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ゆらぎの物語/物語の破片

1言理の妖精語りて曰く、:2006/08/16(水) 16:11:50
記述を集積させる事で物語を作り上げます。
物語スレ同様タイトルと番号を付けて下さい。
何を書いても構いません。時系列や整合性はバラバラで、番号が被っても可。支離滅裂な物語を無理矢理繋げたり破綻させたりして書き散らしてください。ゆらぎでやっている事の縮小・物語版であり、実験的な試みです。

44狩人と銀の糸02:2006/09/10(日) 10:25:29
 夜中になると狩人は物音が気になって目を覚ました。木々と風のざわめきの中に動物の蠢きを聞きつけたからだった。薄目を開け、月明かりに照らされた辺りを窺う。なんとそこには昼間解体した獲物がもがいていた。フックに引っかかったままじたばたしている。
 狩人は息を潜め、そばにある短刀に手をやる。そして目をすがめる。視界に細いものが映る。何か細いものが風になびいているようだ。それは銀色の糸のように見えた。
 はっとして狩人は月を見上げる。
 細い銀糸が月から垂れて風に揺らめいている。その糸を辿ると先端は目の前の獲物に繋がっている。
 狩人は額を拭う。いつの間にか粘ついた汗が浮いていた。狩人は一度だけ息を吸うと、獲物に襲い掛かった。
 皮をはがれた動物の首に短刀が捻じ込まれ、切断される。血は噴き出ない。すでに抜かれているからだ。狩人はさらに切りつけ、刺し貫き、動物をばらばらにしてみせる。
そして狩人は銀糸を掴んだ。恐る恐る銀糸を引っ張ってみせる。妙な手ごたえがある。すると手の中で糸がするする動き、月のほうへ巻き取られていく。狩人は何が起こっているのか判らなかったが、誰かが引っ張っているのではないかと想像した。月を見上げる。
あそこに何者かがいるのか。そう思った途端、狩人の背筋に寒気が走った。

45狩人と銀の糸03:2006/09/10(日) 10:26:15
狩人は弓矢を手に取ると、小屋から転がり出た。そして弓矢を月に向けて構え、放った。矢は夜を裂いて飛び、月に命中した。
手ごたえがあった! 狩人はさらに矢をつがえる。何者かを射殺すべく狩人は気配を頼りに狙いをつける。その首に銀の糸の端が巻きつく。
あっという声が上がる。月明かりで地面に映る人影。その首が有り得ない角度に曲がる。風に揺れる木々の擦れる音の中に骨の折れる軽い音が混じる。
狩人の身体はうつ伏せに倒れるが、すぐに膝をついて立ち上がる。そして歩き始める。一歩足を進めるたびにその胸の前で垂れ下がった首が揺れる。
その夜から人々の口から1つの噂がのぼるようになった。それは首のない怪物の噂で、必殺必中の矢を持って狩りをする。その狩りの獲物は動くものすべてで、月夜の晩に現れるという。
<終わり>

46綾奈:2006/10/02(月) 18:24:32
ゆらぎについてお聞きしたいです

ゆらぎとは何ですか
ゆらぎをどのように理解していますか

これについて
どこでしりましたか

47南方民族世界起源異伝(1):2006/11/18(土) 20:20:40
パール・アデット編訳
最初に、蜜があった。
蜜は世界に溢れていた。蕩けるような香が空気を喰らい尽くした。
やがて、そのにおいにひきつけられ翼が数百も寄ってきた。
たくさんの翼たちにより、蜜は6千億年で吸い尽くされた。
蜜が失われ、喰う物がなくなった翼たちは、やがて溶け合い始めた。
すると500万年かけて、溶け合った大きな翼が残った。それは1匹の巨大な蟻であった。翼は名をファムスといった。
このファムスこそ北の民族がパンゲオンと呼ぶモノの正体である。
ファムスはその後4万年生き、土に還った。
その後3千年が経ち、大地から一本の菌が発生した。
その名前をアースセスといった。
その後また3千年が経ち、アースセスは大きく成長し、世界中を覆い尽くした。
アースセスは地界・地上・天界を覆い尽くす活力の根源となった。
このアースセスこそ北の民族が槍神アルセスと呼ぶものの正体である。

48エル・エル・デルクリュストロ:2006/12/04(月) 23:44:41
黎明は遅く、慎明はただ白く。
彼方より光芒を漏らす稜線は紅い色の空を織り、ただ染まりゆく天蓋はあたかも繭を溶かす湯水の底のよう。
幽かに、連綿と続く白鳳の群がたわめいて、翼が舞、羽が降る。
雲は無い。晴紅を紡ぐ筈の天に於いて、白が降り積もる道理は無い。粛々と注ぎ継がれる羽雪は、されど刹那の時と下量の域を置いて中空を虚で満たす。
クエリは。

クエリはふと、山道を振り返る。
そこは森だ。抜け出た背後に、鬱鬱蒼蒼と生い茂るラビキタスの菩提樹と、闇間を抜け走るシーナズの仔栗鼠たち。鮮緑の幹と赤みを帯びた体躯のコントラストは森の形相を艶やかにそして穏やかに彩り燃え立たせる。
嗚呼、と吐息を漏らし、放心を重ねる。源心に土を捏ねる、ガリィテの神が一の御手。その天上錬未の敬意は垣根を蒼く染めようともなお地上に届かぬ、歓喜を込めた真謝である。
或いは、それは鬱蒼と豊かに茂る歓喜などではなく、鬱々躁々とした驚異であったかもしれぬ。
それでもなお、少女は進んだ。
老婆のように、少女は進んだ。義国の隊商が廻り巡るように、鈴国の傭兵が歌い笑うように、幼女のあどけない微笑みが外より牙を牽き寄せるように。
足取りは啓鳥の繊脚の如く、軽装の矮躯は十二の賢者の息吹に身を震えさせ。
廃園は尽く、透宿は白々と、そして桂魄は疾うに過ぎ去り。
新年は大地の神を死に至らしめ、そして神は再び笑い蘇る。
ガリィテの民は祝賀の矛を天に掲げ持ち、ハザーリャの民は収穫を祝い踊り喰らう。神々の歓喜は人を走らせ、獣を立ち上がらせ、そして草木を伸び上がらせる。
望月の日である。夜になればそこには既に神域の声が上がるだろう。或いはそれは天狼たちの咆声か。
少女は天を見上げた。
紅く染まる空の大地は、青みと共に、薄く煌く宝石箱を開けていた。

ねえさま、と独りごつ。
吐息は自然に。言葉は識外に。
クエリはそうして、己の紡いだ言葉に気づく事は無い。


彼女はそうして、気付かない。
彼女はこうして、気付けない。


40番目の口笛が、水色の闇を照らして染めた。

49綾奈:2006/12/26(火) 03:15:52
 永劫線のように動かぬ泉の中、硝子と見まごう水面の下にそれは眠っていた。
 横たわった、鈍色に輝く円柱。大きさは、ちょうど人一人がすっぽりと納まる程。
 円の形は全くの真円である、表面には欠けどころか曇りの一つもなく、今さっき完成し沈められたのだ、と言われれば誰もが信じようが――。
 否。
 その円柱の生まれは、知る者のいない過去の手の中にある。ならば、円柱の揺り篭たる澄んだ泉水は特殊な保存液なのか?
 否、否。……いや、是。
 そのあまりに透明な水は、いかなる不純物も許さない。波も立たぬ完璧な清澄は、極端に比重が重く、また全てを溶かす強酸であるが故に成された。
 そんな泉が唯一受け入れることを許した物が鈍色の円柱であり、その意味では危険極まりない泉はこの上ない保存液でもあった。
 だが、なぜ円柱はその様な過酷な環境で安んじていられるのか? 本当に泉に意思があり、獰猛な牙を剥く相手を選んでいるのか?
 否、否、否。
 泉は常に挑んでいた。円柱を嘗め回し、齧り、引っかき、傷を与えようとし、その全てが失敗していた。円柱の、絶対的な安定性の前に。
 かくして泉は最強の番人であり乳母となり、円柱は静かに眠り続けてきた。
 己が過去へと変わる、この時まで。強酸の泉に守られる己、己が更に内に抱き守り育ててきたものが、全てから忘却されるまで。
 そして、今。
 最後の伝承が失われ――円柱の目覚めを防ぐ者など、誰一人としていない。
 満ちた時は鍵へと姿を変え、ゆっくりと解き放った。否定されど消え去りぬ、永遠の【災厄】を。

50綾奈:2007/01/07(日) 17:50:09
 未来が分かってしまう風土病が、我々の悩みだった。
 だが、ある時ドクターが、知ってしまった未来に前もって反応しておくことを提案した。例えば悲しいことが起きると分かったならば、暇な時間に前もって涙を流しておく。それによって、実際にことが起きた際に時間を無駄にせず済むのだ。もちろん、面白いことが起きると分かれば笑っておき、怪我をすると分かれば悲鳴をあげておく。提案に従うことで、我々の生活はすこぶる効率的になった。
 ……そして、大方の予想通り自殺者が増えた。他人の死を知ってしまった時は、一人で悲嘆に暮れるなり、知った人間が多いなら都合の良い時間に前もって葬式を開くなりすれば良い。だが自分の死を知ってしまうとそうはいかない。自分の葬式を開く程度ならばともかく、更に正確な前もっての死――息を止めるとか食事をしないとか動かなくなるとか――は、多くの場合本当の死になってしまう。死を先取りする者、つまり自殺者が増えることで、平均寿命も短くなった。
 しかし、我々の多くはこのライフスタイルを変えていない。苦悩に満ちていた以前の我々の生がおおむね楽しいものになり、耐えきれぬ苦しみは死の向こう側へ追いやられる。いずれにせよ、死は克服できないのだ。そうであるなら、病だけでも克服したいではないか。

51竜と猫と星の話(111):2007/03/20(火) 17:51:47
少女の罪は、猫を殺めてしまった事だ。取り返しはつかない。

贖いようの無い、罪。

少女は後悔している。己が過ちを。 非情にも、あの矮小なる生物を踏みにじってしまったその傲慢さを。

52竜と猫と星の話(112):2007/04/09(月) 23:29:54
宙空にふよふよと浮かぶ猫は、眼下に倒れ付した自分の死骸と、その傍らで俯く少女を見下ろした。
少女には、死んだ猫は見えていない。
声も聞こえるはずはない。
少女の形の良いつむじと、小さく震え続ける肩を見やりながら、猫は心中のみにて呟く。
「試練を与えよ、と頼まれたゆえにな。許せよ娘。だがこれで、そなたはさらに大きな試練を乗り越える力を得ることだろう。」
そして、猫はそのまま宙高く昇り、東の空へと、今度は勢いをつけて飛んだ。
「さて、次は旅の供を見つけてやらねば。力になり、しかし頼りきれない程度の・・・そうさな、少年がよいかな」

53神の万年筆(0):2007/04/09(月) 23:51:06
 トルクルトア郊外にある小さな宿屋。
後に文神と呼ばれることになるハレは、この家に生まれた。
宿屋の経営どころか、日々の生活にも困るほど貧困に喘いでいたハレの両親は、最初、生まれた幼いハレを売ってしまおうと考えていた。
しかし、幼子の無垢な瞳にじっと見つめられ、家を出たところで彼の母は彼を売るのをやめた。
それから数年後、彼の名がトルクルトア中に知れ渡ることになろうとは、一体誰が予期し得たであろう。

54言理の妖精語りて曰く、:2007/04/21(土) 13:44:44
>>53
わたしはそれを予想していた

55竜と猫と星の話(119):2007/04/27(金) 22:38:26
頭の後ろで髪を一まとめ。
首筋がスースーする。
しっぽが揺れるたびになんだか頭のてっぺんが引っ張られるみたい。
ちょっと面白くて、ゆらゆらしっぽを揺らして遊んでみた。
鏡の前で一人でくすくす笑っていたら、控えめなノックがドアを叩く。
「ねぇ、もう出発の支度はできた?」
ドアを通して彼の声。

56竜と猫と星の話4:2007/06/03(日) 12:12:43
雨は翌日になっても降り続いた。雨は、昨日よりも激しく降っている気がする。
「強ぅなっとるのぉ」
父上が呟く。
出発は明日に延ばそう。
なぁに、未だカレーが在る。保存がきくのがカレーの強みだ。

57竜と猫と星の話:2007/06/03(日) 22:59:49
5
翌日も、さらに其の翌日も雨は降り続いた。
雨は日増しに強くなって行った。
雨に構わず出発していればよかった。
もう、雨は外出するのに困難な激しさになっている。

5-a-2
私は益々狂乱する。喜びのあまりに体液を滴らせる。
*降れ雨*れ*さんがー!

5-a-4
……結界に綻びが生じたか、少し気配が漏れたかも知れない。
まぁ、余程鼻の良い奴でなければ、気付かないだろう。

5-b
「むむっ、此の雨から貴奴の匂いがするぞい」
雨雲を見上げて父上が言った。
「貴奴って?」
「メレキウスじゃ。恐ろしい阿婆擦れの娘。水を操る海魔じゃ。
 此の雨は奴の仕業かも知れぬ。

58ヤグル・マギクとその炎:2007/06/12(火) 16:16:52
・・・パニエリモさん。

起きて下さい、という声と共に、私の「三番目」の意識が覚醒した。

朝だ。

59言理の妖精語りて曰く、:2007/06/12(火) 17:36:52
ハイダル・マリク、フォグラント邸。
猫で遊んでいるコルセスカ。おざなりにつきあう猫ティッタン・タッティン。見守っているフォグラント。
コルセスカ、猫のひげをつつく。猫、迷惑そうに欠伸をする。
コルセスカ「猫さん猫さん、どうしてお髭が生えてるの?」
ティッタン「猫だからな」
コルセスカ「サー・フォグラントにもあるわ」
ティッタン「男だからだ」
コルセスカ「わたしにはないの?」
ティッタン「いずれ針のように硬くてトゲトゲした奴が君の肌を突き破って現れるだろう」
コルセスカ「!!」
フォグラント「変なことを吹き込むな」

60ヤグル・マギクとその炎:2007/06/12(火) 23:35:16

私の名前はヤグル・マギク。
三つの別個に独立した肉体を持つ、高次精神体だ。

持つ、などといっても、その肉体を自在に操れるというわけでは、ない。
私は三個の肉体に宿る人格、その意識の隙間を間借りして、この世に存在を保っている、
いわば寄生虫のような存在だ。
故に、それぞれの肉体の様子を知ることは出来ても、その肉体に干渉することは、
基本的には出来ない。


つまるところ、私には自由になる肉体が存在しない。
そんな私の楽しみといえば、三人の見聞きしたことを覗き見することぐらいであり、
一人分の情報処理能力しか持たない私は一度に一人分の体験しか観ることができないのだが。
どうしようもないことに、この見ることになる視点は自分では決められない。
私の生態なのか、何者かの恣意によるものなのかは不明だが、誰に当たるかはほぼランダムである。
最も、何かを見ることが出来るというだけでだいぶ退屈はまぎれるものだ。そう悲観したものでもない。
さて。
どうやら今日の視点は三人のうちの一人。
パニエリモ、という女のようだった。

61果て無きノエルの夢:2007/06/23(土) 22:33:24
「ミスカトニカの本当の能力は完璧な記憶力なんてちっぽけなものじゃない。
 彼女の力は、星の精神、大地の記憶にアクセスして過去を視るというものだ。
 彼女は他の姉妹から話を聞いて記憶を蓄えるんじゃない。
 この星で起こった出来事はすべて、誰に教わるまでもなく知っていたのさ。
 そもそも、キュトスとは大地そのもの、この星そのもののことだ。
 その女神キュトスの大地の権能をもっとも強く受け継いでいたのがミスカトニカだった。
 だから彼女はキュトス分裂以前の出来事も知っている。大地が覚えているからね。
 女神の紀性を失ったとはいえ、ミスカトニカは依然としてこの星の精神と
 ダイレクトに接続されていたんだ」

「……では、なぜ彼女はプリムラルごときに喰われることに甘んじたの?
 そもそも【黒曜のプリムラル】は鉱物の竜。お前の話が本当なら、ミスカトニカの大地の魔力に
 対抗できるわけがない」

「ミスカトニカは女神キュトスの記憶を継承していた。これがどういう意味かわかるかい?
 彼女は、【始原の最果て】の出来事をも記憶しているんだ」

「……」

「そしてその記憶は、強い悔恨の念を以ってキュトスの魂をこの大地の中心の
 【不滅の核(イモータルコア)】に縛りつける。
 始原の記憶がある限り、【未知なる末妹】、すなわち空の彼方へ飛翔しようとする
 キュトスの願望の化身は、この星の重力から逃れられないんだ。
 つまり、【終末の最果て】に到達して再び【最果ての二人】に選ばれるために、
 女神キュトスは何らかの形で己の始原の記憶を抹殺しなければならなかったのさ」

「……しかし、現在のキュトスはもう以前のキュトスではない」

「そうだ。71のかけらに分裂し、自らの紀性をアーズノエル一人だけに負わせて、
 形而下の世界の影響を身に浴びたキュトスは、もう分裂以前の女神とは
 似ても似つかない存在になってしまった。自ら進んでそうしたんだ。
 そのために最初にしなければならなかったのが、過去の記憶の排除だ。
 そしてその点で、キュトスとプリムラルの利害は一致した。
 プリムラルも、自分が利用されているだけだと知っていても、始原の記憶の魅力には抗えなかった。
 かくしてミスカトニカの命と引き換えに、【未知なる末妹】は誕生しました、という寸法さ」

「そこまでして【最果て】とやらに到達したかったの?【一なるキュトス】は……」

「さあね。彼女は昔から誰にも本心を明かさない女だった。
 並居る紀神の方も、誰も彼女に心を許してなんかいなかったよ」

「……智神ラヴァエヤナを除いて?」

「そうだ。だから、紀神のなかでも一、二を争うほどひ弱なラヴァエヤナを、
 それでも紀神の誰もが無視することはできなかったのさ。この僕と同じようにね。
 だから、君がミスカトニカを止められなかったことを、悔やむ必要なんかないんだ。
 これは女神キュトスが決定した、運命だ。
 その運命に逆らうことは、たとえ女神自身のかけらであろうが、誰にも出来ない」

「彼女は、私を愛していると言ってくれた。それなのに……
 どうして私を置いていったの?どうして、みんな私を一人ぼっちにするの?
 ディスペータも、ミスカトニカも、ナルも、みんな私を置いていく。どうしてッ!?」

「残されしものよ、それが君の運命だからだ。無窮のノエル、いや……永劫のノエレッテよ」

62ヤグル・マギクとその炎:2007/06/23(土) 23:27:04
パニエリモは苛烈な魔女であった。
前世で竜に殺されたと固く信じる彼女は、前世の自分の復讐のために素手で竜を
襲い、鱗を剥がして肉を掻き出すと言う信じがたい方法で竜を屠っていた。
竜殺しパニエリモ。
悪名高い「キュトスの魔女」たちのなかでも最も恐れられる一人である。

今日もまた、彼女は朝早くから竜退治に精を出している。
忙しいことだ。

63匿名魔女:2007/06/29(金) 12:06:38
あるチルマフと、黒き竜バーガンティアが過ちを犯した。


交合ですらない、それは咬合。
殺し合い、愛を殺し、結果として猫竜の交わりは「魔」を内包するという、
秩序に反した竜を生んだ。
そしてそれは同時に、猫の身で竜の形を宿す、畸形の猫を生み出したのである。

猫は、しかしすべて畸形だ。
その定義をして畸形であるということは、すなわちその猫は

存在を定義でき、かつ明確なカタチ、概念を持っていた。

64言理の妖精語りて曰く、:2007/07/21(土) 03:08:10
デメリオトバトは生まれてはじめて涙を流した。
大勢の人間の涙を集めた壷のなかにその滴は落ち、混ざり合った。
デメリオトバトはそのとき、ついに涙の意味を理解してしまった。
デメリオトバトの顔が罪と憎悪に歪んだ。
「これが私の愛だ」
デメリオトバトは呟いた。そして壷を蹴倒した。バケツ何杯分にもなる
涙が、ざあっと音を立てて床を流れた。「みんな幸せにしてやる!」
 つい数分前まで自分は何も知らなかった。だが今は全てを知ってしまった。
 知性が憎く、複雑なものが憎かった。言葉とか論理が憎かった。
 デメリオトバトは、おびえ、硬直しているレフのところに、つかつかと
歩み寄った。そして、花をさっと彼女の顔に突きつけた。
「これが望みか、これが!? これが美だと! ははは!」
「まばゆい夜」という意味の名を持つ、世にも貴重なその花を、ちらちらと
振って、それからレフの胸ポケットのところにそっと挿した。
 そのときレフは幸福になった。そして彼女は二度と、花とか、自然や調和を
美しいと感じることができなくなった。そのあまりの虚しさに気づいてしまったのだ。
そして幸福も虚しかった。必要なかった。地獄のほうがましだった。
 デメリオトバトは貨幣のような声で笑った。そして病原菌かなにかのように家を飛び出した。

65言理の妖精語りて曰く、:2007/07/21(土) 13:47:14
 777日の時を経て、スキンヘッズ・ショートケーキの夜が再び巡ってきた。
スキンヘッズ・ショートケーキの長い右腕がギロチンの刃のように、人々の
精神に落ちかかってきた。大地から膿が湧き出し、鴉ほどもある蛆が
空気や水から自然発生し、あたりを這いずり回った。
憎悪する甲女スキンヘッズ・ショートケーキは777日に一度、世界のどこかに
現れて、そこにあるものをみな滅ぼし、代わりにもっとずっと素晴らしいものを
残して去ってゆく。スキンヘッズ・ショートケーキの右腕に襲われた人々は
発狂し、涎を垂れ流して死んでいった。そしてしばらくするとその死体が
むくりと起き上がり、遥かに素晴らしい、まったく新しい人格者となって、
不思議そうにあたりをきょろきょろ見渡すのだ。
 蛆はあらゆるくだらないものを残酷に食い尽くし、そして世にも美しく
複雑で精妙な糞をした。糞は教会とか社会システムとか愛であることもあった。
 賛美と冒涜のスキンヘッズ・ショートケーキはあるとき、彼女との会話を
望む者に出会った。名をデメリオトバトと言った。その体は雨のように
絶えず新しく降り注いでいるように見えた。

66言理の妖精語りて曰く、:2007/07/21(土) 15:10:33
スキンヘッズ・ショートケーキは世界第六位の大金持ちトゥルカサマ
と結婚し、世界旅行に乗り出した。
トゥルカサマは天国を買占め、もともとの住人をみんな追い出して地獄に
送った男だ。以来、天国の切符は、先進国における平均年収の二十年分程度の
値段で、地上において取引されるようになった。貧乏人は地獄堕ち、それが
世界の掟となった。しかし貧乏人にとって、世界はもともと地獄だったので、
多くの人間はいまさらどうとも思わず、当然のこととして受け止めた。
 トゥルカサマの使う、「金」の力は凄まじかった。スキンヘッズ・ショートケーキは
その力によって777日の呪いから解き放たれたのだ。たいていのことは、
金の力でなんとかなった。

67姉妹狩り1:2007/07/29(日) 16:00:21
1−1


その魔女はおよそ魔女らしからぬ魔女だった。薄汚れた革鎧に古びた外套、
提げられた剣は宝石の散りばめられた大剣。
美しいと言うよりは精悍な、顔立ちに、しかし狂犬じみた獰猛な光を湛えた瞳。
血と臓物、屍と絶望を見てきた、戦士の顔だった。
そして何より、必殺であったはずの不意打ちをいとも容易く回避したその技量。
大神院より賜った『魔女狩りの剣』。自分たち魔女狩りの騎士に与えられた、
悪しき土を滅ぼす刃。
ミスラフィア=シルムダートが持つ『告解のシルムダート』もまた魔女狩りの剣であり、
魔女が近寄れば刃を揺さぶり存在を知らせ、その汚らわしい肉に刃が食い込めばそこから灰に
していくはずだった。
そう、故に魔女対魔女狩りの戦闘は、その大半が一瞬で終わる。
圧倒的な身体能力を付与された魔女狩りは悠長に呪文を唱える魔女に一瞬で肉薄し、
その剣で滅ぼしつくすのである。

今回も、そうなるはずであった。
だが。
「せやぁっ!!」
裂帛の気合と共に打ち下ろした斬戟を迎え撃つのは、長大な宝石剣。
豪奢な装飾とは裏腹に、そこかしこにこびり付いた血と油はその大剣が幾人もを
屠ってきた事を示していた。
この魔女は、ただの雑魚ではない。翻した剣の勢いを殺さず、突きの連戟を繰り出す。
それをただの脚捌きだけで回避し、剣の巨大さを感じさせぬ速度で反撃に移るその女は、
明らかにミスラフィアと同等かそれ以上の剣の技量を持っていた。

この女、あるいは『姉妹』か・・・?

疑念を抱えながらも、ミスラフィアは応援を呼ぶため、腰の通信機へ手を伸ばした。


ミスラフィアがその魔女を発見したのは丁度休暇明けの日で、定期検査に出していた剣が
手元に戻ってきたその直後だった。
二等神罰官に昇格して初めての単独巡回中に、唐突に腰の剣が震えだした。
街道からやや離れた位置。まるで一目を避けるようにしての移動は、まさに魔女の常道であった。
ミスラフィアは迷わずその場へと駆け出した。その時の彼女に、仲間に連絡する、協力を仰ぐ、
などと言う選択肢は無かった。大抵の魔女なら自分ひとりで滅ぼせる自身があったし、
なにより、魔女は全て自分の手で殺さなければ気がすまなかった。
ミスラフィア。魔女狩りの騎士。
ミスラフィアにとって、魔女は須らく己に殺されるべきモノだ。
少なくとも、「あの魔女」である可能性がある限り、他人に横取りさせるわけには行かない。
魔女は全て殺す。彼女の頭には、それだけしかなかった。

殺す−−−魔女は、殺す。

だが。
間断無く繰り出される、刃の雨。それを悉く凌ぎ、こちらの命を確実に狙いにくるほどの
技量を持つこの戦士・・・否、魔女の技量は尋常のものではない。
危険だ、と長年の戦いで研ぎ澄まされたミスラフィアの本能が警鐘を鳴らしている。
このままでは、応援が到着する前に自分は「何か」によって死ぬ。
そうなる前に・・・・・・。

バックステップで魔女から距離をとる。
敵は十中八九『姉妹級』の魔女。あるいは『姉妹』そのもの。
忌まわしき最悪の魔女、『キュトスの71姉妹』たちの全貌は未だ当局も解明できておらず、
現在確認されているのは『悪魔の九姉(デビル・ナイン)』と呼ばれる最悪の九人と、
優先抹消指定として危険視されている九人の魔女。その他にもある程度存在が確認されている
姉妹たちもいるが、どれも確定的な情報ではなかった。
本局の資料には、このような巨大な剣を使う姉妹などは載っていなかった。
全く新しい姉妹。
ならば、外れかとミスラフィアは密かに落胆する。
また・・・・・・違った。
「あの魔女」ではない。何故なら、自分が狙う「あの魔女」は抹消優先度4の、
名の知られた魔女なのだから。

迫り来る敵を見据え、ミスラフィアは気を張りなおす。敵は敵。魔女は魔女だ。
たとえ「あの魔女」でなくても、魔女ならば殺す価値はある。忌むべき魔女を皆殺せるのなら、
この上に何を求められようか。

ミスラフィアは宝石の刃と鍔迫り合いながら、熱を持った思考の中で高速で思念を展開する。
神聖術。
忌まわしい魔術などとは違う、神の御力を借り受けた、聖なる力。
思考(イメージ)するだけで発動する、断罪の一撃。

魔女の強靭な腕がしなり、ミスラフィアを背後に弾き飛ばした瞬間。
ミスラフィアは片腕からあふれ出す金色の光を七本の矢に変え、一斉に撃ちだした。

68西方諸国活性化の為の第一弾「カリデ編」:2007/08/06(月) 21:47:03
――下らない、この国の現状を思うと本当にそう思う。
昨今帝国が軍備を増強しそれを警戒した周辺国の間に流れる緊迫した空気が分からないのだろうか。
唯でさえ浮浪者紛いの難民の流出、近隣で起きる草の民の略奪には頭が痛いというのに・・・。

この国に我が国は安全だという確信、いや妄信している頭の軽い連中や国際事情など気にせず金にしか興味のない富裕層を
叩き満足しているだけで行動を起こさない識者気取り――私のことだが――しかいない。

皆は私をカリデと呼ぶ。そう、聞いての通り魔女の意だ。私の憂鬱な気分の理由を少しは分かってくれただろう。
この国の正式な名称はTbilisi、あるいはTiflisとするところなのだが、他国人はイントネーションの違いはあれどカリデと発音する。
自国の民にいわれても他国の人間にいわれても滑稽☆笑止☆大喝采! 最後は違った。

まあ、私には政(まつりごと)の才はないし威厳も人望もない。
魔女なんて名前だが魔術も妖術の類もさっぱりだ。無論信仰心も無いから奇蹟の類にも縁が無い。

それでもこの王位に就いて入られるのはただ、私が語り部だからだ。
この国の歴史を記録する媒体。この世を主観を通して語る装置。
これ以外には何の取り柄もない、この国と同じくらい平凡な人間だ。

ここで執務くらいはしろと怒られそうだが、そういうのは優秀な執務官の仕事なので
私の所には名目上の王の名目上の許可がいる書類が回ってくるだけで、それも私ではなくワケビが代行する。

そういうわけなので私はこうやって優雅にニートを続けているのだ。
しかしここまで暇だと退屈で死にそうなので、人形劇を始めようか。
無論観客は君一人、貸切状態だ。涙を流して喜んでくれて結構だよ。

――私が呪文/言葉を唱える/発すると人形/彼女達に命が宿る/目を覚ます。

頚椎から伸びた螺子が独りでに巻かれれば、硝子玉の瞳に光が灯り、水銀の血が循環する。心ノ臓たる円筒は静かに動き出す。カタカタ軋むは木組みの歯車か。削れるギアの悲鳴か。

人形は表情筋の無い無表情な貌と比喩ではなく死人の様に白い肌を除けば、
精巧に磨かれた肌は不自然に強張ったり皺が拠ったりせず滑らか、まさに人間の女の子の様だ。
キリキリと声鳴き声を上げる人形達はすわ御伽噺の世界に迷い込んでしまったかと錯覚させる。
童話や御伽の物語が好きな私のメルヒェン――を不気味なホラーにしたかのような部屋もその印象を増長させる一因となっている。

部屋の一角は半円状に競り上がってオペラの舞台に見えなくも無い。
一座の歌姫、《ディーヴァ》マルグレット嬢はhttp://homepage3.nifty.com/martianchronicles/shinjae.mid
を奏でるウルーリカのアルパの伴奏を伴って天上の美声で古今東西の駄曲名曲を歌い上げる。
そして最後の一人、飾り気の無い十字剣――60リーデも無い人形用の為かなり小さくなっている――を構えるのが主役、ベリト。

「ルスクォミーズの百夜物語、第二十夜」
強欲な男が欲を持った者が金貨を握って手を出そうとすると抜けなくなるという金貨袋に手を突っ込んで抜けなくなったところを
主人公に救われるという教訓的なお話だ。(諸兄もやたら懐いてくる親戚の女の子に手を出そうとしちゃいけないよ。先輩からの忠告だ。)

その一言で配置につく我が人形曲芸団。
くだらない語り部のお人形遊びに淡々と付き合う彼女達はそれなりに美しい。
特に流浪の女剣士と成り切り、見る者を呑み込むような剣舞を見せるベリトはその役割を十二分にこなしている。

おっと、今日はここまで。また聞きたくなったらいつでもおいで。歓迎するよ。・・・え、私の語り、悪くなかった?いや、いやだな。そんな、照れるから、もういいから帰れ!



リンク貼った曲の作者hsy様の新作&新曲を皆で心待ちにしよう!

69言理の妖精語りて曰く、:2007/08/06(月) 21:47:58
>>68
そのままコピペしたから改行がひどいことに。死にたい

70姉妹狩り1:2007/08/08(水) 02:27:27
1-2

 射出後、彼女は更に背後に跳んで距離をとる。魔女は四方八方から迫り来る矢の群を軽いステップで全て躱した。そうして眉を顰め、それらの光跡を見送る。不審に思うのも当然だった。この矢に比べれば、ミスラフィア自身の斬撃のほうがよほど速い。
 しかしすぐさま、魔女は異変に気付いた。
 素早く跳ぶ。あとに続く光、「さすが戦士」という単語が再び浮かんでミスラフィアは舌打ちする。
 矢は消えていなかった。そればかりか、増殖していた。魔女は一瞬で数える。14本。その間にも、再び逸れた矢が地面にぶつかる様が見えた。矢はその瞬間分裂し、角度を変え、倍のスピードで迫りくる。あっという間に28本になった矢はまるで魔女の周りを取り囲むように迫った。魔女は必死で、再度の跳躍を試みる。ミスラフィアは構えを解かないままにそっとほくそ笑んだ。
「魔女」は特有の振動を放つことで知られている。それが何に起因するものなのかはわからない。しかし、心臓の鼓動や、その他普通の生物が持つ器官により発せられるものとはあらゆる意味で違う、特殊な周波数の振動が常に観測される。『魔女狩りの剣』が魔女の接近を知らせるのも、この振動を感知してのことだ。
 そうして分裂を繰り返す光の矢は、魔女の振動を追い続ける。それに直撃するまで、永遠に。それがこの第四神聖術、『雨』。この呪文を開発した奴は相当陰湿な奴だとミスラフィアは思う。
 魔女は天上的な身のこなしで矢の隙間を掻い潜った。しかし、地面に激突した矢は止まらない。分裂し、総数56もの矢が、魔女に襲いかかる。すでに魔女の姿はほとんど光に包まれている。今度こそ、逃げ場はない。鳥や鼠ならともかく、人の形をしたものが潜り抜ける隙間などない。
 そうして閃光。爆発。
 魔女の絶叫が長く響いた。ミスラフィアはじっとそれを聴いていた。
 土煙は未だもうもうとあがっている。いくら神聖術が強力であろうと魔女へのとどめは『魔女狩りの剣』でなされねばならない。しかしミスラフィアは歩き出さない。嫌な予感がしていた。それは、長年培ってきた戦士の勘。魔女などに負けはしない、絶叫だって聴いた、あの攻撃が避けられたわけはない。そう信じようとした。けれど、動けなかった。
 次第に晴れていく視界。
 やがて目の前に現れたのは最悪な光景。ミスラフィアは息を飲む。
 魔女は未だに立っていた。宝石剣を支えにしながらも、しゃんと背筋を伸ばして。『雨』が当たらなかったわけではない。その理由に、魔女の身体の至るところに穴が開いていた。貫通しきっている、文字通りの、穴だ。左腕など千切れかけている。その癖眼光は異様に鋭くミスラフィアを見詰めていた。
 不死身の力か。姉妹なら、ありえる力だ。しかし不死身だなんて、そんな無茶な力が本局に知られていなかったとは。
「化け物め……」
「……」
 ミスラフィアとほとんど同時に、魔女が何か呟いた。その瞬間宝石剣がまばゆい光を放ち、不意をつかれたミスラフィアは視力を奪われる。

 ――なんていう、失態。

71姉妹狩り1:2007/08/08(水) 02:27:50
1-3

 後悔は遅すぎた。野獣のような絶叫が一瞬のうちに迫り、ミスカフィアは自分の腹が切り裂かれたことを知った。しかし、致命傷ではない。それを怪訝に思った。
 やがて、視界が回復する。魔女の顔が目の前にあり、その表情に、息を飲む。これは――
「お前、痛みを感じてるのか」
「叫びが煩くて済まん」
 にやりと笑うその顔に、喉元に突き付けられた刃の存在すら忘れそうになる。
 一瞬だけ、弱気な考えが浮かぶ。
 駄目だ。そんなことあっちゃいけない。わたしは死ぬわけにはいかない。「あの魔女」のことを思う。あいつを殺すまでは。
 魔女は歓喜とも苦痛ともつかない声で囁く。
「本当はもっと戦っていたかったんだけどな。私だって死ぬわけにはいかないし、それにそっちが妙な技を使うから悪い。反則だろ、ありゃ」
「……お前、魔女だろ」
「そりゃそうさ。もっとも、この身体は魔女の力とはちょいと違うんだ。わたしは一度死んでるものでね」
「死んでる……?」
「ヘレゼクシュかぜ。知ってるだろ」
 ミスカフィアは息を飲む。本局の資料にあたらずとも、あの病による悪夢は十分に伝え聞いている。高い感染力を持ち、一旦罹れば肉体は腐り理性は失われひたすらに人肉を求め続ける鬼と化す。一地方をほとんど壊滅させた悪魔の病。確かに病の症状の一つとして、腕や足が千切れてもなお生き長らえるほどの生存力、というものを聞いたことがあった。しかし、目の前の魔女は理性を失っているようにも腐り落ちかけているようにも見えない。
「訝しんでいるな。この宝石剣のおかげなんだ。まあ、無駄話はこの辺でいい」
 ミスカフィアの目の前で宝石剣が搖れる。こびり付いた血と油がぬらぬらと陽を反射している。殺される。そう思った。
 それでもミスカフィアは笑った。真っ直ぐに笑った。そうして魔女を睨んだ。
「私だって、まだまだ死ねないのさ」
 その瞬間、音も気配もなく横ざまから飛び込んできた何かが、魔女の宝石剣を弾き飛ばした。空で輝くそれは、まるで月のひとつのように見えた。

72姉妹狩り1:2007/08/09(木) 23:57:41
1−4
素早く後方へ待避した魔女を、その影は勢いのままに追撃した。流れるように放たれた銀色の光。
月光に照らされた細長い光は刺突と斬撃をあたかも暴風のように叩きつけて牽制とし、刎ね飛ばされた宝石剣を足蹴にして遠くに追いやった。
増援。Missr^cafieaは思わず安堵の吐息を漏らす。それは見知った顔であり、彼女の知る限りもっとも頼みとなる魔女狩りの騎士であったからだ。
「助かりました、プレデリアン師父」
「油断するには些か早いぞ、シルムダートの娘」
歴戦の魔女狩りにして偉大なる聖騎士プレデリアンは、未熟な部下を窘めた。
見れば、徒手になった魔女は腰脇布の陰になった部分から一振りの短剣を取り出して構えた。
いまだ闘志は衰えず、といった所らしい。
「師父。私が先行します」
「うむ」
魔女狩りの二人は短いやり取りで意思の確認を行うと、即座に左右に分かれて進撃する。
魔女の判断は明確にして明瞭だった。迫る敵には構わず、一直線に放り捨てられた宝石剣の下へ走ったのだ。
だがそれは計算積みである。 プレデリアンの脚は短い草の根を踊るように蹴り、横合いから魔女ヘ斬撃を繰り出す。
その一撃は正に疾風にして迅雷。魔女狩りの剣【レミア】がその特性たる「無音の絶叫」を響かせながら
死の振動を伴って魔女を襲う。対する魔女は、それを短剣で払いのける事で回避し、そのまま戦士の妨害を突破。
血潮が弾け、断裂した魔女の左腕が中空に舞う。砕け散った短剣は微塵と為り、片腕を犠牲にして剣を取りに行く。そこまでの行為を果たして予測してたかどうかは
ともかく、もう一人の魔女狩りは忌憚無くあらかじめ用意しておいた光の矢を無数に射出。背後から襲う脅威を見ることもせず、
魔女は宝石剣目掛けて一気に飛び上がる。
光が崩壊し、草が土ぼこりと共に舞い、轟音が辺りに響き渡り、そして魔女の腕が剣を手に取った。

瞬間。

全ての現象が、停止した。
音も、光も、運動も。何もかもが停止し、灰色の世界の中、三人は意識だけがクリアになっているのを感じた。
中空に留まった光の矢による破壊。 舞い上がる草、そして土。
時間が止まったかのような静寂。
否。 事実として、その世界は停止している。
事態への理解が追いつくよりも早く、その元凶となった声がその空間に響き渡る。
「こんばんは、愚鈍な亀さんたち」

73姉妹狩り1:2007/08/09(木) 23:58:03
1-5
途端、全員が強制的に空を見上げさせられていた。顎を無理矢理つかまれ、持ち上げられたかのような不可視なる衝撃。
それを成し遂げた何者かは、月を背景に、まるで夜空から舞い降りた現人神のように神々しく両手を広げ、
「嗚呼、低次元の争いが今宵も月に映えるわね。 でもね、間抜けな騎士さんたち?
その玩具は私のだから、まだ壊さないでくださるかしら? この、塵はね?
私が。この私、が。じっくりと嬲り、痛めつけ、絶望の後の絶望を与え尽くして失意の中で滅ぼすと、
そう決めているのよ。 ねえ、そうでしょディオル」
「あ、あ・・・あ・・・・・・」
ディオルと呼ばれた魔女は、剣を震える手で掴んだままに月光の女を睨みつけ、絶叫した。
「ファフマトォッ!! 貴様ぁっ!!」
「あらあら、助けてあげたのにご挨拶。 躾が必要かしら。死にかけの駄犬ごときがこの私に吼えるなんて、ね」
「黙れぇっ!! お前は、お前は殺す!! お前だけじゃない、お前の母親も、だっ!!」
激昂するディオルを、まさに畜生以下のモノを見据える目で貫くファフマトと呼ばれた女。
その不気味な、それでいて恐ろしい女の妖気はそれこそが魔女と呼ばれうるたぐいのものであった。
「ま、いいわ。とりあえず今はお逃げなさいな。 この状況じゃあ私の楽しみも、貴方の無駄な復讐も、どちらも果たせなくってよ?」
「ぐ、うぅ・・・」
歯を食い縛るディオルは、突如として身体をつんのめらせて倒れる。空間に固定されたいた肉体が自由を取り戻していた。
助けた魔女と助けられた魔女。双方の魔女は反目しているが、片や高みへ、片や地の底へ、立場の違いは明確だった。
低みの魔女は屈辱に顔を歪めながら、宝石剣を手に逃げ去っていく。
その姿がカナタへ消えたのを確認すると魔女ファフマトはつと二人の騎士を見て、ぼそりと呟いた。
「つまらなさそうだこと。 塵ね」
霧散だった。霧そのものになってファフマトが消失するのと同時に、轟音が響き渡り巻き上げられた粉塵が二人の騎士を覆ったのであった。
周囲の景色が明瞭になった頃。壮年の騎士は顔を曇らせ、恐るべき魔女の出現について考えをめぐらせた。
と、部下たる女騎士が膝を衝き震えているのに気がつく。プレデリアンは月光の魔女の恐ろしさに震える部下を落ち着かせようと近付いて、
彼女が連綿と波打つ真冬の海のように、途切れる事の無い寒々とした呪詛を吐き出しつづけているのに気がついてぞっと背筋を凍らせた。

女騎士は、こう呟いていた。
「あの、顔。・・・顔。母親。 ・・・・・・娘? 顔、顔、顔、剣の振動、魔力の相似、顔顔顔、あの、顔っ!!」
がばりと顔を上げ、怒りと憎悪が入り交ざった狂相を露わにした騎士に、それまでの怜悧な美貌の跡は微塵も無い。
そこにいたのは、ただの鬼。
「見つけた。鍵。至る鍵。 アレに至る鍵っ!!
見つけた、見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた
見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた
見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた
見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた」

嗚呼、と。そして歓喜の声を震わせ、復讐鬼は絶叫したのだ。

「見つけたぞぉっ!! フィランソフィアァッ!!!」

74言理の妖精語りて曰く、:2007/08/23(木) 18:11:03
スプーンが騎士の持ち物であったのは昔の話。
戦後、なんて言葉が親の代で絶えて久しい昨今、ここ自由都市イェルネヒテでスプーンといえば
食器か、でなければ球技の道具を意味するものでしか無い。
「えー、なになに。ジャガイモを中火で炒めたら、そのままエフラの果実を半月切りにしたヤツと、
みじん切りにしたアフテンビレッジを散りばめてとろ火で炒める、と」
元来食器であったスプーン。三叉槍や鎌が農具から発展した歴史は各地に例を見るモノであるが、
生活を守るという点で武器と農具は一致した目的を持つと言えなくも無い。
生きるための日常用品が生きる為の非常用具に変化した。このような変化が、
同じく生きるための日常用品たるスプーンに起こったのはそれほど不思議な事でもない。
かくして巨大な棍にして槍にして盾にして杖にして鎌にもなりえる自在の武器スプーンは
戦乱の世を駆け巡る騎士たちにとって無くてはならない武器になったわけだが、戦後ただの
お飾りと成り果てた巨大スプーン、何の役にもたちそうに無いが数だけはあるそれらを使い、
騎士たちは自らの威厳を保つ為、資材を有効利用するため、なにより職にあぶれない為、
大衆に娯楽と希望を与えるためひとつのスポーツをでっち上げた。
騎士たちはスポーツ選手に成り代わり、大衆のスターでありつづけた。なにしろ軍人が元来の職業であるから、
体を動かすのは得意中の得意であった。
「でー? フルナフェリアの香草と一緒に、小麦粉と、イシュタの鶏肉、ベーソル、塩を振りかけてー」
ラフディーボール。
これもまた戦時に用いられた武器であり、クリかウニのごとき棘だらけのボールは
敵に投げつければ覿面の効果を顕したが、それを掬い取って返して見せたのがスプーンである。
この戦の光景を思い出した騎士たちは考えた。ラフディーボール、古き神の仔の名を冠したこの
武器と、スプーンを用いれば面白い球技ができるのではないか。
練度については問題無い。何しろつい最近まで投げ付け、返し合っていた経験がある。
かくして誕生したラフディーボール。巨大スプーンとトゲ付きボール、危険防止の為の甲冑を身に纏い、
広いフィールドを駆け回る危険で苛烈な戦士のスポーツは大いに大衆に愛され、今では学生たちが笑いながら
プロ騎士たちの真似をしつつプレイする人気ぶり。トゲのせいか血みどろではあるが。
「衣が黄色くなってたら・・・・・・よし、完成ー!」
歓声は高らかに。アチェリッド高等学園では今日もフィールドを駆け回る男子生徒たちが
トゲ付きボールを弾き飛ばしながら笑い合い・・・・・・、
「美味しそうに焼けた焼けた♪ これならインゲルおじさまも舌鼓を打って下さることでしょうよ!」
大きく弧を描いて飛ぶラフディーボール。高く遠く飛ばす事ができるのは名射手の証。飛びにくいと定評のある
ウィンズルト社製のレミ鋼ボールは校舎一階、横長の調理室へと真っ直ぐに突き進む。
元来は兵器たる【棘神の球意】は喩え模造品であったとしても、紛れも無い武器。
素人玄人の係わり無く、飛ばせば刺さり投げれば壊す。それはいつの世も変わらぬ真理であり、その真理に従えば、
即ち上手な投擲と違わぬ狙い、充分な角度と加速がついており尚且つとんでもない戦場における悪運が悪ければ、
「さて、さっそくお持ちし「そっちいったぞぉーーー!!」・・・は?」
がっしゃぁん、という派手でいてそして誰が聞いてもガラスの類が粉々に粉砕されたと分かる高音を響かせて、
棘まみれのボールは真っ直ぐに、今まさに皿に盛り付けられ盆に載せられて運ばれようとしていた、
非常に香ばしくまた色合い鮮やかな、端的に言えば美味しそうな肉料理に直撃。
皿と盆が粉砕、肉と野菜が乱舞。
作り上げ、持ち上げていた一人の女学生が、なにやらうきうきとした表情のままで硬直。
時間が止まる。遠くから「だーいじょーぶかー?!」などと暢気な声が聞こえて来るのも夢を介した朧な声のよう。
呆然。自失。少女はがらがらがっちゃんぶちゃぁ! と盛大に地面に散らばった考えたくも無い諸々を思考から排除し、
とりあえず、と調理用のミトンを装着、転がった棘ボールを柔らかく包むと。
「死ね」
投擲。

しばしして、血反吐やら怨嗟やらが入り混じった絶叫の大合唱。
ここは聖母アチェリッドのお膝元。天を衝く聖母に見守られ、生徒どもは今日も血塗れの戦いを繰り広げている。

75言理の妖精語りて曰く、:2007/08/23(木) 19:01:37
ここの所、碌な目に遭わない。
例えば先刻の料理へのボール直撃。例えば先日の学生寮での小火騒ぎ。
例えば先週のひったくり事件。
それでなくても世間ではやれシリアルキラーだやれワームル区のチームが連敗だと
悪いニュースで沈んでいるというのに。世間が低迷状態なら個人の調子くらい上げてくれても良さそうなものであるが。
「おねーさまおねーさま、お怪我は、お怪我はありませんかっ!」
「あーはいはい無いから落ち着け」
ぶぎゅっ、とか鼻から潰れたような声を出すのは今日も絶好調で心配性な後輩のリサルニア=てるあて・零歌シルヴス。
通称、実物大リス。あるいは単にリス。容姿も栗鼠。
茶色の薄い体毛にふさふさの尻尾、短めの髭に流れるような茶色のロングヘア。
ライトイエローの制服が良く似合う、姉思いの女子生徒である。ただし妄想姉。
特技そして性癖。美人を片端から姉呼ばわりする事。
保健室には調理室での後始末+生徒指導室での説教の後で。あたりはすっかり夕焼け景色。
小焼け。
「ビーおねーさまがうんこ共の被害に遭われたときいて飛んでまいりましたがっ、
さすがはビーおねーさま! うんこをボールごとフルボッコとはおねーさまの中のおねーさま!」
「何の賛辞よ、それ」
うんざりと、疲れたように歎息。ビー、という愛称はまあ公的に認められるものとして、しかし
おねーさま呼ばわりされるのはどうにもむずがゆく更に居心地が悪い。彼女の故郷の言葉を用いると、いずい。
「おねーさまおねーさま! インゲル先生にはうんこ共の所業のことを包み隠さずお話しましたっ!
約束に遅れた、などと危惧する必要はないですないのです!」
「ああ、そう。・・・それはどうもありがとうね」
ほめてほめて、とか表情やらぱたぱた動く尻尾やらから発せられるオーラが語り、
押されたビーは礼を述べる。
約束があった。
教師にして後見人のインゲル=みると・冬月レストムに手料理を振舞う予定だったのだ。
学園の調理室は調理副部長たるビーには自由な使用が許されていたので、
敬愛する「インゲルおじさま」の為精根込めて作り上げた料理、材料費は11食分。
校庭・フィールドでラフディーボールの乱投暴投直撃粉砕。
忘我から激怒、惨劇へ。ビーの異称。「烈火の貴婦人」。
的を射ている形容だが、「烈火」の部分が発現することは少ない。その意味を目の当たりにできるのは
運の悪い学生のみである。
ビーの歎息。「・・・帰ろう」疲労が蓄積気味。
立ち上がると追従。移り気な姉マニアの仔リスの最近の興味はもっぱら烈火の貴婦人観察である。
ちなみに、貴婦人、と称すにはやや幼い、少女なのではある。

76言理の妖精語りて曰く、:2007/08/23(木) 19:16:11
「それじゃーおねーさまっ! ばいばいでーす!!」
様式は美しい青赤の煉瓦、ガラスをふんだんに用いた高級志向のアーキボルト建築は
貴族街の特徴だ。見るも華やか、都市の二つの中心部の片割れたるその光景。
林立する豪華絢爛、金を種とする美と麗の森。
夕焼けに照らされなんともいえぬ美しさをかもしだす景色。見るたびに羨まずに入られない
その向こうにかけていく後輩を見送りつつ、ビーは背後、学園本棟の隣にある学生寮へと足を向ける。
女子学生寮、第七号棟。
年代モノにも程がある罅割れだらけの赤煉瓦・軋みを上げる石畳(とみせかけた木造建築)。
アチェリッド学園の象徴たる聖冠騎士を育成するエリートたちが住む八号棟以降とは異なり、
5・6・7の棟には貧乏で平凡ないわゆるモラトリアム女子学生がわさわさと生息している。
あまりの人外魔境っぷりに隣の寮の変態たちも恐れをなして覗きにこないとか。不名誉な話である。
後輩のリス含む多くの潔癖な女子生徒にうんこ呼ばわりされる男子であるが、彼らも彼らで女子生徒よりも多い割合で
学生寮に入寮している。自宅から通う男子生徒が多いので、寮生徒のみを比較すると女子のほうが多くなるのだが。
さて、今日も今日とて腐った魔境に帰還するビーはおしよせる虫やら鼠やらそこら中にうずたかくつもった洗濯物の山や
生ゴミの群を華麗にスルー、自室に入室。
途端、芳香が満ちる。異臭だらけの女子寮において芳香剤は部屋に常備。必須。
彼女の一日は、そこで終わる。
黒薔薇の香り。自らの好むその香りと共に、彼女の意識は消失し、覚醒する。
目覚めた時には学園の教室に。
圧倒的な断絶。ぶつ切りの生活。
説明すると。
彼女は夜間の記憶を保持する事が出来ない。

77言理の妖精語りて曰く、:2007/08/23(木) 19:36:35
理由は不明。生来のものであり、生まれてから夜間、すなわち太陽が沈んでいる間の記憶を
保持できたためしがない。ちなみに朝は何故か日の出からではなく高く昇ってから覚醒。
太陽の有無ではなく時間的なものなのかどうか。不明。
だから。
その日がつつがなく終了し、帰宅し、【断絶】し、
記憶が再会された時。

何故自分が血塗れで路地裏に立ち、左腕が激痛を訴え意気を荒くしながら壁に手をついているのか、
ビーは瞬時に理解する事は出来なかった。
そして、背後でしゅーしゅーとまるで蛇か何かの声のような吐息を出しつづける何者かがじわりぞわりと
迫ってきている事を察知した瞬間、彼女の中の「烈火」は事態の把握より先に、自らの身の安全を確保する事を選択した。
反転、振り向く。切り裂かれていると思しき、左腕は動かすのに支障あり。
視界の端に捉えたソレは曲々しいナイフを振りかぶり。
「私に、触れるなっ」
炸裂した烈火の怒号に、殺人鬼は怯んで跳び退った。
中空に広がる真っ赤な炎。ビーの右腕から流れていく炎の束。
対峙。ぴったりとした黒衣。目だけを出した覆面。暗殺者じみたスタイル。
けれど、真っ赤な血の滴るナイフから連想されるのは世間を賑わすシリアルキラー。
五十六人を殺害するという恐ろしい殺人鬼。
間違いない、とビーの直感は語る。確信に至るのに証拠は必要ない。
状況が、既に語ってしまっている。問題は殺人鬼であるかどうか、ではなく、それが脅威であるか、という理解不理解。
ビーは、それが恐るべき脅威であると理解。警戒する。十全に。
「ぁ・・・ぃィ・・・・・・ビィ・・・・・・クレッ・・・ト」
ビークレット。
ビーの名前。ビークレット=しえらす・ジェミニランス。
キャラクタネームが無いのは移民だから。ビークレットは貧乏学生であり親切な後見人の
厚意によって学園に在籍している。
何故移民か?
奇怪な能力を持って生まれたため、発覚と同時に排斥されたから。
即ち。
「燃えなさいっ」
発火。視線による殺意投擲。媒介は大気。真正面で様子を窺っていた黒尽くめが回避。
炎の規模は実に小さく、実の所不意を撃たなければ捉えられることはまず無い。
ち、と舌打ち。初撃で外すと大抵もう二度と当たらない。ジンクスじみたものが、ある。
危機だった。牽制しつつ逃げるが賢明。判断するや、ビーは炎を振りまきつつバックダッシュ。
が。
シリアルキラー(仮)の超人的脚力。虚空で起こった発火=爆発を利用して一気に間合いを詰める。
予想外の事態にプラスして左腕の痛みがぶりかえす。
思わず呻き、目を瞑ってしまう愚。ビーの死が心に覚悟される。
死を予測。来る。
数秒。瞑目したまま、ビーは沈黙。
おそるおそる開眼。見開く。
吹き飛ばされて、壁に頭を打ち付けてよろめいている殺人鬼。
「今のうち!! こっちよ!!」
声はすぐそば。右手を掴むのは、こちらよりやや年上らしい長身の女性。
白。
何故かそんな印象色彩が連想。
「走って!!」
シンプルな言葉に、命欲しさに支えられ、ビークレットは手を引く女性と共にその場を後にした。

78言理の妖精語りて曰く、:2007/08/26(日) 13:09:25
書き手が物語だと言い張れば物語。
きっとそれが約束。
なんと言われようと動かせない事柄。
よってこのスレッドにおけるすべての書き込みは物語である。

79言理の妖精語りて曰く、:2007/08/27(月) 12:44:04
自由都市イェルネヒテは自治都市だ。
南方にエィル公国とアシェリシア王国、北方にワリバーヤ王国と周囲を大国に囲まれた地に、
ぽつんと記された地図の中の異色。
旧暦において「病の種族」どもが地底から這い出したことにより汚染された「呪われた大地」は、
しかし時代と共に浄化され、戦乱の余波で追いやられ流れ着いた人々の安住の地となった。
居住不可能な地として長く放置されていたその地がすでに安全だと知ると、周囲の国は土地の権利を
巡って争い出した。
そして再び戦乱が起こり、多くの地が流れた。
その時、一人の女性が現れた。
聖母アチェリッド。
今なおイェルネヒテに名を残す、偉大なる聖人。
彼女は何処からともなく現れ、人種、所属する国家を区別せず分け隔てなく負傷した人々を救済した。
四肢を失い、死を待つしかない兵士。流れ矢によって背骨を打ち砕かれた民間人。
そういった絶望に塗れた人々を、彼女は躊躇う事無く安らかに逝かせた。
それは速やかで穏やかな救済だった。求める者に死を。殺めることで人を救う聖母。
常に微笑みを絶やさず、進んで汚れ仕事を引き受けるその様は多くの人々の胸を打ち、また
あまりに鮮やかな殺害の方法から、進んで殺されようとする者まで出てきたほどだった。
彼女はそういった者も殺した。心に闇を抱え、不安がる人々を安心させ、穏やかに殺害した。
気がつけば聖母アチェリッドの周りには多くの人が集まっていた。
そこには老若男女、国境や階級、人種の区別は無かった。
彼女による救済を求める人全てが、彼女の信奉者だった。
慈愛の聖母アチェリッド。
争いに疲弊した列強国がその存在の大きさに気付いた時、既に彼女は多くの人々を引き連れており、
最も弱っていた国を襲撃し、占領した。
その国、イェルツビアとの戦いは戦いと呼べるようなものではなかった。
多くの兵が離反し、国民の大半が暴動を起こした。叛乱であった。
確かな足がかりを得た彼女はその魔的とも呼べるカリスマによって巧みに立ち回り、
イェルツビア王国女王の名に於いてイェルネヒテに自治権を与え独立させた。
アチェリッドの死後、イェルネヒテはイェルツェビア本国からの独立性を高め、
宗主国とほぼ対等な権限を持つに至る。
時は流れ、再び戦乱は巻き起こりつづけていたが、その中をイェルネヒテは堅牢に生き残った。
イェルツェビアが滅び、周辺の列強が滅び衰退し再興しても、イェルネヒテはそのままだった。
人々はそれを聖母アチェリッドの加護がある故だとした。周辺諸国のゼオーティア信仰の中、
唯一イェルネヒテがアチェリッド信仰を貫いているのはこのような理由からである。

80言理の妖精語りて曰く、:2007/08/29(水) 00:29:42
ペリネーサの実は硬い外皮ときつい臭いとは対照的に、淡い桃色の果肉はクリームのようにとろみがあり
それでいて程よい塩辛さを持つ近隣都市ヤトラッテの特産品である。
北に十数以上の都市群、南に大国を隣接させるイェルネヒテでは交易が非常に盛んであり、
中央区の主街道に出れば各国の商人が集い次々と通り過ぎていく。
しかし、ペリネーサの実は現在ほぼ入手不可能である。
ヤトラッテで昨年発生した大規模な害虫禍。蟲神ダレッキノと呼ばれる邪悪なる存在が遠く東の地で
極めて悪質な害虫を誕生させ、その波は西の地方にも訪れ、ペリネーサの樹を含む多くの
農作物が被害を受けたのである。
ペリネーサの樹はヤトラッテで人工的に生み出された植物であり、その生育法は部外秘である。
それ故当分は何処にいっても口に出来ないものの筈なのだ。
だが。
「なんで」
「ん? なぁに?」
広がる香りは柑橘系。極めて臭いとされる果肉香は檸檬と鱗水に浸した事で消えている。
大きめの食卓に、純白のテーブルクロス。
並べられているのはペリネーサの実をはじめとした、野菜や果実中心のヘルシーな料理。
かぐわしい匂いは確かに食欲をそそるが、しかし。
ビーは溢れてきた唾を口の中に留めたまま、正面でスープを啜る女性にくってかかる。
おそらく同年代かそれより上。
純白のワンピース。胸元に羽を象ったアクセント。ピアスも白い石。
全身をホワイトカラーで埋め尽くし、豪奢な金色を背中に垂らした美貌の女性。
ビーを窮地から救い出した女は、自宅と思しき場所に彼女を連れ出すと、こう名乗った。
「シャーネス・アンス=ウ=ヒムセプト・ジェミニランスよ。よろしくね」
その名前の形式は、ここよりも遥かい遠く、西方諸国のモノであった。
異国人。なるほど確かに、いわれてみればその異様なまでに真っ白な肌は白樺の民や西方人特有のものだ。
ビーは自分も名乗ろうとしたが、知っているわとの声と共にフルネームを言い当てられて驚愕した。
この女性は何者なのだろうか。
ビーには知人が少ない。その出生のせいもあるが、なにより彼女はあまり知己を作ることを好まないからだ。
それでも、シャーネスというこの女性は彼女をまるで十年来の親友のように気安く扱った。
こじんまりとした郊外の一軒家は今時珍しい木造建築であり、随分と古めかしい様相だった。

81言理の妖精語りて曰く、:2007/08/31(金) 00:31:35
得体が知れない。危機から救い出してくれた恩人では在るが、ビーはそれでも
素性の知れない相手を無条件で信用できるタイプの人間ではなかった。
故に、
「なんで」
食器を下ろし、シャーネスを見据えた。不意に目と目が合い、心が激しく揺れる。
その深く蒼い瞳を見たとき、ビーの心に言い知れぬ衝動、感慨が涌いていた。
それが何なのか分からないまま、彼女は相手に問い質す。
「なんで、どうして貴方は私を助けてくれたの? 貴方は何者?」
ん、と金の髪の女は口の中の野菜を飲み込んで、逡巡するように顎に手を当てた。
高い鼻からの音。んー、と唸るように声を出し、ややあって。
「この、平坦な皿の上に幾つかの食べ物を置くとしましょう」
唐突とも言えるタイミングで、質問とは全く関係の無い事を語り出した。
訝しみながらも、ビーは食卓の上、皿の上に乗せられた果実を見る。
「皿は平らだから、上手にバランスをとってのせないと端から零れ落ちてしまう。こんなふうに」
次々と大皿から小皿に移された果実は、彼女の言うとおりに皿の端から零れ落ちていった。
「だから、この皿にのせる事が出来るの果実の数は限られているし、調和が取れていないといけない」

82言理の妖精語りて曰く、:2007/09/06(木) 00:37:47
「落ちた果実は腐ってしまうわ。そうなったらそれはもう捨てるしか他は無い。
・・・・・・この皿に乗る果実の総数はたったの71個。そこからあぶれてしまえば、残るのは滅びのみ」
「・・・その話が、何の関係があるの」
シャーネスは目を伏せてしばしの沈黙を保った。その様を、ふと仔犬のようだと思う。
ほどなくして、重く口が開かれる。
「果実とは魔女。皿とは71という許容量の括り。
そしてさっき貴方を襲ったのは魔女。更に言うなら、私も、貴方も」
一瞬、ビーは自分が何を言われているのか分からなかった。
「長い時が過ぎ行く中で、伝承や事実は散逸し不明瞭なまま確定してしまった。
けれど世界の法則は変わらず、魔女の定員数は71の席のまま。いつの間にやら71など疾うに超えてしまっていた魔女たちの自然淘汰が行われるのは自然なことよ。
何故って、そうしなければ端から腐ってしまうから」
「何を、言って」
「これは言わば椅子取りゲーム。揺らいでしまった世界の理を正す為に生み出された、竜の慈悲。
私たちはね、ビー。残りの魔女の人数が71人になるまで戦いつづけなくてはならない宿命を背負っているのよ」
荒唐無稽。
馬鹿な、話だとビーは思った。思ったが、シャーネスの真剣な口調と、なにより確かに自分は殺されかけたという事実が
安易な反論を許さなかった。
「すぐに信じろとは、言わないわ。けれど、少なくとも貴方は、いいえ、私たちは当面の敵対者を駆逐しなくてはならない」
確固とした意思の感じられる瞳でこちらを見つめるシャーネス。ビーは何と言っていいか一瞬分からなくなり。
「少し、時間を頂戴」
思考を先延ばしにする。

83言理の妖精語りて曰く、:2007/09/07(金) 00:21:30
いい匂いのする女の子、なんて詩的で感傷的な表現をするヤツがいるけれど、
このアチェリッド学園女子寮第七号棟においてそのような形容が当て嵌まる女子はただの一人として存在しない。
勿論、風呂には入るし体も洗う。が、人間の体臭というのは実は洗っただけでとれるようなものではない。
いい匂いなんてのは大抵整髪料か香水と決まっているわけで、そういったものは洗ってもなお取れない体臭を誤魔化す為にこそ存在する。
がしかし、そこはボロ寮の貧乏女学生、食費切り詰めて買った石鹸水で必死に頭を洗っても所詮は石鹸。
何事にも限度はあり、彼女等はその限度を余裕で振り切っていた。
・・・・・・正直、涙を誘わないこともない。
端的に言おう。
七号棟の住人は、ほぼ例外無く臭い。生来の体臭がきつい、とかいうことではない。
七号棟そのものが臭いのだ。
煉瓦造りと木造を入り混ぜた改修と継ぎ接ぎを重ねたボロ建築。床は軋み壁は変な染みだらけ、
おまけに天井からは正体不明の黄色い液体が定期的に染み出してくる。
寮全体が何故だか異様に臭い。その臭いが住人に移り、そのまま染み付いてしまうのである。
「ああ、もう。ヤになっちゃうなあ」
フェキュラリィ=やみやみ・坂本ズルペスはその特徴的な禿頭を掻きながら疲れたようにため息をついた。
自身の体臭が、生活の場の臭いと同じになってしまえばもうそれが臭いだの不快だのと考えることは無くなる。鼻が慣れてしまうのだ。
そうなれば最後、もはや彼女らは臭いという感覚に無頓着になり一生臭い女として過ごす事になる。
「そんなのは、ゴメンだ」
わざわざ口に出して確認しないといけないくらい、切羽詰っている。
フェキュラリィ・・・・・・通称をフェッキと言う禿頭の少女は学園女子随一の巨躯を誇る事で知られている。
3メフィーテ近い長身は大半の男子生徒の頭よりも肩の位置が上である証。女子どころか男子を含めても屈指の身長である。
しかしその割に逞しいという印象は余り無く、均整の取れたプロポーションは細い体を際立たせ、一種の超越的な魅力を発している。
フェッキの内面はしかし外見とは裏腹にいたって平凡なものだった。
今年の春から寮入りした彼女だったが、変貌しつつある自らの体臭を修正する為日々公衆浴場に通って体を洗ったりしている。
勿論七号棟に入っているような貧乏学生であるからあまり金は無いのだが。
フェッキは浴場の清掃を手伝う代わりに無料で入浴を許可されている。
夜間のアルバイトのようなもので、彼女はそれを苦とも思わず日々こなしている。体力には自信があるのだ。
今日もまた、フェッキは浴場を目指し夜の街を行く。夕方から夜にかけて、公衆浴場は客の掻き入れ時である。
と、静かになりつつある町並みを往くフェッキの目の前に、見知った人影が現れる。
相手もフェッキに気がついたようで、意外そうな顔をした後、不敵に微笑んでみせた。
「こんばんは、フェキュラリィ。いい夜だな」
「こんばんは、レディ・ホワイト。夜の散歩かしら?」
その相手は、端的に表すならば純白の女だった。
流れるような髪はまっさらな白。月光を受けて鮮やかに煌く、躍動する白銀の長髪。
その髪に合わせたかのような白いワンピースに、透き通るような白い肌。軽やかに翻るスカートの裾はどこか幻想的で、
深窓の令嬢を思わせる風情だった。
しかし、その瞳を覗き込めばその印象はまるで正反対のものになるだろう。
これもまた純白の虹彩は、清らかな色はそのままに苛烈に燃え上がる意思の光を灯していた。
その様は女王のように苛烈であり、また魔女のように凶悪ですらあった。
白い女・・・・・・レディ・ホワイトと呼ばれた女は曖昧に微笑んでみせる。
彼女は、質問に否定以外で答えるときこのような反応を見せる。
フェッキは賢明に継ぎの句を探した。
「私はこれから公衆浴場の清掃業です。どうでしょう,レディも一度利用されてみては。
身も心も温まりますよ」
白い女は目を細めると、しばし顎に手をやって考え込み、
「そうだな・・・今宵は用事が立てこんでいてな。一通り片付いたら、
お邪魔させてもらうとしようか」
「ええ、楽しみにしています」
他愛ないやり取り。数語を取り交わして、近すぎず遠すぎず、
相手の性質を掴んでいるからこその「知人」としての接し方を保ち、フェッキは女性との会話を打ち切ってその場を後にした。

84言理の妖精語りて曰く、:2007/09/08(土) 01:09:57
フェッキは隣人と顔を合わせたことは一度も無いが、その友人とはよく顔を合わせる機会が会った。
七号棟一階でも有名な7145室の引き篭もり。フェッキの隣人は誰にも顔を合わせず、部屋から出ることもしないで
篭もりきりだった。
そんな彼女の部屋に毎日通い、食事などの面倒を見ているのが先刻の女性だった。
本名なのか偽名なのか、異国風の美貌の淑女はレディ・ホワイトとだけ名乗っている。
顔を合わせれば挨拶くらいは交わし、偶に話し込むこともある、そのような関係。
彼女は夜になると引きこもった親友の部屋を訪れ、朝方に出かけていく。
半ば同棲だとかルームシェアのような関係らしいが、寮生からは黙認されている。

彼女は華麗だった。汚れ、鼻を曲げるような臭いが立ち込める七号棟にあっても
染まる事無く、ただひたすらに美しかった。

85言理の妖精語りて曰く、:2007/09/28(金) 21:44:23
 暗黒が恐怖を媒介する。それ自体はさして珍しいことでもない。夜道を怖がらないのは加害者の特権だ。平均的な小市民の俺はいつでも被害者になる覚悟がある。
 そして、やはり覚悟は報われるものだなとしみじみ実感する。俺は被害者で恐怖していた。夜道でないことは残念だが、目の前の暗黒からはびんびん恐怖が押し寄せてくる。だが、せめて昼間くらいは暗闇の恐怖から開放されていたかった。
 十メートル先には扉があって、その向こうには暗闇がない。俺は向こう側からここに入ってきたのだからそれは確実だ。あそこは本当に平和だったと思う。例えば正体不明の笑い声が聞こえたりしない。なにが面白いのか、くすくすと笑っているモノを問い詰めたい欲求に駆られる。俺はこんなに怖いのになんで笑ってんだ。

86言理の妖精語りて曰く、:2007/11/04(日) 13:13:09
自由に単語を拾って書くリレー小説スレ。

87言理の妖精語りて曰く、:2007/11/11(日) 21:20:59
 子供の攻撃を頑丈な体で受け止めながら竜は察しました。集落が匪賊に襲われたとき、家族の手によって物置の奥底にでも隠されたのだろう。そして言いつけに忠実に何日も待ち、我慢しきれずに出てみれば、集落は地獄の有様で、竜が立っていたというわけだ。
 竜は空をみました。空の青はいつものように美しく、これが竜を苛立たせました。だから竜は子供をさらいました。
 それから子供は竜を親代わりとして成長し、恋人を妻に迎え、子供を無し、死んでいきました。この子供は竜と死に別れるとき、ありがとう、あなたの生に祝福あれといいました。竜は力の抜けていく手を握りしめて、もう十分な祝福をもらった、これほど施されて私はどうすればいいのだろうとこたえました。
 すると子供はいいました。今は黄昏の時代で夜明けはもう来ないだろう、未来が永遠の夜であっても私たちは生きねばならない、なぜなら生まれてしまったから、不条理なことだ、だから祝福してやってほしい、せめて慰めをあたえてほしい。
 こうして竜は竜を辞めて祝福する者となり、人間の傍らに在り続けました。
 世界の世界の終末まで。

88言理の妖精語りて曰く、:2007/11/11(日) 21:30:43
 これは暗い時代のお話です。
 地の果てには竜がいて挑戦者を待っていました。竜は神様から呪いを受けていて、自分を殺しに来る人間以外を食べることができませんでした。人間は神様に騙されていて竜を殺さないと大人になれないと思い込んでいました。
 竜と人間は殺し合い、血が砂にしみこみました。
 けれども時代が移り、竜の数が減り、人間の数もまた減ると、人間による竜殺しは行われないようになりました。それは寒くて貧しい時代のことで人間はとてもとても自分よりも強い者と戦うという気持ちになれなかったのです。
 あるとき生き残りの竜が気まぐれを起こして砂漠を出ました。行ったさきにはかつて自分に剣を向けた人間たちの集落がありました。そこは人間同士の争いで荒れ果て、誰も住んでいないようでした。けれども竜は1人の人間に気づきました。
 それはまだ小さな人間でした。まだ1人で生きられないほどの幼い人間でした。けれども人間は一本の薪を剣のように持って竜に打ちかかりました。

 かあさんをかえせ
 とおさんをかえせ
 にいちゃんをかえせ
 匪賊め、匪賊め
 かえさないと殺してしまうぞ!

 子供の攻撃を頑丈な体で受け止めながら竜は察しました。集落が匪賊に襲われたとき、家族の手によって物置の奥底にでも隠されたのだろう。そして言いつけに忠実に何日も待ち、我慢しきれずに出てみれば、集落は地獄の有様で、竜が立っていたというわけだ。
 竜は空をみました。空の青はいつものように美しく、これが竜を苛立たせました。だから竜は子供をさらいました。
 それから子供は竜を親代わりとして成長し、恋人を妻に迎え、子供を無し、死んでいきました。この子供は竜と死に別れるとき、ありがとう、あなたの生に祝福あれといいました。竜は力の抜けていく手を握りしめて、もう十分な祝福をもらった、これほど施されて私はどうすればいいのだろうとこたえました。
 すると子供はいいました。今は黄昏の時代で夜明けはもう来ないだろう、未来が永遠の夜であっても私たちは生きねばならない、なぜなら生まれてしまったから、不条理なことだ、だから祝福してやってほしい、せめて慰めをあたえてほしい。
 こうして竜は竜を辞めて祝福する者となり、人間の傍らに在り続けました。
 世界の世界の終末まで。

89言理の妖精語りて曰く、:2007/11/11(日) 22:19:36
たとえ

90<<妖精は口を噤んだ>>:<<妖精は口を噤んだ>>
<<妖精は口を噤んだ>>

91言理の妖精語りて曰く、:2008/02/14(木) 23:10:02
>>88
この話、なんか良いなぁ…

これに出てくる竜って概出の紀竜なんだろうか、ちょっと気になる。

92言理の妖精語りて曰く、:2019/11/11(月) 09:27:53
物語の破片は、果てなき時空の中でたゆたい続けている・・・・・・・・

93勇者(ワタシ)が中年(オジサン)になっても――――0:2020/04/28(火) 10:40:27
〈「ワタシ」にとってのプロローグ・1〉

あの頃、俺達は・・・いや「ワタシ」たちは、自分たちが何でも出来ると、全てが許されていると、そう思っていた。
それが、全ての間違いの始まりだった。

そう、アレは30年前、まだ俺が15歳、高校一年生の「ワタシ」だった頃の話だ。
「ワタシ」にとっての始まりは、一匹の野良猫だった。

そこから、全てが始まったんだ・・・・・・・・。


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