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企画リレー小説スレッド

60第1回8番(ζ)ソルキレウス・バッカンドーラ:2008/03/10(月) 00:25:37
 レーヴァヤナ様に見てもらいたいものがあった。長い間必死に彫刻に打ち込んでいて、それが遂に完成したのだ。
「どうでしょうか?」
「いいね、この庭によく合ってるよ」
「ありがとうございます。でも、造り物です。そこに自分の限界を感じます」
「おいおい、そういう考え方、それこそ自然の傲慢というものだよ」
「自然ですか」
「自然は傲慢だよ。大きな顔をしてないで、たまには被造物に立場を譲るべきだ」
 アルセス様の戦いを見届けたレーヴァヤナ様は、疲れた頭を休めるため散歩の途中だった。やたらめったら連発されるウィアドたちの神話的解釈が、やかましくてかなわなかったらしい。
「たしかに、説明過多な連中ではありますね」
「あの神話マニアどもは、神話構造が事象の本質だと思っているからいけない。あんなのは往々にしてある側面の単純化、あるいは単なる後付なのにな。そんなものはぶち壊してしまえ、と私はいつも思っているんだ」
 他のソルキレウスたちによって丹念に手入れされた図書館の庭園は、姉の花園に劣らず見事なものだった。こんな風景を眺めて暮らしていれば頭は自然と冴えてくるし、少し散歩すれば疲れも取れる。それがレーヴァヤナ様の考えだ。
「アルセス様は、解放されたのですね」
「あれを解放と言うのかい。アルセスは結局、必死に追い求めてきたキュトス自身に突き放された格好になるんだぜ」
 自分自身を含む七十一人の肉親を生贄として、アルセス様はキュトス様の呪いを解いた。だから、エアルを蝕んでいたキュトス様の呪いが無化されたのは当然だ。そして、エアルの中のキュトス様の残滓はメクセオールに味方した。メクセオールを蝕むのでなく、武具自体に負荷を掛けることで魔力行使の代償としたのだ。
「アルセス様は、キュトス様を救うために全てを捨てた気でいました。それなのに、目の前のキュトス様に気づくこともできなかった。キュトス様は、そんな妄念の檻からアルセス様を救い出されたのだと思います」
「そうだろう。アルセスはいつもキュトスに守られている」
「そして、アルセス様だけがそのことに気づいておられません」
「君はアルセスに厳しいよな」
 神話的な制約によって、姉はアルセス様とキュトス様の関係に関わることができない。だから、姉はいつもアルセス様のことを悲しんでいる。あるいは苛ついているようでもあるし、怒っているように見えることもある。そういうところは、僕にも影響していると思う。
「アルセスは、世界の境目でピュクティエトに捕らえられた。はじめは私に押し付けるつもりだったそうだが、あいつも今回の失敗でだいぶ懲りたみたいでね。自分でアルセスを連れていったよ。視座を広げさせるため、宇宙中を引っ張って回るそうだ」
「そうすればよいと思います。そして、ご自分がなぜキュトス様にあのように退けられたのか、じっくりと考えなさるとよろしいのです」
「アルセスを叱れるのはキュトスだけか。子守をさせておくのが一番の適任とは、ピュクティエトも使えない男だな。君はあんな風になるんじゃないぞ」
「心しておきます」
 僕はどうなのだろう、と思う。いちばん近しい女性として姉がいるが、彼女は人に頼られたり、依存されたりということができない。いつも一人なのだ。だから、僕も一人にならざるをえない。
「さて、これからどうするんだい。今は依頼する品も、修理するものもない」
「一度、姉の花園に帰ります。今回の事件のことを話しておきたいですし」
「そうかい。まあよろしく言っておいてくれ。詩の添削ならいつでも受けつける」
「面白がっていますね、怒らせて後で始末をするのは僕なのに。レーヴァヤナ様はこれからどうされますか」
「もう少し、後の展開まで見届ける。エル・ア・フィリスの始末がついていないし、デフォンがどう仕事をやり遂げるかも見ておきたい」
「彼は、アルセス様の写像としてはとびきり素直ですね」
「ああいうのがいるのだから、アルセスも捨てたものじゃないだろう?」
 レーヴァヤナ様と別れ、花園への路につく。神々の次元というのは無闇に広く寂寞として、ないところには本当に何もない。考えるのはデフォンのことだ。キュトスを失う前のアルセスとは概して素直なものだが、彼はそれだけでないと思える。アルセスの過ちを自ら正した彼だからこそ、同じ過ちを二度とは繰り返さないはずなのだ。


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