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ジョジョ×東方ロワイヤル 第二部
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【このロワについて】
このロワは『ジョジョの奇妙な冒険』及び『東方project』のキャラクターによるバトロワリレー小説企画です。
皆様の参加をお待ちしております。
なお小説の性質上、あなたの好きなキャラクターが惨たらしい目に遭う可能性が存在します。
前スレ
ジョジョ×東方ロワイヤル
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12648/1368853397/
まとめサイト
ttp://www55.atwiki.jp/jojotoho_row/
したらば掲示板
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/16334/
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【参加者】
『side東方project』
【東方紅魔郷】 5/5
○チルノ/○紅美鈴/○パチュリー・ノーレッジ/○十六夜咲夜/○レミリア・スカーレット
【東方妖々夢】 5/5
○アリス・マーガトロイド/○魂魄妖夢/○西行寺幽々子/○八雲藍/○八雲紫
【東方永夜抄】 5/5
○上白沢慧音/○因幡てゐ/○鈴仙・優曇華院・イナバ/○八意永琳/○藤原妹紅
【東方風神録】 5/5
○河城にとり/○射命丸文/○東風谷早苗/○八坂神奈子/○洩矢諏訪子
【東方地霊殿】 5/5
○星熊勇儀/○古明地さとり/○火炎猫燐/○霊烏路空/○古明地こいし
【東方聖蓮船】 5/5
○ナズーリン/○多々良小傘/○寅丸星/○聖白蓮/○封獣ぬえ
【東方神霊廟】 5/5
○幽谷響子/○宮古芳香/○霍青娥/○豊聡耳神子/○二ッ岩マミゾウ
【その他】 8/8
○博麗霊夢/○霧雨魔理沙/○伊吹萃香/○比那名居天子/
○森近霖之助/○稗田阿求/○宇佐見蓮子/○マエリベリー・ハーン
『sideジョジョの奇妙な冒険』
【第1部 ファントムブラッド】 5/5
○ジョナサン・ジョースター/○ロバート・E・O・スピードワゴン/○ウィル・A・ツェペリ/○ブラフォード/○タルカス
【第2部 戦闘潮流】 5/5
○ジョセフ・ジョースター/○シーザー・アントニオ・ツェペリ/○ルドル・フォン・シュトロハイム/○ワムウ/○カーズ
【第3部 スターダストクルセイダース】 5/5
○空条承太郎/○花京院典明/○ジャン・ピエール・ポルナレフ/○ホル・ホース/○DIO
【第4部 ダイヤモンドは砕けない】 5/5
○東方仗助/○虹村億泰/○広瀬康一/○岸部露伴/○吉良吉影
【第5部 黄金の風】 5/5
○ジョルノ・ジョバァーナ/○ブローノ・ブチャラティ/○グイード・ミスタ/○プロシュート/○ディアボロ
【第6部 ストーンオーシャン】 5/5
○空条徐倫/○エルメェス・コステロ/○フー・ファイターズ/○ウェザー・リポート(ウェス・ブルーマリン)/○エンリコ・プッチ
【第7部 スティールボールラン】 5/5
○ジャイロ・ツェペリ/○ジョニィ・ジョースター/○リンゴォ・ロードアゲイン/○ディエゴ・ブランドー/○ファニー・ヴァレンタイン
『書き手枠』 12/12
○エシディシ(第2部 戦闘潮流)/○秋静葉(東方風神録)/○ヴァニラ・アイス(第3部 スターダストクルセイダース)/
○姫海棠はたて(ダブルスポイラー)/○ズィー・ズィー(第3部 スターダストクルセイダース)/○橙(東方妖々夢)/
○トリッシュ・ウナ(第5部 黄金の風)/○秦こころ(東方心綺楼)/○リサリサ(第2部 戦闘潮流)/○岡崎夢美(東方夢時空)/
○蓬莱山輝夜(東方永夜抄)/○
計90/90
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【基本ルール】
●全員で殺し合いをしてもらい、最後まで生き残った一人が勝者となる。
●生き残った一人だけが、元の世界へ帰還および主催者権限により願望が成就。
(ただし死者復活は1名のみ)
●ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
●ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
●プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。
●会場からの脱出は不可。
【スタート時の持ち物】
●プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
(ただし義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない)
●武器にならない衣服、帽子は持ち込みを許される。
●スタンド能力、翼等の身体的特徴はそのまま保有。
●ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を「特殊なエニグマの紙」に入れられ、デイパックに入れられ支給される。
「地図」「コンパス」「照明器具」「筆記用具」「水と食料」「名簿」「時計」「ランダムアイテム」
「特殊なエニグマの紙」→他の荷物を運ぶためのスタンド能力の紙。この紙は破れない限り何度でも出し入れ自由。
「地図」→ 大まかな地形の記された地図。禁止エリアを判別するための境界線と座標がひかれている。
「コンパス」→ 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
「筆記用具」→ 普通の鉛筆と紙。A4用紙10枚。
「水と食料」→ 通常の飲料と食料。量数は通常の成人男性で二〜三日分。
「名簿」→全プレイヤーの名前がのっている、顔写真はなし。
「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが入っている。内容は以下の通り。
○現実世界にある日用品及び武器
○『ジョジョの奇妙な冒険』並びに『東方project』に登場する道具並びに武器
(武器にはプレイヤー以外のスタンドDISCも含む)
○馬、亀などの動物もあり。(ただし人間形態に変化しないものに限る)
なお、ランダムアイテムは最大でも2つまで。組み合わせは以下の3つ。
○現実世界のアイテム + 現実世界のアイテム
○ジョジョのアイテム + 現実世界のアイテム
○東方のアイテム + 現実世界のアイテム
【マップについて】
●マップは以下の通り
ttp://www55.atwiki.jp/jojotoho_row/pages/5.html
●会場にはプレイヤー以外の動物、妖怪等は存在しないが、銃器以外の物資は存在する。
(例えば商店には食料、水、酒を含めた品物が十分に存在する)
●墓地があれば死体は存在する。
●会場から出ようにも、何故か上空を含めて見えない壁で進めない。
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【放送について】
●放送は6時間ごとに行われる。
●放送毎に、過去6時間の死者の名前、残り人数、次の6時間に増える禁止エリアが発表される。
●禁止エリアの増加割合は一放送毎に1つ。
【作中での時間表記】(1日目は午前0時より開始)
●深夜 : 0時〜 2時
●黎明 : 2時〜 4時
●早朝 : 4時〜 6時
●朝 : 6時〜 8時
●午前 : 8時〜10時
●昼 :10時〜12時
●真昼 :12時〜14時
●午後 :14時〜16時
●夕方 :16時〜18時
●夜 :18時〜20時
●夜中 :20時〜22時
●真夜中:22時〜24時
【キャラのテンプレ】
【地名/時間(日数、深夜・早朝・昼間など)】
【キャラ名@作品名】
[状態]:体調、精神状態、怪我 など
[装備]:装備 手に持っていたりすぐに使える状態の物
[道具]:基本支給品、不明支給品、などエニグマの紙に入っている物など
[思考・状況]
基本行動方針:ロワ内での基本的指針
1:
2:
3:
現在の状況での行動・思考の優先順位
[備考]
参戦時期、その他、SS内でのアイテム放置、崩壊など
【「首輪」と禁止エリアについて】
●このロワに首輪はない。代わりに主催者の能力により脳そのものを爆発できる。
●妖怪、神、妖精、柱の男なども脳を爆発されると死亡する。
●爆発すればどのような能力でも修復不可能。
●脳の爆発以外の要因で死亡した場合、以降爆発することはない。誘爆もなし。
●主催者は能力によりプレイヤーの位置を把握可能。ただし会話内容などは把握できない。
●爆発するのは、以下の条件の時である。
○放送で指定した禁止エリア内に、プレイヤーが入ったとき。(進入後10分で爆発)
○24時間で、一人も死者が出なかったとき。(一斉に爆発)
○プレイヤーが、主催者に不利益な行動をとろうとしたとき(主催者の右手にスイッチがあり手動で爆発が可能)
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【制限について】
●全ての参加者はダメージを受け、状況により死亡する。(不死の参加者はいない)
●回復速度は本人の身体能力に依存する。
蓬莱人のプレイヤーは吸血鬼並びに柱の男と同等の回復速度だが蘇生はしない。
妖精にも「一回休み」はなく死亡する。
●弾幕生成・能力使用など霊力を消費するもの、並びにスタンド能力は同時に体力も消費する。
●翼や道具等、補助するものが無ければ、基本的に飛べない。
●弾幕の有効射程は拳銃程度、威力は弾幕だけでは一般人を殺せない程度。
●鬼などの怪力持ちは木造一戸建てを全壊する程度に制限。
天狗などの高速移動キャラは移動速度100km/hまでに制限。
広範囲能力、瞬間移動能力はエリア1つ分までに制限。
●神の分霊、仙術による仙界への入り口作成は禁止。
●時間停止の長さは平均5秒、最長9秒まで。
●スタンドのビジョンは非スタンド使いにも視認可能。ただし接触、破壊は不可能。
●矢じり、聖人の遺体によるスタンドの付与は禁止。
●GER、バイツァダストは使用不可能。
●吸血鬼によるプレイヤーのゾンビ化は不可。肉の芽はあり。
●波紋エネルギーは東方projectの吸血鬼、キョンシーなどにも効果あり。
●その他各能力の制限は各自常識の範囲。問題があった場合は随時議論を行う。
●なお、以上の事項はプレイヤー全員に持ち物内のメモとして通達する。
●また全ての登場人物が日本語で思考し、会話し、読み書きすることができる。
(妖怪化していない動物などの例外あり)
【書き手の方々へ】
●初心者から経験者の方まで、誰でも歓迎。
●予約の際はトリップ必須、ゲリラ投下の場合は名無しでも可能。
●予約期間は1週間、報告無しでそれ以上経過すると予約は解除される。
●予約期間中に書ききれない場合は延長が可能。
●延長は1週間。
●自己リレーは不可。
●今回「二次設定」の使用は禁止。(カップリングの使用、参加者の性格他の改変は不可)
※書き手枠に関しては、現在サンタナ(第2部 戦闘潮流)が予約されており、 実質上募集を終了しています。
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スレ立て乙です。
いよいよ2スレ目…!
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スレ立て乙です。
そして予約の延長を申請します。
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突然だけどサーフィスって木人形が壊されたら本体にダメージ行くんだろうか?
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>>8
フィードバックはなかったと思うぜ
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サーフィスが手首ブッ飛ばされても間田は焦るだけだった
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申しわけありません、どうにも話が纏まらないので予約を破棄します。
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>>11
了解です
となるとサンタナの分、書き手枠が一つ空きますね
サンタナ以外でも予約可能としまう
もちろんサンタナで書きたいという方もOKです
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風見幽香@書き手枠、ジョセフ撿ジョースター予約します。
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申し訳ございませんが、ジョセフ・ジョースターは
◆YR7i2glCpA氏が既に予約されていますね
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>>14
おっと確認不足で申し訳ない。
ご通達ありがとうございます。
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ん、ゆうかりん単体の予約になるのかな?
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書き漏れで申し訳ない、予約破棄でお願いします。
重ね重ねご迷惑をお掛けして申し訳ない。
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っと、そうでしたか。
では
ワムウ、書き手枠でサンタナ予約します
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すいません、追加で伊吹萃香も予約します
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まだ予約されてないのは神奈子様と霖之助の2人だけかな
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と仗助 康一かな
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投下を開始します。
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☆☆☆☆
空条徐倫が『呼び出された』のは、ケープ・カナベラルへ向かう自動車の後部座席で、
未だ明かされぬプッチの目的、ウェザーのから最後に託されたDISCの意味、等々、
絶え間なく入り乱れる不安と闘っている最中のことであった。
ここはどこだ!?プッチ神父が寄越した、新手のスタンド使いによる攻撃か!?
殺し合え、だと!?突っかかっていった金髪の少女が、爆殺された!
ここは、どこだ!状況が掴めない。アメリカではない様だが……。
プッチ神父が待つという、『新月』の日まで、あと2日!
こんなところで時間を食っている暇は無いんだ!
だが気が付くと、周囲に広がっていたのはうっそうとした原生林と、湿った夜の空気だった。
彼女の頭上には、『満月』が煌々と輝いていた。
何が何だか分からない。また幻覚を見せられているのか?それともこれは『嘘の記憶』か?
徐倫は混乱する思考を落ち着けるため、まずは目の前に見えていた一軒家に身を隠したのであった。
☆☆☆☆
「……人形、人形、人形!どこもかしこも人形だらけ。……やれやれだわ。
ここの家主……きっと性格悪いに違いないわね。
……どうも刑務所での一件以来、『人形使い』ってのに良いイメージを持てないのよね」
一軒家の中には幾つもの人形が棚に並べられており、
作業台と思しき机には人形の部品や工具らしきものが散乱していた。
「真南に見えているのは『鉄塔』だから……この家は『アリスの家』に当たるらしいわね」
椅子に腰を下ろし、カバンの中の水を口にした徐倫はいくらかの落ち着きを取り戻していた。
(名簿には……『アリス・マーガトロイド』の名がある。
ここの性悪家主のことかしら?……えっ!これっ!!)
だが、そんな彼女を、再び混乱の渦が襲ったのだった。
-
(エルメェスの名がある……一緒に車に乗ってた彼女がここに呼び出されるのは予想の範囲内……。
空条承太郎……父さんを連れてくることも可能だろう……
得体の知れない能力だけど、それも可能……そう理解するしかない……。
だけど、死んだはずのウェザーに、FF、そして、DIO……!
死んだはずの人物を参加者名簿に加えるってことは……
信じ難いけど、死者を生き返す事もできるってこと!?
……これについては、『過去の記録』を掘り起こしたり、
『透明ゾンビ』として死体を操っていた前例が無いわけではないけれど)
(でも、そんな事は……些細なこと。この疑問に比べれば。
……どうしてプッチ神父の名があるのよ!!
この『ゲーム』とやらは、プッチ神父の差し金じゃないの!?)
(……でも、考えようによっては、これは『チャンス』かも知れないわね。
今は満月。そしてここはどうやら、ケープ・カナベラルではないみたい。
スペースシャトル模型が何故かこんな所にあるのは気になるけど……。
とにかく、プッチ神父がここで、『天国に行く方法』を実践する事はできない。
そして、この場に乗じてプッチ神父とDIOを打倒すれば『天国に行く方法』は永遠に葬られることになる)
(あたしたちをまとめてこんな所に連れてくる荒木に、太田とやらは正直底が知れないけど……
叩きのめしてやるにしても、この場を脱出するにしても、まずはプッチ神父とDIOを倒すのが先決ね)
こうして自らの行動方針をそう結論付けた徐倫。
その決断の早さ、適応力は、過酷な投獄生活の賜物であった。
(ところで、参加者にはそれぞれ別の『ランダムアイテム』が配られてるって言ってたけど……)
徐倫が紙を広げると、出現したのは一本の竹ボウキ。紙に書かれている通りの中身だ。
「……あたしが引いたこのアイテムは、『ハズレ』という訳ね」
落胆する徐倫だったが、すぐに気をとり直す。
「……けど、これにだって、使い道が全く無いって訳じゃない。
この節くれ立った形……『悪くない』わ。
……最近『ご無沙汰』だったのよね……」
妖しげな笑いを浮かべる徐倫、そして……。
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★★★★
霧雨魔理沙は、相変わらずゴキゲンな様子で森の中を進んでいた。
座った体勢のままで『ハーヴェスト』の群体の上を運ばれて移動するその様子は、
さながら魔法のじゅうたんで低空飛行するかの様だ。
目指す先は、東。
真っ先に禁止エリアに指定された、博麗神社……霊夢の家。
物資の豊富さゆえに参加者が集まることが予想される、人間の里。
おそらく霊夢も目指すであろう重要な施設が、東にいくつも集中しているのだ。
……確証は無いが、東に向かった方が霊夢に会える確率は高い。
そう考えて自宅を発ってから何分も経っていないが……
木々の奥に、開けた空間が見えてきた。森の出口が近い。
「おお、もう森を抜ける!やっぱり速いぜ!……ん?」
ハーヴェストの能力に上機嫌な魔理沙を、
左側からやってきたハーヴェストの一個体が呼び止めたのだった。
「『偵察兵』が戻ってきた……誰か『見つけた』んだな?」
魔理沙は『ハーヴェスト』に自分を運ばせだしてからすぐに、
半分ほどの個体が並走するだけで暇そうにしているのに気がついた。
それもそのはず、ハーヴェストの元の持ち主……矢安宮重清は体重110キロの肥満少年で、
ハーヴェストは彼さえも今の魔理沙と同様に運ぶことができていた。
だから彼の体重の半分もない小柄な魔理沙を運ぼうとすると、どうしても人手が余ってしまうのだ。
そこで魔理沙は余った『ハーヴェスト』の個体を射程距離ギリギリまで円形に広げて並走させ、
『索敵陣形』を形成させた。
『人の姿を見たらまっすぐこっちに戻って来い』という指示を与えた『偵察兵』が
『北』の方角から戻ってきたということは……
「左から『偵察兵』が来たということは、北の方角……アリスの家か?
そこに『誰か』居るんだな?……よし、お前ら!
目的地変更だ!まずはアリスの家を目指すぜ!」
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☆★☆★
数分後、魔理沙はアリスの家の玄関先にいた。
「『ハーヴェスト』に周囲を探らせたが、人の気配は無し……
『誰か』がいるのはやっぱり家の中と見て間違いなさそうだな……」
そろり、そろりと息を殺して玄関に忍び寄る魔理沙。
慎重に近づかなければ……今まで少し浮かれていたが、ここは殺し合いの場だ。
家の中に居る『誰か』が、出会い頭に攻撃してこないとも限らない。
『ハーヴェスト』は解除した。アレは便利だが、少し目立ちすぎる。
カーテンが閉まっていて、窓から中の様子を伺うことはできない。
ドアに耳を当てると、僅かに木の椅子と床がきしむ音が聞こえる……。
……やはり中に人がいる。……呼吸が荒い……ケガをしているのか?
ハーヴェストを煙突から大量に送り込んでけしかけるか、家に火を放つかして、いぶり出すか?
……ダメだ、相手が知り合いだったら、そうでなくても、殺し合いに乗っていない者だとしたら……?
あらぬ誤解を生んでしまうのは避けたい。
(入るしか……無いか)
ついに魔理沙は決心を固めた。
扉の錠前からカンヌキが伸びていないのを見て、施錠されていない事を確認する。
そして静かにノブを掴み、勢い良く玄関の扉を開け放ったのだ!
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次の瞬間魔理沙が見たものは、竹箒を脚の間に挟み、
悩ましげな声を上げる若い女性の姿だった。
「あんた、一体何をやって……えっ……その『竹ボウキ』……もしかして……」
「んっ……はあ、んっ……あん……ウェザー……!……ハッ!!」
魔理沙と中にいた女性の視線が交錯する。
一瞬の間を置いて……二人は殆ど反射的に、絶叫していた。
「『ナニ』見てんだテメェェエエーッ!!見せモンじゃねえぞおおオオオオオ!!」
「『ナニ』やってんだお前はあああ!!『私の竹ボウキ』でえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
怒り心頭の表情の女の背後には、人型の『スタンド』が飛び出していた。
魔理沙は涙を目に溜めながら右手で銃の形を作り、その指先を部屋の中の女に向けていた。
「ストーン・フリイィイ!!奴の記憶を消せええェエーーッ!!」
「返じでよ゛ッ!!あ゛た゛し゛の゛ほ゛う゛き゛い゛い゛い゛い゛!!」
女のスタンド・『ストーン・フリー』の右ストレートと、
魔理沙の指先から放たれた『マジックミサイル』が放たれたのはほぼ同時。
(指先から弾がッ!!F・Fと同じタイプの能力か!)
(汚された……もう、私……おヨメに行けないぜ……)
そして……女の左頬と魔理沙の顎をお互いの攻撃が痛打するのも、ほぼ同時のことだった。
二人は勢い良く後方に吹き飛び、女は机の角に、魔理沙は木の幹に後頭部を強かにぶつけ、
そのまま目を覚ますことはなかったのだった。
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【C−4 アリスの家/深夜】
【空条徐倫@ジョジョ第6部 ストーン・オーシャン】
[状態]:左頬・後頭部を打撲、気絶中
[装備]:竹ボウキ@現実
[道具]:基本支給品(水を少量消費)、不明支給品0〜1個(ジョジョ・東方)
[思考・状況]
基本行動方針:プッチ神父とDIOを倒し、主催者も打倒する。
1:………。(気絶中)
2:目の前の少女(霧雨魔理沙)には、悪いことをしてしまったようだ……。
3:エルメェス、空条承太郎と合流する。
4:襲ってくる相手は迎え討つ。それ以外の相手への対応はその時次第。
5:ウェザー、FFと会いたい。だが、無事であるとは思っていない。
[備考]
※参戦時期はプッチ神父を追ってケープ・カナベラルに向かう車中で居眠りしている時です。
【霧雨魔理沙@東方 その他】
[状態]:顎・後頭部を打撲、気絶中
[装備]:スタンドDISC「ハーヴェスト」@ジョジョ第4部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。会場から脱出し主催者をぶっ倒す。
1:もう、おヨメに行けないぜ……。(気絶中)
2:このスタンド、まだまだ色々な使い道が有りそうだ。
3:適当に会場を移動。まずは信頼出来る霊夢と合流したい。
4:出会った参加者には臨機応変に対処する。
5:出来ればミニ八卦炉が欲しい。
6:何故か解らないけど、太田順也に奇妙な懐かしさを感じる。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
……少なくとも、ある女性記者が彼女たちの元を『取材』に訪れるまでは。
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□■□■
「あの白黒魔法使いの叫びが微かに聞こえたから『念写』してみたけど……
魔理沙の弾幕と、入道使いらしき女の放ったパンチがクロスカウンターする所!
バッチリ撮れてるなんてツイてるわ!」
10分後、気を失っている二人の前に、ツインテールの少女が小躍りしながら姿を現した。
姫海棠はたてだ。
魔理沙の家の近くに差し掛かっていた彼女は魔理沙の声を聞き付け、
現場を『念写』したのちに駆けつけてきたのだ。
「さあ今度は、現場の撮影よ!」
そう言うと彼女はポケットから『カメラ』を取り出し、気を失っている二人に
様々な角度からフラッシュ光を浴びせ始めた。
知り合いの魔理沙を助け起こすでもなく、ポケットの拳銃で二人にトドメを刺すでもなく、
今の彼女にとって大事なのは文が驚く程の記事を書くための『取材』なのだ。
(魔理沙も入道使いの女の方も……頭をぶつけて気絶してるだけみたいね。
魔理沙を殴った入道(…なのかしら?)の姿が見えないのが気になるわね……
魔理沙が玄関から入ろうとしたところを殴りあいになったみたいだけど、
女の方はホウキなんか脚に挟んで何を……うわぁ……ボカシ要るかなぁ、これ。
もしかして、魔理沙とこの女が戦っていた理由って……)
(下らない話だけど、事実は小説より奇なりとは、良く言ったものね……
……でも、やっぱり『現場』って面白いわ……さて、写真の方はこれで十分かしら)
ひとしきり写真を撮り終えたはたては、未だ気を失ったままの魔理沙を担ぎ上げると
アリス宅の中へ運び込み、静かに寝室のベッドに横たえたのだった。
玄関先の長身の女も同じベッド、魔理沙の隣に寝かせておいた。
-
「こうしておけば、いずれ目を覚ますでしょ。
その時はまた、良いネタを提供してちょうだいね
……さて、私は……」
(このまま二人が目を覚ますのを待って、インタビューをしてみようか?
でもそれまで暇なのよね……。この『カメラ』の機能で記事の原稿を書くのも良いけど……)
愛用の『カメラ付き携帯電話』を何気なくいじりながら、はたては今後の行動を思案していた。
そこで偶然操作を間違えた所で、彼女はある異変に気づいたのだった。
(……なぜ、この『カメラ』のアドレス帳に、メールアドレスが何件も登録されているの?
幻想郷じゃあ、電波が届かないから意味ないのに。
あたしのこの『カメラ』、「外界の女の子の挨拶です」って教えられた
早苗のアドレス以外は登録されてないのよ?
……登録名は『支給品・スマートフォン』、他にもある……
このアドレス帳……もしかして、参加者に配られた支給品の!?)
そこで彼女は何か閃いたという風に手を軽く叩き……
(でもこれは……使えるかも知れない。……試してみる価値は、ありそうね。)
右手の親指をせわしなく動かして、一心不乱に何かを打ち込み始めたのだった。
-
¶¶¶¶
一方こちらはD−1エリア、守矢神社裏の湖の中央、エア・サプレーナ島。
引き締まった長身とドレッドヘアが特徴的な女性……エルメェス・コステロは、
イタリア建築の華麗な趣を感じさせるその孤島に送り出されていたのだった。
「『受信メールがあります』だと?」
淡い光を放つ板状の物体を手に、彼女は一人ごちる。
エア・サプレーナ島の一角・『リサリサの館』のテラスでのことだ。
エルメェスが支給品の『タブレットPC』を起動すると、
メールの受信を知らせるメッセージが出現した。
促されるままに『姫海棠はたてのカメラ』から届いたらしきメールを開くと……
「受信時刻はついさっき……送信者は『支給品・姫海棠はたてのカメラ』、
カカシ、ネンポウ……『件名:花果子念報メールマガジン』だあ?」
メールを開くと、画面に拳銃を手に睨み合う男たちの画像と、そのうちの片方の死体が並べて表示されたのだ。
お固い文章の書きぶりから察するに、これは新聞記事の様だ。
どうやらこの場で起こった戦闘について記事にまとめ、電子メールで配信している者がいるらしい。
「場所はB−4エリア・魔法の森、死因は銃殺、決闘に敗北したものと見られる、男たちの身元は不明……」
メールの文面には他にも、現場の状況が事細かに記されていたが……
「……ケッ!」
エルメェスはそれを一蹴する。
「『主催者』か、『はたて』って奴か、それ以外か……誰の仕業かは知らねーが、
こんなマネしてアタシが殺し合いに乗るとでも思ってんのか?
『今もこうして殺し合ってる奴らがいるから、グズグズしてる暇はねーぞ』ってなぁ!
その手に乗るかよ!タコッ!」
そう叫びつつ彼女は、床にタブレットを叩きつけようとするが、
流石にそれは何とか踏みとどまった。
そしてメールソフトを閉じようとして再び画面を覗きこむと、新たなメールの受信通知が現れていた。
件名はやはり『花果子念報』。メールを開くとそこには……
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「徐倫……!」
エルメェスの無二の親友の姿があった。
怒りを露にした表情の徐倫の頬に光の弾丸が、
半ベソの金髪の少女の顎にストーン・フリーの拳がそれぞれ叩き込まれる様子が、
タブレットの液晶には鮮明に写し出されていた。
記事にはこれが『アリスの家』付近の出来事であること、
二人は頭をぶつけて気絶しているだけであること、
金髪の少女が『霧雨魔理沙』であること、
そして二人の回復を待ち次第、『はたて』なる者がインタビューを行うことが記されている。
「このメールに返信すれば、『はたて』って奴とコンタクトが取れるのか?
……とにかく、最初に行く所は決まったな……」
どうやら、南で徐倫に『何かあった』らしい。
その真偽がどうであれ、友の身に『何かあった』ことの知らせを無視していられるほど、
彼女は器用な性質ではなかった。
「ここから、ずっと南!『アリスの家』だッ!行くぜッ!!」
そして居てもたっても居られず、『リサリサの館』を飛び出そうとした所で、エルメェスは思い出した。
「……ところでココ、舟は無いのか?」
……ここが『島』であるということを。
【D―1 エア・サプレーナ島/深夜】
【エルメェス・コステロ@ジョジョ第6部 ストーン・オーシャン】
[状態]:健康
[装備]:タブレットPC@現実
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1個(ジョジョ・東方)
[思考・状況]
基本行動方針:プッチ神父と主催者の打倒。
1:仲間と合流する。
2:『アリスの家』へ向かい、『花果子念報』の真相を確かめる。
(メールでのコンタクトは、現在保留中。)
3:エルメェス、空条承太郎と合流する。
4:襲ってくる相手は迎え討つ。それ以外の相手への対応はその時次第。
5:ウェザー、FFと会いたい。だが、無事であるとは思っていない。
※参戦時期はエルメェスがスタンド能力に目覚め、プッチ神父の存在を知って以降です。
詳細は、後の書き手さんにお任せします。
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□■□■
「『メールが相手に届きました』……よしッ。届いたみたい。
主催者の奴らの掌の上で転がされてる感が否めないのはシャクだけどね……。
あとはこのメールを受け取った相手がこれを読んでくれるか、そして、
記事の内容を信じてくれるか、だけど……。
まあ、信じるか信じないかはあまり重要では無いわね。
『信じる』にせよ、『信じない』にせよ、この記事を読んだからには、
何か行動を起こさずには居られないハズよ。
そうすれば、もっと状況が『動く』……。
状況が動けば……さらに良いネタが生まれるって寸法よ。
……ああ、楽しみだわ」
【C−4 アリスの家/深夜】
【姫海棠はたて@ダブルスポイラー】
[状態]:健康
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャー(2/2)@現実
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:記事のネタを掴むべく奔走する。
掴んだネタはメールマガジンとして『姫海棠はたてのカメラ』に登録されたアドレスに無差別に配信する。
2:魔理沙と見知らぬ女(徐倫)が起きるのを待ち、インタビューを試みる。
3:使えそうな参加者は扇動。それで争いが起これば美味しいネタになる。
4:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
5:文の奴には死んでほしくない。でも、あいつは強いからきっと大丈夫。
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※念写は可能ですが、どの程度制限がかかっているかは不明です。
※ミスタの基本支給品及びランダムアイテム「花果子念報@ダブルスポイラー」「ダブルデリンジャー@現実」を回収しました。
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<竹ボウキ@現実>
現実のホームセンターで売っている、普通の竹ボウキ。
『霧雨魔理沙の箒』と形がよく似ており、パッと見だと間違えるかも知れない。
よく見るとバーコードのシールが張られている。
『霧雨魔理沙の箒』と違ってスタンドエネルギー、霊力を使用して飛行することはできないが、
ホウキで飛ぶことに慣れた者なら、この竹ボウキでも飛べるかも知れない。
<タブレットPC@現実>
2010年頃から本格的な普及が始まった、パーソナル・コンピュータの一種。
板状の外見で、表示画面に直接触れるような操作が可能である。
無線通信により、電子メールの送受信が可能。それ以外の機能は不明。
<姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー>
姫海棠はたてに支給。
鴉天狗のブン屋である姫海棠はたてが取材に用いるカメラ付き携帯電話。
撮影した範囲の弾幕を消滅させることが可能。
何故か、メールアドレスが何件か登録されており、電子メールの送受信が可能である。
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以上で投下を終了します。
支給品のはたてのカメラですが、たしか彼女のカメラはカメラ付き携帯だったため、
それに合わせて支給品情報を変更させてもらっています。
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乙です
徐倫wwまさかの開幕オナ○ーに笑いが止まらないwww
魔理沙も災難だなぁ……まぁ魔理沙には泣き顔が似合うよね
それにしても、参加者同士の連絡の可能性が出てきましたか
これは相当デカイ影響ありますね
あとエルメェスの行動方針の中で
>3:エルメェス、空条承太郎と合流する。
これは「徐倫、空条承太郎と合流する」に訂正した方がいいかもしれませんね
エンポリオ「ねぇお姉ちゃん、あっちでアナスイが泣いてるんだけど……」
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>>36
感想とご指摘ありがとうございます。
魔理沙は泣かせてナンボ
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投下乙です!
メルマガ配信できるよ!やったねはたてちゃん!
ともかく、遠方の参加者同士での連絡が可能になったのは影響大きいよなぁ…
原作での看守といい魔理沙といい悉くナニを見られる徐倫wwwせめて此処ではガマンしろww
そして涙目で絶叫する魔理沙かわいい…w
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¶¶¶¶ってエルメェスかwwwww
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(アナスイはいないけど)
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投下乙です
金髪の子(魔理沙も徐倫も)かわいそうww
徐倫は自業自得な気もしますがww
あと前スレ>>966の予約の延長を申請させていただきます。
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ちょっとした百戦錬磨の徐倫さんも精神崩れるレベル
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徐倫クレイジーすぎる…
¶¶¶¶そしてエルメェス菌を撒くのはやめろ
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¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶¶
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予約延長します。
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伊吹萃香、サンタナ、ワムウ
投下します
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C-4、魔法の森。
瘴気に包まれ、鬱蒼とした木々を揺らしているのは『衝撃の余波』。
衝撃は周囲の葉を撒き散らすように吹き飛ばす。
始まった『力と力の衝突』による影響。
殺し合いの開始から時刻はまだ間もない。
だが、既にこの地で熾烈な戦闘は始まっていた。
二人の『鬼』が、激突していたのだ。
―――鋭い眼差しと共に拳を構える少女が一人。
「ふーッ…!」
息を吐き、気を引き締めつつもどこか楽しむかの如く少女は笑みを浮かべる。
少女の名は『伊吹萃香』。
幻想郷最強の妖怪である「鬼」の一人、「山の四天王」の一角。
小さな百鬼夜行。かつてとある異変を引き起こした『主犯』の妖怪。
巨大な鉄製の塔を背に、彼女は拳を構えている。
「全く…『始まり』から、とんでもなさそうなヤツがおいでなすったね」
迫り来る『敵』を見据え、笑みを浮かべながら萃香は呟く。
傷を負いながらも、決して臆することも無く身構え続けている。
「一体何なんだ?鬼…にも似ているが、明らかに違う―――」
雑草を踏み躙りながら突っ切るように大地を蹴り、萃香の方へと『敵』は迫る。
それはまるで彫刻のように整った筋肉質な身体。
吹き荒れる熱風に当てられているかの如く靡いている朱色の髪。
そして、萃香たち「鬼」にも似ているのは頭部から生える一対の角。
圧倒的なプレッシャーと殺意を纏い、『暴風』は木々の間を駆け抜ける。
『柱の男』―――『サンタナ』。
吸血鬼をも超越する、究極生物の一人。
「―――ま、相手が何だろうと構わないけどねッ!」
強大な敵を前にしても、彼女が怯むことは無い。
むしろ、彼女の中の『鬼』の血が滾りを見せていた。
交戦を始めてからさほど時間は経っていないが、少なくともあの吸血鬼の娘以上のパワーを感じられた。
成る程、これは中々楽しめそうじゃないか…!
-
―――萃香の『ゲーム』の始まりは、魔法の森の中だった。
まさか自分が『攫われる』立場になってしまうとは夢にも思わなかった。
荒木飛呂彦に、太田順也という二人の人間が開催した『殺し合い』。
妖怪の山に住まう神を平然とみせしめにし、殺戮を強要するあいつらに従うつもりは無い。
あの二人に『鬼』の力を存分に見せつけてやる。
彼女がこの殺し合いへの『反抗』を目的とすることにさしたる時間はかからなかった。
だが、殺し合いは許容せずとも純粋な闘いとなれば話は別だ。
鬼は純粋に『闘い』を好む。強者との戦闘ならば当然の如く喜んで受けて立つ。
そんな彼女が最初に出会ったのが、あの『鬼のような男』だ。
彼は萃香を発見するなり、彼女の呼びかけを遮り躊躇無しに攻撃を仕掛けてきたのだ。
早速凶暴な『獣』が姿を表すとは思っても見なかった。
だが、彼女は同時に見抜いていた。目の前の男の強大さに。
自分を楽しませてくれるであろう、大いなる『力』の持ち主であるということに―――!
「はぁッ!!」
その掌に形成するのは火球。迫り来るサンタナ目掛け、勢いよくそれを放つ。
霊力で形成した『鬼火』。まずは牽制目的の攻撃。
そのまま火玉は複数に拡散し――サンタナに一斉に叩き込まれる!
「…!」
サンタナの表情が僅かながらも歪む。
見慣れぬ力。奇妙な術を前に、彼は対処する間もなく怯まされる。
叩き込まれた火球は彼の胴体の一部分を焼き、その動きを一瞬止めることに成功した。
―――だが、あくまで『一瞬』。
胴体に負った火傷はブジュル、ブジュルと気味の悪い音を立てながら―――少しずつ塞がっていく。
何を映し出しているのかも解らぬ瞳が、真っ直ぐに萃香を捉えている。
一片の表情すらも見せぬ顔で、萃香を『視』る。
徐々に治癒していく傷を意にも介さぬまま、その両足の筋肉を躍動させる。
猛獣の如く荒々しく地を蹴り、萃香目掛け―――サンタナは一気に接近するッ!!
「おっと―――!」
接近と共に放たれた右拳を、萃香は身を屈めて躱す。
小柄な体格に助けられ、そして鬼としての高い身体能力によって回避に成功する。
右拳のストレートを回避されながらも、サンタナは慌てることも無く全身の筋肉に可能な限りの強靭な力を籠める。
強力な弾丸のような拳撃を、鎌の如く刈り取るような蹴りを次々と放つ。
しかし、萃香の動きはあくまで冷静。サンタナの放つ体術を屈んで躱す、跳ぶように躱す、後方に下がり躱す。
-
回避に徹する彼女は冷静にサンタナの動きを把握し、観察する。
(…確かに、身体能力は大したものだ。だけど―――)
やはり身体能力は相当高い。『力』と『敏捷性』を十二分に兼ね備えている。高い戦闘センスも感じられる。
だが、落ち着いて観察すれば気付ける。その動きは大雑把、そして力任せであるということに。
攻撃の動作が雑と言ってもいい。優れた戦闘技術があるワケでもなく、高い身体能力を強引に振り回しているだけの攻撃だ。
恐らく、単純な体術の技量では自分の方が上なんじゃないかと思える程。
だが、そんな戦闘でも格下の相手…そう、そこいらの人間や妖怪にとっては高い身体能力だけで大きな脅威になるのも確かだろう。
そう考えると、目の前のこの男は「自分と同格の相手との戦闘経験」に乏しいということが容易に推測出来る。
ならば、対処はさほど難しくない。
冷静に相手の攻撃を見切り、隙を突けば…!
その直後のことである。
サンタナが右拳を強く握り締める。右腕の筋肉が、血管が大きく浮かび上がる。
そして、萃香に向けて屈強な筋肉をバネに渾身の突きを放ったのである―――!
(今――だァッ!)
―――サンタナの懐に素早く潜り込むように、萃香は拳を回避する!
至近距離にまで接近。サンタナの腹部を射程に完全に捉えた。もはや回避など不可能だろう。
今度は、こっちの攻撃だ―――!
「そぉぉぉ――――らッ!!!」
萃香が右腕を構え、勢いよく拳撃を放つ。そして―――『密と疎を操る能力』を発動!
パンチを放った右腕の『密度』を収束させ、拳から高熱を発生させる。
そのままサンタナ目掛け、『超高温』と『火玉』を纏った拳を叩き込んだのだ―――!
腹部に強烈な衝撃と熱が叩き込まれ、サンタナの身は仰け反る。
『鬼』のパワーを込めた拳撃、そして強力な『熱』による攻撃。
腹部は焼け焦がされ、同時に打撃により全身に轟くような衝撃に襲われる。
サンタナの口から真紅色の血液が吐き出される。一撃は、確実に入っている。
間髪入れずに萃香は、次の一撃を叩き込まんと左の拳に力を込める。
―――だが、サンタナは鈍痛を受けても尚、強引に動き出した。
「…!?」
サンタナが、拳が腹部にめり込んでいる萃香の『右腕』を無理矢理両手で掴んでいた。
そして―――萃香を引き離す訳でもなく、逆に引き寄せるかの様に。
力づくで右腕を『引っ張った』。
-
「ぐ、ああああぁぁぁっ!!!?」
突如として萃香の右腕に、今まで感じたことも無いような激痛が走る。
サンタナの腹部にめり込んでいた右拳が、逆に取り込まれ始めていたのだ。
まるで『喰われている』かのように、萃香の右腕はゆっくりと吸収されていた。
抵抗をするも、柱の男の腕力と『腹部に喰われて固定された萃香の右腕』が原因となり振りほどくことは出来ない。
不気味な肉塊のような音と共に、少しずつ、着実に萃香の右腕は取り込まれていく。
このままでは、右腕を全て『喰われる』…!
「…………何だ……コレ……は………?」
一言も語らなかった男が、口を開いた。
萃香の右腕を喰らいながら、サンタナは彼女を見下ろしていた。
立場が逆転した。今度はサンタナが萃香を眺めて『観察』しているのだ。
「人間や……………吸血鬼………ではない」
ボソボソと、うわ言のように淡々と言葉を発する。
「だが…………『俺』……とも………違う………………」
苦痛に喘ぐ萃香を見下ろしながら、彼は言葉を発し続ける。
相も変わらず無表情、そして無感情のままだ。ただし、萃香を見る瞳に浮かび上がるのは僅かながらの『好奇』。
奇妙な術を操り、自身と互角以上の『力』を持つ小娘。
明らかに人間ではない。それどころか、吸血鬼でもない。
自身の記憶に一切存在しない、全く『未知』の存在だ。一体、こいつは――――
直後にサンタナが重ねていた思考は打ち切られることになる。
萃香の姿が、突如として霧状になって拡散したのだ。
自身の身体の密度を可能なまでに下げたのだ。身体が『霧』と化すまでのレベルに。
そのまま霧と化した萃香は、瞬時にサンタナの背後に回る―――
「……!」
目を見開き、サンタナが振り返ろうとした時だった。
鋭い刃物で裂くような音がその場で響き渡る。
焼けるような痛みが右腕部に伝わる。
サンタナの右腕が、血を噴出しながら吹き飛んでいたのだ。
「――――GUUUUUOOOOOOOOOOO!!!」
激痛による絶叫を上げながらその右腕を残った左手で抑えるサンタナ。
瞬間。彼は己の身に起こったことを理解する。
振り返ると、あの小娘が左手に刃を血に濡らした『剣』を持った状態で着地していたのだ。
先程の『捕食』によって右腕を失いながらも、物ともせぬ様子だ。
傍らに転がっているのは中身を乱暴に開かれたデイパック。それは萃香が先程まで背負っていたものだ。
「ちょいと借りるよ‥天人の娘っ子!」
-
萃香の左手に握り締められていたのは彼女の支給品『緋想の剣』。
天人である比那名居天子が愛用する気質を操る能力を持つ剣。
相手の気質を見極め、確実に相手の弱点を突くことが出来る強力な武器である。
その能力により、再生能力を持つサンタナに確実な一撃とダメージを与えることに成功したのだ。
先程右腕を『吸収』をされたことで萃香は当然気付く。
この男に触れることは危険だ。まるで全身で捕食をしてくるかのような、奇妙な感覚だった。
触れた瞬間即座に吸収されるというワケではないらしいが、厄介極まりない。
あの再生能力を見る限り、弾幕で攻め続けた所でまともなダメージになるはずもない。
故に支給品であるこの剣を使ったのだ。相手の気質を読み、着実に弱点を突くことの出来る剣。
以前比那名居天子と闘った時に『こいつ』の強さは承知している。
事実、こうしてこの男に対し効果的なダメージを与えられているのだ。
その場で剣を手放し、彼女は咄嗟に開いた左手でもう一つの『支給品』を解き放つ。
「このまま、大人しくしてもらうよ」
萃香の懐から『鎖』が投げられる。
鬼である彼女を象徴する道具の一つである鉄の鎖。彼女のもう一つの支給品。
それは瞬時にサンタナの身体を縛り、彼の身動きを封じる。
「酔神「鬼縛りの術」!」
「…!?」
サンタナの身体が鎖によって雁字搦めに拘束される。
抵抗しようとするも、その身に力が入らない。
それもそのはず。この拘束は単なる鎖による妨害ではなく、スペルカードによる技。
能力によって相手の霊力や魔力を『散らす』ことがその真価。
サンタナは霊力を持たぬとはいえ、鬼の腕力と高い強度の鎖によってガッチリと縛られている。
故に抵抗をする度に疲労を大きく蓄積される。もはや無駄な抵抗と言ってもいい。
それでもサンタナは、必死に身体を動かし鎖を振りほどこうとする。
左手によって鎖を縛り上げる萃香は、サンタナを見下ろしていた。
「…まだ抵抗するかい?へぇ、根性があるのはいいことだ」
身体をよじらせるサンタナを見つつ感心したように萃香は呟く。
この男には随分と手間取らされた。まさか片腕を奪われるとは思っても見なかった。
真剣勝負を行わなくなってから久しい。それ故に少々腕が鈍っていたのかもしれない。
今回の闘いで彼女は再認識する。此処で行われるのは、正真正銘の『死闘』であると。
これから、もっと気を引き締めないといけないようだ―――そんなことを内心思い続ける。
-
「だけど、もう腹括りな」
未だに抵抗を続けるサンタナに対し、言葉を手向ける。
「私は出来ればトドメは刺したくないからね」
そう、命の奪い合いは自分の好みではない。
血腥い殺し合いなんかより、正々堂々とした真剣勝負を興じたいくらいだ。
「だから、このまま大人しく」
グシャリ。
「え?」
唐突に萃香の右足に走る熱。痛み。
瞬間、鎖を握り締めながら立っていた彼女の身体が大きく崩れる。
自らの体勢が崩れる中で彼女は気付く。
自身の右足に、『斬り飛ばしたはずのサンタナの右腕』が纏わりついていることを。
その右腕が、自身の右足を抉って『捕食』しているということを。
彼女が知る由もない。『肉体を遠隔操作出来る』という柱の男の能力を。
例えそれが攻撃によって切断された身体の一部であっても自在に操作出来るということを。
バランスを崩し、鎖を手放し体勢を崩した彼女の隙をサンタナが見逃すはずもなかった。
纏わりつく鎖を強引に振り払い、間接と骨格を滑らかに変形させながら―――跳び上がった。
「―――――ッ!!?」
萃香の目が驚愕で大きく見開かれる。
跳び上がったサンタナが、萃香の『右腕の切断面』の中へと強引に入り込んだのだ。
それはあまりにも不気味で、そして奇妙な光景だった。
肉体を変形させる男の身体が、萃香の『傷口』を無理矢理切り開くように押し込まれていくのだから。
―――入り込んでくる。
―――まずい。何なんだ、こいつは。このままだと、やばい―――!
必死で対処しようとしても既に遅い。
苦痛のような、快楽のような、奇妙な感覚が彼女の身にどっと襲いかかる。
そんな感覚に耐え切れぬまま、転がり落ちるように萃香はその場で転倒する。
そのままぐちゃり、ぐちゃりとサンタナの身体が――――萃香の身体へと『侵入』し。
萃香の身体が、爆ぜた。
◆◆◆◆◆◆
-
「……――――………」
勝敗が決した。
虚空を眺めるように、焦点の合わない瞳で萃香が仰向けに倒れている。
息絶え絶えに荒い息を吐く。彼女の命の灯火が消えかけているのは明白だ。
多量の血液と肉片が彼女を中心とし周囲に散らばっている。
もはや肉体の半分以上が原形を留めていない状態。
体内に侵入したサンタナが強引に内側から肉体を破裂させたのだ。
瀕死の萃香の傍で、サンタナは切断された右腕を接着させながら地に立っている。
自らの傷の状態を確認しつつ、萃香を見下ろした。
ゆっくりと萃香がその虚ろな眼を動かし、傍に立つサンタナを見る。
「……あぁ…………私の、負け……か………」
自嘲するような笑みを弱々しく浮かべながら、彼女はか細い声を発する。
あの主催者共に何ら抵抗も出来ないまま、死ぬのか。
無念だ。我ながら、情けない結末だ。
だけど、目の前の男に対する憎悪や憤怒は浮かばなかった。
これが『死』か、と言わんばかりの清々しい感情が胸の内で渦巻く。
千年以上の時を彷徨ってきたが、『終焉』というものは案外呆気無い。
自分に対し、自分でそんなことが思えてきた。
何も言わずに、サンタナは萃香を見下ろし続けている。
無言のまま、ピクリとも表情を動かさない。
目の前の少女に対し、思う所など無い。
「…なぁ…」
萃香が、サンタナへと顔を向けて声をかける。
突然の呼びかけに対し、彼は耳を傾けた。
そして、彼女の口から細々と…だが確かな問いかけが発せられた。
「……あんた、からは…何も感じなかった。信念も…魂も」
「見えたのは、ただ生きることへの執念だけ」
「本当に、それだけだ」
「…きっと…あんたは……空っぽの、存在。…生き残った先に…何を、見出すんだ?」
思うがままに、疑問を吐き出した。
目の前の男からは何も感じられなかった。闘いの際にも、何一つとして。
敢えて言うならば、生への執念だけだ。
幻想郷で出会ってきた連中とは違う。生きる意味も、愉しみも、信念も感じられない。
ただ獣のように、漠然と生きているだけの存在。
彼女には、男がそんな風にさえ思えたのだ。
憶測には過ぎない。だが、萃香は確信を以てその問いかけを投げていた。
サンタナは彼女の問いを聞いても尚、無表情のまま。
そして暫しの沈黙の後―――彼は口を開いた。
「…どうでも、いい」
淡々と、興味も無さげにただ短くそう言い放つ。
「……そうかい」
萃香の口元に、フッと笑みが浮かぶ。
その身に迫るサンタナの屈強な右脚を見て確信していた。
あぁ、ついに終わりが来たか、と。
生はこの世の夢幻。
酒と同じだ。一時の愉悦、享楽。
ま、欲を言えばもっとそんな美味な酔いを楽しみたかったんだけどね。
さて――――狂酔から、醒めるとするかな。
◆◆◆◆◆◆
-
瘴気に包まれた森の中を堂々たる姿で進むのは、一人の戦闘者。
柱の男の一人にして、戦闘の天才と呼称される戦士『ワムウ』。
先の『太陽の力を操る少女』との闘いで彼の身には大きな傷が生まれていた。
全身の火傷は再生能力によって少しずつ塞がってはいる。だが、焼き切られた右手の指は元に戻ることは無い。
(先程の違和感…)
この状態でも戦えないというワケではないが、先程「神砂嵐」を放った際に僅かだが重心が崩れていたことを感じたのだ。
右手の指が欠損していたことにより、左右の腕のバランスが崩れていたのだろう。
神砂嵐は強力な技である。だが、本来持ちえている安定性が多少なりとも失われていることは無視出来ない。
敵を確実に葬る必殺の闘技なのだ。その技を使う際には可能な限り安定性を、万全を保ちたい。
故に彼は思う。早急に代えの指を探し出し、全力を発揮出来る状態にしなければと。
(…可能ならば、速やかに見つけたいものだ)
そう、まだ見ぬ『強者』との闘いがあるのだ。
負傷した身で全力を出せぬまま戦う等、格闘者として些か不本意である。
万全を以て、全力を以て戦うこと。それが一人の戦士としての望みだ。
それにカーズ様、エシディシ様のこともある。少しでも負傷した状態で合流し、足を引っ張る様な真似はしたくない。
内心で思考を続けつつ、鬱蒼とした森を進み続けていた。
それから暫しの時を経た後だった。
自身の進む方向の木々の奥から、物音が聞こえたのだ。
そう、それは言わば肉を喰らうような音。
ぐちゃり、ぐしゃり、と生々しく肉を咀嚼しているかのように何度も耳に入ってくる。
音に気付いたワムウは、警戒をしつつもそちらの方へとゆっくりと歩く。
捕食音にも似ているが…明らかにそこいらの獣のそれとは違うような生々しい音だ。
この血腥さも何度も感じたことのあるものである。まるで『我々』が、人間共を喰らう時のような―――
木々を抜けた先。目に入ったのは鉄で象られた一つの塔。
この血の匂いは、すぐ傍から感じ取れる。ワムウは周囲一帯へと目を向けた。
そうして辺りを見渡す彼の瞳に、一つの屈強な男の姿が入る。
鉄塔のすぐ傍だ。暗闇の中だが、確かにその姿は確認出来る。
原形を留めていない死体を、その身を以て『捕食』する男の姿が。
『死体』は辛うじて幼い少女のものだと判別出来るが、もはや殆ど肉片同然だ。
ワムウはそれを補食する男を見て目を丸くする。暫し様子を眺めた後、彼の方へと歩み寄った…
「…貴様、いたのか」
「…………。」
『男』に目を向け、素っ気ない口振りでそう言う。
彼もワムウに気付き、そちらへと顔を向ける。
ワムウにとって、その男は見知った顔ではある。
一族の生き残りで、自分にとっての仲間の一人ではある。
共に『二人の主君』に育て上げられた、言わば同年代の同胞だ。
久方ぶりの再会。一体この男を最後に見てから、どれほどの時を経たのだろうか。
だが、ワムウは彼との再会を決して歓迎しているわけではなかった。
喜びを覚えている訳でもない。かといって嫌悪を抱いているわけでもない。
その瞳に浮かぶものは、ただひとえに『無感情』。
有り体に言えば、『興味そのものが希薄』だった。
立ち尽くす『男』を淡々と流し見て、ワムウは言葉を続ける。
「人間共に敗北したと聞いていたが… まあ、今はいい」
「…………。」
思眠りについていた我々を監視していた人間共が口にしていたことを思い出す。
『メキシコの地でもう一体柱の男を捕獲している』と。
奴らは我々を『柱の男』と呼称している。そのことに関しては特に関心は無い。
メキシコと言えば、遥か大海原を渡った先に存在する大陸。
その地で捕らえられた『我らの一族の一人』。当然の如く、心当たりがあった。
我々の力に着いていけず、波紋戦士との闘いに参加することさえ許されなかった「ヤツ」を。
幼き頃から共に育て上げられ、そして我らが主達から捨て置かれた「ヤツ」を。
ヤツの名などもはや主君であるカーズ様、エシディシ様ですら呼称しなくなって久しい。
名簿にも『その名』は記載されていなかったが…どうやら人間共から付けられた名で載せられていたようだ。
あの軍人共、それにスピードワゴンと言う老人が口にしていた。
そう、『ヤツ』の新たな名を――――
「『サンタナ』と呼ばれていたな」
-
「…ワムウ、か」
かつてワムウと共にカーズ、エシディシに育て上げられた『闇の一族』の一人。
とはいえ彼はその中でも最下位の階級。
確かに彼は人間や吸血鬼を蹂躙する程の圧倒的な力を持っていた。
だが、彼の実力は他の柱の男と比べれば大きく劣るものだ。
『仲間』からその存在を軽んじられ、柱の男の中で唯一単独で行動を取っていた。
「貴様と再会することになるとは、思っても見なかった」
そう呟くワムウも、彼に対しての認識はあまり快いものではない。
サンタナは流法を習得することさえ出来ず、カーズ様とエシディシ様から放置された。
そんな彼に対する情が無い訳ではない。だが、所詮は主達から認められなかった落ちこぼれ。
とはいえ、同胞である以上『仲間』ではある。見殺しにするつもりは無いし、それに同じ『闇の一族』である以上使えないことはない。
故に彼はサンタナを使うことにした。我らが主が、自身を使うように。
「…俺はこの傷を癒し、主達と合流するつもりだった。だが『サンタナ』、お前がいたとなれば丁度いい」
「お前は南方へと向かえ。カーズ様、エシディシ様もこのゲームに参加している…二人を捜し、合流しろ。そしてその指示を仰げ」
「卓越した戦闘能力を持ち合わせる主達とはいえ、下らぬ手を煩わせる訳にもいかない…俺とお前で、我らが主の手足となるのだ。無論、俺も二人を捜す」
サンタナに対し、ワムウは指示を言い渡す。
本音を言えば暫し強者との闘争を楽しみたいという思いもあるが、主の捜索を疎かにする訳にもいかない。
一人で捜すのは骨が折れると思っていたものの、同胞がいるとなれば丁度いい。
「………解った」
こくりと頷きながら、サンタナはその指示を承諾する。
特に迷うことも無く即座の返答だった。
-
「そしてもう一つ。…ジョセフ・ジョースター、シーザー・アントニオ・ツェペリという参加者には警戒しろ。奴らは『波紋戦士』…と言っても、お前は知らぬだろうな」
ジョセフ・ジョースター。
その名を聞き、サンタナの表情が一瞬だけ歪むがすぐに平静の態度へと戻る。
ワムウはサンタナの反応に対し気付いているのかは定かではないが、直ぐに波紋についての説明を行う。
血液が生み出すエネルギーによって刻まれる『力』。
それは太陽と同じ効果を発揮し、吸血鬼や闇の一族に有効な一撃を与える。
我らが主、そして自身は彼らと戦っていた―――と。
サンタナは古代ローマにおけるエイジャの赤石を奪還する為の闘いに参加していない。
当然の如く、波紋の存在すら教えられていないのだ。
この場に波紋戦士がいる以上、その存在を教えなければ都合が悪い。
サンタナは波紋の説明を聞き、再び了解したように頷く。
「奴らには最大限の注意を払え。…それに、俺はお前の実力のことも理解している。もし戦闘になり、敵わないと判断したならば…生きることを優先しろ」
「………。」
「これはあくまで『俺』からの助言のようなもの、だがな」
ワムウは同胞としての僅かながらの情を込めつつ、そう言う。
彼を使うことに躊躇いは無いが、かといって『死んでも構わない』とは思っていない。
主から見捨てられた弱者とはいえ、仲間であることには変わりないのだから。
「……ああ、了解した」
サンタナはワムウに対し短くそう返答をし、『死体』の肉を豪快に取り込むとその場から歩き出す。
のらりくらりとワムウの傍を通り過ぎる。向かう先は南方。
指示に従い、すぐに行動を始めたサンタナの姿をワムウは少しだけ眺める…
「『サンタナ』」
「………。」
歩き始めたサンタナに対し、声をかけた。
サンタナは動きを止め、ワムウの方へと振り返る。
「お前は、我らが主に認められたいか?」
「…………。」
「共に闘う『戦士』として認められたいか?」
紡がれるワムウの言葉。何も言わず、それに耳を傾けるサンタナ。
あの小娘の言葉がサンタナの脳裏を過る。
自分からは信念も何も感じられない。あるのは生きる執念だけ。
何も持たない空っぽだ、と。
その通りなのだろう。所詮は主達から捨て置かれた身。
―――本心、そんな主達にさしたる興味を抱いているワケでもない。
自分と言う存在が見捨てられたあの時から、主達に対する関心そのものが希薄になっていた。
所詮は最下位である自分に目を向けることも無い。そんな主達のことに関して考えるだけ無駄なのだろう、と。
だが、この世界において自身の唯一の『同胞』であることも確かである。
それに、こうしてワムウと再会した。仲間である彼に逆らう気はないし、逆らう程の目的もサンタナには無かった。
-
そして少しの間の後、ワムウの口から言葉が発せられる。
「もしそう思うのならば、相応の成果を出せ」
鋭い眼光と確かな重みと共に、ワムウはそう言い放つ。
「………。」
言葉の直後、ほんの少しだけサンタナの表情が動いたように見えた。
それが見間違いだったのか、実際に何か思う所があったのかは解らない。
真偽は不明だが、彼の言葉に対し静かに頷くとサンタナはその場から再び歩き出し去っていった。
「……行ったか」
去っていくサンタナを見届けた後、ワムウもまたその場から歩き出す。
サンタナとは逆の方向へ。早い内に代えの指を捜し、主達を捜したい。
のんびりとしている暇など無い。
日が明けるまでの時間は、そう長くないのだから。
「……。」
そして…久しく再会を果たした『サンタナ』のことは僅かながら気がかりでもある。
彼が主の為に相応に働くことが出来るか。
足手纏いとならず、一人の戦士として戦うことが出来るのか。
どちらにせよ、ヤツの価値を結論付けるのは我が主達である。
思う所が無いと言う訳ではないが、サンタナの処遇がどうなろうと自分には関係ない。
結果を出せなければ、切り捨てられるだけなのだから。
【伊吹萃香@東方萃夢想】死亡
【残り 85/90】
【C-4 魔法の森(鉄塔前)/深夜】
【ワムウ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:全身に重度の火傷(再生中)、右手の指を欠損、疲労(微小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:他の柱の男達と合流し『ゲーム』を破壊する
1:カーズ・エシディシと合流する。南方の捜索はサンタナに任せる。
2:ジョセフに会って再戦を果たす
3:霊烏路空(名前は聞いていない)を敵と認識
4:代えの指を探す
5:主達と合流するまでは『ゲーム』に付き合ってやってもいい
[備考]
※参戦時期はジョセフの心臓にリングを入れた後〜エシディシ死亡前です。
【サンタナ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:右腕にダメージ(小)、疲労(小)、再生中
[装備]:緋想の剣@東方緋想天
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済)、鎖@現実、伊吹萃香の支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:………。
1:ワムウの指示に従い、南部へと移動。カーズ、エシディシと合流し、指示を仰ぐ。
2:ジョセフ、シーザーに警戒。
3:同胞以外の参加者は殺す。
[備考]
※参戦時期はジョセフと井戸に落下し、日光に晒されて石化した直後です。
※波紋の存在について明確に知りました。
<緋想の剣>
伊吹萃香に支給。
天人の一族である比那名居家の総領娘・比那名居天子が家に無断で持ち出した剣。
「気質を見極める程度の能力」を持ち、相手の気質を読み取ることで必ず弱点を突くことが出来る。
本来ならば天人のみが扱え、その能力を発揮出来る剣だが主催者の施しで天人でない参加者でも扱うことが可能になっている。
ただし「全人類の緋想天」のみは天人である比那名居天子にしか発動出来ない。
現在はサンタナが装備。
<鎖>
伊吹萃香に支給。
線材を環状にしたものをつなげた道具。
使い勝手は悪いが鞭のように振るって武器にすることも出来るし、その長さで相手を縛ることも可能。
現在はサンタナが所持。
-
投下終了です
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします
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投下乙です。
サンタナ……原作ではあまり人間性を見せなかった彼だけど、
この場では何を想うのか。
そして柱の男の体外消化にハマった萃香……
やっぱり酒臭い味がするのだろうか?
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魔境竹林の側で紳士と淑女が初見殺しと上位種と天敵に包囲されてる件
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サンタナって見てるだけでなんとなく面白いキャラだな
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結構な格差社会だった柱の男たち
エシディシはつかみどころがないけどカーズは使えんやつは同胞といえどアッサリ見捨てそうだ
そんな中でワムウはほんのチョッピリだけ優しかった
-
深夜
A-1
草原 早苗 プロシュート
A-2
草原 花京院
A-3
草原 こころ
A-4
平原 芳香
A-5
無縁塚 響子 ホル・ホース シュトロハイム
A-6
草原 諏訪子 リサリサ
B-2
ポンペイ ウェザー 美鈴 青娥 小傘 ジョルノ トリッシュ
B-4
魔法と森 リンゴォ 静葉
B-5
魔法の森 果樹園の小屋付近 妹紅 エジティシ
B-6
草原 さとり 億泰
C-2
GDS刑務所・女子監1階 蓮子 ジョニイ
平原 ヴァニラ
C-3
紅魔館 ディエゴ 大統領
霧の湖内 F・F
ジョースター邸裏 お燐 ブラフォード
霧の湖北岸 シーザー
C-4
アリスの家 魔理沙 徐倫 はたて
魔法の森(鉄塔前) ワムウ サンタナ
D-1
守矢神社 慧音 ぬえ 吉良
D-1
エア・サプレーナ島 エルメェス
D-3
廃洋館付近 にとり
D-4
湿地帯 お空
D-5 藍 橙
D-6
迷いの竹林 阿求 幽々子 メリー ツェペリ ポルナレフ
永遠亭 ジャイロ 神子
E-1
妖怪の山 天子
E-2
平原 紫 ズィー・ズィー
E-3
大蝦蟇の池付近 寅丸星 カーズ
E-4
命蓮寺 ジョナサン レミリア
川辺(人里付近) てゐ ブチャラティ
コロッセオ(入口付近) DIO
E-6
太陽の畑 プッチ こいし
タイガーバームガーデン チルノ
F-2
草原 パチュリー 岡崎
黎明
B-1
双頭竜の里 露伴 文
D-2
猫の隠れ里 勇儀 アヌみょん
D-3
廃洋館内 霊夢 承太郎
D-6
迷いの竹林(永遠亭前) うどんげ
迷いの竹林(永遠亭付近) マミぞう
永遠亭 アリス
迷いの竹林 ディアボロ
第1回放送後
C-5
迷いの竹林 輝夜
-
ジョセフはコイツら全員よく倒したな…
つくづく、つくづくそう思う
-
昼休みのぼっちに話しかけるリア充のようなこの感覚・・・すごく・・・胸が苦しいです・・・
-
うーん、サンタナは今後どうするべきなんだろうか
このままじゃあまりにも気の毒だ
-
柱の男達は全員、成長済みだろうから支給品の効果抜きでサンタナの強化は無理だろうな
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サンタナもカーズやエジティシぐらい長生きしたら流法を使えるようになれるのかな
-
ワムウとサンタナが同年代じゃねえの
-
>>69
Exactly(そのとおりでございます)
サンタナが流法習得してないのは若くして完璧に流法使いこなせているワムウが文字通りの天才なだけなのか
もしくは本当にサンタナに資質がないのか…
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一般人と室伏兄貴を比べるようなもんじゃないのか?
サンタナ自体も決して弱くないけど周りがやばすぎる
-
まぁ他の柱の男が一刀両断の光の刃を操り、数百度を超える灼熱を操り、超破壊力+万能の風を操ってる中で
サンタナは肋骨伸ばしてるだけだからな…
-
多彩でいいじゃないか あいつだけ根性でちょっと太陽に耐えてたし
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実際サンタナはあの肉体操作の能力とか挙動とか怪物的で好きだけどねw
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逆に考えるんだ、サンタナの流法が肉、もしくは骨の流法なんだと考えるんだ
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>本心、そんな主達にさしたる興味を抱いているワケでもない。
>自分と言う存在が見捨てられたあの時から、主達に対する関心そのものが希薄になっていた。
ワムウはサンタナがまだ柱の男チームの「番犬」だ、当然そうあるべきだと決め付けてるわけだが、サンタナの自意識はそうでもないんだよな。
ただ同族だし、戦う理由もないからとりあえずハイハイ聞いときましたって感じで。
この一種の「独立心」がサンタナのポイントじゃないかね?
条件さえ備われば、サンタナはワムウだろうとカーズだろうと容赦なく殺すだろうな。
-
柱の男同士の戦いって千日手になりそうだな
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>>77
このロワに限って言えば、脳味噌を破壊すれば決着は付くけど
原作だと色々カオスになりそうw
マッチョ大男二人が互いに吸収しようと融合するようなw
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そう…そのまま飲み込んで、僕の輝彩滑刀…
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橙、ジョセフ・ジョースター、投下します。
-
月あかりがぼんやりと薄くなってきた闇の中を、小さな影が走っていた。
後先のことを全く考えていない全力疾走。
この場が殺し合いが行われている場である事を考えると、軽率な行動だと言わざるを得ないだろう。
だが、その小さな影――橙は酷く、酷く怯えていた。
彼女とて現状を把握していないわけではない。
いやむしろ把握しているからこそ、酷く怯えているのである。
-
秋穣子が、死んだ。
否、殺された。
膨らんだ風船を待ち針でつついたかのように、ぱあん、と赤いものを撒き散らして、呆気なく殺された。
幻想郷に置いて死と言うものはそれほど珍しいものではないのだが、このように『殺される』となると話は違う。
その一部始終を見ていた第大は、酷く怯えた。
吐き気にも似た嫌悪感が頭を揺さぶり、心臓は早鐘を打つ。
そうしてそこから何が何であるのかもわからないままに、月が良く見える平原に転送されてしまった。
怖かった。
ただ、ただ単純に怖かった。
幼い橙には、その怖さを表す事さえもできずにただただおびえ、震えることしかできないでいた。
涙があふれた。
拭えども拭えども止まらない涙を流しながらも、橙はただ歩いていた。
そうする以外に、何もできなかったから。
橙が歩く事が出来たのは、未だ彼女に支えとなる存在がいたから。
自らの主である、八雲藍。
橙はあの場に確かに彼女の姿を見ていた。
藍に、会いたい。
ただその想いだけを胸に抱きながら、橙は泣きながら平原を歩いていた。
そしてその想いが天に通じたのか、橙の目の前に、八雲藍の存在が見えて――――
運命は残酷だった。
-
「……あっ!!」
疲労からか恐怖からか、脚が縺れて橙は盛大に転んでしまう。
転んだ膝小僧はすり向けて血がにじみ、ずきずきとした痛みが火のように走ってきた。
「うう……痛い、痛いよぉ……」
すぐに立ち上がりたいという気持ちとは裏腹に、さっきまで全力疾走していた疲労と、転んだ膝小僧の傷の痛み、そして――――八雲藍に踏みつけられた背中の痛みが、橙の身体を拘束する。
「藍……様、なんで?」
思い出したくなくても、頭の中に焼き付いているのは八雲藍のあの表情――深い闇のように何もない、残酷な表情。
あの優しかった八雲藍は、もういないのだと一瞬思ってしまったが、橙にはどうしてもそれを理解できない部分もあった。
――橙にとって、八雲藍は優しく守ってくれる母のような存在だったから。
優しかった藍の姿と、残酷な藍の表情が交互にフラッシュバックしていき、橙の目からまた大粒の涙があふれていく。
「ううっ……うえ……」
動けない身体で、橙は泣いた。
最大の心の支えに裏切られたショックが、傷ついた体中の痛みが、橙を蝕んでいた。
この場が殺し合いの場であると言う事も忘れてしまうぐらいに、橙はただただ、泣くしかできないでいた。
――後ろからやってくる、足音にも気付かないぐらいに。
-
「や…やっつけた!ついにカーズを!やっつけたぞォォォォ!」
激しく、絶望的な戦いだった。
エイジャの赤石の力により究極生命体と化したカーズとの戦い。
ジョセフ・ジョースターはもてる知恵と機転の全てを尽くし、カーズを火山の火口、煮えたぎる溶岩へと叩き落した。
生命を誕生させてきた“地球”ならば、究極生命体と化したカーズを葬ってくれるかもしれない、という一縷の望みに全てを託したジョセフとシュトロハイムの決死行により、ついにカーズは溶岩の中に消えた……
――――その、はずだった。
「一体これは……どういうことだッ!?」
ジョセフ・ジョースターはただただ、混乱していた。
今いるこの場所は、イタリアのヴァルガノ島の火口付近ではない。
全く見た事のない場所だった。
それどころかワムウ、カーズとの連戦で負った多数の傷もそんなもの最初からなかったと言わんばかりに完治している。
空に昇っているのは燦々と輝く太陽ではなく、薄明るくぼんやりと光っている月。
夢でも見ているのかと思ってしまうほど奇妙なこの現象。
何が起こったのかを必死で思い出そうとするジョセフだったが、霧に覆われたかのように記憶があいまいだ。
……いや、それでも一つの奇妙な記憶に辿り着いた。
――――集めた理由はただ一つ。君たちにはこれから殺し合いを行ってもらいたい
-
「……胸糞悪いぜ。」
正直、あんな記憶なんか思い出したくもなかった。
しかし思い出そうが思い出すまいが現状が変わるわけでもない。
むしろ現状がどういう状況なのかというのを理解するためには、思い出さなくてはいけない記憶だったのだ。
「殺し合えなんて言われても……そんなのハナから願い下げだぜ。やっとカーズの野郎をやっつけたってんのに何考えてやがんだあの荒木とか言うヤロー……」
グチグチと文句を言いながらも、ジョセフはいつの間にか手にしていた荷物を漁り始めた。
「地図にコンパスに鉛筆に……ご丁寧なこったね全く……ん?なんだこの紙?」
筆記用具の鉛筆と一緒についていた紙とは違う、やや大きめの畳まれた紙にジョセフは目をつけた。
特に変わった様子もないためジョセフはとりあえずその紙を広げてみたのだが……
「う、うおおっ!?何なんだこりゃあーっ!?」
ジョセフが驚くのも無理はない。
紙を開いたその瞬間、その『中』から金属バットがゴロリと飛び出してきたのだ。
ジョセフは突然の事態に驚きながらも、出てきた金属バットと金属バットが飛び出した紙を交互にしげしげと眺めていた。
「……なるほどね、これは俺に支給された『武器』ってやつかい。」
確かにこのバットでブン殴れば、骨の一本や二本簡単にへし折れるだろうし、当たり所によっては十分相手を殺す事も出来るだろう。
更に、波紋戦士でもあるジョセフにかかればこのバットに波紋を通して攻撃すると言った芸当も朝飯前だ。
妙に手になじむグリップを握り、ブン、と軽く振ってみる。
荷物の中にはさっきの不思議な紙はもう入っていなかったようで、どうやらこれが自分の当面の装備となるらしい、という事をジョセフは理解した。
と、その時ジョセフの耳に子供の泣いているような声が聞こえてきた。
「……オバケとかじゃねーよな?」
一瞬背筋に冷たいものが走ったが、行くあてもないジョセフは惹かれるかのようにその泣き声の方へと向かっていた。
すると目の前に、地面に倒れ伏し泣いている小さな女の子が、そこにはいた。
-
「……なあ、どうしたんだ?」
「ひっ!?」
泣き伏していた橙の耳に飛び込んできたのは、若い男の声。
恐る恐る振り返ると、身長195センチの巨躯の男が心配そうな表情で立っていた。
「泣いてる声がするから来てみたら……こんな子猫ちゃんがいるなんてな、だがもう大丈夫だぜ。」
「あ、あなた……誰?」
「俺かい?俺はジョセフ・ジョースター。通りすがりのナイスガイさ。」
ジョセフと名乗ったその大男は、ニカッと微笑むと橙に手を差し伸べた。
「こんな所でどうしたんだい子猫ちゃん?母ちゃんとはぐれたか?」
「え、えっと、その……」
「っておいおい怪我してんじゃねーか。ちょっと見してみ。」
「え?」
返事に詰まる橙を尻目に、ジョセフはすりむいた膝小僧にそっと触れた。
すると不思議な事に、ジンジンと痛んでいたはずの膝からは痛みが引いて行った。
血の流れていた傷口も、何事も無かったかのようにふさがっている。
「え、お兄さん、今の……何?」
「あー気にすんな、魔法みたいなもんだよ。」
「魔法……」
「それはそうと子猫ちゃん、一体何でこんな所で泣いてたんだ?ここは危ないぞ。」
「…………」
橙は何も言い返す事が出来ない。
先ほど八雲藍に言いつけられた事――参加者の首を持ってくる事をどうにかして遂行したいのだが、今の橙にはそれが出来ない。
目の前のジョセフ・ジョースターという男は、自分の知らない魔法や妖術の類を使うものだと橙は思っていた。
さらに、小柄な橙に対してジョセフの身体はあまりにも大きい。
殺しにかかったとして返り討ちにあうのが関の山だ。
ならば、どうすればいいのか……それすらも思い浮かばないでいた。
気まずい沈黙があたりをつつんでいったが、それを破ったのはジョセフだった。
「なあ、子猫ちゃん。ここは色んなおっかない奴がいて危ないんだ。とりあえず安全そうな場所まで避難しよう。」
「え、でも……」
「なーに大丈夫だって、君を守るぐらいどうってことねーよ。」
「う、うん……」
「よし、決まりだな。さてさてどこへと行きますか……」
そう言うとジョセフは、荷物から地図を取り出して鼻歌交じりに場所を確認し始めた。
その後ろ姿を見ながら橙は、ある事を考えていた。
-
――――藍様は、首を持って来いと行った。
でも、今の自分にはそれが出来ないだろう。
……ならば、どうすればいい?
…………誰かに殺させて、持って行けばいいんじゃあないのか?
「あ、あの!!」
「ん?何だい、子猫ちゃん。」
「で、出来る限り……人のいそうな所に、行ってくれませんか……?あの、探してる、人がいて……」
「OK分かったぜ子猫ちゃん。そうと決まればここに近い所というと……うん、北の『人間の里』や『コロッセオ』があるE−4の地点に行こうぜ。」
「はい……」
「んじゃ、よろしくな子猫ちゃん……そう言えば君、名前なんてーの?」
「……橙、です。」
「OK、んじゃこれからよろしくな橙!!」
-
波紋戦士は黒猫を従え、歩きだした。
だが、彼はまだ知らない。
従えている黒猫は、強制されているとは言えこの殺し合いに乗っている事を。
そして今向かおうとしているその先には、数多くの魍魎達が牙を研いでいる事を。
……そして、橙の二つ名は、『凶兆の黒猫』であると言う事を。
-
【E-5平原/黎明】
【橙@東方妖々夢】
[状態]:恐慌状態(少し持ち直した)、膝擦過傷(傷はふさがっています。)、背中に踏まれた跡(痛みは殆どないです。)
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:紫様以外の皆を殺す??
1:ジョセフを人が多く集まりそうな所に誘導する。
2:藍様の所に首を持っていきたい、だけど……
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
八雲藍に絶対的な恐怖を覚えています。
第一回放送時に香霖堂で八雲藍と待ち合わせをしています。
ジョセフの波紋を魔法か妖術か何かと思っています。
【ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】
[状態]:健康
[装備]:金属バット@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:橙の探している人を探すためにE−4へ向かおう……あ、誰か聞いてねーや。
[備考]
参戦時期はカーズをヴェルガノ火山の火口にたたき落とした直後です。
名簿を確認していません。
<金属バット@現実>
ジョセフ・ジョースターに支給。
太くて長くて堅い、高校球児御用達のアイテム。
丈夫な金属で出来ており、思いっきり殴りつければ骨の一本や日本は簡単にへし折れる。
グリップは妙に手になじむ。
-
投下終了です。
-
投下乙です!
ジョセフは何だかんだでやっぱりいいヤツなんだよな…w
とはいえ、橙は逆らえぬ恐怖で殺人強要されてる時点で危険人物であることに変わりはないんだよなぁ
しかも現状のE-4がDIO滞在中どころかカーズ、星、おくうが接近する可能性大という危険地帯フラグでヤバいw
まぁ、なんだ、ジョセフがんばれ(震え声)
-
おっと 頭の中で勝手に三部ジョセフを想像してたが二部ジョセフだったか
-
投下乙です。
ジョセフのおかけで橙も少し落ち着いたけどよりによってE-4に行くのか…
それと某動画サイトでこのSSと同じようなタイトルのMADを見たような見てないような
-
投下乙
E-4にはほら…ブチャラティとかいるから(震え声)
-
>>94
どうしてこうもみんな震え声なのかw
-
べ、別の国では黒猫は繁栄をもたらすものとして言い伝えられてるから…
ジョセフも生き残って不動産王になるフラグだよ(白目)
-
>>96
に、日本の他には、
イ、イギリスとかな……
ほほら、ブラフォードも黒猫に助けられたし……(ビブラート)
-
魔境竹林と死のE-4。どちらがより危険地帯だろうか
-
それは、書き手の皆さんが必死に好き放題殺って、
全部終わった後にわかるんじゃあないかな……w
-
密集度では魔境竹林のが上なんだけど
今のE-4がヤバいのって、強マーダーが複数集結しそうなことなんだよね…w
-
森近霖之助
予約します。
-
森近霖之助
投下します。
-
その部屋は一言で言えば「漫画家の作業部屋」だった。
整理された机の小物入れには執筆の為のペンやインクが置かれ、棚には画材が幾つも置かれている。
びっしりと置かれたノートは恐らく『ネタ帳』のようなものだろうか。
机の前に置かれた椅子に座っているのは銀色の髪が特徴的な半妖の青年。
窓から外を眺めながら、ただ無言に静かに物思いに耽っている。
「………。」
動かない古道具屋、森近霖之助。
半人半妖のハーフであり、古道具屋「香霖堂」を営む店主だ。
といっても、どちらかといえば「商売人」というよりもある種の「蒐集者」と称する方が近い人物だが。
そんな彼は、この場における自らの行動方針を決め倦ねていた。
―――あの人間達は、僕らに「殺し合いをしろ」と。
―――あの人間達は、あれ程までの人数を巻き込む程の力がある。
それは当然理解している。あの山の神様…秋穣子、と言ったか。
彼女の死を目の当たりにした。見せしめ、というべきか…殺し合いに逆らったものの末路をまざまざと見せつけられた。
正直に白状しよう。あの時の僕は、ほんの少しだけ「恐怖」していた。
自分達の命が手中に握り締められているということをはっきり思い知らされたのだから。
同時に、こんなことに巻き込まれた自分の不幸を大いに呪っていた。
「僕の役割は、『やられ役』ってところかな」
窓際で頬杖をつきながら、自嘲気味に呟く。
最初に断っておくと、僕は荒事は苦手だ。蒐集の為に危険な場所までちょっとした散歩に行くことはある。
自分が危険に近付くことなんて精々それくらいだ。
幻想郷の妖怪達が起こすような喧騒は苦手だし、戦闘能力があるワケでもない。
評価出来る点と言えば、妖怪の血が混ざってることで「人間よりちょっぴりしぶといこと」くらいだ。
精々その程度。はっきり言って勝ち残れる気なんて無い。
この惨劇において、殺人者と運悪く出会ってあっさり殺される『やられ役』くらいの役割でしかないだろう。
-
「…やれやれ」
盛大に溜め息をつきながら霖之助はぼやく。
柄にも無くネガティブになってしまっているのが自分でも解る。
そりゃあ、そうだ。何の脈絡も無く殺し合いなんてことに巻き込まれてしまったのだから。
幻想郷とは「理解できないこと」に満ち溢れているとは解っているが、此処まで来ると理不尽な程だ。
その上、あの主催者たちに立ち向かうことも絶望的と見える。
曰く「下手に逆らえば頭部を爆破する」と。…何だか笑えてくる。やっぱり、圧倒的なまでに理不尽だ。
僕の知識を持ってしても、あの二人に対抗出来るかどうかは怪しいだろう。
こうやって一人打開策を考えようとしても一向に浮かばない。
諦観というものを嫌になってくる程に堪能している所だ。
あの主催者には逆らえないとは思うし、かといって殺し合いに乗った所で勝ち残れる気もしない。
将棋で言う所の詰み、外来品のチェスで言う所のチェックメイト。そう表現するに相応しいかもしれない
…そう言えば、支給品や名簿をまだ確認していない。
机の上に放置していたデイパックをおもむろに開き、まずは支給品をを取り出す。
閉じられた紙の中から道具が飛び出すと言うのは流石に驚いたが、マジックアイテムの一種なのだろうか?
ともかく、僕は自らの支給品を確認してみることにした。
「…『スタンドDISC』?」
その手に持った円盤をまじまじと眺めながら彼は呟く。
「道具の名称と用途が解る能力」により、手に取った円盤の名前は理解することが出来た。
用途は…頭に挿入して使用する?どうゆうことなのか?
これが頭に挿入することが出来る、というのがいまいちピンとこない。
それに…何だろうか。この円盤からは言い寄れぬ「不安感」のようなものが感じられる。
蒐集者の心持ち故に好奇心で使ってみたい気持ちもあるのだが、それ以上に僕の中の警戒心がこれを拒絶する。
…得体の知れない物には触らぬが吉だな。一先ず僕はそれをデイパックにしまうことにした。
さて、もう一つの支給品を確認しよう。次は―――
「……。」
賽子。賭け事に使うような六面体の賽子が3つセット。
…だからどうした。こんなものを殺し合いでどう使えと。用途を調べてみても、何の変哲も無いただの賽子でしかない。
結論を述べれば、僕の支給品に「武器」は一つも入ってなかったのだ。ますます気合いが抜けてくる。
-
呆れた気分になりながらも、とりあえず名簿も確認してみることにした。
ざっと見た所、どうやら90名もの人物がこの殺し合いに巻き込まれているらしい。
記載されている名前を見る限りでは参加者に幻想郷の住民が何人もいることが解る。
紅魔館の主。白玉楼の姫君。スキマ妖怪。永遠亭の医者―――
幻想郷においても別格レベルの実力者達の名が幾つも見受けられた。
いよいよあの主催者達の格が凄まじく見えてきた。彼らは幻想郷において名だたる猛者ですら手中に収めてしまう程の実力なのか?
同時に、そんな中何故自分のような非戦闘者まで混じっているのかが疑問だった。
この場においては支給品や制限があるらしいが、それを込みにしても戦闘経験皆無の自分に勝てる気はしない。
相変わらず諦めのような感情を抱いている中で、彼は「よく見知った名前」を発見した。
『博麗霊夢』
『霧雨魔理沙』
「………。」
…あの二人まで、この場に巻き込まれているのか。
霊夢。しょっちゅう僕の店に訪れる博麗の巫女。
いつも用も無く店に入り込んでは勝手に商品を持っていったり、勝手にお茶を淹れてたり。
横柄ではある物の、時に世話になることもあり関わりの深い相手であることは確かだ。
魔理沙。僕の昔馴染み、かつての修業先の娘さんだ。
霊夢と同じようにしょっちゅう店に顔を出す。冷やかしにくることも多々あるが、個人的な付き合いもかなり多い。
ある意味、僕にとっての妹分のような奴かもしれない。
はぁ、と溜め息を吐きながら顔に軽く手を当てる。
あの二人が殺し合いに乗ることはないと思う。そこそこ付き合いを続けてきて、そうゆう性分だってことを理解している。
だからこそ危なっかしいし、僕は怖いと思っている。
魔理沙と霊夢はこの殺し合いを止める為に無茶をしそうな気がしてならないのだ。
彼女達の名を確認した途端、急に心配が胸の内から込み上げてきた。
僕はその場で暫し考え込む。――どうせ普通に戦った所で自分生き残れないだろうな、と。
支給品には武器さえ入っていない。勝てる訳があるか、と主催者に問い詰めたいくらいだ。
かといって主催者に反抗することも出来る気はしない。…僕の力などたかが知れている。
だからといって、何もかも諦めるのは少し馬鹿らしくなってきた。
あの二人の名を確認してから、いてもたってもいられなくなってきたのだ。
-
「…どうせ、こんな所でぼんやりとしているくらいなら…な」
せめて、あの二人を捜そう。魔理沙、霊夢のことが心配で仕方がない。
自分に出来ることなんてちっぽけなものかもしれないが、それでも何もしないまま死ぬのは御免だ。
故に僕は「少しだけ」主催者に抵抗してみることにした。やれるだけのことはやってみよう、と。
柄にも無く、そんな気持ちになってきたのだ。
誰が信用出来て、誰が信用出来ないかなんてのは解らない。だが一つだけ確かなこともある。
あの二人なら、確実に信用出来ると言うことだ。
椅子から立ち上がり、霖之助は歩き出し部屋を後にする。
彼は何の力も持たない古道具屋の店主。
それでも、この殺し合いの場で行動することを決めた。
自分が生き残れるとは思えない。だけど、この場には霊夢と魔理沙も巻き込まれている。
そうなると、彼とて黙ってはいられない。少しはこの場で抵抗してみる気になったのだ。
自分なりに――――やれることをやってみるとしよう。
森近霖之助の『バトル・ロワイアル』が、幕を開けた。
-
◆◆◆◆◆◆
―――スタンドDISCを使わなかったのは、彼にとって『正解』だったと言える。
そのDISCに封じられているのは『最弱』であり『最悪』の能力。
使用されなかったとはいえ、DISCが今も尚彼のデイパックに保管されていることも確かである。
果たしてこの力は、そのまま彼のデイパックの中に『封じられる』ことになるのか。
何らかの拍子で使用してしまい、図らずも災厄を呼び寄せてしまうのか。
あるいは、他の参加者に奪われその力を利用されてしまうのか。
今はまだ誰も知らない。
それは邪悪の化身でさえ「手に余る」と称したスタンド能力。
そう、そのスタンドの名は――――
【E-4 人間の里(岸辺露伴の家)/深夜】
【森近霖之助@東方香霖堂】
[状態]:健康、不安
[装備]:なし
[道具]:スタンドDISC「サバイバー」@ジョジョ第6部、賽子×3@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:自分が生き残れるとは思えないが、それでもやれることはやってみる。
1:まずは人里を探索。出来れば自衛の為の武器が欲しい。
2:魔理沙、霊夢を捜す。
3:殺人をするつもりは無い。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
<スタンドDISC「サバイバー」>
森近霖之助に支給。
かつてDIOがプッチ神父に渡したスタンド。
対象の脳内の電気信号に影響を与えることで闘争本能を極限まで引き出し凶暴化させる。
能力の影響下に置かれた者達は闘争心の赴くままに殺し合いを始める。
また凶暴化した者達は相手の「最も強い部分」が輝いて見え、ダメージを負った部分が消し炭のように黒く淀んで見えるようになる。
敵味方問わず乱闘を引き起こす能力を持つこのスタンドをDIOは「最も弱いが、手に余る」と評価している。
このスタンドに課せられた制限は現時点では不明。
<賽子×3>
森近霖之助に支給。
卓上遊戯や賭博などに用いられる道具。
何の変哲も無い六面体の賽子3つセットである。
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短めですが投下終了です
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします
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投下乙です このアンニュイな感じ 霖之助さんっぽくってイイネ
サバイバーといえば某所じゃ仗助の死因みたいなもんだし不安だ…
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どうゆうこと→どういうこと ではないでしょうか?
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>用途は…頭に挿入して使用する?どうゆうことなのか?
>これが頭に挿入することが出来る、というのがいまいちピンとこない。
確か霖之助が分かるのは「用途」で、「使用法」は分からないはずでは……
これ「用途」と「使用法」のどっちなんでしょう?
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>>111
指摘ありがとうございます。
確かにこの部分は矛盾となってしまったので、以下のように変更します
↓
用途を調べてみた所、このDISCとやらは「スタンド能力を封じ込める道具」と。
…スタンド能力とは一体何なのか?同封されていた説明書によれば、このDISCは「頭に挿入して使用する」らしいが…
そのスタンドとやらが何なのか解らないし、そもそもこれが頭に挿入することが出来るというのがいまいちピンと来ない。
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>>109
承太郎を相手取るよりも厄介な葡萄酒色のスタープラチナとケンカする羽目になっちゃったからなぁ
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死のE-4包囲網がネタで片付けられるレベルじゃなくなってきた件
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下手すれば戦場のど真ん中でサバイバーで大乱闘な事態になりかねん件
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>>113
ぶどう酒色のスタプラ?
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>>116
某ラノベに登場する葡萄酒(ヴィーノ)がスタプラのDISC手に入れちゃったからさあ大変
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現時点で登場してるスタンドの支給品って
ヨーヨーマッ
ストレイ・キャット
サーフィス
メタリカ
アヌビス神
ハーヴェスト
サバイバーかな
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葡萄色のDISCを鑑定したらスタプラだったって?
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そういやハミパってスタンドDISCとして支給できんの?
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できるんじゃね。ジョセフは二部だし
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ルール上出来ますね>ハミパ支給
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>>118
意外と近接パワータイプのスタンドはあまり支給されないね
まあ、持ち主が出てるから支給品にできないって事情もあるんだろうけどw
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>>122
返答どうもっす
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何とか間に合ったので投下します。
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――君たちの健闘を祈る」
凄惨なゲームの主催の一人、荒木飛呂彦の一声を最後にゲームの参加者は次々と意識を失う。
参加者の一人、八意永琳はそれに抵抗すべく意識の維持に神経を集中させた。
とっさの判断が効したか、暗転しつつあった意識に僅かな明かりが差した。
だが気絶一歩手前の心身の虚脱が彼女を襲った。
そして回りの参加者達の姿が次々と消えるのをぼんやりとした視界で確認する。
彼女は抵抗を諦め意識を手放した。
気が付くと永琳は深夜の会場のA−5地点にいた。会場の端。
永琳は会場外の方向へ歩くと、見えない壁を確認した。
肉体の脱力感は僅かだが残っていた。
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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ガンマン風の男と緑髪の小柄な少女との交戦(?)から一時間以上は経った頃。
『シュトロハイム』は東に向かいながら他の参加者を探し続けていた。
今は魔法の森南部、果樹園の小屋の近くにいた。
鈍器で殴られた頭は少々痛むが、脳震盪はすでに治まっていた。
果樹園の小屋を調査すれば、そのまま人里を目指す予定だ。
無論、大敵である柱の男達への警戒と打倒は忘れていない。
しかし彼一人の力では現状『サンタナ』以外、倒せる手立てはほぼない。
だがそれよりも大きな懸念がシュトロハイムにはあった。
己と当の柱の男達、探し人の波紋戦士らやスピードワゴン以外の参加者は、柱の男について何も知らないのではないか?
彼の知る限り、奴らの情報自体伝承によるものが主で、下位種である吸血鬼でさえ世間では実質架空の存在扱いだった。
よって最悪、前述の参加者以外は何ら柱の男について何も知らない事もありえると。
ゲームに反抗する参加者がどれ程いるのか見当は付かないが、奴らによる一方的な殺戮が起こる前に情報を広める必要があったのだ。
「……まだ、誰も訪れてはいないか」
小屋の手前まで辿り着くとシュトロハイムはそう呟いた。
頭の出血はとうに治まっているが、血糊がまだ付いている。
また不用意に誤解を招くよりはと、血糊を拭う布を探そうと中に踏み込もうとする。
「貴方のその怪我、私が看て上げようかしら?」
「!?」
側面からの抑揚の無い若い女の声に、シュトロハイムはとっさに身構えそちらに向いた。
「お前、一体……?」
「私は八意永琳。貴方に危害を加えるつもりはないわ」
微笑を浮かべながら話しかけてきたのは、銀髪のやや長身のやや派手な看護服の様な物を着た若い女だった。
年齢は十代後半と言われれば納得できるし、年寄りですと言われても
思わず納得できそうな雰囲気の持ち主だった。殺気のようなものは感じられない。
しかし周囲への警戒はしていたのにも関わらず、いつの間にか現れた女に警戒を隠しきれない。
-
「俺の名はルドル・フォン・シュトロハイム。目的は何だ?」
「身内が三名参加させられて、心配で探しているのよ。貴方は……ゲームに乗ってはいないようだけど?」
彼女は瞑目しつつ首をかしげ困ったように言った。
切実とまでは言えないが、その言葉には強い意志がシュトロハイムには感じ取れた。
身のこなしからは戦力は読み取れないが、明確な存在感をその女は放っている。
少々ではあるが歴戦の軍人であるシュトロハイムが思わず圧されるほどに。
「俺も知り合いを探している。ゲームを打破するための同志もな」
「……小屋で少し話をいいかしら」
「…………解った」
会話のイニシアチブは向こうに握られるだろうが仕方が無い。
武器を隠し持っている様子もないし、ゲームに乗っていないのも恐らく本当だろう。
何より戦闘になれば非常に不利な状態で切り抜けなければならない。
経験からも来る勘がそう判断しろと彼に告げていた。
小屋に入り、情報交換と支給品確認の交渉が始まった五分後、
――仕合いが起きた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
自分の支給品を見せるのを渋るシュトロハイムに対し、永琳は賭けを提案した。
それは地面以外の小屋の内部を損傷させずに先に相手の身体を触れた方が、
相手の支給品の確認ができるというルールのゲームを。
シュトロハイムは当初拒否しようとした。
機械化した己の力ではさして力を入れずとも、人体などは損壊せしめる恐れがあることを理由に。
ところが永琳は構わないとばかり、シュトロハイムに迫った。
思わず防御行動を取らざるを得ないほどのプレッシャーと共に。
彼は射程距離に入るや全力で手刀を放った。
指の形を整えていない、威力もその分劣る、だが最大限の瞬発力で放った動作を。
しかし彼女は後方へ一歩下がるとそれを回避した。あらかじめ予知したが如く。
次仕掛けたのは永琳だった。思わぬ早さで接近し彼に放たれたのは不可視の力を纏った掌底。
機械化した彼の肉体をも弾く威力。それを今度はシュトロハイムが腕を交差し防御する。
しかも後方の壁を破壊しないようわざと身をひねらせ、横回転しながら地面を転がり威力を殺す。
それに永琳の眼が初めて揺れるも、接触すべくシュトロハイムへと迫る。
その行動は彼の計算の内だった。
-
彼の両腕は機械化されており、必要に応じて発射することが可能なのだ。
彼は彼女のダメージが軽微であるのを祈りつつ、すぐさま左腕を射出する。
だがその奥の手も彼女は読んでいたかのように、不可視の力で防御しようとする。
しかし少し遅れたのか、腕と『防壁』が一瞬だけ拮抗し火花のようなものを散らす。
不可視の壁が一瞬半透明の赤色に染まって消える。
シュトロハイムは即座に立ち上がり、永琳に接触を試みようと近づく。
だが視界に入った光景を見て、驚愕する。
永琳は笑みを浮かべながら持っていたのだ、シュトロハイムの左腕を。
こうしてシュトロハイムは賭けに負けたのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「貴方の探し人は四人……私のも四名か」
「……あんたは幻想郷の住民では無いのか?」
「正確には幻想郷の中の治外法権内の住民ね、私達は」
「ややこしい事情があるのだな」
二人の知り合いと言える参加者はそう多くは無かった。
永琳はメモを書きながらそれを一枚シュトロハイムに手渡す。
「友好関係とは言えないけれど、藤原妹紅って女も多分ゲームには乗っていないから、
もし遭えたなら、これを読ませて協力を求めれば良いわ」
「……大丈夫なのか?」」
「話してみれば解ると思うけど、彼女って輝夜に相当依存してる面があるから、嫌でも協力するわよ」
「……うむ」
シュトロハイムが言いよどむのは妹紅についてだけでなく、ウドンゲとてゐに付いての情報も
この状況下においてはあまり関わりたくない類いの性格的特徴を持っている内容だったからなのだが、
知ってか知らずか、永琳の様子は変わらない。
「……それでは俺からも、ジョジョやスピードワゴンに遭えたら言伝を頼む」
「ええ」
仕合の後の支給品確認と情報交換のあと二人は分かれて行動する事にした。
両者とも戦力的な面で未練はあったが、捜索と情報収集を優先する永琳の意見に
シュトロハイムが折れたのだ。
-
「電話を見つけたら私に連絡を頼むわ」
右手に持つ長方形の黒い物体――スマートフォンより前の携帯電話、
通称ガラケーを見せながら彼女は言う。
「解った。繰り返し聞いて悪いが薬の量と方針については……」
「訂正も変更も無いわ」
「そうか。また会おう」
「……ええ」
名残惜しそうにシュトロハイムは小屋を出た。
彼は空を見上げると空が僅かに明るくなっていた。
まだ放送は先だろう。
柱の男を初めとする脅威の警戒を緩めず彼は小屋を後にしていった。
ある疑問を頭にちらつかせながら……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……」
シュトロハイムが完全に去ったのを確認した後。
永琳は今後の計画を頭の中で整理した。
まず第一の目的は主である蓬莱山輝夜と、部下の優曇華院・鈴仙・イナバ。
そして一応部下の因幡てゐとの居場所の特定と身の安全の確保。
独り又は1グループでの捜索は心許なく、捜索に人手が必要と判断。
それが永琳がシュトロハイムと同行しなかった理由の一つ。
行き先を人里か永遠亭かを選択中に、魔法の森の近くで彼を見つけたのは僥倖だったと言えるかも知れない。
捜索依頼を受託させるには、相手によっては此方の方が立場が上であると認識させる必要があると永琳は考えた。
彼を尾行し、賭を持ち出す行為をしたのもそれが一環だ。
もっとも予想以上にシュトロハイムが強かったので少々神経を使ったのはやや誤算だったが。
第二の目的は――これはシュトロハイムには伝えなかったのだが。
荒木と太田を名乗る男達のゲームの開催する能力の――月人をも大きく上回る未知の力の奪取。
このゲームに参加させられる前の永琳達は、鈴仙……ウドンゲに対し輝夜の故郷の月の都から徴兵要請が突きつけられていた。
その上、輝夜と永琳は元々月の都から指名手配されている事もあり、いよいよ後が無い状況だった。
珍しくウドンゲが進んで覚悟を決めた事や、それに輝夜が心動かされた事もあり、
自らの秘術をもって月と自らの住処である永遠亭の繋がりを閉ざすことで、危機を回避しようとしたのだ。
だが秘術の完遂をする前に私はゲームに参加させられたのだ。
-
術が中断された以上、このままでは生きて帰還できたとしても、月の都の追求から逃れる事ができなくなってしまう。
優勝して力を得たとしても、誰か一名――たとえウドンゲやてゐが欠けた状態で戻っても意味が無い。
私でさえそういう気持ちが少々なりともあるのだから、輝夜は十分に持っているだろう。
ならば私達を感知されず拉致でき、そして恐らく容易く月の都から蓬莱の薬を持ち出せた、
主催の異能力を狙うしか閉塞しきった私達の環境の打開方法は見当たらない。
それに輝夜の心の奥底の望みである月の都の帰還も、あの異能力なら叶えられるかも知れない。
その為にはまず全参加者の生殺与奪の……頭部の爆破能力を排除する方法を探る必要がある。
主催に悟られず、あるいは手出しを出させる気が起こさせない方法で、頭部が無事な死体や――
――生存している参加者を利用しての実験等が必要になってくる。
藤原妹紅やシュトロハイム、まだ見ぬ幻想郷の住民達も、その行為が元で脱落するかも知れない。
それでも私は構わない。
最悪、生き残り力を得るのは輝夜達三名でいいのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シュトロハイムは目的地へ足を速めながら、蓬莱の薬を永琳に見せた時一瞬だけ浮かべた表情を思い出した。
やけに疲れた表情を。
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――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【C-5 魔法の森と迷いの竹林の境目/早朝】
【ルドル・フォン・シュトロハイム@第2部 戦闘潮流】
[状態]:頭部強打(治療済み)、永琳への畏怖(小)
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りである肉体
[道具]:蓬莱の薬、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ドイツ軍人の誇りにかけて主催者を打倒する。
1:ジョセフ・ジョースター、シーザー・A・ツェペリ、リサリサの捜索と合流
次に蓬莱山輝夜、鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡てゐ、藤原妹紅の捜索
その他主催に立ち向かう意思を持つ勇敢な参加者を集める。
2:殺し合いに乗っている者に一切の容赦はしない。特に柱の男及び吸血鬼は最優先で始末する。
3:八意永琳には一応協力する。連絡の為に電話を探す。
4:エシディシは死亡が確認されたはずだが…?
5:ガンマン風の男(ホル・ホース)と小娘(幽谷響子)を捜す。とはいえ優先順位は低い。
[備考]
※参戦時期はスイスでの赤石奪取後、山小屋でカーズに襲撃される直前です。
※ジョースターやツェペリの名を持つ者が複数名いることに気付いていますが、あまり気にしていないようです。
※輝夜、鈴仙、てゐ、妹紅についての情報と、弾幕についての知識をある程度得ました
※蓬莱の薬の器には永琳が引いた目盛りあり。
【B-5 果樹園の小屋/早朝】
【八意永琳@東方永夜抄】
[状態]:精神的疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品(ジョジョor東方・確認済み)、
携帯電話(通称ガラケー:現実)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:輝夜、鈴仙、一応自身とてゐの生還と主催の能力の奪取。
他参加者の生命やゲームの早期破壊は優先しない。
表面上は穏健な対主催を装う。
1:輝夜、鈴仙、てゐと一応ジョセフ、シーザー、リサリサ、スピードワゴンの捜索。
2:頭部が無事な死体、『実験』の為のモルモット候補を探す。
3:基本方針に支障が無い範囲でシュトロハイムに協力する。
4:情報収集、およびアイテム収集をする。
[備考]
※ 参戦時期は永夜異変中、自機組対面前です。
※行き先は後の書き手さんにお任せします。
※ランダム支給品はシュトロハイムに知らせていません
※ジョセフ・ジョースター、シーザー・A・ツェペリ、リサリサ、スピードワゴン、
柱の男達の情報を得ました。
※制限は掛けられていますが、その度合いは不明です。
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<蓬莱の薬>
ルドル・フォン・シュトロハイムに支給。
八意永琳が千年以上前に作った不老不死の薬。
瀕死の参加者に飲ませれば、蓬莱人への変化と引き替えに全快可能。
それに伴い制限下においての蓬莱人への特徴も得られる。
量は一回分だが、少々余るくらいの量はある(余りを服用しても効果なし)。
<携帯電話>
八意永琳に支給。
スマートフォンより旧式の携帯電話。通称ガラケー。
ネット機能付き。
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投下終了です。
ご意見や感想がありましたらどうぞお願いします。
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投下乙
そういえば、時間考えるとはたてのメールが届いてるはずなんですがそれは
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投下乙です
はたてのメールェ…
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投下乙です!
異変中のえーりんとなるとやっぱり純粋な対主催にはならないよなぁ…
ある意味唯一の首輪解析組的な存在とはいえ、平和には進まなそうか
指摘する点は他の方達と同じくはたてのメールの件ですね
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投下乙です
そうか首輪じゃなくて頭の中に爆弾があるからえーりんぐらいしか解除要因いないんだよな
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これのさりげない厄介な所って
「爆弾が埋め込まれてる」とかじゃなくて、「爆破させる能力」って所なんだよね…w
道具や機械的なものならば解除の余地はあるけど、能力となるとちと厄介
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>>139
そうそう、例えるなら吉良のバイツァ・ダストに近いよな
自分も投稿仕様と思っていた話で書き手枠に4部終了後の浩一君が
頭の爆発とバイツァ・ダストの共通点があると考察する描写をしてみたかったんだ
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皆様ご指摘ありがとうございます。
明日の朝に、はたてメールに触れた訂正文を投下します。
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投下乙です。永琳がまさかの一番やばい時期からの参戦とはw一波乱ありそうです。
では、自分も投下します。
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風が草木を揺らす音だけが、この世界に音というものが存在することを証明しているような、そんな静寂がこの平原にはあった。
エリア「A3」。そこは背の高い草と数本の木しか生えていない、何もない場所かに思われた。
しかし、その実この場には、三人の人妖が居た。三者三様、それぞれの思惑を抱えて……。
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__________________________________
大きな木の木陰に、月明かりに照らされた、背の高い金髪の男が居た。
男の名はロバート・E・O・スピードワゴン。
元々は、荒れた街に住むただのごろつきであったが、ジョナサン・ジョースターと出会い、彼の正真正銘の紳士さに感銘を受け、以後、彼の支援者となった男であった。
「ちくしょぉ……やはり何度考えても、さっぱりわからんぜ……この状況。たしか俺は、ジョースターさんやツェペリのおっさんと共に、ディオの潜むウインドナイツ・ロットを目指して旅をしていたはずだよなぁ?」
辺りを見渡してみるが、昼だったはずの時刻は、月明かりがぼんやり照らすだけの真夜中。
歩いていたはずの道は、建築物も人の気配も感じられない草むらに変わっていた。
「夢だと思いたかったが、やっぱりさっきの得体の知れねぇ東洋人たちが言っていたことは、本当なのか……」
荒木飛呂彦に太田順也、ただならぬ気配と凄みを持った、謎の東洋人。
スピードワゴンは先ほど、他にも大勢の人間がひしめく謎の空間で、彼らに拉致され、殺し合いをしろと命じられたことを覚えていた。
そしてその大勢の人間の中に自らの知己、ジョナサン・ジョースターやウィル・A・ツェペリがいたことも、抗議の声を上げた不思議な格好をした少女が、一瞬で殺されたことも……。
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スピードワゴンはひとまず自らの置かれた状況を認め、デイパックを開けて、現状把握をすることを始めた。世界中を旅して磨かれたスピードワゴンの生存本能が、今この場でそうすることの重要性を訴えていたからだ。
「おっ、これが参加者名簿か……やはりジョースターさんやツェペリのおっさんも参加させられている……あん?他にもジョースター姓やツェペリ姓の参加者がいるぞ、二人の血縁の話は聞いたことねーがどういうことだ?おまけにディオの野郎の名前まであるじゃねーか!他のブランドー姓のやつまでいやがる!一体どうなっちまってんだここはよぉ!」
髪の毛をガリガリと掻きむしり、スピードワゴンは困惑を顕にした。
名簿の中の気になる点は二点。
1つ目は数多くの同姓の人物の存在。単なる偶然とは思えない、奇妙な感覚があった。
2つ目はディオの存在。ジョナサン・ジョースターの父親の愛を血染めの裏切りで返し、今なお吸血鬼としてのうのうと生き延びている生まれついての悪たる男。
元々スピードワゴンはディオを倒すためのジョナサンの旅に、義憤に駆られて同行していた。そしてそのディオが、この殺し合いの場にいる。
おそらく奴は嬉々としてこの殺し合いに乗るだろう。冷酷残忍なディオのこと、今この時も、おのが野望のために、大勢の人間を不幸の渦に巻き込んでいても何らおかしくはない。
スピードワゴンはしばらく頭を抱えて考えたが、結論が出るのは早く、そしてその答えはシンプルだった。
「うだうだ考えるのは俺の性じゃねぇ、俺はジョースターさんと共にディオを倒すと決めた、それはここがどんな場所だろうと何があろうと関係ないぜ!他のことは後から考える」
こうと決めたら絶対に中途半端はしない、たとえそれがどんな苦境の最中でも。スピードワゴンはそういう人物であった。
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「そうと決まれば、まずはなんとか生き延びてジョースターさんやツェペリのおっさんと合流しねーとな、武器はねーのか武器は」
デイパックを漁ると、いくつもの折りたたまれた紙が出てきた。試しに紙を開いてみると……。
「うおっ!物が飛び出してきやがった。成る程、どういう原理か知らんが、支給品とやらはこの紙に収納されているらしいな。便利っちゃあ便利だが、まったく一体どうなってやがるんだ」
何度目になるかわからない愚痴を吐きながら、次々と紙を開き、飛び出してきた物の確認をする。
地図、コンパス、照明器具、筆記用具、水と食料、時計、そして……。
「最後の一枚、これが奴らの言っていたランダムアイテムが入った紙だな……」
この中身次第で自分の生死は決まる。そう言っても過言ではないのがこのランダムアイテムだ。紙を開く手にも自然と力が入る。
深呼吸をし、意を決して開いてみると、中からはガソリンの入った容器と、塔のような形をしたオブジェが出てきた。
「あー?何だこいつぁ……こんなもんでどうやって身を守れってんだ!」
スピードワゴンがそう叫んだと同時に、
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
突如として謎の奇声が聞こえてきた。
(こっ……これは!ディオがあげていた奇声と同様のもの!まさか近くに吸血鬼がいやがったのか!?)
急いで声と気配を殺して身を隠し、辺りの様子をうかがう。
すると北方から、奇怪な青白いオーラを纏った少女が歩いてきた。そして一瞬不思議そうに小首を傾げ、通り過ぎていったのであった。
「なっ……何だったんだ今のやつは……吸血鬼のようには見えなかったが、一体……」
スピードワゴンが混乱していると、少しして、またもや北方から気配が近づいてきた。
女性のようだ。
かなり早足で、遠目にも焦っているのが分かる。
そして今まさに、謎の少女が歩いていった方向へと進もうとしているではないか!
危険だ、止めなければ。そう思い、気づけば、スピードワゴンは女性の前に飛び出していた。
この危険な状況で、彼女が安全な人物かも分からないのにだ。
だが、スピードワゴンには彼女を信じられる奇妙な確信があった。彼女からなにか、ジョナサンと似たような“におい”を感じたからだ。その悲壮な表情から、信念に生きる、あまちゃんのにおいを。
「ちょっと待ちな!そこのあんた!」
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背の高い草が群生する草原に、グラデーションのかかった長い髪の女性が、一枚の紙を片手に佇んでいた。
彼女の名は聖白蓮。幻想郷唯一の寺である命蓮寺で、住職を務めている人間だ。
無論ただの人間ではなく、法術と魔術を極めた大魔法使いである。
「やはり夢ではなかった……急がなければ……急がなければ!」
そんな彼女は現在、混乱し、焦っていた。
――星……あの子は普段、役割のこともあって冷静で落ち着いているけれど、本当は純粋で感情的な子。
それにあの子は、過去のことで未だに私に対して負い目を感じている。そのことで無茶をしていなければいいが……。
――ナズーリン……そう、どんな時でも冷静で、計算高い彼女が星のそばにいてくれたら、きっと大丈夫。
早めに星と合流できることを願う。
――ぬえ……あの子は特に心配だ。いつも私の為を思って空回りばかりしている。
余計なことはしなくていいから、ただ無事で居てほしい……。
――マミゾウ……彼女はきっと、彼女なりのやり方でこの争いを止めようとしているはず。
願うならばその道に、災いがないことを祈る。
――響子……あの子は力がないのに声は大きい。殺し合いに巻き込まれる前に探してあげなければ……。
――小傘……あの子は弟子ではないけれど、私のことを慕ってくれる健気な子だ。そして誰より殺し合いに向いていない。
どうにかして保護しなくては……。
――そして、霊夢と神子さん……先ほどまで、共に面霊気を退治するために協力していた異教の二人。
彼女たちとは、信じるものは違うけれど、人を思いやる気持ちはきっと同じはず。この馬鹿げた殺し合いを止めるため、ここでも共に力を合わせたい。
幾つもの考えが浮かんでは消える。
そう、ここは二人の異能の狂人によって創りだされた殺し合いの場。
そして目が覚めて真っ先に確認した名簿、その中にあった、自分のよく知る者達の名前。彼女たちまでもがこの殺し合いに参加させられている。その数々の事実達が、白蓮の冷静を奪ったのである。
やっと辿りつけたはずの終の楽園。その幸せが、そしてその中に生きる命が、理由も意味もわからない殺し合いによって脅かされようとしている。
こんなことはあってはならない、止めなければ、急がなければ。そう思えば思うほど白蓮の頭は混乱し、判断力は鈍った。
そしてそんな時、白蓮の混乱にさらなる追い打ちをかけるように、一つの声が耳に飛び込んできた。
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
よく見ると少し遠くに、青白い炎のような光と、月の光を反射する桃色の髪が見えた。
「あれは……面霊気!?」
面霊気――秦こころ。感情を操る能力を持ち、存在の不安定さから度々人里で異変を起こしていた妖怪。
白蓮はこの場に飛ばされる直前、暴走した彼女を退治しようとしていた。
そんな彼女がここにいる。名簿から見落としていたようだ。
もし、こんな場所で彼女の能力が暴走すれば、何が起こるかわからない。
危険だ、そう思った刹那、混乱は頂点に達し、白蓮は歩き出していた。
面霊気が消えた、深い暗闇の方へと。
-
___________________________________
白蓮は歩いた。彼女は混乱していながらも、走ってなにか見落としてはならないと、焦る心を律して歩いていた。
だが内心は、今にも走り出したいほど焦燥が渦巻いていた。
殺し合い、弟子、面霊気……考えれば考える程思考がまとまらない。
そうして考えていると突然、背の高い木の陰から、一人の男が飛び出してきた。
「ちょっと待ちな!そこのあんた!」
油断した!落ち着いていれば、事前に察知できたはずなのに!と、白蓮が後悔していると、男は聞いてもいないのに急に名乗りだした。
「誰だ?って顔をしてんで自己紹介させてもらうがよ、俺はおせっかい焼きのスピードワゴン!あんたが思いつめた顔をしていて危なっかしいのと、この先に危険な奴がいるかもしれんから飛び出させてもらった。言っとくが殺し合いには乗ってないぜ」
男――スピードワゴンにそう言われ、白蓮はようやく自分が思った以上に思いつめていたことを自覚した。
「俺は少し前に、あんたのような表情をした人間を見たことがある。その人はどうしようもないやつをなんとかするため、相打ち覚悟でそいつを倒そうとした。彼は運良く生き延びたが、あんたもそうなるとは限らねぇ。おせっかいなのは分かっているし、俺じゃ力不足かもしれねぇが、話を聞かせてもらえねぇか?」
その言葉を聞き、白蓮はようやく落ち着き、まずは冷静になろうと思った。そしてこの殺し合いの中で初めて出会ったのがこの人でよかったとも、思った。
スピードワゴンも内心若干不安だったが、落ち着きを取り戻した白蓮の表情を見て、やはり自分の勘に間違いはなかったと確信し、ニヤリと笑った。
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軽く自己紹介を済ませ、白蓮とスピードワゴンはひとまずお互いの現状を把握するため、背の高い木の陰に身を潜め、そしてお互いの知る情報の交換を始めた。
「成る程、白蓮さんはこの場に飛ばされる前はその幻想郷とかいう摩訶不思議な場所で住職をしていたと、そして弟子たちもこの殺し合いに巻き込まれているってわけか、だから焦ってたんだな。」
「はい……お恥ずかしい限りで、まだまだ修行不足のようです……。そういえばスピードワゴンさんもやはりお知り合いがここに?」
「ああ、三人ばかし参加している。さっき例え話で話した人、ジョナサン・ジョースターとその人の師匠ウィル・A・ツェペリ。そして倒さなきゃならん化物も紛れ込んでいやがる。」
「化物?」
「このDIOって名前のやつだ。」
スピードワゴンは名簿の一部を指さした。
「こいつは人間じゃねぇ、育ての親をその手で殺し、おまけにある道具の力で超常的な能力まで手に入れていやがった生まれついての悪だ。俺はこいつを倒すための旅の最中にここに飛ばされた。白蓮さんもこいつにだけは気をつけたほうがいいぜ」
「そう、ですか……分かりました、心得ておきます。それと、要注意人物といえば私の方からも」
そう言って白蓮は、名簿の中の『秦こころ』という名前を指さした。
「おそらく先ほどの奇声の主です。私は彼女を退治しようとしたその時ここに飛ばされました。そしてここでもその姿を見かけ、危険の有無を確かめるため追いかけていた途中でスピードワゴンさんと出会ったのです。」
「そうだったのか、俺もそいつの奇声がディオの野郎の奇声に似ていたから警戒していたが、危険なやつなのか?」
「ええ、彼女は面霊気という妖怪で、感情を操る程度の能力を持っています。もしこの場でその能力が暴走すれば、どんなことが起こるかわかりません。」
その言葉を聞き、スピードワゴン少し思案すると、こう切り出した。
「そうか、じゃあひとまず、そいつを追いかけてみるか。ここじゃだだっ広いだけで、なんにも目印らしいもんがなくてどこかも分からねぇし、動くなら目標としてちょうどいい。それにその間にお互いの知り合いが見つかるかもしれねぇしな」
「そうですね、ここでぼやぼやしているうちにも、どこかで争いが起きているかもしれません。この争いを止めるためにも、まずは動かなければ」
そう言ったところで、スピードワゴンは思い出したかのように白蓮に尋ねた。
「そういえば、白蓮さん、あんた見たところ只の人間だし、争いを止めるっつても丸腰だが大丈夫なのか?まあ俺も人のことは言えんが」
「大丈夫です。わたしこう見えても結構強いんですよ。それに運良く支給品の中に私の持ち物が入っていました。」
白蓮は微笑みながら、懐から小さな両刃の槍のようなものを取り出した。
「そいつはよかった。俺なんかこの塔のようなオブジェと、ガソリンだけだぜ……」
塔のようなオブジェをいじりながらぼやいていると、白蓮が強い眼差しでオブジェを見つめていた。
「もしかしてこのオブジェ、白蓮さんの知ってるものだったのか?」
白蓮は一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐに元の表情に戻り説明を始めた。
「はい、それは毘沙門天様の宝塔と言い、強力な力を秘めた宝具です。そして……私の大切な弟子、寅丸星の持ち物。それがあなたに支給されたのは、なにか運命めいたものを感じます。どうか大切に持っていていただければ幸いです。」
「ああ、承知したぜ。それで、この宝塔とやらは、一体どんな力を秘めているんだ?」
「誰でも強力な光線を放つことができます。ただもちろん普通の人が使えば、それ相応の消耗を強いられるので、使う時はここぞという時に」
「……ただのオブジェだと思ってたが、そんな物騒なシロモノだったとは……」
たじろぐスピードワゴンを尻目に、目に見えて張り切った白蓮は出発進行の声を上げた。
「さあ、確認すべきことは終えました。然らば急いで面霊気を追いましょう!いざ、南無三!」
「お、おう!不肖このスピードワゴン、あんたに付いて行かせてもらうぜ!」
そう言って二人は立ち上がった。共に信じるもののため、その瞳に決意の炎を宿して。
ちなみに張り切り過ぎた白蓮が、身体強化の魔法で超スピードで走りだし、スピードワゴンが悲鳴を上げたのは別のお話。
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【A-3/草原/深夜】
【ロバート・E・O・スピードワゴン@第一部ファントムブラッド】
[状態]:健康
[装備]:宝塔@東方星蓮船
[道具]:基本支給品、ガソリン(18L/18L)@現実
[思考・状況]
基本行動方針:ジョースタさんやツェペリのおっさん共にディオを倒す。
1:吸血鬼?かも知れない秦こころを警戒。白蓮と共に追いかける。
2:白蓮を信用。とりあえず行動を共にし、彼女の仲間を探すのを手伝う。
3:ジョースタさんやツェペリのおっさんと合流する。
[備考]
※参戦時期は切り裂きジャック撃破後、ウインドナイツ・ロットを目指している途中です。
※同姓の人物の存在に気づいていますが、今は深く考えないと割りきっています。
【聖白蓮@東方星蓮船】
[状態]:健康、不安
[装備]:独鈷(12/12)@東方 その他(東方心綺楼)
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1個@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:とりあえず秦こころを追いかけて、危険の有無を確認する。
2:殺し合いには乗らない。乗っているものがいたら力づくでも止め、乗っていない弱者なら種族を問わず保護する。
3:弟子たちを探す。無事かどうか不安。
4:スピードワゴンを信用。行動を共にし、彼の仲間を探すのを手伝う。
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼秦こころストーリー「ファタモルガーナの悲劇」で、霊夢と神子と協力して秦こころを退治しようとした辺りです。
※魔神経巻がないので技の詠唱に時間がかかります。
簡単な魔法(一時的な加速、独鈷から光の剣を出す等)程度ならすぐに出来ます。その他能力制限は、後の書き手さんにお任せします。
※DIOを危険人物と認識しました。
※白蓮とスピードワゴンは、お互いの知っている人物や場所の情報を交換しました。
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「モンキーポゼッションなんだよジョジョォォォォーーーーーーッ!!」
また変な言葉が出た。この仮面をつけていると時々変な言葉が出る。面白い。
「これが楽しい時の表情!」
そう言って彼女、秦こころは笑いの仮面をかぶった。
さっきから何度も変な言葉が出てはこんなことを繰り返している。
何度も繰り返しているうちに分かったことだが、この石仮面とやらは、どうやらただの面ではない。
優越感、全能感、残酷と、挙げればきりがないほど色々な感情を含んでいる。
おそらくこの仮面は自分と同じく、長い年月を経てきたシロモノなのだろう。
そうでなければこの感情の多さの説明がつかない。そしてきっと、なにか超常的な秘密を持っている。内包している感情が、物騒だったり常軌を逸していたりするからだ。普通じゃない。
「この仮面って面白い♪」
そう言いながら、彼女はまた少しずつ歩を進める。
自我が薄く表情のない彼女は、人間や妖怪の持つ表情を知ろうとしていた。
そしてこの得体のしれない奇妙な面も、なにか表情を知るために役立つのではないかと考えたのだ。
故に彼女は、仮面を研究しながらふらふらと、目的も意味もなく南に進んでいたのであった。
その最中に、人が居たことも知らずに。
その先に、何が待ち受けているのかも知らずに。
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【A-4/草原/深夜】
【秦こころ@東方 その他(東方心綺楼)】
[状態]健康
[装備]様々な仮面、石仮面@ジョジョ第一部
[道具]基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1:とりあえずふらつく(南に向かっている)
2:殺し合いに乗っている人間がいたら戦う?
3:私が最強だ!
4:石仮面って面白い♪いろいろ調べてみようっと
[備考]
※少なくとも東方心綺楼本編終了後から
※周りに浮かんでいる仮面は支給品ではありません
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○支給品説明
『宝塔』
ロバート・E・O・スピードワゴンに支給。
本来は毘沙門天の弟子、寅丸星の持ち物。
使用者に消耗を強いる代わりに、誰でもありとあらゆる物を焼きつくす光を放つことが出来る。別名レーザー宝塔。
『ガソリン』
ロバート・E・O・スピードワゴンに支給。
石油を原料として精製され、主に燃料として使われる。
発火点が低く、静電気程度の熱でも発火するので取り扱いには要注意。
18Lサイズのポリタンクごと支給された。
余談だが、スピードワゴンは一部の後、ガソリンの原料である石油を掘り当てたことにより成功を収め、その財産でスピードワゴン財団を設立した。
そしてなんと一巡後(スティール・ボール・ラン)の世界でも石油会社を興している。
『独鈷』
聖白蓮に支給。
密教などで用いられる法具の一種で、槍状の刃が両端に付いた物。
白蓮はこれを武器として、様々な形で(槍投げ、投擲、光の剣、等)使用している。
一ダース支給された。
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以上で投下終了です。
ロワ初投稿なので至らぬ点が在ると思います。
なので不備があればどんどんご指摘ご指導ください。
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投下乙です
アマちゃんの白蓮とおせっかい焼きのスピードワゴン!ウッチャンに対するナッチャンのようによくなじむのォー
そしてこころの嬢ちゃん!その仮面から離れろォ!
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石仮面が宿す感情は何だ
こころちゃん、これから毎回ネタゼリフを吐くのかwww
かわいいwww
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投下乙です!
相変わらず心優しい白蓮の今後は気になる、SPWとのコンビもいい感じ
しかしこころちゃんノリノリでかわいいなww
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こころちゃん死ぬな
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言い切りじゃなくて命令
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そろそろ竹林かE-4地帯が予約されそうな気がする
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ゲリラ投下で衝撃的な展開を書くのもおもしろいかも・・・
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竹林は一応マーダーや危険人物はボス、ポルポル君くらいなんだよね
竹林周辺には何人かいるけど
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竹林のマーダーは実質ディアボロだけだしな。うどんげやアリスみたいな不安要素はあるが上手くいけば大人数対主催グループ結成しそうだ
アニロワ2ndのビシャス並の大虐殺が起きなければの話だが
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八雲藍、チルノ
予約します。
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あっ(察し)
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あっ(察し)
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用意をするんだ
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遅くなってすみません。
『夜は未だ明けず』の追加と状態表の修正版を投下します。
>>130の
「電話を見つけたら私に連絡を頼むわ」
右手に持つ長方形の黒い物体――スマートフォンより前の携帯電話、
通称ガラケーを見せながら彼女は言う。
と
「訂正も変更も無いわ」
の間に以下の文を挿入します。
-
「電報……電子メールの送受信ができる機器もだな」
シュトロハイムの補足に永琳は黙って頷いた。
永琳の支給品の携帯電話は旧式ながら、ネット通信機能が付いていた。
よって数時間前に送信された、姫海棠はたての『花果子念報メールマガジン』を受信しており
その内容は既に永琳は確認し、先ほどシュトロハイムにも見せた所だ。
「こちらから姫海棠はたてへはメッセージを送らないのか?」
「関わったら、私達の事を記事にされるのもありえるし、
もっと情報が得られるまで、様子を見るだけに留めるわ」
「ふむ……解った」
銃撃戦を行った男達の体格や、長身の女――空条徐倫が動かしたと思われる人型の異形、
「ニュースを送信する姫海棠はたて存在など、
メールを読んだ結果、永琳らにとって有益な情報は得られはしたが、
知り合いの居場所や安否といった主に必要としている情報はなかったし、
シュトロハイムも連絡してみたいという気が起きるほどの内容ではなかった。
「もし姫海棠はたて本人を発見できたなら、じっくり話はしてみたいわね」
「尋問か」
シュトロハイムの突っ込みに永琳は口元に笑みを浮かべ無言で答える。
ゲーム進行を加速しかねない内容の記事を送信していたし、
その上にこれから嘘や誤解した情報を流さないとも限らない。
いつでも止めさせられる状態にするに越したことはない。
永琳はそうはたてに対する方針を決めると、次にシュトロハイムの支給品の鑑定結果を言う事にした。
「……そうそう、貴方に支給された蓬莱の薬。あれ本物だったわ」
蓬莱の薬の制作者で自分が人間ではない事は、既にシュトロハイムに伝えている。
先ほどの仕合で見せた強さと戦いぶりからして、超常の存在で、敵ではないとシュトロハイムは判断していた。
「何だとっ!?それでは!!」
「ええ、服用した者は蓬莱人に……この舞台の外に出るか、もしくは服用すれば不老不死を得られるわ」
「!!」
-
シュトロハイムは破顔した。
彼が所属するナチスは柱の男の研究と打倒を目的の一つとしていたが、
同時に柱の男が持つ不死性のメカニズムの解明も目的なのだ。
彼の主、アドルフ・ヒトラー総統は不老不死を求めていたのだから。
本当なら、ゲームを打破した後に蓬莱の薬を持ち帰えられれば総統閣下の望みの一つを叶えられる!
だが永琳は喜びに水を差すように蓬莱の薬について告げる。
「まあでも服用した者が定命なら、多分しばらく経ってから深く後悔する事になるえわね
その辺、よく考えて扱うよう警告するわ」
「ぐ……むぅ〜」
蓬莱の薬の制作者、八意永琳の言葉を受けシュトロハイムは渋面になる。
事実、過去に服用した普通の人間だった藤原妹紅は、服用したことで長き地獄を味わっている。
シュトロハイムにも不死のリスクは大体想像できる。
だが彼にとっては命令や義務感もあるが、総統閣下の存命と健勝が大事なのだ。
永琳への得体の知れ無さや、忠誠からの行為の果てへの不安が心の中で渦巻き
うめき声となって彼の口から出る。
「それとその薬、一人で飲むにしては少し多いのよ」
「……ン?」
フォローするような感じの説明に彼はうめくのを止める。
「適量分だけ飲めば少し余るわね。余った分は不老不死の効果はないけれど
例えば研究するサンプルには使えるかも知れないわね」
「…………。そ、そうか」
彼が所属するナチスは爆死寸前だった彼をサイボーグとして復活させられるだけの、
彼が世界一と豪語出来るだけの、当時規格外ともいえる科学力を持っている。
蓬莱の薬の余剰分だけで持ち帰ることができれば、複製は無理でも延命薬の開発は
可能ではないかとそう思い至った。
「丁度適量服用しやすいように器に線を引いておいたわ。
どう使うかは好きにすればいいと思うわ。貴方の支給品だし」
そう言う永琳だが、材料の関係上等の問題複製できるとは思っていない。
だが彼を改造したナチスとやらの技術力なら、別の新しいものを作り出せるんじゃないかと漠然とだが思った。
「……」
シュトロハイムは小さくため息をつくと大事に蓬莱の薬をしまった。
顔を上げると小屋の出口が目に入った。
そろそろ移動の頃合いか……
「八意永琳、他に言う事はないか?」
「今はないわ」
「ウム。じゃあ俺はそろそろ行かせてもらう。繰り返し聞いて悪いが、薬の量と方針については……」
-
>>132訂正
【C-5 魔法の森と迷いの竹林の境目/早朝】
【ルドル・フォン・シュトロハイム@第2部 戦闘潮流】
[状態]:頭部強打(治療済み)、永琳への畏怖(小)
[装備]:ゲルマン民族の最高知能の結晶であり誇りである肉体
[道具]:蓬莱の薬、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ドイツ軍人の誇りにかけて主催者を打倒する。
1:ジョセフ・ジョースター、シーザー・A・ツェペリ、リサリサの捜索と合流
次に蓬莱山輝夜、鈴仙・優曇華院・イナバ、因幡てゐ、藤原妹紅の捜索
その他主催に立ち向かう意思を持つ勇敢な参加者を集める。
2:殺し合いに乗っている者に一切の容赦はしない。特に柱の男及び吸血鬼は最優先で始末する。
3: 蓬莱の薬は祖国へ持って帰る。出来ればサンプルだけでも。
4:八意永琳には一応協力する。連絡の為に電話を初めとする通信機器を探す。
5:エシディシは死亡が確認されたはずだが…?
6:ガンマン風の男(ホル・ホース)と小娘(幽谷響子)、姫海棠はたてという女を捜す。
とはいえ優先順位は低い。
[備考]
※参戦時期はスイスでの赤石奪取後、山小屋でカーズに襲撃される直前です。
※ジョースターやツェペリの名を持つ者が複数名いることに気付いていますが、あまり気にしていないようです。
※輝夜、鈴仙、てゐ、妹紅についての情報と、弾幕についての知識をある程度得ました
※蓬莱の薬の器には永琳が引いた目盛りあり。
【B-5 果樹園の小屋/早朝】
【八意永琳@東方永夜抄】
[状態]:精神的疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:ランダム支給品(ジョジョor東方・確認済み)、
携帯電話(通称ガラケー:現実)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:輝夜、鈴仙、一応自身とてゐの生還と、主催の能力の奪取。
他参加者の生命やゲームの早期破壊は優先しない。
表面上は穏健な対主催を装う。
1:輝夜、鈴仙、てゐと一応ジョセフ、シーザー、リサリサ、スピードワゴンの捜索。
2:頭部が無事な死体、『実験』の為のモルモット候補を探す。
3:基本方針に支障が無い範囲でシュトロハイムに協力する。
4:柱の男や未知の異能力を警戒
5:情報収集、およびアイテム収集をする。
6:携帯電話のメール通信はどうするか……。
[備考]
※ 参戦時期は永夜異変中、自機組対面前です。
※行き先は後の書き手さんにお任せします。
※ランダム支給品はシュトロハイムに知らせていません
※ジョセフ・ジョースター、シーザー・A・ツェペリ、リサリサ、スピードワゴン、柱の男達の情報を得ました。
※制限は掛けられていますが、その度合いは不明です。
-
>>133訂正
<蓬莱の薬@東方儚月抄>
ルドル・フォン・シュトロハイムに支給。
八意永琳が千年以上前に作った不老不死の薬。
瀕死の参加者に飲ませれば、蓬莱人への変化と引き替えに全快可能。
それに伴い制限下においての蓬莱人への特徴も得られる。
量は一回分だが、少々余るくらいの量はある(余りを服用しても効果なし)。
適量服用しやすいように八意永琳が線を引いてます。
<携帯電話@現実>
八意永琳に支給。
スマートフォンより旧式の携帯電話。通称ガラケー。
ネット機能付きだが、最大解像度は低く、あまり鮮明な画像は表示できない。
あとエラーが結構出ます。
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投下終了です。
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>>173
細かいことですが、作中で捜索対象が4人になっているのに
状態表だとどちらも3人になっています。
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はたて下手すると実験体にされそうwww
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>>174
重ね重ねすみません。
>>171のシュトロハイムの状態表の方針1のリサリサの後に、スピードワゴンを追加、永琳の状態表の方針1のスピードワゴンの後に、藤原妹紅を追加します。
-
八坂神奈子を予約します。
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チルノ、八雲藍
投下します。
-
『最強』の妖精ことチルノは、その小さな羽根を羽ばたかせながら低空を飛び草原を移動していた。
とはいえそれは飛行というよりも精々ちょっとした浮遊程度の高度であったが。
苦い表情を浮かべる彼女に行く宛は特に無い。
とりあえず頼れる相手も特にいない。
信頼出来そうな相手も今のところあんまりいない。
ただ、何となくあの場から離れたくなっただけ。
チルノが移動を始めた理由なんてのはそんなものである。
彼女はヤケクソに草原を突き進む。
『念のため』に、その懐にとある『支給品』を仕込ませながら。
…因みに、ささやかに竹林は避けている。
彼女とて、出来ればあの『迷いの竹林』は通りたくはない。
理由は単純、あそこに入って迷子にならなかったことが無いからである。
故に彼女は竹林への移動は視野に入れなかったのだ。
それ以前に、今の彼女は竹林のことなんかよりもずっと心に引っ掛かっていることがあった。
「…ホント…何なのよ。あのホウキ頭…っ」
歯軋りをしながら彼女はその小さな口から言葉を漏らす。
自信過剰で常にガッツのあるチルノ。だが今の彼女は少しばかり自信を失いかけてる。
それもそのはずだ。チルノが最初に出会った参加者、それはポルナレフというスタンド使い。
彼から感じ取ったのは未知の闘気、そして殺気。
幻想郷では認識したことの無いような、次元の違う『強さ』。
(…あたい、もしかして…アイツにビビってんの?)
心中を悔しさに滲ませながら、そんな推測が心の中に浮かぶ。
その予想はまさに『正解』だった。彼女はあの時、無意識ながらも彼を恐れていた。
まざまざと見せつけられた『強さ』を前に一歩も動くことが出来ないでいた。
『仕返し』も『反撃』も出来ずに、ただ唖然と突っ立ってることしか出来なかった。
―――タイガーバームガーデンからの移動の際も、気がつけばあのホウキ頭とは別の方向へと進んでいた。
あいつとまた会うことをいつの間にか胸の内で拒んでいたのだ
-
「むぅぅぅ……」
あれから暫しの時間が経ってから、負けず嫌いな彼女の胸に遅れて来るように悔しさが込み上げてくる。
あたいは「最強」を名乗ってたはずだったのに、こんなカッコわるいことになってしまった。
最強のはずなのに、(たぶん)人間である変なホウキ頭の技にビビってしまった。
あいつと戦っても負けるってなんとなく気付いていた。
こんなことで何が最強だ。びくびくしてる子供と同じじゃないか。
…自分のことだけど…本当に、情けない!
ホントにあのホウキ頭をぶっ倒してやりたくてしょうがない!
…だけど、あいつは強いし…何だか色んな意味で『あぶなそう』だし…、…正直勝てるかどうかも…
「………あぁーー!!ホント何なのよ、あのホウキ頭ーーーっ!!」
屈辱と苛立ちを一気に口から吐き出した。
勿論その矛先は(此処にはいないけど)この『もやもやする気持ち』の原因であるあのホウキ頭に向けてるつもり。
自分への苛立ちもほんのちょっぴり織り交ぜて。
そのままぷんすかと怒りながら、彼女は不機嫌に竹林近辺の草原を進んでいく…
-
◆◆◆◆◆◆
参加者は九十名。
名簿を確認するだけでも数多の人間、妖怪、神々が巻き込まれていることが解る。
幻想郷屈指の実力者達の名も見受けられることは先に認識済みだ。
彼女らを籠の中に捕らえ、不壊の鎖にて縛り付ける力を持つ主催者の二人はまさしく『幻想をも凌駕する領域に座する存在』か。
奴らに叛逆した所で勝算など皆無だろう。
この頭脳を振り絞り続けても無意味だ。打開策の一つも浮かばない。いや、あるはずがない。
故に私は紫様ただ一人を生き残らせる為に闘う。
私は去っていった橙を見送った後、ふらりと草原を歩き始める。
怯えていたとはいえ、橙は我が愛しき部下。あの娘ならきっと紫様の為に励んでくれるだろう。
尤も、再び見えた時に何ら務めを果たせていなければ『その程度の存在』だったというコトになるが。
所詮は『一介の化け猫』に過ぎぬか、『有能な我が式神』か。放送まで、ゆるりと成果を待つとしよう。
さて―――私も、務めを果たさなくてはならない。
全ては我が主の為に。
「皆殺し、それだけだ」
邪悪な笑みを口元に浮かべ、『八雲藍』はそう呟く。
今の彼女に躊躇や後悔などない。あるのはただ、主への忠誠。そして忠義を貫き通す覚悟。
その為には何処までも冷酷に、何処までも狡猾になろう。
暫く草原を進み続けた先、彼女は一つの『人影』を目にする。
影は前方からこちらの方へ向かって来ている。
シルエットのようだったその姿が次第にこの眼に見えてくる。
あれは…妖精か。
-
「妖精、か」
「…んん?あんた、確か…あのスキマ妖怪のしたっぱの…キツネ!」
相対するのは妖獣・八雲藍と妖精・チルノ。
およそ10m前後の距離で互いに立ち止まる。
ゆったりと構えながら淡々と呟く藍に対し、チルノは虚勢を張るように堂々と言葉を発する。
チルノを見る藍の表情は氷のように冷たい。冷気を操るチルノでも、その『冷ややかさ』は何となく理解出来た。
(うぅ…こいつ、あたいを馬鹿にしてるの?)
眉間に僅かに皺を寄せながらチルノは内心思う。
何だかあいつの表情や視線が妙に冷ややかというか、ひんやりとするというか…
まるでこちらを見下してくるような感じだ。ちょっと「いやな感じ」だ。
あの顔、もしやあたいのことを妖精だからって馬鹿にしてるのか?
ただでさえ苛立ちを募らせている中、思い込みで藍への不快指数がふつふつと上がり始めている。
だが、彼女は身構えない。警戒をすることも無い。それは何故か。
『幻想郷を守ってるらしいスキマ妖怪のしもべなんだから、きっと殺し合いに乗ってないはず』
そんな理由からだ。彼女は的の外れた確信を胸に抱いていた。
「…や、やいキツネ!そんな目であたいを見るんじゃない!」
チルノはビシッと藍を指差しながら精一杯の見栄を張りつつ言う。
とりあえず、あんな目でじっと見られるのは何となくいやだ。
こっちにもプライドだってある。何だかバカにされているような気持ちになる。
だが、藍は無言を貫いたままだ。チルノの言葉に耳を傾けていないかのように。
流石のチルノも、これにはちょっぴり「カチン」と来た。
あのホウキ頭から適当にあしらわれたばっかなのに、こいつまであたいのこと無視するのか!
「というかあたいの話を聞きなさいよ、このバカー!いいからそんな顔やめて…」
「…騒がしい小娘だな」
-
その時だった。
藍がすっとデイパックから『武器』を取り出し、出現させたのだ。
鋭利な鉄の刃を持つ長身の武器、いわゆる『薙刀』を。
軽く振り回すような動作を見せ、藍はその白い右手に薙刀の長柄を握り締める。
月光の下に晒されて鈍く輝く刃を目の当たりにし、チルノはどきりと不安感を覚える。
直後にチルノは気付く。藍の身から発せられているのは明らかな『殺気』だと。
あのホウキ頭と同じような、不気味で得体の知れない『闘気』だと。
頭の弱い彼女だが、あのことは異常なまでに鮮烈に記憶していた。
「その下らない活力だけは見習うべき所か」
そんなチルノの様子にも気にかけること無く、彼女を皮肉るように冷淡に言葉を発する。
酷く冷徹で、そして残忍な妖獣の瞳をチルノに向ける。
その手に薙刀を、敵を殺す為の武器を握り締めながら。
「―――っ、」
一瞬、チルノの身体が震えた。
チルノは目の前の藍に対し恐怖を覚えていたのだ。
一応は見知っている相手であるはずの藍を前に、ほんのちょっぴりでも『震え』ていた。
動揺するのも無理は無い。幻想郷の住民から、あんな殺気を向けられたことなど無いのだから。
それでもチルノは、少し前に『ホウキ頭に負けた屈辱』を思い出し負けじと藍を睨む。
そして―――殺意の籠った鋭い瞳を向けながら、藍が薙刀を構えた。
「その心臓、貰い受ける」
藍がはっきりと口を開き、殺意を剥き出しにした。
その口元に不敵な笑みを浮かべながら。
-
チルノの腕はその刹那に動き出した。
すぐにでも先手を取らなければいけないと直感した。
目の前の狐をどうにかして撃退しなければ、自分は『殺される』ということを理解したッ!
「だりゃあぁぁぁぁーーーーっ!!」
薙刀を構える藍目掛けチルノは破れ被れに氷弾を放ち続ける。
一個一個の威力は大したものではない。だが、恐るべきはその無数の弾幕。
これほどまでの数となれば、回避や対処は難しいだろう。足止めには十分過ぎる。
少なくとも、チルノはそう思っていた。
しかし、そう甘くはなかった。
放たれた氷弾は、風を斬る音と共に振るわれた薙刀によって容易く弾かれていく。
ある弾丸は明後日の方向へ飛び、また別の弾丸は刃によって両断される。
防御と同時に藍は僅かな動きによって簡単に弾幕を回避“グレイズ”していく。
その表情は。余裕と言わんばかりの涼しげな顔だ。
氷弾を簡単に対処され、驚くような顔を浮かべながらもチルノは攻撃をやめない。
藍は弾幕を弾いて避けながらも、こちらへと着実に近づいてきているのだから!
「まだまだ、まだまだ…っ!」
ギリリと歯軋りをしながらチルノは両手を正面へと突き出す。
その掌に冷気を集わせながら、藍へと照準を定めた。
「氷符―――『アイシクルマシンガン』!!」
弾幕を解除した直後、鋭利な刃の如し氷柱が次々と機関銃のように放たれる。
氷符「アイシクルマシンガン」。霊力の消耗が少なく、彼女が好んで用いることも多いスペルだ。
流れ矢のような速度で氷柱は藍に迫る。スペルならば、あいつもどうにか出来るはず。
だが、そんな期待さえも目の前の『圧倒的な力』に容易く打ち砕かれる。
ブゥン―――と、霊力を帯びた薙刀が藍の両手によって車輪のように回転する。
妖獣の霊力によって強化され、振り回される薙刀が放たれた氷柱を―――いとも簡単に弾く。
次々と弾く。弾く。弾く。弾く――――!
-
「…脆いな」
冷ややかにそう言ってのける藍に消耗は全く見られない。
全ての氷柱を完璧に弾き、再び薙刀を構える。
その身には一片の傷もなく、息を乱す様子も無く、霊力も充実し切っている。
僅かに氷弾が服に掠れた痕が見えるだけだ。十全の状態のまま、彼女は堂々たる姿で立っていた。
それでもチルノは、必死に弾幕を放つ。
その表情に浮かぶのは焦り。苛立ち。そして恐怖。
氷弾を放つ。氷柱を発射する。とにかく藍を近付かせないように、ありったけの冷気を放つ。
しかし藍にそんな攻撃は通用しない。舞うような回避に薙刀による防御を続け、こちらへと迫っているのだ。
幾ら渾身の霊力を込めようと、幾ら攻撃に冷気を収束させようと、藍は全く動じずに対処をしてくる――!
(―――何で?何で当たらないのよっ―――!?)
攻撃を悉くいなしてくる藍を前に、チルノの心から冷静さは失われていた。
『圧倒的な力の差』という事実が彼女の胸にのしかかる。
最強を自称する彼女にだって、それくらいは理解出来た。
だけど、それを認めたくなかった。自分が「最強」だということを信じたかった。
普段の弾幕ごっこならばまだ遊びの決闘に過ぎない。「また次の機会がある」と思ってくよくよせずにいられるだろう。
しかし、今回は命を燃やして闘う本気の殺し合い。参加者達が全力を懸けて死合う本当の決闘。
みんなが、本気で闘う殺し合い。
最初のホウキ頭との出会いで、真っ先にチルノは力の差を理解してしまった。
凄まじいプレッシャーと百戦錬磨の力量を、即座に感じ取ってしまった。
そして現在。今度は幻想郷の住民である八雲藍を前に、彼女は恐怖していた。
くそ。どうして、こんなことに。何であたい、こんなに「弱い」んだ。
悔しさを滲ませて攻撃を放ちながらも、藍と渡り合うことなど出来ない。
確かにチルノは「最強の妖精」と言っても過言ではない力はあった。
だが、対する八雲藍は「最強の妖獣」。強大な妖力を持つ九尾の狐。
どちらも同じ「最強」。だが、チルノはあくまで人間でも憂さ晴らしに使える程弱いと称される妖精の中での「最強」。
古来より数々の伝説を担い、存在そのものが最上位に位置する強大な妖怪である『九尾の狐』には―――遠く及ばない。
-
そして、気がつけば藍が正面まで迫っていた。
無論、その身に傷一つ付けていない状態で。
「やば、ッ――――」
藍が薙刀を強く握り締め、振り下ろさんとする。
チルノは咄嗟に冷気を集わせて正面に氷の盾を造り出す。
その直後―――霊力を纏わせた薙刀が、力の限り振り下ろされた。
鋭利な刃と妖獣の力によって、氷の盾がいとも簡単に砕け散る。
咄嗟に後方へ下がったチルノだったが、その平坦な胸は薙刀の刃によって斬り裂かれる。
ほんの少しでも動きが遅れていれば彼女の胴体は真っ二つに引き裂かれ、心の臓を抉られていただろう。
ギリギリで回避をしたが、それでも藍の攻撃は鋭く、素早かった。チルノの胸部には確かな『裂傷』が生まれている。
そのまま切り裂かれた衝撃によって、チルノは勢いよく転倒した。
「うあっ…!?」
雑草の上を這い蹲るように、チルノが浮遊状態から地面に叩き落ちる。
胸に焼けるような痛みが走る。今までに体感したことの無いように、ズキズキと熱い。
チルノは痛みと恐怖を堪えながら、すぐに立ち上がろうとしたが―――
「所詮は有象無象の妖精、この程度だろうな」
藍がチルノの首を左手で乱暴に掴み、そのまま宙にぶら下げるように片手で持ち上げた。
抵抗する間もなかった。首を締め上げられ、苦痛の表情のままどうにか両手で必死に藍の腕を離そうとする。
しかしそれも無意味な行動だ。藍の腕は全く離れないし、チルノの抵抗も意に介さない。
冷徹な眼差しでチルノを見上げながら、藍はその右手の薙刀を強く握り締める。
-
―――やばい、やばい、やばい、やばい、やばい!
チルノの頭の中で何度も警鐘が鳴り響く。
間近に迫る『死』を前に、彼女は必死に抵抗を続ける。
だが、圧倒的な力量差の前には無意味な行為に過ぎない。
「これで、お別れだ」
藍の口から発せられたのは、紛れも無い死刑宣告。
右手に握られ、構えられた薙刀。そして、放たれる突きの一撃。
チルノの腹部を、銀色の刃が容赦なく抉る――――
―――はずだった。
八雲藍の身体が、突如として吹き飛ばされたのだ。
まるで何かの力と反発し、弾かれたかのように。
何の脈絡も無く起こった突然の出来事により、彼女は驚愕を浮かべ地面を転がる。
「…はぁーっ……!」
刃によって腸を抉り取られるはずだったチルノは、地面に尻餅を付いたまま荒い息を吐いていた。
その腹部に一切の刺傷は負っていない。
代わりに、その手元に持っていたのは二枚の護符。
チルノが懐に忍ばせていた支給品「霊撃札」。使用することで霊力の衝撃波を発生させ、周囲の物を吹き飛ばす使い捨ての道具。
彼女は3枚支給された内の1枚を咄嗟に使用し、藍を吹き飛ばしたのだ。
胸の傷を抑えながら、チルノは何とか立ち上がり再びその翼で浮遊を始める。
そして彼女は、一目散にその場から離れていく―――
-
「……。」
うつ伏せに転倒していた藍は近くに転がっていた薙刀を拾い上げ、ゆっくりと立ち上がる。
その身に外傷は無い。転倒時の痛みも微々たるものであり、行動に支障を起こすこともないだろう。
霊撃札はあくまで「周囲のものを吹き飛ばす」効果を持つだけで、直接的な攻撃能力はない。
故に藍の身体は無傷。ふー、と白い吐息を吐きながら藍は逃げていくチルノを見据える。
チルノとの距離を見る限り、奴はどうやら逃げ足は速いようだ。
やれやれ…小賢しい鼠だ。そう思いながら、彼女は薙刀を握り締めて遠ざかっていくチルノの姿をキッと睨む。
奴の逃げていく方向の先に見えるのは―――『迷いの竹林』。
成る程、あの入り組んだ地で私を撒こうと言うワケか。
だが、何もかもが甘い。最強の妖獣たる九尾の狐であるこの私を前に、そのような取るに足らぬ「逃げ」の手段を使うか。
全く持って…嗤えてくる。
「逃げ往く鼠を追うのも…面倒なものだな」
藍はその場から駆け出し、逃げていくチルノを追跡する。
相手は妖精風情。狩るのは容易い。こちらの勝算は確実だろう。
私は白面金毛九尾の狐にして、大結界の守護者である八雲紫様の式神。
あのような小物を相手に、遅れを取るつもりは無い。
「―――逃げられると思うなよ、小娘」
刃の如く鋭い殺意を、細く白い右手に握り締めて。
彼女は一直線に迷いの竹林へと向かう。
取り逃がすものか。精々逃げ回るといい、氷の妖精。
さあ―――『最強の妖獣』たる私が、殲滅してくれようぞ。
-
◆◆◆◆◆◆
あいつは、ホントに強い。
ちょっと顔をどっかで見たことがある、くらいの仲で全然しらないヤツだったけど…
はっきり言って、勝ち目があるかわからないレベルだ。
だからあたいはこうやって入りたくもなかった竹林にまで逃げてきているんだ。
迷路みたいなここなら、あいつから逃げ切れると思った。
だけど…何だかそれは、悔しい。
あのホウキ頭の時と同じ。最強を名乗っておいて、結局は逃げ回ってるだけなんて。
何も出来ずにおびえながらこうやってのこのこ逃げ帰ってるだけなんて。
こんなの絶対おかしい。
あたいは結局、大した力も持ってないようなザコキャラなんだろうか。
正直にいうと、だんだん自信が無くなってきていることも何となく理解出来た。
そんなあたいの思いが、ちょっとずつ苛立ちへと変わっていることにも気付き出す。
「…ぶっ倒す」
竹林の中へと突入した直後に、チルノの口から言葉が漏れる。
それは自然に、いつの間にか発せられていた一言だった。
ホントに悔しい。このまま逃げ帰ってるだけなのは、なんだかムカつく。
あいつは強い。めちゃくちゃ強い。…でも。
だからって、あたいが弱いってことにはならない!あたいだって強い!最強よ!
あのホウキ頭の時みたいな「くつじょく」なんてもうゴメンよ!
この竹林でなら、あいつをどうにかできる!…きっと!
懐を確かめ、霊撃札の枚数も確認。…残り2枚。大切に使わないと。
それに、もう一つ支給品もある。頑張れば使えなくもないかもしれない。
あたいの脳ミソは少なめでからっきし。…それは一応、なんとなーく自覚はしている。
だけどそんな頭を振り絞って、必死で考えなくっちゃいけない。
あいつに勝つ方法を。あいつにギャフンと言わせられる、すっごい攻撃を!
「クール」になるのよ、あたい!
キラリと光るひらめきで、あのキツネにクールなあたいの力を見せつけてやるんだ!
「あたいが、あいつを…ぶっ倒してやるんだから!」
竹林の中を走りながら、チルノはそう呟く。
最強はどっちだ。最強は誰だ。答えるまでもない。あたいだ。きっと。
ホントの『最強』って奴を、見せてやるわ!
-
【D-6 迷いの竹林(北西の入口)/黎明】
【チルノ@東方紅魔郷】
[状態]:防御力低下、胸部に裂傷、疲労(小)、霊力消費(中)、体力消耗(中)、恐怖(小)、苛立ち
[装備]:霊撃札×2@東方心綺楼
[道具]:ランダム支給品(現実)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:竹林を逃げ回りつつ、追いかけてくるあのキツネ(藍)をぶっ倒す方法を考える。
2:自信を失いかけてる自分に苛立ち。悔しい。この気持ちを晴らしたい。
3:『スタンド』ってなんだろう?
[備考]
※参戦時期は未定です。
※霊撃札の使用によって「防御力低下」が発生しています。一定時間外傷に対して脆くなります。
【八雲藍@東方妖々夢】
[状態]:健康、霊力消費(微小)
[装備]:秦こころの薙刀@東方心綺楼
[道具]:ランダム支給品(0~1)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:紫様を生き残らせる
1:マサクゥル! 皆殺しだ!
2:チルノを仕留める。今後の戦闘に備えて最小限の消耗に留めたいが、場合によっては全力の行使も止さない。
3:橙への褒美の用意する
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます
第一回放送時に香霖堂で橙と待ち合わせをしています
<霊撃札×3>
チルノに支給。本ロワでは三枚セット。
東方心綺楼で登場したアイテムカード。
使用することで霊力の衝撃波を発生させ、強制的に周囲の物を吹き飛ばすことが出来る使い捨ての護符。
しかし使用する度に使用者の防御力が低下し、重傷を負い易くなるというリスクが発生する。
防御力低下はおよそ30時間程度で解除される。本ロワ内ではマイナス補正の重複は発生しない模様。
ただし、防御力低下中に再び霊撃札を使用するとマイナス補正の効果時間が延長される。
<秦こころの薙刀>
八雲藍に支給。
面霊気である秦こころが戦闘時に使用する青白い薙刀。
持ち運んでいるような描写が無く、霊力で生み出されたものかもしれない。
ラストワード「仮面喪心舞 暗黒能楽」でもこの薙刀をトドメに使っている。
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投下終了です。
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします。
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乙です。
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>>190
すいません、「霊撃札」の解説にて誤字を発見しました
×防御力低下はおよそ30時間程度で解除される。
◯防御力低下はおよそ30分程度で解除される。
長すぎるってもんじゃなかった(震え声)
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投下乙です
最強とさいきょー、果たして最後に笑うのはどちらか……
そして竹林がますます危険地帯に…
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>>177の予約、投下開始します。
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「『見知らぬ場所』だ。急に呼び出されたから驚いたが……」
A−2エリアとA−1エリアの中間地点。
藍色のセミロングヘアの女性が辺りをゆっくり見回し、佇んでいた。
まず目を引くのが、背中に取り付けられた大きな注連縄の輪。
他にも頭、腰、腕など、至る所に注連縄が巻かれている。胸には古代風の装飾の鏡が輝いている。
その奇抜とも表現できる威容は、20歳前後の若い女性にしか見えない彼女が、
『人ならざる存在』であることを表現する為に自ら考案したものなのだろうか。
「私が噂に聞いていた幻想郷とは、随分と話が違うな……」
八坂神奈子が呼び出されたのは、信仰心を求めて幻想郷にその居を移してから間もない頃のこと。
幻想郷の神社、博麗神社に使いとして派遣した早苗の帰りを待っていた時のことだ。
『この土地の信仰を頂く』と聞いたら、博麗神社の巫女が私の元に殴りこんでくるかも知れない。
そう予想して、幻想郷で広く行われていると聞いた
『スペルカードルール』による戦いの準備に余念がなかった神奈子。
彼女が『来るべき戦い』に備えて『スペルカード』の開発を行っていた時、突如ゲームの開始が告げられた。
(聞いた話と随分違うが……これが幻想郷の『定め』か。
……この国にまだ人身御供の習わしが残る土地があったとはな)
神奈子の脳裏に蘇るのは過去の記憶。
神々が今よりずっと栄えていた頃の記憶。
その頃、人の命は今よりもずっと軽かった。
神の気紛れとされていた天災を鎮めるため、生きた人間を火で焼いたり、
水に沈めたり、土に埋めたりといったことが当然のこととして行われていた。
……神のために生命を捧ぐ儀式は確かに存在していたのだ。
(こうして我々を知らぬ間に連れ出すとは……。
まさか『神隠し』に遭わされる側に回るとは思わなかったが……
それだけの事を為すあの男たちが、幻想郷の最高神なのだろうな……
我々は、その神々への生贄として捧げられた、ということか)
そしてしばらく彼女は目を瞑って思考し……。
「行くか」
と、短くつぶやいたのだった。
-
神奈子がデイパックの中から取り出し、ガチャリと右肩に担ぐのは、オンバシラ、ではなく、
いくつもの砲身が束ねられた機関銃……いわゆるガトリング銃だ。
外界のある国で歩兵用の機関銃として試作されたが、
反動が強すぎて人間には取り扱い不可能とされ、お蔵入りになっていたシロモノだ。
口紅のような弾丸がずらりと並んだ給弾ベルトを肩に掛け、神奈子は歩き出した。
「これが幻想郷のしきたりだというなら……私もそれに従わねばな」
未だ幻想の残る地、幻想郷。
それを維持するためのシステムが、こうした『生贄の儀式』であるのだろう。
『郷に入れば郷に従え』。新参の神奈子も、それに従うだけのこと。
『つい最近』までは日本のそこかしこで行われていたことだ。そこまで抵抗は感じない。
ただ一つ、気がかりがあるとすれば……名簿にも記されていた、『家族』の名だ。
(東風谷早苗。
風祝の家系に生まれたというだけでこの様な仕打ちに遭うのは、
この時代に生まれた彼女にとっては少々過酷だろう。
せめて、私の手で苦しませずに葬ってやらなければ。
そして、洩矢諏訪子。
思えば長い付き合いだったが……
『あの時』の決着をつけるべきが来たのだろうな)
この殺し合いが幻想郷に生きる上で避けられぬ物だというなら……
せめて家族同然に生きてきた二人だけはこの手で逝かせてやりたい、そう思う神奈子だった。
時間軸のズレによって、幻想郷のシステムを誤解してしまった戦神、八坂神奈子。
彼女に果たして幻想郷の『正しい姿』を知る機会は与えられるのか?
それとも……
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【A−2エリア北端・草原/深夜】
【八坂神奈子@東方風神録】
[状態]:健康
[装備]:ガトリング銃@現実(残弾100%)
[道具]:基本支給品、不明支給品1個(ジョジョ・東方・確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:主催者への捧げ物として恥じない戦いをする。
1:洩矢諏訪子を探し、『あの時』の決着をつける。
2:東風谷早苗を探し、苦しませずに殺す。
[備考]
※参戦時期は東方風神録、オープニング後です。
※参戦時期の関係で、幻想郷の面々の殆どと面識がありません。
東風谷早苗、洩矢諏訪子の他、彼女が知っている可能性があるのは、妖怪の山の住人、結界の管理者です。
(該当者は、秋静葉、秋穣子、河城にとり、射命丸文、姫海棠はたて、博麗霊夢、八雲紫、八雲藍、橙)
支給品紹介
<ガトリング銃@現実>
6本の砲身を束ねることで銃身にかかる負荷を軽減し、連射力を向上した機関銃。
このガトリング銃は、アメリカ軍の試作品・XM214を元にしたものである。
但し現実に開発されていたXM214と違い、駆動用のバッテリーは必要としない。
だがそれでもなお、重量過多、反動が大きすぎるなどの理由で、人間が取り回すのは困難な代物である。
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投下を終了します。
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投下乙です
神奈子様それ幻想郷のシステムやない!イレギュラーの事態や!
非常にナチュラルに勘違いマーダー化(そんで強力な武器持ち)してしまった神奈子様はどうなるのか…
思えば同じエリアに花京院いて、すぐ隣のエリアに早苗さんいるのね
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投下乙です
またはた迷惑な勘違いマーダーが生まれちゃったなぁ
最初に出会う参加者によって今後が大きく変わりそうだ
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嗚呼……まさかここに来て主催に従順なマーダーが
しかも早苗をも殺す気だし
ただでさえ暴走しやすい気質と経歴と参戦時期を考えれば、うんまあ……
ポンペイ方面も一気にきな臭くなって来ましたね
新作お疲れ様でした
東方仗助、広瀬康一、寅丸星、主催二人を予約します。
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来たか、最後のHEROS……
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>主催二人
ファッ!?
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しかし、星くんは生き残れる気がしないなぁ・・・w
主催ってどういうことだろ?
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主催はジュラル星人なんだろ(すっとぼけ)
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そうか、支給品の中にボルガ博士が!
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そうか、頭の中に爆弾が!
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荒木はうっかり支給品に混ざっちゃった日記を回収しに来たり介入しまくってたからなぁ
あそこと同じ荒木ならいろいろやばそう ZUNが酔っ払ってうっかりベレー帽落としちゃったとか
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単一のイメージだと荒木はガンガンちょっかい出しそう
ZUNはそんなに介入はしてこなかったけどね
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>>206>>207>>208くん?
チャー研ネタは見せ物でもないしそんな無闇に使うことは許されないんだ
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>>211博士、お許し下さい!
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許早苗!
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早苗さん輝針城に出られなくって残念だったね(棒)
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早苗「ドゥドゥドゥドゥドゥドゥ(ry」
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皆さん、雑談所もあるよ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/16334/1379300487/
-
この雑談所超助かる!
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凄ェ!流石>>1氏!
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星熊勇儀、魂魄妖夢、八雲紫、ズィー・ズィー 予約します。
-
ゴキゲンなドライブも終わりを告げてしまうのか…?
それとも もしかしたら某所の獣人とお医者さんみたいなミラクルもあるのか!?
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ブローノ・ブチャラティ、因幡てゐ、虹村億泰、古明地さとり
上記4名を予約します。
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>>221
目下絶賛瀕死中のさとりん来た!投下まで死ぬなよーw
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宇佐見蓮子、ジョニィ・ジョースター、ヴァニラ・アイス、霍青娥
予約します
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おお、予約がたくさん来た!
ジョニィは馬さえあればヴァニラとも戦えそうなんだけどな……
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クリーム即ブチ抜ける
-
紅美鈴、ウェザー・リポート、多々良小傘、ジョルノ・ジョバァーナ、トリッシュ・ウナ
を予約します。
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主催陣営やら戦闘or危険地域やらの予約が次々と入ってきて
あちこちで状況が動きそうになってきたな
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すいません延長します。
-
延長します。
-
すいません、予約の延長を申請します。
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予約ラッシュの次は延長ラッシュか…
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では延長料を…
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要請がなく、期限が過ぎましたので◆AC7PxoR0JUは破棄とみなします
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>>233
仕事早いですね
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宇佐見蓮子、ジョニィ・ジョースター、ヴァニラ・アイス、霍青娥
投下します
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彼女が立つのは平原のど真ん中。
二つのレンズ越しに確認したのは大きな『穴』だ。
それは離れた位置に建つ施設の壁にぽっかりと開いている。
あまりにも不自然で、異様な光景であることは明白だ。
「んー…?」
双眼鏡を覗き、『刑務所』の穴を確認しているのは蒼を基調とした装いの女性。
霍青娥。堕ちた仙人―――邪仙と呼ばれる存在である。
光学迷彩スーツの『バッテリー』が切れており、今はその姿を晒している。当人は特に気にしている様子は見せていないが。
ともかく、彼女が気になっていたのは刑務所の壁に開かれた穴である。
力によって強引に破壊された痕跡は見当たらない。その穴は綺麗な丸い形、言わば真円の形状なのだ。
自分の能力でもあのような穴を開けることは不可能ではないが…。
それに僅かに覗ける穴の中を見る限り、テーブルや椅子などの幾つかの物資が不自然な形で損壊しているのも見受けられる。
一体どんな力によって為された技なのだろうか?…何となく気になってくる。
好奇心が再び彼女の胸の内に込み上げてきた。
「…とりあえず、寄ってみましょうかっ」
暢気な態度で鼻歌を歌いながら、彼女は双眼鏡を仕舞い込み刑務所へと向かっていく。
名簿を見る限りでも博麗の巫女を始めとした数多の猛者が集っている殺し合いだ。
まだまだ見ぬ面白い参加者が存在しているかもしれない。
折角なので興味深い物には首を突っ込むつもりだし、あの施設の状況は個人的に気になることでもあった。
「あの方」への手土産になるものも見つかるかもしれない。
とはいえ、最優先は保身。危険だと判断したら離れることも視野に入れている。
「〜♪」
だが、それよりも興味が勝っているのも事実。
飽くなき好奇心に動かされるがまま、彼女は動き出す。
-
◆◆◆◆◆◆
GDS刑務所、女子監1階。
ジョニィと蓮子は広い食堂の奥に存在するキッチンの中にいた。
まず食糧の確保だ。キッチンを見渡す限りでも調理道具などそれなりの物資が見受けられるのが解った。
どうやらあちこちの棚の中にも食糧がしっかりと保管されている。
見た限り、会場内である程度の食糧は現地調達可能らしい。他の物資も同様に施設内で見つけられるかもしれない。
ただ、一先ず今は目の前の物資からだ。二人はそのまま物色と回収の作業に移った。
「…ねえ、ジョニィ」
キッチン内の棚や冷蔵庫に存在する食糧を蓮子とジョニィは二人で漁っている。
食堂での見張りはヨーヨーマッに任せている。射程距離ギリギリの位置で留まらせ、周囲を監視させているのだ。
ヨーヨーマッが見張りとなる中で二人は黙々と食料庫の物資を漁っていたが、ふと蓮子が話しかけてきた。
何だ?と短く声を発しながらジョニィは蓮子の方へと軽く目を向ける。
「ジョニィって、『レース』で親友と出会ったって言ってたけど…」
「ああ」
「貴方ってレーサーか何かなの?」
食糧を眺めつつデイパックに仕舞い込みながら蓮子が聞いてきたのは、ふとした疑問だった。
何か会話をしたかっただけなのか、それとも本当に気になっただけなのか。
ジョニィは突然の質問に少しばかり呆気に取られるも、ほんの僅かに考え込むような素振りをした後に彼女の問いかけに対し答える。
「…そういえば、身の程を話してなかったな。何というか、僕はジョッキーをやっているんだ」
「ジョッキー?ってことは、騎手なのね」
「ああ、一時期は色々ともてはやされていたさ」
フッと口元に僅かながら笑みを浮かべながらジョニィは答える。
それにしても、急にレースのことについて触れられるとは思っていなかった。今は『殺し合い』という極限の状況下であるが故に尚更だ。
とはいえ、何気ない話題であろうと会話を交わせばは少しでも蓮子の緊張を解せるかもしれない。
闘いに身を置いたことのない蓮子にとって、肩の力を抜くことは必要だろう。そう思ってジョニィは彼女の会話に快く答えた。
「尤も、一度は僕自身の傲慢さのせいで…栄光も、誇りも、生きる意味も、何もかも失っていた。
そんな僕が、また歩き出せるようになったきっかけが『ジャイロ』との出会いだったんだ」
『ジャイロ』。その名前を聞いて、蓮子が少しばかり反応を見せる。
出会った直後の情報交換の際にジョニィの口から聞いた名前。ジョニィの捜す『親友』のことだと彼女はすぐに思い出す。
「彼と出会っていなかったら、今の僕はきっといなかったハズだ。また、彼と会いたい」
親友について静かに語るジョニィの表情は、どこか生き生きしているようにも思える。
大切な思い出を追憶するようであり、口元に微笑が浮かぶその姿は嬉しそうにも見えた。
そんな彼の表情を見て、蓮子もまた口元が自然と緩む。
「ジョニィは、本当にその親友のことが好きなんだね」
「ああ。ジャイロは、僕の掛け替えの無い親友だ…心からそう思っている」
そう語るジョニィを見て、蓮子は何となく羨ましく思う。
ジャイロという人は、親友であるジョニィからこれ程までに大切に想われているのだ。
信頼出来る本当の親友とは、まさにこうゆうものなのだろう。
…メリーは、私をどう思ってるんだろうか?私は…恥ずかしいから、面と向かってはっきりとは言わないけど。
メリーのことは親友だと思ってるし…掛け替えの無い相棒。少なくとも私はそう思ってる。
きっとメリーもそう思ってくれてるはずだ。私はそう信じたい…いや、信じよう。
あの娘は私の相棒なんだから。
確信にも近い信頼が蓮子の胸に込み上げ、自然と口元に微笑みが浮かぶ。
-
互いの親友のこと、経歴などの他愛のない会話が暫しの間続く。
親友について話す時のジョニィと同様、メリーのことについて話す蓮子はどこか楽しそうに見えた。
会話を交わしつつ、蓮子の親友であるメリーの話を聞きつつジョニィは内心思考する。
(メリー…蓮子の親友。彼女も、どうか無事でいてほしいが…)
ジョニィが名簿を確認した限りでは90名もの参加者が会場内に存在しており、その中にはジョニィの知っている危険人物の名も複数名見受けられた。
ディエゴ・ブランドー。レース内で遺体と優勝を巡り、何度も争った天才ジョッキー。
ファニー・ヴァレンタイン。遺体を手に入れるべく暗躍を繰り返していた合衆国大統領。
リンゴォ・ロードアゲイン。大統領の部下にして、生粋の決闘者。
いずれもジャイロと同じく『死んだはずの人間』であるのが気になったが…そのことに関してはいずれ考えるとしよう。
大切なのは『警戒すべき人間が少なくともこの会場内に数名いる』ということだ。
それ以外にも参加者の大半が『見知らぬ者達』である以上、信用の出来ない者だって沢山いるだろう。
開始早々に殺し合いに乗っている参加者も何人いるか解らない。
もしかしたら、自分が予想している以上に乗っている参加者が多い可能性もある。
(そうなった際に危険なのは、蓮子と同様に戦いの経験を持たないメリーだ)
蓮子の場合は支給品によるスタンドの発現(DISCという円盤によって発現したとジョニィは聞いている)、そして開始早々に殺し合いに乗っていないジョニィに遭遇するという幸運を手繰り寄せている。
しかし、まだ安否を確認出来ていないメリーはどうだろうか?もしかしたら、今もたった一人で怯えているのかもしれない。
信頼出来るような頼れる人物とも遭えず、恐怖に震えているのかもしれない。
ジャイロはまだいい。彼には力がある。だけどメリーにはそれがない。
故に物資の回収後、メリーの捜索及び安否の確認は可能な限り早い内に行いたいとジョニィは考えていた。
とりあえず、今はまずはこの食糧を積め終えることが先ではあるが。
-
◆◆◆◆◆◆
『………………。』
キッチンの出入り口に暢気な表情で突っ立っているのは一体のスタンド。
現在の『本体』である蓮子によって見張りを命じられたヨーヨーマッだ。
そのぼけっとした姿は、一見まともに見張っているのかさえ疑いたくなる。
しかしその視線は食堂へと隈無く向けられており、決して警戒は解かない。
主から命じられた『命令』は淡々と、着実にこなす。ヨーヨーマッは僕としては優秀な存在なのである。
見張りの最中、彼は脳内で思考を行う。彼が思い返していたのは、自らの主人のこと。そしてこの『殺し合い』のこと。
(…やれやれ、今回の『ご主人様』は大丈夫でしょうか)
優勝と言う生還の道ではなく、親友との友情を選択した宇佐見蓮子。
怪奇に真っ向から立ち向かうと彼女は言っていた。主催に抗い、ゲームから脱出する方法を模索しようと言うのだ。
その後に出会ったジョニィ・ジョースター、彼も親友を捜しているとのこと。恐らく蓮子と同様の方針だろう。
(私は少なくとも『荒木飛呂彦』の力は理解している)
直後にヨーヨーマッが脳裏に浮かべたのは『スタンドDISC』を支給品として導入した張本人である主催者の一人・荒木飛呂彦。
自身をDISCへと変えたエンリコ・プッチ神父よりも遥かに強大であり、畏怖すべき存在。
まさしく神と称するに相応しい男。自分はあの男の『圧倒的な力』を知っている、逆らえるなどとは到底思えない。
―――あの男の力を、直に見ているのだから。
だからこそヨーヨーマッは、蓮子やジョニィの『殺し合いに乗らない』というゲームそのものに抗う姿勢に対し消極的な姿勢を示している。
ただし、主催者への対抗手段があるとなれば話は別だ。
自分の理解の範疇では荒木と太田に逆らえる等とは思えない。しかし、彼らの力さえ出し抜ける程の『手段』があるとすれば。
『勝算』が見込めるとすれば、全面的に従おう。今のヨーヨーマッは本体に追従し、サポートすることが役目。ゲームにおいて本体の命を守るのも一つの役目である。
故に死に急がせるようなことはさせてはならない。命を投げ打つような真似をさせてはならない。
だが、勝てる道筋さえ見つかれば文句は無い。勝算のある闘いに異議を唱えるつもりは無いし、そうなったならば自分はそれに黙って従うだけ。
(…とはいえ、もし主催者への反抗が『無謀な行為』に過ぎないと判断した時は)
その時はご主人様を説得するつもりだ。
先程も述べたように、主をまざまざと死にに行かせるつもり等毛頭無い。
勝ち目の無い勝負に挑ませるわけにはいかない。ご主人様を護ることが役割なのだから、死へ向かわせるという事態は避けなければならないのだ。
そもそもこの場において『対主催』という方針を選んでいること自体が無謀に近いといえば近い行為ではある。
しかしそれもまたあくまで本体の意向だ。非合理的な方針に苦言を呈することはあれど、それに直接背くようなことはしない。
形はどうあれ、ヨーヨーマッは基本的には本体の『味方』なのだから。
とはいえ、現状まだまだゲームの序盤。他の参加者とも殆ど遭遇出来ていない以上、今の所は様子見と行きたい。
ご主人様―――宇佐見蓮子様の合理性を判断するのも、暫しの観察を終えてからでいい。
「――ヨーヨーマッ。終わったよ」
後方から『本体』の呼びかけが聞こえてきたのは、思考を重ねていた時から直ぐ後のこと。
どうやらご主人様達が作業を終えたようだ。
-
『お疲れ様です、ご主人様』
軽い会釈と共にヨーヨーマッがキッチンから出てきた蓮子達に労いの言葉をかけた。
見張りの仕事ありがとね、と蓮子は短く礼を言う。
ご主人様からの礼に畏まった態度を見せつつ、ヨーヨーマッは周囲を見渡す。
『見張っておりましたが、特に来訪者はいらっしゃりませんでしたァ。異常事態も特にありません。…ご主人様、次はどちらへ?』
「とりあえず、廊下に出て適当な部屋を捜してみるわよ。出来れば医務室辺り」
蓮子がそう言いつつ、ジョニィと共にヨーヨーマッの傍を通り過ぎる。
「さ、行くよ」と蓮子が軽く目配せをしつつ。それを承諾したヨーヨーマッはのそのそと蓮子、ジョニィに追従するように歩いて行く。
食糧を回収した以上、この食堂にはもう用は無い。可能ならば、次に回収したいのは包帯などの医療道具。
応急処置の為の道具は出来る限り手に入れておきたい、とジョニィと蓮子は考えていた。
殺し合いは恐らく長期戦。90人の参加者によるサバイバルゲーム、いつ怪我をして致命傷を負うかも解らない状況下だ。
その際の為の保険と成り得る道具は、出来るだけ回収しておきたい。
蓮子とジョニィは横並びに歩き、食堂の出入り口の扉へと向かう。ヨーヨーマッも少しばかりの距離を開けて彼らに追従する。
そして蓮子が、扉にゆっくりと手をかけ―――――
ガ オ ン ッ ! ! !
「…え?」
扉を開けようとした蓮子が、ぽかんと声を上げる。
顔を左側へと向ける。奇妙な破壊音と共に、食堂の少し離れた場所の壁に何の脈絡も無く『大きな球状の穴』が開いたのだ。
突如発生した唐突な現象に唖然とする蓮子とジョニィ。
そして、『異変』は再び起こる。
――― ガ オ ン ッ ! !
『――――――。』
蓮子達の後方に立っていたヨーヨーマッの左半身が、瞬時に『消し飛んだ』。
実体を持った斬撃や衝撃によって吹き飛ばされたワケではない。
まるで『半円状に身体の半分を綺麗に削り取られた』かのようだった。
全く未知の攻撃を喰らったヨーヨーマッに、普段のような苦痛に喘ぐ恍惚の声を上げるような余裕も無い。
ただ唖然としたように、その場で突っ立っていた。
あまりにも突然の事象を前にして蓮子の頭が上手く働かない。
身体の半分を消し飛ばされたヨーヨーマッの姿が視界に映る。
蓮子はヨーヨーマッに向けて、声を上げようとした。
―――しかし、『異変』は間髪を入れず立て続けに発生する。
ガ オ ン ッ ! ! ! !
ガ オ ン ッ ! ! ! !
ガ オ ン ッ ! ! ! !
「な、…!?」
咄嗟に爪を構えていたジョニィは目を見開き、驚愕の声を上げる。
あちこちの床に、天井に、複数の『穴』が開く。
それとほぼ同時に、食堂に存在するテーブルや椅子などが次々と『消滅』を遂げていた。
あるものは跡形も無く消し飛び、あるものは一部の残骸を遺して消滅。
食堂に存在する物体が幾つも消し飛んだ直後に、中央に『何か』が姿を現す。
それはまるで髑髏の怪物のような。あるいは、禍々しい鬼のような。
兎に角、その『何か』は口から自らの胴体を吐き出しつつ――――少しずつ、その正体を露にしていく。
-
「こいつは…!」
瞬間、ジョニィは確信した。さっきの奇怪な現象を起こしたのは、こいつだということを。
こいつの正体が『スタンド』であるということを。
そして、このスタンドは明確な『殺意』と共に先程の『攻撃』を行ったということを―――!
「―――蓮子、逃げろッ!!『スタンド攻撃』だァァァーーーーーーーーーーーーッ!!!」
鬼気迫る表情で、ジョニィは叫ぶ。
直後に直ぐさま右手を構え、『敵』のスタンドへと向けた―――!
少しばかり驚いた様子を見せた蓮子は、身構えるジョニィに対し声をかけようとする。
一人で食い止めるつもりなのか。危険だ、一緒に逃げよう。そう口に出したかった。
だが、ジョニィは決して蓮子の方へと振り向かない。無言で、『敵』に対し右手を構えている。
その時に蓮子は理解する。ジョニィは本気で『現れた敵』を倒すつもりなのだ、と。
恐らく、自分という存在が此処にいては…足手纏いになってしまうのだろう。
ならば―――ジョニィの意図を汲むべきだと、蓮子はその場で判断する。
直後に蓮子は扉を開き、廊下へと走り出した。ヨーヨーマッも主人に追従し、失われた半身を少しずつ再生させながらぎこちなく彼女を追いかけていく…
逃げ往く蓮子達を背に、ジョニィは『爪』を構える。
上半身のみを吐き出した髑髏のスタンドの口から、一人の男が顔を覗かせる。
ハートの飾りを付け、長髪を持った鋭い眼光の男。髑髏のスタンド―――『クリーム』の本体。
目の前に立ちはだかるジョニィ、そして逃げ往く蓮子とヨーヨーマッの姿を確認。
「『スタンド使い』が、二人か…」
酷く冷たい瞳で、男―――『ヴァニラ・アイス』はジョニィを見下し、静かに呟く。
「貴様ら全員、我が『クリーム』の暗黒空間にバラまいてやる」
そして、発せられたのは死刑宣告。
ジョニィ、そして蓮子を仕留めんとする殺意を剥き出しにした。
禍々しい殺意を前にしながらも、ジョニィは動じぬまま爪を構える。
「…あんたは、此処で止めさせて貰う」
鋭い視線を向けるジョニィの爪が纏うモノは黄金に輝くスタンドエネルギー。
その力に呼応するかの如く、ジョニィの傍に『スタンド』が出現する。
それは小さな妖精にも似た薄い桃色のビジョン。
来るか―――ヴァニラ・アイスは、目の前の男が仕掛けてくることを察知する。
ジョニィもまた、ヴァニラを説得の余地のない殺人者であると理解していた。
故に彼は情けも容赦も無く、冷徹に目の前の男を仕留めるべく『爪』を構える。
そして、二人は自身の精神のエネルギーを己がスタンドに収束させる。
睨み合うように二人は相対する。
―――『漆黒の殺意』が、衝突する。
「―――『タスク』ッ!!」
「―――『クリーム』ッ!!」
-
闘いの火蓋を切ったのはジョニィ。彼の指先から真っ先に爪弾が放たれる。
放たれた爪弾を目にしたヴァニラは『クリーム』の右腕を一振りさせ、爪弾を弾く。
「…爪を弾丸にして放つ能力、か。フン、他愛も無い」
ヴァニラの言葉に耳を向けることも無く、ジョニィは一定の距離を保ちつつ左手からも爪弾を発射。
狙うは僅かに顔を出しているヴァニラの顔面目掛けて。
だが、ヴァニラは冷静にクリームの口の中へと顔を隠し―――クリームもまた、自らの上半身を勢いよく飲み込む!
そして、『身体の全て』を飲み込み…その姿が完全に消滅。
同時に爪弾もまるで一瞬で消し飛ばされたかの様に『消え失せた』。
ガ オ ン ッ ! ! ! !
直後にクリームが先程まで浮遊していた地点の床が円形に『削り取られる』!
ジョニィは瞬時に危険を感じ取った。さっきも確認したが、アレは確実に『ヤバい』。
直ぐさま距離を取るべく、彼は開かれた扉から廊下へと逃げるように走って行く―――
廊下を突き進み、突き当たりの壁にて彼は動きを止める。
「来い…ッ!」
10m前後の長い廊下の奥、突き当たりの壁を背にしたジョニィは右手を構える。
廊下の壁際に追い詰められたが、ジョニィから見て右側へと向かって通路は続いている。
彼の人指し指の上で『爪』がキュルキュルと回転し、傍には妖精のような小さなビジョンが変わらずに浮遊している。
ジョニィ・ジョースターのスタンド能力『タスク ACT1』。
爪を回転させ、弾丸のように放つ能力。本来ならば黄金回転の力を借りることで能力の進化系であるACT2以降を任意で発動することが出来る。
しかし黄金の回転とは、自然界の中に存在する「黄金長方形」を見つけ出すことで発動出来る技術。
そう、あくまで黄金長方形が形作られるのは『自然界の中』なのだ。
此処は囚人を収監する刑務所。人間の手で造り出された、言わば人為的な施設。
そんな場に『黄金長方形』など何処にも存在しない。
自然界の中に在るスケールなど見つけられるワケがない。
『黄金の回転』を使うことが出来ない今、発動出来るのはACT1のみ。
爪を構えてから静寂の時が暫し流れ続ける。
敵の攻撃らしき物が、一向に見受けられない。
奴はその姿を透明にすることが出来る以上、視認することは困難だ。
沈黙が逆に不気味にさえ感じる。奴は、一体何処から―――
(―――『何処』だ?奴は、何処から来る――――)
警戒と緊張を高めながら、ジョニィはその爪を構え続ける。
敵の能力は未知数。たった一人とはいえ、脅威であることは明白。
決して油断をしてはいけない。気を抜けば、狩り殺されるだけだ―――!
―――ガオンッ!
ジョニィから見て10m先、通路の右側の壁に『球状の穴』。
―――ガオンッ!!
9m先、通路の左側の壁に『球状の穴』。
―――ガオンッ!!!
8m先、通路の左側の壁に『球状の穴』。
―――ガオンッ!!!!
7m先、通路の右側の壁に『球状の穴』―――!
(来たか…ッ!)
距離を縮めてくるかのように次々と通路の壁に開く『穴』をジョニィは目の当たりにする。
まるで障害物をも無視してジグザグに移動しているようにも見える。
姿は確認出来ない。だが、敵は着実にこちらに迫り来る。
それは確かに理解出来た。敵の能力の全貌は未だに解らない。
解ることは二つ。『敵は不可視の状態になって攻撃を行う』こと。
そして『触れたものを一瞬で消滅させる』ということだ!
-
「うおおおおおおおおおおォォォォォォォォ―――――――――――――――ッ!!」
ジョニィは雄叫びを挙げ、右手の指先から次々と爪弾を前方へと向けて放つ。
回転と共に飛んでいく弾丸は―――ジョニィからの距離にして5mの地点で消滅。
その直後。間髪を容れず左側の通路の壁に、削り取られたような『球状の穴』が生まれる。
壁に開く『穴』が次第にこちらへと近付いてくる。少しずつ距離を詰めてきている―――!
(再び試したが、やはり『爪弾』も通用しないか―――!)
爪弾を発射した直後、再生した爪を回転させいつでも爪弾を放てる状態のまま『敵』から逃げるように突き当たりの右側の通路を走る。
一定の距離は保たなければいけない。至近距離で戦闘を挑めば、奴の『能力』の餌食になる。
だが、ある程度の時間稼ぎは行わなければない。
蓮子。彼女はスタンドを保有しているとはいえ、闘いの世界に身を置いている訳ではない。
そう、ごく普通の女の子に過ぎないのだ。あの男を、逃がした蓮子に追い付かせるわけにはいかない。
奴に追い付かれれば、蓮子は間違いなく容易く殺される…!
故に限界まで自分が時間を稼がなくてはならない。あの男を、止めなければならない!
「ちょこまかと…よく逃げるものだ」
ジョニィが走る中、先程までジョニィが立っていた廊下の突き当たりの地点に『それ』は姿を現す。
髑髏のような顔を持つスタンド。その口から少しずつ飲み込んでいた上半身が吐き出されていく。
そしてスタンドの口から『男の顔』が現れ、外を覗き見るように周囲を見渡していた。
(あのスタンドは攻防一体…はっきり言って、無敵の能力)
後方へと目を向けながら、ジョニィは思考する。
奴のスタンド(確か『クリーム』と言っていた)の能力。全貌は不明だが、触れたものを瞬時に消滅させる。
「最強の矛」と「最強の盾」を兼ね備えた強力無比な能力。
(ヤツの口の中に入り込んでる間は、あらゆる攻撃が通用しなくなる)
そう、爪弾すらも一瞬で消し飛ばされたのだ。
それどころか軌道上に存在する物をいとも容易く消滅させてみせた。
本体あの中にいる限り、こちらからの攻撃は一切届かないだろう。
『身を隠している』だけで、彼は無敵なのだから
(―――なら、何故あいつはわざわざ口の中から顔を出す?)
ふと、脳裏に疑問が浮かぶ。
隠れているだけで無敵になれる能力ならば、わざわざあの口の中から顔を出す意味が無い。
自らの隙を晒しているようなものだ。周囲の様子を確認し、こちらへと顔を向けてきたヴァニラを見る。
ジョニィは思い出す。奴が現れた時のことを。
奴は蓮子や自分に攻撃を与えず、ヨーヨーマッや周囲の物体を破壊しただけだった。
それもかなりデタラメな破壊の仕方。無造作にあちこちのテーブルや椅子等を消し飛ばしていたのだ。
(まさか、あいつ―――『見えていない』のか?)
ジョニィの思考は結論に到達する。
奴はあの口の中から顔を出さない限り外の様子が『見えない』のでは?
そうでもない限り奴がわざわざ顔を出す意味が分からない。
…これは恐らく『アタリ』だろう。無駄の多い攻撃の軌道、無敵の能力で隠れているというのにわざわざ隙を晒す所…
奴が顔を出すことには意味がある。そう、『敵』の位置を確認している。
無敵と思っていた能力だが―――どうやら、弱点もあるらしい。
-
「逃がさんぞ、小僧」
鬼のような憤怒の表情で睨み、再びジョニィを見据えるヴァニラ。
ジョニィの位置を確認した直後に彼は再びクリームの口の中へと身を隠す。
後方へと向き、後退をしながらジョニィは爪を再び構える。
奴の攻撃が、再び来る。
少しの間だけ顔を出してくる奴の隙を突くこと。
奴を蓮子に近付かせずに極力時間稼ぎを行うこと。
可能ならば―――奴を仕留めること。
目の前の強敵を前に、ジョニィは思考を整理させる。
圧倒的な力だ。だが、明確な弱点が存在する以上勝ち目が無い訳ではない。
(これも、使うべきだろうな)
『支給品』。
蓮子と遭遇した後に確認し、懐に忍ばせていた『それ』を確認する。
かつて一人の鉄球使いが使用していた『武器』。
その破壊力、そして厄介な能力は重々承知している。
かつてのジョニィが直接戦った相手なのだから、当然だ。
―――『壊れゆく鉄球“レッキングボール”』。
ネアポリスの鉄球使いが生み出した、『戦闘技術』。
こんなものまで支給されているとは思わなかったが、武器としては大いに使えるだろう。
奴の視界を狂わせることだって出来るかもしれない。
存分に活用させてもらう。
姿を消滅させたヴァニラのいる方向を見据え、ジョニィは静かに呟く。
「―――僕も、お前を『逃がすつもり』なんてない」
瞳に宿らせるのは漆黒の意思。
目の前の敵を仕留めんとする殺意。
闘いはこれからだ。あの男は――――この手で倒す。
【C-2 GDS刑務所・女子監 一階(廊下)/黎明】
【ジョニィ・ジョースター@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)
[装備]:壊れゆく鉄球(レッキングボール)@ジョジョ第7部
[道具]:不明支給品(0~1)、基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロに会いに行く
1:目の前の男(ヴァニラ・アイス)を倒す。
2:蓮子と共に、メリーとジャイロを探す。
3:殺し合いに乗ってない人に会いたい。
[備考]
参戦時期はSBR24巻、ヨーロッパ行の船に乗り込んだ直後です。
蓮子とは、メリーの名前の情報を共有しました。
タスクACT4は制限により使用不可です。
【ヴァニラ・アイス@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(微小)、体力消耗(小)
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(本人確認済み)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために皆殺しにする
1:DIO様、貴方のために全てを葬りさりましょう
2:ジョースター一行は最優先で抹殺する
[備考]
参戦時期はジョジョ26巻、DIOに報告する直前です。なので肉体はまだ人間です。
ランダム支給品は本人確認済みです。
『壊れゆく鉄球(レッキングボール)@ジョジョ第7部』
ジョニィ・ジョースターに支給。
ネアポリス出身の元王族護衛官であり鉄球使いのウェカピポが使用していた鉄球。
鉄球には複数の衛星が取り付けられており、鉄球の投擲と共に衛星が放たれる。
衛星の攻撃及び衝撃波を喰らうと『左半身失調』が発生し、短時間だが『左半分』を一切認識できなくなる。
-
◆◆◆◆◆◆
「はぁっ…はぁっ…」
荒い息を何度もをしながら、彼女は両膝に両手を付けて立ち止まる。
ヨーヨーマッの姿はまだ見受けられない。恐らく、遅れて走ってくるとは思うけれど…
あれから必死に走って、刑務所の屋外まで出てきた。集会でも行えそうな広場だ。
女子監の一階だったが故に、外への出入り口を見つけることにさほど時間はかからなかった。
周囲一体は鉄格子のようなフェンスに包まれており、夜空はまだまだ暗い。無数の星が空に浮かんでいるのが見える。
ふと、夜空を見上げる。
―――星に、月が見える。その時彼女は気付いた。時刻が解る。
能力が『行使』出来る。場所の特定に関しては未だ不明確だが、地図に照らし合わせれば現在位置も解るかもしれない。
この会場に置いても蓮子の能力は少なからず健在であることには気付いた。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
ジョニィ。彼が、私を逃がして戦ってくれている。
彼を助けたい。此処まで逃げてきたが、どうにかして彼の援護をしたい。
最悪、他の参加者に助けを求めることも視野に入れるつもりだ。
だけど―――焦ってはどうしようもない。冷静に、冷静になれ蓮子。
せめて、何か手段を――――
「 見ぃつけた♪ 」
唐突に背後から聞こえてくる声。
蓮子は咄嗟に振り返ろうとする。
さっきまで気配なんて無かったはずだったのに。
だが、そう思った矢先に彼女は身動きが取れなくなった。
「――――っ!?」
蓮子は背後から裸締めにされ、声を上げる事も出来ずに動きを封じられる。
何度も抵抗しようとするが、相手の力が予想以上に強く腕は全く離れない。
背後から聞こえてくるのはうふふ、と嘲笑うような声だけだ。
「あらあら、そう抵抗為さらずに。私は暴力は好みませんのよ?」
背後から拘束してくる相手の声色はあくまで穏やかだ。
だが、蓮子は背筋がざわめくような感覚を覚えていた。
こいつは何か、危険な存在だ。さっきの奴とはまた、別の意味で――――
『―――ご主人様ッ!!』
ヨーヨーマッが遅れて広場へと駆け付け、声を上げる。
その身の傷は完全に再生し終えており、五体満足の状態だ。
恐らく再生に時間を有し、暫く姿を現すことが出来なかったのかもしれない。
蓮子の方へと近付こうとするも、彼女を拘束する人物はヨーヨーマッを睨むように見る。
「…そちらの貴方も下手な真似はしないように。
この御方の首を掠めること等、私にとっては赤子の手を捻るようなものですから」
先程とは違い、威圧するかのような低い声で言い放つ。
その態度からして、この言葉が単なる脅しではないということは見て取れた。
ヨーヨーマッは動きを止め、『相手』を見据える。
(面倒なことになってしまいましたね。まさかご主人様が新手に捕まってしまうとは)
見た限りでは相当の手練のようだ。迂闊に手出しは出来ないが、かといって何もしないわけにはいかない。
どうにかしてご主人様を彼女から助け出さなければならない。交渉、戦闘…頭を回転させ、脳内で選択肢を並べていく。
当然の如く、『殺害』も視野に入れている。
「にしても、この会場…貴女達のような『人形使い』が何人もいるのね?」
『彼女』はヨーヨーマッを見て、先程までのことを思い返す。
天候を操る能力を持つ殿方も、このヨーヨーマッのような人形を操っていた。
恐らく私が惚れ込んだあの方が使っていた能力もそれと本質的に同じ力なのだろう、と。
どうやらこの会場には、『人形使い』が複数人存在する。
「『あちら』はお取り込み中だったから近寄れなかったけど、貴女みたいな『素人』も紛れ込んでいるなんてねぇ…」
-
あれらの能力のことは気になっていたし、興味の対象に含まれていた。
あの人形については詳しく知りたかっただけに、この娘のような戦闘の素人に巡り会えたことは幸運だった。
さっきの殿方のような方々はともかく、彼女はこうやって簡単に拘束することが出来るのだから。
それ以外にも、洗いざらい情報を聞いてみたい。―――折角なので、この娘の『面白い使い方』も考えてみたい。
場合によっては、この娘を利用して『刑務所内で争う二人』を出し抜けるかもしれない。
「まっ、でも悪いようにはしないわ…ねえ、お嬢ちゃん?」
ともかく、まずはこのお嬢ちゃんの『面白味』を確かめてみることにしましょうか?
「―――私と、お話しましょう?」
蓮子の耳元で囁かれるのは透き通るような甘美な声。
吐き出される吐息が蓮子の首筋にかかる。
邪仙『霍青娥』は―――不敵に微笑んでいた。
【C-2 GDS刑務所・女子監 広場/黎明】
【宇佐見蓮子@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(小)、青娥に拘束されている
[装備]:スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部
[道具]:基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:メリーと一緒に此処から脱出する。
1:???
2:ジョニィを助けたい。
3:ジョニィと共に、メリーとジャイロを探す。
4:殺し合いに乗ってない人に会いたい。
[備考]
参戦時期は少なくとも『卯酉東海道』の後です。
ジョニィとは、ジャイロの名前(本名にあらず)の情報を共有しました。
「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力」は会場内でも効果を発揮します。
【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:健康
[装備]:河童の光学迷彩スーツ(一定時間使用不可)@東方風神録
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:蓮子を『利用』してみたい。
2:面白そうなことには首を突っ込み、気になった相手には接触してみる。
先程の殿方(ウェス)が使っていたような「まだ見ぬ力(スタンド)」にも興味。
3:王者のような少年(ジョルノ)に「一目惚れ」。機会があれば後で会ってみたい。
4:時間があれば芳香も探してみる。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※光学迷彩スーツのバッテリーは30分前後で切れてしまいます。
充電切れになった際は1時間後に再び使用可能になるようです。
-
投下終了です
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします
-
投下乙です。
ジョジョは5部までしか読んでいないので、最初は意思持ちのスタンドに
違和感がありましたが、これはこれで面白いですね。
一点だけよくわからなかったのですが
>地図に照らし合わせれば現在位置も解るかもしれない。
これは刑務所じゃなくて会場の位置のことですよね?
支給品の地図みたら分かるものなんですか?
-
>>248
ご指摘ありがとうございます、会場の位置のことを指しています。
指摘された通り地図と照らし合わせるだけで現在位置を特定できるかは不明瞭だったので、>>245の地の文を以下のように訂正します。
能力が『行使』出来る。場所の特定に関しては未だ不明確だが、地図に照らし合わせれば現在位置も解るかもしれない。
↓
少なくとも「星を見ただけで時刻がわかる能力」は正常に機能している。
-
期限オーバーにより、予約は破棄になりましたが
連絡スレにて、◆YF//rpC0lk氏より破棄から24h後以降のゲリラ投下なら可との回答を頂けたため
ブローノ・ブチャラティ、因幡てゐ、虹村億泰、古明地さとり 投下します。
-
E-4エリア、人里内のコンビニ『OWSON』にて、ブローノ・ブチャラティと因幡てゐの2名が休息していた。
先頃、人里の近くにて出会った二人だったが、コロッセオに危険人物がいるとのブチャラティの言により
念のためそこから遠ざかるべく、人里内部にまで歩を進めていた。
そして、道中にお互いの情報を交換しながら、雑多な人里の中でひときわ目立ったこの建物に入り込んだのだった。
ブチャラティは、レジ隣りのカウンターに軽く腰を掛けながらうつむき、てゐからの情報を咀嚼していた。
永遠亭とその住人を主とした幻想郷についての話は、ブチャラティにとって俄かには信じがたいものだ。
しかし、道すがら触らされたてゐの兎耳が本物だったことや、スタンドによらない弾幕の存在、さらには話に聞く幻想郷と
この会場の奇妙な一致などを鑑みるに、最終的には事実として受け入れざるを得なかった。
付け加えるならば、コロッセオで遭遇した危険なスタンド使いを、直感的に吸血鬼と感じたこともその受容に拍車をかけていた。
一方てゐは、幻想郷の常識として、あらかじめ外界の存在については知悉していた。
そして、スタンドについても実際にブチャラティのスタンド『スティッキー・フィンガーズ』の像を見た以上、特に疑うことなく受け入れている。
その分の空いた余裕を、コンビニの商品を物色して、エニグマの紙の中に詰める作業に費やしているのだった。
「……おい、いくらなんでもやりすぎじゃあないか?」
考えをまとめ終わったらしいブチャラティが顔を上げると目につく商品棚の大半がガラガラになっていた。
いつの間にかてゐの所業は、火事場泥棒と見紛うばかりになっていたらしい。
「いやいや、ブチャラティ。 この紙の中に入れちゃえば、重さもなくなるみたいだし、取れるだけ取らなきゃ損だよ」
「確かにこの紙は便利だが、あまり詰め込みすぎると、必要な時に必要なものが取り出せなくなるぞ」
反論するも、更にそう返されたてゐは、唸りながらエニグマの紙に手を突っ込んだ。
そして、パニクッたネコドラくんのように、次々にペットボトルやらカップラーメンやらを取り出し、放り投げ、やがて諦めたようにため息をつく。
「ちぇー、紙がもう1枚あればなあ。……んで、考え事は終わったの?」
先ほどまでとは逆に、紙の中から要らないと判断した物品をそこらに散らかし始めながら、てゐがブチャラティに問いかける。
「ああ、オレの方針は変わらない。
あの主催者2人を倒し、殺し合いを破壊する」
カウンターから降りたブチャラティはそう宣言し、てゐはうなずきながら聞いている。
「そして、その過程で出会った『殺し合いに乗っている者』は無力化する。
いや、予め言っておくと、必要ならば殺害する」
移動中にちらりと聞いたのと同じブチャラティの方針を聞きながら、てゐは、この部分がダメなんだよなー、と内心つぶやく。
とは言っても、別にてゐは人殺しを許容できない博愛主義だとかそういう話ではない。
保身が最優先のてゐとしては、単に危ない橋を渡りたくないだけである。
主催2人を倒すだけの集まりなら、状況を見て雲隠れすれば最低限の安全は確保できるが、途中の危険人物も自発的に排除するとなると危険度は段違いだ。
そんな内心を隠しながら、てゐは神妙な顔をして相槌を打った。
「できるだけ早く方を付ける。それまで安全なところに隠れていてくれ」
最後にブチャラティはそう結んで口を閉じる。
おや、とてゐは思う。要するに言外にてゐには付いて来るなとの事だった。
信頼か、外見か、戦力か、覚悟か、理由は何かは分からないが、どうやらてゐはお眼鏡に適わなかったらしい。
「わかったよ。正直、私が付いて行っても足手まといになるだけだろうしね。
隅っこの方で、この馬鹿騒ぎが終わるのを待ってることにするよ」
少し考えたような間を開けて、いかにも残念そうにてゐがそう返す。
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実際、ブチャラティでも巫女でもいいので、さっさと事態を解決してほしいというのはてゐの偽らざる本音だ。
てゐからすれば、どう楽観的に考えても最後の一人になるなどというは、そもそも物理的に不可能に近いように思える。
特にお師匠様こと八意永琳には、どんな支給品で重武装しようが全く勝てる気がしないのでなおさらである。
ならば、今ブチャラティに促されたように、自分以外の誰かが事件を解決してくれるのを待つというのも
ある意味で現実的な選択に思えてくるのだった。
「そうだ、なにか身を守るような物は持っているのか?」
「ああ、このスタンドDISCとか言うのが支給されたよ」
少し重くなり始めた払拭しようとしたのか、ブチャラティが話題を変えててゐに問いかけた。
そして、返事と共に取り出されたDISCを興味深そうに見据えた。
「コイツは説明書に書いてある通り、こんなふうに頭に入れられるんだ。ほら」
視線を受けたてゐは、自分の頭にDISCを半分挿入して見せ、抜き出した後にブチャラティに手渡した。
そして、同じように頭に入れて見るよう促す。
「これは…まさか、こんなものでスタンドが使えるように……?」
半信半疑の表情ありありで、ブチャラティが受け取ったスタンドDISCを頭に挿入する。
「……ならない!」
『このDISCを頭に差しても、スタンド能力は使えません。外れです』
そして、ピッタリと頭の中にDISCの音声が流れるタイミングに合わせててゐが言った。
そうして、してやったりといった感じで意地悪そうに笑うのだった。
「まあ、外れがあるんだから、当たりもあるんだろうけど、私のところには来なかったみたいだね」
若干残念そうに、てゐがそうオチをつけた。
ブチャラティは呆れたようにため息を付き、頭から自動排出されたDISCを手に取る。
そして、DISCと腰に括りていたスプレー缶のような何かをセットにしててゐに突き返した。
「閃光手榴弾だ。ここのピンを抜いてから数秒で激しい光と音が出る。
ヤバイと思ったら躊躇なく使うんだ」
わけも分からず受け取ったてゐに、ブチャラティはそう続けた。
「ちょっと、ちょっと! こんなの渡しちゃって、ブチャラティはどうするのさ?」
「なに、もう一つあるからオレのことは心配ない。
それにこんな所に子供一人放り出すんだ。せめてもの餞別だと思ってくれ」
何故か怒ったようにも取れる雰囲気でてゐが詰めるも、ブチャラティは気楽な感じで取り合わない。
暫く言いあうも状況は変わらず、業を煮やしたのかてゐの素足がブチャラティのスーツの太ももの辺りに足跡をつけた。
「おいおい、何が気にいら……」
「西のほうだと、兎の後ろ足が幸運のシンボルなんでしょ。そっちの風習に合わせてあげたのよ」
抗議の声を挙げかけたブチャラティを遮り、てゐが言った。
そして、疑問の表情を浮かべるブチャラティを見てこう続ける。
「鈍いわね。私の『人間を幸運にする程度の能力』を使ってやったってことよ。
……これで貸し借りなしだからね!」
てゐはそう言い残すと、OWSONを飛び出して行ってしまった。
ブチャラティからは見えなかったが、その表情には照れというよりは、軽い罪悪感のようなものが浮かんでいた。
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『OWSON』を飛び出したてゐが最初に行ったのは拠点の物色だった。
辺りは全体的には幻想郷の人里であるが、いくつかの建物が外界のものなのか未来的な様相をみせている。
ならばと、てゐは面白半分に外界風の建物を拠点にしようと決めて辺りをうろつき始めた。
まず、先ほどのコンビニエンスストアは、物資の調達には役立ったが、拠点として使うにはオープンすぎるので却下との判断を下す。
同じ理由で、次に見つかったカフェにも×をつける。
そうこう探すうちに、てゐは二軒並ぶように建っている外界の家屋を見つけた。
片方は取り立てて特徴のない一般住宅といった感じだったが、もう一方の廃屋のような家に目を引かれた。
敷地全体が石造りの塀で覆われていて、前庭への唯一の入り口も分厚い鉄の扉で阻まれている。
家自体も飾り気がなくどことなく堅牢な感じがし、立て籠もるにはぴったりかとてゐは考えた。
入口の鉄扉の前に立てば、そこには『立入禁止』……否、『立 禁止』と書かれた看板がぶら下がっている。
看板に若干不気味なものを感じつつも、てゐはここに決めたとばかりに扉を乗り越え、玄関から家に侵入する。
すると、さっそくというか、玄関には血痕が残っていて、てゐをゲンナリとさせた。
てゐが求めているのは籠城しやすい要塞であって、不気味なお化け屋敷ではないのだ。
気を取り直して家内を捜索してみると、やはり廃屋なのだろうか、わりかし賑やかな永遠亭に住んでいるてゐから見ると、全体的に生活感が薄い印象が感じられる。
そして、何箇所かに、玄関と同じく血の流れたような跡や、焦げ目、破壊された形跡などが見つかった。
特に、2階の外壁の一部が外から見たときは気が付かなかったが、人一人以上がくぐり抜けられる規模まで大きく破損していた。
「うーん、基本みんな飛べなくなってるから大丈夫だとは思うけど……」
根城にする家を間違えたかな、そう思ったてゐだが、逆にこの手の穴は逃走経路にもなるだろうと思い直す。
耐久性を考えても、幻想郷の木造建築よりはやはりマシだろうとの判断もある。
何より飛び出してから走りっぱなしだったし、ブチャラティに能力を使った際に思ったより疲れていて、さっさと休みたかったのだ。
最後に辿り着いた屋根裏部屋からは、天窓を通じて屋上に出られるようだった。
いざという時の逃げ道をそこに決めて、大概に図太く、部屋の隅に腰を下ろしてくつろぎ始めた。
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そのまま暫くして人心地ついた後、てゐはエニグマの紙の中から、先ほどブチャラティに見せた外れのスタンドDISCとその説明書を取りだした。
そして次々にそれと類似したDISCと説明書を同じように取り出して、まとめて床に広げる。
てゐの支給品が外れのスタンドDISCというのは、少しばかり正確な表現ではない。
外れのDISCと説明書、都合6組がセットになっていた「ジャンクスタンドDISCセット1」が正式な支給品名だ。
とはいえ、ブチャラティに見せなかった残り5枚も、結局はスタンド能力の使えない外れDISCに過ぎないため
嘘は全く吐いていない、というのが別に誰も聞いていないがてゐの主張である。
まあ、その一方でこの無言の嘘に対して閃光手榴弾を譲られるという予想外に、なけなしの廉恥心が刺激されたわけだが
割と気合を入れて幸運にする程度の能力を使ってやったので、てゐの中では貸し借り無しなのである。
閑話休題、別の参加者にも支給されているそれと同じように、いくつかの説明書とDISCには主催者からの「参加者に有益な情報」が含まれていた。
てゐに支給されたセット1には、コロッセオについての情報が記されている。
説明書によれば、コロッセオの真実の口の中に仕掛けがあるとのことだ。
そして、今回見せたのとは別のDISCには、紙に書かれても理解しにくいだろう仕掛けの操作方法が、実際に動かしたかのような感覚と共に記録されていた。
有益とは言いつつも、実際に何があるのかも明記されていない胡散臭い情報だが、はっきり言って戦闘には不向きで
支給品も他にないてゐとしては向かわざるを得ない。
会場に送られた直後はそう考えてコロッセオに向かい、そこで反対側から逃げてきたブチャラティに出会い、今に至るのがてゐの足跡である。
そしてこれからだが、ブチャラティからの情報を信じるならば、現状でコロッセオに向かうのはあまりに危険だ。
生まれも育ちも日本のてゐには、真実の口とやらとコロッセオの詳細な位置関係が分からず、現地での探索が必要になるだろうだけに
このまま調べに行けば、件のスタンド使いとの遭遇を避けられそうもない。
しかし、ソイツをブチャラティの見立て通りの吸血鬼と仮定するならば、朝日が昇れば屋内に引っ込むはずだとてゐは考える。
まずは、早朝を待ってこの宝探しをさっさと終わらせるのが先決だとてゐは考えた。
そして、その結果を持って、本格的に身の振り方を考える必要があるのだとも。
【E-4 人里・虹村億泰の家/黎明】
【因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:疲労(小)
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品、他(コンビニで手に入る物品少量)
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。どんな手を使ってでも生き残る。
1:保身を最優先。凶暴な参加者同士で潰し合っててほしい。
2:今回の異変を解決してくれそうな人物は支援する。(自分の不利益にならない範囲で)
3:早朝になったらコロッセオの真実の口の仕掛けを調べに行く。
4:鈴仙やお師匠様は…まぁ、これからどうするか考えよう。
[備考]
※参戦時期は少なくとも永夜抄終了後、制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※虹村億泰の家は、形兆戦直後の状態です。
<ジャンクスタンドDISCセット1>
因幡てゐに支給。
フー・ファイターズがエートロの遺体に寄生する前から守っていたスタンドDISC6枚。
プッチ神父がスタンド使いを殺害しながら生成したきたもの(数えてみたら全部で二十三枚あった)。
参加者の誰が使用してもスタンド能力は利用できない仕様。
説明書付き。
それぞれの説明書かスタンドDISC内に、主催者から参加者にとって
(ゲーム進行に置いて)有益な情報が一つ入っている。
このDISCセットにはコロッセオの真実の口についての情報が記載されている。
全部集めた人には何か良いことが(荒木談)
※真実の口の仕掛けを作動させた結果、何があるかは後の書き手さんにお任せします。
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そして、一方てゐと別れたブチャラティは、コンビニ『OWSON』に続き人里を離れて、水路沿いに西進を続けていた。
てゐと話しているときはおくびにも出さなかったが、コロッセオでの負傷はやはり無視出来るものではない。
そのため、ブチャラティは無理をせず、ゆっくりと歩を進めている。
「しかし、外れのスタンドDISCか……。性格の悪いものを支給しやがる」
ブチャラティは先ほどのOWSONでの出来事を思い返しながら、閃光手榴弾とは別に支給されていた、自身のもう一つの支給品を連想した。
その『聖人の遺体』とのみ説明が書かれた心臓と目玉は、用途の不明さと見た目のグロテスクさが相まって
てゐとの情報交換では表に出していなかった。
あるいは、この支給品も、てゐのスタンドDISCと同じく外れなのかもしれない。
先の会話を思い出しながら、ブチャラティはそう考えた。
因幡てゐと言えば、彼女に何か隠し事があるらしい感じは、ブチャラティにも分かっていた。
そして、スティッキー・フィンガーズと、ちょうど今思い返した聖人の遺体とやらの片割れを使えば
目玉をそれと知らず握りこませる脅し(初対面のジョルノに使った手)で、因幡てゐの動揺を引き出せただろう。
そうすれば、彼の『汗の味で嘘が分かる』特技によって、情報を隅から隅まで吐かせることも出来たかもしれない。
しかし、平時ならいざ知らず、この殺し合いの場で相手をパニックにさせるような行動がどんな不利益を呼ぶかを考え、そうすることはしなかった。
それに永遠亭の事を語っている最中の因幡てゐは、いかにも見た目相応の少女が家族の話をしていると言った感じだった。
それゆえ、一先ず殺し合いに明確に乗っていないのならばよしとしてしまったのだ。
どうもサン・ジョルジョ・マジョーレ島で組織を裏切ってからは、弱気というか、甘ったるくなってしまっているらしい。
ブチャラティはそう考え、自分を戒めるように首を振った。
そうして、いくらか歩き、水路の合流地点が見えてきたところで、ブチャラティの耳に、ふと人の声のような音が聞こえた。
夜の闇の中、目を凝らしてその方向を見てみると、対岸を学生服を着た少年が進んでいるのを発見した。
どうやら声の主はその少年らしかった。
そして、その少年は大きく後ろを振り返ると、最寄りの建物へ駆け込み姿を消した。
「香霖堂……いや、レストラン・トラサルディーか」
ブチャラティは地図に目を落とし、いましがた少年が姿を消した建物を確認する。
「背負っていたのは……人間か?」
最後に少年が振り返った際に、その背に見えた何かをブチャラティはそう推測する。
この会場で人を背負って移動しているということは推定シロだろうか。
あるいは背負っているのが死体ならば逆かもしれない。
どちらの可能性も頭に入れ、ブチャラティは少年の追跡を開始した。
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【D-4 平原(南部)/黎明】
【ブローノ・ブチャラティ@第5部 黄金の風】
[状態]:内臓損傷(中)、腹部に打撲(中) 、幸運(?)
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:聖人の遺体(両目、心臓)@スティールボールラン、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊し、主催者を倒す。
1:レストランに入っていった少年を追う。
2:ジョルノ達護衛チームと合流。その他殺し合いに乗っていない参加者と協力し、会場からの脱出方法を捜す。
3:殺し合いに乗っている参加者は無力化。場合によっては殺害も辞さない。
4:DIOを危険視。いつか必ず倒す。
[備考]
※参戦時期はローマ到着直前です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷についての情報を得ました。
※てゐの『人間を幸運にする程度の能力』の効果や時間がどの程度かは、後の書き手さんにお任せします。
○聖人の遺体(両目、心臓)@ジョジョの奇妙な冒険 第7部 スティールボールラン
ブローノ・ブチャラティに支給される。
スティールボールラン世界の北米大陸に散らばっている、腐ることのない聖人の遺体。
心臓、左手、両目、脊椎、両耳、右手、両脚、胴体、頭部の9つの部位に分かれて存在しているとされる。
手にした者の体内に入り込み、スタンド能力を発現させる、半身不随のジョニィの足を動かすなど、
数々の奇跡的な力を秘めているが、このバトルロワイアルではスタンド能力を新たに発現させることはできない。
但し、原作中で既に聖人の遺体によりスタンド能力を発現させていた参加者(大統領、ジョニィ)が
遺体を手放すことでスタンド能力を失うことはない。
(一時的に遺体の力でスタンド能力『スキャン』を獲得していたことのあるジャイロと、
大統領が遺体を全て集めて発動する『D4C・ラブトレイン』の扱いについては、
後の書き手さんにお任せします。)
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ブチャラティが彼を見つけるより少し前、虹村億泰は道に迷っていた。
正確に言えば、地図を見る暇すら与えられていない億泰は、どこを目指すでもなくさまよい続けていたのだ。
古明地さとりを救出した後、迷いの竹林に入ることでドッピオの追跡を撒こうとしていた億泰だが、その目論見はとりあえず成功したといえるだろう。
ドッピオは億泰を見失い竹林の奥深くに迷いこんでいき、逆に億泰は多少時間はかかったものの竹林から脱出する事に成功したのだ。
しかし、当の本人は逃げ切ったことを確信できず、未だ背後を気にしながら小走りに移動を続けていた。
軽い少女の体とはいえ、人一人を背負いながらの長時間走行は、彼の身体に多大な負担を強いている。
その疲労困憊の身体に、長きに及んで続く、追われているかもしれないというストレスが加わり
億泰の精神はかなり危ういところまで追い詰められていた。
「くそっ、仗助の野郎はどこに居るんだ……
それどころか家一軒見えやしねえし、どんなド田舎なんだよ、ここはよお」
竹が見えなくなったと思ったら、今度は原生林に沼地が現れるような会場に悪態をつく億泰。
親友は見つからず、背負った少女は心なしか容態が悪化しているようにも感じられ、焦燥は留まるところを知らず加速していく。
そんな折だった。森と水路に挟まれた立地に、見覚えのある建物が見えたのは。
「コ、コイツはトニオさんの店じゃあねえか!?」
その建物の正体に気づいた億泰は、声を抑えることも忘れて叫んだ。
先頃まで散々に迷った竹林に、左手に見える原生林など、明らかにここは杜王町ではないが、なぜトラサルディーが存在するのか。
当然そんな疑問も頭に浮かんだが、休むにも、隠れるにも、少女の容態を診るにも好都合だという現実の前にあっさりとかき消される。
「地獄に仏ってのはこの事か!
トニオさんにはわりいけど勝手に使わせてもらうぜ!」
知り合いの店だけに、若干の気がとがめるところがあったようだが、レストラン・トラサルディーに押し入ることにする億泰だった。
そしてその最中に、天啓のようにある発想が浮かんだ。
--この女の子だけどよお、トニオさんの料理を食わせればこれぐらいのケガは治るんじゃねーか?
自身が一度トラサルディーで料理を食べて『健康』になった時を思い返し、億泰の表情が次第に希望に満ちたものに変わっていく。
そうして、一度だけ大きく後ろを振り返り、一目散にトラサルディーに駆け込んでいった。
確かに、億泰の考えたようにトニオ・トラサルディーの料理ならば、さとりの負傷を治療することができるのかもしれない。
しかし、冷静に考えられる精神状態ならば気が付くことだが、厳密に言えば負傷を治すのはトニオの料理の中に混入している、彼のスタンド『パール・ジャム』だ。
果たして、この会場で手に入れられる料理にその効果は期待できるのだろうか?
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【D-4 レストラン トラサルディー/黎明】
【虹村億泰@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:未定。ただし、殺し合いに乗る気はない。
1:ツイてるぜ!トニオさんの料理を食わせりゃこれぐらいのケガなら治せる!
2:知り合い(東方仗助、広瀬康一、空条承太郎、岸辺露伴)と合流したい。
[備考]
※支給品をまだ確認していません。
※参加者名簿を一部確認しました。
(東方仗助、広瀬康一、空条承太郎、岸辺露伴の名は確認しています。吉良吉影の名は確認していません。)
※参戦時期は未定ですが、東方仗助、広瀬康一、空条承太郎、岸辺露伴の4名とは面識があります。
※能力制限の程度については、後の書き手さんにお任せします。
【古明地さとり@東方地霊殿】
[状態]:脊椎損傷による下半身不随、内臓破裂、
肉体疲労(極大)、妖力消費(極大)、精神疲労(極大)、
[装備]:草刈り鎌
[道具]:なし(基本支給品などの入ったエニグマの紙は、ディアボロに回収されました)
[思考・状況]
基本行動方針:未定。
1:気絶中。
[備考]
※参加者名簿をまだ確認していません。
※会場の大広間で、火炎猫燐、霊烏路空、古明地こいしと、その他何人かのside東方projectの参加者の姿を確認しています。
※参戦時期は未定です。
※読心能力に制限を受けています。東方地霊殿原作などでは画面目測で10m以上離れた相手の心を読むことができる描写がありますが、
このバトル・ロワイアルでは完全に心を読むことのできる距離が1m以内に制限されています。
それより離れた相手の心は近眼に罹ったようにピントがボケ、断片的にしか読むことができません。
精神を統一するなどの方法で読心の射程を伸ばすことはできるかも知れません。
※主催者から、イエローカード一枚の宣告を受けました。
もう一枚もらったら『頭バーン』とのことですが、主催者が彼らな訳ですし、意外と何ともないかもしれません。
そもそもイエローカードの発言自体、ノリで口に出しただけかも知れません。
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以上で終了です。
今後は連絡不備などが無いように徹底しますので、ご容赦お願いします。
また、内容に問題などありましたら、ご指摘お願いいたします。
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投下乙です!
遺体持ちのブチャラティが億泰に抱えられたさとりん(下半身不随)に急接近、これはまさか…!?
てゐもコロッセオの情報ゲット、何だかんだで他人任せながらも安全な方針なんだよね…w
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再確認、安全というわけでもないな
てゐは上手く隠れ蓑さえ見つかれば…
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投下乙です
トニオさんと言えば最近短編で出た
ばっかだな
「密漁」をします。
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ブチャラティいい様にこき使われると思ったけど、足跡つけるシーンとか不覚にもかわいいと思っちまったw
細かいかもだけど、てゐの行動指針の4に輝夜入れてやったほうがいいかな?
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>>226の予約の延長をお願いします
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>>263
ご指摘ありがとうございます。
輝夜が書き手枠参戦する前のデータを丸コピさせて貰ったので入ってませんでした。
なので>>254の状態表を一部修正します。
【因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:疲労(小)
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品、他(コンビニで手に入る物品少量)
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。どんな手を使ってでも生き残る。
1:保身を最優先。凶暴な参加者同士で潰し合っててほしい。
2:今回の異変を解決してくれそうな人物は支援する。(自分の不利益にならない範囲で)
3:早朝になったらコロッセオの真実の口の仕掛けを調べに行く。
4:鈴仙やお師匠様に姫様は…まぁ、これからどうするか考えよう。
[備考]
※参戦時期は少なくとも永夜抄終了後、制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※虹村億泰の家は、形兆戦直後の状態です。
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すいません今日は間に合いそうにないので破棄します。
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間に合わなかったので予約を破棄します。
延長までしたのに非常に申し訳ないです。
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予約ラッシュと延長ラッシュの次は破棄ラッシュか…
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予約って時間関係あるの?
何時に予約しようが日付が変わるまで有効かと思ってた。
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単に残りの時間でもまとまらないと判断しただけだろ
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すまん、したらば見て意味把握した
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したらば確認。
なんか勿体無いな、もうちょっと時間あれば完成していたっぽいのに。
ゲリラ投下とか駄目だっけ。
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一応、予約分が破棄されたのちのゲリラ投下は禁止しておりません。
ただ、他にその分を予約したい方がいらっしゃるかもしれないので
24時間以上経過してからでしたらルール上可能です
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ゲリラはおkみたいだよ
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そういえば仗助、康一、星、主催二人を予約した方は
ゲリラ投下するんだろうか?
主催が絡むし、まだ未登場の仗助、康一が
いるからぜひ読んでみたいんだけど。
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ジョナサン・ジョースター、
レミリア・スカーレット、
霊烏路空を予約します。
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紳士と淑女コンビ来た!カーズやDIOとはまだ遭遇しないのか
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なかなかやばい組み合わせだが、レミリアお嬢様が居れば何とか……なるのだろうか)ぇー
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ごめんなさい。
>>226の予約を一旦破棄します。
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用語集に破棄ラッシュも加えようぜ
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空条承太郎、博麗霊夢、フー・ファイターズ
予約します
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おお、予約が来た。
承太郎の回復次第で、戦況が変わりそうだ。
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星熊勇儀、魂魄妖夢、八雲紫、ズィー・ズィー
再予約します。
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東方仗助、広瀬康一、寅丸星、荒木飛呂彦、太田順也
追加で比那名居天子で再予約します。
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紅美鈴、ウェザー・リポート、多々良小傘、ジョルノ・ジョバァーナ、トリッシュ・ウナ
を再予約します。
みんな台風が悪いんや……!
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再予約旋風が到来……!
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再破棄旋風にならなきゃいいが……!
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>>285の予約、投下開始します。
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(向かってくるのは『赤毛』の方だけ、か……)
口元からにじむ血を手で抑え、ウェスは戦況を分析する。
奴らが『傘のガキ』からどこまで俺の能力を聞き出しているかは知らないが、
女一人で俺に向かってくるからには、何か『ある』に違いない。
それは十中八九、ある程度以上の戦闘能力を有する『スタンド能力』だろう。
……あるいは今しがた『金髪』に抱えられて物陰に隠れた『中国風の女』のような、カンフーの達人か?
いずれにせよ、この傷ついた体で奴と正面から殴りあう訳には行かない。
おまけに奴ら、この一帯に漂わせたはずのスズラン毒は全く効いていない様に見える……。これも奴らの能力か?
奴らの能力の正体が分からない。ここはやはり、逃げるべきか?
(……それだけは、できんな)
一瞬ウェスの脳裏をよぎった『逃走』の選択肢。だがそれは最悪の選択だと直感し、振り払った。
ここで逃げれば、手当てを受けて全快した『中国風の女』を含めた奴らと、3対1で戦う羽目になる危険性が高い。
奴らと違い、ウェスには頼れる仲間がいないのだ。
この会場に呼び出された、記憶を失っていた頃の仲間……徐倫、エルメェス、FF、(面識は無いが)徐倫の父親……。
彼らも皆、今のウェスにとってはペルラ復活の為の『障害』であり、『生贄』でしかないのだ。
(『独り』の俺が生き残るためには、一人一人『殺して』、一歩一歩『前に進む』しかない……!)
そうして改めて『覚悟』を決めたウェスは、折り畳まれた紙からバサバサした白い布切れがぶら下がっている、
長い木の棒……『お祓い棒』を取り出したのだった。
-
「行けッッ!」
ウェスは、『お祓い棒』の投擲を10メートル先まで近づいてきていた『赤毛』の少女に見舞った。
スナップを目一杯効かせて投げつけたお祓い棒が、ブーメランの様に回転しながら少女に向かってゆく。
「スットロいっ!」
少女はその軌道を難なく見切り、横にステップしてそれをかわす。
だが、まっすぐ飛ぶはずの『お祓い棒』は少女の居る方へ向かって
磁石が引かれるように軌道を変えてきたのだった。
「こ……これはッ!追いかけてくるッ!!あの男の『スタンド』なの!?」
(『欲張り大幣』……オーヌサ、の意味が分からんが、
どうやら使い物にはなるようだな……)
ウェスに支給されていたのは、ただの『お祓い棒』ではない。
打ち出の小槌の魔力を受け、妖器と化したお祓い棒だったのだ。
少女は遺跡の石柱の陰で、飛来するお祓い棒をやり過ごそうとする。
だが、石柱にぶつかろうとも、お祓い棒の回転力は弱まろうとしない。
風切り音と共に、ガシガシと狂ったように石柱を叩き続ける。
石柱を叩き壊さんとするかの勢いで……
「うあっ!」
いや、何とお祓い棒は石柱を実際に叩き壊した。
そしてその勢いそのままに、なおも血に飢えたお祓い棒が少女に迫る。
(この棒っ切れ、なんて『破壊力』なの!?
持ち主の性格を反映したのかしら、凶暴な『スタンド』だわ……
でも、このタイプの相手とは、闘った『経験』があるッ!)
意を決した少女は別の石柱の陰に隠れ、自らの『スタンド』名を叫んだ。
「スパイスッ、ガール!!」
-
少女の背後から、ピンクをベースカラーとする人型の『スタンド』像が出現した。
『WANABEEEEEEE!!』
そして、『スパイス・ガール』なるスタンドは叫び声と共に両腕で拳のラッシュを繰り出したのだった。
(この『赤毛』、『パワー型』のスタンド使いか……!だが何故、『お祓い棒』ではなく、『石柱』を殴った!?)
そう、『スパイス・ガール』が殴り掛かったのは本体を打ち据えようと迫り来る『お祓い棒』ではなく、
お祓い棒から防御する為に隠れた、『石柱』だったのだ。
そして、少女は殴った石柱をスタンドで地面から引き抜き、
そのままそれを掲げながらウェスに向かって突進してきたのだった。
当然『お祓い棒』は『スパイス・ガール』の本体を叩き潰そうと殴りかかるが……
「『物体を柔らかくする』……それがテメエのスタンドか……!」
「覚えておくと良いわ……『柔らかい』ということは、何よりも『壊れない』のよ」
スタンドが抱えた『ゴムの様に柔らかくなった石柱』に阻まれ、本体にたどり着く事ができない。
逆に少女は、石柱の盾でお祓い棒をいなすスタンドと共に、真っ直ぐウェスに向かって来ている。
「チッ……!」
このまま近寄られたら、傷ついたこの体であの『パワー型』のスタンドと殴りあうハメになる。
……勝機は薄い。そう悟ったウェスは『お祓い棒』を手元に戻し、
舌打ちと共に、少女から背を向けて走り去って行ったのだった。
「あの男……逃げる気ね!?」
『深追イスル理由ハ、アリマセン……トリッシュ』
ウェスを追いかけようとする少女だったが、そこは『スパイス・ガール』に制止される。
-
「でも……!」
『ソレニ……』
(シューーーーー)
「それに?」
『足元ガ危険デス』
(シューーーーーーーーーーーーーーー)
トリッシュの足元に、安全レバーが抜け落ち、信管から静かに煙を吹く手榴弾が転がって来ていたのだった。
「!!」
(シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)
B A N G ! !
「トリッシューーーッ!!」
乾いた炸裂音を聞きつけ、50m程離れた物陰で美鈴の治療に当たっていたジョルノが叫んだ。
「ジョルノーー!私は無事よーー!あの男は逃げたみたい!」
ジョルノの必死な叫びに対して、トリッシュは『何の問題も無い』という風な元気な声で応えた。
彼女は咄嗟に『柔らかくした』石壁で全身を覆って地面に伏せ、
手榴弾の破片と衝撃波から身を守っていたのだった。
石のクッションから這い出して、ジョルノの元に駆け寄ろうとするトリッシュだったが……
「ジョルノ!どこにいるの!いつの間にか『真っ暗』だわ!?」
先ほどまで周囲を薄明るく照らしていた『満月の月明かり』が消え、
夜の闇に覆われていたことに気付いたのだった。
「こちらの治療も済みました!今、『ランタン』を……」
ジョルノの言葉は、そこで途切れた。
-
カツン。
代わりにトリッシュの耳に、遺跡の石畳を固いものがぶつかる音が入ってきた。
カツン、カツーン。
『音』はトリッシュの周囲の至る所から聞こえ出していた。
背負っていた『石のクッション』越しに、何かがぶつかる衝撃が伝わった。
カカツッ、カツッ、カカカツッ、
カツカツカツカツカツカツカツカツカツカツ
『音』の密度はトリッシュの周りで見る見る増えていった。
地面にぶつかって弾け、トリッシュの脚にかかったそれは、
『氷』のように冷たく、すぐに解けて無くなった。
上空で一瞬フラッシュが輝いた。トリッシュが思わず見上げると、
空を覆う分厚い雲と、それに一体化してこちらを見下ろす『スタンド』像が見えた。
「ジョルノオォォーーーッ!!!スタンド攻げ…
ザガアアアアアアアアアアアアアアア!!
『音』の密度は、既に個々を聞き分けられない程になっていた。
トリッシュの叫びは、虚しくかき消された。
ウェスのスタンド能力・『ウェザー・リポート』の能力で生み出された雲から降り注ぐ
野球ボール大の『雹』が、ポンペイ周辺に容赦なく降り注いだ。
-
トリッシュがウェザーと交戦する間に、
ジョルノは無事に中国風の女性に『スズラン毒の血清』を投与することができていた。
血清はすぐに効力を発揮し始め、女性の血色が目に見えて良くなっていくのがわかった。
驚くべき生命力であった。
そしてトリッシュに位置を知らせるため、『ランタン』を頭上に掲げようとしていたジョルノは
突如、頭に何かをぶつけられたような強烈な衝撃を受けた。
額を血が伝い、意識が遠のくのがわかった。
大丈夫だ、ダメージは小さい。一分も経たないうちに、回復する……。
仰向けに倒れこむと、稲光を発する分厚い雲の中にスタンド像が見えた。
(これが、あの男のスタンド……)
気づいた時には、もう手遅れのように思えた。
自分の頭を叩いたであろう『雹』の音がどんどん増えていくのがわかった。
それらをさばき切り、自分と傍でまだぐったりしている中華風の女性を護るのは、
スピードに優れる『ゴールド・エクスペリエンス』でも至難の業であろう。
例え万全な状態でもあってもだ。
ましてや、意識が朦朧としてスタンドパワーが弱った現状では、到底不可能だろう。
(それでも、やるんだ……できるだけの事を……)
這いずる様にして石壁に向かい、
『ゴールド・エクスペリエンス』で屋根となる生物を生み出そうとするジョルノに、
追い討ちとばかりにさらに幾つもの氷塊が叩きつけられた。
殺虫剤を浴びた昆虫のように、ジョルノはとうとう動けなくなってしまう。
(だ、ダメだ……動けない……このまま雹に打たれ続けたら、死んでしまう……)
無慈悲に降り注ぐ雹の前に命運尽きたかに思われた、そんなジョルノ達の頭上で、
『スタンド』を呼び出す時のような掛け声が聞こえた気がした。
……だがその声も轟音によってかき消され、聞き取る事ができなかった。
そのままジョルノの意識はブラックアウトした。
-
約3分後。ようやく空から降り注ぐ雹は収まりつつあった。
ポンペイを覆っていた暗雲と轟音は嘘の様に消え、空には満月の輝きが戻っていた。
石造りの遺跡に積もった無数の『雹』が月明かりに照らされ、ある種幻想的な光景をもたらしていた。
「ジョルノォーーーーーーッ!!」
『石壁のクッション』から飛び出したトリッシュは、
石畳を覆い尽くした雹を蹴飛ばしながら走り回っていた。
「ジョルノ!!どこにいるのよッ!!無事なら答えてッ!!」
そうだ、ジョルノのスタンドなら、こんなもの簡単に防げるはずだ。
願いを込めて、トリッシュは叫んだ。
……『ジョルノらしきモノ』は、すぐに見つかった。
遺跡の一角に、降り積もった雹が不自然に盛り上がっている箇所があったのだ。
白い小山から這い出るようにして現れたのは、ジョルノだった。
その傍には中国風の女性と……オッドアイの少女の姿があった。
「うう……」
(ガシャッ………)
「ジョルノ!この子たちも……無事なの!?」
(シューーーーー)
「……!トリッシューーーー!こっちに来ちゃだめだあああああ!!」
(シューーーーーーーーーーーーーーー)
-
「『ゴールド・エクスペリエンス』!!手榴弾を、リンゴに変えろォォーーッ!!」
ジョルノの傍に落ちてきた『最後の一欠片』は、雹ではなかった。
わずかな落下音の違いを聞き逃さなかったジョルノがスタンドで
空から落ちてきた手榴弾を殴り、リンゴに変化させた。
完全にリンゴに変わった『手榴弾』を見てジョルノはようやく、トリッシュに近寄る許可を出したのだった。
「もう良いですよ、トリッシュ……ええ、ボクたちは大丈夫です。
傷を負いましたが……治せない程ではありません。
……彼女の『傘』が守ってくれなければ、危ないところだった」
3人が倒れていた小山の中には……竹と紙でできた、ボロボロに破壊された何かが大量に混じっていた。
一番上でうつ伏せに倒れていたオッドアイの少女が、息も絶え絶えにつぶやいた。
「身体は傘でできている……ねえ、私の傘……役に立った?」
……彼女が大事そうに携えていた傘は、骨組みがバラバラに破壊されて柄だけになっていた。
だが、3人の周りに散乱していたおびただしい量の傘の残骸は、それだけでは説明が付かない程の量だった。
化鉄「置き傘特急ナイトカーニバル」。
彼女は、妖術で無数の傘を呼び出し、自動車のボディさえへこませる程の雹の猛攻から、
今まで必死に耐えていたのだった。
「正直、貴女の事を見くびっていたわ……
見ず知らずの人を守る為に、こんな危険を冒す勇気があったなんて」
「そんなんじゃ、ないの……私、傘として生まれたのに、
今まで傘らしいことってできたことがなかったから……」
そう言い残して目を瞑り、ぐったりとする少女の表情は
もう何も思い残すことが無いというほどに安らかだった。
-
★★
ウェス・ブルーマリンは既にポンペイの遺跡を後にしていた。
「ハッ、……ハッ、ハアッ……クソがっ……」
大した距離を走ったわけではないはずなのに、息が切れる。
16歳の頃の記憶を取り戻したウェスだったが、
この身体は『39歳』なのだ。歳の割には若々しい姿形の彼だが、
既に体力に衰えが出始めていてもおかしくない年齢なのだ。
記憶喪失の囚人として過ごしてきた空白の二十余年が、恨めしく思えてきた。
「爆発はどうした……!」
舌打ちと共に遺跡を振り返るウェス。
あの『赤毛』のスタンド使いは、雹でも手榴弾でも殺せないだろう。
ならばせめて、『カンフー女』と『金髪』の生命だけでも頂く。
雹の止む間際に、手榴弾を風に乗せて投げ込んでいたウェスだったが……
時間になっても期待していた爆発音は聞こえてこなかった。
どうやら何らかの手段で手榴弾は無効化されてしまったらしい。
この戦いだけで貴重な手榴弾を『3個』も消費してしまったが、
スタンドがあるウェスにとってそれは大した問題ではないから、まあいい。
それより身体のダメージが深刻だ。
奴らのような強敵を全て殺し尽くし、自分一人が生き残ることが、
いよいよ途方も無いことのように思えてきた。
それでも彼は止まれない。
重い体を引きずって、かたつむりの様に、這いずるように、ウェスは前に進むことしかできなかった。
-
☆☆
『中国風の女性』こと紅美鈴の意識も既に回復していた……いや、終始彼女の意識ははっきりしていた。
今まで彼女が沈黙を守り続けていたのは、敵から身を隠していたり、
声も届かないような雹の轟音のまっただ中にいて、
敢えて声を出す必要がなかったからに過ぎなかった。
だが、今は違う。
現在彼女は自分を助けてくれた金髪の少年と、傘の妖怪、
さらに雹と唐傘の残骸の山の、最下層で寝転がっているのだ。
体調はまだ万全ではないが、流石に息苦しさを我慢できなくなってきたので、
(あのー……皆さんそろそろ、どいてくれませんか?)
……と、話に『オチ』をつけようとしていたのだった。
……だったのだが……
耳元に転がっていた一際大きな氷塊が砕け、金具のような物が外れる音と共に、
『あの』噴気音が聞こえ出してきたのだ。
(シューーーーー)
-
『外界』の武器には詳しくない美鈴だったが、
この音が何を意味するかは、今までの一部始終から理解していた。
不運にも皆、この音には気づいていないようだ。
分厚い氷と紙の層に阻まれているせいだろう。
(シューーーーーーーーーーーーーーー)
今の状態の彼女にできることは、残された時間はもう多くはなかった。
「退けえッ!!」
上に乗っていた二人を思い切り突き飛ばし、
(シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)
手榴弾に覆いかぶさって、ありったけの『気』でそれを包み込んだ。
バ ズ ン !!
くぐもったような、地面を伝わるような破裂音が響いた。
うずくまる美鈴の上半身を貫いて、大穴が空いた。
背中に乗っていた、下駄を履いた唐傘(だったもの)もコナゴナに吹き飛んだのを除いて、
衝撃波と破片が3人を襲うことは防がれた。
だが……即死だった。手榴弾の爆発を一身に受けた紅美鈴は、
別れの言葉さえ口にできぬまま絶命したのだった。
-
★★
今回の戦闘でウェスの使った3つの手榴弾。
1つ目は『赤毛のスタンド使いの小娘』の牽制に放った。
雹が止む間際に奴らのそばへ投げ込んだのが『3つ目』だ。
『2つ目』は……安全ピンを抜いてレバーが外れかけた状態のまま氷で包み、
雹を降らせる最中の雲の中へ送り出していたのだった。
美鈴が生命を掛けて封じ込めたその爆発の音は、
ウェスの耳まで届く事はなかったのだった。
☆☆
「……彼女は、即死です……僕がもう一つの手榴弾に気づいていれば……」
「そんな……ジョルノとこの子を守って……」
ジョルノの『ゴールド・エクスペリエンス』は生命を産み出すスタンド。
肉体の部品を創りだすことで傷を治すことができるが、
一度死んだ者を生き返す事は(基本的には)できない。
死者の傷を治しても、きれいな死体ができるだけだ。
だが、今彼らにとって重要なのは『まだ生きている者』の事だ。
ジョルノ達に助けを求めてきた『青い服の少女』の、意識が戻らないのだ。
彼女の傷も軽くはなかったが、致命傷といえるほどではなかった。
そしてその傷は今完全に治療されたハズなのに、である。
「ジョルノ、どうしてこの子は目を覚まさないの?
『傷を治す時だけ、いつもよりスタンドパワーを消耗する』のと何か関係があるの?」
「わからない……ただ、このままだとマズイ事は確かです。
もしかしてこの子が大事に抱えていた紫色の傘。
……実体を持った彼女の『スタンド』だったのかも知れない」
「今、コナゴナになった、あの傘が……?じゃあ、この子も、もう……」
「今の段階では何とも言えません。でも、傷ついた『スタンド』だって、回復できるんです。
あの男はどうやら逃げたらしい……まずは、この子を安静にできる場所を探しましょう。」
こうしてジョルノとトリッシュ、
そしてジョルノに背負われた『傘を失った唐傘お化け』の計3名は、ゆっくりとポンペイを後にした。
後には月光を浴びて白銀に煌めくポンペイの遺跡と、その一角で咲き乱れる葬花の花壇が残った。
その風景は目の覚めるような美しさだった。
-
【B−2 ポンペイを出発/深夜】
【ウェス・ブルーマリン(ウェザー・リポート)@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:肋骨、内臓の損傷(大)、背中への打撲(中)、疲労(大)、服に少し切れ込み(腹部)
[装備]:妖器「お祓い棒」
[道具]:手榴弾×2@現実、不明支給品(現実出典・0〜1個)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ペルラを取り戻す。
1:皆殺しだ。
2:エンリコ・プッチは絶対にこの手で殺す。
3:ジョルノ達一行から一旦離れ、休憩する。
4:この先、たった『独り』で戦い抜くのは難しいかもしれない。
5:あのガキ(ジョルノ)、何者なんだ?
[備考]
※参戦時期はヴェルサスによって記憶DISCを挿入され、記憶を取り戻した直後です。
※肉親であるプッチ神父の影響で首筋に星型のアザがあります。
星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※制限により「ヘビー・ウェザー」は使用不可です。
「ウェザー・リポート」の天候操作の範囲はエリア1ブロック分ですが、距離が遠くなる程能力は大雑把になります。
【B−2 ポンペイを出発(ウェスと別方向)/深夜】
【ジョルノ・ジョバァーナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(中)、雹で打たれた傷は治療済み、スズラン毒を無毒化
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:この子(小傘)を安静にできる場所を探す。ウェスの居ない方へ向かう。
2:ミスタ、ブチャラティに合流したい。
3:ディアボロをもう一度倒す。
4:あの男(ウェス)、何か信号を感じたが何者だったんだ?
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限として、
『傷の治療の際にいつもよりスタンドエネルギーを大きく消費する』ことに気づきました。
他に制限された能力があるかは不明です。
※星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※地図、名簿は確認済みです。
※小傘の名前をまだ聞いていません。美鈴の名前を知りません。
-
【トリッシュ・ウナ@第五部 黄金の風】
[状態]:体力消費(小)、スズラン毒を無毒化
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品(本人確認済み、武器でない模様)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間と合流し、主催者を倒す
1:この子(小傘)を安静にできる場所を探す。
2:ミスタ、ブチャラティに合流したい
3:ディアボロをもう一度倒す
[備考]
※参戦時期は五部終了後です。能力制限は未定です。
※血脈の影響で、ディアボロの気配や居場所を大まかに察知できます。
※地図、名簿は確認済みです。
※小傘の名前をまだ聞いていません。美鈴の名前を知りません。
【多々良小傘@東方星蓮船】
[状態]:意識不明、疲労(大)、妖力消費(中)、スズラン毒を無毒化、身体の外傷は治療済み
[装備]:無し
[道具]:不明支給品(ジョジョor東方)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗りたくない
1:…………………………
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
※本体の一部である化け傘をコナゴナに破壊されました。
化け傘を失った影響で小傘の身に何が起こるかは、後の書き手さんにお任せします。
※ウェスの攻撃により、B―2 ポンペイの特に東半分は鈴蘭毒に汚染されました。
人間、妖獣は若干の眠気程度ですが、妖怪などは吐き気、頭痛などの症状が発生します。
なお、ジョルノ、トリッシュ、小傘の3名はジョルノのワクチン(血清)により無毒化できています。
※ウェスの攻撃により、B―2 ポンペイに雹が降り積もりました。
※紅美鈴の遺体は、B―2 ポンペイの一角で花に覆われています。
-
支給品紹介です。
作劇上の都合から、手榴弾の設定を追加しています。
<妖器「お祓い棒」@東方輝針城>
打ち出の小槌の魔力を受け、ある程度の自律稼働が可能となった霊夢のお祓い棒。
一般的なお祓い棒に比べると、柄が長い。
霊力・魔力・スタンドパワーなどの精神の力を込めて投げることで、
持ち主の近くの『敵』を自動追跡して殴りかかる機能(欲張り大幣)を持つ。射程は20m程度。
更に強い精神の力を込めながら手で持って殴りかかることで、
巨大化し強力な打撃を放つことができる。(無慈悲なお祓い棒)
<手榴弾(2/5)>
多々良小傘に支給。
実際の兵器としてお馴染みの投擲用爆弾。
安全ピンを抜いて安全レバーを取り外すと、数秒後に爆発し、周囲に衝撃波と破片をばらまく。
現在はウェス・ブルーマリン(ウェザー・リポート)が所持。
-
以上で今回の投下を終了します。
-
投下乙です!
最後の最後にウェザーの手榴弾が美鈴を仕留めるとは…
しかし小傘ちゃんが思わぬ活躍を…!美鈴が死んだ時点で悲しいのでせめて生きて小傘ちゃん!
-
投下乙です
切り抜けたと思ってホッとしたのに最後の最後で……。
即死だったのは幸か不幸か。
ウェザーはクソ強いスタンドに支給品まで加わって
手負いとは言えこれから先も活躍しそうで怖い。
-
投下乙です。
うごご…東方ロワに続いて、ここでも美鈴は誰かを守って退場かぁ…
美鈴らしいけれど悲しい…
-
夢だろ……?これ……っ
-
紅魔館組が4人中2人落ちたか。レミリアもE-4包囲網の真っ只中だし第一回放送前に全滅もありうるな
-
投下乙です。
雹から人を守る。
実に傘らしい活躍。
ウェザー・リポートは、ほんと皆殺し向きの能力だな。
-
もしもヘビー・ウェザーが制限されてなかったらあっという間に全部終わっちゃうよな
-
にほんごの ほうそくが みだれてる!
>>294最後のほう
×
ウェスのスタンド能力・『ウェザー・リポート』の能力で生み出された雲から降り注ぐ
野球ボール大の『雹』が、ポンペイ周辺に容赦なく降り注いだ。
○
ウェスのスタンド能力・『ウェザー・リポート』の能力で生み出された雲から降り注ぐ
野球ボール大の『雹』が、ポンペイ周辺のありとあらゆるものに襲い掛かった。
スンマセン>>1さん、wiki掲載の時はこう直してくれると有り難いです……。
-
対応ありがとうございます。
-
予約の延長をお願いします。
-
空条承太郎、博麗霊夢、フー・ファイターズ
投下します
-
「…承太郎。調子は?」
「良好とは言い難いな。だが、さっきよりはマシになってきている」
「そう。私も…まぁ同じね。身体はヒリヒリするけど」
博麗霊夢。幻想郷の結界の管理者である博麗の巫女。
空条承太郎。時を止める能力を持つ最強のスタンド使い。
廃洋館を後にし、二人はD-3の川沿いの草原にて会話を交わしていた。
互いに身体に傷を負っているが、最低限の処置は既に行っている。
とはいえ、先程の戦闘で消耗してしまったのも事実だ。そんな状況の中、二人は今後の一先ずの目標について話し合う。
二人の目標の一つは主催者に立ち向かう為の戦力を募ること。弱者も見つけ次第保護はするつもりだ。
しかし参加者は総勢90名。うち半分は霊夢も見知っている幻想郷の住民達だったが、かといって全員が信頼出来る相手かと聞かれれば首を傾げざるを得ない。
生き残る為に殺し合いに乗りかねない妖怪なんてザラにいるのだ。
承太郎の紹介した『仲間』は間違いなく信用に値出来るのだろうが、あとは半分近くの参加者が全く見知らぬ者達。
言わばベールに包まれた存在だ。その中で殺し合いに乗る参加者は少なからずいるだろう。
参加者だけでなくアヌビス神のように戦闘を促進させる支給品まで紛れ込んでいる以上、警戒は必須だ。
ましてや今の自分達は手負いの状態なのだから。
今後の行動を決め倦ねるように少しだけ考え込んだ後、霊夢は承太郎に声をかける。
「とりあえず、承太郎。あんたのアザ…さっき聞いたけど、それで自分の血縁者の気配を探れるんでしょ?」
「かなり大雑把だがな…せいぜい『あっちに居るような気がする』程度のもんだ。今感じ取れるのは…恐らく3つか、4つ」
-
少し前に承太郎から聞いたことだ。
『ジョースター』という一族の血を引く者の首筋には星型のアザがあり、それが互いに共鳴し合うと。
不思議なことに、同じアザを持つ者同士で(かなり大雑把らしいが)互いの位置を認識出来るらしい。
エジプトでの闘いの時はまだ不確かで曖昧なものだったが、この会場に来てから共鳴が明らかに『強くなっている』。承太郎はそう言っていた。
とはいえ、それでも相当大雑把な探知ではあるという。現に感じ取れるアザの気配が「恐らく3つか4つ」という曖昧な返答が返ってきたのだから事実なのだろう。
「本当に曖昧ね…もう一度確認するけど、あんたの血縁者は」
「そうだな…名簿で確認出来る中で、この星型のアザが間違いなく共鳴するのは少なくとも3人。
俺の祖父のジョセフ・ジョースター、とうの昔に死んでるはずの高祖父のジョナサン・ジョースター…本物だったら、の話だがな」
自らの首筋に触れながら、承太郎は追憶するように語る。
そして僅かに険しい表情を浮かべながら、彼は3人目の名を口にする。
「そして、DIO。奴はジョナサン・ジョースターの肉体を乗っ取っている」
「それ故に、そいつに流れてる血の半分は『ジョースター』のものってことね」
DIO。この星型のアザは奴の肉体とも引かれ合う。
アザが共鳴する以上、彼の位置も曖昧ながら特定することが出来るということになる。
恐らくそれはDIOも同じことだろう。奴がジョースターの血統を根絶やしにすべく、アザの共鳴を頼りに動くかもしれない。
星型のアザは血縁者を捜す為のレーダーにもなるが、同時に宿敵との邂逅を余儀なくされる運命の鎖でもあるのだ。
「もしそのDIOって奴と会ったとして、私達に勝機はある?あんた、一度は倒したって聞いたけど」
「奴の強さは理解してるが、俺とあんた…二人掛かりなら勝ち目はあるだろう」
あんたの強さは理解している、と付け加えつつ。
承太郎は先程の闘いで霊夢本人の実力も把握していた。
あそこまでアヌビス神を『使いこなしていた』のだ。それにマスタースパークを突破したあの能力。
アヌビス神の能力だけでは説明がつかないアレは、恐らく彼女自身の力なのだろう。
承太郎はそう結論付けつつも、一言付け加えるように呟く。
「…万全を期せば、の話だけどな」
「…で、今は万全かと言うと」
「今あんたが思ってる通りだ」
「でしょうね…」
霊夢は軽く溜め息をつくように呟く。
処置は施したとはいえ、肉体の疲労や負傷、霊力の消費、片腕を除いたスタンドの封印など二人の状態は万全とは言い難い。
このような状態でDIOと遭遇した所で勝ち目があるか、と聞かれてYESとは答えられないだろう。
DIO以前に、アヌビス神の『本体』が撤退せずに戦闘に持ち込まれていれば敗北していたかもしれない。
-
「ま、今は別の仲間を集める方が優先ね。可能ならばあんたの言ってた仲間と、信用出来そうな私の知り合い。
アザの気配を持つ参加者との接触は…保留かしらね」
「どちらかといえば『DIOらしき気配との接触は保留』だな。
ジジイならまだいいが、他の気配となると俺も知らない血縁者…うち一人はあのDIO。
もし今の状態の俺達でDIOと戦闘したとしても、勝利の見込みは薄い」
現状、DIOとアヌビス神という厄介な敵が二人居る。
奴らに確実に対抗する為には数が必要だ。一対一での勝負も万全の状態なら出来なくもないが、敗北も十分に有り得る。
仲間を捜す為に星型のアザを頼りにすることも考えたが、実際の所承太郎はジョセフ以外のジョースターの血統については殆ど知らないのだ。
ジョナサンのことも精々『ジョセフの祖父で、DIOに肉体を乗っ取られている』と聞いている程度。
それ以外にも「ジョニィ・ジョースター」という名が名簿に記載されていたように、未知のジョースターの血統が少なからずこの会場には存在するのは確信していた。
星型のアザで互いに引かれ合うのは間違いないが、彼らが全員『仲間』と成り得る参加者かの確証が取れないのだ。
もしも彼らの中に『乗っている者』がいたら、同じアザを持つ者達は絶好の獲物も同然になる。
低精度とはいえ、発信器を埋め込んでいるかの如く互いの位置を認識し合うことが出来るのだから。
故に積極的な接触は避けることにした。それに、ジョースターの血統が一か所に密集すればDIOにも感付かれてしまうかもしれない。
(あと…『空条』の名を持つ人間も此処にはいる)
もう一つ気になっていたことは、空条徐倫という名の参加者の存在。
何故かは解らないが、偶然名字が被っただけの無関係の人物とは思えない。
出来れば、この徐倫という人物ともいずれは会ってみたいが…今はまだ保留だ。
ともかく、現時点で必要なのは他の仲間と成り得る参加者だ。
「霊夢。この会場の様子は幻想郷と殆ど変わらないそうだが…人の集まりそうな場所を知っているか?」
「篭城に使えそう、って意味なら…近場だと紅魔館とか」
すぐ隣のエリア、C-3の霧の湖に浮かぶ小島に存在する『紅魔館』。
死に別れた十六夜咲夜の帰る場所。そして、吸血鬼レミリア・スカーレットの住まう館。
幻想郷の中でも特に大きな建造物であり、篭城の拠点としてはもってこいだと言う。
そして――――――
「…レミリアには、会っておきたいわ。あいつには…咲夜のこともあるし」
「…………。」
紅魔館の主であるレミリアが訪れる可能性もある。
霊夢によれば「あいつなら『主催者が気に入らない』とか言いそうだし、きっと殺し合いには乗らないと思う」とのことだ。
今の霊夢には咲夜のことで少しでも負い目があった。
結果的にレミリアの従者である咲夜を死なせることになってしまったのだから。
だからこそレミリアには一度会いたかった。彼女のことを伝えたかった。
「…ま、会えればの話よ。会えなければ、仕方が無いと考えるから」
柄にも無い、と言われるかもしれない。それでも構わなかった。
承太郎は無言で頷き、彼女の意思を承諾する。霊夢が僅かに見せた繊細な表情は、すぐに先程までの気丈なものへと変わる。
-
「それに、殺し合いに乗りたくない消極的な連中が立て篭ってる可能性はありそうよ。
…そうでなくとも、私達みたいに他の参加者との接触を試みようとする連中が訪れてくる可能性だってある」
「…そうであると信じたい所だな」
「乗ってる連中が先に来ていなければいいんだけどね…『序盤』はまず数を減らしに行くでしょうし、立て篭るなんて真似はしないと思うけど」
それもそうだな、と呟きつつ承太郎はデイパックから地図を取り出して地形を確認する。
廃洋館からそう遠くない川沿いである為に現在地の把握は容易だ。
紅魔館が存在するのは、此処から見て西の方角。
「他に目星を付けられる施設は…ジョースター邸か」
「…そういえば、ジョースター邸も気になる?あんたの一族と同じ姓のようだし」
「一応はな。あんたがいいって言うなら、紅魔館に赴く前に一度寄ってみたい」
幻想郷を模しているであろう会場に、ジョースターの名を冠する施設の存在。
承太郎は当然の如く疑問を抱いた。ジョースター邸とは一体何なのか?
引っ掛かるものを感じた承太郎は、一度そこへ足を運ぶことを考えたのだ。
それに紅魔館と同じように名簿に記載されている以上、こちらにも多少なりとも人が集まる可能性はある。
「…構わないわよ。ジョースター邸を経由して、紅魔館に移動で」
「よし、決まりだな」
霊夢の承諾の言葉を聞いた直後に、承太郎は川沿いを移動し始める。
無論、向かう先は西側。川の流れの先―――霧の湖の存在する方角だ。
霊夢も彼に追従するように歩き始める…が。
「………。」
「どうした?」
「…いえ、何でもないわ」
一瞬、霊夢が背後を振り向いた。それに気づいた承太郎は足を止め、彼女に問いかける。
しかしすぐに霊夢はそう答え、再び承太郎と共に歩き出す。
気のせいだったのか…?承太郎はそう判断し、彼もまた再び歩を進めた。
(………。)
承太郎と共に川沿いを進む霊夢。
彼女はほんの僅かながら、何かを訝しむような表情を浮かべていた。
そう、不気味な感覚のする…何かを。
(…今…誰かに、見られていた?)
-
◆◆◆◆◆◆
(『空条承太郎』…)
一定の距離を取り、川底に潜みながら『彼』は二つの影を睨むように監視する。
フー・ファイターズ。彼は人間の肉体を手に入れるべく、人里付近の墓場を一先ずの目標にしつつ道中で隙を見せている他の参加者を襲撃する手筈で川を移動していた。
しかしその途中、彼は川辺で二つの影を発見した。巫女装束の少女に、帽子を被った学ラン姿の男。
彼らにこちらの存在を気付かれなかったのはある程度距離が離れていたこと、気配を殺して川底に潜んでいたこと、そして視界の悪い黎明の薄暗さ故だろう。
もしも空条承太郎のスタープラチナが万全の状態だったならば、その五感を以て彼の気配を探ることが出来たかもしれない。だが、あくまで『もしも』の話だ。
―――少女は男のことを『承太郎』と呼んでいた。名簿に記載されていた『承太郎』という参加者は、あの『空条承太郎』のみ…
(名簿でヤツの名は確認していたが…何故だ…?)
空条徐倫の父親、空条承太郎。私が守っていたDISCの中にはヤツの『スタープラチナ』のスタンドDISCも含まれていた。
記憶DISCは神父が保管している。本来ならばヤツは仮死状態のまま眠りについているはずだ。
だが、たった今目撃した承太郎は平然と意識を保ったまま行動している。
明らかにDISCを『奪還』されている状態だ。
(スタンドDISCを取り戻されただけで覚醒するはずがない…まさか、神父の持つ記憶DISCすらも奪還されたというのか…?)
あの様子だと、最低でも記憶DISCは奪還されているだろう。
もしスタンドDISCまでヤツの手に渡っているとなれば相当厄介な事態になっていると言えるだろう。
無敵のスタープラチナ。あのプッチ神父さえもその強さを認めていた。
それが空条承太郎自身の手に取り戻されているとなれば…鬼に金棒、とはまさにこの事だ。
(DISCを護ること、それがこの私の役目だ)
相手は最強のスタンド使いと称される程の戦闘者と聞く。
圧倒的な能力を持つ無敵のスタンド「スタープラチナ」、そして本体の天才的な判断力。
現状負傷しているとはいえ、直接戦闘となれば決して油断は出来ないだろう。
ましてや今の自分は水辺を離れることが出来ない。制限を課せられ、先程の敗北もある以上、下手に攻めるのは危険だろう。
しかし自分の役目はDISCを守護すること。奪還されたとなれば尚更だ。
必ず承太郎からDISCを取り戻さなければならない。
移動を開始した二人を遠目から見据えつつ、彼は川底をゆっくりと泳ぐように移動し始める。
向かうは再び霧の湖の方角。川沿いを移動する奴らの隙を突き、襲撃を行う。
フー・ファイターズは己の使命を果たすべく、空条承太郎の追跡を開始した。
今の彼にとって、DISCの守護こそが唯一の存在意義なのだから。
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【D-3 川沿いの平原(西方)/黎明】
【博麗霊夢@東方 その他】
[状態]:右肩脱臼(処置済み。右腕は動かせますが、痛みは残っています)
左手首に小さな切り傷(処置済み)、全身筋肉痛(症状は少しだけ落ち着いてきています)、あちこちに小さな切り傷(処置済み)
肉体疲労(小)、霊力消費(大)
[装備]:いつもの巫女装束、アヌビス神の鞘、
[道具]:基本支給品、自作のお札(現地調達)×たくさん
DIOのナイフ×5、缶ビール×9、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)
その他、廃洋館で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:この異変を、殺し合いゲームの破壊によって解決する。
1:ジョースター邸を訪れた後、紅魔館へ移動。
2:戦力を集めて『アヌビス神』を破壊する。殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:いずれ承太郎と、正々堂々戦って決着をつける。
4:出来ればレミリアに会いたい。
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※太田順也が幻想郷の創造者であることに気付いています。
※空条承太郎@ジョジョ第3部の仲間についての情報を得ました。
また、第2部以前の人物の情報も得ましたが、どの程度の情報を得たかは不明です。
※白いネグリジェとまな板は、廃洋館の一室に放置しました。
※フー・ファイターズの気配をほんの僅かに感じ取っています。
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:右手軽い負傷(処置済み)、全身何箇所かに切り傷(処置済み)、肉体疲労(小)
左腕以外のスタンド封印(時間とともに回復しますが、その速度は不明です)
[装備]:長ラン(所々斬れています)、学帽、ミニ八卦炉
[道具]:基本支給品、DIOのナイフ×5、缶ビール×2、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)
その他、廃洋館で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の二人をブチのめす。
1:ジョースター邸を訪れた後、紅魔館へ移動。
2:花京院・ポルナレフ・ジョセフ他、仲間を集めて『アヌビス神』を破壊する。DIOをもう一度殺す。
その他、殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:霊夢他、うっとおしい女と同行はしたくないが……この際仕方ない。
4:あのジジイとは、今後絶対、金輪際、一緒に飛行機には乗らねー。
5:霊夢との決着は、別にどーでもいい。
※参戦時期はジョジョ第3部終了後、日本への帰路について飛行機に乗った直後です。
※霊夢から、幻想郷の住人についての情報を得ました。女性が殆どなことにうんざりしています。
※星型のアザの共鳴によって同じアザの持つ者のいる方向を大雑把に認識出来ます。
正確な位置を把握することは出来ません。
【D-3 川底/黎明】
【フー・ファイターズ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:プランクトン集合体(むき出し)、川に潜水中
[装備]:なし(本体のスタンドDISCと記憶DISC)
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット2、不明支給品@現実
[思考・状況]
基本行動方針:スタンドDISCを全部集める。基本手段は選ばない。
1:川の中に身を隠しつつ、『空条承太郎』を追跡。隙を突いて襲撃し、DISCを取り戻す。
2:DISC回収と寄生先の遺体の確保の為、隙のある参加者を中心に襲撃する。
3:墓場への移動は一先ず保留。
4:空条徐倫とエルメェスと遭遇すれば決着を付ける。
[備考]
※参戦時期は徐倫に水を掛けられる直前です。
※能力制限は現状、分身は本体から5〜10メートル以上離れられないのと
プランクトンの大量増殖は水とは別にスタンドパワーを消費します。
※空条承太郎のDISCが奪還されていると思っています。
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投下終了です。
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします
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投下乙です。
この承太郎はDISC作られてないしなあ。
FFどうすんだろ。
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投下乙です。
FF〜、近くに丁度いい死体あるよ〜(ゲス顔)
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投下乙です。
主人公コンビが空中分解してなくてよかった。
FFも付いて来るとなると、ジョースター邸も紅魔館も、コイツラが通ると激戦区化しそう。
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投下乙です。
主人公コンビは本ロワの看板として頑張ってほしい所だな
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申し訳ございません、>>320でミスを発見しました
(FFが参戦時期的にホワイトスネイクの本体を知らないことを失念)
wiki収録時に修正をお願いしたいです…
>>320
×記憶DISCは神父が保管している。
○記憶DISCはホワイトスネイクが保管している。
×(スタンドDISCを取り戻されただけで覚醒するはずがない…まさか、神父の持つ記憶DISCすらも奪還されたというのか…?)
○(スタンドDISCを取り戻されただけで覚醒するはずがない…まさか、ホワイトスネイクの持つ記憶DISCすらも奪還されたというのか…?)
×無敵のスタープラチナ。あのプッチ神父さえもその強さを認めていた。
○無敵のスタープラチナ。ホワイトスネイクの本体さえもその強さを認めていたらしい。
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>>326
主人公だから看板とも限らないんだぜ……?
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延長します
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あとほんの少しで出来上がりますが、時間が来てしまったので延長を申請します。
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星熊勇儀、魂魄妖夢、八雲紫、ズィー・ズィー
投下します。
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空から地上を照らす役が、穏やかな光を放つ月から燦々と輝く太陽に交代しようとしていく時に、二つの命が互いの命を刈り取らんと火花を散らせていた。
片や、剛力無双の鬼、星熊勇儀。
片や、妖剣にとりつかれた半霊の剣士、魂魄妖夢。
磁石のN極がS極を求めるようにして巡り合った二人は、このバトルロワイアルという狂気の沙汰の中に置いて、ただ相手を殺さんとする意志のもとに、その強大すぎる力と力をぶつけあっていた。
「うおおおりゃあっ!!」
「――見えるっ!!」
勇儀の持つ、あまりにも大きすぎる杉の木が、妖夢に振り下ろされるも妖夢は一瞬でその軌道を見切りかわす。
かわされた大ぶりの一撃は、大地を叩き、激しい轟音をかき鳴らす。
と、その一撃をかわした妖夢が空中からアヌビス神を振り下ろすが、振り下ろされた剣の軌道の前に太い幹が割り込む。
だがその幹も一瞬でバラバラにされていき、砕けた大地には木端が降り注ぐのみ。
「……クククク。幻想郷にいた時より動きが若干鋭くなっているんじゃあないか?剣士さんよぉ?」
「……斬るっ!!」
勇儀の問いかけも聞く耳持たず、といった感じで妖夢が駆け出す。
雷の如き速さで駆け抜ける妖夢の動きに合わせるように、勇儀はその身体を流していく。
それでも竜巻のような剣戟は、勇儀の肌に数多の細かい傷をつけていった。
だが、それでも勇儀は――嗤っていた。
すっぱりと切断された腕の切り口からも、あらわになった胸についた傷をはじめ、全身に細かくつけられた傷からも行くあてのない血がたらたらと流れ出ていくのも意に介さず、ただ嗤っていた。
「オオオオオオ!!」
猛獣ですらひれ伏さん程の雄叫びが、周囲の空気をびりびりと揺さぶっていく。
並みの人間ならそこで卒倒してしまいそうな空気の中、妖夢は退くどころかあまりにも冷静にその様を見つめていた。
「来い!!来いよぉ剣士さん!!もっと、もっともっと私を楽しませなよォッ!!」
笑っている。
まるで子供が野原ではしゃいでいるように笑っている。
だが笑いながら勇儀は、まるで超大型の台風のようにありとあらゆるものを薙ぎ倒さんともしていた。
純粋なる暴虐。
暴虐の権化と化し、狂おしいほどの笑いを浮かべながら勇儀は三分の一ほど斬り刻まれてしまった杉の大木をブン、とまるでその辺の棒っきれを振るかのようにブン回した。
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「さあ……今度はこっちから行くぞ!!」
全てを薙ぎ倒す轟雷と見まがう大木の振り下ろしが、妖夢に襲いかかる。
「……遅いっ!!」
だが対峙する妖夢は迫りくる杉の木を前に退くそぶりは微塵も見せない。
と、次の瞬間、妖夢の目前に迫っていた大木に放射状にヒビが入り、そこを中心として一気に割れていった。
「……ほう?」
予想外の事態に、勇儀は右の眉を少し上げる。
その視線の先には、さっきまで自分の身体の一部だった右腕を突き出した妖夢が立っていた。
「流石は鬼の腕……凄い力……」
元の主を離れてもそこは腐っても鬼の腕、この程度の大木を砕くなど造作もない事だった。
「……フン、少々ハンデを与えすぎたか?」
「いや……そうでも、ない。」
舌打ちをしかけた勇儀の前で、妖夢は持っていた勇儀の腕をポロリ、と落とした。
こぼれおちた鬼の腕はズシンと音を立てて、地面に突き刺さった。
「流石鬼の腕……痺れる……」
「……フフフフ!!所詮貴様ごときに扱えるようなヤワな腕じゃあないんだよ!!息も上がっているじゃあないか!?」
「笑止!!」
次の瞬間、妖夢は地面を蹴り空高く跳びあがった。
「獄界剣『二百由旬の一閃』!!」
上空に飛んだ妖夢から発射された無数の大きな青い球がぱっくりと両断され、その中からさらに多い赤い球が勇儀に向かい降り注がれる。
だが勇儀は瞬時に身を翻し、この弾幕を少し被弾しつつもかわしながら体勢を立て直していく。
「フン、それがお前の本分かい!?」
「貴様を殺せればそれで良いっ!!」
「……そうかい!!それじゃあ、失望させてくれるなっ!!」
そう叫ぶと勇儀はドシンと大地に一歩を踏みしめた。
と、次の瞬間、勇儀の周辺に高密度の動かない弾幕が生成された。
「フフフ……剣士さんよ、さっきお前は『覚えた』とか妙な事を言っていたよなあ?」
「……それが、どうかしたのか?」
「おかしいと思ったんだ……一回は傷をつけることもできなかった私の腕を、二回目にはすっぱり斬り落としやがったその剣……まさかとは思ったがどうやら『成長して』いるな?」
「…………」
妖夢は何も答えず、ただ勇儀の隙を窺っている。
だがその態度は勇儀にとっては何の意味もない。
「強さを『学習』してそして『成長』していく……なんとも不思議な剣術を使っているようだなあ?だが、それも所詮おしまいだよ、剣士さん。」
「…………終わるのは、貴様の方だ。」
「いいや、お前の負けだよ。どれほど『学習』した所で、それを『活用』できなければ意味なんてないのさ。」
そう言うとまたドシン、と勇儀が大地を揺らし、先程生成された弾幕の外側、空から着地した妖夢の眼前すぐに新たな弾幕が生成されていった。
「楽しい戦いだったけど、これで終わりだよ、剣士さん。」
「……ああ、貴様を斬って、終わりにさせる。」
「……これを見てあの世に行きな!!」
ドシン、と更に先程までより強く、勇儀が大地を鳴らした。
まるで地震が起きたかのように、辺りがグラリと揺れていく。
「四天王奥義『三歩必……!?」
勇儀が最大の奥義を繰り出そうとした瞬間、勇儀も、それに相対する妖夢さえも想像だにしなかった事態が起こった。
突如地中から全身がトゲで覆われた車が飛び出してきたのである。
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少し時間を戻そう。
勇儀と妖夢が刃を交える数刻前、地図で言う所のE−2の平原の場に、殺し合いが行われている場においてはいささか場違いにも見られる派手な車が鎮座していた。
まるで巨大遊園地のパレード車のような派手な車の中にいるのは、スキマ妖怪八雲紫。
そして彼女につき従う運転手となったスタンド使い、ズィー・ズィー。
二人はこの殺し合いの場に置いて、どのように動いて行くべきかを考えていた。
尤も正確に言ってしまえば、考えるのは紫のみでズィー・ズィーはそれに追従するだけなのだが。
「うーん……」
ズィー・ズィーと自分の支給品を確認しながら、持っている扇子を片手に紫は思案する。
あの荒木と太田という男達は、恐らく本気で私達を殺し合わせようとしている。
秋穣子を見せしめとして呆気なく爆殺したのもそうだが、この車――ズィー・ズィーのスタンド、ホイール・オブ・フォーチュンを発動させるのにかかす事の出来ない車を他でもないズィー・ズィーに支給してきた所から、荒木と太田は本気だと紫は考えていた。
このズィー・ズィーという男は、はっきり言ってしまえばスタンドを使う事が出来なければモリモリの腕の筋肉以外には何のとりえもない、ただの小心者の男だ。
だがその小心者の彼が車を得れば、スタンドを発動でき、十分に誰かを殺す事が出来るようになる。
その適材適所を、あの二人は理解している。それもこの上もなく。
(荒木に太田……只者ではないと思っていたけどやっぱり一筋縄でいく相手じゃあなさそうね……もちろん、この私を参加させた以上、そうだとは思っていたけれど。)
少しだけ、紫の眉間に小さな皺がよった。
「あ、あのう紫様……どうしたんですか?」
「え?ああ、少し考え事をしていただけ……ところでズィー・ズィー、何か気付いた事は無いかしら?」
「え、あはい。この地図なんですけどね、『奇妙』なんですよ。」
なんともしまらない間抜けな様相でズィー・ズィーが地図をがさがさと広げて紫に見せた。
「『奇妙』?奇妙なのは今に始まった事じゃあないじゃない。」
「それはそうなんですけど……この『地図』、ぐちゃぐちゃなんですよ、土地が。」
「……そうねえ、確かに私の知っている場所も適当に置いただけって感じだわ。」
地図の中に書かれている地名の中には紫のよく知っている幻想郷の地名もあれば、紫も知らない恐らくは『外の世界』の地名が並べられている。
だがその配置は子供が積み木遊びで適当に並べたかのように滅茶苦茶な並びだ。
これも恐らく荒木と太田の計らいだろうか?
しかし考えた所で特に意味もない事だ、と紫は地図を改めて見直す。
周りの風景などから、この場所がE−2だろうと言う事は判明したものの、そこからどこにどう向かうか、ということまでは考えが及ばなかった。
「……考えるべき事は多いけど、動かない事にはどうしようも無いわ。ズィー・ズィー、まずは誰か参加者を探すわよ。」
「参加者を……ですか?」
「ええ、幸いなことにこの名簿には私の知人の名前も多く書かれているし、その中には殺し合いに『反逆』しようとするであろう人の名前も書かれていたわ。それにあの荒木や太田といった男に関する『情報』も得たいところだしね。」
「はい、分かりました紫様。それでは早速向かいましょうか。」
ドルルン、とエンジンが軽快な音を鳴らし車体がぶるっと揺れた。
「……ところで向かうと言っても、どこへ向かいましょう?」
「……そう、ねえ…………」
改めて地図をもう一度見て考えようとしたその瞬間、二人の耳につんざくような轟音が飛び込んできた。
まるで大型旅客機が墜落したかのような轟音は、一瞬二人の思考を完全に停止させる。
「……ズィー・ズィー!!あの音のした方へ行くわよ!!」
「え?」
「え?じゃないわよ!!急ぎなさい!!」
「は、はい!!わかりました!!」
と、次の瞬間パレード車のような派手な装飾は一瞬で消滅し、スタイリッシュなスポーツカーへと車が変形した。
「ちょっと揺れますけど、我慢してくださいね、紫様ァー!!」
そう言うが早いが、車は一気に轟音のした方へと走って行った。
-
自分は今信じられないものを見ている、とズィー・ズィーはそう『心』で理解していた。
竜巻が起きているかのような轟音響く場所に近づくにつれ、背筋に冷たい汗が走り続けていたためある程度予測はできていたが、まさかこれほどまでに恐ろしい事態になっているとは。
今、ズィー・ズィーの前では壮絶な戦いが起きていた。
それを戦いという安易な言葉で表すのもどうかと思ってしまうほどの、壮絶な戦い。
目の前で繰り広げられているのは、純粋なる力と力のぶつかり合い。
片や、片腕を失い大きな胸をあらわにしながら巨木を振り回す剛力無双の少女。
片や、片手で怪しい剣をふるい、もう片方の手で恐らく切り落としたであろう相手の腕をふるう、剣士の少女。
その情景を初めて目にしたズィー・ズィーはそれが何であるのか理解するのに少々時間がかかった。
「……思った以上に派手に暴れているわね、二人とも。」
「ゆ、ゆゆゆゆ紫様ァ!!ありゃ一体何なんですかぁッ!?」
「……星熊勇儀に魂魄妖夢。私と同じ幻想郷の住人よ。」
「へ?紫様のお知り合いだったんですか?」
「まあ、ね。」
「って言うかなんなんですかあの二人!?『鬼』ですかっ!?」
「あら、よく分かったじゃない。星熊勇儀は『鬼』よ。妖夢の方は違うけど。」
「いいー!?」
「静かにしなさい、気づかれるわよ。」
隣で動揺している情けない運転手をよそに、紫はそっと奥歯を軽く噛みしめていた。
(まずいわね……この殺し合い、誰かが『乗って』しまうことだって十分に考えられたのに、よりによってあの二人が『乗って』いたなんて……!!)
剛力無双の勇儀、剣の達人の妖夢。
あの二人でさえもこの殺し合いに乗ってしまっているという圧倒的に非情な現実が、紫の精神を揺さぶっている。
じっとりと、紫の額に汗がにじんでいた。
(どうにかして止めたいところだけれど、真正面から行って素直に止まってくれるような相手でも状況でもない……それに勇儀はともかく、妖夢はあそこまで積極的に殺し合いに乗るような子だったかしら?持っている剣もいつも持っているのとは違うようだし……)
異様な状況であるにもかかわらず、紫は冷静に現状を分析して行く。
思考に費やせる時間は非常に少ないであろうことは予測できているが、そんな時こそ冷静に考えなくてはいけない。
幾重にも及ぶ思考を張り巡らせた結果、紫はある一つの結論を導き出した。
(……柄じゃあないけど、少々荒っぽい事をしなきゃいけなそうね。)
それは、『勇儀と妖夢を力でもって無力化する』というもの。
紫自身これが分の良い賭けだとは思っていないが、それでもこの二人を放置しておくのはあまりにも危険だと、そう判断した末の結論だった。
目の前で起きている暴虐の嵐は、やがて全てを破壊してしまうだろう。
そうなってから嘆いても、遅いのだ。
(やるしかない……でもそのためには、『賭ける』しかないようね。)
思案を重ねていた紫は、キッと決意を秘めるかのように口を結ぶと横でおびえているズィー・ズィーに向き直った。
-
「ねえ、ズィー・ズィー……あなた、命は張れるかしら?」
「……はい?」
唐突な紫の問いかけに、ズィー・ズィーの目は点になる。
それでも紫の眼差しから、彼女が真剣であるということは理解していた。
何かただならぬ気配を感じたズィー・ズィーは外にも気を配りながらも紫の方に真剣に襟をただした。
「答えなさい、ズィー・ズィー……あなたは、『運命』に立ち向かい、命を張れるかしら?」
「う、運命……ですか?」
「ええ。単刀直入に言ってしまえば今目の前で起こっているこの戦い……それに『介入する』意思があるかどうかって意味よ、ズィー・ズィー。」
「え……ええ〜〜〜ッ!?」
「静かにしなさい、ズィー・ズィー。見つかるわよ。」
「す、すすすすいません……っていうか本気で言っているんですか、紫様!?」
「あら、私はいつでも本気で生きているわよ?」
見るからに分かりやすく動揺しているズィー・ズィーとは対照的に、紫は恐ろしいほどに冷静な――場合によっては冷徹にも見える表情で淡々と話している。
「言っておくけど、私は『本気』よ、ズィー・ズィー。私は何が何でもあの二人を止める。」
「で、ですが……危険すぎますっ!!あいつらがどれだけ強いのか、分からないんですか紫様っ!?」
「……分かっているわ。むしろ分かっているからこそ、行かなきゃならないと思っているのよ……」
紫の瞳にこれまでにないほどの冷徹さが宿った。
例え何が起ころうとも関係ない、思った事を遂行すると言う深い闇にも似たその冷徹さを前にズィー・ズィーは何も言えない。
ただ小さく震える事さえも、出来ないでいた。
そんな運転手の様相を見ると、紫はそっと口を開いた。
「……ズィー・ズィー、これは私のわがままよ。あなたを巻き込む道理なんか何処にもありはしない……だから、あなたが立ち向かいたくないって言うのであれば、それはそれで構わないわ。ここでどこへとも好きな所に行っても良いのよ。」
「え……良いんですかッ!?」
まるで宿題をしなくても良いと言われた勉強の出来ない子供のように、ぱあっとズィー・ズィーの表情が明るくなる。
それほどまでに、あの二人に戦いを挑むのが嫌だったのだろう。
まるでつきものが落ちたかのようにどっと汗を流しながらそれでいて安心した表情を見せていた。
「ただ、行くなら早めにしなさい。ぐずぐずしていると見つかるわよ?」
「は、はいっ!!」
-
ズィー・ズィーは大喜びで車を返そうとした。
だが、そこでふと頭に疑問が浮かんだ。
――――紫様は、どうやってあの二人と戦うんだ?
確かに、紫様は常人をはるかに凌駕する『力』を持っている。『凄味』も持っている。
だが……それだけであの暴虐極まりない二人を打ち破れるものなのか?
ちら、と外に目をやると、勇儀の振るった巨木を、妖夢が粉々に粉砕していた。
あれだけ大きくそびえ立っていた巨木をウエハースの様に呆気なく砕いてしまうあの二人を相手に、紫様が『勝てる』のか?
……一瞬、嫌なビジョンが脳内に浮かぶ。
――圧倒的な剛力の前に跳ね飛ばされ、魔剣にその血を吸われ、完膚なきまでに潰されてしまう紫の姿。
そのビジョンが浮かんだのはほんの一瞬だったかもしれない。
だがその一瞬が、ズィー・ズィーを硬直させる。
そして硬直した事で、ズィー・ズィーの脳内につい先ほどの情景が浮かんできた。
紫の頬笑みに高鳴った胸の響きが、歓喜が、幸福が一気に思い出されてきた。
……ああ、そうだった。
彼女は俺の『運命』だと、さっきまで俺は思っていた。
世界を正常なものへと導く、運命の輪こそが彼女だと、そう思っていた。
俺は、彼女とともに添い遂げ生きていくために生まれてきたとさえ、思っていた。
それなのに、それなのに――
俺は彼女を……『運命』を我が身かわいさに捨てようとしていた……?
ガン、と頭を金槌で殴られたかのような衝撃が走った。
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ガチャリ、という音がした。
その方を見ると、今まさに紫が車を降りようとしていた情景が飛び込んできた。
このまま何もしなければ、紫は単身あの暴虐の嵐の中に飛び込んで行ってしまうだろう。
それだけは、それだけは避けないといけない。
彼女は『運命の輪』なんだ。
自分が正常な世界を構築するために必要不可欠な存在なのだ。
それをみすみす――みすみす失わせるなんて馬鹿な真似が、出来てたまるかという想いが、ズィー・ズィーの胸の中でめらめらと燃え滾ってきた。
キッと、前を向いた。
今にも遠くへ行ってしまおうとしている彼女を呼びとめるために、息を吸い込んだ――
「紫様!!」
その声は、離れようとして行く運命の輪を、少しだけ止めた。
「紫様っ!!俺も……俺も連れて行って下さいっ!!」
「俺もッ!!戦います!!立ち向かいます!!『運命』だろうが何だろうが……立ち向かって、戦います!!だから……」
「一緒に戦わぜで下ざいッ!!」
その涙は何を意味する涙だったのだろう。
それすらもわからないが、ズィー・ズィーは泣きながら同行を願った。
残酷な自らの『運命』に立ち向かうために、『運命の輪』を回すために、無様な顔で、みっともない声で、ズィー・ズィーは願ったのである。
その声を、紫はただ背を向けて聞いていた。
「――ズィー・ズィー。」
「…………」
「……私、あなたを見くびっていたみたいね。」
「……紫様。」
ゆっくりと、紫が振り返った。
その表情は、先程までの冷徹なものではなくまるで慈母のような優しさを湛えていた。
「行きましょう、ズィー・ズィー。一緒に来てくれる事……『感謝』するわ。」
「紫様……!!」
涙にぬれていたズィー・ズィーの表情が、ぱあっと明るくなった。
紫はその表情を見ると優しく微笑み、車中へと戻ってきた。
「ズィー・ズィー、相手はかなりの強敵よ……『覚悟』はできているわね?」
「勿論です、紫様。もう俺は逃げないって決めたんですから。」
ズィー・ズィーは完全に一皮むけ、別人にも見まがうほどに成長していた。
これならば、いける。
そう紫は確信していた。
「良い、ズィー・ズィー。どんな圧倒的な力にも隙は必ずできるものよ。それも相手が予想もし得ない所から攻めて行けば、きっと綻びはできる……私達に出来る最大の勝機はいかにその綻びをつくかよ。」
「相手の予想しえない所……それならば紫様、良い方法がありますぜ!!」
「どうするの?」
「まあ見ていて下さい。」
と、次の瞬間二人の乗っていたランドクルーザーのボディから次々と極太の棘が生え始めてきた。
ボディだけではない、タイヤからもスパイクと呼ぶには太すぎる、杭といっても過言ではない棘が生えてきた。
太い棘は、ガリガリと地盤を削って行き、大きな車体が完全に土中に埋まっていったのは文字通りあっという間の出来事だった。
「なるほど、地下から攻めていくって寸法ね。」
「ええ、ちょっとばかしガタつくんで乗り心地は良くないですけど、奇襲にはこれ以上の手は無いですよ、紫様。」
「ふふっ、期待しているわよ、ズィー・ズィー。」
「それじゃあ……行きますよ、紫様!!」
削岩機顔負けのその掘削力で、真っ暗な地盤をスパイクが削っていく。
やがてある所まで掘り進んだ所で、突如上からズシン、と地響きが聞こえてきた。
「……どうやら勇儀が本気になっているようね。」
ズィー・ズィーの喉がごくり、となった。
「だけど、これがおそらく最大のチャンス。勇儀は全神経を攻撃に集中させているはずよ。その時に懐に飛び込んでしまえば。」
「行きましょう、紫様。しっかりつかまっていて下さいよ……!!」
ドルン、とエンジンが唸りをあげ、地盤を削る音がだんだんと大きくなっていった。
地下から地上へと上がっているのがわかる。
そして、ぼこ、と音がして外の世界が見えた――――!!
-
「なっ……何だこれはっ!?」
勇儀と妖夢からすれば全く虚をつかれたと言っても良いこの現状。
だがそんな二人をあざ笑うかのように地中から飛び出したトゲ車は、今まさに発射されんとしていた勇儀の弾幕に突っ込んでいった。
バチバチと弾がボディに当たりはじける音が響いたが、車体には傷一つついていない。
その謎の乱入者を前にして勇儀は――
「……面白いじゃないか!!」
ニヤリと口角をあげていた。
それとは対照的に妖夢はただ口を結んでキッと睨みつけている。
そんな二人に対して驚いている間も与えないと言わんばかりに、トゲ車は弾幕をはじきながら土煙を上げて襲いかかってきた。
「――遅いっ!!」
一瞬、勇儀の脇を一陣の風が駆け抜ける。
アヌビス神を構えた妖夢がダメージを負っているとは思えないほどの速さで車に斬りかかろうとしていた。
だがこの突進を受け流すようにトゲ車はギアを変え飛び退くようにバックした。
スパイクが大地を削り、あたかも水しぶきを飛ばすように妖夢と勇儀に土を跳ねる。
「……馬鹿に、しやがって!!」
妖夢に続けと言わんばかりに勇儀が拳を握り車に殴りかからんとした。
「……ぐあっ!?」
だが、次の瞬間勇儀の肩口を穿つ何かが発射され、鮮血が吹き出した。
勇儀は予想外の攻撃に体躯のバランスを崩し、一歩下がった。
(……今のは、弾幕か!?いや、だが弾幕にしては呼び動作もなかったし何より『弾』そのものが見えなかった……今のは何かの間違いか!?)
だが、同じようにその場にいた妖夢も肩や腕から血を噴き出していた。
間違いない、あの車は『何か』を発射した。
だがその何かがわからないゆえに、勇儀はうかつに飛び込む事も出来ないでいた。
少し前の方にいる妖夢もまた、同じようにある程度の距離を保ちつつけん制している感じであった。
と、その時、勇儀の耳に思いもよらない懐かしい声が飛び込んできた。
-
「結界『夢と現の呪』。」
「この声ッ……!!」
八雲紫か、と叫ぼうとしたその瞬間、車の左右から大きな弾が飛び出し、はじけた。
はじけた中から無数の小さな弾が飛び出し、勇儀と妖夢に一斉に襲いかかる。
「……くっ!!」
小柄な妖夢はとっさに飛び退き対処しているようだが、勇儀は一瞬動きが遅れ弾をその身に受けてしまう。
全身に針を打ちこまれたような鋭い痛みが勇儀を駆け抜けていく。
並みの妖怪であったらこの時点で膝をつくどころか戦闘不能に追い込まれていてもおかしくないほどのダメージを、勇儀はその身に負っていた。
だが、勇儀とて並みの妖怪ではない。
「ふっざ……けるなぁっ!!」
「……来るわよ、ズィー・ズィー!!」
バチバチと音を立てながら体に撃ち込まれていく弾幕をものともせず、勇儀は車に真正面から立ち向かっていく。
だが、立ち向かおうとしていたのは勇儀だけではなかった。
勇儀の後方から、だん、と地を蹴る音がしたかと思った次の瞬間、勇儀の身体が一瞬薄い影に包まれた。
「でりゃああああ!!」
影の正体は、勇儀の後ろで様子をうかがっていた妖夢だった。
その軽い身のこなしを活かし、ふわりと飛んだ妖夢は大上段に構えたアヌビス神を車にふり下ろそうとしていた。
だが勇儀はその姿を確認する事もなく、握りしめた左の拳を振りぬいた。
勇儀の拳と妖夢のアヌビス神が、車に同時に叩き込まれ、まるで火山が噴火したかのような轟音が響き渡った。
-
「なっ……!!」
「何ィ〜〜〜〜〜!?」
土煙が晴れ、勇儀と妖夢の目の前に広がった光景は、あまりにも二人の想像からかけ離れたものだった。
無傷!!
勇儀と妖夢の攻撃を受けながら、まるでカーショップの店頭に並んでいるかの如き無傷なままで、その車は鎮座していたっ!!
「……な、なんて堅さだ。」
「……くっ。」
そのあまりの光景に思わず一歩退いてしまう。
その様子をあざ笑うかのような濁声がひびいてきた。
「ははははは!!鬼と剣士もたいしたことはなさそうだなあ〜ッ!?このスタンド『運命の輪』はその程度の攻撃なんかじゃ傷一つつかねーぜっ!!」
にゅっと、窓から筋肉モリモリの太い腕が飛び出し、二人を嘲る。
勇儀はもう一度殴りつけようとしたが、その動きを見せる前に車は急旋回して勇儀と妖夢を弾き飛ばしドリフト一回転して二人に向き直った。
「なあ、脳ミソ筋肉の鬼さんにツンツルテンチビの豆剣士さんよぉ!?さっきから威勢がいいのは結構だが、『鼻』は随分とにぶいんじゃあないかっ!?シブくないねぇ〜!?」
その時、勇儀と妖夢はようやく気がついた。
この辺り一帯がさっきから油のような匂いで充満している事に。
「まさか、テメエ!!」
「そのまさかだよスカタンッ!!さっきからお前達に撃ち込んでいたのはオイルさ!!それもただのオイルじゃあない……」
バチッと、小さな音がした。
ふと見ると、車のランクルの辺りから小さなコードが出ているのが見えた。
次の瞬間、辺り一面が業火に包まれた。
-
「うおおおああああ!?」
「オイルはオイルでも『揮発性』と『引火性』の高さには定評のある……『ガソリン』だぜぇーっ!!ローストチキンの失敗作みたいに黒焦げになっちまいなァーッ!!」
先程から勇儀と妖夢に撃ち込まれていた見えない弾丸、それこそまさに『運命の輪』により発射されたガソリンの弾丸だったのだ。
更に先程の紫の弾幕の際にも辺りに撒き散らされており、辺り一面が文字通り火の海と化していた。
全身に撃ち込まれたガソリンが、撒き散らされたガソリンが、勇儀と妖夢の身体を容赦なく焙っていく。
全身を炎に蹂躙され、二人はやがてがっくりとひざを地に着いた。
「やったぁ!!やりましたよ紫様っ!!」
「……派手にやったわね、ズィー・ズィー。」
「へへ、これやるとガソリンを大量に消費しちまうんであまり使いたくないんですが、これも紫様のためですから……」
「――ズィー・ズィー!!」
「え?」
ズィー・ズィーは完全に油断しきっていた。
あの豪華の中では例え鬼といえども生き残る事は出来ないであろうと言う驕り。
運命の人である八雲紫を前にかっこいい所が見せられたという高揚感。
それらがズィー・ズィーを一瞬だけ、隙だらけにしてしまっていた。
そして、今戦っている相手はその一瞬を見逃すような甘い相手ではなかった。
-
「うおおおおおおおお!!」
「なっ、何ィーっ!?」
鬼がいた。
右腕を切断されようと、全身に弾幕を打ちこまれようと、ガソリンで燃やされ火だるまになろうと、相手を屠らんと襲いかかってくるその姿はまさに鬼だった。
ズィー・ズィーはなんとか切り返そうとするも、その車体をがっしりと掴まれてしまっては思うように動く事も出来ない。
車体から棘をはやそうと、勇儀はその棘がその身に突き刺さることも意に介さずギリギリと車体を剛力で締め上げる。
(なっ……なんて野郎だッ!!て言うか普通死ぬだろ!?)
「ううううおおおおおおおおおお!!!!」
勇儀は万力のような力で締め上げながら驚異的な筋力で車体を持ち上げていく。
地面にしがみついていた前輪さえも大地から離れてしまったその時、車内のズィー・ズィーと八雲紫は一瞬重力を失ったような感覚に陥った。
「で……やああああああああ!!!!」
フォームも何もあったものではない、癇癪を起した子供が投げ飛ばすかのような強引な投げ飛ばし。
投げ飛ばされたランドクルーザーは、ゴムボールのようにグルグルと回りながら、宙を舞っていった。
「きゃあああ!?」
「紫様!!何かにしがみついて!!」
視界がグルグルと回る中、ズィー・ズィーは燃える大地からこちらを睨みつけている勇儀を見ていた。
その目は、何が何でもこちらを殺してやるんだ、という純然たる殺意にどっぷり浸かりきった、何よりも人を恐怖させる目であった。
(クソッ……ここで終わるのか……!?俺は、ここで……!!)
もし、今ここにいるズィー・ズィーが八雲紫と会っていなかったら。
こうして投げ飛ばされるどころかそのはるか前でミンチにされてしまっていただろう。
だが、ズィー・ズィーは八雲紫と出会ってしまった。
運命の輪を回し、人生を正常な方向へと導いてくれる存在である、八雲紫に。
その八雲紫と共に立ち向かい、戦って、自分の一瞬のゆるみから今窮地に立たされている。
それがただ、悔しく、腹立たしく、情けなく。
「おおおおおおおお!!」
最高天へと到達した瞬間、ズィー・ズィーは吠えた。
鬼の咆哮の十分の一にも満たないほどの吠えだったが、それでもズィー・ズィーには断固たる決意があった。
八雲紫と添い遂げると言う、断固たる決意。
八雲紫とともに、運命の輪を回していくという、断固たる決意。
その断固たる決意は、『精神』を一歩先へと歩み出させていた。
-
ランドクルーザーの後部が、グニャリと飴細工のように曲がっていき、やがて錐のように尖っていく。
そして左右両サイドから角のように飛び出したトゲはやがて平たくなっていき、その姿をまるでジャンボジェットの翼の如く変形して行った。
その変形に伴い、重力に引かれてただ落ちて行くだけだった車体は、ゆったりと幾分安定した軌道を描くようになった。
「ズィー・ズィー、あなた一体何をしたの!?この車、飛んでいるわ!!」
「へっ、こんなの恰好つけて落ちているだけですよ紫様……ですが紫様チャンスです!!やっちまってください!!」
「……分かったわ!!」
ズィー・ズィーと紫の視線が交錯し、紫は軽くうなずいた。
目標は下にいる星熊勇儀。
鬼の形相でこちらを睨みつけている勇儀に向かい、紫はキッと鋭い視線を向けた。
「結界『光と闇の網目』!!」
赤と青のレーザーが地上に降り注ぎ、その根元から一気に弾幕が飛び散る。
空中からの広範囲の攻撃は爆撃機のように、辺りの大地に穴を穿っていく。
地上の勇儀はその攻撃を何とかかわそうとして行くが、業火に焙られたその身体には全てをかわせる余裕など残ってはいなかった。
「……ぐっ、ふぅ……!!ぐあっ……」
レーザーに身を貫かれ、弾幕に蹂躙されながらも勇儀は一歩も引く意思を見せない。
そこにあるのは純然たる闘志。鬼の意地、そして誇り。
勇儀は滑空するクルーザーを睨みつけながら、もう殆ど動く事はない足を高く上げ、ドシン、と踏みならした。
つい先ほど、妖夢に撃とうとしたが横槍を入れられた、勇儀最大の奥義である技を、今ここにぶつけようとしていた。
じわり、と勇儀の身体の周りを囲うかのように弾幕が展開されていく。
もう一度、ドシンと大地を踏みならし、今度は展開された更に周りに水色の弾幕が展開されていった。
「四天…王、奥義『三歩必殺』!!」
最後の弾幕を展開せんと、更に脚を高々と上げドシン、と大地を揺らした――――
-
だが、弾幕は発射されなかった。
踏み込んだその瞬間、大地が轟音をあげて崩壊したのである。
ズィー・ズィーの運命の輪によって地盤中に穴をあけられ、ガソリンの炎で水分という水分を干上がらされ、更には紫の空中からの弾幕の爆撃でボロボロになっていた地盤に、勇儀の三歩必殺の地響きに耐えるだけの力は残っていなかった。
まるで隕石が落下したかのようなクレーターを作り、その中心にいた勇儀は地面の奥へと飲み込まれていく。
辺りには勇儀の発射し損ねた弾幕が所在なさげに漂っており、やがて吸い込まれるかのようにすっと消えていった……
その様子を空から眺めていたズィー・ズィーは、思わずハンドルから手を離し拳を自分の元へと引き寄せた。
「や、やった!!やりましたよ紫様!!あの鬼をやっつけたぞおおお!!」
「ズィー・ズィー!!危ない!!」
「えっ!?」
フロントガラスに映る風景に、突如として小さな影が飛び込んできた。
「お前のその『硬さ』……覚えたぞオオオオオ!!」
飛び込んできたのは、魂魄妖夢。
炎にその身を焦がされながら、妖夢はただ只管に機会を伺っていた。
幸いにもズィー・ズィーと紫の攻撃は勇儀ただ一人に集中しており、妖夢はその巻焼け焦げた身体を何とか動かし被害の及ばない場所に待機していたのだった。
そして、先程勇儀が地盤を破壊したその衝撃を利用し――空を飛ぶクルーザーにアヌビス神で斬りつける。
そして斬りつけた刃は、いとも簡単に
クルーザーを両断した。
-
「ゆ……紫様ァーっ!!」
ズィー・ズィーの悲壮な叫びも虚しく、紫の乗っていたクルーザーの右半身はスタンドの力を失いがくん、と落下して行く。
ズィー・ズィーの乗っている左半身はまだかろうじて浮力をある程度保っているものの、保っているがゆえに右半身との差がじわじわと広がっていった。
「この俺はァ〜〜〜〜〜!!絶ッ〜〜〜〜〜対に!!負けな〜〜〜〜い!!」
その声は、妖夢の声か、それともアヌビス神自身の声か。
妖夢は浮力を失った右半身に照準を定めると、そちらの方に向かい落下しながら権を振りかざした。
紫は先程スペルカードを使用してしまっており、さらに急速に落下して行くこのバランスの悪い車中に取り残されてしまっている。
この状態で紫が助かる可能性など殆どないだろう。
だが、妖夢の視線の先にいた紫はその手に拳銃を握り締めていた。
これこそ、八雲紫が最後の最後に、と取っておいた切り札だった。
八雲紫に支給されたこの殺し合いの支給品を、紫はここぞという所まで使わないつもりでいた。
だが、そのここぞという所、がこんなに早くこようとは。
紫はほんの少しだけ妖夢に対し憂いを含んだような目で見ると、その引き金を引いた。
-
まるで大砲が発射されたかのような轟音が、辺りに響き渡った。
轟音とともに放たれた銃弾は、妖夢の顔面を貫き、一瞬にしてその命を呆気なく奪った。
まるで舞い落ちる木の葉のように、妖夢の体躯は力を失い重力に引かれるままに落下して行く。
その様子を、ズィー・ズィーは呆然と見ていたがすぐにその状況を思い起こし大きく叫んだ。
「ゆ、紫様ァー!!早く飛びおりて下さ……!?」
ズィー・ズィーの目に飛び込んできたのは、額に脂汗を浮かべ苦悶の表情を浮かべる八雲紫のその姿。
左手で右肩を抑えながら、何とか身体を動かそうとしているようなのだがどうもその動きはおかしい。
まるで見えない何かに身体を拘束されているかのような、理解できないものの危険そうである状況だった。
「ゆ、紫様!?いったい何があったんですか!?早く飛びおりないと……」
八雲紫は、たった一つだけ大きなミスを犯していた。
それは、紫の打った拳銃が、ただの『拳銃』と呼べるものではなかった事。
その銃のもたらす反動は、少女の身体にはあまりにも酷過ぎた。
ただでさえ急速に落下しながらという無理な姿勢での銃撃は、容赦なくその反動を紫の身体にぶつけていき――紫の右肩は脱臼してしまったのである。
(ま、まずい……!!何だかよく分からねーけどどうしようもなくまずいぜこの状況はっ!?いったい、一体どうすれば……)
緩やかに落下するなかで、ズィー・ズィーは必死に思考を巡らせる。
このまま何もしないでおけば、紫の乗っている右半身は地面に墜落し、その後自分の左半身も墜落してしまうだろう。
そうなってしまえば、最悪二人ともお陀仏だ。
いや、もっと最悪なのはズィー・ズィーだけが生き延び、紫が死亡してしまうこと。
それだけはなんとしてでも避けなければならない。
(紫様は、俺の『運命の輪』なんだ!!こんな所で死んで良い人なんかじゃあない!!)
そう思っても、今のズィー・ズィーには何もできない。
その状況が歯がゆかった。
恨めしかった。
せめて、せめてあと一歩、何か手さえあれば――
紫を死なせたくない。
ただそれだけがズィー・ズィーの頭の中を占めていた。
「うわああああああああああ!!!!」
たった一度でいい。
ほんの一瞬で良い。
もうスタンド能力が使えなくなっても良い。
――――俺は、紫様を助けたい!!
ありったけの力を込めて、ハンドルを握り締める。
アクセルを、床を突き破らん限りに踏みしめる。
ブレーキなんか、踏む必要はない。
ただ、助けたい人のためにズィー・ズィーはその想いの全てを左半身しかないクルーザーにぶつけた――!!
「紫様ァーッ!!!!」
爆発の轟音が、鳴り響いた。
-
「…………うっ……」
全身が焙られているかのように熱い。
それでいて崖から転がり落ちたかのように、ガンガンとした痛みを感じている。
外れてしまった右肩が特に痛むが、それ以上に八雲紫は何故自分が今この痛みを感じているのか理解できないでいた。
――――あの時、自分は斬りかかろうとしている魂魄妖夢を銃で撃った。
だがその銃は思った以上に反動が強く、右肩が外れてしまい、あまりの激痛に動けなくなってしまった。
そして遠くから、ズィー・ズィーの悲鳴が聞こえて……
「……はッ!!ズィー・ズィー!!ズィー・ズィーは一体……」
「紫……様……」
不意に聞こえる、いまにも消え行ってしまいそうな弱弱しい声。
その声の方を向くと、全身に酷いやけどを負ったズィー・ズィーが紫を炎から守るように立っていた。
「ズィー・ズィー……あなた、まさか……」
「良かった……良かった、本当に……」
紫が目を覚ました事の安堵だろうか、がっくりとズィー・ズィーが膝を落とす。
その細い身体を紫は慌てて支えたが、触れられて痛んだのか、ズィー・ズィーは苦悶の表情を浮かべた。
「あなた……なんでこんなになるまで……」
「……言ったじゃあ、ないですか……俺は紫様について行くって……」
「ズィー・ズィー……」
ほろり、と紫の眼から涙があふれていた。
「泣かないで、下さいよ……紫様ァ……それより、急いでここから……離れて下さい……この騒ぎで、誰かがまた……来ないとも限りませんから……」
ここまでボロボロになりながらも、ズィー・ズィーはただ紫の安全だけを考えていた。
その姿は、紫の眼にも何よりも貴いものに見えた。
「……ズィー・ズィー、あなたも行くのよ。」
「え」
「私について行くって……行ったんでしょう?それなら、ここで死ぬ事は許さないわ。」
「……紫様、ありがとうございます。」
運命の輪は、ボロボロになりながらも今確かに廻り始めていた。
【魂魄妖夢@東方妖々夢 死亡】
-
【D-2 猫の隠れ里/早朝】
【八雲紫@東方妖々夢】
[状態]:全身火傷(やや中度)、全身に打ち身、右肩脱臼、霊力中消費
[装備]:S&W M500 (残弾4/5)
[道具]:基本支給品、500S&Wマグナム弾(15発)
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り殺し合いには乗らない。
1:ズィー・ズィーを治療できる場所もしくは人を探す。
[備考]
参戦時期は後続の書き手の肩に任せます。
【ズィー・ズィー@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:ダメージ極大、精神消耗、全身火傷(重度)、穏やかな心
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:運命(八雲紫)に従う
1:紫様……俺は幸せ者です……
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
八雲紫を運命の相手だと思っています
ランドクルーザーは大破しました。
<支給品情報>
【S&W M500 500S&Wマグナム弾15発@現実】
八雲紫に支給。
アメリカのスミス&ウェッソン社が2003年に開発した超大型の回転式拳銃。
500S&Wマグナム弾を発射する、一般市場に流通する商品としては世界最強の拳銃として有名……なのだが、
・拳銃というにはあまりにも銃身が長くそして重い。
・銃身が長いため照準が合わせにくい。
・威力は確かに凄まじいがそれに伴う反動も凄まじい。
と、欠点だらけな問題児である。
にもかかわらず、発売されるとアメリカでは生産が追いつかないほどの人気商品になった。
流石アメリカ。
-
「――――ッ……」
「え?」
突然、ズィー・ズィーの瞳孔が窄まり、そして黒く広がり焦点が合わなくなる。
と、次の瞬間がくり、と糸の切れた操り人形のようにズィー・ズィーの首が力を失った。
ズィー・ズィーの胸を、何かが貫いていた。
それが見覚えのある手だと紫が気づいた時には、もう何もかもが遅かった。
「トッタ……トッタゾッ…………!!」
物言わぬ躯と化したズィー・ズィーの後ろに、
鬼が立っていた。
星熊勇儀は、死んでいなかった―――――
「うわああああああああああ!!!!」
その一瞬、何が起こったのか、当事者である八雲紫にもわからなかった。
全ての時間が止まってしまったかのような感覚すら覚える場に、先程響いた轟音がもう一度、鳴り響いた。
-
「…………嘘、よね?」
八雲紫の目の前に、二つの死体が転がっている。
自分に付き従うと言って、自分を守り続けてくれた従者、ズィー・ズィー。
先程まで死闘を繰り広げた鬼、星熊勇儀。
ビリビリと、手のひらが痺れている。
ズキズキと、両の肩が痛んでいる。
だがその痺れも痛みもまるで自分のものではないかのような感覚に陥っていた。
「……なんで?どうして?」
問いかけても答えてくれる者は誰もいない。
廻り始めていた運命の輪は、呆気なく――呆気なく、その動きを止めてしまった。
そして少女は、その事を理解できない。
【ズィー・ズィー@第3部 スターダストクルセイダース 死亡】
【星熊勇儀@東方地霊殿 死亡】
-
【D-2 猫の隠れ里/早朝】
【八雲紫@東方妖々夢】
[状態]:茫然自失、全身火傷(やや中度)、全身に打ち身、右肩脱臼、両腕に痺れ、霊力中消費
[装備]:S&W M500 (残弾3/5)
[道具]:基本支給品、500S&Wマグナム弾(15発)
[思考・状況]
基本行動方針:…………
1:…………
[備考]
参戦時期は後続の書き手の肩に任せます。
アヌビス神はD-2猫の隠れ里、魂魄妖夢の死体のそばに落ちています。
新しく「『運命の輪』のボディの硬さ」を記憶しました。
-
投下終了です。
ここまで長い間のキャラ拘束、予約延長や破棄等、非常にご迷惑をおかけしました。
-
投下、乙でした。
ズ、ズィー・ズィー……(´;ω;`)ウッ…
最後はせめて、幸せに死んでいったと思いたい。
-
投下乙です!
ズィー・ズィーが思わぬカッコよさを見せてくれるとは…!
愛に生きた男は強かった…ズィー・ズィーもさることながら、畳み掛けるような戦闘の描写も見事でした!
しかし此処からゆかりんの行く果てはどうなることか…
-
投下おつです。
まさかズィー・ズィーが漢を見せるとは……
そしてアヌビス神が健在なのが不気味だ
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投下乙です。
まさか3人退場とは思わなかった。
「豪華」と「権」が誤字なのと勇儀の二人称がブレているのが気になった。
-
かつてこれほどスポットが当たったズィー・ズィーがいただろうか
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投下乙です。
ここまで大惨事になるとは。
ズィー・ズィーも良い感じにキャラが固まったと思った矢先に……。
残ったゆかりんの明日は如何に。
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投下乙です。
ズィー・ズィー! お前の命懸けの行動ッ! 俺は敬意を表するッ!
洗脳されたまま死んでいった妖夢は災難と言えば災難なんだろうが、これがロワだから仕方ない。
アヌビス神が健在である以上はもう一波乱起きそう。
見た目はかなり有用な武器ってのが、恐ろしいところなんだよな。
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投下乙です。
闘いを止めようとした結果が、連れも含めて全滅。
そして近くにアヌビス神。
他の参加者が来ても来なくても危うい。
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秋静葉、エシディシを予約します。
-
焼き芋にちょうどいい葉っぱがあるなァ
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二ッ岩マミゾウ、八雲藍、チルノを予約させていただきます。
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死亡フラグのちらつく予約が続々と…。
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一体どの予約に死亡フラグなんかあるのかな(白目)
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現実を見ろ、全部だ
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平和な予約が何一つなくてワロタww
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現時点の予約状況
1:紳士と淑女、おくう(マーダー寄り危険人物、レミリアに相性抜群)
2:HEROES、天子、星(奉仕マーダー)、荒木と太田(まさかの主催)
3:エシディシ(マーダー対主催)、静葉(優勝狙いマーダー)
4:チルノ、マミゾウ、藍(奉仕マーダー)
アイエエエエ…
-
レミリア・スカーレット
ジョナサン・ジョースター
霊烏路空
投下します
-
レミリア・スカーレット、ジョナサン・ジョースターの二人は命蓮寺を後にして、紅魔館へと向かっていた。
日が昇る前にレミリア愛用の日傘を取りに行くため、ゲーム破壊の同士を集めるためにだ。
ちなみに食糧品を始めとする役立ちそうなものは命蓮寺からいくつか拝借した。
その道中でジョナサンはレミリアから彼女が起こした紅霧異変、幻想郷で起きた異変の数々について聞かせてもらい、
逆にレミリアはジョナサンから、彼がどういった経緯でディオと敵対し、波紋法を会得したのかを聞いたのだった。
「しかし信じられないな…太陽を覆い尽くすほどの紅い霧を起こしたり、
春の季節を大きく遅らせたりできるなんて。」
「ま、私たちは外の世界から忘れられた存在だからねぇ、あんた達の常識では測れないのも無理はないわ。」
レミリアはどこか勝ち誇ったように話してくれた。
東の果てにある国の秘境、幻想郷の話を改めて聞いてみるとディオが吸血鬼となる前ならば、
とてもではないが信じれない話だとジョナサンは思った。
「それにしても父親や家を失ってからの友人への復讐の旅か、若いのに苦労してるじゃない。」
「いいんだ、父さんの精神もツェペリさんの意志を受け継いでみせる。
何より僕を支えてくれる人もいるから、悲しんでいられないよ。」
ジョナサンは、父ジョースター卿、波紋の師であるツェペリ、恋人のエリナ、
おせっかい焼きのスピードワゴン、そして倒すべきディオを思い起こしながら力強く宣言した。
「ふふん、そうこなくっちゃね。期待しているわよ?」
「ああ、任せてほしい!…ってレミリア、僕のこと若いって言ったけど一体君はいくつなんだ?
失礼だと思うけど、君は見た目不相応な雰囲気というか、その…」
「あら、淑女に対して歳を尋ねるつもり?随分ぶしつけねぇ、紳士としてそれはいかがなものかしら。」
「ち、違うんだ。決してそんな訳じゃなくて、気になっただけで…。いや、不快な思い
をさせてしまったのならこの通りだ。すまない、レミリア。」
先の失態を思い出したのか、ジョナサンは深々と頭を垂れた。しかし、何の反応もない
レミリアを訝しんで顔を上げると、ニヤニヤとこちらを見ていたのだった。
「ほんと、あんたには冗談が通じないわね。からかうのが面白いのはいいけど、
ちょっと張り合いがないのは退屈ねぇ。」
「レミリア、その言い草はないだろう。僕は君を気遣って謝ったんだから。」
「あら、気遣っているのは私の方よ。こうやって軽口を叩いて緊張を解してあげているんだから。」
…上手く丸め込まれたような気がしたけど、確かに僕は緊張している。
彼女のように…とはいかなくても少しは見習わないと普段通り動けなくなりそうだ。
お礼を言おうかとも思ったが、彼女のことだ。また僕をからかうネタにするか、煙に巻くか、
どちらにせよ素直に受け取ってはもらえないだろうな。
ジョナサンはそんなひねくれたレミリアを考えると、聞こえないように笑みを浮かべた。
彼女の思惑とは違ったところでジョナサンの緊張は解れるのであった。
しばらく進んでいると、前を歩いていたレミリアが急に歩くのを止めた。
-
>>370
志村、名前ー!!
-
「どうやら、誰かこっちに来てるみたいね。」
「僕には暗くてよく見えないんだけど、どうして分かるんだい?」
ジョナサンは目を凝らすものの、辺りは暗く月明かりのみが光源となっており、
遠くから誰か来ているのが判別できない。
「そりゃあ吸血鬼だから夜目が利かないわけがないわ。さぁてまずはどんな奴に会えるかしらね?」
心なしか…いや、レミリアは誰に会うのかを楽しみにしているようだった。
ジョナサンはため息交じりに口を開く。
「ともかく、力のない人は僕たちが護るんだ。さっきのは僕のミスだったけど、
あまり怯えさせたり、挑発するのはやめてくれよ?レミリア。」
「…あー、別にそういうことしてもよさそうなのが来たみたいね。」
レミリアは若干残念そうにぼやいた。
「…それは君の知り合いってことかい?」
「知り合いってわけじゃあないわね。さっき教えてあげたでしょ、異変の解決に私の友達が
黒白魔法使いと一緒に地底に殴り込みに行ったって。そこのボスってところね。」
「どんな相手なんだ?」
「パチェはそいつを三歩歩けば忘れる地獄烏だって言ってたわね。」
「カラス!?」
「それと、腕に着いてる足からずいぶん大きい弾幕を放ってたとも言ってたわ。」
「…腕に足が…!?」
ジョナサンは想像しようとしたが、烏なのはともかくとしても腕に足が着いていると
なると彼が倒してきた屍生人にもそんな化け物はいなかっただろうし、思いつかなかった。
「……レミリア、冗談ではないとは思うけど、もっと分かるようにお願いできるか
な。」
「ま、会ってみればわかるわよ。とりあえず幻想郷にいる連中が殺し合いに乗るなんて思えないしね。」
ジョナサンはかえって嫌なイメージを抱えたまま、これから会う相手がどんな姿なのか考えるのであった。
一方、ワムウとの戦いを終えた八咫烏を宿す地獄烏、霊烏路空はちょっとばかりの休憩にと
支給品の確認をしていた。当初は、デイパックを開けて全てが紙しか入ってなく、
しばし憤っていたが紙を開いてみると物が出てきたのには素直に驚いたようだった。
「便利だけど、紛らわしくないかなぁ。」
首を捻りながら、支給品を一通り見てランダム支給品が二つ寄こされていると気づいた。
小さな壺と得体の知れない機械だった。
機械は説明を見る限り自分には不要と判断し、壺の説明を見てみた。
「へー、この壺に入っている『河童の秘薬』を使えば傷が一瞬で治るんだ。
胡散臭いけどちょうどいいや、試してみようかな。」
先の戦闘で負ったわき腹の端にある刺し傷へと壺に指を入れ一掬いし塗ってみる。
するといつの間にか傷が消えて痛みが引いていた。その後は翼に受けた打撲で
痛むところに塗るとこれも同様に治っていった。
「…うそ、ほんとに治るなんて。ふふ、これで多少の怪我なんて怖いものなしね。」
空は満足そうにほくそ笑むと荷物をデイパックにまとめると意気揚々と出発した。
彼女は命蓮寺を目指しD-4の湿地帯から東へと進んでいた。命蓮寺で先の戦いでの疲れ
を取った後に命蓮寺、そのついでに人間の里を焼き討ちにするためだ。
あのワムウとかいう奴まあまあ強かったけど、八咫烏様の核融合の力の前には
赤子当然だったわね。この調子で地上の連中を焼き払って私の力を見せつけてやるんだから。
実際は、太陽の化身を宿した空と太陽が弱点の柱の男であるワムウとでは極めて相性が
良かったこと、最後の大技のぶつけ合いも紙一重の勝負だったこが大きいのだが。
前者は空の知る由もなく、後者は彼女の鳥頭故に忘れてしまったのかもしれない。
故に空は大した警戒もせずに湿地帯を突っ切っていたが、空の目に二人の姿が映った。
気にせず進もうとしたが、二人は動くつもりはないのかこちらを見ているだけだ。
ついに両者お互いの顔が分かる距離になると空が声をかける。
-
「一体誰だっけ?逃げないと核エネルギーで焼いちゃうよ?まあ逃げなくても
地上は私の炎で焼き尽くしてあげるけどね。」
その声は特に悪びれる様子もない無邪気そのものだったが、話した内容はあまりに物騒なものであった。
「あんたが地上を焼き尽くそうが、地獄の業火をもってしても私を焼き尽くせやしないわ。
寝ぼけたこと抜かしてないであんたも私に協力しなさい。」
「はぁ?あんた私を誰だと思ってるのよ。」
「地獄烏だっけ?烏のくせに烏を取り込んだっていうやつは。地底の妖怪は共食い
なんてするとはねぇ。時代遅れにもほどがあるわ。」
「なっ、共食いなんかじゃないわよ!それにこれからは核融合の時代よ。
八咫烏様の力で今からあんたを消し炭に変えて見せるわ!」
「その火を使えば地獄烏の焼き鳥が食べられそうね。マズそうだけど」
「あ・ん・たに向かって言ってるのよ!もういいわ、食らいなさい!」
空が制御棒をレミリアに向けて構え、レミリアも交戦する構えを取った時、ジョナサン
は素早くその間に割って入り空に話しかけた。
「ま、待ってくれ!僕たちは別に争う気はない、この殺し合いを止めるために
行動しているんだ。協力してもらえないか?」
それにレミリアも挑発し過ぎだ、とレミリアに向けて話した瞬間、レミリアの目が大きく開いた。
「ジョジョ!そこから離れなさい!」
ジョナサンは最初何を言われているのか分からなかったが、背後から強烈なエネルギー
が集まるのに気が付くと、空の射線上から離れるべく大きく湿原へと飛び込んだ。
その直後ジョナサンが立っていた位置へと、巨体の彼を飲み込むほどの巨大なレーザーが
放たれた。
制限によってその威力、範囲は多少減退しているものの至近距離で受けてしまえばひとたまりもないだろう。
ジョナサンは今の攻撃を受けていたらと思うと、背筋に冷たいものを感じた。
「殺し合い?そんなもの関係ないわ、さっき言ったでしょう。核融合の力でこの地上を
焼き尽くすと。手始めに命蓮寺ってところに乗り込んで焼き討ちにしてやるわ。
あんたたちの始末はそのついでよ。」
その台詞にジョナサンの表情は影を落とし、レミリアは訝しんだ。
「…殺し合いに乗るというのか、君だって殺し合いに参加させられた仲間がいるはずじゃないのか?」
「さとり様にこいし様、お燐はもちろん私の力で助けるわ。八咫烏様の力に私のこと見直してくれるはずよ!」
そのように話す空の表情は晴れ晴れとしており、殺し合いに乗るとジョナサンは考えたくなかった。
「遊びじゃ済まないわよ、地獄烏。冗談なら今すぐ撤回することね。」
「くどいわね、それとも今更になって怖くなってきたかしら?無理もないわね、
核融合の力の前ではあんた達なんてあまりにもちっぽけだもの。」
「残念ね、幻想郷にこんな輩がいたなんて。あっちに戻ったら地底の連中のお掃除を
咲夜に頼まないとね。ジョジョ、やるわよ!」
「くっ、やるしかないのか!?」
こうしてジョナサンの願い空しく、戦いの火蓋は切って落とされるのであった。
-
空はまず左手を上に向けて親指と人差し指を伸ばした。すると、その頭上に
小さな黒い球が現れ、その物体からは光が漏れていた。
「これが八咫烏様の象徴である太陽よ、あんた達にとって見納めになるであろう太陽ね。」
「ふん、元々太陽と相容れない私にとって見納めもへったくれもないわ。
あんたこそ今宵の満月で見納めにしてやるわ。」
「レミリア、本当に平気か?」
ジョナサンは空が太陽の力を操ると言っていたが、よもや太陽を出現させるとは
思いもしなかった。小さいうえに何故か黒いが、そこから溢れている光は紛れもなく
太陽の光であると波紋の力を扱う彼がよく分かっていた。
「知らないの?太陽の色の表現は国によって違うけどこの国では基本的に赤色よ。
黒の太陽なんて偽物もいいところだわ!」
「そう言ってられるのも今のうちよ!核熱『ニュークリアフュージョン』!」
空がスペルカードの宣言をすると、彼女の中心から強烈な光が発せられると共に巨大な
大玉の弾幕とその後を追うように小さめの弾幕が放たれた。
ジョナサンはその弾幕の大きさに驚いた。最初に放ったレーザーもだが、異様なまでに
大きく彼さえも容易に飲み込むほどだ。たとえ吸血鬼であっても直撃すれば、
太陽の力が宿る弾幕では瀕死は免れないと即座に感じた。
幸いにも速度は大したことないのだが巨体の彼には避けるのには少々骨が折れる。
「ジョジョ、あんたじゃ荷が重いから私があいつに一発叩き込んでやるわ。
そこで避ける練習でもしてなさい!プラクティスモードよ。」
「僕も行く!君だってあの太陽に近づくわけにはいかないだろう!」
「弾幕慣れしてない上にでかいあんたじゃ私についてこれないわ。言われた通りそこで待ってなさい!」
そう言い捨てると、レミリアは空目がけて走り出した。
レミリアは内心穏やかではなかった。幻想郷に住まう妖怪がこんな下種な殺し合いに
どんな形でも参加してしまったのだから。
-
レミリアは最初から全速力で相手との距離を詰める。ああは言ったものの、太陽の影響
を受けるのを最小限にとどめたいからだ。大玉の弾幕に対しても小型の弾幕に対しても
最小限の動きでグレイズする程度に抑え空に接近していた。いよいよ避けきるのが
厳しくなってきた頃合いを見計らって、スペルカードの宣言をする。
「邪魔よ、紅符『スカーレットシュート』」
レミリアの眼前から大玉と時間差でその軌道を中、小様々の大きさの弾幕が放たれ、
弾幕同士での相殺に成功し、空のもとへ向かうための最短距離を確保した。
弾幕が消滅した瞬間、レミリアは空に次の弾幕を展開させる前に接近すべく駆け出した。
その手にはいつ作り出したのか、普段と比べるとやや小ぶりだが霊力から生成した『真紅の槍』が握られていた。
空も、やるじゃないと呟きつつ、制御棒からレーザー状の刃を形成する。
そして空のもとへたどり着いたレミリアは加速した勢いを殺すことなく上段から振り下ろし、
空はその一撃を受け止める形となった。
夜の一族が操る魔槍と太陽の力を宿す刃が激しく激突した!
「ち…小さい割に力持ちね。」
「ふ…ふん、まだ…まだこんなの序の口よ。」
お互いの力、獲物共に拮抗していた。いや、純粋な力比べにおいてレミリアに軍配が上がるだろう。
空がいくらパワーに自信があるといえど、吸血鬼は鬼に次ぐ力を持っており、強大な種族の壁を超えるには至らない。
しかし、獲物においては差が出てしまった。太陽を避ける存在とその力を操る存在
とでは、それぞれの力で生み出した武器においても同様の優劣がついてしまったからだ。
「ずいぶん刃こぼれがひどいわね?そんな武器で大丈夫かしら?」
「ご丁寧にどうも、大丈夫よ問題ないわ。まったく忌々しい太陽ね。」
武器が火花を散らすごとに『真紅の槍』は太陽の光に溶かされるように刃こぼれしていった。
そのためレミリアは魔力を絶えず注ぎ修復しなければならなかった。
迂闊に全力で打ち合えば一気に壊れる可能性もあり加減しなければならないが、問題はそれだけではない。
流石にこの距離だと暑くて仕方ないわね。
対峙してすぐは平気だったが、鍔迫り合いからの武器の打ち合いは、日光を直接浴びてしまい、まるで火で炙られているような痛みがレミリアを襲っていた。全身が焼かれる痛みに舌打ちしながら、どう動くかを思考する。
このままじゃあ身体は焼かれるわ、魔力は消耗するわ、私には不利…いったん距離を―――
なんでこいつこんな力があるのよ?でもこの距離ならワムウと同じように火だるまにしてやれるわ!
レミリアは空にもう一度鍔迫り合いの状態に持ち込み、隙なくバックステップで距離を取るべく接近する。
空もこれに応じて再び鍔迫り合いの形となった。レミリアは武器を介して体重をかけるが、
空からの手応えが小さいこと、加えて空が急に黙り込んだことに気づき訝しんだ。
「あんた、何か狙ってるでしょう?」
「あーもう、ちょっと黙っててよ!集中できないじゃない―――あっ…」
「はぁー、私も舐められたもの…ねえ!」
硬直状態に業を煮やした空がスペルカードの準備をしていることを察したレミリアは、
霊力を最大限にして『真紅の槍』をスペルカード「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
の大きさへと一気に昇華させる。
「ちょ、何なのよその大きさ!」
「暑苦しいわ、退きなさい!」
空が驚くのも無理はない。その大きさはレミリアの身の丈の何倍にも及ぶ
凶悪なフォルムへと姿を変えていたからだ。レミリアはさらに今まで抑えていた力も
全力にして強引に空を押し退けた。何かをしながらの慣れないスペルカードの準備
にすっかり気取られた空は吸血鬼の力をもろに受けて大きく吹き飛ばされた。
-
「このまま叩き潰す!…っあれ?」
レミリアは吹き飛んだ空に追撃を試みるが足に力が入らず、片膝を地に着いてしまった。
「…だったら!神槍『スピア・ザ・グング……えっ!?」
今度は「神槍『スピア・ザ・グングニル』」を投擲―――しようとするが、
急に霊力の維持ができなくなり、元の大きさに戻ってしまう。
「…な、何でよ…!こんな、はぁ、大事な時に…!」
レミリアもまた慣れない日光を浴びながらの戦闘、特に至近距離で浴びた反動か、
想像以上に全身の火傷と疲労が蓄積されていたのだった。
しかし彼女はそれに気づかず、むしろ冷静さを失う。
「はぁッ、吸血鬼の私が、はぁーッ…こんな…こんな体たらくで終われるかああぁぁあああ!!」
それでも執念で立ち上がり今持てる全力で投擲する。しかし、空が本来はレミリア
に食らわせるはずだったスペルカード「制御『セルフトカマク』」が既に展開されて
おり、彼女に突き刺さるよりも早く高熱空間に飲み込んでしまった。
結局のところレミリアは空へダメージを与えるまでには至らなかった。
夜の一族が太陽の下で闘ったことがまるで呪いのように体を蝕み、思うように動けなくなったのだった。
「はぁーッ、吸血鬼の私が…馬鹿を考えている妖怪ぐらい…止めることなんて、わけないのにッ、どうしてよ…。」
レミリアは折角のチャンスを棒に振ってしまったことに茫然としていた瞬間―――
彼女の頭を軽くポンポンと叩かれるのを感じ、猛スピードで駆け出した大きな背中が見えた。
彼女はそれを見てホッとした自分を、見送ることしかできない自分がただただ恨めしかった。
-
一方空は吹き飛ばされた際に地面を何度か転がったが、湿地の環境のおかげか大した怪我はなく、
彼女に宿る八咫烏に感謝するのだった。しかし、身を起こした瞬間空は驚愕する―――
彼女にとって完全に埒外の存在が走ってきていることに!
「えっ!?な、なんで?あ、あんたいつからいたのよ!」
「答える必要は…ない!」
ジョナサンと空の距離は5メートル―――
空は咄嗟にもう一度「制御『セルフトカマク』」の発動を試みる。展開し終え
て間もなかったので、なんとか発動に成功する。
ジョナサンと空の距離は3メートル―――
こいつ、素手で挑むつもりなの?まあいいわ、この技の最中は私も特にできること
はないけど、一応ガードしておかないとね。
ジョナサンと空の距離は1メートル―――
レミリアが弾幕を払ってくれたこの好機を絶対に逃がさない、僕の全力の波紋をくれてやる!
ついにジョナサンの腕がセルフトカマクの射程圏内に突入する。
うそ…!突破してくる、狙いは…鳩尾、ガードしないと!
空は自身の鳩尾を守るように制御棒を盾にするが、ジョナサンはそれがどうしたと、
言わんばかりにガードされた制御棒ごと空の腹部を激しく強打した!
もちろんそれだけでは終わらない―――
「流し込む!銀色の波紋疾走!!」
ジョナサンの放った拳を通して空へと波紋が駆け巡ると、殴られた衝撃と電気ショックに似た
感覚が彼女を襲い、またもや強かに吹き飛ばされた。ジョナサンは罪悪感を抱くが確実な手ごたえを感じ、
気絶させることに安堵するのであった。セルフトカマクが展開している空間を無理やり突破した右手は、
シーザーの手袋ごと焼き付いており、酷い火傷を覗かせていた。
「僕には片手の火傷程度では止まれない理由がある。それは誇りある吸血鬼の『覚悟』
を無駄にしないため!延いては殺し合いを止めるため!君との闘う動機の『格』が違うんだ!」
ジョナサンは力強く宣言し、今の一撃で気絶したであろう空の様子を窺おうと近づく。
-
しかし、今度はジョナサンが驚愕する―――ついさっきまで倒れていた空が起き上がっていたのだ。
ジョナサンの位置を確認し、何か宣言すると金色のオーラを纏い、猛烈な勢いで迫っていた。
咄嗟の事態にジョナサンは対応できず、空の体当たりが腹部を捉えすさまじい衝撃と共に、
10メートルは吹き飛ばされただろうか、何度も地面を転がった。
「ぐああぁあっ!ま、まさか波紋が効いていない!?」
吹き飛ばされた地点を見るとよろけながらも空が立ち上がっており、こちらを見据えていた。
「っ痛ぁ…冗談じゃないわ。なんか痺れるし、無茶苦茶痛かったわよ。でも…
それだけね!妖怪の私をダウンさせるには貧弱ッ、貧弱すぎるのよ!」
「くっ!」
「あんた『覚悟』の『格』が違うとか言ったわね。なら私も見せてやるわ『核』の力!『核熱 核反応制御不能ダイブ』!」
そう言うと、空は自身の核エネルギーを体内で核反応を起こし、金色に輝くエネルギー
を鳥を模したシルエットの形として身に纏うと、ジョナサンの間合いを一瞬で詰めるほどに近づいていた。
ま、間に合わない…!
先ほどジョナサンに見舞った同じものだが、ジョナサンはあまりの速さに回避する術もなくまたも体当たりを受けた。
核エネルギーが生み出した圧倒的なまでの推進力による体当たりは、あまりにも暴力的
な威力を発揮し、まるでボールのようにジョナサンが吹き飛んでいった。
空はなおも追撃を狙おうとするが、スペルカードの通り「制御不能」であるため上手く軌道を調整できず代わりに上空へと飛翔した。
「ジョジョ!」
「私を倒すっていうならこれぐらいやってのけないと不可能よ。そして、後はまとめて
焼き払って終わりよ!」
なんてスピードだ、とても見切れるような速さじゃない!
ジョナサンは何とか意識を手放すことなく、ふらつきながらも立ち上がる。頭部からの出血、
さらに肋骨にもダメージがあるが空がまだ何か仕掛けようとしているのを即座に感じ取り、素早く構える。
2度に渡る空の突進に全身が悲鳴を上げるが、何とか波紋の呼吸を整え痛みを殺し、空のいる上空を見た。
この圧倒的なプレッシャー!最初に放った弾幕よりもさらに大きな力を感じる!
一体どうすれば僕の力で止められる!?
「ジョジョ、立てるわね?まずは距離を取るわよ。」
いつの間にか近づいてきたレミリアがそう言ってきた。どうやらもう動けるようだ。
言われた通り、ここは攻撃を何とかやり過ごさなければならない。二人は空から
離れるべく走り出したが、すぐさま異変に気付いた。
「これは…引き寄せられているのか!?」
そう二人は、空のいる方向へと吸い寄せられているのだった。
空を見ると彼女の手から球場に発光するエネルギー体があった。
「逃がさないわよ、弱ったあんたたちならこいつの引力からは逃げきれないわ!
―――『地獄の人工太陽』―――!!」
空が『太陽』に力を注ぐごとに引力が増し、二人の動きが鈍くなる。
このままじゃあマズい、あの子は上空にいるから手出しはできない上にあの『太陽』を受けたら、僕もレミリアも無事では…
ジョナサンは最悪のイメージをしてしまう―――全滅の危険性を。
だがここに来てジョナサンは自分の精神に潜む爆発力から、一つの天啓をひらめいた。それは―――
-
最初に考えたことは全滅だけは避けなくてはいけないということ、だが二人同時に射程圏外
にたどり着ける方法は思いつかなかった。そう二人同時には―――
「レミリア、すまない!」
そう言うが早いがジョナサンはレミリアをひょいと担ぎ上げた。
「えっ?ちょ、ちょっと!な、何の真似よ!」
「今から君を全力で投げるからその後は何とか距離を取ってくれ!」
レミリアはじたばたとするが日光を受けた影響かどこか弱々しく、ジョナサンは動じない。
「ハアッ?バカにしないでほしいわ。見てなさい今からあいつに一撃かましてやるわ!」
「説明している時間はない、無理やりだけど許してくれ!」
そういうとジョナサンはなんとレミリアに対して波紋を流したのだった!
暴れていたレミリアはくたっとしたのを確認したジョナサンは、
波紋の呼吸を整え思いっきりレミリアを投げた。彼女の身体が軽かったのか、
引力の圏内にも関わらずレミリアの身体はその圏外へ逃れることに成功した。
そして不思議なことに地面に激しくぶつかることなく大した傷はつかなかった。
「うまくいったか…。さあ、僕も覚悟を決めないとな……」
気が付けば、空との距離は彼女が持つ『太陽』の熱さを直に感じるほどになっていた。
「どうして吸血鬼を逃がしたの?」
「ここからは僕一人でやれるからさ。それに君だって仲間がいるなら巻き込まれないようにすると思うけどね?」
「当然ね!あんた達の始末なんて私だけで十分だからね!ってあんた一人で私を止めれるつもりなの?
馬鹿にしないでほしいわ!」
空は、上空から気を付けのポーズでジョナサンへとに近づくべく降下を始めた、その
意図は至近距離で当てるためだ。今まで少々無計画に霊力を消費し過ぎたので外したくはなかったのだ。
殴られた時はビリビリってきたけど、こいつにはそれくらいしかできないわ、確実に命中させる!
今できることは最高のコンディションで波紋を放てるようにすること。
死の『恐怖』を支配し『勇気』の証である正しい呼吸を生み出すんだ!
-
ついに距離は5メートルを切ったところで空は『地獄の人工太陽』を持つ手を正面に突き出そうとする。
ジョナサンもその瞬間を狙ったかのように動き出す。地面を力強く蹴り空目がけて跳躍し、
波紋を一斉に練り上げ、右腕の拳に波紋を集約させる。
彼は無謀にもその拳一つであの『太陽』に立ち向かうのだった!
「ちっぽけな存在ね。燃え尽きなさい!」
「おおおぉぉおおおお!食らえ、波紋疾走!」
二人の腕が激突するかに見えた瞬間―――しばらくして凄まじい爆発と共に強烈な太陽の光が降り注いだ。
僅かな間気を失っていたレミリアは、その轟音と身を刺すようなで無理やり覚醒させられた。
空が放った太陽はまるで彼女を嘲笑うかのように強烈な爆発を終えた今も輝いていた。
「あいつは!ジョジョはどこに行ったの!?」
日光は暑いがそんなものを気にしている場合ではない。上空にある太陽の下のほうを見るが
2人とも見当たらないのだ。すぐにでも太陽の下へと向かいたかったが、
日差しの影響か動きが鈍く、自身が吸血鬼であることを恨めしく思うほどだった。
幸いにも太陽は徐々に消滅してしまったようで、すぐに駆け寄るが二人そろって姿を消していた。
「どこよ…返事ぐらいしなさい、ジョジョ!」
そして、レミリアは想像してしまう、ジョナサンが相討ちを狙っていたのではないかと。
そのために自分を逃がしたのではないかと…
だがその時レミリアの耳にざぶんと、水の中に誰かが倒れる音が鼓膜を叩いた。音の方向は
彼女が向いている正反対の方向。反射で振り向くとそこに立っていたのは―――
-
時間はほんのわずか遡る…
二人の腕が激突するかに見えた瞬間のほんのコンマ数秒、空は違和感を感じていた。
腕が前へと突き出せないのだ。まるで見えない力に押さえつけられているように。
な、何よこれ!腕が動かない!?
その一方でジョナサンは空に対してジャンプした勢いのまま拳を彼女顔面を殴り抜いた!ダメ出しに波紋も流し込む。空は殴られた拍子に『太陽』を手放しそうになるのを何とか堪え、上空へ逃れる。
うっ、ぐっ!体が痺れる…!こうなったら『太陽』をぶつけて一旦距離を置くしか…
ジョナサンは地面へと着地、空は5メートルほどの高さまで飛翔し、再び振り出しに戻る……
かに思われた瞬間―――!
「逃がしはしないぞ!生命磁気への波紋疾走!!」
ジョナサンが波紋を練り上げると、今度は空の身体が引き寄せられた!
あまりの予想外の連続に対応できず、一気にジョナサンの下へ吸い寄せられる。
そう、突如空の腕の動きを封じ、今ジョナサンに引き寄せられている力の正体は波紋疾走によって、
生命磁気へ干渉したためだった。生物にあるとされる生命磁気を波紋により活性化させることで、
対象に磁力が宿ったかのように操作していたのだ。とはいえ上空にいる相手をも引き寄せることができたのは、
ウィル・A・ツェペリの波紋を受け継いだ彼だからこそ成せる業である。
そして、空は体の痺れからかついに『太陽』を上空へと放ってしまった。『太陽』は
主の制御を失ってしばらくするとそのエネルギーを保つことができずに拡散した。
幸いにも生命磁気によって引き寄せられた二人は、その爆発をまともに受けることは
なかったがその余波を受け、縺れ合う形となって地面を転がった。
「うわあぁあああ!」
「きゃああぁああ!」
二人が行き着いた先には湿地帯にある浅いため池だった。両者ずぶ濡れになりながらも先に仕掛けるべく立ち上がる。
-
「…っ、光熱『ハイテンションブレード』!」
空は自分の動きを操作された相手の力にどう動くか一瞬悩むが、制御棒からレーザー状の刃で切り伏せるために走る。
しかし、水辺において波紋戦士に僅かでも猶予を与えたのが勝敗を分けた!
「水を駆け巡る波紋!青緑の波紋疾走!!」
水に浸かっている足の先から波紋を伝わらせるように水を蹴り上げ、波紋は刃が届くより一寸早く空を捉える!
ずぶ濡れの空の身体に波紋は隈なく走り、その一撃が決着となった。
「っあああぁぁああッ!くっ、う…うにゅ…」
空はため池へとうつ伏せの姿勢で大きく水飛沫を上げて倒れた。ジョナサンはまた起き上がるかと身構えるが、
ピクリとも動かない。念のために脈をとって生きていると確認した後、ため池の外まで運び、
仰向けに変えてやるとついに緊張の糸が切れたようにその場に腰を落とした。
「ハァーーっ、ハァーーーっ。か、勝ったのか…」
ジョナサンは波紋の呼吸を忘れ、肩で息をする。その途端に全身痛み出すが、
まずはありったけの空気を身体に行き届けさせたかった。
-
しばらくするとそんなジョナサンの頭を後ろからポンポンと叩かれた。振り返ると、
そこにはやや不機嫌そうにこちらを見下ろすレミリアが立っていた。
「まさか邪魔だからって私が物みたいに投げられるなんてね。貴重な体験だった
わよ、ジョジョ。」
これが本物の邪魔者って奴かしら、と話すレミリアの語気は不満そうにも自嘲気味にも聞こえた。
ジョナサンはレミリアを危険に晒した自分の非を認め謝罪することにした。
「理由があるとはいっても、吸血鬼の君にいきなり波紋を通してすまなか…」
「違う!!」
ジョナサンの謝罪の言葉はレミリアの一喝で遮られた。
「なんで、なんで謝るのよ!」
レミリアは堰を切ったかのように思いをぶつける。
「あの戦いで私は確かに無力だったじゃないの!自身が吸血鬼である自分を呪うほどによ!
…ただの足手まといだった…挙げ句助けるつもりが逆にただの人間に
無様に助けられて、そいつは自分から頭を下げる…そんなんじゃあ…」
私の立つ瀬が…ないじゃない、と弱々しく付け足す。
レミリアは悔しかった、圧倒的な強者である吸血鬼が一転して無力な存在になって
しまったのだから。弱点が多いことは理解している。日光が苦手なことも理解している。普段の彼女なら強者故の制限だと一笑に伏せるだろうが今は違った。
そんな無力な自分を救ったのはついさっき出会った、ただの人間だったから。
厳密に言えばジョナサンは波紋を扱えるという点ではただの人間ではないが、吸血鬼で
あるレミリアからしたら、十分ただの人間だった。
この事実が皮肉にもレミリアのプライドに大きな傷をもたらしたのだ。
しかしジョナサンはレミリアを真っ直ぐ見据えてはっきりと告げた。
「君が最初に弾幕を突破してもらえなかったら、僕は避けるので精一杯だった。
君あっての勝利なんだ気に病む必要はないよ。」
「そういう謙虚な態度が私のプライドを踏みにじっていることに気が付かないの?
なんで私のプライドが傷ついたと思う?私が『上』であんたが『下』って見ていたからよ。」
レミリアの声はいつもより数段低く、ジョナサンも聞いていて肝を冷やしていた。
「僕は君がそんな風に見ていたとは思えない。共に戦う仲間として扱ってくれたことは僕自身が一番理解している!」
「じゃあ何で私はあんたに助けられてイラつくのよ!…答えは簡単よ。
人間ごときに守られた自身の不甲斐なさ、これに尽きるわ。」
そこで一旦区切るとレミリアはジョナサンに向かって歩き出した。
「サヨナラよ、ジョジョ…迷惑かけたわね。」
-
レミリアはそう言うとジョナサンの横を通り過ぎようとするが、ジョナサンは口を開く。
「君が感じたことは君自身にしか分からない…だが!君の抱いた不甲斐なさから、
僕から一つ言えることがある!」
レミリアは何も聞こえていないかのように平然と歩く。ジョナサンが気付いたもの、
レミリアの傲慢さの奥にあるものそれは―――
「それは『誇り』!吸血鬼として!幻想郷の一員としてこの殺し合いを止めるべく
動こうとした君の覚悟と責任の表れだ!」
「そんな君の『誇り』ある行動は誰であっても汚されていいものではない貴いものだ!」
レミリアの動きが止まった。
「君の言う通り、今この時を境に僕と君との同盟は終わりを告げる…。
しかし、このジョナサン・ジョースターは知っている!」
「君の内にある『誇り』、僕の内にある『覚悟』今もう一度引き合う『引力』になることを!」
ジョナサンはレミリアに手を差し出す。
「僕はもう一度君と手を組みたい、レミリア。お互いの関係を『プラス』でも『マイナス』でもない
『ゼロ』からのスタートとしてもう一度共に闘おう!だから!
自分の力が至らなかったなんて気にする必要はないんだ。」
レミリアは振り返る。
「何で私にそこまで関わろうとするの?」
ジョナサンは語る。レミリアと同じ種族である友人―――ディオのことを。
「僕の奇妙な友人とはもう殺すことでしか終わることができない間柄だ。
決して仲は良くなかった、いや悪かったと言っていいだろう。それでも僕の青春を
共に過ごしてきた相手だ。だから、今ふと思ったんだ。吸血鬼の友人を持っている
僕なら、ひょっとして人間の僕でも君が自分のプライド
を気にすることなくいられる相手になれないかって思ったんだ。」
「ふーん、前にも言ったけど勝手にインスタント製吸血鬼と一緒にするなっていったでしょ。それにあんまり理由になってないじゃない。
ったく、ちょっと私に皮肉や嫌味の一つでも言えば私の気は済むのにねぇ…。仲直りするのにお互い随分遠回りしていると思わない?」
「僕も君もそういう性分なんだ。こればかりは仕方ないんじゃないかな?」
レミリアは差し出された手を強く握り返す。
「『吸血鬼』の私に『対等』の関係を望むあんたの傲慢な願い、確かに受け取ったわよ、ジョジョ。
にしても熱烈なラブコールねぇ、他に言いようがなかったの?聞いてるこっちが恥ずかしいわ。」
「からかおうとしたって、引っかからないぞレミリア。」
「これは本当よ。まったく、ちゃんとした恋人がいるくせに誤解させるわよ、色男。」
「なっ、エリナは関係ないだろ!そ、そんなつもりで言ったわけじゃあないんだから!」
「やれやれ、この様子じゃエスコートさせるのは期待できそうにないわね。」
レミリアはクスクスと笑った。
-
「さてまずはこの烏をどうするか、ね。伸びている間にサクッととどめを刺しちゃおうかしら?」
「…分かって言っているだろ、レミリア。この子の仲間はこの殺し合いに巻き込まれている。
その仲間を救おうとする意志もあるんだ、何とか説得したい。」
「そう言うと思っていたわよ。とことんアマちゃんなんだから、殺されかけといてねぇ。」
レミリアから非難されるがそれでもジョナサンは意見を曲げなかった。
「僕は彼女に手を上げる度に思ったんだ。彼女にも仲間がいるはずだと、
その仲間が悲しむことはしたくないんだ。」
「まっ、あんたが止めて見せたんだから、私はとやかく言うつもりはないわよ。
でも一つだけ言っておくわ、こいつの説得が無理だった場合は…」
「完全に再起不能にする、分かっている。彼女の力は危険すぎる、万一逃がしたら
僕たちだけの問題では済まなくなる。」
満足のいく返事が聞こえたのでレミリアは、頷いて了承する。
「宜しい。とりあえずいきなり暴れられたら困るし、ふん縛っておきますか。
ジョジョ、ロープはあるかしら?折角だし私がやってあげるわ。」
レミリアが自分からやると言ったので嫌な予感がしたが、女性をロープで縛るのは
ジョナサン自身抵抗があったので、素直に命蓮寺から拝借してきたロープを取り出す。
「…ほどほどに頼むよレミリア。」
「任せなさい、まあこいつなら焼き切るかもしれないけどね。
ついでに物騒なこいつも取り上げておくわ。」
レミリアは空の右手に装着されている制御棒を無理やり取り外し、空のデイバック
を外すと嬉々とした表情でせっせとロープを巻き付けていった。
―――少女緊縛中―――
-
ジョナサンはその間に空が背負っていたデイバックの中身を見てみた。どうやら
基本支給品の他に二つ支給されているようだった。
一つは小さめな壺、もう一つはジョナサン自身見たことのない機械が入っていた。
「ちょっと、ちょっと私を差し置いて勝手に支給品の確認しないでよ。」
レミリアがいつの間にか戻ってきていた。どうやらあっという間に空を雁字搦めにして
しまったようだ、ジョナサンは空のことを少々気に病んだ。
「ああ、レミリア。君はこの機械について何か知っているかい?」
「何よこれ?見たことないものね。」
「この『ウォークマン』って機械に音楽が入っていて、イヤホンから聞こえてくる
みたいなんだけどこの画面を見てくれ。」
「『東方紅魔郷 No.13 亡き王女の為のセプテット レミリア・スカーレット
のテーマです。』って何よこれ。
勝手に人の名前を使ってどういうつもりかしら?ちょっとそれ貸してみなさい。」
そう言ってジョナサンからイヤホンを受け取ると、耳にはめ込んで
一頻り聞いてみる。やがて外すとレミリアは口を開いた。
「悪くないわね、私の名前を勝手に使っている点に目を瞑ればね。
ここにはいないけど、騒霊楽団の連中にでも演奏してもらうのもアリね。」
「そうじゃなくて、何か他に感じたことはないのか?」
「うーん、聞いたことないのに懐かしさを感じるって程度ね。どうやら私含め異変に携わった幻想郷の連中の曲がこいつに入っているようだわ。」
「ああ、その他に説明が載っていない曲もあるし、かなりの量だ。」
「気にはなるけど、こいつは後回しね。それでこの壺は何?」
「『河童の秘薬』と言って、切断された腕でも即座にくっつけることが出来る薬みたいだけど本当かな。」
レミリアはふむ、と頷くとジョナサンの右手を見遣る。
「ジョジョ、あんたが使いなさい。無茶した右手の火傷を直すのにね。命令、いいえ
友人としての頼みとして。」
「ああ、ありがたく使わせてもらうよ。」
ジョナサンは火傷を負った右手の手袋を外すと、そこへ黒い軟膏状の『河童の秘薬』を皮膚へと塗り込んだ。
するといつの間にか火傷の跡など最初からなかったかのように治っていた。
「…すごい、痛みも消えたし火傷の跡も全くないなんて。」
「へ〜、凄いわね。パチェは河童の腕が切り落とされた時にできるって言ってたし、
ここにいる河童から試してみようかしら?」
ジョナサンはレミリアが物騒なことを言っているのは気にせず壺を彼女に寄こした。
「僕の残りの傷は波紋法で治せる。それより太陽に焼かれた君のほうが、
治りもかなり遅いはずだから使ってほしい。」
「そうさせてもらうかしら、いまだにヒリヒリしてしょうがないわ。ってベトつきそうねこれ…」
「傷口に塗ってしまえばすぐに効果があるから我慢するんだ。」
「…うーん、仕方ないって言ってもね…」
しばしぐずるレミリアが『河童の秘薬』で日光による全身の火傷を治療するのはしばらくかかったようだ。
-
「レミリア、これから出発するけど目的地を変えたい。」
「どうしてよ、他に当てがあるの?」
当然の疑問である。レミリアの知る限りなら人が集まりやすいのはおそらく、紅魔館と人間の里だからだ。
「この子を抱えたまま紅魔館までの目指すのは少し遠いし、途中で襲われたら危険だ。
ひとまずこの子を寝かせておける場所へ行きたい。」
「そうねぇ、暴れだして私の家を焼かれたらたまったものじゃないわ。それじゃあ
さっきの寺に戻るつもり?」
「本当ならそうしたいけど、この子は命蓮寺を焼き討ちにするとか言っていた。
何か因縁がある場所かもしれないから、西にある『香霖堂』へ行こうと思う。」
レミリアはため息交じりにぼやく。
「やれやれねぇ、ひとまず日傘はお預けね。まぁあるとも限らないから構わないわ。」
「もし、日傘が手に入らなかった時のために、命蓮寺から一つは傘を持ってきているけどいらないかい?」
ジョナサンは持ってきた傘をデイパックから取り出す。妖怪『からかさ小僧』
を彷彿とさせる奇抜なデザインが光る傘だった。
「あら気が利く…、あんた物を見分けるセンスはないようね…。」
レミリアは一瞬表情が明るくなったが、傘のデザインを見て一気にがっかりしたようだった。
「命蓮寺に行くことが出来た記念も兼ねてもらってきたんだ。それにこの傘、
何だか使ってほしそうに見られてる気がして。それでつい…」
「そうやって興味本位で動くと、『石仮面』の時みたいになるわよ?」
「うっ…、冗談でもそれはやめてほしいな。…そうだな気を引き締めないと。」
痛いところを突かれたジョナサンは奇抜な唐傘をデイパックにしまうと、三人は目的地を変更し、香霖堂を目指すのだった。
「ジョジョ、言いそびれたけど一言いいかしら?」
「どうしたんだレミリア急に?」
「せっかく私の友人なるのだから、私のことは『レミィ』と呼びなさい。ひとまずこの殺し合いを終えるまでは…ね。」
-
【D-4(中央付近) 湿地帯/黎明】
【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:腹部に打撲(強)、肋骨損傷(中)、疲労(中)、頭部出血(処置済み)、
右手に火傷(完治)、半乾き、左頬に掠り傷(処置済)、波紋の呼吸により回復中
[装備]:シーザーの手袋@ジョジョ第2部(右手部分は焼け落ちて使用不能)
[道具]:河童の秘薬(半分消費)@東方茨歌仙、妖怪『からかさ小僧』風の傘@現
地調達、命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:レミィ(レミリア)を対等の友人として信頼し行動する。
2:霊烏路空を香霖堂へと連れていき説得する。説得が不可能な場合は完全に再
起不能にする。
3:スピードワゴンらと合流する。レミリアの知り合いも捜す。
4:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
5:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードとタルカスの名が何
故記載されている?『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なの
か?
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」
のみです。コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもし
れません。
※幻想郷、異変や妖怪についてより詳しく知りました。
【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:霊力消費(中)、全身に日光による火傷(ほぼ完治)、疲労(中)、右手
に軽い波紋の火傷(行動及び戦闘においての大きな支障は無し)、再生中
[装備]:なし
[道具]:「ピンクダークの少年」1部〜3部全巻@ジョジョ第4部、ウォークマ
ン@現実、制御棒、命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:主催者共を叩きのめす。
1:ジョジョ(ジョナサン)と対等の友人として認めて行動する。
2:霊烏路空を香霖堂へと連れていき説得する。説得が不可能な場合は完全に再
起不能にする。
3:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
4:自分から積極的に仕掛けることはしないが、敵対するなら容赦なく叩き潰す。
5:ジョナサンと吸血鬼ディオに興味。
6:…ピンクダークの少年の作者の岸部露伴って、名簿にいたわよね?
7:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降です。
※波紋及び日光によるダメージで受けた傷は通常の傷よりも治癒が遅いようです。
※「ピンクダークの少年」の第1部を半分以上読みました。
※ジョナサンとレミリアは互いに参加者内の知り合いや危険人物の情報を交換し
ました。どこまで詳しく情報を教えているかは未定です。
※ウォークマンに入っている自身のテーマ曲を聞きました。何故か聞いたことの
ある懐かしさを感じたようです。
【霊烏路空@東方地霊殿】
[状態]:気絶、ロープによる拘束、右頬強打、腹部に打撲(中)、波紋による痺れ(中)、
疲労(大)、霊力消費(大)、半乾き、わき腹の端に刺し傷(完治)、翼に打撲(完治)
[装備]:ロープ@現地調達、制御棒なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:地上を溶かし尽くして灼熱地獄に変える。
1:地霊殿の住人は保護する。
2:目の前の人間(ジョナサン)と吸血鬼(レミリア)を焼き尽くす。
2:地底の妖怪は邪魔しなきゃ見逃してやる。
3:ワムウ(名前知らない)は私が倒した(キリッ
4:取りあえず東進して命蓮寺で休む。寺は休んだ後で焼き討ち予定。
[備考]
※参戦時期は東方地霊殿の異変発生中です。
※地底の妖怪と認識している相手は、星熊勇儀、封獣ぬえ、伊吹萃香です。
※空が使用したスペルカード『地獄の人口太陽』が上空に放たれたことによって、
誰かが気づいたり、日光の影響を受けたりするかもしれません。
-
支給品紹介
○河童の秘薬
【出典:東方茨歌仙】
霊烏路空に支給。
運松翁という職漁師が、品書きの書かれた箱入りの腕、それを抱えるような形で
もう一つの腕を偶然川で拾い、それらを引き換えに河童からもらったものである。
塗ったところを瞬時に治せるほどの回復力があり、もし腕が取れていても元通り
に付け直せるそうだ。おそらく軟膏のようなものだと思われる。茨木華仙曰く
「河童が腕を切られた時に生み出される秘薬」らしいが、実際は不明。
○ウォークマン
【出典:現実】
霊烏路空に支給。
場所を選ばずにいつでもどこでも音楽を聞くことができる携帯電子機器。モデルはNW-S785。
東方靈異伝を始めとする旧作を含めた東方作品、西方、秘封倶楽部、幺樂団の歴史、書籍付属のCDなど
ZUN氏作曲の音楽が一通り聞くことが出来る。その他に曲ごとのコメントがあるものはコメントも読むことが出来る。
結構な量だが探せば他にも何か入っているかも?
○ロープ
【現地調達】
ジョナサン・ジョースターが命蓮寺で調達。
ジョナサンが命蓮寺から去る前に、役立ちそうな道具を探す際に見つけたものの一つ。
繊維を撚り合わせて一本に太く仕上げてあるもの。
現在はレミリアがストレスの発散のために、空を暴れさせないためにきつく縛ってある。
―――少女緊縛中―――
○妖怪『からかさ小僧』風の傘
【現地調達】
ジョナサン・ジョースターが命蓮寺で調達。
ジョナサンが命蓮寺から去る前に、役立ちそうな道具を探すついでに見つけたもの。
傘立てにある普通の唐傘に紛れて一本だけ奇抜なデザインだったのでよく目立っていた。万一紅魔館で日傘が入手できなかった場合に用意したものだが、当のレミリアは使う気はなさそうだ。
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投下終了です。
自分なりにキャラクターを動かしてみたけど自己満足になってないか
不安。、問題点ございましたら指摘お願いします。
それと、トリップ晒しているの指摘してくれてありがとうございます。
今度はたぶん別のトリップで参加します。
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あ、タイトルは「空が降りてくる 〜Nightmare Sun」でお願いします。
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うおぉ投下乙です!
東方らしい言葉遊びとジョジョらしい熱さがかっこいい!
紳士淑女ペアの友情に感動した!
何というか…言葉に出来ないけどとにかく凄かった!
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投下乙です!
紳士と淑女vsおくう、見事な闘いだった!ジョナサンかっこいい!
ジョナサンとレミリアのコンビやっぱりいいなぁ…
性格は違えど、どちらも確かな気高さと誇りを持ってるんだよね
レミリアも雪辱を乗り越えてジョナサンと対等な友人になったし、今後がますます気になる
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投下乙です。
ジョジョとお嬢のやり取りがとても面白かった。
気になった点として、お空はワムウの名前を知らないはず。
あと「身を刺すようなで無理やり」の部分は単語が抜けていますね。
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ふおおぉ、投下乙です!。
ジョジョと東方の良い所がうまい具合に混ざってる。
いいお話でした。
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いいね!この熱い友情
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>>395
ご指摘ありがとうございます。以下の文章と置き換えてください。
×あのワムウとかいう奴まあまあ強かったけど、八咫烏様の核融合の力の前には赤子当然だったわね。
○あの際どい服の大男、まあまあ強かったけど、八咫烏様の核融合の力の前には赤子当然だったわね。
×なんでこいつこんな力があるのよ?でもこの距離ならワムウと同じように火だるまにしてやれるわ!
○なんでこいつこんな力があるのよ?でもこの距離ならこいつを火だるまにしてやれるわ!
×僅かな間気を失っていたレミリアは、その轟音と身を刺すようなで無理やり覚醒させられた。
○僅かな間気を失っていたレミリアは、その轟音と身を刺すような光で無理やり覚醒させられた。
それと分かりにくいと感じた箇所があったので、≪≫で括った文章の後に、
以下の ちなみに で始まる文章の付け足しをお願いします。
≪ジョナサンが波紋を練り上げると、今度は空の身体が引き寄せられた!
あまりの予想外の連続に対応できず、一気にジョナサンの下へ吸い寄せられる。
そう、突如空の腕の動きを封じ、今ジョナサンに引き寄せられている力の正体は波紋疾走によって、
生命磁気へ干渉したためだった。生物にあるとされる生命磁気を波紋により活性化させることで、
対象に磁力が宿ったかのように操作していたのだ。とはいえ上空にいる相手をも引き寄せることができたのは、
ウィル・A・ツェペリの波紋を受け継いだ彼だからこそ成せる業である。≫
ちなみにレミリアを逃がすために波紋を流したのも、単に気絶させるためだけではない。
引力の圏内から生命磁気の反発によって逃がすため、地面に激しく激突させないようにするためでもあったのだ。
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投下乙でした。
紳士と淑女の友情がいいな……
一時はどうなるかと思ったけど、蓋を開けてみればすごく熱くなれる話でした。
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ウォークマンってメールとか使えたっけ?
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>>400
メールが使えるモデルのウォークマンもありますが、
私が指定したモデルだと多分使えないはずです。
もし、メール機能付きのものを使いたいのであれば
モデルを変更しても構わないですし、
次回の書き手の方に任せたいと思います。
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これより>>362の予約分を投下します。
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仰向けに倒れた静葉は、自らの心拍が急速に弱まってゆくのを感じ、死を覚悟していた。
彼女の身体を片足で踏みつけながら、ニヤけた顔で見下ろす大男。
あっという間の決着だった。私はここで死ぬのだ。
……遠方から頭に向けて空気弾を狙い撃っても、この男には打撲一つ負わせる事ができなかった。
こちらに気付いて駆け寄ってきたこの男を迎え討つべく放った私のスペルカードは、全く通用しなかった。
風で巻き上げた落ち葉を弾幕と化す、枯道「ロストウィンドロウ」。
あの男に確かに突き刺さったハズの無数の枯葉は瞬く間に灰と化し、傷ひとつ残せなかった。
逃げ切ることもできず、やぶれかぶれで放った渾身の回し蹴りは、
あの男に小指一本で受け止められ、逆に私の右足を貫かれてしまった。
巨大な岩に足をぶつけたような、絶望的に重く、堅固な感触だった。
そして、お返しとばかりにこの男から放たれた蹴りは私のみぞおちに深々とめり込み、
一瞬の間だけ、私の心臓をペシャンコに潰してしまった。
ショックを受けた私の心臓は、元の形に戻った後もその拍動を思い出すことができなかった。
全身がしびれ、指一本動かす事ができなかった。
見知らぬ相手も、見知った相手も、みんな殺してあの男たちの元にたどりつく。
例え、『どんな手を使っても』。
そんな私の『覚悟』は、この男のまえに呆気無く挫かれた。
この男は私には『どんな手を使っても』倒せないと、身をもって痛感させられた。
どうして気づけなかったのだろう。私は、弱い。
参加者名簿の、見知った名前を強い順に並べたら……私は下から片手で数えられる位に、弱い。
その上、こんな理不尽な程の強者までこの殺し合いに参加しているのだ。
私の『覚悟』が、ノミがヒグマに立ち向かうかのような『無謀』だったということに、
どうして気づけなかったのだろう。
-
「……ぐっ!!」
肺に残った空気が、強制的に吐き出された。
私の胸骨を踏みつける、焼けるように熱い男の足裏。
その足裏に、わずかだが体重が込められたのだ。
肋骨がたわみ、拍子の狂ってしまった心臓が圧迫された。
「……ぐっ、ふぐっ!ぐっ、うぐぅっ」
男は、何度も決まったリズムで私の身体を踏みつけ続けた。
嬲られている。……どうやら、楽には死なせてくれないらしい。
そのまま何十回も、私は出来損ないの楽器のように声を吐かされ続けた。
「……そろそろ良いかぁ?」
男は『演奏』を止め、おもむろにそうつぶやいた。
粘っこく、暑苦しくて、まるで溶けた鉛のような声だった。
そして私は、身体の異常に気付いた。
薄れていた意識がはっきりし始め、手足のしびれが消え、
血液の循環が戻り始め……心臓が再び正常に動き始めていたのだ。
人間が死にかけた時にこうして外から無理やり心臓を動かすと、息を吹き返す事があると聞くが……。
まさかこの男……私を助けたのか?どうして?
「『どうして助けた?』って顔してるから教えてやろう……フフフ、それはなァ……」
-
私の手足に何か熱いモノが触れるのを感じた。
血管だ。男の左手と両足の爪が開き、そこから血管が延びて来ているのだ。
……およそ生物の身体とは思えない高温を帯びた紐が、蛇のようにシルシルと私の身体に絡みついてくる。
私は男のなすがままに直立で吊るしあげられた。そして、空いた右手で
「……こうするためよおオォォーーーーッ!!」
と、一気に私の上着を引き裂いたのだった。
ああ、くそう、『そういう事』か。この男、秋の神であるこの私の、『春』を奪う気なのだ。
炎の縄に身体を縛られている最中だというのに、全身の血が凍りつくような恐怖を覚えた。
このゲームの敗者は『何もかも』奪い尽くされるのだと、私は心で理解した。
男の分厚い胸板が、輝く汗が、熱気立ち上る肌が、目の前に迫る。
……一体私はどうなってしまうのか。
「フフフ……」
男は分厚い唇を歪ませながら、私の頭ほどもありそうな巨大な握りこぶしを
露になった私の肌に近づけてきた。
私は固く目を瞑り、歯をくいしばって耐えることしかできない。
だが触覚だけは遮断できなかった。
遂に男の拳は、私のみぞおちに触れ、皮膚を押し込み、通り抜けて……?
骨と筋をかき分け?!……更には心臓に到達し……!
『何か』を残して、そっと離れて行ったのだった……。
-
「小娘……『秋静葉』だな?」
いつの間にか私は拘束を解かれ、地面に座り込んでいた。
「見せしめに死んだ『アキ・ミノリコ』とかいう小娘と似ていたからな……
……否定しないということはどうやら『正解』らしいな。
まあ、きさまが誰かは正直どうでも良いのだが……」
「…………」「ゴロロロ……」
私は全身がすくみ、男を見上げることしかできなかった。
膝元で転げ落ちていた猫草が頬をすり寄せてきていた。
「一度しか言わんから、よく聞けよ?
きさまはあと『33時間』で死ぬ」
何か言葉を発しようにも、歯がガチガチぶつかりあうだけで言葉にならなかった。
「きさまの心臓近くの動脈に、毒薬入りのリングを仕込ませてもらった。
リングからは33時間程で毒薬が漏れだす。
助かりたくば、33時間以内に俺のこの鼻のピアスに封じられた解毒剤を奪いに来い」
そして男はくるりと私に背を向け、振り返りながら
「俺の名はエシディシ。最後の蹴り、悪くなかったぞ。
人間相手ならば、骨の一本や二本は持っていけただろうな」
と言い残し、畳まれた紙切れを二枚、背中越しに投げてよこした。
そしてそのまま全身を包む筋肉を見せびらかすようにくねらせながら、ゆっくりと歩き去っていったのだった。
-
――――
(……ちょっと、親切にし過ぎたか?
……ワムウじゃあるまいし、支給品までくれてやったのはやりすぎかもなァ)
エシディシは静葉への施しを、少しだけ後悔していた。
極東の果てに住まうとされる『八百万の神々』の一柱である、秋静葉。
長らく好敵手と呼べる存在を失っていた彼は、『神』とやらがどんな強さを秘めているか興味が湧いたため、
静葉の不意討ちに『付き合ってやった』のだった。
だが、その結果は『散々』だった。
『神』であるはずの静葉の攻撃は到底エシディシの生命を脅かすことのできるものではなく、
彼女は小手調べの蹴りのたった一撃で絶命しかけてしまったのだ。
(これでは、最初に遭ったあの銀髪の方が幾分かマシだな……)
エシディシは『神』のあまりの弱さに嘆いていた。
純粋な強さでいえば、静葉は最初に出会った『死なない人間』にも劣る雑魚だった。
……では、何故エシディシは静葉の生命を救い、見逃したのか?
それは、彼女の目に宿る意志を、殺気を感じ取っていたからだった。
(……だが、鋭い、いい目をしていた……だから奴と少しだけ遊んでやりたくなったのだ。
……暇つぶしくらいにはなればいいのだがなァ)
-
この殺し合いの場で静葉が生き残ることができたとすれば、彼女は爆発的な成長を遂げているに違いない。
エシディシは静葉の意志が秘めた可能性に賭けてみたくなったのだ。
だから、エシディシは何故か手元に戻っていた『死の結婚指輪』を静葉に託したのだ。
……流石にここで『33日間』も待つわけにはいかないので、
リングに小さな傷を付けて『33時間』に時間を調節はしたが。
……背後から静葉の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
そうだ。激昂した時には大声で泣き叫び、頭を冷やすといい。
……そして願わくば、次会う時にこの俺をもっと『後悔』させて欲しいものだ。
【B−5 魔法の森/深夜】
【エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】
[状態]:胴体に火傷(小)、疲労(小)、再生中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:カーズらと共に生き残る。
1:一先ず気の赴くままに動いてみる。神々や蓬莱人などの未知の存在に興味。
2:仲間達以外の参加者を始末し、荒木飛呂彦と太田順也の下まで辿り着く。
3:他の柱の男たちと合流。だがアイツらがそう簡単にくたばるワケもないので、焦る必要はない。
4:夜明けに近づいてきたら日光から身を隠せる場所を探す。
5:静葉との再戦がちょっとだけ楽しみ。(あまり期待していない)
[備考]
※参戦時期はロギンス殺害後、ジョセフと相対する直前です。
※エシディシがどこへ向かうのかは次の書き手さんにお任せします。
※頭部と首筋の銃創は、外見では判らない程度まで治癒しました。
※胴体の火傷は、(中)から(小)まで回復しました。
-
――――
エシディシと名乗った大男の筋肉が木々の間に隠れてゆくと、
張り詰めていた静葉の中の何かがぷつりと切れてしまった。
そしてまさに『堰を切った』ように、目からは涙が、口からは叫びが、
一斉に溢れだしてきたのだった。
「う、うあああああああああああああああああああああああ!!」
「ニ゛ャッ!?」
静葉は思う。
どんな『意志』を持ってしても、それだけでは何も為せない。
そしてこの場においては、『弱い』ことがどんな非道よりも罪深いことで、
その罪を犯した者は何もかもを奪いつくされるのだ、と。
もう残された時間は『33時間』しかない。
今の私では、エシディシはどうやっても殺せない。
産まれて初めて、静葉は願った。
力が欲しい。強くなりたい。強くならなければ。
強くなるためには……どうすれば良い?
お願い、誰か……誰か教えて。
【B−5 魔法の森/深夜】
【秋静葉@東方風神録】
[状態]:霊力消費(小)、覚悟、主催者への恐怖(現在は抑え込んでいる)、エシディシへの恐怖、みぞおちに打撲
右足に小さな貫通傷(痛みはあるが、行動には支障ない)
エシディシの『死の結婚指輪』を心臓付近に埋め込まれる(2日目の正午に毒で死ぬ)
[装備]:猫草(ストレイ・キャット)@ジョジョ第4部、上着の一部が破かれた
[道具]:基本支給品、不明支給品×2(エシディシのもの)
[思考・状況]
基本行動方針:穣子を生き返らせる為に戦う。
1:恐怖を乗り越えてこの闘いに勝ち残る。
2:だけど、恐怖を乗り越えただけでは生き残れない。力が、強さが欲しい。
3:エシディシを二日目の正午までに倒し、鼻ピアスの中の解毒剤を奪う。
4:二人の主催者、特に太田順也に恐怖。だけど、あの二人には必ず復讐する。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
-
・支給品紹介
<死の結婚指輪@ジョジョの奇妙な冒険 第2部 戦闘潮流>
エシディシの初期装備。
参戦時期の関係で本来ならばジョセフ・ジョースターに埋め込んでいたものだったが、
何故かエシディシの手元に戻っていた。
見た目はただの派手なデザインの指輪だが、内部の空洞に毒薬が封じられている。
体内に入れると一定時間で毒薬が溶け出し、その者を絶命させる仕組みとなっている。
『柱の男』の持つ、生物内への侵入能力で体内に仕掛けられた場合、外科手術で取り出す事は不可能。
助かるためには柱の男の持つ解毒剤を奪うしか無い。
まさに「死を二人が分かつまで」の結婚指輪である。
現在、秋静葉の心臓付近に「エシディシの死の結婚指輪」が埋め込まれている。
埋め込まれてから33時間後・二日目の正午前後に指輪の中の毒薬が溶け出し、秋静葉は死ぬ。
解毒剤は、エシディシの鼻ピアスの中に入っている。
-
以上で投下を終了します。
-
投下乙です!
結果は惨敗か、まあそうなるよなぁ
死の婚約指輪まで埋め込まれた静葉の明日はどっちだ
そして静葉は今後強くなれるかどうか…
殺し合いに勝ち残る為にも、エシディシからピアスを手に入れる為にも
-
投下乙です。
エシディシが他の柱の男を尻目に、マイペースに楽しんでて良いなあ。
あとタイトルw
-
ごめんなさい。時刻は『深夜』ではなく『黎明』として下さい。
-
◆WjyuuPGo0Mの予約期限が過ぎましたが、連絡がございませんので破棄とみなします。
これで仗助、康一話が三回目か……
-
あらま期限超過か
気になるパートだったし、ゲリラでもいいから投下来てほしいんだけどなぁ…
-
連絡と投下が遅れて重ね重ねすみません。
-
もし仗助、康一らのパートを予約したい方がいらっしゃいましたら、
当然先に投下しても構いませんので。
その場合、後日没SS・没ネタスレに投下しますので。
-
投下乙です。
敗者は全てを奪われる。
普通の死に方すら。
-
すみません、予約延長します。
-
月報集計お疲れさまです。
-
すいません、途中送信してしまいました…
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
JOJO東方 53話(+18) 81/90 (-5) 90.0 (-5.6)
-
◆n4C8df9rq6さん、お疲れ様です。
-
◆n4C8df9rq6=サン、乙です。
-
すみません、なんとか書き終わりそうなんですが、
日をまたいでしまうかもしれません。
間に合わなければ破棄でお願いします。
予約がなければまた後日投下します、
長期間のキャラ専有申し訳ありません。
-
とりあえず明後日以降のゲリラ投下に期待
-
リサリサ、洩矢諏訪子、聖白蓮、ロバート・E・O・スピードワゴン、秦こころ、エシディシ
予約します
-
すいません、鳥付け忘れてました…
-
ディオ・ブランドー、エンリコプッチ、古明地こいし
予約します
>>427
>エシディシ
hopeless masqueradeや……
-
>ディオ・ブランドー、エンリコ・プッチ
おっこれはこいしちゃんダークサイド入りやな(震え声)
-
遂に出会うのか…
-
東風谷早苗、プロシュート、八坂神奈子、花京院典明
予約します。
-
さーて、誰が生き残るのかなー(棒)
-
DIOとプッチは生き残るよ!
-
なぜ安心できる予約が来ないのかww
-
遅くなりましたが、チルノ、八雲藍、二ツ岩マミゾウ投下します。
-
どこまで言っても同じ道、
そう思えてしまうほど変わり映えのしない竹林の景色の中を、
うんざりした眼でため息を吐きながら、二ッ岩マミゾウは歩いていた。
「うーむ、迷った……」
現在、マミゾウは迷っていた。
ここは迷いの竹林。
広い上に少しの傾斜があり、
斜めに茂る竹が歩く者の平衡感覚を狂わせ迷わせる、
幻想郷でも指折りの遭難スポットだ。
ただでさえ幻想郷に来て日も浅く、
土地勘もないマミゾウが迷うのは当然だった。
「おーい鈴仙殿―、居たら返事をせんかーい、
儂は悪いたぬきじゃないぞー!」
叫びは虚しく竹林の闇に消えていく。
そう、マミゾウは、先ほど偶然出会い、
自分の過失によって錯乱しながら逃げ去っていった、
鈴仙・優曇華院・イナバを探していた。
彼女はどこか追い詰められているようで、
この殺し合いの中では誰がどう見ても危険な状況だった。
多少の責任も感じていたし、
何よりいつ誰に狙われてもおかしくない彼女を放って置けるほど、
マミゾウの情は薄くなかった。
故に彼女を追ってみたのだが、土地勘と運動能力の差、
おまけに何やら術でも使われたか、追っている間に姿が消えてしまい。
見失い、今に至る。
「そりゃーおらんよなぁ……。
まったく初っ端からついとらんのー、幸先が悪いどころの話じゃないわい」
先程からかれこれ数十分は捜索しているが、
鈴仙どころか兎の一匹も見つかりはしない。
伝え聞いた話では、
竹林には妖怪兎や月に縁のある妖怪が多数生息しているはずなのにだ。
やはりここは幻想郷ではない、よく似た何処か別の場所。
もしくは主催者の荒木と太田が、
参加者を一人も気づかせずに拉致したように、
人知どころか妖怪すら上回る、
その尋常ならざる力によって“創造”したのだろう。
-
「どうしたものかのぉ……
なんとか主催者の奴らに仕返ししてやりたいが、
今は先に鈴仙殿を見つけなければならん。
どこに行ったのかのぉ……ん?あれは」
幾度目になるかわからないぼやきをしながら
見飽きた竹林の景色を再度見渡すと、
ひとつの小さな変化を見つけることができた。
「ほほう、竹の花か、珍しい。
確か六十年かそこらに一回しか咲かんもんじゃないか。
ついとらんと思とったが儂の運もまだ捨てたもんじゃないかものう」
青々とした竹の中で、小さく可憐に咲く竹の花を見て、マミゾウは呟く。
マミゾウの言う通り、竹の花は非常に珍しく、
その開花周期は種類により六十年とも百二十年とも言われている。
妖怪とはいえ、
常に竹林に住んででもいない限りなかなか見れるものではない。
そしてまさに竹の花の力か、
マミゾウが呟いたその時、同時に新たな変化、
付近から何かが走るような音が聞こえてきた。
思考を切り替え即座に頭を地面につけ耳を凝らすと、
足音から判断して二人いるようだ。
一人は必死に走っているのか、一歩一歩の音が大きく歩調も安定していない。
もう一人は、まるで機械のように一定の間隔を崩さず走り続けている。
対照的な二つの足音から判断するに、誰かが追われているのだろう。
そして理由は分からないが、
追う側は速力を完全制御し、相手の速度に合わせて走っている。
この点だけを見ても相当の実力差があるようだ
「となると、どうやら抜き差しならん状況のようじゃ。
竹の花は良し悪しは別として、変化はもたらしてくれたようじゃの。
さて、鈴仙殿かもしれんし、儂もいっちょ追いかけっこに加わるとするか」
そう言いマミゾウは、音が聞こえてきた方向へと、足を向かわせた。
その後ろでは、竹の花が手を振るように、
小さく揺れてマミゾウを見送っていた。
☆☆☆☆☆
-
黎明の竹林を走る、二つの影があった。
逃げる氷精・チルノと、追う式・八雲藍。
殺し合いの真っ只中だ。
しかし一見すると、一向にチルノと藍の距離は縮まっておらず、
とても殺し合いには見えない。
だがそれは、この殺し合いの場でも発揮される、
藍の計算能力によって導き出された、最も効率的な狩りの手段であった。
まだ殺さなければならない対象の多い藍は、
妖精相手に余計な消耗を防ぐため、
チルノと付かず離れずの距離を保ち体力と精神を摩耗させ、
抵抗する力を失わせた上で確実に殺す、という手段を選んでいたのだった。
抵抗しなければこんな思いをしなくて済んだのにな、と藍は無感情に呟く。
対するチルノは藍の思惑通り、心身ともに消耗し、
最早抵抗する気力も失いつつあった。
だがそれでも、チルノの中にある最強というプライドが、
諦めまいと必死にチルノを動かしていた。
だがそのチルノの気勢も、今まさに折れんとした時であった。
突如として現れた人影が藍に奇襲を仕掛けたことにより
、均衡が崩れ去ったのだ。
藍は奇襲の弾幕をギリギリで回避し、
新たな乱入者――二ッ岩マミゾウに目を向けた。
-
「お前は確か、二ッ岩マミゾウだったか。何をする」
「何をするも何も、弱いものいじめを見過ごせるほど非道ではないのでな。
お主も妖精相手に何をしておる。
主から弱いものいじめをしろとでも命じられたのか?」
「弱い強いは関係ない。種族実力の差別なく、
紫様以外のすべての参加者を殺すのが私の使命だ。
紫様もきっとそれをお望みになっているだろうしな。
それにお前とて例外ではない、邪魔をするならまずお前から殺す」
そう言いつつ藍は薙刀を構えた。
「やれやれ……そこの妖精!
ちょっと面倒なことになるかもしれんから少し離れておれ!
体力が戻り次第ここから逃げるんじゃ!」
内心まずいことになったのう、
と思いながらもマミゾウの思考と判断は冷静だった。
そしてマミゾウがそう言うと、満身創痍のチルノはコクリと頷き、
よろよろと後ろに下がっていった。
「さて、これで準備はおーけーじゃの。
でも儂あんましやる気せんのじゃが、やるのか?」
「殺る」
「なんか字が違う気がするのじゃが……仕方ない、
狐七化け狸八化け、ぐうの音も出んほどこてんぱんにしてやるわい!」
「背中を燃やされるのが望みか?
それとも茶釜にして二度と戻れないようにしてやるか?
どちらにせよお前は確実に殺す。そしてお前を殺した後にあの氷精も殺す」
「全くしょうがない奴じゃ……」
「いざ」
「……尋常に」
「「勝負!!」」
こうして、月が沈みかける竹林で、狐狸大戦争が始まった。
-
まず初撃、藍が大上段に構えた薙刀を殺意を込めて振り下ろす。
一撃必殺による短期決着が狙いだ。
対するマミゾウは咥えていた煙管を瞬時に刀に変化させて、
藍の一撃を受け止めた。
双方の得物がぶつかり合い、竹林に赤い火花が散る。
「ぐうう……なんちゅう馬鹿力じゃ、もっと加減せんかい!」
「今ので五割程度だ、次は本気で行く」
藍が一気に距離を詰めようとするが、マミゾウは弾幕を放って距離をとる。
接近戦では藍に分があった。
「馬鹿力に正直に戦ったら体が持たんわい。
やはり儂の十八番でやらんとな……まずこいつはどうじゃ!」
壱番勝負「霊長化弾幕変化」
マミゾウの宣言とともに周囲の竹の葉が人型に変化し、
次々と藍に向かって襲いかかる。
藍はそれを何とか躱そうとするが、
幾重にも襲ってくる人型は尽きることなく向かってきて、
避けても避けてもきりがない。
何度か躱した時点で藍は思考を切り替え、同じくスペルカードを宣言した。
式輝「狐狸妖怪レーザー」
輝く光条が次々にマミゾウの弾幕を焼き払う。
制限なしの戦いだからこそ出来る、手加減なし、美しさ皆無の弾幕だ。
あらかた弾幕を焼き払い、道が開けた所で藍が突進する。
薙刀はマミゾウを捉え一刀両断、
かに思われたが切ったはずのマミゾウから木の葉が舞い、
変わり身を使われたことを藍は理解した。
そして後ろを振り向くと、マミゾウが肩で息をして立っていた。
「ぜぇぜぇ、無茶苦茶な奴じゃ、竹林を吹き飛ばすつもりか!」
「まさか、さすがの私もそこまでの力はない。
紫様なら可能だろうがな。
それにもしそんな力があったとしても、
この竹林に紫様がいたら、ご迷惑をお掛けするからな、
あとお前程度にそんな本気は必要ない」
鼻で笑いながら藍は言う。やすい挑発だ。
「くうぅ!つくづく鼻持ちならんやつじゃ!これだから狐は好かん。
しかしそこまで言うならその挑発乗ってやろう。
儂も奥の手を出してやる、後悔するなよ……」
そう言いながらマミゾウは、
懐のエニグマの紙から一枚の円盤上のものを取り出し、
自然な動作で頭に“挿入”した。
そう、二ツ岩マミゾウに支給されたアイテムはスタンドディスクだったのだ!。
-
だが、マミゾウが使用してしばらくしても何の変化も訪れない。
ハズレのスタンドディスクを引いてしまったのだろうか。
そして警戒して様子を見ていた藍も、
目下の所脅威なしと判断しまたもやマミゾウに襲いかかる。
それでもマミゾウは不敵な笑みを絶やさず攻撃を避ける素振りすら見せない。
最早直撃は免れないほど藍が接近した時点で、
マミゾウは、成る程こっちか……と小さく呟き、ほんの少しだけ動いた。
もちろん躱せるほどの動きではない、藍の一撃がマミゾウに迫る。
が、マミゾウまで後ほんの少しのところで、
薙刀がありえない動きをし、マミゾウを避けた。
繰り返すがマミゾウが避けたのではなく、薙刀がマミゾウを避けたのだ。
藍はなにか不穏な気配を察知し、マミゾウから飛び退った。
「そっちは危ないぞい」
マミゾウがそう言うと同時に、
藍は飛び退いた着地地点に“偶然”あった石につまずき体制を崩した。
そしてつまずいた先にはまたもや“偶然”斜めに切られ鋭利に尖った竹が群生しており、
藍はなんとか体制を立て直そうとしたが、回避しきれなかった左足が竹に切り裂かれ鮮血が飛び散った。
「な、言ったじゃろ、そっちは危ないってな」
(これは何だ、いったい何が起こっている!?)
藍はそう思いながらも思考を高速で張り巡らす。
しかし、ここに藍の弱点があった。
式神として八雲紫から強大な知慧と力を与えられた藍だが、
その思考能力は既存の考えや定石等には強いが、
不測の事態や理解できないものに対する対応力が低い。
故に理解し難いものと直面すると、思考の処理能力が大幅に低下するのだ。
それでも藍は優秀な式神、
なんとか思考を立て直し状況分析に移ろうとする程には冷静だった。
だがいくら冷静だろうと、現在の状況分析は藍の能力の範囲外。
超能力や瞬間移動などちゃちな考えしか浮かんでこなかった。
そしてその隙を見逃すマミゾウではない。
考える暇を与えず次の攻撃に移った。
-
弐番勝負「肉食化弾幕変化」
先ほどの人型が今度は肉食動物に変化し、右から左から藍に襲いかかる。
マミゾウの能力の秘密を解かない限り、防戦一方にならざるを得ない。
藍は弾幕を避けながらも、
試験終了チャイム直前まで問題を解いている受験生のように必死に状況を観察・分析した。
その結果、ひとつ不自然な点を発見することができた。
マミゾウの近くに何かが浮いている。
少なくともマミゾウがディスクを挿入する直前まであんなものはなかったはずだ。
藍はそこにマミゾウの能力の秘密があると判断し、マミゾウの近くに弾幕を放った。
すると、
「ヤメロー、ヤメロッテバ。オレハ中立ダッツーの!
攻撃は通り抜けて行くダケダ。
ソレヨリ前ミロ前!
マミゾウの攻撃は既に決定シテイルンダカラ防御シネーと危ナイゼ」
そこにはドラゴンのような奴が居て、何やら忠告めいた事を言っている。
藍は無視して弾幕を撃ち続けた。
「人の話をキカネーヤツバッカダナ、現在オマエのいる位置は凶、
ラッキーカラーはオレンジでヘビ柄の財布は吉だ、あればだけど……」
ドラゴンがそういった瞬間、
藍は死角から現れたカラカッサ変化の攻撃を受け弾き飛ばされ、
そこに動物弾が殺到した。
爆煙が吹き上がる。
-
「フッフッフッ、これで儂の勝ちじゃろう。
ドラゴンが余計なことを言った時はどうなることかと思ったがの」
「ウルセーナ!俺はアンタの手下じゃナインダゼ、
風水はミンナが知るべきことダ」
「まったく……便利な能力じゃがうるさくてかなわんわい」
そう、マミゾウが手に入れた能力は『ドラゴンズ・ドリーム』。
風水の力で吉と凶の方角を教えてくれるスタンドだ。
先ほどのマミゾウの不可思議な回避や攻撃は、
この吉凶を利用することで行われていた。
「さーて狐はどんな具合かの、手加減はしたはずじゃがさすがに無事ってこともないじゃろう」
マミゾウが爆煙に近づく、すると突然煙の中から薙刀が突き出された!。
躱しきれずマミゾウは脇腹を切り裂かれる。
「なっ……何ぃぃーっ!戻ってこいドラゴンーーーッ!!」
マミゾウは脇腹を抑えながらドラゴンを呼び戻し再び吉の方角に入る。
が、受けたダメージは決して小さくはなかった。
マミゾウは藍の力を甘く見てしまったのだ。
爆煙は晴れ、藍の姿がはっきりと見えた。
たしかに多少のダメージは受けているがピンピンしている。
「なるほどな……払った代償はなかなか大きかったが、
今のお前の動き、そしてそのドラゴンとやらの言ったことでだいたい分かった。
お前のその能力、風水を占い利用する力だな」
そして藍はマミゾウの能力を見破った。
必要な情報さえ揃えば藍はその頭脳を遺憾なく発揮できるのだ。
それに風水は大陸から伝わりし秘術だが、
長い時を生き、賢者の式をしてきた藍が、
その程度のことを知らない道理がなかった。
-
「タネが分かってしまえば、二度と私には通じない。覚悟しろ」
式神「憑依荼吉尼天」
藍はスペルカードを発動し身体能力を強化、マミゾウに接近する。
高速戦闘に持ち込みドラゴンから引き剥がし近づかせない、
それがドラゴン対策に藍が考えだした戦法だった。
(油断してしまったのう……じゃがっ!)
対するマミゾウも藍を迎え撃つため術を発動、
すると周囲に大量のドラゴンが出現した。
どれが本物のドラゴンか分からなくし、
攻撃を避けながらチャンスを伺って本物のドラゴンに入り、
一撃必殺を狙う、その戦法にマミゾウは賭けた。
「今ばかしは黙っておれよ、ドラゴン!」
「ワイルドカーペット!」
更にマミゾウはドラゴンに釘を差しスペルカードを発動、
大量の肉食動物が鳥獣を追うような弾幕が、藍の行動を阻害するため藍に向かっていく。
だが藍は増えたドラゴンも弾幕も気にせず、
高速で弾幕を回避し、マミゾウに攻撃を仕掛け続ける。
チャンスを与えず速攻で勝負を決める考えか。
攻める藍と守るマミゾウ、一進一退の攻防が繰り広げられる。
-
そしてその攻防を一心に見つめる一つの影があった。
先ほど逃げたはずのチルノだった。
なぜチルノがここにいるのか、
それはここで逃げだしてしまうのは最強じゃないと思ったし、
また二人の戦いが気になったから戻ってきてしまっていたのだった。
次元の違う二人の大妖怪の攻防を見て、チルノは放心する。
その手元には、黒い何かが鈍く光っていた。
-
そしてついに状況が動く。
先にチャンスを掴んだのはマミゾウだった。
「マミゾウ化弾幕十変化」
チャンスを掴んだマミゾウはすかさずスペルカードを発動。
分身しそれぞれドラゴンに向かっていく。
藍はそれを止めようとするが、
身体強化の式を使っている藍は先程のレーザーのような大規模攻撃はできず、
一人ひとり狙っていくしかない。
故に藍が先に本物に当てるか、
マミゾウが先にドラゴンにたどり着くかの勝負になった。
そしてその勝負に勝ったのは、
「やったぞ!賭けに勝ったのはどうやらワシの方みたいじゃな!
お前は凶、儂は吉、これで儂の勝ちじゃーーーッ!!」
マミゾウだった。ドラゴンに入り藍に攻撃を仕掛けようとする。
「たしかに今の勝負はお前の勝ちだ、だが……」
マミゾウは気づいていなかった。
激しい攻防の中、守る側だったマミゾウは、
守ることに精一杯で、藍が策を仕掛けていることに。
そしていつの間にか自分が本物のドラゴンの死角に誘導されていたことに。
藍はマミゾウの狙いに気がついていたので本物ドラゴンの位置を覚えていた。
それを利用してマミゾウが本物のドラゴンを見失うよう立ちまわったのだ。
もちろんマミゾウも馬鹿ではない、
見失わないよう偽物は少しだけ本物と違う目印をつけていた。
だがその変化は藍に気づかれていた、そしてさらにそこを利用された。
藍は支給されていた水をマミゾウに悟られないよう鏡に変化させ、
本物とは逆の位置、つまり凶の方角に設置したのだ。
故にマミゾウがたどり着いたのは、本物ではなく水の鏡だった。
「こっこれは!?お主いつの間に!」
「言っただろう、二度と通じないと、既に対策済みだ!」
動揺するマミゾウに藍は薙刀を投げつけた。
マミゾウは回避できず腹部に薙刀が突き刺さり、
後ろにあった大きな竹に縫い付けられた。
そして、マミゾウが力を失ったことでドラゴンズ・ドリームのヴィジョンも消失した。
狐狸大戦争は、狐の勝利で幕を閉じた。
-
「ぐうっ!」
「私の勝ちだ、今楽にしてやる」
とどめを刺すため藍がマミゾウに近寄る。
「あー、参った参った、わ、儂の負けじゃ……じゃがちょっと待て」
「どうした、命乞いか?時間稼ぎか?それとも辞世の句でも詠むか?」
「そうしたいのは山々じゃがのう、もう煙も出んわい。
それにお主にはそんなことしても無駄じゃろう。
そうではなく、死にゆく者の勝者に対する忠告のようなもんじゃ、聞いて損はないと思うぞ」
「私は情け深いからな、いいだろう、いってみろ、
殺すことに変わりはないがな」
「まったく情け容赦ないじゃないか……そうじゃのう、
これは儂がお前と戦っている時に気づいたことじゃが、
お主、本当に式としての命令で動いておるのか?儂にはそうは見えん。
お主は式としてではなく、八雲藍という個として動いておる。
いくら八雲紫すら危機にさらされる現状とて、
追加の命令もなく全参加者を殺そうとするか?普通しないはずじゃ。
つまりお主は八雲紫の望まぬことをしているのかもしれんのだぞ?」
藍の眉がピクリと動く。
「……そんなことはない」
「いやある。それによく考えてみろ、
儂は幻想郷に来て日が浅いが幻想郷のことを気に入っておる。
妖怪と人間の共生が危ういバランスながらも成り立っている幻想郷をな。
そしてそんな慈悲深い郷の賢者をやっておる八雲紫が、
お主のやっているようなことを望むと思うのか?
お主の中の八雲紫はそんな自分勝手で無慈悲な奴なのか?違うじゃろ?」
「黙れ!死にぞこないは潔く死ね!」
マミゾウの言葉に藍は動揺し、逆上してマミゾウにとどめを刺さんとする。
だがその時、突然乾いた炸裂音がしたかと思うと、
藍の右腕に幾つもの穴が空き、血が噴出した。
「ぐうっあ!」
音のした場所を見ると、先ほど逃げたはずのチルノが銃を抱えて立っていた。
そしてマミゾウは藍が混乱している間に、
死力を振り絞りなんとか薙刀を引き抜いた。
突如現れたイレギュラーにより、またも状況は一変したのだった
。
だがいかに混乱しているとはいえ、藍は優秀だった。
戦況を分析し不利を悟ると、薙刀を拾い竹林の奥へと消えていった。
☆☆☆☆☆
-
竹林を走る、走る。
だがいくら走っても、藍の中に生まれた疑念は消えなかった。
「私は……紫様のため……自分のため?違う!でも……」
藍のその疑念は、式として最も危険な思考だった。
式神は、主の命令によって動くことで、最大限の力を発揮することが出来る。
しかし命令外のことをすれば、その力は元の化け狐だった頃と大差ないのだ。
もちろんそれでも十分な力ではある。
だがそれより問題なのは、
自分が主の思惑に背いているかもしれないという考えだ。
思考の袋小路に迷い込んでしまった藍の夜は明けない。
☆☆☆☆☆
-
【D-6 迷いの竹林(中央近辺)/早朝】
【八雲藍@東方妖々夢】
[状態]:左足に裂傷、右腕に銃創、霊力消費(中)、疲労(中)、軽度の混乱
[装備]:秦こころの薙刀@東方心綺楼
[道具]:ランダム支給品(0~1)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:紫様を生き残らせる
1:マサクゥル! 皆殺しだ!……果たして本当に正しいのか?……
2:橙への褒美の用意する
3:私自身の意志……だと?そんなはずは……
[備考]
※参戦時期は少なくとも神霊廟以降です。
※第一回放送時に香霖堂で橙と待ち合わせをしています。
-
「ふー助かったわい、感謝するぞ、そう言えばお主名は何と言う?」
腹部をさすりながらマミゾウが尋ねる。
なんとか致命傷を免れたようだ。
「……チルノ」
銃の反動がきつかったのか、
それとも先ほどのダメージが残っているのか、
どこか放心したような表情でチルノが答える。
「そーかチルノか、ありがとな、チルノは儂の命の恩人じゃ。
しかし思い切ったことをするもんじゃのう、
どこでそんなもんの使い方を習ったんじゃ?」
マミゾウはチルノの頭を撫でながら、
チルノの持つ黒光りする銃をチラと見て訊く。
「説明書がついてたの……」
そう言いチルノは、一枚の説明書を取り出した。
渡されたマミゾウは説明書を読み、
その誰でも人を殺せるように出来るような、
やけに薀蓄の書かれた無駄に読みやすい文章を見て、
嫌悪と同時に恐怖を覚えた。
これは素人すら殺人者に仕立てあげてしまうシロモノだ。
もしこんなものがこれ一つだけではなく他にも支給されていれば、
間違いなく殺し合いは加速するだろう。
主催者たちはまるで冗談のように冗談じゃないことをやっている。
思ったよりも事態は深刻なようだ。
だが今は、とにかくどこか安全な場所で状況を整えなければならない。
-
「よし、とりあえず落ち着けるところを探すか……
お、そうだ、その前にチルノ、その鉄砲は危ないから儂が預かろう。
何、悪いようにはせん、お主が危なくなっても儂が守ってやろう」
そう言いながら、マミゾウはチルノから銃を預かろうとした。
こんなものを持っていれば、
この哀れな妖精がまたいつ争いに巻き込まれてもおかしくないと判断したからだ。
しかしその時、タタタッ!と炸裂音がした。
「えっ?」
マミゾウはチルノから至近弾を幾つも喰らい、
何が起こったかも分からぬまま地面に倒れ伏した。
そう、マミゾウはこの時チルノに対して無警戒に過ぎた。
チルノが放心していたのは、銃を撃った反動でもなく、
抜け切らないダメージでもなかった。
ただひとつの理由、
それはあの最強と思っていた藍を、このマミゾウにすら勝つ藍を、
銃の力とはいえ自分が追い詰めたという愉悦、それだけだ。
そしてそんな状態のチルノから銃を取ろうとすれば、
こうなってしまうことは自然な話だった。
マミゾウがチルノのその変化に気づけていれば、結果は変わっていたかもしれない。
「ぁ……ああ……あたい、こんなはずじゃ……違う、違うの!」
そう言いながらチルノは走りだした。
その心の中は、後悔と混乱、そして、未だに疼き続ける暗い愉悦が渦巻いていた。
狐狸大戦争は終わり、そして、チルノの孤独な妖精大戦争が、始まろうとしていた。
☆☆☆☆☆
-
【D-6 迷いの竹林(中央近辺)/早朝】
【チルノ@東方紅魔郷】
[状態]:胸部に裂傷、疲労(小)、霊力消費(小)、混乱
[装備]:霊撃札×2@東方心綺楼 9mm機関けん銃(残弾0)@現実
[道具]:、基本支給品、予備弾倉(25発)×9
[思考・状況]
基本行動方針:どうしよう……
1:あたい……最強……
2:あたい……人を……殺しちゃった……
3:銃って最強。銃さえあればあのキツネにも勝てるかもしれない
4:マミゾウと藍の戦いでなんとなくスタンドを理解
[備考]
※参戦時期は未定です。
※藍とは別の方へ走りだしました。行った方向は次の書き手さんにお任せします。
-
チルノが走り去った後、一人竹林に残されたマミゾウは、
まだかすかに一命を取り留めていた。
しかしその生命の灯火が燃え尽きるのも、最早時間の問題だった。
「ドジを、踏んだのう……ふふ……何百年も生きたが、
死ぬときは思った以上に呆気無いもんじゃ」
マミゾウは弱々しく自重する。
だが、竹林に仰向けに倒れながら、
沈みつつある月を見るマミゾウの顔は、未だ不敵さを失っていなかった。
「じゃが、じゃがのう、ただでは死なん。
儂を殺したのはチルノじゃない、あの胸くそ悪い主催者共の悪意じゃ。
だから絶対に、あいつらに一杯食わしてやる!」
マミゾウは最後の力を振り絞り、
自分から取り出した『ドラゴンズ・ドリーム』のスタンドディスクを鳥に変化させ、
月沈む空に羽ばたかせた。
鳥はぐんぐん高度を上げていき、そして見えなくなった。
「なんとか行ったか……これは一か八かの賭けじゃ、
あれは使い方を間違わなければ頼りになる道具、
正しい心を持ったものが使えばきっと役に立つ。
ふふ……寺にいながら仏を信じぬ儂も、
今ばかしはあれが正しい心を持った者の元へ行くことを仏に祈ろう」
寺のことを思い出し、寺の皆の顔が頭に浮かんだ。
(すまん、どうやら儂は先に逝くようじゃ、だがただでは死なん。
儂は賭けに勝ってみせる。お主たちは儂より長く生きろ!)
「よく聞け!邪知暴虐の糞主催者共!
儂は佐渡の、いや、幻想郷の二ッ岩、二ツ岩マミゾウじゃ!
儂はお主たちの負けにこの生命を賭ける!いざ勝負じゃ!」
最後にそう言い残し、二ツ岩マミゾウは永遠の眠りについた。
空には、もう月は浮かんでいなかった。
【二ツ岩マミゾウ@東方神霊廟 死亡】
-
※C-6とD-6の間付近、竹林中央にマミゾウの死体と基本支給品が落ちています。
※空に『ドラゴンズ・ドリーム』のスタンドDISKが鳥に変化したものが飛んでいます。
しばらくしても誰の手元にもわたらなければ、術が解けてどこかに落ちます。
-
○支給品説明
『スタンドDISC ドラゴンズ・ドリーム』
破壊力:なし スピード:なし 射程距離:なし 持続力:A→C 精密動作性:なし 成長性:なし
頭に挿入することでスタンド「ドラゴンズ・ドリーム」を使用できる。
ドラゴンが吉凶の方角を教えてくれるスタンド。その運勢は絶対。
使用者がドラゴンを通して攻撃を行えば、その時点で攻撃の運命を決定させることも出来る。
このロワでは持続性の制限(連続十数分程度で再使用にはまた十数分かかる)を受けており、
長い間発動する事はできない。
また起こりうる幸運も不幸も、
直接命にかかわるレベルではない程度に制限されている。
現在は鳥に変化させられ空を飛んでいる。誰のもとに行き着くかは不明。
『9mm機関けん銃』
チルノに支給。
1999年に日本の自衛隊が採用した9mm口径の短機関銃。
性能はあまり良くない。
装弾数25発。有効射程約25m。
様々な政治的配慮により拳銃として扱われているが、性能はほぼ短機関銃。
発射速度は高速だが、銃床がないのでフルオート時の保持射撃は難しい。
狙って撃つというより至近距離で弾をばらまくのに適した性能と言われている。
本来の9mm機関けん銃のセレクターの各ポジションには、
安全/単射/連射の頭文字である「ア/タ/レ」が記されているが、
チルノの持っているものには、
あんぜん/たまにうつ/いっぱいうつの頭文字である「あ/た/い」が記されている。
主催者の遊び心かもしれない。
-
以上で投下を終了します。
ご指摘などあればどんどんおっしゃってください。
予約破棄すみませんでした。
-
投下お疲れ様です。
マミゾウが助かったかと思ったが意外な結末で面白かった
これはチルノもダークサイドに落ちそう(震え声)
-
投下乙です!
藍様は強かったけど、マミゾウさんも大したものだった
しかし最期にトドメを刺したのはチルノとは意外な展開に…
死に際までチルノを憎まず責めることも無かったマミゾウさんに惚れる
彼女の遺したドラゴンズ・ドリームは果たして誰に届くのか
-
乙です。
狐と狸の化かし合いの戦闘で
決め手も相手を化かした事によるものだった辺りが面白いね。
マミゾウさんは早期退場がもったいないぐらいの人格者だった。
合掌。
そして、不幸な事故による殺人と、追い詰められる精神。
ロワらしさが出てきてたまんねえっす。
-
乙です。これはミスですかね?
原文:マミゾウは弱々しく自重する
訂正?:マミゾウは弱々しく自嘲する
-
oh……ミスですすみません。
直したと思ったはずが直ってなかったみたいです。
ご指摘ありがとうございます。
wiki掲載時に直していただければ幸いです。
-
投下乙です。
龍が見た、儚き悪夢。
正しき狸は死に、二人の最強は情緒不安定に。
-
天子と仗助で予約します
-
仗助はそろそろ出てこい
-
売れ残り康一
-
広瀬康一を予約します。
-
なんたる早さか!
-
これでようやく全員か、楽しみだφ(..)
-
投下します
-
「すんませんでしたーーーッッ!!!」
腰を90度に曲げて、勢いよく頭を下げてきたのは、東方仗助だった。
彼といえば、あまりに不良な体裁。前髪は前に突き出たポンパドールにサイドの髪は後ろに流したリーゼント。
服は胸元を大きく開け、至る所にアクセサリーをあしらった学ランだ。しかも、身長は優に180cmを超える大男である。
そんな奴がいきなり謝ってきては、見た目とのギャップもあり、さしもの比那名居天子も戸惑わずにいられなかった。
「ちょ、いきなり何なのよ、貴方? それとも貴方は私に何かしたの?」
「いや、どうもこうもないっすよ、天子さん。話を聞いてみれば、天子さんはオレより年上っつうじゃないすかあ。
知らなかったとはいえ、随分と生意気な口をきいてしまったんで……本当すんませんでした!!」
「ああ、そんなこと」
と、天子の疑問は簡単に氷解した。
確かに仗助は天子をまるで年下の女の子のように扱い、話をしていた。
妖怪の山を歩いている道中で出会った二人は、お互いに戦意がないことを確認すると、早速情報交換に移ったわけだが、
そこで天子は退屈な会話に一興をと、自分の本当の年齢を仗助に告げたのだ。
天子としては、それは場を和ませるための一種の冗句のつもりであったのだが、そこに返ってきたのは何と謝罪。
仗助のツッコミや驚いた顔を想像していた天子の考えとは、正反対に位置するようなものである。
そのためか、天子の頭はフリーズを起こしてしまったが、仗助の真意を理解すれば、言葉は泉のように湧いてくる。
天子は仗助に怒るでもなく、天人らしく穏やかに、ゆっくりと口を開いていった。
「礼節を以って人は人と成す。貴方の心掛けは立派ね。でも、貴方の敬語は、どうにも不恰好よ。普通に話しなさいな、仗助」
「はあ……でも、うちの親は、こういうことにうるさいんすよ。舐めた口を年上にきいたってバレちまったら、それこそ頭カンカン。
雷が落ちてきちまいます。だから勘弁してください、天子さん」
仗助は後頭部を手で掻きながら、申し訳なさそうに呟いた。
素直であり、頑固でもある。容易に見て取れる仗助のそんな性格に苦笑しながら、天子は優しく応える。
「ん〜、なら、しょうがないか。別にそこまでこだわることでもないでしょうし。貴方の不細工な敬語、特別に我慢してあげるわ」
「はあ、すんません」
「それじゃあ、さっきの話を続きをしましょうか。幻想郷や私のことは話したし、次は貴方の番ね。さ、聞かせて」
「そうっすね〜、じゃあ、まずオレの仲間のことから……」
「……ああーーッ! ちょっと待って、仗助! 先に訊きたいことがあったわ!」
天子は仗助の話を遮り、声を上げた。
勿論、仗助の仲間のこと、そして仗助が住まう外の世界にも興味があったが、それ以上に天子の目を引くものが眼前に置いてあったのだ。
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「仗助は何でそんなバカみたいな髪型をしているの? それって何かの罰ゲーム? 外の世界の人間は残酷なことをするわね。
私がそんなことをさせられた自殺ものよ。恥ずかしくて外を歩けないわ。まさかとは思うけれど、そのハンバーグヘアーは自分でしたわけじゃないわよね?
だとしら、チョーウケルんだけど。貴方のセンスって一体どうなっているのよ? ひょっとして、ギャグ? ギャグなの? ねえ?
本当にバカみたい。猿でも、もう少し格好つけられるわよ。アハハハハハハ!!」
その瞬間、天子の顔面を轟音と共に拳が貫いた。
仗助のスタンドであるクレイジーダイヤモンドの拳は鋼のように硬く、大砲のような威力を併せ持つ。
天子は鼻血を振りまきながら、何メートルも地面を転がり、勢いよく後頭部を岩場へとぶつけた。
「おい、ババア!! 今、何つった!? オレの髪型が何だってぇーー!!? もういっぺん言ってみろや、コラーーーッ!!!!」
天子の悲惨な状態など、どこ吹く風と仗助は吹き荒れる感情のままに捲くし立てる。
自慢のヘアースタイルをバカにされて湧き出た仗助の怒りは未だ治まることを知らず、血走った目と燃えるような怒気を盛んに溢れさせていた。
しかし、仗助の鬼の形相を見ても、天子は怯むことなどせずに、逆に白い歯を全部見せるような豪快な笑みでもって応えた。
「詐を用いるのならば、その業によって閻魔に舌を抜かれる。ま、要するに因果応報ってことね。
何が殺し合いの打破? 私は嘘が大嫌いなのよ。今までだって、一度も嘘を吐いたことないしね。
だから、仗助……貴方が今からどんな目にあっても、文句を言う筋合いはどこにもない!! マーダーは死すべし!!」
天子による仗助へのマーダー認定。不意打ちに遠慮が一切排された一撃は、真っ直ぐにその結論へと導かせた。
一体誰が、あの髪型に相手を殺しかねんほどの怒りの源があると思えるだろうか。
天子は自分の考えに何ら疑問を持たず、マーダー排除という異変解決への第一歩を、殺意を含んだ木刀と共に力強く踏み出した。
【E-1 妖怪の山(麓付近)/黎明】
【比那名居天子@東方緋想天】
[状態]:鼻血ダラダラ、後頭部ズキズキ、ヒャッハー!
[装備]:木刀@現実
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに反抗し、主催者を完膚なきまでに叩きのめす。
1:仗助をブチのめす
2:殺し合いをおじゃんにする為の手段や仲間を捜す。
3:主催者だけではなく、殺し合いに乗ってる参加者も容赦なく叩きのめす。
4:自分の邪魔をするのなら乗っていようが乗っていなかろうが関係なくこてんぱんにする。
5:紫には一泡吹かせてやりたいけど、まぁ使えそうだし仲間にしてやることは考えなくもない。
[備考]
この殺し合いのゲームを『異変』と認識しています。
東方仗助をマーダーだと思っています。
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:怒りが有頂天!!!!
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの打破
1:天子をブチのめす
2:勿論、天子をブチのめす
3:やっぱり天子をブチのめす
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます
幻想郷についての知識を得ました
怒りで自分を見失っています
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投下終了
以上です
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投下乙でした!
仗助がキレた場合、相手が目上の人間であろうと見境い無く攻撃するのは原作設定だけど、
相手が女の子でも適用するのかな。
と思ったけど、仗助ならありそうな気もするw
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間違いなく適用する 困ったやつだ
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投下乙です
なんつうかお前らもうちょっと落ち着けwww
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天子さんや
これは殺されても文句は言えないよ
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てんこwww
ブン殴られたのにえらい楽しそうだなwww
>>467の投下を開始します。
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「『東方心綺楼』……ヒガシカタ、いや、これはトウホウって読むのか?」
広瀬康一の見つめる液晶画面には、確かにそう表示されていた。
まだゲーム開始から間もない頃、D−2エリア・猫の迷い里の一角の廃屋の中でのことだ。
彼の支給品のうちの一つは、ノートパソコンだったのだ。
「おおっ、何だコレスゲーッ!!」
と、康一が驚くのも無理もない。
1999年、プレステ2すら世に出ていない時代から呼び出されてきた彼にとって、
2013年発売のゲーム『東方心綺楼』と、それを動かすパソコンはまさに未来のアイテムだった。
見たこともない高精細の液晶画面、スピーカーからは流れる音楽はCDのように高音質だ。
「殺し合いの場に呼びつけておいてこんなものを持たせるなんて……
あの男たちは一体何を考えてるんだ? まさか、このパソコンにスタンドが宿っていたりとか……
でも説明書きを見てもやっぱりコレ、ただのパソコンみたいだし……
……ちょっと、調べてみないと判らないよなぁ……」
と、言い訳めいた事を口走る康一。
その手には、ご丁寧にも同梱されていたゲームパッドが握られている。
TVゲームが好きだという仗助ではないが、見たこともない高性能のゲーム機で
ちょっとぐらい遊んでみたいと彼が思うのは、きっと、自然で、仕方のないことである。
「キャラクターセレクト……格闘ゲームかな?」
『Practice』……『練習』モードを選択すると表示されたのは、
向かい合う様に大写しに配置された二人の人物のイラストと、それを遮る様に縦に並んだ10名の小さなイラスト……
よくある対戦格闘ゲームのキャラクター選択画面であった。
そこでまず、康一の目を引いたのが……
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「女の子ばっかりだな……」
巫女装束、黒い三角帽子、大きなリュック、タヌキの尻尾と、
画面のキャラクターは様々な特徴を持っていたが、共通していたのは『若い女性』であるということだった。
大体中学生から20歳程度の外見で描かれているように見える。
「うーん、こういうのは仗助くんにはウケないかもなー。
……あんなにモテるのに『恋愛?キョーミ沸かねぇなぁ〜』って顔してるし」
と、そんな呑気な事をつぶやく康一。
カーソルを動かすたびに次々に表示されるキャラクターの絵を眺めているうち、あることに気付く。
「この『黒い三角帽子』の女の子……最初の部屋でボクの前に立ってなかったか……?」
康一がカーソルを合わせたのは、『人間代表の魔法使い 霧雨魔理沙』なる少女だ。
黒い大きな三角帽子に、同じく黒い上着とスカート、腰まで届く金髪のロングヘア、
歳は康一と同じくらいか、あるいは少し年下に見える。
この、いかにも『私は魔女だぜ。うふふ』と言わんばかりの姿をした少女と同じ格好の後ろ姿を、
つい先程……最初に呼び出された広間で見かけていたことを思い出したのだった。
もしや。康一が参加者名簿を探すと、『霧雨魔理沙』という名前が見つかった。
彼女だけではない。『博麗霊夢』『河城にとり』『古明地こいし』『聖白蓮』『豊聡耳神子』
『二ツ岩マミゾウ』『秦こころ』。
……この『東方心綺楼』のキャラクター選択画面と参加者名簿で、『8人』の共通する名前が見つかったのだ。
今液晶に映るキャラクターたちとよく似た姿の人物が、魔理沙なる少女の他に7人とも
この会場に呼び出されている可能性は、非常に高い。
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「だけどまさか本物の『魔法使い』や『化け狸』だったり、しないよね……。
この人たちが『スタンド使い』なら、こんな風に呼ばれるような能力を持っててもおかしくはないだろうけど……。
『スタンド使い』って存在が格闘ゲームの題材になる程、世間に知られてる訳じゃないし……。
このキャラクターの『モデルとなった女の子』が、この殺し合いに参加させられているってことなのか?」
と、康一はそう推察した。
きっと彼女たちはどこかの芸能プロダクションのアイドル候補生か何かなのだろう。
『魔法使い』や『河童』だったりするのはこのゲームの中だけの話で、
実際はスタンド能力を持たない、普通の女の子たちなのだろう……。
そんな人たちが――見ず知らずの他人とはいえ――こんな殺し合いに巻き込まれて死んでゆくのは、許せることじゃない。
ボクの『エコーズ』でどこまでできるかは分からないが……早く探しだして、守ってあげよう。
……よく見るとみんな結構美人だし。
……ヒッ!やめて、ボクの脳内の由花子さん、そんな怖い目で見ないで。
そんなつもりはこれっぽっちも無いんです。ごめんなさい。ゴメンナサイ!
「ごっ、ごめんッ!ゴメンナサイ!!」
康一はこの場にいる訳でもない恋人に、思わず謝罪の言葉を口にしていた。
卓上に置いた名簿もそっちのけで、嫉妬の緑炎をその眼に燃やす幻覚に向かって、
繰り返し頭を振り下ろしていた。
「許して!浮気なんてするつもりじゃないんです……って、これはッ!」
その時視界に入り込んだ文字列が、康一を現実に引き戻した。
そこには、『広瀬康一』の他に、杜王町に住む友人たち
『東方仗助』、『虹村億泰』、『岸辺露伴』、『空条承太郎』、『ジョセフ・ジョースター』の名と
……顔を変えて行方をくらましたスタンド使いの殺人常習者『吉良吉影』の名が記されていたのだ。
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……そうだ。こんな所で油を売っている場合じゃあない。
ボクの友達が、見知らぬ女の子たちが、そして『吉良吉影』が、みんな一緒くたになって集められているんだ。
どんな事が起こるか、分かったもんじゃない。
吉良吉影が、あの女の子たちのうちの誰かの『手』を狙って既に動き出しているかもしれない。
すぐに出発しよう。仗助くん達と合流しなければ。彼女達を吉良吉影の魔の手から守らなければ。
こうして広瀬康一は荷物をたたみ、数刻の後に修羅界へと変貌する『猫の隠れ里』を後にしたのだった。
【D−2エリア・猫の隠れ里/深夜】
【広瀬康一@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:なし(服装は学生服)
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ・東方の物品・確認済み)、ゲーム用ノートパソコン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:仲間(仗助、億泰、露伴、承太郎、ジョセフ)と合流する。
2:吉良吉影を止める。
3:東方心綺楼の登場人物のモデルの少女たちを守る。
[備考]
※参戦時期は吉良吉影を一度取り逃がした後(第4部『シアーハートアタック(11)終了後』)です。
※スタンド能力『エコーズ』に課せられた制限は今のところ不明です。
※最初のホールで、霧雨魔理沙の後ろ姿を見かけています。
※『東方心綺楼』参戦者の外見と名前を覚えました。(秦こころも含む)
ただし、彼女たちの事を特殊な能力を持たない一般人だと思っています。
・支給品紹介
<ゲーム用ノートパソコン@現実>
2010年代に発売された、ノートパソコン。21型ワイド液晶のゲーム用モデル。
ノートパソコンとしてはかなりの高機能で、要求スペックの高いゲームソフトも快適に動く。
マウスと大量のバッテリーパックの他、ゲームパッドが2個付属されている。
PCゲーム『東方心綺楼』がインストール済み。
バージョンは不明だが、少なくとも秦こころがプレイアブルとなって以降のものである。
その他のソフト、機能については不明。
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以上で投下を終了します。
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投下乙です
輝夜のジャンプといいレミリアのウォークマンといい今回の心綺楼といい、このロワだと結構メタなネタ多いね
ある意味参加者数名の情報を手に入れたも同然だけど、さすがに彼女達を「本物の妖怪たち」とは思わないよなぁ…w
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投下乙です。
この康一、由花子さんに調教されすぎww
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投下乙です!
>『私は魔女だぜ。うふふ』
やめてさしあげろ
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予約延長します。
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同じく予約延長します。
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すいません、自分も延長します。
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リサリサ、洩矢諏訪子、聖白蓮、ロバート・E・O・スピードワゴン、秦こころ、エシディシ
投下します
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「〜♪」
夜の草原をとことこと歩く少女が一人。
その顔に女の面を被り、傍には無数の面と共に『石作りの仮面』を浮遊させて。
彼女は『石仮面』の能力を、感情を研究していた。
手に取るだけでも解る有り余るパワーと渦のように入り乱れる無数の感情。
それは感情を司る彼女にとって純粋に興味の対象であった。
未知の感情を無数に理解し、その力の一端を少しずつ理解し始めた少女は鼻歌を歌いながら上機嫌な様子で草原を南に進んでいた。
目的地は特に無い。ただ何となく、南へ進んでいるだけである。
その先に何が待ち受けているかも知らずに。
その先で出会う存在のことなど知る由もなく。
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「………。」
女の面を被り、目的も無く草原の中を歩いていた面霊気の少女『秦こころ』は、唐突にその場で足を止める。
森の方角から浅黒い肌の大男が現れたのだ。
あの様子を見る限りでは、恐らく森を抜けて草原まで出てきたのだろう。
少しばかり周囲を見渡していた男はこころの存在に気付く。
立ち止まる桃色の髪の少女を認識し、男はのらりくらりと歩み寄ってくる。
こころはそんな男の姿をじっと目を細めて眺める。
そしてある程度の距離を保った状態で、男は立ち止まった。
「…成る程、それは『石仮面』か」
こころの直ぐ傍で浮遊を続ける『石仮面』を見て、男は呟く。
男はこころが先程から研究をし続けていた面の名前をすんなりと答えた。
こころはそのことに少なからず驚きを感じる。まるで以前からこの面を知っていたかのような口振りだ。
だが、あくまで今は『平静』で在り続けるべく冷静に言葉を紡ぐ。
「これ?私の支給品。もう私の物だから、あげないよ」
傍に浮遊する石仮面を手に取り、さっと傍に抱え込むような素振りを見せながらこころはそう答える。
そんな返答を男は特に気にすることも無く、不敵な笑みを浮かべながらこころを見据える。
対するこころも、そんな男のことをじっと見つめている。
そして…暫しの沈黙がその場を包み込む。
互いに行動を見せることも無く、睨み合いのような状態が続く。
奇妙な緊張状態にも似たような時間を経過させ。
二人は、無言のまま向き合う―――
ごく短い時間の静寂を破る言葉。
それを先に発したのは、少女の方だ。
「あなたの感情が、ひしひしと伝わってくるわ」
「………」
男は何も言わずに少女の言葉を聞く。
どこか淡々としている様にも見えるその口振りを、黙って己の耳に入れていた。
「―――『愉しんでいる』のね?」
真っ直ぐに男を見据えながら、こころはそう言い当てる。
男は少しだけ呆気に取られたような表情を浮かべるも、口元には再び笑みが浮かぶ。
「愉しんでいる、か」
ククク、と含むような笑い声を口から漏らしながら顔を俯けて男はそう言った。
まさに図星を当てられたかのように、それで居て何処か面白そうに。
興味を抱いた様子で、男はこころに再び視線を向ける。
「その通りだよ」
その男は―――柱の男『エシディシ』は、堂々たる笑みと共に言い放った。
鋼のように屈強な肉体から、黒く禍々しい殺気を放出しながら。
-
直後に動き出したのもエシディシだ。
瞬時に地を蹴ると同時にこころと一気に距離を詰めて接近。
上半身を捻らせ、接近による加速の勢いを乗せた右拳を豪快に突き出す。
「…!」
対するこころはすぐさま右方へと逃げ、文字通り紙一重の回避を行う。
本当に咄嗟の判断だった。少しでも反応が遅れていたならばあの一撃を喰らっていただろう。
すぐさま霊力によって両手に一対の扇を形成させ、薙ぎ払うように振るう。
エシディシの胴の肉が扇によって勢い良く引き裂かれる。
引き裂かれた肉からは、鮮血が流れ出す――――
「え?」
血液を浴びた扇が『燃えていた』。
こころは扇面の上に滴る鮮血が沸騰した湯のようにグツグツと煮え滾っていることに気付く。
変わらぬ『無表情』のまま呆気に取られたこころの隙を、エシディシが見逃すはずが無かった。
ドスリと突き刺さるような衝撃がこころを襲う。
こころの腹部に、エシディシの鋭い蹴りが叩き込まれていた。
直後に彼女の身体は真っ直ぐに吹き飛ばされる。
『あっという間の一撃』によって容易く吹き飛んだこころは地面を転がり、うつぶせの状態で倒れ込む。
「フフフフ……全く、女子供というのは脆いな。すぐに壊れるから面白くない」
咽せる声に混じって何度か喀血するこころを見据えつつ、エシディシはのらりくらりと身構えることもせず歩み寄っていく。
扇の一撃で付けられた傷も不気味な肉の音を発しながら次第に塞がりつつある。
踞るこころに少しずつ近付くエシディシの口元には余裕の態度を表すかのような不敵な笑みが浮かんでいる。
だが、笑みを浮かべる顔とは裏腹に目の前の少女に対し内心物足りなくも感じていた。
あの銀髪といい神の少女といいコイツといい…どいつもこいつも、この程度か。
この場に居るのは、こんな貧弱な小娘共ばかりか?骨が折れるような獲物は居ないのか?
そう思い、こころを見下ろしていた矢先のことだった。
スッ、とこころがその場からゆっくりと立ち上がる。
口元の血を拭い、ぴくりとも動かぬ表情のままエシディシを視界に捉えた。
エシディシの方を向いた彼女の顔の半分を覆うものは哀しげな顔の老婆の面。
「…怖い」
こころがぼそりと呟いた。
空虚にも見える瞳がエシディシの姿を認識し、薄い唇が言葉を零していた。
彼女からおよそ数mほどの距離でエシディシは立ち止まる。
「小娘……お前、恐怖しているのか?」
「うん」
少女はすんなりと答えた。
恐怖を感じている。言葉の主旨とは裏腹に、少女の顔は相変わらず一瞬たりとも変わらない。
鈍い光を秘める瞳がゆっくりとエシディシを見据え、直後に彼女の被っているものが狐の面へと変わる。
少女の周囲に浮かぶ仮面達の一つだ。同時に先程まで被っていた老婆の面は、他の面と同様にこころの周囲に浮遊し始める。
「憶えた…『私自身』が本当の意味での『恐怖』という感情を認識したのは、今が初めてよ」
死は感情を生まない。
だが、死を目前に晒されて生まれる感情は存在する。
恐怖。焦燥。絶望。―――死を認識し始めた際の感情、その一端をこころの自我は理解した。
未だ朧げだった感情の一欠片を掴んだのだ。とはいえ、だからと言って死へと向かうことを許容するわけではない。
彼女の希薄な自我は答える。死という形で『感情の消滅』を齎す争いを受け入れるつもりは無い、と。
-
「…そして今、私は理解した。貴様は危険だ。貴様と言う存在は、この地に数多の『死』を齎す!」
狐の面を被ったこころが、先程とはまるで違う尊大な口調で言葉を発する。
「感情を踏み躙る悪鬼は、感情を司るこの私が成敗せねばならない!」
そして狐の面が、再び他の面と混ざるように周囲を浮遊し始める。
「私は、貴方を倒す」
直後に無表情な彼女が顔に被ったもの―――それは、『石仮面』!
この殺し合いの場で支給された未知の仮面。
彼女自身が感じたことの無い無数の感情が内包された代物。
仮面を被ったこころの内に芽生えるのは昂揚感。全能感。優越感!
――冷酷!残忍!常軌を逸する程のあらゆる感情が次々と胸の内に入り乱れる―――!
「―――WRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!」
こころは自らの身体を仰け反らせ、奇声のような咆哮を上げた。
余りに異様な光景を目前にしながらも、エシディシは不敵な笑みを浮かべる。
石仮面を着用した彼女から満ち溢れる霊力を感じ取っていたのだ。
多少とは言え、骨針を用いずに石仮面の力を引き出しているのか?
成る程、この『感情を操る小娘』は中々に楽しめそうじゃあないか。
数万年間久しく好敵手が居なかった。此処でも退屈続きだったが―――貴様は俺を楽しませてくれるのだろうな!
いいだろう。ならばこのエシディシが存分に『遊んで』やろう!
「フフフ…!精々俺を後悔させてくれるなよ!」
多大な期待と好奇心をその瞳に秘め、エシディシは傲岸不遜に笑う。
そしてその両手を正面に突き出し、爪から紅い血管を飛び出させる。
エシディシの灼熱の流法が―――解き放たれる。
「喰らってくたばれ!『怪焔王の流法』ッ!!」
その時だった。
エシディシとこころの間に割り込むように、『何か』が地面に突き刺さる。
その衝撃を二人は両腕を盾にして遮りつつ、落下してきた物を視界に捉える。
そう、その『何か』は光り輝く霊力で形成された刃を持つ『独鈷の槍』―――
「―――そこまでです!闘いを止めてください!」
独鈷に続いて割り込むように二人の前に姿を現したのは、紫混じりの金髪を持つ僧侶の女。
女の様子を少し離れた地点で見守るように立っているのは英国風の男性だ。
僧侶の女は二人に制止を促すように両手を突き出す。
-
「貴女は、聖白蓮」
こころの被る面が女の顔の面に代わり、現れた乱入者の名をぽつりと呟く。
ほう、とどこか興味を抱いているかのようにエシディシはこころと白蓮を交互に見る。
白蓮と呼ばれた女は真剣な表情で二人を牽制するように見ている。
エシディシは思う。不意打ちを起こそうと言う様子は見られない。大方殺し合いを止めたいと思っている立場の人間だろうか、と。
たった今割り込んできたこの『ヒジリ ビャクレン』という女にも興味がある。
だが、エシディシにはもう一つ興味の対象となる者が居た。
それは―――――
「…そこにいるのは『ロバート・E・O・スピードワゴン』か?」
「なっ…!?」
エシディシは少し離れた地点から白蓮を見守るように立ち尽くしている男―――スピードワゴンへと視線を向ける。
突然声をかけられたスピードワゴンは驚いたようにエシディシを見た。
当然のことだろう。相手は自分の名前を知っており、さも自分と顔見知りであるかのように問いかけてきたのだ。
(こいつ…『若い』?)
エシディシは目を細めてスピードワゴンの姿を見据える。
―――間違いない。自分達が眠っていたローマの遺跡でジョセフ・ジョースターやシーザー・ツェペリと共に居た『スピードワゴン』だ。
その顔立ち、声は完全に一致している。だが、奴は齢にして七十を超えているであろう老人だったはずだ。
視線の先に居るスピードワゴンは精々二十そこらの若造…一体何が起こっている?
血縁者などとは考えられない。あの反応、それに名簿に記載されていた『スピードワゴン』は奴だけなのだから。
「…まぁ、いい。貴様のことは後で考えさせて貰おう」
再びエシディシは視線を白蓮の方へと向ける。
こちらへと視線を向けられたのを見て、聖の表情は少し堅くなる。
「小娘。闘いを止めたいか?」
「…やむを得なければ、力づくでも貴方達を止めるつもりです」
「成る程…なら、まさに今…俺を力づくで止めなければならないなァ?俺は貴様らを須く殺し尽くす『化物』なんだからな」
殺意を隠すことも無く剥き出しにしながら、男はその右拳を構える。
…目の前の人物は、間違いなく戦うつもりだ。それも明確な殺意を以て。
話し合いが通じる相手ではないとならば…仕方がない。
心中でそう認識した聖は、両手の拳をグッと握り締めて身構える。
直後に様子を伺うように黙っていたこころがちらりと白蓮の方へ視線を向ける。
「聖白蓮、信じて」
白蓮の方へと目を向けたこころが静かにそう言う。
この殺し合いに巻き込まれる前に対峙していた時とは違う。その口振りはあくまで穏やかだ。
そう、以前とは違う。以前は暴走しかけていた力もどこか安定しているように感じられる。
「私は殺し合いには乗っていないよ。殺し合いは私の望みじゃない。今は貴女に協力する」
冷静に、それで居てきっぱりと断言するようにこころは白蓮にそう宣言した。
白蓮はこころの言葉を聞いて少しだけ驚きつつ彼女を見ていたが、同時に安心をその胸に憶える。
目の前の面霊気ははっきりと「殺し合いに乗っていない」と言ってきた。
先程までは危険性を疑っていたものの、彼女に殺意は芽生えていないようだ。
あの男のように戦意をこちらに向けてくる様子は見せていない。そのことに白蓮は安堵した。
直後に「その代わり」とこころが言葉を付け加え。
「私と共にあの男を倒すのだ!奴はこの穢れし檻にて殺戮を遂行する存在!奴がこの地に災いを齎すのは解り切ったことッ!!」
そっと『石仮面』を被ったこころのテンションが豹変。
異様に昂揚した口調でエシディシをビシリと指差しながら言い放っていた。
唐突なハイテンションっぷりに白蓮は一瞬呆気に取られてしまったが、目的はあくまで『共闘』してあの男を止めるということ。
殺し合いに乗っている者を止める、という目的は一致している。
そのまま白蓮はこころに対して静かに頷いた。
「……ええ、解りました。今は共闘と行きましょう、『秦こころ』さん」
「ありがと」
白蓮が共闘の申し入れを承諾。それに対し、仮面を外したこころがぺこりと頭を下げて御礼の言葉を言う。
短いお辞儀の後に顔を上げたこころが再び視線を向けたのは、立ち尽くす男の方だ。
何も言わずに少女達の会話を眺めていたが、二人の会話が終わったことを確認しゆっくりと口を開く。
「さて、お嬢さん方…お喋りは済んだかな?」
薄ら笑みを浮かべながら、エシディシは二人の少女を交互に見据える。
同時に二人の少女も即座に身構え、戦闘態勢に入った。
-
石仮面を被る少女との共闘を選んだ白蓮を、スピードワゴンは少し離れた地点から見守る。
白蓮とスピードワゴンは石仮面を被る面霊気「秦こころ」を追いかけて此処まで辿り着いた。
そこで目にしたのが先程の光景。大男とあのこころとかいう女の子が対峙していたのだ。
明らかな臨戦状態を止めるべく、白蓮はそこへ割って入っていったのだ。
(様子を見る限り、どうやらあの女の子は白蓮さんに敵意は無いらしいな)
石仮面の力に呑まれた化物、というわけではなかった。そのことに安心を憶えるが、同時に『あの男』を緊張した面持ちで見据える。
白蓮達と対峙する、筋肉隆々の大男。あの指先から伸びる血管といい、間違いない…あいつは人間じゃあない。
ディオ・ブランドー、ジャック・ザ・リパーという異能の人外達を目の当たりにしてきたスピードワゴンはすぐにそれを理解する。
吸血鬼?…いや、アイツはもっとおぞましい何かにさえ感じられる。
スピードワゴンは拳をグッと握り締めながらエシディシ、白蓮達を交互に見た。
(だが…俺ぁ、ただ見ていることしか出来ねえ…か)
先程のことを思い返す。白蓮から言われた言葉を。
『私が戦いを止めに行きます、スピードワゴンさんは暫く待っていて下さい』と言われたのだ。
当然の判断だろう。戦う術の無い自分が戦場に赴いた所で足手纏いになるだけだ。
手元にある支給品の「宝塔」も、本来の持ち主であるはずの白蓮さんから『ここぞという時に使ってください』と託されている。
燃費も悪いが故に、これで正面から戦うことは出来ない。結局、宝塔があった所でスピードワゴンは白蓮と共に戦闘に赴くことは出来ないのだ。
今の彼に出来るのは、白蓮を見守ることだけ。
彼女が上手くいくことを祈るだけ。
(俺はいつも傍観者だ…必死に戦っている勇敢な奴らを目の当たりにして、俺がやってやれるのは『祈り』だけ)
それだけしか出来ない。そのことが歯痒いし、悔しい。
だが、もしもの時はあの宝塔を………。……いや、その『もしもの時』が来ないことを祈ろう。
そう、今は『祈って』おこう。彼女の無事を。
今の自分に出来ることは、それだけだ。
(…今はただ、祈っているぜ…白蓮さん。アンタが…勝つことを!)
-
◆◆◆◆◆◆
―――黒髪の女性と金髪の少女が、共に草原を歩いていた。
波紋戦士のリサリサ、守矢の二柱の片割れである洩矢諏訪子の二人だ。
二人の間に会話は無い。ただ黙々と沈黙だけが流れ続けていた。
リサリサは周囲への警戒を行いつつ、前へと進み続けている。
諏訪子はそんな彼女に着いていくように後方を歩いている。
目的地が偶々同じ方向だったとはいえ、出会った当初は同行してくる諏訪子を不服そうに見ていたリサリサ。
しかし暫しの時間が経過してからは彼女も諦めたのか特に諏訪子を気にする素振りも見せなくなっていた。
(やっぱり…何だか、落ち着きの無いことだねー…)
後方からリサリサの姿を見ている諏訪子は、彼女の様子を見て内心そうごちる。
警戒心が強い、というよりも必要以上に周囲の様子を気にいている風に見える。
冷静沈着であるように見えてその態度はどこか焦燥を抱いているかのようだ。
出会った時から気付いてはいたが、やはり彼女には何か事情があるのだろう。
平静と云う仮面を被って冷静に振る舞おうとしているが、その実焦りは隠せていない。
自らの焦燥感を冷静を装った警戒心で覆い隠そうとしているのだろう。
太古から神として長い年月を生き続けてきた諏訪子は、リサリサの心情を薄々ながら見通していた。
(少し前に出会ったばかりとは言え…ま、あまり放ってはおけないね)
そんなリサリサの背を眺めながら、諏訪子は足下の雑草を踏み頻り歩き続ける。
偶々目的地が同じ方向にあった相手。少し前に出会ったばかりのリサリサとの関係は精々その程度のものだ。
だが、成り行きとは言え共に行動することになった相手。少しくらいは気にかけたくなる。
このリサリサという女性のことが、どうにも心配なのだ。
(この子、絶対に一人で何かを背負い込んでいるもの)
サングラスに覆い隠された目元から僅かに覗くリサリサの瞳を見て諏訪子は薄々気付いていた。
彼女の蒼い瞳から感じ取れるのは、その態度にも表れてるような「焦り」と「不安」。
出会った時からの様子を見る限りでは「殺し合いに巻き込まれたことへの恐怖」という風には見えない。
――もしかすると、彼女も私と同じくこの会場に「親しい者」がいるのではないか。
そう思いながらリサリサを見ていた矢先、視界に入った森を前にして彼女が動きを止める。
諏訪子はリサリサと共に動きを止め、突然立ち止まった彼女に声をかける。
「どうかしたの?」
「……いや」
スッと、リサリサが森とは別の方向を向いた。
彼女が見据えるのは、地図で言う『再思の道』の先であろう北西の方角。
「向こうが、どうにも騒がしい気がしてね」
リサリサは冷静にそう答える。
「騒がしい」気配がする。北西へと注意を向けた諏訪子の反応も、彼女と同じものだった。
「…同感、かな」
-
◆◆◆◆◆◆
「『怪焔王の流法』!」
荒々しく地を蹴ったエシディシは、その両手の指から血管を勢いよく伸ばしながら白蓮へと接近。
触手のような十本の血管を蠢かせ、白蓮へと一直線に伸ばす。
事前に詠唱を行っていた白蓮は、迫り来る血管に対し少しばかり驚きながらも冷静に見据え。
「はぁっ!」
放たれた触手に似た血管を前にした白蓮がその両手を合わせた直後、瞬時に血管が弾き飛ばされる。
消し飛ばされた血管は周囲に沸騰血をばらまいて雑草を焼き尽くしていく。
『ヴィルーパークシャの目』。周囲に弾幕をも掻き消す気合を放出する技だ。
詠唱を瞬時に終わらせる「魔神経巻」が無い以上、技の発動にはある程度の時間がかかるが…『受け身』の状態で待ち構え、事前に唱えていればある程度は補える。
白蓮は放たれた複数の血管を一斉に掻き消すように吹き飛ばし、接近してきたエシディシに備えるように拳を構える。
血管を吹き飛ばされながらも動じることの無いエシディシが白蓮へと腕を伸ばそうとした瞬間。
「―――憂嘆の長壁面」
エシディシの側面を狙うように、霊力を帯びた複数の面が放たれた。
こころからの攻撃に気付き、エシディシは咄嗟に動きを止めて防御行動を取るも追尾する複数の面の攻撃を受け切ることは出来なかった。
次々と衝突してくる霊力を帯びた面の攻撃に晒され、そのまま彼の巨躯は吹き飛ばされる。
吹き飛ばされるエシディシの隙に更なる追い討ちをかけるように、こころは霊力を凝縮させる。
「貧弱!貧弱ゥッ!!フフフハハハハハァーーーーーッ!!!」
こころの手元から淀んだ漆黒の球状の弾幕がエシディシに向けて次々と放たれた。
それは聖にとっても見覚えの無い技だ。あの『石仮面』の感情から生み出された弾幕なのか。
怒濤のような勢いで放たれる弾幕がエシディシを激しく攻め立てる。
(この感じ… 霊力が、あの時より増している?)
聖は攻撃を行うこころを見て心中で思う。
彼女から感じ取れる霊力が明らかに「異変の時」よりも増しているのだ。
その力はやはり不安定とは言え、希望の面を失っていた時よりは少なからず安定している。
―――聖は知らないことだが、今のこころは石仮面の力を引き出して戦っている。
短時間ながら石仮面の研究を行ったことで、ある程度だがその力を引き出せるようになったのだ。
石仮面の力はこころの身体能力、霊力の向上という結果を齎した。
そして石仮面の力によって荒々しく弾幕を放ち続けたこころは、石仮面を後頭部の側面に被らせた状態で狐の面によって顔を覆う!
「『吼怒の妖狐面』――――!」
その場から勢いよく跳び上がったこころ。
こころが身に纏うのは石仮面の力が作用した黒く淀んだ霊力。
彼女はそのまま『獰猛な獣の頭部』の形状をした霊力を全身に纏い、空中からエシディシ目掛けて奇襲のように突撃を行った―――!
「………。」
地面で膝を突き、怯んでいるエシディシ。先程までの弾幕の攻撃が効いたのだろう。
獣の頭部を模した霊力を纏って迫り来るこころを、笑みを浮かべながら見上げていた。
そして、唐突にエシディシは動き出す。
コキリ、コキリと気味の悪い音が何度も響いた。
「…!?」
目の前の光景に、こころは、白蓮は、スピードワゴンは自らの目を疑う。
エシディシの肉体が不自然に捻じ曲がり、跳躍をしながらこころの攻撃を器用に回避したのだ。
それはあまりにも異様だった。跳躍と共に骨格や間接を無理矢理に変形させて攻撃を避けたのだから。
こころとすれ違うように攻撃を回避したエシディシは、そのまま肉体を元の形状に戻し―――
「――危ない!白蓮さんッ!!」
-
唐突に発せられたスピードワゴンの声が白蓮の耳に入る。
そのままエシディシが跳躍の勢いによって、空中から白蓮の方まで落下するように迫ったのだ。
身構えていた白蓮は身体能力強化の魔法を発動し、迎撃の体制に入る。
こころから受けた弾幕によって焼け焦げた皮膚の至る所から、無数の血管が飛び出した!
「怪焔王、」
無数の血管から漏れ出すモノは、摂氏500℃にも達する灼熱の血液――――!
「大車獄の流法ォォォーーーーーーーッ!!!」
空中から落下するエシディシの全身から伸びる無数の血管針が、聖に向けて次々と放たれていく!
触手のように飛んでいく血管からは沸騰する溶岩のような灼熱の血液が溢れ出す―――!
「――――南無三ッ!!」
迫り来る脅威を目の当たりにし、白蓮は霊力を帯びた拳で血管針を次々と弾いていく。
最低限の強化魔法によって齎された身体能力は血管を受け流すように次々といなす。
しかし、更に畳み掛けるように襲いかかる灼熱の血液は回避し切れない。
全力の身体能力強化魔法ならばこの血管に対処出来るかもしれないが―――魔神経巻が無い以上、詠唱に大きな隙を晒すことになってしまう。
それ故に、下手に全力の魔法を発動することは危険だ。
そのまま最低限の強化魔法で何とか身体や腕を動かし続けるも、至近距離から無数の血管を弾くことにも限界がある。
血管から放出される灼熱の血液は何度も白蓮の身に掠り、服や皮膚の一部分を焼き焦がしていく。
「この『エシディシ』の流法から、いつまで逃れられるかなァーーーーーーッ!!?」
地面に降り立ったエシディシは尚も血管針によって白蓮を激しく攻め立てる。
触手の如く蠢く血管が、白蓮を焼き付くさんと畳み掛けるように次々と襲いかかっている。
魔法の効果によるものか、ある程度の肉体強度を持っているのか、彼女は血液を少量とはいえ何度かその身に浴びながらも強引に持ち堪える。
しかし、白蓮が見せているのはあくまで苦い表情だ。歯を食いしばり、『熱血』による苦痛を堪えているようにも見える。
エシディシの流法の餌食になるのは、時間の問題に思われた。
だが――――
「白蓮!そこから離れるんだァーーーッ!!」
「え、…!」
少し離れた方向から突然耳に入った声。―――こころの声だ。
石仮面の作用か、相変わらず非常にテンションの高い口調だが白蓮にそんなことを気にしている暇は無い。
傷を負う覚悟の咄嗟の一撃で無数の血管を弾きつつ、一気に後ろへ下がって距離を取る。
「『歓喜の獅子面』―――!!」
直後、エシディシ目掛けて一直線に放たれたのは―――燃え盛る灼熱の炎!
それはこころが被る獅子舞の面の口から発射されているものだ。
まるで濁流のような激しさを持つ炎が、エシディシに迫り来る!
「ぬうッ…!?」
エシディシは咄嗟に回避をしようとするも、僅かにタイミングが遅れた。
勢いよく飛んでいく炎は複数の血管針を瞬時に焼き尽くし、回避を行おうとしたエシディシの左腕をも豪快に焼き尽くす。
本来ならば『この程度の熱』は持ち堪えられるはずだが、殺し合いの場で制限下に置かれているエシディシの肉体には十分通る一撃となっていた。
幾つもの血管と左腕を焼かれながらも、エシディシは後方へと下がって二人と距離を取る。
-
「……俺の……左腕が……」
一定の距離で向かい合う三者。
身体中に火傷の痕を負い、歯を食いしばりながらも「柱の男」の方へと向いて身構える白蓮。
石仮面を被り、両手に二枚の扇を出現させて「柱の男」を見据えるこころ。
そして焼き尽くされた左腕を、唖然としたように眺めるエシディシ。
「焼かれちまった……こんなにも……」
エシディシは動かない。ただ立ち尽くすだけだ。ただ、呆然と傷を眺めている。
自分がこれ程までの傷を受けることがショックだったのだろうか。
あくまで『止める』ことが目的の白蓮は、隙を晒すエシディシを攻めにいくような様子は見受けられない。
警戒を続け、エシディシの出方を伺っている受け身の体勢だ。
だが、こころは違った。死を以て感情を無に帰すエシディシを完膚なきまでに倒すことが目的。
真っ先に彼が見せる隙を見逃さなかったのはこころだ。手に持つ二つの扇に霊力を纏わせ、身構えたままエシディシを見据える。
そしてこころは、エシディシ目掛けて霊力を弾幕に変換させて放とうとした―――――
「………うぅぅッ」
エシディシの瞳に一粒、二粒の涙。
弾幕を放とうとしたこころが動きを止めた。
「ううぅぅぅぅぅ………あんまりだ…………」
左腕を押さえ、情けない声を発するエシディシの瞳から大粒の涙がボロボロと零れ始める。
攻撃を行おうとしたこころが、相手の出方を伺っていた白蓮が、ぽかんとしたようにエシディシを見ていた。
「HEEEEEEEEEEEEYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」
―――不気味なまでに甲高い『泣き声』が草原に響き渡る。
ぼろぼろと泣き始めていたエシディシがその場で号泣し始めたのだ。
傲岸不遜、余裕綽々の態度を見せていた先程までの彼の姿とはまるで違う。
「ああああァァァァァァァァんまりだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
AHHYYYAHHYYYYAGGGGHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!
WHHHHHHHOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHH!!!!!!!」
まるで我侭を叫び続ける駄々っ子の様に、生まれたばかりの赤子の様に。
ただ只管に、周りに居る者達のことなど気にせずに…無我夢中で泣き喚いていた。
こころは、白蓮は、スピードワゴンは、ただ唖然としたようにエシディシを見ていた。
豹変なんてレベルじゃない。目前であまりにも唐突に起こったことに対し、驚愕を通り越して呆気に取られたような反応をするしかなかった。
-
―――むしろ、今が好機じゃないのか。
泣き叫ぶ様子を目の当たりにしながらも、こころはハッとしたように思い出す。
隙を晒している今こそが攻め時。あいつを叩くチャンス。
すぐに両手の扇を握り締め、彼女は地を蹴る!
「――――今こそが、貴様の命の没する時だッ!!」
瞬時にエシディシへと接近しながら、こころは扇に霊力を纏わせる!
とにかく今は奴を叩く。倒す機会は今だ!直接叩いてやる!
そう考え、こころはすぐさま扇を振るおうとする―――
「………フゥ」
直後にエシディシの号泣がピタリと止まった。
エシディシの至近距離まで接近していたこころ。
だが彼が唐突に泣き止んだことに気付き、彼女は「え」と声を漏らす。
「…隙あり、とでも思って此処まで接近してきたのだろうが…流石に俺が泣き喚いたことに驚いているな?」
瞬間、エシディシの瞳は先程までの涙に歪んだものではなくなり。
「お前は一瞬の驚愕で思考を放棄してしまい…安易な攻撃方法を選んでしまったのだからな!」
――――瞬時に迫り来るこころの姿を、捉えていた。
制止をしようとした白蓮とスピードワゴンの叫び声が同時に聞こえてくる。
だが、もはや動きを止めることは出来ず。
「――――ッ、………!?」
エシディシの右足がドスリと腹部に突き刺さり、勢いよくこころの身体を持ち上げる。
両手の扇を落として吐血を繰り返し、苦しみながらエシディシの右足の爪先の上に乗せられていた。
強烈な一撃を腹部に叩き付けられ、こころは無表情のまま何度も咽ぶ。
「フフ…甘い、甘いぞ…小娘」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、エシディシは口から血を流すこころを見上げていた。
勝ち誇ったような笑みを浮かべたまま余裕の様子を見せている。
しかしその直後、彼は別の方向へと視線を向けた。
「こころさん――――ッ!!」
剣の形態を取った独鈷をその右手に握り締めながら、白蓮が駆け出していた。
身体能力強化魔法をその身に施し、風を斬るような勢いで走る。
このままあのような横暴を許すわけにはいかに。彼女を助けなければいけない。
力強く独鈷の柄を握り締めながら、白蓮はエシディシを睨む。
こころを右足で持ち上げるエシディシに向けて、攻撃を仕掛けようとした。
しかし、エシディシへと接近する途中で白蓮は転倒する。
突然何かに右足を取られ、その場で転げて独鈷を手元から落としてしまう。
白蓮は気付く。紐のような、鞭のような何かに右足を縛られているということに。
そして、間髪入れずに右足に襲いかかったのは―――。
「っ、ああぁぁぁぁぁぁッ!?」
――凄まじい『熱』。突然の苦痛に白蓮は声を上げる。
白蓮の右足に襲いかかったのは、『沸騰血』による超高温の熱だ。
-
倒れ込んでいた白蓮は、雑草の中を見て気付いた。自分の右脚を縛っているのは、『血管』だと。
エシディシが左足の爪から伸ばした血管が、白蓮の右足に絡み付いていたのだ。
それはこころの接近と共にエシディシが事前に仕掛けた『罠』。伸ばされる血管が足下の雑草によって隠れていた為に、白蓮は存在に気付くことが出来なかった。
倒れ込んだまま右足を血管から溢れ出す灼熱の血液で焼き尽くされる白蓮は、苦痛の表情を浮かべながら悶える。
「ふん!」
足を焼かれ、動けぬまま倒れ込んでいる白蓮をエシディシは横目で流し見つつこころを勢いよく地面に叩き付ける。
強靭な足を振り下ろしたことによる衝撃によってこころは地面を転がり、苦痛に耐え切れぬまま意識を失う。
こころが気絶したのを確認したエシディシは左足の爪から伸ばした血管を自分の元に戻し、白蓮の方を向く。
「……っ、…こころ…さん……」
「おいおい、無理は良くないぜ?…お前の右足は完全に『煮え滾っている』んだからな」
何とか立ち上がろうとする白蓮。しかし重度の火傷を負った右足の苦痛が襲い、満足に動けない。
疲労と消耗のせいか、魔力も上手く練ることが出来ない。脆い弾幕程度しか放てないだろう。
倒れ込んだままこころの方を向く白蓮へと、少しずつエシディシが迫る。
一歩一歩、雑草を踏み頻りながら。
―――付喪神として圧倒的な格を持ち、更には石仮面の力を引き出したことで普段以上の力を得ていたこころ。
―――人から魔に転じた存在である幻想郷屈指の大魔法使いの聖白蓮。
どちらも高い実力を持つ二人。単純な戦闘力ならばエシディシを前にも互角以上に戦えるはずだった。
だが聖白蓮は魔法の詠唱を一瞬まで短縮する「魔神経巻」を失い、普段のように強力な魔法を惜しみなく使った立ち回りが出来なかった。
こころがエシディシを抑え込んでいる隙に詠唱を行う隙があったかもしれないが、エシディシの実力を見抜いていた白蓮は下手に隙を晒すことを嫌った。
同時に、秦こころは「一瞬の隙を見せたこと」が不意を突かれる原因となった。
泣き叫んだエシディシを前にして驚愕し、彼の思惑通りの安易な攻撃方法を選んでしまったことで付け入られる隙を見せつけてしまった。
同時に、エシディシはこころを助けるべく白蓮が飛び出すことも予測していた。それを迎え撃つ為に血管の『トラップ』を仕掛け、誘い込んだのだ。
エシディシは敵を精神的に出し抜くことを得意とする技巧派の戦士であり、波紋戦士との百戦錬磨の戦いを乗り越えてきた柱の男。
―――単純な戦闘力だけではない、二人を出し抜く程の技量と戦闘技術を身につけていたのだ。
-
―――こ……こんな………、こんなことって…………!
唖然とした様に、彼は―――スピードワゴンは戦場を見ていた。
仮面の少女「こころ」は倒れ、白蓮さんは右足を焼かれたことで動けずにその場で踞っている。
立っているのはあのエシディシという名の大男。
殺し合いを止めるべく戦っていた少女が倒れ、残忍な殺人者が笑みを浮かべながら立っている。
こんなの、残酷すぎる。こんなこと、余りにも…!
気がつけば、その身体は震えていた。
白蓮さんが、あのこころって娘が殺されれば。
次に殺されるのは、間違いなく俺だ。
恐怖に戦きながら、彼はエシディシを見ていた。あの怪物が恐ろしくて仕方がなかった。
死にたくない。今すぐに逃げ出したい。そんなことさえ思える程に。
いっそ、このまま逃げてしまおうか。一瞬、そのような思考が脳裏を過ってしまった。
だが白蓮さんを見捨てるわけにもいかない。感情が、無数に渦巻く――
その時、白蓮が言葉を発した。
「……貴方は…これからも、人を殺し続けるんですか」
「…………何?」
エシディシは僅かに顔を歪めながら、倒れ込む白蓮を見下ろす。
死に際の苦し紛れの言葉か。そう思いつつ、彼は立ち止まった。
「殺戮の先に……希望なんて、ない。血に塗れた闘争の先に、未来なんて……ない」
「………」
真剣に、冷静に感情を言葉にこめながら白蓮は声を発し続ける。
「ましてや、それを楽しむなど……過ちでしかない」
右足を負傷して動けぬまま倒れている白蓮が、身体を僅かに起こしながらエシディシを見据えていた。
覚悟を秘めたその瞳は真剣に、真っ直ぐにエシディシを捉えていた。
「―――貴方は、間違っている!」
白蓮は、目の前の男に対して『断言』した。
自らを殺そうとする男に対し、臆することも無くそう言い切った。
その表情に死への恐怖は浮かんでいない。あるのは確固たる意志。
有りのままの『希望』を、『正しさ』を真っ直ぐに信じ、貫き通す純粋な意志。
彼女は、目の前の殺戮者に対しはっきりと自らの意思を叩き付けたのだ。
-
「………白蓮、さん……」
スピードワゴンは驚愕していた。
今まさに自分を殺そうとしている相手に対し、堂々と啖呵を切ってみせたのだから。
あれは、苦し紛れでも何でもない。恐怖に溺れてやけくそに放った一言でもない。
自らの正しさをストレートに叩き付けた、『純粋な意志』。
あの少女はこの殺し合いの場二巻き込まれ、死を目前にしながらも『正しいことの白の中』に居続けたのだ。
白蓮の中に見た『黄金の精神』。スピードワゴンは、いつの間にかその姿を『彼』と重ねていた。
ゴロツキである自分をも助けた、真の紳士。目の前の巨悪を前に、臆することも無く勇敢に立ち向かう戦士。
――――『ジョナサン・ジョースター』の姿を、聖白蓮に重ねていたのだ。
(カッコいい、じゃねえかよ…畜生)
聖白蓮さん。あの人は立派だ。ジョースターさんと同じだ。
それに対し、自分が情けなかった。ただ此処で指をくわえて眺めているだけ。
白蓮さんの危機を、助けることさえ出来ていない。まさしくただの傍観者。
俺はこのまま、何も出来ずに目の前で立ち尽くして祈っているだけなのか?
―――違う。
俺だって、何かしなくっちゃあいけないんだ。
ジョースターさんとの時だって同じだ。俺は、足手纏いになる為に戦いの場に来ているんじゃあない。
俺は、ジョースターさんや白蓮さんのような人を支える為に此処まで来ているんだ!
だから、俺は―――――!!
「やめッ、やがれぇぇぇぇッ!!」
スピードワゴンは歯を食いしばり、宝塔を握り締めた右腕を前面に突き出し―――エシディシへと向ける!
必死に戦っているあの人が死にそうだって言うのに、俺一人が黙って指をくわえて眺めているわけにはいかない!
俺は、此処まで―――白蓮さんの足手纏いになりに来たんじゃあないッ!
護るんだ!俺の手で、白蓮さん達を護ってやるんだ――――!
その思いが、スピードワゴンの身体を偏に動かしていた。
(力を凝縮して、レーザーを放つ…ッ!)
己の脳内でイメージする。
宝塔に『力』を一点集中、一気に収束させる!
-
「………!」
エシディシはハッとしたようにスピードワゴンの行動に気付く。
すぐさまそちらへと突撃し、彼の行動を妨害しようとする。
だが、既に彼の手元の『宝塔』には強大な力が収束されていた。
闇夜を切り開く夜明けの光のような輝きを放ちながら、それはエシディシへと向けられる―――!
「貴様―――、」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーッ!!!!」
―――そして、轟音が響き渡ると共に、宝塔が光を放つ。
眩い光と共に、輝く光線が凄まじい勢いで解き放たれた。
放たれた光線は一直線にエシディシへと向かっていき、彼の身を貫かんとした――!
「…この俺が、」
だが、彼は不敵な笑みを浮かべ続け。
「その程度の小細工に遅れを取ると思ったかァァァァァーーーーーーーッ!!」
屈強な両足で地を蹴り、エシディシは勢いよく跳躍する。
目を見開き、スピードワゴンはその場で腰を抜かした。
恐怖だけではない。宝塔のレーザーを放ったことにより、体力を大きく消耗してしまったのだ。
その隙を見逃すエシディシではない。再び全身から無数の血管を飛び出させて、スピードワゴンへと落下しながら迫った。
動くことの出来ない白蓮が悲痛な叫び声を上げる。弾幕で妨害する事も出来ず、エシディシの攻撃は始まる―――
「怪焔王――――大車獄の流法ッ!!!」
―――そして、無数の血管が、次々とスピードワゴンを貫いた。
「――――う、ああぁあぁぁあああぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
身体中に突き刺さる血管針。体内に送り込まれる灼熱の血液。
―――――熱い!熱い!熱い!熱い!
スピードワゴンの身体の至る所から焼き焦がされ、蒸気が噴出し、そして灼熱の溶岩の様にドロドロと溶け始めていた。
『怪焔王の流法』の凄まじい熱血の前に、スピードワゴンは成す術も無く焼かれ始めていた。
「スピード…ワゴン、さん…………っ!!」
「ククククク…!このままグツグツのシチューにしてやるぜェェェェェェッ!!」
次々と送り込まれる超高温の血液。スピードワゴンは何度も悲鳴を上げながら、その身を焼かれていた。
もがく様に身体や腕を動かしているが、恐らく苦し紛れの行動に過ぎない。
もはや彼の死は時間の問題だろう。まず助かるはずがない。
エシディシはそう確信していた。自らの勝利を信じていた。
だが、スピードワゴンが唐突に何かを『その手』に掴んでいた。
そして―――エシディシの胴体目掛け、『それ』は打ち水の様にかけられる。
-
「…何?」
エシディシは、スピードワゴンが自らにかけた液体を目を丸くして眺める。
そして…身体中を焼かれながらも強引に行動スしたピードワゴンが何を行ったのかも、その目で確認した。
彼の足下に転がり落ちているのは、大半が焼け焦がされたデイパック。
そして、もう一つ放置されているもの。
それは―――中身のガソリンがほぼ空になった、ポリタンク。
「…怖ェ…マジに怖ェんだよ。俺は、死ぬのが……怖くて、仕方ねぇんだ」
エシディシは気付いた。スピードワゴンの左手には、まだ宝塔が握り締められていることに。
灼熱の血液に溶かされ、千切れかけになっている左腕を真っ直ぐに伸ばしながら。
彼が宝塔を向けるのは―――当然の如く、自分を血管針で拘束するエシディシ目掛けて。
「だけど、よォ…!勇気…ってのは…、怖さを知ること…!怖さ…を、自分のものにすることなんだよ………ッ!」
歯を食いしばり、スピードワゴンは真っ直ぐにエシディシを睨んだ。
恐怖を感じながらも、彼はただエシディシ一人を見据えていた。
エシディシは咄嗟に距離を取ろうとする。だが、スピードワゴンに血管針を突き刺していたことが行動を遅れさせた。
「…俺は、恐怖を…自分のものに、してみせるぜ」
身体中を焼き尽くされながらも、堂々たる笑みを浮かべるスピードワゴン。
そして―――最後の力を振り絞って、エネルギーを凝縮させた宝塔が。
眩い光を放ち、輝いた。
「くたばりやがれェェェェェーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!」
放たれた眩き光線が――――エシディシに襲いかかる。
-
「―――――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!?」
エシディシの身を光線が焼くと同時に、彼に浴びせられていたガソリンが光線の熱により一瞬で引火。
彼の身体を灼熱が包み込む。血管針で突き刺していたスピードワゴンをも離してしまう。
多量のガソリンの引火による炎には彼も耐え切ることが出来ず、轟くような叫び声を上げた。
先程までのスピードワゴンと同じ様に…いや、それ以上に激しく身体が焼かれる。
左腕は丸ごと宝塔の光線によって焼き尽くされ、完全に使い物にならない状態へと変わっている。
悶え苦しみながらエシディシは暴れ出すように叫ぶ。
「よくも、よくも、こんなァァァァァァーーーーーッ!!!!!」
彼は柱の男の生命力によって強引に苦痛を抑え、倒れるスピードワゴンに襲いかかろうとする。
スピードワゴンも同様に満身創痍。身体中を焼かれ、空中を呆然と眺めて倒れ込んでいた。
怒りのままにエシディシは、スピードワゴンに攻撃を仕掛けようとした――――
その直後に、彼の左脇腹に投擲された鉄球のようなものが瞬時に叩き付けられた。
「がアァァァァッ…!!?」
突然の攻撃に大きく仰け反るエシディシ。
左の脇腹を浅く抉られたエシディシは右腕によって傷口を押さえ…その時に気付く。
「まさか、貴方が此処にいるとはね」
新たな襲撃者は、女であろうということを。
ブーメランの様に『襲撃者』の方向へ戻っていった鉄球のようなものは、あのジョセフ・ジョースターという男が使っていた『アメリカンクラッカー』であるということを。
そしてクラッカーで抉られた傷には、確かな『波紋』が帯びているということを。
再生能力によって無理矢理火傷を抑え込もうとしつつ、彼はクラッカーを投げた張本人の方を向いた。
「―――エシディシ、奴らの一族の一人」
「貴様は…波紋…戦士の………」
女波紋戦士―――リサリサが、サングラスの下の鋭い瞳でエシディシを見据える。
その右手に先程投擲したアメリカンクラッカーを持ち、波紋を帯びさせて構えている。
傍には帽子を被った小柄な金髪の少女――守矢の二柱の片割れ「洩矢諏訪娘」が立っている。
リサリサと同様に、警戒した様子でエシディシを見ていた。
-
ギリリ、とエシディシは歯軋りをする。
先程の引火と光線によって手傷を負わされた所に波紋戦士の女が現れた。
それに、もう一人小娘もいる。今まで出会ってきたような妖怪の類いかもしれない。
はっきり言って―――状況は最悪。
「チィッ!」
エシディシは火傷を負った身体を押し、強靭な脚力で地を蹴る。
そのまま魔法の森の方角へと撤退を始めた。
これ以上の戦闘は不利にしかならないと判断し、『逃げること』を選んだのだ。
「―――逃がすものかッ!」
リサリサもそれを見逃しはしない。
背を向けて逃げ始めてエシディシへと向けて、再びクラッカーを投擲しようとしたのだ。
無論、クラッカーの鉄球には波紋を帯びさせている。
彼に一撃を叩き込み、トドメを刺さんとしてクラッカーを構えた――――
だが、リサリサの行動は意外な形で止まることになる。
「スピード、ワゴン……さんっ………!!」
倒れ込んでいた金髪の尼僧が、エシディシに攻撃されかけた男性に向けて言葉を発したのだ。
彼女は――白蓮はリサリサ達の存在を認識した後、右足の傷を押してでも動こうと…立ち上がろうとしていた。
リサリサは白蓮の呼んだ名を聞き、目を丸くして動きを止める。
そのまま彼女は、驚愕をした様子で倒れている『スピードワゴン』の方を向いた。
「……、リサリサ?」
突然動きを止めたリサリサに対し、諏訪子が声をかける。
ほんの少しの沈黙の後。
リサリサが、声を漏らした。
「スピードワゴン、さん……?」
-
◆◆◆◆◆◆
「スピードワゴンさん…!しっかりしてください!スピードワゴンさんっ…!」
身体中に火傷を負い仰向けに倒れるスピードワゴンの傍でしゃがみ込み、白蓮は瞳から涙を流しながら必死に声をかける。
血管針を途中で引き抜かれたことにより辛うじて生きてはいるが、もはや死の寸前であることは一目で分かる。
彼の命の灯火は、消えかけている。白蓮の傍に立つリサリサ、気絶しているこころを抱える諏訪子にとってもそれは理解できた。
「………。」
リサリサは、唖然とした様子でスピードワゴンを見下ろしていた。
目の前に居るスピードワゴンの姿を、顔を、見ていた。間違いなくあの『ロバート・E・O・スピードワゴン』本人だった。
ニューヨークで設立されたスピードワゴン財団を統括する活動家。そしてエリナさんと同じく、自分にとって本当の意味で世話になった人物。
自分の知っているスピードワゴンは、白い髪をした年老いた老人。だが、目の前に居るスピードワゴンはどうか。
外見は皺一つない。その見た目も20代半ばの若者と言った所だ。
しかし、この男性が『ロバート・E・O・スピードワゴン』であるということは半ば確信していた。
何度もその名を呼びかける白蓮。
もはや返事は帰ってこないかと思われていた中。
ゆっくりと、スピードワゴンの瞳が白蓮の方を向いた。
「……白蓮さん……俺は……もう、駄目みたいだ」
フッと笑みを浮かべながら、スピードワゴンはそう答える。
涙を流す白蓮は何度も彼の名を呼びかける。彼の死を否定する様に。
「だが、よ……アンタの瞳には…ジョースターさんと、同じものを見たんだ」
彼が再び脳裏に浮かべるのは、父の仇を討つべく戦いに身を投じた青年―――『ジョナサン・ジョースター』。
ジョースターさんと同じものを白蓮さんに見出したから、自分は奮い立つことが出来た。
ジョースターさんと同じ『意志』を彼女の姿に見出したから、自分は勇気を振り絞ることが出来た。
「どんな困難にも屈せず、真っ直ぐに信念を貫き通す……『黄金の精神』って奴を、よ」
スピードワゴンは、死を目前に控えながらも変わらずに笑っていた。
目の前の女性になら任せられると。ジョースターさんと同じ『黄金の精神』を持つ人物になら。
―――未来を、希望を託せると。
そして、次第にスピードワゴンの瞼が閉じ始める。
それは彼の死を意味していた。
彼の命が消え往くことを意味していた。
「……悪ィ、白蓮……さん………後、任せた……ぜ……………――――――」
その言葉と共に、彼はその瞳を閉じた。
最期に、彼は未来を託した。目の前の女性に。
全てを託して、その命の幕を下ろした。
【ロバート・E・O・スピードワゴン@第一部 ファントムブラッド】死亡
-
【A-4 草原(A-5との境目付近)/早朝】
【聖白蓮@東方星蓮船】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(大)、魔力消費(大)、両手及び胴体複数箇所に火傷(中)、右足に火傷(大)、精神的ショック
[装備]:独鈷(11/12)@東方 その他(東方心綺楼)
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1個@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:スピードワゴンさん…
2:諏訪子達と情報交換。
3:殺し合いには乗らない。乗っているものがいたら力づくでも止め、乗っていない弱者なら種族を問わず保護する。
4:弟子たちを探す。無事かどうか不安。
5:今はこころを信用する。
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼秦こころストーリー「ファタモルガーナの悲劇」で、霊夢と神子と協力して秦こころを退治しようとした辺りです。
※魔神経巻がないので技の詠唱に時間がかかります。
簡単な魔法(一時的な加速、独鈷から光の剣を出す等)程度ならすぐに出来ます。その他能力制限は、後の書き手さんにお任せします。
※DIO、エシディシを危険人物と認識しました。
【秦こころ@東方 その他(東方心綺楼)】
[状態]疲労(大)、体力消耗(大)、霊力消費(大)、内臓損傷(中)、諏訪子に抱えられている
[装備]様々な仮面、石仮面@ジョジョ第一部
[道具]基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1:気絶中
[備考]
※少なくとも東方心綺楼本編終了後から
※周りに浮かんでいる仮面は支給品ではありません
※石仮面を研究したことでその力をある程度引き出すことが出来るようになりました。
力を引き出すことで身体能力及び霊力が普段より上昇しますが、同時に凶暴性が増し体力の消耗も早まります。
【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】
[状態]:健康、動揺
[装備]:タバコ、アメリカンクラッカー@ジョジョ第2部
[道具]:不明支給品(現実)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:柱の男と主催者を打倒する。
1:???
2:白蓮と情報交換。石仮面を持つこころについては保留。可能ならばエシディシを追う。
3:ジョセフとの合流。息子の心配より、波紋戦士としての使命を優先したいが……。
4:シーザーのことは、まだ考えない。
5:もし『死者の蘇生』という言葉が真実であれば、もし息子を失えば……。
[備考]
参戦時期はサンモリッツ廃ホテルの突入後、瓦礫の下から流れるシーザーの血を確認する直前です。
煙草は支給品ではなく、元から衣服に入っていたためにそのまま持ち込まれたものです。
目の前で死んだ男性が『ロバート・E・O・スピードワゴン』本人であると確信しています。
彼が若返っていること、エシディシが蘇っていることに疑問を抱いています。
【洩矢諏訪子@東方風神録】
[状態]:健康、こころを抱えている
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(確認済み)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田に祟りを。
1:……………。
2:守矢神社へ向かいたいが、今は保留とする。
3:神奈子、早苗をはじめとした知り合いとの合流。早苗はきっと大丈夫。
4:信仰と戦力集めのついでに、リサリサのことは気にかけてやる。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降。
※制限についてはお任せしますが、少なくとも長時間の間地中に隠れ潜むようなことはできないようです
※「宝塔@東方星蓮船」「ガソリン(残量残り僅か)」及び基本支給品一式はスピードワゴンの遺体の傍に放置されています。
-
◆◆◆◆◆◆
「はァーッ……はァーッ………」
森の中を駆け抜ける巨躯の男が一人。
激戦によって大きな傷を負い、逃げ延びた柱の男―――エシディシだ。
「傷を……負い過ぎたな………」
その身には痛々しい大火傷を負っており、疲労も蓄積されていることが解る。
上半身に廻っていた焔は柱の男の治癒能力によって強引に抑え込んだが、もはや満身創痍に近い状態だ。脇腹の波紋の傷も痛む。
デイパックは所有していない。スピードワゴンが引き起こしたガソリンに引火によって焼失したのだ。
とはいえ、柱の男の高い知能によって名簿と地図の内容は詳細に記憶している。
それ故に目的地も既に決めている。魔法の森に存在する『DIOの館』だ。
じきに日が昇ることに気付いていたエシディシは日光を避ける為の施設へと向かうことを決めたのだ。
可能ならば他の参加者との接触は避けたい。手傷を負った状態で戦闘を行うのはあまりにも無謀だ。
その両足を躍動させ、森の中を急ぎ突き進む。
波紋戦士の追撃が来れば相当厄介なことになる。日光という大敵に晒されるわけにもいかない。
DIOの館を目指し、彼は木々の間を駆け抜けた。
【B-4 魔法の森/早朝】
【エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部「戦闘潮流」】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(大)、上半身の大部分に火傷(大)、左腕に火傷(極大)、左脇腹に抉られた傷(小)及び波紋傷(小)、再生中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:カーズらと共に生き残る。
1:DIOの館へ移動。身を潜め、傷を癒す。
2:神々や蓬莱人、妖怪などの未知の存在に興味。
3:仲間達以外の参加者を始末し、荒木飛呂彦と太田順也の下まで辿り着く。
4:他の柱の男たちと合流。だがアイツらがそう簡単にくたばるワケもないので、焦る必要はない。
5:静葉との再戦がちょっとだけ楽しみ。(あまり期待していない)
[備考]
※参戦時期はロギンス殺害後、ジョセフと相対する直前です。
※火傷によって左腕が使えない状態です。再生が進むと再び動かせるようになります。
※ガソリンの引火に巻き込まれ、基本支給品一式が焼失しました。
地図や名簿に関しては『柱の男の高い知能』によって詳細に記憶しています。
<アメリカンクラッカー@ジョジョ第2部>
リサリサに支給。
紐の先に2つの金属製ボールが取り付けられている玩具。
紐の中心にあるリングを摘んで上下に動かし、二つのボールをぶつけ合うことで音を鳴らして楽しむ。
シーザーに対抗し得る必殺技を編み出すべく、ジョセフが戦闘に用いた。
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長めでしたが投下終了です。
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします
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乙です
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投下乙です。
スピードワゴン、格好つけやがって……。
いいヤツからどんどん死んでいくなあ。
聖は何だかんだで黄金の精神で乗り越えられそうだけど
リサリサの方が表面上見えない所で追い詰められていきそうで怖い。
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スピードワゴンは……ホットに去って行きやがった……
しかし、重傷のエシディシの行方も気になるなぁ。
誰かさんにバッタリ出くわしたりしなければ良いが……w
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投下乙です。
リサリサは、疑問ばかり増える中で父親代わりの死に対面。
大丈夫かね。
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投下乙です。
いや〜エシディシがやばい(確信)
一人で並みのマーダー数人分ぐらいの活躍。
そしてスピードワゴン……まさに人間賛歌だった。
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そんな!
スピードワゴンさんが居なければジョースターの血族はこれからどうなるの!
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言われてみれば、ジョースター一族って歴代続いてスピードワゴンさんの財団に助けられてきたんだよなw
偉大な人を亡くした
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姫海棠はたて、霧雨魔理沙、空条徐倫
予約します
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明日までに間に合いそうにないので破棄します。
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>>520
魔理沙と徐倫てたしか一緒のベッドに寝かされてたよなぁ……
二人の反応が楽しみだなぁ(ゲス顔)
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ジョニィ・ジョースター、宇佐見蓮子、ヴァニラ・アイス、霍青娥、岸部露伴、射命丸文
予約したいと思います。頑張ります。
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ディアボロ、鈴仙・優曇華院・イナバ、アリス・マーガトロイドを予約します。
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自分も、間に合いそうもないので破棄します
済みませんでした
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人が死にそうな予約が次々と来るな
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ゴージョニィゴー
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ふと思ったけどここって東方ファンとジョジョファンのどっちが多いんだろう
世間的には広く浅くが東方、狭く深くがジョジョなイメージがある
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週刊の方のジャンプでジョジョ読んでた世代からすれば、
狭く深くが東方、広く浅くがジョジョって印象があるけどなぁ
東方ファンとジョジョファンの数は同数じゃねえの?
みんな両方のファンってことで(適当)
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俺はどっちも大好きです
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>>522
マリジョリが俺の竿姉妹
こうですかわかりません!
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コスプレの話かと思った(どうしてそう思ったのかは自分でも不明だが)。ジョジョキャラと東方キャラの服装はどっちも奇妙なところがあるような気がする。
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服装もさることながら頭部も奇妙だな
かたや東方は奇抜なZUN帽を被り、かたやジョジョはサザエさんみてーな頭の主人公がいたり
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>>533
??「今おれのこの頭のことなんつった!」
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アレをサザエさんと表現するセンスがそも理解できん
どう見ても男塾の…ほら、あれだよあの人、名前なんだっけ?
居たじゃん? そんな感じなのが
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>>535
松尾の事か
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サザエさんなんて誰も言ってないよ なぜか仗助が暴走して自分で言ったけど
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むしろ散々おかしな髪型扱いされてるサザエさんの方がプッツンしそう
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あの髪型、連載当初は流行のヘアスタイルだったらしいよな・・・w
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いや連載当初も時代遅れだったはず
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ジョニィ達の予約をした者ですが投稿についていくつか質問がございます
①結構長くなってしまったので前編、後編などに分けて投稿する事は可能でしょうか?
②またその際、先に前編を投稿して後日(予約の期限内に)後編を投稿する事は可能でしょうか?勿論その間に他の書き手様が投稿して頂いても構いません
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>>541
解答いたします
①問題ないです。ただし、前後編が分かりやすいようタイトルに記載してください
②期限内であれば何も問題ありません
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>>542
素早い回答ありがとうございます!
前編に関しましては本日中に投稿する事が出来そうですので、もう少しお持ち下さい・・・
後編も殆どお待たせする事もないと思います
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③投稿に間に合わない。現実は非情である
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これは3部的に他の書き手が犠牲になる流れ
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ニヤリ… グッ
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『祈って』おこうかな… 投下の無事を…
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>>547
素敵なお賽銭箱はこちらよ?
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霊夢がハーヴェスト手に入れたら金にも困らないな
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そうかな?
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ジョニィ・ジョースター、宇佐見蓮子、ヴァニラ・アイス、霍青娥、岸辺露伴、射命丸文
メ・・・ッセージ・・・で・・・す・・・これが・・・せい・・・いっぱい・・・です ジョースター・・・さん 受け取って・・・ください・・・
-
−−− <早朝> GDS刑務所 1階女子監 廊下 −−−
ガ オ ン ッ ! ! ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
ガ オ ン ッ ! !
「ハアーーッ…ハアーーッ…ハアーーッ…ハアーーッ…」
ジョニィは満身創痍のまま刑務所内を駆けていた。
この極めて危険な男―ヴァニラ・アイスと先に外へ逃がした蓮子が鉢会ってしまえば彼女はひとたまりも無い。
故にジョニィはひとまず蓮子が安全な場所へ逃げ切るまでの時間を稼ぐ為に、この敵からつかず離れずの距離を保ちつつ施設内を駆け回っていた。
…のだが、相手は不可視の移動と攻撃、そして絶対防御を併せ持つ凶悪なスタンド『クリーム』。
触れるだけで致命的なダメージを負いかねない、余りにも理不尽な攻撃を長時間避け続ける事は容易ではない。
ジョニィの体にはクリームによって『削られた』痕が何箇所もあり、その傷はかろうじて深くは無いものの既に血を流し過ぎている。
最初に接近された時は肝を冷やしたが何とか回避できた。
次の攻撃の時は左肩を少しだが掠ってしまった。
激痛が走りバランスを崩してしまった瞬間、右膝の一部を(ちょっぴりだが)持っていかれた。もし体を崩さなかったら持っていかれたのはちょっぴりどころではなかったろう。
さっきなんかは天井に穴を開けて丸ごと崩され、落下してきた瓦礫に巻き込まれた。
ここまでは運良く致命的な傷を負わずに来れたが、次は?その次は避け切れるのか…?
(時間を稼ぐ…どころじゃない。このまま長期戦はマズイ…ッ!)
当然ジョニィも隙を伺いつつ何度も『爪弾』を放ったものの、やはり暗黒空間とやらに飲み込まれるばかりでダメージは通らない。
―――だが勝機は、ある。
ジョニィは既にあのスタンドの『弱点』を確信していた。
さっきから見てればやはりあの敵、口の中に完全に隠れている時は周りが『見えていない』!
奴の攻撃の回避に成功して離れる度。
この迷路の様に入り組んだ刑務所の壁に突き当たる度に。
警戒しつつではあるが、いちいち顔を外に出し僕の姿を確認している!その瞬間が狙い目だ!
ジョニィとて、今までの旅で数え切れない程の修羅場を体験してきた男だ。
ブンブーン一家と戦った時は危機一髪のところでスタンド能力『タスク』が開花し、戦いに勝利した。
強敵サンドマンと相対した時は、絶望的な状況からも親友ジャイロの教えから活路を見出し、スタンドを新たな段階まで進化させ逆転してみせた。
過去の罪を全部まとめておっ被せ襲わせるスタンド『シビル・ウォー』と戦った時、『あの方』から道を示され、タスクは更なる道へ進んだ。
瞬間、ジョニィの脳裏にはかつての大陸レースで大統領と繰り広げた争奪戦、その『聖人の遺体』のヴィジョン(やはりあの人なのだろうか…)の言葉が蘇った。
「心が迷っているなら、ジョニィ・ジョースター…撃つのはやめなさい」
「決して『新しい道』は開かれない」
…あの時から僕はもう迷っちゃあいない。
既にこのジョニィ・ジョースター、立ち上がり前へ歩き出している。『ゼロ』から『プラス』へ。
『覚悟』などはとっくに決めていた。
この敵は今ここで『始末』する。
-
この敵は危険過ぎる。
人を殺す事に一瞬の迷いも戸惑いも無い。
「人は何かを捨てて前へ進む」
だがコイツは全てを捨てている。その『人間性』までも。
あるのは『漆黒の殺意』のみ。
奴にとってこのゲームは周りをチラつく鬱陶しいハエを駆除するのと変わらない事なのだ。
そんな奴はもう人間とは言えない。
そんな奴が蓮子の様な力を持たない人間と出会ってはいけない。
そんな奴がもしジャイロと出会ってしまったら…。
ジョニィは右手で懐に持つ『鉄球』に触れる。
ジョニィに支給されたただ一つの武器、壊れゆく鉄球『レッキング・ボール』。
あの『氷の世界』で死闘を繰り広げたウェカピポが扱っていた鉄球。
こっちの鉄球は触ったことが無いので上手く機能させられるか自信は無いが、14個の『衛星』と『左半身失調』は強力な武器となる。
決定打を浴びさせられずとも、奴の左半身を失調させてしまえば大きな隙を生む事が出来るかもしれない。
だが迂闊に使用してただ一つの鉄球をあの暗黒空間に飲み込まれてしまえば状況は一気に不利になる。
加えてジョニィは現在タスクのACT1までしか使用できない。
この『石作りの海』内部にはろくな自然物が無く、肝心要の黄金長方形のスケールが全く見つからないのだ。
ジョニィはいつも馬のたてがみ、あるいは木の枝や葉っぱ、近ければ小鳥の翼をスケールの参考にして回転を生み出している。
だがどうやらこの施設の設計者は自然から生まれる風情を楽しむ心を持ち合わせてなかったらしく観葉植物の一つどころか、なんと窓すら殆ど見当たらない。
「クソッ!何なんだここは!行く先行く先鉄格子だらけで外へも出られないのか!!」
当然の話である。ここはGDS刑務所、別名『水族館』。
過去に一人の脱獄者だって出したことは無い鉄壁の監獄である(実は何人か居たりするのだが)。
簡単に外へ出られるような安い構造になっている筈が無いのだ。
(マズイぞ…蓮子から少しでも遠ざけるように出入り口から離れたのがアダになった…!)
ジョニィは口内に溜まった血と同時に心の中でも唾を吐く。
攻撃を避けるのに必死で自分の現在地を把握せぬまま闇雲に施設内を走るという浅はかな行為をしてしまった。
奴を倒すには『一手』先を行き、意表を突かなければならない。
その難しい課題をこなすにはこのACT1では少々頼りないのだ。
少なくとも黄金長方形のパワーを身につけた『ACT2』の攻撃でなければ…。
その黄金長方形のスケールを探し出す為にも蓮子が出て行った出口とはまた別の出口から外へと脱出するべきだった。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!
ヴァニラが暴れた衝撃からなのか、施設内で大音量の火災報知機サイレンの音が耳を貫いたが今のジョニィにそれを気にする余裕は無い。
-
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「クッ…!……ッ!ハァー…ハァー……ッ!」
ガクリ!
ジョニィはとうとう地に膝を立ててしまった。
ここまで殆ど全力で駆けて来たうえに脚を負傷し、相当量の血を流してしまった。
しかもジョニィは今でこそ普通に立って歩けるまでに快復したが、ほんの少し前までは半身不随の身体。
そもそも素早く走ったり跳んだりする事は全くの不得手なのだ。
そんな彼がヴァニラ・アイスの容赦無い怒涛の連続攻撃を避け続けるのは時間の問題であった。
(体が、もう限界だ…。奴が…来るぞ…ッ!)
−―― ガ オ ン ッ !
ジョニィの十数メートル後方の壁から死神の足音と共に『穴』が開いた。
体中から汗が噴き出す。今度こそ逃げられない。
直後に『奴』がスタンドの口から顔を覗かせた。
獲物の息の根を完全に、確実に止めるための最後の『確認』と言うわけだこれは。
ジョニィはすぐに『爪』を奴に向けて構える。
と、同時にジョニィと敵の目が交差した。
『黒』だ。
奴の瞳はどこまでも禍々しく真っ黒な『ドス黒い暗黒のクレバス』。
血に狂った生粋の殺人狂の様な歪な瞳ではなく、ただただ純粋な『悪』。
何も考えず目の前の敵を淡々と排除する事のみを行う殺人マシーンの様な男だった。
…が、
(……?何だアイツ。僕の顔を見て、あの表情は…驚いている、のか?)
わずかな、ほんのわずかな『表情』と言えるようなものをあの男が見せた、ような気がした。
何か意外なものを見た、そんな表情だ。
しかしそんなことに気を取られている場合ではない。
絶対的な窮地であるこの場面で動きを止めてしまったらすぐに狩られてしまう。
ジョニィはありったけの爪弾を敵の脳天に向けて発射した!
「う…うおおおおおおおおおおおおぉぉああアアアアアアアーーーーーーーーーッッ!!!!」
ド バ ド バ ド バ ド バ ド バ ァ ッ ! ! ! ! !
十発もの爪弾全てが凄まじい風切り音と共にヴァニラ・アイスへ向けて発射される。
しかし、ヴァニラはまたもスタンドの口の中へ完全に隠れこの空間から『消える』。
ジョニィの半ばヤケクソの様な攻撃も全て暗黒空間に飲み込まれて消失してしまう。
これまでの攻撃と同じだ。あのスタンドにはいかなる外的要因も干渉する事が出来ない。
−−− ド グ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ッ ! !
来る!
奴がコンクリートの地面をガリガリ削って猛スピードでこちらに突進してくるぞッ!
ジョニィは辺りを見回した。どうやらここは男子監の大広間らしいが相変わらず黄金のスケールは全く見つからない。
「くそォォッ!何か無いのかッ!?スケールはどこだァァァーーーッ!!!」
ジョニィは咆哮した。
敵の軌跡は5メートル前方まで迫ってきている。
(真っ直ぐ僕に向かって突っ込んで来る!か…回避をしなければ…ッ!)
しかしジョニィの身体はもう素早く動けるだけの体力は残っていなかった。
脚に力が入らない…ッ
−−− ゴ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ッ ! ! !
もう目の前まで迫ってきたッ!
つ…強すぎるッ!全ての攻撃が全く通らないッ!
ジョニィはこの未知の敵のあまりにも理不尽で凶悪な能力に戦慄する。
ヴァニラ・アイスの『クリーム』という能力はまさしく『鬼』のような強さを誇っている。
主君であるDIOに対する狂信的で、絶対的なまでの『忠誠心』。
そのドス黒く歪んだ精神がそのまま具現化したものが『クリーム』なのだ。
ヴァニラがあの空間に潜んでいる時は何をやっても無駄なのだ。
(そういえば…あのデタラメな能力に似た敵と、僕は『かつて』戦った事がある…)
ジョニィはヴァニラが目前にまで迫ってきたこの状況で、ある光景が走馬灯のように蘇った…
-
馬による大陸横断レース「スティール・ボール・ラン」。
そのレースを影から操っていた黒幕。
第23代アメリカ合衆国大統領『ファニー・ヴァレンタイン』。
フィラディルフィアの海岸でジャイロと共に死闘を繰り広げた相手。
奴の能力はこの世の空間の隙間に入り込み、あらゆる『吉良』を集め、その他の『害悪』は遠くの知らない誰かにおっ被せるというメチャクチャなものだった。
空間の隙間に隠れる。
奇妙な偶然だが、ヴァニラ・アイスの能力はあの大統領のものと似ている部分が多かった。
大統領の『D4C−ラブトレイン−』を最終的に突破したのは『タスク』の最後の進化であるACT4。
馬の力を借りた『騎兵の回転』、その完全なる黄金回転のエネルギー。
この世界のあらゆる防御を次元や空間を越えて突破し、無限の回転エネルギーをぶつけるジョニィの最終奥義だ。
(コイツの能力はこの世の空間からまったく姿を消すスタンド…)
(だが本当にこの世界にまったく『存在』していないのか…?)
そんなことがあり得るのか?
もし本当にこの世から完全に消えているのなら、じゃあ何故向こうから一方的に攻撃できる?
重力はどうなんだ…?
奴はそれすらも『消滅』しているのか?
大統領のD4Cで自由に異空間を移動できたのは大統領本人とD4C。
そしてもう一つ、『重力』だけは大統領本人と一緒に移動していた筈だ。
もし『重力』という『引っぱる力』が無ければその人間の形や心の力の繋がりが保てなくなり、バラバラに崩壊するのではないか(これは推測だが)。
この敵の能力は大統領のソレと本質が似ている。
『重力』を支配した無限の回転のみがD4Cを突破できるのなら。
この敵には、無限の回転エネルギーが通じるかもしれない…
死を目前にしたジョニィの刹那にも等しい推察は、しかしこの状況では全く意味を成すことはない。
何故なら今のジョニィではACT4はおろかACT2ですら発現できずにいる。
ACT4の発現に不可欠である『馬』と『黄金長方形のスケール』、その両方ともこの場には揃っていない。
針の先の様に小さな『突破口』を感じ取り、ジョニィの考察は光明を見出したかもしれない。
だが、ジョニィは反撃の刃を切り出すための『大前提』からして持ち合わせていなかった。
更に不運な事に、これは今の時点でのジョニィには知る由も無い事だが…
今回の悪質極まりない下衆な殺し合いという『ゲーム』において、ジョニィの最後の切り札『タスクACT4』は主催者側による『制限』を受け、使用不可とされていた。
対象を抹消するまでどこまでも追跡し、その肉体や魂までも次元の果てへと昇華させるACT4はゲームのバランスを崩しかねないと主催に判断されたのだろう。
この戦い、ジョニィは最初からチャスや将棋でいう『詰み』(チェック・メイト)にはまっていたのかも知れない…
-
(蓮子は無事に外まで逃げ出せたろうか…)
(この状況…ジャイロのように…タフなセリフを吐きたい…)
(…そういえばジャイロは今、何処に居るんだろう…?彼はそう簡単にくたばるタマじゃないことはよく知ってる)
(会いたい…彼と会って、最初に感謝の気持ちを伝えたい…)
(あの時伝えられなかったこの言葉を…『ありがとう』と言いたい…)
様々な思惑、推測、親友の顔が脳裏を掠め、一瞬で消えていく。
ジョニィはいつの間にか涙を流していた。
かつての旅でも幾度と無く泣いてきた。
泣いて、挫折して、それでも立ち上がって、前へ、前へと少しずつだが歩いてきた。
立ち塞がる敵は全て倒してきた。挫けた時には親友が手を差し伸べてきた。
ジャイロが死んで、それでも僕は一人で歩いていける『自信』と『希望』を身に着けたと思っていた…
だが宿敵Dioとの戦いにおいて僕は『敗北』する。
最後に勝利したのは僕ではない。Dioだった。
そして今、僕はまたしても目の前の敵に敗北するのか。『殺され』てしまうのか。
所詮僕は独りぼっちのちっぽけな存在なのか。
…何で僕はこの期に及んで、また泣いているんだよ…。
ド ゴ ォ ッ !
「グフッ…!?」
走馬灯に思いを馳せる間にジョニィを襲ったのは、冷徹無慈悲の暗黒の空間ではなかった。
腹部に走る激痛…『痛い』という感覚だ。
奴のあの攻撃にまともに飲まれれば、痛いなどという感覚を痛感する暇も無くとっくにあの世行きの筈ではないのか。
もしくは奴の言う『暗黒空間』の中で僕は現世へ戻ることも無く、永遠の苦しみを味わいながら生きるのかも知れない。
間違い無く、今の攻撃はスタンドに直接殴られた感覚だぞ…ッ!
「グ……ッ!ぐはっ……!?」
「…………………。」
喉から吐瀉物と共に血が込み上げてきた。強靭なスタンドの拳だ……ッ
ジョニィはたまらず腰を折り、地面に情けなく倒れ伏した。
−−−何故、僕は今殴られた…?一撃必殺の暗黒空間へと葬らずに、この男はわざわざ『スタンドを外に出現させ』殴り抜いてきた!
ジョニィはうつ伏せに倒れたまま、顔だけを敵に向けた。未だ涙が溜まった瞳に混乱と苦痛と、再び燻ってきた『漆黒の殺意』を混ぜながら視線を向ける。
「……小僧、貴様の名は何だ。言え…」
「……ッ!?」
-
その重く冷たく、体の髄まで響いてきそうな低い声でヴァニラ・アイスは何と敵対するジョニィの名前を聞いてきた。
殺しのチャンスを止めてまで何を聞いてくるかと思えば、それはジョニィにとって全く予想だにしない質問だった。
「な…に?僕の……名前だと…?な…ぜ、そんな事を…聞く…」
「質問に質問で答えるんじゃあない。さっさと話せ」
ヴァニラ・アイスはとうとうスタンドの口から体を完全に出し、その強靭な脚をもってジョニィの背を直接思い切り踏み潰した。
「がァ……!!ハァー……ッ!…ジョ、ニィだ。ジョニィ・ジョースター……それがどうした…ッ!?」
「ジョースター………貴様のその首の星型のアザは、生まれつきか…?」
「星型の…アザ…?」
アザ、だって?アザが何だと言うんだ?コイツはそんな事を聞くために僕にトドメを刺さないのか…?
…そういえば、首のアザなんて自分で気にした事も無かったが、昔ニコラス兄さんに言われた事を思い出した。
「ジョニィ。お前は首元に面白いアザがあるな。ハハハッ星型のアザなんてダセーなぁ!」
「え、マジぃ?でもそれを言うなら兄さんの首にだって星のアザがあるよ。僕見たことあるもん」
「うぇ!?それマジで言ってんのかジョニィ?オイオイ…ちっとも気付かなかったぜ。後で鏡見てみるか…」
「でも変なの。兄弟で同じアザがあるなんてさ。」
「そうだなー。でもまっ!それが俺たちが血の繋がった仲の良い兄弟だっていうなによりの証だな!」
………
……
…そうだ。子供の頃、優しかった兄さんとそんな会話したような気がする。
そんな思い出はすっかり色褪せて風化してしまったが、今の僕にもその『星型のアザ』があるのだろうか。
ジョニィは思わず首元に右手を当てようとしたが、既に虫の息であった身体はそれすら行う事が出来ないでいた。
だがそういえばさっきのヴァニラの攻撃によって左肩を抉られた際に、衣服の一部が削られ首元が露出してしまっている。
そこには確かにあった。ジョースターの血族である何よりの『証』。
その『星型のアザ』がジョニィの首筋には間違いなく存在している。
-
(もしや…コイツ、さっき一瞬だが僕を驚いた様にじっと見つめていたのはこのアザを見ていたのか?)
先ほどの攻防でヴァニラ・アイスが確かに一瞬見せた『表情』らしきものは、ジョニィの首筋にある星のアザを見つけた事による『驚き』だった。
「私からしてみれば…DIO様以外の参加者共など全て便所のゴキブリにも等しい害虫以下の下らん命…
だが!ジョースタアアァァーーーーーーッ!!!」
ド ゴ ァ ッ !
「うが……ッ!?」
突然!ヴァニラ・アイスは鬼の様な形相に変貌し、とてつもない怒号と共にジョ二ィの顔面を思い切り蹴り上げたッ!!先程までの冷徹な態度が嘘の様に突然怒り狂ったのだッ!
「貴様らッ!ジョースターの一族はッ!DIO様にッ!『不安』を与えるッ!存在そのものがだァーーッ!!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「…………………ッ!!!???」
「DIO様はッ!『安心』を求めてッ!生きておられるッ!その『安心』を脅かすッ!貴様らジョースター共の存在がッ!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「この世にあっていいハズがあるかあああああァァァァーーーーーーーーーーーッッ!!!!!!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「ガブ…………………………ッッ!!」
「DIO様以外のッ!参加者は皆殺しッ!そしてッ!貴様らジョースター一族は特にッ!嬲ってやるッ!
嬲り殺してやるッ!DIO様を不安にさせたッ!!その報いをさせて殺すッ!!!俺が殺す!!!!!」
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「……………………………………!!!」
-
信じられない事だが、このヴァニラ・アイスの基準は全て『DIO』という男にあるらしい。
ジョニィがジョースター家の人間という理由だけでヴァニラはここまで感情を露わにしてブチ切れているのだ。
ジョニィは確かにジョースター家の末裔だがDIOなどという男には会った事も無い。いわば『無関係』なのだ。
(尤も、別の世界線の存在であるDio…『ディエゴ・ブランドー』とは何度も死闘を繰り広げた宿敵ではあるが)
ヴァニラ・アイスは完全に理性を失い、ひたすら何度も、何度も何度も何度もジョニィの全身を蹴り上げ、踏み潰した。
(こ………この男……!まともじゃあないッ!!異常だ……!こいつの精神こそ、暗黒空間だ……ッ!
僕の一族…ジョースター家が何だって言うんだ!何か恨みでも持っているって言うのか!
しかも、コイツ…さっきからディオ…Dio様だって……ッ!?ディエゴの事かッ!?アイツにこんな部下が…!?
いや…名簿を確認した時、ディエゴの他にもう一人『DIO』(ディオ・ブランドー)という名前を見つけた。
そのDIOという男の部下という可能性が高い……ッ!どちらにせよ、ダメだ………殺、される!!)
ジョニィの意識は段々霞んできた。
ヴァニラ・アイスは今やプッツン状態で周りが見えていない。
反撃するならば今なのだ。ほんの少し腕を上げて指先に回転を加えればそれだけで爪弾は発射される。
もしくはここまで温存してきた懐の『鉄球』を奴にぶつけるだけで簡単にダメージは通るだろう。
−−−だが、今のジョニィにそんな体力は残っていなかった。
攻撃を受け過ぎた。血も流し過ぎた。
既に目は朦朧としており、走馬灯の続きすら脳裏には浮かんでこない。
今度こそ、死ぬ。殺される。
結局、ジョニィはヴァニラ・アイスに掠り傷ひとつ付ける事も無くこのまま嬲り殺される。
しかも、逆恨みのような理由で、だ。
地面を這う事も出来ず、敵に啖呵を切る事も出来ずにあっけなく転げ回って最期に死ぬ。
あまりにも格好悪く、情けなく、ブザマなヒーローの姿だった。
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!
「蹴り殺してやるッ!このド畜生がァーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
(ジャイロ…最後に君と…話がしたかったな……すまない……………………)
少年が歩き出す物語は、大陸を駆け抜ける長い、長い旅を終えて
−−−最後に『祈り』を終えた………。
-
「……旋符『紅葉扇風』!」
「ムッ…!?」
「………!?」
突如ジョニィの耳に凛とした甲高い声が響いた。…これは女性の声だ。
蓮子ではない。ならば誰だ………?
次の瞬間、今にもジョニィを蹴り殺さんとしていたヴァニラの身体を強烈な突風、…いや、『竜巻』が襲った。
「………ッ!!??」
空気を裂く様な鋭い音とつむじ風が隙だらけであったヴァニラ・アイスを包み、皮膚を裂かれながら5メートル後方の壁に叩きつけるッ!
「そこの悪漢!そこまでにしておきなさいッ!さもなければ……」
謎の乱入者が僕の盾になるように敵との間に舞い降り、相手に指を差し向けて堂々とした態度で名乗りを上げる。
僕の眼前に映ったのは風になびく綺麗な黒髪と漆黒の翼。
頭にテントみたいな妙な帽子を被せており、フリルのついた短めのスカートと足にはこれまた見た事の無い妙な形をした靴(随分走りにくそうだが)。東洋の文化だろうか…
とにかく僕に分かる事はひとつ…
「これから少々、痛い目にあってもらう事になります!
この清く正しい射命丸文!目の前で一方的な暴力が行われるのを黙って見てる程、薄情に育っておりませんッ!」
僕の最後の『祈り』は天へと通じたという事だ。
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とりあえずは前編終了です
パロロワどころか書きモノ自体初めてなので稚拙なところもあるかと思います
感想や突っ込みなどは大歓迎ですので、どんどんやっちゃって下さい。次の励みになります
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前編投下乙です!面白かったです!
ジョニィとヴァニラの攻防、ヴァニラの狂気はまさに圧巻だった…
まさかのジョニィ脱落かと思ったけど、あややの乱入で何とかなるか!?
しかしこれで書きモノ初とはスゴイ
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投下乙です。
戦闘場所の悪さからジョニィの苦戦もやむなしか。
しかし、ヴァニラさんは強さもさることながら、イカレっぷりがやべえw
せめて射命丸はあんま虐められんように祈っておこう。
後半も楽しみにしてます。
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予約延長します
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ジョニィ・ジョースター、宇佐見蓮子、ヴァニラ・アイス、霍青娥、岸辺露伴、射命丸文
続きを投稿させていただきます
なお、タイトルに訂正がございます。
前編の「Stand up〜『立ち向かう者』〜」を「Stand up〜『立ち上がる者』〜」に変更します
これから投稿する物が「Stand up〜『立ち向かう者』〜」です。すみませんでした
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−−− <早朝> GDS刑務所 1階男子監 大広間 −−−
「ジョニィ・ジョースターさん…ですよね?どうやらかなりギリギリのところだったみたいですが、お身体は動かせますか?」
「き…みは……?なぜ………ぼくの、名前を……?」
「外に居る黒い帽子のお嬢さんから貴方が一人で敵と交戦している、助けてやって欲しいと頼まれました。
色々聞きたいことはあるでしょうが、とにかくまずはこのお薬を飲んでください。飲めます?」
そう言って彼女−射命丸文はデイパックの中から青みがかった液体が入った1本の瓶を取り出し、ジョニィに向けて手渡した。
ジョニィが少々不信ながらそれを飲むと先程まで憔悴していた身体が嘘の様に元気になり、体力まで回復した。
尤も身体の傷までが全て完治したわけでなく、万全の状態とまではいかなかったが。
ジョニィはマジックポーションを全て飲み干すと、ゆっくり立ち上がり文に向けて体を向き直し、まずは礼を言った。
「文。ありがとう、助かったよ。蓮子が君に助けを求めてくれたのか。彼女は無事なのか?」
「…正直に申しまして、彼女は今、外で新手に襲われています。あまり無事とは言えない状況です。
蓮子さんは自分が危機に陥っている状況だというのに、自分よりもまず貴方を心配してくれたのですよ?」
「…!?新手だって!?」
「安心して下さい。私の仲間…露伴先生が敵と交戦しております。あの人なら…どうにかしてくれるでしょう(多分)
それよりも、まずはあの敵を何とかする事が先決です」
文が目線を目の前の敵に戻した。
見るとヴァニラ・アイスは壁に激突したダメージで片膝をついている。
すっかり頭が冷えてしまったのか、その冷徹な顔と酷く冷たい瞳を闖入者−射命丸文にゆっくり向けた。
「一人だろうが二人だろうが、私のやる事は変わらない…。全員このヴァニラ・アイスの『暗黒空間』にバラまくだけだ」
「成る程…『ヴァニラ・アイス』さんですか…名前だけは私よりも可愛いですね。
ジョニィさん、この男は『スタンド使い』なのですよね?情報を教えていただけると助かります。
こんな状況でなくとも、『情報』に勝る武器などはいつの時代にも存在しませんから」
実に新聞記者らしいことを言いながら文はジョニィに尋ねる。
「…スタンド名は『クリーム』。奴自身がスタンドの口に入り込むだけで空間から完全に『消える』ことが出来る。
そのうえ奴からは一方的に攻撃する事ができ、触れるだけで物質が『削り』取られる。奴が隠れてる間は攻撃が全く通用しないんだ」
「あやや…聞いて早速後悔しそうな情報ですね。…何か弱点は無いのですか?」
「奴が空間に隠れてる間は奴自身もこちらの姿が見えていない。こっちの姿を確認しようと顔を出した瞬間…
そこを突くしか勝つ方法は無い」
(あるいは僕やジャイロの騎兵の技術による完全な黄金の『回転エネルギー』…だがクソッ!今は不可能だ…)
「外で蓮子が襲われてるのなら、なるべく早くこの敵を片付けなければならない。スピード勝負になる。
文、君はスタンドの事を知っているようだが『スタンド使い』なのか?」
「スピードなら誰にも負けない自信はありますが、私はスタンド使いではありません。が、『風を操る程度の能力』を持っています。
今は葉団扇を持ってないので多少、風圧が落ちますがお役に立てると思いますよ?」
一通りの情報交換を終えた後、ジョニィは納得した顔で『爪』をヴァニラ・アイスに構えた。
文も気持ちを切り替え、腰を落とし腕を相手にかざし戦闘態勢を取る。
ヴァニラ・アイスはゆっくりと立ち上がり、その視線だけで人をも殺せそうな殺気と威圧感を持った瞳で二人を交互に見る。
−−−三人とも完全に戦闘態勢に入った。
-
(ジョニィさんはまだ身体の傷が完全には癒えてません。もし飛び道具をお持ちなら無理をなさらず後方から支援してくれると助かります。
私はこうみえて結構武闘派なんですよ?)
(…成る程。ならば言葉に甘えさせてもらうが、説明したとおり奴がスタンドの口に入り込んでる間は近づくだけでも危険だ。
肉弾戦なんて以ての外だぞ?)
(…承知しております。引き際はわきまえておきましょう)
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ヴァニラ・アイスは憤慨していた。
表面上のツラでは冷静さを取り戻しているように見えるが、その平静を装う仮面の下ではこの状況にグツグツと苛立っている。
(ジョースターめ…ッ!この死にぞこないめがッ!
何故奴は立ち上がってこれる…?あれだけ痛めつけておいて何故逃げようともせずに再びこちらへ立ち向かってこれる…?
この私のスタンドと、DIO様へ歯向かう事の『愚かさ』は充分身に染みた筈…。
それなのに奴は逃げるどころか、今度こそ私を殺してやるという確かな『殺意』まで秘めているように見える…)
(私には分かる。あの瞳には、自分の邪魔をする奴は誰であろうと容赦しないという冷酷なる『漆黒の殺意』が宿っているという事を。
そして寸でのところで鬱陶しい別の『鳥小娘』に邪魔されたッ!
偶然かこれは…!?それともジョースターの『運命』とやらが『強運』を引き寄せたというのかッ!馬鹿馬鹿しいッ!)
(『危険』だ…ッ!あの男をDIO様に会わせるわけにはいかないッ!この場で殺すッ!小娘もだッ!)
結局のところ、ヴァニラ・アイスのやる事は変わらない。
DIO様の『不安』の種は全て摘まなければいけない。まずは目の前のちっぽけな存在を喰い尽すッ!
「−−−『クリーム』ッ!!!」
ヴァニラ・アイスがスタンド名を叫び、『クリーム』が背後から禍々しい気を纏いながら発現する。
最初に動いたのはヴァニラ・アイス……ではなかったッ!
「ハァーーーーーッ!!!」
迸る勢いで地を蹴り、目にも止まらぬ豪速で文は大気を突き抜け、音を置き去りとする。
その躍動から生じた衝撃波は、側にいたジョニィがバランスを崩し思わず体を屈めたほどだ。
まるで瞬間移動のような猛スピードで文は一瞬にしてヴァニラ・アイスの目前まで一気に距離を詰める事に成功した。
初動を制したのは文だったッ!
-
(なにィ!?この小娘ッ!速…)
「アヤァッ!!」
文の予想外な動きにヴァニラは完全に虚を突かれる形となり、スタンドによる防御をする暇もなく文の両手から繰り出された凄まじい掌底を鳩尾に喰らってしまう。
(その攻撃の掛け声もどこかで聞いたような)
「!?ガ………ッ!!?」
「そのスタンドの体内とやらに隠れさせるわけにはいきませんッ!悪いですが一気に仕留めさせて貰いますッ!!」
か細い腕の少女とは思えない破壊力をもつ攻撃によってヴァニラの巨体は上空へと浮かされてしまう。
それを追う様にして文もまた翼を駆使して空へと飛び立つッ!
(クッ!スタンドの像は見えなかったッ!今のは素手による単純なスピードと攻撃ッ!何者だコイツ!?)
さしものヴァニラ・アイスでも、この展開は完全に予想出来なかった。
射命丸文は幻想卿において最強クラスの力を持つ『鴉天狗』という種族の齢千を超える少女(?)である。
普段こそはその強力な力をおくびに見せびらす事も無く爪を隠しており、元々争いごとを好まぬ性格だった。
だがこの非人道的な殺し合いの舞台において、手加減をしようものならこちらがやられてしまう。
文は感じた。随分永い時を生きてきたがこの男、ヴァニラ・アイスによる禍々しい『悪のオーラ』は幻想卿でも見たことが無い。
怖い。
自分にこれほどの『敵意』を向けられている事が、どうしようもなく怖い。
本当はこの場からさっさと逃げ出したかった。
本当はこんな見ず知らずの他人である人間の男が死のうと、どうだって良かった。
でも、何故だか逃げちゃいけない気がした。
本当は私だけでも生き残りたいぐらいなのに、何で私はこんなことしてるんだろう?
それでもこの殺し合いは『皆で』生き残る。そのために仲間は必要だ。
ジョニィさんは死なせない。私だって死にたくない。
そして、このヴァニラ・アイスを他の参加者に会わせてしまう訳にはいかない。
コイツは私達が今ここで『止める』ッ!
-
「ウアアアアアアァァァァーーーーーーーーッ!」
「そうはさせんッ!『クリーム』ッ!この女の脳天に手刀を叩き込めッ!脳髄ぶち撒けさせろッ!」
ヴァニラはこちらへと飛び上がってくる文へ、スタンドの手刀を叩きもうと両腕を上げる。
ヴァニラ・アイスの『クリーム』と言われる能力はスタンドの体内に本体が完全に入り込んでしまえば完全無敵となる。
だが、その一動作には少しばかり時間を要してしまう。
ここまで接近された相手に、ましてや幻想卿最速の鴉天狗相手に後手に回るとスピードBのクリームでは分が悪い。
そのような理由があって、ヴァニラは中々クリームの体内に潜りこむ事が出来ないでいた。
だがッ!この『悪魔のスタンド使い』vs『幻想卿最速の妖怪』という対戦カードにおいてッ!
人間を遥かに凌駕した力を持つ射命丸文が圧倒的に『不利』になる要素がひとつだけあったッ!
「アヤヤァァッッ!!!!」
ド ゴ ォ ッ ! !
やはり『速さ』において、この二打撃目も文に軍配が上がった。
スタンドの腕が振り下ろされる前に文の高速の拳がヴァニラの腹部に入るッ!
「……………ッッ!!!!」
まるで大砲の直撃を受けたような重い一撃に、ヴァニラの肺の中から全ての空気が漏れる。
顔を苦痛に歪ませたヴァニラは常人なら肺に風穴が開くほどのその衝撃を、驚異的な精神力でそれでも耐え切ったッ!
「この…程度か小娘エェェッ!」
崇高なる主君を守る為に日々鍛え続けたその隆々なる筋肉を文の拳は貫けなかったのだッ!
そして次の瞬間ッ!『クリーム』の両腕による手刀が文の脳天に襲い掛かるッ!
まさか今の攻撃を耐え切って反撃してくるとは予想できず、文は更なる追撃を加えようとした両腕を防御に回すしかなかった。
いかにスタンドという未知の力が強力であっても、天狗の防御を破壊するなんてことはあり得ないだろう。
しかも『クリーム』の本来のパワーはB。暗黒空間による攻撃こそ必殺の破壊力を持つが、スタンド自体のパワーは並みの近距離パワー型スタンドと張り合う程度。
本来ならばクリームのこの攻撃が文に致命傷を与える事は考えにくい。
そう、『本来』ならばだ。
「小娘ッ!貴様ただの人間ではないようだが、貴様如きがこの『スタンド』の攻撃を防げるかァーーーッ!!!
スタンド使い『でない』貴様に、この攻撃が防げるのかァーーーーーーーッ!!!???」
「……ッ!?」
-
−−−『スタンドはスタンドでしか傷つけられない』
これはつまり、逆を返せば『スタンドの攻撃はスタンドでしか防げない』という事である。
スタンド戦において存在するこの『絶対法則』を文は知らないでいた。
『スタンド』の基本的な事は仲間である岸辺露伴から一通り聞いた彼女だったが、肝心要な情報を聞いていなかった。
何という凡ミスだ。そうと知っていればスタンド使いにここまで迂闊に近寄る事はなかったろう。
スタンドの本気の一撃を防御出来ずにマトモに喰らうという事は、それだけで『死』に繋がる。
スタンド戦とは自分の経験、頭脳、機転を駆使して、いかに相手に一撃ブチ込むかだ。
常に相手の十手先を読み、時には『強運』を味方につけて勝利する。一瞬の油断が命取りとなるのだ。
(あやや…『情報』の不足でこんなしっぺ返しに合うとは、新聞記者失格ですね…。
人間一人助けるために自分は返り討ちになってしまうなんて…。鴉天狗が聞いて呆れちゃいます……。)
(嫌…………死にたくないよぉ…)
「喰らえヴァニラ・アイスッ!『タスクACT2』ッ!!」
ド ン ッ ド ン ッ ド ン ッ ド ン ッ ! ! !
-
死を覚悟した文と、勝利を確信したヴァニラの耳に飛び込んできたのは、ビリビリした振動を全身に感じさせる咆哮。
ついさっきまで情けなく嗚咽を漏らし、地を転げ回っていたブザマなヒーロー。
ジョニィ・ジョースターの精悍な覚悟で放たれた『黄金の回転』は完璧な『スケール』をもって、文に襲い掛からんとするヴァニラの両腕目がけて合計4発ッ!
黄金に輝くスタンドエネルギーを纏いながら猛スピードで真っ直ぐ突き進むッ!
ジョニィの傍らには先程までの妖精型のヴィジョンではない、マシンのような構造をした桃色のスタンドヴィジョンが現れている。
これがジョニィの『タスクACT2』である。
ヴァニラは目の前の鴉天狗の少女の相手をするのに気を取られ、ジョニィの事は一時的にだが頭から抜けていた。
クリームの腕は文に向かって振り下ろされているッ!爪弾の防御は間に合わないッ!
しかもヴァニラの体は文によって空中に打ち上げられている為、回避行動にも移せないッ!
ジョニィは敵が勝利を確信する瞬間をその『牙』で狙っていたのだッ!牙−タスク−とはよく言ったものだ。
果たしてジョニィの攻撃はヴァニラの両腕に4発着弾ッ!片腕に2発ずつ『風穴』を開けることに成功したッ!
「貴様ッ!ジョニィ・ジョースターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
-
ギリギリのところで文に対するクリームの攻撃は中断され、彼女は何とか一命をとりとめた。
文は自分の命が九死に一生を得た事を改めて認識し、そのことに心の底から安堵した。
そして文が次に目撃したものは、『奇妙』な光景であった。
たった今ジョニィが撃ち込んだヴァニラの両腕に開いた4発の弾痕が、その『穴』ごとヴァニラの腕を登っていく。
「こ…これはッ!?奴の撃ち込んだ『弾痕』が、おれの腕を登って…マ、マズイ!狙いは『心臓』かッ!」
ギ ャ ル ッ ! ギ ャ ル ッ !
ギ ャ ル ッ !
ギ ャ ル ッ !
ギ ャ ル ッ ! ギ ャ ル ッ !
まるで高速で回転する歯車同士が火花を散らしてぶつかり合うかのような、ヴァニラにとっては不吉な音が身体の芯に響き渡る。
「ウオオオオオォォォーーーーーーーッ!!こォれしきィィイイのオオ事ォォオオオ!!」
ヴァニラにはもはや考えている暇は無かった。少しの、ほんの少しの『覚悟』が必要だが、それだけだ。
『あのお方』の事を考えるのだ…彼のことを考えるだけで、ヴァニラは勇気が湧いてくる。
その先の行動は早かった。
ブ チ ン ブ チ ン ッ !
ヴァニラは右腕から登ってくる2つの弾痕を、そのクリームの強靭な顎の力によって『肉片ごと』噛み千切ったッ!
「ウヌウウウゥゥ…ッッ!」
そしてその肉片を飲み込み、口の中に広がる『暗黒の空間』までそのまま送り込むッ!
間髪入れず、今度は左腕を登ってくる『弾痕』をクリームで肉片ごと噛み千切り、同じように暗黒空間に送るッ!
「ハァァァァーーーー……ッ」
ヴァニラの両の腕には惨たらしく千切られた痕が複数も残り、心臓に風穴を開けられるよりも遥かにマシとはいえ、かなりのダメージを受けてしまった。
その異様な光景を間近で見ていた文は絶好の攻撃のチャンスだという事も忘れ、ヴァニラと共に空中を落下しながら動けないでいた。
恐ろしい男だ。この目の前の男の何がここまでさせるのだろう。
こんな精神力を持った人間が居るなんて…いや、幻想卿の大妖怪にすらここまでの奴はいない。
強大なパワーを持つ天狗の射命丸文は、ただのちっぽけな人間に『恐怖』を抱いていた。
その隙を、ヴァニラは見逃さない。
-
「ク…ッ!相当の傷を負ったが小娘ッ!まずは貴様の頭をスタンドで粉々に噛み砕いてや…」
「文ァァァァァァァーーーーーーッ!!!そこから離れろォォォォォォーーーーーーーーッッ!!!!」
直後、文の背後からジョニィの怒号が響き、彼女をハッとさせたッ!
文は自らの翼を羽ばたかせ、すぐにジョニィの言うとおりにヴァニラから急いで離れる。
ジョニィとヴァニラ・アイスの視線が直線状に交差した。
ヴァニラの目に映ったものはジョニィとその傍らに浮かぶスタンド『タスク』。
……そして交差した視線の直線上を、こちらへと向かってくる『小さな黒い何か』。
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル……
ジョニィへと支給された、王族護衛の戦闘の為の鉄球『レッキング・ボール』(壊れゆく鉄球)が唸り声を上げながらヴァニラに急接近していた。
元々は護衛官『ウェカピポ』の一族が磨き上げた戦闘技術である。
投擲した後に、更なる14個の小さな『衛星』が敵に襲い掛かる!
そしてその衛星にまともにぶつからずとも、少しでも掠ってしまった者には次に『左半身失調』が襲う!
『左半身失調』を受けてしまった者は数十秒間、自分から見て全ての『左側』半分が無くなっている様に見える。
体のバランスを崩し、恐らくまともに立つ事も出来ないだろう。
そしてジョニィはこの王族護衛の為の戦闘技術に、更にツェペリ一族の『黄金回転のエネルギー』を加えていた。
『黄金長方形』のスケールで回転させた鉄球は、その威力が数倍にも膨れ上がるッ!
ところでこの黄金回転の鉄球にしても、タスクACT2にしても、それには先述した前提…『黄金長方形』のスケールが必ず必要である。
ツェペリの黄金回転には、自然への深い観察から芸術家達などが学んだ『本物のスケール』が不可欠なのだ。
しかしこの『石作りの海』内部にはそれがほとんど無い。それ故にジョニィは一度『敗北』しかけた。
だが、あぁ…何という『運命』なのだろうか。
神がいるとして、運命を操作しているとしたら!
これほど計算された『出会い』は無いッ!
『それ』は唐突に、敗北寸前だったジョニィの前にフワリと舞い降りてきた…。
その流麗な黒髪と同じに、非常に美しく生え揃えられた『漆黒』。
自然界のコピーなどでは決してない。
『生命』と『自然』への深い『敬意』を払うべきである、まごうことなき完全なる『黄金長方形』のスケールがそこにあった。
射命丸文。妖怪である彼女の背には千年を生きてきた鴉天狗の象徴でもある『美しき黒衣の翼』が悠然と存在していた。
-
(やはりッ!ジョースターだったのだッ!真っ先に消すべきはジョースターの血族ッ!DIO様の仰られていた事が『心』で理解できたッ!
ジョースター一族を野放しにしておけば、いずれは必ずDIO様の『災厄』となるッ!殺さなければいけない…ッ!)
ヴァニラは心中で深く『決断』した。
私はここで死ぬわけにはいかない。生きてDIO様の『敵』を一人でも多く狩る。
この『鉄球』の回転は絶対に喰らうわけにはいかないッ!
「クリイイィィィィムッ!!!!!私の身体を包み込めええええェェェェッ!!!!!」
ボロボロのスタンドの両腕は既に鉄球を防御できる力は残っていない。ヴァニラが未だ落下途中の為、攻撃を回避する事も不可能。
その状況で幸か不幸か、ジョニィの鉄球の投擲に巻き込まれないために文がヴァニラの側を離れた。
鉄球がヴァニラに到達するまでにほんの少しの『時間』はある。ヴァニラが暗黒空間に隠れられるチャンスは今しかないッ!
髑髏を象ったクリームがその大きな口をあけてヴァニラの全身を飲み込もうとする。
その刹那!『レッキング・ボール』の『衛星』が本体の鉄球を離れ、その内のいくつかがヴァニラへと向かうッ!
そして、ヴァニラの全身を衛星が『貫いた』ッ!
ド ゴ ォ ! ド ゴ ォ ド グ シ ャ ア ッ ! !
「………………………………ッッッ!!!!!!!」
全身を数発の衛星が貫いた直後、ヴァニラ・アイスとそのスタンド『クリーム』はこの世界から完全に『消えた』。
-
「そんな…奴を『あっち側』の空間へと逃がしてしまった……」
「文ァ!ボサッとするな!奴はまだ生きているッ!すぐに風を起こして粉塵を巻き上げるんだッ!」
「…………!」
ジョニィの意図するべき事が理解できたのか、文は直ぐに右腕を天へとかざし、詠唱する。
「逆風『人間禁制の道』ッ!」
文がスペルカードの詠唱を終えた途端、どこからともなく突風が吹き荒れ、あたりを瓦礫の粉塵が舞った。
その粉塵の中に不自然な球状の『軌跡』が見えた。
ヴァニラ・アイスの『クリーム』は空間を移動する時、『障害物』を飲み込みながら出ないと移動できない。
この現象を逆に利用すればクリームの攻撃の軌道を視認する事が可能になるッ!
ジョニィが咄嗟に閃いたこの奇策は、ヴァニラに対しては確かに『有効』であった。
だが、今のクリームの軌跡はあからさまに『不規則』な動きをしていた。上下左右、前へ後ろへ猛スピードで行ったり来たり。
時には地面の下へ。かと思えば天井上まで突き抜けたりと、とにかく軌道する予測の『先』が全く見えないッ!
ジョニィは推察した。
こちらからでは見えないが、恐らくクリームの『中』に潜むヴァニラは『左半身失調』状態に陥り、混乱して滅茶苦茶な動きをしているのだ。
通常、あの『レッキング・ボール』の攻撃を喰らった者は立つ事すら困難でまともな動きが出来ない。
しかしクリームという飛行する球状の『シェルター』内では動きの制御こそ出来ないものの、スタンドの操縦桿を握る事ぐらいは出来るのだろう。
無重力の宇宙空間に放り出されバランスを失った宇宙飛行士の様に、ヴァニラは今自分がどこで何をやっているのかすら分からない。
…だが、そのバラバラで予測不可能な動きが逆にジョニィ達を苦しめる。
最初に声をあげたのは文だった。
-
「ジョニィさん!ここはいったん退きましょう!アイツは今、完全に私達を見失っています!チャンスは今しかありません!」
「…いや、文。それなら君が先に逃げてくれ。僕はコイツを野放しに出来ない」
「何ですって!?本体が露出していたさっきまでとはわけが違うんですよ!?アイツは恐らく私達の死を確認するまでこっちの空間に出てこないかも…っ!
……か、『敵うわけがないッ』!それに外では露伴先生と蓮子さんが危機に陥っているかもしれないのよッ!?」
「…『敵うわけがない』とか…『出来るわけがない』とか…そんな弱音、僕は今までに腐るほどに聞いてきた。
この敵は『危険』なんだ。僕が今ここで完全に『始末』しなければいけない」
「何を…意味分かんない事言ってるのよ…。ダメよ…死んでしまうわ……。
人間のクセに…死ぬのが怖くないって言うの……?」
「怖い。
自分にこれほどの『殺意』を向けられている事が、どうしようもなく怖い。
本当はこの場からさっさと逃げ出したいさ。
本当はこんな、さっき会ったばかりの赤の他人である君なんて放って逃げ出したいさ。
でも、僕はもう二度と逃げない。
『途中で逃げ出すただのクズ』に戻るなんてまっぴらだ。僕は最後まで行く!!
そしてこの殺し合いは『皆で』生き残るッ!そのために仲間は必要だッ!
キミの事は死なせない。キミの仲間も。蓮子も死なせない。当然ジャイロもだ。
そして、このヴァニラ・アイスを他の参加者に会わせてしまう訳にはいかない。
コイツは僕が今ここで『殺す』ッ!」
射命丸文は、その人間の前から立ち去れないでいた。
長寿を生きた文でさえ、目の前の、たかだか二十年程度しか生きてないひよっこの人間の言葉に立ち尽くすことしか出来なかった。
これが、短い寿命の中でしか生きられない人間の『賛歌』なのか。
人間の魂というのはこうも誇り高いものだったか。
-
文はジョニィの瞳の奥に燃えさかる冷徹な『漆黒の殺意』の更なる奥に、人間の『黄金の精神』を見出した気がした。
今まで文は心の奥の奥では、人間を『下等なる種族』だと見下していた面もあったと言えるかもしれない。元より天狗とはそういった性質なのだ。
その射命丸文が、人間に対して初めて心の底から『敬意』を表した。
この人はこれからも、ずっと前へと歩き続けていくのだろう。
その途中にどんな障害があったとしても、何度だって砕かれて、そして強くなって立ち上がっていく人なのだ。
…こんな『立ち上がろう』としてる人間を、死なせたくない。
私にも何か出来るだろうか…?
「文。君がいなければ僕はとっくに死んでいたんだ。君には本当に感謝している。だが、ここは危険だ。僕の事はもう大丈夫だから、蓮子を助けに…」
「私も残ります。手伝わせてください。」
「…敵うわけがないとか弱音を吐いてた奴は誰だっけな?」
「あ…あやや///すいません、ありゃウソでした。でも、ジョニィさんには生きて欲しいんです。実は私、新聞記者なんですよ。だから、奴を倒したら絶対インタビュー受けてもらいます!」
「へぇ?まだ若そうなのに凄いじゃないか。…インタビューか、実は僕も昔はよくインタビューを受けてたんだよ」
「ホントですか!?それじゃあ約束ですッ!この戦いが終わったら絶対に受けてもらいますからね!」
「あぁ。約束するよ」
ジョニィと文は二人で軽く笑いあった。
ジョニィのような『立ち向かう者』がこの会場にまだたくさん居るのなら
もしかしたらあの主催達に対抗できる道が見つかるのかもしれない…
文はジョニィに、少しだけ『希望』の光を感じて、
−それはすぐに−
−−−ガ オ ン ッ !
「!!!ジョニィさんッ!!上ですッ!!」
「…ッ!!??」
希望の光を喰らう『闇』は全てを覆い
−−−ガ オ ン ッ !
ジョニィ・ジョースターの肉体と共に
−あっけなく、あまりにもあっけなく、この世界から『消えた』−
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「感じたぞ………今ッ!確かに感じたッ!ジョースターの血を一人、この世から消してやった『感覚』をこの身に感じたッ!
『倒した』ッ!DIOサマァッ!貴方様の『不安』をまず一人ッ!消し去って御覧に入れましたッ!!」
真っ暗な『闇』の中で、今なお『左半身』を失っているヴァニラ・アイスは手応えを感じていた。
右腕はその肉片を『喰った』せいで力無くブランと垂れ下がり、全身に『つむじ風』と『衛星』から受けたダメージの痕が痛々しく残っている。
普通ならばとても立っていられる状態ではない。(尤も、この暗黒空間で立つも座るも無いのだが)
肉体は既に満身創痍であるにもかかわらず、ヴァニラは顔を狂喜に歪め、確かな勝利の感覚に笑いを止められない。
(…少し冷静にならなければ。どうも私はDIO様の事になると頭に血が上る。悪いクセだ。
まだだ。この殺し合いの場にはジョースターの血統がまだまだ居るハズ。それに外には鳥小娘がまだ居る。
ひとりひとり、順番に順番に、このヴァニラ・アイスの暗黒空間に………………………ん?)
シルシルシルシル……
何だこの音は…?この空間に私の声以外の音などはあり得ないハズだ……
ヴァニラは音のする方向を探してみる。今は左耳の感覚も無いのでよく分からない。
シルシルシルシルシルシルシルシル……
段々と音が大きくなってきた気がする。
それにしても耳障りな音だ…この音、どこかで……………
ギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャルギャル……
そうだ。つい先ほど聞いたような気がする。
そう…まるで高速で回転する歯車同士が火花を散らしてぶつかり合うかのような、ヴァニラにとっては本当に不吉な音がこの空間に響き渡った。
「こ、これはッ!?まさか、この『音』はッ!そんな筈は…ッ!」
ヴァニラの右半分の顔が一瞬で青ざめ、汗が吹き出る。
-
ギ ャ ル ッ ! ギ ャ ル ッ !
ギ ャ ル ッ !
ギ ャ ル ッ ! ギ ャ ル ッ !
ギ ャ ル ッ !
ギ ャ ル ッ ! ギ ャ ル ッ !
「おい。どうしたんだ?こっちだぜ。」
その時、はっきりとヴァニラ・アイスの『左耳』に癇に障るような余裕綽綽な声が届いた。
瞬間、ヴァニラは左半身の感覚が戻って来たように感じた。『左半身失調』の持続時間切れである。
しかしそれと同時に、『左腕』を誰かにガッシリと掴まれてる感覚があった。
ヴァニラは失調から復活した自分の左腕を見やる。
そこには信じられないものがあった。いや、『居た』。
「な…なんだとオオォォォーーーーーーーーッ!!??」
「うるさい声を出すなよな。それに何を驚いているんだ?『コレ』はあんたの大切な肉片だろ?」
そこには…そうだ。さっきジョニィが両腕に撃ち込んできた4発の爪弾、その『弾痕』ごとクリームが飲み込んだヴァニラ自身の『肉片』があったッ!
クリームがその暗黒空間に飲み込んだものは何であろうとバラバラに『消滅』する。ヴァニラ自身を除いて…
しかしこの肉片はヴァニラの肉体そのものなのだから、消滅せずに暗黒空間に残っていたままというわけだ。
だが、肉片に残ったこの弾痕の『穴』はどうなのだ?
-
かつてこんな事があった。フィラデルフィア海岸の列車内でジョニィが大統領に発射した追跡する穴。
その穴を大統領はお得意の能力『D4C』による挟み込みで、『穴ごと』次元の狭間に送ろうとした。
だが『穴』は『穴』。そのもの自体は挟み込んでも別次元には送り込めなかった。
つまり爪弾自体は消滅しても、この『穴』そのものは異次元だろうが暗黒空間だろうが、消し去る事は出来ないのかも知れない…
その穴はさっきジョニィに撃ち込まれたその状態のまま、しぶとく肉片にへばりつき回転を続けていた。
そしてッ!何とその小さな穴の中でバラバラにしてやったハズのジョニィがヴァニラの左腕を掴み、穴の中まで引き入れようとしているではないかッ!
その傍らにはジョニィの更に進化したスタンドが顔を覗かせているッ!
「チュミ ミ …………」
「『タスクACT3』ッ!黄金回転の爪弾で『僕自身』を撃つ事で、タスクは更なる段階へと進むッ!
その弾痕は螺旋の回転の究極の『地点』で、無限に渦巻くどんな『点』より小さな小さな最後の『場所』で、僕の肉体を穴の中に巻き込むッ!
僕の肉体とアンタの肉片につけた『穴』を『トンネル』のように繋げたッ!これで『お前の場所』へ到達出来たぞッ!
尤も、この『穴』の外の暗黒空間へ出たら、いくら僕でもやばいけどな」
ジョニィは先刻、ヴァニラの暗黒空間に飲み込まれたわけではないッ!
飲み込まれる寸前、ジョニィは黄金の回転で『自分』を撃ったッ!そしてそのままACT3で作った『穴のトンネル』を通ってヴァニラの肉片につけた『出口』まで到達したッ!
「お前のスタンドの口の中が暗黒空間とやらに繋がってるというのなら、この爪弾の穴の中が僕の暗黒空間と言ったところかな?
左半身が失調していたせいで左腕の異常に気が付かなかったみたいだが、お前はこのまま僕の『暗黒空間』に引き込んで倒すッ!」
ズバッ!ズババッ!ズババババババババババババッ!
穴の中に突っ込まれたヴァニラの左腕が先端から次第に裂け始めるッ!ジョニィはこのままヴァニラの全身ごと引き込むつもりだッ!
「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーッッ!!」
(何だと!?この『回転する穴』は…ジョニィ以外の者が入ったら『どうなるのだ』?まさか…私のクリームと『同じ』…同じなのかッ!)
「ジョニィ!離せ貴様アアァァァーーーーッ!!私の空間から出て行けぇーーーーーーッ!!」
「『綱引き』は好きかヴァニラッ!?僕はこう見えて上半身は結構鍛えてるんだぜッ!お前のそのボロ雑巾の様な左腕ではパワー不足だッ!」
(不覚ッ!このヴァニラ・アイスが何たる醜態ッ!『暗黒空間』に隠れてさえいればクリームに敵うスタンドなど無いと過信した、おれ自身の『驕り』ッ!(当然、DIO様は除くのだ)
さっきのジョースターをこの世から『消してやった』という勝利の感覚も、全ておれの『油断』ッ!奴はあえて自らの体をこの世から物理的に『消した』だけに過ぎんッ!
恥ずべきは全ておれの『覚悟』の無さッ!『死』の覚悟ではないッ!
『生きる』覚悟を持って、おれは何としてもジョースターを滅しなければならないのだッ!
おれは絶対にここで死ぬわけにはいかないッ!生きなければならないッ!絶対にだッ!!!)
「全てはDIO様のためだああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」
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−−− <早朝> GDS刑務所 1階女子監 廊下 −−−
「じゃあ、結局ヴァニラ・アイスを逃がしてしまったのですね…」
「あぁ…。最後の最後、奴の凄まじい『信念』が結果的に僕の更に上を行った。
奴の『左腕』を完全に破壊する事は出来たが、結局のところそれだけだった。…クソッ!」
ジョニィと文は現在、女子監の廊下を並んで歩いていた。
蓮子の事を気にして急いで駆け戻ろうとしたジョニィだが、身体のダメージは軽くは無い。
文から受け取ったポーションを飲んで体力と疲労が回復したとはいえ、その傷までが完治するわけではなかった。
致命傷ではないが未だクリームに『削られた』痕が全身に残るジョニィを気遣って、文が無理させないようにしているのだ。
蓮子を襲ったという謎の『襲撃者』と戦っているらしい露伴の加勢に行く為に、二人は一刻も早く外へ脱出しなければならない。
「何をおっしゃいますかジョニィさん!あんな危険な男の戦力を大幅に削っただけでも大したスクープですよ!
それにジョニィさんは少なくとも蓮子さんと私、既に二人の命を救っているのです!それは間違いの無い真実です!」
「それを言うなら僕だって君に助けられたろ?
最初に僕の危機を救ってくれたし、君の背中の『翼』を見て僕は黄金長方形のスケールで回せたんだ。凄く綺麗な翼をしているけど本物なんだろ、ソレ?」
ジョニィは文の背に生える鴉の様な翼(収納式らしい)をまじまじ見て感嘆している。
「あややぁ…///人に褒められるなんて久しぶりな気がします。自慢の翼なんですよ?コレ」
「ふ〜ん、『妖怪』ねぇー。」
文が照れ照れしながら自分の翼を擦っている。
本当に自慢の翼なのだろう。聞いてもいないのに朝のお手入れがどうとか、そろそろ生え変わりの時期がどうとか語りだした。
ジョニィは文の自慢大会を適当に聞き流しつつ、自分の興味を隣の『天狗』から、ある『モノ』へと移した。
(……それにしても、この状況はどう考えるべきなんだ?『コレ』は確かにアメリカへ厳重に保管されているはずだ…)
-
ジョニィは右手を自分の胸にかざしてみる。このエネルギーの鼓動は間違いなく『入り込んでいる』。
かつて自分も『所持』していたのだから感覚で分かるのだ。いつ体内に入ってきた?
…タイミングとしては恐らく、あのヴァニラ・アイスと暗黒の空間内で対峙し合っていた時だ。
あの場での最後の瞬間、ヴァニラは自らの左腕を『強引』に引き千切り、僕から離れた。
そしてとうとう僕の爪弾の継続時間も切れ、ACT3による穴が閉じてしまった。
僕が『穴』の中から現実の空間に弾き飛ばされた時には、ヴァニラはスタンドを操り既に逃亡していた。
(余談だがこの時、文は地面にへたり込んで大泣きしていた。僕が消滅したと思っていたらしい。ちょっぴり嬉しい)
そしてその時は気付かなかったが、あの暗黒空間内に放置されていたヴァニラのデイパックの中から僕の方へ『既に』ッ!『コレ』が引き寄せられていたのだッ!
ジョニィはかつての大統領との『争奪戦』を思い出す。ほんの最近までの出来事であるが、遠い昔の記憶にも思える。
自分の肉体の『脊髄』と『胴体』部分に、凄まじいエネルギー源をジョニィは感じた。
−−−ピキンッ−−−
「−−−−−−−−−−−−−−−−−ッ!!!!!!!!!!!」
その時ジョニィは背後で文の、息を呑むような気配を感じた。
考えに集中していたジョニィは、背後で文が蒼白な顔でうずくまっている事に気付くのに少しだけ時間がかかった。
「…………?文?」
TO BE CONTINUED…………
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気になって寝れない…早くしてくれええええ
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「Stand up〜『立ち向かう者』〜」
これにて中編が終了です。見て下さった方、ありがとうございました
引き続き、感想、突っ込み等受け付けております。今日の日付変わる前には後編を投稿出来るかと思います
多分、にゃんにゃんがにゃんにゃんするお話です。もうちっとだけ続くんじゃ
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投下乙!明日も紳士的に全裸待機だ!
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投下乙ッ!!
ジョニィの活躍もさることながら文がここまで凛々しく、そして可愛いとは。
ヴァニラの恐ろしさもひしひしと伝わる中次回へ続く『引き』が何よりも上手いっ!!
明日も超期待しています。
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マジで初書き物なのかこれ…?
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中編投下乙です!!面白かった!
あややかわいい!ジョニィやヴァニラを前にした彼女の心境の揺れ動きは印象的だったし、あややの翼で黄金長方形発見もいい展開だった!
そして圧倒的に強い能力を前に進化するタスクで次々とヴァニラを追い詰めていくジョニィかっこよかった…!
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投下乙です。ヴァニラVSジョニィのシーンが特に印象的でした。
前編で苦戦していたジョニィが勝利するまでの過程がアツい!
後編も楽しみにしてます。
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3回ぐらい「あ こりゃオワタわ…」ってなった
これででめたしでめたしってわけですね!そうなんだよね!
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まだ後編があるのか!
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投下乙!面白く読ませてもらいました。
にゃんにゃんの出てくる後編も楽しみに待ちます。
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投下乙です。
二転三転する熱い展開とセリフ回し、素晴らしかったです。
続きが凄く楽しみ。
そういえば誤字報告ですが文中の「幻想郷」が「幻想卿」になっていました。
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こちらも誤字報告
>>555の最後辺り、「チェス」が「チャス」になってます
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>射命丸文は幻想卿において最強クラスの力を持つ『鴉天狗』という種族の齢千を超える少女(?)である
>だがッ!この『悪魔のスタンド使い』vs『幻想卿最速の妖怪』という対戦カードにおいてッ!
>ここまで接近された相手に、ましてや幻想卿最速の鴉天狗相手に後手に回るとスピードBのクリームでは分が悪い
確かに全て『幻想郷』ではなく『幻想卿』になってます。そして
>この戦い、ジョニィは最初からチャスや将棋でいう『詰み』(チェック・メイト)にはまっていたのかも知れない…
こちらも『チャス』になってますね。すみません、訂正します。
誤字報告、ありがとうございます。
少し遅れましたが、これから後編を投稿したいと思います
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>>524の予約を延長します。
◆qSXL3X4ics氏、本当に初心者なんでしょうか……!?
後編を全裸正座ネクタイで待機してますw
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−−− <黎明> GDS刑務所 女子監 広場 −−−
未だ地平線に落ちぬ星々が輝く黎明の平原にポツンと聳え立つ巨大な刑事施設『GDS刑務所』。その不気味な印象を光らせる監獄の敷地内に三人の影が伸びていた。
トレードマークの黒い中折り帽が印象的な『オカルトマニアの少女』宇佐見蓮子。
彼女の支給品であるDISCにより自身が獲得した『自動追跡式自立型スタンド』ヨーヨーマッ。
そして欲望と好奇心に満ち満ちた『堕ちた仙人』霍青娥。
突如襲撃してきたヴァニラを止める為に激突するジョニィを一人残して、施設外へと逃げ出した蓮子。
近くにいる参加者に助けを求めようか思案している最中の彼女を『新手』が襲った。
新手の女…霍青娥はいともたやすく蓮子を後ろから羽交い絞めにして蓮子を拘束し、その甘美な声色を持って優しく囁く。
「―――私と、お話しましょう?」
−−−ベロンッ
「ヒィッ……ッ!?」ビクンッ
そう言って青娥は羽交い絞めにしながら蓮子の『頬』を舌で舐ぶる。
「私ねーその人の汗の『味』で嘘をついてるかどうかが分かるのよ〜(嘘♪)
下手な事言わない方が良いわよ〜♪」
青娥はニコニコ笑いながら青娥の頬や首元を何度もレロレロと楽しそうに舌を這わせる。
(な…何なのよコイツゥ〜〜〜ッ!?普通じゃない…!)
その有無を言わせない妖しい迫力とプレッシャーに蓮子の背筋が凍る。
これから始まるのは『対話』ではなく、一方的な『尋問』なのだという事を蓮子は予感した。
下手な嘘は言えない。こちらが少しでも反抗的な態度を見せれば、仙人である青娥の強靭な腕力で蓮子の首など文字通り一捻りとなるだろう。
今の所は、とりあえず青娥の言う事に大人しく従うしかない。
「ヨーヨーマッ。私は大丈夫だから…少し離れてなさい。大丈夫…きっと、大丈夫…」
『…承知しました。ご主人様…』
「うふふ…♪随分聞き分けの良いしもべさんなのね。芳香よりも有能そうだわ。」
ヨーヨーマッは主人である蓮子の意に沿うため、不本意ながらも二人から離れて様子を伺う。
「いいこいいこ♪そうやって素直に言う事を聞けば私は何も危害は加えないわ。そうね…それじゃあまず、その『人形』の事について詳しく教えなさい?」
蓮子は心中で必死に頭を巡らせた。
この女は『嘘つき』だ。危険な存在。私から情報を聞くだけ聞き出した後は、私なんて虫のように潰されるかも。
この女の『一手』上を行かなければならない。何とかして出し抜かなければ……どうしよう…どうする?
助けてメリー…怖いよ……
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−−−夜が明ける。月と星が支配する時間は身を潜めてきたが、いつもと変わらない朝日がいつものように姿を現してくるには、もう少しだけ時間がかかりそうだ。
青娥による数十分にも及ぶ尋問は、次第に蓮子の体力と精神をジワジワと削っていった。
青娥はまるで子供が教師に質問する事のように興味津々な面持ちで、次から次へと蓮子に疑問を投げては納得していく。
「あの『人形』は何かしら?なんていう名前なの?」
「『スタンド』…?それはどういったものなの?」
「貴方もスタンド使いなのかしら?」
「『スタンドDISC』…それを頭に挿入すれば誰でもスタンド使いになれるのね?」
「貴方のDISCのあの気持ち悪いスタンドの能力はどういったものなの?」
「そう言えば、貴方自身の事は聞いていなかったわ」
「スタンドではなく、貴方自身の能力はあるの?」
「『星と月を見るだけで時間と場所が分かる程度の能力』…、ねえ蓮子さん?それは面白いの?」
「さっき一緒におられた金髪の殿方のスタンド能力を教えなさいな」
「…知らない?嘘をつきますと大変ですわよ?」
「…ふーん。まぁ良いわ。ところでお嬢ちゃん、今何時かしら?…あらあら、もうお星様は隠れてしまいましたわね。これでは貴方の能力は使えませんわねぇ…」
青娥は時に聖女のように穏やかな表情で、時にキラキラと目を輝かせて蓮子の話に耳を傾け、時に酷く冷たい瞳で蓮子を屈服させた。
結局のところ、蓮子の持つ情報の殆どは青娥の怒涛の質問攻撃によって絞り出されてしまったのだ。
スタンドに関する知識は先ほど蓮子がヨーヨーマッに教えられた内容をほぼ反芻しただけであった。
長時間羽交い絞めにさせられたまま尋問させられた蓮子の精神は、青娥への恐怖も相まって既に限界が近い。
この窮地を切り抜ける為の策なんか、全く浮かばなかった。
所詮は普通の若者よりもちょっぴり頭が切れる程度の、一般人大学生の蓮子ではこの千年以上の時を生きてきた本物の『仙人』の一手上へ行ける道理は無い。
実際、憔悴しきっていた蓮子に比べて質問してくる側の青娥はまるでピンピンしている。精神面から体の作りまで何から何まで人間とは違うのだ。
「もう…いいでしょ。私が持ってる情報は全て話したわ…。お願いよ…助けて……助けてください………」
「んーーーー…スタンド、スタンドかぁ…。色んなスタンド使いがこの会場には居るのねぇ。面白いわぁ♪」
消沈したままの小さな声で蓮子は青娥に懇願するが、当の青娥はまるで聞き耳を持たない。
より楽しくて面白そうなものに興味を持ち、残酷なほどに無邪気な好奇心を持つ青娥の次なる興味は、既に蓮子からスタンド能力の事へと転換したらしい。
「か…解放してくださいッ!あの中で私の友達が危険な目に遭ってるんです!早く助けを呼ばないと…お、お願いッ!」
「んー?そうねぇ。貴方から聞きたいことは全て聞いちゃったし…別に逃がしたって良いんだけど……でも念のため殺しちゃっておこうかしら?」
ゾクッ……!
-
まるで何事も無いようにニコリと美しく微笑む青娥の笑顔に、蓮子は今日一番の冷や汗をかいた。
彼女にとっては蓮子の生死など本当にどっちだって良いのだ。
自分さえ良ければ周りの者が死のうが生きようが涙を流しながら必死に命乞いをしようが、気まぐれに傷付ける。
常ににこやかで陽気に話し、気に入った者にはフラフラついていき、飽きたらまた別の興味対象についていく。
『邪気』が『無い』と書いて『無邪気』。彼女の行動に悪意も悪気も全く無い。
それが堕ちた仙人たる『邪仙』の本質。霍青娥という仙人はつまり、そういう存在なのだ。
(なんなのこいつ…!こんな残虐な殺し合いのゲームを、まるで新しいオモチャを見つけた子供のように本気で楽しんでいる…ッ!
私達参加者なんてこの女にとっては皆ただの遊び道具と一緒…ッ!飽きたら捨てる!気に入ればついていく!
どうすれば良い…ッ!?死にたくないッ!死ぬなんて絶対イヤッ!)
いつの間にか蓮子の体は震えていた。全くの未知の存在である青娥の『無邪気さ』に心から恐怖していた。
もはや蓮子から冷静さは完全に失われ、抜き差しならない状況に陥る。
青娥の腕は拘束する力をまるで緩めようとせず、どころか次第に蓮子の首へとその豪腕な力が集中してきた。
「ぅ……っ!か…は………ぁ……………っ!」
「んーどうしようかしら?別に良いのかしらね。でも、ここであっさり殺しちゃってもそれはそれでつまらない様な…?」
青娥の女性とは思えない強靭な仙人の腕力が、メキメキと蓮子の首にしまっていく。
当の青娥はあさっての方向を見ながら考え事をしており、何とその事自体に気付いてもいない。
彼女はこうして『なんとなく』蓮子の命を奪おうとしている。
青娥の『いともたやすく行われるえげつない行為』に、蓮子は流石に死を覚悟した。−−−しかし、
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!!!!
蓮子の意識が途切れるまさにその寸前ッ!刑務所内のスピーカーから大音量のサイレンがけたたましく鳴り響いたッ!
「あらあら何事ですの?今せっかく考え事をしていらしてのに…。」
青娥は思案から我に返り、蓮子を羽交い絞めしていた腕の力をつい緩めてしまう。
おかげで蓮子は危機一髪の状況から解き放たれた(といっても拘束する腕は依然解かれないが)。
「−−かはァッ!ゴホゴホッ!げほ……ッ!」
「ん?あら失礼。少し強く締め過ぎたかしら?」
(じょ…冗談じゃないわッ!このままこいつと一緒にいたら死んでしまうッ!なんとか逃げ出さないと…!)
咳き込み続ける蓮子は今自分が本気で死にかけたことを改めて認識し(しかも物凄くくだらない死因で)、再びコイツから逃走する方法を考える。
(……そういえばさっきから『アイツ』は何をしているのよッ!
主人である私が殺されそうになったってのに何の行動も起こさず、アイツはただ突っ立って見ていたのッ!?)
心の中で役立たずである僕に毒を漏らしながら、蓮子はヨーヨーマッの姿を探す。
『先程の火災報知機は…わたくしが作動させていただきました。スイませェん…』
-
そのやる気無さそうな、少々癇に障る声の発生した方向を蓮子と青娥はバッと振り向いた。
ヨーヨーマッがこれまたダルそうにしてそこに立っており、二人を見つめながら言い放つ。
『このサイレンの音量を聴いて誰かが様子を見に来るかも…そしてその方がこの状況を見れば、貴方と戦闘になるかもしれませんねェ…』
蓮子の不気味な召使いヨーヨーマッは、何もただ黙ってこの一方的な尋問を指を咥えて眺めていたわけではない。
主人のために自分が出来る事は何か。彼(?)が導き出した最良の答えは『救援』を求める事だった。
どうやら襲撃者の女はかなり『強かで気まぐれ』な女性だと見受けた。迂闊な攻撃をしようものならすぐに蓮子の首は吹き飛ぶだろう。
そこで彼は青娥に気付かれないようにゆっくり、ゆっくりとその場を離れて女子監の入り口の火災報知機まで足を運んだ。
本来、ヨーヨーマッのスタンド射程距離は最高ランクの『A』。自動追跡型なのだから当然と言えば当然だ。
だがこのロワイヤルにおいては射程距離の『制限』を受けており、せいぜい20メートル。
ヨーヨーマッが直接施設外にいる誰かに救援を求めるには、かなり無理のある数字だ。
ならば大きな『音』によって参加者を呼び集めるのはどうか?という結論に彼は達した。
幸いにも火災報知機のスイッチはこの場からそう遠くない位置に付けられていた。
無論、この策はかなりリスクが高い作戦でもある。
まず、参加者が近くにいるかどうかが問題だ。この施設の近くに誰もいなければまるで意味がない。
そして、仮に参加者の誰かが気付いたとしても、その者がゲームに『乗っている者』であれば状況は悪化する可能性もある。
加えて、問題はここからだ。
ヨーヨーマッの行為により、恐らく青娥はこのささやかな反抗に気分を害すだろう。人質でもある蓮子をあっさりと殺すかもしれない。
そこで、誰かがこの場所に来るまでに『粘らなければ』ならない。
「あなた…やってくれるじゃない。下手な真似はするなと釘を刺してたはずだけど?」
(ヨーヨーマッのバカ!作戦は理解したけど、コイツを怒らせちゃったじゃないッ!殺されちゃう!)
今まで余裕を見せていた青娥がここに来て初めて、そのユルイ雰囲気に『怒気』を孕ませる。
当然蓮子は気が気でなくなり、再び自分の僕へと毒を吐く。
『えぇ…。そこでわたくしは貴方様と『交渉』したいのです。
先程から随分とスタンドに関して興味津々のご様子ですが…貴方様が今ここで簡単にスタンドを持つ方法がございます。
実はスタンドDISCという物は他人でも簡単に付け外しが出来る物なのです。頭部…脳の部分に指を突っ込ませれば、DISCは取り出せると言うわけです。
ドゥー・ユー・アンダスタンンンンドゥ?(わたくしの申し上げたいこと、理解できますか?)』
「…へぇ。つまりこういう事ですわね?
『彼女に装着されてるスタンドDISCをくれてやる』『その代わり彼女の命は助けてやってくれ』………。」
『Exactly(そのとおりでございます)』
(え…?ちょ、ちょっと待ってよ!私のスタンドDISCをコイツに渡すって事は『つまり』……ッ!)
-
『それともう一つ、DISCについて重要な情報がございます。
DISCを装着した者がもしそのまま『死亡』してしまった場合、DISCはその者の死に『ひっぱられる』と言う事です。
つまり今貴方様がわたくしのご主人を殺害した場合、欲しがっていたDISCは同時に体内で崩壊してしまうのです』
「…まぁ。それは知りませんでしたわ。でも、よーよーむさん?」
『ヨーヨーマッです。わたくしの名はヨーヨーマッ。二度と間違えないでいただきたい。よーよーむでもふーじんろくでもありません』
「失礼、ヨーヨーマッさん。では貴方はこう考えなかったのかしら?
『DISCを装着したまま死亡するとそのDISCが消滅するのなら』『先にDISCを取り出して殺してしまえば良い』。
貴方、私がそうするかもしれませんのにどうしてその情報を先に私に教えてくれたのかしら?」
…確かに青娥の言うとおりだ。そんな重要な情報を取引の前に教えてしまったら、青娥は喜んで蓮子のDISCを奪った後に殺してしまうかもしれない。
『では仮に…ご主人様を解放した後にDISCの情報を教えてやるとわたくしが提言した場合、貴方様はその条件を飲んだでしょうか?』
「質問を質問で返されるのは癪だけど、飲むわけがないわ。だってそんな事したら貴方達、二人して一目散に建物内に逃げちゃうでしょう?
またはヨーヨーマッさんが私と交戦してる間にお嬢ちゃんだけでも逃げ出しちゃうかもねぇ」
『そういう事です。それにその情報を先に伝えておけば、貴方はご主人様を迂闊に殺すことは出来なくなってしまいます。
そんな事をすれば、DISCは永遠に手に入りませんから』
「質問の答えになってないわ。
私がDISCを奪い、その後にお嬢ちゃんを殺すかもしれないのにどうしてそんな情報を先に教えてくれるのよと聞いたのですわ」
『わたくしが申し上げたい事はまさにそこなのです。つまるところ、わたくしは貴方様の『良心』にお願いをしているのです。
先程から見ておりましたところ、失礼ながらどうやら貴方は相当の『気まぐれ』かつ『自己中心的』なお方…
しかし『悪人』というわけでは決してない。御自身の気の赴くままに行動する渡り鳥のような存在…
そんなお方が『良心』という尊いお心を少しでも持たぬはずがございません。
その良心にわたくしは必死に語りかけております。お願いです、どうかご主人様を殺さないで欲しい。
ご主人様を解放していただければ、間違いなくわたくしはDISCを献上すると約束します』
-
(ヨーヨーマッ…あなた…そこまでして私を…?)
ここまで殆ど蚊帳の外だった蓮子は、心中で震えていた。
自身のDISCを明け渡すと言う事はつまり、ヨーヨーマッが青娥のスタンドに成り変わってしまうという事。私の元から離れてしまうという事。
ムカつく奴、とばかり思っていた不気味で気持ちの悪い召使いは、本当に私のことを第一に考えていたのだ。
それに比べて自分は助けられてばかりだ。いつだって誰かに依存していなければ不安で仕方ない。
口を開けばメリー、メリー…さっきだってジョニィに逃がされてきたばかりではないか。
そんなことでこのゲームに生き残れるわけがない。
−−−強くならなければ。誰の助けも要らないぐらいに、強くなりたい。
強くなって、私がメリーを守ってあげたい。
ジョニィを驚かせてやりたい。
どうすれば強くなれるかは分からないけれど、他人に甘えてばかりじゃダメなんだ。
蓮子が心の中で強く決心をしている事など全く知るべくもない青娥は、ヨーヨーマッの誠意ある言葉を最後まで耳に入れ、そしてとうとう青娥は動いた。
「殿方(?)にそこまで言われて解放しないのでは仙人の名がすたるというものね。それに別に彼女の命なんかには興味無いし。
分かったわ。彼女は解放します。その代わり…約束はきちんと守ってくださいね?」
『ありがとうございます。…それではまずは彼女の解放をお願いします』
「…ゆきなさい」
そう言って青娥は蓮子を拘束していた腕を放し、彼女に促した。
それと共に蓮子はヨーヨーマッの元へ駆け出した。その瞳は少しだけ涙目になっている。
「ヨーヨーマッ!ゴメンなさい!私のせいでアナタがアイツのものに…」
『いえご主人様、わたくしはあなたのスタンド。主人のお命を最優先に考えるのは当然でございます…』
『…それに貴方様が謝る必要は全く御座いません。わたくしはあの婦人との約束を守るつもりは『全く無い』のですから』
-
ボ ゴ ォ ボ ゴ ォ ン ッ ! !
「!?」
直後、青娥の体に突然数ヶ所の風穴が開いたッ!
青娥は一瞬何が起こったのか分からず、傷を押さえながら驚愕した面持ちでヨーヨーマッを見やる。
「成る程…これがあなた流の『誠意』ってわけかしら。楽しい事してくれるじゃない?」
『ご主人様がこちらに戻ってきた時点で『約束』など守る必要などありませんからね。
DISCの情報を教えてしまった事だけがこちらの痛手といえば痛手ですが』
「…え?え?ヨ、ヨーヨーマッ…?な、何を……」
蓮子だけが事態の展開についていけず、混乱してオロオロしていた。
『何を、ではありませんよご主人様。あの方は卑怯にもご主人を人質に取り、そして殺そうとした『悪人』ですよ?
それにわたくしが居なくてこれからご主人は目的は達成できるのですか?何としてもご友人に会いたいのでは?』
「いや、それはそうだけどさぁ…アナタさっきアイツの事を『悪人ではない』って…」
『嘘も方便と言います。あの方は完全に『悪』です。『邪悪』と言っても良い。
正確に申すれば、彼女は己の気分一つで簡単に『悪』にも『善』にも転がってしまう、迷惑極まりない生き物です。
『敵意』とはいつか必ず倒されるものですが、彼女には敵意も無ければ悪気も無い。
他人を不幸に巻き込んで道連れにする真の邪悪…まさしく『最悪』です。
野放しには出来ません、今ここで倒します。ご主人は離れてください』
なんか…さっきコイツに感じた感動を返せって感じ…。でも、コイツの言う事は間違ってない…のかな?わからん…
「貴方、私に『良心』がどーのこーの言っておいて、自分は随分卑劣な真似するじゃない?」
『わたくしは『スタンド』でございます。スタンドとは持ち主の精神がそのまま具現化したようなもの…
スタンドに『良心』もクソもございません』
「ちょっと!それじゃ私が良心無き卑劣者みたいに聞こえるじゃない!」
蓮子は思わず自分のスタンドに突っ込みを入れるがヨーヨーマッはまるで気にしない。
「やれやれだわ…。あなたの能力はさっき彼女から聞いたばかりよ。『自動追跡型スタンド』で物体を溶解させる唾液を操る…
今のは…蚊を利用した攻撃ってところかしら?つい油断しちゃったけど、果たして同じ戦法が通じるかしらね?」
そう言って青娥はニヤリと笑う。長年の修行で鍛え抜かれた仙人の身体はちょっとやそっとの攻撃は効かない。
(…フム。やはり彼女は只者ではありませんね。たった一度、攻撃を受けただけで蚊によるトリックを見破るとは…
1対1には自信はありますが相手はかなりの手練、敗北も充分ありえる…
しかし…どうやら『保険』はなんとか間に合ったみたいです。上空に見えてきました)
「このお洋服、結構気に入ってたんだけど穴開けられちゃったわねぇ。私だって流石に少しは怒るのよ…?」
青娥がとうとう戦闘態勢に移ろうとする。しかしヨーヨーマッはどこか余裕を持って相手に淡々と告げた。
『怒るのは実に結構ですが…わたくしが何故刑務所のサイレンを鳴らしたかお忘れですか?
交渉術には結構自信があったんですが、出来ればあなたをここで無力化しておきたかった。
だからわざわざサイレンの音で『救援』を呼び、こちらの戦力を増やしたかったのですよ』
今度こそ青娥の顔から完全に余裕が消えた。
ヨーヨーマッは蓮子を救うためだけにちんたらと演説を続けていたわけではないッ!
この音を聴いてやってくるであろう加勢者が到達する為の『時間稼ぎ』の意味もあったッ!
その二人組は監獄のフェンスの上を猛スピードで『滑空』して、蓮子とヨーヨーマッの側に着地して一声を上げる。
「刑務所の方からやかましい音が流れてくるかと思えば…とんだヘヴィーな状況だったみたいだな。嬉しいねェ」
「人様の腕につかまっておきながら…カッコつけないでください露伴先生ーッ!」
翼をバタバタさせて必死に飛ぶ幻想郷の天狗妖怪の腕につかまって降臨したのは、杜王町が誇る最強の漫画家。
岸辺露伴と射命丸文が颯爽と大地に降り立った
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段々と明るく照らし出された刑務所の広場には現在5名の影が伸びる。
宇佐見蓮子。ヨーヨーマッ。霍青娥。岸辺露伴。射命丸文。
互いが互いの顔を交互に見合わせ、それぞれの思惑に果てる。最初に声をあげたのはヨーヨーマッであった。
『来て頂けて助かりました。わたくしはヨーヨーマッ。こちらの宇佐見蓮子様の僕であるスタンドになります。
最初に申し上げておきますが、わたくしとご主人様はゲームに『乗っておりません』。アナタ方はどちらになりますか?』
ヨーヨーマッ自身のスタンスはどちらかと言えばゲームに乗る側ではあったのだが、彼はこの場ではとりあえず蓮子の意志を尊重しておく。
「フン…スタンド使いか。この状況を見たところ…君達はあの天女みたいな女に襲われてるってとこか。
ぼくは岸辺 露伴。漫画家だ。こっちの鳥人間は射命丸 文。そうは全く見えないが、新聞記者らしい。
そうだな…ぼく達は『乗っていない』。あっちの女は『乗っている』って認識でいいのか?」
露伴は青娥を指差してそう聞いた。殺し合いのスタンス確認は一番重要な事なのだ。
『そういう事になります。彼女はかなり危険な存在…今ここで倒しておいた方が得策かと思われますが…』
「この岸辺露伴に指図するなよな。スタンドなんかおよびじゃあない。ぼくはそっちの彼女に聞いたんだ」
そう言って露伴は今度は蓮子を指差して聞いた。蓮子は突然自分に話が振られて慌てる。
「え…わ、私ですか?え、えーとえーと…」
確かに自分はこのゲームに乗っていないのだが、青娥がこのゲームに積極的に乗っているかと問われれば微妙な線ではあった。
青娥は『危険人物』だが、ヨーヨーマッが分析したとおり彼女には『悪意』があるわけではない。子供のような無邪気さで自分の気の赴くままに動いているだけだろう。
現に、さっきのヨーヨーマッとの交渉では青娥は自分を解放してくれたし、むしろその後青娥に対して『だまし討ち』を仕掛けたのは自分達なのだ(ヨーヨーマッが独断でやっただけだが)。
だが、青娥に一度は殺されかけたのも事実でもある。そのことを思い出して蓮子は段々ムカッ腹が立ってきた。
(そう…そうよ!なんで私があの女に同情するみたいな気持ちになってんのよ!あいつは危険な奴だってのにッ!)
子供の可愛い悪戯ならば叱ってやるだけでいいが、今回は人の生き死にに関わっている。叱って済む問題ではないのだ。
故に蓮子はほんの少しの罪悪感を感じながらも、堂々と露伴に言ってみせた。
「あの人は『乗った』人ですッ!私達今まで襲われていましたッ!た…助けてくださいッ」
-
「……あらあら。これは手痛いしっぺ返しを喰らってしまいましたわねぇ…」
蓮子の反撃に青娥はそれでも不敵に微笑んだ。彼女の状況は一転して不利となる。
そこで今まで沈黙を保ってきた文が口を開いた。露伴を抱えて飛んできた疲れか、少し息が荒いが。
「露伴先生、あの女性はさっき話したように幻想郷の住人…霍青娥という名の邪仙で、いわゆる『仙人』です。
彼女は本質的には悪い人間ではないですが、かなり厄介な相手ですよ…自分の行動がいかに他人の迷惑になるかを分かっていない、自己中心的な方ですから」
「成る程ね…僕はそういう自分さえ良ければ他人の迷惑を考えない奴が一番嫌いなんだ」
尤も、ここにいる天狗の文も、発言した露伴本人も自分本位の塊の様な人間である事は間違いないのだが。
その時、今にも戦いが勃発しようとする中で蓮子が露伴たちに向けて口を開いた。
「あ…あの!実はこの建物の中にまだ私の友達が居るんですッ!ジョニィ・ジョースターって言うんですけど、私達突然すごく怖いスタンド使いの男に襲われて…ッ!
あの人、ジョニィが今も一人で戦ってるんですッ!お願いします!彼を助けてやってくださいッ!」
それを聞いた露伴と文は同時に顔を見合わせる。
「ジョニィ…『ジョースター』…?露伴先生、それって先生のお知り合いのジョセフ・ジョースターさんと何か関係が?」
「ムゥ…名簿であらかじめ確認はしていたが、可能性は高いな。何にせよ、その彼を助けに行かないわけにはいかないだろう。」
そう言って露伴はデイパックの中をごそごそしたと思ったら、例のマジックポーションを一つ取り出し、文に向けて投げ渡した。
「わっ!おとと…っろ、露伴先生…?何故コレを私に?(嫌な予感が…)」
「決まっているだろう。アンタがそのジョニィを助けに行ってやってくれ。鴉天狗の飛翔速度ならあっという間だろう?ポーションは一つだけ持っていけよ。ぼくはこっちの女を何とかしよう」
「え…えええぇぇぇ〜〜〜〜!?私がその『すごく怖いスタンド使い』と戦えって言うんですかぁ〜〜ッ!?
先生の無敵の『ヘブンズ・ドアー』で何とかしてくださいよォーーーッ!」
文は露伴からの突然の無茶振りに抵抗しようとする。
露伴の能力『ヘブンズ・ドアー』の詳細はここに来るまでに文は既に聞き出していた(文が強引に聞き出したようなものだったが)。
そのかなり最強に近い能力なら大抵のスタンドには優勢に戦えるだろうと思った末の考えだ。
だが露伴に対してはどんな理屈も簡単に言いくるめられてしまう。
「おいおい、ぼくは今言ったばかりだぜ?事はかなり急いでいるらしい。
空を飛べる君のスピードなら大事にならないかもしれないし、鴉天狗って連中はどうやらかなり強い種族らしいじゃないか。スタンド使い相手でも充分戦えるだろう。
それにあの『仙人』とかいう女の力は未知数だ。その相手をぼくがしてやると言うんだ、それじゃあ不服なのか?それともこの岸辺露伴の頼みを断ると言うのかい?」
ここで『だが断る』とキッパリ言えるほど文は器量が高くなかった。
「ろ、露伴先生のバカーーッ!鬼ーーッ!ろくでなし漫画家ーーーーッ!!」
かくして文は露伴のわがまま(?)に文句を垂れながらも、自慢の翼を羽ばたかせてジョニィ救出作戦を実行するために飛び立つのだった。
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『お話は丸く収まったみたいですね。安心しました』
ヨーヨーマッは内心ホッとしていた。先述したが、彼の『サイレンの音で助けを呼ぶ』と言う作戦にはやはり高いリスクはあった。
この場に現れる人間が必ずしも『正しい者』とは限らない。ゲームに乗った者が現れる可能性も有り得たのだから。
『蓮子を救出する』『霍青娥を倒す』。両方やらなくてはいけないのが従順なる僕のツライ所である。
そういう意味においても、ヨーヨーマッの作戦は功を奏した。
文の出立を見守った露伴は青娥の方へ体を向きなおして気楽な表情で話しかける。
「さて…仙人、『霍青娥』とか言ったかな?お前の簡単な情報は射命丸から事前に聞いているぜ。
妖しげな仙術や、『壁をすり抜けられる程度の能力』を駆使するらしい。実にくだらない能力だな。尤も、ぼくとしては千年以上生きた仙人にはスゴク興味はあるんだが。
おっと下手に動くなよ。その瞬間ぼくはお前に攻撃を叩き込むつもりでいる」
「…どうやら完全にこちらが悪者扱いされたみたいですわね。あーあ、私はDISCが欲しかっただけなんだけどねぇ。
見逃して欲しいと言っても聞いてくれないんでしょう?」
対して青娥は露伴とはまた別な意味でリラックスした雰囲気で不満を漏らした。
(な…なんか凄い状況になってきちゃった。これってつまり、『殺る』か『殺られるか』の勝負がこれから始まるって事だよね…?)
露伴から少し離れた場所で二人の対決を見守っていた蓮子は、これから目の前で『殺人』が行われるかもしれないと考えた瞬間、言い様のない恐怖が再び頭をもたげてくる。
自分達が今居るこの舞台は本当に『死』と隣り合わせの世界。昨日までメリーと馬鹿をしながら過ごして来た現実は既に過去の残像。
『どうかご安心をご主人様。貴方様の安全はわたくしがお守りいたします。
それより、あの二人の戦いをよく目に焼き付けておいてください。ご主人様もいつかは『その時』が来るでしょうから…』
−傍で怯える蓮子にヨーヨーマッは、ただ淡々と、一言だけ告げた−
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霍青娥は平面上はにこやかな笑みで露伴を見据えていたが、その心中では穏やかとは言えなかった。
蓮子からスタンドに関するあらゆる情報を聞き出せたのは良いが、歩くパイナップルの様な不気味なスタンド如きに交渉では上手を取られ、挙句にあっさり虚偽にハメられ人質を失う始末。
最も欲しかったスタンドDISCも手に入らず、どころか未知の新手を呼ばれた上に青娥がゲームに『乗った者』みたいな流れにされ、今や彼女の状況はかなり危険な立場にある。
更に何の因果か、あの鬱陶しい新聞記者まで露伴の隣に付いて来ている。幻想郷の情報通である彼女から『かなり厄介』と念を押されれば、それだけで説得力が出てくる。もうこちらの弁解など通る筈もない。
実際青娥は、DISCさえ渡してくれれば本当に蓮子を解放するつもりであり、それ以上向こうを傷付けるつもりだって無かった(尤も気まぐれな彼女の事だからそうであるとも限らないが)。
(…もう!あの鴉天狗さえ居なければこの殿方一人ぐらい説得できたかもしれないのに!
仮にマトモに戦ったとして、私が負ける事など考え難いですけど、問題は『スタンド』と言う存在…
あの天狗…さっき『無敵のヘブンズ・ドアー』とか叫んでましたけども…どんな能力かしら?
無敵と言うぐらいですからかなり自信あるのでしょうね。…もの凄く興味ありますわ。
…そういえばそろそろ『一時間』経つ頃合かしら。『使う』チャンスを与えてくれるほどこの殿方がおマヌケなら良いけども…)
遠くの場所が微かに騒がしい。どこかで誰かが戦っているのであろうか。
露伴と青娥はお互い睨み合っており、蓮子とヨーヨーマッもそれを固唾を呑んで見守る。
一瞬、世界が止まったように感じるほどの静寂が辺りを包み込んだ。
−−−青娥の腕が這うように動き出し、そして…
「ヘブンズ・ドアーッ!!」
その一動作を見逃さなかった露伴が、すかさず右腕を振り上げ目にも止まらぬスピードで空中にスタンド像を描いていく。
そこから具現化した露伴のスタンドは数メートル離れているにも関わらず、瞬間!青娥に何の行動も起こさせずに彼女の体を『本』にしたッ!
-
「ッ!?」
あまりの一瞬の出来事に青娥だけでなく、周りの蓮子達ですら何が起こったか理解出来ずにいた。
全身の力が抜けていく感覚に青娥は思わず膝を突いて自分の右手を眺める。
「こ、れは…?手が、紙に…?あなた、何を…ッ!」
「動くな、と言った筈だぜ。命まではとらないさ。今の所はだが。」
鼻歌でもひとつ歌いだしそうな軽やかな足取りで露伴が一歩一歩青娥に歩を進めていく。
いよいよ絶体絶命となった青娥は、しかしこの状況に置かれてさえもッ!
笑ったッ!
(『ヘブンズ・ドアー』…これが彼のスタンドの力!『相手を本にする能力』なのね!面白いわッ!
さっきの『天候を操る能力』や『生命を生み出す能力』のあの方達もそうだけど、やっぱりスタンド使いって最高に面白いッ!
決ーめた♪あの素敵な『コロネの彼』に持っていく『手土産』!スタンドDISCをいっぱい集めてプレゼントしましょう!)
(この会場にDISCは後どれ位あるのかしら?)
(他にはどんな能力があるの??)
(私が気に入る能力はあるかしら〜♪)
溢れ出す知的好奇心はもう止められない。
呆れた事に彼女は目の前に迫る露伴の事などそっちのけで、頭の中にあるのはこの未知なる力『スタンド』への興味で埋まっていた。
そして同時に、邪仙としての彼女のこのロワイヤルにおけるスタンスはこの瞬間決定する。
『参加者の持つスタンドDISCを根こそぎ強奪するッ!』『彼に会ってそのDISCは献上しようッ!』
-
青娥は考えた。支給品の配布が完全にランダムで行われてるのではないならば、スタンド使いにわざわざスタンドDISCを支給するのも非効率な話である。
つまり主催者達はスタンド使い『でない者』中心にDISCを支給しているハズだ。ならばそいつ等を襲っていけば次第にDISCも集まっていくだろう。
奪う際に戦闘になるかもしれないが、先に殺してしまってはDISCが手に入らない。まずはDISCを奪って、後は逃げるなりそのまま殺すなり好きにしよう。
「おい、さっきから何をニヤついているんだ?おっと何を考えているかは言わなくてもいいぜ。すぐに分かるからな。
とりあえず、まずはお前に30分程眠っていてもらうか」
(…って、目を覚ましなさい私!これからどうするかよりも、まずこの場をどう切り抜けるかでしょッ)
気付けば露伴がすぐそこまで迫ってきている。命までは奪わないと言ってたが、どちらにしろここで捕まってしまうわけには絶対にいかない。
露伴が半分本になりかけている青娥のページの切れ目に命令を書き込もうと右手をあげた瞬間だった。
ゴ ゴ オ オ ォ オ ゥ ゥ ン ……………! ! ! !
東の方から耳を劈く轟音が聞こえた。まるで旅客機でも墜落してきたかのようなその轟音は、この場の全員の気を一瞬引くには充分であった。…ただ一人、青娥を除いて。
「………っ!?何だ今の音は!?東からだ、近いぞ!確かあそこはD-2…『猫の隠れ里』があったエリアだが…
ムッ…!?」
露伴はほんの一瞬だけ青娥から目を離してしまった。それが彼の『致命的なミス』だった。
再び青娥の方に注意を向けてみれば、青娥の姿が何処にもない。慌てて辺りを見回したが、周りには蓮子とヨーヨーマッしか見当たらない。
「しまった…っ!この露伴とした事が、なんてザマだッ!みすみす彼女を逃がしてしまったのか…!?
…いや、彼女は『本』になったままだ。その状態でこれほど素早く動けるわけがない…!」
「きゃあッ!!」
青娥の姿を探す露伴の背後で蓮子の叫び声が響いた。すぐさま振り向いた露伴は蓮子の様子がおかしい事に気付く。
「蓮子ッ!?どうしたッ!」
露伴の危惧もむなしく、露伴の側を離れていた蓮子は悲鳴を上げた瞬間に突然地へ崩れ落ちた。
(気絶させられているッ!敵はあの一瞬、何らかの方法で蓮子に攻撃したのか!何故蓮子をッ!?
しかもぼくのヘブンズ・ドアーの能力は依然進行中ッ!デカイ動きは出来ない筈だ!
…いや、これは催眠術だとか超スピードだとかいうよりも…成る程、もっと『チャチ』なものだな)
「この岸辺露伴の目を誤魔化せると思ったかッ!くらえ『ヘブンズ・ドアー』ッ!!」
瞬間、再び露伴はヘブンズ・ドアーを発現させる。狙いは蓮子のすぐ側の一見、『何もない空間』ッ!
だが露伴の漫画を描く事によって鍛えられた鋭い観察眼は、『彼女』の姿を見落とさなかったッ!
「!!キャ…ッ!」
ド ォ ォ ーーーー ン ッ !
短い悲鳴と共に青娥の姿が空間から『いきなり現れた』ッ!今度こそヘブンズ・ドアーの攻撃は炸裂し、青娥の意識を完全に奪うッ!
-
「…ふぅ。危なかったが、『30分意識を失う』と書き込んでやった。
どうやら透明になってぼくから身を隠してたようだが、近くでよく目を凝らせばうっすら見えてるぜ。
コイツは…仙人の能力、というよりも『支給品の機能』か?光学の迷彩スーツといったところか。何にせよ、ちょっぴり肝を冷やしたかな」
露伴の推察したとおり青娥の支給品は『河童の光学迷彩スーツ』。着る事で周りの風景に溶け込み、透明な状態になる事が出来る。
青娥がこのGDS刑務所に辿りついた時点ではスーツの『バッテリー』が切れていたが、蓮子への長時間の尋問中に充電に必要な『一時間』が経過していたのだ。
先の謎の轟音により露伴が気を取られていた隙に彼女はすかさずスーツの電源を入れその身を隠したのだが、露伴に対しては一時しのぎの抵抗でしかなかった。
「さて…鴉天狗に続いて仙人というのはぼく自身凄く興味がある種族だが、連続でのスタンド使用にかなり体力を使ってしまうのでね、まずはお前がぼく達にとって『吉』か『凶』かだけを確認させてもらうぜ」
露伴が文に対してそうした様に、支給品のポーションさえ使用すれば青娥の生い立ちや能力等々をじっくり時間をかけて読めただろうが、手元にあるポーションのストックは残り2本。
好奇心を優先させて貴重な回復薬を消耗するのも馬鹿馬鹿しい。故に露伴は本当に大事な部分だけを先に読んでしまう事にした。気絶している蓮子の介抱はまた後で良いだろう。
(コイツが危ない思考をしている危険人物なら一言『再起不能になる』と書き込むだけでとりあえずはぼくの勝利だ。
射命丸のように『この異変を皆で解決する』と書き込むことも可能ではあるが、なるべくしたくない。
アイツの場合は生きる為に『仕方無く』ゲームに乗った人種であり、まだ『殺し』に対して罪悪を感じる、一応は『正しい側の人間』(妖怪だが)かもしれない。しかしコイツは違う)
(射命丸から事前に聞いていた通り、コイツは物事の基準を測る『善悪のものさし』が無いらしい。
『善』も無く『悪』も無く、ただ自分のやりたいことだけを好き勝手に行う。洗脳するとはいえ、そんな不安定な奴と行動するのは危険だ)
つまるところ、今の露伴に必要な情報は青娥という存在が害悪なる者なのか。それをハッキリさせる為に露伴はページを開いて読み進めていく。
ページにはたった今行われていた攻防が記されていた。
『スタンド使いって凄く素敵♪私もスタンドが欲しい!』
『新手が二人乱入して来た。天狗の方は知り合いだけど、あの殿方はスタンド使いかしら?』
『彼のスタンド能力が謎。迷彩スーツを使いたいけど、迂闊に動けないわね』
『何よこれ!?手が紙に……こんな能力もあるのね!ますます素敵♪』
『決ーめた♪スタンドDISCを集めるわよ!そしてコロネの彼にあげちゃうわッ!』
『なんの音かしら?ビックリしたけど今がチャンスッ!彼女のDISCを
そこまで読み進めて、本の文字はピッタリと途切れている。これが『最新』の出来事なのだろう。
露伴はふと最後の文章に疑問を持つ。
(…彼女の、DISC?さっきから気になってたがスタンドDISCとは何の事だ…?それに彼女…『彼女』だと…?
待てよ…そういえばさっきコイツは透明になって何故わざわざ蓮子を気絶させたんだ…?ぼくを攻撃するわけでもなく何故蓮子を…?)
露伴は知らなかった。この会場にスタンドDISCなる物が支給され、それを使えば『誰でも』スタンドを手に入れられるという事を…
蓮子が元々からのスタンド使いではなく、DISCによって能力を会得したスタンド使いという事を…
そして、いつの間にか蓮子の側についていたヨーヨーマッが消えている事を…
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …………
露伴の額に一筋の汗が流れる。
『スイませェん、露伴様…。『ご主人様』をお守りする事がわたくしの役目なのです。どうか恨まないでください』
直後に背後から不気味に低く響いた声が露伴の神経を凍らせた。
-
振り向く暇も無く、一瞬で勝負は決した。
ヨーヨーマッのどんな物質もたちまち溶かす唾液が露伴の全身を襲うッ!
「な…何ィィィーーーーーーッ!?ガ…ハ……ッ…よ、ヨーヨーマッ……貴様…ッ!?」
露伴は背後からの不意打ち攻撃に成す術も無く、全身に風穴を開けられながら地面にドサリと倒れる。
意識が朦朧とする露伴の眼前で、ヨーヨーマッの攻撃によりヘブンズ・ドアーが解除された事で意識を取り戻した青娥が、ゆっくりと立ち上がってヘラヘラした笑みで露伴を見下していた。
「まさか…相手を本にしちゃう上に、文字を書き込んで好きに制御する能力なんてねぇ…ちょっと強すぎやしないかしら?
でも残念ね。気絶する直前にお嬢ちゃんのDISCを抜き取って、私に挿入させてもらったわ。瞬間、スタンドを発動すればこちらのヨーヨーマッさんは既に私の操り人形ってわけね♪」
ヨーヨーマッのスタンドタイプは『自動操縦』。普通、本人がダメージを受ければそれはスタンドにも影響する。
もしヨーヨーマッのタイプが『近接』または『遠隔』タイプのスタンドだったならば、青娥が意識を失った時点でそのスタンドも同時に消失する。
だが露伴にとって不運な事に、本体がいくら意識を失おうと『自動操縦』であるヨーヨーマッには影響は無い。
呑気してページを読みふけている内に、背後から魔の手が迫ってくることに気付かなかった事が露伴の敗因だったッ!
(くッ…!ぼくとした事が…しくじった…。この岸辺露伴がこんな軽薄な女に出し抜かれるとは…ッ!
スタンドの過剰使用で反撃する体力も残っていない………万事休す、か)
青娥の不敵な笑みを最後に、露伴の意識は途切れる。
彼が最後に思った事は
−もう、漫画が描けないな…−
であった…
-
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
ヨーヨーマッの攻撃により敗れた露伴を見下ろしながら青娥はじっと考えていた。
(やれやれだわ…自分の実力には結構自信があったのですけど、結局終始劣勢のままでしたわね。スタンド使い…恐ろしい方々ね…
とはいえ、やる事は決まったわ。会場にあるスタンドDISCを色々と収集して、ある程度集まったら『彼』を探し出しましょう。
あれほどの『王者の気質』を持った殿方ですもの、そう簡単に死にはしないでしょう♪)
頭の中でジョルノの顔(コロネも)を浮かべるだけでニヤついてしまう青娥は恋する乙女そのものだったが、やはり彼女の行動の本質は邪仙の本質。
深い『闇』の様な欲望を持って生きていくのだ。それを邪魔するようなら、誰だろうが容赦しない。
「そうと決まれば早速行動しましょう!ヨーヨーマッついて来なさいな」
『それは良いのですがご主人様、この『岸辺露伴』はいかが致しましょう?生かしておいては後々厄介になると思われますが…』
ヨーヨーマッが露伴を指差し、主人に向けて意見を発する。
「あ…そうね、彼のことを考えていたので忘れてましたわ。確かにこの殿方の能力は危険ね。
まっ『一応』殺しておきましょうか♪」
そして青娥は意識の無い露伴の首元に向けて右腕を振りかざし、そして−−−
ド ゴ オ オ オ ォ オ ゥ ゥ ン ……………! ! ! !
「ッ!?」
先程の轟音よりも更に大きい爆発音が再び青娥の耳を貫いた。青娥は思わず露伴に振り下ろしていた腕を止め、音のした東の方向に顔を向ける。
「ちょっとちょっと、さっきから何?ビックリするじゃない!」
そう言いながらも青娥は少しだけワクワクしながらもう一つの支給品である双眼鏡をデイパックから取り出してその方向を覗く。
距離から言ってD-2『猫の隠れ里』から響いてきたらしい。そしてその場所から黒い噴煙がゴウゴウと噴き出していた。明らかに何者かが戦っている。
青娥の判断は早かった。
「……ヨーヨーマッ!!あの音のした方へ行くわよ!!」
『いえ…それは構いませんが、ですから岸辺露伴は…』
「あーうるさいわ貴方!分かっています!殺せばいーんでしょー殺せばッ!全く…同じ部下でも芳香の方がよっぽど静かね…」
半ばヤケクソの様に青娥はヨーヨーマッに返答し、今度こそ露伴の息の根を止めようと腕を振り上げるが……
「待って下さいッ!」
-
今度は自分の後方から聞こえてきた少女の声に、またしても青娥の攻撃は中断される。
「〜〜〜ッ!!…もう何ですのさっきからッ!頼むから明日にしてくださる!?」
幾度もの自分の行動への妨げに、流石の青娥も怒声を抑えられない。
最高に不機嫌な表情を隠さずに振り返った青娥の目に映ったのは、先程青娥自ら気絶させDISCを奪ってやった宇佐見蓮子がヨタヨタしながら立ち上がっていた。
「…あらあら、貴方起きちゃったの?今の爆発音で目を覚ましたのかしら?それで、私に何か用…?」
「…ろ、露伴さんを殺すのはやめて下さいッ!そのDISCは差し上げますから、どうか…お願いッ!」
「差し上げる…?勘違いしないで、このDISCは私が貴方から『奪った』物よ?既に貴方の頼みを聞く義理もありませんわ。こちらのヨーヨーマッの方がまだマシな交渉術を持ってるわね」
「……っ!あ、アナタ、スタンドDISCを集めたいんでしょう!?だ…だったら私が『手伝ってあげる』ッ!
この会場中のDISCを一人で集めるなんてかなり無謀な行為よ…ッ!それを私が手伝うと言ってるの!アナタについて行かせて…!」
青娥は蓮子のある意味、無茶で馬鹿げた頼みをじっくり神妙な面持ちで聞き入れた。そして…
「………へええぇぇぇ?さっきまで自分達を襲っていた相手についていくですってぇ?それ本気で言ってますのね?」
青娥は先程と一転、今度は朗らかな笑みを浮かべながら蓮子に微笑む。それを聞いてヨーヨーマッが青娥に意見を出す。
『ご主人様。言うまでも無い事ですが蓮子様は貴方様に対して大なり小なり『反感』の心を持っています。
そのような方の同行を許可すると言う事は…』
「お黙りなさいなヨーヨーマッ。貴方は今は私の部下。主人の決定に口出しは無用よ?
良いじゃないそっちの方が面白そうで♪」
威圧するように青娥は自分の僕の意見を一蹴する。
-
(ヨーヨーマッ…。)
蓮子は内心で少しショックを受けていた。
生意気で口うるさかったヨーヨーマッは、それでも自分のスタンドとして今まで尽力してくれたのだ。
自分が青娥に捕まった時も、ヨーヨーマッは彼女を救う為にあれやこれやの労力を尽くしてくれた。
その彼が、今や青娥の意のままに動く召使い。蓮子としては複雑な気分であった。
「蓮子ちゃん?貴方、確かに言ったわよね?私のDISC集めのお手伝いをしてくれると確かに言った。
その言葉に…嘘はありませんわね?」
蓮子は青娥の冷たく放った言葉に、またしても冷や汗を流す。
彼女の言葉は、DISCを集める為なら『どんな命令』でも絶対にこなせという事を暗に示していた。
「……は、はい……。約束、します…。だから、露伴さんを助けてやって、下さい……。お願いします…」
蓮子はそう言って、深々と頭を下げた。もはや露伴を救う為にはこうするしかない。
「…来なさいな。これからさっき爆発のあった東へと向かいます。あそこには…どんなスペクタクルが待ち構えてるんでしょうね…♪」
−−−宇佐見蓮子は泣いていた。
霍青娥という存在への恐怖からでもあるが、自分に力が無い事に対して彼女はひたすら悔しかった。
自分も戦う力が欲しい。『悪』に立ち向かう力が欲しい。『弱者』を守れる力が欲しい。
ジョニィは無事だろうか。救援に向かった射命丸さんは無事だろうか。
メリーは、今どこに居るのだろう。
メリーに会いたい…
こうして、結果的に蓮子は露伴の命を救う事が出来た。
霍青娥と宇佐見蓮子の両2名は『石作りの海』を後にし、次なる目的地『猫の隠れ里』を目指し足を運ぶ。
一方は好奇心。一方は恐怖と悔しさを胸に秘めて…
彼女達を巻き込む『運命の輪』は 少しずつ 少しずつ 廻り始める。
見えない『何か』が ぐるぐると縛って逃げられない様に 静かに二人を取り囲んでいく…
そして二人の向かう先には、動きを止めてボロボロに崩れ去った『運命の輪』に取り残された………
−−−かつて『幻想郷の大賢者』と呼ばれた、一人の鳴かぬ少女の姿が 在った−−−
-
【C-2 GDS刑務所・女子監 広場/早朝】
【宇佐見蓮子@秘封倶楽部】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(大)、首筋への打撃(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:メリーと一緒に此処から脱出するために、とりあえずは青娥の命令に従う。
1:今は青娥に従う。
2:メリーとジャイロを探す。
3:いつまでも青娥に従うわけにはいかない。隙を見て逃げるか…倒すか…。
4:・・・強くなってメリーを守りたい。
[備考]※参戦時期は少なくとも『卯酉東海道』の後です。
※ジョニィとは、ジャイロの名前(本名にあらず)の情報を共有しました。
※「星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力」は会場内でも効果を発揮します。
※DISCに関する更なる詳しい情報をヨーヨーマッから聞いてます。
【霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:疲労(中)、全身に唾液での溶解痕あり(傷は深くは無い)
[装備]:スタンドDISC「ヨーヨーマッ」@ジョジョ第6部、河童の光学迷彩スーツ(バッテリーは殆ど満タン)@東方風神録
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:会場内のスタンドDISCの収集。ある程度集まったらジョルノにプレゼント♪
2:蓮子をDISC収集のための駒として『利用』する。
3:まずはD-2の『猫の隠れ里』へ向かうわよ♪
4:あの『相手を本にするスタンド使い』に会うのはもうコリゴリだわ。
5:時間があれば芳香も探してみる。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※光学迷彩スーツのバッテリーは30分前後で切れてしまいます。充電切れになった際は1時間後に再び使用可能になるようです。
※ジョルノにDISCの手土産とか言ってますが、それ自体にあまり意味は無いかもしれません。やっぱりDISCを渡したくなくなるかも知れないし、彼女は気まぐれですので。
※スタンド及びスタンドDISCについてかなりの知識を得ました。現在スタンドDISC『ヨーヨーマッ』装備中。
この露伴たちの戦闘の時間帯は◆YR7i2glCpA氏の「廻る運命の輪」と殆ど同じ時間帯です
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−−− <早朝> GDS刑務所 女子監 広場 −−−
「…つまり、蓮子は青娥とかいう女に連れ去られた、と…。成る程、理解したよ。」
「ああ…。ここに彼女の死体が無いという事はその可能性が高い。…すまない、ジョニィ。全てはこの岸辺露伴のミスだ。」
「いや、アンタのせいじゃないよ、露伴。君は蓮子を守る為に出来る限りを尽くした。それに蓮子がまだ生きてるなら後を追う事も可能だ」
ジョニィは青娥達が向かったであろう、未だ黒煙に噴かれる東の方向を眺めながら、深くうなだれる露伴にフォローを入れた。
しかしそれで気の済む露伴ではない。露伴は蓮子を守れなかった事を悔やむと同時に、激しい憤りを感じていた。
(この岸辺露伴が…何たるザマだ…ッ!女の子一人守れずみすみす敵に奪われ、敗北し、そのうえ奴に『生かされている』…だと…ッ?
あのクソッタレ女ッ!敗北したぼくをあんな『見下した目』で見やがった!そのうえ、奴は『気まぐれ』に『止めを刺さずに』次なる興味対象へ早々と心変わりしてさっさとここを去っていった…ッ!
許せない…許せるわけが無いぞ霍青娥め…ッ!この岸辺露伴を怒らせたこと!後悔させてやるッ!)
ジョニィ達がヴァニラ・アイスを撃退してこの広場へ戻って来た時には既に蓮子と青娥の姿は無く、代わりに地面に拳を打ち付ける露伴の姿があった。
蓮子がこの場に居ない事が分かったジョニィはひとまず自分の事を話し、露伴と文のこれまでの経緯・経歴を聞いたのだった。
そして露伴たちの最終目的が主催者の打倒だという事を聞いて、自分の目的と合致した事に安心する。
ジャイロやメリーを探し出すにしても、主催者を倒すにしても、まずは仲間が必要なのである。
すぐに蓮子を追いたいが、別の危険人物に出会ってしまうのはなるべく避けたい。
ダメージを負ったままの状態ではすぐに出発する事も出来ないので、身体を少し癒す為に三人はこの場で休息を取る事にした。
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「文、気分はどうだい?良くなった?」
「え、えぇ。もうだいぶ良くなりましたよ。三人の中では私だけが無傷ですので…心配はご無用です!先程はあまりの熾烈な戦いの後でしたので少し眩暈がしただけですから!」
そう言って射命丸文は笑顔でジョニィに返す。力こぶアピールまでする始末だ。
「なら良かった。さっきは急にうずくまって驚いたよ。もし少しでも体調が優れないならちゃんと言ってくれよ?」
「ありがとうございます、ジョニィさん。ところでこれからどうするんです?『彼女』を追いますか?」
「あぁ、少し休んだら東へ行く。露伴によると『猫の隠れ里』で誰かが戦っていた可能性が高い。蓮子たちは恐らくそこに向かったのだろう。
彼女を救出したら…僕は親友を探し出す。そして仲間を集め…あの主催者を『倒す』つもりだ。
無謀に思うかもしれないが、誰かがやらなくてはいけない事だ。文、危険だと思うなら君は無理してついてこなくても良いぞ?」
これだ…ジョニィさんの時折見せる、この『黄金の精神』…。『今の私に足りないモノ』を彼は持ってる…。
本当に羨ましい…
「…いえ、私も一度はジョニィさんと約束した身…出来ることがあるならお手伝いしますので。
記者たる者、不屈の精神と根性、そして情熱が何より大切ですから…」
「…君が居てくれると心強いさ。『スケール』が見つからない時は頼むぞ?」
二人はさっきみたいにお互い小さく笑いあい、ジョニィは文の側を離れた。
それを眺める文はジョニィが自分の側を離れたのを確認して、その顔色を急速に動揺させる。
(なんて事なの…岸辺露伴の『ヘブンズ・ドアー』ッ!本にした相手に文字を書き込み自由に操る無敵のスタンド能力…ッ!
まさかこの私とした事が今まであの男に良い様に『洗脳』されていたなんて…ッ!屈辱的ッ!!)
−−−射命丸文は本来の自分の記憶を取り戻していた。
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知っての通り、岸辺露伴と射命丸文の邂逅はあまり穏やかとは言い難いものだった。
出会い頭からお互い腹の探り合い、そして最終的には露伴の『先手』により文は反撃を封じられた形になる。
意識を失った文の情報を読み進める事で露伴は射名丸文という存在を優勝狙いの『危険人物』と判断し、多少の葛藤あれど文のこの殺し合いでのスタンスを『優勝狙い』から『異変解決のための共闘』と改竄した。
結果、現在の露伴と文という『紛い物のチーム』が誕生したのだが、不安要素はあった。
露伴本体の『再起不能』または『意識不明』による『ヘブンズ・ドアー』能力の解除である。
露伴の先程の攻防、そして敗北によって彼の意識はしばらくの間途切れてしまった。
この事が現在洗脳中であった文への改変効果がプッツリと途切れてしまう結果に繋がる。
即ち、『自分に起きた事を忘れる』『皆で協力して生き残る』の書き込みが消滅し、『自分だけでも生き残る』という文本来の目的が復活してしまったのだッ!
(…とはいえ、私の記憶が戻ってきた事を岸辺露伴には絶対に悟られてはダメ!
彼に少しでも疑問を持たれた瞬間、再びあのヘブンズ・ドアーで洗脳…いや、最悪『危険』とみなされ排除されるかもしれないし、それだけは絶対に阻止しなくては…)
これから文は露伴たちと何気なく行動し、洗脳が続いている『フリ』をしなければならない。
容易ではないが、優勝を狙うのであれば味方は多いほうが良いのだ。しばらくはこれで身を守れるかもしれない。
またはもう一つの案として、露伴に悟られる前に『暗殺』する方法があるが、これもリスクはある。
それは『ジョニィ・ジョースター』の存在だ。
先のヴァニラ・アイスとの死闘の中で彼が見せた『漆黒の殺意』。
彼は目的の為ならその『暗黒面』を持って冷徹に、容赦なく人を殺せるという『漆黒の心』を持つ人間だ。
いかに文が彼の本質に『黄金の精神』がある事を見抜いたとしても、ジョニィのそれは漆黒の殺意とは紙一重のもの。
その殺意は場合によってはいとも簡単に文に向く事だってありえる。文が露伴を攻撃しようとした瞬間、ジョニィは躊躇う事無く文を撃ち抜くかもしれない。
(だったら、岸辺露伴を暗殺した後、同時にジョニィさんも…殺すしか…)
-
実を言えば文はジョニィを殺す事はなるべくしたくない。
殺さずに済むのならそもそも人殺しだってしたくないのだが、文はジョニィの持つ『黄金の精神』に微かな希望を感じていた。
目的は必ず遂行するという、黄金なる意志を持つジョニィのような男がもしこの会場に他にも居るのなら、そしてそういう者達が一つに団結する事が出来れば…
『もしかして主催者に対抗出来る』かも…。文はジョニィに対して無意識下でそう感じていた…
(私…『卑怯者』だ……。
『立ち向かう』事も出来ずに、ただ、『傍に立つ』事しか出来ない…。『狡猾』で、『愚か者』…。
いえ、それどころか…彼らを『殺す』事まで考え始めてる……)
(私も、ジョニィさんみたいな『勇気』を持つ事が出来れば…
でも今は、本当に怖い。死にたく、ない
どうしよう…私、どうすれば……?)
『死』や『不吉』の象徴である鴉という生き物は、逆にまた『死の穢れを祓う神の使い』の象徴でもある。
幻想に生きる狡猾で賢明な鴉天狗は、これから彼らの『宿命』にどんな影響を与えていくのか
それはまだ、誰にも分からない…
-
【C-2 GDS刑務所・女子監 広場/早朝】
【ジョニィ・ジョースター@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(小)、体力消耗(小)、全身削り取られた痕多数(出血は止まっている)
[装備]:壊れゆく鉄球(レッキングボール)@ジョジョ第7部、聖人の遺体・脊髄、胴体@ジョジョ第7部(体内に入り込んでいます)
[道具]:不明支給品(0~1)、基本支給品、食糧複数
[思考・状況]
基本行動方針:ジャイロと会い、主催者を倒す
1:メリーとジャイロを探す。
2:蓮子達を追跡。青娥は始末する。
3:ヴァニラ・アイスも必ず始末する。どいつもこいつもお前らを!!今度追撃するのは僕らの番だ!!
4:体内の遺体については保留。
5:DIO…何者だ?ディエゴとは別人のようだが。
[備考]
※参戦時期はSBR24巻、ヨーロッパ行の船に乗り込んだ直後です。
※蓮子とは、メリーの名前の情報を共有しました。
※岸辺露伴から杜王町のスタンド使い、射命丸文から幻想卿および住人の情報を得ています。
※タスクACT4は制限により使用不可ですが、ACT3までなら射命丸文の翼を見て発動が可能です。
※ジョニィはヴァニラ・アイスのクリーム突破法に、馬を使った『完全なる黄金回転』が有効だと推察しています。
タスクACT4は制限がかかってますが、『黄金回転』を操る技術者がこの世界にもう一人存在する筈です。
※なお、この後ジョニィは約束どおり射命丸文の強引で執拗な『インタビュー』(出身、経歴等々)をちゃっかり受けました。
【岸部露伴@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(中)、背中に唾液での溶解痕あり
[装備]:マジックポーション×2
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:情報を集めての主催者の打倒
1:ジョニィと共に蓮子の救出。
2:ついでにマンガの取材。
3:霍青娥…絶対に許さんッ!
4:射命丸に奇妙な共感
[備考]
※参戦時期は吉良吉影を一度取り逃がした後です。
※ヘブンズ・ドアーは相手を本にしている時の持続力が低下し、命令の書き込みにより多くのスタンドパワーを使用するようになっています。
※射命丸文より幻想郷および住人の情報得ています。
※支給品(現実)の有無は後にお任せします。
※射命丸文の洗脳が解けている事にはまだ気付いていません。しかしいつ違和感を覚えてもおかしくない状況ではあります。
【射命丸文@東方風神録】
[状態]:疲労(中)、露伴による洗脳は現在解除されている
[装備]:拳銃
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:今回の異変を取材しつつも、自分は生き残る
1:今は、露伴に洗脳されている『フリ』を続けなければ…
2:『逃げる』か『暗殺』か…今はまだ決められない。
3:『黄金の精神』を持つ者…主催者に対抗出来る、のか…?
4:とりあえずジョニィさんにはちゃんとインタビューした
[備考]
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※岸辺露伴より杜王町のスタンド使い、ジョニィの能力や経歴等の情報を得ています。
※支給品(現実)の有無は後にお任せします。
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−−− <早朝> GDS刑務所 医療監房 一階 −−−
「ハァーーッ……ハァーーッ……ハァーーッ……………ッ!」
医療監房の一部屋で亜空の瘴気ヴァニラ・アイスは疲労困憊の身体で自身を治療していた。
先のジョニィ・ジョースターや射命丸文との壮絶な死闘により、ヴァニラはジョニィの『漆黒の殺意』の前に破れ、逃走せざるを得ない状況にまで追い込まれた。
「……危なかった。あの、ジョニィの『殺意』と『能力』は…危険だ。決してこの世に存在してはならぬ存在…。
あのまま左腕を捨てなかったら、私はジョニィの『暗黒空間』に引き込まれ、バラバラにされていただろう…」
今のヴァニラの状態は悲惨なものであった。
左腕は肘から先が無残にも千切られており、その全身には数発の『衛星』に貫かれた痕が痛ましく残っている。
だが不思議な事に、クリームで噛み千切ってボロボロになった筈の右腕はいつの間にか傷が修復されており、全身から流れる血も既に止まっている。
普通ならば失血死してもおかしくないぐらいの血の量を流した筈だが、ヴァニラはかろうじて意識を保っていた。
「…何なのだ、この右腕は?凄まじいエネルギーを感じる…。
こいつが支給品に入っていた時はただのハズレかと思い、特に気にも留めていなかったが…」
ヴァニラの支給品は『聖人の遺体』(右腕、胴体、脊髄)であった。
ジョニィとの最後の場面、ヴァニラのデイパック内に入っていた『コレ』は、『脊髄』と『胴体』がジョニィの元に、『右腕』がヴァニラの元にそれぞれ吸い寄せられた。
遺体はヴァニラの気付かぬ内に彼の右腕と同化し、その圧倒的な『奇跡』の力によって今もヴァニラは生き永らえる事が出来ている。
…とはいえ、まだまだ行動を起こせる様な状態ではない。
今のヴァニラに出来る事は『休息』であった。
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悔しかった。参加者一人殺す事が出来ずに今自分はこうしておめおめと生き延びている。
DIO様のお役に立てずして何が『忠誠』か。
敵を前にして逃げ出す、その哀れにして愚劣なる心の何が『忠義』なのだ。
情けないを通り越して笑いすら出てくる。
……だが、今はそれでいい。
『結果』だ。要は結果さえ出せれば、あとはそれでいいのだ。
『忠誠』も『忠義』も、『結果』に結びつかぬならクソの役にも立たない。
これから先、恐らく戦いはもっと厳しくなる。
この会場に主君の『敵』となる者が後何人居るかは分からないが、どちらにしろ万全を整えて戦地に赴かなければ自分の命すら守れない。
ヴァニラ・アイスは戦場に死にに行くのではない。『生きて』敵を殺し尽くさなければならないのだ。
敬愛する主君を脅かす不届き者は誰であろうと許さない。
ジョースターも、その他の参加者も、全ては『生贄の羊』。
これは『試練』。そして『試練』は流される血で終わる。
全ての参加者を皆殺しにしたのちに、私はDIO様の前で然るべき『死』を迎え入れよう…
『帝王』はあのお方なのだ。
ヴァニラ・アイスは深く意志を固め、『その時』をじっと待つ
薄暗い部屋の中で、ただじっと、『黒き殺意の炎』を燻らせ続けている
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【C-2 GDS刑務所・医療監房 一階/早朝】
【ヴァニラ・アイス@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(大)、左腕切断、右腕損傷(今は完治)、全身に切り傷と衛星の貫通痕(治療中)
[装備]:聖人の遺体・右腕@ジョジョ第7部(ヴァニラの右腕と同化しております)
[道具]:不明支給品(本人確認済み)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:DIO様のために皆殺しにする
1:DIO様、貴方のために全てを葬りさりましょう
2:ジョースター一行は最優先で抹殺する
3:ジョニィも含めジョースターの血族はやはり危険ッ!
4:…今は身体を休めなければ。
[備考]
※参戦時期はジョジョ26巻、DIOに報告する直前です。なので肉体はまだ人間です。
※ランダム支給品は本人確認済みです。
※聖人の遺体の右腕がヴァニラ・アイスの右腕と同化中です。残りの脊髄、胴体はジョニィに渡りました。
○聖人の遺体(脊髄・右腕・胴体)@ジョジョの奇妙な冒険 第7部 スティールボールラン
ヴァニラ・アイスに支給される。スティールボールラン世界の北米大陸に散らばっている、腐ることのない聖人の遺体。
心臓、左手、両目、脊椎、両耳、右手、両脚、胴体、頭部の9つの部位に分かれて存在しているとされる。
手にした者の体内に入り込み、スタンド能力を発現させる、半身不随のジョニィの足を動かすなど、数々の奇跡的な力を秘めているが、このバトルロワイアルではスタンド能力を新たに発現させることはできない。
但し、原作中で既に聖人の遺体によりスタンド能力を発現させていた参加者(大統領、ジョニィ)が遺体を手放すことでスタンド能力を失うことはない。
(一時的に遺体の力でスタンド能力『スキャン』を獲得していたことのあるジャイロと、大統領が遺体を全て集めて発動する『D4C・ラブトレイン』の扱いについては、後の書き手さんにお任せします。)
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くぅ〜疲れましたw
これにて「Stand up〜『立ち上がる者』〜」「Stand up〜『立ち向かう者』〜」「Stand by me〜『傍に立つ者』〜」
全て投稿し終えました!
かなり長くなってしまってホントに申し訳無いですが、最後まで読んでくださった方々に心からの感謝いたします。
少し前からジョジョ東方ロワにハマってしまって、「もっと沢山見たい!」ってずっと思ってたんですが
じゃあ自分で書いてみようかということで今回初めて筆を取らせていただきました
このロワの企画者および書き手様、読んで下さった皆様にもう一度敬意を込めさせていただきます
感想及び突っ込み、誤字情報あればどんどんお願いします!
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うむ ずいぶん話が進んだな
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もはや乙しかない…このスレに『神殿』を建てよう
さておき、全編投下お疲れさまです!
とにかく言いたいことは色々あるくらいに面白かったのですが、
ヨーヨーマッの奇策、露伴達の乱入、青娥のDISC強奪と
先の読めない展開に興奮と緊張が入り交じりながら読み進めておりました!
そして文の洗脳解除やヴァニラの遺体入手といい具合に今後の引きも配置されてるのも気になる所
殺し合いに勝ち残ろうとしながらも揺れ動く文の行く末も気になる…!
それにしてもゆかりんと蓮子が接近し始めているのがなかなか興味深い…
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乙です。
前中後編に渡るお話お疲れ様です。
ヒーローズタボロ、文は裏切りフラグ、蓮子は悲しい選択で
一番楽しそうなのが青娥というロワ的に素晴らしいお話でした。
ただ、気になった点が一つ
>今のは…蚊を利用した攻撃ってところかしら?つい油断しちゃったけど、果たして同じ戦法が通じるかしらね?
>(…フム。やはり彼女は只者ではありませんね。たった一度、攻撃を受けただけで蚊によるトリックを見破るとは…
済みません。このロワには
>●会場にはプレイヤー以外の動物、妖怪等は存在しない
というルールがあるのですが……
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>>627
ご指摘ありがとうございます。
蚊による攻撃のくだりは「ヨーヨーマッが体内で最初から飼ってる蚊だからセーフかな・・・?」
と勝手に解釈してましたが、原作見ると思い切りその辺の蚊を攻撃に利用してましたね、失礼しました
手間をかけさせますが、次のように改変したいと思います
>今のは…蚊を利用した攻撃ってところかしら?つい油断しちゃったけど、果たして同じ戦法が通じるかしらね?
>(…フム。やはり彼女は只者ではありませんね。たった一度、攻撃を受けただけで蚊によるトリックを見破るとは…
から
>まさか溶解液の涎を『水鉄砲』の様に超高速で噴射してくるとは…随分ストレートな方だわ。つい油断しちゃったけど、果たして同じ戦法が通じるかしらね?
>…フム。やはり彼女は只者ではありませんね。あの高速の攻撃を受けて笑っていられるとは…
に変更させていただきます。なんか上手い攻撃方法を思い付けなかったので単純になりますが・・・w
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投下乙です。
中後編は一気読みになって、ずいぶん長いなと覚悟してたんだが、気づいたら読み終わっていた。
な… 何を言っているのか(ry もちろん面白かったです。
この長さをまとめてるのもさることながら、全員に見せ場が有るのが純粋に凄い。
特に前編ではちょっといいとこなしだったジョニィの逆襲が一番嬉しかったですね。
あとは個人的な好みが相当出るだろうけど
掲示板形式で読みやすい改行の量と頻度だったのがいい感じでした。
-
投下乙です。
ジョニィとヴァニラの「引きずり込んでバラバラにしてやる!」対決
面白かったです。
文は洗脳は解けたけど、ジョニィに会ったことで若干マシに?
-
投下乙です。
ジョニィやべえと思っていたこの戦いも、気がつけば立役者になっていたw
文も洗脳はとけたけど、ジョニィのおかげで少しは希望を見出したようだしね。
色んな意味で主人公だったな、今回。
後、ジョニィ昔はイケイケ騎手だったから、インタビューとかすげえ慣れていそうだw
-
姫海棠はたて、霧雨魔理沙、空条徐倫
投下します。
-
(えーと…廃洋館。少なくともあそこは撮影出来た)
C-4地点、アリスの家の寝室内。
椅子に座ってカチャカチャと自身のカメラのボタンを弄りながら、新聞記者『姫海棠はたて』は思案する。
ベッドの上に寝かせている魔理沙と長身の女が目を覚ますまでにネタ集めも兼ねて何度か念写を試してみたのだ。
彼女は自分の念写について実験してみたいことがあったのだ。
『廃洋館』の撮影を確認出来た後、試しに『廃洋館付近の人物』をイメージして念写を行った。
それにより思わぬ人物を撮影することに成功した。博麗の巫女こと『博麗霊夢』だ。
大柄な体格の男と共に川辺を歩いている姿を念写で確認出来た。
霊夢とはあまり面識が無いので詳しい人物像は知らないし、あの番長みたいな男のことはそもそも知らない。
とはいえ、異変解決を生業とする巫女のことだ。十中八九殺し合いには乗らないだろう。
(あの主催者は能力に制限を掛けてる、って言ってたけど…理解してきたわ)
何度かネタ探しと実験を兼ねて念写を行い、彼女はあることに気付き始める。
「廃洋館」の付近を念写した際に他の施設の撮影も試していたのだ。
紅魔館、ジョースター邸の撮影には成功したが、ジョースター邸から見て北方に位置するGDS刑務所は幾ら念じても撮影することが出来なかった。
これを踏まえ、はたては地図の表記で現在位置から刑務所とほぼ同じくらいの距離と思われる命蓮寺をイメージして念写。結果は失敗。
続いて、かなり離れた位置に存在する永遠亭をイメージして念写。同じく結果は失敗。
それだけではない。念写を何度か行ってから、自分の身に軽く疲労感にも似たような感覚を覚えたのだ。
現在位置からより距離が離れている施設を念写した時ほど疲労感が大きいということにも気付いた。
「1エリア1㎢」の地図と念写の結果を照らし合わせ、先程の疲労感も重ね合わせて彼女は推測する。
(この会場での念写の『有効射程』は、恐らく撮影者“わたし”の現在位置から1エリア分の距離。
そして、念写の際には少なからず『霊力』を消費する…消費量は多分『撮影者と被写体の距離』に比例ね。
被写体との距離が遠ければ遠い程、念写の際の霊力消費が大きくなる)
-
地図のエリア一つ分、即ち念写の射程距離はおよそ1km前後。
普段の念写の『有効範囲』はこんなものじゃない。自宅に籠ってても念写を使えば幻想郷のあちこちの風景を撮影出来たのだから。
それに念者の際の疲労感(どうにもスクープに対する昂揚感で忘れていたが)は、まるで弾幕で攻撃を行った時のような疲れだ。
彼女はそれが『霊力の消費によるもの』だということに気付いた。
それ故に、この「1エリア分の射程距離」と「念写の際の霊力消費」こそが自身に課せられた制限なのだと結論付けた。
カメラをまじまじと見つめながら思考を重ねていた最中。
ベッドで寝かしていた長身の女が小さく呻き声を上げた。
(あ、お目覚めかしら?こいつの『支給品』、勝手に引き抜いちゃったけど…まーいいよね)
呻き声に気付いたはたては、少し前に気絶している二人のデイパックの中身を確認した。
その際に「長身の女のデイパック」から引き抜いたランダムアイテムのことを思い出す。
(後で気付かれて変に恨みを持たれるのも嫌だったので、基本支給品には手出しをしなかったが)
少し前に『あのアイテム』の使い方も試してみたが、何となく理解することが出来た。
あれは中々いいものだ。取材においても活用出来るかもしれない。
内心で長身の女にほんの少し感謝をしつつ、はたてはほくそ笑んだ。
(そういえばさっきの念写に写った『学ラン男』とこの『長身の女』、ちょっとだけ似てない?)
ほんの少しだけ引っ掛かるものを覚えつつ。
◆◆◆◆◆◆
-
◆◆◆◆◆◆
目をゆっくりと開くと、木製の天井が目に入った。
その身体に感じる感触から、自分はベッドで寝かされているということも何となく理解する。
まるで記憶が抜け落ちたような感覚に陥っている。
自分は、眠っていたのか。…いや、『気絶』していたのか。
意識を取り戻していた彼女は、現状の把握を試みる。
まだ意識が朦朧としている。
その上、頭がズキズキと痛んで気持ち悪い。
不調のせいか、さっきまでの記憶も曖昧だ。
私の身に、何が起こったんだったっけ?
未だに記憶がはっきりとしないが…落ち着こう。
落ち着いて、さっきまでのことを思い出そう…
…そうだ。私は、さっき…えーと?
確か…竹箒を荷物から取り出して?
ちょっとムラッと来て、ご無沙汰してたから…つい『一人エッチ』に興じて?
それから?
それから――――、
―――――ッ!
「そうだッ!あいつは―――」
ようやく自分が気絶に至った経緯を思い出した思い出した。
あの時私は、魔女みたいなカッコの女の子に気絶させられたんだ!
それにあいつは確か「指先から弾丸を放つスタンド使い」!
確か私の方もあいつに攻撃を叩き込んだのだが―――
あいつは、結局あいつはどこに行ったんだ!?
彼女――――『空条徐倫』はバッと身体を起こし、周囲を見渡そうと顔を左側へと向けた。
すると。
自分の直ぐ隣で寝ている、あの魔女みたいな女の子の姿が視界に入った。
それも、同じベッドの上で。
「―――うおああぁぁぁぁっ!!?」
素っ頓狂な声と共に思わず身体が跳び上がる。
何で私は『コイツと一緒に』寝ているんだッ!?
あいつにスタンドのパンチをブチ込んでやったのは覚えてる!
だけど、だからって何で同じベッドで寝てる!?
一体私は…な、何をされたッ!?
「やっと起きたわね!」
-
唐突に側面から聞き覚えのない声が徐倫の耳に入ってくる。
その瞬間、徐倫は気を取り直したようにすぐさまそちらの方へと顔を向けた。
視線の先にいたのは、ベッドの傍らに置かれた椅子の上に足を組んで座っている少女だ。
ツインテールの髪にチェック柄のスカートといった格好が目立つ。
「……あんた、」
「誰だ?って言いたそうな顔してるから自己紹介させてもらうわ」
ぽかんとした徐倫の問いかけを遮る様に少女が口を挟んだ。
少女は右手に携帯電話を握りながら、ニヤッと笑みを浮かべて徐倫を見つめている。
「私は、新聞記者の姫海棠はたて!貴女の名前は?」
「…空条、徐倫」
呆気に取られつつも徐倫は自らの名前を一応名乗る。
はたては手元のカメラでその名前をメモする。
「徐倫ね、解ったわ。これから貴女に質問を―――」
「…むしろ質問したいのはこっちの方」
はっきりとした声で発せられた徐倫の一言によってはたての発言は遮られる。
問いかけようとした所で遮られたことを不服に感じたのか、はたてはむすっとした表情で軽く頬を膨らませている。
やれやれだわ、と小さくごちりながら徐倫は口を開く。
「私達をベッドまで運んだのはあんたなのよね?」
「…イグザクトリー、その通りよ」
「私にも、あのコにも、変な真似はしてないんだろうな?」
「…保障するわ」
「…もう一つ聞くわ。あんたの目的は何だ?わざわざこんなマネしてくれてるワケだし、殺し合いには乗ってないと思うけど」
「よくぞ聞いてくれました」
徐倫の質問に対し手短に答え続けるはたて。
相変わらずむすっとした表情を続けていたが、最後の問いかけを聞いた途端に再びにこりと笑みが戻る。
その質問を待っていましたと言わんばかりに。
彼女はびしっとカメラを構えながら、高らかにその目的を宣言した。
「―――取材よ!」
-
「取材ィ?…あんた、何言ってんの?」
徐倫はベッドから立ち上がり、はたてに問い詰める。
目を細めながら訝しむようにはたてを見る徐倫を前にし、はたてはすっと椅子から立ち上がる。
その瞳を輝かせながら、笑顔で受け答えする。
「何って、取材だってば!『ゲームの参加者への突撃インタビュー!』ってとこかしら?」
「はぁ…?」
参加者への突撃インタビュー。
目の前の新聞記者とやらから言われた意味の分からない目的を前に、徐倫は呆気に取られたような声を上げる。
その表情に浮かんでいるのははたてへのあからさまな疑心。
「さっ!この殺し合いへの―――」
「…悪いけど、あんたの冗談に付き合うつもりはないわ」
きっぱりと発せられた徐倫の発言が再びはたての言葉を遮る。
徐倫は鋭い視線をはたてに向けながら、言葉を紡ぎ出す。
「私はこの殺し合いを潰す為に戦う。それに、その過程で『やるべきこと』もある。
だからあんたみたいなパパラッチのお相手をするつもりなんてない。
悪いけど、質問したいんならそっちでぶっ倒れてる女のコにでも聞いてな」
そう言って徐倫ははたてを無視するように、近くのテーブルの上に置かれていた自身のデイパックを回収しようとする。
はたてを無視してこの場を去ろうとしたのだ。
しかしはたては、徐倫の発言を聞きすぐにニコッと笑顔を浮かべる。
「今私が質問しようとしたこと、「この殺し合いへの意気込みを語ってください」だったのよ?
今の発言が返答だと受け取らせて頂くわ!」
嬉しそうに声を張り上げてそう言うはたてを徐倫は横目で流し見る。
徐倫の瞳に浮かぶのは当然の如く苛立ちの感情。
こいつ、私をおちょくってんのか…?脳内にそんな思考が過る。
軽く溜め息をつきながらはたてを無視し続け、その場を去ろうとした徐倫。
「ちょっと待った待った!まだ『インタビュー』は終わってないわよ?」
去ろうとする徐倫の目の前にはたてがスッと立ちはだかった。
徐倫には相変わらずニコニコしてるはたてが小賢しく感じてくる。
煩わしげな表情ではたてを睨むが、肝心のはたては構わず携帯電話のようなカメラを弄り始め。
その画面を徐倫に見せつけた。
「『花果子念報メールマガジン』、参加者達に配信した記念すべき第一号よ!」
「―――『ガンマン二人の決闘風景』!」
「この場で私が初めて『撮影』したゲームの現場よ?」
スッとカメラの画面を前に突き出して徐倫に見せつけたのは、メールマガジンの記事。
拳銃を構える二人の男の写真。
漆黒の殺意を秘めた瞳で互いに睨み合い、相対する二人の男の写真。
そして、決闘に敗れた男の『死体』の写真。
-
「…………。」
徐倫はその写真を目の当たりにし、眼を見開く。
はたての表情は相変わらず楽しげな笑顔のままだ。
だが、彼女が見せつけたのは『殺し合いの現場』の写真。
少女の明るい笑みには到底似合わないような、死の現場の写し絵。
頬に汗を流しながら、徐倫ははたてを見据える。
「…あんた…何やってるんだ?」
「何って、殺人現場の写真スクープだけど。感想聞いてみたくて、ちょっと見せてみたのよねー」
さも当たり前の様にそう答えるはたて。
徐倫が心中で抱いていたはたてへの疑心が、確信にも似た不信感へと変わっていく。
そんな徐倫の心情を知ってか知らずか、はたては口を開く。
「私はね、大スクープを取材したいのよ。『あいつ』にだって負けないような記事を書きたいの。
解る?だからその為には些細なことでもでっかいことでも、兎に角ネタが必要なのよねー」
はたては不敵に笑みを浮かべながら饒舌に語る。
『この取材』が記者として当然の義務であるかの様に、彼女は悠然と語る。
―――そんな彼女を、徐倫はキッと目を細めながら睨んでいた。
理解が出来ない。とにかく、理解に苦しむ。
こいつは無茶苦茶だ。この馬鹿げた殺し合いを単なる大スクープとしか捉えてないのか?
しかもそれを記事にして参加者達に送信してる?こいつは『殺し合い』の『火種』を撒くことに何の躊躇も持ってないッ!
このはたてとか言う女は、明らかに『異常』だッ…!
「あんた…それ、本気で言ってんのか」
「そりゃあ当たり前でしょ。冗談で言うと思ってるの?」
ニヤ、とはたては笑みを浮かべながら言ってのける。
そして彼女は、相変わらず面白気な態度で再び口を開いた。
「やっぱりこーゆう過激な殺人事件は、記事のネタとしても面白そうじゃないかなーって?」
平然と言ってのけたはたての一言。
直後に徐倫の心中で、プツリと何かが切れる音が響いた。
徐倫の表情に――――確かな『怒り』が浮かび上がった。
「ふざけてんのかテメエェェェェェェェェェェェーーーーーーーーッ!!!!」
-
次の瞬間、徐倫の傍に瞬時にスタンド『ストーン・フリー』が出現。
徐倫の表情に浮かぶのは、食ったような態度で殺し合いを茶化す目の前の少女への憤慨!
そのまま間髪入れず、はたて目掛けてスタンドが強靭な剛拳を放つ―――!
「おっと」
しかし、迫り来る攻撃を前にはたては即座に対応する。
身体をくるりと翻すように、瞬時に拳を躱したのだ。
放たれた拳はそのまま空を切り、はたての服の一部分を掠めるだけに留まる。
そのままはたてはスタンドの身体を潜り抜ける様に、一瞬で徐倫に接近し―――
「ッ!?」
一瞬の足払いを徐倫の片足に叩き込み、彼女を転倒させた。
徐倫は知らない。彼女が人間ではなく、『鴉天狗』という妖怪であることを。
目の前に居る少女が、幻想郷において最強格の力を持つ強大な妖怪の一人であるということを!
「…やっぱりガサツなタイプかぁ。あんたがどうゆう奴か、もうちょっと探りを入れてみたかったから記事を見せてあげたけど。
あ、勿論感想聞いてみたかったのも本当だけどね?」
「ぐ、っ…!」
転倒しながらもすぐさま起き上がろうとした徐倫の右腕を、はたては下駄を履いた右足で踏み付ける。
「で、ふざけてるのかって?あのさぁ、一つ言わせてもらうけど」
はたては徐倫を冷ややかに見下ろしながら再び口を開く。その表情からは余裕すら伺える。
それも当然だろう。仮にも彼女は幻想郷における最強格の妖怪である鴉天狗の少女。
制限下とは言え、単純な身体能力では人間を軽く上回る。
徐倫の操る『ストーン・フリー』のスピードはB評価。疾さの数値としては十二分に高い。
しかし、相手は『幻想郷最速』と称される鴉天狗。スピードという点において右に出る者は居ない。
流石の徐倫も鴉天狗の瞬発力には敵わなかったのだ。
(とはいえ、咄嗟に避けたのではたて自身ほんのちょっぴり焦ったのも事実だが)
そして、徐倫の顔を覗き込む様にはたては言い放った。
「こちとら大真面目よ」
携帯電話のようなカメラをスッと構え、仰向けになる徐倫の顔面に向ける。
徐倫は右腕を踏み付けられる苦痛に堪えながらもはたてを見上げる。
はたてが上、徐倫が下。状況は圧倒的に徐倫が不利―――
-
「…こーゆうの何て言うんだろうね、マジメにフマジメ?みたいな?まぁ何だっていいわ」
はたてはほんの少しだけ考え込んだような素振りを見せ、戯けた口調でそんなことをぼやく。
「もしかして、こんな私を『愚か』だとか考えてたりする?」
不敵に口の両端を吊り上げながら、はたては言葉を発し続ける。
徐倫の右腕を踏み躙りながら悠々と語り始めるその姿から感じられるのは余裕そのもの。
「自分を卑下するわけじゃーないけど、それで当たり前よ。
ゴシップ好きで、妙に狡賢くて、ちょっぴり意地汚い。そんでもって図々しい。
ヤな奴だって思うでしょ?でも、鴉天狗なんて―――新聞記者“わたしたち”なんてそんなもんよ」
自身の優位を確信したはたては饒舌に、どこか自慢げに語る。
その瞳に浮かぶのは僅かながらの優越感。人間を見下す鴉天狗の気質が剥き出しになっていた。
だけど、そんな人間でも記事にはなる。文々。新聞に勝つ為の『ネタ』にはなる。
この殺し合い自体がとんでもない大スクープなのだから。
そうゆう意味では、『ネタ』を提供してくれた空条徐倫に感謝していた。
歯軋りをしながらはたてを見上げる徐倫。
彼女は何も言わず、屈辱のままにはたてを睨んでいる。
はたては軽く鼻で笑う様に徐倫を見下ろす。
そして…無言を貫き通していた徐倫が、ゆっくりと口を開いた。
「……さっき、気付いたけど……」
「あんた……『腰』の所に………『いいモノ』隠し持ってるわね?」
先程のはたてと同じ様に、徐倫は『不敵に笑う』。
はたては眉を顰めて彼女を見下ろす。この後に及んで何を言っているんだろうか?
確かに腰にはデリンジャーを隠し持っている。だけど、今のこの女からは手が届くはずも無い。
あの『スタンド』で盗もうとしている可能性もあるが、こちらがすぐに回避に移ればいいだけの―――
「―――それ、『貸してもらうわよ』」
徐倫の一言。その時、ハッとしたような表情ではたては自身の腰を見る。
はたてが気付かぬ間に、徐倫の左足が『糸』のような状態へと変化していたのだッ!
『糸』と化した徐倫の左足はするりとはたての衣服の腰の部分に絡み付き、彼女が隠し持っていた『ダブルデリンジャー』を勢いよく引き抜く!
身体の糸化。予想だにしていなかった突然の出来事を前に、はたての行動は完全に遅れた。
そして、瞬時に糸が鞭の様にしなってデリンジャーを徐倫の方へと引き寄せられていく。
-
「ちょ、あんたッ、それ返しなさ――――」
ハッとしたような表情を浮かべ、はたては焦りながらデリンジャーを奪い返そうと左腕を伸ばした。
―――その直後。
倒れ込む徐倫の身体から抜け出る様に、ストーン・フリーの上半身が瞬時に姿を現したッ―――!!
「オラァァァァッ!!!」
腕を伸ばしたはたての腹部目掛け、ストーン・フリーは左拳のストレートを叩き込んだ!
デリンジャーを奪い返そうと動き出したはたては当然の如く避けられない。
徐倫の狙いはこれだ。デリンジャーを奪い取ろうとすることで、相手にスタンドの一撃をブチ込む為の隙を作りだす。
はたては糸と奪われたデリンジャーに意識の大半が向いてしまったことが裏目に出たのだ。
「ぐあ――――ッ!!?」
避ける間もない拳の一撃によって吹き飛ばされるはたて。
壁に叩き付けられ、かはっと苦痛の声を上げる。
吹き飛ばされながらもカメラを握り続けていたはたては、壁に凭れ掛かりながら何度も咳き込む。
「殴られてもカメラを手放さないなんてね…大した執念だわ。やれやれ、って感じね」
糸化した足を元の形状に戻し、片手でデリンジャーをキャッチしながら徐倫は即座にその場から立ち上がる。
このはたてとか言う女は『危険』だ。直接的な暴力による脅威じゃあない。
興味本位だけで情報を拡散し、殺し合いの加速を促すことに何の躊躇いも持たないという意味での『脅威』!
それ故にはたてが握り締めているカメラを奪い取ろうと、デリンジャーを構えて彼女を牽制しながらゆっくりと歩み寄ろうとした。
《ふざけてんのかテメエェェェェェェェェェェェーーーーーーーーッ!!!!》
「何ッ!?」
背後から突然聞こえてきた声に気付き、ハッとしたように徐倫は振り返る。
後方から長身の女が自身に向かって迫って来ているのだ。
徐倫はその女の姿を見て、目を見開き驚愕する!
何故なら、迫り来る女の姿は――――『自分自身』!『空条徐倫そのもの』なのだからッ!
-
突然の現象に驚愕した徐倫は『自分自身』に攻撃を仕掛けようとする。
しかし、その対処に気を取られてしまったことではたての接近を許してしまうことになる―――!
「ごふゥッ!?」
徐倫の脇腹にはたての華奢な足から繰り出される回し蹴りが直撃―――そのまま彼女を吹き飛ばす。
細身の外見とは裏腹に鋭い蹴りの一撃を叩き込まれ、徐倫は軽く吹き飛ぶ様に転倒する。
「ふふ、あんたのデイパックからくすねさせてもらったわ」
勝ち誇ったような表情を浮かべるはたての傍に『もう一人の空条徐倫』が立つ。
頭部からカシャン、カシャンと音を鳴らす『もう一人の徐倫』の額にはタイマーのようなものが付いている。
そして、はたてがパチンと指を鳴らした直後。
「スタンドDISCを…『ムーディー・ブルース』をね!」
『もう一人の徐倫』の姿が、青紫色の奇妙な人型の姿へと変化した。
徐倫は目を見開きながらはたての傍に立つ『スタンド』を目にしていた。
彼女は脇腹の苦痛を押さえながら立ち上がろうとするも、はたてはすぐ傍に位置する窓を開く。
そして、その背中から鴉のような漆黒の翼を露にする―――。
「まっ、ここまで『記事のネタ』を提供してくれたことには感謝するわ!スタンドDISCもね!
そうゆうことだから、じゃあねーっ♪」
「っ、待てッ!!」
すぐさまスタンドを傍に出現させ、はたてを攻撃しようとした徐倫。
しかしはたては風のようなスピードで翼を羽ばたかせて窓から飛び出し、逃げ出してしまった。
徐倫は窓辺へと駆け寄って外を確認したが、はたての姿はもう何処にも見えない。
「…クソッ…!」
―――あの女を取り逃がしてしまった。
あれほどのスピードでは追いかける事も出来ないだろう。
悔しさに歯軋りをしつつ、徐倫は拳を握りしめていた…。
【C−4 魔法の森/黎明】
【姫海棠はたて@東方 その他(ダブルスポイラー)】
[状態]:体力消耗(小)、霊力消費(小)、腹部打撲(中)
[装備]:姫海棠はたてのカメラ@ダブルスポイラー、スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部
[道具]:花果子念報@ダブルスポイラー、ダブルデリンジャーの予備弾薬(7発)、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:『ゲーム』を徹底取材し、文々。新聞を出し抜く程の新聞記事を執筆する。
1:記事のネタを掴むべく奔走する。
掴んだネタはメールマガジンとして『姫海棠はたてのカメラ』に登録されたアドレスに無差別に配信する。
2:使えそうな参加者は扇動。それで争いが起これば美味しいネタになる。
3:死なないように上手く立ち回る。生き残れなきゃ記事は書けない。
4:文の奴には死んでほしくない。でも、あいつは強いからきっと大丈夫。
[備考]
※参戦時期はダブルスポイラー以降です。
※制限により、念写の射程距離は1エリア分(はたての現在位置から1km前後)となっています。
念写を行うことで霊力を消費し、被写体との距離が遠ければ遠い程消費量が大きくなります。
また、自身の念写に課せられた制限に気付きました。
※「ダブルデリンジャー@現実」は徐倫に奪われました。
※徐倫のランダムアイテム「スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部」を奪い取っています。
※ムーディー・ブルースの制限は今のところ不明です。
※彼女がどこへ向かうのかは後の書き手さんにお任せします。
◆◆◆◆◆◆
-
◆◆◆◆◆◆
「いつまで寝てんのよ」
「…ぐえっ」
はたての逃亡から少しだけ時間が経った後のこと。
徐倫はベッドの上で横になっている魔理沙の眉間に右手でデコピンを叩き込む。
蛙のような間抜けな声を上げながら、魔理沙は頭を抑えつつゆっくりと瞳を開いた。
「あんた、ずっとブッ倒れてたわね…」
やれやれだわ、と呟きつつ徐倫は身体を起こした魔理沙を見る。
魔理沙はここまでずっと気絶していたが、パワーAのスタンドの打撃に顎を殴打されたのは流石に脳味噌にでも響いたのか。
軽い頭痛を煩わし気に思うような声を上げつつ、魔理沙は瞼をぱちぱちと動かし意識をはっきりとさせる。
そして、魔理沙の視界の徐倫が入った。
魔理沙の脳内で気絶前の記憶が一気に蘇る。
その瞬間に彼女の顔がボッとトマトのように真っ赤に染まり、すぐさまベッドの上で後ずさった。
「――――って、お、お、お前っ!!?さっきはよくも私の箒を――――」
「あー、悪かった!ゴメン!さっきは本ッ当に私が悪かった!あれ、あんたのだったんでしょ?だから…その、ホラ」
慌てふためく魔理沙を前にし、両手を合わせながら申し訳なさそうに頭を下げる徐倫。
徐倫は少し困ったような表情を浮かべつつ、回収してきた竹箒を上目遣いで魔理沙にスッと差し出す。
対する魔理沙はいやらしいものを見るような目で竹箒を見ていた。
「…か、返そうか?」
「いらない…」
竹箒の破棄は数秒足らずで決定した。
◆◆◆◆◆◆
-
◆◆◆◆◆◆
再び数分後。
徐倫が何とか魔理沙を宥め、一応の情報交換を行うことになった。
自分の方針のこと。互いの知り合いのこと。知っている危険人物のこと。
お互い殺し合いに乗っていないことを確認し、ある程度の情報は大雑把に共有した。
「それにしても、徐倫は元からスタンドを持っていたなんてな。驚きだぜ」
「むしろ私からすればスタンドDISCがあちこちで支給されていたことの方が驚きよ、全く」
魔理沙が掌の上に出現させたスタンド「ハーヴェスト」を眺めながら徐倫がごちる。
思えば、「はたて」とか言う女に奪われた残りのランダムアイテムがスタンドDISCだった。
それだけではなく、情報交換の際に魔理沙もまた支給されたスタンドDISCによってスタンドを発現していたことも知った。
もしかしたら他の参加者にもスタンドDISCが支給されている可能性だってある。
DISCと言えば、脳裏に浮かぶのはあの『ホワイトスネイク』だ。
やはりプッチ神父がこの殺し合いに関わっているのか?それともプッチ神父が蒐集していたDISCが主催者に奪われている?
とはいえ、今は情報が少ない。それ故に考察は後回しにすることにした。
徐倫は魔理沙が使っていた『指先から弾丸を放つ能力』についても聞いてみたが、あれは『魔法』によるものらしい。
聞き慣れないファンタジーな単語を耳にしたことで徐倫は疑問に抱くも、幻想郷についての説明を聞いたことで一応納得することに決めた。
「にしても、妖怪と人間が共存する世界…ねぇ。いまいち実感が湧かないわ」
「だけど徐倫は現に私の魔法を見ただろ?それに、鴉天狗の『姫海棠はたて』とも会ってる」
「まぁ、それは確かにそうだけど」
無論、あの「姫海棠はたて」の事も魔理沙に伝えた。
魔理沙の話によれば、最近になって姿を見る様になった鴉天狗の新聞記者とのこと。
もっとも、魔理沙自身もさほど面識が無い様子ではあったが。
徐倫が相対したと言うはたての情報を聞き、魔理沙も彼女を警戒することにした。
(同時に「取材優先ねえ。あいつら鴉天狗なら有り得そうだぜ」ともごちっていた)
それから何度か会話を交わし、一通り情報交換を終えた二人はアリスの家から移動することにした。
一先ずの目標は信頼が出来る知り合いとの合流、危険人物の撃破だ。
互いに「主催者を撃破し、この殺し合いを打破」するべく二人は同行することになった。
-
二人の少女はアリスの家の玄関から外まで出て、横に並ぶように歩き始める。
その際に、徐倫は魔理沙から声をかけられた。
「それと徐倫」
「何?」
目を細めて横目で徐倫を見つつ、魔理沙は言いづらそうに口を紡ぐ。
「箒のことは絶対に許してやんないからな」
「…はい、了解よ」
徐倫は心中で思った。
やれやれって感じだわ、と。
【C−4 魔法の森(アリスの家付近)/黎明】
【空条徐倫@ジョジョ第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:体力消耗(小)、左頬・後頭部を打撲(痛みは治まってきている)
[装備]:ダブルデリンジャー(2/2)@現実
[道具]:基本支給品(水を少量消費)
[思考・状況]
基本行動方針:プッチ神父とDIOを倒し、主催者も打倒する。
1:魔理沙と同行。微妙に気まずいけど、気にしない。
2:エルメェス、空条承太郎と合流する。
3:襲ってくる相手は迎え討つ。それ以外の相手への対応はその時次第。
4:ウェザー、FFと会いたい。だが、無事であるとは思っていない。
5:姫海棠はたてを警戒。
6:しかし、どうしてスタンドDISCが支給品になっているんだ…?
[備考]
※参戦時期はプッチ神父を追ってケープ・カナベラルに向かう車中で居眠りしている時です。
※残りのランダムアイテムは「スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部」でしたが、姫海棠はたてに盗まれています。
※「ダブルデリンジャー@現実」を姫海棠はたてから奪い取りました。
※霧雨魔理沙と情報を交換し、彼女の知り合いや幻想郷について知りました。
どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。
【霧雨魔理沙@東方 その他】
[状態]:顎・後頭部を打撲、軽い頭痛
[装備]:スタンドDISC「ハーヴェスト」@ジョジョ第4部
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。会場から脱出し主催者をぶっ倒す。
1:徐倫と同行。だけど『ホウキ』のことは絶対許してやんないからな…
2:このスタンド、まだまだ色々な使い道が有りそうだ。
3:適当に会場を移動。まずは信頼出来る霊夢と合流したい。
4:出会った参加者には臨機応変に対処する。
5:出来ればミニ八卦炉が欲しい。
6:何故か解らないけど、太田順也に奇妙な懐かしさを感じる。
7:姫海棠はたて、エンリコ・プッチ、DIOを警戒。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※徐倫と情報交換をし、彼女の知り合いやスタンドの概念について知りました。
どこまで情報を得たかは後の書き手さんにお任せします。
※結局魔理沙の箒ではないことに気付かぬまま「竹ボウキ@現実」をC-4 アリスの家に放置することにしました。
<スタンドDISC「ムーディー・ブルース」@ジョジョ第5部>
破壊力:C スピード:C 射程距離:A(再生中) 持続力:A 精密動作性:C 成長性:C
空条徐倫に支給。
人型のスタンド。人物の過去の動きを『再生』することが出来る。
再生中はスタンド自身が『再生』する対象の姿に変わり、過去の動きを再現する。
形や大きさは再現できるが、スタンドを含めた特殊な能力と弾幕までは再現できない。
再生中は一切の攻撃と防御が出来なくなるが、再生の一時停止や巻き戻し、解除は自由に行える。
詳しい制限は今のところ不明。
現在は姫海棠はたてが装備中。
-
投下終了です。
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします。
-
投下乙です
そういえば空条親子はそれぞれ東方の主人公2人と行動してるんだな
そして両方とも最悪な出会い方してるんだよな
-
投下乙です。
はたてから神父と同じ匂いがする。自分がヒデエと自覚してるだけマシ?
ムーディー・ブルースと念写の組み合わせは情報収集が捗りそう。再現写真も撮れるし。
-
投下乙です。
はたての念写にムーディー・ブルースの組み合わせは確かに色々と応用できそうだなぁ
そしてホウキは……うん、まぁせやろなw
-
投下乙
着々とはたての質の悪さが上がってきてる。
掻き回すのは良いけど、そのうち悪評でどん詰まりになりそうだけど大丈夫かな。
-
投下乙です。
「番長みたいな男」とあるけど、幻想郷に学ランの番長なんているんだろうか。
幻想郷の世界観って明治初頭くらいなんだっけ。
-
投下乙
はたては着々と破滅への道を進んでる気がする……
主人公二人は上手くやっていけるのか期待。
さて、そろそろ第一回放送がある頃かな?
-
>>652
まだ参加者の半分以上が早朝 行ってないのに放送は気が早すぎる
-
一人だけ第一回放送まで内定を貰った猛者がいるらしい
-
投下乙です!
はたてみたいに積極的に戦いには加わらず、一人暗躍して輪の外からちょっかいだすキャラはそれだけで面白いですね
箒はバッチィので置いていこう
それとディエゴ・ブランドー、シーザー・アントニオ・ツェペリ、ファニー・ヴァレンタイン、ブラフォード、火焔猫燐
以上を予約します
-
634の
×念者の際の疲労感
○念写の際の疲労感
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新しい書き手もできたしこのロワもしばらくは安泰かな
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おっと、途中で送信してしまった。
投下乙です。いい感じにはたての煽動マーダーっぷり?
に磨きがかかっていますね。
>>656が誤字っぽいので書き込みました。
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感想および指摘ありがとうございます。
指摘された通り>>634の「念者」は「念写」の誤字でした
お手数ですが収録時には修正をお願いします…
ウェザー・リポート、エルメェス・コステロ
予約します
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二人とも投下してすぐなのにすごいペースだなぁ、自分も見習わんと。
あまり無理しないで頑張ってください。
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投下乙でした。
はたてはノリノリだけど、強マーダーとかにでくわすと一気に破滅しそうな匂いが。
一方、文はジョニィの活躍次第だけど可能性はありそうだから、躍進するかも。
予約も増えて嬉しい限りですな。
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エシディシはわりとノリノリで取材させてくれそう
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>>662
エシディシさん、人気すなぁw
あ、ワムウは挑戦者募集とかしそうw
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カーズは…運が良ければ情報収集とかで利用してくれそう
サンタナならご愁傷様
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カーズ、エシディシ、ワムウは何だかんだで利用価値があれば多少は泳がせてくれそうなイメージ
カーズ様、ワムウはそいつが下手な真似したらいつでも殺す気でいそうだけど、エシディシは割と適当に泳がせてそう
ただサンタナは利用価値とか以前に問答無用で殺しにかかりそう
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そういえばスタンド使いにはスタンドDISCを支給しないだろうって言う青娥さんの名推理は早くも崩れ去ったわけなのか
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チンポリオみたいに一応スタンド使いでもDISC使えないことは無いしな
制御出来るかは別として…
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DIOや大統領みたいな常人を遥かに超越した精神じゃないと、スタンドの多数制御はかなり難しそうだな
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ディアボロは簡単そうだな。大冒険的に考えて。
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ディアボロは今ロワのマーダーでは一番優秀だろうしな
カーズやDIOみたいに慢心しないしエシディシやワムウみたいに遊びはない。もちろん精神も安定している
主催への反逆の意思もないしジョジョキャラらしく頭もいい
能力も生き残ることに長けておりスタンドのスペックもスタープラチナらに匹敵する
次の予約の投下で最優秀マーダーになるか後ろに(笑)がつく結果になるか非常に楽しみ
…投下されない可能性もあるが
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そこ言うと支持率91%の大統領に期待ですよ
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大統領はマーダーじゃなくて危険対主催寄り。そういや柱の男も一応危険対主催だな
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純粋に優勝狙う気あるのウェザー、静葉、ディアボロ、DIO様くらいだな…
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>>670
でもディアボロだから、長生きできずにやられて次の死に行きそうな気しかしない
…原作ではそうなる前は一人でメインキャラ3人殺す大活躍見せてた強キャラのはずなのにな…
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ボスは強力なマーダーとして猛威を振るいそうだけど
なんか終盤のトリを飾るようなタイプのイメージはないんだよなぁ…
そこそこの人数落としてから中盤〜後半辺りで脱落しそう
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かつて第1話でいきなり脱落したボスの話を聞かせてやろうかの
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ディアボロの被害が広がる前にダイアーさんを追加の書き手枠で出そう(錯乱)
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日中は柱の男が動けないからディアボロに頑張ってもらわないと困る
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う、ウェザーと静葉姉様は……(震え声)
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ダ、ダイアーさんはディオの右目を奪ったほどの波紋戦士だから!
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ディアボロのライバルといえば1stの魔改造シーザー
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ウェザーも相当強いな しかしあいつ運が悪いんだよな
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(アヌビス神回収すれば誰でも強マーダーになるんだよなぁ…)
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あのシーザーは強かった・・・
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>>683
強靭な精神が無いと乗っ取られて体を好きなように使われるだけ
それで妖夢は……
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>>685
強靭な精神っていうか、霊夢が特別なんだろう……
それを言えば、原作のポルポルくんも操られてたし……
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DIOって肉の芽使えるから結構有利だよな
時間軸の都合からすでにポルナレフが忠実な僕になってるし
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>>686
東方は特別な能力持ちが多いからな
他には紫とか青娥辺りが操られなさそう
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紫と青娥とか、まさしくアヌビス神持つ可能性が今一番高い二人じゃねーか
いや、まさか蓮子…いやいや…
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>>689
その三人の内の誰が持っても大惨事になりそうだな……
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なんだかんだで一番安定してるマーダーはアヌビス神
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アヌビス神は支給品だろ
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誰でも無差別マーダーに出来て、しかも本体のスペック無視して高い戦闘能力発揮できるって点ではアヌビス神はある意味下手なマーダーよりも厄介なんだよなぁ…
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アヌビス神は最強クラスだけど最優秀ではないな。ただ正面から切りかかるだけじゃ勝てない相手もいるだろうし
相手の技や動きを読めても相手の策まで読めるかどうか
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今の面子の中でマーダーと思われるメンバーは
ジョジョの中では
大統領、ディエゴ、ウェザー、ディアボロ、DIO 、ヴァニラ、ポルナレフ、ブラフォード、リンゴォ、柱の男全員で
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↑続き
東方の中では
八雲藍(迷ってる?)、静葉、お空、
神奈子、 青娥(場合によっては殺りかねない)
ってところか。
最凶の某スタンドDISCやアヌビス神もあることだし、はてさてこの先どうなることやら……
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一応あやや、星ちゃん、橙もマーダー…かも?
三人ともスコア0だしブレそうだけど
グレーだったり危険人物めいた参加者もいるよね
ぬえ、吉良、神父、てゐ、にとり、はたて、プロシュート兄貴、えーりん、ホルホースあたり
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あとフー・ファイターズも
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ぬえ、てゐ、にとり、ホルホース辺りは説得出来ないことも無いだろうけど、個人の因縁とかもあったりするからなぁ…
チルノもヤバそうな気がするし……
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生存優先とマーダー、危険人物は別途で考えようぜ
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実際のところ危険人物は
青娥、 永琳、お空、はたてといったところか(星や 藍はマーダーと判断しました)
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東方は世界観が世界観だから人間ばなれして物騒な考え方の持ち主が多いな……(特に青娥と永琳)
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完全対主催
ジョナサン、レミリア、ジョセフ、承太郎、霊夢、ジョルノ、ブチャラティ、トリッシュ、除倫、魔理彩、けーね、聖、こころ、ジョニイ、ツェペリ、シーザー、シュトロハイム、花京院、康一、億泰、露伴、エルメェス、ジャイロ
対主催
リサリサ、丈助、パチュリー、岡崎、小傘、蓮子、メリー、幽々子、紫、阿求、輝夜、妹紅、早苗、諏訪子、天子、こいし、太子、こーりん
スタンス未定
アリス、響子、さとり、お燐芳香
生存優先
ぬえ、文、てゐ、永琳、にとり、ホル・ホース、プロシュート、プッチ、F・F
危険人物
青蛾、はたて、チルノ、橙、お空、ブラフォード、吉良、ポルナレフ、リンゴォ
危険対主催
カーズ、エシディシ、ワムウ、大統領、ディエゴ
マーダー
DIO、ヴァニラ、藍、星、神奈子、サンタナ
優勝狙い
ディアボロ、ウェザー、静葉
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>>703
ここまでまとめ上げたあなたの根気に、私は敬意を表する!
非常に分かりやすいです、ありがとうございます
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F・Fは生存優先じゃなくて危険人物だった
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ウェザー・リポート、エルメェス・コステロ
投下します
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「………ッ、はぁーっ…………」
『ウェス・ブルーマリン』はずるり、ずるりと身体を引き摺る様に走り続ける。
ほんの僅かに明るくなり始めた空が照らす風景はどこまでも続いているかのような草原。
無我夢中で走り続けていた。どれほどの時間が経過したかも覚えていない。
あの場所から逃げ延びることに必死で、もはや方向感覚すら失っていた。
「はぁー………はぁーッ………!」
身体の傷が痛み、荒い息が口から吐き出される。
初老に差し掛かった体力の衰えを確かに感じる。失われた年月の重みが身体にのしかかる。
それでも彼は休息の地を求めてよろよろと走り続けていたが、もはや疲労の限界が訪れたのか。
視界の先に樹木が見えたことを確認し、そちらの方へと歩み寄って行く。
一先ず、一時的にあの木陰で休息を取ることにしたのだ。
木陰へと入り込み、樹木を背もたれにして彼はゆっくりと座り込んだ。
「………ッ………」
肋骨や内臓、背中の打撲の痛みが先程から響いている。
走り続けた疲労も上乗せされてか、その苦痛が次第に増しているかのようにも感じられた。
それ故に、暫しの時間彼はこの木陰で休息を取ることにした。
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「………ペルラ……、……俺は…………」
幾許かの時間が経過し、少しずつ疲労が治まってきている中。
荒い息を整えながらウェスはゆっくりと顔を上げ、木の葉の隙間から覗く月明かりを見上げる。
自然と、『喪った恋人』の名が口から漏れる。
情けなかった。ゲームが始まってから精々数時間足らずで、こんな無様な姿になっている自分が。
先の戦いで誰一人として殺せず、むざむざと逃げ延びている自分が。
俺はこんなザマでペルラを取り戻せるというのか?
亡くした過去を取り戻せるというのか?
『孤独』の俺が、途方も無いこの戦いを勝ち抜けるというのか?
(クソ、何を考えているんだ…俺は)
ギリ、と歯軋りをしながらウェスは己の胸中に渦巻く疑念を強引に振り払おうとする。
俺は、覚悟を決めたんだ。この戦いに勝ち残り、ペルラを取り戻すと。
他の参加者全員を殺してでも高みに登る決意は既に決めているのだ。今更悩む必要なんて無い。
それ故に今の身体に多大な疲弊を感じていることが屈辱だった。
今はただ、『乗っている』連中に見つからない様に休むことしかできない。
それが再び先程までの疑念を脳裏に過らせる。
無様な思考に飲まれつつある自分が、悔しかった。
感情を落ち着かせようと、再び空を見上げる――――
その直後のこと。
どこからか、人の気配が感じ取れた。
そしてウェスの耳に、聞き覚えのある声が入ってくる。
「お前……ウェザー?」
ウェスはゆっくりとそちらの方へ顔を向ける。
木陰に入り込んできたのはドレッドヘアーが特徴的な長身の女だ。
彼はその姿に、その声に覚えがあった。
記憶を取り戻す前、『ウェザー・リポート』だった頃に仲間であった女。
あの刑務所における徐倫の友達だった囚人。
少し驚きつつも、ウェスはその名を静かに呟いた。
「…エルメェス…」
◆◆◆◆◆◆
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◆◆◆◆◆◆
あれからエルメェスはエア・サプレーナ島を何とか抜け出せた。
館のような島中を駆け回り、漸く小さな舟を見つけ出すことが出来たのだ。
(余り目立たないような小さな船着き場に小舟が幾つか停泊していた)
とはいえ、力仕事で舵で漕ぐような小舟であったが故にあの湖を抜け出すことには少々手間取ったが。
水上での小舟の移動に苦心したことで方向感覚も失いかけてしまったが、なんとか地上へと乗り出すことが出来た。
そこそこの時間を経て、ようやく地上へと辿り着いたエルメェスは一先ずの目的を再確認する。
目指すはC-4地点に位置する『アリスの家』だ。
空条徐倫がいるとなれば、早い内に合流はしておきたい。
何よりも『あのメール』の意図も気になる。
小舟を放棄したエルメェスはだだっ広い草原を駆け抜けていた。
両足を躍動させ、全速力で走り続けていた。
(ん……?)
そんな中で、彼女は草原に立つ樹木を発見した。
走りながらふとそちらの方へと目を向けてみると、木陰に人がいることにも気付く。
この会場に居る以上、参加者であるのは間違いないだろうが…どうやら負傷している様にも見えた。
警戒心もあったが、怪我人だとすれば放っておくのも忍びない話だ。
徐倫の安否も気になるが…仕方がない。
エルメェスはそのまま足を止め、そちらの方へと近寄ってみたのだが…
彼女はその男の姿を見て、驚愕することになる。
「お前……ウェザー?」
◆◆◆◆◆◆
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◆◆◆◆◆◆
「ウェザー。随分疲れているようだったが…大丈夫なのか?」
「…微妙な所だな……恐らく、肋は数本折れている。背中もさっきから痛む」
エルメェスはウェザーの隣に座り込み、声をかける。
名簿で確認はしていたが、ウェザーが目の前にいるという事実に改めて驚かざるを得ない。
最初は警戒した。私が最後に記憶している『ウェザー・リポート』は―――『記憶を取り戻したウェザー』だ。
そして、彼の死もこの目で見届けた。
彼は私達の目の前で死んでいるはずの人間だ。
少なくとも、あの『虹』が出ている様子は見受けられない。
その言動も記憶を失っている頃の様に、落ち着いている様に感じられる。
このウェザーは、『記憶を失ったままのウェザー』なのだろうか?
それとも、徐倫に己のスタンドDISCを託したウェザーなのか。
あるいは――――凶暴なままの人格のウェザーが、演技をしているだけなのか。
そんな可能性が脳裏に過ってきた。
でも、もし徐倫だったらこんな時にどうする?
きっとアイツなら、迷わずウェザーを信じるだろう。
だったら…私も、今は『ウェザー』を信じてみることにしよう。
私は、あいつほどウェザーと関わっている訳ではない。
だけど、それでも『信頼出来る仲間』であることには変わりは無い。
『あの時』の私はウェザーを信じることが出来なかった。『敵』だと断じてしまった。
だからこそ、今は『味方』でいようと思った。
不器用な彼女の優しさは、その思考に至った。
「……だったら、怪我…看てやるよ」
「………?」
「ほら、……その、さっさと上着脱げよ。背中の傷とか、私が看てやるっつってんだよ」
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言いづらそうに促すエルメェスに少し驚きつつも、ウェザーは黙って服の上着を脱ぐ。
サッと上着が雑草の生えた地面に置かれ、体格のいい身体と共に腹部や背中の痣が露になる。
背中の痣をまざまざと眺めつつ、エルメェスはデイパックから救急箱を取り出した。
「その救急箱はお前に支給されたのか?」
「いや、私がさっきまで居た島の館の中で回収した」
そう言いつつ、エルメェスはウェザーに背中を向かせた。
そのまま彼女は、ウェザーの背中の痣の部分に湿布を恐る恐る貼り付ける。
率直に表現すれば、その貼り方は余り上手とは言えない。
湿布に少しだけ皺が伸びてしまっているのだ。
「…………」
無言で処置を受け続けるウェザー。
続いて、包帯をこれまた慣れない手つきでウェザーの身体に巻き始める。
ぎこちない動作だ。この処置に効果があるのかどうかも、正しい処置なのかも解らない。
ただ、少なくともエルメェスに応急処置の経験が殆ど無いことだけは何となく解る。
「…お前、応急処置下手だな」
「う、うるせーなッ!ケガ人なんだから余計な口出しすんじゃねーっての!」
ウェザーのさり気ない指摘に対し、エルメェスは顔を真っ赤にしながら声を荒らげる。
そんなエルメェスの姿を見て、ウェザーの口元にフッとほんの少しだけ笑みが浮かんだ。
「……ほら!終わったぞ!」
包帯を巻き終えたエルメェスがウェザーに対してそう言う。
エルメェスを少しだけ横目で見ていたウェザーだったが、すぐに脱ぎ捨てた上着を着直す。
軽く頭を下げて礼をするウェザー。
直後に、何とも気まずそうに頭を掻いているエルメェスの顔をじっと見つめ。
「…おい、エルメェス」
「顔が近ェぞ」
唐突にウェザーはエルメェスの顔をグイッと覗き込む。
ウェザーの顔が無駄に近い。生暖かい鼻息がかかるくらいの距離感だ。
妙な顔の近さもあってか、若干煩わし気な表情でエルメェスはウェザーの顔を見る。
「お前、さっきから様子が妙だ」
「何?」
「俺を見る目が、奇妙だ。まるで居るはずの無い人間を見ているかのような…そんな目だ」
眉を少しだけ顰めていたエルメェスに対し、ウェザーは淡々とそう伝える。
そう指摘されたエルメェスの表情が、次第に真剣な物へと変わっていく。
見抜かれていたかと言わんばかりに、フッと明後日の方向を向く。
少しの沈黙の後に、エルメェスはウェザーを真っ直ぐに見据えた。
「……先に聞いておく。私がこれから言うことを、信じてくれるか」
先程と同様の真剣な表情と声色で、エルメェスはそう問いかけてくる。
その問いかけを聞き、ウェザーは黙って彼女を見ていたが。
「……、……ああ」
こくりと頷きながら、そう言った。
ウェザーの返答を聞き、エルメェスは少しばかり躊躇うような様子を見せる。
しかし、直後に意を決した様にウェザーを再び見つめた。
そして―――エルメェスは、ゆっくりと口を開く。
「…ウェザー・リポート。お前は、私達の目の前で『死んでいるんだ』」
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エルメェスの発言を認識した途端、ウェザーの心中に驚愕と唖然が入り交じる。
隠し切れない動揺のまま目を見開き、彼はエルメェスを見つめる。
エルメェスの表情は真剣だ。その態度を見る限り、彼女が嘘を吐いているとは思えない。
いや、そもそもエルメェスがこんな嘘を吐く理由が無い。
恐らく彼女が言っていることは真実だ。
ウェザーの心が、魂がそう確信していた。
先程まで自分を妙な視線で見ていたことの『答え』は、『死んだはずの人間と遭遇したから』だったのか。
「………そのことを…詳しく聞かせてくれ。全てを、聞かせてくれ」
驚愕を隠し切れぬウェザーが言葉を漏らした。
死んだはずの自分の『真実』について、知る為に。
僅かな沈黙の後、エルメェスはゆっくりと頷く。
―――エルメェスは全てを語った。
ウェザー・リポートは記憶を取り戻したことを。
記憶を取り戻したウェザーが秘めていた『悪魔の能力』が、町中を大混乱に陥れたことを。
エンリコ・プッチ神父と死闘を繰り広げ、後一歩の所でプッチ神父に敗北し殺されたということを。
その死に際に、ホワイトスネイクを利用し自身のスタンドをDISCに変えて徐倫に全てを託したということを。
「ウェザー。お前は、此処に来る前の記憶…覚えているか?」
「…フロリダ州の、オーランドの病院に居た。そこまでは覚えている」
エルメェスの語った瑣末を咀嚼し、驚愕を隠せぬままにウェザーはぽつりと呟く。
記憶を取り戻したことは朧げながら覚えている。
だが『悪魔の能力』が町中を大混乱に陥れた?
確かに俺は『ヘビー・ウェザー』という能力を持っていた。
しかし、記憶を思い出す限り俺はまだ『病院』にいた。
それに『虹』の侵蝕は病院から街にまで即座に達するほどのスピードは無い。
それだけではない。神父と戦い、敗北した…?
そして俺は――――徐倫にDISCを託して、逝ったらしい。
驚愕と共に思考を重ねるウェザーを見つつ、エルメェスは口を開いた。
「成る程な…。もしかしたら、あの主催者共の能力は……」
「……まさか…『時間を超越するスタンド能力』とか…か?」
「ああ。そうでも無ければ、この『記憶のズレ』は説明出来ないぜ」
エルメェスとウェザーの間に一つの仮説が生まれた。
主催者は『時間を超越するスタンド』を持っているのではないか?
ウェザーの記憶は「フロリダ州オーランドの病院」で途切れている。
だが、エルメェスの記憶は「ウェザーの死を見届け、ケープ・カナベラルへ向かう途中」だったと言う。
記憶に明らかなズレがあるどころか、エルメェスはウェザーも知らない未来のことを体験してきているのだ。
そのことから、消滅したはずのFFが名簿に載っている理由も予想は出来る。
「この殺し合い、もしかしたら『あらゆる時間軸から参加者が呼び寄せられている』のかもしれない…」
エルメェスの語った推測を聞き、神妙な顔でウェザーは黙り込む。
同時にエルメェスも何とも言えぬ表情を浮かべながら口籠った。
彼女は思う。自分達は、時間をも超越する相手を前にしているのかもしれないのだ。
プッチ神父をも超える強大な能力。そんな相手に勝ち目があるのか…?
そのことに対し、エルメェスは不安さえ覚えてきた。
「……あくまで『仮説の一つ』として考えよう。可能性は高いが、まだ確証は無い」
ウェザーは推測を一先ず保留として置くことにした。
恐らく可能性は非常に高い。だが、このまま断定するのにはまだ早い。
慎重な意見を前にし、エルメェスは静かに頷く。
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「…ウェザー、もう一つ教えておきたいことがある」
「何だ」
「徐倫のことだ」
そう言ってエルメェスが懐から取り出したのはPCタブレット。
何度か操作を行い、メール画面を開いてウェザーにそれを見せつける。
「花果子年報…メールマガジン?」
ウェザーはメールの件名を呟き、その内容へと目を向ける。
そこに写っていたのは『空条徐倫』の姿だ。
魔法使いのような半べその少女と対峙し、お互いの攻撃を叩き込んでいる光景が映し出されている。
同時に解ったのは、『アリスの家』という場所で起こった出来事であるということ。
魔法使いの少女は『霧雨魔理沙』という名であり、『姫海棠はたて』なる記者が二人にインタビューを行うということ。
「私は、このアリスの家へ向かう。徐倫の安否が気になる」
ウェザーが記事を見たことを確認すると、エルメェスはタブレットPCを再びデイパックにしまう。
そして、その場からゆっくりと立ち上がった。
どうやらエルメェスは、これから移動を始めるつもりらしい。
その直後にエルメェスはふっとウェザーの方へと振り返る。
「ウェザー、お前も一緒に来てくれないか」
ウェザーに対し、凛とした表情でそう呼び掛けてくる。
彼はエルメェスの誘いを聞き、彼女を真っ直ぐに見つめた。
「徐倫のことだってある。だけど、それだけじゃない」
決意を固める様に拳を握りしめ、エルメェスは言葉を紡ぎ続ける。
「あの主催者共がどんな力を持っているのかも解らない。どれだけ強大なのかも解らない。
それでも、私はアイツらを…会場に居るプッチ神父共々!この手でブッ潰してやるつもりだッ!」
―――エルメェス・コステロは声高に、勇ましくそう宣言した。
物怖じをすることもなく、生殺与奪を握られたことに絶望をすることも無く。
彼女は、ハッキリとこの殺し合いへの反抗の意思を示して見せた。
「………。」
勇ましいエルメェスの姿を見たウェザーの脳裏に、彼女の姿が重なる。
黄金の精神を掲げ、困難に立ち向かい続けた―――空条徐倫の姿が、一瞬だが重なって見えた。
「だから、ウェザー…お前が居てくれたら何よりも心強い。徐倫だってお前のことを信頼していたんだからな」
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フッと口元に笑みを浮かべながら、エルメェスはそう口にする。
その表情に浮かぶのは目の前のウェザーへの確かな『信頼』。
彼を一人の『仲間』として認めている、そんな笑みだ。
少しばかり呆気に取られた様に、ウェザーは彼女を見つめていた。
「…………。」
―――暫しの沈黙の後、ウェザーは立ち上がる。
彼はそのままエルメェスの方へとゆっくりと歩み寄り始めたのだ。
ウェザーが近づいてきたのを見て、エルメェスは笑みを口元に浮かべながら再び前を向く。
どうやら、ウェザーは承諾してくれたようだ。仲間として共に闘ってくれるのだろう。
『悪魔の虹』のスタンド使いとして、敵として認識していた時とは違う。
再び『仲間』として、ウェザーと共に前に進むことが出来る。
そして―――徐倫の様に、『仲間』を信じることが出来た。そのことが嬉しかった。
『あの時』はウェザーを『敵』だと断じてしまったこともあったが故に、尚更だ。
ウェザーの歩調に合わせるように、エルメェスもまた歩き出す。
無論、目指すは『アリスの家』だ。
親友と―――『空条徐倫』と会うべく、エルメェスは進み始めた。
心強い仲間、ウェザー・リポートと共に。
そして彼女は、歩みながら後方へと振り返りウェザーの方を向こうとした。
「行こう、ウェザー!徐倫を―――――」
グシャリ。
血肉が飛び散る音が、響き渡った。
「――――――――、」
ごふっ、とエルメェスの口から多量の血液を吐き出される。
胸が焼けるように痛い。熱くて仕方がない。
何が起こったのか理解出来ない。
唖然とした表情で、エルメェスはゆっくりと胸元を見下ろす。
彼女は、自分の身に起こっていることに漸く気付く。
エルメェスの胸を、スタンドの右腕が背後から貫いていたのだ。
「すまない」
スタンド『ウェザー・リポート』の右腕に、エルメェスの血液が滴る。
それをウェザーは――――否、ウェス・ブルーマリンは冷淡とした様子で眺めていた。
「『お前達』とは一緒に行けない」
―――そして、スタンドの腕が引き抜かれると同時に。
エルメェスの身体が崩れ落ちた。
◆◆◆◆◆◆
-
◆◆◆◆◆◆
「がはッ……げほォッ……ウェ…ザー………」
腹部を貫かれ、地面に真紅の血液を広げながらエルメェスは横たわる。
何度も吐血を繰り返しながら、彼女は『ウェザー』を見上げていた。
「…少し、長話をし過ぎたな」
『ウェス』は静かにそう呟く。
ある程度とはいえ自身の消耗を癒し、情報を得られた時点でエルメェスはもう『用済み』だった。
それ故にエルメェスをこの手で攻撃した。『厄介なスタンド使い』である彼女を、始末すべく。
今の彼にとって、先程までの交流など些事に過ぎなかった。
ウェスはデイパックから取り出した旧式の拳銃を右手に握り締め、エルメェスに向けて真っ直ぐ構えた。
こんなものは使う必要がないと思っていた。スタンドだけで十分だと思っていた。
だが、その結果が先程の戦闘だ。中華風の女と介入してきた赤髪共相手に背を向けて逃げる羽目になった。
俺はスタンドの力を過信し、油断していたのだろう。結局は奴らとの戦闘で手榴弾、お祓い棒を使うことになったのだから。
だが、これからは『使える物』は『何でも使う』。
あらゆる手段を尽くして―――殺す。
「俺は喪った過去の全てを取り戻す。誰を犠牲にしようと、俺は進み続ける」
「……お前…は……、……それで…いいのか……?」
口から何度も血液を吐き出しながらも、エルメェスは問い掛け続ける。
―――その瞳に一切の絶望は浮かんでいない。見受けられるのは、強い意思そのものだ。
彼女の『黄金の意思』は、『ウェス』にとっても警戒に値する物だった。
「これでいい。元より俺は、呪われた殺人者だ」
「それでも………徐倫、は………お前………を…………」
「空条徐倫に救われた『ウェザー・リポート』はもういない」
『ウェス』はそう答えた。
-
エルメェスは、唖然と憤慨の入り交じった表情を浮かべながら『ウェザー』を見上げていた。
結局、私は徐倫の様に『ウェザー』を救うことなんて出来ないのか。
『ウェザー』を、仲間を止めることは出来ないのか。
私は、何も出来ずに―――――このまま、死ぬのか。
何とか立ち上がろうとするも、多量の血液に塗れた身体は極僅かにしか動かない。
動こうとすればするほど、その身から流れ落ちる鮮血の量が増えるだけ。
無意味だった。無力だった。今の彼女には、何も出来ない。
「………ウェ……ザー…………リポー…………ト……………」
死を目前にしながらも、彼女は『ウェザー』に呼び掛け続ける。
しかし、その声は彼には届かない。『ウェス・ブルーマリン』に、その言葉は届かない。
今の彼にもはや迷いは無い。
右手の指を掛け、ゆっくりと弾かれ始めた引き金と共に。
『ウェス・ブルーマリン』は、『かつての仲間』へと静かに言葉を吐き出す。
「あばよ、エルメェス」
――――銃声が鳴り響いた。
【エルメェス・コステロ@第6部 ストーンオーシャン】死亡
【残り 78/90人】
◆◆◆◆◆◆
-
◆◆◆◆◆◆
エルメェスの亡骸を見下ろしながら、ウェスは彼女のデイパックを回収する。
―――思いの外、軽い。
彼が『かつての仲間』に向けて引き金を弾く際に抱いた感情は、そんなものだ。
かつての仲間に対する感慨も、感傷も、この胸には浮かばない。
あるのはただ『参加者の一人を殺した』という事実の認識だけだ。
こんなにも、呆気無く殺せたのだ。
「空条、徐倫」
目を瞑りながら、彼は静かにその名を呟く。
『徐倫に救われた男』は死んだ。かつての仲間『エルメェス・コステロ』と共に逝った。
そして―――『ウェザー・リポート』という存在も、この殺し合いで死ぬことになる。
フー・ファイターズ。エンリコ・プッチ。そして、空条徐倫。
彼らの死を以て『ウェザー・リポート』に幕を下ろす。
此処にいるのは、私欲の為に戦う殺人者――――『ウェス・ブルーマリン』だ。
もはや誰を犠牲にしようと、構うものか。
俺に仲間なんて居ない。頼れる奴なんて居ない。
町中を犠牲にした殺人者に、仲間なんて必要は無い。
だからこそ、俺は冷酷になれる。
ペルラを取り戻す為に、どこまでも残忍になれる。
―――だが、先の戦闘を経て一人で勝ち残ることの難しさも思い知らされた。
徐倫達だけではない。あの中華風の女、赤髪のスタンド使いのような強者もこの地には存在するのだ。
参加者は90名。どれだけの強者がこの会場にいるのか、予想がつかない。
だからこそ『協力者』が必要だ。勝ち残ることを目的とする参加者と同盟を組みたい。
全ては、このバトル・ロワイヤルに勝ち残る為だ。
どんな手を使ってでも、どんな奴を利用してでも俺は優勝する。
そうして決意を再び固めたウェスが、移動を開始しようとした直後のことだった。
―――― ド ゴ ォ ォ ォ ン ッ ! ! ! !
-
「………!?」
どこからか、とてつもない爆発音が響いてきた。
ハッとそちらの方へと顔を向ける。先程の音は、東の方角だ。
ウェスは地図を開き、現在位置を確認することにした。
確か此処は、無名の丘の側を通り抜け一つ川を超えた先の草原のはずだ。
そして、その東側に存在するのは―――。
「猫の隠れ里、か…」
恐らく先程の爆発が聴こえてきたのは、『猫の隠れ里』という場所だ。
此処まで響いてくるほどの爆音だ。何かしらの戦闘が起こっているのは間違いないだろう。
もしかすれば、『乗っている人間』と接触を行うことも可能かもしれない。
協力者を得られる機会でもあるが、同時にリスクも存在する。
『殺し合いに乗っている参加者』ならば、参加者に対し無差別に攻撃を行う可能性だってある。
それに、必ずしも『乗っている参加者』がいるとも限らない。
最悪、先程の爆音の戦闘で死亡している可能性もある。
だが―――何が起こったのか、確認しておきたいのも事実だ。
己の脳内で選択肢を纏めながら、ウェスは思考を重ねる。
(―――さて……どうするか?)
殺人者『ウェス・ブルーマリン』は空を見上げる。
闇の様に薄暗かった空は、次第に光を帯び始める。
ウェスの傍に立つスタンドの右腕から滴る『返り血』は、早朝の僅かな灯りに照らされていた。
【C-2 草原(北部)/早朝】
【ウェス・ブルーマリン@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:肋骨、内臓の損傷(中)、背中への打撲(処置済み)、服に少し切れ込み(腹部)
[装備]:妖器「お祓い棒」@東方輝針城、ワルサーP38(7/8)@現実
[道具]:タブレットPC@現実、手榴弾×2@現実、不明支給品(ジョジョor東方)、ワルサーP38の予備弾倉×3、救急箱、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:ペルラを取り戻す。
1:この戦いに勝ち残る。どんな手を使ってでも、どんな奴を利用してでも。
2:『猫の隠れ里』へ向かうか、それとも…
3:空条徐倫、エンリコ・プッチ、FFと決着を付け『ウェザー・リポート』という存在に終止符を打つ。
4:爆発音の聞こえた方に向かうか、刑務所を目指すか…
5:姫海棠はたてが気になるが、連絡を試みるかは今のところ保留。
6:あのガキ(ジョルノ)、何者なんだ?
[備考]
※参戦時期はヴェルサスによって記憶DISCを挿入され、記憶を取り戻した直後です。
※肉親であるプッチ神父の影響で首筋に星型のアザがあります。
星型のアザの共鳴で、同じアザを持つ者の気配や居場所を大まかに察知出来ます。
※制限により「ヘビー・ウェザー」は使用不可です。
「ウェザー・リポート」の天候操作の範囲はエリア1ブロック分ですが、距離が遠くなる程能力は大雑把になります。
※エルメェスの支給品一式を回収しました。
※主催者のどちらかが『時間を超越するスタンド』を持っている可能性を推測しました。
※ウェスが耳にした爆発音は第51話「廻る運命の輪」での戦闘音です。
※エルメェス・コステロの参戦時期はウェザー・リポート死亡後、ケープ・カナベラルへ向かっている途中でした。
エルメェスがエア・サプレーナ島で救急箱以外の物資を回収しているかどうかは後の書き手さんにお任せします。
<ワルサーP38(7/8)@現実>
ウェザー・リポートに予備弾倉×3と共に支給。
1938年にドイツ陸軍が制式採用した9mm口径の自動拳銃。日本では「ルパン三世」の愛銃として有名。
大型軍用自動拳銃としては初のダブルアクション機構を備えており、暴発の危険性を抑えている。
命中精度も当時の軍用拳銃としては高水準で先進的な拳銃として評価されていた。
一方でスライド上部のカバーの構造が単純であるが故、連続射撃の際に外れてしまう危険性があるといった欠点も存在した。
現在はウェザー・リポートが装備。
<救急箱>
エルメェス・コステロがエア・サプレーナ島で現地調達。
応急処置の為に使用される薬品、医療器具が一通り収納されている木製の救急箱。
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投下終了です。
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします。
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すいません、誤字を確認しました…
>>714
×ごふっ、とエルメェスの口から多量の血液を吐き出される。
○ごふっ、とエルメェスの口から多量の血液が吐き出される。
>>715
×腹部を貫かれ、地面に真紅の血液を広げながらエルメェスは横たわる。
○胸を貫かれ、地面に真紅の血液を広げながらエルメェスは横たわる。
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乙です
まさか兄貴が…薄々ウェスに倒されるとわかっていたが…
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ぬおおおお…申し訳ありません、状態表にもミスを発見しましたorz
1:この戦いに勝ち残る。どんな手を使ってでも、どんな奴を利用してでも。
2:『猫の隠れ里』へ向かうか、それとも…
3:空条徐倫、エンリコ・プッチ、FFと決着を付け『ウェザー・リポート』という存在に終止符を打つ。
4:爆発音の聞こえた方に向かうか、刑務所を目指すか…
5:姫海棠はたてが気になるが、連絡を試みるかは今のところ保留。
6:あのガキ(ジョルノ)、何者なんだ?
↓
1:この戦いに勝ち残る。どんな手を使ってでも、どんな奴を利用してでも。
2:『猫の隠れ里』へ向かうか、それとも…
3:空条徐倫、エンリコ・プッチ、FFと決着を付け『ウェザー・リポート』という存在に終止符を打つ。
4:姫海棠はたてが気になるが、連絡を試みるかは今のところ保留。
5:あのガキ(ジョルノ)、何者なんだ?
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投下乙です
ウェザーはブレずにマーダー貫くか…そんな予感はしたが
にしても妖夢と勇儀の戦いは紫、ズィーズィー、青娥、蓮子、ジョニィ、露伴、あやや、ウェザーと大人数の人間呼んだなw
さぁ、ヤバイのは紫ですよ
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投下乙です。
予約された段階で薄々わかっていたが兄貴はここで退場か
さてアヌビス神はいったい誰の手に渡るのか
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乙です。
状態表から(ウェザー・リポート)が消えたのが納得の内容。
もう戻れないんだろうなあ。
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美鈴を殺った時点で…
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もうウェザー・リポートとは呼べないな…
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>>524の予約、間に合いそうにないので一旦破棄とします。
ごめんなさい。
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ウェザー……いや、ウェスはもう後戻りできないな……
この先このような悲劇がいったいいくつ起こることやら……
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本当だ。前のウェス回では、確かに(ウェザー・リポート)が残ってたのに…
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ディアボロ、鈴仙・優曇華院・イナバ、アリス・マーガトロイドを再予約します。
俺は、『絶対書き切るマン』、次こそは……!
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期待してます(プレッシャー)
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『祈って』おこうかな・・・投下の無事を・・・
それではディエゴ・ブランドー、シーザー・アントニオ・ツェペリ、ファニー・ヴァレンタイン、ブラフォード、火焔猫燐
以上を投下します。進歩しない事に、またしても前編、後編の構成になってしまいました
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――― <黎明> 紅魔館 一階 廊下 ―――
C-3エリアに大きく広がる霧の湖、その畔に聳え立つのは幻想に住まう吸血鬼の根城『紅魔館』。
全容が紅の色に包まれているというその奇妙な館に足を踏み入れたシーザー・ツェペリは厨房を探していた。
先の強敵、黒騎士ブラフォードとの戦いにおいて自身の本来の戦闘スタイル『波紋のシャボン』を発揮できず、苦戦を強いられた事は彼にとって軽くは見られない結果。
シャボン無しでこの先の戦いを生き抜いていくには厳しいと判断した彼は、まずはシャボンの原材料である水と石鹸を調達する為にこの館へ潜り込む事にした。
館内は薄暗く、人の気配も全く無い。シーザーはまずは食堂を探した。厨房というのは大抵の場合、食堂と隣接された場所にあるからだ。
廊下に点々と設置された照明の光を頼りに進んで行く内にシーザーはこの館のもう一つの奇妙な事に気が付く。
(さっきから…『窓』が全く見当たらないな…。これだけ立派な洋館だというのにかなり不自然だ。まるで何か意図あって日の光を遮断しているようだが…)
シーザーは先程確認した名簿に記載されていた名前を思い出す。
ワムウやカーズ等の柱の男達、そして50年前にジョジョの祖父、ジョナサン・ジョースターと共に散ったと言う吸血鬼『ディオ』…
この会場には奴らのように日光を苦手とする人外の生物が数多存在する。
奴らのような人外が日中の間を過ごすのに、この館は最高の『物件』だった。今この瞬間にも奴らがこの館の闇に紛れているのかもしれない…
そう思うとシーザーの顔に緊張が走る。
そしてこの名簿そのものにも疑問が生じる。
(黒騎士ブラフォードは何かのきっかけでまた屍生人として蘇ったものかと思っていたが、ジョジョの野郎が倒した筈のサンタナやエシディシ、そして50年前のディオ・ブランドーが名簿にあるのはおかしい…)
色々と腑に落ちない点を抱えたままシーザーは何事も無く食堂広間に辿り着き、そして無事厨房からシャボン液の材料である水と石鹸、ついでに先程消化したペットボトルの水を補給することが出来た。
シャボン液を作成しながらシーザーはこれからの自分の身の振り方を考える。
(もしも柱の男達がこの会場に居ると言うのなら、俺たち波紋の戦士が必ず倒さなくてはならない。
ジョジョやリサリサ先生もそう思うだろう…
俺やジョジョのじいさん…ウィル・A・ツェペリとジョナサン・ジョースター、それにスピードワゴンさんなど会っておきたい人物も居る。
…まずは仲間に会いに行こう。柱の男の力は強大だ。戦力を増やしておかねば…)
-
このゲームが開始されてから3時間余りが過ぎた。
既に犠牲者は出ただろうか…。ジョジョの奴はあれでタフな男だし、俺より遥かに強い先生も心配無用だろう。
うかうかしてられない、これといった当ては無いが、とにかく外へ出て人を探すか…
そう思いながらシーザーは完成したたっぷりのシャボン液を手袋に込める。
これで戦闘の準備は万端だ。いつ戦いになっても100%の力で戦える。
補給したペットボトルの水をデイパックにしまおうとした時、シーザーはふと気付いた。
ペットボトル内の水に『波紋』が拡がっている。
シーザーはリサリサの元で30日間の厳しい修行を終え、操る波紋の力も数倍にまで膨れ上がっていた。
そして修行の間装着していた『呼吸法矯正マスク』のおかげで、普段の生活からも常に波紋の呼吸を行うという習慣が身に付いている。
ペットボトルを手に取った時、無意識的に水に微弱な波紋を流し簡易的な『波紋探知機』が完成した事はシーザーにとって幸運だった。
(何者かの気配ッ!背後かッ!)
ギラリッ…
シーザーは瞬間!後ろを振り向く事も無く、身体を捻りながら前方に跳躍するッ!
同時に首筋に鈍い風切り音が通り過ぎた。コンマ1秒でも反応が遅れていたらシーザーの首と胴体は互いにオサラバしていたろう。
ほんの一瞬の差でかろうじて身をかわす事に成功し、シーザーは空中を飛びながら体を反転させ、着地して襲撃者と向かい合う。
「…背後から有無を言わさず急所狙うとは…卑怯なりッ!どうやら聞くまでも無くゲームに『乗った者』らしいな…
貴様ッ!名を名乗れィッ!」
「……人様に名前を聞く時はまず自分からってな。オレが無礼と言うのならそれはお互い様だぜ?」
-
シーザーは目の前の男を見やる。
網目模様の服を着ており、髪は金髪、そして何故か乗馬用のヘルメットを被っており、そのメットには『Dio』という文字の装飾がデカデカと飾り付けられていた。
そして何より男の眼は鋭く尖った眼光をシーザーに向けて放っていた。
その眼は酷く冷酷!残忍!そして隠す気の無い殺気がシーザーを捕らえる!
男の眼を見た時、シーザーは最初に「この眼は…どこかで見たことがある…」と感想を抱いた。
(そうだ…俺が青春と未来の全てを捨ててやさぐれていたあの頃…ローマの『貧民街』でクソッタレな日々を過ごした時代。
コイツの眼と臭いは『あの頃』の俺と似ている。貧民街で育ってきた眼だ…
それだけではない…昔、スピードワゴンさんから見せてもらった事がある『写真』…。
50年前に確かに死んだはずの男、『ディオ』に似ている…似すぎている。というか、メットに思い切り『Dio』と書かれているが…)
「貴様…もしや『ディオ』か」
シーザーは己の疑問の確信を取る為に目の前の男に尋ねた。
「ん…?おや…。どこかで知り合った事があったか?オレはお前の事を知らないと思うんだが…いや、待てよ?
オレもお前を見たことがある気がするな。どこだったか…あぁ!思い出したぜ、最初の会場でオレの前にアホみたいに突っ立ってた野郎だ。
そのダサいバンダナを見て思い出したぜ。そうかそうか、成る程…ならば『都合が良い』な」
なにやらわけのわからぬ事を言って軽く笑う目の前の男は、この殺し合いの会場においても随分余裕があるように見える。
(何だ…コイツ?ムカつく笑みを浮かべやがって…。だが、皮膚にビリビリ刺さるこの感覚、奴の『殺気』は依然解かれていない。警戒を怠るな…)
「そうだな…これからくたばるお前に名乗る必要は全く無いが、確かにオレは『Dio』だ。『ディエゴ・ブランドー』。これでお気に召したかい?」
(『ディエゴ』…名簿の『DIO』(ディオ・ブランドー)とは似ているが別人か。だが、コイツが誰だろうが関係ない!敵ならば倒すだけだッ!)
「成る程、Dio…。俺の名は『シーザー・アントニオ・ツェペリ』ッ!どうやらかなりクレイジーな奴みたいだが、向かってくるなら返り討ちにしてくれるッ!」
-
シーザーはすかさず戦闘態勢をとる。先程攻撃された時は何か鋭い得物のような物で攻撃してきた。見たところ刃物などは持ってないようだが、油断は出来ない。
一方ディエゴは腰を少し低く落としただけで、腕をプランとだらしなく下げているのみ。これから一戦交えようとしている様には見えない。
その態勢のまま今度はディエゴがシーザーのことを思案する。
(シーザー・ツェペリ…こいつはジャイロの奴の親戚か何かか?だとすると一応『鉄球』には気をつけておくか。見たところ素手でこのオレと戦る気のようだが…
それにオレの能力『スケアリー・モンスターズ』にどこまで制限が加えられているか…コイツで実験してみるのも良い機会だ。
最初に出会った敵がコイツで『丁度良かった』ってとこだな)
心の中でニタリと笑ったディエゴは次にシーザーに対してとんでもない事を言った。
「シーザーとか言ったな。予告するぜ。これからオレはお前に『触れずして』倒して見せよう。勿論、武器も使わずにな。
さぁどうした?かかってこいよシーザー・ツェペリ」
そう言ってディエゴは人指し指をチョイチョイと曲げ、シーザーを挑発する。これにはさしもの波紋戦士シーザーも意表を突かれた。
「触れずに俺を倒す…だと?ハッ!ナメられたものだ。不意打ちで人を攻撃してきた奴の言う台詞じゃあないな!
後で負けた時にそれを言い訳にするんじゃねえぜッ!いくぞッ!必殺ゥ〜〜…ッ!
奥義波紋『シャボン・ランチャー』ッ!!」
シーザーはパシンッ!と勢いよく両手を合わせ、たった今生成したばかりのシャボン液を手袋内で混ぜ合わせ、幾多ものシャボンの玉を発射したッ!
波紋のエネルギーを包み込んだその無数のシャボン玉はディエゴに向かって突進していくッ!
「…シャボン玉?ほぉ、是非カメラに一枚収めておきたい妙技だが、そんなねむっちまいそうなのろい技でこのDioを捕らえられるか?」
シーザーの鮮やかなるシャボンの奥義を目の当たりにしながらもディエゴは余裕な態度を崩さない。
次の瞬間、ディエゴの顔の皮膚の一部がパリパリと崩れ落ち、ヒビが入る。その口には牙までが光っていた。
「『スケアリー・モンスターズ』。恐竜の動体視力の前ではどれほど瞬速の攻撃も意味を成さない。
アクビが出そうだな。ネムくて死にそうだぜ」
ディエゴはそう言って自身のスタンド能力を発現させ、『恐竜』の動体視力を持ってシャボンの群れを難なくかわした。
その身体能力を目の当たりにしたシーザーは、しかし自分の攻撃が全て避けられた事よりもディエゴの『異様』な姿の方に驚きを隠せない。
-
(な…なんだあの野郎の姿は!?皮膚は割れ、牙が生え、尻尾まで伸ばしているぞッ!?
まるで図鑑で見るような太古の恐竜そのもの…屍生人や吸血鬼とはまた違う生物!
俺のシャボン・ランチャーをあの場から一歩も動かずに全て回避しただとッ!さっき俺を攻撃したのはあの鋭利な爪かッ!
果たして俺の波紋は効くのか…!?)
シーザーの動揺した姿を見て気を良くしたのか、ディエゴは更にニヤついた顔を見せて相手を煽った。
「おいおい、まさかもう終わりではないだろう?
水芸ってのは人を楽しませる為にあるんだぜ。もっとオレを楽しませて見せろよ、曲芸師」
「……!…フフフ。俺の自慢の波紋シャボンを『水芸』扱いか。
確かに、あながち的外れではないかも知れぬ表現だ。『波紋』と『水』は相性が良い。
ならば次の攻撃はどうだッ!『シャボン・カッター』ッ!!」
シャボン・ランチャーに続いてシーザーが繰り出した次なる奥義は『シャボン・カッター』。
シーザーが先のブラフォード戦において使用した『波紋カッター』とシャボンの応用技である。
高速回転による遠心力を利用し、シャボンと融合した円盤状の波紋カッターが相手を切り裂きッ!更にその傷口から波紋を直接流す攻撃だッ!
シャボン・ランチャーよりも格段に強く、疾い波紋を纏った高速のカッターがディエゴを襲うッ!
だがディエゴはッ!その至近距離からの無数の高速攻撃すらも嘲り笑うッ!
「どうやらお前はシャボン玉を飛ばすぐらいしか能の無いスカタン野郎みたいだな。無駄だ。無駄。
銃弾だろうが何だろうが、恐竜の動体視力には……むッ?」
「気付いたようだなッ!だがもう遅いぜッ!波紋を纏ったシャボンは『そう簡単に割れはしない』ッ!
前と後ろからの同時攻撃の秘殺技!サンドウィッチのハムになりなッ!Dioッ!!」
ディエゴの余裕をあざ笑うかのようにシーザーは指を立てて挑発する。
見るとディエゴの背後からも無数のシャボンがディエゴに向かって襲ってきているッ!
シーザーがさっき撃ったシャボン・ランチャーが壁を反射してきたのだッ!波紋のシャボンは割れる事は無く、まるでビリヤードの玉の様にその全てが背後から再びディエゴに牙を剥くッ!
前方からはシャボン・カッター!後方からはシャボン・ランチャーの同時二方攻撃!
「成る程。攻撃の更なる『先』を読みつつ、相手をハメる…。どうやらそれなりに場数を踏んだ手練の戦士らしいな。
…だが、フフ…。言った筈だぞ、『無駄』だと。恐竜の身体能力をナメるなよ」
ディエゴはこの期に及んでまで白い牙を光らせニタリと笑うと、次の瞬間目にも止まらぬスピードを持って『跳躍』したッ!
その跳躍の疾さと高さはおよそ人間とは思えない程の動きだった。
ディエゴは跳びながら宙を回転しつつ、鮮やかに離れた床に着地してシーザーに向きなおす。
シーザーの奥義と策はまたしてもディエゴに軽く躱され、シャボンは空しく部屋中に舞うのみ。
しかし、余裕の表情を崩さないのは今度はシーザーだった。
-
「やはりな……。『避けてくれる』と思ったよ。
お前が人間なのかどうかは分からんが、その卓越した身体能力は俺にとっても脅威。あの『柱の男』にも引けをとらないかも知れない。
だがお前にためになる事を教えてやるぜ。2500年前の中国の兵法書の『孫子』の格言にもある。
『虞(ぐ)をもって不虞(ふぐ)を待つものは勝つ』…。つまりだ、説明するとDio…
『万全の態勢を整えて油断している敵に当たれば勝つ』。
このシーザー・ツェペリをナメてかかった貴様の負けだッ!足元を見なッ!」
その時、ディエゴは着地した自分の足元の床がヌルヌルと滑っている事に気付いた。
誇らかに叫んだシーザーの手には空になった『油の容器』が握られている。
「お前が大道芸をお披露目してる間に床に撒かせて貰ったぜッ!ここは『厨房』!油なんて捨てるほど置いてあるッ!」
「…それで?コイツでオレを滑らせて頭を打たせようって魂胆か?」
ディエゴにはシーザーの意図が見えないでいた。
油を撒いたから何だと言うのだ。まさか本当に足を滑らせようという作戦ならば幼稚を通り越して陳腐とも言える。
だがディエゴは知らない。『波紋』の事を。
波紋は水や油などの液体を伝わり、波紋エネルギーを保つ。
そして特に、油は波紋伝導率100%となるッ!『波紋』と『油』は非常に相性が良いのだッ!
「頭を打つならコイツを浴びて気絶した後だぜッ!喰らってイナカへ帰りなッ!
液体を駆け巡る波紋!青緑の波紋疾走(ターコイズブルーオーバードライブ)!!」
バチバチと電気のような波紋を腕に纏わせ、シーザーは勢い良く床面目がけてその右腕を打ち付けるッ!
その鋭く磨かれた強力な波紋はまるで地面を走る雷の様に油を伝わり、ディエゴを襲ったッ!
バ チ ィ ッ !
「――――ッッ!!??ガッ…ハッ……ッ!!!」
-
波紋を知らないディエゴはシーザーの行動にいちアクション遅れてしまった。
一瞬で身体の隅々を駆け巡るシーザーの波紋。
生まれて初めて味わう『波紋』の感覚にディエゴは堪らず両膝を突く。
「……っ!!かっ、ハァーーッ…ハァーーッ…クッ!お、前…さっきから…妙な技を使う…な…」
(波紋…だと…。コイツはスタンド使いではなさそうだが、未知の力を使う…。ジャイロ・ツェペリの『鉄球』の様な『技術』の進化ってとこか…?)
ここまで戦闘を優位に立っていたディエゴはその内心、少し焦っていた。
己のスタンド能力『スケアリー・モンスターズ』にどこまで制限が掛かっているかを調べる為にこの男を『実験台』に決めたのは良いが、波紋戦士シーザー・ツェペリは思った以上に『強敵』であった。
この紅魔館に一人でノコノコ近づいてくる者の『ニオイ』を感じ取り館内で待ち伏せするという選択をしたというのに、このままでは『返り討ち』というマヌケな結果を残してしまう。
(やれやれ…大統領の奴と同盟を組んだ出だしからこれじゃあ、この先が思いやられるな。こんな奴らが90人も集められてるってのか?
…だが最後にこのゲームの『頂点』に立つのはこのディエゴ・ブランドーだ…ッ!お前らじゃあないッ!)
ディエゴがその深い野心をメラメラと煮え滾らせているとは知らぬ風のシーザーは、波紋を喰らわせた相手が未だ意識を持ってこちらを睨めつけてる事に半ば呆気にとられつつも、すぐさま追撃の構えを取る。
「…!俺の波紋を喰らって意識があるとは…だがッ!もうしばらくは動けまいッ!
これでトドメといかせて貰うッ!シャボン・ランチャーッ!」
シーザーがディエゴにとどめとして対して放った技は再びシャボン・ランチャー!
驚異的な身体能力と『恐竜』を思わせる異様な姿から、接近戦は不利だと判断したシーザーはあくまで『遠距離攻撃』を選ぶ。
しばらくはマトモに動けないであろうディエゴには今度こそシャボンの攻撃を回避することは不可能だ。
喰らえば数時間は昏睡状態を免れない無数のシャボン玉がディエゴの眼前まで迫るッ!
-
「フン…こんなものは避ける必要は全然無いな。行けッ!我が『恐竜共』よッ!」
そう叫んだ直後、すかさずディエゴの背後から何かが飛び出す!
ディエゴの『恐竜』だッ!翼を持った小さな『翼竜』が十数匹、突然ディエゴの背から滑空して来る!
その恐竜はシャボン玉の一つ一つに向けて突進していき、ディエゴの『盾』となって主人を守った。
シャボンの波紋を喰らった恐竜は「バチッ!」と音をたてて1匹、また1匹と次々と床へ撃ち落されてゆく。
そして、波紋のショックで気絶した恐竜達が次第に『別の生物』へとその姿を変えてゆく…
「な…何ィッ!?これはッ!!」
シーザーが驚くのも無理は無い。
何故ならさっきまで翼竜だった生き物が、『ミツバチ』へと変貌していったのだから。
(これは!さっきのブラフォードとの戦いで俺が使用したミツバチが恐竜にッ!?
Dio…奴は自分だけでなく、他の生物までをも恐竜に変化させて操る事が出来るのかッ!?)
シーザーはまだ記憶に新しい、先の黒騎士ブラフォードとの熾烈な戦いを脳裏に思い出す。
彼との戦闘において使用した『波紋ミツバチ』戦法だが、この時C-3エリア中に数千匹のミツバチが逃げ出した。
そしてそのミツバチをまんまとDioに盾として利用されてしまったッ!
「ん?何を驚く?…あぁ、もしかしてこの蜂はお前の『支給品』か何かだったのか?
どうやらこの会場には小動物どころか虫の1匹も居ないみたいで、操れる『ペット』が見つからなくてな…。いや、ほとほと困ってたんだ。
そこへこの館周辺までミツバチが何匹か飛んで来たんでな。迷わず『恐竜化』して捕らえてやったわけだ。礼を言うぜ、シーザー」
皮肉めいた目でディエゴはニタリと笑う。
自分に危機が迫っていたとはいえ、一瞬の躊躇もせずに部下の恐竜を盾にするその無情の判断力にシーザーは戦慄する。
だが、今のディエゴはシーザーの流れる波紋を喰らってしばらく身体は動かせないハズ。
(だと言うのに何だ?奴のあの『余裕』は…?)
シャボン・ランチャーを全て防御しきったとはいえ、ディエゴの恐竜にも限りはあるハズ。
シーザーの次なる攻撃には耐えられないかもしれない。いや、敵の恐竜はもう殆ど『使い切った』可能性の方が高い。
状況的には既にシーザーの絶対有利。だというのにシーザーにはディエゴの不敵な表情に不安が拭い切れないでいた。
―――奴にはまだ、こちらに見せていない『切り札』がある―――
シーザーの過酷な戦闘の経験から来る『カン』が、彼の心に警鐘を与えていた。
-
(俺は最初コイツを見た時、かつての俺の眼と『似ている』と感じたが…俺が思った以上にコイツの『闇』は深い。
コイツの眼は世界中の全てを『見下した』眼だ…ッ!社会の全てを憎んでいる眼ッ!
この男は何を考えているのか分からない。危険だッ!)
シーザーは目の前の男を今この場で『排除』すると決めた!
「コオオオォォォォ〜〜〜………ッ!」
精神を研ぎ澄まし、体の隅々まで波紋のエネルギーを巡らせる。毎日のように鍛錬してきた波紋の呼吸法だ。
水に波紋を起こす様に『呼吸法』によって『肉体』に波紋を起こしてエネルギーを作り出す。
体中の血液は『酸素』と共に全身の体細胞に凄まじいパワーを送り、その全てがシーザーの両手に集まる事で『最大のシャボンパワー』を磨き出したッ!
その究極に研ぎ澄まされた波紋を包んだシャボンを喰らえば、どんな者だろうと立ち上がることなど出来ないだろう。
シーザーは最後の攻撃を未だ膝を突いたままのディエゴに対して、最大限解き放つッ!!
「これが最後だDioォォオオーーーーッ!!!『究極』のシャボン・ラン…………ッッ!!??」
ガクリッ!
「……ッッッッ!!?」
パ チ ィ ン ッ !
―――シーザーの最大のシャボン玉は、ディエゴに届く事叶わず、無残に割れ散った。
-
(……ッ!?な…に……?何だ…体が……思う様に、動かん…………っ)
シーザーの体が崩れ落ちるように、しかしスローモーションにも見えるように、ゆっくり倒れてゆく。
だが、寸での所で崩れゆく体を片膝で支えた。
何をされた。体に力が入らない。
俺は、何をされたんだ。波紋が思う様に練れない。
『毒』でも使われたか。意識が段々薄れてゆく。
いや、こいつは俺に『触れてもいない』筈だ。
シーザーはとうとう膝で支える力すらも失い、地面に倒れ伏した。
眼前のディエゴは不気味に微笑み、波紋の衝撃が抜け切らないまま、ヨタつきながらも立ち上がろうとする。
「波紋…か。恐ろしい力だ…まだ全身がビリビリするぜ。いや、マジに恐れ入ったよ、シーザー。
人間というものは修行次第でそういう不思議な力を体得できるものかってね。
だがなシーザー。スタンド使いって奴も中々どうして凄い事が出来るんだよ。頑張ったお前に特別に教えるぜ。
オレのスタンド『スケアリー・モンスターズ』は虫や動物だけじゃあない。『人間』だって恐竜に出来るんだ。
相手の体にチョイと傷を付けてやれば、時間は掛かるが次第に『恐竜化』が拡がっていくんだよ」
-
(段々と呼吸が苦しくなってきた…。スタンド使い……人間の恐竜化だと?)
(Dioの言っている意味が分からない。俺はいつ『奴』に触れられタ?)
(そんなタイミングなどナカッタ…)
(奴の奇襲を受けた最初の時も攻撃はギリギリ避わシタ筈だ…)
(『最初』の……サイショ……)
―――シーザーとか言ったな。予告するぜ。これからオレはお前に『触れずして』倒して見せよう。勿論、武器も使わずにな。
さぁどうした?かかってこいよシーザー・ツェペリ―――
(――――――ッ!!)
―――ん…?おや…。どこかで知り合った事があったか?オレはお前の事を知らないと思うんだが…いや、待てよ?
オレもお前を見たことがある気がするな。どこだったか…あぁ!思い出したぜ、最初の会場でオレの前にアホみたいに突っ立ってた野郎だ。
そのダサいバンダナを見て思い出したぜ。そうかそうか、成る程…ならば『都合が良い』な―――
「まさカ……ッ!『最初』か…ッ!Dio…貴様…!最初ノ…『アノ会場』か……ッ!
アノ時、スデに………ッ」
「…お前、さっき『孫子』とかをひき合いに出したな。それならオレも知ってるぜ。例えばこんな言葉もある。
『勝利というのは戦う前に全て既に決定されている』…つまりだ、説明するとシーザー…。
『真の戦闘』ってのは、戦う前に敵に気付かれないよう色んな作戦を練っとくのさ。
最初に集められたあの会場で『念のため』目の前の男の身体に傷をちょっぴりだけ付けておいた。
『たまたま』だよ。お前が『たまたま』選ばれただけさ。運が悪かったなシーザー?」
(リサリサ…センセイ…………………………ジョ………ジョ………………………………)
白くモヤがかかったシーザーの頭の中で、最後にディエゴの妖しい囁きが聴こえた
―――感謝するよ……シーザーさようなら。お前は『こうするために』このバトル・ロワイヤルに来たと考えろ―――
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――― <黎明> 紅魔館 二階 主の間 ―――
………
……
…
『……もしもし。ヴァレンタインだ。聴こえるか?Dio』
「おぉ。マジで聴こえるな。電話線も無いのに一体どういう技術なんだ?」
『…イタズラ電話なら切るぞ』
「待ったっ。待てって切るなよ。定期連絡だよ、定期連絡」
『…その後、館に近づいてくるニオイの持ち主とかいうのはどうなった?』
「あぁ、名簿にあった『シーザー・ツェペリ』という男だった。妙な技を使う奴だったが、オレの『ペット』にさせてもらったさ。
しばらくはコイツを利用させてもらう事にした。そっちはどうなんだ?」
『…つい今しがた、『ジョースター邸』の側で参加者に遭遇した。名簿の『ブラフォード』、そして『火焔猫燐』の2名だ。
ブラフォードは葬ってやったが、火焔猫燐は私の部下として動いてもらう事になった。彼女には手を出さないで貰いたい』
「『火焔猫』…?確かあの『幻想郷縁起』の書物に載っていたな。『火車』とかいう猫の姿をした妖怪だったか?
…どうしてまたそんな奴を部下に?」
『…なに、使える手駒は増やしておいた方が良いだろう。それよりも次は『支給品』の情報だ。まずは私の得た支給品から教えようか。
ブラフォードの支給品は楼観剣という長刀だ。東洋の武器にはさほど詳しくない私だが、かなりの名剣だろうという事は感じるよ』
「『剣』ね…じゃあ次はオレだ。こっちはシーザーから奪った物だが2つある。まずは『馬』だ。
あの憎きジョニィ・ジョースターの愛馬…『スロー・ダンサー』だっけ?」
『ジョニィ・ジョースターの…?』
「あぁ。持ち主に似て知性も無さそうで、ロバよりすっトロいんじゃあないのか?
おっと、その馬だが大統領。先程アンタの所へひとっぱしり走らせたぜ。オレからの『餞別』だと思って自由に乗り回してくれ」
『…良いのか?』
「せっかくの同盟関係だ。オレには可愛いペットが居るし、いざとなったら恐竜の姿で走れるからな。
ここから近いし、馬は『恐竜化』させてアンタのニオイを追跡しているから迷う事も無いだろう。だが気をつけろよ大統領。
馬や人間の様に知性が高い生物は恐竜化できる『射程距離』に制限が掛けられているみたいだ。
おおよそエリア一つ分、つまりオレから半径1km以上離れると恐竜化が解ける。さっき色々実験してみて分かった事だ」
『成る程な。有難く受け取らせて頂こう。…それでもう一つの支給品とは?』
「蜂だ。大量の『ミツバチ』を手に入れた。オレからすればこっちのほうが『アタリ』だな。
コイツもさっき、この紅魔館から数十匹程『翼竜化』させてあちこちに飛ばしてきた。
ミニサイズだが情報収集にはかなり役に立つだろう」
『ほお…そいつらを上手く活用すればこのゲーム、相当有利に立ち回れるな』
「そこでオレからの提案だ、大統領。
これからオレはこの会場のあらゆる『情報』を恐竜共から聞き、そして今居る紅魔館からこの『通信機』を通してお前に伝える。
誰々が何処のエリアに居るとか、何処で誰が戦っているとかだ。お前にはその指示を受けて動いて欲しいんだが、どうだろう?」
『…大統領であるこの私がお前の命令に従って動けと?自分は物見櫓の上から動かず指示だけ出すとは、随分偉い立場になれたな…Dio?』
「おいおい、そう怒らなくても良いだろう?司令塔としてはお前の方が優秀なのかも知れないが、お前は恐竜の言葉が分かるってのかい?
それにこれから先、この紅魔館にはゾクゾクお客さんがやって来るかも知れないんだ。そいつらをオレは全員おもてなししなければいけないんだぜ。
なに、腹が減ったら恐竜を使ってピッツァの1枚でも配達させてやるよ。アメリカでは今流行りらしいからな」
『ここはアメリカではないんだが…まぁ良いだろう。だが情報というのはこのゲームを大きく左右する。頼んだぞ、Dio』
「…仰せのままに。大統領閣下殿」
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紅魔館の二階、西洋風の造りを装った薄暗い部屋の中央。
普段はこの館の主である吸血鬼『レミリア・スカーレット』がその権威とカリスマを以って部下達を屈服させるためにある高貴なる椅子に、現在はディエゴが足を組み、座していた。
(ここは『紅魔館』…吸血鬼である『レミリア・スカーレット』の住まう館…。ならばその主はいずれこの場所に戻ってくる可能性が高い…。
吸血鬼とやらがどれほどの力を持っているかは定かじゃあないが、『用心』しておかなければならないだろう。
この館の周りには特に厳重な『警備』を常に敷いておき、誰かが近づけばすぐに対応するべきだな…)
(そしてオレの能力『スケアリー・モンスターズ』の制限については大体『理解』した…
①傷を付けて恐竜化させる場合、オレが近くに居ないと『感染化』が始まらない。何キロも離れた相手を恐竜化させるのは不可能ってワケだ。
(あらかじめ最初に傷付けておいたシーザーはオレが接近した直後から『感染』が始まった)
②半径1km以上離れると恐竜化は解かれるが、小動物や虫などの『小型』には距離の制限は殆ど無い)
(フン…忌々しい枷だ。荒木と太田め…このDioにナメた真似をしてくれる。
…だが、奴らとはいずれ会わなければいけない。『ブッ殺す』にしても『利用する』にしてもだ。
そうだ。全て利用してやる。全ての参加者とあの主催者共すらも踏み台にしてオレは登り詰めてやろう…)
(大統領にも全ての情報を渡すつもりは無い。奴に適当な情報を渡しつつ、オレはオレでやらせてもらうぜ。奴もその事を承知の上だろう…
全員出し抜いてやる…。最後にこの世界の『頂点』に立つ者は、この『Dio』だッ!)
―――お前も、そう思うだろう…?シーザー・ツェペリ―――
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腹の底にドス黒い『野望』を抱えながら、ディエゴは足元に跪く−最早全ての自我を失った―恐竜をその足で踏みつける。
シーザーの眼には既に光は無かった。あるのは主人であるディエゴへの『忠誠』と、血を求め、獲物を殺す肉食の『野生』の眼。
『傀儡人形』となったシーザーは、もう声を発する事も出来ない。戦友のために戦う事も出来ない。
―――シーザー・ツェペリは『敗北』した。
かつて世界の全てを恨んだ男は 『略奪者』となって栄光を奪うか
幻想郷に聳えた『悪魔の館』は 今や『恐竜の王国』となりて 世界を蹂躙し始める
『88の生贄の羊』を礎に ディエゴ・ブランドーは静かに笑う
『帝王』への道を ただ静かに 這いずる様に 登り詰める
Side.Diego Brando…END
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【C-3 紅魔館/黎明】
【ディエゴ・ブランドー@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康(波紋の攻撃は既に回復)
[装備]:なし
[道具]:幻想郷縁起@東方求聞史紀、通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、ミツバチの巣箱@現実(ミツバチ残り80%)
スロー・ダンサー@ジョジョ第7部(現在恐竜化して大統領に派遣中)基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。過程や方法などどうでもいい。
1:同盟者である大統領を利用する。利用価値が無くなれば隙を突いて殺害。
2:主催者達の価値を見定める。場合によっては大統領を出し抜いて優勝するのもアリかもしれない。
3:紅魔館で篭城しながら恐竜を使い、会場中の情報を入手する。大統領にも随時伝えていく。
4:レミリア・スカーレットには警戒しておこう
5:ジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。
[備考]
※参戦時期はヴァレンタインと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※主催者は幻想郷と何らかの関わりがあるのではないかと推測しています。
※幻想郷縁起を読み、幻想郷及び妖怪の情報を知りました。参加者であろう妖怪らについてどこまで詳細に認識しているかは未定です。
※この時間より、ディエゴの翼竜が会場全体の情報偵察に飛び立ちました。特に紅魔館周辺の警備は厳重です。
○『ディエゴの恐竜』について
ディエゴは十数匹のミツバチを小型の翼竜に変化させ、紅魔館から会場全体に飛ばしています。
会場に居る人物の動向等を覗き、ディエゴ本体の所まで戻って主人に伝えます。また、小さくて重量が軽い支給品が落ちていた場合、その回収の命令も受けています。
この小型恐竜に射程距離の制限はありませんが、攻撃能力も殆どありません。
傷を付けて感染化させる事は出来ますが、ディエゴが近くに居ないと恐竜化が始まりません。
ディエゴ本体が死亡または意識不明になれば全ての恐竜化は解除されます。
また、『死体』は恐竜化出来ません。
【シーザー・アントニオ・ツェペリ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:全身に軽い火傷と切り傷、現在恐竜化
[装備]:なし
[道具]:シャボンの手袋以外ディエゴに奪われる
[思考・状況]
基本行動方針:ディエゴの支配を受ける。
1: …………。
※参戦時期はスイスのサンモリッツ到着直後です。
※火焔猫燐の黒猫形態を、人間形態と別個体だと思っています。
○スロー・ダンサー@ジョジョ第7部
元天才騎手ジョニィ・ジョースターの愛馬。
他の参加者の馬に比べ高齢だが、老いた馬は経験があるので未知の地形で無茶をしない。
平地騎手のジョニィの技に耐えており、体力でも他の馬に劣らない。
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前編の投下終わりました
ホントはもっと短くまとめるつもりだったのに・・・編集力が欲しいです
後編は明日の同じぐらいの時間に投下できると思います。多分、恐らく・・・
感想等々あればよろしくお願いします
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いいねー
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投下乙です
普通に予約期間内に投下できるなら分割しなくても良いような気がします
ブラフォード逝ったか・・・、描写ないけど
波紋VS恐竜の手に汗握る戦闘描写見事でした
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前編投下乙です!
ディエゴはやっぱり序盤から終盤までジャイロ達と競い合っただけに相当厄介な男だな
ミツバチとシーザーの恐竜軍団を形成して着々と足場を固めているだけに今後も狡猾に立ち回りそうだ
しかしブラフォードを始末したって言う大統領からの連絡も気になる…
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投下乙です
さすがディエゴ!
その知略に痺れる憧れるゥ!
シーザーは善戦したけどこれで実質リタイアですね……残念
さて、大統領がブラフォードを始末したって言ってましたけど果たして…?
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紅魔館には紳士淑女と主人公コンビが向かってるんだよな。柱の男やDIOも日光避ける為に向かう可能性があるし
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うん…まあ頑張れDio
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>>755
逆に承太郎霊夢も紳士淑女も柱の男も全員恐竜化してジョジョロワ3rdのDIOみたいに無双するかもしれないぞ
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承太郎霊夢はジョースター邸も目指してたし先に大統領とぶつかる可能性が…?
下手すればDioから恐竜で援護も入るし一筋縄では行かなそう
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ブラフォードはマジで死んだんだろうな
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ブラフォードが持ってる聖人の遺体はどうなったんだろう 大統領が食いつかないハズはないが
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聖人の遺体を揃えてもラブトレインできないけどね
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すげーさりげなく言ってるけど、お燐が大統領の部下になったとはどういうことなのだ
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食い付いたとしてもDioに報告するワケはないんだよなぁ…
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いかん、書き忘れというか訂正が・・・
原作においてフェルディナンド博士がやっており、ディエゴ自身はそんな描写無かったと思いますが、念のためディエゴの恐竜に恐竜化への感染能力は無いとしました。あったら強すぎるのでw
したがって以下のように訂正します
○『ディエゴの恐竜』について
ディエゴは数十匹のミツバチを小型の翼竜に変化させ、紅魔館から会場全体に飛ばしています。
会場に居る人物の動向等を覗き、ディエゴ本体の所まで戻って主人に伝えます。また、小さくて重量が軽い支給品が落ちていた場合、その回収の命令も受けています。
この小型恐竜に射程距離の制限はありませんが、攻撃能力も殆ど無く、相手を感染させる能力もありません。
ディエゴ自身が傷を付けて感染化させる事は出来ますが、ディエゴが近くに居ないと恐竜化が始まりません。
ディエゴ本体が死亡または意識不明になれば全ての恐竜化は解除されます。
また、『死体』は恐竜化出来ません。
失礼いたしました
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ディエゴ・ブランドー、シーザー・アントニオ・ツェペリ、ファニー・ヴァレンタイン、ブラフォード、火焔猫燐
予定の時間より少し遅れましたが、以上の後編を投下します。
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――― <黎明> ジョースター邸 東 ―――
「あの荒木と太田とか言う男…君はどう思う?」
「…愚問だな。『自分』に質問しても仕方が無いだろう。私と君は全く同じ考えを持っているのだから」
「それもそうだな。
…『円卓のナプキン』。それを最初に取る事こそ我々の目的だったが…今その円卓に座っている者はこのヴァレンタインではないらしい。
あの『主催者共』だ。憎たらしい事にな」
「ああ…。だが、『それだけ』だ。奴らはまだ円卓に『座っているだけ』…ナプキンを『取れてはいない』。
『ナプキンを取れる者』とは万人から『尊敬』されていなくてはならない。『敬意』を払われなくてはならない」
「あの主催者共はこのような非人道的で狂った催しをあろうことか『楽しんでいる』。
そこに大した意図は無く、一種の『エンターテインメント』として、ただ自分達の暇潰しとして参加者を殺し合わせている」
「行き過ぎた『暴君』…。そんな奴らにナプキンを取る『資格』などありはしない。
あの二人を叩き潰し、最初のナプキンを取る者はこのヴァレンタインだ…ッ!他の誰でもないッ!」
「私も君と同じ気持ちだ。あのゲス共は必ず『叩き潰す』。そしてそのためには『どんなことでも』しよう…」
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C-3、ジョースター邸の東の平原にて月の光が地平の彼方に沈み掛ける闇夜の中、二人の男が互いに向き合って大地に立っていた。
一人は長髪にくるくるとパーマがかかった奇妙な髪型をしており、引き締まった筋肉が衣の上からでも良く分かるほどの良い体つきをしている。
そのどことなく気品さを感じさせる立ち振る舞いから、どこかの上流階級の雰囲気を纏わせる男の名は『ファニー・ヴァレンタイン』。
第23代アメリカ合衆国の大統領だ。
そしてもう一人、ヴァレンタイン大統領の前にいる男もまた、『ヴァレンタイン』だった。
この世界の『隣』にあるという無限に連なる『平行世界』。
『基本世界』とそっくりなその世界を行き来できる事が大統領のスタンド『D4C』の能力である。
大統領は自分のスタンドが正常に機能するかの確認の意味も込めて、現在『隣の世界』でもう一人の大統領と相談している。
この異様な会場においても、D4Cの『隣の世界へ移動する能力』はとりあえず効果は存続しているらしい。この点は大統領にとってひとまず安心できる要素となったろう。
その時、別次元の大統領が視界の端に動くものを捉えた。
「…ん?」
「?…どうした?」
「今、向こうで何かが動いた。あの『ジョースター邸』の辺りだ。恐らく参加者の誰かだろう」
「参加者…成る程。早速というわけか」
「行くのか?」
「あぁ。『基本世界』に戻り、そいつらと接触してみるとしよう。…頼めるかい?」
基本の大統領がそう言うと、隣の大統領は頷いてから基本の自分に向かって歩き出す。
次元を行き来するには大統領自身が何かに『はさまる事』で移動できる。自分が近くにいるのならそいつに地面に『押し込んで』もらう方が手っ取り早い。
隣の大統領は、基本の自分を地面に押し込んでゆく。相手を『自分』と『地面』の間に挟み込む事で基本世界に送るのだ。
彼らは帰り間際に、少しだけ会話を交わす。
「無事、ナプキンを取ってくれ」
「勿論だ。ありがとう」
後には、一人残った大統領が静かに夜風に吹かれて立ち尽くしていた……
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――― <黎明> ジョースター邸裏 ―――
「お兄さん、傷はもう大丈夫?歩けるようになった?」
「なんとかだ…。しかし信じられんな。こんな干からびたミイラみたいな脚で歩けるようになるなど…。
しかも、何か分からんが物凄い『エネルギー』を感じる…」
「この紙には『聖人の遺体』って書いてるけど…ねえお兄さん、『せーじん』ってなに?」
「聖人…?確か『死んだ後に奇跡を2度起こした人物』を言うんだったか…?この死体が聖人の遺体…?」
「死んだ後に…?うーん、奇跡を起こせるあの巫女も流石に死んじゃったらそれまでだよねぇ…
…ん?今気付いたけどお兄さんのその死体の足、何か掘ってあるよ?」
「何?…これは、ラテン語か…?うむ…『Movere Crus(モヴェーレ・クルース)』意味は…『脚を動かせ』。
どうやら聖人の『奇跡の力』とやらで俺は遺体の脚と一体化して、今動けているらしいな」
「はぇ〜〜…。何だかよくわかんないけど、とにかくお兄さんが無事歩けるようになって良かったよ!」
そう言ってこの赤毛の少女―火焔猫 燐は黒騎士ブラフォードに向かって屈託の無い、太陽のような笑顔を浮かべる。
そのあたたかい笑顔にブラフォードはかつて自分が忠義を尽くした主君、メアリー女王と重ねた。
親も兄弟もいない天涯孤独の身だった自分に惜しみない微笑みと慈愛を懸けてくれた主君はもう、いない。
(俺の今の主君はディオ様だ。あの方の為ならば俺は命すら投げ打つ覚悟がある。だがこの娘は…)
ブラフォードはどこか堪らない気持ちになってお燐に尋ねる。
「…おい、娘よ」
「『娘』じゃなくって!オ・リ・ン!さぁさ!もっかい言った言った!」
「…オリンとやら。お前、主人を探してると言ったな。…会いたいか」
ブラフォードは至極真摯な表情でお燐に聞く。お燐はブラフォードのいきなりの質問に少々戸惑いながらも答えた。
「え…。そ、そりゃあ会いたいさ。…会いたいよ。今すぐにでも…会って、いつものように頭をなでられたいよ…
さとり様はホントは、寂しがり屋なんだ。色んな人達から嫌われてる部分もあるし、会って安心させたいし、あたいも安心…したいよ。
そういえば、おくうもこの会場に…来てるんだった…。こいし様も…皆、だいじょ…かなぁ……っひぐ…っ」
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お燐はいつの間にか涙を流していた。
自分だけではない。大切な家族の皆までこの恐ろしい殺し合いの場に召喚されているのだ。
怖かった。
死ぬのが怖くてたまらなかった。
もし大好きな主人のさとりやこいしが死んだりしたら。
親友の空と二度と会えなくなったりしたら。
そんな『イメージ』が頭を一瞬よぎってしまったら、もうその光景は離れない。
「……悪かった。………泣くな」
ブラフォードはそんなお燐を見て、自分が少々無神経な事を言ったかもしれないと気付き、謝罪する。
「ん…ううん。お兄さんは全然悪くないよ。ゴメンね…。あたいがちょっぴり弱気になっちゃってたよ。
…うん!もう大丈夫!きっと皆も生きてるさね!元気だそう!」
お燐はその持ち前の明るさと単純さから、すぐに前向きになる。
いつでもどこでも誰にでも明るく振舞う彼女の強さは、この会場においても強い武器となった。
涙を拭きながらニッコリと微笑むお燐を見て、ブラフォードは茫然となる。
―もしこの少女の『家族』がこの殺し合いの犠牲になってしまったら…彼女はどうなってしまうだろうか―
(俺には家族はいない…だが、『守るべき主君』を失ってしまう哀しみは誰よりも分かっているつもりだ)
かつて守る事のできなかったメアリー女王。
彼女を失った時のブラフォードとタルカスの愁傷は、やがて怨念と妄執に形を変えてこの現代に蘇った。
今は仕えるべき主君―ディオ―が居るが、メアリーを守れなかった悲しみはブラフォードの記憶にこびり付いて剥がれる事は永遠に無いだろう。
やがてブラフォードが口を開いた。
「オリンよ。主君の名はさとりと言ったな。その者の捜索、このブラフォードが手伝おう」
「え!?で、でも…お兄さんはケガがまだ酷いし…」
「この両の足と髪の毛さえあれば充分。その内どこぞの新鮮な死体から生き血を貰えばすぐに回復するだろう。
まだ少々ぎこちないが、歩けさえすれば何処へも行ける。
戦ではな、オリン。片腕を失った兵はまだ戦える。だが足を失った兵は迷わず捨てられる。動けなければ戦う事すらままならないからだ。
俺はお前に少なからず感謝しているのだぞ?」
「…お兄さんはご主人様の所に戻らなくて良いの?」
「俺は元よりディオ様に『ジョナサン』を倒せとの命を受けている。
そして俺はまだその男と決着は着けていない。このままおめおめと主君の下へ帰るわけにもいかないだろう
なに、お前のご主人探しは俺がジョナサンを探すついでにやるものだと思えばよい」
「そっか…お兄さんにも探し人が色々居るんだね。じゃあ分かった!あたいと一緒に頑張ろう!
ありがとう、お兄さん!」
今度こそお燐本来の笑顔が戻ってきたように感じた。ブラフォードはそんな彼女を見て思う。
―もし自分に妹が居たとするなら、これぐらいの歳だろうか…。『家族』を持つ事があったなら『娘』を持つ未来もあったろうか―
人間としての生を終えた彼が、今更叶うはずもない儚い願望を持つ事は許されない。
一瞬だけ頭をよぎった『もしもの未来』はすぐに振り払われ、ブラフォードはお燐と共に歩み始める。
―――ブラフォードは無意識の内に、『この少女を家族の下へ返してやりたい』と感じ始めていた。
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「それじゃお兄さん!まずはこのでっかいお屋敷に入ってみようよ!ここなら誰か人が集まってるかもしれないしね!」
「『ジョースター邸』か…。あの『男』と何か関係がある館なのだろうな。いいだろう、入ってみるか」
「いや、館に入る事は出来ないよ。黒騎士『ブラフォード』。そして妖怪の『火焔猫 燐』だったかな?」
「ッ!?キサマ何者だッ!!」
「だ…誰だいッ!?」
ブラフォードとお燐の前から姿を現したのは、ヴァレンタイン大統領。
彼は二人をじっと見据えながら、まるでカーペットの上を歩む様な優雅さで暗闇の中から現れた…
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「君は『黒騎士』ブラフォードだな?そして隣にいる少女は『妖怪』の火焔猫 燐。
突然失礼して悪いが、私は名をファニー・ヴァレンタインという」
「キサマ…何故俺とこの娘の名を知っている?」
「妖怪にはちょっぴりだけ詳しいんでね…。彼女が『火車』とやらの妖怪の化け猫だという事はすぐに分かった。
それより私が気になっているのは『君』の事だよ、ブラフォード」
そう言って大統領はあくまで穏やかに語りかける。だがブラフォードは警戒を解かない。
この男は只者ではない。ブラフォードの勘がそう感じ取ったのだ。
「…もう一度聞こう。何故俺の事を知っている?」
「知っているさ。英国人なら誰もが知っている『伝説の騎士』ブラフォードとタルカス。
教科書にすら載っているという有名な二人だ。あの麗しきメアリー女王の忠実なる家来だったと聞く。
私も兵士の端くれだった頃には君の英雄譚をよく聞かされたものだよ。300年前に死んだ人物が何故この場に居るのかは私の知る由ではないがね」
「ほう…この時代にも俺の名が未だ根強く伝え聞かされていたとは、それも一つの『名誉』だな。
だがそれなら知っているだろう?俺が如何にしてこの世を呪い、人を恨んでいって死んだのかをッ!」
ブラフォードは少し誇らしげに、そして哀しみと憎悪が混ざった感情を眼に秘めながら大統領に尋ねる。
そんなブラフォードに対して大統領はまるで演説でもしているかのように淡々と語り続けた。
「あぁ、勿論知っている。女王エリザベスの卑劣なる策略によって謀られ、壮絶な処刑が行われて死んでいった事はな。嘆かわしい事だ…
なんでもブラフォード、君は三十キロもの甲冑を身に纏ったまま5キロの湖を渡りきり、敵陣を奇襲した逸話もある程の男。
それ程の『勇気』を持つ者がこの世の全てを恨み、怨念を遺したまま死んでいったとあっては余りにも報われない」
そして大統領は一呼吸置いてブラフォードに告げた。
「黒騎士ブラフォードよ。私の『部下』にならないか」
「…!?」
大統領が告げた言葉は、ブラフォードにとって予想だにしなかった申し入れだった。
世を憎み、既に人間を捨てた肉体である事を知ってなおも、大統領はブラフォードという男を部下として招き入れようとしているのか。
「ブラフォード。私は君に『敬意』を表しているのだ。
このファニー・ヴァレンタイン、アメリカ合衆国の大統領として。人々を束ねる『トップ』として、君が欲しい。
どうかその『剣』を私のために振るってはくれまいか」
「…………その『ダイトーリョー』というものが何なのかはよく分からんが、どうやらお前はあの大陸の『王』らしいな。
そしてその王が今、この俺に忠義を尽くせと申し出てきた…。本来なら名誉ある事なのだろうな……」
「お兄さん……」
ブラフォードはそう呟き、そっと眼を閉じた。隣のお燐もブラフォードを心配そうに覗き込んでいる。
…………そのまま辺りにはしばしの静寂が訪れた。
虫の声も戦いの音も、今は聴こえない。あるのは、霧の湖から流れる一本の川のせせらぎだけだ。
-
―――たったの数秒にも思えたし、数分にも感じる程に時間はじっくりと流れていった
大統領はブラフォードの顔を見つめたまま、その場から動じずにじっと返答を待つ。
お燐も今はブラフォードの言葉を待つことしか出来ない。
やがて、ブラフォードはゆっくりと眼を開き、目の前の男に答える。
「ありがとう、異国の王よ。だが俺は既にディオ様に忠義を誓った身。『騎士』としてのこの『誇り』は絶対に裏切れない」
「…ディオ」
「うむ。ディオ様は朽ちゆく俺に新たな生命と意義を与えてくださったお方。あの方を裏切れるであろうはずが無い」
(ディオ…名簿にもあった『DIO(ディオ・ブランドー)』という男か…ディエゴの奴とはまた別人のようだが…)
大統領はブラフォードの言葉を聞きながら、聞き覚えのある名前に疑問を持つ。
そのDIOという男は300年も前に死んだ戦士に新たな生命を与え、いまこの会場のどこかにも存在している。
得体の知れない男だ…。大統領はまだ見ぬDIOに対して用心の心を持つ。
だが今はそれより気になる事が2つある。1つは当然、このブラフォード。そしてもう1つは……
「成る程。天晴れな忠義心だ、ブラフォード。私はもっと早く君と出会いたかったものだな。
…ならば君にはもう一つ、『聞かなければいけない事』がある。その『脚』について。…そしてそこにある『耳』と『腕』についてだ」
大統領はそう言いながら、リヤカーの中に無造作に落ちている『死体』を指差した。
「あっコレはあたいの支給品だよ。何かよく分かんないけど『せーじんの遺体』だとか…。
両脚はこのお兄さんの無くなった脚にすっぽり吸収されちゃったんだけどね」
自分のデイパックに入っていた支給品の事を聞かれ、今まで殆どだんまりだったお燐がここで大統領の質問に代わりに答えた。
しかし質問に対するお燐の返答を最後まで聞かない内に、大統領の表情は次第に動揺の色が濃く表れてくる。
頭の中であらゆる思考が駆け巡り、やがて一つの結論へ導く。
―――私の恐れていた事が起こってしまった…ッ!
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―――私には『愛国心』がある
それは例えこの世のどんな奴にも侵害されてはいけないものであったし、いつも私を支えてきた『誇り』あるものだった…
全ては我が祖国の平和のために『絶対』と判断したからでこそ、今までどんな事にも手を染めてきた。
SBRレースを開催したのも、『スタンド使い』達に聖なる遺体を集めさせたのも、全て祖国の平和に繋がるからだと信じてきた。
聖なる遺体の唯一無二の絶対的パワーは、『幸せ』や『美しい』ものだけが集まり、『不幸』や『ひどいもの』はどこかへ吹っ飛ぶ。
それが人間世界の現実であって、あらゆる人間が『幸せ』になる事はありえない。
『美しさ』の陰には『ひどさ』がある。
『プラス』と『マイナス』はいつだって均衡しているのだ。
その遺体が『ルーシー』に宿った時、やっと私の大統領としての『絶対的使命』は達成されたのだと『あの時』思った。
だというのに、何だこれは。
なぜその遺体が『ここにある』のだッ!!
なぜその遺体があの主催者のような『ゲス野郎ども』の手に渡っているのだッッ!!!
これこそが私の『最も恐れていた事』なのではないのか。
自分の欲望でしか考えないゲスどもの手に遺体が渡る事こそ、私が一番危惧していた事だ。
それは私の国の将来にどれほど残酷な出来事が集まってきて起こる事になるのだろう…
いや、『将来』ではない。
既に目の前に迫る『災厄』として、私が身を以って体験しているではないか。
こんな事が許されるはずが無い。
こんな残酷な事があっていいはずが無い。
遺体を正しく『理解』しているのはこの私だけだ。奴らではない。
―――必ず、取り戻して我が祖国に『持ち帰らなければ』。
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「ブラフォード。君のその『両脚』の部位。それとそこの『両耳』と『左腕』の遺体をすぐに私に渡すのだ」
「……ム?」
「え?」
大統領の突然の要求に、ブラフォードとお燐は一瞬彼の言っている意味を理解しかねないでいた。
大統領はそう告げると、ブラフォードの元へズカズカと歩みを進めてくる。
今までずっと冷静沈着だった大統領に初めて焦りの色が窺えた。
ブラフォードはすぐに威嚇する。
「待て!その場から動くんじゃあないッ!」
「その遺体がここにあると知った以上、動かないわけにはいかない。すぐに渡すのだ、ブラフォード」
ブラフォードは困惑した。大統領の様子がおかしい。
この遺体が何だというのだ?奴にとってコレはそれほど大事なものなのだろうか…?
だが…
「確かにこの遺体とやらには凄まじいパワーを感じる。俺の歩けぬ身体を動かしていてくれるのだ。
故に、そう簡単に渡すわけにもいかん。これを失えば俺は再び地に這うことしか出来なくなる。
『主君』の為に戦う事すら出来ないのだ。それは『騎士』にとって何よりの『恥』。
そこで止まれッ!ヴァレンタインッ!!」
ブラフォードの制止を聞くこと無く、大統領は自身のスタンド『D4C』を傍に発現させる。
巨大な2本の角がウサギの耳のように生えた頭部が特徴の人型ヴィジョンのスタンドだ。
それを見てすぐさまブラフォードが右腕で楼観剣を抜き、構えた。
「オリンッ!下がっていろッ!」
(何だ!?奴の傍に立つあの奇妙な像はッ!?)
「え!?えぇ…ッ!?お、お兄さんッ!その傷で戦うの!?無茶だよッ!」
お燐がブラフォードを止めようとするが、既にこの戦い、誰にも止める事は出来ない。
大統領は何としてでもこの遺体を奪うつもりだッ!
「これが最後の警告だヴァレンタインッ!そこで止まれええぇぇぇぇィィッ!!!」
「警告するべきはこちらの方だ。すぐにその遺体を渡せ。私はお前という戦士を尊敬している。なるべくこの手にはかけたくない」
ぶつかるべくしてぶつかった二人の男の戦いの火蓋は、互いに相容れぬまま切って落とされる。
-
先に仕掛けたのはブラフォードだったッ!
「悪く思うなよッ!我が剣の味を味わってみろ!喰らえィッ!!」
言うや否や、ブラフォードが地を蹴り、一瞬で大統領の目前まで詰めるッ!
戦場において敵の反撃を恐れず、常に敵陣のド真ん中を襲撃するブラフォードの勇猛果敢な性格はこのバトル・ロワイヤルでも健在だッ!
(!!速いッ!)
大統領が迎撃の態勢をとるより前にブラフォードの長刀が大統領の懐を襲うッ!
しかし、ブラフォードは知らない。
『スタンド』の存在を。そしてそれを用いて戦う『スタンド使い』の存在を。
「D4C!防御しろォッ!」
大統領の叫びと同時にD4Cは左腕を前に構える。
ガ キ イ ィ ィ ィ ン ッ !
ブラフォードの瞬速かつ鋭い一撃は、D4Cのほんの少しの動作によって『いともたやすく』防がれた。
「……ッ!?」
屍生人の万力の様な力でもまるでピクリとも動かない。
大統領はその口元をニヤリと歪ませ、ブラフォードに一言告げた。
「…スタンドには、スタンドでしか対抗できない」
一振りで幽霊十匹分の殺傷力を持つと言われるこの楼観剣をもってしても、スタンドの『ルール』の壁を越えることはできない。
スタンドはスタンド以外の攻撃を受け付けないという法則がある以上、それ以外の攻撃に対して無敵の壁となる。
それを知らずに踏み込んだブラフォードは果たして『迂闊』であっただろうか。
いや、ブラフォードは『笑っている』ッ!
「ニヤリは俺の方だぜ、ヴァレンタインよ」
ブラフォードが言葉を言い終える前に大統領の全身はいきなり『切り刻まれた』ッ!
腕に!脇腹に!頬に!瞬時にして全身を駆け巡る切り傷と痛みは、大統領を驚愕させるには充分だった。
-
「………ッ!?グ……ッ!」
大統領は堪らず、地面に片膝を突いてしまう。
先の戦いでブラフォードがシーザー・ツェペリの放つ青緑色の波紋疾走を真っ二つに烈断し、離れたシーザーもろともその斬撃の余波を届かせる強靭な剣技を見せ付けた事は記憶に新しい。
いくらスタンドで剣撃そのものを防いだとしても、そこから放たれた見えぬ『余波』までは防ぐ事が出来なかった。
しかもこれほどの至近距離でまともに受けたのだ。そのダメージは決して浅くは無い。
「グフ…ッ!な、るほどな…これが伝説の騎士の技か……。『理解』…したよ…ッ」
「理解?『理解』しただとッ!?まだ終わりではなァァいッ!!お前が理解するのは『ここからだ』ッ!
キサマの血をこの肉体の一部としてやるッ!俺の奥義『死髪舞剣(ダンス・マカブヘアー)』の餌食になりなァッ!」
いつの間にだったか。大統領の足にブラフォードの伸縮自在の『髪の毛』が絡み付いている。
その髪はまるで獲物を捕食するタコの様に、瞬く間に大統領の全身に広がりその身体を完全に束縛したッ!
「…ッ!」
伝説の噂に違わぬ実力を持つ強敵に流石の大統領も顔色を強張せるしかない。
見る見るうちに髪が肉体にめり込んでいき、血液が吸収されていく。
ブラフォードはそれをボンヤリ眺めているような馬鹿者ではない。この機を逃さぬと言わんばかりに楼観剣を髪に持ち替え、大統領から距離をとり再び剣を全力で振りかざすッ!
「遺体になるのはお前の方だったなッ!これで俺の勝利イイィィィィッ!!」
ブラフォードの最大にして最高なる最後の一撃は、完全に大統領の正中線上に叩き込まれ、大統領の体はバターの様にスッパリと一刀両断にされる
……ハズだった。
「ムゥッ!?」
大統領に向けて確かに放ったはずの一閃は空を裂き、斬ったのは敵を包み込んでいた己の髪のみ。
一瞬前、身動きが取れずにもがくしかなかった大統領が『消えている』ッ!
「……っ!?どこだ…ッ!?奴は何処へ消えたッ!」
確かに死髪舞剣によって完全に捕らえていたはずだ。突然消える事などありえない。
だが何処を見渡しても虫一匹見当たらない。
「オリンッ!『奴』はどこへ消えたッ!?」
ブラフォードは離れて見ていたお燐にすぐさま聞く。
「わ…分かんないよッ!ここから見てても『突然消えた』ように見えたッ!」
おかしい…理解し難い状況だ。確かに俺の髪は直前まで奴を縛っていた感覚を感じていた。しかし今は全く気配を感じない。
さっきの『人形』と言い、奴は『妙なまやかし』を使う。だが奴はここから『逃げてはいない』。必ずここに戻ってくるはずだ。
何処からだ…!?奴は何処から戻ってくる…ッ!?
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「何だと…!貴様…ヴァレンタインッ!」
「何なの…!?あの人、『2人』いる……ッ!?突然1人現れて、2人に増えちゃった!?」
今、ブラフォードとお燐の目の前にはありえない光景が広がっている。
今の瞬間、ブラフォードは確かに大統領に向けてトドメの一撃を放とうとした。ブラフォードは『勝利目前』だったのだ。
その時どこからともなく突如乱入して来たのは『もう一人の大統領』。
しかし現れた大統領は何か様子がおかしい。顔色も悪く、全身を切り刻まれて既に息も絶え絶え。
正体不明の乱入者にブラフォードは動揺を隠せない。
「ヴァレンタイン…ッ!?貴様、今どこから現れた!?ならば『こっち』の男は誰だッ!?」
「ハァー…ハァー…ブラフォード、お前が驚くのも無理はない…
ここは『隣の世界』。そしてこの場所に自由に入ってこられるのは『この私』の能力だけだ…ッ!そして、見事な剣の腕だ…D4Cの防御ですら突破してくるとは…。
だが私を髪の毛で雁字搦めにしたのは『ミス』だったな。D4Cは私が何かの間に『挟まる事』で発動する…。
お前の髪の毛に包まった事で私はこの世界に『来れる事が出来た』…ッ!利用させてもらったよ…」
傷付いた身体を引き摺る様にして大統領はズルズルと二人に向かって歩いてくる。
その隣にはD4Cの体躯が大統領を支えるようにして傍に立つ。
「行け…D4C…ッ!この私が果てる前に、『基本』をあっちへ『移す』のだッ!」
大統領が叫ぶや否や、D4Cの肉体が瞬時に『隣の大統領』に移ったッ!
D4Cが別の大統領に移る事で、その大統領こそが全ての世界の『基本の本体』となる。
「!…成る程…理解した。『基本』がこの私に…。隣の世界の『能力』は私に移った…。今、この私が『基本』になったのか…」
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基本の世界とは少し違う、無限の数ある『平行世界』。大統領のD4Cは何かに挟まる事により、異次元間を移動できる。
例え大統領が基本の世界で負傷したとしても、『負傷していない』隣の世界の大統領と入れ替わって戻ってくれば、その大統領が全ての『基準』となるのだ。
「この『私』が基準になったと言う事は、私は今から元の世界に帰らなければいけないわけだが…お前も『一緒に』帰るかッ!ブラフォード!!」
大統領が自分を包み込むブラフォードの髪をガッシリと掴みながら引き寄せるッ!
ブラフォードは当然、倒れまいと踏ん張るが、しかしッ!
「…ッ!!クッ…!」
「『基本世界』のお前は遺体の力で歩いていたようだが…『こっち』のお前はどうかなッ!?遺体は基本世界にしか存在しないもの!!
こっち側のお前はどうやら片脚を失っているようだなッ!簡単に『引き込める』ぞッ!!」
大統領の言う通り、聖人の遺体という物は本来、『基本世界』にしか存在しないもの。
遺体の力で歩く事が出来ていた基本世界のブラフォードだが、遺体の無い隣の世界では元通りの『片脚状態』なのは至極当然の結果である。
故にそんな状態のブラフォードでは当然、大統領の力に対抗出来るはずも無かったッ!
ブラフォードが大統領を押し倒す力を利用し、基本となった大統領は『ブラフォード』と『地面』の間に挟まれ、そしてブラフォード自身すらも異次元へと引き摺り込まれてゆく。
「お兄さーーーーーーーーーーんッ!!」
こうして何事も無く『基本世界』へと帰っていった大統領達。
後に残るのは、傷を負った元の大統領とお燐の空しい叫びの余韻のみだった………。
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―スポンジとスポンジが重なって…そのスキ間がそれのスキ間に入り込むように『2つ』がひとつになって、最後には『消滅』を迎える―
「Dirty deeds done dirt cheap (いともたやすく行われるえげつない行為)。
『同じ世界』に『同じ2人』が同時に存在する事はどんな者だろうと出来ない…この私のスタンド能力以外はな…
ブラフォード、お前の『敗北』だ」
「…………俺は、またしても死ぬのか」
『無傷』で戻ってきた大統領と五体不満足であった『隣』のブラフォード。
出会ってしまってはいけない『基本世界』と『別次元』のブラフォードは成す術も無く、この世界で無情にも『出会ってしまった』。
お互いがお互いを引き寄せるように衝突し、次第に体は崩壊を始めていく。
血管がバラバラに切断され、全身の肉という肉が細切れに吹き飛んでいくその痛みは、通常では計り知れない苦痛となる。
しかし、屍生人であるブラフォードには既に痛覚はほとんど無く、その表情はどこか諦念している様な、『死』を受け入れる覚悟を持った眼だ。
それは彼がかつて人間だった頃、愛しの主君メアリー女王を救う為、自ら『処刑』を受け入れた時と同じ眼を輝かせていた。
静かに崩れゆくブラフォードをじっと見据えながら大統領は再び彼に問う。
「D4Cによる消滅を受けた者は、肉体やその魂までもこの世から消えて無くなる。もうお前が2度とこの世へと復活する事は無い。
最後にもう一度だけ聞く。ブラフォードよ、お前は素晴らしい『騎士道』を持った戦士だ。
私の部下として働いてくれ。そうすれば今ならお前の肉体の消滅を止める事は出来る」
「……剣を向けた相手であっても、まだ俺の力が必要だと言うのか…。フフ…お前の方こそ、『王』としてふさわしい『器』を持っているようだ」
ブラフォードは死の直前をもって、しかし笑っていた。
大統領は、そんなブラフォードに対してただ、ただ真っ直ぐに向き合っている。
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「……だが、俺の答えは変わらない。俺には主君に仕えるという『誇り』がある。それだけはこのブラフォード、死んでも曲げられん」
「…本当に、君は『誇り』ある騎士だ。そんな男と相交える事が出来て光栄だよ」
「フフ…俺も同じ気持ちだ。奇妙な安らぎを俺は今感じる。もう世への恨みは無い。こんな素晴らしい男と最後の最後に出会えたから…
我が女王の元へ旅立とう…」
既にブラフォードの肉体は首だけとなっていた。男は空を仰ぎ、眼を閉じて辞世の句でも詠むかのように呟く。
「心残りがあるとするなら、やはりジョナサンとの決着…。我が主の事…。
そして、オリン…お前の『家族を探す』という約束…果たす事が出来なかったな…すまぬ…」
ブラフォードは首だけをお燐の方向へ向ける。
お燐は、ただ泣く事しか出来なかった。彼女は結局ブラフォードに対して、何もしてやれなかった。
ほんの短い間だったが、彼女はブラフォードを『兄』の様に感じ始めていたのだ。
「ひっぐ……ひっく…お…にぃ……さ…っ…うぅ…」
「また…泣いているのか。お前には…笑った顔が、よく似合うというのに…」
ブラフォードは最期に大統領に向かって、一言だけ言った。
「…ヴァレンタインよ。『ひとつだけ』…約束して欲しい。
オリンには、手を出さないでくれ。彼女はただ、『家族』に会いたいだけなのだ…。もののけではあるが、ただの『少女』なのだ…」
「……良いだろう。ひとりの男として聖なる遺体の前で『誓う』。『火焔猫 燐には決して手出ししない』…それだけは約束しよう。
私は一度口にして誓った事は必ず実行する。今までも、ずっとそうやって生きてきた」
ブラフォードの最期の言葉を聞き遂げ、大統領は真に迫った雰囲気で誓う。その眼光には確かな固い『信念』が感じ取れる様に見える。
「フフフ……天晴れだ…異国の王、ヴァレンタイン……よ…………」
―――伝説の戦士、『黒騎士ブラフォード』の肉体と魂は、完全に消滅した
後に残った『遺体の両脚』だけが、彼の存在を物哀しげに語っていた…
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まるで産まれたばかりの我が子を抱き上げる母親の様な優しい手つきで、大統領はブラフォードの遺した遺体を拾い上げた。
遺体に対する『慈愛』とも見て取れるかの様子をお燐は既に涙の止まった目で、呆然と立ち尽くして眺める。
「『聖人の遺体』…両脚が、私の体へ『入り込んだ』か…遺体は再び『私』を選んだというわけだ」
気付かぬ内に遺体は大統領の体内へ潜った。それを確認した大統領は次に傍に落ちていたブラフォードのデイパックを拾い上げる。
中身を軽く確認し、スッと立ち上がってお燐の方へ振り返った。
―――そしてお燐を一瞥し、こちらへ、近づいてくる
「…………さて。そこにまだ『2つ』……あるな?」
(…え?な、によ、あの人…?こっちへどんどん、歩いて………くる……?)
―――大統領は歩みを止めず、お燐へと向けて真っ直ぐに近づいてくる
「ちょ…ちょっと……アンタ、来ないでよ……。あたいに、近づかないで……!」
―――お燐の静止を聞く事なく、大統領は更にどんどん距離を詰めて来る
「ま、まさか…あたいに何かするって言うんじゃあ…!アンタ、お兄さんと『約束』したばっかじゃないのさ…ッ!やだ…来ないで……」
―――とうとう大統領とお燐の距離は数メートルまで縮まった
「くッ……来るなッ!あたいのそばに来ないでぇーーッ!!」
-
大統領の異常な圧迫感に耐え切れず、お燐は右手をかざし青白い火焔を連射する。
しかしその業火も、スタンドの前には無力。D4Cの腕一本により、いともたやすく振り払われる。
―――お燐の目の前まで辿り着いた大統領は、彼女を見下ろす。彼は、まだ何も言わない
(なになになんだってのさ、この人間ッ!?この『人形』も不気味だし怖いし、わけが分からない…ッ!怖い!)
(助けて!!殺されちゃう!!)(いやだ!!)(誰か…!怖いよ…!)
(さとり様…!!)(お兄さん…!!)(みんな…!!)
(死にたくない…ッ!)
いつも自分を可愛がってくれていた主人のさとりやこいし、親友であった空を想い、それらは走馬灯のようにお燐の頭を駆け巡る。
怯えながら目を瞑るお燐に大統領は手を伸ばしてくる。永く生きてきた妖怪の彼女でも流石に『死』を覚悟した。
あぁ…あたいはここで早くも退場するんだ。せめて最期にみんなの顔を一目見たかった…
―――ぽすんっ。
「おい…。何を勝手に怯えている。別に私はお前に危害を加えるつもりなど『無い』」
………
……
…
「………………………………へ?」
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大統領は半ば呆れた顔をしつつ、お燐の頭に手を添える。
てっきり殺されるものかと思ったお燐は拍子抜けしたように呆気に取られながら、大統領を見上げて聞く。
「あ…あたいを殺さないの…?」
「君は私がさっきブラフォードと『誓い』を立てたところを見ていなかったのか?『君に手出しはしない』と彼に誓ったばかりだが」
「え…いや、まぁ…見てたんだけど…さ。アンタが無表情でズカズカ近づくもんだから、あたいてっきり…」
お燐の言い分を聞いた大統領はやれやれといった感じで溜息をつき、再度真摯な表情をお燐に向けて言い切った。
「あれほどの男と誓ったのだ。『火焔猫燐には決して手出ししない』。私は彼を殺したが、君がそれを不安に思っているのなら心配する事はない。
私はあえて嘘をつく事はあるが、一度口にして誓った事は必ず実行してきた。それは私の『誇り』であり、アメリカの未来を担う者として、父親から受け継いだ『愛国心』があるからだ。
私は祖国の未来のためになら何だってやるつもりだ。その目的を邪魔するものは誰であろうと容赦しない。
ブラフォードは目的の犠牲になってしまったが、君は私の前に立ち塞がった『敵』では無い。だから手出ししない」
大統領はそうハッキリ断言した。その嘘偽りのないある種『信念』みたいな意志を感じ取れたお燐は、この男が自分の私利私欲で動く様な『ウソつき』では無い事を『心』で理解できたのだ。
「もう一度言っておこう。私は『約束は破らない』。目的は遺体を集め、『アメリカへ持ち帰る事』だ。あの主催者共はいずれ必ず叩き潰すがね」
―――この私が約束を違う事がもしもこの先あるのなら、それは『誇り』を捨ててでも貫くべき『決断』を迫られた時だろうな…
そんな未来が来ない事を心の中で願いつつ、大統領は目の前のお燐を真っ直ぐと見つめる。
-
「…………あ、あたい…さとり様を、『家族』を探してるんです。さっき会ったばかりの…それもお兄さんを…その、殺した本人に頼むのもなんだけど…。
『みんな』を探して欲しいんだ!さとり様やこいし様、おくうも、みんな…あたいだけじゃ、心細くて……」
何故自分がこんな事を頼んでいるか、自分でも理解できなかった。
ただ、気付いたら頼み込んでいた。相手はブラフォードを殺した得体の知れない『人形使い』だというのに。
だがこの男には、何か他人を引き付けるような『求心力』がある。『もしかしたら悪い人ではないかも』…そう思えてきたのだ。
お燐は最早、助けを求めずにはいられなかった。
そんな彼女の切実な思いを受け止め、大統領はその場に座ってお燐の肩に手を添えて言う。
「…『愛国心』はこの世で最も美しい『徳』だ。
国の誇りの為、命を懸けることが『家族』を守る事に繋がると考えるのは『人間の気高さ』だけだ…妖怪もそうなのだろう。これは私が幼い頃、死んだ父親の親友に聞かされた話だよ。今はもう居ないがね…。
燐とやら…。家族を守りたければ『戦え』。愛国心とは『家族愛』の事だ。泣いてばかりでは家族は救えない」
―――「そしてもし君が私の目的の『手伝い』をしてくれると言うなら、『私も君の家族を探す手伝いをする』と約束しよう」
「…………え?」
-
お燐は一瞬大統領の言った事が理解出来ずに呆然とした。
確かに自分から頼み込んだ事だが、まさか本当に手伝ってくれるとは思いもしなかったからだ。
大統領はそのまま立ち上がってお燐の横を通り過ぎ、リヤカーに散らばっていた『左腕』と『両耳』を回収して戻ってくる。そしてその左腕をお燐に渡して言った。
「この左腕を持って私に近づけてみろ」
「え…、あっうん」
貴重な骨董品を取り扱うかの様な慎重さでお燐は左腕を言われた通り大統領に近づける。
すると不思議な事に、お燐の持つ左腕に反応するかのように大統領の体から『両脚』が浮き出てきた。
両脚はまるで『引力』に引き合うかのようにしてそのままお燐の体内に潜っていく。
「うわッ!!?わわわわ!!!な、なにこれなにこれッ!?何か入ってきたよッ!?」
「落ち着け。何も痛みなどは無い。私からお前の体に遺体が移っただけだ」
「ふぇぇ…こんな大きいものがあたいの中に入っちゃうなんて…なんか、凄いねぇ…」
「燐よ。私の手伝いというのはこの遺体の各部を集めて来てくれというものだ。何の因果か、火車の妖怪であるお前の能力は『死体を持ち去る程度の能力』らしいな?
この会場に散らばっているであろう遺体を集めるには最も適した能力といえる。君にその『両脚』を預けよう…。それを使って遺体を探してくれ。君なら出来るはずだ」
大統領はそう言って左腕と両耳を自分の体内に取り込んでいく。
「でで、でもあたいにはこの死体の価値はよくわかんないし…そんなの出来るわけが……」
「家族を守るんじゃあなかったのか?戦うのだ、燐。何も相手を殺せと言ってるのではない。遺体を持つ者が居たら『奪って』逃げるだけで良い。君の家族の名前は何だ?」
「こ…『古明地さとり』、『古明地こいし』、『霊烏路空』…の3人だよ。…こ、この遺体を集めれば、本当におじさんが皆を探してくれるの?」
「(ムッ…おじさん…)私の目的はあくまで遺体だ。最優先というわけにはいかないが、その3人を見つければ必ず保護して君の元へ送ろう」
―――この人はきっと、『正しい道』を歩いている。お燐はそう信じる事が出来た。
-
「………あたい、やるよ。この遺体を探し出しておじさんに届ける。死体を持ち去る事にかけてあたいの右に出る奴なんて居ないさね!
その代わり!おじさんもさとり様達のことお願いね!約束っ!」
「勿論だ、ありがとう、燐」
「燐じゃなくて、あたいは『お燐』って呼ばれるのが好きなんだけどなぁ
「む…分かった。約束しよう………お燐。これで良いか?」
「うん!」
すっかり元気を取り戻したお燐は大統領に向けてニッコリ笑うと早速遺体を探しに行こうと、愛用のリヤカーを掴む。
「待て、お燐。これを持って行け、必要になるかもしれない。」
早々と出発しようとするお燐を止め、大統領はデイパックの中から『あるモノ』をお燐に手渡した。
「え…これって、ナイフ?」
「ブラフォードの支給品である『ハンターナイフ』だ。扱いに気をつけろ、『毒』が塗られてあるらしい」
「えぇ!?毒ゥ!?あわわわ……ッ」
物騒な単語を聞いて驚いたお燐は危なくナイフを落とすところだった。
「君は炎を操って戦うみたいだが、まぁ念のためだ。自分を守れる武器はあるに越した事はない。
だが、よく聞いておけ。毒はこの世で最も『卑怯』で『残酷』に人を苦しめる方法だ。
私が兵士だった頃、毒で苦しみながら死んでゆく仲間を何人も見てきた。あまり気軽に使う代物ではない」
「…なーんかさっきからお取り扱い注意な物ばっかりあたいにくれるねぇ…」
お燐が口を尖らせて不満を言いながらナイフをしまった時であった。
フォン フォン フォン フォン ………
どこからともなく奇妙な発信音のような音が聞こえた。
-
「ん?…あぁ、これはDioからの連絡か。フフ…電話だけに『フォンフォン』鳴るわけだな」
(え……)
大統領のよく分からないボケをお燐は心の中で突っ込む。それを気にせずに大統領は懐から通信機能付き陰陽玉を取り出して話しかける。
―――「……もしもし。ヴァレンタインだ。聴こえるか?Dio」
―――………。
「…イタズラ電話なら切るぞ」
―――………。
「……ブラフォードは葬ってやったが火焔猫燐は…………」
………
……
…
-
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
(あの陰陽玉、どっかで見た事あるような…それにしてもおじさん、誰と会話してんだろ?)
背を向けて少し離れた所で会話している大統領をボーッと見つめながら、お燐はリヤカーの上で足をブラブラさせて待っていた。
―――『愛国心』はこの世で最も美しい『徳』だ。
国の誇りの為、命を懸けることが『家族』を守る事に繋がると考えるのは『人間の気高さ』だけだ―――
先刻の大統領の言葉がお燐の脳裏に蘇ってくる。
(あたいは…国の事とかよく分かんないけど、あの人は国のために戦っている…。この遺体はおじさんにとって本当に大切な物なんだ…)
―――家族を守りたければ『戦え』。愛国心とは『家族愛』の事だ。泣いてばかりでは家族は救えない―――
(戦う事が家族を…さとり様達を守ることに繋がる…)
―――もし君が私の目的の『手伝い』をしてくれると言うなら、『私も君の家族を探す手伝いをする』と約束しよう―――
(あの人の言葉に、嘘は無いと思う。彼は誓いを裏切らない人…。だったらあたいも、あの人のために…そして『家族』のために、戦わなくちゃあいけないね…!)
お燐は深く決断した。大統領の遺体集めは自分が手伝ってあげようと。
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▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「私はここで『馬』が来るのを待ってから出発するが、お燐はもう行くのか?」
「あぁ、あたいだってダイトリョーさんのお役に立てるって事を証明しなければね!一足先に遺体探しに行くよ!」
「『大統領』だ。ならば君に一つ注意しておく事がある。私の同盟相手である『Dio』の事だ。
奴は南の紅魔館から恐竜という翼を持つ翼竜を数十匹、偵察のために会場全体に向けて飛ばすらしい」
「キョーリュー?大統領さんのお仲間がいるんだね。それがどうかしたのかい?」
「このゲームの全情報を掴むという体ではあるが、間違いなく私やお前にも監視がつくだろう。これより先、私達の動向は常にDioに見張られてると思った方が良い。奴はそういう男だ。
Dioにはなるべく遺体の情報は隠しておきたいが、恐らくいずれは知られるだろう。私なら何とか奴を丸め込めるだろうが、君が単独で奴に出会ってしまうのはマズイ。
君の持つ遺体を全部奪われた後で始末される可能性もある。いいか、『ディエゴ・ブランドーには近づくな』…」
「わ、分かったよ。大統領さんも複雑な事情があるんだねぇ…。じゃああたい達はどこで落ち合ったりしようか?集合場所でも決めとく?」
「Dioの恐竜と通信機を使えば君の居る位置はすぐに割り出せるだろう。会う必要があれば私から君の元へ向かおう。
…それでは、無事を祈っているよ。お燐」
「大統領さんも!さとり様たちに会ったらよろしく言っといて!」
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リヤカーを引いて勢いよく突っ走っていくお燐を見届けながら大統領は夜風に吹かれる。いつの間にか星々も沈んで、もうすぐ朝の時間帯がやってくるかという頃だ。
一気に静寂が訪れた空間の中で憩う様に、大統領は近くの石に腰掛けて思案する。
(Dio…流石に奴は油断ならない男だ。常に周りの人間の一手二手上を行こうと考える狡猾な男…。少しでも隙を見せた途端、背中から裂かれるだろう…。
遺体のこともいずれ知られるだろうし、私やお燐の持つ遺体を奪おうと画策するかもしれない。ならば私はそれの『更に上』を行ってやろう…)
(そしてその遺体を侮辱しているあの主催者も必ず消す。この遺体はアメリカへ必ず持ち帰る!それが大統領たる私の役目…。
そのためにあの『娘』は充分に利用価値はある。遺体をひとつ渡したのはやり過ぎだったかもしれんが…。
この世で遺体を最も理解しているのはこのヴァレンタインただひとりだ…ッ!他の誰でもないッ!!)
心の内にメラメラと燃える主催者達への敵対心は消える事は無く、彼を奮い立たせる強き原動力となる。
そして大統領は無意識にポケットの中のハンカチを握り締めようとする。
自分に『父の愛』と『愛国心』を学ばせてくれた父親の形見のハンカチ。大切な時はいつも持ち歩いており、自分の『心の支え』となってくれたかけがえの無い物だ。
挫けそうな時。困難に立ち向かう時。いつもこれを握り締めて自分を奮い立たせてきた大統領自身の『原点』だ。
だが………
「……………ッ!?……なにッ!!??」
-
いつもポケットに忍ばせていたハンカチが『無くなっている』。
どこかで落とすなんて事はありえない。ならば考えられるのは………。
「――――あの主催者共めッ!!とことん人を侮辱した奴らだ…ッ!許せない……許せるわけが無いぞ…ッッ!!」
まさか形見のハンカチまで奪われるとは思ってもいなかった。
遺体だけでなく人の想い出までも平然と奪っていくあの醜悪なる主催者に、流石の大統領も怒りの限度を超えた。
「あの下衆共ッッ!!!必ずこのヴァレンタインがこの世から消滅させてやるッ!!!必ずだッッ!!!」
既に早朝になろうかという刻の平原で、大統領の咆哮が辺りを響かせた。
―――もうすぐ、夜が明ける。
Side.Funny Valentine…END
【ブラフォード@第1部 ファントムブラッド】死亡
【残り 77/90人】
-
【C-3 ジョースター邸 裏/黎明】
【ファニー・ヴァレンタイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康
[装備]:楼観剣@東方妖々夢、聖人の遺体・左腕、両耳@ジョジョ第7部(大統領と同化しています)、紅魔館のワイン@東方紅魔郷
[道具]:通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、暗視スコープ@現実、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を集めつつ生き残る。ナプキンを掴み取るのは私だけでいい。
1:遺体を全て集め、アメリカへ持ち帰る。邪魔する者は容赦しない。
2:形見のハンカチを探し出す。
3:火焔猫燐の家族は見つけたら保護して燐の元へ送る。
4:荒木飛呂彦、太田順也の謎を解き明かし、消滅させる!
5:ジャイロ・ツェペリ、ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。
※参戦時期はディエゴと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※幻想郷の情報をディエゴから聞きました。
※最優先事項は遺体ですので、さとり達を探すのはついで程度。しかし、彼は約束を守る男ではあります。
※現在はディエゴの派遣した馬待ちです。
【火焔猫燐@東方地霊殿】
[状態]:人間形態、妖力消耗(小)
[装備]:毒塗りハンターナイフ@現実、リヤカー@現実
[道具]:基本支給品、聖人の遺体・両脚@ジョジョ第7部
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を探しだし、古明地さとり他、地霊殿のメンバーと合流する。
1:遺体を探しだし、大統領に渡す。
2:家族を守る為に、戦う。
3:地霊殿のメンバーと合流する。
4:シーザーとディエゴとの接触は避ける。
※参戦時期は東方心綺楼以降です。
※大統領を信頼しており、彼のために遺体を集めたい。とはいえ積極的な戦闘は望んでいません。
○毒塗りハンターナイフ
全長26cm×刃長14cmのハンターナイフ。シース付き。
毒を塗って獲物を仕留められるが、毒は携帯していると乾く為、こまめに塗る事が必要。
傷口から毒が体内に拡がるには実際には時間が掛かる為、毒はあくまで相手を弱らせる為に使う。
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これにてLost://www〜ロスト・ワールド・ワイド・ウェブ〜「Side.Diego Brando」「Side.Funny Valentine」の投下を終了します
読んでくださった方々、ありがとうございました。
個人的には大統領は本当に誓いを守る男だったと思ってるんですよね。
そのことに誇りを持ってはいたけど、祖国の未来には代えられないと思ったからこそ、最後のジョニィとの取引だったと個人的には考えています。
感想、誤植や突っ込み等あればお願いいたします。ありがとうございました
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お燐がカワイイ
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投下乙です。
前編でも言われてたけど、やっぱりブラフォード脱落で遺体奪取されてたか…
お燐がまんまと丸め込まれてしまった辺りは大統領のカリスマの成せる技か
遺体を巡って水面下で争うことになりそうなディエゴと大統領の今後が気になる
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投下乙です。
矢印で区切られている箇所で
平行世界側に場面が移ってるのに一瞬気が付かなかったが
わかるとD4Cらしさが出てきていい感じでした。
あとは戦闘相手への敬意にしても、部下の作り方にしても
大統領が大分まともなので、ディエゴの下衆さが浮き彫りになってますね。
>電話だけに『フォンフォン』鳴るわけだな
不覚にもw
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「ニヤリは俺の方だぜ」ってセリフが凄くそれっぽくて良い
なんか元ネタとかあったっけ
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同じ危険対主催コンビでもディエゴはマーダー寄り、大統領は対主催寄りか…
大統領は他のラスボスと違ってそこまで邪悪じゃないしね
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大統領は目的が目的だから、他のラスボスと違ってバトルロワイヤル中は和解できそうなんだよなぁ…
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大統領はディエゴやジョニイみたいなゲスには厳しいけど普通
に善良な人物には優しそうだな
もちろん祖国の敵になるようなら容赦しないだろうけど
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それではここで、お燐ちゃんの大好きな家族達の現状を振り返ってみましょう
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さとりん→脊椎損傷からの下半身不随
こいしちゃん→6部ラスボスの神父に手懐けられる
おくう→緊縛中
これもう(どうなるか)わかんねぇな
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まだ7部読んでないんだけど、大統領って自分の中の正義を持っててかっけーのな
んでそれをしっかり伝えてくれる書き手さんの文章力、惚れるぜ
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やってることはプッチと大して変わらん
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毒はもっとも…のくだりはナルホドーを思い出したぜ
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プッチはDIO狂信者の自己中だけど大統領はアメリカの為だけに動く機械って気がする
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国家を担う者としての揺るぎ無い信念を持ってるのは確かだな
ただ善人かっつうとそうでもない
あくまで自国の為だけの正義を掲げてるだけって印象
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大統領、楼観剣片手にワイン持ってるのか・・・
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その上暗視スコープ填めて馬に乗りながらバックにはD4Cがついてて、更にDioネットワークのおかげで情報すら武器にあるんだぜ…
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古代の戦場で無双してそう
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Dioネットワークもだけど
やっぱり恐竜軍団の運用があのスタンドの強みだからなぁ
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遺体の両脚がお燐の体内に入ったって描写あるけど
お燐は遺体の両足を装備しているんですかね?
状態表の道具欄に遺体あるみたいなんで気になりました。
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>811
確かにこれはミスですね。
お燐の遺体の両脚は[道具]欄ではなく[装備欄]でした。
御指摘ありがとうございます。手間になりますが訂正をお願いします、すみません。
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wikiのトップページ、>>731の◆.OuhWp0KOo氏の再予約が反映されてませんね…
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河城にとり、広瀬康一
予約します
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>>731の予約、投下を開始します。
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永遠亭の門前。
『額にネジの付いたアリス』は、徐々に近寄って来る『駆け足』の正体をその視覚で捉えていた。
「……鈴仙」
鈴仙の表情は、恐怖に染まっていた。
何か恐ろしい物から必死で逃げ惑っているといった様子の足取りだった。
誰か『ゲームに乗った者』に襲われて、逃げてきたのだろうか。
(……このまま『私』が鈴仙と接触して、『本体』にはしばらく隠れていてもらおうかしらね)
明らかな恐慌状態の鈴仙を見て、『ネジ付き』はそう判断した。
今の状態の鈴仙にこれ以上余計な刺激を加えたら、何をしでかすか分からない。
一目散に逃げ出して『鈴仙を襲ったらしい敵』の情報を逃すかもしれないし、
錯乱して彼女に支給されているかもしれない武器を振り回されたりしたらたまらない。
鈴仙が落ち着きを取り戻すまでは、『ネジ付き』で対応しよう。
『本体』と、『サーフィス』の事を明かすのは、その後だ。
玄関裏にいる『本体』も、同じ事を考えているはず。
と、『ネジ付き』が『うわっ面』の思考をなぞるうちに、
鈴仙がようやくこちらの姿を認めたようだ。
距離にして、およそ10メートル。
よほど必死に走っていたのだろう。
鈴仙の視線が向いたタイミングで、『ネジ付き』が声を掛けた。
「鈴仙ね?私よ。アリス。アリス・マーガトロイドよ。……ねえ、何があったの?」
「え、あ……アリス?」
『ネジ付き』の呼びかけに鈴仙は足を止め、おずおずと歩み寄っていく。
その表情にはほんのわずかだけ、安堵の色が混ざっていた。
『ネジ付き』もなるべく鈴仙に警戒心を与えないよう、
無手の両手を軽く広げ、ゆっくりと近寄っていく。
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……だが残り数メートルという所で鈴仙の表情は再び恐怖一色に染まった。
尻もちを付き、後ずさる鈴仙。
「ひィっ……来るな!アンタはアリスじゃない!」
「えっ?」
「アイツと……あの人間が連れていた『赤い奴』と、同じ波長……!!
殺される……永遠亭、ここなら安全だと思ったのに……」
『ネジ付き』の正体は、あっさりと見抜かれてしまった。
忘れていた、鈴仙の能力は『波長を操る程度の能力』。
あらゆるモノの波長を読み取る彼女に、『うわっ面』の偽装は通じなかった。
……だが、『赤い奴』とは何のことなのか。
アリスに支給された『サーフィス』と同質の……恐らく『スタンド』と呼ばれている能力で、
殺し合いに乗っている者がいるのか?
逃げるのは彼女の勝手だ。『赤い男』の情報が欲しい。だが……
『スタンド』を極度に恐れているらしい鈴仙に対して、『ネジ付き』が打つ手は無さそうだ。
『本体』を呼ぼう。『ネジ付き』がそう結論づけた瞬間、彼女の意識が途切れた。
既に『本体』が、抜き取ったDISCを手に玄関裏から姿を現していたのだった。
「驚かせてしまったみたいで、ごめんなさい。私が『本体』の、アリスよ」
ただの木人形と化して、ぐにゃりと座り込む『ネジ付き』の傍を通り過ぎ、鈴仙に歩み寄る『本体』。
「え……ア、アリス?……ほんもの?」
その姿を見て、鈴仙はようやく落ち着きを取り戻すかに思われた。
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「ねえ、教えて……『赤い奴』って誰なの?私達の知らない人?それとも……」
「『赤い奴』……あの人間!あっあいつは、あいつがみんな、殺しにやってくるのよ……
弾幕なんか通じなくて、はも刃物で斬りつけても、切ったはずなのにっ、すり抜けて……!」
「鈴仙、落ち着いて……いつ、どこで、何があったの?」
「おまけに、『波長』がっ、ぜ、全然読めなくてっ、距離、短くみじかくなっててッ、
それで、さっきもタケノコにつまずいてっだけど、それはタケノコじゃなくて、
……わたっ、わたしは横で見てただけで、あのっ、あの時みたいに私は、わたし!
地霊殿の子を見捨ててきて、完璧に消したはずなのに、私のすがた見えるように、なっててっ」
「鈴仙……?」
だが『ゲームに乗った者』らしき『赤い奴』の事を口にした途端、鈴仙は再びタガが外れた様に、
早口で、どもりながら、支離滅裂な事をわめきだしたのだった。
「殺しに来るのよ!あいつが、今にも、後ろから!!それで、いまにもうしろから、あのパンチで!
あの子みたいに、一発で、挽き肉にされるのよ!バーン、バーン、グシャーーって!!
どんなににげてもあいつは、後ろから追いかけてきてて!」
「鈴仙!」
アリスの呼びかけは通じない。
-
「あたしが、月から逃げ出してたから!いつまでたっても臆病者の半人前で!
何回も何回もおしおきされても反省できなくて!学習できなくて!成長しなくて!!
だから、あたし本当はだまっておとなしく叩き潰されてなきゃいけなくて、なのに、今も怖くなって逃げてきて!!
だから……だからっ!!」
「鈴仙!!今は関係ないでしょ!!」
そして、人の話も聞かずにさんざんわめきちらした鈴仙の口から挙句の果てに飛び出たのは
「お願い、アリス!私を殺してよ!一思いに!!あたしの荷物、あげるから!」
この言葉である。
こっちは頑張ってどうにか生き残ろうとしているというのに……腹が立ってきた。
革ブーツのかかとをあの鼻の頭にネジ込みたい衝動に駆られた。
……が、それは何とか思いとどまり、代わりにアリスは、
「え、アリス……むぐっ」
鈴仙の頭を抱き寄せ、そのまま胸で口を塞ぐように押さえつけたのだった。
-
「いいから、静かにしなさい。……大丈夫、絶対なんとかなる」
「……むう……むぐっ…………」
「大丈夫、大丈夫だから……」
「……………………」
泣く子はこうするのが一番手っ取り早い。
アリスは……独り立ちして幻想郷に移り住む前の頃の事を思い出していた。
恐ろしい夢を見て眠れなかった夜などは、いつも決まってこうされていた。
目の前の鈴仙の姿が、その頃の自分自身とダブって見えた。
……正直ここまで効果テキメンだとは思わなかったが。
(ちょろい、ちょろ過ぎるわね……)
あっけなく黙りこくってしまった鈴仙を見て、アリスは呆れていた。
とにかく、これで鈴仙はどうにか落ち着きを取り戻しそうだ。
ようやく情報交換ができる。
彼女が目撃した危険人物……『赤い奴』とは何者なのか?
胸に顔をうずめる鈴仙を引きずるようにして、アリスは永遠亭の中へと引き返していった。
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なるほど。その『赤い奴』というのも、スタンドの一種である可能性が高い訳ね?」
「……うん。『波長を読み取る』の、調子、良くなかったから……多分、としか、言えないけど。
……でも、今も玄関で見張りについてる、『サーフィス』、だっけ?あれと同じモノ、だとおもう」
二人は永遠亭の一室、縁側に面した部屋にいた。
鈴仙がアリスに促されるままに、これまでのいきさつを話す……相変わらずアリスに抱きついたままの体勢で。
「使い手は西洋人風の、セーターを着た若い男で……地霊殿の主のさとり妖怪へ出会い頭に
『赤い奴』を繰り出して攻撃を仕掛けていた、と」
「……ごめんなさい、私、『また』知り合いを見捨てて逃げた……」
「……いいのよ。謝る事じゃないわ。あのさとり妖怪の事は残念だけど……
貴方の行動は、間違ってない。弾幕も刃物も通用せず、妖怪を一撃で倒す程のパンチを放つ相手よ?
下手に立ち向かって二人とも殺されるような事態になるよりは、ずっと良かった」
本当は、知り合いを簡単に見捨てるような奴とは同行したくないのだけど。
……とは、アリスは言えなかった。
鈴仙は月の軍人としての任務を放棄して、地上へと逃げ出してきたらしい。
その罪の意識が、彼女の心に深いトラウマを刻んでいるのだろう。
今ここで彼女に冷たい態度を取ったら、
胸の中で小さくなって震えているこの兎は本当に潰れてしまうかもしれない。
-
……もしそうなったら、本当に彼女は何をしでかすか分からない。
だからここはひとまず、『うわっ面』だけでも優しい態度をとっておく。
(……のは良いのだけど、彼女は私から離れる気があるのかしら)
だが情報交換を行う十数分の間、鈴仙はずっとアリスに抱きついたままだった。
本当はもうすぐにでもこの『爆弾』から距離をとりたかったのだが、突き放すことができずにいた。
(余談だが、この時初めて鈴仙は永遠亭の住人達もこのゲームに参加させられている事を知った様だった)
(……ちょっと面倒なことになったのかも知れないわね)
アリスの心配を余所に、鈴仙の腕は痛みを感じる程の力ですがりついてきていた。
バァーーーーン!!
その時、玄関の戸板を強く打ち付ける音が響いた。
サーフィスから送られた『敵襲の合図』!!
「敵よ、鈴仙!!離れて!!」
「……えっ!?」
アリスが立ち上がり、身構えたようとしたその時、
「『キング・クリムゾン』」
アリスの下半身は冷たい床下に押し込められていた。
畳の上に残された上半身はうつ伏せに倒れ、両肩と両手首を鉄の棒で昆虫標本のように縫い留められていた。
頭の上から少年の声が聞こえた。
「ねえ、お姉さん……ボク人を探してるんだけど……どこにいるか知らないかなぁ?」
-
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――この気持ちはなんだろう。
――優しく包み込むアリスの腕。柔らかなアリスの胸。
――すべらかなアリスの掌。ほのかに香る洋菓子のような、アリスの匂い。
――恐怖で凍えていた胸の中に温かい灯がともり、融きほぐされていく。
――こんな罪深い私に、臆病で、卑怯な私に、どうして貴女はこんなに優しくしてくれるの?
――師匠も優しい人だけど……きっとこんなことはしてくれない。
――理解、できない。思い出せない。
――それはきっと、とても大切で、かけがえのないもののハズなのに。
――……そう、これは……『思い出す』こと、なの?
――……なんとしても、『思い出さ』なければならない気がする。涙が溢れてきた。
――これを忘れてしまっていることは、とても悲しくて、寂しいことなのだろう。
――こうしてアリスと抱き合っていれば、遠い記憶の果てから『思い出せる』ことなのだろうか……。
『敵』はあまりにも突然にやってきた。
ハッとして鈴仙が我に返った時、いつの間にか彼女は仰向けで月を見ていることに気付く。
錆びた鉄の臭いが、喉と鼻を満たしていた。
それだけでなく、冷たい鉄の棒がアゴの下を突き抜けて口から飛び出ていた。
口だけではない。右胸、左肩、左わき腹、両脚、腰、身体のいたるところから固い物体が突き出て……
「…………………!」
鈴仙は全身を地面から生えた鉄の棒に串刺しにされ、宙に浮いていた。
(い、痛い痛い痛いいたいイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!)
自分の身体の現状を把握すると、思い出したかの様に全身を激痛が襲う。
無造作に地面に突き立てられた鉄棒。その中に鈴仙はデタラメに放り込まれていた。
体重で身体がゆっくりと引き裂かれてゆく。
鉄の棒に刻まれた凹凸が、ずり落ちるたびに骨と肉とを削りとってゆく。
動くことも、叫ぶこともできない。……だがそれは、今の彼女にとって『幸運』だった。
なぜなら……
-
「お姉さん……本当にその『古明地さとり』って女の子が、どこに居るかは、本当に、知らないんだね……?」
先ほど地底妖怪を襲っていたあの人間の声が、部屋の中から聞こえてきたからだ。
(あ、あいつ……やっぱり追ってきていた!!私達を、皆殺しにするために!!
だが……私は、何をされた!?アイツがやったのか?どうやって?!)
「知らないわ……だから、離して……もう、やめて……」
次いで聞こえてきたのは、アリスの弱々しい声だ。
その声は、ついさっきの優しさを微塵も感じさせないほどに、震えていた。
ドン!ダンッ!ベキッ!!
「……ぎゃっ……!」
間髪入れずに畳に何か硬いものを叩きつけるような音。
そして、押し殺したようなアリスの悲鳴。
「指……私の、指が……」
その時鈴仙はようやく状況を理解した。
この少年は、あの地底妖怪『古明地さとり』に目を付け、追いかけている!
一発逆転のアイデアが閃いたか、運良く仲間の助けがあったのか、
とにかくあの後さとりは運良くあの人間から姿をくらまし……引き換えにアイツの怒りを買ってしまった。
そして怒りに狂うアイツは、
-
「アハハ、指ならまだ9本もあるじゃないか、極東の業界じゃこれくらいは通過儀礼のうちらしいよ?
ダイジョウブ、ダイジョーブ……」
ダァン!
「ひっ……」
ギリッ、ミシリ、ミシリ、メキ……
「……ホラ、もう8本しかないぜ?結婚指輪もう付けられなくなっちゃったなぁーッ!……話せよ」
「あ、あ、ああ……知らない、本当に知らないのよ……」
何としても、手段を選ばずに、あのさとり妖怪の事を探しだそうとしているのだ。
無関係の者を拷問にかけるくらい何とも思わないのだ、あの人間は。
……そう、
(アイツ……見ず知らずのヒトにどうしてあんな酷いことができるの!?
食べる為でもなく、身を守る為でもなく……恐怖と苦しみだけをいたずらに刻みつけて……
アイツ、『バケモノ』だわ。そうだ、あの人間こそが、『バケモノ』なんだ……!)
抵抗も、逃走さえも許さずに、ゆく先々に悪意と暴力を撒き散らす。
あの存在こそが、正しく『バケモノ』なのだ。
殺されるんだ、みんな、みんな……!あの『バケモノ』のような人間に……!
その時、絶望にくれる鈴仙の背後……『下』から、微かな、小さく息を潜めた声が聞こえた。
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「鈴仙……まだ生きてる?」
まさに今、あの『バケモノ』に蹂躙されている少女と同じ声。
『アリス』と同じ声だ。
(アリス……の、スタンド!?)
鈴仙が仰向けのまま瞳だけを左に目一杯動かすと、
視界の端で『アリス』が縁側の床下を這うのが見えた。
その顔は頭頂部から真っ二つに割れ、断面からは木目が覗いていた。
玄関で見張りに立ち、真っ先にアイツの攻撃を受けた『サーフィス』だ。
自律行動の可能な彼女が、『本体』と『その仲間』の危機に助けにきてくれたのだ。
「生きてるわね?なら聞いて、鈴仙、今から貴女を助ける……いえ、『私』を助けて欲しいのよ」
『支給品』はポケットに入れてるわね?それを使えば貴女は助かるわ。
その後、貴女の能力でアイツを撹乱して。……それだけで良いわ」
(…………アイツに、私が何をするって!?)
「『支給品』は少し分けてもらえる?……とにかく、そのあとは『私』で何とかする。
貴女は好きに逃げて良い。……別にアイツを『食い止めろ』なんて言わない……」
(でも……アイツに、私なんかが……)
「お願いよ、どんな形であれ、アイツに反抗するのが怖いのは分かる。
……ひょっとしたら貴女、こんな怖い思いするくらいなら死ぬ方がマシって、まだ思ってるの?
けど……『私』はまだ、生きたい。鈴仙、貴女の力が、必要なのよ」
-
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ボスゥ、この女……本当にさとりとかいう女の事は知らないみたいです……」
『本体の』アリスの頭上で少年がつぶやくのが聞こえた。
やっと、『解放』されるのか?決して態度に出すことはできなかったが、
アリスは密かな安堵を覚えていた。
「……『解放』?いえ、ここはこの女の知り合いの情報について聞いてみましょう」
「……!!」
「そんな、『良い考えだ』って褒めて頂けるなんて……ありがとうございます!!
ボク、頑張ってこの女から聞けるだけの情報を聞き出します!」
その『良い考え』を同行者らしき何者かに褒められた少年の声色は
まさに喜色満面(顔は見えないが)といった風であった。
ゾッとした。拷問はまだ続く。
ここに呼び出されている友たちの情報を吐き出さされ、まだまだ苦しまされ続けるのだ。
あの時『いっそ殺して』と叫んだ鈴仙の気持ちが理解できた気がした。
目の前……庭先で何本もの鉄の棒に串刺しにされて動かなくなっている鈴仙と
早く同じ目に逢いたいと願ってしまった。
だが、その串刺しの鈴仙が……フッとアリスの視界から姿を消した。
支えとなっていた鉄の棒が、庭に向かって倒れたのだ。
「ボス……ごめんなさい。刺し方のバランスが悪かったみたいで……
違う!コイツ、まだ生きて……何っ!?」
-
縁側から、兎の耳が飛び出していた。
……1対ではない、何対もの耳が一斉に飛び出し……!
畳にうつ伏せで固定されたアリスの視界を、鈴仙の脚が埋め尽くす。
幻兎『平行交差(パラレルクロス)』。
鈴仙の狂気の瞳によって生み出された何人もの、何十人もの鈴仙が『同時に』、少年に向かって殺到した。
加速を付けて右ストレートで殴りかかる鈴仙。
肩を怒らせて詰め寄り、股間を膝で潰そうとする鈴仙。
カンフー映画のようなフォームで飛び蹴りを仕掛ける鈴仙と、コマのように回転しながら飛び蹴りを仕掛ける鈴仙。
四つん這いの状態から跳びかかり、喉笛を食いちぎろうとする鈴仙。
地を這うような鋭いタックルで膝を取り、そのままジャーマンスープレックスを仕掛けようとする鈴仙。
部屋の梁の上に張り付き、指先から弾丸を放つ鈴仙。
「力を、お借りします、ボス……『エピタフ』!!」
少年・ドッピオの額に浮き出た『エピタフ』が数秒後の未来を映し出した。
殴りかかる鈴仙、蹴りかかる鈴仙、掴み掛かる鈴仙、弾丸を放つ鈴仙……。
全てドッピオの身体をすり抜けている。偽物だ。
『本物の』鈴仙は右側方から回りこみ、赤い目から放たれる閃光を放ってきている……
だが、それも『キング・クリムゾン』の豪腕が弾き飛ばしていた!
「右側方!!『予知』が視え……」
予知に従い、右側方の『本物』に狙いを定めるドッピオを、異変が襲った。
『予知』で視える『赤い閃光』から、目が離せない……意識を釘付けにされる!!
「な、何ィ、この『赤い閃光』、『視る』のはマズイッ……!!」
意識を、抜き取られるッ、どうしても支えられないッ!!
「ボ、ボスッ……コイツの『能力』、ヤバい……!」
-
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
鉄の棒で庭先に串刺しになっていた鈴仙は、床下に潜む『サーフィス』に救出されていた。
サーフィスは鈴仙を串刺しにしていた棒ごと鈴仙を縁側の床下に引き倒し、
まず上半身に突き刺さっていた鉄棒を抜き取った。
その傷口は鈴仙がエニグマの『紙』としてブレザーに忍ばせていた不思議な縫合糸……
『ゾンビ馬』ですぐさま縫い合わされた。
デタラメに縫い合わすだけで傷口を塞ぐ『ゾンビ馬』の治癒力に、『サーフィス』の常人離れした動作スピードと、
コピー元のアリスに染み付いていた動作・『人形作り』の技術を応用した縫合、これらが組み合わさることで
鈴仙の臍から上の傷は3秒にも満たない時間で治癒された。
上半身の傷が塞がった所で鈴仙は軒下から顔を出し、
スペルカード・幻兎『平行交差(パラレルクロス)』を発動。
本体のアリスを拘束中のドッピオの目を欺くことに成功した。
ここまでは、『サーフィス』の作戦通りだった。
鈴仙のスペルを発動する間も、『サーフィス』による治療は何だかよくわからないような速さで続けられていた。
その最中、割れた頭の『サーフィス』が鈴仙に告げた。
「私が『本体』を助ける。逃げて」
「……嫌」
ほんの2秒のやりとりの間に下半身の治療も終え、鈴仙の姿をコピーした『サーフィス』と、『本物』の鈴仙が、
幻影の群れの中に飛び込んだ。
-
――アリスと抱き合っていて、思い出したことがある。
――『こと』と言うほど、はっきりしたものではないのかも知れない。
――おぼろげに思い出したのは、想い。
――長い時の流れの果てに、忘れ去ってしまっていた想い。
――私は、どうして兵士になったのか、もう覚えていない。
――志願したのか、徴兵されたのか、生まれつき兵士として育てられたのか?
――月に残っている軍の記録を漁れば、きっと分かるのだろう。
――だけど、それを読んでも他人の記録を読むようにしっくりと来ないに違いない。
――遠い昔のことだ、完全に忘れてしまった。
――それでもたった今、『想い』だけは思い出せた。
――今目の前で、倒れている『アリス』は、生命を賭けてでも守るべきものなんだ。
――兵士になりたての頃……今は友さえ平気で見捨てる私でも、確かにそんな『想い』を抱いていたはずなんだ……!
無数の『私』に混じり、私はあの『バケモノ』に突撃した。
頭の割れた『私』も、アリスを救い出すべく『バケモノ』の元へ向かっている。
そのアリスは……!ついさっきまで私を抱きしめていた腕が鉄の棒で貫かれている!
繊細なロウ細工のように白く、美しい指が……左手の薬指と小指が無残に切り落とされている!
痛い……私が、串刺しにされていた時よりも『痛い』。
信じられない、コイツ、どうしてこんな酷いことができる……!
生まれて初めてかも知れない、私が誰かに対して『殺意』を抱いたのは……!
私は分身に紛れて、奴の側方に回りこみ、
スペルカード・弱心『喪心喪意(ディモチヴィエイション)』を発動した。
-
「な、何ィ、この『赤い閃光』、『視る』のはマズイッ……!!」
や、やった、効いている!
師匠に聞いた話では、ヒトの知覚情報の8割を『視覚』が占めているという。
スペルカード・『喪心喪意』は、赤い『光』の波を放って視覚から精神に干渉するスペル。
奴と私の距離は約2メートル。
この距離で普通の人間がこのスペルを喰らったら数分は起き上がれないはず……。
「ボ、ボスッ……コイツの『能力』、ヤバい……!」
朦朧とする『バケモノ』に、私は迷わず『銃』を向けた。
トドメを刺す……!コイツは生きていちゃいけない!
だが、弾丸を放つその一瞬前に
「え、あがっ……!そん、な……!『二重人格』……!」
立つことすらままならない『バケモノ』から飛び出たあの『赤いスタンド』の拳が、
私のお腹にめり込んでいた。
そして、『バケモノ』は、『少年』ではなくなっていた。
『バケモノ』の体格は二回り以上も大きくなり、短髪だったはずの髪は背中まで伸びてマダラに染まっていた。
そして何より、その瞳!妖怪より妖怪めいておぞましく濁った、邪悪な瞳!
ああ、私は……本物の『バケモノ』を呼び起こしてしまったのだ……!
(ア、アリス……逃げて……!)
私の身体はふすまをなぎ倒しながら吹き飛ばされ、廊下を飛び越し隣の部屋のタンスにぶつかってようやく停止した。
もはや私にできることは、『サーフィス』に抱えられて逃げてゆくアリスの無事を祈ることぐらいだった。
-
死ぬのは、不思議とあまり怖くない。
最期の場所が『永遠亭』なんて、私なんかには勿体無いくらいの幸運だ。
ちょっとだけだけど、『兵士』らしい事もできて……これでやっと楽になれる。
お師匠も、姫も、てゐも、月に残してきた皆も……これで私の事、少しは『褒めて』くれるだろうか。
(『サーフィス』、後は頼んだわ。『指』は、忘れすに拾ったわね?『ゾンビ馬』は、ちゃんと持ってるわね?)
あの『バケモノ』はこちらに気を取られているのか、
後ろで背を向けて走り去ろうとする『サーフィス』とアリスには気付いて……
「気づかないとでも思っていたか、浅はかなカス共が」
ヤツはそうつぶやくとアリスから抜き取られた鉄の棒を『スタンド』で拾い上げ、
くるりと背後に向き直ると槍投げの要領で鉄の棒を投げつけたのだった!
私に化けた『サーフィス』はアリスとまとめて串刺しになり、部屋すら脱出できずにあっさりと縁側に倒れこんだ。
私の姿をコピーしていた『サーフィス』はただの木の人形に戻り、動かなくなってしまった。
『本体』のアリスが意識を失い、スタンド能力が解除されてしまったのだ。
……詰んだ。
――私はここで死ぬ。
――アリスも、永遠亭の皆も守ることもできないままに。
――アリスのおかげで思い出せそうな、『大切なモノ』が何なのかも分からないままに……!
――あの『バケモノ』の圧倒的な悪意を前にしたら、私は土くれのようなもの。
――拳一つ振り下ろすだけで、簡単に叩き潰される。それで終わり。
――所詮『歩』の駒に過ぎない、一山いくらの消耗品。
――……私は自分の事を、『兵士』というものを、そんな存在だと、そう思って『いた』……。
-
「アリスから……離れろォーーーーーーッ!!」
アリスが貫かれた次の瞬間、私は立ち上がり、あの『バケモノ』の背中に向けて『弾丸』を放っていた。
まだ立てる……私は、まだ戦える!
依姫様と豊姫様に厳しく鍛えて頂いたお陰か、お師匠様のキツいおしおきに耐えてきたお陰か。
あの地霊殿のさとり妖怪より、私の身体は頑丈らしい。
『たちなさい!』、などと言われるまでもなく、『血を吐きながら準備オッケー。』だッ!
「喰らえッ!喰らえ、喰らえ、喰らえェーーーッ!!」
私は全力で『弾丸』を連射しながら、『バケモノ』に向かって突き進んだ。
策なんて無い。とにかくアリスからヤツを引き剥がす!
「……!チッ!」
私の復帰に気付いたらしいあのバケモノは……舌打ちを残して『私の方を振り向くこともなく』あっさりと姿を消した。
……逃げたのか?
奴の、気がついたら姿が無くなっているこの感じ……似ている。
姫様の持つ『永遠と須臾をあやつる程度の能力』や、咲夜の持つ『時間を操る程度の能力』に……。
……だけど、彼女たちの能力とは違う、違和感も感じた。
奴が消える瞬間、私の放った『弾丸』は数十メートル先にジャンプして前に進んで庭先へと消えていった。
……奴に向かって突っ込んでいたハズの私の足元には、奴の向こう側に倒れていたアリスがいた。
そして足元のアリス……つい今しがた鉄の棒に貫かれた胸から溢れ出た血が、既に大きな血溜りを作っていた……!
-
私は……『数秒後の未来』に強制的にジャンプさせられたんだ。
私だけではない。……恐らく『奴以外の全ての存在』を未来へ向けて強制的にジャンプさせたんだ。
その数秒の間、……好きに行動できるのは奴だけで……奴は意のままに数秒後の未来を操る事ができるんだ。
直接発動の瞬間を目の当たりにして、ようやく判った。
言わば『時間を飛ばす』程度の能力!それが奴の能力の正体……。
……恐らく奴は逃げていない。目の前で『能力』の発動を見られたんだ。
能力が不調なせいか、物陰越しに奴の『波長』を読む事はできないが……。
対策を練られる前に片付けようと、今もすぐ近くで息を潜めているはずだ!
「どこだ!どこへ行った!」
私は、部屋中をデタラメに撃ちまくった。
ふすま、障子、天井、床下、鏡……。
奴は『邪仙のカンザシ』をその手に持っていた……。
話に聞いていただけで本物を見るのは初めてだが、あのカンザシは壁に簡単に穴を空けることができ、
その穴は通り抜けた後にすぐに元通りになるという。
『時間を飛ばす』能力と組み合わせたら、どこからでも私達を襲うことができる……。
アリスが床に埋まっていたのも、あのカンザシを使ったためだろう……。
……後で師匠に怒られるのは、覚悟の上だ……奴の隠れそうな場所は全部吹き飛ばす!
「くそっ、どこだ、どこだァッ!!」
……ダメだ、弾幕の連射速度が伸びない。
いつもの調子だったら、通常の弾幕だけで全方位をまとめてハチの巣にできるのに!
これだったら、火薬式の銃でも使った方がマシだ……!
高威力のスペルカードなら……それもダメだ、たとえ周りを吹き飛ばしても、
それで奴を殺しきれる保証はどこにもない!そして、終わり際の隙を狙われる!
その間にも、アリスの胸の傷穴からは脈打つ様に血が噴き出て、周りの血溜りは更に広がっていく……!
一刻も早く『ゾンビ馬』で傷を塞がなければ……!
でも……治療のために隙を見せたら、その瞬間に殺られる!
-
……それが奴の狙い!……アリスにトドメを刺さずに身を隠したのは……!
「くっ……アリス、アリス!うおおおおおおおお!」
……だが、私にはアリスを見捨てることなどできなかった。
私は銃撃を止めて屈み込み、アリスの身体に覆いかぶさる様に倒れていた『人型の物体』を跳ね飛ばした。
そして『私』がゾンビ馬を取り出したその瞬間に……アリスの血溜りが、『グン』と一瞬にして大きくなった。
時間が『飛んだ』ッ!
その瞬間を狙って、『私』の右眼からレーザー光線・イリュージョナリィブラストが放たれる!
狙う先は……さっき『弾丸』でヒビを入れた鏡!!
ひび割れた鏡を『乱反射』したレーザーは、部屋中、全方位に向かって散乱した!
もちろん、縁側で倒れているアリスにもそれは降り注ぐ!
だがそれは『私』自身の身体を盾にして防ぐ!
その『私』の体にはもちろん、
「やはり、『アリス』とやらを生かしておいたのは正解だった……
貴様がどれだけデタラメに撃ちまくろうと、
まだ生きている『恋人』には当たらないようにするだろうからな……」
レーザーから隠れた位置に出現したヤツの『赤いスタンド』の腕が突き出ていた!
そこで私は叫んでやった。
-
「「かかったな、⑨(バカ)が!」」
と、『私に化けたサーフィス』と障子の陰に隠れた『本体』で、
『ステレオ』で叫んでやったッ!
「お前が今殴ったのは……人形だッ!」
アリスの治療の為に屈み込むと同時に、
私はアリスの頭に挿さっていた『サーフィスのDISC』を自分の頭に挿しこんでいた。
そして、スタンド能力『サーフィス』を再起動して、木人形を私の姿に変えてオトリにした!
『サーフィス』の目からレーザー光線を放っているように見えたのは、割れた頭の部品の一部を鏡と差し替え、
本体から放たれるレーザーを反射させたからだ!
「!!」
「こっちを『視た』わね……」
そして奴がこちらを……『本体』の私の方を向いた時、
私は、最大の切り札を発動……
「幻朧(ルナティック)……うっ!?」
発動できない!
視界が赤くかすんで、『狂気の瞳』が使えない!
……これは……『血糊』!?
「その程度の策を、『エピタフ』無しで『予測』できないと思ったか!?
とはいえ、スタンドを覚させる『DISC』とやら、そして貴様のその『眼』
……初めて見た時は少々肝を冷やしたがな……
血糊で潰せば恐るるに足らん……くらえっ!!」
そして、血糊越しの視界から、すさまじい威力の『スタンド』のパンチが私に襲い掛かったッ!
-
「ぐはっ……!」
その衝撃は凄まじく、私の身体は庭先までは弾き飛ばされた!
「ま、まだだッ……!」
「スタンドの攻撃を『生身で防いだ』だと……!」
そう、私は、ボディに向けて放たれたパンチを、腕を十字に交差してどうにか『ガードしていた』。
おかげでこの『鬼』か『吸血鬼』のようなパワーの攻撃を受けても、何とか腕の骨にヒビが入る程度で済んでいた。
そうだ、たとえ『鬼』に殴られようとも、この玉兎の『エース』が一撃程度で倒れるものか。倒れてなるものか。
私は再び立ち上がり、拳を握ってファイティングポーズを取った。
「どこまでも、どこまでも肥溜めのゴキブリの様にしぶとい小娘が……!
だがその命運もここで尽きる……!『エピタフ』ッ!!」
「う、うおおおああああああ!!」
私は、頭を両腕でブロックしながら、全力で地面を蹴って奴に突撃した。
――怖い……!
――あんな『時間を飛ばす』能力と、『鬼』のようなパワーを持つ相手に向かっていくなんて、
――アイツの敵意を真正面から一身に受けるなんて……頭がおかしくなりそうだ。『涙』が溢れてくる。
――確かに私は本気の殺し合いではないにせよ、『鬼』や『吸血鬼』や『神様』と殴りあったことはある。
――でもそれは幻覚で撹乱したりしながら、どうにかだましだまし渡り合えたというだけのことだ。
――『眼』を封じられた状態で殴りあったら、1分も経たずに『玉兎のつくね肉』になる自信がある。
-
目の前のスタンド使いの人間もまた、鈴仙に向かって全速力で走り出した。
(視えた!……1.5秒後、小娘の腹はこの『キング・クリムゾン』の腕がブチ抜いているッ!)
――けど……アイツだって『怖い』のは同じハズなんだ。私のことが『怖い』に違いないんだ。
――……でなければわざわざ隠れてから奇襲なんてマネするもんか!
――『同じ』なんだ!私とアイツは!持っている『能力』が違っていても、人間と妖怪の違いがあっても!
――アイツはとても手の届かない『バケモノ』なんかじゃないし、
――私は拳一つで潰れる『土くれ』なんかじゃない!『同じ』なんだ!
――『同じ』だから、戦うんだ!
――戦うから……『兵士』がいるんだッ!!
「やはり運命に選ばれたのはこの『ディアボロ』だッ!!死ねェ!小娘ェェェーーーッ!!!」
そして彼我の距離が2メートルまで縮まった瞬間、
私のがら空きの腹部に向けて、キング・クリムゾンの渾身の右腕が砲撃めいた勢いで振り下ろされたッ!
「ガハッ!」
私はそのパンチを半身になってかわす……かわしきれない!
衝撃の余波が皮膚を抉る!臓腑を揺るがす!
『パンチ』は私の服をかすめただけなのに!
だが……!
「捕まえたああ!!」
-
私は、左腕で『キング・クリムゾン』の、『スタンド』の右腕を『抱え込んだ』。
あの時、アリスから聞いていた……スタンドが『精神の力』の発露の一種だろうということは……。
つまり、『スタンド』は、『霊力』や『魔力』や、『妖力』と『同じ』なんだ……。
だから、私の『波長を操る程度の能力』で、スタンドに『位相』を合わせた『妖力』を身にまとえば
こちらから『スタンド』に『干渉』できる……つまり、『スタンドに触れる』んだ……!
「……この『光景』!『エピタフ』の予知と同じッ!!
『K・クリムゾン』の右腕は小娘の腹を『ブチ抜いていた』のではなく、『脇に抱え込まれていた』だとッ!」
やっと捕まえた……!
奴の『スタンド』の表情が、歯を食いしばり目を見開いた、『怯えた表情』が、『ハッキリと』良く見える……!
そして、残った左腕と両足が私を攻撃する前に……!
「今度こそ喰らえ!スペルカード……!」
――私は今まで生きてきて初めて自分が『臆病』な性格で良かったと思った。
――兵士として長い永い間生きてきて、ずっとその『臆病』さで怒られ続けてきていて、
――自分でもそんな性格が嫌で嫌で仕方なくて、それでもどうやっても直せなくて……
――私に生まれた時から植え付けられていた『呪い』だと思っていた『臆病』さが、
――今やっと初めて、役に立ったんだ……!
――なぜなら……!
-
「小娘、貴様!!『血の目潰し』が!!」
――アイツに立ち向かう『恐怖』で私の目から流れ続けていた『涙』が、『血糊』を洗い流してくれたからだ。
「『幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)』」
「まずいッ『キング・クリムゾン』!!『時間を吹きとばせ』ェッ!!」
鈴仙の両眼から放たれる閃光が、永遠亭の庭全体を数秒の間サイケデリックな赤い縞々模様に染め上げた。
直視すれば発狂は免れない、五感を通じて精神を侵す『狂気の波』だ。
光だけではない、音波、妖力の『狂った波』が、感知できる領域とできない領域でヒトの精神を蝕む。
この距離で『本来の出力』で放たれれば、ヒトの脳味噌など簡単に沸騰して味噌汁に変わってしまう。
……『吹き飛ばされた時間』に逃げたディアボロも、その波から逃れる事はできなかった。
「ぎゃああああああああああ!!」
気が付いた時、鈴仙のL.R.E.……『幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)』は発動を終え、
目の前には絶叫して頭を抱えてのたうつディアボロの姿があった。
時間を吹き飛ばされる前にL.R.E.で意識を奪えるかどうかは、正直賭けだった……。
『時間が吹き飛ぶ』のを感じた時は『負けた』と思った。
だがどうやら『吹き飛んだ時間』の中でも、L.R.E.は効果があったらしい。
-
――危ない所だった……。
――アイツのスタンドが『キング』じゃなくて『ジョーカー』だったら私が負けていた所だった……。
『吹き飛ばされた時間』で、ディアボロが物理的な干渉を受けることはない。
……だが、モノを『視る』ことができる。
『吹き飛ばされた時間』でL.R.E.の『可視光線』の成分を至近距離で直視してしまったディアボロは、
死には至らなかったにせよ、両目からハンドミキサーを押し込んで脳を撹拌されるような、
想像を絶する……としか表現できない苦しみを味わっていたのだった。
「あぎゃああああああああああ!!」
「ハア、ハアッ……!……今、楽にしてやるッ」
転げまわる男の頭に向け、鈴仙は静かに『照準』を合わせた。
コイツは外道だが……それでもヒトがこんな風に苦しむ様子を見るのは忍びない。
……こんな相手に同情するとは思ってもみなかったと、鈴仙は自嘲した。
バシュン!バシュン!
小さな発射音と共に鈴仙の指先から放たれた『弾丸』だったが、それが男の生命を奪う事はなかった。
地面に刻まれた2つの弾痕だけが、男のいた場所に残された。
竹林の方から、やぶをかき分ける音が遠ざかっていくのが聞こえる。
「逃げられた……。『若い方』が出てきて、『時間を飛ばした』か……!」
-
鈴仙には撃った瞬間、『男』が『少年』の体格まで縮むのが見えていた。
最初に『喪心喪意(ディモチヴィエイション)』で黙らせた方の人格が目を覚まし、
もう一人を助ける為に『時間を飛ばして』逃げたのだろう……。
追い掛けてトドメを刺さなければ……だが、鈴仙にはその前にどうしてもやることがあった。
「……アリス……アリスは!!」
縁側でぐったり動かなくなっているアリスに飛びつく鈴仙。
床にできた血溜りはいよいよ縁側から滴り落ち始めていた。
元より色素の薄かった皮膚は、ほとんど土気色に変わっていた。
極めつけに
「アリス……脈がない……!」
-
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
※ここでアリス・マーガトロイドの『生死判定』を行います。
次のレスで私はこのトリップと同じトリップで、別の機器(ガラケー)から書き込みを行います。
その時表示される『ID』の内容が、アリスの生死を分けます。
『次のレス』の『IDに含まれるアラビア数字』が、
・『3つ以下』なら、アリスは『死亡』します。
・『4つ以上』なら、アリスは『生存』します。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
-
ネット上を舞うテニスボールの行方は……?
-
※アリス『死亡』
鈴仙は、泣いていた。
『ひとりぼっち』の病棟で、『顔の割れたアリス』の胸を借りて、肩をゆすり、静かに泣いていた。
目の前のベッドに横たわっているのは、『アリス』の亡骸。
鈴仙は『サーフィス』と共に、アリスの生命を救うべく、師に教わったとおりの、できる限りの手を尽くした。
だが先刻のディアボロの攻撃で、彼女は余りに多くの血を流し過ぎた。
アリスに鈴仙の忘れかけていたあのぬくもりが戻ることは2度と、ない。
『ゾンビ馬』で縫い合わされた指も、死体には効果がなく、ボトボトと床に落ちてしまった。
あの時もう少し早く立ち上がることができていれば。
私に師匠のような医術の知識と技があれば。
鈴仙は何度も何度も自分を責めた。
『アリス』はそんな鈴仙の話を、ずっと傍にいて聞いてくれていた。
私のせいで『貴女』は死んだようなものなのに、どうして『貴女』はそんなに優しいの?
そう、『アリス』はどこまでも優しかった。……でも、彼女は所詮木人形。
その体は本物とは似ても似つかず、冷たくて、固かった。
鈴仙がいくらすがっても、やりきれない思いだけが積もっていった。
-
遂に鈴仙は、
「……『スタンドDISC』を私の頭から抜いて『サーフィス』を解除するわ」
と、今生の別れを切り出した。
「知っての通り『サーフィス』は死んだ人間を『コピー』することはできない……。
だからアリスがまだ『生きている』間にコピーした貴女は、もう二度とアリスの姿になることはない。
これが『最期』よ。最期に、『アリス』に代わって言っておきたいことは無い?」
「……幻想郷の皆が一人でも多く生き残れるように、貴女の力で守ってあげて。
それから、これはできればで良い……私のカタキを討って。」
「もちろんよ。……それで終わり?」
「………………」
「………………」
「……ねえ、鈴仙。もし、貴女が、…………
…………なんでもない。いいわ、外して」
「……分かった。『DISC』を抜くわ。
私からも。……本当は『アリス』に言いたかったんだけど……ありがとう。
私が戦えたのは、貴女のおかげだった。……さようなら」
「さよなら……ね」
鈴仙が頭から円盤を抜き取ると、木人形にまとわりついていた幻像はフッと消えてなくなり、
力を失ってガラガラと病室の床の上に崩れ落ちた。
-
その後鈴仙は庭の片隅にアリスを埋めると、荷物をまとめ、軽い休息を取った。
「あの男……いえ、今は『少年』だったかしら?
確か『ディアボロ』と名乗っていたはず」
空が明るくなり始めた頃、彼女は永遠亭の門をくぐり抜けて竹林へと歩き出した。
「待ってなさい……今、殺(け)してやる」
鈴仙の瞳は、いまだかつて無いほどに紅く、熱く燃えていた。
【D−6 迷いの竹林(永遠亭前)/早朝】
【鈴仙・優曇華院・イナバ@東方永夜抄】
[状態]:疲労(中)、体力消耗(小)、妖力消耗(大)、(外傷は「ゾンビ馬」で完治)
[装備]:なし、(ゲーム開始時に着ていた服は全身串刺しにされて破れたため、永遠亭で調達した服に着替えました。)
[道具]:基本支給品(食料、水を少量消費)、スタンドDISC「サーフィス」、
サーフィス人形(頭部破損・腹部に穴(接着剤で修復済み)、全身至る所にレーザー痕)、
ゾンビ馬(残り40%)不明支給品0〜1(現実出典)、鉄筋(数本)、その他永遠亭で回収した医療器具や物品
[思考・状況]
基本行動方針:アリスの仇を討つため、ディアボロを殺す。
1:ディアボロを追って殺す。確か今は『若い方』の姿だったはず。
2:永遠亭の住民の安否を確認したい。(今は仇討ち優先のため、同行するとは限らない)
3:ディアボロに狙われているであろう古明地さとりを保護する。
4:危険人物は無視。危険でない人物には、ディアボロ捜索の協力を依頼する。
5:永遠亭でアリスに抱きしめられた時に感じたあの温かい感情が何なのか、知りたい。
※参戦時期は神霊廟以降です。
※波長を操る能力の応用で、『スタンド』に生身で触ることができるようになりました。
※能力制限:波長を操る能力の持続力が低下しており、長時間の使用は多大な疲労を生みます。
波長を操る能力による精神操作の有効射程が低下しています。燃費も悪化しています。
波長を読み取る能力の射程距離が低下しています。また、人の存在を物陰越しに感知したりはできません。
※サーフィス人形の破損は接着剤で修復されましたが、実際に誰かの姿をコピーした時への影響は未定です。
-
「逃げるんだ、今は、とにかく……身を隠さなければ……『ボスが帰ってくる』まで……」
竹やぶをかき分け、逃げるように永遠亭から遠ざかる『ドッピオ』。
その足取りは酔っぱらいのようにおぼつかない。
『キング・クリムゾン』のスタンド能力を使いすぎた疲労と、
『幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)』のダメージが後を引いているためだ。
精神は2つだが、身体は……脳は1つ。
それはすなわちディアボロの精神を傷つけた『幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)』のダメージが、
ドッピオにもいくらか伝わる事を意味していた。
「あの『兎耳の女』はヤバイ、ヤバすぎる……
視るだけで精神をかき乱す眼なんて……『キング・クリムゾン』の、いや、
『スタンド使い』の『天敵』じゃないのか……!?」
それでも、彼は前向きだった。
「でもあの時、何としても『生き延びろ』!永遠亭でボスはボクにそう言った。
『お前の力を信じているぞ』と、ボスはボクにそう言ってくれた!」
「だからボクは、どんな手段を使っても生き延びるんだ、
『兎耳の女』もいずれ絶対に始末して……!」
「そうすれば、ボスはボクを『褒めてくれる』……
ボクにとってはそれが一番の喜びなんだ、ボスが『褒めてくれる』なら、
ボクはどんな困難にも立ち向かえるんだ……!」
-
そう、敬愛する『ボス』に『褒めてもらう』ためなら、彼はどこまでも戦える。
たとえそれが傍目には『哀しき一人芝居』に映ったとしても……。
【ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険 第5部 黄金の風】
[状態]:首に小さな切り傷、体力消費(大)、ドッピオの人格で行動中、
ディアボロの人格が気絶中、酷い頭痛と平衡感覚の不調
[装備]:なし(原作でローマに到着した際のドッピオの服装)
[道具]:基本支給品×2、壁抜けののみ、鉄筋(残量90%)
不明支給品×0〜1(古明地さとりに支給されたもの。ジョジョ・東方に登場する物品の可能性あり。確認済)
[思考・状況]
基本行動方針:参加者を皆殺しにして優勝し、帝王の座に返り咲く。
1:『ボス』が帰ってくるまで、何としても生き残る。それまで無理はしない。
2:新手と共に逃げた古明地さとりを探し出し、この手で殺す。でも無理はしない。
3:『兎耳の女』は、いずれ必ず始末する。でも無理そうなら避ける。
[備考]
※第5部終了時点からの参加。ただし、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの能力の影響は取り除かれています。
※能力制限:『キング・クリムゾン』で時間を吹き飛ばす時、原作より多く体力を消耗します。
※ルナティックレッドアイズのダメージにより、ディアボロの人格が気絶しました。
ドッピオの人格で行動中も、酷い頭痛と平衡感覚の不調があります。時間により徐々に回復します。
回復の速度は後の書き手さんにお任せします。
-
支給品紹介
鉄筋@現実
異形鉄筋(いけいてっきん)と呼ばれる、建築資材。
表面に独特のブロック状の凹凸が付けられた鋼の棒であり、
鉄筋コンクリート構造などの材料として広く用いられている。
今回支給されたのは、直径15〜20mm、長さが1m〜2mのもので、本数は100本程度である。
ゾンビ馬@ジョジョの奇妙な冒険 第7部 スティールボールラン
不思議な治癒効果を持った縫合糸。
傷口をデタラメに縫い合わせるだけで、たちどころに治す力を持つ。ちぎれた手足さえ治すことができる。
ネアポリス王国からSBR選手のジャイロに支援物資として送られたものであるが、その詳細は不明。
今回は縫い針とセットで支給されている。
壁抜けののみ@東方神霊廟
邪仙・霍青娥がかんざしがわりに頭に着けている金色ののみ。
どんな壁でも瞬時に穴を空けることが出来る代物で、
しかも空いた穴はわずかな時間で跡形もなく元に戻る。
ゲーム開始前に霍青娥から没収され、彼女の頭には同じデザインのただのかんざしがつけられている。
-
以上で今回の投下を終了します。
アリス生存時の分岐を、没ネタスレに投下します。
-
隠れるのはボスの十八番だが…どうなるかな
-
投下乙です!
ディアボロは相当強かったけど、鈴仙がスゴク頑張った!
限られた情報から敵の能力を推測、自分の能力やアイテムを駆使して勝機を切り開いてくという
ジョジョらしい戦闘は見事と言わざるを得ないくらいに面白かったです…!
あと途中の生死判断は驚いたけどなかなか斬新な…w
アリスは死んでしまったけど、覚悟完了した鈴仙の今後が実に気になる
-
「スタンド使いの天敵」か。ディアボロがキングなら鈴仙はジョーカーだな。
今後の展開ではDIOや吉影、ディアボロやプッチに対する切り札になるかも。
-
スタンド使いの天敵か
柱の男「…ニヤリ」
-
そうか…ワムウは自分の目を潰すのが趣味だったな
-
投下乙
精神の具現化であるスタンドにうどんげの能力はまさに天敵だなあ。
…まあ暴走して手が付けられんようになるかも知れんが。おもにチャリオッツ
あとふと思ったのだがDISC知らないってことはこのボスは大冒険前かw
-
大冒険経験してたら他のジョジョキャラの情報持ちすぎてる!
-
投下乙です。
予約を見たときは鈴仙の方が死ぬかと思ってたけど
まさかディアボロを撃退するとは思わなかった。
ところで、鈴仙とさとりって知り合いなんですか?
-
投下乙です!
絶望しかない戦いを覚悟によってひっくり返した戦闘展開にはハラハラしました・・・!
しかしアリス・・・生存を切に願っていたけど現実はあまりに非情であった・・・
大事な人を失って覚悟完了という点では静葉姉貴に通じてるが、このうどんげならもう大丈夫そう
というかこれを見ると静葉姉貴の先行きが不安になってくるw
そして藤原妹紅、リンゴォ・ロードアゲイン
以上2名を予約します。お正月には間に合うかしら・・・
-
>――けど……アイツだって『怖い』のは同じハズなんだ。私のことが『怖い』に違いないんだ。
>――……でなければわざわざ隠れてから奇襲なんてマネするもんか!
>――『同じ』なんだ!私とアイツは!持っている『能力』が違っていても、人間と妖怪の違いがあっても!
>――アイツはとても手の届かない『バケモノ』なんかじゃないし、
>――私は拳一つで潰れる『土くれ』なんかじゃない!『同じ』なんだ!
>――『同じ』だから、戦うんだ!
>――戦うから……『兵士』がいるんだッ!!
この下りが好きだなぁ
ディアボロの本質を的確に暴いてるのが印象的
その上で彼と同じ「臆病な兵士」として奮い立つ鈴仙が本当にカッコよくて…
-
>>856
そんな変態みたいな形容の仕方すんなwww
-
面白い生死の分け方したなぁ
アリスが死んじゃったのは悲しいが、熱くて良い話だったぜ
-
>>854
敢えていうなら鈴仙は『エース』(小声)
>>859
特に原作中で絡みがあるキャラクターではありませんが、
顔と名前ぐらいは知っている間柄だと思われます>うどんげとさとり
本ロワ中での鈴仙とさとりの関係は、過去の作品をお読み下さい。
-
投下乙です。
精神を乱す能力は、スタンド使いに強いな。
2人なディアボロは、むしろ有利な方。
ディアボロがキンクリとエピタフの2つを持ってるのって、二重人格が関係してるんだろか。
-
キング・クリムゾンはディアボロのスタンドでエピタフはディアボロがドッピオから取り上げたスタンド
なんて妄想はいつもしてるよ
-
エピタフで予知も危険・・・他のスタンド使いよりもディアボロの方が二重人格な分
有利だけどスタンド能力自体では他よりも天敵なんだよな。鈴仙を倒しやすいのは
ディアボロだけどディアボロを倒しやすいのも鈴仙か。ディオとジョナサン並みによく出来た関係だな。
-
最期にはうどんげの肉体を奪ったボスが誕生してオチがつくわけだな
-
>>868
ボスならやりかねないなw実績あるしw
-
彼、出自や母親に対する仕打ちからして種族人間じゃないよ、多分w
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>>870
妖怪としての長い生の間に忘れてしまった『母親』を求めて戦った鈴仙とは
その辺も対になってるところだな
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ジョジョキャラ全体でもぶっちぎりに考え方は意味不明で行動は不気味で過去は謎のキャラなのに
汗をかきながら必死に頑張ってる様子を見ると親しみまで湧くから面白い
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河城にとり、広瀬康一
投下します
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妖怪の山の麓にあるはずの河童のアジトを目指して川沿いを歩き続けていた河城にとり。
今のところ、特に他の参加者と遭遇することも無く進むことが出来ている。
そのことに多少の安堵を覚えつつ、彼女は警戒状態で移動を続けている。
この会場には先程の異形のような凶暴な怪物がいるだけではなく、天狗や鬼などの強大な妖怪も少なからず存在するのだ。
そして、支給された記憶DISCで認識した未知の存在―――『スタンド使い』。
スタンド使いの実力は未知数だが、少なくとも記憶の中で確認出来たのは何れも一筋縄では行かなそうな猛者達ばかりだった。
もしもそんな連中――強大な妖怪やスタンド使い――が殺し合いに乗っていたとして、私がそいつらに遭遇したとしたら。
火炎放射器と自分程度の力で対処出来るのかも疑わしい。
いや、対処出来たとしてもこちらの負傷は避けられないだろう。消耗は可能な限り抑えておきたい。
それ故に、『乗っている』参加者との接触は出来るだけ避けたかった。当然のことだが。
地図を広げて大体の現在位置を確認するにとり。
川から少し離れた地点には祠が見受けられる。此処はE-3、といった所だろうか。
状況を確認しようと周囲を見渡した彼女は、目にしたくも無い物を発見することになる。
(うわ……、)
にとりは『それ』を目にした途端、眉を顰め表情を軽く歪めた。
一瞬動きが止まったが、恐る恐ると彼女は『それ』に近寄って状態を見てみる。
祠の付近に転がっていたのは、二つの無惨な死体だ。
一つは首を失った大男の死体。何というか、相当の巨躯だ。大天狗以上の巨体かもしれない。
近くに生首が転がっているのを見る限り、切断でもされたか。
もう一つの死体は命蓮寺にいたネズミの妖怪の死体だ。名前は確か…ナズーリン、だったな。
頭部の傷を見る辺り、飛び道具か何かで射殺されたのだろう。
死体だけではなく、切断されたらしき『片腕』までもが側に転がっている。
大男もナズーリンも腕の欠損は見受けられない。
彼ら以外の死体も確認出来ない辺り、此処で片腕を失った奴が会場の何処かに逃げ延びているのか。
(…もう『おっ始めてる』連中が居るんだな)
唾を飲み込み、冷や汗を頬から垂らしながらにとりは心中で思う。
二つの死体を目撃したこと、死体の側に二人のデイパックが存在しないこと。
現場の状況から認識したこと、それは『殺し合いは既に成り立っている』という事実。
そう、会場内で参加者同士によるバトル・ロワイアルが始まっているということだ。
(『乗っている奴』がこの二人を殺して、デイパックを回収したんだろう)
まだゲーム開始から数時間程度だと言うのに、殺し合いが既に勃発しているのだ。
それもこんな大男の首を撥ねられるような奴や、妖怪を狙い撃って確実に殺せるような奴がいる。
そう考えるだけで、彼女の中の緊迫感や焦燥感は自然に増していった。
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(この会場にはこんな大男まで殺してる奴が居る。
それどころか、ナズーリンって奴は曲がりなりにも妖怪だ。
肉体的には人間よりも強い筈。…そんな奴が、こうしてスデに殺されてやがるんだ)
にとりはその事実を再認識したことで必要以上の緊張を胸に抱いていた。
積極的に乗るつもりはないが、生存の為には他者を殺害することも構わない。
だが、実際の所こんな「命を賭けた争い」を行った経験など皆無と言ってもいい。
長い間、にとりは妖怪の山という組織社会の恩恵を受けて暢気に暮らしていた。
人間に退治されそうになったことなんて殆ど無いし、命の危機に晒されたことも全くと言っていい程無い。
そんな彼女がまざまざと『暴力の痕跡』と『妖怪の死』を見せつけられ、少なからず動揺を覚えるのは自然なことだ。
(全く…『秋の神様』が見せしめになった時は一応冷静で居られたってのに…。)
右手の親指の爪を噛み、軽い苛立ちを覚えながらにとりは思う。
彼女が僅かとは言え恐怖を感じたのは、殺し合いへの忌避感からではない。
ナズーリンという妖怪の死によって『自分のような妖怪でさえ死と隣り合わせの状況に置かれている』という現実を改めて認識させられたからだ。
自分は妖怪だ。だが、此処はその『妖怪』ですら数時間足らずで死ぬような場所なのだ。
恐らく終盤まで生き残るのは天狗や鬼といった強者共。そんな中、自分はどうか。
私はあくまで技術に長ける河童。発明品を奪われては全力を発揮出来ないし、地上での身体能力も高いとは言えない。
正直言って、私は妖怪だと弱い方だ。
だからこそ頭を振り絞って生き残る為の術を考えなくてはならないの。
まぁ、自慢の発明品が詰め込まれた通背が見つかれば多少は何とかなりそうだが。
(褌締め直さなくっちゃあな…ビビってばっかじゃ生きてられない)
にとりは側に転がり落ちていた西洋剣を回収しながら思う。
現状の目的地は、妖怪の山の麓、玄武の沢―――あるかも解らない河童のアジト。
工具や機材が置いてあることを願っているが、無ければ上手いこと身の振り方を考えなければいけなくなる。
このDISCで得られた情報も駆使して、何とか生き残る算段を打たなければ。
「あの〜…」
積み重ねていた思考に割り込むかの様に、背後から声が聞こえてくる。
ビクッと一瞬驚いた様に身体が跳ね上がりそうになるが、すぐに冷静さを保ってはにとりは振り返った。
周囲への警戒を怠り、他の参加者が接近してたことに気付けなかったという事実を少しだけ恥じつつ。
「『河城にとり』さん…ですよね?」
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彼女が振り返った先にいたのは、自分と然程変わらない背丈の少年だった。
少し表情が強ばっているのは恐らく近くに転がっていた無惨な死体を目撃したからだろう。
ともかく、にとりは得体の知れない少年に話し掛けられたことで僅かに眉を顰めつつ応対する。
「……。そうだけど…誰だ、あんた?」
「僕、広瀬康一って言います。殺し合いには乗っていません…だから、安心してください」
『広瀬康一』と名乗った少年は柔和な表情を作ってそう答えた。
随分無警戒に近づいてきたな、と私は何気なく指摘してみる。
そうしてみると康一は「死体の側に居るにとりの姿を発見し、少し離れた地点から様子を伺っていた」と語った。
現場の状況や死体を見ていた際の反応から『二人に手を下した人物ではない』と判断して接触を試みたという。
先程まで表情が強ばっていたのを隠し切れてなかった癖に、柔らかな態度を作ったのはこちらに警戒心を与えない様にしている為だろうか。
動揺と緊張が見え見えだ。それでいて、こうやって無理に穏やかな物腰で話しかけてきている。
まるで無力な子供に対して対応を行ってるかのように見えるのが癪である。
軽い苛立ちを感じつつも、出会った直後に疑問を抱いた点について問いかける。
「…康一とやら。お前何で私の名前を知ってたんだ?」
怪訝そうに目を細めながら問いを投げかけるにとりに対し、康一は少し返答に悩む様に答えた。
「その…確か、にとりさん。『東方心綺楼』ってパソコンのゲームに出演してましたよね?それをプレイして…」
「―――おい、ちょっと待った!東方……心綺楼?って、何だよそれ」
『パソコンのゲーム』『東方心綺楼』。
唐突に現れた聞き慣れない単語ににとりは首を傾げる。
(一応パソコン本体はあの半妖の物売りの所で見たことはあったが)
康一はにとりの反応を見て、どこか意外そうに驚いた素振りを見せている。
「えっ…!?にとりさん、心綺楼のこと知らないんですか?」
「んなもんハナから知らないよ。……あと敬語やさん付けはしなくていいよ、何かこそばゆいし」
軽く眉を顰めつつ、疑念を抱くような表情でそう口にするにとり。
明らかに『東方心綺楼』を知らない様子の彼女に対し、康一はデイパックから畳まれた紙を取り出す。
そして彼は、その掌の上で紙を開き―――支給されたノートPCを両手の上に乗せた。
「えっと、それじゃあ…にとりちゃん…でいいかな。さっき言った『東方心綺楼』って、これのことなんだけど――――」
◆◆◆◆◆◆
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◆◆◆◆◆◆
大蝦蟇の祠の裏側に隠れ潜む様に座り込み、康一とにとりはノートPCに写る『東方心綺楼』のゲーム画面を見ていた。
にとりは祠を背もたれ代わりにし、足を伸ばして地べたに座り両脚の上にPCを置いている。
彼女はゲームパッドを握り締め、驚愕の表情で画面を食い入る様に見つめていた―――
(…何だ、これ)
カチャカチャとゲームパッドのボタンを何度も押して『ゲーム』をプレイするにとり。
大まかな遊び方、操作方法は康一に教えて貰った。
(何だよこれ!?…どうゆうことだよッ!?)
疑問と驚愕、動揺や混乱といった感情がその胸の内に次々と沸き上がる。
信じられない、と言わんばかりの表情を浮かべながらゲームをプレイし続ける。
間違いない。忘れる筈もない。この物語は、『あの時』のことだ。
「…に、にとりちゃん?」
唖然としたように画面を見るにとりに問いかける康一。
しかし画面に釘付けになる彼女の耳に彼の声は届いていない。
それもそのはずだ。彼女が認識した事実は、ただただ理解の範疇を超えていた。
(―――なんで『あの異変』が!?なんで、私達が……!)
―――画面に映っているのは、『河城にとり』自身だ。
それだけではない。博麗霊夢、霧雨魔理沙、聖白蓮、豊聡耳神子――――
『あのお祭り騒ぎ』の時の異変と全く同じ物語が、この『東方心綺楼』とやらで作中劇として巻き起こっているのだ!
(…少し落ち着け!落ち着け私…!冷静になって、『東方心綺楼』について分析するんだ…!)
ゲームを進める度に混乱が重なり続ける心中を自覚したにとりは、内心でそう呟きながら深呼吸をする。
そうだ、こうも焦ってばかりじゃ何も解らない!
もっと落ち着け、私…素数数えてでも何でもいいから、落ち着くんだ…!
一体この『東方心綺楼』とは、何なのか―――!
何とか冷静な視点を意識し続けてゲームをプレイし続けるにとり―――。
そうしているうちに、彼女はあることに気付いた。
《弱いじゃん。何で偉そうにしてんのさ。》
「…………。」
《縁日の屋台なんて騙される方が悪いんじゃん》
「…………。」
《ショバ代払ってるんだから文句言うなよ》
「…………。」
(……ひん曲がってんな私……)
ゲーム内の『河城にとり』が口にする粗暴かつ卑劣(?)な台詞の数々である。
それを目の当たりにしたにとり本人は真顔になってそんなことを思っていた。
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「にとりちゃん、本当にこのゲームのこと…何も知らないの?」
「知らないも何も、パソコンとやらにもゲームとやらにも触れた経験なんて無いよ。
そもそも、こんなもの誰が作ったんだ…?」
何ともいえぬ表情を浮かべながらゲームパッドを弄くるにとり。
康一は少しばかり歯切れが悪そうに考え込みつつ、再び問いかけてみることにする。
(何だかんだでゲームをしっかり楽しんでいるようにも見えることはそっとしておいた)
「もしかして、この女の子達とも知り合いじゃなかったりする?
ゲームに出演してるから、芸能プロダクションのアイドルの子か何かかと思ってたけど…」
「いや、知り合いだよ。…さっきから思ったんだけどさ…何かお前、勘違いしてたりしないか?」
「え…?」
「お前、アイドルとかゲームに出演とか言ってるけどさ」
ふっと、にとりが康一の顔を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。
「これは全て『幻想郷で実際に起こった出来事』なんだよ」
―――その一言と共に、にとりは『事実』を伝えた。
幻想郷の、妖怪達の実在を。
『東方心綺楼』が御伽話ではなく、実際に起こった異変であることを。
同時にゲームに出演する少女達が本当に『異能の力を操る存在』であることを。
自分自身も人間ではなく、ゲームで紹介されている通りに河童の妖怪であることを。
(…まぁ、いいよな。このくらい)
当初にとりは『東方心綺楼を利用して猫を被ってみようか』とも考えていた。
どうやら康一はこのゲームに出演するキャラのことを『アイドルの子か何か』かと思っていたらしい。
それを利用して『無力な少女』を装い、彼の庇護を受けて暫く盾を確保しようとも考えたが…
この会場には幻想郷の住民が何人も巻き込まれている。そいつらと出会えば、すぐにボロが出るのは確実だ。
そうなった場合、康一が『嘘を吐いていた私』に不信感を抱き始める可能性だってある。
だから渋々本当のことを全て話したのだ。
こうして真実を明かした方が信頼を得られるかもしれない、ということもある。
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幻想郷にまつわる話を聞かせれた康一は、最初は信じられないと言わんばかりに驚愕の表情を見せていた。
しかし彼は次第ににとりから得られた情報を咀嚼し始める。
平凡な外見とは不相応に、落ち着き払った様子で彼女の話を聞きだしていたのだ。
「…お前、なんだか飲み込み早いな。むしろそっちの方がやりやすくて有り難いけどさ」
「まぁね。何というか、僕自身も『不思議な出来事』にはちょっと慣れてて…」
「不思議な出来事?」
「何というか、僕も普通の高校生ってワケじゃあないんだ。…確かこの会場だと、普通の人でも『見える』はずだよね」
そう言った康一がすっと立ち上がり、ほんの少しだけにとりと距離を取って身構える。
その様子を見たにとりは疑問符を頭に浮かべるが、すぐにその表情が真剣な物へと変わる―――
「――――『エコーズ Act3』ッ!!」
康一の側に出現したのは、彼とほぼ同じ体格の人型のビジョンッ!
それは彼の精神の具現化。生命エネルギーが形作られた存在。
そのビジョンからは小柄な体格には不釣り合いな程の溢れ出さんばかりのパワーが感じ取れる。
広瀬康一は、ただの高校生ではない。精神のビジョン『スタンド』を操る『スタンド使い』である―――!
にとりは康一が顕現させたスタンドを目の当たりにし、驚愕を隠せぬ様子を見せる。
何故ならば――――
(こいつ…『新手のスタンド使い』だったのかッ!?)
彼女はスタンドを『知っていた』からだ。
支給品『F・Fの記憶DISC』で得られた情報で、スタンドの概念を大まかに知っていたのだ。
先程の異形もスタンド使い。同時に、記憶DISCの内容から複数のスタンド使いの存在も知ることが出来た。
『空条徐倫』『空条承太郎』『エルメェス・コステロ』『ウェザー・リポート』『エンリコ・プッチ』。
能力の詳細は『F・Fが見聞きした限りの情報』だけだが、スタンド使いであることは確実なこの5人は名簿にも記載されている。
そして、この『広瀬康一』もスタンド使いだという。
恐らく私と接触する前に様子を伺っていた際も、このエコーズとかいうスタンドを使って監視していたのかもしれない。
「驚くのも、無理は無いかな…。僕は『スタンド』っていう能力を持っているんだ」
「スタンド…。」
にとりが驚いていたのは未知の能力を目の当たりにしたからではない。
『スタンド使いがこの会場には複数存在する』ことを半ば確信したからだ。
康一は私の反応を見てか、スタンドの概念について大まかに語った(殆どがDISCで既に得ている情報ばかりだったが)。
同時に『東方仗助』ら名簿に記載されている複数のスタンド使いの存在も伝えてくれた。
その中でも『吉良吉影』という男は『触れたものを爆弾に変える能力』を持つ凶悪な殺人鬼だということも。
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(『空条承太郎』…)
にとりは思考する。康一が語っていたスタンド使いの一人である『空条承太郎』という男に関しては、記憶DISCで存在を知っている。
空条徐倫の父親であり、『スタープラチナ』というスタンドを持っている最強のスタンド使いとのこと。
(尤も、F・Fもその能力の詳細については全く知らなかったようだが)
どうやら康一はその承太郎と共に闘ったことがあるらしい。
流石に康一も吉良以外のスタンド能力については話さなかったが、少なくともこんなゲームに乗るような者達ではないということは確かだと言う。
「スタンド使い……ねぇ……。」
顎に手を添えながらにとりは思考をする。
明らかになったの複数のスタンド使いの存在。
それぞれが固有の能力を持つだけではなく、『スタンドに正面から対抗出来るのはスタンドのみ』という厄介な性質を持っている。
フー・ファイターズとやらは何とか撃退出来たが、そんな連中とはあまりやり合いたくはない。
ある意味で単純な『力』の強い高位の妖怪共よりも厄介だ。
やり合うくらいならこいつのような「お人好しのスタンド使い」を利用し、協力関係を結ぶのがいい。
万が一殺し合いに乗ったスタンド使いと出会ってしまった場合もスタンド使いの仲間がいるだけで相当マシになる。
―――場合によっては、戦闘を押し付けて上手いこと離脱するも出来るかもしれない。
だったら、『確実に信頼出来るスタンド使い』同士を引き合わせて同盟を組ませた方がいいかもしれない。
(ま、ちょっと迷ったけど… DISCの情報も、一応共有しておくかな)
にとりは記憶DISCで知った人物の情報を開示することにした。
スタンド使いの同盟者は増やしておいて損は無いだろう。
会場からの脱出出来る見込みが強いのならば、そのまま同盟者達と共に対主催の方針を貫き通せば良い。
もし不可能だったとして。最悪の場合、同盟者達が疲弊している所を不意打ちや漁父の利で仕留めて優勝を狙うか…。
どちらに転がろうとも、自分は生き残る為の算段を立てるだけである。
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◆◆◆◆◆◆
「康一、本当にいいの?」
「勿論だよ。にとりちゃんが行きたいっていうのなら、着いていくよ」
記憶DISCで得られた人物の情報を伝えた後、二人は川を沿って妖怪の山の方角へと向かうことになった。
デイパックから記憶DISCを取り出し、彼に一度記憶DISCを挿入して貰うことで情報を与えた。
康一は承太郎の娘のことを始めとする数多くの情報に驚きを隠せない様子を見せていたが、当然の反応だろう。
情報交換を終え、にとりは『妖怪の山の麓にある玄武の沢に行きたい』と言った。
玄武の沢にあるはずの河童のアジトの存在の有無を確かめたかったからだ。
もしもアジトがあればそこで工具や機械を蒐集出来るかもしれない。
それ故ににとりは一度康一に聞いてみたが、彼は快く承諾してそのまま川沿いを進むことになったのだ。
「悪いね。わざわざこんなことに付き合わせちゃって…」
「いいよ、気にしないで。もしものことがあれば、僕が頑張るからさ」
「…こー見えて、私だってちょっとは戦えるんだぞ?まぁ、スタンド使いが相手だったら康一に頼むことになりそうだけどね」
川沿いを進みながら、他愛も無い会話を続ける二人。
康一の顔に浮かぶのは柔らかい笑み。
そんな彼と言葉を交わすにとりは、内心で生還の為の算段を思考する。
にとりは康一への仲間意識など持っていない。
あるのはただ「いいお人好しを捕まえられた」程度の感情。
彼の人脈、DISCで知った人物を利用すれば暫くは安全に生存出来るかもしれない。
勿論、相応の身の振り方も考えなくてはならなくなりそうだが。
このまま上手いこと『スタンド使い様』の庇護を受け続けたい所だが。
さて、どうなることやらね。
【E-3 川沿い(名居守の祠付近)/黎明】
【河城にとり@東方風神録】
[状態]:精神的疲労(小)、軽度の混乱、全身打撲(軽度)
[装備]:火炎放射器
[道具]:基本支給品、LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:生存最優先
1:とりあえず当面は康一に盾になって貰いつつ、妖怪の山の麓にあるはずの河童のアジトへ向かう。
2:自分から殺し合いはしないが、危険が減るなら殺害も視野に
3:知人や利用できそうな参加者がいればある程度は協力する
4:通背を初めとする河童製のアイテムがほしい
5:『東方心綺楼』って、一体何なんだ…?
6:吉良吉影を警戒。
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼にとりルート終了後です。
※F・Fの記憶DISC(最終版)を一度読みました。
スタンド『フー・ファイターズ』の性質をある程度把握しました。
また、スタンドの大まかな概念やルールを知ることが出来ました。
他にどれだけ情報を得たのかは後の書き手さんにお任せします。
※タルカス、ナズーリンの遺体の側に落ちていた「LUCK&PLUCKの剣@ジョジョ第1部」を回収しました。
※幻想郷の住民以外の参加者の大半はスタンド使いではないかと推測しています。
【広瀬康一@第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:健康
[装備]:なし(服装は学生服)
[道具]:基本支給品、不明支給品×1(ジョジョ・東方の物品・確認済み)、ゲーム用ノートパソコン@現実
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを止める。
1:河城にとりを守る。にとりと共に河童のアジトへ向かう。
2:仲間(仗助、億泰、露伴、承太郎、ジョセフ)と合流する。
3:吉良吉影を止める。
4:東方心綺楼の登場人物の少女たちを守る。
5:エンリコ・プッチ、フー・ファイターズに警戒。
6:空条徐倫、エルメェス・コステロ、ウェザー・リポートと接触したら対話を試みる。
[備考]
※参戦時期は吉良吉影を一度取り逃がした後(第4部『シアーハートアタック(11)終了後』)です。
※スタンド能力『エコーズ』に課せられた制限は今のところ不明ですが、Act1〜Act3までの切り替えは行えます。
※最初のホールで、霧雨魔理沙の後ろ姿を見かけています。
※『東方心綺楼』参戦者の外見と名前を覚えました。(秦こころも含む)
この物語が幻想郷で実際に起きた出来事であることを知りました。
※F・Fの記憶DISCを読みました。時間のズレに気付いていますが、考察は保留にしています。
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投下終了です。
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします
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桃花乙
なんだかSO3を思い出す展開だ… そりゃかるちゃーしょっく受けるよね
狡猾なカッパと主人公力高いスタンド使い カッパは使い捨てる気マンマンだがいいダックになるか?
良いお年を!
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河童なのにダックとはこれいかに
これは康一君がちょっとイイトコ見せて信頼を勝ち取らなくちゃあね。康一なら出来るさ
これが今年最後の投下になるかな?来年のジョジョ東方ロワに幸あれッ
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藤原妹紅、リンゴォ・ロードアゲイン
の2名を投下します
今年初投下だ!
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―――『人は何かを捨てて前へ進む』
これは誰が言った言葉だったか。
周りにはもう二度と使われないであろう多種多様なゴミの山々が転がり、積まれている。
多くの人々の期待と、希望と、幸福を背負って世に生まれ出たモノ達の最後の終着点。
想いも、記憶も、魂も、存在価値も、全ては等しく平等に還り散る。散りてなお、咲きたるモノ無し。
無様に、滑稽に、誰も彼もから忘れ去られる儚き色の有象無象の空間。
その悲しき世界の中心に、二人の人間がいた。
男の名は『リンゴォ・ロードアゲイン』。技量を高め、精神を高め、己が命を燃やしながら、光り輝く道を進み続ける孤高のガンマン。
彼の右手には41口径の小型拳銃であるダブルシリンジャーが硝煙を噴かせて握られている。
そして彼の足元に横たわっているのは、まだ見た目年端もいかない様な白髪の少女。
だが人間であるにも関わらず、彼女が世界を生きてきた年月は千を優に超える程の『輪廻』から外れた存在であった。
かつて禁断の蓬莱の薬を飲み、『不老不死』と成ってしまった呪われた少女。
『藤原妹紅』の成れの果てが、地面にぞんざいにも転がっていた。
『彼女』だったモノの瞳孔は既に黒く大きく広がり、物言わぬ骸と化している。
額には彼女の命の直接の死因であろう銃弾の痕からドロドロと紅黒い血が流れ続け、辺りにはその血生臭さとゴミの臭いが幾重にも漂う。
恐らく即死だったのだろう。彼女の肉体は今や、周りのゴミと同じに腐りゆき、誰からも忘れ去られ、土へと還っていくのかもしれない。
永遠に死ねない存在であった筈の少女の肉体は、あまりにもあっけなく死を迎えた。
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このバトル・ロワイヤルという地獄には、全ての参加者に平等に死神の鎌は振られる。
不死の彼女は―藤原妹紅は何を思い、何を感じながら『死』を迎えたのか。受け入れたのか。または受け入れられなかったのか。
『生』の呪いから解放されたことに感じたのは無念か。悦びか。悔恨か。
または何を感じる暇も無く、彼女の意識は一瞬で『無』に還されたか。
―――死人に口無し。
今となっては誰も分からない。
それは彼女を殺害したリンゴォ本人にとっても、至極当たり前のように知る由など無い。
少女の肉塊から滴る紅い鮮血の池の上で、リンゴォは冷め切った瞳で心底鬱々たる表情でボソリと小さな声で呟いた。
「……つまらない」
そのか細い呟きはこの粛然な空間に、空しく響き渡る。
それぞれの想いは それぞれに生まれ それぞれに瞬き そして それぞれに消えてゆく。
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――― <黎明> 十数分前:A-5 ゴミ捨て場 ―――
A-5、無縁塚へと続く道の途中にまるで人々から忘れ去られたようにポツンと聳える小さな建物があった。
なんの変哲もないゴミ捨て場。一体何年の年月を経て積もっていったのか、その量は小さな『ゴミの街』と表現しても良い程の存在感を放っていた。
そのゴミの街の真ん中で大きく大の字に寝そべって天井を仰いでいたのは藤原妹紅。
彼女は呆けたようにじっと動かず、しかしその唇には一本の煙草が咥えられている。
(………久しぶりに吸ってみたけど、やっぱり苦い)
彼女がここ数十年間、全く手を出すことも無かった煙草を吸おうと思ったのに意図なんか無い。ただの気まぐれだ。
先刻、激しい戦闘を繰り広げた末に彼女がエシディシに抱いたその感情は『恐怖』か。
しかし彼女はその感情の正体を未だ計り知れずにいる。
気の遠くなるような遠い遠い昔、妹紅が正真正銘の『人間』だった時代に持っていたような気がする感情。
そんな昔の事など、とうに忘れてしまった。
「…ふぅーー……っ…」
深呼吸でもするかのように大きく主流煙を吐き出し、眼前に白い煙が舞う。
そこで煙草はようやく役目を終え、一本吸い切ってしまった。
…いつまでここで時間を浪費したのだろう。あの大男から逃げるようにして…いや、実際に逃げてきたのだ。
こんな事は普段の彼女になら本来有り得ない事だった。生まれて初めて本物の『死』を意識してしまった。
今では殆どのダメージや火傷は再生しきっている。再生力がかなり低下しきっているとはいえ、時間を掛ければあれぐらいの傷は何ということも無いらしい。
しかし彼女はその事実を煮え切らない頭で素直に喜べない。
(私が…ここでボサッと回復を待つ間にどれほどの戦いが起こったのかしら…。一服してる間に何人死んだのかしら…)
私は…この殺戮のゲームを止めるんじゃなかったのか?
傷が治ったのならさっさと立ち上がって仲間を集めるなり、危険人物を再起不能にするなり動けば良いんじゃないのか?
こんなところで馬鹿みたいに寝そべって煙草なんて吸っちゃって、何をやってんだ私は。
吸い終えた煙草を地面にグリグリと擦り付け、無意識にも次の煙草を取り出そうと懐の箱に手を伸ばして…
自分が今何をしようとしていたかに気付き、辟易して軽く顔を抱える。
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さっきから私…何か、おかしい。
抱えた右手で彼女は顔を擦る。あの大男に吹っ掛けられた溶岩のような血液を顔面に浴び、無残にも焼け溶かされた記憶が蘇った。
眼球内の水分までグツグツに沸騰させられた程の大火傷だが、傷は既に完全に再生されている。
しかしその忌まわしい記憶は消え去ることは無い。
不死身の体を持ってしても、妹紅の脳裏には過去に体験してきた全ての痛覚が刻み込まれてきた。
―死ぬことは無くとも、痛みだけはしっかり脳髄の隅々まで余す事無く伝えてくれる。
その永い永い年月の中で彼女はこの世のあらゆる『痛み』を身を以て体験してきた。
腕を切断されれば焼ける様な痛みを、首が切断されれば頭がどうにかなりそうな程の吐き気と苦痛が同時に襲ってくる。
心臓に風穴を開けられ、呼吸すら出来ない地獄の様な時間を過ごしたこともあった。
また、飢餓に襲われ数週間何も口に出来なかったあの日々は、今思い出しただけでもゾッとするほどの『生』の苦しみすら何度も体感した。
そんな時、妹紅は泣き喚きこそしなかったものの、まさしく『死んだほうがマシ』と言えるほどのあらゆる苦痛を耐え切って今を生きている。
…いや、こんな私が『生きている』と言えるのだろうか。生と死の境界すら曖昧な私は生きてもないし、死んでもない状態かもしれない。
右手を空に掲げてみる。それは今までずっと追い求めてきたモノを掴み取るように。
(…私は、死にたいのか?……それとも、生きたいのか?)
誰に投げ掛けるでもなく、その意味の無い問いかけは空虚へと消えてゆく。
しかしそんな疑問は、とうの昔にハッキリと答えを出している。
今まで何度も、何度も何度も何度も飽きるほど自分自身に問うては自答してきた謎かけだ。
輝夜の出したとかいう難題なんかよりも、もっと簡単で単純なもの。
「私…もしかしたら『死ねる』のかな…」
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―――『自分は頭を破裂させられても生きていける』なんて考えるなよ。
吸血鬼や柱の男、妖怪や蓬莱人なんかも、この場にいる全員例外はないんだ―――
妹紅の頭の中で、さっきから幾度も反芻されるこの言葉。
最初の会場で聞かされた時は正直言って全く信用できないこの言葉だったが、さっきの戦闘を経てぐったり憔悴しきった今なら理解できるのかもしれない。
「この世界でなら、私は……死ねるのかもね……」
その言葉を発した時、心臓の鼓動がドクンと跳ね上がったのを感じた。
掲げたこの右手にも、心臓から送られてくる血液が絶え間なく流れてくる。それこそ私がこの世に生を受けた瞬間から今までずっとだ。
『生きている』事の何よりの証。
空いた左手を心臓の上に添えてみる。
―トクン…トクン…トクン…トクン…
間違いない…。『生』を実感出来る。
私は今、生きている。
―じゃあ、例えばこのまま左手でこの鼓動を続ける心の臓を握り潰してみようか。
―それとも、腰に添えているこの拳銃の弾丸を脳味噌に1発ブッ放してみようか。
―どうなる…?流石の私もまだ本当の『死』を体験したことは無い。あっさりと、簡単に死んじゃうのか…?
―――試してみようか。
-
「…………うっっっ!!……ハァーッ……ハァーッ……!!」
『ソレ』を意識した瞬間、喉に込み上げてきそうな吐瀉物を何とか抑え込み、代わりに肺に送られるはずの空気の供給が散漫になった。
軽い過呼吸と吐き気を我慢しながらも、妹紅は今自分がどんなに恐ろしいことを想像してしまったのか、後悔に駆られる。
何を自分は…ッ!このゲームを破壊してやると決断したばっかりじゃあないか…ッ!
馬鹿馬鹿しい!最初に見せしめにされた秋の神を見たろ!このままいたらあんな理不尽な暴力で何人が死ぬんだッ!?
さっさと起きろッ!目を覚ませッ!!覚醒しろッ!!!
「…また小娘か」
「!!!!」
その時、私の耳に聞こえたのは低い声でくぐもった男の声だった。
―しまった!完全に油断しきっていたッ!
ボケッと大の字に寝ていた態勢からすぐさま立ち上がり、声の主がいる入口方向へ拳銃に手を掛けながら向き直した。
何をやってるんだ私は!ここは殺し殺され、嘘や騙しの暴力横暴何でもアリの殺戮会場だぞ!アホなのかッ!
来訪者の声によって一瞬で現実まで意識を引き戻され、自分が今までいかに無駄で無防備な時間を浪費していたかを噛み締め、我ながら呆れ果てる。
もしこの男が問答無用の危険な『殺人者』であったならば今頃私の肉体はマヌケな屍の仲間入り。魂は閻魔様のお世話になっていたところだ。
それを考えた瞬間、全身をゾワリと寒気が襲い、それと同時に軽い高揚感すら覚えたように錯覚する。いや、これは錯覚なんかじゃなく…。
……ダメだ!『死』を意識するなッ!今は目の前の物事だけを考えろ…!
情緒不安定気味な自分を心の内で叱咤し、ゆっくりと落ち着きを取り戻しながら、しかし弾丸と弾幕はいつでも発射できるように気を持ち直して男に問いかける。
「アンタ…誰?見たところ、只者では無さそうね」
「………。」
-
私の目の前に現れたのはまたしても『外来者』らしき男。
さっきの大男とはまた違う、『異質』な空気を纏った様な奴だった。
片手には拳銃を持っており、左腕には怪我をしているのか破った服を巻いている。傷はもう止まっているみたいだが、一戦闘終えてきたって感じのナリだ。
何よりも私が警戒しているのは男の『瞳』。
今まで私が見てきた奴の誰よりも鋭くて暗い、けれども静かな『殺意』が燃え盛っているように見えた。
男は質問にも答えずに、私の瞳をジッと探るように凝視している。
…何だか、あの眼を見ていると気分が悪い。まるで私の心の中を隅々まで弄られているみたいで不快な気持ちになる。
男は黙ったまま、私を品定めするかのようにじっくり時間を掛けて見つめ続ける。
…ハッキリ言って気持ち悪い。黙ってないで何か言ったらどうなのだろう。
襲ってくるわけでもなく、友好的に話しかけて来るわけでもなく、そのまま私たちの視線は交差しながら互いの出方を見る。
油断するな。相手は拳銃を所持しているんだ。もし不審な動きを見せたら瞬間、ウェルダンに焦がしてやる。
「…金髪金眼の赤い服を着た少女を見なかったか。恐らく、最初の会場で殺された娘の姉妹か何かだろう」
…男がようやく口を開いて発した言葉がこれだ。
今の今までずっとその刃物の様な眼で観察されていたかと思いきや、既に私の事なんかまるで興味が無さそうにして別の話題を振られた。
私がお前は誰だと聞いているのに、質問を質問で返すとはこの事だ。
相手のふざけた態度にムッとしたが、しかしここは取りあえず質問に答えるとする。
「…あの秋の神様の姉とかの事か?だったら残念だけど私は知らない」
「…そうか。ならばここには用は無い」
それだけ言って男は身を翻してこのゴミ捨て場から出ようとする。
流石にカチンときた。礼ぐらい言えとは思わないが、人を馬鹿にしてる。
-
「おい、アンタ…!」
「………。」
私が苛ついた声で目の前の奴を静止させようと声を上げる。左手には小さく炎を発生させて。
男の足がピタリと止まった。そいつはゆっくりと顔だけをこちらに振り向かせ、再びその鋭い眼光を私に刺してくる。
まるで全身をナイフで串刺しにされたかの様な錯覚を覚えた。皮膚がビリビリと痺れる。心臓に直接太鼓代わりにバチを打ち付けられた感覚だ。
これは…『殺気』。あの男の、深い闇の様な…言うならば『漆黒の殺意』ってとこだろうか。
その眼を見た時、正直言って私は『怖気づいた』…のかもしれない。
人々から『敵意』を持たれる事は別に珍しくもない。元より私は『望まれない子』として生を受けた身。
そして不老不死となり、全く成長しない人間として周りの人間からも訝しげられ、石を投げられ、各地方を転々と渡り歩いてきた。
無差別に妖怪を退治し回っていた時期もあったし、今では輝夜との殺し合いは日常茶飯事の風景となっている。
しかしこいつの、この『殺意』は…それらのあらゆる敵意や殺意とは本質からして違っていた。
焦りが大粒の汗となって、私の顎から垂れ落ちる。
私は…この男に『恐怖』しているのか…?さっきの大男に感じた感情の正体もこれか…?
不死の私が恐怖しているだって?馬鹿馬鹿しい。
…でも、この世界ではそんな馬鹿馬鹿しい事実は全て、『死神』の前で等しく平等に刈り落とされる。
無意識に左手の炎の勢いが増す。右手の指を懐の銃に掛ける。
こいつは…危ない奴だ。問答無用で攻撃するか…?見た目はあくまでただの人間だ。…それを言うなら私もそうなんだけど。
「もし、ここで今からオレと撃ち合いになるとしたなら……だ。お前はオレに勝てない」
長い沈黙と緊張感を破り、とうとう男が口を開いて妹紅に放った言葉は、彼女の世界を一瞬凍りつかせるには充分だった。
「お前ではまるで話にならん。…殺す価値も無い」
-
(…………あ?)
…何?今こいつは何て言った?
私では勝てない?話にならない?殺す価値すら無い?
何だって…?こいつ、何様のつもりなの?そんな事他人に言われたのは初めてだわ。
千年以上生きてきたけど、ここまで人に舐められたのも初めてよ。
「……随分、愉快なこと言うじゃない。たかだか数十年生きただけの青二才のクセに」
「オレの言う事が理解できないのなら…もう少しだけ話をしてやろうか…?
オレの目的は『公正なる果し合い』…。卑劣さなどは何処にも無い、漆黒の意思による殺人はこのオレを人間的に高めてくれる。生長させてくれる。
人として未熟なこのオレには乗り越えなくてはいけないものがある。『神聖さ』は『修行』なのだ。
これが…『男の世界』。今の時代…価値観が『甘ったれた方向』へ変わってきてはいるようだがな」
…無口な奴だと思っていたら、何だコイツ?突然語り始めちゃったよ…。
しかし、『男の世界』…?『女』の私には理解し難いけど、要するに奴は『このゲームを通じて自分を生長させたい』って事?
ハッキリ言って、イカレてるわね。こんな奴を野放しにしていたら、犠牲者は出る一方。
それに奴の銃と左腕の傷を見る限り、既に『参加者の誰かを殺した』可能性が高い。だとしたら私のやることは一つしかない…!
「悪いけど…アンタをここから出すわけにはいかないよ。私がアンタに勝てないかどうか…試してみる?
その立派なお髭を焦がし尽くされても良いなら」
「…どうやらまだオレの言う事が理解できないらしいな。もう少し話を続けるか?
お前、その手に輝く『焔』を見たところただの人間ではないらしい。今までに数え切れない程の『修羅場』を経験してきたかと存じよう。
だが『ただのそれだけ』…。お前には前へ進んでいこうという、人が持って当然の『気高き意志』が全く感じられない。いざという時、オレを殺しにかかるという『漆黒の殺意』すらも。
『お前には何も無い』。生長するという意志をとうに諦めた『死にたがり』。さっきの金髪の小娘の方がまだ生長の余地はあったな」
捲くし立てるように次々とリンゴォの言葉は紡がれてゆき、一呼吸置いてから彼は最後に『トドメ』を刺した。
「お前は『いきもの失格』だ。虚無の『人形』はここでは必要なし」
リンゴォの軽蔑するかのような言葉の余韻がこの場を包んだ後に残るのは、不死人の腕に燃え盛る焔の爆ぜる音のみ。
突如現れた見ず知らずの人間に理由も無く見下され、呆れられ、果てには自分の持つ価値観その全てを一度に否定された妹紅は目の前の男の鋭い瞳を見据えたまま、黙る。
彼女の内に燃え盛る感情の焔は、少しずつドス黒く変化していく。
-
―『死にたがり』…だって?私には『何も無い』…?
―人にあるべき『意志』が、私には無い…?『前へ進む』事をとっくに諦めた?私が?
―……そうかも知れない。私がこの『呪われた人生』にいい加減嫌忌している事は自分でもよく分かっている。
―だが、何故そんな事をこいつに言われなきゃならない?私から見ればまだまだガキんちょのお前に不死の苦悩の何が分かる?
―私がどんな思いで今まで苦しんできたと思ってるんだ?そんな事を『殺人者』のお前に言われたくない。
―『生』の苦しみを知らないお前に、なんなら『死』の苦しみでも与えてやろうか?
無意識に左手の焔は轟々と音を立てて、すぐにでも獲物を焼き尽くさんとばかりに騒ぎ立てる。
そんな妹紅の怒りを感じてか、リンゴォは更に言葉を続けた。
「悪いことは言わない、その焔を収めろ。漆黒の殺意を持たぬ者ではオレを倒すことは出来ない。
だがそれでもお前がオレを止めようと向かってくるならば…ひとつ、『公正』にいこう。
オレの名は『リンゴォ・ロードアゲイン』。スタンドの名を『マンダム』と言う。
ほんの『6秒』だけ、時間を戻すことが出来る。6秒以上の間隔を空ければ何度でもだ。
そして俺の武器はこの拳銃一丁のみ…。全て真実。ウソは無い」
そういってリンゴォと言うらしい男の肩に、いつの間にか『奇妙』なヴィジョンが浮かんできた。
何だアレ…!?タコ…いや、何か凄い『生命エネルギー』みたいなものを感じる…。
スタ、ンド…?時間を戻せる…?色々と信じられない話だけど、嘘をついてるようには見えない。
そして男の世界なんてものは依然理解不能だけど、相手が礼節を重んじているのだから私だけが自分を話さないのはちょっぴり癪に感じた。
「……藤原妹紅。人間だけど、『焔』を操れる。…そして不老不死よ。かれこれ千年以上生き永らえてる。尤もこの世界ではその限りでは無さそうだけど。
アンタの言う『男の世界』ってのはまぁ、理解は出来たけど(ホントはさっぱりよ)、やっぱり私はアンタを今ここで止めさせてもらう。
その際死んじゃうかもしれないけど、その時は火葬までしてあげなくもないわ」
『不老不死』って単語を聞いた瞬間、奴の眉が一瞬吊り上ったように見えたけど、それはすぐに元通りになって姿勢を正しながら言った。
「この決闘にいかなる意味があるかは計れない。…だがお前がその『汚らわしい殺意』を持って向かってくるのなら…受けて立とう。
―――よろしくお願い申し上げます」
リンゴォ・ロードアゲインと名乗った男はそう言って深々と頭を下げ、一礼をした。
私は、頭なんか下げなかった。
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決闘なんてするのは別に初めてでは無い。
それどころか、殺し合いなんてのはいつも輝夜とやり合ってることなんだ。
それでも、このリンゴォとの一騎打ちは生まれて初めてといっても良いぐらいの緊張感と高揚感を感じた。
全身鳥肌が立つ。
自分の心臓の音が、その生を私に主張するかの様に聴こえてくる。
左手に宿る焔が嬉々迫る様に、脈を打つ様に高ぶる。
もしかしたら自分は今から死ぬかもしれない。
その重圧に体が押し潰されそうになる。
だと言うのに私は今、笑っているのだろうか。鏡が無いから分からないけども。
なんでそう思うのかな?
―それはきっと、私がとんでもない大馬鹿者だからだろう。
この狂った殺し合いの地で、死の運命を迎えようとは思わなかった。
自分が出来る限りの抵抗をして、あのクソッタレの主催者達に一泡吹かせよう…。そう決意したと思っていたのに。
いざ、死神の鎌が私の首に突き付けられたという土壇場で私は動揺している。
『呪い』からようやく解放されるかもしれないというその未来を想像し、私はあろうことか、ほんの少し心躍らせていた。
-
今の私を慧音が見たらなんて思うだろうか。きっと酷く説教されるんだろうな…。
そうだ。私には会わなくてはいけない人達だっているんだ。
心を惑わせ、狂わせるこの気持ちは強引に心の隅に押し込む。今は…目の前の戦いに打ち勝ってやる。
左手の焔に全神経を集中させる。奴の一挙種一投手を見逃すな。
腕をもがれようと、足が千切られようと、喉を抉られようと、心臓を穿たれようと、私はこのゲームを破壊してみせる。
今の私に出来る事はそれ…。他の事は考えなくて良い。
私の名前は藤原妹紅。人間だ。
―――ひと筋の風が窓から吹き入り、積まれていたゴミの一部が二人の間に音を立てて転げ落ちた。
「凱風快晴―フジヤマヴォルケイノ―ッ!!!」
ダ ア ア ァ ァ ァ ン ッ ! ! ―――
―――発射音は、1発だけであった―――
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「あーちっくしょう、まだ痛い…。吐き気がする…頭痛もだ。輝夜の奴、まるで手加減無しなんだから…」
私は輝夜に抉り取られた脳髄…というか頭部を押さえながら何度目になるか分からない呻き声を独りごちた。
ついさっきまで、恒例となった輝夜との殺し合いという名の『戯れ』を一通り終えて今は帰路につくところだ。
まるで宴会の二次会からの帰宅途中のような台詞と、足取りおぼつかないフラフラした様子で竹やぶの道を歩く。
竹林から夜空を見上げると今夜は満月。妖しく光り輝くその光を見つめていると吸い込まれそうになってしまう。
月は人を魅了し、狂わせる魅力があるらしい。
そんな話をよく聞くが、私からすればあの無駄に輝くまんまる石を見るたびに『アイツ』のニヤニヤスマイルが顔をよぎるのでムカつきの感情が勝ってしまう。
今日は炎の出力の調子がイマイチ悪く、輝夜との戦績も負け越し。おまけに脳の左半球の前頭葉が丸々吹き飛ばされるというダメ押しも貰い受けたところで遊びはお開きとなった。
人の事は言えないもんだけど、アイツは本当に手加減も慈悲も無い。おかげで今晩は碌な夢を見れそうにないかな。
「あーもうマジムカつくー!輝夜のアホたれ!死ねッ!!死んで生き返ってまた死ねッ!!」
いつまで経っても腹のムカムカが治まらず、足元の手頃な石を思い切り蹴飛ばしてやった。
その石の放物線は見事な曲線を描きながら前方の彼方まで飛んでいき……丁ぉ〜〜度そこにいた通行人の頭にナイスヒット。
ヤバいと思いながらも今すぐ逃げるか、上手い言い訳を考えるかしている内にその通行人は怒った様子をしながら私に走って近づいてきたので、私は諦めて潔く謝ることにした。
-
………
……
…
「〜〜〜ゴメン!ほんっと〜にゴメンってば!そんなに怒ることないだろー?」
「全くお前という奴は……見ろ!コブが出来たぞ!」
慧音はいつもの様に私にお説教を続ける。既に頭突きのお仕置きは貰った上に、ハクタク状態だからなおさら痛い。
プリプリ怒った様子で慧音はその自慢の銀髪を掻き上げ、私に向かって頭を突き出した。痛い痛いツノが当たるそれ引っ込めろって!
「だからってあんなに本気で頭突きすること無いでしょ〜。しかもこっちは怪我人だぞ?」
「何が怪我人だ不死身のクセに」
「不死身だって痛みはしっかり残るんだけどなー」
私たち二人はいつもの様に互いに軽口を叩き合いながら、月夜に照らされた竹林道を並んで歩いている。
石をぶつけたお詫びにお茶に誘う事で慧音の機嫌を取ってもらうという、私がいつもやる常套手段だ。
「…お前、また輝夜と殺し合ってきたのか?今月は何回目だ?ちゃんと寝ているのか?食事は摂っているのか?」
うわっまた始まったよ…。慧音のこのお小言が始まったら1時間コースは確実だ。お酒が入ってたら朝までコースだったろうけど。
「…今月は、3回目…いや、4回?今日は脳味噌が半分吹き飛ばされちゃってさ、慧音の頭突きも相まって死にそうなぐらい痛い。
睡眠はまぁとってるけど、ご飯は最近あんまり……たはは」
「………妹紅。頼むからお前は自分の身体をもっと大切にしてくれ。お前の身体の事は分かっているつもりだがそれでも傷付くお前を私は見たくない」
「毎回頭突きをかましてくる慧音に言われたくないなー」
私の身体を心配してくる慧音に茶化す様に返す。有難い言葉だけどこうも毎回毎回言われると流石にウンザリしてくるので私はいつも適当にあしらっている。
そうこう言ってるうちに私の家が見えてきた。慧音はまだ横でガミガミ言っているけど、大体いつも半分ぐらい聞き流す。
…これは今晩も朝までコースかな。お酒、あったっけ?慧音は酔っぱらうと面倒臭いからな…
「……大体お前はだな。…おい、聞いているか?妹紅……………」
「ハイハイ聞いてますよーっと。自分の身体ぐらい大切にしますって。」
もう一度夜空を見上げる。
憎たらしいぐらいに煌びやかにその存在感を放ち続けるお月様が、私と慧音を見下ろしていた。
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―――勝負はほんの一瞬で決着がついた。
妹紅の左手に宿った紅き輝きは、その鮮やかな翼を拡げることも無く、無残に掻き消えた。
男の放った、たった1発の銃弾によって彼女の久遠の世界は、あまりにも簡単に終焉を迎える。
ほんの1秒にも満たぬ決闘の中で、妹紅の世界はこんなにもあっけなく奪われた。
男の凶弾は彼女の眉間を貫通し、そのまま脳の中枢部分を完全に破壊した。
蓬莱人であるはずの彼女も、この無情なる暴力の世界では『死』の運命を弾くことは出来ない。
『死』は全ての存在に等しくもたらされる。
リンゴォ・ロードアゲインは彼女の亡骸に近づき、冷めた目線で見下す。
額から溢れ出る紅い液体が水溜りを作り出し、水面に反射したリンゴォの表情を映し出した。
その男の唇が小さく動き、ボソリと紡ぐ。
「……つまらない」
そして、彼はそっと右腕の腕時計の秒針をゆっくりと摘まみ、そして…………
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―――マンダム
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――――――ハッ!!
最初に目に見えたのは窓に映った綺麗な満月。真っ暗だった世界が急速に色を付け始める。
確かに消沈した筈の左手の焔は、何事も無かったかのように轟々と燃え盛り続けている。まるで私に生命の鼓動をアピールしているみたいに。
地に倒れ伏したと思った身体も、二本の足できちんと大地に立っている。まるで私に戦い続けろと促すみたいに。
―――え…………?
なんだ、今のは…?
え…私、今どうなった…の?
あいつ…リンゴォとか名乗った男は私の前でさっきと同じように立ち尽くしてこちらを睨み続けている。
震える右手で額をそっと擦ってみる。…特に異常は感じられない。
膝が段々と震えてきた。手足を縛られたまま夜の海に放られた錯覚を感じる。どちらが上でどちらが下なのか分からなくなってきた。
全身からゾッとするぐらいの汗が噴き出る。拭いでやりたい…けど、腕が思う様に動かない。
おい、リンゴォとやら!お前は今私に何をした!そう叫んだつもりだったが、声が出ない。呼吸も苦しい。
-
わた…わたし……さっき、頭を撃たれて…?いや、でも、今は撃たれてなくて……。ま、待ってよ…頭の中が白くなってきた…。わけが…わけがわからない…よ。でも、でも…!さっき感じた『痛み』は!紛れもなく『本物』の痛みで!わたし…わたし……!確かにさっき、銃で撃たれて!あれが……アレガ…『死ぬ』ッテ事で………ッ!私…!不死ナのニ!!死ん……ッ
「既に『公平』に話した筈だ…。オレのスタンド能力『マンダム』は時を6秒戻せる。お前は既に一度『死んだ』身だ…」
―――え?シンダ?…私が?
「お前…自分が不老不死だと言ったな。千年以上生きてる身だとも。
俄かに信じ難いことだが、この『世界』においてはそういう者も存在するのだろうな。だが同時にこの『世界』ではそんな垣根も存在する事無く、参加者は皆等しく平等。死ねば、終わり。
お前の『眼』を一目見て分かった。お前は『死にたがり』。心の奥底で有りもしない『死への幻想』を求めて彷徨い続けるどこまでも滑稽な『道化者』…。
『前へ進む』事を諦めた奴に、光り輝く『未来への道』があると思うか。
オレが仕留めるのは『漆黒の殺意』でオレの息の根を止めようとかかってくる者だけだ。お前なんかにはトドメを刺さない。
二度とオレの前にその顔を見せるな。…反吐が出る」
リンゴォが、ナニカ言っているケド、私の耳にはホとんド聴こエなカッタ…。
『死にたがり』…私が…死にたがっテいる…。この『セカイ』では、そんな『ゲンソウ』も、簡単にカナッテしまう……。
でも………さっきのガ、『死』……本物の…死の世界…
真っ暗デ……何も、ミエズ、聴こエズ、感じなイ……
―――本当の、『無』―――
-
「ウッ…………!!うえぇ……ッ!」
『ソレ』を思い出した途端、胃液が逆流して吐瀉物と共に外に吐き出された。
胃を握り潰されたみたいな、頭の中をグチャグチャに掻き乱されたみたいな感覚を覚える。
涙が止まらない。脚に力が入らない。苦しい。苦しい。怖い。
アレが…『死ぬ』という事…
私がいつも感じているような、地獄の様な痛みとは全く違う、本当の…本物の『死』…『無』……
私は…今まであんな恐ろしいモノに幻想を抱いていたのか…?『死ぬ』って、あんなに怖いことだったの…?
『痛い』だとか、『苦しい』だとか、『地獄の苦痛』だとか、そんな次元とは全く違うところにある世界…
―――完全なる『虚無の世界』にほんの一瞬、放り込まれただけで私の世界は粉々に砕かれた。
い……嫌だ嫌だいやだいやだイヤダイヤダ怖い恐いこわいコワイ!!もうシヌのハ嫌だ殺されたくナイ二度と死にたくナイ生きタい生きたい死ぬノハこわいコワイ!!!殺されたくナイ殺サナきゃヤラなきゃ殺ラレル殺すコロス私ハ死にタクナイ悪いノハアイツダ私は悪くナイシニタクナイしにたくない死にたくないッッ!!!
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」
もう何も考えられない考えたくない。とにかく死にたくない。私はアイツにありったけの霊力を込めて最大の火球を撃ち出した。
「……餓鬼がッ」
私が最期に聞いたのは自身の焔の爆ぜる爆音と、それに小さく混ざったリンゴォの苛立ち呻く声。そして1発の銃声。
ダ ア ア ァ ァ ァ ン ッ ! ! ―――
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▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
時間が逆戻りを始める様に、周りの全ての景色は逆転していく。
視界一杯に染まった筈の紅い飛沫も、辿り着いた筈の『虚無の世界』も、全ての色を取り戻して再び世界は元の枠に収まった。
――――――――――――――――
「――――ハッ!?」
―まただ。またさっきと同じ。時を…『戻された』。
リンゴォに向けて放った筈の本気の焔の弾幕は、敵に命中する事無く私の左手に収まったまま。
もう一度、冷や汗の止まらない額を右手で擦る。もちろん異常は無い。
また、殺された。先に仕掛けたのは私だったのに、奴の方が速かった。
また、あの『虚無の世界』に放り出された。自分の『意思』も『肉体』も『魂』も何もかもが無い世界に。
それを思い出してしまって、後悔する間も無く再び私は吐き気を覚える。さっき全て吐き出した筈の胃液物がまたも喉を圧迫してどこまでも私を苦しめた。
「何度やっても無駄だ。お前ではオレを殺せない。そしてオレが今のお前如きを殺す事も無い」
「ゲホッ!ゲホッ!…ハァ……ハァ……!うぅ…………くっ…!」
もう、ワカラナイ…!イヤダ…死にたく、ないよ……っ!コイツは殺さナきゃ…私が、ワタシがコロス……ッ!もう死にたくない!
「不死…『火の鳥―鳳翼天翔―』!!!」
「理解しろッ!その『汚らわしい殺意』を俺に向けるんじゃあないッ!」
-
ダ ア ア ァ ァ ァ ン ッ ! ! ―――
「あグ……………………っ!」
妹紅の決死の攻撃は、三度撃ち負ける。
火の鳥を模した妹紅の焔技すらリンゴォの早撃ちには成す術も無く敗れ去った。
妹紅の額には幾度目かの風穴が開き、その弾丸は先程と一寸変わらず彼女の脳…その脳幹部まで達し、内部組織を粉々に破壊した。
またも、即死。痛みや恐怖を感じさせる暇も無く、妹紅の精神は虚無へと還る。
―――――――6秒戻る
「不滅『フェニックスの尾』ッ!!!」
ダ ア ア ァ ァ ァ ン ッ ! ! ―――
「ぶッ…………!」
四度目は頸動脈を貫通し、彼女の喉、口、鼻孔から大量の血潮が噴出する。
この攻撃も彼女を一瞬で死に至らしめた。
-
―――――――6秒戻る
「インペリシャブルシューティングッ!!!」
ダ ア ア ァ ァ ァ ン ッ ! !
ダ ア ア ァ ァ ァ ン ッ ! ! ―――
「うがッ…………かはァ……ッ!!」
五度目は即死ではなかった。
リンゴォの放った銃撃は空中で2センチ右へ逸れて妹紅の大脳部分の急所を僅かに外れ、彼女の視界を紅一色に彩るだけに終わった。
その衝撃で妹紅の身体が崩れ伏せる前に、もう1発の弾丸が今度こそ彼女の眉間の中心に完全に撃ち込まれ、妹紅は五度目の死を迎える。
-
―――――――6秒戻る
「ウ ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
パ ァ ン ! パ ァ ン !
ダ ア ア ァ ァ ァ ン ッ ! ! ―――
「―――――ッ」
六度目の死。
妹紅は焔による攻撃をやめ、今度は腰に差していた一八七四年製コルトの回転式拳銃を敵に向けて2発、間髪入れず発射した。
しかし死への恐怖に怯え、震える手で撃ち出した妹紅の2発の銃弾は、その両方ともリンゴォの脇を掠めるだけに終わる。
冷静に彼女へ向けて銃を構えるリンゴォは、看護師が静脈に向けて注射をする様にゆっくりと彼女の心臓へ照準を合わせ、引き金を引いた。
その弾丸は心臓を貫き、彼女の血肉を一面に撒き散らしながら後ろの壁へ着弾して鈍い音を辺りに響かせる。
-
―――――――6秒、戻る
「……このまま永遠に死に続ける気か?もう無駄だ。お前は何処にも到達することは出来ない」
――――――。
「『前へ進む』事をとっくに諦めたお前に、オレを殺すことは出来ない。言った筈だぞ」
――――――。
「…『人は何かを捨てて前へ進む』。ならば、お前は何を持っている?」
―――『ナニカ』を捨てて…前へ、ススム…?
「オレには既に『光り輝く道』が見えている。『男の世界』という名の路(ロード)がな。死にたがりのお前には何が見える?」
―――ヒカリ…カガヤク、ミチ…
「お前がここで『壊れて』いくか…、それとも『新たな道』を見つけて進むか…。それはお前次第だ。
もしもお前が新たな道を歩きだし、『漆黒の意志』を身に着けて再びオレに立ち塞がるならば…その時はオレも『漆黒の殺意』を持ってお前と正式に果たし合おう。期待は出来ないがな…
そしてこれはオレの銃だ。返してもらうぞ。…お前は自分自身の『漆黒の焔』で生長してみせろ」
最後にそう言い残してリンゴォは大の字に倒れ伏したままの妹紅に一瞥をくれ、側に落ちていた銃と弾薬を拾ってゴミ捨て場から出る。
闇夜に紛れてゆくリンゴォの姿を視界の端に入れながら、妹紅はしばらく動けなかったが、ふと気付いたこともあった。
あの男、リンゴォは結局最後まで妹紅より『先』に引き金を引くことは無かったという事に…
-
―――どれほどこのままでいただろう。数分か、数十分か。もしかしたら大して時間は経ってないかもしれない。
ふと思い出したかの様に、妹紅はポケットをまさぐり煙草の箱を取り出す。しかしその動作は非常に緩やかに、そしてガタガタと震えながらのものであった。
指が震えてうまく箱を開けられない。煙草を取り出せない。ゆっくり時間を掛けて煙草を口に咥え…そして逆さまに咥えていることに気付き、またゆっくりと咥え直す。
今度はうまく指先に火が灯せない。いつも簡単にやりこなしている事なのに。
何度も何度も震える指先に力を集中させては、失敗して煙草を取り落す。
幾度目かの挑戦でやっと火を灯せた煙草を咥える事に成功するが、身体の震えは一向に止まらない。
―――私は、こんなに弱かっただろうか。
―――これほどまでに、『死』に対して臆病だったろうか。
―――『死』があれだけ恐ろしい世界だと知ってしまった今なら、あれだけ『生』に煩雑していた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。
―――シヌ。―――イキル。―――シヌ。―――イキル。
-
「生まれ…生まれ…生まれ…生まれて…生の始めに、暗く…。死に…死に…死に…死んで…死の終わりに、冥し…」
静寂の世界に妹紅の消え入りそうな、震える声が細々と響いた。
自らの怯える心を強引に落ち着かせる様に、白煙を肺に取り込んでは吐き出す。それでも彼女の気は紛れない。
いつまでも脳裏にこびり付いて離れないのは幾度も体験した『虚無』のイメージ。
ほんの一瞬だった筈なのに、それはまるで永劫の時間であったかの様に何度も何度も彼女の精神をもたげてくる。
「う……く、あぁ………あああぁ………………っ」
いつしか感情の洪水は堰を切ったように溢れ出し、大粒の涙と絶叫がこの静寂の世界を突き破った。
後悔、屈辱、無念、恐怖、あらゆる感情が彼女の世界に入り混じり、心の芯までも蝕み始める。
それはいずれ、狂乱の焔という形で妹紅自身の肉体まで蝕み、喰い尽くしていく。
―――うあああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ ッ ッ ッ ! ! ! !―――
-
少女の全身は今や断末魔ともおぼつかない悲痛な叫びと涙や共に、見た者全てを紅蓮の地獄へと叩き落としそうな禍々しい紅焔に包まれた。
涙も一瞬で枯れ散る火力は、辺り一面を瞬く間に業火の海へと変貌させる。
無様に捨てられ朽ちたゴミの街と自分の姿とを重ね合わせたのか、八つ当たりするかのように八方へ灼熱の火球を撃ち続ける。
天を焦がし、大地を焦がし、自らの五体を焦がす彼女の姿は、とても現世の景色とは思えないほどにドス黒く狂い燃えていた。
燃やして、燃やして、今はただ、燃やし尽くす。
灰と帰す事も無く、精神の全てを搾り尽くして、ひたすらに燃やし続ける。
絶叫が木霊し、害意の塊となって、己の全てを焦がし果てる。
彼女に最後に残るものは何か。彼女がこれから歩いていく道は何処にあるのだろう。
全てを捨て去る藤原妹紅の心に宿るただ一つの想いは、『人間』として当たり前の意志。
―――死ぬことへの恐怖。『生きたい』という願いだけ。
-
【A-5 ゴミ捨て場/黎明】
【藤原妹紅@東方永夜抄】
[状態]:精神崩壊直前、霊力消費(極大)、凶暴な焔を放出し続けているが肉体に火傷など外的損傷は無し
[装備]:なし
[道具]:なし。全て灰と化した。
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくない。
1:生きる。もうあの『虚無』に戻りたくない。
[備考]
※参戦時期は永夜抄以降(神霊廟終了時点)です。
※風神録以降のキャラと面識があるかは不明ですが、少なくとも名前程度なら知っているかもしれません。
※精神が非常に不安定です。彼女がこれから先、どんな『道』を歩むかは後の書き手さんにお任せします。
※A-5エリア ゴミ捨て場で大火災絶賛発生中。
【リンゴォ・ロードアゲイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:疲労(小)、左腕に銃創(処置済み)、胴体に打撲(中)
[装備]:ミスタの拳銃(3/6)@ジョジョ第5部、一八七四年製コルト(4/6)@ジョジョ第7部
[道具]:ミスタの拳銃予備弾薬(18発)、コルトの予備弾薬(18発)、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:公正なる果たし合いをする。
1:男の世界を侮辱した秋静葉と決闘する。
2:ジャイロ・ツェペリとは決着を付ける。
3:次に『漆黒の焔』を抱いた藤原妹紅と対峙した時は、改めて決闘する(期待はしてない)。
[備考]
※参戦時期はジャイロの鉄球を防御し「2発目」でトドメを刺そうとした直後です。
※引き続き静葉を追う。どこに行くかは次の書き手さんにお任せします。
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明けましておめでとうございます。これにて「蓬莱の人の形は灰燼と帰すか」の投下終了します
感想などは随時お待ちしております
今年も無事に一年このロワが続く事を、新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝の様な爽やかな気分で心より願っています!
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投下乙です。
最初の死亡場面からの話の持って行き方
相変わらずSSでのスタンド能力の魅せ方が上手い。
しかし、このもこたんドツボにハマり過ぎである。
文花帖かスペルプラクティスなみの被弾率。
2次だとよくリザに頼って真面目に避けてない設定があるせいなのか。
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あけましておめでとうございます。投下乙でした。
正月早々こんな戦いが見れるとは……妹紅はどうなってしまうのだろうか。
原作でジェイロは一度撃たれて死んだけど、
死の恐怖に臆する事なく挑み、6秒前の体験を元に逆転勝ちしたんだよな。
考えてみれば、すごい話だ。あの時6秒戻されなければそのまま死んでいたのに。
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間違えた。ジェイロ× ジャイロφ(..)
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投下乙です!
自らの不老不死を痛い程に分かっている妹紅が死を恐れ始めるとは面白い展開だなぁ…
リンゴォからも酷く見下されて精神もズタズタな彼女の明日はどちらへ転がるのか
上の書き込みでも言われてる通りにリンゴォのスタンドの魅せ方がかなりいい感じ。
指摘する箇所というと
>>886
>彼の右手には41口径の小型拳銃であるダブルシリンジャーが硝煙を噴かせて握られている。
此処は「グイード・ミスタの拳銃」が正しいかな…?
ダブルデリンジャーはミスタの支給品だったし
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良い感じに暴走する人が出てきたな 止まるかな
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明けまして、投下乙!
リンゴォが強い、強すぎる……!
武器は実質拳銃と早撃ちだけだってのに……!
コイツが強いのは、幻想郷の少女の対極をゆくその精神性なんだよな
もこたんもそうだが、この男を止められる奴はいるのか……!?
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>>918
確かに何か勘違いしておりましたね。
>彼の右手には41口径の小型拳銃であるダブルシリンジャーが硝煙を噴かせて握られている。
を
>彼の右手には小型の回転式拳銃が硝煙を噴かせて握られている。
へと訂正させて下さい。ご指摘ありがとうございます
>>920さんがおっしゃる通り、リンゴォは幻想郷の世界観とはド反対の道を行くキャラとして意識しましたねー
特に妹紅が今後どのようにして自分の道を歩んでいくか。恐怖を乗り越えるのか、はたまた完全に壊れてしまうのか私自身楽しみでもあります。そこもリレー形式のロワの良い所ですよね
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投下乙です。
新年一発目から非常に濃ゆい内容、面白かったです。
このまま行くとリンゴォはいい意味でも悪い意味でも色んなキャラに影響与えそうですね。
では秋静葉、寅丸星、ホル・ホース、幽谷響子の四人を予約します。
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乙です。
妹紅がなんか東方ロワの二の舞街道突っ走ってるようなきがする……
一方のリンゴォは3rdで出来なかった決闘ができるのか
それと、なんか不評な部分があったようなので、ルールを一部修正します。
●自己リレーは不可。
↓
●自己リレーは可能。ただし節度と常識をもって。
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投下乙です。
死とは、苦しむ事も悩む事もできなくなる事。
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もこたん実に約8ヶ月ぶりの出演でワクワクしながら読み始めたら冒頭でいきなり死んでて唖然とした
いえいえ生きてて良かったですね。命を粗末にしちゃああかんよ
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ジョナサン・ジョースター、レミリア・スカーレット、霊烏路空、ブローノ・ブチャラティ、虹村億泰、古明地さとり、サンタナ
予約します
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うわーいっぱい出てきた
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吸血鬼と柱の男か
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E-4とはなんだったのか…
ブチャラティへの幸運補正に注目しよう
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うーむ、気になる予約が続々と来たな。
お空はさとりんの状態次第か。ふたりとも気絶しているけど。
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寅丸や静葉はそろそろ成果の一つも挙げるべき
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これも全部柱の男って奴らが悪いんだ(錯乱)
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>>932
だいたいあってる
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>>932
なんだって、それは本当かい!?
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柱の男といえば、カーズ様は今頃どうしてるのだろう?
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>>935
まだ宇宙空間でさ迷ってるだろうな
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カーズ、パチュリー・ノーレッジ、岡崎夢美の3名を予約します。
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科学と魔法のコンビが早速ヤバい予感だけど
かたやラスボス、かたや七色の魔法使いなので何だかんだで頑張りそ…う?
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あっ(白目)
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(七色じゃねえ、七色じゃアリスや…)
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パチュリーの魔術は割と万能だから
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一緒に予約されただけであらゆるフラグが立つ、さすがカーズ様!(白目)
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カーズ様の話が出たらカーズ様が予約された……
これは……
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うむ。カーズ様がここを見てるという何よりの証明だな
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カーズ様はロワ書き手だった…?
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つまり、カーズ様を担当した◆n4C8df9rq6氏と◆.OuhWp0KOo氏
はカーズ様の可能性が微レ存…?
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考えることをやめて書くことを始めた文学系カーズ様狂おしいほど好き
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そういえばジョジョロワの書き手は2つ名として原作キャラの名前をつけられてたな
◆.OuhWp0KOo氏の二つ名はカーズ様だ
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二つ名は考えるの面白そうだけど意外とピンと来るのが浮かばない
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そういうのは自然に思い浮かばないようなら「ない」ってことだ
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咲夜さんの胸みたいなもんか
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そういうのは無理矢理付けるとイタいからいいよ…
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東風谷早苗、プロシュート、八坂神奈子、花京院典明
予約します
頑張れ兄貴組
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プロシュートと東方の人外キャラとの相性の悪さは異常
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このメンツなら真っ先に花京院がくたばるな
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最後のメッセージです…受け取って…ください……
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グレイトフルデッドも数分で人間を動けないレベルに歳とらせるから
数分で80歳くらいとして千年生きてる文とか妹紅が割と長寿だとすると
結構無力ではないかも?
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>>457
そもそも神や妖怪は年をとらない可能性が…
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花京院が死にそうな予約だな……
はてさてどうなることやら
次に投稿のする話で最後かな、このスレは?
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お前ら少しは花京院の無事を祈ってやれよ……
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祈っておこうかな、彼の無事を。
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兄貴の能力は子どもの場合子どものまま老化するから不老不死でも老化すると考えていいのか…
まぁどっちにしろ東方は女性キャラばかりだから兄貴が苦戦するのは確実かな…
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ジョジョロワだと吸血鬼も柱の男も老化しなかったけどね
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予約延長します。
-
自分も予約延長させていただきます。
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しばらくロワから離れてたけど、ふらっと立ち寄ってみたらくっそ面白かった
書き手さんたち頑張ってください
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「面白い」…そんな言葉は使う必要がねーんだ。
なぜなら、オレや、オレたちの仲間は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には!
実際に相手を殺っちまって、もうすでに終わってるからだッ!だから使った事がねェーッ。
『面白かった』なら、使ってもいいッ!
-
殺すなw
-
書き手さん殺されちゃうwwww
-
だったら蓬莱の薬を飲ませよう
-
ジョナサン・ジョースター、レミリア・スカーレット、霊烏路空、ブローノ・ブチャラティ、虹村億泰、古明地さとり、サンタナ
前編投下します。
-
「クソッ!……もしかして、何ともなんねーのかよ!?」
レストラン・トラサルディーの二階、居住スペースの寝室。虹村億泰は狼狽えていた。
ベッドで寝かせているのは古明地さとり。近くのテーブルには簡素なサラダやミネラルウォーターが置かれている。
億泰はさとりを寝室に寝かせた後、予め調理室に置かれていた水やサラダなどを持ち出して気絶中の彼女に食べさせたのだ。
未だにさとりの意識は戻っていないが、彼女が重傷であることは傍目から見ても明白だった。
一刻も早く治療をしなくては。
さとりを抱えて逃げていた際の焦燥やストレスも重なり、億泰は気絶中のさとりに何とか料理を食べさせることにしたのだ。
(気を失っている彼女の口の中に申し分程度の量の料理を含ませ、少々荒っぽく飲み込ませたりと些か雑な手法になっているが)
何度か料理を口に含み、ゴクリとやや苦しそうに飲み込むさとり。
しかし、何度食べさせてもさとりに治癒の効果が発揮されているようには見えなかった。
未だに気を失ったままピクリとも動かないし、相変わらず容態は悪いままにしか思えない。
「どうすりゃいいんだよチクショオ!こんな時に、仗助の野郎でもいりゃあよォッ…!」
苛立ちと焦りのままに億泰は壁を殴りつけ、ギリリと歯軋りをする。
考えてみりゃあそうだった。トニオさんが料理を作らなきゃスタンドの効果が得られる訳がねェ。
畜生、俺のやったことは無意味だったのかよ…!
こんな時に仗助のやつがいれば。あいつはいつだって頼りになるし、機転も利く。
意思が弱い俺なんかと違って、仗助は本当に凄い奴だ。
あいつだったらこんな時にでもスタンドを使ったり、そうでなくともこの女のコを助ける為の手段を上手いこと考え出すだろう。
だが、仗助は此処にはいない。頼れる人物は此処にはいない。
どうする、億泰。
こんな時に仗助ならどうする?
考えるのは俺自身だ。俺が、このコを助けなくっちゃあ――――
「…その様子だと、お前は『乗っていない』人間のようだな」
-
瞬間、開きっぱなしのドアの傍から声が聞こえてきた。
突然の来訪者に驚き、ハッと億泰は振り返る。
廊下から姿を現したのは白いスーツを着込んだおかっぱ頭の男だった。
一見無防備の様にも見えるが、その実一定の距離感を保っている。
相手が『シロ』であると認識しつつも最低限の警戒をし、男は億泰と接触を試みたのだ。
「―――ッ、あんたは……、」
億泰は現れた男に対し何者か問いかけようする。
しかし直後に焦燥を表情に浮かべ、男に近付く。
普段の彼ならば少しは警戒を抱いたかもしれないが、今の億泰の心中は目の前の少女のことで手一杯だったのだ。
「……ええい!この際誰だっていい!頼む、この女のコを助けてくれッ!!ずっとぐったりしたまま目を開けてくれねェんだッ!」
億泰は男に対し口走り、必死の表情で懇願した。
一刻の猶予を争うと言わんばかりに焦りを見せていた。
男は億泰の後方のベッドで寝かせられている少女へと目を向ける。
軽く少女の様子を伺った直後に、男は億泰の傍を通り抜け少女の方へと歩み寄っていく…
「た、助けてくれるのか…!?」
「……少し、容態を見させて貰うぞ」
表情が少し明るくなる億泰を尻目に、男はベッドの傍にしゃがみ込み少女の容態を見る。
その処置はどこか手慣れている様にも見えるものだった。
「…先に聞いておく。君、名前は?」
「え?あ、あぁ。俺は…虹村億泰」
「億泰か……俺の名はブローノ・ブチャラティ。それで、この娘のことだが…」
ブローノ・ブチャラティと名乗った男は、少女への一通りの検査を終える。
彼はギャングの世界に身を置く男。命懸けの抗争に赴くことなんてザラにある。
自分や仲間がいつ負傷するかも解らない。その為に最低限の応急処置の手段を身に付けていたのだ。
とはいえ、あくまで最低限の知識と手段。専門的な医療技術までは習得していない。
だが傷の容態を伺うこと程度ならば十分に行える。
「…思ったよりも呼吸は落ち着いている。脈も…あるな。
命に別状は無い、と言いたい所だが……その辺りはまだ解らない。
億泰、この娘を発見した時には既に傷付いていた状態だったのか?」
ブチャラティの問いかけに対し、億泰はすぐさま答えた。
ゲーム開始から間もなく、この女のコが中学生くらいの少年と邂逅していたことを。
その少年がスタンドの拳で女のコを攻撃していたことを。
女のコもまたスタンドで抵抗するも、少年に殺される直前まで追い詰められていたということを。
そこでスタンド『ザ・ハンド』を使い、女のコを助けて此処まで逃げてきたいうことを。
-
(スタンドの拳が直撃、か…。道理で傷が少ない訳だ。
高いパワーを持つスタンドなら、拳の一撃で相手を瀕死に至らせることくらい雑作も無い)
ブチャラティは億泰の話を聞き、内容を咀嚼する様に考え込む。
この少女が受けた攻撃はあくまでスタンドによる一発のパンチのみ。
それは確実だろう。彼女の負傷の少なさがその裏付けだ。
近距離パワー型のスタンドに一撃を叩き込まれたとなれば、身体の『内側』をやられている可能性も高い。
他にこの娘が消耗した要因と言えば、スタンドパワーの酷使などが予想される。
「一つ聞きたいんだが、何か使えるものは支給されていないか?」
「使えるもの、っつってもよォー…」
そう言いながら億泰は自らのデイパックを漁り、折り畳まれた二枚の紙を取り出す。
そっと紙を開くと、二つの物が紙から飛び出した。
億泰に支給された所謂『ランダムアイテム』だ。
そのうちの一つを目にしたブチャラティが僅かながらも驚愕の表情を浮かべる。
彼の胸中に込み上がった物は、奇妙な既視感だった。
「俺に支給されたのは…ピストルと、この気味悪ィ生首くらいしか…」
「―――億泰、その生首…何か説明が書かれていなかったか?」
支給されたアイテムの片方をただの『気味の悪い生首』としか認識していなかった億泰。
しかし何か思い出したかの様に突然問いかけてきたブチャラティに少し驚き、彼は頭を掻いて頭の隅に置かれた記憶を引っ張りだす。
「えっとよォ……、……あー、確か…『聖人の遺体』だっけか?そんな名前で書かれてたぜ」
億泰が伝えた「支給品の名」を聞き、ブチャラティは確信を得たような表情を見せる。
相変わらず億泰は疑問を浮かべたような顔のままだが、直後にブチャラティがデイパックから「あるもの」を取り出す。
「やはり、か…。俺にも支給されているんだ…『聖人の遺体』とやらがな」
そう言ってブチャラティが自らの掌の上に置いたのは、二つの『眼球』。
淀んだ水晶体と瞳孔が不気味さを引き立てている。
億泰はそれを見て怯んだ様に身じろぎをしたが、すぐにブチャラティに問いかける。
「ア、アンタも『聖人の遺体』ってのを持ってたのかよ!?」
「ああ。もう一つ、心臓部もデイパックに入っている…何れも用途が全く解らないがな」
「心臓とはこれまた気味の悪ィ…。ともかく、この『聖人の遺体』っつうのは幾つもあるんだろーか…?」
「詳細には解らないが、お前が遺体の頭部を所持し、俺が両目と心臓部を所持している。
恐らく他の参加者にも同様に「遺体の部位」が支給されている可能性は高いだろう」
用途不明の聖人の遺体。複数に分かれた遺体の部位。
億泰は何とも取り留めの無いような様子で腕を組み、考え込む。
-
「…なんつうかよォ〜…死体なんか支給して何になるんだろうな?ただ気味が悪いだけじゃねェかよ」
「部位毎に支給されていることから考えると、『遺体』を完成されることで初めて何かが起きるのか…。
俺達が気付いていないだけで部位そのものにも効果があるのか…或いは、どちらも正解か…だろうな」
ブチャラティは限られた情報の中で推測を述べる。
とはいえ、あくまで憶測の範疇を超えない。
現時点で確かな事実は「聖人の遺体というものが複数の参加者に支給されている」ということだけだ。
この遺体に何の意味が在るのか、どのような効果があるのかは解らない。
下手をすれば本当にただの遺体に過ぎないのかもしれないし、今はまだ確固たる判断材料が少なすぎる。
故に聖人の遺体に関する推察は後回しとした。今は目の前の少女のことが優先だ。
「ともかく、今は医療器具か何かが欲しい所だな…この娘の手当が必要だからな」
「だけど、あんたはそれを持ってねーんだろ?此処の中も探してみたけど、どうも見つからなくってよォ…」
「ああ…だからこそ、これから移動がしたい」
そう言ってブチャラティはデイパックから取り出した地図を開き、億泰に説明をした。
彼が指し示した地図の座標は、D-4の香霖堂。このレストラン・トラサルディーから目と鼻の先の位置にある施設だ。
「地図を見る限り、『レストラン・トラサルディー』の直ぐ傍に『香霖堂』という施設があるだろう?
俺は一先ずそこへ向かってみたい。地図に記載されている施設である以上、何かしらの物資が手に入るかもしれないしな。
もしかすれば―――この娘を手当て出来る応急処置の道具が見つかるかもしれない」
◆◆◆◆◆◆
-
◆◆◆◆◆◆
所々より月明かりが射す魔法の森の内部にて。
彼はただ、のらりくらりと歩き続ける。
屈強な両脚で雑草を踏み頻り、何度か周囲を見渡しながら。
その姿はまるで獲物を求めて彷徨う獣の様にも見える。
瞳には一切の感情を宿さず、表情には一切の動きを見せず。
柱の男『サンタナ』は、深い森の中を進んでいた。
「…………」
先程は主達と共に自身を見捨てた同族と再会した。
ワムウ。サンタナに取って共に主達の下で育て上げられた、同年代の同族。
類い稀なる武力を以て主達から一目置かれた戦闘の天才。
彼はサンタナを仲間として看做した。主の下で戦うことが、己の在るべき姿であるかの如く。
落ちこぼれであるサンタナに、再び仲間として戦える機会を与えた。
ワムウにとってはそれこそがサンタナの然るべき姿であり、成果を出した際の最大の見返りと思っていたのかもしれない。
しかし、当のサンタナは――――先程まで言葉を交わしていたワムウに対し、一匙程の関心も抱いていない。
『主達に認められたいか』。
今更虫の良い話だ、としか思わなかった。
自分を捨て置いたのは彼らであり、自分に一抹の興味も抱かなかったのも彼らなのだから。
だからサンタナも彼らへの興味など持たなかった。
『闇の一族』も、『波紋戦士』も、はっきり言ってどうでもよかった。
だが、自分は彼らに―――『闇の一族』の同胞に勝てないことは解っている。
彼らに逆らう程の野心も持ち合わせていない。野心を抱いた所で何も得られるモノはない。
そして、彼らの同族であることにも変わりはない。
此処で彼らに逆らえば死ぬだけだ。
それに、この場で奴らに逆らう道理も、逆らう目的も持ち合わせてはいない。
敵わぬ相手にがむしゃらに立ち向かい、命を落とすことは御免だ。
故にサンタナは彼らに従う。
自分の行為に『意味』が介在しているのか。
がらくたの様な漠然とした生き方に満足しているのか。
今の己には解らないし、理解するつもりも無い。
考えた所で無駄なのだから。そこに意味など無いのだから。
今の俺は単純な方針だけで事足りる。虫ケラ共は殺す。同族には従う。それだけだ。
奴らに疑問を抱いた所で、自分に疑問を抱いた所で、俺は何も得られない。
ならば俺は、今はただ生きる為の道筋に流れるだけでいい。
奴らと同じ『闇の一族』として。
「…………」
漠然と歩みを進めながら、サンタナは周囲の木々が次第に少なくなっていくことに気付く。
直に森を抜け出るだろう。その身に射す月光を見上げながら、彼はそれを確信する。
そして、サンタナが深い森を抜けた矢先。
視界に入ったのは、森の傍に立つ一軒家の扉から出てくる二つの人影の姿だった。
◆◆◆◆◆◆
-
◆◆◆◆◆◆
ギィ、と扉が開かれる音が響く。
レストラン・トラサルディーの扉を開き、外へと出てきたのは虹村億泰だ。
億泰は香霖堂へ向かうというブチャラティの提案を即座に受け入れた。
すぐに息を引き取ることはないとはいえ、未だに容態が無事とは言えない少女を可能な限り早急に治療したいと思っていたからだ。
応急処置の道具さえ見つかればこのコの手当てが出来るかもしれない。
「えーと…確か…あっちだよな?」
億泰は桃色の髪の少女を抱えながら、近くに見える川辺の方を向く。
億泰に続いてレストランの扉から外へと出てきたブチャラティは彼が向いた方角を見る。
ブチャラティは億泰に対し「ああ」と短く頷いた。
『香霖堂』はこのレストランからそう遠くない。川を超えれば数分と掛からずに辿り着く程度の距離だろう。
「だったらさっさと行こうぜブチャラティ!モタモタしちゃあいられねェッ!!」
ブチャラティに対しそう言うと、億泰は足早に川辺へと向かおうとした。
こちらの反応を聞くなりすぐさま移動を開始しようとする彼の姿からは些か落ち着きの無さを感じる。
やはりあの娘のことで少し焦っているのか。
それとも、この殺し合いと言う状況下そのものに少なからず焦燥感を覚えているのか。
どちらにせよ、今の億泰からは少々不安を感じる。
ブチャラティはそう思い、焦る億泰を窘めるべく彼に声をかけようとした。
直後、億泰が唐突に動きを止める。
ぽかんとした様子で空を見上げていたのだ。
「…………?」
ブチャラティは問いかけるよりも先に、彼の視線の先を見る。
香霖堂の更に先、位置にして『湿地帯』の方角。
そちらの方を向いた二人。
その表情は、すぐさま驚愕の色へと変わっていくことになる。
呆然と宙を見上げる彼らの視界に入っていたのは―――――
紺色の空を照らしながら昇っていき、やがて拡散した『黒い太陽』だったのだから。
-
「…今の見たか、ブチャラティ」
「…あ、ああ…。黒い太陽が、空へと昇って……」
二人はただただ唖然とした様に取り留めの無い言葉を呟いていた。
あれはスタンド能力によるものなのか。それとも、それ以外の別次元の力なのか。
ともかく、二人はあの湿地帯の方角で何かが起こっていると言うことだけは理解出来た。
これから向かおうとしている香霖堂は、湿地帯の直ぐ傍に位置している。
ブチャラティは内心で警戒を覚える。
湿地帯の方面で何かしらの戦闘が行われているのだろうと半ば確信していた。
危険人物の排除も目的の一つとしている以上、現場へと赴き状況を確かめたいが…負傷した少女を抱えている億泰は連れて行けない。
少女にも億泰にも危険が及ぶ可能性があるからだ。
ならば現状の目的通り一度香霖堂まで赴き、億泰に少女の看護を任せてから湿地帯の調査を行うか?
今後の行動を脳内で思考していたブチャラティだったが、億泰の呼び掛けによっては一旦打ち切られることになる。
「…って、おいブチャラティ!あっち、あっち見ろよ!『誰か』がいるッ!」
振り返った億泰はそう言いながら顎でブチャラティの後ろを差す。
はっとしたように億泰を見たブチャラティは、彼の指摘を聞き直ぐさま背後を振り返った。
彼が指し示したのは南西に位置する『魔法の森』の方向だ。
ブチャラティは少しずつ慣れ始めた薄暗い風景をじっと見据える。
「――――何?」
その時ブチャラティは気付く。
億泰が指した方向から見える『人影』の存在を。
森の中から姿を現したであろう人影が、ゆらりと雑草を踏み頻りながらこちらへと近付いて来ていたのだ。
先程の黒い太陽に気付いていたのか否か、ゆっくりと空を見上げていた顔を下ろしている。
人影が男性であるということに気付くのに然程の時間はかからなかった。
やがて、宵闇に紛れるその姿が歩を進めるに連れて少しずつ露になっていく。
その男はほぼ全裸と言ってもいい装いだった。
下半身に着用している下着のような物以外一切の衣服も装飾も身に纏っていない。
彫刻の様に整った筋肉隆々の肉体を曝け出しているのだ。
右手には緋色の刀身を持つ剣が握られており、刃を地面に引き摺っている。
異様な風貌を前に、ブチャラティも億泰も一瞬驚いた様子を見せた。
そんな彼らの様子を意にも介さぬように、半裸の男は次第に近付いてくる。
直後、意を決したようにブチャラティは前へと躍り出た。
「―――先に言っておくッ!俺達は殺し合いには乗っていない!」
ブチャラティは声を上げ、半裸の大男に対し対話を試みる。
彼はあくまで殺し合いに乗っていないことを強調する。
対する半裸の男はブチャラティの呼び掛けを耳にし、その動きを止める。
二人との距離は10m前後。男は立ち止まったまま返答せず無言のまま棒立ちしている。
その顔に仏頂面を張り付け、黙りこくりながら二人見ていた。
(オ、オイオイ何だァ?あのオッサン…パンツ一丁とか…もしかして変態か?)
ブチャラティの後ろでさとりを抱えている億泰は何とも言えぬ表情で大男を見ている。
何しろ相手はほぼ全裸なのだ。その出で立ちはと言うと、下着らしき衣服のみを身に纏っている筋肉隆々の大男。
明らかに不審人物めいた装いの男が外を彷徨っているということもあってか、億泰はそんなことを思っていた。
-
「そして問おうッ!お前はこのゲームに乗っている人間か!それとも反抗の意思がある者か!」
「……………」
大男を牽制する様なブチャラティの言葉が響く。
ブチャラティを見据え、変わらずに無表情のまま立ち尽くす大男。
暫しの間を置いた後、半裸の大男は僅かに口を開いた。
「…………、……………」
言葉を発しているようだが、その発言の殆どを聞き取ることが出来ない。
ぶつぶつと小声でうわ言の様に何かを呟き始めたのだ。
微かに耳に拾えるのは『人間』『参加者』『能力』などの断片的な単語だけ。
彼はこちらの問いかけには答えず、ただ一人で呟き続けていた。
億泰は眼を細めながら何とも面倒臭そうに大男を見ており、ブチャラティは変わらず警戒の体勢を崩さない。
「おいッ、聞いてんのかよオッサン!さっきからブツブツブツブツ一人でよォ〜ッ!」
痺れを切らした億泰も身体を前に押し出しながら大男に向けて声を上げる。
その表情からは明らかに苛立ちが見て取れる。
「ブチャラティが質問してんだからよォ、なんか一言くらい――――――――――――――」
億泰が苛立ちのまま言葉を発しようとした直後のことだった。
「………やかましいぞ、人間」
低く威圧的な声が、静かに響き渡った。
先程以上にハッキリとした声色で、半裸の大男が呟いたのだ。
え、と呆気に取られた億泰。直ぐさま身構えたブチャラティ。
直後、大男が全力で地を蹴る。
全身から『殺意』が剥き出しになったのもほぼ同時のことだ。
人間とは思えぬ程の――――否、『怪物そのもの』であるパワーを以て両脚が躍動する。
彼の名は『サンタナ』。
吸血鬼をも超越した究極の生物――――柱の男。
両脚を動かしたサンタナは、ブチャラティ達目掛けて獣の如しスピードで瞬時に駆け出したのだ―――!
-
「な、…あのオッサンッ…!?」
「――――億泰!今直ぐ走れッ!!」
二人は直ぐさま気付いた。あの男は『乗っている』ッ!
それも臆することも牽制することもなく、真っ正面から突っ込んできたのだッ!
危険を感じたブチャラティは、怪我人を抱えた億泰に向けて言い放つ。
あの少女を抱えている億泰を戦線に巻き込むのは危険だ!
「此処は俺が引き受けるッ!お前は避難しているんだ!」
「だ、だけどよォ!あんた一人を置いてくわけにはッ……」
「―――いいから行けッ!!」
ブチャラティが億泰へ向けて声を荒らげながら叫ぶ。
しかしそうしている間にもサンタナの行動は続いていた。
筋肉を躍動させながら接近するサンタナが左肩を突き出し、荒々しく突撃を敢行してきたのだ!
屈強な肉体による猛然たるパワーが、怪我人を抱える億泰目掛けて迫り来る――!
「くッ…!」
咄嗟にブチャラティが動き出し、億泰を庇う様にサンタナの目の前に躍り出る。
立ちはだかるブチャラティを見据えながらも、サンタナは構うことなく突撃を続ける。
そして、その突進が直撃する直前―――『それ』は姿を現した。
「―――『スティッキィ・フィンガーズ』ッ!!」
ブチャラティの正面に出現したのは、彼の精神エネルギーの化身。
近距離パワー型のスタンド―――『スティッキィ・フィンガーズ』!
細身ながらも力強さを感じさせる筋肉に覆われたスタンドの両手が、突進するサンタナを受け止めるッ―――!
「ッ……!?」
自身の身体を受け止めたスティッキィ・フィンガーズを目の当たりにし、サンタナが驚愕の表情を浮かべる。
ブローノ・ブチャラティはあのJOJOのような波紋戦士でも、最初に出会った伊吹萃香のような人外の存在でもない。
柱の男が知るはずのない『第三の存在』―――精神力の化身を操る『スタンド使い』だ。
「―――っ、らあぁぁッ!!!」
スティッキィ・フィンガーズは両腕に力を込め、受け止めたサンタナを押し退けるように弾き飛ばした。
高い破壊力を誇るスタンドのパワーに押されるがままにサンタナの身体は軽く吹き飛ばされるも、すぐさま左手で受け身を取る。
片腕をバネに曲芸のように機敏な動きをし、地面へと着地。
両脚を地に着けたサンタナは、ゆらりと不気味な動きを取りながら体勢を立て直した。
-
「………………」
「やれやれ…これはまた、随分と荒っぽいご挨拶と来た。まるで血に飢えた獣の様だな」
二人の男が相対する。
視線だけが交差し、互いに睨み合いのような状況と化していた。
静寂に包まれながらも、確かなプレッシャーが周囲の空気を覆っていく。
スタンド使い―――ブローノ・ブチャラティ。
『スティッキィ・フィンガーズ』を傍に立たせ、刃の様に鋭い視線と共にサンタナを見据える。
柱の男―――サンタナ。
首を何度か鳴らし、右手に剣を携えながら無感情にブチャラティを見据える。
暫しの無言が続いた。
牽制し合う様に二人は睨み合い、身構える。
永遠に続くかのような無音を切り裂いたのは―――サンタナだった。
「……………!」
サンタナが剣を片腕に握り締めながら地を蹴り、疾走を開始したのだ。
荒々しく刃を地面に引き摺り、ブチャラティ目掛けて凄まじい勢いと共に接近していく。
究極の生物の『力』と『殺意』を、剥き出しにしながら――――!
「―――来い!お前の相手はこの俺だッ!!」
迫り来る見据えるサンタナに対し、ブチャラティは臆することなく勇ましく声を張り上げる!
それに呼応する様に逞しく拳を握りしめたスタンドは、接近してくるサンタナを真っ直ぐに待ち構えた―――――!
◆◆◆◆◆◆
-
◆◆◆◆◆◆
―――思えば、走ってばかりだ。
最初はあの中坊くらいのガキの時だったな。
この女のコを殺そうとしていた瞬間に、『ザ・ハンド』で助け出した。
そっから、俺はこのコを抱えて必死で走ったんだ。
竹林を回るなんて生まれて初めてだったが、必死に逃げてたもんだったから散歩どころじゃなかったな。
行けども行けども同じような光景ばかりが続いていた。
まるで深い深い闇の中を宛も無く駆け回っているみたいだった。
どれくらいの時間を走ったかも分かんねーけど、気がつけば竹林から抜け出せていたんだ。
あのガキを撒くことにも成功したし、トニオさんとこの店にも辿り着いた。
…そういえば、何でトニオさんの店があったんだ?
いや、今はまだ考える時じゃねえか。とにかく、そこでブチャラティの奴と出会って。
あの半裸のヤローに襲われて、ブチャラティに助けられて。
『此処は引き受けるから走れ』っつわれて。
俺は、こうしてまた走っている。
背負っているのは、勿論あの女のコだ。
「はあッ、はァッ………」
虹村億泰は浅瀬の川に足を踏み入れ、少女を背負いながら移動していた。
その最中にも何度か背後へと振り返る。
自分を庇ってあの大男との戦いに乗り出したブチャラティのことが心配で仕方が無かった。
しかし、だからこそ彼は必死に走っていた。
アイツが俺を逃がしたのは、俺がこのコを抱えているからだろう。
怪我人であるこの女の子を手当てすることが一番重要であるというのは分かっている。
ブチャラティは戦いを引き受け、この女の子を守ることを俺に託したんだ。
(――ブチャラティのことも心配だが、今はこのコを助けンのが先だ)
そう、今はまず香霖堂へ向かおう。
さっきの黒い太陽が気になっては居るが、つべこべは言ってられない。
出来るだけ早く応急処置の道具を探す為にも、まず近場に存在する施設を頼るべきだろう。
もし手当ての為の道具がそれでラッキーだ。俺はそれに賭けたい。
ただ…もしもあっちの湿地帯の方で本当にドンパチが起こっているとしたらマズい。
だからこそ、出来る限りさっさと探し出さねーとならねェ。
殺し合いに乗ってる連中がいたとして、香霖堂に訪れるとしたら…それこそ最悪だ。
億泰は余り回転の良くない頭で自分なりに思考を続ける。
いつもなら仗助の奴や承太郎さんのような頼れる仲間達が何かしらの指示を出してくれるだろう。
だが、今は一人だ。さっき、ブチャラティと出会う前と同じ――自分一人で考えなければならない。
-
(とにかく、今はやるっきゃねえ…!)
億泰は下唇を噛みながら草原を走っていた。
地図の通りだ。川を越えてから直ぐに香霖堂らしき施設が遠目に見えたのだ。
施設を真っ直ぐに目指し、億泰は息を荒くしながら必死に走り続ける。
それから数分と掛からぬ時間の後。
億泰は施設の前まで辿り着いた。
一軒家のような施設の前には標識やら置物やら、妙なオブジェが沢山置かれている。
荒い息を整えながら億泰は顔を上げ、その『看板』に目を向けた。
看板に描かれていた文字は『香霖堂』。
此処が地図にも記載されていた施設であると言うことを示していた。
億泰の表情が晴れるも、内心では不安を抱えている。
もしも応急処置の道具がなかったら、この女のコはますます容態が悪くなるばかりなんじゃないか?
そうなったとしたらマズい。他に近場にある施設に向かえば何かあるかもしれないが、そこまでにこのコが保つかも分からない。
それに、再び移動を開始すれば本格的にブチャラティを置いていくことになってしまう。
出来ればそれは避けたかった。故に億泰は、この香霖堂に応急処置の道具があることを祈った。
(―――頼むッ!何か、この子を助けられるモノを…!)
意を決した億泰が、戸を開けようとする。
歯を食いしばり、必死で念じるような表情を浮かべながら。
―――その直後のことだった。
「あら、先客?」
戸に手をかけた億泰の背後から、唐突に少女の声が聞こえきた。
突然の呼び掛けにハッと驚きながら億泰は振り返る。
無論、警戒混じりの表情を浮かべながら。
億泰が振り返った先にいたのは、横並びに立つ二人の人物だった。
片方は屈強な体格を持つ大柄な紳士風の男。…何故か縛り上げられた黒髪の少女を抱えている。
もう片方は男とは対照的に、小柄な体格の淑女のような少女。その背中には、悪魔のような翼を生やしている。
-
億泰は驚いた表情を浮かべ、まじまじと二人を見つめる。
女の子を縛り上げている時点で若干の不信感は抱いていたが、さっきの半裸の大男のような雰囲気は纏っていない。
「あ、アンタらは…?」
「僕はジョナサン・ジョースター。そして、こちらがレミリア・スカーレット。
僕達は殺し合いには乗っていない。このゲームを止める為に、荒木と太田を打倒する為に行動しているんだ」
紳士風の男―――ジョナサンが億泰に対し名乗りつつそう言う。
その声、その瞳からは確かな意志と力強さを感じられる。
何となく、何となくではあるが億泰はこのジョナサンという男が信頼出来るような気がしたのだ。
「ん?ちょっと待った。あんたが背負ってるの、もしかして……」
直後にレミリアがぐいっと億泰に近付き、彼の背負っている少女を見る。
桃色の髪。身体から伸びるコード。そして『第三の目』。
レミリアにとって、それは身に覚えのある容姿だった。
「『第三の目』…こいつ、あの地底の覚の妖怪…?」
「レミィ、知っているのか?」
「ええ、一応ね。確か名前は…『古明地さとり』だったっけな。
アンタが背負ってるそのカラスのご主人様よ」
会話を交わすジョナサンとレミリアをポカンとした様子で億泰は見つめる。
話を聞く限り、ジョナサンが背負っている女の子(空、と言うらしい)のご主人様が俺が背負っている女のコらしい。
仗助や康一が巻き込まれている様に、この『さとり』や『空』っていう関係のある奴らが巻き込まれている。
億泰は込み上げた主催者への怒りを抑えつつ、再びジョナサン達を見る。
そして、レミリアが億泰に向かって問いを投げかけた。
「―――で、随分と急いでいるようだったけど。貴方、どうしたのかしら?
背負っている覚の妖怪のことも含めて洗いざらい話しなさいな」
◆◆◆◆◆◆
-
◆◆◆◆◆◆
「はあァァァッ!!」
放たれたスタンドの鉄拳は迫り来るサンタナの頭部目掛けて叩き込まれる。
メキィ、と鈍い音と共に拳は頭蓋の側面に豪快にめり込んだ。
破壊力Aのパワーで頭を全力で殴られたサンタナは、壊れた人形の様に地面を転がりながら吹き飛んでいく。
ブチャラティは身構えつつ、成す術なく地面にうつぶせに倒れるサンタナを見据えていた。
どこか強ばった表情を浮かべつつ。
(あいつ…さっきから妙だ。何の抵抗も見せずにスタンドの攻撃を受けている?
それに、『手応え』がおかしい…まるで『ゴム』か何かを殴ったかの様な…)
ブチャラティの不安が的中したかの様に、サンタナはぬらりと立ち上がる。
その右手には先程と同じ様に緋色の剣を握り締めている。
全くの無傷と言う訳ではない。しかし、動じている様にも見えない。
無反応と言わんばかりの様子に、ブチャラティは言い知れぬ不気味さを感じた。
首をコキリ、コキリと鳴らしながらサンタナはブチャラティを見据える。
そして―――彫刻の様な両脚を躍動させ、獣の如し勢いで接近を行ってきた!
(来るか…)
再び迫り来るサンタナに対し、スタンドがその拳を構える。
サンタナの軌道は先程と同様に真っ直ぐ、一直線の接近だ。
無抵抗で殴られたことといい、何か策があるのか―――いや、むしろこちらのペース乗せるには絶好の機会だ。
下手に慎重に立ち回り、奴に反撃の機会を与えることは避けたい。
奴が何かしらの『奥の手』を見せる前に、こちらが速攻でカタを付ける―――!
「スティッキィ・フィンガーズッ!地面にジッパーを生成しろッ!!」
スタンドが地に右拳を叩き付けた直後、サンタナの軌道上の地面に『ジッパー』が出現。
雑草や土を貫く様に生成されたジッパーの口はスタンドの腕の一振りと共に勢いよく開かれる。
-
「…………!?」
サンタナの表情に驚愕が浮かび上がった。
地を蹴っていた右足が、地面に生成され開かれたジッパーの口の中へと嵌る。
目の前のブチャラティとスタンドそのものに意識を向けていた為に突然出現したジッパーへの対応が遅れたのだ。
直後にジッパーの口が閉ざされ、サンタナの右足はジッパーによって地面に固定される。
泥濘に脚を取られた様に身動きが出来なくなったサンタナの隙を、ブチャラティは見逃さなかった―――!
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ――――――――!!!」
放たれる拳撃。拳撃。拳撃。拳撃。拳撃。拳撃。拳撃。拳撃。拳撃――――!!
無数の拳による機関銃の如しラッシュは、身動きの取れないサンタナの身体に次々と叩き込まれる。
文字通り成す術も無く、抵抗する間もなくサンタナは何度も拳によって殴打される。
凄まじいパワーとスピードを誇る『スティッキィ・フィンガーズ』の乱打を前に、サンタナは打ちのめされていく。
しかし、何度も拳を叩き付けられながらもサンタナは『対応』を行った。
拳に叩きのめされながらもサンタナは右腕を動かしたのだ。
『緋想の剣』を、力強く握り締めながら。
そのまま『緋想の剣』が荒々しく振るわれ、『スタンドの左腕』を引き裂いたのだ。
スタンドの左腕部分に鋭い裂傷音が響き渡る。
切断にまでは至らなかったとはいえ、左腕の二の腕に決して浅くは無い裂傷が生まれる。
驚愕の表情を浮かべながら、ブチャラティはサンタナの行動を目の当たりにする。
ダメージのフィードバックによってブチャラティ本体の左腕にも傷が生まれたが、咄嗟に傷口にジッパーを生成し締めることで止血。
―――緋想の剣の持つ能力は『気質を操る程度の能力』。
他者の気質を読み、その弱点となる気質を刃に纏うことが出来る。
本来ならば他者の気質を天候へと変換させることが可能なのだが、制限下故に会場ではそれを発揮しない。
しかし、「相手の弱点となる気質を纏って攻撃する」という能力に関しては従来通りに行使可能だった。
緋想の剣は『スタンド』という精神エネルギーの化身の『気質』を読んだのだ。
スタンドの気質を覚えた刃は、その弱点となる気質を纏うことによってスタンドへの干渉を可能としたのだ。
-
「――――ッ……」
ラッシュを止め、傷を抑えて怯んでいるブチャラティが最も驚愕したこと。
それは刀剣の刃によってスタンドに干渉したことではない。
あの刀剣自体の攻撃は戦闘時に何度か目にしたし、奴のスタンドである可能性も十分に有り得る。
何より彼が驚いたこと、それは『近距離パワー型スタンドのラッシュをその身に受けながら抵抗してみせたこと』だ。
先程に拳を頭にブチ込んだ時にも奴は平然と立ち上がった。
それどころか、手応えが奇妙だった。まるでゴムのように柔らかい物体を殴ったかのような感覚だ。
戦闘を通じ、この男が異様だということはすぐに理解出来た。
『人間』なのか、こいつは…?
会場で最初に出会った男の姿がブチャラティの脳裏を過った、その直後だった。
(何ッ…!?)
瞬間、刃の一撃によって怯んでいたブチャラティの両脇腹を『痛み』が襲う。
サンタナの胴体から突き出した複数の肋骨が鋭利な刃と化し、ブチャラティの脇腹に次々と突き刺さったのだ。
一瞬思考が追い付かなかったブチャラティは、自身の両脇腹に食らい付く肋骨を見てそれを理解した。
(これは…『骨』!? 肋骨が伸びた…!?)
リブス・ブレード。別名『露骨な肋骨』。
腹部から一本一本が方向自在の『肋骨の刃』を伸ばし、敵を攻撃する技。
己の肉体を操作出来る柱の男だからこそ行える芸当だ。
さしものブチャラティも、このような攻撃が襲いかかってくるとは予想だにしていなかった。
複数の肋骨による攻撃によってブチャラティが怯んだことにより、サンタナの片足を固定していたジッパーが緩む。
それに気付いたサンタナは即座に片足を引き抜き、力づくでジッパーの拘束から脱出してしまう。
ジッパーによる固定から解き放たれ、自由になったサンタナ。
そのままサンタナは肋骨を突き刺して固定したブチャラティへと視線を向ける。
身動きの取れないブチャラティの腹部を貫かんと、左拳による弾丸の様なパンチを放つ―――――!
しかし、放たれた拳がブチャラティに直撃することは無かった。
ブチャラティの腹部に発現した『ジッパー』が開かれ、拳撃を擦り抜けたのだ。
直後――――ゴッ、と鈍い打撃音が轟く。
スティッキィ・フィンガーズの右足による蹴り上げが、サンタナの顎を捉えた。
頭蓋や脳に響き渡る様な衝撃と共にサンタナの身体は宙を舞う。
-
「はーッ……」
サンタナが吹き飛ばされたことにより自身に突き刺さっていた肋骨が剥がれたブチャラティは息を整える。
それと同時に宙に飛ばされたサンタナの身体は勢いよく地面に叩き落ちる。
ブチャラティはサンタナの様子を伺いつつ、脇腹の傷を手で抑えた。
まるで獣の牙に食らい付かれたかの様な傷と熱が苦痛を感じさせる。
出血を抑える為、肋骨による刺傷部分に瞬時にジッパーを生成し止血した。
まるで死体の如くうつ伏せに倒れるサンタナ。
僅かな時間の後、彼の屈強な両腕が動き出す。
両掌を地面に付け、腕を支えとして両脚でゆっくりと立ち上がる。
呼吸を整えるブチャラティとは対照的。姿勢を崩さぬまま直立している。
その身にはラッシュで受けた殴打の痕が確かに見受けられる。
しかし真っ直ぐに立つその姿は、負傷さえも感じさせぬ程に威風堂々としている。
息を乱すことも無く、冷静沈着に目の前の『人間』を見据えていた。
「………『スティッキィ』………『フィンガーズ』……………」
身の毛の弥立つ様な低い声で『サンタナ』は―――『究極の生物』は、目の前の男が操っていた守護霊の名を呟いた。
その口元に浮かぶのは不敵な笑み。邂逅の時より一切の感情を見せていなかった彼が、初めて表情を見せた。
彼は未知の能力『スタンド』を前に、ただ無謀に立ち向かっていたのではない。
スタンドの『能力』。『応用力』。『限界』。彼はそれを淡々と見極めていたのだ。
(やれやれ、だな…。こんなとんでもない化物と出くわすとは、な)
億泰とあの女の子を逃がす。この男を倒す。
両方やらなくっちゃあいけないのがツラい所だが―――此処で退くわけにはいかない。
再び猛然と迫り来るサンタナを見据え、ブチャラティはギリリと歯軋りをする。
あの『化物』は異常だ。あの肋骨を操る能力、人間離れした身体能力だけでは終わらない『何か』がある!
恐らく全力の死闘になるだろう。だが、負けてはいられない。
億泰達を助ける為にも、この腐り切ったゲームを潰す為にも、未来への『夢』の為にも!
こんな所で―――死んでたまるかッ!!
「うおおおおぉぉぉぉぉ――――――ッ!!!!」
雄叫びと共に、ブチャラティはスタンドを携えて地を駆け抜ける。
あの男との真っ向勝負だ。無謀な戦いとは解っている。
だが、覚悟は出来ている。奴を仕留める覚悟は、出来ている!
このまま奴を――――この手で仕留める!
半ば死に物狂いのような感覚で、ブチャラティは走る。
男との距離が次第に縮まっていく。
生死を懸けた戦いへと、再び身を乗り出した――――その直後。
そう、直後のことだった。
「へぇ。面白そうなことしてるじゃない」
―――緋色の風が、吹き荒んだ。
-
咄嗟に両脚にブレーキをかけ、立ち止まるブチャラティ。
そして、動きを止めたブチャラティは。
駆け抜け続けるサンタナは、その目に焼き付けた。
悪魔の如し翼を羽ばたかせる『幼き少女』を。
蒼銀の髪を靡かせ、疾風のようなスピードでブチャラティの横を擦り抜けた『紅い悪魔』を。
―――不敵な笑みを浮かべながら怪物と相対する『永遠に幼き紅い月』を!
瞬間、怪物“サンタナ”の身体が吹き飛ばされた。
少女は突撃と共にその勢いを乗せた右拳のストレートをサンタナの顔面に叩き付けたのだ。
サンタナの屈強な身体が容易く吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
現れた少女は、吹き飛ばしたサンタナを見ながらふわりと雑草の茂る大地へと降り立った。
「あなたがブチャラティね」
少女はフッとブチャラティの方へと顔を向ける。
ブチャラティは驚愕をしたまま、呆然と彼女を見ていた。
「随分と危ない所だったわね?…下がっていなさい」
フッと優雅な笑みを浮かべながら少女はそう言う。
幼い姿とは裏腹に、表情からはどこか余裕が見える。
「貴方も香霖堂に行きなさい。私の親愛なる友が貴方の仲間と一緒にいるわ…あとは私に任せることね」
再びサンタナの方を向き直しながら少女は言葉を紡ぐ。
彼女が見据えた先、柱の男『サンタナ』はゆっくりと立ち上がっていた。
全力の攻撃を叩き付けられた顔面を軽く抑え、口から血を流しながら。
ブチャラティは少女とサンタナを交互に見ていたが、やがて少女に向かって問いかける。
「……君、は…?」
再び少女は振り返り、口元に微笑を浮かべる。
月にも似た真紅の瞳が輝いた。その様はどこか妖艶とも取れる。
傲岸不遜とも思えるその態度からは、確かな『自信』と『威厳』が感じられた。
この少女がただの少女ではないと言うことを、ブチャラティはすぐに理解することが出来た。
そして―――少女は、ゆっくりと己の名を伝える。
月光に照らされた少女の表情が、一気に不敵な笑みへと変わった。
「私の名は『レミリア・スカーレット』――――誇り高き吸血鬼よ。覚えておきなさい!」
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前編投下終了です。分量が長くなってしまい申し訳ございません…
指摘やツッコミ、感想があれば宜しくお願いします。
後編は後日投下します。後編投下までに他の書き手さんが予約分のSSを投下して下さっても構いません。
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乙です
ブチャラティにはもう少しがんばって欲しかったな
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レミリア捕食されるん?
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そろそろ次スレ立ててください
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次スレ建てました
一部ルール変更がありますが、今回も基本的に新スレのルール準拠です
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1389592550/
-
投下乙です
レミリア頑張れ
-
勝ったッ!第二部 完ッ!!
-
埋めるか
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UME
-
次スレーーッ!俺の最期の波紋だぁーーッ!
受け取ってくれぇーー!
-
HAIL 2 U!(ロワに幸あれ!)
"
"
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