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剣士「斬撃を飛ばす技は邪道の極みだ」
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青年剣士「ソニックウェーブソード!」ビュオアッ
魔剣士「魔空斬……」ビュオオッ
サムライ「飛空居合でござる!」シュバァッ
剣士「ったく、近頃の剣士ときたら……どいつもこいつも斬撃を飛ばしやがる」
剣豪「まったくだな」
"
"
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剣士「鍛えた肉体で間合いを詰め、自分が握った刃で敵を斬る!」
剣士「これこそが剣士の強みであり醍醐味だろうが!」
剣士「あんな魔法じみた技で、間合いをごまかしたって強くなんかなれるか!」
剣豪「そのとおりだ」
剣豪「結局、戦いでモノをいうのは純粋な剣技に決まっている」
剣豪「我々だけでも、今までの剣士の流儀を貫き通していこうではないか」
剣士「ああ、もちろんだ!」
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雑誌『月刊ソードマスター』のインタビューに対し、剣士はこう答えている。
剣士「飛ぶ斬撃? ふん、あんな技は邪道の極みだ」
剣士「なぜなら、剣士にとって最良にして最強の戦術とは――」
剣士「自分の足で踏み込み、間合いを詰め、自分の剣で敵を斬る、これに尽きるからだ」
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剣士「あのような技では強くなれた気になれても、真に強くはなれん」
剣士「剣士が強くなるには、ひたすら剣を振り、間合いを体で覚え、場数を踏む」
剣士「これしかないのだから!」
剣士「斬撃を飛ばすなどという技で楽をしたところで、いずれ必ず限界がくる!」
剣士「はっきり申し上げておこう。私はここに断言する」
剣士「私は斬撃を飛ばす技は絶対に使わないと!」
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ところが――
<病院>
剣士「剣豪!」
剣豪「……やぁ」
剣士「闘技場での若い剣士との立ち合いで敗れたと聞いたが、本当なのか!?」
剣豪「ああ……やられたよ」
剣豪「飛んでくる斬撃を避け切れず……こんなザマになってしまった……」
"
"
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剣士「お前ほどの剣士がどうして……油断したか?」
剣豪「いや、油断じゃない……」
剣豪「むしろ、斬撃を飛ばす技の性能が……私の想像以上に進歩していた……」
剣士「…………!」
剣豪「スピードも、威力も……そして連射性能も……」
剣豪「もはや、従来の剣術で太刀打ちできるようなシロモノではない……」
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剣豪「今のうちにいっておく……」
剣豪「退院したら、私も斬撃を飛ばす技を会得しようと思う」
剣士「な……!」
剣豪「そして……お前も私のようなことにならぬ前に、会得すべきだ」
剣豪「大怪我してからでは遅いのだから……」
剣士「…………」
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病院を出た剣士。
剣士(剣豪の奴め、見損なったぞ!)
剣士(俺たちだけでも従来のスタイルを守っていくんじゃなかったのか……!)
剣士(俺も……今度、闘技場で試合をすることになっている)
剣士(おそらく相手は斬撃を飛ばす技を使ってくるだろう)
剣士(そこで、俺が従来の剣術の強さを皆に知らしめてやる!)
剣士(そうすれば、剣豪だって気持ちを変えてくれるかもしれないしな!)
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数日後――
<闘技場>
ワァァァ…… ワァァァ……
金髪剣士「ほれっ、ほれっ、ほれっ!」ビュオッ ビュオッ ビュオッ
剣士「ぐううっ……!」
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金髪剣士「そらっ!」ビュオッ
剣士「わわっ!」サッ
剣士(くそっ……なんて速さとスキの無さだ……全然近づけない!)
剣士(切れ味も、俺が知ってる飛ぶ斬撃とはケタ違いだ!)
剣士(こんなのまともに剣で受けてたら、剣がダメになってしまうかもしれない!)
剣士(くそう……斬撃を飛ばす技がここまで進歩していたなんて!)
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<森>
剣士「…………」
剣士(どうにか勝てたが……薄氷の勝利だった)
剣士(相手のスタミナが尽きたところで間合いを詰め、かろうじて勝利……)
剣士(こんなんじゃ、斬撃を飛ばす技に正面から打ち勝ったとはとてもいえない……)
剣士(しかも、今日の相手は剣士としての格は俺よりずっと下だった)
剣士(もし、俺と同じぐらいの格の相手だったら……俺は負けてただろう)
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剣士「――くそっ!」
剣士「俺が必死で鍛錬してきた剣術とは、こんなもんなのか!?」
剣士「やっぱり俺も飛ぶ斬撃を会得しなきゃ勝てないのか!?」
剣士「ちくしょう……」
剣士(試しに一度、俺も飛ぶ斬撃とやらが出せるかやってみようか)
剣士(あくまで試しだ! 試しなんだからな!)
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剣士「たしか……こうやって……こう!」ビュオッ
シュバァッ!
スパパパパパッ! ズズゥゥン……
剣士「で、できた……。できちゃった……」
剣士(あんな軽くやったのに、木が数本切れてしまった……)
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剣士(自分でやってみて、やっと分かった気がする)
剣士(こんな技、便利すぎるだろうが!)
剣士(一度覚えたら、こればかり使いたくなるに決まってるだろうが!)
剣士(自分の足で間合いを詰めて斬るなんざ、バカバカしくなるに決まってるだろうが!)
剣士(それこそ、自分の足で走るのと馬に乗って走るぐらいの違いだ!)
剣士(いや……それ以上かもしれないな)
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剣士(だけど――)
剣士『私は斬撃を飛ばす技は絶対に使わないと!』
剣士(俺はこう宣言してしまってる)
剣士(もし斬撃を飛ばす技を使ったら、バッシングは免れないだろうなぁ……)
剣士(結局お前も斬撃を飛ばすのかよ、ってヤジが飛んでくるに決まってる)
剣士(どうすりゃいいんだ……)
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剣士(とりあえず、今の要領でゆっくり剣を振ってみるか)
剣士(そうすりゃ飛ぶ斬撃の弱点が見えてくるかもしれないしな)
剣士(……多分見えないだろうけど)
剣士「そーっと……」ユル…
斬撃「…………」
剣士「うわっ! なんだこれ!?」
剣士(斬撃を飛ばす振り方でゆっくり剣を振ったら――)
剣士(斬撃が出来上がって、しかも止まったままになってる! どうなってんだこれ!?)
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斬撃「よう!」
剣士「わっ!?」
剣士(斬撃が……しゃべった!?)
剣士「お前、いったいなんなんだ!?」
斬撃「オレか? オレは斬撃さ」
剣士「えぇと……魔物なのか? それとも召喚獣みたいなもんなのか?」
斬撃「どっちでもない。斬撃“そのもの”さ」
剣士(もうなにがなんだか……)
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斬撃「しっかし驚いたよ」
斬撃「まさか、オレを出す境地にまで達する人間が現れるとはねえ」
剣士「お前を出す境地……?」
斬撃「オレを出すには、いわゆる斬撃を飛ばさない剣技を限界まで鍛え」
斬撃「なおかつ、斬撃を生み出す剣の振りをゆっくりと行う必要がある」
斬撃「こんな条件満たせるような酔狂な奴、いるとは思わなかったよ」
剣士「はぁ……」
剣士(ようするに、早いうちから斬撃を飛ばす技を覚えて)
剣士(それに頼りきりになってる奴には絶対出せないってことか)
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斬撃「さて! オレを出したからにはもうアンタに敵う剣士はいないだろうよ!」
斬撃「オレはどんなものだって斬れるし、射程も無限、頭だって冴えてるからな」
斬撃「アンタもだいぶ苦労しただろ? だが、やっと報われる時がきたんだ!」
剣士「せっかくだけど……そうもいかないんだ」
斬撃「どうして?」
剣士「実は俺、斬撃を飛ばす戦術を否定しちまってるんだよ。あんなのは邪道だってな」
剣士「だから、お前を使ってやるわけにはいかないんだ」
斬撃「なるほど……」
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剣士「……すまないな」
剣士「だけどお前を出せたことで、逆に決心がついた」
剣士「俺はこれからも斬撃を飛ばさずにやっていくよ」
剣士「そう遠くないうちに、飛ぶ斬撃にやられちまうだろうけどさ」
斬撃「…………」
斬撃「アンタいいねえ……その頑固さ、気に入っちまったよ」
斬撃「オレは意地でもアンタの力になってやりたくなった!」
剣士「え、だけど……」
斬撃「ようはオレを飛ばさなきゃいいんだろ? だったら――」
-
……
……
……
<闘技場>
ワァァァ…… ワァァァ……
実況『ベテランと若手の有望株の一戦! 勝つのはどっちだ!?』
解説『新旧世代の代表同士の一戦です。勝敗が読めませんな』
剣士「…………」
若手剣士(このおっさん、たしか斬撃を飛ばす技は使わないって宣言してたはずだ)
若手剣士(だったら……この距離から一方的に切り刻んでやるぜ!)ニヤ…
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審判「始めっ!」バッ
若手剣士「今日で引退させてやるぜ、おっさん!」サッ
剣士「斬撃っ! ――俺を投げろっ!」
斬撃「オーケー!」ヒョイッ
斬撃が剣士を持ち上げる。
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斬撃「だりゃっ!」ブンッ
剣士「うおおおおおっ!」ギュンッ
若手剣士「うわぁぁぁっ!?」
ザシュッ!
若手剣士「うげっ……!」
若手剣士「ま、まさか……斬撃が、剣士を飛ばすなんて……」ドサッ
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剣士「俺の勝利だ!」ジャキーン
斬撃「やったな!」
ワァァァ…… ワァァァ……
実況『みごとです! 剣士がベテランの風格を見せつけ、圧勝いたしました!』
解説『昨今の飛ぶ斬撃偏重の剣技を堂々と否定する、王道な剣術を見せてくれましたな』
― 完 ―
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おつ
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いや、邪道だろこれ。
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おつ
ショートショートのような読みやすさ
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乙!
まさか自分が飛ぶとはな…
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乙
天才かよ
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この作者って書き方が特徴あるからわかりやすい
教科書のような口調
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ほんとこの人の作品すこ
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>>30
1レス目で分かる
なんだったらスレタイで分かる
クオリティが保証されてるから安心して読めるね
しかし速筆だなぁ
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斬撃「で」飛ぶならそんなに邪道でもないか?
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王……道……?
斬新にもほどがあんだろ!!
乙
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斬新?
新しい斬撃かな?
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>>32
過去作があるならタイトル教えてほしい
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斬月「……」
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>>32
大量にあるから胡散臭いスレタイで2〜30で終わってるのを開けばいいよ
たまに長いのあるけど
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