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( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです

1ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2016/09/23(金) 23:19:53 ID:tPVEEtDg0
前スレ
( ^ω^)達は今が楽しければなんでもいいようです
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1438259918/

支援曲 Answer(すーぱーもぐりん氏より)
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/link.cgi?url=https%3A%2F%2Fyoutu.be%2F-c3XqxQ_j2A


ゆっくりまったりと。2スレ目でもよろしく。

582ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:04:05 ID:9TEURJuU0

 夢を見ていたような気がする。

 どんな夢かは思い出せないけれど、
 不思議なことにぼくは以前にも同じ夢を見たことがあるような気がした。

 きっと、物心がついたばかりか、あるいはもっと昔のこと。

 手を伸ばした先に広がる景色はきっと壮大で、ぼくは自分の矮小さが怖くなってしまう。

 押し潰されそうになって。弾き出されそうになって。

 きっと、そんな夢だった。

.

583ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:04:32 ID:9TEURJuU0

 目を覚まして真っ先に目についたのはシミ一つない綺麗な天井だった。
 起き上がろうとすると上体に痛み。身体はマシュマロのような柔らかいベッドに沈む。
 沼みたいだと、思った。

o川*゚ー゚)o

 自分がベッドに横たわっているのを認識するのと、彼女の存在を認識するのはほぼ同時だった。
 歳は十三、四。あるいはもっと幼いかもしれない。
 ぼくよりも年下であることは間違いないだろう。
 極端に細い首から、身体の華奢さが伺える。
 それを隠すような派手な着物、背中で結んだ豪奢な帯がアンバランスだ。

 ちょうどぼくの腰骨の真横あたりにちょこんと座っている彼女は、
 布団越しのぼくの腕に、その細い手を預けていた。

.

584ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:05:01 ID:9TEURJuU0

( ^ω^)「はじめまして」

 仰々しい存在感を放つ着物の下の少女が、
 大声を出すと消し飛んでしまうんじゃないかと、本気で思った。
 自分の声がひどく間抜けでたどたどしい。
 
 彼女をくすくすと、まるで絹を擦るような細い笑い声を零した。

o川*゚ー゚)o「ふふっ、はじめまして」

 わざとらしく小首を傾げてみせて、その表情は妙に婀娜っぽい。 
 誰かに似ていると思ったが、その答えはすぐに見つかった。クーさんだ。
 ドクオから話だけ聞いたことがある。
 クーさんとは似ても似つかない凶暴な妹がいるということ。
 妹の名前はたしか……

.

585ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:05:25 ID:9TEURJuU0

( ^ω^)「素直……ヒートちゃん?」

 少女は目を丸く見開いて、何度か瞬きをした。
 そしてまた、彼女はくすくすと笑う。
 自分が道化にでもなったみたいだ。
 なぜだか分からないけれど、この子に見られると全てを見透かされているような不安感に駆られる。

 ドクオ曰く、素直ヒートは竹を割ったような単細胞だとのこと。
 話に聞いていた人物像とは大きくかけ離れている。

(; ^ω^)「あの……ぼく、何か可笑しなことをしたかお?」

o川*゚ー゚)o「いーえ。ごめんなさいね、ただあの子が聞いたら怒るだろうなーと思って」

.

586ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:05:53 ID:9TEURJuU0

( ^ω^)「お? それはどういう……」

 と、聞きかけたところで部屋の戸が勢いよく開いた。
 入ってきたのはぼくが知るあの人。

川 ゚ -゚)「起きたか」

 風呂あがりだろうか少し離れたところからでも、シャンプーの良い匂いが漂ってくる。
 うっすらと濡れた髪をタオルで乾かしながら、部屋着であろう大柄なシャツの裾を片手で伸ばす。
 ちらちらとシャツから覗く丈の短いパンツから伸びた脚には痛々しい傷が無数に刻まれていた。

 ぼくだったら、きっとしゃんと歩くこともままならないだろう。
 けれどクーさんはしっかりとした足取りで近づいてきて、ぼくの傍らで座る少女を見下ろす。
 
 そして、少しばつの悪そうな顔をして……

川;゚ -゚)゙「母さん、鍋が吹きこぼれてましたよ」

.

587ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:06:15 ID:9TEURJuU0

(  ゚'ω゚)「え”」

川 ゚ -゚)「む?」

o川*゚ー゚)o「あ」






(  ゚'ω゚)「えええええええええええええええええええええええッ!?」


.

588ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:06:38 ID:9TEURJuU0

 ぼくは今日、初めて吸血鬼以外の人外を見た。

.

589ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:07:08 ID:9TEURJuU0

 素直家に関するあれこれ。
 箱庭時代にぼくが住んでいた地域とここはあまりに離れているので、彼女らに関する逸話についてはドクオからの又聞きという眉唾ものの情報ということになる。
 だがあの人外こと素直キュートさんを見た後ならば、大抵のことは信じざるをえないだろう。

 素直家は由緒正しい(という表現が適切であるかは疑わしい)この国の裏社会の統治者の家系で、
 当主素直トールを筆頭に、彼らは剣という太古から伝わる武力をただひたすらに極め、継承し続けた。

 素直家という集団が裏社会において剣の象徴へと昇華されたのは一体何代前からの話であるか、
 それはドクオにも分からない。
 きっとそうやって神格化する者達の中にも、それを知る人間はいないのだろう。

 そのようにして君臨し続けた彼らは裏社会の、バランサーのような役割を担うようになり、
 血みどろな世界にあるにも拘わらず、徒に暴力を行使することを辞めた。

 .

590ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:07:31 ID:9TEURJuU0

 彼らがその力を行使するのは、主にこの地域で吸血鬼の異常発生が起きた際。

 世界的に見れば不死の吸血鬼を駆除するのはヴァンパイアハンターと呼ばれる、特別な武装(銀の銃弾や心臓潰しの杭などを指す)を持った専門家であることが一般的だが、
 素直家は単純な力を以て、グールのみならずこれまで十数体のイノヴェルチの討伐に成功している。

 その他にも、地域の治安を著しく悪化させる恐れのあるシリアルキラーの抹殺、
 裏の市場を独占せんとする大きなカルテルの殲滅など、この家のバランサーとしての成果を挙げるときりがない。

 まるで自警団みたいだと思う。
 それでも彼らが裏社会の住人としての立ち位置に甘んじている理由が何なのか、
 ぼくはほんの少し気になって、ドクオに聞いてみた。

.

591ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:08:01 ID:9TEURJuU0

('A`)「むっずかしいこと聞くなお前は。そんなもん本人らに聞けばいいだろ」

(; ^ω^)「なんだか恐れ多くて……」

('A`)「今からそんなに肩肘張ってたら明日から身が持たねえぞ」

 二人で食べるには大きすぎる土鍋の中でぐつぐつと煮える肉を箸で掬いながら、
 ドクオはわざとらしく溜息を吐いた。

('A`)「明日から早速修行だ。こうやってのんびり美味い飯を食える日なんて当分こねえぞ」

(  ゚ω゚)「ご飯ぬきかお!?」

('A`)「メシを口に突っ込む気力すら残らねえってことだよ」

(; ^ω^)「なんだ、そういう……」

('A`)「なんだとはなんだ。ほんとお前は能天気なやつだよな……」

592ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:09:54 ID:9TEURJuU0

 ドクオの呆れ顔が不意に強張った、ように見えた。

(; ^ω^)「お?」

 ぼくは意図的にその目を見ないようにして鍋をつつくが、視線が刺さる感覚が拭えない。

( ^ω^)「……どうかしたかお?」

('A`)「いや……」

 慎重に、言葉を選んでいるのだろうか。
 何かを吐き出しかけては飲み込んで。
 露骨に腫れ物に触れるような態度を示してくるものだから、ぼくも同じように言葉が詰まってしまう。

('A`)「お前って、何者なんだろうな」

 そう問われて、即答出来る人間がどれだけいるだろうか。

.

593ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:10:15 ID:9TEURJuU0

 たとえばぼくが学園に入学した時ならば、
 ぼくは内藤ホライゾン、乞食をやっていました。ブーンと呼んでほしい。
 と、当たり障りのない自己紹介をしてみせるのだろう。

 不安になってくる。
 自己評価を極端に下げて、ぼくは何者でもない只のエキストラであると下卑た態度を取っていれば、
 誰もが自分から興味を失う。
 そういう風になっていれば、幾分か気が楽になることだろう。
 少なくとも、ぼくが乞食だった時期はそれが罷り通っていた。

 ( ^ω^)

 けれど、今はそうもいかない。
 不意に、堪らえようのない動悸がする。喉が焼け付く。
 その不安の元凶が自分の中にあるとはっきりしているからこそ、
 こんなにやりきれない気持ちになるのだろう。

.

594ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:10:37 ID:9TEURJuU0

 ドクオの顔を見て、ぼくは確信を得た。
 プギャーさんと対峙してキュートさんが現れて、
 その間のぽっかりと空いた空虚な時間の中に、
 ぼくの知らない何かが首を擡げて現れたのだろう。

 前にも一度だけそういうことがあった。
 あれは確か金に困ってドクオの仕事を手伝った時だった。
 あの時は、確か強くなることに躍起だったのだと思う。
 自分には何でも出来る力があると、そんな驕った全能感こそ無かったけれど、
 自分はこの学園に何者かになれると、無条件に信じ切っていた。

 だから必死だった。
 自分でもよく分からないくらい必死に空回りして、気付いたら、

 ヒッキーは肉塊になっていた。

.

595ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:10:59 ID:9TEURJuU0

 きっとドクオが手持ち無沙汰になる程度に考え込んでしまっていたのだろう。
 爬虫類のような顔がとても眠そうで、それでいて、どこか所在なさげだった。

('A`)「忘れてくれ。変な質問だったな」

( ^ω^)「いや……」

 箸を置いて、部屋を出ようとするドクオの背中に。

( ^ω^)「何者かになれるように頑張ってみるお」

 ドクオは振り向いて、少し驚いたような顔をして……

('A`)「おう」

 柄にもなくにっこりと笑ってみせた。
 彫りの深い二重瞼が山なりに垂れ下がっていて、少し間抜けに見えた。
 けれど、とても安心出来た。

.

596ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:11:19 ID:9TEURJuU0

( ^ω^)「あれ、自分の部屋どこだっけ」

 時刻はちょうど零時を回った頃。
 寝る前に用を足したはいいものの、素直邸は頭が当主の頭が可笑しいんじゃないかと思うくらいには広かった。
 辺りに他の建物はなく、家を照らすのは月と星の光のみで、空気が静まり返っている。

o川*゚ー゚)o「いい場所でしょ」

 廊下の向こうから白い着物を纏ったキュートさんが現れて、ぼくはどきっとした。
 夜の闇と彼女の境界は曖昧で、幽霊みたいだなと思った。

( ^ω^)「こういうところには初めてきましたけど、なんだか落ち着きます。すごく」

o川*^ー^)o「あははっ、なんにも無いからね。ブーンくんはニチヤの方の出身でしょう?

(; ^ω^)「え、ああ、はい。二茶重工の近くに住んでましたけど……」

.

597ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:11:41 ID:9TEURJuU0

 自分の出身について語ったのはドクオが最初で最後だった筈だ。
 キュートさんがずばり言い当ててきたことにぎょっとしていると、彼女はくすくすと笑った。
 よく笑う人だなと、思った。

o川*゚ー゚)o「懐かしいなあニチヤ。最後に行ったのはロマくんを実家に送った時だっけか」

(; ^ω^)「え……」

 ぼくは、彼女の口からその名が溢れた瞬間、思わず彼女から遠ざかった。
 彼女はまた、くすくすと笑った。

o川*゚ー゚)o「驚かせてごめんなさいね。あなたのお父さんのことはよく知ってるよ。友達だったから」

 想像すら出来なかったけれど、考えてみれば不自然なことではない。
 国内の軍需産業の中でトップを駆け抜けていた大企業の社長と、この国の裏社会の統治役を担う家。
 むしろ繋がらない理由を考える方が難しい。

(; ^ω^)「そう、ですか」

.

598ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:12:03 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「あの時はまだ産まれたばかりで、あんなにちっちゃかったのに」

 小柄な身体が踵一つ分だけ伸びて、細い腕が着物の袖から現れる。
 細い指が頬に触れて、すぐ掌の温みを感じた。

o川*^ー^)o「おっきくなったねえ、ホライゾンちゃん」

 自分ですら覚えていない、遠い昔のぼくのことを知っている彼女が、
 邪気の無い笑顔を見せてくれていることに、言いようのない安堵感が芽生えたような気がした。

 二茶の家なんてろくなもんじゃない。
 母さんはぼくの父ロマネスクに捨てられた。そしてぼく自身も……
 乞食だった時期から更に遡り、あの箱庭時代を思い出す時、ぼくはいつもそれが他人事であるかのように振る舞って、時には語り聞かせるように夢想したけれど、キュートさんの顔を見ていると、こんな自分も産まれた時は祝福されたのかなんて、思ってしまった。

( うω^)「……」

 本当に唐突に、喉の奥に鉛が詰まってしまって、それを飲み下そうとすると代わりに目から溢れるものがあった。
 それが恥ずかしいと思うくらい、ぼくはまだ子供なのだろう。

.

599ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:27:08 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「あらあら」

( うω`)「茶化さないでくださいお」

 いたずらっぽくくすくす笑う彼女の手を払って、ぼくは縁側に腰掛ける。
 キュートさんも同じようにぼくの隣に座る。
 ちょうどぼくの肩と同じ高さに彼女の頭があった。

o川*゚ー゚)o「本当に、お母さんそっくりね。口元だけはお父さん譲りかな」

( ^ω^)「そうですかお? 母さんにはあまり似てないものだと……」

o川*゚ー゚)o「んーん、そっくり。凄く穏やかで、にこにこしてるのを見ると安心する」

(; -ω^)「それは……どうも」

 面と向かって自分の顔についてああだこうだと言われたことがないので緊張する。
 彼女の容姿がぼくより年下の少女にしか見えないのでまだましだけれど、
 自分より遥かに年上の女性に言われているのだと思うと、どう反応していいのか分からなくなる。

.

600ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:50:43 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「二茶が潰れたのは確か……三年前だっけ。大変だったね」

( ^ω^)「はい。まぁあの時は本当になし崩しだったので、適当に流されてたらこうなっちゃいましたけど……」

o川*゚ー゚)o「またまたテキトーだなんて……三年間よく頑張りました」

(; -ω^)「はい……」

 なんでも手放しに肯定されるような感覚がとてもくすぐったい。
 同世代の人たちと話していると、まず経験することのない感覚だ。
 思えば乞食時代も比較的若い連中とつるんでいたし、学園に入ってからは勿論歳の近い人としか話す機会はほとんど無い。

 大人からはぼくはどんなふうに見えているのだろうか。
 考えたこともなかった。

.

601ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 22:59:16 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「クーちゃんからきみが来るって聞いた時は本当にびっくりした。けれどこうして実際に見ると、うーん……」

(; ´ω`)「な、なんですかお」

o川*゚ー゚)o「本当に、生きててくれてよかったって思うよ」

(,”;;´ω`)「おっおっ」

o川*゚ー゚)o「あとごめんなさいね。きみが大変な時に何もしてあげられなくて。本当だったら、素直家の方で世話するべきだったんだけど」

(; -ω^)「流石にそこまでしてもらうのは悪いですお。それにこう見えてタフな方ですから……」

o川*゚ー゚)o「んーん、きみのお父さんとの約束だったからさ」

( ´ω`)「……」

.

602ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:07:24 ID:9TEURJuU0

 キュートさんは、きっと良い人だ。
 だからぼくは彼女が父さんについて言及すると、胸がちくりとする。
 それなのに……

o川*゚ー゚)o「お父さんのこと、嫌い?」

( ^ω^)「……だいきらいですお」

 自分を悲劇の主人公に仕立て上げることは、とても卑しいことだと思う。
 自分の境遇に責任を擦り付ければ全てが許されるわけではないのに、
 そのように過去を悲観していると、それだけで自分が子供のままでいることが肯定されるような気分になるのだ。
 それはとても気持ちのいいことで、けれどずっとそのままでいるわけにはいかなくて……
 それでも……ロマネスクがぼくと母さんを物のように捨てたことは事実だ。

 それを笠に着るわけではないけれど、ぼくはきっと、一生彼を許さない。

o川*゚ー゚)o「……そっか、そうだよね」

 キュートさんが悲しそうな顔をする。
 申し訳ないという気持ちはあるけれど、ぼくは意図的に彼女から目を逸らした。

.

603ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:17:14 ID:9TEURJuU0


( ^ω^)「キュートさんは……」

o川*゚ー゚)o「うん」

( ^ω^)「キュートさんは、父さんのこと好きでしたかお?」

o川*゚ー゚)o「あー……」

 言い淀む。ロマネスクはきっと、彼女にとって良い人だったのだろう。

o川*゚ー゚)o「ぼくがロマくんのことが大嫌いって言ったら悲しい?」

( ^ω^)「……たぶん、悲しいんだと思います」

 ぼくは父さんが嫌いだ。
 父さんの名前を聞くだけで腹が立つけれど、父さんを貶められると、きっと嫌な気分になる。
 そんな気がした。

 二茶の破綻は当時この国にとって大きな出来事だった。
 当然ぼくが露頭に迷っている間、潰れた二茶についてああだこうだという人はいたけれど、
 ぼくは意識的に彼らから距離を置いていたと思う。

 それは自分の家を非難されているからではなく、認めたくないけれど、父さんが作り上げたものを否定されたからなのかもしれない。

o川*゚ー゚)o「そっか」

 キュートさんは意味深に、深く頷いてみせた。

.

604ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:25:55 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「息子のきみにこんなこと言うのもあれだけどね、大好きだった。最高の友達だったよ」

( ^ω^)「そうですか……」

o川*゚ー゚)o「悲しくなった?」

( ^ω^)「いえ……」

 かなしく、ない。

( ^ω^)「ぼくは父さんが大嫌いだけれど、父さんは偉大な人だと思うし、ぼくは息子として誇りに思います」

 そんな矛盾した言い分を、キュートさんはうんうんと頷いて聞いてくれる。
 だから彼女は大人なのだろう。
 大人はとても寛大で、いいヒトだ。
 きっとロマネスクも……外ではそうだったのだろう。

(  ω )「なんだか、ちぐはぐですおね」

.

605ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:36:12 ID:9TEURJuU0

o川*゚ー゚)o「そんなことないよ」

 有り体に言うと、吐きそうだ。
 動悸がする。たった一言を、父を知る彼女に吐き出してしまえたら楽なのだけれど、
 それが出来ずにこうしてわざとらしく不貞腐れる自分が嫌になる。

( ^ω^)「……」

 また、涙が溢れる。
 拭う気にもなれなかったから、ぼくは月を見上げた。

o川*゚ー゚)o「……」

 きっと彼女はすごく困るだろう。
 けれど、限界だった。
 三年間という月日は、人によっては短いのかもしれない。
 けれどぼくにとっては、この疑問を抱えたまま過ごすにはあまりにも長い月日だった。

( ^ω^)「父さんは、なんでぼくと母さんを捨てたんですかお?」

.

606ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:44:56 ID:9TEURJuU0


o川*゚ー゚)o「……ごめんなさい」

( ^ω^)「……」

o川*゚ー゚)o「本当に」

( ^ω^)「…………」

o川*゚ー゚)o「ごめんね」

 そうじゃない。ぼくが求めていた答えはそうじゃない。
 それでも言えない事情があるのだろう。
 それはぼくを思ってのことか。彼を思ってのことか。
 この際どちらでもいいけれど、大人に裏切られた気がした。
 すごく子供らしい感情の機微だなと、見下す自分もいた。

( ^ω^)「……だいじょうぶです」

607ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:54:50 ID:9TEURJuU0

 前を見るしかない。
 全部飲みこんで、躍起になって力だけ求めてしまう、そんな虚しい人間になってしまわないように。
 いろんなものを取り戻すために、ぼくは今より少しだけ強くなりたい。

 父さんを始めとする大人達の事情も、
 ハインが今どんな気持ちでいるのかも、
 今はさっぱり分からない。惨めだ、これ以上ないくらい惨めだ。

( ^ω^)「明日からよろしくお願いしますお」

o川*゚ー゚)o「うん」

 キュートさんが力強く頷いた。

o川*゚ー゚)o「きみがもう二度とそういう顔をしなくて済むように、ぼくが責任を持って鍛えます」

 ハインと、朧げな父さんの顔が脳裏を過った。
 今日の月は綺麗だ。星が今にも降ってきそうで、手を伸ばせば届きそうな気がした。

.

608ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2018/10/21(日) 23:56:17 ID:9TEURJuU0
たった三十回投下するのにこんなに月日がたったのかと自分の怠け癖に辟易してます
また

609名無しさん:2018/10/21(日) 23:58:51 ID:GRvUU8yw0
おつ!

610名無しさん:2018/10/21(日) 23:59:40 ID:BrRMkiQc0
乙です

611名無しさん:2018/10/21(日) 23:59:47 ID:vMVe3N1.0
乙乙
やっぱ面白いわ

612名無しさん:2018/10/22(月) 00:06:29 ID:HHCepLzo0
乙!!!
ブーンもんなんだかんだ思春期の少年なんだな

613名無しさん:2018/10/22(月) 00:17:26 ID:.YTALj8g0
乙です( ^ω^)

614名無しさん:2018/10/22(月) 16:47:20 ID:mYhCEonc0

マイペースで続けてくだせぇ

615名無しさん:2018/10/22(月) 22:00:46 ID:4XsmKQ4c0
おつ!
ロマネスクばっちり生きてんじゃねぇかどうなんただこれ

616名無しさん:2019/03/12(火) 12:39:22 ID:AUBPvmrA0
まだ信じてる。
きっと続きを書いてくれる。

617名無しさん:2019/03/12(火) 15:28:32 ID:4Ln2q5Qc0
一月におわはじラジオに顔出してたし
その内戻ってくるだろ

618名無しさん:2019/03/12(火) 23:43:01 ID:M0B/ga5c0
生存が確認できるだけでもうれしい
俺も待ってるぞ

619ゆゆ ◆AdHxxvnvM.:2019/06/26(水) 01:19:25 ID:u2taR91M0
近々投下。数日以内に。。。

620名無しさん:2019/06/26(水) 02:29:14 ID:tgXGa.Yo0
マジかありがたい
無理しないでマイペースで投稿しておくれ

621名無しさん:2019/06/26(水) 02:58:40 ID:/bYmV5U60
っしゃオラやったぜ楽しみだ

622名無しさん:2019/06/29(土) 01:40:07 ID:KgB48MEA0
ふと今楽の存在思い出したら生存報告が!
焦らないでいいから今すぐ投下して

623名無しさん:2019/07/06(土) 21:34:54 ID:dzvSOVWs0
いつまでも待ってるぞお

624名無しさん:2019/07/23(火) 07:28:42 ID:BahvFvMY0
まだかなーまだかなーチンチンチン

625名無しさん:2019/08/01(木) 12:51:08 ID:mv4wtyMg0
夏バテ気をつけろよ

626名無しさん:2019/08/25(日) 08:46:36 ID:pjULYHqo0
ほんといつでもいいんで続き待ってます
今一番楽しいのこれなんです

627名無しさん:2019/08/25(日) 23:41:40 ID:iX1g9azM0
いつでもいいので今すぐお願いします!

628名無しさん:2019/09/17(火) 02:00:34 ID:eFTNzL2A0
ブーン系の富樫

629名無しさん:2020/04/27(月) 03:04:30 ID:alG2jnQI0
生存確認から10ヶ月経つけど生きてるのか?

630名無しさん:2020/07/16(木) 00:53:00 ID:CezRnAuY0
俺のレスから1年経とうとしてます!
本当に、いつでも、いいので今すぐ復活お願いします!

631名無しさん:2023/09/30(土) 23:12:16 ID:ME2ydxHE0
最後の投下からもう5年近く経つのか…頼むよ


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