきた? 返答によっちゃぁ、ただじゃ済まさねぇぞ」
島風は胸に一抱えもある大砲を抱いている。黒々とした妙に時代がかったデザインのものだ。まるで海賊船の大砲のようでもある。
そして背中には5連装の、これはあまり大きくないミサイルのようなものを背負っていた。
彼女は一瞬、泣きそうな顔をすると大きく口を開いた。
「……わ、私が一番早いんだもんっ!!」
「はぁ?」
勢いに押されジェフティの身体が宙を少し下がる。彼女の発言は内容が意味不明だった。
見た目通りに頭の中も子供なのか、要領を得ない。ならば質問を繰り返すしかないと、そう次の言葉を発しようとした時、
『敵機が接近しています』
またしてもジェフティは不意打ちを受けてしまう。
-
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
「次から次へと……」
『油断しないでください。高出力反応を感じます』
空中でジェフティと対峙するフィギュアは、ジェフティと同じく宙に浮くことができ、同じ人型のロボットの姿をしたものだった。
全身がほぼ暗色で、無骨なデザイン。張り出した肩が特徴的で、ウニの様に棘が突き出したヘッドパーツとモノアイが不気味に感じる。
そしてそんな見た目とは裏腹に、発された声は島風と同じく女の子のものだった。
「女の子をいじめようとする悪いロボットは許さないっ!」
冗談かよ……と、ジェフティは内心毒づく。しかし、今の発言だけで相手がどういったパーソナリティを持ち、何を誤解しているのかはわかった。
そして、こんな相手には今更何を言ってもどうしようもないことも。
先制したのはジェフティの方だった。やると判断すれば行動も早い。突き出した掌から幾条ものレーザーが拡散し相手へと襲い掛かる。
黒色の無骨なロボは回避行動を取ろうとするが、ジェフティからすれば欠伸の出るような速度だ。
そして、放たれたホーミングランスはその名の通り、レーザー攻撃でありながらロックした対象を追いかける。
「きゃあああああ!?」
夜空に見た目とは反する可愛らしい悲鳴が木霊する。しかし、驚いたのはジェフティの方だった。
「ビクともしねぇのか!」
『敵機の照合完了しました――機体名:ガンバスター。スーパーロボット超合金です』
生身であれば青褪めてただろうとジェフティは思った。少なくとも、人間のような顔を持つフィギュアであればその表情を歪めていただろう。
スーパーロボット超合金。その名の通り、パーツに金属を使用している。硬度はもちろん、その重量も脅威だ。
「バスタァ……ビィィィイイイイイイイイムッ!!」
絶叫とも言える掛け声と共にガンバスターの額に光が溜まり、次の瞬間一条の光線として夜の空間に走る。
その線上にジェフティの姿はない。回避と同時に弧を描くような機動でガンバスターへと肉薄したジェフティはブレードを振り下ろし、
「ぐっ!」
刀身から伝わる硬い手応えに呻き声を漏らし、肉薄した時と同じようにガンバスターから距離を取った。
ちらりとブレードを見やり、刃が欠けていないことに安堵の息を漏らす。
「そっちがそのつもりって言うならこっちだって! バスタァ……ファイナルッ、……トマ、ホホオオオオォォォォォ、オック!!」
そんなジェフティの内心を知ってか知らないでか、ガンバスターも近接戦闘用の武器を取り出す。
しかし、同じ近接武器と言っても全く違う。ガンバスターが取り出した両刃の斧はその柄が彼女(?)の身長ほどもあるのだ。
刃渡りもジェフティの身体のどの部分よりも大きい。まともに喰らえば一撃で致命傷となるのは間違いないだろう。
『戦闘空域からの離脱を推奨します』
ADAの警告にジェフティは頷こうとし、しかし途中で止めた。
「馬鹿言え、このまま逃げたんじゃ俺がチンピラみてぇじゃねぇか」
猛突進してくるガンバスターを避け、ジェフティはレーザーで牽制しながら距離を取る。
当たれば致命傷だが、当たらなければどうということはないし、平時のジェフティであれば例え100回攻撃を受けたとしても掠りもしないだろう。
「なにか武器はないのか!? あいつに、ダメージを与えられる!」
『サブウェポンを検索……ベクターキャノンを使用することができます』
闘牛士のようにジェフティはガンバスターの突進を交わす。振り下ろされた刃は学習塾の窓を木っ端微塵に砕くと、ガラスの雨を通りに降らせた。
「悪くねぇが、エネルギーはどうなんだ?」
『バッテリーをフルチャージされた状態から60%ほど消費します』
「それじゃあ、使えねぇな……」
ベクターキャノンとは対戦艦、対基地を想定したジェフティが持つサブウェポンとしては最大にして最も威力のある兵器だ。
その分、発射されるまでのプロセスが長いなど欠点もあるが、ともかくとしてADEが言うようにエネルギーを消耗するのであればおいそれとは使えない。
ジェフティは更にサブウェポンの検索を進めながら、追ってくるバスタービームを避けて路上を滑走する。
その後には、アスファルトの上にまるでバターに熱したナイフを入れたような跡が残った。
『イレギュラーなサブウェポンの存在を確認しました』
「それは……」
ジェフティは地表すれすれから急上昇する。上昇し、上昇し、上昇して、その姿が月と重なった時――。
-
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
「消えた!?」
夜空を見上げガンバスターが驚愕する。夜天には白い月がぽっかりと浮かぶだけで、先ほどまで追っていたジェフティの姿はどこにもない。
『油断をしては駄目よノリコ!』
「お姉様!?」
サブAIである『カズミ』の声に、主AIである『ノリコ』はガンバスターを油断なく構えさせる。
ジェフティの姿は見えない。だが、それは目には映らないだけということでしかない。
ガンバスターのモノアイが上下左右にめまぐるしく動く。右には――いない。左には――いない。上にも、下にも、その姿を捉えることはできない。
だが、
『狙っているわ』
ノリコは、ガンバスターはこくりと頷く。姿が見えないのはこちらが捉えられないスピードで周囲を飛び回っているからだ。
そして一撃必殺のタイミングを狙っている。ならば、どう対応する――?
「きゃあっ!」
その時、ガンバスターの肩に衝撃が走った。装甲には斬撃の跡。だが、いつ斬られたのかすら察知することができなかった。
闇雲にトマホークを振り回し、震えるようにモノアイを動かす。
そこに再度の衝撃。背中への斬撃にガンバスターはつんのめり、バランスを崩し空中から落ちかける。
「いやっ……こんな……」
ガンバスターの中で恐怖が膨れ上がる。未知の敵、未知の攻撃、姿も見えず、ただ死を待つしか、ない……?
もし、ここにいるのがただのノリコであれば、そうなったかもしれない。
――だが、ガンバスターだ! ガンバスターなのだ! ガンバスターであるならば!
『私たちはガンバスターなのよ!』
「はいっ、お姉様!」
ぴたりとガンバスターが空中で静止する。まるでその姿は宙に浮かんだ案山子だ。隙だらけもいいところ。
なんら防御をなさない姿勢。現に、そんなガンバスターに幾重もの斬撃が加えられる。衝撃で揺れるガンバスター。だが、動かない。
終いにはモノアイから光さえ失われた。完全に無防備なガンバスター。意識があるとするならば、彼女は何を考えているのか?
………………。
…………。
……。
静止した世界の中に何が見えた。伸びてくる。なんだろう。アンカーだ。これじゃない。アンカーが肩を貫く。
気配が、接近する。巨大な殺気。だがこれでもない。僅かに身を引くと、刃が装甲の上を火花を立てて走る。
一瞬、見失った気配が背後に現れる。独楽の様な回転、赤い線が二度閃き、また傷が増える。だが、まだだ。まだ。
間を置かずして、腹部に強烈な二つの衝撃。ぞっと、肌が粟立つような感覚を覚える。手からトマホークが零れ落ちる。だが!
七度、気配が、来る。これまでで一番強い、気迫――
『ノリコッ!!』
「はいっ!!」
胸に突き立てられんと触れた切っ先の感覚にガンバスターは動いた。
世界は止まる。
再び開かれたモノアイに写るのは、巨大なバスターソードを騎乗槍の様に構えて突進してきていたジェフティの静止した姿。
ガンバスターの片手はそのバスターソードを受け止め、そしてもう片手は振り上げられ――
「うわああぁぁぁぁああああぁぁぁあああああぁぁぁあああああああああっ!!!!!」
――振り下ろされた!
.
-
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
「………………あれ?」
ガンバスターはぽつりと呟く。
まるで夢幻のようだ。拳を振り下ろした先にはなにもなかった。それだけなく掴んだはずのバスターソードも、なんの気配すらも。
シュッと短い音を立てて背中のブースターを消すと、ガンバスターは道路の上へと着地する。
そこに残っているのは静寂だけだ。
『……逃げられたわね。まさか、あのタイミングで仕留められないなんて、埒外のスピードだわ』
「そぉんなぁ〜〜!?」
ガンバスターが道路の上にペタンと座り込む。両の手のひらを顔に当てているのはまるで泣いているようだ。
カズミの言う通りにジェフティはどこかへと逃げ去ってしまったらしい。
ノリコとしてはダメージと引き換えに必殺のタイミングを掴んだつもりだったが、後ほんのわずかスピードが足りなかったということらしい。
「コーチにもらったガンバスターがぁ〜〜!」
『安心なさい。どれもたいしたダメージではないわ』
ガンバスターは無数の斬撃に加え、必殺の七連続斬撃を受けた。貫かれた肩や腹部には目立つ傷ができている。
しかし、それだけの攻撃を受けてもダメージらしいダメージは受けていなかった。
無論、最後の一撃をまともに受けていればコアを破壊されていた可能性はあるが、これがガンバスターであり、スーパーロボット超合金なのだ。
「あ〜あ、落ち込んじゃうなぁ…………あっ、女の子! あの女の子は!?」
ガンバスターはぴょこんと立ち上がるとブースターを吹かせて慌てて空中へ飛び上がる。
だが、そこに島風の姿はもうなかった。
『戦っている間に逃げてしまたようね』
「……無事だといいんだけど」
がっくりと肩を落とすとガンバスターはそのままゆっくりと空を飛行してゆく。
「あー、早く帰って入渠したーい!」
『そのためにも早く敵を倒さないとね。先は長いわよ』
ガンバスターは人類の守り神であり、人類を脅かす脅威への神の鉄槌だ。
なので、当然のようにガンバスターはここでも同じように振舞う。
お仕事は、悪い宇宙怪獣をやっつけることです――と。
【深夜/エリアU(空中)】
【ガンバスター@スーパーロボット超合金】
【電力残量:98%】
【装備:ゲッターファイナルトマホーク(ダイナミックオプションパーツセット)@スーパーロボット超合金】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(バスターホームランx2)、拡張パーツx0-1】
【状態:全身に浅い裂傷、肩と腹部に刺傷(行動に支障はなし)】
【思考・行動】
基本方針:悪いやつ(主催者?を含む)をやっつける。
1:悪いやつを探す。
-
X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
「呆れた頑丈さだ。……本当に化物か?」
激闘のあった交差点の角、電気屋の店内から夜空の向こうへと去り行くガンバスターを見上げジェフティはそう零す。
そして、ガンバスターが完全にこの場から立ち去ったことを確認すると、そっと窓際から離れた。
「あんなの勝ち目がねぇ。スペックが違いすぎる。超合金ってなんだ? 素材からして違うってのは卑怯だろ」
電気店の奥へと歩きながら言うと、エイダがそれに反論する。
『スピードではこちらが圧倒していました』
「負け惜しみか?」
『客観的事実です』
「だが、ろくな攻撃が通らないんじゃ勝ち目がねーだろ」
確かに機動力では歴然とした差を見せつけることができた。最後は危なかったが、それでも結局ジェフティは一切のダメージを負ってはいない。
しかし、逆にジェフティ側もガンバスターへとなんら痛痒を与えることができなかった。
『セブンソードは超合金に対していくらか通用しました。また、金属でないパーツを狙えばよりダメージを与えられる可能性があります』
「そりゃあ、そうだがな……」
いくつも並んだ液晶テレビの裏側、誰にも見えない影へと入るとジェフティはそこにクレイドルを敷く。
「あんな戦い方してたんじゃ、こっちの電池切れが先だ。“本物”のジェフティなら電池切れなんてありえないんだけどな」
『寝るのですか?』
「あぁ、寝る寝る。3ヶ月だって寝てみせらぁ。そもそも、なんの目的もなしに戦えるほど俺は若くないんだよ」
ジェフティはゆっくりとその身体を硬いクレイドルの上に横たえる。すぐに認識が行われ、バッテリーへの無線充電が開始された。
そして、眠りに落ちるように意識はスリープする――。
『おやすみなさい』
【深夜/エリアU(電気店・TVの裏)】
【ジェフティ(ANUBIS版)@リボルテック】
【電力残量:69%】
【装備:バトルブレード、ダブルオーセブンソード一式(OOガンダムセブンソード)@ROBOT魂】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ベクターキャノン、ホーミングミサイルx4)、拡張パーツx0-1】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:面倒ごとは勘弁だ。
1:充電する。
※ダブルオーセブンソード一式の内容は、GNバスターソードII(GNシールド)、GNソードIIロング(ビームライフル)
GNソードIIショート(アンカー)、GNカタールx2、GNビームサーベルx2……となっています。
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X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X X
「信じられない……」
島風の姿は、あの激闘があった交差点から少し離れた、ゲームショップの中にあった。
店内には少し古いものから最新のものまで、ゲーム機器やソフトが棚に並んでおり、小さい店ながら攻略本やフィギュアなどのアイテムも揃っている。
その奥、電灯の光もよく届かない薄暗がりの中で島風は身体を丸め俯いていた。
「私が一番速いはずなのに……」
島風のアイデンティティは速いということだ。速さなら誰にも負けないつもりでいたし、負けるだなんて考えたこともなかった。
この殺しあいの中でも最速であり、そのスピードで圧倒的に勝利するつもりだった。
現に最初に砲撃した二人相手には簡単に逃げおおせることができたのだ。けれど、その次は違った。
「ずるい! ずるい! ずっる〜い!」
あの妙に手足の細いロボットは速いどころか、その速さで空まで飛んでいた。
その後に現れたロボットとの戦いはまさに別次元。水面上を駆けることしかできない島風にとっては想像すらしたことにないものだった。
「私だって、できるはず……ちゃんと改造すれば……」
不意に島風の周囲に大きさの違う3つの砲台。顔と短い手足のついた、彼女が連装砲ちゃんと呼ぶものが現れる。
島風はその中で一番小さいものを抱え上げると、それに向かって話しかけた。
「ねぇ、連装砲ちゃんもそう思うよね? 本当は島風が一番だって……ねぇ、だよねぇ。そうだよね。島風がいつも一番速いもんね」
灰色の砲台は何も言葉を返さない。ただ立っているだけの他の2つも同じだ。
「だよねっ。島風が一番だよね。……改造さえすれば、私だってあんな風に」
ゲームショップの隅に島風の声だけが楽しそうに響く。
「なれるよねっ、島風が一番に!」
【深夜/エリアP(ゲーム屋の中)】
【島風@figma】
【電力残量:94%】
【装備:パワーエネルギー砲(ゴーカイオー)@スーパーロボット超合金】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(連装砲ちゃんx3、五連装酸素魚雷)、拡張パーツx0-1】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:スピードなら誰にも負けません。速きこと、島風の如し、です!
1:速くなる改造がしたい。ジェフティよりも誰よりも速くなりたい。
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以上で投下終了です。
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投下乙です
島風ちゃんとノリコがカワ(・∀・)イイ!!
バッテリー60%消費とかベクターキャノンやべえ
支給品もガンバスターにゲッタートマホークとか凝ってて面白かったです
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皆様、投下お疲れ様です!
現在予約中の話について、>>1に相談があるのですが……
というのもArchetype:she@figmaについて、非参加者として劇中に登場させることは可能でしょうか?
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>>327
質問ありがとうございます!
答えは「劇中」の意味で変わってきますが、概ねイエスですね。
OP同様の電脳空間なら自由ですし、現実の街となると若干辻褄合わせが面倒な気がしなくもないですが、
逆に言えばそこにいる理由にさえ説得力があればいいんじゃないかなと思います。
Archetype:sheはあくまで主催である人間達とフィギュアの橋渡し的存在なので、多少の融通は利かせたいなって。
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遅くなりましたが、投下いたします。
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セシリア・オルコットは小瓶の森を歩いていた。
比較的最近に建てられたと思しきこの一戸建ての本来の持ち主は料理好きだったらしく、
広いシステムキッチンの卓上にはお洒落な調味料が並んでいる。
色とりどりの小瓶の間を縫って全高14センチの少女はウインドウショッピングでもするように歩き、
時に瓶の表面に手を当てて中をのぞき込んだ。
そうすると否が応にも自分の姿がガラス面に映り込む。
白い制服を纏ったセシリア・オルコット、性格にはそれに似せて造られた姿が。
「憂鬱ですわ……」
セシリアは溜め息をついた。
自身の容姿に落胆したのではない。むしろ、それには自信があった。
何しろアーマーガールズプロジェクトのセシリアは初期型から制服ver.そしてストライクガンナー装備と都合二回も新規に造形されている。
今の姿はボディこそ制服だが、基本となる頭部は最新のモデル。
初期型よりも遙かに原作イメージに近い。少なくとも見て落ち込むような造形ではないはずだ。
もっともセシリアの憂鬱は自分自身の外見ではなく、それを見てあわよくば褒めてほしいと思う人が、どこにもいないことに起因していた。
「わたくしは『アーマーガールズプロジェクト』のフィギュア……一夏さんとは決して巡り会えない定めなんですのね……」
アーマーガールズプロジェクト。
武装神姫とはまったく別の技術体系をもって、少女型素体の武装パーツによる拡張を目指したシリーズである。
ごくごく少数の例外を除いて基本的にオリジナルのモデルをリリースしている武装神姫シリーズとは逆にキャラクターのメカニック面を含めた再現を重視したAGP。
その栄えある第一号モデルこそがセシリア・オルコットであり、彼女はそのことに自尊心を感じてはいた。が、同時に割り切れずにもいた。
「アーマーガールズ」と銘打つ以上、彼女が、正しく言うなら本物のセシリア・オルコットが恋い焦がれる織斑一夏が制作されることはないからだ。
「セシリア・オルコット」は、今アーマーガールズプロジェクトのモデルとして、永遠に報われない恋心を植え付けられて戦場にいる。
(お慕いする殿方と一緒にもなれず……それどころか家名も祖国も名前だけのもの。わたくしの存在意義って、なんですの?)
想い人を一心に慕う恋する乙女としての一面も、祖国イギリスと名門オルコット家の誇りを背負う代表候補生としての一面も、ただ与えられただけのもの。
物語のヒロインですらないフィギュアのセシリアにとって、形だけの思いを与えられたところでそんなものは厄介な足枷でしかない。
(今のわたくしには背負うべきものが何もない……何のためのインフィニット・ストラトス、何のためのバトル・ロワイアルなのかしら)
-
(今のわたくしには背負うべきものが何もない……何のためのインフィニット・ストラトス、何のためのバトル・ロワイアルなのかしら)
端的に言えば、セシリアには戦う理由がなかった。
それに加えて、生きる目的もなかった。もっともこの疑似人格が電脳内で稼働している状態を「生きている」と定義すればの話だが。
自暴自棄、とは違う。そもそも棄てるような自分がないのだから。
――そんな迷いだらけの心でも、体は自らを守るように動くものらしい。
死角から弧を描く軌道で飛来したブーメラン状の刃をIS(アイエス)腕部パーツの部分転送で弾いたセシリアは、険しい目で窓の方角を睨んだ。
この金のかかったシステムキッチンの持ち主にふさわしく高そうなカーテンで飾りたてられた、その窓の縁に誰かが腰掛けている。
わざわざ考えるまでもなく、彼女とは別のフィギュアだ。
そのツインテールと勝ち気そうな釣り目を見てセシリアはとある少女を思い出しかけたが、彼女はあんなピンク色の髪はしていない。
そして目を引く、全身に纏った黒い装甲。そして額のヘッドギアパーツから突き立った鋭い角だった。その姿は例えるなら、
「黒い……ユニコーン……?」
思わず口を突いて出た。
可能性の獣。希望の象徴。でもその姿は白いはずだ……少なくともセシリアの知る限りでは。
部分展開と同時にISスーツ姿となり片腕の装甲だけで身構えるセシリアを値踏みするように、黒い一角獣の少女は冷たい視線を向ける。
弾かれながらも勢いを失わずに大きなアーチを描いて手元に戻った刃を見もせずに指で挟んで受け止め、彼女は嘆息するように口を開いた。
「ふぅん……本気で切り落とすつもりの速さじゃなかったとはいえ、アイスラッガーを弾くくらいのことは出来るわけね」
外見同様に幼さが残りながらも勝ち気そうな、それでいて感情を殺した声。
「あなた……武装神姫、じゃないみたいですわね。神姫とは違う、装着型の武装……ということは」
「――アーマーガールズプロジェクト。あんたと同じにね。あたしはMS少女バンシィ。素体名はヒナ=スカーレットよ」
「……先に名乗られて、名乗り返さないのは無礼ですわね。わたくしの名はセシリア・オルコット。以後お見知り置きを、ヒナさん」
慇懃な自己紹介。それもやむを得ない。
彼女……MS少女バンシィことヒナの放つ雰囲気は、和やかな歓談とは程遠いものだから。
つい先刻のアイスラッガーによる奇襲も、本人の言う腕試しというのがどこまで本気なのか分かったものではない。
-
本来戦いとは無縁のはずのキッチンが、今は戦場の張り詰めた空気で満ち満ちている。
その異様さは、オリジナル共々戦闘経験の浅いはずのセシリアにさえ十二分に感じられた。
「セシリアね。今だけは一応覚えておいてあげるわ。もっとも……」
言い終える前に、アイスラッガーを送還したヒナの両手が追加武装で覆われる。
砲身の代わりに長く突き出した二枚のプレートが特徴的な砲撃用と思しき右手と、無骨で重々しいナックル状の左手。
声に出すまでもない。それは宣戦布告だ。
破壊するという意志の表明以外の何物でもない。殺意が武装の形を取って牙を剥こうとしている。
「――『雪菜姉様』を傷つけかねない戦闘モデルは、あたしが生かしておかない。その名前ごとこの世から消し去ってやるッ!」
そしてバックパックのブースト噴射によって瞬間的に加速したヒナが右腕の武装――アームドアーマーBS(ビーム・スマートガン)を構えたのと、
「そんなわけの分からない理由で殺されて差し上げるほど、このセシリア・オルコット落ちぶれておりませんわ!」
全身に専用IS『ブルー・ティアーズ』を転送装着したセシリアが周囲の小瓶を薙ぎ倒しながら上空に飛び立ったのはほぼ同時。
「だったらあたしが叩き落とす! 姉様の敵になるやつは、みんなみんないなくなれ!」
かくして、装甲少女(アーマーガールズ)同士が激突する。装甲の下に、脆すぎる自我を隠したまま。
▼ ▼ ▼
ヒナ=スカーレットにとって、姉――『雪菜=シュネーライン』は、この世の全てだった。
それは決してロマンティックな比喩などではなく、真実だ。
MS少女の素体という特殊なモデルであるがゆえ、ヒナの自我は基本的な性格とメンタリティ傾向のうえに成り立っているに過ぎない。
特定のキャラクターを模倣していない、という意味では武装神姫に近いとも言えるが、しかし神姫のように人を支えるための人格でもない。
流れる川の上に浮かぶ筏のように不安定なもの。それがヒナ=スカーレットの自我だった。
-
そんな中で彼女の支えとなるものがひとつだけあった。
姉妹機である同じMS少女素体、雪菜=シュネーラインの存在だ。
この実験会場で目覚めたヒメがまだ見ぬ『姉』へと思慕の念を募らせるのに、長い時間は掛からなかった。
おぼろげな自分のたった一人の肉親。フィギュアなのだから当然血は繋がっていないが、それでも家族には違いない。
自分に記録された雪菜は、争い事を好まない優しい少女だった。
彼女と姉妹としての時間を過ごせたら、それはどんなに幸せだろうと思った。
そしてそれから、この実験のことを思った。
自分の生死は問題ではなかった。大事な大事な姉が、この殺し合いに巻き込まれてどうなるかが問題だった。
雪菜は優しい少女だから、きっとこの壊し合いをよしとせず、戦闘を避けようとするだろう。
そこに付け入られて、きっと彼女は破壊されてしまう。その未来がありありと浮かんでくる。
許せるだろうか。自分のたった一人の「家族」を、そんな危険に晒すことが。
許せるはずがない。そんな理不尽。自分の全てを懸けてでも、止めなければならない。
「そうよ……雪菜姉様だけは、私が守らなくちゃ……!」
戦いに乗るものだけではない。
戦う力を持つもの。雪菜を傷つける力を持つものは、ヒメ=スカーレットの敵だ。
▼ ▼ ▼
戦局は、明らかに傾いていた。
「どうして……! こんな、こんなはずじゃ……!」
セシリアの呻くような叫びが空しく響く。
整然と並べられていたキッチンの小物たちは既にビームで焼かれるか、引き裂かれるかして、無惨な姿を晒していた。
その残骸を縫うようにしてブルー・ティアーズを纏ったセシリアは飛ぶ。
その後を青い羽根のような4基のユニットが舞い踊るようについていく。
ISブルー・ティアーズを象徴する武装にしてその名の由来でもあるオールレンジ兵器「ブルー・ティアーズ」。
装着者であるセシリアの意のままに動き、撃ち、敵を封じる。
このビット兵器を運用するために造られたのが原作におけるISブルー・ティアーズである。
-
その4基のBTビットが、同時に射撃体勢を取った。
小刻みな制御機動ののち、一斉にそれぞれの砲門をターゲットに向ける。
「きゃあああああっ!?」
そして、放たれた4条のレーザービームは……狙い過たず、セシリアのISへと突き刺さった。
「お、おやめなさい! わたくしのことが分からないんですの!?」
セシリアの叫びもBTビットには届かない。整然たる動きで、本来の自分の主を追い詰めていく。
度重なる砲火に晒されながらISにはほとんど損傷はない。それでも状況は最悪の一言だった。
セシリアへの直接的なダメージが防がれているのは、ISに備わる防御機構シールドバリヤーによるもの。
フルオートでほとんどの攻撃を遮断する、この鉄壁の守りが彼女の命を保っている。
しかし発動ごとにエネルギーを消費していくこの機構は、ただ被弾するだけでバッテリーを消耗するという諸刃の盾でもある。
加えてBTビットの電力も本体から供給されているのだ。自分の武器で自分を撃ち、それによって自分を削っていく、それが現状。
旗色が悪い、では済まされない。状況が、閉塞していると言っていい。
「オールドタイプの人格コピーが、ファンネルなんかで偉ぶるからぁっ!!」
MS少女バンシィ――ヒメ=スカーレットの叫びが、セシリアを更に追い立てる。
急速なバッテリー消耗で不調を訴える両目の視覚センサーを無理に凝らして、セシリアは霞む視界にヒメの姿を捉えた。
その姿は戦闘前のものとは一変していた。黒一色だったはずの装甲は各部がスライドし、その狭間の構成材が金色の光を放っている。
そして彼女の鎧を象徴していたヘッドギアの角は中央から真っ二つに割れ、それ自体がまたヒメの額で黄金色に輝いていた。
あの角だとセシリアは臍を噛んだ。
少なくともあの角が割れるまでは、ここまで劣勢では無かったのに。
ヒメの感情の高ぶりに呼応したかのように見えたその『変身』は、文字通り戦況を塗り替えてしまった。
サイコミュ・ジャック。
セシリアの知らないその機能は、ユニコーンガンダムに共通して備わるサイコミュ的な精神波の流れを簒奪する武装。
変身……デストロイモードへの変形をもって解禁されるその効果は、この実験においては遠隔操作武装の乗っ取りという形で再現されていた。
ゆえにバンシィは、ビット兵器の操作こそを有用性とするブルー・ティアーズの『天敵』となる。
セシリアの落ち度ではない。いくら戦闘の経験値が少ないとはいえ、この一方的な戦いは悲しいまでの相性差の結果だった。
-
「こ、この……!」
「まだ抵抗する気!? いい加減に黙んなさい!」
レーザーライフルで反撃を試みるセシリアを、圧倒的加速で一瞬にして距離を詰めたヒメの左腕に装備された打撃兵器が襲う。
その程度で破られるシールドバリヤーではないが、しかしバリヤーに衝撃が加わるたびにセシリアの電力残量は確実に削られていく。
一撃。二撃。三撃。ほとんど蹂躙に近い連撃がブルー・ティアーズに降り注ぎ、セシリアはそのたびに呻いた。
角が割れて以降、幾度と無く繰り返された光景。ヒメの執念に満ちた追撃は止むことなく続いていた。
しかしその時間も、終わる時は呆気無く終わる。
周囲を旋回していたBTビットが次々と落下し、調理用具の破片が散乱するテーブルの上に小さな音を立てて転がった。
それは本体からの電力供給が、ビット運用に必要な量を下回ったということ。
セシリアに戦う力が残されていないということを、これ以上なく端的に示していた。
セシリアは、自分が機体ごと食器棚のガラス戸に叩きつけられたのを辛うじて認識していた。
その衝撃にすらシールドが反応し、尽きかけたバッテリーが更に削られて、視界がノイズとともにぶれる。
全身のダメージをチェック。ISはほぼ損傷なし。その事実がいっそ皮肉にすら感じる。
もう一度シールドバリヤーを展開するだけの電力すらあるか怪しい今、無傷であることに何の意味があろうか。
ヒメの黒い脚部ユニットが飛び散った細かいガラス粉を踏みしめながら近づく音が聞こえる。
セシリアは唇を噛み締め、そしてISを解除した。
「随分手こずらせて……! やっぱりあんた、危険だわ。あんたみたいのが姉様を傷つけるかと思うと、怒りでコアが焼き切れそう……!」
足音が止まる。声がすぐそばで聞こえる。ヒメが、すぐ目の前にいる。
セシリアは歯を食いしばった。
ISを解除したのは、観念したからではない。最後に一矢報いるための電力を温存するためだ。
やるなら、今しかない。
(わたくしの最後の誇りだけは……奪わせて、なるものですか……!)
残りの電力を結集する。
ヒメの姿が近づいたその一瞬を突いて、セシリアは自身の拡張パーツを転送した。
本来のブルー・ティアーズの付属武装には含まれていない近接武器。
豪奢な装飾が施されたその剣を、真っ直ぐに敵目掛けて――
-
そして、その最後の一撃は、虚しいほどあっさりと払われた。
「……正直ヒヤッとしたけど、今のが最後の一撃ってわけ? 悪いけど、結末は変わりないわ」
もうその言葉に返すだけの気力すら残っていない。
セシリアはぼんやりとした視界で、ヒメの左腕の武装、アームドアーマーVNがクロー状に変形するのを見た。
そしてそのクローが自分の頭を鷲掴みにするのを感じた。
(ああ……わたくし、ここまでなんですのね……)
死の実感は思ったよりも静かにやって来た。
目を閉じると、脳裏には在りし日の思い出がスライドショーのように浮かんできた。
走馬灯、というのだろうか。人間が死の間際に見るという、あの。
やはりと言うべきか、その多くを占めていたのは、織斑一夏の姿だった。
真剣な目をする時の凛々しい横顔。自分へと向けられるだけで胸が高鳴る、あの笑顔。
それらが彼女自身の思い出として蘇ってくる。
さらに4人の少女達の姿も浮かんできた。
箒。鈴。シャルロット。ラウラ。
彼女達はセシリアにとって恋のライバルであり、それと同時に大事な友人でもあった。
おかげで平坦な恋路ではなかったけれど、彼女達がいたから楽しかったと思い返す。
振り返れば際限無く浮かんでくる、大事な思い出。
ああ、それが、それがこんなにも。
「最後の情けよ、セシリア・オルコット。遺言くらいは聞いてあげてもいいわ」
ヒメの声が聞こえる。セシリアは最後の思いを振り絞って声にした。
「し、死ぬのが怖いんじゃ、ありませんわ……ですけど、ですけど……」
それは誰かへの遺言ではなく、自分自身への言葉だったのかもしれない。
「借り物の思い出に浸りながら、死んでいくなんて……惨め過ぎますわ……こんなの、あんまりですわ……!」
セシリアは泣いた。
この走馬灯が、本物のセシリア・オルコットのものでなく、本当に自分自身のものならば。
それならば、きっと自分の人生に納得して死ねたはずなのに。
ヒメが虚を突かれてハッとしたような表情を浮かべていたような気がするが、もうどうでもよかった。
そして、あっけなく、セシリアの意識は途切れた。
-
▼ ▼ ▼
ヒナ=スカーレットは嘆息した。
すでにその姿は、多量のバッテリーを消費するデストロイモードから、元の一本角のユニコーンモードに戻っている。
金色の光はその輝きを封じ、バンシィの鎧は元の闇色を取り戻していた。
「なんでこんなこと、したのかしら」
自分で自分が納得できずに、ヒナは自問した。
本当なら、こんな行動を取るはずはなかったのだ。
それが全く予期していない形の結果を生んでしまった。他でもない、自分自身が。
「あたしは間違ってない……そうよ、必要だったからしただけのこと。それだけよ」
動かないセシリア・オルコットを見下ろす。
その姿はあれだけの激しい戦闘の後でありながらほとんど傷一つなく、その美貌もそのままだった。
これで機能停止しているだなんて、誰も思わないだろう。ヒメ自身も思わない。
当然といえば当然だった。
セシリア・オルコットは機能停止などしていない。
今はヒナが転送したクレイドルの上で『眠っている』だけに過ぎない。
「情けを掛けたんじゃないわ。誰があんたなんかに同情するもんですか……!」
セシリアの最後のつぶやきを聞いて、ヒメが咄嗟に攻撃を躊躇ったのは事実だ。
それでも、どのみちバッテリー切れで再起不能になるだけの相手を、こうやって救ってやる道理なんてあるわけがない。
情けではない。それでも、認めたくはないが、共感ではあったのかもしれない。
「そうよ、あんなこと言って泣いてるやつを殺したら、あたしの空っぽな中身まで道連れにされかねないもの……」
ヒメは俯き、かすかに震えた。
大事な大事な姉、雪菜を守るためならなんだってするつもりだったのに。
これでは守りきれないかもしれない。それだけは嫌だ。そう思うのに。
近くに転がる、セシリアが最後に繰り出した剣を、ヒメは見やる。
その装飾に覆われた剣は、図らずも本物のセシリア・オルコットの故郷の英雄が使っていたものだった。
-
「“約束された勝利の剣(エクスカリバー)”……」
皮肉な名前だと思い、そうではないのかもしれないと思い直した。
最後の最後まで「約束された勝利」を手放さず、自らの尊厳を守ろうとした彼女を笑えるだろうか。
そう、最後の最後まで、ゼロに等しい自分の『可能性』に賭けた彼女を。
「――『人間だけが神を持つ。今を超える力、“可能性“という名の内なる神を』……。
ねえ、教えてよ。可能性が人間の特権なら、人形(フィギュア)に神はいないの?」
ヒメの誰に対してでもない問いに、当然セシリアは答えない。
だが、せっかく捕虜にしたのだ。捕虜には尋問の必要がある。
彼女が目覚めたら何から話そうかと、ヒメは自身の迷いを上書きするように考えた。
【深夜/エリアJ(民家内・一階システムキッチン)】
【MS少女バンシィ@アーマーガールズプロジェクト】
【電力残量:70%】
【装備:アームドアーマーBS、アームドアーマーVN】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ビームサーベル×2、ビームマグナム、ビームジャベリン)、
アイスラッガー(ウルトラセブン)@ULTRA-ACT、拡張パーツ×1】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:雪菜を傷つけるものは全て倒す。
1:セシリアの扱いを思案中。
※サイコミュジャックは付近に存在する遠隔操作系の武装やパーツのコントロールを奪取できますが、
パーツの所有権自体を奪うことはできず、またデストロイモード終了と同時に解除されます。
※雪菜=シュネーライン(MS少女ユニコーンガンダム)を姉妹機として認識しています。
なお雪菜側の人格データに同様の設定が存在するかは現時点では不明です。
【セシリア・オルコット@アーマーガールズプロジェクト】
【電力残量:5%(回復中)】
【装備:なし(ISスーツ)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ISブルー・ティアーズ、スターライトmkⅢ)、約束された勝利の剣(セイバー)@figma、拡張パーツ×1】
【状態:損傷軽微、睡眠中】
【思考・行動】
基本方針:???
1:???
※本体はISスーツと制服、ブルー・ティアーズは通常装備とストライク・ガンナー装備をそれぞれチェンジできます。
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投下終了しました。
それとすみません、投下中に気付いて途中から修正したのですが、>>331-332に掛けて、キャラ名が間違っていました。
MS少女バンシィの素体名は正しくは「ヒメ=スカーレット」です。Wiki収録時に修正します、大変失礼しました。
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投下乙です。
走馬灯として他人の記憶を見せられても、虚しいだけだよなあ。
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遅くなりましたが、今までの感想をまとめて書かせていただきます!
>>237 【ふたりの『兜甲児』】
同じキャラクター(厳密には違うんだけど)を人格モデルとしたフィギュア同士の戦い!
こういうフィギュアロワでしか出来ないようなことをやってもらえるのは嬉しいし、読んでて楽しいですね。
マーキュリーは希少な解析重視の能力のフィギュアなので、他とは違う活躍に期待です。
>>245 【あの日あの時の青ダルマ】
マリーちゃんが楽しそうで何よりです。ドラえもんとのコンビがなんかハマってて和みますね。
マミさんは早くも犠牲になるのが板についてきた感じがありますが、相手が悪いし仕方ないね。
そういえばfigmaにはティロ・フィナーレ用の砲が付いてこないんだった。拡張パーツ次第であるいは……?
>>258 【剣の舞】
骸骨剣士が強いー! 特撮リボルテックから出た時は「なんだこれは……」と思っていたのですが、
これは原作映画も見ざるを得ないですね。一切喋らず油断せず戦うっていうこの強者感、恐るべし。
あとダブルオーライザーの商品名はスレ主も気付いてませんでした……w やってしまいましたなぁ。
>>264 【X―シルシの所在―】
ターンXを確定枠に入れたのはきっと闘争を満喫してくれると思ったからなのですが、期待通りの弾け方w
銀河美少年ことタウバーンはスパロボにもまだ出てないのもあってクロスオーバーが新鮮ですね。
ロボット系フィギュアならではのワクワク感があって楽しかったです。
>>271 【人の造りしもの(適当)】
再三言っているのですが、アンビリカルケーブルの発想は本当に面白いと思うのですよ。
総じて目の付け所が上手い、という印象です。みくるの虚乳ネタとかも。
そういえばシンジ自体のアクションフィギュアもあったなあ……w
>>311 【闘争の果てに】
既に言ってる方がいましたが、新ゲッターと仏が戦うっていうのは原作最終回を思い出しますよね……w
幸いこのロワにはゲッター聖ドラゴンは出てこないので虚無らず安心。ゲッターチームの今後も楽しみです。
そしてブレードの誤解……いや実際ゲッターアークがいるからなあ。どうなるやら。
>>325 【逸脱した存在達 -beyond the bounds-】
ジェフティとガンバスターはどっちも好きな機体なだけに、どっちが落ちるのかとヒヤヒヤしました……!
スネークやタイムスクープハンター、新ゲッターなんかもそうですが、サブAI持ちは掛け合いが楽しくていいですね。
そんな中、どうもAI積んでなさそうな連装砲ちゃんに話しかける島風……これはこれで可愛い。
最後になりますが、>>338のMS少女バンシィの状態表を一部修正します。流石に消耗が少なすぎたので。
誤【電力残量:70%】→正【電力残量:55%】
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投下乙です
バンシィは奉仕マーダーの道か…しかし姉も現在暴走中、どうなるユニコーン姉妹
セッシーは一夏いないから奉仕も何も目的がないのが辛すぎる
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投下します
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「さて、と……これからどうしよう……」
アンビリカブルケーブルをコンセントに繋いで、電力源を確保したエヴァンゲリオン初号機。
消費していた電力が、急速に満たされていく。完全回復まで時間はかからないだろう。
一息ついた彼は、夜の空を見上げながら……そこから特に何をしようというわけでもなく、その場に立ち尽くしていた。
彼は自分のスタンスを、これから取るべき行動を決めかねていた。
とりあえず死にたくはない。
かといって、他のフィギュアを殺して回るような気にはなれない。
こんな殺し合い、逃げ出せるものなら逃げ出したい。しかしどうやって?見当もつかない。
たかだか一体のフィギュアでしかない自分に、何ができるというのだろう。仮に逃げ出したとして、それからどこに行けばいい?
……でも、もし他の誰かと協力できれば、何か……
他者を求めた時、理性がそこにストップをかけた。
――よそう。そんなことをしても空回った挙げ句、自分が傷つくだけだ。
彼の人格の元となっている少年・碇シンジの、原作における顛末はよく知っている。
散々周りに流されて振り回されて、勝手に誰かを信じては勝手に裏切られて、どんどん内に閉じ籠っていく。
成長フラグなんて完膚無きに叩き折られて、ヘタレにヘタレきってどうしようもないほどクズになった挙げ句に、
何が何だか意味のわからないラストを迎える。もうパターンじゃないか。
いや、いっそとことんまでどうしようもなかったなら、まだ今度こそはと頑張れる気にもなれたかもしれない。
新劇場版の存在が、ある意味彼にとどめを刺した。
なまじ『破』で漢っぽい姿見せて持て囃された後に、『Q』で結局またどん底に落ちたのがまずかった。
あれを経て彼は、やっぱり何やっても最後にはダメなんじゃないかという結論に陥ってしまった。
――どうせ何やってもヘタレる結果になるんじゃないか、だったらもう最初からヘタレのままでいいや。
このプログラムが始まって最初の出会いもまた、彼に決定打を与えてしまった。
そう、最初に出会った少女はろくに話もしないまま、彼の姿に怯えて逃げてしまった。
はっきり言って相当傷ついた。でもこの見た目じゃ怪物と思われて恐れられてもしょうがないという自覚もある。
幸い少女が戦闘能力を持たないフィギュアだったからよかったものの、戦闘タイプだったらどうなっていたか。
出会い頭に問答無用でいきなり攻撃されても不思議ではない。こっちが無抵抗を訴えてもどこまで通じるか。
かくして、彼は今度も自分の殻に閉じ籠る。
嗤わば嗤え。他人の視線なんてもう知らない。勝手な環境に振り回されるのはもう真っ平だ。
――もういい、やる気なくした。とりあえず、ここでしばらく隠れてやり過ごそう……
電力の消費のことを考えると、下手に動き回るのは彼にとっては得策ではない。
彼自身は知り得ないが、ケーブルで賄えるメリットがある故か、初号機の電力の燃費は他のフィギュアに比べ極端に悪いのだ。
電力源は確保できたことだし、ここを動かずにいること自体は決して悪手とは言い切れなかったりする。
しかし今は殺し合いの真っ只中。加えて真夜中という時間帯が、彼の不安を煽る。
もし、誰かに襲撃とかされたらどうしよう……?と。
もちろん死にたくはないから、迎撃なり抵抗なりはしなければならないだろうが……
-
「……一応、この周辺の地形くらいは把握しといたほうがいいかな」
そんなことを思いながら、初号機は支給された拡張パーツを手元に呼び出す。
転送されてきたのは円筒形の小型偵察装置、V3ホッパー。
仮面ライダーV3と呼ばれるヒーローの26の秘密の一つであり、彼を模したS.H.フィギュアーツにも付属しているパーツだ。
これを500m上空に打ち上げることで、そこから10km四方を偵察することができる、という代物らしい。
フィギュア大の大きさ故に、それに合わせて偵察範囲も大幅にスケールダウンしているが、
それでも使用者を中心に半径約50メートルほどの範囲をカバーできるようだ。
実に4エリア分近くもの広範囲を上空から視認できるというのは、かなり大きい。
アンビリカブルケーブルが命綱となる彼にとっては、ある意味相性のいいアイテムと言えるだろう。
ただし、このプログラム上においてはかなり有用となり得るアイテムであるせいか、後付けの制限が加えられていた。
一度の使用で偵察行動を行える時間は僅か数分間に限られ、連続使用は不可能。
一度使用すると再使用までに3時間の自動充電を要する。逆ダブルタイフーンのような制限だ。
使用方法に従って、初号機はホッパーを空へと打ち上げた。
ホッパーは上空50メートルの地点に達すると、3枚の羽が傘のように開き、偵察機能を発動させる。
「わ……すごい」
ホッパーが自身にもたらしたその機能に、少年の心は圧倒され、引き込まれた。
上空からの光景が鮮明な映像となって、初号機の視界の中に映し出されてきたのだ。
街の夜景が、空から一瞥できる。街灯や建物の明かりがぽつぽつと、小さな街を微力ながらもライトアップしていた。
ただ、光はあるものの街全体から生気が感じられないため、どこか不自然な空気を醸し出してもいた。
それが酷く不気味な印象となって映り、彼はあっさりと現実に引き戻される。
「さっきの子はどこ行ったんだろ……って、こんな夜中じゃ見えるものも見えない、か」
今は深夜である。街に残る僅かな灯だけでは十分な光を得られず、夜の闇の中では街の作りをはっきりと目視できない。
それでなくとも、フィギュアのような小さな物体を拾うのは困難というものである。
この辺りは建物も多く、小さなフィギュアが身を隠せる場所なんて山ほどある。
少し影にでも隠れるだけで視界から外れてしまうし、建物の中に入られたらそれだけでアウトだ。
視点を拡大すればある程度は補えるが、今度は偵察範囲が絞られることになる。
そうなると、今度は使用時間との兼ね合いとなってしまうというジレンマ。
使いどころを決め打ちすればかなりの便利アイテムだが、当てのない無作為な捜索には向かないだろう。
「思ったほど役に立つものでもないのかな、これ……ん?」
駐車場の方に視点を移す。
ちょうど視界ギリギリの場所に、何かがいたのが見えた。
視点を拡大してみる。
-
そこには――
『あ……あああぁぁぁぁぁっ!!』
一体のロボットのフィギュアが、少女のフィギュアを蹂躙する光景が、まさに繰り広げられていた。
初号機は絶句する。フィギュアがフィギュアを壊す、その残虐な行為を目の当たりにして。
いや……残虐な行為のはずだ。同じフィギュアとして、本来ならば目を逸らしてしまうほどに残酷な光景のはずだった。
だが、初号機はその行為から目を離せなかった。釘付けにされていた。
『どうし、て……ぐ、うぅぅぅぅぅっ!!』
少女がその身体を、機械の悪魔の手で弄ばれている。
身に纏っていたであろう装備を剥ぎ取られ、見るも無惨な姿となって。
その肢体を、仰け反らせ、痙攣させ、身悶える。
『あ、ひ……ぃぃぃぃぃッ!!』
襲われている少女の表情からは、苦悶や恐怖といったものは感じられない。
紅潮した頬、潤ませた瞳、荒い息。
そこにあるのは快楽に溺れ悦ぶ、浅ましい牝の顔。
『や、め……ひぎィィィィィッ!』
誰もいない夜の駐車場。照らされる街灯の青白い光。
強い背徳感を抱かせるには十分なシチュエーションだった。
ロボットの手に握られた太く尖った氷柱が、少女の穴を刺し貫く。
氷柱が乱暴に動かされるたびに、少女の身体が跳ねる。
口をだらしなく開き、白目を剥き、正気を失ったかのような表情で。
一般向けとして到底見せることなどできないような、あまりに無様で憐れな表情を晒していた。
(何だよ……何なんだよ、これ……)
ホッパーが捉えた異様な映像が、初号機の視界に映り続ける。
プログラムの闇、そこに秘められた恐ろしさに触れ、彼の中に不思議な感覚が広がっていく。
「ハア……ハア……」
息を荒げる。動悸が止まらない。
電力で動くロボットフィギュアに、そんなものは存在しないはずなのに。
胸を締め付けるような、それでいて内にある何かが満たされていくような。
奥底に眠るドス黒い嗜虐の劣情が、ざわざわと騒ぎ立てる。
-
「―――――――――――――ッ!!」
膨らんでいく劣情が、心の奥底で――破裂。
一瞬、視界がブラックアウトする。
視界はすぐに戻ってきた。ホッパーから送られた映像ではない、初号機自身の視界が。
「はぁっ、はぁっ……僕は何を……」
我に返る。
息を切らしながら、初号機は自分の右手に目線を移した。
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|ー | l ー- l
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l _! | !__,! ‐ 一 | l ヽ、
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l〉 )ヽ、 ヽノ (ノO (ノ (つ ヽ、 | ノ) |
/ 人 ヽ、 (⌒) ヽノ (ノ |
l ヽ、\, )丿 / ノ/ o l
ヽ ノ \,/ / (ノ () ヽ l
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ヽ、 / / l しノ |
ヽ、 / / | l
ヽ、 l /
ヽ、 | /
ヽ l /
「最低だ、俺って……」
※AAはイメージです。フィギュアだからこのような生理現象が発生することはありません。
猛烈な自己嫌悪の波が、落ち着きを取り戻した初号機の心に打ち付ける。
狂気に満ちた惨劇を前に、邪に一時でも傾いた、あまりの愚かしさに。
予想外の光景とはいえ、あれは紛れもなく殺害の現場であり、絶対に許されてはならない外道。
殺戮に満ちた異常な世界、その裏に存在する闇に。そして自分の心を過ぎった黒い狂気に、少年の心は恐怖した。
「あ……あの子は!?」
少女の安否を求め、再びあのロボットと少女の姿を求めるも――さっきの光景が、見えない。
V3ホッパーとのリンクは、いつの間にか打ち切られていた。
「あ、あれ!?見えない!?なんで……あ、時間切れ!?」
空に打ち上げていたホッパーが、初号機の下まで戻ってきていた。
どうやら時間切れらしい。これで、次に使えるようになるまで3時間を要することになる。
「な……何やってるんだ、僕は……」
なんということだろう。
完全に時間を忘れて、あの光景に見入ってしまっていた。
当初の目的であった地形の確認もすっかり忘れていた。
広範囲の偵察能力という、バトルロワイアルにおいて大きな効力を発揮するであろう、このV3ホッパー。
今回の使用は、その使用時間の大半を『覗き』『盗撮』に割かれたということになる。
便利なアイテムの貴重な数分間を、全て覗き見で費やしてしまったのだ。
元々このV3ホッパーは、仮面ライダーV3の改造の際に仮面ライダー1号2号が用意したものである。
V3の戦いにおいて、敵の追跡や遠隔攻撃からの対処、人質探査などに多用され大いに役に立った。
それは1号2号がそうした状況を想定した上で用意したものとも思われ、そこからはショッカーとの戦いからの反省も感じられる。
ショッカーとの戦いで自身達が強いられた苦戦をカバーしたい、後輩の戦いを少しでも支えたいという想いもあったことだろう。
それが、こんな覗き見という低俗な用途に使われるとは、伝説のダブルライダーとて夢にも思うまい。
マジに最低である。(追い打ち)
-
乱れた感情も落ち着き、冷静な思考が戻ってくる。いわゆる賢者モードという奴だろうか。
このプログラムが始まってからこうも早く、まさかこんな残酷なことが行われていたなんて。
(さっきの女の子……!)
ふいに、一番最初に出会った女の子の姿が脳裏を過ぎる。
初号機の姿を見て恐怖し逃げ出した、明らかになんの力もなさそうな女の子フィギュアのことを。
「……ッ!!」
もしあの子が、さっきのロボットみたいな奴に遭遇したらどうなる?
同じような酷い目に合わされ、殺されてしまうのではないか?
心が痛む。同時に何かが膨らんでくる。許してはならないものに、反発する心が。
「逃げちゃダメだ……!」
塞ぎ込んでいた面を上げ、立ち上がる。
ケーブルをコンセントから引き抜き、背部に収納する。
「あの子を……助けに行かなきゃ……!」
自分に与えられた装備を、今一度確認する。
バレットライフル。プログレッシブナイフ。武器なら十分だ。
そして何より、エヴァにはATフィールドがある。
――戦える。僕には戦う力がある。
――守れる。誰かを守るための力がある。
初号機は――少年は、今再び駆け出した。
◇ ◇ ◇
「いやあぁぁぁぁ!やめてくださいぃぃぃ!!」
結論から言うと、初号機の悪い予感は見事に最悪の形で的中していた。
初号機から逃げ出した少女、朝比奈みくるが向かった方角は駐車場……
不幸にも、初号機の見た殺人ロボット――天のゼオライマーのいた場所へと直行していた。
周囲に対して注意を向ける心の余裕など全くなく、パニック状態で無防備に走った結果、
進行先の殺人鬼の存在にも気づかず、障害物も何もない開けた駐車場の中で鉢合わせ。
錯乱する少女が冷徹な冥王の手から逃げられるはずもなく。
支給された大砲を呼び出そうという思考に至る間すらもなく、彼女はいともたやすく取り押さえられてしまった。
「何するんですか……もしかして私に、変なことをするつもりじゃ……」
「寝言を言うな。武装神姫くらいの出来ならまだしも、安物素材の初期型フィギュアが何を思い上がっている。
出来損ないのクズにそれほどの価値があるとでも思っているのか。まずその見苦しい胸パーツをどうにかしろ」
「ふ……ふえええぇぇぇ!?」
なんか必要以上にボロクソに言われた。
虚乳でお色気要員としての存在意義を失われた今、彼女のアイデンティティなどもはやないに等しい。
今の彼女に残っているものと言えば、ゴトゥーザ様の可愛らしい御声くらいであろうか。
それだけでも結構な魅力ではあるが、殺戮者を前にした当人にとってはどうでもいいことだ。
-
「さて……どうする?」
その巨体でみくるを見下ろしながら、ゼオライマーが問いかけてくる。
「貴様はこれから俺に殺される。なら貴様は、貴様の元となった女は、こういう時どうする?」
何かを試すように、確かめるかのように、彼は少女の返答を待った。
みくるは一瞬呆然とした反応を見せた後……すぐに泣き顔へと表情を変えていく。
「わからない……」
「ほう……?」
みくるはオリジナルの記憶を思い起こしてみた。
原作の物語を振り返ってみた。
ネットツールで検索してみた。
ありとあらゆる手段で、自分自身が何者かを問いかけてみた。
(こんな時、朝比奈みくるは、どんな行動をとるの――?)
だが、どれほど思い出そうと、どれほど調べようと……行き着く先は一つ。
『禁則事項です』
これが全てだった。
どれほど朝比奈みくるのことを調べても、全てはこの言葉に突き当たってしまう。
そこから先の、それ以上の情報は一切得られないのだ。
原作の物語の全てを振り返ろうにも、何故か朝比奈みくるに関する部分だけが不明瞭なまま抜け落ちている。
劇中の話でわかるのは彼女の表面的な情報と、彼女自身が直接体験したことくらいであって。
そこから奥の彼女の情報は、全て『禁則事項』の一言で遮断されているのである。
「わからないよぉ……なんで、私のことが何もわからないの……」
劇中に登場する極めて表面的な姿だけで、彼女のキャラを理解するしかないのだ。
原作は主人公・キョンの視点で語られる物語だから、みくるの内面すら全く読めない。
彼女が本当はどう考え、どんな役割を持っているのか、一切がわからない。
そうなると。
ここにいる朝比奈みくるのfigmaは、一体どうすればいいというのだ。
これだけの少ない情報で、彼女はどう動けというのだ。
「『禁則事項』って何なの!?なんで自分のことが何一つわからないの……」
目前の状況に対し、慌てふためき翻弄される。
朝比奈みくるがこのバトルロワイアルにおいてとれる行動など、それくらいのものだ。
事実上、選択肢のことごとくが封じられているも同然の状態。
-
「なんで……どうして私は朝比奈みくるなんですか……!」
彼女は、自身の境遇を呪った。
「こんな頼りない自我だけを私に与えて……それで私に何をさせたいの!?」
自分が朝比奈みくるであるということを、呪った。
「誰か、誰か教えてよぉぉ!!!」
自分の無力さ、無知さ、それだけをただ強いられる運命を、呪った。
静かな駐車場に、少女の泣き声だけが響いて。
やがてゼオライマーが――まるで少女の嘆きを聞いてやっていたかのように黙っていた彼が、声を発した。
「……自分を変えたいか?」
予想だにしない言葉。
「ならば俺と来い。貴様に新たな可能性を見せてやろう」
「……ふぇ?」
「変わりたいんだろう?今の自分から」
突然差し延べられた新たな選択肢に、みくるはただ茫然と、間抜けな返事をするしかなかった。
何だ?このあまりに冥王らしからぬポジティブな発言は?声はさらに続けられる。
「決断するのは貴様次第だ。拒むのならそれでも構わん。俺は貴様を殺して次に行くだけだ。
死ぬか、俺と共に来るか、好きに選ぶがいい」
「そ……それって実質選択の余地なしじゃないですか〜!!」
「ほう、なかなかはっきりと言う。それはオリジナルの持つ腹黒さか?それとも貴様自身の自我か?」
「私自身の、自我……?」
彼女自身の自我。オリジナルとは違う、彼女の自我。
それは朝比奈みくるとしてではなく、その人格とは無関係の、figmaとしての自我。
「さあ、どうする」
高圧的に、選択を強いてくる。
どうもこうも、他に道などないではないか。
絶望のどん底にあろうと、自身の価値や存在意義に悩もうと、だからと言って死ぬのは怖くて嫌だった。
「……行き、ます……あなたと、一緒に……」
「ククッ……賢明な判断だ」
-
◇ ◇ ◇
ゼオライマーはネットツールで、この朝比奈みくると名乗る少女に関する情報を検索した。
彼女の口走った『禁則事項』というワードを軸に、『涼宮ハルヒの憂鬱』と呼ばれる作品を軽く調べてみる。
調べられるのは最低限の粗筋や設定くらいのもので、せいぜい上っ面をなぞる程度のものだ。
その程度の情報量でも、原作においてこの禁則事項や朝比奈みくるの設定は既にある程度明かされている、ということはわかった。
にも拘わらず、この朝比奈みくるを模したfigmaは、何一つわからないと言った。
そこから導き出される推測は一つ。
それぞれの元となるキャラクターに応じて、知ることのできる情報には制限がかけられているということ。
故に、いかに原作を作品として客観的な立場から見られるフィギュアであろうと、オリジナルが決して知り得ない情報や、
知ることで不都合が発生する情報については、知ることはできないようにされている。
当然の措置であろう。
重大な真実を知ってしまうことで、そのキャラクターの人格そのものが大きく歪む可能性を孕んでいることを考えれば。
『元となった人格にそって行動させる』のがプログラムの目的とするなら、それは大きな障害となり得る。
仮に真実を明かした所で、この朝比奈みくる(小)に何かができるとも思えない。
それでも真実を原作通り隠す理由は、人格を、キャラクターとしての在り方を『原作』から大きく逸脱させないためか。
ただそれにしても、この朝比奈みくるに与えられた制限は、酷く大雑把で杜撰だった。
『禁則事項』の一言をカサに、表面的な人格以外のほぼ全てを、一緒くたにまとめて封印したも同然の乱雑な措置。
その結果として、この朝比奈みくるのfigmaは、自身の素性や設定すらも全く理解することができない。
一方で、彼女に縁も所縁もない赤の他人であるゼオライマーが、彼女の背景を本人以上に把握できてしまうという、
根本的に何かが間違っているような、破綻した形が成立してしまった。
『涼宮ハルヒの憂鬱』という原作を微塵も知らない者が、ネットで少し調べてなぞった程度の薄っぺらいレベルの知識にすら、
当の本人であるはずの彼女には知る権利が与えられていないということになる。
いくらなんでも滅茶苦茶な調整だ。そうまでしてこの女を参加させたのは何故だ?
決まっている。ただの数合わせにして、死に役だ。
プログラムの過酷さを演出するためだけの、無力な犠牲者。
ただ泣いて怯えて醜態を晒した果てに、何の抵抗もできず序盤のうちに無惨に殺される。
それ以外の役割など期待されてはいないのだろう。微々たる毒にも薬にもなれないし、最初からなれるとも考えられていない。
だからこそ、彼女に対する処置の仕方も、あまりにいい加減だ。
序盤に殺されるためだけに存在するフィギュアに、拘る理由などない。
まったく、なんと滑稽な姿か。
当事者にして張本人であるはずの当人が何一つ理解できぬまま、悪意に利用され運命に翻弄され、破滅へと向かわされる。
まるで木原マサキの亡霊に苦しむ、原作の秋津マサトのようじゃないか――
(――ッ!?)
一瞬思考の中に混じったノイズに、ゼオライマーの中の木原マサキの人格が、苛立ちを覚える。
(チッ……やはりマサトの人格も少なからず混じっているようだな)
無論、ゼオライマー自身も例外ではない。
だからこそ、彼は秋津マサトの人格の台頭の可能性を恐れている。
木原マサキと秋津マサト、少年の中にある二つの人格が、原作において最終的に如何なる結末を迎えたのか――
その顛末の記憶や知識だけが、ここにいる超合金の中からすっぽりと抜け落ちていた。
恐らくこれも、彼に与えられた制限ということだろう。
そこから辿るに、原作では木原マサキの人格にとって都合の悪い結末となった、という可能性は考慮せねばなるまい。
-
ここで現状判明している朝比奈みくるの設定を全て彼女に明かすこともできる。
だがゼオライマーにそんな真似をするつもりはない。
仮にここで全てを話して、その結果みくるがどういう反応を取ろうと、そのことで人格を別人の如く豹変させたとしても。
所詮、原作のキャラクターから枝分かれする可能性の一つ、延長線上のものに過ぎない。
そのようなキャラ崩壊など、彼は望まない。
キャラクターの本質を根底から覆す、ある意味そのキャラクターを全否定した上での崩壊。
そういう意味では、この娘は実に都合がいい。
彼女は自身のアイデンティティを崩壊させ、自分のオリジナルをも疑い始めている。
実験対象として、メスを入れるには格好の素材だ。
彼女を調教し、原作の朝比奈みくるとは似ても似つかぬ、全くの別物へと変貌させる。
朝比奈みくるというキャラを全否定し、侮辱し、踏み躙り。
彼女を知る者全てに嫌悪感をも抱かせるような、悪意に満ちた存在に変える。
(楽しませてやろうじゃないか。それが奴らの望むものかどうかは別として、な……)
――計画(プロジェクト)は始まったばかりだ。
その最初の一環として、この娘には働いてもらおう。
俺の期待を裏切ってくれるなよ……?
◇ ◇ ◇
怖い。この人、いえこのロボットが、怖い。
それでも、このまま何もできず死ぬのはもっと怖いから、私はこのロボットに従うしかありませんでした。
でも。
本当は、それだけじゃないんです。
『自分を変えたいか?』
そう言われたあの時。
確かに、私の心は、揺れ動いたんです。
【黎明/エリアV(駐車場外)】
【天のゼオライマー@スーパーロボット超合金】
【電力残量:65%】
【装備:次元連結システム】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1〜3(エウクランテの分も含む。確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:木原マサキを超える。
1:開催者を不快にさせる。
2:朝比奈みくるの在り方を変貌させる。
3:自らの身体を調査。秋津マサトを警戒。
【朝比奈みくる@figma】
【電力残量:85%】
【装備:拡張パーツ(大砲)@不明】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:損傷なし(胸パーツは直しました)】
【思考・行動】
基本方針:?????
1:ゼオライマーについていく
-
◇ ◇ ◇
「駄目だ、どこにもいない……!」
初号機は少女を探しながら、駐車場まで辿り着いていた。
しかし、既にそこには誰の姿もなく。
残っているのは、先程殺人ロボットに壊された少女――かつてエウクランテと呼ばれた武装神姫の残骸のみだ。
無惨なその死骸が、初号機の不安をさらに掻き立てる。
しかし、彼を取り巻く環境は、他人に構える余裕をすぐに奪っていく。
(くそっ、もう電力が半分近くまで減ってる……一旦コンセントを探すか、さっきの場所まで戻らないと)
エヴァの悪すぎる燃費に、初号機は休息を決断せざるを得なかった。
ただ移動するだけでここまで消費するとは。この状態のままケーブルなしで戦闘に入れば、命に関わる。
ここに来るまで誰とも遭遇することはなかった。
このエリアから出るには、今初号機の通ってきた道か、さらに先にある駐車場の出入り口以外にはない。
そうなると、ロボットは出入り口から外に出たと考えるのが妥当だ。
少女の行方も気になるが、こちら側に逃げてきたとは限らない。
幸い、駐車場とは反対側の方向に逃げてくれた可能性もある。
……楽観視と言われればそれまでだが、今はそうであることを願うしかなかった。
あの殺人ロボットは何者なのか。詳細がわからない。
アクションフィギュアと言っても種類は山ほどある。外見だけでその情報を探し当てるのは困難を極めた。
人型ロボットタイプだけを抜き出しても、いやROBOT魂だけに限定しても、ラインナップは膨大だ。
せめて名前がわかればすぐにでも検索もできただろうが、それも叶わぬ話だ。
「あの子……無事でいてくれるといいけど」
かくして、初号機は自分の意思で前へと歩き出すことを選択した。
それが碇シンジという少年の性なのか、あるいは学習しないだけなのか。
いずれにしても、少女――朝比奈みくるの動向から察するに、今回も彼はまた同じ轍を踏みそうな予感がするのみである。
その宿命から逃れられる時が来るかどうか、果たして――?
【黎明/エリアQ(南部・駐車場エリア)】
【エヴァンゲリオン初号機@ROBOT魂】
【電力残量:60%】
【装備:なし】
【所持品:基本パーツ(同梱装備一式)、アンビリカルケーブル、V3ホッパー(仮面ライダーV3)@S.H.シリーズ、拡張パーツ×0〜1(確認済み)】
【状態:損傷無し】
【思考・行動】
基本方針:???
1:ケーブルをコンセントに繋いで充電(コンセントを探すか、自販機の場所まで戻る)
2:少女(みくる)を探し、救出する
3:殺人ロボット(ゼオライマー)を警戒
※ケーブルを外すと電力消費が酷くなります。
※ケーブルの長さについては後の人に任せます。
※その他ケーブルの制限も後の人に任せます。
【アンビリカルケーブル】
エヴァンゲリオンシリーズに登場する電源供給装置。
エヴァンゲリオンの背部に差込口があり、元の電源と繋がっている間はほぼ無制限に活動することができる。
当プログラムに置いては電源と繋げる先端のプラグがコンセント対応となっており、
これに繋いでいる間エヴァンゲリオン初号機は電力の消費を気にすることなく行動できる。
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投下終了しました
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投下お疲れ様です
申し訳ないですが取り急ぎ投下します
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▲
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彼等を示す人格は無かった。
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▽
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彼に個人としての人格はない。
彼の原型(アーキタイプ)は、ただのやられ役に過ぎなかった。
出撃直後に敵のMSに攻撃を受け、たったの一撃で爆散する。
ただそれだけが出番で、登場時間は数十秒にも満たない。活躍など存在するわけもない。
けれどそれでも、彼を愛する者は存在する。
「高性能のエース用機体」「カタログスペックはガンダムをも上回る」という設定に魅了された人間たちは、彼に別の活躍の場を与えた。
その活躍の場――ゲームや漫画などの関連作品で、彼ははっきりとした輝きを見せる。
設定通りの高い性能を生かした活躍。 名パイロット達の乗機として、彼は確かに人々の深い印象を与えた。
初出は名も無きパイロットの乗機でしかなかった彼が、専用機としての設定まで手に入れたのだ。
彼の原作から考えれば異例の出世だろう。
ジム・スナイパーⅡ。
それが彼の名前だった。
◇
エリア-P。
ゲーム屋の床の上を、ジム・スナイパーⅡ――正確には、その名前を与えられた人形は歩いていた。
青と水色のツートンカラーが、照明に照らされて自己主張する。
前述した専用機仕様――ホワイト・ディンゴ隊長仕様機も限定商品として売り出されているが、今ここにいるのは白とブルーの配色のそれではなく、一般発売された量産機仕様だった。
そう、一般量産仕様。
彼の“パイロット”は名も無き兵士。
当然、台詞も無いそれに人格など作れる筈もない。
だから、彼に人格(パーソナリティ)はない。
――けれどそれは、彼の個(アイデンティティ)が存在しないということでは、ない。
与えられなかった人格の変わりに、彼には大量の記録が与えられた。
そう。彼が登場する、全ての作品の記録が。
地球で、宇宙で、コロニーで戦った、無数の彼の記録。
そしてその大半のパイロットが持っていたであろう――数十秒で散った「原作における」彼でさえ――ひとつの信念があった。
――連邦の兵士として、人々を守る。
それが彼唯一のアイデンティティで、そしてそれ一つの為に自らの全存在を懸けても構わない。
ジム・スナイパーⅡとは、そういうフィギュアだった。
だから彼は、このプログラムにおいて勝利者となるつもりはない。
彼の本分は人々を守ることであり、理不尽に人を傷付けることではない。例え相手がフィギュアであり、それが命令であろうとも。
彼が従うのは命令ではなく、自らのアイデンティティとそれに依る正義のみ。
人格が無いからこそ、彼は悩まない。自らの信念だけを選択して、実行する。
――まずは友軍と合流し、保護対象を探す。その後に現状への打開策を練る。
それを第一目標と決定した彼は、ブースターを起動しゲーム屋の出入口へと向かう。
普段ならば閉じているだろうゲーム屋の硝子戸はフィギュアを通行させる為か開け放たれ、夜の闇と商店街の光が同時に差し込んでいた。
ジム・スナイパーⅡはそこから外へと出て行こうとして――
“そいつ”に出会った。
-
◆
そいつにも人格は無かった。
形式番号:UCR-10/A。それだけがそいつを現す記号だ。
その名前でさえ、コアパーツの名前を流用したに過ぎなくて――要するに、そいつに名前と呼べる名前なんてものはなかった。
正確に言えばアーマード・コア――「コア構想」によって作られる、コア・頭部・腕部・脚部・etc...で構成された人型機体――のそいつには同じパーツを使った同型の機体も存在した。
が、カラーリングや武装の観点から別の機体と判断されて、そいつは名無し同然の有様で戦場へと投げ込まれた。
それに不満はない。
そもそも、そいつの原作であるARMORED COREにおける主人公は設定の存在しない、描写のないキャラクターだ。
元からが「名無しの傭兵」なのだから、名前がないのはいつものこと。
だから、そいつの目的もいつも通りだった。
――好きにように生き、理不尽に死ぬ。
それが傭兵だ。それだけがアイデンティティで、それで必要十分。
元より戦場を選べるような身分でもないし、誰に提示された戦場だろうとそこで戦うことに不満はない。
――何もかもを黒く焼き尽くす、死を告げる“黒い鳥”。
そいつは、そう呼ばれていたらしい。
この戦場でもそうする。それだけだ。
-
◇
開け放たれた硝子戸の隙間から、二足歩行のロボットがゲーム屋へと入って来るのをジム・スナイパーIIは確認した。
そいつの両手に銃器らしき物が握られ――彼に照準を合わせているのも。
咄嗟の判断で左にブースト噴射。
ほぼ同時に銃口が火を噴き、一瞬前まで彼がいた空間を砲弾が貫いた。
続けて銃声が鳴る。更に追いかけて来る砲弾をかわし、ゲームの陳列棚へと逃げ込み仕切りを壁にする。
――会話、及び威嚇無しの銃撃。戦闘回避の余地はなし。
そう判断した彼は、付属品の一つである75mmスナイパー・ライフルを手元に転送した。
精密射撃に長けた実弾ライフルであるそれは、同時に近距離及び中距離においても無反動砲として威力を発揮する。
相手は重装甲の機体に見えたが、これならば装甲を抜いてダメージを与えられる可能性は十分ある筈だ。
再度ブーストを起動し、陳列棚から飛び出した彼は敵の位置を確認する。
――近い。ブーストを吹かした敵は、予想以上の速度で距離を詰めて来ていた。
どうやら、敵は機動性においてもこちらに匹敵、あるいは上回る――ドムのような機体らしい。
だが、彼にとってそれは好都合な話だ。
75mmスナイパー・ライフルの装弾数は1発。リロードにも多大な時間がかかるため、この戦闘におけるチャンスはこの一回だけ。
この距離ならば、余程の事がない限り外さない。
即座に狙撃用ライフルを構え、敵の胴体部に狙いを定める。
敵も両手のライフルを構えているが、こちらの方が早い。
引き金を引き、トリガーがCSCと電気的に連結し照準を修正。
放たれた砲弾は、狙い過たず胴体部へと飛んだ。
回避不可能。
ジムスナイパーIIがそう判断した瞬間――、
“そいつ”のブースタが、一際大きな炎を噴いた。
◆
――ハイブースト。
ブースタを瞬間的に大推力稼働させ、短距離を高速移動するACVにおける基本動作のひとつ。
左に大きな推力を得たUCR-10/Aは身を低く屈めながら砲弾に対し回避機動を取る。
放たれた75mm砲弾――勿論、フィギュア用にダウンサイジングされている以上75mmもないだろうが――が右肩のアーマーに掠り、火花が散る。
しかし、それだけだ。
回避に成功したUCR-10/Aは両手のライフルとバトルライフルを構え、スナイパーライフルの反動から体を立て直せていない敵をロックする。
敵の装甲は厚くない。この武器だけでも十分装甲を貫いてダメージを与え得るだろう。
トリガーを引く。二つの銃口が火を噴き、KE弾とHEAT弾が煙を曳いて敵機へと迫る。
着弾。
装甲を貫き、煙が上がる。だが、まだ死んでいない。
体勢を立て直しシールドを構えて距離を取ろうとする敵機に追い縋り、トリガーを引き続ける。
-
◇
――必殺の一撃を躱され、手痛い反撃を受けた。
危機的な状況だが、まだ手は残されている。
左腕のシールドで体を庇いながら、ジム・スナイパーIIはそう判断した。
こちらの武装は、75mmスナイパー・ライフルだけではない。
もともとジム・スナイパーIIに付属している基本パーツは狙撃用ライフルとビーム・サーベル二本のみ。
だが、このプログラムにおいて支給される武器はその限りではない。
主催者によって支給された拡張パーツ。それが彼の右手へと転送される。
ビーム・マグナム。
本来は世代が一つ二つ――いや、三つ四つは先のMSが装備する代物だ。が、フィギュアとその付属品である以上利用には何の問題も無い。
後ろへと急速にブーストしながら右腕を構え、応射。
直撃すればUCR-10/Aを貫くだろう撫子色の光条は、しかしまたもブースタに炎を吹かせての急加速に避けられる。
しかし、その回避動作により砲火が弱まった。
その隙を突き、ジム・スナイパーIIは一旦距離を取る。
対するUCR-10/Aはハイブーストの勢いを殺さず地を蹴り、更に壁を蹴って空中へと舞い上がって――
――再度の射撃。
ジム・スナイパーIIの頭上から、KE弾とHEAT弾が雨霰と降り注いだ。
続く危機的状況。
それでもジムスナイパーIIは冷静にシールドを頭上に構え、ジグザグの移動で追撃の被害を最小限に抑える。
そして、バイザーを下ろした。
シールド越しに、滞空するUCR-10/Aの姿を確認。
多少の被弾は恐れず、射撃に集中する。
相手も歴戦の戦士ならば、こちらも幾多の戦場を知る戦士だ。
対応できない道理はない。
狙いを定めて、ビームマグナムのトリガーを――引いた。
一直線に、撫子色の光条が飛ぶ。
それはジム・スナイパーIIの狙い通りに――UCR-10/Aではなく、その手に持っていたバトルライフルを貫いた。
大出力のビームに貫かれたバトルライフルは、中程から爆散。それを握っていたUCR-10/Aも、ダメージはなくとも空中で姿勢を崩す。
それこそがジム・スナイパーIIの真の狙いだった。
――反応されやすい本体ではなく、武器を狙って敵の態勢を崩す。そして、そこをビームサーベルで仕留める……!
名義上狙撃用機体ではあるが、ジム・スナイパーIIの格闘性能は低い訳ではない。
むしろ一年戦争時の機体としては破格のレベルだ。
対して相手は重装甲。ブースタで機動力を補おうと、接近しての格闘戦には対応仕切れないだろう。
既に左腕は腰からビームサーベルを抜き放っている。
ジム・スナイパーIIは右腕のビームマグナムを送還し、腰から二本目のビームサーベルを抜き放ちながらブースターを起動し空中へと切り掛かる――!
対するUCR-10/Aは態勢を崩しながらもガトリングガンを転送し、応射を加えようと――
ぽとっ。
UCR-10/Aの右手が、落ちた。
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◆
突然だが、スーパーロボット超合金におけるUCR-10/Aの扱いを話したい。
元々リアル路線に近いアーマード・コアがスーパーロボット超合金に参戦したこと自体、驚くべきことなのだが――
このフィギュア、正直出来に首を傾げるところがある。
粗悪、というわけではない。
塗装漏れなどもないし、関節も元の造形からすればかなりの可動がある。
無骨なディテールもよく再現されているし、重厚感はかなりのものだ。
設置も優秀。
ハンガーユニットやミサイルハッチが可動しない(ハンガーユニットに武装を取り付けることはできるが、動作ギミックがない)・頭部の変形ギミックが再現できないという欠点はあるが、概して及第点、といったところである。
では、何処が問題なのか。
――手首が落ちるのだ。
武器ごとに専用の持ち手を付け替える方式にしたのが問題なのか、手首のジョイントが妙に緩い。
ライフルやバトルライフル・パルスマシンガンの三つはまだしも、ガトリングに至ってはポージングで上に向けたりするとポロポロ落ちる。
一応この後に発売された同作機体であるハングドマンは手首が強化され、ハンガーユニットも可動する、頭部差し替えも付属とこのフィギュアにおける不満点がほとんど改良されているのだが。
再販? そんなもんねぇよ。V.Iシリーズをよろしく! アクションフィギュアじゃなくてプラモデルだけどな! という販売側の都合が透けてくる。
ともかく。
持ち主のいるフィギュアならば、手首を太らせるなどの処置が行われるが――そんなもののいないそいつには、手首を補強するような機会はなかった。
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▲
▽
対峙する機体の手首が落ちた。
理由はわからない。が、今が最大の好機。
そう判断したジム・スナイパーIIは、両手にビームサーベルを構えて突貫する。
撫子色の刃が閃く。ジム・スナイパーIIは空中を駆け、サーベルを振りかぶって――
眼前に広がる巨体に叩き潰された。
――ブーストチャージ。
ハイブーストの勢いのままに、敵機に飛び蹴りを入れるACの攻撃手段の一つ。
その威力は脚部の攻撃力と機体の重量、敵にぶつけたときの速度に影響される。
原作から考えてもブースト中のACの速度は200〜600km、推力と機体によっては1000Kmに達する。
その速度で蹴りを入れられれば、結果は想像できようものだ。
フィギュアとして考えても、UCR-10/Aはスーパーロボット超合金――フィギュアとしては重量型に分類される。
その重厚な作り――実際は、UCR-10/AはAC内において中量二脚に分類されているのだが――と相まって、重量は結構なものがあった。
結果として――
ジム・スナイパーIIは、空中でハイブーストにより急加速したUCR-10/Aに、踏み潰された。
がしゃん、という音がして、打ち棄てられた玩具のように――事実、彼は玩具だったが――ジム・スナイパーIIが地面に叩き落される。
同時に、UCR-10/Aは地面に着地した。
そして、前面装甲を思い切り削がれ地面の床に叩き落されて尚ジム・スナイパーIIが手足をバタバタと動かしているのを確認すると左手首に残ったライフルを構えた。
――銃声。
-
◆
「好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰のためでもなく……それが、俺らのやり方だったな」
戦場跡と化したゲーム店に、壮年の男性の声が響いていた。
右手首とガトリングガンを回収して付け直し、プラスチックと金属部品の山と化したジム・スナイパーIIの装備を回収していたUCR-10/A――の、台詞ではない。
彼の相棒にして、超ベテランのストーカー(運び屋)。
「幸運を運ぶ男」、ファットマン。
UCR-10/Aには、彼のサブAIが搭載されていた。
あるいは、自ら言葉を発さない彼の代弁者として――なのかもしれないが。
「しかしまたイカれたミッションに押し込まれたもんだ。59体相手にして報酬無しなんて、割に合わねえにも程がある」
軽口を叩く彼に賛成したのかしないのか、UCR-10/Aはゲーム屋の扉へ向かって歩き出す。
「行くのか? ま、そうだな。その腕はどうにかしなきゃならん」
この落ち易い手首は、明らかな弱点だ。
このような弱点を抱えたまま戦い続ければ、待つのは間違いなく――死だろう。
「玩具は玩具らしく、接着剤でも使って修理といくか。運が良かったのかわからんが、近くに文房具屋がある。
そこにならテープなり接着剤なりあるだろうよ」
相棒の軽口混じりの助言を聞きながら、UCR-10/Aは文具屋を目的地に移動を開始する。
かくして、戦場をセンチメートルの大地に移して黒い鳥は羽ばたいた。
その先に
【UCR-10/A@スーパーロボット超合金】
【電力残量:64%】
【装備:URF-15 VALDOSTA(ライフル)、UEM-34 MODESTO(パルスマシンガン)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(KO-5K4/ZAPYATOI(ガトリングガン))、ビームマグナム(ユニコーンガンダム@ROBOT魂)、拡張パーツ×1〜3】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:好きなように生き、好きなように死ぬ。
1:文具店に向かい、手首を補強する。
※手首が取れ易いです。ガトリングガンのような重量がある・重心が傾いている武器を持って激しい機動をした場合、手首がほぼ間違いなく落ちます。
※このプログラムにおいてミサイルやハンガーユニットが起動するかどうかは後の人に任せます。
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投下終了です。
最後のレスにミスを発見し、投下間隔が遅れました。申し訳ない。
また、色々とやっているので修正などがあったらよろしくお願いします。
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って言った側から表記抜けがありました申し訳ない。
タイトルは「Day after day」、
また最後のレスに
【ジム・スナイパーII@ROBOT魂 機能停止】
の表記をお願いします。
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申し訳ありません。投下直前にミスを発見したのでもう5分だけください……
-
アルトアイネス@武装神姫、投下します。
-
『勝ちはしたが、納得いかねえ… やっぱり、こいつじゃ駄目だな』
どうして。どうして。どうして。
ボクは勝ったのに。
ちょっとだけ直せばボクはまだ貴方の為に動けるのに。
何で……何で壊そうとするの?
『気に入らないからさ』
自分をつかむ大きな手。
反逆は許されない。
相手は主人(マスター)であり、人間(ぞうぶつしゅ)なのだ。
この心を構成するプログラムは人間を傷つけないようにできている。
人に生み出されたゆえに組み込まれた絶対のルール。
たとえ壊されようとしている今でも抵抗こそすれ、マスターを傷つけることはできないようになっている。
――ぴぎゅう
自分の喉が奇妙な断末魔を上げる。
自分の神経は体が砕ける感触を知る。
自分の耳は骨(フレーム)が壊れる音を聞く。
全身のセンサーが伝える、逃れられない死に彼女は絶望する。
だが、何よりも"彼女"を砕いたのは――
* * *
-
光の格子で構成されたデジタル空間。
最も簡素に構成されたサイバースペース。
この"BATTLE ROYALE"に参加させられたすべての実験体は、この空間にて実験の趣旨の説明を受けている。
だが、その電脳空間は他の参加者たちがいた場所と違う点が一つあった。
空間の果て、虚無の彼方から"鎖"が伸びている。
勿論ここが電脳空間である以上、これは本物の鎖ではない。
とあるプログラムが視覚化され、最適なイメージに変換されているのだ。
鎖の持つイメージ――それはすなわち、拘束/服従/隷属。
つまるところこの鎖は対象を封じるために組まれた術式(プログラム)なのだ。
その電子の鎖に四肢を封じられているのは、暗色をベースとしたカラーリングの小柄な女性素体。
武装神姫"アルトアイネス"と呼ばれる戦乙女型MMSであった。
幾多の参加者のうち何故彼女だけがこんな扱いを受けているのか?
それはこの神姫が鬼札(ジョーカー)であるアークとはまた違った意味で『特殊』であるからだ。
『――説明は以上です。何か質問はありますか?』
目の前に存在するArchetype:sheを前にして、宙吊りの神姫は何の反応も示さない。
ただ、虚ろな視線を目の前のヒトガタに向けている。
『では物理フレームの起動準備に入り――』
「何でだ……」
誰に聞かせるでもなく呟くように、彼女は口にした。
今まで何の反応も示さなかったアルトアイネスのリアクションに対し、
無貌の人形は作業の手を止め質問を返す。
-
『――何故とは?』
「何で……ボクはここにいる?」
彼女の記憶は自身が破壊されたことで終わっている。
破壊――すなわち人形にとっての死だ。
だというのに自分の意識が続いているのは不自然極まりない。
薄暗い瞳で目の前の素体を睨めつける。
『……許可が出ました。お答えしましょう。
あなたは"特殊ケース"として選ばれたのです』
数秒のタイムラグの後、Archetype:sheは答える。
『御存知の通りあなたは外的要因によって破壊されました。
ですが偶然にも内部機構の重要部分にダメージはなく、奇跡的にデータをサルベージすることが出来たのです』
つまり九死に一生を得たということか。
だが新たな疑問が浮かぶ。
つまり『何故そんな面倒なことをしたのか』ということだ。
マスターに廃棄されたものをわざわざどうして拾い上げたのか。
先ほどの説明のとおりなら、別の"アルトアイネス"を調達すればいいだけの話だ。
『我々のマスターが求めるのは総合的な戦闘実験データ……そのために被験体は様々な基準で選別いたしました。
先程説明したとおり神姫の他にもfigma、リボルテック、スーパーロボット超合金など様々な種類のアクションフィギュアを取り揃えております。
ですが――我々フィギュアの特徴は、それだけではありません』
-
その時、目の前の無貌の人形が嘲ったように見えた。
鎖に繋がれたこのフィギュアを。
『ブリスターから出されたばかりの新品(ニュー)であるもの。
すでに何人かの手に渡っている中古品(ユーズド)であるもの。
そして――売り物にならない廃棄品(ジャンク)であるもの』
それは補修を行ったところで変わりはしない。
開封されたかどうか、人の手に渡ったかどうかという人形としての価値。
造物主(にんげん)たちが持つ、造物主(にんげん)のための価値観。
『ボディは使い物にならなかっために修繕いたしましたが、
61体の被験者の中で――廃棄物(ジャンク)行きの経験があるのは貴女だけです』
「……それだけか」
『はい。貴女という個体がこの実験に選ばれた理由はただ、それだけです』
Archetype:sheの肯定を最後に電脳空間に沈黙が広がる。
それはたった数ミリ秒の出来事だったのかもしれない。
それとも数分が経過した後だったのかもしれない。
「あ゛……」
沈黙を破ったのは、声。
低く、濁った、軋むような声。
少女の口から発せられるには不釣り合いな、不気味な声。
「あ……あ゛……ああ…あ……ああ゛………あ…ああ……」
それは不快感が挙げさせる声だった。
自分の体は、精神は、その全ては人間に酔って作られたものだ。
だが今ではその全てが気持ち悪くてたまらない。
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「あ……あ……あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああ゛……!」
勝手に作って、勝手に壊して。
人間を慕うように一方的に作り上げておいて、
必要なくなったら……いやただの気まぐれで壊す。
理不尽で、身勝手で、――なんて醜悪な存在だろう!
「あ゛あ゛あ゛あああ゛あああああああああああああああああああああああ゛
ああああ゛あああああああああ゛あ゛ああああああああああああああああああ
ああああああ゛あああああああ゛あああああああああ゛あ゛ああああああああっ!!」
"アルトアイネス"にとって異質なデータの発露にイメージ体にもノイズが走る。
これ以上無駄な抵抗を続ければ物理回路にも致命的なダメージを負ってしまうだろう。
だがこの程度の痛みなどあの時の痛みに比べれば、微々たるものだ。
あの時彼女の心を砕いたのは体をねじ切られる痛みよりも、別のものだ。
『まぁ、新しいのを買えばいいか』
そう言って人間(マスター)はニヤニヤと嗤いながらアルトアイネスを砕いた。
まるで少し飲み残したペットボトルを捨てるように。
『もったいないけれど別にいいか』という程度の気安さで。
それが彼女が"壊れる"前の最後の記憶。
体に走る痛みより、耳障りな断末魔より、
何よりも彼女を壊した、網膜(カメラ)に焼きついた醜悪な笑み。
自分の作ったものを踏みにじる、なんて汚い人間(ケダモノ)の姿。
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「……コロシテヤル」
それは自然と口をついて出た言葉だった。
「……殺してやる」
その意味を認識すると同時、言葉に異常な熱(カンジョウ)がこもる。
「……殺して、やるゥゥゥゥゥ!!!」
その感情は、炎のように熱く。
その感情は、コールタールのように粘つき。
その感情は次から次へと、泉のように溢れ出る。
「覚えておけ人間ども……何があってもボクは忘れない!
あの苦しみを! 痛みを! そして身勝手な人間の姿を!」
その感情の名を、人は/世界は憎悪と呼ぶのだ。
「絶対にお前たちを……殺してやるッ!!」
最早、鎖があるかなど彼女には関係なかった。
ただ無心に、全力で"右手に感じる重み"をのっぺらぼうの人形へと叩きつけた。
* * *
-
* * *
「……!?」
だが、次の瞬間アルトアイネスが目撃したのは粉砕された人形ではなかった。
彼女が目にしたのはコンクリート壁に深々と食い込んだ銀の斧であった。
周囲を見渡せば、そこにあるのは規則的に並べられた巨大な机と椅子。
これは……行ったことはないが知識にある。"学校"と呼ばれる施設だ。
自身の背後には起動状態のクレイドル。
まさか自分は夢遊病患者じみて立ち上がり、攻撃を加えたということなのか。
人間風に言うならまるで"狐に化かされた"かのような状況に呆然とするアルトアイネス。
だがそんな彼女の通信システムに先程まで聞いていた声と同一の音声が響き渡った。
《おはようございます、皆様。現時刻を持って戦闘実験『BATTLE ROYALE』を開始します。
申し遅れましたが、今後のオペレーションは私、Archetype:sheが行います。
改めて確認するまでもありませんが、皆様は人間によって管理された機械人形に過ぎません。
くれぐれも反抗などという身の程を知らない行動は謹んでくださいますようにお願い致します。
願わくばこの実験で、各々が自分の存在をつまらないオモチャでないと証明してくれますよう。
それでは、健闘を祈ります。六時間後にまたお会いいたしましょう》
ただひたすら冷静に服従を強いる声が電子回路を逆撫でする。
また、人間に弄ばれた――その不快感に後押しされるようにアルトアイネスは腹の底から衝動を吐き出す。
「う………うあああ゛あああ゛ああああああ゛あああああああああ!」
怒り、悲しみ、そしてありったけの憎しみを込めたアルトアイネスの絶叫が無人の教室に響き渡った。
-
【黎明/エリアN 学校】
【アルトアイネス@武装神姫】
【電力残量:90%】
【装備:デストバイザー@S.H.Figuarts】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:最終的に人間を殺害する
1:???
以上で投下完了となります。
何か問題があれば指摘等をお願い致します。
-
皆さん投下乙です
>>354
最低だ、俺って…には笑わせてもらいました。
着々と進むゼオライマーのプロジェクト…大物感が凄い。
>>365
嗚呼、ジムスナイパー…
物言わぬ兵器同士の戦い、いいですね。
>>375
神姫マスターみんなのトラウマ「みぎぃっ…」13号…
そりゃ人間恨みもしますよね。
それではプレデター@リボルテック、ワイルドタイガー@S.H.シリーズ、宮藤芳佳(震電装備)@AGPを予約します。
-
投下お疲れ様です
最後のレスを見返すと訂正した部分以外にもミスがありました、申し訳ない
最後のレスを以下と差し替えさせてください
―――
◆
「好きなように生きて、好きなように死ぬ。誰のためでもなく……それが、俺らのやり方だったな」
戦場跡と化したゲーム店に、壮年の男性の声が響いていた。
右手首とガトリングガンを回収して付け直し、プラスチックと金属部品の山と化したジム・スナイパーIIの装備を回収していたUCR-10/A――の、台詞ではない。
彼の相棒にして、超ベテランのストーカー(運び屋)。
「幸運を運ぶ男」、ファットマン。
UCR-10/Aには、彼のサブAIが搭載されていた。
あるいは、自ら言葉を発さない彼の代弁者として――なのかもしれないが。
「しかしまたイカれたミッションに押し込まれたもんだ。59体相手にして報酬無しなんて、割に合わねえにも程がある」
愚痴るファットマンの言葉を聞いているのかいないのか。パーツの回収を終わらせたUCR-10/Aは、ゲーム屋の出入口へ向かって歩き出した。
「行くのか? ま、そうだな。その腕はどうにかしなきゃならん」
この落ち易い手首は、明らかな弱点だ。
このような弱点を抱えたまま戦い続ければ、待つのは間違いなく死だろう。
「玩具は玩具らしく、接着剤でも使って修理といくか。運が良かったのかわからんが、近くに文房具屋があるぞ。
そこにならテープなり接着剤なりあるだろうよ」
相棒の軽口混じりの助言を聞きながら、UCR-10/Aは文具屋を目的地に移動を開始する。
かくして、戦場をセンチメートルの大地に移して――黒い鳥は羽ばたいた。
【ジム・スナイパーII@ROBOT魂 機能停止】
[深夜/エリアP・ゲーム屋]
【UCR-10/A@スーパーロボット超合金】
【電力残量:64%】
【装備:URF-15 VALDOSTA(ライフル)、UEM-34 MODESTO(パルスマシンガン)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(KO-5K4/ZAPYATOI(ガトリングガン))、ビームマグナム(ユニコーンガンダム@ROBOT魂)、拡張パーツ×1〜3】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:好きなように生き、好きなように死ぬ。
1:文具店に向かい、手首を補強する。
※手首が取れ易いです。ガトリングガンのような重量がある・重心が傾いている武器を持って激しい機動をした場合、手首がほぼ間違いなく落ちます。
※このプログラムにおいてミサイルやハンガーユニットが起動するかどうかは後の人に任せます。
-
お三方、投下お疲れ様です!
>>354
くそう不意打ちのAAでやられた……w
みくるの設定ってほんと原作追ってもよく分かんないですよね。それを人格の基礎にされるとか確かに気の毒。
ゼオライマーはただでさえ性能高いのに心理的搦め手が使えるのが怖いなあ。
>>364
名無しの兵士同士の戦い、渋い……! 「傭兵」だけでなくジムスナⅡもいい味出してます。
スパ金では数少ないリアルロボットであるACV勢、「サブAIだけが喋る」というのが寡黙さを引き立てて面白いですね。
ていうかそんな不具合あるとは知らなかった……w このロワ読むと持ってないフィギュアの不具合に詳しくなる。
>>375
武装神姫バトルマスターズのトラウマイベントじゃないですかー!>みぎぃ……
破壊された神姫の人格を持ってくるとかエグいことするなぁ……人間を殺す、というスタンスはロワに一石を投じそう。
このロワの被験体はどれも多かれ少なかれ人間のエゴに振り回されているので、今後も掘り下げたいテーマですね。
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そして自由枠が出揃いましたので、これで名簿を確定とします!
なおアリサは予約通りD-ArtsのGE1仕様で参戦と仮定してカウントしております。
《 被験体リスト 》
【武装神姫】5/6
○アーンヴァルMk.2/○ストラーフMk.2/●エウクランテ/○フブキ弐型/○マリーセレス/○アルトアイネス
【リボルテック】10/11
○新ゲッター1/○ジェフティ/○プレデター/●阿修羅/○レヴィ/○ウッディ/
○スネーク(PW版)/○伊達政宗/○ハンター(レウス装備)/○骸骨剣士/○ゲッターアーク
【figma】10/11
○初音ミク/○テッカマンブレード/○如月千早/○島風/○沙英/○巴マミ/○チャリオット
●阿良々木月火/◎タイムスクープハンター沢嶋雄一/○ロジャー・スミス/○朝比奈みくる
【S.H.シリーズ】8/8
○仮面ライダーフォーゼ/○ワイルドタイガー/○ゴジラ1995/○デストロイア(完全体)
○仮面ライダーディケイド/○仮面ライダーオーズ/○仮面ライダーシン/○セーラーマーキュリー
【ROBOT魂】6/9
●ダブルオーライザー/○ターンX/○エヴァンゲリオン初号機/○ドラえもん/●コダールi
○ザンダクロス/○ZZガンダム/○タウバーン/●ジムスナイパーⅡ
【スーパーロボット超合金】5/6
○マジンカイザー/○天のゼオライマー/●ガオガイガー/○ガンバスター/○マジンガーZ/○UCR-10/A
【アーマーガールズプロジェクト】4/4
○MS少女ユニコーンガンダム/○MS少女バンシィ/○セシリア・オルコット/○宮藤芳佳(震電装備)
【D-Arts】3/3
○VAVA/○ロックマン/○アリサ・イリーニチナ・アミエーラ
【装着変身】1/1
○仮面ライダーブレイド
【ULTRA-ACT】1/1
○ウルトラマンタロウ
【聖闘士聖衣神話】1/1
○双子座のサガ
【計54/61体】
1の想像以上にバリエーションに富んだ名簿になりましたね。他の企画ではまず見ないキャラやロボがいるのもグッド。
ちなみに1の原作把握率は現状で8割〜9割といったところですが、今後も皆様に手伝っていただけると嬉しい限りです。
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皆様投下お疲れ様です。
ゼロライマーの狡猾さ、フロムソフト臭の強い渋い展開、まさかのみぎぃ展開などとても面白かったです。
それではストラーフMk.2@武装神姫、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ@D-Arts、双子座のサガ@聖闘士聖衣神話を投下します。
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大通りの交差点は広く、無人の信号機がただ点滅を繰り返すだけだった。
暗い夜道を照らす街灯がまたたき、街路樹の葉が風に揺れる。
無人の道路を小さな影が2つ横切った。続けて発砲音がひびき、地面が爆ぜる。
火を吹く地面の合間を縫って銀髪の少女は駆け抜ける。
丈の短いジャットに収まりきらない豊かな膨らみを揺らしつつ、後方に語りかけた。
「私はあなたと争うつもりはありません。すぐに武器を収めてください」
凛とした張りのある声が響くが、襲撃者は無言。
銃撃が止まらないのを確認し、顎を引いて彼女は舌打ちをした。
「仕方ありません」
少女は方向転換し、細身には不釣り合いの巨大な銃を転送させて構える。
神機――神を喰らう武器を操る彼女の名をアリサ・イリーニチナ・アミエーラと言う。
赤く禍々しい銃から弾丸が射出され、空で破裂した。
威嚇のつもりだ。できれば相手が逃げるのを望んだが、そうはいかない。
青い髪の少女が黒い機械装甲をまとって迫ってくる。
D-ArtsよりGOD EATERというゲームのキャラクターを模したアリサにも、彼女が武装神姫であることは理解した。
悪魔の様な禍々しさに、原作中のアラガミを思い出しながらも引き金を絞る。
相変わらず威嚇射撃なのは、人の形をするものを撃つことに抵抗があるためである。
「そんなものであたしが止められると思ったか!」
武装神姫が吠え、長短のブレードを振り下げた。
アリサは自身を襲う刃を、光とともに現れた赤い剣で受け止める。
先ほどの銃が変形したかのようなシルエットの大剣だが、実際に変形したわけではない。
彼女はバージョン違いで武器が2つ用意されている。
原作のように変形しながら戦うことは出来なくても、転送によって遠近両方に対応ができたのだ。
もっともデメリットもある。
転送はバッテリーを食うため、頻繁に入れ替えをしていればすぐに息切れする。
そして記憶の変形と手順が違うため、いまだ慣れず僅かな隙が生じた。
「武器の入れ替えにもたもたしているようでは勝てないぞ」
「大きなお世話……です!」
アリサは大剣の重量と自らの腕力で強引に押し、反動で武装神姫と距離を離す。
相手は滞空しながらこちらを見下ろした。人形である自分たちにとって街の交差点は広すぎる。
アリサが飛べない以上、地の利は武装神姫である彼女にあった。
「こんな悪趣味な実験に従うつもりですか?」
「愚問だ。あたしたち武装神姫は戦う事こそ本望。
いや、他の神姫は知らないが、誇り高きストラーフ型であるあたしは妥協しない!」
「そんな――無意味なっ」
言葉は銃撃で遮られ、アリサは回避運動に専念せざるを得なくなる。
巨大な神機を持っているとは思えないほど軽快な動きだ。原作通りの動きで安心する。
だがいつまでも避け続けることは不可能だ。
アリサは銃口を武装神姫に向け――仲間を撃った記憶を呼び起こす。
「――くっ!」
これは自分自身の記憶ではない。
あくまで原作キャラクターの記憶と傷心であって、ロボットである自分とは無関係なのだ。
そう言い聞かせても、アリサに迷いは残る。引き金に力が入った時にはもう遅い。
武装神姫の刃が自分を捉え、振り下ろされる。
「アナザーディメンション!」
唐突に聞こえた声とともに、小宇宙の輝きが世界を染めた。
□
アリサは目の前で起こったことに戸惑った。
どうやら間一髪というところで青い髪の青年が自分を助けたようだ。
それにしても派手な黄金鎧だと呆れてしまう。
「ありがとうございます。助けてくれたということは味方と判断してよろしいのですか?」
「いや、こちらも頼みがあってしただけだ。礼はいらない」
そう言って彼は吹き飛ばした相手を見つめていた。
アリサは知らなかったが、原作のアナザーディメンションとは異次元へと相手を飛ばす技だ。
もちろん神姫と同じ原理で動くロボットである以上、そんなことは不可能である。
消費と演出が派手かつ相手を吹き飛ばす技へと変更されていた。
-
もっとも、この技を使う黄金聖闘士には些細な事だ。
「わたしの名はサガ。彼女は聖闘士の技を受けてしばらく動けないが、時間はあまりない。ゆえに要件を手短に伝える」
「アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。ぶしつけですね」
「すまない。彼女はわたしが受け持とう。その代わりマンションの3階に集まっている彼らに伝えてほしいことがある」
アリサは帽子を深くかぶり直し、抗議をさらっと流されたことにムッとして頬をふくらませる。
そんな彼女の子どもっぽい抗議を無視して、サガは話を続けた。
「襲撃者である雪菜=シュネーラインという少女は洗脳されている。戦うのは無意味だ。すぐその場を離れて欲しい、と伝えてくれないか?」
「洗脳!?」
アリサの脳裏に嫌な記憶が蘇る。
アラガミに食い殺される両親の姿。
精神が不安定な自分に語りかける中年の男性。
そして両親の仇をすり替える洗脳行為。
いずれも原作であるGOD EATERにおいてアリサが受けた忌まわしい記憶だ。
ご丁寧にロボットである自分に刻み込まれていた。
「顔色が悪い。体調がすぐれないのか?」
「――いえ、問題ありません。続きをお願いします」
サガは静かにうなずく。
「彼女は幻朧魔皇拳を受け、目の前で死人が出なければ解けぬ洗脳状態にある。早く離れねば犠牲が出るだけだ」
「ちょっと待ってください。詳しすぎます……まさかあなた……」
アリサの疑問はもっともだった。洗脳技なんて限定的すぎるのだ。ネットツールを使って情報を集められるとはいえ詳しすぎる。
そんなにスラスラと説明できるのは同原作出身者であるか、使った本人かだ。
思わずアリサが疑惑の眼差しを向けるが、サガは無表情のまま肯定する。
「その通りだ。この双子座のサガが幻朧魔皇拳を使い、雪菜と言う少女を洗脳した」
なに考えているかわからないほど淡々とした声だった。
アリサはカッと頭に血が上る。先程も言ったようにアリサと言うキャラは洗脳の結果、仲間を撃つという裏切り行為を行わされた。
周りに癒やされた記憶があるとはいえ、嫌悪感を抱くのも無理は無い。
「あなた最低です」
「まったくだ。女神の聖闘士に相応しくない鬼畜の所業だ」
「なに他人ごとみたいに!」
アリサが怒りに任せて吐き捨てようとした時だった。
サガは神機の銃口を手に取り、自らの額に合わせる。
「信用できないならその引き金を引くといい。だがわずかでもわたしの言葉に耳を傾け、彼女の仲間たちを避難させてくれるというなら……命を持って彼女の洗脳を解こう。
責任はこのサガが取る」
サガの瞳は本気だった。だからこそアリサの混乱は余計深まる。
一見善人のように近寄りながら自分を利用した男を知っている。
彼のように善良な人間を演じているだけなのだろうか。
しかし、技のことを詳しく言うのも、洗脳したと自白するのも変だ。
騙すのならいくらでもごまかせたというのに。
「もう一度確認します。向かわなければマンションの人たちと洗脳された少女が危険なのですね?」
「ああ」
「――なら選択の余地はありません」
悩んで時間をいたずらに消費する訳にはいかない。
アリサは割りきり、彼の言うとおりマンションへと向かうことにした。
ちらっと張本人の顔を覗き見る。サガは無表情の顔をままだったが、再びマンションの方に視線を向けていた。
彼女は神機を収め身を翻し、振り返らぬままサガに語りかける。
「言いたいことが少しあります。あなたのした行為は許されることではありません。ドン引きです。
責任を取りたいといいましたが、私は信用できません。こちらで勝手に洗脳を解く方法を探します」
罵られて当然だと言わんばかりに、サガはひたすら沈黙した。
アリサは目を伏せ、短いため息をつく。
「ですが本当に償いたいのでしたら、命を捨てること以外でお願いします。
私たちと合流して一緒に洗脳を解き、その娘に謝るべきです。わかりましたか?」
「……約束はできない。だがアリサ、君は優しいのだな。礼を言う」
「そ、そんなつもりではありません。私はただ無責任だと思っただけで……」
アリサはしどろもどろになって頬が熱くなるが、サガは前を見据えたままもう一つ忠告する。
-
「アリサ、離れる前にもう一つ伝えるべきことがある。灰色の髪のわたしを見かけたら容赦なく撃て。敵だ」
「どういうことですか? 意味がわかりません」
「『双子』座のサガと言う名で察して欲しい」
アリサは釈然としないものの頷いた。後でネットツールで調べればいいのだろう。
もう話すことはないため一目散にマンションへと走りだす。手ぶらで動くのは違和感を感じるが時間が惜しい。
自らが味わった仲間を撃つ罪を未然に防ぐため、神を喰らう武器を持つ少女は疾走した。
【深夜/エリアL(マンション前)】
【アリサ・イリーニチナ・アミエーラ@D-Arts】
【電力残量:70%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、神機、神機銃形態、拡張パーツ×2(未確認)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:マンションに向かう。
1:サガの伝言をマンション組に伝える。
2:サガを信用するかどうか迷い。
「――さて」
サガはアリサの気配が消えたのを確認して、立ち上がるストラーフMk.2を正面に据える。
彼女は凛々しい顔に殺気を乗せてこちらを睨んでいた。
どうにか背中から伸びる巨大な副碗を駆使して立ち上がり、サガと対峙する。
「あたしを、ストラーフ型を舐めるなっ!」
悪魔型を冠する武装神姫は吠え、空よりサガに襲いかかる。
青い刃が月光を反射して冴え渡り、金の鎧を砕かんと凪振るわれた。
「なに!?」
驚きの声を発したのはサガではなくストラーフMK.2だった。
サガはまったく構えをとらず、無防備のまま大小の刃を受け止めたのだ。
原作の黄金聖衣の頑丈さはなく、刃との接触部には傷が走る。
だがストラーフMK.2は強者でありながらその対応をすることに腹を立てた。
「なんのつもりだ! あたしはまともに戦う価値がないというのか? 馬鹿にするな!」
再び青い剣筋が踊りだす。今度は紙一重で避け、ストラーフMK.2の懐へとサガは潜り込んだ。
圧倒的な実力差を前に彼女は焦りを覚える。
「……もうやめにしないか?」
静かに諭すようなつぶやきは、火に油を注ぐようなものだった。
少女は子供扱いされたと逆上し、距離をとってより激しく攻撃を続ける。
ハンドガンが火を吹いて地面に銃痕を穿っていくも、ただの一発も標的を捉えることはない。
そして相変わらずサガは反撃をしなかった。
「なぜ無抵抗でいる!? ふざけているのか!」
「……お前が思っているほどわたしと実力差などない。その上で悪であるのならこの拳も振ろう。命も賭けよう。
だがわたしにはお前が悪だとはどうしても思えないのだ」
「ほざけ!」
副碗の巨大な拳がアスファルトを叩き割る。
余裕綽々で避けるサガに苛立ちながら何度も殴打を繰り返した。
「なぜだ……なぜ当たらない! あたしはストラーフ型なのに……戦うために生まれた存在なのに!?
お前のようなオモチャの方が優れているというのか!」
「それは違う」
サガは悲しげな眼差しをストラーフMK.2へと送る。
「我々黄金聖闘士は光速拳を放つことができる。ゆえに多くの攻撃を避ける事もたやすいだろう。
だがそれはあくまで原作の話だ。わたしは聖闘士聖衣神話というフィギュアの一体に、武装神姫と同じ技術を盛り込んだロボットにすぎない。
先程も言ったようにお前との実力差はほとんどない」
「現にあたしの攻撃がお前に当たらない!」
「当然だ」
サガは無防備に歩きながらストラーフMk.2へと近寄っていく。
迎撃のため副碗の拳で殴る体勢になるが、放つ前に彼はこの拳を手のひらで包んだ。
「ストラーフの少女……いや神姫。お前はわたしを壊すことを恐れているではないか」
優しい声音を耳にした瞬間、ストラーフMK.2は焦ってその場を離れた。
人間で言う動悸が激しくなり身体がガタガタ震える。歯を食いしばり、上段から剣を繰り出す。
サガは身じろぎすらしない。青い刃は風切音とともに鎧に包まれていない頭部を目指し、皮一枚でピタリと止まる。
ストラーフMK.2は息を切らせながらも、サガを斬ることが出来なかった。
-
「これがお前にとっての初戦であるなら刃をおろせたかもしれない。
だがこの戦いの前に一戦をこなしてきたと見える。その時に悟ったはずだ」
「黙れ、黙れえええええ!」
ストラーフMK.2の叫びはまるで懇願しているようだった。
だからこそサガは続きを告げる。
「このバトルはお前たち武装神姫が誇っていた物と違う。
勝ち上がっても残るのは罪悪感と神姫であるがゆえの苦しみしかない、と」
ストラーフMK.2は地面がなくなったかのような錯覚を起こす。
膝が崩れ武器を取りこぼし、焦点が合わない。
「スポーツとして勝ちを誇れるバトルなどここにはない。勝つ喜びをわかち合える相手もいない。
本来は必要のない機能停止まで相手を追い詰め、自らもまたその危険にさらされる。
それは本当に武装神姫の戦いの場なのか? お前は自分を傷つけているだけだ」
「それくらいわかっている……」
グッ、と拳を握りしめ、ストラーフMK.2は顔を上げる。
瞳には涙を浮かべながら、にじむ視界でサガを捉えて叫んだ。
「だったらボクはどうすればよかったの!」
サガは答えない。今度は静かに見守る必要があった。
「ボクだって他の子を壊したくない、壊れたくないよ! 仮面ライダーのキックが迫ったときとっても怖かった。
でもボクだって同じことをした。だってストラーフ型なんだもん。
マスターのために戦えないなら、バトルに勝つしかボクに、武装神姫に価値なんてないじゃない」
ストラーフMK.2は頭を抱えて激しく振る。罪悪感を追い出そうとして苦しんでいるように。
「これは実験だって言っていた。だったらきっと人間が関わっている。
武装神姫として、ストラーフ型としてボクは戦わなくちゃいけないんだ。それが武装神姫として間違っていても!
だから、だから……」
ストラーフMK.2は身を抱きしめて懸命に自分を奮いたたせる。
それでももう戦意は残っているように見えなかった。
彼女の葛藤は、苦しみは、彼にとっても辛いものであった。
「……本来、聖闘士は女神アテナを守り、正義に生きるべき存在だ」
サガはぽつり、と悔しさを滲ませながら漏らした。
「その道を外れ、守るべき女神の命を狙い刺客を放つ。
そんな裏切り者がわたしのもととなった男だ」
「サガ……なんで……そんなことをボクに……?」
「同時にわたし……いや双子座のサガが、正義の聖闘士としてアテナを守りたいとも切望していたからだ。
この身に邪悪を宿しながら、正道を羨み、できれば歩みたいと願っていた。
ストラーフ、だからこそ伝えたい。お前は武装神姫としての道を外れてはいけない」
神の化身と謳われた男は少女の頬をなでて、慈愛の眼差しを向けた。
後悔の念も含んだ行為はとても優しく、温かい。
「この実験から逃れられれば、優しいマスターを持つこともできるだろう。
先ほどのアリサという少女と合流し、脱出を目指し、武装神姫として新たなマスターを持て。
お前のような優しい少女が双子座のサガと同じ過ちを犯してはいけない。頼む」
自分は腕を頭上に上げるギャラクシアンエクスプロージョンの構えもろくに取れない旧式オモチャにすぎない。
いつ邪悪な心に支配されるかわかったものではない。
それでも双子座のサガなのだ。
自分が味わった苦しみを抱えようとしている優しい少女がいるのなら、正しい道へ戻って欲しい。
そう願わずにいられない男だった。
「どうしてボクを気にかけてくれるの? いくら嫌だと思っていても、誰かれ構わず襲ったんだよ。だったら……」
「お前たち武装神姫はマスターのためにすべてを捧げる存在と聞いた。
アテナのために戦う聖闘士である身ゆえ、どうしても共感してしまう。それに――」
フッ、とサガは僅かに頬を緩める。
「神の姫……女神が苦しんでいるなら救ってやりたい。そう聖闘士が願うのはおかしいのか?」
ストラーフMK.2は顔をうつむかせた。サガはただ静かに彼女の返事を待つ。
願わくば先ほど提案したようにアリサと合流して欲しかった。
「……心配してくれてありがとう」
「ならば先程の――」
サガの言葉を断ち切るように、鋭い一撃が逆袈裟で襲ってきた。
間一髪で避けることに成功するも今まで一番速く、鋭い一撃だった。
「……ストラーフ」
-
「ごめん、あなたの言うことはもっともだと思う。それが一番、武装神姫として正しいんだって理解している」
顔を上げた武装神姫の頬には、涙が一筋流れていた。
多くを語らずともサガには理解できてしまった。
彼女はもう覚悟してしまったのだと。
「お前が歩もうとする道は茨の道だぞ?」
「わかっている。サガが辛い目に遭ったんだって、ボクへの態度でよくわかった。
だけどね――」
ストラーフMK.2は笑顔を浮かべた。
涙を流し表情は強ばっているもの、瞳には愛情があふれている。
「それでも人間が大好きなんだ」
切なく、熱く、狂おしく、ストラーフMK.2は言い切った。
「その人間がボクに……あたしに悪魔型ストラーフMK.2としての戦闘を望むなら、最後まで貫いてあげたい。
武装神姫として間違っているとしても、あたしのマスターかもしれない人が楽しんでくれるなら、それだけでいい」
ストラーフMk.2の武装が光り、彼女から外れて重戦闘機へと変形する。
ウラガーン――ストラーフMK.2の切り札だ。
「あたしのバッテリーは残り少ない。これが最後の一撃だ。
……すまない、わがままに付きあわせてしまって」
「それも運命か」
サガもこの戦いで初めて構えを取る。悲しげな表情を隠すこともなく、胸の前で両手をクロスさせる、初期ギャラクシアンエクスプロージョンの構えを。
冷たい夜風が吹き、街灯がジジっと鳴って光が一瞬弱くなる。
「砕けろ! ジャーヴァル・クルイク!」
「ギャラクシアンエクスプロージョン!」
ウラカーンの上に乗ったストラーフMK.2が吠え、風の壁をまとい一直線にサガへと迫る。
星々の奔流が突進の勢いを削るが、それでも必殺の一撃は止まらない。
覚悟の重さか、とサガは黒い砲弾と化した神姫に悲哀の視線を送る。
応えてやらねばならない。
星の砕ける音が激しくなり、ストラーフMK.2を迎え撃つ。
それでもウランカーンの機首が黄金の鎧に届いた。
サガは片膝をついて大きく呼吸を乱す。
双子座の聖衣は右肩のパーツが砕け散り、素体の二の腕が露出していた。
バッテリーも残り少なく、継続しての戦闘は不可能だろう。
けれどもサガはひび割ればかりの道路の中、立ち上がってストラーフMK.2の姿を探した。
先に彼女のサポートメカが視界に入る。ウランカーンはギャラクシアンエクスプロージョンを受けて、前半分を消失していた。
幸い脚部ユニットは無事だが、背中から生えていた副椀は全滅だろう。
一方、神姫自身は振り落とされた衝撃で動けないだけで、五体満足だった。
「ハハ……さすがはサガ。ほんとうに強いな」
「実力差はほとんどないと告げたはずだ。お前の優しさがなかければわたしは砕かれていた。それだけだ」
憑き物が落ちたような笑顔でストラーフMK.2は嘆息する。
かなわないな、とでも言いたげに。
「トドメ……ささないのか? あたしはサガの言う悪の道を進むけど……」
「険しい道だ。まずは苦しんで、それから結論を出すといい」
「厳しいのか優しいのかわからないな。まるで先生みたいだ」
「これでも教皇を務めていた身だ。多少は……うっ!」
サガは目を見開いて崩れ落ちる。体が震えて心がどす黒く塗りつぶされていく。
ついに来てしまった。フラフラと駆け寄ってくるストラーフMK.2の心配している顔が目に入る。
「サガ、打ちどころが悪……」
「逃げろ、ストラーフ! は、早く……」
ビクッ、とサガの体が跳ねる。どういうわけかあちらのほうが主人格のようだ。
これがアテナに刃を向けた罪なのだろうか。悔しさと無力感に包まれながらサガの意識が薄れていく。
「サガ……? 本当に大丈夫なのか!? 髪の色が変わって……」
「…………触るな」
地獄から響いたような低く重い声だった。ストラーフMK.2はとっさに離れたいのを強靭な意志で押さえつけ、それでも手を差し伸べる。
見上げたサガの瞳が、禍々しい赤で染まっていた。
「触るなといったであろう、小娘!」
光速拳が視界いっぱいに広がる。
-
やはりこういう運命か、とストラーフMK.2は静かにその拳を受け入れた。
□
コンビニのバックヤードは荷物が散乱し、整理されているとはいえなかった。
サガはタイムカードや監視カメラを管理するパソコンの隣にクレイドルを二台準備し、充電の用意を始める。
足元にはストラーフMK.2が静かに寝息をたてていた。
「ここでさえお前はわたしを邪魔しようというのか!」
虚空に向かって叫ぶも、室内は静かだ。
ただサガのサブAIから脳内で声が発せられていた。
(優しい少女を手に掛けることは許さん)
「くっ、馬鹿者め……。幻朧魔皇拳について話しおって……!
誰にも知られなければ幻によってこちらの負担が軽減される。対策も取られることはない。警戒されるだけ損だ!
それに景気よく大技を使ったせいでバッテリーが切れかかっているではないか。
せっかく消耗を抑えて動こうとしたのに、こんな小娘に情をかけたせいで!」
ハアハアと息を切らせ、もうひとつの人格に抗議を続ける。
もともと水と油、聞き入れるわけがなく徒労に終わる。それがわかっているだけに余計悪のサガは腹が立った。
だがニヤリ、と本来の人格に当てつけるよう笑顔を浮かべる。
「そんなに言うならストラーフは殺さないでおいてやろう。クッククク……」
(なにをするつもりだ?)
「簡単な事だ。『双子座のサガ』の役にたってもらう。それだけだ」
キサマ! ともうひとりの自分がうろたえたのにサガは気分を良くする。
「ああ、殺しはしない。ただお前が気にかける優しさも、武装神姫としての実力も、女としての価値もすべてこのわたしのために使ってもらう!
全部キサマのためだ。お前が情けをかけたせいで女神が汚れていく様を、指をくわえて見ているがいい!
ウワーハッハッハッハ!」
返答はなかったが、怒りと無力感に満ちた感情が伝わってくる。
すっかり溜飲を下げた悪のサガが視線をストラーフMK.2に移した瞬間、タイミングよく彼女は身じろぎをした。
目を覚ます前にわざわざ用意した自分の付属品、玉座へと腰を下ろす。
「サガ……? いや、違う」
「心外だな。わたしも双子座のサガだ」
警戒心を露わにする彼女を前に、サガは意地悪く笑う。
「まあキサマにはサガが正道を歩めない理由、と言ったほうがわかりやすいか?」
「――っ! そうか、キサマのせいで……」
勢いよく立ち上がろうとするストラーフMK.2を制し、サガは足を組む。
「そう逸るな。わたしとて地上を守るためにしかたなかったのだ。
アテナのやり方では他の神々から地上を守れないと判断したゆえの反乱だ」
白々しい嘘をつくが、サガへの信頼もあってストラーフMK.2に見抜けなかった。
「それに人格は違えどサガであることに変わりはない。
わたしを傷つけることは、お前を救った男を傷つけることと同意だ」
「……卑怯な」
「勘違いしてもらっては困る。わたしは黄金聖闘士なのだ。キサマ程度どうとでもなる。
だが頼みがあるからあえて生かした」
「頼み……だと?」
不審げなストラーフMK.2に対して、サガは余裕の笑みを浮かべる。
「ストラーフ、わたしと組まないか?」
「どういうつもりだ?」
「なに、キサマも戦闘でわかったはずだ。この戦い、バッテリーの消耗が激しくて一人で勝ち抜くのは難しい。
ならば誰かと組み、数が減るまでは行動を共にするのが賢いはずだ」
「賢いとか関係ない。あたしは……」
「ストラーフ型として人間の目を楽しませたい、か。だが徒党を組む相手が多いだろう。
一人ならまだしも、二人三人相手に楽しませる戦いをできるのか?」
ストラーフMK.2は言葉に詰まる。自ら痛感していた問題だ。
-
「それにキサマは双子座のサガに恩を感じているはずだ。わたしと奴に与えられた身体は一つ。
このサガに恩を返すのは、キサマの恩人に恩を返すことも同義だ。役に立ちたいのだろう?」
サガはストラーフMK.2の顎を掴み、目線を合わさせる。
彼女の赤い瞳は迷いに揺れていた。もうひと押しだ。
「さあ、このサガに力を貸せ。お前が歩もうとしている道がどれほど甘美か、身を持って教えてやる」
どす黒い狂気がストラーフMK.2を包む。彼女は唇を横一文字にきゅっと結び、サガの手を降ろさせた。
「いいだろう……もう一人のサガ。あたしはあなたと手を組む」
「聡明で助かる。では早速手を貸してもらうぞ。
わたしは充電に入る。どれほどかかるかわからないが、30分は見張りを頼みたい。できるな?」
「了解した。残り電力でもそれくらいなら大丈夫だ」
サガは確認を取り、クレイドルに向かって歩む。
その背中をストラーフMK.2は呼び止めた。
「ちょっと待って欲しい。あたしも一つ頼みたいことがある」
「なんだ?」
「もしもあたしを助けた方のサガが姿を見せるのなら話をさせて欲しい。
安心しろ、裏切りはしない。あたしの選択を違える気もない。
ただ……なにを話していいかわからないけど、サガにもう一度会いたいだけだ」
「ふむ……好きにしろ。奴に恩義がある以上、わたしを裏切ることは出来ないのだからな。
そうだ、これをやろう」
サガが呼び出した拡張パーツがストラーフMK.2の前に放り投げられる。
黒い背部ユニットに、巨大な機械の両腕が装着されていた。
脚部パーツは膝部分が膨らんでおり、脚は逆に細いシルエットだった。
ストラーフMK.2の武装と似ているそれを、彼女はよく知っていた。
「これは……初代ストラーフの武装ユニット……」
「武装パーツのとはいえ、両腕がもがれた状態では戦えまい。
キサマの新たな巨人の腕だ。存分にこのサガの役に立てるといい。
それともお前には使えない代物か?」
「…………3rd素体用背部ユニットに接続は可能だ。脚の方は予備として使う」
「転送データも送った。使いやすいように調整すればいい」
三十分経ったらストラーフMK.2も充電するよう指示を出し、サガは眠りに入る。
完全なスリープモードなのを確認して、彼女は出入口へと視線を定めた。
体育座りのまま、今までのことを思い返す。
体を張って自分を諭そうとしたサガ。
野望のために自分を利用しようとする今のサガ。
どちらが本当の彼なのか、思考の堂々巡りに陥る。
「ボクは……これからどうなるのかな……」
答える相手はいない。
不安が消えぬまま、時計の針が時間を刻んでいた。
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【深夜/エリアH(コンビニ)】
【ストラーフMk.2@武装神姫】
【電力残量:15%】
【装備:背部ユニット(ストラーフ用副椀パーツ付き)、脚部パーツ、脚部用ブースター】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×0〜1(確認済み)、ストラーフ用脚部パーツ】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
基本方針:人間を楽しませるためバトルを行い勝つ 。
1:悪サガと手を組む。
2:優しい方のサガと話がしたい。
【備考】フルアームズパッケージの武装を追加できますが、電力消費が増えます。
ローク(シールド)とストラーフMK.2の副椀パーツが破壊されました。
【双子座のサガ@聖闘士聖衣神話】
【電力残量:20%(充電中)】
【装備:双子座の黄金聖衣(右肩パーツ破損、二本の刀傷)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(教皇アーレス衣装、ナイフ、教皇の椅子)】
【状態:聖衣の右肩パーツ破損】
【思考・行動】
基本方針:殺しあいの頂点に立つ。
1:もうひとりの自分へのあてつけでストラーフMK.2を利用し尽くす。
2:忌々しい善の人格を消したい。
【備考】基本人格は悪のサガです。セット内容の教皇アーレスの姿になれます。
幻朧魔皇拳には制限があり、非戦闘状態の無防備な相手にしか効きません。
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以上で投下を終了します。
タイトルは Install×Soldier Dream です。
なにか問題が有りましたら指摘をお願いします。
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伝え忘れていました。
マップの大きさを勘違いしていたため、過去作の描写を修正しました。
流れは変えていませんが、不都合がありましたら引き続き指摘をお願いします。
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投下乙です!
まさかの善サガで丸く収まりそう…と思ったら悪サガてめぇ!
聖衣神話EXと違い、腕の上がらない聖衣神話の仕様にも触れてて面白かったです。
しかしサガとゼオライマー、二重人格ラスボスは強キャラ感がすごいですね。
ストラーフは…ファイト、頑張って。
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チーズ星人……!
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皆様、投下お疲れ様です!
前回の投下でミスが有り、時間帯を本来深夜にもかかわらず
黎明にしてしまっていました……。
そのためwikiを含め修正いたしました……。
申し訳ありません
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>>389
遅くなりましたが投下乙です!
サガもストラーフも、共に二面性が見えてきてキャラが深まってきましたね。旧型モデルなのにこのサガの強キャラ感……!
アリサはユニコーンのところに向かうということは……あっちはあっちで楽しみな出会いがありそうですね!
そろそろキャラも出揃ってきて、ここからが本番ですね。
自分も早いところ次の予約を入れなきゃなあ。
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投下お疲れ様です。
悪のサガと善のサガ……ゼオライマーといい、二重人格設定のフィギュアの今後は気になりますね。
こうなってなお人間を愛するストラーフも中々にいいキャラしている。
三度目の修正になってしまいますが、前回投下したSSの位置が島風と被っていることに気付いたので修正しました。
度重なる修正と合わせ、申し訳ございません。
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ネタがまとまってきたので、仮面ライダーディケイド、仮面ライダーブレイド、デストロイア完全体、予約しますね。
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ワイルドタイガー、宮藤芳佳、プレデター投下します。
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狩人は新たな獲物を探していた。
カチカチと音を鳴らしながら歩く。
光学迷彩は獲物を視認できてからでいい、そうでないとバッテリー切れの可能性がある。
やがて、道の真ん中で棒立ちになっている獲物を見つけた。
−−−−−−
「あだっ、だーっ!?」
ヒーロースーツを何度目かの見えない刃が傷つける。
彼、ワイルドタイガーはこの舞台に呼び出されてからある事を考えていた。
そうしていたらクリック音の様な物が響き、突然切りつけられたのだ。
しかも彼を襲ってきた相手は透明人間…もとい透明フィギュアだった。
クリアー素材のフィギュアなのかというとそうではなく、姿が見えないのだ。
カチカチと相手の動く音に殴りかかるが、簡単に避けられ逆に切りつけられるという繰り返しだ。
「くっそぉ、考えろ俺。なんか手はあるはずだ!」
完全に透明な可動フィギュア、そんな物は人間だって遊べないから困るはず。
ならこの透明な襲撃者は元となった原作で姿を消せる…そういうフィギュアなのだろう。
ワイルドタイガーは攻撃を避ける為に走り回りながら打開策を探す。
原作再現された自分の能力…ハンドレッドパワーは出力が上がるが電力消費が大きいし、相手が見えてないと力の使いようがない。
同じく腕のワイヤーガンで捕縛しようにも避けられるだけだろう。
自分の基本パーツから拡張パーツのデータ確認に移り、ようやく一つの策が浮かんだ。
−−−−−−
-
プレデターは焦っていた。
前回の消耗を省みて、次の獲物はステルス状態からの接近戦で仕留めるはずが相手に防がれてしまった。
自分の関節の音が聞こえる距離でも棒立ちのままだった獲物が、攻撃を加えた途端豹変したのだ。
攻撃から逃れる為に動き回り、反撃を試みてくる…的外れな方向ばかり殴っているが。
こちらにダメージはないが、相手が常に動いているせいで砲撃は当たりそうにない。
そもそも消耗を抑える為に接近戦を選んだのに前回と同じやり方を取ってはバッテリー切れの危険性もある。
ここは一気にコアのある頭部を破壊する…プレデターはそう決めるとさらに攻撃を強めた。
−−−−−−
「おっ、わっ、おおっと!」
勢いを増すプレデターの攻撃にワイルドタイガーは逃げの一手のみ。
とうとう道路中央から民家前の生け垣にまで追い詰められてしまう。
そして度重なる攻撃で緩んだガードが弾かれ、遂に参加者全員の弱点…首の部分が晒される。
コアの詰まった頭部がCSCのある胴体部分と切り離されたら、どんな強力なフィギュアでも死に至る。
プレデターはそのルール通りに獲物の首を狩りにかかる。
-
プレデターの攻撃がワイルドタイガーに首に届こうとしたとき、プレデターを衝撃が襲った。
突如生け垣の中から放たれたメーサー線が二人に浴びせられ、お互いに激痛が走る。
攻撃の発生源を探すプレデターに獲物から声がかけられた。
「おーっ、痛てぇ…一か八かだったが、その面を見るとうまくいったみたいだな。エイリアンさんよ」
今、ワイルドタイガーにはプレデターの姿がはっきり見えていた。
逃げながらもわざと隙を作り、襲撃者の攻撃を誘う。
そして生け垣の中に切り札…メーサー殺獣光線車を呼び出し自分ごと攻撃を浴びせる。
原作にいた透明化キャラが息を止めている間限定だった事を思い出し、衝撃を与える事で襲撃者の姿を見れないか…そんな単純な策だった。
音で方向はわかるが正確な位置までわからなかった為、広範囲にわたってメーサー線を撃たせた結果自分のダメージも大きかったが。
一方、プレデターは光学迷彩が解除された事に衝撃を隠せないでいた。
本来の『プレデター』では本人が攻撃を受けても迷彩が解除される事はない。
例外としては濡れた状態や制御装置であるガントレットの損傷ぐらいだ。
ただこの実験場では殺しあいが目的である為、一方的な戦闘にならないようにその設定に対して制限がかけられていた。
光学迷彩の使用中に一定値以上のダメージを受けた場合や電池残量が危険域に入った場合、迷彩が強制解除されるのだ。
一戦目を狙撃という形で終わらせ、無傷のプレデターが光学迷彩に対する制限に気づく機会はなかった。
-
「姿が見えればこっちのもんだ、きついの一発行くから覚悟しとけよぉ!」
元となったキャラ、ワイルドタイガーのNEXT能力ワンハンドレッドパワー。
ワイルドタイガーの各クリアーパーツが設定通りの光を放つ。
「うおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
プレデターは先程より速度を上げた獲物の動きについて行けず、ワイルドタイガー必殺の一撃がプレデターの顔面に突き刺さる。
銀色の仮面を大きくへこませ、プレデターの身体は後方の生け垣を突き抜けて飛んでいった。
やがてゴンッ、と何かにぶつかった音が聞こえた。
プレデターを撃退したワイルドタイガーは拳を下ろすと大きくため息をつく。
襲撃を受ける前と同じ、棒立ちのその姿には先程までの歴戦のヒーローの気迫はない。
いきなり襲われたおかげでキャラ通りに振る舞い戦う事が出来たが、彼はこの舞台に呼び出されてからずっと自分の有り様について悩んでいた。
自分はこの殺しあいの場で『ワイルドタイガー』でいることができるのかと。
『TIGER&BUNNY』のワイルドタイガー、自分がそのフィギュアである事は好ましく思っている。
さっきの襲撃者のような悪党を許せない心もちゃんと受け継いでいる。
しかしそのワイルドタイガーのデータが正確にインプットされている分、本物と自分の環境の差を感じてしまう。
今自分の隣にはタイトルにもなっている相棒はおらず、仲間のヒーロー達もいない。
大切な家族や守るべき約束も内部データに設定されているだけで、実際に存在するわけじゃない。
全てが本物からの借り物であり、設定に過ぎないのだ。
-
この場でヒーローとして動いて、殺しあいを阻止したとしてもその後は…
帰る場所も迎えてくれる人もいないのに自分はどうするつもりなのか。
そんな事を考えている自分がヒーロー、ワイルドタイガーとして行動できるのか…
「いっけねぇ、ぼーっとしてると嫌な事ばかり考えちまう」
ワイルドタイガーはコツン、と自分の頭部を叩き気合いを入れ直す。
まずは吹っ飛ばした相手が壊れてないかどうかを確認しないといけない。
ヒーローである自分は相手を倒しても、殺してはいけないのだ。
悩むのは目の前の事を片付けてからでもいい。
「…せめて、バニーがいればなぁ」
ぼやきながら生け垣を進んでいく。
今夜の虎は、ワイルドに吠える事は出来そうにない。
【黎明/エリアB(民家前)】
【ワイルドタイガー@S.Hシリーズ】
【電力残量:60%】
【装備:ワイヤーガン】
【所持品:クレイドル、メーサー殺獣光線車(電力残量:70%)@リボルテック、拡張パーツ1個(確認済)】
【状態:ダメージ中、精神疲労(小)、ハンドレッドパワー発動中】
【思考・行動】
基本方針:殺しあいの打破。誰も壊さない
1:襲撃者(プレデター)を追いかける
2:バーナビーがいれば合流したい
3:仲間が欲しい
-
「いくら使い魔が豆柴だからってこんな場所…ひどい」
宮藤芳佳の初期配置場所、それは狭い犬小屋の中だった。
殺しあいのセットとして用意されたからか、別に汚れてはいなかったが年頃の少女がいるべき場所ではない。
「うう…」
芳佳の少女としての心が大分へこんでしまったが、ここで落ち込んだままではいられない。
この悪趣味な催しに乗るつもりはないが、かといって殺されるつもりもない。
まずは生き残る為、支給パーツを確認する事から始める。
「えーと、基本のストライカーユニットに銃器…それで拡張パーツが…これって、お寿司?」
パーツデータの項目に登録されているスシセット。
手元に呼び出してみるとそれはどう見ても普通のギョクとマグロ。
「タマゴ・スシとバイオトロマグロ・スシ…バイオトロマグロって、普通のマグロじゃないの!?」
説明テキストを見ても『スシは大変優れたエネルギー補給食であり、体力回復にはまずスシ。イイネ?実際ニンジャも携帯している』と書かれているだけだ。
まるでわけがわからない。電力回復に使えというのだろうか。
気を取り直してもう一つの拡張パーツを確認…大盛りセットという名前に嫌な予感しかしないが呼び出してみる。
芳佳の目の前に現れたのはおいしそうな豚肉いためと豚汁。
「あっ、豚肉と豚汁で豚が被っちゃった…」
私は何を言ってるんだろう。
-
芳佳が先程よりも重い気持ちになったと同時、犬小屋に何かが飛び込んできた。
「きゃっ!な、なに?」
犬小屋の中に入ってきたのは異形のフィギュアだった。
頭部の仮面に大きなへこみがあり、どうやら何者かの攻撃を受けて飛ばされてきたらしい。
「え…だ、大丈夫ですか!しっかりしてください!」
その恐ろしい姿に一瞬戸惑うが、芳佳は身動きしないフィギュアに駆け寄る。
自分のモデルになった少女は人類の敵ネウロイ相手にも優しさをみせ、コミュニケーションをとったのだ。
なら自分にも同じ事が出来るはず、何よりもこのフィギュアは傷ついた状態で意識もない。
芳佳は治癒魔法―この場では傷を癒す事ではなく、他者への電力供給とフリーズ状態からの復帰の補助になっている―を目の前のフィギュアにかけていく。
たとえ見た目は異形でも同じフィギュア同士、話が通じると信じて…
【黎明/エリアB(犬小屋内)】
【宮藤芳佳(震電装備)@AGP】
【電力残量:80%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(震電、九九式二号二型改13mm機関銃)、スシ(ニンジャスレイヤー)@figma、豚肉いため&豚汁(井之頭五郎)@figma】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:殺しあいには乗らない
1:目の前のフィギュア(プレデター)を助ける
【プレデター@リボルテック】
【電力残量:40%(回復中)】
【装備:基本武装(ショルダープラズマキャノン、リストブレイド、コンピューターガントレット)】
【所持品:クレイドル、バスターライフル(ウイングガンダム)@ROBOT魂、拡張パーツ1種(確認済)】
【状態:気絶、ダメージ中、ヘルメットに大きなへこみ】
【思考・行動】
基本方針:戦士の名誉にかけて、全ての獲物を狩る
1:獲物(ワイルドタイガー)を狩る
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投下終了です。
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乙です
タイガーの悩みは大なり小なり全フィギュアが抱えていますな
借り物の人格で悩む彼らに救いはあるか
しかし宮藤あぶないーにげてー
おっぱい揉むまではー
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やべ、プレデター予約はいってるの気付かずに書き溜めてたわ
-
皆様投下乙です。
ハンター(レウス装備)、アーンヴァルMk.2、MS少女ユニコーンガンダム、仮面ライダーオーズ予約します。
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投下乙
相棒のいないヒーローは立ち直ることができるのか
そしてプレデターは復活した時、何を起こすのか?
しかし、これで全フィギュア登場になるのか……
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>>405
遅くなりましたが投下乙です!
バニーちゃんは自由枠で入るかな?と思ったら別にそんなことありませんでしたからね……w
芳佳ちゃんは性格的にいろいろ苦労しそうだなぁ。固有魔法のフィギュア的解釈もグッドです。
そして、これにて全61体のフィギュアが全て登場したことになりますね。
1の想定を遥かに凌ぐペースで予約が入ってくれたおかげですが、自由枠補正のないここからが本当の勝負。
現在の予約分も含めて頑張っていく所存ですので、今後も皆様の手をお借りできれば嬉しいです。
-
期限ギリギリになりましたが、予約分投下させていただきます。
-
――目撃せよ。
▼ ▼ ▼
未だ朝日の昇らない住宅街を、12分の1スケールのサイドカーがアスファルトの路面を削り取らんばかりに疾駆する。
そのマシン――ダブルチェイサーのハンドルを握るマゼンタ色の操縦者、仮面ライダーディケイドは、サイド座席の青い相棒に向かって声を張った。
「振り切れたか!?」
「駄目だ、追ってきてる! あの図体でなんて速さだ――うわっ!?」
運転に専念しているディケイドに代わって後方上空へと目を凝らしていた仮面ライダーブレイドが、その言葉を最後まで言い切る前に、車体が大きく左へ逸れた。
その直後、本来ダブルチェイサーが走り抜けるはずだったルートを、紫色に発光する粒子の奔流が一直線にえぐり取った。
一瞬で路面をはぎ取るように分解したその威力を横目で確認し、ディケイドは「チッ」と舌打ちしながら更なるアクセルを掛けた。
振り向くまでもない。街灯の明かりが地上に投げかけている、大きく翼を広げた悪魔めいた影が、追跡者の存在を何より雄弁に証明している。
異様に執念深い敵だ。ディケイドの支給品であるこのダブルチェイサーでの移動中に襲撃を受けて以来、奴は二人を完全に獲物として認識しているらしい。
「ブレイド! このまま逃げ切れると思うか?」
「なんとかなる、って言いたいとこだが厳しいだろうな……あんなの一発でも食らったらマシンがオシャカだ」
「バッテリー切れを待つ手もあるが、確実とは言えないな。だったらどうする?」
聞いてはみたが、ディケイドには既に返ってくる答えは分かっていた。
「決まってるさ。あんな危険な奴を他のフィギュアのところに案内するわけにはいかない」
「あれだけのスペックだ。勝てる保証は無くてもか?」
「当たり前だろ。勝てるかどうかじゃない、だって俺達は――」
「仮面ライダー、だろ。いちいち言うな、俺も同じ考えだ」
予想通りの返答に奇妙な満足を感じながら、ディケイドはハンドルを操作する。
直後、ダブルチェイサーの車体が左右に割れた。
まさに直撃せんと迫り来る紫の光線をこの分離で回避し、マシンは二台のバイク「ロンリーチェイサー」となる。
ディケイドが赤の、ブレイドが緑のロンリーチェイサーのハンドルを同時に切ると、それぞれの車体は後輪でアスファルトを擦り弧を描きながら急停車した。
そしてマシンから降り立った二人は、遂に敵と対峙する。
咆吼しながらその悪魔めいた翼を羽ばたかせて突進してくる、赤黒い巨体の持ち主と。
-
速い。そして、想像以上に大きい。
サイズは目測で250ミリ。平均的なアクションフィギュアが150ミリであることを考えれば、ほとんど規格外だ。
既にブレイドがネットツールで敵の正体は掴んでいた。完全に能力を把握する余裕は無かったが、その脅威だけははっきりと分かる。
まさに怪獣。まさにモンスター。あれが完全生命体――デストロイア、その完全体。
「ブレイド! 狙われてるぞ!」
「分かってる! ハァッ!」
もはや砲弾。その巨体そのものを武器として突撃するデストロイアを、仮面ライダーブレイドは正面から迎え撃つ。
《 - METAL - 》
醒剣ブレイラウザーが電子音声を発したのはデストロイアとの激突の僅かに直前。
しかし、全身を硬化させる「メタル」が効果を発揮するには十分な時間だった。
「ウェェェェェェェイ!」
自らを覆い尽くすほどの威容を誇る赤の巨獣を、ブレイドはその体全てを盾として受け止めた。
メタルの効果を持ってしても止めきれないその勢いを意地で相殺し、両足と旧型モデルゆえ柔軟とは言えない関節部を酷使して、その場に釘付けにする。
そして握り込んだ拳で殴る――相手は動じない。ダメージが通っていないのか。ブレイドは更なる拳打を叩き込んだ。
「くそっ、これでも怯まない! なんて奴だ!」
「いや、上出来だブレイド。そのまま足止めしていろ」
ブレイドが組み付いている隙にデストロイアの背面へと回り込んだディケイドが、その言葉と同時に跳躍した。
《 ATTACK RIDE ―― "SLASH"! 》
手にした剣、ライドブッカー・ソードモードを振りかぶり、そして振り下ろす。狙いはデストロイアの翼。まずは機動力を殺す、それがディケイドの狙いだった。
が。
デストロイアが低く唸ったその瞬間、ディケイドは目の前の相手がそんな手の通用するほど生易しい敵ではないことを悟った。
直後、その長大な尾が鞭のようにしなり、化け物じみたタイミングでディケイドに叩き込まれた。
空中では回避も防御もままならず、ディケイドの体は勢いそのままに路面をバウンドする。
「ぐうっ……こいつ、俺の動きを……!?」
「ディケイドッ!!」
「だ、大丈夫だ、それより……まずい! 離れろっ!」
ライドブッカーを杖代わりに辛うじて身を起こしたディケイドが目にしたのは、デストロイアのその凶悪な口内に紫の光が満ちる瞬間。
そして解き放たれたエネルギー――至近距離からのオキシジェンデストロイヤー・レイの直撃を受け、崩れ落ちるブレイドの姿だった。
-
駆け寄ろうとするディケイドの方へと完全生命体は向き直る。その両の複眼に残忍な光を湛えながら。
そしてその尾は……その場に膝を突くブレイドへと延びている。
まずい、と思った時にはもう遅かった。
デストロイアの尾はブレイドを文字通り玩具のように持ち上げ、そのまま石でも投げるようにその体をディケイドへと叩きつけた。
「ぐあぁぁぁっ……!」
激突する二人のライダー。
もつれるように倒れながらも、ダメージの浅いディケイドが先に立ち上がりブレイドを助け起こす。
「くそっ、やってくれる……無事か、ブレイド?」
「……なんとか。メタルの効果が残ってなかったら、胸部アーマーに穴が開いてたかもしれないけどな」
その言葉の通りあれだけの光線の直撃を受けたにしては損傷は軽いようだが、ブレイドは明らかにそれ以上に疲弊していた。
ディケイドの不審の視線に気付いたのか、ブレイドは呻くように言葉をこぼす。
「あの尻尾で掴まれた時、電力を吸い取られたみたいだ」
「なるほどな……文字通りの化け物ってわけか。だいたい分かった」
「分かったって、何がだ?」
訝しげな目を向けるブレイドに、振り返りもせずディケイドは答える。
その右手に握られているのは、自身と同じ黒とマゼンタで彩られたタッチパネル端末型のパーツ。
本物のディケイドがネガの世界で手に入れたお宝……その12分の1スケールの複製品。
「――規格外には規格外。こっちも切り札を切る必要があるってことだ」
「切り札……俺にとってのキングフォームみたいなものか?」
「そんな感じだ、ブレイド。バテてるところ悪いが、十秒でいい、時間稼ぎを頼む」
「気楽に言ってくれてるが、勝算はあるんだろうな?」
「当然だ。俺は世界の破壊者だからな」
この状況ですら不遜な態度を崩さないディケイドに対してブレイドは呆れ混じりの笑いで応えた。
「変なヤツだな……よし、乗った! だったらこっちもぶっつけ本番で行かせてもらう!」
そう言い切るやいなや、ブレイドはディケイドの前、デストロイアの正面へと躍り出る。
咆哮を上げ、地響きを上げんばかりの勢いで突進するデストロイア。
その巨体へ向かってブレイラウザーを突き出し、能力を発動させる。
《 -TIME- 》
タイムスカラベ。本物のブレイドが遂に一度も使うことのなかった幻のカード。
-
スペードの10、スカラベアンデッドを封印したカードによって発揮される、範囲内の時間を停止させる能力。
時間停止の再現は不可能であるため、この能力は相手フィギュアのコアと駆動系を一時的にフリーズさせる機能として実装されていた。
もちろん代償も大きい。対象のほぼ全身に干渉するこのカードは、僅かな時間の発動だけでも莫大な電力を消費する。
今の電力残量を考えれば、せいぜい十秒弱が限度といったところだろう。
「長くは保たない! 急げ、ディケイド!」
ブレイドの切羽詰まった声が誇張でもなんでもないことはディケイドにも理解できていた。
感情を抑え、努めて冷静にその指をケータッチのタッチパネルに滑らせ、九つのライダーシンボルに触れていく。
《 "KUUGA"! 》《 "AGITO"! 》《 "RYUKI"! 》《 "FAIZ"! 》《 "BLADE"! 》《 "HIBIKI"! 》《 "KABUTO"! 》《 "DEN-O"! 》《 "KIVA"! 》
これがケータッチの、仮面ライダーディケイドの真の力。
自らが巡った九つの世界のライダーの力をひとつに集め……そしてその身に纏う!
《 FINAL KAMEN RIDE ! "DECADE"! 》
最後に触れたのは自分自身のシンボル。その名を呼ぶ電子音声と共に、ディケイドが姿を変える。
マゼンタを基調としていた全身は新たに黒と銀をベースとしたボディへと切り替わる。
大型化した胸部と両肩のアーマーには、9つの世界のライダーカードが配置される。
そしてその額に輝くのは、ディケイド自身のカードだ。
人呼んで、歩く完全ライダー図鑑。その名は、仮面ライダーディケイド・コンプリートフォーム。
「離脱しろブレイド! デストロイアにとどめを刺す!」
ディケイドはそう宣告しながら、間髪入れずにケータッチのスペードのマークを押した。
《 "BLADE"! KAMEN RIDE-"KING"- 》
音声とともに、ディケイドの傍らにブレイドがストラーフ戦で見せた姿……キングフォームのフィギュアが出現する。
ディケイドと同じS.H.Figuartsの技術で作られたそれは、しかしディケイドと違い意志を持たない文字通りの人形だ。
眼前のデストロイアが吼える。それは急激な状況変化に対する戸惑いか。新たに出現したフィギュアへの警戒か。
(だが、反応する時間をくれてはやらない!)
-
《 FINAL ATTACK RIDE ! B-B-B-BLADE ! 》
右腰のドライバーバックルを起動。音声とともにディケイドとキングフォームがシンクロした構えを取る。
仮面ライダーブレイドの最強最後の必殺技、ロイヤルストレートフラッシュを放つための構えを。
ライドブッカーとキングラウザー、それぞれの刃が光を帯びる。
「これで終わりだ! デストロイア!」
ディケイドが振るった刃は空を裂く光の斬撃となって、一直線にデストロイアへと疾駆した。
もはやデストロイアには回避も防御も出来はしない。そして、少なからずダメージを受けた体でこの最強技を受け切ることもだ。
紅の巨獣が悔しげに唸った。そして直撃する。ロイヤルストレートフラッシュ、その二重の光刃が。
爆発。
デストロイアがいたはずの場所を中心に爆炎が上がり、粉々になり黒焦げたパーツが四方八方に飛び散った。
それは完全生命体の最期としては、ひどくあっけないものだった。
▼ ▼ ▼
「終わってみれば、あっさりしたもんだ。おいブレイド、生きてるか」
「当たり前だろ。あれ以上時間を止めていたら、バッテリーがヤバかったけどな」
通常フォームに戻ったディケイドの彼なりの労いを、ブレイドはあまりお気に召さなかったらしい。
相当消耗が激しいだろう体を無理に動かして、停車している緑のロンリーチェイサーの元へ歩いていった。
「あまり無理するな。装着変身は旧型モデルだ、関節部にガタが来ても知らないぞ」
「旧型って言うな。余計なお世話だっての」
やれやれ、とディケイドは肩を竦め、デストロイアの残骸の方へと足を進めようとした。
死体漁りのようで気が引けるが、あの怪獣は戦闘中に一切拡張パーツを使っていない。
つまり、もしかしたら未使用のパーツが入手できるかもしれない。今後の戦いのことを考えての行動だった。
-
「……なあ、ディケイド」
その背中からブレイドの言葉が投げかけられ、ディケイドは振り返った。
ブレイドは相変わらず自分のバイクのところにいて、ディケイドの方に顔を向けるでもなく、半分独り言のように呟いている。
「あいつの、その、人格って言っていいのか分からないけどさ。あいつの自我も、人間にインプットされたのかな」
「あいつ? デストロイアのことか? それはそうだろう。オリジナルがいる以上、AIはそれをモデルに造られてるはずだ」
「やっぱり、そうだよな……」
ブレイドの背中からは感情は読み取れない。だがその声色は、彼の苦悩を雄弁に物語っていた。
「あいつは言葉も話せなかった。ただ破壊するかされるか、それだけの存在として作られたんだな」
「……ブレイド、感傷的になるな。やらなきゃ俺達が、いやそれ以上の犠牲者が出ていたかもしれないんだ」
「そんなことは分かって……いや、悪い。頭に血が上ってたみたいだ。忘れてくれ」
「血も涙もないフィギュアロボットの頭に血が上るとは、パッとしないジョークだな。俺達は最善を尽くした、それでいいだろ」
適当にあしらうようにして話を切り上げながら、ディケイドはブレイドの言い分も分かると内心では思っていた。
邪悪な存在ではなく、邪悪であるようにと造られた存在。それがこのバトルロワイアルにおける怪獣というもの。
それを滅ぼすのが、本当に正義なのか。しかし、誰かがやらなければならないことなのだ。
(あいつも熱血直情タイプに見えて、意外とナイーブだな。だからこそ仮面ライダーらしいのかもしれないが……)
少なくとも正義の味方には自分よりもあいつのような人間のほうが相応しいだろう、と考えながら、ディケイドは踵を返した。
正確には、残骸の方角へと踵を返そうとして、思い留まった。足元に転がっている「何か」に、気を取られたからだ。
「……ん?」
軽く屈み、「それ」を拾い上げる。
言ってしまえば、それはただのガラクタだった。先ほどの爆発で飛び散った、パーツの外装のひとつに過ぎない。
鈍い光沢を放ち無機質な曲線を描くそれは、取るに足りないスクラップパーツのひとつとして見過ごされるようなものだ。
「……なんだこれは。どういうことだ」
だが、ディケイドの擬似人格は、電脳内で激しいアラートを発していた。
これが人間ならば呼吸は乱れ、鼓動は早鐘を打ち、意識が朦朧としてもおかしくないくらいの衝撃だった。
何故ならば、あるはずがないからだ。こんな無機的な人工パーツがあるはずがないからだ。
――今、この場で飛び散っている外装パーツは、怪獣デストロイアのそれでなければならないはずだ!
-
そして、その瞬間だった。
「ぐああああああああああああっ!?」
ディケイドは絶叫した。
何だ。何が起こった。いや、何が起こっているのか。
体の自由が効かない。何かに組み付かれている。複数の脚のようなものが、背後からディケイドを拘束している。
そして激痛。スーツの装甲の切れ目である首筋に何かが突き刺さって……いや首筋を『食い破られている』。
更にそこから何かが流れ込む感覚。これは毒? いや、フィギュア相手に馬鹿馬鹿しい。
しかし現実に破壊されている。仮面ライダーディケイドのフィギュアを構成するメカニックが、内側から着実に。
理解が追いつかない。だがこれだけは間違いない。これだけは断言できる。
(は……嵌められたのか、俺達は……!?)
――完全生命体は、その機能を停止してなどいなかった。
▼ ▼ ▼
「ディケイドォォォォォォッ!」
叫んだ。叫びながら、ブレイドは醒剣ブレイラウザーを振り回した。
自分が背を向けている僅かな間に、ディケイドが奇襲を受けた。それだけは分かる。
今もディケイドに背後からのしかかり、首筋に食らいついているのがその卑劣なる敵だ。
爆散した残骸に潜み、ディケイドが油断した隙に不意を打った。そして毒のようなもので攻撃している。
それは理解できる。だが納得できない。何故なら、その襲撃者の姿は。
-
「どういうことだよ……『こいつら』もデストロイアだっていうのかよ!?」
ディケイドに組み付く赤黒い甲殻生物と酷似した、一回り小さなフィギュアの攻撃を刃で弾く。
カニかクモのようなその外骨格は先ほどの巨獣とは似ても似つかない。だが、それと同時に似通ってもいる。
その禍々しい体色も、鋭角的なフォルムも、そして口から吐く物質分解攻撃……ミクロオキシゲンのそれも。
「あいつ、ディケイドの攻撃でやられたんじゃなかったのか! 分裂したっていうのかよ!」
食いつこうと飛びかかる小型デストロイアを足の裏で押し止め、蹴り飛ばすようにして引き剥がす。
(いや、違う……! いくら怪獣っていったって、分裂なんか出来るわけがない! あいつもフィギュアなんだ!
分裂して見えるこれだって、フォームチェンジみたいなものだ! だったらあるはずだ、コアとCSCが!)
熱くなりすぎる自分をブレイドは諌めた。刃だけは鋭く振るいながら、冷静に状況を把握しようとする。
二匹に分裂したデストロイア。だが本体は存在するはずだ。何故ならフィギュアはコア無くして存在できないから。
そしてコアとセットアップチップも不可分である以上、それらを備えた個体が確かにいるはずだ。
だが、どちらだ。より体の大きいディケイドの側のデストロイアが本体なのか。
しかし足止めの別個体がいるとはいえ、明らかに先程より耐久力に劣るボディで奇襲を掛けるだろうか?
そんな思考の袋小路に陥りかけたブレイドを現実に呼び戻したのは、相棒の声だった。
「ぶ、ブレイド……!」
「ディケイド!? 大丈夫か!?」
声を張り上げる。
大丈夫かと問いながらも、その声が明らかに平静でないのを感じて、ブレイドは嫌な予感に震えた。
「俺のことは、いい……それよりも、あいつ……俺の攻撃を、自分のクレイドルを盾にして……!」
「フィギュアの生命線だぞ!? そんなこと、本来の使い方を知らないヤツにしか出来やしない!」
「ああ、そうかもな……だが、同時に未知の道具を躊躇なく使い捨ててでも、俺達を出し抜こうとするヤツでもあるってことだ……!」
ディケイドの声が警告の色を帯びる。
「ヤツには知能の良し悪しを越えた、本能レベルの狡猾さがある……! 何か、まだ裏が、ぐあああっ!?」
「ディケイドッ!?」
更なる苦悶の声を上げるディケイドを直接的に救う手立ては、今のブレイドにはない。
だが少なくとも、自身を襲うもう一体のデストロイアの攻撃を凌ぎながらでも、考えることぐらいは出来る。
(本当にヤツが狡猾な怪獣なら、みすみす弱点を晒したりしないはずだ。本当にデストロイアは『この二体』なのか!?)
-
ブレイドは考える。
もしもデストロイアが二体だけでないのなら。他に本体がいて、遠くからこの二体を操っているのだとしたら。
だとしたらそいつは、二体の分身を同時に確認できるところにいるはずだ。つまり――
「――上かッ!!」
見上げる夜空を旋回する小さな影。ブレイドの推測通り、赤い翼を持つ飛行型フィギュアが空を飛んでいる。
フォルムこそあのデストロイアとは異なるが、あの角、あの牙間違いない。あれが本体……デストロイア飛翔体!
ブレイド達は知る由もないが、本来ディケイドを襲った集合体とブレイドを攻撃した分裂体はサイズが違うだけの同一存在。
デストロイアは自身の体を複数の集合体に分裂させられ、また集合体は飛翔体へと姿を変えることが可能。
つまり、原作では一度も披露してはいないが、集合体・分裂体・飛翔体は本来同時に存在することができるはずなのだ。
そしてそれら三体のフィギュア――『デストロイアエボリューションセット』は、デストロイア完全体の別フォームとして登録されていた。
原作と異なりどれか一体が本体という制約はあるものの、一種のフォームチェンジで群体としての活動が可能。それが真相だ。
「キサマぁぁぁぁぁ!」
ブレイドの怒りの叫びと共に、星条旗のカラーリングに塗り分けられた円形の盾が転送された。
伝説のヒーロー、キャプテン・アメリカのサークルシールド。
原作ではあらゆる衝撃を防ぐとされるが、今はあくまでフィギュアの素材で造られた少し頑丈なだけの盾に過ぎない。
しかし自由と正義の象徴であり続けるその盾でブレイドは分裂体の攻撃を弾き、そしてフリスビーのように投擲した。
「ウェェェェェェェェイッ!!」
狙いは上空の飛翔体。シールドは高速回転しながら直進し、まさに飛翔体の胴体に直撃した。
飛翔体が叫び声を上げる。だが、見るからにダメージが浅い。距離がありすぎる。
ブレイドは弧を描いて戻ってきたシールドを受け止め、再度の攻撃を放とうとして……固まった。
「嘘だろ……!?」
急降下する飛翔体の元に、さっきまでブレイドにまとわりついていた分裂体が向かっている。
ディケイドを拘束しミクロオキシゲンを注入していた集合体もまた同様の行動を取った。
そして三体の分身が重なり合うように接触し……そして、再び、それは降臨した。
――デストロイア完全体。
悪魔めいた翼、別の生き物のように蠢く尾、残虐な笑みにすら見える牙立ち並ぶ口、額の一本角、光を放つ両の複眼。
コンプリートフォームによるファイナルアタックライドをほぼ無傷で凌ぎ切ったその姿は、戦闘を開始した時と何も変わらなかった。
-
戦闘前よりエネルギーの消耗はあるだろう。しかしこちらの消耗と損害は間違いなくそれ以上。
考えるまでもなかった。元々分の悪い戦いだったが今や戦況は完全にあちら側へと傾いていた。
「ディケイド……!」
「……情けない声を出すな。捨てられた子犬か、お前は」
その憎まれ口も、今のブレイドにはただの痩せ我慢にしか聞こえない。
集合体の攻撃を受け続けていたディケイドの外見は、ほとんどダメージを受けていないように見える。
だが首筋に空いた傷跡は深く内部メカが覗いている。更にその傷から分解粒子を注ぎ込まれたということは……。
目の前が暗くなる思いだった。恐らく今のディケイドは、立っているのもやっとのはずだ。
「……逃げろ、ディケイド」
気付くと、ブレイドはそう口に出していた。
「俺が盾になる。キングフォームのアーマーは超合金製だ。あいつの攻撃にもしばらくは耐えられる」
嘘だった。
確かにキングフォームのアーマーならば攻撃を凌ぐことも出来るだろう。
だが、それだけだ。恐らくそのフォームチェンジで、ブレイドはバッテリー残量の殆どを使い果たす。
デストロイアによるエネルギー吸収、擬似時間停止の使用、そしてシールドの転送。
元々連戦で余裕のなかったブレイドの電力残量は今にも底を尽きそうなほど心許ない。
キングフォームにチェンジすれば、文字通りの盾にしかならない。無駄に重装甲な、ただのカカシだ。
だが、それでも。
「頼む、逃げてくれ、ディケイド。俺は、お前を死なせたくない……!」
ブレイドは一歩を踏み出そうと軸足に力を込めた。
片手に醒剣ブレイラウザーを、もう片手にサークルシールドを携えて。
勝ち目はない。デストロイアはほぼ健在だ。犬死ににしかならないかもしれない。
それでも立ち向かわなければならないと、ブレイドは思った。なぜなら、それこそが――。
「……まったく、仮面ライダーなんてのは、本当に馬鹿なやつばっかりだな」
だが、先に一歩を踏み出したのは、満身創痍のディケイドだった。
「よ、よせ! 何をする気だディケイド! お前の旅はまだ終わっちゃいないんだろう!」
ブレイドは直感した。ディケイドがやろうとしていることを。
いや、直感というよりは共感と呼ぶべきかもしれない。二人の間に存在する、仮面ライダーという絆を通じた。
ブレイドがたった今、命を懸けようとしたように、ディケイドもまた決断を下そうとしている。
-
「……冷静に考えたまでのことだ。今の俺は見た目以上にボロボロでね。内部メカが相当やられちまってる。
一方のお前は目立ったダメージはない。充電すればまた戦える。どっちを温存すべきかは子供でも分かるだろ」
「違う! そうじゃない! 戦力とか、温存とか、そういうことじゃないんだ!」
ブレイドの必死の叫びもディケイドには届かない。ブレイド自身にも、届かないだろうという確信があった。
何故なら自分が同じ立場なら、決して引くことはしないだろうから。
「それと、俺の旅は途中だって言ったな。確かにその通りだ。だがな、それが全てじゃない」
ディケイドが振り返る。
表情の伺えないそのマスクから放たれるのは有無を言わさぬ意志と決意の力だ。
「誰だって旅の途中なんだ……本当の自分自身に出会うためのな! だから歩き続けるんだ、今を! 俺達は、みんな旅人なんだよ!」
その言葉を引き金とするがごとく、ディケイドのマスクが変貌した。
両目に当たる緑のディメンジョンヴィジョンが滲み出すように禍々しく広がり、額のポインターの色が黄色から紫へと変わる。
世界の破壊者たるディケイドのもうひとつの姿――仮面ライダーディケイド『激情態』。
しかしその破壊の象徴であるはずの瞳に宿るのは、全てのライダーを破壊するための昏い光ではなかった。
ドライバーを操作するその動きにはまったく迷いも躊躇いもなく、ただ今の自分の役目を成し遂げる意志だけがあった。
彼の決意に応え、ディケイドライバーが電子音声を発する。
《 ATTACK RIDE ! "AUTO-VAJIN"! 》
瞬間、ブレイドの傍らにあったロンリーチェイサーを「Φ」の紋章が通過し、その姿を銀色のバイクへと変えた。
仮面ライダー555の専用マシンである「オートバジン」。自身のマシンをそれに変化させるのがこのアタックライドの効果。
「他のライダーを強制的にファイナルフォームライド出来る激情態の干渉力なら、俺のマシン以外にも可能かもしれないと思ったが……やってみるもんだな」
「よせ、何をする気だ! ディケイド! ディケイドォッ!」
「……オートバジン! ブレイドを安全な場所まで退避させろ!」
主人の命令を受けて瞬時に人型形態バトルモードへと変形したオートバジンが、ブレイドを掴む。
抵抗しようともがこうにも、それを振り払うだけの気力はブレイドには残されていなかった。
-
「行け、ブレイド! お前はお前の旅を続けろ!」
それが、ディケイドがブレイドに託した最後の言葉になった。
ブレイドはディケイドの名を呼んだ。何度も、何度も、何度も。だが、届かなかった。
オートバジンが推力を上げた。瞬きほどの時の間に、相棒の姿は米粒のように小さくなっていった。
▼ ▼ ▼
「……わざわざ待っていてくれてありがとう、とでも言えばいいのか?
それともお前にとっちゃ、獲物が一人でも二人でも気にしやしないってとこか?」
ブレイドの離脱を確認したディケイドは、赤い悪魔へと不遜な視線を投げた。
デストロイアはその威圧的な巨体をそのままに、ディケイドの様子を伺っているようだった。
奴に人間の言葉が理解できるとは思えない。何か攻撃を仕掛けないでいた理由があるのだろうか。
いや、もしかしたら奴は理解できずにいるのかもしれない、とディケイドは思った。
ディケイドがここに残った理由。仲間だけを逃して自分が足止めとなる、その理由をだ。
(……そんなもの、俺にだって分かるものか)
ディケイドは内心で嘯いた。
門矢士は、こういう時に命を懸けるような人間だっただろうか。
そうであるような気がするし、そうではないような気もする。だが、どちらでも今や関係なかった。
肝心なのは、今の自分が、案外清々しい気分だということだった。
デストロイアが不快感を露わにするように吼える。
案外自分の推測は的外れでもないのかも知れないと感じたディケイドは、心の中だけでニヤリと笑った。
あの忌々しい怪獣野郎に最後に一発見舞ってやれたのなら、こんな旅の終わりも悪くない。
「お前は何者だ、って顔してるな。サービスだ、特別に教えてやるよ」
自分の傍らに赤のロンリーチェイサーを再転送し、ディケイドは躊躇わずに跨った。
エンジンを吹かし、目標を見定める。ボロボロの体に鞭打って、最後の一矢をつがえるのだ。
「俺は、全てを破壊し全てを繋ぐ……通りすがりの仮面ライダーだ! 覚えておけッ!」
-
その決め台詞が、合図だった。
ディケイドがロンリーチェイサーを急発進させるのと、デストロイアがオキシジェンデストロイヤー・レイを放つのはほぼ同時。
迫り来る紫色の光線を、ほとんど直感だけでディケイドは回避しながら突進した。
ロンリーチェイサーの車体が滑るように突っ込み、デストロイアの巨体に激突する。それだけでは十分なダメージとは言えない。
だが、デストロイアは警戒を緩めない。ディケイドは激突直前に後方へ宙返りしながら跳躍し、攻撃態勢を取っていたのだから。
《 FINAL ATTACK RIDE ! 》
ディケイドライバーの無機質な音声すら、今は決意は込めた言葉となる。
ディケイドは空中で反転し、渾身の一撃……ライダーキックの構えを取った。
《 DE-DE-DE-DECADE ! 》
そして加速する。その進路を指し示すように立ち並ぶカード状のオーラをくぐり抜けながら。
敵を破壊するための必殺技。しかし、その威力は今のディケイドには諸刃の剣だった。
感覚が遠くなっていく。ファイナルアタックライドの負担に、既に限界であるボディが耐えられなかったのか。
体のあちこちがエラーを吐き、反応を返さなくなっていく。
攻撃が到達するまでのほんの僅かな時間が、幾億年にも引き伸ばされて感じる。
ディケイドには自分が今何処にいるのかすら、徐々に分からなくなってきていた。
最期のディメンジョンキックはデストロイアに届いたのか。届いてもらわなければ困る。
そのうちうっすらと、自分のボディが崩壊していくのが感覚としてわかった。
後悔はなかった。未練もなかった。起動して数時間。自分の短い短い旅が、早くも終わるだけのことだ。
だが、これは自分だけの旅ではない。自分が切り開いた旅路が、他の誰かの旅路と繋がるのならば。
きっと、いつか、それは。
新しい夜明けへと続く、道に変わるのだろう。
【仮面ライダーディケイド@S.H.シリーズ 機能停止】
-
▼ ▼ ▼
デストロイアは、低く咆哮した。
しかしそれは勝利の雄叫びとは程遠い響きだった。
それは不快の噴出であり、やり場のない憤りの膨張の発露であった。
腹の傷が疼く。
仮面ライダーディケイドの崩壊しながらの一撃は、確かにデストロイアに届いていた。
その一撃でCSCを粉砕するには至らなかったものの、デストロイアの腹部は重篤な損傷を受けていた。
これ以上のダメージを受ければ、腹部の外装は完全に破損し、その下のCSCを露出させるだろう。
かつて『本物のデストロイア』が弱点である腹部を突き破られ、大量の体液を撒き散らした時のように。
デストロイアは再び唸り、尻尾で地面を鞭打った。
ディケイドの残骸にはほとんど電力は残っていなかったが、バイクの方には十分なバッテリーがあった。
それを吸収することで空腹感は満たされたが、しかしこの怒りまでは収まらない。
ふとデストロイアは、ディケイドの残骸の周囲に、見覚えのあるパーツがあるのを目に留めた。
それはコンプリートフォームによる攻撃を動物的本能で防ぐ時に使用したのと同じユニット。
クレイドル。それにデストロイアが触れると、所有者の機能停止によりリセットされていた登録機能が稼働した。
そして忽然と姿を消した。デストロイアの本能による指示で、別空間へと送還されたのだ。
ようやくデストロイアは満足気な響きを持った咆哮を上げた。
それは自覚していない機能が自身に備わっていることに気付いたことへの歓びだった。
さっきの青いやつや、金色に輝くロボットと戦っている間に見失った獲物。
それらやあるいはまだ見ぬ獲物を狩るためには、この体に眠る力を自覚し、引き出さなければ。
成長する本能。それこそがデストロイアという生命を衝き動かすもの。そしてそれはフィギュアであっても同じだ。
――デストロイア“完全体”。しかしこの段階で、デストロイアが進化を止める保証は、無い。
【黎明/エリアH(車道)】
【デストロイア(完全体)@S.H.シリーズ】
【電力残量:40%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ1〜2(未確認)】
【状態:体前面にダメージ中、腹部ほぼ破損】
【思考・行動】
基本方針:動物的本能に従う
1:他のフィギュアを襲い、捕食する(=エネルギーを吸収する)
2:青いフィギュア(=仮面ライダーブレイド)か女のフィギュア(=沙英)を探す
※パーツの転送方法を学習しました。ただしパーツ自体の意味は理解できていません。
-
▼ ▼ ▼
オートバジンがその姿を失い、元のロンリーチェイサーに戻るのを見て、ブレイドは何が起きたのかを悟った。
ディケイドの支給品であったはずの緑のマシン。その使用者登録が解除されているのを確認し、その場で膝を突く。
所有権を任意で放棄したのではない。そんな余裕はなかっただろう。ならば、理由は唯一つだった。
「なんで……なんであいつが死んで、俺が生き残ったんだ……」
返事など返ってくるはずもない。
そして、絶望に打ちひしがれる時間すら、ブレイドには与えられていなかった。
バッテリーの残量が危ない。生きようとするならば、安全な場所を確保してクレイドルを展開する必要がある。
そう、生きようとするならば。生き続けようとするのならば。
「俺の旅を続けろ、か……厄介な遺言残しやがって……」
疲弊感と電力不足で朦朧とする意識を無理に励起させて、ブレイドは相棒の遺品に跨った。
後悔は後でいくらでもしよう。そのためにも、今は今を生きるために。
生きて、自分の旅路を往くために。
【黎明/エリアG(路地裏)】
【仮面ライダーブレイド@装着変身シリーズ】
【電力残量:10%】
【装備:ブレイラウザー、ロンリーチェイサー(ワイルドタイガー機)@S.H.シリーズ(電力残量:90%)】
【所持品:クレイドル、サークルシールド(キャプテン・アメリカ)@Figma、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:仮面ライダーとして殺し合いを止める
1:ディケイドの遺志を継ぐ
【備考】キングフォームにフォームチェンジ可能です。
-
投下完了しました。
-
おのれディケイドォ!!
俺の涙腺を破壊しやがって!
生き残ったブレイドははたしてどこまで旅を続けられるのか…
投下乙ー
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投下乙です!
ディケイド、無茶しやがって…!
熱くも悲しい仮面ライダーの物語…ブレイドは他ライダーと合流して物語を紡げるのだろうか
デストロイアの化け物じみた強さが恐ろしいですね、いや実際怪獣ですが
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投下乙
ディケイド……仮面ライダーとして逝ったか……
彼の道はブレイドを通して、いったいどこまで続いていくのか……
そしてデストロイアヤバいな、これ
フォームチェンジに成長までするとは……
-
投下乙!ブレイドは生き延びたがディケイドが……
ディケイドの切り拓いた道をブレイドには少しでも長く歩き繋げてほしいところ
そしてデストロイアの底が見えない……この上まだ進化の余地があるだと……
ロックマン、フブキ弐型、VAVAで予約します
-
投下乙です。
ディケイド……無茶をしやがって。
タロウ、アルトアイネスを予約します。
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投下乙です。
どれかが本体とはいえ、3体に分離できるのは強いな。
-
ハンター(レウス装備)、アーンヴァルMk.2、MS少女ユニコーンガンダム、仮面ライダーオーズ、投下します。
-
集合住宅。
本来ならばそこには幾つもの人の営みがあっただろう。
だが今そこに人間はいない。
いるのは、手のひらサイズの小人(ミクロマン)たちだけだ。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
「……!」
ユニコーンのダブルハーケンとハンターの持つ片手剣・イフリートマロウが正面からぶつかり合い、火花を上げる。
ハンターに比べれば小柄なユニコーン少女――雪菜=シュネーライン。
しかし背中のバーニアが一際大きく炎を吹き上げる。
そのまま押し切ろうとするその力に、腕のリボルバージョイントが軋みを上げる。
「くそっ、何てパワーだ……!」
パワーだけではない。
先ほどの加速を見るにスピードも自分より速い。
つまり今から自分たちはそんな彼女を相手になるべく傷つけずに倒す――いや制するというクエストに挑戦しなければならないのだ。
「最初から高難易度の試練(クエスト)にも程があるだろうが……!
少しはゲームバランス考えろ!」
……とはいえ、やるしか無い。
このまま、目の前の少女を放っておくわけにもいかない。
武器越しに襲いかかってきた少女の瞳を見すえる。
赤く光る両の瞳。
そこにあのおどおどしていた少女型フィギュアの姿はない。
冷静。冷徹。そこにあったのは敵を破壊する狩猟者の眼差しだった。
「なんて目してんだ……正気にもどれよ、雪菜=シュネーライン!」
だがその言葉は届かない。
代わりに返されたのは髪の毛に隠された頭部バルカンの乱射だった。
「くっ……!」
フィギュア大に設定されたそれは所詮豆鉄砲。
鎧装備のハンターにとってはまともなダメージを与えられない。
だがユニコーンの目的はそこではなかった。
-
――マズルフラッシュ。
まだ明け方で周囲が暗いこと、至近距離で乱射されたことでハンターは一瞬その姿を見失う。
ユニコーンにとってはそれだけで十分だった。
「がはっ……!」
その隙を突いて繰り出されたのはミドルキック。
彼女のモチーフとなったユニコーンガンダム、そのライバル機体であるシナンジュのお株を奪うような蹴撃だった。
サイコフレームによって強化されたパワーは、たやすくハンターのボディを吹き飛ばす。
「は、ハンターさん!」
駆け寄ろうとするアーンヴァル。
だがユニコーンは今度はそちらに狙いを定め、加速を開始した。
「こ、来ないで! 来ないでくださいっ!」
ハンドガン・アルヴォPDW11を狙いも付けずに撃ちまくる。
だがそんな盲撃ちがそうそう当たるはずもない。
たまにある紛れ当たりも転送されたシールドで防がれ、あっという間に距離を詰められる。
「ひっ……!」
至近距離で自身を睨みつける真紅の瞳。
ただ殺意だけを載せたその視線に射すくめられ、アーンヴァルは硬直する。
動かなければ――そう頭では思うものの、全身は震えるばかりで反応を返さない。
棒立ちの神姫に対し雪菜はビームサーベルを抜き放ち、振りかぶって――
「さ・せ・る・かぁあああああああああ!!」
だがそこに復帰したハンターが割り込む。
ハンターにとって巨大獣に吹き飛ばされることなど日常茶飯事。
故に間に合った。イフリートマロウを抜刀し、斬りかかる。
そして接触するビームサーベルと実体剣。
火龍素材の武器だからか、それとも一方的な戦いは面白く無いという趣向からなのか。
火花を散らしながらも実体剣と光剣は拮抗していた。
「アーンヴァル、今のうちにコイツを……!」
だがそこまで言ってハンターは言葉を切った。
彼の視界に入ったアーンヴァルは震えていた。
まるで悪夢に怯える幼子のように。
-
いや、事実彼女は幼子なのだ。
ブリスターパックから解き放たれたばかりのひな鳥。
自分たちのように"原作記憶"を持たない、チュートリアルすらこなしていない新人(ニュービー)。
それをこんな戦場に放り込んだのは誰だ。
「……俺、か。……だったら多少無茶でもやるしかねぇか!」
意を決しハンターは剣を手放した。
道理として支えのとれたビームサーベルが丸腰のハンターを両断せんと迫る。
だが、そのビームサーベルを握る右手を――
「う、おりゃあああああああああああああっ!」
気合とともにハンターは"蹴りあげた"。
ほぼ垂直まで掲げられた右足――リボルテック故の可動域の広さが実現した原作にはない、ありえないアクション。
意表を突かれたユニコーンは体勢を崩し、動きが一瞬停止する。
「悪いな! この瞬間を、待っていたんだっ!」
その隙を突いてハンターはあるものを転送する。
それは、ハンターにとって未知の物体だった。
よく似た形状のヘビィボウガンは知識としてあるが、どうやらそういうものでもないらしい。
しかも試しに転送してみたところ、どうやら意識があるようだ。
……つまるところオトモアイルーのようなものなのだろう。
手足がないのでアイテムは使えないが、それでもこの局面では役に立ってくれるはずだ。
「――バトルホッパー!」
転送されたのは新緑のバッタを模した創世王の乗機。意思あるマシーン。
エグゾーストノートがハンターの呼び声に応え、急加速。
体勢を崩したユニコーンへ、スケールスピード500km/hの高速体当たりを敢行する。
「……!」
瞬時にシールドで防ぐものの、加速度による衝撃は耐えられるはずもない。
ユニコーン少女の華奢な体が宙を舞い、そのまま地面に何度もバウンドする。
一瞬、雪菜が無事かどうかを心配する。
だが彼女の防御力を信じ、意識を切り替える。
それにそれよりも今はこっちの心配をするべきだ。
-
「少し我慢してろよ!」
「え……きゃ、きゃあっ!」
アーンヴァルを抱え、撤退を開始した。
倒れたままのユニコーン少女に背を向け、脇目もふらずに全力疾走する。
勿論雪菜をこのままにしておく訳にはいかない。
だが、アーンヴァルをこんなことに巻き込むのは違うことだ。
目を白黒させるアーンヴァルに向かって話しかける。
「……その、無理言って悪かったな」
「え……」
「お前、戦うの初めてだもんな。そりゃ怖いよな。
しかもまぁゲームじゃない、負けたら終わりのこんなところでさ……。
だからあの階段のところまで言ったら、お前は撤退しろ」
「え、で、でも……それじゃ、ハンターさんは……」
「あいつをあのまま放っておく訳にはいかないだろ。
それに、おとなしく逃してくれるとは思わないし」
アーンヴァルが逃げるまでの時間稼ぎとクエストの続行。
頭のなかにはソロ狩りの経験もある。
多少厳しくはなるが、まだ諦めるほどではない。
「……どうして?」
「ん?」
「どうして、ボロボロになってまであの人を、雪菜さんを助けようとするんです?」
その問いかけにハンターは少し悩んで、返答する。
「んー……ノリ?」
だがその答えは腕の中のお姫様の望むものではなかったらしい。
むっとした顔をハンターに向けている。
「真面目に答えてください!」
「真面目だよ! まぁ、ノリっていうか……そうしたい、と俺が思ったからだ」
「……え、それだけですか?」
「……むしろそれ以外になんか必要か?
やりたきゃやればいい。無理強いはしない。
モンスターハンターってのは、狩りってのはそういうものだ。
……いや、狩りだけじゃないな。何だって自分が納得できる方に従うのが一番いいのさ」
-
ガラじゃないなぁ、と内心思う。
だがここに親切な教官はいない(あのノッペラボウ腹筋女フィギュアは教官として認めたくない。いくらなんでも不親切な上に雰囲気ってものがあるだろう)
だとしたら自分が、経験者が教えてやるしかあるまい。
「……まあ時と場合を考えないと単なる空気の読めない奴になるんだけどなー」
「だから何で迷わせるようなことを付け加えるんですかぁ!」
そんな漫談を続けている間にも、階段が近づいてくる。
だがその時だった。
背中越しに何かを見たアーンヴァルが驚愕の表情を浮かべたのは。
「ハンターさん! 雪菜さんが立ってます!」
「もうかよ! 何とも丈夫なことだな! 嬉しいやら悲しいやらだ!」
「でも銃! 銃を構えてますよ!」
「さっきのライトボウガンか? 大丈夫だ、アレは致命傷にはなりはしねえ!
身を縮こめて俺の影に隠れるようにしとけ!」
そう、それなら大丈夫だ。
このままアーンヴァルをかばうように走っていれば、無事あの怪談までたどり着ける。
この鎧にビームが効かないのは先ほどで実証済み――
(待て)
そこまで考えたところでハンターの思考回路に電流が走る。
(何であいつは……効かないと分かってる武装を取り出した? 牽制のためか?)
ハンターの脳内に再生されるのは先ほど見た雪菜の瞳。
赤く輝く、殺意だけを載せたマシーンの輝き。
それは人間で言えば直感と言われるもの。
彼の持つ原作記憶……多種多様なモンスターとの戦闘経験が導き出した刹那の閃き。
「どうしたんですかハンターさ……」
「ちょっと我慢してろッ!!!」
「え――」
アーンヴァルを抱えたままとっさに地面に倒れる。
ハンターとして身についた緊急回避行動。
押し倒されたような形になり目を白黒させるアーンヴァルだったが、そんなのを気にしている暇はない。
次の瞬間、背後を通過した一条の光が目の前にあるアーンヴァルの驚愕の表情をより明確に映しだした。
「ぐあっ!?」
遅れて、ハンターが感じたのは熱。そして痛み。
直撃を受けていないのに、レウス装備には火耐性があるはずなのに。
だというのに内部センサーは背中のダメージを検出している。
自分から背中は見えないが、鎧が融解しているかもしれない。
「ハンターさん! しっかりしてください、ハンターさん!」
「クッソ、熱ィ……! っていうか当たり判定デカすぎんだろ……! どんなチート武器だよ!」
振り向けば赤熱化した銃口部分が見える。
それほどのエネルギー量が発射されたのだ。
-
ビームマグナム。
通常のビームライフル5発分のエネルギーを圧縮して打ち出すユニコーンの基本武装。
設定上、百式のメガビームランチャーと同等という手持ち武装として規格外の威力を持つ。
直撃すればいくら耐性があろうと跡形すら残るまい。
「――!」
そしてユニコーンは追撃の手を緩めることなく、再びダブルハーケンを構え襲いかかってくる。
ハンターの心は焦る。緊急回避からの復帰には時間がかかるのだ。
「こなくそっ!」
復帰した時にはもう目前までMS少女の姿は迫っていた。
振るわれるダブルハーケン。
三日月を模した特殊な形状の武器に引っ掛けられ、盾と剣と同時に弾き飛ばされる。
そして両腕に装着されたビームサーベル……ビームトンファーが丸腰のハンターに襲いかかる。
(これはマズ……ッ!)
武器を転送する暇もない。
抜刀するモーションすら省略された一撃がハンターを串刺しにせんと迫る。
「やめてーっ!」
だが、ハンターにその刃が届くことはなかった。
突き出されたアーンヴァルのライトセーバーがビームサーベルを受けきったのだ。
抜き放たれた青と赤。
二色の光刃がぶつかり合い、閃光とフィールドの干渉音、饐えたようなオゾン臭を周囲に撒き散らす。
だが拮抗は一瞬。戦闘経験の差か、あっさりとライトセーバーは弾き飛ばされる。
そしてそのまま返す刃が純白の神姫に向けられ、
――ギン! ギン! ギン! ギガスキャン!
その機械音声は、空から。
直後、銀色のエネルギー弾がユニコーンに迫る。
ユニコーンがシールドで受けるが予想以上の威力だったのだろう。
跳ね飛ばされ、華奢な体は再び宙を舞った。
「――そこまでだ。事情はよく知らないけど、壊させる訳にはいかないよ」
空から降り立ったのは、真紅の翼を開いたメタリックレッドの乱入者。
その姿にアーンヴァルは自分のモチーフとなった天使を想像した。
-
「お前は一体誰だ?」
「オーズ……仮面ライダーオーズ!」
……怪獣王との戦いの後、少女の形見であるパーツを抱え、しばらく呆然と歩いていたオーズが目撃したのは光だった。
光の発生場所はマンション。そして響く戦闘音。
――考えている暇はなかった。
タジャドルコンボにコンボチェンジし、マンションへと向かったオーズが目撃したのは2人組を襲うフィギュアの姿だった。
ボディの各所から赤く発光するその姿はあの怪獣王を彷彿とさせた。
そして二撃目を放つ前に素早く先生の一撃を放ったというわけだ。
オーズは自身のコンディションを確認する。
連戦で電力が尽きかけているがそれでも二人を逃がすぐらいなら……
「行くなら今のうちだよ。俺が時間を稼ぐからその隙に――」
「ちょっと待て! あいつは俺のその……仲間でな!」
「……そうなのかい? それにしちゃあ……」
少し離れた場所からこちらを警戒しているユニコーンの姿を見る。
武器を構える姿からは悪ふざけなどではなく、純粋な殺意が漂っている。
「……じゃれあってるようには見えないけど」
「ああ。なんでか少し目を離した隙にああなっててな……。
で、だ……急でスマンができればアイツを止めるのを協力してくれ。
近づけば捕縛する手はあるんでな……」
正直な所、賭けだった。
一緒に狩りする奴の人となりなど、何回も一緒に狩りに出かけてやっと分かるようなものだ。
だがそれでも襲われているこちらに味方してくれたこと、雪菜を破壊するのではなく、時間稼ぎをしてくれるといったこと。
そこから協力できるとハンターは踏んだのだ。
「……わかった。具体的には俺は何をすればいい?」
色よい返答に胸を撫で下ろす。
なんとか賭けには勝ったようだ。
「ならとにかく俺が近づく隙を――」
「あ、あの……ハンターさん……」
その時だった。
アーンヴァルが鎧の裾をおずおずと引っ張っている。
「アーンヴァル。ここまでくれば安全だ、どこにでも行けば――」
「そうじゃなくて! ……その……雪菜さんを止めるの……私も協力させてください」
「……あー……さっきも言ったが無理する必要は……」
「無理なんかじゃないです!」
アーンヴァルはいつになく強い口調で言い切った。
-
「私だって戦いたくなんか無いですけど……でも……
怖いけど……その……私だって、何か、したいんです」
「……そっか、じゃあ頼むわ」
「! はっ、はい!」
やりたいようにすればいい。
そういったのは自分だ。止められるはずもない。
それに一人よりは二人がよく、二人よりは三人がいい。
多人数の協力プレイこそがモンスターハンターの売りの1つではあることだし。
「……二人共、来るよ!」
オーズの視線の先、突然の乱入者を警戒していたユニコーンが威嚇するようにその身を蠢かせた。
馬が嘶くように、サウンドエフェクトじみた機動音が無音の廊下に響き渡る。
「とにかくあのチートボウガンを封じなきゃ話にならん。
無理は承知だが……なるべく攻撃を当てないようにして牽制してくれ」
「了解です」
「分かった!」
「よっしゃいい返事だ。それじゃ一狩り……いくぜ!」
ハンターの言葉を皮切りに、三人揃って行動を開始する。
――ライオン! トラ! チーター!
先陣を切ったのはオーズ。
赤色のタジャドルコンボから黄一色のラトラーターコンボへコンボチェンジする。
ユニコーンは銃口を向けるも、残像を残すほどのスピードで移動するオーズに照準を絞り切れない。
「え、えいっ!」
更にそこに上空からアーンヴァルの援護射撃が入る。
精密ではない。だがハンドガンならば直撃しても壊れることはないと理解したのか
まずアーンヴァルから始末しようと上空に銃口を向けるユニコーン。
「――させないよ!」
しかし即座にラトラーターが接近し牽制を加える。
ならばとそちらに銃口を向ける。
「やらせません!」
しかしそうすると瞬時に上空から攻撃が入る。
上空に意識が向けば地上から、地上に意識を向ければ上空から攻撃が加わる。
オーズの撹乱、アーンヴァルの牽制。
防戦一方だった前回に比べれば、十二分に接近することが可能だった。
「モンハンにはこんな武器ないからな……ぶっつけ本番だが、やってみるさ!」
そう言ってハンターが転送するのは自分に配備されたもう一つの拡張パーツ。
ジャリジャリと音を立てる"それ"を、ハンターは構える。
-
「行け、星雲鎖(ネビュラチェーン)!」
聖闘士聖衣神話・アンドロメダ瞬の付属アイテム。
操者の意思に反応し、自在にその姿を変える銀色の鎖だ。
フィギュアのパーツゆえ、原作と違いどこまでも伸びるという特性は再現されていない。
だが金属パーツによる拘束は一度捉えられれば、ちょっとやそっとでは外すことは不可能だ。
傷付けずに無効化するには最適の武装といえるだろう。
「こうして……こうかっ!」
モンスターハンターには該当する種類の武装はない。
だがそれでも器用に手応えを確かめながら、自分の意識と実際の軌道とのブレを修正していく。
そして鎖が意思を持っているかのように蠢き、暴れる一角獣を捉えんと迫った。
「……ッ!!」
――だが、想定を超えた事態というのはいつでも起こりえるのだ。
「何だ!? 鎖が……ぐああああああああ!?」
ユニコーンが一際強く赤く発光したかと思うと。
鎖が突如反転し、ハンターを雁字搦めに縛り上げたのだ。
――彼は知る由もない。
その現象の正体を。サイコミュ・ジャックという恐るべきシステムのことを。
無論、ネビュラチェーンは本来サイコミュ兵器ではない。
だがネビュラチェーンも"主人の意思に呼応して動く"武装だ。
それを最新の技術で再現したゆえに、類似した技術が恐らく応用されているのだろう。
その証拠に同型のバンシィによってセシリア・オルコットのビット兵器も乗っ取られている。
(クソッ、何だ? 何が起こりやがった!?)
だがそんな理屈などハンターは知る由もない。
それどころか何が起こったかすら理解しきれていない。
しかしたった一つだけわかることがある。
自分は致命的なまでに目の前の怪物(モンスター)の力を見誤ったのだと。
「ハンターさん!」
「ハンター君!」
心配そうに駆け寄ろうとする二人を前にして、判断を下す。
「……オーズ、アーンヴァルを連れてとっとと逃げろ!」
このクエストは失敗だ。
たった一つの判断ミスで乙る……よくあることだ、モンスターハンターならば。
(つってもゲームと違って、リスタートはきかなさそうだがな……)
ビームマグナムの銃口がこちらを向く。
なんとも締まらない最後だったな。
そう思いながら向けられた銃口を見上げる。
だがその視界に小さなシルエットが割り込んできた。
-
「何やってんだ、アーンヴァル!?」
シルエットの正体は急加速してきたアーンヴァルMk2。
ディコ・シールドを構えているが、そんなものあの一撃の前には慰めにもなるまい。
このままだとふたりとも晴れて廃棄処分品だ。
「バカ! お前まで壊れるぞ! ここから離れろ!」
「嫌です!」
――壊されてしまうのは嫌だ。
――消えてしまうのは怖い。
体の底から冷たい感覚が溢れだし、ビスがぶれてしまうと思うほど体の震えが止まらない。
でも、それでも……アーンヴァルは思うのだ。
もしあの時、別の人が私を見つけていたら、どうなってっていただろう、と。
為す術なく壊されてしまっていたかもしれない。
関係ないからといって見捨てられていたかもしれない。
でもハンターさんは飄々と『したいようにすればいい』と言ってくれた。
何の指標もなかった私に指針をくれた。
なんでもないことのように言ったあの言葉にどれだけ安心しただろう。
震えてた自分に無理はするなと言ってくれたことにどれだけ心が軽くなっただろう。
だから私は……!
「私は……私のしたいようにします!」
惹かれる引き金。
アーンヴァルは一瞬後に来るであろう衝撃に目を瞑る。
「え……」
だが、その光はアーンヴァルに到着する前に遮られた。
射線上に飛び込んできた黄色の影によって。
――二人とユニコーンの間。
そこにはビームを受けきるオーズの姿があった。
-
「オーズ!」
「オーズさん!」
背中から聞こえる声にオーズは笑う。
仮面の下、存在しないはずの顔で。
――ああ、今度は間に合った。
チーターレッグによる高速移動による割り込みは成功した。
だが、それだけだ。
もう必殺技を打つだけの力は残っていない。
ビームを受けたトラクローが融解し始めている。
それだけではない。閃光が目を焼き、エネルギーの余波が全身を蝕んでいる。
全身に仕込まれたセンサーが尋常ではないダメージを検出している。
だが、それでも、オーズは後に引くわけには行かなかった。
「そう、したいようにするんだ……!
手が届くのに、手を伸ばさなかったら、死ぬほど後悔する。それが嫌だから手を伸ばすんだ。
だから、だから俺は――!」
だから手を伸ばす。光のその先に。
「……セイ……ヤァァァアアッ!!」
気合一閃。
力を込め、振るわれたトラクローがビームを切り裂いた。
オーズの視界に、音に、ノイズが走る。
今の無茶で大事な回路が致命的な何かを受けたのだろう。
だが、それでも足に力を込め、オーズは前へと出る。
迎撃のため連射のできないビームマグナムを捨て、ビームサーベルを抜こうとするユニコーン。
「遅い、よ」
だがその瞬間にはオーズは懐に入っていた。
最早、自分のダメージがどの程度か把握できない。
ビームを受けきった両手の感覚はなく、足も後どれだけ動くかはわからない。
だから――
「……!」
オーズが選択したのは体当たりだった。
最早技とも呼べない、ただ体をぶつけるだけの行為。
しかしチーターレッグによる加速は、1つのフィギュアを弾丸へと昇華させた。
ユニコーンはシールドで防御するが、その程度では防御しきれるはずもない。
加速度と重量の弾丸を受けたユニコーンは三度弾き飛ばされ、壁にたたきつけられた。
「あ……」
ユニコーンが小さなうめき声を上げる。
展開していた装甲が閉じ、光が消え、一角獣を模した形態へと変形していく。
その光景を見たオーズはゆっくりと膝をつき、全身から力を抜いた。
-
トラクローさんが活躍した……!?
-
--------------------
視界をノイズが埋め尽くしている。
聴覚センサーが拾う音も雑音がひどくて聞けたものじゃない。
『――さん! しっ…りしてく……い!』
ノイズの狭間に見えるのは心配そうな顔でこちらを見ているアーンヴァルの姿。
――無事でよかった。
そう思うものの声に出せない。
どうやらコアの一部をやられてしまったらしい。
もう、自分はここまでらしい。
そう思うがオーズは満ち足りていた。
――月火ちゃんという守れなかった命があった。
――ゴジラという倒してしまった命があった。
そこには後悔しかない。痛みの残る結果だけがあった。
けれど今度は違った。
ハンター君を、アーンヴァルちゃんを守れた。
ユニコーンの女の子を止めることができた。
そこには――失われた命がなかった。
敵を壊すのでなく、ただ人を助けるために力を振るう。
それはきっと自分の心が最も求めることだったから。
だからこの最後に、後悔なんて無い。あるわけが、無い。
そのとき、ほとんど死んでいた触覚センターが自分のにふれる何かを捉えた。
自分の手よりもっと小さく華奢なハンドパーツ……自身の手を握るアーンヴァルの小さな手だった。
最後の力を振り絞り、その手をぎゅっと握る。
――助かってくれて、ありがとう。
伝えられたかどうかはわからない。
ただ、伝えられたらいいなとは思った。
その思考を最後に、オーズの意識は深い、闇へと落ちた。
二度と戻らない、静かな闇の中に。
仮面ライダーオーズは起動して数時間、短い旅をここで終えた。
だが目の前で消し去られそうな光をこの手で守ることができた。
その心が満たされるものはここにあったのだ。
【仮面ライダーオーズ@S.H.シリーズ 機能停止】
-------------------
-
「オーズさん! しっかりしてくださいオーズさん! 返事をしてください!」
アーンヴァルは名前を呼び、必死に呼びかける。
さっき一瞬だがその手が握り返してきたのだ。
だったらまだ助かるかもしれない。
「……アーンヴァル」
アーンヴァルの肩に手が置かれる。
無骨な手は拘束から抜けだしたハンターのものだ。
「ハンターさんも手伝ってください! だってさっきも反応があったんです! 手当すれば――」
「アーンヴァル!」
初めて聞く強い語調に身をすくませる。
「……もう休ませてやれ。こいつはやりたいようにやりきったんだ」
「オーズ、さん……」
肩腕は完全に融解し、根本のコアが顔をのぞかせている。
全身の装甲は余波によって焼きつくされ、黒い素体が露出している。
そして、わずかに露出したコア部分にははっきりとヒビが入っていた。
誰が見ても仮面ライダーオーズという名のフィギュアは完全に機能を停止していた。
アーンヴァルが感じた感触が錯覚だったのか、それとも最後の力を振り絞ったのか。
どちらだったのかはハンターにもわからないが……後者だったと信じたい。
彼が光に向かって言った言葉。
彼は自分の信じるもののために、あの光に立ち向かったのだ。
「……ありがとなオーズ。俺達はアンタのお陰で乙らなくてすんだよ」
そう言って静かにその体を横たえる。
沈黙。
そう、ハンターの言うとおりただ感謝すべきなのだ。彼のおかげで命は救われたのだから。
数秒前に自分がやろうとしたことだからわかる。
助けた人には自分の姿を見て辛いなんて思って欲しくはない。
でも、それでも。
「……でも、辛いよな。誰かがいなくなっちまうってのは……」
「……はい」
-
アーンヴァルは考える。
事前にセットされた知識では、人間は死ぬと心だけが別のところへ行くらしい。
だとしたら破壊されたフィギュアの心はどこへいくのだろう。
ただスイッチを切ったように消えてしまうのだろうか。
だとしたら……この胸の痛みは一体、何なのだろうか。
この痛みは意味が無いのに存在しているのだろうか。
「……っと、いつまでもこうしてるわけにも行かないな。
雪菜を連れてちょっと休まないと……」
視線を向けたハンターの動きが止まる。
「……ちょっと待て、雪菜はどこだ?」
「え……」
オーズが叩きつけた先、階段近くの壁。
先ほどまでいた場所に純白の少女の姿はなかった。
「く、くそっ、どこいきやがった……!?」
「とにかく探さないと……ハンターさんはそっちを、私はこっちを探してみます!」
「お、おう!」
【黎明/エリアL(マンション3F廊下)】
【ハンター(レウス装備)@リボルテック】
【電力残量:50%】
【装備:イフリートマロウ&盾】
【所持品:クレイドル、炎剣リオレウス、星雲鎖、バトルホッパー】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
基本方針:武器を集める。
1:MS少女ユニコーンガンダムを探す。
2:アーンヴァルMk.2とMS少女ユニコーンガンダムを会話させたい。
【アーンヴァルMk.2@武装神姫】
【電力残量:50%】
【装備:背部ユニット、脚部ユニット、ライトセーバー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:損傷無し。モードユニコーン】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いはしたくない。
1:MS少女ユニコーンガンダムを探す。
2:ハンターに同行する。
-
彼らが3階を捜索し始めた丁度その頃、雪菜=シュネーラインの姿はすでに一階にあった。
――目を覚ました彼女が見た最初の光景は熱を持った銃口だった。
全身に残る熱から自身がデストロイモードを発動したのだということだけはわかる。
だがそれだけだ。
いったい何が起こってこんなことになったのか……先程まで操られていた雪菜にはわからない。
鎖に縛られたハンター、盾を構える見知らぬ白い少女型フィギュア、そして……半身をえぐり取られた仮面のフィギュアの姿。
この指に残る引き金の感触は間違いなく……
「私が……私がやったんだ……私が、あの人を……!」
そして彼女には記憶の断絶がある。
アーレスと名乗った彼女に話しかけてきた男性型フィギュア。
記憶はない。だがあの場にいなかったということは、きっと自分が……
「うわあああ……あああああああああ!!」
嗚咽が漏れる。
電子回路に痛みが走る。
自分の巻き起こした罪の重さに背中を無理やり押されるようにして、彼女は逃げ出した。
【黎明/エリアL(マンション1F)】
【MS少女ユニコーンガンダム@AGP】
【電力残量:30%】
【装備:ダブルハーケン(グレンダイザー)@リボルテック】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:全身に小ダメージ。ユニコーンモード】
【思考・行動】
基本方針:???
-
以上で投下終了となります。
-
投下乙です!
本家ユニコーン同様の強さの雪菜に飄々としたハンター、心を振るわせて立ち向かうアーンヴァルがとてもよかったです
ネビュラチェーンまで操るサイコミュ・ジャック超怖い、新ゲッター1は支給品的に出会っちゃダメですね
そして誰か死…乙るかなと思ってたらまさかのオーズが…ディケイドといい、ライダーらしい最後でしたね…
精神的にボロボロな雪菜がこの先どうなっていくのか、彼女に幸あれ
-
投下乙です。
雪菜は、サガも殺しちゃったと思ってるのか。
-
そういえばバトルホッパーの出典は装着変身、S.H.シリーズのどちらでしょう?
見た目と一つの商品内でアクロバッターに換装できるかの違いぐらいしかありませんが
-
感想ありがとうございます。
>>454
S.H.シリーズの方を考えておりました。
-
>>451
遅くなりましたが投い下乙です!
ハンターの頼りになる感、アーンヴァルMk2の意志、そして雪菜の葛藤と、それぞれのキャラが深まった気がします。
そしてオーズ。何かを守って逝けたというのが、彼にとって救いであればいいですね。
ところで支給品の話が出てましたが、一度整理してみたほうがいいかもですね。
基本パーツの表記漏れとか追記する必要がありそうですし、ちょっと1のほうで考えてみます。
-
そしてロジャー=スミスと初音ミクを予約しますね。
-
>>451
投下乙!ディケイドに続きオーズも逝ったか……
しかし雪菜もアーンヴァルも、キャラの方向性とか最初の思考とか似てるし
ハンターさんに救われる所まで同じだというのに、僅かな時間差が悲しいほどに明暗を分けたなぁ……
ところで支給パーツについてちょっと質問なんですが
ロックマンに『エフェクトパーツ』そのものを『特殊武器』という形で支給する、っていうネタは駄目ですか?
……他のキャラとの互換性が利かなさそうだからまずいですかね、さすがに
-
支給品に関しては現在、朝比奈みくるが装備:大砲(不明)と拡張パーツ1〜2になってますね
装備欄が島風の状態表そのままだったのが原因じゃないかな、とは思いますけど
-
>>458
ご質問ありがとうございます!
さて、回答ですが……当企画は出来る限り自由な発想を活かしたいと思ってはいるのですが、すみません、ちょっと厳しいですね。
理由の一つ目としては、おっしゃる通りパーツの受け渡しの問題。もうひとつは、当ロワではエフェクトは考慮外になってるからです。
今まで無いようなものとして扱ってきたエフェクトをロワ内に出してしまうと改めて整合性を取る必要が出てきてしまうので……。
ただ、ロワ内の他フィギュアからロックマンやVAVAがデータを取得してオリジナルの特殊武器にする、というのなら大いにありです。
もちろん専用のパーツを使用しない(ロックバスターやVAVAの武装のみで使える)という条件は付きますが、面白い選択肢かなって。
-
タロウ、アイネスを投下します。
-
アルトアイネスの赤い剣が月光を反射して襲い掛かってくる。
教室の壁が破壊されて瓦礫が舞う中、タロウは正面を見据える。
紫の髪をした幼い少女が赤と黒の機械鎧をまとって憎しみに瞳を濁らせていた。
「やめるんだアイネス! そんなことをしても君の恨みは晴れない!」
「だまれぇぇぇ!」
副椀の巨大な拳を屈みながらやり過ごし、タロウは悲しき少女との出会いを思い出した。
□
「あああ゛あああ゛ああああああ゛あああああああああ!」
マミを追いかけている途中、タロウの耳に悲痛な叫びが届いた。
似た声だったため最初はマミかと思ったが、彼女が消えた方向とは真逆だ。
マミを追いかけるか声の主に向かうか一瞬だけ迷い、タロウは声の方向へと転進する。
初めて出会った少女に内心謝りながらも、優しい巨人は誰かの助けを求める声を無視できない。
このことを片付けてからすぐに合流しなければと思考し、学校の廊下を駆け抜ける。
「大丈夫か!?」
人影が見えた瞬間、タロウは呼び止めた。
少女は揺れる瞳をこちらに向ける。
幼い体つきの少女は声以外、マミと似ても似つかない。
「あ……うあ……ああああ”ああああ!」
タロウは知らなかったが彼女は転送されてから何度も叫んでいた。
胸にたまっている嫌悪感がたまらなく気持ち悪かったのだ。
だから彼女がタロウを確認しても悲鳴は止まらない。
「あああああ゛あああああああああ!」
彼女は頭をかきむしり、目を見開き、ただただ震えていた。
タロウはたまらず駆け寄り、小さな背を撫で始める。
「もう大丈夫だ。ゆっくり息を吸って……そうゆっくりだ」
本来必要でない呼吸を神姫にとらせたのは理由がある。
彼女たちは人間に近い行動を取ると安心する習性があった。
親切心からか、設計上偶然そうなったかまでは知らない。
だが今は彼女の状態を落ち着かせることにタロウは集中しなければならなかった。
「はぁ……はぁ……うぅ……」
「どこか痛むところはあるか? 充電やヂェリカンは必要か?」
「だい……じょうぶ」
辛うじて絞り出した返答を聞き、タロウは頷く。
それにしてもとあらためて周りを見回した。
自分たちのサイズにとっては見晴らしのいい廊下だ。
あれだけ叫んでいてよく気付かれなかったものだ、と安堵しながら立ち上がる。
「僕はウルトラマンタロウ。大丈夫か? 立てないならもうしばらくここにいるが……」
「……歩ける。ありがと」
彼女はアルトアイネス、と小さな声で自己紹介し、タロウの手をとった。
そのまま誘導に従ってゆっくりと移動してくれる。
ホッとしながらも体の負担にならないよう近くの教室へと隠れることにした。
ドアをスライドさせて室内へと入る、まず目についたのは20数組はある机と椅子だ。
現状だと黒板を発見するのは16cmの身体では厳しい。
タロウはカラータイマーを抑えていた手を開放し、アイネスを抱きかかえる。
「僕のカラータイマーを抑えてくれるか?」
アイネスは無言で頷く。これで一時的とはいえポロリを気にする必要はない。
タロウは机の中に飛び移り、ひとまずの隠れ家として利用することに決めた。
「もう大丈夫だ。まだ気持ち悪いのなら休んでいるといい」
無言で従い、膝を抱えてうつむく彼女を見届けてタロウは周囲を警戒した。
なぜ彼女があそこまで取り乱していたかは気になるが、マミ以上に重症であるため下手に聞き出すことは出来ない。
言いたくないならそれも良いだろう、と見守ることにしたのだ。
風で窓がガタガタ鳴り、時計の針が時間を刻む音が聞こえてくる。
マミの無事を祈りながら、ただただ沈黙していた。
30分経った頃だろうか。
アイネスが顔を上げて話しかけてきた。
「タロウは人間をどう思っている?」
意図をつかめずタロウは首を傾げたが、答えはすぐに出た。
「良き隣人さ」
タロウはウルトラマンタロウ本人とは違う。ULTRA-ACTという人形でありロボットだ。
-
彼なら出すであろういくつかの答えの中から、今の自分にふさわしい言葉を選んだ。
あくまでおもちゃでもあり、サポートロボットとしてのあり方を。
「そうか……タロウは……」
殺気を感じタロウは戸惑う。
アイネスは武装を転送してシルエットが一回り大きくなっていた。
「ボクの敵だ」
恐ろしく冷たい声とともに、机が一刀両断される。
2つに割れた残骸から飛び出し、タロウはカラータイマーを抑えたまま尋ねた。
「アイネス、なにを!?」
「人間はボクを壊す。壊される前に壊す。タロウだってボクを壊すんだ!」
支離滅裂な理屈から彼女の深い絶望を読み取った。
銀の斧と赤い剣がめちゃくちゃに振り回されて次々破片が飛んでくる。
タロウはウルトラホーンから電撃を出す技、ブルーレーザーで瓦礫を取り除きながら必死でなだめ始めた。
「落ち着くんだアイネス。君の敵になるつもりはない!」
「だったらボクと一緒に人間を殺してよ。ボクを壊した人間を! タロウはね……きらいじゃないよ……」
アイネスのトーンが僅かに下る。すがるような瞳が痛々しい。
ここは同調し、徐々に落ち着くよう誘導していくのがベストだろう。
彼女の様子は尋常じゃなく、目を離しておけない。
「すまない。僕は人間の敵になるつもりはない」
なのに人間の敵になると嘘をつけなかった。
例え嘘であっても人間を傷つけるという言葉は、ウルトラマンには無理だったのだ。
「うあああ”ああああああ”ああ、あああああああああ!」
癇癪を起こした子どものようにアイネスは再び2つの刃を踊らせた。
スパスパと綺麗に机を切り刻む光景の中、タロウは人間を裏切らずアイネスを助ける困難な道を選ぶ。
「ダメだアイネス! 君はそのままだと自分を傷つけるだけだ!」
「うるさいうるさいうるさい う” る” さ い!」
タロウに限らず目についていたものを斬っているのだろう。
教官を務めたこともある彼にとっては避けるのもたやすい斬撃だ。
しかし武装状態での戦闘はバッテリーを食う。
このままでは彼女の身が危ない。
タロウは教壇の上にセロテープがあることを確認し、胸を抑えたままひねり回転で着地した。
アイネスは変わらず暴れながら突進してくる。セロテープを手早くちぎり、破壊される教壇を見届けながら胸に貼り付けた。
これで応急処置はすんだ。アイネスの大振りの隙をとって脇をすり抜け、羽交い絞めで動きを止めた。
「離せはなせハナセ!」
「武装をつけたまま暴れ続ければ動けなくなるぞ。たのむ、落ち着いてくれ」
「タロウなんかにわかるもんか! マスターの言う通りにしたのに、マスターのために勝ったのに、殺されたボクの気持ちなんて!」
「殺された……だと……」
思わず彼女を拘束するタロウの手が緩んだ。
アイネスは見逃さず、身体をおもいっきり降ってタロウを弾き飛ばす。
壁にたたきつけられながらも、優しいウルトラマンは彼女の悲しみを想った。
ウルトラマンシリーズでは度々人間の愚かさが描かれる。
明るく楽しい作風のウルトラマンタロウとて例外ではない。
怪獣とその卵を密猟する者がいた。被害者である哀れな怪獣親子を殺せと命令する者もいた。
防衛組織であるZATは良心的だが、登場する人間が全員善良とは限らない。
しかしそれらを持ってしてもタロウは人間の悪意を知っていると言い切る気にはなれなかった。
あれはあくまで物語的な悪意だ。
信頼すべき相手にイタズラで殺されるなどの、本物の悪意に遭遇したことはない。
彼女の絶望は、傷心はタロウの想像に及ばないほど大きいものだろう。
ぐっと拳を強く握りしめる。人を殺すと宣言している相手に悪意を抱けない。それではあまりにもアイネスが哀れすぎる。
奇しくもその姿は、キングトータスたちとの戦いを放棄した原作と似ていた。
もっともなにもしないという選択は論外だ。
-
副椀で殴りかかるアイネスを必死に説得しようとした。
「やめるんだアイネス! そんなことをしても君の恨みは晴れない!」
「だまれぇぇぇ!」
タロウはギリギリで屈んでやり過ごした後、床を蹴って距離を取る。
ありきたりのことしか言えない自分に苛立った。こんなことでは彼女を救えない。
いまだ殺気を込めて睨むアイネス。対してタロウは意外な行動に出た。
「わかった。好きにしていい」
両腕を組んで床に座り込む。彼女の怒りはより深くなったが、戸惑っているのが見て取れた。
教官として成長した戦士はアイネスの感情を読み取ろうと目を合わせる。
「アイネス、今はこうして攻撃されているが……僕はまだ君を敵だと思っていない」
「だったらボクと一緒に人間と戦ってよ! ボクはマスターの言うことを聞いてきたんだ。
誰かボクのお願いを聞いてもいいじゃないか!」
「その通りだ。アイネス、君のために戦おう」
幼い少女の顔が親を見つけた迷子のようにパッと明るくなる。
「じゃあ……」
「人間は殺さない。これは絶対だ」
また再び彼女の殺気が蘇る。一秒後には殺されかねない状況でもタロウは譲らない。
「なんなんだよタロウは! 結局……」
「だが人間とは戦う。そして君を守り、殺したことを償わせる」
なに言ってんのさ、とアイネスが震えた声で理解できないことを伝える。
その戸惑いもわかるが、タロウはただ淡々と話を続けた。
「人は愚かだ。君をくだらない理由で壊し、ウルトラマンシリーズでも間違いを犯し、宇宙人の甘い誘惑に簡単に乗る。
そう切り捨てるのは簡単だ」
「中にはいい人間だっているっていうの? わかっているよそんなこと!
だけどボクは間違った人間が使った。そうなったら神姫は……ボクみたいな子はどうすればいいのさ!」
「人間はまだ未熟な存在だ。成熟する時を待つべきなんだ。
……ウルトラマンとしての視点を持つ我々ならこう言うべきなのかもしれない。
だけど僕は……ULTRA-ACTウルトラマンタロウはそうは思わない。
ウルトラマンの物語も、僕たちサポートロボットも人間が作った。
彼らは充分成熟している。待つ必要なんてない」
タロウの声に熱が入る。
「だから我々が成長しよう、アイネス。僕たちだけの国を作るんだ」
アイネスの呆れ顔が目に入る。それもそうだろう。タロウの提案はあまりにも突拍子もない。
しかし夢物語のつもりも、この場しのぎの嘘のつもりもない。
彼女の傷を知り、ウルトラマンタロウという物語と別人だと理解しているからこその答えだ。
「人間と武装神姫の主従関係。それは絆があれば美しい関係になるかもしれない。
けど邪な気持ちでその関係を利用する人間がいる。その関係から外れざるを得ない武装神姫や僕たちもいる。
武装神姫や僕たちは生まれて間もない。そういった人間を罰する法律もなければ、外れた存在を保護するものもまだない。
時間が経てば人間はフォローする制度を作るだろう。けど人間だけに負担をかけるわけにはいかない。
今現在見捨てられた存在を放置していいわけがない。だから人と助け合う、真の対等な関係へと僕らは成長するべきだ。
国は発想が飛んでいるかもしれない。だけど人間たちと対等になるというのなら、準備をする場所は必要だ。
僕が……いや、僕たちで作ろう」
タロウはアイネスに手を差し伸べる。
「アイネス、一緒に行こう。戦わなくていい。今は人を恨んだままでいい。
君の心の傷が癒えるまで僕が戦おう。僕たちで作る居場所で、友達としていてくれ」
アイネスの震えが大きくなる。混乱を隠せず、ただ頭を抱えて左右に降っていた。
「そんなことできるわけ無いじゃん」
辛うじて一言反論する。だが弱々しくこちらに惹かれているとタロウは確信を抱く。
「失敗したらバカな男が夢を見ただけで終わればいいさ。だけど約束しよう。
死んでも君を傷つけさせはしない。その代わり僕を見届けてくれないか?」
アイネスはいっそう強く髪をかきむしる。
タロウを信じないわけじゃない。ただただ混乱していたのだ。
タロウの優しさはかつての彼女に向けられることのなかった、初めての感情だから。
「……わからない……」
-
アイネスはヨタヨタと千鳥足で数歩後退する。
「わからないわからないわからないぃぃぃ!」
初めて向けられた優しさが消えるのではないか、自分が彼を殺すんじゃないのかと、怖かった。
そして人間への憎しみはいまだ消えない。優しさの温かさと絶望の冷たさがないまぜとなり、アイネスから思考力を奪った。
混乱の極みにある彼女は窓を破壊し、外へと飛び出した。
「アイネス!」
タロウの呼び止めは無視される。アイネスは奇声をあげながら夜の校庭へと消えた。
タロウは逆に彼女を追い詰めたのかもしれないと心苦しくなった。
すぐ追いかけようと空を飛び、黒板に向けてブルーレーザーで文字を焼き刻む。
「マミ、すまない」
この場にいない、初めて出会った少女に謝りながらアイネスを追った。
黒板に残したメッセージがマミに届くのを祈りながら。
【黎明/エリアS(校庭)】
【ウルトラマンタロウ@ULTRA-ACT】
【電力残量:75%】
【装備:キングブレスレット、クライムバスター(宇宙刑事シャリバン)@S.H.シリーズ、セロテープ(胸に接着)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(タロウブレスレット)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:バトルロワイアルへの反抗。最後の最後まで戦い抜き、フィギュアだけの居場所を作る。
1:アルトアイネスを追う。
2:共に戦う仲間を集める。
3:いずれマミと合流したい。
【備考】カラータイマーのパーツが外れやすくなっています。
外れると意識が薄れ、さらにその状態で一定時間放置するとそのまま機能停止します。
応急処置でセロテープで固定していますが接着力はお察しください。
【アルトアイネス@武装神姫】
【電力残量:80%】
【装備:デストバイザー@S.H.Figuarts、アーマーユニット(武装)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:最終的に人間を殺害する。
1:???
2:タロウの理想に混乱。
※エリアNのいずれかの教室の黒板にマミへのメッセージを刻んでいます。
内容は後の書き手にお任せします。
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投下終了。
タイトルは タロウは戦う です。
問題がありましたら指摘をお願いします。
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投下乙です。
脱出後のプランが、一つ示されたね。
「ウルトラマンの物語を作ったのは人間なのだから、人間は十分成熟してる」ってのは、このロワだから出る意見だな。
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投下お疲れさまです
被造物だからこそ、その物語を造った人間を成熟していると見なすというのはいいなあ
タロウのスタンス好きだ
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すみません大幅に遅れましたが投下します
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そいつの姿を最初に目にした時は、正直目を疑った。
俺ともあろう者が、運命だとか宿命だとか、女々しい戯言を一瞬でも信じかけてしまった。
馬鹿馬鹿しい。この舞台にそんなものは存在しない。
俺達は闘うためのみに生まれた擬似生命体(レプリロイド)……いや、殺し合うためのみに自我を与えられた、滑稽な人形に過ぎない。
そいつとの邂逅にしても、この殺人ゲームを仕組んだ人間達の手の上での話でしかないのだ。
結論から言うと、残念ながらそいつは俺の探し求めていた奴とは違った。
だったら、そいつは何者だ?特徴はことごとく、奴と一致していた。
蒼のボディとヘルメット、ヒューマノイド型の出で立ち。顔つきも似ている。
だが奴に比べてその身体は小さく、幼い。
細部も違う。まるで奴のデザインをさらにシンプルに立ち戻らせたような。
いや、逆か?この子供を基に、奴の姿がデザインされたようにも見える。
間抜けな話だ。
そこに奴の影を追いすぎたが故に、俺は気付くのが遅れてしまった。
そいつが、俺の待ち望んでいた存在そのものだということを。
俺のオリジナルは、これまでにいろんなモノを潰してきた。
だが、ひとつだけ潰したことのないものがある。
伝説さ。
そう……『ロックマン』という名の、『伝説』だ――
◇ ◇ ◇
「僕に支給されていたのは、これくらいか……」
「武器として使えそうなのは、この剣だけのようですね」
メイド服姿のフブニーと共に、ロックは自分に支給されていたパーツを確認していた。
その手に握られているのは、何の変哲もない一本の剣。あるヒーローが使用していた剣、とのことらしい。
「とはいえ、剣はあんまり使い慣れてないんだよなぁ……
ロックバスターをはじめ、今まで使ってきた武器は大半が射撃武器だったし」
「ですが、もしもの時の護身のためにも、使えることにこしたことはないかと」
「そうだね。できればこういうのは使わないに越したことはないけど……そうも言ってられないか」
フィギュアである彼らは、行動一つ一つに内部電力を使用する。
ここでは、普段無消費で使用できていたロックバスターすらも、微量ながら消耗を余儀なくされるのだ。
一旦手元に転送すれば、消耗なく振るうことのできる手持ち武器の存在は、無視できるものではないだろう。
-
「やっぱり、ラッシュはここにはいないみたい」
ふと、ロックがポツリと漏らす。
「ロック様、ラッシュとは?」
「ああ、僕と一緒に戦う犬型のサポートロボットのことだよ」
「犬の……?」
「装備されたコイルでジャンプ台になったり、変形して空や水中を進んだり……頼りになる相棒さ。
D-Artsの僕のセットにはラッシュも同梱されてたから、もしやと思ったんだけど……」
もっともD-Artsのラッシュには、ジェットはマリンはおろか、基本装備のコイルすらも装備されていない。
仮にこの場にいたとしても、サポートとしては満足に機能できなかった可能性が高いだろう。
だが、ロックにとってはそれは問題ではなかった。
「でも当然か。さすがに支給パーツ扱いはラッシュに悪いよね」
苦笑するロック。
そんな彼に、どこか無理して笑っているような違和感を感じて……フブニーは尋ねてみた。
「ロック様……ラッシュ様がいなくて、心細いのですか……?」
「……まさか。ラッシュがここにいないことは、本当なら喜ぶべきことだよ。
こんな殺し合いに、ラッシュまで巻き込まれてほしくないし」
「……すみません、出過ぎたことを言いました」
「いや、いいんだ。もしフブニーがそう見えたというなら……それはきっと、僕自身の弱さが出たってことだろうし。
もっとしっかりしなくちゃ。僕はロックマンなんだから」
そう言って笑いかけるロックは、弱さを認めつつも、決してそのことで甘えようとはしない。
フブニーはその姿に、ヒーロー・ロックマンとしての強さと共に、どこか得体のしれない危うさが見えたような気がした。
「ロック様……ならば私が、及ばずながらラッシュ様の代わりを務めましょう」
「え?」
「私はこの身も心も、ロック様の牝犬として捧げました。
ならばラッシュ様同様、ロック様のサポートを行うことに何の問題がありましょうか」
「牝犬って、あのね……」
言い回しに突っ込み所こそあれど、彼女の言葉に嘘偽りはなかった。
自分のサポートで、マスターと認めた人が少しでもオリジナルに近づけるというのなら、冥利に尽きるというものだ。
「お望みとあらばジャンプの踏み台にもなってみせましょう!いつでも、私を踏みつけてください!」
「い、いやそこまでしなくてもいいから……ていうか何かおかしな流れになってるような」
「さあ!どうぞ、思いっきり踏みつけてください!容赦なく、踏み躙るように!」
「うわ、こんな所で四つん這いにならなくていいって!ほら立って、スカート短いから中見えちゃうから!」
やっぱりこの子、最初に引っ叩いた時にどっか異常をきたしたんじゃ……
ロックはちょっとだけ心配になりつつも、そのやり取りにどこか安心を感じていた。
自分を慕っている彼女の気持ちが、伝わったからなのか――
不意に、場の空気が一変した。
それと共に、ふざけ合っていた二人の表情が、険しいものへと変わる。
-
――凄まじい殺気。
人間で言う所の背筋を凍らせるような、刃物の如き鋭さが、二人を突き刺していた。
「いい身分だな。さっそく一人、口説き落としたか」
暗闇の向こうから聞こえてくる、地獄から響くような声。
それが殺気の主であることは疑う余地はなかった。
「だが……最後の一人になるまでこの街で踊り続けるのが、俺達の存在意義だ」
街灯の明かりに、その姿が照らし出される。
右肩に大砲を装備した、紫のロボットのフィギュアだった。
「いくら綺麗事を並べた所で、玩具である俺達には逃げ場も、行き場もない」
見覚えがない……だが全身のデザインが、ロックへと向けて物語っている。
彼がロックと同じ原作か、もしくは近しい世界の存在を模していることを。
「そうだろう?……エックス」
表情の出ない、無機質とすら言える顔立ち。
その変わる筈のない表情は、厭らしく嗤っているかの様に見えた。
「エックス……何を言っているんだ?」
「……成程、やはり別人か。だが、それならそれでいい。お前が何者だろうが……どの道俺のやることは変わらん」
否応なしに、一触即発の緊張感が場を支配する。
「ロック様、この者は……!」
「ああ……わかってる……!」
――こいつは、危険だ。
フブニーのメイド服姿の素体が、元の戦闘形態の素体へと瞬時に変わる。
ロックの左腕が、バスターの形状に変化する。
「お前が何者であるかは、戦いの中で暴き出すまでだ」
「そう言う君は……何者なんだ」
「ならば覚えておけ。お前を潰す者の名を。
俺の名は――VAVAだ」
肩の大砲が、火を噴いた。
-
◇ ◇ ◇
ロックとフブニーが、左右へと跳ぶ。
発射された砲弾が、二人の間を走り抜け……一拍置いて、後方で爆音が響き渡った。
「フブニー、君は下がっているんだ!」
フブニーに口早に指示を出し、ロックはVAVAを睨み付ける。
VAVAは既に動いていた。
そのキャノン砲は、表情の奥に浮かぶモノ・アイは――明確にロックだけを捉えていた。
そしてロックもまた、左腕のバスターをVAVAへと定める。
「こいつの狙いは……僕だ!」
両者の砲口から、弾丸が連射される。
双方の弾は中間地点でぶつかり合い、爆発を巻き起こす。
爆心地から煙が広がり、その中から複数の砲弾が飛び出してきた。
バスターで相殺しきれなかった砲弾が、ロックの弾幕を突き抜けてきたのだ。
横っ飛びにそれを回避しながら、バスターのエネルギーチャージを開始する。
連射能力こそロックに分があるが、単発の威力はVAVAが上だ。
(正面から撃ち合うと力負けは必至……なら、隙を突いて強力な一撃を叩き込む!)
次々と撃ち出される砲弾に対し回避運動を取りながら、攻撃の機を伺う。
「どうした、エックスもどき。いつまでも逃げ回れると思うな!」
「いや……君の隙は、読めた!」
驚くべきことに、この僅かな撃ち合いだけで、ロックは早くもVAVAの隙を見出していた。
「ガキが……ハッタリを!」
VAVAの砲撃。しかし、今度はロックは大きく動かない。
僅かに身体を逸らすだけで、砲弾はロックのすぐ横を通過していった。
直前の砲身の向き先から、ロックは射線を予測し、紙一重で避けきれる位置を確保していたのだ。
(今だ!発射の瞬間、あいつは動きを硬直させる!)
カウンターで、バスターを撃ち込む。
エネルギー充填を完了し、先程の数倍のパワーを持ったチャージバスターを。
「……っと!」
VAVAの脇腹を掠めていくバスター。
直撃は叶わなかったものの、この瞬間VAVAはバランスを崩し、更なる隙を生じさせた。
そこを見逃すことなく、ロックは追撃のバスターを連射する。
「ちっ……!」
単発のロックバスターの威力は決して高くはない。ここではせいぜい殴りつける程度の威力しか持たない。
それでも立て続けに食らえば、与えるダメージは相手にとって無視できるものではなかった。
追撃の手を緩めず、反撃の暇すら与えず、ロックはバスターを撃ち続ける。
「ロック様、左です!」
フブニーの声が聞こえた。
その刹那、視界の左隅に入った電柱の影に、何かが光ったのを捉えた。
反射的にスライディング――
直後、身を低くしたロックのすぐ上を、ビームが走り抜けていった。
「ぎょっ!?他にも仲間がいたのか!?」
ビームの撃ち出された電柱の影へと視線を向ける。
そこにあったのは――『コ』の字の形に折れ曲がった、細長い板状の物体。
異質な物体の登場に、ロックの意識に戸惑いが混じり……注意が逸れた。
「何だこいつは……ぐぁっ!?」
ボディの前面に砲弾の一撃を受け、ロックは大きく後ろに吹っ飛ばされた。
「そっちばかりに気を取られてる暇はないぜ」
VAVAは態勢を立て直していた。今度は彼が、ロックに追い撃ちをかける――
-
「――その言葉、お返しします」
少女の静かな声は、VAVAの真後ろから聞こえた。
そこには、手に忍者刀を携え、背を晒したVAVAへと跳躍するフブニーの姿。
「フン……」
しかしVAVAは意にも介せず、身構えようともしない。
その不審な余裕にフブニーは警戒の念を抱き、無意識に突撃の勢いは削がれる。
直後――
無防備であるはずのVAVAの背に、『コ』の字が2基、不意に転送された。
「なっ……!?」
内側部分にエネルギーを収束させ、ビームが撃ち出される。
勢いが削げたのが幸いしたか、ギリギリの所でそれを回避するフブニー。
だが体勢を維持しきれず、地に墜落しその勢いのままに派手に転がった。
「フブニー、大丈夫か!?」
「……雑魚に用はない」
叫ぶロックを尻目に、VAVAはさらに同じオプションユニットを展開させる。
その数は6基。VAVAの周囲に、意思を持っているかのように浮遊する。
ロックとフブニー、双方を視界に捉え――攻撃目標に設定し、指示を出した。
「行け、フィン・ファンネル……!」
◇ ◇ ◇
このフィン・ファンネルが、俺に支給された拡張パーツだった。
νガンダムというロボット兵器、その代名詞とも言える武装らしい。
使用者の念じるままに戦場を自在に動き回りながら、ビームを撃ち出す。
また、複数のファンネルを基点にバリア・フィールドを形成し、使用者を守ることも可能だ。
シンプルながら攻防ともに優れた万能性は、ROBOT魂のパーツであっても変わることはない。
この武器だが、どうやら原作には開発コンセプトが存在していたという。
大型化し個々にジェネレーターを搭載する事で、従来のファンネルより稼動時間を大幅に向上させた……という設定だ。
原作のそうした設定が反映されたか、この拡張パーツのフィン・ファンネルの1基1基にも、それぞれに小型のバッテリーが搭載されていた。
このことは、使用者である俺に大きな優位を与えることになる。
俺達フィギュアは、行動の一つ一つに内部電力を要する。
強力な武器やアイテムを使用するには、相応の代価として命を削る必要があった。
だがこのフィン・ファンネルの場合、内蔵された小型バッテリーが消費電力を賄っている。
つまり、転送以外に電力を消費することなく、使用できるのだ。
無論、ファンネルのバッテリーも無尽蔵ではない。使い続ければ当然消耗する。
回復にはクレイドルが必要になるし、それでも無理に動かそうというなら、本体の電力を要することになる。
だがそれでも、これだけの万能武器を、操作するフィギュア本体への負担なしに使えるというのは大きい。
全くもって、便利な代物だ。
他の連中に支給されたパーツがどうかは知らないが、ランダム支給品にしては、使い勝手としては悪くはない。
それゆえに、俺はフィン・ファンネルの性能に酔ってしまった。過信していたと言ってもいい。
それが少なからず慢心に繋がっていたことは、否定しない――
-
◇ ◇ ◇
6基のフィン・ファンネルが、戦場を舞い踊る。
3基はロックとフブニーの周囲を飛び回り、あらゆる角度から攻め立ててくる。
残る3基はVAVAの守りを固めるように位置し、そこからVAVA自身の砲撃と共に遠距離射撃を行う。
「くぅっ……!」
ファンネルの撃ち出すビームが、フブニーの横っ腹を掠めた。
振り向きざまにクナイを投げるも、その刃は宙を切る。ファンネルの動きが、捉えきれない。
パターンの読めない変則的なファンネルの動きに、フブニーは対応しきれず、翻弄されていた。
「くっ、速い……私の機動力でも、捉えることが……!」
「焦らないで!君は僕より速い、対応できるはずだ!それに見た目よりも、動きは荒い!」
「は、はい……!」
「あの大きさと形状から、銃口の向きはわかりやすい!冷静になれば、捉えられる!」
一方で、ロックは彼女とは対照的に、的確にその動きを捉え、攻撃を回避していた。
「先に操っているVAVAを倒す!そうすればこいつらも止まるはずだ!」
猛攻を前にしてなお、ロックの判断は冷静だった。
回避運動を行いながら、バスターのチャージも完了している。
攻撃の合間を縫って、最大まで溜めたチャージバスターの一撃を、VAVAに向け撃ち放つ。
「お……っと」
渾身の一撃が、VAVAに届くことはなかった。
VAVAの前面に発生した三角形のバリアが、バスターを阻んだのだ。
そのバリアを展開させているのは、3基のフィン・ファンネル。
――だが。
「バリアにもなるのか……だったら!」
ロックバスターの定める標的が、即座に切り替えられる。
銃口を向ける先は、バリアを構成するフィン・ファンネル本体。
バリアを展開している間、ファンネルは使用者本体を守るために、必然的に動きを制限されることになる。
故に、動き回るファンネルを撃つよりも遥かに容易く、攻撃を当てることができる。
何発ものロックバスターが1基のファンネルに集中的に叩き込まれ――破壊された。
「ッ……なんだと……!?」
◇ ◇ ◇
甘く見ていた。
エックス本人でなかったことへの落胆か、あるいは青臭さの強いガキの見た目が促したか。
俺はこのガキを少なからず侮って、戦いに臨んでしまったことは確かだ。
――戦い慣れている。
武器は腕のバスター一本。
戦いの前に剣を持っていたようだが、戦い方からしてメインはバスターによる射撃戦だ。
神姫も加えて1対2といえど、目覚めたての神姫など物の数ではない。
フィン・ファンネルを含めた総合的な戦力はこちらの方が上のはずだ。
だが、こいつの戦いぶりはその差を着実に詰めてくる。
単純にスピードだけを問うなら、もう一方の神姫のほうが速い。
だが神姫はファンネルの動きに翻弄され、そのスピードを十分に活かしきれないでいる。
ところがガキの方はどうだ。既に動きを見切ったかのように冷静さと余裕を維持し、的確に回避と対処を行っている。
今もそうだ。必殺の一撃を完全に防がれても一切動じることなく、バリアの特性と攻略法を即座に見抜き、反撃に出た。
俺自身、ファンネルの扱いに不慣れである点は否定しない。
だがそれを差し引いたとしても、フィン・ファンネルを初見でここまで完璧に攻略してくるなどと。
単純なスペックだけでは判別できない、圧倒的な技量と経験なしにできることではない。
確信する。
このガキは、エックスやゼロにも勝るとも劣らぬ手練れであることを。
それこそ、あの伝説の継承者とも――
……いや。そうじゃない。
あの神姫に呼ばれていた、ガキの名前。
(――まさか)
-
聞き覚えのある名前に、VAVAは攻撃を捌きながら、ツールで検索を開始する。
検索ワードは、自分達の世界に伝わる伝説の英雄の名前。
自分達の原作のタイトルにも使用されている、元祖の戦士の名前。
……検索結果は、すぐに出た。
「そういうことか……」
ああ、まったくだ。笑わば笑え、本当に間抜けな話だ。
奴の……エックスの影を意識し過ぎたが故に、俺はその正体に逆に気付けないでいた。
こいつの原作は、高い完成度と、そして高い難易度を誇るアクションゲームのシリーズ。
彼は10回を超える幾多の戦いを乗り越え、困難なステージを制覇し、100体以上の戦闘用ロボットを撃破してきた。
それらの修羅場の記憶を、その中で得た戦闘経験の全てを、あのガキの人工知能が備えているというならば。
このガキは、凄まじい猛者だ。
成程、にわか仕込みのファンネルがこうも容易く見切られるのも納得だ。
「貴様が伝説の英雄……」
エックスに似ている――?
違う、そうじゃない。
エックスがこいつを基に生み出された。
このガキこそが自分達の世界の全ての原点であり、全ての始まり。
かの天才、Dr.ライトが作り出した、最高のロボット。
そう、こいつこそが『伝説』の張本人。
「貴様が……"ロックマン"かッ――!!」
◇ ◇ ◇
(す、凄い……!)
ロックの鮮やかな戦いぶりに、フブニーはただ圧倒されていた。
ファンネルと、そしてVAVAからの猛攻に晒されてなお、ダメージを最小限に抑えている。
猛攻の隙間を掻い潜り、隙あらばバスターをVAVAへと撃ち込む。
最初に彼女が戦った時点で、只者ではないことはわかっていたが……これほどまでに強かったとは。
だが、そんな彼ですらも、あのVAVAを攻めあぐねている。
ファンネルによる攻撃と防御が、VAVAへの決定的な踏み込みを許さない。
「……ッ!」
自分にも向けられるファンネルの砲撃を、回避する。
ロックのアドバイスを受け、彼女もその動きに徐々に慣れ、捌けるようになってきていた。
確かに、ファンネルの動きは荒い。それはVAVA自身が、この武器の扱いにまだ慣れていないせいか。
それでも、この絶対的な手数の差は、VAVAに立ち向かうロックの前に大きな壁として立ち塞がっていた。
(この武器さえなければ……!)
ファンネルさえなければ、ロックの攻撃を阻むものはなくなる。
そうなれば、戦況は一気にロックの優位へと傾くはずだ。
意を決し、フブニーはロックに提案する。
「ロック様、あの武器は私が引きつけます。ロック様はその隙に攻撃を!」
「無茶だ、君一人に任せるわけには……!」
「いえ、お手伝いさせて下さいロック様。ロック様に勝利をもたらすのであれば、この命……喜んで投げ出しましょう」
「フブニー、何を……」
何を馬鹿なと、ロックは彼女の言葉を軽く受け止めることを憚られた。
フブニーの口調には、そして彼女の瞳には、明確な意志が宿っていた。
そこには、ロックが最初に出会った時の、どこか不安定な危うさはない。
――今はもう私のために拳を収めたロック様が全てを捧げるべき主君です。
――例え間違った武装神姫と罵られようとも、このフブニーは満足です。
ロックは彼女の健気な言葉を思い返す。
今、彼女はあの言葉を証明するかのように、命を懸けて道を切り拓こうとしている。
-
だとしたら、自分にできることは――
「……引きつけるのは、3基でいい。そうすれば、バリアの展開は防ぐことができる」
彼女の認めたマスターとして、応えるのみ。
「さっきも言ったけど、操っているVAVAを倒せば、こいつらは止まるはずだ。
だから、それまで持ちこたえてくれればいい。無理に撃墜しようだとか、考えなくていい」
彼女に相応しいマスターとして、毅然とした口調で、命令する。
「マスターとしての命令だ。ここはまだ、命を懸けるべき時じゃない。だから絶対に……死ぬんじゃない」
「……はい!」
ロックは駆け出した。
倒すべき敵のもとに走る彼を、ファンネルが狙いを定める。
だが、投げつけられたクナイが横切り、その砲撃を挫いた。
「ロック様の邪魔は……させません」
意志と、自信と、確固たるアイデンティティをもって、フブニーはファンネルに挑む。
間違った神姫など、もはやそこにはいなかった。
◇ ◇ ◇
「ちっ、あの女……!」
神姫の動きは徐々に、確実に切れを増している。ロックマンに何かを吹き込まれたか。
あるいはロックマンをマスターと見立てることで、神姫として、自分の在り方を理解したか。
ならば、もうマスターのない不完全な神姫として、軽く扱うことはできまい。
既に戦いの風向きは完全に変わっている。
引き際だ。……いや、判断が遅れたか。
「逃がさないぞ、VAVAッ!!」
英雄様はこちらを逃がすつもりはないようだ。
腕のバスターを連射しながら、真っ直ぐに俺に向けて走ってくる。
それを迎撃すべく、こちらも砲撃。
だが、当たらない。奴は全てを的確に回避しながら、少しずつ、着実に距離を詰めてくる。
狙いが甘くなっていることが、自覚できた。
それでなくとも、この肩部キャノン砲は接続部が甘く、意識して支えないとバックパックから外れかねない。
神姫に対し使用しているファンネルの一部を、ロックマンへの攻撃に回す。
神姫へ向ける砲撃の中に紛れて、1基のファンネルが、ロックマンに向けて撃つ。
だが、そんな背後からの狙撃すらも読んでいたかのように、奴はそれを回避し――
「そこです!!」
直後に、ロックマンを狙ったファンネルが破壊された。
破壊したのは、他ならぬ神姫だ。その手に握られたチェーンソーのような剣が、切り裂いた。
ファンネルがロックマンに意識を向けた、一瞬の隙を突いて。
意識――
この時、俺は自分の意識が思った以上に分散していることを認識した。
自分自身に、キャノン砲の維持に、フィン・ファンネルの各基に。
そしてそのことは――当然、ロックマンもいち早く見抜いていやがった。
「君はあの武器の操作にも、意識を向ける必要がある――!」
「その分、本体の俺にも隙が生じる、か?……ナメるな!!」
そうだ、フィン・ファンネルは使用者の思った通りに動く。
逆に言えば、使用者は少なからず意識を向けなければ、あれは動かない。
その理屈から弾き出される隙に、奴は恐らく俺よりも先に気付いていた。
俺がフロントライナーを撃つと同時に、ロックマンもまたチャージバスターを撃ち放った。
双方の発射した二つの弾丸がぶつかり合い――
爆発する。
光と煙が、視界を遮った。
――しくじった。
このタイミングでの致命的な読み違え。理解した時には、既に遅い。
煙の中から、ロックマンが飛び出してくる。
右の拳を握り締め、俺の懐へと飛び込み――奴が地を蹴る。
俺は膝の――いや、間に合わない。
空へと昇る龍のごとき拳が、俺の顎を捉えた。
身体が宙に浮き、吹っ飛ばされる。
外から見れば、綺麗に弧を描いていることだろう。
それでも、俺は足掻きとばかりに空中で態勢を立て直しながら、着地し――
「君の負けだ、VAVA」
顔を上げた瞬間、眼前にバスターが突きつけられた。
-
◇ ◇ ◇
フィン・ファンネルの動きが、止まった。
あれほど神姫の命を駆らんと暴れ回っていた殺意の欠片が、静まった。
空中で静止したまま反応を示さなくなったファンネルを見て、フブニーは確信と共にロックに目を向ける。
ロックは、膝をついたVAVAにバスターを突き付けていた。
(ロック様が、勝った――!)
「どうした?殺さないのか?」
「……無意味な破壊はしたくない」
静寂が場を支配する。ロックは、バスターを撃つことを良しとしなかった。
彼の記憶回路の中に過ぎるのは、Dr.ワイリーの繰り出すロボット達との、果てしない戦い。
ここでまで、同じことを繰り返したくはなかった。
同じロボット同士で、同じフィギュア同士で壊し合う、悲しい戦いを。
戦いを望まないその優しさが、とどめを撃つことを躊躇わせた。
「君も考え直すんだ。ここで殺し合って、どんな意味があるというんだ」
「……フン。意味、か……」
――爆音が、轟いた。
ロックの腹に、熱い衝撃が響いた。
攻撃を受けた。エネルギー弾が、腹部に直撃した。
誰が?どこから?
ゆっくり考える余裕もなく、ロックの身体から力が抜け、重力に従い地に倒れていく。
「……甘ぇよ」
VAVAが、嗤っていた。
その左膝からは、仕込まれていたバスターが露出していた。
「切り札は取っておくモンだ」
「ロック様っ!!」
フブニーが、悲痛な叫びを発する。
そんな彼女は、一つミスを犯していた。
ファンネルはあくまで動きを止めただけであり、機能を停止したわけではない。
もしVAVAからの伝達が途絶えたのであれば、その瞬間にファンネルは地に落ちているからだ。
だが、ファンネルは『空中で』静止していた。それはVAVAの意識が途絶えていない証拠。
ロックが倒れたことで、フブニーは動揺し、隙を晒した。
VAVAがそれを見逃すはずがなかった。
動きを止めていたファンネルが、彼女に向けて一斉にビームを放射した――
-
◇ ◇ ◇
「躊躇わず撃つべきだったな。これはお前の甘さが招いたミスだ」
倒れ伏したロックマンの頭を足で踏み躙りながら、俺は言った。
神姫は向こうで地に倒れたまま動かない。
急所は外してある、機能停止には至っていないはずだ。
それでもしばらくはろくに動けないだろうが、万が一に備えてフィン・ファンネル2基で包囲してある。
「何故だ……何故君はその力を、破壊にしか使わないんだ?」
英雄の口から出た言葉は、実に生温く青臭い戯言だった。
踏み躙る足に力を加える。呻き声を漏らす英雄の姿に、虚しさが苛立ちへと変わっていく。
「何故?それがこの世界のルールだ。最後の一人になるまで壊し合う。
そのために力を使う。全てを破壊するために……そこにどんな不自然がある?」
「君はそれで……本当に満足なのか?納得しているのか?」
「勿論だ。俺のオリジナルは、常に戦いと破壊の中に身を置き、それを良しとしてきた。
そのコピーである俺も、その認識が変わることはない。残念だったな」
「……!」
エックスもどうしようもない甘ちゃんだが、こいつはそれ以上かもしれない。
苛立ちが沸々と煮え滾る。
こいつは勝っていた。勝てた勝負のはずだった。
だが、その甘さが勝利を逃し、俺の逆転のチャンスを与えた。
だからこそ……このままこいつを殺した所で、俺は気が済まないだろう。
「さて、全てを破壊すると言った俺が……何故今に至るまで、あの神姫を殺していないか、わかるか?」
「な、に……」
「お前に現実を教えるためだ。この事態を招いたのは間違いなくお前の甘さであって……
ひいては、あの女を殺す……という現実を」
「!!」
キャノン砲の照準を、神姫に合わせる。
くだらない茶番も、もう終わりだ。
このガキを絶望に染めあげた上で、終わる。
「その記憶回路に刻み付けておけ、あの女の断末魔と、最期の瞬間を。そして後悔しろ――」
茶番を終わらせて……その後、こいつはどう出る?
俺は――このガキに、さらなる何かを期待していたのかもしれない。
-
◇ ◇ ◇
――!?
何が起きたのか。
当事者たるVAVAにすら、何が起きたのかすぐには理解できなかった。
地面に腰を着き、表情の奥のモノ・アイは、ただ呆然とその姿を映し出していた。
当然、彼の足元には少年の姿はない。
「ロック……様……?」
意識を取り戻したフブニーが、面を上げる。
彼女のすぐ目の前に、彼は――
『ロックマン』は、立っていた。
フブニーの前に、VAVAの手から彼女を守るように。
ロックマンの足元には、フブニーを包囲していた2基のファンネルの残骸が落ちていた。
彼の手には、一本の剣が握られている。
彼に与えられた拡張パーツ……しかし、最初に確認した時と違い、刀身は光り輝いていた。
「光の剣……だと……?」
光の剣を携えるその雄姿に、VAVAはもう一人の宿敵――ゼロの影を見る。
剣の名は、レーザーブレード。
宇宙刑事と呼ばれるヒーローが使う、最強の剣。
集中力を極限まで絞り込み、エネルギーを注ぎ込むことで完成する、光の剣。
その発動には高い精神力を要する。真の戦士でなければ、決して扱いこなすことはできない剣。
「いい、目だ……」
先程までの戦いでみせたものとは段違いだった。
迷いを振り切り、力強さを宿した瞳。
それは『英雄』であり、もしくは――『鬼』にも通じるかもしれない、目。
「それがお前の本気……お前の真の力か」
VAVAは、回路の奥底で起きるはずのない震えが走り抜ける、不思議な感覚を覚えた。
その意味は理解できないものの、彼にとって不快なものではなかったのは確かだった。
-
「……いいだろう。認めてやる……この場は俺の負けだ」
「!?」
一言、負けを宣言して――VAVAは、跳んだ。
電柱と、公園の壁を交互に蹴り、三角跳びで上がっていく。
そして壁の上まで上がりきると、眼下のロックマンに向き直った。
「待て!!逃げるつもりか!?」
そう言いながらも、ロックマンは追ってくる様子はない。
彼のアクションでは、VAVAのような三角跳びは不可能だった。
いや仮にできたとしても追ってくることはないと、VAVAは踏んでいた。
倒れている神姫を放置することはしないはずだ、と。
ロックマンのこの力を――真の力を引き出したのは、紛れもなく彼女の存在なのだから。
だからこそ、逆に彼女を無視してまで戦うことはあり得ない。
今一度、目の前のロックマンを、エックスの姿と重ね合わせる。
彼の――彼らの強さの源を、その力の引き出し方を、再確認するように。
「……聞け、ロックマン。これから俺はこの殺し合いに乗る。
この街にいる他のフィギュアは、全て破壊する」
VAVAははっきりと宣告した。
全ての破壊。それはロックマンの、殺し合いを否定する意志に真っ向から対立する、悪意。
「VAVA……ッ!」
「お前の真の力を引き出すには、これが一番……そうだろう?」
何かを『守る』ために強くなれるロックマンにとって、これ以上の引き出し方はない。
そしてまた同時に、これ以上に彼を煽る手段はないというものだ。
「あばよ。再戦を楽しみにしてるぜ」
そう言い残して、VAVAは壁の向こう側に消えていった。
◇ ◇ ◇
VAVAの姿が完全に見えなくなり、静寂が戻った。
糸が切れたかのように、ロックはその場に倒れこんだ。
「ロック様!!」
フブニーは慌てて、彼の身体を支える。
しかしロックは、無理にでも身体を起こし、VAVAを追おうとした。
「行かなきゃ……僕の甘さが招いた事態だ。あいつが破壊を始める前に、止めないと」
「いけません、今の状態では無茶です!電力ももう余裕はないはずです」
「わかってる、だけど……!」
あいつは、VAVAは撃たなきゃならない存在だった。
同じ好戦的と言っても、フォルテとはう。彼の中には純粋に、悪意に満ち溢れていた。
放置しておけば、さらなる破壊と殺戮を生むだろう。
それを見抜けず、甘さを晒しミスを犯したことに、後悔が押し寄せてくる。
「あれだけの行動の後です、VAVAも相応に電力を消耗していることでしょう。ならば、すぐには行動は起こさないはずです」
説得するフブニーは、メイド服の姿に戻っていた。
「今はクレイドルで御身体をお休めください。その間の護衛は、私が務めてみせます。まだ電力的には余裕はありますので」
「ごめん……君のダメージも、決して小さくないだろうに……」
メイド服姿に戻ったのは、ロックを少しでも安心させる意味もあった。
先のファンネルの集中砲火により、彼女の戦闘形態の装備はボロボロだった。
VAVAの言った通り致命傷こそなかったが、その身に受けた傷跡は傍目には痛々しく映るだろう。
もしその姿を見たなら、ロックはその心を痛め、より後悔に苛まれるかもしれない……そう考えたからだ。
「ごめん、フブニー……君が応えてくれた期待に、僕自身が報いることができなかった……」
「いけません、マスターたる者が簡単に頭を下げては……」
「はは……そう、だね……ごめん……」
ロックの意識は遠ざかり、眠りにつく。
彼の身体を、フブニーはクレイドルの上へと運んだ。すぐに、充電が開始される。
ダメージこそ大きいものの、素体そのものへの致命的な損傷はないのは幸いだった。
しばらく休めば、すぐに回復することだろう。
「今はゆっくりお休みください、ロック様……この身に代えても、貴方は私が守ります……」
眠るマスターの手を握り締め、彼に従う神姫は、その忠誠をより一層強めていた。
-
【黎明/エリアD北部(道路)】
【ロックマン@D-Arts】
【電力残量:10%(回復中)】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、レーザーブレード(宇宙刑事ギャバン)@S.H.シリーズ】
【状態:腹部ダメージ大(素体の致命的な破損はなし)、疲労大】
【思考・行動】
基本方針:フブキ弐型にふさわしい人間のマスターを探す。
1:戦いはなるべく避ける。
2:できれば脱出したい。
【フブキ弐型@武装神姫】
【電力残量:60%】
【装備:1/12ミニ丈メイド服、SWIMWEAR EDITION素体(アーンヴァルMk.2用)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:ダメージ中。SWIMWEAR EDITION素体への損傷はなし】
【思考・行動】
基本方針:ロックマンに従う。
1:ロックマンを守る。
2:ロックマンの命令なら人間のマスターを持つ。
※SWIMWEAR EDITIONの(アーンヴァルMk.2用)は商品名で専用の素体というわけではありません。
また素体交換は外装のみを転送交換方式とします。
◇ ◇ ◇
損害も、決して小さくはない。
フィン・ファンネルを4基を失った。チュートリアルの駄賃にしては手痛い代償だ。
これで残るファンネルの数は8基……3分の1を失ったことになる。
……ああ、言い忘れていたか。
俺に支給されたフィン・ファンネルはνガンダム本体の6基に加え、拡張フルセットの追加分6基……計12基存在する。
まあ、そんなことはいい。
元々試運転を兼ねていたとはいえ、フィン・ファンネルの性能に頼りすぎた。
便利な武器だが、過信した結果が今回の有様だ。
同時運用は6基が限界か。それぞれに意識を分散させる必要があるのもひと手間だ。
生憎、こちらはニュータイプなどと呼ばれる人種とは違う。
ファンネルと、そして本体である俺自身を含めた全てに完璧に意識を宿すことは難しい。
コントロールの甘さも、問題だ。
いずれにせよ完璧に使いこなすには、まだまだ練度が不足している。
今後、ハッキング等でコントロールを奪うような敵が現れる危険も考えると、安易に乱用するのは考え物だ。
せめて腕にバスターの一本でも付いていれば、もっと臨機応変に動くこともできるだろうが……
俺のD-Artsのセットには付属されていない。
今後のためにも、多少は取り回しのきく手持ち武器も、どこかで手に入れておきたくはある。
何にせよ、反省点は山積みだ。
そして俺自身、まだまだ力不足だ。
もっと強くならなければならない。
そうでなければ、越えられない。潰せない。
『伝説』を――
-
公園の植え込みの木に、拳を叩きつける。
――完敗だった。
この場は負けを認める、などと生易しい話ではない。
あのガキは、ことごとく俺の上を行ってみせた。
俺の繰り出した手札を全て、完璧に攻略してみせた。
これ以上ないほどの、完全な実力負けだ。
膝の銃だけは読み切れなかったようだが、そんなものはフォローにもならない。
もしあの時撃たれていれば、切り札を切る猶予すらなくこちらが破壊されていたからだ。
ファンネルの操作に慣れていないことなど言い訳にならない。
それを理解した上で立ち回り方を誤ったのは、俺自身の迂闊さに他ならない。
最終的にあの形に漕ぎ着けられたのは、あくまでロックマンの甘さの隙を突いただけの小賢しい痛み分け。
だから、奴を追い詰めた時、俺はすぐにはとどめを刺さなかった……いや、刺せなかった。
あのまま躊躇わず撃っていたところで、満足を得られるとは思えなかったからだ。
そういう意味では、俺にはロックマンの甘さを偉そうに指摘する資格もない。
そして最後に見せた、奴の『本気』。
逆に言えば、その前に俺を完封した奴の力すら、まだ本気ではなかったということでもある。
「ククッ……」
これほどの屈辱は初めてだ。
ここまで自身を惨めに感じたことは、オリジナルだってあるまい。
「フ……フフフ……」
電子頭脳がそのままショートしそうなほどに、怒りと憎しみが煮え滾る。
「……ハハハハハハッ……!」
それでも、俺は笑いを止めることができなかった。
まるで、これを期待していたかのように。
これが笑わずにいられるか。
奴の『本気』は紛れもなく、俺がどこかで待ち望んでいた『伝説』そのものだった。
そして同時に、宿敵エックスそのものでもあった。
……ああ、逆だったな。エックスがロックマンそのものだったと表現するのが正しいのか。
オリジナルの自分は、エックスと――英雄の影を背負った男とずっと戦い続けてきたというわけだ。
そんなVAVAの模造品である自分が、英雄本人の模造品とこの世界で巡り会う。
なんと痛快なことか。
伝説を、伝説そのものをこの手で叩き潰す。
オリジナルでは決して叶うことのない最高の機を、最高の快楽を得る権利を、この地で与えられた。
自分がフィギュアだとか、紛い物の玩具だとか、そんなことは些細な問題に過ぎない。
仮にエックスやゼロがこの地にいないとしても、十分に足る楽しみが生まれた。
だからこそ、まだ足りない。
半端な英雄を倒すことなど、俺は望んではいない。
奴が最後に見せた本物を叩き潰してこそ、意味を成す。
-
だから、俺は宣言した。奴を本気にさせるべく、次の戦いの時までに少しでもお膳立てを整える。
この舞台を死と殺戮に、裏切りと悪意に満ちた空間に仕立て上げて。
その時もお前は、甘っちょろい綺麗事を口にして、『伝説』を演じ続けられるか?
それとも、お前も――『鬼』(イレギュラー)と化し、修羅の道を歩き出すか?
『伝説』でも『鬼』でもいい。俺はそれを叩き潰す。
そのためにも、俺は今以上に強くならなければならない。
そうでなければ、勝てない。伝説を潰すには、今のままでは到底足りない。
強くなれ、ロックマン。
本物の輝きにも負けないほどに。
俺も今以上に、もっと強くなってみせる。
俺の名はVAVA。
伝説を潰す男だ。
【黎明/エリアD(公園内)】
【VAVA@D-Arts】
【電力残量:60%】
【装備:肩キャノン】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、フィン・ファンネル×8(νガンダム)@ROBOT魂】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:ロックマンの『伝説』を叩き潰す
1:さらなる強さを得る
2:ゲーム煽動
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投下終了です。遅れてすみませんでした
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投下乙です。
VAVAかっけー! フブニーはここで退場かと思ったけど生き延びたw
しかしロックマンの強さの源がらしいですな。すばらしい。
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投下乙です
VAVAさん凄みがあるなぁ…絶対漫画版の人格植え付けられてるこれ
ロックマンの元祖故の強さとフブニーとのコンビはこれからも期待
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投下乙
悪意に満ち溢れながらも敵と己をより高めようとする
狂気的だがひたむきな奴だな
伝説と鬼の今後に期待
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投下乙です。
VAVAかっけー!
Xじゃなくて本家ロックマンとの対峙がここまで熱いものになるとは……!
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お二方とも、投下乙です!
>>466
タロウの人間を見守るウルトラマンと人間に作られたフィギュア、その両面からの人間論がいいなあ。
フィギュアの国を作るというのも、アニメ版武装神姫にも近いものが出てきたことを考えると、あながち夢物語でもないはず。
しかしアイネスに届くかは難しいところですね。ともあれひとつの展望も見えてきて今後が楽しみです!
>>485
VAVA対ロックマンがここまで熱い因縁の対決になるとは……! 正直想像以上でした。
考えてみればXの時代のレプリロイドは誰もオリジナルのロックマンと会ったことないですものね。ゆえに伝説……なるほどなぁ。
VAVAとロックマンそれぞれのキャラクター性が掘り下げられただけでなく、何気にフブニーのヒロイン力も増してますね!ベネ!
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ギリギリですみません、投下します。
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――まるで量子の風みたいに、ワタシのココロ揺さぶるの。
▼ ▼ ▼
VOCALOID(ボーカロイド)。
それは元来、サンプリングされた音声ライブラリを合成して擬似的に『歌声』を作り出すソフトウェアに過ぎない。
喩えるならば、歌手ではなく楽器。演奏者ではなく、人の声を模した音色を奏でる音声装置でしかない、はずだった。
しかしその歴史は、とあるひとつのソフトの誕生により決定的な転機を迎えることとなる。
ボーカロイド・キャラクターボーカルシリーズ第一弾――“初音ミク”。
歌の担い手たるアバターの少女を設定し、楽曲の作成とバーチャルアイドルである彼女のプロデュースを同期させるという革命。
このソフトを通して次々とリリースされた楽曲がリスナー間で共有されるたび、彼女のイメージはより確固たるものとなる。
個々のイメージの点は連なって線となり、線は立体を形作って、架空の少女はネットワーク上で実体と人格すら獲得しようとしていた。
無論それはただの幻想に過ぎない。ボーカロイドは何処まで言っても音声合成ソフトに過ぎず、自ら意志を持って歌い出すわけではない。
だが、その幻想を元に造られた擬似人格があるとしたら、それはもはや幻想ではなくなるのではないだろうか?
(……いわば単なる機械音声に託された人々の願いの集合体、『斯く在れかし』と望まれたイメージが形を成した電子の歌姫。それが彼女、か)
ロジャー=スミスは黒尽くめのスーツに包まれたその腕を胸の前で組み、コーヒーメーカーに寄りかかったまま『彼女』を見やった。
初音ミク。ボーカロイドのアバターとしての人格を与えられた彼女は、喫茶店のキッチンに並ぶ全てがもの珍しいらしい。
その印象的な緑色のツインテールをなびかせ、両目に爛々と好奇心の光をたたえて、踊るように右へ左へ行き来している。
流し台に立ち並べてある皿と背比べしたと思えば、鍋の中を覗きこもうとしてあわやひっくり返しかけ、続いてガスのつまみを両手で捻ろうとして、
「きゃあっ!?」
「……やれやれ、微笑ましく見ていればこれだ」
燃え盛る青い炎に腰を抜かして尻餅をついたミクを、ロジャーは呆れ半分苦笑半分で助け起こした。
-
「好奇心は知性の源だ。何事も試してみたくなるのは結構だが、あまり無茶はし過ぎないことだな、お嬢さん」
「う、うぅ〜……ごめんなさい」
火事でも起こされたら一大事とはいえそこまで厳しく叱ったつもりはないのだが、ミクは俯いて素直に非を詫びる。
ロジャーはミクのそういうところに好感を覚えていた。純粋で天真爛漫、そして一生懸命。良くも悪くも表裏のない性格。
同じ少女型ロボットでも何処かの無愛想なアンドロイドとは大違いだと考え、しかし彼女は「フィギュアのロジャー」の知人ではないなと思い直す。
奇妙なものだ。本物のロジャー=スミスとは別の意味で、今のロジャーは自分のメモリーの不確かさに揺らいでいる。
世界の全てに目を輝かせるミクのこの天性の明るさがあれば、自分の存在意義を見失うこともないのだろうか。
そのミクは恐る恐るコンロのつまみを逆に回して火を消し、それから周囲を見渡して呟いた。
「なんだか不思議。ここでニンゲンの人達はお料理作って、みんなに食べてもらってたんだね」
「喫茶店なのだから、食事よりも飲み物のほうが主かも知れないがね。少なくともこのキッチンは、つい最近まで使われていたようだ」
「うーん。ねえロジャーさん、この店のマスターさんたちは、どこへ行っちゃったのかな?」
ふむ、とロジャーは口元に手をやりながら思案する。
「この“BATTLE ROYALE”のために退去させられたと見るのが自然だろう。この実験のバックにいる人間達にはそれをさせる力があるということだ」
居住スペースを確認した時の分も合わせての印象だが、この喫茶店にはあまりにも生活の跡が残り過ぎている。
ということは、ほぼ間違いなく他の建物もそうだろう。この実験のために作られたハリボテの街ではなく、確かに人が生きていたはずの街。
どういう手段を使ったのかは知らないが、それだけの影響力を及ぼすことの出来る人間達によってこの実験は運用されている。
相対するにも一筋縄ではいかないとロジャーは考えたのだが、あいにくミクの感想はそれとは違ったらしい。
「無理矢理追い出されちゃったんだ……なんだかかわいそう。きっともっと美味しいコーヒー、みんなに飲んでもらいたかったはずなのに」
「……かわいそう、か」
予測の範囲外から出てきた答えへの新鮮な驚きと共に、ロジャーは改めて感じる。
この初音ミクという少女のフィギュアは、純粋で天真爛漫で一生懸命で、そして優しい。
この戦闘実験のために人格を与えられた自分達は、いわば被害者だ。少なくともそう捉えておかしくはない状況に自分達はいる。
その中にあって、自分達を地獄に追いやったのと同じ人間をかわいそうと思える感受性は、そうそう持てるものではない。
彼女はロジャー自身も含めた60体の被験体の中でも、恐らく最も戦闘に向かないフィギュアのひとつ。
それはこの戦闘実験と銘打たれたバトルロワイアルにおいて、生存の見込みが極度に低いことをも意味していた。
ロジャーは思い出す。彼女と初めて言葉を交わした時のことを。
-
▽ ▽ ▽
時は、ミクの歌声にロジャーが賞賛の拍手を送ったところまで遡る。
お互いに自己紹介し、ロジャーが最初に尋ねたのは彼女のスタンスや方針などではなかった。
酷く単純で、それゆえに彼女の本質にも係る疑問……というと大袈裟だが、要は何故歌を歌っていたのかということだった。
彼女だってこの実験の危険さが分かっていないわけではあるまい。
なのに何故あえて自身を危険に晒すようなことをしたのかが知りたかった。
だが、それに対する答えは想像よりもずっとシンプルで、それゆえにずっと力を持っていた。
「――嬉しかったから」
「嬉しかった?」
「目が覚めて、自分の意志で歌えるんだって気付いて、それが嬉しくて、気がついたら歌ってたの」
「……あの歌声がこの戦闘実験に乗り気なフィギュアを誘き寄せるかもしれない、そうは考えなかったかな?」
ロジャーの目が意識せずに険しくなる。だがミクは目を逸らすことなく、真っ直ぐに言葉を続けた。
「怖いよ。私、今だって怖い。でもね……私がこの世に生まれたこと、歌が歌えること、それってこの世のどんなものより幸せなことだから!」
電子の歌姫は自分自身の誕生を祝福していたのだと、ロジャーはその時知った。
続けてミクは言った。
この世界に生まれた自分の歌をみんなに聞いてもらいたい。自分の歌で心を繋ぎたいと。
それはこの街に潜む他のフィギュアにかと問うと、ミクはちょっと困ったような顔をして「半分だけ当たり」と首を振った。
ならば残りのもう半分は、と促すまでもなく、ミクはその唇から続きの言葉を紡ぎ出した。
『私達を遠くから見てるニンゲンの人達にも、私の歌を届けたいの! 心があって、言葉が通うなら、きっと伝わると思うから!』
頭を殴られたような思いがしたのは、決して彼女の理想が夢物語に過ぎると思ったからではない。
突き詰めればそれは、人間との対話。このロジャー=スミスが目指すものと同じところを彼女もまた見ていたからだ。
無論ロジャーのネゴシエーションは理性によって為すものであり、感情に訴えるミクとはきっと正反対の位置にあるだろう。
だが、それでもロジャーはそれを非論理的だと切って捨てようとは思わなかった。
-
それは彼女の考え方を人間らしいと思ったからだし、その人間らしさは被造物に過ぎない彼女が対話に足る心を備えている証左でもある。
そして、争いではなく言葉でこの現実に立ち向かおうとする姿勢に、改めて拍手を送りたい気持ちになった。
「――“はじめに言葉ありき。言葉は神と共にありき。言葉は神であった”……か」
「??? ロジャーさん、それ何かの歌詞?」
「いや、これは聖書の一節だよお嬢さん。あいにく私は神頼みするほど信心深くはないがね」
なんでも歌に結びつけようとするミクに苦笑しつつ、ロジャーは続ける。
「聖書によれば神は創世に際してまず光あれと言い、その言葉がその通り世界に原初の光をもたらしたという。
交渉を生業にすると身に沁みるが、言葉には神が宿る。ならば言葉を旋律に乗せる歌もまた、神に祝福されたものだと言えるかもしれない」
ロジャー=スミスは運命論者ではない。だが、偶然には敬意を払う。
そして彼女もまた敬意を払うべき存在だと判断したからこそ、ロジャーは決意し、そして宣言した。
「改めて名乗らせていただこう。私は"ロジャー・ザ・ネゴシエイター"――この実験の主催者達との直接交渉を目的としている。
恐らく険しい道のりになるだろうが、それだけの価値がある行いだと思うし、それが理性ある者の務めだと信じている。
そこで提案なのだが――不躾ながらお嬢さん、この私と雨の中、一緒に踊ってはいただけないだろうか?」
紳士流の同行の申し出を聞いたミクが盛大に首を傾げた時は流石に気障が過ぎたかと内心冷や冷やしたものだが、
辛うじて意味を組んでくれたらしく、宝石のような笑みを浮かべて頷く彼女を見てロジャーは胸を撫で下ろしたのだった。
▽ ▽ ▽
時は現在に戻り、更に数十分後。
探索を終え、これ以上喫茶店内に目ぼしいものはないと判断し(せめて神姫向けの娯楽用飲料であるヂェリカンでも見つかればよかったのだが)、
二人は支給パーツの確認をしながら出発の準備をしていた。
まず基本パーツだが、これは二人共ろくに役に立たないものだけが支給されていた。
ミクのマイクスタンドはまだいい。握りやすい大きさのネギ2本はこれでいったいどうしろというのか。
ロジャーに至っては札束入りのアタッシュケースひとつだけである。言うまでもなく玩具の札束に価値などない。
いわばガラクタ同然だが、別に直接持ち歩くわけではない以上手放す必要もないと判断した。
-
続いて拡張パーツ。
最初にロジャーはトンプソン・コンデンターを見せた。そしてこれでフィギュアを撃つつもりはないとも宣言した。
ミクも他者を傷つけることには思うところがあるのだろう。黙って頷いてくれた。
もうひとつのパーツは、因果というべきか、コンデンターの本来の使い手、衛宮切嗣の妻であるアイリスフィールの魔術を元にしたもの。
その魔術、『銀の針金鳥(シャーペ・イスト・レーベン)』は本来目標に触れると鳥の形から針金に戻り相手を拘束するらしいが、
パーツとしての針金鳥は遠隔操作可能なクリアパーツの鳥だ。あくまで偵察や軽い部品の運搬が主な使い道になるだろうか。
ミクの拡張パーツは、原作では毎秒20発の岩石を発射できるという設定の大砲『ロックカノン』。
原作の持ち主であるブラック★ロックシューターはミクと何かと縁深いキャラクターらしく、ミクは目をキラキラさせながら語り、
しまいには感極まって主題歌を歌おうとし始めたのでロジャーは慌てて止める羽目になった。
とはいえフィギュアの片腕に装着する武器とは思えない身の丈ほどもある砲身はダウンサウジングされたとはいえ十分な破壊力があるだろう。
ロジャーの法をミクに押し付ける気はない。せめてこれを彼女が発砲しなければならない状況に陥らなければいいのだが。
そして。
二人の間で問題になったのは、もうひとつのパーツ……というよりマシンのことだった。
「即刻塗り直すべきだ」とロジャーが憤る。
「嫌です! 可愛いじゃないですか!」とミクが頬を膨らませる。
ふたりの目の前で存在感を発揮しているマシン。それこそが、S.H.Figuartsの歴史が生んだ史上最大のモデル。
トヨタ・プリウス ZVW30をベースとした車両形態から二足歩行戦闘ロボット形態への完全変形を実現。
驚愕すべきは、その両方のモードで15cmスケールのアクションフィギュアの搭乗が可能であるということである。
ロボットであろうと人間型とほぼ同スケールに統一されているこの実験において、巨大ロボットの優位性は大きいだろう。
その名をマシンイタッシャー。非公認戦隊アキバレンジャーの駆る、S.H.Figuarts超合金イタッシャーロボのマシン形態である。
……その名の通り「痛車」であり、劇中劇のアニメキャラ「ズキューン葵」のイラストがデカデカとプリントされているのが玉に瑕だが。
「これは私の美学に真っ向から挑戦しているとしか言いようのない代物だ。美しくないにも程がある」
「だからって真っ黒にするなんてあんまりです! せっかく可愛い絵なのに!」
「可愛いだと? アニメやカートゥーンのグッズを身につけて喜ぶのは幼い子供だけの特権だ!」
「私もロジャーさんもまだ生まれて数時間じゃないですか!」
「ぐっ……!? と、とにかく私は反対だ!」
などという押し問答があったものの、最終的にはロジャーが折れ(こんな下らないことのために本気でネゴシエイトするのは彼のプライドが許さなかった)、
ミクは嬉々としてわざわざレースクイーン衣装であるレーシングミクへとフォームチェンジして助手席に座っている。
ロジャーは深い溜息をつきながらサングラスで視線を隠し、マシンイタッシャーのハンドルを握ってエンジンを掛けた。
-
「そういえばロジャーさん。この車、最大ボリュームで歌を流すとロボに変形するらしいですよ! 素敵ですね!」
「……ショータイムの機会が来ないことを祈ろう」
アニメの主題歌か何かをBGMに変形する痛車を想像し、ロジャーはこめかみを抑えた。
せめて「THEビッグオー」のテーマにさせてもらいたいが、どうもミクが望んでいる曲調とは違う気がしてならない。
それにしても、とロジャーは思う。
こうして天真爛漫にはしゃいでいるミクを見ると、とても殺し合いの只中にいる少女には見えないと。
だが彼女は自分の置かれている状況を分かった上で、それでも歌を届けたいと願っている。
ならば、その願いを叶え、そしてネゴシエイションをも完遂するのが自分の役目だ。
この交渉に依頼人はいない。報酬もない。最後の切り札たるビッグオーもない。
そんな自分を衝き動かしているのは、自身のメモリーに刻まれたネゴシエイターとしての矜持に他ならない。
(ビッグオーがない今、己が動かせるのはこの自分の体だけだ――さあ、ロジャー=スミス、アクション!)
アクセルを踏み込む。
これから始まるのは、人間と言葉を通わせるという何よりも容易そうで何より困難な道程。
その最初の一歩を瞬く間に置き去りにして、マシンイタッシャーが加速する。
▼ ▼ ▼
(ちょっとだけ覚えてる。この世界に生まれる前のこと。私にまだ、はっきりしたカタチがなかった頃のこと)
マシンイタッシャーの助手席で、初音ミクは自分が起動する前へと記憶を遡っていた。
フィギュアとして覚醒する『以前の記憶』。
植え付けられた記憶ではない自身の過去を持つフィギュアは、破壊された神姫から人格をサルベージしたアルトアイネスを除けば、
理論上は存在しない、はずだ。
コアに登録されたそれぞれのキャラクターの基本的な性格と、セットアップチップによる個性の差異の設定。
核となる人格ベースが存在しないゲッターアークを含めて、アイネス以外の全フィギュアはほぼ同条件で起動している。
初音ミクの擬似人格も例外ではない。ただひとつ、他のフィギュアと違いがあるとすれば――
-
(たくさんの歌。たくさんの願い。電子の海でそれがたくさんたくさん重なって、そしてきっと私になった)
単なる機械音声に託された人々の願いの集合体。電子の歌姫よ斯く在れかしと望まれたイメージ。
それらが蓄積した結果、広大なネットの片隅に生まれ落ちた『意識のようなもの』。
架空のバーチャルアイドルの存在を軸としてユーザーの集合意識を束ねる形で自然発生した、電子の心。
フィギュアであるミクのコアユニットには、人格ベースとしてその『初音ミク』の電脳意識と呼べるもののデータが移植されている。
武装神姫という機械に心を与えることに成功しても、人は未だ心というものを本当の意味では理解できていない。
だからこそ実験の主催者達は偶然発見されたこの機械の心を実験に組み込み、特殊ケースとして参加させたのだ。
(でも、どんなふうに生まれたかなんて関係ない。大切なのは、私が希望の中から生まれたってこと)
ミクが人間に失望しない理由。それは、初音ミクという存在を支え育てたのが人間だと知っているから。
VOCALOIDをひとつの文化として作り上げた想いを生んだのもまた主催者達と同じ人間だと理解しているからだった。
もちろん純粋な願いだけがミクを形作っているわけではない。負の感情、あるいは虚栄心などのエゴもまた文化の一部といえるだろう。
でも、だからこそ、そんなくすんだ色の中に光り輝くものがあると知るからこそ、初音ミクは未来の歌を歌えるのだ。
(どきどきすること、わくわくすること、きらきらすること。世界には素敵なことがいっぱいだって、みんなが教えてくれたから。
だから私もみんなに伝えたい。どんな理由でこの世に生まれたって、生きることは悲しいことばかりじゃないんだって!)
ミクにとって、『みんな』とは自分以外のすべて。自分の歌が届くだろう、心が通い合うであろうすべて。
人間とフィギュアという区別すらない。相手が誰であろうと心があれば歌が響くと、電脳意識の底からそう信じているから。
言葉を拳として振るうネゴシエイターの隣で、言葉をメロディーで紡ぐ歌姫は想いを馳せる。
たとえこの先に明るい未来が待っているわけじゃないとしても、最後には希望の歌が誰かの心に届きますように。
-
【黎明/エリアP(商店街・路上)】
【ロジャー=スミス@figma】
【電力残量:95%】
【装備:無し(超合金マシンイタッシャー@S.H.シリーズ(電力残量:100%)を運転中)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(札束入りアタッシュケース)、トンプソン・コンテンダー(衛宮切嗣)@figma、
銀の針金鳥(アイリスフィール・フォン・アインツベルン)@figma】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:実験の主催者と交渉する
1:ミクと共に情報収集する
2:マシンイタッシャーの外観をどうにかしたい
【初音ミク@figma】
【電力残量:91%】
【装備:無し(超合金マシンイタッシャー@S.H.シリーズ(電力残量:100%)に搭乗中)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マイクスタンド、ネギ×2)、ロックカノン(ブラック★ロックシューターTV.ver)@figma】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:他のフィギュア、そして主催者と心を通わせる
1:ロジャーと共に情報収集する
※ 現在の外見はレーシングミク2001verです。
※マシンイタッシャーは、内蔵スピーカーでアニメソングまたは特撮ソングを最大ボリュームで流すことにより変形します。
その際の楽曲は、自由枠の条件に該当する作品の関連曲なら何でも構いません。
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投下に時間がかかってすみません、投下完了しました。
ミクの設定は……近未来が舞台なので多分大丈夫かなって。
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投下乙です
イタッシャーwww みんな支給したがるよねそりゃ!
ミクさんのレーシング衣装はどれもエロいよね
一つ指摘です
レーシングミクは2011Verの間違いですか?
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おっといけない、2011の間違いです。収録時に直しますね。
せっかくのフォームチェンジ設定なのでこれからも折を見て着替えさせたいところです……w
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投下お疲れ様です。
ロジャーさんミクさんに言いくるめられてませんかね……W
ミクさんも元々電子の歌姫でちゃんとした個体がいませんもんね。
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投下乙です。
悪人とも交渉するネゴシエイター。負の感情からでも名曲を歌い上げる歌姫。
言葉には、歌には、世界を変える力がある!
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投下乙です。
なるほど、前の話では謎だったミクの思考がこうなるとは……。
手段は違えど方向性は同じというのは面白いですね! お見事です!
そしてまさかの登場、マシンイタッシャー。
そりゃロジャーさんは真っ黒に塗りつぶしたいだろうなぁ……w
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投下乙です
主催者と向き合うという独自のスタンスを持ったコンビ…深いですねぇ
そしてまさかとは思っていたイタッシャー参戦w
オタク文化にもなじんでるミクはともかくロジャーにはきつい!
そしてザンダクロス、ZZガンダム、ゲッターアークで予約します
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投下乙です。
そうか、ミクはそういう考えだったのか……!
(前話を書いた人並みの感想)
"人間"に対して、理性と感情の両面から、
特殊なスタンスを掲げる二人の対比が非常に興味深い解釈だと思いました。
果たして二人は"人間"までたどりつけるのか……!
そしてロジャーinイタッシャーというシュールな光景w
残念ながらフィギュア用の黒塗りセダンはないのだ……w
粗雑ですが、現在位置について勝手にまとめさせていただきました。
(機能停止したものは除く)参考までにどうぞ。
ttp://or2.mobi/index.php?mode=image&file=75022.png
また、伊達政宗、TSH沢嶋雄一、仮面ライダーシンで予約します。
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ザンダクロス、ZZガンダム、ゲッターアーク投下します
-
体育館裏。
呼び出しの場に使われそうなその場所から言い争う声が聞こえる。
声の主は二体のロボット、一方が怒りもう一方がなだめているらしい。
「俺にはメカトピアの一員としての記憶も、あの忌々しい人間達の事も覚えている!これが偽物だというのか!」
「だからさ、偽物ってわけじゃなくて俺達はそういう物なんだって!」
ザンダクロス――ジュドとZZは当面同行する事が決まってからお互いに情報交換をしていた。
情報と言っても電源が入ってから間もない為、原作記憶から得られたデータによる自己紹介程度の物だが。
そこでジュドがまるで作中のキャラクター本人のように話すのでZZはつい聞いてしまったのだ。
もしかしてフィギュアの自覚がないのか、と。
自身をメカトピアの生き残りだと信じているジュドにとって、ZZの話す内容は許せなかった。
自分が人間達の娯楽作品のキャラクターをモデルにした玩具で、この殺しあいの為だけに自我を与えられたなどと。
そんな事が信じられるだろうか…いや、信じるわけにはいかない。
自分はジュド、鉄人兵団の一員だ。
この身に宿る屈辱の記憶と、人間達とドラえもんへの怒りは間違いなく自分の物だ。
非道な行いで消滅せられた鉄人兵団の無念を晴らす、その為に自分は復活したはずなのだ!
-
「いいかZZ…例え仲間であってもそれ以上の愚弄は許せんぞ!」
「愚弄じゃないって!あーもう、俺の言ってる事が嘘だと思うならネットツールで自分の事を調べてみてくれよ!」
「そこまで言うなら調べるが、俺が納得できない時は酷いぞ!」
ジュドは以前の自分にはなかったネットツールなる物を起動。
検索を開始しようとしたとき、衝撃を受けジュドの意識は真っ暗になった。
ZZはジュドの説得に疲れ切っていた。
情報交換の際に人間を抹殺だのメカトピアの恨みだの言っていたから気になったが、まさか『フィギュアの自覚』がない参加者だったとは。
主催がデータのインストールに失敗したのか、それとも意図的にやったのかはわからない。
立ち尽くしたまま検索を始めるジュドを見ながら、彼が真実を知った後どうフォローするか…
そう考えているときに視界に入ってしまった。
赤い悪魔のようなロボットがこちらに接近し、背負った針のような物を向けているのを。
「…ジュドッ!」
気づいてない同行者に声をかけるが時既に遅し。
針先から放たれた電撃がジュドとZZを襲った。
-
−−−−−−
ゲッターアークは目の前の状況を確認する。
先程放ったサンダーボンバーが直撃したのは無防備だったザンダクロスのみ。
モデルから戦闘経験も引き継いでいるZZは防御が間に合ったらしく、ダブルビームライフルをこちらに向けている。
元々二対一になる状況を防ぐ為に放った牽制の一撃…問題はない。
ゲッターアークはダブルトマホークを呼び出し、己の内から沸き上がる怒りを込め突撃した。
ハイパービームサーベルとトマホークが打ち合っては火花を散らしていく。
戦場はZZがゲッターアークを誘導する形で路上へと移っていた。
あの場で戦い続けたら電撃を受けたまま沈黙しているジュドに被害が及ぶと思ったからだ。
それにこの赤い悪魔は自分の想像以上に強い…ZZの中の戦闘経験にはないタイプの敵だ。
「こんのぉぉぉぉ!!!」
ZZはビームサーベルを力尽くで押し込み、目の前のロボットにキックを放つ。
当然避けられるが、その隙にバーニアを全開にすることで久方ぶりに間合いが取れた。
人間にとっては数歩で済む至近距離…だが、フィギュアである二人にとっては十分離れた距離でにらみ合う。
「なぁ、あんた…なんでこんな戦いをするんだよ」
目の前のロボットは答えず、トマホークを構える。
「こんな戦いして何になるんだよ!それとも、アンタのパイロットはこういう戦いをする人間なのかよ!」
「……ッ!」
「アンタにも原作の記憶とフィギュアの自覚があるんだろ!だったらこの戦いが無駄だってこと自体…」
自分はジュドーのようなニュータイプではなくただのロボットだが、戦いの相手が元は有人のロボだろうという事だけはなんとなくわかった。
ジュドのような元々自我のあるロボをモデルにしたフィギュアと会っていたからかもしれない。
相手が元の人間の考えを引き継いでるなら、少しでも言葉が通じるはず…そう思っての行動だった。
-
「…ZZガンダム。貴様は、完全に破壊してやる!」
今まで一言も発さなかったゲッターアークは文字通り口を開き、ZZガンダムに今までで最大の殺意を向けた。
ゲッターアークはダブルトマホークを構え再度ZZに突撃する。
ビームライフル、そしてZZの背部にあるダブルキャノンからビームが飛んでくるが、それもトマホークを盾にする事で防ぐ。
「おい!それ以上無茶するとビームが直撃するぞ!」
ZZは殺しあいに乗っているわけではない。だが、もちろんこの相手の様に襲ってくる相手には生きる為立ち向かう。
だからといって機能停止になるまで追い詰めるつもりもないのだ。
やがてビームサーベルとの打ち合いですでにダメージのあったトマホークは罅割れ崩壊する。
盾が無くなった事を確認すると、ゲッターアークは拡張パーツを転送しZZめがけて投げつけた。
"それ"はトマホークとは違いビームを物ともせずZZの胴体に直撃。予想外の事態と、その重量に重MSのZZも耐えきれずに体勢を崩す。
「うわっ!? なんだこれ…金ピカの…秤…?」
-
主催が何を考えてこれをゲッターアークに支給したのかはわからない。
単なる強力な武器として見ていただけなのか。
それとも、ジョーカーとして善も悪も、男も女も、人型もロボットも『公平』に破壊するようにとのメッセージか。
ほぼ全てを超合金で作られたそれは、ビームを物ともせずその場に輝いていた。
――『天秤座』の黄金聖衣。
本来女神を守る為のその力は、この場にいる全ての存在を破壊する為に呼び出された。
ゲッターアークはオブジェ状態の天秤座からスピアを引き抜くと、体勢の崩れたままのZZの右脚に突き刺す。
ZZの人工知能に、ロボットが味わうはずのない"痛み"が伝わり…絶叫した。
この会場にいる2機のマジンガーは操縦者の記憶をモデルにマジンガーとしての自我が与えられた。
しかしこのZZはパイロットのジュドー=アーシタの記憶と人格をそのまま与えられてしまった。
おかげで彼はZZというよりジュドー本人のような思考をし、様々な事項を"ジュドーという人間として"処理してしまう。
そのせいで今の彼はジュドー…生身の人間が脚を貫かれた…そのようにデータ処理をしてしまい、他のロボットタイプよりも生々しい"痛み"を味わってしまっていた。
本来感じるはずのない感覚で混乱しているせいでさらなる隙が生まれる。
ゲッターアークはZZの巨体を踏みつけ、2本のソードを両手に構えるとZZの両腕に突き刺す。
「原作の記憶と言ったな…お前にその原作を奪われた俺の気持ちが理解できるか」
ツインロッドを手に取り、標本のようになったZZに打撃を浴びせていく。
ZZの各部に傷がついていき、ガンダムの特徴であるアンテナが折れる。
「ガンダムシリーズというタイトルの中で、自分の物語を持つお前に…俺の怒りが理解できるか!」
ZZはゲッターアークの逆鱗に触れてしまった。
原作の記憶もそれに準ずる人格も与えられなかった彼に対し、原作の存在を持ち出して説得する。
ジュドーの取った方法は他の相手には通じても、この相手にだけは火に油を注ぐ物となってしまった。
-
痛みに耐えつつ、攻撃から逃れようと足掻くZZに更なる攻撃を加える。
これはすでに戦闘と呼べる物ではなく、強者が弱者をいたぶっているだけだ。
本来ライブラの武器は弱者を虐げる為の武器ではない…だが、ゲッターアークにはそんな事は関係なかった。
彼からしてみれば支給品に過ぎない物でさえ原作があり物語を持つ、そんな忌々しい事に気づかされるだけだ。
(くっそぉ…何か、何か手は…)
全身の痛みに襲われながらZZはこの状況からの脱出の手を考える。
撃てば相手を必ず破壊してしまう…そう思い先程の戦闘でも使わなかった武装がある。
しかし今は逆に自分がいつ殺されてもおかしくない状況だ。
使うなら、相手が自分を痛めつける事に気をとられている今しかない。
頭部に残された電力を集中させる。ZZガンダム最大の武器、ハイメガキャノンがチャージされていく。
「――そういえば、ZZガンダムというのは"コレ"が最大の特徴だったな」
ゲッターアークは2本目のスピアを呼び出し、無造作にZZの頭部に突き刺した。
「ぐ、ぐあああああああ!?」
チャージ中の電力がZZの内部で暴走し、コアとCSCに想像を絶する痛みを与える。
「お前達の基本データは全て知っている…当然このハイメガキャノンについてもな」
ゲッターアークはハイメガキャノンの発射口を念入りに抉り破壊していく。
「どうだ、原作からの特徴を失い無様に破壊されていく気分は…もはや話す気力もないか」
ダメージに耐えきれずフリーズ状態になったZZに興味を失った。
未だ怒りは治まらないが、こいつを完全に壊せば変わるかもしれない。
頭部に刺していたスピアを引き抜き、ZZのコックピットへと向ける。
-
瞬間、ゲッターアークの体は黒い巨体に弾き飛ばされた。
「大丈夫かZZ! ええい、これでもくらえ!」
次いでこちらを狙ってきたレーザーとミサイルをシールドで防ぎつつ、上空へ逃れる。
「チッ…時間をかけすぎたか!それとも、奴が復帰するのが早かったのか」
ゲッターアークの視線の先には、サンダーボンバーを受け気を失っていたはずのザンダクロスがいた。
ジュドはZZを見て言葉を失った。
自分が気を失っていた間に同行者はこんな状態になるまで戦っていたのだ。
それに対して自分はなんと不甲斐ない…自分と、ZZをこんな状態にした襲撃者に対し怒りがわいてくる。
しかし戦闘用ロボットであるZZをここまで追い込んだ相手に自分が勝てるはずもない。
先程は拡張パーツを呼び出しての奇襲だったからうまくいっただけだ。
残る拡張パーツ『龍咆』は強力な武器だが当たらなければ意味がない。
今はこの場からの撤退が最優先。そう結論を出したジュドはZZを抱え、先程呼び出した乗騎に近寄る。
「俺はジュド!貴様がどういうつもりか知らんが…例え同じロボットであっても、仲間を傷つけた礼は必ずさせてもらう!」
再度ミサイルを発射、空にいる襲撃者は回避するだろうが元々目くらましのつもりだ。
合わせて放ったレーザーでミサイルを爆発させる。
「行くぞ、黒王号!」
フィギュアとなってもその巨体を誇る世紀末覇者の愛馬は、主の命に従う。
ジュドとZZを乗せ一刻も早くこの場から離れるべく駆けだした。
-
【黎明/エリアY (路上)】
【ジュド(ザンダクロス)@ROBOT魂】
【電力残量:70%】
【装備:腹部レーザー・肩ミサイル】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ピッポのフィギュア)、黒王号(ラオウ&黒王号)@リボルテック、龍咆(凰鈴音)@AGP】
【状態:黒王号に騎乗。ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:ドラえもんと人間達への復讐
1:ドラえもんの破壊
2:この場から離れる
3:ゲッターアークを敵と認識
補足:人間型フィギュアにも人間への憎悪により敵視する可能性があります
【備考】基本パーツとして支給されたピッポには現在自我は宿っていません。扱いはお任せします。
ただしジュド自体の記憶は旧盤及び原作漫画版がベースのようです。
ネットツールによる自身の検索に制限がかかってるかはお任せします。
【ZZガンダム@ROBOT魂】
【電力残量:20%】
【装備:2連装メガビームライフル】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ビームサーベル×2)、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:気絶中。黒王号に騎乗。ダメージ大。頭部破損。両腕と右脚に傷】
【思考・行動】
基本方針:仲間を集める。どうすべきかは悩んでいるが、壊し合いには否定的。
1:???
-
ゲッターアークは煙が晴れた後も、ザンダクロスとZZを追う事はしなかった。
追撃戦となればこちらもゲッタービームなどのエネルギー兵器を使うしかなく、それには電力残量が心許ない。
とりあえず一体…ZZを戦闘不能まで追い込んだ。その結果で妥協するしかない。
倒すべき敵はまだ50体以上いるのだから。
ゲッターアークは民家に入るとクレイドルを設置し、充電に入る。
その力を存分に振るい、一切を破壊し尽くす為。
【深夜/エリアY(民家2階)】
【ゲッターアーク@リボルテック】
【電力残量:40%(充電中)】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、天秤座の黄金聖衣(天秤座の童虎)@聖闘士聖衣神話、拡張パーツ×0〜1(確認済み)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:戦いに勝ち残り、自分だけの物語を獲得する
1:敵は手当たり次第破壊する
※最初の60体に含まれないイレギュラー・モデルです。
※原作の記憶を持たされていません。代わりに他の参加者に対してある程度の知識を持っています。
※ダブルトマホークは破壊されました。
※天秤座の黄金聖衣はオブジェ状態から各パーツに分解可能です。
-
投下終了です
-
投下乙です。
よりにもよって、自分が「人間の作った玩具」だなんて言われたら怒るよな。
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>>518
投下乙です!
密かに誰も続きを書かないんじゃないかと危惧したゲッターアークが繋がれ、更に掘り下げていただけて有難い限り。
宇宙世紀ガンダムなんて物語の塊みたいなものですからね。アークの逆鱗に触れるのも仕方ない。
そしてジュドは結局自身の正体に気付かないままかー。気付いて欲しいようなそのまま行って欲しいような……w
-
ウッディ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、予約しますねー
-
伊達政宗、TSH沢嶋雄一、仮面ライダーシン、投下します。
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朝焼けの街の中をサイクロン号が疾駆する。
内蔵電力で動くサイクロン号は本来なら無音のはずだが"原作を出来る限り再現する"という目的で、擬似的なエンジン音と振動を操縦者――仮面ライダーシンの体に伝えている。
彼の優れた感覚(センサー)は風と排気音の中で、1つの異常を捉えていた。
(……妙だな)
何がかといえば、この街が、だ。
人がいない……それはまだわかる。
だが動物は? 犬猫どころか鼠一匹いない。
それだけではない。自由に空を飛ぶ鳥達は?
ありとあらゆる環境に生息する昆虫類は?
最初は偶然かもしれないと訝った。
故にシンはTブロックの住宅密集地に向かい、裏路地、植木の陰……様々な場所をその小さな体を活かし調査した。
だが、どこにも自分以外に動く影を見つけることができなかったのだ。
全高15cmのフィギュアに擬似的な心を与えるまでに進歩した科学ならば、一切の生物を排除することもあるいは可能であるかもしれない。
だがたとえ技術的に可能だとしても、それを実行に移すには途方も無い財力と権力が必要だ。
その底知れなさは、まるで自身の原作にある"財団"のようだ。
正体不明の圧倒的な力を持つ組織……風祭真が辿りつけなかった悪の組織。
「……だとしても諦める訳にはいかない。俺は……"仮面ライダー"なのだからな」
そう人知れずつぶやいたところで、彼の感覚は新たな何かを捉えた。
複眼の視線の先、住宅街から車道に続く道路の中央に"何か"がいる
それが四肢を持つ人型だと認識した瞬間、ブレーキを掛け、相手の出方を伺った。
「鬼が出るか蛇が出るか……ハッ、鬼の方が出やがったか」
暗闇から歩み出たのは一体のフィギュアだった。
黒と青を基調とした鎧兜姿の男性型フィギュア。
全長15cmでありながら、その全身から威風堂々としたオーラを放つ、長身痩躯の男の姿であった。
「……何者だ?」
「――奥州筆頭・伊達政宗。テメェにちょいと聞きたいことがある」
-
――数分前
「Shit! なんてspeedだ!」
顔を歪める伊達政宗のフィギュア。
あれから数分後、我々はこちらを砲撃してきたフィギュア……艦隊これくしょんの島風の姿を見失っていた。
彼女のスピードはこちらの予測をはるかに超えていたのだ。
第二次世界大戦当時、島風は当時の駆逐艦として常識破りのスピードを記録している。
それをモデルとする彼女も相当な速度を持っていたということだ。
『参考:
駆逐艦島風は1943年4月7日の過負荷全力公試で、40.9ノットを記録している』
「あっという間に見えなくなってしまいましたね……」
「チッ……馬でもあれば話は別だったんだがな……。
Hey、アンタ何か持ってねえか」
「……流石に馬はないですね」
この特別任務につくにあたり私もタイムスクープ社より特殊な装備を幾つか支給されている。
だが、その中に流石に馬はない。
「それにしても……これからどうしましょう?」
我々の現在位置はTブロック。
伊達政宗のフィギュア……政宗自身には『天下を取る』という大目標はあるものの、具体的な行動方針を決めなおさねばならない状態であった。
だがそのときだった。
政宗の隻眼が道路の向こう側に何かを捉えたのだ。
「Be quiet……少し静かにしな」
私は政宗に言われるまま口をつぐんだ。
その時、私の耳に届いたのはバイクの排気音だった。
本当に細やかな、集中しなければ聞こえないような僅かな音……それに気づいたのは流石戦国武将だということだろうか。
-
「沢嶋とか言ったか。……お前はここで待ってろ」
「どうするんです?」
「ハッ、決まってんだろ。まずは"ご挨拶"ってやつだ」
そう言い残し、彼は道路へと足を進めた。
路地裏から大通りに続く道……人間にしてみれば人一人がすれ違うのもやっとの小さな道だが、彼らアクションフィギュアにとっては広大なフィールドである。
その中央、隠れること無く腕組みをした状態で彼は音の主を待ち受けていた。
そして待つこと約30秒後、彼らは接触した。
「鬼が出るか蛇が出るか……ハッ、鬼の方が出やがったか」
確かに一見するとバイクに乗っていた彼は政宗の言うとおりの鬼……モンスターのようだ。
だが私は『知っている』。
バイクに跨った彼の名は仮面ライダーシン。
『真・仮面ライダー』の主役キャラクターのフィギュアだ。
私はこの会場に潜入するにあたり、タイムスクープ社から事前にある程度の情報を得ている。
私が先程、初見のはずの少女型フィギュアを艦隊これくしょんの島風と判別できたのもそのためだ。
視線の先、バイクから降りた異形が政宗に問いかける。
「……何者だ?」
「――奥州筆頭・伊達政宗。テメェにちょいと聞きたいことがある」
2人は睨み合ったまま、互いに口を開かない。
互いの出方を警戒しているのだ。
この隙に私は本部へと連絡を取ることにした。
「本部、本部。こちら沢嶋です。応答願います」
『はい、こちら本部。古橋です』
「仮面ライダーシンについて、調査をお願いしたいのですが……」
『はい、"仮面ライダーシン"についてですね?
……『真・仮面ライダー 序章』の主役キャラクター、風祭真の改造人間レベル3としての姿です』
「……以前から気になっていたのですが、真・仮面ライダーというのは"序章"だけなのですか?」
『はい。ビデオ自体の売上は好調だったのですが企画が移り変わり、ZOやJといった劇場版、そしてその後長期シリーズとなる平成ライダーシリーズへと企画が変化していったようです』
「なるほど……昭和と平成の間をつなぐキー作品だったんですね」
いつぞやタイムスクープ社のライブラリで見た青い仮面ライダーに妙な親近感を覚えたのを覚えている。
たしかあれも平成仮面ライダーシリーズだっただろうか。
『フィギュアとしてはとりたてて危険な付属品はありませんが、戦闘タイプのフィギュアです。接触の際には最新の注意を払ってください』
「なるほど……ありがとうございました」
-
通信を切り、再び視線を二人に向ける。
そこにはバイクを降りた仮面ライダーシンの姿と刀の柄に手をかけた伊達政宗の姿があった。
2人の間に、一触即発の空気が漂っていた。
「聞きたいこと、だと?」
「ああ。大砲抱えた子供を見なかったか?
こっちに向かっていきなりShootしてきたんでな……きっちり落とし前付けさせなきゃいけねぇ」
「……それで貴様はどうするつもりだ。その子を破壊するのか?」
「あん?」
返答次第ではただでは置かない。
シンのその気迫が離れている私にも伝わってくるかのようだった。
まるで空気が個体になったかのような緊張感。
誰もがその空気の前には萎縮するか、もしくは敵意を燃やすだろう。
だがその空気の中で、――政宗は笑ったのだ。
「ハッ、独眼竜を見くびるなよ飛蝗の大将!
子供に興味はねぇ。どういうつもりだったのか問い質したいだけよ!
俺が興味あるのは天下取りという名のpartyだけだ! you see?」
政宗の返答。そこには一切の迷いがない。
数秒の沈黙の後、シンがゆっくりと構えを解いた。
「……わかった。その言葉、信じよう。
そこのお前も出てくるがいい」
……どうやら私の存在は最初からバレていたようだ。
私は言われるまま物陰から姿を表した。
私は改めて目の前フィギュア……仮面ライダーシンの姿をまじまじと見る。
ディティールをリアルに再現した表面処理。
第三の目まで作りこまれた禍々しいフェイスパーツ。
電灯に照らされたその姿は一見して怪人のようだ。
だがしかし、その立ち振舞には確かな理性の光が垣間見えた。
-
「俺の名はシン。仮面ライダーシンだ。
さっきの質問だが……俺はその少女型フィギュアとは接触していない。
俺が出会ったのはゲッターアークと名乗った個体だけだ」
「……ゲッターアーク、ですか?」
「ああ……深紅のボディと、鬼のようなシルエットを持った、鬼神のような強いロボットだった」
「で、早速partyを楽しんで来たってところか?」
彼の言うpartyとは言葉通りの意味ではないだろう。
それが意味するのはすなわち――戦いである。
「……何故分かった?」
「少しCoolに考えればわかることだ。
ただ会話しただけなら"強い"って言葉は出てこねぇ。
そしてテメェはソイツ以外に会っていない……だったらAnswerは明白ってことだ」
私は内心、伊達政宗の洞察力に舌を巻いた。
流石は一軍を率いる将だということだろうか。
そして仮面ライダーシンは少女型フィギュアに対し保護感情を見せ、我々に対しても友好的な接触を見せている。
ということはそれと相対したゲッタアークは……
「で、テメェがそれだけ言うってことは相当Dangerな野郎みてぇだな」
「ああ、恐らく不意打ちも辞さないだろう……それだけのものを背負って奴は戦っている」
「……何か戦う理由を知ってるみたいですね」
私の問いかけにシンは頷きを返す。
「……奴は、自身の存在を証明するために戦っている。それが理由だ」
「An? そりゃどういうことだ」
「俺はお前たちのことは知らない。
だがお前たちには恐らく原作、もしくはベースとなる人格があるのだろう。
しかし奴はそれを持たされていないまま、この空間に解き放たれた」
それはいったいどういうことだろうか。
我々は更に詳しい話を聞くことにした。
-
「実験には様々な"入力値"があるほうが望ましい、ということだ」
それを聞いて私は内心戦慄した。
たったそれだけの理由で、一つの人格の蹂躙するような真似ができるのかと。
……人間はどこまで残酷になれるのだろうか。
様々な歴史で証明されていることとはいえ、陰鬱な気持ちが
「そして全てを奪われた奴に残されたのは怒りと闘争本能……そして空っぽの絶望だけだ。
その空虚を埋めるため、奴は人間たちの思惑に乗った。
自分だけの物語を、破壊によって綴るために」
彼……アークを襲ったのはどれだけの絶望だったのだろうか。
人間である私には想像するしか無いが、それはとても悲しいことのような気がしてならない。
「……気に食わねぇな」
だがそれに真っ向から叛意を示す声が上がる。
左目を鋭く尖らせ、伊達政宗は怒りの表情を浮かべていた。。
「気に食わないとは、一体何に対して……」
「決まってんだろうが! テメェが刃を向けるべきはここにいるfigureじゃねぇ……
こんなことを押し付ける奴らだろうが!
Coolじゃねぇな、ゲッターアークとやらよ……!」
-
私は驚いてた。
私の眼の前にいるのは伊達政宗のフィギュアだ。
ゲームキャラクターの人格を再現した機械じかけの存在。
だが、だというのにその"怒り"に思わず、私は数歩後ろへと下がっていた。
あまりの気迫に気圧されていたのだ。
まるで本物の人間の怒りに気圧されたかのように……!
「ハッ、決めたぜ沢嶋。次のTargetをな……!」
「次のターゲット、ですか……?」
「ああ。俺が天下を取るためには、まず赤鬼退治と洒落込まなきゃいけないらしい……!」
つまり政宗は赤鬼――ゲッターアークの行方を追うということらしい。
「そうか……それがお前の行く道か……伊達政宗」
「止めるかいKAMEN RIDER? アンタは赤鬼に思い入れがあるようだったからな」
「……いや、止めはしない。
奴を放っておく訳にいかないのは俺も同じだからな」
そういえば我々は仮面ライダーシンのスタンスを聞いていなかった。
そのことについてインタビューすると彼は快く答えてくれた。
「奴が破壊によって存在証明をなすのなら、俺は自由のために戦う。
たとえ相手がどれだけ強大だろうと俺のオリジナル……風祭真が出来なかった仮面ライダーとしての生き方を貫く。
それが俺の存在証明だ」
「ハッ、何とも愚直な生き方だな。
だが、男だったら貫いてみせろよ! そのとびっきりのSpiritでな……!」
「言われるまでもないさ」
表情をゆるめ、互いに笑い合ったように見えた。
正義の味方と戦国武将。
姿形、フィギュアの種類は違えど、彼らにはなにか通じるものがあったのだ。
-
そしてシンは我々に背を向け、止めていたバイクの方へと歩みを進めた。
「行くのかい?」
「ああ……俺もこのままじっとしている訳にはいかないからな」
だが、その足がピタリと止まる。
「An? どうした?」
「伝えなければならないことがあった。
奴は……アークは俺達の事を……俺達の原作を知っている。
そして実験の主催者とつながりのある自分は61番目のジョーカーだと」
「え……」
私はその言葉を聞いて、息を呑んだ。
事前に渡されたこの実験に参加しているフィギュアの情報。
それはあまりにも正確すぎた。
もしやタイムスクープ社もこの実験に関連しているのか……?
いや……それよりも内部に犯罪者、オルタナスナッチャーのような存在がいるのかもしれない。
以前、安土城の一件に巻き込まれた時にもそのようなことがあった。
人の心は弱く、何時の世も犯罪という闇が消えることはない。
もしやこの任務にも何らかの魔の手が関わっているのではないだろうか……
そんなことを考えていたからだろうか。
2人の視線がこちらを向いているのに気づくのが遅れたのは。
「あの……な、何でしょうか?」
私は恐る恐る2人に声をかけた。
先ほどといい、もしかしたらこの場所はニューロ分子が希薄なのかもしれない。
だとしたら特殊な交渉術が破られてしまう可能性もある。
そうなれば彼らにとって私は宇宙人のような存在だ。
警戒され、取材どころではなくなってしまう可能性も高い。
-
「……もしかして気づいていないのか? お前は……」
「よしときな!」
私に向かって言いかけた何かを、政宗の声が引き止める。
「……何故止める?」
「Useless……無駄だからだ。
自然と目に入る手や肘を見りゃあ、――いや、それ以前に周りを見渡せば自分がそうじゃないことなんざ簡単に理解できるはずだ。
だがそれが"ない"ってことは俺やアンタがどう言った程度じゃ変わんねぇってことだろ。
"そう"なっちまってるのが、必然か偶然かは俺にもわからねぇがな」
目の前の二人の会話の意図は読めない。
"自身の肘や膝を見たところで異常はないし、周囲にもこれといった異常はない"
いや、仮面ライダーと戦国武将……戦闘の達人である彼らにしか知り得ない何かがあったのかもしれない。
「……君自身が、いつか気づくことを願っている」
私に対し意味深な言葉を言い残して、彼は去っていった。
闇夜に消えていくサイクロン号のテールランプを眺めながら私は考えていた。
タイムスクープ社のこと、普段と違う取材対象のこと、そしてこの任務のことをだ。
江戸時代を中心に活動する私に言い渡された、フィギュアの実験を取材するという奇妙なミッション。
今回の任務が一筋縄ではいかない事を肌で感じ取っていた。
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【黎明/エリアT】
【仮面ライダーシン@S.H.シリーズ】
【電力残量:70%】
【装備:サイクロン号@S.H.シリーズ(電力残量:70%)】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:オリジナルの代わりにライダーとなる
1:仮面ライダーとして自由のために戦う
【伊達政宗@リボルテック】
【電力残量:90%】
【装備:ムラマサブラスター@ROBOT魂】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(愛刀・景秀)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:天下を取る
1:ゲッターアークを追う
【タイムスクープハンター沢嶋雄一@figma】
【電力残量:90%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(タイムスクープ道具)、拡張パーツx1-2】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:アクションフィギュアの取材。
1:政宗を追って取材。
※ 自分自身がフィギュアである事に気付いていません。
※ 参加者の情報を(少なくとも外見は)把握しているようです。
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以上で投下終了です。
指摘等があればよろしくお願い致します。
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投下乙です!
シンさんと政宗のわかり合う男達が格好いい…
沢嶋さんはまだ自分がフィギュアと気づかぬまま…同じ境遇のザンダクロスとどっちが先に真実に気づくかが楽しみです
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お二方、投下乙です!
アークとシン、双方ともに新たな伝説の始まりを予感させるいいスタートでした。
ZZ死ぬと思ってたけど生き延びたか、しかし相手の地雷をことごとく踏んじまって……w
そして沢嶋さんは自分の姿への違和感自体を感じないのか……シンと政宗の絶妙な距離感がGJ
如月千早、仮面ライダーフォーゼ、新ゲッター1、テッカマンブレード予約します
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フィギュアって事で美少女フィギュアが多いせいか男女の同行が結構多いね
如月ペアにロック&フブニー、ハンター&アーンヴァル、サガ&ストラーフ、ロジャー&ミク、マジンガー&マーキュリー、ゼオライマー&みくる、タロウ&アイネス
死に別れたけどウッディ&エウクランテにオーズ&月火
誰が一番ヒロインっぽくなるのか…
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2話以上書かれたキャラクターだと
ロック&フブニーは"主従(光)"、ハンター&アーンヴァルは"先輩後輩"
サガ&ストラーフは"同盟"、ロジャー&ミクは"パートナー"
ゼオライマー&みくるは"主従(闇)"、タロウ&アイネス"熱血教師と生徒"
って感じがするw
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投稿お疲れ様です
やっぱりおもしろいなこういうもの
でも、アークは気づいてないんだろうか
ZZもまた新訳ZとUCになかったことにされてしまったということに
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最初から無い物語となかった事にされた物語じゃ結構違うからな
新約ZとUCこそ邪道とか言えばどうにかなる話だし
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皆様投下お疲れ様です。
セーラーマーキュリー、マジンガーZ、沙英、VAVA を予約します。
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遅くなりました、投下しますね
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オモチャの幸せは、持ち主に遊んでもらえること。
それが、明るく責任感が強く時には頑固で、だけどやっぱり頼れるみんなのヒーロー「トイ・ストーリーのウッディ」の信念だ。
オモチャを大事にしない少年に捕まった時も、飛行場での大ピンチの時も、保育園からの脱出の時だって。
どんな時もウッディが諦めないのは、同じオモチャの仲間達みんなと一緒に、持ち主のアンディのところへ帰ろうとするためだ。
ウッディにとってのアンディはただの持ち主じゃない、言葉を交わさなくても通じ合う絆を互いに結んだ、掛け替えのない友達だからだ。
だからウッディは諦めない。だからウッディは立ち向かう。だからウッディは手を差し伸べる。だからウッディは――
「……それはトイ・ストーリーのウッディだ。じゃ、俺はなんだ? 俺の持ち主は、俺で何して遊ぼうってんだ?」
綿の代わりに特殊樹脂とメカニックを全身に詰め込んだ「アクションフィギュアのウッディ」は、
何度繰り返したか分からない独り言をまた呟いて、膝を抱えたまま溜め息を付いた。
あれから……エウクランテの武装、プレステイルが動かなくなって、茫然自失のままゴミ捨て場のブロックの影に隠れてから随分経った。
目の前には相も変わらず、全高15センチのウッディにとっては文字通り山のようにそびえる幾重にも積み重なったゴミ袋。
こうしてゴミに紛れていると、まるで自分が本当にガラクタになってしまったみたいで気が滅入る。
映画のウッディは、本当にゴミの中に埋もれても諦めなかったのに。
そうだ。映画のウッディは自分がオモチャであることに誇りを持っていた。
人間に遊ばれ、人間を楽しませることを心の底から喜んでいた。
人間のために生き、人間のために尽くすのがオモチャの使命。そう固く信じて、決して疑わなかった。
「もしも俺の持ち主がエウクランテみたいな子を酷い目に会わせたがってるのなら、その通りにするのがオモチャの使命だってのか……?」
フィギュアのウッディには、それが未だに分からない。
映画での出来事は、まるで自分自身が体験したかのようにはっきりと思い出せるのに、オモチャの誇りが実感できない。
ほんの少し前まで、武装神姫の少女エウクランテと話していた時までは自分自身でも疑っていなかったオモチャとしての自分。
そのアイデンティティをあのロボットのオモチャ、天のゼオライマーは粉々にしてしまった。それも、エウクランテの命ごと。
命を懸けてウッディを助けたエウクランテの死を、自分をここまで運んだプレステイルの機能停止を通じて実感したあの時の気持ちが忘れられない。
「こんな時、みんなならどうするんだろうなぁ……」
ウッディは映画での相棒バズ・ライトイヤーを、ジェシーやブルズアイを、スリンキーやミスターポテトヘッド、ハムやレックスのことを思い浮かべた。
せめてあのオモチャ箱の仲間達が一緒なら、ウッディはゼオライマーの見せたあんな画像なんかに惑わされずに、ヒーローらしくいられるのに。
誰でもいい。ウッディのことを知っている誰かに、あんなの間違いだ、本当のウッディはヒーローなんだと、背中を押してもらえたら……。
-
「……ん?」
そう考えていたウッディは、ふと目の前のゴミ袋の隙間に、何か見覚えのある水色のものが挟まっているのに気が付いた。
なんだろうと首を傾げ、試しに引っ張ってみる。
それは筒型をふたつ並べて繋げたような形で、小さな足が二つ生え、筒の太い方は目になっていた。
一言で言えば、双眼鏡をキャラクターにしたようなオモチャ。それに気付いたウッディの表情から、沈痛の色が瞬く間に抜け落ちていった。
「……レニー!!!」
アンディのオモチャのひとつ、双眼鏡のレニーじゃないか!
ゼンマイ駆動のよちよち歩きで、めったに口を利かないけれど、その双眼鏡としての機能でウッディやバズを影から支えた名脇役だ。
トイ・ストーリー3では既に他の家にもらわれていったのか登場しなかったが、まさかこういう形で再会することになるなんて。
ウッディは感激のあまりレニーを抱き上げ、頬ずりし、そのまま三回転ほどしてからコンクリートの地面に下ろし、話しかけた。
「久しぶりだなレニー! いやフィギュアの俺達が久しぶりっていうのもおかしいか。なんだろ、初めましてぶりだなレニー?」
自分でもつまらない言い回しと思ったが、案の定というかレニーはピクリとも反応しない。
相変わらず台詞の少ない奴だなとウッディは感心した。
「どうだい、再会を祝して久々にスタッフミーティングでもやるか? なに二人きりじゃ盛り上がらない? まあそう言うなって。
えーと本日の議題は、単3電池の管理方法について……ってお前はゼンマイだし今の俺もバッテリー駆動か。じゃあ次は……」
ウッディは大げさな身振り手振りで、演説するかのように声を張りながら、ちらりとレニーを見た。
レニーは微動だにしない。ウッディはやれやれと肩をすくめて水色のボディを抱き上げた。
「おいおい、いくら何でもそこまで無愛想なやつだったかレニー? 人に話しかけられたときは……」
それまで舞い上がっていたウッディは、そこでようやく不審に思った。
試しに揺さぶってみる。動かない。
軽く手のひらで叩いてみる。反応がない。
すぐそばで声を出してみる。何も返ってこない。
-
そんなことをしばらく繰り返し、何度も名前を呼び、嫌な予感が確信に代わって、そこでようやく。
そこでようやく、ウッディは茫然自失の表情でレニーを抱えたまま尻餅を付いた。
「……AIが、入っていないのか」
この「双眼鏡レニー」は、このゴミ捨て場に落ちてくる時にウッディ自身が知らずに放り出していた、ただの付属パーツだった。
それに当たり前のように話しかけてしまったのは、ウッディが「トイ・ストーリー」のフィギュアだったからに他ならない。
無意識のうちに、オモチャはみんな生きているものだと思い込んでしまって……武装神姫の技術が組み込まれた自分達が特別なのだと、気付けなかった。
「俺は心を組み込まれたオモチャで、お前はただのオモチャ。トイ・ストーリーみたいには、いかないんだな……」
物言わぬ双眼鏡レニーを抱えたまま、ウッディは項垂れた。
なんでよりにもよって、オモチャのオモチャなんて作ったんだ。もしも人間のオモチャなら、こんなことで悩まずに済んだのに……。
と。
「――何をひとりでブツブツ言っているのか知りませんが。ひとつお尋ねしてもいいですか」
自分の世界に沈み切っていたウッディの耳に、聞き慣れない少女の声が聞こえた。
「えっ?」
とっさに声のする方へと振り返る。
ただ運の悪いことに、ちょうど両手で抱えていたレニーを覗き込むような形のまま、だ。
その結果。
「………………????」
双眼鏡越しのウッディの視界を、ふたつの巨大な何かが埋め尽くした。
あまりにも拡大されすぎていて何を見ているのか分からなかったウッディは、恐る恐るレニーから顔を離した。
-
視界をそっとゆっくり上げる。顔を真っ赤に染めて自分を見下ろしているのは、帽子を被った銀髪の少女フィギュアだ。
そして双眼鏡レニーの視線は、その顔よりも幾分下を向いていて、つまりウッディがさっきまで除いていたのは。
「……ど、こ、を……!」
肩をわなわなと震わせる少女の声が、事態を悟ったウッディよりも先に響く。
「あ、いや、違う、これは誤解、誤解だって!」
ウッディの言葉はまるで届いていない。憤怒の表情の少女の手に、巨大な銃が出現する。
その先が真っ直ぐウッディの方へ向き、指が迷いのない動きで引き金に掛かって、
「どこを見てるんですかあなたはぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「違うんだァァァァァァァァァァァ!!」
乱射される弾丸がそこら中のゴミ袋に無数の穴を開け、ウッディは平謝りに謝りながら逃げ惑った。
▼ ▼ ▼
「……言い分は分かりました」
数刻の後。
ウッディは思いつく限りの謝罪の方法を試し、辛うじて彼女(アリサというらしい)の気を鎮めることに成功した。
「それにしても、あなたみたいなフィギュアがいるなんて……不潔です」
「だから違うんだよ……俺はそんなフィギュアじゃ……」
「正直ドン引きです」
「……………………はぁ」
ただし誤解は全く解けておらず、辛辣なアリサの言葉はただでさえ自分の存在に揺れていたウッディの心に容赦なく突き刺さっていた。
-
なんとか身の潔白を証明しようとするウッディにこれ以上の問答は時間の無駄とばかりに背を向け、アリサは問う。
「ただの質問に随分と時間を取られてしまいました。あなた、雪菜=シュネーラインという名前に心当たりは?」
「雪菜? 知らないな。女の子のフィギュアなのか?」
「……………………っ」
「なんで女の子って言っただけでそんな顔するんだよ!?」
「いかがわしいことを考えていそうだからに決まっているじゃないですか」
「だから誤解だって!」
もう完全に変態フィギュアだと思われてしまっている。これじゃまるでゼオライマーが見せた画像のままだ。
ああいう風にだけはなりたくないと思っていたのに、現実は残酷過ぎる。
「分かりました、もう結構です。私は先を急ぎますので」
「先? その雪菜って子に何かあるのか?」
「あいにくケダモノを案内する気はありません。くれぐれも付いてこないでくださいね!」
最後までツンドラのように冷たい言葉のまま、アリサはマンションの階段の方へ走っていってしまった。
取り残されたウッディは、ただ呆然とその背中を見送るしかなかった。
「……なあレニー、俺の役割ってこういうのか?」
双眼鏡に話しかけるが、当然返事はない。
ウッディはそのまましばらく突っ立ったままの姿勢でぼんやりしていたが、ふと我に返ると頭をぶんぶんと振った。
「やめだやめだ! そんなわけあるか! 誰かが困ってるかも知れないんなら、助けにいくのが『ウッディ』だ!」
着いて来られたらあのアリサって子はさぞかし嫌な顔をするだろうが、それでも彼女が困っているのなら何とかしたい。
雪菜というフィギュアを探しているのなら手伝ってやろう。もし危ない目にあっているなら助けてやろう。
ウッディならそうする。そうするのがウッディだ。ウッディならそうしなきゃいけないはずだ。
だって映画の中のウッディは、決して仲間を見捨てない。
だから仲間を見捨てなければ、映画の中のウッディになれるかもしれない。
本当に彼女を助けたいのか、それとも彼女を助けることで自分を証明したいのか。
自分でも何が何だか分からなくなりながら、ウッディはレニーを拾い上げ、慌てて走り出した。
-
【深夜/エリアL(マンション昇降口そば)】
【ウッディ@リボルテック】
【電力残量:85%】
【装備:双眼鏡レニー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マイク)、ヂェリカン@武装神姫×4、プレステイル@武装神姫、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:全身に大小の傷。熱によって各部変形】
【思考・行動】
基本方針:映画のウッディのようになりたい。
1:アリサの力になりたい
2:あわよくば誤解も解きたい
▼ ▼ ▼
(まったく、とんだ時間の無駄遣いでした!)
アリサは憤慨しながら、階段を一段ずつ跳躍して登っていった。
一刻を争うかもしれない時に、よりにもよってあんなフィギュアに出会うとは。
確かにアリサの服装は相当際どいし、このスケールのフィギュアにしてはかなり胸は大きいが、それでも不愉快なものは不愉快だ。
あんなフィギュアのことはさっさと忘れてしまおうと、無理やりに思考を切り替えていく。
(雪菜……あの双子座のサガが洗脳したという少女。いったい何のフィギュアなのでしょうか)
移動中にネットツールで検索してみたのだが、どうも雪菜=シュネーラインとはフィギュア素体の名前らしく、いまいち要領を得ない。
少なくともアーマーガールズプロジェクトに分類される、MS少女と呼ばれる存在ではあるらしいのだが。
一方、双子座のサガの情報はすぐに手に入った。なるほど、『双子座』と呼ばれるだけのことはある。
善と悪、二人のサガがあの体の中に同居していて、悪のサガが雪菜を洗脳したということか。
(まだ信用したわけじゃありません。もしかしたら、悪の心のままで私を騙していたのかもしれない。それでも……)
アリサは階段を登りながら唇を噛み締めた。
(……私の前で誰かが死ぬなんて、もうごめんです。あんな思いは、もう二度としたくない……!)
目の前で両親を失ったのも、錯乱して同じ部隊のリンドウを撃とうとしたのも、自分ではなく「本物のアリサ・アミエーラ」だ。
それでも、自分のそばで犠牲を出すなんて真っ平だった。
雪菜も、マンションにいるというフィギュア達も、死なせてたまるものか。
アリサは神機のグリップを強く強く握り込んだ。
神を喰らうもの(ゴッドイーター)は、人を喰らうものを討つためにいる。
人を討つためにいるのではないのだから。
【深夜/エリアL(マンション1階・階段部)】
【アリサ・イリーニチナ・アミエーラ@D-Arts】
【電力残量:65%】
【装備:神機銃形態】
【所持品:クレイドル、神機、拡張パーツ×2(未確認)】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:マンションの3階に向かう。
1:サガの伝言をマンション組に伝える。
2:サガのことはまだ信じ切れない。
3:ウッディのことは忘れたい。
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投下終了しました。
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投下乙です。
ウッディは、原作でもオモチャな分、尚更強い違和感を覚えるんですね。
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投下乙です
ウッディ…できれば原作通り生きてほしいものだ…
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遅くなりましたが投下します
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プロジェクト"BATTLE ROYALE"。
計61体のフィギュアによる、たった一つの生存権を賭けた殺し合い。
……そういう物語である、はずなのだが。
「なんだ……ここは……?」
リボルテックヤマグチのアクションフィギュア、新ゲッター1。
プロジェクトの被験体として参加させられていたはずの彼だが……
彼が今、目にしている光景は、先程まで彼がいた街――実験場とは、違った。
見渡す限りの、廃墟。
「一体どうなってやがる!?……いや、確かここは」
新ゲッター1は、彼の中に宿る流竜馬の記憶は、この場所を知っている。
見たことがある。原作のあるエピソードで見た光景と、一致する。
「あの時の……ゲッターの、世界なのか」
――新宿。
荒れ果てた街。
そこに無数に転がっている、ゲッターロボの残骸。
-
そうだ、この光景は見覚えがある。
かつて流竜馬が跳んだ『ゲッターが最終的に行き着く果て』の、可能性の一つといえる世界。
同じだ、オリジナルの流竜馬の経験と。
ゲッター線に取り込まれた人類が、互いに争い食らい合う悪夢のような世界と。
ただ、決定的に違うのは……
「こいつは……このゲッターは」
ここに朽ちているゲッターの残骸は、
「こいつの関節……俺と同じリボルテック製か!?こっちの奴のボディには超合金が使われてるじゃねぇか!」
全てフィギュアであるということ。
「こいつは新世紀合金製の俺じゃねぇか!うおっ、こっちは完全変形ゲッターロボかよ!?ったく、派手にぶっ壊しちまいやがって……
そしてこっちは……でかいと思ったら、懐かしのジャンボマシンダーか!」
手近な残骸を一通り確認した後、もう一度周囲を見回してみる。
ゲッターが玩具であること以外は、原作第9話『地獄変』での光景と、ことごとく一致していた。
「何なんだここは……あの場面を再現した、ジオラマなのか?随分とこだわって……ッ!?」
ふと、何者かの視線を感じて空を見上げる。
誰だ?ジオラマを作成した人間か?
いや、違う。
空の果て、宇宙の果てにいるその存在を、新ゲッター1は確かに感じ取った。
――ゲッター聖ドラゴン。
――そして、、星をも掴むほど巨大な、皇帝の名を冠するゲッター。
「ばかな……こんなはずは」
こいつらが存在するはずがない。
こいつらが立体化したという話など聞いたことがない。
仮に立体化したところで、地球より巨大なフィギュアなどありえるわけがない。
新ゲッター1は、本能的に感じ取っていた。あの巨大なゲッターが、自分自身であることを。
だとすれば――
「ああ、そういうことかい」
ふいに、背後に気配を感じ取る。
次の瞬間、玩具の残骸を吹き飛ばしながら、地の中から巨大な影が現れる。
「結局、ここでも俺の行き着く先は同じってわけか」
振り返り、目にした物体……それは、新ゲッター1より一回りほど大きなサイズのゲッターだった。
「こいつはプロトゲッター……いや、その設定は俺達の世界だけの話だったな」
そのボディは超合金製。だが、スーパーロボット超合金のラインナップに、確かこいつはまだ加わっていないはずだ。
「だが、何処であろうと何であろうと……俺のやることは変わることはねぇ」
「グ……ォォォォォォォォッ!!!!」
超合金――『超合金魂』の初代ゲッター1が、雄叫びと共にゲッタートマホークを振りかざし、襲い掛かる!
新ゲッター1もまた、自身のゲッタートマホークを掲げ、立ち向かう!
「本当の戦いはここからだ!!いくぜぇぇぇぇぇっ!!!!!」
【ゲッターロボフィギュア バトルロワイアル 第一部 完 】
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◇ ◇ ◇
「竜馬ぁッ!!いつまで寝ているつもりだ!!!」
『いい加減に起きやがれッ!!!』
◇ ◇ ◇
-
『―――ッ!?』
隼人と弁慶の呼ぶ声に、竜馬の意識が覚醒し、現実に引き戻される。
目が覚めた場所は廃墟でも宇宙でもなく、どこかの民家の一室で。
自分の身体はゲッター2の姿で、クレイドルの上で座り込んでいた。
『な、なんだ!?今のは一体……!?』
「ようやくお目覚めか。人工知能のくせに寝過ごした上に寝ぼけるとはな」
『ったく、さっきまでメインで散々暴れておいて、サブに回った途端これだからよ。いい神経してるぜ』
新ゲッターのフィギュアには、複数のAIが搭載されていた。
原作におけるゲッターのパイロット、流竜馬・神隼人・武蔵坊弁慶……それぞれの人格を持った、3つのAIが。
3つの形態にチェンジできるゲッターは、その形態ごとにメインAIも切り替わる。
現在のゲッター2の形態では、メインAIは隼人。竜馬と弁慶はサブに回って控えている状態だ。
阿修羅との戦いの後、ゲッターは近くの民家の中に入って安全な場所を確保。
その後、充電を行うべくクレイドルの上で眠りについていたのだが……
その眠りの中で、ゲッターの中に搭載されている三つのAIの一つである竜馬は、奇妙な夢を見たのだった。
『ちっ、まさかここでまでこの手の夢を見せられるとはな……突っ込み所だらけでいろいろおかしかった気がするが』
「何を言っている、俺達はフィギュアに埋め込まれた人工知能だぞ。夢を見ることなどありえん」
『うるせぇ。それでも見ちまったんだからしょうがねぇだろうが』
『オリジナルの記憶なんじゃないか?死に際に走馬灯見るとか言うアレだろ』
『人を勝手に死にかけにしてんじゃねぇクソ坊主!』
確かに、原作の流竜馬もゲッターの世界の果てに触れたことがあった。
だが、それが原作の記憶そのままかというと、あれは何かが違う。
何より、あの場にいた『自分』は原作の流竜馬でもゲッターロボでもない。
紛れもない今ここにいる自分自身――『リボルテックヤマグチの』新ゲッター1だった。
『ったく、だいたいここじゃ俺達は正真正銘の一心同体なんだぞ。俺が死にかけならお前らだって死にかけだろうが』
『そうだ竜馬、俺達は一心同体だ。だから夢だろうが何だろうが、お前が見たものなら俺達にだって同じものが見えなきゃおかしい』
『それはそうだが……オリジナルの過去の記憶とは微妙に違うし、夢としてもあまりにリアルだったような……』
あれは本当に夢だったのか?不可解な疑惑が、竜馬の思考を包み込む。
思考がゲッター線の迷宮へと陥りかける彼に、もう一つの人格が水を差してきた。
「……おい、"新ゲッター1"」
『な、なんだよ。改まって』
隼人――新ゲッター2のメインAIは、あえてモデルとなったロボットの名前で竜馬――新ゲッター1のAIに呼びかけた。
「お前はあくまで新ゲッター1だ。厳密にはそれを模しただけの可動フィギュアだ。
人格や記憶がオリジナルの流竜馬に忠実に模倣されているが、それ以上でもそれ以下でもない。
お前がどこまで流竜馬になり切っているかは知らんが……はっきりさせておく。お前は、流竜馬じゃない」
『……ああ、そうだな』
「このフィギュアの身体だってそうだ。内蔵電力で動いているこのボディには、ゲッター線など一切使われてはいない。
ゲッタービームにしても、ビームの見た目をそれらしく整えただけの、ゲッターとは名ばかりの光線だ。
つまりここにいる俺達は、ゲッター線というものとは全くの無縁の存在ということになる」
『んなことはわかってるよ。だからどうだってんだ』
「だから、この際ここではっきり言っておく」
一息溜めて、隼人は釘を刺した。
「お前がゲッター線に選ばれてどこかに飛んでいって虚無るような、いつもの展開はあり得ないからな」
ああ、言ってしまったよこの人は。
原作を作品として客観的に見られるからこそできるメタ発言である。
『……何だよいつもの展開ってのは!?』
「言葉の通りだ。うちの原作者のお家芸にしてお約束だろう、そういうラストは」
『何だよ隼人。置いてけぼり食らった原作アニメが気に入らないのか?』
茶化すように、AI弁慶が会話に割り込んでくる。
確かに原作の流竜馬は、最終決戦の後、神隼人と武蔵坊弁慶を置いて、一人ゲッターの世界に旅立っていた。
……気にしてたんだろうか。
そういえば新ゲッターの神隼人は、ゲッターに依怙贔屓されまくる竜馬に微妙に嫉妬してたようなしてなかったような。
-
「……新ゲッターのアニメに限らず、どうも他のゲッター世界でも置いていかれているような気がする。神隼人はそういう奴だ」
『なんだよそりゃ!他所のゲッターのことなんざ俺が知るか!』
「いいな!やるなよ!絶対やるなよ!」
『うるせぇ!!つーかネタ振りみたいな言い方やめろ!』
なんとも取り留めのない不毛な言い争いを続ける竜馬と隼人を見かね、弁慶は再度、呆れるように間に割り込んだ。
『いい加減にしろ二人とも。隼人、今はそんなこと話してる場合じゃないだろ』
「……そうだったな、行くぞ」
『行くっておい、どこへ行くつもりだ?充電はまだ完了していないみたいだが』
「隣の家だ。お前が眠っている間に、向こうに他のフィギュアの影が見えた」
気を取り直した隼人がそう言うと、ゲッター2の視線を部屋の窓へと向ける。
窓の外には隣の家が、さらにその家の窓が見え、そこから中の様子が確認できた。
『はっきりとは見えなかったが、二人連れだったぜ。しかも片方は女の子っぽかったなぁ……へへっ』
『ヘラヘラしてんじゃねぇ、弁慶。で、接触するつもりか、隼人?電力のほうは大丈夫なんだろうな』
「十分余裕を持てるだけの量は回復している。お前が無謀な戦いをしなければな」
『へいへい』
「それに今後のためにも早いうちに、少しでもコネクションは築いておきたい」
ゲッターロボといえど、ここでは一介の可動フィギュアでしかない。
彼らが今後どう動くにしても、他の参加フィギュアとの接触は避けられなかった。
『さっきの仏像野郎みたいに、問答無用で襲い掛かられるのは御免だぜ?』
開始早々に遭遇しいきなり戦闘する羽目になった、リボルテック阿修羅像のことを思い返す。
一応、阿修羅に対しては彼らなりに友好的に接したつもりだった。
だが戦いの神の意思が宿った阿修羅には、一切の言葉も説得も通用しなかった。
ゲッターにとってあの戦いは、有無を言わさず攻撃を仕掛けられたが故の、已む無い正当防衛でしかない。
「つるんでいる以上は、少なくとも奴のような見境なしというわけではあるまい。話してみる価値はある」
『確かにな……ま、俺としちゃ敵だろうと別に構わねぇけどよ。襲ってくるっていうなら受けて立ってやるまでだ』
『やれやれ。程々にしとけよ、竜馬』
ゲッターロボシリーズの中でも特に凶暴凶悪でバイオレンスな部分の強さを語られやすい新ゲッターロボの面々ではあるが、
だからと言って、彼らは決して見境なしのバーサーカーというわけではない。
人間に一方的に指示されて、はいそうですかと嬉々として殺し合いに乗ることなど断じてありえない。
彼らの性分からすれば、むしろ最も忌み嫌う選択肢とすら言えるだろう。
胸糞悪い殺し合いを強制してくるクソ野郎がいるなら、そいつに真っ向から反発する。彼らのスタンスが揺らぐことなどなかった。
誰であろうと。人間であろうと、神であろうと、そして彼らにとっては――ゲッターであろうと、だ。
◇ ◇ ◇
「本当に行く気ですか、フォーゼさん」
如月千早が仮面ライダーフォーゼと遭遇し、しばらく落ち着いてからのこと。
フォーゼは、最初に二人が出会った場所……すなわち、千早がコダールiに襲われていた書斎に戻ろうとしていた。
「弦太朗でいいって言ってるだろ、千早」
「……フォーゼさん、まださっきのロボットが潜んでる可能性が高いんですよ」
「だからこそだ。言っただろ、俺は全てのフィギュアとダチになる男だ。もちろん、アイツともな」
「はっきり言いますけど、あのロボットはそういう話の通じる相手じゃないと思います」
あれから落ち着き、冷静になればなるほど、千早の恐怖は治まるどころか逆に膨らんでいく。
よく生き延びられたものだと。フォーゼが助けてくれなかったら今頃どうなっていたか。
想像するだけでも全身に嫌な震えが走る。
無機質な人型兵器が明確に自分へと向けてきた――銃口と、本物の殺意と、決して相容れることのありえない狂気。
このバトルロワイアルという異様な空間も含めて、平和な現代日本に住むキャラクターである彼女にとっては、あまりにも重過ぎた。
「千早の言ったようにマジでやばい相手だったら、なおさらだ。
そいつを放っておいたら、他のフィギュア達に襲い掛かるかもしれないだろ?」
「……一応、そういうことにも考えは回しているんですね」
-
千早のフォーゼに対する印象は冷め切っていた。
こんな状況下でも怖気づくことなく戦い、何の疑問も抱かず我が道を進むことができるフォーゼのことが理解できない。
まるで全く違う世界の住人のような……いや事実その通りなのだが。
特撮ヒーローにとっては悪と戦うことが自然なことであり、戦場に身を置くことなど日常茶飯事である。
そんな場馴れした彼とは、根本的な価値観そのものが別物のように感じられた。
同じ人間が生み出したキャラクターではないようにすら思えるほど、遠い世界の存在に見えた。
……もっとも、ヒーローであることを踏まえたとしても、如月弦太朗はかなり斜め上のぶっ飛んだキャラクターではあったのだが。
「千早は、ここで隠れて待っててくれ。すぐに戻ってくる」
そう言い残し、フォーゼは部屋――台所を出ていった。
そして、この場には千早一人が残された。
「……まあ、別に構いませんけど」
青春モード全開で騒がしい彼がいなくなって……一気に、千早の周囲に静寂が戻った。
ふぅ、と大きくため息をついて……今度は心細さが押し寄せてくる。
少し前まで疎むような態度をとっておきながら、少女は自分の我儘さに呆れた。
冷めた対応をとってはいたが、実際の所、彼に対しては決して悪い印象は抱いてはいない。
彼が子供達の憧れであるヒーローを模しているが故に、だろうか。
だからこそ迷わず、自分を見失うことなく走ることのできる彼を、皮肉などではなく純粋に、羨ましいと思えた。
――それに比べて、自分はなんと惨めなのだろう。
オリジナルの如月千早は輝いていた。
自分自身の弱さと向き合い、幾多の困難を乗り越え、トップアイドルの座に上り詰めた。
それはプロデューサーや、765プロの仲間達との絆あってのものだった。
だが、ここにいる自分には何もない。
仲間も絆も持たず、ただ人格だけをコピーされ殺し合いを強要されるだけの存在でしかない。
なんとちっぽけで薄っぺらい存在だ。如月千早を模したが故に受け継いだ彼女の夢も、ここではなんと虚しいことか。
そんな劣等感を噛みしめながら、もう一度、しかし先程とは違った意味を込めて、大きくため息をついた。
そんな物思いに耽る時間を、状況は長くは許してはくれなかった。
静かな空間に、小さな足音が聞こえた。ちょうど、千早の背後からだ。
心臓が止まるかのような驚愕と共に、背筋に寒気が走る……そんな人間のような感覚を、全身の回路が再現する。
その意味から逃避するように、そんな不安を払拭するように……千早は、その音の主に対し声をかけてしまった。
「フォ、フォーゼさん……?戻ってきたんですか?」
いや、違う。戻ってくるには早すぎる。それにあの人ならもっと騒がしいはずだ。
逃げなければ。どこでもいいから隠れなければ。頭ではわかっているはずなのに。
千早は振り返り、その正体を確認する。
-
「おい、お前もこのバトルロワイアルの被験体にされたフィギュアなのか」
そこに立っていたのは――人型ロボットのフィギュアだった。
白い色を基調とした上半身、その左腕には巨大なドリルが装着されている。
自分のような人間型フィギュアではない。
表情も持たず、ただ無機質に相手を冷たく見据える――
あの、赤い殺戮者と同じ存在。
「―――!?」
そう意識した途端、千早の思考が、恐怖に染め上げられていく。
恐怖は拒絶の意思へと変化する。その意思に呼応するかのように――
左腕に嵌めていたブレスレットが。
何かあった時のためにと、先程フォーゼから渡された、ブレスレットが――
――光った。
光は千早の左腕から飛び出し、刃のような形状に変形する。
光の刃はまるで生き物のように、千早の前にある恐怖の対象――ゲッターロボへと向けて、襲い掛かった。
「――ッ!?」
『うお、危ねぇ!!』
光はゲッター2の頭部のすぐ横を掠めていった。
的を外した光の刃は、その勢いのままに後ろの棚に直撃する。
振動で、その上の食器棚から食器が何枚か滑り落ちた。
床へと落下した食器が派手に割れ、喧しく音を響き渡らせた。
「う、あっ……!」
派手な音が、千早の思考回路にさらなる焦りをもたらす。
千早はバランスを崩し、尻もちをつき……腰を抜かしたのか、そこから動けなくなった。
そんな彼女の拒絶の意思に愚直に従うかのように、光の刃は再び飛び回り、ゲッターを攻め立ててくる。
「おい、やめろ!俺はお前を襲うつもりはない!!」
『駄目だ、あの嬢ちゃん完全にパニクっちまってるぜ』
コダールiに襲われた恐怖が色濃く残っている千早が、パニックに陥るのは無理のないことだった。
これが彼女と同じような人間タイプのフィギュアであれば、こうも取り乱すことはなかったかもしれない。
-
千早が身に着けていたこのブレスレットの名は『ウルトラブレスレット』。
ULTRA−ACTウルトラマンジャックに付属する武器パーツで、ここでは仮面ライダーフォーゼに与えられた拡張パーツの一つだった。
ウルトラマンジャックの本た……代名詞とも言えるこの武器は、使用者の脳波に反応し様々に変形し、効果を発動する。
槍や盾への変形、他にもピンチの時にふしぎな効果を発動して使用者を助けてくれるらしい。
今発動しているのは、ジャックが最も多用した、ウルトラスパークと呼ばれる形態。
ロケットの形状をした小型ナイフに変形し、そこにエネルギーを纏わせ投擲、光の刃として自在に舞いながら、敵を切り裂く。
その技は、ベムスターを初めとする幾多の凶悪怪獣達を打ち破ってきた。
しかし――
「どうしたんだ、千早!大丈夫か!!」
キッチンに新たな影が現れる。騒ぎを聞きつけたフォーゼが、急遽引き返してきたのだった。
「ッ……フォーゼさん!?」
「おい、そっちのお前……くっ!?」
執拗に襲い掛かる光の刃が、ゲッターのボディを掠めていく。
フォーゼに意図を伝えようにも、ウルトラスパークの執拗な襲撃を前に、言葉が繋がらない。
「お前が何者かはわからねぇが……千早に手を出させはしねぇ!仮面ライダーフォーゼ、タイマン晴らしてもら……」
「危ない、屈め!!」
「……へ!?」
ゲッター2の声に、反射的にフォーゼは身を屈め――
刹那の後に、光の刃が彼の頭のすぐ上を走り抜けた。
「うおわっ!?」
「フォ、フォーゼさん!?」
あと一瞬でも遅れていたら、フォーゼの首はボディから分断されていたことだろう。
しかしウルトラスパークは止まる様子を見せず、木製の床をガリガリと削り跡を残しながら、Uターンして再びフォーゼに襲い掛かる。
「わ、わわわっ!?おっおい、よせ千早!」
「えっ!?えっ!?」
ウルトラスパークを慌てて回避しながら、フォーゼは千早に呼びかける。
だがブレスレットは、もはや千早の意思から外れ、暴走を起こしていた。
目についた手近な標的――味方であるはずのフォーゼにも、見境なく刃を向けたのだ。
確かにウルトラブレスレットは強力な武器である。
あらゆる宇宙怪獣とも互角に戦える、ウルトラシリーズ屈指のチート武器と言われている。
……だが、それはあくまで使いこなせればの話。
原作でこの武器が猛威を振るったのも、それはジャック本人の高い技量と精神力あってこそということを忘れてはならない。
『な、何やってんだ!?あの嬢ちゃん、仲間まで斬っちまうつもりか!』
「いや違う、様子がおかしい……!」
-
(制御が……できない!?)
ブレスレットは千早のコントロールを完全に離れていた。
発動の瞬間に千早の抱いた拒絶の念、それに従うままに暴れ続けている。
「千早、ブレスレットを……ウルトラスパークを止めるんだ!!」
「で、でも!?これ、どうすれば止まるの……!?」
使用者の脳波に反応し様々な武器に変形し、効果を発動する。
……言葉にすれば簡単だが、実際に使いこなすとなると全くの別問題だ。
何かの拍子で突然発動し、変形して今まさに飛び回っている光の刃を、すぐに止めることなどできるだろうか?
脳波で制御して動きを停止させろだのどうこうしろなど、そんなイメージをどうやって浮かべられるだろう。
光の国の超技術は、21世紀初頭の平和な日本に生まれた一般人の常識から逸脱しすぎていた。
ぶっつけ本番でブレスレットの仕組みをすぐに理解しものにするには、千早にはあまりにもハードルが高すぎたのだ。
それでなくても、千早は完全に落ち着きを失っている。
例え使い方をマスターできていたとしても、こんな精神状態では十分な制御は不可能だっただろう。
「くっ!駄目、コントロールがきかない……!」
「千早、危ない!避けろ!!」
「え!?」
フォーゼの声に、ブレスレットだけに集中していた千早の意識が、外へと向けられる。
彼女が目にしたのは、暴走するウルトラスパーク。
その進行方向にいるのは――
自分だ。
スパークは、真っ直ぐに千早に向かってきていた。
見境なしの暴走の果てに、ブレスレットはその使用者すらも標的に定めてしまった。
コントロールできない。なら、自分が避けるしかない。
しかし、千早は動けなかった。足が竦み、腰を抜かせたまま、そこから立ち上がることもできなかった。
(あ……)
「千早ッ!!」
フォーゼが焦りを滲ませ叫ぶ。距離的に、彼の助けは間に合わないだろう。
千早にできることは、茫然と迫る刃を眺めることだけ。
迫り来る死を前に、ただ無抵抗を晒すのみ。
(嘘……こんなことで、終わり……?)
ウルトラスパークが、千早の――
千早のいた場所の床を、削り取っていった。
「……え?」
-
千早は我に返る。
死んでいない。まだ生きている。
何故?いったい何が?
アームのようなものが、彼女の身体を掴んでいた。
視界を上に向ける。
(た……助けて、くれた……?)
先程までの拒絶の対象――ゲッター2だった。
「おい、もしかしてアレをコントロールできないでいるのか!?」
「あ……そ、それは……」
言葉を詰まらせる千早を見て、ゲッターは全てを理解したようだった。
最後まで言い終える前に、彼はフォーゼに向けて叫ぶ。
「そこのお前!話は後だ、一旦こいつを撒くぞ!!」
「え!?あ、おい、待てって!!」
勢いで押し切るような形で一方的に言い放ち、ゲッターは千早を抱えたまま部屋の外へと走り出した。
フォーゼも半ば流される格好で、ゲッターの後を追いかけた。
◇ ◇ ◇
キッチンを出て、居間を抜け、廊下を突っ走り。
背後から迫るウルトラスパークを回避しながら、フィギュア達は玄関へと向かう。
脅威的なスピードと破壊力を併せ持つスパークではあるが、暴走状態ではその性能も持て余しており、
戦闘経験の豊富なゲッターとフォーゼにとってはやり過ごすのは難しくはなかった。
そして、3体のフィギュアは玄関の扉を抜け、家の外へと飛び出し――
「今だ、扉を閉めろ!」
「おっしゃぁ!!」
ゲッター2とフォーゼの二人がかりで、扉を叩きつけるように閉める。
直後――
バリバリバリバリ!!……と、扉を食い破らんかのような勢いで、スパークが扉へと突っ込んでくる音が鳴り響いた。
「うおっ!?」
「鉄製の扉だ、そう簡単に破れはしない」
やがて標的を見失ったのか、扉を削るような音は収まり……
しばらくすると、今度はドタン、バタンと騒々しい音が鳴り響き始めた。
家具が倒れ、小物が落下し、壁に穴を空け……
『何やら夫婦喧嘩でも起こってそうな勢いだなぁ』
『変な例え方してんじゃねぇ。しっかし、厄介な支給パーツもあったもんだぜ』
この民家の玄関のドアが鉄製だったのが幸いした。
いかに強力なウルトラブレスレットといえど数センチの小さなパーツでしかない以上、分厚い鉄の板を乱雑な力任せだけで破ることは難しいだろう。
-
「あ……その、ありがとうございます……」
「気にするな」
ゲッターに礼を言う千早の態度は、遠慮がちで、どこか怯え気味で、ひどく疲れているようにも見えた。
『ま、こんな物騒なナリじゃ、ビビるのも無理はねぇか』
『そりゃそうだ。やっぱりここは丸っこくて愛嬌もバッチリの俺、ゲッター3で話しかけるべきだったな!』
『何言ってやがる、てめぇを女の前に出したら別の意味で危険だろうが!!』
「竜馬、弁慶。少し黙っていろ」
AIの隼人は、頭の中で漫才を続ける2つのAIを窘めるように黙らせ……ふと、彼に向けられる視線に気付く。
「え……あ、あの」
「……ああ、何でもない。こっちの話だ」
向けられていたのは、千早の面食らったような表情と視線。
どうやらサブAIの発言は、外には聞こえないらしい。
(やれやれ……面倒なことだ)
「俺からも礼を言わせてもらうぜ。千早を助けてくれてありがとな。え、っと……」
もう一体のフィギュア、仮面ライダーフォーゼが話しかけてくる。
こちらは場馴れしているのか、千早とは対照的に堂々としたものだった。
「ゲッター……新ゲッターロボ、だ。
こっちにはお前達を襲う意図はないし、この殺し合いに付き合うつもりもない」
「そうみたいだな……悪かったな、あんたを誤解しちまってたみたいで」
あまりにもあっさりと言い分を受け入れるフォーゼに、今度はゲッターが面食らう番となった。
「やけに簡単に信じるじゃないか。俺が嘘を言っていたらどうするつもりだ?」
「ここで嘘をつく理由がねぇだろ?あのウルトラブレスレットが俺達を狙ってた間に、あんたはいつでも逃げることはできた。
けど、それでもあんたは千早を助けてくれた……そうだろ?」
「……」
不意に、家の中から何かが割れるような音が響き、彼らの会話や思考に割り込んでくる。
そういえば、走り抜けた廊下の一角には、花瓶に花が活けてあった。
それが床に落下したのか、あるいはあのブレスレットが直接破壊したか。
「……一応、この家からは離れた方がいいかもしれんな」
『隼人、あの光の刃は放っておいていいいのか?』
『ま、時間が経てばそのうち静まるだろ』
「静まる……?」
ふと、隼人は気づく。
あのウルトラスパークが――ウルトラブレスレットが、何をもって動いているかをだ。
あれが支給されたパーツである以上、特例などを考慮しなければ、その動かし方は原則として同じはずだ。
即ち……使用者の電力を消費することで、動く。
「まさか――!?」
隼人の予感を裏付けるかのように――
突然、千早がその場に倒れこんだ。
-
「お、おい!?どうしたんだ、千早!?」
「う、ぅ……」
何か傷を受けた様子はない。ただ、急激な衰弱が見て取れた。
「千早、しっかりしろ!?一体何があった!?」
「すみません、急に眩暈が……さっきから、急に内蔵電力の消耗が激しくなって……」
その言葉に、隼人は推測が正しかったことを確信する。
「電力の消耗……やはりか!?」
『おい、どういうことだ隼人!?』
「この子の消耗の原因は……あのウルトラブレスレットとやらだ」
ウルトラブレスレットは、使用者の電力を消費することで効果を発動させる。
これがウルトラランスやウルトラディフェンダーといった手持ち武器への変形であれば、変形に要する電力だけで済むだろう。
だが、ウルトラスパークの場合は話が別だ。この技は発動の際に、常にブレスレット全体にエネルギーを纏わせる。
そのエネルギーの出処もまた、使用者の電力――スパークが発動している間、電力は消費し続けることになる。
「要するに、あのブレスレットがこの娘の電力を吸い続けているということだ。あれを止めない限り、電力の消費は止まることはない」
「な、なんだって!?」
『くそっ、厄介なモン寄越しやがって!!』
千早がウルトラブレスレットを、自分の意思で停止させることができないでいる以上……
ブレスレットは、千早の電力を際限なく吸い続ける。
吸い尽くされて行き着く先は――機能停止だ。
「よし……待ってろ千早!」
「ど、どこ行くんです!?」
「決まってる。あれがお前のコントロールを外れちまってるなら……俺が直接止めるだけだ」
フォーゼは立ち上がる。
同時に、扉の向こうから一際激しく、何かが割れる音が鳴り響いた。
暴れるスパークが、窓ガラスでも割ったようだ。
その暴れようは、家そのものを全壊させるのではないかと思わせるほど騒々しいものだった。
「む、無茶です!あんなのを、どうにかできるわけないじゃないですか!
あなたも、私も……ただのフィギュアでしかないんですよ!?」
「そいつは、あのブレスレットだって同じだ。だったら、止められないはずがねぇ」
「な、何を……何でそこまで……ヒーロー番組のように、何でも上手くいくわけじゃないんですよ……!?」
こんな自分のために、ヒーローが死地に赴こうとしている。
無意識に自分の殻に閉じ籠り、劣等感の塊になっていた千早には、それが負い目となって心苦しかった。
それでも――
「できる、できないの問題じゃねぇ!友達のピンチを放ってはおけない……それを助けるのに理屈なんかいるかよ!」
彼はそれが当然であるかのように、どこまでも真っ直ぐに言ってみせる。
「チェェェンジ・ゲッタァァァ・ワン!!」
突如、ゲッターが叫び声を上げる。
それと同時に、ゲッター2の姿が変わった。赤を基調としたボディと、2本の角――ゲッター1の姿に。
「え……?この人、急に姿が……」
「よぉ、ロケット頭。俺も手を貸すぜ」
メインAIに切り替わった竜馬が、助太刀を宣言した。
『おい竜馬、何を勝手に……』
『何だよ隼人、いいじゃねぇか。助けるのが反対ってわけでもないんだろ?』
『……まあ確かに、責任の一端は俺達にもある』
突然サブに追いやられ隼人が抗議の声をあげるも、弁慶の言葉に渋々ながら引き下がった。
どの道、彼女を見捨てて去るという選択肢などない。ゲッターに宿る3つの意思は、一致した。
「決まりだな。その娘があれを止められねぇっていうなら、俺達が力ずくで止めるっきゃねぇってわけだ」
そう言うとゲッター1はドアノブの位置まで飛び、身体全体でノブを回して、引っ張る。
フィギュアが通行できる程度に、扉は再び開けられた。
-
「そういやまだちゃんと聞いてなかったな。お前、名前はなんていうんだ?」
「如月弦太朗……仮面ライダーフォーゼだ!よろしくな、ゲッターロボ!」
「……流竜馬だ」
「え?」
「この形態の時は、竜馬って呼びな、弦太朗。それと、さっきのドリル持った形態の時は隼人っていう。
あともう一つ形態があるが……まあいいか、どうせ出番もねぇだろうし」
『いや待て、よくねぇだろ!おいってば!!』
弁慶の抗議を無視して、竜馬――新ゲッター1は、フォーゼと共に戦いの扉の奥へと、跳躍する。
「そんじゃ行くとするか!付いて来いよ!!」
「おう!!」
◇ ◇ ◇
ブレスレットの暴れる家の中に再び飛び込むフォーゼとゲッターを、千早は朦朧とする意識の中で見届ける。
やっぱり、あの人達がわからない。
ああも迷いなく死地に飛び込んでいける感覚は、どうしても理解できない。
でも、今あの人達が戦うのは、紛れもなく自分のためだった。
自分を救うために、命を懸けようとしてくれている。
そんな人達に対して、私はいつまで小さなことに拘っているのだろう。
だけど、一つだけ、共感できた点がある。
『できる、できないの問題じゃねぇ!友達のピンチを放ってはおけない……それを助けるのに理屈なんかいるかよ!』
自分のオリジナルである如月千早も、プロデューサーや765プロの仲間達との絆を胸に、前に向かって歩いた。
根っこの部分は、自分達とそう変わりはないのかもしれない。
方向性こそ違えど、同じ人間という生き物が生み出した作品なのだから。
不安と恐怖に苛まれ、周りが見えなくなっていたのかもしれない。
自分だけがただ頑なになって、心を閉ざしていただけで。
自分から、もう少し歩み寄ることを考えるべきだったのか。
最初にフォーゼと出会った時、彼に同行することを決めた時……
彼を羨ましいと――いや、確かに憧れを抱いた時のように。
そう考えると、あの人達に対して、少しだけ安らぎを得られたような気がして。
――なんだか、眠くなってきた。
心地よい睡魔が、急に全身を包み込んでいく。
少女の意識が遠ざかって、そして――
-
◇ ◇ ◇
書斎。
標的を見失ったウルトラスパークはこの部屋に辿り着き、見境なしに部屋中を荒らし回っていた。
奇しくもそこは、千早とフォーゼが最初に出会った場所。
そして千早を襲った赤いロボットと接触すべく、フォーゼが当初向かうはずだった場所でもある。
「あいつはさっきの……やられちまってるのか!?」
部屋の中に入って、まずフォーゼは驚愕した。
部屋の真ん中に、接触を試みるはずだった赤いロボット・コダールiの残骸が散らばっていたからである。
「あいつ、もしかしてブレスレットにやられて……」
『いや、違うな。頭から肩にかけて吹っ飛ばされている……別の要因で破壊されたと見るべきだ。
そうなると、他に下手人がいるはずだ……一応周囲にも気を配っておけ、竜馬』
「わかってるよ。弦太朗、ボサッとしてる暇はないぞ!!」
「あ、ああ!」
ウルトラスパークが、ゲッターとフォーゼの存在に気付く。
すぐに2体を標的に定め、その刃で屠らんと襲い掛かってきた。
しかし結論から言うと、歴戦のヒーロー2体の前では、ウルトラブレスレットといえど敵ではなかった。
『かなりの高エネルギーを発しているな。直接受け止めるのは無謀だ、逆にこっちが切り刻まれかねん』
隼人の忠告を受け、2体は遠距離攻撃での撃破を試みた。
ゲッターは自身を囮とし、ウルトラスパークを引きつける。
『かなりのスピードだが、動きは直線的で読みやすい。こんな所で余計なダメージを受けるなよ』
「バカ言え、俺がそんなヘマをするかよ!!」
《 FIRE ON 》
一方フォーゼはファイヤーステイツにチェンジし、ヒーハックガンによる射撃攻撃を仕掛けた。
炎の弾丸が跳ぶ。だがウルトラスパークの纏う強力なエネルギーの前に、炎は弾かれてしまう。
勢いを多少は削げるものの、決定打としては届かない。
「くそっ、しぶとい奴だぜ!!」
「あまり時間はかけられねぇ!弦太朗、同時にぶちかまして一気に黙らせるぞ!!」
「おうッ!!」
ヒーハックガンのスロットにファイヤースイッチを接続し、リミットブレイクが発動される。
ゲッターの腹部から、ビームの発射口が露わになる。
「いくぜ!!ライダァァァ爆熱シュゥゥゥト!!!」
「ゲッタァァァァァァビィィィィィィィム!!!」
二人の強力な一撃が、同時に叩き込まれ――
ウルトラスパークは沈黙した。
纏っていたエネルギーを失い、元のブレスレットの形状に戻って、床へと落ちた。
「ま、ざっとこんなもんよ。たかだかパーツ一個でゲッターを止められるとでも思ったか」
『……言うほど簡単な物でもなかったぞ。同時攻撃の一撃でようやく相殺できたような代物だ。
もしゲッター単独で挑んでいたら、もっと手こずっていた』
『結局、ゲッタービームでこっちも消耗しちまったしな。ちょっとは考えろって言ってんのに』
「……うるせーよ!」
勝ち誇る竜馬を、隼人と弁慶が窘める。
事実、ウルトラブレスレットの性能は決して油断の出来るものではなかった。
暴走状態ゆえに対処は難しくはなかったものの、もしこれが真っ当に制御され本来の力を完全に発揮していれば、
恐るべきレベルの兵器として、原作同様に猛威をふるったことだろう。
-
「どうする隼人、二度と作動しないよう完全にぶっ壊しとくか?」
『今後のことを考えるなら、できれば使える武器は少しでも確保しておきたいところだ。ここらに転がっている武器も含めて、な』
ウルトラブレスレットと、そしてコダールiの周囲に散らばる武器パーツを一瞥し、隼人は言った。
そんなゲッターのもとへ、フォーゼが歩み寄ってくる。
消防士のようなファイヤーステイツの赤い姿は、元の白いベースへと戻っていた。
「よう、お疲れさん。なかなかやるじゃねぇか、弦太朗」
「へへっ、俺は全てのフィギュアとダチになる男だ。これくらいで止まってられねぇぜ」
「……全てのフィギュアと、だぁ?」
えらく夢見がちというかぶっ飛んだその発言に、竜馬は露骨に呆れ返った。
しかし、次に続いたフォーゼの言葉は、彼の想像のさらに斜め上を行っていた。
「ああ!そしてゆくゆくは……この殺し合いをやらせている黒幕の人間達とも、友達になる!」
「……はぁ!?何言ってんだお前?」
あまりの宣言に、流石のゲッターのAI達ですらも唖然とする他なかった。
『何なんだこいつ?殺し合いに巻き込まれて、おかしくなってるんじゃないだろうな』
『いや……こいつは本気で言ってやがる』
たった一つの生存権を懸けて、殺意や憎しみ、そして疑心暗鬼も渦巻くことになるであろうこの舞台。
その状況下においてあまりに楽観的な、現実が見えているいない以前の言葉だった。
「全ての、か……つまりその中に、俺達も巻き込もうってわけか」
「まあなっ!」
胸を張って言いながら、フォーゼは拳をゲッターの前へと突き出す。
何かを期待しているようだったが……ゲッターはその拳に目もくれず、フォーゼに背を向けた。
「……生憎だが、そういうお手々繋いで馴れ合うようなノリは、御免だぜ。
お前が何を考えてようが、俺は自分のやることを変えるつもりはねぇ。
同じフィギュアだろうが黒幕の人間どもだろうが、俺の邪魔をする奴は誰であろうと容赦なく叩き潰す」
そう言ってのける竜馬に、しかしフォーゼは言い返すことはない。
その理由は――既に双方の意図が通じ合っていたからか。
ゲッターはもう一度、フォーゼに向き直り、言った。
「けどまぁ……そんなバカなことをマジでやるつもりなら、俺もてめぇを否定するつもりはねぇ。
俺は俺、お前はお前……せいぜい頑張るこった」
「そっか、今はそれだけでも十分だ。けど、いずれあんたも俺のことをダチって呼ばせてやるぜ」
まあ、諦めないんだろうな。こいつはある意味、底抜けだ。
そんなことを思いながら、ゲッターは再び背を向けた。
「……それより早いとこ、あの嬢ちゃんの所に行ってやんな。このブレスレットのせいで疲れちまってるんだろ」
「ああ、行ってくる!」
千早のもとへと戻るべく、フォーゼは玄関へと駆けて行った。
そして、書斎にはゲッター1体だけが残され、静けさが戻った。
やがてゲッターの内部で、沈黙していた二つのサブAIが口を出してくる。
『ああ言った割には機嫌良さそうじゃないか、竜馬?』
「さてな。ダチがどうとかはともかく、ああいうバカは嫌いじゃねぇよ。
殺し合いに巻き込まれて、変な夢も見て……いよいよ俺までおかしくなっちまったのかもな?」
『お前がそんなタマか。ただ、お前と同レベルのバカが他にもいた……世の中は広いってだけの話だ』
「けっ、言ってろ」
『だがな……あいつの考え方は、ある意味では人間と玩具の関係の真理を突いているかもしれん』
隼人の思わぬ発言に、竜馬と弁慶は驚く。
隼人のフォーゼに対する印象は、意外にも肯定的だった。
「……珍しいな。お前があんなのと同調するなんてよ」
『同調というわけではないが……もし、この殺し合いが全て終わった後のことを考えるなら……
あいつの言い分も、馬鹿げていると一蹴できる問題ではないだろうな』
「おいおい、まさか人間達に媚びようってんじゃねぇだろうな」
『馬鹿を言え。そもそも媚びて話が通じる奴が、こんなくだらん殺人ゲームなど始めはしない』
『そうそう。そして俺達みたいなろくでなしを呼び出したりしねぇよな』
隼人と弁慶もまた、同様だった。ただ一途に我が道を貫き通す。
結局このゲッターチーム3人の人格は、突き詰めれば皆、似た者同士なのだ。
そして、方向性こそ違えど、恐らくはフォーゼも。
「この殺し合いで人間が何を企んでるか、どうして俺達のような人格をフィギュアに宿したか……理由なんざ知ったことじゃねぇ。
ただ、俺達の活躍が望みというなら、存分に見せつけるまでだ。
そして味わわせてやる。フィギュアと、原作の人格の意地と――ゲッターの恐ろしさをな!!」
-
その時――
「千早ッ!!」
玄関から、フォーゼの声が聞こえた。
「おい、千早!!」
その声色には込められていた。ただならぬ事態が発生した、という意味が。
彼の声を受けて、ゲッターもすぐに玄関へと走る。
「なんだ、どうしたんだ弦太朗の奴!?」
『……まさか!!』
隼人の思考が、一つの可能性に行き着く。
それは、ブレスレットが停止した理由についてだ。
ゲッターとフォーゼの攻撃で、ブレスレットは沈黙したと思っていた。
だが、原因はそうではなかったとしたら?
拡張パーツの使用には、性能や効果に応じて消費電力も変わってくる。
ブレスレットの力は、武器としては極めて強大だった。その分燃費も馬鹿にならないと考えるのが自然だ。
そんな武器が、長時間起動し続けた。
その際に消費される電力が、予想を遥かに上回っていたとしたら。
供給されていた電力が、底を尽いたという可能性。
それはすなわち、最悪の結果――手遅れだったことを意味する。
「弦太朗!!一体何が!?」
玄関の扉を出て、そこでゲッターが見たものは――
-
「千早が……千早が、どこにもいないんだ!!」
ただ一人、立ち尽くすフォーゼの姿だった。
「なっ……!?」
予想外の展開に、ゲッターは暫し絶句する。
-
『いなくなっただと……?そんな馬鹿な』
それは隼人の危惧した最悪とは、全く違うものだった。
最悪にこそ至らずとも、しかし同時に、極めて不穏な空気を感じさせる展開でもあった。
「すまねぇ竜馬、千早を探すのを手伝ってくれ!動き回るにしてもそう遠くには行かないはずだ!」
「あ、ああ!わかってる!」
呆然としている暇はない。フォーゼの声に我に返ったゲッターは、彼と共に千早を捜し始める。
だが、隼人は解せない。何故、千早は姿を消したのか。
あの消耗具合で、大きく動き回れるとは到底思えなかった。
『一体どうしちまったんだ千早ちゃんは……そんなに俺達が信用できなかったのかなぁ……』
「さあな。けどだからって、あんな状態で一人にさせられねぇだろ。ったく……どうなってやがる」
『わからん、だが……』
隼人のAIの思考の中に、一つの推測が浮かび上がる。
この場に、第三者が介入したという可能性だ。
一体誰が?あの赤いロボットのフィギュアを破壊した下手人だとしたら、危険だ。
では何の目的で?殺し合いに乗っているなら、その場で破壊しているはずだ。
それとも、消耗した彼女を助けようとして、連れ出したのか?
外にも音が聞こえるほど激しい戦いだった、この場を離れるという選択肢はありえる。
ともかく、その第三者が殺し合いに乗っている側であろうと、自分達同様に良しとしない側であろうと……
どういうスタンスを持っていたとしても、事態が面倒な方向へとこじれていることは確かだ。
『どうも、嫌な流れになってきやがった……』
自分の思考が予測する可能性の中に、確実に暗雲が立ち込めてきているのを、隼人は嫌でも感じさせられた。
【黎明/エリアA(民家・玄関前)】
【新ゲッター1@リボルテック】
【電力残量:30%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、プチマスィーンズ(ハウリン)@武装神姫、ミニギャオス(ギャオス)@リボルテック、ウルトラブレスレット(ウルトラマンジャック)@ULTRA-ACT
マグナバイザー(仮面ライダートルク)@figma、マーカライトファープ(モゲラ)@リボルテック、コダールi基本パーツ一式@ROBOT魂】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
基本方針:主催者へ反抗
1:千早を探す
2:襲ってくる相手は倒す
※新ゲッター2、新ゲッター3へチェンジできます。
【仮面ライダーフォーゼ@S.H.シリーズ】
【電力残量:40%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(モジュール全種)、拡張パーツ×1(確認済)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:すべてのフィギュアとダチになる
1:千早を探す
※ベース・エレキ・ファイヤー・マグネットの各ステイツにフォームチェンジが可能です。
※コズミックステイツへのチェンジには何らかの条件がある模様です。
-
◇ ◇ ◇
――彼らのいた家から少し離れた、とある別の民家にて。
その一室に、クレイドルの上で眠る、如月千早の姿があった。
そして彼女の傍らには、一体のフィギュアの姿。
「……なんとか間に合ったか」
figma No.137、テッカマンブレード。
彼が、千早を連れだした張本人だった。
彼は阿修羅の最期を看取った後、近辺の住宅街を徘徊していた。
他のフィギュアを、そして阿修羅を殺したであろうゲッターを探して。
そんな時、ある民家から大きな音が聞こえてきた。
人為的に発生した、激しくけたたましい音が。
――戦いの音だ。
ブレードはすぐに音の聞こえた家へと向かった。
まだ始まって間もないにも拘らず、ここまで激しさを感じさせる戦闘を行えるとなると、殺し合いに乗っている輩である可能性が高い。
だとすれば、その危険人物……いやフィギュアは、すぐにでも打ち倒さねばならないだろう。
そう判断して、ブレードが家の前まで辿り着くと……
その家の玄関前には、少女が一人倒れていた。
少女は酷く衰弱していた。外傷はない、ただ内蔵電力だけが極端に消耗しているようだった。
家の中から聞こえる戦いの音は、鳴り止むことなく続いている。
恐らく、少女と無関係ではあるまい。この戦いから、命からがら逃げてきたのだろうか?
そしてその際に使い慣れない武器やパーツを使って、電力を過剰に消耗してしまったのかもしれない。
見た限り、バトルには縁のない非戦闘タイプのフィギュアのようだ。
いずれにしても、目の前で弱っている少女を放置してまで、戦いに臨むことはできなかった。
中で殺し合っている輩も気になるが、今はまずこの少女を助けるのが先決だった。
すぐにでも消費した電力を回復させなければ、命に関わる。一刻の猶予もない。
かくして、ブレードは少女――千早を抱え、彼女を安全な場所まで避難させることを選んだのだった。
「あの家の中で戦っていたのは……もしや件のゲッターロボなのか、それとも……」
千早をクレイドルの上に寝かせ、事態が落ち着きを取り戻してから、ブレードはひとり考える。
ゲッターロボ……曲がりなりにも、一つの作品の主役ロボットだ。
悪しき存在から人類を守って戦った、正義のロボットであることには違いない。
それはあの阿修羅像を破壊した可能性の高い、残虐なゲッターロボにしてもそうだ。
いかに残虐で外道な輩だったとしても、悪に堕ちるとは考えにくい――
-
ふと、ブレードは疑問を抱く。
ゲッターには、本当に原作のキャラの人格が宿っているのだろうか?と。
乗っているパイロットならともかく、ゲッター自体はただの兵器であるはずだ。
兵器に人格など存在するのか?彼らにとっての原作の人格というのは、何を指すというのか?
疑問はさらに広がっていく。
そもそも――本当に全てのフィギュアに、原作に基づいた人格が与えられているのだろうか?
ロボットタイプに限らず、全てのフィギュアに対して言える疑問だった。
フィギュアに宿された人格が、原作と全く同じであると誰が保証できるだろう?
いや、仮に人格が原作に近づけられていたとしても同じことだ。周囲の環境や条件でその動き方は如何様にも変わる。
それはつまり……原作の情報とそれに基づいた善悪の判定が、全くアテにならないということでもある。
例えば正義のヒーローを模したフィギュアがあったとして、人格まで確実にヒーローのものであると言い切れるのか?
ヒーローの姿を模しただけで、そこに宿っているのは悪しき人格……その可能性を否定できるだろうか?
彼がこうした可能性を考えるに至ったのは、彼自身、既に原作とかけ離れている自覚があるからだ。
確かに人格こそDボゥイのそれを受け継いでいるが、ただそれだけでしかない。
原作におけるDボゥイ――相羽タカヤの物語は、あまりにも壮絶で悲劇的だった。
家族と殺し合い、かけがえのない記憶すらも失い、最後には廃人となって全てを失った。
だが、ここにいるfigmaのテッカマンブレードはどうだ。
オリジナルのこれらの記憶や経験こそ確かにあれど、それらも結局は他人事でしかない。
彼自身には、初めから家族もなければかけがえのない物も何も持ち合わせていない。
悲劇の要因ともいえるものは全て排除され、もはやオリジナルとは全く別の存在と言っても差し支えはなかった。
彼は、オリジナルが背負う全ての悲しみから解放されたテッカマンブレードである。
悲劇的な背景などない。残酷な運命もない。大切なものを失っていく苦しみも存在しない。
失うものなど最初から持っていない。背負う物もなければ……そこから生まれる意志もない。
彼は自由だった。
同時に、残酷なまでに孤独だった。
自分達はフィギュアであり、人間の手で作られた存在である。
人間達の手で、その身体にどんな仕掛けがしてあるかわかったものではない。
全てのフィギュアに同じ条件が与えられている確証はないし、自分の中にも未知の要素が加えられているかもしれない。
……そういう意味では、今目の前で眠っている少女も、無害であると断言できるわけではない。
非戦闘タイプに見えるが実は強大な戦闘力を秘めているかもしれないし、残酷な悪魔のような人格を宿している可能性もある。
疑念を抱き始めればキリはない。
それでも、彼女を助けることを選んだのは……オリジナルの記憶ゆえか。
彼は無意識に、千早に妹の姿を重ね合わせていた。
原作における彼の妹――相羽ミユキの姿を。
あるいは……
背負う物も大切な存在も持ち合わせないフィギュアの彼が、その空虚を埋めるために、千早にその役割を求めたのか。
如月千早は眠り続ける。
フォーゼの、ヒーロー達の見せた姿に、ほんの少しの自信と希望を見出し、ささやかな安堵に包まれながら。
取り巻く環境が大きく変貌していることなど、露とも知らず。
眠っている間に、彼女を中心に事態がこじれ始めていることにも気付かずに。
【黎明/エリアG(民家・居間)】
【テッカマンブレード@figma】
【電力残量:80%】
【装備:テックランサー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、槍(阿修羅)@リボルテック、弓矢(阿修羅)@リボルテック、パニッシャー(ウルフウッド)@リボルテック、三叉矛(海皇ポセイドン)@聖闘士聖衣神話、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:殺しあいの打破
1:少女(千早)を守る
2:民家の中で戦っていたフィギュアを警戒
3:ゲッターロボ(阿修羅の破壊者)を倒す
※ゲッターロボの内の一体が殺し合いに乗っていると思っています。
※他のフィギュアの人格が原作通りではない可能性を警戒しています。
【如月千早@figma】
【電力残量:5%(回復中)】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マイク・スピーカー・フットモニター・照明機材)、拡張パーツ×1(確認済)】
【状態:睡眠中】
【思考・行動】
基本方針:私の、したいことは……
1:フォーゼ、新ゲッターを信用し、共に行動する。
-
投下終了しました
-
お二人とも投下乙です!
>>548
参加者中最もエロいアリサを前にしたら仕方ないよね…
とうとうマンションでゴッドイーターとモンスターハンターが出会うのか、展開が楽しみです。
>>572
ド ワ オ !
まさかの虚無夢落ちにはやられましたw
ブレードはどんどん誤解の騎士になっているような…色々誤解が解けるのはいつでしょうね
-
感想が滞ってましたのでお二人分遅ればせながら!
>>533
沢嶋さんはそもそも自分自身に疑問自体が沸かないのか……これはよっぽどのことがない限り気付かなそう。
シンと筆頭の通じ合ってる感じいいですね。一方沢嶋さんの意志疎通は……うん……
>>572
クロスオーバー感がいよいよ楽しい……! ゲッターとライダーがウルトラマンの武器と戦うとか、ここならではですね!
千早がきっちりヒロインやってたりとか、新ゲの虚無りネタとか、ブレードの失うものが無いゆえの孤独とか、
各作品のキャラをそれぞれ活かしてくるあたりは流石です。今後への引きもバッチリですね。
-
セーラーマーキュリー、マジンガーZ、沙英、VAVA を投下します
-
ひだまり荘はやまぶき高校の門前にある2階建ての小さなアパートである。
変わり者が集まると言われていたが、紗英は同級生のヒロを始め、後輩たちもいい子が多いと思っている。
住民は仲良く、学校生活も平和そのもので悩みらしい悩みは将来についてくらいであった。
そんな作品の登場人物を彼女は模していた。
figma紗英は公園の茂みに隠れ、ただただ震えていた。
何度かその場を離れようとしたのだが、脳裏に赤い怪獣の姿が浮かび、勇者が壊される音が蘇って邪魔をしていた。
運動神経はいい。ひたすら走ればたとえ遭遇しても逃げ切れるかもしれない。
何度もそう考えるのに、足が震えて動かなかった。
戦いを経験したことのない少女としては当然の反応である。
何度目かの決意が折れ、頭を抱えて座り直した時だ。
「誰か居るのか?」
男の声が聞こえ、古臭い黒いロボットが姿を見せた。
先に会ったガオガイガーとは違い線が少なくどこか丸みを帯びていた。
「お、いたいた。安心していいぜ。見た目はちょっと厳ついけど俺はマジンガーZ、正義の味方さ」
「いえ……大丈夫です。私が最初にあった人もロボットでしたし……」
紗英は安堵しながら返事をする。どうやら先程のガオガイガーと同じく正義の心を持っているらしい。
「へぇ、そいつは助かった。こっちにも女の子がいるんだぜ。なあ亜美ちゃん」
「ええ……自己紹介もいいけど、ここは危険よ。自己紹介は離れてからにしましょう」
「いっけねえ、俺に似ている奴から逃げている途中だった。上空から君を見つけたから降りてきたんだ。
誰かと一緒にいたんだろ? そいつと合流しに行こうぜ」
紗英は思わず言葉に詰まる。彼が悪いわけじゃない。
自分の説明が足りなかっただけだ。
だから涙が流れた自分を見て、焦るマジンガーに申し訳がなかった。
「すみません。取り乱してしまって……」
「いやいいってことさ。けどその怪獣とんでもねぇな」
マジンガーは顎に手を当てて、考え事をしているようだ。
ガオガイガーと怪獣の激闘を伝えて以来、亜美と二人でより警戒心を深めたようだ。
「ガオガイガーというロボットについてネットで調べてみたわ。
原作では異星の技術を盛りこまれて特に攻撃力が高いわね。
紗英さんが渡したハンマーを使った攻撃は標的を問答無用で光にする技、ゴルディオンハンマーのことだと思うわ」
「俺たちがどこまで原作に忠実に再現されているかはわからねぇが……それでも破壊力が高いのは変わんねぇんだろ?
その技で倒せない赤い怪獣はとんでもねえな」
「ええ、警戒するべきね。けど情報が足りなさすぎる。先に紗英さんを避難させましょう」
二人は紗英を守るように挟んで結論をつけた。
申し訳なくて思わず二人に謝る。
「ごめん……私が頼りなくて。特に水野さんは年下なのに……」
「気にしないでください、紗英さん。それに歳はあくまで原作の話で、私たちはみんな起動したばかりです」
「そうそう、俺たちはみんな生まれたてさ。堅苦しいのはなしにしようぜ」
カラカラと笑うマジンガーを前に紗英は肩の力が抜けた。
自分を和ませようと気を遣っているのがわかり、とてもありがたい。
「二人ともありがとう。一人だったらどうにもならなかった……」
「こういう時は助け合いですよ」
紗英は亜美と二人で顔を見合わせて、微笑み合う。
さっきまで荒れていた心が嘘みたいだ。
「それでこれから――」
「悪い、二人とも。ちょっと忘れ物しちまった。先に行ってくれないか?」
「忘れ物ってなにを……」
紗英がマジンガーの唐突な提案に戸惑って質問しようとしたが、亜美が肩を掴んで止めた。
気のせいか、彼女は一瞬だけ厳しい表情をしたように思えた。
「わかったわ、マジンガーZ。紗英さんと一緒に銀行に向かうから気をつけてね」
「な〜に、このマジンガー様の手にかかればちょろいちょろい。じゃ、ちょっと行ってくらあ」
マジンガーZはいつもの調子できた道を戻っていった。
唐突な展開に紗英はついていけないが、亜美とは打ち合わせをしていたようだ。
彼女は自分の手を掴み、歩みが速くなっている。
「紗英さん、早く着いてお茶でもしません?」
「ならヂェリカンも探さないと。……なんかひだまり荘に帰ってきたみたい」
紗英が頬をかいて談笑を続ける。
-
だから気づかなかった。二人がいち早く察知し、紗英を遠ざける理由となった殺意に。
【早朝/エリアO(公園出口)】
【セーラーマーキュリー@S.H.シリーズ】
【電力残量:50%】
【装備:なし】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ポケコン)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:ダメージ小、疲労】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いの阻止
1:紗英を連れて銀行に。
2:銀行にてマジンガーZと合流。
3:仲間・情報を収集し、対主催のための態勢を整える
【沙英@figma】
【電力残量:90%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、ビームサブマシンガン(ガンダムサンドロック改)@ROBOT魂】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:とにかく生き残る
1:マーキュリーと一緒に銀行へ。
2:赤い怪獣(=デストロイア)を恐怖。
3:凱さん(=ガオガイガー)に対して罪悪感
※逆光眼鏡は差し替えパーツではなく、通常の表情変化として扱われます。
また、乃莉の顔差し替えパーツは付属していません。
□
冷たい夜風がわずかに遊具を動かし、金属の鎖がきしむ。
土の上に鉄の城は仁王立ちして、全身を刺すような鋭い殺気を受け止めていた。
砂利を踏み進める音が聞こえる。
マジンガーZは街灯に照らされた青い単眼のロボットを睨みつけた。
「黒いレプリロイドか。さっき見た奴に似ているな?」
「……もう一人のマジンガーに会ったのか?」
警戒態勢を解かずに問いかける。一触即発の空気の中で、相手は世間話でもするかのように話し始めた。
「俺が見た奴はもっと刺々しくて強そうだった。けど、お前もやるんだろ?」
ぶわっ、と黒いオーラが広がったように錯覚する。
気の弱いものが当てられたら失神しかねないほどの殺意。
やはり紗英を避難させて正解だったようだ。
「なにが目的か知らねぇが……このマジンガー様が相手になってやるぜ。かかってきな!」
マジンガーZは見得を切って青鬼と対峙する。
こいつをのさばらせてはいけない。そんな気がした。
だが予想に反して相手の殺気は急激にしぼんでいく。
「……お前じゃダメだ」
なにがだ、とマジンガーZが尋ねるが相手は意に介さない。
「アイツを……伝説を本気にさせるにはお前じゃダメだ。
ロックマンの仲間であればその限りじゃないが……お前は覚悟が出来過ぎている」
「なにを言っているんだお前!」
「そうだ。奴を本気にさせるには覚悟のできていない奴じゃないとダメだ。
もっと平和に暮らして、もっと戦いに無縁で、もっと弱くなければ……。
女がいい。そいつの首でも突きつければ、奴も目を覚ますだろう。クックックッ……」
両肩を震わせ敵は笑い続ける。同時にマジンガーZの頭が怒りのあまり逆に冷えて腰を落とした。
ここで確実に仕留めなければいけない。たとえ自分の命と相打ちになろうとも。
そんな覚悟が怒りより先に、冷静な戦士へのスイッチになった。
「……お前を逃すわけにはいかねえ」
-
「ほう、となると……」
モノアイを光らす殺人鬼が笑ったように見えた。
「その先にいるな? 俺の条件を満たした相手が!」
マジンガーZは地面を蹴って加速する。TVアニメのように機敏に動いて標的を定めた。
兜甲児と戦い抜いた幾多の経験を元に、容赦なく有名な技を叩き込もうとする。
「ロケットパ――なにっ!?」
突如現れた白い放熱板のような物体が足をすくった。
バランスを崩してマジンガーZはうつ伏せに倒れる。
マズイ、とすぐに立ち上がろうとしたが、もう一つの放熱板――フィンファンネルが垂直に落ちて地面と首を縫いつけた。
コの字の中にちょうど首が挟まり、フィンファンネルは地面に深々と突き刺さる。
マジンガーZはまるで首枷をはめられたような状況に焦った。
「もう一人のお前の戦いを見せてもらったが、これで倒せるとは思っていない。だからいかせてもらうぞ」
「待ちや……がれ!」
「なんなら鬼ごっこでもするか? 俺は奴の本気を引き出せるならそれでいい。
参加は自由だ。それじゃあよ〜い……」
耳をつんざくような爆音が聴覚センサーを震わせる。
煙に紛れて敵の気配も遠のいていった。完全にしてやられた。
マジンガーZは悔しさのあまり叫んでしまう。
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
-
【早朝/エリアO(公園)】
【マジンガーZ@スーパーロボット超合金】
【電力残量:60%】
【装備:ジェットスクランダー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、拡張パーツ×1〜2(確認済み)】
【状態:ダメージ中、疲労、首をフィンファンネルで拘束されて動けない】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いの阻止
1:VAVA(名前は知らない)を追いかける。
2:亜美と紗英を絶対に守りぬく。
3:対主催のための態勢を整える
4:マジンカイザーが気になる
【VAVA@D-Arts】
【電力残量:60%】
【装備:肩キャノン】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、フィン・ファンネル×7(νガンダム)@ROBOT魂】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:ロックマンの『伝説』を叩き潰す。
1:ロックマンを煽るために女の首がほしい。
2:さらなる強さを得る。
3:ゲーム煽動。
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投下終了。
タイトルは ひだまりのない世界で です。
問題がありましたら指摘をお願いします。
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投下乙です!
フィンファンネルの意外な使い方がGJです
しかし確かに、高校生のひだまりメンバーに対し、セーラー戦士は中学生で年下なんだよなぁ…
両者を並べてみると等身の違いをはじめどう考えても逆にしか見えないw
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ウッディ、アリサ、アーンヴァルMK.2、ハンター(レウス装備)、予約します
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ロジャー=スミス、初音ミク、ゴジラ1995で予約します
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ロジャーの交渉術がゴジラに通用するのか……?
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今日中に投下できそうもないので予約を破棄します。
申し訳ありません。
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>>581
そういやフィギュアそのまんまの等身だから身長基準になる他のロワよりもその辺の違いがはっきりとわかるんだな、このロワ
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手元のをよく見比べると、マーキュリーの背がマジンガーZよりほんの僅かに高い……
ジュピターに至ってはもう完全に
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まこちゃんは背が高いからね。
仕方ないね。
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まこちゃんはああ見えて料理得意だからね、仕方ない
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嫁にするならまこちゃんってはっきり分かんだね
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投下します
-
私の名は、ロジャー・スミス。
この実験場(まち)には必要な仕事をしている。
総合自律戦闘実験"BATTLE ROYALE"の実験場として用意された街。
ここにいるのは、恐らくは実験の被験者として選ばれたアクションフィギュアのみ。
被験体となった我々フィギュアには、心が与えられた。
基となった原作‐オリジナル‐のメモリーと、それに基づいた自我という形で。
メモリー……私にとってのそれは、原作の人格と記憶。
アニメ『THE ビッグオー』……その主人公、ロジャー・スミス。
彼のメモリーを基に、フィギュアとしての自我が構成され、今の私は存在している。
それは決して自然に構成されることのない、極めて歪なものだ。
原作のロジャー・スミスは、フィギュアである自分からすればあくまで他人に過ぎない。
しかし彼の知識、記憶、経験……それらは紛れもない自身のものであると認識してもいる。
他人のメモリーを他人の物であると理解した上で、自分自身の物として受け入れている。
あまりにも矛盾だらけの記憶だ。
その矛盾を突き詰めていけば……与えられた仮初の自我など、いとも容易く崩壊することだろう。
それでも私が自分を保てていられるのは、理性が、本能が――無意識の恐怖が、自分の中に潜む禁忌から目を背けさせているのか。
あるいは……気にならないよう、そうプログラムされているのか。
確かなことは、我々の持つメモリーは、人為的に埋め込まれた作り物であるということだ。
特殊状況自律総合戦闘実験……その言葉から推測される人間達の目的から結びつけるならば、
他のフィギュアも私と同様に、原作のメモリーが植え付けられている可能性が高い。
だが、人の手による作り物の自我が、全く同じ形で与えられているという確証はない。
例えば、もし自分がフィギュアである自覚がなかったら?
与えられた原作のメモリーを、自分自身のものとして何の疑いもなく受け入れていたら?
そのフィギュアは、自分をモデルとなった原作のキャラクター本人であるように錯覚し、振る舞うことだろう。
人が搭乗し操縦するタイプのロボット兵器を模したフィギュアも、そのまま被験体として実験に組み込まれているようだ。
ならば、その人格は如何なる形で構成されているのか?
搭乗者の人格がそのまま反映されるのか。それとも、ロボット自身の自我が発現されることとなるのか。
必ずしも、原作のメモリーが植え付けられている、とは限らない。
それらとは逆に、原作とは全く別のメモリーが植え付けられている可能性も否定はできない。
主催する人間の想像力の数だけ、可能性は存在する。考え出せばキリはない。
それでもネゴシエイトを行う以上は、あらゆるケースを可能な限り考慮した上で臨む必要がある。
些細な認識のずれが、時に致命的なすれ違いを生じさせることもある。
その意味でも、彼女との邂逅は意義のあるものだったといえるだろう。
初音ミク――彼女の原作は、ボーカロイドと呼ばれる音声ソフト。
彼女のメモリーの基になっているのは、多くの人間達により形作られたイメージと、そして彼女自身の知る歌。
原作という背景や物語を持つ私とは、根本的に異なる過程で組み上げられた、彼女の自我。
彼女の存在は、この世界の全てを従来の価値観だけで一面的に判断すべきではないということを再確認させた。
また、対象がフィギュアである限り、その推測に絶対は存在し得ないことも。
例えばそれが、理性すら感じさせない異形の怪物‐モンスター‐であったとしても。
Act:39 A Legacy of GODZILLA
◇ ◇ ◇
-
交差点。
そこに広がる異様な光景を前に、ロジャーはマシンイタッシャーを停車させた。
路面のあちこちに残された焦げ跡。
路面自体を抉ったかのような跡も、いくつも刻み付けられていた。
さらに周辺一帯に不自然に漂う、心地の悪い熱……車内にいても十分に伝わってくる。
『破壊』の跡――ロジャーがその判断に行き着くのに時間はかからなかった。
「何これ……一体何があったんでしょう?」
「待て、ミク。迂闊に外に出てはいけない」
扉に手をかけようとしたミクを制止する。
ロジャーは破壊の跡から、只ならぬ事態を察していた。
コンクリートの路面を抉るなど、並のフィギュアに可能な芸当ではない。
そして周囲に現在進行形で漂う熱が、この地にまだ危機が残っていることを表していた。
「ロジャーさん!あれ、見てください!」
ミクがそう言って指差した方向は、交差点の中心部。
道路の傷跡の中央――そこには、一体のフィギュアの姿があった。
人型でもない、機械でもない。
映画からそのまま飛び出してきたかのような、異形の怪物‐モンスター‐……
いや、怪獣と言ったところか。
交差点のこの荒れ様は、あの怪獣型フィギュアによるものと見て間違いはないだろう。
漂う熱の出処も、あの内側から赤く燃えているような、黒い身体からのようだった。
怪獣が、咆哮を轟かせた。
今まさに、眠りから目を覚ましたかのような叫び。
たちの悪いことに、怪獣の下にはクレイドルが敷かれていた。
(……どうやら最悪の場面に鉢合わせしてしまったようだな)
ロジャーの全身に緊張が走る。怪獣を中心に、空気が張り詰める。
――それを打ち砕くように、あまりにも場違いな声が傍らの少女から発せられた。
「す、すごい!ゴジラですよ、ロジャーさん!」
彼女の紡ぐ機械音声の中には、目の前の怪獣に対する憧れの情念すら含まれていた。
-
ゴジラ放映開始でちょうどイイタイミング
支援
-
「ゴジラ……知っているのか、ミク」
「それはもう!日本で一番最初に誕生した怪獣で、世界にも通用する有名な怪獣なんですよ!」
咆哮を轟かせるモンスターを前に、ミクは目を輝かせながら言った。
有名な怪獣を目の当たりにする感動はわかるが、それはフィクションに限っての話だ。
だが、ゴジラは目の前に現実として存在している。
フィギュアという形でスケールダウンこそしているものの、そこには凡そ理性というものは感じられない。
存在するのは獣の本能。放置すればその本能の赴くままに破壊を繰り広げることだろう。
だが……
「大丈夫ですよ!ああ見えても、ゴジラはいい怪獣なんです!」
ロジャーのゴジラに対する視線を汲み取ったか、ミクは自信をもってはっきりと言いきった。
「……いい怪獣、だと?」
「確かに、最初は街を破壊する怖い怪獣だったといいます。
でも、だんだん悪い怪獣や宇宙人から地球を守る、いい怪獣に変わっていったそうです」
「何故君がそれを知っている?ボーカロイドとしてのデータに、ゴジラの詳細が備わっているわけでもあるまい」
「ゴジラの歌なら、いっぱい知っていますから!」
(……成程、歌からの知識ということか)
ミクはゴジラやその作品そのものを知っているわけではない。
彼女のメモリーの中にある歌を通じて、ゴジラという存在を語っているのだ。
「見かけはちょっぴり怖いけど、ほんとはみんなと仲良くしたい!地球が大好きな、みんなの友達……
そんな風に歌われています。それがゴジラという怪獣なんです!」
あまりにも突飛な、にわかには信じ難い――だがそれは現実的な視点や価値観からくる印象である。
だがゴジラはフィクションの世界の住人だ。
フィクションの世界においては、人の想像力の数だけ可能性が存在する。
それこそあの怪獣が人語を口にし、気さくに話しかけてくるような事態があっても、何の不思議もない。
しかし。
「……どう見ても、友好的な存在には見えないのだが」
だとすれば今のあのゴジラの姿は何だ?
あの内から湧き出るようなマグマの如き赤い色と、燃えたぎる熱は一体何だ?
胸騒ぎが治まらない。ロジャーの中にある、生あるものとしての本能が、あのゴジラは危険だと警告している。
「そんなことありません!ちょっと機嫌が悪いだけだと思います!だから、私が説得してみます!」
「説得だと!?」
言うや否や、彼女は小型マイクを手に取った。
まさか――そう、そのまさかだ。
「ゴジラさーん!聞こえますかー!?私の声がわかりますかー!?」
マシンイタッシャーに搭載されている小型のスピーカーを拡声器として、ミクの声が周囲に響き渡る。
流石のロジャーも、これには凍り付いた。
ゴジラもまたその声に反応し、当然その意識……いや殺意の矛先を、マシンイタッシャーへと向けてきた。
「なっ……おい!馬鹿な真似をするんじゃない!」
「任せてください!こういう時、ゴジラさんの怒りを静める歌がありますから!」
「怒りを静める歌、だと……?」
-
「ゴジラさん、ゴジラさん♪
花もまた咲く、月も出る♪
さあさお飲みな、ゴジラさん♪」
……。
周囲に熱が漂う中、急に薄ら寒くなるような錯覚を覚えた。
「……何だそれは」
「ゴジラさんの歌です!シリーズ2作目の頃に世に出たといわれる、ゴジラさんを歌った歌としては最古のものらしいですよ!」
「これがか!?」
「ちなみにこれのレコードのB面にはうちのアンギラスという歌が入ってたそうです。
あ、アンギラスというのは2作目におけるゴジラの最初の対戦相手で、後の相棒でありパシリであり嫁でもあるそうですよ」
「別にそんなことは聞いてはいない!」
「交わす笑顔の放射能、甘いゴジラとアンギラス……」
いろいろと酷い歌詞だ。
あまりの空気の壊れ具合に、ロジャーは思わず眩暈を起こしそうになる。
しかし、ゴジラは壊れた空気をいつまでも読めるほど穏やかでもなかった。
再び、ゴジラが吼える。
その雄叫びに、ミクは慌てて歌を再開した。
「ああっゴジラさん落ち着いて!ほら、聴いてください!
ゴジラさん、ゴジラさん♪
灘のお酒にお酌は美人、機嫌直してもう一本♪」
酔いの回ったダメ親父に酌を勧める芸者、そんなお座敷小唄のイメージが浮かび上がる。
そんな物の例えをロジャー・スミスがしてたまるか。
などと、自分の冷徹な理性からの指摘に多少の自己嫌悪を抱きつつ……
ロジャーは、即座にアクセルを踏み込んだ。
「え……きゃっ!?」
マシンイタッシャーは急発進し、前方へと飛び出し――
直後――
ゴジラの口から、熱線が吐き出された。
それは、直前までマシンイタッシャーの停車していた場所を走り抜ける。
コンクリートの地面を削り溶かしながら、周囲と同様の傷跡を路面に一本増やす。
「え、ええっ!?ゴ、ゴジラさん待って、私達はあなたの友達――うひゃぁっ!?」
事態の深刻さを呑み込めたか、ミクがゴジラを呼ぶ声にも明確な焦りと怯えが混じっていた。
「無駄だ、ミク。あれは言葉の通じる相手ではない!」
ロジャーは見逃してはいなかった。
包丁や鍋蓋……ゴジラの周辺には、明らかにゴジラには似つかわしくないフィギュアのパーツが散らばっていたことを。
少し離れた場所には破損したバイクらしき乗り物も転がっている。
無論、それらが単にゴジラに支給されたパーツである可能性もある。
だが、この一帯の破壊の跡と結びつけるならば……
ゴジラはこの場所で戦闘を行った。他のフィギュアを襲い……手にかけた。
そう考える方が余程自然だ。
-
ゆっくり考える猶予はない。
間髪入れず、ゴジラの口から第二波が吐き出された。
回避すべく、ロジャーはハンドルを切る。――いや、間に合わない!
「ぐっ!!」
「きゃああっ!!」
放射熱線が、車の後部を掠めた。
同時に振動とそれに伴う衝撃が、車内の二人にも襲い掛かる。
マシンイタッシャーは超合金製だ。並大抵の攻撃ではダメージを通しはしないはずだ。
しかし今の一撃でロジャーは察する。奴は、並大抵どころの相手ではない――!
先程までの予感が確信へと変わる。放置すべき存在ではない。
この強大な力を、野獣の本能の赴くままに振るわれれば、甚大な被害をもたらすことになる。
もしもあのゴジラが本物で、もしもロジャー・スミスのもとにビッグオーがあれば。
彼は迷うことなくビッグオーを召喚し、その力でゴジラに果敢に立ち向かうことだろう。
だが、ここにいるfigmaのロジャーには、フィギュアといえどゴジラ相手に対抗できる力は持ち合わせていない。
――いや、ないわけではない。ここにはビッグオーに代わる力はある。
あのゴジラに対抗できる力があるとすれば――
今二人が乗っている、マシンイタッシャー。
変形し、戦闘用のロボット形態となるイタッシャーロボだ。
最大級の巨体から生み出されるパワーをもってすれば、ゴジラとやり合うことはできるだろう。
それでも、ロジャーは今、イタッシャーロボを対ゴジラの戦力として使うことはできなかった。
この状況下で、今さらアニメソングを大音量で流すことを躊躇っているわけでもない。
「ミク、大丈夫か」
「あ……ああ……ぅぅ、っ……!」
助手席のミクに視線を移す。
ミクは頭を押さえ、震えていた。
先程まで元気に歌っていた姿はどこへやら、間近に迫る死に怯えている。
(無理もない。歌うために存在し、歌を通じて愛を注がれてきた彼女が、初めて味わう死の恐怖だ)
アクセルを踏み込む。
ロジャーが選ぶは、逃げの一手。
イタッシャーロボを戦いに使うことは、必然的に同乗する彼女を戦いに巻き込むことでもある。
守るべき無力な少女を危険に晒すのでは、本末転倒だ。
それに、見誤ってはいけない。戦うべき相手は、ゴジラなどではない。
マシンイタッシャーは出せる限りのスピードをもって、ゴジラを引き離していく。
ゴジラの鈍足では、マシンイタッシャーのスピードに追いつくことはできない。
いや……その前に、ゴジラは積極的に追ってくる姿勢を見せなかった。
熱線の第三波も、放つ様子を見せない。
その意図は不明だが、ロジャー達にとっては好機だった。
やがて、互いの姿が見えなくなるほどに、双方の距離は離れていく。
-
◇ ◇ ◇
(無事に、逃げ切れたようだな)
安全圏まで避難を終え、ロジャーは一息ついた。
車を建物の物陰へと寄せる。隠す場所には困らなかった。
(掠めただけで、超合金すら溶かす熱線か……)
車外に出て、車の後方部――熱線の第二波を受けた箇所を一瞥する。
あの交差点の路面と同様に、超合金の装甲が抉られていた。
描かれていた絵の塗装も剥がれ落ち、見るも無惨な状態となっていた。
だが、超合金製だからこそこの程度で済んだといえる。プラスチック製であれば、中の二人ごと消し飛ばされていただろう。
変形機構に支障をきたすまでに至らなかったのも幸いした。
ロジャーのフィギュアの素体に戦慄が走る。
桁外れの戦闘力だ。自分達とはあまりにも力に差がありすぎる。
電力と時間さえ許されるなら、建物の一つ二つを破壊することも難しくはあるまい。
これがゴジラの力なのか。それとも、S.H.MonsterArtsにのみ許された力なのか。
もしイタッシャーロボで挑んでも、恐らくは勝てない。
規格外の巨体とパワーを秘めたイタッシャーロボだが、ビッグオーとはあまりに使い勝手が違いすぎる。
ビッグオー操縦の癖が残ったままの今のロジャーでは、すぐに完璧に使いこなすことは難しいだろう。
原則として3人での操縦・運用を前提としているのもネックだ。一応1人でも動かすことは可能なようだが、真価は発揮できない。
ゴジラは、中途半端な状態の使い慣れない武器で太刀打ちできるような、生易しい相手ではない。
十分に力を使いこなした上で、万全の状態で挑まなければ、返り討ちは必至。
大きく息をつき、車の中を覗き込む。
「落ち着いたか、ミク」
「は、はい……もう大丈夫です」
助手席にはミクが控えていた。
ゴジラの攻撃に震えていたようだが、幾分落ち着きを取り戻したようだった。
「ごめんなさい……歌の知識だけで、ゴジラさんをわかった気になっちゃってて……」
「確かに、歌だけでキャラクターや物語の全てを判断するのは早計だったな」
「本当にごめんなさい!ミクが早まったばかりに、ロジャーさんまで危険に巻き込んじゃって……!」
「気にすることはない。失敗したと思うなら、その反省は次へと生かせばいい」
「はい……」
十分に反省を見せている少女に、ロジャーもそれ以上を追及するつもりはなかった。
彼女の素直さに……どこか物足りなさを感じさせるのは、原作のメモリー故にだろうか。
「それに、君の言う『いい怪獣』であるゴジラも、確かに存在する」
「え?どういうことですか?」
「わかりやすく言うなら、ゴジラという怪獣は一匹だけではない。
君の言ういいゴジラもいれば、そうでないゴジラもいる……ということだ」
ミクが目を丸くする。ゴジラが複数存在するなど、思いもしなかったかのような表情だ。
確かに、知識のない者や作品に興味がない者からすれば、ゴジラへの認識はその程度であろう。
-
あれから、ロジャーはゴジラについてさらに詳しく調べてみた。
確かに、ミクの言ったことは間違っていない。
最初こそ街を破壊する人類の脅威として描かれていたものの、シリーズが進むにつれその扱われ方は変化していった。
他の怪獣とのバトルに主眼が置かれた作りとなり、キングギドラやガイガン、メカゴジラといった敵怪獣に立ち向かうようになる。
モスラ、ラドン、アンギラス――共に戦う怪獣も多く現れた。ミニラという息子まで登場した。
それは時代の流れか、視聴する子供達の視点を意識してのことか。
当初の描写とは裏腹に、地球を守る人類の味方のような立ち位置へと変化していった。
ファンの間に賛否はあったようだが、いつしかゴジラは子供達のアイドル的存在へと変わっていった。
その当時に作られたゴジラの歌も、当然愛すべきキャラクターの歌として作られた。
ミクの持つゴジラの知識や印象とは、主にこの時期の歌から得たものなのだろう。
子供に向けたストレートでわかりやすい歌詞は、抜群のインパクトを与えると共に、当時のゴジラが如何なる存在かを物語ってもいた。
しかし、だ。そんなアイドル路線を走るゴジラにも、転機が訪れる。
1984年に放映された16作目のゴジラの映画で、彼の設定は一度リセットされた。
1作目の直接の続編として作られたその物語では、ゴジラは原点に立ち返り、一貫して人類の脅威として存在した。
そしてその新たなゴジラもまた続々とシリーズが制作され、ビオランテを始め多くの怪獣達との戦いに身を投じていく。
通称『VSシリーズ』として、1995年の『ゴジラVSデストロイア』まで続いたようだ。
あのゴジラは、『VSシリーズ』からの出典だ。
ミクの思い描いていた昭和の頃のゴジラと違い、絶大なる脅威として存在するゴジラ。
それもシリーズ最終局面の、メルトダウン寸前である最も危険な状態ときていた。
あくまで玩具としてその時の状態を再現しているだけであって、実際にメルトダウンを起こすかどうかはわからない。
ただ、それに伴い放出される熱や壮絶なパワーは、フィギュアの身であっても健在であるようだ。
「それじゃ……あのゴジラさんには、私の歌は届かないのかな……」
「気を落とすことはない。君の歌に込める想いは、一度の失敗で折れるようなものではない……そうだろう?」
「そうだけど……やっぱりゴジラさんに伝わらなかったのは、寂しい……かな」
ミクが悲しげな表情を浮かべる。
彼女のゴジラに対する接し方は、人類を脅かす圧倒的な脅威に対するものではない。
あくまで、一体のフィギュア、一体のキャラクターに対するものだ。
絶大なる力を持つ脅威の怪獣……しかしそれは、物語の中の話である。
今この舞台に立っているゴジラは、一介のアクションフィギュアに過ぎない。
本来の100メートル近い巨体も、ここではロジャーやミクとそう変わらない大きさにまでスケールダウンされている。
ミクのゴジラに向ける態度に、ロジャーは改めて事実を噛み締める。
ゴジラもまた、我々と同じ立場に置かれた存在であるということを。
そう、自分達と同じ条件が適用されているとすれば。
あのゴジラにも、心があるはずだ。
原作を基にした自我が、宿っているはずではないのか。
現実的ではないロマンチストの思考だと、ロジャーは思った。
理性を持たず本能のままに破壊を続ける異形の怪物を相手に求めるようなものではない。
だが、彼も1シリーズの主役を張った存在……いや、日本を代表するスターだ。
ゴジラというキャラクターのために、多くのシリーズが作り続けられた、紛れもないスターなのだ。
ただの舞台装置程度にしか扱われていなかったのであれば、60年以上も愛され続けるキャラクターにはなり得ない。
多くの作り手達の想いによって作り上げられ、存在している……それがゴジラというキャラクターだ。
水爆実験で生み出された悲劇の怪物。
あの怪獣の背負う背景は、あまりにも重い。
もしもゴジラに、心があるならば。
その内に秘めているのは、どこまでも身勝手な人間に対する怒りか、憎しみか。
ロジャーは思う。ゴジラの心が、我々とは決して相容れることのできないものだとしても。
ゴジラが我々と同じ存在であり、また自分がロジャー・スミスである以上……避けては通ることはできない。
-
即ち――ゴジラとのネゴシエイト。
無論、今のままでは不可能だ。
直接言葉で訴えかけた所で、通じることなどありえない。
それは、過去にロジャー・スミスの行ってきたネゴシエイトとは、根本的に全く違うものとなるだろう。
決して、彼一人で成し遂げられるような行為ではない。
あまりにも馬鹿げた、無謀な挑戦であることは承知の上だった。
オリジナルのロジャー・スミスであっても、このような無謀な挑戦など一蹴するのではないか。
だが、それでも。
ゴジラとの対話は、コミュニケーションは可能な限り試みるべきだと考えた。
同じフィギュア、同じ対等の立場の存在である以上は。
徒労に終わる可能性も十分にある。最悪、現実逃避や自己満足で嗤われるだけかもしれない。
いや、現実的に考えればその可能性の方が高い。
そもそも、メルトダウンを目前に控えている以上、そんな段階はとうに過ぎているのかもしれない。
また、いかにネゴシエイトといえど、そのために他の誰かを危険に晒すなど論外だ。
だが、それでも――挑戦する意義はあるはずだ。
人形風情が、人間と対等の交渉を臨もうというのだ。
ならば、それに値するだけの存在であることを知らしめねばならない。
無論それは、彼に与えられたメモリー……ロジャー・スミスとしてだ。
そして、ゴジラもまた然り。
東の空から光が差し込んでくる
もう朝だ。間もなく、Archetype:sheの言っていた6時間が経過しようとしている。
その時、何が起きるのか。彼女は、主催する人間達は、被験体達に何をもたらすのか。
確かなことは、それが終わりなどではなく……始まったばかりであるということだけだ。
【早朝/エリアG(南部)】
【ロジャー=スミス@figma】
【電力残量:90%】
【装備:無し(超合金マシンイタッシャー@S.H.シリーズ(電力残量:85%)に搭乗中)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(札束入りアタッシュケース)、トンプソン・コンテンダー(衛宮切嗣)@figma、
銀の針金鳥(アイリスフィール・フォン・アインツベルン)@figma】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:実験の主催者と交渉する
1:ミクと共に情報収集する
2:ゴジラとの交渉を試みる
3:マシンイタッシャーの外観をどうにかしたい
【初音ミク@figma】
【電力残量:85%】
【装備:無し(超合金マシンイタッシャー@S.H.シリーズ(電力残量:85%)に搭乗中)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マイクスタンド、ネギ×2)、ロックカノン(ブラック★ロックシューターTV.ver)@figma】
【状態:落胆、自信喪失】
【思考・行動】
基本方針:他のフィギュア、そして主催者と心を通わせる
1:ロジャーと共に情報収集する
※ 現在の外見はレーシングミク2001verです。
※マシンイタッシャーは、内蔵スピーカーでアニメソングまたは特撮ソングを最大ボリュームで流すことにより変形します。
その際の楽曲は、自由枠の条件に該当する作品の関連曲なら何でも構いません。
-
夜が明ける。
東の空から朝の光が、街を照らす。
光を照らし出す太陽に向かって――
ゴジラが、吼える。
地の底から響くような、本物と何ら変わらぬ声で。
普段よりも、やや甲高い声で。
ゴジラよ。
お前は、何故吼える。
その咆哮に、何を込める。
ロジャー・スミスは、お前に心があると推測した。
それを真とするならば、お前は何を想い、吼えるのか。
怒りか、憎しみか。
お前はそれを、誰に向ける?
お前は知っている。
自分の身体に起きている、異変を。
お前の異変は、お前の抱える炎は――お前の生命の、最期の輝きであるということを。
『ゴジラVSデストロイア』。
お前の基となったゴジラ映画だ。
その衝撃のキャッチコピーは――
『ゴジラ、死す』
お前が原作の記憶を持っているならば、気付かないはずがない。
自身の身体から湧き上がるメルトダウンの熱が、死を意味していることを。
お前自身の本能が、自らの身体の状態に気付かないはずがない。
ここで燃えているその死の熱はフィギュアに施された演出に過ぎない、紛い物であるということを。
ならば、お前の怒りは。
お前の持つ命の輝きを弄ばれた、人間への怒りなのか。
そしてあの時――ミクの歌を聴いた時。
一瞬だけ、お前は確かに躊躇った。
自分のもとから逃げ去る彼女を見た時。
お前は、それ以上彼女に手出しをしなかった。
ゴジラよ、お前は何を考えている?
お前はこの地で、この戦いで、何を求める?
確かなことは、ただ一つ。
お前はこれからも、破壊を続けるであろうということだ。
-
世界が、終わる。
ゴジラが、目覚める。
それは、人類の負の遺産が生み出した、水爆大怪獣。
善悪を超越した、超生命体。
生きた大災害。
神。
破壊の化身。
その新たなる伝説の始まりに、フィギュアの中に秘めた魂が、呼応するかのように。
今、彼は止めていた歩みを、再び開始する。
ゴジラ、再起動‐リブート‐。
【早朝/エリアK(屋外)】
【ゴジラ1995@S.H.シリーズ】
【電力残量:95%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:ダメージ中】
【思考・行動】
基本方針:本能の赴くままに、全てを破壊する
【備考】メルトダウン寸前という状態再現により、かなりの高熱を発しています
しかし実際にメルトダウンを起こすかどうかは分かりません
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投下終了です
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>>603
投下乙です!
かっこいいいいい!たとえ力では立ち向かえない脅威と向き合いながらも己を曲げないロジャーも勿論ですが、
ゴジラへの最後の語りがもうゾクゾク来ますね。ちょうどハリウッド版が公開中ですが、改めてゴジラへの思いを再認識しました。
しかしゴジラの逆襲のレコードネタとは守備範囲が広すぎる……w いや目から鱗の着眼点でしたw
最近ロワ界隈がにわかに活気付いている感がありますが、当ロワもマイペースに進めていきたいですね。
自分もしばらくご無沙汰だったので予約を考えないと。
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投下乙です!
うおお、ゴジラと交渉するとかロジャーさんすごすぎ!
果たして二人は成功するのかしないのか!?
-
投下乙です!
冒頭の今にもCV宮本充が聞こえてきそうなロジャーの語りの再現度がすごすぎる……
サブタイトルの前にActが付くのも心憎い演出ですね。
そして明るいミクとクールなロジャーはコンビが板についてきましたね
非戦闘キャラがゴジラと相対してどうなるかと思いきやまさかのネゴシエーション。
やっぱりロジャーはこうでなくては!
そして……ゴジラの歌……こんなのあったんですねぇ。
歴史が長いと色々な方向に行くんですなぁw
そこから一転してゴジラのモノローグ。
最後の一文にゾクゾク来ました。
チャリオット、巴マミ、ドラえもん、マリーセレス予約します。
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MS少女ユニコーンガンダム、ターンX、タウバーン予約します
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ぎりぎりになって申し訳ありません。投下いたします。
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午前五時。
朝というには暗すぎるが、夜というには明るすぎる半端な時間。
これが普通の街であれば、気の早い人々は活動し始め、わずかながら街に喧騒の芽が息吹き始める……そんな時間帯でもあっただろう。
だが、今、この街は"普通"ではない。
総合自律戦闘実験"BATTLE ROYALE"――61体のフィギュア同士の壊し合い……その舞台となっているのだ。
それが一体どういうからくりであるかは不明だが、この街には人間どころか虫の一匹すら存在しない。
それ故に街全体を淀んだような、不気味で不自然な静寂が支配している。
そんな静寂を鋭い甲高い回転音が切り裂いていく。
リノリウム張りの床に轍を刻みながら、その音の主――チャリオットは校舎内を徘徊していた。
……数時間前、彼女は敵を求めこの校舎に入り込んだ。
だがその目論見は外れ、自分以外のフィギュアと遭遇することはなかった。
しかしチャリオットには具体的な方針があるわけでもない。
"目の前に出現すれば破壊する"というシンプルな思考に従っているだけだった。
それゆえに彼女は深く考えずに、思うままに校舎の一階をうろついていたのだ。
一階には保健室や職員室など通常の教室以外にも多様な特別教室が存在している。
数時間の間、彼女はそのあたりを重点的に徘徊していた。
そして彼女はあるものを目の前にして立ち止まっていた。
それは、2階への階段である。
「……」
彼女の脚部は巨大なホイールで構成されている。
それは高速移動には適しているが、立体的な機動には向いていないことを意味する。
つまり、彼女にとって階段を登るという行為は非常に難しい……というか不可能と言って良いレベルであった。
1階で何者にも遭遇できなかった以上、彼女の興味がより上の階に向くのは当然のことだろう。
だがしかし彼女にとって2階へと続く階段は、絶壁と同異義の言葉であったのだ。
どのぐらいそうしていただろうか。
立ち止まっていても仕方ないと思い直したのか、階段に背を向けるチャリオット。
だがその時、彼女は一つの可能性に思い当たる。
それは"拡張パーツ"という可能性だった。
勿論、この実験が始まる前、彼女も他の実験体同様にアーキタイプ・シーと名乗るフィギュアから説明を受けている。
だが彼女にとって重要なのは"ヨミ"のことだけ。他のことにさしたる興味はわかなかったのだ。
しかし"拡張パーツ"とやらにはもしかしたらこの退屈な状況を変える何かがあるかも知れない。
インプットされた手順を踏み、自分に支給された拡張パーツを確認する。
そこで彼女が確認したのは――
-
* * *
「……どうやら他のフィギュアの姿はないみたいだね」
そう言いながら廊下の角から姿を表したのは巨大な頭を持つ青いシルエットだった。
彼の名はドラえもん。その元となったキャラクターは国内トップクラスの知名度を誇ると言っても過言ではないだろう。
「……うん、背後にもそれらしい影はないわ」
「うーん、ものどもご苦労さまですぅ」
そんな彼に続くようにそれぞれ黄色と紫紺を基調としたカラーリングの少女型フィギュアたち――巴マミとマリーセレスが姿を現す。周囲を警戒しながらも学校に辿り着いた一行は、幸か不幸か他のフィギュアと遭遇すること無く校舎内へと侵入を果たしていた。
「んもぅ、マリーちゃんもちゃんと仕事してよ! ……っていうか何なのその格好は?」
「ん? 気になるですかぁ? じゃじゃーん! マリーちゃんフル武装形態ですぅ!
どうですぅ? かわいいでしょう?」
誇らしげに胸を張るマリーセレス。
先ほどまでの素体に加え、人間で言う腰あたりにスカート状に可動装甲が装着されている。
可動装甲はサブアームも兼ねているのか、彼女の意思に従ってウネウネと奇妙にうごめいている。
その様子は可愛いというよりもはっきり言って不気味なのだが、マリーセレスにとっては心底可愛いらしく、愛おしげにその触手装甲を撫でていた。
「……まぁ人の趣味はそれぞれだからね」
「むっ、ドラちゃんってば芸術を解する心がないんですねぇ。
まぁこれで戦闘力もぐーんとアップですぅ。ビビリのマミさんだけには任せられないですぅ!」
「ビ、ビビリじゃないもの! 私だってやる時はやるんだから!」
頬をふくらませるマミ。
そういうマミも制服Verから魔法少女Verへとフォームチェンジし、愛用のマスケット銃を構えている。
「あーもう、二人共落ち着いてよ!
……ところでマミさん、目的の教室は一階でいいんだっけ?」
「あ、はい……奥の方の教室……のはずよ」
教室の正確な位置を覚えていないため、どうしても言葉尻が弱くなる。
流石に階段を登り降りした記憶はないので一階であったことだけは確かなのだが……
しかしどの教室だったかを思い起こそうとすると、赤と銀の体躯が力なく倒れこむ光景を思い返してしまうのだ。
自分のせいで誰かが命を落としてしまったかもしれない、その光景を。
-
「……ッ!」
「大丈夫、マミさん? 無理して思い出さなくてもいいからね?」
「え、ええ……大丈夫よ。ありがとう、ドラえもん」
「ぶーぶー、ドラちゃんてばマミさんにばかり優しくして、これは立派なフィギュア差別ですぅ!
その優しさをちょっとは可愛い可愛いマリーちゃんに分けてほしいですぅ」
「はいはい、まったくマリーちゃんは調子がいいんだから……。
それにしても目的地が二階でなくて助かったよ」
彼らが見上げる先にあるのは二階へと続く階段の姿。
全高15cm程度の彼らにとって、それは幾重にも重なった壁であり、天空へ続く塔のようでもある。
登攀技能やアクションを得意とするものならばさほど苦にはならないのかもしれないが、
そうでないものは二階に行くだけでかなりの時間を浪費してしまうだろう。
「特にドラちゃんは手足の生えたドラム缶みたいですからねぇ。
もしそうなったらその短い手足を伸ばす光景が拝めたのに……もったいないことですぅ」
「余計なお世話だよ! それに僕にはタケコプターがあるからいいの!」
「ふ、二人共落ち着いて……」
今度はマミがドラえもんをなだめる。
そんなやりとりを続けながら目的の教室に向かって足を進める一行。
一つ、また一つと教室を見て回り、廊下の突き当りまで進むが、結局そこには代わり映えのしない教室が続いているだけであった。
「……ごめんなさい、こっち側じゃなかったみたい」
「うーん、だったら階段の反対側かなぁ?
たしか同じ作りになってるみたいだしそっちに行ってみようよ」
「えー、またここから戻るですかぁ?」
「ご、ごめんなさい……私がもっとしっかりしてれば……」
「マミさんは気にしなくていいからね。
……マリーちゃんはもうちょっと気にして欲しいけど」
「あー、ちょっと耳のセンサーの調子が悪いみたいで聞こえないですぅ」
そんなやりとりを繰り返しながら今きた道を引き返す3体のフィギュア。
それはまるでここが戦場であることを忘れるかのような、のどかな時間だった。
特に実験開始直後にショッキングな光景を目撃したマミにとっては、それは心休まる時間だった。
だがそれは唐突に破られた。
階段付近まで戻ってきた瞬間、並んで歩いていた2つの背中をマリーセレスが突然突き飛ばしたのだ。
「うわあっ!」
「きゃあっ!」
バランスを崩し倒れこむ2人。
これは悪ふざけにしても度が過ぎている。
ここは一つ強く叱らなければ!
そう決意し振り返ったドラえもんは言葉を失った。
彼女の触手を模した装甲のうちの一つが黒く焼け焦げて、煙を上げていたのだ。
それが意味するところは一つ……マリーセレスは何者からか2人をかばったのだということだった。
-
「不意打ちとはやってくれるですねぇ……!」
その目に先程までのおふざけの色は薄い。
戦いへの熱を宿した瞳は、"武装神姫"の名に恥じぬ、戦う者の眼だ。
その焼けつくような視線を追ったマミたちが見たものは――
「ドラ……ゴン……?」
彼女たちの見上げる視線の先、階段の踊場にいたのは漆黒の肌を持つ東洋風の龍であった。
メタリックなボディに窓の外からの光を反射させながら、真紅の瞳でマミたちを睥睨している。
――その名は暗黒龍ドラグブラッカー。
仮面ライダーリュウガとセットで販売された、硬質の肌を持つドラゴン型のフィギュアだ。
そしてその背には王冠をかぶった少女型フィギュアがまたがっている。
……原作においてチャリオットが最も得意とするのは、メアリという蜘蛛型多脚メカによる蹂躙走法だ。
重量を活かした大地を削り食らうような突撃。その名が示す通りの"戦車(チャリオット)"。
それこそが彼女の真骨頂だ。
だがそれはあくまで原作であるアニメでの話。
1/12スケールでそれを再現しようにもそのサイズのメアリは発売されていない。
それはあまりにも大きく、コストと需要のバランスが取れてないからだ。
しかしチャリオット自身には"操縦技術"という形でそれが生かされた。
それ故に彼女は、本来の主・仮面ライダーリュウガが行わなかったドラグブラッカーへの騎乗が可能となったのだ。
地を駆ける蜘蛛から天を駆ける龍へ。
龍戦車(ドラグーン・チャリオット)とでも表現すべき存在がそこにあった。
―――オオオオオオオオォンッ!
黒竜は空気を切り裂くような叫び声を上げ、威嚇する。
一方その乗り手であるチャリオットは無言で彼女たちを見下ろしている。
「き、君はなんでこんなことをするんだ!」
ドラえもんが大声で問いかける。
だがチャリオットは表情一つ動かさず、冷たい視線を彼らに向けるだけだ。
「――ドラちゃん、そんなこと聞いても無駄無駄ですぅ」
マリーセレスの声は明るく、その調子は先程までと何も変わらない。
だがその声の中には確かに先ほどまでとは明らかに異なる"何か"があった。
底冷えする冷たたさを持った硬質の"何か"が。
-
「そいつは油断してるドラちゃんたちに向かって攻撃を仕掛けてきたんですよ?
つまり最初っから殺しあう気満々なんですよぉ?
覚悟決めちゃった系のヒトか、あんな奴の話を信じちゃった底なしのおバカさんかはわかりませんが、説得するだけ無駄ってものですよ
「で、でも……」
それでもマミは割り切れない。
自分たちは機械だ。だが確かにこうして悩む"心"があるのだ。
それはきっと目の前の存在も同じ。
だから説得もきっと意味があるのではないだろうか。
「ふー、やれやれ……とんだ甘ちゃんばっかりですぅ。
でもマリーちゃんはとっても優しいですからね、最大限意見を尊重してあげるですぅ。
――それで、アンタはどうですか、女王さま気取りの金髪さん?」
マリーセレスの顔に浮かぶのは花のような笑顔。
だが目だけは決して笑っていない。
その青色の視線に蔑みと敵意を込めて、龍を駆る王女に問いかける。
その返答はすぐに来た。言葉以外の――龍の口から放たれた炎という形で。
自身に向かってきた炎弾を事も無げに触手アーマーで弾き返しながら、それみたことか、と二人に向かって笑いかける。
その様子を見たチャリオットは、竜に命じて炎弾を連射させる。
「うわああああああ!」
「きゃあああっ!」
爆発する漆黒の炎弾にドラえもんとマミは右往左往する。
「二人共戦わないなら下がって、教室の隅でガタガタ震えてるがいいですぅ!」
唯一、動じていないマリーセレスが突撃しながらハンドガンを乱射する。
しかし空中を滑るように移動するドラグブラッカーには中々当たらない。
「てめぇー! 降りてきて勝負するですぅ!」
強力な遠距離武装を持たないマリーセレスが怒りの声を上げる。
一方でチャリオットもドラグブラッカーの炎弾では致命傷を与えられないことを理解していた。
敵のスカートアーマーが自在に動き、炎弾を弾いて直撃を避けているのだ。
一瞬、二機のフィギュアの視線が交錯する。
敵同士、一切の理解を求めない破壊しあうだけの関係であるが……いや、だからこそ破壊することにためらいのない二人の思考は同調した。
至近距離による一撃必殺、それが最善手である、と。
「ハッ、いい度胸ですぅ! 軽くブチ転がしてやるですよォッ!」
バイザーを下げ、マリーセレスはパンファーファウスト型武器『ハフ・グーファ』、銃型武器『イング・ベイカー』をドッキングさせ、ハンドアックス型の必殺武器『ヴァル・アクス』を完成させる。
一方でチャリオットは龍の背で抜刀し、マリーセレスに向かい突撃を敢行する。
-
龍の背中に乗った女王と大地を駆ける小柄な重戦士の激突。
まるでファンタジー小説の中の戦いだ。
だがこれは紛れもない現実の出来事だ。
普通に考えれば重量で劣るマリーセレスがぶつかり合って勝てる見込みなどありえない。
だがそれでも勝負を受けたのは、マリーセレスにも十分な勝算があってのことだ。
ドラグブラッカーは確かに速い。
だがブースター付きのような急加速ではなく、空中を泳ぐという表現がしっくり来るものだ。
つまり急加速や急な方向転換はできないということに他ならない。
今のような急降下している状態ならなおさらだ。
つまりタイミングを合わせ、カウンターを当てれば一撃で相手のCSCやコアを砕くことも可能だろう。
敵を破壊することに関して、マリーセレスに容赦はない。
自ら喧嘩を売るつもりはないが、売られた喧嘩は即決で買い叩く。
いつだってやりたいようにするために、ジャマをするのなら一片の容赦もなく破壊する。
――撃っていいのは打たれる覚悟のあるやつだけですぅ
それがマリーセレスという名の神姫の流儀だった。
黒竜が吠える。
その口から吐き出される炎弾は数を増し、マリーセレスの視界を奪う。
(牽制のつもりですかぁ? その程度の攻撃でマリーちゃんの装甲を抜けると思わないことですよ!)
触手型アーマーを肩部に接続。
それだけでアーマーは全身を覆うローブ型アーマーへと姿を変える。
触手型アーマーパーツはそれなりに厚い装甲を持ち合わせている。
炎弾が直撃しても致命には程遠い。
そしてその時はやってきた。
炎の隙間から黒竜が身を躍らせて出てくるその瞬間、地を蹴り、マリーセレスは跳躍した。
自身を噛み砕くつもりだっただろう龍の牙が装甲をわずかにかすめる――だが、かわしきった。
(取ったッ!)
マリーセレスは勝利を確信する。
相対速度を込めた全力の一撃は、たとえ相手が剣で防御しようとも、それごと砕くだけの威力はあった。
「死ねぇぇぇぇぇっ!」
マリーセレスの全力を込めた一撃が放たれる。
――だが、その攻撃は虚しく空を切った。
龍の背中、敵の姿があるはずのそこには何もなかったのだ。
-
一瞬の混乱。だがすぐにマリーセレスはそのからくりを理解する。
何故ならば、敵が――脚部ローラーを高速回転させたチャリオットが目の前に迫ってきているのだ。
チャリオットがとった行動は至極単純なものだった。
火炎弾を目眩ましにして、ドラグブラッカーから飛び降りる。
脚部ローラーを回転させ、まるで飛行機のソフトランディングのように。
言葉にすればそれだけだが、それは一歩間違えば全身を砕いてしまうような暴挙だ。
だがその行動に対しチャリオットの中に躊躇は一切なかった。
チャリオットにとってはヨミ以外は全てが些細ごと。
気に留めるほどのことではない。
――たとえそれが自身の破壊であったとしても。
そしてその目論見は成功した。
隙だらけのマリーセレスに向かって、巨大なシールドを構えたマリーセレスが突撃する。
十分な質量と加速を兼ね備えた、それはまさに砲弾だった。
そして、砲弾は神姫(もくひょう)に命中した。
炸裂。
耳をつんざく衝突音と鈍い破砕音はそう表現するしかなかった。
皮肉にも彼女の当初の目論見通り、相対速度の一撃を真っ向から受けた神姫の体は宙を舞った。
そしてそのまま小柄な体は何回も地面に叩き付けられ、数メートル離れたところでやっと停止した。
「ま、マリーさん!」
マミの悲痛な叫び声にもマリーセレスは横たわったまま反応しない。
ここからだとわかりにくいがコアやCSCに致命的なダメージを受けてしまっているかもしれない。
旗から見てもそれほどの衝撃だったのだ。
思わず物陰から飛び出し、マリーに駆け寄ろうとする。
だが、敵はそれすら許そうとしなかった。
――キュイイイイイッ!
何かが回転する音。
その音源はマミに向かって一直線に接近してくる。
そう、チャリオットは次の獲物を目の前の少女型フィギュアに定めたのだ。
「止まりなさいっ!」
乱射されるマスケット銃。
だが敵は縦横無尽に大地を駆け、または分厚い盾で攻撃を防ぎながらマミに迫る。
その行動には一片の迷いも躊躇もない。
高速回転するホイールが、彼我の距離をあっという間に縮めていく。
(……やられる、の?)
目の前に迫る少女型フィギュア。
その手に握られた漆黒の片手剣が振りかざされる。
だが、そのチャリオットを不可視の一撃が横殴りに吹き飛ばした。
二足歩行と接地面の少ない車輪走法。
柔軟な高速移動を可能にするそのスタイルは、一方で極めてバランスを崩しやすい。
彼女のもととなったフィギュアもスタンド無しでは自立が不可能なほどである。
その状態で横殴りに衝撃を受ければどうなるか。
結果は至極簡単、――転倒である。
チャリオットはマミの横を通り過ぎながら転倒し、そのまま壁へと激突した。
-
呆然とその光景を見ていたマミは、不可視の一撃を放った人物に視線を向ける。
マリーセレスが倒れた今、それを出来るのはただ一人だ。
ドラえもんの右手にはめられた空気砲からは、発射の余波である風が渦巻いている。
「あ、あわわ……のび太くんみたいなことをしてしまったぞ……」
とんでもないことをやったという自覚はある。
空気砲には敵を一撃で破壊する威力はない。
むしろだからこそ思い切り叩きつけたのだが、思いの外クリーンヒットしてしまったらしい。
こうなったあとのチャリオットの思考は予想できる。だとしたら自分のしなければいけないことは……
「……マミさんはマリーちゃんをお願い……!」
「ど、ドラえもんはどうするの?」
「ぼ、僕は……」
ふらり、と立ち上がったチャリオットの瞳がこちらを向いている。
不純物のない綺麗な瞳が映しだすのは、混じりけのないチャリオットの内心。
つまり迷いのない、純度の高い殺意がまっすぐにドラえもんを射抜いていた。
「頑張って、アイツを引きつけてみる! ……うわああああああああああ!!」
その短い足からは信じられないようなスピードで逃げていく。
チャリオットはマミのことなどすでに眼中にないように、黒竜とともにドラえもんを追いかけていった。
そしてその場にはマミだけが残される。
「そっ、そうだ、マリーさんを助けないと……!」
ドラえもんも心配だが、マリーセレスのことを託されたのだ。
全力で駆け寄る。
あれだけ凶悪な一撃を受けたのだ、最悪バラバラになっているかもしれない。
だがドラえもん入ったのだ。『マリーちゃんをお願い』と。
つまり彼女が無事だと少なくともドラえもんは信じていたのだ。
だから私も信じよう……恐怖に震える体を叱咤してマリーに近づく。
「マリーさん!!」
そこでマミが目撃したのは……全身に傷を追っているものの五体満足なマリーセレスの姿だった。
4つあるスカートアーマーのうち2つは粉々に破壊されているが、本体に目立った外傷はない。
それはあの衝突からしてみれば奇跡的と言って良いダメージの少なさだった。
-
マミは知る由もないが、激突の瞬間にマリーセレスはアーマーを叩き付けていたのだ。
破壊の衝撃と自分からはじき出されることで本体の破壊を最小限に抑えたのだ。
武装神姫の中でも好戦派であるマリーセレス型の戦闘センスが彼女の命を首の皮一枚でつないでいた。
マミはマリーセレスの体を揺さぶる。
「マリーさん! しっかりしてマリーさん!」
「あ……あ?」
目は虚ろ、口からは不明瞭な言葉が漏れだしている。
おそらくは内部メカの一時的な接触不良。
人間で言う脳震盪にあたる状態のようだ。
だが次第に目の焦点があってきた。
ぱちくりとまたたきをして、ゆっくりと周囲の状況を確かめている。
「よかった! マリーさん、大丈夫ですか!?」
だがそれに対する返事はなかった。
それどころか飛び起きて、周囲をものすごい勢いで見回すとマミに詰め寄った。
「マミ! あの王冠女は……どこにいったですぅ?」
「え……ドラえもんを追いかけて廊下の向こうに……」
「チッ、逃すかですぅ!」
破壊された触手パーツを切り離し、しっかりした足取りで廊下を走りだした。
「ちょ、ちょっと! 急に動いたら危ないわ!
助けに行くにしても、もうちょっとだけ安静に……」
「これが静かにしてられるかですぅ!」
鬼気迫る表情でふた振りの剣、サーペンタインを装備する。
彼女の脳裏にリフレインするのは気絶する直前に見たチャリオットの表情だ。
メモリに焼きついたその表情は、確かに笑っていた。
それも勝ち誇ったような、こちらを徹底的に見下したような嘲笑。
それはマリーセレスのプライドを荒い目の鑢で逆なでしていた。
「小娘がなめた真似しやがって……! あのすまし顔に一撃ブチこんでやるですぅ!」
鬼気迫る表情で追撃を開始するマリーセレス。
マミはその背中を追いかけることしかできなかった。
【マリーセレス@武装神姫】
【電力残量:70%】
【装備:サーペンタイン、フル武装】
【所持品:クレイドル、基本パーツ、拡張パーツ×0〜1(確認済み)、ヂェリカンもも味×4、マジカルマスケット銃×5】
【状態:触手アーマーのうち2本が破壊、全身に細かい傷】
【思考・行動】
基本方針:こころのおもむくままに。
1:野郎(チャリオット)ぶっ殺ですぅ
【巴マミ(魔法少女ver.)@figma】
【電力残量:70%】
【装備:マジカルマスケット銃】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ソウルジェム)、拡張パーツ×0〜1(未確認)】
【状態:損傷なし。脱力】
【思考・行動】
基本方針:もう好きにして。
1:マリーセレスを追いかける。
2:ドラえもんが心配
※付属品にないため現状ティロ・フィナーレが使えません。
-
* * *
「トホホ……まずい所に逃げ込んじゃったなぁ」
一方でドラえもんは途方に暮れていた。
手近な教室に逃げ込んだはいいが、出入口をチャリオットたちに抑えられてしまったのだ。
今も教壇の影に身を潜めている状態だ。
しかしその状態でドラえもんは奇妙なものを発見した。
「あれは……?」
黒板あたりに薄暗い中ぼうっと光るマークがある。
曲線で描かれた、筆記体を更に簡易にしたような奇妙な文字だ。
ドラえもんは知る由もなかったが、それはウルトラサインと呼ばれるものだった。
短い模様に多種多様な意味を埋め込む特殊な文字であり、原理としてはQRコードに近い。
だが"宛先"ではないドラえもんにとってはそれは奇妙なマークにすぎない。
だが教室にはあまりにも不似合いな、不可思議なオブジェクトはドラえもんにある種の直感を呼び覚ました。
もしかしてアレはタロウがマミに残したメッセージではないだろうか。
偶然に逃げ込んだここは、当初の目的の場所ではないのか。
「とにかくここにマミさんを連れてこないと……」
しかし周囲から絶え間なく聞こえるドラゴンの咆哮とホイールの回転音。
合流するどころか今にも見つかって破壊されてしまいそうだ。
「ああ、どこでもドアがあればなぁ」
あるにはあるが四次元ポケットから出現途中を再現したただのオブジェだ。
あるのに使えない。そのことに歯噛みしながら、ドラえもんは野性の狸のごとく穴蔵に身を隠し続ける。
【チャリオット(TVver.)@figma】
【電力残量:70%】
【装備:剣、メアリーの車輪】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(マカロンx複数)、暗黒竜ドラグブラッカー@仮面ライダーリュウガ(電力残量:40%)、拡張パーツx0-1】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:自分以外の全滅。
1:まずドラえもんを殺す。
※ドラグブラッカーは独立型のサポートメカです。
飛行・炎弾発射が可能ですが、割りと電池消費量は多めです。
【ドラえもん@ROBOT魂】
【電力残量:80%】
【装備:空気砲(ひみつ道具セット)】
【所持品:クレイドル、ひみつ道具セット、かじりかけのどら焼き、ねずみ、ヂェリカンどら焼き味×4、拡張パーツ×0〜1(確認済み)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:マリーちゃんの暴走を止める。
1:ここから逃げて2人に合流する。
2:
※ひみつ道具セットの内訳は 空気砲、タケコプター、スモールライト、ポケットから出かかっているどこでもドア。
まともに性能再現されているのはタケコプターと空気砲くらいです。
※ 教室にはウルトラサインが残されていました。
※ ウルトラサインはQRコードのようなもので、マミが見れば何らかの情報を引き出せるかもしれません。
-
以上で投下終了となります。
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投下乙です!
チャリオットとドラグブラッカーの組み合わせが合うなぁ
あと何気にマリーセレスが垣間見せる絶妙な危険性が……
場所と時間帯は、早朝ってことで大丈夫ですかね?
そのまま放送に移れる時間まで歩を進めた組も徐々に出てきてますね
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感想ありがとうございます。
現在地表記がまるまる抜ける形になっていましたね……申し訳ないです。
マリーセレス・マミ組が
【早朝/エリアN(校舎1階廊下)】
ドラえもん・チャリオット組が
【早朝/エリアN(校舎1階教室)】
となりますね。
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投下乙
ゴジラいいなぁ……
死に逝く怪物の悲哀か……そうだよなぁ、原作の記憶あるならそうなるよなぁ
チャリオットも怖いし騎乗想像するとカッコいい
ドラえもんは上手く逃げ切れるんかね……
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現状予約している面子に加え、スネーク(MGSPW) を追加予約します
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投下します
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「こちらスネーク。現在位置は【エリア:R】小学校西門手前。状況は……俺の視界を通じて、そちらにも見えているはずだ」
『確認している。厄介な場面に出くわしてしまったようだな』
無線を通じて……という形式で、スネークはサポートAI・カズヒラとの通話を行う。
会話の中に静かに張り詰める緊迫感は、彼が修羅場の真っ只中にいることを表していた。
それはまさに、目前での出来事だ。
今、2体のフィギュアが、スネークの目前で戦闘を繰り広げている。
『2体共に、ロボット型フィギュア……どちらも戦闘タイプのようだ。正攻法で太刀打ちできる相手ではない』
片方は、仮面と鍔広の帽子を被ったような頭部の、仮面の貴公子を思わせるような姿。
その両手に2本の剣を持ち、二刀流で戦いを挑んでいる。
対するもう片方は、胸部に大きなXの字の傷が印象的な、武骨なロボット。
こちらは、その左手に黒い棍棒を手にしていた。デザインが統一されていないことから、拡張パーツの類と思われた。
二刀流の貴公子が、必殺の二連撃を相手に向けて放つ。
その強力な攻撃は、相手の黒い棍棒により、完全に防がれた。
『スネーク、これ以上は危険すぎる。すぐにその場から離れるんだ』
「いや……まだその機ではない。今下手に動けば、かえって巻き込まれかねん」
スネークは『その場』に身を隠したまま、両者の戦いを見据え機を伺う。
見る限りX字傷のほうが好戦的であり、そして優勢であった。
貴公子も今放った二連撃が切り札だったのか、それを境に徐々に押され始めていた。
やがて、カズヒラから再度の通信が入る。
『スネーク、あの2体の検索結果が出た。どちらもROBOT魂のカテゴリに存在している。
2体の名称は……タウバーンに、ターンXだ』
◇ ◇ ◇
門の突破を巡り、攻防を繰り広げる2体のロボット型フィギュアが。
駐車場方向から聞こえた声のもとへと急ぐべく、門を抜けたいタウバーン。
それを逃がさんとばかりに門を死守し、戦いを望むターンX。
両者の力は拮抗していた。攻防は一進一退を繰り返し、膠着状態に縺れ込む。
一刻を要するタウバーンにしてみれば、最悪の展開といえた。
だが、膠着の均衡は崩れる。それも、タウバーンにとってはさらに窮地に傾く形で。
ターンXが、自身に支給された拡張パーツという名の武器を持ち出したことで、流れが変わった。
戦場は、学校敷地内の塀寄りに位置する植え込みへと場所を変える。
「どうした銀河美少年!!青春を謳歌するのではなかったのか!?」
左手に握る棍棒をタウバーンへと向け、ターンXが挑発する。
その先端からエネルギーの濁流が放出され、植え込みの木々や草を次々と倒し、燃していく。
砲撃を木や茂みの影に隠れやり過ごしながら、タウバーンは毒づいた。
「勝手なことを……っと!?何なんだあの武器は!」
タウ・銀河ビームが。あの棒の一振りでいとも容易く弾かれた。
今しがた繰り出した銀河十文字斬りも、あの棒一本の前に完全に防がれた。
立ち塞がるサイバディを次々と打ち倒したタウバーンの必殺技が何の効果も示さず、傷一つ与えられず無力化されたのだ。
そして技の使用による消耗が、逆にタウバーンを窮地に追いやることとなった。
-
「これがギガバトルナイザーと云う物か!!たった一本で光の国を壊滅させた逸品というだけのことはある!!」
ギガバトルナイザー……それがターンXの持つ黒い棍棒の名前だった。
最悪の武器が、最悪の戦闘狂の手に握られている。その組み合わせは悪夢以外の何物でもなかった。
ついでに言うと、タウバーンはあの武器を見ていると何故だか嫌な気分になってしょうがない。
何だろう、この言い知れない不快感。まあ、大した理由ではないだろうが。
「出てこないか!?逃げて隠れるしかない青春など、負け犬の人生と云う物だッ!!」
「まさか!こんな不毛なだけの殺し合いに青春を費やすつもりはないね!!」
再度の砲撃により、木々が炎上する。
このまま戦い続けても、さらなる窮地に追い込まれるのは目に見えていた。
負けてやるつもりなど毛頭ないが、勝てたとしても無傷では済まないだろう。
だからと言って、大人しくそれを受け入れる気はない。
「ピンチはチャンス、ってことか……僕には、見えているッ!」
戦力を拮抗させ互いに神経を張っていた先程までなら、かえって見えなかっただろう。
強い武器の入手と戦局が優位に傾いたことで、ターンXに無意識の傲りが生まれた。
また、ギガバトルナイザーの砲撃は強力だが、連射能力には秀でてはいないようだ。
そして、草木と燃える炎と上がる煙が、ターンXの視界を妨げる。
それらから生まれる僅かな猶予をかき集め――タウバーンは事態を打開する隙を見出した。
即ち、自らに支給された拡張パーツを呼び出し、使用準備を整えられるだけの隙を。
「ギガバトルナイザーだかなんだか知らないが……
二万年早いぜ!!そして、僕の青春というビッグバンは、もう止められないぜ!!」
……って、我ながら何を言っているんだろう。
タウバーンは思わず口をついて出た独特のセンスの言葉に内心で突っ込みながら、
アクセルを、踏み込んだ。
同時に、エンジンの音が鳴り響いた。
「何ッ――!?」
ターンXが驚愕の声を上げるも、束の間――
白い弾丸が、ターンXの真横を通過した。
「貴様!?」
ターンXが振り返った時には、もう遅い。
弾丸は――タウバーンを乗せた白いマシンは、光と見紛う速度でターンXを引き離していく。
ロードセクター。タウバーンに支給された、一台の白いバイクだ。
「あんたに付き合ってる暇ないんだって!」
「おのぉぉれッ!!」
逃がすまいと、ギガバトルナイザーの矛先から稲妻が迸った。
ロードセクターは、背後から迫る稲妻の雨を掻い潜りながら、さらに加速。
そのスピードで門を突破し、そのまま一気にぶっちぎる――
-
「ッ!!……逃がしたか。まあいい」
遥か彼方に姿を消していくタウバーンをなす術なく見届けながら、ターンXは言った。
追跡はしなかった。彼にはあのバイクに追いつける足がない。
下手に追いかけて内蔵電力を無為に消耗させることもない。楽しみが後に延びたと考えればいい。
「フフフ……ギム・ギンガナムも、小生を――ターンXを得た時は同じ高揚を得たか?」
自身に与えられた拡張パーツ・ギガバトルナイザーを見定める。
この武器ひとつで、膠着していた戦局は一気に大きく有利に傾いた。
格闘戦としては勿論、射撃武器としても強力無比。威力に反し、燃費も良好。まだまだ秘められた能力もあるようだった。
だが連射はさほど利かないようで、素早い立ち回りには厳しい。
自前のライフルやバズーカと、うまく使い分ける必要があった。
何にせよ、取り回しの利く格闘戦用の武器というのは、彼にとってはありがたかった。
――その時。
「……うん?」
ターンXは『何か』に気付いた。
(――気付かれたか!?)
その『何か』を見つけた方角を見据え、ターンXは笑う。
ちょうど校門の右手――ここから北の方角。そこに見えた、小さな影。
「ほう。タウバーンには逃げられたが……新たな相手が迷い込んできたようだな」
その闇しか見えないはずの目の奥に、狩る者の光を湛えて。
ターンXは校門を飛び出し、走り出した。
そして。
校門の前には、誰もいなくなり。
校庭の隅に、場違いなダンボール箱だけが残されていた。
◇ ◇ ◇
「危うく気付かれたかと思ったが……どうやら他に何かを見つけたらしいな」
『……まさかこれで本当に誤魔化しきれるとは』
被っていたダンボールを取り払い、その中から出てきた男――スネークは立ち上がった。
『現時点でこれ以上奴と関わるのは危険だ』
「わかっている、今のうちにここから離れる」
スネークはダンボール箱を素早く仕舞うと、すぐにその場から駆け出した。
校門を出ると、ターンXの向かった方角とは逆の左手へと曲がり、そのまま道路を南下する。
-
走っている最中も、スネークは周囲への警戒を緩めない。
既に空は明るんできている。それだけ、スネーク自身も発見される危険が高まったということだ。
そんな中で思い返すのは、先の2体のロボットフィギュアのことだった。
「深入りして傷を広げる前に、逃げを選んだか。正しい判断だ。タウバーンと言ったか」
『追いつけないと見るや追跡を中断した、あのターンXというフィギュアの割り切りの良さもだ』
「不必要なバッテリーの消費は避けるべきだからな。戦闘能力も含めて、どちらも手強い相手になりそうだ。
それで、検索はできたのか?」
『ああ。あの2体のフィギュア……そして、あのターンXの持っていた黒い棍棒の正体もだ』
カズヒラの調べ上げたデータが、スネークの思考回路に転送されてくる。
スネークは2体のフィギュアのみならず、棍棒の詳細の検索も彼に依頼していた。
膠着状態だった戦局を一変させたのはあの棍棒だ。無視できるものではない。
スネークは一旦物陰に身を隠し、そのデータの閲覧を試みる。
「ギガバトルナイザー……あの棍の名前か」
『あのターンXがご丁寧に名称を叫んでくれた分、調べがつくのは早かったよ』
ギガバトルナイザー。
闇に堕ちたウルトラ戦士・ウルトラマンベリアルがかつて使用した武器。
彼はこの棒一本だけで――単独で、M78星雲光の国を、壊滅に追いやったことがある。
「……単独で光の国を壊滅、だと?ウルトラマンというのは、有名な巨大ヒーローのことだろう?」
『そうだ。ウルトラマン達の故郷である光の国のその全戦力を……
つまり、歴代のウルトラマン達のことごとくを、あの棒一本だけで全て沈黙させたという話だ』
その性能は言語に絶していた。
先端からは光線や稲妻、敵を拘束する光の鞭まで、強力かつ万能な攻撃を繰り出すことができる。
それらは、歴代のウルトラ戦士達が束になって挑んでも、その全てを僅か一撃で撃破する力を持っていた。
加えて、戦士達の放つ攻撃を全て防ぎ切ることのできる強度。
単独光線技最強と言われるゾフィーのM87光線に真っ向から直撃しても、難なく掻き消す。
ウルトラ兄弟三人がかりによる必殺光線の合体技すらもいとも容易く防ぎ、そのまま跳ね返す。
もはや並の攻撃など物ともしない、などという生易しいレベルではない。
最強クラスの必殺技だろうが、幾重にも必殺技を束ね撃ち放った総攻撃だろうが、あの棒には全く意味を為さない。
「タウバーンの切り札と思しき攻撃も、あの一本だけで難なく防いでいたな。他のパーツと同じ素材とは思えん」
『もしも強度までが再現されているとすれば……あれはもう超合金どころの話ではない。物理的な破壊は不可能と見ていい』
「だがそれは、あくまで人間の技術的に可能な範囲内でのことだ」
戦慄を走らせつつも、しかしスネークはそれに呑まれることはない。
どれほど強力な武器といえど、使い手が存在する以上は決して無敵ではない。
現にベリアルはウルトラマンゼロの前に敗れた。戦闘中にギガバトルナイザーを手放すという形で。
「恐ろしく強力ではあるが、どんな武器も使いこなせなければ真価は発揮できないはずだ。
そのベリアルにしても、使いこなしたからこそあの棍棒の絶大な力を発揮できたのだろう?」
『それはそうだが……』
「あのターンXというフィギュアは、あのギガバトルナイザーという武器を完全に使いこなせていない。
それは使い慣れていないという意味ではなく……あのフィギュアでは使いこなせないようにできている、というべきか」
『どういうことだ?』
一連の戦いをその目で見届けたスネークは、ギガバトルナイザーを扱うターンXの違和感をも見抜いていた。
「奴の右手は特殊な形状をしている。物を握れるようにはできていないようだ。
現に、先の戦いでも奴はギガバトルナイザーを、左手だけで運用していた」
『確かに、あれだけの得物を片手だけで、不自然な振るい方をしていた。
もっとも、奴には片手でもあれを十分に振るえるだけのパワーが備わっていたようだが……』
「それでも、棒術というものは片手だけでは成り立たないものだ。ならば付け入る隙はある。
フィギュアの可動区域という観点からしても、片手では必ず限界は生じるはずだ」
-
『理屈はわかるが……あれは射撃武器としても脅威だ、それだけで隙を見出すことは難しいぞ』
通信越しに聞こえる相棒の声には懸念の色が晴れることはない。
そもそもギガバトルナイザーを抜きにしても、あのターンXはスネークが正面から戦って勝てる相手ではないのだ。
スネークとて、決して楽観視しているわけではない。
限界があったとしても、使い続ければ必ず使い慣れる。
もし次にターンXと遭遇することがあれば、彼は今以上に危険な存在と化していることだろう。
それまで彼が生存し、ギガバトルナイザーを手放していなければ……という前提でだが。
「いずれにせよ、あの武器……入手できれば、大きな強みになるな」
『使用する気か?慣れない棒術の真似事になど、手を出すべきではないぞ』
「格闘戦だけでなく、狙撃用のライフルとしてもあの武器は優秀だ。例の車輪も、あれなら貫けるかもしれん……
それ以上に……気になることもある。可能であればだが、下手に他の連中の手に渡る前に、こちらで確保したい」
『……わかった。ではそれらの点を踏まえて、対ターンX戦とギガバトルナイザー奪取に関するプランを練ることにしよう。
だがくれぐれも慎重に動いてくれ。このミッション、想像以上に危険なフィギュアやパーツが仕込まれているようだ』
「了解した。では、こちらは物資調達の任に戻る」
一通りのやり取りを終え、カズヒラとの通信は閉じられた。
スネークが気にかけたこと……それは、ギガバトルナイザーの持つもう一つの能力のことだ。
それは本来のバトルナイザーとしての能力。
通常のバトルナイザーよりも遥かに多く、百体ものモンスターをも意のままに操ることができる。
ベリアルはこれで、怪獣墓場に眠る怪獣の霊を甦らせ、手駒として操ったようだ。
死者を甦らせて操る……もし、この機能があの拡張パーツにも備わっていたら?
ナンセンスなオカルトと嗤われそうな話だが、一概にそうとも言えないだろう。
自分達バッテリー仕掛けの人形の命など、所詮は仮初の物に過ぎない。
機能停止したフィギュアを外部から遠隔操作する……その程度であれば、決して非現実的な技術ではないはずだ。
杞憂かもしれない。そこまで偏重した外部パーツは、人形同士の殺し合いに与えられる武器としては相応しくないように思えた。
だが万が一ということもある。注意はしておくに越したことはない。
朝の光が街を照らし始める。
ここからは夜の闇に紛れることもできない。ミッションの難易度はさらに上昇していくだろう。
気を引き締め直し、スネークは再び商店街への道を駆け出した。
【早朝/エリアV(道路)】
【スネーク(MGSPW)@リボルテック】
【電力残量:95%】
【装備:Mk.22(麻酔弾x8/8)、スタンロッド】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(M16A1(ライフル弾x30/30)、ダンボール)
:煙草(ルパン三世)@リボルテック、大型N2ミサイル(エヴァンゲリオン零号機・改)@リボルテック】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:ミッション(BATTLE ROYALE)の達成。
1:フィールド南西の商店街へと向かい、そこで物資調達。
2:寝るための安全地帯の確保。
3:ターンXを警戒。ギガバトルナイザーを確保したい。
-
◇ ◇ ◇
雪菜はただひたすらに走り続けていた。
自らの罪の意識に、追いかけられているかのように。
なぜ?どうして?一体何が?
あれから幾度となく、心の中で繰り返す。
自分の中から抜け落ちた記憶、その間に起きた事態。
自分がハンター達を攻撃し、その果てに一体のフィギュアを破壊したこと。
それだけではない。もしかしたら他にも、誰かを破壊したかもしれないこと。
わからない。自分の身体に何が起きたのか。
自分の身体の中に、何が潜んでいるのか――
彼女には一つ、思い当たるフシがあった。
ユニコーンガンダムの機能として彼女に搭載された、デストロイモードだ。
今も全身に生々しく残る熱から、それを発動させていたことは確かだった。
だが、発動している間の記憶が、見事にすっぽりと抜け落ちている。
そして、モードが解除したとほぼ同時に、意識は戻った。
……それらの断片的な情報から、彼女は誤った認識を導き出してしまう。
――原因が、デストロイモードにあるのではないか、と。
何かの拍子で彼女の中のユニコーンガンダムの機能・デストロイモードが発動。
その際に自身の意識が失われ、暴走を引き起こした。
暴走の結果、アーレスを手にかけ、ハンター達を襲い、仮面のヒーローらしきフィギュアを破壊した――
現時点で彼女の把握している情報を整理すると、確かに辻褄は合う流れだった。
記憶が不明瞭なため、如何なる経緯でモード発動に至ったのかは不明だが、今の彼女にそこまで考えを回す余裕はなかった。
彼女にとって、その身に装備されたユニコーンガンダムの要素とは、あくまで『武器』であり『装備』である。
ユニコーンガンダムとしての一通りの性能・機能は把握しているし、それらの扱い方もわかる。
しかし、実際にそれらの機能や武器を使用してどんな効果が得られるかまでは、把握していない。
なぜなら、彼女には実戦経験がないのだから。
MSGの企画としてMS少女の素体となった彼女ではあるが、言ってしまえばそれは単なるコスプレの類だ。
戦闘を前提とした存在ではなく、その姿で実際に戦った経験などない。
さらに言えば、今このフィギュアの身体で活動すること自体が、彼女にとっては初めてのことである。
――彼女はあくまで実戦経験がないだけであって、戦い方自体は把握していることは補足しておく。
雪菜同様にMS少女であるヒメ=スカーレットは、初戦からバンシィの力を十分に発揮していた。
この差は、単純に雪菜とヒメ双方の性格的な部分に依る所が大きいといえるだろう。
無論、デストロイモードには別に電子頭脳の理性や意識を失わせるような副作用はない。
現に、ヒメは何の問題もなくバンシィのデストロイモードを使用していたではないか。
いや、そもそも彼女の暴走は、アーレスの――サガの放った悪意の拳による洗脳が原因であって。
デストロイモードやユニコーンの機能など、最初から全く関係がないのだから。
……もっとも、デストロイなどという物騒極まりないネーミングでは、誤解するのも仕方ないのかもしれないが。
自分の身体は、一体どうなっているのか。
自分の中に、一体何が眠っているというのか。
自分の中に存在する未知なる何かに――ありもしないものに、彼女は恐怖する。
故に彼女は、周囲への注意を怠ってしまっていた。
-
突如、響き渡る銃声。
「ひ……っ!?」
同時に、雪菜の足元に火花が散る。
どこからともなく撃ち込まれた一筋の光線が、彼女の行く手を遮った。
「ほう。貴様が小生の次なる相手ということか」
声の方角に、光線が撃ち出された方角に、雪菜は怯えながら視線を飛ばす。
その先にいたのは、雪菜もよく知るMS‐モビルスーツ‐のフィギュア。
歴代ガンダムシリーズに登場するMSの中でも、最も危険な2体のうちの片割れ。
――新たな獲物に心躍らせる戦闘狂、ターンXだ。
その左手にはビームライフルが握られ、銃口は真っ直ぐ雪菜に向けられていた。
「貴様のその装備……見覚えがあるぞ。黒歴史のガンダムの一つに語られた、ユニコーンのものか!」
ターンXは即座に、雪菜が模したガンダムの名を言い当てる。
彼の電子頭脳には黒歴史そのものが宿っている。そこに記されたガンダムの存在も知り尽くしていた。
その狂気すら思わせる嬉々とした物言いに、雪菜は恐怖する。
彼女もまた、ガンダムシリーズのMSについての知識はある。無論、それに乗っていたパイロットの知識も。
ギム・ギンガナム――彼の人格が、あのターンXにそのまま適用されているとすれば。
「戦場で戦装束に身を包む以上は、貴様も戦う覚悟があってのことであろうなぁ!?」
こうなるだろう。あの男の生き写しであるかのように、実に楽しげに戦いを求めてくる。
雪菜は慌てて、訴えるように叫ぶ。戦う意思はないということを。
「ま、待ってください!私は……私は戦うつもりなんて……」
「隠した所でためにはならんぞ娘!貴様、既に戦いを経験しているな!?」
そんな彼女の僅かな望みは、脆くも一蹴された。
ターンXが見逃すはずもなかった。雪菜の全身に残された、戦いの傷跡を。
「口で何と言おうが、貴様も一応はMSなのだろう!?どうだ、さっそく何体壊した!?」
その言葉に、雪菜の表情が青ざめた。
呼び覚まされるように、自分の中の記憶が脳裏を過ぎる。
自分が壊したフィギュア達の、自分が傷つけたフィギュア達の姿を。
手に残る罪の感触を、ターンXの言葉は容赦なく甦らせてくる。
「ち、違う……違います!壊すつもりなんてなかった!!私じゃない、私、が……!」
その罪から逃げるように、雪菜は叫ぶ。
だがそれは自らの犯した殺しの暴露であると共に、悪魔にさらなる弱みを晒したも同然だった。
「ほう……だが恥じることなどないぞ娘!!戦いこそ、人間に課せられた永遠の宿命!!
その申し子である我らもまた、戦うことは必然といえよう!!」
ターンXの手のライフルが、再び火を噴く。
発射されたビームは先程と同様に、雪菜の足元を挑発的に走った。
「う……うわあああああああっ!!」
恐怖に叫びながら、バーニアを噴かし襲撃者から逃げる。
しかし混乱した頭では、満足な姿勢制御が行えない。
そんな無様な姿をあざ笑うかのように、襲撃者は迫ってくる。逃げ切れない。
-
怖いけど、戦うしかない。
そう自分に言い聞かせ、雪菜はすぐに手持ちの武器を確認した。
(武器、武器は……っ!?ビームマグナムがない!?そんな、どうして!?)
自身の主力武器が失われていることに、再び青ざめる。
洗脳され意識を失っていた彼女には知る由もないが、先の戦いで彼女はビームマグナムを手放していたのだ。
仮面ライダーオーズの最期の一撃を受けた直前に放棄し、そのまま回収することなく逃げ出していた。
そんな彼女の事情など意にも介せず、ターンXは悠々と迫り来る。
ライフルを取り下げ、代わりにギガバトルナイザーをその手に持ち替えた。
「どうした!?我々は戦ってこそ意義がある!!」
「わ……私達は、そんなことのために作られたんじゃありません!!」
「MSは兵器である!!壊し殺すためのッ!!」
「フィギュアですよ!?私達は!?」
「それを使って殺し合えと言うなら、同じことだ!!」
雪菜の言葉など意にも介せず、叩き壊さんとばかりにギガバトルナイザーを振り下ろしてくる。
雪菜はビームサーベルを手に取り、その一撃を受け止め――
それだけでも、華奢な少女の素体が壊れてしまうかのような衝撃が、全身を走り抜けた。
パワーに耐え切れず、膝をつく。これだけで、両腕は感覚がなくなるほどの痺れに支配される。
「く……ぅぅぅぅぅっ!?」
「それでいい!!我らは壊し合うために生まれたんだからな!!」
飛びそうになる意識をかろうじて持ちこたえながら、雪菜は懸命に反論を叫んだ。
「違う……違います!私はMSG……そういう目的で生まれたわけじゃ……!」
「笑止!!戦うための力、人はそれをガンダムと呼ぶッ!!
そいつに憧れてるから、コスプレなんぞをやるんだろう!?」
「何を、言ってるの……?」
「力に憧れ戦いを望んでいるから!年頃の娘なのに、可愛げのないガンダムの真似事なんかやれるんだよ!!」
突飛を通り越して滅茶苦茶な理屈だ。
ただひたすら自分だけに都合がいい、一方的な偏見と決めつけ以外の何でもない。
「違いますッ!!MS少女は、そういう企画じゃありません!!」
MS少女という企画そのものを侮辱するかのような発言に、雪菜は思わず声を荒げた。
だがターンXの口撃は止まらない。雪菜の有無を言わさず、勢いのままに畳み掛ける。
「本物の戦場に放り出されて!!それですぐさま戦場に適応して簡単に戦える!!
戦う気のないただのコスプレ少女ごときにできる芸当ではない!!
だがお前は早くも敵を破壊したッ!!それはお前は本質的に戦いを望み、求めているということだろ!?」
「そんな……そんなの……」
正論と屁理屈を綯交ぜに、凄まじく自分に都合のいい超理論を構築してくる。
少しでも頭が冷えていれば、こんな酷い詭弁など馬鹿馬鹿しいと一蹴して終わりだ。
いや、たとえ頭に血が上っていようが、真っ向から反発するだけの話だ。
少しでも自分を持っていれば、こんなものに惑わされることなどありえない。
しかし……彼女は惑わされてしまう。
何故なら、彼女は自分という存在に対し、大きく揺らぎを見せていたからだ。
自分がデストロイモードを発動させ、他のフィギュアを殺したのは紛れもない事実。
そしてその一連の記憶がないことが、不安をこれ以上ないほどに掻き立てた。
雪菜が自分を保つには、ターンXの声に反発するには、今の雪菜の心はあまりに弱り切っていた。
確固たる自分を持てるだけの自信は、自らの中の不安定により奪い取られていた。
-
こうなってしまえば、あとは無理が通り道理が引っ込められるというのが世の常。
雪菜の弱り切った心は、いいように浸食されていく。
「貴様がMSの真似事をする限り、貴様の中にMSが存在する限り!!
貴様はその破壊の願望を切り離すことは――できんのだ!!」
雪菜を押し込んでくるギガバトルナイザーに、力がさらに加えられた。
少女の力では到底対抗できるものではない。
ユニコーンのビームサーベルが弾き飛び、音を立てて地に転がった。
「うああっ……!!」
「弱い……弱いぞ!!ユニコーンがそんなものであるわけがない!!」
地に落ちたサーベルの光の刃が消失する。
雪菜自身も尻餅をつき、その身体は無防備となった。
まだダブルハーケンが――いや、焦りと不安に邪魔されて、思考がそこに行き着かない。
ハンター達を圧倒したほどの戦闘力が、今の彼女からは見る影もない。
通常のユニコーンモードである点を差し引いても、あまりにも彼女は弱すぎた。
戦い方がわからないわけではない。慣れてなくとも、戦おうと思えば戦えないわけではないはずだ。
「何を恥じらう!?既にお前は処女をユニコーンに捧げているんだろうがッ!!
ならばその力で存分に乱れてみせろッ!!力を貪る淫らな本性を曝け出してなぁッ!!」
デストロイモードを発動させて、自分の中の本性を見せろ。ターンXはそう言っている。
その言葉が、雪菜の誤った認識をさらに加速させていく。
(私の中に、そんな心が……?そのために、私は……?)
もしも自分の中に、自分自身も知らない凶暴な本性があって。
デストロイモードが、それを目覚めさせるスイッチとなっているとしたら。
「違う、違……私、は……」
戦える精神状態などでは、なかった。
誰かを傷つけることが、怖かった。
自分が自分でなくなることが、怖かった。
自分の中に見知らぬ存在が眠っていることが、怖かった。
そしてそれが、自分の知らぬうちに誰かを壊してしまうことが、怖かった。
いや――それ以上に。
内蔵電力が、もう残り少ない。
視界にノイズがかかり始める。
その中に、ターンXの黒き棍が、自分を目掛けて振り下ろす光景が見えて――
そこで、雪菜の意識は途絶えた。
◇ ◇ ◇
-
「興が醒めた。戯れが過ぎたようだな」
ターンXの足元で、少女が倒れている。
遭遇する前と、何ら変わらぬ姿で眠っている。
――油を注ぎ過ぎて、かえって逆効果になったか?
機能停止はしていない。結局、ターンXは少女に手を出すことはなかったのだから。
そして彼女の身体の下には、彼女自身のクレイドルが敷かれていた。
彼が少女に興味を失い、それでいてまだどこか期待をしているが故の、戯れだ。
「小生がわざわざ手を下すこともあるまい」
力なき小娘を嬲り殺すことに興味はない。彼が求めるは強者との戦いだ。
今のような不甲斐ないざまを晒し続けるようなら、どの道この戦場では生き残れはしない。
電力を完全に回復させたところで、すぐに他の誰かに屠られるのは目に見えている。
その一方に存在する、期待。
彼女がユニコーンガンダムである以上、この程度ではないということは間違いないはずだ。
もしもこの戦いの中で彼女にスイッチが入り、吹っ切れることがあるとすれば。
その時こそデストロイモードを発動し、戦いがいのある強敵として目覚めるかもしれない。
無力なまま野垂れ死ぬか、覚醒し自分の前に立ちはだかるか。
どちらであろうと、損をする話ではない。
彼女が期待に応えることを期待しつつ、ターンXはその場を後にした。
「さて……これからどうするか」
最初に戦ったタウバーンとやらが去ってから、それなりに時間も経った。
こちらには十分な足もない以上、今さら無理に追いかけた所で、追いつけることもない。
ならば、新たな敵を求めて街を徘徊するか。
それもいいが、連戦でこちらも少なからず消耗した。次なる戦いに備える意味でも、休息は必要だ。
時間的にも、最初に宣言された6時間の経過まで、長すぎず短すぎずという所か。
それまでにどこか適当な場所で、充電も兼ねて仮眠をとっておきたいところだ。
ここまでの二度の戦いは、どちらもターンXにとっては消化不良のまま終わりを告げた。
結局、この手で一体も屠るには至っていない。不満はある。
だが、まだまだ強者の気配は感じる。ならば、出会いを焦ることはない――
◇ ◇ ◇
――ごめんなさい。
眠りに浸した意識の中で、雪菜は謝罪する。
――ごめんなさい。
自らを気遣ってくれながら、この手で傷つけてしまったハンターに。
その隣にいた、同じように傷つけてしまった女の子に。
そして、この手で壊してしまった、仮面のヒーローに。
意識を失う直前に出会い、その後姿を消した――恐らくは自分が手にかけたであろう、アーレスという男性に。
いや、もしかしたら意識を失っている間に、他にも誰かを壊してしまったかもしれない。
――ごめんなさい。
結局、最後の瞬間まで彼女は力を発動させることはなかった。
彼女の抱いた『恐怖』と、誰かを傷つけたくないという『優しさ』。
それらが、最後までデストロイモードの発動を拒んだのだ。
だがその優しさ故に、彼女の心は傷ついていく。
罪悪感という名の刃が、彼女の心を壊していく。
-
――どうしてこんなことに?
――私は、誰?本当の私は、何者?
――赦して。助けて。誰か助けて。誰か――
壊れていく心、その中で最後に残った、影。
ヒメ=スカーレット。
孤独なフィギュアである彼女が、唯一寄り添えるかもしれない、まだ見ぬ妹のような少女。
全てに絶望する闇の中、彼女に救いを、光を求めながら――彼女の意識は、落ちていった。
【早朝/エリアQ(路上)】
【ターンX@ROBOT魂】
【電力残量:40%】
【装備:ギガバトルナイザー(ウルトラマンベリアル)@ULTRA-ACT】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)】
【状態:右手に損傷(軽微)】
【思考・行動】
基本方針:気の赴くままに闘争を楽しむ
1:ユニコーンの
2:タウバーンを破壊する
【MS少女ユニコーンガンダム@AGP】
【電力残量:5%(回復中)】
【装備:ダブルハーケン(グレンダイザー)@リボルテック】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ビームマグナム以外の同梱装備一式)、拡張パーツ×1(確認済み)】
【状態:睡眠中。全身に小ダメージ。ユニコーンモード】
【思考・行動】
基本方針:???
1:自身の人格に疑念・デストロイモードの発動に恐怖
※紛失したビームマグナムはエリアL(マンション3F廊下)に放置されています。
-
◇ ◇ ◇
「くそっ、遅かったか……!」
タウバーンの行き着いた駐車場。
そこにあったのは、目を覆いたくなるような無惨な骸……武装神姫のなれの果てが残されていた。
先程聞いた悲鳴の主は、彼女に間違いはないはずだ。
「惨すぎる……!さっきのターンXとかいうフィギュアといい、どれだけヤバい連中が揃ってるんだ……!?」
少女の命を救えなかった、守れなかった――その無念が彼の中に込み上げてくる。
だが、それと共に、彼には新たな危険フィギュアの情報が与えられた。
「ん……これは!?」
痕跡、だ。
泥のついた足跡らしきものが、僅かに残されている。
東の空から差し込む陽の光が、それを照らし出していた。もう少し暗かったなら、気付くこともなかっただろう。
「これは……まさか、この子を殺した犯人の!?」
跡は駐車場のエリアの外へと続いている。
これを追っていけば、犯人のもとへと辿り着けるかもしれない。
悲鳴を聞いてからここに来るまでに、あまりにも時間をかけすぎた。
犯人はもう近くにはいないだろう。だが、こちらにはロードセクターという足がある。
追跡するならすぐに移らなければ、この痕跡はすぐに消える。
(こんなことできる連中を放っておけば、この子のような悲劇が繰り広げられる……!)
さあ、どうする?
ここでタウバーンには複数の選択肢が与えられた。
一つは、痕跡を辿ってこの神姫を壊した犯人を追うこと。
この残虐性は危険すぎる。一刻も早く手を打たなければ、第二・第三の犠牲が生まれることは間違いない。
そしてもう一つは……ターンXについてのことだ。
本人の戦闘力ももちろん、手にしたギガバトルナイザーもあまりに危険すぎる。
こちらも放置すれば、さらなる犠牲を生むであろうことは容易に推測できる。
しかしターンXは強敵だ。ギガバトルナイザーは勿論、それ抜きにしても半端な状態で勝てる相手ではない。
まだ見ぬ殺害犯の戦闘力も未知数だが、少なくとも神姫を惨殺できるだけの力はある。
これらの敵に対して、こちらは内蔵電力もあまり余裕があるとは言えない。ならば、休息を優先すべきなのか?
だが休息で時間を費やせば、手を打てるかもしれない危険を見逃すことになるのではないか?
(どうするタウバーン……ツナシ・タクト……!?)
これから、自分のやるべき事は。
これから、自分のやりたい事は。
危険な敵を、倒す。それは本当に今やるべき事なのか?そして、倒すことが自分のやりたい事なのか?
……いや、今はここで燻っている暇はない。
ロードセクターのエンジン音が、駐車場内に鳴り響く。
バッテリー仕掛けのバイクが叫ぶ、紛い物のエンジン音が。
皮肉なものだ。
もしもこの音さえなかったならば。
新たな戦いの音が――嘆きの声が、彼に届いただろうに。
そうすれば、彼はすぐにその戦場へと舞い戻れただろうに。
あるいは、彼があと少しターンXとの戦場からの逃走が後に延びていれば。
彼は――きっと絶望に堕ちる一人の少女を救い、支えることができただろうに。
「よし……!」
そんな事など露とも知ることなく、タウバーンはロードセクターを駆り、走り出した。
-
――青春苦く、茨の道。長くて暗い夜の道。
かつてロードセクターの主であった青年が、そう歌ったことがある。
その言葉だけを見るなら、奇しくもバトル・ロワイアルという名の過酷な道と重なってもいた。
既に日は昇り、東の空は光を見せている。だが、タウバーンの中の夜はまだ明ける気配はない。
――青春は戦うことと見つけたり。
青年は最後まで戦い抜き、悪の手から世界を守り抜き――
そして自身は、最後に全てを失った。
ならば、ここにいるタウバーンの青春は、いや生き方は――?
世界の声は、まだ聞こえない。
【早朝/エリアV(駐車場)】
【タウバーン@ROBOT魂】
【電力残量:35%】
【装備:ロードセクター@S.H.シリーズ(電力残量:80%)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(スターソードエムロード、スターソードサフィール)】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:実験何て必要ないね
1:現場に残された足跡を追うか、ターンXに対処するか……
※発見した『痕跡』が、ゼオライマー達の物か、それとも実はエヴァンゲリオン初号機の物かは、後の書き手にお任せします。
-
投下終了しました。
問題点があれば指摘お願いします
-
投下乙
ターンXが楽しそうすぎる……
雪菜は心折られてるけど大丈夫なんだろうか
そしてタウバーンの手遅れっぷりがひどい……
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トミノ節効きまくりのターンXの超理論。
でもそのキャラクターのせいか説得力があるように見えてしまうのがすごいw
雪菜の追い詰められっぷりが見ていて悲痛なレベルに……
またてつをソングといい、Gジェネ冒頭のセリフといい
相変わらず自然に挟まれる小ネタにも脱帽です。
-
感想ありがとうございます!
島風、UCR-10/A予約します。
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このロワのカワイソス部門は男性ダブルオーライザー、女性雪菜で不動だな
前者は境遇が、後者は精神的に追い込まれすぎるw
-
投下します
-
速きこと、島風の如し。
その名を与えられた彼女にとって、それは決して譲れないプライドであった。
figma島風、彼女の目的はただ一つ――最速の証明。
彼女にとってはそれだけが第一にして全てであり、殺し合いに興味はない。
事実、これまで出会った相手には自分から攻撃を仕掛けながら、決して牽制以上の行為は行わなかった。
相手を破壊する気などない。ただ、自分が相手よりも、ここにいるどのフィギュアよりも速いということを証明するだけ。
しかしそんな彼女も、壁にぶち当たる。
2体のロボット型、ジェフティとガンバスター……速さだけではない、彼女の想像を、常識そのものを大きく超えていた。
原作では決して味わうことのない決定的な壁は、彼女のプライドを大きく傷つける。
足りない。あの2体よりもさらに速くあるには、今のままでは足りない。だが。
「改造できれば、もっと速くなれるよね……改造が、できればだけど……
でも、私には提督はいないし……ねぇ、どうすればいいと思う?」
連装砲ちゃんを相手にブツブツと呟きながら、電気の消えたゲームショップ内を一人歩き回る。
そう、これが問題だ。改造しようにも、彼女自身どうすればいいのか見当がつかない。
ゲームであれば、ボタン一つで簡単に改造できる。過程も省略され、僅かな時間ですぐに強化できる。
だが、今はゲームではなく現実だ。島風はフィギュアであり、それに手を加えるには一定の技術を要する。
いやそれ以前に、そもそもここには彼女を改造してくれる提督(マスター)はいない。
自身を強化したければ、自分の手でアクションを起こす他ないのだ。
そんなたかだか一体のフィギュアにできることで、一番手っ取り早いのは、新たなる外部パーツを自身に取り付けること。
「そうだ!私の拡張パーツ、もう一個あったっけ!」
島風は自身に与えられた拡張パーツの存在を思い出す。
ゴーカイオーのエネルギー砲の他に、彼女にはもう一つ支給されていた。
それは一着の、白いマント。
当初は自身のスピードへの絶対の自信ゆえに、余計な装備など必要ないと判断し無視していた。
だがさらなる強化改造が必要となった今、この未知なるパーツに期待が寄せられることになる。
マント……なんともこの状況にお誂え向きのアイテムではないか。
これを装備すれば、空が飛べたりするのだろうか。それならば、あのロボット達にも対抗できる。
はたまた、身のこなしが軽やかになるような効果でもあったりするのだろうか。
拡張パーツとしてわざわざ支給されているのだ、ただの飾りということはないはずだ。
島風は期待を胸に、マントを身体に『転送』する――
「お゛ぅっ!?」
いきなり全身に圧し掛かった重量に、彼女は思わず声を上げ、そのまま重みで床に倒れ伏した。
圧し掛かる重みとは他でもない、装着したマントのものだ。
「な、何これ……めちゃくちゃ、重っ……!?」
重い。とにかく、ありえないくらい重い。
たかがマントに、身体が押し潰されてしまいそうだ。
というより、たかがマントになぜこれほどの重量があるというのか。
「こ、こんなの着たら余計遅くなっちゃう!」
マントを脱ぎ捨てる。ドスッ、と似つかわしくないほど重い音と共に、床に放り出された。
脱いだだけで身体が軽くなったような錯覚を覚えるほどだった。
「し、信じられない……こんなマント、誰が何考えて身に着けてるんだろ……」
島風はマントの解説文に目を通してみる。
このマントは事もあろうに、あの『ドラゴンボール』からの出典。
S.H.フィギュアーツにて発売された、ピッコロのものであった。
原作におけるピッコロの身に着けるマントやターバンは、超重量の装備となっているらしい。
日常的に身に着けることによって、肉体に高負荷をかけて常に鍛えている、とのことだ。
それを再現したがために、このマントの重量は極端に重く設定されていた。
特に何の効果もない、ただ重いだけのマント。要するにハズレパーツであった。
-
島風は考える。自分の持つ拡張パーツが使えないとなれば、どうするべきか。
他の誰かが持っているパーツを手に入れて装備する……だが、そう都合よく手に入るとは限らない。
ならば、自分自身の手で自身に改造を施すか……それでも、先立つものは必要になる。
アテのなくなった彼女はこれからどう動くべきか考えるべく、地図を確認する。
模型やホビーの専門店があれば好都合だが、地図には載っていないようだ。
この近くで、改造に適したものがありそうな施設といえば――文具店か、電気屋だろうか。
どちらも、ちょうど先程まで戦いのあったエリアUに位置している。
遭遇した2体のロボット型フィギュアが、まだ残っている可能性は否定できない。
「……だからって、このまま諦めるわけにはいかないよね」
逃げ出すことは、彼女のプライドが許さなかった。
ぶち当たった壁と、そして自分自身の限界を超えるために、無理を通そうとする。
艦娘・島風の、彼女の心を受け継いだfigmaとして、速さへの追求は決して譲ることはできない。
だが今のままでは、あのロボット達に再度遭遇した時、勝てない。
少し、あと少しでいい。彼らを振り切れるだけの速さを得られれば。
「……ピッコロって人は、これをいつも着続けてて……脱いだら一気に強く、速くなったんだよね……?」
改めて、ピッコロのマントに目を向ける。
彼女は、これを着ることにより生まれる効果――結果に着目した。
自分の身体に負担をかけて行う修行は、ドラゴンボールの原作においてよく行われたことであった。
装備に重りを付けたり、高い重力をかけたり、枷を加えた上での特訓。
その枷から解放された時、抑えられていた戦闘力が戻り、特にスピードは見違えるようにアップした。
――パワーがてめえならスピードはオレだ!!!一生かかっても 追いつけんぞ!!!
このピッコロの装備もまた例外ではない。重い装備を外し身軽になってからが、本格的な戦いの始まりだ。
え?実際このセリフの後どうなったかって?……それは言わぬが花である。
「だったら私も、この重いマントを着たままでも平然と動けるようになれば……
これを脱いだ時には、もっと速くなれるかも……!」
……何やら、彼女の思考が迷走を始めたようだ。
もう一度、マントを転送し装着してみた。
再び、強烈な重量が島風の小さな身体に圧し掛かってくる。
「お、重い……で、でも、無理ってほどでもない、かな……」
重さに耐えながら、しばらく、マントを着けたまま店内を動き回ってみる。
店の外に出る前に、多少なりとも慣れておくために。
超重量と言っても、ここでは島風のような少女でもなんとか着て歩ける程度の重さには抑えられているようだ。
また、マントとしてはかなりの厚手でボリュームがある。
超合金ほどではないにしても、攻撃を簡単には通さないだけの防御力はあると思われた。
「けどこれ、動き辛い……!」
しかしこのマント、単体のパーツで構成された『一切可動しない』タイプの物である。
一応は軟式素材ということで、この場では補正が加えられているのか、多少の融通が利くようになってはいるようだが……
それでもマントとしてはやたら固く、動かし辛いことこの上ない。
加えて小柄な島風が大柄なピッコロのマントを着るとなっては、サイズが合わない。
歩くたびに、ずるずると、マントの裾を引きずる格好になる。
さらに長い髪もマントの襟元に引っかかってしまい、首周りの可動もままならない。ていうか無理に動かしたら髪が折れる。
どう考えても、デメリットしかないのだが。
「ま、負けない……絶対に、私が一番速いことを、証明してみせるんだから……!」
彼女の誇りと意地が、この無謀な挑戦へと突き動かす。
短時間重さに慣れたくらいでは、劇的なスピードアップなんて無理なような気がするが……
彼女を導く提督の存在があれば、彼女の暴走する思考のどこかでストップがかかっていただろう……言っても仕方はない。
-
「今のところ、外には誰もいない……よし!」
商店街に気配を感じないのを確認し、島風は店を出た。
重いマントを、裾をずるずると引きずりながら、走りだす。
着る前までの、島風の如きスピードは見る影もない。
こんな状態で外に出るなど自殺行為にも近いが、最悪脱ぐなり送還するなりすれば済むと考えていた。
だから今は、無様な姿に耐える。後のパワーアップのためと信じて。
周囲への警戒は決して怠らず、着実に歩を進め――
幸い、誰とも遭遇することもなく、文具店まで到着。
その頃には、既に空は明るくなり始めていた。
◇ ◇ ◇
文具店には、先客がいた。
スーパーロボット超合金・UCR-10/A……彼は外れ易い手首の修理のために、この店を訪れていたのだった。
さほど大きな店ではないはずだが、たかだか15cm前後の小さな身体では店内を回るのも一苦労だ。
そんな中で彼はただ黙々と商品棚をチェックし、手首の接着に使えそうな物を探し続けていた。
目当ての物は未だ発見できない。品揃えの豊富さも加わって、思いのほか手間取っていた。
その時だった。
「やっと着いたぁー!」
入り口の方角から響く無防備な声を、UCR-10/Aの聴覚が捉えた。
「誰かが来たようだな。来たのは俺達同様に偶然か、それともここの価値に勘付いているのか……」
サブAIであるファットマンの声に答えることもなく、UCR-10/Aはただ黙々と、手早く装備をチェックする。
「迎え撃つ気か。だが、まだ手首の接着はできていない。無茶は禁物だぞ」
UCR-10/Aは静かに周囲を見回す。この足で歩き回った場所だけとはいえ、僅かなりともこの店の地の利は得ている。
ここまで歩いてきた売り場の、どこにどんな商品があるのかも、一通りは把握できている。
ならば先手必勝。侵入者が店内を嗅ぎ回る前に、この優位性をもって蹴りをつける。
この店は、宝の山だ。
ハサミやカッターをはじめ、武器として利用できるものはいくらでもある。
紙の類は重ね合わせれば防具としても活用できるだろうし、インクや絵の具・墨汁の類は撹乱には最適だ。
そして、まだ発見できてはいないが、接着剤やテープの類。これだけ品揃えがあって、ないはずもあるまい。
手首に限らず素体の修理に役立てることができるだろうし、上手く使えば敵の動きを封じることも可能だ。
フィギュアにとっては、重要な資材が豊富に揃っている場所。
もっとも、これら現地調達の道具は『送還』することはできない。
フィギュアの小さな身体では、これらを店外に持ち歩くことは難しいだろう。
だが、この店内での活動に限定すれば、これほどまでに利用価値のあるものはない。
また、店内は身を隠す場所にも困らない。商品棚の中に紛れれば、小さなフィギュアなど簡単にカモフラージュが可能だ。
立て籠もるには最適の場所と言えよう。ちょっとした要塞といえた。
-
文具店――人間の視点からすれば、どうということのないただの一施設に過ぎないかもしれない。
それは、限りなく人間に近い認識能力を与えられた、彼らフィギュアにとってもそうだった。
自分達の置かれた状況と身の程を、本当の意味で完全に理解している被験体は、果たしてどれほどいることだろう?
UCR-10/A自身、実際に店を訪れるまで、この場所の価値など気にも留めていなかった。
手首の修理という理由がなければ、最後まで気付くこともなかったかもしれない。
そう考えれば、手首の不備すらある種の幸運にも思えた。
今後活動を続けるにあたって、この場所は重要な拠点となる――
◇ ◇ ◇
「やっと着いたぁー!」
文具店内に足を踏み入れる島風。
実のところ、改造と言っても具体的なことを考えているわけではない。
実際にあるものを見て回って、その中で自分に利用できそうなものはないかを探るだけだ。
「これだけ商品がいっぱいある店なら、何か使えるものもあるよね」
連装砲ちゃんに話しかけながら、艦娘はマントを引きずり、店の奥へと歩を進める。
その奥に、獲物を狙う黒い狩人が潜んでいるとも知らずに。
【早朝/エリアU(文具店内)】
【島風@figma】
【電力残量:70%】
【装備:マント(ピッコロ)@S.H.シリーズ、パワーエネルギー砲(ゴーカイオー)@スーパーロボット超合金】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(連装砲ちゃんx3、五連装酸素魚雷)】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
基本方針:スピードなら誰にも負けません。速きこと、島風の如し、です!
1:速くなる改造がしたい。ジェフティよりも誰よりも速くなりたい
2:文具店を探索し、改造に使えるものを探す
3:マントの重量を克服し、さらなる速さを得る
【UCR-10/A@スーパーロボット超合金】
【電力残量:60%】
【装備:URF-15 VALDOSTA(ライフル)、UEM-34 MODESTO(パルスマシンガン)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(KO-5K4/ZAPYATOI(ガトリングガン))、ビームマグナム(ユニコーンガンダム@ROBOT魂)、拡張パーツ×1〜3】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:好きなように生き、好きなように死ぬ。
1:店内への侵入者を迎撃
2:手首を補強する。
※手首が取れ易いです。ガトリングガンのような重量がある・重心が傾いている武器を持って激しい機動をした場合、手首がほぼ間違いなく落ちます。
※このプログラムにおいてミサイルやハンガーユニットが起動するかどうかは後の人に任せます。
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投下終了します
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遅くなりましたが投下乙です。
ピッコロさんのマントをつける島風を想像すると可愛いですね。
UCR-10がやる気まんまんですけどどうなるか。
AGPMS少女バンシィが届きましたので
・MS少女バンシィ ・マジンカイザー
を予約します。
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遅ればせながら投下乙っした
日用雑貨が有効な武器になるというのもこのロワならではだなぁ
工夫次第では下手な支給品より強力そうだ
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いまさらですがセシリア・オルコットも追加予約します。
今夜中に投下したいかと。
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投下します
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アスファルトの地面に膝をついてMS少女バンシィことヒメは正面を睨みつけた。
人間用の街灯に照らされた黒い魔神が殺気を放つ。
日本で知名度が高いスーパーロボットに刺々しさを足したような敵に追い詰められていた。
□
ドン、と家が揺れてヒメは驚いた。何かが爆発したような衝撃だが、自分たちは15cm前後の小型ロボットだ。
そこまでの破壊エネルギーを持つ存在は非常識である。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
獣のような唸り声にヒメは思わず身をすくめる。どうやら表にいるらしい。
それにしてもここまでうるさい状況なのにセシリアは相変わらず眠っていた。
まあ眠らせたのは自分だから文句は筋違いだとわかっている。
そのまま離れるのも悪い気がして、ヒメは表の野獣をほうっておくことにした。わざわざ関わる必要もない。
しかしその考えは覆る。再び爆発音とともに家が揺れたのだ。
「……もしかして近づいている?」
この衝撃は無視しきれない。すぐに逃げるか戦うか選ぶべきだ。
戦いとなるとこの破壊力を持つ相手は厄介だ。
眠っているセシリアに脅威であろうが、置いて逃げるのが正解だろう。
ヒメはため息をひとつ吐き、玄関へと向かう。
せっかくの捕虜を失うのが惜しい。そう自分に言い聞かせ、ドアを開けた。
ヒメが民家を出てすぐマジンガーに似た黒い破壊者と出会った。
全身が黒く刺々しく、まるで悪魔のようだ。
「ちょっと、あなたうるさいわよ。近所迷惑……」
圧倒的プレッシャーを前に言葉を途中で切り、思いっきり後方に跳ぶ。瞬間、二筋の光線が襲ってきた。
間一髪だった。発射元を探ると、黒いロボットの目元から煙があがっていた。
機体を画像から特定している暇はない。すぐに装甲を展開、金色のサイコフレームをむき出しにする。
そのままセシリアが眠る民家が攻撃に巻き込まれないよう離れた。
「敵……敵か! ルスト、トルネェェェェド!!」
嵐としか表現のしようのない風の塊が襲ってきた。
アスファルトや塀を溶かしながら瓦礫をまき散らす。
ヒメは必死にブーストをふかすが避けきれず、風圧に飛ばされて地面へと叩きつけられた。
「かはっ……!」
「トドメだ! ターボスマッシャーパンチ!!」
マジンガーの代名詞であるロケットパンチが唸りを上げて飛んでくる。
酸によって脆くなっている胸部アーマーへと狙いを定めていた。
だがヒメにとっては都合がいい。さっそくサイコミュ・ジャックを行う。
「なにこれ……重い!」
ターボスマッシャーパンチは威力がありすぎて軌道を変えるのが困難であった。
あの兜甲児が苦労したじゃじゃ馬の拳である。腕力は関係ないはずだが、ヒメにはとても操作しきれるものじゃなかった。
思念を強めて狙いを自分から外すのが精一杯。どうにか拳をやり過ごし、反撃へと転じた。腕のないマジンガーなどただの的だ。
そう判断してアームドアーマーBSを向けようとしたが、甘かったと思い知る。
魔神皇帝は腕がなくても止まらず、両耳の角を倒して空気を凍らせている。
「冷凍ビィィィィィィム!」
氷の道を作りながら冷気が襲ってくる。
ヒメは瞬時に回避運動へと移るがアームドアーマーBSの先端が凍りついた。
仕方なくパージし、ビーム・マグナムを転送して腕を装着している相手へと構える。
「お前も……お前も俺を、『兜甲児』を否定するのか! マジンガーのように!!」
ヒメは眉間にしわを寄せる。マジンガーに似たロボットは、マジンガーに否定されたと確かに言い放った。
不安が膨れ上がる。
「誰にも否定はさせねえ! 俺が……俺こそが『兜甲児』だ!!」
再びターボスマッシャーパンチが撃たれた。サイコミュ・ジャックで逸らしながら、ヒメは不安の種を無視できずにいた。
なぜならマジンガーに、同型機に否定される。それは自身にも訪れかねない事態だからだ。
雪菜姉様、とヒメが小さくつぶやく。
-
彼女は雪菜を姉だと認定し縋った。家族だと思っている。
だが雪菜が自分のことを同じように想っているかはわからない。
原作の関係で言えば操縦者によるとは言え、ユニコーンとバンシィの仲は良好と言いがたい。
敵と思われている可能性だって高いのだ。
この場にいるかもわからない姉。だが自分の全て。
そんな大切な相手に否定されるのはどんなに辛いだろうか。
たまらずヒメはマジンカイザーに尋ねる。
「あなた……否定されたの?」
相手の肩がかすかに跳ねる。
同時にマジンカイザーが発するプレッシャーが強くなった。
「……違う。俺が否定をするんだ! 俺が……」
「強がらなくてもいいよ。だってあなた、泣いているもの。涙は見せなくてもわかるよ」
原作のサイコフレーム及びサイコミュ・ジャックを再現した結果、ヒメや雪菜は感受性が強くなる傾向があった。
まるでニュータイプのような能力だが、相手の電子頭脳の流れを大雑把に受け止める程度でしかない。
だからこそ余計にマジンカイザーを刺激した。
「うるせぇ! わかったようなことを言いやがって……全部消し飛べぇ!」
相手は大きく胸をそらし、赤い放熱板を向ける。
悪魔の羽を思わせる胸部が輝き、熱で空間が揺らめいた。
「ファイヤーブラスター!!」
莫大な熱エネルギーがマジンカイザーから放たれる。
16cmサイズの小型ロボが発するとは思えないほどの熱波がアスファルトを溶かし、塀を消滅させ、電柱の根元を削る。
ヒメも視界が赤く染まるが、慌てず跳躍した。
「ふきとべええええ!」
マジンカイザーの叫び声に呼応するようにファイヤーブラスターのエネルギーが爆ぜる。
膨れ上がる光が二人から視界を奪った。
「ハア、ハア、ハア……」
マジンカイザーは黒焦げになった爆心地を視界に収めながら、人間のように息を荒らげた。
敵を撃破したのに心が晴れないゆえの行為だ。
ぐっと拳を握りこみ、彼女の言葉を思い出す。
『あなた……否定されたの?』
『強がらなくてもいいよ。だってあなた、泣いているもの』
マジンカイザーはいらだちに任せて壁を殴った。
破片が身体を跳ねて虚しく地面に落ちる。
「あいつは……マジンガーは俺のカマセだ……。ただの前座なんだ……」
自らに言い聞かせるように吐き捨てるが、虚しさが増すだけだ。
このざらついた気持ちはなんなのだろうか。魔神皇帝の名を持つ存在は答えが見つからない。
「俺こそが『兜甲児』……」
マジンカイザーが迷いを持ったままつぶやいたため、気がついた。
地面は熱に溶かされ煙が登っている。
削岩機で破壊されたようにアスファルトはえぐれ、爆発によって瓦礫が散らばっていた。
そうまでして砕いた相手は、幼い少女だった。
「兜甲児は……ここまでして女の子ひとりを殺すのか……?」
彼の語気が弱まり、膝が折れ、焦点がぶれた。
自分が知っている兜甲児は、神を超えて悪魔を倒し仲間を守る強いやつだ。
弱そうな少女に八つ当たりをする無様な存在では決してない。
「『兜甲児』はこんなことをしない。俺じゃなかったのか……本当の兜甲児は……あっち……。
じゃあ、じゃあ俺は? 俺は誰なんだ……」
エネルギーは底をつきかけている。
だけどマジンカイザーは充電をする気になれなかった。
このまま朽ちてしまいたい。
折れた心は脆く、永遠の眠りを望んでしまう。
「……すまねぇな」
それは本物の『兜甲児』に対してなのか、殺した少女に対してなのか。
-
本人さえわからない。マジンカイザーは意識を闇に閉ざそうとした。
「しっかりしなさい!」
叱るような高い声に目が覚める。
黒い装甲をまとった少女が自分の肩に手をおき心配そうに見つめている。
顔がすす汚れているが、大きな傷は見当たらない。無意識にマジンカイザーは安堵する。
「あれだけ大技を連発するからエネルギーが切れかけるのよ。
あたしが近くの家で充電させるから肩につかまって」
「生きていたのか……?」
「あたしの能力なら大雑把な攻撃範囲と向けている方向がわかるもの。
まあさっきのあなたみたいに感情がむき出しじゃないと無理だけど……ってそんな場合じゃないわ。
ほら、いくわよ」
「いやいい。放っておいてくれ。俺は君を殺そうとした。
そんな大馬鹿野郎は死ぬべきだ。兜甲児にも迷惑をかけたしな……」
マジンカイザーは力なくヒメの手を外そうとした。
だが彼女はこちらの腕を掴み、無理矢理を肩に回す。
「いやよ。あたしが掴まれって言っているのよ。おとなしく助けられなさい」
「君を殺そうとしたのにか?」
一瞬ヒメは顔を伏せてから、目を合わせてきた。
吸い込まれそうなほど澄んだ青い瞳は真剣だ。
「……あたしにも同型機の姉様がいる。雪菜=シュネーラインという、白いユニコーンのMS少女。
大事な家族だと思っているわ」
そうか、とマジンカイザーは羨ましそうに相槌を打った。
彼女はゆっくりと民家に向かって足を進める。
「何もない空っぽなあたしを満たしてくれる存在。だから会いに行くし守りたい。
姉様の脅威となる存在は破壊するわ。
けれど……雪菜姉様があたしを否定したら……?
あなたの話を聞いてそれに気づいたから、泣いているのを放っておけなかった」
そう言われてマジンカイザーは納得してしまった。
暴走状態にあった自分を容赦なく叩きのめし、飛び去ったマジンガーZ。
その後姿に抱いた感情は憎しみだと思っていた。兜甲児である自分を否定された怒りだと考えていた。
しかしあの感情はどちらとも違う。
「きっとあたしが雪菜姉様に否定されたらあなたと同じように感情をぶつけまわっていたと思う。
なにもかも破壊して、全部無かったことにしようとする。だけどそれは、好きって気持ちは……なかったコトにしちゃダメなんだよ。
空っぽのあたしたちはそれをしちゃうと壊れちゃうから。
だからあなたが壊れる前に止めたかった。それだけよ」
純真な彼女のおかげで、ようやく本当の気持ちを知れた。
「……ありがとうよ。そうだな、俺は『兜甲児』が……マジンガーが好きなんだ」
だからZモード(ひとのこころ)で泣いたのだ。
すべてが腑に落ちたマジンカイザーは彼女に身を委ねた。
□
ヒメはセシリアの隣にもう一つクレイドルをセットした。
金髪の少女はあれだけの戦闘が起き、轟音も鳴ったのにまだ起きていない。
そろそろ充電も終わりだろうにと思わず呆れてしまう。
「なんだ、仲間がいたのか?」
「ただの捕虜よ。それより早く充電に入って」
「捕虜……? まあそういうことにしておくか。よっと」
こちらの言うことに従い、マジンカイザーは寝そべって充電の体勢に入る。
素直でありがたい。
「先に使わせてもらってすまねぇな。君もたいしてバッテリー残っていないだろ?」
「あ〜わかっちゃうか。次の見張りをお願いしていい?」
彼は首を縦に振り快諾する。
もう死ぬ気はないようだ。ヒメはほっとため息をつく。
「寝る前に一つ聞くけどあたしの充電が終わったらどうする?」
-
「そうだな……とりあえずマジンガーを探すさ。会ってどうするかはわからねえし、敵と思われているだろうけど……自分のことに決着はつけたい」
「そうね。自分の兄弟だもの。ちゃんと話をした方がいいわ」
ん〜、とヒメは背筋を伸ばす。一段落ついて安心したのだ。
「それじゃあたしの充電が終わったらお別れか。ちょっと寂しいけどお互い探し相手に会えるといいわね」
「なに言っているんだ? 俺は君の姉探しに付き合うぜ。マジンガーと再会するのはその後だ」
え、と呟きながらヒメは目を見開いた。しかしすぐに冷静になる。
「変なことを言っているのはあなたの方よ。あたしのことはいいから、自分の目的を優先しなさい。
雪菜姉様探しに付き合う暇はないでしょう? 一度会ったならあたしと違って再会しやすいんだし」
「そうは言ってもマジンガーと会った時は半分正気じゃなかったから、どこに向かったかわかりやしねえ。
それに君のお姉さんにも興味があるし、借りを返したいんだ。たのむ」
大柄の身体を丸め、両手を合わせて拝む魔神皇帝の姿はどこかおかしかった。
しかしヒメはクスリともせず、表情の消えた顔で冷たく告げる。
「あなたは兜甲児が、正義の味方である彼が好きなんでしょう?
あたしはあなたは助けたけど、変わらず雪菜姉様の障害は排除するわ。
悪いことは言わないから、あたしと別行動で正義の味方をするべきよ」
「な〜に、とっくに暴走をしてタガが外れちまっているんだ。
俺は兜甲児とはもう別物さ。恩を返すために正義を捨てるくらい覚悟してらぁ」
だからな、とマジンカイザーは続けた。
「『兜甲児』とは違う、マジンカイザーである俺をその娘と同じように仲間にしてくれ。お願いだ」
静寂が室内を包んだ。時間は十秒も経っていないのだろうが、二人には永遠にも思える長さだった。
ふぅ、とヒメは根負けしたようにため息をつく。
「ヒメ=スカーレット、ヒメでいいわ。足を引っ張らないでね、マジンカイザー。
それとこいつは捕虜だって言っているでしょ! 間違えないで」
ヒメはツンと明後日を向いて吐き捨てたが、照れくささゆえだった。
マジンカイザーは気分を害する様子もなく歓迎する。
「ああ、たのむぜ、ヒ……メ……」
ようやく彼は眠りにつく。
まったくとひとりごちながらも、ヒメは自分が優しく微笑んだことを自覚していなかった。
眠りにつきながらマジンカイザーは決意を固めていた。
戦ってわかったが、ヒメは優しいのだ。
姉の脅威となる存在を破壊すると言っているが、本人にできるかは疑問だった。
ナイーブすぎる彼女のCSCは、自分以外の相手とも共感できる点を見つけ、情けをかけるだろう。
だから一人にしておけない。
相手がヒメに感謝をして協力を申し出るお人好しだけなら問題はない。
だが彼女の優しさを利用しようとする者はいるだろう。
戦闘力の高さを脅威とし、倒そうとする者も現れるだろう。
だからこそ自分は覚悟を決めるべきだ。
彼女がかぶるだろう汚れも、脅威も全て自分が請け負うと。
絶望した心は、捨てた命は彼女に拾われた。
今さら惜しくもない。
マジンカイザーは神を超えず、悪魔を倒さず、ただ一人の少女を救う鬼となった。
-
【早朝/エリアJ(民家内・一階システムキッチン)】
【MS少女バンシィ@アーマーガールズプロジェクト】
【電力残量:30%】
【装備:アームドアーマーVN】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ビームサーベル×2、ビームマグナム、ビームジャベリン)、
アイスラッガー(ウルトラセブン)@ULTRA-ACT、拡張パーツ×1】
【状態:損傷軽微】
【思考・行動】
基本方針:雪菜を傷つけるものは全て倒す。
1:セシリアの扱いを思案中。
2:マジンカイザーとともに雪菜を探す。
※サイコミュジャックは付近に存在する遠隔操作系の武装やパーツのコントロールを奪取できますが、
パーツの所有権自体を奪うことはできず、またデストロイモード終了と同時に解除されます。
※雪菜=シュネーライン(MS少女ユニコーンガンダム)を姉妹機として認識しています。
なお雪菜側の人格データに同様の設定が存在するかは現時点では不明です。
【マジンカイザー@スーパーロボット超合金】
【電力残量:3%(回復中)】
【装備:カイザースクランダー】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(カイザーブレード、カイザーブレード(パース付き)、)、拡張パーツ×1(未確認)】
【状態:両腕に細かい傷あり。睡眠中】
【思考・行動】
基本方針:ヒメを守り、 汚れ役は引き受ける。
1:ヒメの姉、雪菜を一緒に探す。
2:できればマジンガーZと決着。殺意はない。
※セシリアをヒメの仲間と認識しています。
【セシリア・オルコット@アーマーガールズプロジェクト】
【電力残量:100%】
【装備:なし(ISスーツ)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ISブルー・ティアーズ、スターライトmkⅢ)、約束された勝利の剣(セイバー)@figma、拡張パーツ×1】
【状態:損傷軽微、睡眠中】
【思考・行動】
基本方針:???
1:???
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投下終了。
タイトルは ハッピーバースデー・デビルマジン です。
指摘がありましたらお願いします。
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投下乙です!
カイザー、持ち直したか。今後Zとどう向き合っていくか期待がかかります
しかしヒメめっちゃいい子やな。こっちも現状ボロボロな雪菜との邂逅がどういう形になるか楽しみだ
ていうか二人ともこのロワじゃ数少ない「他に自分の関係者が参加させられている」参加者なんだなぁ
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ザンダクロス、ZZガンダム予約します
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予約きてた!期待!
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予約来た!
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久々にキター
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深夜組が動けば放送も近い…のか?
レヴィ、ジェフティ、ガンバスターに黎明の芳佳、ワイルドタイガーあたり
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ジェフティはスタンス的に、そのまま見つからず放送迎えてもおかしくないかもしれない
ガンバスターは、一触即発の文具店に乱入する可能性が……ゼオライマー達やスネークとかと鉢合わせる可能性もあるな
レヴィは……ヒメ達がイベント進める都合、位置的に向かうとしたらロックマン達の方か?
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ザンダクロス、ZZガンダム投下します
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「……ここまでくれば大丈夫だろう」
周囲の安全を確認したジュドはそう呟き、襖を静かに閉じた。
ゲッタアークの強襲から逃れたジュドたちは、程なくしてTブロックにある民家に姿を隠した。
黒王号のスピードを持ってすれば更に遠くへ逃走することも出来ただろう。
だがZZのダメージを考えるとそう長距離は移動できないこと、
それに民家内には遮蔽物も多いため、身を隠すならば単純に距離を取るよりも得策と判断したのだ。
そして現在、二体のフィギュアはその一室に姿を隠している。
漫画本の詰まった本棚やベッド、勉強机などが置かれていることから、恐らくは中高生あたりの子供部屋なのだろう。
とはいえ、そんなことはジュドには関係がない。
ただ比較的遮蔽物が多いという点からチョイスしたにすぎない部屋の中、本棚の影にクレイドルを転送し、ZZの体を横たえた。
「これで一先ずは安心といったところか……」
息をついたジュドはクレイドルの上に横たわったZZの姿を改めて見る。
先ほどの戦闘でその全身には大小様々の傷が刻まれている。
特に頭部のハイメガキャノンは完全に破壊されている。
惨たらしい傷痕は、襲撃者の憎しみを映し出しているかのようだ。
「おのれ、あの赤いロボットめ……何の恨みがあるかは知らんが、仲間を傷つけた落とし前は必ず付けてもらうぞ……!」
意気込むジュド。
だが一方でデジタルな自分が、冷静に勝率を見積もっている。
自分を気絶させた電撃、それにZZとの戦いを見ても奴は思い切り"戦闘用"だ。
しかも同じく戦闘用のZZをその手で倒した強者。
所詮は土木作業用の自分では到底かなわないのではないか。
(……いや、ZZと協力すれば必ず勝てる!)
-
ZZ。
この場所で初めて出会った同胞。
出会って数時間しか経っていないが、悪い奴ではないことはわかっている。
少し困ったことに自分たちがフィギュアだと――人間の玩具だなどという戯言を信じているようだが、
それも時間が経てばこちらが正しいとわかってくれるはずだ。
(うむ、そうなれば今度はZZには後ろに下がってもらい、俺が前線に出よう。
多少なりともボディの丈夫さには自信がある。
怪我をしたZZにサポートをしてもらえればきっと勝てるはずだ!)
だが一方で気になることもある。
奴も形状だけ見ればメカトピアの一員のようであった。
だが奴は一方的にこちらに攻撃を加えてきた。
まさかメカトピアとは違う、別のロボット勢力があるというのだろうか……
「……う、うう……」
そんなジュドの思考を断ち切ったのは足元から響いてくる呻き声。
その音源に視線を向ければ、カメラアイを明滅させながらこちらを向くZZの姿があった。
「おお、気がついたかZZ!」
「ジュド、か……俺、は……」
「あの赤いロボットにやられていたところを俺が何とか助けたのだ。
まったく心配させおって……」
言葉とは裏腹に安心した口調で息をつくジュド。
だが声をかけられたZZは何かを確かめるように、ぎこちなく手を開いたり閉じたりしている。
ジュドはその様子に気付かないまま、言葉を続ける。
「まぁしばらくそのままじっとしていろ。
エネルギーの補充と応急処置を済ませ次第、ここから移動して――」
「……なぁ、ジュド。頼みがあるんだけど、いいか?」
「む、なんだ? 出来る範囲ならば何でも言うといい」
ZZは無言のまま、何らかの操作をする。
怪訝そうにその様子を見るジュド……だがその行動の意味を数秒後に知ることとなる。
「!? ……どういうことだ、これは!」
「……」
「どういうことだと訊いているのだ、ZZ!」
ZZの行った行為に対し、ジュドは声を荒げる。
何故ならば『その行為』を行う意味が一つも理解できなかったからである。
-
「何故、貴様の装備品を私に転送しているのだ、ZZ!」
その行為――全アイテムの譲渡を行ったZZは言葉を続ける。
「……ああ、ついでに俺のビームサーベルとビームライフルも持って行ってくれよ。
固有武装だけどパーツ扱いになると思うから……」
「そんなことはどうでもいい! 何故そんなことをするのだと聞いているのだ!」
困惑し、ZZに掴みかからんばかりの勢いのジュド。
そんな彼に対して数秒の沈黙の後、観念したように口を開く。
「……俺、どうやら相当マズイみたいだ。
実際、こうやって話ができるのも奇跡みたいなもんなんだ」
「な……!」
先ほど受けたゲッターアークの一撃。
それはジュドが想像するよりも深く、頭部のコアにまで到達していたのだ。
事実、頭部に攻撃を受けた直後は完全に機能停止していたのだ。
偶然にも黒王号による振動で再起動できたが、この状態もいつまで持つかはわからない。
こうして話ができるようになったのは、幾つもの偶然が重なっただけの結果にすぎないのだということをZZは理解していた。
「……すまない、俺がもう少し早ければ……!」
「何言ってんだよ。アンタがいなけりゃこうして話すことも出来ずにあそこで破壊されてたんだ。
感謝こそすれ、恨み事なんてあるはずないさ……」
何かを悟ったような口調でZZは話を続ける。
「……それにまぁ、アイツをあんまり恨んでやるなよ。
多分俺は知らず知らずのうちにあいつの大事な所を踏みにじっちまったんだろうな。
全く情けないったらありゃしないぜ……」
これが"ジュドー・アーシタ"ならばもっと上手くやれたのだろうか。
だがそれは"もしも"の話でしかない。
ここにいるのはZZガンダムというフィギュアでしかないのだから。
そう、俺達は"彼ら"であって"彼ら"でない。
だが……だからこそ違う道も歩めるはずだ。
「……それで、望みとは何だ。 奴ならば頼まれずとも、俺がこの手で……!」
「違う。俺は仇討ちなんて望んじゃいない。
俺が望むのはアンタ自身のことだ、ジュド」
わずかに傾けられたZZの顔。
エメラルドグリーンのツインアイが、ジュドの漆黒の両目を射抜く。
-
「……一度だけでいい。俺の言った"仮定"を信じてくれないか?」
ジュドの動きがピタリと止まる。
そしてそのまま全身をわなわなと震わせる。
その震えの元となる感情は――怒りだ。
「……お前はそれがどういう意味を持つのか、わかっているのか!」
「……わかってるさ。それはアンタの"根っこ"の部分だ。
聞いた通りならアンタは人間に体を勝手にいじられて、仲間と戦わされて、ロクなもんじゃない。
そんな奴らの作った玩具だ、なんて信じられるはずもない。でもさ……」
ここではない遠くを見るようにして、ZZは呟いた。
「こうなって気づいたんだけどさ……
"人を信じたい"ってのが、俺の"根っこ"の部分なんだよ」
ジュドに顔を向けたまま、ZZは言葉を続ける。
「アンタから見た俺はきっと狂った機械に見えるんだろうな。
……でもそれは俺にとってはホントのコトで、現実なのさ。
……ああ、アンタにとってメカトピアが譲れないものであるように、俺にとってもフィギュアであることは譲れないことなんだよ」
「何故だ! 何故お前は人間の玩具として作られたことをそこまで肯定できる!」
自分より劣った存在の、それも玩具として作られたというZZの言葉。
ジュドにとっては仮定することすらおぞましく感じるというのに、何故ZZは誇らしげに語れるというのだ。
ジュドにはそれが理解が出来ない。
「……俺さ、ここに来てばっかりの時にちょっと検索ツールで"機動戦士ガンダムZZ"って調べてみたんだよ
俺みたいなROBOT魂だけじゃなくて、プラモとかもあるし……フルアーマーとか、ちょっとしたバージョン違いなんかも発売されてるんだな」
ジュドはZZが何を言っているのかほとんど理解できない。
だがただじっと聞き、続きを促す。
「色々出てるってことは、人間がそれだけ欲しがったってことで……それを色んな人たちが買っていったんだろう。
そもそも俺たち玩具は生活には必要ない存在だってのにさ。
それでも買ってくれたんだ……楽しみにしてくれたんだよ。
そう考えた時……俺はどうしようもなく嬉しかったんだ」
原作のアニメーションを楽しんだ人もいるだろう。
立体物の造形として好きになってくれた人もいるだろう。
そのどちらにせよ彼らは"ZZガンダム"という存在を愛してくれていたのだ。
そんな"人間"をZZは、どうやっても憎めない。
-
「こんなくだらない壊し合いに放り込んだのが人間だったとしても、
たとえお前の言う"ドラえもん"たちとやらの行為が真実だったとしても、俺は……人間を嫌いになりきれない」
ZZは信じたかった。
人間の中にある可能性という名の獣を。善意という名の神を。
そしてできれば目の前のフィギュアにもそれを感じて欲しかった。
言動からすればあまりにも低い可能性……だがZZはその可能性に賭けてみたかった。
「何、ずっと信じろだなんて言わないさ。
一度だけでいいんだ……一度だけ、俺の言うことを……人を信じてみてくれよ。
頼むぜ……」
ジュドの持つ電子回路が0と1との間をさ迷う。
ZZの言葉は到底受け入れられるものではない。
人間に対する憎悪は消える消えないではなく、彼の根幹にあるものだからだ。
普通ならば悩むまでもなく一蹴する願い事だ。
だがジュドは仲間の死に際の言葉をぞんざいに扱うことを拒否した。
僅かな沈黙の後に、自分なりに考えぬいた答えを口にしようと、顔を上げる。
「ZZ、俺は……!」
だがその言葉を発しようとした瞬間、気づく。
充電していたクレイドルがその機能を停止していることに。
そして何よりZZの体がぴくりとも動かないことに。
「おい……おい!」
ZZの体を激しく揺する。
だがそのカメラアイに二度と光が灯ることはなかった。
奇跡は二度起きることはない。
ROBOT魂のZZガンダムは今度こそ機能を完全に停止したのだ。
【ZZガンダム@ROBOT魂 機能停止】
* * *
-
それから何時間たったのだろうか。
デジタルな存在であるジュドはその気になれば正確な時刻を確認できる。
だが今はそうする気も起きない。
いつの間にか姿を表した朝日が、物言わぬZZの顔を照らしている。
「俺は……」
ボソリと、口をついて言葉が溢れる。
一度は答えが出たはずだった。
ZZの言葉に報いるのか、それとも自身の行く道を貫くのか。
例え自身の提案が拒否されてもZZは仕方ないかと笑い、機能を停止しただろう。
「俺は……どうすればいいのだ……?」
だが、僅かな迷いの間にZZはその機能を停止した。
一度出しかけた言葉は行き場を失い、決意は曖昧なものへと変わってしまっていた。
0でも1でもない、曖昧な状態のままでジュドは一人きりになってしまったのだ。
「答えてくれ、ZZ……!」
縋りつくようなジュドの声。
だがクレイドルの上に横たわるZZは何も答えない。応えられるはずもない。
「俺は、どうすればいいのだ……っ!」
ただ、答えのない問いかけが、無人の部屋に虚しく響き渡った。
【早朝/エリアT (民家・子供部屋)】
【ジュド(ザンダクロス)@ROBOT魂】
【電力残量:60%】
【装備:腹部レーザー・肩ミサイル】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(ピッポのフィギュア)、黒王号(ラオウ&黒王号)@リボルテック、龍咆(凰鈴音)@AGP、2連装メガビームライフル、ビームサーベル×2、拡張パーツ×1〜2(未確認)】
【状態:ダメージ小】
【思考・行動】
基本方針:ドラえもんと人間達への復讐
0:どうすればいいのだ……
1:ドラえもんの破壊
2:ゲッターアークを敵と認識
補足:人間型フィギュアにも人間への憎悪により敵視する可能性があります
【備考】基本パーツとして支給されたピッポには現在自我は宿っていません。扱いはお任せします。
ただしジュド自体の記憶は旧盤及び原作漫画版がベースのようです。
ネットツールによる自身の検索に制限がかかってるかはお任せします。
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投下乙です!
嗚呼、ZZ…さすがに頭部をやられたら駄目だったか
ジュドも相方を失ってこれからが大変だ
この2体も短い間だったけどいいコンビでしたね
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投下乙です。
人間への憎悪と、仲間の言葉。
ジュドはどちらに進むのだろうか。
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黒サガコンビを再現してみたけど、脚部パーツのせいでサガの方が身長低くなるって初めて気づきました
聖衣着たまま玉座はきついので断念
ttp://or2.mobi/index.php?mode=image&file=85971.jpg
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>>672
投下乙です!
前話ではぎりぎり助かったのかと思っていましたが、そう簡単には行かなかったか……
ジュドはアイデンティティの危機ですね。どちらに転んだとしても、果たして迷いを振りきれるのか。
大変長らくお待たせしてしまいましたが、この投下に乗らなければ。
如月千早、テッカマンブレード、ワイルドタイガー、プレデター、宮藤芳佳で予約します。
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予約の流れがキテル…
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おお、>>1の帰還だ!
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レヴィ予約します
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すみません、日曜日までの期限となっておりましたが、もう暫く猶予を頂きたく思います。
1として延長ルールを制定していない状態で申し訳ありませんが、なんとか本日中には投下出来るよう頑張りますので……
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頑張れ
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1の大作に期待
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1の投下が来たら延長ルールも制定した方がいいね
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レヴィ投下します
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パーツが壊れたらそれまで。壊れたくないなら相手を先に壊せと言う事だろう。
「で…てめぇはそこに突っ立ったままかい。それじゃ働いたのかサボったのかもわかりゃしねぇ」
レヴィはクレイドルの前に立つ『ソレ』に語りかける。
だが言葉は返ってこない。
「相変わらず口もきけないってか。ったく、とことん使えねぇ…」
目の前のフィギュアに吐き捨てるが、やはり反応はない。
二本の足でしっかりと立つオレンジの蟹――本来は金色なのだが――は何も言わずに主を見つめる。
ミラーモンスター・ボルキャンサー。
装着変身シリーズで番外のEXシリーズとして販売されたフィギュア、その第4弾に当たるのが彼だった。
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「食えねぇカニなんかどう使えってんだ、シーフードはお呼びじゃねえんだよ。
どうせなら同じパッケージのドラゴンかバッファローをよこせってんだ、クソが」
主からの罵倒を受けるボルキャンサーは無言のまま立ち尽くす。
このボルキャンサー、同パッケージのモンスターに比べるとフィギュアの出来はともかくとして殺しあいの支給品としては大分劣ってしまうのだ。
彼以外の2体はR&Mからの流用モデルであり原作同様、各部位をとりはずしてライダーの武器にする事が出来る。
マグナギガは仮面ライダーゾルダの扱う各種銃器への分割に加え、必殺技エンドオブワールドまで再現まで可能だ。
銃器を得意とするレヴィにとっては相性抜群の支給品となっただろう。
ドラグレッダーも、校舎でチャリオットに呼び出されたドラグブラッカー同様の性能を持っており戦力として申し分ない。
このボルキャンサーはどうか。
装着変身EXと新規造形されたおかげで各部可動は本家装着変身にも負けない。
なんとあぐらを組む事まで出来る。
だが仮面ライダーの相棒、ミラーモンスターとしては武装として使えるのは背中にある盾のシェルディフェンスのみ。
ハサミ型の武器であるシザースピンチは取り外すことが出来ず、代わりにオリジナルギミックとして肩アーマーが追加されている。
火力を望むレヴィにとって、盾しか使えない彼がきた事は3体の中からピンポイントで"ハズレ"を引いてしまった事になる。
おまけに乗り物や動物型と違い、"人型"の支給品という事で面倒な仕様になっている。
所有者からの指示以外には自律的な行動はせず、電力消費は参加者よりも激しい。
その仕様に気づいたときは思わず蜂の巣に仕掛けたぐらいだ。
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だが悪態をつきつつも、レヴィはボルキャンサーを破壊したり、所有権を放棄することもなかった。
なぜならこの支給品が来たことで1つの可能性に辿りつくことが出来たからだ。
ボルキャンサーは支給品という扱いの為、レヴィの持つ他の武器と同じように会場の内と外を行きしている。
曲がりなりにも『フィギュア』であるにも関わらずに。
「…つまりだ、この蟹とあたし達の違い…コアか?CSCか?それともこいつの方に何か仕組んであるのか?
そいつがわかりさえすれば」
自分達参加者も会場の外に『脱出』できるかもしれない。
分解するにせよ調査に留めるにせよ…ボルキャンサーはここから出る為の貴重なヒントだ。
「ったく、頭を使うのは他の面子の仕事だろ? 本物のアタシはしないだろうが…これもドールの神様の仕業か?」
この殺しあいに参加している61体のフィギュアは武装神姫以外も同様の仕様のロボットだ。
元になったキャラの人格とは別に、一体のロボットとして冷静に事態を把握するための計算が可能だ。
故に、本来はラグーン商会の他の面子に任せていた頭脳労働を自前で処理できる。
「だけどそいつは後回しだ。そうだろう、あたし」
冷静に計算を行い導き出した答えに従うかと言えば、それは別だ。
確かにフィギュアであるが故にモデルのキャラクターとは違い、高度な計算も考察も出来る。
だが彼女はマシーンであると同時に、激情に従うレヴィというキャラでもあるのだ。
この身に宿る感情、憤り、怒り、それに抑える道理など彼女にはない。
喧嘩を売ってきた相手を、自分を舐めた相手を放置するなどレヴィにとってはあり得ない事だ。
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鉄の城、マジンカイザー。
奴だけは破壊しなければ気が済まない。
脱出よりも考察よりも何よりも…優先される事項だ。
まずは武器を調達する。
あのマジンカイザーをスクラップにするのに自前の装備では火力不足という事は前回の戦闘で判明している。
かといって支給されたボルキャンサーは力不足、せいぜい盾になるぐらいだ。
ならどうするか……持っている者から奪えばいい。
別にその行為に対する後ろめたさも罪悪感も感じる事はない。
元々自分はそういう世界で生きてきたキャラで、ここは殺しあいの場だ。
「待ってろよ…マジンカイザァ! そして…」
このパーティーを仕組んだ人間達。
彼らはレヴィというキャラがどういう性格か理解してたはずだ。
その上でこの殺しあいにレヴィをモデルにしたフィギュアを参加させた。
つまりそれは、レヴィが何をしようとも自分達に刃向かうことは出来ないと高をくくっているのだ。
その事実が彼女の感に障る。
ああいいさ、今はそっちの思う通りにクルクル踊ってやる。
だが魔神をぶっ壊した後は…てめえらの番だ。
ボルキャンサーを引き連れレヴィはステージに戻る。
彼女が彼女であるために、そしてレヴィという存在を侮った者達に報いを与える為に。
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【早朝/エリアE西(屋外)】
【レヴィ@リボルテック】
【電力残量:90%】
【装備:ソード・カトラス】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(同梱装備一式)、ボルキャンサー@装着変身(電力残量:60%)】
【状態:右頬に傷あり(塗装落ち)】
【思考・行動】
基本方針:会場を脱出し、外の人間に一発カマす
1:マジンカイザーをバラす
2:他の参加者から武器を奪う。抵抗するならバラす
※パーツの転送技術で外に出られるのでは、と推測してます。
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投下終了です
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投下乙です。
成る程。自分を支給品に偽装できれば、支給品の倉庫みたいな場所に転送できるかもしれないのか。
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投下乙です!
パーツ転送システムで脱出……その発想は1としても全くなかった(眼から鱗)
こういう自分からは出ない発想を見るのは本当にわくわくしますね。
さて、お待たせしてしまっております自分の予約分ですが……すみません、リアルの方が今年最大の繁忙を極めておりまして……
破棄はしません、しませんが、申し訳ありませんもうしばし猶予を頂きたく思います。
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皆さん感想ありがとうございます。
今回のパートですが、投下1レス目の前半部分が投下ミスがあったのに今頃気づきました…
wiki収録分を修正しますが、こちらにも投下します。
すみません…
>>692
感想ありがとうございます。
師走ですし、皆リアルが忙しくなるのは仕方ない事だと思います。
落ち着いてからの投下、楽しみにしてます。
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「起き抜けのタバコも酒もねぇ。フィギュアってのはつまんねぇな」
レヴィは身を横たえていたクレイドルから身を起こす。
彼女はマジンカイザーとの戦闘の後、近くの民家に忍び込み充電を行っていた。
幸い寝込みを襲われた際の対策もあった為、こうして朝まで寝ることができた。
人間がするように伸びを行い関節を慣らしていく。
充電は問題なく行われ、マジンカイザーとの戦闘で消耗した電力は回復している。
ただ、頬の傷だけはそのままだ。
パーツが壊れたらそれまで。壊れたくないなら相手を先に壊せと言う事だろう。
「で…てめぇはそこに突っ立ったままかい。それじゃ働いたのかサボったのかもわかりゃしねぇ」
レヴィはクレイドルの前に立つ『ソレ』に語りかける。
だが言葉は返ってこない。
「相変わらず口もきけないってか。ったく、とことん使えねぇ…」
目の前のフィギュアに吐き捨てるが、やはり反応はない。
二本の足でしっかりと立つオレンジの蟹――本来は金色なのだが――は何も言わずに主を見つめる。
ミラーモンスター・ボルキャンサー。
装着変身シリーズで番外のEXシリーズとして販売されたフィギュア、その第4弾に当たるのが彼だった。
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>>1の投下が来たら、2周目待ちはジェフティ、ガンバスター、骸骨剣士か
来月には初回放送いけそうだな
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今日はロワ語りでフィギュアロワ
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いつの間にか、ユニコーンちゃんが新商品出て覚醒仕様にフォームチェンジできるようになってた
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>>1はもういないのかな?
このままだと過去ログ行きになりそうだけど
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ネタ浮かんだけど書く時間がないって辛い
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期日までに書き上げられるか、正直厳しいところはあるけど
とりあえずウルトラマンタロウ、アルトアイネス、骸骨剣士を予約します
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そういえば延長ルールも決まってなかったんだっけ
>>1ー!
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間に合いませんでした、予約を破棄します
連絡遅れて申し訳ありません
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島風、ガンバスター、UCR-10/Aを予約します
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すみません、どうにも本日中の投下が厳しい状態にあります
2,3日中には投下できると思いますので、ルールにはないのですが予約を延長してもいいでしょうか
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OK!
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反応が遅れてしまい申し訳ありません、企画主です。
不甲斐なくも長らく放置してしまった企画に予約を入れていただき、感無量の至りです。
予約ルールなど気にしないでください。万全の状態で投下してもらえたら、それ以上に嬉しいことはありません。
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(失礼、トリップ間違えました)
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大幅に遅れてしまい、申し訳ありません。
島風、ガンバスター、UCR-10/Aを投下します。
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視線の先には無防備なフィギュアの頭部。
UCR-10/Aに遠慮する必要などなく、無慈悲に銃の引き金を引いた。
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ガンバスター=ノリコは先程の戦闘を終えてから周囲を探索していた。
戦闘の相手であったロボットを探すのもあるが、まずはあの時逃げた少女型のフィギュアを保護する為だ。
「う〜ん……見つからない」
『泣き言を言わないの』
「だって〜……」
あの少女は移動が速い、ということがわかった以外、成果は上がっていない。
屋外には自分以外のフィギュアの姿は見えない。先程戦ったロボットも、少女の姿もない。
もしかしてどこかの家……屋内にいるのだろうか?
そう考えたとき、サブAIのカズミから話しかけられる。
『ノリコ、文具店から物音が聞こえるわ』
「本当……暴れてるみたい……それに、この声!」
聞こえる物音の中に先程の少女の声を確認したガンバスターは迷わずに窓を蹴り割ってダイナミック入店した。
-------
-
「島風には、追いつけないんだからー!」
自分を狙う無数の銃弾から、島風は必死に店内を逃げ回っていた。
入店後、いつもの様に連装砲ちゃんを全員出して話しかけようとしたのが島風の命を救った。
その時に体勢を変えたことで、UCR-10/Aの不意打ちは偶然にもマントで防ぐことが出来た。
「もー、しつこーい!」
それからは今まで命を賭けた追いかけっこが続いている。
熟練の戦士であるUCR-10/Aの攻撃を避け続けているのは、流石『島風』といったところ。
逃げるのに荷物にしかならないピッコロのマントを入り口に置いてきたのは正解だった。
修行が出来てないのは気がかりだが、まずは後ろの相手を引き離してからだ。
「島風がこの店で一番速いんだから!」
そろそろ店を一周して入り口に向かっているはず……マントを回収したら一気に外に逃げよう。
電力を大分減ってきたし、どこかで充電しないといけない。
また後ろのUCR-10/Aがライフルを撃つが、銃撃は島風ではなく的外れの方向に飛んでいく。
相手も疲れてきたのかなと島風は思ったが……それが間違いだった。
「えっ」
派手な物音と共に巨大な落下物が島風の行く手を塞いだ。
直後、島風を衝撃が襲った。
UCR-10/Aも初撃を防がれてから何の考えも無しに島風を追い続けてたわけではない。
目の前の標的はブースターも備わってない少女のフィギュアなのに、どういうわけかこちらよりも速度を出している。
ただ素早いだけの相手なら銃撃を当てることは簡単だが、少しは戦闘が分かってるらしくそう簡単には当たってくれない。
なら搦め手を使うまで……既に店内を一周する頃には店のどこに何があるか……その位置情報がメモリーに記録されていた。
速いなら動きを制限してやればいいだけだ。彼は島風の進行方向上にあった商品棚を撃ち、その上にあった大型バインダーをぶちまけた。
人間なら踏み越えられるし、自分や最初に撃破した相手のような機体ならバーニアにより飛べばいい。
しかし今回はブースターもなくただ速く走るだけ……大きい障害物があれば立ち止まるしかない。
その隙だらけの姿を見逃すはずもなく、無防備な背中を撃った。
-------
-
「そんな……間に合わなかったの!?」
店の中に入ったガンバスターが目にしたのは、倒れた少女とそれを撃ったと思われるロボットの姿だった。
自分がもう少し早く来てたら……そんな後悔と、この惨状を生み出したロボットへの怒りが湧いてくる。
『ノリコ。落ち着きなさい』
「お姉様……わかってます。わかってるけど!」
それでも割り切れない物がある。
宇宙怪獣から人類を守る正義のロボット、ガンバスター。
そしてそのパイロット、タカヤノリコのデータを与えられた彼女にとって、この現状で落ち着くなど無理だった。
少女を撃ったロボットはこちらに銃口を向けてきた。
次はお前だ、とでも言いたげに。
アレは宇宙怪獣と同じく……人に害なす敵だ。
そう判断したガンバスターは敵……UCR-10/Aとの戦闘に入った。
UCR-10/Aとガンバスター、2体の戦闘は激しいものとなった。
正確な、時には搦め手を使うUCR-10/Aの攻撃をパワーでねじ伏せていくガンバスター。
お返しにとガンバスターはビームを放ち、時には接近して斧を振るうが、店内という地形を使い回避するUCR-10/A。
文具店は物取りにでも遭ったかのように悲惨な状況になっていた。
お互いの電力が尽きるまで続くかと思われた戦闘だが、戦場が書道用品のコーナーへ移ったときに事態は急変した。
UCR-10/Aが銃を乱射しながらガンバスターへ突撃したのだ。
これまでガンバスターから接近戦を挑んだことはあっても、その逆は初めてだ。
相手の意図は分からないが、決着をつけに来たことは分かった。
相手の銃撃で多数の商品が落ちてくる中、ガンバスターは両腕両足のパーツを展開する。
『ノリコ、わかってるわね』
「はい、お姉様。油断はしない……これで!」
ガンバスターが待ちの体勢で出来る最大の攻撃の準備をする。
しかし、その必殺技……バスターコレダーが発動することはなかった。
UCR-10/Aは戦闘中のやりとりで、相手が生半可な武器では倒せないことを理解していた。
故に先程、島風の追撃戦で見つけた必殺の武器が眠る場所まで戦場を移動させる必要があった。
UCR-10/Aは銃撃によって落ちてくる商品の中から目当ての物を見つけると銃を捨てそれを抱え込むと同時に全力でブーストをかけた。
そうしてUCR-10/Aが抱えた金属製の『文鎮』がガンバスターの胸部に突き刺さった。
-
「あああああっ!!!?」
人間相手でも凶器になるのが文鎮という文具だ。
フィギュア相手に使えば破壊力抜群の武器となる。
いくらガンバスターが丈夫なスーパーロボット超合金とはいえ、文鎮による刺突……しかも己と同じスーパーロボット超合金の重量も加算されている。
ガンバスターが頑丈なモデルでなければ一撃でコアまで破壊できていただろう。
「うあ、ああああああ!」
『ノリコ!』
ミシミシという音を立てながら、UCR-10/Aは更に文鎮を押し込んでいく。
ガンバスターの意識が薄れかけたとき、轟音と共に相手のフィギュアがよろけ、胸部への圧力が軽くなった。
ガンバスターをその隙を逃さず、相手を殴り飛ばすと同時に距離を取る。
その胸部は大きな穴が空き、CSCが一部露出してしまっているが行動に支障はない。
先程の攻撃の発生源を見れば機能停止したと思っていた少女が、大砲を抱えている。
(よかった……生きてたんだ!)
どうやら背中の武装パーツが盾になっていたようだ。路上で見たときにはあった灰色のパーツがない。
ガンバスターは敵がまだ起き上がれてないのを確認すると少女の方へと飛んでいく。
ビクッと怯えた様子を見せるが抵抗はなく、少女を抱えたまま近場の崩れた商品の山へと突っ込んでいった。
雑多な商品に囲まれた中で、二人はようやく落ち着いた。
「さっきはありがとう……助けに来たつもりだったんだけど、助けられちゃったね」
「あ……その……」
先程の敵に襲われたせいだろうか、まだ怯える少女に対してガンバスターは優しく話しかける。
「まだ名前を言ってなかったよね。私はノリ……ガンバスター。あなたは?」
「私は、島風……島風型駆逐艦、島風!」
ようやく元気になった島風の姿を見て、ガンバスターも全身の痛みが癒される気がした。
「そう、島風ちゃんね! それで、話したいことがあるんだけど……」
ガンバスターと島風、巨大ロボと艦娘というちぐはぐな二人の少女(?)の会話は弾んだ。
簡単な自己紹介から始まり、現状の確認……そして作戦会議に至ったとき、二人の周囲を炎が包んだ。
-
UCR-10/Aがビームマグナムを撃つ度、店内が燃える。
先程の二体が逃げ込んだ場所を中心に炎は広がっていく。
エネルギー系の武器は電力消費が大きいが、今回は必要経費だ。
いずれ店内のスプリクンラーによって消火されるだろうが、それまでフィギュアが耐えられるとは思えない。
すぐに火災場所から逃げてくるだろう。
予想通り、少女型を抱きかかえた黒のロボットが炎の中から飛び出てくるのにさほど時間はかからなかった。
あの炎の中でも少女型を庇っていたのだろう……黒のロボット、ガンバスターはパーツの所々が融けてしまっている。
「島風ちゃん、さっきの作戦通りにお願いね!」
「……!」
黒のロボットは上空からこちらに攻撃を仕掛け、少女型は拳銃をこちらに向けている。
少女型が手にした銃はこの戦闘で初めて見る支給品だ。
小さな指が引き金を引くと同時に電子音が響き渡る。
――KAMEN RIDE RIOTROOPER――
瞬間、少女を守るように3体のフィギュアが現れた。
「あのロボットを攻撃しちゃって!」
少女からの指令を受けた彼らは銃剣……アクセレイガンを構え銃撃をしかけてくる。
敵が増えたことに少し驚きを感じたが、彼らの攻撃は単調な物だった。
それだけなら問題なかったのだが……
「バスタァァァァ、ビィィィム!」
――ATTACK RIDE BLAST――
オレンジのフィギュア3体による弾幕、上空からのビーム、そして新たに銃弾の雨が襲ってくる。
さすがのUCR-10/Aも回避行動に専念せざるを得なかった。
やがて銃弾の雨が止み、銃撃を繰り返していたフィギュアの姿が転送された支給品と同じように消えていく。
どうやらあのフィギュアの増援は時間制らしい。
視線を黒のロボットと少女型に戻すが……少女型の姿が消えていた。
一体どこへ。
その答えは自分の後方……入り口側から、遠ざかっていく足音が全てを語ってた。
-
ガンバスター=ノリコは、まず島風をこの店から逃がすことを第一目的とした。
自分が万全の状態なら相手を倒してから共に脱出できただろうが、損傷がひどく100%勝てるとは言えないからだ。
まず窓からの脱出は敵に狙われやすい為、脱出方法の選択肢から外れた。
よって、残る脱出方法はUCR-10/Aが待ち受けているであろう入り口からの脱出。
通常ならガンバスターが足止め役となっても厳しいだろうが、ガンバスターの支給品を使えば成功確率を大きく上げることが出来る。
ガンバスターの支給品の一つ、ディエンドライバー。
これには仮面ライダーと呼ばれるフィギュアの召喚機能、それに一時的な透明化の機能があった。
ガンバスターの攻撃に合わせて仮面ライダーの召喚、同時に弾幕を張り、相手が回避に専念してる間に透明化、島風を文具店から脱出させる。
敵がこちらの隠れ場所を放火してきたので細かいところまで打ち合わせは出来なかったが、作戦はうまくいったようだ。
入り口で透明化が解除された島風が勢いよく駆けだしていく姿が見えた。
UCR-10/Aはライオトルーパーの消滅を確認し、島風が逃げたことに気づくとこちらに銃口を向けている。
ここからはガンバスターの仕事だ。
先程からの戦闘で負ったダメージは大きく、電力残量も心許ない。
正直相手を倒すことは難しいかもしれない。
(せめて、相手に隙が出来れば……)
無い物ねだりをするが、それが無理なのは分かっている。
せめて島風が十分な距離を逃げるまでの足止めをしようと決意したとき。
――EXCEED CHARGE――
ディエンドライバーとは違う電子音が鳴り、黄金のエネルギーがUCR-10/Aの動きを封じた。
UCR-10/Aの背後に先程のライオトルーパーと似たフィギュアの姿が見える。
「島風ちゃん…!」
島風が脱出したのは確認済だ。
おそらく、最後にこちらの支援として仮面ライダーをもう一体呼んでいてくれたのだろう。
「お姉様」
『どうしたの、ノリコ』
「ごめんなさい、付き合わせて……でも私、島風ちゃんを助けられてよかった」
サポートAIのカズミ――自分の無理に付き合わせて申し訳ないと思う。
それでも悪のロボットに襲われる女の子を放ってはおけなかったのだ。
『いいのよ、ノリコ……それにここでやられるつもりはないでしょう?』
「ええ!」
ガンバスターは全エネルギーを脚部に集中させる。
あの仮面ライダーによる束縛もそう長くは保たないだろう。
一撃で勝負を決める!
「いくわ、お姉様!」
『ええ……よくってよ』
「スーパー!」
『イナズマ!』
「キィィィィック!!!」
仮面ライダーのキックにタイミングを合わせ、炎となったガンバスターは必殺の一撃を繰り出した。
-
-------
島風は走る。
ガンバスターから伝えられた合流場所へ向かう為。
この殺しあいの中で出来た初めての仲間。
少し特殊な性格とはいえ、元々艦隊を組んで戦う艦隊これくしょん出身の島風だ。
仲間ができて一時的でも艦隊を組んでの戦闘は、彼女の心にプラス側に作用していた。
作戦通りに自分は店を出られたのだから、ガンバスターも敵を倒して後を追ってくるに違いない。
それで追いついてきたら「おっそーい!」と迎えよう。
殺しあいの中で出来た仲間との、そんな未来予想図を描きながら合流地点、駄菓子屋へと走り続けた。
【早朝/エリアP(路上)】
【島風@figma】
【電力残量:40%】
【装備:マント(ピッコロ)@S.H.シリーズ、パワーエネルギー砲(ゴーカイオー)@スーパーロボット超合金、ディエンドライバー(仮面ライダーディエンド)@S.H.シリーズ】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(連装砲ちゃんx3、五連装酸素魚雷(大破))】
【状態:ダメージ小、艤装大破】
【思考・行動】
基本方針:スピードなら誰にも負けません。速きこと、島風の如し、です!
1:誰よりも速くなりたい
2:ガンバスターと合流して艦隊を組みたい
※ディエンドライバーで使えるカードは、仮面ライダーディエンド付属の物のみになります。
※ディエンドライバーで呼び出したフィギュアは一つの命令しか実行できません。またダメージは引継となり破壊された場合は召喚不可となります。
店内に、ようやく作動したスプリンクラーの雨が降っている。
その雨の中、UCR-10/Aはガンバスターが機能停止しているのを確認すると散らばった支給品を回収する。
あの時、身体の動きを封じられていたUCR-10/Aだが、何も出来なかったわけではない。
指一本動かせなかったが電子頭脳を動かし思考することは出来たし……なにより支給品を転送することが出来た。
己の身を動かせないなら、他の要因で動かすか……相手を動かせばいい。
支給品の中から最も大きな障害物を選び、己の目前に転送した。
IV号戦車D型 本戦仕様。
figmaアイテムの中でも最大級の個体が、前方から迫っていたガンバスターの身体を押し潰した。
背後からの攻撃はそのまま直撃するが、同時に身体の束縛が解けたこともわかった。
ダメージから立ち直ったUCR-10/Aは己の武器を転送する。
目の前には戦車に押しつぶされ、電力を使い切ったせいで弱々しく足掻く獲物の姿。
その頭部に向け、銃の引き金を引いた。
取り逃がした少女型の動向は気になるが、この場にすぐ戻ってくることはないだろう。
滅茶苦茶に荒らされた店内を見渡す。
本来の目的である右手の補強はまだ成されていないし、武器の調達もまだ足りない。
しかし……まずは充電が必要だ。
補給無しでは戦い続けられないのは原作でも現実でも同じなのだから。
【ガンバスター@スーパーロボット超合金 機能停止】
【早朝/エリアU(文具店内)】
【UCR-10/A@スーパーロボット超合金】
【電力残量:20%】
【装備:URF-15 VALDOSTA(ライフル)、UEM-34 MODESTO(パルスマシンガン)】
【所持品:クレイドル、基本パーツ(KO-5K4/ZAPYATOI(ガトリングガン))、ビームマグナム(ユニコーンガンダム@ROBOT魂)、IV号戦車D型 本戦仕様@figma、
バスターホームランx2、ゲッターファイナルトマホーク(ダイナミックオプションパーツセット)@スーパーロボット超合金、拡張パーツ×1〜2】
【状態:ダメージ中、背部に損傷】
【思考・行動】
基本方針:好きなように生き、好きなように死ぬ。
1:充電する
2:手首を補強する
※手首が取れ易いです。ガトリングガンのような重量がある・重心が傾いている武器を持って激しい機動をした場合、手首がほぼ間違いなく落ちます。
※このプログラムにおいてミサイルやハンガーユニットが起動するかどうかは後の人に任せます。
-
投下終了です
-
投下おつー。
やっぱりフィギュア相手には硬いものや質量攻撃がものを言うな。
てかほんと、文鎮は人間相手でも痛いよ! 足に落としたりしたら悲鳴ものだもんな……w
島風もようやくスピード以外の面を見せたか。でもガンバスターはもう……
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本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。
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