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ジョジョ×東方ロワイヤル 第三部

1 : ◆YF//rpC0lk :2014/01/13(月) 14:55:50 3uz3zXtQ0

【このロワについて】
このロワは『ジョジョの奇妙な冒険』及び『東方project』のキャラクターによるバトロワリレー小説企画です。
皆様の参加をお待ちしております。
なお、小説の性質上、あなたの好きなキャラクターが惨たらしい目に遭う可能性が存在します。

過去スレ
第一部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1368853397/
第二部
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1379761536/

まとめサイト
ttp://www55.atwiki.jp/jojotoho_row/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16334/


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2 : ◆YF//rpC0lk :2014/01/13(月) 14:57:12 3uz3zXtQ0

【参加者】
『side東方project』

【東方紅魔郷】 5/5
○チルノ/○紅美鈴/○パチュリー・ノーレッジ/○十六夜咲夜/○レミリア・スカーレット

【東方妖々夢】 6/6
○橙/○アリス・マーガトロイド/○魂魄妖夢/○西行寺幽々子/○八雲藍/○八雲紫

【東方永夜抄】 6/6
○上白沢慧音/○因幡てゐ/○鈴仙・優曇華院・イナバ/○八意永琳/○蓬莱山輝夜/○藤原妹紅

【東方風神録】 6/6
○秋静葉/○河城にとり/○射命丸文/○東風谷早苗/○八坂神奈子/○洩矢諏訪子

【東方地霊殿】 5/5
○星熊勇儀/○古明地さとり/○火炎猫燐/○霊烏路空/○古明地こいし

【東方聖蓮船】 5/5
○ナズーリン/○多々良小傘/○寅丸星/○聖白蓮/○封獣ぬえ

【東方神霊廟】 5/5
○幽谷響子/○宮古芳香/○霍青娥/○豊聡耳神子/○二ッ岩マミゾウ

【その他】 11/11
○博麗霊夢/○霧雨魔理沙/○伊吹萃香/○比那名居天子/○姫海棠はたて/○秦こころ/○岡崎夢美/
○森近霖之助/○稗田阿求/○宇佐見蓮子/○マエリベリー・ハーン

『sideジョジョの奇妙な冒険』

【第1部 ファントムブラッド】 5/5
○ジョナサン・ジョースター/○ロバート・E・O・スピードワゴン/○ウィル・A・ツェペリ/○ブラフォード/○タルカス

【第2部 戦闘潮流】 8/8
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○リサリサ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/
○サンタナ/○ワムウ/○エシディシ/○カーズ

【第3部 スターダストクルセイダース】 7/7
○空条承太郎/○花京院典明/○ジャン・ピエール・ポルナレフ/
○ホル・ホース/○ズィー・ズィー/○ヴァニラ・アイス/○DIO(ディオ・ブランドー)

【第4部 ダイヤモンドは砕けない】 5/5
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸部露伴/○吉良吉影

【第5部 黄金の風】 6/6
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○グイード・ミスタ/○トリッシュ・ウナ/○プロシュート/○ディアボロ

【第6部 ストーンオーシャン】 5/5
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○フー・ファイターズ/○ウェザー・リポート(ウェス・ブルーマリン)/○エンリコ・プッチ

【第7部 スティールボールラン】 5/5
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○リンゴォ・ロードアゲイン/○ディエゴ・ブランドー/○ファニー・ヴァレンタイン

計90/90


3 : ◆YF//rpC0lk :2014/01/13(月) 14:58:01 3uz3zXtQ0
【基本ルール】
●全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
●生き残った一人だけが、元の世界へ帰還および主催者権限により願望が成就。
  (ただし死者復活は1名のみ)
●ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
●ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
●プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
●会場からの脱出は不可。

【スタート時の持ち物】
●プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
  (ただし義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない)
●武器にならない衣服、帽子は持ち込みを許される。
●スタンド能力、翼等の身体的特徴はそのまま保有。
●ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を「特殊なエニグマの紙」に入れられ、デイパックに入れられ支給される。
  「地図」「コンパス」「照明器具」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランダムアイテム」

「特殊なエニグマの紙」→他の荷物を運ぶためのスタンド能力の紙。この紙は破れない限り何度でも出し入れ自由。
「地図」→ 大まかな地形の記された地図。禁止エリアを判別するための境界線と座標がひかれている。
「コンパス」→ 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」→ 普通の鉛筆と紙。A4用紙10枚。
「水と食料」→ 通常の飲料と食料。量数は通常の成人男性で二〜三日分。
「名簿」→全プレイヤーの名前がのっている、顔写真はなし。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが入っている。内容は以下の通り。
○ 現実世界にある日用品、武器
○ 『ジョジョの奇妙な冒険』並びに『東方project』に登場する道具並びに武器(武器にはプレイヤー以外のスタンドDISCも含む)
○ 書き手枠のプレイヤーが所有するスタンドの場合、別途スタンドDISCとして支給可能(1枚まで)
○ 馬、亀などの動物もあり。(ただし人間形態に変化しないものに限る)
なお、ランダムアイテムは最大でも2つまで。組み合わせは以下の3つ。
○現実世界のアイテム + 現実世界のアイテム
○ジョジョのアイテム + 現実世界のアイテム
○東方のアイテム + 現実世界のアイテム

【マップについて】
●マップは以下の通り
ttp://www55.atwiki.jp/jojotoho_row/pages/5.html

●会場にはプレイヤー以外の動物、妖怪等は存在しないが、銃器以外の物資は存在する。
  (例えば商店には食料、水、酒を含めた品物が十分に存在する)
●墓地があれば死体は存在する。
●会場から出ようにも、何故か上空を含めて見えない壁で進めない。


4 : ◆YF//rpC0lk :2014/01/13(月) 14:58:13 3uz3zXtQ0
【放送について】
●放送は6時間ごとに行われる。
●放送毎に、過去6時間の死者の名前、残り人数、次の6時間に増える禁止エリアが発表される。
●禁止エリアの増加割合は一放送毎に1つ。

【作中での時間表記】(1日目は午前0時より開始)
●深夜  : 0時〜 2時
●黎明  : 2時〜 4時
●早朝  : 4時〜 6時
●朝    : 6時〜 8時
●午前  : 8時〜10時
●昼    :10時〜12時
●真昼  :12時〜14時
●午後  :14時〜16時
●夕方  :16時〜18時
●夜    :18時〜20時
●夜中  :20時〜22時
●真夜中:22時〜24時

【キャラのテンプレ】
【地名/時間(日数、深夜・早朝・昼間など)】
【キャラ名@作品名】
[状態]:体調、精神状態、怪我 など
[装備]:装備 手に持っていたりすぐに使える状態の物
[道具]:基本支給品、不明支給品、などエニグマの紙に入っている物など
[思考・状況]
基本行動方針:ロワ内での基本的指針
1:
2:
3:
現在の状況での行動・思考の優先順位
[備考]
参戦時期、その他、SS内でのアイテム放置、崩壊など


【「首輪」と禁止エリアについて】
●このロワに首輪はない。代わりに主催者の能力により脳そのものを爆発できる。
●妖怪、神、妖精、柱の男なども脳を爆発されると死亡する。
●爆発すればどのような能力でも修復不可能。
●脳の爆発以外の要因で死亡した場合、以降爆発することはない。誘爆もなし。
●主催者は能力によりプレイヤーの位置を把握可能。ただし会話内容などは把握できない。
●爆発するのは、以下の条件の時である。
  ○放送で指定した禁止エリア内に、プレイヤーが入ったとき。(進入後10分で爆発)
  ○24時間で、一人も死者が出なかったとき。(一斉に爆発)
  ○プレイヤーが、主催者に不利益な行動をとろうとしたとき(主催者の右手にスイッチがあり手動で爆発が可能)


5 : ◆YF//rpC0lk :2014/01/13(月) 14:58:56 3uz3zXtQ0
【制限について】
●全ての参加者はダメージを受け、状況により死亡する。(不死の参加者はいない)
●回復速度は本人の身体能力に依存する。
  蓬莱人のプレイヤーは吸血鬼並びに柱の男と同等の回復速度だが蘇生はしない。
  妖精にも「一回休み」はなく死亡する。
●弾幕生成・能力使用など霊力を消費するもの、並びにスタンド能力は同時に体力も消費する。
●翼や道具等、補助するものが無ければ、基本的に飛べない。
●弾幕の有効射程は拳銃程度、威力は弾幕だけでは一般人を殺せない程度。
●鬼などの怪力持ちは木造一戸建てを全壊する程度に制限。
  天狗などの高速移動キャラは移動速度100km/hまでに制限。
  広範囲能力、瞬間移動能力はエリア1つ分までに制限。
●神の分霊、仙術による仙界への入り口作成は禁止。
●時間停止の長さは平均5秒、最長9秒まで。
●スタンドのビジョンは非スタンド使いにも視認可能。ただし接触、破壊は不可能。
●矢じり、聖人の遺体によるスタンドの付与は禁止。
●GER、バイツァダストは使用不可能。
●吸血鬼によるプレイヤーのゾンビ化は不可。肉の芽はあり。
●波紋エネルギーは東方projectの吸血鬼、キョンシーなどにも効果あり。
●その他各能力の制限は各自常識の範囲。問題があった場合は随時議論を行う。
●なお、以上の事項はプレイヤー全員に持ち物内のメモとして通達する。
●また全ての登場人物が日本語で思考し、会話し、読み書きすることができる。
  (妖怪化していない動物などの例外あり)

【書き手の方々へ】
●初心者から経験者の方まで、誰でも歓迎。
●予約の際はトリップ必須、ゲリラ投下の場合は名無しでも可能。
●予約期間は1週間、報告無しでそれ以上経過すると予約は解除される。
●予約期間中に書ききれない場合は延長が可能。
●延長は1週間。
●自己リレーは可能。ただし節度と常識をもって。
●今回「二次設定」の使用は禁止。(カップリングの使用、参加者の性格他の改変は不可)


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6 : 名無しさん :2014/01/13(月) 15:21:04 Hg1l44RE0
>>1乙です。そして投下乙!

レミリアは相性悪い相手が続いてるけど、ブチャラティも居るし大丈夫だよね。だよね?
そして地味にジョナサンサイドも安心は出来ないかも…おくうが少し怖い

あと正直、お燐が遺体8部位まで集めて頭部を懐胎する未来を想像しt


7 : 名無しさん :2014/01/13(月) 15:41:16 2RacISug0
大丈夫、ブチャラティにはてゐがくれた幸運があるから(震え声)


8 : 名無しさん :2014/01/13(月) 16:17:07 nYipCX6o0
もしこれでブチャラティに何かあったらよォー あの兎にクレーム入れようぜェーッ!


9 : ◆.OuhWp0KOo :2014/01/13(月) 23:31:23 kioCQinI0
カーズ、夢美、パチュリーの予約を延長します。


10 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/15(水) 00:46:26 0ZM98rmQ0
皆さんにちょっと意見貰いたいんですけど、プロシュート話がまた少しと長めになりそうなんですけど
前後編で分けて読みたい人ってどれぐらい居ます?一気に全部読みたい人も多そうではありますし…
敢えて一日置いて先の展開を予想させる楽しみもアリかなとは思ったので…

この先の参考にしたいので是非意見を下さればと


11 : 名無しさん :2014/01/15(水) 00:47:53 6Vq.Mcvw0
かなりどっちでもいい


12 : 名無しさん :2014/01/15(水) 00:48:34 K4E9iqdU0
フーム…どっちも捨てがたいな


13 : 名無しさん :2014/01/15(水) 00:51:25 fwR3KlPY0
>>11
だったら黙ってて、どうぞ


14 : 名無しさん :2014/01/15(水) 01:10:33 uXMzP5gQ0
タイトル複数つけたいとかここで区切ったら面白いとか
そこは書き手の自由でいいと思う。
個人的には気になってウズウズするから一気に読みたいけどww


15 : 名無しさん :2014/01/15(水) 01:12:10 6Vq.Mcvw0
丁度いいところで切られると変な気分になって意味もなく部屋を歩きまわってしまう


16 : 名無しさん :2014/01/15(水) 01:21:25 c0/9nZxE0
逆に考えるんだ

「明日もまた投下されるんだ」と考えるんだ


17 : 名無しさん :2014/01/15(水) 03:14:45 FTXbRaxg0
次の日ぐらいに続きを投下してくれるなら、前後編でいいと思う


18 : 名無しさん :2014/01/15(水) 03:29:34 4B9pb6LI0
良い意味で、どちらでもいい
どちらでも楽しめる
個人的には一気読み派だが、
読者に展開を予測させて、その裏を突くような展開がくるなら、分けた方が書き手さんとしても満足だろうよ


19 : 名無しさん :2014/01/15(水) 06:33:11 ObmcRom20
最終的に…読めればよかろうなのだァァァァッ!

自分は一気に読みたい派です


20 : 名無しさん :2014/01/15(水) 07:36:51 t1M87u1s0
個人的には一気に読みたい派だけどそこは書き手の自由でいいと思う


21 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/15(水) 13:37:12 SJKtRt6U0
皆さん、どうもご意見ありがとうございます。今後の参考にさせていただきます。
どうやら明日には二名の書き手様方の予約の期限が来てしまう様なので、そちらの作品が投下し終わった後に少し時間を置いて投下しようと思います。

とりあえず今回は一度に最後まで投下しようと思いますので、一旦予約の延長申請をさせて頂きます。


22 : ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:21:20 zcDTXyg20
ジョナサン・ジョースター、レミリア・スカーレット、霊烏路空、ブローノ・ブチャラティ、虹村億泰、古明地さとり、サンタナ
後編投下します。


23 : ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:22:27 zcDTXyg20

億泰から事情を聞いたレミリアは、殺し合いに乗っている大男と闘っているというブチャラティの下へと向かった。
「さっきはジョジョに助けられたから、今度は私が活躍する番よ」とのことだ。
翼を羽ばたかせ、意気揚々とレストラン・トラサルディーの方角まで飛んでいった。
一方、ジョナサンは億泰と共に香霖堂へと入ることになった。
抱えている空の見張り役と言うこともあるが、もう一つの理由に「古明地さとり」の件がある。
『波紋法』を扱えるジョナサンならばさとりの治療を行えるからだ。


畳が敷き詰められた香霖堂の寝室。
一人が寝るスペースにしてはそれなりの広さを持っている。
布団の上で寝かされたさとりの身体に、ジョナサンの右手が軽く触れる。
直後、バチバチという火花のような音が小さく響き渡る。
さとりに触れるジョナサンの右手が光り出し、『波紋エネルギー』を彼女の体内へと伝達させたのだ。
億泰は唾を飲み込みながらさとりの容態を、治療を見守り続ける。

「コォォォォ―――――――――…………………………」

真剣な表情を顔に貼付けながら『波紋の呼吸』を行うジョナサン。
呼吸が生み出す生命の力がさとりの全身に巡っていく。
波紋法によるエネルギーが、彼女の身を少しずつ―――そして着実に癒し始めていた。

「…恐らく、これで暫くは大丈夫のはずだ。
 幸い『波紋』で命は繋ぎ止められる範囲の負傷だったからね」
「本当かッ!…ありがとう!マジでアンタには、感謝しても感謝し切れねえッ…!」

億泰はジョナサンに対し心からの礼を言った後、さとりの容態を伺う。
『光』がさとりの身体に染み込まれていく様を、億泰は驚きつつまじまじと見ていた。
しかし、その驚愕はスタンドとは異なる力を目の当たりにしたことによるものではない。
『見覚えのある力』を、初対面の人物が使ったということへの驚愕だ。
何度かチラチラとジョナサンの顔を見た億泰は、ふいに声をかける。

「…なァ、ジョナサン」
「ん?どうしたんだ、億泰」
「アンタって確か、ジョナサン・ジョースターって言うんだよな?」
「ああ、そうだよ。それがどうかしたのかい?」


24 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:23:53 zcDTXyg20

ほんの少しの間を置いた直後、億泰が再び言葉を発し始める。

「俺のダチ…東方仗助、っつう奴がいるんだけどよ。
 そいつの親父さんの名前が『ジョセフ・ジョースター』っつうんだ」
「『ジョースター』…?」

『ジョースター』。その名を聞き、少し意外そうな表情を浮かべたジョナサンに億泰は説明を始める。

ジョセフ・ジョースター。先ほども説明した通り、虹村億泰の親友である東方仗助の父親。
彼はジョナサンと同じように『波紋』を使う事ができた。
億泰は仗助がふとした出来事で軽く怪我をした際、ジョセフが波紋によって手当をする姿を一度だけ見た事があるのだ。
最初は手品か何かかと思ったが、ジョセフの話を聞き『波紋』の存在を知ったという(「昔と比べればめっきり衰えてしまったがのぉ」とは当人の談)。

話の最中で億泰はジョナサンに問いかけ、彼が『星形のアザ』を持っていることを確認する。
億泰は少し前にジョナサンを見た際、衣服の隙間から覗く首筋のアザに偶然気づいていた。
ジョセフや仗助には首筋に奇妙な『星形のアザ』が存在していたことを知っていた億泰は訝しみ、こうしてジョナサンにも聞いてみたのだ。
そうして確認してみれば案の定だった。ジョナサンもまた、首筋に星形のアザを持っていたのだ。

「ジョナサンは、ジョセフ・ジョースターさんって人のことは知らねェんだよな?」
「ああ。僕の家族にそう言った名前の者はいない…でも、何かしらの関係はあると思う。
 僕の父さんも同じだった。ジョースター家の血を引く者は、首筋に星形アザを持っていた」

スッと服の襟を引っ張り、星形のアザを見せたジョナサン。
星形のアザ。波紋法。そして『ジョースター』という名…。
複数の共通点に疑問を抱く二人。思えば、名簿には『ジョニィ・ジョースター』という名も見受けられた。

(僕も知らないジョースターの血縁者が、この場にはいるのだろうか?)

ジョナサンは思考する。億泰が語る所では仗助の(戸籍上は)甥にあたる空条承太郎もまたジョースターの血族であると言う。
彼と同じ『空条』という姓も、名簿にはもう一人記載されている。
複数のジョースター、空条という名。自分さえも知らぬ血縁者が、複数人存在している?
確かに、この会場に送り込まれてから首筋の『アザ』に不思議な感覚を感じる。まるで同じ存在と『共鳴』しているかのような…
思えばブランドーという姓もこの場にはもう一人いたし、ツェペリという姓も複数存在していた。
ゲーム開始から間も無く名簿を確認した際にも思った事だが、これは一体――――――




「―――――――〜〜〜〜〜ッ!!!」



ジョナサンの思考を妨げるかの如く唐突に騒音は響き渡る。
声にならない叫びが二人の後方から聞こえてきたのだ。


「お、おぉッ!?」
「……ん?」

少しばかり驚いた様子で振り返った億泰、至って冷静に振り向くジョナサン。
両者それぞれ異なった反応を取りつつも、二人が視線を向けた先は同じ。
そう、寝室の隅だ。



「このォ〜ッ!!よくも、こんなことっ!早く解きなさいよぉぉ〜ッ!!
 そうしないと!あんた達っ!二人まとめて!フュージョンしてやるんだからーーーーッ!!!」



―――寝室の隅に転がりながら騒いでいるのは、全身をロープでキツく縛られた少女。
少し前にジョナサン・ジョースターの前に敗北した地獄鴉『霊烏路空』だった。
気絶状態から意識を取り戻した彼女は、暴れ出す蓑虫の如くじたばた動きながら何度も声を荒らげていた…




◆◆◆◆◆◆


25 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:25:43 zcDTXyg20
◆◆◆◆◆◆



レミリアが翳した右手に緋色の妖力が集い始める。
妖力は形を成していき、禍々しくも鮮やかな真紅の色に染め上げられた球状のオーラが複数が形成された。


スペルカード―――――紅符『スカーレットシュート』。


レミリアへと向かって突進していくサンタナ目掛け、掌に形成した複数の紅い球状のオーラを放った。
サンタナは咄嗟に緋想の剣を振るい、迫り来る『スカーレットシュート』を掻き消す。
そのまま攻撃を打ち消してから瞬時に体勢を整え、再び突撃を敢行。
右腕に握り締めた緋想の剣の刃を地面に引き摺らせながら、レミリアへと接近していく。
負傷をしているとは思えぬ程に鋭く素早い動きだ。

レミリアはその手に再び真紅の槍を出現させ、振り下ろされた緋想の剣の刃を防いだ。
ギリギリと互いの刃と柄が競り合う音が響き渡る。

「くッ……!」

歯軋りをしながらサンタナを睨むレミリア。
吸血鬼の妖力に対する弱点となる気質を纏った刃は、真紅の槍の妖力を少しずつ抉り取っていく。
それだけではない。槍を握るレミリアの腕が少しずつ震え始め、押されていく。
サンタナの腕力は多少とはいえ吸血鬼であるレミリアのそれをも上回っていたのだ。
人間を超越する存在、吸血鬼。その吸血鬼をも補食する上位種、柱の男。
世界は違えど、『餌』と『捕食者』の種族関係。
単純な腕力では柱の男であるサンタナに軍配が上がったのだ。

「さっさと、退きなさいッ!」
緋想の剣の能力と腕力によって一気に押されかけるレミリアだが、咄嗟に左手より至近距離から緋色の弾幕を放ちサンタナを怯ませる。
その隙にレミリアはすぐさま後方へと下がり、霧散しかけた槍を再び己の妖力として還元させる。

「…………」

弾幕によって怯みながらも、サンタナは即座に体勢を立て直す。
再び放たれるであろう少女の攻撃に備えるべく、身構えた――――


その直後、突如サンタナの側面へと高速で接近する影が現れる。


「………!」
「『スティッキィ・フィンガーズ』ッ!」


ジッパーによって地面を高速で移動するブチャラティが側面からサンタナに接近したのだ。
彼は目の前の化物を倒すべく、撤退よりもレミリアを援護することを選んだ。
レミリアに注意を払っていたサンタナは咄嗟に右足の踵落としを叩き込もうとする。
しかしブチャラティはジッパーから手を離し、横に転がって踵を回避。


「アリィッ!!!」


そして、サンタナ目掛けてスタンドが拳撃を放つ!
サンタナは驚異的な反応速度ですぐさま緋想の剣によるガードを行う。
強烈な拳の一撃は剣の刀身によって受け止められる。
一瞬後ずさりながらも、サンタナは緋想の剣によってスタンドの攻撃に耐えてみせた。


だが、この防御が彼にとっての『悪手』となった。


「ッ!?」


拳を叩き込んだ緋想の剣の刀身の部分に螺旋状の『ジッパー』が発現するッ!
スタンドの腕の一振りと共にジッパーが開かれ、刀身がバネのような形状と化す。
そのままスタンドが両腕で螺旋状の刀身を掴み、一気に自身の手元へと引き寄せた――!


26 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:26:20 zcDTXyg20

「―――退けッ!」

突然の出来事に驚愕したサンタナは咄嗟に剣を引き戻そうとするも、完全に行動が出遅れた。
螺旋状の刀身を掴んだスティッキィ・フィンガーズがサンタナの脇腹を蹴り、強引に緋想の剣を奪い取ったのだ。
サンタナは吹き飛ばされながらも受け身を取る。
しかし、スティッキィ・フィンガーズの右腕には緋想の剣が握り締められていた。
刀身に生成されていた螺旋状のジッパーは消滅し、再び元の剣の形状へと戻っている。

サンタナは歯軋りをしながらブチャラティを睨んだ。
あの『緋想の剣』とやらを奪われたのは痛手と言っていい。
奴が操る『奇妙な守護霊』を攻撃出来るのは、あの剣のみだということを理解していたからだ。
体術においても強力なあの守護霊と闘う為にも、奪われた剣を取り戻さなくては厳しいだろう。

サンタナは体勢を立て直し、ブチャラティとレミリアを交互に視界に捉えようとする。
吹き飛ばされたことによって二人との一定の距離が保たれているからか、余裕を持った緩やかな動きだ。
そのまま彼は、受け身の体勢から立ち上がろうとした――――



―――しかしサンタナは、その油断から生じた『一瞬の隙』によってレミリアに遅れを取ることになる。




「…!?」

「遅いわね、ノロマ」


サンタナが体勢を整えるようとした直前、即座にレミリアが低空を飛翔し彼との距離を詰めたのだ。
目の前に迫ったレミリアを見て僅かながらも驚愕の表情を浮かべたサンタナ。
すぐさまその胴体から肋骨を突き出させ、迎撃を行わんとする。
しかし接近の勢いは止まらない――――直後にレミリアが、弾丸の如し瞬発力で肋骨を回避しサンタナの懐へと潜り込む。
そしてレミリアは、その右拳に真紅の妖力を纏う―――!



「悪魔―――――『レミリアストレッチ』ッ!!」



そのままサンタナの顔面に、右拳による強烈な打撃と妖力を叩き込んだッ!
両腕で受け止めようとしたサンタナ。だが、レミリアのスペルを止めることなど出来なかった。
凄まじいパワーを纏った強力な拳を防ぎ切れず、そのままサンタナは勢い良く地面へと叩き付けられた。

攻撃を叩き込んだ後、レミリアは後方へと下がり雑草の茂る地面に素早く着地をする。
勝ち誇った笑みを浮かべながら、地面を転がって倒れたサンタナを見据えていた。

吸血鬼“レミリア”と柱の男“サンタナ”。単純な身体能力ならば捕食者であるサンタナの方が上だ。
しかしそれは純粋な身体能力における話。翼を用いた飛行能力、コンマ一秒の瞬発力を含めれば話は別だ。
幻想郷の吸血鬼は鴉天狗程ではないにせよ、それに匹敵する程のスピードを持つ強大な妖怪。
瞬発力や素早さにおいては、柱の男と同等以上の能力を持ち合わせているのだ。


27 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:27:22 zcDTXyg20

「…全く、下がっていなさいって言ったのに。近頃の若いのは言うことを聞かないものね」
「生憎、お嬢ちゃん一人に任せて逃げ出す程に薄情じゃあないんでな」
「あら、それは頼もしいこと。…今回は協力に免じて許してあげるわ。その代わり…」

フッと笑みを口元に浮かべながらレミリアの傍へと歩み寄るブチャラティ。
レミリアはやれやれと言わんばかりの口振りではあったが、口元には変わらず笑みが浮かんでいる。


「―――やるからには、存分に働いて貰うわよ。いいわね?」


微笑みを浮かべながらレミリアはそう言う。
そんな彼女を見てブチャラティは思う。
最初の口振りから察するにどうやら彼女は億泰と出会い、俺のことを聞いて此処まで駆け付けたらしい。
彼女は『吸血鬼』と名乗っていただけに、当初は僅かとはいえ警戒を覚えた。
しかし、こうして『ほんの少し』共闘しただけで理解出来た。
この『レミリア・スカーレット』という少女は、信頼に足る人物であると言うことを。

(…『人間を幸運にする』か。ある意味、この出会いが幸運なのかもな)

ふと、少し前に出会った『因幡てゐ』のことを思い返す。
彼女にかけられた『幸運の能力』のことを思い出す。
先程までの自分があの男と闘い続けていたら、どうなっていただろうか。
死に物狂いで立ち向かおうとした俺は、冷静さを失いあの化物のような男に殺されていたかもしれない。
そこで颯爽と現れたレミリアに助けられたからこそ、俺達はこうして優位に立てているのだろう。
この出会いがあの『能力』によって引き起こされた幸運なのかは解らないが、紛う事無き好事であることは確かだった。


立ち並ぶ二人の視線の先。
地面に叩き付けられたサンタナが、再びその場から立ち上がった。
口や鼻から血を流し、顔に大きな痣を造り出している。
スタンドの攻撃は皮膚をゴムのように柔らかくすることである程度緩和することが出来た。
しかし先程のレミリアストレッチの破壊力は絶大だった。
凄まじいパワーに加え、突撃の勢いも上乗せされたことによって肉体変化でも防ぎ切れぬ程の威力と化していたのだ。
それによってサンタナは確かなダメージを受けた。

彼は僅かな屈辱の表情を顔に張り付ける。
そして歯軋りと共に、剣を奪い返すべく二人へと目掛けて接近を開始する――!

「フン、まるで突っ込むしか脳の無い猪ね?いいわ、この私が存分に格の差を――」

真紅の槍を手元に出現させ、レミリアは不敵な笑みを浮かべる。
そのまま迫るサンタナへと目を向け、立ち向かおうとした…が。


「レミリア!此処は俺が行くッ!」

「―――って、私の出番奪われたッ!?」


躍り出てサンタナの前に立ちはだかったブチャラティが緋想の剣を構え、スタンドと共に待ち受けた。
そのままブチャラティへと襲いかかるサンタナは、今まで以上に激しい勢いで体術を振るい攻め立てる。
『スティッキィ・フィンガーズ』は次々と放たれ振り下ろされる拳や蹴りを両腕を以て次々といなしていく。
焦りを感じさせる動きで荒々しく攻撃を繰り返すサンタナだが、ブチャラティのスタンドは冷静沈着に対処を続ける。

「…………!」
「そんなものか、化物野郎」

攻撃をいなし続けるスタンド。それを操るブチャラティが冷静に軽口を叩く。
超人的な身体能力を持つとはいえ、あくまで『それだけを頼り』に闘い続けていたことで技術を磨かなかったサンタナ。
しかし対するブチャラティは数多の視線を乗り越えてきた百戦錬磨のギャング。
彼の操るスタンドの動きは洗練されており、確かな『戦闘技術』を持ち合わせていたのだ。

攻撃を躱され続けるサンタナは、歯軋りをしながら『露骨な肋骨』を発動。
伸縮自在の肋骨がスティッキィ・フィンガーズの後方に立つブチャラティへと襲いかかる。
しかし、迫り来る肋骨を見据えながらもブチャラティは冷静な表情を崩さなかった。


「それと…一つ言っておくぞ。むしろ『お前の出番』を用意しておいたさ―――レミリア」


28 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:28:20 zcDTXyg20

冷静沈着にサンタナを見据えるブチャラティは、フッと口元に笑みを浮かべる。
警戒を覚えたサンタナは、すぐにレミリアの方へと目を向けた。


「ふぅん…気が利くじゃない。グラッチェ(ありがとう)、ブチャラティ」


直後にレミリアが翼を広げ、ブチャラティの真上へと跳ぶ様に飛翔した。
その右手には、妖力を纏い強大に成長した『真紅の槍』が握り締められている。

ブチャラティはサンタナが『露骨な肋骨』による攻撃を行いこちらへと意識を向ける際の隙を狙った。
負傷覚悟の戦術だが、これでレミリアが一撃を叩き込めるのならばそれでいい。
彼の意図をすぐに理解したレミリアは、右手に槍を携えて飛び上がったのだ。

宙へと舞い上がりながら、レミリアは真紅の槍を握りしめたまま身体を捻る。
投擲の体制――――狙うは無論、柱の男『サンタナ』!
サンタナは即座に回避を行おうとしたが、肋骨を引き戻す際の隙が彼の行動を遅らせた。


そして、強大な真紅の槍が妖力によって輝きを見せる―――!



「神槍――――『スピア・ザ・グングニル』――――――!!!」



空中から放たれた真紅の槍は、サンタナ目掛けて一直線に飛んで行くッ!

サンタナは迫り来る槍を見て咄嗟に間接を変形させて回避行動を行おうとするも、間に合わずに脇腹を大きく刃が抉っていく。
苦痛の表情と共に、その身を大きく仰け反らせた。
直後に傷口から血肉が撒き散らされ、何度も多々良を踏みながら脇腹を押さえ込む。
レミリアは投擲の勢いと共に後方へと下がり、ブチャラティの傍へと降り立つ。


「―――ベネ(良し)だ、レミリア」


その隙を見逃さなかったのはブチャラティだ。
スタンドの両手にがっちりと緋想の剣を握りしめさせながら、サンタナへと接近したのだ。

「…………」
仰け反ったままのサンタナは突如至近距離まで迫ったブチャラティをその目で見た。
大きく目を見開き、目の前まで迫り来る『人間』を目の当たりにした。
スタンド『スティッキィ・フィンガーズ』が気質を操る能力を持つ『緋想の剣』を携えながら迫っている。
あの剣で貫かれれば、幾ら柱の男とは言え無事では済まされないだろう。
もはや万事休すと言わざるを得ない状況だった。

だが、サンタナの表情は変わらずにブチャラティを真っ直ぐに睨み続けていた。
闘気が失われていないかの如く、彼の表情には戦う意思があった。
既に目の前に、剣を携えたスタンドを使役するブチャラティが迫って来ているにも拘らず。


「これで、終わり―――−」

目の前の怪物“サンタナ”に終止符を打つべく。
ブチャラティがトドメを刺そうとした、その瞬間。






突如、ぐらりとバランスを崩す。



「――――――え?」



呆気に取られたような表情と共に、ブチャラティの身体が崩れ落ちた。
それと同時に、スタンドが膝を付き剣を地面へと落とす。

彼を真っ直ぐに見下ろすのはサンタナ。
虚無に塗れた色に染め上げられたその瞳は、冷徹に彼を見据えていた。


◆◆◆◆◆◆


29 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:29:21 zcDTXyg20
◆◆◆◆◆◆


霊烏路空は意識を取り戻す。
目を覚ましてみれば、畳の敷き詰められた和室が視界に入った。
起き上がってみようと手足を動かしてみても身体がうまく動かない。
お空は自分がロープできつく縛られている事にようやく気が付く。
ふと視線を周囲へと向けてみると、この部屋には二人の男がいるようだ。
片方の男の後ろ姿を見て、お空はハッとしたように『気絶する前のこと』を思い出した。


そう、あいつだ。あの吸血鬼とつるんでいた人間。
手から変な光を放ってビリビリさせてくるデカい男。
もう一人の変な男は見た事も無いし、お空の思考はそいつのことなんか微塵も気にしていなかった。
彼女が目を向けているのは、『ジョジョ』とか呼ばれてた人間の方。


―――そうか。私はあの時気絶して、きっとこいつに縛り上げられたんだ!


「このォ〜ッ!!よくも、こんなことっ!早く解きなさいよぉぉ〜ッ!!
 そうしないと!あんた達っ!二人まとめて!フュージョンしてやるんだからーーーーッ!!!」


身体をロープで縛られながらもお空はじたばたと何度ももがきながら騒ぎ出す。
とはいえ、きつく緊縛されているのもあってか殆ど無駄な抵抗に等しかった。
それでも身体を動かそうとするその姿はまるでひっくり返った芋虫が必死に起き上がろうとしているサマにも見えた。


30 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:30:06 zcDTXyg20

「おいおい、落ち着けってッ!いい加減に黙らねぇと…」
「――君の名は『霊烏路空』、だったよな?」

軽く苛立ちながらも何とか宥めようとした億泰。
しかし直後にジョナサンが落ち着き払った態度で空に話しかけ、億泰が少しばかり驚いたように言葉を止めた。
空はキッとジョナサンを睨みながらも、抵抗出来ないと考えたが故に渋々答える…。

「…そうよ、みんなからはおくうって呼ばれてる。だけど、そんなことは今は重要じゃない!
 早くこのロープを解きなさいっ!そうしないと、」
「空。僕達は、君の『家族』を保護しているんだ」

ぴたりと空の言葉が止まる。
「え」とぽかんとしたような表情を浮かべながら、ジョナサンが目で示した先へと視線を向けた。
空の視界に入ったのは、桃色の髪の少女。
紐のような物で繋がれた『第三の目』を持つ、小柄な少女。
空は彼女のことを知っていた。―――いや、知っていて当然だった。



「……さとり、様?」



空は唖然としたように彼女の名を呟いた。
それは自らの主人である『古明地さとり』だったのだから。
目をぱちぱちと瞬きさせながら、彼女はさとりの姿をまじまじと見ていた。

「…え〜と、その……」

億泰はジョナサンと空を交互に見つつ口を僅かに動かし始めた。
何かを言おうとしているが、上手く言葉に出来ないのか暫し黙り込む。
それから少し迷うような素振りをした後、彼は意を決したようにゆっくりと口を開く。

「…そういや、さっきあのレミリアってコから聞いたぜ。なんつうかさ…アンタとさとりは、家族みたいなモンなんだろ?」
「………」
「俺はその、馬鹿だからよぉ〜…上手く説明できねぇけどさ。
 空がこんなクソッタレなゲームに乗っちまったら、そのさとりってコ…悲しむと思うんだよ…」

億泰は、ぎこちなくも真っ直ぐな感情を込めた言葉で空を諭すように語りかける。
先程まで騒ぎ立てていた空も、何も言わずに彼の話を聞いていた。


31 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:31:16 zcDTXyg20

「自分の家族が罪を犯すってのは…マジで悲しいことなんだぜ。
 だからさ、空。俺達と一緒に来ねーか?荒木と太田をブッ潰して、みんなで脱出するんだよッ!」


胸の前でグッと右手の拳を握りしめ、笑みを見せながら億泰は言った。
こんな女のコに罪なんて似合わない。それに、大切な『家族』が罪を背負う悲しみを彼は知っていた。
だからこそ、億泰はジョナサンに代わって彼女の説得に乗り出したのだ。
不器用な優しさを胸に、億泰は空に手を差し伸べた。

「―――……」

空は、黙ったまま億泰を見ていた。
その表情に苛立ちや怒りと言った負の感情は見受けられない。
それどころか、彼の言葉に安心を得ているかのようにも見えた。
それ程までに穏やかで、どこか落ち着いた様子だったのだ。


「ジョナサン。…このコのロープ、解いてやってもいいか」


億泰はジョナサンの方へと顔を向け、問い掛けた。
空を縛り続けるものを解き、新しい『仲間』として向かい合いたかった。

真剣な表情で問いかけてきた億泰を見て、ジョナサンは考え込む。
彼の頼みは、つまるところ空を自由の身にするということだ。
大丈夫なのだろうか。そんな懸念が一瞬過る。

だが、億泰の説得ならば―――何とかなるかもしれない。

不思議とそんな確信が、ジョナサンの心に浮かんでいた。

「……ああ」

暫くした後――ジョナサンは静かに頷き、彼の頼みを承諾した。


「ありがとよ…ジョナサン」

返答を聞いた億泰は、フッと口元に笑みを浮かべた。


32 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:31:52 zcDTXyg20

「ちょっと失礼するぜ、空」
彼は空の身体をキツく縛るロープに見る。
あのレミリアって嬢ちゃんが徹底的にやったそうだが、本当にがっちりと縛り上げられている。
それを確認して苦笑しながら、恐る恐るロープに触れた。
割れ物を取り扱うかのような慣れぬ手付きで、億泰は少しずつ彼女を縛るロープを解き始める。
するするとロープは少しずつ空の身体から外れ始める。

暫しの時間、無言の作業が続き―――空の身体からロープが完全に解かれた。
自由の身になった空は自身の身体をまじまじと見つめ、手足が動くのを確認。
拘束時間は僅かだったとはいえ、久々に羽を伸ばしたかのような気分だ。

「空―――、」

空が自由になったのを確認し、億泰は再び話を続けようとする。
億泰は、真っ正面から彼女の説得を行おうとした。

さっきこのコがさとりを見た時の表情や反応から、何となく解る。
空は家族を蔑ろにしているようなコじゃない。むしろ、大切に思っているような女の子のはずだ。
俺にどこまで説得が出来るかは解らないが―――何とかやってみせる。
これ以上、このコを暴れさせたくは無い。そう思っていた。


「………ごめん」


億泰が説得を行おうとした直前。
聞こえるか聞こえないかの微妙な声量で、ぽつりと空が呟く。






その時だった。


「――――え?」


億泰は呆気に取られた様な表情を浮かべる。
突然空がその場から起き上がり、瞬時に翼を広げる。
直後にジョナサンと億泰を撥ね除け、その場から飛翔したのだ。
核エネルギーによる推進力が飛翔の際の瞬発力と敏捷性を向上させ、疾風の様なスピードを発揮する。
そして、飛翔した空が布団で横になるさとりへと一瞬で接近する―――


空は、狭い部屋を飛翔しつつ瞬時にさとりを抱え上げた。

そのまま飛翔の勢いと共に戸を突き破り、家屋の外へと飛び出す。


33 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:33:29 zcDTXyg20


「空ッ―――!」
「ちょっと嬉しかったけどさ。別に私、あなた達に着いていく気はないよ」

さとりを抱えて家屋の外へと飛び出した空は、空中で振り返り億泰達に向けてそう言う。
億泰、ジョナサンはすぐさま空を追いかけようとした。
しかし空は、自身を止めようとした二人に向けてスッと左手を向ける。
その掌には、『核融合の焔』が少しずつ凝縮され始めていた。
ジョナサンはハッとしたような表情で『焔』を見た。
あの能力は、先の戦闘で使っていた―――!


「億泰、危ないッ!!」


ジョナサンは声を荒らげるも、既に億泰はスタンドの片腕を振りかざそうとしていた。
あの状態では、もはや回避は間に合わない。
そんな億泰を目前にする空は、容赦なく二人を見下ろし続ける。
迷いも躊躇いも無く、『攻撃』の態勢へと入っていた。



「じゃあね、二人とも」



そのまま彼女は、少しだけ憂いを帯びた様な表情と共に。



左掌に凝縮させた『焔』を―――億泰達目掛けて、解き放った。





「爆符――――『メガフレア』」




◆◆◆◆◆◆


34 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:34:57 zcDTXyg20
◆◆◆◆◆◆



「ブチャ、ラティ?」

レミリアは呆気に取られた様に声を漏らした。
サンタナの目の前で、ブチャラティは何の脈絡も無く転倒した。
直後、ジュクジュクと気味の悪い肉の音が耳に入る。
まるで血肉を喰らい、咀嚼するかの様な――――――不気味な音。

俯せに倒れ込んだブチャラティは、己の両足の異変に気づく。
ハッとしたようにすぐさま足へと視線を向けた彼は、目を見開く事になる。
そう、自らの両足に纏わりついているモノに気付いたのだ。


「―――これ、は………ッ!?」


気付いた時には既に遅かった。
そう、ブチャラティの両足に複数の『肉片』が取り付いているのだ!
真紅の槍によって撒き散った脇腹の血肉が、彼の脚に食らい付いていた。
脚に張り付く肉片達は、まるで生きているかの様に脈動を繰り返す―――



「………この………原始人………共……が…………!」



真っ直ぐに立ちながらブチャラティを見下ろすサンタナ。
息を整えながら、彼は抑揚の無い不気味な声でぼそぼそと呟き出す。
空虚でありながらも氷の様に冷徹な瞳をに向けながら、僅かながら口の両端を吊り上げた。
無数の『肉片』の『遠隔操作』――――それはサンタナの、柱の男の持つ能力の一つ。



ミート・インベイド―――別名『憎き肉片』ッ!



自身の肉片を遠隔操作し、対象に取り付かせる能力。
肉体そのものが消化細胞である柱の男の特性を生かした技だ。
サンタナはスピア・ザ・グングニルによって脇腹を抉られたことによって撒き散らされた肉片を操作していたのだ。
そして、それを『まず』接近してきたブチャラティの両足に取り付かせた。
ブチャラティはスタンド能力を持つとは言え、肉体はただの人間に変わらない。
それ故に柱の男の肉体が持つ『補食の能力』に対処を行う事が出来ないのだ。
容赦なくブチャラティの両足に取り付くサンタナの肉片は、そのまま消化細胞によって脚の肉をじわじわと補食し始めている。


「ぐ、ああァァッ…!?」

ブチャラティは苦悶の表情と声を漏らす。
両脚の肉を『憎き肉片』の捕食によって次第に抉られ始めてたのだ。
直後に別の複数の肉片が、ブチャラティの身体にも纏わり付こうとしていた―――!


35 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:35:47 zcDTXyg20



「――――ブチャラティッ!!!」



レミリアは声を上げ、すぐさま飛翔しサンタナの下へと接近していく。
彼女は憎き肉片に襲われるブチャラティを助け出すべく動き出した。
隼の如く風を切りながら低空を飛び、一瞬の移動を行う。
凄まじい瞬発力による接近と共に、レミリアはサンタナに向けて拳を叩き込もうとした―――――!




――― ガ ァ ン ッ ! !




響き渡る打撃音。
しかし、攻撃を叩き込まれたのはサンタナではない。
打撃による一撃を命中させたのは、レミリアではない。


サンタナに、レミリアの拳は届いていなかった。
吹き飛ばされたのは―――−レミリアの方だ。


瞬時に接近してきたレミリアのこめかみ目掛け、鋭い鈍痛が叩き込まれたのだ。
予期せぬ唐突な攻撃によって吹き飛ばされるレミリア。
小柄な少女の身体はそのまま雑草の茂る地面を何度も転がっていく。


「………無駄な……足掻きを…………」


サンタナの右手に握り締められているのは回収した緋想の剣。
そして、先程までは手ぶらだった左手にはいつの間にか『鉄パイプ』が握られていた。

サンタナはレミリアが接近する直前、デイパックから左手に『エニグマの紙』を仕込ませていた。
彼はエニグマの紙からランダムアイテムの鉄パイプを瞬時に取り出し、左手でそれを振るってレミリアを殴打したのだ。


「く、ッ………!」

レミリアは即座にその場から立ち上がり、動き出そうとする。
このまま隙を晒してはマズい。すぐにでも体勢を戻さなければ、奴の能力の餌食になる―――

「――――はッ、」

レミリアが体勢を整えようとした時、サンタナは既に彼女の正面にまで接近していた。
サンタナもまた、先手を打つべく瞬時に行動を開始したのだ。
咄嗟に弾幕を放とうとするも、身体に負っていた負傷がレミリアの行動を一手遅れさせた。


振り下ろされる剣がレミリアの身体を引き裂き、再び仰向けに転倒させる。


左手に握られた鉄パイプが間髪入れずレミリアの顔面目掛けて二度振り下ろされる。


顔面に叩き込まれた鉄塊の衝撃によって大きく怯むレミリア。


そしてサンタナの左足が、倒れるレミリアの右腕を踏み躙った―――。



「―――っ、ああぁああぁぁあぁァァァァッ!!?」



直後、吸血鬼の絶叫が周囲に響き渡る。
グジュル、グジュルと肉を咀嚼するような気味の悪い音が小さく響いた。
サンタナの左足が、踏み躙るレミリアの右腕の関節部分を『捕食』し初めていたのだ。


36 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:36:55 zcDTXyg20

柱の男は肉体そのものが消化細胞であり、その身を以て生物を補食する。
本来ならば僅かに触れただけでも捕食が可能なのだが、この場においては捕食能力に多少の制限が掛けられている。
レミリアの打撃がサンタナの肉体に補食されること無く通用したのもそれが原因だ。
とはいえ、それでも能動的に触れることさえ出来ればほぼ通常通りの捕食が可能だった。
こうして今、サンタナの左足がゆっくりとレミリアの右腕を補食しているように――――!

「図に…乗るなよ………吸血鬼……が…………!」

死神の鎌の如し左足が振るわれた直後、補食され始めていたレミリアの右腕は間接を境に切断された。
引き裂かれたレミリアの『右腕』は鉄パイプを投げ捨てたサンタナの左手が掴み、それを自らの胴体に押し付ける。
そのまま『右腕』は咀嚼にも似たような肉塊音と共に胴体に取り込まれ、『補食』される。
切断面から撒き散らされた真紅の血液も同様にサンタナの肉体へと取り込まれていた。


そして、レミリアの顔面がサンタナの屈強な左手に掴まれる。
小さな吸血鬼の身体が乱暴に持ち上げられた。


「――――……ッ…………」
「…………………」


レミリアの顔面を掴んでその身体を持ち上げ、冷徹な瞳で彼女を見据えるサンタナ。
抵抗を続けていた吸血鬼を叩きのめしたことによる愉悦故か、優越に浸った笑みを口元に浮かべる。
しかしレミリアの真紅の瞳から闘気は失われていない。
ギッと刃の様に鋭い視線で、臆すること無くサンタナを睨んでいた。

そんなレミリアの表情を意にも介さず、サンタナは乱雑に自身の胴体まで引き寄せる。
サンタナは既に己勝利を確信していた。
先程の鬼のような少女と同様、この小娘も所詮は『喰われる者』に過ぎない。
散々足掻かれたが所詮は『餌』。たかが餌如きが、捕食者に敵う筈が無い。
あそこで動けぬ『男』も同じだ。どのような力を持っていようと、所詮は人間。

――――このまま小娘の肉体を吸収し、ゆっくり喰らっていくとしよう。



「……フ、フ……」


そう思っていた、矢先だった。
闘気に塗れた表情で睨んでいたレミリアが、不意に笑みを浮かべたのだ。
まるで何かの好事に気付いたかの様に。
抵抗を諦め、死を受け入れたのか―――――サンタナはそんなことを思っていた。


「―――『あいつ』のしぶとさも……大概、ね?」


だが、彼の予想は直後に裏切られる事になる。

レミリアが横目でちらりと視線を向けた先。

サンタナは―――それに気付いた。




「『スティッキィ』…………『フィンガーズ』………ッ!」




―――両脚を『肉片』に食らい付かれながらも、サンタナの至近距離までブチャラティが迫っていたのだッ!
肉片に食いつかれた脚で移動出来るはずが無い。そう、出来るはずが無いのだ。
しかしブチャラティは接近をしてきた。
肉片の苦痛を強引に押さえ込みながら地面にジッパーを生成して引き手を掴み、そのままジッパーによって高速移動を行ったのだ!


37 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:37:39 zcDTXyg20

「―――――!」


地面を滑る様に移動するブチャラティが『スタンドの射程内』まで入り込んで来た事に気付いたサンタナ。
彼はすぐさま右足を振るい、迫るブチャラティを蹴り飛ばそうとする。
だが、先に『一手』を打ったのはやはりブチャラティの方だった。


ゴッ、と鈍い打撃音が轟く。
ブチャラティは自身の左拳を『スティッキィ・フィンガーズ』の左拳と同化させ、地面に向けて全力で拳を叩き込む。
ジッパーによる接近を行っていたブチャラティは地面を殴った反動によって宙へと跳び上がり、サンタナの右脚を回避。
そして、空中を跳んだブチャラティの身体がサンタナの真上を通り過ぎようとした――――


「『射程距離内』だ、化物野郎」


空中での擦れ違い様に、ブチャラティが呟いた。
サンタナは目を見開きながら彼を見上げる。
宙を舞うブチャラティの傍に出現しているのは――――無論、『スティッキィ・フィンガーズ』!
サンタナは焦り、レミリアを盾にしてでも防ごうとした。
しかし、最高クラスの敏捷性を持つ近距離パワー型のスタンドの行動は一瞬だった―――!



「大人しく――――寝てろォッ!!!」



擦れ違い様、サンタナの顔面目掛け―――――スタンドによる全力の拳が放たれるッ!!
直後地面が砕けるかの様な轟音と共にサンタナの身体が一気に地面へと叩き付けられたッ!


「――――ッ!!?」


サンタナは攻撃を防ぎ切れぬままに地面へと叩き伏せられる。
同時に攻撃の反動でサンタナの左手からレミリアが手放され、すぐ傍の地面に転落する。
しかし彼女はすぐに体制を整え、苦痛を堪えながら片腕で跳ね上がる様に即座に起き上がり後方へと距離を取った。

「くッ――――、」
スタンドによってサンタナの顔面にパンチを叩き込んだブチャラティは、着地をする事が出来ずに地面を転がる。
両脚の負傷も相まってか、そのまま俯せに倒れ込んだ。
サンタナのダメージによる影響か、ブチャラティの両脚に食らい付く『憎き肉片』が次々と剥がれ落ちている。
しかし俯せになりながら何度も荒い息を吐き出しており、再び動き出す事は難しいだろう。



「…………!」

そして―――凄まじい勢いで地面に叩き付けられたサンタナ。
顔面から出血をしながらも、彼の瞳から闘気は消えていなかった。
両腕をバネにし、ダメージを無視するかの様な俊敏な動きでその場から瞬時に跳び上がる。
決死の様子で立ち上がったサンタナ――――此処までの戦闘の疲労と消耗が確かに蓄積されていた。
一瞬よろめきかけるも、その場で地面に突き刺した剣を支柱として何とか立ち続ける。
乱れた息を何度も吐き捨てながら、レミリア達を視界に捉えようとした―――


「まだ、抗うつもり?」


その直後のこと。
たんっ、とレミリアが宙へと飛び上がった。
言葉はか細くなりながらも、その瞳には諦めも絶望も無い。
あるのはただ、目の前の強大な敵に立ち向かう『意志』だ。



「だけど残念。貴方はもう『ゲームオーバー』よ」


38 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:38:19 zcDTXyg20
空中へと飛翔しながら、ニヤッと不敵な笑みを浮かべたレミリア。
それを目の当たりにした途端、サンタナは目を見開く。
彼の胸に浮かび上がったのは『危機感』だった。
言い様の無い『焦燥感』だった。



同じだ。
この『眼』は、あの時のあいつと同じものだ。
今まさに喰らおうとしている小娘は、捨て身の攻撃を行おうとしている。
今の小娘の表情は――――突破口を見出し、勝利を確信した『あいつ』と同じ表情だ!



「スペルカード、夜王」



少女の身に凝縮される緋色のオーラ。
サンタナは、いつの間にか後ずさりをしていた。
『目の前の吸血鬼』に対し一瞬だけ覚えた恐怖と焦燥。
それがサンタナの動きを『一手』遅れさせた

そう――――先に動いたのは、レミリアだったのだ。





「―――――『ドラキュラクレイドル』――――――!!!」





――強大な緋色の妖力が、吸血鬼を包んだ。

レミリアは自身を中心に強大な妖力を展開し、空中より錐揉み回転を行いながら突撃を行う。

弾丸の様な凄まじい瞬発力で迫り来るレミリアを、怯んでいたサンタナは躱し切れない――――!




「GUAAAAAOOOOOOOOOOO!!!!!」




柱の男の絶叫が木霊する。
鮮血の様な紅き妖力を纏った突撃が腹部へと突き刺さり、そのままサンタナの身体を吹き飛ばした。
錐揉み回転を伴った突進による凄まじい圧力が彼の身を襲ったのだ。
吹き飛んだサンタナは雑草の上を転がり続け、地面に仰向けに倒れ込んだ――――


39 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:39:31 zcDTXyg20

サンタナが吹き飛んだことでバランスを崩し膝を付くレミリア。
しかし直ぐに彼女は左手を地に付け、片腕を支えにゆっくりと立ち上がった。
レミリアは凛とした佇まいで立ち尽くし、ふぅと意に溜め込んだ空気を一息吐き出す。

「私達を……嘗めるんじゃないわよ、狂犬」

右腕を失いながらも、威風堂々とした出で立ちは崩れなかった。
レミリアは倒れ込んだサンタナを真紅の瞳で真っ直ぐに見据える。


「私は闘うわ…この穢れた檻から解き放たれる為に。こんな下衆な争いを仕組んだ主催者共を倒す為に。
 覚えておきなさい。悪いけど、あんたと私達じゃ――――闘う覚悟の『格』が違う」


口元に笑みを浮かべながら、レミリアはそう言い放った。
その瞳に浮かぶのは確かな『覚悟』。己の信じる道を真っ直ぐに突き進む『誇り』。


それは微かに芽生え始めた――――『黄金の精神』。


殺し合いに歯向かう理由。
そんなもの、主催者が気に入らないから。だからこの手で潰す。
その程度の理由でいいと思っていた。十分だと感じていた。
だが、あいつと―――ジョジョと出会った。私の誇りを認めてくれた、ジョジョと。
彼とは精々数時間程度の関わり…否、僅かな時間だからこそ強く心に刻まれたのだろう。
その優しさに。その勇気に。その意志に、影響をされている私がいる。


(…不思議ね。ただの人間に、この私が敬意を払いたくなったのだもの)


先程共闘したブチャラティに対して抱いている感情も似た様なものだった。
ふと視線を向けると、傷ついた身体を押しながらゆっくりと立ち上がるブチャラティの姿が見えた。
彼は一息を着きながらも、怪我を心配をする様にこちらへと顔を向けていた。

―――ブチャラティもまた、勇敢な人間だった。
あの化け物を相手にしながらも臆する事無く立ち向かい、こうして闘ったのだ。
ジョジョと同じように、彼もまた信頼に値する人間だとレミリアは半ば確信していた。

「さて、と…」

口元に笑みを浮かべていたレミリアの表情は、再び真剣なものへと戻る。
彼女が見据えたのは仰向けに倒れるサンタナだ。
ブチャラティとの共闘で撃破出来たとは言え、数々の驚異的な能力を駆使して闘う強敵だった。
奴をこのまま生かしておけば、大きな災厄となりかねないだろう。

その右手に僅かな妖力を纏わせながら、サンタナの処遇を思考していた――――その最中の事だった。




―――― ズ ド ォ ン ッ ! ! !


40 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:41:53 zcDTXyg20


「………!?」
「―――何ッ!?」

香霖堂の方角から、突如爆発音が聞こえてきたのだ。
レミリアも、ブチャラティも、すぐさまそちらの方へと顔を向ける。
直後、二人の視界の先に映った物は―――遠方に小さく見える香霖堂から覗く『焔』。
レミリアははっとしたように、一滴の汗を頬から流した。


「まさか、あのバカガラス…!」


彼女には当然思い当たりがあった。
焔と言えば、あの地獄鴉―――『霊烏路空』の操っていた太陽の光!
まさかあいつ、拘束から解き放たれて暴走でもしたのか…!?
レミリアは焦った様子ですぐさま香霖堂へと向かおうとしたが、ブチャラティの言葉に遮られる事になる。

「待て、レミリアッ!『あの男』が――――!」

ブチャラティが声を上げ、先程までサンタナが倒れていた地点を指差す。
レミリアはすぐさまそちらへと顔を向けた。


「…消えてる?あいつ、あの怪我で逃げたっていうの…!?」


そう、サンタナの姿がこつ然と消えていたのだ。
少しずつ小さくなっている血痕だけが魔法の森の方角へ向けて地面に転々と続いている。
恐らくレミリア達が香霖堂に注意を向けた隙を見て逃げ出したのだろう。
レミリアはすぐさま追いかけようとするも、よろよろと歩み寄ってきたブチャラティに制止される。

「ッ――――、」
「…逃がしたのは悔しいが、今は億泰達の無事を確認する事が優先だ。
 奴も負傷しているとはいえ…今の俺達も、追撃へ向かうには余りにも傷を負い過ぎている…」

ブチャラティに窘められ、歯軋りをしながら森の方角を見るレミリア。
敵を取り逃がしてしまったことへの悔しさが胸に込み上げるも、すぐに彼女は香霖堂の方へと向く。
一息呼吸を行いつつ、レミリアは静かに呟いた。


「………貴方の言う通りでしょうね、ブチャラティ」

これ以上の無謀は命取りになりかねない。
そう、最も優先すべきなのはジョジョ達の無事の確認だ。
レミリアはそれを理解し、目指すべきである香霖堂を真っ直ぐに見据えていた――。


41 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:42:21 zcDTXyg20

【D-4 レストラン・トラサルディー前/早朝】
【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:疲労(中)、体力消耗(大)、妖力消費(極大)、右腕欠損、頭部及び顔面に打撲(中)、胴体に裂傷(中)、再生中
[装備]:なし
[道具]:「ピンクダークの少年」1部〜3部全巻@ジョジョ第4部、ウォークマン@現実、
    制御棒、命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:誇り高き吸血鬼としてこの殺し合いを打破する。
1:ブチャラティと共に香霖堂へ戻る。
2:ジョジョ(ジョナサン)と対等の友人として認めて行動する。
3:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
4:殺し合いに乗った参加者は倒す。危険と判断すれば完全に再起不能にする。
5:ジョナサンと吸血鬼ディオに興味。
6:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。
7:最悪、日中はあのダサい傘を使って移動する。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降です。
※波紋及び日光によるダメージで受けた傷は通常の傷よりも治癒が遅いようです。
※「ピンクダークの少年」の第1部を半分以上読みました。
※ジョナサンとレミリアは互いに参加者内の知り合いや危険人物の情報を交換しました。
 どこまで詳しく情報を教えているかは未定です。
※ウォークマンに入っている自身のテーマ曲を聞きました。何故か聞いたことのある懐かしさを感じたようです。
※右腕が欠損していますが、十分な妖力が回復すれば再生出来るかもしれません。

【ブローノ・ブチャラティ@第5部 黄金の風】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(大)、左腕に裂傷・腹部に刺傷複数(ジッパーで止血中)、胴体や両足に補食痕複数(治療済み)
    内臓損傷(中)、腹部に打撲(小)、幸運(?)
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:聖人の遺体(両目、心臓)@スティールボールラン、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊し、主催者を倒す。
1:レミリアと共に香霖堂へ向かう。
2:ジョルノ達護衛チームと合流。その他殺し合いに乗っていない参加者と協力し、会場からの脱出方法を捜す。
3:殺し合いに乗っている参加者は無力化。場合によっては殺害も辞さない。
4:DIO、サンタナ(名前は知らない)を危険視。いつか必ず倒す。
[備考]
※参戦時期はローマ到着直前です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷についての情報を得ました。
※てゐの『人間を幸運にする程度の能力』の効果や時間がどの程度かは、後の書き手さんにお任せします。


【D-4 魔法の森/早朝】
【サンタナ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(極大)、全身ダメージ(大)、全身に打撲(大)、左脇腹に裂傷(大)、再生中
[装備]:緋想の剣@東方緋想天
[道具]:基本支給品×2、不明支給品(確認済、ジョジョ東方0~1)、鎖@現実
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:生きる為に今は逃げる。『食事』がしたい。
2:日光を避けられる場所を探す。
3:カーズ、エシディシと合流し、指示を仰ぐ。
4:ジョセフ、シーザーに加え、吸血鬼の小娘(レミリア)やスタンド使いに警戒。
5:同胞以外の参加者は殺す。
[備考]
※参戦時期はジョセフと井戸に落下し、日光に晒されて石化した直後です。
※波紋の存在について明確に知りました。
※緋想の剣は「気質を操る能力」によって弱点となる気質を突くことでスタンドに干渉することが可能です。

※サンタナのランダムアイテム「鉄パイプ@現実」はD-4 レストラン・トラサルディー前に放置されています。


<鉄パイプ>
サンタナに支給。
水道管などに用いられる鉄製の管。
その強度や長さから鈍器としても用いることも可能であり、十分な殺傷能力を持つ。
現在はD-4のレストラン・トラサルディーの前に放置されている。



◆◆◆◆◆◆


42 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:43:02 zcDTXyg20
◆◆◆◆◆◆


「…大丈夫か…ジョナサン」
「あぁ…何とか、だけどな」

空の放った『メガフレア』によって半壊した香霖堂の居住スペース。
ジョナサンは咄嗟に横へと回避を行い、億泰はスタンドを使いスペルを『削り取る』ことで何とか防いだ。
寝室などを含めた大半が焔によって焼き焦がされている。
幸い億泰のスタンド『ザ・ハンド』によって火は燃え広がる前に空間ごと削り取られ、火事には至らなかった。
だが、空はあの後すぐにさとりを抱えて魔法の森へと逃走してしまった。

「億泰、その傷…!」
「へへ…ちょっくら、無茶しちまってよォ…」

だが、億泰は左半身に大きな火傷を負っていたのだ。
確かに『ザ・ハンド』によってスペルの一部を空間ごと削り取り、ある程度防御をする事は出来た。
しかしその効果範囲はあくまで『右手で掴める範囲』までだ。
強大なメガフレアを完全に防ぎ切る事は出来ず、左半身を焼かれる結果となってしまったのだ。

ジョナサンはすぐさま億泰へと駆け寄り、彼の火傷へと手を触れさせる。
直後にジョナサンは『波紋』を流し込み、火傷をある程度治癒した。
しかし、その傷はジョナサンが予想していたよりも大きかった。
ある程度症状を緩和出来たとは言え、完全に治癒する事は出来なかったのだ。

「億泰、その傷で動くのは危険だ。少し狭くなるが、まだ焼け落ちていない場所で手当を―――」

億泰の怪我を見て、ジョナサンがそう言おうとした直後だった。
何時になく真剣な表情で、億泰は森の方角を見ていた。


「悪ィジョナサン…俺、もう行くことにするぜ。空を解放しちまったのは、俺の責任だ…」


そう言って、億泰がジョナサンを振り切って歩き始めた。
ジョナサンは驚いた様な表情と共に、彼を止めようとする。

「億泰…?まさか、今から彼女を追いかけるというのか!?」
「ああ、その通りだぜ…。俺は、あのコを追いかける」
「今はまだ君の怪我を治すことが先だッ!その状態では、幾ら何でも…」


「ジョナサン。行かせてくれ…あのコを、止めさせてくれ」


43 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:44:01 zcDTXyg20

ふいにジョナサンの言葉を遮る様に、億泰が呟く。
真剣な表情の億泰を前に、ジョナサンの口は止まる。

「自分の『家族』が罪を犯すってのは、本当に悲しいし…ツラいことなんだ。
 そんなの、あっちゃならねェ。あっちゃ、駄目なんだよ…」

語り出す億泰の脳裏に浮かぶ存在。
それは―――不死の化け物と化した父を殺す為に道を踏み外した兄、『虹村形兆』。
先程空を諭した際にも、彼は兄のことを思い返していた。
兄は父を殺せる力を探し出す為に多くの人間を利用し、時に殺害してきた。
自らの手でアンジェロや音石明と言った『怪物』を生み出し、多くの被害を齎してしまった。
俺はそんな兄貴を止めることが出来なかった。罪悪感を感じながらも、兄に従ってしまった。
全て俺が未熟だったからだ。俺が未熟だったからこそ兄貴の行動を止めることが出来なかった。
道を踏み外した実の『家族』を止めるべき存在だった俺が、何もしなかったんだ。


「大切な家族のいる女のコに、罪なんて絶対に似合わねえ…。
 きっとさとりだって悲しむ。…だから、俺はあのコを絶対に止めてやる」


――――そう言い出すと、億泰は歯を食いしばりながらすぐにその場から駆け出してしまった。


「億泰!!待つんだ、億泰ッ――――――!!」

ジョナサンは何度も呼びかけて止めようとするも、億泰は構わずに森へ向かって走り出してしまう。
あのまま一人で空を止めるつもりなのだろう。あの怪我の状況からも見て、間違いなく危険だ。
すぐに追い掛けようとした。―――だが、彼の脳裏に浮かぶ懸念が一つあった。


(向こうにはまだ、レミィ達も残っている……)


そう、掛け替えの無い友『レミリア・スカーレット』がいるのだ。
彼女は億泰の仲間を助け出すべく、レストラン・トラサルディーの前まで赴いたのだ。
彼女達が未だに帰ってきていないとなれば、恐らく襲撃者は相当の手練なのだろう。
そうなると、レミィ達は決して浅くはない負傷を負っている可能性がある。

ジョナサンは思案する。
微かな焦りを見せつつも、自らの取るべき行動を思考した。
ここから僕は、どうするべきだ…?


(レミィ達と合流するのが先決か?それとも、億泰を追い掛けるか―――――?)


44 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:44:32 zcDTXyg20

【D-4 香霖堂/早朝】
【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:腹部に打撲(強)、肋骨損傷(中)、疲労(小)、半乾き、波紋の呼吸により回復中
[装備]:シーザーの手袋@ジョジョ第2部(右手部分は焼け落ちて使用不能)
[道具]:河童の秘薬(半分消費)@東方茨歌仙、妖怪『からかさ小僧』風の傘@現地調達、
    命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品、香霖堂で回収した物資
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:億泰を追うか、レミィ達と合流するか…
2:レミィ(レミリア)を対等の友人として信頼し行動する。
3:スピードワゴンらと合流する。レミリアの知り合いも捜す。
4:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
5:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードとタルカスの名が何故記載されている?
 『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なのか?
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」のみです。
 コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもしれません。
※幻想郷、異変や妖怪についてより詳しく知りました。
※ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助について大まかに知りました。
4部の時間軸での人物情報です。それ以外に億泰が情報を話したかは不明です。
※スタンドの存在を知りました。


【D-4 魔法の森(入り口付近)/早朝】

【虹村億泰@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(中)、左半身に火傷(大、波紋で処置済)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、マカロフ(8/8)@現実、予備弾倉×3、香霖堂で回収した物資
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをこの『手』でブッ潰す。
1:あのお空って女のコを追い掛ける。絶対に止めてみせる。
2:知り合い(東方仗助、広瀬康一、空条承太郎、岸辺露伴)と合流したい。
3:被害が出る前に吉良吉影をブチのめす。
4:家族を喪う悲しみをさとりやお空に味わわせたくない。
[備考]
※ランダムアイテムは「聖人の遺体(頭部)@ジョジョ第7部」「マカロフ@現実」でした。
※参加者名簿を確認しました。
※参戦時期は吉良との最終決戦で空気弾による攻撃を受けた直後、夢の中で形兆と再会する直前です。
※能力制限の程度については、後の書き手さんにお任せします。

※空の能力によって香霖堂の居住スペースの大半が焼かれました。

<マカロフ(8/8)>
虹村億泰に予備弾倉×3と共に支給。
1952年に開発され、ソビエト軍に制式採用された小型自動拳銃。
現在のロシア軍には採用されていないが、その扱い易さから今も尚東側諸国では現役である。
弾薬自体の威力は控え目だが小型故に携帯性に優れ、取り回しが良い。
現在は虹村億泰が所持。


◆◆◆◆◆◆


45 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:45:15 zcDTXyg20
◆◆◆◆◆◆


(―――さて、あいつらは追って来ないかしら)

翼を広げ、浮遊をするかの様に魔法の森の中を突き進む地獄鴉『霊烏路空』は一瞬後方へと振り返る。
彼女の両腕には、自身の主である『古明地さとり』が抱えられていた。
先程までは核融合のエネルギーによる推進力で高速移動をしていたが、燃費の悪さ故に今はゆっくりとホバリングをしている。

あいつらには色々と情けをかけられたが、好都合だった。こうして再び自由の身へと解き放たれたのだから。
どうせ地上なんか焼き尽くすことは決定しているんだし、今更彼らを騙した所でどうだっていい。
それに、地上の連中共は過去にさとり様たちを嫌って地下まで追いやったって聞いている。
そんな奴らにさとり様を任せるつもりなんてない。

(…………。)

だけど…僅かながら、説明のし難い複雑な感情が胸に込み上げている。
なんだか気持ち悪い。この気持ちは何なのだろうか。
次第に感じ始めた奇妙な不安感を、空は何とか気にしないようにしていた。
それが億泰達への『罪悪感』であるということに気付かぬまま。


(…と、ともかく!私はさとり様を助けられた。きっとさとり様は、私のことを認めてくれる筈だ)

彼女の胸に浮かぶのは期待だ。
自分の力を今度こそ認めてくれるかもしれないという、幼い子供の様な希望だ。
その内心では、さとりの無事を安堵していたことに気が付いていない。
『さとりを助けた』という事実への達成感が、安堵の感情を遮っていたからだ。

(…そういえば、部屋で飛んでアイツを押し退けた時。あいつのデイパックから、偶然これを手に入れられたけど…)

ふと、さとりの姿を見下ろす。
彼女が視線を向けたのは―――彼女の薄い腹部だ。
細身である筈のさとりのお腹は、ぷっくりと膨れ上がっていた。


さとりの身に取り込まれたそれは、億泰の支給品『聖人の遺体・頭部』。
寝室で飛翔して億泰らを押し退けた際に、彼のデイパックから落ちたエニグマの紙を偶然手に入れることが出来た。
逃げ延びた後に試しに紙を開いてみたらミイラの生首の様なものが出てきたのだが、生首がさとりに触れた途端『取り込まれた』のだ。
そのまま遺体がさとりの身体の腹部と一体化し、こうして妊婦の様なお腹へと変わっていたのだ。


(…ま、いいや。このぷっくりおなかについては後で考えよう)

疑問には思ったが、一先ずそのことは置いておくことにした。
今はとりあえずさとり様の保護が優先だ。
安全な所まで運ぼう。…どこにあるかは解らないけど、飛び回っていればきっと見つかる筈だ。
そんな暢気な考えで、飛翔を続けていた。


(そういえば…ちょっとだけ、熱い気がするなぁ…)


レミリアに制御棒を奪われてるということに気付いていなかったのだ。
普通ならば能力を使う際に思い出すかもしれないが、今はさとりのことを考えている。
それ故に制御棒のことに意識を向けていなかったのだ。


そんな空は、気付いていない。
制御棒を失ったことにより、『核融合』の能力が不安定になっているということに。
太陽の熱を制御し切れず、自らの体温が上昇しているということに。

核融合の強大な力はそのままだ。
しかしそれを制御する為の道具を、彼女は失ってしまった。


過ぎたる力は己の身を滅ぼす。
制御の力を失った空の行く末は、自らの能力による破滅か。それとも――――――



◆◆◆◆◆◆


46 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:45:47 zcDTXyg20
◆◆◆◆◆◆



気がつけば、深い闇の中へと堕ちていた。

あの少年の攻撃が迫りくる中、私の意識は奈落の底へと飲み込まれていた。

あれから、幾許の時間が過ぎたのかも解らない。

自分が生きているのか、死んでいるのかすらも解らない。

だが、少しずつ世界への『認識』が始まっていた。

自らの自我が確かに『現世』に存在している様な実感が、不思議と感じられた。

私は、自分がどうなっているのかを確認することにした。

二つの眼を、弱々しく開いた。

その時―――私は、彼女を『見た』。




(……………お、くう……………?)




僅かに開かれる二つの眼。
彼女の視界は、自身を抱える『少女』の姿を捉えた。
『悪魔』の攻撃によって、長い間意識を闇へと沈めていた『古明地さとり』は――――ゆっくりと、覚醒し始めていた。


47 : Roundabout -The Dawn ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:46:48 zcDTXyg20

【D-4 魔法の森(中央)/早朝】
【霊烏路空@東方地霊殿】
[状態]:右頬強打、腹部に打撲(中)、波紋による痺れ(中)、疲労(大)、霊力消費(極大)、半乾き
    体温上昇(小)、僅かな罪悪感、さとりを抱えている
[装備]:制御棒なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:地上を溶かし尽くして灼熱地獄に変える。
1:さとり様を安全な場所まで連れて行く。
2:地霊殿の住人は保護する。
3:あの人間共(ジョナサン、億泰)と吸血鬼(レミリア)は必ず焼き尽くす。
 さとり様をこんな目に遭わせた奴も絶対に焼き尽くす。
4:地底の妖怪は邪魔しなきゃ見逃してやる。
5:ワムウ(名前知らない)は私が倒した(キリッ
6:さとりを保護したことによる無自覚の達成感と億泰を裏切ったことへの僅かな罪悪感。
[備考]
※参戦時期は東方地霊殿の異変発生中です。
※地底の妖怪と認識している相手は、星熊勇儀、封獣ぬえ、伊吹萃香です。
※空が使用したスペルカード『地獄の人口太陽』が上空に放たれたことによって、
 誰かが気づいたり、日光の影響を受けたりするかもしれません。
※制御棒の喪失により核融合の能力が不安定な状態になっています。
 その為、能力使用の度に核融合の熱によって体温が際限なく上昇します。
 長時間能力を使わなければ少しずつ常温へと戻っていきます。
 それ以外にも能力使用による影響があるかもしれません。

【古明地さとり@東方地霊殿】
[状態]:脊椎損傷による下半身不随?内臓破裂(波紋による治療で回復中)、妖力消費(中)、精神疲労(大)
[装備]:草刈り鎌、聖人の遺体(頭部)@ジョジョ第7部
[道具]:なし(基本支給品などの入ったエニグマの紙は、ディアボロに回収されました)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:おくう………?
[備考]
※参加者名簿をまだ確認していません。
※会場の大広間で、火炎猫燐、霊烏路空、古明地こいしと、その他何人かのside東方projectの参加者の姿を確認しています。
※参戦時期は少なくとも地霊殿本編終了以降です。
※読心能力に制限を受けています。東方地霊殿原作などでは画面目測で10m以上離れた相手の心を読むことができる描写がありますが、
このバトル・ロワイアルでは完全に心を読むことのできる距離が1m以内に制限されています。
それより離れた相手の心は近眼に罹ったようにピントがボケ、断片的にしか読むことができません。
精神を統一するなどの方法で読心の射程を伸ばすことはできるかも知れません。
※主催者から、イエローカード一枚の宣告を受けました。
もう一枚もらったら『頭バーン』とのことですが、主催者が彼らな訳ですし、意外と何ともないかもしれません。
そもそもイエローカードの発言自体、ノリで口に出しただけかも知れません。
※波紋による治療によって肉体疲労が完治しました。それに伴い、妖力消費や精神疲労も回復しました。
※『聖人の遺体』の頭部を懐胎しました。さとりにどのような影響が及ぼされたかは不明です。




<聖人の遺体(頭部)>
虹村億泰に支給。
スティールボールラン世界の北米大陸に散らばっている、腐ることのない聖人の遺体。
心臓、左手、両目、脊椎、両耳、右手、両脚、胴体、頭部の9つの部位に分かれて存在しているとされる。
手にした者の体内に入り込み、スタンド能力を発現させる、半身不随のジョニィの足を動かすなど、
数々の奇跡的な力を秘めているが、このバトルロワイアルではスタンド能力を新たに発現させることはできない。
但し、原作中で既に聖人の遺体によりスタンド能力を発現させていた参加者(大統領、ジョニィ)が
遺体を手放すことでスタンド能力を失うことはない。
現在は古明地さとりが装備中。


48 : ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 14:48:12 zcDTXyg20
投下終了です
指摘やツッコミ、感想があればよろしくお願いします。


49 : 名無しさん :2014/01/15(水) 15:20:20 6Vq.Mcvw0
さとり様ロクな目に合わねえな


50 : 名無しさん :2014/01/15(水) 16:32:32 vt6CJi4g0
投下乙です。
各キャラいい感じにバラけて
これからどう動くか展開が読めない話でした。
億泰がおくうを止められるのかに期待したいです。


51 : ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 19:31:03 RgtBpxfY0
集計者さん乙です。
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
65話(+12)   76/90(-5)     84.4(-5.6)


52 : 名無しさん :2014/01/15(水) 22:38:31 hBXRREl20
投下乙です。

正直ブチャラティか億泰かサンタナ辺りが死ぬんやないか思ってハラハラしてたけど取りあえず無事で安心。
さとりんはむしろ生存フラグが立ったんじゃないか?
何気に7人以上の話は初めてだと思うけど、各キャラハキハキ動いて良かった。特に億泰のおくうに対する感情。


53 : ◆YF//rpC0lk :2014/01/15(水) 22:39:12 qXmzfdHs0
乙です
またいい具合にすれ違ってきますねェ

ところで、4部のジョセフって波紋使えましたっけ?


54 : 名無しさん :2014/01/15(水) 22:46:35 AI3UmFUQ0
一応使えるんじゃないかな?


55 : ◆n4C8df9rq6 :2014/01/15(水) 22:48:54 wm.7k33o0
>>53
作中では使用してませんが、一応使えないことは無いんじゃないかなぁってイメージで描写しましたね。


56 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:01:40 YeVPE4Dg0
投下乙です。
自分も秋静葉、寅丸星、ホル・ホース、幽谷響子の予約分投下します。
一気に投下しますが、区切りがあった方がいいので、
前後編を分けて投下させていただきます。


57 : wanna be strong(前) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:03:22 YeVPE4Dg0
歩く、歩く。答えのない悩みを抱えながら歩く。
さきほどのエシディシとの戦いにより、心は折られ、生殺与奪も握られた秋静葉は、
死人のような覇気なき足取りで、ほの暗く湿った魔法の森を歩き続けていた。
何をすればいいのかも分からずに。

――一度しか言わんから、よく聞けよ?
 きさまはあと『33時間』で死ぬ――

エシディシの言葉が脳内で何度も再生される。
そうだ、自分はあと30数時間経つまでにあの恐ろしいエシディシという男を殺し、解毒剤のピアスを奪わなければ死ぬ、死ぬのだ。
死ねば穣子を生き返らせることなど出来ない……。
だがどうやってあの男を殺せばいい……どうすれば強くなれる……強さとは何だろう……。
終わりなき問いが静葉を苛み続ける。

そんな時である。歩き続ける静葉の視界に、大きな建造物が見えた。
どうやらうつむきながら歩いていたからか、接近するまで気づけなかったようだ。
それは塔、しかも鉄塔だ。既にここでは柱と鬼の凄惨な闘争が繰り広げられた後だが、静葉が知る由もない。
まじまじと鉄塔を眺めるが、静葉が知るかぎりでは、魔法の森にこんなものはなかった。
これも主催者の能力なのだろうか、と訝しみながらも近づいてみると、その近くに誰かが倒れていた。

しまった!と思い距離を取ろうとしたその時、倒れている人物の姿がはっきりと目に写る。その眼を見た瞬間、静葉は強烈な親近感を覚えた。
似ている、似すぎているのだ。
地べたを這いずり血反吐を吐き、腕が落ちながらも死ぬことも出来ず、うつろな目をしてただ生きながらえている。
そんな彼女が今の自分と。
まるでさっきまでの、いや、今の自分と全く同じ目をしている。

彼女の名は寅丸星。部下を失い、片腕を失い、自らの正義さえ失い彷徨う毘沙門天の化身だ。
命からがら逃げ延びたものの、体力も精神も限界を迎え倒れていた。
当然静葉は、彼女に何があったのか一切知らない。
それどころか幻想郷でさえ一度も話したことさえない。
だが“奇妙”な感覚が、彼女が同類であると静葉に強く訴えかけていた。
そして気づけば静葉は、引力に導かれるようにふらふらと星に近づき、話しかけていた。

「ねえ……そこのあなた……私と話をしない?」


☆☆☆☆☆


58 : wanna be strong(前) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:04:17 YeVPE4Dg0
唐突な静葉の出現に、最初は驚き身構えた星であったが、敵意も見えず、抵抗する力もないのでおとなしく話をすることにした。
そして情報交換をし、お互いこれまで何があったのかを語り合った。
男たちの決闘のことを、大男との死闘のことを、一方的な簒奪のことを、部下と片腕の消失のことを、そして互いに、全てを失ったことを……。

「成る程……やっぱり私の思った通りね……私達は事情は違えど、似たような境遇。
同じく誰かのために覚悟したけど、圧倒的な力にねじ伏せられたもの同士ってわけね……ふふ……」

自嘲の笑みを浮かべながら静葉は月の沈みつつある空を仰いだ。
寅丸はそんな静葉を気にするでもなく、これからどうするのかを尋ねた。

「私達が似ているのは分かりました。
それで、どうするのです?お互い満身創痍で、最早これから何をすればいいのかもわからない二人です。
例え徒党を組もうが何も出来ません……!」

寅丸はそんな自分を情けなく思い、強く歯ぎしりをする。

「ねえ、寅丸さん……“強さ”って何かしら?」

寅丸の質問に対し、静葉はまた質問で返した。

「……何が言いたいのですか?」

「私ね、強くなるには“感情”を克服しなければならないと気づいたの……
私達は恐怖や怒り、そんな感情に左右されて身の程もわきまえず戦い、死人も同然の有り様となった……」

「……」

「本当に成したいことがあるなら、そんなものあっても意味が無い。
私達は殺すと思ったら既に行動は終わっているぐらい冷徹にならなければならなかった……」

「でね、こんな状態になったからこそ気づけたけど、死人も同然ならもうきっと何も怖くないと思うの……
だって、何をしてもしなくても死ぬんだもの……だから怖くない、だからなんでもできる。
そこで提案なのだけれど、私達手を組まない?」

「手を組む?今言ったばかりではないですか、死に体の私達が組もうが何も出来ないと。
しかも生き残れるのは一人、そんな契約、端から破綻しています!」

反論する寅丸に対し、静葉首を横に振りながら語った。

「違うわ、寅丸さん。死に体の私達だからこそ、よ。
最早私達に感情はない。弱者で罪人で死人なら、それに見合った戦いをすればいい……
どんな非人道的なことをしようが、どんな常識外れなことをしようが心は傷まない、いうなれば死に物狂いの強さ……
私達ならそれが出来る。だって、そこにあるのは純粋な願いだけなのだから……」


59 : wanna be strong(前) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:05:02 YeVPE4Dg0
「ただ、それだけじゃだめということも同時に知った。
私個人の力には限界があり、何をしても敵わない相手がいる。
でも二人なら、そんなやつを殺せる可能性が増える。
きっと私達の仇にも弱点はあるはずだしね。だって、もしあいつが何の弱点もないのなら、ゲームとして破綻しているもの。
それに、どんなに小さな可能性だろうと、今の私には十分だから……
きっとあなたなら、今私の言ったことわかってくれると思う。私達が組めば強くなれる。
確証はないけれど、そんな予感がするの。だから、こんなことを言ったの……」

そう言いながら静葉は手持ちの支給品を探り、一枚のディスクのようなものを寅丸に手渡した。エシディシから施されたものだ。

「……これは?」

「これは私からの盟約の証、もし組まないとしても、プレゼントとして受け取ってもらっても構わないわ。
それに私じゃうまく使えないみたいだしね。
それと……もしあなたが、部下を死なせてしまったことやゲームに乗ったことを罪と思い、死んでしまいたいと考えているなら
、この私が、八百万神の名において断言するわ……あなたは悪くない、と。
そう、あなたは悪くない、悪いのはこの場を創った主催者共よ……まあこんな私の赦しじゃ、大した効力はないと思うけど……ふふ」

静葉の話を聞き、寅丸はしばらく俯いたままだったが、ようやく顔を上げ、静葉に答えを返した。

「分かりました、その盟約、受けましょう」

その言葉を聞き、静葉は小さく微笑みありがとうと答えた。

「実を言うと、私もあなたを初めてみた時驚いたのです……まるで私だと。
月並みな言葉ですが、これも“運命”なのでしょう。
二度とは戻れぬ血塗られた運命ですが、こんな二人が出会ったのはきっと偶然ではないはず。
それと、静葉さんの言葉、嬉しかったですよ……」

静葉のほほ笑みに対し寅丸はまたほほ笑みで返し、そして互いに、瞳に“漆黒の殺意”をたぎらせた。
今ここに、半死人同士のチームが誕生したのであった。

だが、そんな二人の近くに、また新たな影が近づきつつあった。
二人のことなど、知るはずもなく……。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


60 : wanna be strong(前) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:06:06 YeVPE4Dg0
魔法の森を進む影二つ、『皇帝』のホル・ホースと山彦の幽谷響子だ。
色々な勘違いによりシュトロハイムから逃げてきた二人は、焦って闇雲に逃げたことで、現在位置を把握できないまま、彷徨っていた。

「ねー?」

「……」

「ねえったらぁー?」

「だあーーーっっ!うるせえ!今おれは考え事してんだ!それにさっきのおっさんみたいなのに見つかったらどーすんだ!」

「おじさんの声のほうがおっきいよ」

「ぐぐぐぐぐ……」

(あーもうめんどくせえ事になっちまったなぁ……あんなイカれた軍人野郎を狙うんじゃなかったぜ……
DIO暗殺で、柄にもなくハイになっちまってたのか?その結果がガキのお守りと遭難とは、全く泣けてくるぜ……)

「……で、なんだ?」

「うーんとねぇ……さっきからずっと歩いてるけど、これからどうするのかなーって思ってさ、
おじさんは行きたいとことか会いたい人とか居ないの?」

響子のもっともな疑問だ。
ホル・ホースの提案により真っ先に情報交換と状況整理は済ませたが、互いに目的と行動指針は定まっていなかった。

(会いたい奴に行きたいとこ……ねぇ……地図にはDIOの館があったが、ホントかどうか定かじゃねぇし、
それにDIOの野郎に会ったところで、こんなところじゃ金貰っても意味ねえし、利用されて殺されるのがオチってもんだ。
ここはどっか、扱いやすくて強え奴に取り入るってのが賢い生き方ってもんだぜ)

「あー?そうだなぁ……今ん所、どっか目印になるとこ探して迷子解消が目的っちゃあ目的だが、
そういうお前は会いてぇ奴とか行きてぇ場所はねぇのか?」

「私?私はねぇ、とりあえず命蓮寺に行って、寺のみんなに会いたいかなー、特に聖様さえいれば百人力だもの!親分も星様も凄いけどね」

そう言う響子は誇らしげで、その者たちに対する信頼の深さが伺えた。

「命蓮寺か、たしかお前が住んでるとこだったな。で、その聖様とか言う奴はそんなに強いのか?」

ホル・ホースは響子の言う幻想郷のことを完全に信じてはいないが、とりあえず訊くだけ聞いておく。

「もちろん!聖様は阿修羅みたいに強くって、お釈迦様みたいに優しいんだから!それにね、それにね!――」

響子は、聞いてもないのに利他行がどうとか挨拶は心のオアシスがどうとかどうでもいい身内自慢を次々続けていた。
ホル・ホースはそれを話半分に聞き流しながら、目下の目標を思案する。


61 : wanna be strong(前) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:07:02 YeVPE4Dg0
(ふーん……じゃあとりあえず、こいつの言う聖様とか言う奴を探してみるか。
早いとここいつを引き取ってもらいてぇし、うまくいけば利用できるかもしれねぇしなぁ……ひひっ)

「よし!じゃああれだ。とりあえずお前の言う聖様を探して……ってどうした?」

さっきまでかしましく喋っていた響子が、今は黙ってどこかを見つめていた。
響子に習ってその方向に目を凝らしてみると、鉄塔らしきものがあった。

「おお!?ありゃあ鉄塔か?確か地図にあったような……おおここだ、エリアC-4、現在地はここか」

少し遠くに見える鉄塔を発見し、ホル・ホースは歓喜した。
現在地さえ分かれば同時に目的地への方角も分かる。
しかも目的地である命蓮寺と割りと近い。
このまま真っ直ぐ北東に向かえばすぐに辿り着くはずだ。

「やっと俺たちにも運が向いてきたみたいだな、命蓮寺は鉄塔の先の方にあるみてぇだから、さっさと突っ切って行くぜ。
こんな不気味でじめじめした森とはおさらばだ」

「おじさんも一緒に付いてきてくれるの!?」

「ああもちろんだぜ、なんせ俺は、女なら老若問わず宇宙一優しいホル・ホース様だからな、
それにお前の言う聖様にも会って見てぇしなぁ……ひひっ」

「ありがとう!!おじさんって優しいんだね。
あーあ、おじさんとか聖様みたいな人がたくさん居たら、きっと殺し合いなんてしなくて済むのになー」

(世の中俺みてぇな奴ばっかだったら、そりゃあ世も末だぜ……)

「声がでけぇよ……ま、そんじゃ命蓮寺目指してレッツゴー、だな」

「レッツゴー!!!!」

響子の発する大音量に耳を塞ぎながら、ホル・ホースは命蓮寺に向かって歩き出した。
その先に、壮絶な覚悟を固めた、二人の修羅がいることを知らずに。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


62 : wanna be strong(後) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:07:52 YeVPE4Dg0
『皇帝』を撃つ、撃つ、撃ちまくる。だがそんなもの屁でもねーと言わんばかりに、撃った先からその倍殺到する“足跡”。
この俺ホル・ホースと連れのガキンチョ幽谷響子は、何者かからスタンド攻撃を受けていた。
響子は敵が何者か知ってたようだが、今俺達が攻撃されている事実から、そいつが殺し合いに乗った奴だってのはどうしようもなく明らかだ。
しかも響子は真っ先に攻撃され、俺の背中で絶賛瀕死のお荷物中。
考えろ……どうしてこうなっちまった……考えろ……どうすればこのヘヴィな状況を切り抜けられる!

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


63 : wanna be strong(後) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:08:31 YeVPE4Dg0
順調に思われたホル・ホースの命蓮寺道中は、鉄塔目前にして早くも止まった。
居る。明らかに参加者が、それも二人。
ホル・ホースは響子を手で制し、小声で止まれと言い木陰から鉄塔を覗いた。

「鉄塔の下に女が二人、しかも誰かに襲われた後みてぇだな……
ひでぇ奴が居たもんだ。あの落ち着いた様子だと、今は周りには他に誰もいねーようだが……」

様子を探るホル・ホースに習って、響子もひっそり木陰から顔を出した。
そして幾ばくもせずに、あっーーーーー!っと大声を上げそうになったので、ホル・ホースは急いで響子の口を塞いだ。
幸いバレてはいないようで、何やら会話を続けているようだ。
それを確認してホル・ホースは最大限の小声で響子を叱責する。

「テメェーーーーーー!!何声上げようとしてんだ!バレちまうだろうが!」


響子は言われたことを半分も理解していないぐらい混乱している様子で、
特徴的な獣耳を犬のようにしきりにパタパタさせて言葉をまとめようとしていた。

「落ち着け、いいから落ち着け。こーいう時はあれだ、深呼吸だ。ほら深く吸って深く吐け、簡単だろ」

ホル・ホースがそう言うと、響子は何回か深呼吸をしてようやく落ち着いた。
そして今まで声に出せなかった全てを、小声ながらも一気にまくしたてた。

「どどどどどどうしようっ!?寅丸様がいて、でもものすごい怪我してて、隣にいる人は知らなくて、ととととりあえず手当!手当しなきゃ!」

訂正、全然落ち着いていなかった。
ホル・ホースは鉄塔に向かって走りだそうとする響子の首根っこを捕まえて、再度深呼吸させ、今度こそ落ち着かせた。


「いーか、いくらお前の知り合いだからって完全にシロとは言い切れねぇ、お前は納得しねぇかもしれねぇが、ここはそういう場だ。
だからここはひとまず様子を伺う。確かお前耳がいいって言ってたな、ここからあいつらの会話は聞き取れるか?」

ホル・ホース落ち着いた響子を何とか諭し、先の情報交換で得た情報を思い出し響子に提案した。
しぶしぶだが響子は言われたとおりに聞き耳を立て始めた。
どんな遠方からの声をも返す山彦は耳がいいのだ。


64 : wanna be strong(後) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:09:48 YeVPE4Dg0
――これはスタンドDISCと言うらしいわ、頭に挿すことで特殊能力を得られるそうよ。
ただ相性があるみたいで、さっき言ったけど私は駄目だった。あなたはどう?――

響子は会話をやまびこする。ただ今の会話の内容だけではシロクロ判断がつかない。
ホル・ホースは顎をしゃくって続けるよう促した。

だがその時、先程までもう片方の女と向き合っていた隻腕の女が、確かにこちらに顔を向けた。
偶然か?いや偶然ではない。それを確証付けるように、一瞬間が空いた後、向こうから無数の“足跡”が迫ってきたのだから。

「ニャ!?ニャニイイイイイイッ!!?」

即座に『皇帝』を発動させぶっ放す。だが効かない!数が多すぎて一体一体潰してもきりがないのだ!。
そうこうしているうちに足跡は目前まで近づき、呆然としている響子に襲いかかりつつあった。

「おいっ!何ボサッとしてんだ!逃げろっ!!」

『皇帝』を撃ちながら響子を助けようとするが間に合わない!

「え……あ……なんで……」

足跡が響子に殺到し、響子は倒れた。

「くそっ!」

ホル・ホースは足跡を撃ちながら響子に走り寄り、急いでなんとか背に乗せた。
そして逃げようとするが逃げる方向は後ろではない。
なんと敵に向かって走りだしたのだ。

一見無謀に見えるが、もちろんヤケになったわけでも、立ち向かうつもりでもない。
ホル・ホースは先程の会話から、敵がこの能力を手にして間もないことを見抜いた。
スタンドは精神の具現。精神的動揺は即ちスタンドの不調に繋がる。
故に後ろに逃げて追いつかれるより、前に向かい不慣れな能力に揺さぶりをかけて正面突破を狙う方が、勝算が高いと判断したのだ。
そしてこの策は功を奏する。
まさかのホル・ホースの突撃に動揺し、星はスタンド『ハイウェイスター』を引っ込めてしまった。
静葉が咄嗟に猫草の空気弾を放って止めようとするが、『皇帝』の牽制射撃に阻まれ狙いが定まらない。
ホル・ホースは見事向かいの森まで逃げおおせることに成功したのだ。

しかし、逃したはずの二人が目に宿す暗い輝きは、衰えない。

「寅丸さん……さっきの会話を思い出して。私達はもう後戻りはできない。殺すと思ったら既に行動は終わっていなければならない」

「分かっています……次は確実に仕留める……例え相手が誰であれ、聖のためならば……」

そう言う寅丸は体力を回復し、立ち上がり既にスタンドを再発動させていた。
『ハイウェイスター』の養分吸収能力の力だ。
そして『ハイウェイスター』のもう一つの能力、匂いによる自動追尾が発動し、ホル・ホース達が逃げた森の方へと一直線に進んでいく。
ネコ科の動物は人間の何倍もの嗅覚を持つ。そして手負いである星は、『ハイウェイスター』の使い手としてこれ以上とない適正を持っていた。
逃げられたと安心するホル・ホースの元へ、魔手ならぬ魔足が迫る――。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


65 : wanna be strong(後) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:10:47 YeVPE4Dg0
そして最初に戻る。回想したところで状況は何も変わらない。
敵のスタンドは遠隔自動操縦型だったのだ。
彼我の距離差はどんどん縮まり、もう後少しもしないうちに追いつかれるだろう。

「ちくしょうクソッタレめっ!やっぱり全然ツイてねーじゃねーか!
俺はシュワルツネッガーやスタローンじゃねぇ!一騎当千も出来ねえし死ぬときゃ死ぬ!どうしろってんだよこんな状況!」

愚痴を叫びながらも手と足は動かす。
だがいよいよもって限界だ。
ホル・ホースの中で黒い考えが鎌首をもたげ始める。

(こいつを放って逃げれば、敵のスタンドはこいつに食いついて俺を追う数は減る。
おまけに背中の重石も減って逃げる速度も上がって、この場は凌げるかもしれねぇ……
だがよぉ……だが女は見殺しに出来ねぇ……どうする?どうするよホル・ホース!)

ポリシーを捨てるか命を捨てるか、ホル・ホースの中で天秤が揺れる。
敵スタンドと距離が近づくごとに命に軍配が上がりかける。
そしてそんな中、響子もまた朦朧とする意識の中で、色々な考えが浮かんでは消えていた。


(おじさんの背中あったかい……寅丸様……どうしてこんなこと……私、このまま死ぬのかな……
でもそれじゃおじさんも死んじゃう……けど力が全然入らないや……)

響子は静葉と寅丸から逃げる際、一瞬だけ寅丸と目が合った。
その瞳はなんの光も宿さず、ただ黒い何かが煌々と燃えていた。
自分の中の優しい寅丸の思い出が、黒い炎に焼きつくされていく。
最早響子には絶望しかなく、死の忘却を迎え入れようとしていた。


66 : wanna be strong(後) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:11:27 YeVPE4Dg0
だがそんな時、響子は空に光り輝く何かを見た。
それは昇りかけの朝日だったかもしれない。
それは霊烏路空が香霖堂に放った砲撃の光だったかもしれない。
だが響子は確かに見た。天に昇りゆきながらも、いつもの笑顔でこちらに檄を飛ばす、二ッ岩マミゾウの姿を。

(お……親分……!)

マミゾウの姿を見た響子は、自分の中に残された最後の力の爆発を感じた。
おじさんを助ける。そう決意した響子の瞳には、もう絶望は映っていなかった。


「おじさん、私を降ろして逃げて!」

「お前、目が覚めてたのか!馬鹿なこと言ってねぇで逃げるぞ!」

「ううん、それじゃきっと二人とも死んじゃう。私はもう駄目だから、おじさんだけでも逃げて!」

図らずとも響子の方から提案された意見に、ホル・ホース、は迷いを感じながらも頷くことが出来なかった。

「そんなこと……出来る訳ねえだろ!俺は女って生き物のことを尊敬している。てめぇの命惜しさに……そんなことは出来ねぇ!!」

本心では未だに天秤が揺れている。だが女のほうからそんなことを言われれば、男としてうんと頷く訳にはいかない。


「おじさんはやっぱり優しいね……でもお願い……もう私にできることはこれしかないの……ごめんね」

そう言って響子は自らホル・ホースから離れ、敵スタンドに向かい合った。

「何してやがる!早くこっちに来い!」

響子は振り向こうともせず、覚悟に満ちた声でホル・ホースに言葉をかけた。

「私も出来る限りやってみる。だからおじさんは急いで逃げて……
私だって、最後にドカンと決めちゃうんだから!それと、聖様によろしくね……」


「くそおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

ホル・ホースは耳を塞ぎ、振り向かずにただがむしゃらに走った。
走るしかなかった。


67 : wanna be strong(後) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:12:11 YeVPE4Dg0
ホル・ホースが逃げきったのを確認し、響子は笑みを浮かべて大きく深呼吸する。
先程ホル・ホースから何度も言われた、落ち着くための方法だ。
そして響子は、自分に出せる限りの最大音量で叫んだ。

「寅丸様……正気に戻ってーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

――大声「チャージドヤッホー」

極大の音量が収束し反響空間を形作った。
そして指向性を持ち、寅丸の居る鉄塔まで一気に直進する。
響子の前面に存在する木々が次々となぎ倒されるほどの衝撃だ。

だが、肝心の寅丸にこの声が響くことは……なかった。
『ハイウェイスター』は一瞬だけその動きを止めたが、すぐまた襲いかかってきた。
無数の『ハイウェイスター』に囲まれながらも、それでも響子の心は晴れやかだった。
こんな私でも、おじさんを助けることが出来た。その一心だ。
命蓮寺の利他行の精神は、たしかにここで守られたのだ。
それでも一つだけ心残りはある。寅丸様がどうしてこうなったかは知らないが、どうか正気に戻って聖様と共に正しい道を歩んでほしい。
それだけが心残りだが、自分じゃない誰かが寅丸を正気に戻してくれることを祈り、幽谷響子は永い眠りについた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


68 : wanna be strong(後) ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:13:30 YeVPE4Dg0
「……やりました」

「……そう」

二人はなんの感慨もなく、ただ響子を殺した事実を認識する。

「知ってる子だったんでしょう?」

「はい」

「いよいよもって、後戻りは出来ない。それでも、私は穣子のため……」

「私は聖のため……」

「「この闘いに勝ち残る」」

誰かのために強くなる。その思いは変わらぬはずなのに、二人は殺し、響子は守った。
二人は響子の見せた、その異なる“強さ”に気づくことはない。

昇りかけの太陽が、決意を新たにする二人を照らす。
その光は、これからされるだろう第一回放送を予期させた。


【幽谷響子@東方神霊廟】  死亡


69 : wanna be strong ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:14:48 YeVPE4Dg0
【D-4 魔法の森/早朝】

【ホル・ホース@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:顔面強打、鼻骨折、顔面骨折、胴体に打撲(小)、疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(確認済み)、基本支給品×2(一つは響子のもの)、スレッジハンマー(エニグマの紙に戻してある)
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく生き残る。
1:響子を死なせたことを後悔。襲ってきた二人といつか決着をつけたい。
2:響子の望み通り白蓮を探して謝る。出来れば手助けもする。
3:あのイカレたターミネーターみてーな軍人(シュトロハイム)とは二度と会いたくねー。
4:死なないように立ち回る。
5:誰かを殺すとしても直接戦闘は極力避ける。漁父の利か暗殺を狙う。
6:使えるものは何でも利用するが、女を傷つけるのは主義に反する。とはいえ、場合によってはやむを得ない…か?
7:DIOとの接触は出来れば避けたいが、確実な勝機があれば隙を突いて殺したい。
[備考]
※参戦時期はDIOの暗殺を目論み背後から引き金を引いた直後です。
※響子から支給品を預かっていました。
※現在命蓮寺の方向へ走っています。
※白蓮の容姿に関して、響子から聞いた程度の知識しかありません。


70 : wanna be strong ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:15:42 YeVPE4Dg0
【C-4 鉄塔前/早朝】
【秋静葉@東方風神録】
[状態]:覚悟、主催者への恐怖(現在は抑え込んでいる)、エシディシへの恐怖、みぞおちに打撲、右足に小さな貫通傷(痛みはあるが、行動には支障ない)
エシディシの『死の結婚指輪』を心臓付近に埋め込まれる(2日目の正午に毒で死ぬ)
[装備]:猫草(ストレイ・キャット)@ジョジョ第4部、上着の一部が破かれた
[道具]:基本支給品、不明支給品@現実×1(エシディシのもの、確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:穣子を生き返らせる為に戦う。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。寅丸と共に強くなる。
3:放送間近なのでとりあえず放送を聞く
4:エシディシを二日目の正午までに倒し、鼻ピアスの中の解毒剤を奪う。
5:二人の主催者、特に太田順也に恐怖。だけど、あの二人には必ず復讐する。
6:寅丸と二人生き残った場合はその時どうするか考える。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
【寅丸星@東方星蓮船】
[状態]:左腕欠損
[装備]:スーパースコープ3D(5/6)@東方心綺楼、スタンドDISC『ハイウェイスター』
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を護る。
1:感情を克服してこの闘いに勝ち残る。手段は選ばない。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。静葉と共に強くなる。
3:放送間近なのでとりあえず放送を聞く。
4:誰であろうと聖以外容赦しない。
5:静葉と二人生き残った場合はその時どうするか考える。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※能力の制限の度合いは不明です。

※二人が放送を聞いた後、どこに向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※響子の叫びが鉄塔の方向へ響き渡りました。他のエリアにも届いているかもしれません。


71 : wanna be strong ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:16:58 YeVPE4Dg0
○支給品説明

スタンドDISC『ハイウェイスター』
破壊力:C スピード:B→C 射程距離:A→B 持続力:A 精密動作性:E 成長性:C

エシディシに支給

バイク事故を起こした少年「噴上裕也」が、バイク事故の経験と負った怪我を治したい気持ちにより形作ったスタンド。人型にもなれるが基本は足跡の形をした遠隔自動操縦型スタンドであり、においを探知して標的を時速60kmで追いかけ養分を吸収する。
このロワでは制限として
1:使用者の居るエリアを超えて追尾は出来ない。
2:速度は30km固定。
を受けている。
なおにおいから大方の位置を予測してワープする能力もあるが、
現在装備している寅丸星は説明書を読んでいないので能力に気づいていない。何かがきっかけで知るかもしれない。


72 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:18:23 YeVPE4Dg0
以上で投下終了です。
問題があればぜひご指摘を。


73 : 名無しさん :2014/01/16(木) 00:28:42 e6DUqbf60
投下乙です!
響子ちゃん…健気な子やった…
なかなか愛嬌のある女の子だっただけに早期退場は寂しいが、これもロワの無情か…
あと出だしが振るわなかったマーダー二人だけど、DISCも得て着々と漆黒の意志手に入れてきてる…w
星ちゃんもスコア稼いだし、彼女達はこの調子で今後も頑張ってほしいね
そして絶妙に軽快で小狡くて、それでいて何だかんだで筋が通ってるホル・ホースのキャラは好きだなぁ…


74 : ◆YF//rpC0lk :2014/01/16(木) 00:35:14 4iG6qPp60
乙です
やばいわこの二人……早く何とかしないと
響子は残念だけど、ホルホースにはその分生きてちゃんと仇取ってくれるってアタイ信じてる!

それと文章量はそこまで多くなさそうなので、wikiにまとめる際は前後編に分けなくてもよさそうなのですが


75 : 名無しさん :2014/01/16(木) 00:43:14 1yOTJv4k0
投下乙です。覚悟完了したマーダー2人は手を組んだか。
時速30kmって走ってるだけじゃ逃げきれんし、いい感じに暴れてくれそう。
響子も可愛かったけど、ホルホースもキャラの雰囲気そのままな感じで良かった。

ちなみに、響子の死因って養分吸い取られたことでOKなのかな?


76 : 名無しさん :2014/01/16(木) 00:46:28 SvAp/HwA0
投下乙です
静葉はヤバいなぁ。東方キャラの中で一番ジョジョキャラの影響を受けたのは彼女じゃないかな
状態表記に覚悟があるのは静葉だけだし


77 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/16(木) 00:51:43 YeVPE4Dg0
>>74
ですか、すみません。ではその通りにお願い致します。
>>75
そうですね。ズギュンと。


78 : 名無しさん :2014/01/16(木) 03:46:00 RQIq6tQ60
投下乙です

静葉と星は個人的に先行き気になるマーダーの二人でしたので、面白くなってきましたね
何となく応援したくなる二人組でした(マーダーだけど)
そして原作と同じく、ホルホースの立ち位置がやっぱり面白いなあ


79 : ◆at2S1Rtf4A :2014/01/18(土) 00:27:32 yq1xG3uA0
マエリベリー・ハーン、ウィル・A・ツェペリ、ジャン・ピエール・ポルナレフ
稗田阿求、西行寺幽々子を予約します。


80 : 名無しさん :2014/01/18(土) 00:52:03 UvYq5q2Q0
ジャイロと神子は?


81 : 名無しさん :2014/01/18(土) 01:00:18 euAJmX2c0
>>79
(おっ、初めて見るIDが)


82 : ◆at2S1Rtf4A :2014/01/18(土) 01:18:29 yq1xG3uA0
迷いの竹林のせいで、すれ違うかどうか悩んでいたのですが、
やっぱり2人とも遭遇するほうがしっくり来るかな?


83 : 名無しさん :2014/01/18(土) 01:29:57 UvYq5q2Q0
ジャイロにはナズーリンのペンデュラムが支給されていますし


84 : 名無しさん :2014/01/18(土) 01:41:21 z5VXc0UM0
確かにペンデュラムでヴァルキリーを探知してる以上、ジャイロと神子ちんがいる方が自然な気がするなぁ


85 : ◆at2S1Rtf4A :2014/01/18(土) 01:45:03 yq1xG3uA0
了解しました。
追加でジャイロ・ツェペリ、豊聡耳神子を予約します。


86 : 名無しさん :2014/01/18(土) 01:53:04 z5VXc0UM0
(新たな書き手さんに期待しつつ、他の方々の投下ものんびりと待とう…)


87 : 名無しさん :2014/01/18(土) 02:04:22 /fDaVty20
>>85
かっこいい!


88 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 17:54:53 bSmtQ0mM0
これより投下します。少し長いので前後編で分けたいと思います。

花京院の命日に間に合わせたかったなぁ…


89 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 17:58:14 bSmtQ0mM0
――― <早朝> B-2 ポンペイ遺跡 西側 ―――

「だいぶ、サマになってきたじゃあないか。お前はスタンドの素質あるかもしれねーな。じゃあ次は今までの復習だ。『LESSON1』からやれ」

「は…ハイッ!」


東の地平線から段々と光が射し始める刻、ここポンペイの遺跡にて東風谷早苗とプロシュートの二人の影があった。
黒スーツの背を遺跡の壁に預け、腕を組みながらプロシュートは早苗に向けて指示を出す。
一方の早苗はというと、肩で息をしながら膝に手をつき、額に汗を光らせながらも男の指示には素直に従って強く返事を返した。
そして姿勢を整え、眼を閉じて静かに1回深呼吸を行いゆっくりと口を開き、言を紡ぐ。

「LESSON1。スタンドは精神力のエネルギー…。呼吸を整え、平常を保つ。『己の精神を支配しろ』…でしたっけ?」

「…………」

少々自信なさ気な顔でプロシュートの方を向き答えを確認するが、男の無言の圧力に気圧され、別の汗が彼女の頬を伝う。
コホン、と少しばかりわざとらしい咳をしたのち、早苗は改めて精神を集中させ叫ぶ様に自分の生命ヴィジョンの名を発した。


「顕現せよ…我がスタンド、『ナット・キング・コール』ッ!!」(少しカッコつけてみる)


まるで呪文の詠唱のように早苗は自身のスタンドの名を高らかに呼び出す。
早苗の傍から現れ立った者は彼女の支給品であるスタンドDISC『ナット・キング・コール』と呼ばれた生命ヴィジョン。
その全身にはまるで磔にでもされたようにおびただしく突き刺さった『螺子』(ネジ)。特に頭部や首元に隙間無く粗雑に刺さる螺子は見様によっては不気味にも感じる。
そしてもう一つの特徴は額を中心にして二方向に伸びるV字型の飾り。
これを見て心躍らない男子などこの世に居ようかという程に存在感を放つ、いわゆる『昭和ライダー』を連想させるその風貌に、ロボ好きの早苗は例に漏れず興奮を覚えたのである。

(はわわ〜……このフォルム、このスタイル、何といっても頭の『V』…!何度見ても格好良い…。このスタンド、『大当たり』ですね!)

DISCで獲得した能力とはいえ、早苗は恍惚な表情で(若干の涎を垂らしながら)自分のスタンドを暫しウットリと眺める。
普通の女の子の感覚とはちょっぴりズレた彼女の外の世界での趣味に特撮ヒーロー物の鑑賞が含まれていたかどうかはこの場では触れないでおく。
とにかく彼女はDISCで得たこのスタンドを甚く気に入った。この会場内が殺し合いの場である事を忘れるほどに。


90 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 17:59:55 bSmtQ0mM0
「…オイ。マジメにやらねえなら置いて行くぞ。お前が『スタンドでの闘い方教えてくれ』つって頼んだんだろーが。さっさと『LESSON2』に移らねえか」

「は、はい…スミマセンでした…(こ、怖いよぉ〜…)」

少々イラつきながら浮かれる早苗に叱咤するプロシュート。親に叱られた子供の様に小さくなって謝る早苗は涙目になりながらも続く『LESSON2』に移行する。

「れ…LESSON2…。えと、『敵を知る前に、まず己を知れ』…。私のナット・キング・コールは『近接型』。物体に螺子とナットを『接合』し『分解』出来る…と」

早苗は目を瞑りジッとイメージする。握ったこぶしの中から螺子が1本。また1本。
そう出来る事が当然だと言う様に、瞬く間に早苗の両手には8本の螺子が生まれ出でた。
カッと目を見開いた次の瞬間には、まるで氷をハンマーで軽く叩いたような気持ち良い音の振動と共に早苗の目前にある遺跡の壁に8本の螺子が円を描くように次々と突き刺さる。

「自分のスタンドで出来る事は何か。状況に応じて可能な限り使い分けろ。戦局は常に流れる水のように動いているんだからな」

後ろのプロシュートの指導の声が終わると同時に取り付けた螺子のナットが外れ、仮にも観光地である遺跡の壁には巨大な大穴がいとも簡単に開けた。
これがナット・キング・コールの能力。『螺子込んで』、『バラバラ』にしてブチ撒けるッ!

「お前の能力は物の『分解』と『接合』。この2点をよく理解して使いこなせ。ここまではどんな『マンモーニ』だって出来る。だが次の『LESSON3』は実戦的な応用だ。こればかりは経験を積んで強く成長するしかない」

「…LESSON3。『相手の立場に身を置く思考』…もし相手が自分なら『何をするか』、『何が出来るか』ですか…」

「…そうだ。相手の思考を『読み』、その『先』を行け。しかし当然、敵も同じことを考える。そこからは…『読み合い合戦』だ。
『一手』…見誤った方が死ぬ」

「うぅ……地底のさとり妖怪じゃあるまいし、自信無いなぁ…」

早苗のその情けなく物怖じした声を呆れた様な顔で聞いたプロシュートは、彼女に近づいてその潤ったモチ肌を2回、ペッシペッシと軽く叩いて真剣な表情を向けて言う。

「早苗 早苗 さなえ サナエお嬢ちゃんよォ〜〜〜〜。お前さんがマンモーニだろうがビビッた挙句に死んじまおうがオレには関係ねー。
だがな、オレの足だけは引っ張るんじゃあねーぜ。お前は勝手にオレについて来てるだけなんだからな」

「ごご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいッ!もう弱音吐きませんプロシュートさんには感謝してますゥッ!(だからそんな怖い目で睨まないで〜(涙)」

幻想郷においては守矢の巫女であり、現人神という大した身分でもある早苗だが、その中身は(ちょっと変わった)普通の女の子である。
そんな彼女がギャングの一員であるプロシュートに対して多少なりとも畏怖する気持ちがあるのは至極当然。ましてやここは殺し合いの会場なのだ。
家族同然の神奈子や諏訪子ならともかく、さっき初めて会ったばかりの男性、しかも一人や二人は殺してますと言わんばかりの『只者ではない匂い』を纏ったプロシュートを彼女は完全に信頼し切れないでいた。
それでも勇気を振り絞って共闘を持ちかけ、あまつさえ図々しくも『スタンド』について詳しく聞き込み、そのうえスタンド戦の簡単な『指導』までしてもらったのは彼女の誠実な態度が実を結んだ結果だろう。


91 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:00:56 bSmtQ0mM0

(チッ……。何でオレがこんなガキの子守役をしなきゃあならねぇんだ…)



プロシュートは再び遺跡の壁に背を預け、心の内で毒を吐きながら考えに耽る。
実際、プロシュートも最初は当然の様に拒否しようと思った。こんな状況である、例え相手が女の子だろうが自分の情報は極力隠しておきたい。
先程の早苗との情報交換の後、背後を歩きながら早苗は自分の支給品を取り出し、前を歩くプロシュートに問いかけたのだ。


「あの、ところでプロシュートさん。私の支給品なんですけど、コレ…スタンドDISCって何か分かり…ませんよねぇ。あ、いえ何でもないんですけどね…あはは…」

「…ッ!?」

話を誤魔化すように笑う早苗とは対照的に、スタンドという単語を聞いた瞬間プロシュートは驚愕した表情で早苗の方を振り向いた。
スタンドの存在の一切については早苗には敢えて話していないプロシュートだが、流石に今の彼女の発言は聞き逃せない。
とにかく、そのスタンドDISCとやらを早苗から受け取り、説明を見てみる。


―曰く、このDISCを頭に挿入すれば誰でもスタンドが使用可能になる。


こんな薄っぺらい1枚のCDで誰もがスタンドが使えたら苦労はしないと、普段なら一笑に伏せる所だがなにぶんの状況だ。
自分には既に『ザ・グレイトフル・デッド』という自慢のスタンドがあるため、(元々彼女の支給品という事もあり)DISCは彼女に装着させる事にした。
嫌々ながらもDISCを挿入した彼女は、しかし自分のナット・キング・コールを目にした途端、子供の様に興奮してしばらく歩きながらスタンドを適当に動かして遊んでいた(その度にプロシュートから『やかましいうっおとしいぞ』と叱られていたが)。
一体どういう仕組みなのかも考える事すら馬鹿馬鹿しく思えてくるその何でもありな状況に、プロシュートはそれでも冷静に現状を把握しようと思考しながら歩く。

その内、目的地であるポンペイ遺跡の入り口まで辿り着いた二人が、他の参加者を警戒しながらも遺跡内部に侵入する直前の事である。

「あの!さっきの反応見て思ったんですが…プロシュートさんは、その…『スタンド』について何かご存知なんですか…?」

(……チッ)

相手には聞こえないほどの僅かな舌打ちをしながら、プロシュートは自分の小さな失態に少し嫌気が差した。
スタンドDISCの事を聞かれた時、自分の軽率な反応から彼女は『自分がスタンドについて何か知っている』と察したのだろう。
仮にもギャングである自分がこんな年端もいかない小娘相手に『勘繰られた』という事実がプライドの高い彼の心を揺さぶった。


―スタンドについては遅かれ早かれ知られていただろう。ならばこんな娘でも緊急時には役に立つかもしれない。


多少の打算的思考はあれど、こういった経緯でプロシュートは早苗にスタンドについての知識をある程度授けたのだった(勿論、プロシュート自身の能力については一切触れずにではあるが)。
スタンドについて聞く早苗は、多少の質問を交えながらも最後まで熱心に頷きながら講座を終える。
最後に何か質問はあるか。そう付け終えたプロシュートをよそに早苗は少し言葉を淀ませ、やがて意を決したようにハッキリ言う。

「プロシュートさん…。さっきから私、頼み事ばかりで申し訳無いですけど…」

極めて誠実な表情でそう前置きし、そして早苗は深々と頭を下げてプロシュートに誠心誠意頼み込んだ。


「私に…スタンドでの闘い方を教えてください!お願いしますッ!!」


92 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:02:16 bSmtQ0mM0




―――闘う。スタンドで、闘う。

このバトルロワイヤルにおいて参加者の取る道はそう多くない。

『ゲームに乗る』、『逃げ』や『交渉』…そんな選択肢の中で彼女は『闘う』道を選んだ。

闘うと一口に言っても、積極的に参加者を潰していくわけではない。プロシュートは早苗と最初に出会った時の会話を思い出す。



―――『私は、この殺し合いを止めたい。…だけど、一人でやれることには限界があると言うことも理解しています』―――

―――『だから、その…プロシュートさん。何というか…私と一緒に、闘って欲しいんです!
迷惑をかけてしまうかもしれない、ってことも解っています。けれど…私も、出来る限りのことは全力で頑張りますから!』―――



あの時と同じ様に、早苗のどこまでも真剣でまっすぐな瞳がプロシュートを見据える。

この娘は…このゲームを本気で『止める』つもりだ。それも生半可な気持ちではない。

それは確かな強い『意志』を持って、ゲームを力ずくでも止めて見せるという彼女なりの『使命』を持っている様にプロシュートは感じ取った。


(『使命』…か。そうだ、オレにも成し遂げなければならない事がある。オレは『チーム』のために、こんな所でくたばるわけにはいかねぇ。
必ず生き抜いて『栄光』を掴み取らなけりゃならねぇ…)


早苗の固い意志を見てプロシュートは、方向性は違えど『使命』を果たさなければいけないという点では自分と彼女が同じだという事に僅かな共感を覚える。

しかし、それは果たしてどれほど途方も無い道のりなのだろう。少なくとも彼女一人では確実に不可能なのは分かりきっている。



―――ひと筋の風から鳴る木々のざわめきが、二人の視線の間に流れる。

早苗はプロシュートを真っ直ぐに見つめたまま喋らない。ただ、プロシュートの答えをジッと待つ。

そして、男はようやく口を開いた。


「…嬢ちゃん。お前さんが成し遂げようとしている事はとんでもなく不可能に近い所業だ。それでもたった一人で立ち向かう気か?」

「仲間なら、居ます。私は一人ではありません」

「悪いがオレはお前を助けてやろうなんて思っちゃいねえ。いずれは切り捨てるかもな」

「それでも構いません。その時が来るまで、私は貴方について行きたいのです。…貴方が宜しければ」

「惨い現実が待っているかもしれねえぞ。必ずドでかい『壁』が目の前に立ち塞がる。ちっぽけな小娘のお前がどれだけ抗える?」

「仲間と一緒なら壁なんていくらでもブチ壊して進んでみせます」

「言うだけなら簡単だ。結局は自分の無力さを思い知ることになる。それとも『奇跡』でも起きるのを願うか?」

「『奇跡』は…願うものではありません。起こしてみせます。だって私は…」






「『奇跡を起こす程度の能力』を操るんですから…!」


93 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:03:13 bSmtQ0mM0
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そんなやり取りもあって、結局プロシュートは早苗の熱意を認め、こうして丹念にスタンドの扱い方を教えている。
敵に見付かったりするような事を避けるため、二人はポンペイ遺跡の内部まで進み、かれこれ1時間以上の稽古を続けていた。
この遺跡は結構広く、また迷路のように壁が入り組んでいる事もあり、長く留まっていても中々参加者に見付かる事も少ないのだ。

そんな中、早苗にレッスンを続けながらもプロシュートは『今後』について一人考える。

(多少マンモーニなきらいはあるが…早苗は芯の通った女だ。『成長』の余地は充分にある。…ペッシの奴が新人だった頃を思い出すな)

ソルベ、ジェラート、ホルマジオ、イルーゾォ、メローネ、ギアッチョ、リゾット、そして弟分であったペッシ。
共に死線を潜り合ってきたチームの仲間。プロシュートにとっては単なる仕事上の関係を超えた物になってきているのだ。
その仲間も今や半分。ボスやブチャラティのチームどもに既に4人も殺られている。
チームの『誇り』が崩れつつあるこの絶望的な状況の中、プロシュートは諦める事無くペッシを連れて護衛チームに追撃を仕掛け、そしてブチャラティに『敗北』しようかという直前、気付けばあの会場に呼び出されていた。


(列車に残してきたペッシは無事だろうか。アイツはどうしようもない『ママっ子』だったが、その精神の奥底には誰にも負けないタフさを持っている。
アイツなら…もう自分がついていなくても大丈夫だろう。きっと大物に成れる。そんな男だ、ペッシの奴は)


自分なりに厳しくも可愛がってきた弟分、そしてチームの未来の無事を祈りながらプロシュートはもう一度名簿を取り出して眺める。
過去を振り返っていても仕方ない。大事なのは『これからどう動くか』だ。
色々と不可解な状況は多いが、中でもプロシュートが一番気になるのがこの『名簿』である。

ジョルノ・ジョバーナ、ブローノ・ブチャラティ、グイード・ミスタ、そしてトリッシュ・ウナ…

名簿にある90人もの参加者の中でプロシュートが知っている人物はこの4人だけ。
いや、厳密に言えばスピードワゴンとかいう財団も知るには知っているし、日本の『空条 承太郎』という最強のスタンド使いの噂も聞いたことがあるが、彼が直接知っているのはあくまでこの4人のみ。
しかもその全員が護衛チームに所属している(トリッシュは違うが)人間だ。只の偶然にしては出来過ぎている。
この場にオレ達を呼んだあの主催者は、どうやら確実にオレと護衛チームの『因縁』を知っているらしい。


『因縁』…。因縁というのなら、プロシュートにとってもう一人、全ての元凶とも言うべき因縁の人物は居る。

ギャング組織『パッショーネ』のボス。その存在、経歴、能力まで全てが謎の男。この男を打倒する為だけにプロシュート達は幾つもの犠牲を払いながら追跡してきた。
そして『もうひとつ』…。プロシュートはこの名簿について『ある疑問』をずっと感じている。それは…



「この名簿…何で『並び順』がバラバラなんだ?」


94 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:04:15 bSmtQ0mM0

この名簿を作った奴がどういう基準で名前を配置したのかは分からないが、五十音順でもない、男女で分けるでもない、確かに見た目バラバラに配置されてるように見える。
早苗の言った事を元に考えるなら、『幻想郷とやらの住人』と『そうでない人間』で別に大きく分けられている事は間違い無さそうだ。
そしてプロシュートの名前欄の上には護衛チーム4名の名前がご丁寧にズラリ一緒に並んでいる。
先述した因縁の相手が1箇所に固まっているわけだ。これも偶然ではない筈だろう。
次にプロシュートは自分の名前欄の下に注目してみる。



―――ディアボロ。



イタリア語で、『悪魔』を意味するその名にプロシュートの心臓は僅かに早鐘を打ち始める。

恐らく、イタリア人の男の名。
ディアボロの名の下には『空条徐倫』という日本人名が書かれている事を考えて、プロシュートは脳内で次々とロジックを展開していく。



ジョルノから始まりブチャラティ、ミスタ、トリッシュ、プロシュート、そしてこのディアボロ…名簿の中に同じ推定『イタリア人』が一纏めにされているのは何故だ?

この名簿はもしや、何らかの『因縁』によって大きく分けられているのではないか?

だとするとこの『ディアボロ』という謎の男も…オレに何らかの因縁を持っている?

しかしディアボロという名前などオレは聞いたことも無い。だが……『まさか』…?

…『根拠』は無い。だが、オレの知らない人間でかつ、深い因縁がある奴なら『心当たり』はある。

オレ達、暗殺チームがずっと追いかけてきた男。『パッショーネ』の大ボス。

この『ディアボロ』という男の正体は、もしや…


95 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:05:07 bSmtQ0mM0




「…いや、今は何とも言えねーか」


溜息交じりにそう零したプロシュートは、名簿をデイパックにしまって行動する支度を整える。

―――結論を出すには、情報がまだまだ足りない。この疑念はひとまず胸にしまい込み、とにかく人に会わなければ。

そう判断して彼はスタンド特訓中の早苗に声を掛ける。見ると彼女はまたもや自分のスタンドを見て目をキラキラさせている。
最近のガキは女でもあーいうモンが好みなのか…?呆れながら心中でやれやれと言った感じのプロシュートはこの場所から移動を開始しようとする。
現在地はポンペイの西側。ここから中心部を通って東まで探索すれば誰かを見付けるかもしれない。

居るのが『乗ってない者』なら情報を得る。


もし、『乗った者』なら…遠慮はしないさ。


96 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:06:02 bSmtQ0mM0
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プロシュートと早苗が遺跡の東側に向かって行く内に二人は『奇妙』な事に気が付いてきた。
東に近付くにつれて、地に『雹』が積もっているのだ。
当然ながら今の今までプロシュート達はそんな天気に出会いはしなかった。ずっと満月が夜を照らしていたのだ。
という事はつまりこの雹はこの辺り一帯のみ、局地的に降り続けていた事になる。そんな事があり得るのだろうか?

「プロシュートさん…。この雹、一体何なのでしょうか?」

「…この雹が止んでからどうやらだいぶ時間が経っているみてーだな。明らかに『人為的』な現象だ。オメーの知り合いに天候でも操れる奴が居るのか?」

「…えと、一応私でも天気は操れたり出来ますけど……かなり頑張れば。…………あっ!わわわ私じゃありませんからねッ!?」

「誰もンなこた言ってねーだろ。…とすれば、これは間違いなく『スタンド使い』の仕業だな。おおかた『天候を操る能力』ってとこか?」

「ええ!?天候なんてそんな簡単に操れるもんじゃないですよ!そんな奇跡をヒョイヒョイ行われたらウチの神社の商売だってあがったりです!スタンド使いって結構フザけた集団なんですねーッ」

あくまで予想だというのに真性スタンド使いのプロシュートの真横で中々の毒舌っぷりを発揮した早苗は勝手にプリプリ怒っている。
早苗の意外にも図太い性格を発見したプロシュートは、彼女の失礼な発言に気を悪くする事なく更に奥へと進む。
やがて着いたのは石造りの大通り。この場所は特に雹が降り積もっていた。雹の発生地点はここだと見て間違いないだろう。

いや、雹だけではない。


「…どうやらついさっきまでここで熱いファイトが行われてたみてーだな。足元は冷てーがよ」


辿り着いた大通りはかなり凄惨な風景と化していた。
降り積もった雹が朝星の光に反射して解けゆく様は、春が訪れ雪山を自然に解かしていく様なある意味幻想的な風景にも見える。
だがあちこちの壁は破壊され、地面には大量の何かの残骸が撒き散らかされており、しかも爆発痕まで残っていた。
完全に何者かがこの場所で戦闘していた証拠だ。プロシュートはより一層辺りの警戒を強めながら慎重に調査していく。

そんな中、早苗がバラ撒かれていた残骸に近付いてそっと手に取る。よく見るとそれはボロボロの『傘』の様にも見えた。

「これって…あの『唐傘妖怪』の子の…?」

「知っているのか?早苗」

「…以前、少しだけ…。この傘がこんなにボロボロだという事は、あの子は…」

プロシュートは何も言わなかった。
同情の念を抱いたわけではない。早苗がその傘の妖怪と仲が良かったかのは知らないが、少なくともここにそいつの『死体』は見当たらず、またどこかにまだ『敵』が潜んでいる可能性もあり得るのだ。
今必要なのはここで何が起こったのかという情報。そしてプロシュート達はここで新たな『何か』を発見した。

通りの一角にはこの場には不釣合いなほどに美しく鮮やかに咲き乱れた花々が、まるで一種のガーデンの様に存在していた。
そしてその花壇の中心で花達に見守られるように横たわっている人影が、ひとり。
二人が恐る恐る近付いてみると、『彼女』は眠っているように目を瞑り、両手を合わせて組んでいる。しかし、決して眠っているのではない。


97 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:07:49 bSmtQ0mM0




「―――美鈴さんッ!!」




プロシュートの後ろから早苗が飛び出し、横たわる彼女に駆け寄った。
『美鈴』と呼ばれた彼女の死体の傍に座り込む早苗は、信じられないといった表情で悲しみに包まれる。

「美…鈴、さん……そんな…どうして、貴方がこんな……」

早苗は青い顔で死んだ美鈴を見つめる。見たところ彼女の身体には何の異常も見えない。
花に包まれて横たわるその姿は童話の『白雪姫』の様。いたって健康の、まるで本当に眠っているみたいであった。

早苗と美鈴は特別に仲が良かったというわけではないが、たまに一緒になって拳法を教わる間柄ではあった。
それは師匠と弟子という上下関係ではなく、ただの女の子同士の『遊び』みたいなものだった。
組み手では美鈴相手に一度として1本取った事は無いが、それでも休憩時間に彼女と一緒に食べるお弁当はとても美味しく感じたし、早苗もその時間が大好きであった。
仕事をサボっては紅魔館のメイド長にしこたま叱られ、涙を流しながら許しを請う彼女の姿を思い出す度に早苗はクスクス笑っていた事もある。

「門番の仕事がサボれるという事はこの幻想郷が平和である何よりの証拠!喜ぶべき事であって、怒る様な事ではないのですよー♪」

満面の笑みで苦し紛れの言い訳を放つ彼女は当然、その日は食事抜きのお仕置きが待ち構えている事になる。



―――そんな笑顔の似合う彼女が、今自分の前で冷たくなって『死んでいる』。


98 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:08:24 bSmtQ0mM0



身近な者の『死』。初めて体験するその辛い現実を拒絶したい想いで胸が破裂しそうになる。
嘘だ。これは現実じゃない。悪い夢幻かなにかだ。
そう思い込もうとする早苗の頭に、プロシュートの一言が蘇る。


―――『惨い現実が待っているかもしれねえぞ。必ずドでかい『壁』が目の前に立ち塞がる。ちっぽけな小娘のお前がどれだけ抗える?』


…そうだ。これは夢でも何でもない。さっきプロシュートさんに言われたばかりだ。そう思い直して早苗は自分の弱い心に鞭を打つ。
こんな酷い出来事がもし、自分の愛する者…神奈子様や諏訪子様に降りかかったらどうなってしまうのだろう。
そんな事があっちゃ駄目なんだ。この美鈴さんの様な犠牲者を出さないためにも私は闘うって決めたんだから…!


守矢の強き風祝は冷たい『現実』を前にして、改めて決意する。この異変は私が食い止めると、強く、固く。


(美鈴さん…全てが終わったら必ず貴方をきちんと弔いに戻ります。それまでは、どうかここで…安らかに眠っていて下さい)


彼女の亡骸に誓いを立て、その頬にそっと擦るように触れる。その頬は、やはり冷たかった。


99 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:09:35 bSmtQ0mM0
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早苗が美鈴の死に哀しむ間、プロシュートは闘いの現場をずっと検証していた。
『天候を操るスタンド使い』とあの『中華風の女』が戦い、そして女のほうが敗北した…?
早苗の言っていた『唐傘妖怪』という奴も気になる。あるいは、中華の女を殺したのはその妖怪の可能性もある。

更に気になるのがこの雹の上にくっきり残った『足跡』。自分達の足跡と混ざらぬ様に注意深く観察してみれば、どうやらこの場には『4つ』の足跡が確認できる。

数時間前にこの場で少なくとも4人以上の人間が闘った事は事実だと推理しても良いだろう。プロシュートはそう結論付けた。
ギャングの暗殺チームの一人として、今まで数多の戦いを乗り越えてきたプロシュートの経験がここでも活きた。
戦闘に加えてチームの参謀的役割もこなしていた彼はいつも冷静に状況を分析し、仲間の危機を何度も救って来た男なのだ。
くだらない事ですぐ熱くなる仕事仲間のギアッチョをなだめるのはいつもプロシュートの役目でもある。
そんな百戦錬磨の男がこんな現場を目にしたら、まず冷静に物事を見極める事が何よりの重要事項だ。


そして、彼はこの場のある『ひとつの足跡』に注目した。


(この足跡…『女』の物の様だが、これだけ随分『新しい』な…。精々『20分程前』に付けられた物だ)


―――オレ達が来る直前に『何者か』がこの場を訪れた…?


(コイツはどうやら、ここで『戦っていた』奴らの1人ではなさそうだぞ。他の足跡は氷が解けない内に踏み固まっているのに対して、コイツだけ『氷が解けだした後』に新しく踏まれている)

プロシュートは今度は足跡の向かう方向に重点を置いてみる。これも他とは明らかに違う点が見つかった。


(雹の上に残った跡をよォーく観察すれば分かるぜ。どうやら…まず3人の人間がこの場を離れて行った様だ。
その内の1人…こいつは日本の『下駄』とかいう履き物の足跡か?そいつがこの辺りでダメージを負ったのかは知らんが、倒れたようだな。そして仲間の1人に『背負われて』ここを去った。
まだ推測だが…ここにそいつの死体が無い以上、例の『唐傘妖怪』が背負われて行ったのか。ここで足跡が『2人分』になっている。そしてそのまま3人は『南』へ向かって遺跡を出た)


(あの『美鈴』とかいう女と同じ靴跡は…無いか。足跡を残す間も無く逝っちまったらしい。傷が身体に無いのは気になるが…それは置いておくか。
重要なのは『襲撃者』が誰かだ。この3人の足跡の持ち主が襲撃者で、中華女を殺して去ったのか?…いや、殺した相手をわざわざ『弔う』様に花で飾り付ける奴はいねー。
恐らくこの3人と中華女は仲間だ。襲撃者を撃退して南へ向かった。ならば3人あるいは中華女の内の誰かが『天候を操る能力者』か?
…それも考えられるが、多分違う。襲撃者の方が天候を操る奴で、敗北して逃げ去った。襲撃者が天候を操れるなら、雹を降らせて足止めできるからな。降らせながら逃げたのなら、雹の上に足跡は付かねー)


100 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:10:53 bSmtQ0mM0

(チッ……ブチャラティどものチームにいるアバッキオとかの『過去を再現する能力』とやらのスタンドDISCがもしあればこう悩む必要はねーんだが、そんな都合良いDISCがあるハズもねーか)

このような状況下で絶対的に有利に立ち回れるであろうスタンド『ムーディ・ブルース』をこの時ばかりは羨ましながら舌打ちをついた。


そこまで考えついてプロシュートは改めて思考を整理する。


この場で確認できる足跡は『4人』。そして足跡の無い襲撃者と中華女の分を足せばこの場には『6人』居たことになる。
6人中、まずは3人の足跡がここから出て行った。この3人は仲間同士だろう。途中で足跡が2人分になっているのは唐傘妖怪が背負われたからだと推測する。

次に、残りの3人の内で足跡の無い襲撃者と中華女を除けば、残るは1人。さっきの『新しい足跡の女』だ。足跡の数も合う。


だが、何だコイツは…?


時間差で足跡が付いているところを見ると、ここでの戦闘には直接関わっていなかったみてーだが、何か『不自然』だ。
コイツの足跡はオレたちと同じ、西から入ってきてそして南へと抜けている。それもつい20分前にだ。

つまりオレと早苗が1時間前から遺跡西側で特訓していた近くをコイツは通り抜けてきた事になる。
オレ達に何も接触してこなかったのを見るあたり、オレ達に気付いていなかったのだろう。

そしてこの足跡は迷わずにあの、中華女の死体の方へ向かって伸びていた。
改めて今見ればあの死体の状態も、どこか不自然さを感じる。やけにあの場が『散らかり過ぎている』のだ。
この足跡の主が死体を発見し近付いたんだろうが、ただ死体に近付いた若しくは触れただけにしては、死体の周りにも摘み取った花が無造作に落ちている。落ち過ぎている。
おかげで花壇に横たわる死体の姿も目立って見える。だからプロシュート達は遠目にも花の中に誰か倒れている事がすぐに分かったのだ。


それはまるで『この死体を見つけて下さい』と言わんばかりの工作にも、プロシュートの目には見えた。


101 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:12:01 bSmtQ0mM0


そう感じ取った直後、美鈴の亡骸の横に座り込んだ早苗が、その頬に触れようとしたのが目に映る。

瞬間、プロシュートは感じ取る。今までの経験で何度も皮膚を刺していた、その独特な悪寒を…。静かに忍び寄るような危機を…
あるいは歴戦のスタンド使いの『カン』とでも言うのだろうか。嫌な汗が滴り流れる。
プロシュートは駆けた。





「早苗エェェーーーッッ!!その『死体』に触れるんじゃあねえええぇぇぇぇーーーーーッッ!!!」






「え――――」



後ろでプロシュートの怒号が早苗の耳を貫き響かせる。だが、既に『遅かった』。


美鈴の冷たい頬に触れた瞬間、いつ出現したのか。早苗の右手には鋭い『針』と『糸』がいきなり皮膚と肉に喰い込み、突き破っていた。





―――それはまるで、大きな『釣り針』の様で……


102 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:13:29 bSmtQ0mM0
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――― <早朝> B-2 ポンペイ遺跡 南側 ―――

「ム…あの男女二人組、動き出したみたいだぞ…?」

花京院典明は依然、『ハイエロファントグリーン』によってポンペイ内南側から周囲の索敵を行っていた。
さっきから確認できる人影は『3名』。その内男女2名は遺跡の西側でかれこれ1時間以上も動いていない。会話等は聞き取れないがどうやらスタンドの特訓か何かだろうか?緑髪の女性が熱心にスタンドを動かしている。
対して男の方は女性に対して指南をしているようだ。その雰囲気から見ても彼は恐らく戦いに関しては達人級の実力者。只者ではない事が花京院にも目に見えて理解できる。
そのような理由から花京院は中々二人に接触する事が出来ないでいた。ハイエロファントもあまり近付き過ぎると存在を感づかれてしまうかもしれない。
二人組から花京院本体までの距離は約100メートル。花京院から見て現在北西の方角から東に向かって移動を開始したようだ。

兎にも角にもこのままスタンドで監視を続けていても埒が明かない。花京院は法皇のスタンドを今度は『別の人物』まで近づけた。

その者は現在花京院から北の位置50メートル程の場所で20分前からジッと動かずにいる。
『女性』だった。何と言っても目立つのは背に掛けられた大きな注連縄の輪である。他にも服飾のあちこちに注連縄を施しており、かなり奇抜な格好で、さっきからずっと目を閉じて座禅を組んでいる。


コイツだ、問題は…


ゲーム開始後からずっと男女二人の存在を感知していた花京院だが、途中でこの女の存在に気付いた。
そいつは花京院と二人組を結ぶ直線上からちょうど間に位置するような場所を陣取っており、ゆっくりと行動を開始していた。
そして現在このポンペイの遺跡には花京院含む4名の人物が存在している事になる。先に二人組が西から遺跡に侵入し、遅れてこの女が、そして花京院は距離を取る為に南側から遺跡に侵入してきた形だ。


二人組の男の方とはまた違った『威圧感』を漂わせる雰囲気に、花京院はスタンド越しでプレッシャーに挟まれてしまう。
というのもコイツの右肩に掛かっているブツ…大きな『ガトリング銃』が花京院にとってすこぶる脅威となっていた。
あれ程の銃器を女性が軽々と運べる物なのか?弾薬込めて軽く30kg以上はありそうだぞ…。僕なら絶対に持ちたくない。

こんな奴と安易に接触して良いものか…。仮にコイツが『敵』ならば正面からまともに向かっていけば蜂の巣どころかミンチになる。
そろそろ見極め時だ。動かなければならない。


どうする……?


















「―――さっきから鬱陶しいネズミが居るみたいだねぇ」


103 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:14:48 bSmtQ0mM0




法皇を通じて花京院の耳に確かに聞こえて来たその呟きは、うっかり聞き逃してしまいそうな程に小さく、だが微かな『敵意』を持って空気を僅かに震わせる。

女が座禅を解き、目をゆっくりと開いた。その視線はまるで本体の居場所が見えているかのように真っ直ぐ花京院の居る方向を睨みつけた。
ドクン…と心臓が鼓動を大きくする。焦りと緊張が汗となる。花京院は思わず身じろいだ。

女が脚を立てた。ガシャン、と肩に掛かったガトリングの砲身が無機質な音を響かせる。彼女はこちらを見据えたままで更に高圧的な態度を纏って口を開く。


「私はアンタみたいなコソコソして隙を窺ってる様な奴が一番嫌いなんだよ」


そう言い終えた瞬間、女は突然こちらに向かって猛スピードで走り出したッ!!

(な…何ィ!コイツ…僕の『法皇』にとっくに気付いていたッ!凄い勢いで近づいて来るぞ!!ま、マズイ…ッ!)


花京院は潜伏させていた法皇のスタンドをすぐに本体まで戻そうとする。が、いかんせん50メートルの距離が離れている。すぐには戻ってこない。
その間にも女はグングンと距離を縮めて来る。ガシャンガシャンと、銃器のぶつかる音が激しく鳴り響く。
あの動きにくそうな服装で、かつ足場の悪い遺跡内をこれほどの重量物を肩に提げて走るこの女はハッキリ言って『異常』だと花京院は感じた。
見た目通り只者じゃあない。花京院はこの女を完全に『敵』だと認識したッ!


女の名は八坂神奈子。強大な力を持つ神霊であった。今ここに山の神の初陣が展開される!


104 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:16:08 bSmtQ0mM0


「どうやらお前はゲームに『乗っている』らしいな!ならば女性とて容赦はしないッ!喰らえ『エメラルドスプラッシュ』ッ!!」

花京院の法皇は激走する神奈子から少し離れた距離で得意の遠距離射撃『エメラルドスプラッシュ』を撃ち放った。
その翠に輝く宝石型のエネルギー弾の展開は遠距離スタンドとは思えない程のパワーを誇る花京院の必殺技だッ!
掌から撃ち出されるエネルギーは走る神奈子目掛けて一直線に飛び出す。これを破ったスタンド使いはあんまりいない!

「フン…!たかだか人間の小僧如きが私相手に弾幕で勝負しようっていうのか。だがそんな貧弱な攻撃で私を打ち崩せるかい!?」

だが神奈子はこの翠光の弾幕を見てもうろたえない。予定調和といった風で余裕の笑みを漏らし、走りながらスペルを唱える。


「行くぞッ!贄符『御射山みかりん……ン?みさやま…みかん?あれ…?えと…そ、そう!贄符『御射山御狩神事』(にえふ みさやまみかりしんじ)!!」
(くっ…実際にスペルカードの詠唱するのは初めてだったから噛んじゃったじゃないか!恥ずかしいぞ…///)

顔を真っ赤にさせる神奈子の心情とは裏腹に彼女の周りから発生する花形の弾幕は、ナイフ型と丸型を形成しながらエメラルドスプラッシュに飛び込むッ!
それらの弾幕は次々と花京院の攻撃を相殺してゆき、神奈子の身体は傷一つ付くこと無く攻撃をたやすく耐え切った。

(何!?僕のエメラルドスプラッシュを同じ飛び道具でああも簡単に防ぎ切るとは…!やはり彼女、相当強い!)

花京院は自分の十八番であるエメラルドスプラッシュが全て叩き崩されたのを見て少なからず動揺するが、ならば今度は至近距離からの攻撃で挑もうとする。だが…

「もう終わりか!ならば今度はこっちから行くよッ!」

法皇が近づく前に今度は神奈子から攻撃を仕掛ける。彼女の周りから再び高速の弾幕が形成され、向かうは法皇のスタンド…ではなく、その前方の地面!
ドドドドドと数十の弾幕が地面に弾け飛び、土埃を舞わせる。神奈子の狙いはスタンドではない。敵の視界を奪う為の策!
これにより辺り一面の光景は砂塵に見舞われ、花京院は神奈子の姿を見失ってしまった。

「や、ヤバイ…!奴の姿を見失ってしまった…ッ!法皇が戻ってくる前に、奴は僕本体の所まで辿り着くぞ…!」

自身のスタンドを遠くまで探索させた事が裏目に出てしまった。スタンドが傍に居ないスタンド使いは総じて無力と化してしまうという、遠隔操作型スタンドの弱点を攻められてしまう。
ここは一旦、退くか!?花京院は不利を悟り、身を翻そうとする。しかし、彼の背後から女の声が聞こえた所で花京院は逃げる事を諦め、声の主にゆっくり振り返った。




「どこへ行こうって言うんだい?お前、もう1時間以上前から私を尾けていたろう。あの緑色で筋がある、光ったメロンみたいな人形はアンタの式神か何か?」


105 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:17:20 bSmtQ0mM0

「…僕のハイエロファントグリーンをメロン呼ばわりする人は貴方で『2人目』ですよ。彼の言い草ではないが、『やれやれ』と言いたい気分です」

振り返った花京院の目線の先には石壁の上に仁王像の様に厳めしい様相で立ち、左手を腰につけて右肩のガトリングをこちらに向ける神奈子が居た。
実際に直接対峙してみるとよく分かる。この女は…人間の類ではない。もっと崇高で、花京院よりも上位の存在の何かであることが。


「さて…。獲物の第1号がお前の様な年端もいかない小僧だとは私にとっても辛い世界だが…お前の事を気の毒とは思うが『悪い』とは思わない。この土地が決めたシステムの基本…―――『生贄』という概念だからな」

いよいよ圧倒的に増幅した神奈子の視線によるプレッシャーが花京院を刺す。無意識に足を一歩後ろに下げてしまいそうになり、そこでピタリと止める。

(動揺した…?僕がこの女に『恐怖』しているだと…?この圧倒的な大気…以前にも味わった事がある。
『DIO』ッ!あの巨大な『悪』と一度対峙し、そして僕の心は敗北し屈服してしまった。その時の感覚に似ている!)

「だがッ!僕はもう既に『恐怖』を乗り越え、我が物にして見せたッ!今の僕にあるのは『闘志』!もう負け犬には戻らないッ!」

下げそうになった足を、花京院は一歩前に出す。その瞳に宿る色は今、静かに燃えていた。
覚悟など、とうに出来ている。これから起こる事柄に『後悔』なんか無い。
DISCで知った自分の未来に起こる出来事は既に受け入れている。宿敵DIOを倒す為、花京院は仲間へ意志を渡して死ぬのだろう。それは『誇り』だ。誇りは守らなければならない。

だが、死ぬのは今では無い。この場所では無い。仲間にも会えず、誇りも守れず―――死ねるものかッ!!


「ほう…現代の人間にも中々骨の太い、良い目をした奴が残っているじゃあないか、少し感心したぞ。小僧、名を聞こう」

「―――我が名は、花京院 典明」

「成る程、花京院!我が名は山坂と湖の権化『八坂 神奈子』!守矢の祭神の一柱なりッ!」

神奈子の覇気が一層大きくなり、空気がビリビリと振動する。
花京院は目の前の女が神だという事に驚愕したが、最初の会場で殺された女の子が『八百万の神』だと荒木が言っていた事を思い出す。
『言葉』でなく、『心』で理解できた。今、花京院の目の前に居る者は間違いなく強大な力を持つ『神々』の存在なのだ。


106 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:18:27 bSmtQ0mM0

神奈子は花京院を見下ろしたまま言葉を続ける。

「花京院…人間は何の為に生きるのか考えたことがあるか?私は大昔からずっと人間を見てきた。途方も無く昔からだ。
『人間は誰でも不安や恐怖を克服して安心を得るために生きる』…
名声を手に入れたり、人を支配したり、金儲けをするのも安心するためさ。結婚したり、友人を作ったりするのも安心するため。
人のために役立つとか、愛と平和のためにだとか、全て自分を安心させるためなんだ。安心を求める事こそ人間の目的だ。
そして安心を求めるために人々は我ら神を信仰してきた。妖怪や天災なんかから逃れるために。神々の怒りに触れないために。
しかしいつしか人間は科学と情報に縋り、篤い信仰を忘れ、神々の存在を信じなくなってきた。人間に安心を与える筈の神の力は人間によって次第に弱まってきたと言うわけだ。
花京院。お前もそうであった筈だ。『神など存在するはずが無い。ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから』…そう思っていたんだろう?」

「……何が言いたい?」

「ふふふふ…ひとつチャンスをやろう。花京院、その階段を二段おりろ。私の信者にしてやる。逆に死にたければ…足を上げて階段をのぼれ。
私はお前という人間を気に入ったんだ。今の世にこんな気高い精神を持った人間が居るのかってね。どうする?永遠の安心感を与えてやるぞ」

「こんな殺し合いの場に来てまで宗教勧誘か?僕がお前を信仰した所で生き残るのは1人。散々利用した後に結局は使い捨てるのだろう?」

「此度の『儀式』のルールを変えることは私にも不可能だ。生贄は89人、生存者は1人。『幻想郷の最高神』がそう決めたのなら、私も従わざるを得ない。
だがよく聞け。『信仰心』は『力』だ。お前が私を崇める事によって神である私は失われたパワーを取り戻せる。
お前の『魂』は永遠に私の神力と一体化し、苦しむことなく安心を得ることが出来るのだ。お前の『死』は無駄にならないし、決して悪いようにはしない」

「…言葉を返すようだが、僕はかつて一度『死んだ身』。巨大な『悪』に屈服し、心の奥底まで恐怖の呪縛に苛まれた。
だがそんな僕でもかけがえの無い『仲間』を得て、分かった事もある。
今…感じる感覚は…僕は『白』の中にいるという事だ。『正しいことの白』の中に僕はいるッ!そしてこの会場にも確かに『黒』の人物はいるッ!お前はどっちだッ!?『白』か!『黒』か!
下がるべきはお前の方だッ!その壁の上から降りた瞬間、僕はお前を攻撃するッ!!」


今の花京院に恐怖は無い。彼は仲間である承太郎やジョセフ・ジョースター、ポルナレフ、アヴドゥル、イギーの事を考える。
DIOに敗北した花京院をもう一度奮い立たせてくれた彼らのことを思うと勇気が湧いた。彼が困難から逃げる事はもう二度と無いだろう。
神奈子の忠告など恐れずに、花京院は足を大きく上げ、前へ一歩踏み出して階段をあがる。
その勇姿を見て神奈子は何を感じたのか。花京院の目には彼女が笑っているようにも見えた。


「神である我に対して『下がれ』か…。ふふ…成る程、確かに今の我は神々に差し出される『贄』も同じ。その点では人間と同じ大地にまで降りて戦うのもやぶさかではないかもしれんな…。
神に後退は無い。我を信仰出来ないというのならしょうがない…」


向かってくる花京院と相対するが如く、神奈子は地を蹴り!大地に降り立つッ!





「死ぬしかないね、花京院ッ!」


107 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:19:26 bSmtQ0mM0
神奈子は空中を舞いながら機銃の砲身を花京院に向け、狙いを定める。
彼女が右肩に担ぐ大きな機関銃の名は『XM214』。銃弾が命中した時、痛みを感じる前に相手が死んでいる事から通称『無痛ガン』と呼ばれた恐ろしきガトリング銃だ。このロワイヤルでの支給品の中ではかなりの大当たり武器だろう。
6連の束ねられた銃身は回転する間に装填・発射・排莢を繰り返し、実に最大で100発/秒と云う発射速度を誇るモンスターガンだが、そのあまりに強烈な反動と重量のせいで人間が個人で使用するのは不可能とされていた。

しかし、強靭な神である神奈子にとってそれは、まさに子供のオモチャの様な物。片手で振り回すことなど造作も無かった。
現代兵器など扱った事も無かった神奈子だが、銃器の取り扱いなどは最初に全て頭に入れてある。
あとはスイッチを入れれば脆い人間一人の命など簡単に消し飛ばせる。砲身は花京院に完全に向いた。


神奈子が地面に降り立ち、銃撃を開始する…。だがッ!



カチッ……!



「かかったな!くらえッ!八坂の神よッ!『半径20メートル エメラルド・スプラッシュ』ーーーーッ!!」

「!?」



神奈子が地に下りた瞬間ッ!辺り全体に仕掛けられていた『法皇』の『結界』から大量のエメラルド・スプラッシュが飛び掛るッ!


「…これはッ!」

「触れれば発射される『法皇』の『結界』はッ!既にお前の周り半径20メートルに仕掛けていた!この僕が用心もせずにノコノコと他者の監視を続けるマヌケに見えたかッ!この場所には最初から『罠』が張られていたッ!
お前は『クモの巣に引っ掛かったチョウ』だッ!全身に風穴を開けてやるッ!」


108 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:20:41 bSmtQ0mM0


ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド バ ァ ァ ァ ア ア ン ッ ! !



前方の視界を埋め尽くすほどの緑の流星群!後方の逃げ道を塞ぐほどの翠の大嵐!
神奈子の周り360度その全域から放たれる回避不能の広範囲弾幕!けっこう余裕ぶってた神奈子も弾幕が一瞬無限に見えるほどの物量にはビビった!!

「これは…ヤバイわねッ!!」

その大量の宝石弾の間に生じる真空状態の圧倒的破壊空間はまさに大渦的深海の小宇宙!!

「お前…思った以上にやるじゃない!ならば『マウンテン・オブ・フェイス』!!」

神奈子も負けじと機銃による攻撃を中断し、全方位のスペルを速攻で展開させる。
巨大な花状の輪に並んだお札を三重に展開させ、内側から輪を修復しながら発射し続けるという、防御性も兼ね揃えたスペルだ。
全方位には全方位を。まだ幻想郷に来て間も無い神奈子だが、ここぞという点で的確なスペルを瞬時に判断したその弾幕センスは、流石過去に洩矢神の国を侵略、制圧した神だと納得せざるを得ない。


かくして、法皇の結界から放たれた花京院流の全方位弾幕を次々に防ぎ切る神奈子のマウンテン・オブ・フェイス。
しかし後手に回ってしまった神奈子の弾幕ではやはり、全ての攻撃は防ぎ切る事が出来ない。
致命傷と成り得る攻撃は何とか防いだものの、身体の数ヶ所には弾幕の一部を受けてしまう。いかな神々といえど、頭脳派スタンド使いの花京院は一筋縄でいく相手ではなかった。


「クッ……肉体の何ヶ所かが損傷したか…。花京院とやら、お前…さっきわざと私を『挑発』して結界の範囲内に誘い込んだね…?
『後ろに下がれ』と言ったならば、目の前のこの女の性格から考えて必ず『前へ進み出る』と…。そう思ったというわけかッ!
どこまでも…小憎たらしい若造だ…!『だから気に入った』!!」

不敵な笑みを隠さずに笑った神奈子は体の怪我などお構いなしに再びガトリングを向ける。
躊躇うことなく機銃のスイッチを入れ、銃身に熱が宿り始める。
キュイイイィィン―――という無機質な音が花京院の耳に届いた。6本の砲身が機械熱と共に回転を始め、悪魔の兵器が火を噴く。


マズイ―――あの攻撃は絶対に回避しなければいけない。1発だって喰らっては駄目だ。


まさかあの怒涛の物量エメラルドスプラッシュを耐え切るとは思わなかった花京院は焦燥する。
耳鼻眼球四肢内臓、その全てがグチャグチャに吹き飛ばされる最悪のイメージを拭払し、全力で吼えたッ!


「ハイエロファントグリイイィィーーーーンッ!!!直ぐに戻れええええェェェーーーッ!!」


109 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:24:51 bSmtQ0mM0
索敵に出していた自身のスタンドの名を雄叫びの様に叫ぶ。
あれ程までの武器となると、こんな遺跡の脆そうな石壁なんかではとてもじゃないが盾にならない。スタンドで防がなければ…ッ!
逃げる間も無く、砲身が一瞬の閃光を放った直後!発射音が聴こえるより先に高速の弾丸が弾け飛んだッ!


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
   ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!――――――



バチュン バチュンと、辺り一面の壁という壁が、地面という地面が、瞬く間に見るも無残な歪なオブジェへと破壊されてゆく。
神奈子の前方に見える全ての隔たりは一瞬にして塵へと還ってゆく。まだ闇も残るポンペイの早朝に無慈悲な音の大群と閃光が遺跡を覆い照らした。
銃身を構える腕を迸って来る巨大な反動を、その驚異的な腕力で強引に抑え付けながら延々と弾丸を発射し続ける神奈子。
果たして、どれだけの時間撃ち続けていただろう。それは永遠にも思えるほどの永い時間にも感じたし、しかし実際のところは十秒にも満たない時間だったのかもしれない。
やがて銃撃は静まり、一面が砂埃によって視界を遮られる。花京院の姿は未だ見えずにいた。



神奈子は待った。前方に砲身を向けたまま、敵の姿が見えるのを。あるいは、何も見えなくなるほどのバラバラの肉片と化したのかもしれない。
花京院に撃たれた脇腹の傷がズキリと痛む。ポタリ…ポタリと、地面に僅かな血痕が滴り、小さな紅い水溜りを形作っていた。

神である自分が、たかが人間一人と戦って血を流すという事実を、プライドの高い神奈子は我慢出来ない。
しかし同時に、そんな殺るか殺られるかの切迫した状況を心の奥底で愉しみ始めた自分にも気付く。
遥か昔、洩矢諏訪子の国との侵略戦争の時ですら、これ程の白羽をくぐる闘争の体験は無かった。
神として永く君臨していた神奈子はその身を以って、ある事実を知っている。


―――『退屈』というのは、この世の何よりも苦痛である事。はりの無い人生はつまらない。

だからこそ、強敵揃いのこのバトルロワイヤルという名の『生贄の儀式』は、悪くないかもしれない。


110 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:25:56 bSmtQ0mM0


しかし、だ。


神奈子は一度、銃身の構えを解く。足元を見やればおびただしい数の薬莢が落ちている。耳を澄ましてみても、瓦礫の崩れる音しか聞こえない。


しかし、やはりあの花京院典明という男は強い。

『ハイエロファントグリーン』とか叫んでいたか、あの式神の名は。いや、アレは恐らく『スタンド』とか呼ばれる物だろう。
『私の持ってる奴』とは随分違う様相だが…スタンドにも色々な種類があるということだろうか?何れにしても興味深い。
ならば奴も私と同じ、『DISC』によって能力を獲得したスタンド使いか?生まれつきの能力者という可能性もある。



――――ピクンッ



思考を重ねる神奈子の『左手』に、その時僅かな『感覚』が侵入してきた。


――――チリ…チリ………チリ…………


左手の指先から伸びる『糸』がピンと張り出してくる。その糸は神奈子の後方の彼方まで真っ直ぐに伸び、左腕が僅かに引っ張られる。


―――せっかく楽しんでいた所だってのに…水を差されたか。いや、これも一つの興。
『餌』を仕掛けた甲斐があったというものか。相手が何人だろうがここまで引き込んで同時に始末してやるさ。


そして神奈子は左腕に意識を集中させる。そこから現われた像は恐竜の髑髏型のリールを象った1本の『釣竿(ロッド)』。
当然、ただの釣竿ではない。彼女の第2の支給品、そのスタンドDISCによって得た対遠中距離用の遠隔能力。




「『かかった』ッ!!『ビーチ・ボーイ』!!いや、さしずめ『ビーチ・ガール』といった所かしらねッ!!」


111 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(前編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:26:59 bSmtQ0mM0
ポンペイに侵入した後、あらかじめ『罠』を仕掛けて獲物が掛かるまでジッと待っていた神奈子。
支給されたスタンドとやらの説明は理解できたが、いざ利用してみると成る程、中々面白い。
敵が餌にかかるのを待つのは性に合わないが、このビーチ・ボーイという能力はかなり神経を使う。糸を通して伝わる獲物の挙動を逃さぬ様に全神経を釣竿に集中させるのだ。
花京院との戦闘中ではあるが、そんな事は関係ない。この『獲物』も、花京院も、同時に戦って倒す!
かなり難易度の高いゲームだが、それだけ戦り甲斐も達成感もあるというもの。攻略して見せるさ。


(この…抵抗する力はどうやら『女』か。女の右手甲に針は完全に突き刺してやったッ!ここから獲物までの距離、約100メートル!
ここまで引き摺り込んで蜂の巣にするかッ!それともこのまま対象の腕を登って心臓を喰い破ってやるかッ!心臓を破壊した方が早そうだねッ!!)

左手のリールハンドルを力いっぱい握って回す。まずは抵抗出来ないように振り回して体力を奪ってやるッ!
釣竿を大きく振りかざし、その豪腕で引っ張り挙げる。相手は完全に糸に振り回され、どうにも出来ない状況である事が糸を通じて分かる。
チラリと前方を見やっても、まだ砂埃で花京院の姿は見えず、動き出す気配も見えない。本当に死んだのか…?戦闘を放棄するような男にも見えなかった。


(とにかく今は釣り糸の先の相手だ。獲物との距離約90メートル!針は今、奴の右上腕部侵入……んっ!?)

何だ?急に糸が巻き上がらなくなった。敵はどうにかして踏ん張っているのか?体を『固定』しているようだ。
……駄目か。全くハンドルが動かない。しかし問題は無い。相手を振り回すまでもなく!針はたった今、右肩に到達!このまま心臓部まで一直線に貫通させてやるッ!



―――しかし、またしても神奈子の予想外の事態が起こった。

「………ム!?コイツ、今度は何をした…?『針が体内から外れた』…!」

ビーチ・ボーイの糸は基本的に切断も破壊も不可能。いったん針が相手に喰らいつけばもうどうする事も出来ない筈だ。
だというのに、いきなり針が外された。相手は一体何をしたんだ?
神奈子は胸中で舌打ちをする。後少しの所で攻撃が中断されてしまった事に多少の煩わしさを覚えるが、『面白くなってきた』。
どうやらこの敵もただ黙って釣り上げられる『稚魚』というわけではないらしい。
狙った獲物は逃がさないとばかりに神奈子は針の先端に意識を集中させ、消えた獲物を探し回る。
またも不敵に笑う神奈子はロッドに耳を当て、糸から伝わる音も動きも、その全てを逃さず敵を捕らえようとする。


「『キャッチ・アンド・リリース』は趣味じゃあないのよ…!釣った魚はその場で食うのが釣りの醍醐味だろう。お前は私にとって『大物』か!?それを見極めさせておくれよ!!」


112 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:31:01 bSmtQ0mM0
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「『ザ・グレイトフル・デッド』オオオォォォーーーーッ!!」


早苗の右手に異変を感じたと同時にプロシュートは自分のスタンドを激しく叫びながら早苗に駆け寄る。
遠目からでも分かった。自分が見間違う筈があろうわけが無い。
今、早苗の右手に突き刺さっていたあの針は…

(『ビーチ・ボーイ』だと!?馬鹿な!ありゃペッシのスタンドじゃねえかッ!この会場内にペッシが居るってのか!?いや、名簿にはあいつの名前は無かった…。じゃあ…)

考えられる可能性は一つ。早苗の支給品と同じようにビーチ・ボーイはDISCとして誰かに配られているんだ。
しかしよりによってオレの可愛い弟分のスタンドを配りやがるとは…!あのクソッタレ主催者共が…ッ!許せねえ!
そしてこの『敵』はあの中華女の『死体』を『餌』にして獲物を待ってたってワケか!誰かがここを訪れば必ずあの死体に触れるよう、わざわざ目立たせる様に工夫していた。
弟分のスタンドなんだ、その恐ろしさはアイツ以上に俺が一番良く理解している。ヤバイぞこれは…ッ!


敵のスタンド攻撃が開始されたと見るや、プロシュートは躊躇せず自身のスタンド『ザ・グレイトフル・デッド』を発動させた。
傍に現れるは、全身に無数の眼が点々と存在し、そこから紫色のガスを噴き出す不気味なヴィジョン。
そのガスの放射を浴びた者は体が老化していくという、げに恐ろしき能力を所持しているが、敵味方の区別無く攻撃してしまううえ、女性相手には効果が薄いという弱点もある。
しかし今はその方がかえって都合が良い。早苗まで老化させてしまうわけにもいかないのだ。
だが、この『釣り糸』の敵も『女』だという事は『足跡』から既に分かっている。ならばプロシュートの行為もあまり意味は無いが、効果はゼロではない。何もやらないよりはマシなのである。

とにかく、どこに居るのか分からない敵に対してプロシュートが今やれる事はこの広範囲の老化攻撃のみ。その老化ガスは瞬く間にポンペイ中に拡がり、紫煙で覆い尽くす。


―――ドガガガガガガガガガガ………ッ!


その時、南の方角から機銃の連射音の様なものがプロシュートの耳を劈いた。距離はそう遠くない位置から聞こえて来る。

(―――ッ!?何だ!?向こうでも戦闘が始まってんのかッ!この『釣り糸』の敵の他にまだ誰か居る…!?)

状況がよく把握できないが、この釣り糸の敵は向こうで戦闘を行いながらこっちのオレ達も同時に始末するつもりか!?だとしたら随分器用な奴だ。
あっちで釣り糸の敵と戦っている奴がいるならオレ達はそいつと合流して、協力して戦うべきか…。だが今聞こえるこの掃射音は恐らくガトリングか何かの武器…!
このガトリングの持ち主がもしこの『釣り糸』の奴の物だとすれば、迂闊には近寄れねぇ。
とにかく、まずは早苗が危ない…!ビーチ・ボーイの針が急所まで届いちまったらオシマイだッ!


113 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:32:34 bSmtQ0mM0

一方の早苗はというと、糸のパワーに思い切り振り回され、何が起こったのか分からないという風に混乱していた。


「きゃあああッ!!??」

美鈴の体に触れた瞬間、気付いたらこの釣り針が右手に深く喰い込んでいた。
その現象に呆然としていたが次に、肉を突き刺す猛烈な痛みが早苗を襲い、体が思い切り空中へと飛ばされた。

(な…何なのこれッ!?釣り針…!?い、痛い痛いイタイッ!!)

全く制御出来ないそのパワーに早苗の体は吹き飛び、地面に思い切り叩きつけられた。

「ガフ……ッ!!」

受身すら取れずに早苗はモロに地面と直撃してしまう。不幸中の幸いか、地面には積もった雹が敷き詰められていたのでそこまで大きくダメージは無い。
だが、こうしている間にもどんどん針は腕を登り進んでいく。

「ス…タンド、攻撃…!?ゲホ…っ、私の腕を登って、ま…マズイ…!『ナット・キング・コール』ッ!!糸を『切断』してーーッ!!」

このままこの針を放置していてはマズイと判断した早苗はすぐにスタンドを展開させ、糸に手刀を加えようとする。
だがその行為はプロシュートの叫びによって中断された。

「その『糸』に攻撃すんじゃねぇ!!スタンドを止めろォ!!」

「…えっ!?プロシュートさん!?」

攻撃の寸前でスタンドを止めた早苗は焦りの表情でこちらまで突っ走ってくるプロシュートを振り返る。

「そいつは『遠隔操作型スタンド』だッ!糸を攻撃したところでそのエネルギーは『釣られた者』に跳ね返ってゆく!切断は出来ないッ!」

プロシュートが走りながらこちらへ向かってきた。早苗は彼に助けを求めるように左手をプロシュートに向けて伸ばす。
が…無情にもその手が彼まで届く事はなかった。
グンッ!と引っ張られた右手に早苗の体は地面を引き摺られていく。仰向けの姿勢のまま糸に引っ張られて、ガリガリと削られてゆく早苗の体力はどんどん失われる。
ふと前を見れば、遺跡の壁が次第に近づいてくる!


114 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:33:40 bSmtQ0mM0

(―――このままじゃあの壁に激突しちゃう!それもこのスピードでッ!どうしよう…ッ!?いや…ッ)

糸は壁を透過したまま早苗を引っ張り込んでいく!この速度でぶつかれば大打撃間違い無しだろう。
その時、早苗の脳裏に浮かんだのはプロシュートの教え『LESSON2』。


―――『敵を知る前に、まず己を知れ』。自分のスタンドで出来る事は何か。状況に応じて可能な限り使い分けろ。


(私のスタンドで出来る事…ッ!そうだ!)

師の言葉を思い出した瞬間、早苗はすぐに拳から『8本の螺子』を取り出し、前方に迫る壁へと投げて半円状に突き刺すッ!
螺子のナットが外れ、壁が一瞬で『分解』された後に残るのは半円の『扉』の形をした穴。ギリギリで壁への激突を防いだ早苗はそのまま穴を潜って壁の向こうへ通り抜けたッ!
しかし危機は依然終わらない。早苗の体は地を引き摺りながらぐんぐんと敵の方向まで引っ張られる。だが早苗は動じずに強気な表情でスタンドを出す。

「ナット・キング・コール!!私の体を地面に『固定』してッ!!」

叫び終わるや否や、ナット・キング・コールの螺子が早苗の両腕、両脚の計4ヵ所に上から磔の如く貫通させ、地面へと固定した!
10メートルは引き摺られただろうか…衣服は所々破れ、内から出血している。だが今問題なのはそれではない。
針は早苗の右肩に既に進入しているッ!このまま行けばすぐにでも心臓に到達されてしまうだろう。
そこから早苗のとった行動は早かった。

「ナット・キング・コール!!次は私の右腕よッ!バラバラに分解してッ!早くッ!!」

プロシュートとのスタンド訓練が功を奏したか、ナット・キング・コールは眼を見張る素早い動作をもって早苗の右肩から先を螺子で一瞬で分解する事に成功した。
痛み等は無い。自分の腕の切断面なんか見たくなかったが、とにかく糸を掴んで針を引っ張り出す。
手の甲から進入していた釣り針は心臓に届く前に、無事体内から外に取り出す事が出来た。とりあえず緊急の命の危険は去ったが、この敵がこれで終わるとは思えない。
すぐに四肢を固定していた螺子をスタンドで引っこ抜き、体を自由にする。


115 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:35:00 bSmtQ0mM0

「オイ!無事か早苗!」

「プロシュートさん!あっ…私は無事です。プロシュートさんが教えてくれた事が役に立ち…」

「そんなことはいい!それよりすぐに隠れろ!隠れたら絶対に動かずに、ジッと釣り針の動きを観察しろッ!」

「え…っあ、ハイッ!」


駆け寄ってきたプロシュートに指示された早苗はすぐに近くの瓦礫に飛び込んで釣り糸から距離をとった。
顔から上だけをそっと覗かせて早苗とプロシュートは糸の挙動を見る。突然早苗を見失って焦っているのか、釣り針はその辺りを滅茶苦茶に動いて二人の行方を探し回っている。
二人は息を潜め、冷や汗を流しながら釣り針の一挙一動に注目している。早苗は小声で隣のプロシュートに話しかけた。


(プロシュートさん…あの、プロシュートさんのスタンドって何なんですか…?何か体に悪そうな煙出してますけど…)

(…チッ。あんま自分の能力は喋りたくねーんだがな、言わないわけにもいかねー。オレの『ザ・グレイトフル・デッド』のガスを浴びた奴は体が老化する。今はこの遺跡全体が能力範囲に収まってるってとこだな)

「え…ええぇ〜〜〜〜〜ッ!!??人間を『老化』させるって…あわわわ〜〜〜ッ!!み、見ないでくださいーーッ!!」アセアセ

(ギャアギャア騒ぐな、やかましい。心配せずとも女には大して効きゃしねーよ。尤も、この『糸』の敵も女みてーだがな)

(ホッ…良かった。…それで、プロシュートさん。ど、どうしましょう?このままじゃあ、すぐに見付かってしまいますよ?)

(…あの釣り針のスタンドはよく知っている。オレの部下の『ビーチ・ボーイ』っつー遠隔型スタンドだ。あの糸に攻撃が通用しねー以上、こっちから出て行って『本体』を叩くしかねぇ。
恐らくあのスタンドもDISCとして参加者に配られている。フザケやがって…誰の許可を得てあのスタンドを使っているんだ?あれは…ペッシの自慢の能力だ…!)


―――私はそんな彼を見て少し意外に思った。最初に出会った頃からこの人はいつも冷たい眼をしていて、感情的になるような人ではない印象を持っていたから。
どんな事態に出くわしても冷静に対処して危機を乗り越える。ギャングで、頭が良くて、でもとてもコワイ人。
そんな彼が憤りを感じている。部下さんの能力を奪われたことに怒ってるんだろうか?…もしかしたらそんなに悪い人じゃないのかな。


116 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:36:40 bSmtQ0mM0






―――ポタリ…ポタリ……




(……?なんだろう?何か、水が滴るような音が聞こえる…?)


(早苗!『血』だッ!右手の出血を抑えろ!)

プロシュートが早苗の足元を指差しながら静かに怒鳴る。早苗はその様子に驚きながらも足元を見ると、腕を伝って流れ集まった小さな鮮血の池が出来ていた。
最初に喰らった右手甲を突き破った攻撃によって負傷したものだ。この緊迫した状況下で痛みを忘れていたが、危機を脱出できた安堵と共にまた痛覚が蘇ってくる。
早苗は慌てて出血を抑え、すぐに釣り針の方を確認する。が、どうした事なのか。一瞬の余所見を狙って釣り針は姿をくらました。


(あ…あれ?『針』は…!?敵のスタンドが消えた…!?)


さっきまで宙をフヨフヨと彷徨って二人を探知していた釣り針が消えている。
この場を数秒間、静寂が支配した。早苗もプロシュートも思わず呼吸する事も止め、背中にドッと汗が噴き出てくる。
互いの心臓の鼓動音まで聞こえてきそうな程の静止空間に緊張が走る。まさかこの心臓の動きまで読まれている事は無いだろうか。
蛇に睨まれた蛙、今の状況はまさしくそれだろう。尤も、その蛇を操る本体は遥か向こうの方角に居るわけだが。






―――トプン…ッ



この均衡はほんの数秒で崩された。魚の跳ねたような音が無音を突き破る。


117 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:37:43 bSmtQ0mM0


「『地面の下』だ早苗ッ!回避しろォーーッ!!」


突如地の下から釣り針が早苗に向かって、まるで鮫のように飛び掛かって来たッ!
この敵は地面の下に潜り、早苗の腕から滴り落ちる血液の音と振動を直接捉えて感知してきたのだ。その豪速を早苗は避ける事叶わず、針は一瞬にして早苗の右足を破って再び体内に侵入する。

しかしプロシュートは逆にこれを好機と考えた。針が心臓まで届くには時間が掛かる。その間に早苗をこの場に置き、自分が『本体』まで辿り着いて叩きのめしてやる!と考えたのだ。
しかし針が体内に侵入して焦った早苗はプロシュートの指示を待つ余裕も無く、すぐにスタンドを出現させる。

「あぁ……ッ!!くっ…な、『ナット・キング・コール』!右足を分解して針を取り出してッ!!」

同じ戦法をそう何度も喰らうものか。そう思いながら早苗は再び右足を瞬間バラバラにして針をあっさり取り出した。
宙に投げ出されたその針は、光を反射させながら不気味に輝いている。


同じ戦法。それを言うのなら敵からしたら早苗の対処法だって『同じ戦法』なのだ。いくら体内に侵入しようとも、何度だって分解され、取り出されてしまうかもしれない。
この敵はそれを分かっていて再び攻撃したのだろうか。コイツに同じ対処は通用するのか。
プロシュートは即座に考えに至る。彼自身、早苗に教えを授けたばかりである。


―――LESSON3。『相手の立場に身を置く思考』…もしオレがこの敵なら『何をするか』、『何が出来るか』。そう、もしオレならこの後…


今度はプロシュートは叫ばない。それよりも早く、彼は咄嗟に早苗の『分解された右足』を掴もうと手を伸ばす。

しかし、遅かった。

投げ出された針が次に獲物としたのはまさに早苗の『分解された右足』。地に落ちたそれをプロシュートが手に取るよりも早く、針はその右足の肉に突き刺さり、そのまま釣り上げて本体まで帰っていくッ!


118 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:39:40 bSmtQ0mM0


―――やられた…!


プロシュートは飛んでいく針と右足を見据えながら自分の対応が一手遅かった事に悔やむ。しかし横の早苗はそれ以上に青い顔をしながら自分の攫われた右足を呆然と眺めていた。
浅い思慮だった。早苗が経験不足である自分の力量の無さを痛感するには充分な結果である。

もっと事を冷静に見ていればこんな結果にはならなかっただろうか。
早苗は自分の失われた右足部を眺めながらプロシュートに対して申し訳無い気持ちで一杯になる。
自分は今まで何を教わっていたんだ。彼の足を引っ張る真似だけはしないと誓ったんじゃなかったのか。
この足ではもう立つ事は出来ない。これでは彼の後をついて行く事すら出来ないではないか。
スタンドという未知の力を手に入れて浮かれていた自分が本当に情けなくなる。
早苗は泣く事こそ無かったが、完全に消沈した気持ちでプロシュートに詫びようとする。


「あ…の……プロシュート、さん…その、ごめんなさい…。わたし、プロシュートさんの教えてくれた事…何にも出来ずに、足を引っ張ってばかりで…本当に、ごめんなさい…!」


気落ちして謝り続ける早苗に、プロシュートが掛けた言葉はやはり叱咤だった。しかしそれは早苗に対しての呆れからでは無い。


「早苗!!テメェ…何謝ってんだ?『自分は足を失ったのでもう貴方について行く事は出来ません』…そう考えてんじゃあねーのか、ええ!?
オメー、諦めてんのか?もう立つ事が出来ねぇからって、『負けた』とか思っているのかよ。甘ェんじゃあねーか。
もしオレやオレのチームの仲間ならな!例え腕を飛ばされようが、脚をもがれようが、絶対に『諦めねェ』ッ!!みっともなく地面に這い蹲ってでも『前進』するだろうッ!」

プロシュートは膝を突く早苗の胸倉を掴み、彼女を本気で叱った。
彼のメラメラと燃え上がるような瞳を前に早苗は動くことが出来ずに惹きこまれる。プロシュートはまだ言葉を続けた。

「オメーはな、根っこのところがマンモーニなんだよ、早苗。求めれば誰かが自分を助けてくれる。常に誰かが自分を守ってくれる。心の奥ではそう考えてるんじゃあねーのか?
オレの部下にペッシって男がいる。そいつも今のオメーと同じ様にどうしようもねぇマンモーニだったよ。だがアイツの心の奥底には常に『タフさ』があった。逆境を覆す精神力って奴だ。
結果、アイツは『成長』したんだ。オレをも超える精神力で戦った。オレはその戦いを最後まで見守る事は出来なかったが、『誇れる仲間』としてアイツを認めた。
お前はどうする?オレはこれからあの『釣り針』の敵と戦う。『仲間』のスタンド(誇り)をこのままいいように使われ続けるわけにはいかねえ。誇りは取り戻す。
だがお前の右足を奪い返してやるつもりは無いし、ここに戻ってくるつもりも無い。お前が『自分』で何とかしなければいかねえ。
『LESSON4』だッ!『弱さを乗り越え立ち上がれ』ッ!!」

プロシュートは長い叱責を早苗に与え、立ち上がった。背中越しに彼は早苗にボソリと言い放つ。





―――「『立ち上がる』と心の中で思ったなら…その時そいつは既に『歩き出している』んだぜ」





男は早苗を振り返る事もなく、そう言い残して釣り針が去った方角へと駆け抜けていった。

早苗は何も言わずに、何も言えずに、座り込んだまま、遠ざかっていく男の背中をただずっと眺めていた…


119 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:40:36 bSmtQ0mM0
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花京院典明のスタンド『ハイエロファントグリーン』の特技の一つに『身体をひも状に伸ばす』事があるのは花京院にとって幸運であった。
八坂神奈子のXM214による機銃掃射の連射速度は、あの承太郎の『スタープラチナ』をもってしても全て弾き飛ばす事は不可能だろう。
ましてや遠隔操作型である『法皇』のスタンドに、近接型スタンド並のスピードや精密動作性があるわけが無い。ガトリング銃など持ち出された時点で花京院は早々に撤退するべきだったのか。
いや、そんな事は無い。敵に恐れをなして逃走するなど花京院は二度と御免だと思っていたし、そもそもガトリング相手に逃げる必要なんか『全然無かった』のだ。

銃撃による砂塵が一面を覆い尽くす中、花京院はギリギリの状態ではあったものの、五体満足の身体で無事に危機を切り抜けた。
彼は神奈子が砲身をこちらに向けたと見るや、何を置いてもすぐさま法皇を自身の傍まで勢いよく呼び戻した。
敵が射撃を開始するとほぼ同時に、法皇のスタンドはシュルシュルとひも状に解かれていき、花京院の周りを覆い込む。
はたから見たそれはまるで昆虫の『繭』のような様相をしており、ガトリングの掃射を全て弾き飛ばしたのだ。

いかな強力な銃器をもってしても、ただの銃が『スタンド』の身体を傷付ける事は出来ない。
『スタンドはスタンドでしかダメージを与えられない』ルールが花京院を救った。何も弾丸のひとつひとつを拳で弾く事もない。己の周りを全てスタンドで覆ってしまえば、スタンド以外の攻撃は全て通さない鉄壁の鎧が完成する。
そういう意味ではハイエロファントグリーンは防御に適したスタンドであるとも考えられる。

とは言っても、ガトリングの掃射音が続いている間は花京院も生きた心地がしなかった。法皇の繭は隙間無くびっしり埋めたつもりではあったが、自分の数十センチ先で弾丸が弾け合う音を聞いていると心臓が締め付けられる気持ちになる。
その内銃声が止まり、周りが静かになった。どうやら敵は現在は攻撃をやめて、両者均衡状態にあると予想される。予想されると言うのは、花京院側からでは繭と砂塵によって周りの景色が全く窺えないからだ。

額から噴き出す汗を拭って花京院は一先ず冷静を繕う。
この法皇の繭も決して『絶対防御』とは言えない。敵がスタンドを持っていない保障なんか無いし、これはあくまで通常の攻撃への緊急防御手段だ。
時間が経てば経つほど、対策を練られてしまうかもしれない。こちらもあの敵への対抗手段を考えなければ…
とはいえどうする?この敵は神々の存在だけあって相当のスペックを持っている。加えてあの冷酷無常なガトリングだ。まともにぶつかってはいけない。


120 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:42:11 bSmtQ0mM0


気が付くと花京院は大きく息を荒げていた。ダメージを負った訳でもないはずなのに体が少しだるい。
スタンドエネルギーもまだそこまで消費してはいないはず…いや、まさかこれがいわゆる『制限』という奴か?
いつもより大きくスタンドエネルギーが消費されるとかいう、鬱陶しい事この上ない制限でも付いているのか。
しかし、その直後に花京院に明らかな『異変』が襲った!


「う……カ、ハァー………ッ!!な…なに…ぃ…!?これは…僕の『腕』が…!?い、や…腕だけじゃあない…ッ!」


急に体のだるさが桁違いに重くなった。気のせいか、腰も重くて立てない!
たまらず両膝を突いて、花京院は次の異変に気付く。腕の皮膚がまるで『干物』の様に干からび始めているッ!

(い、いや…!腕だけじゃあない…ッ!『顔』も…『脚』も…全てだ…っ!僕の体が『干からんでいく』ッ!?)

花京院はその皺くちゃになった手で自分の顔を触る。しかし、そのちっぽけな動作にさえ全力を注ぎ込まなければいけないほどに体力を消耗していた。
疑問が確信に変わった。自分の体は今、どういう理由だかで『老化』しているッ!

(何だ…この現象は…っ!まさか…『スタンド攻撃』か!あの女…スタンド使い…だったのか!マズイ…!スタンドエネルギーが…保てない!)

限界が来た。花京院の法皇の繭が少しずつ剥がれるように溶け落ちてゆく。
露わになった空間から外を覗けば、どうやら砂塵は殆ど晴れているらしい。しかしこれは花京院にとって最悪の状況。
ここまで疲弊した体ではとても神奈子と戦うことなど出来るはずが無い。万事休す、なのか。


121 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:43:25 bSmtQ0mM0

やがて繭は完全に解かれ、花京院の姿が外へ現れる。
神奈子はさっきと変わらない位置に居ながら、何やら手に持った物をじっくり眺めている様だ。
起立もままならない程の花京院が朦朧する視界で彼女を見たところ、何故か彼女は左手に『釣竿』を握ったまま、もう片方の手で握った『物体』を…アレは、何だ?人間の…『足首』か?状況がよく掴めない。


「…へぇ、成る程。身体を分解して釣り針から逃げていたってワケね。面白い……おっとおやおや、アンタようやく繭から出てきた…って、え?誰だいアンタ?あの小僧はどこへ…!?」

(…何?奴のあの反応…この『老化現象』は奴の仕業じゃないのか…!?)


花京院に気付いた神奈子はその姿を見て驚く。それも当然、さっきまで高校生ぐらいだった歳の小僧がいきなり老人になっていたのだから。
だが、この老化現象の犯人が神奈子だと推察していた花京院からすれば、神奈子の反応は予想外。だったらこの現象の犯人は誰なのか?
もしや、最初に存在を感知していたあの男女二人組のどちらかのスタンド能力か…?
だが何故、僕『だけ』が攻撃されている?見たところ神奈子には何の異常も感じられない様だ。

いや、考えても今は分からない。とにかく思考を切り替えろ!この絶望的な状況、どうする…!?


「…眼を凝らしてよぉく見てみると…お前、花京院か?なんだっていきなり老人みたいな姿になっちまったんだい?
―――いや、どうだっていいか。結構てこずったが、ここで終わらせてもらうよ。花京院典明」

持っていた『足首』を地面に投げ捨て、そのまま釣竿も左手の中へカシャカシャと引っ込んでいった。
そして再び神奈子は右肩のガトリングを花京院に向けて照準を合わす。

―――ヤバい。今の僕ではスタンドをまともに扱えない…!攻撃を喰らってしまう…っ!

キュイイイィィン―――

またあの音だ。砲身が回り始める。今度こそ撃たれてしまうぞ…!
花京院は憔悴した身体に鞭打ち、敵から遠ざかるように距離をとろうと走り出すッ!だがッ!


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!


122 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:44:32 bSmtQ0mM0


轟音と共に機銃から放たれる高速の弾丸は波を打つ様に花京院に向かい、その弾幕の一部が花京院の左膝から下を抉り取ったッ!
その悪魔的破壊力は彼の左脚を、まるでHBの鉛筆でもグシャッとへし折るかのようにあっさりと潰して吹き飛ばす。


「―――ッッ!!!ぐっ…あああああぁぁぁぁ…………ッッ!!」


堪らず膝を抑えて転げまわる花京院。
こんな状況で何が出来ると言うのか。足を失い、スタンドも碌に使えず、激痛に身を捩じらせながらも、這いずりながら花京院は考える。
死中に活を求める様に、藁にも縋る様に、自分に今出来る事は何だッ!?この抉られた足でどうやってあの攻撃をかわすッ!?

反撃のアイデアが閃く事に賭けるか!?

この都合の良いタイミングでアメリカンコミック・ヒーローの様にジャジャーンと誰かが登場して助けてくれるのに賭けるか!?

やはり、かわせないのかッ!現実は非情といったところか…!



「…お前は一人でよく戦ったぞ、花京院。神である我を罠に嵌めるとは見上げた根性だ。…だがそれももう終わり。生贄の血で戦は洗われる。せめて楽に逝かせてやろうぞ」

神奈子が花京院の心臓に照準を当て、今度こそ完全なる止めを刺そうとスイッチに指を掛ける。
瞬間、閃光と火花が散った。



―――「後ろのお前をブッ殺した後にだがねぇッッ!!!」


123 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:46:06 bSmtQ0mM0


バキィィイン……ッ!


1本のナイフが砕け散る音は機銃の掃射音に紛れて掻き消される。
神奈子の背後に迫り飛んでくるナイフを彼女は逃さず察知し、振り向き様にガトリングで弾き落としたのだ。
そのまま神奈子は背後の石壁に向かってガトリングを一斉射撃する。




ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!



三度発射される獰猛な掃射は容赦無く撃ち続く。
背後からの得物の投擲による奇襲を手もなく退け、神奈子は興奮した様子で襲撃者を炙り出す。
そろそろ背後から敵が忍び寄る頃だと思っていたのだ。神奈子は『そのために』ビーチ・ボーイで敵の足部位を掠め取り、ここまで誘き寄せた。
釣り針でじっくりコソコソ急所を狙うなんて事はまどろっこしいし、どうやら敵は身体を分解する術を持って針の襲撃を避ける事が出来るらしい。
ならばもうこの場まで誘き寄せて直接蜂の巣にした方が手っ取り早いと判断した結果だった。

そして神奈子の思い通り、二人組の片方が一人でノコノコここまでやってきたというわけだ。足を奪った『女』の方は向こうに置いて来るほかないだろう。
全て計画通りだ。花京院の方も足を失って動けず、どうやらスタンドすら動かす体力も無いらしい。いつでも殺せる状態だ。
後はこの男との一騎打ちになる。こいつの力は未知数だが、後ろからナイフなんかで攻撃したところを見ると、他の飛び道具は所持していないと思っていいだろう。

コイツを殺し、花京院もすぐに殺し、そして最後に向こうで動けずに居る女の方も殺す。

神奈子は掃射を止め、再び砂塵に覆われた一面に向けて声を張り上げる。


「其処な男よ!姿形も現さず、臆して隠れる程の意気地なしでもあるまいッ!我が名は山坂と湖の権化『八坂 神奈子』!けりをつけたいならば正々堂々威勢良く姿を現したらどうだッ!?」


そう叫んで神奈子は敵の返事を待った。

5秒…6秒……10秒ほど待った時、モクモクと立ち昇る煙幕の中からスーツの男がナイフ片手に、もう片方の手はポケットに突っ込んでゆっくりと歩を進めてきた。



「死体使って姑息に罠張ったり、遠距離から針突き刺したりする様な奴によォ〜…意気地無し呼ばわりされたくはねえなぁー?
しかもお前さんが担いでるモンはあの『無痛ガン』じゃあねーか。それで正々堂々だなんてよく言うぜ。そしてついでに忠告しておこう」



ナイフを片手でクルクルと弄びながら登場したのはイタリア・ナポリのギャング組織『パッショーネ』の暗殺チームが一員、プロシュート。
そしてその傍で見守るように現れた像は『ザ・グレイトフル・デッド』。そのおぞましい無数の眼からは紫煙が噴き出され続けている。
彼は神奈子の数メートル手前で足を止め、堂々とした調子と剣幕で言い放った。





「『ブッ殺してやる』ってセリフは…終わってから言うもんだぜ。オレたち『ギャングの世界』ではな」


124 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:47:39 bSmtQ0mM0
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「これで……『動ける』…。大丈夫、私は『立ち上がれる』。そしてごめんなさい、美鈴さん。私、貴方に非道い事をしました」

『2本の足』でしっかりと立ち上がり、早苗は美鈴の亡骸に対して深い罪悪と謝罪の気持ちを掛けていた。
釣り針の敵に奪われたばかりの早苗の右足を取り返すため…いや、違う。
これは自分の精神的な問題なのだ。恐らくプロシュートさんはここには戻らないだろう。
そんな彼の背中に追いつくため、そして自分の強い『決意』を彼に指し示す為の戦いでもある。
ここで立ち上がらなければ早苗は一生後悔する。そんな予感を抱えながら早苗はさっき『罪深いこと』を実行したのだ。

『そんな考え』を思い付く自分に多少の嫌悪感も覚えながら、早苗は失った右足のまま、這いずる様に彼女―美鈴の死体まで辿り着く。
そして彼女の前で眼を瞑り、手を合わせながら数秒、心の中で哀悼の意を捧げる。


ナット・キング・コールがそっと、美鈴の右足に『螺子』を差し込む。キュルキュルとナットが外れ、美鈴の足は優しく崩れ落ちた。
分解された彼女の右足を、震える手で自分の右足に付け替える早苗。キュッとしっかりナットを締め、接合が完了する。
多少サイズは合わないが、問題無く神経は繋がっているようだ。…よし、立てる。


「貴方の体は必ずお返しします。そして、貴方の為にもこのゲームは私が必ず終わらせます。…どうかそれまでに、安らかに眠って下さい」


既に冷たくなっている美鈴へと最後の弔意を表しながら早苗は美鈴に背を向けて歩き出し―――ふと、気付いた。


(………ん?あれ、あの花…何か枯れだしているみたいだけど…何か埋まっている?あれは…)


美鈴の亡骸の周りに、まるで彼女への哀悼を表すような花のガーデンが生み出されている事は早苗にとっても不思議だった。
こんな遺跡の一角にここまで綺麗な花々が咲き乱れている事は不自然だ。
それは数時間前、ここで多々良小傘を、そしてジョルノやトリッシュを守る為に華々しく戦い、散っていた彼女のためにジョルノが最後に施した『手向け』だったのだが、早苗は当然その事を知らない(尤もプロシュートは足跡だけで大体の真相まで辿り着いていたのだが)。

その花のガーデンが見る見るうちに『枯れ果てていく』。何事かと焦った早苗はプロシュートの言った台詞を思い出す。


―――オレの『ザ・グレイトフル・デッド』のガスを浴びた奴は体が老化する。今はこの遺跡全体が能力範囲に収まってるってとこだな―――


125 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:48:48 bSmtQ0mM0


そういえば…さっきから何か『蒸し暑い』。未だこの場に残る紫色のガスのせいだろうか?ここには雹が積もっている事もあり、周りよりも気温が低いけど、それでも少し汗をかき始めた。
それに老化するというのは人間だけじゃなく、植物なんかにも適用するのか?
彼は女性には大して効かないと言っていたけれど、それでもやはり自分が老化するというのは女性の早苗からすれば考えたくも無い事態だ。

(いや、そうじゃなくて!あの花の辺り!)

余計な気持ちをブンブンと振り払い、早苗はその場所に近づき目を凝らして見てみる。
見ると次々に花が枯れ散っていく中で、『ある物』が次第に顔を覗かせてきた。これは『デイパック』だ。美鈴の傍に置かれているところを見ると、彼女の物だろうか?
恐らく亡骸と一緒に花のガーデンに埋まっていたのだろう。美鈴の死体に『餌』を付けたあの釣り針の敵もこのデイパックには気付かなかったらしい。
予期せぬ幸運…と言っても良いのだろうか。プロシュートのスタンド能力が彼の意図せぬ所で早苗に発見をもたらした。

早苗は少しだけ迷った後に、そのデイパックを手に取り中身を検めた。彼女の身体だけでなく、所持品まで奪っていくとは死体漁りも甚だしい。
そんな気持ちも当然あったが、綺麗事を言っていては何も解決出来ない。とにかく、武器は多いに越した事がないのだ。

入っているのが武器とは限らないと思いながらもはやる気持ちを抑え、ランダムアイテムが埋め込まれている紙を取り出して開く。


「………!!これって…!」


ズシンと地面に落ちたその威圧感溢れる重量物は早苗もよく知っている『物』であった。





―――遠くで機銃の掃射音が鳴り響く。


126 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:50:35 bSmtQ0mM0
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ヒュンッ!


プロシュートが片手に握るナイフの投擲と同時に、神奈子の周りをグルりと時計回りに大きく駆け出した。
彼の目的は神奈子の向こう側で今にも死にそうな状態の少年。恐らく先ほど聞こえてきたガトリングの音は神奈子とこの男が戦った時のものだろう。
ならば、この少年はプロシュートの味方となりえる可能性も高い。見れば彼はプロシュートのスタンドによって老化現象が進んでいるようだ。
ひとまずグレイト・フルデッドを解除すれば少年はすぐに元の元気な姿を取り戻せるが、それはなるべくしたくない。
何故ならこの神を名乗る女の老化進行までも解除されてしまうからだ。そしてさっき彼女は名を『八坂 神奈子』だと名乗った。

プロシュートはこの名に聞き覚えがあった。


(あの破天荒な服装、そして『八坂神奈子』だと…?早苗の奴が言ってた『家族』じゃねーか!
あいつ、なぁにが『神奈子様と諏訪子様は絶対に信頼できるお方です!』だッ!完全に『乗って』んじゃねーかッ!)


その通り。プロシュートは早苗と情報交換を行った際にハッキリ言われたのだ。神奈子と諏訪子は自分の家族だから、信頼に足る人物だと。
だが実際にこうして相対してみれば御覧の有様。彼女はプロシュートと早苗をビーチ・ボーイで攻撃し、花京院をも殺そうとしていた。

―――聞いていた話と違う。プロシュートがそう感じるのは当然の結果であろう。

だが彼女が早苗の家族だろうが何だろうが、プロシュートからすれば知った事ではない。現にこうして襲われているのだ。
殺らなければ殺られる、そんな世界でプロシュートは今まで生きてきたし、このゲームもそれと変わらない。相手が誰だろうが邪魔をする奴は容赦しない。

しかし、しかしだ。彼女が早苗の言っていた神々の存在だと言うなら困った事になる。
それは『神』と呼ばれる者の『寿命』だ。推理するまでも無く、人間などより遥かに長いだろう。ならばプロシュートのザ・グレイト・フルデッドお得意の『老化させて殺す』策が著しく取り難くなる。
相手がただの『人間』であったならば、例え『女』といえどもとっくに衰弱させるぐらいの効果は出ているはずだ。それにプロシュートはいつもより全力でスタンドエネルギーを疾走させているのでなおさらになる。

残してきた早苗にもスタンドの影響はあるハズだが、あの場には『雹』が降り積もっていた。プロシュートの『ザ・グレイト・フルデッド』は『体温の高い者』を優先して老化させる。あの気温の低い場に居る限り、早苗が老化するにはまだ時間が掛かるだろう。
早苗の心配はいらない。それよりも神奈子を老化させて動きを鈍らせるには後どれぐらい掛かるのだろうか?プロシュートが最初に能力を発動させてからだいぶ時間が経っている。

とにかく、この敵とまともに1対1で戦っては勝てない。ならばプロシュートは向こう側で死にかけている少年を救出し、味方につけることが大事だと考える。


127 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:52:01 bSmtQ0mM0


「こんな小細工で私と戦う気か?舐められたものだ、人間」


神奈子はプロシュートが投げたナイフを再びガトリング銃を起動、その弾丸をもって粉々に粉砕した。
それに気を取られた隙にプロシュートは花京院の傍まで全速で回り込もうとする。それを追う様に神奈子はガトリングの弾幕を徐々にプロシュートまで近づけていく。
そしてプロシュートは懐から取り出した『モノ』を花京院に向かって投げつけたッ!


「オイそこのお前ェ!!これを受け取れッ!!」


そう叫んで花京院に投げ渡した物はさっきの場所で頂戴してきた『雹』の塊。氷さえあれば老化は防げるのだ。
花京院に叩きつけられたかのように投げられた氷は彼の老化した身体を一瞬にして元通りにさせることに成功したッ!
元の高校生の年齢に若返った花京院は目の前の男に感謝の意を述べるよりも先に、すぐさま自分のスタンドを展開させた。


「ハイエロファントグリーン!!僕達の体を『包み込め』えええぇぇーーーッ!!!」


見ればプロシュートのすぐ後ろまで掃射が迫っていた。この男が何者かを考える暇は無い。
花京院は重症を負いながらも、瞬速で再び法皇の繭を形成して自分とプロシュートを同時に包み込む『盾』で銃撃から身を守った。
ギリギリのところで二人は何とかガトリングの魔の手から一旦逃げ切る。


128 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:53:19 bSmtQ0mM0







「グッ……ハァー…ハァー……っ!な、何とか助かりました…。礼を言います」

「ハァー…ハァー……れ、礼はいい。それよりオメー、左足が吹き飛ばされてんな。見せてみろ」


死を覚悟したのだろうか、流石にプロシュートの額には汗がタラタラと流れている。しかしそれ以上に花京院は血を流し過ぎている。急いで止血しないと大変な事になってしまう。
そこでプロシュートが再び懐から取り出した物は1本の『螺子』。言うまでも無く、早苗の『ナット・キング・コール』で生み出された螺子である。
さっき早苗がビーチ・ボーイによる攻撃に対抗する為に使用した螺子の中から数本、落ちていたのをこっそり頂戴してきたものだ。
スタンド戦において百戦錬磨であるプロシュートはこの戦いにおいても、周囲の全ての状況を抜け目無く利用する事を意識してきた。
彼が地面に落ちていた螺子を拾ったのも『何かに使えるかもしれない』と判断しての事であった。

そして彼が拾ってきたのは『雹』や『螺子』だけではない。さっきの神奈子の攻撃で吹き飛ばされた『花京院の左足』までもどさくさに紛れて拾って持って来ていたのだ。
使えるものは全て使う。その上で敵を欺き、二手三手上へ行く。この男は伊達に裏の世界で生きているわけではない。

プロシュートは花京院の千切れた左足に螺子を差し込み、そのまま彼の脚部位と接合する。銃を分解する事よりも遥かに早く、楽な作業だ。
これでひとまず止血出来たし、動き回ることも出来るだろう。

「!?…これは、僕の足が繋がった…。これも、スタンド能力なのか…?」

しかしプロシュートは花京院の質問には答えない。あまり必要以上にこちらの手の内は与えたくないのだ。


(チッ…このナット・キング・コールの使い方を見ていると、ブチャラティの奴のスタンドを思い出すぜ…)


―――彼はかつて死闘を繰り広げた宿敵『ブチャラティ』のスタンド…『スティッキィ・フィンガーズ』を脳裏に浮かべる。


物に『ジッパー』を取り付け、バラバラに分解、そして繋ぐ事が出来るあの男のスタンドはシンプルながらも恐ろしい応用力を見せ付けてプロシュートを戦慄させた。
早苗の『ナット・キング・コール』も分解と接合。ブチャラティの能力とどこか似ている物を感じつつ、プロシュートは複雑な気分を拭えない。


129 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:56:44 bSmtQ0mM0

しかし今は目の前の難事だ。脅威なのはあの女。奴を倒すには一人では不可能といっても良い。プロシュートはまずは目の前の男と簡潔な情報交換を行う。


「オイ、お前。オレはプロシュート、スタンド使いだ。どうやらお前もスタンド使いみたいだが名前は何だ?」

「…花京院典明です。あなた、さっき『女の子』と一緒だったのでは?」

「んなこたどーだっていい。それよりここは二人で協力してあの女を倒すぞ。オレのスタンドに直接的な攻撃能力は少ねぇ。至近距離まで近づいて掴めば『一気に』老化出来るかも知れねえが、あの完全武装じゃあな…。お前、いけるか?」

「『老化』…!?じゃ、じゃあ僕の老化もお前の仕業だったのかッ!冗談じゃあない!こっちは死にかけたんだぞッ!?」

「ワリーが怒るのは明日にしてくれねーか。とにかく今はモタモタ出来ねぇ。はえーとこ奴を始末する手立てをつけなきゃあ全滅だぞ?」

「むっ…。そうですね、あなたの言うとおりです。この文句はまた明日つけるとして、では僕が先陣を切りましょう。僕の『法皇』のスタンドなら奴のガトリング銃に対して有効的に防御出来ます」

「そうしてくれると助かる。…だが油断するなよ。奴にはまだ―――」


そこまで言ってプロシュートは言葉を切る。
自分の右手に『異常』が起こっているのに気付いたからだ。
ザクリと突き刺さった肉の感覚。この感覚の正体をプロシュートは当然、知っていた。


―――しまったッ!のんびり話し過ぎていた…ッ!


そう思っていても時既に遅し。法皇の防御を突き抜けてプロシュートを狙った『釣り針』が右掌に深々と喰いこんでいるッ!
この繭の防御に直接的な物理攻撃は通用しないと見るや、神奈子の次なる攻撃はスタンドを使った狙い撃ち。貫通能力のあるビーチ・ボーイでの攻撃なら法皇の盾を問題なく突破できると考えた。

プロシュートは釣り針の万力のような力によって後方に引っ張り上げられ、『繭』から大きく飛び出してしまうッ!
飛び出した先は…神奈子が左手のみでロッドを振り回し、右腕のみで大胆に抱えたガトリングをこちらに向けて待ち構えていたッ!


「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーッッ!!??」

「プロシュートッ!!?マズイ!ハイエロファントッ!!彼の足を掴めええぇぇッ!!」




「―――Gatling gun(chu♪)。…フフフ♪」



神奈子は美しい張りと艶をした唇で銃に口づけし、白く整った歯を見せてニヤリと口端をつり上げる。
闘いをまるで楽しんでいるかのような不敵な笑みが、プロシュートと花京院をゾッとさせた―――


130 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:57:34 bSmtQ0mM0

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
  ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!――――――



「ホォォォラホラホラホラホラホラホラホラホラァッ!!全弾防がないとポックリ逝っちまうよッ!!」

「ウオオオオオオオおおおぉぉぉぉぉぉおおおおぉおおッッ!!!!」


花京院はすぐさまスタンドをひも状に解いてプロシュートの右足首を掴んで支えると同時に、法皇を更に展開させてプロシュートの前方に傘状の『盾』を作るッ!
さながら『綱引き状態』の形となったまま花京院は神奈子の一斉掃射を防ぎ続けるッ!


「花京院ッ!お前は面倒臭いからね!『コレ』でも喰らってオネンネしてなッ!!―――神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』ッ!!!」

神奈子はプロシュートへの攻撃の手を休めず、銃撃を続けながら今度はスペルカードでの攻撃を花京院に対して撃ち放ったッ!
エクスパンデッド・オンバシラ。神奈子の両端から発生した幾つもの御柱が、まるで楕円形のレーザーとなって花京院を襲うッ!
プロシュートへの支援で手一杯になっていた花京院にその攻撃を防ぐ術など無い。
幾多ものレーザーが大型の弾丸のように雨あられとなって花京院に滅多矢鱈と降り続ける。動き難い体勢ながらも花京院は必死に回避に専念するが、その内の1本が花京院の脇腹を深く抉った。

「グアアアッ―――!!」

花京院は堪らず転げまわる。傷は深く、大きな血痕が地面にドクドクと流れ出ていく。その激痛で思わずプロシュートを支えていた法皇のひもが彼の足から離れてしまった。


いや、『思わず』ではない。


「そうだ、それでいいんだぜ、花京院。オレを支えるなんて事はしなくていい。この『盾』だけで充分だぜッ!」


131 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 18:58:59 bSmtQ0mM0

右足と右手。両方をそれぞれ引っ張られていたプロシュートは自分からは動けない姿勢だった。だが支えられていた足が解放されれば『このまま敵の方まで突っ込んでいける』ッ!!
そして花京院はダメージの痛みから足を解放した『のではない』!プロシュートを『向かわせるために』敢えて足を離したッ!当然、プロシュート前方に形成した『盾』は絶対に解除しないッ!
プロシュートは自身のスタンドを伴いながら神奈子に向かって全力で向かっていくッ!!


「ぐぁ…プ…プロシュート…銃撃は、僕が…防ぐ…っ。はし……れ…っ!」

「グラッツェ(ありがとう)、花京院。オメーは例えどんなダメージを負っても絶対にスタンドを解除しねえ、天晴れな根性を持った奴だ。
だったらオレもッ!根性見せ付けなきゃあなッ!!例え腕や足がもがれようともだッ!!」


プロシュートのスタンドがその咆哮に答えるように動き出した。神奈子はそうはさせまいと銃撃を一旦やめ、両腕で大きくビーチ・ボーイを振りかざす。針は未だプロシュートの右手に喰いこんでいるのだ。

「悪いがここまで近寄らせるわけにはいかないよッ!『ビーチ・ボーイ』ッ!コイツの右腕ごと地面に押さえつけろォッ!!」

神奈子がその豪腕で力いっぱいロッドを振り抜けるッ!糸から伝わる振動はプロシュートへとまるで津波のように襲い掛かるッ!
だがッ!プロシュートがッ!グレイトフル・デッドが攻撃しようとしていたのは神奈子『ではない』ッ!!


「『ザ・グレイトフル・デッド』オオオォォッ!!オレの右腕ごと『釣り針』を切り落とせエエェェェッッ!!!」


プロシュートは支給品のナイフをいつの間にかスタンドに持たせ、何とそのパワーで勢い良く自分の右腕を切り落としたッ!
その行動に一切の躊躇は無いッ!彼の眼には『偉大なる殺意』が宿ったままだッ!


「―――………ッッ!!グゥ……ッ…ウ…ォォオオオオオオオッ!!」

「!?コイツ…ッ!自分から腕を切り離して針を抜いたッ!?」

なんて精神力だ――神奈子は眼前の男の躊躇無き行動に仰天した。普通の人間ではこれほど恐ろしく早い決断は通常下せない。この男は死を恐れないのだろうか。
コイツだけではない。あの花京院にしてもそうだ。傷は決して浅くないはずだが、奴はそれでもスタンドの盾を解除しなかった。
そのうえでこのコンビネーション。二人ともまともに声をかけずの戦闘だったはずなのに、まるで互いの意図を分かり合えてるかのようなアイコンタクトをとれていた。

二人とも、神奈子からすれば赤子が如き童である。だがその精神は既に高位の神々にも劣っていない。
いや、むしろ神奈子の方が気圧されかけていた。一瞬。ほんの一瞬、プロシュートの突飛な行動に神奈子は動きを止めてしまった。
その一瞬をこの男が見逃すはずも無い。


「『射的距離内』に………入ったぜ……!」


132 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:00:10 bSmtQ0mM0

それは何よりも遠い道のりだった。
花京院の死力を借りながら、プロシュートはとうとう神奈子に近づくことに成功する。
右腕を失った『ザ・グレイトフル・デッド』が神奈子の喉元を左手でガシッと掴み、能力を発動した。
ガスを浴びさせるよりも圧倒的に早く老化させることが出来る、相手を『直接』掴んで能力をブチかますという冷酷な手段だ。
この能力を使ったのは、既にプロシュートにはスタンドによる物理的直接攻撃を浴びせるほどのパワーは残っていなかったから。
スタンドに捕まった神奈子の体力は見る見るうちに搾り取られてしまう。


「う…が……ッ!?こ、これは……体から…力が抜けていく………っ!?お…まえ…!何をしている……!?」

「『直』は素早い…んだぜ………!」
(『だが』……くっ!コイツ…一体『何年』生きてんだ……ッ!?老化の効力がいつもより全然『遅い』…!)


この土壇場において、プロシュートの予想外の事態が発生した。
この女が神と言われる種族で、人間の寿命よりも圧倒的に永い寿命を持っていることはプロシュートにも想像できてはいた。
だがグレイト・フルデッドの能力自体はずっと前から発動し続け途切れさせていないにも関わらず、そして今こうして全力で能力行使をしているのにも関わらず、未だにこの女を戦闘不能にまで追い込めずにいる。
いかにコイツが『女』で『寿命が永い』という悪条件とはいえ、まさかここまで耐えられる奴だとは思わなかったのだ。


―――チッ…ツメが甘かったか…!オレとした事が…ッ!

「だが!この手は絶対に離さねえッ!『綱引き』の次は『根比べ』だぜッ!!お前は…このまま老化させて『殺す』ッ!」


ここに来て初めてプロシュートが放った言葉であった。
『やると言ったらやる奴』という言い回しがあるが、プロシュートはまさしく『殺ると思ったら殺っている奴』という男だった。
そのプロシュートが『殺す』などという低次元な台詞を口走ったのも、なによりもう後が無いほどの窮地に立たされている事が原因に他ならない。
思わず低俗な単語が口をついて出た事に、心中自分で悪態をつく余裕すらも無い。この機を逃せば彼の敗北はもう決定するような物だから…


「良い、ねぇ、その心意気…ッ!『呑み比べ』も大好きだが…『根比べ』も嫌いじゃあない…ッ!その勝負、受けて…立つ…ッ!」


ここまで近づかれてはガトリングも構えられない。ビーチ・ボーイを発動する体力も、弾幕を生成する霊力も残っていない。正真正銘、ガチでの力押しになる。
神奈子は震える左手を伸ばしてプロシュートの首を掴み、メキメキと力を入れ始めたッ!


133 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:01:43 bSmtQ0mM0


「ぐ……ッ!?」
(コイツ…まだこんなことする力が…ッ!だが!オレの方も絶対に離してたまるか……ッ!!)

プロシュートはふと後方に居る筈の花京院の反応が無い事に気付く。彼の法皇のスタンドもいつの間にか消えている。

―――くたばっちまったか…。いや、少しの間共闘しただけで分かる事はある。あの男はそう簡単にやられるタマでもねぇ。
後ろを振り返って確認する力すら今は惜しいが、恐らく意識を失ったのだろう。あの傷では無理もねぇと言うべきか。

だが、オレをこの女の所まで近づかせる事が花京院の仕事だ。アイツは自分の仕事を最後までやり通した。

そしてコイツを倒す事がオレの仕事だッ!奴の意志を無駄にするわけにはいかねえッ!



「『グレイトフル・デッド』ォォォオオオオッッ!!!『全開』だァァァアアアアーーーーーーッッ!!!!」

「オオオオオオオォォォォオオオヲヲヲヲーーーーーーーーッッ!!!!」



プロシュートと神奈子。両者互いに一向に退かぬ全身全霊を込めた、魂の戦い。

咆哮と咆哮。力と力。魂と魂。誇りと誇り。

持つ物全てをぶつけ合い、弾き合い、抉り合い、壊し合う、原始の殺し合い。

欲望も打算も無く、ただ『勝利』のみを奪いながら激突する二人。

片や『栄光』をその手に掴み取る為に。片や偽りの『儀式』を受け入れ、成功させる為に。


134 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:03:44 bSmtQ0mM0
プロシュートの首にメシメシと、鈍い音と共に喰い込み続ける神奈子の五指。この華奢な腕の何処にこんな力があるのか。
次第にプロシュートの意識は薄れていく。呼吸も出来ない。スタンドパワーもとっくに限界を超えている。
それでもプロシュートは左腕を離さない。この腕を離した瞬間、彼の求める『栄光』は砂となってサラサラと零れ落ちていく気がしたからだ。
時間が経つにつれ、老化させる速度も輪をかけて落ちていく。しかしこの首に掛かる豪力も目に見えるほど弱まっていく。老化は効いている。

プロシュートが色の薄れつつある視界で目前の敵を睨みつける。
流石に相手の老化がだいぶ進んできたのか、さっきまであった肌の艶は消え去り、ハリのあった唇はカサカサに乾燥している。
呼吸は乱れ、皺も伸び始め、髪は白く色が抜け落ち、汗をかく水分までも乾燥してきたようだ。




―――もう少しだ。後…一歩で…『オレ達』の勝利…だ…


目が霞んできた。能力は、解除しねぇ…


―――勝ったのは……オレ…たち…だ…


視界が闇に染まってきた。能力だけは…死んでも、絶対に……


―――『栄光』は…………オレたちの…チームに……………


何も、考えられなくなってきた……畜生…脳裏には、チームメンバーの顔が浮かんできやがった………


―――スタンド…だけは…………絶対に………解除………


―――――――――。


――――――。


―――。





135 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:04:50 bSmtQ0mM0
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ドサァッ!




神奈子の腕から抜け落ちたプロシュートの身体が地へと崩れ落ちた音が、静寂のポンペイに響き渡る。

その瞬間、神奈子の首を掴み絞めていたグレイトフル・デッドの体はひび割れ、塵へと還る様にポンペイの風に吹き去られて消えていった。

プロシュートのスタンドの消滅と共に神奈子の肉体は見る見るうちに元の姿に若返っていく。皺くちゃだった頬には美しい艶が戻り、白髪と化した頭髪は元の麗しい青紫色に戻り、曲がっていた腰が綺麗に真っ直ぐ伸びる。
神奈子はそれに安堵するよりも先に、ガクリと腰が抜けたように地面に座り込んでしまう。
カラカラに乾燥した筈の水分が汗となってドッと溢れ出てきた。神奈子は空を仰ぎながら、まずは肺一杯に空気を何度も供給する。


「―――ハァーーーッ!ハァーーーッ!ハァーーーッ………!し…………死ぬ、かと……おもっ……たぁ……!ハァ…ハァ…」


本当に危なかった。凄まじい執念を持って神奈子に向かってきたプロシュートは、神である神奈子と同等の…いや、それ以上の精神力でもって彼女と渡り合ったのだ。
正直な所、自分が生きているのが不思議なぐらいである。それほどまでにギリギリの決着だった。


「ケホ…ケホ…ッ!……ハァ…!この、男…とんでもない人間だった…!躊躇無く自分の腕を切り落としてきて、その上で私に対抗するとはな…!
もしこいつが『万全の状態』だったならば、敗北したのは間違いなく私の方だった…!」


136 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:06:14 bSmtQ0mM0
このプロシュートと花京院vs神奈子の死闘は最初からイーブンの状態で始まったわけではない。
プロシュートは神奈子と対峙する前から既にスタンドエネルギーを全開で放っていた。ただでさえ体力を大きく消費してしまう老化エネルギーだというのに、加えてこの胃がひりつく様な死闘。
むしろよくこれだけ戦えたものだと神奈子が感心するぐらいであった。

一方の神奈子は花京院との連戦になる形だったが、スペルカードやビーチ・ボーイでの攻撃も多用していたとはいえ、その攻撃の殆どがガトリング銃によるもの。
プロシュートほどエネルギー消費量が多くなかったのだ。ここが二人の命運を分けた。
いわば『運良く』勝てたようなもの。もし彼女の年齢が『あとひとつ』重なっていたならばどうなっていたか。
八坂の神がこのザマではこの先思いやられると、神奈子は先行きを不安にする。

とはいえだ。このプロシュートという人間の男。そして向こうに倒れる花京院は神奈子程の実力を以ってしても『偉大なる男』だったと言わざるを得なかった。
結局プロシュートは死ぬまでスタンドを解除しようとしなかった。あの状況、少しでも『恐怖』や『動揺』の心を持った瞬間に敗北する場面。
腕を失ってなお勝とうと立ち向かったこの男の意志に、神奈子は『敬意』を表したくなった。

これだけ永く生きていれば色々と驚く出来事もあるもんだ。呑気にそう考えながらも神奈子はプロシュートの亡骸に手を合わせる。


―――これで、一人目。生贄はまだ、80人以上居る。


長い一日が始まりそうだと、行く末を多少憂いながらも神奈子はその場から立ち上がった。
だいぶ手傷も負った。失われた体力が戻るにはまだまだ時間が掛かる。とにかく今は休息が必要だ。だがその前に、やる事もある。


137 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:08:13 bSmtQ0mM0
右肩に掛け直したガトリングが重く感じる。調子の出ない様子でフラフラと前に歩き出した神奈子は、『もうひとりの男』の前まで来て、銃を構えて突き出した。


「花京院典明…コイツも恐ろしく肝の据わった男だった。フフ…何故だかこいつ等には『敬意』を払いたくなる気持ちがある。
このまま苦しみながら死んでいくのは余りにも哀れな末路だろう。…せめてこいつで楽に逝かせてやるとしよう」


神奈子の弾幕により負傷し、意識を失ったままの花京院に向けて最期の弔意を向けた神奈子は銃のスイッチに指を掛ける。
全く手こずらせてくれたものだ。本音を言えばこの男をこのまま殺すのも惜しい人材ではあったがそうも言ってられない。
プロシュートと呼ばれた人間の様に、私も躊躇無き『殺意』を持たなければいけない。高を括った獅子はガゼルにも足元を掬われてしまうというものだ。
神奈子は花京院に対して最期の決別の言葉を向ける。


―――えっと、イタリア語では何て言うんだっけ?この言葉は。…あぁ、そうそう…





―――アリーヴェ・デルチ…『さよなら』よ、花京院典明。













刹那、オンバシラによる特大の弾幕が神奈子を襲った。


138 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:09:11 bSmtQ0mM0


「ッ!?何ッ!!」


猛る轟音が神奈子の耳を貫く前に、後方からのオーラを察知した神奈子は寸でのところで攻撃を回避出来たが、右腕を多少抉られてしまう。
一発の大規模の弾幕が神奈子の身体を掠って彼方まで飛んでゆく。横っ飛びの形で飛び退った神奈子は受身すら取る事叶わず、そのままゴロゴロと地面を転げ回って襲撃者の方角を向いた。


「―――あ、ぶないねぇッ!!誰だいッ!?」
(今の弾幕は…間違いない。私の『オンバシラ』によるものだ!)


攻撃を受けた右腕を押さえながら神奈子はビーチ・ボーイを左手に顕現させ、反撃の態勢をとる。

しかし、神奈子は攻撃の手をピタリと止め、『その相手』を目を見開かせて見つめた。






「――――――早苗……」



「………何を、やっているのですか…っ…『神奈子様』ッ!」





守矢の風祝が、悲哀と怒気を混ぜ合わせた瞳を、射抜く様にして神奈子に向けていた。

その腕には神奈子が普段操る『御柱』を構えながら。


139 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:10:23 bSmtQ0mM0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

早苗と神奈子。二人は互いを驚愕した面持ちで見据えていた。しかし、その意味合いは二人とも少しの『ズレ』があるようだ。

早苗は神奈子の事をずっと以前からまるで母の様に慕っていたし、逆に自分を一人の愛娘の様に可愛がってきた事を知っている。

『慈愛に満ちた、とても強くて優しい御方』

そう思っていた。

自分の見てきた神奈子は、多少の気性の荒さこそあれ、これほどの『惨事』を引き起こすような人では決して無かった。

今までに幻想郷の様々な人達に迷惑を掛けてきた事実は変えられないだろう。自分にも非はあった。

だが、今のこの状況は。

すぐそこにプロシュートが倒れている。恐らくもう、息は無い。

そして自分がたった今目撃した光景。

優しかった神奈子が、いつも自分の事を心配してくれていた神奈子が、おぞましい武器を握ってあの男の人を殺そうとした。

こんな事は何かの間違いだ。そう思いたくても、眼前の凄惨な景色がそれを許さない。

無我夢中で撃った。

美鈴のデイパックから入手した、元々は神奈子の武器である『御柱』で、他ならぬ神奈子を撃った。

涙が溢れてくる。

少女にとってはあまりにも過酷な現実に、溢れ出す涙は抑えきれない。

ここでも早苗は、今は亡きプロシュートの言葉を思い出す。

―――『惨い現実が待っているかもしれねえぞ。必ずドでかい『壁』が目の前に立ち塞がる。ちっぽけな小娘のお前がどれだけ抗える?』

言った通りの、惨い現実だ。愛する家族が、ゲームに『乗っていて』、人を殺してしまった。

こんな事が…こんな、非道い『現実』…ッ!

早苗は、搾り取ったかのような涙交じりの声で神奈子に対して問いかけた。御柱を向けたまま。




「な゛んで……こんな゛……がな゛、こざま゛……っ!お゛しえで…ください゛っ!」


「…………早苗…」


140 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:11:44 bSmtQ0mM0


神奈子はゆっくりと立ち上がり、愛する『娘』を見据える。


「この男とさっきから一緒に居たのは…お前だったのかい。道理で、知ってる気がした『足』だと思ったよ」


そう言って、プロシュートの死体と、さっき釣り上げた早苗の分解された『足首』を交互に見渡す。
今の彼女のその瞳はどんな色をしているのだろう。早苗には、分からない。


「いずれはお前と相対するだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く会えるとはね…。嬉しいかな、悲しいかな…だ」

「神奈子様ァ!!!どうじで…ッ!!」


声にならぬ声を張り上げる。早苗の顔は涙と鼻水で酷く崩れていた。


「早苗…アンタはまだ若い。それがこの世の『ルール』だと、理解できない事も多くあるさ。この『幻想郷』では、この現実が『全て』なのだろう。
そんな幻想郷にアンタを連れてきてしまった事は…きっと私の『罪』なんだ。理解しろとは言わない。アンタには私を『殺す』権利がある。
早苗…ここでアンタに会えて良かった。早苗が他の誰かに殺されるのを、私は見たくない。けじめは私自身がつける」


東の空から一際明るい日の光が遺跡を包み込み始める。
光に照らされた神奈子の眼には、確かに悲哀の色が浮かんでいた。少なくとも、早苗にはそう見えた。
神奈子の周りから高圧のエネルギーが唸り始める。彼女にとっては、既になけなしの霊力だった。

スペルカードの気配。攻撃の構えをとる神奈子。
早苗は震えながらも自身の霊力を御柱に集中させ始める。その刹那、早苗は確かに聞いた。









―――お前を愛しているぞ。愛している。…………早苗。









両者の哀しき力が、激しくぶつかった。


141 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:12:49 bSmtQ0mM0
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―――夜が明けた。


どうしてこんな事が起こってしまったのだろう。
それは早苗と神奈子の間に生じた、ほんの些細な『すれ違い』。ちっぽけな時間の『ズレ』から生まれた小さな亀裂。
その事実を、早苗は知らない。分かっているのは、愛する家族が殺し合いに『乗ってしまった』という…紛れもない『現実』。



早苗はプロシュートの亡骸の前ですすり泣きながら、座り込んでいる。
プロシュートの吹き飛んだ右腕は既に螺子によって『繋ぎ止めて』いる。もう意味は無い事だが、彼の亡骸はこのまま埋葬したい。
近くには早苗と同じぐらいの年齢の少年が倒れていた。大きな傷を負っていたが、既に止血は施している。
美鈴のデイパックにもうひとつ入っていた支給品は止血剤だった。これでひとまず彼が失血死する危険は抑えられる。

きっと彼もプロシュートと一緒に戦ってくれたのだろう。
早苗は彼らがどんな風に戦ったのか分からない。そしてプロシュートがどう死んでいったのかすら分からない。


―――元を言えば自分の失敗が招いた結果だ。
もっと早くここに辿り着けたら。もっと私がしっかりしていれば。
そもそも私がプロシュートさんに会わなければこんな事にはならなかったのかもしれない。
後悔の念は、次々と頭の中から溢れ出しては消えていく。

―終わった事は終わった事。嘆く暇があったらとっとと立ち上がれ。
もしプロシュートさんが生きていたなら、彼はそう言って私を本気で叱り飛ばしてくれるだろう。
彼は最期に…私に何て言ってくれたか。忘れるはずが無い。


―――「『LESSON4』だッ!『弱さを乗り越え立ち上がれ』ッ!!」


今の私に立ち上がることが出来るのだろうか。…いや、私は立たなければいけない。
私には『使命』がある。


142 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:15:34 bSmtQ0mM0
早苗と神奈子の放った一発の弾幕による大激突は、とてつもなく大きな爆縮エネルギーを生み、周囲一体を吹き飛ばした。
巻き起こった粉塵が晴れてみると、そこに神奈子の姿は無かった。
神奈子の体力もまた、花京院とプロシュートとの戦いで風前の灯まで削られていた事から、このまま早苗と戦闘することは不可能と判断しての逃走なのだろう。だが果たして本当にそれだけだったのだろうか?

神奈子は確かに早苗に止めを刺そうとしていた。あの時の弾幕は確かに殺す気の威力を孕んでいたのだ。


だが…だが、神奈子の最後の言葉と表情が早苗の頭から離れない。






あの刹那…神奈子は確かに…『泣いて』いた様に見えた。







「私が……神奈子様を止めなくちゃ、いけないんだ…!」


それは早苗の願望が生み出した錯覚だったのかもしれない。それでも、最後の場面で神奈子の頬を伝った雫は、早苗にもう一度強き『覚悟』を決意させた。
結局、神奈子がこんな事をしでかした理由は分からない。次に彼女と対峙する時は、今度こそ早苗の息の根を止めに来るかもしれない。



「それでも…それでも、私が絶対に止めなければいけない。…待っていて下さい、神奈子様」



彼女の名を、東風谷早苗という。
一人の現人神でありながら、八坂神奈子の愛する娘であった。






【プロシュート@第5部 黄金の風】 死亡


143 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:18:31 bSmtQ0mM0
【B-2 ポンペイ遺跡/早朝】

【東風谷早苗@東方風神録】
[状態]:体力消費(中)、霊力消費(中)、精神疲労(大)、右掌に裂傷、全身に多少の打撲と擦り傷、右足首から先は美鈴の物、精神混乱
[装備]:スタンドDISC「ナット・キング・コール」@ジョジョ第8部
[道具]:御柱@東方風神録、止血剤@現実、基本支給品×2(美鈴の物)
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。この殺し合いを、そして神奈子を止める。
1:『愛する家族』として、神奈子様を絶対に止める。…私がやらなければ。
2:殺し合いを打破する為の手段を捜す。仲間を集める。
3:この男の子が目覚めたら事情を聞く。
4:諏訪子様に会って神奈子様の事を伝えたい。
5:2の為に異変解決を生業とする霊夢さんや魔理沙さんに共闘を持ちかける?
6:自分の弱さを乗り越える…こんな私に、出来るだろうか。
[備考]
※参戦時期は少なくとも星蓮船の後です。
※早苗の右足とプロシュートの支給品含むデイパック一式は近くに落ちています。
※ポンペイ遺跡南側が殆ど破壊され尽くしました。また遺跡東部分の鈴蘭毒は既に風化しています。


【花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:気絶中、体力消費(大)、右脇腹に大きな負傷(止血済み)、左脚切断(今は接合済み)
[装備]:なし
[道具]:空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部、不明支給品0〜1(現実のもの、本人確認済み)
[思考・状況] 基本行動方針:承太郎らと合流し、荒木・太田に反抗する
1:神奈子との戦闘中に気絶。
2:承太郎、ジョセフ、ポルナレフたちと合流したい。
3:このDISCの記憶は真実?嘘だとは思えないが……
4:3に確信を持ちたいため、できればDISCの記憶にある人物たちとも会ってみたい(ただし危険人物には要注意)
5:DISCの内容に関する疑問はあるが、ある程度情報が集まるまで今は極力考えないようにする
[備考]
※参戦時期はDIOの館に乗り込む直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。
これにより第6部でホワイトスネイクに記憶を奪われるまでの承太郎の記憶を読み取りました。が、DISCの内容すべてが真実かどうかについて確信は持ってません。
※荒木、もしくは太田に「時間に干渉する能力」があるかもしれないと推測していますが、あくまで推測止まりです。
※「ハイエロファントグリーン」の射程距離は半径100メートル程です。


【八坂神奈子@東方風神録】
[状態]:体力消費(極大)、霊力消費(極大)、右腕損傷、身体の各部損傷、早苗に対する深い愛情
[装備]:ガトリング銃@現実(残弾80%)、スタンドDISC「ビーチ・ボーイ」@ジョジョ第5部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:主催者への捧げ物として恥じない戦いをする。
1:『愛する家族』として、早苗はいずれ殺す。…私がやらなければ。
2:洩矢諏訪子を探し、『あの時』の決着をつける。
3:力を使い過ぎた…今は休息が必要だ。
[備考]
※参戦時期は東方風神録、オープニング後です。
※参戦時期の関係で、幻想郷の面々の殆どと面識がありません。
東風谷早苗、洩矢諏訪子の他、彼女が知っている可能性があるのは、妖怪の山の住人、結界の管理者です。
(該当者は、秋静葉、秋穣子、河城にとり、射命丸文、姫海棠はたて、博麗霊夢、八雲紫、八雲藍、橙)
※ポンペイを脱出し、とにかく休息地を探します。彼女がこれから向かう先は後の書き手さんにお任せします。


144 : 弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて(後編) ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:19:39 bSmtQ0mM0
<スタンドDISC「ナット・キング・コール」>
東風谷早苗に支給。
大量の螺子(ネジ)を体中に打ちこまれ、額にV字型の飾りを持った人型スタンド像を持つ、ジョジョ8部からのスタンド。
対象に螺子とナットを打ち込み、ナットを外すと打ちこまれた部位も一緒に外れる『分解』の能力。
そして、外された部位は組み替えることも出来るほか、違う物同士を接合できるなどの『接合』という応用力もある。
これにより切断された体の部位を繋げて応急処置をするという、『スティッキィ・フィンガーズ』のような扱い方も可能。
現在、原作において登場は少なくステータスも不明なので、まだまだ想像出来る部分も多い。


<スタンドDISC「ビーチ・ボーイ」>
【破壊力:C / スピード:B / 射程距離:=糸の距離(このロワでは最大100メートル) / 持続力:C / 精密動作性:C / 成長性:A】
八坂神奈子に支給。
釣り竿の形状をしたスタンド。手元のリール部分が、恐竜の頭蓋骨のような形状となっているのが特徴。
壁や天井など、任意の場所に糸を垂らして標的がかかるのを待ち、針に触れた対象の中へ侵入し内部から相手を喰い破る。
また、釣り竿の糸は対象の神経にまで絡み付いているため、糸を攻撃してもそのダメージは糸を通じてスタンドが釣り上げている対象へと返っていくため、一旦喰らいつかれたら事実上破壊も切断も不可能であると思われる。
そして、針が喰らいついた相手の重量や体型などの身体的特徴を、糸を通じて捉え探知する事が可能。


<御柱@東方風神録>
紅美鈴に支給。
「オンバシラ」と読む。八坂神奈子が戦闘時に背中に装備している物の中の1本。
かなりの重量&大きさだが、ロワ内では女性でもギリギリ扱える程度には軽量化されている。
これに霊力、精神力などを注ぎ込む事で、彼女が劇中で使用したスペルカード、御柱「メテオリックオンバシラ」や神祭「エクスパンデッド・オンバシラ」等の御柱を使用した技が使えるが、威力は1本分。
高威力ではあるが燃費が悪く、大きいうえに重くて扱いにくい等の弱点があるので普段はエニグマの紙に入れて持ち歩くのが良い。
御柱とは神社『諏訪大社』での奇祭『御柱祭り』に使用される柱で、諏訪大社の各宮に計16本建てられる。


<止血剤@現実>
紅美鈴に支給。
外傷による出血を止めるための薬剤。血管収縮や血液凝固などの作用により血管を閉鎖させる。
ゼラチン・トロンビン・ビタミンK・カルシウム製剤など。
瓶にたっぷり詰まっているので長く使える。


145 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/18(土) 19:25:18 bSmtQ0mM0
これにて「弱さを乗り越えて。偉大なる夜を越えて」の投下終了です。な…なげぇ…!
8部のDISC出すのは少し迷ったんですが、かなり好きなスタンドなので出しちゃいました。

長くてダレそうですが、ここまで読んで下さって感謝しております。
何かご指摘の部分や感想などございましたらお願いします。

次は短めなのを予定です。


146 : 名無しさん :2014/01/18(土) 19:30:40 z5VXc0UM0
投下乙です!
アツい戦闘もさることながら、早苗と兄貴の絡みが特に印象的でしたね…!
兄貴は早期退場ながら、本当にかっこよかった!
彼の言葉が早苗を奮い立たせるきっかけになったのもグッド
原作のペッシとの関係を思わせるいい掛け合いでした
早苗が加奈子様を止められるか、彼女の今後に期待したいです。


147 : 名無しさん :2014/01/18(土) 19:32:03 /fDaVty20
面白かった というか興奮した


148 : 名無しさん :2014/01/19(日) 19:12:55 5Yr6qWqs0
あーん!プロ様が死んだ!
冗談はさておき、展開が二転三転した先の見えない戦いに興奮しました。本当に話の構成が上手い!神奈子様超つえぇw
兄貴の死を乗り越え、神奈子様を止める決意をした早苗のこれからが色々と楽しみです。

あと花京院、生き残れて本当に良かったね…


149 : ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 20:57:15 2E9AlI1w0
兄貴……やっぱり兄貴はどこへ行っても兄貴だったぜ……

パチュリー・ノーレッジ、岡崎夢美、カーズの投下を開始します。


150 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 20:58:01 2E9AlI1w0
E−1エリア南部。
妖怪の山のふもとの一角に位置する石造りの洋館、『サンモリッツ廃ホテル』。
その一室で、赤づくめの少女……岡崎夢美と、
紫色のロングヘアに寝間着のような服装の少女……パチュリー・ノーレッジが、
椅子に腰掛け、ランタンの灯を挟んで話し合っていた。
何とも冴えない表情だった。

「やっぱりあの『見えない外壁』、破る方法は無いのかしらね?」

「軽く『魔法』を撃ちこんでみたけど、全く影響を受ける様子がなかったわね
 私はあまり外を歩かないからよくわからないけど……
 いつも幻想郷を囲っている『博麗大結界』とは全く別物って気がするわ」

「私の『科学力』の攻撃でも同じだったわ……それと、この『女教皇(ハイプリエステス)』でも」

そうつぶやいた夢美がブヨブヨした円盤を取り出して頭に差し込むと、テーブルの上に突如、
『両腕の生えた毛むくじゃらの顔面』とでも形容すべき物体が出現した。

「ちょっと、夢美?それ元々私の支給品なんだけど」

「良いじゃない、私に支給された『霧雨魔梨沙の箒』と交換ってことで
 それにこの『女教皇(ハイプリエステス)』っていう、『スタンド』の一種だっけ?
 これの特性はさっき見たでしょ?」


151 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 20:58:21 2E9AlI1w0
「……『鉱物』に由来する物体になら何にでも化けられるっていうアレね」

「そう、それよ。『刃物』や『ボウガン』はおろか、
 『自動車』や『重機のアーム』にまで化けられるとは思わなかったわ。
 ……連続でそれに化けると流石にちょっと疲れるけど。
 とにかく!鉱物、つまり、鉱石や石油を原料とする物……大抵の機械や工具に化けられるこのスタンドは
 『自動車』や『重機』を見たことがないっていう貴女よりは、私の方が素敵に使いこなせるはずよ。
 だから、コレは私の物!はい決定!」

「むきゅぅー……。納得いかないわね……。にしても……何なのかしらね、『スタンド』って。
 白玉楼の庭師の『半霊』にも似ているような気がするんだけど……」

パチュリーはそう呟きながら目の前の『ハイプリエステス』に手を伸ばすが、
触れる事はできずに、すり抜けてしまう。

「やっぱり他の物体に化けていない時は『触れない』わ。
 『幽霊』に触れた時みたいな『冷たさ』も感じない」

「でも、『スタンド』から他の物体を触れる事はできる、と」

「う、やめい、私のホッペに触んな!」

「おおー、やっぱり『スタンド』で触ってる感覚が私にも伝わるわ。
 もっちもちのもち肌ねー。これも『魔法』の力なの?」

「こらっ、放せって!ああもう!引き剥がせない!
 自分からは触れないのに向こうからは一方的に触れるって、反則じゃないの!」

「ほーれ、うりうりWRYYYY」

「MUKYUUUUUU!!」


152 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 20:58:45 2E9AlI1w0
「……とまあ、お遊びはこれくらいにして、と」

「ぜぇ、ぜぇっ……この……ぜんそく持ちをいじるんじゃ無いわよ……」
(あの『スタンド』とかいうの……こんど絶対直接グーで殴ってやるわ……)

「あの外壁、『いちごクロス』みたいな強力な攻撃なら、突破できないにしても
 ……ヒビを入れるとか、ちょっとぐらい振動させるとかできるのかも知れないけど」

「……だとすると、今度は別の問題が発生するわ」

「そこまでやったら、主催者の手によって直接私達の頭を爆破……してくるでしょうねぇ。
 どこから見張られてるか、判ったもんじゃないし」

「まあ、参加者の誰かがこんな行動に出る事くらいは、あの二人の計算のうちなんでしょうけど」

「はあ……やっぱりこの頭の中の爆弾を何とかしなきゃダメよねぇ……」

「問題はそこなのよね……
 あの二人が言ってた、『吸血鬼や柱の男、妖怪に蓬莱人』も例外でないって言葉が気になるわ。
 『柱の男』とやらはともかく、吸血鬼……レミィが頭を吹っ飛ばされたぐらいで死ぬはずないもの」

「レミィって、アンタのお友達の吸血鬼の、レミリアちゃんね?
 吸血鬼って、心臓に白木の杭を打ち込むくらいで殺せるんじゃなかった?」

「レミィは『コウモリ一匹分の肉片』からでも再生できるって言ってたわ。私は試したことはないけど。
 とにかく、私達の頭に仕込まれているのはただの爆弾じゃない可能性が高いわ」

「あるいは、頭に仕込まれているのは本当にただの爆薬だけど、
 レミリアってコの他、普段は並外れて頑丈なコたちが頭を爆破されただけで
 死ぬように弱体化されているか、ね。
 それはきっと、弾幕の破壊力が落ちたり、生身で飛べなくなったり、
 私達の能力が低下している原因とも関係があるはずよ」


153 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 20:59:03 2E9AlI1w0
「……だとすれば、それは『呪い』や『封印』の類かも知れないわね」

「おおっ。流石魔法使い。そういう素敵なワードがしれっと出てくるか。それも実に興味深いわね」

「『外界』じゃぁ殆どインチキかおとぎ話の世界なんだっけ、そういうの
 ……けど、それも何か違う気がするのよね。
 弾幕の威力が落ちてたり、ホウキ無しで飛べなくなってる以外は、
 特に体調が悪いってわけじゃないし」

「魔法使いの貴女なら、そういうの分かるものなの?」

「全然。『呪い』とか『封印』っていっても千差万別だし。
 今の段階じゃあ情報が少なすぎて何ともいえないわね。
 貴女の身体も……特におかしい所とか無いでしょ」

「そうね……特に異常は感じないけど。
 ねえ、パチュリー?……私ちょっと洗面所使ってくるわ」

「良いけど……水道が生きてるとは限らないわよ」

「違う。ちょっと脱いでチェックしてくるのよ」

「何を」

「身体に呪いの刻印なり御札なりが無いかを、よ」

「……無駄だと思うけど」

「やってみなきゃ分からないでしょ」

そう言い残すと、夢美はランタンと手鏡を持って客室備え付けの洗面所に入っていった。
ドア越しに、布が擦れて床に落ちる音と、それから「げぇっ、太った!?」という声が聞こえてきた。
しばらくすると浴室の戸が開き、すき間から夢美の手が覗いた。


154 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 20:59:23 2E9AlI1w0
「……夢美?その手招きは何よ」

「私の身体には特に変わった所は無かったわ。
 ……念のため、貴女の身体も調べるわよ」

「……自分でやる。あんたは出て」

「ちぇ〜」

「服は着る!!」

数分後、再び服を着た夢美は不満そうな様子で洗面所から現れた。
夢美から手鏡を受け取ったパチュリーが入れ替わり、洗面所で服を脱いで身体のチェックを行ったが……
特段、身体に異常は無い様子だった。

「……やっぱり駄目だったわ」

「そうね。……魔法使いの外見って本当に人間と『どこも』変わらないのね」

「……ええ。こうなったら、永遠亭にでも行って身体の中を撮影してみるしか無いのかしらね……
 ……っておい、ちょっと待て。今、不自然な発言しなかったか、おい」

「不自然な発言?」

「人間と『どこも』変わらない、ってアンタ!さっき洗面所ノゾいてたでしょ!?」

「そんなことしないわよ……この手鏡、私が変身させた『女教皇』だから。
 ノゾきなんかしなくても、スタンドの視覚で貴女の身体は隅々までチェック済み……
 って、パチュリー!?そんな恐い顔して椅子を振り上げて、何をする気よ!?」

「…………………………」

「お、落ち着きなさい、パチュリー!『素敵』を数えて落ち着くの……」


155 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 20:59:45 2E9AlI1w0
        ボ 
          カ
            ッ
              !!

              ボ 
            カ
           ッ
         !!

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

「…………ごめんなさい」

岡崎夢美は、頭に生えた雪ダルマのようなたんこぶから『プスプス』と煙を上げながら、
パチュリーに深々を頭を下げていた。

「わか、ゴホッ、れば、ゲホッ、いい…ッ…のよッ」

そしてパチュリーは、急に暴れて舞い上がったホコリの直撃を喉に受け、
青息吐息の様相を呈していた。

廃ホテルの一室を気まずい空気が流れていた。
ろくに言葉を発することができずにむせ返る目の前の喘息患者に、私は何と声を掛ければ良いのか。
神経の図太さを誇る夢美もこれにはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ反省していた。

舞い上がったホコリが収まり、パチュリーの息遣いがようやく落ち着き始めた所で
待ちかねたように、夢美が提案した。

「……パチュリー、一応、出来る範囲で体内も探ってみる?
 この『女教皇』を小さなビー玉か何かに変えて飲み込めば、あとはスタンドの視覚で食道・胃腸の中を探れると思う」

「………………」

「まあ、体調も悪いみたいだし、今、無理にとは言わないわ……私から試してみる」

「いえ、私が先にやるわ……DISC、貸して……」

そう言ってパチュリーは夢美の額から引きぬいたDISCを自分の頭に押し込むと
現れたスタンドを小さなガラス球に変え、丸薬でも飲むかのように水と一緒にして飲み込んだ。


156 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:00:06 2E9AlI1w0
「パチュリー、どう?」

「ん?んー……真っ暗でよく分からない……ホタルじゃあるまいし、お腹の中に光が届くわけないじゃない。
 うっかりしてた。ちょっと考えれば分かることだったわ」

「……あ!スタンドを豆電球に化けさせてみたら?知ってるでしょ、豆電球」

「……なるほど……あっ、視界が明るくなった。見える見える」

「…………!」

「何よ、夢美。……また、ヘンなこと考えてる?」

「パチュリー、今『胃』に入った所?」

「よく分かるわね」

「光が強すぎてパチュリーの身体から透けてる」

「なにそれ恥ずかしい……この強さならどう?」

「……見えない」

「何故ガッカリする」


157 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:00:23 2E9AlI1w0
「……それで、どう?何か分かりそう?」

「……うんにゃ、駄目ね。これといって何かされたような様子は無いわ」

「『出口』に着いたわ。……次、あんたの番よ」

と、パチュリーはDISCを夢美に渡した。
夢美はパチュリーと同じ手順で、スタンドの『胃カメラ』を水と一緒に口に含み、

「あ……!」

「何よ、パチュリー?」

「い、いや、洗わなくて良いのかな、って……」

「口に含んだこのタイミングで言う!?……うう、もう飲み込んじゃった……」

「……ごめん」

「まあ、一回解除した『スタンド』を再発動させてるから、汚れとかが残るわけじゃないんだけどぉー。
 ……単なる『気分の問題』なんだけどぉー」

「……ホントごめん」

その後、微妙に気まずい空気が流れる中、夢美の腸内検診もつつがなく進んだ。


158 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:00:41 2E9AlI1w0
「……で、夢美、どうだった?」

「大学の健康診断で見た映像と同じだった……お手上げね」

「やっぱり。
 ……ん?外界じゃ『女教皇』みたいな『スタンド』は珍しくないの?」

「いや、さっきも言ったけど『スタンド』なんて私の世界でも見たこと無いって。
 ……胃腸の中を撮影する機械ならあるけど」

「さっき見せてくれた『重機』や『自動車』といい、やっぱり外界の『魔法』って進んでるのね」

「『魔法』じゃない。……『科学』よ」

「呼び名だけで、本質は大して変わりないように思えるけど」

「違うのよ……絶対に違う」

「そうなの?……そんな怖い顔して否定しなくても」


159 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:01:04 2E9AlI1w0
「……それで夢美、これからどうしようか?」

「なんというか、爆弾みたいな
 実体のあるモノが埋め込まれているって線は限りなく薄くなってきたわね。
 ……私達の身体、外科手術の跡はどこにも無かったし」

「となると、私達を縛っているのはやっぱり『呪い』か……あるいは『スタンド』あるいは『三尸』みたいな
 霊的な存在なのかも。それだったら、肉体をすり抜けて入り込む事も可能ね」

「『サンシ』……?ああ、人の体内に棲んでお釈迦様に告げ口に行く虫のことね
 ……まあ何が埋め込まれているにせよ、お腹でも頭でも『切って』みないと分からんか」

「軽く言うわね……誰を『切る』のよ?」

「死体を拾ってくるか……あるいは生きてるサンプルが必要なら、
 殺し合いに乗って襲いかかってきた奴を生け捕りにして……」

「……怖いわー、人間怖いわー」

「襲ってこない奴は『泣く泣く』見逃すって言ってるのよ、とっても有情じゃない」

「……『泣く泣く』なのね。……で、私達の身体に本当に何もされていないとしたら……」

「この会場……『幻想郷』全体に、私達の力を制限して頭を爆発させるような『何か』が存在する
 ……ってことかしらね?」

「……だとすればその『何か』は、私達を閉じ込めてる『外壁』とセットの可能性が高いわね」

「で、その『外壁』の元々の要と言えば……」


160 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:01:23 2E9AlI1w0
「「F−5エリア、博麗神社」」

「どう考えても怪しいわ」

「真っ先に禁止エリアに指定されてる場所だし。
 ……元々幻想郷に迷い込んだ人はここから外界に出ることになってるし」

「禁止エリア、10分間なら頭を爆発させられずに入っていられるわ。一回調べてみる?
 F−4エリアの南の端からなら……この地図だと、400m程の距離ね。
 この『魔梨沙の箒』に乗って全速力で往復すれば、数分くらいは調べる時間があると思う」

「主催者が直接私達に手を下さなければ、の話だけどね。
 ……夢美、博麗神社を調べるのはまだ危険すぎるわ。」

「……そうね。……だけどこの場合、私達が『危険』だと感じる行為は、
 それだけ『真実』に近いとも言えるわ。
 いずれあいつらの目をかいくぐって行動を起こさないといけない時が来る」

「……うん。まず、あいつらが私達をどうやって見張っているかも知らないと」

「それと、もう一つ!……会場の外部と連絡を取ることはできないかしら?
 さっきの私達みたいに弾幕とかで派手にドンパチやってたら、
 ここがいくら山奥でも誰か気づくと思うんだけど」

「うーん、元々幻想郷を囲っていた博麗大結界が外から見えないようになっていたから
 可能性はかなり低いと思うんだけど……」

「それでも、何らかの方法で外部に信号を送れないか試してみましょうよ。
 私なんて仮にも『教授』って身分で通ってる訳だし、急にいなくなって連絡がとれなくなったら
 捜索願くらいは出てるはずだわ。
 ……幻想郷の外の『私の世界』に連絡が取れれば、きっとちゆりが助けに来てくれるはず」

「ちゆり?」

「私の助手よ。……『船』の操縦、少しは上達してくれてるといいんだけど」


161 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:01:39 2E9AlI1w0
「助手か……。そういえば、小悪魔に妹様は、どこに行ったのかしらね?
 名簿には名前が無いし……」

「貴女の助手だっていうコと、レミリアちゃんの妹さんのフランドールちゃんね?」

「ええ。この殺し合いに参加させられなくて幸運と言うべきか、それとも……」

「……ねえ、パチュリー?その二人も、紅魔館の家族、つまり幻想郷の住民なのよね?」

「『この会場にいないということは、彼女たちは既に……』なんて、そういうこと言うのは止してよね。
 ……今は、私達が生き残ることだけを考えなきゃいけないのよ」

「そうじゃないわ。この会場は、本当に私や貴女の知る『幻想郷』なのかしら?
 ……なんて事を思っただけよ」

「……確かに、私達が今いる石造りの建物や、他にも幻想郷に無かった建物がいくつも配置されてるわね。
 けど、建物がいきなり現れること自体は、幻想郷じゃそこまで珍しいことじゃないわ。
 あの二人なら、建物をいくつも呼び出すことも不可能じゃない……とは思うけど」

「うーん、そこじゃなくて……『ポンペイ』とか、『コロッセオ』とか、
 イタリアの有名な遺跡がそこかしこに配置されてるのは気になるけど……。
 ほら、なんというか……そう、静かすぎるのよ!
 こんな自然豊かな山奥なのに、鳥や虫の鳴き声も聞こえないなんて、不自然じゃないかしら?」

「そういえば……そうね。私達以外の気配は全く感じなかったわ。私達が元々いた『幻想郷』から、
 参加者以外の人妖はおろか、小さな虫まで含む全ての動物を排除し尽くすのは確かに考えにくいわね……。
 ……するとこの会場は、仙人が新しく創りだした異空間……『仙界』に似た空間なのかしら」

「仙人!?……知り合いにいるの?仙人ってそんなことができるの?」


162 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:01:58 2E9AlI1w0
「あー、もう、あんたに新しい情報教えるとすぐにコレだから……。
 直接会ったことはないけど、豊聡耳神子と、霍青娥の二人が仙人っていう存在よ。
 元ある空間を広げることなら、うちの咲夜とか、鈴仙っていう妖怪兎にもできるけどね。
 ……あとは、スキマ妖怪の八雲紫かしらね、異空間を創るなんて芸当ができそうなのは。
 もしここが造られた空間だとしたら、あの主催者が仙人やスキマ妖怪に似た能力を持っているか、
 ……参加者でないもう一人の仙人、物部布都に無理やり協力させているか、かしら」

「あるいは『スタンド』能力の一種って可能性もあるけどね。
 ……とにかく、行動方針はちょっとだけ見えてきた気がするわ」

「ええ。人探しね。
 会場の『外壁』のことについて調べるなら、霊夢か八雲紫、あるいは八雲藍を連れて行くといいと思う。
 博麗神社について調べる場合も、彼女たちを連れて行くべきね。
 橙って子はちょっと頼りないかしら。
 あとは神子に聞けば、この会場が仙界かどうかの判別はできるかもしれない」

「青娥って人には会わないの?」

「なんというか……あの女からは余り良い噂を聞かないのよね。
 ……夢美と同じで、自分の好奇心の探求のためには手段を選ばないところがあるみたい。
 貴女が『人間』を辞めたら、あんな感じになるんじゃないかしら。
 とにかく、彼女には近づかない方が良いわ」

「……さらっと酷い事を」


163 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:02:15 2E9AlI1w0
「それから体内を調べるなら、永琳に協力を仰ぐと良いわね。
 本業は薬師だけど、医者としての腕前も確かだって聞くわ。
 スキマ妖怪の紫なら、スキマを使って体内も簡単に調べられそうだけど」

「貴女、家から余り出ないっていう割には結構顔が広いのね」

「咲夜やレミィからの伝聞だったり、新聞とかで読んで知ってるってだけで、
 面識のある人ばかりってわけじゃないけど。まあ名簿の半分以上は顔と名前が一致するわね」

「ふーん。……まあ良いわ。そろそろ出発しましょうか。
 ……魔法についての話があまりできなかったのは残念だけど」

「待って。……まだ、メモが取れてない」

「貴女もマメねぇ」

「……私達も、いつ襲われて死ぬか分からないもの。……記録だけは残しておかなきゃ」

「簡単に死んでやる気は無いけどね、私も……貴女も」

「私も?」

「ええ、私の理論を認めてくれなかった学会に叩きつけてやるための、貴重なサンプルだもの」

「結局そういう扱いなのね、私……」


164 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:03:18 2E9AlI1w0
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「……『スタンド』に、『幻想郷』、そして『結界』……か」

サンモリッツ廃ホテル屋外、パチュリーと夢美が情報交換を行っていた部屋の外壁に、
長髪の大男がベッタリと張り付いていた。
参加者の一人である闇の一族・カーズが
夢美とパチュリーのやりとりの一部始終を耳にしていたのだ。

「二人の反応が遠ざかっていく……部屋を出て、ホテルを離れるつもりか……」

闇の一族の並外れて鋭敏な触覚をもって、
石造りの壁越しに二人の体温を感知するカーズ。

「このカーズには全く気づいていない様子。不意を討てば容易く仕留められるだろうが……」

「……ここは敢えて見逃す」

カーズの選択は、このまたとない殺害のチャンスを敢えて手放すことだった。

「あの二人は、今はまだ泳がせておいたほうが得策だろうな。
 ……小柄な方、『パチュリー』とやらが、メモを取っていた。奴らの得た情報は後から『回収』できる」

先ほど二名の参加者を迷わず殺害していたカーズが、この様な判断を取ったのにはもちろん理由がある。

「先ほどこのカーズの身体を内部までくまなく調べてみたが……特に異常を見つけることはできなかった。
 頭蓋骨も切り開いてみたが……外観では何も判らなかった。
 脳の内部は……忌々しい、『脳を破壊すると柱の男でも死ぬ』らしい、ロクに手を付けられなかった。
 脳の仕組みについては、地上の誰よりも詳しいこのカーズが、だ……!」

要するに、最終的に主催者の2名に復讐する為に必要な……
主催者がスイッチを握っているという脳内の爆弾の解除方法は、カーズにも判らないのであった。


165 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:03:39 2E9AlI1w0
「……虫ケラと侮っていた人間どもが、
 2000年の間に遂に我らを完全に遊びの駒にする力を得るとはな……。
 案外、『ワムウ』や『エシディシ』も、本当に蘇っているのかも知れん。
 フフ……探しまわってみるのも一興か。」

「ともかく、あの夢美にパチュリーとかいう小娘共はこのカーズも知らぬ知識を持っている。
 『スタンドDISC』とやらを奪えぬのは少々惜しいが……せいぜい働いてもらうことにするか。
 あとは、このカーズが直接『紅魔館』とやらに赴けば更に情報を得られるかも知れんな……。
 参加者の脳内を生きたまま調べてみる必要もある……もし調べることができたら、
 一度直接情報交換を持ちかけてみるか……?」

こうしてカーズが今後の行動方針を思案していると、大きな扉の開く音が聞こえた。
ホテルの玄関から姿を現す二人。

「期待しているぞ……パチュリー・ノーレッジ、
 そして、人間の『異端者』・岡崎夢美よ」

ホテルの正門をくぐる彼女たちの背中を見送りながら、カーズはそう呟いていた。


166 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:04:19 2E9AlI1w0
【E−1 サンモリッツ廃ホテル正門/黎明】
【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
「状態」:疲労(小)、魔力消費(小)、頬に弾幕による掠り傷(応急処置済み)
「装備」:なし
「道具」:霧雨魔理沙の箒、基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典・確認済み)、考察メモ
「思考・状況」
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法を探す。
2:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
3:岡崎夢美の知識に興味。
「備考」
※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。
※喘息の状態はいつもどおりです。

【岡崎夢美@東方夢時空】
「状態」:疲労(小)、科学力消費(中)
「装備」:スタンドDISC『女教皇(ハイプリエステス)』
「道具」:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典・確認済み)
「思考・状況」
基本行動方針:『素敵』ではないバトルロワイヤルを打破し、自分の世界に帰ったらミミちゃんによる鉄槌を下す。
パチュリーを自分の世界へお持ち帰りする。
1:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法、外部と連絡を取る方法を探す。
2:パチュリーから魔法を教わり、魔法を習得したい。
3:パチュリーから話を聞いた神や妖怪に興味。
4:霧雨魔理沙、博麗霊夢って、あっちの世界で会った奴だったっけ?
5:私の大学の学生に宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンっていたかしら?
「備考」
※参戦時期は東方夢時空終了後にもう一度学会に発表して、つまみ出された直後です。
※霧雨魔理沙、博麗霊夢に関しての記憶が少々曖昧になっています、きっかけがあれば何か思い出すかもしれません。
※宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンとの面識はあるかもしれません。
※岡崎夢美はただの人間ですが、本人曰く『科学力』又は『疑似魔法』を使うことで弾幕を生み出すことができます。


167 : ゆめみみっくす ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:04:46 2E9AlI1w0
【E−1 サンモリッツ廃ホテル敷地内/黎明】
【カーズ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(小)
[装備]:狙撃銃の予備弾薬(7発)
[道具]:基本支給品×3
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。最終的に荒木と太田を始末。
1:どんな手を使ってでも勝ち残る。
2:この空間及び主催者に関しての情報を集める。そのために、夢美とパチュリーはしばらく泳がせておく。
  時期が来たら、パチュリーの持っているであろうメモを『回収』する。
3:ワムウとエシディシ、それにあのシーザーという小僧の名が何故記載されている…?
  主催者の力をもってすれば死者の蘇生も可能ということか?
4:魔法等に関する知識を得たい。『紅魔館』に行けば資料が見つかるだろうか。
5:生きた参加者の脳を解剖して、分析してみたい。
[備考]
※参戦時期はワムウが風になった直後です。
※ワムウとエシディシ、シーザーの生存に関しては半信半疑です。
※ナズーリンとタルカスのデイパックはカーズに回収されました。
※彼がどこへ向かうかは後の書き手さんにお任せします。

支給品紹介
<スタンドDISC『ハイプリエステス』@ジョジョ 第3部>
【破壊力:C/スピード:B/射程距離:A(200m超)→B(20〜30m程度)/持続力:A/精密動作性:D/成長性:D】
パチュリー・ノーレッジに支給。
アフリカ原住民風マスクのような毛むくじゃらの顔面に、両腕が生えたようなデザインのスタンド。
鉱物に由来する物体、金属・ガラス・プラスチック等に化ける能力を持つ。
作中ではコーヒーカップ、カミソリ、潜水艦の計器、照明器具、水中銃などに化けており、
一旦化けてしまうと『スタープラチナ』の視力でも判別は困難。
本体から離れた状態では、鋼鉄を切り裂く両手のツメで攻撃する。
本体から数メートルの距離に近づくとスタンドパワーが増し、
人間を何人も丸呑みする巨大な岩の顔面にさえ変身可能。
格闘ゲーム『未来への遺産』では、自動車、重機、鉄骨、回転ノコギリなどに変身して攻撃する姿も見られる。
このバトルロワイアルでは、原作で200mを超えていた射程距離が20〜30m程度まで低下させられている。
以下の問題点については後の書き手さんにお任せします。
・物体に化けた『ハイプリエステス』は、スタンド以外で破壊可能か?
 (アブドゥルがハンドルに化けた『ハイプリエステス』を素手で触れているシーン等があるため、接触は可能)
・物体に化けた『ハイプリエステス』が、本体の射程外に移動させられた際の扱い
 (能力が強制的に解除させられて、姿を消すのか?
  本体からの操作を受け付けなくなるだけで、物体は残るのか?など)


168 : ◆.OuhWp0KOo :2014/01/19(日) 21:05:21 2E9AlI1w0
以上で投下を終了します。


169 : 名無しさん :2014/01/19(日) 21:27:37 Na9zz2iE0
投下乙です。このロワ初の考察話ですね、科学者×魔法使いの
本領発揮で今後が気になります。

個人的にボカッ!!、ボカッ!!の再現がかなり面白かったですwww


170 : 名無しさん :2014/01/19(日) 21:40:41 k3cGcAqU0
投下乙です
これは良い考察要因。漫才してるけどカーズ様のお眼鏡にかなうくらい優秀なコンビになりそうだ


171 : 名無しさん :2014/01/19(日) 22:02:48 0B34sIU20
投下乙です!
何気にジョジョ東方初の本格的な考察話
魔法使いに教授と互いに知性的なだけあって中々良い所まで進んでいたなぁ
絶妙な漫才っぷりも面白かったw
虎視眈々と機を伺うカーズ様の動きも気になる…


172 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/19(日) 22:20:52 KIovpLmg0
投下乙です!
二人の漫才が面白すぎて終始ニヤニヤしてました。
互いの掛け合いにいつ要らぬ横槍(カーズ様)が入るか少しハラハラしてたけどとりあえず無事で一安心…かな?
たまにこういうユルい話が入るとホッとしますね、面白かったです。

このまま蓬莱山輝夜、姫海棠はたての2名予約します


173 : 名無しさん :2014/01/19(日) 23:26:00 FhdmVA5c0
投下乙です。

カーズ様のお眼鏡に叶うとは、やったね!パチュリーちゃんに夢美ちゃん!これでまた寿命が延びるよ!


174 : ◆YF//rpC0lk :2014/01/19(日) 23:51:54 D4NdRoaw0
>>172
あれ、これって先に放送した方がいいんでしょうか……
>蓬莱山輝夜


175 : 名無しさん :2014/01/19(日) 23:56:14 tz.PzjFk0
放送はさすがに早い。多分マジックミラー号でジャンプ読んでる輝夜をはたてが目撃する話だと思う


176 : 名無しさん :2014/01/20(月) 00:09:07 iJ8T2XNk0
>>174
時間軸的にあまり無茶や矛盾は無いように作るつもりですが、ちょっと冒険気分で早朝以降の話を書こうと思いまして…
「いや流石に進め過ぎでは」などの意見があれば少し先送りにします。

放送に関してあまり突っ込んだ内容は入れないつもりですが少し質問があります。
「禁止エリアは最初に書いた方が好きに配置しても良い」という認識でよろしいのでしょうか?(設定する予定は今の所ありませんが)


177 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/20(月) 00:10:34 iJ8T2XNk0
すみません、取り付け忘れました


178 : 名無しさん :2014/01/20(月) 00:44:16 AgQ0xafo0
矛盾がなければ何でも許されるわけじゃありませんよ。何事も順序が大事です


179 : 名無しさん :2014/01/20(月) 01:01:53 eH4l11Ts0
じゃけん放送しましょうね〜


180 : 名無しさん :2014/01/20(月) 01:18:31 gULiEb8s0
全員を一通り書き終えてからじゃダメなんですかね…


181 : 名無しさん :2014/01/20(月) 02:40:55 Q8W4PB6.0
こいしとプッチも登場話以来まだ動きは無いな


182 : 名無しさん :2014/01/20(月) 03:25:49 KI4DSNsY0
>>181
一回予約は来てたんだけどね


183 : 名無しさん :2014/01/20(月) 03:53:17 KpMVW8MQ0
ちょっと気になったのですが
>(雹の上に残った跡をよォーく〜
>その内の1人…こいつは日本の〜
>まだ推測だが…ここに〜
小傘が歩いているように見えるのですが、小傘は気絶中だったような・・・。


184 : 名無しさん :2014/01/20(月) 10:14:01 KI4DSNsY0
>>183
>>99のレスですね。
小傘の足跡は、到着するまでのものしか無いって書かれてますね


185 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/20(月) 14:55:53 iY/2bbSE0
>>183
ご指摘ありがとうございます。
確かにこれだと小傘が雹攻撃の後にも歩き回ってるように見えますね。これから訂正版を投下します。


186 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/20(月) 14:56:58 iY/2bbSE0
>>96
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

プロシュートと早苗が遺跡の東側に向かって行く内に二人は『奇妙』な事に気が付いてきた。
東に近付くにつれて、地に『雹』が積もっているのだ。
当然ながら今の今までプロシュート達はそんな天気に出会いはしなかった。ずっと満月が夜を照らしていたのだ。
という事はつまりこの雹はこの辺り一帯のみ、局地的に降り続けていた事になる。そんな事があり得るのだろうか?


「プロシュートさん…。この雹、一体何なのでしょうか?」

「…この雹が止んでからどうやらだいぶ時間が経っているみてーだな。明らかに『人為的』な現象だ。オメーの知り合いに天候でも操れる奴が居るのか?」

「…えと、一応私でも天気は操れたり出来ますけど……かなり頑張れば。…………あっ!わわわ私じゃありませんからねッ!?」

「誰もンなこた言ってねーだろ。…とすれば、これは間違いなく『スタンド使い』の仕業だな。おおかた『天候を操る能力』ってとこか?」

「ええ!?天候なんてそんな簡単に操れるもんじゃないですよ!そんな奇跡をヒョイヒョイ行われたらウチの神社の商売だってあがったりです!スタンド使いって結構フザけた集団なんですねーッ」


あくまで予想だというのに真性スタンド使いのプロシュートの真横で中々の毒舌っぷりを発揮した早苗は勝手にプリプリ怒っている。
早苗の意外にも図太い性格を発見したプロシュートは、彼女の失礼な発言に気を悪くする事なく更に奥へと進む。
やがて着いたのは石造りの大通り。この場所は特に雹が降り積もっていた。雹の発生地点はここだと見て間違いないだろう。

いや、雹だけではない。


「…どうやらついさっきまでここで熱いファイトが行われてたみてーだな。足元は冷てーがよ」


辿り着いた大通りはかなり凄惨な風景と化していた。
降り積もった雹が朝星の光に反射して解けゆく様は、春が訪れ雪山を自然に解かしていく様なある意味幻想的な風景にも見える。
だがあちこちの壁は破壊され、地面には大量の何かの残骸が撒き散らかされており、しかも爆発痕まで残っていた。
完全に何者かがこの場所で戦闘していた証拠だ。プロシュートはより一層辺りの警戒を強めながら慎重に調査していく。

そんな中、早苗がバラ撒かれていた残骸に近付いてそっと手に取る。よく見るとそれはボロボロの『傘』の様にも見えた。

「これって…あの『唐傘妖怪』の子の…?」

「知っているのか?早苗」

「…以前、少しだけ…。この傘がこんなにボロボロだという事は、あの子は…」


プロシュートは辺りを見回す。
早苗がその傘の妖怪と仲が良かったかのは知らないが、少なくともここにそいつの『死体』は見当たらない。その唐傘妖怪が暴れたという可能性もあり得る。
今必要なのはここで何が起こったのかという情報。プロシュートは残骸を手に取ったまま呆然とする早苗に聞く。

「その『唐傘妖怪』の特徴は」

「…水色の短い髪で、確か左右の眼の色が違っててスカートと下駄を履いて…あと、大きな紫色の傘を持った人懐っこい子です…」

(下駄…確か日本の歩きづれー履物だったな)


さほど興味を示さない風にプロシュートは道を進むと、そこで彼は一際目立つ風景を目にした。
通りの一角にはこの場には不釣合いなほどに美しく鮮やかに咲き乱れた花々が、まるで一種のガーデンの様に存在している。
そしてその花壇の中心で花達に見守られるように横たわっている人影が、ひとり。
二人が恐る恐る近付いてみると、『彼女』は眠っているように目を瞑り、両手を合わせて組んでいる。しかし、決して眠っているのではない。


187 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/20(月) 15:00:09 iY/2bbSE0
>>99
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

早苗が美鈴の死に哀しむ間、プロシュートは闘いの現場をずっと検証していた。
『天候を操るスタンド使い』とあの『中華風の女』が戦い、そして女のほうが敗北した…?
早苗の言っていた『唐傘妖怪』という奴も気になる。あるいは、中華の女を殺したのはその妖怪の可能性もある。

更に気になるのがこの雹の上にくっきり残った『足跡』。自分達の足跡と混ざらぬ様に注意深く観察してみれば、どうやらこの場には『3つ』の足跡が確認できる。

数時間前にこの場で少なくとも3人以上の人間が闘った事は事実だと推理しても良いだろう。プロシュートはそう結論付けた。
ギャングの暗殺チームの一人として、今まで数多の戦いを乗り越えてきたプロシュートの経験がここでも活きた。
戦闘に加えてチームの参謀的役割もこなしていた彼はいつも冷静に状況を分析し、仲間の危機を何度も救って来た男なのだ。
くだらない事ですぐ熱くなる仕事仲間のギアッチョをなだめるのはいつもプロシュートの役目でもある。
そんな百戦錬磨の男がこんな現場を目にしたら、まず冷静に物事を見極める事が何よりの重要事項だ。


そして、彼はこの場のある『ひとつの足跡』に注目した。


(この足跡…『女』の物の様だが、これだけ随分『新しい』な…。精々『20分程前』に付けられた物だ)


―――オレ達が来る直前に『何者か』がこの場を訪れた…?


(コイツはどうやら、ここで『戦っていた』奴らの1人ではなさそうだぞ。他の足跡は氷が解けない内に踏み固まっているのに対して、コイツだけ『氷が解けだした後』に新しく踏まれている)

プロシュートは今度は足跡の向かう方向に重点を置いてみる。これも他とは明らかに違う点が見つかった。


(雹の上に残った跡をよォーく観察すれば分かるぜ。どうやら…まず2人の人間がこの場を離れて行った様だ。
足跡から推測すれば1人は女物のブーツ。男女2人がここから出て行ったようだが…例の『下駄』の足跡が無いな。…『怪我』を負って『背負われた』…?
まだ推測だが…ここにそいつの死体と足跡が無い以上、『唐傘妖怪』が男女2人に背負われて行ったのか。ここに軽く引き摺った跡がある。そしてそのまま3人は『南』へ向かって遺跡を出た。男女2人と唐傘妖怪は『3人組』だ)


(あの『美鈴』とかいう女と同じ靴跡も…無いか。足跡を残す間も無く逝っちまったらしい。傷が身体に無いのは気になるが…それは置いておくか。
重要なのは『襲撃者』が誰かだ。この3人組が襲撃者で、中華女を殺して去ったのか?…いや、殺した相手をわざわざ『弔う』様に花で飾り付ける奴はいねー。
恐らくこの3人と中華女も仲間だ。襲撃者を撃退して南へ向かった。ならば3人あるいは中華女の内の誰かが『天候を操る能力者』か?
…それも考えられるが、多分違う。襲撃者の方が天候を操る奴で、敗北して逃げ去った。襲撃者が天候を操れるなら、雹を降らせて足止めできるからな。降らせながら逃げたのなら、雹の上に足跡は付かねー)


188 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/20(月) 15:01:28 iY/2bbSE0
>>100
(チッ……ブチャラティどものチームにいるアバッキオとかの『過去を再現する能力』とやらのスタンドDISCがもしあればこう悩む必要はねーんだが、そんな都合良いDISCがあるハズもねーか)

このような状況下で絶対的に有利に立ち回れるであろうスタンド『ムーディ・ブルース』をこの時ばかりは羨ましながら舌打ちをついた。


そこまで考えついてプロシュートは改めて思考を整理する。


この場で確認できる足跡は『3人』。そして足跡の無い唐傘妖怪と襲撃者、中華女の分を足せばこの場には『6人』居たことになる。
6人中、まずは3人組がここから出て行った。足跡が2つなのは唐傘妖怪が背負われたからだ。

次に、残りの3人の内で足跡の無い襲撃者と中華女を除けば、残るは1人。さっきの『新しい足跡の女』だ。足跡の数も合う。


だが、何だコイツは…?


時間差で足跡が付いているところを見ると、ここでの戦闘には直接関わっていなかったみてーだが、何か『不自然』だ。
コイツの足跡はオレたちと同じ、西から入ってきてそして南へと抜けている。それもつい20分前にだ。

つまりオレと早苗が1時間前から遺跡西側で特訓していた近くをコイツは通り抜けてきた事になる。
オレ達に何も接触してこなかったのを見るあたり、オレ達に気付いていなかったのだろう。

そしてこの足跡は迷わずにあの、中華女の死体の方へ向かって伸びていた。
改めて今見ればあの死体の状態も、どこか不自然さを感じる。やけにあの場が『散らかり過ぎている』のだ。
この足跡の主が死体を発見し近付いたんだろうが、ただ死体に近付いた若しくは触れただけにしては、死体の周りにも摘み取った花が無造作に落ちている。落ち過ぎている。
おかげで花壇に横たわる死体の姿も目立って見える。だからプロシュート達は遠目にも花の中に誰か倒れている事がすぐに分かったのだ。


それはまるで『この死体を見つけて下さい』と言わんばかりの工作にも、プロシュートの目には見えた。


189 : ◆qSXL3X4ics :2014/01/20(月) 15:07:29 iY/2bbSE0
訂正版終了です。ご迷惑お掛けしました。

それと>>172の予約分ですが、
「放送話が投下されてない時点で朝の時間帯話を書けば輝夜と同じ視点になって読んでいけるかな」と思ったのですが
やはりまだ早いみたいですので予約は一旦破棄させてもらいます。色々な意見ありがとうございます。


190 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/21(火) 01:07:15 41kBzmRE0
藤原妹紅、宮古芳香、予約します。


191 : 名無しさん :2014/01/21(火) 01:13:06 qqUl8.is0
キョンシーなら死とは何か知ってるかもね


192 : 名無しさん :2014/01/21(火) 01:13:07 tXQJjJp60
おお早い。
さぁ、もこたん。ここは大事な時期だぞ。乗り越えるんだ。


193 : ◆n4C8df9rq6 :2014/01/21(火) 01:35:41 lbUOxWAc0
古明地こいし、エンリコ・プッチ、ディオ・ブランドー
予約します。


194 : 名無しさん :2014/01/21(火) 06:44:51 GLCPhbZg0
深夜組もどんどん予約されてきたね


195 : ◆AC7PxoR0JU :2014/01/24(金) 03:48:07 d74NUjrc0
上白沢慧音、封獣ぬえ、比那名居天子、東方仗助、吉良吉影
以上、5名を予約します。


196 : 名無しさん :2014/01/24(金) 13:08:34 Q1unz3460
吉良は早速静かに暮らせなさそうですねぇ…(震え声)


197 : 名無しさん :2014/01/24(金) 13:53:00 1majF8qg0
仗助の登場時期次第では秒殺バレだなw


198 : 名無しさん :2014/01/24(金) 17:03:40 rj7j08wk0
静かに暮らしたいと言って暮らせないのが吉良にお似合い


199 : ◆at2S1Rtf4A :2014/01/25(土) 01:39:43 jsZFIeBA0
予約の延長をお願いします。


200 : 名無しさん :2014/01/25(土) 20:15:17 T3vgNBsk0
一瞬でバレそうな予約にワロタww


201 : ◆.OuhWp0KOo :2014/01/28(火) 00:03:32 yrnI8B2w0
ワムウを予約します。


202 : 名無しさん :2014/01/28(火) 00:14:58 4HbZb01Y0
どんどん予約数増えてきて楽しみな限りですなあ

これで現在予約中除けば深夜組はジョルノ一味とこーりいんの4名だけかな?


203 : ◆n4C8df9rq6 :2014/01/28(火) 09:28:47 dsX8VydE0
延長します。


204 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/01/28(火) 19:45:52 lXg60yDg0
予約延長をお願い致します。


205 : 名無しさん :2014/01/29(水) 00:37:46 b6.Eu9YYO
この予約&延長ラッシュ、いつか見た状況だ…w


206 : 名無しさん :2014/01/29(水) 01:15:26 BeSYDA3s0
未来を一巡して『新しい宇宙』が始まったッ!
運命も同じ様に繰り返されるッ!


207 : ◆AC7PxoR0JU :2014/01/30(木) 03:24:43 9GcEZxr20
すみません予約延長お願いします


208 : 名無しさん :2014/01/31(金) 01:03:41 W2947joA0
>>202橙ジョセフもじゃなかったっけ?


209 : 名無しさん :2014/01/31(金) 01:09:47 m.v/HwRo0
その二人は黎明だね


210 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/01(土) 23:02:57 kqgAdWM.0
申し訳ありませんが予約を一旦破棄します。

厚かましいかもしれませんが、最後まで書き切りたいので
明日予約がなかったら再度予約したいと思います。

2週間のキャラ拘束すみませんでした。


211 : 名無しさん :2014/02/01(土) 23:05:31 UFgxC5L20
こ…この流れはいつぞやの…


212 : 名無しさん :2014/02/01(土) 23:26:40 dzKoTA560
覚悟することは幸福だぞエンポリオーッ!


213 : 名無しさん :2014/02/01(土) 23:31:18 sKysU8/20
「覚悟こそ幸福」だと言う事を思い出してくれ!


214 : 名無しさん :2014/02/02(日) 11:50:52 E/RdnYrYO
なら、あんたに変えてもらおう。
書き手なら、この運命を変えられるんだろ?


215 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:41:07 gGuLO4EI0
>>214
アイヨー

…という訳で、>>201の予約を投下します。


216 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:41:39 gGuLO4EI0
鬱蒼とした樹林を突き抜け、そびえ立つ鉄の塔。
その頂で夜風に晒されるマッチョ・ボディ。
ワムウは今、鉄塔の頂上にいた。
地図を片手に直立し、会場をぐるりと見渡していた。
満月とはいえ、今は真夜中。
ロクに街灯も無い幻想郷の夜の大地は、ほとんど『真っ黒』といって良かった。
僅かに得られる会場の地形の情報は、支給された地図の大雑把な地形図を上回る程のものでは無かった。
この程度の明るさでは地上を歩く人の姿など、到底視認することができない。

だが、そんな黒の大地だからこそ、ひときわ目立つものがあった。

(北の方角に赤い光……何かが燃えているのか?
 位置は……C−3エリア、霧の湖の南岸か……ここから北に約1キロメートル……!
 炎が水面を反射して……水の上を燃えている、だと……油……いや、人間の作った武器か!)

『火』。
この暗さだからこそ、『戦火』が見える。
鉄塔の頂上、約40mの高さから会場を見渡せば、ワムウの求める闘いのありかが一目で分かる。
もちろん火のない所でも数々の闘いが繰り広げられてはいるが
何のアテも無く探しまわるよりは余程効率が良い。ワムウはそう判断した。


217 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:42:09 gGuLO4EI0
二人の主の片割れ、カーズ様の『光』の流法の光は流石にここから見えるとは思っていないが、
もう片割れのエシディシ様は草木を焼くほどの高温の血液……『火』の扱いを得意としている。
エシディシ様が戦って周囲の物を燃やせば、ここからそれが見えるかも知れない。

(北東の方角……D−4エリアにも『火』が!
 ……なんだ、さっきの俺とあの小娘の闘いの跡だな……この森の湿気のせいか、既に鎮火しつつあるが……)

(E−2エリア、大蝦蟇の池とやらの傍でも何やらくすぶっているな……。
 ん?……何だ、アレは?『自動車』とやらの明かりにも見えるが……あんなに派手な色遣いだったか?)

(ムウ……!さらに遠方に、赤白い光……地図でいう、F−2エリア……
 あれは……明らかに『火』ではない……!
 だが、『電気』とやらの光とも、翼の生えた小娘の『小さな太陽』とも異質……!)

(北西は……雲が出ているせいか、よく見えんな……)

(南西の方角……B−5エリアの森の中でも戦闘があったようだ……今は残り火がくすぶっているだけだが)

「北東か」

会場を一通り見回し、ワムウは次の行き先をそう結論づけた。
一番多くの『火』が見えたから、というごくシンプルな理由だ。
このまましばらく会場の様子を見ていようという気は、さらさら無かった。
鉄塔を一気に飛び降り、北西に向かって走りだすワムウ。
昇り降りの際、鉄塔に人間の生活に必要な器具が一通り揃っているのが視界に映ったが、気にも留まらなかった。


218 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:42:43 gGuLO4EI0
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

ワムウが最初の目的地と定めた大蝦蟇の池に到着したのは、それから20分もしない間のことだった。
鉄塔からここまでの直線距離はおよそ3km。
もちろん移動経路は一直線ではないし、無粋な不意討ちを避けるために周囲を警戒しながらの移動だったが、
それでも駆け足で移動すればエリアをまたいだ移動でもさほど時間は掛からない。
1マス1km、6×6マスのこの会場、何かを探して回るには少々広すぎるが、
目的地を決めて移動する分にはそこまで広い訳ではない。
『柱の男』たるワムウの身体能力があればなおさらだ。

大蝦蟇の池のほとりで、ワムウは二人の亡骸を発見した。

「屍生人、と娘か」

屍生人の方は、ワムウをも上回る体格の、鎧兜を身に付けた戦士である。
首を落とされた上、胴体も鎧ごと深々と切り裂かれ、全身が焼けただれている。
おまけに近くに転がっていた首の左目は潰れていた。

娘の方は灰色の服を着た、小柄な人間の女の様に見えた。
『人間』なら歳は15を超えるか超えないか、だろうか。
屍生人の方に比べると外傷は少ない。頭に穴が空き、そこから血液や脳漿が吹き出した形跡がある。
……人間の使う『銃』のような武器を頭に受けて死んだのだろう。

慎重に屍生人の方に近づき、死体を検分するワムウ。
すぐに気付いた。


219 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:43:10 gGuLO4EI0
「この傷口……!カーズ様か」

この屍生人の胴体と首を切り裂き、死に至らしめたであろう刃物は、
間違いなく我が主カーズ様の『輝彩滑刀』である。
刀剣や斧で断ち切るというよりは、チェーンソーや回転ノコギリのように、
小さく速く動く無数のヤスリで線状に削り取られたとでも表現すべき独特の傷口。
ワムウの知る限り、このような切断痕を作ることが可能な武器は『輝彩滑刀』だけだ。

この戦士、無謀にも屍生人の身でカーズ様に闘いを挑み、敗れたのだろうか。
……胴体の傷は明らかに『腹側から背中に向かって』切り裂かれた傷だ。
逃げようとして背後から斬られたのでは、こんな傷は付かない。

「ん?この男……」

ふと拾い上げた生首が、歯を見せて不敵に笑っているように見えた。
カーズ様の発明である石仮面の副産物……吸血鬼の、そのまた副産物ともいえる屍生人。
屍生人化すると力は人間より強くなるものの、吸血鬼のような再生力を得るには至らない。
それどころか、吸血鬼と同様に『日光』や『波紋』に極端に弱くなってしまい、
人間の様に我々に対抗することもできなくなる。
屍生人とは我々の栄養源以下の、家畜の糞の様に全く取るに足らぬ存在なのだ。
そんな存在が、なぜカーズ様に挑み、笑顔で敗れていったのか。

「カーズ様がどのような存在かも知らなかったのか、あるいは……」

……屍生人の最期の表情の意味を、ワムウには知るよしも無かった。


220 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:43:33 gGuLO4EI0
小娘の方へ目をやる。
頭に生えた丸い耳は、ネズミの仮装のつもりだろうか。
西の海を超えた先から届いた書物で似たような絵を見たことがあるが……。
一見、どう見ても戦う力のある者には見えない。
銃弾で死んだ様に見えるが、カーズ様の手によるものなのか。
我々なら火薬の力を借りずとも、銃弾の代わりになるものさえあれば同じことができるが……。
わざわざ、弾丸をぶつけたということは、不意を討って遠方から狙い撃ったのか。
ともかく、俺なら戦意を示さなければ見逃していたかもしれない相手だ……。

よく見ると、頭に生えている耳は飾り物ではない。
先ほどまみえた『紛い物の太陽』を操る娘が背中から翼を生やしていたように、
この人間に動物の部品を取り付けたような小娘も、何らかの特殊な能力を持っていたのかも知れない。
ワムウは少女の身体に腕をめり込ませ、捕食が可能かを調べた。

「ただの人間よりはエネルギーが高い様だが……
 『生きている』状態で捕食せねばあまり足しにはならんか。
 今はそこまで腹が減っている訳ではない。運が良かったな」

そっと腕を抜き取りながら、ワムウはそう呟いた。
最後に大きな錨を握る屍生人の右手から指の一部を切り取り、ワムウ自身の右手にくっつけて

「俺の手には少し太いが……いずれ馴染むだろう。
 ……できる事なら、『生きている』時の貴様とまみえてみたかった」

と言い残すと、もう一度錨をその手に握らせてワムウは立ち去っていった。

◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

次の目的地、F−2エリアの『赤白い光』の発生していた地点には、
予想できたことだが、既に誰も居なかった。
死体が残っていないということは、戦っていた者はこの場を離れたのだろう。(あるいは、跡形もなく消滅したか。)
闘いの後、傷を癒やすために休憩するとすれば……
ここから一番近くの建物、『サンモリッツ廃ホテル』だろうか。
何故スイスに潜伏していた際のアジトがここにあるのかはひとまず置いておく。


221 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:43:53 gGuLO4EI0
こうしてワムウがホテルの方角へ足を向けようとした時、背後からジリジリとした、微かな熱を感じた。
振り返ると、遠くの上空で、記憶に新しい光球が輝いていた。

――紛い物の太陽!
――黒い翼の娘!
――波紋戦士と並ぶ、このワムウを、いや、『闇の一族』を脅かす存在!
――再戦だ……!一刻も早く!

ワムウは南方で輝く光球に向かって全速力で飛び出した。

――紛い物とはいえ、あの『太陽』の力!
――まともにやりあえば、カーズ様やエシディシ様でさえ万一の事があるかも知れぬ!
――サンタナなどにはとても歯が立たぬだろう!
――そうなる前にこのワムウが仕留める!
――……というのは建前!
――……あの娘、誰にも横取りなどさせん!
――無論、我が主たちにも!

目標となる光球が消えても、ワムウの突風のような疾走は止まらない。

――『太陽』が消えた……!
――頼むから逃げ去っていてくれるなよ、翼の娘!
――頼むから死んでいてくれるなよ、この俺の生命を脅かす……友となりうる存在よ!
――今、俺には貴様しか居ないのだ、翼の娘よ!
――ひと月前に遭った波紋戦士どもはまだ未熟!
――まさか我が主たちと生命のやりとりをする訳にもいかぬ!
――サンタナは落ちこぼれ!他の同胞はもういない!
――ライオンも、カバも、ヒグマも、吸血鬼も、他の地上の生物は全て我らが『食料』!
――翼の娘よ、貴様しかいないのだ!
――一万数千年に渡る、この俺の孤独を癒せるのは!
――この俺を殺しうる……『対等』となりうる存在は!


222 : 一万と二千年の孤独 ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:44:39 gGuLO4EI0
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎

「……フゥーーーッ……!」

光源と思しき位置の直下、D−4エリアの湿地帯に到着したワムウ。
バシャバシャと派手にしぶきを上げながら、勢い良くぬかるみに突っ込む。

「あの娘、どこだ……!?」

周囲を見回したワムウだったが、辺りは白いもやが薄く立ち込めるばかりで『ヒト』の姿は見当たらない。
膝の下まで浸かった水が、温泉のように、不自然に温かい。
この近くであの娘があの『紛い物の太陽』の力を振るった事は確かなようだが……。
どうやら、また『乗り遅れて』しまったらしい。なんと間の悪いことか。

「……戻るか」

ワムウは小さく呟いて、北に向かって歩き出した。
もうこの場に用は無い。そして、ここは元々サンタナに我が主たちの捜索を指示した範囲。
鉢合わせしてしまってはバツが悪い。早く北へ向かおう。

ザブザブと湿地帯を歩くそんなワムウの背中が、少し小さく見えた。


223 : 一万と二千年の孤独 ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:45:24 gGuLO4EI0
【D−4 湿地帯/黎明】

【ワムウ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:全身に中程度の火傷(再生中)、右手の指をタルカスの指に交換(いずれ馴染む)、疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:他の柱の男達と合流し『ゲーム』を破壊する
1:カーズ・エシディシと合流する。南方の捜索はサンタナに任せているので、北に戻る。
2:霊烏路空(名前は聞いていない)と再戦を果たす
3:ジョセフに会って再戦を果たす
4:主達と合流するまでは『ゲーム』に付き合ってやってもいい
[備考]
※参戦時期はジョセフの心臓にリングを入れた後〜エシディシ死亡前です。


224 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 19:45:55 gGuLO4EI0
以上で投下を終了します。


225 : 名無しさん :2014/02/02(日) 20:05:50 OXWHJCm.0
熱いぜ


226 : 名無しさん :2014/02/02(日) 20:24:27 oxQSKMjs0
投下乙です
やったねワムウ、代えの指をゲットしたよ!
何気に一話だけでそこそこの距離を往復したなw
しかしやっぱり強者を求めるワムウの心にあるのはある種の孤独感か…
おくう以外で彼の心を満たせる戦士が見つかるだろうか


227 : 名無しさん :2014/02/02(日) 20:25:31 FE51ukaQ0
投下乙です
ワムウのお空への執着はジョセフを越えたか。厄介な奴にロックオンされたお空はどうなる!?
とうのお空はそれどころじゃないけど


228 : 名無しさん :2014/02/02(日) 21:47:46 45OKtlqs0
鉄塔の上で柱の男っぽいポーズで会場を見回すワムウ想像したらカッコいい
しかし、お空への評価がついに友となりえる存在とまで言われたか…
あっちへ行ったりこっちへ行ったり危なっかしいなw

気になったことは
>>217
鉄塔を一気に飛び降り、北西に向かって走りだすワムウ。
ここは「北東」かな?って事と
お空暴走事件inこーりん堂があったのは早朝だから、ワムウが移動してるうちに黎明→早朝になったって事でいいのかな


229 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/02(日) 22:00:29 gGuLO4EI0
>>228
>>ここは「北東」かな?って事と
オウフ・・・確かに、北東が正しいですね。

>>お空暴走事件inこーりん堂があったのは早朝だから、ワムウが移動してるうちに黎明→早朝になったって事でいいのかな
ワムウが北に引き返した後の時間帯で、お空が香霖堂で暴走したとお考え下さい。
今回描写したのは『黎明』までの時間帯……のつもりです。
ワムウさんはホンマ間の悪いヒトやでえ……


230 : 名無しさん :2014/02/02(日) 22:33:09 45OKtlqs0
あ、ワムウが目撃したのはこーりん堂事件じゃなくてジョナサンレミリアvsお空戦での太陽か
勝手に勘違いしてましたw

毎回素敵なお話、乙でした!ワムウを次に満足させる相手は誰になるだろう…


231 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:03:39 Q6OdWFAg0
投下乙です。
ワムウがあっちこっちいっててなんか可愛いww。
さて、自分も投下します。


232 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:04:58 Q6OdWFAg0

黎明の薄闇に、紫の桜は物悲しく輝く。

ここは無縁塚、縁者のいないものの為の墓地だ。
その木に囲まれた小さな空間の中には、無数の彼岸花と、紫の桜が数本だけ咲いている。
厳粛な空気が支配するこの空間で、邪仙霍青娥がキョンシー、宮古芳香はまるで周りの木々と同じように、ただ立ち尽くしていた。

主である霍青娥を護るためその行動を開始した芳香だったが、程なくしてこの無縁塚に行き付き、長い間佇んでいる。
それは、ここに咲く罪を吸い迷いを断つ紫の桜に、無意識的に惹かれてしまったからかもしれない。
もし芳香が邪仙の呪縛を逃れ、この場所に行き着くことが出来れば、芳香の魂は救済されただろう。
だが、そんなことなどあるはずもなく、芳香は桜を見て、寂しいとも悲しいとも表現できない不思議な感情を抱えて動けずにいた。
ただ、機能のほとんどを失った芳香の脳でも、その桜が美しいということだけは理解できた。

そうして、どれほどの時間が流れただろうか。永遠に続くかのような静寂は、突如として失われた。

東の空がカッと光ったと同時に火柱が上がり、辺り一帯は炎の燃え盛る音に支配された。
それから何度も何度も爆発音が聞こえ、ボーっとしていた芳香も流石に現実に引き戻された。

「う……うお……はっ!ここは誰だ、私はどこだ!……そうだ!私は青娥を護るんだった!」

芳香は頭をブンブンと振り、ようやく目的を思い出した。
そんな芳香のもとに、一体の神霊がふらふらと近づいてきた。
芳香はそれを猫が獲物を狩るような俊敏さで、パクリッ!と一口。
欲望に忠実な邪仙に創られたキョンシーは、同じく欲望に忠実なのだ。主に食欲においてだが。

そして辺りをよく見ると、神霊は一体だけではなく、何体も居た。
皆同じ色と形をしており、一様に「イキタイッ」と喚いている。
出処は東の火災現場のようだ。

「うーん……何だっけ、確か『腹が減っては高楊枝』だっけな、そう言うし、とりあえず腹ごしらえしてから青娥を探そう、うん」

長い間じっとしていたのでお腹が空いていた芳香は、神霊を食べながら考える。
そして、目下の目標を定めた芳香は、相変わらずぎこちない足取りで神霊の出処に歩き出した。
もちろん漂う神霊を食べながら。
さながらその様子は、落としたパンくずを頼りに進む『ヘンゼルとグレーテル』のようだった。
辿り着くのは我が家でもお菓子の家でもなく、炎渦巻く『廃棄物』の山だったが。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆


233 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:05:38 Q6OdWFAg0
―――うあああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

       ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ ッ ッ ッ ! ! ! !―――

叫ぶ、叫ぶ。行き場のない感情を、炎に、声に変えて、ただ叫ぶ。
周りのゴミが焼けその形を失う様を見て、藤原妹紅は自分もあのゴミのように焼け消える『死』を連想しまた慟哭する。
いくら喚けど叫べど慟哭すれど、何かが解決することはない。
それでも、妹紅はそうせずにはいられなかった。

『死』――その体験は妹紅にどうしようもない恐怖と絶望を与えた。
それも本来一度きりであるはずの死を、リンゴォ・ロードアゲインの能力『マンダム』により、短い時間の間に何度も体験したのだ。
千年以上もの間、死んだことのない妹紅が。

常人にはおよそ計り知れないその精神的ダメージは、確実に妹紅の魂を蝕み、その人間性を変容させてしまった。
今の妹紅は自分の精神を守るため、まるで癇癪を起こす幼子のように退行し暴れている。
その自らの心身をも燃やし尽くすような炎は、転生をするため自らを焼く不死鳥のようであったが、
不死を失った妹紅のその姿は、ただただ悲しいだけだった。
エシディシ、リンゴォ、二人の男が妹紅に与えた衝撃は、あまりに深かった。


そして徐々にその力を失い、涙も枯れ果て静かになりつつあった妹紅のもとに、一つの影。


ぴょんぱく ぴょんぱく ぴょんぱく


間の抜けた音とともに、神霊に釣られた宮古芳香が現れた。

「うーんうまい、やっぱり神霊は生に限る。生以外食べたことないけど……」

芳香はそんなことを言いながら、神霊の発生源である妹紅に近づきつつあった。

そんな芳香を見つけた瞬間、妹紅はまた叫びを上げ、力なき火球を芳香に投げつけ始めた。
最早妹紅の目には、何もかもが恐ろしく、そして自分を害なす存在に見えてしまっていた。

「うわあぁぁぁっっっ!!来るな!来るな!来ないで!」

コントロールもパワーも失われた火球が、芳香に投げつけられる。

「うおっ!?何だ!?お前は誰だ!うおっうおっ!」

のんきに食事をしていた芳香は、驚きながらも自分に迫ってきた火球を何とか避けた。
だが妹紅は次々撃ってくる。

「来ないでってば!死にたくない死にたくない死にたくたい死にたくない!」

「うおっうおっうおっうおっやーめーろー」

黎明のゴミ捨て場、踊るゾンビと舞う火球。その三流映画のような光景は、妹紅の霊力が尽きるまで続いた。


234 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:06:23 Q6OdWFAg0
「……やめて……来ないで……死にたくたい……」

数十分続いた奇妙な闘いも、妹紅の憔悴によってようやく落ち着いた。
火事も燃えるものはほとんど燃えてしまったため、静かになりつつある。
そして襲撃を受けた芳香は特に何をするでもなく、妹紅の顔を覗き込み、単純な疑問をぶつける。
深く物事を考えない愚直さは、芳香の美徳とも言え、この状況ではある意味最善の行動だった。

「一体どうした、なんでいきなり攻撃してくる?それにお前は何を言っているんだ?
 ほら言ってみろ、私は別にお前を殺したりしない、死ぬのはいかんからな」

もっとも青娥の命令なら別だがな、と付け加えて芳香は胸を張る。キョンシーは疲れ知らずだ。

「私は、私は……」

抵抗する気力も失せ、妹紅は自分が何者で、今まで自分に何があったのか語り始めた。
最早聞いてもらう相手が、初対面で人外だろうと妹紅は構わなかった。
誰でもいいから自らに起こった行き場のない感情、『虚無』を『絶望』を聞いてもらいたかった。
エシディシによって気付かされた『不死』の喪失の可能性と『恐怖』。リンゴォによって思い知らされた『死』の『虚無』。
震えながら紡がれるその語りは拙く、時折詰まり、吃り、枯れたかと思った涙もまた出てきて嗚咽も混じった。
その語りから何があったかを理解するのは、例え賢者であろうと難しいだろう。
しかし、芳香は『理解』した。
もちろん頭で理解したのではない、『心』でだ。
泣いて震えて死にたくないと怯える。
その姿こそが、妹紅の語りの真意である、死にたくないという欲望をこれ以上となく芳香に伝えたのだ。
小難しいことを考えられない単純な芳香だからこそ、理解できた。
そして芳香は、そんな妹紅を何故だか放っておけない気持ちになりつつあった。
自らの本能が訴え続ける『死』への忌避感が、そんな気持ちにさせたのかもしれない。

「そうか、辛かったんだな……うーん、だったらなんかないかな……そうだ、ちょっと私の背にある邪魔なのを降ろしてくれ」

「えっ、いいけど……」

全てを語り終え、少し落ち着いた妹紅は、芳香に頼まれた通り、芳香のデイパックを降ろしてあげた。
そして芳香はそのデイパックを漁り始めた。

「なるほど、邪魔なのはカバンだったのかぁ……中身になんかないかな……おお、これだこれだ、ほれっ」

そう言い芳香は妹紅に何かを差し出した。

「これは……」

それは大きなおにぎりと、不思議な布のようなものだった。

「食え『武士は食わねど戦は出来ぬ』というからな、人間、お腹が空くと不幸せだし、逆にお腹がいっぱいだと幸せだ。
まあ私はゾンビだけどな!(ゾンビギャグ)それに、さっきから震えている。私にはよく分からんが、それは寒いということなんだろう?
だから着ろ、なんでか知らんがお前、すっぽんぽんだしな」

リザレクションの制限により、今の妹紅は全裸も同然の姿だった。
本来『死』をトリガーとして全てを一瞬で元の状態に戻す、自己再生機能がリザレクションだ。
だが今はそれが自己修復機能程度に制限されたことによって、十全の機能を発揮せず服が燃えたままとなっていた。

妹紅はそんな自分の姿を恥じるとともに、芳香の無骨で真っ直ぐな優しさを受け、何度目になるかわからない、
しかし喜色に満ちた涙を流しながらおにぎりを食べ、布を着た。
寒さによる震えではないのに、震えは収まった
心が弱り果てた妹紅にとって、芳香の優しさは深く染みた。

「あ……ありがとうっ……あんた馬鹿だけど良い奴だね……」

「おお泣くな、まだなんか足りないのか?それと私は馬鹿ではない、良い奴なのは認めるがな!
いい子いい子してもいいんだぞ」

妹紅は芳香に言われた通り、芳香にいい子いい子をしてあげながら、死に怯え狂乱した自分が、
こうして死人も同然な芳香によって救われた事実を、噛み締めていた。
正直今も死への恐怖で、頭がどうにかなりそうだし、暴れだしたい。
それでも、芳香のお陰で少しだけでも絶望を上塗りする希望を感じられた。
それだけで、少なくとも正気を保つことが出来た。


235 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:07:48 Q6OdWFAg0
妹紅は暫くの間芳香を撫で続けていた。
心の整理をつける時間が欲しかったからだ。
そして少しして、聞いていなかった名前とこれからどうするかを芳香に尋ねた。

「そういやまだあんたの名前聞いてなかったね、なんて言うの?」

「私は……えーとえーと……宮古……そう!宮古芳香だ!」

「そう、芳香ね、いい名前じゃない。それで、芳香はこれからどうするの?私は正直、今はまだ殺し合いのことは考えられない……」

「私か?えーとなんだったけな……崇高なる使命があったような……私の主……
サイガじゃなくてソイヤじゃなくて……青娥!青娥を探して護るんだった!
そうだ!おまえも青娥にキョンシーにしてもらえばいい、そうすれば何も怖くないぞ!」

思わぬ芳香の誘いに、妹紅は仰天した。

「きょ、キョンシー?そっか、あんた人間じゃないとは思ってたけど……う、うーん……ま、まあ考えとくよ、ありがとう。
で、主を探す、か……もし良かったら、私にも手伝わせてくれない?
役立たずかもしれないけど、芳香には世話になったからね」

死への恐怖を忘れられるなら、存外それもいいのでは、と妹紅は思いつつも、芳香に提案する。

「おおいいぞ、おまえはなんだか危なっかしいしな、ついて来い」

「危なっかしい……か……まあ反論はできないね、でもそうと決まれば、ちょっと芳香のカバン貸してくれない?
私の全部燃えちゃったから」

「うん?ほれ」

芳香のデイパックを受け取った妹紅は、現在地と支給品を確認し始めた。
出来る限り死の危険性を減らすためだ。

中身である何枚もの折りたたまれた紙を次々開ける。
そうして目当てである地図と、二枚のランダムアイテムの紙を発見した。
まず地図を確認すると、自分たちが居るのはおそらくA-5エリアのゴミ捨て場だと分かった。
次に支給品の紙を見てみると、それぞれ何やら説明書きが書かれていた。


236 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:08:44 Q6OdWFAg0
あれ、どっかで見たことがあると思ったら、これ輝夜のやつじゃない。
燃えないってのは気が利いてるけど、因果なものもあったものね」

その説明書きには『火鼠の皮衣』と書いてあった。今、妹紅が身にまとっているものだ。
それは決して燃えることのない、蓬莱山輝夜の持つ不思議な宝具の一つだ。
そして輝夜は妹紅の宿敵でもある。
だがここにその宝具があるということは、輝夜は今ご自慢の道具を没収されているということだ。
妹紅はほんの少し、輝夜のことが心配になった。
だが今は、他人の心配を出来るほどの余裕はない。
気持ちを切り替えて、二枚目の紙を開けた。

「これは……写真機?」

二枚目の紙を開けると、カメラが出てきた。
竹林からあまり出ないため近代的なものには疎い妹紅だが、以前会ったことのある天狗の持っていた写真機と似た道具だったので、
かろうじてそれがカメラの一種であることに気づけた。

「えーとなになに、『これはインスタントカメラです。撮ったらすぐ現像されるので便利!』ねぇ……」

使い方を読み、初期設定を済ませ、試しに一枚撮ってみた。
カメラがピカっと光り、ジーッという音と共に一枚の写真が出てくる。
最初は何も写っていなかったが、説明書にある通り少し待ってみると、確かに周りの風景を写した写真が出来上がった。

「へぇー、凄いもんだ」

感心していると、さっきから静かにしていた芳香も興味が有るのか、近づいてカメラをのぞき込みに来た。

「それなんだ?美味しいの?」

「食べられないよ、インスタントカメラっていって、こいつが写したものを切り取って画像に出来る機械らしい」

「なーんだ、がっかり」

興味をなくした芳香は、デイパックから食料を取り出して食べ始めた。
食い気が絶対的な価値観のようだ。

「しかし写真機か……あんまり当たりとはいえないね……」

カメラを眺めながらその道具の価値を分析するが、生存率向上に繋がる用途は思いつかなかった。
せいぜいこのフラッシュとか言う機能が目眩ましになるかもしれないぐらいだ。
どう考えても妙案は浮かばない。

そんな時、横で満面の笑顔でご飯を食べる芳香が目に映った。
実に幸せそうで、羨ましい。
自分もまた、こんな表情が出来るようになるのだろうかと考え、気持ちが沈んだ。
それと同時に、今、自分はどんな顔をしているのかも、少し気になった。

「ねえ芳香、私、今どんな顔してる?」

「うん?うーんとなあ、ものすごく辛気臭い顔してる。
いい死に方しなかった死人の顔みたいだ」

芳香に尋ねると、実にストレートな感想が返ってきた。
芳香らしい。
お陰でカメラの使い道が浮かんだ。


237 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:09:21 Q6OdWFAg0
「そう、だったら芳香、そのままでいいから、ちょっと私と一緒に写真に写ってくれない?
私が今どんな顔してるか自分でも確認したいんだけど、私だけじゃ絵面が良くないからね、お願い」

カメラの使い道、それはカメラ本来の用途『瞬間を切り取る』ことだ。
惨敗した武将が、戒めのため自分のその姿を絵にした故事ではないが、
妹紅は、今の自分の情けない表情と芳香の笑顔を撮っておきたい気持ちになった。

「おお、いいぞ、決めポーズとかした方がいいのか?」

「そのままでいいってば、笑顔で、ね。じゃあ撮るよ、1、2」

パシャッ

ジー

出てきた写真はまたしばらくして、少しずつ浮かび上がってきた。
その中には、笑顔のキョンシーと、煤けて憔悴しきった情けない自分が写っていた。

「芳香の言う通りね、死人みたい。まあ、あながち間違っちゃないんだけどね」

既に死を経験した妹紅は死人同然だった。
だから写真に写っているのは二人とも生ける屍で、笑えているかそうじゃないかの違いだけだ。
きっとこの写真を見る度、今この時のことを思い出すだろう。
だがそれでいい。
そうすればこの写真があるかぎり、死を、生への渇望を、芳香の笑顔を、忘れないのだから。
生ける屍でもいいから、生きたい、写真を見て妹紅は強く、そう思った。


「写真機ってのも案外いいものだね、天狗が重宝する気持ちが少しだけ分かった気がする」

利用価値がないなんて思ってごめんね、と言いながら、妹紅はカメラを撫でた。


238 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:09:49 Q6OdWFAg0
「さて、じゃあ芳香、行こうか」

そう言い妹紅は立ち上がった。
未だリンゴォの語る『路』も何なのかわからないし、死への恐怖による混乱も覚めることなく、いつフラッシュバックするかわからない。
それでも、何もせずじっとしていればそれは死んでいるのと変わらないのだ。
だからせめて、芳香の手伝いをしながら、芳香のような笑うことが出来る生ける屍を目指そう。
その『決意』が、妹紅の胸の中には在った。

「え?どこに行ってなにすんだっけ?」

脱力。
芳香はこの短時間でまた崇高なる使命とやらを忘れているようだった。
こんな記憶力になるならキョンシーも考えものね、と妹紅は思う。
そして強い気持ちで立ち上がった分、反動で力が抜ける。

「もう!青娥とか言うあんたの主人を探しに行くんでしょ!忘れたの?!」

「おお!そうだそうだ!行かねばならぬ、早く行こう」

「まったく……」

そうして、二人の生ける屍は歩き出した。
一人は笑いながら、一人は口を真一文字に結んで、
各々の使命と、決意を果たすために。


「そういやあんた、なんで私のところにやってきたの?自分で言うのも何だけど、
あんだけボーボー燃えてちゃ、普通近寄りたくないと思うけど」

妹紅は素朴な疑問を歩きながら尋ねる。

「あー?いやな、美味しそうな神霊がいたもんで、それを食べ進んでいたら妹紅がいた。
多分妹紅が出してたんだな、ごちそうさまでした」

「神霊って?神様の亡霊のあれじゃなさそうだけど」

「えーとな、確か青娥が言うには、人の強い欲望とか感情から生まれる霊……だったっけな、凄く美味しい」

「そう……確か慧音が、それが沸きまくる異変が最近あったって言ってた気がする。
でも、それで芳香と出会えたんだから、考えようによっちゃ良かったのかもね」

「おーそうだぞ、どんどんだしていいんだぞ、残さず食べるから」

「まあ……出来りゃそんなのが出る精神状態にはもうなりたくないね……」

そう言い妹紅は苦笑いを浮かべながら、好きでもないたばこを、また吸いたい気持ちになっていた。


239 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:10:45 Q6OdWFAg0
しかし、なぜ神霊は発生したのか。
神霊異変は、豊聡耳神子復活の際、彼女の強大な力に引き寄せられた神霊が大量発生したことで起こった。
確かにこの会場に豊聡耳神子は呼ばれているが、力は制限されているし、神霊異変が解決された時間軸から呼ばれている。
故に、神霊が大量発生するには不十分な状況なのだ。
ならば何故、こうして発生しているのか。
理由は二つ考えられる。
一つは、妹紅の強烈すぎる感情の暴走が、神霊を発生させるに至ったから。
もう一つは、荒木飛呂彦と太田順也、主催二人の持つ強大な力が、神霊を引き寄せるに足りるものだったから。
この二つだ。
おそらく、そのどちらも正解だろう。
しかし前提として、後者の存在がなければならない。
それを裏付けるように、芳香が見落とした神霊たちは、真っ直ぐ、同じ場所へ進んでいた。
願いを叶えてもらうため、主催者たちの潜む場所へと。

妹紅も芳香も、このことを知る由はない。
神霊も崇め求める、神にも近しい異能の人間が創りだしたこの世界で、二人は果たして成すべきことを成し、生き残ることが出来るのか、
今はまだ、何もかも朝焼けに包まれて、分からなかった。


240 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:11:56 Q6OdWFAg0
【A-5 ゴミ捨て場/早朝】

【藤原妹紅@東方永夜抄】
[状態]:精神不安定、霊力消費(大)、服回復中?
[装備]:火鼠の皮衣、インスタントカメラ(フィルム残り8枚)
[道具]:基本支給品(芳香の物、食料残り3分の2)、写真、カメラの予備フィルム5パック
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1:生きる。もうあの『虚無』に戻りたくない。
2:芳香と一緒に霍青娥を探す。
3:『死』に関わる事は避ける。
[備考]
※参戦時期は永夜抄以降(神霊廟終了時点)です。
※風神録以降のキャラと面識があるかは不明ですが、少なくとも名前程度なら知っているかもしれません。
※死に関わる物(エシディシ、リンゴォ、死体、殺意等など)を認識すると、死への恐怖がフラッシュバックするかもしれません。


【宮古芳香@東方神霊廟】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:青娥を護る。
1:死ぬのはいかん、あれだけはいかんのじゃ…
2:お腹がすいたら多分ガマンできない。
3:妹紅のことはなんとなく放っておけない。
4:妹紅と一緒に青娥を探す。
[備考]
※参戦時期は神霊廟後、役目を終えて一旦土に還される直前です。
※殺し合いのゲームという現状をあまり把握していませんが、「誰かが死んでしまう」ことは理解しています。
※制限により、彼女に噛まれた生物がキョンシー化することはありません。

※A-5エリア ゴミ捨て場の火災は沈静化。
※神霊達が主催者のいる場所へ進行中
※二人がどこへ向かうかは次の書き手さんにお任せします。


241 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:12:31 Q6OdWFAg0
○支給品説明

『火鼠の皮衣』
宮古芳香に支給。
蓬莱山輝夜の所持する五つの難題の一つ。
火鼠という炎を纏っている生物から取られる、燃えることのない皮衣。
輝夜はこれを自分の元へと持ってくる難題を右大臣阿倍御主人に対して出した。
現代ではアスベストだったのではないかと推察されている。

『インスタントカメラ』
宮古芳香に支給。
撮ったその場で現像された写真が出てくるカメラ。
他の機種と違いワイド型なので、デザインは通常のカメラに割と近い。
1パック10枚入の予備フィルムが5個付いている。
交換したばかりのフィルムはフィルムカバーが付いており、セットしてシャッターを押すことで取り出せる。


242 : リビングデッドの呼び声 ◆DBBxdWOZt6 :2014/02/03(月) 01:13:28 Q6OdWFAg0
以上で投下終了です。
ご指摘ご感想がございましたら是非。


243 : 名無しさん :2014/02/03(月) 01:42:32 QEof12HE0
投下乙です!
もこたんは相当不安定な状態だっただけに一先ず落ち着けたみたいで安心
芳香ちゃんは不器用ながらもいい子やなぁ…彼女ともこたんのコンビが上手く続くことを願いたい
しかし此処で神霊が姿を現すとは。彼らが今後にどのような影響を及ぼすかもまた気になる…


244 : 名無しさん :2014/02/03(月) 01:51:51 Z/FQHZrQ0
投下乙です!
この二人可愛いな…芳香が頼もしく見えてきた
もこたん恐怖からのマーダー化有り得たけど何とか持ち直せそうかな?

一晩に二作品読めるとはついてるぜ


245 : 名無しさん :2014/02/03(月) 03:11:32 BzcP6bOM0
ワムウはマッチョカッコいいしもこたんガクブル可愛いし芳香はひょいぱくイケメンだな
神霊が今後どう絡んでくるか


246 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/03(月) 13:54:00 9BwWIP2U0
投下乙です。
死人コンビの結成ですね、その輪にボスも入れてあげよう(無茶振り)
死者の先であるの芳香がうまく妹紅を支えてくれるといいですね。

改めまして
稗田阿求、西行寺幽々子、マエリベリー・ハーン、ウィル・A・ツェペリ、
ジャン・ピエール・ポルナレフ、ジャイロ・ツェペリ、豊聡耳神子
の7名を再予約します。


247 : 名無しさん :2014/02/03(月) 14:14:23 oUp4XcCw0
肉ポル大ピンチ。ウェスは上手く捌ききったが彼の場合はどうだ


248 : 名無しさん :2014/02/03(月) 14:38:53 knOtLDBM0
それでもツェペリさんならどうにかしてくれる


249 : 名無しさん :2014/02/03(月) 18:31:19 j9V9DqGI0
今の妹紅とDIO様が出会ったら妹紅がDIO様のカリスマで手下になりそうだとふと思った


250 : ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:37:15 QEof12HE0
古明地こいし、エンリコ・プッチ、ディオ・ブランドー
投下します。


251 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:38:29 QEof12HE0


未だに夜は明けず、空は先程よりも少しだけ淡い色に変化した紺色に染め上げられている。
広大な闇の中で満月はこの隔離された世界を照らす光として夜空に浮かんでいた。
そして無数の雑草が一面に広がる夜の草原には涼しげな空気が流れ続ける。
自然に支配されている地を覆うその大気は、どこか爽やかにさえ感じられる。
そう、今まさに此の地で殺し合いが巻き起こっているとは思えぬ程に。

教誨師、エンリコ・プッチ。
覚の妖怪、古明地こいし。
二人は共に夜の草原を歩み続ける。

プッチが前を歩き、その後ろから着いてくる様にこいしが歩く。
二人は先程より草原を歩き続けながら何度か短く会話を行っていた。
といっても、その殆どは身の上話を聞きたがるこいしとそれに応対するプッチの些細な言葉の交わし合いだ。
こいしが投げ掛けるのは「神父様って此処に来る前はどんなことしてたの?」「今の外の世界ってどうゆう感じなの?」などと言った他愛も無い質問。
プッチはその問い掛けに対し、当たり障りの無い態度で答え続けていた。
無論、自らの素性については多少の虚偽を交えて話していたが。
そんな閑談の流れが続いたことにより、二人はこの殺し合いについて殆ど話し合えていない。
雑談を持ち掛け続けているこいしの中で神父への興味と好奇心が勝っていたのか、或は『無意識』の内に殺し合いから目を逸らそうとしているのか。
今のプッチがそれを伺い知ることは出来ない。


「ねーえ、神父様」
「…何かな?」
「さっきから思ってたんだけど…どこ向かってるの?」


こいしの問いかけでプッチは歩きながら振り返る。
彼もまた、今の所はゲームについて話し合うつもりは無かった。
かといって先程までの他愛も無い会話を楽しんでいた訳でもない。
今のプッチにはこの殺し合いと主催者達のこと以上に『気になっていること』が一つあったのだ。


252 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:39:31 QEof12HE0

「ああ。少し…確かめておきたいことがあってね」

静かに呟く彼の左手は、首筋に位置する星型のアザに触れていた。
落ち着き払った表情の内側、その心中には奇妙な疑念が浮かび上がる。


(この気配、アザの共鳴であることは間違いない)
(だが妙だ。空条徐倫の気配を感じ取った時とはまるで違う)
(むしろ、ジョースターの血統よりも…もっと近しいモノを感じる…!)


そう、この共鳴はむしろ『彼』に近い。
空条徐倫から感じ取ったような気配とは違う。
もっと大きな『共鳴』だ。それは血族の繋がりの様に、どこまでも強大な程に感じる。
『彼』の骨から生まれた緑色の赤ん坊を取り込んでいた影響か、その疑念は半ば確信へと変わりつつあった。


(やはり、この気配は――――)


彼が向かう先は、『アザの気配』の感じ取れる方向。
北方―――E-4の方角だ。



◆◆◆◆◆◆◆


253 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:40:08 QEof12HE0
◆◆◆◆◆◆◆



首筋に手を添えながら、彼は草原の彼方を見据えていた。
荘厳な雰囲気を漂わせるコロッセオの第一層の外部にて、複数並ぶ支柱の一つを背にし待ち構えるかの如く腕を組み続けている。


(この感覚…先程よりも、強くなっている…)


邪悪の化身―――『DIO』こと、ディオ・ブランドー。
DIOは此方へと近付きつつある気配を感じ取っていた。
彼は先の戦闘でブチャラティを取り逃がした後、コロッセオより移動を開始しようとした。
しかしその直前、DIOは己が身を以て『血族の共鳴』を察知する。
星型のアザの奇妙な渇き。それは承太郎、ジョセフと邂逅した時にも同様に感じた気配。
間違い無い。ジョースターの血統を引く者が着々と此方へ近付いてきているのだ。
己が乗っ取ったジョナサン・ジョースターの肉体が、それを察知している!


(近い、な。『奴らの血統』が迫っている)


彼はそれを確信し、敢えて『待ち受ける』ことにした。
焦らずとも、自ずと敵は此方へと訪れてくるのだから。
現に共鳴が次第に大きくなり始めている。
恐らく、相当近い位置まで来ている。

(相手も此方に気付いているか…)

まだ馴染みきっていないアザに触れながら、意識を集中させる。
精度の低い感知だが、大雑把ながらも距離感は掴める。
相手が少しずつ迫って来ていることは確実だ。


254 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:40:39 QEof12HE0

眼を細め、視界を僅かに狭める。
闇に眼を慣らしている吸血鬼の視界の中に入ったのは、暗闇の草原を歩く影。
相手は二人。一人は男。もう一人は小柄な少女。
男が先頭で歩き、少女が彼に追従する様に歩いている。
距離は恐らく100mも無いだろう。それほどまでに近付いてきている。
フン、と不適な笑みを浮かべながらDIOは首筋から手を離す。

アザの反応があるのは男の方だ。何処の馬の骨かも解らないが…
ジョースターの血統ならば、此処で始末するのみ。

殺意と戦意の入り交じった瞳で二人の影を見た直後、ゆったりと両腕を組む。
迫り来るあるジョースターの血統を前にしつつも、余裕の態度は崩さない。
そうして二人は更に此方へと近付いてくる。
距離が縮まると同時に次第に姿が見えてくる二人の影を真っ直ぐに睨む様に見据える。
そしてDIOの脳は、先頭を歩く男の装いを少しずつ認識し始めた。

(あれは…聖職者…神父の―――)



「『君は引力を信じるか?』」



神父服の男が発した一言によってDIOの思考は遮られる。
その言葉を耳にした途端、DIOの顔が僅かながらも驚愕の表情へと変わった。
そんな彼の様子を他所に神父服の男は言葉を紡ぎ続ける。

「DIO。君から送られた言葉だ」

ゆっくりと歩み寄る神父服の男。
距離が近付くにつれて、少しずつその顔が露になっていく。

「あの日、納骨堂で君と出会ったのが全ての始まりだったね。
 …ぼくは君のことを一時も忘れなかったよ。今だって君に敬愛を抱いている」

かつての思い出を追憶するかの様に、穏やかな声色で語り続ける。
DIOは眼を見開きながら男を見据え続ける。

確かに彼の名は名簿にも記載されていた。
その顔も、声も、忘れる筈も無い親友のものだった。
だが、何かが違っていた。まるで何年もの歳月を経たかの様に彼は成長していた。
それどころか、何故『星型のアザ』が彼を感知している?
疑問は尽きない。しかし、これだけは理解出来た。

この男は、間違い無く『私の友』であると。
偽物なんかじゃあない。目の前にいるのは、本物の彼だ。
理屈ではなく、心がそう認識していた。


「―――プッチ?」


DIOの口から、驚愕の表情と同時に『友』の名が零れ落ちる。
眼を丸くする彼に対し、神父服の男―――エンリコ・プッチは、微笑と共に静かに言った。


「久しぶりだね、DIO。また会えて…本当に嬉しい」


◆◆◆◆◆◆


255 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:41:48 QEof12HE0
◆◆◆◆◆◆


「…本当、なのか?」
「ああ…全て真実だ。君は23年前に死んでいる…そして、ぼくは君の意志を受け継いだ」

支柱による無数のアーチが連なるコロッセオの第一階層の内部。
柱の隙間からは月明かりが射し、淡い照明の如く建造物の中を僅かに照らしている。
DIOは闘技場へと続く階段の下方の段に座り、目の前で立つプッチの話を聞いていた。
プッチの後ろではこいしがよそよそしい様子でDIOを見ている。

「俄に信じられないが…君が言うのならば、真実なのだろうな。
 君は私の友なのだからな。こんな嘘をつく筈が無い」

DIOは取り留めの無いような表情を浮かべつつ言う。
プッチは彼にまつわる未来の事象を全てを話したのだ。
1989年にDIOが『時を止める能力』に目覚めた空条承太郎に敗北するということを。
ジョースターの血族は『2012年』にも健在であるということを。
そして、プッチはDIOの遺した『天国へ行く方法』を受け継ぎ実行せんとしているということを。
『天国へ行く方法』の半分近くが達成され、プッチはDIOの骨が生み出した新たな生命と融合を果たしたということを。

「プッチ…君は、私の『天国』を受け継いでくれたのか」
「ああ」

DIOの問いに対し、プッチは頷き答える。
彼の表情は聖人のように清らかに微笑んでいた。

「ぼくは君という存在が好きだ。君の行き着く先をこの目で確かめたかった。
 だが、君は消えてしまった。だからぼくは君の遺したものを道しるべに『天国』を目指した。
 君の意志を受け継ぎ、君が到達せんとした世界をこの目で見る為に」

天国。DIOの遺した『夢』。
プッチにとって、それは自らの夢でもあり目標でもあった。
故に当然の如く彼はそう言う。友の志した夢は、彼に取っての憧れでもあった。
真っ直ぐなプッチの言葉を聞き、DIOの表情が綻ぶ。
そして、その口元にフッと笑みを浮かべた。

「…やはり君は変わらないな。紛う事無き、私の唯一無二の友だ」
「ありがとう。そう言って貰えるのは、ぼくにとっても嬉しいよ」

『親友』としての会話を交わす二人。
プッチにとっては23年ぶりの再会。DIOとの再会には確かな安らぎを感じていた。
敬愛していた親友とこうしてまた談笑出来るなんて思っても見なかった。
穏やかな感情に満たされていたプッチだったが、不意にDIOが問いかけてくる。

「そうだ…プッチ。そちらの娘はこいし、だったかな?」


256 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:42:13 QEof12HE0
DIOが視線を向けたのは、プッチの後ろでおずおずと立っているこいし。
未来の事象に付いて聞く前に、DIOはこいしについての話も聞いていた。
プッチは彼女が妖怪であること。そして、彼女の経歴についても語った。
無論、こいしの承諾を得た上でだ。彼女はプッチの「DIOならばきっと君の心痛を理解し、力になってくれる」という言葉を信じたのだ。
本来なら神父にとって「懺悔の他言」は御法度。
しかしプッチは敢えてDIOに語った。己が知る限りでの彼女の全てを。

「古明地こいしです。…えっと、神父様から話は伺ってます。DIOさん…だよね?」
「DIOで構わないよ。そう畏まる必要は無い」

礼儀正しくお辞儀をするこいしに対し、DIOはあくまで柔和な態度のまま語りかける。
こいし自身、神父の親友であるDIOが悪い相手ではないことは解っている。
しかし、その態度は何処かよそよそしく不安げな様子だった。
そんなこいしの様子を察してか、フッと笑みを浮かべ…DIOは階段からゆっくりと立ち上がった。



「君と少し、二人きりで話がしてみたい」



◆◆◆◆◆◆


257 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:43:57 QEof12HE0
◆◆◆◆◆◆


「さて。こいし、いいかな?」
「うん。…どうしたの?私とお話なんて」

あの後階段を上って、建物の奥へと私達は進んだ。
辿り着いたのは今よりもずっと昔、古代の戦士とかが競い合ってたような古びた闘技場。
その隅っこで、私―――古明地こいしとDIOは向かい合っていた。

「プッチから話は聞いたよ。君と、君の姉さんは人間ではないと。
 他者の心を知る能力を持つが故に忌み嫌われ、地下へと追いやられたと」

神父様は外で待っていると言ってその場を後にしてしまった。
だから今は広い闘技場のアリーナの隅っこで、彼と私の二人きり。


「そして君は、周囲から疎まれることを恐れ――――自ら心を閉ざしたと」


そして私は、ふっと顔を上げる。
DIOは神父様から私の事情を聞いている。
神父様は「彼ならば君の心痛を解ってくれる筈だ」って言っていた。
神父様がそう言うから、あの時は何となくそれを信じ込んでしまったけど…今はまだよく解らない。
DIOって人が、信用出来るのかも私には解らない。


「一つ聞きたいことがある。君は本当に心を閉ざしているのか?」


DIOはそう問いかけてきた。
すぐに私は「何を言っているんだろう、この人は」と思った。
そんな当たり前のことを今更問いつめられるなんて。

「当たり前でしょ?現に私の第三の目はもう開かなくなっているんだもの」

だから私はきっぱりとそう答えた。
答えるまでもない愚問だ、と言わんばかりに。

「お姉ちゃんと違って心を読むことなんてもう出来ない。とっくに私は、心を閉ざして―――」
「本当にそう言えるのか?私はそれを疑問に感じている」

それでもDIOは問い詰め続けてきた。
正直言って、私はこの時少しばかりむっとした。
胸中に込み上げた不快感を言葉にしようと、私は口を開こうとしたが。

「地下に追いやられたまま他者との関わりを避け、仄暗い闇の奥底を根城にしている…
 そんな君の姉さんの方がよっぽど「心を閉ざしている」と思えるのだが?」


258 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:44:52 QEof12HE0
DIOはまるで私達のことを解り切っているかの様にそう言い放った。
呆気に取られた様に、私は何も言い返せずにDIOを見上げる。
余所者の癖に、とでも言い返してやりたい所だったのに。
何故だか喉の奥底から上手く言葉が出せなかった。


「しかし君はプッチに心を開いている様に見えた。
 それどころか、こうも友好的に他者と接触出来ている。
 それで『心を閉ざしている』とは、些か可笑しいと思うね」


饒舌に、冷静に語り続けるDIO。
次々と紡ぎ出される彼の言葉を、私はただ黙って耳に入れることしか出来なかった。
そんな私を他所に、DIOは再び言葉を紡ぐ。


「もう一度聞こう。君は本当に心を閉ざしているのか?
 私の目には、都合の悪い重荷ごと自らの心を捨て去り『解放』されているかの様に見える」


その時、私は眼を丸くした。
同時に私の脳髄に過去の記憶が鮮やかに過った。
聖は言っていた。私は、心を閉ざした存在なんかじゃないって。
心を閉ざしているのではなく、一度捨て去ることで空の境地に近付いている。そう言っていた。
DIOの言葉は『同じ』だ。あの時の聖の様に、私の本質を『視』ている―――
ほんの少しだけ、寒気のような、好奇のような…形容し難い気持ちが胸に込み上げた。


259 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:45:36 QEof12HE0

「何が、言いたいの」

声を僅かに震わせながら、私は口走る。
この男から感じられるのは訳の分からない気味の悪さ。
それなのに、言葉の一つ一つからは胸に染み込むような心地良さがある。
まるで親に優しく話しかけられているかの様な、奇妙な安心感。
それがどうしようもなく不安で、怖かった。

「君には私の望む素質がある。君は感情の源である『心』を閉ざしているのではなく、自らの意思で放棄した存在。
 もしそうだとすれば、君には己の欲望をコントロールする力があるかもしれない。
 『心を放棄し無にする』とは、言わば『悟り』のようなもの…己の感情や欲望をも切り捨てることなのだからね」

『私の望む素質』?
突然何を言い出しているんだろう。DIOは、一体何が言いたいの?
怪訝な表情を浮かべ、奇妙な感情を込み上げさせながらそう思っていた矢先だった。



「そして神の教えを尊ぶ立場にある君は、きっと私の友になれる。『天国』へと行ける素質がある」


260 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:46:20 QEof12HE0

「…死ねってこと?」
「そういう意味じゃあないよ。『天国』とは、精神の力の進化の行き着く先のことさ。
 そこへ辿り着けば、世界中の者達が皆『覚悟』という真の幸福を手に入れられる…私はそれを目指しているんだ」

DIOは私に向けて、穏やかな声色でそう語りかけてきた。
『天国』『精神の力の進化』『覚悟』『真の幸福』――――
耳から入る幾つもの言葉が私の頭の中で渦巻く。
よく解らないし、理解をしたくもない。それなのに、DIOの言葉からは不思議な安心感を感じてしまう。
安らぎだ。この人の言葉は、妖艶なまでの安らぎに満ちている。


「『天国』へと至れば、プッチも、君の愛する者達も、そして君も…皆が幸福になれる」


不意にDIOが身を屈め、膝を付きながらそう言ってきた。
私と同じ目線の高さとなり、DIOは真っ直ぐにこちらを見据えてくる。
真紅の瞳に捉えられ、私は目を逸らしてしまいそうになった。
だけど、逸らすことなんて出来ない。何故だか解らないけど、私は彼の瞳を真っ直ぐに見つめていたんだ。

「皆が、幸福に…?」

そして私はDIOの言った言葉を再び呟く。
神父様も。命蓮寺の皆も。地霊殿の皆も。聖や、お姉ちゃんも。―――そして、私も。
『天国』っていうのがあれば、救われるというの?
彼の言葉に意識が傾いていた直後のこと。

「ああ、皆が幸福になれる。その為にも、君にはまず『勇気』を持って貰うとしようか」

スッと、私の両手に細い木製の棒のような物が渡される。
DIOがデイパックから取り出した物だ。


「この殺し合いの場における、君へのプレゼントだ」


口の端を僅かに吊り上げてDIOは笑みを浮かべる。
まるで愛する子供に親がプレゼントを贈るかの様に、DIOは『それ』を渡してくれた。
私はゆっくりと、手元に渡された物へと視線を落とす。


――――それは金属の弾薬。そして、銃。
――――細長い体と古びた木製の銃身を持つ凶器。
――――他者の命を簡単に奪う、最悪の力。


261 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:47:33 QEof12HE0

「え…DIO、なんで、こんなものを――――」
「フフ…怖がっているのか?君の気持ちはよく解る。
 何しろ銃だ。引き金を弾くだけで簡単に他者の命を奪えるなんていう代物なのだからね」

ぞくり、と寒気が全身に込み上げてきた。
目の前のDIOへの恐怖もあった。だけど、それだけじゃない。
私は仮にも妖怪だ。銃なんて手にしたくらいで、恐怖を感じる筈が無い。
誰かを殺めた所で、罪悪感なんて感じる訳も無いはずだ。

それなのに。この銃を手に取った時―――私の胸に込み上げたのは、怯えだった。

この銃を構え、引き金を引いた時。
放たれた弾丸で誰かの命を奪った時。
私は、DIOに引きずり込まれた闇の底から戻れなくなるような気がした。
地霊殿のペットのみんな。命蓮寺の信者たち。そして聖。お姉ちゃん。
自分がこの銃を使う所を想像するだけで、私の大切な人達の記憶が渦巻き出す。
いつの間にか手が震えていた。何もかも後戻りが出来なくなるような気がしてきた。



「だけどね。力とは時に『勇気』と『覚悟』を与えてくれるんだよ、こいし」


262 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:48:35 QEof12HE0

DIOは私の様子に構うこと無く、穏やかにそう諭してくる。
私の肩をぽんと叩き、口元を微笑ませながら顔を覗き込んでくる。
私の理性は銃を手放すことを選ぼうとした。

それなのに―――柔らかな笑みを浮かべるDIOは、許してはくれなかった。

「さて…この小銃は此処に取り付けられている遊底の操作によって弾薬の装填と排莢を行う。
 一発撃つ毎に排莢を行わねばならないタイプだ、少々面倒な機構ではある。操作中の隙も生じるだろう。
 しかし、それだけに信頼性が高く確かな命中精度を持つ代物ばかりだ」

ゆっくりと立ち上がったDIOは、私の背後に回って膝を付く。
そしてDIOの両腕は、銃を手に持つ私の腕を半ば強引に射撃の体勢へと構えさせた。
まるで熟練の兵士が新米の兵士に戦い方を指導するかの様に。

「使う時は慎重に…そして迅速に狙いを定める。イメージするといい。
 君のその細い腕は言わば『発射台』。銃器を握る両腕をしっかりと安定させた状態で構えるんだ。
 そして引き金を弾く時は躊躇うな。迷った一瞬が君の命運を分ける。行けると思ったならば、即座に弾け」

私の意思なんて何も聞かずに、DIOは私に『殺人の手段』を伝えてくる。
こんなこと、私の望みじゃない。嫌、嫌だ、イヤだ、イヤだ、こんなの。イヤだ―――!
閉ざされた筈の私の『心』が自らの行動を拒絶し続ける。
涙が零れ落ちそうになった私は、溜まらず言葉を吐き出した。

「DIO…なんで?こんな…銃なんか……、…聖も…言ってたんだよ。その…殺生なんて、するべきじゃないって…」

半ば混乱しながら、私は恐る恐るDIOにそう言う。
恐怖で舌が上手く回らない。支離滅裂になりかける言葉をどうにかして頭の中で纏めていた。


263 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:49:00 QEof12HE0

「………………」

私の言葉を耳にしたであろうDIOは唐突に黙り込む。
沈黙と静寂が周囲を支配する。そんな中、私はおどおどと後方へと振り返った。
視線の先、すぐ後ろで私を見ているDIOの瞳は―――酷く冷たかった。


「君はまさか…」


小さく響き渡るような低い声で、DIOは呟き始める。


「一欠片の勇気も振り絞らず、一滴の血も流さずに、この殺し合いを生き残れるとでも…思っているのかい?」


耳元でゆっくりと囁くDIOの言葉が頭の中で木霊する。
恐ろしいのに、どこか妖艶で甘美な声が。私の『脳髄』と『心』に、入り込んでくる。
私が眼を背けようとしていた現実を、強引に押し付けられる―――




「現実から目を逸らすな。『覚悟』することが幸福だぞ―――なぁ、古明地こいし」




ゾッとするように冷徹な声が、私の耳元で吐き出された。
ひっ、と情けない声を上げた私は反射的にDIOから離れようとする。
だけど、出来ない。恐怖に戦いた私の体が、動こうとしなかった。
私の意思が、この人に逆らうことを拒んでいたんだ。


264 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:50:58 QEof12HE0
暫しの沈黙の後、私の後ろでDIOがゆっくりと立ち上がる。

「……怖がらせてすまない。君のことが心配だったが故に、このような態度を取ってしまった」

DIOの声色は再び穏やかな物へと戻り、怯える私の頭を優しく撫でてくれた。
安らぎと恐怖が同時に胸の中に渦巻く。自然に表情がくしゃりと歪んでしまう。
いつの間にか私の瞳からは涙が溢れ出ていた。

「だが、君には天国へと至れる素質…そして勇気を奮い立たせる心があると信じているよ」

片手で優しく私の涙を拭いながら、DIOはそうやって優しく語りかけてくる。

「…さあ、話は終わりだ。プッチの下へ戻るといい…そして君の『勇気』で、彼を助けてやってくれ。
 君に渡した銃はそのきっかけだ。そうして勇気を振り絞った時…君は『覚悟』を手にするだろう」

止めどなく涙を溢れさせ、呆然としたまま私はDIOを見上げていた。
得体の知れない恐怖と安堵に支配されながら、よろよろとその場から立ち上がる。
神父様の下に戻りたかった――――いや、違う。DIOから、逃げ出したかった。
訳の分からない不安感から、逃げ出したかった。

「『覚悟』は人を幸福にする。君が奮い立つことを、私は願っているよ――さらばだ、こいし」

背を向けてふらふらと出口へと向かう私に向かって、DIOは穏やかな声色でそう言ってくる。
恐ろしい。そのはずなのに、どうしようもなく穏やかで…安らぎさえ感じる。
得体の知れない感覚に襲われながら、私はDIOから逃れる様に歩き続けた。
闘技場の出口へと辿り着き、私は階段を下ろうとする。





「また、会おう」




去り行く私の耳に入ったのは、DIOが呟いた一言。
その言葉を認識した瞬間。私の身体は――――震え始めていた。



◆◆◆◆◆◆


265 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:51:46 QEof12HE0
◆◆◆◆◆◆



「話を終えたか、こいし」

コロッセオの外にて、プッチは振り返りながら言う。
彼の視線の先、闘技場の内部から姿を現したのはこいしだった。
一丁の小銃を抱え、顔を俯かせながらとぼとぼと歩いている。
表情には不安にも似たような暗い影を落としており、涙を流したような痕も見受けられる。
プッチに声をかけられたこいしは、おずおずと顔を上げながら口を開く。

「…えっと、その…神父様、」
「君の言いたいことは解る。だが、DIOは信頼出来る男だよ。彼は私の唯一無二の友なのだからね」

こいしの言葉を遮る様に、有無を言わさずプッチはそう言った。
一瞬口を止めてしまう。しかし、こいしはそれでも再び声を吐き出そうとした。
あのDIOへの言い様の無い不信感を、言葉として形にしようとしたが―――


「だから君は心配しなくていい。彼の望む『天国』は、君や君の家族をも幸福にするのだから」


プッチの穏やかな微笑と共に、再びこいしの意思は遮られた。
まるで強引にDIOを信頼させようとしているかのように。
彼への不信の感情は決して赦さない、と言わんばかりに。
それに気付いてか、こいしはもはや何も言い出せぬまま口を噤いでしまう。

「さあ、行こうか。戦わねばならない敵が迫っている」
「…うん」

プッチに丸め込まれたかの様にこいしは是非も無くこくりと頷く。
怒りを買うことが怖かった。何となくだが…彼に逆らうことは、DIOに逆らうことと同じような気がしたからだ。
故にこいしは異議を申し立てることも出来ず、黙ってプッチに着いていくことしか出来なかった。


266 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:52:42 QEof12HE0

小銃を抱えるこいしを一瞬見た直後、プッチは彼女を携えて歩き出す。
コロッセオを後にし、向かう先は―――南方。アザの共鳴が感じ取れる方向だ。

(私は、彼の為に戦おう)

首筋のアザに触れ、ジョースターの血統の気配を感じ取ったプッチは『覚悟』を決める。
奴らの血統が着実に近付いてきている。位置は恐らく南方か。
丁度いい。DIOとの夢の為にも、ジョースターの血族は何としてでも断たねばならない。
まずは一人…『古明地こいし』を携え、敵を確実に始末する。


(ジョースターの血統は必ず断つッ!そしてDIOと共にこの殺し合いに生き残り…私は『天国』へと到達する!)


【E-4 コロッセオ/黎明】

【古明地こいし@東方地霊殿】
[状態]:健康、主催者への恐怖、DIOへの恐怖と僅かな興味、不安
[装備]:三八式騎兵銃(5/5)@現実、ナランチャのナイフ@ジョジョ第5部(懐に隠し持っている)
[道具]:基本支給品、予備弾薬×25
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:神父様に着いていく。
2:DIOが恐ろしい。それなのに、彼の言葉に安らぎを感じてしまう。
3:地霊殿や命蓮寺のみんな、特にお姉ちゃんや聖に会いたい。
4:『天国』へ行けば、みんな幸せになれる…?
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降、命蓮寺の在家信者となった後です。
※無意識を操る程度の能力は制限され弱体化しています。
気配を消すことは出来ますが、相手との距離が近付けば近付くほど勘付かれやすくなります。
また、あくまで「気配を消す」のみです。こいしの姿を視認することは可能です。

【エンリコ・プッチ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(1〜2 確認済)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に『天国』へ到達する。
1:ジョースターの血統とその仲間を必ず始末する。
2:保身を優先するが、DIOの為ならば危険な橋を渡ることも厭わない。
3:古明地こいしを利用。今はDIOの意思を尊重し、可能な限り生かしておく。
4:主催者の正体や幻想郷について気になる。
[備考]
※参戦時期はGDS刑務所を去り、運命に導かれDIOの息子達と遭遇する直前です。
※緑色の赤ん坊と融合している『ザ・ニュー神父』です。首筋に星型のアザがあります。
星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※古明地こいしの経歴及び地霊殿や命蓮寺の住民について大まかに知りました。
※主催者が時間に干渉する能力を持っている可能性があると推測しています。
※E-4に近付きつつあるジョースターの血統(ジョセフ・ジョースター)の気配を感じ取っています。

◆◆◆◆◆◆


267 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:54:16 QEof12HE0
◆◆◆◆◆◆


(行ったか…)

DIOはコロッセオの支柱の後方からゆっくりと姿を現し、外部へと出る。
プッチとこいしが去ったことを確認した彼は、周囲の様子を伺いつつ思案する。

先程の二人きりの会話の際に古明地こいしに肉の芽を植え付け支配することも考えた。
だが、それは敢えて行わなかった。彼女という存在が実に興味深かったからだ。
心を捨て去った妖怪の少女が自らの意思でどのような道を選択するのか。それが気になったのだ。
もしも彼女が『天国』への道を選んだ時、私と彼女はプッチと同じ様に真の友になる。
故に肉の芽で自我を奪い取るなど、興が殺がれることでしかない。

そして我が友―――プッチはジョースターの血族の始末を買って出てくれた。
再会後のプッチとの会話の際、彼自身が率先して引き受けてくれたのだ。
ジョースターは100年前からの宿敵。その強さは理解している。
彼らと戦うことになる友の無事を祈りたい。
無論、私もジョースターの血統を見つけ次第仕留めるつもりである。

(プッチとの再会で得られたものは大きかったな)

DIOは心中でプッチから聞き出した情報を咀嚼していた。
自らは既に過去の存在であり、時代は次の世紀へと進んでいるという。
彼の言葉を疑うつもりなど無い。全てが真実だと確信していた。
外見が十代の青年から初老を目前に控えた中年のものへと変わっていたのも、実際に彼が未来のプッチであるからだろう。
それに、名簿に100年前の人間の名が載ってていたことに関しても合点が付く。
あの荒木と太田という男たちは『時間を超越する能力』を持っている可能性が高い。
そうでないにせよ、少なからず強大な力を持っていることは間違い無いだろう。


268 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:55:06 QEof12HE0

(しかし……空条承太郎………)

そしてDIOは、ギリリと歯軋りをしながら一人の男の名を心中で呟く。
忌まわしきジョースターの血族。あのちっぽけな小僧が、後にこのDIOを殺しているらしい。
それだけではない。このDIOのみが持つことを許された『時間を止める能力』を手に入れているというのだ。

表面上では冷静沈着な態度を装っていた。
しかしそれはあくまで建前の表情に過ぎない。
彼の内心で渦巻く感情は――――動揺。そして不快感。


(…奴め!虫ケラの糞にも劣る若造がよくもぬけぬけと。このDIOの支配する『静止した世界』に土足で踏み込んできただと?)
(ふざけるなよタンカスがッ!決して許しはせんぞッ!時を止める力を持つのはこのDIOのみでいい!!)


苛立ちの表情と共に心中で吐き出されるのは憤怒の怨嗟。
たかが20年と生きていない若造如きに自らの領域へ足を踏み入れられた。
その事実がDIOに堪え難い屈辱と憤怒を与えたのだ。
帝王のベールに覆い隠されている邪悪な本性が、その胸の内で撒き散らされる。


(………、少し頭に血が上ってしまったな。落ち着くとしよう)


一頻りの苛立ちを心中で吐き出した後、ふぅと深呼吸を行い感情を落ち着かせる。
昔からそうだ。このDIOは頭に血が上り易いことが最大の短所だ。
かつてよりは克服出来たと思っていたが、どうやら短所とはそう簡単に直ってくれるものではないらしい。
私は帝王だ。いずれ『天国』へと到達する男だ。このようなチンピラ同然の性分では再会したプッチにも顔向け出来ない。
己の短所を戒めとして再び認識した後、DIOはゆっくりと歩を進め始める。
このような場に留まり続けているつもりは無い。

(さて―――私も、行くか)

邪悪の化身はコロッセオを後にし、唯一人で宵闇の中を駆け抜けた。
向かう先は既に決めている。その先で何が待ち受け、何者と出会うのか。
彼はまだ知る由もない。


269 : ハルトマンの幸福理論 ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:55:42 QEof12HE0
【E-4 コロッセオ/黎明】

【DIO(ディオ・ブランドー)@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、怒り、僅かな動揺
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(0〜1 ジョジョ東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、頂点に立つ。
1:永きに渡るジョースターとの因縁に決着を付ける。手段は選ばない。空条承太郎は必ず仕留める。
2:日が昇る前に拠点となる施設を捜す。日中の間引きの為に部下に使える参加者を捜す。
3:古明地こいしを『天国』に加担させてみたい。素質が無いと判断すれば切り捨てる。
4:優秀なスタンド使いであるあの青年(ブチャラティ)に興味。
[備考]
※参戦時期はエジプト・カイロの街中で承太郎と対峙した直後です。
※停止時間は5秒前後です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※名簿上では「DIO(ディオ・ブランドー)」と表記されています。
※古明地こいしの経歴及び地霊殿や命蓮寺の住民、幻想郷について大まかに知りました。
※自分の未来、プッチの未来について知りました。ジョジョ第6部参加者に関する詳細な情報も知りました。
※主催者が時間に干渉する能力を持っている可能性があると推測しています。
※彼が何処へ向かうかは後の書き手さんにお任せします。


<三八式騎兵銃(5/5)@現実>
ディオ・ブランドーに支給。予備弾薬×20もセット。
1905年に旧日本軍が正式採用した三十八式歩兵銃を騎兵用に短縮したボルトアクションライフル。
正式名称は「三十八式騎銃」だが、機銃との混同を避けるべく騎兵銃と呼ばれている。
口径は6.5mm。銃身は極限まで切り詰められており、全長は96cm程。
短い銃身や小口径による反動の小ささによって軽便で取り回しの良い小銃として仕上がっている。
その扱い易さから騎兵だけでなく前線、後方関わらず様々な部隊が使用した。
現在は古明地こいしが装備。予備弾薬も所持中。


270 : ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 21:56:26 QEof12HE0
投下終了です。
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします。


271 : 名無しさん :2014/02/03(月) 22:21:36 knOtLDBM0
DIO教


272 : 名無しさん :2014/02/03(月) 22:26:18 KSUWgG.s0
信者が増えるよ!やったねDIO様!


273 : 名無しさん :2014/02/03(月) 22:50:43 vIAi.n3I0
投下乙ですッッ

DIO様の心に入り込むような妖しいカリスマが良く表現されていると感じました。
これはこいしちゃんもう駄目かも分からんね……w

……でも内面では自分の結末を知ってハラワタフットー中なのも彼らしいw


274 : ◆n4C8df9rq6 :2014/02/03(月) 22:57:54 QEof12HE0
すいません、>>269の支給品解説で誤字を発見しました…

×ディオ・ブランドーに支給。予備弾薬×20もセット。
○ディオ・ブランドーに支給。予備弾薬×25もセット。


275 : ◆qSXL3X4ics :2014/02/04(火) 00:04:23 BtRQa4E.0
投下乙です!
いよいよ帝王が動き出したって感じで怖いですね…
こいしちゃんの先行きが不安ですが、このまま悪堕ちするかどうか…

ジョセフ・ジョースター、橙、エンリコ・プッチ、古明地こいし、ディオ・ブランドー
チルノ、因幡てゐ、森近霖之助
以上8名、予約します。
いきなりDIO一派の続投ですが、ジョセフシナリオをそろそろ進めたかったので…


276 : 名無しさん :2014/02/04(火) 00:08:37 97bzYt0M0
おお、これは一気に動きそうな予約だ


277 : 名無しさん :2014/02/04(火) 00:27:06 MZX97bME0
この幼女率ww


278 : 名無しさん :2014/02/04(火) 00:40:49 SEqvgzC60
てゐ以外の女性陣の不安定さ半端ないなwww
約二名ディオ様に籠絡されるか?


279 : 名無しさん :2014/02/04(火) 04:25:39 V7dUZj.o0
ジョセフとこいしちゃんは双方の作品で一番好きなキャラだけに嫌ーな
予感しかしぬぇ予約ェ…果たして


280 : 名無しさん :2014/02/04(火) 07:39:48 4w/ddXXY0
チルノと橙が不安すぎる


281 : 名無しさん :2014/02/04(火) 14:53:36 Xa5bim8s0
一定ランク以下無効化の鎧やラジャイオンの機動力も厄介だけど、逆を言えばそれさえどうにかすれば何とかなるんだよね
あとはステータス強化やグルグラントみたいな物理攻撃系キャラだし


282 : 名無しさん :2014/02/04(火) 14:54:11 Xa5bim8s0
すいません誤爆です…


283 : 名無しさん :2014/02/04(火) 17:11:36 rB3Nbdfg0
どこの誤爆か一瞬で分かってしまった俺はもう手遅れかもしれない


284 : 名無しさん :2014/02/04(火) 17:52:34 Iqz47vlM0
殺伐としたジョジョ東方ロワにアシュナードが!


285 : 名無しさん :2014/02/05(水) 00:14:24 WINQUYfo0
>>284
余計サツバツとするからやめろよw
……いや、>>281の通りの能力なら
アシュナードがジョジョ東方ロワに突如乱入しても案外あっさり殺られそうだなぁ

故・きょーこちゃんの大声で鼓膜ごと三半規管を潰されたり・・・w
鎧の防御効果、物理攻撃以外の扱いが不明だけど……w


286 : 名無しさん :2014/02/05(水) 00:19:37 yEaMwOOg0
該当ロワでは一応トップマーダーで屈指の強者なんだけどね
まぁ全く関係ない余所の話をこれ以上膨らませるのもちょっとアレな気がする…w


287 : 名無しさん :2014/02/05(水) 00:21:00 h1kqrkjg0
芳香ちゃん可愛いって話だっけ?


288 : 名無しさん :2014/02/05(水) 00:51:02 oTQvfcksO
いや、ヤマメちゃんかわいいって話


289 : 名無しさん :2014/02/05(水) 00:54:54 sLMCbfqY0
こいしちゃんが一番可愛いから


290 : 名無しさん :2014/02/05(水) 01:08:56 yEaMwOOg0
ヤマメちゃんは今も地底からみんなを見守っている


291 : 名無しさん :2014/02/05(水) 07:44:38 vAGcC6GsO
雛が一番かわいいだろいいかげんにしろ


292 : 名無しさん :2014/02/05(水) 08:38:21 QoDQhUfU0
てんこあいしてる


293 : 名無しさん :2014/02/05(水) 20:21:44 4EHiNvDY0
何言ってるんだお前等スピードワゴン(故)さんに決まってるだろ


294 : 名無しさん :2014/02/06(木) 00:53:50 F05gITS2O
タスクさんだろチュミミン


295 : 名無しさん :2014/02/06(木) 02:42:07 nso8q.EU0
こーりんが予約されたから深夜組はいよいよジョルノ一行のみとなったか…
長い道のりだったが、第一回放送も見えてきた感じだな。面白くなってきたぜ

小傘ちゃん生きてますか


296 : 名無しさん :2014/02/06(木) 02:58:17 61gYeqs20
(実際依り代が大破した付喪神って相当ヤバい状態なんじゃ…)


297 : 名無しさん :2014/02/06(木) 06:41:46 BXnaRutI0
リレー小説なのにリレーしにくいSS投下


298 : ◆AC7PxoR0JU :2014/02/07(金) 07:11:41 e/xUV3G.0
>>195 ですが、間に合いそうもないので一旦破棄します。
申し訳ありません。


299 : 名無しさん :2014/02/07(金) 07:20:27 N/yLQdlk0
もう予約期限無しの方がよくね(暴論)


300 : 名無しさん :2014/02/07(金) 13:47:22 f9N/8T3c0
>>299
そんなことしたら余計やりづらくなるから(良心)


301 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/10(月) 01:33:17 Hc4neIMo0
予約を延長をお願いします。


302 : ◆qSXL3X4ics :2014/02/11(火) 00:34:37 J8/0T1co0
すみません、自分も予約の延長を申請します


303 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/16(日) 03:05:48 yonGpz9w0
多々良小傘
ジョルノ・ジョバァーナ
トリッシュ・ウナ

の3名を予約……して良いでしょうか?
完全自己リレーになってしまいますが……。


304 : 名無しさん :2014/02/16(日) 03:17:01 YpXFqOvA0
もうだいぶ前から動きが無い組だしええんとちゃうかな


305 : 名無しさん :2014/02/16(日) 03:32:48 Rcdm3L8o0
いいと思います、深夜から動いてませんし


306 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/16(日) 16:13:32 yonGpz9w0
>>304
>>305
ありがとうございます。
wikiの方にも予約として加わっていたので、正式に予約させてもらいます。


307 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/17(月) 20:30:04 tEP9b7Zw0
すみませんが、もう少しだけ話を切りつめたいので
一旦予約を破棄します。

事件や事故に巻き込まれなかったら、2月19日には
必ず投下するので、もうしばらくだけ時間を下さい、お願いします。

本当に何度も何度も申し訳ありません…


308 : ◆YF//rpC0lk :2014/02/17(月) 20:33:40 0SC5cfgc0
>>307
分かりました。それでは19日に楽しみに待っています。


309 : ◆qSXL3X4ics :2014/02/18(火) 15:22:04 ehCZYQsU0
>>275の予約ですが本日中の投下はどうにも無理そうだと判断したので予約を一旦破棄します
延長までしておいて本当に申し訳無いのですが、一日時間を置いて改めて予約するか、ゲリラという形で投下するつもりです

ここまで待っていただいた方、すみませんでした


310 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:07:46 dK8R/ulQ0
投下します。


311 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:08:38 dK8R/ulQ0
―――私は走っていた。

いや、気づいていたら既に走っている状態だった、と言った方が正しいか。
なぜ走っているって?そんなの私だって知りたいくらい…
でも立ち止まったらマズい、振り向くなんて以ての外。
今はひたすら、背後にいるであろう存在から逃れるために走ることで精一杯だ。 

それでも、私は一体何をしていたのか、という疑問が脳裏にチラついた。
目が覚めたら走っているなんて、異常な状況を無視することはできないもの。
私は必死に走る傍ら、記憶の糸を手繰り寄せてみることにしたわ。


312 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:09:16 dK8R/ulQ0
一人の青年と二人組の男女が竹林にて相対していた。
青年は箒のように逆立った奇妙な髪形をした、ジャン・ピエール・ポルナレフ。
二人組の一人は紳士風の装いをした壮年の男性、ウィル・A・ツェペリ。
そのツェペリの傍で傘を抱えて不安そうな表情を浮かべる少女、マエリベリー・ハーンだ。

「ジョースターという名に聞き覚えは?」
箒頭の男、ポルナレフはツェペリの殺し合いに乗っているかどうかの問いを無視し、
開口一番そう尋ねてきた。

「ジョースター、か。君は殺し合いの場に呼ばれたにも関わらず、人探しとはどういうつもりなんじゃ?
 そいつとはどういう関係なのかね?」
「因縁の相手としか言えないな。もう一度言うぞ、ジョースターという名に聞き覚えは?」

ツェペリは首を左右に振り、やれやれだといわんばかりに両手を挙げた。
「儂の名前はウィル・A・ツェペリ。
 お嬢ちゃん、彼に名前を明かしてくれるかね?」
「え? は、はい。私はマエリベリー・ハーンって言います…」

その答えにポルナレフはやや不満そうに様子で口を開く。

「二人がジョースターではない、ということは分かった。
 だが私はあまり暇ではない、そろそろ質問に答えてくれないだろうか?」
「まあ、待つんじゃ。いきなり一方的に質問するとは虫がいいとは思わんかね?」
「重ねて言うが、私はそんなことを気にしている場合じゃあ…!」
「まず殺し合いに乗っているかどうか、そこから教えてくれんと儂たちから話せることは何もないぞ?」
「だが、私は急いで…」
「それとも、君は無暗に他人を怯えさせるような人間なのかね?
 ほれ、お主が怖い顔しとるからメリー君も儂の後ろに隠れておるじゃないか。」

マエリベリーはハッとし、前に出て抗議の声を上げる。
「わ、私はべ、別にかまいませ…」

「…むむ、そこまで言うなら仕方ない。
 貴方たちが偽名を使っていない、そしてDIO様に手を出さない、
 この2つを約束するなら、私はあなた方を襲わない。…これでいいか?」

  (エッ!?)
  (ディオ…じゃと!?)


313 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:10:00 dK8R/ulQ0
予想だにしない名前を聞き2人は内心驚いていた。思わずそれを声に出さそうとしたが何とか堪える。

「どうした?」
「いやいや、なんでもないぞ、その2つを約束しよう。良いかな、メリー君?」
「は…はい。私は平気です…けど。」

 まさか、こやつの口からディオの名前を聞くとは。
 そして『ジョースター』家を探している、か…。厄介なのに出くわしたようじゃな。

 ディオって確かツェペリさんが探していた『石仮面』を被って吸血鬼になった人…
 そしてツェペリさんの弟子のジョナサンさんの元『友人』、その人を様付け?

「さて、他に私は何を答えたら教えてくれるのだ、ツェペリ殿?」
「そうじゃな、まずは…
 そこにいる馬、触らせてもらっても構わんかな?」


「「はあぁ!?」」


「ツェ、ツェペリさん!いくら何でもそんなことしている場合じゃあ…」
「分からんぞ、メリー君。この馬に何か仕込んであるか分からんからな、
 ちょっと前にいきなり馬の首が取れて、中から屍生人が出てきたことがあってじゃな…。」
「お、脅かさないでくださいよ! それに、彼だって許すわけが…」

「全く以てその通りだ―――
 と言いたいが、それで済むなら好きにしろ。ただし手早く終わらせてくれ。」

「―――って許すんですか!?」

マエリベリーが呆気にとられるのを他所に、ツェペリはとうに馬に近づいていた。
彼女もその後をササッと追った。

「ツェペリさん、一体何をするつもりなんですか?まさか、乗り逃げするつもりじゃあ…」
マエリベリーはポルナレフに聞こえないように小声で尋ねる。

「ほっほ、そんなつもりはないよ。…むしろ奴を止めることも視野に入れんといかんかもしれん。」
「…ジョナサンさんが危険ですものね、私も力になれたら…」
「戦う力がないことを悔いる必要はないぞ、メリー君。無くていいんじゃ、
 有るから争いは起きる。あの『石仮面』のようにな。」

 私にはツェペリさんから悔しさが滲んでいるように見えたわ。
 だって『石仮面』の力で振り回されている人をこの殺し合いの場で、
 早速目の当たりにしたんだもの。

その後ツェペリは馬を撫でたり、騎乗しようとするも、何故か噛まれたり、
振り落とされたりして、随分嫌がられている様子だった。


314 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:10:41 dK8R/ulQ0

その間ポルナレフは二人の様子を窺いつつも、ツェペリとは違う方を向き、
声を少し張っておもむろに告げる。

「そこに隠れている2人、敵意がないなら出てきてもらおうか?」

「………」

「それとも、ジョースターの内の誰かか?違うなら出てきた方が身のためだ。
 逆に出てこないというなら―――。」


「…分かったわよ、でもなんでバレっちゃったのかしら?」
そう言いながら、桃色の髪に水色の着物のようなものを着た女性、
その後に続くように紫色のおかっぱ髪に花飾りをあしらい、こちらも着物を着た少女が出てきた。

「君たちはジョースターの名を知らないか?
 それとよかったら名前を窺いたい。」
「ジョースターねぇ…生憎知らないし見てないわ。貴女はどう、阿求?」
「私もこれといって聞かない名前ですね。
 あっ、私は稗田阿求、彼女は西行寺幽々子と言います。」

「…そうか。まったく、奴らは竹林にはいないとみるべきか…」
一人呟くポルナレフに、幽々子は不満そうに声を上げる。

「ところで、人を脅しといて自分から名乗り上げないつもり?変な髪型も合わさって印象悪いわよ?」

「向こうの用事が済んだらまとめて話す。それまで待ってもらおう。」

ポルナレフはあくまで事務的に伝える。後ろで幽々子が箒頭がどうだこうだ悪態をつき、
阿求がそれを諌めていたが気にせずツェペリたちを見遣った。


315 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:12:02 dK8R/ulQ0
「ツェペリ殿、もう気は済んだだろうか?」
「やれやれ、ちょいと躾がなってない馬じゃな。それに後ろの女性方はどうしたんじゃ?」
「近くで隠れていたようだったからな、用心のために話を付けた、それだけだ。」

こちらを見ている二人に幽々子はニコニコして手を振る。
場違いな反応に少々面食らう二人であったが、慌てて阿求が謝罪の弁を述べた。

「隠れていたのが不快だったのでしたら、申し訳なかったと思います。
 でも決して悪意があったわけではないんです。」
「そう、そう。隠れていたのは自衛のため。
 それに折をみてお話をするつもりだったもの。ねぇ?」

そう言うと、幽々子がマエリベリーと目が合うと小さくウィンクした。
「…?」
「とにかく、敵意がないのなら歓迎しよう。儂はウィル・A・ツェペリ、
 この娘はマエリベリー・ハーンじゃ。」
「…よろしくお願いします、友達からはメリーって呼ばれてます。」

マエリベリーは自己紹介し、軽くお辞儀した。その様子に幽々子は友人―――八雲紫の姿と比較する。
 
 うーん、見た目は紫に似てはいるけど、違うわねぇ。付き合いは長いけど、
 あの子って出会ってからもほとんど変わらないし(あっ、私もか)。
 強いて言うなら、私に出会う遥か昔の紫って感じかしら。見た感じ若いものね。
 まぁ、そっくりさんってところかしら?

幽々子はとりあえずは考えるのをそこで止め、同じように自己紹介をする。


「さてと、貴方もいい加減に自己紹介してもらえないかしら、箒頭さん?」

ふむ、分かった、と言うと堂々と自己紹介をする。
「私の名前はジャン・ピエール・ポルナレフ!
 無念のまま死んだ妹の仇を討つ為にッ!
 そして私が忠誠を誓ったDIO様のためにッ!
 憎き『ジョースター』の名を持つ者とその一行をッ!
 この手で殺めることだッ!理解してもらえただろうか、諸君?」

 …やはりあのディオのようじゃな、しかしこやつからは屍生人特有の腐敗臭がしない、
 純粋に忠誠を誓っているのか?
 
 やっぱりこの人、危険だ。ジョナサンさんのために止めたいけど、どうしたら?
 
 私たちには無関係とはいえ殺し合いに乗っている方でしたか…

 主人の為に相手を殺すか…あの娘も馬鹿な真似してないといいんだけどねぇ。


316 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:12:57 dK8R/ulQ0

各人様々な疑問や考えが駆け巡るが、ポルナレフはさらに続ける。

「ツェペリ殿、マエリベリー君、改めて尋ねるぞ。
 貴方たちはジョースターという名に聞き覚えはないか?」

「残念じゃがジョースターの名前を持つ者なら、儂もメリー君も会っておらんよ。
 ここで人と会うのはお前さんと幽々子君そして阿求君が初めてでな。」

ツェペリはそこで一旦区切って、気になった話について問いただしてみる。
「一つ聞きたい。妹を殺されたと言ったが、それは本当にジョースターの仕業でよいのか?」

「DIO様がそう仰ったのだ、間違いとは思えんな。」
「そうか…ならば犯人の特徴についてお主は何か知らないのか?」
「もちろん、知っているとも。確か……」

ポルナレフはもう一度「確か…」とつぶやくと頭を抱え込んだ。


「何故だッ?思い出せないッ!?特徴は、特徴は………」
ブツブツと何か呟きながらポルナレフは思い悩むが、やがてハッとする。

「いや、必要ないな。犯人はジョースターとその一行。
DIO様の言う通りにしていれば、いずれ尻尾を掴めるはずだ。」

 こやつ様子がちとおかしい気がしてきたぞ。
 ディオはもしや屍生人にせずとも吸血鬼の力だけで相手を支配できるのか?
 自身で考えるのを放棄するまでディオに心酔しておる。
 こやつを放っておけばジョジョにも危害を加えるじゃろうし、ほっとくわけにいかんか。

「さて用は済んだ、私はこれにて失礼する。
 もし、奴らに出くわしたら私に伝えてくれると助かる。それでは。」

「…待ってもらおうかの、ポルナレフ君。」
「どうしましたか、ツェペリ殿?」
ヴァルキリーに近寄っていたポルナレフは足を止め、振り返る。


317 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:14:04 dK8R/ulQ0
「君は吸血鬼の存在を知っておるかね?」
「吸血鬼?なんですか藪から棒に…」
「君の言うディオ様は日中、日の差すところで行動したところを見たことがあるか?」
「いや。DIO様は訳は存じないが、日に当たることのできない身と言っていたな。それがどうかしたか?」

ツェペリは小さくため息を漏らし、口を開く。
「簡単に言うぞ。儂は『石仮面』という人間を吸血鬼に変えてしまう仮面を追っておる。
 そしてお前さんの主、ディオ・ブランドーは石仮面の力で吸血鬼になり多くの人間を殺したのじゃ。
 儂とジョジョは奴をこの世から消し去るために行動しておる。」
「DIO様を消し去るだと…!?」
「奴の力に惹かれているというなら、悪いことは言わん。今すぐに―――
「聞き捨てならないぞ…!ウィル・A・ツェペリッ!黙って聞いていればヌケヌケと…!」
ポルナレフは怒りに震えながら、静かに怒気を含んだ声を漏らしていた。 

「石仮面に吸血鬼、ファンタジーやSFじゃあるまいし世迷言を抜かすな!
 挙げ句、我が主を消し去るとか言ったな!
 覚悟はいいか!『シルバー・チャリオッツ』!!」

怒りを露わに自らのスタンドの名を宣言する。
すると、ポルナレフの傍にまるで、最初からその場にいたようかのように佇む騎士の姿がいた。
騎士は銀の甲冑を纏い、細見の剣を構えており、その視線は手にした刃と同じく鋭い。
突然の出来事にツェペリを含む4人とも驚きを隠せなかった。

「な、なんじゃあッ!こいつは、いつの間に…!?」
「う、嘘。どうして…?」

「スタンドを見るのは初めてのようだな。それでDIO様に楯突こうというのならお笑い種も甚だしい。
 だが、このポルナレフ容赦せん!」


318 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:14:49 dK8R/ulQ0
そう言うが早いが、ポルナレフはスタンドと共に駆け出す。
ポルナレフは偽りの忠義のため、戦いをけしかけてきたのだった。


「―――ッ!速いッ!!」
間合いを詰めるスピードもさることながら、さらに恐ろしいのは熟達した技術も合わさった剣速!

それでも相手の速度を鑑みて後方に飛び退くことで、わずかに掠めるだけでツェペリは事なきを得る。

「お返しにくれてやるわいッ!」

着地した瞬間に退いた勢いを180度転換。逆襲にとチャリオッツ目掛け、
パウッと波紋の呼吸と共に膝蹴りを見舞わせる!

「仙道ウェーブキックッ!」

膝蹴りは的確にチャリオッツの胸を捕え、波紋を全身に流すことに成功する。
ツェペリは後方に着地する、鎧越しだが確かな手ごたえを感じ、
チャリオッツを気絶へ追い込んだと思っていた。しかし―――

「無駄だ!スタンドにはそのような攻撃は通用しないッ!」

ツェペリの攻撃が意味を成さないと言わんばかりに、チャリオッツは突撃を再開していた。

「ば、馬鹿な…!?」

そして距離は完全に詰められ完全な射程圏内、逃げ場はない。

「覚悟してもらうぞ、ツェペリ!『シルバー・チャリオッツ』ッ!!」
「くっ、腹を括るしか、ないようじゃな…!」

さっきと同じように後方に逃れれば、次こそはスピードの速いチャリオッツが振るう刃から逃れられない。
ならば応戦するほかない、ツェペリはそう判断し、チャリオッツを睨み片手を突き出し構えた。


319 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:15:57 dK8R/ulQ0
「うーん、なんだか私達、置いてきぼりにされちゃったわね?」
「幽々子さん、そんな呑気な…」

幽々子がのんびりとした感じで話す様子に、ツェペリの連れであるマエリベリーに対して
失礼だと感じた阿求は幽々子を窘めた。
「でもねぇ、阿求。あの二人は当人同士でけりをつけたいはずよ。
 現に私達になーんにも教えてくれないんですもの。」
「確かに、そうですけど…」

でもねぇ、と付け足しマエリベリーをチラッと見て幽々子はさらに続ける。
「誰かに教えてもらえれば、私達も無関係ではないわね。誰かいないかしらー?」
「…!力になって頂けるんですか!?」

幽々子の言葉の意味が分からないほどマエリベリーは愚鈍ではない。
驚きながらもすぐに幽々子へと視線を移した。

「ふふ、説明してもらえるかしら、メリー?」

幽々子はメリーの期待のまなざしを、いつもの余裕を持った笑みで返した。


マエリベリーはどうしてツェペリがポルナレフと戦わなければならないのか、要点を押さえ手短に説明した。

「石仮面を追うツェペリさん、石仮面によって吸血鬼となったディオさん、
 彼を止めるべく立ち上がったジョナサンさん…」
「―――で、何故かディオに従っている箒頭ね。まあ、概ね理解できたわ。」

「…信じてもらえるのですか?」
あっさり今までの話を飲み込んだ二人に却って驚くマエリベリー。
自分だって聞かされた当初は多少なりと疑ったのにも係らずだ。
しかし、真摯な態度を以て接してくれたツェペリの言葉だからこそ突拍子もない話でも信じられたのだ。


320 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:17:04 dK8R/ulQ0
「ああ、説明してなかったわね?私達もちょっとだけ普通じゃないのよ、ちょっとだけね。」
「私の知識と合致しないところもありますが、外の世界では吸血鬼ってそんな風にできるんですか。
 興味深いですね…」
ふむふむ、と頷きながらマエリベリーが話した内容を租借する阿求に幽々子が水を差す。

「あらら、あなただってこんな時に呑気過ぎないかしら、阿求?」
「うっ…す、すみません。職業柄というか、つい…」
申し訳なさそうに返す阿求にコロコロと笑う幽々子だが、
さてと、と発すると話を切り替えるべく表情を引き締める。

「ちょっとふざけ過ぎちゃってごめんね、メリー。まぁ、安心なさい。阿求、メリーを任せるわね。」
「はい、でも決して無理なさらないで下さい。」
「頼んだ手前にアレですけど…本当に大丈夫なんですか?」
本当に今更だが、マエリベリーは不安に、いや心配していた。
買って出てくれたとはいえ、自分と同じ女性に頼むことに尻込みするのは当然ともいえる。
幽々子はマエリベリーに近づくと片頬をつまみ上げる。

「ふぁにふるんでふか!?」

「いやねー、ひょっとしたらあの娘の昔ってこんなに可愛かったかしらって考えてね♪」
そう言うと、パッと手を離してあげた。マエリベリーは首を傾げるが、
ふと思い立つと自身の手に握っている物を差し出す。

「…そうだ、素手では危ないしこれでよかったらこれを使ってください!」
「悪いけど受け取れないわ、メリー。だってそれは私の友達の物だし、
 今は貴方の手に持ってたほうがよーく似合うもの。」
ピシャリと断る幽々子だが、その顔はにこやかだ。
「そんな理由で―――」
「それに、ちゃんと獲物はあるわ、とっても大事な物が…ね。」
幽々子は腰に下げた少し小ぶりの刀を見せると、続きは後で話ましょうねー、
と言って対峙する二人へと向かって行った。

マエリベリーの表情はそれでも少し暗かった。阿求は何か自分でできることはないかと考えた結果、
彼女の不安を取り除こうと話しかけることにした。
「呑気な雰囲気の方ですけど、あれで凄腕の剣士の庭師をお持ちなんです。
 きっとお強いはずです、きっと…?」

マエリベリーを元気づけようとした阿求だったが、逆に話していて自分も心配になってきた。
彼女とて幽々子が戦っている姿を見たことはない、異変を起こす力は持っているが
直接的な戦闘はどこまでできるのか、見当もつかなかった。


「………あ、そうだ。さっき幽々子さんが普通じゃないって言っていたのは何故ですか?」
気まずい空気が流れそうになるのを感じたのか、マエリベリーは話題を振った。

 なんだか安心させるどころか、気遣われたような…
ひそかに心の中で自分の情けなさに涙しながら答える。
「ええと、そうですね。まず、私たちは『幻想郷』の住人なんです。
 逆にメリーさんは私たちからすると『外の世界』の方になりますね。」

「幻、想郷…!?」

「はい、それで先ほど幽々子さんが言っていた御友人の名前は『八雲紫』様と言って
 その『幻想郷』を管理されているお方なんですよ。」

「八、雲…ゆか、り!?」

―――マエリベリーの内側で二つの言葉が反響する、『幻想郷』と『八雲紫』
―――懐かしく、遥か昔から知っていたような感覚に襲われる
―――ふと対峙するツェペリとポルナレフが視界に入る
―――その途端、急に瞼が重くなるのを感じた
―――近くで阿求が声をかけるも空しく、彼女の意識は静かに混濁していった


321 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:18:03 dK8R/ulQ0
そして話は冒頭へと戻る―――

思い出したわ…!私は確かに阿求さんの話を聞いていた。で、急に気が遠くなって、それからは…!?

  ツェペリさん達の戦いはどうなったの?
  私はどうしていきなり気を失ったの?
  誰が追いかけてきているの?

一通り今までの記憶を思い出すも、未解決の問題があることに愕然とする私だった。
「はぁッ、はぁー……はぁ…」

もう10分以上は走っているだろうか。追跡してくる相手はしつこく、なかなか逃がしてくれそうにない。
体力に自信があるわけでもない私は、いよいよ走り続けるのが難しくなってきた。
それでも振り向くわけにはいかない。立ち止まるわけにはいかない。
追手が誰か分からないからか、私は2つの選択肢のどちらも選べなかった。
せめて誰か分からないと安心できなかった。

一体誰が追ってきているの?あの場にいた誰かって考えるのが自然だけど。
だってここはさっきいた竹林だもの………ん?竹林って、そういえば…!?


マエリベリーはハッとした。彼女はこの自分の状況に強烈な既視感を覚えているからだ。


―――そう、そうよッ!
竹林で追いかけられるシチュエーションって、
私が前に蓮子に話した夢の出来事とぴったりじゃない…! 
それじゃ、まさか!?
ここは私の夢の中?
意識を失ったのも、つまり―――今寝てるからなの!?

マエリベリーは『境目』を見る力を持っている。この力で蓮子と一緒に、
結界の切れ目を探しては、別の世界に足を運ぶといったことをしている。
それが原因かどうかは分からないが、夢を見るときにも別世界を彷徨うようになってしまったのだ。

だからなのかしら?私が走るのを止めないのは。
だって、夢と現は同じもの。最近の常識では同意語なのよ。
夢であろうと現であろうと、得体の知れない物からは逃げなきゃいけないわ。
そこにある真実は決して変わらないだから。


322 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:21:29 dK8R/ulQ0
「ホラホラホラホラホラぁーッ!」
「ぬおおぉぉおおーーッ!」

戦況はポルナレフが有利に動かしていた。チャリオッツのスピードを活かした、
剣の突きによるラッシュでツェペリを攻め立てる。

対するツェペリはそれをなんとか避けようとするも、そのスピードに苦戦していた。

 速いッ!さっきからかなりのスピードで動いているというのに全く衰えておらん!

勿論ツェペリもただ避けているだけではない。しかし最初に食らわせた波紋蹴りと同じように、
チャリオッツに波紋が一切通じないのだ。

 儂の波紋を受けても『スタンド』とやらには効かない…!
 なら、本体を―――ポルナレフ叩くしかない…が!

当然ポルナレフがそれを許すはずもなかった。近づこうにもチャリオッツを引き留めなくてはならない、
だがチャリオッツに波紋が効かないのではダメージは与えられない。
さらにスピードも相手の方が上、スタンドの猛攻を振り切ってポルナレフへ攻撃するのは不可能。
ツェペリの状況は積みに等しかった。

 儂は諦めるわけにはいかん…!こやつの後ろに控えている『石仮面』のその邪悪から解き放つために! 

「どうした、ツェペリ!避けているだけでは私には勝てんぞッ!」

しかし反撃のチャンスを窺うも、避けきれなかった刃がまたも体を走る。
一つ一つは深くはないが、全身のいたるところに斬りつけられた後が残っていた。

「ぐうぅッ、そういうことは!儂に、一撃食らわせてから、言うんじゃなッ!」

ツェペリは避ける。払ってくる刃に大きく身を屈め、そこから振り下そうとするなら地面を転がり、
突いてくるなら身を反らして凌いだ。
だがいずれも完全には避けきれず、掠り傷を生み出していた。



しかしここに来て、ようやく戦況が動く。

突如チャリオッツが攻撃が止め、ポルナレフの元へ戻る。
その直後ツェペリの背後からチャリオッツに向けて紫色をした光が三本差さっていた。
ツェペリは一瞬攻めるか、退くか悩むが一旦距離を取るべく走る。


「ハァーッ、ハァー、君がしたのか…幽々子君。」
「ええ、あの娘に頼まれたのよ、貴方を助けてくれってね。」

助け舟を出した幽々子は小さく笑う。

「さっきの光は一体何をしたんじゃ?」
「後で説明するわ。今はあの男を片すのが先でしょう?」

幽々子はポルナレフを指差して言う。


323 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:22:03 dK8R/ulQ0
「やれやれ、まさかこのような女性から横槍を入れられるとはな…。」

レーザー状の弾幕をチャリオッツで受け止めたポルナレフは静かに口を開く。
「まあいい、こちらも戦いを止めようと思っていたところだ。」
「どういうつもりじゃ?」
「スタンドを持たない貴方では万に一つも勝ち目はない、貴方自身それがよぉーく分かったはずだ。」
「確かに手こずらせてくれる、ちーっと骨が折れそうじゃわい。」

「それに、我がスタンドは取るに足りない相手を嬲るためのものではない。」
従って、とポルナレフは言い、スタンドを戻すとツェペリに向けて一つの提案を持ち掛ける。

「ジョースターの情報を吐くこと、
 貴方がDIO様を侮辱したことを撤回すること、
 手を出さないことを誓え…!
 そうすれば見逃すことを約束しよう。」

「ほう?ずいぶん親切じゃな、儂はディオの敵だということを忘れておらんか?」
                「だがッ!」

ポルナレフはツェペリの言葉を遮る。
「一つ言っておくッ!我が主DIO様もスタンドを所持し、その力は私を遥かに凌駕していることをッ!
 私に傷一つ負わせることが出来ない貴様に勝利など、絵空事に過ぎないッ!」

しばし二人の間に沈黙が流れ、ツェペリがその静寂をゆっくりと破る。

「少し話をさせてもらうかの、ご清聴願えるかな、ポルナレフ君?」
「いいだろう、話してみろ。ツェペリ。」

「儂はなあ、ポルナレフ君。人は困難に衝突した際に『立ち向かう』か、
『立ち止まる』か、この2つがあると思っておる。」

「じゃが、『立ち向かう』のも『立ち止まる』のも自由じゃと儂は考えておるよ。
 真に『立ち向かう』のに必要なものは『勇気』。
『恐怖』を我が物とし、乗り越えられるのなら困難に打ち克つことが出来る。」

「もし『立ち止まる』なら、『恐怖』に飲まれ呼吸を乱すようなら、
 無理に挑むのはノミのすることじゃ。そんなもの『勇気』ではない。
 自身を『卑怯者』と感じても、『勇気』を持つために足を止めることは決して間違いではない。
 大事なのは永遠に『立ち止まらない』ことじゃ。」

「では貴方の持論通りならばここで『立ち止まる』べきではないか、ツェペリ?」
ツェペリはポルナレフの言葉を無視して、さらに話す。

「お主のディオはな、ある困難に衝突した時、人間を辞めることで『立ち向かう』ことを選んだ。
 じゃが儂からすれば、そんなものは『立ち向かう』とは言わん、絶対にな。
 奴の行為は『人間』の『可能性』、『勇気』を持とうすることから
 永遠に『立ち止まる』行為にすぎん。」


「………」
「話が長くなったな、ポルナレフ君。儂は当然『立ち向かう』ことを選ばせてもらうぞ。
 なぜなら、儂の持つ『可能性』はこの困難を乗り越えられることを知っているからじゃッ!
『スタンド』を持たぬ儂が、人間の持つ『勇気』と『可能性』見せてやろう―――
 それこそが『人間賛歌』というものッ!」

「あくまで、私と戦うことを望むか…。ならば是非もない、受けて立とうッ!
 ただしその命を貰い受ける!」

「あの〜、私も忘れないでほしいわ。まったく二人揃って、勝手に話を進めて…」
二人が話している輪に入れず幽々子は少し困っていた。


324 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:22:53 dK8R/ulQ0
「はぁッ、はぁッはぁッ、はぁー、……はぁ…」

あれから、私はさらに走り続けていたわ。
いい加減に限界が近づいているのが分かる、そして違和感を感じ始めたのよ。
足も痛いし、呼吸も乱れて、私の走る速さはとっくに落ちているはずなのに、
追跡者は追いつこうとする気配がないの。

それに周りの景色もおかしいわ、辺りの色合いはまるで白黒テレビみたいなモノクロ調になっているし、
竹林を回り続けているのか、同じ景色を延々と見ているようだったの。

私にとって夢も現も一括りなんだけど、蓮子のように言うなら
やっぱりここは私が見ている夢の世界なんでしょうね。
私はこの竹林でのとびっくらを体験したことがあるし。

なんにせよ、そろそろこの夢を終わらせないといけない。
殺し合いの場で眠っている場合ではないもの。だとすると、どうやれば目覚めるのかしら?
あの時は―――そう、走っている位置より先の竹林が紅く光ったのよね。
それで走るのを止めて、その先は…うーん、覚えてないわね。まあそこで終わったとしましょうか。

でもさっきから一向にそんなことは起きない、同じようにして終わるとは限らないってこと?
なら…後ろで追って来ている人に尋ねてみようかしら?
何のために逃げてきたか分からなくなるけど、
もうそれ以外で解決する手段が思い付かないわ。
いい加減疲れ過ぎて、恐怖心が麻痺してるわね、私

今、あの時と違って明らかに疲れている。あの時は走っていたのか、
はたまた空を飛んでいたのか覚えていないけど、必死に逃げてはいたのに疲れはなかったはず。

このまま延々と走り続けるぐらいなら―――腹を括るしかないかしら?
括るのが首じゃないといいけど……


あれから3分ほど経ったわ、負け犬ムードだったし疲労も限界。
私はついに観念したわ…、意を決して振り向いたのよ。

そこにいたのはある意味で予想の範疇だったわ、一瞬見たときわね。
私を追っていたのは、竹林でツェペリさんと戦っていた
ジャン・ピエール・ポルナレフさん『らしき』人だったわ。
『らしき』って言うのはちゃんと意味があるのよ。だってそこにいたのは、
どんな表情しているのか分からないシルエットみたいな感じだったもの。
白と黒色のみの世界でも彼の見た目は異質だったわ。全身が白で彩られているかと思ったら、
前髪の付け根辺りからドス黒い何かがあるのが見えたのよ。
そして私はそこを見た瞬間、声が聞こえたわ。



「きさま!見ているなッ!」


325 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:25:37 dK8R/ulQ0
その言葉を境に、ポルナレフさんのドス黒い何かが彼を黒に染め上げていったの。
挙げ句そのそれだけじゃ終わらず黒は、空間にも及んでいって―――
最後には何もかも真っ黒よ。もちろん私も逃げようかしたけど、黒色に飲み込まれていったわ。
ほんと、夢みたいな話でしょう?でもまだ終わりじゃなかったのよ。

そこで意識は途切れることなかったの。目を覚ますと、そこにはポルナレフさんはいなかったわ。
代わりに立っていたのは金色の髪にハートの髪飾りを身に着け、黄色を基調とした服を纏った男性。
いや、見た目よりもその男の雰囲気というか空気が異質だったわ。
私は一目見ただけで今まで出会ってきたことのないタイプの存在だと感じたのよ。
その男は気さくに話しかけてきたわ。
「やあ、お嬢さん。名前はマエリベリー・ハーン、メリー君で良かったかな?」

私は条件反射のように返事をしていたわ。私の名前を知っていることよりも、
自然と私が返事をしていることに驚いてね。
その時気づいたわ。この男の纏う空気に圧されていることに。
「しかし、驚いたな。こんな形で私の領域に踏み込んできたのは君が初めてだ。
 一体どうやって入り込んだか教えてくれないか?」

私は夢の中の出来事だと答えるかどうか一瞬悩んだわ。でも口はあっさり開いちゃったのよ。
簡単にだけど説明したの。まるで操られているみたいで気持ち悪かったわ。
「非常に興味深いな。君の話が本当なら、
 夢の中を自分の意志で体験できる。なかなか素敵じゃあないか!
 おっと失礼、まだ名乗っていなかったね、私の名前はDIOだ。
 よろしく、メリー君。折角来てもらったんだ、何か聞きたいことはあるかな?」

ディオ。ツェペリさんが話していた男の名前、そして今彼が戦っているであろうポルナレフさんの主。
その男が目の前にいるというのに、私は妙に納得していたわ。
この奇妙な雰囲気の存在を生む『石仮面』だからツェペリさんは戦うのだと。
相手を従わせるカリスマを持つゆえにポルナレフさんは従う、私もつい答えてしまうのだとね。


326 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:26:29 dK8R/ulQ0

私はここから出たかったわ。親切にしてくれるけど、本能は逃げろと言ってるもの。
だから私は尋ねたわ。ここがどこなのかって。
「ん?君はさっき夢の中の出来事だと話してくれたじゃないか?」

夢の世界にいるのはとっくに理解できたわ、でも私の力は夢を見て別世界を彷徨うためのものじゃない。
『結界』や『境目』を観測できる、それが本来の力。
夢での体験は言ってしまえば、二次的な副産物にすぎないのよ。
まして、私はついさっきまで起きていたのだから、きっかけはもっと別にあるって考えたわ。
例えばそう、何かしら『結界』や『境目』をこの目で観測した、とか…

「フフフ。まあいい、意地悪せず答えよう。私も初めての体験でね、正直に言って明確には分からない。
 だが、おそらくここは私が与えたポルナレフの肉の芽の中だ。」

ポルナレフに与えた肉の芽?と私は気になる言葉をオウム返ししたわ。
「君もさっき見ただろう?彼の額より少し上の部分にあるモノを、
 あれのことだ。君はそのあたりにいるだろう。
 しかし物理的に侵入した感じではない、夢の世界というのは実に奇妙なものだな。」

あのドス『黒』い何かってディオが生み出したもの?
そしてあの場に立っていた『白』のポルナレフさん。
そこまで聞いてハッとしたわ。私はあの時見たのよ『境目』をね。
「さて、今度はこちらからちょっとした提案がある、メリー。
 私と友達になってもらえないだろうか?」

私は予想外の言葉を聞いて、一瞬呆気にとられたわ。それでもディオは続けたのよ。
「君は今この殺し合いの場で少なからず『恐怖』を抱いているはずだ。
 だが、私の友達となってくれれば君に『勇気』を与えることができる。」

私は断るかどうか悩んでいたわ。今度は即答せずに済んだけど、
「はい」って返事しそうになりそうだったの。
ツェペリさんから危険だと教えられたのにどうして?
「君はツェペリという老人から、私の話を聞かされているから不安に感じるかもしれない。
 だが誤解なのだよ。私は吸血鬼などといった存在ではないんだ。」

そうなんですか?って私は明るい声で返していたわ。
どうして?理由も根拠もないディオの言葉を私は信じようとするの?
このままじゃいけない、強く感じたわ。

「では、友達の証として君にプレゼントだよ。受け取ってくれ。」

ディオの髪が独りでに蠢き出したのよ。少しすると髪の毛から見覚えのあるものが見えたわ。
それはポルナレフさんの額辺りにあった肉の芽。私の目にはここでもその色は『黒』かったわ。
流石にその様子を見て、私はようやくハッとしたわ。
彼が生み出した肉の芽は人を操るためのものだということに。

私は一目散に逃げ出したわ。操り人形にされるのが分かってしまったから。
でも、いつの間にか私の前にディオが立っていて、なのに誰かが私を後ろから羽交い絞めにしたの。
「安心するといい、痛いのは最初だけだ。すぐに私に従う快楽を与えてやろう。」

そう言うと、肉の芽が私目掛けて飛んできたの。
確かにそれは私の額へと向かって行ったわ。私は迫りくるそれを眺めるしかできなかったわ…


327 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:27:18 dK8R/ulQ0

ポルナレフはスタンドを発現させるとそのスピードに任せて一気に近寄る。
「ようはスタンドではなく、お主に近づくそれだけができればいい。」

ツェペリは何をするでもなくただ立っていた。
「どうしたッ!『立ち止まる』だけでは何も変わらんぞ、『立ち向かって』みせろ!ツェペリッ!」

「焦ってはいかんぞ、ポルナレフ君。待つこともまた『勇気』がいること、
 大事なのはタイミング、機を逃すわけにはいかんのでな。」

ついにチャリオッツはツェペリとの距離をほんの数瞬まで近寄っていたが、
ツェペリは動じず、前を見据えていた。

ここでツェペリから見て前方に置いてある星熊杯に変化が起きる、
ポルナレフに向かっていた波紋がわずかに揺らぎ始めたのだ。

 何を狙っているか分からんが臆するわけにはいかない。切り伏せてやるッ!

ついにチャリオッツの刃がツェペリの頭上を捉え、振り降ろされようかした瞬間。



ポルナレフは気づかない、背後から駆けつけている存在を―――

ツェペリの一挙一動に集中した、彼の耳には届かない―――

数多のレースを股に掛けた存在が大地を力強く蹴りつける音を―――



両者の間に割って入る一つの影が現れ、ポルナレフは思わず驚愕する。

「バカなッ!なぜここにッ!?」
ツェペリの口角がわずかに上がり、笑みを浮かべる―――勝利の笑みを。


328 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:28:03 dK8R/ulQ0
「ヒヒイィィ〜〜ンッ!」

意外!それは馬ッ!

そう、二人の間に立ったのはヴァルキリー、
ポルナレフの支給品にしてジャイロ・ツェペリの相棒が突如二人の間に割って入ったのだ。

「うおおおおお!?」
まさか、ヴァルキリーが邪魔をしてくると流石のポルナレフも予想だにしていなかった。
ヴァルキリーを斬ったところでツェペリには当たらない。
ならば傷つけぬようにと刃の勢いを殺してしまった。

そのような絶好の機会を逃すほどツェペリは甘くない。
この展開を予知していたかのように、疾うに駆け出していたのだから。

進むはポルナレフへと至る『直線』の道筋!
強い『覚悟』を秘めた者だけが決断できる『勇気』のロード!

加速した勢いを維持し、低い姿勢でヴァルキリーの股をすり抜ける。
チャリオッツが刃を止めていた時には、その脇を走り抜けていた。

「ようやく、近づけたな…!石仮面が招いた悪意よ!」
ポルナレフはハッとしたときにはツェペリの拳は迫っていた。

「くッ!『シルバー・チャリオ―――
「ノロいぞーッ!ポルナレフーーッ!山吹き色の波紋疾走ッ!!」

ポルナレフはチャリオッツで応戦しようとするも、それより先にツェペリの波紋疾走が腹部を捉えた。

「うぐおッ!?」
「まだまだ、行くぞぉ!波紋疾走連打じゃあッ!」

ツェペリは追撃にと、さらに攻勢を強める。
殴り抜いた拳は更なる拳を呼び寄せるかのように、加速に加速を重ねる。
太陽の輝きを纏った拳の嵐は、まさに驟雨の如く降り注ぐゲリラ的集中豪雨。

ポルナレフはチャリオッツを出そうとするも、波紋による痺れのせいで、
ツェペリの猛攻を腕で防ぐのがやっとだった。

しかし、何故ヴァルキリーが都合良く二人の間に割って入ったのか。
懐いているわけでもないというのに、まるでツェペリを守るような行為をとった、これは何故か。
答えは簡単でツェペリが事前にヴァルキリーに流した波紋を操作したからだ。
最初に馬を確認させてほしい、というのは建前で、真の狙いは相手に隙を生み出せるのではないか、
という思惑からとった行動であった。
加えてポルナレフが操る『シルバー・チャリオッツ』の剣捌きから
ヴァルキリーに刃が当たるような雑な攻撃はしない、という判断もあった。
それらは全て的中し、ポルナレフに大きな隙を生み出したのだ。


329 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:29:01 dK8R/ulQ0
「……私、助ける必要あったのかしら?」
最終的にツェペリ一人でポルナレフを追い込むという結果に、幽々子はなんとも言えない表情で立っていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

迫りくる肉の芽は私の額に侵食する寸前―――太陽の光を発し消えていったわ。
「なにぃッ!?は、波紋か?まさか老いぼれの波紋ごときに!うおぉおぉおおおッ!!」

背後で私を捉えていた何かも私から離れる。もちろん私は逃げ出したわ、彼と距離を置くために。
私が一体どうしてここにいるのか、理解できたというよりは思い出したわ。
私は『境目』見たんだわ、正しき『白』と悪しき『黒』のいわば、ねずみ色の『境目』を。
ポルナレフさんの額近くにある肉の芽を見て、私はそう。
あまりにもドス『黒』くて『吐き気を催す邪悪』というか、そんな恐ろしいものをイメージしたのよ。
対してポルナレフさん自身は『正しいことの白』っていうか、そんな正しさが見えたわ。
そしてその善悪の『境目』に入り込んでしまった。

でも、なんで急に意識が失ったのか。何がきっかけになったかは分からないわ、でもそんなことは後回し。
とにかく今は逃げる。『黒』である肉の芽から離れて、
もう一度『白』と『黒』で彩られた『境目』の竹林へ戻れば、きっと出られるはず。
今はディオ自身も弱っているし、私もどこにいるか認識している今なら。

幸いディオは追ってこなかったわ。彼から離れ、視界が闇に染められたけどそれでも走り続ける。
少しすると、またいつの間にか景色が変わっていたわ。白黒テレビ色の竹林にね。
でもなかなか覚めない。だから私は叫んでやったの。

「さぁ、目を覚ますのよ!
 夢は現実に変わるものッ!
 夢の世界を現実に変えるのよッ!!」

肉の芽なんかとは違う、私の友達―――宇佐見蓮子の言葉を。


330 : 戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ  ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:32:39 dK8R/ulQ0
以上で前編の投下終了です。


331 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:35:57 dK8R/ulQ0
後編も投下したいのですが、
数日後に投下という形をとらせていただけないでしょうか?

書きたいのにうまく時間が取れなくて、
もう少しだけお時間がほしいのです、どうかお願いします。


332 : ◆YF//rpC0lk :2014/02/19(水) 23:45:31 t6/QN25.0
>>331
どれぐらいかかるか、お伺いしてもいいですか?


333 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/19(水) 23:49:45 dK8R/ulQ0
1週間以内に必ず投下します。


334 : 名無しさん :2014/02/19(水) 23:52:45 j0Eg/YXE0
この際予約期間を三週間に延ばしませんか?毎回予約破棄して再予約は面倒ですし


335 : ◆YF//rpC0lk :2014/02/19(水) 23:58:56 t6/QN25.0
皆さんの意見を伺いたいのでこちらへ

ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16334/1385280689/


336 : 名無しさん :2014/02/20(木) 00:33:50 enYXfj8w0
前編投下です!
メリーの能力の使い方が面白いなぁ。まさか肉の芽への干渉を行うとは…
境界を観測したメリー視点の描写はどこか幻想めいてて非常に印象的でした
ツェペリさんもカッコよかったです!後編に期待したいところ


337 : ◆qSXL3X4ics :2014/02/20(木) 01:17:30 fcCJExHI0
投下乙です!
まさかDIO様が乱入してくるとは予想外…
そしてメリー主観の夢(?)の話という構成が面白い!
そういえばジャイロ達出てこないなぁと思ってたらまさかの前編でしたか…

遅れましたが>>275のメンバーの再予約をしたいと思います
延長するほどお待たせする事は絶対にありませんので、どうかもう少しだけお待ち頂けてくれれば幸いです
重ね重ねご迷惑をお掛けします


338 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/02/21(金) 01:23:01 WfPOLEcI0
投下乙
面白かった! 楽しく読ませてもらいました!
というわけで、私も予約します
康一、にとり、パチュリー、夢美の四人で


339 : 名無しさん :2014/02/21(金) 06:31:28 BNh3IqWI0
あっ…(察し)


340 : 名無しさん :2014/02/21(金) 10:29:28 81hHL27.0
康一君、由花子に殺されるな・・・


341 : 名無しさん :2014/02/21(金) 15:45:03 ukZu9KYo0
いや、殺されるとしたら他の三人だろう


342 : 名無しさん :2014/02/21(金) 15:59:29 xHOaixnY0
考察要員にこんな序盤で死なれたら困る


343 : 名無しさん :2014/02/21(金) 16:39:05 2WNVGjAw0
むしろ康一がハーレムになるのでは…?


344 : 名無しさん :2014/02/21(金) 19:46:46 znTrJilM0
>>343
ありうるな……w
男女問わず、変人からモテることに定評のある康一くんだし。
むきゅーちゃんも夢美も変人だしw


345 : 名無しさん :2014/02/21(金) 23:08:33 rskRygDM0
リア充爆発し――康一くんか、じゃあいいや。


346 : 名無しさん :2014/02/22(土) 00:27:19 lMjYc81U0
(カチリ)


347 : 名無しさん :2014/02/23(日) 20:01:36 yLsJvfRg0
>>303
の予約を延長します


348 : ◆.OuhWp0KOo :2014/02/23(日) 20:02:20 yLsJvfRg0
再カキコorz

>>303
の予約を延長します


349 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/27(木) 00:00:28 8EyZuX9o0
本編は完成しましたが、
もう少しだけ書きたいシーンがあるので
2月27日に投下させてください。

お願いします。


350 : ◆YF//rpC0lk :2014/02/27(木) 00:03:44 nB5rLqK.0
分かりました。
ただし、再び延長することになれば破棄とみなします。


351 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/27(木) 00:06:57 8EyZuX9o0
すみません、助かります。


352 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/02/27(木) 00:12:55 n4QnxA8s0
予約延長します


353 : ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:29:18 Nrv5qAng0
お待たせしました。
まずはになりますが>>275の前編を投下します


354 : Trickster ーゲームの達人ー ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:35:44 Nrv5qAng0
――― <早朝> D-4 湿地帯前 ―――

「ハァ…ハァ…ハァ………ッ!」


―――走った。


「ハァ…ハァ…ハァ………ッ!」


―――走って、走って、走り続けた。


「ハァ…ハァ…ハァ………ッ!」


―――小さな体で、飛ぶ事も忘れ、彼女は走り続ける。


「ハァ…ハァ…ハァ………ッ!!―――あ、たい…ッ!さい…きょ……っ!……ハァ…ハァ…ッ!」


―――『最強の氷精』チルノは今日、初めて人を殺してしまった。


「ハァ…ハァ……あたいっ……!ハァ……さいきょう……っ!ハァ…ハァ……ッ!」


―――脳裏から離れないのは引き金を引いた指の感触。閃光と共に鳴り響いた炸裂音。眼を大きく見開き、血を吐く『彼女』の最期の表情。


そして、彼女を撃ち抜いた時に確かに感じた、チルノの心の奥に芽生えた『気持ち』。


「あたいは……ハァ…ハァ…ッ!さいきょう!!あたいは…っ!あたいは…っ!!……さい、きょう、なんだッ………きゃんっ!!」

疲労が溜まっていたのか、足をもつれさせそのまま草原のシーツの上に倒れ込んでしまうチルノ。
前も見ずに、ただひたすら何かから逃げる様にここまで必死に走ってきた。
息を切らしながら、体を仰向けに反転させる。額に照らされる汗は果たして疲労によるものだけなのだろうか。
空を見上げれば、満月は既にその気配を隠し、東の空が明るみを帯びてきた時刻まで迫っていた。
いつもならば野鳥の囀りが幻想郷に朝を伝えてくるはずの時間帯だが、今日は鳥の気配すら全く無い。

「ハァ…………………」

チルノはそのまま草の上に大の字に寝転がり、空ろな目で黙りつめる。
今いる幻想郷が、昨日までの幻想郷とは『別物』になっている事はチルノにも何となく察する事が出来た。
幻想郷には存在しないはずの建物、武器、人間。そのどれもこれもがチルノの心を惑わせる。
そして幻想郷に存在したはずの虫や小動物。その姿がさっきから全く見えない。
本当にこの場所は彼女の愛した幻想郷なのだろうか。

「……帰りたい………帰りたいよぉ…………」

大好きな『遊び場』を丸ごと失ってしまった彼女は悲痛な声を絞り出すように呟く。平和な『日常』は理不尽にも奪われ、後に残る物はあまりにも残酷な現実。
…いや、これは本当に現実なのだろうか。実はこれまでの全てがタチの悪い『夢』で、ちょっとしたきっかけさえあれば何事も無くいつもの様に温かい布団で目が覚めるのではないか。
そして近くの川で顔を洗って爽やかにし、ほんの少しの朝食を摂って、またいつもの様に遊びに出かける。
適当にその辺りをブラブラと漂いながら今日は何をして遊ぶのかを考える時間が、チルノは好きだった。
日常の中の何気無い時間を過ごしている事がチルノにとってささやかな幸せだったのだ。


355 : Trickster ーゲームの達人ー ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:36:54 Nrv5qAng0
目を閉じれば『あの時』の光景が瞼の裏に張り付いて蘇る。
最強の妖精が初めて体験した『死』の実感。自分を守り、助けてくれた『彼女』の命を奪ったのは、間違いなく自分。

―――そんなつもりじゃあなかった。あの人を『殺そう』だなんて…。あたいはただ…………―――ただ、何だ…?

殺した彼女の手が『この』支給品にゆっくり伸びてきた時は、ただ夢中だっただけ。
武器を奪られるかと思った。奪られたくなかった。その一心で引き金を引いた。引いてしまった。それから先の事はあまり覚えていない。


―――バサッ!


頭上の木々の間から響いてきたのは、翼がはためく様な音。
ビクリ!と身を怯ませた彼女の目に映ったのはただの鳥だ。
先程までは一匹の姿も見せなかったはずの小鳥の影が蠢いた事に安堵すると共に、少しの疑問が生じる。
動物が全く居ない訳ではないのだろうか…?小鳥というには少し大きな翼をしていたようにも見えた。まるでいつも尻尾を千切って遊んでいたトカゲの様な姿をした影はそのままどこかへ飛び去っていく。
その様子を何気無く見ながら、しかしそのような些細な疑問は今のチルノにとってはどうでもいい事だ。

「………ハァー…」

溜息というよりは恐怖と動揺からつい漏れ出した空気が、肺から震えながら飛び出た。
このゲームが始まってから自分は怯えてばかりだ。


356 : Trickster ーゲームの達人ー ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:38:58 Nrv5qAng0


最初の大きな会場では、秋の神様が死んだ。

―――『今のを見れば分かるように、僕たちは君たちの脳を爆発させる能力がある。彼女は人間ではなく所謂『八百万の神』の一柱だが、僕たちにかかればこうなる』


次に出会ったのはあのホウキ頭の男。『スタンド』と呼ばれたおかしな人形を操って、チルノの攻撃を一蹴してみせた。

―――『……ジャン=ピエール=ポルナレフ。そして俺の『スタンド』は戦車のカードをもつ……』

―――『銀の戦車』


そしてついさっき。あの九尾の狐にはまるで手も足も出ず、殺される直前で今度は狸の妖怪に命を救われる。

―――『所詮は有象無象の妖精、この程度だろうな』

―――『やれやれ……そこの妖精! ちょっと面倒なことになるかもしれんから少し離れておれ! 体力が戻り次第ここから逃げるんじゃ!』

―――『よし、とりあえず落ち着けるところを探すか…… お、そうだ、その前にチルノ、その鉄砲は危ないから儂が預かろう。
何、悪いようにはせん、お主が危なくなっても儂が守ってやろう』


―――タタタッ!


『ぁ……ああ……あたい、こんなはずじゃ……違う、違うの!』




そこまでの記憶をフラッシュバックさせ、同時にチルノは頭痛に襲われた頭を抑える。こんな恐ろしい記憶はすぐにでも排除してしまいたい。
これが本当にタチの悪い悪夢なら、今ここで眠ればいつもの布団で目を覚ませるだろうか。
眠るのが怖い。目を閉じるのが怖い。さっきから何度も何度も頭の中を反復している『あの時』の記憶が、またしても蘇る。


357 : Trickster ーゲームの達人ー ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:40:02 Nrv5qAng0
―――あの狸の妖怪から逃がしてもらった直後。
チルノの心には屈辱と、恐怖と、安堵が混じるドロっとした感情が渦巻き続けていた。
凄く、嫌な気分だ。何が最強の妖精だ。ここに来て自分は負け続きの散々たる有様じゃないか。
唇を強く噛み締めながら、チルノは自らの『弱さ』を痛感しながら狐と狸の激闘を背に逃げ出した。
逃げながら彼女は、ふと思い出したこともあった。そういえば、自分のデイパック内には霊撃札の他に『もうひとつの』支給品が配られていた事に。
誰にも見付からないように木陰に腰を下ろし、エニグマの紙から取り出したその『黒光りする物体』をチルノは見た事が無かった。
しかし同時に付属していた妙に分かりやすく簡潔に記された、ある意味人を馬鹿にしているとも取れる説明書をじっくりと眺め、『使い方』は大体にだが理解出来た。

死闘の現場まで戻ってきたチルノが最初に目撃した光景は、狐の妖怪が右腕を振りかざし、今にも狸の妖怪をその薙刀で串刺しにせんとする瞬間。
チルノは無我夢中で外界の道具『銃』を乱射した。小気味の良い炸裂音と共に血飛沫を上げる九尾。
道具の仕組みはよく分からなかったが、あの強大な力を持つ九尾の妖怪をいともあっさりと退かせた。


あたいが、やったんだ。ドキドキ鳴り響く自分の心臓を感じ、半ば放心しながら少しの『愉悦』が芽生える。
近づいてきた狸があたいの事を何か色々聞いてきた気がしたけど、その時の事はよく覚えてない。
その代わりに、彼女の最期の表情だけがどうしても頭から消えてくれない。



「違う!違う違うちがうっ!これは『夢』なんだ!眠ろう……っ!グッスリ眠って、朝起きれば全部忘れてるんだ…!きっと……!」

ブンブンと頭を振り、チルノは体をくの字に曲げて強引に眠る事に決めた。
小さな妖精である彼女にとってはこの短い間に衝撃が多過ぎた。時間帯は既に朝方が迫っているが、現実から目を逸らし、無理にでも意識を夢の世界に飛ばそうと必死に眠る努力をする。

しかし、彼女が夢の世界へと潜る事は出来無かった。
その原因はチルノの心を蝕み続ける恐怖のせい…ではない。







「……心地良い空気だ。これほどまで澄んだ風の匂いは、永く生きてきた私ですら初めて肌に感じるよ」

「………っ!?」


いつの間にか…そう、本当にいつの間にだったのか。
突然聞こえた声に驚いて瞼を開けたチルノの視線の先には、金色の髪をした妖艶なる空気を纏った男が、空に薄く輝く朝星を見上げながら呟いていた。


358 : Trickster ーゲームの達人ー ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:41:14 Nrv5qAng0


「だ…誰だッ!!」

あたいはすぐに飛び起きてすかさずこの『機関銃』というらしい武器をその男に向けて構えた。
『ソイツ』はあたいの存在に気が付いているのかいないのか、声なんて聞こえてないといった風に石の上に腰掛けて空を見上げている。
デッカい身体と黄金色の髪の毛、男の人とは思えないような白く透き通った肌をしたその妖しい雰囲気にあたいは思わず怖くなった。
何故だかよく分からないけどコイツはとても危険な奴な気がする。身の毛もよだつというのはこんな感覚なのかもしれない。

でも、大丈夫だ。あたいにはこの『最強の武器』がある。あんなに強かった九尾ですらこれの前には逃げ出した。
『最強』のあたいと『最強』の武器。今のあたいは向かうところ敵無しの『超最強』!絶対負けっこないんだ!



ズタタタタタタタッ!!!


だからあたいは撃った。
こいつがどこの誰なのかは知らないけど、返事も待たずにとにかく撃った。
悪いのはこいつだ。寝てるあたいに不用意に近づいてくるのが悪いんだ。あたいは悪くない。ざまあみろってのッ!!



「君も…見たところ、この『幻想郷』に住まう者だね?その小柄な体躯と羽…恐らく『妖精』といった類の種族かな?興味深いよ」

「え……っ!?」


突然背後から聞こえた声にあたいは驚き、銃身を向けながら振り返る。
そこにはたった今、石の上に腰掛けていた筈の男が腕を組んであたいをその穏やかな、でもどこか凍り付く様な視線で見下ろしていた。

「『妖怪』…の次は『妖精』か。…フフ。ならばお次は『吸血鬼』でもお出ましといった所かな?プッチや古明地こいしの話した事は真実らしい。何にせよ実に面白い」

「な…なによアンタッ!あたいの後ろに立つなッ!!」

すかさずあたいはもう一度銃の引き金を引く。タタタタと早朝の草原に響く炸裂音。
でもまたしても目の前に居た筈の男の姿が、次の瞬間には消えている。さっきから一体何なんだ…!


「そうゲロを吐くぐらい怖がらなくても良いじゃあないか…『友達』になろう。私の名前はDIO。…君の名を教えてくれないか?私は敵じゃない」


359 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:42:50 Nrv5qAng0
DIOと名乗ったその男は今度はあたいの右隣に立ち、銃を構えるあたいの右腕を妖しい笑みを浮かべながらそっと握ってきた。
気が付けばあたいの手は汗でベットリ湿り、カタカタと震えている。そんなあたいの恐怖を和らげるかの様にこいつはじっとあたいの腕を柔らかく抑えつけている。
腰を下ろしてこっちを見つめるそのDIOの顔を近くで見た途端、急に寒気が襲ってきた。氷の妖精であるあたいですら今まで感じた事の無いような寒気が全身に纏わり付いて離れない。
あの九尾の妖狐とは全く別次元の『プレッシャー』がヒシヒシと肌に染み付く。その気味の悪さに、思わずあたいはDIOの質問に答えてしまった。

「…ち、チルノ、だよ。あたいは…チルノ…。あ、アンタは…何だ…!」

「チルノ…。ん〜〜〜〜、気に入ったよ、美しい名じゃないか。おっと、まずはその物騒な武器を下ろしてもらえないか?
言ったように私は君に危害を加えるつもりは無いんだ。ただ、『お話』がしたくてね。まずは落ち着いて深呼吸してごらん?」

DIOは両掌を顔の位置まで上げて「戦う気は無い」と言わんばかりのジェスチャーをとった。
何故だろう…DIOの言った事に逆らえる気がしない。強制してる訳でもないのにあたいはコイツの言う通りにしなければいけない感覚に落ちる。
そのことに言い様のない不安と恐怖も感じたけど、同時にDIOの放つ言葉の節々にはどこかあたいを安堵させるような、矛盾した気持ちが込み上げてくる。

あたいは取りあえず銃を持ったまま言われた通り深呼吸を何度も行ってみる。
すると不思議な事に、さっきまで怯えていたあたいの心がスッと落ち着きを取り戻してきた。いつの間にか腕の震えも止まっている。DIOに触れられたから…かな?

「落ち着いてきたようだね。…さて、少しだけ話そうか。そこの石に腰掛けると良い。どうやら君は心身ともに疲れているようだからね…」

そう言ってあたいはDIOが指差した先の石の上に座り、DIOも向かいの少し大きめの石に腰掛けて互いに向かい合う。
こいつの言葉には何だか凄く『安心』を感じる…。それが途方も無く気持ち良くて、そして途方も無く、怖い。


360 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:44:18 Nrv5qAng0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「…なるほど。その『九尾の妖狐』に成す術なく追い込まれ、窮地の所を別の『化け狸の妖怪』に救われ、結果キミは命からがらここまで逃げて来たというわけか」

「…うん。あの化け狸がどうなったかは…知らないよ」


あたいは腰を下ろして今まで起こった事をDIOに話した。DIOはあたいの話を遮る事無く最後まで真剣な目つきで聞いてくれた。
時には頷きつつ、時にはどこか嬉しげに興味を持った目でじっと聞き入ってくれた。
それどころかDIOは自分のデイパックから水の入った容器(ペットボトルっていうみたい)をあたいに渡し、「さぁ、これでも飲みながらゆっくりでいい。リラックスして話してくれ」と、気を配ってくれたんだ。
渡された水は何の変哲もないただの水。あたいの持ってる奴とどこも変わらないものだったけど、その水は何と言うか、気品に満ちているというか、ハープを弾くお姫様が飲むような味というか、とにかく凄く爽やかに感じた。
そしてまた一口、ゴクリと水を飲むあたいを見ながらDIOは神妙な面持ちで小さく呟いた。


「……それで?」

「そ、それで…って、それで終わりだよ。あたいはその、狸の妖怪に助けてもらってそのまま逃げてきたんだ」

嘘だった。あたいは命の恩人でもあるその狸の妖怪を…確かに撃ってしまった。
最初に出会ったホウキ頭の男や九尾の妖怪にボロボロにされた事まで全部話しちゃったけど、肝心の『最後の部分』で嘘を言った…と、いうよりもホントの事を話せずにいた。
あの時の事を思い出すと未だに震えが出る。あたいが人を撃った事を話せばDIOはあたいを『敵』だと思って攻撃してくるかもしれない…だからその事は話していない。
それなのにDIOはまるであたいの心の隅々まで視えているかのように、あたいの言葉を疑った。

「『それで終わり』…果たして本当にそうだろうか?ならばどうして君はその『銃』を使って反撃しなかったんだね?それさえあればいくら強大な妖怪でも、少しぐらいの手傷を与える事は出来そうなものだがね」

「こ…この銃は…っ!逃げ出した後でデイパックに入ってることに気が付いたんだ…!だから、その…」

「まだあるとも。チルノ…君はさっきから…そう、私に出会う前から『何かに』怯えているように私には感じた。
生命の危機から紙一重で逃れてきた事に未だ恐怖を感じていたのか?いや、違う。どちらかといえば、『自分がもう後戻りできない所まで追い込まれた』事からの恐怖に見える」


―――やめて…。それ以上、言わないで…!


「先程、躊躇無く私を撃ったな?ちょっぴりだが銃の扱いを知っているようだ。その銃で…誰かを撃ったか?」


―――やめてよ…あたいは…誰も殺してなんか…っ!


「九尾の妖怪を撃った…?いや、それだけではない。それならばその化け狸とやらと行動を共にしていてもおかしくはないからな。
ここからは私の勘なのだが君はその銃がデイパックに入っている事に気付いて道を引き返して九尾を撃ち、狸の彼女を助けたのではないかな?
そう、そしてここから『悲劇』は起こった。図らずも銃の力で九尾を撃退したキミと狸の彼女…この時、『ちょっとしたアクシデント』が起こったのだ…」


―――やめてったら…ッ!聞きたくないッ!


「そこで何があったか…?真実はその場にいた君にしか分からないのだろう。だがある程度の予測はつく。はっきり言おう。
チルノ。君はその銃で彼女を…」


「やめてよッ!!!」


361 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:45:18 Nrv5qAng0

ズタタタタタタタッ!!


それ以上DIOの言葉を聞くことは耐えられなかった。『それ』を聞いたらあたいはもう、本当に戻れなくなる…そんな気がして、怖くなった。
『あの時』と同じように、何も考えられずに頭の中が真っ白になって、気が付いたらまた引き金を引いていた。

でも、目の前で腰を下ろしていた筈だったDIOに弾が当たる事は無かった。そこに居ると思ったら、次の瞬間にはもう居ない。
まただ。さっきからコイツは突然消えたり現われたりして凄く不気味なまやかしを使ってくる。

「ど、どこだ…!?いきなり消えたりして…ズルイぞ!!出てこい!!」

首をキョロキョロと回し、アイツの姿を探すけど一向に見当たらない。
その時あたいの耳元から背筋が凍るぐらい低く、でも凄く甘いような綺麗な声が…吐息がかかるぐらい近くからボソリと聞こえてきた。



「―――君はその銃で、彼女を…撃ち殺したんだ。…違うかね?」


「―――ッ!!!!」


絶対に聞きたくなかった台詞がとうとう耳に入ってしまった。
それを認識した途端に、頭の中がワケ分かんなくなっちゃって…治まったはずの身体の震えがまた襲い掛かってきた。

―――『撃ち殺した』。あたいが、恩人であるあの人を、撃って殺したんだ。
涙が溢れてくる。やりようのない哀しい気持ちが心の中からどんどん溢れてきて止まらない。
またしても背後に回りこんでいたDIOに向けて、今度こそ完璧に命中させてやろうと銃を向け直して、滲んだ視界の中で引き金を引く。

…が。


カチ…ッ!カチ…カチ…ッ!

「あ、あれ…!?なんで!?弾が出ない!壊れちゃったの…ッ!?」

「弾切れを起こしただけさ。どうやらその銃は命中精度が少し心許ないようだ。適当に撃ってばかりではあっという間に撃ち尽くしてしまう」

た、弾切れ…!?く…くそぅ…!弾なら…まだある!はやく…っ!!はやく撃たないと…っ!
あたいは素早くデイパックの中の弾と説明書を取り出して、悪戦苦闘しながら弾を補充する。…けど、こんな外の世界の武器なんてよく分からないし、説明を見ながらでも凄く手間取った。
あぁもう!!早くコイツを撃たないと駄目なのに!何でいちいち弾を取り替えないと駄目なのさ!?弾幕ならバババーッと撃ち続けられるのに!!

「これで…こうやって…!………出来たっ!!く、喰らえDIO!!」

「チルノ。勘違いしないでおくれ、私は別に君を苛めたくてこんな事を言っているのではないよ。私が言いたい事はそうじゃあないんだ。
君は少し混乱している。落ち着いて話を聞いてくれ。さぁ、銃を下ろして…」

「嘘だッ!嘘だ嘘だ嘘だッ!!DIOはあたいを殺す気なんだ!そうなる前に…あたいがDIOを殺してやるッ!!
あたいは…最強なんだ!!誰にも負けない…最強の妖精だ!!あの九尾の女だって追っ払えた!アンタなんかに…っ!アンタなんかに…負けるかッ!」


362 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:46:18 Nrv5qAng0
それでもDIOはあたいを宥める様に、優しく言葉を掛けて諌めようとする。それがまたどこか気に入らなくて…恐ろしかった。
でも、そんなあたいをDIOは…柔らかく、ゆっくりと落ち着かせようと声を掛け続ける。口には妖しい微笑みを浮かべながら…


「チルノ…君は悪くない。誰も悪くない。狸の彼女を撃ってしまったのは偶然の事故なのだろう。それをどんなに嘆いた所で既に終わった事だ。
でもねチルノ…私はむしろ『褒めている』のだよ…。君の『小さな勇気』をね…。これは素晴らしい事だ」

「褒める…?なに言ってんのよ…っ!あたいは…あたいは……あたいはあたいはっ!あの人を、殺し…ちゃって…!」

「違う違う。私が褒めているのは殺人を犯した事じゃあない。『狸の彼女を救ったこと』を言っているのだ。
一度は逃げ出した戦場へと君は再び戻り、そしてその武器で九尾を撃退した事について私は話しているんだよ。勇気というのはその事さ」

「……えっ?」

「『敗北』から…『恐怖』から逃げるというのは簡単だ。どんな奴だって『死』は怖い。敵が自分よりも遥かに格上の存在ならなおさらさ。
しかし君はそんな状況の中、勇気を振り絞って強大な敵に立ち向かっていったわけだ。君はその勝利を『武器のおかげ』かと思うかもしれないが実はそうではない。
チルノ。君は『勇気』を我が物としたのさ。まごう事なき君自身の力で、君は勝利を手にした。そこに私は敬意を表する。
化け狸の彼女には悪いが、彼女は君の運命という道に転がる『小石』のようなものだったのさ。君の命を救った彼女には感謝しなければな…」


DIOがあたいに掛ける言葉のひとつひとつが不思議なぐらいにあたいの心に染み込んで来る。
昂ぶった感情もいつの間にか治まり、凍り付いたような心も溶け出してきたように感じる。DIOの話を聞いていると安心してくる。
何だろう…この気持ちは…?


「あたい…そんな風に人から言われたの…褒められたのは…初めてだ…」

「ほう…?だとすれば幻想郷の住民とは些か人を見る目が無いのだな。私は一目君を見た時から興味が溢れんばかりだというのに!
…おや、しかし今の君の顔はひどいな。涙や鼻水でグシャグシャじゃあないか。どれ、このハンカチで顔を拭くと良い」


そう言ってDIOはポケットからハンカチを取り出し、あたいに差し出してくれた。
自分で顔を擦ってみれば、確かに今のあたいの顔はグシャグシャに濡れていた。そんな姿を他人に見せていたことが恥ずかしくなって、あたいは遠慮なくハンカチで顔を拭く。
…ふと見ると、そのハンカチには何か刺繍がしてあったみたいだ。え〜〜〜〜っと……『えーご』は読めない!

「『1847年9月20日』…元の持ち主の思い出の日付か何かかな…?このハンカチは私の『支給品』なのだが…フフ。『大ハズレ』といったところだな」

DIOは軽く笑い流しながらハンカチを自分のポケットに戻した。あたいは少し気になって尋ねる。


363 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:47:48 Nrv5qAng0
「じゃあ、DIOは武器が手に入らなかったの?そんなんじゃあ敵に襲われた時はどうすんのさ?」

「良い質問だ、チルノ。このハンカチの他にも私には『銃』が支給されていたんだがね、故あって今は無い。だがそんな事は些細なものさ。
人には色々な『武器』がある。例えば君に支給された『機関銃』は中々の『アタリ武器』といって良いだろう。だが私はそんなものに頼る必要は無い。
私は『吸血鬼』でね、人間などを超越した肉体を既に持っているからだ。そしてそれだけではない。『コイツ』が見えるか?チルノ」

直後にDIOの傍に現れたのはでっかくて屈強な肉体の鋭い眼をした像。
これは…最初のあの『ホウキ頭』が操っていた…そう、確か『スタンプ』!……ん?違う!『スタンド』!…とか言ってたっけ。
そのホウキ頭が言っていた『しるばーなんちゃら』と似た、大きなエネルギーを発する『人型の像』が圧倒的存在感を放ちながらDIOの横に立つ。

「コイツが私の持つスタンド…名を『ザ・ワールド』と付けている。『世界最強』のスタンドだ。『スタンド使い』とはこの『スタンド』と呼ばれる精神エネルギーを操り、様々な能力を発現させる事の出来る者達を言う」

「お、おぉ〜…カッコいいなぁ…。ねぇねぇDIO、その『スタンド』でさっきのような瞬間移動みたいなことが出来るの?」

「フフ…私のザ・ワールドはそんなチャチな能力ではないさ。流石に能力の秘密までは言えんがね。
…さて、話を戻そうか。人には色々な武器があると言ったね。では私にとっての『武器』とは、この『超人的な吸血鬼の肉体』を指すのか?はたまたこの『ザ・ワールド』の事を指すのか?どう思う?チルノ」

「え〜〜?あたい難しい話は苦手なんだけど……んー…。やっぱそのスタンドが一番強い武器なんじゃないかな、凄く強そうだし!」

「フム…。それも『正解』だ。だが…『50点』ってところだな。スタンドというものはそもそもそれを扱う本人の精神の具現であり心の力…。
その者の精神性の強さこそがそのままスタンドの強さに比例する。このザ・ワールドが私の武器と成り得るのはコイツが『私自身』でもあるからだ。
チルノ、君はさっき自分の事を『最強』だと豪語した。幻想郷で最強の妖精だとね。どうしてそう思うかね?」

「え……どうしてって…そんな事言われてもなぁ。確かに誰にも負けた事は無い…わけじゃないし、ついさっきもこっぴどく…その、やられちゃったけど…。う〜〜〜ん…」


さっきからDIOの言ってる事は難しくって理解しにくいなぁ…。正直、この『銃』を手に入れてあの九尾の妖怪を追っ払った事であたいはますます最強になったんじゃないかって思えてきてたけど…。
でもこのDIOって奴には、あたいが勝てる気が全くしない。この人はあたいとは『全然違う次元』に居るんじゃないかという気すらしてくる。


―――それでも…それでもあたいは…


「よく分からないよ…。でも、あたい…あたいは…それでも『最強』なんだもん…。それが…『当たり前』だと、今までずっと信じてきたんだもん…」


「そう!それが『正解』だよ、チルノ。『100点』の答えだ!」


364 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:48:42 Nrv5qAng0

―――え?正解…?どういうこと…?


「君は自分の事が『最強』だと、当たり前のように思っている。この自分が幻想郷で最も強い存在だと…疑う事無く信じ込んでいる。
それで良いのだよ。最強であることに何の理由も要らないんだ。HBの鉛筆をベキッとへし折る事が『出来て当然』だと思う事と同じ様に、『自分が最強なのだ』と信じる事に理由は要らない。
君にとっての最大の武器とは『信じ抜く事』だと私は思う。『自分は最強なんだ』ってね…」

「で、でも……でもDIOッ!あたい…負けちゃったんだよ…?あのホウキ頭にも敵わないって思っちゃったし、誰かが助けてくれなきゃ狐女にもホントは殺されちゃってたし…」

「『負け』だって…?結構な事だろう。情けない事を白状するようだが、私は今までの人生の中で大きな『敗北』を三度味わっている。それも全て同じ人間相手にだ。
皮肉な事だろう?今でこそ最強のスタンドを持つ私だが、実に三度もの苦い過去を経験したのだ。その時の事を思い出すだけで…今でも腹ワタが煮え繰り返しそうさ。
だがね、その三度の敗北が無ければ今の私は存在しなかったろう。奇妙な関係になるが…『敵』であった彼がこのDIOを結果的に上の次元まで押し上げてくれたのだ。
人というのは成功や勝利よりも『失敗』から学ぶ事が多い…。チルノ…君は生きている限り、まだまだ『成長』することが出来る。
その『道』を歩きながら最強とは何かを考えていくが良い…。偉そうな事を言ってきたが、私もまだまだ『道』の途中でね…『強さ』というのは人によって変わってくるものだ」

「…DIOにとっての『最強』と、あたいにとっての『最強』は違うって事…?」

「『道』は違えど、最終的な『ゴール』は同じだと言う事だ。チルノ、君は今の自分のままで良い。自分が最強だと思い続けることが大切なんだ。
『思いの力』は『精神の力』。それがたとえ『スタンド』だろうが『銃』だろうが関係無い。信じる事がそのまま君の『強さ』へと変わる。
君は君自身の『勇気』で九尾の妖怪に勝った。それを武器の力だと思い込まずに、『誇り』として心に刻んでおけ。敗北を糧にしろ」

「…DIOの目指す『ゴール』って…?」

「『天国へと至る事』…。そして私は今、その『同志』を探している。『帝王』で、『最強』たる私も未だその『ゴール』へは辿り着けては居ない。
私の言う『最強』も…そこへ至れば真に理解できる事だろう。君にとっても…私にとっても、な」


何だか…DIOの言っている事の半分も理解出来ないし、とても途方も無い話なのに…でも、どうしてだろう。あたいはDIOの言葉から耳が離せなくなっている。
もっと…DIOの言葉を聞きたがっている。DIOに褒められたがっている。
もっと…DIOの事が知りたい。


「DIO…『天国』って、何なの…?死んだら行ける様になるとか言う、アレの事…?」

「天国へ辿り着ければ、全ての人類が『幸福』となれる。『覚悟』する事が、人を幸せにするんだよ。…チルノにはまだ早かったかな?」

「むー!!あたいを馬鹿にすんなーー!!『天国』くらいなんだー!そんなのあたいがすぐに見つけてやるよ!」







「………ほぅ?つまり、チルノが私の『手伝い』をしてくれると言う事だね?」


365 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:49:52 Nrv5qAng0


それはゾクリと空気を凍り付かせるような、冷徹にも聞こえるDIOの穏やかな―――しかし酷く歪み捻れた様な笑みから聞こえる言葉だった。
もしあたいが氷の妖精でなかったら、この場でカチンと凍っていたかも知れないほどの冷たい微笑。
空気は冷たいのにDIOの表情は落ち着き、柔和な雰囲気を振りまいている。あたいは恐ろしかったけど、その表情に…少しずつ、少しずつ―――惹きこまれる…


「それじゃあ…少し『試してみようか』…。君が天国に至れるほどの『素質』を持っている人物かどうかを…。
君には早いと言ったが…私は君の事を中々どうして気に入ってるんだよ、実は。フフフフ……」

「た…試す…?DIO…な、何すんの…?」

DIOがあたいの目の前まで草を踏みしめながらゆっくりと近づいてくる。
あたいは直感的に「何かされるんだ」と思った。そして、この場から逃げ出したいとも思った。
優しく手を広げながらこっちへ近づくDIOの妖しい眼を見ていると吸い込まれそうになる。怖くて、逃げたいのに、足は一向に動かない。
それどころか、何故かあたいの足は勝手に自分からDIOに動き寄っていく。なんだか何も考えられない…

頭の中が真っ白になっていくあたいの耳に、DIOの低い声がまるで草原に吹く風のようにスッと通り抜けていく…




―――チルノ…既に『小さな勇気』を持つ君には、ちょっとした『おまじない』を掛けてあげよう…
     今の君に不要な物は『迷い』だ…。これからその『芽』を刈り取ってやろう。そして『新たな芽』を…受け取って欲しい―――




――――――あたいの意識は、そこで完全に『真っ白』になった――――――


366 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:52:08 Nrv5qAng0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽







「どうだい…?気分が悪いとか…身体が重いとか…無いかい?」


――――――。


「それは良かった。では早速だが君にお願いがあるんだ。先程言った通り、私は吸血鬼なのでね。日中の間は外を歩けないんだ。
チルノにはその間、私の手足となって動いて貰いたい。私は『信頼出来る部下』を探している」


――――――。


「そうだよ。具体的には私の『敵』と成り得る者達の『始末』を頼みたい。『ジョースターの血統』を持つ人間の事だ。
ここから東へ行った所に私の『友達』が二人、敵と戦ってくれていると思う。まずは彼らを加勢してやってくれ。
その内の一人はまだ君と同じぐらいの年齢をした少女さ。尤も、妖怪の本当の年齢は知らないがね。その妖怪…『古明地こいし』はまだまだ未熟な精神をした女の子だ。人を真の意味で殺したことは無いだろう。
そういう意味ではチルノの方がこいしよりも『先輩』というわけだ。どうか彼女を支えてやって欲しい」


――――――。


「…ん?君とこいしは知り合いだったのかい?……ほぅ、たまに外で一緒に遊ぶ間柄だったのか。…そういえばこいしが言っていたな。
『自分は大人には存在を認識されにくい。子供にだけ見え、よく話をしたり遊んだりする』…と。フム…精神医学の現象でこんな話がある。
本人の空想の中でしか存在しない人物…『空想の友人』。空想の中で本人と会話したり、時には視界に擬似的に映し出して遊戯などを行ったりもする…。
心理・医学分野の用語で『イマジナリーフレンド』と呼ばれるらしく、特に幼い子供に現われやすい現象と聞くが…古明地こいしはまさしくそのイマジナリーフレンドでの空想上の友達そのものといった妖怪だな」


367 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:52:42 Nrv5qAng0


――――――!


「ははっ、悪い悪い。別にチルノがそのイマジナリーフレンドの病気にかかっていると言いたいのではないさ。
病気と言ったが、正確にはそうじゃあない。この現象は幼少時代、誰しもが経験する可能性がある至って普通の体験なのだよ。
それにこの現象が現われる子供は『創造性』が高いしるしだ。つまり私が言いたい事は、君とこいしは『気の合う友達』だって事さ。
どうか『先輩』である君が彼女を引っ張っていって欲しい。彼女には『プッチ』という私の友がついているが、恐らく彼ではこいしの『本当の気持ち』は引き出せないだろう。
こいしの本当の気持ちを引き出せるのは彼女の家族や友…君のような『心が通じやすい子供』だけだろうからね」


――――――。


「子供扱いしないで欲しい…?それは失礼した、チルノ。だが、『子供にしか出来ない事。視えない物』だってあるのだよ。
それは流石のこのDIOにも分からない。だが、君なら分かるかもしれない。私が君に期待しているのはそこさ…。
…おっと、あまり喋り過ぎると夜が明けてしまうな。それではここで一旦さよならだ。くれぐれも気を付けて、敵を減らしてきてくれ…」






「また、会おう」



「はい…DIO様…」


368 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:54:27 Nrv5qAng0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

(行ったか…)

DIOは東へと向かうチルノの後ろ姿を腕を組んで眺めながら心中で呟き、思案する。
彼女の向かう先は『星のアザ』の共鳴地点と一致している。その場に居るジョースターの血統が何者なのか。
DIOが知るジョースターの血縁者は『ジョナサン・ジョースター』『ジョセフ・ジョースター』『空条承太郎』。そしてプッチから伝え聞いた話では承太郎の娘、『空条徐倫』の計4名。
名簿には『ジョニィ・ジョースター』なる存在も確認できる。その全てがDIOの運命という道に転がる『小石』のようなちっぽけな存在…

だが、そんな小さな小石でも『運命の歯車』にもし引っ掛かればDIOの人生全てを狂い壊しかねない大きな脅威となる。世界最悪の男と呼ばれるDIOにとっても、それだけは『恐れている事態』だった。
このバトルロワイヤル…見方を変えれば奴らを一網打尽に消す事の出来る『最大のチャンス』かもしれない。
『自らの運命を克服』しなければ、天国になど行けやしないのだ。


(このDIOは…運命から逃げるような生き方だけはしない…。どんな手段を用いてでもジョースターだけは滅しなければならないッ!!)


例えどんなに険しい道のりだろうが、例えそれがどんなに遠い『廻り道』だろうが、たまには足を止めて後ろを振り返ろうが…結局DIOのやるべき事は最初から変わったりはしない。
絶対的な信念という名の『指針』を持つ限り、進むべき道を失ったりはしないのだ。そしてそれは決して『ひとり』では成し得ない事。
『友』であるプッチは当然として、こいしやチルノといった『同志』と成り得る者の協力も必要なこと。

こいしに対しては敢えて肉の芽を植え付けなかったDIOも、チルノに対しては彼の支配下に置く事を選んだ。
チルノもあれで相当の精神を削られている。ここでDIOと出会わなければ遅かれ早かれ、彼女の心は壊れていただろう。
DIOと話していた事で幾分の不安は取り除けただろうが、不安の芽は根元から刈り取ってやらなければいずれは成長して彼女の精神の髄まで巻き付き、最後には喰い殺されていたかもしれない。

DIOがチルノに施したのは、ほんの小さなきっかけとなる肉の芽。彼女の心の奥底に燻る『恐怖』を丸ごと取り除いてやったに過ぎない。
人を撃った事で芽生えた『小さき覚悟と自信』を持つチルノと、未だ『覚悟』を持てないこいし…。その二人を出会わせる事で新しい化学反応も起こり得るかもしれない。
あわよくばチルノがこいしの『見本』となって先へ立ち、彼女を『覚醒』させる結果をもたらすよう願おう…



つまるところ、DIOがチルノに肉の芽を植え付けた意図とはそれである。


369 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:55:51 Nrv5qAng0

「さて…私も早いところ日光を凌げる拠点を探さねばな。このD-4地点から近い施設では…やはりC-3『紅魔館』か。
何故か存在する『ジョースター邸』や『私の館』を根城とするのも良いが…こいしから聞いた話では紅魔館とは『吸血鬼』が住まう悪魔の館…
この『DIO』と『幻想郷の吸血鬼』では何が違うのか…?そこも非常にそそられる要素ではあるな」

チルノの姿が見えなくなったところでDIOは地図を取り出し、次なる目的地へと意識を向ける。
目指すは『紅魔館』。幻想郷において大層なパワーバランスの一角を担うという『レミリア・スカーレット』の話をこいしから聞いたDIOは、すぐにその吸血鬼に興味を持った。
直接会うことは出来ないかもしれないが、その紅魔館へと赴けば少なくとも彼女についての情報ぐらいは手に入るだろう。この『幻想郷』そのものについても大きな情報を得ることが出来るかもしれない。


DIOはこの幻想郷という、世界から隔離された空間に大きな興味を抱いていた。
100年の眠りから復活し世界を旅したDIOも、こんな妖怪妖精が跋扈する場所には足を踏み入れた事が無かった。
ましてやここは人々から忘れられた『幻想の世界』。流石のDIOもこんな世界は今まで生きてきて見たことも聞いた事も無い。
チルノ曰く、ここは『元の幻想郷とは何かが違う場所』らしいが、元々好奇心が高いDIOにとっては、とにかく面白そうな世界であった。
故に、この摩訶不思議な世界をもっと調べる為に紅魔館へ赴き、何かしらの情報を得ようと決めたのである。


「この世界は…『良い場所』だ。肌に纏わり付くこの風も匂いも、全てが心地良く感じる…。こんな場所がこの地球に存在していたとは、100年を生きたこのDIOですら全く知らなんだ。
この地を『支配』してみるのもまた一興…ま、それは今やるべき事ではないがな。フフフ…」


まさしく悪魔のような笑みを口に浮かべながら地図をしまい、北西に向かって歩き出す。
手をポケットに突っ込んだまま鼻歌でも歌いだしそうなご機嫌な気分で、DIOは悠然と目的地へと歩を進める。


―――その時である。


370 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 00:56:29 Nrv5qAng0


―――寅丸様……正気に戻ってーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!



朝靄の草原に信じられないほどの大音量で響いたのは、少女の叫びのような爆音。
距離はおそらく、かなり近い。数百メートル内の距離から発せられたものだろう。それの叫びを聞いてなお、DIOは満面喜色な表情を崩さない。
一瞬足を止め、声の発信源の方向を見向いただけでまたすぐに歩行を再開しただけである。


(ンッン〜〜〜♪中々良い『叫び』だ…。肝と覚悟は据わっているが心の内では怖くて仕方が無い、『恐怖と動揺』に満ち満ちた叫び…
実に美しい『戦いの音』だ。先程の香霖堂とやらからも聴こえた砲撃音…2キロ北の猫の隠れ里から何度か聞こえた爆発音…
どこもかしこでも、既に様々な『狂気』が戦いの音色を奏でている…。意味も無く楽しくなってきたよ…クックック……)


帝王は感情を昂ぶらせ、狂喜を孕んだ風の匂いを感じながらただただ歩む。

次の目的地、紅魔館で彼を待つ者は誰か。果たしてどんな出会いが待っているのか…

『引力』に引かれるが如く、かの悪魔の館…今では『恐竜の王国』と化した砦へと吸い込まれてゆく。

そのDIOの遥か上空では1匹の『翼竜』が、じっと彼を見据えていた。その視線に帝王が気付いていたかどうかは、誰にも分からない…


371 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 01:00:06 Nrv5qAng0
【D-4 湿地帯前/早朝】

【DIO(ディオ・ブランドー)@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:健康、軽く『ハイ』
[装備]:なし
[道具]:大統領のハンカチ@第7部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに勝ち残り、頂点に立つ。
1:永きに渡るジョースターとの因縁に決着を付ける。手段は選ばない。空条承太郎は必ず仕留める。
2:紅魔館で日中を凌ぐ。日中の間引きの為に部下に使える参加者を捜す。
3:幻想郷及びその住民に強い興味。紅魔館で情報を探す。
4:古明地こいしとチルノを『天国』に加担させてみたい。素質が無いと判断すれば切り捨てる。
5:優秀なスタンド使いであるあの青年(ブチャラティ)に興味。
[備考]
※参戦時期はエジプト・カイロの街中で承太郎と対峙した直後です。
※停止時間は5秒前後です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※名簿上では「DIO(ディオ・ブランドー)」と表記されています。
※古明地こいし、チルノの経歴及び地霊殿や命蓮寺の住民、幻想郷について大まかに知りました。
※自分の未来、プッチの未来について知りました。ジョジョ第6部参加者に関する詳細な情報も知りました。
※主催者が時間に干渉する能力を持っている可能性があると推測しています。

<大統領のハンカチ@ジョジョ第7部>
ディオ・ブランドーに支給。
ファニー・ヴァレンタインの生まれた日である『20SEP.1847』と刺繍が施してある、至って普通のハンカチ。
元々はヴァレンタインの父親の持ち物だったが、彼は戦争で敵国の捕虜になって拷問を受ける。
その際、自分で左目をくり抜いてその空洞にハンカチを隠し通し、そのまま死亡。
後に、当時7歳だったヴァレンタインの元までハンカチは戻ってきた。
ヴァレンタインはこの形見のハンカチから『父の愛』と『愛国心』を学び、何よりも大切に持ち歩いている。


372 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 01:01:50 Nrv5qAng0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
――― <早朝> E-4 人間の里 東方仗助の家 ―――

立ち並ぶ古風な家々から成り立つ集落『人間の里』。ついぞ昨日には人々の賑わいを見せていた逞しい里も、すっかり生き物の気配が消失したこの風景は、フィルムの中で見るような『ゴーストタウン』とでも形容するべきだろうか。
いつもならば一日を生きる為の人々の活気が徐々に現われ出す早朝の時間帯に、しかし今日ばかりはシンとした薄ら寒い空気に包まれていた。
朝を告げるはずの鳥の囀りや飼い犬の遠吠えも空気を震わす事無く、静寂から始まる一日が『二人の登場人物』を迎える。


この物語の主人公の名は『ジョセフ・ジョースター』。殆どの参加者にとってそうであるように、この男にとっても『最悪の一日』が始まろうとしていた…


……………
………


「カァーーーーッ!ゥンめええぇぇ〜〜〜〜〜〜ッ!!スパゲッティ・ネーロ程ではねーけどナポリタンも最高だぜ〜〜!どうだ、橙?うめーだろ!食ったことあるか?『スパゲッティ・ナポリタン』!」

「お、おいしい!こんなの食べた事無いよ!ジョセフお兄さんって魔法も使えて美味しい料理も作れて、何でも出来るんだね!」

「フッフッフーーン♪子猫ちゃんにそこまで褒められちゃあ、俺も鼻が高くなっちまうぜ」


古風な人間の里に一際目立った現代の民家―『東方の家』にて、ジョセフと橙の両2名は卓を囲んでいた。彼らがこの場に至る経緯はこうだ。
橙の『探し人』の情報を求めるため、ジョセフ達はひとまず近隣にある人間の里へと足を踏み込むことに決めたのだが、そこは東洋の文化集落。
ジョセフにとって本や映画の中の世界でしかない日本の、しかも時代の変化から完全に取り残された様な古臭い村の景観は、とても新鮮なものであった。
見る物全てが珍しい景色ばかりで、ジョセフの内心は少々子供の頃に行ったきりの『社会見学』の気分に浸っていたが、ここは観光名所どころか殺戮の会場。
彼の手には当然、ペットボトルの水で作った即席の『波紋探知機』が握られている。用心深いジョセフがこの程度の警戒を怠るはずも無かった。

周囲に自分達二人以外の人間は居ない事を確認しながら里の大通りを歩き続けるジョセフは、後ろを付いてくる小さなお供の橙に話し掛け続ける。
出会った当初から何かに怯えるような慄きの表情を崩さない橙に対しての、ジョセフの精一杯の気遣いが『会話』であった。
お互いの簡単な自己紹介。そこからはジョセフが自分の好きな映画やマンガ、自分の友についてなどのくだらない事やおちゃらけた会話を延々展開しながら道を進んでいくのみの時間。
その間、橙はジョセフの話す内容に多少の興味や驚きの色を含んだ表情を見せたが、やはり彼女の心に巣食う『恐怖心』を根本から拭う事は出来なかった。


373 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 01:02:34 Nrv5qAng0

―――無理もない…。ジョセフは橙の縮こまった態度からそう感じる。

この娘はまだ子供。これほど年端もいかぬ少女がこのような暴虐なる世界に突然放り込まれれば怖いに決まっている(実際の年齢は実はジョセフよりも橙の方が上なのだが)。
本音を言えばジョセフ自身、全く恐怖を感じてないとは言い切れない。しかし恐怖よりも自分をこんな目に合わせている主催者の二人に対しての『怒り』の気持ちの方が勝っている。

いや、自分だけならまだ良い。だが橙はかよわい子供だ。こんな女の子にまで殺人を強要させるこのゲームに腹が煮え滾るほどの更なる怒りの気持ちがジョセフにはある。
ジョセフがここまで心底、心から憎いと思った相手はかつて滅ぼしたはずのカーズ以外では奴らが初めてである。
必ず…必ず倒すべき相手だッ!ジョセフは人知れず決心する。


―――しかし、橙の本心がまさかその自分を討たんとしている事には気付く事は出来なかった…


いずれ見つけた少し大きめの民家で二人はひとまず休息を取る事にした。
ジョセフにはまだまだ気力が残っていたが、幼い橙の事も考えての配慮。ついでに少し早めの朝食でも摂って今後の方針でも決めようという、けっこう呑気したジョセフの考えである。


374 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 01:03:53 Nrv5qAng0
「いやぁーゴッソさん!日本のご家庭でもナポリタンが普通に食える時代になるたあ、良い時代になったもんだぜ」

「ご馳走様でした。『なぽりたん』なんて幻想郷でもあまり見ない料理だと思うけどとっても美味しかったよ、お兄さん♪」


橙の心の底から嬉しそうな笑顔を見てジョセフはホッとする。自分は別段料理が得意だというわけではなかったが、そんな料理でも彼女は美味しいと言ってくれた。それがたまらなく嬉しいのだ。
パイロットの夢を諦めて料理人にでもなろうかという場違いな思考が横切ったが、このまま皿洗いまで済ましてしまおうというほどジョセフも能天気な人間ではない。
ここからは思考を切り替えて行動しなければならない。ジョセフは食べ済ませた後の食器をテーブルの端に寄せ、なるべく刺激を与えないような緩さで橙に話し掛ける。

「で…だぜ、子猫ちゃん。お腹も膨れた事だし、君の探し人である『八雲紫』様とやらをこれから探しにいくわけだけど…その前に色々と旅支度整えなきゃあな。
お互いについての話とか…まぁ俺についての話はさっき殆ど話しちまったから次はお嬢ちゃんについて色々聞きたいんだが、ま!まずは『支給品』の確認だな!」

いそいそとデイパックの中を漁り始めるジョセフをよそに橙の心中はさっきとは一転、焦っていた。
密かにジョセフの首を何とかして狙いたい橙は、先ほど『自分は人を探している』とジョセフに対して嘘をついてしまった。
そこで返ってくる当然の質問は『誰を探しているのか』となるのだが、最初は口篭るしかなかった橙も流石に不自然に思われてはマズイと察し、つい口から出た者の名が『八雲紫』だったのだ。
普段は絶対の信頼と母に贈る様な愛情を主の八雲藍に対して感じていたのだが、信じたくない事に今最も会いたくない人物は主であるはずの八雲藍。となれば今の橙が助けを求める相手は必然的に八雲藍のそのまた主、八雲紫その人となる。


―――『藍様がああなってしまっても紫様なら今度こそ…きっと私を助けてくれるはずだ』


藁にも縋る気持ちの橙が心に思い描いていた人物の名が、思わずジョセフの質問に答える形で口から出てしまった。
これで一行の当面の目的は図らずも『八雲紫の捜索』となってしまう。

…とはいえ、この状況で紫様と合流するのは悪くない選択肢なんじゃないのか…?
ジョセフお兄さんに嘘をつく事になってしまったのは悪いとは思ったが、もし紫様に会う事が出来ればきっと自分を救うために動いてくれるはずだ。
おかしくなってしまった藍様をいつもの優しい藍様に戻してくれるはずなんだ。そう信じるしかなかった。

もし紫様が自分に『藍様と同じ事』をしてしまったら…その可能性は考えたくはない。


375 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 01:04:50 Nrv5qAng0
(とにかく、今はこのジョセフお兄さんと行動しよう。この人は私の怪我を治してくれて、美味しいご飯まで作ってくれたんだ。きっと悪い人じゃない…)

自分の中で方針を密かに立てる橙だが、しかし恩を感じているほどのジョセフをこれから危険な場所に誘導し、漁夫の利のような形でその首を狙わんとする行為に橙は心が押し潰されそうになる。
だが、最悪『ひとりの首』だけでも持ち帰らなければきっと自分は藍様に殺されてしまう。死ぬのはもっと嫌だ。

そんな橙の苦悩を知る由も無いジョセフは、相変わらず呑気に冗談を交えた会話を進めている。

「俺に配られた支給品はまずはコレ。何の変哲も無い普通の『金属バット』。あと7人友達を集めれば俺様のチームが作れるが、残念な事にボールもグローブも敵チームすら居ねえ。つまりただの『打撃武器』なワケね。
全く、あの荒木と太田のヤロー…もうちょっとまともなモン寄越せよって感じだぜー…。まぁ、『もうひとつの支給品』は中々スゲェ品だったから俺もそこそこゴキゲンだけどねん♪」

ニヤニヤ笑みのジョセフがそう言い終わるやいなや、狙って来たかのように居間の奥から現われた『三体の飛行する人形』が彼の元へ到着した。
小さい人形の身体に洋装を纏いブロンドのロングヘアーと頭のリボンが特徴の、西洋の侍女を想起させる全長20センチほどの西洋人形。
魔法使いアリス・マーガトロイドが使い魔としても使役していたこの魔力が込められた人形は、攻撃能力こそ無いものの小回りの効く使い勝手の良い、ちょっとした召使いの様に主君であるジョセフの命令を聞いてくれる。

簡単な命令の処理能力程度の機能は備わっているらしく、ヒョイヒョイと優雅に空中を飛び回るその仕組みは謎である。
どうやら『五体セット』での支給らしく、とりあえずジョセフはその内の三体を取り回して自分の周りに浮かせた。
この東方家に入った時点でジョセフは『あるモノ』の捜索をこの人形達に頼んでいた。それは普通の家庭にならどこにでも置いてあるような『必需品』であり、人形に探し出させるのにもそう時間は掛からない物である。

「お!帰って来たか『シャルル』に『ピエール』にそしてえ〜っと…お前は、誰だっけ?……そう!『フランソワ』だ!
よしよし、三人とも無事『お目当てのモノ』を見つけて来てくれたようね。ヘヘヘ、エライエライ!」

「…なに?その名前」

「人形と言えどきちんと『名前』を与えて然るべきだと俺は思うのよ。乙女じゃねーけど。
そこでこいつらには俺の好きな俳優の昔の役名からとって名付ける事にした(誰が誰か全く見分けつかねーけど、適当だ適当)
名前もあれば自然と愛着も湧くようになるもんだぜ。どうだい?橙も一体」

「んーー……いらないよ」


376 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 01:06:08 Nrv5qAng0
橙はジョセフの提案をやんわりと一蹴し、彼の周りをくるくると浮遊する魔法人形を目で追う。化け猫の性なのか、二叉の尻尾がその回転する動きに微妙に反応している姿を見てジョセフは笑いを堪えつつ、人形達の持ってきた『モノ』を受け取る。
その幾つかの日用品は一見すればただの家庭用品に過ぎないが、詐欺師同然のイカサマ戦法で戦う波紋戦士ジョセフが扱えば一転して意外性ある武器となるのだ。

ルンルン気分で口笛を吹きながら品物の手入れをするジョセフに、橙は何に使うのかを聞いても返ってくる言葉は「ビックリ手品だよん」の嬉々たる一言。
その楽しそうな様子はまるでプレゼントを受け取った『子供』のよう。見ているだけで橙自身も少しだけワクワクしてくるというものだが、この場は彼の後に倣って橙も自身の『支給品』を取り出した。
不思議な紙を拡げて飛び出してきた物は二つ。橙よりも二回りほど大きな、注連縄付きの岩。どういった力が働いているのか、宙に浮いている。

「おお!?何だそのデッカイ妙チクリンな岩は?えぇ〜となになに…
『要石(かなめいし)。この岩に飛び乗ると会場内のエリアにランダムで飛び向かいます。使用回数は3回まで。禁止エリアに向かう事もあるので注意!なお、この岩で地震を起こす事は出来ません』…だとよ。
へぇ〜え中々面白そうだな。コイツで空のお散歩を楽しむ事も可能ってワケね」

ジョセフは説明書を読みながらこれまた愉快な笑みを零している。もしや彼は自分よりも子供なんじゃないかと橙は少し不安になるが、よく考えれば完全に自分よりは年下のはずなのでおかしくはない、のだろうか。
そんなジョセフの様子を可笑しく感じたのだろう。橙までもクスクスと笑いながら口を開く。
 
「ねぇジョセフお兄さん、その空飛ぶ石…お兄さんにあげるよ。『なぽりたん』のお礼!」

「え!くれんの!?俺に?タダで?」

「タダで」

「マジで?」

「マジマジ!」

「おっしゃああ!俺は貰えるモンなら病気以外は何だって貰っちまうぜーーーッ!!一度で良いから空を自由に飛行してみたかったんだもんねーー!(カーズに追われてる時に一回乗り回したけど)
まさか飛行機じゃなくて石っころのパイロットになれるなんて夢にも思わなかったけどよォー!」

想像以上に喜んでくれたジョセフを見て、橙は子供にプレゼントを贈る親の気持ちを予期せぬ形で体験してしまった事にまたもつられて笑う。
と、何か閃いたのかジョセフは筆記用具からペンを取り出し、エニグマの紙にスラスラと何か書き綴っている。
何を書いているの?と橙が聞いても「くだらない事だがこんな遊び心が俺流の戦法なのさ」とわけのわからない答えが返ってくるだけであった。


377 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 01:07:19 Nrv5qAng0
仕方ないので橙は紙から出てきたもうひとつの支給品を手に取ってみる。
『それ』は赤色に塗られた小型のスプレー缶のようであり、紙には『焼夷手榴弾』と書かれていた。
こんな現代兵器など勿論見た事も無い橙は、これが如何なる用途なのか分からずに首を傾げながら手榴弾をまじまじ見やる。

「あまり無用心に触らない方が良いぜ。そいつは焼夷手榴弾っつって、そこのピンを抜いた後に相手に投げ付けると激しい燃焼を起こす。衝撃を与えねーように紙の中に携帯しときな」

ジョセフの説明が横から飛び出た瞬間、思わずきゃわわと驚いた橙はすぐにそれを紙の中に戻す。火ダルマの猫妖怪などはどこぞの火車だけで充分である。
そこで文字を書き終えたジョセフは「さてと」と前置きし、橙に向き直って聞く。

「これで『旅支度』は終わりだ。…じゃあ、そろそろ子猫ちゃんの事を聞こうかな。どうやら君は『化け猫の妖怪』らしいが、それってマジなの?(尻尾と耳が生えている辺り、マジっぽいけど)」

「う…うん。私、『幻想郷』の住人なの…」


この場を借りて橙はようやっと自分の出身、『幻想郷』について語る。
曰く、そこでは現代から忘れ去られた者達…魑魅魍魎が普通に蔓延る世界。
曰く、自分は九尾の大妖怪、八雲藍の式神である存在。
当然、その八雲藍がゲームに乗っており、自分に殺人を強要している事は伏せて話したが、彼女の事を話す橙の心中はやはり悲壮感に纏われる。

ジョセフはそんな橙の語る御伽噺の様な話を、夢でも見ているかのように聞きに徹する。
が、橙の耳や尻尾はどうもツギハギで作ったようには見えないし、吸血鬼や柱の男みたいな連中が居るのなら妖怪や神も存在するのだろう…と思い、案外あっさり信じ込んだ。
今話に出た者達の名も参加者名簿に載っていた事から、橙は嘘を吐いていないものとしてジョセフは彼女を一時のパートナーとして迎え入れる。

とはいえ、ジョセフにはどうも気にかかる事項があった。
何がどうおかしいとはハッキリ分からないが、心の奥で引っ掛かる僅かな『濁り』。
橙は自分に嘘を吐いている…とまではいかなくとも、何か『隠している事』があるのではないか。
八雲藍の事を話す橙の表情に、どこか『影』のようなものが堕ちている事に何となく気付いたジョセフだが、その僅かな濁りは芽吹く事無くジョセフの記憶の底に今は沈みゆくだけであった。


378 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 01:08:23 Nrv5qAng0
ジョセフと幼い橙。お互いに出せる情報は全て吐き出し、テーブルの地図を眺めながら次なる方針を決める。
まずはこの『人間の里』をもう少しだけ探索してから、次は少し東に行った所にある『コロッセオ』にでも行ってみようかという結論を出す。
迷える子猫を親の元に送り届けようという、ジョセフの少ない親切心がここで発動したわけだ。

そうと決まれば早速行動するべく立ち上がったジョセフ。しかしこの瞬間、ジョセフは兼ねてより気になっていた『もうひとつの事項』が頭をよぎる。いや、よぎったのは頭にではない。


―――自分の後ろの首筋に奇妙な感覚が滾り始める。


(どうも…ここへ来た時から『妙な感覚』がするんだよなぁ。なんつーか…ホラー映画で主人公を襲うパニックシーンを観ている時の『ドキドキ感』つーか、興奮とかじゃねーんだが…何か落ち着かないぜ)

今のジョセフには知らぬ事ではあるが…ジョースター家の『しるし』である首筋の『星型のアザ』はジョセフにも例外無く存在している。
そのアザが放つ共鳴のシグナルは、同じアザを持つ者との魂と魂の共有信号を発信させ、この会場内のどこかに居る『同じ血統を持つ者』を引き会わせる。
そのシグナルがここ数十分の間で強烈に高まってきた事を感じ、ジョセフは嫌な予感を受け取った。彼はこういった事は信じる性質ではないが、『虫の知らせ』というものは存在するものだ。

ジョセフはテーブルに汲んであった水のグラスに手を触れ、静かに呼吸を整える。今更気を張るほどでもない、今までに何度もやってきた『波紋の呼吸』を腕から指先に、指先からコップの水へと伝導させる。
水の表面には小さく『波紋』が拡がっていた。その波紋探知機の意味する所は、この家の近くに『ひとり』。何者かが近づいてくる。
首筋から伝わる正体不明のシグナルなんかよりも余程信頼のある気配の感覚。ジョセフの眼は鋭く―『戦士』の眼へと変化していく。



「…誰か来るぜ」


「……え?」


突然の呟きに目を丸くする橙を差し置き、ジョセフはすぐに自分の荷物をまとめ上げて玄関へ向かおうとする。

「橙。俺が様子を見てくる。お前は家の中で大人しくしててくれ」

そう言い残し、三体の魔法人形をお供にジョセフは廊下へと消える。
その姿を見送る橙は言い様の無い不安に襲われながら、同時にこれからこの場でひとつの『戦い』が起こるのだと、どこからか来る確信を何となく感じていた。
それは何としても『ノルマ』を達成しなければならない状況の橙にとって、果たして喜ばしい事態なのだろうか。やっと巡って来たと言える『チャンス』なのだろうか。


今の橙にはまだ分からない。分からないから、不安になる。恐ろしくなる。


379 : ◆qSXL3X4ics :2014/02/27(木) 01:16:44 Nrv5qAng0
これにて前編投下終了です。見てくださった方、ありがとうございました。
続きも殆ど出来ている状態ですが、明日(今日)27日は ◆at2S1Rtf4A様が投下する予定であるのと、時間的に書き込める余裕が無さそうということで、
続きは28日に投下させて欲しいのです

お待たせしないと自分で言っておいておきながらなのですが、続きの予約の延長をさせていただいてもよろしいでしょうか?


380 : 名無しさん :2014/02/27(木) 01:21:29 LFEx6PrA0
前編投下乙です。
着々と地盤を固めるDIO様の行動が不気味だなぁ…ホントにDIO教を築きつつある
ヤバい肉の芽がINしてしまったチルノちゃんの明日はどっちだ
それとジョセフのキャラが中々に愉快でやっぱりいいな…w
もうプッチ神父達も到着するだろうけど、ジョセフにはタイトル通りの「ゲームの達人」っぷりを見せて頑張ってほしいな


381 : 名無しさん :2014/02/27(木) 04:27:17 6.o4gldY0
猫は爆弾、幼女は不安定、チルノは洗脳、プッチは殺意満面。共通してほぼ
全員ジョセフヌッ殺モード。様々な詰みな状況を覆すのがジョセフの魅力とはいえ
冷静に見返せば素直な味方がジョセフに一人もいぬぇ(絶望)


382 : 名無しさん :2014/02/27(木) 17:44:28 Ehn5BLRI0
不安だな


383 : 名無しさん :2014/02/27(木) 19:14:08 7zvk0cT2O
ジョセフに空飛ぶ乗り物を渡してはいけません(震え声)


384 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/27(木) 23:58:16 8EyZuX9o0
投下します


385 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/27(木) 23:58:52 8EyZuX9o0
「う、うーん」
「あっ!メリーさん良かった、目が覚めたみたいですね。唐突に眠りだすからびっくりしましたよ。」

阿求はホッと胸を撫で下ろす。
内心自分の話が詰まらなかったのではないか、という的外れな考えがあったのだが。

「ええと……痛ッ!」
「だ、大丈夫ですか?」

対するマエリベリーも何から話していいか分からないでいた。
あれだけのことがわずかな時間で体験したせいもあるだろうが、それだけではない。

 今思うと私を掴んでいたのってDIOのスタンドだったのかしら?
 それにすごく体がだるい、全身汗でぐっしょりになってるし、
 夢の世界での状態のまま戻ってきたのね。
 じゃあもし、あの場で肉の芽を受けていたら…

マエリベリーは想像して寒気がした。

「へ、平気です、それより戦いはどうなりましたか?」
「ええ、終わりましたよ。ツェペリさんががんばってくださったお蔭です。」
「ちょっと〜、私だって彼のピンチを救ったのにその言い方はないんじゃない、阿求?」

ぬうっと、幽々子が話している二人に割って入った。

「別に幽々子さんが何もしてないなんて言ってませんよ。」
「結局、あの後おじさんが一人でやってのけたのよ、まったく最初から準備しているなら
 もっと早く使えばいいのにねぇ。」
「……そう言ってくれるな、あのタイミングで使ったからこそ、
 あそこまでの隙が生まれたんだからのう。
 ただ背後からけしかけただけなら奴も容易に切り抜けたじゃろうよ。」

「ツェペリさんッ!」
全身に無数の傷が覗かせていたが、ツェペリはなんとか無事のようでマエリベリーは安堵する。
「すまんかったなあ、メリー君。君にも怖い思いさせただろうしのう。」
「いえ、良かったです。ご無事で…そういえばポルナレフさんは?」
「奴なら、そこで伸びとるよ。本気の波紋をあれだけ叩き込んだんじゃ、すぐには立てまいて。」
マエリベリーはツェペリが指差す方向の少し先にポルナレフをいるのを確認する。

「皆さんに聞いてほしい話があるんです。私がさっきまで体験した夢の話を…」


386 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:00:00 6pgGmvkY0
マエリベリーはそう言って話を切り出した。
自身の境目を見る力、竹林でのとびっくら、
白黒ポルナレフ、DIOに出くわし逃げ出したことなど、
体験したすべてを包み隠さず話した。

 『境目』を見るねぇ…いよいよもって、そっくりさんでは済まなくなってきたわね。
 まさか紫に隠し子でもいたのかしら?
 
 善の『白』、悪の『黒』のいわば相反する感情の『境目』を見つけて、
 入り込んでしまったなんて。メリーさんの力は限りなく、あの大妖怪に近いですね……

 ポルナレフを操っていたのは肉の芽とかいうものが原因か、
 吸血鬼の力にはそんなものも秘めているのか?

話を聞き終えた三者はその内容に驚きを隠せなかった。
「嘘みたいな話だと思われるかもしれないですけど、本当なんです。
 ……信じてもらえますか?」

「ふむ、確かに俄かには信じられん話じゃが、儂はメリー君を疑うつもりはないから心配はいらんぞ。
 二人は何か分かることはないかな?」
「そうねぇ、私も阿求も心当たりがないわ。そうよね?」
「はい、―――って、ええぇ!?幽々子さん何言ってる、もごごぐ。」

阿求の口を幽々子は手で強引に塞ぎ言葉を遮る、耳打ちする。
(阿求、私に話を合わせなさい。別に悪巧みじゃあないから、いいわね?)

「何をしとるんじゃ?話させてやらんか、幽々子君。」
「ふふ、近くにハエがいたからつい、ね?」
ハエがいたら口の中に押し込む人なんていないでしょう、と思う阿求だったが、
幽々子の言われた通りにマエリベリーの能力について知らない、ということにした。
すぐに幽々子に小声で問いかける。

(一体どういうつもりなんですか?)
(あなたは紫と幻想郷のことを話した出した途端にメリーが眠りについたと言ったわね?)
(はい、偶然かもしれませんが…)
(もしその言葉が鍵になっていたら、またメリーは境目に旅立つかもしれないでしょう?
 疲れ切った今の状態じゃ、戻ってこれるか怪しいわ。)
(念のためということですか?)
(そう、それにメリーの話が正しいかどうかなんて、見分けるのは簡単よ。
 箒頭の前髪に肉の芽とやらがあるかどうか、それだけで十分だもの。)
(なるほど)

「なーに話とるんじゃ、二人とも?」
コソコソ話す二人にツェペリが口を挟み、慌てて阿求が返す。

「い、いえ気になさらないで下さい。それよりポルナレフさんに肉の芽があるかどうか、
 確認しませんか?」
「ふむ、そうじゃな。確か前髪の付け根辺り、それで良かったかのう、メリー君?」
「はい、私があの時見たのが正しければ、そこにあります。」
「なら、早速見に行きましょうか?


387 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:00:30 6pgGmvkY0
そうして、4人とも倒れているポルナレフを見ようとした瞬間だった。

ぱちぱちぱち、という音が聞こえてくる。手を叩き拍手する音が聞こえた。


「ブラボー!おお…ブラボー!!実に見事だったぞ、ウィル・A・ツェペリ!」

ふらつきながらも立ち上がり拍手を送っているポルナレフの姿が4人の眼に映った。
その姿にツェペリは大きく驚かされる。

「な、なんじゃとぉ―――ッ!!お主あれほどの波紋疾走を受けておいて、なぜ?」

「確かに何発かはモロに食らった。意識が飛ぶかと思うほどの衝撃を食らい、
 実際さっきまで気絶していたさ。それを耐えた理由は―――これだッ。」

そう言うと、ポルナレフはスタンドを出現させる。だが今までとは違い、
ポルナレフの腕の上から覆いかぶさるようにチャリオッツの腕が現れたのだ。

「要はツェペリ。貴様の波紋から凌ぐために私の身体の外側に、
 少しだけスタンドを出してガードさせていたのだ。
 スタンドに波紋は通らないからな、分かってもらえたか?」

「ばかな…そんなことをする余裕があったのか?」

「ギリギリだった。だが、先ほどの攻防。不意打ちに近いやり方と考えても、
 スタンドを持たぬ人間で私を追い詰めるとは恐れ入った。少々侮っていたようだな。」

「くッ、ならばもう一度食らわせてやるまでじゃ!」
「その非礼に詫びる形として、私の全力で挑ませてもらうぞ。『シルバー・チャリオッツ』ッ!!」

宣言と共にチャリオッツが突如はじけ飛び、分解したかのように身体の一部が周囲にばら撒かれる。
そこには先ほどまでの姿ではなく、鎧を外したチャリオッツが立っていた。

「これだ!甲冑を外したスタンド『シルバー・チャリオッツ』!これこそが私の全力!
 覚悟してもらおうかッ!」

「一体何が違うのかしら?」
「もちろんお答えしよう!私は不意打ちは好まないのでね。
 甲冑を脱ぎ捨てた私のスタンドは更なるスピードを得たのだ。見せてやろう!」

チャリオッツが動き出したかと思うと、無数のシルバー・チャリオッツが
横並びに整列していた。この事実にマエリベリーは驚く。

「どういうこと?チャリオッツが8体もいる?」
「ふふ、そう見えるだろう?だが、違う!これらの内7体はチャリオッツのスピードが生み出した残像!
 視覚ではなく感覚に訴える残像なのだッ!」


388 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:01:09 6pgGmvkY0
場の空気がヒリつき始める。皆ポルナレフの見せた奥の手に少なからず驚いていた。

「さて、そろそろ始めようか一対一でかかってこいなど、とは言わん。
 全員を加味しても9対4、不利なのはそちらだからな。逃げ出すのも構わん。」


「だが、ツェペリ!貴様はDIO様に危害を加える危険性、
 先ほど見せた駆け引きを考えると放ってはおけない。この場で始末する!」

「ふん、儂とて逃げ出すつもりなどない。返り討ちにしてやるわい!」

「そんなッ、危険ですツェペリさん!さっき戦った傷を治さないといけないのに!」
マエリベリーは戦おうとするツェペリを止めようと必死だ。見かねて幽々子が両者に割って入る。

「はいはーい!ちょーっと待ってもらえるかしら、箒頭さん?
 貴方と戦うための作戦タイムいただけるかしら?」

「ふむ、いいだろう。しばらく待ってやる。」


「ふふふ、ありがとねー」


4人は少し離れた場所で、お互いの顔が見える様に円の形で話し合っていた。
「さて、面倒なことになったわね。」
もうちょっとお休みしてもらえたら楽に片付いたのにねぇ、と幽々子はもう一言小さく独りごちる。
「まさか、波紋疾走をあんな形で受け止めるとは…。みな、申し訳ない。儂の責任じゃ。」
ツェペリは頭を垂れるのを見て、慌ててマエリベリーがフォローする。
「気にしないで下さい、ツェペリさん。今度は私達で止めましょう。」
「そうそう、簡単よ。今度は相手が操られていると分かっているんだもの、対処のしようがあるわ。」
「つまり、額にある肉の芽を抜き取るつもりですか、幽々子さん?」
「まあね、とりあえず私の話を聞いてくれるかしら?」

幽々子は自分が考えた案を話し出した。


389 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:01:42 6pgGmvkY0
数分経つと、幽々子とツェペリがポルナレフとの距離を10メートルといったところまで近づいてきた。
「準備はいいようだな?」
「まあね、それと約束してもらうわ。万一、私達二人が倒れても阿求とメリーに手出ししないことをね。」
「もとより、私の相手はツェペリのみだ。約束しよう。」

 私って眼中にないのかしら?と軽く気に障るが幽々子はこれを無視して続ける。
「それと一つ聞きたいのよ、『スタンド』って一体何なの?人じゃないでしょ、それ。
 ちょっと気になってね。」
「生憎私も詳しくは知らないな。だが、自身の『精神』の具現、
 もしくは『守護霊』とも称する人もいる。これでいいか?」
「ふーん、守護『霊』か……。分かったわ、始めましょうか。」
「ゆくぞ、ポルナレフ!今度こそ、貴様の後ろに控える根源を破壊してやるぞ!」

「さあ、いざまいられい。このポルナレフ、全力で挑ませてもらう、覚悟ッ!!」
「戯曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ‐亡霊‐』」

幽々子はポルナレフの宣言を軽く無視して、代わりにスペルカードの宣言をする。
さらにいつ動いたのか、ポルナレフとの距離をさらに空けていた。

幽々子の正面とその左右の空間にそれぞれ、正面から黄色、左右からは水色の大玉の弾幕が集約する。
それらは一斉に無数の蝶の形へと姿を変えると解き放たれる。
いずれも発射された地点から直線の軌道を描き高速で飛来する。
その直線の一つの軌道にポルナレフは立っていたが、その態度は余裕そのものだ。

「ほお、変わった技を持っているな。だが…」
無数のチャリオッツが振るう刃が蝶の形を模した弾幕を霧散させた。
「これしきの威力しかないのか?チャリオッツの剣捌きは空間に溝を作る程度はたやすい。
 したがって、無意味だ。」

幽々子はさらにポルナレフの現在いる地点へと直線で走る弾幕を展開。
青と紫の蝶が先ほどより密度を増して4回ポルナレフへと高速で迫る。

「分からないのか?儚い胡蝶をただ散らしていることに。…むッ!」

しかし、今度の軌道は高速で動き続けていたチャリオッツが原因で弾幕が微妙にぶれ、
4本の内2本ずつに挟まれたのだ。

「確かに普通の人間なら、動きを封じるのには十分だ。だが!
『スタンド使い』はその枠には捕らわれない!」
さっきほどより時間はかかったものの、再びチャリオッツの剣捌きによって行く手を
阻んだ蝶は切り裂かれた。


390 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:02:31 6pgGmvkY0

しばらく待ってみるが、先ほどの二種類の弾幕の繰り返しで一向に変化はない。
ふとポルナレフは思った。
 
 まさか、ツェペリを逃がすためにこのような手段を取ったか?

自分の邪魔になる弾幕は斬り捨てたが、周囲にはかなりの蝶が舞っており、視界は劣悪だ。

 どの道、あの二人はこの弾幕の向こう側にいるはず、
 チャリオッツなら弾幕を破壊しながらでも容易。…ならば行くしかあるまい。

ポルナレフはそう判断すると、行く手を遮る蝶を斬り捨てつつ、侵攻し出した。

「動き出しよったな、ポルナレフ。」
星熊杯で揺れる波紋が少しずつ大きくなるのを見て、ツェペリは呟く。
彼もまた弾幕の中心地にいるが、被害は皆無であった。
事前に幽々子からどんな弾幕を使うか聞いているから当然である。
実際説明を受けただけでは弾幕を避けるのは難しいのだが。

スペルカード「戯曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ』」はその点都合がよかったと言える。
放たれる弾幕は大きく分けて2種類。
一つは、ほぼ固定の位置に放たれる。よって幽々子が当たらない位置を教えており、避ける必要もない。
もう一つは標的に向かって飛来する性質、今はポルナレフに向けられており、
幽々子はツェペリを認識できる位置についているので、邪魔になる位置からは撃たないようにしている。
このスペルカードによって移動の制限と相手の位置が大まかに判断できるのだ。

マエリベリーから借りた八雲紫の傘を握りしめ、波紋の呼吸を整える。

本当の狙いは八体いるチャリオッツを判別する手段でもあった。

目の前の弾幕を破壊するなら、当然その前に本体のチャリオッツがいるはずだと幽々子は判断した。
チャリオッツの生み出した残像であって、8体いるわけじゃない。
ならば、物理的に考えて弾幕を破壊した瞬間に立っているのはチャリオッツの本体。
そいつのみを意識して、先手を取り波紋をポルナレフへと叩き込むという単純な作戦だ。
まあ、失敗したら何か別の手を講じるわ、と幽々子は言っていた。


391 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:03:11 6pgGmvkY0

そう考えている間に、波紋の波がさらに大きくなっていた。
弾幕の向こう側でも切り払う音が聞こえ始めていた。

「来るな…!」

いよいよ目の前の弾幕の壁を切り刻む音が聞こえ出す、この弾幕の向こうにポルナレフはいる。
ツェペリは弾幕を破壊した瞬間に白楼剣の一撃を叩き込む、その一つに向けて精神を集中させる。

そしてついに、二人を分かつ胡蝶の境界線は引き裂かれた―――

ツェペリはその破壊される僅かコンマ数秒前から地を蹴った。
加速は十分なまま、弾幕の壁は消え去る。
このままチャリオッツの猛攻を振り切り、ポルナレフへ波紋を―――

 いない!?馬鹿な!!?

弾幕の障壁の向こう側には誰もいなかったのだ。ポルナレフはもちろんチャリオッツの影も形もない―――

そう思った瞬間、ツェペリの周りが一瞬暗くなる。
 
 違うッ!影はある!まさかっ!?

振り向いた時、既にチャリオッツの刃は迫っていた―――

「おおおおおおおおおおッッ!!!」

寸でのところでマエリベリーから借りていた『八雲紫の傘』で受け止めることに成功する。

「はあッ、はぁ、まさか飛び越えてくるとはのうッ!自分から壊しといて紛らわしい奴じゃ!」

そう、ポルナレフは弾幕を破壊し終えると、即座にチャリオッツを土台にして飛び越えてきたのだ。
「ふふ、先ほど貴様がヴァルキリーを使ったように小細工をさせてもらった、いわば意趣返し。
 なによりこれで片付くとも思っていない。」

「さあて、行くぞッ!ツェペリ!!」
「こうなったら、やってやるわい!!」


392 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:03:38 6pgGmvkY0

「ホラホラホラホラぁーーッ!!」
「うおおおおおおおッ!!」

チャリオッツの剣とツェペリの傘が激しく打ち合う。
『八雲紫の傘』はスタンドが振るう剣にも、破壊されることなく武器として十分に機能していた。
よって避けるだけでなく、受け止めるという選択肢をツェペリに与えていた。
しかし、チャリオッツのスピードは最初とは比較できないほど速い。
圧倒的なスピードと洗練された技を駆使し、ツェペリの傷を一つ、また一つと加えていく。
最初の時より受けるダメージは大きく、その間隔も短くなっている。
対して、ツェペリは波紋の達人ではあるものの、
武器を用いた戦いは門外漢であった。攻めに転じることもできず、ひたすら耐え忍ぶ。
 
 こやつなんというスピードじゃッ!速すぎて目で追えん、このままでは押し切られる!


ツェペリが焦り出した時、二人はまだ気づかないが周囲に変化が訪れていた。


ヒラリ、ヒラヒラリ、ヒラリ


スペルカード、戯曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ』で展開された胡蝶がそれぞれ動き出していた。

幽々子は目を瞑り、両手を挙げて胡蝶に意志を送る。
『幽胡蝶』、数匹の蝶の形を模した弾幕を上空に飛翔させた後に、標的へと向かわせる弾幕。
スペルカードで大量にばら撒いた、胡蝶型弾幕に同じように動かそうとしているのだ。

その目標は―――


393 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:04:05 6pgGmvkY0

「どうした!ツェペリッ!やはり小細工しなければ貴様はこんなものかッ!!」
「ハァーッ、ハァ―、ぐっ!これしきで儂が音を上げると思うなよッ!」

ツェペリは必死に喰らい付くが、その差は歴然だった。
ポルナレフには一切のダメージを与えることなく、
ツェペリの身体にはいくつか血が噴き出ている箇所もある。
加えて初戦で闘った疲労とダメージも残っている。

 儂は負けるわけにはいかんッ!最後の最後まで恐怖には屈さぬぞぉ!ムッ!?

ツェペリの強い執念に呼応するかのように、辺りの様子が変化する。

 ッ!これは……幽々子君か!?

そう、辺りの胡蝶が静かにポルナレフへと向かい出したのだ。
つまり前方はツェペリ、後方には大量の胡蝶、挟み撃ちの形となっていた。

 儂に残された最後のチャンスということになるな。儂の波紋か、幽々子君の胡蝶かどちらかの餌食。
 それまで耐え抜いてみせる、絶対にじゃッ!

対するポルナレフは胡蝶との距離が残り3m辺りで変化に気がついた。

「まさか、何もしてこないと思ったら味な真似を…!」

背後にゆっくりと迫る胡蝶の数は百を優に超える数、それらが寄り集まって
一匹の胡蝶となるように接近している。

流石にこの数の弾幕を破壊するのには骨が折れる、
そう判断したポルナレフはツェペリを一気にしとめることを念頭に攻勢を強める。

「どうした、ポルナレフ!随分焦っておる様子じゃが?」
「関係ない!貴様を倒し切る、それだけだ!」


394 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:04:43 6pgGmvkY0
8体もの分身が更なる猛攻を開始する。
感覚に訴えるそれらは、視覚的に判断できず防御しきれていないことも多々あった。
ツェペリは斬られるだけでなく刺突された傷も10を超え、
ツェペリが立っている地点には大きな血だまりが出来ていた。

故にツェペリの動きは本来よりも精細を欠いてしまい、受けるダメージは加速する。

「うごおぉッ!」
放たれた突きは腹部を貫き内臓の一つを破壊する。
「ぐあぁあッ!」
振り降ろされる一閃は顔の肉を削る。
「ぬぉおおッ!」
大きく薙ぎ払われた剣は真一文字の傷を創り出す。

だがツェペリはまだ倒れない、いや倒れようとしない。
あれだけの傷を負い、なぜこの男は戦えるのか、立ち向かえるのか。

このチャンスを逃がしたら、自分ではポルナレフは止められない、止めることが出来ない。
逆に言えばこれはチャンス、自分がポルナレフを止められる、止めることが出来る。
人間の『勇気』と『可能性』の伝道師が、
目の前の『可能性』から『立ち向かう』のは至極当然、当たり前のことだった。
彼はまさに死中を彷徨うこの瞬間すらも『人間賛歌』を謳う、『黄金の精神』の持ち主であった。

ポルナレフは焦る、焦り出す。
顔には決して出さないが、この老人はどこまで喰らい付く気なのか、と静かに『恐怖』していた。
それこそ五体バラバラにでもしない限り止め処なく『立ち向かう』姿に。
皮肉にも操り人形と化した彼には『勇気』と『可能性』を掲げる男の姿は、
ある種の凄味からか『恐怖』を与えた。
だが、だからこそか、『恐怖』を抱かせる相手だからこそ、彼はツェペリを認め、全力で応じる。

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」」

胡蝶の一匹がついにポルナレフに触れる、ツェペリの肉体が更に切り刻まれる。

まばゆい豊かな煌めきが周囲を包み込んだ。
両者の死力を振り絞った先にはあるものとは――――


395 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:05:19 6pgGmvkY0


三者が戦っている中、少しだけ離れたところにマエリベリーと阿求は立っていた。
巻き込まれないように、と幽々子に言われたからだ。
ツェペリとポルナレフの攻防はここからギリギリ見るか見えないか、といったところだった。
だが、両者の戦っている雰囲気はこの距離からも理解できていた、
想像を絶する死闘を繰り広げていることは。

「ツェペリさん……!」
二人は無力さを噛み締めながら、目を瞑ってツェペリの無事を祈る。

絶え間なく弾幕が放たれた空間もやがて静寂が訪れる。
二人はゆっくりと両目を開く、不思議なことにそのタイミングはほぼ同時。
まずは幽々子の後ろ姿が見えた。ホッとする。
弾幕の衝撃か竹の葉が上からハラハラと落ちる。
その先で一人の男が立っていた、よく見えない。
二人は小走りで近づく。少しずつその姿は鮮明に映りだすが、まだ見えない。
ついには駆け出す。立っている男はなぜか見えない、しかし倒れている男はよく見えた。
最後は幽々子の隣にまでたどり着く。一体誰が立っている?倒れている男は、そう私を支えてくれた―――

「ぐうっ、はぁッ、はぁッはぁッはぁー、実に見事だったッ!
 流石DIO様に楯突こうとするだけはある、ウィル・A・ツェペリッ!!」

何故この人はツェペリさんの名を呼ぶの?
ツェペリさんが自分の名前を呼ぶはずがないのに?
どうしてツェペリさんは倒れているの?
立っている人はツェペリさんじゃないの?

私は目を背けている。
瞳は確かに真実を映しているのに、頭はそれを認めない。
私の思い描いた未来と違い、駄々をこねている。
違う、違うわ、違うのよ、違うでしょ、違うに決まってる、違うって言ってよ
ツェペリさん―――

「いやあああぁあぁぁあああッ!!!!」

私は慟哭した。
自分の考えを吐き出すように、
あたりに漂う血の匂いを嗅がないように、
ありったけの空気を吐き出した。



「阿求ッ!さっきいたところに退きなさい、メリーを連れて、速くッ!」
「は、はい!」

声を張り上げ叫ぶメリーを、必死に阿求は腕をつかみ半ば強引に連れていく。


396 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:05:52 6pgGmvkY0

「マエリベリー君には悪いがこれも我が主を守るため、許してもらおうとは思わん。」
「ずいぶん潔いのね、一応貴方の美徳として数えてあげるわ。
 説明好きの貴方なら、どうやってあの幽胡蝶を凌いだのかお聞かせ願えるかしら?」
「ウイ、了解した。ツェペリとの戦いは実にギリギリだった。
 最後に私が簡単だが一か八かの賭けに出たのだ。」
「……」

胡蝶は私に既に数匹接触し、わずかだがダメージを負った。
これからそのダメージの量はあっという間に私の限界へとたどり着くのは目に見えていた。
だから私はチャリオッツのほとんどを後方へと向けた。
まだ接近して間もないため、あっさり胡蝶の数匹を散らすことに成功した。

対しツェペリは急に私が攻めて来なくなり、緊張状態がわずかに揺らいだ。
そして、私に接近し拳で殴りかかってきたのだ。
隙があると、判断したのだろうがむしろ好都合だったよ、
攻めあぐねていたのはこっちだったのだからな。
チャリオッツの刃で受け止め、袈裟がけに切り伏せたのだ。
意外とその一撃でけりがついた。まだ立ち上がって来るかとヒヤヒヤしていたがな。
残る胡蝶はチャリオッツの全力を以て相手させてもらったよ。
流石に全部を破壊しつくせず、何発か食らったが
一つ一つは儚い蝶だ、できないことではなかった。

「……」
「―――とまあ、こんな感じだ。理解できたか?」
「…まあね。」
「さて、君は私と戦うつもりか、西行寺君?」
「貴方はツェペリを殺したかった、私たち三人には興味がない。そういうことでいいのよね?」
「まあ、端的に言ってしまえばそうなるな。」
「私もね、貴方とわざわざ殺し合おうなんて気はないわ。
 あの戦いは言ってしまえば彼の私怨に近い。巻き込まれたようなものよ、こちらとしては。」
「ならば、ここまでだな。」
ポルナレフは背を向け、歩き出した瞬間―――


397 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:07:07 6pgGmvkY0

「―――って話すつもりだったのよねぇ、本当は。」

 (ごめんね、阿求。)

幽々子の手から一匹の蝶が飛び立ちポルナレフに触れる、先ほどと同じ弾幕だ。

「どういうつもりだ?」
「誘蛾灯よ。」
「何を言っている?」
「貴方の奥にいるナニかのこと。とーっても危険だわ。」

今度は幽々子が一方的に語りだす。
「事情は知らないけど、本来『白』の存在をここまで『黒』に染め上げてしまうほどに
 怪しい光を放っているんでしょうね。」
「DIO様のことか?」
「でも、その光に近づきすぎたら最後。触れて落ちて、気が付いたら
 殺虫剤の中になんてことになっちゃうわ。」
「……」
「人を誘蛾灯と蛾で例えるなら、貴方の主人は誘蛾灯でしょうね、限りなく。それで貴方は蛾ね。」
「……」
「ウィル・A・ツェペリ、彼もまた…DIOだっけ?そいつにある意味で引きつけられて、
 誘蛾灯に近づいて落ちていったのよ。」
「……」
「あの人見た感じ、自分の死期を悟ってる風だったわ『覚悟』って言ってもいいわね。
 職業柄というか、まあ分かるのよ。」
「……」
「どういう死に方が所望だったかは知らないけど、とりあえずこんな場所ではないと思うわ。
 こんなイレギュラーな事態でね。」
「そうやって、『覚悟』した存在すらすら無理やり引きつけ、
 殺してしまった誘蛾灯の存在を見て思ったのよ。」

「ああ、貴方の誘蛾灯に私の大事な存在をあげたくないってね。」

思い浮かべるのは庭師として働く従者、魂魄妖夢。生前からの長い付き合いの友人、八雲紫。
そのそっくりさんのマエリベリー・ハーン。


「「……」」

「あっ!もちろん阿求もその中にいるわよ!
 とにかく、貴方は既にあの子の心に大きな、それは大きな傷を与えたわ。
 もう無関係ではないのよ。私が貴方を止める、ただそれだけよ。」
「宣戦布告、そう見なしていいのだな。西行寺幽々子?」
「そういうことよ。」
「一つ尋ねよう。君は私を蛾、DIO様を誘蛾灯と例えた、ならば君はどちらだ?」
「あら、そんなこと?簡単よ、私はね―――」


398 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:07:42 6pgGmvkY0

胡蝶じゃないの、さっき沢山見せたでしょ?

緊張感のないそんな幽々子の言葉をきっかけに二人は戦いの合図とした。


「ふん、ならば!その胡蝶の命すらも我が主の誘蛾灯に陥れてみせるまで!」
ポルナレフはチャリオッツを顕現させると、空いた間合いを詰めるべく走る。

幽々子はポルナレフにどう対処するのか、とっくに決めていた。
だが、それにはポルナレフに付け入る隙がほしい。

 動かないでくれると楽なんだけど…。うーん、眠ってもらえればすぐにでも片付くのにねぇ。
 まあ、どの道彼には眠ってもらうわ、死んだようにね。

幽々子がぼんやり考えている間に、ポルナレフはチャリオッツを先行させ、
その後に追随する形で突進していた。

 弾幕を亡霊を盾にして防ぐ気ね。まったく、亡霊を何だと思っているのかしら?―――ん?

幽々子はどうでもよいことを考えている傍ら、ポルナレフとチャリオッツの様子を見ていた。
そこである変化に気付く。
 
 変ねぇ…?こんなものだったっけ、こいつのスピードは?

決して彼らが遅いわけではない。実際、幽々子と徒競走すれば彼らに軍配が上がるだろう。
しかし、今幽々子に近づこうとするチャリオッツには、
8体の残像を生み出すほどのスピードは感じられなかった。
それでも、たいして長くない距離だ。
ついにチャリオッツは幽々子の元へとたどり着き、加速したスピードを維持した突きを繰り出してきた。


399 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:08:21 6pgGmvkY0

 遅い、―――ッ!

幽々子はその一撃を白楼剣で上から押さえつけ、自らの射線上から大きくずらし防御する。

しかし、二撃目は違った。押さえていたチャリオッツの剣が一瞬ブレたかと思うと、
8つの剣が幽々子の上半身目掛けて振るわれていた。

幽々子は咄嗟に地を強く蹴り、体を大きく反らし回避する。
横から見ていればわかるだろうが、綺麗な半円を描いたサマーソルトだ。
その避ける一連の動作に胡蝶の弾幕を脚から放つ。

「やれやれ、危ないわね。って、あらら?」
ポルナレフとの距離を一気に空けて、避けることに成功したかに思えたが、
服に無数の切れ込みが入れられていた。

「ちぃッ!届いていない、浅かったか!」
ポルナレフは飛んでくる弾幕をチャリオッツで捌きながら吐き捨てる。
その間、幽々子は距離を取りながら再度思考する。

 今、明らかに攻撃が加速した…!一撃目は私の隙を狙ったもの―――いや、違うわね。
 さっきのは全部本気の一撃だった。
 若造の騙しにかかるほど、私は老いちゃいない、亀の甲より年の劫だもの。(違う)
 …ともかく、あいつには全力のスピードを出せない何かがあるわ。

「次こそは逃がさん、チャリオッツの刃を受けてみろッ!」

幽々子がじりじりと下がるのを見て、ポルナレフは再び走り出す。
幽々子は後ろへと下がりながらもその様子をつぶさに見つめる。

チャリオッツが駆け出し、その後をポルナレフが追うように走る。
チャリオッツのスピードはここまで速かったが、ほんの僅かな時間で減速した。

減速した瞬間をもう一度脳裏に浮かべる。
あの時に何かが変わったのだ。
減速したチャリオッツはその後、誰かのスピードと全く一緒になった。
他の誰でもない、ポルナレフに。
走る間隔が一定になった。その間2メートルに。


400 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:09:02 6pgGmvkY0
 ああ、そういうことだったのね。

その時、幽々子の切れ者として一面を見せた。
異変の時もいつだって鋭い彼女はこれらの情報で理解する。

 貴方たちって、手を繋いでないと何にもできないのね。所詮、スタンドも半霊みたいなものか。

幽々子は『スタンド』の有効範囲の存在察した。
およそ2mこの範囲からチャリオッツは出て行動できないことに。
減速したのはチャリオッツが速すぎて、すぐにその2mギリギリにたどり着いたからだ。
弾幕を警戒して『スタンド』を先行させたのが裏目に出た。

後はポルナレフが走ったスピードの分しか、動けない。
剣を振るうのも同じように有効範囲ギリギリだったので初撃のみ遅れ、
二撃目はチャリオッツが移動を止め、ポルナレフが近づき、自由に動ける範囲が増えたからだ。

もう距離を取る必要もない、幽々子はそう思い、足を止める。
近づいてくる彼らを見据えて、右手に白楼剣を構え、もう一方にその鞘を持つ。

「妖夢、ちょっとだけ手荒に扱うわね。」

チャリオッツは近づくがやはりそのスピードは目で追えるレベル。
逆にポルナレフ共に接近を許せば、2度目はない。彼への接近とチャリオッツの剣撃に対する防御。
その二つを両立させるべく、幽々子もまた走る。

両者が接触するその僅かコンマ数秒前、幽々子は舞うかのように回転しながら突撃する。
本来は愛用の扇で繰り出すその技は『胡蝶夢の舞』。
元来のスピードを発揮できていないチャリオッツの剣を、
二振りの獲物で絡め取りながら無傷で接近を可能にする。

「なにいぃッ!」
そしてチャリオッツの後ろ、つまりポルナレフを目前控える距離になると白楼剣の鞘を放る。
その代わりに、左手には妖しい光がともった。

「貴方には死んでもらうわ、DIO。」


401 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:09:55 6pgGmvkY0
幽々子は左手に一匹の蝶を象る弾幕を作ると、それをポルナレフの額へ目掛けて腕を突き出す。
左手にあるのはただの弾幕ではない。

『死を操る程度の能力』。その名の通り、幽々子は相手を抵抗なく殺すことが出来る力を持つ。
彼女はこの力を以て、肉の芽のみを死に誘うという作戦を取ったのだ。

当然、相手を問答無用で殺すという能力は大きな制限を与えられている。
だが、幽々子はそれらを理解して能力の行使を選択した。
彼女は阿求に会う以前にその能力を確認していたのだったから。
周囲の竹林を利用し死期の迫った竹やタケノコに対し、自身の能力を試した。
以下が現時点での自身の能力の制限だと幽々子が把握したものだ。

1.能力の行使の際には、蝶型の弾幕としてのみ使用可能。その際大きく霊力を消費する。
2.この能力のみでは相手を殺せない。花が咲いた竹に試したが、
 相手が肉体的大きく弱っていなければ死に誘うことは不可能。(人や妖怪なら精神的に弱っていても可能?)
3.ただ、地表に出て間もないタケノコを枯らすこともできたため、
 力の小さい存在には通用するかもしれない。

おおよそこんな感じだった。要は死ぬ寸前の相手の背中を押す程度にまで力を落とされていると言っていい。ただし、3にもあるように対象の力が小さければ可能性はある。


だが一番の問題点は、これらの結果は人に試したものではないことだ。一体通用するかは未知数。
さらに幽々子は『死を操る程度の能力』による肉の芽の抹殺ともう一つの手段を用意していた。
それでもこの手段を選んだのは訳があった。

先のツェペリの援護に放った弾幕で想像以上に霊力が消費しており、
同じような弾幕に頼った戦いはできなかったからだ。
しかも今度は一人。ポルナレフが黙ってみているわけではない。

逆に接近戦は相手の独壇場だ。距離を取れば今の様に一撃のみチャンスがある。
しかし、もう一つの手段にはここまでの接近は必要ないが、
『死を操る程度の能力』を用いた作戦は今の様に接近しなければ使えない。
バレる前にそのチャンスをここで使うべきと判断した。

最後には利点。幽々子は能力で殺した相手の霊を操ることもできる。
つまり、一部とはいえDIOの霊を操ることが出来るため、
何か聞き出せるのではないかという目論見もあった。

左手がついにポルナレフの額へと触れる。
ポルナレフは驚愕のまま、動けない。
触った途端、蝶は静かにその中へと沈んでいった。


402 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:11:23 6pgGmvkY0



「うおぉおぉぉおおおおおッ!」



ポルナレフが頭を抱え、大きく呻き出す―――かに思われた。




ヒュンッ




背中が熱い。


幽々子はハッとして振り向いた。


そこにはチャリオッツが平然と立っていた。剣には血が滴っている。
もちろんそれは幽々子のもの。無慈悲にもう一度振るわれる。


 ―――避け ―ヒュンッ― ―ないと…―


今度は正面から袈裟がけに切り裂かれたのだった。

「ああぁぁああぁああああッ!」

幽々子は正面と背後の二か所に傷を入れられたことに今認識した。
正面の攻撃はわずかに反らすも、浅すぎるということはない傷を受けた。背中の傷はさらに深い。

痛みに悶え、それでも距離を取ろうとするもチャリオッツは追撃する。
白楼剣で打ち合うが、全てを対処しきれずいくつかの掠り傷が生まれる。
しかし、なぜかポルナレフが動かなかったためある程度下がると攻撃は止んだ。

「ッ!ハァー…ハァーッ。」
 
 マズいわね、まさか間髪入れずに斬りかかって来るなんて…


403 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:12:07 6pgGmvkY0

「ふー、一体何をするかと思えば、何のつもりだった、西行寺!」
ポルナレフはさらに続ける。
「あそこで貴様がその脇差で俺の心臓を一突きしていればそこで終わりだった!ふざけているのか?」

「あんたは、知らなく、ていいことよ。それに…この獲物は、切れ味が悪いもの。」
「ふん、俺も貴様が近づき額に触れた後、チャリオッツに背を向けた貴様を殺そうと思えばできた。
 だが、DIO様の敵となる相手を逃すわけにもいかん。
 貴様に与えた傷は私の最大限の譲歩。次で終わりにしてやる。」

「ふふ、譲歩ですって?面白いこと言うわね。
 貴方の取った行為は自己満足の誇りとDIO様依存症から揺らいでいるだけのもの。
 そんなものを私に押し付けないでくれる?」

「口は達者だが、貴様はもはやここまでだ。覚悟ッ!」

ポルナレフはチャリオッツと共に幽々子との距離を詰めるべく走る。

 ああ、痛い。とっても痛いわ。まさか、死を操る能力が効かないなんてね。誤算よ、完全にね…。

何故通用しなかったのか、考えられるのは触れる位置を間違えたことだ。
髪の毛に巧妙に隠れている肉の芽は、一瞬見ただけ分かりにくい。加えて、今の時間帯は黎明。
視覚的に判断するのは厳しかった、と言える。

今度はポルナレフとチャリオッツの距離は大きく開かない。最大限のスピードで迫る。
チャリオッツが走りながら、突きを放つ構えを取る。8体の分身と剣も見える。
状況は絶望的、このままではハチの巣か、なます切りにされるだろう。

幽々子は迫るポルナレフを見据える、心なしか近づいて来るポルナレフの動きがスローモーションだ。

―――あはは、死ぬ直前っていうのは周りの時間が遅くなるんだっけ?
―――死んだら冥界に戻るのかしら?もしそうなるなら構わないんだけどね。
―――メリーもみんなも来てくれるといいわねぇ…
―――でも、うん。まだあの娘と居てあげたいなぁ…

蹴り上げてしまったのか運よく、近くに落ちていた鞘があるのを拾い上げ、
幽々子は白楼剣を鞘に納め握りしめる。


404 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:12:54 6pgGmvkY0
 
 ちょっと短いし、斬れ味も悪いし、妖夢もこんなナマクラ、なんで使ってるんだったっけ?
 そうそう、これって魂魄家の家宝で…。

幽々子は静かに目を瞑る。

当然、視界は闇に包まれる。
しかし、そこには自身の従者、魂魄妖夢の姿が映っていた。

 あらら、面白いわね。何しに来たのかしら?
 もうすぐ冥界に行くと思うから、ちゃんと庭にある桜の剪定お願いね。
 えっ?死んでも冥界に帰れないって?そんなこと言ったって知らないわよ。私はもう長くないもの。
 
 白楼剣を使って下さい?あいつのどこに『迷い』があるのっていうの?
 考えもなしに言うものじゃないわよ。そうそう、おにぎり沢山用意しておいてね。
 
 ん?あいつの○と×の△△があって△△は□□に相当するだって?
 ……そんなことは分かっているわ。でもね、あいつに近づくのにどれだけ苦労してると思ってるのよ。
 はぁ?あいつの●●●●は▲▲だとしたら、■■■はきっと通用します?
 ………ああもう、分かってるわよ。いい?
 私は最初から分かっていたわ。貴方に言われるまでもなく、ね。

 私の従者があくまで私を扱き使うような子だったってことはよ〜く分かったわ。
 違うそっちじゃない?だからわかってるって言ってるでしょ?
 言ってて何が分かっているか分からなくなってきたじゃないの!私を困らせないで、妖夢?
 
 ああ、お腹すいたわ。今、おにぎり持ってない?そういえば、宗教戦争見に行くんだったわよね。
 
 持ってない?それに、いい加減早く目覚めないと危ないって?
 はいはい、じゃあ戻ったらちゃんと用意しておくのよ、全部ね。

そして、時は加速する。
幽々子が目を開けると、まだポルナレフは近づききっていない。わずかだが猶予があった。

 変な夢だったわ…
 結構長く話してたのに、ほんの一瞬出来事だったなんて…
 なんだかいつも通り話しただけなのに、妖しい、さびしい夢だったわねぇ…
 ふふ、私にさびしい夢を見せるなんて、あの子もちょっとは『侘・寂』
 の何たるかを理解してくれたかしら?
 さてと、夢の世界を現実に変えて見せるわね、妖夢…!

目には確かな輝きを灯し、相対するポルナレフを睨む。
身体は依然痛みを訴えるが、気にしてはいられない。
誰にも気づかれないように、従者へのささやかな感謝の念を送り、白楼剣を構える。


「わが刃で還るがいい、儚き胡蝶よ!」
「迷い断つ一閃で眠るがいいわ、邪悪なる芽よ!」


405 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:13:52 6pgGmvkY0


チャリオッツの剣が空を切り裂き幽々子へと迫る。依然変わることなく、8つの分身と共に。
対する幽々子は白楼剣で捌こうとするが、刃が交差するごとに裂傷が増していく。

「ホラホラホラホラぁーーッ!!」
 
 まだよ、本体を見つけるまでは……!

しかし、背中と正面に受けた傷を負った状態で無茶がたたり、
傷が少しずつ熱を持ち始める。痛みがよりリアリティを以て訴えかけてくる。
 
 あの子が言ったことぐらいッ…私がやらないと、
 面目ってものが私にだってあるのよ…!

しかし、無常にも更なる事態が幽々子を襲う。目元が霞み防御の選択を誤り、
ついにチャリオッツの剣が幽々子の守りを突き破る。狙いは胸郭―――下手をすれば心臓に傷が入る。

「なかなかしぶとかったが、ここまでだぁーーーッ!」
「まだ、死ねないのよ…!妖夢の敷いた道に、私の道に立ちふさがるなあぁーーッ!」

幽々子はチャリオッツの剣が刺さるわずかな瞬間―――
空いた左腕を自分の正面に、心臓を守るように腕を動かす。
当然、その腕に剣が突き刺さり防御に成功する―――はずだった。
チャリオッツの剣は左腕を貫通し、なおも幽々子の命を奪わんと走る。

「ぐぅッ!止まれえぇッ!」
幽々子は『立ち止まらない』、己の『可能性』を燃やし、更なる無茶打って出る。
貫かれた腕を自身の胴体の射線上から反らすように、
さながら腕を振ってバイバイと振るように、大きく左腕を動かす。
スタンドで生み出された刃ゆえ、腕を貫通したのだ。
それを動かすことはチャリオッツの剣もあらぬ方向へと動くことを意味する。
結果、さらに体を破壊することになり―――貫通した箇所の上腕部から前腕部にかけて、
一本の長い貫通した裂傷を創り出した。

「ああああああああああッ!」
「バカな…!貴様、正気か!?」

幽々子の決死の防御により胴体に新たな傷はない、
さらにはチャリオッツの刃が左腕の前腕部に留っている。
要はその刃の先にいる者こそが―――


406 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:14:54 6pgGmvkY0


「眠ってもらうわ、深く永遠に。貴方に私の大切な存在はくれてやらない。
 もう大切な誰かが死に誘われるのを私は見たくないッ!
 死に誘うのは―――私だけで十分よッッ!!」


白楼剣が走る―――標的はポルナレフではない。
彼のスタンド、『シルバー・チャリオッツ』。目指すは額、肉の芽が潜む位置へと。

「させるかあぁッ!チャリオーーッツッ!!受け止めろおぉおーーッ!」

チャリオッツは空いた片手で白楼剣を掴み取ろうとし―――成功する。
寸でのところで額に刃の一部が刺さる程度で済んだのだ。
『スタンド』のパワーを以てすれば不可能ではないこと。

だが、幽々子は『立ち止まらない』。掌に収まった白楼剣をなおも押し込み、
それは少しずつチャリオッツの額の奥へと、また奥へと進む。

「何故だッ!何故…チャリオッツ!何をしている止めろ、止めないかぁーーッ!!」

ポルナレフは狼狽していた。あれほどの傷を負い、何故動けるのだと。
この時、彼ははっきりと『恐怖』を感じていた。そしてその『恐怖』は精神から成るスタンドを鈍らせる。

この時、ポルナレフは疑問に思わなかった、『恐怖』のあまり思えなかったかもしれないが。
何故、小ぶりの刀が『スタンド』に通用するのか。
そして、何故『スタンド』のダメージがフィードバックしていないのかと。

ポルナレフの叫びも空しく、白楼剣はついにチャリオッツの額の半分は突き刺さっている。
白楼剣はついに『善』の『白』、『悪』の『黒』の『境目』へと―――たどり着かなかった。
急に白楼剣を押し込める力が弱ったのだ、それも唐突に。



限界だった。

あれほど切り傷を負い、あれだけ出血して、とっくに倒れているべきだったのに。
なぜ戦おうとしたのか、逃げ出さなかったのか。
その答えは簡単だ。今の彼女の行動の原動力は、彼女自身は永遠に知ることが出来ない過去にあるから。
大切な誰かを失う、その思いは彼女の生前から続く大きな忌諱。
そんな未来に繋げたくない思いが彼女を突き動かしていたが…


407 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:15:43 6pgGmvkY0

 あ〜あ、妖夢がおにぎりくれたら、もっと頑張れたかも知れないのに…貴方のせいよ。
 まったく、帰ったらただじゃあ済まないわ。

立っていた両足が震える。本格的に意識が飛びそうになり、さっきまでと違い力が入らない。

 疲れたわ…

その瞬間だった。二人とも気づかない、幽々子の背後から駆け寄る一人の影を。
紫色の服を纏い、金色の髪をたなびかせ、その頭部にはどうやって被るのかわからない、
白い帽子が鎮座している。
そう、彼女の名前はマエリベリー・ハーン。
ツェペリの死で塞ぎこんでいた彼女が何故かこの場にいた。

「ハァーッ、ハァ―、幽々子さんッ!!」

大きく息を切らしているが、幽々子の右手を包み込むように、だが力強く支える。
幽々子は何故戻ってきたのか問い質そうかしたが、止めにした。
その行為はあまりに無粋すぎる、幻想郷に生きる者として。
代わりに行動で示す。震える両足に、醜い裂傷を負った左腕に、いや全身に喝を入れる。
 
 こんなにも傷ついた身体だというのに力が湧いて来る。守りたい友の輪の中に私はいるッ!
 ふふ、妖夢。貴方より案外この娘の方がしっかり働いてくれそうよ?
 悔しかったらもっとしゃんとしなさい?私も…


「私も、まだ……『立ち向かう』、から…ッ!」


「ぐうッ!無駄だぁ、力のない少女一人加わっただけで私は屈しない!負けるものかあぁ!!」

ポルナレフの言う通りであった。マエリベリーが加勢しても、
チャリオッツに刺さっていた白楼剣は少しずつ引き抜かれる。

状況がポルナレフの有利へと再び傾き出した時、彼はようやく冷静を取り戻す。
力比べをしているというのに何故片手だけでやっているのか、と。
ポルナレフはチャリオッツに命令を下す。

「薙ぎ払え、チャリオッツ!」
ビュン、と一閃。
幽々子の左腕を貫き、一本の長い傷を負わせたチャリオッツの剣は、またも彼女の肉体を貪り喰らう。


408 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:17:33 6pgGmvkY0


「えっ!?まさ―――かあああがあぁぁああああッ!」


幽々子の前腕部にあった剣は、手の平を通り自由を取り戻す。
左腕の傷は二の腕から始まり、人差し指と中指の間を抜けてついに終わりを迎える。
簡単に言えば、左腕を縦から真っ二つに引き裂かれたと言ったところか。
「幽々子さんッッ!!」

右側に立っていたマエリベリーには噴き出る返り血を浴びることはなかったが、それどころではない。
なんとかせねばと焦り出す。
一方、幽々子は白楼剣を放さなかった、放そうとしなかった。必死に喰らい付こうとする。

だが、剣の自由になったチャリオッツがただ黙って力比べをするわけがなかった。

「ここまでだ、貴様たちをまとめて切り裂く!チャリオッツ!!」
チャリオッツの目標は幽々子だけではない、マエリベリーもろともその剣で一文字に切り結ばんとしていた。


「―――ッ!貴様にくれ、てやる、友の命は、あんまりないッ!要は一つたりとも渡さないッ!」


幽々子は全てを理解し手を放した。
己の勝利のための手段をいともたやすく投げ出した。
使い物にならない左腕ではマエリベリーを突き飛ばせないから。
友と瓜二つの存在を救えないから。
空いた右腕でマエリベリーを渾身の力を込めて押し退ける。
その後の自分はどうなるかは想像に難くない。
でも、まだやれることがある。

チャリオッツの剣は幽々子の胴体に綺麗な一の字を描いた。その色は赤。
始まりの字は幽々子の命の終わりへと、秒読みを更に加速させる―――
だというのに…

幽々子は踏み込む。手にはもう白楼剣はない、チャリオッツに刺さったままになった後、
地面へと落ちていったから。
それでも近づき宣言する。


「『反魂蝶―八分咲き―』」


死に瀕した幽々子の身体から幻想的な桃色の輝きと共に、一斉に十を超える胡蝶が飛翔する。

「な、なにいぃ!?」

ポルナレフにもはや3度目の『恐怖』が走る。飛び出した反魂蝶を避けようとするが、
光をもろに見てしまい、視力を奪われ咄嗟には動けなかった。
そして反魂蝶に触れた途端、まるで体力を奪われるような感覚に襲われる。

「いかん、離れなければッ!」


409 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:18:30 6pgGmvkY0

ポルナレフは見えない目で何とか後方へと飛び退き、距離を取ることが出来た。
しかしその間数匹の反魂蝶に触れたのは言うまでもなく、大きく体力を削ぎ落とされた。
そのせいで体に力が入らず、今は片膝をついた状態で息を切らしていた。

眩んでいた目が徐々に戻り、幽々子が倒れているのがぼんやりと確認できた。

「ハァーッ、ハァーッ…よう、やく終わ、ったか…」

発せられる声も力強さが感じられず、絞り出すような感じすら窺えた。


「だが、倒したッ!西行寺幽々子、私が『上』で貴様が『下』。私の勝利だッ!」


そう、ツェペリも幽々子も倒れた今残っていたのは後二人。
内一人は、さっきいたマエリベリー・ハーンなのだが幽々子の近くにいなかった。

「どこにい―――ぬうぁあッ!?」
「うわあああああああぁああぁああ!!」

ポルナレフが辺りを見回した瞬間、全力で駆けるマエリベリーがいた。
その手には白楼剣を握りしめ、チャリオッツの額へと突き立てようとしている。
ポルナレフはチャリオッツを動かそうとするも連戦に次ぐ連戦で、とうとう体力の限界に至っていた。
チャリオッツを思うように動かせず、白楼剣は着実に迫る。
そして、白楼剣は再びチャリオッツの額を捉え、突き刺さる。

「ま、だ、だあぁああ!!」
しかしポルナレフは己の精神を燃やし、チャリオッツに働きかける。
結果額に僅かにめり込んだところで、腕を動かすことができ、白楼剣を指で止めることに成功した。

マエリベリーは必死に突き立てようとするも空しく、白楼剣は動かない。
「チャリオッツ!振り降ろせえぇ!」
今度はチャリオッツの右腕を動かし出す、その動きはぎこちなく油の切れた機械のようだったが
剣を上段に構えた。

今なら白楼剣を諦めて、逃げることが可能だっただろう。
だがマエリベリーは白楼剣を引き抜こうとしてしまった。

 せめて、この刀だけでも…!

二人分の血を吸い尽くした凶刃が迫る。
マエリベリーもまたその犠牲となろうとしていた。


410 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:20:11 6pgGmvkY0


その時、最後の異変が起きた。



マエリベリーが引き抜こうとした白楼剣が逆に大きなエネルギーに押されて、
前へ前へと突き刺さっていく。

マエリベリーの力ではない。ツェペリも幽々子も共に力尽き、この場に居合わせるのは二人のみ。

最後の伏兵が今、躍り出る。

鼓膜を叩くのは、奇妙な怪音。
それは私の持つ白楼剣のちょうど頭の部分にあり、少々耳障りな音を奏でていた。
引き抜こうとする私の力を上書きして一気に突き立てていく。
人ではないモノがそこにあった。それが私の窮地という『マイナス』のベクトルを『プラス』へと導く。




―――ギャルギャルギャルギャルギャルギャル―――




鉄球。それは回転しながら凄まじいエネルギーを発する鉄球だったのだ。

何故こんな状況になっているか、そんなことはどうでもいい。
回り続ける鉄球に後押しされて私もまた『立ち向かう』。
地を踏みしめ、両腕にありったけの力を込める。
両手からズブリという嫌な感覚が走った。


そしてついに―――
チャリオッツの額から外へと完全に貫いた。

その時白楼剣は力を発揮する。
ポルナレフに宿る本来の人格『善』の『白』
肉の芽に宿る巨悪DIOのカリスマ『悪』の『黒』
その狭間に揺れる、ねずみ色の『境目』を『迷い』とし、
白楼剣は『境目』を両断する。


ポルナレフは動きをピタリと止めると、その身体が大の字を描いて倒れた。


411 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:21:17 6pgGmvkY0


「お、終わ、わった、たたの…?」
マエリベリーは声を震わせる。腰が抜けたのか足は立てない。
身体からは熱いというのに、寒気が止まらなかった。
一歩間違えれば、自分の命など潰えていただろうから。


「ふー、ひとまず決着がついたようだな。」

私は思わず振り向く。
そこには3人立っていたのだ。
戻ってきた鉄球を掴みとり、ゴーグルをつけたカウボーイ風のハットを冠っていた男性。
獣耳のように2つに尖った金髪が非常に目立つ、「和」の文字が入ったヘッドホンをしている少女。
そして、稗田阿求……。

金髪の少女が私に駆け寄ってくる。
「君、怪我はない?安心してほしい、私もそこにいる彼も君には一切危害は加えないことを約束するわ。」

少女は力強く私にそう言って聞かせた。
「怪我……。そ、そう!私より幽々子さんを、助けて!」

「……ええ、分かったわ。」

そう言うと既に幽々子の元にいたジャイロと阿求の元へと向かい、
決してマエリベリーに聞こえないように小声で尋ねる。

「ジャイロ、どうかしら?」
「一応聞くんだな?大方アンタの考えてる通りだ。正面の傷は、
 こいつが仕込まれていたせいでまだ大丈夫だったんだがな。」

ジャイロは幽々子の懐から鞘を取り出す。もはや砕けていたがそれは、白楼剣の鞘。
従者の鞘は主の命を守ることに貢献したのだった。

「出血が酷過ぎる。僅かに呼吸しているが、もう…数分ももたねぇよ。」

「そうですか。やはり、間に合わなかったか…」
「嬢ちゃんには俺から伝える、見てくれはこれだが、医師だしな。」

ジャイロはマエリベリーの元へと歩み寄る。

「よお、おれの名はジャイロ・ツェペリ。本業じゃねえが、一応医師だ。」
「………」
「はっきり言うぞ、あの女はもう助からねぇ。」
「……」
「治療しようにも道具がない。仮に永遠亭から道具を持ってきていようが、いまいがな。」
「…わ、か…」
「あん?」


412 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:22:39 6pgGmvkY0



「分が、ってい、いるんです。でも、でもぉ!助けて、ほしい!助かってほしいッ!
 また私は失うんですか!?また……」


悲痛な少女の声が竹林にこだまする。ジャイロはかける言葉が思い付かなかった。
その時だったあることに気付いた神子が全員に聞こえる様に声を出す。

「みんな!少しの間、黙ってもらえない?欲を殺して!」
「一体全体何のつもりだよ、神子。」
「いいから!君は素直に従いなさい!二人もお願い、自分の気持ちを押さえて!
 マエリベリー、つらいと思うけど私を信じて!幽々子が、救えるかもしれないから!」

 その言葉にマエリベリーは目を見開く、必死に気持ちを落ち着けようとする。

 欲が聞こえる!?救いたい気持ちが、いや私なら救えるという強い思いが、
 でも小さすぎる、どこだ…!?

「みんな!欲を抑えようとする気持ちが強すぎるッ!大きく深呼吸しなさい。」

「は、はいッ!」

少し経つと、ようやく沢山の感情が行きかう竹林がわずかだが静かになる。

 ダメだ…!どこにあるんだ、一体…。救えるかもしれない、と言ったのだ!
 あの子に与えた希望を陰らせたくはない、私は豊聡耳神子。
 無責任な希望を振りまく為政者ではないッ!

強い決意を抱いて、神子はヘッドホンを外す。
彼女のヘッドホンは十人の話を同時に聞くことが出来る程度の能力を抑制、
または特定の声のみを聴きとるための重要な道具だ。
聞き取るためにも使えるため、基本的に外す必要はない。
しかし、今回聞こうとする声があまりに微弱すぎる上に、制限のせいか聞こえが悪い。

よって外すことを選んだ。殺し合いが行われた場では行いたくなかったが、
四の五の言っている場合ではない。一刻を争うのだ。

『私は正しかったのでしょうか?』『マエリベリーめぇ、よくも、よくもこのDIOをおぉ!』
『幽々子さん…!』『助かる手段なんて本当にあるのか?』『逃げ出した私は…』
『俺は今何をしている?』『…『もう一度ポルナレフの元へと…!』
『気持ちを落ち着けるのよ、私』『あのような方法で私のみを切り離すなど…!』

様々な感情が逆巻いていた。神子は歩く、欲の出所を特定するために。


413 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:24:45 6pgGmvkY0
 
 聞こえる…!でも一際聞こえるのはこいつか…!

足を止めた。場所はポルナレフが倒れているところだ。そこにあるのは彼以外に何かが蠢いていた。
 
 阿求から聞いた肉の芽…!すべての根源!貴様のせいで多くの存在を…許せない!

神子は怒りと共に、履いていた靴で思いっきり踏みつけた。


メシリッ、ドグシャアァ


『このDIOがあぁあああッ!!』

カリスマの芽はあまりにも呆気なくその最後を迎えたのだった。

 これで静かになる、さぁ見つかってくれ、希望の声を…!

再び声に耳を傾け、歩き出す。そして今まで聞こえなかった声が彼女の耳に伝わる。

『儂の…波紋なら…』

「!!まさか…!生きているのか…ジャイロ!手を貸しなさい、急いで!」

ジャイロは少し離れた神子の元へと駆け寄る。
 
 ったく、黙っとけって言った後に今度は。人使いちょいと荒すぎやしないかよ…

「無駄口叩かないッ!」
 
 口に出してねぇよ…

神子がいたのは、紳士風の格好をした初老の男性の側だった。
「って、このおっさんがあの女を助けるっていうのか!?」
「ええ。そうですよね、ツェペリさん?」
「…うむ、わ、儂な、ら幽々子、君の命を…」
今にも消え入りそうな声だが、強い決意を感じさせる声だった。

「分かりました、言われた通り貴方をお運びします。
 だからこれ以上は黙っていてください、お体に障ります。」
「おいおい、マジかよ…。死んでないのが不思議なぐらいの状態じゃねぇか!」
「…ジャイロ、運ぶわよ。」
「ああ、分かったよ…アンタの言う通りにするぜ。」

そうしてツェペリの両脇に二人は立ちゆっくりと幽々子の元へと運んだ。
「ツェペリさんッ!?」

マエリベリーは驚く。もう話すことができないと思っていた相手がそこにいたのだから。
「メリー君か…。スマンが話は後じゃ、幽々子君を救いたいじゃろう?」
「ツェペリさんだってその傷が…。」
「そんなもの後回しじゃ、今儂がせねば彼女は助からん、分かってくれ…!」

「でも…!ッ、お願いします、ツェペリさん…」
マエリベリーはなんとなく、本当になんとなくだが、
ツェペリがどういった行動に出るか分かってしまった。
止められないだろう、と分かってしまった。
「まかしてくれ…!」


414 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:26:40 6pgGmvkY0

「もう、ここまでよいぞ。助かった…」
ツェペリは二人に支えてもらいながら、幽々子の元へと両膝を付く。
「幽々子君…君のことじゃ、決して儂の為ではなかっただろうな…。
じゃが、だからこそ無関係の君を死なせるわけにはいかんッ!
『石仮面』を原因に死んでほしくはないッ!」

ツェペリは幽々子の両手を自身の両手で握りしめる。
「儂の意志を波紋を受け継げなど言わんッ!
その命にもう一度『可能性』の火を灯してくれッ! 究極! 深仙脈疾走! 」

ツェペリの呼吸から生まれた波紋の力が幽々子の元へと走る。
眩しいまでの太陽の輝きが幽々子を包み込む。
幽々子の負った傷が見る間に体の傷が塞がっていく、両断しかけた左腕すら元に復元する。

「すげぇ、おっさん。あんた何をしたってんだ…」
「成功したか…!」
ツェペリの生涯最後の波紋は最も美しく、そして残酷な死を彼に渡した。
ツェペリの容姿が一変する。まるで玉手箱を開けた浦島太郎のように一気に歳をとったのだ。

「ツェペリさんッ!!」
マエリベリーは倒れかけていたツェペリをなんとか支える。

「これで幽々子君は助かるはずじゃ。良かった、本当に…」
「こ、今度はツェ、ツェペリ、さんの傷を、な、治す番です!
 そう、ですよね…?そうって言ってください!!」
マエリベリーの声は震えている。理解していた。そんな簡単にできるようなものではないということぐらい。

「ほっほ、無茶を言うな。メリー君、今ので限界じゃよ、そもそも今のは儂自身にはできないものじゃ。」
そんな…とマエリベリーは小さく呟く。自分を今まで支えた存在を失う、
彼女は今内に秘めた正直な気持ちを口に漏らした。

「あなたがいなくなったら、私はどうしたらいいんですか…?」
「『勇気』を持ち、自分の『可能性』を信じてほしい。儂から言えるのはそこまでじゃよ。」

「できるわけがない!私は怖い!今から貴方を失うことが怖くてたまらないのに、
 『勇気』なんて持てません!」
「ほっほ、君は『恐怖』の訳が理解しているじゃないか。」
「えっ?」
「『勇気』を持つために必要なのは蛮勇ではない。
 『恐怖』を恐れている自分を知ること、これが一番の初歩じゃ。
 安心せい、君は『勇気』を持とうと『立ち向かう』最中におる。」

「…」


415 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:29:13 6pgGmvkY0

「阿求君、いるじゃろう?」
「…………えっ、わ、私?」

今まで外野でただ立っていた阿求は、声をかけられたことに気付くのにわずかな時間を要した。

「君が今、思い悩んでいることは大方想像がつく。実は少しだけ幽々子君との話は聞いておったからの。」
「ッ!やめて、わ、私は…!」
「君の選択は間違っておらんかったということに自信を持ってくれ。」
その言葉に阿求は自分の内に渦巻く思いの丈をぶつけてしまった。

「無責任なことを言わないでッ!私がその二つの中でどれだけ悩み続けたのか…
『可能性』を信じられる貴方には分からない、分からないわよッ!」

「儂には謝るしかできん、本当に申し訳なかった…」
「くっ!」
阿求は駆け出したが、迷惑をかけてしまうと気づき途中で足を止めた。

「確かに儂の生き方が全てではない。そうかもしれないのぉ…ゴホッ」
ツェペリは血を吐き出す。それはもう彼の限界を知らせる合図にも見えた。
「ツェペリさん…!」

「さよならじゃ、きっとジョジョの奴なら。メリー君の力になってくれるじゃろうて…」
「ツェペリさん、さようなら…私は生きてみせます。『勇気』と『可能性』を忘れずに。」

ツェペリさんから返事はなかった。悔いなくこの世から旅立っていったのだと私は信じたい。
いや、悔いはあるに決まっている。彼の目的は『石仮面』の破壊、吸血鬼DIOの打破、
いずれも達成されていないのだから。
だが、彼はその恨みつらみを一切口にせずに逝ったのだ。
私はこんな清い人にはなれるような気がしない。
だからせめて、彼の言ったこと『勇気』を『可能性』を信じるという生き方だけでも受け継いでいきたい。

でも今は、そんなことは考えずただ失った貴方を思って涙を流してもいいですよね。
失意の涙を、私を友として扱ってくれた幽々子さんの命を救った感謝を胸に、
ツェペリさん、さようなら、最後にありがとう。


416 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 00:34:06 6pgGmvkY0
優雅に散らせ、墨染めのカリスマ 〜Border of …

一応これで後編終了です。
この後にもう一つ用意しているのですが、

見やすく書き換えたいので一時間ください。

もし一時間以内以内に投下しなければ破棄してください
お願いします。


417 : ◆YF//rpC0lk :2014/02/28(金) 00:39:16 pfRt4EP20
ならば01:40まで待ちます


418 : 名無しさん :2014/02/28(金) 00:40:56 ac.b7KMg0
ツェペリさん…


419 : 名無しさん :2014/02/28(金) 01:01:25 /hAp5LnU0
グラッツェ!


420 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 01:39:29 6pgGmvkY0
投下します。


421 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 01:40:34 6pgGmvkY0
どうもこんにちは、稗田阿求です。
話の途中から急に消えてしまって、申し訳ないと思います。
そこでここではちょっとだけ私の活躍、と言うよりは失態を記しておこうと思いました。
折角ですので、私視点から見た今回の動きの一部を紹介します。
それでは、私の手記をよく読んで、素敵な貴方に安全なバトロワライフを。

…流石に無理か。


422 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 01:41:23 6pgGmvkY0


「阿求、貴方に折り入ってお願いがあるのだけど?」
幽々子さんが、私にそう言ったのはツェペリさんと幽々子さんでポルナレフさんと戦う直前のことだった。

「私に…ですか?」
「ええ、当然だけど。この戦いの結果によって、私たちの今後は多少なりと変わるわ。」

私は首肯する。私たちが全員生存の上で勝利すれば、
ポルナレフさんの肉の芽を問題なく外すことができる、ハッピーエンドの展開だ。
その逆もあり得る、この戦いに負けた時だ。

「この戦いにおける負けというか、一つの区切りは、何を指すかしらね?」
「全滅ですか…?」
「半分正解ね。じゃあ視点を変えましょうか?箒頭の一番の標的は誰だと思う?」
相変わらずというかなんというか、この御方は考えていることを率直に言うのがお嫌いなようだと感じた。
まあ、幻想郷に住む妖怪やらなんやらは、大体そんな感じだししょうがない。
「…ツェペリさんですよね。」

その名前を呼んでハッとした。私だって伊達に生きていないし(転生だけど)、
高い知性があることは認識している。
だから、幽々子さんが言わんとしていることが、なんとなくだが察した。

「貴方にはこれを渡しておくわね、使うべき時に使って頂戴。」
手渡されたのは2枚のエニグマの紙、少し開き中身を確認する。
一つは私が持っているスマートフォンとはまた違った電子端末、生命探知機だ。
ポルナレフさんはこれで私達の居所を掴んだのかと納得する。

もう一つは先ほどのツェペリさんの戦いをアシストした馬、ヴァルキリー。
乗馬の経験なんて、炎天下の元で行動するのにも厳しいというのにあるわけがない。

私は小声で、失礼を承知の上で尋ねる。
「ツェペリさんを見捨てるおつもりですか?」
「ふふふ、何言ってるの?考え過ぎよ、阿求。」
私の言葉に思わず笑っている幽々子さんを見て正直ホッとした。
いくらなんでも、そんな無慈悲な方とは思ってなかったし。
でも彼女は一頻り笑うと、急に真面目な顔になってこう口にした。
「でもね、最悪の事態を想定しないといけないわ。」

私は黙り込む。彼女が話していることは、一番の標的であるツェペリさんが倒され、
いや殺された場合のことだろう。

「おそらくだけど、私達には手を出さないと踏んでいるわ。
よく分からないけど自分の障害になる相手のみを倒そうとする感じだし。」

私も概ね同じ考えだ。懸念と言えば、肉の芽に干渉したことからメリーさんが狙われるのではないか、
といったことぐらい。


423 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 01:42:17 6pgGmvkY0

「そして、ツェペリが殺されたとして私たちはどうすべきかしら?」

その答えを私に尋ねるのは卑怯だと感じた。
私の『感情』はツェペリさんの敵討ちではないが、
ポルナレフさんを肉の芽から解放することまでしたいと言う。

私の『理性』は襲ってこなければ、無理に戦う必要はない。
危険を冒す必要はないと決めてその場を退くと言う。

しかし、私が『感情』から発した意見は多分口にできないだろう。
だって、この場合ポルナレフさんと戦う必要性が出てくる。
私には戦う力など持ち合わせていない、無力な存在だ。
そうなると誰が矢面に立つか、ここでは幽々子さんしかいない。
選択肢があるように見せて、一方の選択肢は無責任な発言となり、
よほど無神経でなければ選べないと思う。そして私はそこまで図太い神経の持ち主ではなかった。

「ごめんね、阿求。すごく底意地の悪い質問だったわね。でも、わかってほしいの。」

無言の答えが自身への不満だと察した幽々子さんは、素直に頭を下げて謝まってくれた。
要約すると、仮にツェペリさんが死んだとしても、
ポルナレフさんに戦う意思がなければ挑むことはしない、ということだ。

「いえ、幽々子さんの言いたいことは分かります。それに比べて、私にできることなんて本当に少なくて…」

「な〜に言ってるのよ。貴方には生き残ってこの奇妙な体験を記す義務があるじゃない、
 寺子屋開いている牛より正確なものを期待しているわ。」

寺子屋を開いている牛って、思いつくのは上白沢慧音。
私の妖怪の知人の一人で歴史が専門の教師をしていて、彼女の授業は稗田家の資料を提供している。
まあ確かに、彼女の編纂したものよりはよほど正確なものができる自信がある。

「だから、貴方の負った使命の為にも、逃げることを選ぶのを恥じちゃいけないわ。
 貴方にしかできないことはあるんだからね。」
「…分かりました。」

「それと最後に、これは本当に最悪の展開を迎えた場合よ。
 それはツェペリの次に私も戦わなければいけなくなったとき。」

私は次に幽々子さんが何を言うか、わかっていた。

「すぐにとは言わないけど、危険だと判断したらメリーと一緒に逃げなさい。」
ああ、やっぱりか。予想は的中。でも同時に仕方ないなと感じていた。
私にできることは生き延びたその先にある。
無力な私ができることなどタカが知れていたし。

「まあ、私もツェペリもそうならないように全力を尽くすわ。安心していなさい、阿求。」

私は、はいと返事をし、そこで幽々子さんとの会話は終わりにした。


424 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 01:45:29 6pgGmvkY0


今、見てみるとなんというか、非常に滑稽に見えてしまいますね…。
この後にあるのは、一番あってほしくない本当に最悪の展開だったんですから。
今度の場面はツェペリさんが死んだと、みんなが思い込んだところからですね。
ちょうど、私がメリーさんを支えながら二人から離れていたところです。




「そんな、ツェペリさん……いや、死んだの…生きてるの?」

私がメリーさんに肩を貸しながら歩く隣で彼女ははブツブツと呟いていました。

当然か、私もここに来て気さくに接してくれた幽々子さんが死ぬかもしれない、
と考えるだけでゾッとする。

そうあってほしくない、と考えていた矢先のこと。
背後から聞こえてきたのは幽々子さんとポルナレフさんとの話し声。
襲ってこないところを見る限り、やはり私達には敵意はないと見ていいだろう。
少し立ち止まり、話し声に耳を傾ける。


「ああ、貴方の誘蛾灯に私の大事な存在をあげたくないってね。」

大切な存在、私はどうなんだろうか?私は誰かにとって大切な存在なのか?ふと、考えてしまった。

「あっ!もちろん阿求もその中にいるわよ!」

残念ながら、幽々子さんの回想シーンに私の出番はなかったようだ。
まあ、彼女なりのジョークとして受け取っておこう。いちいち気に病んでも仕方ないし。
だけど、次の言葉には自身の耳を疑った。

「私が貴方を止める、ただそれだけよ。」

えっ、今なんて?

振り向くとポルナレフさんは駆け出していました。『スタンド』を従えて、
もちろん戦うつもりなのでしょう。

聞いていた話と違い、私は驚く。予定ではポルナレフさんが戦う気がないならば、
無理に戦わないと言っていたのに。

私はあの時、幽々子さんにツェペリさんが死んだときにどうするか、
という問いを受けてどちらか答えなかった。
でも、本音は私の『感情』を優先させたかったと思う。
死んだツェペリさんの意志をついで、ポルナレフさんを肉の芽から救う。
それが最も綺麗な終わり方に思えたから。

でも、今は違った。そんなもの放り出して今すぐ戻ってきてください。
幽々子さんにそう叫びそうになったのだ。

『恐怖』。人の死を目の当たりにして、私はそんな倫理ある思いをあっさりと投げ出しそうになった。
自身を支えてくれた存在の大きさを理解し、失いたくないと今更ながら強く感じ始めたのだ。
そんな私の思いとは裏腹に事態はより悪化していく。

幽々子さんが正面と背面にそれぞれ一太刀入れられてしまった。


425 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 01:50:04 6pgGmvkY0

「すぐにとは言わないけど、危険だと判断したらメリーと一緒に逃げなさい。」
幽々子さんがの言葉が私の頭に反響する。

私の使命は幻想郷で起きた有象無象を記し、伝えること。そのためには―――
「貴方の負った使命の為にも、逃げることを選ぶのを恥じちゃいけないわ。」

私とメリーさんに火の粉が降りかかるよりも早く、逃げ出さなければと思った。
一枚のエニグマの紙を開く。出てきたのは一頭の馬、ヴァルキリー。
この馬ならば、距離を取ることも容易だ。問題は乗れるかどうか…

手綱を握り、鐙を踏んで登ろうとするも何度もずり落ちる。
私の無様な姿に見かねたのか、ヴァルキリーはしゃがんでくれた。
…なんだか悔しいけど、これで乗れる。
私はメリーさんの方を向く。

「メリーさん、落ち着いて聞いてください。今から私たちは一旦ここから離れます。」
「えっ?ツェペリさんは…、それに幽々子さんだって…」

ツェペリさんを失ったショックか、その目はどこか虚ろだ。
私の言葉で感じたことを素直に返している。
「幽々子さんに頼まれていたんです。もし、彼女が戦うことになったら逃げろって。
 ヴァルキリーに乗って行きましょう。」
「幽々子さんを置いていくの…?」
つらい。私だって逃げ出すことに罪悪感はある。
それでも私の使命と幽々子さんの願いの為にも逃げなければいけない。

「今、私たちが残ってできることはありません。お願いですから、一緒に来てください。」
「幽々子さんも死んじゃうの…?」
やめて。私だって、私だって好きでこんな方法選んでるわけじゃない。
いつまでも問答しているわけにはいかない。そう判断すると、メリーさんの腕を掴み無理やり引っ張る。
「い、いや、は、放して!」

これでは私が悪者みたいだ。でも心を鬼にしてメリーさんを引きずる。
まだ夢の世界の体験での疲れがあるせいか、私でもなんとか連れ出すことができた。
ヴァルキリーの前にたどり着く。座って待ってくれていたおかげで簡単に跨ることができた。
メリーさんを見るが、やはり座ってくれない。

「メリーさん、お願いです。私を信じてください…!幽々子さんにもしものことがあって、
 貴方まで死なせてしまったら、彼女は浮かばれません。」
「う、浮かばれない、な、なんて!幽々子さんが死んだような扱いをしないでッ!」

私はもちろんそんなつもりはない。確かに、浮かばれないという言葉には
成仏するとかいった意味もある。
幽々子さんは亡霊だし、いわゆる幽霊ギャグか…(うまいこと言った?)
縁起でもないことを考えてしまったが、もちろんそんな意味で使ったわけではない。
「言葉のあやです。そんな揚げ足を取るようなことを言わないで下さい。」
「い、いや!わ、私は幽々子さんを、た、助けたいの!」


426 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 01:51:53 6pgGmvkY0


ここに来て唐突にメリーさんが私を見据えてはっきり伝えてきた。
何故かその目を見て私はたじろいでしまう。
「私に、私たちに、あの場でできることがあると思っているのですか?」
「わ、分からない。でも、幽々子さんの側にいてあげたいの、彼女を支えたい。」

何でこんなことが言えるのだろうか、
幽々子さんは貴方に生きてほしいから私に託したのに… どうして…?

「分からないで済ませないで下さいッ!貴方の行為は彼女の決意を踏みにじることに
 繋がりかねないのですよッ!」
「阿求さん、私は蓮子って友達とよく一緒に行動しているの。
 だから、私を大事な存在と認めてくれた幽々子さんも同じようにいてあげたいの。」

そんな理由で…?それに幽々子さんは誰が大事な存在と口にはしてなかったのに…
あなたはどうしてそう思えるの?

「それに、幽々子さんはなんだかどこかで会ったような、不思議な感覚になるんです。」

そうか…。メリーさんには、私には持たないものがあるから、
幽々子さんを別の形で支えようと考えるのか。

『理性』で動くよりも優先させたい『感情』がきっと彼女にはある。

「だから、お願いします。幽々子さんの元へ行かせてください!」

彼女の友達の宇佐見蓮子。どんな子かなのか知らないけど、
それはそれは彼女の大きな拠り所なのだろう。
だって彼女の名前を口にしたら、まるで自分の力に変えてしまったように彼女に活力が宿った。

ここで偶然出会った西行寺幽々子。八雲紫を思わせる、
その容姿と能力は何かしら関係があるだろう。この場で紫様と生前からの仲である、
幽々子さんと会ったのも正に『縁』といったところか。(うまいこと言った?)

そこまで考えて、私は急にさびしくなった。
私にメリーさんのような『理性』を飛び越えるような『感情』を優先させたい拠り所なんてあるのかと。

友達はいる。
さっき話した上白沢慧音。彼女はお世辞にも教え上手とは言えないので、
たまに頼まれて指導の仕方なんかを教えたりする。
結構辛辣な感想を言ったりするけど。その分仲は良いかな?

本居小鈴。私の歳と近しい妖魔本の研究に熱心な女の子で、
私のおそらく最も友人と呼べる間柄だろう。
あの子は本が大好きだし、彼女には私の好きな幺樂団のレコードを貸したりもした。

そうやって思い返すと、友達はいるし彼女たちは私の大切な存在だ。


427 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 01:56:55 6pgGmvkY0



でも…彼女たちが危険に晒された時、私はどう動いていたのか、と考えた瞬間。
胸を張って彼女たちを助けに行けるかと言われたら……言えない。
だって私は今、幽々子さんを置いていこうとしたんだから。
同じことを彼女たちにしないなんて、今更ムシの良いこと言えない、言えなかった……

私は幽々子さんを助けるために、この場から離れろと言った。
彼女は幽々子さんを助けるために、この場に残り支えたいと言った。

同じ助ける手段をとるにしたって、何かできるかの有無で判断しないで、
側にいたいという思いを優先する。
ただの無謀にしか見えない、見えないのに…

酷く羨ましかった。
そして思った。

なんて私は侘しいのだろう…

私が酷く心の狭い人間に思えてしまった。

その思いが引き金となった。
「ヴァルキリー、走ってッ!」

私はどう扱っていいのかわからない、ヴァルキリーの手綱を握りしめ命令する。
座っていたヴァルキリーはスッと立ち上がる。

「阿求さんッ!?」

「わ、私は、私は…」

ヴァルキリーはあっという間に走り出した。
自分でもあの時メリーさんに伝えようとしたのか覚えていない。


どれだけ走ったのかはっきりとしないけど、数分にも満たない時間だったはず。
私はヴァルキリーの上で泣いていた。
自分の在り方に自信を無くしてしまったと思う。
ヴァルキリーを走らせたのは、そんな惨めな自分をメリーさんに晒したくなかったのか、
はたまた私の『理性』で取った行動の方が正しいことを主張するためなのか、わからない。
いろんな気持ちが溢れかえっては消えていく、そんな時間を過ごした。
しまいには、ヴァルキリーの首を両腕でぐるりと絡めて乗っていた。
さぞ不快だったと思う。そして私の走って、という気持ちが小さくなるのに、
呼応してヴァルキリーは足を止めた。

ゆっくり止まったのに、その反動でずり落ちてしまいました。本当に惨めで…
自分に嫌気がさしていた。

私はそのまま座り込んでしまった。今は何も考えず植物の様にありたいと願いながら。
短い時間だったけど、無防備なまま、私はぼんやりとしていた。
今なら襲われても何の抵抗もしないでしょう。
転生の儀式をすることなく死んでしまえば、私に次はないはず。
でも、今の幻想郷に私なんて必要ないのでは、とまで考え出した。
百年程度前なら危険に満ちていた幻想郷も、今では精神的平和が主となる住みやすい場所へと変わった。
妖怪の危険から守るための知識を伝えることが稗田家に与えられた使命。
もうその危険が薄まった今、私の存在意義も同様に不必要では、と感じ始めた。


428 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 01:58:19 6pgGmvkY0


ガサ、ガサリ


足音が私の鼓膜を叩く。
流石にハッとし思わず、エニグマの紙から生命探知機を取り出し、確認。
私の前方に2つの反応があった。
私はその存在に幽々子さん達への助けを求めることを思いついた。
いくら自暴自棄になっていても、助けたい気持ちだけは陰っていないようだったのは幸い。

誰かが来るのは分かる、しかしどういった人物が来るのかは分からない。
最低でも隠れる必要があるのに、私は怯えていたのでしょう、動けなかった。
下手をすれば殺される状況で、身動きが取れず、私は相当焦っていたと思う。

じゃなければ、こんなこと絶対に、絶対に言わなかったですし…




「助けてー、みこえもーん!」




私が最近執筆した宗教家三者会談での、ある人物の項目に記した。助けを求める方法だ。
耳の良い彼女なら、この言葉で駆けつけてくれる、とかそんなことを書いていたし。

「呼びましたか、阿求?」
「へ?」

まさか、その本人が現るとは夢にも思ってませんでしたが…
そう、そこにいたのは豊聡耳神子。何を隠そう最近幻想郷に現れた人物にして、
宗教家三者会談に参加した一人。

「まさか、君がいるなんてね。来るのが私だと分かってたみたいだけど、
 貴方って欲の声を聴けましたっけ?」

私は思わず赤面する。
そりゃあ、咄嗟のこととは言え、あんなこと言った自分すら何で口にしたのか、問い質したいぐらいだ。

「す、すみません……」

身を縮めて、頭を思いっきり下げた。

「まあいいわ、ジャイロ出てきて構わないわよ。」
「ヴァルキリー!いやー、こんなに早く出会えるなんて俺って運がいいぜ!」

後ろから出てきたのは、ゴーグルをつけたカウボーイ風のハットを冠っていた男性。
外の世界にあんな格好をした人がいるのを資料で見たことがあった。

「格好はアレだけど、一応安心してほしい。彼はジャイロ・ツェペリって言うわ。」
「は、はい。」
「阿求、一刻を争うんでしょう?急ぐわよ!」
「ええぇえッ!?」
私は驚いた、今思い返すと神子さんの能力を使われただけなんだけど。
「ジャイロ!私達3人乗せて、ある場所へ行くわ、準備して!」
「おいおい!人使いが荒すぎやしねぇか?もうちょっと再開を喜ぶ時間を―――」
「そんな女々しいことは後回し!阿求行くわよッ!」

「ったく、あんまヴァルキリーに乗せたくないんだがな…」
無駄口を叩きながらも、着々とヴァルキリーの装備を確認し、私でも乗れるように座らせる。

「さあ、乗った乗った!よくわかんねぇけど、急げばいいんだな?神子よぉ。」

神子さんは乗りながら、生命探知機に指差して話す。
「ええ、人命がかかっている。目的地はこいつと私の耳がある!指示通りに走りなさいッ!」
「いよっしゃあぁ!飛ばすぜ、ヴァルキリー!」

そう言うと、ヴァルキリーは私が乗っていた時と比べものにならないスピードで、竹林を駆け出した。

その間、彼らと会って僅か2分程度で私は元いた場所へとトンボ帰りを果たす。


429 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 02:01:30 6pgGmvkY0




大して離れていなかったのと、ヴァルキリーの全速力で走ったかいもあり、一分もせずに到達した。

状況は幽々子さんが倒れた直後。
私はなんとか状況を理解しようと周囲を見渡す。
幽々子さんが肉の芽を取り除く際に用いると言っていた
白楼剣の存在を必死で探し、すぐに発見する。

「うわあああああああぁああぁああ!!」

白楼剣はメリーさんの手中にあり、今まさに『スタンド』目掛けて突き刺さんとしていた。

「おいッ!無茶だぜ、『スタンド』相手によぉ!あの子がやられちまうぞ!!」
「あぁぁ、あぁあ…」
「阿求ッ!君の意見を聞かせてッ!」

倒れている幽々子さんと『立ち向かう』メリーさんの姿を見て私は声が震わせていた。
さっきのメリーさんとのやり取りを、自身への後ろめたさせを感じていたから。

 やっぱり、あの子は私とは違う… なんで、なの?

そう感じている間に白楼剣はチャリオッツの額に命中する。

 ああ、自分の力で決着をつけようとしている… 私にはとても…

だが、その白楼剣の動きが止まるのを見て、私はあることを尋ねたのを思い出す。
メリーさんが体験した夢の世界での話をしてくれたときのことだ。

「肉の芽ってどれぐらいの長さがありましたか?」
深い意味はなく、ただの知的好奇心からの質問だった。
「うーんと、詳しく見ていないけど、頭に刺さったら脳の真ん中までいきそうな感じだったわ。
 すごく気味が悪くってね。」
ちょっとだけ顔をしかめていたのまで、はっきりと覚えていた。


じゃあ今、刺さっている白楼剣の位置はどこだと考えた瞬間だ。


「だ、だめ…足りない……」
「阿求?」
「あ、あれじゃあ、足りないッ!脳へのあと一押しが足りていないッ!
『スタンド』に刺さった剣をもう少しだけ進まないと届かない!!」

私は無我夢中だった。声を荒げて必死に伝えようとする。

「要はあの剣が深く刺さらないといけないのね、阿求。」
私は首をブンブンと振り正しいと伝える。
「聞いたわね、ジャイロ!貴方の出番よッ!あの剣がより刺さるように鉄球をかましなさいッ!」
「だろうと思って準備しておいたぜッ!」

ジャイロさんの足元には円を描くように風が纏う、それらはやがて右手に収める鉄球へと集約される。

「俺の鉄球を食らええぇえッ!!」

掛け声と共に鉄球は白楼剣目掛けて投擲される。鉄球はは黄金の回転の力を得て、空を切り裂き殺到する。

そして、メリーさんはまだあの場にいてくれた。白楼剣をその手に放すことなく。

鉄球が衝突する。
ギャルギャルギャルっと奇妙な音だが、威力は十分だった。

白楼剣はついにその力の発揮に成功したのだ。


私もその一助になれたような気がした。


430 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 02:05:56 6pgGmvkY0

メリーさんは泣いていた。この殺し合いの場で最初に出会い、支えてくれた存在を
今度こそ失ったから当たり前か。

対して私は泣いていなかった。

やっぱり私は…

「阿求、ちょっといい?」

話し掛けてくれたのは神子さん。彼女が迅速にことを運んでくれなかったら、幽々子さんも
メリーさんも助からなかった。本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

「本当に、ありがとうございましたッ!」
「ちょ、ちょっと、そんなかしこまらなくていいのに。」

「それで、私に何か?」
「君の心の問題よ。心当たりあるでしょ。」

神子さんの顔を見ると、『うまいこと言った』と書いてあった。
まあ、面白いけど…

「聞かないでもらえますか?」
「駄目よ、自分の口から吐き出しなさい。私への感謝の気持ちがあるなら、貴方の悩みを聞かせて頂戴。」
「貴方の能力で…」
「もう一回言うわね、自分の口から吐き出しなさい。」

神子さんはニッコリとこちらを見てきた。意地でも聞いて来るつもりだろう。
確かに彼女への感謝の念がある、そのために伝えよう。とそれを言い訳に
私は内に秘めた思いを吐き出すことにした。

話していて途中から涙が止まらなかった。
私は不必要な存在だとか、私は大切な存在のために行動できないとか、
自分をぼろ雑巾のように貶めた。

神子さんはと言うと、そんな私の独白にただただ頷き、言葉に詰まったら
その言葉を言い当てる。泣き出してしまったら背中をさすってあげる、
正に聞き上手の鑑と言ってよかった。

そうして時間が過ぎていった。
私は目を大きく腫らしていたと思う。
あまり、解決策というか的確なアドバイスは言ってもらえなかったけど、
彼女は私にこう言いました。


431 : 名無しさん :2014/02/28(金) 02:17:28 6pgGmvkY0


「阿求、一つだけ言っておくわね。貴方はこの一連の流れを見てどう思う?」
「どうって…」
「はっきり言いましょうか。貴方の行動もマエリベリーの行動も正しかった。
 誤っていなかったってことよ。」

「どちらも…ですか?」
「ええ、マエリベリーの行動の結果、幽々子は殺されることなく守ることができた、わかるわね?」
「は、はい。」
「そして、貴方の行動のお蔭で私たちは駆けつけることができた。
 マエリベリ―だけでは守れなかったでしょうから。」

「どちらが欠けても、幽々子さんを守るのに必要だったと…」
「そういうこと、気に病むことはないのよ。」


「そ、それじゃあ!私はこれから『感情』と『理性』のどちらを
 選ぶのが正しかったと言うんですか!?」

私の心からの疑問だった、答えてほしかった。


「貴方が考える『理性』と『感情』の考えで白黒つけるのは難しいわ。
 正直言って、その場その場で答えは変わる。私も無責任なことは言いたくないもの。」
 
「そう、ですか……」

「でもね、阿求。貴方があの場で『感情』の選択を取れなかったことをクヨクヨするのは良くないわ。
 まして、大切な存在がいても助けるために行動できないとか、ね。」
「できる、できないは誰にだってである。その中で思い悩み
『可能性』を信じ、できると思い行動する。『勇気』を持って、できないと判断する。
『人間賛歌』って貴方の言う『感情』や『理性』のどちらにも転ぶものよ。」

「つまり…?」
「『人間賛歌』を掲げて動けば、そのどっちにも当てはまる。少しだけでも
 信じてあげるのも一興かもねってことよ。」



「まあ私は仙人だし、『仙人賛歌』とか『妖怪賛歌』とかあってもいいと思うけどねぇ。」

なるほど、それは面白そうな感じがした。

「後は貴方が考えなさい、私から言えるのはそれまでだし。」
「少しだけ気が楽になりました、ありがとうございます、神子さん。」

「ふふ、力になれて何よりよ。カウンセリング、受けたいならいつでも歓迎するわ。」
「いえ、できれば今回までにしてみせますよ。だって…」
「だって…?」

「これからの稗田家の信仰が狙われそうだから、かな?
 宗教家に借りを作るのはマズいですもの。」

「あら残念ねぇ、ちょっとだけ期待していたのに…まあその内頂くことにするわ。」


432 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 02:22:57 6pgGmvkY0
以上が私の体験した一連の動きです。
結局のところ、ツェペリさんには本当に申し訳ないですが
今回はうまく行き過ぎたのかもしれません。

力のない私たちが二手に分かれて各々の使命を果たせたんですから。
最悪の事態だって十分にあり得ました。

でも、今回は相手が一人だったからうまくいったのでしょう。
次も決して簡単には済まないだろう、と記して、
私の手記は終わりに致します。

まあ、誰も読むことはないでしょうけど…(失態だらけだし)
それでは、もしまた書くことになったら会いましょう。さようなら。


433 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 02:24:59 6pgGmvkY0

【D-6 迷いの竹林/早朝】

【西行寺幽々子@東方妖々夢】
[状態]:気絶、霊力消費(極大)、疲労(大)、出血(大)、左腕を縦に両断(完治)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。紫や妖夢、メリーを守る。
1:紫や妖夢、メリーを失わいたくない。
2:あの子(メリー)は、紫に似ている。どうやって尋ねましょうか?
3:阿求には迷惑かけちゃったわね…
4:主催者を倒す為に信用できそうな人物と協力したい。
※参戦時期は神霊廟以降です。
※『死を操る程度の能力』について彼女なりに調べていました。
※波紋の力が継承されたかどうかは後の書き手の方に任せます。
※左腕に負った傷は治りましたが、何らかの後遺症が残るかもしれません。

【マエリベリー・ハーン@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(極大)、ツェペリを失った悲しみと感謝、精神はだいぶ落ち着いている。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と一緒に此処から脱出する。
       ツェペリさんの『勇気』と『可能性』を信じる生き方を受け継ぐ。
1:ツェペリさん、ありがとう…
2:阿求さんと仲直りがしたい。
3:蓮子を探す。ツェペリさんの仲間や謎の名前の人物も探そう。
4:幽々子さんと一緒にいてあげたい。
5:幽々子さんってどこかで会ったことがある?夢の世界かしら?
[備考]
※参戦時期は少なくとも『伊弉諾物質』の後です。
※『境目』が存在するものに対して不安定ながら入り込むことができます。
 その際、夢の世界で体験したことは全て現実の自分に戻るようになっています。
※ツェペリとジョナサン・ジョースター、ロバート・E・O・スピードワゴンの情報を共有しました。
※ツェペリとの時間軸の違いに気づきました。


【ジャン・ピエール・ポルナレフ@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???。
1:???
[備考]
※参戦時期は香港でジョースター一行と遭遇し、アヴドゥルと決闘する直前です。
※肉の芽の支配から脱しました。


434 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 02:28:42 6pgGmvkY0
【稗田阿求@東方求聞史紀】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン@現実、エイジャの赤石@ジョジョ第2部、基本支給品、阿求
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず殺し合いはしたくない。
1:私なりの生き方を見つける。
2:メリーさん、幽々子さんが助かって良かった…
3:神子さんに感謝、できれば何か恩返ししたい
4:メリーさんと仲直りできるでしょうか…
5:主催に抗えるかは解らないが、それでも自分が出来る限りやれることを頑張りたい。
6:荒木飛呂彦、太田順也は一体何者?
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談以降です


【ジャイロ・ツェペリ@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ナズーリンのペンデュラム@東方星蓮船 、ジャイロの鉄球@ジョジョ第7部
[道具]:ヴァルキリー@ジョジョ第7部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョニィと合流し、主催者を倒す
1:ジョニィや博麗の巫女らを探し出す
2:鉄球とヴァルキリーを見つけてくれた恩を神子に返す
3:リンゴォ、ディエゴ、ヴァレンタイン大統領、青娥は警戒
4:あのオッサン、ツェペリって言うのか?
[備考]
※参戦時期はSBR19巻、ジョニィと秘密を共有した直後です。
※豊聡耳神子と博麗霊夢、八坂神奈子、聖白蓮、霍青娥の情報を共有しました。
※この会場でも、自然には黄金長方形のスケールが存在するようです。
※豊聡耳神子の能力を読心能力と認識しています。

【豊聡耳神子@東方神霊廟】
[状態]:疲労(小)、少し気分がいい
[装備]:生命探知機@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖人としてこの殺し合いを打破する
1:阿求は立ち直ってくれたかな?
2:今のところジャイロに味方する
3:博麗の巫女など信頼できそうな人物を探し出す
4:あのペンデュラムを白蓮に渡したら面白いかも
5:……青娥、もしかしたら裏切るかもしれないわねぇ
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談を終えた後です。
※ジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースター、リンゴォ・ロードアゲイン、ディエゴ・ブランドー、
ファニー・ヴァレンタインの情報を共有しました。
※能力制限については、後の書き手の方にお任せします。

※八雲紫の傘@東方妖々夢、白楼剣@東方妖々夢、星熊杯@東方地霊殿が周囲に落ちています。


435 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 02:33:28 6pgGmvkY0
以上で投下終了です。

本当に長い間のキャラ拘束、申し訳ございませんでした。

初トリップだというのに長期に渡って待っていただいた
管理人さん、加えて読み手様、書き手様
本当にありがとうございました。


436 : 名無しさん :2014/02/28(金) 02:41:18 7G1muJCE0
後編投下及び長編執筆お疲れ様です。
ツェペリさん、まさしくブラボー…最後までカッコよかった!
幽々子様やメリーも頑張ってくれただけに、生きてくれてよかった…
そして阿求ちゃんも苦悩はあるだろうけど、これから頑張ってほしいなぁ


437 : 名無しさん :2014/02/28(金) 03:04:39 /hAp5LnU0
怒髪天を貫く男のこれからも気になるぜ
にくめないやつになってればいいけど


438 : 名無しさん :2014/02/28(金) 03:11:38 P8/ut0rE0
投下乙であります

今回の出来事は結局のところ、阿求が部外者視点というか輪の一歩外から目撃していた人間ドラマを綴った賛歌だった…という印象を受けた
そんなポジションだった阿求がこれからどう悩み生き抜いていくか…楽しみだ

ていうか1部のキャラがジョナサンしか居なくなっちまった!!頑張ってくれ!


439 : 名無しさん :2014/02/28(金) 03:27:59 ZIua8mFw0
投下乙です。
キャラや道具の設定を上手に使っていて面白かったです。
ファントムブラッドが早くも全滅寸前になったんでジョナサンには頑張って欲しいところ。

以下、細かいことですが読んでいて気になった点です。
・ツェペリの一人称が以前の話と違う
・ツェペリが白楼剣を持っている(>>391)
・ツェペリの死亡表記がない
・神子がジャイロに鉄球を譲渡するシーンがない(前回の話では交渉中だったはず)


440 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 13:06:24 6pgGmvkY0
ご指摘、ご感想ありがとうございます。
長々としていて読みづらく、大変疲れたと思います。

それだというのに、わざわざ時間を割いていただいて
非常にうれしく思います。

>>439さんの質問にお答えします

・ツェペリの一人称が以前の話と違う
 完全に私のミスです。単行本を確認すると、
 ツェペリさんの一人称は「わたし」でした
 深仙脈疾走、使用後は「わし」でよかったみたいですけど…
 手直しします。

・ツェペリが白楼剣を持っている(>>391)
 これも私のミスです。
 当初は持たせようか悩んでいましたが、結局変更。
 修正し損ねていました・・・

・ツェペリの死亡表記がない
 これも私の(ry
 >>415の最後に書いておきます。

・神子がジャイロに鉄球を譲渡するシーンがない
 (前回の話では交渉中だったはず)
 すっかり省いてしまいました。指摘されてやっぱり必要と感じたので
 二人が永遠亭を出て阿求に遭遇するまでを今から書いてみます。
 そんなに多くは書かないと思いますが…

 特に一人称のミスが酷いので、前編、後編、阿求話、
 修正後に全てを再投下しようと思います。
 部分的になるとすごく見づらいと思いますので。

 最悪◆qSXL3X4icsさんにご迷惑かけるかもしれませんが
 今日中をめどに、急ぎ対応します。


441 : ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:11:02 u2lYNGN20
投下乙です!
幽々子様の飄々としながらも強い覚悟を見せたシーンが印象に残りましたね。
阿求や神子がたまに可愛くなるところも良い。

個人的な都合で明日は投下できる暇が無さそうなので、急遽今から続きを投下します。


442 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:13:20 u2lYNGN20
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

意気揚々と玄関を開け、指をポキポキ鳴らしながら民家の立ち並ぶ通りへと勇み出るジョセフ。
波紋のレーダーが示した先は家を出て右ナナメ向かいの民家の陰。その場所に向けてジョセフは大声で叫んだ。

「さぁーて、鬼が出るか蛇が出るか…はたまたカワイ子ちゃんだったら俺は喜ぶんだが……
オイ!そこに居るのは分かっているんだぜ!出てきな!」

静寂が支配する朝の集落にけたたましく木霊する音響。どんな奴が出てこようがお構い無しといった威勢からは、ジョセフの自信と性格が現われ取れるようだ。
彼の周りには三体の魔法人形が言葉無く、フワフワ舞っている。口を開く事の出来ない彼らは代わりに腕を前面に曲げたファイトポーズを構える事で、自身の感情を表しているようにも見える。
やがて…睨みつけた民家の陰から理性的で冷静な男の低い声が響く。



「…『ジョセフ・ジョースター』。1920年9月27日生まれのイギリス人。
両親である『ジョージ・ジョースターⅡ世』と『エリザベス・ジョースター』は既に他界。その後、祖母である『エリナ・ジョースター』に育てられる。
祖父である『ジョナサン・ジョースター』から受け継いだ波紋の才能によって1939年、吸血鬼よりも更に上位の存在といわれる『柱の男』を死闘の末、滅亡させる。
その後、『スージーQ』と結婚。一人娘の『ホリィ・ジョースター』を子に持ち、そして…孫である『空条承太郎』やその仲間達と共にエジプトへ乗り込み1988年、我が友『DIO』と決戦。
討ち倒す事に成功する」


「…………あ?」


その男は聖職者の装いをした黒人だった。
呼ばれて出てきたかと思えば、彼は突然聞いてもいないのにジョセフの経歴をペラペラ喋りながら近づいてくる。
困惑するジョセフをよそに神父はなおも言葉を紡ぎながら歩みをやめない。

「代々『短命』のジンクスを持つというジョースター家の男の中でも珍しく長命であり、あらゆる意味で『型破り』。
その性格は紳士というには余りにも軽く、暴力的で気性も激しい。だが仲間を守る為なら自らの犠牲も厭わない『正義の心』の持ち主。
その抜け目の無い性格から、ハッタリやイカサマを用いた心理戦を得意としている。相手の次に出す言葉を先読みして惑わせるという、いかにも陳腐な戦法を好んでいるらしいな?」

いきなり現われて不用意に近づいた挙句、自分という男について何から何までズバズバと言い当てられて動揺するジョセフ。
無理もない。この男は祖父のジョナサンや敬愛するエリナの事だけでなく、自分の知らない事まで何もかも言い当ててきたのだから。
祖父や祖母や柱の男、自分の性格や戦法を相手が知っていたという事にも驚いたが、なによりもジョセフが最も驚いた事柄は…


443 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:14:26 u2lYNGN20
(オー!ノーゥ!何てこったい!!こ、この野郎は今…『何て』言ったんだ…!?俺が『スージーQ』と結婚ンンッ!?
しかも『孫』までいるだとォーーッ!!い、いや確かにアイツはちょっと可愛いトコあるが!
…いやいやいや、ていうかコイツは誰だよ!)

とんでもなく重要な事をさらりと事務的に流し読まれた事について理解が追いつけない。
それはそうだ。目の前に見知らぬ人間が現われて自分はもうすぐ結婚します、孫まで生まれます、などと断言されて驚かない人間など居ないというものだ。

ジョセフはすぐさま彼の言う事を否定したいが、この神父の言う事はどこか自信気で説得力に満ちている。
何か分からないが、単純には否定出来ない謎の圧力を感じた。


「『お前』の事は昔から念密に調べ上げている、ジョセフ・ジョースター。何しろあのDIOを倒し、生存するほどのしぶとい輩だ。油断できない男…
故に私もこれから『全力で』お前という存在を潰しにかかろう。私とDIOとの『夢』のために。
そしてお前の十八番を返させて貰うとしようか……」

神父は足を止め、ジョセフも同時に相手を指差してこう言った。


「君の次の台詞は『テメェなんで俺の事知ってやがるこの野郎』…ってとこかな?」
「テメェなんで俺の事知ってやが…ッ!!……ハッ!」


やられた…!そんな驚愕と苛立ちの表情を作るジョセフを見て神父―エンリコ・プッチは不敵に笑う。
そしてプッチの横に現われるのは…全身が不気味な紋様に包まれた彼の邪悪なるスタンド『ホワイト・スネイク』ッ!


「ヤロォ〜…ッ!よりによって俺の特技をサルマネするたあ、随分と頭がお高いんじゃあねーのーッ!?
そんなナメた真似されるのはあの『エシディシ』に続いてお前が『二人目』だぜッ!!
どうしてテメェが俺の事を知っているのかは、これからボコボコにして自分から喋りたい気持ちにさせた後にゆっくり聞いてやるッ!
このハラのムカツキ具合でよぉーく分かった!テメェは『敵』だッ!!」

ジョセフに向けられたプッチの明確な『敵意』…すら通り越した『殺意』を身に感じ、ジョセフは目の前の人間を敵だと確信する。
なによりコイツは今、確かに『DIO』と言った。50年前、ジョセフの祖母ジョナサンが命と引き換えにしてまで倒したはずのDIOという男。
会った事も無いその男の名は、小さな頃から祖母やスピードワゴンから何度も聞かされてきたのだ。コイツとDIOは何らかの関係性があると睨んだジョセフはとにかく闘志を燃え上がらせる。

プッチの傍らに出現した初めて見る人形のような像にも多少驚きはしたが、同じ人形なら自分は三体、予備も含めて五体も所持している。何も特別じゃあない。

敵をビビらせる事においてこのジョセフ・ジョースターが遅れをとる訳がないぜ!

謎の自信を滾らせながらジョセフは首を左右に傾けコキ…コキ…と骨を鳴らして威嚇した。
傍らに浮く人形達も彼を真似て首を鳴らそうと全員同じジェスチャーをとる。勿論音は鳴らないが。


444 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:15:22 u2lYNGN20
「ヘヘヘ……出てきたのは『鬼』でも『カワイ子ちゃん』でもなく『蛇』だったってワケね。しかもデッカイ人型の『白蛇』さんとは、俺の可愛いお人形ちゃん達を丸ごとパクッと喰える勢いだな。
ちょーど『ヘビ柄』の財布が欲しかったとこなのよ。触り心地は最悪の極みだろうが、素材の提供感謝するぜ神父様よぉ!」

指をチョイチョイと曲げ、プッチを挑発し返して臨戦態勢に入るジョセフ。
この自分を馬鹿にする奴は許さない。おちょくるのは大好きだがおちょくられるのは大っキライな自己中心的なこの男を怒らせて無事で済んだ奴などこの世には居やしない。

敵の平静な顔が涙に塗れる姿を想像し、ジョセフの表情は遊び事のようにニヤニヤしてくる。
さて、どうやって奴を泣かせてやろうか。どうすれば奴は自分に謝りながら顔を地面に擦り付けるかな?
ジョセフは敵と戦う時はいつもそれを考える。自分の思い描く『最高の結果』に持っていくには果たしてどんな『道』を敷けば良いだろう…?
自分の『デザイン』した経路に相手をカッチリ乗せてやるにはどうすれば良いだろう…?
頭の中で常にそれを意識しながら、ジョセフはこれまでの戦いを崖っぷちから乗り越えてきたのだ。

もはや歴戦の戦士へと成長したジョセフ・ジョースターのバトルロワイヤルでの初陣。その一つ目の『戦法』が披露される。


「時にオイ、アンタ。アンタ、『人形劇』とか観た事ある?俺は小さい頃から何度もあるぜ。
『手品師』にも憧れるが『人形師』にも結構憧れてんだよねぇ〜!
俺、昔からヒジョーに好きなのよ!そういう観る者を化かす様な『エンターテイメント』が!」

これから開演するのは殺しの劇場。だと言うのに、そんな空気を微塵も感じさせないほどに屈託無く笑うジョセフは、両の腕を体の前に真っ直ぐ伸ばし掌を下に向けて拡げた。
その様は言うならマリオネットを操る人形師の指使い。まるで見えない糸で括られ操られているかの様に、ジョセフの指の動きに反応して傍に浮遊する魔法人形が動きを見せた。
右腕を上に上げれば人形達も上へと浮く。左手の親指を捻れば一つの人形は前へと前進する。


「せえ〜んろはうたうーーーよ いーーーつまぁでぇーもぉ〜〜〜〜〜♪……ってな!
へっへっへ…!まぁコイツらは俺の命令通りに動いてるだけで別に糸なんて付いて無いんだけどな。
要は『フリ』よ『フリ』ッ!いっぺんこーいうのやりたかったんだよなぁ〜〜、『人形芝居』!」

狂劇すら喜劇に変える戦闘巧者。ジョースターの『問題児』を前に見据えたプッチは、ジョセフに続いて慎重に戦闘態勢に移った。
スタンドを前面へと出し、自分は一歩下がって距離をとる。『遠距離型』であるホワイトスネイクは20メートル離れていても充分戦える能力を持っているのだ。


445 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:17:01 u2lYNGN20
(ジョセフ・ジョースター…すっとぼけた性格だが油断してはいけない…。この態度すらも奴の作戦の内なのかもしれない。
聞けば奴のスタンドが覚醒した時期は既に老人の頃だったという。ならば今のジョセフはスタンドすら持っていないはず…
しかし『波紋』…その未知なるパワーは警戒しなければならない…
奴の周りに浮く『人形』は何だ?支給品か何かか…いずれにしろ読めない男だ…)

動揺も躊躇も顔に浮かべる事無く、プッチは淡々に構えるのみ。
彼のスタンドのホワイトスネイクは、腕を相手の頭部にほんの少し叩き込むことで敵の意識、つまり『魂』を奪う事も同じなのだ。
わざわざ本体が相手に近づく必要などは無い。DISC化させることが出来ればその瞬間、決着はつく。

故に遠距離型スタンド使いが相手に見える距離で姿を現して戦う事は不利なだけに思える。
物陰に隠れ、スタンドだけを近づけて敵を倒す事が遠距離型のスタンド戦の定石であるはずなのだ。しかしプッチはそれを行わない。

その理由の一つに、プッチがジョースターの位置を大まかではあるが感じ取れると同じ様に、ジョースターの人間もまたプッチの存在を感じ取る事が出来る。ここまで近づいて隠れることにあまり意味は無い。
それに万が一奴に接近された場合、スタンドが傍に居ないプッチは途端に不利になる。
ペテン師との悪名高く、何を仕掛けてくるか分からないジョセフに対してはつかず離れずの距離で戦う事がベストだとプッチは判断した。


「私はお前に…『近づかない』。ジョセフ・ジョースター、お前にはこれから『天国』へ到達する為の礎となってもらうぞ」

見た目に反して脳みそはクレイジー思考な奴だな、と思いながらもジョセフは攻撃の動作に移っていく。
あの『人型の像』は何かわからんが危険な気がする。となれば自分も迂闊に近寄って痛い目に合うわけにもいかない。
おあつらえ向きに自分の支給品は『空飛ぶ操り人形』。しっかりと遠距離からプッチ本体を狙う事も出来る。
両腕を勢いよく前へ突き出して指をクネクネ動かす。人形師の真似事もしっかり忘れずに行いつつ、二体の人形をプッチ本体に向けて飛ばし残りの一体を護身用に傍に置く。


446 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:18:07 u2lYNGN20

「まずは小手調べだぜーッ!ピエール!それと、えぇっと…フランソワ!挟み撃ちでかかれッ!」

ピエール、フランソワと名付けられた二体の人形が風を裂きながらプッチに向かって突進していく。
片方は右から、もう片方は左から大きく回り込み、それぞれホワイトスネイクを避ける様にしてプッチ本体を左右からの挟み撃ちにしたッ!

「たった一体のお前の人形より三体ある俺の方が有利に決まってるもんねーーーッ!!喰らえ必殺『パペットサンドの陣』ッ!!」

恐ろしくクオリティの低い技名を叫びながらもジョセフの構築した陣には隙と呼べるものは殆ど無かった。
左右からの人形による狭撃、残る一体は敵スタンドを警戒し、ジョセフの前方で盾として備える事で防御にも優れた陣。
ホワイトスネイクが一体しか無い事を考えると、二体の人形の左右同時攻撃を防ぐのは難しい。シンプルだが無駄の無い突撃方法である。

「波紋とやらは使わないのか?どちらにしろ人形ごっこなどするつもりは無いがな」

しかし迫り来る二つの傀儡にプッチは動じず。
まるでライターでも取り出すかのような気軽さでデイパックから大きな団扇−射命丸文の葉団扇を取り出し、構えた。

鴉天狗の象徴たるその団扇は一振りで風を引き起こし、二振りで衝撃波を生み、三度目には激しい突風が周囲を吹き飛ばす。
プッチはそのまま団扇を持った右腕を薙ぎ払う様に勢いよくスウィングした。
瞬間、眼前にまで迫っていた二つの人形が上空にまで跳ね返されるほどの風がプッチの周囲を包む。

コントロールを失い、グルグルと回転しながら10メートル先まで吹き飛ぶジョセフの人形。
当然プッチはそのチャンスを逃さず、ホワイトスネイクをジョセフの元まで突っ走らせるッ!


「そのデッカイ葉っぱがお前の支給品ってわけかい!
だがいくら風を起こしたところで所詮は作りモンの風!俺は『本物の風』を操る男と戦ったんだぜッ!
それに比べりゃお前の風なんて文字通り『うちわのそよ風』みてぇなもんだぜーーーッ!!」

今度はジョセフの目の前にまで迫ってきたホワイトスネイク。あらゆる人間の記憶をDISCに封じ込める必殺の手刀をその頭部に叩き込もうとジョセフに襲い掛かるッ!
そうはさせまいとジョセフは傍に控えさせていた三体目の人形を、迫り来るホワイトスネイクに突撃させる。
しかも人形の右腕には小さなナイフがギラリと光っていた。先程東方家で頂戴してきたものである。

ジョセフは人差し指を相手に突き出し、スタンドの胸目掛けて一直線に人形のナイフを猛進させる…がッ!


「無駄だ、ジョセフ。例えそのなまっちょろい波紋を操ろうが、空飛ぶ木偶の坊を従えようが、お前はある『根本的な事』を知らないのだ。己の『無知』が故に、仇となったな」

プッチの囁く様な言葉と同時に人形のナイフはホワイトスネイクの胸を貫通した。…と、いうよりも『すり抜けた』。
ナイフは飛行する人形と共にスタンドの胸部を通り抜け、向こう側へとそのまま突き抜けてゆく。

これは当然、『スタンドにはスタンドでしか干渉出来ない』という原則による現象であった。ジョセフの反撃など意に介する事無く、プッチはそのままジョセフへ向けてスタンドを疾走させる。


447 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:19:19 u2lYNGN20

「ニャ…ニャニィィ〜〜〜イッ!?(なんだぁ〜あの白いデカブツッ!?攻撃が入らねぇ!)」

予想外の出来事に、そんな馬鹿なと息を呑むジョセフ。
その驚愕する額に向けて一瞬の躊躇い無くホワイトスネイクの右腕がジョセフに振りかざされるッ!

完全に不意を突かれたジョセフは回避行動に移るのが遅れてしまった。迫る手刀。これをまともに喰らえばそこでゲームオーバー。
スタンドのルールなど知る由も無かったジョセフが敗北するとしたら、その敗因はやはり『無知さ』であるのだろう。
元より、『スタンド使い』と『そうでない者』との戦いには、それだけ大きなハンデが存在すると言っても良い。


「勝ったッ!やはりジョースターの落ちこぼれ如きに『運命の女神』が微笑みかける事など無かったのだッ!
何が『戦闘の巧者』ッ!何が『ジョースターの問題児』ッ!!
薄っぺらいぞッ!お前は所詮、私とDIOの創る『夢』への『生贄の羊』の一匹に過ぎないッ!一瞬にしてDISCに封じ込めてやるッ!」


それまでの冷静さが嘘のように猛るプッチ。自分にとって唯一無二の『友』であるDIOのためならば命を投げ出す事さえ厭わない彼は、勝利を目前にして『ほんの一瞬』、つい気を緩めてしまった。
その一瞬の間、確かに危機的状況であるはずのジョセフは叫ぶプッチを見て、怯むどころか『笑った』ッ!
口元をイヤらしく吊り上げ、白い歯までわざとらしく見せて光らせる。そして余裕の笑みで腕まで組み、フッフッフと皮肉たらしく声まで漏らしてこう言う。

「人形の攻撃がすり抜けたのは少し、ほんのちょっぴりだけ驚いたがよォ〜…そんな事は問題じゃあない。何の問題もねーのよッ!
何故ならッ!俺の攻撃は既に『完了』しているからだぜーーーーッ!!!」

高らかにジョセフが宣言したその時、頭部まで残り数センチという所まで迫っていたホワイトスネイクの手刀が突然何かに引っ掛かったようにピタリと動きを止めるッ!
いや、止まったのはスタンドではないッ!

「な、なにいいぃぃぃぃぃーーーーーッ!?これはッ!!私の体に…いつの間に『仕掛けていた』のだッ!?」

動きを止めたのはプッチ!どういうわけか体が動かせない…いや!よく目を凝らせばプッチの体に何かが『巻きついて』いるッ!

「そう!それよそれッ!!俺はお前のその『慌てふためる表情』が見たかったんだぜぇーーーーーーッ!!まんまと引っ掛かりやがってこのバーーーーーカッッ!!!
誰の戦術が『薄っぺらい』ってぇ!?その薄っぺらい作戦に綺麗にドハマリしたアホ野郎がよく言うぜッ!テメェの体をよぉ〜く見てみなッ!」


448 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:20:22 u2lYNGN20
ギャハハハとプッチを指差しながら大笑いするジョセフ。言う通りよく見れば巻き付いている物は細い『毛糸』ッ!
プッチの気付かぬ内にジョセフはこっそり毛糸を胴体に巻き付けていたのだッ!


(一体いつの間に…いや、まさかッ!あの二体の『人形』ッ!!)

「おぉっと今更気付いた所でおせーんだよタコ助!お前は人形を風で吹き飛ばすんじゃ無くて『叩き落す』べきだったなッ!
俺の人形には全て『糸』が巻き付けられていたのさ!この俺の『指先』に繋がるようになぁ!」


ここで種明かしとばかりにジョセフは両の掌をプッチに向け開いて見せた。
その指先からはよく見れば確かに『毛糸』がツツーっと伸び、プッチの体を完全に拘束している。

ジョセフが最初に飛ばした二体の人形はプッチを攻撃する『ためではない』ッ!
ジョセフと人形を繋いだ糸によってプッチを『縛り付ける』ために飛ばしていたのだッ!

プッチの風の攻撃で人形が吹き飛ぼうが、糸が人形から外れさえしなければ問題ない。
上空に飛ばされた二体の人形はプッチに気付かれぬように糸を垂らしながら、上空から対象の周りを旋回して交じわうようにコッソリ糸を張ったッ!

最終的にジョセフが腕を引っ張り上げ、同時に人形も互いを糸で引っ張り合えばプッチの周囲に張った『罠』が炸裂、瞬間的に敵の体を雁字搦めにする事が可能なのだッ!

しかも今の時間帯は早朝。既に東の空から明るみが差し込み始めてるとはいえ、まだまだ闇が残るこの場所では糸の存在にも中々気付きにくい。
そのうえジョセフは『もうひとつ』、糸そのものにも工夫を施していた。


(クッ…!こんな毛糸如き、簡単に引き千切りたい所だが…ッ!『力が入らない』…ッ!これが『波紋』かッ!!)

そう、ジョセフは指先から糸を伝ってプッチの体に『波紋』を流し込んでいた。
しかも毛糸には波紋を伝えやすい『植物油』が念入りに染み込んでいる。これも当然、東方家から調達していた物だ。
糸から伝わる波紋の力がプッチの体の自由を奪う。腕も全く動かすことが出来ない。プッチは一転して、絶対絶命の状況に追い込まれてしまった。


449 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:21:20 u2lYNGN20
(やられた…ッ!この男はさっき『人形は糸で動かすフリ』だと言って遊んでいるように見えたが…そんなものは『大嘘』だったッ!
確かにこの人形共は奴自身の命令で自立して動いているのだろうが、糸で動かす『フリ』をしているそのスタイルこそが『フリ』だったのかッ!
まさか本当に人形に糸が仕掛けられていたとは…ジョセフ・ジョースター、この男は噂以上の『ペテン師』だッ!!)


油断していたわけでは決して無い。プッチは本気でジョセフを完膚なきまで叩き潰す気でいたのだ。
それでもジョセフの戦法はプッチの上へ行った。スタンドを持たないというハンデを抱えてなお、ジョセフの知恵が勝負をひっくり返した。
戦闘中に人形に細工する仕草は見当たらなかった事から、ジョセフはプッチと出会う前から念入りに戦闘の準備を進めていたのだろう。いつでも万全の状態で戦えるように。


(やれやれ…つくづく私は『糸』と相性が悪いな…。このジョセフという男、あの『空条徐倫』とは似ても似つかぬタイプだ。
DIO…君がジョースターの一族を排除すべき『宿敵』だと言った理由を改めて『再確認』したよ…。この一族は『危険』だ。絶対に生かしておいてはいけない)


焦燥の汗を流しながらもプッチのドス黒い視線はジョセフを刺し続ける。
この一見温和そうな聖職者のどこからこれほどの禍々しい殺気が放てるのだろうか。その視線はどこか『決意』めいた物が混ざり秘めているようにも感じる。
だがプッチのその行為はジョセフからすれば死に際の悪あがきにも等しい、苦し紛れの抵抗にしか見えない。


「そんな視線じゃあ俺は勿論、猫だって殺せないぜ神父様よぉー?
そのザマじゃあもう終わりだな、だが安心していいぜ。拷問できる程度には生かしといてやる、お前には色々聞きたいことがあるんでな。
とりあえずまずは眠っていてもらおうかい」

指をニギニギと蠢かせながら妖しくプッチに近づいていくジョセフ。波紋による攻撃を直接拳から流し込もうという気である。
最早今のプッチは虫の息といった状態。スタンドも動かせず、体中を流れ続ける波紋によって呼吸する事さえ困難なのだ。とてもここから反撃できる状態ではなかった。

そんな時、プッチはいつも心を平静にして『愛する神』に祈ってきた。
肌身離さず持ち歩いている『十字架』を握り締め、彼は落ち着いて『素数』を数え出す。


(2…3…5…7……『素数』は1と自分の数でしか割る事の出来ない孤独な数字…いつも私に勇気を与えてきてくれた…11…13…17…19…
今の私にはただ『祈る』しか出来ない…23…29…31……『彼女』の『覚悟』が完了する事を、ただ祈るだけだ……37…41…43…)




パ ン ッ



1発の渇いた火薬の音が朝の人里に響く。

同時にジョセフの胸から血飛沫が弾けた。


450 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:22:28 u2lYNGN20
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

私は家の玄関口からコッソリ覗き込むように、ジョセフお兄さんと神父さんみたいな服を着た男の人の戦いを見守っていた。
どうやって感知したのかは分からないけど、ジョセフお兄さんは突然「誰か来る」と言ったきり、私を残して外へと出ていったんだ。
出て行くお兄さんの後姿を眺めながら、恐らくこれから激しい…『ころしあい』が繰り広げられるんだ、なんて確信を持ちながら私は不安の気持ちで膨らんでいく自分の心を抑え付けるので精一杯だった。


今でも脳裏に残る愛しき藍様の、身が凍り付くような命令。



―――三つ以上の首を持ってきたら、褒美をあげようじゃないか、橙…



そりゃあ、怖いよ。大好きだった藍さまにあんな酷いことまでされて…『三人殺してこい』とまで言われたんだもん。
私は妖怪。人間を襲うのが生来からの性質。分かってる。そんな事ぐらい幻想郷の人達はみんな知ってる常識。
でも、この世界では…何か『違う』。私が妖怪だから人を襲うとか、そんな漠然とした『常識』では計れない何かが動いてる。
こんなおぞましい世界での『死』に、一体何の意味があるんだろう…?私には全然見当も付かない。


でも…でも…ひとつだけ分かる事はある。

『私は悪くない』。死ぬのが嫌なだけなんだ。

…藍さまも、きっと悪くない。藍さまは…必死なだけなんだ。
紫さまを守るために、一生懸命になってるだけなんだ。私だって紫さまが死んじゃうのは絶対ヤダもん。

悪いのは…きっとあの二人の『男の人たち』。秋穣子を殺して、こんな恐ろしいゲームなんかを開くあいつらこそが真の『邪悪』に違いない。

私に殺人を強要させているのは藍さまなんかじゃない。あの主催者達なんだ。


―――『だから私がジョセフお兄さんを見殺しにするのも、きっと悪くない』

―――『お兄さんを殺すのはあの主催者。私じゃ、ない』

―――『私は悪くない。悪くない。きっと悪くない。悪いのは私じゃない。藍さまでもない。悪いのは主催者だ私じゃない私はきっと悪くない絶対に悪くない私は死にたくないだけだもん私は私はきっと悪くない死にたくない




―――だからお願い。ジョセフお兄さん…………どうか、ここで死んでください』








―――橙は、震える体で唇を噛み締め、ただただ祈っていた。

ジョセフの死を。あわよくば、神父の死さえも。


451 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:23:29 u2lYNGN20
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
――― <早朝> E-4 人間の里 虹村億泰の家 ―――

―――どうもさっきから外が騒がしい。

四つ目のコンビニおにぎりの袋を開けながら、因幡てゐはふと家の外が気になった。

コンビニから遠慮なく頂いてきたツナマヨおにぎりはどうやらてゐの好みにドンピシャだったらしく、舌鼓を打ちながら二つ目、三つ目と平らげていった。
握り飯の具にこんな美味い物があったのか!外界の食文化に軽い衝撃を受けながらパクパクモグモグとその口は止まらない。

おにぎりのお供には勿論お茶…とはいかなく、てゐがガメていたのは大好きな人参ジュース。おにぎりに一口かぶりついてはジュースをゴクゴク。かぶりついてはゴクゴク。
三つ目のおにぎりを全て喉に通したところで、最後の人参ジュースは空の容器と化した。
とは言ってもエニグマの紙にはまだまだ第二第三の人参ジュースが潜んでいるのだが。

ブチャラティの奴は今頃どうしているかなー、他の参加者はどんどん潰しあっているんだろうなー、などとこの場においても随分呑気に物を考えながら四つ目のおにぎりと人参ジュースを取り出す。
外界にはこんなにも手軽にあらゆる食料(特に人参ジュースである)を手に入れられる施設があるんだなぁ、とちょっとした羨望の念を浮かべながら、おにぎり袋の梱包をすっかり慣れた手つきで開けている時である。


「―――オイ!そこに居るのは分かっているんだぜ!出てきな!」


ビグゥッ!!


突如てゐの居座る部屋内にまで聞こえてきた男の怒鳴るような叫び声を、彼女の自慢の長い耳が捉えた。
持っていたおにぎりなど驚き零し、モフモフの尻尾も長いウサ耳も瞬時にしてゾクゾクと逆立ち、胡坐で座っていた姿勢から驚きのあまり五センチは飛び上がってしまうほど。つまりそれだけ本気でビビったのだ。

心臓が口から飛び出てしまうぐらいにドッキリしながら、文字通り脱兎の如く傍に置いてあった大きな箱の中にサササっと隠れる。
小動物じゃああるまいし、こんな情けない姿は他人には絶対に見せられない。腰が抜けなかっただけマシというものだろう。


そのままてゐは息を殺しながら、数十秒ほど箱の中で丸まるだけの時間が過ぎていく。


452 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:24:13 u2lYNGN20
…………
………
……
…いや、待てよ。待て。この部屋は屋根裏部屋の密閉空間だぞ。天井には天窓が付いているが、そこには誰の姿も見えない。
私がこの部屋に居るなんて、誰にも分かるわけないんだ。ていうか、声の主はどうやら家の外から叫んでいたようだ。


そっと、そぉ〜っと箱を開けながら外の視界を覗き見る。………やはり部屋の中は異常なし。
近くには絶対に誰も居ないことを確認して、てゐは空中をクルリ一回転しながら勢いよく箱から飛び出し、着地して鼻を鳴らす。


「ハンッ!だぁ〜〜れも居やしないじゃない!この私を驚かそうなんて100億光年早いってものだよっ!」

調子に乗ってファイトポーズで腕を構え、誰も居ない空間へとシュッシュッとシャドーボクシングよろしくパンチを繰り出す。
全く以ってお調子者のてゐらしい行動だが、その顔は情けなさからか少し紅潮している。

すぐに空しく感じ冷静になったてゐは、警戒しながらドアを抜けて二階へ降りてゆく。
少し広めなその部屋の壁には何故か大きな穴が開いており、そこから外の状況を窺い知る事が出来た。
眼下を見下ろすべくひょっこりと顔だけを穴から覗かせるが、ピョコピョコと動く長い耳のおかげで全く隠しきれていない。


てゐの眼に映ったのは筋肉隆々のマッチョ体型の大男。そして黒い肌の聖職者の服装をした男。その二人の男が互いに睨みを効かせるように対峙し合っていた。
二人の会話は聞き取ることは出来ないが、その雰囲気は見るからに物々しく、とても朝の和やかな会話を楽しんでいるようには見えない。


と、そこで神父風の男の傍にいつの間に出現したのか、『大きな人形』のような像が立っていた。あれが噂に聞く『スタンド』とかいう奴だろうか。
となればあの神父はブチャラティと同じ『スタンド使い』。何かしらの『能力』を持っていると考えられる。
対するマッチョの男の方もどうやら三体の空飛ぶ人形を操っている。
てゐは一瞬「アイツもスタンド使いか?」と思ったが、あの空飛ぶ人形はどこかで見た事がある気がする…
そうだ、確かあの七色の人形遣い、アリス・マーガトロイドが使役していたタイプの魔法人形じゃなかったか?そうそう、確かそうだ。

つまり…えーとどういう事だろう?神父がスタンド使いでマッチョの男の人形は支給品か何か、って考えで良いのかな。どちらにしろ得体の知れない奴らだ。
てゐが考えを巡らせている間に、二人の間に動きが起こった。マッチョの男が人形を飛び掛らせて攻撃を開始したのだ。


453 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:25:09 u2lYNGN20

「って、オイオイ始まっちゃったよッ。何でわざわざ私ン家の近くで戦闘開始するのよ!見えない所でやってよもーッ!」


「他人の家にズカズカと上がりこんでよくもそれだけ勝手な台詞が吐き出せるものだね君は。
その図々しさは僕もある意味見習う所アリ、っと言ったところなのかな」


「いやいやそうは言ってもね、私だって好きでこんな所に立て篭もっているわけではないんだよ?
どこぞの普通なる魔法使いと違ってちゃんと玄関から丁寧に入ってきたし、家主も見当たらないみたいだから………………………」


眼下の戦闘を観察しながら、てゐはそこまでの台詞を言い吐いて言葉を呑む。
そしてカラクリ人形のように首をコキコキと曲げながら声の聴こえてきた方向をゆっくりと振り向いた。



「やぁ。ご無沙汰してるね、幸運の白兎さん」


「びゃああああああぁぁぁぁあああぁぁああーーーーーーーーーッッ!!!???」


本日二度目のビックリがてゐを襲った。
今度という今度こそ全身の体毛が抜け落ちそうなほど逆立ち、心臓がひっくり返りながら口から発射されそうなほどに吃驚仰天する。
あまりの驚きに後ろ跳びでピョンピョンピョンと大きく三回の跳躍を発揮し、壁の隅まで退避して威嚇態勢を見せる。
懐の閃光手榴弾のピンはすぐにでも抜ける姿勢だ。


「…君は兎の他にも海老みたいな動きが出来るみたいだね。何もそこまで驚く事も無いだろうに」

「な、なななななな何だお前ッ!!あのボロ道具屋の店主じゃんッ!!わ、わ、私に近づくなッ!」
(ビッッックリしたぁぁーー!声を掛ける前にひと声掛けてよコイツもッ!うわー我ながら情けない姿を見せてしまった…!)


454 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:25:58 u2lYNGN20
いつのまにこの家に侵入してきたのか、てゐの前に現われたのは古道具屋の香霖堂を営む店主「森近霖之助」その人である。
てゐとてこの男とは知らぬ仲というわけでもない。たまに店の品を覗いたり、気に入った物があれば『ツケ』で支払う程度にはよろしくやってる間柄ではある。

故にてゐはこの霖之助という男の性格は把握しているつもりだ。
こいつは争い事にはとんと不向きな性格をしている。普通に考えたらこのゲームには乗っていない、と考えるのが正解…なのか?

「―――と、いった所かな?君の考えている事は。そうだね…君が思っている通り、僕は勿論このゲームには『乗っていない』。
乗れるわけがないだろう、戦えもしないこの僕が」

(うぐ…心を読まれた。何かムカつく。…いやいや、コイツの言ってる事を鵜呑みにするほど私は馬鹿じゃないぞ。
乗っていないと言いつつ『だまし討ち』を仕掛けてくるかも…)

疑心暗鬼に陥るてゐ。それはそうだろう。乗っていないと一言言われただけでホイホイ信じる馬鹿もそうは居ない。
もしてゐが『乗った』立場だったなら、霖之助のように何食わぬ顔で近づいてきて隠し持っていた刃物でグサリと一発。
それだけで事が終わってしまう。武器があればだが。


「僕を疑っているみたいだね。まぁ無理もないか…。証明する手立てが今のところ無い以上、信じてくれとしか言えない。
でももし僕が乗っているんだったら、さっきの無防備な君をそのまま不意打ちで攻撃していたんじゃないかな?
この家に上がりこんだのだって何か使える物が無いか探していただけさ。
貰える物を貰って外へ出ようとしたら…近くで戦闘が始まっていたみたいでね、二階から様子を見ようとここまで来たという訳だよ。納得したかい?」

「…納得して欲しかったら支給品を見せなよ。舌先三寸ばかりじゃあ信用できる物も出来ないよ」

「…僕からすれば君にも当てはまる言葉だけどね。まぁ…良いか。僕の支給品は『スタンドDISC』なる物と『賽子』の3つセットだ。
正直どう扱った物か、使いあぐねている。『スタンド』などと言われてもまるで意味が分からないしね。
…ところで僕がまず教えたんだ、次は君の支給品の事も教えて欲しいんだが」

(まっ、そうなっちゃうよねー。しかしこいつスタンドDISC持ってんのかー…欲しいな。欲しい。けど…)
「いや待ってよこーりん。私の支給品聞く前にアンタ、大事な事まだ聞いてないじゃんか。『私が乗ってるかどうか』普通聞くじゃない?」

てゐの言う事は一理ある。確かに霖之助はスタンス不明のてゐに対して少し不用心が過ぎる。
大した確認もせずに自らの支給品をペラペラ喋り出し、信頼を得ようとしてもこれでは逆に怪しまれるのではないか。

おまけにてゐは幻想郷においてお世辞にも人格が整っているとは言い難く、その性格は根っからの詐欺師紛いのもの。
心の裏では何を考えているのか分からないといった、食えぬ性格で名が通っているのだ。
そんな問題の塊しかないようなてゐをこうもあっさり信じ込めるようなものなのか。


455 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:26:45 u2lYNGN20
「ん…そうだな…。これは僕の勘でしかないが、君は『今のところは』乗っていないような気がするね。
少なくとも君は心は腹黒だが、積極的に人を傷付けていくような奴じゃない…そう思った。だから話しかけたんだ」


褒められているのか貶されているのか、兎に角どうやらてゐは霖之助の信頼を得る事が出来ているらしい。しかしやっぱり腑に落ちない。
てゐは霖之助の眼差しをじっと見る。燃えるような色や、怯えるような色は見せていない。
殺人者の見せるドス黒いそれでもなく、弱者の見せる恐怖に屈した色も感じ取れない。

何というか、坦々とここまでを、そしてこれからを行動しようとしているかのような『達観』したような眼。
気概も見せず、絶望も見せず。生き残る事を半分諦めているかのような眼をしていた。


(もしかしたらこの場で死んでも仕方無いや、みたいに考えてるのかな。私に殺されても文句は言わなそうだな。
この人がどこでくたばろうが私には関係無いけど)

こんな状況じゃ、生き残れそうなタイプじゃないな。霖之助を見たてゐの感想はそれだった。
しかし特に死にたいとも思っているわけでもないらしい。それなりに努力はしてみよう、その程度の気力がある事はてゐにも感じられる。
それならばここは互いに協力関係を築いても損は無いだろう。都合の良いことに、相手の方は自分を一応は信じてくれているのだから。


「まーアンタの言った通り、私はゲームに乗っちゃいないよ。『今のところはね』。
支給品だって武器と言えるような物は無い。この『ハズレのスタンドDISC』だけだよ、残念だけど」

そう言いながらてゐはデイパックから使い道の無いハズレDISCを取り出して霖之助に見せ付けた。
ブチャラティから譲り受けた閃光手榴弾は隠しておく。わざわざ言う必要は無いし、もしもの時のたった一つの緊急逃走手段なのだから。


「…成る程。では、お互いの支給品確認を行ったところでじっくり詳しい情報交換をしたいところだけど、どうも『彼ら』の戦いの結末が気になるね。情報交換はその後で良いだろう。」


―――『彼ら』というのは当然、外で戦っているあの二人の事だろう。

そういえば…と、てゐは突然現われた霖之助の事で頭から抜けていたが、現在この家の外では二人の男が絶賛激闘中だったのを思い出す。
てゐからすれば面倒事はさっさと終わってくれないとおちおち外にも出れやしない。
とにかく早く終戦して欲しいものだ、と外を覗くために壁の大穴に向かって歩き出す。



パ ン ッ



―――1発の炸裂音が響いたのは丁度その時であった。


456 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:27:37 u2lYNGN20
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

―――『君は本当に心を閉ざしているのか?』

―――『私の目には、都合の悪い重荷ごと自らの心を捨て去り『解放』されているかの様に見える』

―――『神の教えを尊ぶ立場にある君は、きっと私の友になれる。『天国』へと行ける素質がある』

―――『天国へと至れば、プッチも、君の愛する者達も、そして君も…皆が幸福になれる』

―――『力とは時に『勇気』と『覚悟』を与えてくれるんだよ、こいし』

―――『君はまさか…一欠片の勇気も振り絞らず、一滴の血も流さずに、この殺し合いを生き残れるとでも…思っているのかい?』

―――『現実から目を逸らすな。『覚悟』することが幸福だぞ―――なぁ、古明地こいし』

―――『…さあ、話は終わりだ。プッチの下へ戻るといい…そして君の『勇気』で、彼を助けてやってくれ。
君に渡した銃はそのきっかけだ。そうして勇気を振り絞った時…君は『覚悟』を手にするだろう』

―――『覚悟』は人を幸福にする。君が奮い立つことを、私は願っているよ――さらばだ、こいし』


457 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:28:23 u2lYNGN20
もう、ずっとだ。さっきから、ずっと。
コロッセオでDIOと別れても、あの人が放ったひとつひとつの言葉が、まるで茨の様に私の脳髄と心を縛り付けて離さない。
耳にこびり付く様な甘くて妖しげな声が、今でも頭の中を反芻して鳴り止まない。

自分がこれからどうすれば良いのか分からない。…しかし、ひとつの『道』は指し示された。
『DIO』と『神父様』の二人は私に確かな道を示してくれたんだ。

私―古明地こいしは今、その道の『分岐点』に立っている。『右』か『左』か。『前』か『後ろ』か。このまま永遠に『立ち止まったまま』か。
それは『勇気』を試す、私にとっての『試練』なのかもしれない。
抱く様にして腕に持つのはDIOから授かった小銃。コレを見るだけで頭がどうにかなりそう。

民家の陰からそっと大通りを覗き込む。
見えるのはおっきな男の人の背中。向こうで神父様と…戦っている。
あの男の人が…『ジョースター』。神父様達が、戦わなければならない敵…
私には、なんにも分からない。あの人がどういう人で、何故死ななければいけない存在なのか。


458 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:29:09 u2lYNGN20
―――それは、こいしとプッチが人里内に足を踏み入れる直前の事だった。


「こいし。今から話す私の話をよく聞いて欲しい。
今、この集落内に『一人の人間』が潜んでいる。…いや、もしかすれば仲間が居るのかもしれないが…とにかく『ある人間』が居るんだ。
『そいつ』は私やDIOにとって絶対に乗り越えなければならない存在。深い『因縁』で結ばれているんだ。
ここまでは良いかい?」

目の前に広がる人間の里を指差しながら神父様はあくまでも穏やかに話し掛ける。
まるで父親が愛する子供に大事な言いつけを教えようとしているみたいに、神父様は私の肩に優しく手を置いて話を続けた。

「私は『奴』がこの集落に入り込むのを待ってたんだ。
この場所なら周囲に遮蔽物が沢山ある。不意を狙って『狙撃』するにはうってつけと言うわけだ。
恐らく奴の方も私の接近に気が付いているだろう。私達には『星の共鳴』があるからね。つまり私では『不意をつけない』…分かるかい、こいし?」

分からないよ…神父様が何を言っているのか、分からない。
みんな、私に何を望んでいるの…?『狙撃』ってなに…?誰が、何を撃つっていうの…?

「怖がっているのかい?君の気持ちはよく解る。何しろ銃だ。引き金を弾くだけで簡単に他者の命を奪えるなんていう代物なのだからね」

ゾクリと身が震えた。神父様は、DIOと全く同じ事を私に囁いたのだから。
一度は治まったはずの恐怖による身震いが再び私の身体を襲ってきた。その震えを宥める様に神父様は私の頭に手を伸ばして撫でてくれる。
親鳥が雛に狩りの仕方でも教えるかのように、私は神父様から『お願い』を受けた。


これから神父様は『ジョースター』という血族の人間との争いに赴くらしい。
そして神父様のお願いというのは、『とても簡単なこと』なんだと言う。
神父様がそのジョースターと戦っている隙に、私が後ろからコッソリ近づいてこの銃をたった『1発』。敵に向かって引き金を引く。

ただの『それだけ』。難しいことは無い。
神父様曰く、私の『無意識を操る能力』を使えば気付かれる事なく安全に撃ち抜く事が出来る、と。

『とても簡単なこと』…と言うのなら、確かにそれは何の事は無い。気配を消して、後ろから絶対に当たる距離で銃を撃てば良いだけ。
長距離から狙撃するわけでもない。私なら、確かに可能かもしれない。


459 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:30:01 u2lYNGN20

「で、でも神父様…!私は…!わたし…っ!」

「分かってる。落ち着いて…君の言い分も理解できる。でもね、こいし。これは物凄く大切な事なんだ。
私やDIOにとってだけではない。君にとっても、君の『家族』にとっても大切な『儀式』なんだよ」

「私の、家族…?お姉ちゃん達とか…?」

「そう。ひいては『人類』のためさ。こいし、例えばこのゲームに乗ってしまった人達が居て、彼らは何故乗ってしまったんだと考える?」

「え…そんなの、私に分かるわけがないよ…。こんなこと、初めてだし…」

「難しく考える必要は無いよ。『シンプル』で良い。
そうだな…彼らはきっと『怖いから』だ。死ぬのが怖い。だから生きる為に『殺す』。
その考えそのものは『生』ある者として当然の心理だと私は思う。自分達が生きる為に人々は他者の命を『奪わざるを得ない』…
それは日常の世界でも当たり前の様に存在するこの世の『ルール』なんだ。君の言う『幻想郷』でも同じなハズだよ」


それは…確かにそうなんだろう、けど…でもこれはそんなに単純には割り切れない話なのではないだろうか…?


460 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:30:55 u2lYNGN20
「私は生きる為にゲームに乗ってしまった人達を良いとか悪いとか言ってるわけではない。
人は結局のところ、自分を守るために生きているのだから。
そして、人は『天国』へと行くために生きていると言い換えても良い。そこが人間の素晴らしさなんだ。
私やDIOは『生きる』ためにゲームに乗るなんて低次元な考えはしない。人類を『幸福』にするために、これから戦っていかなくてはいけないんだ。
だから私達は、君とその家族を幸せにすることが出来る。君が望むなら、家族の命は私が『保護』しよう。
しかし、戦いには『犠牲』が尽き物だ。君にもその『対価』を支払ってもらわなければいけない…そこを理解して欲しい」

「…その『対価』っていうのが、さっきの『お願い』…?」

「そうだ。新しい時代の幕開けには必ず立ち向かわなくてはいけない『試練』がある。
私やDIOにとって、それは『ジョースター』の血族なのだ。
同時に、君にとっても試練の時だ。こいし、君はこれからひとつの『覚悟』をしなければいけない。
『勇気』なくして『覚悟』はあり得ない。『覚悟』なくして『幸福』はあり得ない。
…あとは君自身だ。そこから先は君自身が決める道なんだ。
私は無理にとは言わない。私が言う事を完全に理解しろとも言わない。道を歩むのは君自身の足なのだからね…」


さて、そろそろ行かなくては。そう言って神父様は人里へと視線を向ける。
この人が向ける視線の先には何が待ち受けているのだろうか。そして私の歩む道の先に待つのは本当に『幸福』なのだろうか。

私の信じる『神』って、いったい何…?



―――それじゃあ、こいし。ここで一旦お別れだ。また再会出来るのを心から『祈って』いるよ…



……………
………



461 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:32:13 u2lYNGN20
結局私はここに来てしまった。すぐ近くには神父様とジョースターが命を削り合うようにして戦っている。
こんな凄まじい戦いに私なんかが介入できるだろうか。そもそも、私の手伝いなんて必要なのだろうか。
神父様の持つ不思議な力『スタンド』が、ジョセフと呼ばれたあの男の人に襲い掛かろうとしている。

この勝負…神父様の『勝ち』だ。心の内で私は無意識にそう感じ取った。
でも、そこからが信じられない光景だったんだ。今の今まで絶体絶命だったあのジョセフさんが、次の瞬間には『既に逆転していた』。
何を言っているのか分からないと思うけど、私もジョセフさんが何をしたのか全く分からなかった。本当に一瞬での逆転だったんだから。

ジョセフさんが大笑いしながら神父様を笑っている。殺し合いの最中にここまで陽気に笑える神経がある意味羨ましい。
でも羨ましがっている場合じゃない。いよいよ『勇気』を振り絞る時が来たらしい。

逃げ出すなら今の内だ。今なら誰にも気付かれずにこの場を離れることが出来る。
神父様には申し訳ないけど、私はやっぱり怖いよ…。そんな勇気、私には持つ事が出来ない…


足が無意識にその場から離れようと動く。

―――『ウム…それで?君はプッチを見捨てた後、どこへ逃げようと言うんだい…?』

頭の中から響いてくるのは、『あの人』の残響。

―――『私の友を見殺して逃げたその足で、家族に会いに行くのかね?何て声を掛けるんだい?』

無意識に逃げ出そうとしたその足が、無意識にピタリと止まった。

―――『私は無事だよ。お姉ちゃんに会いたかった!と、お互いに抱き合い、無事を喜ぶ?それは私の友の覚悟を『侮辱』する事と同義では?』

私の呼吸は滅裂に乱れ、背中が汗でグッショリと濡れ始める。

―――『君が勇気を持てないこと自体は、それはそれで仕方が無いことだ。それもひとつの『道』なのだから…』

深呼吸して、息を整える。――1回、2回、3回…

―――『だがそこで全身全霊を懸けて戦っている我が親友はどうなる?彼はああは言っていたが、恐らく君の事を信頼しているだろう…』

『弾』は…既に装填されている。問題無く、動くはず…大丈夫。きっと、大丈夫…

―――『何という事はないのだ…やり方は既に教えた。後は一欠片の『勇気』さ…』


462 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:32:48 u2lYNGN20

無意識に、私の足は前へ歩き出す。隠れることはやめた。

―――『落ち着いて…その引き金を引いたその瞬間、君の『本当の人生』は動き始める』

止めを刺すつもりなのか、ジョセフさんが神父様の方へとにじり寄っていく。後ろから近づく私には気付いていない。

―――『覚悟することは…人を『幸福』にさせる。君にはその資格が備わっているんだ、こいし…』

私のこの腕は『発射台』…しっかりと落ち着いて狙いを定めた者だけが命中させることが出来る。

狙いまで数メートルという所で私は無意識に足を止めた。この位置が一番安定して狙える距離だと、無意識的に思ったからだ。

ゆっくりと銃を構える。この距離は、外さない。私にはもう、信じるしかない。神父様の言葉を。DIOの言葉を。

引き金に指を掛ける。私は無意識に息を呑み、呼吸を止めた。




そして驚くほどあっさりと、私は引き金を引けた。引いてしまった。

この瞬間ばかりは、無意識にではなかった。


463 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:33:41 u2lYNGN20
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

最初に耳を貫いたのはすぐ背後から聞こえた1発の銃声。
振り返る間も無く目の前を赤い飛沫が飛んだ。


(う…く…ッ!?何だ……っ!)


胸が熱い。一瞬にして全身の力が抜けてゆく。
遅れて猛烈な痛覚がジョセフを襲う。


(誰だ……これは…どいつの、攻撃だ………ッ!)


撃たれた胸を抑えながら両膝を突く。頭から倒れることは何とか凌いだ。


(馬鹿な……『仲間』が…居ただと…ッ!?ありえねえ…ッ!『波紋のレーダー』にはこの場に『ひとり』の反応しか無かったはずだ…ッ!)


銃弾は急所からギリギリ外れていた。致命的なダメージは無いが、肝心の呼吸が整えられない。
血反吐を吐きながら、懸命の余力で首を背後まで回す。靄のかかっていく視界の中で捉えた姿は、まだまだ幼い体躯の、帽子を被った小柄な少女。
彼女は手に持った銃をカタカタ震わせ、表情を蒼白に強張らせて撃ち抜いたジョセフを見ていた。
まるで自分のやった事が信じられないという具合だ。


(チッ…まだガキじゃねーか…!おまけにアイツ、まるで気配を感じねぇ…。こいつは…しくじったぜ……ッ)


464 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:34:39 u2lYNGN20
ジョセフは膝を突いたまま体を半身だけ振り向かせて、背後の小さき狙撃者へと指をさしながら途切れ途切れの声で語りかける。

「おい…やっ……て、くれるじゃね、か…っ…お嬢ちゃん…!
なんつー…ツラ、してやがる……。あのクソッタレ野郎に…命令でも、され…たのか……?」

「あ……………っ……わた、し………!」

ジョセフの言葉で止まっていた時間が溶けだしたかの様に、こいしはビクリと肩を震わせて狼狽する。
自分は何をやってしまったのか。
頭の中から響いてきたDIOの誘惑の言を聞いているうちに、次第に心までボゥ…とぼやけ始め、気付けば引き金を引いていた。
これも無意識の所業なのだろうか。しかし引き金を引いたという感覚は確かにその記憶に残っている。

間違いなく、自分自身の意思で人を撃ったのだ。


「あぁ………………ご、ごめ……っ…なさ……」
「私の『同志』を揺さぶる真似はやめてもらおうか、ジョセフ・ジョースター」


こいしの謝意の言葉を途中で打ち消すように割り込んできた声の主はプッチ。
即座にプッチの方向を振り向いたジョセフの視界には、ホワイトスネイクの凶悪な手刀が既に目の前にまで迫っていた。
こいしの銃撃によってジョセフが糸を伝って流し続けていた波紋が途切れてしまったのだ。

波紋の束縛から解放されたプッチは躊躇い無く速攻を仕掛ける。



「テ、メエエェェーーーーーーーーーーッッ!!!!このクサレ神父がああああぁぁぁーーーーーーーーーッッ!!!!」



激昂の叫喚が辺り一帯に響き渡り、その無慈悲なる攻撃を回避する事敵わずそのままジョセフの視界は暗転した。


465 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:35:22 u2lYNGN20
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

物言わぬ躯体と化したジョセフを尻目に、プッチは埃の付いた自分の神父服を手でパッパッと払い、こいしに向かって歩き出す。

こいしは泣いていた。啜る事も無く、ただ呆然と溢れ出る涙が頬を伝うばかりであった。


―――もう、戻れない。


人を撃ってしまった。間違いなく、自分自身の意思で、だ。
流した涙の理由は、他人を傷付けてしまった事による自責の念からではない。
底の知れない、深い『闇』へと足を踏み入れてしまった事による、わけのわからない恐怖からだ。

もう戻ることは出来ない。闇から這い寄る無数の腕が私の足を掴んで離そうとしない。
しかし、そんな『闇』を振り払ってくれるかのように神父様は私の震える身体をそっと抱きしめ、頭を撫でながら優しげに声を掛けてくれた。


「こいし…よく出来たね。泣く事はない…君の行った行為は間違いなく『勇気の賜物』なのだから。その行為はこの世の何よりも美しい」


こいしには神父のその言葉が、聖母の語る慈愛溢れる言葉のように蕩けて聴こえた。
今はただ、『光』が欲しい。何にも見えない真っ暗闇の道を照らし、指し示してくれる仄かな『灯火』が…
今のこいしには、プッチとDIOしか居ないのだ。誰かに依存していないと心がどうにかなってしまいそうだ。


466 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:36:09 u2lYNGN20
「神父様…あのジョセフって人、死んじゃったの…?」

プッチの身体越しに見える倒れたジョセフはさっきからピクリとも動かない。
ホワイトスネイクの攻撃が彼の頭部に何か仕掛けたように見えたが、一瞬だったが故にこいしには理解が及ぶ所ではない。


「ん…?ああ…いや、死んではいないさ。『仮死状態』と言ったところかな。
私のホワイトスネイクの攻撃を頭部に受けた者はその記憶や魂をDISCに封印し、取り出すことが出来る。
彼はもう永遠に起き上がる事は無い。奴のハッタリにはヒヤリとさせられたが、こいしのおかげで私は勝利を手にする事が出来た。礼を言うよ」

プッチは手に持つジョセフの記憶DISCをヒラヒラと見せながら、こいしに対して礼を述べる。
こいしにはDISCなる物が何の事かよく分からなかったが、どうやらこの円盤にジョセフの魂を封じ込めている様な状態らしい。
スタンドとはそんな事まで出来るのだろうか?こいしは興味を注がれる。


「さて…とはいえだ。ジョースターの存在をこのまま仮死状態などで済ましておくわけにはいかない。完全なる『とどめ』をこの場で刺しておかなくてはな」


プッチの優しげだった眼の光が、再び鋭いモノへと変換していく。
未だ眠ったように動けぬジョセフを殺す事など、最早赤子の手を捻るより楽な作業であった。

プッチの抱擁により先程よりも多少は恐怖の心が和らいできたこいしも、やはりこれからプッチが行う事に良い表情はしない。
DIOやプッチとジョースター家の『因縁』とはそれほどまでに深い鎖で繋がれているのだろうか…。
所詮部外者のこいしには計り知ることは出来なかった。



「……………あれ?神父様、服の袖に何かくっついてるよ?」


ジョセフの止めを刺そうと動き出すまさにその時、こいしがある事に気付いた。
プッチの右袖の端に何か白い物がくっついているのだ。プッチ自身も気が付かなかったのか、不思議そうにそれを見やった。

「私が取ってあげるね、んしょ…」

殆ど無意識の反射でその白い物体を短い腕で取ってあげるこいし。どうやらそれは小さく折り作られた『紙飛行機』らしかった。
なんでこんな所にこんな物が…?こいしも不思議に思いながら、何の気無しにその紙飛行機を『開いてしまった』。

その様子を見てプッチは、果てしなく嫌な予感がした。自分が先程も身を以って体験したばかりのジョセフ・ジョースターという男の『真髄』。
戦いの十手先を予見し、のらりくらりと罠を張り、ハッタリをかます。彼はそうやって数々の死闘を潜ってきた百戦錬磨の詐欺師。

プッチはこいしの行動を制止しようと勢いよく腕を伸ばし、彼女の持つ紙を掴み取る。

しかし、その時既にプッチはジョセフの『罠』へと嵌まり込んでいたッ!


467 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:36:43 u2lYNGN20

「こいしッ!!その『紙』を広げるなッ!!手を離………!」

ボ ゥ ン ッ !


遅かった。完全に開いてしまったエニグマの紙の中から猛烈な勢いで飛び出してきたのは、ジョセフがパートナーの橙から譲り受けた支給品『要石』。
恐らくジョセフが作動させたまま紙へと仕舞っていたのだろう、それを開いた瞬間プッチの足元へと飛び出た要石は、瞬く間も無くプッチの体を乗せて高速で空へと上昇していく。


「な…なんだとおおおおぉぉぉおおーーーーーッッ!?」

「え……っ!?え……っ!?し、神父様ッ!?」

慌てふためくこいしと、地面に倒れたジョセフの姿がどんどん小さくなっていく。
あまりに一瞬の出来事。プッチは反応する事さえ出来ずに高速上昇していく岩にしがみ付くしか出来なかった。
右手に握ったままのエニグマの紙。視界に映ったその紙には汚い文字でこう書き連ねられていた。



『グッバアアァァ〜〜〜イッ!せいぜいお空の旅を楽しんできてちょうだいネ♪…おっとそうそう、これだけは言っとかないとな。
――次にお前は、『貴様、よくもこんな目に!』…と言う――
ま、俺にはそれが当たっているか確認できそうに無いけどな』


「……ッ!!ジョセフ・ジョースタァァァァアアーーーーーッ!!
『貴様、よくも私をこんな目にィィイイーーーーーーーーーーッッ!!!!』」


完全に怒り沸騰のプッチはグシャリと手に持つ紙を握りつぶしながら、どこに行くのかも分からぬ空飛ぶ岩と共に朝の天空へと消えていった。
その絶叫とも聞こえるプッチの叫声も、こいしの耳からはどんどん遠ざかっていく。
この策士にして詐欺師、ジョセフ・ジョースターという男に、プッチは最後の最後にしてやられた。

未だ状況を上手く把握出来ていないこいしは、天へと昇る小さな影を黙って見送ることしか出来なかった…


468 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:37:40 u2lYNGN20
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

呆然と見上げるこいしをよそに、ジョセフの魔法人形がフワフワと戻ってくる。
主の意識が無くとも自分達に出来る限りの奉仕はこなす。
直接的な攻撃能力は無くとも、可能な範囲での思考・行動が出来るこの魔法人形は中々に優れた自立式の傀儡なのであった。

三体の人形は互いに集まり、文字通り地に足がつかない様子でそわそわキョトキョト。
言葉は喋れずとも彼らの間には通じる物があるのだろうか。

いずれ一体の人形が地面に落ちていた光る円盤の存在に気が付く。
無論、先の混乱の最中にプッチが落としてしまったジョセフの記憶DISCである。
このDISCがジョセフの頭から抜かれた瞬間、彼はそのまま死んだように眠ってしまったという事実から人形達は一生懸命考え、やがて結論に辿り着く。

フヨフヨと倒れた主の位置にまで移動し、短い手に持つDISCをジョセフの頭にそっと挿入する。
するとどうだ。童話の白雪姫が如く深い眠りについていたジョセフの瞼がゆっくりと開かれていく…と思いきや、彼はいきなりバッと目を見開いてその場から立ち上がり、吼えた。



「―――ッウオオォォーーーッ!!?あ、危ねえッ!!!死んだかとオモッターーーーーーーッ!!生きてるッ!!ラッキーーー!!!」


飛び起きたその勢いで両手を天へ伸ばし、満面の笑みで拳を握る。
DISCを奪われた状態でも微かな意識が残っていたのか、昏睡していた時間の出来事の記憶は朧げながら存在していたらしい。
既に姿の見えぬ神父が飛んでいった天へと向かって「ザマーミロ!」「クソ野郎!」などの罵言を吐きながら指を立てるジョセフ。しかも方向は逆である。


469 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:38:39 u2lYNGN20

「……ツッ!!ッてェェ〜〜!わ、忘れてたぜ…撃たれてたんだった…」

忘れていた痛覚が身体中を駆け巡り、再び片膝を突く。死力の限りでプッチを退けた事の余裕からか、さっきよりも呼吸は安定している。
とはいえ、このまま血を流し続けてはマズイ。ジョセフは撃たれた胸に手を当て、得意の波紋の呼吸を行う。
コレばかりは流石のジョセフも真剣な表情で気を引き締めた。

傷口から胸へ。程なく身体中の全器官へと生命波紋のエネルギーが澄み渡る。
もし撃たれていたのが波紋使いの弱点、『喉』か『肺』だったならばかなりヤバかった事になる。


(フゥ〜…何とか一命は取り留めたってところだな。こんな事もあろうかとあの『要石』は作動させたまま紙に入れといたのよん。
紙飛行機にして相手に気付かれないように飛ばし、開ければすぐに飛び出てくるようにな。
作戦は成功したが要石はあのまま持ってかれちまった…ちょっと乗ってみたかったんだけどなぁ…)


波紋での治療をしながらジョセフは少し残念そうな顔で上を見上げる。
と、そこに主の心配をしていた人形達がジョセフに擦り寄って来る。表情は無いがどこか嬉しそうである。

「お!お前らも無事だったかシャルルにピエール!それと…えっと、フランソワ!(見分けはつかないが)
お前らが俺を救ってくれたんだな!ありがとよ!」

自分の命の恩人である魔法人形に律儀に礼を言うジョセフの姿はどこか滑稽だったが、人形達も主の生還を喜んでいる様なので、これでめでたしなのである。






「う…動かないでッ!!」




処置を終えたジョセフの耳に飛び込んだのは、震えながらも精一杯の覇気を醸し出そうとする幼い声。
ジョセフが後ろを振り向けば、そこには小銃を構えてこちらを狙う古明地こいしの怯える姿。
彼女は頼る者が居なくなった今になって、ようやく『絶対的な窮地』という現状を把握したのだ。


470 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:39:06 u2lYNGN20

「し…神父様をどこへやったの…ッ!返してよ!!今すぐ返さないと…許さないんだから!!」

「…………」


獰猛を露わにする幼子の表情の中に入り混じる狼狽の色は、ジョセフに違和感を与えるには充分な判断材料となった。

―――どうやら、なにかワケありらしい。
彼女の震える声と腕を呑気に観察しながらジョセフは最終的にそう感じた。だからまずは刺激しないように、いつもの調子で対話を試みる。


「ねぇ、お嬢ちゃん。アンタ、なんであんな嫌な神父と一緒に居たの?嬢ちゃんの保護者かなんか?」

「こいし!古明地こいし!」

「…そりゃ失礼、こいしちゃん。俺はジョセフ・ジョースターってんだ。クールで紳士なナイスガイだろ?
で、話を戻すけどさ、アンタどー見てもゲームに乗って殺して回る様な奴には見えないぜ。俺を撃った時もビビリまくってたじゃあねーか。
多分銃なんて撃ったのも初めてだったろ?……あの神父に無理矢理協力させられて…」

「違うッ!!わ、私は自分の意思で…あ、貴方を撃ったんだもんッ!神父様は関係ない!!!」

「…今のお前さんの顔を見てると、俺はそうは思わねーなー。アイツを庇ってんのか?あの神父とこいしにはどんな関係がある?」

「し…神父様は『いいひと』なんだもん!
独りぼっちで不安だった私の話を真剣に聞いてくれたッ!私の悩みに対して真摯に答えてくれたッ!諭してくれたッ!
そりゃあ…『DIO』と一緒の時やこの里に入る時はほんの少しだけ…怖かったかもしれないけど!
あの人は私の家族を『保護』してくれるって約束してくれたし!私に『勇気』を教えてくれたッ!
今の私には神父様とDIOしか居ない!きっと私の味方になってくれる!
何も知らないクセに神父様を悪く言わないでよッ!!」


471 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:39:47 u2lYNGN20
(DIO…か。俺のジイさんが倒したはずの『因縁』の敵が…!あの神父とも何らかの繋がりがあるらしいな…)
「…こいしが奴らに対してどんな気持ちを抱いているのかは知らねーけどよ、神父はともかくそのDIOはどーしよーもねークソッタレの悪人だと俺は聞いてるぜ。
現にお前は怖がってるじゃねーか。小さな女の子に銃撃たせる聖職者がどこの世界に居るってんだ。
目を覚ませ、こいし。お前はDIOと神父に利用させられてるだけだ。お前のやった行為は『勇気』とは言わねーよ。
俺と一緒に来い。俺がお前を守ってやる。どーしよーもない悪人達からな…」

「煩いッ!私に近づかないでッ!!」



パァンッ!



こいしに差し向けた手を拒絶するように彼女は引き金を引く。
逸れた弾道はジョセフの頬を掠り、その頬には紅い一線が走る。それでもジョセフはこいしを見据えて動じない。
動揺しているのは銃を撃ったこいし本人。彼女は間違いなく命中させるつもりで発射したハズなのに、当てることは出来なかった。

ふと、こいしは自分の視界がぼやけている事に気付く。
これは自分の涙だ。今日何度目になるか分からない涙を流していた。
銃を構える腕もさっきから震えるばかりで一向に治まらない。


―――私は、恐れているのだろうか…?ジョセフに?それともDIOに?神父様に?


472 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:40:23 u2lYNGN20
分からない。何を信じて、何が信じられないかも、何もかも。
どうしてこの人は私にそんな優しい言葉をかけてくれるの…?私は彼に酷い事をしたっていうのに!


―――『こいし…また怯えているのかい?…だが安心するといい。君は既に『資格』を手にする事が出来た。
天国へ到達するという資格をね…。何も恐れる事は無い』


またしてもDIOの声が頭の中から語りかけてきた。その声は変わらず落ち着いた、母のような優しさを持っている。


―――『その男に近づくな。彼は口では都合の良い正義論を振りかざしているだけの『卑怯者』…信用してはいけない』


この声を聞くとやっぱり安心する…。それがとても恐ろしくて、どんどん思考が鈍っていく。


―――『さぁ…その銃を構えて…。君は既に『勇気』を手に入れた筈だよ…。試練は乗り越えたんだ。
目の前の男はただの『幻影』…君を甘い罠へ陥れようとするだけの『夢』だ…
撃つのだ、こいし…』


ぼやけた視界でもう一度前を向く。ジョセフは変わらず私に向けて手を差し出したままだ。どうすればいいの…?
決めるのは、私。この人は『黒』?それとも『白』?DIOは、神父様は…『黒』か『白』か。

今の私は…『黒』でもなければ『白』にもいない。ぼんやり無意識に突っ立っているだけの、ねずみ色の『境目』よ。
いい加減、自分自身で決めないと…!

私の『本当の分岐点』は今、この瞬間なんだ。『右』か『左』か!『前』か『後ろ』か!『黒』か『白』かッ!

私が信じるものは何!?


473 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:41:54 u2lYNGN20

「こいし。俺を信じろ…!守ってやる!!だからこっちに来い!」


―――『こいし…判断を間違うな…。君は『白』だ…!奴を撃て…!撃つのだ、こいしよ…ッ!』


頭の中でジョセフとDIOの声が衝突し、反射しあう。

(わたし…わたし……わたしは………ッ!!)




「こいし!!」
『こいし!!』



カチャリと、銃が無機質な音をたてた。





ズ タ タ タ タ タ タ タ ッ !!!


474 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:43:04 u2lYNGN20
不意に響いた銃撃音。
こいしは、既に銃を地に向けて下ろしていた。
聞こえてきた方向は、こいしの更なる『背後』から。
彼女の頬を伝う雫は光る。

撃ったのはこいしではない。ならば、誰だ…?




「さっきから何を戸惑っているの。早くそいつを殺しなさいよ、古明地こいし」




絶望に堕ちた足音が、幾つもの鉛玉となってジョセフを襲った。
二人の耳に聴こえてきたのは無情なる機関銃の咆哮。

そして氷のように冷たく、心を失った者の冷徹な呟き。



こいしが振り返ったそこには、おてんばな氷精『チルノ』が黒き殺戮の道具を腕に携えてこちらを宙から見下していた。

その眼には何の光も宿さずに。まるで氷の人形のようにジョセフとこいしを冷たい眼光で貫きながら。


475 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:43:44 u2lYNGN20
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

ジョセフがその存在に気付いたのは、少し遅れてからの事であった。


彼は静かに怒っていた。かのDIOと、今しがた戦っていた神父達に対してのやりようも無い怒りである。
彼女――古明地こいしのような小さな子供に、奴らはあろうことか銃を持たせて殺人の強要をさせていた。
こいしがそう言っていた訳ではないが、彼女の反応からして当たりだろう。


―――自分の目的の為には弱者すら利用し、使い棄てる。


ジョセフは昔からそんな人間が大っ嫌いだった。気性こそ荒いが、人一倍強い正義の心が彼を逞しく育てた。
そんな彼が今の怯えるこいしを見て、怒りを燃やさないはずが無い。彼女を助けようとしないはずが無い。

だからジョセフはこいしを説得しようとした。悪しき泥沼の中から身動きが取れない彼女に手を差し伸べ、引き上げたかった。
それ故にジョセフはこいしへの視線を外すわけにはいかなかった。彼女を真剣に助けたかったから。


それ故にジョセフは『その存在』に気付くのが遅れた。


こいしの背後に迫る『小さな影』はこちらへ近づくにつれ、少しずつその姿は鮮明に映ってくる。
人間にしてはかなり小柄で、背中には『羽』の様なものがパタパタと小刻みに羽ばたいており、少しではあるが空中を飛行していた。
こいしの背後数メートルにまで近寄ってきた時、それは右手に持っていた『黒い物体』をジョセフに向けた。

その時初めてジョセフは『ソイツ』の存在に気が付いた。瞬間、僅かに見えたソイツの瞳には何も映っていなかったのだ。
『光』も『闇』も無く、しかし氷のように冷めた殺気だけがジョセフの視線と一瞬交差した。


カチャリ、と引き金を引く音。


476 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:44:34 u2lYNGN20
(何ィッ!?)

ジョセフが殆ど反射的にデイパックに手を突っ込み、あらかじめ忍ばせておいたモノを引っ張り出して宙に撒き散らしたのと同時に、敵の持つ支給品が火を噴いた。

前方に撒いた物とは大量の『綿』。先の東方家の布団やら何やらから頂いて来た物だ。
綿に波紋を流し込み『硬質・活性化』させる事で緊急の防御シールドと成り得る日用品だ。
おまけに多少の水分を含ませることで波紋を流しやすくしているひと工夫付きである。

ジョセフはかつて柱の男の一角『サンタナ』と戦う際に、敵の放つ銃撃の嵐を防ぐべく考案した『髪の毛』をばら撒いての防御策『波紋ヘア・アタック』によりマシンガンの攻撃を防ぎきった経歴がある。
この『綿』もそれと同じ原理での防御バリアー。危険を感じた瞬間、こいしに差し向けていた右腕でデイパック内の綿を掴み、波紋を流しながら即席の盾を作成する。


ズ タ タ タ タ タ タ タ ッ !!!


「うおおおぉぉぉーーーーーーッ!!??」


ギャギャギャギャンッ!と幾つもの鉛と波紋同士がカチ合う音が空気を破り振動させる。
その隙にジョセフは猛ダッシュで近くの民家のドアを蹴破り、中へ避難した。
壁を盾にしてひとまずは腰を落ち着かせ、窓から新手の襲撃者を正体を見極める。


477 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:45:26 u2lYNGN20
(ハァ…ハァ…ッ!クソッ!また新手のチビッこかよッ!しかも今度の奴は問答無用の敵かッ!
それに俺はまだ胸の傷が痛むんだぜーーッ!この状態で連戦はちとキツイな…!
どうする…?ここは一旦逃げるか…!?)

ジョセフの頭を一瞬よぎるお得意の『逃亡策』。もちろんこれは戦闘そのものの放棄ではなく、勝利する為の一時的な戦略的撤退に過ぎない。
元よりあの悲しみに暮れるこいしの心を見捨てるつもりは毛頭無いのだ。どれほど強大な新手が現れようと全員ぶっ潰して弱者は救い出す。
ジョセフの信条は最初から揺るがない。


(あの青髪のチビッ子…(橙が言ってた幻想郷の妖精か?羽が生えてやがる)こいし嬢ちゃんとは知り合いか?
何か話しているようだが、何にせよこいしが襲われることはなさそうだ。そこは安心だぜ…)

息を整えて波紋の呼吸は途切らせない。いくら相手が子供でもこちらは手負いの身。しかも機関銃を所持しているとなれば油断は出来ない。
ジョセフは三体の人形をそれぞれ三方に散らばせた。ジョセフと人形を繋ぐ波紋の糸であの妖精を取り囲み、プッチに仕掛けたように縛り付ける作戦で行くことにした。
ただし殺しては駄目だ。あくまでも『捕縛』を目的として戦う。

こいしにしてもそうだが、この殺し合いに好きで乗ってる奴がそう多いとも思えない。
その多くが何らかの事情で乗らざるを得ないとジョセフは考えている。つくづく悪質非道過ぎるゲームだ、溜息を漏らしながら第2回戦の準備を整え、一声を張る。



「その中身少なそうな頭、少し冷やしてやるぜッ!妖精のお嬢ちゃん!」


478 : ◆qSXL3X4ics :2014/02/28(金) 14:50:52 u2lYNGN20
『Trickster −ゲームの達人−』中編の投下終了です。
見てくださった方々、ありがとうございます。

後編の投下は本日の日付が変わった後、深夜以降に投下できるかと思います。
またそれまでの間に、 ◆at2S1Rtf4A様の修正編が投下されても構いません


479 : ◆at2S1Rtf4A :2014/02/28(金) 15:03:46 6pgGmvkY0
中編投下乙です。

ジョセフらしいというか、支給品のみならず現地調達で色々
工夫する戦い方は実に彼らしい戦いぶりでした。
台詞を見て思わずニヤリとしてしまう面白さもあり楽しかったです。


480 : 名無しさん :2014/02/28(金) 15:10:45 7G1muJCE0
中編投下乙です。
ジョセフはやっぱりカッコいいなぁ…
台詞回しも凄く彼らしいし、神父を出し抜いた策略は見事としか言い様が無い
そしてこいしちゃんは白か黒、どちらの道へと進むのか…


481 : 名無しさん :2014/02/28(金) 22:33:33 xAR2M1fI0
しかしあれだな・・・ボスはDIOを倒した後のもっと強いポルナレフを
無傷で倒したのか・・・


482 : 名無しさん :2014/02/28(金) 22:36:55 UwMh7NNE0
ボスは最優秀マーダーだし


483 : 名無しさん :2014/02/28(金) 22:57:19 7G1muJCE0
実際ボスとキンクリはレクイエム以外全く歯が立たなかった化け物だからなぁ
他は対策編み出した5部ナレフが一太刀入れるのがやっとだったし


484 : 名無しさん :2014/02/28(金) 23:01:15 YdeU6Rs20
五部小説のコカキ(だっけ?)はボスが武力よりも話し合いで取り入れた強者だったな


485 : 名無しさん :2014/02/28(金) 23:01:27 CXMVy4aE0
何…だと…!投下されていた。
流石ジョースター家の異端児…2部時代はやはりカッコ良いな。


486 : 名無しさん :2014/02/28(金) 23:20:08 zOC0o4ck0
ボスはDIOと同じく究極の初見殺しとも言える性能だから、
能力を理解させるまでもなく、不意打ちや先制で倒したんじゃないか?
実際に、コロッセオでの再戦では一撃とは言えどかなりの深手をチャリオッツから与えられてたし。


487 : 名無しさん :2014/02/28(金) 23:28:01 4b3lBOZM0
「見た時既にこの世にいない」だからな


488 : 名無しさん :2014/02/28(金) 23:50:21 7G1muJCE0
5部で厄介だったのは正体をとにかく隠し通していたことだからなぁ
本体そのものが謎だから不意打ちする以前に標的を割り出すこと自体が難しい感じで


489 : 名無しさん :2014/03/01(土) 00:32:59 AyDJfSks0
そういえば肉の芽が入ってる人に正の波紋と負の波紋を流したらどうなるんだろう


490 : 名無しさん :2014/03/01(土) 00:34:49 nduQo9360
億泰の父ちゃんって波紋効かなかったっけ?記憶がない


491 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/01(土) 01:14:45 FjOFHUto0
すみません。自分はまだかかりそうなので
3月1日に修正版の投下をします。


492 : ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:43:03 oLFV2JOg0
遅くなって申し訳ございません
かなり深夜ですが、これより後編の投下をいたします


493 : ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:45:40 oLFV2JOg0

「さっきから何を戸惑っているの。早くそいつを殺しなさいよ、古明地こいし」

私の後方から聞こえてきた、感情の篭らない声。
驚いて振り返ってみるとそこには私と知らぬ仲ではない、あのおてんば妖精『チルノちゃん』が黒い銃を向けて羽をパタパタ動かしながら浮いていた。


「…………え?ち、チルノ…ちゃん?何を、してるの…?」

「……何を?決まってるじゃない。『DIO様』の敵、ジョースターの人間を全て『殺す』。それがどうしたのよ」

ゾッと背筋が凍った。まるで養豚場のブタさんでも見るかのような冷たい目。
『かわいそうだけど明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのね』って感じで彼女はジョセフを冷徹に見下ろしていた。
チルノちゃんとは以前から地上でたまに一緒になって遊んでた間柄。命蓮寺でも彼女がカキ氷を売っていたのを見た事がある。

でも今の彼女は、無邪気に笑って弾幕ごっこをしていた時とはまるで別人のような冷徹な目。
その目を見たとき、私はここでもDIOの纏う狂気のようなものを感じた。

そう、今のチルノちゃんから感じる雰囲気は、あのDIOのような『闇』を身に纏っているような気がした。
後ろでジョセフの逃げだす音が聞こえたけど、今の私には気にする余裕なんて無かった。私はおそるおそるチルノちゃんに話し掛ける。


「チルノちゃん…DIOに、会ったんだ…。…何か言われたり、したの?」

「…だらしないこいしの手を引っ張って行ってやれ…DIO様直々にお願いされたのよ。
それで来てみたら今の状況。我が友達ながら情けないわ。
よりによって敵の言葉に耳を傾け、あまつさえ涙を流しながら武器を下ろすなんてね。
それにアンタ『プッチ』さんと一緒に居たんじゃなかったの?彼はDIO様のご友人って聞いたけど」


チルノちゃんは心底呆れ果てる様な目で私を見た。私の頭の中はさっきからワケのわからない困惑で破裂しそうだ。
これがあのチルノちゃん?私から見ても少し頭の方が弱いかな、って密かに思っていたかつてのチルノちゃんとは全く違う物言い。
その余裕ある佇まいには知性すら感じ取れた。私にはとても信じられない。


494 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:47:18 oLFV2JOg0
「あ…えと、神父様は…その、アイツの支給品で…何処か空の彼方まで飛んで行っちゃって…ここにはもう居ないの」

私はチルノちゃんの迫力に気圧されて、つい正直に答えちゃった…。
それを聞いた彼女の顔は「ハァ…?」とでも言いたげな表情で手を腰に添えて、地面にフワリと降りてきた。

「…それで?こいしはその人を探しにも行かず、何で泣いてんのよ?とっととジョースターを始末して彼を探すべきよ。
どうせおっちょこちょいな貴方の事だからプッチさんの足を引っ張るだけだったんでしょう。笑えないわ」

……なんか、こっちがムカついてきた。いつもはチルノちゃんの方が皆から馬鹿にされるポジションなのに、これじゃあ逆じゃない。
確かに神父様が飛ばされちゃったのは私のせいなんだけど…
それをチルノちゃんに指摘されるのは納得いかない。笑えないのはこっちの台詞だ。


「あなた…いつものチルノちゃんじゃない…!ホントにどうしちゃったの…?」

「……あたいが?いつものあたいじゃないって…?それは違う、こいし。
これが『本当のあたい』。周りから馬鹿にされるだけの惨めだったあたいはもう居ない。
あたいは『自信』がついたのよ。あたいはあたいの『最強への道』を行けって、DIO様が示してくれたわ。
だからあたいはこのゲームを登り詰めてやるの。そして最後にはDIO様の言う『天国』へ到達してみせる。
DIO様はあたいを褒めてくれた。恐怖を取り除いてくれた。道を示してくれた。あの人の力になってあげたい。
今、心の底からそう思ってる。こいし、貴方はそこで怯えながら指を咥えて見てるといい。
……咥えて見てろ。あの男はあたいが倒す」



今日という日は本当に色んな事があったけど、一番信じられない事態は今の現状なのかもしれない。
まさかチルノちゃんにここまで言われるとは、私の人生最大級のショックかも。


495 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:48:01 oLFV2JOg0
チルノちゃんは私から少し離れてジョセフの飛び込んだ民家の方向へと向き直り、全く大した事でもないかのように平然とスペルカードの詠唱を開始した。私に見せ付けるかのように。


「…氷符『アイシクルフォール』」


ボソリと呟くような詠唱を終えた途端、チルノちゃんの周囲の空気の温度がガクッと下がりその水分が一瞬にして凝固した。
それらは一斉にジョセフの逃げ込んだ家に丸ごと襲い掛かる。
激しい発射音と共に一直線に対象の全てを凍らせ、破壊する氷の弾幕に手加減の余地なんか微塵も感じられない。
間違いなくあの人を殺そうという『意思』がビシビシと私の肌を直撃する。

(一体、何がチルノちゃんをここまで動かしているの…?それにこの弾幕の威力…
ここでは私達の弾幕や能力には『制限』が掛けられてるっていうのに…むしろいつもより威力が『上がっている』ような…?)

「『思いの力』は『精神の力』。信じる事がそのままあたいの『強さ』へと変わる…
DIO様があたいに授けてくれた言葉よ。
今のあたいは自分が『最強』だという事を心から信じてる。
だからあたいの氷の能力は『どんどん強くなる』。制限もへったくれもありゃしない」

私の心を読むかのようにチルノちゃんは横目で私の疑問に答えた。弾幕を撃つ手は緩めずに。
サトリ妖怪の私が心を読まれてどうするんだ、と私は心中でムッとした。心を読まれる怖さをちょっぴりだけ理解出来た気がする。


496 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:49:06 oLFV2JOg0

「さて…獲物は出てこないわね」

私がムカムカした感情を渦巻かせている内に、フッと攻撃をやめたチルノちゃんがさらりと口から洩らした。
見れば弾幕の連撃を受けていた民家が凄いことになっていた。入り口も窓も壁も屋根も何から何まで破壊し尽くされ、砕けた外壁の上から厚い氷に包まれている。

うわぁ…中に人が居ればきっとそれだけで致命的なダメージを受けるに違いない。
今度からチルノちゃんを⑨扱いするのは絶対にやめると誓おう。

そしてあの男を家ごと氷の檻に捕らえたっていうのにチルノちゃんはどこか不満そうな顔をしている。
私は今のチルノちゃんを刺激しないよう、そっと聞いてみた。

「…もう中で死んじゃってるんじゃないの…?あの人、出てこないみたいだし…」

「馬鹿。それで倒せるような脆弱な男ならDIO様も苦労してないよ。恐らく家の裏口から逃げたってところね。
こいしも少しは頭使いなさいよ」

ガーン…!チルノちゃんに馬鹿呼ばわりされる日が来るとは思わなかったよ。ムカムカを通り越して感動すら覚えてくる…


「貴方も呑気してないであの胡散臭い男について何か情報渡しなさい。
アイツの支給品とか戦法とかあるじゃない。さっきまで戦ってたんでしょう?」

…何かこれでもう私とチルノちゃんの上下関係が決まってしまった気がする。
チルノちゃんはすっかり『頼れるお姉さま』って感じに振舞っているけど、あくまで私のお姉ちゃんはさとりお姉ちゃんひとりだ。

とは言ってもチルノちゃんの言う事は間違っていないと思う。
私はジョセフの戦いを後ろから覗き見ていたんだから彼の情報を伝えるのはきっと当然の事なんだろうな。ちょっと気に食わないけど。


「…あいつの名前は『ジョセフ・ジョースター』…。あいつは私が見てた限り、三体の『魔法人形』を操って戦ってたよ。
『スタンド使い』かは分からないけど、紙飛行機を飛ばしていつの間にか神父様にくっ付けていたり、そこから空飛ぶ岩を出現させてそのまま打ち上げたり…
絶対に『勝てた』と思った次の瞬間には、もう『逆転されてた』…
何をしてくるか全く読めない奴よ。遠目に戦いを見てたからそれぐらいしか分からないけど…チルノちゃん、勝てるの?」

「『勝つ』よ。あたいは最強なんだから、勝たなくてはいけない。DIO様のお役に立たなければいけない。…貴方もよ、こいし」

「……えっ…えぇ!?わ、私も戦うの…!?さっき『指を咥えて見てろ』って…!」

「ホントに咥えて見てるだけの馬鹿がどこに居る?貴方もDIO様のお眼鏡に適ったのなら少しは働いて欲しい。
あたいの援護をして貰いたいんだけど…出来る?」


完璧に馬鹿にされてる。正直、悔しい。もう一緒に遊んでやるもんか。
言ってる事はまともなだけに余計ハラがたつ。それでも、苛立ちをよそにして私は彼女の事をほんの少し『羨ましい』と思ってしまった。


497 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:50:27 oLFV2JOg0
どうして彼女はこんなに『迷い』が無いの…?どうしてそれほどまでに自分に『自信』を持てるの…?
やっぱりDIOに会ったから?たった一人の人間に(吸血鬼らしいけど)出会っただけで人はここまで変われるものなの?ここまで『強く』なれるの?
私もDIOとお話しして…確かに自分の中の何かが色々変わっていくように感じた。

でも彼との出会いが私にとって『吉』だったのかどうか…?それはまだ分からない。
それでも、少なくとも今のチルノちゃんを見ていると、彼女は『幸せ』にしているように見える…のかもしれない。
顔に出さないから分かりにくいけども。



…私も、『覚悟』を持てば『幸福』になれるのかな?

チルノちゃんのように強くなれば誰かを守れる?

私はお姉ちゃんに会いたい…。会って、傍で守れるぐらい強くなれたらどんなに良いだろう。

今の私には神父様も、DIOも居ない。チルノちゃんしか、居ないんだ。

……彼女に、ついていってみようかな。そうだ…どっちにしろ私は一度この銃を人に向けて撃っている。もう戻れないんだ。

自分に出来る事をやってみよう。うん、まずはチルノちゃんと一緒に戦っていこう。そしてその後神父様を探しに行こう。



自分の『やるべき事』を腹に決めた時、私はほんの少し『勇気』が湧いてきた。そうだ、ここに来る前に神父様にも教えてもらった事だ。


「『心を落ち着けたい時、素数を数えれば勇気を貰える』って言ってたっけ…そうだよ。『素数』ぐらい私も知ってるんだから!
えっと、1、2、3、5、7、11……」

「『1』は素数じゃないわよ。遊んでないで、あたいを手伝うの?手伝わないの?今ここで決めて。敵は待っちゃくれないんだから」


またまたガーン…!チルノちゃんに算数の間違いを指摘されるなんて、こんな屈辱はないよ。ムカムカ具合が一周して更にムカついてきた。
だから私は半ば逆ギレのように返してやった。


「逆でしょ!!チルノちゃんが私を『手伝う』の!いいよやってやろうじゃない!!あの男は私が倒すんだもん!!チルノちゃんこそ指を咥えて見ててよッ!」


498 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:51:09 oLFV2JOg0
言ってしまった。私の先を歩いていくチルノちゃんが何となく羨ましくなって、悔しくなって、ウジウジ悩むのが馬鹿らしくなって…
ヤケクソみたいに声を張り上げた。
私を馬鹿にしてるチルノちゃんを、ジョセフを倒すことで見返してやる!
もうDIOとか神父様とか関係無いんだ!結局これは私自身の問題なんだから!

「チルノちゃんは私の後について来なさい!逃げたアイツを追うわよ!」

「意気込むのは良いけど、アイツはまだその辺に隠れてるよ。あたいの右前方に一体。左後方に一体。貴方の右後方に一体の人形が隠れてるわ。
ボケッとしてるとあっという間に『詰む』わよ」

前進しようとする私は背中越しに勧告された。
抗議の声を上げようとしたけど、それは三方から聞こえてきた空気を切る音で遮られる。
ジョセフの人形だ!

「来るわよ。身構えなさい」
「分かってるってば!年上ぶらないでよッ!」


私とチルノちゃんは互いの背中を張り付け合い、三方からの攻撃を迎え撃とうとする。どうでも良いけど物凄く冷たいんだけど。


「凍符『パーフェクトフリーズ』」
「冷たァッ!!ほ…本能『イドの解放』ッ!!」

私達二人は互いに迫り来るそれぞれの人形を撃ち落すべく、スペルを発動した。
すぐ後ろでチルノちゃんも氷の技を撃つもんだから私の背中もたまったものじゃない。

互いの発射した弾幕は扇を開くように広く空間を埋めながら人形へと飛び交う。
が、人形は意外にも俊敏な動きで大きく右へ揺れながら逸れ、弾幕のひとつひとつを器用に回避していく。

まるで私達を馬鹿にしてるかのような動きで三体の人形は私達を中心に周りをグルグルと大きく時計回りに回りながら少しずつ近づいてくる。
その動きがなんだか気に障って、私はとにかく攻撃を当てようと弾幕を連射した。下手な鉄砲何とやら…って奴。


「当たれ!当たってよ!この!このこの!!」
「撃てば良いというものではないわ、こいし。そんなんじゃあすぐに霊力が尽きるわよ。
それにあの人形…中々こっちに近づいてこない。何か狙っているのかも…」

もう!さっきから私のお姉ちゃんかっ!そんなの私の勝手でしょっ!
つい汚い感情が湧き上がってくるのを感じながら私は人形達を目で追う。


499 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:51:48 oLFV2JOg0
…と、その時いきなり人形達が私達からバッと離れていった。…諦めて帰っちゃったのかな?


「……ッ!!!こいしッ!!伏せなさいッ!!」
「……え?わぁッ!!!」

後ろにへばり付いていたチルノちゃんが私の首をムンズと掴んで強引に地面に伏せられた。鼻先に地面がぶつかって痛い!
何するのさッ!そう言おうと立ち上がりかけた私の服の袖をチルノちゃんはまたもや思い切り引っ張って、再び私は地面にゴツンと頭をぶつけた。


バ チ ン ッ !


私が頭を下げた瞬間、すぐ頭上でなんだか電気の弾け合うような鋭い音が走った。
なになになに!?今の音、何なのッ!?

帽子を押さえながら見えない攻撃を警戒して地面にへばり付く私。
一方のチルノちゃんは仰向けになりながら何やら察したような不敵な笑みを浮かべていた。なんなの。

「!!……なるほど、これは…『毛糸』ね。恐らくあの男と三体の人形同士が糸で繋がれていたのよ。
あたい達の周りをただグルグル回っているだけのように見せかけて『糸の結界』を張り巡らせ、一気に糸を引っ張りあげる事によって中心上のあたい達を一網打尽にする魂胆ってワケね。
この糸に真っ赤な『血』が微かに垂れていたおかげで見分ける事が出来たわ。
しかもこの糸、『電気』…?みたいな物が流れてるみたい。糸同士が絡まった衝撃で電気がぶつかり合ったんだわ。今の音はそれね」

えぇ!今の一瞬でそこまで分かっちゃったの!?ホントにこの人、あのチルノちゃん?中身違うってわけじゃないよね…?
そんな頭脳派に進化した彼女に内心ちょっとした羨望を抱きつつ私は頭上を見上げる。

なるほど確かに目を凝らせば細い糸が絡まっているのが分かった。
そしてチルノちゃんの言う通り、その糸にポタポタと『血』が僅かだけど垂れている。
多分、私が撃った時の血が付いちゃったんだ…


500 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:52:31 oLFV2JOg0
「つまりッ!この『糸』を辿れば本体の居場所が掴めるはず!!こいし!落とした銃拾ってついて来なさいッ!!」

チルノちゃんが羽を使ってフワリと回転しながら体を起こし、糸を辿るようにして猛ダッシュで本体の位置まで突き走った。
私はオロオロと落とした銃を拾い抱え、チルノちゃんの後を追うように走り出す。
さっきまで意気に燃えて戦おうとしていたというのにこれでは情けなくなってくる。

私の背後ではこんがらがった糸を何とか解こうとして人形達が集まり、てんやわんやしていた。本体を追い詰めるなら、きっと今!


この糸の向かう先は…あるひとつの『廃屋』の様相をした古臭い建物。
人間の里には何度も足を運んだ事はあるけどこんな建物は今までに見た事が無い。

多分外界の建物…?家の周りは石で造られた外塀で包まれていた。
先にチルノちゃんはその塀を綺麗な羽でヒョヒョイと優雅に飛び越えて敷地内に侵入していく。
私は…もちろん羽なんて無いから普通に門から侵入を試みたよ。…一応「お邪魔します」を言って礼儀正しく入ったけど。


「チルノちゃんに先を越されるのも何だか癪かな…。私だって…やれば出来るんだ…。
『勇気』だ…勇気さえあれば、チルノちゃんなんかよりも、もっと強くなれる…!」


私はギュッと銃を握り締め、玄関から入り込む。いつの間にか、体の震えは止まっていた。


501 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:53:27 oLFV2JOg0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
――― <早朝> E-4 人間の里 虹村億泰の家 二階広間 ―――

「うわわッ!!何よアイツら私ン家に許可無く入ってきたわ!ふざけんじゃないわよ信じらんないッ!!」

「だから君の家じゃあ無いだろうに…。
それにしても驚いたな…。あれがあのチルノ?まるで別人だが…」


えっとー、こちらてゐ。こちらてゐ。そして横の男はこーりんこと、森近霖之助。
私達二人はさっきから並んで格闘試合の観戦のようにあのマッチョの男と神父の男、そして古明地こいしと最後に乱入して来たチルノ達の戦いをこの部屋から眺めています。
途中、神父服の奴がダイナミック離脱した時は私達二人も「おおっ」とちょっとした歓声を上げたりもしたけど、『あの』生意気妖精チルノが乱入して来た辺りから雲行きが怪しくなったね。

なにしろ隣のこーりんが言ってるように、お馬鹿&間抜けで名が知れたチルノがまるで別人みたいになってあの男を攻撃し始めたんだからさ。
そりゃあ幻想郷に住む奴なら誰だっておったまげるって。私もちょっと信じられないもん。

…おっと!これだけは言っとくけど、いくら腹黒いと有名な私でも流石にこの戦いを観戦する事を『楽しい』だなんて思っちゃいないよ。
勝手にやっててくれとは思うけどね。


「…って、おいおい。どこへ行くんだ?てゐ」

「どこって、決まってるじゃん。荷物まとめてさっさとここからスタコラさ。
だってアイツら、あろうことかこの私の隠れ家に入り込んできたんだよ?
流れ弾に当たって昇天!…なんてマヌケな死に方は絶対嫌だからね。この上の屋根裏部屋から屋上に出られる。
アイツらの戦いの結末が気にならないワケじゃあないけど、好奇心は兎をも殺すんだよ」

「猫だね。…まぁ、確かに僕らがあの戦いに介入できる余地は無いんだろうけど…
どうにもこのまま知らぬ顔、とは行きたくないね、僕は」


502 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:54:16 oLFV2JOg0
はぁ?何言ってんのコイツ。
私はともかく、アンタは戦う力なんて皆無だから今まで黙ってこの戦いを眺めるに徹してたんでしょ。
私はアンタと違って死にたがりじゃないの。どんな手を使っても絶対生き残ってやるんだから、せめて私を巻き込まないで欲しい。

それにコロッセオの『真実の口』とやらに向かうにはそろそろ頃合だ。
ここでアイツらが潰し合ってる内にせいぜい私はのんびり目的を果たすとするわ。
…と、いうわけで私は満面の笑みで皮肉たらしくこーりんを見送る事とした。


「そ。貴方がそう言うんならそうするといいわ。ただし私はここでバイバイさせてもらうよ。じゃ、体には気をつけなさいな。カゼひくなよ」

やれやれよ。命知らずのお馬鹿さんには付き合ってらんないわ。触らぬ神に祟りなし、ってね。
私は荷物をまとめると屋根裏部屋へ行くための扉のノブに手を掛けた。
上っ面だけの軽い思いやりの言葉を彼に投げ掛けながら。




「―――てゐ。君は僕の事を『命知らずの死にたがり』…とか思っているんだろうね。
『どうせ生き残れっこないんだから適当に抗っている』…と、君は僕の事を『そう思っているように思っている』…」

ドアノブを回す手がピタリと止まる。
なんだコイツ…?いきなり何言い出しちゃってるの。

私は何でもない事のように後ろを振り返り、軽く投げ返した。

「…あら、違うの?貴方の目が『半分』死んでるように見えたから、私はてっきり貴方が諦めてるのかと」

「…確かに、『半分』は諦めてるのかもね。だが…もう『半分』は諦めちゃあいないさ。あの主催者には僕も結構腹を立てている。
僕の『何気無く』やったちっぽけな抵抗が、巡り廻ってこの残酷なゲームの幕引きを少しでも担えれば良い…
主催者達の喉元へ届き得る『牙』となってくれれば、それだけで僕は笑いながら死ねるさ。
何より、奴らが『魔理沙』と『霊夢』を巻き込んだ事が僕にとって一番許せない事なんだよ」


自嘲気味に笑うこーりんの目が、それまでよりもどこか『漲る』ように動いた。

私と…コイツは、根本から違ってた。
私は兎に角、自分が助かるなら何でも良い。異変が解決するのをどこか安全な場所で胡坐をかきながら待ってるつもりだった。

でもコイツは生意気にもあの主催者に『ささやかな抵抗』を試みているらしい。自分から動こうとしている。
力は無いクセにそこだけは私と決定的に違う所だった。


503 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:54:52 oLFV2JOg0
「だから、何…?ここに残って何が出来るの?立派なこと言ってあっさり殺されたんじゃあ、あの世に持ち込む笑い話にもならないわ」


私はなんだか負けた気がして、自分に言える精一杯の皮肉を口にして出す。
言うだけならそりゃあ簡単さ。でも、敵は強大なんだ。アンタ如きがどこまで出来るってのさ…?


「…そうだね。僕に何が出来るか…それはまだ見当も付かない。
分からないから…抗う価値もあるというものさ」


私はいつの間にか完全にこーりんへと向き直っていた。多分、顔も少しキツくなってるのかもしれない。
最早私は言葉も失っていた。ここで「あっそ。頑張ってね〜」と返せればどれだけ楽だろう。
でも何故か、顔を逸らしちゃいけない気がしてきたんだ。


ほんっと〜に面倒くさい奴だ、コイツは。私はどうすれば良い…?
例えばあのブチャラティなら、ここで階下の戦いを自慢のスタンドとやらで完璧に収めてくれるだろう。

でも、私達には所詮無理なんだよ。諦めなって。現実見ようよ。



ねぇ…。お願いだからそんな眼で私を見ないでよ…。

やめてよ……私は……アンタ達みたいな人種とは違うんだからさ…………


504 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:55:49 oLFV2JOg0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

虹村家の一階、広間にてジョセフ・ジョースターは胸を押さえながら息を切らしていた。
こいしから受けた胸への銃撃は、波紋の治療によってある程度の処置は施していたとはいえ完治にはまだまだ至らない。
その上に予想外の新手との戦いが続いているとなると、中々息を整える事も出来ないのだ。

(ハァ…ハァ…!くそ、何じゃあの妖精!機銃に加えて氷の能力かよ!ちと火力では押し負けるぜ(氷だけど)…
広い場所では駄目だ…!屋内で戦わねーと…)

広間の端、横に倒したテーブルの陰で傷の治癒を続けながら辺りを警戒するジョセフ。
彼の手には水の入ったペットボトル―『波紋レーダー』がその水面を揺らしていた。
そのレーダーに反応している生物は現在ジョセフを除く『3人』。これを見てジョセフは驚く。


「ゲッ!あの青髪チビの他にもこの家に『2人』居るだとォーッ!?
オーマイガー!味方なら良いが、もし敵ならこれ以上対処出来ねーぞッ!」

ジョセフの持つ波紋レーダーには2人の人間がこの家の『上方向』、上階に潜んでいる事を示していた。
このレーダーの索敵距離はそう長くない。確実に上階の人間はジョセフ達の侵入に気が付いているだろう。
ジョセフからすればこれ以上の新手の介入は御免であった。

しかも先程のこいしの様子からすると、こいしは既にジョセフに対して牙を剥いたのだ。
チルノが何か唆したのかもしれないとジョセフは推測する。

だとすれば彼女は何故か気配を全く感じさせず、ジョセフの波紋レーダーに引っ掛からないという厄介な能力を所持している。
敵になれば事態は更に危うくなるのだ。それだけは避けたい。


505 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:56:47 oLFV2JOg0





「ねぇ?隠れてないで出てきなさいよ、ジョセフ・ジョースター。弾薬も霊力も有限なんだから手間を掛けさせないで欲しいわね」



骨の芯まで凍り付きそうな冷酷な響きを含む声が入り口の方から聞こえてきた。
やれやれだぜ…と溜め息と共に小さく呟き、両手を挙げながらその場から立ち上がる。

チルノが入り口で、銃の弾薬を込めながら小さく飛行していた。


「貴方、あたいの友達のこいしをよくも誘惑してくれたじゃない?狡い男。
彼女はあたいと違って繊細なんだからナンパならよそでやって欲しいわね」

「誘惑ゥ?それはこっちの台詞だぜ氷のお嬢ちゃん。
あんなに可憐な子に銃を持たせて人殺しさせようなんざ、正気の沙汰じゃねーだろ。
こいしは泣いていたぜ。泣かしたのはお前か?あのクソ神父か?……それとも、DIOか」

「貴方には何も分からないのだわ。あの子の『恐怖』が…
DIO様はあたいに任せてくださったの。こいしを導いて欲しい…って。
だからあたいはこの身を挺してあの子に教えてあげるのよ。
『覚悟』が『絶望』を吹き飛ばすという、この世の真理をね」

「『覚悟』が『絶望』をねぇー…ヘヘッ、笑っちまうよな。
あんなガキんちょが似合わねー銃抱きかかえてビクビクしながら銃口を向けてんだからよぉ」

「ええ、爆笑。
でも、だからこそあたいにはこいしの気持ちがよく分かるわ。あたいもついさっきまでは彼女と同じ心境だったんだもの。
誰だって最初は恐ろしいものね。…でも、DIO様があたいに『強さ』と『勇気』を教えてくれた。
あの人が居なかったらあたいは今頃こころを失っていたわ。
だから今度はあたいがこいしの『道しるべ』になる番。そのために貴方は、とても邪魔。
だから『殺す』のよ」

「……テメェらがこいしに人殺しをさせようってんなら、俺は許さねえ…ッ
人を殺しちまったら、そいつはもう元には戻れねえんだよ…ッ!
俺はあの子の事をよく知らねえが、そんな『外道』は見逃せねえッ!!許せるわけがねえッ!!!」

「今のこいしやあたいにあるのは、『覚悟』か…それが出来なければ『死』だけよ」


506 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:57:36 oLFV2JOg0


―――ジョセフは、怒りで身が震えた。


チルノに対してではない。チルノやこいしのバックで下衆の笑みを浮かべているだろう…DIOというまだ見ぬ男に対してだ。

こいしにしてもこのチルノにしても、ジョセフにはどうしても彼女達が『悪』には見えなかった。
まるでDIOがチルノという傀儡を通してジョセフに直接伝え聞かせているかの如く、チルノ本人が言っているようには全く聞こえなかったのだ。
チルノですらDIOの手にかかった『被害者』だとジョセフは確信する。

その昔スピードワゴンはDIOに対して『生まれついての悪』と評したらしいが、ジョセフにはその意味が今、心で理解出来た。
DIOはッ!決してこの世にあってはならない存在ッ!
かつての宿敵カーズと同じ、真底心から憎い『悪』だと!ジョセフの精神は煮え滾るッ!



「ッ!!DIOオオォォォォーーーーーーーーーーッ!!テメェはッ!!!テメェだけは許さねえッ!!!」


「あたいは『チルノ』よ。今から貴方を紙クズの様に始末する、『最強の氷精チルノ』…覚えなくても結構よ」


哀しき激突は免れることは無かった。ジョセフの『炎』のような怒りの視線とチルノの『氷』のような冷酷な視線が互いにぶつかり合う。
チルノはこれからジョセフを躊躇わずに殺しにかかるだろうが、ジョセフはそうもいかない。真の敵はチルノではなくDIOなのだ。

だがジョセフの武器は『殺し』の道具ではない。
波紋とは誰かを傷付けるための技術ではなく、『生命』の為のエネルギー!相手を傷付けずに戦うには最良の武器なのだ。


「蜂の巣にした後には氷漬けのオブジェにしてあげるわ、ジョセフ・ジョースター」


507 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:58:11 oLFV2JOg0
燃え上がるようなジョセフの迫力に怯む事無く、チルノはあくまでも無感情に殺意を向ける。
彼女の構えた機銃はまるで悪魔の咆哮の様に、ジョセフに閃光と轟音を放った。
その一瞬前に、ジョセフは先刻の戦闘と同じく『波紋入りの綿』をバリアー代わりにばら撒く。

初動は先のシーンの焼き増しのように同じ展開となって幕を開けた。
チルノの撃ち続ける弾丸は音を弾かせながら波紋シールドによって次々と防がれてゆく。

その攻撃の最中にもチルノは思考を止める事は無い。
以前までの彼女では考えられない、『頭脳を働かせながら』の戦闘だ。


(この男の繰り出す『妙なワザ』…!糸から電気の様に流したり、綿に流して盾に使ったりと、応用力あって凄く『変則的』ね…
でも…『規模』が違えばその『防御』も意味を成さないんじゃないかしらッ!)


銃を乱射しながらチルノは周囲の気温を一気に落とす。こんなオモチャでの攻撃は敵の動きを封じる為の『仕掛け網』ッ!
獲物を網の中から逃さない為の陽動!真に敵を『殺る』ための攻撃は次で完了するッ!


「貴方のそのチンケな『ビリビリ』はこの『デッカイ攻撃』も防げるのかしら?盾ごと凍らせてやるッ!
―――氷塊『グレートクラッシャー』ッ!!」


チルノが左手を大きく上げ、その先端に絶対零度のエネルギーが集中していく。
それは見る見るうちに巨大な『氷の塊』を創りあげ、彼女の頭上に大きな氷山が出来上がったッ!


「ゲゲェッ!?おい…まさか『ソイツ』を俺にブチ落とすんじゃあねーだろうな…ッ!
や、やめとけって…この家を南極にする気かよ…!」

「いいえ、『ブチ落とし』たりはしないわ。『ブチ砕く』のよ。貴方の脳天をね」

「おい…やめとけよ…!きっと失敗するぜ…!話せば分かる!俺はお前を殺す気なんか…ッ」



「―――アイスローラーだッ!」


508 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 03:59:29 oLFV2JOg0
有無を言わさず無情にもチルノの腕はジョセフに向かって振り下ろされた。
ジョセフの説得にも聞く耳など持たず、ただ冷徹に、機械のように彼女は自分の使命を全うするだけであった。

見上げるジョセフの顔に大きな影がかかる。氷塊はその天井をブチ破るほどの勢いで成長し、勢いよく音を立てながら降下していくッ!




「―――なぁ〜んてなッ!『今だ』ッ!!『アラン』!『ペペ』!チルノの腕を捕らえろッ!」

「………ッ!?」


一転、ニヤつく笑い顔でジョセフが何事か叫ぶと共に、チルノの傍の物陰から現われたのは『二体』の魔法人形ッ!
突如現われた不測の事態に、チルノは驚きのあまり対応が遅れてしまうッ!
隙だらけの彼女の左腕目がけて左右から一直線に飛び込んでくる人形を撃ち落すことはできなかったッ!

そして当然、その二体の人形にもジョセフの波紋伝導の糸が繋がれているッ!
二体の人形の挟み撃ちに成す術なく、チルノの左腕には波紋の糸が巻き付かれ、ほどなくチルノの全身へと波紋の衝撃が迸ったッ!


「――――――ッ!!?ウ…グァッ……!!??」

「作戦大成功ォーーッ!!俺の操る人形が『三体』だけだといつから錯覚していたーッ!?
この部屋には最初から残りの『二体』が潜んでいたんだぜェーーーッ!!」


そう。ジョセフの支給品『アリスの魔法人形』は五体でひとつのセットとして支給されていたのだ。
彼が最初から人形を『三体』だけ操っていたのは、襲い掛かる敵に『自分の操る人形は三体だけ』という印象を与える為であった。
そして案の定チルノはジョセフの持つ人形を三体だと思い込んで無思慮に彼を追い込み、そして追い詰めた『つもり』になっていた。


509 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:00:24 oLFV2JOg0
「どーだ参ったかこのヤローッ!!この俺様が無計画に狭い屋内へ逃げ込むワケねーでしょうがこのバカチンーッ!!
そしていいのかい、そんなとこでうずくまって!
上を見なッ!お前の頭を文字通り『冷やして』やるぜーーーーッ!!」

「……ッ!!!」


ジョセフの言う通りに上を見上げたチルノの目の前に巨大な影が迫ってくる。
さきほど発動しかけた氷の塊が波紋の攻撃によりコントロールを失い、チルノの頭上に落下してきたのだッ!

体の自由が利かないチルノにその広範囲の落下を避わす事はよもや叶わず、凄まじい轟音が部屋内に鳴り響き、氷塊は床下までチルノの体ごと突き抜ける。

埃と冷気が混ざり合ってゴウゴウと白い煙が氷のオブジェから流れ続ける。
その光景を見てジョセフは多少やり過ぎかとも思ったが、これぐらいやらなければ自分の命の方が危うかった。


人形達が自分の元へ戻ってきた事を確認し、ジョセフはもう一度息を整えて後方のドアへと振り返り声を掛ける。



「…おい!見てたんだろ…?流石にそう何度も背中から撃たれはしねーぜ。…出てきな、こいし」

「…………!」


立て付けの良くない、古い木製のドアがギギギ…と音をたてて開かれた。
外に立っていたのは…予想通りの人物。

古明地こいしが再び銃を握ってジョセフの心臓を狙って構えていた。さっきの時よりは幾分か冷静になっているようではある。
彼女は一歩前へ踏み出し、銃口をジョセフに狙いをつけたまま広間の部屋へと入ってきた。
その目に多少の怯えの色は残っているが、どこか怒っているかのような、ほんの少しの『決意』めいたものが渦巻いているように見えた。


510 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:01:41 oLFV2JOg0

「…ジョセフ・ジョースター。神父様だけじゃなく、チルノちゃんにまで酷い事を…!」

「こいし。誰も教えてくれないなら…俺が教えてやる。
DIOも、神父も…『黒』なんだ。それはもうドス黒い『悪』だぜ、アイツらは。
頼る相手が居ないってんなら俺を頼りゃいいじゃねーか。
お前の友達のチルノだって俺が救ってやる。お前らまで『黒』になる必要は無い」

「…私が、『黒』になる…?そんなの……わたしの、私の『分岐点』は!私が決めるよッ!
貴方じゃないッ!!貴方なんかに私のこころは理解出来ないッ!!
どっちにしろ私はもう戻れない!このまま貴方を…こ…殺してッ!チルノちゃんと一緒に神父様とお姉ちゃん達を探しに行くッ!
邪魔しないでよッ!」

「クソガキが知った風な口利いてんじゃねえッ!!
お前はまだ『戻れる』じゃねーかッ!!俺一人殺せねーで何が出来るってんだッ!!」

「殺せるよッ!!私は妖怪だもんッ!!人間一人ぐらい、ワケないんだからッ!!」

「おーやってみろッ!!言っとくがなッ!銃の引き金ってのはそんな軽くはねーぞッ!!
シカを撃つのと一緒にするんじゃねえぜッ!!」


引き金に掛けるこいしの指の力が強まる。

彼女は、これまでに重なってきた幾重もの現実によって既に『タガ』が外れかけていた。
神父プッチとの出会い、DIOの誘惑、そしてそのDIOの悪の魅力にとりつかれたチルノとの共闘…更にこいしは一度はジョセフを撃っているのだ。

そのひとつひとつがこいしの『判断力』を蝕んでいた。
特に心中では自分より『下』だと思っていたチルノがDIOによって大きく変貌を遂げていた事は、彼女にとっても大きな変革の『キッカケ』となっているだろう。

『肉の芽』によってDIOの操り人形と化したチルノの変貌を、こいしは彼女の『勇気の賜物』だと勘違いしてしまった。
それが偽りの『勇気』だと知らずに。
こいしもチルノも、全ては…DIOの思い描いた脚本通りの『役』を演じるだけの人形となりつつあった…


そしてジョセフはそんなDIOの支配が何より許せない。怒り、猛ってでも彼女達を救う事を考える。


「ほらどうしたッ!撃ってみろよッ!怖気づいたかッ!?」





「…さっきから喧しいサルね。こいしの心をこれ以上揺さぶらないで欲しいんだけど。
まだまだ甘ちゃんだけど、これでも同志なんだから」


511 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:02:22 oLFV2JOg0
背後からの声に驚き振り向けば、チルノが何食わぬ顔で突き抜けた床下から埃を払いながら這い出てきていた。
腕に絡み付けた毛糸も氷塊の落下の衝撃で千切れ落ちたようだ。見れば殆どダメージなど負ってない様に見える。


(…成る程。氷を自在に操れるわけだから落下の直前、器用に頭上の氷の部分だけを『解除』して解かし直撃を免れた…ってワケね。
このおチビちゃん、中々やるじゃない…。やっぱりまずはこいつから波紋で強引に黙らせないとダメか)

部屋内の気温の低下と共に冷や汗をかき始めるジョセフ。やはりこの氷精、一筋縄ではいかないようだ。
人形も自分の傍へと戻し、チルノとこいしから距離をとるようにジリジリと後ずさりするジョセフ。

しかし、その時こいしの引き金の指にかかる力が一層強くなった。


―――撃たれる…!


直感的にそう思ったジョセフは彼女が指を引くより早く、ポケットに入れていた水の入ったペットボトルを取り出して思い切り波紋を流し込んだッ!
水の中を駆け巡る青白き波紋の輝きはその衝撃でペットボトルの蓋を高速回転させながら吹き飛ばし、こいしの腕目がけて直撃するッ!

銃口が逸らされて撃たれた弾丸はそのままジョセフの頭上を駆け抜けて背後の壁へと着弾し、壁の時計が破壊される。


「きゃ……ッ!」

蓋が激突した勢いでこいしは短い悲鳴を上げながら尻餅をついた。
波紋を手加減していたおかげで彼女の腕には怪我は無い。
そしてチルノはこいしが生み出したその隙を見逃さすまいと、弾幕での攻撃を開始しようとする。



―――が、それすらも予測していたジョセフが先手を打った。


512 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:03:06 oLFV2JOg0

「させるかよッ!飛び込め『アラン』ッ!!」

チルノが指先に霊力を込めるより早く、ジョセフの人形『アラン』がチルノの懐に潜り込もうと空を駆けた。
そうはいくかとチルノは弾幕で撃ち抜く対象をジョセフから人形へと変更し、自分に迫り来る人形の眉間に指先で焦点を合わせる。


しかしそこにジョセフの声が遮ってきた。


「おっと待ちなッ!波紋の糸が解かれて自由に動ける様になったみたいだが、そのまま人形を攻撃すれば大変な事になるぜ!
何しろこの人形達の内部には『爆弾』が詰め込まれてるんだからなぁッ!」


それを聞いた瞬間指の動きをピタリと止めるチルノ。それとは対照的に相変わらずジョセフはニタリと顔を下品な笑みに変える。

…が、チルノが動きを止めたのはほんの一瞬。

すぐに指先に力を込め直し、目前に迫ってきた爆弾人形の眉間を氷弾で撃ち抜いて凍てつかせた。
人形は爆発を起こす事も無く、その機能を停止させて床にゴトリと墜落するだけである。


(ゲゲッ!何で『ハッタリ』だと分かったんだッ!?
さ、さっきからこの青髪嬢ちゃん…ひょっとしてかなり強かな奴なんじゃないのか…!?)


内心で焦りまくるジョセフ。爆弾なんて持っていない彼は当然、ハッタリでチルノの隙を生み出そうとしたのだがものの見事に失敗してしまった。

一方のチルノはジョセフとは違い、勝ち誇る事も無く安堵することも無く、ただただ平然な無表情で撃ち落とした人形を踏み躙りながら淡々とした敵意をジョセフに向ける。


「こんな子供だましのハッタリに騙される⑨がどこに居るのよ。そのふざけた余裕がどこまで持つかしら」

「ぐっ…この生意気なガキんちょめっ!俺はなぁ!おちょくるのは好きだがおちょくられるのは大っ嫌いなんだぜッ!
しかもそれが子供となるとなおさらだぜーーッ!!」


513 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:03:57 oLFV2JOg0
天性の煽りの才能を持つジョセフもここまで冷めた態度を取られ続けると頭に血が上ってくる。
元々チルノも天真爛漫で無鉄砲なおてんば妖精だったが、DIOによる支配が彼女の心を蝕んでいった。
普段だった頃の面影は霧消し、今では目的に向けて突き進むだけの悲しき『兵』でしかないのだ。


血が上りつつもどうにかして彼女達を救いたいジョセフは決して諦めない。
彼が諦めれば誰も彼女達を救える者は居なくなってしまうからだ。


兎にも角にも二人を捕らえなければ話にならない。
それならばまずは力の弱い者から、という論にジョセフは自分で嫌気が差しながらもひとまず御しやすいこいしを行動不能にしようと策を練る。

今、ジョセフの傍に居る人形は『ペペ』と名付けた一体のみ。
外に残してきた三体の人形は何してるんだと多少の焦慮の気持ちもあるが、この手元の一体で事を済ますしかない。


ジョセフは人形のターゲットをこいしに変更、彼女を捕らえようと空中を突っ走らせた。


「こいし!ワリーがちょっと眠っててもらうぜッ!行け!特製爆弾人形ッ!」

「今度は私ッ!?でももう『ハッタリ』は効かないよ!そいつも弾幕で撃ち落させてもらうわッ!」


人形の突進が到達するよりも早く、こいしの掌から数発の弾幕が発射されて人形へと向かい、直撃した。


その瞬間ッ!



ボ フ ォ ン ッ !!



―――大きな破裂音が辺りを巻き込む。


514 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:05:48 oLFV2JOg0
こいしの周辺は白い煙に巻かれ、そして彼女の顔面は白い『粉』で覆われていた。

撃った本人であるこいしは何が起こったのか分からないといった表情で(隠れているが)、口からポフッと煙を吐き出し、目をパチクリとさせる。(隠れているが)
ジョセフは指で耳栓をして床に伏せながら「してやったり!」と言わん表情でガッツポーズを繰り出し、チルノは呆れたように顔を手で覆うポーズ。


「引っ掛かりやがったなこいしちゃぁ〜ん!『爆弾』ってのはウソだが人形の中に入れていたのは『小麦粉』だぜーッ!
可愛らしい表情が見えなくなったのは残念だが、ちと大人しくしててもらうぜッ!」

「…………ッ!!!」

ここでもジョセフのおふざけハッタリ戦法が決まってしまった。
あらかじめ人形内部に詰め込んでいたたっぷりの小麦粉が、弾幕を受けた衝撃で中から破裂。目の前に居たこいしの顔面に白化粧を塗りたくる結果となる。

こいしの信頼を得ることが目的のひとつでもあるジョセフだが、これでは完全に逆効果。
こいしは『遊ばれている』と思い、肩をぶるぶると震わせてカッと熱くなる。


最早どちらが子供なのか分からないが、ジョセフは間髪入れずに床から飛び起きて次なる攻撃に移る。
彼がデイパックから取り出した物は…


515 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:07:11 oLFV2JOg0
「へっへっへー!嬢ちゃんたち、『野球』ってやった事ある?『ベースボール』。
幻想郷にも野球あんの?俺はこう見えて結構好きよん、野球。知らないなら今から教えてやるぜ。
と、言っても基本のルールは簡単。『打つ』『捕る』『走る』だ。これならお嬢ちゃんたちでも出来るだろうよ」


今度は突然野球のルールを解説し始めるジョセフにこいしは怒りを通り過ぎて困惑するが、チルノだけはジョセフの奇行に嫌な予感を覚える。
何故ならジョセフがデイパックから取り出した物は『金属バット』と『毛糸玉』。

まさか本当にこの場で遊び始めるのではあるまい。
となればジョセフの行動が示すところは一つしかない。


「四番バッター、ジョセフ・ジョースター選手〜…ボックスに立ち、なんとホームラン予告をしました!
…そしてぇ〜…今、ピッチャーがボールを投げて〜……!」

一人で解説を続けるジョセフの姿はどこか滑稽で、完璧にふざけているとしか思えなかった。
しかし、彼の目だけは真剣にこいしたちを見据えている。
遊びではない。これはジョセフ流の、最後の攻撃なのである。


右手で握ったバットを肩に掛け、左手には掌サイズの毛糸玉が握られている。
素振りを一回、気合を入れてスウィングする。
そして波紋の呼吸も最後に大きく一回。ジョセフの全身にバチバチと光り輝く波紋が流れ見えた。

彼の向く先には粉に塗れたこいしが立つ。



―――油を染み込ませた毛糸玉に鋭い波紋を流す。宙に上げたそれを、ジョセフのフルスウィングしたバットの中心が打ち抜いた。



「―――こいしッ!!!波紋のボールが飛んでくるわッ!避けてッ!!!」


516 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:08:00 oLFV2JOg0
チルノがこいしに向けて走りながら咆える。
ジョセフの打った毛糸玉のボールは「バチィ!」と辺りに波紋を散らし、こいしまで豪速の一直線を刻みながら飛んでいくッ!


「え!?えぇッ!?でも私、粉が被って前がよく見えないッ!!」

「…………ッ!!」

チルノはまたしてもジョセフに対して一手遅れた。小麦粉の攻撃はこいしの視界を奪うものだったッ!
ここでこいしが倒れればチルノにとって数の利は無くなる。
正直言って、チルノ一人ではこの生粋の詐欺師に敵う要素は少ないのだ。


「見えないなら目を擦ればいいでしょッ!避けなさいッ!!」

「分かってるもう擦ってるよッ!………って、チルノちゃん、前ェ!!!」


「………え?」


こいしの方へと全力疾走していたチルノに向けて、視界が復活したこいしがまた叫ぶ。
こいしの方ばかり見ていたチルノは『自分に迫る危険』を察知しきれなかった。

チルノが振り向くと、そこにはジョセフがスウィングしてそのまま投げ放った『波紋を纏った金属バット』が回転しながら突っ込んできていたッ!


(しまっ………!!アイツの狙いはこいしではなく、『あたい』だった!!
本命はボールじゃなく、こっちの『バット』……ッ!)


517 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:09:29 oLFV2JOg0
視界の端に映るジョセフが白い歯を見せてイヤらしく笑う。

こいしの一声で一瞬早くバットに気付く事が出来たチルノは、持てる瞬発力を出し尽くして体を大きく横にずらす。
こいしも目前まで飛んでくるボールを何とかギリギリで避わせた。


「きゃ……ッ!」
「クッ……ッ!」

回転しながら突っ込んできたボールとバットが体を掠り、「バチッ!」と一瞬の波紋が流れる。

二人は寸でのところでジョセフのボールとバットの同時投擲をギリギリ回避する事が出来た。




…が、攻撃を回避したはずの二人の目が驚愕に見開かれる。


「な…ッ!」
「え…?」


チルノが避け際に目撃した、バットのある『一点』。そのバットの『グリップ』の先。

こいしが避け際に目撃した毛糸玉のある『一点』。毛糸の『糸』の部分が解れて、その糸は『ある方向』へ伸びていた。


518 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:09:51 oLFV2JOg0
毛糸玉から伸びる糸は、チルノの方向へ飛ばされたバットのグリップ部分に『繋がって』いたッ!

ジョセフはただボールとバットを投げるだけの攻撃を行ったわけではないッ!
毛糸の先をバットに結び付けてから、『そのまま』打球したのだッ!

それはつまり、バットとボールを繋ぐ『波紋入りの糸』がピンと張られたまま彼女達を襲う事を意味しているッ!

ギリギリでバットとボールを回避出来たチルノとこいしも、それらに繋がった『糸』までも避けきる余裕は無かった。
まるでギロチンのように飛び掛ってくるその波紋入りの糸は、飛び去っていくバットの勢いに引っ張られるままにチルノの体に食い込んでいくッ!
そして彼女の体に糸が引っ掛かった衝撃でバットは勢いを殺され、方向を変えて滅茶苦茶に飛んでしまう。

その動きがそのままチルノに絡みつく糸を更に雁字搦めにしたッ!

こいしの方も同じく、毛糸玉が体に引っ掛かった糸に引っ張られた勢いで、彼女の体を何重にもグルグルと巻き付けたッ!
波紋が流れるその糸に絡まれた衝撃から、二人は雷にでも打たれた様な波紋の伝導をその身に受けて意識を失う。


意識を失いかける中、チルノは脳裏で完全に敗北を悟る…


(ぐ……ッ!やられた…ジョセフの『本命』はボールでもバットでもなかった……ッ!
事前に互いを結び付けていたこの『糸』の方だった……
こいつ……ッ!『強い』………!二人でも、勝てない…………)


最後の最後、こんな子供騙しの様な策でチルノはジョセフに『完敗』の念を感じつつ……彼の最後の呟きを耳に入れて、昏睡した。




―――手荒な真似して悪かったな、チルノ、こいし…………。お前達は、俺が必ず救ってやる。


519 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:10:28 oLFV2JOg0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

気絶したチルノとこいしの二人を改めて波紋の糸でグルグル巻きに縛り付けたジョセフは、大きく息を吐き出すとその場にクタンとしゃがみ込む。

プッチからの連戦に続き、連続しての波紋使用。
胸に受けたダメージも軽くは無い。満身創痍といっても良い状態であった。

ゼェゼェと肩で息をするように力なく膝を床につけるジョセフは、昏睡した二人を眺める。
波紋は手加減しての攻撃だったが故に、彼女達に殆ど外傷は無く、またそう長い間眠る事も無いだろう。



ジョセフは戦いの勝利に浸ることは無かった。いつもの様に負かした相手をヘラヘラと馬鹿にはしない。

彼の心を占めているものは『悔しさ』。

結局ジョセフはこいしの心を救い出すことは出来なかった。説得できなかった。
どんな形であれ、こいしはゲームに『乗ってしまった』のだ。
その責任の一端は自分にもある。その思いでジョセフはやりようの無い自分への怒りが湧いてくるばかり。


こいしだけではない。チルノもそうだ。
ジョセフは戦っている間中、ずっと彼女に対して『違和感』を感じていた。
チルノの語る言葉のひとつひとつに含まれる違和感。

どうもジョセフには彼女の言葉が『本音』から来るものではないように感じていたのだ。

彼女の『本来の姿』はもっと別な所にあるんじゃないか…?

そう思いながらジョセフはチルノをも救おうとしていた。


全ては祖父の代から続く『因縁の相手』…DIOが裏で糸を操っているに違いないだろう。


こいしとチルノの心の奥に潜む悪意の根は、DIOという男が絡んでいる…そう確信したジョセフは、このゲームで打倒DIOを決心する。
祖父が命と引き換えに倒した敵が何故この会場に居るのかは分からないが、奴さえ倒せば少なくともこいしとチルノは救えるはずだと予測したからだ。

とはいえ、気絶した二人をこのまま放置しておくべきだろうか…?
連れて回すのも危険が伴う。しかしここに放置していればいずれ二人は復活して他の参加者を襲いだすのかもしれない。


520 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:11:12 oLFV2JOg0
方針を決めあぐね、ジョセフが悩んでいる時であった。
外に置いて来た三体の魔法人形が(今更)ジョセフの元に戻ってきたのだ。
戦いの中で少々愛着が湧いてきた彼らにジョセフは労いの言葉を掛ける。


「おー!戻ってきたかお前ら!えっと名前はー……『シャルル』に『ピエール』に、えぇっと『フランソワ』だ!
よしよし体には特に傷は無いな。だが…ワリーな、お前らの仲間の『ペペ』と『アラン』は…助けられなかった」


表情に影を落としながらジョセフは床に倒れる二体の魔法人形を指差して、彼らに謝った。

チルノの攻撃を受けて凍り付いた『アラン』も、こいしの弾幕を受けて中から小麦粉ごと破裂した『ペペ』も、動く事はもう無い。
短い間だったが共に戦ってくれた彼らに『敬礼』のポーズを取り、その魂を弔う。





「さて…と。あらかた呼吸も整ってきたし、取りあえずは……」





ズ タ タ タ タ タ タ ッ !




――――――………………っ!!??





―――ジョセフの背後で、悪魔は再び咆哮した―――


521 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:11:52 oLFV2JOg0




崩れ落ちるジョセフ。先ほど、こいしに背後から撃たれた光景がフラッシュバックする。
背中から受けた銃弾の嵐。飛び散る紅。反転する視界。


―――何が、起きた。


―――俺は、撃たれたのか……?


―――誰に……?こいし達は、目の前で縛られている…



ジョセフが最後に振り向いて見えた光景は――




―――彼の相棒、『橙』が…涙を流しながら機関銃を構えている姿であった………


522 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:13:57 oLFV2JOg0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

―――『だからお願い。ジョセフお兄さん…………どうか、ここで死んでください』

―――そう祈り続けた私のお願いは、結果から言えば見事に『裏切られた』。

―――ジョセフお兄さんは、私が思っていたよりもずっと、魔法使いみたいな人だった。そして、『強い』人だった。

―――帽子を被った女の子に後ろから撃たれた時も、神父さんの操る『おっきなお人形』みたいなものに攻撃された時も。

―――何度と無く『死ぬチャンス』があった。…でも、何度と無く立ち上がって来て、悪い状況をひっくり返してきた。

―――まるで『ユメ』でも見ているみたい。それぐらい、お兄さんは魔法のように戦っていた。

―――神父さんをお空の彼方に吹き飛ばした後も、いきなり現われて別人みたいになっちゃったチルノちゃんと戦う時も、彼はどんどん逆転してきながら敵を追い詰めていった。

―――『それじゃあ、駄目なんだ』。せめて一人でも死んでくれないと、私が…私が藍様に殺されちゃう。

―――それだけは絶対にイヤだ。私はもう、痛いのはイヤなんだ…

―――いずれ、お兄さん達は別のおうちの中に入っていった。私は少し迷った後、三人をこっそり追ってみることにした。

―――そして私が見た光景…お兄さんが相手を縛り上げて、考え事をしていた。

―――床に落ちていたのは、チルノちゃんが使っていた『弾が飛び出る黒い武器』。

―――外界の武器の事については全然詳しくないけど、チルノちゃんが使っていたようにあの『引き金』を引けば、きっと弾が出る。

―――そして目の前には、隙だらけの『三人』。丁度…『三人』いる。

―――私に考える時間は無かった。何としても、六時までに三つの首が必要だったから。無ければ、きっと殺されちゃうから。

―――『銃』と呼ばれていたその武器にこっそり近づき、拾い上げる。

―――肩を震わせながら、涙を流しながら、私は………私は…………





―――本当に、ゴメンなさい………ジョセフお兄さん。………ゴメンなさい。


523 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:14:56 oLFV2JOg0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「――――――ち……橙…………っ?」


「ご、ご…め……な……っ!ご め゛ん な ざ あ゛あ゛い …………ッ!!ジョセ……ッお…にぃ………さ、ぁん……ッ!」


死力を振り絞り、背後からの襲撃者を見極めんとしたジョセフが目撃した『敵』の姿に、彼はとても信じられない気持ちが湧いてくる。
嗚咽を洩らしながら号泣し、銃の煙を噴かせる彼女は…ジョセフの可愛らしいパートナー、橙であった。


何故、家に残してきた彼女が自分を……?

何故、彼女は泣いている……?

何が彼女を『そうさせた』……?


薄くなる意識の底で様々な疑問が彼を困惑させる。
ついさっきまで、彼女とは笑い合いながら食事をしてたはずだ…。自分の料理を心の底から『美味しい』と言ってくれた少女のはずだ…

何故……なぜ……?



「でもッ!!ごうじな゛きゃ…ッ!!あ゛だ しが『藍さま゛』 に゛……ッ!殺ざ れちゃうがらあ゛ッ!!ごめ…っな゛…ぃ……ッ!!
うあ゛あ゛あ゛ぁぁぁあ゛あぁぁぁああ゛……ッ!!!ヒッ…グ……!ヒッ………グ……!!」


524 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:15:46 oLFV2JOg0
橙には、この方法しか生きる道は無かった。
自分に優しくしてくれた彼を、この手で殺すチャンスは今しか無かった。

床に落ちていた銃を見つけた時、頭の中の悪魔は彼女に囁き続けた。


『彼を殺さなければ自分が藍様に殺される』『だから殺せ』
『今なら楽に殺せる』『三人の首が一度に取れる』『だから殺せ』
『悪いのは自分ではない』『邪悪はあの主催者だ』
『だから殺せ』
『殺せ』
『殺せ』
『殺せ!』


止みならぬその声を振り払うように、橙は頭をブンブンと振る。それでも声は鳴り止まず、涙と震えは止まらず。
彼女の人生で、こんなに悲しい事は初めてだった。
それは、主である八雲藍に恐ろしい虐遇を受けた時よりもずっと心をしめつけられるような気持ち。


苦しみ悶える彼の姿は見たくない。
その思いで橙はジョセフに『トドメ』を刺すべく、倒れて動かない彼の心臓に銃口を当てる。
せめて苦しませることが無いように、一瞬で息の根を止めるために。


「ゴメンなさい…!お兄さん…ゴメンなさい…!ゴメンなさい……っ!」


最後の最後まで謝罪の言葉を掛け続ける橙。
彼女の指が引き金を引こうとする、その時。


ジョセフの腕が橙の腕を掴み、射抜くような目で彼女を睨みつけた。


(え…!?ま、まだ意識が残って…っ!?こ、殺され…)


ジョセフの反撃を覚悟した橙は思わず目を瞑って身をすくませる。
…だが、次にジョセフが放った言葉は橙への非難でも怨恨でもなかった。


525 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:16:52 oLFV2JOg0

「ちぇ…ん……ッ!どうし、た……?ハァ…ハァ…ッ!
だれ…が…お前を泣かせて、いる……?言えよ…!ハァ……ッ…ハァ……!
主の『藍様』が…お前を…泣かせているのか…?俺を、『殺せ』と…命令して…きたのか……?」


「―――ッ!!」



なんとジョセフは自分が殺されそうになってまでも、なお橙への心配の言葉を掛けてきたのだ。
泣きじゃくりながら自分に銃を突きつけてきた橙の腕を、血に塗れたその太い腕で優しく撫でてきたのだ。
まるで子供をあやす母親のような慈愛を持ちながら。


「言えよ…!お前の、主が…命令してきたんだな…ッ!
まだ小さなお前に…『人を殺せ』と、命令してきやがったん…だなッ!」


思えば橙の様子は初めからどこかおかしかった。
彼女は本来絶対の信服を置くべきはずである主の藍の事を話す時、何故か一層暗い顔になっていたのだから。

何故自分はもっと早くそれに気付いてやれなかったのか。その事がジョセフ自身をも苦しめる。
そして、苦しんでいるのはジョセフだけではない。橙だって理性と背徳、生存本能の狭間で戦い続けているのだ。



(この人を殺せば…!藍様は私をきっと助けてくれる…!褒めてくれる…!
だから『仕方の無いこと』なんだ…!私は…『悪くない』もん…!)

「橙…ッ!お前の、『本心』を言え!!
俺が…助けてやるッ!!誰も…お前を見捨てやしない…ぜ…ッ!!」

「…………ッ!!…あ……っ!
し……喋らないでッ!もう、きぎだくな゛い よ…っ!
お願いだがらぁ……このまま…死ん――」

「言えェッッ!!!」


526 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:17:42 oLFV2JOg0




この数時間。

ほんの数時間の間だったが、橙は少しだけ…楽しかった。

彼――ジョセフはいつも自分の事を気にかけてくれた。優しくしてくれた。

絶望の底に沈んでいた自分に手を差し伸べ、一緒に居てくれた。

彼は自分と会話をしている中にも時折軽い冗談を交えながら常に笑わせてくれた。

彼の作ってくれた『なぽりたん』は、涙が出るぐらい美味しかった。

「家の中で待っていろ」と言って彼が外に出て行った時、実を言うとすごく寂しい気持ちになった。

ジョセフの『死』を望んでいたはずの橙は、同時に『彼ともっと一緒に居たい』という矛盾した気持ちが芽生え始めた。

だんだんと自覚し始めたその気持ちを無理にでも払拭するために、ジョセフは『今』『ここで』殺さなければいけない。

そうすれば全て丸く収まる。藍様も褒めてくれる。



(だから…!ジョセフお兄さんは…私が、殺さなくちゃいけないんだ……!)



張り裂けそうな心で、橙は決断しなければいけない。
ジョセフは死に体の様子でありながら、強い瞳で橙を睨んでいる。
橙の『答え』を待っているのだ。


そして橙は、歪ませた顔で――答える。


527 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:18:38 oLFV2JOg0




「お兄…さん…………たすけて……!
わたじ…殺されたぐな゛いよぉ……っ…!ひっ…ぐ…ぅ…ぁあ……」





橙の心にわだかまった全ての感情は、もう限界だった。
突きつけていた銃も床に落とし、洪水のように溢れ出す涙をその小さな手で押さえる。


―――彼女には、ジョセフを殺すことはどうしても出来なかった。




「…八雲藍が…お前に『命令』したのか」

嗚咽を洩らしながらコクリと頷く橙。

「…奴はどこだ」

「ひっく…ぅ…『六時』に…『香霖堂』…待ち合わ……っ」


(六時…もうあまり、時間が無え……ッ!クソッ!
どいつもこいつも…ガキを何だと思っていやがるッ!!)


528 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:19:42 oLFV2JOg0
ジョセフは床に臥したまま、生涯最高の怒りで煮え滾っていた。

こいしやチルノ、そして橙。彼女達は皆、『利用』されただけだ。
無邪気なだけだった彼女らをッ!奴らは自分だけの都合で利用しただけだッ!!

リサリサとの決闘を侮辱し、卑劣な本性を現したあのカーズを前にした時よりもッ!ジョセフの心は燃え狂っていたッ!
そして橙の本心に気付く事が出来なかった『自分』の不甲斐なさすら許せなかったッ!

こいしも、チルノも、橙も、誰一人救えてない自分の力の無さが許せなかったッ!


「橙…安心し、ろ…!お前の藍様は…俺が必ず、ブッ飛ばし……て…や、る……!
だか、ら………泣く、ん…じゃ………………」

「……お、兄さん………?」


とうとうジョセフは、それ以上声を絞り出すことは出来ずに瞼を閉じた。
泣きすする橙との誓いを捧げたまま、彼の意識は遠のき暗闇の中へと沈み果てる。
血を流し過ぎた。今すぐに手当てを施さないと危険な状態である。


「あ…あぁ……!おにぃ……さん…!どう、どうしよう…っ?」

完全に意識を失ったジョセフの腕を掴み、とにかくどこか治療できる場所へと連れて行こうとする橙。
最早、橙にはこのジョセフしか頼れる相手が居ないのだ。
当初は彼の首を狙うしかなかった橙も、今ではどうにかして彼を救いたい気持ちで一杯になる。


「お願い…死なないでぇ……!お願い…!お願いだからぁ……っ!」


ズル…ズル…と、数センチ。また数センチ。
橙の小柄な体格ではジョセフの体重を引っ張ることなんてとても出来なかった。
それでも彼女は泣きながら力を振り絞る。

自分にとっての『ヒーロー』を、このまま死なせるわけにはいかなかったから。



―――橙の予想外の出来事が起こったのは、その瞬間の事。


529 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:20:39 oLFV2JOg0

ド ン ッ !!


「っ!?」


部屋の中から突如空気を振動させるような大きな音が響いた。
橙が驚いてその方向を見れば、さっきまで気絶して縛られていたはずのチルノ達がひっくり返って壁にまで叩きつけられていた。
波紋の束縛糸も千切られている。


「イタタ………!!か、かなり強引な方法だったけど、何とか自由になれたわね…って、なにこの状況」

お尻を擦りながらヨロヨロと立ち上がったチルノは部屋の様子をグルリと見渡し、数秒の沈黙を置いて納得する。

(ははん…まさか橙もこの場に居たなんてね…
でも、何か『トラブル』があったみたいね。ジョセフの奴が倒れてるのはラッキーといったところかしら)

気絶していたはずの彼女が一体どうやって束縛から抜け出せたのだろうか?
橙は予期せぬ敵の復活に困惑しながらも、意識の無いジョセフの盾になるように前へ進み出た。


「チ…チルノちゃん…!?気絶していたはずなのに…っ」

「ん…?…あぁ、してたけど。
まぁ、そこで寝てる男を見習ってちょっとした『保険』をかけておいたの。勿論それを言うわけが無いけど」


わざわざ敵に手の内を明かすのは余程の⑨か自信家のやる事だが、今のチルノは冷静でいられた。
すなわちチルノがかけた保険とは、彼女があらかじめ腹に貼っておいた支給品『霊撃札』の存在である。

ジョセフを追ってこの家に侵入する前に、チルノは敵の『波紋の糸』を警戒し束縛から脱出できるように、この衝撃を生む札を服の中に隠しておいた。
そして意識を失う寸前、ほんの微弱な霊力を札に注入しておき時限式のように札の効果を発動させたのである。
その強烈な衝撃は彼女らを縛る波紋糸ごと千切って吹き飛ばし、同時にチルノを昏睡から目覚めさせる手段と成り得た。


530 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:21:24 oLFV2JOg0

「さて…お取り込み中悪いけども、貴方もそこの男と一緒に死んでもらう。
目が覚めたらこの思わぬ幸運、逃すわけにもいかないわ」


表情ひとつ変えずに橙の落とした機関銃を物柔らかに拾い上げ、弾薬を取り出して込める。
そして彼女は淡々粛々と橙たちに銃を向け、己に命じられた責務をこなす。


ジョースターの抹殺。黒猫の駆除はそのついでだ。


「それじゃあね」

「や、やめてチルノちゃん…ッ!」





「その辺でお引取り願えないか、おてんば妖精さん」



突如現われた新たなる乱入者の声に驚き、橙とチルノがその方向を振り返ると…
森近霖之助がチルノに慣れぬ睨みを利かせながら立っていた。


531 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:22:43 oLFV2JOg0

「…あら、貴方はあのボロ商店の主じゃない。貴方なんかがよく生きてられてるわね」

誰かと思えば争いも出来ないただの人妖。
恐れるに足らないとばかりに、チルノは鼻で笑う。



「それはコッチの台詞よ。アンタみたいなヒョロっちい妖精が銃持って、何様のつもりさ?」



霖之助の後ろから次に現われたのは悪戯好きの妖怪兎、因幡てゐ。
彼女はいつもの調子で意地の悪そうな笑みを浮かばせながら霖之助の横に並ぶ。


「その武器…随分強そうだけどさ。私達にだって面白い支給品はあるんだよ。
『スタンド』って、何か知ってる?チルノ」

「……!」


スタンドの名前を聞いた瞬間、チルノの表情の色が僅かに変化する。
その変化を見逃さなかったてゐは、どんどんと『ゆさぶり』をかけていく。

「アンタに何があったか知らないけどさ〜…
この人数相手に一人で挑む気ィ?そっちの眠り姫は未だにひっくり返ったまんまだし」

チルノはちらりと気絶したままのこいしを一瞥して、思案する。
確かに戦闘能力でいえば、橙も霖之助もてゐも大した事はない。
だが彼らの『支給品』によっては、話も全然変わってくる。

おまけに彼らは『スタンド』を知っていた。何か『奥の手』を持っているかもしれない。
更に言えば、チルノは先ほど支給品の『霊撃札』を使用していた。
大きな衝撃波を生み出すその札は、消費すれば使用者の『防御力』を著しく低下させてしまうというデメリットも存在しているのだ。
迂闊に戦闘に入れば、負傷は必須。確実に『不利』な状況である。


532 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:24:51 oLFV2JOg0



「…………チッ」


不機嫌な顔で軽く舌打ちをする。
冷静であるからこそ、今は『退く』べき状況だというのをチルノは理解できる。

(ジョースターの人間を倒し、DIO様の負担を減らせる絶好のチャンスだというのに…
でも、ここで返り討ちにあったらそれこそ笑い話。『最強』のあたいが…こんな序盤で倒れるわけにもいかない。
…退かざるを得ないか)


銃を三人に向けたまま後ずさりし、眠るこいしを(かなり苦戦しながら)担ぎ上げて出口へ向かう。
そのままチルノとこいしの姿は見えなくなり、いずれ空気が抜けたように三人はその場にへたり込む。


「…ふぅ〜、何とか上手くいったようだね。
ナイスな『ハッタリ』だったよ、てゐ。流石と言うべきかな」

「なにが流石よッ!これでも心臓バックバクだったんだからね!
さっさとこんな場所からオサラバすりゃいいのに、アンタって男は「様子を見てくる」とか言っちゃって…
結局私までついて来るハメになっちゃったんじゃない!もう二度とやらないよっ!」

「ははは…いや、恐れ入ったよ。助かった。
君ならそこの男と良い『詐欺友達』になれるかもしれないね」


夫婦漫才さながら、ギャーギャー言うてゐを軽く受け流す霖之助。
しかし、彼らもあまり遊んでいる場合ではない。すぐそこに負傷した戦士が倒れているのだから。

すぐに真面目な顔に戻った霖之助は、幼き黒猫に向き直る。
彼女は再びジョセフの腕を引っ張りながら、苦痛に歪めた表情で霖之助とてゐに助けを求めてきた。


「お兄さん達…ジョセフお兄さんを、助けて……お願い…!お願いします…!」

「……すぐにベッドへ運ぼう。てゐも手伝って」

「…………………はぁ〜い(なぁーんで私が…ブツブツ…)」


533 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:26:45 oLFV2JOg0


こうして、ジョセフ・ジョースターと悪の帝王の振り撒いた『3つの悪意』との壮絶なる戦いは閉じた。

しかし、それはまだまだ絶望の序幕に過ぎない。

こいしとチルノ。彼女らを救うことは出来なかったジョセフ。

だが、彼のすぐ傍には泣きながら助けを求めてきたか弱き子猫が、まだいる。

彼女の心だけは、何としても守ってやらねばならない。

次なる敵もまた、強大。

休息の暇無く、傷ついた波紋の戦士は新たなる戦場へと向かうだろう。

その場所には最強の妖獣『九尾』が、大気を震わせるほどの凶気を放ちながら静かに待ち伏せている。

橙と八雲藍が交わした誓いの時刻は、午前六時。

残る時間は、あと僅か。



戦士は立ち上がり、再び戦いの渦中に身を投じる…

―――『黄金の精神』は、砕けない―――


534 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:29:39 oLFV2JOg0
【E-4 人間の里 虹村億泰の家/早朝】

【ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】
[状態]:体力消費(大)、疲労(大)、胸部に銃弾貫通(ある程度は波紋で治療済み)
背中へ数発被弾、DIOとプッチと八雲藍に激しい怒り、気絶中
[装備]:アリスの魔法人形@東方妖々夢、金属バット@現実
[道具]:基本支給品 、毛糸玉@現地調達、綿@現地調達、植物油@現地調達
果物ナイフ@現地調達(人形に装備)、小麦粉@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:待ち合わせ場所『香霖堂』に乗り込んで八雲藍をブッ飛ばすッ!
2:こいし、チルノの心を救い出したい。そのためにDIOとプッチもブッ飛ばすッ!
3:気絶中…
[備考]
※参戦時期はカーズをヴェルガノ火山の火口にたたき落とした直後です。
※東方家から毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフなど、様々な日用品を調達しました。
 この他にもまだ色々くすねているかもしれません。
※虹村家の一階は戦闘破壊の痕があります。また凍り付いて破壊された『アラン』の人形が落ちています。


【橙@東方妖々夢】
[状態]:精神疲労(大)、藍への恐怖と少しの反抗心、ジョセフへの依存心と罪悪感
[装備]:焼夷手榴弾×3@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョセフを信頼してついていく
1:ジョセフお兄さん…助けて…
2:藍様を元の優しい主に戻したい。
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
八雲藍に絶対的な恐怖を覚えていますが、何とかして優しかった頃の八雲藍に戻したいとも考えています。
第一回放送時に香霖堂で八雲藍と待ち合わせをしています。
ジョセフの波紋を魔法か妖術か何かと思っています。
ジョセフに対して信頼の心が芽生え始めています。


535 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:32:40 oLFV2JOg0

【チルノ@東方紅魔郷】
[状態]:胸部に裂傷、疲労(中)、霊力消費(中)、波紋攻撃による痺れ、防御力低下、肉の芽の支配
[装備]:霊撃札×1@東方心綺楼、9mm機関けん銃(残弾0)@現実
[道具]:基本支給品、予備弾倉(25発)×6
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様の敵を抹殺する。
1:あたいは最強。
2:ジョースターの血族は滅ぼす。
3:こいしと共に行動する。彼女はあたいが引っ張っていく。
[備考]
※参戦時期は未定です。
※肉の芽の支配により、冷酷さと知性を持っています。
※こいしに対してお姉さんのように振る舞っています。
 また、彼女の事はDIOの同じ部下としての『同志』だと認識しています。


【古明地こいし@東方地霊殿】
[状態]:肉体疲労(小)、精神疲労(中)、気絶中、DIOへの恐怖と僅かな興味、チルノへの競争意識
[装備]:三八式騎兵銃(2/5)@現実、ナランチャのナイフ@ジョジョ第5部(懐に隠し持っている)
[道具]:基本支給品、予備弾薬×25
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえずチルノについていく。
1:少し嫌な感じになったチルノについていく。
2:飛んでいった神父様を探したい。
3:殺人に対する『タガ』が少しずつ外れていく。
4:地霊殿や命蓮寺のみんな、特にお姉ちゃんや聖に会いたい。
5:『天国』へ行けば、みんな幸せになれる…?
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降、命蓮寺の在家信者となった後です。
※チルノの煽りを受けて半ばヤケクソのようにジョセフと戦いましたが、彼の言葉には揺れています。
※チルノに対しては『負けたくない』という気持ちがあります。
※無意識を操る程度の能力は制限され弱体化しています。
気配を消すことは出来ますが、相手との距離が近付けば近付くほど勘付かれやすくなります。
また、あくまで「気配を消す」のみです。こいしの姿を視認することは可能です。


536 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:33:52 oLFV2JOg0

【エンリコ・プッチ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:肉体疲労(中)、波紋攻撃による痺れ、ジョセフへの怒り
[装備]:射命丸文の葉団扇@東方風神録
[道具]:不明支給品(0〜1確認済)、基本支給品、要石@東方緋想天(2/3)
[思考・状況]
基本行動方針:DIOと共に『天国』へ到達する。
1:ジョースターの血統とその仲間を必ず始末する。特にジョセフは許さない。
2:保身を優先するが、DIOの為ならば危険な橋を渡ることも厭わない。
3:古明地こいしを利用。今はDIOの意思を尊重し、可能な限り生かしておく。
4:主催者の正体や幻想郷について気になる。
[備考]
※参戦時期はGDS刑務所を去り、運命に導かれDIOの息子達と遭遇する直前です。
※緑色の赤ん坊と融合している『ザ・ニュー神父』です。首筋に星型のアザがあります。
星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※古明地こいしの経歴及び地霊殿や命蓮寺の住民について大まかに知りました。
※主催者が時間に干渉する能力を持っている可能性があると推測しています。
※ジョセフの策により、E-4を飛び立って空の彼方へ吹き飛ばされてしまいました。
彼がどこまで飛んでいくかは後の書き手さんにお任せします。


【因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:お腹いっぱゐ、自分の行動方針に不安
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品、他(コンビニで手に入る物品少量)
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。どんな手を使ってでも生き残る。
1:保身を最優先。…だがこーりんの言葉が気に入らない。
2:とりあえずこーりんの言う通りにしてやるか。
3:早朝になったらコロッセオの真実の口の仕掛けを調べに行く。
4:鈴仙やお師匠様に姫様は…まぁ、これからどうするか考えよう。
[備考]
※参戦時期は少なくとも永夜抄終了後、制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※霖之助の言葉に少しだけ心揺さぶる物を感じましたが、わりと不満を持っています。


537 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:34:43 oLFV2JOg0
【森近霖之助@東方香霖堂】
[状態]:健康、不安 、主催者へのほんの少しの反抗心
[装備]:なし
[道具]:スタンドDISC「サバイバー」@ジョジョ第6部、賽子×3@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:自分が生き残れるとは思えないが、それでもやれることはやってみる。
1:自分に出来る事はなんだ…?
2:今は彼(ジョセフ)を助けたい。
3:てゐとは上手く協力関係を築きたい。
4:魔理沙、霊夢を捜す。
5:殺人をするつもりは無い。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
※ジョセフの戦いを見て、彼に少しの『希望』を感じました。


538 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:35:48 oLFV2JOg0
<アリスの魔法人形(3/5)@東方妖々夢>
ジョセフ・ジョースターに支給。
ブロンドのロングヘアーと頭のリボンが特徴の、西洋の侍女のような全長20センチの西洋人形。
主の命令に従って魔法の力で空を飛び奉仕する、五体セットでの支給。
攻撃能力は持たないが、使い勝手がよく可愛げもある。
なおジョセフはこれらに『シャルル』『ピエール』『フランソワ』『アラン』『ペペ』と名付けているが
これは彼の好きな俳優の昔の役名からとっている。
現在は『シャルル』『ピエール』『フランソワ』だけが機能している。

<要石(2/3)@東方緋想天>
橙に支給。
元は比那名居天子の所有物であるしめ縄付きの岩。
本来は地震を抑え付けたり起こしたりする機能を持つが、本ロワでは制限されている。
この岩に飛び乗ると会場内のエリアにランダムで高速飛行するが、禁止エリアに向かうこともある。
使用回数は3回まで。

<焼夷手榴弾3/3@現実>
橙に支給。
赤く塗られたスプレー缶を模したような小型の投擲用兵器3つセット。
安全ピンを抜いて取り外し、対象に投げ付ける事でテルミット反応を用いて激しい燃焼を起こす。
衝撃を与えないよう、紙に入れて携帯すると良い。


539 : Trickster −ゲームの達人− ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:36:11 oLFV2JOg0
<射命丸文の葉団扇@東方風神録>
エンリコ・プッチに支給。
鴉天狗の射命丸文が所持する扇。振ると風を起こす事が出来る。
現実の伝承では、天狗の中でも大天狗または力の強い天狗が持つとされる団扇大天狗の持ち物とされているらしい
扇が起こす風は、物を吹き飛ばすどころか物理的な衝撃波を生み出すほどである。
これを射命丸が操れば風力は更に上がるものと思われる。

<毛糸玉@現地調達>
ジョセフが東方家から調達してきた日用品シリーズ。
どこのご家庭でもお母さんの強い味方である裁縫道具。
手のひらサイズで結構重く、カラーは緑色。
これに油を染み込ませて波紋を流せば、波紋使いの武器にもなる。

<綿@現地調達>
ジョセフが東方家から調達してきた日用品シリーズ。
どこのご家庭にもあるような布団の中をほりだして大量に集めた物である。
ふわふわフカフカでウール100%。真冬の友。
そのせいかどうかは定かではないが、波紋伝導率は高い。水を含ませるとなお良し。

<植物油@現地調達>
ジョセフが東方家から調達してきた日用品シリーズ。
どこのご家庭にもあるような料理するうえで欠かせないもの。
これを撒いたり染み込ませたりする事で、波紋を流れやすく出来る。
カロリーを気にする女性にも優しいが、波紋使いにも優しい。

<果物ナイフ@現地調達>
ジョセフが東方家から調達してきた日用品シリーズ。
どこのご家庭にもあるような台所道具。
リンゴや桃、パイナップルもこれ一本で安心。
金属製なので波紋もよく通す。

<小麦粉@現地調達>
ジョセフが東方家から調達してきた日用品シリーズ。
どこのご家庭にもあるような料理するうえで欠かせないもの。
おかずに使用したり、お菓子作りに使用したり、用途は様々。
粉塵爆発に使うには量が全然足りない。


540 : ◆qSXL3X4ics :2014/03/01(土) 04:40:04 oLFV2JOg0
お待たせして&長くなってしまって大変申し訳ございませんでした。
これで『Trickster −ゲームの達人−』の投下を終了いたします。

ここまで見てくれた方々に感謝します。
感想・指摘部分などあれば是非お願いします。それではおやすみなさい。


541 : 名無しさん :2014/03/01(土) 04:45:33 AyDJfSks0
投下乙です
ジョセェェェェェェェフ!
色々な策を使っていてとてもジョセフらしい戦い方でした
ジョセフはこいしとチルノと橙を救えるのか!
今後の展開に目が離せないです!


542 : 名無しさん :2014/03/01(土) 05:13:24 hameMFA.0
乙。
原作でもそうだが本当絶望的な状況から生きる強さは流石やでぇ
ジョセフ。だが最後で運がぬぇ(やっぱり絶望)


543 : 名無しさん :2014/03/01(土) 11:54:16 zbi3yLRw0
投下乙です。
やっぱりジョセフは強い…!
あの逆境から数多の策を弄して敵を追い詰める姿は流石と言わざるを得ない
そして彼のアツいハートもまたカッコよかった


544 : 名無しさん :2014/03/01(土) 16:25:31 eHvSY.R.0
投下乙
ジョセフ、飄々としながら熱い気持ちが確かにあって、やっぱり格好いいなあ
覚悟完了した⑨じゃないチルノも怖かったけど、ジョセフが一枚上手だったね


545 : 名無しさん :2014/03/01(土) 17:54:00 WXdHeFRY0
ジョセフ主人公してんな〜


546 : 名無しさん :2014/03/01(土) 19:02:26 nY9GtsokO
投下乙です。

ジョセフ→後ろからの銃撃ドキュン!
神父→石に乗ってサヨウナラ
チルノ→人形は5体あった!
ジョセフ→再び銃撃かー!

まさに「勝ったと思ったやつは負けている」


547 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/01(土) 23:59:53 FjOFHUto0
修正版の投下をします。


548 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:01:15 6SUtTMeE0
―――私は走っていた。

いや、気づいていたら既に走っている状態だった、と言った方が正しいか。
なぜ走っているって?そんなの私だって知りたいくらい…
でも立ち止まったらマズい、振り向くなんて以ての外。
今はひたすら、背後にいるであろう存在から逃れるために走ることで精一杯だ。 

それでも、私は一体何をしていたのか、という疑問が脳裏にチラついた。
目が覚めたら走っているなんて、異常な状況を無視することはできないもの。
私は必死に走る傍ら、記憶の糸を手繰り寄せてみることにしたわ。


549 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:02:03 6SUtTMeE0


一人の青年と二人組の男女が竹林にて相対していた。
青年は箒のように逆立った奇妙な髪形をした、ジャン・ピエール・ポルナレフ。
二人組の一人は紳士風の装いをした壮年の男性、ウィル・A・ツェペリ。
そのツェペリの傍で傘を抱えて不安そうな表情を浮かべる少女、マエリベリー・ハーンだ。

「ジョースターという名に聞き覚えは?」
箒頭の男、ポルナレフはツェペリの殺し合いに乗っているかどうかの問いを無視し、
開口一番そう尋ねてきた。

「ジョースター、か。君は殺し合いの場に呼ばれたにも関わらず、人探しとはどういうつもりなんじゃ?
 そいつとはどういう関係なのかね?」
「因縁の相手としか言えないな。もう一度言うぞ、ジョースターという名に聞き覚えは?」

ツェペリは首を左右に振り、やれやれだといわんばかりに両手を挙げた。
「わたしの名前はウィル・A・ツェペリ。
 お嬢ちゃん、彼に名前を明かしてくれるかね?」
「え? は、はい。私はマエリベリー・ハーンって言います…」

その答えにポルナレフはやや不満そうに様子で口を開く。

「二人がジョースターではない、ということは分かった。
 だが私はあまり暇ではない、そろそろ質問に答えてくれないだろうか?」
「まあ、待つんじゃ。いきなり一方的に質問するとは虫がいいとは思わんかね?」
「重ねて言うが、私はそんなことを気にしている場合じゃあ…!」
「まず殺し合いに乗っているかどうか、そこから教えてくれんとわたしたちから話せることは何もないぞ?」
「だが、私は急いで…」
「それとも、君は無暗に他人を怯えさせるような人間なのかね?
 ほれ、お主が怖い顔しとるからメリー君もわたしの後ろに隠れておるじゃないか。」

マエリベリーはハッとし、前に出て抗議の声を上げる。
「わ、私はべ、別にかまいませ…」

「…むむ、そこまで言うなら仕方ない。
 貴方たちが偽名を使っていない、そしてDIO様に手を出さない、
 この2つを約束するなら、私はあなた方を襲わない。…これでいいか?」

  (エッ!?)
  (ディオ…じゃと!?)


550 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:02:58 6SUtTMeE0


予想だにしない名前を聞き2人は内心驚いていた。思わずそれを声に出さそうとしたが何とか堪える。

「どうした?」
「いやいや、なんでもないぞ、その2つを約束しよう。良いかな、メリー君?」
「は…はい。私は平気です…けど。」

 まさか、こやつの口からディオの名前を聞くとは。
 そして『ジョースター』家を探している、か…。厄介なのに出くわしたようじゃな。

 ディオって確かツェペリさんが探していた『石仮面』を被って吸血鬼になった人…
 そしてツェペリさんの弟子のジョナサンさんの元『友人』、その人を様付け?

「さて、他に私は何を答えたら教えてくれるのだ、ツェペリ殿?」
「そうじゃな、まずは…
 そこにいる馬、触らせてもらっても構わんかな?」


「「はあぁ!?」」


「ツェ、ツェペリさん!いくら何でもそんなことしている場合じゃあ…」
「分からんぞ、メリー君。この馬に何か仕込んであるか分からんからな、
 ちょっと前にいきなり馬の首が取れて、中から屍生人が出てきたことがあってじゃな…。」
「お、脅かさないでくださいよ! それに、彼だって許すわけが…」

「全く以てその通りだ―――
 と言いたいが、それで済むなら好きにしろ。ただし手早く終わらせてくれ。」

「―――って許すんですか!?」

マエリベリーが呆気にとられるのを他所に、ツェペリはとうに馬に近づいていた。
彼女もその後をササッと追った。

「ツェペリさん、一体何をするつもりなんですか?まさか、乗り逃げするつもりじゃあ…」
マエリベリーはポルナレフに聞こえないように小声で尋ねる。

「ほっほ、そんなつもりはないよ。…むしろ奴を止めることも視野に入れんといかんかもしれん。」
「…ジョナサンさんが危険ですものね、私も力になれたら…」
「戦う力がないことを悔いる必要はないぞ、メリー君。無くていいんじゃ、
 有るから争いは起きる。あの『石仮面』のようにな。」

 私にはツェペリさんから悔しさが滲んでいるように見えたわ。
 だって『石仮面』の力で振り回されている人をこの殺し合いの場で、
 早速目の当たりにしたんだもの。

その後ツェペリは馬を撫でたり、騎乗しようとするも、何故か噛まれたり、
振り落とされたりして、随分嫌がられている様子だった。


551 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:03:47 6SUtTMeE0


その間ポルナレフは二人の様子を窺いつつも、ツェペリとは違う方を向き、
声を少し張っておもむろに告げる。

「そこに隠れている2人、敵意がないなら出てきてもらおうか?」

「………」

「それとも、ジョースターの内の誰かか?違うなら出てきた方が身のためだ。
 逆に出てこないというなら―――。」


「…分かったわよ、でもなんでバレっちゃったのかしら?」
そう言いながら、桃色の髪に水色の着物のようなものを着た女性、
その後に続くように紫色のおかっぱ髪に花飾りをあしらい、こちらも着物を着た少女が出てきた。

「君たちはジョースターの名を知らないか?
 それとよかったら名前を窺いたい。」
「ジョースターねぇ…生憎知らないし見てないわ。貴女はどう、阿求?」
「私もこれといって聞かない名前ですね。
 あっ、私は稗田阿求、彼女は西行寺幽々子と言います。」

「…そうか。まったく、奴らは竹林にはいないとみるべきか…」
一人呟くポルナレフに、幽々子は不満そうに声を上げる。

「ところで、人を脅しといて自分から名乗り上げないつもり?変な髪型も合わさって印象悪いわよ?」

「向こうの用事が済んだらまとめて話す。それまで待ってもらおう。」

ポルナレフはあくまで事務的に伝える。後ろで幽々子が箒頭がどうだこうだ悪態をつき、
阿求がそれを諌めていたが気にせずツェペリたちを見遣った。


552 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:04:50 6SUtTMeE0


その間ポルナレフは二人の様子を窺いつつも、ツェペリとは違う方を向き、
声を少し張っておもむろに告げる。

「そこに隠れている2人、敵意がないなら出てきてもらおうか?」

「………」

「それとも、ジョースターの内の誰かか?違うなら出てきた方が身のためだ。
 逆に出てこないというなら―――。」


「…分かったわよ、でもなんでバレっちゃったのかしら?」
そう言いながら、桃色の髪に水色の着物のようなものを着た女性、
その後に続くように紫色のおかっぱ髪に花飾りをあしらい、こちらも着物を着た少女が出てきた。

「君たちはジョースターの名を知らないか?
 それとよかったら名前を窺いたい。」
「ジョースターねぇ…生憎知らないし見てないわ。貴女はどう、阿求?」
「私もこれといって聞かない名前ですね。
 あっ、私は稗田阿求、彼女は西行寺幽々子と言います。」

「…そうか。まったく、奴らは竹林にはいないとみるべきか…」
一人呟くポルナレフに、幽々子は不満そうに声を上げる。

「ところで、人を脅しといて自分から名乗り上げないつもり?変な髪型も合わさって印象悪いわよ?」

「向こうの用事が済んだらまとめて話す。それまで待ってもらおう。」

ポルナレフはあくまで事務的に伝える。後ろで幽々子が箒頭がどうだこうだ悪態をつき、
阿求がそれを諌めていたが気にせずツェペリたちを見遣った。


553 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:05:48 6SUtTMeE0

「ツェペリ殿、もう気は済んだだろうか?」
「やれやれ、ちょいと躾がなってない馬じゃな。それに後ろの女性方はどうしたんじゃ?」
「近くで隠れていたようだったからな、用心のために話を付けた、それだけだ。」

こちらを見ている二人に幽々子はニコニコして手を振る。
場違いな反応に少々面食らう二人であったが、慌てて阿求が謝罪の弁を述べた。

「隠れていたのが不快だったのでしたら、申し訳なかったと思います。
 でも決して悪意があったわけではないんです。」
「そう、そう。隠れていたのは自衛のため。
 それに折をみてお話をするつもりだったもの。ねぇ?」

そう言うと、幽々子がマエリベリーと目が合うと小さくウィンクした。
「…?」
「とにかく、敵意がないのなら歓迎しよう。わたしはウィル・A・ツェペリ、
 この娘はマエリベリー・ハーンじゃ。」
「…よろしくお願いします、友達からはメリーって呼ばれてます。」

マエリベリーは自己紹介し、軽くお辞儀した。その様子に幽々子は友人―――八雲紫の姿と比較する。
 
 うーん、見た目は紫に似てはいるけど、違うわねぇ。付き合いは長いけど、
 あの子って出会ってからもほとんど変わらないし(あっ、私もか)。
 強いて言うなら、私に出会う遥か昔の紫って感じかしら。見た感じ若いものね。
 まぁ、そっくりさんってところかしら?

幽々子はとりあえずは考えるのをそこで止め、同じように自己紹介をする。


「さてと、貴方もいい加減に自己紹介してもらえないかしら、箒頭さん?」

ふむ、分かった、と言うと堂々と自己紹介をする。
「私の名前はジャン・ピエール・ポルナレフ!
 無念のまま死んだ妹の仇を討つ為にッ!
 そして私が忠誠を誓ったDIO様のためにッ!
 憎き『ジョースター』の名を持つ者とその一行をッ!
 この手で殺めることだッ!理解してもらえただろうか、諸君?」

 …やはりあのディオのようじゃな、しかしこやつからは屍生人特有の腐敗臭がしない、
 純粋に忠誠を誓っているのか?
 
 やっぱりこの人、危険だ。ジョナサンさんのために止めたいけど、どうしたら?
 
 私たちには無関係とはいえ殺し合いに乗っている方でしたか…

 主人の為に相手を殺すか…あの娘も馬鹿な真似してないといいんだけどねぇ。


554 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:06:39 6SUtTMeE0


各人様々な疑問や考えが駆け巡るが、ポルナレフはさらに続ける。

「ツェペリ殿、マエリベリー君、改めて尋ねるぞ。
 貴方たちはジョースターという名に聞き覚えはないか?」

「残念じゃがジョースターの名前を持つ者なら、わたしもメリー君も会っておらんよ。
 ここで人と会うのはお前さんと幽々子君そして阿求君が初めてでな。」

ツェペリはそこで一旦区切って、気になった話について問いただしてみる。
「一つ聞きたい。妹を殺されたと言ったが、それは本当にジョースターの仕業でよいのか?」

「DIO様がそう仰ったのだ、間違いとは思えんな。」
「そうか…ならば犯人の特徴についてお主は何か知らないのか?」
「もちろん、知っているとも。確か……」

ポルナレフはもう一度「確か…」とつぶやくと頭を抱え込んだ。


「何故だッ?思い出せないッ!?特徴は、特徴は………」
ブツブツと何か呟きながらポルナレフは思い悩むが、やがてハッとする。

「いや、必要ないな。犯人はジョースターとその一行。
DIO様の言う通りにしていれば、いずれ尻尾を掴めるはずだ。」

 こやつ様子がちとおかしい気がしてきたぞ。
 ディオはもしや屍生人にせずとも吸血鬼の力だけで相手を支配できるのか?
 自身で考えるのを放棄するまでディオに心酔しておる。
 こやつを放っておけばジョジョにも危害を加えるじゃろうし、ほっとくわけにいかんか。

「さて用は済んだ、私はこれにて失礼する。
 もし、奴らに出くわしたら私に伝えてくれると助かる。それでは。」

「…待ってもらおうかの、ポルナレフ君。」
「どうしましたか、ツェペリ殿?」
ヴァルキリーに近寄っていたポルナレフは足を止め、振り返る。


555 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:08:59 6SUtTMeE0


「君は吸血鬼の存在を知っておるかね?」
「吸血鬼?なんですか藪から棒に…」
「君の言うディオ様は日中、日の差すところで行動したところを見たことがあるか?」
「いや。DIO様は訳は存じないが、日に当たることのできない身と言っていたな。それがどうかしたか?」

ツェペリは小さくため息を漏らし、口を開く。
「簡単に言うぞ。わたしは『石仮面』という人間を吸血鬼に変えてしまう仮面を追っておる。
 そしてお前さんの主、ディオ・ブランドーは石仮面の力で吸血鬼になり多くの人間を殺したのじゃ。
 わたしとジョジョは奴をこの世から消し去るために行動しておる。」
「DIO様を消し去るだと…!?」
「奴の力に惹かれているというなら、悪いことは言わん。今すぐに―――
「聞き捨てならないぞ…!ウィル・A・ツェペリッ!黙って聞いていればヌケヌケと…!」
ポルナレフは怒りに震えながら、静かに怒気を含んだ声を漏らしていた。 

「石仮面に吸血鬼、ファンタジーやSFじゃあるまいし世迷言を抜かすな!
 挙げ句、我が主を消し去るとか言ったな!
 覚悟はいいか!『シルバー・チャリオッツ』!!」

怒りを露わに自らのスタンドの名を宣言する。
すると、ポルナレフの傍にまるで、最初からその場にいたようかのように佇む騎士の姿がいた。
騎士は銀の甲冑を纏い、細見の剣を構えており、その視線は手にした刃と同じく鋭い。
突然の出来事にツェペリを含む4人とも驚きを隠せなかった。

「な、なんじゃあッ!こいつは、いつの間に…!?」
「う、嘘。どうして…?」

「スタンドを見るのは初めてのようだな。それでDIO様に楯突こうというのならお笑い種も甚だしい。
 だが、このポルナレフ容赦せん!」

そう言うが早いが、ポルナレフはスタンドと共に駆け出す。
ポルナレフは偽りの忠義のため、戦いをけしかけてきたのだった。


「―――ッ!速いッ!!」
間合いを詰めるスピードもさることながら、さらに恐ろしいのは熟達した技術も合わさった剣速!

それでも相手の速度を鑑みて後方に飛び退くことで、わずかに掠めるだけでツェペリは事なきを得る。

「お返しにくれてやるわいッ!」

着地した瞬間に退いた勢いを180度転換。逆襲にとチャリオッツ目掛け、
パウッと波紋の呼吸と共に膝蹴りを見舞わせる!

「仙道波蹴ーッ!」

膝蹴りは的確にチャリオッツの胸を捕え、波紋を全身に流すことに成功する。
ツェペリは後方に着地する、鎧越しだが確かな手ごたえを感じ、
チャリオッツを気絶へ追い込んだと思っていた。しかし―――

「無駄だ!スタンドにはそのような攻撃は通用しないッ!」

ツェペリの攻撃が意味を成さないと言わんばかりに、チャリオッツは突撃を再開していた。

「ば、馬鹿な…!?」

そして距離は完全に詰められ完全な射程圏内、逃げ場はない。

「覚悟してもらうぞ、ツェペリ!『シルバー・チャリオッツ』ッ!!」
「くっ、腹を括るしか、ないようじゃな…!」

さっきと同じように後方に逃れれば、次こそはスピードの速いチャリオッツが振るう刃から逃れられない。
ならば応戦するほかない、ツェペリはそう判断し、チャリオッツを睨み片手を突き出し構えた。


556 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:12:17 6SUtTMeE0

「うーん、なんだか私達、置いてきぼりにされちゃったわね?」
「幽々子さん、そんな呑気な…」

幽々子がのんびりとした感じで話す様子に、ツェペリの連れであるマエリベリーに対して
失礼だと感じた阿求は幽々子を窘めた。
「でもねぇ、阿求。あの二人は当人同士でけりをつけたいはずよ。
 現に私達になーんにも教えてくれないんですもの。」
「確かに、そうですけど…」

でもねぇ、と付け足しマエリベリーをチラッと見て幽々子はさらに続ける。
「誰かに教えてもらえれば、私達も無関係ではないわね。誰かいないかしらー?」
「…!力になって頂けるんですか!?」

幽々子の言葉の意味が分からないほどマエリベリーは愚鈍ではない。
驚きながらもすぐに幽々子へと視線を移した。

「ふふ、説明してもらえるかしら、メリー?」

幽々子はメリーの期待のまなざしを、いつもの余裕を持った笑みで返した。


マエリベリーはどうしてツェペリがポルナレフと戦わなければならないのか、要点を押さえ手短に説明した。

「石仮面を追うツェペリさん、石仮面によって吸血鬼となったディオさん、
 彼を止めるべく立ち上がったジョナサンさん…」
「―――で、何故かディオに従っている箒頭ね。まあ、概ね理解できたわ。」

「…信じてもらえるのですか?」
あっさり今までの話を飲み込んだ二人に却って驚くマエリベリー。
自分だって聞かされた当初は多少なりと疑ったのにも係らずだ。
しかし、真摯な態度を以て接してくれたツェペリの言葉だからこそ突拍子もない話でも信じられたのだ。

「ああ、説明してなかったわね?私達もちょっとだけ普通じゃないのよ、ちょっとだけね。」
「私の知識と合致しないところもありますが、外の世界では吸血鬼ってそんな風にできるんですか。
 興味深いですね…」
ふむふむ、と頷きながらマエリベリーが話した内容を租借する阿求に幽々子が水を差す。

「あらら、あなただってこんな時に呑気過ぎないかしら、阿求?」
「うっ…す、すみません。職業柄というか、つい…」
申し訳なさそうに返す阿求にコロコロと笑う幽々子だが、
さてと、と発すると話を切り替えるべく表情を引き締める。

「ちょっとふざけ過ぎちゃってごめんね、メリー。まぁ、安心なさい。阿求、メリーを任せるわね。」
「はい、でも決して無理なさらないで下さい。」
「頼んだ手前にアレですけど…本当に大丈夫なんですか?」
本当に今更だが、マエリベリーは不安に、いや心配していた。
買って出てくれたとはいえ、自分と同じ女性に頼むことに尻込みするのは当然ともいえる。
幽々子はマエリベリーに近づくと片頬をつまみ上げる。


557 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:12:48 6SUtTMeE0

「うーん、なんだか私達、置いてきぼりにされちゃったわね?」
「幽々子さん、そんな呑気な…」

幽々子がのんびりとした感じで話す様子に、ツェペリの連れであるマエリベリーに対して
失礼だと感じた阿求は幽々子を窘めた。
「でもねぇ、阿求。あの二人は当人同士でけりをつけたいはずよ。
 現に私達になーんにも教えてくれないんですもの。」
「確かに、そうですけど…」

でもねぇ、と付け足しマエリベリーをチラッと見て幽々子はさらに続ける。
「誰かに教えてもらえれば、私達も無関係ではないわね。誰かいないかしらー?」
「…!力になって頂けるんですか!?」

幽々子の言葉の意味が分からないほどマエリベリーは愚鈍ではない。
驚きながらもすぐに幽々子へと視線を移した。

「ふふ、説明してもらえるかしら、メリー?」

幽々子はメリーの期待のまなざしを、いつもの余裕を持った笑みで返した。


マエリベリーはどうしてツェペリがポルナレフと戦わなければならないのか、要点を押さえ手短に説明した。

「石仮面を追うツェペリさん、石仮面によって吸血鬼となったディオさん、
 彼を止めるべく立ち上がったジョナサンさん…」
「―――で、何故かディオに従っている箒頭ね。まあ、概ね理解できたわ。」

「…信じてもらえるのですか?」
あっさり今までの話を飲み込んだ二人に却って驚くマエリベリー。
自分だって聞かされた当初は多少なりと疑ったのにも係らずだ。
しかし、真摯な態度を以て接してくれたツェペリの言葉だからこそ突拍子もない話でも信じられたのだ。

「ああ、説明してなかったわね?私達もちょっとだけ普通じゃないのよ、ちょっとだけね。」
「私の知識と合致しないところもありますが、外の世界では吸血鬼ってそんな風にできるんですか。
 興味深いですね…」
ふむふむ、と頷きながらマエリベリーが話した内容を租借する阿求に幽々子が水を差す。

「あらら、あなただってこんな時に呑気過ぎないかしら、阿求?」
「うっ…す、すみません。職業柄というか、つい…」
申し訳なさそうに返す阿求にコロコロと笑う幽々子だが、
さてと、と発すると話を切り替えるべく表情を引き締める。

「ちょっとふざけ過ぎちゃってごめんね、メリー。まぁ、安心なさい。阿求、メリーを任せるわね。」
「はい、でも決して無理なさらないで下さい。」
「頼んだ手前にアレですけど…本当に大丈夫なんですか?」
本当に今更だが、マエリベリーは不安に、いや心配していた。
買って出てくれたとはいえ、自分と同じ女性に頼むことに尻込みするのは当然ともいえる。
幽々子はマエリベリーに近づくと片頬をつまみ上げる。


558 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:14:31 6SUtTMeE0
すみません二重投下していました
>>557を消しておいてください。


559 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:15:09 6SUtTMeE0


「ふぁにふるんでふか!?」

「いやねー、ひょっとしたらあの娘の昔ってこんなに可愛かったかしらって考えてね♪」
そう言うと、パッと手を離してあげた。マエリベリーは首を傾げるが、
ふと思い立つと自身の手に握っている物を差し出す。

「…そうだ、素手では危ないしこれでよかったらこれを使ってください!」
「悪いけど受け取れないわ、メリー。だってそれは私の友達の物だし、
 今は貴方の手に持ってたほうがよーく似合うもの。」
ピシャリと断る幽々子だが、その顔はにこやかだ。
「そんな理由で―――」
「それに、ちゃんと獲物はあるわ、とっても大事な物が…ね。」
幽々子は腰に下げた少し小ぶりの刀を見せると、続きは後で話ましょうねー、
と言って対峙する二人へと向かって行った。

マエリベリーの表情はそれでも少し暗かった。阿求は何か自分でできることはないかと考えた結果、
彼女の不安を取り除こうと話しかけることにした。
「呑気な雰囲気の方ですけど、あれで凄腕の剣士の庭師をお持ちなんです。
 きっとお強いはずです、きっと…?」

マエリベリーを元気づけようとした阿求だったが、逆に話していて自分も心配になってきた。
彼女とて幽々子が戦っている姿を見たことはない、異変を起こす力は持っているが
直接的な戦闘はどこまでできるのか、見当もつかなかった。


「………あ、そうだ。さっき幽々子さんが普通じゃないって言っていたのは何故ですか?」
気まずい空気が流れそうになるのを感じたのか、マエリベリーは話題を振った。

 なんだか安心させるどころか、気遣われたような…
ひそかに心の中で自分の情けなさに涙しながら答える。
「ええと、そうですね。まず、私たちは『幻想郷』の住人なんです。
 逆にメリーさんは私たちからすると『外の世界』の方になりますね。」

「幻、想郷…!?」

「はい、それで先ほど幽々子さんが言っていた御友人の名前は『八雲紫』様と言って
 その『幻想郷』を管理されているお方なんですよ。」

「八、雲…ゆか、り!?」

―――マエリベリーの内側で二つの言葉が反響する、『幻想郷』と『八雲紫』
―――懐かしく、遥か昔から知っていたような感覚に襲われる
―――ふと対峙するツェペリとポルナレフが視界に入る
―――その途端、急に瞼が重くなるのを感じた
―――近くで阿求が声をかけるも空しく、彼女の意識は静かに混濁していった


560 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:16:10 6SUtTMeE0


そして話は冒頭へと戻る―――

思い出したわ…!私は確かに阿求さんの話を聞いていた。で、急に気が遠くなって、それからは…!?

  ツェペリさん達の戦いはどうなったの?
  私はどうしていきなり気を失ったの?
  誰が追いかけてきているの?

一通り今までの記憶を思い出すも、未解決の問題があることに愕然とする私だった。
「はぁッ、はぁー……はぁ…」

もう10分以上は走っているだろうか。追跡してくる相手はしつこく、なかなか逃がしてくれそうにない。
体力に自信があるわけでもない私は、いよいよ走り続けるのが難しくなってきた。
それでも振り向くわけにはいかない。立ち止まるわけにはいかない。
追手が誰か分からないからか、私は2つの選択肢のどちらも選べなかった。
せめて誰か分からないと安心できなかった。

一体誰が追ってきているの?あの場にいた誰かって考えるのが自然だけど。
だってここはさっきいた竹林だもの………ん?竹林って、そういえば…!?


マエリベリーはハッとした。彼女はこの自分の状況に強烈な既視感を覚えているからだ。


―――そう、そうよッ!
竹林で追いかけられるシチュエーションって、
私が前に蓮子に話した夢の出来事とぴったりじゃない…! 
それじゃ、まさか!?
ここは私の夢の中?
意識を失ったのも、つまり―――今寝てるからなの!?

マエリベリーは『境目』を見る力を持っている。この力で蓮子と一緒に、
結界の切れ目を探しては、別の世界に足を運ぶといったことをしている。
それが原因かどうかは分からないが、夢を見るときにも別世界を彷徨うようになってしまったのだ。

だからなのかしら?私が走るのを止めないのは。
だって、夢と現は同じもの。最近の常識では同意語なのよ。
夢であろうと現であろうと、得体の知れない物からは逃げなきゃいけないわ。
そこにある真実は決して変わらないのだから。


561 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:17:19 6SUtTMeE0

「ホラホラホラホラホラぁーッ!」
「ぬおおぉぉおおーーッ!」

戦況はポルナレフが有利に動かしていた。チャリオッツのスピードを活かした、
剣の突きによるラッシュでツェペリを攻め立てる。

対するツェペリはそれをなんとか避けようとするも、そのスピードに苦戦していた。

 速いッ!さっきからかなりのスピードで動いているというのに全く衰えておらん!

勿論ツェペリもただ避けているだけではない。しかし最初に食らわせた波紋蹴りと同じように、
チャリオッツに波紋が一切通じないのだ。

 わたしの波紋を受けても『スタンド』とやらには効かない…!
 なら、本体を―――ポルナレフ叩くしかない…が!

当然ポルナレフがそれを許すはずもなかった。近づこうにもチャリオッツを引き留めなくてはならない、
だがチャリオッツに波紋が効かないのではダメージは与えられない。
さらにスピードも相手の方が上、スタンドの猛攻を振り切ってポルナレフへ攻撃するのは不可能。
ツェペリの状況は積みに等しかった。

 わたしは諦めるわけにはいかん…!こやつの後ろに控えている『石仮面』のその邪悪から解き放つために! 

「どうした、ツェペリ!避けているだけでは私には勝てんぞッ!」

しかし反撃のチャンスを窺うも、避けきれなかった刃がまたも体を走る。
一つ一つは深くはないが、全身のいたるところに斬りつけられた後が残っていた。

「ぐうぅッ、そういうことは!わたしに、一撃食らわせてから、言うんじゃなッ!」

ツェペリは避ける。払ってくる刃に大きく身を屈め、そこから振り下そうとするなら地面を転がり、
突いてくるなら身を反らして凌いだ。
だがいずれも完全には避けきれず、掠り傷を生み出していた。



しかしここに来て、ようやく戦況が動く。

突如チャリオッツが攻撃が止め、ポルナレフの元へ戻る。
その直後ツェペリの背後からチャリオッツに向けて紫色をした光が三本差さっていた。
ツェペリは一瞬攻めるか、退くか悩むが一旦距離を取るべく走る。


「ハァーッ、ハァー、君がしたのか…幽々子君。」
「ええ、あの娘に頼まれたのよ、貴方を助けてくれってね。」

助け舟を出した幽々子は小さく笑う。

「さっきの光は一体何をしたんじゃ?」
「後で説明するわ。今はあの男を片すのが先でしょう?」


562 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:18:04 6SUtTMeE0


幽々子はポルナレフを指差して言う。
「やれやれ、まさかこのような女性から横槍を入れられるとはな…。」

レーザー状の弾幕をチャリオッツで受け止めたポルナレフは静かに口を開く。
「まあいい、こちらも戦いを止めようと思っていたところだ。」
「どういうつもりじゃ?」
「スタンドを持たない貴方では万に一つも勝ち目はない、貴方自身それがよぉーく分かったはずだ。」
「確かに手こずらせてくれる、ちーっと骨が折れそうじゃわい。」

「それに、我がスタンドは取るに足りない相手を嬲るためのものではない。」
従って、とポルナレフは言い、スタンドを戻すとツェペリに向けて一つの提案を持ち掛ける。

「ジョースターの情報を吐くこと、
 貴方がDIO様を侮辱したことを撤回すること、
 手を出さないことを誓え…!
 そうすれば見逃すことを約束しよう。」

「ほう?ずいぶん親切じゃな、わたしはディオの敵だということを忘れておらんか?」
                「だがッ!」

ポルナレフはツェペリの言葉を遮る。
「一つ言っておくッ!我が主DIO様もスタンドを所持し、その力は私を遥かに凌駕していることをッ!
 私に傷一つ負わせることが出来ない貴様に勝利など、絵空事に過ぎないッ!」

しばし二人の間に沈黙が流れ、ツェペリがその静寂をゆっくりと破る。

「少し話をさせてもらうかの、ご清聴願えるかな、ポルナレフ君?」
「いいだろう、話してみろ。ツェペリ。」

「わたしはなあ、ポルナレフ君。人は困難に衝突した際に『立ち向かう』か、
『立ち止まる』か、この2つがあると思っておる。」

「じゃが、『立ち向かう』のも『立ち止まる』のも自由じゃとわたしは考えておるよ。
 真に『立ち向かう』のに必要なものは『勇気』。
『恐怖』を我が物とし、乗り越えられるのなら困難に打ち克つことが出来る。」

「もし『立ち止まる』なら、『恐怖』に飲まれ呼吸を乱すようなら、
 無理に挑むのはノミのすることじゃ。そんなもの『勇気』ではない。
 自身を『卑怯者』と感じても、『勇気』を持つために足を止めることは決して間違いではない。
 大事なのは永遠に『立ち止まらない』ことじゃ。」

「では貴方の持論通りならばここで『立ち止まる』べきではないか、ツェペリ?」
ツェペリはポルナレフの言葉を無視して、さらに話す。

「お主のディオはな、ある困難に衝突した時、人間を辞めることで『立ち向かう』ことを選んだ。
 じゃがわたしからすれば、そんなものは『立ち向かう』とは言わん、絶対にな。
 奴の行為は『人間』の『可能性』、『勇気』を持とうすることから
 永遠に『立ち止まる』行為にすぎん。」


「………」
「話が長くなったな、ポルナレフ君。わたしは当然『立ち向かう』ことを選ばせてもらうぞ。
 なぜなら、わたしの持つ『可能性』はこの困難を乗り越えられることを知っているからじゃッ!
『スタンド』を持たぬわたしが、人間の持つ『勇気』と『可能性』見せてやろう―――
 それこそが『人間賛歌』というものッ!」

「あくまで、私と戦うことを望むか…。ならば是非もない、受けて立とうッ!
 ただしその命を貰い受ける!」

「あの〜、私も忘れないでほしいわ。まったく二人揃って、勝手に話を進めて…」
二人が話している輪に入れず幽々子は少し困っていた。


563 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:20:22 6SUtTMeE0

「はぁッ、はぁッはぁッ、はぁー、……はぁ…」

あれから、私はさらに走り続けていたわ。
いい加減に限界が近づいているのが分かる、そして違和感を感じ始めたのよ。
足も痛いし、呼吸も乱れて、私の走る速さはとっくに落ちているはずなのに、
追跡者は追いつこうとする気配がないの。

それに周りの景色もおかしいわ、辺りの色合いはまるで白黒テレビみたいなモノクロ調になっているし、
竹林を回り続けているのか、同じ景色を延々と見ているようだったの。

私にとって夢も現も一括りなんだけど、蓮子のように言うなら
やっぱりここは私が見ている夢の世界なんでしょうね。
私はこの竹林でのとびっくらを体験したことがあるし。

なんにせよ、そろそろこの夢を終わらせないといけない。
殺し合いの場で眠っている場合ではないもの。だとすると、どうやれば目覚めるのかしら?
あの時は―――そう、走っている位置より先の竹林が紅く光ったのよね。
それで走るのを止めて、その先は…うーん、覚えてないわね。まあそこで終わったとしましょうか。

でもさっきから一向にそんなことは起きない、同じようにして終わるとは限らないってこと?
なら…後ろで追って来ている人に尋ねてみようかしら?
何のために逃げてきたか分からなくなるけど、
もうそれ以外で解決する手段が思い付かないわ。
いい加減疲れ過ぎて、恐怖心が麻痺してるわね、私

今、あの時と違って明らかに疲れている。あの時は走っていたのか、
はたまた空を飛んでいたのか覚えていないけど、必死に逃げてはいたのに疲れはなかったはず。

このまま延々と走り続けるぐらいなら―――腹を括るしかないかしら?
括るのが首じゃないといいけど……


あれから3分ほど経ったわ、負け犬ムードだったし疲労も限界。
私はついに観念したわ…、意を決して振り向いたのよ。


そこにいたのはある意味で予想の範疇だったわ、一瞬見たときわね。
私を追っていたのは、竹林でツェペリさんと戦っていた
ジャン・ピエール・ポルナレフさん『らしき』人だったわ。
『らしき』って言うのはちゃんと意味があるのよ。だってそこにいたのは、
どんな表情しているのか分からないシルエットみたいな感じだったもの。
白と黒色のみの世界でも彼の見た目は異質だったわ。全身が白で彩られているかと思ったら、
前髪の付け根辺りからドス黒い何かがあるのが見えたのよ。
そして私はそこを見た瞬間、声が聞こえたわ。


564 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:21:13 6SUtTMeE0



「きさま!見ているなッ!」



その言葉を境に、ポルナレフさんのドス黒い何かが彼を黒に染め上げていったの。
挙げ句そのそれだけじゃ終わらず黒は、空間にも及んでいって―――
最後には何もかも真っ黒よ。もちろん私も逃げようかしたけど、黒色に飲み込まれていったわ。
ほんと、夢みたいな話でしょう?でもまだ終わりじゃなかったのよ。

そこで意識は途切れることなかったの。目を覚ますと、そこにはポルナレフさんはいなかったわ。
代わりに立っていたのは金色の髪にハートの髪飾りを身に着け、黄色を基調とした服を纏った男性。
いや、見た目よりもその男の雰囲気というか空気が異質だったわ。
私は一目見ただけで今まで出会ってきたことのないタイプの存在だと感じたのよ。
その男は気さくに話しかけてきたわ。
「やあ、お嬢さん。名前はマエリベリー・ハーン、メリー君で良かったかな?」

私は条件反射のように返事をしていたわ。私の名前を知っていることよりも、
自然と私が返事をしていることに驚いてね。
その時気づいたわ。この男の纏う空気に圧されていることに。
「しかし、驚いたな。こんな形で私の領域に踏み込んできたのは君が初めてだ。
 一体どうやって入り込んだか教えてくれないか?」

私は夢の中の出来事だと答えるかどうか一瞬悩んだわ。でも口はあっさり開いちゃったのよ。
簡単にだけど説明したの。まるで操られているみたいで気持ち悪かったわ。
「非常に興味深いな。君の話が本当なら、
 夢の中を自分の意志で体験できる。なかなか素敵じゃあないか!
 おっと失礼、まだ名乗っていなかったね、私の名前はDIOだ。
 よろしく、メリー君。折角来てもらったんだ、何か聞きたいことはあるかな?」

ディオ。ツェペリさんが話していた男の名前、そして今彼が戦っているであろうポルナレフさんの主。
その男が目の前にいるというのに、私は妙に納得していたわ。
この奇妙な雰囲気の存在を生む『石仮面』だからツェペリさんは戦うのだと。
相手を従わせるカリスマを持つゆえにポルナレフさんは従う、私もつい答えてしまうのだとね。

私はここから出たかったわ。親切にしてくれるけど、本能は逃げろと言ってるもの。
だから私は尋ねたわ。ここがどこなのかって。
「ん?君はさっき夢の中の出来事だと話してくれたじゃないか?」

夢の世界にいるのはとっくに理解できたわ、でも私の力は夢を見て別世界を彷徨うためのものじゃない。
『結界』や『境目』を観測できる、それが本来の力。
夢での体験は言ってしまえば、二次的な副産物にすぎないのよ。
まして、私はついさっきまで起きていたのだから、きっかけはもっと別にあるって考えたわ。
例えばそう、何かしら『結界』や『境目』をこの目で観測した、とか…


565 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:21:54 6SUtTMeE0

「フフフ。まあいい、意地悪せず答えよう。私も初めての体験でね、正直に言って明確には分からない。
 だが、おそらくここは私が与えたポルナレフの肉の芽の中だ。」

ポルナレフに与えた肉の芽?と私は気になる言葉をオウム返ししたわ。
「君もさっき見ただろう?彼の額より少し上の部分にあるモノを、
 あれのことだ。君はそのあたりにいるだろう。
 しかし物理的に侵入した感じではない、夢の世界というのは実に奇妙なものだな。」

あのドス『黒』い何かってディオが生み出したもの?
そしてあの場に立っていた『白』のポルナレフさん。
そこまで聞いてハッとしたわ。私はあの時見たのよ『境目』をね。
「さて、今度はこちらからちょっとした提案がある、メリー。
 私と友達になってもらえないだろうか?」

私は予想外の言葉を聞いて、一瞬呆気にとられたわ。それでもディオは続けたのよ。
「君は今この殺し合いの場で少なからず『恐怖』を抱いているはずだ。
 だが、私の友達となってくれれば君に『勇気』を与えることができる。」

私は断るかどうか悩んでいたわ。今度は即答せずに済んだけど、
「はい」って返事しそうになりそうだったの。
ツェペリさんから危険だと教えられたのにどうして?
「君はツェペリという老人から、私の話を聞かされているから不安に感じるかもしれない。
 だが誤解なのだよ。私は吸血鬼などといった存在ではないんだ。」

そうなんですか?って私は明るい声で返していたわ。
どうして?理由も根拠もないディオの言葉を私は信じようとするの?
このままじゃいけない、強く感じたわ。

「では、友達の証として君にプレゼントだよ。受け取ってくれ。」

ディオの髪が独りでに蠢き出したのよ。少しすると髪の毛から見覚えのあるものが見えたわ。
それはポルナレフさんの額辺りにあった肉の芽。私の目にはここでもその色は『黒』かったわ。
流石にその様子を見て、私はようやくハッとしたわ。
彼が生み出した肉の芽は人を操るためのものだということに。

私は一目散に逃げ出したわ。操り人形にされるのが分かってしまったから。
でも、いつの間にか私の前にディオが立っていて、なのに誰かが私を後ろから羽交い絞めにしたの。
「安心するといい、痛いのは最初だけだ。すぐに私に従う快楽を与えてやろう。」

そう言うと、肉の芽が私目掛けて飛んできたの。
確かにそれは私の額へと向かって行ったわ。私は迫りくるそれを眺めるしかできなかったわ…


566 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:22:48 6SUtTMeE0

ポルナレフはスタンドを発現させるとそのスピードに任せて一気に近寄る。
「ようはスタンドではなく、お主に近づくそれだけができればいい。」

ツェペリは何をするでもなくただ立っていた。
「どうしたッ!『立ち止まる』だけでは何も変わらんぞ、『立ち向かって』みせろ!ツェペリッ!」

「焦ってはいかんぞ、ポルナレフ君。待つこともまた『勇気』がいること、
 大事なのはタイミング、機を逃すわけにはいかんのでな。」

ついにチャリオッツはツェペリとの距離をほんの数瞬まで近寄っていたが、
ツェペリは動じず、前を見据えていた。

ここでツェペリから見て前方に置いてある星熊杯に変化が起きる、
ポルナレフに向かっていた波紋がわずかに揺らぎ始めたのだ。

 何を狙っているか分からんが臆するわけにはいかない。切り伏せてやるッ!

ついにチャリオッツの刃がツェペリの頭上を捉え、振り降ろされようかした瞬間。



ポルナレフは気づかない、背後から駆けつけている存在を―――

ツェペリの一挙一動に集中した、彼の耳には届かない―――

数多のレースを股に掛けた存在が大地を力強く蹴りつける音を―――



両者の間に割って入る一つの影が現れ、ポルナレフは思わず驚愕する。

「バカなッ!なぜここにッ!?」
ツェペリの口角がわずかに上がり、笑みを浮かべる―――勝利の笑みを。


567 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:23:34 6SUtTMeE0




「ヒヒイィィ〜〜ンッ!」

意外!それは馬ッ!

そう、二人の間に立ったのはヴァルキリー、
ポルナレフの支給品にしてジャイロ・ツェペリの相棒が突如二人の間に割って入ったのだ。

「うおおおおお!?」
まさか、ヴァルキリーが邪魔をしてくると流石のポルナレフも予想だにしていなかった。
ヴァルキリーを斬ったところでツェペリには当たらない。
ならば傷つけぬようにと刃の勢いを殺してしまった。

そのような絶好の機会を逃すほどツェペリは甘くない。
この展開を予知していたかのように、疾うに駆け出していたのだから。

進むはポルナレフへと至る『直線』の道筋!
強い『覚悟』を秘めた者だけが決断できる『勇気』のロード!

加速した勢いを維持し、低い姿勢でヴァルキリーの股をすり抜ける。
チャリオッツが刃を止めていた時には、その脇を走り抜けていた。

「ようやく、近づけたな…!石仮面が招いた悪意よ!」
ポルナレフはハッとしたときにはツェペリの拳は迫っていた。

「くッ!『シルバー・チャリオ―――
「ノロいぞーッ!ポルナレフーーッ!山吹き色の波紋疾走ッ!!」

ポルナレフはチャリオッツで応戦しようとするも、それより先にツェペリの波紋疾走が腹部を捉えた。

「うぐおッ!?」
「まだまだ、行くぞぉ!波紋疾走連打じゃあッ!」

ツェペリは追撃にと、さらに攻勢を強める。
殴り抜いた拳は更なる拳を呼び寄せるかのように、加速に加速を重ねる。
太陽の輝きを纏った拳の嵐は、まさに驟雨の如く降り注ぐゲリラ的集中豪雨。

ポルナレフはチャリオッツを出そうとするも、波紋による痺れのせいで、
ツェペリの猛攻を腕で防ぐのがやっとだった。

しかし、何故ヴァルキリーが都合良く二人の間に割って入ったのか。
懐いているわけでもないというのに、まるでツェペリを守るような行為をとった、これは何故か。
答えは簡単でツェペリが事前にヴァルキリーに流した波紋を操作したからだ。
最初に馬を確認させてほしい、というのは建前で、真の狙いは相手に隙を生み出せるのではないか、
という思惑からとった行動であった。
加えてポルナレフが操る『シルバー・チャリオッツ』の剣捌きから
ヴァルキリーに刃が当たるような雑な攻撃はしない、という判断もあった。
それらは全て的中し、ポルナレフに大きな隙を生み出したのだ。

「……私、助ける必要あったのかしら?」
最終的にツェペリ一人でポルナレフを追い込むという結果に、幽々子はなんとも言えない表情で立っていた。


568 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:24:33 6SUtTMeE0

迫りくる肉の芽は私の額に侵食する寸前―――太陽の光を発し消えていったわ。
「なにぃッ!?は、波紋か?まさか老いぼれの波紋ごときに!うおぉおぉおおおッ!!」

背後で私を捉えていた何かも私から離れる。もちろん私は逃げ出したわ、彼と距離を置くために。
私が一体どうしてここにいるのか、理解できたというよりは思い出したわ。
私は『境目』見たんだわ、正しき『白』と悪しき『黒』のいわば、ねずみ色の『境目』を。
ポルナレフさんの額近くにある肉の芽を見て、私はそう。
あまりにもドス『黒』くて『吐き気を催す邪悪』というか、そんな恐ろしいものをイメージしたのよ。
対してポルナレフさん自身は『正しいことの白』っていうか、そんな正しさが見えたわ。
そしてその善悪の『境目』に入り込んでしまった。

でも、なんで急に意識が失ったのか。何がきっかけになったかは分からないわ、でもそんなことは後回し。
とにかく今は逃げる。『黒』である肉の芽から離れて、
もう一度『白』と『黒』で彩られた『境目』の竹林へ戻れば、きっと出られるはず。
今はディオ自身も弱っているし、私もどこにいるか認識している今なら。

幸いディオは追ってこなかったわ。彼から離れ、視界が闇に染められたけどそれでも走り続ける。
少しすると、またいつの間にか景色が変わっていたわ。白黒テレビ色の竹林にね。
でもなかなか覚めない。だから私は叫んでやったの。

「さぁ、目を覚ますのよ!
 夢は現実に変わるものッ!
 夢の世界を現実に変えるのよッ!!」

肉の芽なんかとは違う、私の友達―――宇佐見蓮子の言葉を。


569 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:26:45 6SUtTMeE0
以上で前編の
「戦車おとこにひそむめ、境界むすめのみるゆめ」
投下終了です。


570 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:29:56 6SUtTMeE0
後編の「優雅に散らせ、墨染めのカリスマ 〜Border of …」
を投下します。


571 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:31:21 6SUtTMeE0



「う、うーん」
「あっ!メリーさん良かった、目が覚めたみたいですね。唐突に眠りだすからびっくりしましたよ。」

阿求はホッと胸を撫で下ろす。
内心自分の話が詰まらなかったのではないか、という的外れな考えがあったのだが。

「ええと……痛ッ!」
「だ、大丈夫ですか?」

対するマエリベリーも何から話していいか分からないでいた。
あれだけのことがわずかな時間で体験したせいもあるだろうが、それだけではない。

 今思うと私を掴んでいたのってDIOのスタンドだったのかしら?
 それにすごく体がだるい、全身汗でぐっしょりになってるし、
 夢の世界での状態のまま戻ってきたのね。
 じゃあもし、あの場で肉の芽を受けていたら…

マエリベリーは想像して寒気がした。

「へ、平気です、それより戦いはどうなりましたか?」
「ええ、終わりましたよ。ツェペリさんががんばってくださったお蔭です。」
「ちょっと〜、私だって彼のピンチを救ったのにその言い方はないんじゃない、阿求?」

ぬうっと、幽々子が話している二人に割って入った。

「別に幽々子さんが何もしてないなんて言ってませんよ。」
「結局、あの後おじさんが一人でやってのけたのよ、まったく最初から準備しているなら
 もっと早く使えばいいのにねぇ。」
「……そう言ってくれるな、あのタイミングで使ったからこそ、
 あそこまでの隙が生まれたんだからのう。
 ただ背後からけしかけただけなら奴も容易に切り抜けたじゃろうよ。」

「ツェペリさんッ!」
全身に無数の傷が覗かせていたが、ツェペリはなんとか無事のようでマエリベリーは安堵する。
「すまんかったなあ、メリー君。君にも怖い思いさせただろうしのう。」
「いえ、良かったです。ご無事で…そういえばポルナレフさんは?」
「奴なら、そこで伸びとるよ。本気の波紋をあれだけ叩き込んだんじゃ、すぐには立てまいて。」
マエリベリーはツェペリが指差す方向の少し先にポルナレフをいるのを確認する。

「皆さんに聞いてほしい話があるんです。私がさっきまで体験した夢の話を…」


572 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:32:11 6SUtTMeE0


マエリベリーはそう言って話を切り出した。
自身の境目を見る力、竹林でのとびっくら、
白黒ポルナレフ、DIOに出くわし逃げ出したことなど、
体験したすべてを包み隠さず話した。

 『境目』を見るねぇ…いよいよもって、そっくりさんでは済まなくなってきたわね。
 まさか紫に隠し子でもいたのかしら?
 
 善の『白』、悪の『黒』のいわば相反する感情の『境目』を見つけて、
 入り込んでしまったなんて。メリーさんの力は限りなく、あの大妖怪に近いですね……

 ポルナレフを操っていたのは肉の芽とかいうものが原因か、
 吸血鬼の力にはそんなものも秘めているのか?

話を聞き終えた三者はその内容に驚きを隠せなかった。
「嘘みたいな話だと思われるかもしれないですけど、本当なんです。
 ……信じてもらえますか?」

「ふむ、確かに俄かには信じられん話だが、わたしはメリー君を疑うつもりはないから心配はいらんぞ。
 二人は何か分かることはないかな?」
「そうねぇ、私も阿求も心当たりがないわ。そうよね?」
「はい、―――って、ええぇ!?幽々子さん何言ってる、もごごぐ。」

阿求の口を幽々子は手で強引に塞ぎ言葉を遮る、耳打ちする。
(阿求、私に話を合わせなさい。別に悪巧みじゃあないから、いいわね?)

「何をしとるんじゃ?話させてやらんか、幽々子君。」
「ふふ、近くにハエがいたからつい、ね?」
ハエがいたら口の中に押し込む人なんていないでしょう、と思う阿求だったが、
幽々子の言われた通りにマエリベリーの能力について知らない、ということにした。
すぐに幽々子に小声で問いかける。

(一体どういうつもりなんですか?)
(あなたは紫と幻想郷のことを話した出した途端にメリーが眠りについたと言ったわね?)
(はい、偶然かもしれませんが…)
(もしその言葉が鍵になっていたら、またメリーは境目に旅立つかもしれないでしょう?
 疲れ切った今の状態じゃ、戻ってこれるか怪しいわ。)
(念のためということですか?)
(そう、それにメリーの話が正しいかどうかなんて、見分けるのは簡単よ。
 箒頭の前髪に肉の芽とやらがあるかどうか、それだけで十分だもの。)
(なるほど)

「なーに話とるんじゃ、二人とも?」
コソコソ話す二人にツェペリが口を挟み、慌てて阿求が返す。

「い、いえ気になさらないで下さい。それよりポルナレフさんに肉の芽があるかどうか、
 確認しませんか?」
「ふむ、そうじゃな。確か前髪の付け根辺り、それで良かったかのう、メリー君?」
「はい、私があの時見たのが正しければ、そこにあります。」
「なら、早速見に行きましょうか?」


573 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:32:53 6SUtTMeE0
そうして、4人とも倒れているポルナレフを見ようとした瞬間だった。

ぱちぱちぱち、という音が聞こえてくる。手を叩き拍手する音が聞こえた。


「ブラボー!おお…ブラボー!!実に見事だったぞ、ウィル・A・ツェペリ!」

ふらつきながらも立ち上がり拍手を送っているポルナレフの姿が4人の眼に映った。
その姿にツェペリは大きく驚かされる。

「な、なんじゃとぉ―――ッ!!お主あれほどの波紋疾走を受けておいて、なぜ?」

「確かに何発かはモロに食らった。意識が飛ぶかと思うほどの衝撃を食らい、
 実際さっきまで気絶していたさ。それを耐えた理由は―――これだッ。」

そう言うと、ポルナレフはスタンドを出現させる。だが今までとは違い、
ポルナレフの腕の上から覆いかぶさるようにチャリオッツの腕が現れたのだ。

「要はツェペリ。貴様の波紋から凌ぐために私の身体の外側に、
 少しだけスタンドを出してガードさせていたのだ。
 スタンドに波紋は通らないからな、分かってもらえたか?」

「ばかな…そんなことをする余裕があったのか?」

「ギリギリだった。だが、先ほどの攻防。不意打ちに近いやり方と考えても、
 スタンドを持たぬ人間で私を追い詰めるとは恐れ入った。少々侮っていたようだな。」

「くッ、ならばもう一度食らわせてやるまでじゃ!」
「その非礼に詫びる形として、私の全力で挑ませてもらうぞ。『シルバー・チャリオッツ』ッ!!」

宣言と共にチャリオッツが突如はじけ飛び、分解したかのように身体の一部が周囲にばら撒かれる。
そこには先ほどまでの姿ではなく、鎧を外したチャリオッツが立っていた。

「これだ!甲冑を外したスタンド『シルバー・チャリオッツ』!これこそが私の全力!
 覚悟してもらおうかッ!」

「一体何が違うのかしら?」
「もちろんお答えしよう!私は不意打ちは好まないのでね。
 甲冑を脱ぎ捨てた私のスタンドは更なるスピードを得たのだ。見せてやろう!」

チャリオッツが動き出したかと思うと、無数のシルバー・チャリオッツが
横並びに整列していた。この事実にマエリベリーは驚く。

「どういうこと?チャリオッツが8体もいる?」
「ふふ、そう見えるだろう?だが、違う!これらの内7体はチャリオッツのスピードが生み出した残像!
 視覚ではなく感覚に訴える残像なのだッ!」


574 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:33:40 6SUtTMeE0
場の空気がヒリつき始める。皆ポルナレフの見せた奥の手に少なからず驚いていた。

「さて、そろそろ始めようか一対一でかかってこいなど、とは言わん。
 全員を加味しても9対4、不利なのはそちらだからな。逃げ出すのも構わん。」


「だが、ツェペリ!貴様はDIO様に危害を加える危険性、
 先ほど見せた駆け引きを考えると放ってはおけない。この場で始末する!」

「ふん、わたしとて逃げ出すつもりなどない。返り討ちにしてやるわい!」

「そんなッ、危険ですツェペリさん!さっき戦った傷を治さないといけないのに!」
マエリベリーは戦おうとするツェペリを止めようと必死だ。見かねて幽々子が両者に割って入る。

「はいはーい!ちょーっと待ってもらえるかしら、箒頭さん?
 貴方と戦うための作戦タイムいただけるかしら?」

「ふむ、いいだろう。しばらく待ってやる。」


「ふふふ、ありがとねー」


4人は少し離れた場所で、お互いの顔が見える様に円の形で話し合っていた。
「さて、面倒なことになったわね。」
もうちょっとお休みしてもらえたら楽に片付いたのにねぇ、と幽々子はもう一言小さく独りごちる。
「まさか、波紋疾走をあんな形で受け止めるとは…。みな、申し訳ない。わたしの責任じゃ。」
ツェペリは頭を垂れるのを見て、慌ててマエリベリーがフォローする。
「気にしないで下さい、ツェペリさん。今度は私達で止めましょう。」
「そうそう、簡単よ。今度は相手が操られていると分かっているんだもの、対処のしようがあるわ。」
「つまり、額にある肉の芽を抜き取るつもりですか、幽々子さん?」
「まあね、とりあえず私の話を聞いてくれるかしら?」

幽々子は自分が考えた案を話し出した。


575 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:34:30 6SUtTMeE0


数分経つと、幽々子とツェペリがポルナレフとの距離を10メートルといったところまで近づいてきた。
「準備はいいようだな?」
「まあね、それと約束してもらうわ。万一、私達二人が倒れても阿求とメリーに手出ししないことをね。」
「もとより、私の相手はツェペリのみだ。約束しよう。」

 私って眼中にないのかしら?と軽く気に障るが幽々子はこれを無視して続ける。
「それと一つ聞きたいのよ、『スタンド』って一体何なの?人じゃないでしょ、それ。
 ちょっと気になってね。」
「生憎私も詳しくは知らないな。だが、自身の『精神』の具現、
 もしくは『守護霊』とも称する人もいる。これでいいか?」
「ふーん、守護『霊』か……。分かったわ、始めましょうか。」
「ゆくぞ、ポルナレフ!今度こそ、貴様の後ろに控える根源を破壊してやるぞ!」

「さあ、いざまいられい。このポルナレフ、全力で挑ませてもらう、覚悟ッ!!」
「戯曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ‐亡霊‐』」

幽々子はポルナレフの宣言を軽く無視して、代わりにスペルカードの宣言をする。
さらにいつ動いたのか、ポルナレフとの距離をさらに空けていた。

幽々子の正面とその左右の空間にそれぞれ、正面から黄色、左右からは水色の大玉の弾幕が集約する。
それらは一斉に無数の蝶の形へと姿を変えると解き放たれる。
いずれも発射された地点から直線の軌道を描き高速で飛来する。
その直線の一つの軌道にポルナレフは立っていたが、その態度は余裕そのものだ。

「ほお、変わった技を持っているな。だが…」
無数のチャリオッツが振るう刃が蝶の形を模した弾幕を霧散させた。
「これしきの威力しかないのか?チャリオッツの剣捌きは空間に溝を作る程度はたやすい。
 したがって、無意味だ。」

幽々子はさらにポルナレフの現在いる地点へと直線で走る弾幕を展開。
青と紫の蝶が先ほどより密度を増して4回ポルナレフへと高速で迫る。

「分からないのか?儚い胡蝶をただ散らしていることに。…むッ!」

しかし、今度の軌道は高速で動き続けていたチャリオッツが原因で弾幕が微妙にぶれ、
4本の内2本ずつに挟まれたのだ。

「確かに普通の人間なら、動きを封じるのには十分だ。だが!
『スタンド使い』はその枠には捕らわれない!」
さっきほどより時間はかかったものの、再びチャリオッツの剣捌きによって行く手を
阻んだ蝶は切り裂かれた。


576 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:35:16 6SUtTMeE0


数分経つと、幽々子とツェペリがポルナレフとの距離を10メートルといったところまで近づいてきた。
「準備はいいようだな?」
「まあね、それと約束してもらうわ。万一、私達二人が倒れても阿求とメリーに手出ししないことをね。」
「もとより、私の相手はツェペリのみだ。約束しよう。」

 私って眼中にないのかしら?と軽く気に障るが幽々子はこれを無視して続ける。
「それと一つ聞きたいのよ、『スタンド』って一体何なの?人じゃないでしょ、それ。
 ちょっと気になってね。」
「生憎私も詳しくは知らないな。だが、自身の『精神』の具現、
 もしくは『守護霊』とも称する人もいる。これでいいか?」
「ふーん、守護『霊』か……。分かったわ、始めましょうか。」
「ゆくぞ、ポルナレフ!今度こそ、貴様の後ろに控える根源を破壊してやるぞ!」

「さあ、いざまいられい。このポルナレフ、全力で挑ませてもらう、覚悟ッ!!」
「戯曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ‐亡霊‐』」

幽々子はポルナレフの宣言を軽く無視して、代わりにスペルカードの宣言をする。
さらにいつ動いたのか、ポルナレフとの距離をさらに空けていた。

幽々子の正面とその左右の空間にそれぞれ、正面から黄色、左右からは水色の大玉の弾幕が集約する。
それらは一斉に無数の蝶の形へと姿を変えると解き放たれる。
いずれも発射された地点から直線の軌道を描き高速で飛来する。
その直線の一つの軌道にポルナレフは立っていたが、その態度は余裕そのものだ。

「ほお、変わった技を持っているな。だが…」
無数のチャリオッツが振るう刃が蝶の形を模した弾幕を霧散させた。
「これしきの威力しかないのか?チャリオッツの剣捌きは空間に溝を作る程度はたやすい。
 したがって、無意味だ。」

幽々子はさらにポルナレフの現在いる地点へと直線で走る弾幕を展開。
青と紫の蝶が先ほどより密度を増して4回ポルナレフへと高速で迫る。

「分からないのか?儚い胡蝶をただ散らしていることに。…むッ!」

しかし、今度の軌道は高速で動き続けていたチャリオッツが原因で弾幕が微妙にぶれ、
4本の内2本ずつに挟まれたのだ。

「確かに普通の人間なら、動きを封じるのには十分だ。だが!
『スタンド使い』はその枠には捕らわれない!」
さっきほどより時間はかかったものの、再びチャリオッツの剣捌きによって行く手を
阻んだ蝶は切り裂かれた。


577 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:36:23 6SUtTMeE0

しばらく待ってみるが、先ほどの二種類の弾幕の繰り返しで一向に変化はない。
ふとポルナレフは思った。
 
 まさか、ツェペリを逃がすためにこのような手段を取ったか?

自分の邪魔になる弾幕は斬り捨てたが、周囲にはかなりの蝶が舞っており、視界は劣悪だ。

 どの道、あの二人はこの弾幕の向こう側にいるはず、
 チャリオッツなら弾幕を破壊しながらでも容易。…ならば行くしかあるまい。

ポルナレフはそう判断すると、行く手を遮る蝶を斬り捨てつつ、侵攻し出した。

「動き出しよったな、ポルナレフ。」
星熊杯で揺れる波紋が少しずつ大きくなるのを見て、ツェペリは呟く。
彼もまた弾幕の中心地にいるが、被害は皆無であった。
事前に幽々子からどんな弾幕を使うか聞いているから当然である。
実際説明を受けただけでは弾幕を避けるのは難しいのだが。

スペルカード「戯曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ』」はその点都合がよかったと言える。
放たれる弾幕は大きく分けて2種類。
一つは、ほぼ固定の位置に放たれる。よって幽々子が当たらない位置を教えており、避ける必要もない。
もう一つは標的に向かって飛来する性質、今はポルナレフに向けられており、
幽々子はツェペリを認識できる位置についているので、邪魔になる位置からは撃たないようにしている。
このスペルカードによって移動の制限と相手の位置が大まかに判断できるのだ。

マエリベリーから借りた八雲紫の傘を握りしめ、波紋の呼吸を整える。

本当の狙いは八体いるチャリオッツを判別する手段でもあった。

目の前の弾幕を破壊するなら、当然その前に本体のチャリオッツがいるはずだと幽々子は判断した。
チャリオッツの生み出した残像であって、8体いるわけじゃない。
ならば、物理的に考えて弾幕を破壊した瞬間に立っているのはチャリオッツの本体。
そいつのみを意識して、先手を取り波紋をポルナレフへと叩き込むという単純な作戦だ。
まあ、失敗したら何か別の手を講じるわ、と幽々子は言っていた。


578 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:37:56 6SUtTMeE0

そう考えている間に、波紋の波がさらに大きくなっていた。
弾幕の向こう側でも切り払う音が聞こえ始めていた。

「来るな…!」

いよいよ目の前の弾幕の壁を切り刻む音が聞こえ出す、この弾幕の向こうにポルナレフはいる。
ツェペリは弾幕を破壊した瞬間に波紋の一撃を叩き込む、その一つに向けて精神を集中させる。


そしてついに、二人を分かつ胡蝶の境界線は引き裂かれた


ツェペリはその破壊される僅かコンマ数秒前から地を蹴った。
加速は十分なまま、弾幕の壁は消え去る。
このままチャリオッツの猛攻を振り切り、ポルナレフへ波紋を―――

 いない!?馬鹿な!!?

弾幕の障壁の向こう側には誰もいなかったのだ。ポルナレフはもちろんチャリオッツの影も形もない―――

そう思った瞬間、ツェペリの周りが一瞬暗くなる。
 
 違うッ!影はある!まさかっ!?

振り向いた時、既にチャリオッツの刃は迫っていた―――

「おおおおおおおおおおッッ!!!」

寸でのところでマエリベリーから借りていた『八雲紫の傘』で受け止めることに成功する。

「はあッ、はぁ、まさか飛び越えてくるとはのうッ!自分から壊しといて紛らわしい奴じゃ!」

そう、ポルナレフは弾幕を破壊し終えると、即座にチャリオッツを土台にして飛び越えてきたのだ。
「ふふ、先ほど貴様がヴァルキリーを使ったように小細工をさせてもらった、いわば意趣返し。
 なによりこれで片付くとも思っていない。」

「さあて、行くぞッ!ツェペリ!!」
「こうなったら、やってやるわい!」


579 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:38:44 6SUtTMeE0


「ホラホラホラホラぁーーッ!!」
「うおおおおおおおッ!!」


チャリオッツの剣とツェペリの傘が激しく打ち合う。
『八雲紫の傘』はスタンドが振るう剣にも、破壊されることなく武器として十分に機能していた。
よって避けるだけでなく、受け止めるという選択肢をツェペリに与えていた。
しかし、チャリオッツのスピードは最初とは比較できないほど速い。
圧倒的なスピードと洗練された技を駆使し、ツェペリの傷を一つ、また一つと加えていく。
最初の時より受けるダメージは大きく、その間隔も短くなっている。
対して、ツェペリは波紋の達人ではあるものの、
武器を用いた戦いは門外漢であった。攻めに転じることもできず、ひたすら耐え忍ぶ。
 
 こやつなんというスピードじゃッ!速すぎて目で追えん、このままでは押し切られる!


ツェペリが焦り出した時、二人はまだ気づかないが周囲に変化が訪れていた。


ヒラリ、ヒラヒラリ、ヒラリ


スペルカード、戯曲『リポジトリ・オブ・ヒロカワ』で展開された胡蝶がそれぞれ動き出していた。

幽々子は目を瞑り、両手を挙げて胡蝶に意志を送る。
『幽胡蝶』、数匹の蝶の形を模した弾幕を上空に飛翔させた後に、標的へと向かわせる弾幕。
スペルカードで大量にばら撒いた、胡蝶型弾幕に同じように動かそうとしているのだ。

その目標は―――


580 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:40:06 6SUtTMeE0

「どうした!ツェペリッ!やはり小細工しなければ貴様はこんなものかッ!!」
「ハァーッ、ハァ―、ぐっ!これしきでわたしが音を上げると思うなよッ!」

ツェペリは必死に喰らい付くが、その差は歴然だった。
ポルナレフには一切のダメージを与えることなく、
ツェペリの身体にはいくつか血が噴き出ている箇所もある。
加えて初戦で闘った疲労とダメージも残っている。

 わたしは負けるわけにはいかんッ!最後の最後まで恐怖には屈さぬぞぉ!ムッ!?

ツェペリの強い執念に呼応するかのように、辺りの様子が変化する。

 ッ!これは……幽々子君か!?

そう、辺りの胡蝶が静かにポルナレフへと向かい出したのだ。
つまり前方はツェペリ、後方には大量の胡蝶、挟み撃ちの形となっていた。

 わたしに残された最後のチャンスということになるな。わたしの波紋か、幽々子君の胡蝶かどちらかの餌食。
 それまで耐え抜いてみせる、絶対にじゃッ!

対するポルナレフは胡蝶との距離が残り3m辺りで変化に気がついた。

「まさか、何もしてこないと思ったら味な真似を…!」

背後にゆっくりと迫る胡蝶の数は百を優に超える数、それらが寄り集まって
一匹の胡蝶となるように接近している。

流石にこの数の弾幕を破壊するのには骨が折れる、
そう判断したポルナレフはツェペリを一気にしとめることを念頭に攻勢を強める。

「どうした、ポルナレフ!随分焦っておる様子じゃが?」
「関係ない!貴様を倒し切る、それだけだ!」


581 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:41:02 6SUtTMeE0

8体もの分身が更なる猛攻を開始する。
感覚に訴えるそれらは、視覚的に判断できず防御しきれていないことも多々あった。
ツェペリは斬られるだけでなく刺突された傷も10を超え、
ツェペリが立っている地点には大きな血だまりが出来ていた。

故にツェペリの動きは本来よりも精細を欠いてしまい、受けるダメージは加速する。

「うごおぉッ!」
放たれた突きは腹部を貫き内臓の一つを破壊する。
「ぐあぁあッ!」
振り降ろされる一閃は顔の肉を削る。
「ぬぉおおッ!」
大きく薙ぎ払われた剣は真一文字の傷を創り出す。

だがツェペリはまだ倒れない、いや倒れようとしない。
あれだけの傷を負い、なぜこの男は戦えるのか、立ち向かえるのか。

このチャンスを逃がしたら、自分ではポルナレフは止められない、止めることが出来ない。
逆に言えばこれはチャンス、自分がポルナレフを止められる、止めることが出来る。
人間の『勇気』と『可能性』の伝道師が、
目の前の『可能性』から『立ち向かう』のは至極当然、当たり前のことだった。
彼はまさに死中を彷徨うこの瞬間すらも『人間賛歌』を謳う、『黄金の精神』の持ち主であった。

ポルナレフは焦る、焦り出す。
顔には決して出さないが、この老人はどこまで喰らい付く気なのか、と静かに『恐怖』していた。
それこそ五体バラバラにでもしない限り止め処なく『立ち向かう』姿に。
皮肉にも操り人形と化した彼には『勇気』と『可能性』を掲げる男の姿は、
ある種の凄味からか『恐怖』を与えた。
だが、だからこそか、『恐怖』を抱かせる相手だからこそ、彼はツェペリを認め、全力で応じる。

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」」

胡蝶の一匹がついにポルナレフに触れる、ツェペリの肉体が更に切り刻まれる。

まばゆい豊かな煌めきが周囲を包み込んだ。
両者の死力を振り絞った先にはあるものとは――――


582 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:42:17 6SUtTMeE0


三者が戦っている中、少しだけ離れたところにマエリベリーと阿求は立っていた。
巻き込まれないように、と幽々子に言われたからだ。
ツェペリとポルナレフの攻防はここからギリギリ見るか見えないか、といったところだった。
だが、両者の戦っている雰囲気はこの距離からも理解できていた、
想像を絶する死闘を繰り広げていることは。

「ツェペリさん……!」
二人は無力さを噛み締めながら、目を瞑ってツェペリの無事を祈る。

絶え間なく弾幕が放たれた空間もやがて静寂が訪れる。
二人はゆっくりと両目を開く、不思議なことにそのタイミングはほぼ同時。
まずは幽々子の後ろ姿が見えた。ホッとする。
弾幕の衝撃か竹の葉が上からハラハラと落ちる。
その先で一人の男が立っていた、よく見えない。
二人は小走りで近づく。少しずつその姿は鮮明に映りだすが、まだ見えない。

ついには駆け出す。立っている男はなぜか見えない、しかし倒れている男はよく見えた。

最後は幽々子の隣にまでたどり着く。一体誰が立っている?倒れている男は、そう私を支えてくれた―――


「ぐうっ、はぁッ、はぁッはぁッはぁー、実に見事だったッ!
 流石DIO様に楯突こうとするだけはある、ウィル・A・ツェペリッ!!」


何故この人はツェペリさんの名を呼ぶの?
ツェペリさんが自分の名前を呼ぶはずがないのに?
どうしてツェペリさんは倒れているの?
立っている人はツェペリさんじゃないの?

私は目を背けている。
瞳は確かに真実を映しているのに、頭はそれを認めない。
私の思い描いた未来と違い、駄々をこねている。
違う、違うわ、違うのよ、違うでしょ、違うに決まってる、違うって言ってよ
ツェペリさん―――

「いやあああぁあぁぁあああッ!!!!」

私は慟哭した。
自分の考えを吐き出すように、
あたりに漂う血の匂いを嗅がないように、
ありったけの空気を吐き出した。



「阿求ッ!さっきいたところに退きなさい、メリーを連れて、速くッ!」
「は、はい!」

声を張り上げ叫ぶメリーを、必死に阿求は腕をつかみ半ば強引に連れていく。


583 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:44:17 6SUtTMeE0

「マエリベリー君には悪いがこれも我が主を守るため、許してもらおうとは思わん。」
「ずいぶん潔いのね、一応貴方の美徳として数えてあげるわ。
 説明好きの貴方なら、どうやってあの幽胡蝶を凌いだのかお聞かせ願えるかしら?」
「ウイ、了解した。ツェペリとの戦いは実にギリギリだった。
 最後に私が簡単だが一か八かの賭けに出たのだ。」
「……」

胡蝶は私に既に数匹接触し、わずかだがダメージを負った。
これからそのダメージの量はあっという間に、私の限界へと追い詰めるのは目に見えていた。
だから私はチャリオッツのほとんどを後方へと向けた。
まだ接近して間もないため、あっさり胡蝶の数匹を散らすことに成功した。

対しツェペリは急に私が攻めて来なくなり、緊張状態がわずかに揺らいだ。
そして、私に接近し拳で殴りかかってきたのだ。
隙があると、判断したのだろうがむしろ好都合だったよ、
攻めあぐねていたのはこっちだったのだからな。
チャリオッツの刃で受け止め、袈裟がけに切り伏せたのだ。
意外とその一撃でけりがついた。まだ立ち上がって来るかとヒヤヒヤしていたがな。
残る胡蝶はチャリオッツの全力を以て相手させてもらったよ。
流石に全部を破壊しつくせず、何発か食らったが
一つ一つは儚い蝶だ、できないことではなかった。

「……」
「―――とまあ、こんな感じだ。理解できたか?」
「…まあね。」
「さて、君は私と戦うつもりか、西行寺君?」
「貴方はツェペリを殺したかった、私たち三人には興味がない。そういうことでいいのよね?」
「まあ、端的に言ってしまえばそうなるな。」
「私もね、貴方とわざわざ殺し合おうなんて気はないわ。
 あの戦いは言ってしまえば彼の私怨に近い。巻き込まれたようなものよ、こちらとしては。」
「ならば、ここまでだな。」
ポルナレフは背を向け、歩き出した瞬間―――


584 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:45:42 6SUtTMeE0



「―――って話すつもりだったのよねぇ、本当は。」


 (ごめんね、阿求。)


幽々子の手から一匹の蝶が飛び立ちポルナレフに触れる、先ほどと同じ弾幕だ。

「どういうつもりだ?」
「誘蛾灯よ。」
「何を言っている?」
「貴方の奥にいるナニかのこと。とーっても危険だわ。」

今度は幽々子が一方的に語りだす。
「事情は知らないけど、本来『白』の存在をここまで『黒』に染め上げてしまうほどに
 怪しい光を放っているんでしょうね。」
「DIO様のことか?」
「でも、その光に近づきすぎたら最後。触れて落ちて、気が付いたら
 殺虫剤の中になんてことになっちゃうわ。」
「……」
「人を誘蛾灯と蛾で例えるなら、貴方の主人は誘蛾灯でしょうね、限りなく。それで貴方は蛾ね。」
「……」
「ウィル・A・ツェペリ、彼もまた…DIOだっけ?そいつにある意味で引きつけられて、
 誘蛾灯に近づいて落ちていったのよ。」
「……」
「あの人見た感じ、自分の死期を悟ってる風だったわ『覚悟』って言ってもいいわね。
 職業柄というか、まあ分かるのよ。」
「……」
「どういう死に方が所望だったかは知らないけど、とりあえずこんな場所ではないと思うわ。
 こんなイレギュラーな事態でね。」
「そうやって、『覚悟』した存在すらすら無理やり引きつけ、
 殺してしまった誘蛾灯の存在を見て思ったのよ。」

「ああ、貴方の誘蛾灯に私の大事な存在をあげたくないってね。」

思い浮かべるのは庭師として働く従者、魂魄妖夢。生前からの長い付き合いの友人、八雲紫。
そのそっくりさんのマエリベリー・ハーン。


「「……」」

「あっ!もちろん阿求もその中にいるわよ!」

「とにかく、貴方は既にあの子の心に大きな、それは大きな傷を与えたわ。
 もう無関係ではないのよ。私が貴方を止める、ただそれだけよ。」
「宣戦布告、そう見なしていいのだな。西行寺幽々子?」
「そういうことよ。」
「一つ尋ねよう。君は私を蛾、DIO様を誘蛾灯と例えた、ならば君はどちらだ?」
「あら、そんなこと?簡単よ、私はね―――」


585 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:46:46 6SUtTMeE0

胡蝶じゃないの、さっき沢山見せたでしょ?

緊張感のないそんな幽々子の言葉をきっかけに二人は戦いの合図とした。


「ふん、ならば!その胡蝶の命すらも我が主の誘蛾灯に陥れてみせるまで!」
ポルナレフはチャリオッツを顕現させると、空いた間合いを詰めるべく走る。

幽々子はポルナレフにどう対処するのか、とっくに決めていた。
だが、それにはポルナレフに付け入る隙がほしい。

 動かないでくれると楽なんだけど…。うーん、眠ってもらえればすぐにでも片付くのにねぇ。
 まあ、どの道彼には眠ってもらうわ、死んだようにね。

幽々子がぼんやり考えている間に、ポルナレフはチャリオッツを先行させ、
その後に追随する形で突進していた。

 弾幕を亡霊を盾にして防ぐ気ね。まったく、亡霊を何だと思っているのかしら?―――ん?

幽々子はどうでもよいことを考えている傍ら、ポルナレフとチャリオッツの様子を見ていた。
そこである変化に気付く。
 
 変ねぇ…?こんなものだったっけ、こいつのスピードは?

決して彼らが遅いわけではない。実際、幽々子と徒競走すれば彼らに軍配が上がるだろう。
しかし、今幽々子に近づこうとするチャリオッツには、
8体の残像を生み出すほどのスピードは感じられなかった。
それでも、たいして長くない距離だ。
ついにチャリオッツは幽々子の元へとたどり着き、加速したスピードを維持した突きを繰り出してきた。


586 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:49:11 6SUtTMeE0

 遅い、―――ッ!

幽々子はその一撃を白楼剣で上から押さえつけ、自らの射線上から大きくずらし防御する。

しかし、二撃目は違った。押さえていたチャリオッツの剣が一瞬ブレたかと思うと、
8つの剣が幽々子の上半身目掛けて振るわれていた。

幽々子は咄嗟に地を強く蹴り、体を大きく反らし回避する。
横から見ていればわかるだろうが、綺麗な半円を描いたサマーソルトだ。
その避ける一連の動作に胡蝶の弾幕を脚から放つ。

「やれやれ、危ないわね。って、あらら?」
ポルナレフとの距離を一気に空けて、避けることに成功したかに思えたが、
服に無数の切れ込みが入れられていた。

「ちぃッ!届いていない、浅かったか!」
ポルナレフは飛んでくる弾幕をチャリオッツで捌きながら吐き捨てる。
その間、幽々子は距離を取りながら再度思考する。

 今、明らかに攻撃が加速した…!一撃目は私の隙を狙ったもの―――いや、違うわね。
 さっきのは全部本気の一撃だった。
 若造の騙しにかかるほど、私は老いちゃいない、亀の甲より年の劫だもの。(違う)
 …ともかく、あいつには全力のスピードを出せない何かがあるわ。

「次こそは逃がさん、チャリオッツの刃を受けてみろッ!」

幽々子がじりじりと下がるのを見て、ポルナレフは再び走り出す。
幽々子は後ろへと下がりながらもその様子をつぶさに見つめる。

チャリオッツが駆け出し、その後をポルナレフが追うように走る。
チャリオッツのスピードはここまで速かったが、ほんの僅かな時間で減速した。

減速した瞬間をもう一度脳裏に浮かべる。
あの時に何かが変わったのだ。
減速したチャリオッツはその後、誰かのスピードと全く一緒になった。
他の誰でもない、ポルナレフに。
走る間隔が一定になった。その間2メートルに。


 ああ、そういうことだったのね。


その時、幽々子の切れ者として一面を見せた。
異変の時もいつだって鋭い彼女はこれらの情報で理解する。


 貴方たちって、手を繋いでないと何にもできないのね。所詮、スタンドも半霊みたいなものか。


幽々子は『スタンド』の有効範囲の存在察した。
およそ2mこの範囲からチャリオッツは出て行動できないことに。
減速したのはチャリオッツが速すぎて、すぐにその2mギリギリにたどり着いたからだ。
弾幕を警戒して『スタンド』を先行させたのが裏目に出た。

後はポルナレフが走ったスピードの分しか、動けない。
剣を振るうのも同じように有効範囲ギリギリだったので初撃のみ遅れ、
二撃目はチャリオッツが移動を止め、ポルナレフが近づき、自由に動ける範囲が増えたからだ。


587 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:50:59 6SUtTMeE0

もう距離を取る必要もない、幽々子はそう思い、足を止める。
近づいてくる彼らを見据えて、右手に白楼剣を構え、もう一方にその鞘を持つ。

「妖夢、ちょっとだけ手荒に扱うわね。」

チャリオッツは近づくがやはりそのスピードは目で追えるレベル。
逆にポルナレフ共に接近を許せば、2度目はない。彼への接近とチャリオッツの剣撃に対する防御。
その二つを両立させるべく、幽々子もまた走る。

両者が接触するその僅かコンマ数秒前、幽々子は舞うかのように回転しながら突撃する。
本来は愛用の扇で繰り出すその技は『胡蝶夢の舞』。
元来のスピードを発揮できていないチャリオッツの剣を、
二振りの獲物で絡め取りながら無傷で接近を可能にする。

「なにいぃッ!」
そしてチャリオッツの後ろ、つまりポルナレフを目前控える距離になると白楼剣の鞘を放る。
その代わりに、左手には妖しい光がともった。

「貴方には死んでもらうわ、DIO。」

幽々子は左手に一匹の蝶を象る弾幕を作ると、それをポルナレフの額へ目掛けて腕を突き出す。
左手にあるのはただの弾幕ではない。

『死を操る程度の能力』。その名の通り、幽々子は相手を抵抗なく殺すことが出来る力を持つ。
彼女はこの力を以て、肉の芽のみを死に誘うという作戦を取ったのだ。

当然、相手を問答無用で殺すという能力は大きな制限を与えられている。
だが、幽々子はそれらを理解して能力の行使を選択した。
彼女は阿求に会う以前にその能力を確認していたのだったから。
周囲の竹林を利用し死期の迫った竹やタケノコに対し、自身の能力を試した。
以下が現時点での自身の能力の制限だと幽々子が把握したものだ。

1.能力の行使の際には、蝶型の弾幕としてのみ使用可能。その際大きく霊力を消費する。
2.この能力のみでは相手を殺せない。花が咲いた竹に試したが、
 相手が肉体的大きく弱っていなければ死に誘うことは不可能。(人や妖怪なら精神的に弱っていても可能?)
3.ただ、地表に出て間もないタケノコを枯らすこともできたため、
 力の小さい存在には通用するかもしれない。

おおよそこんな感じだった。要は死ぬ寸前の相手の背中を押す程度にまで力を落とされていると言っていい。ただし、3にもあるように対象の力が小さければ可能性はある。


だが一番の問題点は、これらの結果は人に試したものではないことだ。一体通用するかは未知数。
さらに幽々子は『死を操る程度の能力』による肉の芽の抹殺ともう一つの手段を用意していた。
それでもこの手段を選んだのは訳があった。

先のツェペリの援護に放った弾幕で想像以上に霊力が消費しており、
同じような弾幕に頼った戦いはできなかったからだ。
しかも今度は一人。ポルナレフが黙ってみているわけではない。

逆に接近戦は相手の独壇場だ。距離を取れば今の様に一撃のみチャンスがある。
しかし、もう一つの手段にはここまでの接近は必要ないが、
『死を操る程度の能力』を用いた作戦は今の様に接近しなければ使えない。
バレる前にそのチャンスをここで使うべきと判断した。

最後には利点。幽々子は能力で殺した相手の霊を操ることもできる。
つまり、一部とはいえDIOの霊を操ることが出来るため、
何か聞き出せるのではないかという目論見もあった。

左手がついにポルナレフの額へと触れる。
ポルナレフは驚愕のまま、動けない。
触った途端、蝶は静かにその中へと沈んでいった。



「うおぉおぉぉおおおおおッ!」


588 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:51:45 6SUtTMeE0

ポルナレフが頭を抱え、大きく呻き出す―――かに思われた。




ヒュンッ




背中が熱い。


幽々子はハッとして振り向いた。


そこにはチャリオッツが平然と立っていた。剣には血が滴っている。
もちろんそれは幽々子のもの。無慈悲にもう一度振るわれる。


 ―――避け ―ヒュンッ― ―ないと…―


今度は正面から袈裟がけに切り裂かれたのだった。

「ああぁぁああぁああああッ!」

幽々子は正面と背後の二か所に傷を入れられたことに今認識した。
正面の攻撃はわずかに反らすも、浅すぎるということはない傷を受けた。背中の傷はさらに深い。

痛みに悶え、それでも距離を取ろうとするもチャリオッツは追撃する。
白楼剣で打ち合うが、全てを対処しきれずいくつかの掠り傷が生まれる。
しかし、なぜかポルナレフが動かなかったためある程度下がると攻撃は止んだ。

「ッ!ハァー…ハァーッ。」
 
 マズいわね、まさか間髪入れずに斬りかかって来るなんて…

「ふー、一体何をするかと思えば、何のつもりだった、西行寺!」
ポルナレフはさらに続ける。
「あそこで貴様がその脇差で俺の心臓を一突きしていればそこで終わりだった!ふざけているのか?」

「あんたは、知らなく、ていいことよ。それに…この獲物は、切れ味が悪いもの。」
「ふん、俺も貴様が近づき額に触れた後、チャリオッツに背を向けた貴様を殺そうと思えばできた。
 だが、DIO様の敵となる相手を逃すわけにもいかん。
 貴様に与えた傷は私の最大限の譲歩。次で終わりにしてやる。」

「ふふ、譲歩ですって?面白いこと言うわね。
 貴方の取った行為は自己満足の誇りとDIO様依存症から揺らいでいるだけのもの。
 そんなものを私に押し付けないでくれる?」

「口は達者だが、貴様はもはやここまでだ。覚悟ッ!」

ポルナレフはチャリオッツと共に幽々子との距離を詰めるべく走る。

 ああ、痛い。とっても痛いわ。まさか、死を操る能力が効かないなんてね。誤算よ、完全にね…。

何故通用しなかったのか、考えられるのは触れる位置を間違えたことだ。
髪の毛に巧妙に隠れている肉の芽は、一瞬見ただけ分かりにくい。加えて、今の時間帯は黎明。
視覚的に判断するのは厳しかった、と言える。

今度はポルナレフとチャリオッツの距離は大きく開かない。最大限のスピードで迫る。
チャリオッツが走りながら、突きを放つ構えを取る。8体の分身と剣も見える。
状況は絶望的、このままではハチの巣か、なます切りにされるだろう。

幽々子は迫るポルナレフを見据える、心なしか近づいて来るポルナレフの動きがスローモーションだ。


589 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:53:13 6SUtTMeE0

―――あはは、死ぬ直前っていうのは周りの時間が遅くなるんだっけ?
―――死んだら冥界に戻るのかしら?もしそうなるなら構わないんだけどね。
―――メリーもみんなも来てくれるといいわねぇ…
―――でも、うん。まだあの娘と居てあげたいなぁ…

蹴り上げてしまったのか運よく、近くに落ちていた鞘があるのを拾い上げ、
幽々子は白楼剣を鞘に納め握りしめる。
 
 ちょっと短いし、斬れ味も悪いし、妖夢もこんなナマクラ、なんで使ってるんだったっけ?
 そうそう、これって魂魄家の家宝で…。

幽々子は静かに目を瞑る。

当然、視界は闇に包まれる。
しかし、そこには自身の従者、魂魄妖夢の姿が映っていた。

 あらら、面白いわね。何しに来たのかしら?
 もうすぐ冥界に行くと思うから、ちゃんと庭にある桜の剪定お願いね。
 えっ?死んでも冥界に帰れないって?そんなこと言ったって知らないわよ。私はもう長くないもの。
 
 白楼剣を使って下さい?あいつのどこに『迷い』があるのっていうの?
 考えもなしに言うものじゃないわよ。そうそう、おにぎり沢山用意しておいてね。
 
 ん?あいつの○と×の△△があって△△は□□に相当するだって?
 ……そんなことは分かっているわ。でもね、あいつに近づくのにどれだけ苦労してると思ってるのよ。
 はぁ?あいつの●●●●は▲▲だとしたら、■■■はきっと通用します?
 ………ああもう、分かってるわよ。いい?
 私は最初から分かっていたわ。貴方に言われるまでもなく、ね。

 私の従者があくまで私を扱き使うような子だったってことはよ〜く分かったわ。
 違うそっちじゃない?だからわかってるって言ってるでしょ?
 言ってて何が分かっているか分からなくなってきたじゃないの!私を困らせないで、妖夢?
 
 ああ、お腹すいたわ。今、おにぎり持ってない?そういえば、宗教戦争見に行くんだったわよね。
 
 持ってない?それに、いい加減早く目覚めないと危ないって?
 はいはい、じゃあ戻ったらちゃんと用意しておくのよ、全部ね。

そして、時は加速する。
幽々子が目を開けると、まだポルナレフは近づききっていない。わずかだが猶予があった。

 変な夢だったわ…
 結構長く話してたのに、ほんの一瞬出来事だったなんて…
 なんだかいつも通り話しただけなのに、妖しい、さびしい夢だったわねぇ…
 ふふ、私にさびしい夢を見せるなんて、あの子もちょっとは『侘・寂』
 の何たるかを理解してくれたかしら?
 さてと、夢の世界を現実に変えて見せるわね、妖夢…!

目には確かな輝きを灯し、相対するポルナレフを睨む。
身体は依然痛みを訴えるが、気にしてはいられない。
誰にも気づかれないように、従者へのささやかな感謝の念を送り、白楼剣を構える。


590 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:54:23 6SUtTMeE0



「わが刃で還るがいい、儚き胡蝶よ!」
「迷い断つ一閃で眠るがいいわ、邪悪なる芽よ!」



チャリオッツの剣が空を切り裂き幽々子へと迫る。依然変わることなく、8つの分身と共に。
対する幽々子は白楼剣で捌こうとするが、刃が交差するごとに裂傷が増していく。

「ホラホラホラホラぁーーッ!!」
 
 まだよ、本体を見つけるまでは……!

しかし、背中と正面に受けた傷を負った状態で無茶がたたり、
傷が少しずつ熱を持ち始める。痛みがよりリアリティを以て訴えかけてくる。
 
 あの子が言ったことぐらいッ…私がやらないと、
 面目ってものが私にだってあるのよ…!

しかし、無常にも更なる事態が幽々子を襲う。目元が霞み防御の選択を誤り、
ついにチャリオッツの剣が幽々子の守りを突き破る。狙いは胸郭―――下手をすれば心臓に傷が入る。

「なかなかしぶとかったが、ここまでだぁーーーッ!」
「まだ、死ねないのよ…!妖夢の敷いた道に、私の道に立ちふさがるなあぁーーッ!」

幽々子はチャリオッツの剣が刺さるわずかな瞬間―――
空いた左腕を自分の正面に、心臓を守るように腕を動かす。
当然、その腕に剣が突き刺さり防御に成功する―――はずだった。
チャリオッツの剣は左腕を貫通し、なおも幽々子の命を奪わんと走る。

「ぐぅッ!止まれえぇッ!」
幽々子は『立ち止まらない』、己の『可能性』を燃やし、更なる無茶打って出る。
貫かれた腕を自身の胴体の射線上から反らすように、
さながら腕を振ってバイバイと振るように、大きく左腕を動かす。
スタンドで生み出された刃ゆえ、腕を貫通したのだ。
それを動かすことはチャリオッツの剣もあらぬ方向へと動くことを意味する。
結果、さらに体を破壊することになり―――貫通した箇所の上腕部から前腕部にかけて、
一本の長い貫通した裂傷を創り出した。

「ああああああああああッ!」
「バカな…!貴様、正気か!?」


591 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:55:25 6SUtTMeE0

幽々子の決死の防御により胴体に新たな傷はない、
さらにはチャリオッツの刃が左腕の前腕部に留っている。
要はその刃の先にいる者こそが―――


「眠ってもらうわ、深く永遠に。貴方に私の大切な存在はくれてやらない。
 もう大切な誰かが死に誘われるのを私は見たくないッ!
 死に誘うのは―――私だけで十分よッッ!!」


白楼剣が走る―――標的はポルナレフではない。
彼のスタンド、『シルバー・チャリオッツ』。目指すは額、肉の芽が潜む位置へと。

「させるかあぁッ!チャリオーーッツッ!!受け止めろおぉおーーッ!」

チャリオッツは空いた片手で白楼剣を掴み取ろうとし―――成功する。
寸でのところで額に刃の一部が刺さる程度で済んだのだ。
『スタンド』のパワーを以てすれば不可能ではないこと。

だが、幽々子は『立ち止まらない』。掌に収まった白楼剣をなおも押し込み、
それは少しずつチャリオッツの額の奥へと、また奥へと進む。

「何故だッ!何故…チャリオッツ!何をしている止めろ、止めないかぁーーッ!!」

ポルナレフは狼狽していた。あれほどの傷を負い、何故動けるのだと。
この時、彼ははっきりと『恐怖』を感じていた。そしてその『恐怖』は精神から成るスタンドを鈍らせる。

この時、ポルナレフは疑問に思わなかった、『恐怖』のあまり思えなかったかもしれないが。
何故、小ぶりの刀が『スタンド』に通用するのか。
そして、何故『スタンド』のダメージがフィードバックしていないのかと。

ポルナレフの叫びも空しく、白楼剣はついにチャリオッツの額の半分は突き刺さっている。
白楼剣はついに『善』の『白』、『悪』の『黒』の『境目』へと―――たどり着かなかった。
急に白楼剣を押し込める力が弱ったのだ、それも唐突に。



限界だった。

あれほど切り傷を負い、あれだけ出血して、とっくに倒れているべきだったのに。
なぜ戦おうとしたのか、逃げ出さなかったのか。
その答えは簡単だ。今の彼女の行動の原動力は、彼女自身は永遠に知ることが出来ない過去にあるから。
大切な誰かを失う、その思いは彼女の生前から続く大きな忌諱。
そんな未来に繋げたくない思いが彼女を突き動かしていたが…

 あ〜あ、妖夢がおにぎりくれたら、もっと頑張れたかも知れないのに…貴方のせいよ。
 まったく、帰ったらただじゃあ済まないわ。

立っていた両足が震える。本格的に意識が飛びそうになり、さっきまでと違い力が入らない。

 疲れたわ…


592 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:56:39 6SUtTMeE0


その瞬間だった。二人とも気づかない、幽々子の背後から駆け寄る一人の影を。
紫色の服を纏い、金色の髪をたなびかせ、その頭部にはどうやって被るのかわからない、
白い帽子が鎮座している。
そう、彼女の名前はマエリベリー・ハーン。
ツェペリの死で塞ぎこんでいた彼女が何故かこの場にいた。

「ハァーッ、ハァ―、幽々子さんッ!!」

大きく息を切らしているが、幽々子の右手を包み込むように、だが力強く支える。
幽々子は何故戻ってきたのか問い質そうかしたが、止めにした。
その行為はあまりに無粋すぎる、幻想郷に生きる者として。
代わりに行動で示す。震える両足に、醜い裂傷を負った左腕に、いや全身に喝を入れる。
 
 こんなにも傷ついた身体だというのに力が湧いて来る。守りたい友の輪の中に私はいるッ!
 ふふ、妖夢。貴方より案外この娘の方がしっかり働いてくれそうよ?
 悔しかったらもっとしゃんとしなさい?私も…


「私も、まだ……『立ち向かう』、から…ッ!」


「ぐうッ!無駄だぁ、力のない少女一人加わっただけで私は屈しない!負けるものかあぁ!!」

ポルナレフの言う通りであった。マエリベリーが加勢しても、
チャリオッツに刺さっていた白楼剣は少しずつ引き抜かれる。

状況がポルナレフの有利へと再び傾き出した時、彼はようやく冷静を取り戻す。
力比べをしているというのに何故片手だけでやっているのか、と。
ポルナレフはチャリオッツに命令を下す。

「薙ぎ払え、チャリオッツ!」
ビュン、と一閃。
幽々子の左腕を貫き、一本の長い傷を負わせたチャリオッツの剣は、またも彼女の肉体を貪り喰らう。


「えっ!?まさ―――かあああがあぁぁああああッ!」


幽々子の前腕部にあった剣は、手の平を通り自由を取り戻す。
左腕の傷は二の腕から始まり、人差し指と中指の間を抜けてついに終わりを迎える。
簡単に言えば、左腕を縦から真っ二つに引き裂かれたと言ったところか。
「幽々子さんッッ!!」

右側に立っていたマエリベリーには噴き出る返り血を浴びることはなかったが、それどころではない。
なんとかせねばと焦り出す。
一方、幽々子は白楼剣を放さなかった、放そうとしなかった。必死に喰らい付こうとする。

だが、剣の自由になったチャリオッツがただ黙って力比べをするわけがなかった。

「ここまでだ、貴様たちをまとめて切り裂く!チャリオッツ!!」
チャリオッツの目標は幽々子だけではない、マエリベリーもろともその剣で一文字に切り結ばんとしていた。


593 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:58:30 6SUtTMeE0



「―――ッ!貴様にくれ、てやる、友の命は、あんまりないッ!要は一つたりとも渡さないッ!」



幽々子は全てを理解し手を放した。
己の勝利のための手段をいともたやすく投げ出した。
使い物にならない左腕ではマエリベリーを突き飛ばせないから。
友と瓜二つの存在を救えないから。
空いた右腕でマエリベリーを渾身の力を込めて押し退ける。
その後の自分はどうなるかは想像に難くない。
でも、まだやれることがある。

チャリオッツの剣は幽々子の胴体に綺麗な一の字を描いた。その色は赤。
始まりの字は幽々子の命の終わりへと、秒読みを更に加速させる―――
だというのに…

幽々子は踏み込む。手にはもう白楼剣はない、チャリオッツに刺さったままになった後、
地面へと落ちていったから。
それでも近づき宣言する。


「『反魂蝶―八分咲き―』」


死に瀕した幽々子の身体から幻想的な桃色の輝きと共に、一斉に十を超える胡蝶が飛翔する。

「な、なにいぃ!?」

ポルナレフにもはや3度目の『恐怖』が走る。飛び出した反魂蝶を避けようとするが、
光をもろに見てしまい、視力を奪われ咄嗟には動けなかった。
そして反魂蝶に触れた途端、まるで体力を奪われるような感覚に襲われる。

「いかん、離れなければッ!」

ポルナレフは見えない目で何とか後方へと飛び退き、距離を取ることが出来た。
しかしその間数匹の反魂蝶に触れたのは言うまでもなく、大きく体力を削ぎ落とされた。
そのせいで体に力が入らず、今は片膝をついた状態で息を切らしていた。

眩んでいた目が徐々に戻り、幽々子が倒れているのがぼんやりと確認できた。


594 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 00:59:28 6SUtTMeE0


「ハァーッ、ハァーッ…よう、やく終わ、ったか…」

発せられる声も力強さが感じられず、絞り出すような感じすら窺えた。


「だが、倒したッ!西行寺幽々子、私が『上』で貴様が『下』。私の勝利だッ!」


そう、ツェペリも幽々子も倒れた今残っていたのは後二人。
内一人は、さっきいたマエリベリー・ハーンなのだが幽々子の近くにいなかった。

「どこにい―――ぬうぁあッ!?」
「うわあああああああぁああぁああ!!」

ポルナレフが辺りを見回した瞬間、全力で駆けるマエリベリーがいた。
その手には白楼剣を握りしめ、チャリオッツの額へと突き立てようとしている。
ポルナレフはチャリオッツを動かそうとするも連戦に次ぐ連戦で、とうとう体力の限界に至っていた。
チャリオッツを思うように動かせず、白楼剣は着実に迫る。
そして、白楼剣は再びチャリオッツの額を捉え、突き刺さる。

「ま、だ、だあぁああ!!」
しかしポルナレフは己の精神を燃やし、チャリオッツに働きかける。
結果額に僅かにめり込んだところで、腕を動かすことができ、白楼剣を指で止めることに成功した。

マエリベリーは必死に突き立てようとするも空しく、白楼剣は動かない。
「チャリオッツ!振り降ろせえぇ!」
今度はチャリオッツの右腕を動かし出す、その動きはぎこちなく油の切れた機械のようだったが
剣を上段に構えた。

今なら白楼剣を諦めて、逃げることが可能だっただろう。
だがマエリベリーは白楼剣を引き抜こうとしてしまった。

 せめて、この刀だけでも…!

二人分の血を吸い尽くした凶刃が迫る。
マエリベリーもまたその犠牲となろうとしていた。



その時、最後の異変が起きた。



マエリベリーが引き抜こうとした白楼剣が逆に大きなエネルギーに押されて、
前へ前へと突き刺さっていく。

マエリベリーの力ではない。ツェペリも幽々子も共に力尽き、この場に居合わせるのは二人のみ。

最後の伏兵が今、躍り出る。

鼓膜を叩くのは、奇妙な怪音。
それは私の持つ白楼剣のちょうど頭の部分にあり、少々耳障りな音を奏でていた。
引き抜こうとする私の力を上書きして一気に突き立てていく。
人ではないモノがそこにあった。それが私の窮地という『マイナス』のベクトルを『プラス』へと導く。


595 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:00:03 6SUtTMeE0




―――ギャルギャルギャルギャルギャルギャル―――




鉄球。それは回転しながら凄まじいエネルギーを発する鉄球だったのだ。

何故こんな状況になっているか、そんなことはどうでもいい。
回り続ける鉄球に後押しされて私もまた『立ち向かう』。
地を踏みしめ、両腕にありったけの力を込める。
両手からズブリという嫌な感覚が走った。


そしてついに―――
チャリオッツの額から外へと完全に貫いた。

その時白楼剣は力を発揮する。
ポルナレフに宿る本来の人格『善』の『白』
肉の芽に宿る巨悪DIOのカリスマ『悪』の『黒』
その狭間に揺れる、ねずみ色の『境目』を『迷い』とし、
白楼剣は『境目』を両断する。


ポルナレフは動きをピタリと止めると、その身体が大の字を描いて倒れた。


「お、終わ、わった、たたの…?」
マエリベリーは声を震わせる。腰が抜けたのか足は立てない。
身体からは熱いというのに、寒気が止まらなかった。
一歩間違えれば、自分の命など潰えていただろうから。


596 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:01:19 6SUtTMeE0


「ふー、ひとまず決着がついたようだな。」

私は思わず振り向く。
そこには3人立っていたのだ。
戻ってきた鉄球を掴みとり、ゴーグルをつけたカウボーイ風のハットを冠っていた男性。
獣耳のように2つに尖った金髪が非常に目立つ、「和」の文字が入ったヘッドホンをしている少女。
そして、稗田阿求……。

金髪の少女が私に駆け寄ってくる。
「君、怪我はない?安心してほしい、私もそこにいる彼も君には一切危害は加えないことを約束するわ。」

少女は力強く私にそう言って聞かせた。
「怪我……。そ、そう!私より幽々子さんを、助けて!」

「……ええ、分かったわ。」

そう言うと既に幽々子の元にいたジャイロと阿求の元へと向かい、
決してマエリベリーに聞こえないように小声で尋ねる。

「ジャイロ、どうかしら?」
「一応聞くんだな?大方アンタの考えてる通りだ。正面の傷は、
 こいつが仕込まれていたせいでまだ大丈夫だったんだがな。」

ジャイロは幽々子の懐から鞘を取り出す。もはや砕けていたがそれは、白楼剣の鞘。
従者の鞘は主の命を守ることに貢献したのだった。

「出血が酷過ぎる。僅かに呼吸しているが、もう…数分ももたねぇよ。」

「そうですか。やはり、間に合わなかったか…」
「嬢ちゃんには俺から伝える、見てくれはこれだが、医師だしな。」

ジャイロはマエリベリーの元へと歩み寄る。

「よお、おれの名はジャイロ・ツェペリ。本業じゃねえが、一応医師だ。」
「………」
「はっきり言うぞ、あの女はもう助からねぇ。」
「……」
「治療しようにも道具がない。仮に永遠亭から道具を持ってきていようが、いまいがな。」
「…わ、か…」
「あん?」


597 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:03:08 6SUtTMeE0

悲痛な少女の声が竹林にこだまする。ジャイロはかける言葉が思い付かなかった。
その時だったあることに気付いた神子が全員に聞こえる様に声を出す。

「みんな!少しの間、黙ってもらえない?欲を殺して!」
「一体全体何のつもりだよ、神子。」
「いいから!君は素直に従いなさい!二人もお願い、自分の気持ちを押さえて!
 マエリベリー、つらいと思うけど私を信じて!幽々子が、救えるかもしれないから!」

 その言葉にマエリベリーは目を見開く、必死に気持ちを落ち着けようとする。

 欲が聞こえる!?救いたい気持ちが、いや私なら救えるという強い思いが、
 でも小さすぎる、どこだ…!?

「みんな!欲を抑えようとする気持ちが強すぎるッ!大きく深呼吸しなさい。」

「「は、はいッ!」」

少し経つと、ようやく沢山の感情が行きかう竹林がわずかだが静かになる。

 ダメだ…!どこにあるんだ、一体…。救えるかもしれない、と言ったのだ!
 あの子に与えた希望を陰らせたくはない、私は豊聡耳神子。
 無責任な希望を振りまく為政者ではないッ!

強い決意を抱いて、神子はヘッドホンを外す。
彼女のヘッドホンは十人の話を同時に聞くことが出来る程度の能力を抑制、
または特定の声のみを聴きとるための重要な道具だ。
聞き取るためにも使えるため、基本的に外す必要はない。
しかし、今回聞こうとする声があまりに微弱すぎる上に、制限のせいか聞こえが悪い。

よって外すことを選んだ。殺し合いが行われた場では行いたくなかったが、
四の五の言っている場合ではない。一刻を争うのだ。

『私は正しかったのでしょうか?』『マエリベリーめぇ、よくも、よくもこのDIOをおぉ!』
『幽々子さん…!』『助かる手段なんて本当にあるのか?』『逃げ出した私は…』
『俺は今何をしている?』『…『もう一度ポルナレフの元へと…!』
『気持ちを落ち着けるのよ、私』『あのような方法で私のみを切り離すなど…!』

様々な感情が逆巻いていた。神子は歩く、欲の出所を特定するために。 
 
 聞こえる…!でも一際聞こえるのはこいつか…!

足を止めた。場所はポルナレフが倒れているところだ。そこにあるのは彼以外に何かが蠢いていた。
 
 阿求から聞いた肉の芽…!すべての根源!貴様のせいで多くの存在を…許せない!

神子は怒りと共に、履いていた靴で思いっきり踏みつけた。


598 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:04:31 6SUtTMeE0



メシリッ、ドグシャアァ


『このDIOがあぁあああッ!!』

カリスマの芽はあまりにも呆気なくその最後を迎えたのだった。

 これで静かになる、さぁ見つかってくれ、希望の声を…!

再び声に耳を傾け、歩き出す。そして今まで聞こえなかった声が彼女の耳に伝わる。

『わたしの…波紋なら…』

「!!まさか…!生きているのか…ジャイロ!手を貸しなさい、急いで!」

ジャイロは少し離れた神子の元へと駆け寄る。
 
 ったく、黙っとけって言った後に今度は。人使いちょいと荒すぎやしないかよ…

「無駄口叩かないッ!」
 
 口に出してねぇよ…

神子がいたのは、紳士風の格好をした初老の男性の側だった。
「って、このおっさんがあの女を助けるっていうのか!?」
「ええ。そうですよね、ツェペリさん?」
「…うむ、わ、わたしな、ら幽々子、君の命を…」
今にも消え入りそうな声だが、強い決意を感じさせる声だった。

「分かりました、言われた通り貴方をお運びします。
 だからこれ以上は黙っていてください、お体に障ります。」
「おいおい、マジかよ…。死んでないのが不思議なぐらいの状態じゃねぇか!」
「…ジャイロ、運ぶわよ。」
「ああ、分かったよ…アンタの言う通りにするぜ。」

そうしてツェペリの両脇に二人は立ちゆっくりと幽々子の元へと運んだ。
「ツェペリさんッ!?」

マエリベリーは驚く。もう話すことができないと思っていた相手がそこにいたのだから。
「メリー君か…。スマンが話は後じゃ、幽々子君を救いたいじゃろう?」
「ツェペリさんだってその傷が…。」
「そんなもの後回しじゃ、今わたしがせねば彼女は助からん、分かってくれ…!」

「でも…!ッ、お願いします、ツェペリさん…」
マエリベリーはなんとなく、本当になんとなくだが、
ツェペリがどういった行動に出るか分かってしまった。
止められないだろう、と分かってしまった。
「まかしてくれ…!」

「もう、ここまでよいぞ。助かった…」
ツェペリは二人に支えてもらいながら、幽々子の元へと両膝を付く。
「幽々子君…君のことじゃ、決してわたしの為ではなかっただろうな…。
じゃが、だからこそ無関係の君を死なせるわけにはいかんッ!
『石仮面』を原因に死んでほしくはないッ!」


599 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:07:33 6SUtTMeE0


ツェペリは幽々子の両手を自身の両手で握りしめる。

「わたしの意志を波紋を受け継げなど言わんッ!
その命にもう一度『可能性』の火を灯してくれッ! 究極! 深仙脈疾走! 」


ツェペリの呼吸から生まれた波紋の力が幽々子の元へと走る。
眩しいまでの太陽の輝きが幽々子を包み込む。
幽々子の負った傷が見る間に体の傷が塞がっていく、両断しかけた左腕すら元に復元する。

「すげぇ、おっさん。あんた何をしたってんだ…」

「成功したか…!」
ツェペリの生涯最後の波紋は最も美しく、そして残酷な死を彼に渡した。
ツェペリの容姿が一変する。まるで玉手箱を開けた浦島太郎のように一気に歳をとったのだ。

「ツェペリさんッ!!」
マエリベリーは倒れかけていたツェペリをなんとか支える。

「これで幽々子君は助かるはずじゃ。良かった、本当に…」
「こ、今度はツェ、ツェペリ、さんの傷を、な、治す番です!
 そう、ですよね…?そうって言ってください!!」
マエリベリーの声は震えている。理解していた。そんな簡単にできるようなものではないということぐらい。

「ほっほ、無茶を言うな。メリー君、今ので限界じゃよ、そもそも今のはわし自身にはできないものじゃ。」
そんな…とマエリベリーは小さく呟く。自分を今まで支えた存在を失う、
彼女は今内に秘めた正直な気持ちを口に漏らした。

「あなたがいなくなったら、私はどうしたらいいんですか…?」
「『勇気』を持ち、自分の『可能性』を信じてほしい。わしから言えるのはそこまでじゃよ。」

「できるわけがない!私は怖い!今から貴方を失うことが怖くてたまらないのに、
 『勇気』なんて持てません!」
「ほっほ、君は『恐怖』の訳が理解しているじゃないか。」
「えっ?」
「『勇気』を持つために必要なのは蛮勇ではない。
 『恐怖』を恐れている自分を知ること、これが一番の初歩じゃ。
 安心せい、君は『勇気』を持とうと『立ち向かう』最中におる。」

「…」

「阿求君、いるじゃろう?」
「…………えっ、わ、私?」

今まで外野でただ立っていた阿求は、声をかけられたことに気付くのにわずかな時間を要した。

「君が今、思い悩んでいることは大方想像がつく。実は少しだけ幽々子君との話は聞いておったからの。」
「ッ!やめて、わ、私は…!」
「君の選択は間違っておらんかったということに自信を持ってくれ。」
その言葉に阿求は自分の内に渦巻いている思いの丈をぶつけてしまった。

「無責任なことを言わないでッ!私がその二つの中でどれだけ悩み続けたのか…
『可能性』を信じられる貴方には分からない、分からないわよッ!」

「わしには謝るしかできん、本当に申し訳なかった…」
「くっ!」
阿求は駆け出したが、迷惑をかけてしまうと気づき途中で足を止めた。

「確かにわしの生き方が全てではない。そうかもしれないのぉ…ゴホッ」
ツェペリは血を吐き出す。それはもう彼の限界を知らせる合図にも見えた。
「ツェペリさん…!」

「さよならじゃ、きっとジョジョの奴なら。メリー君の力になってくれるじゃろうて…」
「ツェペリさん、さようなら…私は生きてみせます。『勇気』と『可能性』を忘れずに。」

ツェペリさんから返事はなかった。悔いなくこの世から旅立っていったのだと私は信じたい。
いや、悔いはあるに決まっている。彼の目的は『石仮面』の破壊、吸血鬼DIOの打破、
いずれも達成されていないのだから。
だが、彼はその恨みつらみを一切口にせずに逝ったのだ。
私はこんな清い人にはなれるような気がしない。
だからせめて、彼の言ったこと『勇気』を『可能性』を信じるという生き方だけでも受け継いでいきたい。

でも今は、そんなことは考えずただ失った貴方を思って涙を流してもいいですよね。
失意の涙を、私を友として扱ってくれた幽々子さんの命を救った感謝を胸に、
ツェペリさん、さようなら、最後にありがとう。


【ウィル・A・ツェペリ@第一部 ファントムブラッド】死亡


600 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:09:06 6SUtTMeE0
以上で後編の「優雅に散らせ、墨染めのカリスマ 〜Border of …」
の投下を終了します。


601 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:17:58 6SUtTMeE0
あ、すいません、さっきまでのは中編でお願いします。
後編「向こう側の月の都 〜 Lunar craters」投下します。


602 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:19:08 6SUtTMeE0

どうもこんにちは、稗田阿求です。
話の途中から急に消えてしまって、申し訳ないと思います。
そこでここではちょっとだけ私の活躍、と言うよりは失態を記しておこうと思いました。
折角ですので、私視点から見た今回の動きの一部を紹介します。
それでは、私の手記をよく読んで、素敵な貴方に安全なバトロワライフを。

…流石に無理か。


603 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:20:12 6SUtTMeE0

「阿求、貴方に折り入ってお願いがあるのだけど?」
幽々子さんが、私にそう言ったのはツェペリさんと幽々子さんでポルナレフさんと戦う直前のことだった。

「私に…ですか?」
「ええ、当然だけど。この戦いの結果によって、私たちの今後は多少なりと変わるわ。」

私は首肯する。私たちが全員生存の上で勝利すれば、
ポルナレフさんの肉の芽を問題なく外すことができる、ハッピーエンドの展開だ。
その逆もあり得る、この戦いに負けた時だ。

「この戦いにおける負けというか、一つの区切りは、何を指すかしらね?」
「全滅ですか…?」
「半分正解ね。じゃあ視点を変えましょうか?箒頭の一番の標的は誰だと思う?」
相変わらずというかなんというか、この御方は考えていることを率直に言うのがお嫌いなようだと感じた。
まあ、幻想郷に住む妖怪やらなんやらは、大体そんな感じだししょうがない。
「…ツェペリさんですよね。」

その名前を呼んでハッとした。私だって伊達に生きていないし(転生だけど)、
高い知性があることは認識している。
だから、幽々子さんが言わんとしていることが、なんとなくだが察した。

「貴方にはこれを渡しておくわね、使うべき時に使って頂戴。」
手渡されたのは2枚のエニグマの紙、少し開き中身を確認する。
一つは私が持っているスマートフォンとはまた違った電子端末、生命探知機だ。
ポルナレフさんはこれで私達の居所を掴んだのかと納得する。

もう一つは先ほどのツェペリさんの戦いをアシストした馬、ヴァルキリー。
乗馬の経験なんて、炎天下の元で行動するのにも厳しいというのにあるわけがない。

私は小声で、失礼を承知の上で尋ねる。
「ツェペリさんを見捨てるおつもりですか?」
「ふふふ、何言ってるの?考え過ぎよ、阿求。」
私の言葉に思わず笑っている幽々子さんを見て正直ホッとした。
いくらなんでも、そんな無慈悲な方とは思ってなかったし。
でも彼女は一頻り笑うと、急に真面目な顔になってこう口にした。
「でもね、最悪の事態を想定しないといけないわ。」

私は黙り込む。彼女が話していることは、一番の標的であるツェペリさんが倒され、
いや殺された場合のことだろう。

「おそらくだけど、私達には手を出さないと踏んでいるわ。
よく分からないけど自分の障害になる相手のみを倒そうとする感じだし。」

私も概ね同じ考えだ。懸念と言えば、肉の芽に干渉したことからメリーさんが狙われるのではないか、
といったことぐらい。

「そして、ツェペリが殺されたとして私たちはどうすべきかしら?」

その答えを私に尋ねるのは卑怯だと感じた。
私の『感情』はツェペリさんの敵討ちではないが、
ポルナレフさんを肉の芽から解放することまでしたいと言う。

私の『理性』は襲ってこなければ、無理に戦う必要はない。
危険を冒す必要はないと決めてその場を退くと言う。

しかし、私が『感情』から発した意見は多分口にできないだろう。
だって、この場合ポルナレフさんと戦う必要性が出てくる。
私には戦う力など持ち合わせていない、無力な存在だ。
そうなると誰が矢面に立つか、ここでは幽々子さんしかいない。
選択肢があるように見せて、一方の選択肢は無責任な発言となり、
よほど無神経でなければ選べないと思う。そして私はそこまで図太い神経の持ち主ではなかった。


604 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:20:46 6SUtTMeE0

「ごめんね、阿求。すごく底意地の悪い質問だったわね。でも、わかってほしいの。」

無言の答えが自身への不満だと察した幽々子さんは、素直に頭を下げて謝まってくれた。
要約すると、仮にツェペリさんが死んだとしても、
ポルナレフさんに戦う意思がなければ挑むことはしない、ということだ。

「いえ、幽々子さんの言いたいことは分かります。それに比べて、私にできることなんて本当に少なくて…」

「な〜に言ってるのよ。貴方には生き残ってこの奇妙な体験を記す義務があるじゃない、
 寺子屋開いている牛より正確なものを期待しているわ。」

寺子屋を開いている牛って、思いつくのは上白沢慧音。
私の妖怪の知人の一人で歴史が専門の教師をしていて、彼女の授業は稗田家の資料を提供している。
まあ確かに、彼女の編纂したものよりはよほど正確なものができる自信がある。

「だから、貴方の負った使命の為にも、逃げることを選ぶのを恥じちゃいけないわ。
 貴方にしかできないことはあるんだからね。」
「…分かりました。」

「それと最後に、これは本当に最悪の展開を迎えた場合よ。
 それはツェペリの次に私も戦わなければいけなくなったとき。」

私は次に幽々子さんが何を言うか、わかっていた。

「すぐにとは言わないけど、危険だと判断したらメリーと一緒に逃げなさい。」
ああ、やっぱりか。予想は的中。でも同時に仕方ないなと感じていた。
私にできることは生き延びたその先にある。
無力な私ができることなどタカが知れていたし。

「まあ、私もツェペリもそうならないように全力を尽くすわ。安心していなさい、阿求。」

私は、はいと返事をし、そこで幽々子さんとの会話は終わりにした。


605 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:22:12 6SUtTMeE0


今、見てみるとなんというか、非常に滑稽に見えてしまいますね…。
この後にあるのは、一番あってほしくない本当に最悪の展開だったんですから。
今度の場面はツェペリさんが死んだと、みんなが思い込んだところからですね。
ちょうど、私がメリーさんを支えながら二人から離れていたところです。




「そんな、ツェペリさん……いや、死んだの…生きてるの?」

私がメリーさんに肩を貸しながら歩く隣で彼女ははブツブツと呟いていました。

当然か、私もここに来て気さくに接してくれた幽々子さんが死ぬかもしれない、
と考えるだけでゾッとする。

そうあってほしくない、と考えていた矢先のこと。
背後から聞こえてきたのは幽々子さんとポルナレフさんとの話し声。
襲ってこないところを見る限り、やはり私達には敵意はないと見ていいだろう。
少し立ち止まり、話し声に耳を傾ける。


「ああ、貴方の誘蛾灯に私の大事な存在をあげたくないってね。」

大切な存在、私はどうなんだろうか?私は誰かにとって大切な存在なのか?ふと、考えてしまった。

「あっ!もちろん阿求もその中にいるわよ!」

残念ながら、幽々子さんの回想シーンに私の出番はなかったようだ。
まあ、彼女なりのジョークとして受け取っておこう。いちいち気に病んでも仕方ないし。
だけど、次の言葉には自身の耳を疑った。

「私が貴方を止める、ただそれだけよ。」

えっ、今なんて?

振り向くとポルナレフさんは駆け出していました。『スタンド』を従えて、
もちろん戦うつもりなのでしょう。

聞いていた話と違い、私は驚く。予定ではポルナレフさんが戦う気がないならば、
無理に戦わないと言っていたのに。

私はあの時、幽々子さんにツェペリさんが死んだときにどうするか、
という問いを受けてどちらか答えなかった。
でも、本音は私の『感情』を優先させたかったと思う。
死んだツェペリさんの意志をついで、ポルナレフさんを肉の芽から救う。
それが最も綺麗な終わり方に思えたから。

でも、今は違った。そんなもの放り出して今すぐ戻ってきてください。
幽々子さんにそう叫びそうになったのだ。

『恐怖』。人の死を目の当たりにして、私はそんな倫理ある思いをあっさりと投げ出しそうになった。
自身を支えてくれた存在の大きさを理解し、失いたくないと今更ながら強く感じ始めたのだ。
そんな私の思いとは裏腹に事態はより悪化していく。

幽々子さんが正面と背面にそれぞれ一太刀入れられてしまった。

「すぐにとは言わないけど、危険だと判断したらメリーと一緒に逃げなさい。」
幽々子さんがの言葉が私の頭に反響する。

私の使命は幻想郷で起きた有象無象を記し、伝えること。そのためには―――
「貴方の負った使命の為にも、逃げることを選ぶのを恥じちゃいけないわ。」


606 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:25:09 6SUtTMeE0

私とメリーさんに火の粉が降りかかるよりも早く、逃げ出さなければと思った。
一枚のエニグマの紙を開く。出てきたのは一頭の馬、ヴァルキリー。
この馬ならば、距離を取ることも容易だ。問題は乗れるかどうか…

手綱を握り、鐙を踏んで登ろうとするも何度もずり落ちる。
私の無様な姿に見かねたのか、ヴァルキリーはしゃがんでくれた。
…なんだか悔しいけど、これで乗れる。
私はメリーさんの方を向く。

「メリーさん、落ち着いて聞いてください。今から私たちは一旦ここから離れます。」
「えっ?ツェペリさんは…、それに幽々子さんだって…」

ツェペリさんを失ったショックか、その目はどこか虚ろだ。
私の言葉で感じたことを素直に返している。
「幽々子さんに頼まれていたんです。もし、彼女が戦うことになったら逃げろって。
 ヴァルキリーに乗って行きましょう。」
「幽々子さんを置いていくの…?」
つらい。私だって逃げ出すことに罪悪感はある。
それでも私の使命と幽々子さんの願いの為にも逃げなければいけない。

「今、私たちが残ってできることはありません。お願いですから、一緒に来てください。」
「幽々子さんも死んじゃうの…?」
やめて。私だって、私だって好きでこんな方法選んでるわけじゃない。
いつまでも問答しているわけにはいかない。そう判断すると、メリーさんの腕を掴み無理やり引っ張る。
「い、いや、は、放して!」

これでは私が悪者みたいだ。でも心を鬼にしてメリーさんを引きずる。
まだ夢の世界の体験での疲れがあるせいか、私でもなんとか連れ出すことができた。
ヴァルキリーの前にたどり着く。座って待ってくれていたおかげで簡単に跨ることができた。
メリーさんを見るが、やはり座ってくれない。

「メリーさん、お願いです。私を信じてください…!幽々子さんにもしものことがあって、
 貴方まで死なせてしまったら、彼女は浮かばれません。」
「う、浮かばれない、な、なんて!幽々子さんが死んだような扱いをしないでッ!」

私はもちろんそんなつもりはない。確かに、浮かばれないという言葉には
成仏するとかいった意味もある。
幽々子さんは亡霊だし、いわゆる幽霊ギャグか…(うまいこと言った?)
縁起でもないことを考えてしまったが、もちろんそんな意味で使ったわけではない。
「言葉のあやです。そんな揚げ足を取るようなことを言わないで下さい。」

「い、いや!わ、私は幽々子さんを、た、助けたいの!」


ここに来て唐突にメリーさんが私を見据えてはっきり伝えてきた。
何故かその目を見て私はたじろいでしまう。
「私に、私たちに、あの場でできることがあると思っているのですか?」
「わ、分からない。でも、幽々子さんの側にいてあげたいの、彼女を支えたい。」

何でこんなことが言えるのだろうか、
幽々子さんは貴方に生きてほしいから私に託したのに… どうして…?

「分からないで済ませないで下さいッ!貴方の行為は彼女の決意を踏みにじることに
 繋がりかねないのですよッ!」
「阿求さん、私は蓮子って友達とよく一緒に行動しているの。
 だから、私を大事な存在と認めてくれた幽々子さんも同じようにいてあげたい。」

そんな理由で…?それに幽々子さんは誰が大事な存在と口にはしてなかったのに…
あなたはどうしてそう思えるの?


607 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:27:01 6SUtTMeE0


「それに、幽々子さんはなんだかどこかで会ったような、不思議な感覚になるんです。」


そうか…。メリーさんには、私には持たないものがあるから、
幽々子さんを別の形で支えようと考えるのか。

『理性』で動くよりも優先させたい『感情』がきっと彼女にはある。

「だから、お願いします。幽々子さんの元へ行かせてください!」

彼女の友達の宇佐見蓮子。どんな子かなのか知らないけど、
それはそれは彼女の大きな拠り所なのだろう。
だって彼女の名前を口にしたら、まるで自分の力に変えてしまったように彼女に活力が宿った。

ここで偶然出会った西行寺幽々子。八雲紫を思わせる、
その容姿と能力は何かしら関係があるだろう。この場で紫様と生前からの仲である、
幽々子さんと会ったのも正に『縁』といったところか。(うまいこと言った?)

そこまで考えて、私は急にさびしくなった。
私にメリーさんのような『理性』を飛び越えるような『感情』を優先させたい拠り所なんてあるのかと。

友達はいる。
さっき話した上白沢慧音。彼女はお世辞にも教え上手とは言えないので、
たまに頼まれて指導の仕方なんかを教えたりする。
結構辛辣な感想を言ったりするけど。その分仲は良いかな?

本居小鈴。私の歳と近しい妖魔本の研究に熱心な女の子で、
私のおそらく最も友人と呼べる間柄だろう。
あの子は本が大好きだし、彼女には私の好きな幺樂団のレコードを貸したりもした。
そうやって思い返すと、友達はいるし彼女たちは私の大切な存在だ。

でも…彼女たちが危険に晒された時、私はどう動いていたのか、と考えた瞬間。

胸を張って彼女たちを助けに行けるかと言われたら……言えない。
だって私は今、幽々子さんを置いていこうとしたんだから。
同じことを彼女たちにしないなんて、今更ムシの良いこと言えない、言えなかった……

私は幽々子さんを助けるために、この場から離れろと言った。
彼女は幽々子さんを助けるために、この場に残り支えたいと言った。

同じ助ける手段をとるにしたって、何かできるかの有無で判断しないで、
側にいたいという思いを優先する。
ただの無謀にしか見えない、見えないのに…

酷く羨ましかった。
そして思った。

なんて私は侘しいのだろう…

私が酷く心の狭い人間に思えてしまった。

その思いが引き金となった。
「ヴァルキリー、走ってッ!」

私はどう扱っていいのかわからない、ヴァルキリーの手綱を握りしめ命令する。
座っていたヴァルキリーはスッと立ち上がる。

「阿求さんッ!?」

「わ、私は、私は…」

ヴァルキリーはあっという間に走り出した。
自分でもあの時メリーさんに伝えようとしたのか覚えていない。


608 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:28:09 6SUtTMeE0

どれだけ走ったのかはっきりとしないけど、数分にも満たない時間だったはず。
私はヴァルキリーの上で泣いていた。
自分の在り方に自信を無くしてしまったと思う。
ヴァルキリーを走らせたのは、そんな惨めな自分をメリーさんに晒したくなかったのか、
はたまた私の『理性』で取った行動の方が正しいことを主張するためなのか、わからない。
いろんな気持ちが溢れかえっては消えていく、そんな時間を過ごした。
しまいには、ヴァルキリーの首を両腕でぐるりと絡めて乗っていた。
さぞ不快だったと思う。そして私の走って、という気持ちが小さくなるのに、
呼応してヴァルキリーは足を止めた。

ゆっくり止まったのに、その反動でずり落ちてしまいました。本当に惨めで…
自分に嫌気がさしていた。

私はそのまま座り込んでしまった。今は何も考えず植物の様にありたいと願いながら。
短い時間だったけど、無防備なまま、私はぼんやりとしていた。
今なら襲われても何の抵抗もしないでしょう。
転生の儀式をすることなく死んでしまえば、私に次はないはず。
でも、今の幻想郷に私なんて必要ないのでは、とまで考え出した。
百年程度前なら危険に満ちていた幻想郷も、今では精神的平和が主となる住みやすい場所へと変わった。
妖怪の危険から守るための知識を伝えることが稗田家に与えられた使命。
もうその危険が薄まった今、私の存在意義も同様に不必要では、と感じ始めた。


ガサ、ガサリ


足音が私の鼓膜を叩く。
流石にハッとし思わず、エニグマの紙から生命探知機を取り出し、確認。
私の前方に2つの反応があった。
私はその存在に幽々子さん達への助けを求めることを思いついた。
いくら自暴自棄になっていても、助けたい気持ちだけは陰っていないようだったのは幸い。

誰かが来るのは分かる、しかしどういった人物が来るのかは分からない。
最低でも隠れる必要があるのに、私は怯えていたのでしょう、動けなかった。
下手をすれば殺される状況で、身動きが取れず、私は相当焦っていたと思う。

じゃなければ、こんなこと絶対に、絶対に言わなかったですし…




「助けてー、みこえもーん!」




私が最近執筆した宗教家三者会談での、ある人物の項目に記した。助けを求める方法だ。
耳の良い彼女なら、この言葉で駆けつけてくれる、とかそんなことを書いていたし。

「呼びましたか、阿求?」
「へ?」

まさか、その本人が現るとは夢にも思ってませんでしたが…
そう、そこにいたのは豊聡耳神子。何を隠そう最近幻想郷に現れた人物にして、
宗教家三者会談に参加した一人。

「まさか、君がいるなんてね。来るのが私だと分かってたみたいだけど、
 貴方って欲の声を聴けましたっけ?」

私は思わず赤面する。
そりゃあ、咄嗟のこととは言え、あんなこと言った自分すら何で口にしたのか、問い質したいぐらいだ。

「す、すみません……」

身を縮めて、頭を思いっきり下げた。

「まあいいわ、ジャイロ出てきて構わないわよ。」
「ヴァルキリー!いやー、こんなに早く出会えるなんて俺って運がいいぜ!」

後ろから出てきたのは、ゴーグルをつけたカウボーイ風のハットを冠っていた男性。
外の世界にあんな格好をした人がいるのを資料で見たことがあった。

「格好はアレだけど、一応安心してほしい。彼はジャイロ・ツェペリって言うわ。」
「は、はい。」
「阿求、一刻を争うんでしょう?急ぐわよ!」
「ええぇえッ!?」
私は驚いた、今思い返すと神子さんの能力を使われただけなんだけど。
「ジャイロ!私達3人乗せて、ある場所へ行くわ、準備して!」
「おいおい!人使いが荒すぎやしねぇか?もうちょっと再開を喜ぶ時間を―――」
「そんな女々しいことは後回し!阿求行くわよッ!」

「ったく、あんまヴァルキリーに乗せたくないんだがな…」
無駄口を叩きながらも、着々とヴァルキリーの装備を確認し、私でも乗れるように座らせる。

「さあ、乗った乗った!よくわかんねぇけど、急げばいいんだな?神子よぉ。」

神子さんは乗りながら、生命探知機に指差して話す。
「ええ、人命がかかっている。目的地はこいつと私の耳がある!指示通りに走りなさいッ!」
「いよっしゃあぁ!飛ばすぜ、ヴァルキリー!」

そう言うと、ヴァルキリーは私が乗っていた時と比べものにならないスピードで、竹林を駆け出した。

その間、彼らと会って僅か2分程度で私は元いた場所へとトンボ帰りを果たす。


609 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:32:15 6SUtTMeE0






大して離れていなかったのと、ヴァルキリーの全速力で走ったかいもあり、一分もせずに到達した。

状況は幽々子さんが倒れた直後。
私はなんとか状況を理解しようと周囲を見渡す。
幽々子さんが肉の芽を取り除く際に用いると言っていた
白楼剣の存在を必死で探し、すぐに発見する。

「うわあああああああぁああぁああ!!」

白楼剣はメリーさんの手中にあり、今まさに『スタンド』目掛けて突き刺さんとしていた。

「おいッ!無茶だぜ、『スタンド』相手によぉ!あの子がやられちまうぞ!!」
「あぁぁ、あぁあ…」
「阿求ッ!君の意見を聞かせてッ!」

倒れている幽々子さんと『立ち向かう』メリーさんの姿を見て私は声が震わせていた。
さっきのメリーさんとのやり取りを、自身への後ろめたさせを感じていたから。

 やっぱり、あの子は私とは違う… なんで、なの?

そう感じている間に白楼剣はチャリオッツの額に命中する。

 ああ、自分の力で決着をつけようとしている… 私にはとても…

だが、その白楼剣の動きが止まるのを見て、私はあることを尋ねたのを思い出す。
メリーさんが体験した夢の世界での話をしてくれたときのことだ。

「肉の芽ってどれぐらいの長さがありましたか?」
深い意味はなく、ただの知的好奇心からの質問だった。
「うーんと、詳しく見ていないけど、頭に刺さったら脳の真ん中までいきそうな感じだったわ。
 すごく気味が悪くってね。」
ちょっとだけ顔をしかめていたのまで、はっきりと覚えていた。


じゃあ今、刺さっている白楼剣の位置はどこだと考えた瞬間だ。


「だ、だめ…足りない……」
「阿求?」
「あ、あれじゃあ、足りないッ!脳へのあと一押しが足りていないッ!
『スタンド』に刺さった剣をもう少しだけ進まないと届かない!!」

私は無我夢中だった。声を荒げて必死に伝えようとする。

「要はあの剣が深く刺さらないといけないのね、阿求。」
私は首をブンブンと振り正しいと伝える。
「聞いたわね、ジャイロ!貴方の出番よッ!あの剣がより刺さるように鉄球をかましなさいッ!」
「だろうと思って準備しておいたぜッ!」

ジャイロさんの足元には円を描くように風が纏う、それらはやがて右手に収める鉄球へと集約される。

「俺の鉄球を食らええぇえッ!!」

掛け声と共に鉄球は白楼剣目掛けて投擲される。鉄球はは黄金の回転の力を得て、空を切り裂き殺到する。

そして、メリーさんはまだあの場にいてくれた。白楼剣をその手に放すことなく。

鉄球が衝突する。
ギャルギャルギャルっと奇妙な音だが、威力は十分だった。

白楼剣はついにその力の発揮に成功したのだ。


私もその一助になれたような気がした。


610 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:34:16 6SUtTMeE0


メリーさんは泣いていた。この殺し合いの場で最初に出会い、支えてくれた存在を
今度こそ失ったから当たり前か。

対して私は泣いていなかった。

やっぱり私は…

「阿求、ちょっといい?」

話し掛けてくれたのは神子さん。彼女が迅速にことを運んでくれなかったら、幽々子さんも
メリーさんも助からなかった。本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

「本当に、ありがとうございましたッ!」
「ちょ、ちょっと、そんなかしこまらなくていいのに。」

「それで、私に何か?」
「君の心の問題よ。心当たりあるでしょ。」

神子さんの顔を見ると、『うまいこと言った』と書いてあった。
まあ、面白いけど…

「聞かないでもらえますか?」
「駄目よ、自分の口から吐き出しなさい。私への感謝の気持ちがあるなら、貴方の悩みを聞かせて頂戴。」
「貴方の能力で…」
「もう一回言うわね、自分の口から吐き出しなさい。」

神子さんはニッコリとこちらを見てきた。意地でも聞いて来るつもりだろう。
確かに彼女への感謝の念がある、そのために伝えよう。とそれを言い訳に
私は内に秘めた思いを吐き出すことにした。

話していて途中から涙が止まらなかった。
私は不必要な存在だとか、私は大切な存在のために行動できないとか、
自分をぼろ雑巾のように貶めた。

神子さんはと言うと、そんな私の独白にただただ頷き、言葉に詰まったら
その言葉を言い当てる。泣き出してしまったら背中をさすってあげる、
正に聞き上手の鑑と言ってよかった。

そうして時間が過ぎていった。
私は目を大きく腫らしていたと思う。
あまり、解決策というか的確なアドバイスは言ってもらえなかったけど、
彼女は私にこう言いました。


611 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:35:14 6SUtTMeE0



「阿求、一つだけ言っておくわね。貴方はこの一連の流れを見てどう思う?」
「どうって…」
「はっきり言いましょうか。貴方の行動もマエリベリーの行動も正しかった。
 誤っていなかったってことよ。」

「どちらも…ですか?」
「ええ、マエリベリーの行動の結果、幽々子は殺されることなく守ることができた、わかるわね?」
「は、はい。」
「そして、貴方の行動のお蔭で私たちは駆けつけることができた。
 マエリベリ―だけでは守れなかったでしょうから。」
「で、でも、私は、あ、あの時幽々子さんを、おっ、置き去りに…」
「今は、結果だけで判断しなさい。」
「それに、貴方たちが自力でたどり着くことだってできたはずッ。そのペンデュラムを持っていたならッ!」
「…しょうがないわね、じゃあ阿求。貴方と出くわすまでの話をしましょうか?」

「どちらが欠けても、幽々子さんを守るのに必要だったと…」
「そういうこと、気に病むことはないのよ。」


「そ、それじゃあ!私はこれから『感情』と『理性』のどちらを
 選ぶのが正しかったと言うんですか!?」

私の心からの疑問だった、答えてほしかった。


「貴方が考える『理性』と『感情』の考えで白黒つけるのは難しいわ。
 正直言って、その場その場で答えは変わる。私も無責任なことは言いたくないもの。」
 
「そう、ですか……」

「でもね、阿求。貴方があの場で『感情』の選択を取れなかったことをクヨクヨするのは良くないわ。
 まして、大切な存在がいても助けるために行動できないとか、ね。」
「できる、できないは誰にだってである。その中で思い悩み
『可能性』を信じ、できると思い行動する。『勇気』を持って、できないと判断する。
『人間賛歌』って貴方の言う『感情』や『理性』のどちらにも転ぶものよ。」

「つまり…?」
「『人間賛歌』を掲げて動けば、そのどっちにも当てはまる。少しだけでも
 信じてあげるのも一興かもねってことよ。」



「まあ私は仙人だし、『仙人賛歌』とか『妖怪賛歌』とかあってもいいと思うけどねぇ。」

なるほど、それは面白そうな感じがした。

「後は貴方が考えなさい、私から言えるのはそれまでだし。」
「少しだけ気が楽になりました、ありがとうございます、神子さん。」

「ふふ、力になれて何よりよ。カウンセリング、受けたいならいつでも歓迎するわ。」
「いえ、できれば今回までにしてみせますよ。だって…」
「だって…?」

「これからの稗田家の信仰が狙われそうだから、かな?
 宗教家に借りを作るのはマズいですもの。」

「あら残念ねぇ、ちょっとだけ期待していたのに…まあその内頂くことにするわ。」


612 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:36:06 6SUtTMeE0



以上が私の体験した一連の動きです。
結局のところ、ツェペリさんには本当に申し訳ないですが
今回はうまく行き過ぎたのかもしれません。

力のない私たちが二手に分かれて各々の使命を果たせたんですから。
最悪の事態だって十分にあり得ました。

でも、今回は相手が一人だったからうまくいったのでしょう。
次も決して簡単には済まないだろう、と記して、
私の手記は終わりに致します。

まあ、誰も読むことはないでしょうけど…(失態だらけだし)
それでは、もしまた書くことになったら会いましょう。さようなら。

―――で終わろうかと思いましたが、

一つだけ追記したいと思います。
ジャイロさんと神子さんのご活躍も合わせて、私の手記に書き足しておきます。

よろしかったら、もうしばらくお付き合い願えますか?


613 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:37:52 6SUtTMeE0

「ふざけんなッ!このペンデュラム壊れやがったのか!?」
「圏外に移動してしまっただけよ、ジャイロ。」

永遠亭を出発したジャイロ・ツェペリさん、豊聡耳神子さんの二人は迷いの竹林を彷徨っていたようです。
支給品、ナズーリンのペンデュラムをジャイロさんに持たせて、
ヴァルキリーを探していたのは良かったのですが、その反応が少しずつ失われました。
ヴァルキリーのスピードを考えると、有効範囲の200mから離されてしまったのだと思います。

「ちぃッ!折角見つけたと思ったら、急にいなくなりやがって。
 乗ってた野郎はただじゃあすまねえぜ。」
「少し頭を冷やしなさい。無理に追いかけようとすれば必ず道に迷うわよ。」

進むべき道は分かっていてもここは迷いの竹林。
迂闊に走って追いかけるのは良くないと神子さんは窘めます。

「君はそのヴァルキリーって馬に随分御執心のようね。」
「当ったり前だろうが!あいつがどれだけレースの力になったのか計り知れないんだぞ!」
「馬が、ねえ…」

ああ、そうか。神子さんって厩で生まれた(うまいこと言った?)逸話がある方でしたね。
何とも言えない表情してるし。
本人は違うって言ってましたけど。後でジャイロさんに伝えてみましょう。うん、そうしよう。
お二人には馬という縁があったのかもしれませんね。

「ジャイロ、私についてきて。遠すぎるから曖昧だけど、私の耳で一旦探りを入れるわ。」

「そういや、アンタ、永遠亭で俺が何を考えていたのか読み取ったよな?読心能力でも持ってるのか?」

ジャイロさんは出会ってすぐに、神子さんの能力で何を考えているのかを読み取られたとか。
読まれる側はたまったものじゃないです。

「ちょっと違うけど、そんな感じね。私は生きている者の欲を感じ取ることができるわ。」

「欲か…ヴァルキリーは馬だけど平気なのか?」
「生きている存在ならね。それと欲がなかったり、心を閉ざしていたり、
 半人半霊だったりするとうまく読み取れなくなるわ。」
「欲がない、心を閉ざす、その二つはいいけど半人半霊って何だよ…」

「いいからいいから。ちょっとの間黙ってくれる?」


神子さんは目を閉じて辺りに耳を澄ます。ほんの数秒経って彼女は口を開きます。


「駄目ね、聞こえが悪い…。うーん、こんなものじゃないんだけどなぁ。」
「いくら耳がいいって言っても限度があるぜ。聞こえるわけないだろ。」

ジロリと神子さんはジャイロさんを睨みます。ちょっと軽い方だけど、
それなりにプライドあるだろうし。

「近くに雑音があるかしらね、うん。困ったものよね…」
「何だとぉ!俺はちゃんと黙っていただろうが!どーして悪く言われなくちゃあいけねえんだよ!」
「さっき言ったでしょ、私は欲を聞き取る。早い話、周囲がうるさいかどうかよりも、
 そういった欲の声が小さくないと聞こえは悪いわ。」


「ったく!言い訳ばかり言いやがって。俺が連れ添っていたのは
『聖人』でも『仙人』でもない、ただの『女の子』だったわけかよ。」


614 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:40:36 6SUtTMeE0


ああ、まずいって。怒らせるとロクな目に合わないのに…

神子さんは少し低い声でゆっくりと言う。
「ジャイロ…。せっかく君の欲の一つを解消しようって思ったのにねぇ…!」

「はんッ!ヴァルキリーを見つけられないアンタがよく言うぜ。」
「これ、壊すわよ…」
神子さんはエニグマの紙から何かを取り出す。


「うわああぁああッ!やめろ、やめろぉッ!そいつだけはーッ!」


彼女の手には一つの鉄球があった。何の変哲もないその鉄球は、ジャイロさんの生命線だ。

「私には無用の長物、困るのは貴方だけ。こんなおもちゃが大事だなんて、君も好き者ねぇ…」
「ぐッ!へん、よくよく考えたら女のアンタじゃあ壊せるわけないか、
 チョイとばかし取り乱しちまったぜ…」

早く折れた方がいいのに…


「あら、私はやろうと思えば大きな岩の一つや二つ持ち上げれるわ、試してみる…?」


神子さんとまともに相対すると、すごいプレッシャーを感じるって言われています。
それなりに怒っている彼女となると、なおさら大きなものになるでしょう。

 
(こいつ、目がマジだ…!だが無理に決まってるあいつの凄味に負けるかよ!
『できるわけがないッ!』)




「次に君は『できるわけがないッ!』と言う」
「『できるわけがないッ!』…ハッ!」



神子さんはニコニコとしている。ある意味タチが悪い。

「こんの野郎ーッ!おちょくりやがってェーーッ!!」

ジャイロさんは激しく地団駄を踏みながら怒ります、
ひょっとして言われたくない言葉だったのかしら。


「本題に移るわ、雑音が過ぎる君のためにこの鉄球をあげてやってもいいわよ?」


615 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:43:35 6SUtTMeE0


「んなにぃ!?ホントか!!」

神子さんは鉄球を上に投げたり、なでたりと、弄りまわしながら言います。

「君がこんなおもちゃを欲しがるお子様だと、認めたらね?」

神子さんはそれはそれは愉快そうな笑顔を貼り付けて、伝えます。



「ふっざけんなああぁあ!どうしてそうなるんだよぉ!!」



「君の口からそう言ってくれれば、素直に渡すわ。さぁ早く聞かせてくれないかな〜?」

神子さんは耳の後ろに広げた手の平を当てて、聞こえないなぁ〜といったジェスチャーをします。
あんまりだ。
そんなことよりヘッドホン外した方がよっぽど聞こえ…いや、よそう。

「ちっくしょおぉお…」

遂にジャイロさんが観念したのか口を開きます。

「俺は、俺はッ……おもちゃ、を…

「うん?」




「駄目だッ!そんなことは言えねぇ、言えるわけがねぇッ!!」
「あらら?」



「俺は、俺はッ…先祖代々から追求してきた回転の技術の継承者、ツェペリ一族の末裔だッ!
 鉄球をおもちゃだとぉッ!そんなことを認めちまったらよぉ、
 ツェペリ一族の、その名をッ、貶めることになるだろうがッ!!」


「そんな条件なら飲まねぇ、絶対にな!こっちから願い下げだぜ!神子ォ!!」

「ふふ、いい度胸ね…!」

神子さんはついに握りしめていた鉄球を放り投げた。
迷いの竹林でそんなことされたら見つかるわけがない。私は話を聞いてて、そう思っていました。



鉄球は転がる。ジャイロさんの足元へと。
「へ?」

ジャイロさんは神子さんを見ると、クツクツと笑っていました。
「ほん、と…おも、しろい……わねぇ、君は……」

「?」
なおも茫然としているジャイロさん。私も良く分からない、早く教えて、みこえもん。
神子さんは一頻り笑い終えるとようやくジャイロさんに話しかける。


616 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:50:07 6SUtTMeE0


「いい返事じゃない、ホント。従順な輩だと信仰を頂くのも容易い。君みたいなのは願い下げだけどね。」


「君のそういう真っ直ぐな性根…とまではいかなくても。
 内にある確かな信念、しかと見せてもらったわ。その鉄球は餞別よ。」

「ま、まさか試していやがったのかぁ!?」

あれで試していたんですか、割と本気に見えたんですけど…

「さっきも言ったけど私の能力はある程度制限されている。
 そんな中で信用、いや信頼に足りる存在は貴重よ。」

「お、俺を信頼してるだとぉ!?」

上手いこと言って、ジャイロさんを小間使いにしてしまうのでは…

「殺し合いの場で武器よりも信念を優先したのは無謀に見えるけど、君にはこの状況でも貫く思いがある。
 そういうブ屈さない奴は、今のうちに味方に引き込まないとね。」

「おいッ!勝手に決めつけるんじゃあねぇぞ!いくら試したって言っても、
 鉄球をおもちゃ呼ばわりしたのは謝罪の一つ…」

その声とからの欲から察した、神子さんの行動は素早いものです。
腰から上半身を綺麗にぴったり45度前に傾ける体制、謝罪の意を表するお辞儀を彼女はしていました。


「この通りよ、ジャイロ・ツェペリ。ごめんなさい。」

「……!」

「でも、聴いてほしい。私はこんな殺し合いを止めるためならいくらでも頭を下げるわ。
 聖人とは人を救うものよ、当たり前のことなの。
 ふざけた殺し合いなんかさっさと片付けてやるわッ!」

 (こいつ、目先のことじゃなくて殺し合い全体のことを見据えていやがったのかッ!)

神子さんは頭を上げると、元の調子に戻って少しだけ茫然としているジャイロさんに言います。

「あれ?…鉄球いらないの?」
「ふ、ふざけんな、貰うに決まってんだろ。」

ジャイロさんは取られまいと、そそくさと拾います。
「さて、これで欲の声が少しは静かになるわね。」



「神子、その…なんだ、スマン!!」

「うん?」


「元はと言えば、俺が余計なこと言ったのが始まりだったんだ。
 それに、アンタなんだかんだ言って俺のこと褒めてんじゃねえかよ!
 このままじゃあ『納得』できねぇ!謝っとくぜ。悪かった…」

ジャイロさんは頭を垂れました。


「素直でよろしい。でも、そうやって騙されないことね、
 貴方に渡したそれは私には不必要なものなんだから。」

「けッ、そんなもの見抜けないほど俺は間抜けじゃないね。
 それにアンタは俺の内にある信念を認めたんだろ。だったらその信念に従って動いてやるぜ。
 俺なりのアンタに対する『敬意を払え』ッ、ってやつだ!」

流石神子さんというか、なんというか。人の心を掴むのがうまいですね、天性のものもあるでしょうが。
やっぱり借りを作ったのはマズかったなぁ…


617 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:51:26 6SUtTMeE0


「さて、もう一度欲の声を聴いてみます。気持ちを落ち着けて、
 無理に抑え込まない様に頼みます。ジャイロ。」
ジャイロさんは首肯する。神子さんは再び目を閉じ、しばらくすると目を見開く。



「ふう…」
「どうだ、神子。なんか引っかかったか?」
「そうね。」

神子さんは言います。
「聞こえなかったわ。」
「は?じゃあ、俺の欲がどうってのは…?」
「関係ないわね。」
「俺のせいじゃあないんだよな。」
「うん。」

ジャイロさんはわなわなと震えだす。私でもちょっとは怒るかも…

「俺が悪かったってのは、じゃあ?」
「しつこいなぁ、君は悪くないわよ?」
「俺が侘び入れる必要ってのは…!?」
「な・い・わ・よ!」
 
 『プッツン』

「ふざあけんじゃあああねええええッ!今までのやり取りは何だったんだよぉ!!」

「君は鉄球を手に入れた。私は信頼できる相手を見つけた。それじゃあ不満?」 
神子さんはにこやかに微笑む。

結局、ジャイロさんは別の意味で騒がしくなりましたとさ。


618 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:54:53 6SUtTMeE0

その後、ジャイロさんと神子さんは再び歩き出します。
しかし、行けども行けどもペンデュラムは反応しません。
それなのに、神子さんの耳は欲を捉えていました。

「おかしい、どこかに欲が集まってるのは分かる。近くに人はいる。でも…」
「ペンデュラムは反応しないか…、ちっくしょう、どうなってんだ?」

「二つ考えられるわね、一つはエニグマの紙にしまわれた可能性。もう一つは…」
「何だよ?」

「ヴァルキリーが既に殺された、とか。」


「おい、冗談でも言うモンじゃねえぞ!?」
「まあ、ここでの有用な移動手段を殺すなんていないと思うわ。」

そこまで神子さんが口を開いた瞬間。

彼女たちから見て少し先の前方が紫色の光が少しだけ見えたそうです。
おそらく幽々子さんの幽胡蝶がポルナレフさんを襲った時だと思います。

「うおッ!なんだありゃあ!?」
「行くわよ、ジャイロ。」
「おう!」


二人はさらに走ります。それで本来なら私達と遭遇していてもおかしくはなかったのですが、
ここは迷いの竹林。
普通に真っ直ぐ歩いていても、微妙な傾斜や変わらない景観で人の感覚を狂わせるのです。


619 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 01:58:44 6SUtTMeE0

光りが見えて数分が経ちジャイロさんが口を開きます。


「だぁーーッ!ほんと馬鹿にしやがって、この竹林はよぉーッ!」
「!ジャイロ、ペンデュラムを見なさいッ!」

ペンデュラムはいつの間にか道を指していました。ヴァルキリーへと至る道を。

「うおおおッ!?マジかよ!いやったぜぇーッ!」
「ジャイロ、落ち着きなさい!こっちに向かって来ている!」

そう、私がヴァルキリーに乗って走っている時、偶然にも彼らの方へと走っていたのです。
本当に、幸運だったとしか言い様がないくらいに…!


ドサリ


「何か落ちた音、いや馬から落ちた音か!近いぜ、待ってろよォー!ヴァルキリー!」
「ジャイロ、止まりなさい!!」

ジャイロさんは不服そうですが、止まりました。

「私が先に行く、相手の心はかなり錯乱している。相手を落ち着かせるのは私に任せて!」

「…しゃあねえか、分かったよ。だが、俺はすぐ後ろの物陰に隠れている。
 危険な相手と判断したら、俺は鉄球を放つぜ。」

「…分かったわ、君だって無暗やたら撃たないでしょうから。信頼してるわね、ジャイロ。」
「おう。」

神子さんは進もうとした瞬間、ふと思ったことをジャイロさんに伝えました。

「それにしても私の呼びかけに随分素直に応じたわねぇ。
 てっきり、さっさと行っちゃうと思ってたけど…」


「俺って信用ねえなぁ、さっきまでの大して知らない相手のままならいざ知らずよォ。」

ジャイロさんはしっかりと神子さんを見て言いました。


「俺はアンタが止まれって言ったから止まってやったんだぜ?」


あらま…

「ふーん、わかったわ。」
「何でそんな軽いんだよ!もうちょっと、こうッ、何かねえのかよッ!」

「あら、告白のつもりだったの?」
「んなわけあるかあぁあー!!頼まれてもごめんだぜ、絶対に嫌だね!」

「ジャイロ…」
「何だよ、まーだ、からかうつもりかよ!」

神子さんはしっかりとジャイロさんを見て伝えます。その顔はとてもにこやかで。


「ありがとう。心だけじゃなくて、その気持ちを口にしてくれてね。」



「んなッ…!?」

ジャイロさんは凍り付いたように動かなくなりました。

それがどういった意味がなのかは知りませんけど…



私を助ける直前だと言うのに、二人は随分と仲良しさんになっていたとさ。


620 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 02:00:42 6SUtTMeE0

【D-6 迷いの竹林/早朝】

【西行寺幽々子@東方妖々夢】
[状態]:気絶、霊力消費(極大)、疲労(大)、出血(大)、左腕を縦に両断(完治)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。紫や妖夢、メリーを守る。
1:紫や妖夢、メリーを失わいたくない。
2:あの子(メリー)は、紫に似ている。どうやって尋ねましょうか?
3:阿求には迷惑かけちゃったわね…
4:主催者を倒す為に信用できそうな人物と協力したい。
※参戦時期は神霊廟以降です。
※『死を操る程度の能力』について彼女なりに調べていました。
※波紋の力が継承されたかどうかは後の書き手の方に任せます。
※左腕に負った傷は治りましたが、何らかの後遺症が残るかもしれません。

【マエリベリー・ハーン@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(極大)、ツェペリを失った悲しみと感謝、精神はだいぶ落ち着いている。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:蓮子と一緒に此処から脱出する。ツェペリさんの『勇気』と『可能性』を信じる生き方を受け継ぐ。
1:ツェペリさん、ありがとう…
2:阿求さんと仲直りがしたい。
3:蓮子を探す。ツェペリさんの仲間や謎の名前の人物も探そう。
4:幽々子さんと一緒にいてあげたい。
5:幽々子さんってどこかで会ったことがある?夢の世界でとか?
[備考]
※参戦時期は少なくとも『伊弉諾物質』の後です。
※『境目』が存在するものに対して不安定ながら入り込むことができます。
 その際、夢の世界で体験したことは全て現実の自分に返ってくるようです。
※ツェペリとジョナサン・ジョースター、ロバート・E・O・スピードワゴンの情報を共有しました。
※ツェペリとの時間軸の違いに気づきました。


【ジャン・ピエール・ポルナレフ@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:気絶、疲労(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:???
[備考]
※参戦時期は香港でジョースター一行と遭遇し、アヴドゥルと決闘する直前です。
※肉の芽の支配から脱しました。


621 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 02:03:29 6SUtTMeE0

【稗田阿求@東方求聞史紀】
[状態]:疲労(中)、自身の在り方への不安
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン@現実、エイジャの赤石@ジョジョ第2部    
     稗田阿求の手記@現地調達、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いはしたくない。自身の在り方を模索する。
1:私なりの生き方を見つける。
2:メリーさん、幽々子さんが助かって良かった…
3:神子さんに感謝、できれば何か恩返ししたい。
4:メリーさんと仲直りできるでしょうか…
5:主催に抗えるかは解らないが、それでも自分が出来る限りやれることを頑張りたい。
6:荒木飛呂彦、太田順也は一体何者?
7:ジャイロさんに神子さんが厩から生まれたと伝える?
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談以降です


【ジャイロ・ツェペリ@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ナズーリンのペンデュラム@東方星蓮船 、ジャイロの鉄球@ジョジョ第7部
[道具]:ヴァルキリー@ジョジョ第7部、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョニィと合流し、主催者を倒す
1:鉄球とヴァルキリーを見つけてくれた恩を神子に返す、彼女を信頼する。
2:ジョニィや博麗の巫女らを探し出す
3:リンゴォ、ディエゴ、ヴァレンタイン大統領、青娥は警戒
4:あのオッサン、ツェペリって言うのか?
[備考]
※参戦時期はSBR19巻、ジョニィと秘密を共有した直後です。
※豊聡耳神子と博麗霊夢、八坂神奈子、聖白蓮、霍青娥の情報を共有しました。
※この会場でも、自然には黄金長方形のスケールが存在するようです。
※豊聡耳神子の能力を理解しました。

【豊聡耳神子@東方神霊廟】
[状態]:疲労(小)、少し気分がいい
[装備]:生命探知機@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖人としてこの殺し合いを打破する
1:阿求は立ち直ってくれたかな?
2:ジャイロは信頼に足りる存在と認める
3:博麗の巫女など信頼できそうな人物を探し出す
4:あのペンデュラムを白蓮に渡したら面白いかも
5:……青娥、もしかしたら裏切るかもしれないわねぇ
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談を終えた後です。
※ジャイロ・ツェペリとジョニィ・ジョースター、リンゴォ・ロードアゲイン、
 ディエゴ・ブランドー、 ファニー・ヴァレンタインの情報を共有しました。
※能力制限については、後の書き手の方にお任せします。
※ジャイロが自分の能力の詳細を伝えました。

※八雲紫の傘@東方妖々夢、白楼剣@東方妖々夢、星熊杯@東方地霊殿が周囲に落ちています。

稗田阿求の手記@現地調達
稗田阿求が書き記した手記。手記と言っても支給品のA4用紙に書かれた簡素なものである。
彼女がが体験したこと、その時の心情などを事細かに書かれている。
時間があれば他人からも話を聞いて書き記し、最終的には自身の在り方の糧にする予定。
阿求が生き残った時間の分だけ、その内容は充実していくだろう。
果たして阿求はこの手記を完成させることができるのだろうか…

白楼剣@東方妖々夢
白玉楼の庭師兼剣術指南役の魂魄妖夢の愛用の刀の一つ。人の迷いを断ち切るとされる短刀。
副次的な効果として、幽霊などの霊的存在に対して迷いを断ち切ることで成仏させることが可能。
よって、『守護霊』とも称される『スタンド』が相手でも迷いを断ち切ることができる。
その他にも武器として斬り付けることで『スタンド』にダメージを与えられる可能性も…


622 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 02:10:28 6SUtTMeE0
以上で後編「向こう側の月の都 〜 Lunar craters」の投下を終わります。

もし、付き合っていた方がいたらお疲れ様です。
ジャイロと神子の追加話ですが、今までと違って急に明るくさせて
ちょっと仲良くさせ過ぎたかもしれません…

不快に感じる内容になってないか不安ですが、
ひとまず修正版の投下を終了します。
読んで下さり、ありがとうございました。


623 : 名無しさん :2014/03/02(日) 02:15:08 gfVV/h2E0
ウソダドンドコドーン!
ファントムブラッドのキャラは残りはジョナサンだけか…
ジョナサンには頑張ってほしいところだな


624 : 名無しさん :2014/03/02(日) 02:17:53 2oZYpgWo0
乙です。
仲の良さは個人的には気にならなかった。

>そういうブ屈さない奴は
>殺すなんていないと思うわ
誤字脱字?


625 : 名無しさん :2014/03/02(日) 02:19:18 Aa0GvgoE0
仲良くするのはいいがまた女神の嫉妬を買うぞ


626 : 名無しさん :2014/03/02(日) 02:19:39 j2lSNzcc0
投下乙です
ほのぼの(?)した掛け合いが面白かった!
話の途中に挟むならともかく、最後にほっこり出来て良かったよ。
ていうか可愛いなコイツらちくしょう


627 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/02(日) 02:37:38 6SUtTMeE0
>>624さん
早速ご指摘ありがとうございます、以下を修正します。

>>616の修正点
×そういうブ屈さない奴は、今のうちに味方に引き込まないとね。
○『恐怖』に屈さない奴は、今のうちに味方に引き込まないとね。

>>618の修正点
「まあ、ここでの有用な移動手段を殺すなんていないと思うわ。」
「まあ、ここでの有用な移動手段を殺す奴なんていないと思うわ。」


628 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/02(日) 14:37:15 2EZoqKOY0
修正版投下お疲れ様です!
神子様の飄々としながらも聖人であることをうかがわせる思慮深さ、好きです。
では自分も上白沢慧音、封獣ぬえ、吉良吉影、東方仗助、比那名居天子を予約します。
以前AC7PxoR0JU様が予約されていましたが、大丈夫でしょうか?


629 : 名無しさん :2014/03/02(日) 17:07:56 ddPfVSmg0
これでやっと深夜組が全員予約完了っちゅうわけやな!


630 : ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:00:40 GY5V3MGE0
日付が変わってしまいましたが、投下します。


631 : ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:02:08 GY5V3MGE0
薄暗い小部屋で仰向けに横たわる少女、多々良小傘。
彼女の手を握り、その傍らで静かに佇む金髪の少年、ジョルノ・ジョバァーナ。
幌の中から顔を覗かせて周囲を警戒する少女、トリッシュ・ウナ。

彼らが今居るのは、B−2エリアの草原地帯。
雑多な草木が生い茂る一帯の、小山にのような地形に葛のツルが絡み付いて盛り上がっている陰に
隠れる様にして小傘の治療を行っていた。

実はツルの中には、幌の付いた軽トラックが停められていた。ジョルノの支給品の一つである。
4輪駆動とはいえ、タイヤの径が小さいこの車で整地もされていない原野を夜間に突っ走るのは非常に危険なので、
今まで乗って走行することは敢えてしなかった。
だがこの車、幌が荷台の運転席の高さまでをすっぽり覆っているので、
走行できなくとも小さなテントとして使用するには十分だった。
ジョルノたち一行は、この軽トラックの荷台を即席の休憩所代わりとしていたのだ。
ちなみに、トラックの周囲を覆う葛のツルはジョルノのスタンド『ゴールド・エクスペリエンス』によって
生み出されたもので、草原に紛れるための偽装である。

幌のすき間から周囲をのぞくトリッシュが、ジョルノに話しかけた。

「ジョルノ、相変わらず周囲に人影は見当たらないわ。その子の様子はどう?」

「脈は安定しています。こうして『手を握り続けている』限りは。
 ……ですが、手を離すと駄目です。
 『ゴールド・エクスペリエンス』で触れていると分かるんです。
 この子の魂は、ヘリウムを詰めた風船の様に天へと昇っていこうとしている……」

「文字通りに、『手が放せない状況』というわけね……
 もう三時間になるわ……」


632 : ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:02:52 GY5V3MGE0
夜の闇は晴れ始めていた。
トリッシュの言葉どおり、ジョルノ達が南進中に小傘の容態の急変に気付いて、即席の拠点を設置してから
既に三時間が経過しようとしていた。
その間、ずっとジョルノは昇っていこうとする小傘の魂を引き止め続けていた。

安らいだ表情で静かに呼吸する小傘を眺めながら、ジョルノがポツリと呟いた。

「……『スタンド』だったのは、実はこの子の方なのかもしれない」

「え?」

「『無生物』に宿るスタンドを、ボクは知らないけど……。
 あの破壊された傘こそが『本体』で、この子の方が『スタンド』のようなものだとしたら……」

「…………」

「…………」

その後に続く言葉を、ジョルノもトリッシュも口に出すことはできなかった。
「『本体』を壊されたこの子はもう死んでいる。魂をあるべき場所に行かせてやるべきだ」とは、とても言えなかった。
言えなかったが、その沈黙の意味は確かに共有されていた。

「……どうするの?」

恐る恐る、トリッシュが尋ねた。

「……まだ、助からないと決まった訳じゃない」

今回初めて一瞬の間を置いて、ジョルノはそう答えた。
既に同様のやりとりを三回行っていたが、間を置いたのは今回が初めてだった。

主催者打倒の為にミスタを始めとした仲間を探す必要がある以上、ずっとここでこうしているわけにはいかない。
ディアボロや、先ほど交戦したウェザーのような危険人物を野放しにもできない。
……苦渋の決断を下さなければならないのではないかと、二人は感じ始めていた。


633 : ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:05:52 GY5V3MGE0
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

多々良小傘の見下ろす視界には、相変わらず横たわり続ける『身体』と、
その手を握り続ける少年の姿があった。
『身体』を抜け出て天に昇ろうとする『小傘』を繋ぎ留めているのは、まさにその手だった。

小傘は、また一つ魂が天に昇ってゆくのを感じていた。
視界は幌とツルに覆われているが、身体から抜け出てむき出しになった魂は、感じ取る事ができる。
今度も東の方角、男の人の……いや、人ならざる何かの魂の様だ。妖怪……私と同様の付喪神なのだろうか。
登ってゆく魂に未練が……無いわけではないが、
それでも使命に殉ずることができて満足しているように感じられた。

私と同じだ。
私もやっと、『モノ』としての使命を全うすることができた。
ださい色遣いの傘だと笑われ、打ち捨てられて幾星霜。
気がついたら人と似た身体が生えていて、腹いせに人間を脅かして回ってきたこんな私が、
最期に人を守る為に使われ、朽ちることができた。
だから、もう、未練は無かった。
あとは一足先に昇っていった『傘』を追って、あるべき場所に逝くだけなのだ。

……だというのに、この『ジョルノ』という少年は手を離してくれない。
だから、私は天へと昇ってゆくことができない。
もうずっと、三時間もこの状態だ。
使命を全うし、あとは天に還ってゆくだけの魂を、ずっと引き留めてくれている。
本当に『善い』人間たちだ。

……だからこそ、彼らにはもう死んでいる私には構わず、まだ生きている人たちの為に頑張って欲しい。
けれども、この人達は『善い』人だ。このまま私につきっきりで、行動を起こさずにいるかも知れない。
どうにかして、彼らに一言告げたかった。「あたしの事は……もう、いいの。ありがとう」……と。

だけど、この『欠けた魂』では『身体』を動かし、別れを告げることは
この三時間で色々試したが、どうやってもできなかった。


634 : ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:08:21 GY5V3MGE0
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

……その時だった。
トリッシュが周囲の警戒に戻ろうとして動いたその時、
小傘の傍らに置かれていたデイパックから紙切れがこぼれ落ちたのだった。
落下の衝撃で折りたたまれていた紙切れが広がり、
中からビニール傘と銀色の円盤が出現した。
円盤は車輪の様にコロコロフラフラと転がり、小傘の頭の傍で失速。
小傘の頭に向かって倒れこみ……そのままめり込んでいった。

「う、ん……」

小傘の目がゆっくりと開く。

「……!トリッシュ、トリッシュ!目を覚ましました!この子が!」

いち早く気付いたジョルノが、押し殺した声で叫んだ。

「えっ!……これは、私の支給品の『DISC』!?」

振り返って驚愕するトリッシュ。

「え……あれっ?あれ!?」

だが一番動揺していたのは、小傘だった。
何が起こったか、全くわからない。

「君、どこか痛む所はない!?」

「え……うん」

「大丈夫!?立てるかい!?」

「あ……うん、大丈夫だと「そうだ……名前!貴女、名前は!?」

「多々良、小傘……」


635 : ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:09:24 GY5V3MGE0
おまけに二人から嵐のような質問攻めに遭い、寝起きのボケた頭で答えるのは非常に苦労した。
ダメ押しにジョルノという人は気付いているのかいないのか、
『もう大丈夫』だというのにことさらに強い力で手を握ってきているので、小傘は何だかすごく恥ずかしかった。
ジョルノのヘアスタイルは奇抜だが、顔そのものは結構美男子なのが災いしていた。
女の子の姿で長年生きてきているとはいえ、小傘の男に対する免疫は皆無なのであった。

「ちょ、ちょっと顔が赤くなってない、この子!?」

「い、いや、これは、その、もうっ、手ぇ離してよー!」

「……本当に離していいのか?」

「えっ…………うん、私の頭に入ってきた変な円盤が、私の『欠けた魂』を補ってくれているみたい。
 ほら、こうして手を離しても、もう大丈夫でしょ?」

「スタンド『DISC』にこんな機能があったなんて……」

「でも、良かった……本当に良かった」

「そういうものなの?」

小傘には、二人にとって見ず知らずだった自分が生きていることで
なぜこんなにも喜んでくれるのか、理解できなかった。
……だけど、その喜びを無下にすることはできなかった。

「もう、いいの」

と言ってDISCを抜く事はできなかった。

ほんの偶然によって拾ったこの生に、もう少ししがみついていたいと思った。


636 : ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:10:14 GY5V3MGE0
本編の投下を終了します。

状態表、支給品については少々お待ちください。


637 : 何ゆえ、もがき生きるのか ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:45:11 GY5V3MGE0
【B―2 草原地帯/早朝】

【ジョルノ・ジョバァーナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:軽トラック@現実(燃料100%、植物を絡めて偽装済み)
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ東方の物品の可能性あり、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:ミスタ、ブチャラティに合流したい。
2:小傘を連れて行くべきか?
3:ディアボロをもう一度倒す。
4:あの男(ウェス)、何か信号を感じたが何者だったんだ?
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限として、
 『傷の治療の際にいつもよりスタンドエネルギーを大きく消費する』ことに気づきました。
 他に制限された能力があるかは不明です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※地図、名簿は確認済みです。
※小傘の名前を聞きました。


【トリッシュ・ウナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(小)、スズラン毒を無毒化
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典、本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:ミスタ、ブチャラティに合流したい
2:ディアボロをもう一度倒す
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限は未定です。
※血脈の影響で、ディアボロの気配や居場所を大まかに察知できます。
※地図、名簿は確認済みです。
※小傘の名前を聞きました。


638 : 何ゆえ、もがき生きるのか ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:45:50 GY5V3MGE0
【多々良小傘@東方星蓮船】
[状態]:疲労(大)、妖力消費(中)、スズラン毒を無毒化
[装備]:化け傘損壊、スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』
[道具]:不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗りたくない
1:二人の為に、もう少し生きていたい。
[備考]
※化け傘を破損して失った魂の一部を、スタンドDISCによって補うことで生存しています。
 スタンドDISCを失ったら魂が抜け、死にます。

支給品紹介

<軽トラック@現実(燃料100%)>
日本特有の軽自動車規格に合わせて作られた、小型トラックの一種。
低出力でスピードはあまり出ないが、小型で小回りが利き、作業用車両として広く用いられている。
カラーは白。4輪駆動仕様で、ある程度なら悪路も走れるが、タイヤの径が小さいため過信は禁物。
荷台にはグリーンの幌が張られており、雨の日の輸送も安心。

<スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』@ジョジョ第7部 スティール・ボール・ラン>
本来は大統領の部下・ブラックモアのスタンド。
虹があしらわれた仮面をヴィジョンとして持つ。
雨粒を空中に固定し、本体以外の物理的干渉を受けなくすることができる。
また、本体と雨と同化させて空中を飛行することも可能。
雨が降っていない時は役に立たない。
ブラックモアのビニール傘がおまけとして付属している。

<ブラックモアのビニール傘@ジョジョ第7部 スティール・ボール・ラン>
何の変哲もない、普通のビニール傘である。


639 : ◆.OuhWp0KOo :2014/03/03(月) 00:46:22 GY5V3MGE0
以上で投下を終了します。


640 : 名無しさん :2014/03/03(月) 00:54:16 5FZlc2eM0
投下乙です。
小傘ちゃんどうなるかと思ったが、ひとまずスタンドDISCで復活か
しかし傘繋がりでキャッチ・ザ・レインボーかw


641 : 名無しさん :2014/03/03(月) 01:31:26 zVcWwFfk0
投下乙です。
良かった小傘ちゃん復活や…これで死んじゃってたら美鈴が浮かばれぬ…
キャッチ・ザ・レインボー強いけど問題は天候だな


642 : 名無しさん :2014/03/03(月) 16:47:38 0p2zSg7E0
そこでウェザーですよ


643 : 名無しさん :2014/03/03(月) 17:40:09 5FZlc2eM0
殺されかけた相手なんだよなぁ…(震え声)


644 : 名無しさん :2014/03/03(月) 18:16:09 U01CjLWkO
その気になれば『大粒の涙雨』とかで自前で……


645 : 名無しさん :2014/03/03(月) 21:21:39 LRUPnMC2O
投下乙です。

雨の時しか役に立たない繋がり


646 : 名無しさん :2014/03/06(木) 15:10:47 m/wiIAfMO
なんでや!小傘ちゃんかわいいやろ!


647 : 名無しさん :2014/03/06(木) 23:55:10 17NaojAs0
でも僕はあっきゅん


648 : 名無しさん :2014/03/07(金) 08:13:00 K9jjaYIc0
パッチェさん大好き


649 : 名無しさん :2014/03/07(金) 19:42:40 mTX4iAqo0
小傘が見たのって誰の魂?


650 : 名無しさん :2014/03/07(金) 20:05:26 8aifQq0U0
ブラフォードかな?


651 : ◆.OuhWp0KOo :2014/03/07(金) 20:16:58 qilThIgU0
>>650
正解……越後製菓!


652 : 名無しさん :2014/03/07(金) 20:33:09 Wql39Nr.O
でも僕はオリーブオイル


653 : 名無しさん :2014/03/07(金) 22:15:15 9XnLoVbY0
投下お疲れ様です!
ああー、小傘生きてて良かったー!
顔赤くする小傘ちゃんかわいい


654 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:16:13 9DKC/CwU0
投下します


655 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:22:20 9DKC/CwU0
ワァーーー!!!

と、歓声がサンモリッツ廃ホテルの部屋に広がった。
目を向けてみれば、岡崎夢美が「東方心綺楼」を起動させたパソコンの画面と向き合っている。
盛んにキーボートを叩く様子からして、どうやら彼女はゲームに熱中しているようだ。


「わたしの科学力にかかれば、こんなものちょちょいのちょいよ!」


夢美が灼熱のような赤い髪を振り乱し、気炎を上げる。
この調子なら、ゲームのクリアは遠くない内に達成するだろう。
そんなことを予感させる夢美の後ろで、河童のにとりは隣のパチュリーに疑問を投げかけた。


「ねえ、パチュリーさん、これどう思う?」

「そうねー」


パチュリーは小さな顔を乗せた首を僅かに傾け、細く、長い指を空中で彷徨わせた。
いつもは手に持っている本がないせいか、どうにも手持ち無沙汰だ。
前に伸ばした手を引っ込め、代わりに肩にかかった藤の花のような紫色の髪を指で巻き上げる。
そんなつまらない代償行為をしながら、パチュリーはゲームの画面を見つめ、答えを推察する一方で
何故こんな遊戯に耽っているのだろう、と今更ながらに河城にとりと広瀬康一の出会いを思い返していた。



      ――
 
   ――――

     ――――――――


656 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:23:08 9DKC/CwU0
「げっ」


という言葉が、魔法使いと河童の小さな口によって唱和された。
パチュリーと夢美は人が集まりそうな施設を求めて地図中央へ向かう。
そしてにとりと康一は河童のアジトがある妖怪の山へと向かう。
その道中の平原で出会った二組を祝う声は、そんな品のないものであった。


とはいえ、それも当然のことだったのかもしれない。
片や最近ではつとに性格の悪さが有名となってきている河童、
片や妖怪の山で河童相手にぶいぶい言わしている鬼や天狗と同格である吸血鬼と大変宜しくやっている魔法使い。
そうして漏れ出た声から、お互いがお互いの悪感情に気づき、二人は思わずムスッと顔を歪める始末。


さあ、このまま弾幕ごっこでもして、この気持ちにケリつけようかしらん。
あわや二人がそんな調子を見せたところで、彼女らの間に割って入る者が現れた。


「ストオオォーーーーーッッップ!!! ケンカはやめようよ。ねっ、にとりちゃん?」


広瀬康一である。そして彼はにこやかな笑みを浮かべ、にとりを窘めると、
パチュリーと夢美に殺し合いに乗っていない旨を宣言した。
緊張で汗を浮かべてはいるものの、人当たりの良い笑顔である。
しかし、それをそのまま信じるほど、パチュリーは出来た人間(?)ではない。


「悪いけれど、そんな言葉だけで信用なんか得られないわ」

「……じゃあ、これでどうかな?」


パチュリーの言葉に、康一は支給品を含めた荷物を放り投げることで答える。


「げっ」


途端にパチュリーの苦悶に塗れた声が吐き出された。
戦意のない証拠として、いきなり荷物を投げ捨てる様は、否応にも誰かさんを彷彿させる。
ひょっとして、こいつは夢美と同じ類の人間なのだろうか。
パチュリーの警戒心は限界まで跳ね上がった。


「ちょっとちょっとちょっとー! まだ向こうが殺し合いに乗っているか分かんないのに、何してんのさ、康一!」


パチュリーの態度に触発されてか、にとりは堪らず抗議の声を上げる。


「ごめんね、にとりちゃん。でも、もし相手が危険な人物だったら、誰かと同行しているとは思えなかったし
それににとりちゃんの知り合いみたいな様子だったからね」

「いやいや、それで確信を得るのは、おかしいから! 私もいるんだから、勝手に危険なギャンブルなんかすんなよ!」


にとりの言葉にパチュリーは心の中で首肯する。にとりの危惧は尤もなものだ。
無論、パチュリーたちは殺し合いに反対している故に、そういった憂慮は全くの無意味だが、
それでも殺し合いの盤上で相手に信頼を寄せ、また得ようというのは、荒唐無稽を通り越して、最早呆れる話に他ならない。


657 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:26:33 9DKC/CwU0
はてな、それでは何故自分は夢美と一緒にいるのだろうか。
パチュリーは俄かにそんな疑問を思い浮かべ、夢美との邂逅を思い浮かべる。
そしてその答えを思い浮かべた瞬間、おぞましい未来がやって来るのを悟ってしまった。


「パーチュリーー!」


背後を振り返ると、夢美が満面の笑みを浮かべ、勢いよく飛び込んできた。
そうして夢美はパチュリーに抱きつき、彼女の白い肢体に指を這わせていく。


「ちょっ、待っ、夢美っ……!」

「ほれほれほれ〜♪」

「そ、そこはダメ……って」

「良いではないか、良いではないか♪」

「だ、だから! そこは……!」

「ここか? ここがええんか?」

「……むきゅう」


瞬く間にパチュリーの身ぐるみは剥がされ、デイパックと共に放り投げられた。


「どう? これでいいかしら? 私達も殺し合いに乗るつもりはないわ!」


赤いマントを翻らせ、胸を張り、岡崎夢美は毅然と告げた。
にとりではないが、パチュリーも同行者の蛮行に文句を言いたいところである。
しかし腐っても教授か、一応スタンドDISKを装備し、箒を手元に置いておく如才の無さを見せ付ける。
パチュリーは横目でそれを確認すると、溜息一つ零すことで、グーパンチの代わりの抗議とした。


「はぁ……見ての通りね。これで、こんな姿で乗っているとしたら、マヌケもいい所よ」


草の上に伏したパチュリーは夢美の言葉を肯定し、そのままの姿でにとりと康一の返答を待った。


「は、はい! も勿論、し、信じます」


パチュリーの艶やかな姿に頬を赤らめた康一は、どもりながらも何とか返事をする。
そしてにとりは――


「ここで信じないって言ったら、わたしが悪者みたいじゃないか」


そう言って、にとりもデイパックを嫌々ながらも放り投げた。


「信じるよ。これでいいかい?」


にとりの声は信頼というよりは、諦観にも近いのだった。
康一以外は皆そのことに気がついたが、場は丸く収まっているし、わざわざ突っつくことでもない。
パチュリーは起きて、身だしなみを整えると、平然と和解の握手を行った。


「あ、夢美にはコレ。仲直りの握手よ!」


658 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:28:08 9DKC/CwU0
夢美の鼻面にエルボー!!
しかし残念なことに、それは虚しく空気を切るだけのものであった。


「こらー夢美、逃げるなー!」

「パチュリー、そんな暴れると、喘息が悪化するわよ」

「そんなことでぇ……げほげほっ、げほ」

「ほら、言わんこっちゃ無い」


ひらりひらり、と攻撃をかわす夢美を恨みがましく見つめるパチュリー。
そんな哀愁すら漂わせる彼女の背中に、にとりの声が掛かった。


「ねえ、パチュリーさんって、そんな性格だったっけ? いや、別に詳しく知っているってわけじゃなかったけどさ」

「ぜぇぜぇ…………何が言いたいの?」

「いや、その人間の女にしろ、随分と簡単に私や康一の言うことを信じてくれるんだなって」


信用が簡単に得られる。それなら相手を利用する手段も色々と増えてくるだろう。
そんな算段を立てつつあったにとりに、パチュリーのナイフのように尖った言葉が突き刺さる。


「ああ、そのこと。私、嘘を見抜けるから」

「え……?」


思ってもみなかったセリフに、にとりの身体がビクリと震える。
その様子を目の端に捉えながら、パチュリーは説明を続けた。


「魔法使いにとって、気を読むのは当たり前のこと。嘘を吐くと、嘘の気が身体から漏れるから、当然気づくわよ」

「で、でも! 魔理沙には全然そんな気配はなかったけど!?」

「あれは魔法を使う単なる人間。あれを魔法使いの基準と考えるのは、私達魔法使いに対する侮辱だわ」


魔法ってそんなことも出来るの、と後ろではしゃぐ夢美をあやしながら、パチュリーは丁寧に答えた。


「じゃあ、康一の時は何だったの? 言葉だけじゃ、信用できないって言ってたじゃん」

「ええ、言葉だけじゃ人間性というものは信用できない。だから、それを確かめるための行動を促したの」

「私は殺し合いに…………」


659 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:28:41 9DKC/CwU0
乗っていない。にとりはパチュリーからの信用を得るためにも、そんな言葉を言いたかった。
勿論、それは真実だし、胸を張って言えることは確かだろう。
だが、生存のために殺害を視野に入れてしまっている今では、嘘の気とやらが漏れてしまうのではないか。
そしてそれを元に殺し合いに乗ったマーダーだと断定されてしまうのではないか。
そんな考えが頭にちらつき、にとりの口を重くしていった。


「そういえば、あなたたちの支給品は何だったの?」


にとりを訝しく見つめていたパチュリーの耳に、突如として夢美の声が入った。
にとりの態度も気になるが、確かにそれも重要なことだ。
パチュリーはにとりから意識を切り離し、康一たちのデイパックに目を移す。


「そうね。結構、有用なものが配られているみたいだから、確認しときたいんだけど」


その言葉によって「東方心綺楼」のことを思い起こされたにとりも、パチュリーのことは一旦脇に追いやっておくことにした。
そうしてゲームのお披露目となった次第だが、朝日が照る、見渡しの利いた草原で、
それを暢気に確認するのは憚られ、皆でサンモリッツ廃ホテルへ向かうことに。
尚、その道中で皆で自己紹介を行った折、岡崎夢美が「あら、河童? 素敵」などとのたまい、
にとりの帽子を取ろうと一騒動を起こしたのは言うまでもない。



      ――
 
   ――――

     ――――――――


660 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:32:15 9DKC/CwU0
ワァーーー!!!

と、再び歓声がサンモリッツ廃ホテルの部屋に広がった。
ゲームの画面を見てみれば、夢美の操る「魔理沙」が箒を使い、「マミゾウ」をこれでもかとぶちのめしている。


「ほーお……箒とはこうやって使う物なのね。よし! 覚えたわ!」


頼りになるんだか、不安になるんだか分からない夢美のセリフを聞き流し、
パチュリーはにとりの質問への答えを述べる。


「これってスキマ妖怪の金策の一つじゃない?」

「スキマ妖怪ってあの?」

「そ、あの胡散臭い女。前から気になっていたのよ。どうやって外の世界で品物を得ているかって」

「えー、でも八雲紫の能力なら、物を盗むくらい造作もないじゃん。まさか、あれに人間の倫理観があるでもないだろうし」

「まあ、そうね。確かにあの女なら、一つや二つなどと言わず、十や百は平気で掠め取れるでしょうよ。
でも、あの女の年齢を考えてもみなさいよ。そうなれば、その数は千や万では済まない。億や兆にすら達するものよ。
それだけの数が神隠しにあえば、幾らなんでも外の世界の人間だって、異常に気がつくでしょうし、それへの対処を考えるでしょ。
そうなっては、やっぱり色々と問題は出るのは明白。それを防ぐためにも、あの女は何か品物を得るに当たって
外の人間社会の経済活動の枠組みに収まることを選んだんじゃないかしら」

「うーん、そりゃあ幻想郷の異変なんてのは、傍目から見れば愉快なことなんだろうし、そこに商品価値があるってのは分かるよ。
だけどさ、それじゃ幻想郷を覆う結界とか、どうなるのさ? 幻想を、私達のことを、外に知らせれば、何か色々とヤバイんじゃないの?」

「幻と実体の境界、そして博麗大結界のことね。それらは幻想と現実、常識と非常識を分け隔てるものだから、
確かに私達とことが広く知られたりすれば、二つのバランスが崩れ、厄介なことにもなりかねない。
だけど、それも大丈夫なんじゃないかしら」

「えー、何でー?」

「オープニングの文面を見るに、このゲームはフィクションとして売っているからよ。
つまり私達のことは、より確かな幻想として人々に信じられるようになる。だから、結界には何ら影響はない。
ま、フィクションと現実を混同するような狂った人間が、外でひしめき合っているとしたら、話は別だけどね。
というより、心配するのは、そういった方向じゃないと思うのよね」

「どゆこと?」

「んー、その前に康一だったかしら? 確か外の人間よね? このゲームって人気があるの?」

「えーと、どうなんですかね? ボク、あんまりゲームとはやらないんで、ちょっと……。
あ、でも、仗助くんなら、そういうの詳しいと思うんで、分かると思いますよ、パチュリーさん」

「それじゃあ、他の幻想郷の異変もゲームになっているかっていうのも知らない?」

「すいません」

「そ、残念ね。それらが分かれば、もう少し仮説を推し進められるんだけど」

「仮説?」


661 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:34:06 9DKC/CwU0
思いがけない言葉に、にとりと康一の声が和となって、パチュリーに返ってきた。
まだこの段階では信憑性というものはないし、人前で披露するのは憚られる。
しかし、盛んに疑問符を浮かべる二人を、そのままにしとくのは、どうやら無理なようだ。
パチュリーは彼らの悩ましげな顔を解消してやるべく、己の中で生まれた一つの説を話してやることにした。


「仮説というのはね、このゲームが元となって、今回の異変が起こったんじゃないかということよ」

「はー? 何言ってんの? こんなゲームと殺し合いが、どう結びつくのさ!」

「落ち着け、河童。ちゃんと説明してやるから。まず第一に……」

「……やったー! ゲームをクリアしたわよー!」


パチュリーの話を遮り、夢実が喜びの声を上げた。
話の腰を折られた形となったが、クリアの先に何があるのかも気になるところ。
パチュリーは口を開くのをやめ、代わりに画面を注視することを選んだ。
またそれに伴い、にとりと康一もパチュリーの行動を倣う。


「何か、普通」


誰ともなしに呟いた。
エンディングは、普通の生活を取り戻した人々に、魔理沙が適当な感想を言うだけである。
そしてその後には、新聞の体を装ったエンディングクレジットの登場。
それで終わり。クリアの褒賞は、何ともつまらないものであった。
しかし、皆の溜息が聞こえる中で、パチュリーはそれらとは違う感想を述べる。


「私の考えだと、スタッフの名前に荒木と太田、もしくはそのどちらが載っているはずだったんだけどね」

「ん? 何を言おうとしているかは分からないけれど、パチュリー、さっきのやつは偽名じゃない? 
ZUNとか鰯とか海豚とかウニとか、明らかに人名じゃないでしょ」


ゲームを終えた夢美が、今度は手ではなく、口を動かしてきた。


662 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:35:41 9DKC/CwU0
「確かにそうね。そういった可能性もあるし、また同様に荒木や太田の方が偽名という可能性もある。
まあそこら辺は、疑い出したらキリがないわね」


ここでようやくパチュリーの口から、先の皆と同じような溜息が零れた。
アンニュイな表情を浮かべる彼女の顔には、行き詰まりを感じさせる悲哀さがあった。
はたと見とれてしまう美貌。憂いと切なさを乗せたその顔は、成る程、美しくはあったが、
どこか声を掛けづらい峻厳さすら、持ち合わせていた。恐らくは、その厳粛さの中で、自らの考えをもう一度改め直しているのであろう。
しかし、そんな彼女に向かって、にとりは何ら気兼ねなく声を掛ける。


「で、仮説って何?」


ムスッとパチュリーは顔を歪めた。
思考の中断を余儀なくされ、まとまり始めていた考えが、どこかに霧散してしまったのだ。
しかし、それを取り戻そうと、再び思考の渦に身を沈めるのは、どうやら不可能であるみたいだった。
その証拠に、と夢美もにとりに調子を合わせてくる。


「そういえば、ゲームしている時にも、そんな声が聞こえてきたわね。
確かこの殺し合いは、『東方心綺楼』を起因としたものだっけ?
私も気になるわ。パチュリーの考え、教えてちょうだい!」


残念ながら、パチュリーは夢美の追求の手を逃れる術を知らない。
家に帰ったら、その方法を記した本を探さなきゃね。
そんなことを思いながら、パチュリーは溜息一つ吐き、疑問に答えてやることにした。


「そうねー、まず信仰って何だか分かるかしら?」

「信仰? あー、ああ、そういうこと。でも、そういうことって、ありうるの?」


結論を察した夢美は、すかさず合いの手を入れてきた。
パチュリーも、それに嫌がるわけでもなく、まして驚くわけでもなく、さも当然のように会話を続けていく。


「夢美には馴染みないから分からないでしょうけれど、可能性としてはゼロではないわ」

「なるほど、それで人気や名前について言及していたのね。確かに祀られるのなら、そこは重要ね」

「幸いにと言うのかしら、幻想郷にはそういうのがいたしね。そこに思い至るのに、苦労はなかったわ」

「でもパチュリー、気がついているでしょう? その説には穴がある」

「ええ、そうね。だから、私の考えが間違っているか、それともこのゲームとは別の作品があるかということ」

「幻想郷以外の舞台ということね?」

「そうよ。全く確かめることが多くて嫌になるわ。でも、巫女は暢気だし、魔理沙も頭が回らないところがある。
レミィに至っては、夜しかまとも動けないポンコツ。皆が動かないなら、私が動くしかないわよね」

「あら、寂しいの? 安心して、パチュリー、私がついているから」

「どっからそんな結論を持ってきたのよ! 一人に寂しさを感じるようだったら、本の傍になんかいないわ!」

「無理して強がんなくていいわよ、パチュリー。これからは、ずっと一緒なんだから♪」

「こら、寄るな、抱きつくな!」

「ぐへへ、絶対に離さないわよ〜」


663 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:38:17 9DKC/CwU0
首を傾げるにとりと康一を置き去りにして、二人は話を続けていく。
しかし、我慢の限界を迎えたのか、にとりが大きな声で二人に叫んだ。


「ちょっとー、勝手に二人で納得しないで、私にも分かるように説明してよ!!」

「いいわ! パチュリーに代わって、この私が説明してあげる!」

「ぐはッ!」


パチュリーの方に向いていたにとりの顔を無理矢理自分の方に向けさせ、夢美は三人の前に立つ。
教職についているせいか、彼女の講義するという姿勢は、中々に堂に入ったものであった。
そして夢美は三人の視線が自分に向けられたのを確認すると、自らのルビーのような紅い目を
宝石よりも爛々と輝かせ、いよいよ仮説の内容を開示する。


「最初にパチュリーが質問したことを覚えている? 信仰とは何か?
その答えは畏怖、感謝、祈りのこと。その根源には、対象への親和があるという人もいるわね。
まあ、今はその話は置いといて、この場合重要なのは、感謝のことね」

「感謝? 何に…………ああ、そういうことか。やっと分かった」

「感謝、ですか?」


理解を示すにとりとは反対に、康一は更なる混乱を、その顔と声に彩らせた。
康一が熱心に耳を傾けるのを嬉しく思いながら、夢美は口を滑らかに回していく。


「そう、感謝! パチュリーは『東方心綺楼』に人気があるかも訊いていたわよね。
これ、結構重要なのよ。このゲームに人気があるとしたら、これを皆は面白いって思っていることになる。
さて、ここで康一君に質問だけど、貴方には何か面白いって思うものある?」

「え? そうですね、露伴先生の漫画は、やっぱり面白いと思います」

「じゃあ、その漫画を読んだ時、面白いと思った時、貴方はその露伴って人にどういった思いを抱いた?」

「露伴先生にですか?」

「そうよ」


そこで康一は頭を悩ませた。正直、岸辺露伴という人物にはネガティブな感情も多い。
だけど、目の前に立つ人が、そういった言葉を引き出したい思っているわけではないことは、さすがの康一でも分かる。
どうにも露伴に対して、かなりの文句が思い浮かんでしまう康一だったが、
漫画を読んで面白いと思った時のことを、自分の為にも、夢美の為にも、何とか思い返してみることにした。
まだ岸部露伴を知らずに、純粋に漫画を楽しめた頃の思い出に浸りながら、康一はゆっくりと夢美に答える。


664 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:38:49 9DKC/CwU0
「えっと、そうですねー、面白いって思った時はワクワクしますねー。って、あれ? これって感想じゃありませんよねー?
えーと、次の話はどうなるだろうなーって思ったり、露伴先生はすごいなーって思ったりかな」

「うん、それでそのすごい人が漫画を届けくれたことに、貴方はどう思う?」

「それはやっぱりありがとうっていう感謝ですかね?」

「うん、そう! だから、『東方心綺楼』に人気があるとしたら、その作り手には多くの人から『感謝』が向けられる。
それに康一君は、さっき次の話に期待するって言ってたわよね? その期待とは、早く新しい話を読ませてという『祈り』に他ならない。
人気作品っていうのは、そんな風に『感謝』と『祈り』が存在するの。つまり、そこに『信仰』が生まれるってわけなのよ!!」

「はあ、信仰ですか」


康一はマヌケな顔で、これまたマヌケな声で訊ねた。どれだけ強く打っても、一向に鐘を響かせない康一。
その様子は、自らの説に全く耳を傾けない学会の連中を、夢美に彷彿させた。
メラメラと夢美の内に不屈の炎が燃え立つ。かつて自分を排した学会を屈服させんと、異変を起こした夢美に後退や諦めなどない。
さあ、時間たっぷり懇切丁寧事細かに説明してやるぞ。夢美がそう意気込み、言葉を発するための空気を目一杯吸い込んだところで、
それを知ってか、知らずか、パチュリーが横から割って入る。


「つまり荒木と太田は『東方心綺楼』を楽しんだ人間たちの信仰によって生み出された神ではないかということよ」

「えーーー!! 神様ですかーーーーーッッ!!!?」


スタンドよりもぶっ飛んだ超常的な言葉に、康一は驚愕の声を上げた。
「ってー、いいところで邪魔をするー!」と嘆き、抗議をする夢美を無視し、
パチュリーはいまだ顔を驚きに染めている康一に顔を向ける。


「そ。ま、あくまで可能性としての話だけどね」

「神様…………あのー、質問なんですけど、神様って、そんな簡単に出来上がるものなんですか?」

「いや、簡単には出来ないわよ。神になるのは、それこそ多くの信仰が必要。
ただ人気があるだけで神が生まれでたら、その数は八百万なんかじゃ、すまないでしょ。
ま、このゲームに関して、お祭りとかが定期的に開かれているとしたら、話は随分と変わってくるんだけどね。
祭事・祭礼は信仰を高めるための一種の儀式だから、それが年月によって積み重ねられていたら、神が顕現してもおかしくはない」

「はあ……神様、かぁー」


いまだ納得せず、神という言葉に実感を得ない康一。
それを目に留めたパチュリーは、しょうがないと思いながら、もう少しだけ説明してやることにした。


「やっぱり外の人間は、神に馴染みがないようね。でも、貴方は開幕で神の一柱を実際に見たはずよ」

「開幕…………あ、そういえば! 荒木と太田が女の子に向かって神とかどうとか」

「あの女は秋穣子。秋の実りに対する人間の感謝の念と秋の豊作を願う人間の祈念が生み出した豊穣の神よ。
神とは確かに稀なるものだけど、あの女のように実在し、生まれ出るものなの。覚えておいて」

「は、はい」


と、先程よりは実感のこもった返事を康一はした。
しかし、今度はそれに代わって、にとりが不満げな顔で質問をする。


665 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:41:08 9DKC/CwU0
「でもさー、八雲紫がゲームを作ったと思っているんだろう? だとしたら、信仰を受けるのはあの妖怪なんじゃないの?」

「はぁー……あれが表に顔を出すと思う?」


答えなんか知っているだろう、とパチュリーは溜息を吐き、呆れ顔で質問を返した。
どうやら彼女の言わんとしていることは常識の範囲のようだ。
にとりは慌てて八雲紫の姿を思い返す。


「あー、そっか。見た目が変わらないのは、外の世界じゃおかしいから」

「いや、そうじゃなくてね。あいつは見た目なんか、自在に変えられるでしょ。
実際、私だって出来ることだし。私が言いたかったのは、あのスキマ妖怪の性格のことよ」

「性格?」

「あれが面に立って目立つのを好むと思う? あれは裏でコソコソして、表で騒いでいる連中を嘲笑うのが趣味のいけ好かない女よ」

「まーそんな感じだったね。陽気というよりは陰気。陰気というよりは陰険。そんなのが目立つのを好むわけないか」

「恐らく荒木と太田は『東方心綺楼』を外の世界で販売するに当たって八雲紫が用意したダミー。その彼らが一身に信仰を受け、神に転化。
そして今までの異変――つまり幻想郷での争いもゲーム化されているとしたら、荒木と太田の能力も容易に察せられる。
その能力とは『幻想郷の住人を争わせる程度の能力』。もっと言うのなら、このバトルロワイヤルを開催する能力と言ったところかしら」


耳で聞いているだけだと、何だかひどく納得してしまいそうな論理と言い方であった。
しかし、河童のにとりは、何も単なる飾りとして頭を首の上に置いているわけではない。
彼女はその頭の中で湧き出た疑問をパチュリーにぶつけてみる。


666 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:45:01 9DKC/CwU0
「でも康一がいるじゃん。外の人間だよ。幻想郷とは縁もゆかりもない。そこはどう説明すんのさ?」

「それがさっき夢美が言っていた仮説の穴ね。確かにこの殺し合いには『東方心綺楼』に登場していない人間がたくさんいる。
このゲームを元として考えるのなら、その点は明らかにおかしい。でも、その穴を塞ぐ手がないわけじゃないの。
にとり、貴方は名簿に載っている幻想郷とは関係のない人間はスタンド使いではないかと推理しているのよね?」

「そうだけど、それがなに?」

「ここからは……というより、ここからも憶測になるんだけど、スタンド使いの闘いを描いた作品が、
『東方心綺楼』と同様に外の世界で人気を得ているんじゃないかしら」

「あー、それが幻想郷以外の舞台ってやつか。確かにそう考えると、辻褄は合ってくるね」

「そう考えたら考えたで、何で荒木と太田は手を組んでいるんだろうって色々疑問は湧き出てくるんだけどね。
ま、とにかく今はそれは置いといて……康一、聞いていたでしょ? 外の世界にそんな作品はある?」

「スタンドを扱った作品ですか……単なる超能力っていうくくりなら、漫画やアニメなんかで結構見ますけれど
さすがにスタンドそのものをっていうのは、ありませんね。そんなのがあったら、さすがに誰か…………あっ!!」


話の途中で康一は大声を上げてしまった。気がついてしまったのだ。
自らの知り合いの中に、スタンドバトルを描きかねないろくでなしの人気漫画家がいたことを。
彼に、ろくなブレーキが搭載されていないことは、康一自身が一番良く知っている。
幾らスタンドのことは自重して然るべきとはいえ、彼にそれを期待してしまうのは、どう考えても無理なことだった。
先の話を聞くに、もしかしたら岸辺露伴もこの殺し合いの原因かもしれない。
そう思い至った康一の顔には脂汗が、たっぷりと湧き出た。


「どうしたの? 何か心当たりがあるの?」

「い、いいいいいいえ!! ぜぜぜぜ全然こ心当たりなんてありません!! 絶対にッ!!」


パチュリーの問いに、康一はぶるんぶるんと首を振り、汗を振りまきながら、必死に否定した。
もしここで岸辺露伴という可能性を示したら、それこそ悲惨な結果になりかねない。
まだそうだと決まってはいないが、何か疑いを持ってあの人間と接したら、性格の悪い彼のことだ。
場をひっちゃかめっちゃか掻きまわし、決して丸く収めるということはないだろう。
岸辺露伴のことを知らせないのは、決して彼を疑っているというわけではない。
ただ単に彼の人間性と皆のこれからを考慮しての采配なのだ。


(そう! ボクは信じているんだ、露伴先生を!! 絶対スタンドのことを、ボクたちのことを漫画にしてないって!!
だから、無闇に不安の種をまいてはならない。そう! そうなんだ! そうですよね、露伴先生〜〜〜〜ッッ!!)


ぶっちゃけ康一の返答は死ぬほど怪しい。
しかし、両手を前に組み、それこそ神が顕現しかねないほどの熱心な祈りを捧げている彼を邪魔するには、どうにも憚られる。
実際、彼の今までにない血眼な姿を鑑みるに、先ほど以上の返事は期待できないだろう。
だとしたら、これから何をするのが建設的か。その問いに、河城にとりは新たな質問をすることで答える。


667 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:46:02 9DKC/CwU0
「で、これからどうすんのさ、パチュリーさん? 色々考えているみたいだけど」

「そうね。とりあえずは八雲紫を見つけ出して、『東方心綺楼』のことを訊ねてみようかしら」

「それ意味あるの? もしパチュリーさんの言うとおり八雲紫が作ったっていうんなら、絶対に知らぬ存ぜぬを通すと思うよ」

「まあ、そうでしょうね。あの女が作ったんだとしたら、あの女がこの殺し合いの原因だってことだろうし、その時点でフルボッコは確定。
例えバトルロワイヤルが円満に解決したとしても、もう幻想郷に彼女の居場所は無くなってしまうでしょうからね」

「じゃあ、どうすんの?」

「ちゃんとした答えを言うまで、拷問にでもかけてみるわ」


さらりと恐いことを言ってのける魔法使いのパチュリー。
顔を蒼くするにとりの横から夢美が飛び出し、河童に代わって嬉しそうに相槌を打つ。


「怖いわー、魔法使い怖いわー」

「人間の頭や腹を解剖するって言っていた口を何を言うか。私は殺さないわよ。
ちゃんと生かさず殺さずを心掛けるわ。十分に優しいじゃない」

「いや、その発想の方が十分に怖いって…………で、これからの方針は前と変わらずでいいかしら?」

「ええ。紫と霊夢を探す必要性が高まっただけだし、今まで通りでいいと思うわ」

「およ、紫が大事っていうのは、話の流れで分かるけれど、霊夢も?」

「そうよ、彼女は『神降ろし』が出来るの。その名の通り神霊を自らの身に宿し、神の力を使うことが出来る能力よ」

「そこで荒木と太田の登場ってわけね。やっぱり巫女も素敵♪」

「……そうね。ただ偽名の可能性、ついてでに言うと、あいつらもダミーっていうの可能性もあるのよね。
その場合はどうなるのかしら? さすがに名前の分からない神霊を降ろすなんてことは出来ないだろうし……。
うーん、この『東方心綺楼』のスタッフの名前が一般的に流布してる形と同じなら、信仰を受けるのは……恐らく監修のZUNかしらね」

「なるほど、霊夢に『ZUN降ろし』をやってもらうわけね」

「ええ。仮説が正しければ、この殺し合いを引き起こした奴と同じ力を使うことが出来るわけだし、
頭の中の爆弾の解除にしろ、ここからの脱出にしろ、容易なはずよ。その意味じゃ、紫より霊夢を見つける方が優先度が高いわね」

「かくして無事に解決」

「だといいんだけど。さすがにこれ以上は話の進めようがないわね」

「じゃ、話も一応一段落したし、朝食でも皆で頂きましょうよ。一晩中、動いて喋っていたから、お腹ペコペコよ」


668 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:46:30 9DKC/CwU0

周りを見れば、窓を塞いでいる雑な羽目板の隙間から、朝日が漏れ出ていた。
確かに朝食を取るには頃合いのいい時間帯であろう。
康一も届けられた日の光によってか、祈祷を止め、皆と一緒に食事の準備を始める。
平和な時間であった。しかしその中でただ一人、河童の河城にとりは冷めた目でパチュリーを見つめていた。


(邪魔なんだよなー)


にとりは心の中でポツリと呟く。
魔法使いの嘘を見抜けるという能力は、にとりにとって、ひどく厄介なものであった。
他人を利用し、動かすには、どうしたって嘘が必要だ。
自身が殺害などという、いわゆる悪を受け入れている分、人の良さにつけこむには、尚更嘘の重要性は増してくる。
人を魅了するのは、いつだって華やかに着飾られた綺麗な言葉なのだ。真実などという安っぽい言葉では、人は振り向いてくれない。
そのことを知るにとりは、余計にパチュリーの存在に苛立ってくる。


(この後、普通に魔法使いと別れれば、懸念なんか無くなるけれど、同行者の数が減ると、襲撃されるリスクが増すんだよねー。
それに康一が私の方に付いてくるかも分かんないし。となると、誰にも気づかれないように、魔法使いを消すのがいいのかな?
不意をつけば簡単そうだし、考察も夢美って人間いれば、問題ないみたいだしね。
でも殺したのがバレたら、厄介かー。康一とかは嘘でどうにかなるにしても、吸血鬼に知られたら、それこそ一貫の終わりだし。
あー、本当に邪魔だなー、パチュリーは……………………本当に面倒くさい……本当に……)


そんな心中をひた隠し、にとりは目の前に並んだ朝食を前に、皆と一緒に笑顔で口を開く。


「いただきます」


食事の味はあんまりしなかった。


669 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:48:51 9DKC/CwU0
【E−1 サンモリッツ廃ホテル/早朝】
【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
「状態」:健康
「装備」:なし
「道具」:霧雨魔理沙の箒、基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典・確認済み)、考察メモ
「思考・状況」
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:霊夢と紫を探す
2:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法を探す。
3:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
4:岡崎夢美の知識に興味。
5:河童が怪しいわ〜
「備考」
※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けるようです。
※河城にとりの殺し合いのスタンスを、少しだけ疑っています。
※「東方心綺楼」は八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました
・荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって八雲紫が用意したダミーである。
・荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
・荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である
・「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
・荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。

【岡崎夢美@東方夢時空】
「状態」:健康
「装備」:スタンドDISC『女教皇(ハイプリエステス)』
「道具」:基本支給品、不明支給品0〜1(現実出典・確認済み)
「思考・状況」
基本行動方針:『素敵』ではないバトルロワイヤルを打破し、自分の世界に帰ったらミミちゃんによる鉄槌を下す。
パチュリーを自分の世界へお持ち帰りする。
1:能力制限と爆弾の解除方法、会場からの脱出の方法、外部と連絡を取る方法を探す。
2:パチュリーから魔法を教わり、魔法を習得したい。
3:パチュリーから話を聞いた神や妖怪に興味。
4:霧雨魔理沙、博麗霊夢って、あっちの世界で会った奴だったっけ?
5:私の大学の学生に宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンっていたかしら?
「備考」
※霧雨魔理沙、博麗霊夢に関しての記憶が少々曖昧になっています、きっかけがあれば何か思い出すかもしれません。
※宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーンとの面識はあるかもしれません。
※岡崎夢美はただの人間ですが、本人曰く『科学力』又は『疑似魔法』を使うことで弾幕を生み出すことができます。
※「東方心綺楼」の魔理沙ルートをクリアしました。
※「東方心綺楼」における魔理沙の箒攻撃を覚えました(実際に出来るかは不明)。
※パチュリーの仮説を聞きました。


670 : ロワの開始も信心から ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:49:13 9DKC/CwU0
【河城にとり@東方風神録】
[状態]:精神的疲労(小)、全身打撲(軽度)
[装備]:火炎放射器
[道具]:基本支給品、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:生存最優先
1:当面は康一に盾になって貰いつつ、妖怪の山の麓にあるはずの河童のアジトへ向かう。
2:パチュリーをどうにかしたい
3:知人や利用できそうな参加者がいればある程度は協力する
4:通背を初めとする河童製のアイテムがほしい
5:吉良吉影を警戒。
[備考]
※F・Fの記憶DISC(最終版)を一度読みました。
 スタンド『フー・ファイターズ』の性質をある程度把握しました。
 また、スタンドの大まかな概念やルールを知ることが出来ました。
 他にどれだけ情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
※タルカス、ナズーリンの遺体の側に落ちていた「LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部」を回収しました。
※幻想郷の住民以外の参加者の大半はスタンド使いではないかと推測しています。
※自らの生存の為なら、他者の殺害も視野に入れています。
※パチュリーの嘘を見抜く能力を、ひどく厄介に思っています。
※パチュリーの仮説を聞きました。

【広瀬康一@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:なし(服装は学生服)
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ・東方の物品・確認済み)、ゲーム用ノートパソコン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:河城にとりを守る。にとりと共に河童のアジトへ向かう。
2:仲間(仗助、億泰、露伴、承太郎、ジョセフ)と合流する。
  露伴に会ったら、コッソリとスタンドを扱った漫画のことを訊ねる。
3:吉良吉影を止める。
4:東方心綺楼の登場人物の少女たちを守る。
5:エンリコ・プッチ、フー・ファイターズに警戒。
6:空条徐倫、エルメェス・コステロ、ウェザー・リポートと接触したら対話を試みる。
[備考]
※スタンド能力『エコーズ』に課せられた制限は今のところ不明ですが、Act1〜Act3までの切り替えは行えます。
※最初のホールで、霧雨魔理沙の後ろ姿を見かけています。
※『東方心綺楼』参戦者の外見と名前を覚えました。(秦こころも含む)
 この物語が幻想郷で実際に起きた出来事であることを知りました。
※F・Fの記憶DISCを読みました。時間のズレに気付いていますが、考察は保留にしています。
※パチュリーの仮説を聞きました。


671 : ◆BYQTTBZ5rg :2014/03/07(金) 22:51:15 9DKC/CwU0
以上です。

パチュリーの嘘を見抜くというのは
ひそうてんでの天子との会話からです


672 : 名無しさん :2014/03/07(金) 23:01:51 v6bwHkrU0
ろくな死に方しないぞ河童


673 : 名無しさん :2014/03/07(金) 23:03:07 7MmJ44nc0
投下乙です。
心綺楼の存在や信仰を元にした考察が面白いなぁ…
キャラクター自身が作品の核心へと少しずつ迫ろうとしているのがメタフィクションめいてて興味深い
立場の危ういにとりの今後もどうなることか…
そして教授とパチェさんのコンビかわいいw


674 : 名無しさん :2014/03/07(金) 23:12:01 VGD8flKM0
このロワの数少ない考察兼癒し要因に手を出す河童は
お皿割っちゃいましょうねー。

さらっと教授が箒攻撃を覚えててワロタww


675 : 名無しさん :2014/03/07(金) 23:31:40 qilThIgU0
パチュ×ゆめの距離が順調に縮んでるなぁ、一方的な勢いでw

にとりとパチュリーの関係は今後の火種となりそうだ……。地霊殿では共闘したようなものなのに……w
そして康一くんよ、由花子さんがその場に居なくてホント良かったなァー!w


676 : ◆WjyuuPGo0M :2014/03/08(土) 00:37:17 rFrJ6C8o0
お久しぶりです。
ちょい再チャレンジ風味に
姫海棠はたて、ワムウ、荒木飛呂彦、太田順也を予約します。
前の予約破棄してしまった没ネタは本投下直後か今予約の期日前後にします。



>ロワの開始も信心から
うん。黒いよね幻想郷の河童リーダー。
先月の鈴奈庵でもラストあんなんだったし。
あと康一くんは由花子さんとくっつく前の時間軸じゃないのがある意味悔やまれる。


677 : 名無しさん :2014/03/08(土) 01:19:51 FR4qAgwQ0
おぉにとり、シュトロ、アリスの人だお久ー
そして初の主催予約きたかーどうなるだろう


678 : 名無しさん :2014/03/08(土) 03:19:31 xlrK08ww0
投下乙です。
真相解明にメタネタを入れてくるのは面白いところ。
さて、このロワの真実はどの方向へと向かっていくのか楽しみで仕方ありません。


679 : ◆n4C8df9rq6 :2014/03/08(土) 15:19:36 mZBAB8ww0
八意永琳、八雲藍、リンゴォ・ロードアゲイン
予約します


680 : ◆qSXL3X4ics :2014/03/08(土) 15:50:09 splMgb0s0
投下乙です。
にとりの狡さと意地の悪さが段々と露わになってきましたね…
個人的には唯一男子の康一くんが頼もしいところ見せてくれる展開を期待したい所です。

それでは鈴仙・優曇華院・イナバ、ルドル・フォン・シュトロハイムの2名を予約します。


681 : 名無しさん :2014/03/08(土) 17:18:32 YMeNqybc0
>>679
頭脳派コンビ+1に、

>>680
軍人コンビか……


682 : 名無しさん :2014/03/08(土) 20:04:47 Wk4qr..c0
首輪のあるロワだと重要人物扱いのにとりが
このロワだとただの下衆なのがおもしろい。

ところで、状態表から参戦時期が消えているみたいだけどいいんだろうか。


683 : 名無しさん :2014/03/09(日) 20:53:26 rlQhk29cO
投下乙です。

吐き気を催す邪悪な河童はどこへ往くのか。


684 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/10(月) 21:22:46 /aXq2XcU0
予約延長します。


685 : ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:08:52 nCoLoVBM0
少し遅い時間ですが、投下します


686 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:10:16 nCoLoVBM0
――― <早朝> D-5 川のほとり ―――

乳白色の夜明けが闇を溶かし始める朝の刻。
途切れることなく辺りに流れ続ける音は、いつもと変わらない小川の滑る様な爽やかなせせらぎ。
やがて照らし出される日の光に大きく伸ばされる影が歩いていた。

朝風になびく大きな兎の耳が特徴の『兵士』鈴仙・優曇華院・イナバの強き覚悟を持った瞳がひたすらに前方を見据えていた。
その瞳は永遠亭を出た時より変わらず赤く、紅く、熱く、強く、狂気とも取れるほどに燃えている。
草を踏みしめ、川の流れを追うようにして一歩一歩、北へと規律正しく前進していく彼女の姿はまるで軍隊の見せる歩行術。



時に立ち止まり、周りを大きく見渡してその大きな耳を八方へと向ける。

(周辺には…人影に動き無し…)

時にしゃがみ込み、地面を指でなぞらえては小さく溜息をつき、またしばらく歩き出す。

(足跡も…依然無し、か…。『アイツ』…かなり用心深い性格のようね。追跡を警戒して足跡を消している…)

そして時に目を閉じ、そのまま大地に吹く風を全身で感じ取るようにしばらく直立してはまた歩き出す。表情を苛立ちに変化させて。

(『波長』も全く読み取れない…。読み取れる射程距離が短く弄られてる……くそっ)


「どこだ…『ディアボロ』…!」


まさしく親の仇でも探すかのように怨讐の呟きが口から漏れる。
既に何度目の呟きになるか分からないその言葉に含まれた敵意は、次第に膨れ上がっていきながら鈴仙の内に眠る炎を滾らせてゆく。


687 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:11:12 nCoLoVBM0

―『ディアボロ』―


それがアリスの生命を、アリスの匂いを、アリスの風を、アリスの全てを奪った畜生の名前だ。
悪魔の意味を擁するその名を心に刻み付けるようにして鈴仙はその男を捜し続ける。

とはいえ、目的の人物を何の手がかりも無いまま一人で探し出すにはこの会場は広すぎた。
どの方向に逃げたのかも分からない。竹林を出た後も当てなく歩き続ける五里霧中の現状に段々と焦燥ばかりが募る。


「ディアボロ……ディアボロ……ディアボロ……ッ!どこにいるんだ……ッ!」


無意識的に溢れ出ていく声はどんどんと低く、大きくなっていくばかり。
ギリギリと歯軋りを重ねる彼女の目は、最早かつての怯えるような兎の目はしていない。
肉に飢えたライオンの如き野生の目。肉食獣のように鋭い視線を放ち続けている。


「どこだ…ディアボロ……!殺(け)してやる…ッ!絶対、アリスの仇をとってやるんだ…ッ!」


揺るがぬ意思を持って討つべき敵を探し続ける兵士。
今や鈴仙にとってバトルロワイヤルなど関係無い。
あの恐るべき『赤い悪魔』を噛み殺す『牙』。今の自分に必要なのはそれのみ。

敵は今、とても弱っている。殺すとしたら今が絶好のチャンスなのだ。
弱った敵の喉元を抉ることは簡単だ。今の鈴仙は例え死にかけの兎が相手でも全力を出して獲物を潰しにかかる『ライオン』のようなもの。
だが『狩り』とは、獲物を探し出すところから難しく、根気のいる行為なのである。
匂いや足跡を辿られて餌食になる馬鹿な草食動物とは違い(実際は足跡を消したりカモフラージュする小動物もいるらしいが)この敵は警戒心が強いようだ。
恐らく奴の元々の性格なのであろうか、さっきから全く足跡がつかめない。

休憩も無く、昇り来る朝日以外はまるで変わらぬ風景を歩き続けて、流石に辟易していた時の事だった。





「人探しか…?ウサギのお嬢ちゃん」


「……ッ!!」


688 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:12:07 nCoLoVBM0
背後より聞こえてきた男の低い声に、思わず身をすくませる。
振り向きざまにすぐに撃てるよう、指先を向けながらあわてて振り返る。


「おっと撃つなよ。俺はアンタと話がしたくて近づいただけだ。危害を加えるつもりは無いさ」

(く…っ!?いつの間に背後に…!?特に気を緩ませていたわけじゃなかったってのに…ッ!)

その男は両手を上に挙げながら、大柄な体躯をゆっくり慎重に鈴仙の方まで近づかせていた。
彼の姿を一目見た瞬間、鈴仙は感じ取る。
緑色の軍服を身に着け、右目には大掛かりな機械仕掛けのモノクルを装備させた異様な風貌。
そして何より、男の纏うヒシヒシと尖るような『空気』。


「…貴方、『軍人』ね」

「そういうお前も『兵士』のようだな。…その頭部に揺れる奇妙なウサ耳以外は」


本来は二人とも戦闘のプロフェッショナル。互いの持つ独特な『空気』を瞬時にして感じ取ったのだ。
だが鈴仙はそう易々と相手を近づかせない。軍人相手ならなおさらだ。

「近づかないで。それ以上動いたら貴方の心臓の風通しを良くしてあげるから」

「…ウム、承知した。…だがお前が妙な動きをした途端、俺もそれに対応せざるを得ない、という事だけは忠告しておこう」


689 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:13:08 nCoLoVBM0
銃口(といっても指だが)を向けられているというのに、どこか余裕を持って飄々と答える目の前の男。
異様な風貌とはいえ、相手は見たところ武器を所持している様子は無い。
両手を挙げて戦う意思は無いと主張はしているが、それで一安心するほど鈴仙も平和な頭はしていない。
いや、むしろ彼女の『警戒心』は増すばかりだった。何故なら…


(コイツ…何か『おかしい』…!波長がうまく読み取れない…!?)


そう、鈴仙があっさりと自分の背後を取られた原因は、この男から発せられる波長の位相がうまく掴めない事にあった。
こんなタイプの奴に出会ったのは初めてかもしれない。
いつもは脳内に綺麗に流れ込んでくるはずの様々な波長に『ノイズ』のような雑音が混ざり込んでくる。
読み取れる射程距離が短くなっているとか、そんな話では全然無い。

こんな正体不明な奴と関わる暇などは無いのだ。故に鈴仙は男の希望を一蹴した。

「私は貴方と話すことなんて無いわ。悪いけどそのまま回れ右して消えてくれないかしら?」

嘘だ。本当は聞くべき事が幾らかある。
少しでもあの『赤いスタンド』を操る男の情報が欲しい。そのために乗っていない参加者とは積極的に情報交換していくべきなのだ。
だがこの先『ゲームに乗った』危険人物との戦いもあるかもしれない。
鈴仙の狙いは『ディアボロ』ただ一人。そのために余計な戦いで体力の消耗などは極力避けたかった。

どうもこの軍服の男は『怪しい』。
そう感じた理由はいつもはイヤでも頭に入り込んでくる波長が感じ取りにくいから。
ただのそれだけなのだが、今の鈴仙にとってそれは相手を必要以上に警戒するには充分な理由となった。元々臆病な性格というのもあるのだが。

指先に霊力を込めながら鈴仙は一歩一歩後ずさりして相手との距離をとる。
だが男が次に言い放った台詞は鈴仙の予想外の名前だった。


「おい、待て!お前は『鈴仙・優曇華院・イナバ』だろう?
俺の名は『ルドル・フォン・シュトロハイム』!『八意永琳』からお前の話は聞いている!」

「え!?お…お師匠様から…!?」


思わぬ相手から思わぬ名が飛び出したことに鈴仙は固まる。
こうして二人の異種なる『軍人』が邂逅を経た。
それぞれ異なる世界に住む『兵』と『兵』は互いに何を思うのか。

そして何を共感するのだろうか。


690 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:13:56 nCoLoVBM0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「成る程ね…流石お師匠様と言うべきか…不死だという事を除いても、殺しても死なない性格というか…」

「何を考えているかサッパリ読めない奴だったな。正直、俺はあーいう打算的な女はいけ好かん!」

鈴仙とシュトロハイムは小川のほとりに立つ大きな木の下で自分達の持つ情報を交換し合っていた。
鈴仙は未だにシュトロハイムを警戒しているのか、一定の距離を開けたままで立っているが。

ガンマン風の男と緑髪の少女のこと、果樹園小屋での永琳とのひと悶着、ジョジョたち波紋戦士や柱の男という未知なる存在のこと。

自分を拾ってくれた永遠亭の面々、そしてディアボロとの死闘、敵のあまりにも危険なスタンド能力のこと。

互いの溜め込む情報をひとしきり吐き出した後に出てくる感想は、参加者達の強大な力に対して気がふさぐものばかり。
かたや人類を遥かに超越した4体の超生物『柱の男』。
かたや時間すらも吹き飛ばす『悪魔のスタンド使い』。
全く信じる事すら馬鹿馬鹿らしくなってくるほどの超常を操る強者達。
自分が戦闘の訓練を受けたプロフェッショナルというアドバンテージすらこの会場では無に等しいものではないのだろうか?
そんな気弱とも取れる気持ちが心の奥底で僅かに湧き上がってくるのを鈴仙は感じたが、同時に安心もあった。

無論、シュトロハイムの語った鈴仙の師匠、八意永琳の存在が彼女の孤独な心に幾らかの安堵を与えたのだ。
万に一つもあの天賦の才知を持つお師匠様が死ぬわけが無い。しかし億に一つの可能性もある。
ディアボロに襲撃されるまでは自分の事で精一杯だった鈴仙も、今では僅かに心の余裕が生まれた。
人は余裕が生まれれば他人の心配をし始めるものなのである。

師匠は何処にいるのか。姫様は無事なのか。てゐは…まぁなんとかやっているだろう。多分。

ディアボロを捜索する最中にもそんな身内の無事を祈りながら、彼女は不安に埋もれてゆく心を強引に敵への報復心へと変えて歩んできた。
そして今、早くも懸念のひとつは目の前のシュトロハイムから杞憂だという事が伝えられた。
…代わりに柱の男という新たな懸念が芽吹いたところだが。


691 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:15:51 nCoLoVBM0

「お師匠様の無事が分かっただけでも収穫ね。近いうちに私の無事な姿をお見せして安心させたいところだけど…今は駄目ね」

「ん?奴に会いに行ってやらんのか?」

「言ったでしょ。私はディアボロという男を倒さなければならない。アイツを倒すなら今なのよ」

「友の敵討ち…か」

「ええ。アイツの『時間を飛ばす能力』に弱点なんか殆ど無い。
 でも、私の『狂気を操る能力』なら…奴にも充分対抗出来る」

「やれやれ…お互いの追う仇敵は強大というわけだ。
スタンド、スタンドねぇ…我が祖国ドイツにも居るのか?そーいう奴らが」

「そんなの私の知ったこっちゃないけど、聞く限りじゃあ貴方の言う『柱の男』も相当ヤバそうな奴らじゃない。
 あの『吸血鬼』よりも上位の存在だなんて、絶対にお近づきにはなりたくないわ…
 その生物達を倒そうとしてる貴方もね。…『波紋』とやらが使えない貴方がどうやってそいつらを倒すのよ?」


数歩開けた距離からシュトロハイムに対して鈴仙が何気なく聞いたその時だった。
それまでは比較的冷静に会話を進めていたシュトロハイムの凛々しい顔が、次第にニヤリとした高慢な表情へと変化していったのは。

石の上に腰を落としていたシュトロハイムが突如直立し、右腕を真っ直ぐに挙げて敬礼のようなポーズを取り大きく叫んだ。


「ゥよくぞォォオオ聞いてくれたものだアアァァァーーーーーッッ!!!!
 ならば聞くがよいィィイイッ!!奴らに対抗する為に造られたこのシュトロハイムの肉体の構造をォォオオオヲヲーーーーッッ!!!!」

「!?」


いきなりの大音量とド迫力に気圧された鈴仙は何事かと長いウサ耳を思わず両手で押さえ付ける。
そんな彼女の驚愕の様子など知った事かと、シュトロハイムはスピーカー要らずの演説を続けた。


「「「「ナチスの科学はァァァァアアアア世界一イイイイィィィィ!!
 そして俺の体はァァアアアアアアアーーーーッ!!我がゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りであるrrゥゥゥッ!!
 サンタナのパワーを遥かに超越しィィイイイイッ!!1分間に600発の鉄甲弾を発射可能!!30ミリの鉄板を貫通できる重機関砲そしてェェエエエエーーーーッ!!!
 クソッタレの柱の男共にトドメを刺すのは我が右目に仕込まれた『紫外線照射装置』に他ならぬァァァァイイイイィィィッッ!!!!」」」」

「!?!?!?わ…わかったわかったからッ!!ちょ…ちょっと黙ってよ!声が大きいってばッ!」


692 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:16:49 nCoLoVBM0
あわてて周りをキョロキョロ確認し、敵が居ない事に少し安心しながらシュトロハイムを宥めようと近づく。
どうやらこの男はかなり熱く、高慢な性格のサイボーグらしい。
この機械人間にボリューム調整のツマミは何処に付いているんだろうと鈴仙は軽くシュトロハイムを見回すが、残念ながら無いようなので代わりにケリを入れた。

「近くに誰か居たらどうするのよ!シッ!シーーッ!」

「ム…!スマンな。祖国や身体の秘密の事を聞かれるとつい自慢してしまう性分なのだ」

(誰も聞いてないって…)
「と…兎に角、貴方の身体が何でもアリのスーパー兵器人間、走る武器庫なのは分かったわ…!
 私もその柱の男には気を付けるし、あとは…姫海棠はたてね。こっちは直接の脅威は少なそうだけど、まぁ一応警戒しておく。
 お師匠様の電話番号もありがと。余裕があったら連絡してみるわ。
 それと…姫様と、あとついでにてゐに会ったらよろしく言っといてね。
…それじゃあ、色々とありがと。私はもう、行く」

短い謝礼の意を向けた後、鈴仙は再び怨敵の追跡を再開しようとすぐに荷物をまとめ始める。
騒ぎ疲れた幼児のように一気におとなしくなっていたシュトロハイムは、その様子を石の上に腰掛けながらジッと眺める。

やがて背を向け歩き出した鈴仙の背中に、彼は声のトーンを落としてじっくり語りかけた。



『わが子を助けようとする気づかいは、弱々しい母をすら英雄ならしめる。
そして種とそれを庇護する家庭あるいは国家を維持するための闘争のみが
いつでも男子を敵の槍に立ち向かわせるのだ』


それまでの騒がしい音量の叫びとはうって変わって、シュトロハイムが呟いた言葉は壇上で静かに宣言する指導者のように威厳を放っていた。
鈴仙の足はそこでピタリと止まる。


693 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:17:54 nCoLoVBM0
「…我が祖国ドイツの偉大なるヒトラー総統閣下が仰った言辞だ。
 俺には『祖国』という守るべき対象があるが…お前の友人は既に殺されたのであろう?
お前…『弔い合戦』でもやろうってのか?」

「……だからなに?貴方には関係の無いこと」

長い髪と耳を大きく揺らして振り返る鈴仙。その瞳の内は静かに燃えている。
鈴仙のメラメラと燃えるような熱い視線を受けたシュトロハイムの機械に覆われた視線は、あくまでも冷静だ。

冷静だが、彼の声はその場に居る者を押し潰すかのように重圧的で、威圧感を解き放っている。

「殺されたアリスという友人のために。
その者の誇りを取り戻すために貴様自ら剣となって修羅の道を歩む…それは理解出来た。やめろとも言わん。
…だがたった一人で立ち向かう気か?『勇気』と『無謀』は違うぞ」

「無謀…?それは違うわ。さっきも言った通り、アイツは今とても『弱っている』。
 奴をこの世から消滅させる最大のチャンスが『今』なのよッ!
 『勇気』でもなければ『無謀』とも違うッ!これは私の『確信』であり『覚悟』でもあるッ!
 アイツは私が殺さなきゃ駄目なんだ…ッ!そうでなければ私の『運命』には決着がつけられないッ!!」

「成るほど…『復讐』とは自分の運命への決着をつけるためにある…か。染み入る言葉だ。
 だがその『先』に貴様を待つモノは何だ?復讐を成し遂げて残る物とは?
 答えは『破滅』だ。『復讐者』となった兵士は必ず残酷な『死』が待つ。故に兵士は『個』を捨てるのだ」

「………ッ!!貴方に……アナタに何がわかるの!!
 随分知ったフウな事を言うじゃないッ!!私がどんな気持ちでアリスの死を看取ったか!
 どんな気持ちでディアボロと戦ったか!!どんな気持ちで月の軍から逃げてきたか……あっ……」

シュトロハイムの見透かしたような言葉に激昂し、捲くし立てた勢いでつい洩らしてしまった鈴仙の、汚れた過去。
とても人に話せるようなものではない兵士として重苦しい過去の汚点を、よりにもよって軍人である彼に知られてしまった。
自分の安易な失態に舌打ちし、苦悶な表情のまま少しの静寂が流れる。


694 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:18:52 nCoLoVBM0

「…ほう。貴様、脱走兵だったか。兵士にしては感情的だとは思ったが…」


コイツには言われたくない。鈴仙は心中で不快感を吐き出す。
今会ったような奴に自分の知られたくない過去を断片的にだが知られた。何より自分自身に嫌気が差す。

そして次にコイツは…私を心の中で見下すのだろう。
当然だ。戦争の噂を聞いただけで文字通り脱兎の如く逃げ出す私は、これ以上無く臆病な子兎。
さあ、嘲るがいいわ。同じ軍人の貴方は、私の事が許せないでしょうね。
でも、過去は過去。この世界において、そんな事実は取るに足らない紙屑のように薄い過去。

大事なのは『今』でしょう?『未来』でしょう!


「…………我が総統ヒトラー閣下の宿敵とも言われるソビエト連邦の軍人、スターリン閣下はその冷酷無比な人物像が衆に恐れられている。
 敵前逃亡など行った兵士は自軍であろうが悉く機関銃で銃殺し、絶大な力と権力を他人に指し示したという。
あるいは戦車のキャタピラに自軍の兵士の肉と骨と内臓の全てを引き込み、苦痛を与える間も無く轢き殺した。
 あるいは彼らを懲罰大隊に入れ、地雷原を歩かせるという酷薄な命令までをも出していると聞く。
 さらに、逃亡兵の家族は皆シベリア送りにされた。自国の兵士を駒としか見ていなかったのだな」


鈴仙の呼吸が僅かに乱れる。息を吸い込む事も重苦しく感じた。足はその場から動けない。
大してシュトロハイムは呼吸ひとつ乱さず、汗ひとつかかない。
機械のように淡々と静かに言葉を紡ぐだけだ。
無表情ではあったが、鈴仙の目には彼がどこか笑っているようにも見えた。


695 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:19:32 nCoLoVBM0

「当然だな。賞賛するべき人間だよ、彼と言う男は。
 心の隙を持つ兵などが軍に混じっていては、戦争ではとても戦えない。
 たった一人の兵士の怯えが軍そのものを、ひいては国そのものを危険に陥れかねん。
 そういう意味で彼は徹底して軍『全体』を、そして『未来』を見通してきたわけだな」

「…何が言いたいの。逃亡者の私を惨めにさせたいのならおあいにくさま。
 今の私は逃亡者どころか、執念に燃える復讐者といったところよ。後ろを振り返ってる余裕なんて無いの」

「俺が言いたいのはその『復讐』ってとこだ。
 どうにも今の貴様はそのディアボロという『幻像』ばかりを追いかけ、『全体』を見渡せていない。
 全体…すなわち、この『バトルロワイヤル』というゲームそのものだ。
 目先の幻影に目が眩み大局を見失うような者が、結果的に目的を達成することは難しい」


「だからッ!!何が言いたいのッ!!!」


最早、鈴仙はその男の言葉を黙って聞いてはいられなかった。
自分とアリスの生き様を否定されたような気分だ。
たまらず彼の言葉の余韻を掻き消すように怒鳴った。
その怒鳴り声もやがては宙に消えゆくと、一瞬の間を早朝の冷たい風が通り抜けていった。

その機械仕掛けの瞳に感情の波風一つ立てず、シュトロハイムは言った。






「じゃあ…ハッキリ言おうか、鈴仙・優曇華院・イナバ。
―――お前は『死ぬぞ』。その『復讐』の心を捨て去らなければな」


696 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:20:31 nCoLoVBM0








横を流れる川のせせらぎを除けば、この場に残るのは男の宣言の余韻だけ。
続いて沈黙が落ちた。短いようで…長い、鬱陶しいほどの長い沈黙が。




「紅き月の逃亡兵よ。俺はお前の過去の汚点をねちっこく突っつく気などはさらさら無い。
 むしろ…だ。思い切って逃げればよいではないか。ただし自分の『運命』からではないぞ。
 戦いにおいて勝利への道が見えないとなれば、無理に攻めずいったん引けば良い。
 逃げなきゃいけない時には手段を選んでいる暇は無い。誰かの袖を掴んででもとりあえず逃げるのだ。
 それが我慢ならないのなら…せめて誰かに助けを求めろ。なんなら俺が協力しても良いぐらいだ」

「逃げる!?それこそ…ありえない選択よッ!!ダメージを負わせた相手に…勝てる相手に何でそんな事を…ッ!」

「目先しか見えていない現状だと足元を掬われかねんと言っている。
 お前を殺すのは…その『赤い悪魔』の死に際の悪あがきによる攻撃かもしれん。
 または…かの究極生物に細胞全てを溶かされ、体内に取り込まれることかもしれん。
 あるいは…1キロ先の狙撃主に頭部を撃ち抜かれ、断末をあげる間も無くあっさりと死に伏せるかもしれん。
 もしかすれば…吸血鬼に頭部をはねられ、体内の生き血は全て搾り取られてミイラのようにされるかもしれん。
 いずれにしろ…お前はディアボロにすら辿り着くことなく、志半ばにして無残に殺されるだろうな」



シュトロハイムの言葉ひとつひとつが、鈴仙の頭の中を揺さぶり、震わせた。
まるで嵐の中の船に放り込まれたようなグラグラと落ち着かない気持ちが湧き上がり、眩暈の感覚まで引き起こされる。
顔を俯かせて押し黙る鈴仙の表情は、なびく髪のせいで窺い知れない。
それを眺めるシュトロハイムも、まだ言葉を続けた。


「我が身を犠牲に捧げる覚悟を持った英雄が戦うのでなければ死をも恐れぬ兵士を見つけられないだろう。
すべてを任務に捧げ。
急速以外は何を望むな。
平和以外は何も望むな。
…これも我が総統の言葉だ。俺は死の覚悟などとうに出来ている。
 『守るべき祖国』があるからだ。陛下と国の為ならば俺は喜んでこの心臓を捧げよう。
 …だが貴様には何がある?友が死した今、誰を守ると言うのだ?
 守るべき者も見出すことの出来ない、浮ついた『機械兵士』なのはお前の方に見えるがな」


「私にどうしろっていうのよッ!!!」


697 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:21:37 nCoLoVBM0
再びいきり立った鈴仙は右手の指を銃の形に曲げ、左手は右手首を固定するようにピタリと銃口をシュトロハイムの眉間まで狙う。
自分の感情に支配され、反射的に相手に銃口を向けるなんて。かつての上司には見られたくない恥ある姿だ。
そんな事を頭の片隅に押し遣りながら、しかし鈴仙はとうとう我慢できずに反抗した。

「何の罪も無い私の友人が無残にも殺され!!それでもあの敵はのうのうと生きながらえている!!
 許せるわけ無いじゃないッ!友達を喪った私にこれ以上何を望むのよッ!!」
 今の私に出来る事は彼女の敵を討つことだけ…!それの何がいけないっていうのッ!?」

「繰り返すが…何も敵討ちをやめろと言っているわけではない。
 今のお前は多少『自暴』の気持ちになっている。自分も死ぬような戦いはやめろと言っているんだ。
 尤も、軍人の俺が言っても説得力は無いかもしれんがな」

「今ッ!アイツを倒さないとまた被害が拡大するッ!
 そうなれば私のような辛い思いをする人も増えるわ!
 多少無茶でも!私がアイツをやらなきゃ取り返しのつかないことになるッ!!」

本当は、やっぱり嘘だった。

私みたいに辛い思いをする人が増える?被害の拡大を防ぐ?
そんなこと、実際はどうだっていい。
私はとにかく、あの男が憎い。憎くて憎くて、殺してやりたい気分。

でも、自分にこんな憎悪の感情があったことに自分で驚くのも紛れもない事実、だと思う。
心の底の底では、やっぱり殺人なんて嫌だった。
根っからの臆病者である自分は、今回も会場の隅でウサギみたいにブルブル震えているのがお似合いだった、はずなのに。
しかし今回ばかりはそうはいかないんだ。
この男、シュトロハイムは私に逃げればいいと促したけれど…それじゃあ死んだアリスに向ける顔が無い。

悪魔のスタンド使い?
究極生物?
神々の存在?

上等よ。私の目的はあくまでも『ディアボロ』ただひとり。
それを邪魔をする奴はどんな奴だって容赦しないわ。




たとえ復讐の果てに待つものが…破滅だとしても!


698 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:22:52 nCoLoVBM0

「…貴方のご忠告、親切と受け取って心に刻んどくわ。
 でも私はやっぱり歩くのをやめることは出来ない。
 ディアボロを…この世から殺(け)すまでは」

「…そうかい。ならば俺からはもう何も言えねえな。だがこれだけは言っておこう。
 お前の敵がひとりとは思うなよ。本当にヤバイ時は誰かを頼れ。
 それと…『過ぎたる恨みは、廻り廻って己自身の心と身体を喰い尽くす』ぞ。必ずな…
 じゃあ…それだけだ。無事を祈ろう。『異世界の兵士』よ」

「えぇ…私も貴方の無事を祈っているわ。
 お世話になったわね。さよなら…『異世界の軍人』さん」



国も、境遇も、守るものも、全く違う二人の兵士は互いに向き合って敬礼の型をとった。

戦う動機も何もかも異なるが、互いの無事を祈るその心だけは共鳴した。

言葉を掛け合う事も無いその空間がほんの少しの間続いた後、鈴仙は身をひるがえして道を行く。

背中越しで手と、ついでにその長い耳をひらひらさせながらこちらへ振る鈴仙の後姿を眺めながら、シュトロハイムはようやくここで軽く溜息をついた。


699 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:24:15 nCoLoVBM0
「やれやれ…どうもあのウサギの女は一度コレと決めたらそこに向かって一直線らしいな。
 これがもしジョジョの奴ならば俺が忠告するまでも無く一目散に逃げ出すんだろうが…
 あの男なら目先の目的にとらわれず大局全体を見渡す事ができ、何気ないヘラヘラ顔で戦場に戻ってくるのだろうな…
 その臨機応変力があの女とジョジョとの決定的な違いなんだよなァ〜〜。
 あの女、『早死にするタイプ』だな。フゥ………
 まっ!とにかく俺は俺のやるべき事を優先させてもらうぜ。まずは人間の里を目指すかッ!」


持ち前のポジティブさと鋼の精神がある限り、シュトロハイムもまた歩みを止めることは無い。
鈴仙の事は心配ではないといえば嘘になるが、彼女は紛れも無く強者と言ってもよかった。
長く色々な兵士を見てきたが、彼女の兵士として致命的な性格はまだしも、あの覇気があればそう易々とはくたばらないだろう。


―――戦場では仲間の心配をした奴から死んでゆく。


かつての上司から飽きるほど聞いたその教訓も、今では立派にシュトロハイムの心に染み付いている。
それ故に歩み行く彼女を止めたりなんかしなかった。


鈴仙・優曇華院・イナバ。
そしてルドル・フォン・シュトロハイム。


彼らの歩んで来た道は今ここに交差し、そして別々の道を進む。
このゲームの未来に、彼らが再び交差する事はあるのだろうか。

鈴仙の小さくなっていく後ろ姿を最後まで見届けることなく、シュトロハイムは悠然と立ち上がった。
その瞳には確かな『炎』が燃え続ける。
それは使命に燃える『兵士』としての、強固なる眼。

まずは『北東』。朝日を仰いだシュトロハイムは大きく一歩を踏み出す。


せめて、あの可憐なる月の兵士の無事を『祈り』ながら…


700 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:25:51 nCoLoVBM0
【D-5 川のほとり/早朝】

【ルドル・フォン・シュトロハイム@第2部 戦闘潮流】
[状態]:永琳への畏怖(小)
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りである肉体
[道具]:蓬莱の薬、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ドイツ軍人の誇りにかけて主催者を打倒する。
1:ジョセフ・ジョースター、シーザー・A・ツェペリ、リサリサ、スピードワゴンの捜索と合流
 次に蓬莱山輝夜、因幡てゐ、藤原妹紅の捜索
 その他主催に立ち向かう意思を持つ勇敢な参加者を集めるためにひとまずE-4の人間の里へ向かう。
2:殺し合いに乗っている者に一切の容赦はしない。特に柱の男及び吸血鬼は最優先で始末する。
3:蓬莱の薬は祖国へ持って帰る。出来ればサンプルだけでも。
4:ディアボロ及びスタンド使いは警戒する。
5:八意永琳には一応協力する。鈴仙の事を伝える為に人里で通信機器を探す。
6:エシディシは死亡が確認されたはずだが…?
7:ガンマン風の男(ホル・ホース)と小娘(幽谷響子)、姫海棠はたてという女を捜す。
 とはいえ優先順位は低い。
[備考]
※参戦時期はスイスでの赤石奪取後、山小屋でカーズに襲撃される直前です。
※ジョースターやツェペリの名を持つ者が複数名いることに気付いていますが、あまり気にしていないようです。
※輝夜、鈴仙、てゐ、妹紅、ディアボロについての情報と、弾幕についての知識をある程度得ました。
※蓬莱の薬の器には永琳が引いた目盛りあり。


701 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:26:43 nCoLoVBM0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

シュトロハイムとの短いコミュニケーションを終え、すっかり彼の姿が見えなくなったところまで歩いた鈴仙は一度足を止めた。
キョロキョロと周りを警戒し、誰も居ない事を確認してからデイパックの中の物を取り出す。
やがて木製のデッサン人形が取り出されると同時に、人形が次第にモコモコと巨大化していく。
数秒とかからず人形はその巨躯を露わにしていき、あっという間に鈴仙の身長を超えて完成形を迎えた。


「……フゥ〜〜〜ッ!しかしお前も抜け目の無い奴よ!
 いつの間に『本物』の俺の体に触ったのだ?まるで気が付かなかったぞ!」

「貴方がナチスの科学がどうたら喚いてた時よ。
 本当はこんなにウルサイ人間(?)を『コピー』するのも躊躇うぐらいだけど…
 戦力が欲しかったのもまた事実だし。しばらくは貴方で我慢するとしましょう」


冷めた目線で見つめる鈴仙の隣に現れた男は『シュトロハイム』そのもの。
しかしそれは勿論、鈴仙が事前に装備しておいたスタンドDISC『サーフィス』によって生まれた模倣体。
どさくさに紛れて本物の体に触れていた鈴仙が作った『コピー』のシュトロハイムである。

コピーとはいえ、本物と変わらぬ鬱陶しさを持つその出来栄えに、鈴仙は感動よりも先に溜息が出てしまう。


「なァ〜〜〜にを溜息などついているッ!鈴仙・優曇華院・イナバよ!
女に従うのは俺のプライドに触るが!お前が『上官』だと言うのならばやむを得ないだろうッ!
貴様は宝船に乗ったつもりでドンと構えていろォォーーーゥッ!!!敵は俺が全員木っ端微塵にしてやろうッ!!」


(このスタンドの正確性はゾッとするぐらいに凄いけど…
 う〜ん。やっぱコイツを同行者に選ぶのは失敗だったかなぁ…)

さっきとはまたしてもうって変わって豪快に笑うシュトロハイム(の人形)。
鈴仙が彼の波長を読み取ることは出来ないが、読み取るまでも無くこの男の心の揺れ動きは表情に出る。
この生きるブリキ人形に本当に音量のツマミが付いていないか、再びよく確認する鈴仙だったがやっぱり付いてないので代わりにもう一度溜息をついた。


702 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:28:00 nCoLoVBM0

「ハァ……。いい?今から貴方は私の『剣』だという事を覚えておいて。
 武器がひとつ増えただけ。私はあくまでも『自分だけ』でディアボロを追うの。
 だから同行してもらうとはいえ貴方がアイツにトドメを刺す事は許さないわ。
 奴を殺すのはこの鈴仙・優曇華院・イナバただひとり……返事は?」

「フム……兎は寂しいと死ぬというのを噂で聞いた事があるが、本当にひとりで大丈夫か?
 『本物』の俺の忠告を素直に聞いたほうが良かったんじゃないか?」

「人の話を聞きなさいよ…それに私を兎と一緒にしないで」

「ウサギではないか」

「……せめて口だけは閉じていて欲しいのだけど」

「了解したッ!ならば俺は上官である貴様の命令に従おうッ!!
 敵はスタンド使い『ディアボロ』だなッ!!待っておれィッ!今から貴様を殺しに向かってやるぞォォッ!!!」

(ほんっとーに…うるさい男……失敗したかな……)


こうして孤高の追跡劇にやかましい同行者が誕生した。
耳を塞ぎながら歩く鈴仙の心の中では、気にかかる事はある。

そう、先ほどの『本物』のシュトロハイムから言われた言葉が未だに燻っているのだ。


―――過ぎたる恨みは、廻り廻って己自身の心と身体を喰い尽くす。


それでも、構わない。
今は目的さえ達成できれば、それだけで良い。
その後の事は…今はまだ考えない。

歩くのをやめる事の方が…今の私にとって何よりも怖いのだから。





二人の異種なる『軍人』の邂逅は終わった。

それぞれ異なる世界に住む『兵』と『兵』は互いに何を思ったのか。

そして何を共感したのだろうか。

鈴仙の永い戦いは、始まったばかり。


703 : 月の兎は眠らない ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:30:05 nCoLoVBM0
【鈴仙・優曇華院・イナバ@東方永夜抄】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、焦燥、強い覚悟
[装備]:スタンドDISC「サーフィス」、(ゲーム開始時に着ていた服は全身串刺しにされて破れたため、永遠亭で調達した服に着替えました)
[道具]:基本支給品(食料、水を少量消費)、シュトロハイム化サーフィス人形(頭部破損・腹部に穴(接着剤で修復済み)、全身至る所にレーザー痕)
ゾンビ馬(残り40%)不明支給品0〜1(現実出典)、鉄筋(数本)、その他永遠亭で回収した医療器具や物品
[思考・状況]
基本行動方針:アリスの仇を討つため、ディアボロを殺す。
1:未来に何が待ち構えていようとも、必ずディアボロを追って殺す。確か今は『若い方』の姿だったはず。
2:永遠亭の住民の安否を確認したい。そのために連絡手段が欲しい。(今は仇討ち優先のため、同行するとは限らない)
3:ディアボロに狙われているであろう古明地さとりを保護する。
4:危険人物は無視。特に柱の男、姫海棠はたては警戒。危険でない人物には、ディアボロ捜索の協力を依頼する。
5:永遠亭でアリスに抱きしめられた時に感じたあの温かい感情が何なのか、知りたい。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※波長を操る能力の応用で、『スタンド』に生身で触ることができるようになりました。
※能力制限:波長を操る能力の持続力が低下しており、長時間の使用は多大な疲労を生みます。
波長を操る能力による精神操作の有効射程が低下しています。燃費も悪化しています。
波長を読み取る能力の射程距離が低下しています。また、人の存在を物陰越しに感知したりはできません。
※サーフィス人形の破損は接着剤で修復されましたが、実際に誰かの姿をコピーした時への影響は未定です。
※シュトロハイムに変化したサーフィス人形は本体と同程度の兵器を駆使できますが、弾薬などは体内に装填されている物のみです。
 また、機械化の弊害なのか鈴仙がシュトロハイムの波長をうまく感じ取る事はできません。
※八意永琳の携帯電話の番号を手に入れました。


704 : ◆qSXL3X4ics :2014/03/12(水) 02:34:54 nCoLoVBM0
『月の兎は眠らない』の投下を終了します。

どうやらwikiの方が大変な状況だったみたいで、現在はどうなのかは分かりませんが
騒ぎの方はだいぶ収まってきた感じなのでしょうか…
とにかく、ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。それではおやすみなさいませ。


705 : 名無しさん :2014/03/12(水) 03:12:56 uHO7bZgI0
投下乙です。
さすがに目的が違いすぎて同行はなしか。

最近wikiの更新がないけど大丈夫なんだろうか・・・。


706 : ◆n4C8df9rq6 :2014/03/12(水) 13:29:53 m91MS1Wc0
投下乙です!
うどんげは確かに強くなったけど、孤高でもあるんだよなぁ…。
シュトロハイムの指摘の通り復讐に身を燃やしていずれ身を滅ぼしそうなのが怖い
そんなうどんげには今後もどうにか生きて欲しい
シュトロハイムのテンションの高さもいい味出してるww


707 : 名無しさん :2014/03/12(水) 15:00:57 A.FjvRCQ0
シュトロハイムかっこ良


708 : 名無しさん :2014/03/12(水) 16:48:55 olUVE4TE0
投下乙です。
うどんげ殺気立ってるなぁ……w

シュトロハイムさんもハイテンションな絶叫を見せたかと思えば、
祖国の指導者や敵軍の将を例に出して、軍人としての先輩らしいところを見せてくれたね。
この助言をいつか鈴仙が活かしてくれれば良いけど……w


709 : 名無しさん :2014/03/14(金) 16:53:26 eJYdr3ek0
未収録の話も増えてきたし
wiki編集してみても平気なんかな?


710 : ◆n4C8df9rq6 :2014/03/14(金) 20:06:32 Mgi2B/.w0
予約延長させて頂きます。


711 : 名無しさん :2014/03/14(金) 22:23:06 NsvoJvnI0
まだ一概に大丈夫だとは言えないけど騒ぎも殆ど収まってきたしそろそろ編集しても大丈夫かも
溜まったらあとが大変


712 : ◆WjyuuPGo0M :2014/03/14(金) 22:35:32 vZUVy0..0
予約延長します。


713 : 名無しさん :2014/03/15(土) 02:22:30 B4rIRhLQ0
おおwikiがウィッキに更新されてる
お疲れ様です


714 : 名無しさん :2014/03/15(土) 03:46:01 Tx7U8s4oO
誰だ、レティ呼んだの
いきなり寒くなったぞ


715 : 名無しさん :2014/03/15(土) 11:25:55 MjLCm5i60
ああ、wikiと一気にをかけているんですね 一瞬意味がわかりませんでした
でも何故とつぜん駄洒落を言い出したのでしょうか


716 : 名無しさん :2014/03/15(土) 15:46:53 1sqxukJU0
>>714
俺はここ数日急に寒さが戻った事を言ったのかと思った…w>レティ呼んだ


717 : 名無しさん :2014/03/15(土) 16:36:04 4f9167360
毎度集計お疲れさまです。

話数(前期比) 生存者(前期比)  生存率(前期比)
76話(+11)    73/90 (-3)     81.1 (-3.3)


718 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:21:06 JMknGTAk0
上白沢慧音、封獣ぬえ、吉良吉影、東方仗助、比那名居天子の予約を投下します。


719 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:22:01 JMknGTAk0

まだ月も沈みきらない早朝、ぼんやりとした月明かりの中、五人の男女が皆それぞれ違う面持ちで歩く。
一人は希望に満ち、一人は焦燥を押し殺し、一人は思案し、一人は苦悩し、一人は興奮していた。
そんな中、希望に満ちた女、上白沢慧音が口を開く。

「みんな、疲れていないか?特に仗助君と天子は、さっきまで戦っていたからな……もし疲れているなら少し休憩してもいいぞ?」

慧音の発言に皆それぞれの応答を返す。

「平気に決まっているじゃない!それにさっさとしないとマーダーとなった連中の跳梁を許すことになるわ、兵は神速を貴ぶってね!」

「俺も全然平気っスよぉ〜、こういうのには案外慣れてるっすから。それより『一般人』の吉良さんと、女の子のぬえちゃんは大丈夫っすか?」

「あ、ああ……大丈夫だ東方君。私はこれでも少しは鍛えているからね……」

「バカにしてんじゃないわよっ!私はあんたの何十倍も生きてる大妖怪、封獣ぬえ様よ!敬意を払いなさい敬意を」

「あーすんません。なんつーか幻想郷って難しいとこっスね、見た目で判断できねーから誰が年上で誰が年下か全然判んねーっスよ」

「ふふっ、確かにそうだな。君と同年代なのはおそらく博麗の巫女や人間の魔法使い、
それと現人神の風祝ぐらいしかこの会場には居ないだろうからな。
まぁ全員大丈夫なようで良かった。では先を急ごうか」

他愛の無い会話はここで一旦途切れる。
今の一連の流れは、一見ただ穏やかな普通の会話に見えるが、一部張り詰めた空気が漂っていた。
何故、このような奇妙な状況になってしまったのか、時間は少し遡る。


720 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:22:54 JMknGTAk0

E-1 妖怪の山 黎明

「ドラララララアッ!」

「くっ!」

一進一退の攻防。比那名居天子の無神経な発言によって起こった闘いは、プッツンした東方仗助の優勢で進んでいた。
上下左右から襲いかかる仗助のスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』による拳の弾幕のようなラッシュは、
弾幕ごっこで鍛えた天子の動体視力でも、避けるのはギリギリだ。
天子は仗助をただのアホそうな若年者と侮っていたので、スタンドの対処と理解が遅れ後手に回っていた。

「どうしたよぉォーッッ!!天子の先輩よおッッ!!俺の髪型が牛の糞みてぇとかぬかしたくせによぉぉぉ!!」

「そんなことっ!いって!ないわよ!ただあんたのヘアスタイルが、下衆で!間抜けで!みっともないって言っただけじゃない!この外道マーダー!」

天子は反撃に移るため一旦距離を取り、再度急接近し最上段に構えた木刀を一気に振り下ろす。当たれば昏倒は免れないだろう。
だが仗助は怯みもせず、般若も逃げ出す形相をしながらで拳で木刀に真っ向から打ち合う。

「ドラアッッ!」

「砕けなさい!って!何これ!?」

打ち合いの結果、お互いの得物が壊れるという事はなかった。
しかし、壊れてはいないが、天子の木刀は異常な形に変形し、山菜のゼンマイのような形に成り果てていた。
『クレイジー・ダイヤモンド』の治す能力の応用だ。

「なっ、何よこれぇぇ!あんたもしかして妖怪か何か!?」

「俺のヘアースタイルが妖怪みてぇだとぉぉぉ!」

「何をどう聞いたらそうなるのよおおお!」

最早仗助には何を言っても火に油を注ぐ行為にしかならない。
今の仗助は水をかけても消火器をかけても逆に燃え盛る、イカれた炎のような状態だった。

「こんなやつまともに相手してたらこっちの身が持たないわ……!あーもう緋想の剣さえあればこんなやつ〜!」

確かに相手に応じてその弱点を付くことの出来る、天界の秘宝『緋想の剣』があれば、この状況を切り抜けられるだろう。
だが無いものねだりをしても無いものは無い。
故に、今あるもので仗助を何とかしなくてはならない。


721 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:23:49 JMknGTAk0

「ドラアアッッ!!」

「キャアッッ!?」

そしていつの間にか迫って来ていた仗助の一撃で、変形していたとはいえ唯一の武器である木刀まで弾かれてしまった。

「えーとえーと、なんかなかったっけ!?」

あたりを見渡してみるが、妖怪の山の麓には木や岩石が少しある程度で、この状況を打開するものは見つからない。
そうこうしている間にも仗助の攻撃が迫りつつあった。

「とうとう追い詰めたぜぇ〜自慢の髪型をけなしたツケ、きっちり払ってもらうぜぇぇ!」

「あーもうどうにでもなれー!」

仗助の攻撃が迫る瞬間、天子は偶然目についた自分のデイパックを咄嗟に防御に使った。
そしてその偶然が、思わぬ形で功を奏した。
何故か仗助の攻撃は全て受け流され、天子にはまるでダメージがいっていなかったのだ!。
攻撃の衝撃に備え目を瞑っていた天子も、いくら経っても痛みを感じないので、そーっと目を開けた。
すると、自分の眼前には、舞うエニグマの紙と、自身が気付けていなかった支給品『龍魚の羽衣』があった!。
攻撃の衝撃で紙が開いた事により、その効力を発揮したのだった。

「こ、これって確か衣玖の羽衣……?支給品って木刀だけじゃなかったの?」

実は支給品確認の際、天子は対主催に燃えテンションが上がりすぎていて、木刀の存在を確認した時点で満足してしまっていたのだ。
それ故龍魚の羽衣の存在に気づくことなく、今の今まで過ごしていたというわけだ。

「なんだか知らないけどラッキー!地獄に仏、渡りに船、これであんたの守護霊の攻撃なんて怖くないわ!
これでも喰らいなさい!」

龍魚の羽衣の力で攻撃を全て受け流した天子は、一転、攻勢に移り、召喚したミニ要石からレーザ弾幕を放つ。
仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』でガードをしたが、受けきれなかった数条のレーザーは仗助の体を焼いた。

「ぬう〜〜〜っ!」

ダメージは大したことはなかったが、自分の攻撃が通らず、しかも反撃までされた事によって、仗助は怒りの唸り声を上げる。

「ふっふーん、ざまぁないわね。運は天にあり、即ち運は天である私のためにあるのよ、
あんた如き地上の民が、この私に一撃でも与えられるなんて夢のまた夢ってこと」

一方天子は情勢が自分の有利に傾いたと見るや、先程までの混乱はどこ吹く風、急に尊大な態度になり調子に乗り始めた。
そしてそれにより仗助の怒りは更に増大、今まで以上の速さと重さの乗ったラッシュを繰り出す。

「ドララララララララアアッ!!」

「無駄無駄無駄ぁー!」

しかし攻撃は通らない。雷雲の中の遊泳すら可能にする龍魚の羽衣は、ラッシュを平然と受け流す。
柔よく剛を制すの言葉通り、パワー任せの物理攻撃は柔らかな羽衣には通じなかった。


722 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:24:46 JMknGTAk0

「無駄って言ってるでしょ!これでも喰らってさっさとくたばりなさい、この面白髪型マーダー!」

地符「不譲土壌の剣」

優勢を確信し、そろそろこの闘いに終止符を打たんと、天子はネジ曲がった木刀を地面に挿し小規模な地震を起こす。
そして仗助が怯んだところに幾つもの要石弾幕を放ち、押しつぶさんとした。
対する仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』で弾幕の破壊を試みるが、数の多さと地面の不安定さからいくつか取りこぼし、ダメージを受けてしまった。

「どう?これで天と地程の差ってものが解った?」

長髪を手で後ろに払いながら、天子は仗助を見下し尋ねる。

「この自慢の髪型をけなされるとムカッ腹が立つぜ!何故頭にくるか自分でも分からねぇ!
きっと頭にくるってことには理由がねえーんだろーなッ!本能ってやつなんだろーなッ!」

だが仗助は質問に答えるどころか、自分の髪型を馬鹿にされたことを怒り続けている。
それも天子から攻撃を受けて、頭から血を流しているのにも関わらずにだ。

「こ……こいつ……まじにクレイジー過ぎるわよ……一体どんだけその髪型に拘るのよ……い、いい加減にしなさい!」

天子は仗助の異常さへの動揺を押し殺し、弾幕による追撃を行う。
だが仗助はそれを避けスタンドでガードしきり、近くに落ちていた要石を天子に投げつけ反撃をしてきた。

「飛び道具ならこの羽衣の防御を崩せるとでも思った?残念、そんな攻撃、羽衣を使うまでもなく避けれるわよ!」

「残念なのはよぉ〜テメェの頭のほうだぜ、俺は端から弾当てごっこなんぞする気はねーぜ」

そう言い放つとともに、仗助は投げた要石にラッシュを叩き込み粉々にした。
その破片は天子に降り注ぐが、ダメージはない。

「ふっ、ふんっ!ただ埃っぽいだけじゃないの、負け惜しみなんてみっともないわよってきゃあ!」

確かにダメージはない、ダメージはないが、天子の体は要石と同化し、身動きがとれなくなっていた。
『クレイジー・ダイヤモンド』の能力で、砕いた要石をその場で復元し、その破片の中にいた天子を捕縛したのだ。
仗助は最初から攻撃のために要石を投げたのではなく、捕縛のために投げたのだった。
怒りに狂いつつも、仗助は勝つための冷静さを欠いていなかった。

「これでよぉ〜テメェをぶちのめす準備が整ったってわけだ。負け惜しみを言う準備は出来たか?」

「こっこんなこと……!まだよ!この私が負けるはずがない!拘束なんて弾き飛ばして――」

「グレート……確かにみっともねぇな……!ド ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ 
ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ラ ドラアッ!!!!」

「ぶっぎゃーーーー!!」

ついに『クレイジー・ダイヤモンド』のラッシュが天子に炸裂。天子は叫びながらどこかにぶっ飛んでいった。
仗助の髪型から始まったこの寸劇のような闘争は、仗助の怒りと戦術が天子の慢心を打ち砕き、終了となった。

「しっかしまだ怒り足りねぇ……!どこ行きやがったコラァーッ!」

だがまだまだ怒り足りない仗助は、薄闇の中、天子が吹っ飛んでいった方へと向かってゆく。
その先に、新たな苦難が待ち受けているなど、知るはずもなく。


723 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:25:20 JMknGTAk0

「おーいやがったなこらぁ、まだ終わっちゃいねーぞっ!」

天子を発見した仗助は、ずかずかと天子に歩み寄る。

「ぎゃ、ぎゃー!もう十分殴ったでしょ!この私に触れられたことをありがたく思ってさっさとどっか行きなさいよ!」

天子は軽傷をいくつか負っているものの、依然ピンピンしていた。
常食している仙果の力で天人である天子の体は非常に硬く、時としてナイフすら通さない。
多少の制限があるとはいえ、『クレイジー・ダイヤモンド』のラッシュを喰らっても再起不能にならない丈夫さがあった。
だが、仗助にとってはそのほうが好都合、逆にまだまだ殴っても大丈夫というゴーサインと受け取った。

「まだまだ元気そうじゃあねーかよ!この程度じゃ俺の怒りは収まらねぇ、行くぞコラアッ!」

「何なのよこいつ〜、不意打ちしてきたかと思えば髪型の事ばっか言い出して、マーダーじゃなくてただの頭のおかしいやつじゃない!」

「俺のヘアースタイルがおかしいだとぉぉぉ!?」

「ほらやっぱり〜」

天子はもう泣き出したい気分だった。
天人としてのプライドはズタズタで、折角乗り出した異変解決も二重の意味で頭がおかしい奴に邪魔されてしまった。(半分以上が自業自得だが)
その上まだ殴り足りないなどと言っているから仕方のないことかもしれない。
しかしその時、天子絶体絶命のピンチに際し、助け舟となる一声が突如響いた。

「お前たち、何をやっている!?」

声の主、上白沢慧音は、よく響く声で叫んだ。


724 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:27:11 JMknGTAk0

見渡しの良い平原の向こうに、照明器具に照らされた三人ほどの人影が見える。
発言を聞くとどうやら対主催の一団のようだ。
天子は助かった!と歓喜し安堵する。
これでやっとこの異常者とサヨナラバイバイできると。
そして一方仗助は、一気に冷静さを取り戻していた。
それなりに距離があるというのに、何故かはっきりと見えたのだ、その一団の中にいる、一人の男の顔が。
その顔を見た瞬間、仗助はかつて感じたことのあるおぞましい気分が蘇った。
同時に、自分がこれから取らなければならない行動も浮かぶ。

「なあ……天子……さん」

「なっ、何よ?」

「俺のヘアースタイルバカにしたこと、謝ってくれねぇか……」

「はっ、はあっ!?なにわけのわからないこと言ってんのよ!なんで私がそんなこと!」

仗助の突然の要求に、天子は混乱する。

「俺、自慢の髪型をけなされると、我を失って暴れちまうんだ……だからあんたを殴った。だがちと他に大事なことが出来ちまった。急がなきゃならねぇ……。
でもけじめとして、謝ってもらわねぇとどうにも出来ねぇ……頼む」

「散々殴り飛ばしておいて、そんなこと信じろっていうの!?馬鹿じゃない!?」

「謝ってくれたら俺にできることはなんでもする。事情も後で説明するし、傷も治す、頼む……急いでくれ!」

よくみると、仗助は歯を食いしばりすぎて、血が出ていた。
流石にここまでされてここまで言われると、よほど逼迫した事情があることは察せられたし、ヘアースタイルのことに関しても身を以て思い知った。
しかし天子もボコボコにされた手前、どうしてもただでは謝りきれない。


「う〜〜〜〜……じゃ、じゃあ条件よ!これからあんたは一生私の下僕として、私の命令には必ず従い、命をかけて私に尽くしなさい!
もしそれが出来るんなら、謝ってやってもいいわ!」

とても謝る側とは思えない高慢な態度だが、天子にとっての最大限の譲歩が伺えた。

「下僕って要は舎弟ってことっスよね、いーっスよ!そんなんだったら、謝ってくれさえすりゃあいくらでもなってやりますよ!」

仗助は胸をドンと叩いて、今までとは打って変わって明るい表情で条件を快諾した。

「な、なーんか素直すぎて癪に障るわね……まあいいわ……じゃあ、コホン……えーあなたのその自慢の髪型をけなしてしまってごめんなさい。
今後一切、金輪際、絶対に、確実に、二度と、馬鹿にしません。だから私を許しなさいっと……よしっ!これでいいでしょ!」

よほど恐ろしい思いをしたのか、異常に強調して反省の言葉を天子は述べた。
態度のデカさは若干残るが、唯我独尊を地で行く天子が謝る姿は、非常に稀だった。

「よーしオッケーっスよ!これで貸し借りなしってことで!じゃあ向こうから人が来るんで、なんか言われたらテキトーに合わせましょう」

「はいはい、それと、契約は絶対だからね!この私がここまでしたんだから破ったら容赦しないわよ!」

「分かってますって、約束を守る男、東方仗助、粉骨砕身天子さんの舎弟として頑張ります!」

仗助がそこまで言ったところで、三人の男女が近づいてきた。


725 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:28:18 JMknGTAk0

緑色のロングスカートをまとった有角の女性。手には拡声器のようなものを持っている。
サラリーマン風の風貌の男性。どこか落ち着かない様子だ。
黒のワンピースに左右それぞれ三枚非対称の羽のようなものの付いた少女。不審そうな眼で仗助と天子を見ている。
一見してなんの関連性も見えない上に、はっきり言って奇異な集団だ。
その中のリーダー格の、先程叫びかけてきたと思われる有角の女性、上白沢慧音が、今度は落ち着いた声で話しかけてきた。

「私は上白沢慧音という者だ。後ろの二人は彼が吉良吉影さん。彼女が封獣ぬえだ。先程からこの状況を打開するため、共に行動している。
まあ自己紹介はこれぐらいにして、もう一度聞こう、お前たち、何をやっている?私には、争っているように見えたが……」

慧音の質問に仗助と天子は顔を見合わせ、少し考えたあと仗助が話し始めた。

「い、いや〜喧嘩っスよ喧嘩、ちょっとした口喧嘩がヒートアップしただけっスよ〜でも今はこの通り、仲直りしてハッピーうれピー……なんちゃって」

引きつった笑顔を浮かべながら、仗助は天子と肩を組んでわざとらしい仲良しアピールをする。
慧音は怪訝そうな表情でジーっと二人を睨めつけた。

「本当か?私には君……あー君、名前は?」

「ぶどうヶ丘高校一年B組、東方仗助っス!」

「そう、仗助君か、良い名だ。で、話を続けるが、私には仗助君がそこの抵抗できなくなっていた天人様を一方的に殴っていたように見えた。
遠かったが私は目はいいし、月明かりが加減よく君たちを映し出していたから自信はある。
私が呼びかけた直後手を止めたようだが、どうなんだ?」

「え、えーと……いやそのあんまりにもムカついて……その弾みっすよ弾み……何も殺そうとかそんなんじゃ……それに治せますし……」

仗助はしどろもどろになりながら受け答える。
天子は「絶対殺す気だったでしょあれは……」と小さく呟いた。

「そうか、事実か、確かに男子たるもの喧嘩の一つもするだろう。
だが曲がりなりとも女性を、しかも抵抗できない相手を一方的に殴るなど紳士のすることではない!」

慧音は突然仗助の両肩を掴んだかと思うと、頭をぐわっと後ろに振りかぶり、一気に前に振り下ろす。
上白沢慧音必殺の頭突きだ。この技の前に敗れた悪ガキの数は数え切れない。
そして喰らった仗助は悶絶し転げまわる。

「これはお仕置きだ。出会って早々悪いが、これでも私は教師をやっているものでな、こういう不道徳は見逃す訳にはいかない。
それにどんな理由があろうと、こんな異常な状況で喧嘩などすれば、殺し合いに乗っていると疑われても何も言えないぞ、よく反省するように」

言われた仗助は痛みでそれどころではなく、小さくうめき返すだけだった。
それを見ていた天子は、「自業自得よ」と仗助を笑ったが、慧音が今度は自分に近づいてきた事によって、その笑顔は消えた。


726 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:29:02 JMknGTAk0

「さて、次はあなただ。確かあなたは比那名居天子様だったな、仗助君を笑っているが、人ごとではないぞ」

じわりじわりと近づいてくる慧音に対して、天子は一歩、一歩と後ずさるが、背後にあった木に阻まれそれ以上後退できなくなってしまった。

「今話しをして解ったが、仗助君はあまり自分から争いを起こすタイプには見えない。口喧嘩と言っていたが、あなたは彼に何を言ったのだ?」

「え、いや、その、あいつの髪型に関してちょっと悪口言っただけよ……それ以上でも以下でもないわ……」

天子は目が泳ぎまくっている。

「本当か?」

「ほ、本当よ!確かにちょっと言い過ぎたけど、誰も髪型のことで怒り出すなんて思わないじゃない!」

天子がそう言うと、慧音は目を細めて何かを思い出すように短く思考し、そしてつらつらと語り始めた。

「比那名居天子、旧名比那名居地子。元々は人間だったが、親が功績を認められ、天界に住むようになった。
しかし修業によって天人になったわけではないので、天界では不良天人と蔑まれている」

「なっなんであんたがそのことを!そんなこと言って許されると思うの!?」

天子は突然自分が最も言われたくないことを言われたので、怒りと困惑で声を荒らげてしまった。

「すまない、朝が来れば戻ると思うが、今の私は幻想郷の全ての知識を持っているものでな……。
しかしこれで分かっただろう?誰にでも言われたくないことの一つや二つはある、私だってこの姿のことを揶揄されればムッとする。
不用意な発言は人を傷つけ、ひいては自分自身を傷つける。特にこのような状況では命に関わることだってあるかもしれない」

そう言いながら、慧音は天子への距離を少しづつ縮めていく。

「わ、分かったわよ……理解したってば……確かにあんたの言う通りよ……今の発言は許してあげるからだから近づくのをやめて、お願い、やだ、やだ!」

「問答無用!己の欲せざる所は人に施す勿れ!」

ガツーン!

抵抗むなしく、頭突き炸裂。天人の防御力をもってしても痛みに悶える天下無双の頭突きだった。
それにより天子も仗助と仲良くお揃いのたんこぶを作り、これにて本当の和解と、心からの反省となった。


727 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:29:57 JMknGTAk0

二人の痛みが引き話ができるまでには少しの時間を要したが、ようやく本題としてしっかりとした自己紹介と情報交換をすることが出来た。
そして話題がこれからどうするかに移ろうとした時、仗助は天子との契約を思い出し、自分の能力の紹介ついでに『クレイジー・ダイヤモンド』で天子を治療した。

「こんなこと出来るんだったらもっと早くやりなさいよ!」

「いや、俺もさっきまで痛みに悶えてたもんで、すんません」

天子と仗助は相変わらずなやりとりをしていたが、慧音は真剣な眼差しで治療光景を見つめていた。
そして治療が終わると、慧音は喜色満面で勢い良く仗助に話しかけた。

「凄いじゃないか仗助君!!素晴らしい力だ!!」

また頭突きでもかますんじゃないかという距離まで慧音が近づいてきたので、仗助は若干距離を取った。

「その能力さえあれば一体どれだけの命が救えることか!ましてこの殺し合いという状況ならなおさらだ!」

慧音の勢いは止まらず矢継ぎ早に『クレイジー・ダイヤモンド』を賞賛する。
離れてみていたぬえも『クレイジー・ダイヤモンド』に興味が有るのか、チラチラと見ていた。
だが吉良は何かを考えているのか、ただ俯いていた。

仗助はそんな慧音を何とか落ち着かせ、『クレイジー・ダイヤモンド』について情報を補足した。

「慧音先生落ち着いて!確かに俺のスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』は色々治す事ができます。
でも死んだ人間を生きかえらせることも出来ないし、俺自身を治すことも出来ない。
それにおそらく荒木や太田のせいで能力を使うとなんか疲れやすくなってんスよ!」

仗助の言葉で慧音は少しだけ落ち着きを取り戻し、コホンと咳払いをして会話を続けた。

「すまない、少し興奮しすぎたようだ。しかしそれでも命を奪いあうこの狂った世界で、命を繋ぐ仗助君の能力は大きな意味を持つと思う。
……そこで話を戻して、これからどうするかだが、出来ることならこれから私達と共に行動してくれないだろうか?」

慧音がそういった瞬間、吉良がピクリと反応したが、慧音は気づかず話は続く。

「今私達がこうしている間にも、どこかで命が奪われているかもしれない。そして私はそんなことを許容することは出来ない。
しかし、敵は強大で私達だけの力では到底足りないだろう。だからこそ、志を同じくする者達で集まり、奪うものを挫き奪われるものを助けたいんだ。
悲しい歴史は紡がせたくない。
理想論だし綺麗事だということは理解している。だが己の命可愛さに誰かを傷つけ生き残ったところで、待っているのは孤独と破滅だ。
故にこの理想を貫ぬく事こそが、唯一の道だと私は信じている。頼めるだろうか……?」


728 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:31:17 JMknGTAk0

慧音が言い終わるや否や、真っ先に答えたのは天子だった。

「あったりまえじゃない!私だってはなからそのつもりよ!こんな気に食わない催しなんてさっさとぶっ壊して異変解決、それが私の行動指針!
因みに仗助は私の下僕だから意見を聞くまでもないわ」

天子はそこまで言い切り腕を組んでふんぞり返る。

「ま、まあ俺からも一応言わせてもらいますが、勿論オッケーッスよ。この会場には俺だけじゃなく俺のダチや知り合いまでいます。
そいつらの命までヤバいって状況で俺だけ怯えて逃げ隠れるなんてのは男じゃねぇっスよ。
だから俺が守ります。守ってみせますよ」

仗助も覚悟を決めた表情で慧音の頼みに応じた。
その時、後ろで俯いていた吉良からバキッと音がした。
よく見ると爪から血が出ている。

「ああ、すまない……悪い癖で、落ち着かないと爪を噛んでしまうんだ。話の腰を折ってしまったね、続けてくれ……」

そう言うと吉良はまたうつむき、黙ってしまった。
慧音はそんな吉良を気遣ったが、大丈夫だというので話の続きに戻った。

「話の続きだが、こんな私の頼みに応じてくれてありがとう……二人が共に来てくれれば本当に心強いよ。
では話もまとまったし、早速行動しよう。急がなければ救える命も救えなくなるからな」

慧音は立ち上がり、歩き出す準備を始めた。

「ちょっと待ちなさいよ、どこか行くあてはあるの?それとリーダーは私!それがあんたたちと付き合う条件よ」

天子は慧音に確認をする。

「ふふっ、なら私は参謀ということで、忠臣として進言させて頂こう。とりあえずは他の参加者を見つけるために、
人が集まりそうな場所を目指しながら幅広く探索しようと思う。天子と仗助君を見つけられたのもそうしていたからだしな。
それでいいかな?ああ、それと天人様とか比那名居様だと呼びづらいから、天子と呼び捨てしてしまってもいいか?」

「なーんか偉そうで気に喰わないけど、まあいいわ、その案で行きましょう。それじゃ出発進行よ、者共付いてきなさい!」

そうしてその天子の声とともに、皆歩き始めた。


729 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:31:54 JMknGTAk0

ここから冒頭の話へと続く。
こうしてここに集ったのは総勢五名、対主催の一団としては人数も多く、皆実力も申し分ない。
しかし、その結束は盤石さとは程遠い。
何故なら、このチームの中には、外からは見えない、水と油にも等しい決して交わることのない因縁と軋轢が秘められているからだ。

(まずい……東方仗助、私の正体に気づいているのか?どちらにせよ始末しなければならない……!
私の平穏な人生を妨げる可能性がある者は、誰であろうと始末する!
だが、他の奴らに気付かれず殺すにはどうすればいい!?考えろ吉良吉影!)

(さーてどうするっスかねぇ〜救急車に轢かれておっ死んだはずのコイツが何故生きてるかは知らねぇが
今ここに生きて存在する以上、どうにかしなくちゃならねぇ……しかしいきなりコイツは殺人鬼だっ!て言ったところで誰も信じてくれねぇだろうしなあ……
でもどうにかしてコイツをぶっ飛ばさねぇと、慧音先生や天子さん、ぬえちゃんも危ねぇ、どうするよ東方仗助〜!)

そう、町の守護者と殺人鬼、この二人はお互いの因縁に気づいていた。
この一部空気が張り詰めた奇妙な状況は、この二人の因縁によるものだった。
しかし、お互いに行動に出ることは出来ない。
出会ってはいけない二人が最悪のタイミングで居合わせてしまっていた。
一見して強固なこのチームは、その内側にいつ爆発するともしれない巨大な時限爆弾を抱えていたのだ。

だがそんなことなど知るはずもない残りの三人は、思い思いの感情で歩き続ける。
慧音はチームに仗助と天子が加わり、新たな希望に満ち溢れていたし、
天子は自分の思い通り仲間を手にし、異変の解決が現実味を帯びたことで興奮していた。
一方ぬえは未だに自分自身が取るべきスタンスを思案していたが、チームの補強と仗助の能力を目の当たりにしたことで、
このまま行けばなんとかなるのではないかと、思い始めていた。

藁の砦は、その危うさを増し、見てくれだけは立派になり突き進む。
その先に待つのは破滅か、それともあり得ぬはずの共存か、未だ分からない。
ただ薄暗い早朝の闇は、まるでその未来の不確かさを表しているかのようだった。


730 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:33:02 JMknGTAk0

【E-1 平原/早朝】

【吉良吉影@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康、焦燥
[装備]:スタンガン@現実
[道具]:不明支給品(ジョジョor東方 確認済み、少なくとも武器ではない)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:東方仗助をどうにかして抹殺する。
2:面倒だが、一先ず彼女らと同行する。
3:他の参加者同士で精々潰し合ってほしい。今はまだは様子見だ。
4:無害な人間を装う。正体を知られた場合、口封じの為に速やかに抹殺する。
5:空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
6:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
[備考]
※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※自身のスタンド能力、及び東方仗助たちのことについては一切話していません。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※幻想郷についてある程度知りましたが、さほど興味はないようです。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。

【封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:精神不安定
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部、メス(スタンド能力で精製)
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:今は慧音達と同行する。対主催もすこしは希望があるかもしれないと思い始める。
2:聖を守る為に他の参加者を殺す?皆を裏切って自分だけ生き残る?
3:この機会に神霊廟の奴らを直接始末する…?
4:あの円盤で発現した能力(スタンド)については話さないでおく。
[備考]
※参戦時期は神霊廟で外の世界から二ッ岩マミゾウを呼び寄せてきた直後です。
※吉良を普通の人間だと思っています。
※メスは支給品ではなくスタンドで生み出したものですが、慧音と吉良にはこれが支給品だと嘘をついています。
※スタンドについて理解。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。

【上白沢慧音@東方永夜抄】
[状態]:健康、ワーハクタク
[装備]:なし
[道具]:ハンドメガホン、不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:悲しき歴史を紡がせぬ為、殺し合いを止める。
1:吉良、ぬえ、天子、仗助と共に行動する。
2:仲間を集め、脱出及び主催者を倒す為の手段を探す。弱者は保護する。
3:殺し合いに乗っている人物は止める。
4:出来れば早く妹紅と合流したい。
[備考]
※参戦時期は未定ですが、少なくとも命蓮寺のことは知っているようです。
※吉良を普通の人間だと思っています。
※満月が出ている為ワーハクタク化しています。
※スタンドについて理解。
※能力の制限に関しては不明です。

【比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:興奮
[装備]:木刀@現実(また拾って直した)、龍魚の羽衣@東方緋想天
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:仲間たちとともに殺し合いをおじゃんにする。
2:主催者だけではなく、殺し合いに乗ってる参加者も容赦なく叩きのめす。
3:自分の邪魔をするのなら乗っていようが乗っていなかろうが関係なくこてんぱんにする。
4:紫には一泡吹かせてやりたいけど、まぁ使えそうだし仲間にしてやることは考えなくもない。
5:仗助を下僕化、でも髪のことだけは絶対触れない。
[備考]
※この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
※スタンドについて理解。



【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:頭に切り傷、全身に軽い打撲
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの打破
1:吉良をどうにかしてぶちのめす。
2:天子や慧音やぬえと協力し殺し合いを打破する。
3:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
4:天子さんの舎弟になったっス!。
[備考]
※参戦時期は4部終了直後です。
※幻想郷についての知識を得ました。

※5人がどこへ向かうかは後の書き手さんにお任せします。


731 : 和を以て貴しとなせ ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:34:09 JMknGTAk0

○支給品説明

『龍魚の羽衣』
比那名居天子に支給。
竜宮の使いである永江衣玖の持ち物で、打撃や射撃を受け流す力がある。
羽衣で防げる範囲の攻撃には有効だが、それ以上の範囲の攻撃は真の使い手である永江衣玖でなければ防ぎ難いだろう。
ちなみにドリルにも出来ない。

『ハンドメガホン』
上白沢慧音に支給。
名前の通り声を拡大して伝える事ができる代物。
片手で持てる重さな上、電池式でショルダーベルトまで付いているので携帯するにも便利。
機能は単純だがバトルロワイヤルにおける危険性と有用性は無限大。


732 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/03/17(月) 20:35:04 JMknGTAk0
以上で投下終了です。
ご意見ご感想などございましたら是非。


733 : 名無しさん :2014/03/17(月) 21:10:40 SrCgUOMI0
投下乙です
今後の展開がすごい気になるチームとなりましたね


734 : ◆YF//rpC0lk :2014/03/17(月) 21:16:12 hTHYt42I0
乙です
慧音がメガホン……なんかアカン予感しかしないな
そして吉良の胃袋は穴だらけになりそう


735 : 名無しさん :2014/03/17(月) 21:18:19 k7IL633g0
気づいてないと思ったら気づいてた 腹の探り合い


736 : 名無しさん :2014/03/17(月) 21:38:14 VPzzlpNU0
投下乙です。

藁の砦、順調に拡張中ッッ
拡声器まで手にしちゃって……w
これほど嫌な予感しかしないチームも珍しいぜw


737 : 名無しさん :2014/03/17(月) 22:40:59 0euM.uvg0
投下乙です。
天子好きだけどザマミロとか思ってしまったw
何としても正体を隠し通さなければいけないのは文も一緒だったけど、
吉良の場合は完全にバレてらっしゃる
これは早くも崩壊の兆しあるチームですねぇ…どうなることやら


738 : 名無しさん :2014/03/18(火) 01:01:51 X3nSV90.0
お!これで深夜組全員書かれたかな?


739 : ◆n4C8df9rq6 :2014/03/18(火) 02:35:41 lb/B3Ef60
話の展開に上手く組み込むことが難しいと判断したので、
予約からリンゴォ・ロードアゲインを外させて頂きます。
期待していた方が居ましたら申し訳ございません…


740 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/19(水) 00:06:42 C0nb.IKI0
空条承太郎、博麗霊夢、フー・ファイターズ、ファニー・ヴァレンタイン、火焔猫燐
5名を予約します。


741 : 名無しさん :2014/03/19(水) 00:12:04 lo6QxhKM0
しばらくぶりやね主人公コンビ
大統領がどう出るか…だな


742 : 名無しさん :2014/03/19(水) 09:28:23 xVm28uJ.0
前話ではわりと穏健派の対主催だったけど黄金の精神持ちから見た大統領はどう写るのか


743 : 名無しさん :2014/03/19(水) 15:13:18 5WRYmh9o0
穏健派の対主催ならブラフォードが死ぬことはなかった


744 : 名無しさん :2014/03/19(水) 15:15:13 5WRYmh9o0
IDがWRYYYYY!!


745 : 名無しさん :2014/03/19(水) 17:38:13 U1qg6PDo0
Dioと比べると穏健だけど何だかんだで危険対主催なんだよなぁ…


746 : 名無しさん :2014/03/20(木) 17:00:41 vNlYtGyo0
東方ロワとジョジョロワ3rdとここのwikiを代わる代わる読んでたらわけわかんなくなってきた


747 : 名無しさん :2014/03/20(木) 19:37:45 cpen.C7QO
箸休めにVRロワ読めばいいよ(ステマ)


748 : 名無しさん :2014/03/20(木) 20:00:29 V2FfmWnM0
VRロワ最近予約来ないなあ


749 : 名無しさん :2014/03/22(土) 15:00:16 I/oTT1tY0
完結済みのロワなら、続き気になりすぎ問題がなくてイイよねw
……というわけで、2009年完結、ロボロワを読もうwシュトロハイムさんも出るよ!
あとは、『あと3話で完結ロワ』なんかもオススメだ!w


750 : 名無しさん :2014/03/22(土) 18:25:46 RTlAkXi60
今日は予約2つ締め切りだけどまったく期待していない。このロワで予約期限なんてあって無いもの


751 : ◆n4C8df9rq6 :2014/03/22(土) 19:13:45 kR5SJm2s0
パソコンがお逝きになられたので予約破棄させていただきます
延期も含めた長期間のキャラ拘束、申し訳ございませんでした…


752 : 名無しさん :2014/03/22(土) 19:53:13 I/oTT1tY0
イデが発動してしまったか・・・


753 : ◆WjyuuPGo0M :2014/03/22(土) 23:58:58 809tJy1s0
今日間に合わなかったので破棄宣言いたします


754 : 名無しさん :2014/03/23(日) 18:18:35 LDEEqZNQ0
あの少年ジャンプ最強のロボと相打ちにまで持ってったナチスサイボーグ流石やでぇ…


755 : 名無しさん :2014/03/24(月) 19:13:11 wjPopI5Y0
吉良さん・・・以外と対主催に回ってもいいって
思ってはいたんだな。
平穏を脅かしたからか・・・


756 : ◆at2S1Rtf4A :2014/03/26(水) 00:02:13 EdN5vxtw0
予約の延長をお願いします。


757 : ◆at2S1Rtf4A :2014/04/02(水) 17:24:55 tA2SfONE0
今日中に上手く纏めきれなかったので、予約を破棄します

もし、予約がなかった場合は4月4日にゲリラ投下したいと思います


758 : ◆YF//rpC0lk :2014/04/02(水) 19:40:03 JFBT76Kg0
姫海棠はたて、荒木飛呂彦、太田順也
予約しときます


759 : 名無しさん :2014/04/02(水) 20:08:02 unzv5cxc0
おぉ、>>1さんの予約は久々だ


760 : ◆at2S1Rtf4A :2014/04/04(金) 18:32:49 NfQsKM2k0
申し訳ありません。今日中の投下は難しいと思い、書き込みます。

追い込んだら書けるかと思い、つい無責任なことを言ってしまいました。
もし、期待されていた方がいましたら、重ねて謝罪いたします。
本当にすみませんでした…


761 : 名無しさん :2014/04/05(土) 09:39:07 biaOzjH.0
ゆっくりで良いのよ


762 : ◆YF//rpC0lk :2014/04/09(水) 23:48:57 VzTDUNNE0
延長します。


763 : ◆.OuhWp0KOo :2014/04/10(木) 00:11:37 HJ0Hp.wE0
八雲紫、宇佐見蓮子、霍青娥、ウェス・ブルーマリン

の4名を予約します。


764 : 名無しさん :2014/04/10(木) 00:42:22 33qnRots0
紫がどんな状態か
そいつが一番気になるところだ…


765 : 名無しさん :2014/04/10(木) 00:53:17 7dbVlfzo0
ウェスブルーマリンの動きが気になる


766 : 名無しさん :2014/04/10(木) 01:52:10 5ZOuhJ3o0
これは蓮子がかなりかわいそう


767 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/04/10(木) 16:41:39 KhuMxRP.0
こころ、白蓮、リサリサ、諏訪子、リンゴォを予約したいんですがかまいませんね!


768 : 名無しさん :2014/04/10(木) 17:17:58 5ZOuhJ3o0
はい


769 : 名無しさん :2014/04/10(木) 17:52:47 szVeK43k0
知らないおじさんのIDだ!囲め!


770 : 名無しさん :2014/04/10(木) 18:37:01 GX0JQpBw0
ロワが完結するまで逃がすな!


771 : ◆n4C8df9rq6 :2014/04/10(木) 18:47:34 XpuXAES20
ディオ・ブランドー、ディエゴ・ブランドー、シーザー・A・ツェペリ、カーズ
予約します。


772 : 名無しさん :2014/04/10(木) 19:14:50 nyJ216uIO
シィィザァァァアアッ!


773 : 名無しさん :2014/04/10(木) 19:44:25 5ZOuhJ3o0
誰が死んでもおかしくないな


774 : ◆at2S1Rtf4A :2014/04/11(金) 00:08:10 wANSr58.0
空条承太郎、博麗霊夢、フー・ファイターズ、
火焔猫燐、ファニー・ヴァレンタインの5名を再予約します。


775 : 名無しさん :2014/04/11(金) 01:06:48 .ERjqjYc0
とうとうDIOとDioが出会ううえにカーズ来るとかもうヤバイよ


776 : 名無しさん :2014/04/11(金) 06:29:44 asRojI0c0
ジョジョの(実質)ラスボス組に囲まれるシーザー…


777 : 名無しさん :2014/04/11(金) 16:55:47 79zA8hxA0
フー・ファイターズの動きが地味に気になる


778 : 名無しさん :2014/04/11(金) 20:02:58 pX2Evla20
いよいよ放送前のラストスパートが各地で起こりつつあるな
ここを抜ければもうゴールはすぐそこやで!


779 : 名無しさん :2014/04/11(金) 20:07:17 uCxY.FTQO
第3部、完!


780 : 名無しさん :2014/04/11(金) 20:24:06 79zA8hxA0
お前もう死んだじゃん


781 : 名無しさん :2014/04/11(金) 22:50:34 37usBjHM0
彼は俺達の心の中に今も生きてるんだ


782 : 名無しさん :2014/04/12(土) 21:55:03 tXGL159c0
吸血鬼、柱の男と波紋が効く連中がいるのにシーザー・・・


783 : 名無しさん :2014/04/13(日) 02:02:49 NwDE2Cdk0
ディエゴさえ無力化すればな…


784 : ◆YF//rpC0lk :2014/04/15(火) 22:20:34 IFQtpuLM0
投下しますよ
誰かいます?


785 : ◆YF//rpC0lk :2014/04/15(火) 22:20:59 IFQtpuLM0

何処とも分からぬ場所で、モニターが光を放っている。
その画面に映ているのは、一枚の地図だ。
中央に森があり、北東に山、南に竹林―――そう、この殺し合いの会場の地図なのだ。

その地図上にはいくつもの点が表示され、点の近くには名前が書かれている。
この殺し合いの参加者達を示しているのだろう。
今もなお命を賭けたゲームを行っている者たちも、図面の上では小さくなると考えると、滑稽ともつかぬ気持ちになる。

そのモニターをじっと見つめる二人がいる。
ひとりは太田順也と言い、メガネをかけた細面の男だ。その手にはお猪口が握られている。
もう一人は荒木飛呂彦。本当の年齢が読み取れないその顔を、退屈そうに歪めていた。

「うーん。やっぱりなぁ、こうやって場所しか分からないって言うのは面白みが薄くなってくるなぁ。
 盗聴器なりなんなり仕掛けるべきだったかな」
「ンフフ、まあそう言わないで下さいよ荒木先生。分からないからこそ想像する楽しみもありますよ」
荒木は腕を組みながらつまらなそうに呟き、太田はそれにお猪口を呷りながら答えた。

実は彼らの言うとおり、二人には参加者が今どこにいるかは分かっても、
参加者が今何をしており、どのような事を考え話しているか分からない。
その事に太田はそこまで頓着していないが、荒木は既に少し不満を感じ始めていた。

「それに、今からどうやって設置します? そんなことしたら、彼らに我々のいる場所がばれますよ」
「別に僕はそれでもいいと思うけどね。そうなった方が楽しそうだ」
「冗談に聞こえませんよ」
「冗談で言ってないからなぁ」
そう言うと、荒木は溜息を一つつき、隣の太田はお猪口に酒を注いでいた。
と、そんな時である。荒木が何かに気が付いたのは。

「アレ、メールだ」
彼らの近くにあったパソコン、その画面にメール受信の通知が表示されていた。
荒木はデスクトップにあるアイコンをダブルクリックし、メールを起動する。


「……なあ、太田くん」

「何ですか、荒木先生」








「面白い事思いついた」


786 : 禁写「過去を写す携帯」 ◆YF//rpC0lk :2014/04/15(火) 22:21:39 IFQtpuLM0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

D-3、魔法の森。丁度、廃洋館から見て南に位置する場所。
その木の枝に、しゃがむ者が一人いる。
ツインテールが印象的な少女、姫海棠はたては、高下駄だというのに器用に枝の上にいる。
彼女が烏天狗だからこそ成し得る技である。

(さっき念写した巫女と男は、もういないみたいね)
森の中から川岸を見渡す。そろそろ日で照らされるだろうその川岸には、人っ子ひとりいない。
あの博麗霊夢も空条承太郎も既にどこかに移動したようだ。

(まあ、いないならいないで都合がいいか。なんてったって巫女は”勘がいい”からねぇ)
はたての目的。それは最高の新聞記事を執筆する事。
そのために殺し合いの現場を押さえねばならないし、場合によっては「作る」必要もある。
その行いは、この”殺し合い異変”への加担と見られる可能性もある。
その状態で異変解決の専門家である巫女に出会うのは避けたかったのだ。

「しかし、こっちまで逃げてきたのはいいけれど、これから何処へ行こうかな。
 あの二人がいるから南方面には行きたくないし」
徐倫と魔理沙から逃げてきた手前、あの二人にすぐ出会うわけにはいかなかった。
とはいえ、彼女も”何処で殺し合いが発生するか”など察する方法もない。
行先を決めあぐねいていた時だった。





ピロロロロッ! ピロロロロッ!



「えっ何!?」
突然の音に彼女は驚いた。電子音は彼女の持つ携帯電話が発している。
画面を見てみると、電話の呼び出しを知らせる通知は表示されていた。
電話番号こそ書かれているが、実はこの携帯電話にはどの番号がどの機器に対応しているか記録がなかった。
無論、はたてに電話したがっているこの人物が誰か、彼女にも分からない。
恐る恐る、はたては相手に会話を試みる。
「も、もしもし」
けれど、電話の向こう側から聞こえてきたのは、ある意味で”既知の相手だった”。


「やあ、ゲーム開始以来だね。君は確か、姫海棠はたて……で合ってたかな?」


787 : 禁写「過去を写す携帯」 ◆YF//rpC0lk :2014/04/15(火) 22:21:51 IFQtpuLM0

「その声、荒木ッ!?」
なんと、その電話をかけてきたのは、他ならぬゲームを仕掛けてきた張本人、荒木飛呂彦だったのだ。
「いやさ、今しがた君の書いたメールマガジンを拝見してね」
「ッ!?」
何という事か。はたての携帯に登録されていたアドレスの中には、あろうことか主催者たちのものまであったのだ。

「まさか、私に警告するためにかけたの?」
もしかしたら主催者たちは、自分が行った行動が問題だと電話してきたのか、そうはたては思った。
最悪、あの豊穣の神のように殺されるかもしれない――そう彼女が思い始めていたのだが、



「いやいや、別に僕は君の行動を制限も禁止もしない。むしろ援助しようかと思ってね」


それ故に、荒木のその言葉があまりに衝撃的だった。

「えっ、援助……ですって?」
「そうそう。いやさぁ、君の書いた記事読ませてもらったけど、なかなかいいと思ったんだよ。
 ガンマン二人の決闘、そしてその結末。こういう風なのをもっと書いてほしくってさ」
「それって、貴方たちにどんなメリットがあるの?」
「単刀直入に言うと、僕はただ楽しみたい。それには君の記事がベストなんだよ。
 それに、君が知りたい情報を僕らは持っている。話に乗らない手はないと思うけどな」
「……」

確かに、彼らと組めば彼女の知りたい事件の現場が分かる。
更なる記事執筆を望む彼女にとっては魅力的だった。

「けどさ……」
そう思いながらも、はたては言葉を続けた。

「仮に情報をもらえても、それって後出しでしょ?
 それじゃいくらもらっても、念写して記事になんてできないわよ」
はたては慎重に事を運ぼうとした。
先ほどの荒木の言葉には面を喰らったが、その声には偽りは感じられない。
それでも罠を仕掛ける可能性が拭いきれるわけではない。
第一、先ほどガンマンの決闘を念写出来たのはそのタイミングだったからであって
情報を貰おうが決定的瞬間が過去では意味がない。


788 : 禁写「過去を写す携帯」 ◆YF//rpC0lk :2014/04/15(火) 22:22:02 IFQtpuLM0

だが、そんなはたての言葉で、荒木は止まらなかった。
「確かになぁ。だけど、それを解決する方法がある。
 この電話を切ったあと情報をあげるから、その時に携帯の中身をもう少し探してみなよ。
 君のその懸念を解消できる物が入っているはずだぜ?
 放送直前になる毎にリストを送るよ」
それじゃぁ健闘を祈るという言葉と共に、荒木ははたてに構わず一方的に電話を切った。
その後すぐ、今度は携帯がメールを受信した事を知らせてきた。
メールを確認してみれば、先ほどの荒木の番号でメールが入っている。
そして本文を見てみると、確かに荒木の言うとおり、時間と場所、そして参加者の名前が書かれていた。
あの言葉の通りならば、これはそれぞれ死亡時間、死亡場所、そしてその場にいた者の名前と見ていいだろう。
更に、参加者の一部は赤字で書かれている。特に注釈は書かれてはいないが、死亡者と見て間違いない。

「……本当に送ってきたわね」
はたては一旦メールを閉じるとボタンを操作し始めた。

(荒木は本当に情報を渡してきた。つまりこの携帯には念写を補助する未知の機能があるはず)
携帯アプリをくまなく探す。カメラ、メール、アドレス帳の他にもなにやらアイコンはあるが、おそらくはこれらじゃない。
そしてメニューをボタン操作で動かしていき、最後のページで何かを見つけた。
何かの顔のようだが、目のある場所には数本のパイプが生えている、そうとしか形容できないアイコン。
そしてそのアイコン名は、


「”アンダー・ワールド”……」


はたてはアイコンを選択する。半分は自分の意思で、もう半分は誘蛾灯に引き寄せられた虫のように。
すると、画面上に文章が表示された。


――――――――――――――――――――――――――――――
このアプリは念写補助用アプリです。
起動後、念写に過去念写機能を追加します。

○過去念写機能について
  この機能は過去の現象を念写する機能です。
  現在から4時間前までの現象を念写する事ができます。
  ただし、以下の事項に注意してください。
  ●この機能使用時の念写射程は通常時と同様です。
  ●この機能仕様時は、霊力消費量が一時間分毎に2倍になります。
  ●時間換算は切り上げとなります。
――――――――――――――――――――――――――――――


789 : 禁写「過去を写す携帯」 ◆YF//rpC0lk :2014/04/15(火) 22:22:13 IFQtpuLM0

「……へぇ」
はたては文章を見ながら、一人ニタリと笑う。
ここに書かれている通りなら、4時間前の事を念写すれば、霊力を同条件の通常の念写の16倍消費することになる。
それでも、取り逃がしたくない決定的瞬間を撮れる、それは彼女にとってあまりにも魅力的だった。
こうなれば彼女の予定は一つ、「取材、記事執筆の続行」以外にない。

「あの二人が本当は何を企んでいるのか分からない。
 けど、このチャンスを逃す手はないわよね」
そう言うと、彼女は枝から降りて歩み始めた。
後退はアリス邸にいる二人のせいで出来ない。ならば前進するのみだ。
そう、前方にはあの場所がある。

「さっきのリスト、あの中に猫の隠れ家の情報があったわよね。
 死亡者は星熊勇儀と魂魄妖夢。その場にいたのは八雲紫。
 取材するまで詳細は分からないけど、これは大スクープのニオイがプンプンするわねぇ」
魂魄妖夢――あの西行寺幽々子に使える半霊の庭師。
そして八雲紫は妖怪の賢者にして西行寺幽々子の親友。
この二人が接触していた場所で何が起きたのか。はたては興味が湧いていた。


790 : 禁写「過去を写す携帯」 ◆YF//rpC0lk :2014/04/15(火) 22:22:24 IFQtpuLM0

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

【姫海棠はたて@東方 その他(ダブルスポイラー)】
[状態]:体力消耗(小)、霊力消費(小)、腹部打撲(中)
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャーの予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:まずは猫の隠れ家近くまで接近する。そして現場の念写を行う。
2:記事のネタを掴むべく奔走する。
  掴んだネタはメールマガジンとして『姫海棠はたてのカメラ』に登録されたアドレスに無差別に配信する。
3:荒木の提案に乗る。リストは最大限活用させてもらう。
4:使えそうな参加者は扇動。それで争いが起これば美味しいネタになる。
5:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
6:文の奴には死んでほしくない。でも、あいつは強いからきっと大丈夫。
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※制限により、念写の射程は1エリア分(はたての現在位置から1km前後)となっています。
 念写を行うことで霊力を消費し、被写体との距離が遠ければ遠い程消費量が大きくなります。
 また、自身の念写に課せられた制限に気付きました。
※「ダブルデリンジャー@現実」は徐倫に奪われました。
※徐倫のランダムアイテム「スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部」を奪い取っています。
※ムーディー・ブルースの制限は今のところ不明です。
※猫の隠れ家近くまで接近する予定です。どの程度接近するかは書き手さんにお任せします。
※リストには第一次放送までの死亡者、近くにいた参加者、場所と時間が一通り書かれています。
  次回のリスト受信は第二次放送直前です。

※アプリ”アンダー・ワールド”について
  このアプリを起動時は通常の念写に加え、4時間前までならば任意の過去の時間を念写することができます。
  アプリ起動時も念写射程は通常時と変わりませんが、霊力は時間を遡る毎に増加します。
  1時間分で2倍増加し、4時間で最大16倍の消費量になります。
  時間は切り上げとなっており、例えば1分前でも一時間分と換算されます。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「さてと、これで少しは楽しくなりそうだな。 頑張ってくれよ、姫海棠はたて」


791 : ◆YF//rpC0lk :2014/04/15(火) 22:24:18 IFQtpuLM0
短いですが投下終了です。

はたての念写に関して、過去に発生した瞬間を念写できるのか記憶にありません。
なので今回携帯に新機能を追加する展開にしました。
「もともと過去の瞬間も念写出来るよ」という事であれば、修正版を近日中に投下します。


792 : 名無しさん :2014/04/15(火) 23:52:03 fCK0nsB20
投下乙!
はたて…とうとう主催と組んじまったか…
天狗の機動力と過去写が合わさればかなりの情報を操れそうで面白味の幅が拡がるね

気になった点としては猫の隠れ家じゃなくて隠れ里というのと、死亡者の妖夢と勇義に加えてズィーズィーの事も思い出してやって欲しいことかなw


793 : ◆YF//rpC0lk :2014/04/15(火) 23:55:41 IFQtpuLM0
>>792
了解です。
まとめ時に誤字を訂正します。

ズィーズィーについては幻想郷の住人ではなく、はたて自身は遭遇したこともないので気に留めていないだけです


794 : 名無しさん :2014/04/16(水) 00:10:08 bKNtXmmA0
投下乙です。

携帯電話の新機能について問題ないと思います。
はたての能力は既にある写真か、キーワード検索で出せるものか、だったと思うので

でも、はたてそっち行くと折角の情報活かせずに死ぬんじゃね…ww


795 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/16(水) 01:03:09 HWiGyzNg0
投下乙です!
はたてちゃん……主催者まで混ざって、煽動力に磨きをかけましたね……
頑張って欲しいけど頑張ったら頑張ったで厄介なことになりそう……

では自分も霧雨魔理沙、空条徐倫、ワムウを予約します。


796 : 名無しさん :2014/04/16(水) 01:22:55 fTXhMBQg0
念写に加えてムーディ・ブルース、過去写、主催者リストまであるとなるともはや最高の情報持ちになれるなはたて

予約もどんどん増えて楽しみな限りである


797 : ◆YF//rpC0lk :2014/04/16(水) 12:08:41 .hPh8mA.0
すみません。はたての状態表に時間と場所を書き忘れていました。
【D-3 魔法の森/早朝】
を状態表に追加します。


798 : 名無しさん :2014/04/16(水) 12:19:56 .EwtqUHIO
投下乙です。

主催には詳しいことが分からないってことは、はたてのメルマガで情報を誤認させられるってことだな。


799 : ◆YF//rpC0lk :2014/04/16(水) 21:32:30 XYU3bu4c0
済みません。訂正箇所がありました。
>>786における
>電話番号こそ書かれているが、実はこの携帯電話にはどの番号がどの機器に対応しているか記録がなかった。
の部分を
>電話番号と対応した機器は書かれているが、それらを誰が持っているかまでは分からない。
に訂正します。


800 : ◆n4C8df9rq6 :2014/04/17(木) 01:54:34 LCq8mvAQ0
予約延長します。


801 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/04/17(木) 19:20:33 V8gwHmUk0
間に合わないので延長します


802 : ◆at2S1Rtf4A :2014/04/17(木) 20:32:58 3QVAv8KU0
予約延長します


803 : ◆.OuhWp0KOo :2014/04/17(木) 22:57:58 mO3nNcm20
予約を延長します。


804 : 名無しさん :2014/04/18(金) 23:13:57 pUCRUnRU0
何だこの延長ラッシュは、たまげたなぁ…


805 : 名無しさん :2014/04/18(金) 23:27:51 vqDJrg060
…まさかみんなで口裏合わせてるんじゃ


806 : ◆n4C8df9rq6 :2014/04/19(土) 00:18:09 jA5fAo2k0
そうだったのか…(棒)


807 : 名無しさん :2014/04/19(土) 07:47:06 gpFd6cWYO
そこに気付くとはやはり天才か…


808 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/23(水) 20:26:28 cfvVgug20
予約を延長致します。


809 : 名無しさん :2014/04/23(水) 22:19:08 kBer.ZlU0
雑談スレの方で言っても反応がないから一応こっちでも。
ジョジョロワにもあった作品批評スレって立てられないかね


810 : 名無しさん :2014/04/23(水) 22:30:51 mU72ocPM0
立てて損は無いかもしれない


811 : 名無しさん :2014/04/23(水) 22:32:45 5svBeMQo0
あってもいいと思うけど別にどっちでもいいんじゃないかなって感じ


812 : 名無しさん :2014/04/24(木) 00:47:19 kiBExfV.0
た…頼む、みんな頑張ってくれー!
俺は楽しみにしてたんだ…頑張ってくれ…


813 : 名無しさん :2014/04/24(木) 12:33:04 RsRXD4OsO
だが断る(誤用)


814 : ◆GCOHlc0iHQ :2014/04/24(木) 15:57:30 JPAubNZw0
すいません。ちょっと本当にだが断るさせてもらいます
書くって行為を甘く見てました
このロワは好きですし、また書いてみたくはありますが今回の予約は破棄させてもらいます
こころ、白蓮、リサリサ、諏訪子、リンゴォを長い間拘束してすいませんでした


815 : 名無しさん :2014/04/24(木) 19:59:29 rG9GJI1o0
オーノーだズラ。次回に期待するズラ。


816 : ◆n4C8df9rq6 :2014/04/24(木) 23:26:07 qoWeXwOw0
申し訳ございません、ギリギリ間に合わなそうなので一旦予約破棄させて頂きます


817 : 名無しさん :2014/04/25(金) 00:57:22 zD9sWQbs0
これはマズい流れだぜ…


818 : 名無しさん :2014/04/25(金) 01:02:47 b3Dck93g0
覚悟は幸福なんだ…


819 : ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:02:51 t5UmllLA0
じゃ、そんな流れを大切断するために投下開始します。


820 : ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:03:16 t5UmllLA0
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

刑務所の東部から立ち上り続けていた煙の柱は、爆発音の直後に比べれば幾分かの落ち着きを示していた。
もっともその勢いは、まだまだ遠目でもすぐに目に付く程度には残っていたのだが。

宇佐見蓮子と霍青娥(とヨーヨーマッ)は、その煙の柱の根元に近づきつつあった。
目の前、木と土壁でできた質素な造りの日本家屋が立ち並ぶ集落から、煙が立ち上っているのがわかる。
さっきの爆発は、あの集落で起こったらしい。

いつもの癖で蓮子が空を見上げると、青空に塗りつぶされつつある星空と、白い満月が目に入った。
……と同時に彼女の瞳は、現在の時刻と位置を正確に認識する。

現在時刻……5時31分06秒。位置……D−2エリア、西端から251m、南端から190m。
つまり、目の前を200m程進んだ先に見えているあの集落が『猫の隠れ里』で間違いないようだ。

「……えっ?」

そこで蓮子は小さく驚きの声を漏らす。
……あまりに当たり前の様に頭に入ってきていた情報だったので、さっきは気づく事ができなかった。

(ここが、『この会場』がどこにあるのか判らない……!)

蓮子の持つちょっと不思議な目。
『星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力』。
写真に写り込んだ夜空だけを手がかりに、見知らぬ土地の心霊スポットさえ探し出すことができる彼女の目が、
この場では『会場内の位置』しか判別できなくなっている。

(私の身体……何かされたの?
 そもそもここはどこなの?目の前の家はだいぶ昔の日本家屋みたいだし、
 植物学には詳しくないけど、どうやらこの辺りの植生は日本のもの……のように見える。
 ……じゃあ、さっきの何から何まで英語で書かれていたグリーンドルフィン刑務所とやらは何なの?
 地図上に記されていたイタリアの遺跡、ポンペイは?コロッセオは!?)


821 : ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:03:39 t5UmllLA0
もう幾つ目か分からない、言いようの無い不安と混乱の種が蓮子にさらにのしかかってきた。
……が、ぐっとこらえる。今の蓮子に悩む余裕はない。
振り返ると、今の自分を縛り付ける存在の姿があった。霍青娥。
青い髪から抜き取った金色のカンザシを指でくるくる回しながら、怪訝そうな目で見つめているが……。

(カンザシに気を取られてるっぽい今なら、全力で走り出せば逃げ切れるかしら?
 ……絶対無理ね。すぐに追いつかれて……今度こそ虫を潰すみたいに殺される。体力が違いすぎる。
 体つきは私やメリーとそんなに変わらないんだけど。……それがホント不気味だわ。)

そんなことを思っているうち、蓮子はうっすらと漂いだしていた煙の臭いが濃くなっていることに気づく。
木や紙の他に、プラスチックが燃えるような臭いが漂ってきていた。
蓮子は思わず咳き込み、頭の帽子を口元に当てた。

二人(と一体)で家屋の陰から煙の発生源と思しき辺りを覗きこむと、
案の定、そこには地獄絵図が広がっていた。
黒く焼け焦げた金属塊は、無残にもバラバラに破壊されたガソリン自動車らしき物体の残骸だ。
所々、タイヤや座席がまだくすぶっていて、煙は主にそこから発生している。
火の手は周囲の家屋にも及んでいたようだ。
地面には大きなクレーターが出来ていて、クレーターの無い部分には銃弾が撃ち込まれたようなくぼみが無数に広がっていた。
おまけに、ボッキリとへし折られた大木も転がっていた。
こんな破壊を引き起こす武器や能力を以って殺し合いに乗っている者が、
さっきの『クリーム』なるスタンドの使い手の他にも、ゴロゴロいるのだ。

酷い、などと蓮子がこぼす間も無く、背中から声が突き刺さってきた。

「ヨーヨーマッ、蓮子ちゃんと一緒に、ちょっと向こうの様子見てきてくれないかしら?
 私は隠れてるから」


822 : ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:04:01 t5UmllLA0
『かしこまりましたァ、ご主人様』「えっ」

「蓮子ちゃん、何か不満なの?」

まだここで戦闘を行った者がここにいるかも知れない。
そんなのに襲われたら、ただの人間など即死だ。
やめてくださいしんでしまいます。精一杯の勇気を振り絞り、蓮子は反論を試みた。

「……その、私が行く必要は、あるんですか?
 不死身の『ヨーヨーマッ』だけで行かせればいいのでは。
 ……こんな力を持った相手が、まだ近くにいないとも限りません」

静かに、だが必死で蓮子は青娥に進言した。
青娥はそんな蓮子の心中を知ってか知らずか、にっこりとほほ笑みながら言葉を返した。

「蓮子ちゃん、スタンドについて、貴女が私にさっき話してくれたこと、覚えてる?
 スタンドには、『本体』となる者がいるってこと」

「……私が『ヨーヨーマッ』の本体のフリをして、もしもの時は囮になれと」

「理解が早くて助かるわぁ。……『行けません』なんて言おうものなら、
 とっとと〆て、キョンシーにでもしちゃう所だった」

『〆(シメ)る』って、家畜か何かか。
……実際、そうなのだろう。今の私は、家畜だ。

『では、行きましょう。蓮子様、いえ、ご主人様。
 ……途中で武器になりそうな物が落ちていても、貴女様が拾ってはいけませんよ?』

ヨーヨーマッが早くついて来い、と手招きしている。
どうやら今の私には危険を避ける事も、身を守る為の力を持つことさえも許されないらしい。
どうか、誰も襲って来ませんように、と祈ることしかできなかった。

「ふふ。グッド・ラックよ。ヨーヨーマッに、蓮子ちゃん。
 ん?面白いコトを願うなら、バッド・ラック(悪運を祈る)の方が良いかしら?」


823 : ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:04:19 t5UmllLA0
身を屈め、煙にむせ返りながら、蓮子はヨーヨーマッに先導される形で、重い足取りで歩みを進めた。
民家のすき間を抜けると幾分開けた広場のような場所に出た。
物陰越しからは見えなかった物が見える。
煙で霞んだ周囲を見回すと、いくつかの人影が見つかった。幸か不幸か、動く様子は無い。
うつ伏せに倒れた小柄な女の子と、がっしりした体格の金髪の女の人。
二人共全身黒焦げで、金髪の人は片腕が無くて、頭の下の地面に黒い血たまりができていて……死んでいる。
そして、金髪の人の腕に貫かれたまま動かなくなっている……男の人……人?小鬼(ゴブリン)?
女の人たちと同様に火傷だらけの身体は餓鬼の様に貧相で、
腕だけがボディビルダーの様にムキムキで……そんな彼もピクリとも動かない。

『皆さん、既に事切れていますねェ……先ほどの爆発の原因も、彼らによるものでしょうか』

蓮子は、こみ上げる吐き気をどうにかしてこらえながら、彼らの元に近づこうとした。
傍に座り込んでいる見慣れた後ろ姿に釘付けになったのは、その時だった。

「メリー!!」

見間違えるはずがない。
所々焼け焦げているが、紫色のスカートに、金髪で、白いナイトキャップを被った女性。
蓮子の唯一無二の友人である、メリー……マエリベリー・ハーンのいつものファッションだ。
いや、服装や髪型は大した問題じゃない。たとえ服装を変えていたとしても、判る。
アレはメリーの姿だ。根拠などないが、蓮子にはそう言い切れる自信があった。

「メリー、メリーでしょ!?私よ!ケガしてないの?」


824 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:04:49 t5UmllLA0
蓮子の呼びかけに気づいたのか、座り込んでいた金髪の女性はゆっくりと立ち上がり、
蓮子(とヨーヨーマッ)の方を振り向いた。ケガをしているのか、右腕がブラブラと力なく垂れ下がっている。
だがそんなことを案ずる余裕は蓮子にはなかった。

「フフフフフフ……」

「あ、貴女……誰!?」

メリーらしきその女性の表情は、『般若』の様に恐ろしく歪んでいたのだ。
その残忍な視線を浴びるだけで、蓮子は脚がすくんで動かなくなる。
左手に持っているのは……刀!?

「ウオオオオーーーーーッ!」

蓮子とヨーヨーマッが逃げ出す間も無く、メリーと似た姿の殺人鬼が刀を振り上げ斬りかかってきた。
……と思った瞬間、ヨーヨーマッは悪臭を周囲に撒き散らしながら、

『ンギモッヂイイーーーーー!!』

と豚のように叫びつつおよそ20個程の肉片と化し、地面にゴロゴロと撒き散らされていた。

「ひとぉーーつ……!」

殺人鬼はいつの間にかヨーヨーマッの傍らに立ち、肉片を見下ろしてそう呟いていた。
目にも映らない速さの斬撃が、ヨーヨーマッを切り刻んでいたのだ。全く視えなかったが、そうとしか考えられない。
とても逃げ切れない。力なくへたり込む蓮子に気づき、女殺人鬼が顔を向けた。


825 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:05:05 t5UmllLA0
「……ん?『本体』が無事だな?……そういうタイプのスタンドもあるのか。
 まあいい。……斬れるモノが増えてちょっとおトクだしな」

そして、殺人鬼は再び刀を勢い良く振り上げ、

「テメエもぶった斬れろおおおオオオオーーーーーーッッ!
 ウシャアアアアアーーーーーー!!」

と、斬りつけてきたのだった。蓮子の間近で、激しく刀を振り回す殺人鬼。
動きが速すぎて刀身が見えない。斬られた痛みも不思議と全く感じない。
蓮子は時代劇でよく見る、剣豪に名刀で斬られると傷口が後から開く、あの現象を思い出していた。
いずれにせよ、ここで私は死んでしまったのだ。

「ワハハハハハハァーーー……ってアレっ?」

彼女は突如動きを止め、空の左手を見てあんぐりと口を開ける。
向こう側に見えていた古井戸に光る棒状の物体が吸い込まれていき、カラーンと音を立てた。
と同時に、彼女の頭が何かに殴られたかの様に激しくブレ、そのまま倒れこんでしまった。

「……青娥、さん?」

「あら、蓮子ちゃんまだ生きてたの?」

霍青娥だ。光学迷彩で姿を消し……私達の後ろからついてきていたのだろう。
そしてこのメリーに似た姿形の殺人鬼が隙を見せた瞬間に、不意討ちを仕掛けたのだ。

「良い働きだったわ、ヨーヨーマッ。いいこいいこ。
 あの刀をどうにかしなければ、背後からでも危なかったでしょうからねぇ」

よく見ると殺人鬼の刀を握っていた手袋はボロボロで、
手の皮膚もアルカリで溶かされた様にヌルヌルになっている。
ヨーヨーマッが斬られ際に吹きつけていた唾液が、彼女の刀を握る手の皮膚を溶かしていたのだろう。
そして握りが甘くなったまま私に向かって刀を振りかぶったとき、スッポ抜けてしまったのだ。


826 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:05:23 t5UmllLA0
うつ伏せに倒れて気を失っている女性を見下ろし、霍青娥が呟く。

「それにしても、あの八雲紫が、ねえ……」

「青娥さんのお知り合い……なんですか?」

「ええ、お世話になっているお方よ。
 だけどまさか殺し合いに乗ったりするなんて。それもあんな、般若みたいな形相で。
 コレはもういろいろと終了かも分からないわねぇ」

「まさか……この人を、どうするつもりですか!?」

蓮子は青娥が『八雲紫』と呼んでいた女性の顔を見ながら青娥に問いかけた。
青娥の手にはいつの間にか拾っていたらしい、やけに大きな拳銃が握られている。

「どうするって……念のため『殺しとく』に決まってるじゃない。
 起きた時また襲ってきたら、今度は私達の手に負えるかわからないし」

「やめてください……この人、メリーの家族かも知れない。メリーにそっくりなんです。
 私、メリーの家族のこと、まだよく知らないけど……
 お姉さんか、もしかしてお母さんか……とにかく、メリーと赤の他人とは思えない!
 だから、お願いします……この人を殺さないでください!」

「ぷっ……くくッ、あっはっはっはっはっはっは!
 さっきの『本のスタンド使い』に続いて、クチの減らないコだわ。
 自分の立場もわきまえずに!まず『殺しとく』べきだったのは貴女の方かもね」

銀色の、ギラギラ光る銃身が蓮子の額に突きつけられた。
蓮子は内臓が縮み上がって口から出そうな程の緊張に襲われながら、
消え入りそうな声で、それでも懇願する。

「お願いします……あのメリーの家族に、理由もなく殺し合う人がいるとは思えない……。
 きっと何か理由があったんです……。例えば、突拍子もない話だけど、
 持っていたあの刀に操られていた、とか……。だから、あの人を、紫さんを殺さないで……!
 その、私、何でもしますから……!」


827 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:05:44 t5UmllLA0
「『何でもする』って、貴女が、私に?これ以上何をできるというのかしら?
 ……それこそ今ここで死んでキョンシーになるくらいしかできないのではなくて?」

拳銃の引き金にゆっくりと力が込められるのが見え、蓮子はもうここに来て何度目かわからない死を予感した。
そして

「バーーン!」

青娥の口から発せられた銃声で蓮子の身体がビクンと跳ねる。

「冗談よ、ジョーダン♪」

青娥は言い放って、くつくつと悪戯ぽく笑っていた。
蓮子はというと、緊張で呼吸もままならずに立ち尽くしていた。

「私にとってもあの人は『大事なお方』なんだし?無闇に殺したりはしないわよ。
 というわけで蓮子ちゃん、大事な大事な紫ちゃんを、焼け残った家まで運ぶわよ」

「は……はい!」

こうして気絶した紫を背負った蓮子は、
死者達のデイパックを抜け目なく回収する青娥の後について里の外れに向かったのだった。
そして間近で背中にいる『八雲紫』なる女性の寝顔を見て、蓮子は思う。

(やっぱりこの人、メリーに似てる……)

「あ、蓮子ちゃん。さっき『何でもする』って言ったわよね?」

「へっ!?」

「私覚えたからね?後から言ってない、なんてゆーのはダメよ?」

「うぅ……」


828 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:05:59 t5UmllLA0
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

程なくして、蓮子たち一行は隠れ里の外れで無傷の廃屋を見つけることができた。
蓮子はガクガクと震える膝で、目を瞑ったままの紫を、ゆっくりと床に下して柱に腰掛けさせた。
そしてぜーぜーと荒い息で一言。

「ひーっ、つかれたー」

『重かったー』という言葉が口を突いて出そうになるが、ぐっとこらえた。

「あらあら、女の子ひとり背負ってちょっと歩いたくらいでへばっちゃうなんて。
 やっぱり貴女キョンシーになってみる?そうすれば疲れ知らずよぉ」

「遠慮しておきます……」

そんなやりとりの間に、青娥はどこからか拾ってきていた荒縄で紫を柱に括りつけていた。

「さて、彼女の前にはこんな縄、気休め程度でしょうけど……。
 紫ちゃんが目を覚ますまで待ってから、事情を聞いてみましょうか?」

「そこは心配無いと思いますよ……。
 えーと、八雲さん、でしたっけ?もう目を開けても良い……と思います」


829 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:06:13 t5UmllLA0
蓮子が柱に縛られてうつむく紫にそう声を掛けると、彼女はゆっくりとした動作で首を上げ、まぶたを開いた。
青娥は驚き、いつにない機敏な動作で紫に拳銃を向ける。
紫はそんな脅しなどどこ吹く風といった様子で、蓮子に尋ねた。

「……よく私のタヌキ寝入りを見抜くことができたわね」

「ええ、まあ」

蓮子がいつもの二人で呑んだ後、メリーが先に酔いつぶれた時に良く使われた手だった。
本当はとっくに酔いなんて醒めてるのに、部屋まで背負って運ばされた事は一度や二度ではない。
その時のメリーのタヌキ寝入りの様子が、ちょうど先ほどまでの紫とそっくりだったのだ。

「運ばれる途中で目を覚ましたら問答無用で撃たれかねないから、敢えて縛られた……という訳ね?」

「そんな所よ」

「マゾなの?」

「……断じて違うわ」

「あの……八雲さん、話してくれませんか?ここで、何があったか。
 その……話せる範囲で、いいですから」

「ええ、話すわ。洗いざらい……ね」


830 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:06:29 t5UmllLA0
蓮子は奇妙な既視感を感じながら、『八雲紫』なる人物のここでのいきさつを聞いた。
敢えて話を聞くというよりは、紫がいてもたっても居られずに漏らす言葉を聞いてあげる、という表現が正しいか。

スタンド使いの人間(!)であるズィー・ズィーを手懐けたこと。
妖刀を手にした『半人半霊』、魂魄妖夢。地底に住まう『鬼』、星熊勇儀。
ゲームに乗り、殺し合いを繰り広げていた二人を紫が止めようとしたこと。
そんな紫に……今日出会ったばかりの紫に、ただの移動手段にしか思っていなかった
ズィー・ズィーが命賭けで協力してくれたこと。
だが、紫達の介入も空しく、三人ともを喪う結果に終わってしまったこと。
茫然自失としていた所、ふとした拍子で触ってしまった妖刀に身体を奪われて、
蓮子たちを襲撃してしまったこと。

そして最後に『八雲紫』なる人物は、ポツリと漏らした。

「ねえ、貴女は嘲笑(わら)ってくれるかしら……こんな間抜けを演じた私を……」

「…………………………」

蓮子は何も答えることができなかった。
危険を冒して最善を尽くした結果、最悪の結果を招いてしまった彼女に対し『もう一度頑張れ』などと
勇気づけてやる残酷さを、蓮子は持ちあわせていない。
それに……

「あの……八雲さん、貴女は一体何者なんですか!?
 仲間がいたとはいえ、あんな、一撃で地面にクレーターを作ったりする『鬼』や、
 車を真っ二つにする『妖刀』の使い手を相手にしようと考えるなんて」

……自己紹介がまだだった。
そこでうっかりしていたという風に紫が答えた。

「……私?私は、『スキマ妖怪』の八雲紫よ」

「スキマ……妖怪?」

「ええ、私はありとあらゆるもののスキマ……境界を操ることができる。
 ……この場ではほとんど力が発揮できないのだけど……」

そう言って紫は左腕を蓮子の右腕に伸ばしてきた。


831 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:06:49 t5UmllLA0
左腕の向かう先、紫の視線を見て、蓮子は初めて気付いた。
気にしていられる状況じゃなかったが、右腕に小さな切り傷を負っている。さっき斬られたのか。
紫を縛っていた縄は、きつく巻きつけたはずなのにいつの間にかほどけている。
そして、紫が荒れた左手の平で蓮子の切り傷を撫でると……

「『境界』が……!これは、『境界』なの!?」

パックリ開いていた傷口の端に赤いリボンが結ばれ、傷口の中から暗い空間が覗く。
その空間は独りでに細くなって見えなくなり、
リボンが消えると共に傷口はまるで最初から存在しなかったかの様に消えてしまった。

「例えば、貴女の腕にできた、傷口という境界を消す……この程度の力は残っているわ。
 本当にこの程度か……あるいはそれにちょっと毛の生えた程度の力しか、今は発揮できないのだけど」

(一緒だ……!細かい所は違うけど……私が直接見たわけじゃないけど、
 メリーから話に聞いた、『境界』の様子と……!
 メリーと他人とは思えないほど姿形がそっくりで、
 メリーが視える境界をこの人、いえ、この妖怪、の女の人は操ることができて、
 ……ああ、もう聞いてみた方が早い!)

「あ、あのっ、八雲さん!」

「……何よ?」

「メリー、いえ、マリェベ、じゃなくて……メアリーベル、でもなくて……」

「『マエリベリー・ハーン』なら、名簿にあったけど」

「そう!知りませんか!?その人の事を「はぁーい、ちゅうもーく!!」

今まで紫の話もそこそこに、黙々と回収した支給品の説明書きを読みふけっていた青娥が二人の話を遮った。


832 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:07:11 t5UmllLA0
「青娥、……さん!」

大事な話を邪魔された蓮子が、恨めしい感情を必死に抑えながら青娥の言葉に耳を傾ける。

「紫ちゃんとメリーの関係は私も興味があるけど……そろそろ時間よ。『放送』とやらの」

蓮子が窓の外に覗く明けの明星を見上げると、時刻は『5時59分53秒』を指していた。

(そうね、まずは放送を聞かないと。……大丈夫、きっとメリーは生きてる)

【D-2 猫の隠れ里外れの廃屋内/早朝・第1回放送直前】

【宇佐見蓮子@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(中)、首筋への打撃(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:メリーと一緒に此処から脱出するために、とりあえずは青娥の命令に従う。
1:八雲紫とマエリベリー・ハーンの関係を知りたい。
2:今は青娥に従う。
3:メリーとジャイロを探す。
4:いつまでも青娥に従うわけにはいかない。隙を見て逃げるか…倒すか…。
5:・・・強くなってメリーを守りたい。
[備考]※参戦時期は少なくとも『卯酉東海道』の後です。
※ジョニィとは、ジャイロの名前(本名にあらず)の情報を共有しました。
※「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力」は会場内でも効果を発揮します。
※DISCに関する更なる詳しい情報をヨーヨーマッから聞いてます。


833 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:07:31 t5UmllLA0
【D-2 猫の隠れ里/早朝】
【八雲紫@東方妖々夢】
[状態]:茫然自失、全身火傷(やや中度)、全身に打ち身、右肩脱臼、左手溶解液により負傷、霊力中消費
[装備]:なし(左手手袋がボロボロ)
[道具]:なし(霍青娥に奪われる)
[思考・状況]
基本行動方針:…………
1:私って、なんて間抜けなの……

[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます。

【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:疲労(中)、全身に唾液での溶解痕あり(傷は深くは無い)
[装備]:S&W M500 (残弾5/5)、スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部、河童の光学迷彩スーツ(バッテリー90%)@東方風神録
[道具]:双眼鏡@現実、500S&Wマグナム弾(13発)、
 未確定ランダム支給品(魂魄妖夢、星熊勇儀のもの。青娥だけが内容を確認済み)、基本支給品×5
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:会場内のスタンドDISCの収集。ある程度集まったらジョルノにプレゼント♪
2:第一回放送を聞く。
3:八雲紫とメリーの関係に興味。
4:蓮子をDISC収集のための駒として『利用』する。
5:あの『相手を本にするスタンド使い』に会うのはもうコリゴリだわ。
6:時間があれば芳香も探してみる。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※光学迷彩スーツのバッテリーは30分前後で切れてしまいます。充電切れになった際は1時間後に再び使用可能になるようです。
※ジョルノにDISCの手土産とか言ってますが、それ自体にあまり意味は無いかもしれません。やっぱりDISCを渡したくなくなるかも知れないし、彼女は気まぐれですので。
※スタンド及びスタンドDISCについてかなりの知識を得ました。現在スタンドDISC『ヨーヨーマッ』装備中。
※頭のカンザシが『壁抜けののみ』でない、デザインの全く同じ普通のカンザシにすり替えられていることに気づきました。
※魂魄妖夢、星熊勇儀、ズィー・ズィー、八雲紫の荷物を回収しました。


834 : 向こう側のメリー ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:07:49 t5UmllLA0
そんな蓮子たちの心配をよそに、斜向かいの家屋に潜む影がひとつ。

(女3人、こちらには気づいていない……が、ちょうど『放送』の時間か。
 どうする?放送を聞いてから仕掛けるか?……放送と同時に襲う、という手もあるが……)

弱者たる蓮子にこの場では、唯一無二の友を気にかけることすら、許されていないのかも知れない。

【D-2 猫の隠れ里外れの廃屋(蓮子達3名のはす向かい)/早朝・第1回放送直前】

【ウェス・ブルーマリン@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:肋骨、内臓の損傷(中)、背中への打撲(処置済み)、服に少し切れ込み(腹部)
[装備]:妖器「お祓い棒」@東方輝針城、ワルサーP38(8/8)@現実
[道具]:タブレットPC@現実、手榴弾×2@現実、不明支給品(ジョジョor東方)、ワルサーP38の予備弾倉×2、
ワルサーP38の予備弾×7、救急箱、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:ペルラを取り戻す。
1:この戦いに勝ち残る。どんな手を使ってでも、どんな奴を利用してでも。
2:三人組の女(蓮子・青娥・紫)に襲撃を仕掛ける。
3:空条徐倫、エンリコ・プッチ、FFと決着を付け『ウェザー・リポート』という存在に終止符を打つ。
4:姫海棠はたてが気になるが、連絡を試みるかは今のところ保留。
5:あのガキ(ジョルノ)、何者なんだ?
[備考]
※参戦時期はヴェルサスによって記憶DISCを挿入され、記憶を取り戻した直後です。
※肉親であるプッチ神父の影響で首筋に星型のアザがあります。
 星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※制限により「ヘビー・ウェザー」は使用不可です。
 「ウェザー・リポート」の天候操作の範囲はエリア1ブロック分ですが、距離が遠くなる程能力は大雑把になります。
※主催者のどちらかが『時間を超越するスタンド』を持っている可能性を推測しました。


※アヌビス神はD-2猫の隠れ里、古井戸の底に落ちています。『誰か拾ってくれよぉ〜〜さびしいよォォ〜〜』


835 : ◆.OuhWp0KOo :2014/04/25(金) 01:08:11 t5UmllLA0
投下を終了します。


836 : 名無しさん :2014/04/25(金) 01:16:25 b3Dck93g0
投下乙です
ウェスは様子見か…3対1じゃ勝てんよな…


837 : 名無しさん :2014/04/25(金) 01:23:32 m5LjP/Uw0
投下乙です

アヌビス神が場を荒らすかと思ったけど、あっさり撃退する娘々さん
怖いわー、邪仙怖いわー。
地味に未開封だった妖夢と勇儀のランダム支給品も入手してホクホクでしょうね


838 : 名無しさん :2014/04/25(金) 01:46:30 YCFJ2fqI0
投下乙です。
青娥は相変わらずマイペースで見てて楽しいなw
ウェスの事すっかり忘れてたけどこれからひと悶着ありそうだ


839 : 名無しさん :2014/04/25(金) 19:09:20 5lY1Emos0
今日は承太郎達の予約期限か…

次におまえは「投下します」という!


840 : ◆at2S1Rtf4A :2014/04/25(金) 23:24:12 m5LjP/Uw0
明後日「投下します」…ハッ!?

申し訳ありませんが今日中の投下は難しいと思い、予約を一旦破棄します
ただ9割ほど書けたので、予約が可能になる4月27日には投下しようと考えています。

それでもよろしかったらもうしばらく時間を下さい、お願いします…


841 : 名無しさん :2014/04/25(金) 23:29:54 5.2KFzqY0
元々の期限が4月2日だったのを考えると流石にそれはなぁ…


842 : 名無しさん :2014/04/25(金) 23:38:32 e2MjutrM0
まぁ9割ほど書けたんならいいんじゃないかな


843 : 名無しさん :2014/04/25(金) 23:39:08 RQwAl5Ps0
いくらでも待つよ。どうせこのロワならいつもの事だし
一番怖いのは投下が1つも来ずに過疎化すること。遅筆でも投下が来るだけありがたい


844 : 名無しさん :2014/04/25(金) 23:44:20 t5knHwsM0
作品が投下されるというのは本当にありがたいことだけど、ルールはルールなので次からはこんな事がないようにしていただきたい
絶対だよ!


845 : 名無しさん :2014/04/25(金) 23:46:04 e2MjutrM0
けーね先生との約束だよ


846 : 名無しさん :2014/04/26(土) 03:21:53 Yf2Vdm.E0
蓮子も青娥もヨーヨーマッもついでにタヌキ寝入りをする紫も可愛いよ


847 : 名無しさん :2014/04/26(土) 17:22:34 JG.EzIuM0
ウェスは可愛くないと


848 : 名無しさん :2014/04/26(土) 17:55:28 LXaN6F0k0
テレビガイドマニアなのにテレビ見ないウェザーかわいい


849 : ◆n4C8df9rq6 :2014/04/27(日) 16:52:36 qH2c.l.60
ディオ・ブランドー、ディエゴ・ブランドー、シーザー・アントニオ・ツェペリ、カーズ
再予約させていただきます。


850 : 名無しさん :2014/04/27(日) 17:13:03 2uKt0AuU0
放送前の最後のひとふんばりや…


851 : 名無しさん :2014/04/27(日) 17:38:38 hcQ1CKjY0
その面子なら長編になるのも仕方ないか
…前編だけ投下して後編は後日とかやめてくださいよ


852 : ◆n4C8df9rq6 :2014/04/27(日) 18:02:47 qH2c.l.60
(その予定は無いのでごあんしんください)


853 : 名無しさん :2014/04/27(日) 20:15:07 UmgfopewO
(ファミチキください)


854 : 名無しさん :2014/04/27(日) 20:28:03 or1gHq2o0
(こいつ…脳内で投下を…!?)


855 : 名無しさん :2014/04/27(日) 20:35:29 PPg1ABNs0
ちゃんとスレに投下してくださいね☆


856 : ◆at2S1Rtf4A :2014/04/28(月) 00:39:27 AfPs2p6s0
予約を破棄します。結局間に合いませんでした
読み返してみると、かみ合わない点が多々あって現在手直ししている始末です。

1ヶ月間のキャラの拘束、完全に当ロワの進行の妨げにしかならなかったこと
本当に申し訳ありませんでした。


857 : 名無しさん :2014/04/28(月) 00:42:51 u2wc1hjI0
マジ…?
投下の予定は…?そこハッキリさせないと結構困る


858 : ◆at2S1Rtf4A :2014/04/28(月) 01:16:51 AfPs2p6s0
このままだと、私自身しばらく時間が取れそうにないので、一週間先になります。
それよりも先に投下、予約があるなら、そちらを優先させてあげてください。

しかし、この言い方だと予約を躊躇われる方もいらっしゃる思います。
なので、もうこの予約に私が関わらないでほしい方がいらしたら、仰ってください。

その際は投下そのものを諦めようと思います。


859 : 名無しさん :2014/04/28(月) 01:24:20 6l0lm8mc0
投下できるなら一週間でも二週間でも待ちますよ


860 : 名無しさん :2014/04/28(月) 08:33:01 zRyZUW9.0
そんなに速い流れでもないし、全部ゲリラ投下でもいいような…


861 : 名無しさん :2014/04/28(月) 10:27:40 fb2BzOqU0
ただでさえマップ狭めで複数のキャラがエンカウントしやすいのに
全部ゲリラ投下になんてなったら逆にやりづらいから(良心)


862 : 名無しさん :2014/04/28(月) 10:55:08 3Iod4nis0
大切なのは完結に向かおうとする意思だと思っている


863 : 名無しさん :2014/04/28(月) 11:06:49 gdmnoNf20
おれは…書き手になりたいと思っていた…
子供のころから…ずっと
りっぱな書き手に…なりたかったんだ…


864 : 名無しさん :2014/04/28(月) 15:38:20 iq5XPaSk0
このロワは随時書き手様を募集しております


865 : 名無しさん :2014/04/28(月) 20:22:43 rBoN151UO
今にも落ちそうなスレの下で


866 : 名無しさん :2014/04/28(月) 21:51:23 .VTD/4kMO
酒ッ!飲まずにはいられないッ!


867 : 名無しさん :2014/04/29(火) 02:20:15 64ixzZfY0
ゲージッ!ぶっぱせずにはいられないッ!


868 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:46:28 b03oufFE0
投下ッ!投下せずにはいられないッ!
というわけで霧雨魔理沙、空条徐倫、ワムウの予約分投下します。


869 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:46:57 b03oufFE0
風の如く颯爽とした、しかしどこか哀愁を感じる大男が、森の中へと突き進む。
大男――ワムウは、一万数千年の生の中で数える程しか感じたことのない奇妙な感情を抱えながら、主を見つけるべく北へ北へと進んでいた。
その胸に去来する感情は、愉悦、期待、落胆、高揚、寂寥、そのどれもであり、どれでもない。
ワムウ自身、形容できない自らの感情を持て余し、昂っていた。
それでも、目前にその感情をぶつけられる敵がいない以上、今はただ愚直に、忠義に従い、主を探す他なかった。
故に、『闘いたい』その強い思いだけがどんどん膨れ上がっていく。
それも全て、紛い物の太陽の力を持つ有翼の少女、霊烏路空と闘ったが故だった。

そんな時である。ワムウの鋭敏な感覚が、自分のいるこの場へと何者かが向かってくるのを察知した。
おそらく数は二人。それ以外は詳しく分からない。
だがワムウはこの時心の底から願った。
どうかこれから現れる者達が、主たちではなく自分の命を脅かす、『対等』な存在であることを。

「……行くか」

ワムウは気配を感じた先へと、そのたくましく緊張した脚を運ぶ。
その脚が切り裂く空からは、自ずと真空波が生じ周囲の木々を切り裂く。
柱の男ワムウ、その全身に闘気を漲らせて、敵を求めて進みゆく。


870 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:47:46 b03oufFE0

あーお腹すいた。チョコレートケーキない?あたしあれ大好物なのよ」

「あるわけ無いだろ、そこにチョコレートによく似た色のキノコはあるがな、ちなみに毒キノコだ」

「ゲェッー……まったく荒木も太田も気が利かないわね、支給された食料なんて刑務所のランチのほうがまだましな感じよ」

「殺し合いを強制しておいて気が利くも何もあったもんじゃないと思うぜ」


仄暗く湿った魔法の森を、二人の少女が会話をしながら歩いていた。
空条徐倫と霧雨魔理沙、『最低のファーストコンタクト』を経た二人は、一応の纏まりを見せ一路『人間の里』を目指していた。
何故『人間の里』なのか。それは魔理沙が決めたことだった。
理由は、単純に人里のような大きく目立つ施設には人が集まりやすい。
そして道具屋もあるため、これから必要になるであろう道具や失った箒もまた手に入れられるかもしれないからだ。
特に後者の理由は大きく、魔理沙は徐倫に対して箒のことを未だ根に持っていた。
徐倫は魔理沙が何も言わなければ、自分が知っていて仲間たちも集まる可能性のあるGDS刑務所を目指そうと思ったが、
魔理沙の箒を破棄する要因(厳密に言えば勘違い)を作った負い目があるため、快くその提案を聞き入れたのだった。
仲間であるエルメェスの安否や、死んでしまっている筈のF・Fやウェザー・リポートのことも気にはなったが、
準備を整えてからでも遅くはないと判断した。

「しかし不気味な森ねぇー、あんたほんとこんな場所住んでんの?マジで?」

「マジもマジ、大マジだぜ。案外住んでみりゃあなんてこと無いし、キノコも取り放題だ、それに家賃もいらない。
困ったことがあるとするなら隣人が陰気な人形オタクなのと、日当たりが悪いぐらいだな」

「あんたその年で苦労してんのねー」

「普通だぜ。それよりお前の方が大概だろ、刑務所なんてのは本でしか知らんが、うら若い乙女が閉じ込められるところじゃないぐらい知ってる。
話すと長いだろうから詳しくは聞かないけど、お互い様だぜ」

二人は情報交換によって得られた互いの情報から、雑談を続けていた。
二人とも黙っているのは性に合わないタイプだったし、住む世界の違いや奇妙な境遇などから話題は絶えなかった。
もちろん殺し合いの場であることは二人とも分かっていたし、
抜け目ない性格から周囲には魔理沙のスタンド『ハーヴェスト』が輪形に広がり、警戒網を敷いている。


871 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:48:34 b03oufFE0
「そう言えば人形オタクで思い出したが、お前も知り合いがこの場に居るんだっけか」

「ええ……しかも奇妙なことに……」

「死んでいるはずの人間、そしてこの時代に居るはずのない人間も居る、か」

それは名簿見たことで気づいた事実。徐倫自身気がかりなことであり、荒木や太田の能力の秘密とも関わりがあるかもしれないことだった。

「案外重要そうなことだし、移動がてら考えてみるか、魔法使いは実験とか研究とか得意だぜ」

魔理沙は後ろにいる徐倫に振り返り、得意気に笑いかけ提案した。
徐倫も魔理沙の提案に賛成し、考え始める。

「そうね、それもいいかもしれない……じゃあまずフー・ファイターズとウェザー・リポート、この二人はあたしが知る限りでは確実に死んでいる。
もし本当にこの場にいるなら信頼できる仲間達だけど……」

「ふーむ、私も知り合いがいるどころか参加者の半分くらいは知り合いだが、そういう奴は居ない。
幽霊やキョンシーなんかもいるが、あいつらは死んでるのが平常運転だしなぁ……」

「それにジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドー……ジョナサン・ジョースターは私のご先祖様で百年以上前に死んでいるし、
ディオは、私の父さん空条承太郎が二十年以上前にエジプトで消滅させている」

「消滅とか随分と物騒な話だが、まあ成る程ね。
ちなみにフー・ファイターズってやつとウェザー・リポートってやつが死んだのはどちらも同じぐらいか?」

「いいえ、数日以上は離れている。それがどうかしたの?」

「だよなぁ……」

徐倫から質問の答えを聞いた魔理沙は急に立ち止まり腕を組んで考えだした。
そしてうんうん唸りながらじっくり数分思考して、考えついた仮説を話し始めた。


872 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:51:07 b03oufFE0

「うーん、これは一応仮説だぞ、自分でも結構飛躍してるしとんでもない考えだと思う。
まあお前も薄々分かっているとは思うが、お前の話に出てきた奴らは皆死んだ時間も時代も場所もバラバラ、これは事実だ。
そうすると参加者たちは全く別の世界、全く別の時間軸から拉致されてきている可能性がある、ということだ。
その考えなら死んだ人間がこの場にいることも説明がつく。
あと、死んだ奴を生き返らせる事ができるって可能性も考えられるが、少なくとも時間や世界を移動できる力があるのなら、
わざわざ死んだ後の奴を蘇らせるより生きてる頃の奴を連れてくるほうが楽だろう。
だがまあ全てこの名簿が確かなものであり、同姓同名の別人ではない、という前提によって成り立つがな」

長々と話して疲れたのか、魔理沙はデイパックから水を取り出して飲み、一息つく。

「その話が確かなら、つまり荒木と太田は『世界』を自在に行き来し、『時間』を自由に操作できるスタンド、もしくは術があるってことね。
それならこの名簿にも納得出来る……」

「ああ、この場にいる全員を何の抵抗も認知もさせずに拉致することの出来る奴らだ、そんなふざけた能力があってもなんらおかしくない。
それと今の話を事実と仮定して考えるとこういうことも考えられる。『自分の知っている奴が自分の知るそいつではないかもしれない』
また『自分を知っているはずのやつが自分を知らないかもしれない』とな。必ずしも自分の知る時間軸から拉致られたとは限らんということだ」

「そうね……確かにあたしの父さんはあたしの知る時点では、プッチから取り返した『記憶のDISC』をスピードワゴン財団に送ったばかりで、
とても殺しあいなんて出来る状態じゃなかったはずだし、
ひいおじいちゃんであるジョセフ・ジョースターがあたしの知る時代から来たとすると、年齢91歳のボケ老人で参加させる意味がわからない。
それぞれベストな時代から参加させられている可能性が高いってことか」

「そう、おまけにもう一個浮かんだ……これはあってほしくないことだが、時間軸が違うとすると、
過去に敵対していて後に和解した奴が居たとして、そいつが和解した後じゃない可能性もある。
私にも思い当たる奴らが結構居て、異変の首謀者あたりがそうだと中々めんどくさい」

「うげぇ……F・FがもしDISCを守ってた頃のF・Fだったらゾッとするわ……」

徐倫はフー・ファイターズが敵であった時のことを思い出し、苦い笑みを浮かべた。


873 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:51:42 b03oufFE0

「まあとにかく思いつく事はこんぐらいか?なんか気が滅入るようなことしか考えつかなかったが……」

魔理沙は今の会話の仮説を紙に記しながら、げんなりした表情で呟く。

「確かにマイナスな情報だけど、今その仮説を立てられて知ることが出来たということはプラスだと思う。
これからもなにか思いついたら話すようにしましょう、暇な時にね」

「うん、しかし我が仮説ながら結構いい線いってると思うんだよなぁー。
問題は実証するには今の説に当てはまる奴と遭遇しなきゃならんということだが・・」

「そのためには進むしか無い。それに今の話を聞いて逆にやる気が出た部分もあるわ……。
私の倒すべき敵、エンリコ・プッチ。奴がもしケープ・カナベラルに向かう以前、それこそ刑務所で教戒師をやっていた頃の奴なら、
今ここで奴を仕留めれば奴の言う『天国』を阻止できる。F・Fやウェザーも死なずに済むかもしれない。
例えそうでなくとも、ここでプッチは必ず仕留める」

そう言い徐倫は遠くを見る表情を浮かべた。そのしぐさからは既に先ほどの呑気さは消え失せ、
詳しい事情を知らない魔理沙から見ても、徐倫の確固たる決意と気高い信念が伺えた。
魔理沙はその表情を見た時、己が無意識の内に感じていた殺し合いへの冷たい恐怖が、熱く燃え上がり、小さな勇気に変わるのを感じた

「何言ってるか分からないしいちいち話の内容は物騒だが、徐倫がそこまで言うならそのプッチとか言う奴は相当悪いやつなんだろう。
いいぜ、協力してやる、一緒にとっちめてやろうぜ、そいつを。報酬は特別にまけといてやるぜ」

にこやかな笑顔と共に、魔理沙は徐倫に向けて力強く宣言した。

「ありがとう魔理沙、感謝しとくわ……あんた結構イイやつじゃない」

「当然だぜ、私はおせっかい焼きの何でも屋、霧雨魔理沙様だ。それに徐倫もただの痴女じゃなくて、いい痴女だった」

「痴女言うな!」

ゴスッ!

「痛っ!」

「まったく……あんたカラッとした性格かと思えば意外とねちっこいのね、やれやれだわ」

「お前も軽いのか重いのかまったく分からん性格だ、やれやれだぜ」

二人は冗談を飛ばして笑い合う。
お互い初対面の印象は最悪だったが、互いにこうして話すうちに偏見や誤解は消え、
確かな友情が芽生えつつあった。それはこの殺し合いの場においてこれ以上となく尊いことだろう。


874 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:52:16 b03oufFE0

そうして魔理沙が紙に仮説をまとめ終えると、二人はまた人里を目指し歩き始めた。
このままのペースで行けば放送前までには人里に着けるだろう。
だが、バトルロワイヤルの環境では、そんな想定など何の意味も持たない。
ハーヴェストの警戒網が、近づいてくる何者かを、察知した。
闘いに飢えた孤独な格闘者、ワムウを。

「徐倫!他の参加者だ!」

「ああ、敵かどうか判らないが、敵だとしても警戒網の外から攻撃してこない所を見ると、射程は近距離のようね、
うかつに近づかない方がいい……」

魔理沙はハーヴェスト達を招集し、徐倫はスタンドを出す。臨戦態勢だ。
そして来訪者、ワムウは二人が視認できる距離まで近づいてきた。

「ねえあんた、あんたは殺し合いに乗っている?乗っていない?」

徐倫はワムウに対して問いかける。
しかしワムウは質問に答えず、値踏みするような視線を二人に注ぎ、ブツブツなにか言うだけだ。

「……また女、しかも少女か……しかし」

「あー?なにいってんだこいつ。格好だけじゃなく頭までおかしいのか?いや、頭がおかしいから格好もおかしいのか」

魔理沙はワムウの古代人のような格好を揶揄するように冗談を吐く。
しかし徐倫は警戒を解くことなく、ワムウを睨み続ける。

「魔理沙……油断するな。コイツ、殺気が尋常じゃない……どうやら話すまでもなく、危険な奴のようだ……」

徐倫のスタンド『ストーン・フリー』が、ワムウに対してファイティングポーズを取る。
魔理沙も追従してミニ八卦炉を構えようとするが、今は持ってないことを思い出し、仕方なくハーヴェストを攻撃態勢に変更した。

「ほう、どうやら貴様達は闘う術を持っているようだな、面白い。ならばこのワムウと……闘えぇぇぇぇいッッ!!」

言うやいなや、ワムウは二人に飛びかかってくる。
闘いの火蓋は切って落とされた。


875 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:53:00 b03oufFE0

「魔理沙!あんたは遠距離から援護してッ!あたしはコイツの能力を見極めるッ!!」

「おう!」

徐倫が前衛、魔理沙が後衛。これは事前に決めていた作戦だ。
急造のコンビながら、歴戦の猛者である徐倫はしっかりとまとめあげていた。

「オラァッ!」

まず飛びかかってきたワムウの蹴りを、徐倫がスタンドで防御。
そこに一瞬出来た隙に魔理沙が間髪をいれず収束させたレーザを放つ。

「ムウ!中々良い連携だ……だが、効かぬ!」

ワムウはレーザを防御しきり、疾風のような連撃をストーン・フリーに浴びせようとする。
しかし、

「『スタンドはスタンドでしか傷つけられない』か……どうやらあんたはスタンド使いじゃないようね……」

ストーン・フリーにも、徐倫にもダメージはない。
スタンドの大原則により、非スタンド使いの攻撃はスタンドには通らないのだ。
それにより徐倫はワムウがスタンド使いでないことを悟る。

「ヌウッ!……奇妙な術を使う……波紋でもなく、勿論流法でもない。貴様のそばに立つヴィジョン、それが貴様の能力か……!」

ワムウは状況を不利と見て、一旦距離を取り徐倫達を観察する。

「ええそうよ、これが私のスタンド『ストーン・フリー』……だが能力はこれだけじゃないッ!」

瞬間、ワムウは自分の足元に糸のような何かが巻き付いていることを認識したが、振り払うより速く徐倫はワムウを引き寄せる。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

そして一気にラッシュを叩き込んだ。
蚊帳の外だった魔理沙もすかさず吹き飛んだワムウに弾幕で追撃する。

「MUOOOOOOOOOOOOOO!!!」

ワムウは勢い良く吹き飛び、背後にあった大木に叩きつけられた。


876 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:53:42 b03oufFE0

「やったぜ徐倫!あっけないがこれであの変態マッチョメンは再起不能だろう!」

「いや、何か手応えが薄い……まるでゴムのような……ハッ!」

徐倫がワムウの吹き飛んだ先を見ると、既にそこにワムウの姿はない。
急いで糸の結界を張ると、近くに反応はあったがワムウは見えない。
咄嗟に気配を感じた方向に腕を交差させ防御姿勢を取ったが、まるで近距離パワー型スタンドのような威力の攻撃が襲いかかり、
今度は徐倫が吹き飛ばされた。

「うわああああああッ!!」

魔理沙は戦慄する。徐倫が吹き飛ばされた場所には、うっすらとワムウの姿が見えつつあった。
それもほぼ無傷の状態のワムウが。

「あああっ!徐倫!あ……あいつは一体何なんだ……丈夫なんてもんじゃない……
 本気でなくとも一撃で人間を昏倒させられるはずの攻撃を、本気の連打で浴びたのに、ケロッとしてやがる……」

ワムウは首をゴキゴキと鳴らしながら、満足気に愉悦の笑みを浮かべる。
もちろんまったく無傷というわけではないが、柱の男の防御力はストーン・フリーのラッシュと魔理沙の魔法を受けきっていた。
一方徐倫は起き上がらない。

「いいぞ、貴様達。このワムウに対してダメージを与えた事は、俺と闘うに相応しい資格だ。
貴様達を『敵』と認めよう……さあ立てい!立ってこのワムウと闘え!」

言い放つワムウの体からは、闘気が色を持って立ち昇っているかのようだった。
数々の修羅場を超えてきた魔理沙ですら、ワムウの闘気は人間の放つそれとは一線を画するものだと認識する。
それもその筈、幻想郷における闘いはあくまでルールの元で行われる美しさを競う闘いだ。
故に命の危険や全力のぶつけ合い等はなく、人外ですらその全容を晒すことはない。
だがワムウは違う。
戦闘の天才であり、闘いにこそ生きがいを見出す真の格闘者。
敵と認めた相手には敬意を払い全力で殺しにかかる。
それがワムウだ。
魔理沙とワムウには住む世界の違いからの決定的な価値観の相違があった。


877 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:54:35 b03oufFE0

「ぐううッ……だからって、安々命をはいどーぞとくれてやるわけにはいかないんだよッ!ハーヴェストッ!!」

魔理沙は一転俯いていた顔を上げ、ハーヴェストを操りワムウを取り囲むように襲わせる。
ワムウの闘気に気圧されながらも、魔理沙の心は折れていない。
挑み続ける心がなければ魔法使いにはなれないし、一見不可能な弾幕を避ける事もできないからだ。
幻想少女は、そして異変の解決人は、例え初見で無謀と思っても、立ち向かえる強さがあった。

「ぐっ、これもスタンドとやらの力か……しかし弱いッッ!」

しかし当然のごとく、ワムウに生半可な攻撃は通用しない。
ハーヴェストの過半数は高速で動くワムウの動きについてこれず振り切られてゆくし、何とか攻撃を与えても、まるで応えていない。
それどころかワムウはハーヴェストの攻撃を無視して魔理沙に流れるような蹴りや拳撃を繰り出してくる。
対して魔理沙はハーヴェストを操りながら、弾幕ごっこで鍛えた動体視力を頼りに必死に避け続けるしかない。
当たり前の話だが、パワーAのストーン・フリーですら大きなダメージは与えられないワムウのボディに、
パワー系スタンドではないハーヴェストがダメージを与えられる道理はない。
しかし魔理沙はそんなことは折り込み済み、狙いは別にあった。


「今だ徐倫ッ!」

「何ッ!?」

ワムウは魔理沙の声に驚き、徐倫が吹き飛んだ先を咄嗟に見るが、徐倫は居ない。
意識を集中して探そうとした瞬間、ワムウの体に衝撃が走る。

「オラァッッ!!」

気絶していたかに思えた徐倫が、ワムウの想定を全く超えた方向からその頭を殴り抜ける。
その足元にはハーヴェスト達が集まって、バケツリレーのようにして徐倫を運び移動を補助していた。
そう、魔理沙はハーヴェスト達を分散させ、一つをワムウの撹乱、もう一つを徐倫の移動用に用いたのだ。
まず徐倫の無事を知った魔理沙は奇襲を仕掛けるため、撹乱用のハーヴェストにワムウの頭を集中的に狙わせた。
それによりワムウの注意と視界を徐倫からそれさせ、ちょうど徐倫が死角となる位置まで誘導する。
そして徐倫をハーヴェストで高速かつ隠密に運ぶことで、スピードの乗った一撃をワムウに察知されることなく喰らわせることに成功したのだ。
これは吹き飛ばされた徐倫がストーン・フリーの『糸電話』で魔理沙に意識があることを知らせていたからこそ出来たことでもある。
慎重に夜闇に紛れさせた細い糸は、柱の男の視覚を持ってしても捉えることは出来なかった。


878 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:55:17 b03oufFE0

「やらせていただいたぜ!ちょいと派手さには欠けるがな」

「ああ、しかしこれだけで終わる奴じゃない……」

合流した二人は、倒れているワムウを警戒しながら、短く会話する。

「さっきあれだけ叩き込んで駄目だったし、これで終わりじゃないとはわかっちゃいるが……丈夫すぎないか?
主催者はこの殺し合いをゲームだとかのたまったが、あんなバランスブレイカーがいちゃあとんだクソゲーだぜ……」

「そう、だから奴にも何か制限、もしくは弱点があるはず……その秘密を暴かなければ私達に勝ち目はない。
一つ思い当たる節はあるけど……」

「思い当たる節?何だ?」

「奴は『吸血鬼』かもしれない……父さんの記憶DISCで見ただけだから確かではないけど、
吸血鬼って生物は不死身の生命力と人間離れした身体能力を持っていて、日光を浴びせる以外殺しきる手段はないらしい。
先程からの奴のタフネスとパワーはその吸血鬼の情報と一致するわ……」

「吸血鬼ぃ!?私の知ってる吸血鬼はあんなごつくないし露出癖なんて無いぞ!?」

「ッ!あんたも吸血鬼を知ってるの!?でも今はそれは問題じゃない。
もし奴が吸血鬼ならば、あと1〜2時間ちょっと経てば来る日の出に備えて隠れられる場所を探すため、決着を急ぐはず。
だから私達がすべきことは……」

「闘いを長引かせて退かせるか、戦闘不能にして陽の光を浴びせるかってとこだな。
しかし奴が吸血鬼じゃなかったらどうする?幻想郷じゃ見たこと無いが新種の妖怪かもしれんし、未だ奴が吸血する所を見ていない」

「その時はその時よ。……!どうやら議論をしてる暇はもう無いみたいね……第二ラウンド開始よ!」

見るとワムウは既に起き上がり、今にも襲いかかって来そうな気迫を醸し出している。

「うぇ〜……しゃーない、腹くくって行くしか無いか!ハーヴェストッ!」

「ストーン・フリーッ!」


879 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:55:50 b03oufFE0

そして二人の人間は、果敢にワムウに挑んでいく。
その様をみて、ワムウはこの上ない充足感とたぎる闘志を自覚した。
この自分に対して、波紋も日光も無くとも臆する事なく同等以上に立ち回り、挑み続けてくる。
事実喰らったダメージは想像以上に大きく、再生が若干追い付いていない。
あのジョセフ・ジョースターや翼の娘にも劣らない戦士だ。
そんな二人の戦士に向かって、ワムウは最大限の敬意を払うべく、自身最強の奥義をゆっくりと構えた。
ワムウの両腕の筋肉が、貯めこむパワーに呼応し振動しながら膨張していく。

「ッッッ!!魔理沙!やばい!なにかとんでもない攻撃が来るぞ!!」

「なにっ!?」

瞬間、徐倫はワムウの異常に気づけたが、遅かった。
ワムウの二つの拳からまるでトルネードを凝縮したような一撃が放たれる。

「闘技!神砂嵐!!」

「うおおおおおおストーン・フリーィィィィーーーーーーーーーーッ!!!」

「ぐわあああああああああッ!」

神砂嵐が迫る直前、徐倫は咄嗟に片手で魔理沙を殴り飛ばし、もう片手でワムウの目に糸を射出した。
そして何とか後ろにある木に飛び退き隠れきったが、神砂嵐の威力の前には無駄だった。
それなりの樹齢を重ねた大樹ですら、まるで発泡スチロールで出来ているかのようにボロボロに削れていく。
結果徐倫は錐揉み回転をしながら全身に裂傷を刻み、数メートル先の地面に叩きつけられた。
周囲には、台風一過のような無言の静寂だけが訪れた。


880 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:56:17 b03oufFE0
「ふふふ……目潰しで方向をずらそうとしたようだが、例えずらせど威力は十分。
そして木の後ろに隠れようと、俺の神砂嵐は岩すら砕く。人間ごときが耐えられるダメージではない」

倒れている二人を一瞥しながら、ワムウは勝利を確信した。
だが、

「ヌウ……立ち上がるだと……まだ替えの指が馴染んで居なかったからか、それとも先程の一撃の影響が想定異常だったからか……
どちらにせよ貴様は瀕死、もう一人の女も戦闘不能、最早これ以上このワムウと渡り合う策もあるまい。
貴様はこのワムウに拳を当てた強い戦士だ、苦しむこと無く殺してやろう」

徐倫は立ち上がり、ファイティングポーズを構えて佇んでいた。
その表情に余裕はない。
それでも、その瞳には諦めも絶望も映っていなかった。

「あんたの必殺技……神砂嵐だっけ?確かに凄い技だけど、まだ私は死んでいない……まだ私は闘えるぞ!」

徐倫はその拳に力を込め、ワムウを睨みつける。

「そこまでズタボロになりながらもなお生意気なセリフを吐くとは、貴様ジョセフ・ジョースターに似ているな……
女の身ながら実にタフだ!気に入った!貴様とは最後まで全力で闘ってやる!」

「?何故お前が私のひいおじいちゃんを知っているかは知らないけど、受けて立つわ、ストーン・フリー!」

そして第三ラウンドが始まる。


881 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:57:25 b03oufFE0

戦況は当たり前だが、徐倫の不利だった。
ワムウは徐倫の予想通り、日の出までに余裕を持って隠れられる場所を見つけるため、全力を発揮したのだ。
ワムウが高速の回し蹴りを仕掛け徐倫はストーン・フリーで防御するが、ワムウは防御に構うこと無く次々と蹴りを繰り出し、
防御かいくぐって一撃を入れようとしてくる。
しかも一撃一撃の威力で真空波が発生し、徐倫の体に傷を増やしていく。
徐倫も何とか反撃を試みるが、前に出した拳はワムウが体を変化させ全て避けきってしまう。
そのうち徐倫は防戦一方になり、ただいたずらに体力を消耗していく。

「どうした!威勢がいいのは口だけか!フンッ!」

ストーン・フリーの攻撃に合わせ、ワムウはカウンターとなる形で徐倫のがら空きの胴体に蹴りを入れる。
そしてそのまま細胞ごと同化し、消化吸収の攻撃を繰り出した。

「ぐううううッ!オラアッッ!!」

徐倫は何とかワムウを殴り飛ばすことで難を逃れたが、ダメージは大きい。
ストーン・フリーで傷口を縫いながら、胴を抑えて荒い呼吸を繰り返した。

「まだよ……まだ死ねない……『ひとりの囚人は壁を見ていた』『もうひとりの囚人は鉄格子からのぞく星を見ていた』
あたしは星を見るッ!父に会うまで、プッチを倒すまで!星の光を見続けるッ!!」

既に徐倫は瀕死で息も絶え絶えだ。しかし決して折れること無く前を見据えている。
そしてそんな徐倫を見つめる、一つの影があった。
そう、霧雨魔理沙だ。
彼女も大きなダメージを負っていたが、神砂嵐が直撃するより早く徐倫に吹き飛ばしてもらったことにより、
なんとか命をつないでいた。


882 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:57:58 b03oufFE0

(徐倫……私よりすごい傷を負ってるくせに、なんでまだ立ち上がれるんだよ……
そんなかっこいい姿見せられちゃあ、私だっていいとこ見せ返してやらなきゃ、女が廃るぜ!)

未だ闘いを続ける徐倫の姿を見て、魔理沙も触発され再び闘志を再燃させた。
魔理沙は負けず嫌いで諦めの悪い性格なのだ。
そしてこの状況を打破すべく、自分に今できることを考える。

(私の手元には、奴から攻撃を喰らう直前ハーヴェストで奪った奴のデイパックがある。
そしてこの中身を有効活用出来れば、あいつを退けることが出来るかもしれない……
だが出来るだろうか……正真正銘最後の策。イチかバチか、伸るか反るか、やらなきゃ死ぬし、やっても死ぬかもしれない、なら!)

魔理沙は転んでもただでは起きず、ワムウのデイパックを気づかれること無く盗むことに成功していた。
ハーヴェストの本来の能力『収集』と、魔理沙の盗みの能力が合わさったことによりできたことである。
そしてその中身は、ワムウが使わなかったものなので心配したが、活用次第では使いようのあるものだった。
故に魔理沙は覚悟を決め、確実に策を成功させるため最善のタイミングを窺った。
戦場では、未だに徐倫とワムウが死闘を繰り広げている。

「グッ、ガハッ!」

しかし徐倫も最早限界だ。気を失ってもおかしくないギリギリの状態で立ち続けている。
ワムウもそんな徐倫の限界を悟ったのか、勝負を決めるため、再び奥義を構えた。

「貴様はよく闘ったが、もう終わりだ……貴様のガッツに敬意を評して、再びこの技でトドメをさしてやろう……
闘技!神砂――」


「ここだぁぁぁーーーーーー!徐倫!下がれ!」

ワムウが神砂嵐を構えるその一瞬、そこに隙を見出した魔理沙は突貫する。


883 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:58:33 b03oufFE0

「ヌウッ!死に損なったか!」

ワムウは突如現れた魔理沙に気を取られ、神砂嵐の発動が遅れた。
その間に徐倫も魔理沙に言われた通り後ろに退く。
そしてワムウに魔理沙はエニグマの紙から取り出した支給品を、一気に投げつけた。
同時に弾幕も展開する。

「徐倫!私も星を見るぜ!決して消えない、光り続ける流星をな!!」

魔符「スターダストレヴァリエ」

ワムウが投げられたものを弾こうとするが、弾く前に魔理沙は投げたもの――ダイナマイトに弾幕をぶつける。
弾幕の衝撃でダイナマイトは起爆し、辺りに盛大な爆発をもたらす。

「MUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!いつの間に俺の道具を盗んだのか、抜け目ないやつッ!
しかしそのチンケなものでは、俺を倒すことは出来ん!爆風ごと神砂嵐で消し去ってやるッ!」

爆発の衝撃を受けながらなお、ワムウは怯むこと無く神砂嵐を構えた。
ダメージがあるにはあるが、その表皮をほんの少し焦がすだけだった。

「闘技!神砂嵐!!」

ワムウは攻撃を受けながらもそれを自分の攻撃に利用した。
爆風をも巻き込み、さながら火砕流の如きすさまじい熱と風が、怒涛の勢いで魔理沙に襲いかかる。
ワムウの戦闘のセンスが故に出来たことだ。
魔理沙は成すすべなく神砂嵐に巻き込まれていく。

「バカなッ!魔理沙ッ!」

徐倫はその光景を見て魔理沙の危機を察するが、何も出来ない。
これまでかと思ったその時、突然神砂嵐が止んだ。


884 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:59:06 b03oufFE0

「なっ、これは!?」

爆風と神砂嵐による視界不良が晴れると、そこには神砂嵐を構えたまま膝を折り全身を震わせているワムウと、
火傷と裂傷を負いながらもなんとか立っている魔理沙の姿があった!。

「またまたやらせていただいたぜッ!(といってもすげーギリギリだが……)」

「魔理沙ッ!いったい何が……」

全ては一瞬の出来事で、徐倫にすら何が起こったのかまるで分からなかった。
だが結果として、立っているのは魔理沙で、膝を付いているのはワムウだ。

「貴様……何をした……」

ワムウも自身の体に何が起きているのか一切分からず、魔理沙を睨みつける。

「あー?いやあ本当に一世一代の賭けだったんだがな、これだよ」

そういって魔理沙は何かの液体の入った瓶を見せつけた。

「それは……俺に支給されていた酒ではないか……そんなものでこの俺を?」

「お前は知らなかったみたいだが、コイツは『一夜のクシナダ』という酒でな、かの八岐の大蛇すら眠らせたといういわれを持つ、
霊験あらたかな酒なんだ。お前に効くか分からなかったけど、効果てきめんといかずともそれなりに効くようだな」

『一夜のクシナダ』――それは魔理沙の言う通り、いわれある伝説の酒だ。
勿論飲ませただけで相手を昏睡させる力は強力過ぎるので、少し抑えられ強い眠気と虚脱感に襲われる仕様となっていた。
人間とは身体構造を異にする柱の一族だが、この手のマジックアイテムは成分以上にそのアイテム自体が持っている『いわれ』が効果に影響を与えている。
それ故ワムウですらその効力を無効にすることは出来なかった。


885 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 14:59:45 b03oufFE0
しかし俺はそんなものを飲まされた覚えはない……一体いつ……?」

「お前が必殺技を撃ってる時だよ。必殺技を撃つ時って集中するだろ?私はする、だからそこしか隙はないと思ったんだ。
で、必殺技を構えた姿勢のお前に奇襲を仕掛ければ、お前はその体制のまま同じ技を仕掛けてくると踏んだ。
そして案の定撃ってきたところにダイナマイトと弾幕で目を晦まし、酒を含ませたハーヴェストを背後から送り込んで事前に徐倫が与えていた傷口と、
私が投げたダイナマイトで出来た傷口に酒を注入したってわけだ。
酒は血管から飲むと何十倍にも効くからな。
一つ誤算だったのがお前が爆風を利用して技を強化してきたところだな。
手元に残したハーヴェストで防御したが、あと少し技が続いていたら今頃私はこの世には居なかっただろうぜ」

「ぐうううううううッ!」

「この結果は幾つもの幸運と偶然がもたらしたもんだ。もしお前が支給品を使っていたら、もし徐倫がお前に技を出される前に倒れていたら、
もしお前が私に技を出さなければ、もしお前に『一夜のクシナダ』が効かなければ……どれか一つ欠けても、この結果はなかった」

魔理沙は噛みしめるように、事実を一つ一つ口にした。

「魔理沙……」

「ああ……」

徐倫が魔理沙の元に何とか歩いてきて、共にワムウを見る。

「悪いがあんたは始末させてもらう。あんたの存在は危険だ……」

「まず日光が効くか試す、効かなければ禁止エリアに放り込ませてもらう……」

ワムウの動きを完全に止めるため、二人はジリジリと詰め寄る。

「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

しかし!ワムウは抵抗した。
強風を巻き起こして徐倫と魔理沙が怯んだ隙に、姿を透明にし忽然とその姿を消した。
余力を振り絞った必死の抵抗だった。
二人は後を追おうとしたが、二人ともダメージが大きく、どこに行ったかわからないうえ飛び抜けた身体能力を持つワムウを、
追うことは出来なかった。


886 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 15:00:17 b03oufFE0

そして二人は限界を迎え、そのまま森の中で倒れた。
仰向けに寝そべると、夜空には現代では中々見れないほどの星空が広がっている。

「あーあ……逃しちゃったぜ、あいつ……」

「そうね……でも撃退することは出来た……」

二人は満天の星空に心奪われながら、大地の感触に身を任せ、会話を続けた。

「なんだかこうやって安心したら、さっきまで痛くなかったはずの傷まで痛くなってきたぜ……」

「そういうもんよ……でも、カッコ良かったわよ……さっきの魔理沙」

「へへっ、そういうお前もカッコ良かったぜ徐倫。こういうことはあんまり言わないんだが、お前がいたから私は立ち上がることができたんだ。
感謝してるんだぜ……この魔理沙様が」

二人は笑いあい、互いの健闘を讃え拳をぶつけ合った。
そして同時に、もう少しで消える夜空の星を、また眺めた。


887 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 15:01:05 b03oufFE0
【D−4 魔法の森(地図左上部分)/早朝】

【空条徐倫@ジョジョ第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:体力消耗(大)、左頬・後頭部、両腕を打撲(痛みは治まってきている)、全身に裂傷(縫合済み)、脇腹を少し欠損(縫合済み)
[装備]:ダブルデリンジャー(2/2)@現実
[道具]:基本支給品(水を少量消費)
[思考・状況]
基本行動方針:プッチ神父とDIOを倒し、主催者も打倒する。
1:魔理沙と同行、信頼が生まれた。
2:エルメェス、空条承太郎と合流する。
3:魔理沙に従い人里を目指す。
4:襲ってくる相手は迎え討つ。それ以外の相手への対応はその時次第。
5:ウェザー、FFと会いたい。だが、敵であった時や記憶を取り戻した後だったら……。
6:姫海棠はたて、ワムウを警戒。
7:しかし、どうしてスタンドDISCが支給品になっているんだ…?
[備考]
※参戦時期はプッチ神父を追ってケープ・カナベラルに向かう車中で居眠りしている時です。
※残りのランダムアイテムは「スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部」でしたが、姫海棠はたてに盗まれています。
※「ダブルデリンジャー@現実」を姫海棠はたてから奪い取りました。
※霧雨魔理沙と情報を交換し、彼女の知り合いや幻想郷について知りました。
 どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。

【霧雨魔理沙@東方 その他】
[状態]:体力消耗(大)、顎・後頭部を打撲、軽い頭痛、全身に裂傷と軽度の火傷
[装備]:スタンドDISC「ハーヴェスト」@ジョジョ第4部、ダイナマイト(6/12)@現実、一夜のクシナダ(120cc/180cc)@東方鈴奈庵
[道具]:基本支給品×2(水を少量消費、一つはワムウのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。会場から脱出し主催者をぶっ倒す。
1:徐倫と同行。信頼が生まれた。それでも『ホウキ』のことは絶対許してやんないからな…
2:このスタンド、まだまだ色々な使い道が有りそうだ。
3:とりあえず人里へ向かい準備を整える。その後信頼出来る霊夢と合流したい。
4:出会った参加者には臨機応変に対処する。
5:出来ればミニ八卦炉が欲しい。
6:何故か解らないけど、太田順也に奇妙な懐かしさを感じる。
7:姫海棠はたて、エンリコ・プッチ、DIO、ワムウを警戒。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※徐倫と情報交換をし、彼女の知り合いやスタンドの概念について知りました。
どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。

※結局魔理沙の箒ではないことに気付かぬまま「竹ボウキ@現実」をC-4 アリスの家に放置することにしました。
※二人は参加者と主催者の能力に関して、仮説を立てました。
内容は
・荒木と太田は世界を自在に行き来し、時間を自由に操作できる何らかの力を持っているのではないか
・参加者たちは全く別の世界、時間軸から拉致されているのではないか
・自分の知っている人物が自分の知る人物ではないかもしれない
・自分を知っているはずの人物が自分を知らないかもしれない
・過去に敵対していて後に和解した人物が居たとして、その人物が和解した後じゃないかもしれない
です。


888 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 15:01:46 b03oufFE0

一方ワムウは、力の入らない体にムチを打ち、太陽から逃れられる場所を目指して、ひたすら走っていた。
目指すはここから一番近いD−3エリアの『廃洋館』だ。
しかし当然ながら、走るワムウの表情は、凄まじかった。
してやられ情けなく逃走する自分への憤り、出現した強敵への怒り、そこにさらに満足行く闘いを出来たという充足感が加わり、
例えようのない壮絶な表情のまま走っていた。

(確か……ジョリーンとマリサといったか……その名、決して忘れん。次会うことがあれば全身全霊を出し、貴様らを倒してみせよう……
だが今は、忌々しき太陽から逃れねばならぬ……情けない、これではサンタナの奴を馬鹿にできんな……)

ワムウは空に浮かぶ月の位置から、日の出までそう余裕はないと判断し足を速める。

(しかし奇妙な感情だ……この会場に来てから、一万数千年彷徨い癒えなかった孤独が、少しづつ満たされていくのが分かる……
この場ならば、満足の行く闘いを思う存分出来るうえ、『敵』も思わぬ数いる……
ジョセフ・ジョースター、翼の娘、ジョリーン、マリサ……そしてまだ見ぬ強敵たち……俺が必ず殺す、それまで死ぬなよ……)

そうしてワムウは空を仰ぐ。
満点の星空は、ワムウにも一際輝いて映った。
ワムウの闘いは、終わらない。


889 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 15:02:50 b03oufFE0
【D−3 魔法の森(入口付近)/早朝】

【ワムウ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:全身に中程度の火傷(再生中)、右手の指をタルカスの指に交換(いずれ馴染む)、頭部に裂傷、疲労(中)、眠気、虚脱感
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:他の柱の男達と合流し『ゲーム』を破壊する
1:ひとまず『廃洋館』に向かい日光から逃れる。
2:カーズ・エシディシと合流する。南方の探索はサンタナに任せているので、北に戻る。
3:霊烏路空(名前は聞いていない)と空条徐倫(ジョリーンと認識)と霧雨魔理沙(マリサと認識)と再戦を果たす
4:ジョセフに会って再戦を果たす
5:主達と合流するまでは『ゲーム』に付き合ってやってもいい
[備考]
※参戦時期はジョセフの心臓にリングを入れた後〜エシディシ死亡前です。


890 : 嵐の中で輝いて ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 15:03:22 b03oufFE0
○支給品説明

『ダイナマイト』
ワムウに支給。
言わずと知れた、かの有名なノーベル賞の『アルフレッド・ノーベル』が発明した爆発物。
1ダース支給された。
強烈な爆発力をもち、トンネル工事やビル解体、軍事にも利用される。
ちなみに語源はギリシア語のdunamis(ちから)からきているらしい。
爆薬はパワーだぜ!☆

『一夜のクシナダ』
ワムウに支給。
東方鈴奈庵第六話にて、稗田阿求が人里で暴れる酒飲み妖怪を捕らえるため作った一撃必睡のカクテル。
八岐の大蛇を眠らせたという逸話も持っている霊験あらたかなお酒。一合瓶(180cc)ごと支給された。
しかしこのロワではその効力に制限がかかっており、一定時間の間強烈な眠気と虚脱感に襲われる効力となっている。


891 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 15:04:17 b03oufFE0
以上で投下終了です。
ご感想ご指摘などありましたら是非。


892 : ◆DBBxdWOZt6 :2014/04/29(火) 15:07:49 b03oufFE0
おっと早速ミス発見。
>>885 の一行目にかぎかっこが抜けちゃってますね……
wiki掲載の際直していただければ幸いです。


893 : 名無しさん :2014/04/29(火) 16:13:33 F9bR1Mag0
投下乙です。
会ったばかりとは思えないコンビネーションを披露する徐倫&魔理沙が可愛い&カッコイイ!
二人のどっちかが死ぬんじゃないかとハラハラして読み進めました。
波紋無しでワムウに勝てたのは凄い


894 : 名無しさん :2014/04/29(火) 17:57:09 cPTuWQfE0
どんどん早朝パートが埋まっていく。放送ももうすぐかな
そう言えば放送後に用語集を解禁する約束だっけ


895 : 象牙 :2014/04/29(火) 19:08:37 hzwSWBfg0
魔理沙の仮説により徐倫V.S.ウェスの予感!


896 : 名無しさん :2014/04/29(火) 19:22:43 knPiGJXM0
FFもいるぜ


897 : 名無しさん :2014/04/29(火) 19:26:03 BguN3/Tg0
そういやジョジョ3rdでは…


898 : 名無しさん :2014/04/29(火) 19:39:58 knPiGJXM0
アナスイくんが気の毒だった


899 : 名無しさん :2014/04/29(火) 20:35:19 ZQD7TyEM0
そういえば徐倫が戦闘中にひいおじいちゃんがどうのこうの言ってたが、そのへんは聞こえてなかったんだろうか


900 : 名無しさん :2014/04/29(火) 20:38:03 h/9uZnQ20
投下乙

さすがにあのジョセフがひいおじいちゃんってことはないだろうから、
別人だと思ってるんだろ


901 : 象牙 :2014/04/29(火) 21:18:34 hzwSWBfg0
話、結構脱線するがこのロワを通してジョセフ好きになったわ。俺、男だが。


902 : 名無しさん :2014/04/29(火) 21:38:35 cPTuWQfE0
俺もジョセフが好きだよ。キャラクターとして


903 : 名無しさん :2014/04/29(火) 22:37:58 knPiGJXM0
それ以外として好きだったらいろいろヤバい


904 : 象牙 :2014/04/29(火) 23:40:47 hzwSWBfg0
んで、いまさらだが皆「名無しさん」で書き込んでたんだね。名前必要だと思って作った自分が恥ずかしいわ(泣)


905 : 名無しさん :2014/04/30(水) 00:55:53 EomwsuGM0
わざとだと思ってた


906 : 名無しさん :2014/04/30(水) 01:44:15 Dz4JFXik0
紅魔館組が投下されたら次スレかね?いよいよって感じだ


907 : 名無しさん :2014/04/30(水) 14:42:25 13ycFwwEO
スレが1000に近づいたら、ズィーズィーのAAを用意しないとな…w


908 : 名無しさん :2014/04/30(水) 19:03:58 G5gcComQO
投下乙です。

ワムウがこのまま寝たら、石化すんのかな?


909 : <削除> :<削除>
<削除>


910 : 名無しさん :2014/05/01(木) 00:34:28 UB2VrH7E0
暴言はよしとけな
このロワを見てくれてる読み手さんであることに変わりはない


911 : 象牙 :2014/05/01(木) 06:03:38 c1jQ3oHk0
もう名前「象牙」でいいや。


912 : 象牙 :2014/05/01(木) 17:12:04 o6cvDjEE0
じゃあ俺も「象牙」でいいや。


913 : 象牙 :2014/05/01(木) 18:13:21 QcCHefEs0
じゃあ私も象牙でいいや


914 : 名無しさん :2014/05/01(木) 20:29:10 EQ3we9UI0
サーフィスかよwww


915 : 象牙 :2014/05/01(木) 20:31:07 c1jQ3oHk0
ちなみに知ってると思うが、「象牙」って「タスク」の日本語な。


916 : 名無しさん :2014/05/01(木) 20:33:58 EfBH97zs0
悪いコト言わんから名前は消しとけ、
そして初心者丸出しのレスはやめろ


917 : 名無しさん :2014/05/01(木) 20:45:59 c1jQ3oHk0
名前はともかく初心者丸だしのレスについてはどうもできないわ(泣)


918 : 名無しさん :2014/05/01(木) 20:48:12 aM1C2ob20
空気読めるまで、しばらくROMってりゃいいよ、煽りとかじゃなくてね


919 : 名無しさん :2014/05/01(木) 21:20:40 QNFHEWdc0
ヒント:メール欄には半角でsageを入力ゥ


920 : 名無しさん :2014/05/01(木) 21:23:03 c1jQ3oHk0
マジでごめん。ROMって何?


921 : 名無しさん :2014/05/01(木) 21:23:30 EfBH97zs0
ググレカス


922 : 名無しさん :2014/05/01(木) 21:30:31 c1jQ3oHk0
うっす。ちょっくらググって来ます(;^_^A


923 : 名無しさん :2014/05/01(木) 21:35:14 c1jQ3oHk0
調べてみたら、ReedOnlyMemberのことだった。とりあえず、でしゃばらずにROMっときますm(_)m


924 : 名無しさん :2014/05/01(木) 21:37:18 c1jQ3oHk0
追伸 ReedじゃなくてReadでしたm(_)m


925 : 名無しさん :2014/05/01(木) 21:42:55 EfBH97zs0
悪い、なんか単なる初心者かと対応してたら荒らしっぽかったわ
今度からはみんなこういうのには触れないほうがいいな


926 : 象牙 :2014/05/02(金) 20:14:25 jGIjDls.0
これが荒らしに見えるのはさすがにひねくれてないか?
誰もが最初は通る道だろう、初心者でも優しく歓迎してやれ
ただ、象牙くんもネット住民は厳しい人ばかりだということを覚えておかなきゃいけないし、スレとは関係ない話題や質問はしない方がいい。自分で調べる癖もつけんとな


927 : 名無しさん :2014/05/02(金) 23:16:49 alvTOcHg0
>>926>>912>>913が名前を消し忘れただけなのか
それとも、まったく関係ないヤツのネタレスなのか


928 : 象牙 :2014/05/02(金) 23:44:01 TpWuUl3I0
そんなことよりもうすぐ次スレだな


929 : 名無しさん :2014/05/03(土) 00:01:29 uX2Jt1PU0
1000はもちろんズィーズィーのaaかな


930 : 名無しさん :2014/05/03(土) 02:19:15 XFdWNmxI0
>>927
ああ、すまぬ、この流れでは初の書き込みだが、昨日ネタに乗ろうとしてやめた後消すのを忘れてそのまま書き込んじゃったみたいだ


931 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/03(土) 18:02:54 tBvPepC60
上白沢慧音、封獣ぬえ、吉良吉影、東方仗助、比那名居天子、
広瀬康一、河城にとり、パチュリー・ノーレッジ、岡崎夢美の9名を予約します


932 : ◆YF//rpC0lk :2014/05/03(土) 18:03:31 5eLyUUjQ0
吉良さん胃腸薬で間に合わねェ……


933 : 名無しさん :2014/05/03(土) 18:10:54 7v7mFxR.0
吉良さんの内蔵がボロボロになりそう


934 : 名無しさん :2014/05/03(土) 18:25:49 N2NS1qkA0
果たして吉良さん無事に第一回放送を越えられるかどうか
…なかなか放送越えられないな


935 : 名無しさん :2014/05/03(土) 18:30:03 7v7mFxR.0
吉良さん放送超えたとしてもストレスで寿命ゴリゴリ削られそう


936 : 名無しさん :2014/05/03(土) 18:52:23 yQqcGIyI0
吉良心配され過ぎわろた


937 : 名無しさん :2014/05/03(土) 19:19:34 DNAMHciU0
いっそ凶悪マーダーが来たほうが楽だったろうな吉良さん…


938 : 名無しさん :2014/05/03(土) 19:25:17 k9/YEdkE0
戦力的にはマジで申し分ないからな…w


939 : 名無しさん :2014/05/03(土) 19:41:39 WVt0oygUO
河童が、河童がきっと掻き回してくれる……!


940 : 名無しさん :2014/05/03(土) 21:52:06 /p1NukfQ0
吉良と河童でうまいこと相打ちになってもらえないかなぁ


941 : 名無しさん :2014/05/05(月) 14:20:18 5HWx82a.0
それでも吉良なら何とかしてくれると信じてる


942 : ◆n4C8df9rq6 :2014/05/05(月) 22:49:46 7JGUXc4.0
申し訳ございません、予約延長させていただきます


943 : 名無しさん :2014/05/06(火) 06:28:27 6e/MLb4A0
初めてこのスレを見たが、頃試合か···。いろんなssがあるんだな···。


944 : 名無しさん :2014/05/06(火) 20:16:45 K5KKjwtoO
ようこそお客さん
ささ、アバ茶でも一杯飲んでリラックスしな


945 : 名無しさん :2014/05/06(火) 21:32:47 6e/MLb4A0
あ、全力で遠慮します(なんか嫌な悪寒···じゃなくて予感)。


946 : 名無しさん :2014/05/06(火) 21:35:38 1PCmyn6Q0
遠慮すんなって


947 : 名無しさん :2014/05/06(火) 21:38:21 ol1lRxws0
いただきます…うっ!


948 : 名無しさん :2014/05/06(火) 21:40:53 lMA4cABs0
コイツ…一気に飲み干しやがった…!


949 : 名無しさん :2014/05/06(火) 21:42:42 xXrbVTxY0
ベビーフードもあるよ・・・


950 : 名無しさん :2014/05/06(火) 21:47:01 JwqBS5f20
素敵なお賽銭箱はこちらよ?


951 : 名無しさん :2014/05/06(火) 22:10:14 hOedaqSI0
コインいっこ


952 : 名無しさん :2014/05/07(水) 04:07:32 5t8UGlZ.0
お賽銭?小銭のことですか?
そんなもの、ウチにはないよ・・・


953 : 名無しさん :2014/05/07(水) 14:05:41 Z6mb8Wsk0
【お賽銭】必要なし
下等な生物ほど神を信じる
頂点は常に一人


954 : 名無しさん :2014/05/07(水) 23:34:10 BLMXXvZM0
博麗神社の賽銭箱が防具としても使え、さらに殴られると賽銭ががっぽがっぽなゲームがあるらしい


955 : 名無しさん :2014/05/08(木) 17:50:17 7cpYSwOo0
賽銭箱で潰されると種族が何だろうが即死だから気をつけろよ


956 : 名無しさん :2014/05/08(木) 22:20:45 MZocl6mgO
な、何をするだー!


957 : 名無しさん :2014/05/09(金) 08:57:22 f2i79VkY0
そろそろ次スレを立てた方が無難かもしれない。予約があと二つあるし


958 : 名無しさん :2014/05/09(金) 20:41:27 VP7Q4ECM0
そんな賽銭箱を使うやつには伝説のスーパーサイヤ人にでも倒してもらわないとな・・・・
しかしついにこのスレもレスが950越えかあ・・・


959 : 名無しさん :2014/05/09(金) 23:19:17 8SQIEeZQ0
77話まで読んだぞぉ···。仗助たちの(打倒主催者の)旅は最初からこの始末☆
           はてさて、どうなりますことやら···?


960 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/09(金) 23:24:16 9I3NtgVU0
日付変わる前後には投下できそうですが、もしかしたら残りレスが足りない可能性があるため
念のために次のスレ立てをお願いできるでしょうか?


961 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:45:18 b25sUJ2M0
投下します。よろしくお願いします


962 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:48:27 b25sUJ2M0
『藁の城組』
【早朝】E−1 草原

サラ、サラ、と夜明け前の気持ち良い風が草原を薙いで拡がっていく。
風と共に残った闇も払拭していくように、辺り一面の景色が黄金色の光に包まれていく様子が目に見えて分かる。
この空が暴力と残虐に塗れた世界だということは、見た限りではとても信じられないだろう。
しかし、その空の下を群作って歩く5人の男女の表情の固さから、やはりこの場所がただならぬ狂気を孕んだ世界だということが感じ取れる。


その一団の先頭を歩く少女――比那名居天子だけは他の4人とは違い、活き活きとした表情で草の根を踏みしめ歩いていた。
彼女の天真爛漫過ぎる性格は悪という悪を辻斬るために存在しているようで、自らが集団を先導して意気揚々と直進する役目を買って出たのだ。

そんな彼女のブレーキ役兼参謀係の女性――上白沢慧音は天子から1メートルほど離れた後方を歩いている。
若干大股開きで歩き気味の天子が先走りする度に、後ろから注意を呼びかけては団の移動速度を保つという、まさしくこの一味の速度調節役を担っていた。
注意される度に不満げな顔でぶつくさ言う天子を嗜める慧音の表情は、比較的穏やかな物ではあったがやはりこの状況、緊迫した気迫が漏れていた。

慧音の更に1メートル後方、列の中心を挙動不審気味に歩く少女は封獣ぬえ。
少々うるさい仲間が増えたとはいえ、一抹の不安を隠せない彼女は常に周りをキョロキョロと見渡しながらそのか細い足を一歩一歩進ませている。
一本のメスを右手に携えながら不安げに歩く彼女は、さっきから後方の視線が気になって仕方ないらしい。
えもいえぬ雰囲気が自分の小さな背中を突き刺すような気がしているのだが振り向くに振り向けず、先ほどから彼女の様子が挙動不審なのはほぼそれが原因なのであった。

その後方を歩くのは白い背広を着たサラリーマン風な男。この場においてやや場違いな格好の吉良吉影が爪を噛みながら歩を進めている。
彼の顔色はもはや穏やかではなく、額にうっすら汗を光らせながら苛立ちをぶつけるようにガジガジと爪を噛み続ける。
前を歩くぬえに無言のプレッシャーを与えているのも吉良のただごとではない様子のせいなのだが、それは彼の意図する所ではなかった。

何故なら吉良のすぐ後ろを歩く不良風の少年――東方仗助のギラギラと貫き刺す視線が吉良の後頭部を常に捉えていたからだ。


963 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:49:38 b25sUJ2M0

「最後尾の警戒は俺がやりますよ。『一般人』の吉良さんに…何かあったら大変っスからねぇ〜……」

一行が移動を開始する直前に仗助自らが挙手して申し出た提案がそれだった。
そう言って睨みつけるように吉良を見やった仗助の目は疑心暗鬼の塊。
完全に宿敵を見るかのように敵意を向けられ、吉良の内心は絶望と焦燥、怒りの気持ちで湧き上がる。
今すぐに自身のスタンド『キラークイーン』を発現させ、このクソガキを木っ端微塵に吹き飛ばしてやりたい。
そんな殺意を必死に押さえ、吉良は取り繕った表情で「あぁ…お願い出来るかな?仗助君」と仗助の提案を渋々了承、現在の列形成に至る。

(全く…今日という日は本当に災難な厄日だ…。東方仗助、奴のこの『感じ』…間違いなく私の正体に気が付いているッ!
私は今、『見張られている』というわけだ……クソッ!この状況、どう対処すればいい!?)

ガリガリガリガリガリガリ……

爪を噛み立てる音が一層強くなっていく。ポタポタと血が地面に垂れ、見る人が見ればそれはおぞましい凶行にも見えただろう。
幸いにも前方のぬえ、後方の仗助ともにその姿は視界には入らなかったが、もはや吉良の精神ストレスは限界にも近づいてきた。

『吉良吉影』という人物は『平穏』を望む男。
敵を作らず、味方を作らず、自分の日常が何者かに侵される事を最も嫌う。
追って来る者を気にして背後に怯えたり、穏やかでも安心も出来ない人生を送るのは吉良にとってあってはならない最悪の事態。
まさしく今の状況が吉良にとっての『最悪』だった。とはいえ、この男はそれまでの人生常に『勝利』してきたという事実も間違いの無いことではある。

(あの仗助はそのうち殺すッ!…だが焦ってはいけない。今は…自分を抑えるんだ、吉良吉影…!
この場で仗助を始末するのはあまりにも軽率だ。『植物』のように平穏な心を持て…!
見れば仗助も迂闊には仕掛けて来ない。この大所帯だ、恐らく『機』を狙って私に接触するつもりだろう…)

―――ならば、『先手』を打たなければ…ッ!いずれ来るであろう『接触の時』のためにもッ!

心の中で何度も自分に言い聞かせる。
怯えるのは今だけだ。今こそを我慢すればきっと『運命』は私に味方してくれる。
『あの時』と同じなのだ…私の正体が、殺人が、仗助や承太郎たちにバレて追われていた時…私は『執念』で奴らから逃げ延びたではないかッ!
私は『生きのびる』…平和に『生きのびて』みせる!

『幸福に生きてみせるぞ!』


964 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:51:13 b25sUJ2M0
内から燃え上がるドス黒い執念をみせる吉良を後ろからジッと眺めるガクランの少年、東方仗助は必死で思考を巡らせる。
目の前に居る男は凶悪な殺人鬼。その正体をこの場で唯一知る自分だけが現状の危機に気が付いている。
今すぐに自身のスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』でブッ飛ばしてやりたい…ッ!
そんな衝動を必死に抑え、仗助は列の最後尾から殺人鬼へと常に視線を注ぎ続けていた。

(今この場で吉良のヤローをブッ飛ばすのは簡単だ。…いや、キラークイーンは簡単な相手じゃあねーが、とにかく今それはあまりやりたくねえ。
『コイツは殺人鬼です』と言ってブッ飛ばしたところでこの状況だ、下手すりゃ俺が殺人鬼呼ばわりされちまう。
何とかして皆にコイツの正体を伝えて信用させる方法はねーものか…それもコイツの見てない所でコッソリ伝えるのがベストだが…)

腕を組みながら自慢の髪を乗せた頭をウンウン唸らせるが、一向に良いアイディアは浮かんでこない。
だが、吉良にとっても状況は仗助と同じはず。お互いが迂闊なことは出来ない状況にあるのだ。
ならば…と、今のところはこの凶悪な殺人鬼を見張っていることのみに集中するしかない。

(どれだけスカした仮面被ってようと、所詮コイツは人殺し…!『重ちー』殺したことは一生忘れやしねーぜッ!
衆目の前でゼッテー化けの皮剥がしてやるッ!)

既に周囲の警戒という重大な役目を見失い、目の前の危険人物をどうにかしなければという使命にのみ燃える仗助。
その激しい敵意は吉良を通してその前方を歩くぬえにまで飛び火しており、彼女に正体不明のオーラを浴びせてオドオドさせている事には気付いていないようだ。


「みんな!大きな建物が見えたわッ!きっとあの場所が『サンモリッツ廃ホテル』よッ!」


その時、先頭から周囲への警戒の意を全く含まない音量で天子の大声が聞こえてきた。
妖怪の山の麓にかつての幻想郷には存在しなかったはずの現代的な建造物が聳える。

―――サンモリッツ廃ホテル。

元々外界で14世紀に建てられた別荘兼要塞とも伝えられており、外敵の攻撃から身を守り立て篭もるには充分の大型施設。
照り出す朝日の逆光を浴び、まるで深い闇の様な影となった大きな玄関口が一行を手招きするように誘う。
5人の男女は前方に高く聳え立つ要塞を見据えながら、それぞれの思惑を胸に秘める。

希望、不安、焦燥、恐怖…
黄金色の眩い光に目を細め、各々はこれから起こる出来事に様々な未来を想像して一喜する者も居れば、一憂する者も居る。
あの場所に何者が待っているのか。
あの場所ではいったい何が起こるのか。
それは誰にも知る由が無い。
未来の事など、分かる者は存在しないのだ。


965 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:52:23 b25sUJ2M0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『パチュリー・ノーレッジ』
【午前5時22分】E−1 サンモリッツ廃ホテル 食堂


ワァーーー!!!


この煩わしい歓声を聞くのはこれで何度目になるんだろうなと、パチュリー・ノーレッジは深い溜息の後に朝イチの紅茶を啜る。

(うん。小悪魔や咲夜ほどでは無いけど我ながら結構美味しく淹れられたかも)

自分の支給品はスタンドDISCの他にもうひとつ、なんら普通のティーセットが一式配られていた。
武器にすらならないこの支給品を何に使用するかと考えるのも馬鹿馬鹿しく、ご丁寧に紅茶のセットまで一丁前に付属してきたのでせっかくだから食後がてらに使ってみたのだ。
慣れない手つきで慣れない事をしたわりには紅茶の完成度はまぁ普通に美味しかった。
が、やはり咲夜の淹れる飲み慣れた紅茶の味には程遠く、同時にあの完全で瀟洒な従者の鉄仮面を思い出してほんのちょっぴりだけ、彼女の身を案じる。

まさかあの完全無欠なメイド長に限ってそうそう死ぬようなことはありえないだろう。
吸血鬼の友人レミィについても同じことが言えるが、ウチの騒々しくも屈強な住人はそう簡単にやられるタマではないのだ。
レミィ、咲夜、そして美鈴…は少し心配だが、とにかく彼女たちがこの自分よりも先に逝ってしまうことなど信じられない。
自分の魔法使いとしての格の大きさには自信はあるが、その戦力を考慮してもどう考えたって我が紅魔館の顔ぶれの中で最も殺し合いに向いていないのは私だろう。

チラリと時計の針に目を向ける。

現在時刻は5時22分。

あと40分ほどで件の放送とやらが流れ始める。
一刻も早く巫女とスキマ妖怪をとっ捕まえて仮説の裏付けを取るべき自分たちが、呑気にも朝食とついでにティータイムなどをとっていた理由はこの中途半端な時間帯にある。
人探しに出掛けるには、放送を聴いてからの方が良いのではないか。
すぐさまホテルからの出発を提案したパチュリーに対して生意気にも横槍を差し込んできた夢美の意見に、だけども反論する事も出来ずパチュリーは押し黙った。

確かに人探しに出掛ける前に放送で流れるであろう――いわゆる死亡者リストを聴いてからの方がこの先動きやすい。
夢美の意見を頬を膨らませながら渋々了承したパチュリーはこうして紅茶によって喉を潤すしかない。


966 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:53:22 b25sUJ2M0

…まぁ、大丈夫だろう。
巫女やスキマ妖怪にしてもレミィ達にしても、今頃は異変解決、打倒主催者に向けて動いているに違いない。
放送までたかが後40分。焦る必要はありなどしないのだ。

少し離れた場所では相変わらず夢美が忙しなくキーボードを叩いてゲーム画面に夢中になっている。
外の世界の娯楽道具など触った事もないが、アレはそこまで彼女を興味津々にさせる代物なのだろうか?
ふむ…なんにせよ、これで少しは静かに紅茶が飲めるというものだわ。東方心綺楼さまさまである。

…いや別に夢美が構ってくれなくて寂しいとかそんなんじゃないわよ。これだけは断言しておくけど。


見ればスタンド使いの少年――広瀬康一も夢美からゲームの攻略を教授されている。
あたふたとキーボードを叩く康一の横で夢美がやかましく「いけ」だの「そこだ」だの「ヘタっち」だの指南(?)を施している姿がどこか滑稽だ。
そしてそんな教授と生徒のやり取りを眺める者がもうひとり。


河城にとり。


彼女もパチュリーと同じ様に、夢美たちの茶番を紅茶を啜りながらだるそうにボンヤリと眺めている。
パチュリーは先ほどの出来事…にとりや康一との邂逅をその脳裏に思い出していた。

自分たちを信頼させる為に自ら支給品を手放すという、この会場では限り無く愚かな行為を深く考えずにいともたやすく行った康一。
パチュリーから見てもこの少年は浅はかでかなり危なっかしく思う。にとりが彼を非難するのも至極当然な話だ。
夢美も馬鹿じゃあない。むしろこのゲームをよく理解しているだろうし、そのうえで私と共に脱出の方法を探ってくれている。
これは彼女には絶対言うつもりは無いけど、このトチ狂った会場内において少しは、ほんのちょ〜っぴりだけは、頼りにしてる部分も無いとは言えなくはないのかもしれない…ん?つまりどっちだ?

まぁとにかく!夢美もそこそこ頼りになるような奴ってことよ!

…ところがこの河童はどうなのだろう。
康一に対して注意を促した彼女はこのバトルロワイヤルにおいて正しい思考を持っているのかもしれない。
つまり『理想』ではなく『現実』をキチンと見据えることが出来る利口者。そしてパチュリーの耳には少なからずこの青河童の『評判』ぐらいは届いている。
彼女が何か大きな事件を起こしたという話は聞かないが、どうにも滲み出る小悪党臭さを拭いきれていない。

早い話がイマイチ『信用できない』のだ。


967 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:54:30 b25sUJ2M0
人が人を疑うということそれ自体は、別に悪いことではない。ましてやこの状況だ。疑われて当たり前なのである。
しかしこんな状況だからこそ、相手の事を『知らない』というのはあまりにも危険だ。
もしもこの河童とこの先行動を共にしていくのだとしたら、彼女を疑って疑って、疑い尽くさなければいけない。それは誰かがやらなければいけない事だ。

疑を以って相手に尽くす事は、恥ではない。それは智となり友となる。

『疑う』という行為は相手をより深く知ることへの一種の『コミュニケーション』の手段だ。パチュリーはそれを知っていた。
嫌な役回りね、そう毒吐きながらパチュリーは席を立ってにとりの横にゆらりと座る。
それに気付いたにとりは分かりやすくビクンと体を震わせ、多少声も上ずらせながらパチュリーとの会話に転じた。


「や、やあパチュリーさん。なにか用かな…?
この紅茶の感想を聞きたいのなら結構なお手前だと思うけど――」

「悪いけど世間話を楽しみに来たのではないのよ。
いやね、とってもつまらないことで……でもとっても重要な事を思い出したから…ちょっと、ね。…お時間はあるわね?」


にとりは戦慄した。

自分の恐れていたことが早くも起こりつつある。
カップを持つ手の震えを何とか止めようと腕に意識を集中させる。
落ち着け…!冷静に対処しろ…!汗を流すな、この魔法使いは私の反応を見ているんだ…!
そう思いたくとも、しかしにとりは脳内で思考の洪水が止め処なく溢れ出てくるのを抑えられない。

(とても重要な事だって…?マズイッ!やっぱこいつ、完璧に私を疑っていやがるッ!
笑顔だ…とにかく笑顔を崩すな…!いや、変に笑ってるのも不自然だ…ここは何気ない表情で…!
ああもう!接触してくんのが早いよパチュリー!たかだか河童の私なんてどうだっていいだろ!?
いいってば!席に戻って考察するなり紅茶を楽しむなりしてろって!
頼むから放っといてくれってば!さもないと私、ホントにアンタをころ)

「焦っているわね?にとり」


ドクン…と、心臓がより一層跳ね上がった。
パチュリーの小悪魔のような微笑と、囁くような冷たい呟きがにとりの全身をゾワリと包み込む。
その反応に気付いてか気付いてないのか、じっくりとにとりの瞳を覗き込みながら問答を続けるパチュリー。

「ねぇ、にとり。『どうして』貴方はそんなに焦っているの…?私はまだ何も言ってないわ」

魔法使いの嘘を見破るとかいう力。
間違いなく、私は今『試されている』…!私が『害ある存在か』どうかを試されている!
確かに私は殺し合いには『乗っていない』…けど、潔白というわけでもない事は自分でもよく理解している。
今…私が心の内で一瞬浮かべてしまった『殺意』…コイツに感じ取られたか!?
どうする!?どうする!?今この場でパチュリーを始末するわけにもいかないッ!今はダメだ!!
とにかく…平静を装って何事もなく質問に答えるしかないッ!

「パ…パチュリーさんが怖い顔で近づいてきたからだよ。鏡見たら?今のアンタの顔、凄いよ…?」

「お気遣いどうも。でもね、そんなことは些細なことよ。
とても重要なことっていうのはね、そういえば最初に会った時にまだ『聞いていないことがある』…それを思い出したのよ。
にとりは私と夢美の事を、まぁあの時は建前だったとはいえ一応は信じてくれたみたいね。そこは感謝しているわ。
でも、貴方本人には聞いていなかった…『貴方がこのゲームに対してどう動こうと思っているか』…それを聞いていなかった。
どう?つまらないことでしょう。『たったそれだけのこと』よ、聞きたいことというのは」


968 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:55:31 b25sUJ2M0
乗ってなんかない。
私は乗っていないと言え。
だって本当の事じゃないか。私、河城にとりはこんなゲーム『乗っていない』。
だが、そんな返答でこの陰気な魔法使いを納得させられるか?
私は今まさにこの女を『始末』したいと考えているのに!!
今の私はどうなんだ?嘘の気とやらが漏れているのか?それとも漏れているのは『殺気』か。
パチュリーはさっきから私の心を見透かすように目を合わせている。気持ちが悪い。
正念場だ。言うぞ…ッ!言う!
最悪の事態もありうる。その時は…もう、どうとでもなれだ。
不自然に間を空けちゃダメだ。不自然に笑顔を取り繕ってもダメ。
何事でも無いように…どうとでもない事のように…




―――ほんの一瞬の間。

あるいは、その『間』がにとりの命運を分けたのかもしれない。




「――私は、『殺し合い』に…………乗って」




にとりの言葉はそれを境に途切れた。
なぜならば同時に轟いた大きな『破壊音』がこの場の4人の耳を劈いたからだ。
音の出所は玄関ホール。入り口のドアも窓もしっかり鍵をかけてあるのに関わらずこの食堂にまで轟音が響いてきたということは、間違いなく少々乱暴な侵入者がこのホテル内に入ってきたということだ。
それを聞いた夢美はすぐさまゲームを中断、パチュリーが今まで見た事無いような真剣な表情で駆け寄ってきた。

「!!パチュリーッ!今の音…!!」

「……ええ。どうやら侵入者みたいね。皆、念のため戦闘の準備をして」


バタバタと忙しなく駆け巡る周囲の中、にとりだけが呆けたように椅子に座ったまま、顔を俯けていた。


969 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:56:58 b25sUJ2M0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「よくやったわ、仗助!流石この私の下僕ねッ!」

「じょじょ…仗助君ッ!やり過ぎだ!これではまるで私たちが襲撃しに来たみたいに見えるじゃないかッ!」

「あー…すみませんっス。どうせ直すもんだからつい手加減ナシでブチ抜いちまって…」

「うわ…これが仗助のスタンドパワー…(私のじゃあ真似出来そうもないわね)」

「………」


ホテルの玄関口に辿り着いた妖しげな一行は周囲及び屋内を警戒しつつも内部への侵入を決心する。
が、その大層立派な玄関は押しても引いてもピクリともせず、全ての窓もボロ板で雑多に塞がれていた。
二人か三人かそれ以上か…恐らく誰かが篭城しているのだろう。そうと決まればやるべきことはひとつだと、天子は先ほど獲得した優秀な下僕にこう命じた。

「仗助!あなたのスタンドでこの玄関をブチ壊しなさい!」

俺に任せろと言わんばかりの腕まくりでスタンドを出現させた仗助は、慧音が止める間も無くお得意の壁ブチ抜きを披露し、周囲にその猛音を轟かせた。
その破壊力に四者四様それぞれの反応を見せた後、まずは先陣を切ってホテル内に足を踏み入れた天子に続いてぞろぞろと一行は薄暗い館内に侵入する。
そして最後に仗助が入り、ドアを修復した所で早くも篭城者との掛け合いは起きた。


「そこの男女5名!止まりなさい!
…ふんふん、まな板娘にツノ女に…あれは羽根?かしら。羽根の生えた女の子…それに普通のサラリーマンに最後はハンバーグヘアーの不良学生…
なるほどねー、こりゃまた随分と偏屈な集団がおいでなすったわね…ふむふむ」


970 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:58:12 b25sUJ2M0
奥の扉から現れたのは全身赤ずくめの装いをした少々騒がしくも麗しい女性。
彼女はハツラツと天子たちに警告を促し、なにやら多分に失礼なことまで呟いている。
そんな中、彼女に一番近い位置に居た天子だけはその呟きの中にとんでもなくタブーな語句が混ざっているのに気付き、
冷や汗を交えて仗助の方を素早く振り向いたが、どうやら彼に届いた台詞は前半部だけだったらしく気付いていない。
そのことに心底ホッと安心して一旦落ち着いた天子は、自分がまな板娘などと呼ばれたことも忘れ去り、現れた女に威風堂々と木刀を突きつけて声を張り返した。

「そこの紅女!悪いけど質問するのはまずはこっちからよッ!
この建物には『何人』の人間が居るのかッ!
貴方達は『乗ってる』奴らかッ!
聞きたいのはこの二つよ!さっさと答えなさい!」

「むっ!だぁ〜れが『紅女』よッ!この『蒼娘』め!
ここに居るのは『4人』で、もちろん『乗ってない』わよッ!
さぁ!次はそちらさんが答えァ痛―――ッ!?」

「何でちゃっかり答えてんのよこのバカ美。
脳に爆弾が埋め込まれているのか、貴方で解剖実験したっていいのよ?」

妙にハイテンションにいきり立つ女性のツッコミ役のようにゆるりと登場したのは、長く綺麗な紫髪を揺らせる小柄な女性だった。
見た目とは裏腹に物騒な物言いの彼女は、紅い女性の足先を思い切り踏みつけながら天子たちの前に立つ。どうやら物騒なのは台詞だけでなく行動もらしい。

その鋭い漫才を観戦しながらも突き付けた木刀を取り下げずに、あくまでも自分たちが『上』だという態度を崩そうとしない天子の次なる言葉を遮るように慧音が横から割って入ってきた。

「天子。こちらがそのような威圧的な態度だと相手に警戒心を与えてしまう。
我々はあくまでも『対等な立場』のもと、仲間を集めなければいけないのを忘れるな。
こちらもゲームになど『乗っていない』…この答えで満足したかな?……『知識と日陰の少女』、パチュリー・ノーレッジよ」

こちら側のツッコミ役兼参謀が天子の木刀を押さえ、穏やかな物腰で相対する。
その行為に不満なのか、プクリと頬を膨らませた天子は相手の紅髪の女に精一杯のイヤミな視線を送った。
見れば相手の紅髪も全く同じ顔をしながらこちらを睨みつけている。
アクセル役とブレーキ役の似た者コンビが、それぞれ『動』と『静』で構成された火花をチリチリと散りばめる。
そして慧音の言葉を受けて一瞬の間をおき、あちら側の紫髪のブレーキ役がゆっくりと口を開いた。


「…いいえ、満足は出来ないわね。『知識と歴史の半獣』上白沢慧音。
なにせこんな状況だもの。お互い信頼するにはそれ相応の『覚悟』と『根拠』が必要だわ」


971 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 00:59:15 b25sUJ2M0
パチュリーと呼ばれた彼女はつい先ほど起こった出会いを――さっきも思い出していたが――思い返していた。
大した根拠なども全く無いのに夢美の勝手な行動で仲間に引き入れざるを得なくなってしまった河童と少年。
康一はともかく、にとりの方はパチュリーの中ではどうにも『グレーゾーン』に居る。

このゲームを破壊させるにも脱出するにも、『仲間』は大切。そしてそれ以上に『信頼』が大切。

だったらこれ以上迂闊に安易な『関係』を持つのは避けたいところだ。
まして見たところ相手はどうやら5人も居るらしい。自分ら4人に加えれば全部で『9人』という大所帯になってしまう。
一人一人が信頼のある関係ならばともかく、知り合いですらない全くのイレギュラーが複数存在している。
豊富な知識を借りる為にもあの上白沢は仲間に加えたいところだが、他の4人はどう考えたものだろう。

自分と夢美と上白沢…三人寄らば文殊の知恵と言うが、幻想郷の知識者(一人違うが)をこれほど集めれば文殊どころではない知恵が生み出せる。
だが9人というのは幾らなんでも多すぎる。これでは烏合の衆となるのが目に見えて分かる。
こんな殺し合いゲームの中で9人もの人間が寄せ集まって、もし想定外の『アクシデント』が起こったら…?
そんな事は火を見るより明らか。


『自滅』だ。


一見、『要塞』のような戦力、知恵を集めたとしても…その構造は実に脆く、崩れやすい。
強固な防御を誇る要塞ほど、『内』からの決裂には弱いものなのだ。

―――言うなら、『藁の要塞』…と言ったところね。


972 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:00:14 b25sUJ2M0
ほんの少しのキッカケから起こったアクシデント…その『ヒビ』は次第に大きく裂け始め、気付いた時には既に修復不可能…!
喧々諤々、混乱、喧騒…取り返しがつかない迷妄の霧中にまで来てしまった時、私如きがどこまで彼らを御せるというの?

正直に言うと…自信が無い。
この大人数、身内の不調和から生じた『暴走』『悪意』…もしそれらが重なった時、私ひとりでは…解決出来ないかもしれない。
やはり彼ら5人を受け入れるにはリスクが高すぎるのだ。

やっぱりここは…『戦力』よりも『安定』を選ぶべきなのかしらね…





「と…貴女の事だからきっと『そう思って』んでしょう?パチュリーちゃーん?」

「………え?」

思考がどんどんネガティブな方向へと沈んでいくパチュリーの耳にボソリと聞こえて来たのは隣の夢美のこの上ないニッコリとした声。

「もーう!ひとりで背負い込まないっての!
短い付き合いだけど貴女の考えてることぐらい、この夢美ちゃんにはお見通しよ♪
パチュリーだけでは解決出来ない事態でも、この私が支えてあげればどんな難題だって逆立ちしながらチョチョイのチョイよ!
だからさ、約束っ!この先、貴女がぬきさしならない状況になったら私に助けを求めなさい!
まぁ別に私じゃなくてもいーんだけどさ。とにかく人の肩ぐらい借りろ!ハイ指切りゲーンマン!」

「…え?え、ちょっと…!ゆ、夢美ぃ…」


耳打ちするように、そして流されるように夢美のグイグイと押し切る勝手な約束を、けれどもパチュリーは突っ返す事も出来ずに腕をブンブンと振られながら指を切ってしまう。
紅魔館の本の虫かつ引き篭もりの魔法使いである自分にここまで近づいてこようとする馬鹿者はかつていただろうか?
親友のレミィでさえこうも積極的に自分とは触れ合おうとしない。
初めてともいえるそのどうにも言葉にしづらい感情が胸の中から湧き上がるのを感じつつも、パチュリーはあくまで冷静を取り乱さぬように淡々と相方に礼を言う。

「あー…うん。ま…まぁ、貴方のその…心遣い?には一応感謝…せざるを得ないというかなんというか…
んっとね…早い話が、いわゆる、そのぉ…」

「そういう時はねパチュリー、『ありがとう』って言いなさい。ほれほれ言うのだ!」

「…うるさい、自分で言うなっ!………………あ、ありがとうっ」


973 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:01:15 b25sUJ2M0
消え入るようなか細い声で届いたツッコミ役の珍しい感謝の念に、夢美はニッコ〜〜と下品に笑う。
それがたまらなくムカつくもんだからパチュリーは彼女の睫毛を一本、プチンと引き抜いてやった後にコホンと咳払いして微妙に赤い顔のまま慧音たちに再度向きなおした。


「…慧音。確認しておくけど後ろの4人は信頼出来るんでしょうね…?
いつぞやのおてんば娘とか、知った顔も混ざってるみたいだけど」

「あぁ、勿論だ。彼らは私が道中保護した者達だ。危険はない。
どうやら…お前も気の合う友人と出会えたようだしな。私もお前達を信頼しよう」

茶化すようにニヤニヤと笑う慧音に対してパチュリーはまたしても頬がほんのり熱くなってきたのを感じ、向けようのないムカツキを横にいる夢美の頬にビンタすることで取りあえずは良しとした。

「良しとするなっ!?」

理不尽な暴力を受けたことでツッコミが逆転してしまったが、このまま慧音たちを突き返すというのも忍びなく、
また横で自分の頬を痛そうに擦っている夢美がフォローしてくれるということでパチュリーは溜息をつきながら彼女ら5人の訪問を許可する。

「…まぁ、貴方ほどの人が私たちを信頼してくれるというのなら無碍に帰すわけにもいかないわね。
どうぞいらっしゃい。汚い拠点だけど広さだけは中々のものだから。お茶ぐらいは出せるわよ」

手招きしながら食堂へのドアを指差すパチュリーと、満面の笑みでうんうんと首を振る夢美。
主たちの許可も出たということで慧音は安心した様子で皆を振り返り、小慣れたツアーガイドのように天子たちを引率し始める。

「さぁ!みんなも安心してくれ。彼女はパチュリー・ノーレッジという立派な魔法使いだ。私とも知らぬ仲ではない。
ホールで立ち話というのもなんだ。まずは彼女の仲間に会って軽い挨拶と今後の方針でも決めようではないか」

「ちょっとちょっと!リーダーは私だって言ったじゃない!
参謀は参謀らしくリーダーを補助する程度でいいのよ。分かったわね、みんな?」

「天子さんと慧音先生がそう決めたんなら俺に異存はねぇっスよ」

「ま…いーんじゃない?このホテル、篭城に向いてそうだしね」

「…私も異議はないよ」

賛成4の反対0で一行はパチュリーたちと行動を共にすることに決定した。
元々は仲間を探し集める為に当てもなく歩いていたので、この意見合致に慧音は満足気なようだ。

さて、そうと決まればもたもたする事も無い。
早速パチュリーに案内されるがまま食堂まで足を運んだ慧音たちは、残る2人の仲間とやらの顔ぶれを各々想像しながら薄暗い廊下を突き進む。
特に会話をすることもなく、パチュリーが食堂のドアを開き天子を筆頭に5人はぞろぞろと広めの食堂に足を踏み入れた。


そこで思わぬ再会を果たしたのはこの2人の少年だった。


974 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:03:48 b25sUJ2M0
最後の仗助がドアをくぐったところで、食堂内にけたたましい2つの少年の声が重なった。


「あれーーーーッ!?じょ、仗助くん!仗助くんじゃないか!!
うわーー無事だったんだねーッ!」

「おッ!?康一!テメー康一じゃあねーかッ!!
なんだよお前こそ元気そーだなオイ!!!」

全く予期せぬところで再会を果たした杜王の少年二人は、互いの無事を喜び駆け寄った。
この会場に来てから不安続きの康一はここ一番の朗らかな笑顔を浮かべる。
対する仗助もさっきからピリピリしていた雰囲気を払拭させて、年齢らしいあどけなさの残る笑顔で一安心した。

「あら?もしかして彼が康一の言っていた『東方仗助』かしら…?」

「はい!仗助くんが居ればもう怖いモノ無しですよ!」

歓喜をあげる2人の様子から、この異様な髪形をした少年が康一が言っていた知り合いの一人だと察したパチュリーは意外な顔をして康一に話しかけた。

ふむ。だとするなら多少は彼らへの信頼も確立するのだろうか。
これほど喜ぶ二人の様子を見るに恐らく仗助と呼ばれた少年は悪い人間ではないのかもしれない。
ならばついでにと、パチュリーは少しだけ気になっていた事項を仗助に問うてみた。

「ねぇ、『東方仗助』…といったかしら?
貴方に少し聞きたいことがあるのだけど、『東方心綺楼』という名前のゲームはご存じ?」

「ん?東方…心綺楼、スか?
いや〜悪いけど聞いたこと無いっスね〜。ゲームならそこそこしたりもするんスけど」

…まぁ、期待はしていなかった。
彼の『東方』という名字もこのゲームに何か関係があるのではとも思ったりしたけど…偶然以外の何物でもないのだろう。

とにかくこの場は軽く自己紹介でもして少しでも互いの情報交換を執り行っていくべきだろう。
再会の喜びも程々に、彼らをぞろぞろと広いテーブルと椅子に並び座らせていく。
意外にもこの間、夢美が人数分の紅茶と食器を手際良く用意し、自分らの前にとカチャカチャ香ばしい香りの紅茶を並べていった。


975 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:04:47 b25sUJ2M0

「さて…それではそれぞれの挨拶も兼ねて今から情報の交換会をするわね。
不肖、このパチュリー・ノーレッジがこの会を執り進めさせて頂くけども…その前に貴方達に指導者、『リーダー』は居るの?」

全員分に紅茶を行きわたせ、夢美が最後に着席したところでパチュリーが発言する。
それを聞いた天子はハイハイと勢いよく挙手し、薄っぺらな胸と共にふんぞり返ったように自己主張した

「あ!リーダーはわたしわたし!この比那名居天子よ!
ついでにこっちは私の下僕である仗助。覚えておきなさい!」

「えっと、ども。東方仗助っス。
こっちの天子さんの舎弟やってて、康一とは同じ学校のダチです。以後、よろしくっス!」

その見た目とは裏腹に、丁寧に自己紹介をした仗助は椅子から立ち上がって綺麗にお辞儀をした。
それを聞いた康一がおや、と不思議な顔をする。

「舎弟…?それどういう事なの?仗助くん」

「その疑問には私が回答するわ康一とやら!
仗助はね…そう。この私の美貌と器の大きさに感動し、自ら僕になりたいと頭を下げこんできたってわけなのよ!
いまどき見る目があるわ、この男は。そうなのよね?じょーすけ?ね?」

「…………間違いないっス、天子さん」

仗助の返答が一瞬だけ間が空いたのに違和感を感じた康一だが、何かこの二人しか分からないやり取りがあるのだろうとこれ以上の突っ込みはやめておいた。
仗助の殊勝(?)な態度にご機嫌な天子はニッコリと微笑んだ表情を康一に向けながら手元の紅茶に手を付ける。

そこで今度は仗助の真向かいに座っていたにとりが彼に話しかけた。

「あんたが康一の盟友かぁ…話には聞いてたけど『スタンド使い』なんだって?
なんか私が想像してたのとは違うな…康一の大事な盟友にしては随分不良くさい格好だし、
て、いうか…ぷぷ。そもそも何だその妙ちくりんなダサい髪型?それが現代の人間の流行なワケ?
だとしたらチョーウケるんだけど。ギャグ?ギャグなのか?
やっぱ人間は面白いなー。あははは(笑)」







ぶぅーーーッ!

と、仗助の左隣に座っていた天子が飲んでいた紅茶をさながら高密度の弾幕のように盛大に噴きかけ、前に座っていた夢美の顔に思い切り被弾させた。


976 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:05:56 b25sUJ2M0
うぎゃあと熱さで顔を擦る夢美を無視し、天子はダラダラと滝の様な冷や汗を垂らしながら引き攣る表情で横の仗助をそっと見やる。
続いてにとりの左隣に座る康一は顔面蒼白になりながらもカクカクと仗助の方へと首をゆっくりと動かした。



その瞬間、康一が止める間も無くにとりの顔面を轟音と共に拳が貫いた。
仗助のスタンドであるクレイジー・ダイヤモンドの拳はダイヤのように硬く、軍艦砲のような威力を併せ持つ。
にとりは鼻血を振りまきながら、何メートルも空を裂き、勢いよく後頭部を壁へとぶつけた。

「おい、チビ!!今、何つった!?俺の髪型が何だってぇーー!!?
テメーこそルイージみてーな帽子被りがって、あァーーンッッ!?
もういっぺん言ってみろや、コラーーーッ!!!!」


またしても鬼のような形相で怒りの感情を爆発させたこの破天荒な男の突然の変わりように仰天する周りの者たち。
何の脈絡も無くいきなり仲間を吹き飛ばされたパチュリーは状況が理解できず、混乱しながらも弾幕攻撃の準備をし、
また自分の信頼していた温厚な仲間が、話には聞いていたとはいえこのような暴挙に出たことに慧音は慌てることしか出来ず、
ぬえも口元を手で抑えながら丸い目をして仗助から身を引き、夢美はアセアセと顔にかかった紅茶を袖で拭き、吉良は紅茶を飲みながらその光景を静かに傍観していた。

まさに一触即発。

こうして二組のグループはにとりの軽はずみな罵倒と、仗助の古くからの困った性質によって早くも決裂を迎えようとしていた。
天人である天子の強靭な肉体とは違って、そこまで強く鍛えられていない河童のにとりにクレイジー・Dの強烈すぎる顔面パンチは到底耐えられず、壁にめり込んだままのびている。

「じょ…仗助君ッ!?やめるんだッ!!」

「……っ!?!?仗助ッ!?
貴方『たち』、一体なにを…ッ!?
くっ…!『――日符…」

暴走する仗助を抑制しようにも手が付けられない慧音。
そしてこの仗助の暴走を慧音たちによる『謀略』と勘違いをしたパチュリーはすぐさまスペルカードの詠唱を開始した。


「オイィーーーッ!!勝手にのびてんじゃねーぞォこのボケナスがァーーーッ!!!
そっちからフッかけてきた喧嘩だろーがッ!!!とっとと起きあが……って、うおぉッ!?」

ズ シ ン ッ ! !


にとりへと無慈悲な追撃を行おうとテーブルに足をかけた仗助が不思議なことに突然バランスを崩し、まるで『見えない何か』に押し潰されたようにテーブルを破壊させて倒れ込む。
仗助が追撃を叩き込むより先に、パチュリーがスペルカードを仗助に撃ち込むより先に、誰よりも早くこの男が動いたのだ。


977 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:07:10 b25sUJ2M0


「エコーズAct3!!」


広瀬康一のエコーズAct3。
対象に強力な『重力』を付加し、身動き出来なくさせる『エコーズ』の最終形態だ。
身体全体にミシミシとめり込む圧力によって仗助といえどもその重力には抗えない。
彼はバタバタと手足を振り回し、康一に対しても大声を張り上げた。

「康一イイィィィィーーーーーーッ!!!
テメっ!この『エコーズ』を解きやがれェェェーーーーーッ!!!」

「仗助くんッ!!駄目だよこんな事しちゃあッ!
にとりちゃんは女の子なんだよッ!?落ち着いてスタンドをしまってッ!!」



小さくとも針は呑まれぬ、とはこの事か。


その見た目通り穏やかな性格で小柄な体格をしている康一に対して、彼を知る仗助と吉良以外は誰もが心の内で康一を過小評価していた。
しかしスタンド使いと聞いていたとはいえ、まさかその康一が暴れ牛の如き今の仗助を一瞬にして押さえつけた事実にこの場の殆どの者がポカンとするしかなかった。

当の康一はというと、壁にめり込んで気絶したにとりを救いだし優しく床に寝かしている。
そしてこの事態を重きとみた彼は何と友人である仗助に頭を下げ、精一杯の誠意を大きく吐き出した。

「仗助くん!にとりちゃんの発言はボクから謝る!!ごめんなさい!
だから仗助くんもここはどうか抑えてほしい!
今は仲間割れなんかしてる状況じゃないと思うんだ。
この会場のどこかで誰かが被害にあってるかもしれない…仗助くんたちの力が必要だ。
にとりちゃんが目覚めたらもう一度いっしょに謝るから…彼女を許してあげて…?」

『仗助ェ〜…『マスター』ガソウ言ッテ頭下ゲテンダゼ〜?
オラ!『3 FREEZE』解除シテヤッカラ、ソノ『立派』ナ髪型ゴト頭冷ヤシナッ!』

相変わらず汚い口調のAct3はそう言いながら仗助にかけた『重力』を解除して、頭を下げる康一の横で偉そうに腕を組んでいる。
この予想外すぎる状況に場の雰囲気は数瞬、寂たる空気に支配された。


そしてガラリと、崩れたテーブルの残骸から身を起こす仗助。

彼は頭をポリポリと掻きながら向ける顔無さそうに、そして心底申し訳無さそうに康一の方へこう言葉をかけたのだった。



「…お前が謝る必要は全然ねーよ、康一。
悪かったのは俺の方だぜ。ちと、頭に血が上りすぎた…
ダチに頭下げさせるなんて、あっちゃならねー事だった。
どうかこのとおり、すまなかった!」


978 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:08:46 b25sUJ2M0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

「えっと……あなたのその自慢の髪型をけなしてしまってごめんなさい。
今後一切、金輪際、絶対に、確実に、二度と、この命に代えても、必ず、死んでも馬鹿にしません」


はてさて、どこかで聞いた覚えのある謝罪が昏睡から復活した河童の口から漏れた。
ともすれば頭の皿ごと頭蓋が粉々になりかねない威力の拳骨を受けて死せずにはいられなかったのは、ひとえににとりが女の子という事で仗助も無意識にも多少の手心があったからであろうか。

とにかくあの後すぐに冷静に戻った仗助は、ぐったりするにとりに駆け寄り急いで治療を開始。
大事には至らずに済んだのだ。

よほど怖い思いをしたのか、治療後も悪夢に苛まれるように唸り声をあげるにとりを心配する康一は、彼女が起きるまでにずっとその手を離さずに握っていた。
康一の祈りが届いたか、思った以上に早く目覚めたにとりは事の顛末を康一から聞きだし、非は全て我にありと頭を床に擦り付ける勢いで仗助に謝意を示した。
尤も、そのどこか謝り慣れた姿は誠意というよりは恐怖心からの謝罪の様にも見えたが。

仗助もすっかり反省したようで、謝ってくれればそれで良いとそれ以上にとりを責めること無く、円卓の和を乱さぬようこの場の全員に向けて再び頭を下げた。
初めは呆然としていたパチュリー達も、康一による『東方仗助の取り扱い注意点』の説明を受けることで取りあえずは納得してくれた。


「人に唾をかけようとする者は自分にも吐き返される。
悪口を言ったところで結局自分が損害を被るのよ。河童風情はこれに懲りたら猛省することね」

とは天子の談。
自分の過去の行いを全く棚に上げての耳を疑う台詞をなぜか偉そうに放った天子だが、仗助が暴れた災時には机の下に潜って半分涙目で龍魚の羽衣を頭から被っていたことを考えると余程のトラウマがあるはずなのだ。

にとりは天子をブン殴りたい衝動を抑え、クレイジー・Dによって修復された机と椅子に康一と共に座った。
和解したとはいえ未だ仗助に対し恐怖心が拭えないのか、横に座る康一の学ランの裾を軽く摘まんでビクついている姿がいかにも非力で可愛い。


979 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:09:51 b25sUJ2M0
とんだアクシデントが入ってしまったが、康一の素早い対応のおかげで何とか和平を保てそうなこの談義。
周囲の康一を見る目が変化したのは気のせいではないだろう。

おとなしそうな少年だが、やるときはやる男。
それこそが広瀬康一なのだということが今回の騒ぎで皆にも理解できた。

仲間であったパチュリーや夢美も康一という存在を内心軽んじていたことに恥を感じ、これからは頼りになる仲間だと再認識してどこか嬉しそうに微笑む。
また、先の仗助と康一とのやり取りから、二人の間にある『友情』は決して紛い物ではない本物の『絆』であることが窺えた。
仗助による懸命の謝罪も、それが上辺だけのものではない、心からの気持ちだということも周囲には理解できたのだ。

結局のところ、にとりのうっかり発言によって生じたこのいざこざ。
結果だけを見れば互いの信頼を確かめる『架け橋』となったのかもしれない。
少なくとも仗助や康一という少年がこんなゲームに乗るような人間ではないことは誰しもが分かった。

そのことが今後の会話に少しでも良い影響を与えたのか、先程まで両者たちの間に漂っていた僅かな緊張感は既に取り払われている。
パチュリーも慧音も、心中不安で一杯だったぬえでさえ自分を話す時には会話に笑顔を織り交ぜていた。

それぞれが自身の持つ情報を話し終え、あらかたの者の順番が終了する。

そして最後の一人である男…



―――吉良吉影に、皆の視点が自然に集まった。



その瞬間、吉良と仗助…二人の持つ空気が豹変した。

とは言っても、その空気の僅かな変貌に気付いたのはそれこそ吉良と仗助、互いの二人だけ。
吉良はチラリと仗助を横目で見ただけですぐに視線を戻し…ゆっくりと口を開こうとする。
それを睨みつけるように見据える仗助は、この殺人鬼が次にどう出てくるかを予測して警戒心をはやらせた。


(吉良…吉影…!テメーこのままシラを切るつもりなんだろうがよォ〜…
こっちにゃあ康一がいるんだぜ…!テメーの正体を知ってる仲間がひとりなァ〜〜…
つまりテメーを見張る仲間がひとり『増える』ってことだぜ!)

この状況、今の吉良には正体を隠し続ける選択しかないだろう。
この場では『まだ』、吉良は動いてこないはずだ。それは確か。

しかし、仗助はどうにもさっきから謎の『違和感』を感じ続けていた。
何か…何かが『おかしい』。なんだ…?妙にしっくりこない部分がある。
そのモヤモヤした違和感の正体が何者か掴めないまま、とうとう吉良は自身の名前から語り始める。



「―――慧音さんたちには既に話したが…私の名前は『吉良吉影』という。
まぁ…とりいって話せることも無い、平凡な外の世界の営業マンだよ」


980 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:11:15 b25sUJ2M0







「……………………え?」


(……………………ん?)



その名前に反応したのは二人。
康一とにとりだけが、『この場に居てはならない』人間の名前に心が揺さぶられた。


(……え?『キラ ヨシカゲ』…だって?
い、今の名前は…ボクの聞き間違いか?
キラ…ヨシカゲ………)

たった今この男の口から発せられた名前が自分の知るあの『吉良吉影』だというのだろうか。
康一は段々と早まる心臓の鼓動を感じつつ、心の中で何度も何度もその名前の持つ『不気味さ』を確認する。

そしてもう一方、ここには『吉良』の名の意味を知る者が座っていた。


(……んん!?今この男、確かに『キラ ヨシカゲ』って言ったよな!?
康一が言っていた、『あの』吉良吉影ってこと!?
『触れたものを爆弾化させる』とかいう、例の殺人鬼じゃんかッ!?
オイィッ!?オイオイオイオイオイオイオイオイマジかコイツ!!)

にとりは吉良という殺人鬼について、事前に康一から要注意人物だと聞いていた。
その要注意人物である殺人鬼が今、平然と自分らの前に何食わぬ顔で座っていたとあっては当然、気が気でない。

(why!?何故!どうして!?こんな奴が…ここに居るんだッ!!)

にとりは混乱する脳内を必死に宥めさせ、現状を理解しようと思考を働かせる。
だが横にいる康一は我慢出来ずに、とうとう声を張り上げてしまう。


「吉良吉影だってェェェーーーーーーーーーッ!!!!」


981 : 名無しさん :2014/05/10(土) 01:12:22 FD4rfsT20
投下が来てるう!


982 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:12:37 b25sUJ2M0

それは康一にとってあまりにも突然の展開。
自分の目の前にいるこの男が…つい先日逃がしたばかりの『あの』凶悪なスタンド使い…!
顔も名前も変えて承太郎たちからまんまと逃げおおせた、その殺人鬼が目の前にいるッ!

これがいったいどういうことかを考える間も無く、食堂内に大きく響かせたその絶叫は吉良以外の者たちを驚かせた。
吉良以外…すなわち仗助も康一のその反応に少なからず驚いていたのだ。


(なに…!?康一、なんでお前今更驚いているんだ…?
お前、吉良の『こっち』の顔…川尻ン時の顔も知ってるはずじゃねーか!
まさか今まで全然気付いてなかったのか…!?)

仗助の疑問も尤もだろう。
さっきから仗助が感じていた『違和感』とはまさにこの事だった。
康一も仗助と同じで、『あの時』吉良が死んだ場面に居合わせたのだから吉良が『川尻』の顔を乗っ取っていたことを知っているはずだった。
だというのに吉良がこの部屋に入ってきた時も康一は全く反応を見せることなく、仗助と再会を喜んでいただけだ。
そのありえない反応に仗助は心の奥でずっとおかしな違和感を感じ続けていたわけだ。


しかし康一のその反応は、実は当然で然るべきものだった。
今の仗助には知る由も無いことだが、仗助と康一の『連れられてきた』時間軸にはちょっとした『ズレ』がある。
仗助は吉良死亡『後』の時間軸から連れられてきたが、康一は吉良を一度『取り逃がした後』から連れられてきていた。
つまり康一は吉良の奪った『顔』と『名前』(川尻浩作)をまだ知らずにいるということになる。

そこから生じたズレが今回の結果を生んだ。
康一からすれば全く知らぬ関係だと思っていた人物が自分らの追い求めていた『犯人』だということに驚愕を隠せない。


983 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:14:12 b25sUJ2M0

(――ハッ!!しまった、驚きのあまりつい叫んじまったぞ…!
やばい…目立ってしまった…!なんとか誤魔化したいっ!)

汗もタラタラで勢いよく立ちあがった康一を何事かと不審な目で見る周囲。
この状況が何事なのかを一番知りたいのはまさに自分なのだが、ここで目立つのもあまり良くない展開の様だ。
パチュリーがその美しく整った睫毛と満月のように丸い目をパチクリさせながら、唖然としながらも康一に尋ねる。

「ど…どうしたの、康一…?急に叫んじゃって…」

「康一君…?私の名前が…どうかしたのかね…?」

パチュリーに続くように吉良本人も康一の顔を覗きながら聞いてくる。
その顔は心配を装ってはいるが…どこか『薄っぺらい』表情のように康一には見えた。

康一はどうしていいかも分からず、こっそりと前に座る仗助の顔を覗き見る。


(ト・リ・ア・エ・ズ・シ・ラ・ヲ・キ・レ!)


苦虫を噛み潰したような表情で狭い額にしわを寄せて康一にアイコンタクトを送る仗助。
なんとなく仗助の意思が伝わったのか、康一は誰にもわからないほど小さい角度で頭を頷かせる。

「あ……い、いや!そういえばボクのクラスメイトに同じ名前の生徒がいたな〜って…
あ、あはは。グーゼンって怖いですね〜…いや、それだけなんですけどね…」

どうもお騒がせしましたと、軽く頭を下げて席に座る康一を訝しむ視線で眺める者たち。
それを見る吉良もどこか思案するような顔つきで指を顎に当てていたが、何事も無かったかのようにそのまま話を続けた。

「康一君ったら変なの〜」

夢美もボソリと呟いただけでそれ以上の追及は無い。
正直言い訳としてはかなり難のある返答ではあったが、とりあえずは皆も大して気にしていないようである。
康一は事の真偽を確かめるために、まずは心を落ち着けてそこで難しい顔をしている自分の友人との『対話』を試みた。


(エコーズAct1!皆に気付かれないようにボクの言葉を仗助くんに伝えて!)


康一の『エコーズAct1』は『音』を染み込ませ、響かせる能力。
言葉を文字に変え、仗助自身に『貼り付ける』ことで周囲に会話を聞かれることなく、仗助の心そのものに言葉を伝えることが出来る。


『仗助くん!この男…吉良吉影って、どういうこと!?なんで仗助くんが吉良なんかと…』


脳内に直接訴えかけてくるような康一の言葉は仗助に届いた。
しかしそれに返答しようにも仗助はエコーズのように言葉をこっそりと伝える術を持ち合わせていない。
とにかく詳しい話は後だと、仗助は口元に指を当て『今は黙ってろ』とジェスチャーで返す。

混乱しながらもそれに納得した康一は、仗助の意を理解し頷いた。
状況こそ理解できないものの、目の前にいるこの男こそが杜王町の平和をかき乱す『悪』!
その確かな事実に康一は胸の奥に秘めた『黄金の心』をメラメラと滾らせ、決心する。


(こいつが…この男が『吉良吉影』ッ!
『あの時』は逃がしたけど…今度こそは絶対に逃がさないぞ…!)


984 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:16:18 b25sUJ2M0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

仗助のおかげでひと波乱あった互いの逢着と談も、それ以降は特に大きく展開を見せることも無く進んだ。

それぞれがこの異変解決に向けて動き出していること。
パチュリー達による考察。
今後の方針。

9人による情報の共有を経て彼らは腕を組んだり、飲み物に手を付けたり、軽く天井を仰いだりしながらそれぞれの思考の態勢を作る。
全く、改めて信じ難い話ばかりだ。
特に慧音たちを驚かせたのは康一の支給品である『東方心綺楼』なる得体の知れぬゲームであった。

「うーむ…まさかあの異変がこんな形で再現されていたとは…
このゲームにあの八雲の妖怪が一枚噛んでいる…それがパチュリーたちの考えなのだな?」

「そういうこと。
それの確信を得るために、そして『神降ろし』を行使するためにも霊夢と紫の存在はこの会場の脱出に不可欠よ」

「なるほど…やってみる価値は充分にある。
この頭の中の爆弾を解除するにも、会場を脱出するにも、とにかく最重要事項は霊夢と紫の確保というわけか」


慧音もパチュリーらの仮説を聞いたことにより、今後の方針が固まってきた。
博麗霊夢と八雲紫…彼女らは今どこでどうしているのだろう?
此度の異変解決のためというのもあるが、それ以前に慧音は彼女らの身を純粋な気持ちで案ずる。
幻想郷の仲間として互いに世話もしたしされたりもした。

壁にかかる時計を見る。


午前5時43分。


放送まで20分弱。
あの二人がそう簡単にやられるわけが無いことを知っている慧音もやはり心配はするもの。
二人の捜索を開始するのは放送後の6時からだ。それまでの1分1秒がいやに長く感じる。

ここで突然、何やら思案していた仗助が手を挙げてパチュリーたちの会話に割って入ってきた。

「あのォ〜〜。その『頭の中の爆弾』っつー話なんスけどォ…
『オカルト』とか『呪い』なんてのは俺には分かんない分野なんスけど…」

「…?どうかした?仗助」

「…そいつは『スタンド』の可能性もあるって言いたいんスよ、俺はね。
『例えば』…」


なにやら含みある言い方でたっぷり間をおいて言葉を紡ぐ仗助の視線の先に座るのは、またしてもこの男。

吉良と仗助がその鋭い視線を交差させた。




「触れたものを『爆弾化』させるスタンド使い…そんな奴を俺は知っているっスからねぇ〜〜〜……ッ!」


985 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:17:24 b25sUJ2M0


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 



この場の何人かだけは感じることの出来る『熱』が、心なしか食堂内の温度を上げた錯覚を起こす。

ゴクリと、喉を鳴らしたのは二人。

康一とにとりだけが、仗助の発言の『意味』を理解して戦慄した。


(じょ、仗助くん…!吉良を『揺さぶって』いるんだ…!精神的に追い詰めるために!)

(待て待て待て待て仗助とやら!お前、吉良の『正体』知ってるうえで言ってんのかソレおい!?
ちょっと突っ込み過ぎじゃないのか!?頼むから私とかを巻き込むなよッ!)


康一は仗助の、まさしく導火線に火をつける様なギリギリの発言に冷や汗をかき、
にとりはその冷たくなった笑顔をガチガチに引き攣らせながら玉粒のような汗で溶かしている。

そして当の吉良本人は…その仗助の敵意をまともに受けているのにも関わらず、涼しい無表情で視線を受け流していた。
その冷たく深い心の内は誰にも読み取ることは出来ない。この男は伊達に15年以上殺人を続けてきたわけではないのだ。


(…やっぱり『これくらい』の揺さぶりじゃあどってことねーか。
だがよォー、テメーの化けの皮…すぐに引っぺがしてやるぜッ!吉良ッ!)

仗助もさすがにこの場で吉良の正体を皆に明かすほど馬鹿ではない。
そんなことすれば大混乱も避けられないし、追い詰められた吉良が何をしてくるか分からない。

ゆっくりだ。
吉良をゆっくりと追い詰める…!

この話し合いが終わった後にでもパチュリーあたりをそっと連れ出し、彼女に事の真相を伝えて慎重に動こう。
仗助はそう考え、今のところはこれ以上吉良を刺激することをやめた。


986 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:19:16 b25sUJ2M0

水面下でそのような闘争が行われていることなど露知らず、パチュリーはその白くしなやかな指を頭にトントンと突き付け疑問を吐く。

「物を爆弾化させるスタンド使いですって…?
仗助、貴方はこの脳の中の爆弾がそのスタンド使いの手によるものだと言うの?」

「いえ、ですから『例えば』の話っスよパチュリーさん。
俺はあの荒木と太田の両方またはどっちかがスタンド使いなんじゃねーかって踏んでるんス」

「その可能性も高いわね。でもいずれにしろ、今はそれを確かめようがない」

「そうよねー。それも含めて今は霊夢さんと紫さんねー。
ていうか仗助君、そんな物騒なスタンド使いと知り合いなのね。
怖いわー、スタンド使い怖いわ―」

夢美も紅茶を飲みながら、若干的外れな事実を添えつつも感単にまとめた。
とにもかくにも、夢美の言うとおり今は霊夢と紫が最優先。
この9人という一集団が最初に向かうべき標は目下のところ、この二人の捜索と確保だということは既に話された。

この拠点を発つのは放送後から。
それまでの20分でやれることはやっておこうと、パチュリーは最後にひとつの案を出す。


「さて!それじゃあみんなちょっと近くに集まって。これからの具体的な方針を言うわね。
このバトルロワイヤルでの私の仮説はさっき言ったとおり。
その仮説の裏付けと解決のためにも私たちはこれから会場のどこかに居るはずの霊夢と紫を探し出す、ていう所まではいいわね?」

パチュリーのハキハキとした進行に、周囲も相槌をとりながら聞き入る。
その反応を見ながら彼女は取り出した会場地図を机上に広げて、皆に分かりやすいように指を地図上に滑らせながら話を進めた。


987 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:20:12 b25sUJ2M0
「現在地はここね…『E-1サンモリッツ廃ホテル』。効率よくいきましょう。
6時になって放送を聞いたら2組あるいは3組に分かれてまずは地図北部、『A-1からF-3』を端からくまなく探す。
たとえ目標人物を見つけても見つけなくても、次の放送時間の12時正午には、そうね…『C-3ジョースター邸』に一旦集合しましょう。
その時点で二人が見つからなければ今度は地図南部、『A-4からF-6』までを同じように探す……これでどうかしら?」


自分の案を一通り披露したパチュリーはどこか凛とした面をあげて周りの反応を待った。
パチュリーの話を顎に指を当てて聞いていた慧音はそこで小さく挙手し、質問を投げかける。

「2組か3組に分けると言ったな。その組み分けはどう決める?」

「詳細は出発前にまた決めるけど、この場には夢美含めスタンド使いが3人。
戦えない者も居るし、バランスよく分けたほうが良いわね」

「組み分けは貴方達に任せるけど、仗助は私の下僕だからもちろん同じチームにさせてもらうわよ」

少し退屈そうにしていた天子も身を乗り出して意見を言う。
横に座る仗助はそれを聞いても文句ひとつ言わないが、少々めんどくさそうな表情に変わった。

「はいはーい!私パチュリーと一緒の班がいーな♪パチュリーも私と一緒がいーでしょ?ねー!」

「こ、こら!くっつくな!?遠足に行くんじゃないのよッ!
と…とにかく!放送時間まであと20分あるからそれまでは各々出発の支度なり心の準備なりでもしておきなさい。
恐らく他の危険な参加者とも何度か遭遇することになるでしょうから……ねッ!」

ゴンッ!と最後にパチュリーの鉄拳を脳天に喰らった夢美以外は、その旨を聞いたところで席を立つ。
パチュリーの言うとおり、これは遊びなんかではない。
今までは運良く危険は避けてこられたものの、どこに危険な参加者が待ち構えているか分からない中での捜索。
少しの油断が死を招く、命懸けでの行動に出るのだ。

運命に導かれてひとつに集まった9羽の群鳥は朝日と共に飛び立とうとしている。

しかし、彼らを歪に取り巻く鎖は決して解かれることはなく、少しずつ少しずつ静かに『侵食』するように縛り付ける。



それは『この男』にとっても例外ではなかった。


988 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:22:11 b25sUJ2M0
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
『吉良吉影』
【午前5時47分】サンモリッツ廃ホテル 大広間


「厄日だ…今日という日は本当に人生最悪の一日だ…
仗助のみならず、あの忌々しいクソチビ…『広瀬康一』までもが私の前に現われるだとッ!」

食堂を一人出た吉良は大広間へと赴き、胸に溜まった鬱憤や不満と共に自身の心情を吐き出した。
他人と争うことは虚しくキリがない行為だと考える彼も、この会場に飛ばされてからはストレスが溜まる一方。
イライラとした感情で壁の蝋燭に掛かった灯火をジッと見つめ、フゥと息を吐いた後、ゆっくりと後ろの壁を振り向いた。


「……なぁ、東方仗助。そして、広瀬康一。
一体お前らはどこまで私の人生を狂わせてくれるんだ…?ん?」


キザな白スーツをバサリと翻し、その闇のように黒く沈んだ瞳をいつの間にか後ろに立っていた二人に突き刺す。

「吉良吉影…!言葉を返すがテメーの人生とやらは『杉本鈴美』を殺したその日からとっくに狂っていたんだぜ…ッ!
まさかテメーの方からひとりになってくれるとはよォー。
さっきまでは皆がいたから迂闊に手も出せなかったが、今ならテメーを遠慮なくぶちのめせるぜッ!覚悟はいいんだろーなッ!!」

「吉良ッ!とうとう…とうとう捕まえたぞッ!
鈴美さんと重ちーくんの仇…今ここでとってやる!お前なんかにこれ以上好き勝手させないぞッ!」

吉良の背後で蝋燭の光によって長く伸ばされた東方仗助と広瀬康一の影があった。
杜王の正義のスタンド使いと最凶の殺人鬼がホールの赤絨毯を挟んで対峙する。

やがて二人の少年の背後にそれぞれ大と小のスタンドが浮き出て並んだ。
彼らの闘気溢れるスタンドはすぐにファイトポーズを構え、今にも敵を討ち取らんとグッと吉良を見据える。
しかしその敵意を全身に受ける吉良は、何と自身のスタンドすら出さずに手をポケットに入れて余裕の空気を漂わせているではないか。
そのふざけているともいえる相手の態度に仗助は疑問を浮かべつつも、声に覇気を纏わせて張り叫んだ。

「おいテメーッ!!なにカッコつけてやがるッ!!
そっちにヤル気がなくともこっちはテメーをブッ飛ばす理由は充分すぎるほどにあるんだぜーッ!!
さっさと出しな……テメーの『キラークイーン』を…ッ!」

「いや…その必要は無いよ。何故なら私は既に君達と闘う気など毛頭『無い』からね。
そして君達自身も私に手を出すことは『ありえない』んだ。これがどういうことか分かるかい…?」

なに…?と仗助は吉良の放った意味不明な言葉への疑問を小さく口にする。
康一も吉良の真意が掴めずにスタンドは構えたままポカンとなる。


989 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:23:47 b25sUJ2M0

「テメー……あまりに追い詰められたせいで頭がイカレちまったか…?
それとも観念して自首でもするってのか?」

「仗助…お前は本当に厄介な男だった。
金魚のフンの様に鬱陶しく付いてまわるお前のせいで私はここまでの道中、碌に安心できなかったし、
それに加えて康一…まさかお前までこの場所に居るとは完全に私の誤算だった。
涼しい顔をしていたように見えて私の心はずっと『絶望』に包まれていたんだ。いや参ったよ、本当に。
だが、『一手』早かったのは私の方だったようだ。私の『執念』がお前達を一手上回った。
仗助…お前がさっき我を見失って暴れていた時に少し『細工』させてもらったよ。
これでお前達は私に手を下すことは出来ない。勝ったのは私だ」

コツコツと吉良の革靴の気持ち良い足音がホール内に響く。
ついさっきまで絶望に暮れていた吉良の表情は、いつのまにか嬉々として仗助らを見下していた。
ギリリと、仗助の歯軋りの音が隣の康一の耳に届く。

「吉良……ッ!テメー、だからさっきから何が言いてえんだ…ッ!
言いたい事があるならハッキリ言いやがれコラァーーーッ!!!」

「この私の『キラークイーン』の能力はご存知だろう?
触れたものを爆弾にする能力…。それがたとえ『物』だろうが『人間』だろうが…だ。
爆弾の起動条件は実に簡単な行為……右手の指の起動スイッチをカチリ、と押すだけだ。そうすればいつでも対象を粉微塵に爆破できる。
ここまで言えばわかるよな…?お前達なら…」

タラリと一筋の汗が仗助と康一の頬を伝い、顎から垂れ落ちた。
動揺と困惑を孕む瞳は正しく真っ直ぐに吉良を睨み続けるが、その視線に先ほどまでの覇気は既に失われている。
今や相対する三人の上下関係は完全に逆転していた。
吉良は不気味に口の端を吊り上げ、ポケットから手を取り出してすぐに右手のスイッチを押せる態勢に入り、仗助たちを挑発する。


990 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:24:44 b25sUJ2M0

「ばか…な……俺は…『キラークイーン』が俺に触れたのを見てねえ…ぞ……
康一にしてもむざむざ吉良に触れられるようなマヌケじゃあねえ……
ハッタリ抜かすなよ…ッ!吉良…!」

「吉良…!お前…『まさか』……ッ!
な、なんて卑怯な奴だ…!一体、『誰』を…ッ!」

「一手早かったのは私だ。仗助…おまえは最初に私に会った時点ですぐに私を『再起不能』にすべきだったのだ。
たとえ仲間の『和』を乱そうとも、強引にでも私を倒しておかなかったお前の『甘さ』が招いた結果なのだコレは。
私がやった行為はとても『シンプル』なこと……実に古典的で、陳腐で、馬鹿馬鹿しい行為だが…
キラークイーンは『人質』をとるのに最も適した能力ともいえる。この私にお前のような『甘さ』は無い。
もし私に歯向かったり、私の正体を誰かに喋ってみろ。その瞬間、人質は木っ端微塵にしてやる」

「吉良吉影――――――ッッ!!!!
テメェ一体『誰』を爆弾に変えやがったァーーーッ!!!」

「それをお前らに言う必要は無い。とにかく私に手を出すようなら人質は迷わず殺す。
これは取り引きじゃない。お前らは従わなくっちゃあいけない……
なに、いいじゃあないか。私も元々この馬鹿げたゲームに乗ってやるつもりなど無い。
お前たち二人が余計な事をしなければ私も殺しはしないさ。
私の願いはさっさと誰かがあの主催者共を始末し、元の『平穏』な日常に戻ることだけだ。
そのためなら何だってするし、なんなら君達と多少は手を組んだっていい。
これから少し、忙しくなりそうだからね。フフフフ……」

最後に笑いながら吉良は仗助と康一の横を何事も無く通り過ぎる。
その後ろ姿を仗助は攻撃する事も出来ずに、無念の情で見送ることしか出来なかった。
吉良が廊下の突き当りを曲がって姿を消し、しばらくホール内を蝋燭の炎がゆらゆらと揺れる時間だけが過ぎていった。


やがて堰を切ったように仗助は大声を出し、拳を床に思い切り叩きつける。

「チクショオッ!!!あの野郎……ッ!
人質だと…!?ナメた真似しやがってッ!!一体誰を爆弾にしやがった…!?」

仗助は怒り狂う思考の中、必死で自分の記憶を掘り起こしていた。
ここへ来るとき、吉良はずっとぬえのすぐ後ろを歩いていた。ならば爆弾は彼女か?
いや、そもそもそれ以前に吉良はぬえの他に慧音とも行動を共にしていた。だったら慧音なのか。
いや違う。吉良はハッキリ『仗助が暴れていた時』と言っていた。その瞬間に吉良が動いたというのならもはや誰が爆弾なのかも分からない。
パチュリーか、夢美か、にとりか、はたまた天子なのか。まるで見当が付かない。


991 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:25:34 b25sUJ2M0

「仗助くん、落ち着いて!ボクだってあいつが許せないよ!
確かにこれでボクたちはあいつに対して迂闊に攻撃出来なくなった。でもまだ負けたわけじゃない!
二人で考えようよ、あいつへの対抗策!」

「康一……」


康一は膝を崩した仗助の肩を掴み、その強い意志を持った瞳で勇気付けるように言う。
彼の心に潜む『黄金の精神』は、崩れかけた親友の心を即座に立て直すと同時に大きく感心させた。

「お前って奴は…どこまでも頼りになる男だぜ、康一!
確かに今までの俺はちとグレートじゃなかった……さっきからお前には助けられっぱなしだったな。
男・東方仗助!ダイヤモンドのように固い意志を持つナイスガイだぜッ!」

すくりと立ち上がり、一転して強気な笑顔を見せる仗助の顔にさっきまでの弱さは無い。
親友との友情を再び確かめ合った二人は冷静になって現状を顧みてみる。
キラークイーンの能力、そして二人が持つ記憶の中からある『事実』を仗助は思い出す。

「そういえば思い出したぜ…キラークイーンの爆弾化の能力にはひとつ『穴』があったことを…!
康一…お前は知らねーだろうが、奴が一度に爆弾化させることの出来る数は『ひとつ』だけなんだ。
つまり奴はひとりしか人質に出来ねーうえに、その爆弾を解除するか爆発させるまでは爆弾化の能力は使えねーってことだ」

「そっか…仗助くんは既に吉良と戦って『倒した』んだっけ。
ボクは吉良の最期には出会えてないけど、一度倒したんならもう一度倒せるはずだよ!吉良吉影を!」

「おう!言うじゃねーか、康一ッ!
吉良は俺達と戦う意思はねーと言っていたがありゃ大ウソだ!
アイツは自分の正体を知っている奴は最終的に必ず全員『始末』するつもりだ。
だからこそこれまでアイツは捕まらなかったし、人を殺し続けられるんだ。そういう奴だぜ、あのヤローはよォーッ!」

「うん。ボクがにとりちゃんから見せてもらった『記憶DISC』から考えても、この会場に連れてこられた参加者には『時間軸のズレ』があるんだと思う。
その理屈なら仗助くんとボクの記憶の『食い違い』も辻褄が合うし、吉良が生きているというのも納得できるんだ。
尤も、それだと主催者の能力の『格』がとんでもないことにはなるんだけど…」

「時間軸のズレねぇ…確かにそれならお前が吉良の姿を知らなかったのも納得だぜ。
まぁあの主催者のことについてはパチュリーさんや夢美さんたちも正体を探ってくれていることだし、任せておいても大丈夫だろう。
俺たちには俺たちにしか出来ねーことをやるだけだぜッ!」

「うん!吉良の好きなようには絶対させるもんか!
それにボクはにとりちゃんを守るって約束したんだ。彼女を危険な目に会わせられないよ」

「おっ!康一ィ〜〜お前…まさか由花子というものがありながらにとりちゃんに……」

「ち…違うよ仗助くんッ!!ボクはただ、彼女を守るって約束して、だから――」



「あーー……男同士仲良くしてるとこ、邪魔しちゃって申し訳ないけど…
本人の前でそういう話はやめてくんないかな……声を掛けにくい」


992 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:27:05 b25sUJ2M0
二人の会話が熱を出してきた中、なんともいえない表情で割って入ってきたのは河童のにとり。
声の主を見やった康一の顔に朱が差しているのは、彼が思春期の少年たる所以か。
しどろもどろになりながらも康一はこの場ににとりが登場したことに慌てふためいた。

「に、にとりちゃんッ!?どうしてここに…ていうか、今の話聞いてたの!?
あ、い…いや、にとりちゃんを守るどうこうじゃなくて…その、吉良との会話を……!」

「まぁ…そこの陰でこっそりとね。
私は事前に康一からアイツの話を聞いてたからそんなに驚かなかったけど…
しかし『人質』とられてるってのは流石にね……誰が『爆弾』になってるか分からないんだろう?
私だってアイツに触れられてないなんていう保障はないもん……正直、気が気じゃないさ…」


科学技術に詳しい河童族であるにとりだからなのかは知らないが、どうやら彼女も爆弾という脅威は充分に理解しているらしい。
自分がいつ爆破されてもおかしくない状況にあり、その殺人鬼がチームの中で何食わぬ顔をしている。
これほど恐ろしい状況があるだろうか。にとりはどこか青い顔をして下向き加減に話す。

「にとりちゃん、吉良のことは俺と康一が必ずなんとかしてやる。
それより吉良の正体については絶対に他言無用だぜ。アイツは自分の正体を知ってる奴は誰であろうと存在ごと消してきた男なんだ」

「う…しょ、承知したよ……」

未だ仗助に吹き飛ばされたことについて恐怖が拭えてないのか、にとりは彼の言葉に力無く答えた。

「まぁ吉良の件は二人に任せるとして、私は別件で康一に用があってきたのさ」

「ボクに…?」

「そ。覚えてるだろ?私の目的地である『玄武の沢』へ付き添ってくれることを。
あそこ、ここからかなり近いからさ。今からちょっくらお前と一緒に向かおうと思って。
パチュリーにも既に許可は取ってある。放送時までに戻りたいから急ごうよ」

「あ…あぁ、そういえば河童のアジトがあったら工具とかを回収したいとか言ってたっけ」


確かに康一はこのホテルに到着する前、あるかも分からないアジトへと赴くにとりの付き添いをすると約束していた。
これだけの人間と出会ってうやむやになりかけていたが、約束をした手前反故にするわけにもいかない。
それにここからアジトへはかなり近いらしい。危険も少ないだろう。
ならばと康一は、仗助に事を伝えてひとまずにとりと同行し、玄武の沢まで行くことになった。

「仗助くん、ボク今からちょっとだけにとりちゃんについて行くね。
こっちの方は大丈夫だとは思うけど、吉良のこと…気を付けて。放送までには戻ってこれると思うから」

「おう。お前ももし何かあったらにとりちゃんをしっかり守って男見せろよ。んじゃ、また後でな」


友人と短い会話を交わし、康一はにとりと玄関を出て玄武の沢へと向かった。
これからのこと。吉良のこと。
解決すべき課題はたくさんある。
全てひとりで解決する必要など無い。彼らは自分に出来ることを精一杯成し遂げれば良いのだ。
それはこの河童の少女、河城にとりも例外ではない。
彼女は康一や仗助とは別に、自分に課せられた命題をどう成し遂げるか…心中ではそれを考えていた。


放送まで、あと少し。


993 : 蛇と教師と御転婆と嘘と悪霊憑きと魔女のうた ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:32:13 b25sUJ2M0
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:頭に切り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの打破
1:吉良をどうにかしてぶちのめす。
2:仲間達と協力し殺し合いを打破する。
3:承太郎や杜王町の仲間たちとも出来れば早く合流したい。
4:天子さんの舎弟になったっス!
[備考]
※参戦時期は4部終了直後です。
※幻想郷についての知識を得ました。
※時間のズレについて気付きました。


【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ・東方の物品・確認済み)、ゲーム用ノートパソコン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:河城にとりを守る。にとりと共に河童のアジトへ向かう。
2:仲間(億泰、露伴、承太郎、ジョセフ)と合流する。
  露伴に会ったら、コッソリとスタンドを扱った漫画のことを訊ねる。
3:吉良吉影を止める。
4:東方心綺楼の登場人物の少女たちを守る。
5:エンリコ・プッチ、フー・ファイターズに警戒。
6:空条徐倫、エルメェス・コステロ、ウェザー・リポートと接触したら対話を試みる。
[備考]
※スタンド能力『エコーズ』に課せられた制限は今のところ不明ですが、Act1〜Act3までの切り替えは行えます。
※最初のホールで、霧雨魔理沙の後ろ姿を見かけています。
※『東方心綺楼』参戦者の外見と名前を覚えました。(秦こころも含む)
  この物語が幻想郷で実際に起きた出来事であることを知りました。
※F・Fの記憶DISCを読みました。時間のズレに気付いています。


【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:ストレス
[装備]:スタンガン@現実
[道具]:不明支給品(ジョジョor東方 確認済み、少なくとも武器ではない)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:東方仗助、広瀬康一をどうにかして抹殺する。
2:他の参加者同士で精々潰し合ってほしい。今はまだは様子見だ。
3:無害な人間を装う。正体を知られた場合、口封じの為に速やかに抹殺する。
4:空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
5:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
[備考]
※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※自身のスタンド能力、及び東方仗助たちのことについては一切話していません。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
  ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※吉良は慧音、天子、ぬえ、パチュリー、夢美、にとりの内誰か一人を爆弾に変えています。
  また、爆弾化を解除するか爆破させるまでは次の爆弾化の能力は使用できませんが、『シアーハートアタック』などは使用可です。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。


994 : ◆qSXL3X4ics :2014/05/10(土) 01:35:27 b25sUJ2M0
すみません、もう少しあるんですが残りのレスが足りなくなりそうなので
新スレが立つまでここで区切っておきます。
スレが立ち次第、すぐに再開させます。


995 : 名無しさん :2014/05/10(土) 01:39:22 FD4rfsT20
とりあえず一区切りの投稿乙です!
この話は次を読むのが怖くて怖くて…それだけワクワクできたってことでもあるけどね!
この話でにとりが一気にかわいくなったなぁ 二頭身ぐらい縮んだイメージ


996 : 名無しさん :2014/05/10(土) 01:54:40 SVYOlP2M0
投下乙です。

不安要素だらけだった合流は(表面上は)なんとか丸く収まったみたいでひと安心。
……もう既に誰か爆弾に変えられてるみたいだけどなァーーーッ!!

それにしてもゆめ×パチュの加速が著しいな……w


997 : 名無しさん :2014/05/10(土) 02:02:21 I4IgjZhE0
一先ず投下乙です。
大所帯になったことで強固になったようで不安要素も沢山なチーム…
吉良の爆弾化も真かブラフか解らない以上下手に動けないし、水面下の探り合いはハラハラするなぁ…
そして教授やにとりかわいいw


998 : ◆YF//rpC0lk :2014/05/10(土) 13:31:10 .e/FIyIc0
新スレを建ててきました
雑談で埋まることの無いよう、これからは雑談スレもご活用ください

新スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1399696166/

雑談スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16334/1379300487/


999 : 名無しさん :2014/05/10(土) 14:03:26 I4IgjZhE0
つらいことが沢山あったが…でも楽しかったよ
みんながいたからこのスレは楽しかった


1000 : 名無しさん :2014/05/10(土) 14:37:53 dyC.QRUQ0
ええ!続きがムンムン気になるじゃあねーかッ!おいッ!


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