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へだて

1以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 16:56:02 ID:bpu3JROw


空は同じように続いている。

右から左へ、ぐるって見ても、ずっとついてくる。


地面も、ぜんぶ茶色でくっついている。

周りをぐるっと回ってみても、ずっと続いている。




僕の身体は、続いていない。

肩から肘までが、灰色の筒で出来ている。

膝から下も、太い灰色の筒で出来ている。




そんなの、おかしいって言われたんだ。

誰も教えてくれなかったのは、なんで? と聞いたんだ。



僕には、教えてくれる「ぱぱ」と「まま」がいないからなんだって。

2以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 17:04:47 ID:bpu3JROw


「ねぇ、じいちゃん」

爺「んなこたどうでもいいじゃねェか。今日は……お前さんの誕生日だ。」

「たんじょうび?」

爺「はっはっ、お祝いするんだよ。お前が、今ここに生きていることを」

「ぼくが?」

爺「そォだ。めでてェんだ」



じいちゃんはひとりで納得して、にやにやしながら、美味しそうなごはんが乗ったお皿を並べた。



「今日はたくさん」

爺「おうよ。笑いな」

「……」

爺「いただきますしろ。お?」

3以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 17:13:24 ID:bpu3JROw




いっぱい食べて、食べ終わって、ごちそうさました。

じいちゃんは嬉しそうだったり、そうでもなかったりした。

いつも通りで、じいちゃんは、よく分からない。

「……」

今日がいつもと違うなら、いつもと違うようにしなきゃいけないような気がした。


ここは、じいちゃんのお家。

たくさんの固い機械があって、細かいのも、大きいのも、散らばってる。

じいちゃんは火花がバチバチしてたり、変な臭いがしたり、変なメガネをかけてたり、する。


嫌いじゃないけど。

とにかく、今日はいつもと違うんだ、っていうのにご飯の数しか変わらないのは寂しい。

「外、行ってくる」

4以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 17:18:00 ID:bpu3JROw


爺「お? そうか」

「うん」

じいちゃんは頭をバリバリかいた。



爺「いいぞ。行きな」

「……うん」




ひとりで夜に出るの、はじめてなのに。

じいちゃんは、一番嬉しそうに言った。



爺「帰ってきたり、来なかったり、しな」


ドアが閉まる前に、そんなことを言ってた。

5以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 17:26:05 ID:bpu3JROw


外は暗くて、街は明かりがチカチカしてた。

まあるい街の、外へ、外へ、脚をがしがし鳴らして走る。



……街の終わりには、オレンジに光る鎖が見えた。

離れた街へ、まっすぐ伸びる、太い鎖。

明かりのついた、空の道。


僕は駆け出して、脚を踏み出す。

街の終わり。地面の終わり。



ここは空。

僕も、街も、空に浮かぶ。

へだてのない、空の中。


じいちゃんが「釣り竿」と呼んでるものを、空に伸ばした――

6以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 17:41:44 ID:bpu3JROw



「……はぁっ、はぁっ、かっ、ぁぁ、うっはぁ、はぁ」



……。






僕には、じいちゃんにも教えてないとっておきの場所がある。


じいちゃんのお家から右に飛び降りて、振り返ったら見えてくる。

街の真下から少しずれたところ。

街の下の方は危ないから、行くなってみんな言ってるけど、危なかったことはなかった。


おっきな岩のくぼみ。

ここからは、空がよく見えるんだ。

きっと、星でいっぱいだと思う。

7以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 17:53:06 ID:bpu3JROw

「よっと」

釣り竿を岩に引っ掛け、くぼみに転がり込む。

と。




?「だ、誰だ……!?」

奥の方で、ボロボロのかばんを背負った怖いお兄さんが横になっていた。

息が荒くて、辛そう。


「大丈夫?」

男「……驚いた。話せるの、か」

男「息が、くるしい。助けを、呼べるか……っふ」

「うんっ」


辛そう。じいちゃんに言えば、何とかなるかも。急いで空へ飛び出す。


男「ガキのくせに、よくもあんな、飛べるもんだな、っ」

8以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 18:19:52 ID:bpu3JROw

「じいちゃん!」

爺「お?」

「外に来て、街の下で人が倒れてる!」

爺「オレに空飛ばせようってかァ、でぇ、ちくしょうめ」

じいちゃんは何も聞かず、空を飛ぶための大きなベルトを持ち出した。


ガチャ!


爺「おい、血は出てたか」

「出てない」

爺「息は荒かったか」

「うん。こっちっ。こっちの下だよっ」

爺「いヨッ!」


ビュオウと、じいちゃんの白髪が夜空に舞った。

9以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 18:33:17 ID:bpu3JROw


「あそこのくぼみっ」

爺「ほォ」


じいちゃんに続いてさっきのくぼみに戻る。

お兄さんはまだうずくまってた。


爺「おい兄ちゃん、分かるか」

男「あ……く……?」

爺「飲みな。楽になる」

男「う、ぐっ……」

じいちゃんは上着の中から丸い粒を出し、お兄さんの口に押し込んだ。


「じいちゃん」

爺「安心しな。少しかかるが、大丈夫だ」

男「ほん、とうか」

爺「オレは、このボウズの前で人は殺さん。とっとと寝ちまいな」

10以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 18:44:28 ID:bpu3JROw

爺「おい、お前さん」

「ぼく?」

爺「その背中のジェット、外してやんな。外したら、オレの家から布団持ってこい」

「これ?」

男「や、さわるな……」

爺「外すだけだ、あほう。ここを、こうっ、ゆるめてやンだよ」


グイッ!

男「ごぁっ、ぐっ」

爺「とりあえず、今日は面倒見てやんな。」

「じいちゃんは?」

爺「ウチで寝る。お前さんの方が、きっと良いだろうさ……ふぁ」

11以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/05(火) 18:53:16 ID:bpu3JROw

爺「ほら、ヨ。落とすんじゃねェぞ?」

「うん」

片手が空けば釣り竿は使える。

布団を抱えて、また夜空へ。



「お布団、持ってきた」

男「……悪いな、そこまで」

「大丈夫」

布団を岩に広げて、お兄さんを転がした。

男「もう遅いだろ、ウチに帰んな……俺は大丈夫だ」

「ううん。今日は特別だから、ここにいる」

男「特別?」

……やっぱり、ここから見る星空は綺麗だ。


「うん。たんじょうび、なんだってさ」

12以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/06(水) 08:01:53 ID:6yRpLZ3c




その日、初めてじいちゃんのお家じゃないところで寝た。




「……」

お日さまが顔に差して、目が覚める。

岩に寄りかかって星を見ていたら寝てしまった。

「あれ」

昨日お兄さんにかけた布団が、僕の身体の上にある。外だけど、温かい。



ギシッ。



起き上がる時に、脚の筒がきしんだ。

男「起きたか」

13以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/06(水) 08:19:22 ID:6yRpLZ3c

男「昨日はすまなかったな」

「ううん」

怖いお兄さんは、見た目より怖くなかった。

奥の方で、背負ってきたカバンをいじってる。


男「少年。布団をかけた時に見ちまったんだが、その腕と、脚はどうしたんだ」

「腕と脚?」

男「そのシリンダー。おそらく油圧機構だろうが……失くしたのか」

「分からない。生まれた時はじいちゃんのお家で、その時からずっとこう」

街の小さい子みたいに、お兄さんも、僕の身体をおかしいって言うのかな。


男「大したもんだ」

けど、怖いお兄さんはにっこり笑った。

14以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/06(水) 08:34:08 ID:6yRpLZ3c

とりあえず、布団を一度たたんで、すみの方に置く。


男「しかも、手首から先は生身で、きちんと動くと来たもんだ。驚いたよ」

「うん? 動くよ」

腕の部分は筒だけど、手首から先はみんなと同じ。

だから、みんなと同じように動かせるのは普通だと思うんだけど。

男「あの……じいちゃんがそうしたんだろうな。昨日にしてもそうだが、少年。お前のじいちゃんはすごいぞ」

「そうかな」

嬉しくて、少しとぼけた。



男「……しばらく、ここに居させてもらってもいいか?」

「うん。いいよ」

男「あのなぁ」

15以下、名無しが深夜にお送りします:2020/05/06(水) 08:43:24 ID:6yRpLZ3c

男「しばらくってのは……けっこう、何日もだ。他に人が使ってたり、誰か見回りに来たり、そういうの無いのか」

「ここは僕しか知らないよ。あと、じいちゃん」

男「……あー、そりゃ少年、つまり秘密基地か?」

「んん? 空が綺麗に見えるんだ。だから、ときどき来るんだよ」

男「おいおい、もらっちまって良いのか」

「いいよ。だってここ、綺麗でしょ?」

男「――」


お兄さんはなんだか、目を丸くしてる。


「ごはん、どうしよう」

男「あー、レーションなら有るが、食うか?」

「れーしょん?」


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