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【小説】よしけんが死んでいました。

5課長:2008/08/30(土) 09:19:36

 バスが着いた仙台駅前のロータリーは出勤らしき人で溢れかえっていた。

 「…ふわぁぁぁぁ…。眠い。眠いよ、よしけーん。」 課長があくびをしながらよしけんの背中を叩く。
 「僕こそ眠いですよ…。あんまり寝れなかったですもん…。」

 ただでさえ夢見が悪かったのに課長は隣でいびきはするし、歯軋りはするし…。等と言いかけたが、話すとメンドくさいので黙っておく。

 「ところで…仁さんは?」
 「あーどっかで待ってるはずだけど。」

 待ち合わせを駅前ロータリーと決めたものの、ロータリーと一言で言ってもいかんせん広い。携帯電話がなければ決して待ち合わせ場所には出来ない。

 「電話してみっか。」

 おもむろに携帯電話をかけようとした途端、課長が気づく。「あ、いた。おーいー!仁!」

 課長の声に気づいた青年がこちらへ近づいてくる。
 彼の名前は、仁。フルネームは銀隆寺仁。ジンとみんな呼んでるらしい。銀隆寺なんて大層な苗字ではあるが、寺とはまるで関係はないらしい。
 何度か東京へ行った時に課長や健治とも数回会っている。

 「あはは、ホントに来たんですね。」
 「ホントだよー。来ちゃったよー。眠いよー。眠いよー。」
 「え?バスの中で寝なかったんですか?」

 間髪入れずに健治が口を挟む。
 「いや、課長は寝てましたよ。」
 「なんだ、寝てたんじゃないっすか。」
 「寝てたけどさー。バスってこう落ち着かないじゃんか?」

 落ち着かないであの熟睡か?と不思議に思いつつも、これもまた黙っておく健治。

 「それに夜行バスだとこんな朝早く着くから嫌なんだよなー。」
 「す、すいません…。」

 夜行バスで行く事にしたのも、健治が病院から移動するのに少し時間がかかったため新幹線に間に合わなかったせいもあった。

 「あーいや、お前のせいとかじゃなく。」
 「確かに朝早かったですね。でもまあ、今日はちゃんと準備をしてありますから。」
 「準備?何の?」
 「まあ、行けばわかります。じゃ、車で行きましょう。」

 よくわからないまま仁が乗ってきた車に乗り込む。
 課長は寝てないだの何だのと言いつつ、やはり地元を離れた旅行気分でテンションは上がり、やんややんやと雑談で盛り上がる。
 健治は頭がボーッとして、少し温度差を感じながら窓の外を眺めている。

 「で、今から行くトコなんですが…。実は、ホテルなんですよ。」
 「ええっ!ホテル!あんた、あたいとよしけんをどうする気!しかも、こんな朝っぱらから!」
 「…いや、そういういかがわしいホテルじゃなくて…。」
 「ベッドとか回らない?」
 「…回りません。普通のホテルです。」
 「ふーん…。ってなんで?まさか、お前わざわざ予約したとか?」
 「…んーちょっと違うけど、そうって言えばそうかな…。」
 「どういうこっちゃ?」
 「いやー…実は、最近ホテルの支配人になっちゃって…」
 「へー。」
 「…信じてないでしょ?」
 「うん。どうツッコめばいいのかさえわかんないもん。」
 「…まあいいですけど。」
 「で?ホントは何?」
 「…今話しました。」
 「おもんないー。その作り話、おもんなーい。」
 「…とりあえずそのホテルへ向かってますから。もう着きますよ。」

 3人が乗った車がとある建物の敷地へと入る。その囲いの壁には「銀隆寺ホテル」と大きく書かれていた。」

 「んっ…?銀隆寺ホテル…?お前の名字って銀隆寺だっけ…だったよな?」
 「はい。」
 「…あんれー?ここも銀隆寺だってよ?」
 「…ですから…さっきも…」
 「ホントなのかー?」

 無返答のまま車を玄関前に着け、先に車を降りる。すると玄関前に立っていたベルボーイが仁に深々と頭を下げ、こちらへやってくる。

 「支配人のご友人様ですね。いらっしゃいませ。」
 「…は、はい。ど、どうも。」
 「車はこちらで駐車場へ入れておきますので、どうぞフロントへいらっしゃってください。」
 「…は、はい。ど、どうも。」

 鳩が豆鉄砲を食らったような、いや、家へ帰ると母親がレオタード姿でビリーブートキャンプをやっていたのを目撃したような、そんな顔つきで課長が車を降りる。
 その様子を見ていた仁が言う。
 「どうです?信じてもらえますか?」
 少しイタズラな笑顔を見せる。


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