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南条光「新たなる仮面ライダー!」
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こんばんは。
こちら
南条光「仮面ライダー!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1402638993/
の続きでございます。
仮面ライダーとアイマスのクロス。
ノリも展開も昭和臭でお送りします。
お暇な方はどうぞ。
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「仮面ライダー!ルゥゥゥクスッッッ!」
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダールクス
「仮面ライダールクス、南条光は改造人間である。謎の秘密組織『ブラックシンデレラによって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって改造手術を受け、仮面ライダールクスとして蘇った!』」
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仮面ライダー光 第七話
「登場!新たなる仮面ライダー!」
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―――晶葉の研究室
「おお!戻ったかお前たち!」
「あぁ、アタシは勝ったぜ晶葉!」
誇らしげな光に微笑みながらうなずいて、晶葉はベッドを調える。
「とりあえずその少女はそこに寝かせておいてくれ」
「あぁ」
バトラカンガルーであった少女を寝かせ、汗を拭いてやっていると、どやどやと他のメンバーが入ってくる。
「晶葉、テストは成功よ!」
「当然だ、この私が作ったものなのだからな」
「そ、そうだそれ!」
麗奈と晶葉のやり取りに、大事なことを思い出した光は、麗奈に詰め寄る。
「麗奈!あれはなんだったんだ?」
「なぁんのことかしら〜」
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「誤魔化したってダメだ!あの黒いライダーは麗奈だろ?なんで麗奈までライダーに…まさか!」
「ライダぁぁぁ?なんのことぉ?大体、仮面ライダーってヤツは正体を隠さなきゃいけないんじゃないのー?」
「麗奈!ふざけてる場合じゃ…」
「やれやれ、その辺にしてやれ麗奈。光がゆだってしまうぞ」
興奮する光をからかう麗奈に、ため息混じりの晶葉がつっこむ。
「しょーがないわねー」
「安心しろ光、麗奈は改造手術なんて受けてはいない」
「え…じゃあアレは?」
「見せてやれ、麗奈」
「フン、目ん玉かっぽじってよーくみなさいよ」
麗奈はポケットから取り出した丸いデバイスを自分のベルトのバックルの位置へ当て、叫んだ。
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「ライダースーツ、オン!」
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その瞬間、デバイスが輝き麗奈の体に黒いスーツが装着される。
そして、いつのまにかその手に現れた半頭マスクを被ると、ニヤリと不敵に笑った。
「か、仮面ライダー…」
「の、真似事といったところか。これは、私の開発したなりきりライダーセット。その名も『ライダーガールスーツ』だ」
黒を基調にしたスーツに紫のラインが入ったライダー風のコスチューム。
マスクには髑髏を思わせる意匠が施されており、額に一本角が付いている。
「か、かっこいい!」
「フフン、褒め称えなさい!」
「パワードスーツの一種だ。お前のような改造人間には及ばないが、身体能力を五倍ほどに高めることができる。一応防御力も高まるが、人体そのものを改造している訳ではないので、回復力等は本人に依存する。そこだけは注意だな」
「アンタの下ってのは気にくわないけど、この際それは目をつぶってやるわ!」
何故か開発した晶葉ではなく麗奈が偉そうに胸を張る。
「へぇぇ〜…晶葉はすごいな、やっぱり。でも、なんでそんなものを?」
「麗奈がどうしてもと言ってな。お前が一人で戦っていることが偉く心配らしい」
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「ちょっと、日本語は正しく使いなさいよ!コイツ一人に任せといたんじゃ不安だからって言ったでしょ?」
「そうか?私の耳にはこういう風にしか聞こえなかったが」
「どんな耳してんのよ!」
とぼける晶葉に麗奈が噛みつく。
光はといえば、少し神妙な顔をして麗奈の手を取った。
「…麗奈」
「な、なによ、まさかヒーロー役を独り占めできないからって恨み言言うつもりじゃないでしょうね」
麗奈の言葉にはすぐさま答えず、光はしっかりと麗奈の手を握りしめた。
「麗奈」
「な、なによ、言いたいことがあるなら…」
「ありがとう」
突然お礼をいう光に、麗奈は面食らう。
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「は、ハァ?アンタ急にどうしちゃったわけ?頭でも沸いた?」
「正直言うと、少し辛かったんだ…一人で戦っていること。いや、晶葉達がいるから一人じゃないのはわかってたけどそれでも、さ」
「光…」
「ホントはこんな戦いに巻き込むことを喜んじゃいけないんだろうけど…でも、心強いんだすごく。ありがとう」
「…べ、別にアンタの為にやる訳じゃないって言ってんでしょ。アイツらがアタシを差し置いて悪を名乗ってんのが気に食わないだけだっての」
まっすぐな光の言葉に、麗奈は照れ臭さを隠し、悪態をつく。
「それでも嬉しいんだアタシは!だけど麗奈、危なくなったらいつでも逃げてくれよ?」
「ハン、このレイナサマに敗走なんて言葉はあり得ないわ!人の心配の前に自分の心配しなさい」
そう言って、麗奈はニヤリと笑った。
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―――城南大学、生化学研究所
「―――失礼します」
ひと言声をかけ、男は入室する。
光のプロデューサーだ。
こんな大学の研究所に何の用だろうか。
「お久しぶりです、先輩」
「おう。その様子じゃ、元気にやってるみたいじゃないか」
彼の言葉へ快活に返す野性味あふれた男。
およそ科学者というよりは冒険家と言われた方がしっくりくる。
「えぇまぁ。始める前はどうなるものかと思いましたけど、やってみるとこれが案外向いてるみたいで」
「ははは、おやじさんの見立ては正しかったな」
その様子を見るに、二人は旧知の間柄であるらしい。
大学の先輩後輩関係か。
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「未だに顔合わせるとお小言いわれますけどね」
「おやじさんは元気か」
「えぇ、仕事でたまに会いますけど、下手すると俺らより元気ですね」
「おやじさんは昔からパワフルだからなぁ」
そう言って二人は笑いあう。
「しかし、お互い積もる話もあるだろうが、今日はそんな話をしに来たんじゃないだろう」
「はい。先輩はもうご存知だとは思いますが…奴らが」
「ふむ…」
先ほどの和やかな雰囲気から一転、二人の間に真剣な空気が流れる。
「今のところ、大々的に世間に存在が知られるような作戦行動はないようですが、それも時間の問題かもしれません」
「…やはり、奴らがいる限り私たちの戦いは終わりそうもないな。『志郎』」
「えぇ、『本郷』先輩」
光のプロデューサー、『風見志郎』と彼の話し相手、城南大学教授『本郷猛』には秘密があった。
その秘密とは。
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「それで、奴らが再び動き出してからはお前が戦っていたのか」
「いえ、それが違うんです」
「…む、そうなのか。では誰が戦っていたんだ?茂か、洋か」
「いいえ。その二人でも、他の誰かでもありません」
「…まさか!」
「えぇ」
何かに思い至った本郷へ、風見はうなずく。
「新たな『仮面ライダー』です」
「…なんということだ」
愕然とした表情で本郷はつぶやく。
それにしても、仮面ライダーを知るこの二人は一体。
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「何処の誰なんだそれは」
「…俺の、担当アイドルです」
悔しそうに風見は言葉を絞り出した。
「お前の担当アイドル?」
「詳しい事情はわかりませんが、どうやらアイツは、悪の組織『ブラックシンデレラ』のなんらかの作戦に巻き込まれ、瀕死の重傷を負ったところを組織から逃げ出してきた科学者によって改造手術を受けて仮面ライダーとなったようです」
「ふむ…お前や洋と状況は似ているな」
「不覚にも、俺がヤツらの暗躍に気付いた頃の話です。もう少し早く動けていれば…」
「自分を責めるな、志郎。奴らの手口は巧妙だ。それは私たちが一番よく知っていることだろう。それより、アイドルということはそのライダーは…」
「はい…女、それも年端もいかぬ少女です」
「…残酷な話だ」
二人は悲痛な表情を浮かべる。
彼らは知っているのだ、仮面ライダーに待ち受ける過酷な運命を。
なぜなら。
「お前はどうする志郎。彼女を守るため戦うのか」
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「アイツは、“仮面ライダー”としての意識に目覚めつつあります。俺は、アイツを見守ってやりたい。アイツのプロデューサーとして…仮面ライダーV3として」
「そうか…では、私も力を貸そう。幼き後輩ライダーの為に、仮面ライダー1号として」
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そう、彼らこそ、かつて世界を恐怖のどん底に陥れんとした強大な悪の組織に敢然と立ち向かった改造人間。
仮面ライダーV3と仮面ライダー1号なのだ。
「ありがとうございます」
「当然のことだ。気にするな、なぁ」
パンパンと風見の肩を叩き、本郷は笑って見せる。
「私も大学教授をする傍ら、不審な事件が起こっていないか世界情勢には常に目を光らせていた。一文字たちもな。徐々にだが、不穏な気配を感じつつある。戦いが始まるな」
「今度こそ、世界に平和を」
「あぁ」
本郷はうなずき、話題を変える。
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「ところで、お前のその担当アイドルってのはどんな子なんだ」
「先輩は多分気に入りますよ。裏表がなくまっすぐで…光って名前の通り眩しい奴です」
「ふふ、いずれ会ってみたいものだ」
「喜ぶと思いますよ。アイツ、もともと仮面ライダーの大ファンなんで」
「仮面ライダーのファン、か」
本郷は少し嬉しそうに目を細める。
「立花のおやじさんが、私たちの戦いを子供向けの番組として放送すると言い出したときはどうかと思ったが、こうやって長く愛されることになるとはな」
「俺たち仮面ライダーの魂を継ぐため、でしたっけ」
「子供向けに色々手を咥えてはあるが、私たちが胸に秘めていた正義の魂は、シリーズを通して受け継がれている。それは、改造人間という要素を排除した最近の仮面ライダーシリーズも同じだ」
「特撮番組は、教育番組だと俺は思っています。正義とはなにか、悪とはなにかを考える機会を与えてあげるものであると。正義の為と言いつつ、俺たちは拳を振るうことしかできません。しかし、それを子どもたちの未来に貢献できるものへと昇華させてくれたおやじさんには、頭があがりませんね」
「ふ、全くだ」
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正義の為、人類の為に戦う仮面ライダー。
彼らは、意外と我々の生活の近くにいるのかもしれない。
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―――CGプロ事務所
「そんで、アンタのルクスってのはなんなの?」
「声が大きいよ麗奈ぁ…」
「今人はいないし、聞いても何のことだかわかりゃしないわよ。で、意味は?」
晶葉の研究室を出た二人は、事務所でくつろいでいた。
今日は仕事で出払っている人も多く、二人がいる応接スペースには誰もいない。
「えっと、ラテン語…だったかな?で『光』って意味なんだって」
「はぁ〜、ヒネリがないわねぇ」
「ストレートでいい名前だろ!」
光に皮肉は通じないのだ。
「まぁ語呂がいいのは認めてやるわ。アタシもなにか考えないといけないわね」
「アタシが『光』なんだから、麗奈は『闇』でダークとかどうだ?」
「かーっ、ヒネリが無さすぎるにもほどがあるわ!大体、アンタと綺麗に対になるのもゴメンよ。そんだけシンプルにするならブラックとでも名乗るわ」
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「それはやめておこう」
「な、何よ急に真面目な顔して」
「いや…色々と危ない気がする」
「な、ならやめておくわ」
どうやら、二人はライダー麗奈の名前を考えているようだ。
うんうん唸ってはいるがいい名前は浮かばない。
そんな悩める空気の事務所の扉が開いた。
「闇に飲まれよ!(お疲れ様です!)」
「お疲れさまです」
CGプロの稼ぎ頭、クール部署の神崎蘭子と渋谷凛だ。
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「あ、蘭子と凛さん!お疲れ!」
「小さな英雄と輝きの少女か(光ちゃんと麗奈ちゃんがいる!)」
「ちょっと、人のオデコみながら輝きとか抜かしてんじゃないわよ。このアタシを呼ぶときは悪の帝王と呼びなさいって言ってるでしょ」
「二人は何をしてたの?」
「う、うん、ちょっとね!」
相変わらず隠し事の下手な光である。
「コイツのヒーロー談義につき合わされてただけよ」
「ふふ、そっか。仲良いね、相変わらず」
「冗談でしょ」
「あ、ねぇねぇ、二人ってさ、結構難しい言葉知ってるよね!」
何か思いついたように光が二人へと問いかける。
「我が真言の事か?(私の言葉遣いですか?)」
「…私、そんなに難しい言葉使ってたかな」
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「えっと、ラテン語で『黒』とか『闇』とかってなんていうのかなって」
「古の言葉に置き換えるならば…(えっと、ラテン語だとなんだったっけ…)」
「『黒』は…アーテルだっけ?『闇』は…」
凛はゴソゴソとバッグから多機能電子辞書を取り出す。
「我が記憶に齟齬がなければ、『闇』はテネブラエではないか?(私の覚えちがいじゃなければ『闇』はテネブラエだったと思います)」
「うん、蘭子正解。流石だね」
「なに、我にとっては当然の事よ(それほどでもないですっ!)」
嬉しそうに胸を張る蘭子は可愛らしい。
しかし、光と麗奈の反応は微妙だ。
「うーん…仮面ライダーアーテル…仮面ライダーテネブラエ…」
「イマイチね」
「二人は何を悩んでるの?」
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「ちょ、ちょっとね!」
「悪の仮面ライダーはいないのかって話から、どんな奴なんだって話になって、ついでに名前を考えてるだけよ」
どこまでも隠し事が下手な光と、そのフォローにまわる麗奈だった。
「へぇ、面白そうな話してるね」
「凛さんは仮面ライダー知ってるのか?」
「お父さんが好きで、小さいころに少しだけ見たことがあるよ。古い奴だけど」
「恥じらいの乙女も時折見ていると以前話しておったわ(奈緒ちゃんもたまに見てるみたいですよね)」
「あぁ、奈緒さんも好きみたいだな!」
「それで、いい名前は思いついたの?」
「全然。それでアンタたちにちょっと聞いてみたのよ」
「我らの力を持ってしても、反逆の乙女の心を揺さぶるには至らぬか(私たちじゃ、麗奈ちゃんのお眼鏡には適わなかったみたいですね…)」
「なによ反逆の乙女って。だからアタシを呼ぶときは悪の帝王と…」
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「そうだ!『反逆者』ってなんていうの?」
「ラテン語?」
「うん!」
光は元気よくうなずく。
凛は辞書で調べようとしたが、蘭子がそれを制し、得意げに高らかと告げる。
「『反逆者』は、古の言葉によりレブルと呼ばれん!(ラテン語だと『反逆者』はレブルですよ!)」
「ふふ、流石だね。堕天使蘭子」
「児戯にも等しいわ!(お茶の子さいさいです!)」
再び蘭子は胸を張る。
「レブル…レブル…どう?麗奈」
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「ふーん…悪くないわね」
ニヤリと笑う。
「アタシも麗奈にピッタリだと思う!」
「…麗奈に?こんなライダーがいたらって話じゃなくて?」
「あ、えっと…」
「悪の仮面ライダーならこいつのライバルみたいだってことよ。バカの妄想」
「ば、バカっていうなよぉ!」
麗奈が呆れたように鼻を鳴らし、光はそれに地団太を踏む。
「ふふ、仲良いね。やっぱり」
そんな二人を微笑ましげに見つめる凛と蘭子。
ともあれここに、新たなる仮面ライダー、レブルが誕生したのである。
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―――都内某所、閑静な住宅街
「ここね…」
眼鏡をかけた知的な女性が、とある一軒家を見つめている。
その目は氷のように冷たい。
表札には『二宮』とあるようだ。
「あれほどの才能を持ちながら、我々の要求に従わないとは…全くもって度し難い」
女は振り返り、背後に控える黒い影たちに命じる。
「見せしめだ。殺せ。娘は捕えろ」
「キィー!」
黒い影の正体はブラックシンデレラの戦闘員たち。
ということは。
「やれやれ…」
面倒くさそうに女が顔をひと撫ですると、その姿は体のいたるところにモニターを張り付けたカメレオンの怪人へと変わった。
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「ケケー!」
女が一声叫び、体から強烈な光を発すると、ただでさえ静かだった住宅街に、いよいよ完全なる静寂が訪れる。
「さぁ、これで周囲の家の連中は騒ぎに気付かない。行くぞ」
「キィー!」
ブラックシンデレラの一団は、静かに標的の家へと歩き出した。
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―――二宮家、書斎
「あぁ、本郷教授。申し訳ない。では明日」
一人の男が電話をしていたようだ。
人と会う約束を取り付けていたらしい。
「ふぅ…これで明日、彼に会えれば…」
「…二宮博士」
「誰だ!?」
誰もいない室内であるはずなのに突然声をかけられ動揺する。
彼は脳科学の権威、二宮博士。
巷ではノーベル賞に最も近い男と言われ、天才脳科学者の名をほしいままにしている。
しかし、心優しく驕らず正義感の強い彼は周囲の評判も良く、彼を慕う研究者は多い。
「ブラックシンデレラの者だ…」
「き、貴様らか!何度こようと、お前たちの様な奴らに協力などしない!研究とは、科学とは、人類の平和の為にあるべきものだ!」
「お前の高邁な理想などが聞きたくて来たわけではない。我々が欲しいのはお前の頭脳。首を縦に振らないというのであればお前は殺されるだけだ」
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「こ、殺すだと…!?くっ、だ、だが、私はお前達に屈するわけにはいかん!科学者を舐めるな!」
「ギャーギャー喚くなグズめ」
カメレオンの怪人が部屋の影から姿を現し、二宮博士の首を締め上げる。
「我々に忠誠を従わないものに生きる価値はない。そんなこともわからないのか?本当に貴様は度し難い…」
「ぐっ…くぅっ…」
「最早貴様一人で収まる話ではないのだ…我々に協力しないのであれば家族も皆殺す」
「か、家族に手を出すなっ!」
「お前は私に命令する権利を持たない。さぁ、忠誠を誓え、さもなければあの世で家族と仲良く暮らすんだな」
「そんな…っ…しかし…ああぁぐぅぅ…あ、す」
「パパ?どうかしたの?」
突然ドアがノックされ、二宮博士の苦悩にゆがんだ顔が一瞬驚きに変わり、すぐに絶望へと染まる。
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「く、くるな飛鳥っ!来てはいけないっ!」
「何かあったの?開けるよ!」
「だめだぁっ!」
ガチャリ、と扉があき、寝間着姿の女の子が部屋に入ってきてしまう。
「パパ…え?あ、な、なにが…」
目の前に広がっている光景に困惑し、少女は立ちすくむ。
彼女は二宮飛鳥。二宮博士の愛娘だ。
「ほう、アレがお前の娘だな。探す手間が省けた」
「娘に手を出すな!逃げろ飛鳥!」
「残念だがそうはいかん。戦闘員ども!」
「キィー!」
「な、なに!?なんなんだキミたちは!放せぇ!」
隠れていた戦闘員たちが飛び出し、飛鳥の腕を押さえつける。
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「飛鳥!飛鳥ぁっ!」
「パパ!」
「ふふ、残念だったな?二宮博士」
「わかった!なんでもする!だから娘には手を出さないでくれ!」
「もう遅い!それにな…貴様が忠誠を誓おうが誓うまいが、娘の未来はさして変わらんのだ」
「どういうことだ!」
カメレオンの怪人はニヤリと残酷な笑みを浮かべる。
「お前の娘は選ばれたのだ…我らの敵、仮面ライダールクスを倒すための改造人間になってもらう」
「改造人間…!?バカな!」
「我々に忠誠を誓うのならば娘を差し出せ!誓えぬというのならば貴様を殺して娘はいただいていく!どうだ博士、気の利いた二段構えだろう?ハッハッハッハッハッハ!!」
静かな室内に、カメレオン怪人の笑い声が響く。
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「あ、飛鳥は…殺されないのか…」
「ふふふ、ある意味死ぬよりも辛いかもなぁ?いや、脳改造を受けて我々の手足となれば何に悩むこともない。そう考えると幸せだろう?」
「くっ…」
二宮博士はもがくのをやめ、力なくうなだれた。
「パパ…?」
「ふ、観念したか…では答えを…」
「うわああああああああ!!」
二宮博士が力を抜いたことに油断したカメレオン怪人の隙を突き、二宮博士はポケットのカッターでカメレオン怪人の顔を思いっきり切りつけた。
「なっ…!」
「どけえええええ!!」
博士は精いっぱい暴れながら飛鳥を押さえつけた戦闘員を跳ね飛ばし、娘を抱きかかえるようにして部屋を飛び出した。
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「パパ!あの人たちは…」
「説明をしている時間はない!」
「ママはどうなっちゃ…」
「言うな!…言わないでくれ飛鳥」
二宮博士は何とか飛鳥だけでも逃がそうと勝手口を目指すが、すべての出入り口を見張られていることに勘付き、いよいよもって覚悟を決めざるを得なくなった。
階段下の物置に飛び込み、ドアの前にものを移動させることで即席のバリケードを作る。
だが、こんなものはいつ破られてもおかしくはない。
「…飛鳥、よく聴いてくれ」
「嫌だよパパ」
二宮博士は飛鳥の肩を抱きしめながら話し始めた。
飛鳥は首を振って耳をふさごうとする。
「アイツらはブラックシンデレラという悪の組織だ。このご時世に馬鹿げた話だが、どうやら本物らしい。奴らは私の科学者としての能力と研究を欲してやってきたんだ。巻き込んでしまってすまない」
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「いいよパパ、聞きたくないよ」
「こうなってしまってはもうどうしようもない。なぜもっと警戒しておかなかったのか…」
「やめてパパ、パパのせいじゃないよ」
「私はもう助からないだろう。だがせめてお前だけでも…」
「やめて!!!!」
飛鳥は耐え切れず博士に抱きつき滂沱の涙を流す。
そんな飛鳥を優しく抱きしめ、頭を撫でながら優しく諭す。
「すまない飛鳥。だが私は科学者だ。科学の力は正しいことに使わなければならない。お前達とこの世界、どちらも私にとっては大切で選ぶことなどできない。だが、お前にまだ生き延びる道があるのならば…」
博士は白衣のポケットから、小箱を取り出し蓋を開けた。
中には注射器と薬が入っている。
「奴らの狙いに気付いた時からひそかに開発していた薬だ。これがあればお前は改造されても自由意思までは奪われずに済む。人の体を失うのは苦しいことだろうが…それでも死んで全てを失うよりはいい」
ガンガンと物置の扉が叩かれている。
破られるのも時間の問題だ。
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「わからない…わからないよパパ…!パパもママもいなくなっちゃうなら、ボクも一緒に死ぬ!」
「ダメだ飛鳥。お前は生きてくれ…生きて、いつか幸せを掴んでくれ…それが私と、母さんの願いだ」
そこまで言うと、博士は飛鳥の返事を待たずに薬を注射した。
「あっ!パパ!ボクは…うっ…」
「飛鳥…お前は少し気難しいところはあったけれど、心根は優しく、何よりも自慢の娘だ。愛しているよ…」
「パ、パ…」
薬を注射された飛鳥は、涙を流したまま気を失った。
薬の副作用だろう。
飛鳥を寝かせた博士は最後にもう一度彼女の頭を撫でると、決意を顔に浮かべ物置の扉に向き直った。
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バガァァァン
「やっと開いたか…手間をかけさせてくれる。ここまでしたからには、我々に楯突くということでいいんだな!」
「そうだ!貴様らに協力などせん!」
「ならば死ね!!」
(すまない…飛鳥…)
脳科学の天才二宮博士は、この瞬間その生涯を終えることとなった。
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―――しばらく後、二宮家
ブロロロロロロ…キキィ
すっかり静まり返った住宅街に、バイクのエンジン音が響き、止まった。
バイクから降り立ったのは…本郷猛だ。
「…何もなければいいが」
二宮博士からの突然の面会希望を受けた彼は、妙な胸騒ぎを覚え、深夜にもかかわらず様子を見に来たのだ。
ピンポォーン
失礼を承知でインターホンを鳴らすが誰も出ない。
「…出ないか…ならば」
本郷は目を閉じ意識を集中する。
仮面ライダーである彼は、変身しない状態でも常人の数倍の聴力を発揮することができる。
穏やかな寝息の一つでも聞こえればそれで帰ろうと思った彼だったが、屋内にはまったく人の気配がしないことに気付いた。
「電話は自宅からだった…明日人と会う約束をした人間が、こんな時間に出かけるだろうか…それに、奥さんと娘さんもいたはず…まさか!」
本郷は周囲を警戒しながら二宮家の門を押し開け、玄関扉まで進む。
鍵は…かかっていない。
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「…失礼!」
思い切って飛び込んだ彼は、屋内の惨状に事態を察する。
「遅かったか…!」
二宮家には誰もおらず、家内はひっくり返したように荒れていた。
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―――都内某所、ブラックシンデレラ拠点のひとつ
二宮博士を殺害し、娘の飛鳥を誘拐してきたブラックシンデレラ構成員たちは、彼らのアジトのひとつへと足を運んだ。
「後は研究開発班に引き渡せ。私は一足先に本部へと戻る」
「キィー!」
あとのことは部下に任せ、カメレオン怪人は去っていった。
「にゃははは、来たね君たち〜。おっほっほぉ、こりゃなっかなかの上玉ジャン」
それと入れ替わるように、猫の姿に白衣を纏った怪人が姿を見せる。
カメレオン怪人とは打って変わって騒がしい。
「ほんじゃぁそのまま手術室へゴー!」
意識を失ったままの飛鳥は、抵抗することもできず運ばれていった。
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―――手術中
手術室では、かつて光が晶葉から改造手術を受けた時と同じような光景が繰り広げられている。
違うのは人手と用意された資材の数々。
昏睡中の飛鳥は、自身の身に何が起きているのか知る由もない。
「変身回路設置完了です」
「もう少しで主要な間接部は機械製に交換できます」
「んー、バイタルちょっち下がってるっぽいから気を付けてねー」
猫の怪人はどうやら機械系統の専門ではないらしい。
飛鳥の肉体の変化に注意を払っている。
恐ろしいほど静かな室内に、時折猫怪人の能天気な声が響きながら、恐るべき改造は進められた…。
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―――数時間後、ブラックシンデレラ拠点のひとつ、指令室
「―――とゆーわけでー、改造はだいせいこー!じょーおー様のお達しのとーり、いや、さらに素晴らしい改造人間ができましたっ!にゃははっ」
(…ここは)
深く沈んでいた意識が浮揚し始め、飛鳥は徐々に目を覚ましつつあった。
ぼんやりとした頭に、誰かの声が突き刺さる。
『フン、相変わらずイラつくしゃべり方ねパフュームキャット。だけど、よくやったわ』
「お褒めに預りきょーえつしごくっ。いやーウチの科学班は有能ですにゃー」
(うるさい…誰が喋ってるんだ…それよりここは…)
思い出そうにも声が邪魔でうまくいかない。
飛鳥は眉をしかめた。
「おやおやぁ?早速目覚めたかにゃー?」
『ちょうどいいわ、見せてみなさい』
「りょーかいでぇーす」
うるさい声の主が飛鳥を無理矢理引き起こす。
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「ささっ、寝ぼけてないで起きた起きたっ。その力、我らブラックシンデレラ大幹部様にお見せしなさーい」
「ブラック…シンデレラ…」
猫怪人、パフュームキャットの放った言葉に、飛鳥は鈍く反応する。
「ブラック…シンデレラ…うっ」
その瞬間思い出した。
自身の身に何が起きたのか。
愛する両親がどうなったのか。
そして…気づく。
自分の体がどうなったのか。
「ありゃりゃ?どしたのかな、寝ぼけてるのかにゃ?しっかりする!仮面ライダーキラー!」
「仮面ライダー…キラー…ボクは…ボクは…」
俯いていた顔を上げた。
虚ろだった目に火が灯る。
憎悪の火が。
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「さぁ、腕をクロ…はにゃ!?」
何事か説明しようとしたパフュームキャットが驚きの声をあげた。
飛鳥の瞳に憎悪の光が宿った瞬間、彼女は漆黒のスーツを身に纏った仮面ライダーへと変身していたからだ。
「にゃ、にゃんで!?自動変身なんて…」
「よくも…パパとママを…お前たち…殺してやる…」
地の底から沸き上がるような声で、飛鳥は呟いた。
「ばかにゃ!脳改造は完璧に!」
二宮博士が命がけで残した脳改造無効化薬の存在など知るはずもないパフュームキャットは焦りを隠せない。
「取り押さえるにゃ!」
「はなせぇぇぇぇええ!!」
飛鳥は飛びかかってきた戦闘員を軽々と吹き飛ばすと滅茶苦茶に暴れだした。
今この拠点にいる構成員では押さえられそうもない。
「やばぁっ!ドロン!」
戦局の不利を感じ、パフュームキャットはポケットから取り出した香水瓶を破裂させ煙幕に乗じて逃げ出した。
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「あああああああああ!うわああああああああ!」
言葉にならない叫び声をあげ、飛鳥は暴れまわる。
機材を叩き壊し、ドアをぶち破る。
暴れている内に拠点の動力部を破壊でもしたのだろうか。
突如巨大な爆発をおこし、ブラックシンデレラの拠点のひとつは跡形もなく吹き飛んだ。
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―――爆発炎上するアジトが見える丘
ブラックシンデレラの拠点のひとつが炎に包まれたが、中で暴れていた飛鳥はどうなったのか。
「………」
どうやら無事らしい。
爆発の前に脱出したのか、巻き込まれ放り出されたのか。
「…死ねないんだ…」
後者のようだ。
「なんでボクがこんな目に…パパ…ママ…」
その呟きに答えてくれる者は…いない。
「ブラックシンデレラ…仮面ライダールクス…いや…この世界…全てが憎い…」
漆黒のライダーはその赤い目を憎悪に光らせる。
「…二宮飛鳥は死んだ。その名は両親と共に葬ろう。ボクは孤独な存在…この世には誰一人何一つボクと繋がるものはない…」
飛鳥…いや、誰でもない少女は立ち上る炎と煙に背を向け歩き出す。
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<font color="#000000">
「ボクは『ネモ』…誰でもない者、だ」
</font>
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―――次回予告
仮面ライダーレブルこと麗奈という頼もしい仲間を加えた光たち。
誰彼かまわずライダーバトルを挑む怪人の噂を聞きつけ、神奈川県へと飛ぶ。
そして、そんな彼女達に迫る黒い影とは。
次回、仮面ライダー光「激走!伝説のライダー再び!」
ご期待ください。
-
〜ED〜
熱血 アタック
正義の血潮が燃えたぎる
怒りのパンチは風起こし
炎のキックが敵砕く
跳べ空高く
ブーストジャンプで鳥になれ
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
-
以上、第七話でした。
飛鳥くんだせてホッとした。
あ、感想下さる方々本当にありがとうございます。
めっちゃうれしいっす、いやマジで。
八話はまた近いうちこの続きに。
ではでは。
-
乙ー
戦闘シーンかっこいい
-
こんばんは。
ちょっと間が空いてしまいました。
さっそく八話投稿してまいりたいと思います。
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「仮面ライダー!ルゥゥゥクスッッッ!」
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダールクス
「仮面ライダールクス、南条光は改造人間である。謎の秘密組織『ブラックシンデレラ』によって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって改造手術を受け、仮面ライダールクスとして蘇った!」
-
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仮面ライダー光 第八話
『激走!伝説のライダー再び!』
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-
―――神奈川県某所、立花レーシングクラブ
「ファぁぁ…っと」
ここはとあるレーシングクラブのロビー。
ジーンズにS字の入った赤のトレーナー、そして黒い手袋をした男がジャケットを片手にぶら下げ、欠伸をしながら適当な席に腰かける。
「ちょっと所長、いくら営業時間前とはいえそんな風にロビーに居座られても困りますよ!」
「あぁ?別にかまやしねーだろ。大体その『所長』ってのも、こちとら好きでやってるんじゃねーや」
所長なんて肩書きで呼ばれているわりには随分と柄の悪い男である。
とはいえ、声をかけた受付嬢が呆れたような顔をしているところをみると根はそう悪い人間では無さそうだ。
男は立ち上がるとロビーの自販機でコーヒーを購入し、テレビをつける。
「またそうやってロビーのテレビを勝手に使うし」
「いーだろ別に。どーせ客が来たらつけるんだしよ」
受付嬢のお小言もどこ吹く風で受け流し、ジャケットを置いた席に戻ってテレビを眺める。
-
『―――昨夜、脳科学研究で注目される二宮博士の自宅が何者かに荒らされていたことがわかりました』
「所長がニュースなんて珍しいですね」
「柄じゃねーってか?ほっとけ、これでもニュースくらいは見るようにしてんだよ」
「失礼しました」と舌を出す受付嬢に鼻を鳴らし、男はテレビに視線を戻す。
『―――なお、二宮博士の奥さんと娘の行方もわからなくなっており、警察では誘拐事件と見て捜査を続けています』
「科学者の誘拐…ねぇ」
何か思うところがあるのだろうか、男は眉根を寄せている。
バーン!
とそこで、思案に耽る男の邪魔をするように、営業時間前の立花レーシングクラブのドアが勢いよく開いた。
-
「あ、アニキィィィィ!」
「ちょ、ちょっとあなたたちなんですか!まだ営業時間前ですよ!?」
飛び込んできたのは、いかにも暴走族然とした男女十数名。
全員顔にはどうしていいかわからないという表情を浮かべている。
「アニキぃ!助けて下さい!俺らどうしたら…って!」
「アニキなんて呼ぶんじゃねぇっていつも言ってんだろーが!ったくよォ…んで、どうした」
勢いよく迫ってきたリーゼント男の頭を軽く叩くと、『所長』は話を聞く体勢に座り直した。
柄は悪いが頼られているようだ。
「ちょっと所長、いくら営業時間前でも…」
「目ぇ見りゃコイツらがどんだけマジかくらいわかる。ちょっと多目に見てやってくれ」
そして、面倒見も言いようだ。
「あ、姐御が帰ってこねぇんだよ!もう何日も」
「拓海のヤロォが?…そういや最近来てねーな」
-
彼らの言う拓海とは、向井拓海のことだ。
女だてらに暴走族のヘッドを務め、喧嘩でもバイクでも負けなしだったという。
それもこの『所長』に出会うまでの話だが。
「やっぱりアニキんとこにも来てねーんすか」
「あぁ、言われりゃここしばらく見かけてねぇ。別に毎日来なきゃいけねー決まりもねぇからなんか用事でもあんだろうと思ってたがよ」
「実は、何日か前から姐御と連絡取れなくてさ。いつものパトロールにも来ないから心配で…」
「ここに来ねーのはともかく、アイツが自分で決めたことを何も言わずにサボっちまうってのは、少しばかり妙だな」
彼らのチームは、少し前まで地元でも有名な迷惑集団として知られていた。
力に任せて暴れるような真似こそしなかったものの、そんな彼らのプライドなど近隣の住民に伝わるはずもなく、実際騒音問題などに頭を悩ませている事実があった。
そんな彼らを屈服させたのがこの『所長』と呼ばれる男だ。
彼はたった一人でこのはぐれ者たちに挑み、どんな手を使ったのか完全に暴走行為を辞めさせることに成功した。
取り巻きと思しき女の言った“パトロール”とは、ヘッドの拓海がケジメと罪滅ぼしの為にこの辺一帯の道路で暴走行為を働くやつがいないか見回ることを指している。
-
まぁ、特攻服を着たままでパトロールをするので、近隣住民にちょっとした困惑が広がっているのも事実だが。
「姐御はやると言ったらやる人だ!だけど…アタイらのメールにも電話にもでてくれねーし…」
「姐御だって人間さ、たまには何もかも嫌になることはあるかもしれねぇ…そんなときまで無理やり引っ張りまわそうとは思わねんだけどよ…けど、今はそういうわけにもいかねんだ!」
「どういうことだ」
「姐御がいなくてもパトロールだけはしなくちゃいけねぇと思ってよ、とりあえず昨日もこの辺流してたんすよ。したらなんか変なヤツが出てきて…」
-
―――ヘッ、んだ?トップク着といてチンタラ走ってんじゃねーよ!
―――オラオラオラオラ!
-
「俺らに喧嘩売ってきて…何人かケガした奴もいるんすよ!」
「テメーら、やり返さなかったのか?」
男の問いに、不良たちは大きくうなずく。
「俺らには俺らの意地がある。意味のねぇ喧嘩はしねぇっす!」
「アタイらがあんなとこで暴れたらいろんな人に迷惑かかる。姐御はそれだけはダメだって言ってたし、あの人がいない間に勝手な真似なんかできないだろ?」
「やれやれ…正直っつーか、バカっつーか」
男は呆れたような顔をしてはいるが、どこか嬉しそうだ。
「けど、例えガチったとしても俺らじゃアレにゃ勝てなかったと思います。あんなバケモンに勝てるのは、姐御かアニキだけっす!だからアニキ」
「だーからアニキって呼ぶなっての。大体お前ら情けなくねーのか、女のアイツに頼りっきりなのも、無関係のオレに頼むのも」
「正直悔しいっす…けど…」
男の的確な指摘に不良たちは顔をうつむかせる。
「ったく…」
-
『続いてのニュースです。近頃、神奈川県の道路上に置いて、バイクに乗っている人を狙った恐喝事件が発生しているとの情報が発表されました。警察によると、犯人はバイクに乗った被害者たちへ突然近づき「アタシと勝負しろ」と言い放ったということで…』
「…そういうことかよ」
つけっぱなしだったテレビから聞こえてきたニュースから、男は何かに思い至り立ち上がる。
「アニキ?」
「ワリィ、ちょっと出てくるわ」
「ちょっと所長!?お仕事は!?」
「テキトーに回しといてくれ」
「アニキどこへ!」
「アニキって呼ぶな。拓海の事は任せとけ」
男は振り返らずロビーを出る。
「ちょっと所長!所長!?もう!『茂さん』!」
-
彼の名は城茂。
そして、世を忍ぶ彼のもう一つの名前は。
「エンジンよーし。…んじゃ、行きますか」
正義の戦士、仮面ライダーストロンガー。
-
―――晶葉の研究室
「つまり、ブラックシンデレラでお前たちの様な怪人を作っていたのはパフュームキャットという怪人なんだな?」
「あぁ、いつも能天気な喋り方をする猫の怪人だ。ブラックシンデレラの研究開発班リーダーらしい」
バトラカンガルーを倒してから数日後。
件の怪人に変身させられていた桐野アヤから、光たちは話を聞いていた。
「けど、なんで茜さんたちは自分が怪人だった時のことを覚えてなかったのに、アヤさんは覚えてるんだ?」
「アタイは理系じゃないから詳しいことはわかんねーけど…多分、他の子たちよりアイツらに攫われたのが早かったからじゃないか?」
「アヤさんの方が早かったのか」
「あぁ、アタイは奴らに攫われた一般人の中でもわりと古株なんだ。だから戦闘訓練も他の子たちより長く受けてたし、ブラックシンデレラきっての武闘派なんて呼ばれてたわけだ」
「恐らくその見立ては正しいだろうな」
アヤの言葉を受けて晶葉もうなずく。
-
「一般人を怪人に変身させるのは薬の力だ。洗脳期記憶がないのも薬の副作用だろう。おそらく、何らかの理由で怪人化が解除されたとしても情報が漏れることのないようにということなんだろうな。アヤが怪人にされた頃はまだ薬がその効果を持っていなかったか、或いは弱かったか…そんな所だろう」
「なるほど…」
理由はどうあれ、ブラックシンデレラの事を知る仲間が増えたのは心強い話だ。
「あとアタイが知ってんのは幹部の顔ぶれくらいだな」
「うん、教えてくれ!」
「あぁ、現在ブラックシンデレラにはさっきのパフュームキャットのほかに、モニタカメレオンという参謀役がいる。そして、奴ら以下を束ねるリーダーが、クイーンTだ」
「クイーンT…」
「ブラックシンデレラ日本支部リーダーってことになるみたいなんだけどな」
「日本支部…ってことは世界中にあるのか!?」
新たな事実に光たちは驚愕する。
「世界征服を企む悪の組織、だからな。まぁ当然っちゃ当然だろ」
「しかし、そうなるとそのクイーンTの上にさらに厄介なのがいるということではないか?」
-
「あぁ、アタイたちはそいつを『首領』と呼んでた。『大首領』なんて言われることもあるみたいだけどな」
「『首領』なんてのもいるのか…」
改めて自分たちの挑む組織の大きさを感じる話だ。
「えっとさ、その幹部たちってのも、アヤさんみたいに操られてたりするのかな」
「…いや、多分それはない。少なくとも、クイーンTと幹部二人は根っからブラックシンデレラだ」
「逆を言えば、それ以外の奴らは操られた一般人ということになる…喜ぶべきかどうかは微妙なところだな」
根っからの悪人が少ないというのはいいことだが、それだけ苦しい目に遭っている人が多いという事でもある。
光と晶葉の顔は暗い。
「…ワリィな、あんまり役に立てなくて」
「ううん!役に立たないなんてとんでもない!アヤさんのおかげでいろんなことがわかったよ」
「だな。少なくとも奴らの組織構造がなんとなく見えてきただけでも大収穫だ。礼を言う」
「そういってくれると嬉しいよ。だけど、アタイも最近入ってきた連中のことになるともうわからない。ただでさえ戦い専門だったしな」
-
「そうそう!アヤさんめちゃくちゃ強かったけど、なんかやってるのか?」
アヤが変身していたバトラカンガルーとの死闘を思い出し、光は尋ねる。
「あぁ、アタイは格闘技とか好きでさ。見るのもやるのも。そんでキックボクシングのジムに通ってた」
「それであんなに強かったんだ…」
「ブラックシンデレラで受けてた戦闘訓練もあるとは思うけど、怪人態の強さは、そもそもの肉体の強さに左右される。そういう意味じゃ格闘技かじってたアタイなんかは強い部類に入るんだろうな」
喜んでいいやら悪いやら、とアヤは苦笑する。
ともあれ、新しい仲間を加えた光たちは、今日も今日とてブラックシンデレラの次なる企みを探すのだった。
-
―――CGプロ事務所
トゥルルルル
「はい、風見です…あぁ、本郷先輩。…ちひろさん、ちょっと空けます」
「はい、どーぞ」
突如鳴り響いたケータイに出た風見は、相手が本郷であることを知るとちひろに会釈してその場を離れた。
「…もしもし」
『志郎、マズイことになったぞ』
「何かあったんですか」
『二宮博士の事件は知っているか』
「えぇ、朝方ニュースで…妙な事件だとは思いましたが、まさか」
『あぁ、奴らの仕業だ。実は私は今日、二宮博士と会う約束をしていてな』
本郷は手短に昨夜の状況を説明する。
-
『おそらく二宮博士は連れ去られたか殺されたに違いない』
「なんてことだ…」
『私はこれから、奴らの拠点がどこにあるのか探しに出る。どのくらいかかるかはわからんが、留守の間の事は任せるぞ』
「わかりました」
『それと、茂から連絡があった。次の怪人に心当たりがあるから自分に任せてくれ、だそうだ』
「茂が?次の怪人というのは」
『詳しいことはわからん。だが、ニュースを見ればわかると言っていたな』
「まったく、相変わらず勝手な奴です」
『はっは、そう言ってやるな。安心しろ、後輩の邪魔はしないように釘を刺しておいた』
「まぁ、茂が動いているなら安心です。任せても大丈夫でしょう」
言葉の端々から、城茂への信頼が感じ取れる。
『では、何か分かったら連絡する』
「お願いします」
風見は通話を終えて、席へと戻る。
-
「先輩って聞こえましたけど、サークルの先輩とかですか?」
「あぁ、聞こえました?なに、大学時代の先輩でしてね」
ちひろの質問に答えながらネットのニュースサイトへアクセスする。
「へー、そういえば風見さんの学生時代って聞いたことありませんでしたね…どんな学生だったんです?」
「うーん、体を動かすのが好きでしたね。これでも、器械体操やってたんですよ」
「あぁ、トレーナーさんたちが褒めてましたよ。良い体してるって」
「はっは、これでもちょっとしたもんでね。恥ずかしながら『マットの白い豹』なんて呼ばれたこともありましたよ」
談笑しつつもつぎつぎと国内ニュースを調べていく。
「あは、なんかかっこいいですね。どうです?みんなみたいにブロマイド作ってみたら[マットの白い豹 風見志郎]なんて」
「ははは、柄じゃありませんて」
「じゃあ、今の先輩というのはその体操部の?」
「いえ、それとは別にオートレーサーをかじってましてね。そっちの先輩です」
-
「はぁー…風見さんて実は多才なんですねぇ」
「なに、大したことじゃありませんよ。…む」
風見はそこで気になる資料を見つける。
「『神奈川県内でライダーバトルを挑む不審人物』…?これか」
「どうかしました?」
「あぁ、いえ、なんでも。さ、仕事しますか」
適当に誤魔化すと、風見は通常業務に戻った。
-
―――晶葉の研究室
「それで、これが私が怪しいと睨んでいる事件だ」
「『ライダーバトル』…か」
同じころ、光たちも風見が見つけたものと同じ記事を読んでいた。
二宮博士の失踪事件のせいで隠れがちだが、なかなか派手な事件だ。
「正直、科学者誘拐の件の方が臭い気はする。しかし、こうして大々的な警察沙汰になっている以上現場に行って調べるのは難しいだろう。我々は法律上まだ子どもなのだしな」
「うん、アタシもそう思う。多分追い返されるのがオチだよな」
彼女たちもまた、二宮博士の失踪事件にブラックシンデレラの匂いを嗅ぎつけてはいるが、いかんせん現状手の出しようがない。
「それに比べこっちの事件は簡単だ。もしこれが奴らの手によるものならお前がルクスとして現場付近をうろうろしていればいずれ引っ掛かるだろう」
「もし違っても、悪いことしてるやつを懲らしめれば人助けになるし…何もしないよりはずっといいよな!」
「ただひとつ気になるのは…」
晶葉はそこで思案にふけりながら言葉を続ける。
「敵がバイクでの勝負を持ちかけてくるとなると、こちらのブリーズで対抗できるかという不安が残るな」
-
「大丈夫!晶葉の作ってくれたブリーズは、そこらのバイクだって太刀打ちできないすごいやつじゃないか!きっと勝てるさ!」
「ふむ…案ずるより産むがやすし。やってみろ、光」
正義の力はみんなの為に。
仮面ライダーV3との邂逅は、光の心に少しずつ変化をもたらしているようだった。
-
―――神奈川県某所
「アイツらが襲われたのはこの辺つったか…」
茂はバイクを降り、周囲を見渡す。
なんてことはない普通の道だ。
この場所に秘密があるという事でもないのだろう。
「ま、他の被害者が襲われたのも県内だってだけで別に密集してるわけじゃねぇ。ハナから期待しちゃいねーけどな」
そこで茂は目を閉じ意識を集中する。
仮面ライダーストロンガーこと城茂は、その能力「カブトキャッチャー」により広範囲にわたる索敵や、敵の残した痕跡を探ることができるのだ。
「ふん、残ってやがるな痕跡が。この感じだとテキトーに県内流して、見つけたやつにケンカ売って…って感じか。気にいらねぇ」
茂は再びバイクにまたがる。
「おそらくルクスとかってのをおびき出すために派手に暴れてやがんだろうが…あんまり来んのがおせーと、オレが食っちまうぜ」
そうつぶやいて、茂はバイクを発進させた。
-
―――その日の夕方、神奈川県某所
「ふぅ…やっとついた」
光は額の汗をぬぐう。
晶葉の研究室を出た光は、ブリーズに跨りここまでやってきた。
最初から変身してくるわけにもいかないので、当然漕いできたという事になるわけだが。
「いい運動になったかな!」
改造人間とはいえ大したものだ。
「被害にあった人が襲われたのは夜だ。もう少ししたら調査を始めよう」
-
―――夜、神奈川県某所
「よし、調査開始だ!」
ブリーズに跨り、ルクスは気合を入れる。
既に変身は完了しているようだ。
晶葉にもらった地図を頼りに、人通りの少ない道を疾走する。
一時間ほども走っただろうか。
なんてことのない一本道。
両脇をくさっぱらが広がる道路に出たところで、ルクスは背後から迫る何かの気配を感じた。
フルスピードではないとはいえかなりの速度で走っているはずのブリーズに、みるみる何かが迫ってくる。
「出たな…くっ!」
あっという間に追いつき、そのまま追突してこようとする何かをすんでのところで躱し、ルクスは相手を睨みつける。
「お前もブラックシンデレラの怪人か!」
「あぁそうだ!現れたな仮面ライダールクス、このアタシ、ライダーウルフ様と勝負しな!」
現れたのは大柄な狼の怪人。
灰色の巨大なバイクに跨り、不敵な笑みを浮かべている。
-
「あぁ、そのつもりでここへ来たんだ!」
「へっ、上等じゃねーか。そのチャリンコでどこまでアタシと張り合えるか、見せてもらうぜ!」
言うが早いかライダーウルフはアクセル全開で突撃してくる。
「くそっ!」
ルクスはなんとかハンドルを切り、その体当たりを躱したが、巨大なバイクが巻き起こす衝撃はすさまじく、バランスを崩しそうになる。
「オラァ!どうしたァ!もうシマイかルクス!」
「舐めるな!パワーじゃ負けても、スピードならっ」
ルクスもブリーズのブースターを全開にし、飛び上がって見せる。
「その巨体じゃ小回りは利かないだろ!」
垂直落下によるドロップアタック。
しかし。
「アメェンだよッ!」
ライダーウルフはウィリーの要領で前輪を大きく持ち上げると、落下してきたブリーズを激しく迎え撃った。
-
「うわああああっ!!」
重量、マシンパワー、その両方で負けているルクスとブリーズは派手に吹き飛ばされた。
「くっ…強いっ」
「オラ、どうしたァ!」
怯むルクスに追い打ちをかけようとライダーウルフが迫る。
なんとか突進をかわし、隙を作ろうとブリーズを駆るルクスだが、あっという間に追いつかれ横に並ばれた。
「くっ…このっ…!」
「ハッ…ホレ!」
右に左に、小回りを生かして敵を振り切ろうと試みるルクスをあざ笑うかのように、ライダーウルフは強引なハンドリングでぴったりくっついて離れない。
「ダメか…!」
「オラよッ!」
追いかけっこは飽きたとばかりにライダーウルフはルクスの前に回り込んだ。
「口ほどにもねーな。ま、お子様なんてこんなもんだろ」
「くっ…」
-
<font color="#000000">
「〜♪」
</font>
-
突如、口笛が風に流れてきた。
ドルルン!
「誰だ!?」
エンジン音が鳴り響き、にらみ合うルクスとライダーウルフを強いライトが照らし出す。
ライトは一台のバイクから放たれており、それに跨るのは。
-
<font color="#000000">
「天が呼ぶ。地が呼ぶ。人が呼ぶ。悪を倒せと俺を呼ぶ」
</font>
-
謎の影が口上を述べながらゆっくりと近づいてきた。
すさまじい力の奔流が感じられる。
「聞け、バカヤロウ」
そこで影はまっすぐにライダーウルフを指さした。
「オレは正義の戦士、仮面ライダーストロンガーだ!」
-
「か、仮面ライダー!?」
「へっ、何が正義の戦士だ。バカじゃねーの」
ルクスは驚き、ライダーウルフは苦々しげに吐き捨てる。
「おう、お前がルクスだな?V3から話は聞いてる」
「V3を知ってるのか!」
「あぁ、先輩だからな。思いのほか来るのが早かったじゃねーか」
「た、たまたまだよ」
「運も実力のうち、ってな」
新たな仮面ライダーの出現に驚きつつも、褒められたことに照れるルクスへストロンガーは二の腕を叩いて見せる。
「だが、ライダーとしちゃまだまだだな。つーか、コイツとお前じゃ相性が悪い。ここはオレに任せとけ」
「う、うん…」
「フン、誰が相手だろうとカンケーねぇ。全員ぶっ潰してやるよ!」
「やれるもんならやってみな。聞き分けのねぇ犬ッコロには、躾が必要だ」
-
ストロンガーの挑発にやすやすと乗ったライダーウルフがアクセル全開で突っ込む。
「アタシは狼だッッッ!」
「犬にはかわんねーだろ」
猛烈な体当たりを、ストロンガーは最小限のハンドリングで躱す。
荒っぽい口調とは裏腹の、繊細な技術だ。
「グルルルル…アオーン!!」
「本気で来いッ!」
ライダーウルフの雄叫びにあわせ、ストロンガーもアクセルを踏み込む。
ギュイイイイッブロロロロオ
二台のバイクと二人のライダーが、激突を繰り返す。
並んだ状態で相手をいかに蹴倒すかに全神経を注ぐ、まさにデッドヒートだ。
-
「…すごい」
ルクスのブリーズはそもそも移動用。
普通のバイクよりは強固とはいえ、ここまでのバトルができるほど強くはない。
ガキンッガギギィィン
すさまじい音が響き、マシンのカウル部分が欠けて破片が飛んでいる。
一見互角なようだが、ライダーウルフの顔には焦りが見て取れる。
一方ストロンガーの方は、仮面の下の表情まではわからないものの、全く焦る様子はない。
「くそッ!くそがッ!」
「相変わらずテメーは、操作全般が荒っぽいんだよッ!」
車体を捻り、ストロンガーはライダーウルフをマシンごと弾き飛ばした。
「グルルルル…アオォォォォォン!!!」
怒り狂ったライダーウルフはひときわ大きく吠え、最大速度で正面から突っ込んだ。
「けっ、ヤケになったら勝負は終わりだっていつも言ってんだろーが…カブトロー!」
ストロンガーの掛け声で発光したマシン、カブトローは真っ向からライダーウルフを迎え撃つ。
衝突の瞬間、ストロンガーは華麗に飛び上がり両腕をこすり、ライダーウルフのマシンのバッテリー部分に触れた。
-
「ワリィな、後でちゃんと修理してやっからよ…電タッチッ!!」
「なにぃッッ!?」
カブトローとの正面衝突、そしてストロンガーによってバッテリーに高圧電流を流しこまれたライダーウルフのマシンは、大破して動かなくなった。
「アタシのワーウルフが!」
どうやらあのマシンはワーウルフという名前だったらしい。
壊れた今となってはその名前に意味はない。
「…さて、躾は完了。お前のフィールドまで引きずり落としてやったから、あとは頑張れな」
「ありがとうストロンガー!でも、あなたはどうするんだ?」
「お前が戦ってる間に、あれを片付けとくからよ」
ストロンガーの指さす先には、いつの間にか現れたブラックシンデレラの戦闘員たち。
「邪魔はさせねぇ。安心してぶつかってこい」
「おう!」
-
ルクスはこぶしを突き上げ、ライダーウルフに向き直る。
「さぁライダーウルフ!今度こそ決着だ!」
「バイクが無くなったからって、アタシに勝てると思ってんじゃねぇ!」
言うが早いか、ライダーウルフはその背から木刀を抜いた。
「アタシたち怪人の怪力にも耐えられる特注品だ。当たるとイテェぞ!!」
「それならこっちだって!」
ルクスも負けじと、腰のベルトから何かを引き抜いた。
「マイクソード!」
マイクのような形をした円筒形のものをルクスが振ると、シャキン!と先から剣が伸びる。
「うらああああ!!」
「てぇぇい!!」
ガキン!キィン!キィン!
互いの得物を振り回し、ぶつかり合う二人。
-
「キィー!」
「テメーらの相手はオレだっつってんだろ」
ルクスの邪魔をしようと駆け出した戦闘員の首根っこを掴み、ストロンガーが力を込める。
「電ショック!」
「ッギギギギギィ!!」
ストロンガーは電気人間。
その手からは超高圧の電流が流せるのだ。
「オラァ!」
電ショックでえ動かなくなった戦闘員を力任せに投げ飛ばし、他の戦闘員をなぎ倒す。
「どうしたどうした!ブラックサタンのネズミどもだって、もうちょっと骨があったぜ!」
流石は仮面ライダーストロンガー。
その力は計り知れない。
-
「ぐっ!オラッ!」
「ふっ!せいっ!やぁっ!」
こちらはいよいよ佳境だ。
あれほどのモンスターマシンを乗りこなしていたのもうなずけるほど、ライダーウルフの身体能力は高い。
しかし、ここ最近の特訓や自身の力を正確に理解し始めたルクスからすれば戦えぬほどではない。
むしろ、バトラカンガルーに比べれば弱く感じるほどだ。
敵の振るう強化木刀を正確にいなし、一瞬の隙を探す。
「…っ!」
「そこだぁっ!」
わずかに打ち込む場所を迷い、動きの鈍ったライダーウルフの右手に、マイクソードを打ち込む。
「がぁっ…!」
カランカラン…
強化木刀はライダーウルフの手から弾き飛ばされ、離れたところに転がった。
「どうだ!」
-
とっさに飛びのいたライダーウルフにマイクソードを向け、ルクスは勝ちを確信する。
「これで終わりだ、あなたもブラックシンデレラから解放してあげるよ!」
「けっ…誰がンナこと頼んだってんだよ!!アタシは…」
-
<font color="#000000">
「―――ブラックシンデレラの手先に…容赦はいらないよ、ね」
</font>
-
ルクスがとどめのライダーキックをお見舞いしようと力を込めた瞬間、一陣の風が吹き、ライダーウルフの目の前に漆黒の影が現れた。
「はっ…?がっふぅッッッ…!」
あっけにとられるライダーウルフに構うことなく、その影は強烈な回し蹴りをライダーウルフの腹に叩きこんだ。
ゴム毬のように吹き飛ばされたライダーウルフは、ルクスが怪人を倒した時のように爆発せず、煙をあげながら少女の姿へと変わった。
「き、君は一体…」
「…」
驚き問いかけるルクスの言葉を無視し、漆黒の影は倒れた少女に歩み寄る。
「ブラックシンデレラに関わったものは…すべて消す…」
「何をする気だ?まさか!やめろ!」
漆黒の影は思いっきり足を振り上げると、倒れた少女に向かって振り下ろした。
何をする気か悟ったルクスが走り出したが、それより早く動き出していた者がいた。
-
ドゴッ
「…なぜ邪魔をする?」
「コイツはもうブラックシンデレラの手先なんかじゃねぇ。ただの女だ。それを殺そうってのは、いただけねぇな」
ストロンガーだ。
彼は不穏な空気を感じ、漆黒の影が何をしようとしているのか察知。
すぐさま倒れた少女に向かって駆け出し、攻撃が当たる前に助け出したのだ。
「…ブラックシンデレラに関わったものはみんな消す。それがボクの使命だ」
「何の恨みでそんなことしてんだか知らねーが、コイツを殺させるわけにゃいかねー」
「…っ」
漆黒の影がストロンガーに抱えられた少女へと拳を繰り出すが、難なく受け止められる。
「ワリィな。電ショック!」
バチバチバチバチ
ストロンガーの腕から高圧電流が流され、漆黒の影に感電する。
すさまじい放電現象だ。
しかし。
-
「っ…すごい力だ…キミもブラックシンデレラの改造人間なのか?」
「オレはまた別だ…てか、今のを耐えんのかよ」
「…今日は分が悪いみたいだ。引き下がろう」
漆黒の影はストロンガーに背を向け、歩み去ろうとした。
「待て!」
もちろんそれを黙ってみているルクスではない。
事情を聴こうと引き留める。
「君は何者なんだ?君も仮面ライダーなのか?」
「…キミが、仮面ライダールクスだね」
漆黒の影はゆっくりとルクスに向き直り、その全身をねめつける。
「…次に会った時は、君を殺す。ライダールクス」
「なんだって!?」
しばしの無言の後に放たれた言葉に、ルクスは驚く。
「待て!君は一体…」
-
「ボクは『ネモ』…誰でもない者」
それだけ言うと、漆黒の影『ネモ』は去って行った。
後に残されたルクスとストロンガーは、顔を見合わせることしかできなかった。
-
―――晶葉の研究室前
「この辺でいいか」
「ありがとうストロンガー。運ぶの手伝ってもらっちゃって」
「気にすんな」
倒れていた少女を運び、ルクスとストロンガーは晶葉の研究室前まで来ていた。
もうすっかり遅い時間だ。
「じゃ、オレは帰らせてもらうぜ」
「あ、えっとさ…」
ルクスはもじもじとストロンガーに尋ねる。
「あ、アタシさ、どうだったかな」
「どうだったっつーのは?」
「その、ちゃんと仮面ライダーできてたかな、って。さっきも助けてもらっちゃったし」
「ん?あぁ」
ストロンガーはルクスが何を気にしているのか気が付いた。
(おいおいメンドクセーな。風見先輩が厳しいこと言ったからだろコレ)
-
「あー、別にいいんじゃねーか?オレだって先輩たちにはずいぶん助けられたしな」
「でも、V3がアタシはまだ仮面ライダーじゃないって」
(やっぱりな)
ここで「自分で考えろ」と突き放すには、ストロンガーは面倒見が良すぎた。
「助けてもらうのは別に悪いことじゃねー。現に、オレの前の先輩たちだってそのまた先輩から助けてもらってた」
「他にも仮面ライダーはいるの!?」
「あぁ。お前が出会うかはわからねーが、オレは仮面ライダーとしちゃ七人目だ」
「七人も…」
一人だけという事はないだろうとは思っていたが、それでも想像以上の人数に驚きを隠せない。
「V3だって、はじめのうちは何度も負けたし、先輩の力を借りたって聞いてる。仮面ライダーってのは、強いから、負けないから名乗れるもんじゃねぇ」
「…うん」
ストロンガーの言葉にうなずきながらルクスは聞き入る。
-
「仮面ライダーってのはな、諦めない奴のことを言うんだ。誰かの、何かの為に、絶対に戦うことをあきらめない奴。そいつが仮面ライダーだ。お前はどうだルクス、なんの為に戦ってる」
「アタシは…えっと、最初は悪い奴を何とかしなきゃって思っただけで…でも、困ってる人を助けたいっていうのは思ってて…でもなんでそう思うのかっていうのはまだ…」
「V3が言ったのはそういう事だろ、多分な。大丈夫だ、そこまで考えてんならあと一歩。半人前から四分の三人前くらいにはなってんじゃねーか」
「うん…ありがとうストロンガー!」
ストロンガーは照れ臭そうにヘルメットを掻いて見せる。
「あー、なれねー話したら体がかいーわ。オレは帰るぞ」
「うん!またね!」
「おう…あぁ、そうだ。そのガキが目を覚ましたら、テキトーに面倒見といてくれや。そのうち『城茂』ってやつが迎えに来るだろうからよ。そいつと顔なじみだ、任せていいぜ」
「じょうしげるさんだね。わかった」
「おう。アバヨ」
片手をあげると、ストロンガーはカブトローのエンジンを唸らせ、去って行った。
-
「…V3とはまた違うけど…かっこよかったなぁ」
変身を解きながら光はつぶやく。
再び憧れのヒーローと出会ったよろこび、そして自身の成長を認めてもらったむずがゆさを感じながら、光は少女を抱え晶葉の研究室へ入って行った。
-
―――次回予告
ストロンガーの助けを借り、向井拓海を助け出した光。
街中に現れるゾンビ集団の噂を聞きつけた彼女は、とある墓地へと急行する。
そして、そんな光の後を追う漆黒の影の正体とは。
次回、仮面ライダー光「恐怖!屍術師の罠!」
ご期待ください。
-
〜ED〜
熱血 アタック
正義の血潮が燃えたぎる
怒りのパンチは風起こし
炎のキックが敵砕く
跳べ空高く
ブーストジャンプで鳥になれ
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
-
以上で八話終了です。
いまさらですが、登場するライダーたちの性格は原作とかSPIRITSとか色々混じってます。
ただ、あくまで主人公は光なので、もっと活躍させてやりたいですね。
ではでは九話でお会いしましょう。
-
昭和ライダーズキター(゜∀゜)-!!
これは特訓するフラグですわ…
乙ー
-
こんにちは。
またまたしばらく間があいてしまいました。
ちょっと忙しくてね。
では、九話行きましょう。
-
「仮面ライダー!ルゥゥクスッッッ!」
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダールクス
「仮面ライダールクス南条光は改造人間である。謎の秘密組織「ブラックシンデレラ」によって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって、仮面ライダールクスとしてよみがえった!」
-
<font color="#000000">
仮面ライダー光 第九話
「恐怖!屍術師の罠!」
</font>
-
―――翌日、晶葉の研究室
「迷惑かけたみてぇですまねーな」
「良いってことさ!拓海さんも被害者なんだからな」
ライダーウルフに変身していた少女は向井拓海。
目を覚まし、事情を聞いた彼女は光たちに頭を下げた。
「お前は何があったか覚えているのか?」
「いや、全然。けど、なんかうっすらモヤモヤすんだよな。妙な黒いのに蹴り殺されかけたのは覚えてる」
「突然現れたという漆黒のライダーか…」
光から話は聞いていたものの、改めて晶葉は考え込む。
「最初は一瞬麗奈かと思ったんだ。だけどすぐに違うってわかった。麗奈はあんなスピードで動けないし、なによりあんな冷たい声は出さない」
「ふむ…」
「アイツも、V3やストロンガーみたいな仮面ライダーなのかな…ていうか仮面ライダーてアタシだけじゃないんだよな、今更ながら」
「元々、お前に施した手術はブラックシンデレラに保管されていた人体改造に関する資料にヒントを得たものなんだ。概要以外の部分が見当たらなかったのでてっきり提案されただけで実行されなかったのだと思っていたが…」
-
疲れたのか晶葉は腕を組み直す。
「もしあの特撮番組が実際にあったことを元にして作られているというのなら、改造人間に反旗を翻されたから資料を処分したということかもしれん。実際のところは彼らに聞いてみなければわからんがな…くっ、ルクスを遥かに凌駕するその体の秘密、ぜひとも詳しく調べてみたいのに!」
自分の前に現れないライダーを想って、晶葉は悔しそうに口をへの字に曲げる。
「とりあえず、その漆黒のライダー『ネモ』については置いておこう。拓海の記憶も、恐らくは探るだけ無駄だ。それよりは早く家に返して休ませた方がいい」
「良いよンなこた。どーせ家にアタシの居場所はねぇんだ。そんな無駄するくらいなら、この体刻んで調べてくれていいぜ」
「そんなこと言っちゃダメだよ拓海さん。それに、拓海さんを待ってくれてる人だっているんだぞ!」
「あぁ?ンな奴いるわけ…」
「邪魔するぜ」
-
晶葉の研究室に来客だ。
胸にS字の入ったシャツにジーパン。
黒い手袋の城茂だ。
「ここにウチのじゃじゃ馬が御世話ンなってるって聞きましてね」
「シゲ兄!」
「あなたが城茂さんか?」
「おう、ストロンガーからここのことを聞いてね」
「ストロンガーとはどんな関係なの?」
「古い馴染みさ。戦友って奴だな。で、拓海お前こんなとこでなにやってんだよ。無断で何日も欠勤しやがって」
「別にアタシはあそこに働きに言ってたわけじゃ…」
「お前のチームの連中も心配してる。ウジウジすんのは後にしてとりあえず帰んぞ」
茂に手を取られるまま立ち上がった拓海だが、思い出したように立ち止まる。
「そういやアタシバイクが…」
「何のためにオレが迎えに来たと思ってんだ。後ろに乗ってきゃいいだろ」
やれやれ、と茂は肩をすくめる。
拓海はうつむいたままだ。
-
「ほら、アタシが言った通り、待ってる人がいただろ?」
「…まぁな」
「アタシも拓海さんの事待ってるからさ!また遊びに来てよ!」
元気のない拓海に、光は笑いかけた。
それを見た拓海の顔にも少しばかりの笑顔が戻る。
「…へっ、こうやってしょぼくれてんのもアタシらしくねぇか。サンキュな光」
「いいってことよ!」
「ふん、生意気なやつだ!…またな」
そう言い残し、拓海は研究室を後にする。
茂もそのあとを追うように出て行った。
-
―――神奈川に戻る途中
「…なぁシゲ兄」
「なんだー?」
茂の運転するバイクの後部座席に座る拓海が問いかけた。
「あの黒と赤の仮面ライダーってさ…シゲ兄だろ?」
「…テメー覚えてんのか、自分が怪人だった時の事」
否定も肯定もせず、茂は質問に質問で返す。
「なんてーかうっすらと。つーよりあの仮面ライダーとやりあってたとこだけなんとなく」
「どういうこった」
「あれが叫んだところだけ妙にくっきり浮いてんだ、頭ン中に…なぁ、アレ、シゲ兄なんだろ?」
「…まーな。なんでわかったんだ?」
「なんでもクソもあるかよ。アンタ、あんまし隠す気なかったろ『相変わらず荒っぽい』とかさ」
茂の疑問に、拓海は笑いながら返す。
-
「ま、それもそーか」
「なぁ、光に教えなくて良かったのか?」
「今はまだその時じゃねー。そういうこったな」
「ふーん…」
そこで二人の会話はしばし止まる。
再び口を開いたのはまたも拓海だった。
「なぁ、シゲ兄」
「あんだよ」
「…なんで、アタシなんかを助けに来てくれたんだ?」
「あんだって?」
「やっぱり、仮面ライダーだからなのか?」
「…はぁ」
拓海の質問に茂はめんどくさそうなため息を吐く。
なんとなく彼女の気持ちがわかったからだ。
「アタシなんて、社会のつまはじきモンだ。いなくなったって誰も悲しみゃしない。アンタに負けてから償いだなんてパトロールとか始めてみたけど結局街の連中が変に思ってるのも知ってる。こんなアタシなんて…」
-
「オレぁよ、人間じゃねーんだ」
拓海のつぶやくような言葉を、茂はぶったぎって関係ない話を始めた。
「は?」
「仮面ライダーってのは、とどのつまり改造人間よ。人間とはあまりに違う機械の体。できることといやぁ暴力を振るう事。加えて俺は天涯孤独の身の上だ。それこそ悲しむやつなんてありゃしねぇと思ってた」
「…」
「オレは望んでこの身体を手に入れた。理由はどうあれ戦うことを選んだのはオレ自身だ。だけど、そんなオレにも仲間がいた。戦いを続けるうちに先輩たちとも出会った。結局オレは一人じゃなかったってわけだ」
茂の言葉を、拓海は黙って聞いている。
「テメーは両親も健在、ガラはワリィがテメーを慕う仲間もいる。ウチのクラブでも良く働くテメーを認め始めてるヤツがいる。それで、テメーのどこが独りなんだ?」
「…シゲ兄は?」
「オレもテメーを大事な奴だと思ってる一人だ」
茂は恥ずかしがることなく堂々と答える。
-
「どこにも居場所がねぇなんてくだらねぇこと言うな。だからまだまだガキなんだテメーはよ」
「うっせ」
拓海は茂の背に顔を埋めながらつぶやいた。
彼女は、ブラックシンデレラに連れ去られる少し前にあったことを思い出す。
-
<font color="#000000">
―――ねぇキミ!ちょっといいかな!
―――あァ?
―――アイドルとか興味ない?
―――アイドルだァ?!
―――アタシは天上天下、喧嘩上等、特攻隊長向井拓海だぞ! んなくだらねえこと…
―――まぁまぁお話だけでも!
―――ってオイ引っ張んじゃねーよ!人の話聞けッ!!
―――アイドルとかチャラチャラしたのはやんねーぞ! やんねーからなッ!!
</font>
-
いつものパトロールで流していた時に突然声をかけてきた男。
怪しい勧誘だと思い逃げたものの、スカウトの経験など初めてだった拓海はもやもやしていた。
実は、他の皆が拓海がいなくなったと騒いだ日と実際に連れ去られた日は一日のずれがある。
なぜかといえば、これで味わったもやもやの為に一日引きこもっていたからである。
自分にもできることがあるのだろうか。
「なぁシゲ兄」
「今度はなんだ」
「あのさ、レーシングクラブの名前がもっと売れて、もっと客が来るようになったら、アンタ嬉しいか?」
「んー…まぁオレ自身金を稼ぐことにゃあんま興味はねぇが、おやじさんから受け継いだってこともあるし、あそこが立派んなんのは嬉しいかもな」
「じゃ、じゃあさ…」
拓海は口ごもりながら思いつきを口にする。
「アタシがアイドルんなって、あそこの宣伝したら…どうかな」
「お前がアイドル?…くっ…くくっ…アッハッハッハッハッハ!」
突拍子もない話を聞いた茂は一瞬あっけにとられ、すぐさま爆笑した。
-
「笑うんじゃねーよ!」
「い、いやだってよ…くくっ…あまりににあわねぇから…アッハッハッハ!!」
「ヤロォてめぇ降ろせよ!歩いてかえっから!」
「ば、バカ!暴れんじゃねぇよ!」
茂の反応に怒った拓海が暴れ出し、バイクはふらふらと蛇行しだす。
危ないことこの上ない。
「悪かったから暴れんじゃねーよ!…ったく、どーして急にンなこと言い出したんだ?」
「別に…こないだスカウトされたから一瞬血迷っただけだよ」
「へー、お前がねぇ…」
「でも今のシゲ兄の反応でわかった。アタシなんかがアイドルなんて」
「別にいいんじゃねーの」
ぶつぶつ言う拓海に、茂はかぶせていう。
「確かにガラじゃぁねーだろう。だけどよ、テメーの見た目が良いのはオレも否定はしねぇ」
「み、見た目って…!」
-
「なかなかいい体つきしてるし、何より芯が強ぇテメーなら芸能界なんてところでも折れずにやってけるかもわかんねーしな」
「…そっか…って!良い体つきってなんだよこの変態!!」
「ハッハァ!テメーがやりてぇように生きろ。オレから言ってやれんのはそれくらいよ」
「……おう、ありがと…茂さん」
「あぁー?あんだってー?」
「なんでもねぇよっ!」
拓海の礼は、茂には届かなかったようだ。
拓海はすこし茂に回した腕の力を強めると、それからは黙ってしまった。
(…ユリ子に怒られっかな)
どうやら拓海の言葉は届いていたのに聞こえないふりをしたらしい。
後部座席の拓海の体温と信頼を心地いいと感じてしまうことに、少しばかりの罪悪感を抱く茂だった。
-
―――晶葉の研究室
「拓海をすぐに家を帰したのには理由がある。もちろん、記憶を探ることが出来そうもないというのはそのひとつだ。そしてもう一つは…」
晶葉はパソコンに何かのファイルを表示させる。
「これだ」
「どれどれ…」
光と、拓海とすれ違いで研究室に来た麗奈はパソコンの画面を覗き込む。
映し出されたのはとある交差点の映像だ。
しばらくは普通に人が行き来していたが、突然全員がとある方向に目を向け、道の端に寄りだす。
驚きと不審そうな顔をしているようだ。
有名なモーゼの十戒のワンシーンのように、交差点が開けていく。
人々の見つめる方向から現れたのは、若者の集団だ。
年のころは皆十代半ばといったところか。
特に奇抜な格好をしているわけではない。
だが、その動きが妙だった。
皆、体を重そうに傾け、足を引きずり、首は斜めにかしいでいる。
-
この映像ではそこまではっきりとは見えないが、どうにも目の焦点もあっていないような感じを受ける。
まるで…。
「ゾンビみたいだ…」
「そうね、なんか気持ち悪いわ」
「お前たちもそう思うか。だが、これはどこぞのオカルト研究会のおふざけや現代アートを実践するパフォーマンスというわけではない。ゾンビのような動きをしている連中は、どいつもここ数日家出をしたという子供ばかりだ」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「もう少し映像を見ていればわかる」
『たかし!?お前たかしだろう!?』
『あゆみぃ!アンタこんなところでなにしてんの!』
中年の女性数人が、大声をあげながらゾンビ集団に駆け寄る。
言葉の内容から察するに、あの中の誰かの母親だろう。
女性は自分の子供に駆け寄ると、引っ張って連れ帰ろうとするが、当の本人たちは何の反応もせずにまわりのゾンビ仲間と同じ方向へ歩き続けるだけだ。
「これは今日の午前中にとられた映像だ。このあと彼らはしばらく行進を続けたかとおもったら煙のように消えてしまった。警察はまだこの事件を軽く見ているが、明らかに怪しいだろう」
-
「うん。人をゾンビのようにして操るなんて、いかにもブラックシンデレラのやりそうなことだ」
「どーしてケーサツっていっつもトロいのかしらね!」
「それは言っても仕方あるまい。実は、このような事は今日が初めてではないらしい。となると、再び同じことが起こる可能性は高い」
「ってことは、次にこんなことが起こったらこの人たちの後をつけて…」
「行き先を探るってことね。面白そうじゃない!」
「そういうことだ。並の人間ならまかれてしまうかもしれんが、光の超感覚ならそう簡単に逃げられることもあるまい。家出した子供たちを集めて何をする気かしらんが、奴らの企みが実行に移される前に叩き潰してやれ!」
「了解!」
晶葉の言葉に光は力強くうなずいた。
隣で麗奈も不敵な笑みを浮かべている。
彼女たちは、謎のゾンビ集団の秘密について調べることになった。
-
―――都内某所、巨大交差点
「ホントにここで合ってるんでしょうね」
「晶葉が今までの出現地点からコンピュータで割り出したんだ。可能性は高いと思う」
二人は、次にゾンビ集団が現れると思われる場所へ来ていた。
平日だが人通りは非常に多い。
「それにしても、麗奈も晶葉に乗り物作ってもらったんだな!」
「アンタばっかりズルいからね」
光はいつものごとくブリーズでここまで来たが、麗奈の足もとにはスケートボードがある。
これぞ、池袋印の新発明。ロケットブースター付きスケボー“ブースターボード”だ。
最高時速は250㎞とブリーズには及ばないものの、小回りでは負けない。
とはいえ、仮面ライダーに変身してからでないと昨日は解放されないが。
「とにかく、しばらくここで見張ろう」
「タイクツね」
「そんなこというなよ」
「あら、事実じゃない。大体アンタは…」
-
けして気を抜いているわけではないが、何かが起きると決まっているわけではない以上、張り詰めすぎていても仕方がない。
交差点の様子に気を配りながらも、光と麗奈は久しぶりに他愛もない話に花を咲かせた。
一時間ほどもそうしていたろうか。
「それで、そのアホ男子に言ってやったのよ…」
「待って麗奈」
「なによもう!いいとこだってのに」
「来るぞ!」
何かを感じ取った光が、麗奈の話を遮り交差点の向こうを睨む。
「来るってアタシにはまだ…あれ?」
光の視線の先にいる人たちが、何かに気づいて道の端に寄って行く。
その様子を見た人たちもまた同じように道を開ける。
お待ちかねのゾンビ集団だ。
不気味に体をゆすり、足を引きずりながら生気のない若者の集団が交差点を闊歩しだす。
今日は駆け寄る人もいない。
不気味なまでの静けさをもって、ゾンビ集団は交差点を横切り、どこかへと歩き去ろうとしている。
-
「よし、追いかけよう」
「見失うんじゃないわよ」
光と麗奈はそれぞれの愛機に乗り、ゾンビ集団の後をつけ出した。
-
―――交差点を見下ろすビルの屋上
「彼女たちをつければ何かわかると思ったけど…どうやらアタリだね」
ゾンビ集団とそれを追う光たちを見下ろす黒い影が一つ。
二宮飛鳥だ。
「ブラックシンデレラに関わるものは…全て消す」
自分に言い聞かせるようにつぶやくと、飛鳥もまた動き出した。
-
―――路地
ゾンビ集団は人けのない道を行進していく。
「どこへ向かっているのかな」
「さーね。それより、アタシたち以外にもこいつらの後をつけようってのがいるとは思わなかったわ」
麗奈がチラリと後ろを見ると、数人の男が様子をうかがいながらついてきているのが見える。
おそらく、ゾンビ集団の中にいる若者の家族から依頼を受けた探偵や、たんなる野次馬だろう。
「みんな心配なんだよ」
「どうかしらね。なんにせよ、アイツらじゃ無理よ。無駄足ご苦労様って感じだわ」
「そんないい方しなくても…」
「事実よ。癪だけど、今頼れんのはアンタの力だけ。アホ面してないでシャッキリしなさい」
後ろの様子を気にする光に、麗奈は檄を飛ばした。
そうこうするうちに、ゾンビ集団は路地の行き止まりに行き当たる。
-
どうなるのかと一行が様子をうかがったのもつかの間。
彼らはそのまま、パソコンのデリートキーを押したかのように忽然とその姿を消してしまったのだ。
「なんだこれは!」
「どういうことだよ!」
光と麗奈の後ろからゾンビ集団を追っていた男たちが飛び出し、さっきまでゾンビ集団の立っていたところを探し回る。
しかし、もとよりそんなところを調べたところで何の意味もない。
「あの、そこは調べてもがっ」
「バッカ、余計なこと言うんじゃないわよ。アンタ自分の立場を考えなさいっての」
思わず口を出そうとした光の口をふさいで、麗奈がささやく。
「それより、なんか当てはあるんでしょうね」
「うん。アヤさんから聞いたんだけど、ブラックシンデレラの怪人たちは特定の場所に瞬間移動できる装置を持っているらしいんだ。今回のこれは、それの応用だよ」
「ふぅん」
「多分、あのゾンビみたいになっちゃってる人たちには装置は使えない。だから、遠隔操作のきく装置がどこかに隠してあるはずだ。おそらく二つか三つ」
-
「へぇぇ!アンタにしては冴えてるじゃない!」
「晶葉から教わったんだ!」
「そんなこったろうと思ったわよ」
光の説明に感心の声をあげた麗奈だったが、晶葉からの情報だと胸を張る光に肩を落とす。
「どうしたんだ麗奈?」
「なんでもない。それより、機械の方は見つけられるんでしょうね」
「任せろ!」
光は目を閉じ意識を集中する。
改造人間である彼女は、意識を集中することによって周囲の者から発される音波や電波を精密に聞き分けることができるのだ!
「…わかった!そこの電柱の影とポストの裏だ!」
「こっちね…あったわ!」
「こっちもだ!」
光の超感覚によって、ゾンビ集団を転送させた装置はあっさりと発見された。
そうとしらない調査団たちはいまだにゾンビ集団の消えた辺りをうろうろしている。
-
「それで、これをどうするの?」
「この装置から発されてるエネルギーを調べて、転送先を割り出すんだ。麗奈、晶葉に電話してくれるか?」
「はー、しょーがないわね」
光の言葉に従い、麗奈は晶葉を呼び出す。
『はい池袋』
晶葉だ。
麗奈はケータイをスピーカー出力に切り替え話し始める。
「晶葉?麗奈よ。光が転送装置を見つけたわ。これをどうすればいいの?」
『おおそうか!では、光の携帯に私特製のプログラムを送るぞ』
そういった電話の向こうで、キーボードをたたく音が聞こえる。
「メールが来た!」
『そのメールに添付されたファイルを開けば、自動的にソフトがインストールされる。携帯電話の電波受信機能を使った簡易的なエネルギーは測定機能だ。お前たちの見つけた機械を向き合わせ、光の携帯を間においてくれ』
晶葉の指示にしたがい、黙々と作業は進められる。
-
『測定したデータは勝手に私の所に送られるから、楽にしていていいぞ…来た来た』
再びスピーカーからキーボードをたたく音が聞こえだす。
『エネルギーの強さとベクトル…ふむ』
「わかりそうか?晶葉」
『私を誰だと思っている。少しばかり難解だが、この程度…』
心なしか、キーボードをたたく音が強く早くなったような気がする。
『わかったぞ!町はずれの共同墓地だ』
「墓地?またえらく陰気なとこね。ゾンビらしいわ」
『奴らがすでに死んでいるとは考えられんが…二人とも、気をつけろよ』
「わかった。ありがとう晶葉!行くぞ麗奈!」
「アタシに命令すんじゃないわよ!」
共同墓地まではそれなりに距離がある。
ふたりは急いで愛機に乗り、走り出した。
-
―――町はずれの共同墓地
「ここだな」
「間違いないわね」
光と麗奈は、墓地の入り口で名前を確認し、慎重に入っていく。
「こんなところで何をしてるのかしら」
「奴らの秘密基地があるかもしれない」
「ありそうな話ね」
周囲を警戒しながら、奥へ奥へと進んでいく。
この共同墓地は広く、見渡す限り墓が並んでいる。
平たくて長方形の墓石が並んでいるところを見ると、仏教系のお墓ではないようだ。
墓地の周囲は森に囲まれている。
「麗奈あそこ!あの塔の影!」
「見つけたわね」
墓地の中心。
円筒形の建物のまわりに、先ほど姿を消したゾンビ集団と思しき連中が不気味に立ち尽くしている。
-
「何をしているんだろう」
「様子を伺った方がいいわね…ちょっとこっち来なさい」
麗奈は光を引っ張り、少し大きめの墓石の裏に身を隠した。
しばらく様子をうかがっていると、建物の扉が開き、何者かが姿を現す。
「…み、みんなちゃんと帰ってきたね…え、えらい…」
小柄な怪人だ。
ローブを纏っているが、その下には蛇のような顔が見える。
「あれは…怪人!」
「…ま、町の人…怖がってた?…そ、そう…なら、よかった…」
ゾンビ集団は何を応えるわけでもないが、怪人にはその意図するところがくみ取れるらしい。
怪人は若者たち一人一人の様子を見てから、集団の前に立って両手をあげる。
「ちゅ、注目…!い、いよいよ…我々の計画も大詰めです…あ、あなたたちは私のいう事にきちんと従うことが…わ、わかりました…そ、そこで…次はみんなで街へ繰り出して…道行く人を次々襲ってください…」
「なんだって!?」
「バカ、声が大きいわよ」
-
思わず光が声をあげ、麗奈がひっぱたく。
どうやら、光の声は怪人には届かなかったようだ。
「み、みんなは…普通の人より力が強いから…ひとりひとり捕まえて…こ、ここへ連れてくるのです…な、仲間を増やしてあげる…ゾンビ軍団…えへへ…」
「そんなことはさせないぞ!」
「あぁっ、もう、バカっ」
こらえきれなくなった光が墓石の影から飛び出し、怪人に向かって叫ぶ。
もうすこし隠れてチャンスをうかがおうと思っていた麗奈は額を抑えてため息を吐いた。
「…お、お前は…南条光…!」
「ブラックシンデレラ!お前たちの好きにはさせないっ!」
「…ふ、ふふ…じゃあ、止めてみて…?」
怪人が右手をあげると、ゾンビ集団は光の方を向き、不気味に歩みよってくる。
「くっ…これはどういうことなんだ!」
「わ、私は…ブラックシンデレラの怪人…ね、ネクロスネーク…さぁ、南条光…そ、その操られているだけの人たちを…倒すことができるかな…?」
「この人たちは操られているだけなのか…くそっ!」
-
うかつに手は出せない、と構えたままじりじり後ずさる光。
しかし、ゾンビ集団はその数でだんだんと光を包囲しつつある。
「どうすれば…」
「アンタってホントに考えなしのバカよねっ!」
包囲網の外、ゾンビたちの後ろから、麗奈が叫んだ。
光が飛び出した後も、すこし様子を見ていたのだが、これはまずいと彼女も飛び出したのだ。
「ほらゾンビども!こっちにもいるわよ!」
「…だ、だれ…あなたは…」
「お望みなら教えてやるわよ!」
麗奈はポケットから変身アイテムを取り出し、ポーズを決めて叫んだ。
「ライダースーツ、オン!!」
ベルトのバックルから光があふれ出し、麗奈の体に黒いスーツがセットされる。
最後に半頭マスクをかぶり、不敵にほほ笑み、叫ぶ。
-
「仮面ライダーレブル!」
「か、仮面ライダー…本部からの連絡にあったけど…ほ、ほんとうに増えたんだ…」
「何ぼさっとしてんのよ光、アンタも変身しなさい!」
「わかった!…フン!」
レブルにうなずき、光も変身の構えを取る。
「変、身…ルゥゥゥクスッッッ!!」
激しい光と風の波と共に、光はルクスへと変身を完了する。
「トォー!」
ジャンプ一番ゾンビ集団の頭上を飛び越え、ルクスは包囲網から脱出した。
「ルクス!このゾンビどもはこのレブルサマに任せなさい。生身の人間相手じゃ、アンタだとやりすぎかねないでしょ」
「助かる!ありがとうレブル!」
ルクスはレブルに礼を言うと、飛び上がりネクロスネークの前に降り立つ。
-
「さぁ、みんなを元に戻すんだ!」
「…や、やだ…あなたも…ゾンビになっちゃえ!」
ネクロスネークはローブの下から鎌を取り出し、ルクスに襲いかかった。
-
―――共同墓地
ルクスたちの闘いが今まさに始まらんとするところを見つめる一つの影があった。
二宮飛鳥だ。
「見つけた…ブラックシンデレラの怪人…」
ここまで無表情だった彼女の瞳に、憎しみの炎が揺らめきだす。
「人をゾンビのように操る…まさに悪党の所業だね…許さない…!!」
彼女の瞳が憎しみに赤く染まったかと思うと、いつの間にか変身していた。
ブラックシンデレラに改造された体…光と同じ改造人間、ネモだ。
「消してやる…」
ネモは恐るべきスピードで戦場へと飛び込んでいった。
-
―――共同墓地、戦闘現場
「雑魚は引っ込んでなさいよッ!」
次々と襲いかかるゾンビ集団を突き飛ばし、レブルは戦っていた。
しかし、数が多い上にちょっとやそっとではへこたれないときている。
「…アァ…」
「…ウゥゥ…」
「あー、もううっとうしいわねぇ!まとめて吹き飛びなさい!」
ゾンビ集団をできるだけひきつけ、いいタイミングで飛びのいたレブルは、とっておきの秘密兵器を取り出し構える。
「レブルサマバズーカッッ!!」
激しい爆発と衝撃で、ゾンビ集団は思いっきり吹き飛ばされる。
「へへん、こんなもんよ!」
「うわ…レブルの方がやりすぎなんじゃないか…?」
その威力に、ルクスは思わずつぶやく。
今のルクスは知る由もないが、あのレブルサマバズーカは様々な種類の弾を撃ちだすことができる。
-
今レブルが使ったのは空気砲モード。
強い衝撃で対象を吹き飛ばすことはできるが、致命傷を与えるようなものではない。
「え、えいっ…!」
ルクスの隙をついてネクロスネークが鎌を振り下ろすが、その攻撃はバトラカンガルーやライダーウルフと比べても明らかに遅い。
「無駄だッ!キミじゃアタシには勝てない。今すぐブラックシンデレラからの洗脳を解いてあげるから!トォー!」
一気に決めるべく、ルクスは飛び上がりライダーキックの構えに入る。
だが。
「ち、力が弱いから…ま、守ってもらう…」
「…アウゥ…」
新たなゾンビが現れネクロスネークをかばうように仁王立ちする。
「くっ…だめだ!生身の人相手にライダーキックはできないっ」
ルクスは無理やり体制を戻し、地面に降り立つ。
「…わ、私への攻撃は…みんなこの子が…ふ、防いでくれる…この子がやられても…次の子が…こ、これが仲間…」
-
「ふざけるな!そんなものが仲間なもんか!」
“仲間”を平気で盾にするネクロスネークに怒ったルクスは、拳を握り突っ込む。
「やぁっ…くっ」
ゾンビの盾を潜り抜け、ネクロスネークに一撃を叩き込もうとするも、別のゾンビが割り込んでくる。
生身の人間を殴るわけにはいかないと寸止めをするルクスだが、ためらっているうちにゾンビたちが群がってくる。
「くそっ…どうしたら!」
「あはははははは…いい…と、とってもいいよみんな…」
「…実に醜い」
突如、黒い風が吹き荒れ、ルクスに群がるゾンビたちが吹き飛ばされた。
「あ!君は!」
「何をためらっているんだ?ルクス。こいつらはブラックシンデレラの手先だ。殺せばいいだろう」
ネモだ。
突然現れたネモがゾンビたちを叩きのめしたのだ。
-
「そんなことできるわけないだろ!この人たちは操られているだけなんだぞ!」
「そんなこと、ボクには関係ない」
ネモは煩そうに返すとネクロスネークの方を向いた。
「…あ、あなたも…仮面ライダー…?」
「違う。ボクは誰でもない…ネモだ」
「か、改造手術の後で逃げ出した裏切り者って…あなたでしょ…?」
「裏切り者だと…?」
ネクロスネークの「裏切り者」という単語に、ネモは目を赤く輝かせる。
「黙れッ!ボクは、一度だってお前たちに忠誠など誓ってはいない!!何が裏切りだ…全てお前たちの勝手な言い分に過ぎないじゃないか!」
「よせ!この怪人も洗脳されているだけなんだ。今は何を言っても無駄だぞ!」
「うるさい。ボクに指図するなルクス。ボクはキミも憎いんだ…殺してやりたい…けど、今はこっちだ」
ネモはネクロスネークとの距離を詰めるとその拳を思いっきり打ち出した。
ネクロスネークはとっさにゾンビを自身の盾として使うが、ネモの拳は一切のためらいを見せない。
-
ガッシィィィィン!
「…なぜ邪魔をする、ルクス」
「キミの事情は分からない…けど、操られているだけの人を殺してもいいだなんて考え方が正しいとは…思えない!」
ネモにためらいがないことにいち早く気付いたルクスは全力で回り込み、ネモの拳を受け止めたのだ。
「この人たち自身は悪くない!悪いのはブラックシンデレラの幹部たち。そうだろう!」
「違うね。無力もまた罪なんだ。彼ら彼女らは確かに本意でなく協力させられたのかもしれない…けど、それに抵抗する力も意志も持たない連中なんて…死ねばいいんだ」
「な…」
「力がなかったから何も守れなかった!無力は罪だ!ボクはすべてを消す!消してやるんだ!」
ネモは力任せにルクスを突き飛ばすと、再びネクロスネークに襲い掛かる。
しかし、この問答の間にネクロスネークは幾人ものゾンビを自分とネモたちの間に並べていた。
-
「どけぇぇぇ!!」
「やめろっ!」
容赦なく改造人間としての力を破壊に使おうとするネモを、ルクスはなんとか止めようと掴み掛る。
激しくもみ合う二人。
「…ふ、ふふ…おかしい…仲間割れ…でも、おかげでた、助かった…」
ネクロスネークは怪しく微笑むと、転送装置を作動させ、何処かへと姿を消した。
その瞬間、ゾンビと化していた若者たちはみな、糸が切れたように崩れ落ちた。
「はぁ…はぁ…けっこうしんどかったわね…って、アンタたちなにやってんのよ!」
ネクロスネークがいなくなったにもかかわらず、ルクスとネモの取っ組み合いは続いていた。
レブルは止めようと割って入る。
「ちょっとちょっと、どうなってんのよコレ!敵の親玉は?やっつけたの!?」
「…っ、逃げられた」
「ハァ!?」
-
「キミが邪魔しなければ殺せていたのに…」
「殺しちゃダメなんだ!」
「まだ言うか…なら、このあいだ言ったようにまずキミを殺して…」
「いい加減にしなさいよ!」
レブルは話をまともに聞かない二人を思いっきり怒鳴りつける。
「アンタが誰なのかとか、なんでコイツと喧嘩してんのかは知らないけど、今それどころじゃないでしょ!?あの怪人を倒すのが最優先なんじゃなかったの!?」
「それを彼女が邪魔したんだ」
「キミのやり方が間違っているから止めただけだ!」
「どっちだっていいわよ!問題は、せっかくのチャンスを逃したってこと」
レブルは倒れている若者のそばにかがんで顔色を見る。
「…これであのゾンビ化は終わったのかしら」
「…わからない」
「とにかく救急車を呼ぶしかないわね…アンタどこ行くのよ」
無言のまま立ち去ろうとするネモに、レブルが声をかけた。
-
「興が削がれた。ボクはここから去るよ…次ボクの邪魔をしたら、容赦はしない」
ゾッとするほど冷たい声色でつぶやいたネモは、静かにこの場を後にした。
「…何モンなのよアイツ」
「…ごめん、麗奈」
光が変身を解きながら麗奈に謝る。
「アタシに謝る必要はないわ。正義バカのアンタの事だもの、アイツがなんかヤバかったから止めようとしたんでしょ、どーせ」
麗奈も変身を解きながらそれに答える。
「…うん…アイツ、なんであんなに悲しそうなんだろう…」
「悲しそう?」
「うん。戦ってる時になんとなく思ったんだ。辛くて悲しくて、すっごく怒ってた」
「…アタシたちにはわかんない事情もあるんでしょ」
ネモの残した余韻に何かしらを感じつつ、光と麗奈は救急車を呼ぶことにした。
-
―――夜、都内某所、路地裏
―――殺しちゃダメなんだ!
「ふん…何も知らないくせに…」
誰もいない路地裏。
飛鳥がひとり、膝を抱えてうずくまっていた。
「ブラックシンデレラに関わるものは…全て消す…消さなくちゃいけない…」
生き物を殺したいわけではない。
だが、そうでもして自分の心を縛らなければ耐えられないのだ。
「そう…ボク自身も…いずれ…」
泣いているのだろうか。
いや、飛鳥は涙を流さない。
両親を殺され改造手術を受けたあの日から、彼女の涙は枯れ果ててしまったのだから。
-
―――次回予告
ネクロスネークによってゾンビのように操られていた若者たちを助け出した光たち。
しかし、根本の原因を絶たねば彼らを救うことはできない。
再びネクロスネークと戦う決意をした光の前に、またしても黒い影が立ちはだかる。
次回仮面ライダー光「改造人間の苦悩!」
ご期待ください。
-
〜ED〜
熱血 アタック
正義の血潮が燃えたぎる
怒りのパンチは風起こし
炎のキックが敵砕く
跳べ空高く
ブーストジャンプで鳥になれ
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
-
以上、第九話でした。
この先一週間以内にきっちり更新はなかなか難しくなりますが、のんびりタイミングがあった時にでも楽しんでいただければ幸いです。
ではでは。
-
こんばんは。
二週間空いちゃった…間に小ネタ投稿したりはしてましたが、長編はなかなか時間とれないもんですいません。
では、第十話いきます。
-
「仮面ライダー!ルゥゥゥクスッッッ!」
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダールクス
「仮面ライダールクス、南条光は改造人間である。謎の秘密組織『ブラックシンデレラ』によって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって改造手術を受け、仮面ライダールクスとして蘇った!」
-
<font color="#000000">
仮面ライダー光 第十話
「改造人間の苦悩!」
</font>
-
―――都内、中央病院
「たかし!たかしぃ!」
あれから、偶然倒れていた若者を発見した、という体で救急車を呼んだ光と麗奈は、彼らの運び込まれた病院へと同行していた。
幸いにもほとんどの若者の身元は判明しており、駆け付けた家族たちは、あるものは脇目も振らず、あるものは光と麗奈に発見の礼を熱く述べ、それぞれの探し人のもとへと付き添っている。
しかし、述べられる礼に光も麗奈も愛想笑いを浮かべるしかない。
「…アタシがあの時余計なことをしていなければ…」
「アンタがアイツの邪魔をしなければ、少なくともけが人は増えていたでしょうね。過ぎたことをくよくよするもんじゃないわ」
ちゃんと戦っていれば勝てたであろう相手を取り逃してしまったことを後悔する光に、麗奈は声をかける。
「うん…でも、なんとなく感じるんだ。あの怪人を倒さないと、この事件は終わらない」
「誰も目を覚まさないものね…」
「あぁ、ここにいたのか!」
病院の廊下で眉根を寄せて話し合う二人に、一人の男が近寄ってきた。
短髪で、すらりとした印象を受ける男性。年のころは風見と同じくらいだろうか。
-
「君たちだね、救急車を呼んでくれたという女の子は」
「はい。えっと、お医者さんですか?」
「あぁ、常勤ではないんだけど、手伝いに来ていてね。『結城』と言います、よろしく」
『結城』と名乗った男は、白衣の胸についた名札を二人に見せながら会釈をして見せた。
名札には『結城丈二』とある。
「少し発見当時の事が聞きたかったもので。今いいかな?」
「はい!なんでも!」
「よし、ではまず君たちがどんな風に彼らを見つけたかなんだけど…」
一般人に全てを話すわけにはいかない。
隠し事の下手な光は、麗奈にフォローしてもらいながら、なんとか正確な状況を結城に伝える。
「ふむ…その変なマントのやつが消えたら、彼らが突然倒れた、と」
「信じられないような話かもしれないけど、これがアタシたちの見たことです」
結局、謎の集団の会合の始まりと終わりまでを物陰から見ていた、というところに落ち着いた二人の話を聞き、結城は腕を組んで考え事をする。
-
「ま、信じられない話よね」
「いや、その変な奴が消えた、という表現については置いておくとしてもだ。彼らの様子や検査の具合から察するに、何らかの催眠を受けている可能性は高い。とすれば、催眠の鍵はその怪人かもしれないな」
「そいつをやっつければ、みんなはもとに戻るかな」
「特撮番組なら、それでうまくいくかもしれないがね」
結城は光の言葉に苦笑するが、当の光はその眼に確信の光を宿した。
「ありがとう!結城さん!」
「おや?話を聞いていたのは私の方だったと思ったが」
「いや、いいんだ!行こう、麗奈!」
「ちょ、ちょっとアンタ待ちなさいよ!あ…えっと、失礼します」
麗奈は先に飛び出して行ってしまった光の分も頭を下げ、後を追う。
その後ろ姿を優しげに見つめる結城はつぶやいた。
「お前の言った通りの子だな…風見」
彼もまた、仮面ライダーを知る人物の一人。
しかし、その出番はしばらく後になる。
-
―――病院を出て
「ちょっと、急に飛び出すんじゃないわよ!」
「でも麗奈!やっぱりあの怪人を倒すことが催眠解除の鍵なんだ!だったら急がなくちゃ」
「急ぐったって、当てはあるんでしょうねっ」
お互い愛機に乗りながら言葉を交わす。
「あの墓地を調べれば、あの怪人がどこに逃げたかもわかるはず。多分、あれはゾンビ人間たちを操るための電波塔みたいなものなんだ!」
「なんでそんなことがわかんのよアンタに!」
「そんなこと、アタシが知るもんか!」
メチャクチャな理屈だが、光の言っていることは正しかった。
あの共同墓地でゾンビ人間たちが集っていた円筒形の建物。
あれは、特殊な電波でゾンビ人間たちを操るための電波塔であったのである。
光は、その超感覚で無意識にそのことを感じていたのだろう。
「っとと、その前に」
光はブリーズを漕ぐ足を急に止めた。
-
「ちょっと!急に止まるんじゃないわよ!今度は何!?」
「アイツを放っておくわけにはいかないよな…」
「…アイツって、あのネモとかいうヤツ?」
「うん…」
ネモを放っておけば、また邪魔されるかもしれない。
だが、それ以上に光はあの謎のライダーのことが気がかりだった。
「やっぱりアタシは、アイツがなんであんな苦しんでそうだったのか気になるんだ」
「裏切り者、とか言われてたしね。ブラックシンデレラで作られた改造人間なのかしら」
「ブラックシンデレラは今まで薬の力で怪人を作ってきた。でも、アイツは違う感じがしたんだ。そう、アタシと同じ機械の体。体からその波長が聞こえてきたっていうか…」
「…アンタと一緒で、望んで手に入れた体じゃないのかもね。それだったら『裏切り者』ってセリフに過剰反応した理由もわかるわ」
そう。
不気味なまでに静かだったネモは、ネクロスネークという言葉にだけは激しい怒りを露わにしたのだった。
-
「どうしよう麗奈…」
「どうしようも何もないわよ。アンタ、アイツの居場所がわかるわけ?」
「それは…ん?ちょっとごめん、メールだ」
一旦話を中断し、光はメールの着信を知らせるケータイを開いた。
見たことのないアドレスだ。
【from:riderv3@maskedrider.jp】
【ネモは中央霊園にある二宮家の墓前だ。彼女と話す気があるならばそこへ行くと良い】
「これって…」
「なによ…アラ、タイミング良すぎるわね」
「多分、アドレスから考えるとV3なんだろうけど…これに返信しても届かないんだろうな」
「なんでアンタのアドレス知ってるのかはともかくとして、これでアイツの居場所はわかったわけね。で、どうすんの」
「うん…でも、あの塔も早く調べないといけないし…」
悩む光に、麗奈はいらいらと叫んだ。
「あー!もう!じれったいわね!何のためにアタシがいると思ってんのよ!分担すればいいでしょ!」
-
「え?」
「あの塔のことはアタシが調べるわ。晶葉と協力すれば、アンタじゃなくてもなんとかなるでしょ。でも、アイツの話を聞いてやれるのは、おんなじ改造人間のアンタだけよ」
麗奈はまっすぐに光を指さす。
「なんでも一人でやろうとするんじゃないわよ。アンタが改造人間だからって、全部ひとりでしょい込む必要なんかないでしょ」
「麗奈…ありがとう!」
「か、カンチガイすんじゃないわよ!またアイツに邪魔に入られたりしたら、このレイナサマの華麗なる大活躍に傷がつくのよ!アタシはそんなのごめんなんだから!」
感激のあまり自分の手を取る光にの顔が眩しく、思わずそっぽを向いて悪態をつく麗奈なのであった。
-
―――中央霊園
かくして、光は麗奈と別れ中央霊園に来ていた。
一応先ほどのメールを晶葉に確認してもらったが、思った通りすでに送り元のアドレスは存在していなかったようだ。
『まぁそれはいい。問題は二宮家の墓、というところだが』
「うん。お墓参りかな」
『霊園なのだからそれはそうだろう。だが、二宮家か…』
「どうかしたのか?」
『お前が拓海の事件を追った時、もう一つ不審な事件があったのを覚えているか?』
「あぁ、科学者の人が誘拐されたって…」
『その科学者の名前は二宮だ。お前と年の頃が同じ娘も同じく行方不明だと聞く。まさかとは思うが…』
「…」
晶葉の予想はおそらく正しい。
光は重い気持ちを抱えながら、二宮博士の娘、飛鳥を探した。
広い霊園だが、もともとそんなに人が来る場所でもない。
光はすぐに、黒い服を着た女の子を見つけた。
-
「キミが、二宮飛鳥…ネモだね?」
「…ここになんの用だ。南条光…仮面ライダールクス」
近づいてきた光の方に見向きもせず、飛鳥はただ二宮家の墓石を眺めていた。
「キミと話がしたくて探しに来たんだ」
「ボクの方は話すことなんて何もない…ここは墓地。死者の眠りを妨げるのは無粋と言うものだ。見逃してあげるから消えるんだね」
「このあいだキミが暴れたのも墓地だったろ?」
「…気分の問題だ」
光の疑問が図星だったためか、飛鳥は少し動揺したように目を伏せると、すぐに何事もなかったように視線を墓石に戻した。
「なぜボクの名前を知っている」
「この場所を教えてくれた人がいるんだ。それと、アタシの仲間がこのあいだの二宮博士誘拐事件から推理した」
「そうか…まぁ、ボクには関係のない話だ。二宮飛鳥は死んだ。今のボクはネモ。誰でもないものだ」
-
「どういうことだ?」
「答える必要はない。消えてくれ…」
「キミも改造人間なんだろ?アタシと同じ」
「…」
「誰に改造されたんだ?なぜ戦ってるんだ?」
「…」
光の質問に、飛鳥は答えるそぶりも見せない。
ところが。
「なんで、改造されたんだ?」
「…なんで…だって?」
光のこの質問に、飛鳥は初めてまともな反応を見せた。
その眼には憎悪の光がちらつきつつある。
「なぜ…それはボクが聞きたいよ…なぜボクはこんな体になってしまったんだい?なぜボクは人間でなくなってしまったんだい?なぜボクはこんな目に遭わなければいけなかったんだい?」
飛鳥はゆっくりと光を睨み付けた。
-
「キミが、二宮飛鳥…ネモだね?」
「…ここになんの用だ。南条光…仮面ライダールクス」
近づいてきた光の方に見向きもせず、飛鳥はただ二宮家の墓石を眺めていた。
「キミと話がしたくて探しに来たんだ」
「ボクの方は話すことなんて何もない…ここは墓地。死者の眠りを妨げるのは無粋と言うものだ。見逃してあげるから消えるんだね」
「このあいだキミが暴れたのも墓地だったろ?」
「…気分の問題だ」
光の疑問が図星だったためか、飛鳥は少し動揺したように目を伏せると、すぐに何事もなかったように視線を墓石に戻した。
「なぜボクの名前を知っている」
「この場所を教えてくれた人がいるんだ。それと、アタシの仲間がこのあいだの二宮博士誘拐事件から推理した」
「そうか…まぁ、ボクには関係のない話だ。二宮飛鳥は死んだ。今のボクはネモ。誰でもないものだ」
-
「キミのせいだよ…仮面ライダールクス。キミの…」
「あ、アタシの!?なぜだ!」
「キミさえいなければ!ボクはこんな目に遭う事はなかった!なにが仮面ライダーだ!なにが正義の味方だ!キミがいたせいで!何の罪もないパパもママもボクも!こんな目に遭ってるんじゃないか!」
飛鳥が叫び、その瞳に怒りの炎が宿ると、体を黒いスーツが覆った。
漆黒のライダー、ネモだ。
「ボクは、キミを殺すためにつくられた改造人間。父と母を殺され、人間ですらなくなってしまった孤独な存在。この世のどこにも、ボクと繋がるものはいない!ボクは独りだ!全て、正義を気取ったキミのせいで!」
「…っ!」
飛鳥の憎悪と悲しみに満ちた叫びに、光は身を固くする。
しかし、言い返すことはしない。
今ここで飛鳥の言葉から逃げてはいけない。
そう感じる自分がいた。
-
「答えてくれライダールクス!ボクはなにか悪いことをしたのかい?キミやブラックシンデレラの邪魔をしたのかい?なにもだ!ボクは何もしていない!ただ家族で普通の日常を生きていただけだ!」
「…キミの気持ちがわかるとは、言えない。アタシは、今の所運よく誰も失ってないから。だけど、大事な人を失ったから復讐したいとか、アタシを憎みたいっていうのはわかる。でも、だからといってブラックシンデレラに関わった人たちを殺すのはダメだ!」
「知ったことじゃない。ボクはボクの人生を奪った奴らに復讐する。ブラックシンデレラに関わるものは全てこの世から消し去ってやるんだ」
「奴らのやり口は巧妙だ。自分の意志とは無関係に協力させられている人だっているんだぞ!」
「それこそ知ったことじゃない!ボクだってこうなったのは自分の意志じゃないんだ!抵抗することもできない無力な奴は死ねばいい。すべてが終わったらボクも死ぬ。それで世界は元通りだ!」
「ふざけるな!他人を殺して、さらに自分も殺すだって?そんなこと、アタシは絶対に許さない!」
「…キミに許してもらう必要がどこにあるんだい?ボクはキミも消すんだ」
「キミがアタシを消したいと思うのは構わない。だけど、まずはブラックシンデレラを倒すのが先決だろ!放っておけばますます苦しむ人が増える。アタシはキミと力を合わせて戦いたいんだ!」
-
「重ね重ね言うけど知ったことじゃない。どこで誰がどれだけ犠牲になろうと、それでボクの日常が帰ってくるわけでもない。なにより、キミなんかと手を組むなんて、それこそ死んでも嫌だね」
話は終わった、とばかりにネモは踵を返して立ち去ろうとする。
「おい!お墓参りはいいのか?」
「どうせその墓の中にボクの両親はいない。気持ちだけでも収めようかと思ってきてはみたけど…所詮形に意味なんてなかったね」
首だけで振り返ったネモは、徐々にその姿を飛鳥へと戻しながら去って行った。
「…ダメだったか」
「なぜ、復讐はいかんと言わなかったんだ?」
「…V3!」
飛鳥の姿を見送った光の背に、仮面ライダーが声をかける。
V3だ。
「来てたのか!」
「私もチャンスがあれば話を聞こうと思ってな。しかし、やはり二宮博士の娘さんだったのか…」
-
「アイツのお父さんを知ってるの?」
「直接の面識はない。が、知人が事件の翌日に博士と会う約束をしていてな。嫌な予想というのは当たるものだ」
V3の声には苦々しさがにじみ出ている。
「彼女の事は、今はどうしようもない。それよりも、さっきのことだ。なぜ、彼女に復讐をするなと言わなかった?」
「…えっと、やっぱり、自分にとっての大事な何かを傷つけられたのなら、仕返しをしたくなるのは当然かなって思ってさ。それに、アイツは復讐が全てで、それ以外には何もなかった。自分さえも。そんなヤツに、何も失ってないアタシが復讐するななんて言うのは、おかしい気がしてさ」
V3の質問に、光は考え考え答える。
それをきいたV3はふっと微笑み、光の頭を撫でた。
「よしよし。きちんと考えているじゃないか。その通りだ。復讐自体は別に止めることはないと私は思う。仇を討つというは、立派な弔いの一つだ。だが、それだけにとらわれてはいけない。復讐を果たした時に何もなくなるような戦いは、哀しみと憎しみの連鎖を増すだけだ」
-
「V3、アタシ、アイツを…飛鳥を助けてあげたいよ!」
「今のお前では無理だ。いや、私やほかの仮面ライダーにならできるということでもない。これから、彼女の心がどれだけ解かせるか…それ次第だろう」
光とV3は、飛鳥の去って行った方を心配そうに見やるのみだった。
-
―――都内某所、小さな公園
光と別れたV3は、物陰で変身を解き、風見志郎へと戻るとどこかへ電話をかけだした。
『…本郷です』
「先輩、俺です。風見です」
『おう、どうした』
「光の前に現れた漆黒のライダーの正体がわかりました」
『…そうか。やはり』
「えぇ…二宮博士のご息女です」
『…』
電話の向こうの本郷のため息には、明らかに苦々しさがにじみ出ていた。
「彼女は俺です。デストロンに家族を殺され、その身を改造人間にした俺と同じなんです。あの時俺には先輩たちがいました。でも、彼女にはいなかった。彼女は、あの時先輩たちがいなかった俺の姿なんです」
『だから、任せてくれと言うんだろう?』
「はい…光と一緒に、彼女の事は俺が守ります」
-
『やれやれ…まぁ、確かに適任はお前だし、他の連中はみんな忙しいからな』
本郷は苦笑しているようだ。
「先輩たちの状況は?」
『悪くはない。だが、良くもない。数日前に一文字と合流してな、ブラックシンデレラの拠点をひとつ潰したが…外れだった』
敵組織の拠点をひとつ潰した。
軽く言っているが、なかなかにとんでもない話だ。
「本拠地ではなかった、と」
『そうだ。奴らは怪人を生み出すために、あちこちに小さな拠点をいくつも作っているらしい。しかし、肝心の本拠地の情報はまるでなしのつぶてだ。大幹部と称されるクイーンTも、あちこちの支部を見回っているようで一向に尻尾を掴めんしな』
「すいません、俺も手伝えればいいんですが…」
『ははっ、なに、気にするな。お前にはお前の役割がある。最近は敬介たちも加わってくれたからな、どうにかなるさ』
本郷は快活に笑う。
彼ら仮面ライダーは、どんな時でも諦めない。
風見はその後、本郷と二言三言交わすと電話を切り、事務所へと戻って行った。
-
―――町はずれの共同墓地
一方こちらは光だ。
ライダーV3と別れた彼女は、麗奈からの連絡を受け先の大立ち回りの現場へと戻ってきていた。
麗奈は、調査していた塔の前に立っている。
「来たわね」
「麗奈!なにかわかったのか?」
「えぇ、この塔が電波塔みたいなもんだってのはどうやらアタリね。そして、ヤツが潜んでそうなところもわかったわよ」
「ホントか!」
「この墓地の地下に、また違う墓地があるのよ。秘密の地下墓地ってやつね。えっと、カタコンブだかシオコンブだか…」
『カタコンベだ』
「ん?晶葉もいるのか?」
『いや、無線機だ。いちいち電話をかけるのも面倒だからな、麗奈に渡しておいた』
「さすが晶葉だな!それでその固い昆布がどうしたんだ?」
-
『だからカタコンベだというに…まぁいい。カタコンベとは、キリスト教の地下墓地のことだ。本来は別に秘密にしておくべきものでもない。ま、ここのカタコンベは隠れキリシタンが作ったもののようだがな。ソナーでは礼拝堂と思しき空洞の存在もキャッチしている』
「隠れキリシタンって授業でやったなぁ…確か、キリスト教を信じちゃいけないって時代があったんだっけ?」
『あぁ、江戸時代の話だな。隠れキリシタンといえば西日本の方が有名だが、まぁ私は歴史の教師じゃない。気になるなら後で自分で調べてくれ』
「…さぁ!さっさと中に入るわよ!」
「そ、そうだな!」
『お前たちそんなに勉強が苦手か…』
晶葉のため息に聞こえないふりをして、光と麗奈は塔の中へ入って行った。
-
―――地下墓地
塔の中、床を調べてみると、隠し階段があるのがわかった。
二人は早速降りてみる。
「よくあんなのがあるなんてわかったな」
「晶葉のソナーのおかげよ。この下に空洞があるから、入り口は必ずどこかにある!ってね」
慎重に降りていく二人。
地下墓地は想像よりも深い所にあり、空気が心配になるほどだ。
「入り口はここだけみたいだけど、きちんと空気が抜けるつくりにはなってるみたいね。アタシの心配はいらないから」
光が何か言いだす前に先手を取る麗奈。
お互いの事を良くわかっているというべきか、ただの意地っ張りと言うべきか。
しばらく下ると、広めの空間に出た。
ここに幾人もの死者が埋葬されていたと考えると、いささかぞっとする空間だ。
そして、地下だけあって随分と薄暗く、ところどころにともった松明の明かりも頼りない。
「…なにか気配は感じる?」
「わからない…なんか変な感じだ」
-
「変身しておいた方がいいかも」と光が言いかけた瞬間、背後から何者かがとびかかってきた。
「キィー!」
「くっ…危ないじゃないの!」
「出たなブラックシンデレラの戦闘員!」
「キキィー!」
死角の多いカタコンベの物陰から、次々と現れるブラックシンデレラの怪人たち。
「やはりここがアイツの拠点で間違いないんだな!」
「キィー!」
「答える気がないなら引きずり出してやるわよ!かかってきなさい!」
麗奈の挑発に乗ったのか、戦闘員たちが一斉にとびかかる。
「ふっ…てい!やぁっ!」
繰り出された拳を受け止め、腹に正拳突きを叩きこみ、そのまま腕を取って豪快に敵を投げ飛ばす光。
-
「ちょ…この!ナメンじゃないわよ!」
光ほどうまくは立ちまわれないが、麗奈も相手の足を取ってすっころばす。
「麗奈!」
「わかってるわよ!」
お互い正面の戦闘員をブッ飛ばすと、隙を見せぬように背中合わせになる。
「行くぞ!…変、身…」
「ライダースーツ!」
お互いポーズをとり、変身に入る。
「ルゥゥゥクスッッッ!!」
「オォォォン!」
二人分の変身エネルギーが渦巻き、戦闘員たちは吹き飛ばされる。
「さぁ!お前たちの親玉はどこだ!」
「…こ、ここだよ…」
ルクスが振りむくと、奥の通路にネクロスネークが立っているのが見えた。
-
「…こ、こんなとこまで来ちゃうなんて…ば、ばか、だね…」
「そこかネクロスネーク!このアタシがお前を倒して、ゾンビになった人たちを助けるんだ!」
「…そ、そううまくいくかな…」
ネクロスネークは通路の闇へと姿を消す。
「待て!」
「キィー!」
「くっそぉ、邪魔だ!」
「どいてなさいルクス!レブルサマバッズーカ!」
ルクスの行く手を阻もうとした戦闘員は、レブルのバズーカで吹き飛ばされた。
油断なく武器を構えながら、レブルはルクスに先を急ぐように促す。
「こいつら程度ならアタシで十分だわ!アンタは親玉を追いなさい!」
「わかった!頼んだぞレブル!」
ルクスはうなずき、地下墓地のさらに奥へと走り出した。
-
―――地下墓地、深部
どうやらこの地下墓地、迷路のように入り組んでいるようだ。
しかも、入り口付近よりもさらに薄暗い。
仮面ライダーであるルクスの瞳は、簡単なセンサーを備えている。
が、光量が圧倒的に少ない場所では、センサーもその能力は著しく低下してしまう。
「どこだ?…っ!」
慎重に走り回るルクスだが、突如横道から突き出された鎌に虚をつかれ飛びのく。
「…失敗」
「待て!」
すぐさま後を追ったが、あっという間に見失ってしまう。
流石に敵の本拠地。
向こうはこの迷路のような地下墓地を知り尽くしている。
対してルクスは、既に自分がどこから入ってきたのかもわからない状態だ。
薄暗く狭い地下墓地の通路で、先ほどからヒット&アウェイを狙うネクロスネークに、ルクスは手を焼かされている。
ザザッザッ
どこからか走り回る音が聞こえはするが、反響してしまって位置が特定できない。
-
「…仕掛けてくるまで待つしかないか…」
ルクスは十字路で足を止め、静かに精神を集中する。
どこから敵が来てもすぐさま反応できるように。
ザッザッ
再び足音が聞こえた。
先程よりも大きいことから、距離が近づいていることがわかる。
ルクスは身構えると、敵が飛び出してくるのを待った。
ザザザッ
敵が思いっきり踏み込む音が聞こえた。
鎌が飛び出してくると思っていたルクスは、敵がその身ごと突っ込んできたことに驚く。
「くそっ…!」
「…っ!」
組みつかれたルクスは勢いに逆らわず体を捻り、体落としの要領で敵をころがし、拳を叩き込もうとした。
敵も負けじと拳を構えるが、お互いそれを打ち出す前に気づく。
「キミは…ネモ!」
「ルクスか…とんだ人違いだ」
-
ルクスはあわてて飛びのき、ネモは苦々しげに立ち上がった。
「キミも来ていたのか」
「キミには関わりのない話だ。なんなら、今ここでキミを殺してから奴を探してもいいんだよ」
「キミがそのつもりなら、アタシはそれを止めるだけだ!…と言いたいけど、今はそんなことで争っている場合じゃない、アイツの位置を突き止めないと」
「…ボクはボクで奴を追う。ついてくるなよ」
ルクスが「協力しよう」と言い出す前に、ネモは姿を消した。
ザッザッ
ズズッ
良く聞くと、反響している足音にも二種類あることに気づく。
生憎と正確な位置はわからないが、ネモがネクロスネークを追っていると考えると…。
「アイツが走って行ったのはこっちの通路…なら!」
ルクスはネモが消えて行ったのとは反対の通路を選んだ。
この迷路を知り尽くしたネクロスネークが、追跡者の位置を把握しながら逃げ回っているというのなら…。
ルクスの脳内に一つの作戦が浮かんだ。
-
足音を殺しながら、この地下墓地内を走り回る足音にのみ集中する。
ザッザッザッザッ
ズズズッ
正確な向きが分からなくても、遠近は判別がつく。
ルクスは自分の超感覚をフルに使い、先ほどのネモとは違う足音に近づきつつあった。
「…く、は、しつこい…」
「今だっ!」
通路を抜けた先、少し広めの空間に出たルクスは、ネモの追跡を逃れてきたネクロスネークにとびかかり、羽交い絞めにした。
「え!?…な、なんで…!」
「お前は、途中から追っ手がアタシじゃなくなったことに気が付かなかったんだろ!」
ルクスの作戦はこうだ。
迷路を自在に逃げ回るネクロスネークの追跡はネモに任せ、足音から想定される距離と進行方向を予測し、大幅な先回りをする。
そして、この入り組んだ迷路の交差点になっているであろう空間で待ち伏せたのだ。
迷路のように入り組んだ場所では、一本一本の道を把握するよりも、どこかに起点を置いて動いた方が効率的だ。
追っ手を逃れるネクロスネークが、次なる進路を取るためにこの場所に来るのは、予測の範疇だった。
-
「あんな暗い中を追いかけるのは大変だからな!先回りさせてもらったよ」
「…そ、そんな…あなたの相棒はまだ入り口で戦ってるはず…じ、じゃあ私を追いかけたのは…」
「フン、ボクはいいように使われたってことかい?」
ルクスがネクロスネークをとらえてからほどなく、ネモも姿を現した。
「今回はしてやられたよ…さぁ、ソイツにとどめを刺すと良い」
「キミがやれ!ネモ!」
「…なんだと?」
ルクスの言葉に、ネモは虚をつかれる。
「今アタシが手を放したら、コイツはまた逃げる!それに、ここで捕まえられたのはキミのおかげだ、キミがケリをつけろ!」
「正気かい?ボクはキミもろともそいつを殺すかもしれない、いや、殺すであろう存在だよ?」
ネモの問いかけに、ルクスは真正面から答えた。
「アタシは…キミを信じる!」
「…は、はなして…」
-
「君もすぐにブラックシンデレラの呪縛から解放してあげるからな!」
ルクスのまっすぐな言葉に、ネモは動揺を隠せない。
なぜ、自分を信じるなどと軽々しく言うのか。
「信じる…そんなバカな…」
「さぁ!ネモ、早く!」
「くっ…!」
ルクスの声に、ネモは迷いを抱きながら駆け出す。
「…や、やだ…」
「シッ…」
ネモの回し蹴りがネクロスネークの腹に決まり、その勢いでルクスとネクロスネークは少し後ろへ吹っ飛ぶ。
「…あ、あううう…」
ネクロスネークの体から煙が上がり、徐々に人間の姿へと戻っていく。
現れたのは透き通るように白い肌の、小柄な女の子だ。
-
「おい君!大丈夫か?…気を失ってるか」
「…フン、手元が狂ったようだ…」
「出したのは足だろ?」
「キミは本当にいちいちうるさい…殺しておけばよかったよ」
「でも、今キミはそうしなかった。アタシの信じたとおりだ!」
胸を張るルクスに、ネモは何かを言いかけたが、すぐに首を振った。
何を言うべきなのか、とっさに浮かんでこなかったのだ。
「今回はありがとう!助かったよ!」
「…なんだい、この手は」
「握手さ!知らないのか?」
首をかしげるルクスに、ネモは苛立たしく返す。
「そういう事じゃない。どういうつもりなのかと聞いているんだ」
「どういうって…力を借りたからさ。感謝の気持ちと、お疲れ様っていうことで…」
「冗談じゃない。今回は、キミがボクを良いように利用しただけ。とどめを刺させて平等だとでも言う気かい?生憎だったね」
ネモはルクスに背を向ける。
-
「何度でも言おう。ボクはキミなんかと手を組むつもりはこれっぽっちもない。次に邪魔をすればその時こそ…」
最後まで言い切らず、ネモは姿を消した。
ルクスは差し出した手を握りしめる。
彼女の心を開くのは、簡単なことではない。
改めてそう感じた瞬間だった。
-
―――次回予告
ネクロスネークを下した光。
飛鳥のことが気がかりではあるものの、戦い続きの彼女につかの間の休息が訪れる。
事務所の先輩との交流、アイドルのお仕事、そして新たな出会い。
次回、仮面ライダー光「それぞれの日常」。
ご期待ください。
-
はい、今日はEDなしでーす。
なぜなら某所に誤爆して恥ずかしいから!
いやー、最近になって覗きだしたんですけどね、SS更新の際は二度と開きっぱなしにしません。
以上!
マジではずい
-
初めてリアルタイムで遭遇しました
いつも楽しませてもらってます!
-
さっき何気にこれの前スレを見たら、最後に誰かのプロフィールじみたものが書いてあったので、ここで明言しておきます。
あれは私じゃありません。
私の初めてのSSはペルソナとのクロスのやつです。
あのプロフィール主さんのファンの方もいらっしゃるかと思うので(まぁここを見てるかどうかわかりませんが)一応アナウンスしておきます。
>>185
ありがとうございます!めっちゃうれしいです
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飛鳥がこんな役回りなのは初めてだったが、かなりのはまり役だな...。
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とうとう10話、いやー毎回面白い
それに加えてラテン語や怪人とかのネーミングセンスも好きです
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>>186で言ってるペルソナクロスってフォーゼとペルソナのですか?(ちがったらごめなさい)
そして前スレの誰かのプロフィールのサイト名にニコニコ大百科の響鬼の掲示板(関連部分は削除済み)や本人が書いたらしいいくつかの仮面ライダーのSSの後書きで見覚えがあって苦笑い
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>>186で言ってるペルソナクロスってフォーゼとペルソナのですか?(ちがったらごめなさい)
そして前スレの誰かのプロフィールのサイト名にニコニコ大百科の響鬼の掲示板(関連部分は削除済み)や本人が書いたらしいいくつかの仮面ライダーのSSの後書きで見覚えがあって苦笑い
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>>189
あ、ちゃいますよー、アイマスとペルソナのクロスです。
我が嫁神谷奈緒にささげた処女作です。いろいろ書き直したいとことかあって、読み返すの恥ずかしいわ。
感想くださった人ありがとうございます!
スレ主がうだうだ本編じゃないところでレスするのはよくないってとこあるので自重してますが、内心めっちゃ喜んでます。
-
では、第十一話参りましょう。
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「仮面ライダー!ルゥゥゥクスッッッ!」
赤いスカーフたなびかせ
今日もアイツがやってくる
白い仮面の小さな英雄
僕らのルクスライダーだ
みんなの輝く笑顔の為に
砕くぞブラックシンデレラ
戦え正義の為に
叫べその名は
仮面ライダールクス
「仮面ライダールクス、南条光は改造人間である。謎の秘密組織『ブラックシンデレラ』によって重傷を負わされたが、天才科学者池袋晶葉の手によって改造手術を受け、仮面ライダールクスとして蘇った!」
-
<font color="#000000">
仮面ライダー光 第十一話
「それぞれの日常」
</font>
-
―――CGプロ事務所
「光、お前もついにライブだぞ!」
「ホントか風見P!」
ある日の事務所の一幕である。
ブラックシンデレラとの戦いの合間にも、アイドルとしてのお仕事はある。
殆どレッスンばかりの光だったが、ついに主役の一人としてクレジットされる仕事が来たのだ。
「あぁ!事務所主宰のライブ、中ほどに麗奈と組んで出てもらう」
「は!?このアタシがこいつと“組んで”ステージに立つっていうの!?」
隣で聴いていた麗奈が、露骨に嫌そうな顔をした。
「こらこら麗奈、そんなこと言って先輩を困らせちゃだめだよ」
「アンタもなにへらへらしてんのよ!いい?コイツとアタシはライバル、敵同士なわけ!それをなんだって協力するようなマネ…」
「アタシは麗奈とステージに立ちたいぞ!」
「本人がこうなのもアッタマくんのよ!もう!」
-
宥めようとする麗奈Pと、イマイチ麗奈の憤慨の理由をわかっていない光に、彼女は地団太を踏む。
「どーせアンタの企画なんでしょ」
「麗奈、先輩にそういう言葉遣いはダメだっていつも言ってるだろう?」
「はは、かまわんさ。元気なのはいいことだ」
「この余裕かました態度もムカツク…!」
わなわなとふるえる麗奈だが、風見は飄々としたものだ。
むしろほほえましいとすら思っているように感じられる。
「確かに、企画は俺だ。だが麗奈、お前もこの企画意図は聞いておいて損はないと思うぞ」
「どうかしら」
「そういうな。実はな、ユニットのコンセプトはズバリ『ヒーロー対悪役』だ」
-
「どういうことなんだ?」
「つまりな、正反対の属性の奴らを組ませてみようという考えなんだ。ユニットってのは、大体どこかに共通点があるとか、ツッコミとボケのバランスを、とか考えるもんだが、お前たちのユニットはそうじゃない。キャラクターの関係性で勝負するんだ」
「ほら、光ちゃんはヒーロー大好きで、言動もヒーローっぽいだろ?で、そこいくとレイナサマはみんなにイタズラして回る悪の帝王なわけだ。光と闇、善と悪、陰と陽で綺麗にバランスとれてるでしょ」
「なるほど…」
「悔しいけど理屈は通ってるわね」
「お前たちは普段から仲もいいし、ユニット間で親睦を深めるための期間も必要ない。良いユニットになると思う」
「そりゃあ、アタシと麗奈の相性はばっちりだもんな!」
「やめてよ気色悪い」
ニコニコと肩を組もうとする光から、麗奈は嫌そうな顔で一歩離れる。
「え、麗奈はアタシのこと嫌いか…?」
「おいおいそうなのか麗奈」
「む、それは困ったな…」
-
「あーもう!嫌いとかそういうのじゃなくて!!」
光はおそらく真剣に。
大人二人はからかい半分に。
それぞれから尋ねられて麗奈は顔を真っ赤にしながらまたも地団太を踏む。
麗奈が光を天敵扱いするのは、こういう点で勝てないのを重々理解しているからだった。
「やるわやるわよ!やってやりゃいいんでしょ!その代り、中途半端なことしたら即座にコンビは解消だから!」
「もちろんだ!改めてよろしくな、麗奈!」
「めでたく話はまとまったな」
「ユニット名は『ヒーローヴァーサス』。はじめのうちは顔見せだけだけど、そのうちこのコンセプトをいかした対決もできればと思ってるから」
「ホントか麗奈Pさん!」
「それを先に言いなさいよね。コテンパンにしてやるんだから!」
「威勢がいいのは何よりだ。まずは初ライブに向けて、レッスン厳しめでいくからな!」
「オー!」
こうして、光のアイドルとしての夢は、また一歩進むのであった。
-
―――レッスン場
「はい、そこでストップ!」
「だぁっ」
「つかれたー…」
マスタートレーナーの号令がかかり、アイドルたちは床にへたり込む。
今度のライブに出演するメンバーたちの合同レッスンだ。
「凛くん、振り付けは完璧だがまだまだ余裕が足りないな。奈緒くん、AパートからBパートへの転換が少し走り気味だ、気を付けるように。加蓮くんはその逆で、全体的に遅れがちだ、すこし前気味でテンポをとらえてみよう。次は…」
一人一人のアイドルに的確なアドバイスを飛ばしていくマスタートレーナー。
流石業界でもトップレベルのトレーナーと名高いだけあって、大人数のレッスンでも見落としがない。
「光くんと麗奈くんは良くついてきているな。このレッスンに参加するのは初めてだろうに」
「へへっ、体力だけは自信があるから!」
「き、鍛え方が、違うわよ…」
改造人間である光はそれとしても、麗奈もそれなりに戦いを潜り抜けてきている。
知らず知らず体力はついているのだ。
-
「うむ、その調子ならまだまだいけるな。二人はまだみんなに合わせるというレッスンに慣れていない。数をこなして呼吸を掴むことを優先にするんだ」
「はい!」
マスタートレーナーの言葉に、光は笑顔でうなずく。
周りのアイドルたちは「マストレさんの鬼のしごきを受けてなんであんなに元気なんだ」という顔をしている。
まぁ事実、このレッスンの後でも元気なのは、光以外ではCGプロの暴走特急こと日野茜くらいなものだが。
「ふぅ…光はタフだなぁ。その身体のどこにそんなエネルギーが詰まってんだ?」
話しかけてきたのは神谷奈緒。
事務所の看板ユニットの一つ、トライアドプリムスのひとりで、光が事務所で最も仲良くしているメンバーのひとりでもある。
年は奈緒の方が三つ上だが、アニメが好きで特撮も見るという奈緒と、光は大変に馬が合う。
「アタシはこの全身が強化細胞になっているからな!太陽のエネルギーを浴びればいつだって元気いっぱいさ!」
「ははっ、なんだそりゃ。ここ室内だぞ」
光の言葉を聞いて、奈緒はおかしそうに笑う。
事実ではあるのだが、まさか本当の事だなどと奈緒は思いもしない。
-
「でも、このレッスンに来たってことは、ついに光もアタシたちと同じステージに立つってことだよな」
「うん!アタシもうわくわくしちゃってさ!」
デパートの屋上や、小さなライブハウスでのミニライブくらいなら、光も経験がある。
しかし、今度のは箱の規模が違う。
数千、それよりも多くの人たちが自分たちを観に来るのだ。
「奈緒さんは、初めて大きい所でライブしたときはどんな感じだった?」
「どんな感じ、かぁ…正直いっぱいいっぱいだったから全然覚えてないんだよな」
あはは、と奈緒は頭を掻く。
そんな彼女の後ろから、誰かが抱き着いてきた。
「えー、奈緒は私たちの大事なライブのこと覚えてないの?」
「おわぁっ!か、加蓮かよ…急に後ろから抱きつくなよ、驚くだろ」
「私も詳しく聞きたいな…どういうことなの?奈緒」
奈緒にじゃれ付いたのは北条加蓮。
そのさらに後ろから現れたのは凛。
トライアドプリムスのメンバーそろい踏みだ。
-
「こ、言葉通りの意味だよっ!あの時は緊張しすぎて、終わった後は頭ん中真っ白だったんだ!」
「えー、じゃああのライブが始まる直前に奈緒が私たちに言ってくれた感動的なセリフも覚えてないの?」
「…お、覚えてない」
加蓮の問いかけに、なぜか奈緒は顔を赤くしながらそっぽを向く。
「そうなんだ…私、とっても嬉しかったのにな…ね、加蓮」
「そうだね、悲しいよね、凛」
「え、奈緒さんどんなこと言ったんだ?」
「そ、その話は別によくないか!ほら、思い出はみんなの胸にしまっておいた方が…なんて」
明らかに奈緒の様子がおかしい。
というか、加蓮と凛もどこか変だ。
笑いをこらえているように見える。
-
「えー、だって奈緒覚えてないんでしょ?私たちは嬉しかったんだから、奈緒にもちゃんと覚えててもらわないと」
「そうだよ奈緒。それに、思い出はみんなで分かち合うことでより美しくなるんじゃないかな」
「い、いやだからそれは別にアタシ抜きでやれば」
「私たち、実は三人とも初めての大きいライブでは死ぬほど緊張してたんだ」
「事務所が大きく売り出すユニットとして選ばれた中でも、私たちは特に最前線にいたからね」
「お、おぉぉい!そ、そろそろ休憩時間も終わりなんじゃないかー?あ、アタシはちょっとお手洗いに…っておい!」
現場から逃げようと立ち上がりかけた奈緒を、背中から抱き着いている加蓮が強引に座りなおさせる。
「開演直前なんかもう三人とも青い顔して震えてたんだけど…」
「そしたら奈緒がね」
「わああああああ!言うな言うなあああああああ!!」
-
「『あ、アタシたちならきっとできる!うまくやれる!あんなにレッスンしたし!凛も加蓮も最高の仲間だと思ってる!アタシは二人を信じてるから!絶対成功するから!できるから!な!』って」
「バックのスタッフさんたちみんなが振り向くくらいおっきな声でね」
「へー!奈緒さん熱いな!」
「あぁ…もう…せっかく記憶が薄らいできてたのに…」
その時の、テンパったあげく大注目を浴びたことを思い出し、奈緒は顔をこれ以上ない位赤くする。
目にはうっすら涙が浮かんでいるようだ。
「私も凛も、なんか奈緒の勢いがすごくてうなずくことしかできなかったよね」
「うん。奈緒の気遣いのおかげっていうより、その勢いで緊張がどこかにとんでっちゃったっていうか…」
「け、結果的にアタシのおかげでリラックスできたんならいいだろ!感謝しろよなっ!」
やけくそのように叫ぶ奈緒。
しかし光は、まっすぐに相手を思う言葉を紡げる人を尊敬する気持ちでいっぱいだった。
-
「なんかスタッフさんたち拍手したもんね、あの時」
「あれはしょうがないよ、私も当事者じゃなかったら拍手してたと思う」
「もう!そうやってからかいやがって…!」
「暴れないのー。てか奈緒髪の毛モフモフしてて暑いー」
「お前が勝手に引っ付いてきたんだろ!?あぁもう!」
奈緒はいやいやとみじろぎして加蓮を引き離すと、立ち上がってレッスン場の扉へ歩き出した。
「あれ、奈緒どこいくの?」
「トイレっ!」
怒ったように答えた奈緒は、そのままレッスン場の外へと消えて行った。
「奈緒さん怒っちゃったのか?」
「大丈夫、いつものことだから」
「あんなにツンツンしなくてもいいのにねー」
「奈緒さん、アタシとしゃべるときは優しいぞ!」
「光は奈緒をからかったりしないもんね」
-
凛と加蓮は愉快そうに笑う。
「でもそっかぁ…奈緒さんそんなこと言ったんだ。かっこいいなぁ」
「うん。奈緒は、あれですごく頼れるんだ」
「なんていうか、お姉さんて感じだよね。ちっちゃくてかわいいけど」
「気は使えるし、仕事はきちんとこなすしね」
「年下の私たちがこうやって奈緒に遠慮なく絡んでいけるのも、奈緒が優しいからだしね」
「やっぱり、奈緒さんがみんなに好かれてるのって、奈緒さん自身がみんなのことを大好きで信じてるからなんだよね!アタシも見習わなきゃ!」
「ふふっ、そうかもね」
「それ、奈緒に言ってあげると良いよ。多分『べ、別に嬉しいわけじゃ』とか言ってくれるから」
「おーまーえーらー…人がいないのをいいことにまた好き勝手言ってたんだろ!」
「きゃあ!奈緒が怒った!凛、逃げなきゃ」
「ふふ、そうだね、加蓮」
「あ!おい待てこらあああああ!!」
-
キャイキャイと騒ぎながら、トライアドプリムス達は去っていく。
ステージでは売れっ子のアイドルでも、普段は自分たちとそう変わらない彼女たちの様子に、光はなんだかおかしくなって笑い転げていた。
-
―――その頃、都内某所、駅前広場
ここは首都圏でも有数の利用客数を誇る駅の前。
人々はここを待ち合わせの場所に使ったり、ただ友人とおしゃべりするだけの場所として使っている。
その人ごみの中にひとり、誰を待つでも何をするでもなくぼんやりと佇んでいる少女がいた。
飛鳥だ。
「…」
何を思っているのか、その瞳には一切の感情が読み取れない。
ただ、植込みの外周部分に腰掛け、ぼんやりと人通りを眺めている。
一見すると、時間を持て余した不良少女が暇つぶしの相手を探しているようにも見えるが、彼女がそうではないことを、我々は知っている。
しかし、一般の人間にそんなことが分かるはずもなく。
「ねぇ君、一人なワケ?ヒマなんだったらオレらとあそばねー?」
こうして、へらへらと下品な笑いを浮かべた男が時折彼女に声をかけに来る。
男の後ろの方には数人の取り巻き。
皆、一様に下品な笑いを浮かべている。
-
「…はぁ」
飛鳥は目の前に立つ男に視線を合わせることもせず、ため息を吐いた。
「さっきから見てたけど、別にカレシ待ってる感じじゃないっしょ?ほかのヤツらのナンパもことわってたもんねー」
飛鳥は、この数時間ずっとここから動いていない。
その間に声をかけてきた男はざっと五組ほど。
確かに彼女の容姿は非常に端正だ。
美人というか中世的な彼女は、男装させても様になるだろう。
そして、そのファッションと気だるげな雰囲気はイカニモな不良娘を見えなくもない。
ナンパ目的の男たちが声をかけたくなるのも無理からぬ話だ。
「まぁさ、ジッサイアイツらのナンパことわんのはしょーがないよねー。なんてーかダセーし?」
前髪をいじりながら、男は飛鳥に振られたナンパ男たちのダメ出しを始める。
まるで「自分は違う」とでも言いたげな口調。自信たっぷりと言ったところだが、飛鳥からすればどいつもこいつも同じだ。
「ね?ホラ、君もタイクツしてんでしょ?あそぼーぜー、おごるからさ!酒とか飲める?」
年の割に大人っぽい飛鳥だが、それでも成人しているようには見えない女子に平然と酒を勧める男。
ますますもって魂胆が透けて見える。
-
「…」
「いこーぜ、ダチ待ってるからさ!マジいいやつらでマジ楽しいからマジで」
語彙の貧困さも目に余る。
無言を肯定と受け取った男が飛鳥の肩を抱こうとした瞬間、ついに彼女は言葉を発した。
「触るな」
「は?」
伸ばされた手を払い、飛鳥は冷たい目を相手に向ける。
「やれやれ…さっきからよくもまぁそう自分に都合のいいペースでべらべらと喋ってくれたね。誰もが自分の話を真面目に聞いてくれると勘違いしているんじゃないかい?」
「あ?あんだテメェ!ガキが調子に…」
「調子に乗っているのがどちらかなんて、そんなことは誰が見ても明らかだろうね。ま、それ自体になんの意味もないけど」
目の前で沸騰していく男に反比例して、飛鳥の心は凍てついていく。
なんてくだらない生き物なんだろう。
そんな思いがふつふつと湧きあがる。
彼女は怒るでもなく、失望しているのだ。
-
この男は飛鳥の味わった苦難の何十分の一も味わったことがないに違いない。
それなのに、こんなくだらないことで人生を浪費している若者たちが情けなく思えてくるのだ。
「ボクに関わるな」
「あぁ?下手にでてりゃいい気になりやがってよぉ!」
「聞こえなかったのかい?消えなよ。それとも、人間の言葉が通じないのかな?生憎だけど申し訳ないね、サルの言葉は習ってないんだ…日光にでも留学すべきだったかな?」
いつの間にか二人のやり取りを遠巻きに見ていた人々のなかから吹き出すような笑いがいくつか聞こえてきた。
「るせえ!調子にのってんじゃねーぞクソガキャア!」
人前でバカにされ、恥をかいた男は逆上し飛鳥に掴み掛る。
人垣から悲鳴が怒ったが、心配されるべきは飛鳥ではなかった。
「…あ、ぐっ、あ」
「やはり、消えろと言ったのは通じなかったね…サルの相手をしてるほど暇じゃないんだ」
男の拳をかいくぐった飛鳥は、懐に入り込み、片手で男の首を掴んでつるし上げた。
男と飛鳥の身長差は二十センチほどもあるが、そんな彼女が片手で男性一人を持ち上げているのだ。
にわかには信じがたい光景に、観衆は息をのむ。
-
「く、そ…が」
「…死ぬかい?」
酸欠で身体に力が入らず、飛鳥の手を振りほどくこともできないままにもがく男に対し、飛鳥は無感情に尋ねる。
「ここでキミが死ねば、ボクは逮捕されてこの一件は終わり。少しばかりニュースで騒がれるかもしれないけど、どうせ人々はすぐに忘れて新しい事件を求める…つまり、キミの命の価値はその程度でしかないんだ。ボクもそう…でも」
「…」
意識を失った男の体を無造作に放り出した飛鳥は、独り言のようにつづけた。
「今はやるべきことがあるから…そんな無駄なことはしないけどね」
「お、おい!ヨっちゃん!」
今の今まで助けにも来なかった取り巻き達が、倒れた男に駆け寄ってくる。
「…」
「おいテメェ!待てよ!…うっ」
無言で立ち去ろうとする飛鳥を呼び止めた取り巻きのひとりが、振り向いた彼女の目を見て絶句する。
-
「…何?」
「…き、消えろ!消えちまえ!このバケモン!」
取り巻きのひとりはほとんど悲鳴に近いような声で叫ぶと、飛鳥から距離を置こうと後ずさる。
飛鳥の目は、何もとらえていなかった。
たった今、人を失神まで追い込んだ少女のする目ではない。
なんの悔恨も、罪悪感も浮かばない、道端のアリを踏んづけてしまったかのような目。
「これ以上関わるとろくな目に遭わない」そう感じた取り巻きは、彼女に声をかけるのをあきらめた。
「…はぁ」
飛鳥はため息を吐いて再び歩き出す。
今度こそ、彼女の歩みをとめるものはいない…はずだった。
-
「あのー、すいません」
駅前広場から離れ、五分ほども歩いたころだろうか。
後ろから若い男に声をかけられた。
またナンパか、とうんざりしながらも無視して歩き続ける飛鳥の前に、男は回り込んできた。
「ちょ、ちょっと君!いいかなっ」
「良かったら立ち止まっていると思わないかい?ボクはキミとおしゃべりするような暇は…」
そこまで言って、飛鳥は相手がスーツ姿であることに気づく。
ナンパではなさそうだ。なにかの勧誘だろうか。
どちらにせよ、わずらわしいことには変わりない。
「少しでいいんだ!ちょっと話を聞いてくれないか」
「何の用だい?ボクはキミに用なんかないのだけれど」
「えっと…僕は怪しい者じゃない。こういう人間です」
男の差し出した名刺には、「シンデレラガールズプロダクション専属プロデューサー クール部署所属 二宮P」と書かれている。
-
「…プロデューサー?」
「あぁ、CGプロって知らないかな?最近かなり売れて来てるアイドル事務所で…ほら!渋谷凛とか、神崎蘭子とか!」
「あぁ…」
その二人の名前は聞き覚えがある。
というか、先ほどの駅前にもでかでかとポスターが貼られていた。
彼女がまだ「二宮飛鳥」として生きていたころは、その事務所のアイドルが放送しているラジオ番組を良く聴いたものだった。
ウサミン星人を名乗るパーソナリティのことを思い出している飛鳥に構わず、男、二宮Pは話を進める。
「実は、僕はまだ新人でね。今自分の担当するアイドルを探しているところだったんだ。候補生の中から探してもよかったんだけど、できれば自分の足で納得のいく子を見つけたくて…それで」
「ボクがそうだ、と?」
「うん!なんていうか、一目見て『これだ!』って思ったっていうか…先輩たちの言う『ティンきた』ってこういう事なんだなって…」
「ボクはキミのことを知らない」
興奮気味に話す二宮Pの言葉を遮り、飛鳥は声をあげた。
-
「けど、キミはボクを知っているのかい?あぁ、キミは今こう思っただろう『こいつは痛いヤツだ』ってね」
「僕は別にそんな…」
「でも思春期の14歳なんてそんなものだよ」
飛鳥はニヒルに笑う。
「それで、キミはボクの何を知っている?誕生日は?身長、体重、血液型、出身地に家族構成、それと性格は…まぁこのやりとりで判断できるかもしれないけど」
「それはこれから…」
「名前すらも、キミは知らないんだ…そんな人間が、ボクの何をわかるというんだい?消えてくれ…いや、良い、ボクが消えるから」
そこまで言って、飛鳥は二宮Pの返事を待たずに歩き出した。
「待ってくれ!せめて名前を…!」
「…ボクに名前はない」
無視すれば良かったが、一言そう残し、飛鳥は去って行った。
「あぁ…くっそぉ、絶対あの子だと思ったのにな…いやいや、諦めてたまるもんか!」
-
―――晶葉の研究室
『―――日本人宇宙飛行士の沖一也さんが、話題のCGプロダクション所属アイドル、アナスタシアさんと対談を行いました。アナスタシアさんは天体観測が趣味との事で―――』
「もっと馬力をあげて欲しいだって?」
「アンタの発明にケチをつけたいわけじゃないわ。でも、今のままだとどうにも力不足な気がするのよ」
話しているのは晶葉と麗奈だ。
光の姿はない。
「しかし、現状でもあのスーツはお前の肉体にずいぶん負荷をかけている。最初の頃は全身筋肉痛で動けなかっただろう」
「あんなのもう平気よ。ウエイトトレーニングだって、筋力が付いたら次のおもりを試してみるわけでしょ。なんとかならないの?」
どうやら、麗奈は自信の着るライダーガールスーツのバージョンアップを頼んでいるらしい。
「スーツ自体の機能向上ならば可能だ」
「じゃあやりなさいよ」
「ダメだ。お前の体が持たない」
麗奈の願いに、晶葉は首を横に振る。
-
「いいか、この世のありとあらゆる物質には重さや衝撃に対する限界値と言うものが存在する。お前のスーツで発揮される力はすでにその値を越えているんだ。一応スーツ自体にパワーを分散させているからまだ何とかなっているが、これ以上出力をあげればお前の体は壊れてしまうぞ」
「そんなの、やってみなきゃわからないじゃない!」
「わかるから言っているんだ。今だって、スーツを使用した後は体のいたるところにあざが出来ているだろう」
「…っ」
そう、光はまだ気づいていないが、麗奈は変身するたびに体に痛みを覚えている。
彼女の肉体はただの人間だ。
光のように無茶が続くわけではない。
「お前が怪人に対して自分の力が通じない歯がゆさを覚える気持ちはわかる。私なんか後方支援しか出来ないからな。だが、お前は光とは違う。お前はお前のやり方で戦えばいいだろう?」
「それは…そうよね…」
麗奈は晶葉の言葉を受けてうつむく。
ここ数回、光と共に戦って彼女は自分の力の足りなさを痛感していた。
雑魚の戦闘員たちは麗奈の相手ではない。
しかし、怪人相手となると自分の力が及ばないのが分かってしまう。
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怪人に負けるのが悔しいのではない、光と肩を並べて戦えないのが悔しいのだ。
自らのライバルに、間接的に負けを認めさせられているような感覚が悔しいのだ。
「成り行きで世話になっている身とはいえ、私たちはアイドルのはしくれだ。なにも、こんなところでアイツと競う事もないだろう、麗奈」
「…わかってるわよ」
「お前が戦闘員を引き受けてくれるおかげで、アイツは怪人との戦いに専念できる。街中に突然現れた戦闘員どもを蹴散らすのだって、一人より二人の方が早いし確実だ。アイツはお前に感謝しているんだぞ」
「わかってるわよ!もういいわ、変なこと頼んだわね」
もやもやした気分を抱えたまま、麗奈は晶葉の研究室を後にした。
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―――次回予告
初めての大きなライブに成功した光。
しかしそんな喜びもつかの間、力について悩む麗奈にブラックシンデレラの魔の手が忍び寄る。
一方飛鳥は、V3と拳を交えんとしていたのだった。
次回、仮面ライダー光『危うし!怪人トリオの魔の手!』
ご期待ください。
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〜ED〜
熱血 アタック
正義の血潮が燃えたぎる
怒りのパンチは風起こし
炎のキックが敵砕く
跳べ空高く
ブーストジャンプで鳥になれ
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
燃えろ燃えろよ
我らのルクス
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はい、今日はあっさり目ですがこの辺で。
日常回でした。
のってきたのってきた、見えたぞエンディングまでの道筋!
ということでまた次回お会いしましょう。
そろそろ200も超えたので次スレ立てます。
南条光「仮面ライダーの魂」
で行きましょう。
今考えました。
では!
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二宮Pがどんな関係を飛鳥と築くのか、気になる...気になる...むむむ
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新スレ、立てましてございます。
南条光「仮面ライダーの魂」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1410615495/
よろしければどーぞ。
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おつ
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