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物語スレッド
141
:
竜と竜と白の巫女
:2007/03/23(金) 00:11:35
2・2
「一位様、聞きましたか」
「・・・・・・何をです」
身が入っていないと活を入れようかと思うくらい浮ついた威力竜の巫女を、界竜の巫女はじとりと見据えた。
大の男が逃げ出すその眼光を、しかし威力竜の巫女は軽く受け流す。何を考えているのか分からない微笑みは薄く、何かの皮を顔に張り付けてでもいるようだ、と界竜の巫女は思う。
「土竜の噂です。噂」
「土竜?」
はてな、と界竜の巫女はいぶかしんだ。【土】という概念と関連付けされる竜は多くいるが、その多くは寒冷な大陸東部にはいない筈である。
今は夏とはいえ、棲家を変えることは竜にとって生命を移す事だ。この近辺で土竜が現れるはずが無い。
そんなこと、竜神の巫女ならば理解している筈だが―――
「ああ、違うんです。これが、土竜神とかいうのらしくて―――」
「土竜神(ラバルバー)?」
異教の神の名が出てきたことに界竜の巫女は戸惑い、そして眉を顰めた。
土竜神、というのはゼオーティア教圏では有名な神格で、かの球神の眷属ラバルバーが西の無鱗王の剥落した鱗の魔力によって竜となった存在である。
つまりは、ゼオートの神話における竜神信仰であり、かの竜神を信奉する者たちにとっては竜神信教は歓迎すべき隣人となる。
こちらにとってもそれは望ましい事であり、こちらが相手側に好意的な接触を行う時、ラバルバーは必ずといっていいほどよく引き合いに出される。
「その、ラバルバーが、何か?」
「あ、はい。 えっとですね。 九位様が、見たそうです」
「何をですか」
「ええですから土竜神を」
「は?」
「ですから、土竜神、を」
界竜の巫女は眉根を寄せて人差し指で眉間を押さえた。
「また、あの娘は―――」
「いや、九位様は第一発見者で!」
え? と界竜の巫女が疑問を提示する前に、威力竜の巫女は噂の内容を簡潔に説明した。
曰く。
荒野の【跡】が深夜になると起き上がる―――言葉にすると怪談じみているが、目撃した神官や衛兵が多数いるというのだからその信憑性は高い。
何故それほどの大事になっているのに自分の耳に入っていないのか。
考えて、すぐさま気付く。
恐らく、導師の緘口令が布かれている。
あの男は若年ゆえに大神院に対する敵意は長老たちより強い。なまじ被害を直撃させられた世代であるため、教義そのものに反していようがゼオートの神話に連なるものは全て切り捨てようとしているきらいがある。
今回の件もそれだ。
あの竜導師長はゼオートの教義を認めたがらない。あちら側の神が現れた、などと、例えそれが竜であっても許しがたいことには違いないのだろう。
なるほど、と納得する。
「どうもこの噂、拗れそうですね」
「?」
わかっているのかいないのか、読めない表情で威力竜の巫女は小首を傾げた。
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