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リゾナントブルーのMVからストーリーを想像するスレ 第159話

1 名無し募集中。。。 :2017/10/16(月) 20:06:02
明日もよろしく。その次の日も。そのまた次の日も。

星が散って、落ちていく。
辿り着いた先でもまた、多くの光に囲まれるだろう。
自分の手と足で集まれ光よ、胸の高鳴る方へ。


第158話 「保全作(愛ガキ・ぽんぽん)」 より


前回のお話はこちら
【小説】リゾナントブルーのMVからストーリーを想像するスレ 第158話
http://matsuri.5ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1506948051/


【用語】@wiki
http://www39.atwiki.jp/resonant/

【過去】第1話〜第20話のログまとめ
http://resonant.web.fc2.com/

【保管1】まとめサイト(仮)※第1話〜第24話の小説は収録完了
http://www45.atwiki.jp/papayaga0226/

【保管2】まとめサイト Ver.2 第25話〜第43話
http://resonanter.blog47.fc2.com/ ※IEで閲覧できない場合は火狐かChromeの導入を推奨
http://www61.atwiki.jp/i914/ IEの方はこちら

【保管3】暫定保管庫(まとめサイト3) 第44話〜第104話
http://www35.atwiki.jp/marcher/

【保管4】まとめサイト Ver.4 過去ログ保管・編集中 第105話以降
http://resonant4.cloud-line.com

【スレのテンプレ・感想・作品のあとがき 他】したらば掲示板
http://jbbs.shitaraba.net/music/22534/

193 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:41:18


血を見るたび。
人が血を流しているのを見るたびに。

美希は、あの日の悪夢を思い出す。
黒衣の魔女が、美希のいたアラバマの片田舎を瞬く間に絶対零度の地獄へと落とし込んだあの日を。
草原が氷の荊と化し、水は凍りつき、至るところから生えてきた氷柱が逃げ惑う人々を次々に貫いた。
噴き出し、地面を濡らす血。それすらも、赤黒い氷に変えられていた。
そして無慈悲な氷の女王の目に、美希が止まる。

― へえ。こんな糞田舎にも、能力者がいるんだ ―

言いながら、ゆっくりと魔女は美希に近づいてゆく。
美しい、しかし心すら凍えさせるような冷たい表情。

― マルシェへの手土産に、ちょうどいいかもねえ ―

やがて、その氷の腕が怯える少女に向かって伸ばされ。

それは、美希の両親によって阻止される。
娘を守るため。絆が引き裂かれないように。彼らは、命を懸けて魔女から美希を遠ざける覚悟でいた。
だがしかし。美希の愛すべき両親は、一瞬にして氷の彫像に変えられ、情け無用に砕かれる。

おとう…さん、おか…あ…さん?

つい昨日、暖かな料理を囲み楽しい夜を過ごした父と母は。
週末に、一緒に買いものに行くと約束してくれた父は。
ローストチキンの美味しい焼き方を教えてくれると言ってくれた母は。
氷の屑となって散った。

「う…あ…あああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!」

― あぁ、うぜえ。美貴、泣きわめくガキとか…嫌いなんだけど ―

相手が美希の住む町を氷の地獄に変えた魔女だろうが、何だろうが。
美希は、許せなかった。一瞬にして彼女の幸せを奪っていった、悪魔のような存在を。
体が、勝手に動いていた。許せない。絶対に。

そこから、ぷつりと意識が途切れる。
次に気が付いたのは、病院のベッドの上。
助けてくれたのは、「機構」のエージェントと呼ばれる人間たちだった。
彼らの話によれば。激昂した美希は、通常ではありえない「能力」を発動し、氷の魔女を怯ませたのだと言う。
その隙に、エージェントたちが美希を救い出し、そして彼女を護りながら何とか追撃を断つことに成功したのだ
そうだ。少なくない命の、犠牲を払って。

それから。
美希はそうなるのが当たり前のように、エージェントの見習いとして「機構」の一員となった。
はじめのうちは見習いに相応しい実力しか発揮できなかったものの、「機構」のとあるエンジニアが制作したプ
ロテクトスーツとの出会いが彼女の運命を激変させる。
スーツとの高い和合性を示した美希は瞬く間に「機構」で名を上げ、ついには若い身でありながら「機構」指折
りのエージェントとして知られるようになったのだった。

194 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:43:28


「あんた…『紫電』のチェルシーやろ」

ピンクのナース服に、皮のベストというアンバランスな組み合わせの女。
女の表情には再び厭らしい笑みが戻っていた。

「さすがはこの地区随一と謳われる闇組織の幹部。ご存じでしたか」
「うちのグループはワールドワイドな活動を標榜しとるんやで。アメリカさんが飼ってるワンちゃん
のことくらい、知ってて当然…やろ?」

美希が、女を一目見て感じたのは。
人懐っこい笑顔の奥の、冷酷。そして、いかなる策謀を用いてでも自分の得意エリアに持ち込むよう
な狡猾さ。
そういう意味では、既に彼女の「策」が発動している可能性について考慮しなければならない。
しかし、まず彼女が考えたことは。

「春水ちゃんを離せ。相手は、私がする」

春水の、安全の確保だった。
そこには「もう二度と自分の前で命を失わせない」、という過去の惨劇への誓いとともに。
傍から見れば得体のしれない組織のエージェントである自分に対して、まるで学校のクラスメイトの
ように接してくれた春水への特別な感情があった。春水は既に、美希にとって失いたくない存在にな
っていた。

「あほか。せっかく敵の弱みを握ってるのに、それを手放すわけないやろ」

しかし女の言葉はあくまで無慈悲だ。
むしろ、春水を囮にして何かを仕掛けている節すらある。いや、そう思わせること自体が、女の仕掛
けた罠なのか。

「ほな、いくで。精々がんばりや」

気の抜けた調子とは裏腹に。
女が鋭く、動く。放たれたナイフは、まるで強い力に引っ張られたかのように急に速度を増しながら
美希に迫りくる。

後ろの何かを、既に磁石に変えた?

力の元を察した美希は、その後ろの物体と飛来物との距離を瞬時に計算しナイフを避けることに成功
する。

「ええ動きやね。せやけど…いつまで続くん?」

言いながら、次々にナイフを飛ばしてくる女。
迫る刃は次第に、速く、鋭くなってゆく。

「うちの磁化は、時間を追うごとにどんどん強うなるで。おとなしく刺されとき」
「はい、そうしますなんて、言えません!!」
「ま。どっちでもええんやけど。これでしまいやし」

手持ちのナイフがなくなるまで避け続ければ、という美希の目論見。
それは、女の背後から飛んでくる無数の何かによって崩壊する。
回避不能と見た美希は、プロテクトスーツから唯一露出している頭部を両腕を組むようにして防御、
次の瞬間に横殴りの雨のように硬く細かい物体が一斉に降り注いだ。

195 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:45:30
全身を襲う衝撃。
だが美希は体を前傾姿勢にして、その一斉掃射にも似た攻撃を耐えきった。
被弾した場所のあちこちから煙が出ているものの、スーツと肉体にダメージは無い。

「…さすがに頑丈やね、そのスーツ」
「ええ。私の『自慢』ですから」
「でもな。まだまだ続くんやで、これ」

女の背後が、光で照らされる。
夜の闇を払う、大掛かりな投光器。そこには、10や20ではきかないほどの大人数が待機していた。
そして、一際目立つ存在。うず高く積まれた、産業廃棄物の山。

「安心しいや。こいつらはうちらの戦いは邪魔せえへん。ただの『弾薬補給係』やで」
「なるほど。その人たちがさっきの」

美希の推測に答えを出すかのように、戦闘員たちは、産廃の山肌をシャベルで掘り返す。
汚泥に混ざって出てくるのは、手のひらに収まる程度の金属片、ボルト、ナット等。
これらが、磁力に引かれて超高速の弾丸となっていたのだ。

男たちはにやつきながら、掬った汚泥を地面にばら撒く。
次の瞬間、意思が宿ったかのように中の金属片が浮遊し、空を裂いて美希に襲い掛かった。

正確に言えば、美希ではなく美希の背後にある何かに向かって飛来しているのはわかっている。故に、
避けることは困難ではない。ただ、その物体が何かを確認することはできない。隙を見せたが最後、
相手が自分を磁石化させるために触りに来るのは明らかだからだ。

「そろそろ触りたいんやけど。うち、女の子のお尻触るの好きやねん」
「…bitch」

美希はそう吐き捨てると、今度は攻勢に回るべく一直線に突き進む。
恰好の的、とばかりに飛んでくる金属の塊。だが、それは美希のプロテクトスーツに届く前に弾かれ
た。

空気の障壁。
自らの領域内における空気の温度・湿度等を操る美希の「空気調律」の防御手段。
急激な温度差を作り出すことにより一瞬にして激しい空気の流れを作り、防御壁とする。もちろん、
何度も連続して使えるものではないが、相手に接近するまでの一時しのぎには十分すぎる代物だった。

「自ら触られに来るなんて、あんたも相当好きもんやな!!」

相手の能力の性質上、肉弾戦に持ち込むことはできない。
ただし、至近距離からの「放電」ならば。
敵のリーチが届かないぎりぎりの場所で、美希は紫の電撃を繰り出した。

196 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:46:55
ノーモーションの飛び道具、だが女もあり得ないほどの超反応でそれをかわす。
直後に背後で悲劇が起こった。いきなりやって来る砲撃になす術も無く、女の部下たちは散らされて
しまう。

「うわ、えげつなぁ」
「あなたがそれを言うか!!」

戦闘員たちが倒されても、磁化された弾丸が途切れるわけではない。
女の直接攻撃と外野からの絶え間ない銃撃。いくら頑丈なスーツとは言えそう連続して被弾するわけ
にはいかないし、かと言って避け続けて体力を消耗するのも得策ではない。

そこで、美希はひとつの決断をする。
それまで女の隙を窺い、電撃を叩き込もうとステップを踏んでいた足をぴたりと止めたのだ。

「ん〜? もうスタミナ切れなん?」

言葉とともに、鋭い勢いで美希に迫る金属片。
しかし。美希は避けなかった。体の正面でそれを受け止め、そして。
反り返りながら、紫の光を発射した。

一見明後日の方向に突き進んでいる電流。
だが女は即座に美希の狙いを察して苦い顔をする。紫の電磁砲は、鬱蒼と茂っていた森の中の大木を直
撃し。
瞬く間に、焼き尽くした。

「Where does a wise man hide a leaf? In the forest. 木を隠すなら…森、でしたっけ。これで飛
び道具の『的』はなくなりましたよ?」
「…なんでわかったん」
「簡単ですよ。飛んでくる金属片の軌道の延長上に、磁化した物体がある。なら、わざと被弾してその
軌跡の角度を計算すればいいんです」

言葉が終わるか終らないかのところで、美希の姿が掻き消えた。
空気の濃淡を利用した、ステルス。夜の闇がその精度をさらに高めてゆく。

「そんなこともできるんや。せやけど、姿を消しても無駄やで」

女は、確信を持っていた。
「紫電」の通り名から、電撃系の能力者と踏んでいたがそれだけではないらしい。
いまいち判然としない美希の能力ではあるが、姿を消す能力があるのなら。
まずやることは、一つ。
自分とは関係ない他人を、自らの危険を冒してまで助けようとするお人よしなら間違いなく。

「そこや!!」

女が駆け出したのは、倒れている春水のもと。
姿を消した美希は、絶対に春水を安全な場所へと隔離する。
相手の位置さえわかれば、姿が見えていようがいまいが関係ない。女の接触によって、美希は生ける磁
石となり。次の瞬間から、死ぬまで永遠に狙撃され続ける案山子と化す。

だが。
女の手は予想に反して空を掴む。
そして、慌てて周囲を見やる女の視界に映ったのは。
まんまと自分を罠に嵌めた美希と。

197 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:48:55
「う、うそやん!」

信じられない面持で女が春水を見る。
倒れている春水。その姿が、ゆっくりと背後の景色に溶け込み。消えてゆく。
つまり、女が見ていた春水は幻で。今、美希が抱えている春水が、本物。

「あなたなら、絶対にそうすると思った。だから、私も罠を張らせてもらいました」

美希がステルスを施したのは、自分自身だけではなかった。
倒れている春水にも、同様に不可視化させたのだ。しかし、ただ姿を消すだけでは相手に怪しまれる。
そこで、超小型の蜃気楼を生み出すことで春水の幻を作成。女が春水の位置を誤認している隙に、美
希はまんまと春水を奪還することに成功したのだった。

「言い忘れてましたから、言っておきますね。あなたは既に、私の『領域』に入り込んでいる。そし
てそこにおいて発生する空気に纏わる自然現象は、全て私のコントロール下にある」

事実上の、勝利宣言。
プロテクトスーツは、美希に一定の領域内において気象に関するあらゆる現象を引き起こすことを可
能としていた。
つまり、彼女にとって自分の領域は「絶対領域」と言い換えることができる。

女は俯き、そして体を震わせる。
これは小型の気象兵器とも言える存在に立ち向かった無謀な戦いだったのか。
否。確かに彼女は震えていた。それは。

突如、地面から沸き起こる無数の黒い衝撃。
その正体が何なのかわからないまま、まともに受けた美希は全身の力を抜かれ、倒れてしまう。

「な…今のは…どうして…?」
「『絶滅漆神焦場(ぜつめつくろかみしょうじょ)』。本来なら、あの子とコンビで使う必殺技なん
やけどな。うち一人でも発動させられるねん」

まさか。
美希は今の自分を襲った現象について思いを巡らせ、そして自分が迂闊だったことに気付く。
女の能力は、磁化。触れるものを磁石と化すことができるのなら、今自分が立っている地面全体を磁
石に変えることも不可能では無いはず。機を見て、蓄積された磁力を一気に開放したのか。

急激に高濃度の磁力に晒されたせいで、体の様子がおかしい。
人間自体が弱い磁石のようなものだ、と言っていたのは誰だったか。とにかく、その影響がプロテク
トスーツを貫通して美希の肉体に影響を及ぼしているようだった。

「でも、そんな…だったら、あの、金属片の弾丸は」
「真横に飛ばへんで、地面に墜落する。そんなこと、あらへんよ。あの弾丸自体、金属片に似せたセ
ラミックのダミーやからなあ」
「手下の念動力者に飛ばさせた…? 騙し…たの、ね」
「ま、化かし合いはうちの勝ちやな。はい、ターッチ」

無情にも、女の掌が美希の額に添えられる。
それはつまり、磁石と化した地面から、美希は一歩も動けなくなったと言うサイン。

「ほんでな。強烈な磁力であんたと『あれ』がくっつく」

女が指さす方角には、まるで地震の最中に立っているかのようにがたがたと震えている物体。
女の手下たちが暗い山中を照らすために使っていた投光器だ。あんなものがもしこちらに飛んできたら。

想像力よりも先に、金属で組まれた凶器が飛来し美希の体に激突する。
激しい衝撃、だがプロテクトスーツのおかげで耐えられないわけではない。
わずかに芽生え始めた希望の兆しだが、女はそれを見てなおも笑顔を浮かべる。

198 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:50:54
「…あれ、見えへんの?」

嬉しそうに、投光器のあったさらに奥の産廃の山を指さした。灯が無くなった、闇。闇に紛れたその
山肌が隆起して、鈍色の大きな鉄の塊が姿を現す。
汚泥の山に偽装させていたのは、乱雑に積まれた廃車の山だった。
あんなものが磁力に引かれてこちらにやって来たら。いくら頑丈なプロテクトスーツとは言え、ただ
では済まない。
美希の顔の血の気が引いたのを確認した女、その表情は、今まで見せたどんな顔よりも喜びに満ち溢
れていた。

まさかここまでこの場所を用意周到に「処刑場」としてセッティングしていたとは。
所詮は組織の二番手に甘んじている存在、と侮っていた気持ちがないわけではなかったことを美希は
後悔する。

「そんな悲しい顔せんといて。あとで、お友達も後を追わせたるし」
「そんな…こと…させ、ない…」
「あはは、『絶滅漆神焦場』をまともに食らって、ふらふらみたいやな。一瞬。ほんの一瞬や。目え
瞑ってる間に、ぜーんぶ終わる」

美希を襲う、どうしようもない絶望。
女の言う通り、死は確実に美希のすぐそこまでやって来ていた。
死ぬのか。ここで私は、終わってしまうのか。
お節介を焼いて自分から巻き込まれていったくせに、大口を叩いたくせに、友達として接してくれた
女の子一人も救えずに死んでしまうのか。

― チェルシー、それを使ってはいけない。スーツが壊れてしまうから。修理することで費やされる
僕の時間を、きみがデートで償ってくれるって言うんなら、やぶさかじゃないけどね ―

いかにもアメリカンジョークの好きな「彼」らしい、そんな忠言が聞こえてくる。
もしもスーツが壊れてしまったら、「機構」のエージェントとしての自分は、もう。

女の背後から、何かが崩れる音がする。
命を失ったはずのスクラップが、美希が帯びた磁力に反応して動く音だった。
まずい、と思っても、もう体が言うことを聞かない。

一瞬、何が起こったのかすら理解できなかった。
鉄クズの山から飛び出した車体は、エンジンを取り付けられていた時よりも速く。
美希に向かって宙を飛び、そして激突する。
体を襲う重圧、全身を駆け巡りそして脳を焦がす激痛。息が止まり、頭が真っ白になる。
それでも気を失わずに命を繋ぐことができたのは、「彼」が美希にオーダーメイドで仕立てたプロテ
クトスーツのおかげであった。

ただ。この時点で美希の反撃の手札は完全に失われていた。

199 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:52:03
「……」
「あはは。冬眠したカメみたいに全身縮こめて、どないしたん?」

最早言葉すら発せないほどのダメージ。
死なずに済んだのが幸運なのか不運なのか。
次の女の言葉が、それを決定づける。

「ところであんた、『玉突き事故』って、知ってる?」

僅かに残った意識がその意味を理解し、美希をさらなる絶望へと追いやる。
スクラップになった車は、一台だけではない。それこそ、山を形成するくらいに。
それらが、次々に高速で飛んでくるとしたら。

美希の想像通りに、泥の山肌が完全に剥がれ落ち、いくつものひしゃげた車が姿を現す。
ゆっくりと、人が車を押してるかのように少しずつ動き始める車体。やがてそれは徐々に速度を上げ
、やがて真夜中の高速道路でも走っているかのような猛スピードに変わっていった。

「ほな、さいならぁ」

女の笑い声とともに、ブレーキなしの暴走自動車が一台、二台、三台。
導かれるように一点に向かって走り、先に到着していた車の後部を突き上げる。
それら全ての衝撃をまともに食らった標的の生存は、不可能。

いや、美希は生きていた。
プロテクトスーツのあちこちから、火花を上げつつも。
数百キロもある物体の連続衝突からすらも、かのスーツは身を守ってくれたのか。
それとも、寸でのところで衝突の回避に成功したのか。

「そ…んな、アホ…な…」

いや。
巨大な鉄の塊は、確かに標的に突き刺さるように衝突した。
したはずなのになぜ。

「なんでうちがぁぁぁ…がはっ!!」

超重量のクラッシュをまともに食らったのは、能力者である女自身だった。
何故そのようなことになったのかを理解できぬまま、激しく吐血しそして沈黙する。

「磁場転換…私も少しだけなら、使えるんです」

空気におけるあらゆる事象を操る「空気調律」。
美希は。空気中にて大量の電気を発生させることで電磁場を形成し、女に向けてそれを放つ。
スーツの力によって最大限にまで高められたそれは、女と美希の立ち位置を強烈な作用で転換する。
それこそ一瞬の出来事、女は自分の立ち位置が相手と変わってしまったことすら気づけずに敗れた
のだった。

200 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:53:56


ほぼ同時刻。
難波の組織の長は、単身で決戦が繰り広げられているであろう山中へと続く道を車で飛ばしていた。
あちらが一個小隊を率いている状態ならば、車でなら「間に合う」かもしれない。
「相方」の実力に疑いを持っているわけではなかった。むしろ、戦力的に言えば大人と子供の差。
いまいち素性のわからない仲間らしき付随者、その女がある程度のやり手だったとしても。難波の
双璧を成す「相方」が敗北を喫すとはとても思えない。

それなのに。一度は納めた感情を再び剥き出しにせざるを得なかったのは。
妙な胸騒ぎがした。根拠のない、けれど底知れぬ不安と言う名の怪物が長を捕え離さない。
何故だか、この機を逃せば永遠に彼女を喪ってしまうような気がした。もちろんそんな曖昧な理由
で組織を動かすわけにはいかない。故の、単独行動。

地面を刈り取る勢いで飛ばしていた車が、急ブレーキでも掛けられたかのように止まる。
車は不自然なカーブを描き、強引に機能を停止させられたタイヤは道に不吉な跡を刻みつけた。

何や…敵襲か?

思いかけて、踏みとどまる。
違う。これはあくまで「車を止める」ことだけに特化した手段。自分に危害を加えるのが目的なら、
他にいくらでもやりようがある。そして。エンジンをかけようと思えばかけられるほど不自然に損
傷していない車の状況を見て、確信した。こんなことができる能力者は、そうはいない。

覚悟を決め、ゆっくりと車のドアを開ける難波のエース。
そこには、予想していた結果と、そうではない結果があった。

「…幹部会議には、まだ早いのんと違います?」

ギンガムチェックに上下の制服を揃え、黒のマントを羽織った「二人」は、答えない。
そう。相手は、二人だった。それも、支店本店含めた組織でも指折りの存在。
一人は予想がついていた。車の機能を損ねることなく、その動作すら自在に操れる。組織の黎明期
に神の七柱と称された高位の能力者だ。
だが、もう一人の存在については意外だった。いや、先の一人がここにいること自体もだが。一体、
何のために自分の前に現れた。組織の、一、二を争うほどの彼女たちが。

「…ごめん。引き返して」
「できません。『相方』が、待ってる」
「それならもう手遅れだよ」

顔にさして特徴のない女の指示に、長が不服従の姿勢を見せる。だが、もう一人の可憐さと凛々し
さの調和した顔立ちの女が「手遅れ」と言い切った。

「手遅れ、とは」
「もうすぐ勝負は決する。彼女は…死ぬだろう」
「…いくら先輩とは言え、そないな冗談は好きになれませんね」
「どのみち、『彼女』はうちらが粛清する予定だったんだ」

201 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:56:28
不可解な言葉が次々に襲い掛かる。
「相方」が長年、組織の存続に関わるような不正を続けていたことや、粛清命令が目の前の二人のさ
らに上の存在、いわゆる「先生」によるものだということ。そして「相方」が敗北し死ぬだろうとい
う予測。
全てが、納得のいかないものばかりだった。

「どいてください。でないと、私は」
「やるかい? 2対1で」

序列は、この二人の先輩のほうが上。
機械を自在に操るどころか無から創造することができるという能力者はもちろんだが、戦闘能力とし
ては大したことがないはずなのに瞬く間に組織のトップに立った経緯を持つもう一人の存在が恐ろしい。
それでも、やるしかないのか。

勝算などない。増してや、この二人に逆らって得るメリットなど。
けれど。組織の双璧であるが故に、互いに寄り添うことが許されない立場であるからこそ。
今なら、いや、今でなくては「相方」を救うことはできない。

「…うちを止める理由は、何ですか」
「時間稼ぎのつもりなら、もっとましなことを聞いたらいい」
「たかが支店の幹部を潰すのに、大げさすぎる」
「…言うつもりも、言う必要もないと思ったんだけど」

長の覚悟に圧されたのか、それとも別の意図があるのか。
諦めたかのように、二人のうちのかわいくないほうが答えたのは。

「きみの『相方』が亡き者にしようとしている対象が。『リゾナンター』だから。それが今回の、本
当の理由」

しばし、言葉を失う。
リゾナンターという存在は彼女も知っていた。たった9人で、能力者の暗部における頂点とも言うべ
き存在に立ち向かった。それが、リゾナンター。
しかしそれはあくまで昔話。果てなき争いの末に、弱体化したと聞く。組織の規模で言えばその頂点
とやらもそこまで絶対的な存在では無く、むしろ資金面や駒の多さならこちらが勝っている。それが
現状だ。

「たったそんなことで」
「リゾナンターのことを『叡智の集積』に頼まれているんだよ。『先生』がね」
「なっ…!!」

頂点の勢いが失われたせいか。または、急速に力をつけたこちらに与することで利を得ようとしてる
のか。
組織としては商売敵でありながら、一部の幹部同士でのソフト・ハード面での交流が陰ながら行われ
ているのは薄々は感づいていた。だが、まさかそこに「先生」までが関わっているとは。
長の体から、力がごっそり奪われてゆく。心を、真正面に向けたまま。

「それでも、それでもうちはっ!!!!」
「…終わったようだね」

腕をもがれても。足を千切られても。
「相方」の前に駆けつけようという意志だけは殺させない。殺されないはずだったのに。
そのたった一言が、彼女の心を簡単に折り取ってしまった。
目の前の二人も含め、自分たちはあくまでも「造られた存在」。一般の能力者のように存在を示す信
号を出したり、逆に受け取ることはできない。ただし、機械を自在に創造できるという能力者ならば
即席の監視カメラのようなものを生み出したとしても不思議ではない。そして何より。

「あ…ああ…うっ、うっ、うあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

支店の双璧でありながら背中合わせでしか立つことを許されなかった。
そんな存在だからこそ、逆に感じ取ることができた。「相方」の死を。終わりを。

202 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:58:46


物言わぬ鉄の塊のオブジェ。
敵が完全に沈黙したのを確認し、同時に大きく態勢を崩す美希。それと合わせるように、プロテクト
スーツから激しい閃光と衝撃。スーツが、限界を超えた性能を引き出したことによる不可逆的な故障
を引き起こしたことを意味していた。

とうとう…壊れちゃったよ…

もちろん、友を救うためにやったこと。後悔は無い。
けれど、自分はもう「機構」にはいられない。弱い力しか操れない半人前を養うほど、「機構」も物
好きではないはず。
両親を殺されてからずっと、身を置いてきた組織との別れは。

いや。それだけではない。
オーダーメイドのプロテクトスーツを作ってくれた、とある技術者。
不幸な事故により命を落としてしまった彼は、「機構」の中の誰よりも美希のことを考えてくれてい
た。
理由はわからない。一度問い質してみたら、だっていかにも日本人っぽい顔の君が流暢な英語を喋る
んだ、これほど興味深いことは無いじゃないか。などと愚にもつかぬことを言っていた。
いつの日もおどけた物言いをし、くだらないジョークで美希のことを失笑させる。それでも彼は、美
希の大切な仲間だった。

今は亡き友の、唯一の忘れ形見。そのプロテクトスーツを失うことは、彼との唯一の繋がりを失うこ
とに等しかった。

しばし感傷に浸っていた美希。
だが、背後から猛烈な勢いで迫る何かに感覚を切り替える。
駄目だ。間に合わない。
防御態勢を取る間もなく、美希は謎の力に翻弄され、地面に引き倒された。

単なる重い足枷と化したスーツ、機能していた時と比べると守備力はないに等しい。
ただでさえ弱っている体に抉り込むような衝撃を受けた美希は、倒れた体勢からわずかに顔を上げる
のがやっとだった」

「…めへん…絶対に…」

そこには、鉄の塊のサンドイッチになったはずの女が立っていた。
髪を乱し、ナース服のあちこちが裂け、血まみれになりながら。
戦っていた時の薄笑いを消し、煮え立ったマグマのような憤怒の表情を浮かべて。

「あんたがうちより強い…なんて…『あの子』との間に割り込むなんて…絶対に、絶対に認めへん!
!!!!!!!」

吹き荒ぶ、黒い嵐。
何という力、としか思えなかった。
先程食らったものの何倍もの磁力が美希の体を蹂躙する。最早立ち続けることすらできず、流される
まま地を舐めるしかなかった。

「あんたが…悪いんやで。『あの子』と肩、並べられるんは…うちしかおらん。おったら、あかんねや」
「……」

女が、『あの子』とやらに病的なまでの拘りを持っているのが伝わる。
だが、そのことを理解したところで美希にとって何の意味もなかった。
女に心を傾けようが、無視しようが。抗おうが、腹を向けようが。
待っているのは、死。

春水ちゃん…ごめん…

間違いなく、美希の次は春水だ。
今度は問いかけでは無い。断然たる事実だ。美希は友を、救えない。

203 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 22:59:38
女が血を滴らせながら、美希ににじり寄る。
その手が届いた時が、本当の最期。美希の瞳が固く瞑られ、瞼を絶望の赤が覆い尽くした。

赤…?

疑問に思ったのは。
黒では無く赤であったこと。温度のない闇ではなく、煌煌と照らされた熱を持った色だったことだった。

目を再び見開くと。
女が、踊っていた。絶叫ですらない、激しい空気の摩擦音を上げながら。眩しい光を、燃え盛る炎を纏
いながら。
炎は既に女の体を蝕んでいて、焼け爛れ続ける体が徐々に焦げ始めていた。

女に纏わりつく炎は、不思議なことに赤い光を放ちつつもその身は美しい水色だった。
まるで、水が全てを焼き尽くす力を持っているかのように。
女が発していた不快な音が止んだ後もなお、炎は猛り、燃え続ける。そして。
女が墨になっていくのを、ただ茫然と見ているだけの美希だったが、やがてあることに気付く。

「…炎の、虎?」

女をまさに食らい尽くそうとしている炎。
それが、美希には虎の形をしているように見えたのだ。
その虎がどこからやって来たのかはわからない。ただ一つだけ言えることは。
答えを出す前に、美希の意識はぷつりと途絶えてしまった。

204 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 23:01:32


「炎の虎、ですか。なかなか興味深い」

モニターに映る画像を見ながら、白衣の女が呟くように言う。
「炎の虎」が出現してから、磁化能力の使い手を一瞬にして亡き者にするまでの全過程。
それを、彼女は見ていた。

「せやろな。何せ、うちの『相方』があっと言う間に殺されてるんやからなあ」

白衣の女がモニターを見ている絵、をさらにモニターで見ている女が。皮肉めいた言葉を返した。
女がトップを張る組織の二番手を失うという悲劇から、数か月が経とうとしていた。

「いずれにせよ…イレギュラー的なものでしょうね。普通に考えたら、ここまでのワンサイドゲームにな
る実力差などないでしょうし。むしろあの二人が惨殺されていても不思議では無かった」

けれど、結果は逆だった。
そう言いたげに、自らのデスクのモニターを消して。
白衣の女は、ゆっくりと回転椅子を回して難波の頭領にモニター越しに正対する。

「御託はええねん。それよりも」
「あなたが私にコンタクトを取った理由ですよね。いや、正直驚きましたよ。ある程度関わりのある『本
店』の方ではなく、勢い目覚ましい『難波支店』のあなたが接触してくるとは」
「…回りくどいやないか。『叡智の集積』さん」

女が、勝気な顔を鋭くし相手を睨み付ける。
その怒りが、殺気が電子の海を飛び越えて直接白衣に刺さってくるかのようだ。

「…あの子たちも私の計画に欠かせない存在になってしまいましたので」
「あんたの計画がどんなもんか、うちにはようわからんし、興味もない」

大きくため息を、ひとつ。
呆れとも、諦めとも取れる対応。
だが。

205 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 23:03:57
「せやけど、こっちは相方殺られてんねんで」

女の周囲を漂う殺気が一層、強くなる。
並みの人間なら気当りを起こしそうなほどの、凄まじさ。

「そちらの都合を振りかざされても。これは『先生』との合意に基づいた、権利の遂行です。支店の方
にどうこう言われる筋合いはありませんね」

しかし相手は非能力者でありながらあのダークネスの中枢に入り込んだ人物。
そよ風を受けているような穏やかな顔を崩さない。

「権利やと? 裏で狡い手使うてうちらに圧力かける輩に何の権利がある!!!!!」

女の言う通り、一つの正式通達があった。
発信元は、組織を束ねる「先生」。尾形春水と、野中美希。この二人に手を出すことを禁止するもの。
先に現れた彼女たちの言っていた通りだった。
そしてそれは、ダークネスきっての知将に接触し得た情報で確信に変わる。

「まあ、何とでも言ってください。申し訳ないのですが、我々もあなた方に構っている時間はあまり
ない。今日のところはこれで失礼させてもらいますよ」
「ちょ、待てや!!!!!!」

女の叫びも空しく、モニターは訪れた闇とともに沈黙してしまった。
あまりに一方的な、傲慢な宣言。

「ふざけんな…ふざけんなふざけんなふざけんなやああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

やり場のない怒り。
叩き付けた拳はいとも容易く壁を破壊する。

こんな仕打ちがあってたまるものか。
非業の死を遂げた女は、支店の幹部であるとともに。
支店立ち上げの時から共に歩んできた盟友でもあったのだ。
あれから数か月。部下の前では常に冷静を装っていたものの、内心は仇を討たんがための憎悪を絶え
ず増幅させていた。
例の二人の警告など、やりようによってはいくらでも躱せる。そう思っていた。
全ては、無念のうちに死んでいった友に花を捧げるために。

しかしそれすらも、突然横から現れた輩に遮られ、奪い去られた。
冗談じゃない。仇討ちすら許されないのなら。あくまでも邪魔をするつもりならば。

206 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 23:11:39
「姐さん!どうしたんですか!!」

尋常ではない状況に、部屋の外に居た部下の一人が駆けつける。最近めきめきと頭角を現しつつある、組
織の参謀とも言うべき存在だ。
女は既に、地獄の炎のような昏い感情を内に仕舞い込んでいた。

「ああ。最近運動不足やってん。組織のトップに立つっちゅうのも大変やな」
「え、あ、そうですか…」

女は既に、決意していた。
自らの歩みを止める者の、排除を。
今のところは相手はこちらの首魁を懐柔しているようだが、そんなものはどうにでもなる。人のいる場所
に野いちごは咲かないが、人の気配の消えた場所にはその花が咲き誇る。機の目が出るまでは決して動か
ない「先生」ならば、その機をこちらで作ってやるまでだ。

「あの、姐さんは気丈に振る舞ってますけど…あの。『ちゃぷちゃぷ』さんを、相方をころ…殺されてる
から、その悲しみがてっきり限界を超えてしまったんじゃないかと」
「過ぎたことや。あいつはもうおらへん。あんたが気にすることとちゃうねんで。あんたは、組織のため
にこれからも働いてくれさえしてくれたら、ええ」

あれから数か月が過ぎたことは、目の前の話し相手の変化からも実感できる。
二大幹部の片方が落ちたあの時、組織の信頼が揺るいだあの日を境に、この少女は長かった髪をばっさり
と切った。
それが決意の表れであることは、組織の長にも理解できること。もちろん、外見だけでなく、顔つきもず
いぶんと変わってきた。

「『世界には、きみ以外には誰も歩むことのできない唯一の道がある。その道はどこに行き着くのか、と
問うてはならない。ひたすら進め。』」
「は?何やの、唐突に」
「ニーチェの言葉です。姐さんがひたすら進んでゆく覚悟があるなら。私は、面白い未来を見せることを
約束しますよ」
「何でニーチェやねん。ま、言われんでも、な」

「相方」亡き後、勢いを失うように見えた組織ではあったが。
何とか危機を乗り切り、組織としての格を落とさずに済んでいる。
その要因の一つに、目の前のショートカットの参謀が振るう知略があった。東京に遠征した時に長自身が
拾い上げた逸材ではあったが、その期待に添えるように、彼女は確実に自らの地位を固め組織に貢献しつ
つある。

おもろい未来か。見せてもらおうやないの。

だが、彼女は知らない。
その頼もしい参謀こそが、今回の黒幕であることを。
「相方」の不正を告発したのも、ダークネスと連携し「相方」の確実な死を仕掛けたのも。組織の二枚看
板が欠けることで自らの躍進の隙を作り、そして実現させたことも。
全ては、自らが伸し上がるために。

彼女は知らない。
自らが選んだ参謀が、支店の、ひいては組織全体の仇となることを。

207 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 23:13:28


「あれ…おっかしいなあ。確かここら辺だと思ったのに」
「ちょい地図見せて、って全然違うやん。野中氏に任せるといっつもこうやもんな」
「うう…だったらはーちんが最初からナビすればいいのに…」

例の事件から1か月。
美希と春水は、とある住宅街の真っただ中にいた。
本来であればすぐにでも行きたかったのではあるが、二人が戦闘で負った傷は決して軽いものではなかっ
たし、また受け入れる側の態勢も整っていなかったというのもあり。
さらには、美希の抱える事情もあった。

「結局、『機構』のエージェントはやめてもうたんやね」
「うん。スーツを失った私のいるべき場所じゃ、ないから」

結局、美希は「機構」から自ら去ることを決断した。直属の上司からはせめて事務方への転向を勧められ
たのだが、自分より優秀なデスクワーカーはいくらでもいるとして固辞したのだった。
代わりに、これから美希たちが身を寄せる団体、さらにはその上部組織である国家機関との「業務提携」
を結ぶことになった。表向きのそういった理由に加え、「組織」のエージェントとして活躍した人間をお
いそれと放流できない裏事情があるようだが。

「にしても。あれから『あいつら』、全然ちょっかい出してけえへんけど」
「もしかしたら、はーちんにもう興味を…いや、色々あるのかもね」
「野中氏、今失礼なこと言いかけたやろ? ま、それならそれでええねんけど」

二人は。
自分たちに訪れた危機がどのようにして終幕を迎えたのかを知らない。
美希が意識を失う前に見た水色の炎のことも、どこからか現れた猛虎のことも。全ては薄れかけた意識が
見せた幻ということで片付けられた。少なくとも、倒れていた彼女たちを救助した「機構」の人間たちは
そう説明していた。

自らの失言にあたふたする美希をからかいながら、春水は方向音痴のプロが狂わせた進路を元に戻すよう
に歩く。
目指すは小さな喫茶店。

「珍しいよね。女の人たちだけの喫茶店なんて」
「完全に女の園。女子校状態やん。もしかしたらめくるめく世界が広がったりしててな」
「オー、アンビリーバボ…」

最近、春水に女子同士の組み合わせを見てにやにやする悪癖があることに気付き、天を仰ぐ美希。
どうにも気まずく、必然的に話題の矛先を変えることに。

「それよりも、ほんとにミツイさんが言ってたように、喫茶店の人たち全員が異能の持ち主なのかな」
「ミツイさんはそう言うてたけどな」

事件からしばらくして、光井愛佳から二人に接触があった。
本人が相当忙しい身らしく、あまり深い話もできずに終わってしまったものの、ある種の信頼感は強く伝
わった。

― これなら、フクちゃんに託しても良さそうやね ―

向こうは向こうで、何を感じ取ったのかはわからないが。
とにかく、二人の「喫茶店」行きは確実なものとなった。

春水監視のもと、再び美希が先頭になり目的地を目指す。
しかし例の喫茶店にはなかなか辿り着かない。

「なあ、もしかしてまた道に迷うてる?」
「えーっ…さすがにもう少しで着くと思うけど」
「方向音痴のスペシャリスト様様やで。こら一本道でも迷いそうやなあ」
「さすがにそれはないと思うけど」

物理的にありえないけれど、そこまで言われると美希も思わず不安を覚えてしまう。
それで気がおろそかになったのか、曲がり角の向こうからやって来る人影と衝突することに。

208 名無し募集中。。。 :2017/11/11(土) 23:14:17
「アウチッ!」
「いったぁ!!」
「もう、何やってんねんな野中氏」
「牧野さん、浮かれてるからって注意散漫かと」

交される四つの言葉。四つの視線。

「…大丈夫ですか?」
「あー、これくらいへーきへーき。まりあ、強い子だもん」
「と言いつつ涙目になってますけど」
「もう、あかねちんはうるさいなあ」

尻もちをつきながら泣きそうになっていた、衝突相手。
後ろにいたおかっぱの少女に冷静な指摘を受け、不服の言葉を漏らした。

「しっかりしてくださいよ。一応『里』では私の先輩だったわけですし」
「だってまりあとあかねちんなんて1歳しか違わないじゃん!」
「その1歳が大きな差になるはずなんですけど。本来なら」

何故か言い争いになる二人の少女。
見かねた美希が声を掛けた。

「あの、ごめんなさい。私がぼーっとしてたから」
「ううんいいの、まりあも道重さんのこと考えて浮かれてたし」

打ったお尻の埃を払いつつ、すっと立ち上がる少女。
背が高く、すらりとした立ち姿は少女を少しだけ大人びた印象に見せていた。

「そうだ。実は私たち、喫茶リゾナントという場所を探してるんですが」
「うそ! あかねたちもそこに行こうとしてるんだけど」

今度は比較的背の低いほうの、おかっぱの少女が顔に似合わぬ低い声で言う。

「奇遇やな。うちらもそこに行こうとしてたんやけど、この子がほんま方向音痴で」
「こっちも牧野さんの書いた地図が」
「だって里の子が言ってた通りに書いただけだもん!!」
「これも何かの縁ですし、喫茶店まで一緒に行きませんか?」

思わずそう口にする美希。
同じ場所を目指しているならそのほうが合理的だし、何よりも。

この二人とは、これから先長い付き合いになるかもしれない。

そんな直感に近い何かを感じたからだった。
四人が集まった時に、心がつながったような、気持ちが響き合うような。
もちろん、その意味をまだ彼女は知らない。

「て言うか、あそこがそうじゃないですか?」

おかっぱの少女が指さす方向を見ると、そこには落ち着いた佇まいのお店らしき一軒家が。
店先には、「喫茶リゾナント」の看板が出されている。何という偶然。

「リアリー!?」
「うわあ、すごい偶然!!」
「偶然にしてはちょっと出来過ぎな気もするけど」
「ええやん。こんなとこで立ち話もなんやし、早く店に入ろ」

四人並んで、店の玄関に立つ。
彼女たちは知らない。
この喫茶店が、そしてそこで働く少女たちが自分たちにとってなくてはならない存在となることを。
能力者であることの幸福と不幸を、これから体感してゆくことを。

彼女たちは知らない。
自分たち四人が、惹かれあい時には反発しながら、深い絆を結んでゆくことを。
強く結ばれた心はやがて互いに響き合い、美しき音色を重ねながら青い空へと広がってゆく。

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