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150朔夜の宴:2007/04/12(木) 21:02:59
空を仰げば双満月が煌々と輝いている、今宵も私は彼の下へと赴いていた
周りには無粋な刺客達が各々の武器を手に私達を取り囲んでいる
そんな中でも彼はこの状況に気付いていないかの様に、ただ妖刀に目を奪われていた
私は、そんな彼を屠らんと次々に襲い掛かる刺客を愛剣で切り伏せ続けていく
不意に怖気の様なものを感じ振り返る、背後は無言で佇む彼の姿がある
だが、そんな彼の様子がいつもとは違った、その瞳がぬらりと狂気を帯び
視線は手元の大刀ではなく周囲で戦う我々の姿へと向かっている
その事実に愕然とした、私は取り乱しながらも空に目を向けた
そこには今まで確かに存在していた丸々と満ちた二つの月は既に無く
有るのは暗く陰りに犯されて、まるで闇に喰われてゆくかの様な新月の姿――
――朔の帳――
迂闊だった、双満月であるという事実に安心して、その存在を忘れていた
それは刺客の面々も同じであったようで狼狽えるのが手に取るように分かる
声を上げるのも忘れ、慌てた様にこの場を逃げ出そうとする彼ら
だが既に時は遅すぎた、先ほどまで辺りを照らしていた月明かりは既に無く
無音の静寂を撒き散らす闇の中、光る彼の瞳に晒され、どうして逃げられようか――
――かくして、惨劇と血の宴が幕を開く――
目の前に立つ者の頭部が弾けた、悲鳴を上げて背を向けた者の体が縦に裂ける
我武者羅に立ち向かう者達は振るわれた刀によって四肢を切断され
ただ震える事しか出来ない者は無造作に突き出された腕で臓腑を引き摺り出され絶命
罵声を上げ手元の武器を振り上げた者は、振り上げた両腕と共に首を落とされる
闇に包まれ一寸先も見渡せぬ中で、人々の絶叫と剣鬼の哄笑が聞こえる
慌しいまでの血塗れの葬送曲、だがそれも長くは続かず、遂には途絶える
既に周りには、彼と私の二人だけしか動くものは無く
彼は無言で私に近づいてくると、壊れた笑みを浮かべ私の頭上に凶刃を振りお――
――月の明かりが周りを照らし出した――
血の宴は終わり、狂う剣鬼は空に浮かぶ双満月を仰ぐ
先ほどまでの狂気は既に無く、虚ろな瞳はただ月光に煌き、掲げた妖刀だけを見つめている
私は震える体を抑えて彼の下へと向かう、例え側まで近づこうとも、その瞳に私の姿は写らない
無言のままの彼の手を取り近くの泉へと誘う、血に塗れた彼を自身の身体を使い清めてゆく
こびり付いた血と肉の欠片を濯ぎ落とし、はだけた彼の胸元にしな垂れかかる
月明かりの下、青白く浮かび上がる端正な彼の顔に手を添えて、その唇を奪う
口内を這う舌の感触すら今の彼は感じていないかの様、まるで身動ぎ一つしない姿に私は涙した
私は壊れてしまったのだろうか――
嘲いながら人を殺す彼の姿を、ただ愛おしいと感じる私は狂ってしまったのだろうか?
今、私の胸の中にいる、妖刀に魅入られた剣鬼と同じように? もしそうなのならば、私は――
――東の空が白み始める――
私は、いつもの様に彼の側を離れてゆく、日が昇り月が消えれば彼はまた元の鬼へと戻る
次の双満月の夜まで会うことはない、其れまでに出会ってしまえばそれ即ち死への直送便
彼に殺されるのならば本望ではあるが、その後、彼と会えなくなる事を考えると未だ死ぬ事は出来ない
さあ、この一月の間は何をして暇を潰そうか、その間の彼は一体何を?
愛しき姿を夢想する、きっと彼は相も変わらず人を殺め続けるのだろう、そう思い当たり笑みを浮かべる
こんな私は、きっと壊れているのだろう――
だが其れも悪くは無いと思う、狂った自身の心に満足を浮かべ、私は宛て無く歩き出した。


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