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男「希望の色は空色」

1 : HAM ◆HAM/FeZ/c2 :2013/10/05(土) 22:56:28 rsBRS1pI
カツン、カツン、カツン

ガラッ

男「ん?」

女「誰か、いますか?」

男「あ、はい、僕だけだけど」

女「ここは、なんのお部屋?」

男「……えっと、美術室だけど」

女「ああ、そっか、そういえば絵の具の匂いがするわ」

男「ねえ、その杖、なに?」

女「ん?」

男「あ、君、もしかして目が見えないの?」


"
"
2 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:00:54 rsBRS1pI
女「ん、見えないの」

男「ゴメン、気付かなかったな」

女「どこか、座ってもいい?」

男「あ、うん、ここどうぞ」

ガチャガチャ

女「ありがとう」

男「杖、立てかけておこうか?」

女「ううん、いいの」

女「持ってた方が安心するの」


3 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:04:57 rsBRS1pI
男「ねえ、君、E組に来た子?」

女「そうよ、はじめまして」

男「うん、はじめまして。噂は少し聞いてるよ」

女「あなた、E組じゃないみたいね」

男「僕は、えっと……」

……


4 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:11:00 rsBRS1pI
……

女「そう、B組なの。よろしくね」

男「……」

女「……」

男「えっと、どうしてここに来たの?」

女「体験学習、って言われたわ」

女「盲学校じゃなくて普通の学校で過ごすことを体験して……」

男「あ、えっと、そうじゃなくて」


5 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:12:33 OMuMC1eQ
これは俺得SSの予感


"
"
6 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:19:07 rsBRS1pI
男「美術室に、なにか用だった?」

女「ううん、適当に歩いてただけよ」

男「そっか」

女「あなた、美術部?」

男「うん」

女「他の人は?」

男「僕一人しかいないんだ」

女「先生は?」

男「顧問の先生も、たまにしか来ないんだ」

女「そうなの」


7 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:24:12 rsBRS1pI
男「君、みんなと同じように授業を受けるの?」

女「そうよ」

男「黒板が見えないって、大変じゃない?」

女「?」

男「あ、黒板」

男「えっと、先生が色々書くんだよ、文字とか図式とかさ」

女「そうね、そういうのは、読めないわ」

男「不便じゃない?」

女「先生が話している内容を聞けば、言いたいことはわかるわ」

男「そういうものかあ」

女「でもやっぱり、普通の高校って難しい勉強をしているのね」


8 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:32:31 rsBRS1pI
男「この学校にずっといるの?」

女「いいえ、一週間だけ」

女「体験学習だから」

男「そうなんだ」

女「もう何人か、お友だちができたわ」

男「すごいね」

女「あなたも、お友だちになってくれる?」

男「え、あ、ああ」

女「嫌?」

男「嫌じゃないよ」


9 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:38:47 rsBRS1pI
男「でも僕、友だちいないんだ」

女「じゃあ、私とお友だちになれば、一人できるわよ」

男「う、うん……」

女「迷惑?」

男「……全然」

女「じゃ、よろしくね」

女「あなたの声は覚えたわ」

男「声?」

女「ええ、素直で、綺麗な声」


10 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:44:56 rsBRS1pI
男「声を褒められたのは、初めてだよ」

男「やっぱり、目が見えないと、そういう感覚は敏感なのかな」

女「そうかもね?」

男「あ、ゴメン、失礼なこと、言ったね」

女「……全然」

男「そう」

女「あなたの真似」

男「え?」


11 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:49:15 rsBRS1pI
女「似てた?」

男「……僕、そんな声かな」

女「僕、こんな声だよ」

男「あ、今のはちょっと似てたかも」

女「うふふ、ごめんね、失礼だった?」

男「全然」

女「うふふ」


12 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:55:12 rsBRS1pI
女「また、明日も来ていいかしら」

男「うん、でも……」

女「でも?」

男「あ、ううん、なんでもない」

女「じゃあ、また明日ね」

男「うん」

女「さよなら」

男「うん、さよなら、気をつけてね」

女「ありがとう」スッ

カツン、カツン、カツン

ガラッ

男「……器用に歩くんだなあ」


13 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/05(土) 23:57:57 rsBRS1pI
では、また明日です
東京トイボックス見てきます


14 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 08:49:14 .HRkMJjo
できるだけ頑張ってくれ


15 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 22:35:27 mn1IemcM
―――
――――――
―――――――――

女「ね、あなたは絵を描くの? 作品を創るの?」

男「あ、えっと、絵が主かな」

女「どんな絵?」

男「空とか、海とか、風景の絵ばっかり」

女「油絵?」

男「うん、そうだよ」

女「すごいなあ、絵を描ける人って、尊敬するの」

男「はは」


16 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 22:41:45 mn1IemcM
女「どうせ見えないだろ、って思った?」

男「ううん」

女「本当に?」

男「うん、下手くそだから、見られなくてホッとしてるよ」

女「うふふ、あなた、正直ね」

男「なにが?」

女「声も、話している内容も、すごく正直」

男「はは、嘘つき、って言われたことは、あまりないね」


17 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 22:46:54 mn1IemcM
男「ねえ、どうしてそんな風に首を振るの?」

女「ん?」

男「首、よく動くね」

女「そうかしら」

男「どうして?」

女「どうしてって、音をよく聞くためよ」

男「ふうん」

女「目が見える人は、あんまり首を振らないらしいわね」

男「うん、まあ、そうかな」


18 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 22:53:32 mn1IemcM
女「私、変?」

男「ううん、面白いよ」

男「あ、えっと、馬鹿にしてるわけじゃなくて」

女「面白いなら、いっか」

男「うん、いいと思う」

女「うふふ」

男「首を傾げてるみたいで、可愛い」


19 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 22:58:26 mn1IemcM
男「ね、生まれたときから、そうなの?」

女「赤ちゃんだったころは、見えたらしいわ」

女「でも、病気ですぐに失明したんだって」

女「だから、なにかを見た記憶は全くないの」

男「そっかあ」

女「でも、ずっとそうだから、別に不便はないわ」

男「見えなくても?」

女「ええ、それが普通だもの」


20 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:03:29 mn1IemcM
男「僕、目をつぶったらきっと10歩も歩けないなあ」

女「私も杖がないと、無理よ」

男「その杖、白杖っていうんだよね」

女「そう、知ってたの?」

男「昨日調べて」

女「白杖って、名前が変よね」

男「え、そう?」

女「『はよ白状せえよコラ!!』とか『あんさん薄情でんなあ』とかさ、言うよね」

男「ははっ、なんで関西弁なの?」

女「なんとなくよ、なんとなく」


21 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:09:21 mn1IemcM
男「君、冗談言うんだね」

女「そうよ? 目が見えない人は冗談言っちゃだめなの?」

男「いやいやいや、そうじゃなくってさ」

女「私、暗い風に見えた?」

男「いやいや、そうでもないんだけど」

女「じゃあ、黙っとこうかな」

男「好きに喋って!! 気にしないから!!」

女「あら、私が気にするわ、そういう言い方」

男「ごめんって」


22 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:16:29 mn1IemcM
女「同じ『はくじょう』でも、ちょっとニュアンスというか、アクセントが違うでしょう?」

男「ああ、うん、そうだね」

女「だからなんとなく、違いはわかるけど」

女「普通の人は、漢字で見分けるんでしょう?」

男「ああ、そっか、そうだね」

女「私、漢字わからないのよ」

男「点字は使えるの?」

女「うん」

男「僕は、逆に点字が読めないよ」

女「同じね、私たち」

男「うん、逆にね」


23 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:23:28 mn1IemcM
女「明日、点字の本を持ってきましょうか」

男「あ、うん、読んでみたい」

女「じゃ、お楽しみに、ね」

男「うん」

女「そろそろ帰るわ、ありがとう」

男「大丈夫? 送っていこうか?」

女「平気よ、歩けるわ」

男「あ、でも、階段とか危ないよ」グイッ

女「きゃっ」グラッ


24 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:26:02 QTUM7ma6
見てます
支援


25 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:29:13 mn1IemcM
男「あ、ごめん」パッ

女「もう!! 急に引っ張らないでよ!!」

男「ご、ごめん」

女「大丈夫って言ったでしょう!!」

男「……ごめん」

女「じゃあね、さよなら」

カツン、カツン、カツン

ガラッ

男「……怒らせちゃった、かな……」


26 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:31:16 mn1IemcM
今日はここまでです
おやすみなさい


27 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:39:36 7cauBgCg
雰囲気好きだ
支援


28 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:53:26 aaHRrw2E
支援支援


29 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:07:00 Lp9zwjjU
―――
――――――
―――――――――

女「や」

男「あ、えっと、昨日はごめん」

女「え? なに?」

男「あの、グイって引っ張ってごめん」

女「あー、あー」

女「気にしてないよー」

男「急に引っ張られると、怖いんだよね」

女「そうそう」

女「でも、もうしなかったら、それでいいよ」


30 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:12:00 Lp9zwjjU
男「見えないと、怖いことも多いよね」

女「ううーん、だけど……」

男「だけど?」

女「初めっからそうだから、別にそれが普通」

男「そっかあ」

女「あのさ、蜘蛛っているでしょう?」

男「ああ、うん」

女「足何本?」

男「8本」


31 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:15:58 Lp9zwjjU
女「あなたはさ、足が2本しかなくて不便じゃない?」

男「え?」

女「蜘蛛は8本もあるのよ、それに比べてさ、不便じゃない?」

男「うーん、どうだろ、よくわからないな」

男「2本でなんとかやれてるし」

男「8本あったら、逆に邪魔そう」


32 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:22:05 Lp9zwjjU
女「蜘蛛は目も8個あるそうよ」

男「へえ、多いんだなあ」

女「あなた、目が2個しかなくて不便じゃない?」

男「え、えっと」

女「しかも蜘蛛は紫外線が目に見えるそうよ」

男「マジで!? 日焼けクリーム不要じゃん」

女「そんな目がほしいと思わない?」

男「んーでもなあ、8個もあったら酔いそうだし、怖いし」

女「でしょ、私もそんな気分なの」


33 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:28:11 Lp9zwjjU
男「え?」

女「今までね、たくさんの人に『目が見えなくて不便ですね』って言われたの」

男「あ……」

女「でもね、別に普通」

女「人に価値観を押し付けてほしくないわ」

男「ああ、なるほど」

男「そうだね、無遠慮なこと、言ったね」

女「ええ、いいのよ」

男「無遠慮って言うか、不躾って言うか」


34 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:37:48 Lp9zwjjU
女「いいのよ」

女「それよりさ、ねえねえ、無遠慮とか不躾の『ブ』ってなんなのかしらね」

女「不正解!! ブブー!! ってことかな」

男「ははっ」

女「あれ、でも不正解には『ブ』がないわね」

女「ブ正解!! じゃダメなのかしら」

男「否定系の『ふ』とか『ぶ』のことだね」

女「なんだか力が抜ける言葉よねえ」

男「確かに」

女「漢字があると、見分けがつきやすいんでしょうねえ」


35 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:42:02 Lp9zwjjU
女「あ、そうそう、忘れてた」

ゴソゴソ

男「ん?」

女「はいこれ、点字の本よ」

男「わ、分厚いね」

女「あ、また『ブ』だわ」

男「あはは、本当だ」

女「ブブー!! 不正解!!」

男「あ、でも、『分厚い』の『ぶ』は否定系じゃないよ」

女「知ってるわ、でもややこしいわね」


36 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:47:17 Lp9zwjjU
女「で、これが点字の説明の本よ」

男「へえ」

女「こっちなら、字が書いてあるから読めるでしょう?」

男「うん」

女「あいうえお、は簡単よ」

男「えーっと」ペラペラ

女「基本がわかれば、すぐに読めるわ」


37 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:51:59 Lp9zwjjU
では
おやすみなさい


38 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 22:24:46 8nLJ.SZA
男「真っ白なんだね、本」ペラペラ

女「白って、どんな色?」

男「ん? んーと、穢れがないっていうか、汚れてないっていうか」

女「綺麗な色?」

男「でも、飾ってない潔癖の色」

女「潔癖の色……」

男「あと、ほら、白黒つけるとかって言うじゃない」

男「だから、真実の色、かな」

女「へえー」


39 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 22:29:07 8nLJ.SZA
女「やっぱり絵を描く人は、色の表現が面白いわね」

男「そうかな?」

女「お母さんに『白ってどんな色?』って聞いたら、なんて言ったと思う?」

男「うーん、わかんないよ」

女「『白は汚れが目立つ色だから、好きじゃない』だってさ」

男「あはは」

女「『最近白髪が増えてきてねえ』とか言ってたし」

男「あはは、白髪か、確かに白だね」

女「ね、CMじゃあ『驚きの白さ!』とか言ってるのにね」


40 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 22:33:17 8nLJ.SZA
女「『驚かない白さ』ってどんなもの?」

男「え? え?」

女「『驚きの白さ』の逆よ」

男「は、ああ、えっと……」

男「黄ばんでる……白……?」

女「『黄ばんでる』ってどういうこと?」

男「黄色が混ざってる感じ……かな?」

女「黄色は汚いの?」


41 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 22:44:18 8nLJ.SZA
男「いや、黄色、汚くないよ」

女「でも白と混ざると汚いんでしょう?」

男「んー黄色自体は綺麗な色だけど、白い服が黄色くなると汚いっていうか」

女「混ざるっていうのも、実はよくわからないのよ」

女「色とか、飲みものとか」

男「うん、そうかも」

女「一緒に遊ぶときも『混ーぜて』って言うよね?」

男「コーヒーと、牛乳と、混ぜたらコーヒー牛乳になるの、わかる?」

女「コーヒー苦手だからなあ」

男「そっか」


42 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 22:51:21 8nLJ.SZA
女「黄色は本当は綺麗な色?」

男「そうだね、星とか太陽とか、黄色で表すことが多いし」

女「あ、そうね、星は黄色って聞いたことあるわ」

男「黄金とか言うしね、輝いている色かな」

女「綺麗なんだ」

男「うん」


43 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 22:58:23 8nLJ.SZA
男「黄色い服を着ている人は、派手だし、自己主張が強いイメージがあるな」

女「派手色かあ」

男「そうそう、派手色」

女「じゃあ地味色は?」

男「地味色?」

女「黄色の逆の、地味な色」

男「んー」


44 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 23:03:13 8nLJ.SZA
女「やっぱり、黒?」

男「どうして?」

女「黒は地味で目立たない色って、お父さんが言ってたわ」

男「はは、まあ、喪服とか黒だしね」

女「そうそう、喪に服す色だって」

女「意味わからない」

男「地味で、影に溶け込む色で、んー、夜の色」

女「夜ね、夜は涼しいわ」

女「黒って、涼しい色?」

男「ていうか、暗い色」


45 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 23:09:55 8nLJ.SZA
女「あ、私ね、明るいとか暗いが、よくわからないの」

男「え、そうなの?」

女「うん、光とか、影とか、そういうのが」

男「太陽が出ると明るくて、太陽が沈むと暗い、っていう感じ」

女「太陽は暖かいわ」

女「なくなると、涼しい」

男「温度で感じるんだ」

女「ええ、変かな」

男「いや、面白いよ」

女「変な意味じゃなくて?」

男「変な意味じゃなくて」


46 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 23:17:12 8nLJ.SZA
女「あなた、やっぱり、優しいわ」

男「やっぱり?」

女「あれ、言わなかったかしら」

男「正直だ、とは言われた気がするけど、優しいは言われたかな?」

女「家族に話したのだったかしら」

男「え、僕の話を?」

女「そうよ、美術部のお友だちができたって話したわ」

男「そ、そりゃ、照れるね」


47 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 23:22:46 8nLJ.SZA
女「私と普通にお話してくれるし」

男「んー、そうかな」

女「ごめんね、絵を描く時間を邪魔してるかしら」

男「いや、君と話してるの、面白いから、全然いいよ」

女「やっぱり、優しい」

男「はは、君もね」


48 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 23:29:58 8nLJ.SZA
女「ね、他の色も教えて?」

男「あ、うん、だけどさ、そろそろ暗くなってきたし、早く帰った方がいいんじゃないかな」

女「え、もう遅い?」

男「今6時」

女「あ、そろそろ帰らなくちゃ」

男「一人で帰れる?」

女「ええ、お気づかいありがとう」

男「じゃあ、また明日」

女「ええ、さよなら、ごきげんよう」スッ

カツン、カツン、カツン

ガラッ

男「……『ごきげんよう』なんて、日常会話で初めて聞いたな」


49 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 23:37:19 8nLJ.SZA
また明日ですぅ


50 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 23:51:46 /x4FyzGo
おつ


51 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/08(火) 23:54:57 RxGwmO9o
おつ


52 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 22:41:44 9r5xUbMU
―――
――――――
―――――――――

男「や、今日もきたね」

女「お邪魔するわ」

男「今日は雨だね」

女「そう、雨は嫌い」

男「濡れるから?」

女「ええ、それに、じめじめするから」

男「そうだね、日本の雨は特に湿気が多いから」


53 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 22:45:52 9r5xUbMU
女「外国に行ったことがあるの?」

男「ないよ」

女「じゃあ、どうして日本は湿気が多いだなんてわかるの?」

男「ん、みんな知ってるから、かな」

女「ふうん?」

男「行ったことなくてもね、テレビで言ってるし、みんな知ってるんだ」

女「そうなの」


54 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 22:51:28 9r5xUbMU
女「ねえ、話は変わるけど、顔を触ってもいい?」

男「えっ?」

女「顔」

男「え、えっと、触るって……」

女「あなたのカタチを覚えたいの」

男「で、でも……その……」

女「ね、私たち、友だちでしょう?」

男「……うう」


55 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 22:56:28 9r5xUbMU
女「ふうん、お肌、綺麗ね」スリスリ

男「う、うん……」

女「髪の毛も、さらさら」スリスリ

男「……」

女「あ、メガネをしているのね」

男「う、うん」

女「ねえ、目の前に物があるのに、どうして見えるの?」

男「え?」

女「これがあったら邪魔でものが見えないんじゃないの?」

男「あ、えっと、メガネは透明だから……」


56 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 23:02:26 9r5xUbMU
女「透明って、私よくわからないの」

男「色がないんだよ」

女「色がないと、向こう側が見えるの?」

男「う、うん」

女「透明って、どんな色?」

男「あ、だから色はないんだよ」

女「ない色かあ……」

男「……」


57 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 23:10:09 9r5xUbMU
女「ん、まつ毛も長いし、鼻もきりっとしてるわね」スリスリ

男「……」

女「どうしたの? 黙っちゃって」スリスリ

男「は、恥ずかしいよ」

女「私の顔も、触っていいわよ」スリスリ

男「え……」

女「じゃあ、はい、あなたの番」スッ

男「え……」


58 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 23:20:37 9r5xUbMU
男「……」スリスリ

女「どう?」

男「ど、どうって……」スリスリ

女「私、きれい?」

男「え、えっと……」スリスリ

男「ほっぺた、すごく気持ちいい」スリスリ

女「気持ちいい? どういう感触なの?」

男「や、柔らかくて、弾力があって」スリスリ

女「ふんふん」

男「ぷにぷに」プニプニ


59 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 23:27:51 9r5xUbMU
女「褒めてもらってるのかな?」

男「う、うん」

女「あれ、もういいの?」

男「う、うん、ありがと」スッ

女「どうしてお礼言うの?」

男「な、なんとなくだよ、なんとなく」

女「ふうん?」


60 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 23:30:22 9r5xUbMU
今日はこれだけです
おやすみなさい


61 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 23:31:01 3zIfKG2o
なんかすごい好き


62 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 23:35:25 P1yULGSs
イイヨイイヨー



63 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/10(木) 23:00:43 KNDfFJTw
女「ね、また色のこと、教えて?」

男「あ、うん」

女「喜びを表現する色って、なにかある?」

男「喜びかあ……」

女「うん」

男「喜びの色は、えっと、橙色」

女「橙?」

男「うん、オレンジ」

女「みかん?」


64 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/10(木) 23:05:57 KNDfFJTw
男「あ、うん、みかんの色でもいいかな」

女「美味しいよね、みかん」

男「あ、うん」

女「みかんが好きなの?」

男「ん、どうかな、好きかな、割と」

女「割と?」

男「橙色は、明るいし華やかだし、喜びに近いかなって」


65 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/10(木) 23:11:06 KNDfFJTw
女「じゃあ、希望の色は?」

男「希望の色は……」

男「希望の色は空色」

女「空色?」

男「うん、空の色」

女「空の色が希望の色なの?」

男「僕なりに、だけどね」


66 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/10(木) 23:16:41 KNDfFJTw
女「空って、青?」

男「うん、青でも、まあいいかもね」

女「青色と空色は、違うの?」

男「違うよ」

女「どう違うの?」

男「青ってさ、ブルーって言うじゃん」

女「英語ね」

男「ブルーな気分、とか言うじゃん」

女「言うわね」


67 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/10(木) 23:21:51 KNDfFJTw
男「あれさ、昔の労働者がさ、晴れたらきつい仕事をしなくちゃならないから」

男「だから青い空を見上げて、『今日も仕事か、ブルーだな』って言ったのが語源らしいよ」

女「物知りね」

男「ま、ほんとかどうか、知らないけどね」

女「じゃあ、全然希望の色じゃないじゃない」

男「うん、だから、僕なりには希望の色って感じ」

女「労働者さんからしたら、絶望の色?」

男「そうかもね」


68 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/10(木) 23:29:24 KNDfFJTw
男「でも、青春って言うし」

女「青春は、青いの?」

男「青い春って書くんだよ」

女「恋をすることを『春が来た』って言うのと似ている?」

男「そう、そうだね、似てるね」

女「じゃあやっぱり、青も希望の色かもしれないわね」

男「そうだね」


69 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/10(木) 23:34:26 KNDfFJTw
男「それからね、青い空は夕方になると橙色に染まるんだよ」

女「みかん?」

男「そ、みかん色」

女「喜びの色ね」

男「夜が来るのが喜びなのか、一日が無事に終わったのが喜びなのか……」

女「いいわね、希望の色が喜びの色に染まるの、見てみたいな」

男「あ……」

女「ん?」

男「いや、なんでも」


70 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/10(木) 23:42:06 KNDfFJTw
……

女「さて、今日はもう帰るわ」

男「あ、うん」

女「ごきげんよう、明日もお邪魔します」スッ

男「あ、うん、さよなら」

カツン、カツン、カツン

ガラッ

男「明日は金曜日か……」


71 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/10(木) 23:44:42 KNDfFJTw
今日はここまでです
おやすみなさい


72 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/11(金) 08:41:24 8YY/Wa0k
いいよ
とても好き


73 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 20:53:21 8bKyUO1.
―――
――――――
―――――――――

ガラッ

スタスタスタ

男「……わ」

女「お邪魔しまーす」

男「今、すごく歩くの速くなかった?」

女「ええ、もうこの部屋の構造は覚えたもの」

男「え、でもキャンバスとか机とかあって危ないよ?」

女「杖に当たれば止まるから、大丈夫よ」

男「そうかなあ……」


74 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 20:59:10 8bKyUO1.
女「ね、釣りってしたことある?」

男「つ、釣り? いや、ないけど……」

女「そうなの……」

女「今日ね、クラスの子たちが釣りの話をしててね」

女「餌にゴカイを使ったとかなんとか言ってたわ」

男「ゴカイ?」


75 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 21:12:02 8bKyUO1.
女「ほら、あの、勘違いするっていう意味の……」

男「誤解?」

女「そう、それとどう違うの?」

男「えっと、誤解は間違って理解する、見たいな漢字があって……」

女「ふんふん」

男「餌のゴカイは、多分カタカナ……」

女「でも発音は一緒だったわよ」

男「確かに聞き分けにくい言葉かも、ね」


76 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 21:18:05 8bKyUO1.
女「目が見える人は漢字とひらがなとカタカナとを使い分けるのよね」

男「うん」

女「それってものすごく大変じゃないかしら?」

男「んん、確かにそんな国は他にあまりないらしいね」

女「日本人って、天才なのかしら」

男「どうかな、普通だと思うけど」


77 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 21:27:06 8bKyUO1.
女「あ、そうそう、私が今入院している病院の部屋も、五階なのよ」

男「え?」

女「エレベーターが言ってたわ、『五階です』って」

男「入院してるの?」

女「ええ、そうよ」

女「だから学校から病院へ帰るの」

男「……目が悪いから?」

女「そう、目が悪いから」


78 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 21:39:45 8bKyUO1.
女「五番目の階、って意味よね」

女「でも同じ言い方よね、なんでだろうね」

男「入院って……普段は盲学校なんじゃ」

女「ええ、今度手術するんだって」

男「今度って!?」

女「来週、だったかな」

男「目の?」

女「目の」

男「どうして?」

女「目が見えるようにするため、だって」


79 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 21:48:52 8bKyUO1.
男「目が……見えるようになりたいの?」

女「そりゃあ、できないことはできるようになりたい」

女「違う?」

男「いや……そうかもしれないけど……」

女「18歳にならないと、手術ができないらしいの」

女「私、この間、18歳になったのよ」

男「あ、お、おめでとう」

女「ありがとう♪」


80 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 22:53:59 8bKyUO1.
男「18歳にならないと、ダメって?」

女「身体が耐えられないかも、っていうこと」

男「……」

女「18歳なら、大人よね、大丈夫よね」

男「……失敗するかも……しれないの?」

女「10人に1人、失敗するかも、だって」

男「……そう……」


81 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 23:01:28 8bKyUO1.
女「失敗したらね……」

男「やめて、聞きたくない」

女「そう?」

男「大丈夫だよ、きっと成功するから」

女「そうだといいけれどね」

男「頑張って」

女「頑張るのは、お医者さんよ」

男「……」


82 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 23:07:48 8bKyUO1.
男「不安なんだ?」

女「……」

男「わかるよ」

女「……」

男「ね、明日はなにしてるの?」

女「……病院で、最後の検査、かな」

男「お見舞いに行ってもいいかな?」

女「……いいと思う」


83 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 23:12:28 8bKyUO1.
男「学校は、今日でおしまい?」

女「うん、みんなにお別れを言ってきたわ」

男「高校、どうだった?」

女「楽しかった」

女「なんて、ありきたりな表現しかできなかったけれど」

男「みんなの顔も、触ったの?」

女「いいえ、あなたのだけよ」

男「……そっか」


84 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 23:20:47 8bKyUO1.
女「やっぱりみんな、気を遣ってたのだと思うわ」

女「普通に目が見える人からしたら、私は邪魔かもしれないわね」

男「そんなこと、ないと、思うけど……」

女「あなたは最初っから、普通に接してくれた」

男「そうかな」

女「やっぱり、優しい人」

男「……」

女「そういうところ、すごく好きよ」


85 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 23:27:20 8bKyUO1.
女「一週間、ありがとう」

女「この部屋でのおしゃべり、すっごく楽しかったわ」

男「そんな、お礼なんて」

女「中央総合病院の505号室にいるの」

女「よかったら会いに来てね」

男「あ、うん、行くよ、明日行く!」

女「じゃあ、さようなら、ごきげんよう」スッ

カツン、カツン、カツン

ガラッ

男「手術……か……」


86 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 23:33:39 8bKyUO1.
今日はここまでです
ではまた


87 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/12(土) 23:45:43 U9s.pF4A
おつおつ
続きが気になる


88 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 12:20:50 0ZbXgwuQ
いいね
ミステリアスな女性を書くのが上手いな


89 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 15:26:19 YMNqc3YY
ミステリアスか?


90 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 21:42:53 wJq90dVU
若干不思議ちゃんな感じはありますね
ミステリアスかどうかはさておき

投下始めます


91 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 21:46:26 wJq90dVU
―――
――――――
―――――――――

ガラッ

スタスタスタ

男「……や」

女「うふふ、来るころだと、思ってた」

男「これ、お見舞いに」トン

女「なあに?」

男「えっと、果物、いろいろ」

女「みかんはある?」

男「うん、あるよ」


92 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 21:54:17 wJq90dVU
男「みかん好きなの?」

女「うん、ていうかね、目が治ったら、空を見たいから」

男「どういうこと?」

女「空色が、みかん色に変わるところ、見たいから」

男「……」

女「だからね、みかんは治ってから食べるわ」

男「……早く治るといいね」

女「うん」


93 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 22:02:44 wJq90dVU
男「きょ、今日はなんの話をしようか」

女「また、色を教えてほしいわ」

男「色か……」

女「雲は白いのよね。潔癖の色、汚れが目立つ色」

男「あ、うん」

女「空は希望の色、それからみかんの色、喜びの色」

男「うんうん」

女「じゃあ、えっと、赤ってどんな色?」


94 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 22:13:56 wJq90dVU
男「赤は……情熱の色」

男「って、ありきたりな表現すぎるね。でも、熱い感じかな」

女「熱い色なのね」

男「決断の色」

女「はっきりしてるのね」

男「闘争心の色」

女「鼻息が荒い感じね」

男「信号でいうと、止まれの合図」

女「ふうん」


95 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 22:21:45 wJq90dVU
女「信号の渡れはなんだったかしら?」

男「青、かな」

女「ふうん」

男「緑?」

女「どっちなの?」

男「ううん、わかんないな、どっちでも正解」

女「見える人にもわからない色って、あるのね」

男「そうそう、はっきりしない色」


96 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 22:30:25 wJq90dVU
男「君はどうやって信号を渡るの?」

女「音でわかるわ」

男「音のしない信号は?」

女「誰かが近くにいれば、気配でわかるもの」

男「そういうものかあ」

女「そういうものよ」

男「夜は? 人も少ないし、音もしないし」

女「夜は出歩かないの」

男「なるほど」


97 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 22:38:10 wJq90dVU
男「あ、あと、赤は血の色だね」

女「私、血って嫌い」

女「変に温かいし、粘性があるし、においも嫌い」

男「出ると痛いしね」

女「そうそう」

男「僕、血を見ると貧血気味になるよ」

女「それは見たくないわねえ」


98 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 22:46:10 wJq90dVU
女「じゃあ、紫色は?」

男「うーん、毒々しい色」

女「紫のものを食べたら毒で死ぬの?」

男「鬱憤の色」

女「怒ってるの?」

男「気分が悪いときの色」

女「じゃあ『顔色が悪いとき』って、肌色じゃなくて紫色なの?」


99 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 23:01:06 wJq90dVU
男「でも、紫、好きだよ」

女「そうなの? 毒の色なのに?」

男「なんかね、シャープな印象」

女「シャープ、ね」

女「よくわからないわ」

男「紫に白を混ぜた色なんか、すごく好きだな」

男「自然にはあまりないけど、無理にでも使いたい、そんな色」


100 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 23:09:51 wJq90dVU
男「それにね、夕方になって、空がみかん色になったあと、紫にもなるんだよ」

女「そうなの!?」

男「それがね、すっごく綺麗でね」

女「じゃあ、紫も見てみたいなあ」

男「ナスの色」

女「ナスね、知ってる」

男「今日は持ってきてないけどね」

女「野菜だもんね」


101 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 23:17:23 wJq90dVU
女「ね、銀色のものって、多いのでしょう?」

男「多いね」

女「スプーンでしょ、フォークでしょ、ネックレスでしょ」

男「うんうん」

女「一円玉も、パチンコ玉も」

男「パチンコやったことあるの!?」

女「玉を持ったことがあるだけよう」

男「あ、そ、そうだよね、びっくりした」

女「ライターも、時計も、手すりも銀色」

男「時計はものによるんじゃないかなあ……」

女「パパの時計は銀色って、パパが言ってたわ」


102 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 23:22:58 wJq90dVU
女「銀色って、どんな色?」

男「うーん、渋い色」

女「渋い? おじさんね?」

男「いぶし銀、とか言うしね」

女「なにそれ?」

男「ううん、わかんない」

女「わかんないのに言うの?」

男「たいていそんなもんだよ」


103 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 23:28:51 wJq90dVU
男「シルバーシートって、知ってる?」

女「電車のやつね?」

男「そうそう、優先席」

女「私も、座ったことあるわ」

男「なんでシルバーっていうんだろね?」

女「おじいさんは銀色と関係が?」

男「ないな」

女「ないのか」


104 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 23:34:42 wJq90dVU
女「金色は少ないよね」

男「うーん、そうかな」

女「レアよね」

男「まあ、金持ちっぽい感じだから……」

女「厭味な色?」

男「なにそれ」

女「金持ち、イコール、イヤミ」

男「それ偏見」


105 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 23:47:33 wJq90dVU
女「あと、どんな色があったかしら?」

男「緑の話はしたかな」

女「……んん?」

男「緑はね、自然の色、神様が作った色」

女「壮大ねえ」

男「緑が多い、とか、緑が減った、とか言うでしょう?」

女「うんうん」

男「人間が壊してしまったのも、緑」

女「……大事にしなくちゃ、ね」

男「うん」


106 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/13(日) 23:49:23 wJq90dVU
今日はここまでです
明日完結です
では、おやすみなされ


107 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 11:29:58 TK2kqXgI
こういうの好き

乙でした


108 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 12:23:29 JazqRjtI
……

男「手術、怖い?」

女「ん……平気」

男「きっと、大丈夫だよ」

女「うん」

男「……」

女「ね、なんで目が見えないと、全盲っていうんだろうね」

男「……」

女「全盲の全って、全部って意味でしょう?」

男「……」

女「全部ダメってことでしょう?」

男「……」


109 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 12:28:11 JazqRjtI
女「お話もできるし、ご飯も食べられるし、歩けるし、ね」

男「……」

女「なんでもできるつもりなんだけどなあ」

男「……」

女「目が見えるようになれば、普通の人になれるのかな?」

男「……」

女「あ、ごめん、重たいね?」

男「あ、えっと」

男「僕、目が見えても見えなくても、君のこと好きだよ」

女「……えっ」


110 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 12:39:50 JazqRjtI
男「……好きだよ」

女「友だちの好き?」

男「……違う」

女「……」

女「ありがとう」

女「私たち、気があうねっ」

男「……ふふっ」


111 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 12:44:11 JazqRjtI
男「……」

男「……祈ってるから、僕」

男「絶対成功して、目が見えるようになるって信じてるから」

女「うん」

女「……ありがとう」


112 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 14:59:54 L29MATsA
一度盲の意味調べてみ


113 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 21:35:04 JazqRjtI
―――
――――――
―――――――――

男「あ……」

「あら?」

「君は?」

男「あ、えっと、僕……」

「ああ、そうか、最近できた友達っていうのは、君のことかな」

男「え……」

「どうも、あの子の父です」

「あ……母です……」

男「ど、どうも、はじめまして」


114 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 21:41:26 JazqRjtI
「最近毎日のように君の話をしていてね」

「よっぽど嬉しかったんだろうなあ、友だちができたことを」

男「……」

「きっと、君の顔を見たがっているよ」

「中に入って、あの子と話してやってくれないか」

男「は、はい」

「私たち、ちょっと売店の方へ行っていますので」

男「はあ……」


115 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 21:49:24 JazqRjtI
男「ん、んんっ」ドキドキ

コンコン

男「し、失礼します」

ガララ……

女「……」

男「あ、えっと、その」

女「だあれ?」

男「え?」

女「お客様?」

男「あ……え……?」


116 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 21:58:48 JazqRjtI
男「……」

女「……ぷぷっ」

女「あっはっは!! うそうそ!!」

男「え?」

女「声でわかるよ」

男「……っ」

女「うふふふふ、ごめんね、冗談言ってみただけ」

男「ははは、心臓に悪いよ」

女「うん、ごめんごめん」


117 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 22:06:49 JazqRjtI
男「え、えっと」

女「うん」

男「……はは、なんか不思議だね、目線が合うの」

女「……そう?」

男「うん、いつも、僕とは目が合わなかったから」

女「だって、見えてなかったもの」

男「うん」

男「見えて、どう?」

女「面白いよ、いろいろ」


118 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 22:11:48 JazqRjtI
女「あなたの顔、思ってた通りの形してる」

男「形?」

女「そう、形」

男「色は?」

女「肌色、黒は、もう覚えたわ」

男「黒は……」

女「地味な色、汚れが目立たない色」

男「そうそう」

女「白も、この部屋には多いわね」

男「病院には白が多いんだよ」

男「白衣とかも、そうだね」


119 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 22:18:17 JazqRjtI
女「ゆっくりリハビリだって」

女「いっぺんに色んなものを見ると疲れるらしいから、ときどき目隠しってのをするんだって」

男「へえ」

女「たまーに気持ち悪くなるの、そのせいかしらね」

男「気持ち悪くなるの?」

女「そう、なんだかゆら〜って、ぐら〜って」

男「酔うの?」

女「私、酔ったことないから、わかんない」


120 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 22:18:40 v5GOIss.
こういうのいいね
大好きだ


121 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 22:24:53 JazqRjtI
女「あなたの眼鏡、面白いわね」

男「そう?」

女「目の前に物があるのに、見えるって意味、よくわかったわ」

男「ああ、そうそう、これが透明ってことね」

女「私のまわり、誰も眼鏡をかけている人がいなかったから、今日初めて見たわ」

男「そう」

女「……」

男「……」


122 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 22:30:16 JazqRjtI
男「め、目が疲れるなら、僕もう帰った方がいいかな」

女「どうして?」

男「どうしてって」

女「ね、私が今日一番したいこと、あなたが来るまで我慢してたのよ?」

女「わかる?」

男「え……」

女「お医者様にもお願いして、我慢してたんだから」

男「……」

女「ほら、今は夕方でしょう?」


123 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 22:37:28 JazqRjtI
男「あ……」

女「わかった?」

男「うん」

女「あなたと一緒に見るの、楽しみにしてたんだから」

女「今日一緒に見に来てくれるって、ずっと待ってたんだから」

男「ごめんごめん、間にあってよかったよ」

女「うふふ」

男「じゃあ……」

女「うん、カーテン、開けて?」


★おしまい★


124 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 22:40:01 JazqRjtI
    ∧__∧
    ( ・ω・)   ありがとうございました
    ハ∨/^ヽ   またどこかで
   ノ::[三ノ :.、   http://hamham278.blog76.fc2.com/
   i)、_;|*く;  ノ
     |!: ::.".T~
     ハ、___|
"""~""""""~"""~"""~"


125 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 23:08:24 4lthXMh2
おちゅ


126 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 23:11:46 Nwm/.Uug
乙です
ありがとう。楽しかった


127 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 23:13:25 JZseijTk
おっつー
面白かったよ


128 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 23:14:07 ZLnY63lI
おつおつ!
爽やかな気持ちになりました


129 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/14(月) 23:37:06 R5VBur3E
引き込まれるのはいつもアンタの文だ。


130 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/15(火) 00:46:50 QbRByuVI

今回も良い話しをありがとう


131 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/18(金) 23:15:54 OvZ4zffQ
おつ


"
"

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