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( ^ω^)マインドB!のようです
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私が ひとりぼっちにならないように
「羽生、どうした!?落ち着け!こ、こら……それを離すんだ!!」
「弟者!?……あんた、弟者……だよね?」
「ツン!どうした、しっかりしなさい!」
「ショボン……?ショボンなの……?」
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神様は 私に
「しぃ、しぃって、さっきから誰の事言ってんだ!あたしはそんな名前じゃねぇっ!!」
「え、大丈夫だよ?俺は……」
「ツンじゃないもん。忘れちゃったの?あたしはね……」
「初めまして、ショボンのお母さん。僕は」
-
もうひとりの
”私” をくれました。
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( ^ω^)マインドB!のようです
-
(;^ω^)「遅刻だおー!」
3階へと続く階段をドスドスと踏み鳴らし
少々肉付きの良い若い男が、汗を飛ばしながら悲痛な声で叫んだ。
ここは、ニューソク町にある一般的な私立校・VIP高等学校。
5時限目の授業が始まる数分前。
(;^ω^)「着地だっとうっ!」
最後の一段を短い足で一気に駆け上がる。
重々しい衝撃音とともに、廊下が震えた。
(;^ω^)「3階ッ!到着ッ!!」
ようやく階段を登りきり、何故かビシッとポーズを決める。
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だが、床を破壊しそうな勢いでその巨体を目的の階に着地させても
彼の授業開始時刻との闘いは終わらない。
(;^ω^)「うおおぉおぉぉおぉ!!廊下が長ぇおおぉぉぉ!!!」
彼の目指す教室は、3階の奥の奥。
3年生の教室が並んだ廊下を、端まで一直線し
さらにそこから角度を変え右に曲がった先の、とことん進んだ突き当たりにあるのだ。
「先生がんばー」
「ちょwww地響きwwwww」
教室の窓から覗く3年生達が、愉快そうに声をかける。
だがそんな声に応える余裕は、今の彼には全く無い。
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(;^ω^)「ひぃ、ふぅ」
よく見ると、その小脇に抱えられている黒くて厚いカバーのファイルには
表紙に貼られたシールの上にでかでかと『出席簿』と書かれていて。
どこにでも売っているような地味なネクタイに、肘まで捲った安物のYシャツ。
右手から下げた紙袋に入っているのはどうも、数学や英語などといった教材に見える。
そういった持ち物や、先ほどの生徒のセリフからも察する事が出来るように。
この男、内藤ブーン30歳。
まるで学生のように授業開始時刻ギリギリの廊下を全力疾走しているが、
職業は学生ではなく、このVIP高等学校に所属する教師の1人なのだ。
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キーン コーン カーン コーン
(;゚ω゚)「鳴ったあああああ!!!」
まるで死の宣告とばかりに、屠殺される豚のような絶叫を喉から絞り出す。
と同時、ようやく辿り着いた目当ての教室に飛び込むブーン。
騒々しく開け放たれた扉の上に、申し訳程度に備えられた板には
無機質な文字で『特別教室』と書かれていた。
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ぜぇぜぇと肩で息をしつつ、教壇の上の時計に目をやると
丁度針は昼休み終了、つまり5時限目開始の時刻ぴったりを指している。
(;^ω^)「……」
⊂(;^ω^)⊃ セフセフ!!
ミ⊃⊂彡
ξ゚⊿゚)ξ「アウトです」
そんなブーンの束の間の安堵をばっさりと切り捨てたのは、金髪ロールの女子生徒。
ξ゚⊿゚)ξ「鐘もう終わったから」
彼女の名前は、津田ツン。
名前のとおりツンとした性格が伺える声で、若干不機嫌そうにブーンを睨んだ。
(;^ω^)「そんなあぁ!先生めっちゃしんどい思いしてここまで来たんだお!?」
ξ゚⊿゚)ξ「遅刻は遅刻ですよ」
情けない教師の言い分をふん、と一蹴して、そっぽを向くツン。
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見ると、教室にはツンが座っている机の他に、席が3つしか無かった。
ツンの左隣の席には、可愛く整ったショートヘアの、大人しそうな女子生徒。
(*゚ー゚)「先生、汗すごいですよ。大丈夫ですか?」
そのまた隣には、やけに逞しい眉が特徴的な
いかにもスポーツ好きといった雰囲気を纏う男子生徒が、背筋をピンと伸ばして座っている。
(`・ω・´)「教室が遠いんだから、その分早く来れるよう準備しないと」
(;^ω^)「ぐぬぬ」
ただ一つだけ、窓側に最も近い一番左端の席には誰も座っていなかった。
その空席に素早く目を光らせると、指を差してなおも喚く豚が一匹。
(;^ω^)「あーっ、弟者も遅刻じゃないかお!
いーけないんだいけないんだー!せーんせに言ってやろっ!」
ξ#゚⊿゚)ξ「先生はあんたでしょッ!!」
( ´ω`)「ごもっともですお……」
まるで30歳とは思えない振る舞いのブーンを叱咤するツン。
これではどちらが教師で生徒なんだか分かったもんじゃない。
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そんないつものやりとりを困ったように見守りながら、
大人しそうな女子生徒・羽生しぃは、隣の席に座る八又シャキンに囁いた。
(*゚ー゚)「それにしても、珍しいですね。流石先輩が授業に遅れるなんて」
(`・ω・´)「ほんとだな。彼が時間を守らないなんて滅多に無いことなのに」
ξ゚⊿゚)ξ「そういえば食堂にも来てなかったわね。
ひょっとして弟者、今日休んでるんじゃないの?」
( ^ω^)「そんな報告は聞いてないお。間違いなく朝から来てるはずだお」
真面目な性格の彼にしては珍しい。
何かあったのかと皆の頭を不安がよぎる。
(*゚ー゚)「もしかして、何かあったんじゃ……」
ξ゚⊿゚)ξ「考えすぎよ。ちょっと遅れる事くらい誰だってあるわ」
だが、いくら少人数の教室といえど、1人の生徒が来ないのを理由に
授業を遅らせるわけにはいかない。
( ^ω^)「……まあいいお!きっとそのうち来るお」
教卓の前についたブーンは、持ってきた紙袋を置いて出席簿を取り出した。
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( ^ω^)「まずは出席確認だお」
一般的に授業開始時には、「起立・礼・着席」から入るのが普通だと思うが
そんな事はおかまい無しに、パラパラと出席簿をめくり今日の日付のページを開く。
出席確認といっても、この教室にいる生徒は
この場にいない流石弟者を除いて、たったの3人のみだ。
確認するまでも無いだろうに……と思うが、
この出席確認はこの教室で授業を始めるにあたり、決して欠かせない事なのである。
( ^ω^)「みんな、準備はいいかお?」
(*゚ー゚)「はい。……大丈夫です」
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ」
(`・ω・´)「僕はいつでも」
( ^ω^)「よし、それじゃあいくお」
ブーンが大きな声で名簿を読み上げた。
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( ^ω^)「出席番号1・羽生つー!」
だが、最初に呼ばれたのは、この教室にいる3人のうち
誰の物でもない名前。
しかし確かに、ブーンの手元にある名簿表には
出席番号1番・羽生つーの名前がしっかりと記入されている。
( ^ω^)「つー?いないのかお?ほらほら、大きな声で返事だお!」
ブーンが促すも、誰からも返事は無い。
当然だろう。ここにつーという名の生徒はいないのだから。
だが、その僅かな沈黙は高調子な声で破られた。
-
「わかってんだよっ!つーちゃんはここにいるぜっ!」
ツンとシャキンの席の間、しぃが座っている席から
甲高く威勢のいい声があがった。
(*゚∀゚)「あひゃひゃひゃ!おはよー先生!!」
そこで元気よく手を振っているのは
先ほどまでの大人しそうな印象とは打って変わって、軽快に笑う羽生しぃ。
その態度も雰囲気も、先ほどまでとはまるで別人のようだ。
( ^ω^)「こんにちはだお、つー。ちなみに今は昼過ぎだお」
(*゚∀゚)「こまけぇことはいいんだよっ!あひゃ!」
そんなしぃの豹変ぶりに驚く者は誰も居なく
「羽生つー」と名前の書かれた出席欄に丸をつけ、出席確認は続いていく。
( ^ω^)「んで流石……は、いないから後回しっと」
( ^ω^)「次!出席番号3・津田デレ!」
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「はーい!」
またしても、先ほどまでは教室にいなかった筈の
活発な少女を思わせる声が明るく応えた。
ζ(゚ー゚*ζ「先生、こんにちはっ!」
笑顔で挨拶をしたのは、ついさっきまで
ブーンに厳しい叱責を浴びせていた女子生徒、津田ツンだ。
だがその表情は明るく柔和な笑みで満たされていて
少しトーンの高くなった声は、まだ幼く純粋な、あどけない少女を思わせた。
( ^ω^)「こんにちはだお。デレ、今日も元気そうだおね」
ζ(^ー^*ζ「えへへ。デレはいつでも元気いっぱいだよ!」
( ^ω^)「おっおっ。そりゃいい事だお」
まるで父と娘のような和やかな会話。
春の午後を思わせる、朗らかな空気が教室に流れる。
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( ^ω^)「んで、最後に出席番号4・八又シャキン」
(`・ω・´)「はい!」
唯一先ほどと変わらぬ調子で、威勢良く応えたのはシャキンだ。
シャキンは返事をしたあと、少しだけ困ったような顔をしてブーンに謝る。
(`・ω・´)「すいません先生。
ショボンのやつ、午前の授業もどうしても受けたくないって言って」
( ^ω^)「ん、分かったお。今度ゆっくり話しあうお」
(`・ω・´)「迷惑かけてすいません」
( ^ω^)「謝ることないお」
-
最後の丸印をつけ終え、ポン、と出席簿を閉じて生徒達へと向きなおる。
全員の顔を見ながら、今日もみんな元気そうだ、とブーンは微笑んだ。
( ^ω^)「さて、以上で出席確認終わり。
シャキン、号令お願いおー」
(`・ω・´)「はい先生。起立!」
シャキンのかけ声に、他の2人も立ち上がる。
(`・ω・´)「礼!」
ζ(゚ー゚*ζ(*゚∀゚) (`・ω・´)『先生、こんにちは!!』
( ^ω^)「こんにちはー!だお!」
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VIP高等学校、第一校舎3階の奥の奥。
3年生の教室が並ぶ廊下を突き進み、離れた場所にひっそり位置するこの教室で
たった4人の生徒を持つ、このクラスはVIP高等学校特別クラス。
通称“マインドBクラス”である。
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マインドBとは
何らかのはずみで、1人の人間の中に
もう1つの自我を持った精神が生まれ、本来存在していた精神と、新たに生まれた別の精神が
それぞれ独自の人間として1つの体の中に共存するという、非常に珍しい症状の名称である。
一般に、最初に親の体から生まれ、名前を付けられた存在は基本人格と呼ばれ、
その中で後に生まれた人格の総称がマインドBと呼ばれている。
発症するケースが非常に少ないので、
原因を含め、現在でも解明されていない点が多く
またその治療法についても、今に至るまで
心理学者や医学界の間で日々研究されている最中だ。
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そしてこのクラスは、VIP高等学校に通う1年生から3年生までの生徒のうち
マインドB発症者の生徒だけを集め、特別な授業を行う目的で設立された異色のクラス。
通常は、それぞれのクラスで一般の生徒として普通に授業を受け、
その一方で、1日の2、3時間、決められた時間割に沿ってこの教室に集まり
特別授業を受けることになっている。
基本的に、日常の生活においては基本人格が活動し、その間眠っている状態のマインドB達は
この教室にて、担任教師であるブーンに名前を呼ばれることで表面に現れ、
そこで初めて“出席”したこととなる。
それが先ほどの出席確認で起こった、生徒達の豹変理由であり
この教室では毎回繰り返される、ごく平凡な光景なのだ。
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ここではマインドBも立派な一人の個人として扱われている。
このクラスの存在目的は症状の治癒では無く
基本人格とマインドBが共に円滑な生活を送れるよう手助けする事だ。
学習面・生活面等での問題を、2つの人格の橋渡し役となって解決しながら
2人の個人として、社会で生きていける力を身につける。
それがクラス担任であるブーンと、生徒達みんなが背負っている課題なのだ。
マインドB発症者に対してこのような方針を取っている学校はほとんど無く、
現在この教室の生徒である4人も、この特別クラスがあるからこそ入学した者が多い。
そして、クラス担任のブーンは
教員免許の他にマインドBに関する専門治療の資格を持ち
このVIP高等学校に配属されている、教師兼カウンセラーなのである。
-
ζ(゚ー゚*ζ「……あれ?」
気持ちの良い挨拶が終わり、席に着くと
きょろきょろと教室内を見回して、デレが首を傾げた。
(*゚∀゚)「あひゃ?兄者がいないじゃん」
つーも同様に違和感に気づき、デレと並んで疑問符を浮かべる。
( ^ω^)「あ、そうなんだお。珍しく遅刻らしいお」
思い出したようにブーンが応えると、デレは顔を曇らせた。
ζ(゚ペ*ζ「えぇ〜。なんだぁ、つまんないの。
今日は妹者ちゃんの学校がお昼までって言ってたから、
遊びにいってもいいか聞こうと思ったのに」
( ^ω^)「へぇー。そうなのかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん!運動会の練習だけなんだって」
( ^ω^)「運動会かぁ。もうそんな季節かお」
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(`・ω・´)「でもデレ、僕らの授業が終わるのはいつもどおりの時間だから
妹者ちゃんと遊びに帰ることはできないよ」
ζ(゚ー゚;ζ「わ、わかってるもん。
デレ、ちゃんとお勉強おわってから遊ぶもん!」
( ^ω^)「おっおっ、偉いおね。
間違っても途中で帰ったりしちゃ駄目だおよ?」
ζ(゚ー゚*ζ「デレそんなことしないよ!」
(*゚∀゚)「あひゃ、兄者じゃあるまいしな!」
つーの言葉に、ブーンとシャキンは
今日はまだ出席していない、糸目の男子生徒の姿を思い浮かべて笑った。
-
( ^ω^)「ほんとだおねwww」
(`・ω・´)「はは、確かにあいつならやりかねないな!」
( ^ω^)「おっおっおっwwwwww」
(*゚∀゚)「あひゃひゃひゃひゃー」
(`・ω・´)「はっはっh……」
( ^ω^)
(`・ω・´)
( ^ω^)(`・ω・´)「「……」」
( ^ω^)(`・ω・´;)「「ま さ か ……」」
ζ(゚ー゚*ζ「?」
(*゚∀゚)「あひゃー」
-
( ^ω^)「ほんとだおねwww」
(`・ω・´)「はは、確かにあいつならやりかねないな!」
( ^ω^)「おっおっおっwwwwww」
(*゚∀゚)「あひゃひゃひゃひゃー」
(`・ω・´)「はっはっh……」
( ^ω^)
(`・ω・´)
( ^ω^)(`・ω・´)「「……」」
(;^ω^)(`・ω・´;)「「ま さ か ……」」
ζ(゚ー゚*ζ「?」
(*゚∀゚)「あひゃー」
-
+ + + + + + + + + + + +
開放感と湧き上がる興奮に浮き足立ちながら
学校から歩いて30分弱の道のりを越え
俺は「流石」と書かれた表札の前で立ち止まり、我が家を見上げた。
この石垣をくぐり、ドアノブに手をかけるのは結構久しぶりな気がする。
毎日暮らしてる自分の家なのに、なんだか変な感じだ。
ドアノブに手をかける。
用心深い母者のこと、もちろん鍵はかかっているだろうが問題はない。
予想通りロックされている事を確認すると、
カバンから合鍵を出してドアに差し込み、手応えを感じるまで回す。
カチャリ
-
ロックの外れたノブを回して、そぅっとドアを開いた。
それから素早く視線を下に落として玄関先の靴を確認。
子供用の、かわいらしい赤色の靴がきちんと揃えて置いてある。
そして母者がいつも履いてるオバサン靴は見当たらない。
今の時間、母者は近所のタイムセールに行っていて家には居ない筈。
冷蔵庫に貼ってあったチラシは昨日のうちに確認済みだ。
だからこそ今日は、密かに練っていた計画を実行するにあたって絶好の好機だったのである。
今のところ順調に進んでいる計画に、思わず口の端が上がってしまう。
ニヤリ、計画通り。
-
体の半分をドアに挟まれた状態のまま、玄関先で不敵にほくそ笑んでいると
奥の方から何か小さい生き物がこちらへ向かって走ってくる、軽やかな足音が聞こえてきた。
|・∀・ノ!リ人「!」
そしてその小さくて可愛い生き物が、曲がり角からひょこっと顔を覗かせる。
すぐに、くりくりとした大きな2つの瞳が俺を捕らえた。
その瞬間、俺の全身に電気の信号がバチバチと駆け巡り
眠っていたあらゆる電源のスイッチを次々とONに変えていく。
マジ天使幼女 ロックオン
脚力 瞬発力 共にオールグリーン
―――――抱きつきスタンバイ、完了。
-
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃいあに……」
(*´_ゝ`)「妹者ぁ―――!!!」
Σl从・∀・;ノ!リ人「わぶっ!?」
愛らしい口が、俺ではないその名前の全てを言い終わらないうちに
俺は小さくて可愛い生き物、妹者に飛びかかった。
l从・∀・;ノ!リ人「むぎゃー!?」
がっしり抱きしめた俺の二本の腕の中でジタバタしながら
ぷはっと顔を出した妹者は、丸くした瞳を俺に向け、驚いた声で叫ぶ。
l从・∀・;ノ!リ人「き、きさまはっ……」
l从・∀・;ノ!リ人「おっきい兄者か!おっきい兄者じゃな!?」
(*´_ゝ`)「ぴんぽんぴんぽん!流石だ妹者ー!」
高揚する気分と共に、そのまま高く抱き上げた。
それにあわせて肩まで切った柔らかい髪がふわっと舞い上がる。
気のせいか、前に抱っこした時よりちょっと重くなったような。
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短く切った前髪の下では、最初の驚きが終わって、満面の笑みが広がっていった。
l从・∀・*ノ!リ人「やっぱり!すぐ分かったのじゃ」
(*´_ゝ`)「そうかそうか。やっぱり妹者には敵わんな!」
l从・∀・*ノ!リ人「久しぶりなのじゃー!」
(*´_ゝ`)「久しぶり〜」
高くなった視線の先で、太陽の光みたいにきらきら笑う妹者。
俺はゆっくりと妹者を床に降ろして、わしゃわしゃ頭を撫でた。
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者も、今日は学校お昼まで?」
( ´_ゝ`)「そうだよ。だから今日は妹者といっぱい遊べるぞ!」
l从・∀・*ノ!リ人「わーい!妹者の部屋に行って遊ぶのじゃー!」
(*´_ゝ`)「ふひひ、それじゃお邪魔しようかねぇ」
l从・∀・ノ!リ人「れっつごー!」
-
こちらスネーク 幼女の部屋に潜入成功。
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、見て見て!
あの絵ね、先生に褒められて、おっきな花丸もらえたのじゃ!」
( ´_ゝ`)「ん?おー、この前描いてた公園の絵だな。どれどれ」
勉強机の上に飾ってあった絵は
何日か前に妹者が描いていた、近所の公園の絵だった。
学校の宿題で、テーマは何か知らないけど、多分好きな風景を描いてこいとかだったんだろう。
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者のあどばいすのおかげなのじゃ!ありがとなのじゃー!」
公園のベンチに座り、隣で一生懸命クレヨンを走らせる妹者の姿は微笑ましく。
黙って見ているつもりだったのだが、俺は絵を描くのが好きなのでつい口を出してしまったのだ。
深い緑や黄緑を混ぜて、葉っぱが生い茂ってる風に見せるやり方なんかを教えると
妹者は嬉しそうに、画用紙いっぱいを色とりどりのクレヨンで彩っていった。
俺の方は後で弟者に怒られたのだが、ここ最近で一番楽しい時間だったと記憶してる。
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( ´_ゝ`)「妹者は絵が上手だな!ひょっとするとすごい才能の持ち主かもしれないぞ」
l从・∀・*ノ!リ人「えへへ、照れるのじゃー」
(*´_ゝ`)「俺は妹者の絵が大好きだぞ!
ちっちゃい頃からよく色々なものを描いて見せてくれたもんな」
妹者の勉強机の周りには、その公園の絵の他にも今まで描いた作品達が所狭しと飾られていた。
その中に一枚、懐かしい絵があるのを見つける。
真ん中に妹者を挟んで、俺と弟者の3人が描かれた絵だ。
何年か前妹者が見せてくれたその絵を見て、俺は嬉しい思いを抱いた。
妹者は昔この絵のことで母者に怒られたのに、まだ大切にしてくれてたんだな。
暖かな色に囲まれ、手を繋いだ3人が仲良く微笑むその絵には
妹者の優しい気持ちが溢れていた。
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l从・∀・ノ!リ人「それでね、妹者、障害物競走と短距離走に出ることになったのじゃ」
( ´_ゝ`)「運動会あるの日曜だったよな!
よし、俺も見に行くから頑張るんだぞ」
l从・∀・*ノ!リ人「ほんとに!?やったー!」
台所の棚から拝借したスナック菓子を貪りながら
妹者とする最近の事や学校の話なんかのおしゃべりは楽しい。
もうすぐ行われる妹者の小学校での運動会。
晴天の下、妹者の頑張ってる姿を応援して、正午には一緒にお弁当を食べる。
一等賞の旗をかかげ、自慢げに走り寄ってくる妹者。
そんな妹者を抱き上げて、目いっぱいその頭を撫でくり回す俺。
最高の日曜日になる予定だ。運動会万歳!
-
それに、なんといっても小学校の運動会だ。
元気いっぱい走り回る、愛らしい体操着姿の低学年ロリ幼女達がグラウンド中そこかしこ……
いやいや。妹者の手前、俺は決してやましい事など考えては……
おっと涎が
l从・∀・;ノ!リ人「おっきい兄者、なにニヤついてるのじゃ?若干きもちわるいのじゃ」
( ´_ゝ`)「Oh…辛辣だな妹者。毒舌幼女もばっちりお兄ちゃんの守備範囲内だぜ」
l从・∀・;ノ!リ人「何言ってるかわかんないのじゃ。
あとヨダレ垂れてるのじゃ」
-
( ´_ゝ`)「それにしても、怪我しないように気をつけるんだぞ?」
l从・∀・ノ!リ人「大丈夫なのじゃ!
準備体操ばっちりすれば怪我しないって、先生言ってたのじゃ!」
( ´_ゝ`)「mjsk。準備体操すごいな。今でもラジオ体操第一とかするのか?」
l从・∀・ノ!リ人「ううん。AKBのヘビロテ」
(;´_ゝ`)「そういえば俺らの時代もポルノグラフィティとかだったな……」
l从・∀・ノ!リ人「妹者、いっぱい練習してばっちし覚えたのじゃ。
だから、怪我しないのじゃ!」
( ´_ゝ`)「まあ、備えあれば憂い無しというからな!
準備体操といえど、気を抜くんじゃないぞ妹者」
l从・∀・ノ!リ人「ラジャ!なのじゃ!」
( ´_ゝ`)「よーし、じゃあ本当に大丈夫かどうか、お兄ちゃんに見せ……」
-
「妹者の心配より自分の心配をするんだね!」
(;゚_ゝ゚)「ッ!!!」
その瞬間、和やかな空気が一瞬にして凍りついた。
-
(;゚_ゝ゚)「そ……その声は!!」
金縛り一歩手前の状態で、ぎこちなく首を後方に向ける。
いつの間にか開いていた部屋の入り口には
@@@
@#_、_@
( ノ`)「兄者……まぁたあんた約束破ったね?」
ゴゴゴゴゴ…と威圧的な効果音が聞こえてきそうな勢いで厳然と聳え立つ
流石家最強神―――流石母者の姿があった。
-
l从・∀・ノ!リ人「母者!」
(;゚_ゝ゚)「ひぎぃ何故!?タイムセール終了の時間まではまだ余裕があるはず!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「学校から携帯に連絡が来たんだよ!
授業が始まっても弟者の姿が見えないから、家に行ってないかってね!!」
(;゚_ゝ゚)「なんと……文明の利器恐るべしッ!!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「あたしを出し抜こうなんざ百万年早いんだよ……覚悟はいいか?あたしは出来てる」
熊をも素手で殺す鉄拳を従え、ゆっくりとこちらへ距離を詰めてくる母者。
( ´_ゝ`)「オワタ\(^o^)/」
瞬時に脳内を走馬灯が駆け巡る。
俺の脳が今までの人生の中でこの状況を打破する方法を探している証拠だ。
だが、圧倒的死へのオーラを放つこの鬼神を前に、生き残る術などある筈も無く―――
-
―――準備体操ばっちりすれば怪我しないって―――
(;゚_ゝ゚)「レイディオ体操その一イイィ!!!」
ヽ(;゚_ゝ゚)ノ「よーい!」
ヽ(´<_` )ノ「腕をおおーきく上にあげて……って
……あれ?」
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ああーっ!ちぃッ……また逃げられた!!」
ヽ(´<_` )ノ「え?母者?……え?」
-
+ + + + + + + + + + + +
( ^ω^)「兄者、いい加減出てくるお」
(´<_` )「……」
( ^ω^)「今なら先生まだそれほど怒ってないお。
出てくるなら今のうちだお」
(´<_` )「……」
(´<_` )「……駄目だな。出てきませんね」
(;^ω^)「おー」
-
場所は変わって、VIP高等学校特別教室。
教室の後ろにて、学校に連れ戻された弟者と、教師であるブーンが対峙していた。
他の生徒達は各々課題や勉強に取り組んでいる。
今回の騒動は、弟者のマインドBである兄者がやらかした事だった。
4時間目の授業が終わると同時、こっそり弟者と人格交代して学校を抜け出したのだ。
だが当の兄者は拗ねて意識の奥に隠れ、なかなか出てこようとしない。
そのため、もう何十分もの間、弟者とブーンはこんなやりとりを繰り返している。
-
( ^ω^)「早く出てきて昨日の課題の続きやるお。もう1時間しかないお」
(´<_` )「そうだぞ兄者。これじゃまるで俺が怒られてるみたいじゃないか」
(´<_` )「……」
(´<_` )「ヤダじゃないだろ」
(´<_` )「……」
(´<_`#)「こんのアホ兄者!
早く出てこないと妹者の運動会見せてやらないぞこら!!」
必死で自分の意識下から兄者を引っ張り出そうとしている弟者だが、
何も知らない人が見たらちょっと危ない人である。
-
( ^ω^)「むぅ。このままじゃ埒が明かないお。
……しょうがない、助っ人を呼ぶかお」
(´<_` )「え?助っ人って?」
( ^ω^)「ちょっと待っててお。
あー、シャキン、デレ、つー。耳を塞いでるお」
∩`・ω・´∩『はーい』∩゚ー゚*∩ζ
∩*゚∀゚∩「あひゃ!」
(´<_` )「へ?」
-
( ^ω^)
( ω )スゥ……
(#ФωФ)カッ!!!
(#ФωФ)「くおっらああああああぁぁぁ!!
兄者!!!いい加減出てこんかい!!!!」
Σ(;゚_ゝ゚)「ひぎゃあああああ!!!!」
-
イイヨイイヨー
-
( ^ω^)
( ω )スゥ……
(#ФωФ)カッ!!!
(#ФωФ)「くおっらああああああぁぁぁ!!!
兄者!!!いい加減出てこんかい!!!!!」
Σ(;゚_ゝ゚)「ひぎゃあああああ!!!!」
-
今まで柔和なにやけ面だったブーンの顔が一変し、目を見開いて鬼のような形相となる。
廊下の隅から隅まで震え上がらせるような怒声を発すると、
瞬時に弟者の意識下から兄者が引っ張り出された。
(#ФωФ)「こんの馬鹿もん!
授業をサボった上学校抜け出して約束を破るとは何事か!!」
( ;_ゝ;)「うああああん!怒ってないって言ったじゃん!!」
(#ФωФ)「ほうほうちゃんと聞いていたのであるな。
だが生憎それはブーンの言った言葉である。
我輩の方は怒ってないどころか、腸煮え滾る思いであるぞ!!」
-
頭から湯気をたて怒りをあらわにする彼の名前はロマネスク。
ブーンのマインドBである。
そう。
実は、教師兼マインドB専属カウンセラーのブーンは、自らもマインドBの発症者なのだ。
自身がマインドB発症者であった事が、ブーンをこの道へと導いた最大の要因であった。
長年の付き合いから、既に確固とした信頼と協力体制を築いている2人。
今回のように、助っ人としてロマネスクを呼ぶのはブーンのとっておきの奥の手である。
温厚なブーンと、厳格なロマネスク。
ブーンは担任、ロマネスクは副担任教師として
正反対の性格を持つ2つの人格は互いに協力し合い
上手い具合にこのクラスをまとめあげているのだ。
-
脳の芯まで響くロマネスクの喝は、今回のように
基本人格の意思に反抗して表に出てこないマインドBに対して、非常に有効な手段なのである。
( ;_ゝ;)「先生卑怯だぞ!いきなりロマ出すなんて!!」
(#ФωФ)「己のとった行動に謝罪もせず、
弟者の裏にコソコソ隠れたお前の言って良いセリフではないわ!!」
( ;_ゝ;)「ごめんなさいいぃ!!」
その後、ロマネスクによる怒涛の説教でこってりしぼられる兄者。
結局ブーンが止める間もなく1時間は過ぎ、下校時刻と相成ったのであった。
-
1話ここまで。
スレタイのブーンが……なんかおかしい……:(ヽ゚ω゚):
2話は明日か明後日あたりに投下できると思います。
-
乙
-
乙
続きも期待
-
乙
-
これは期待大
-
おっひょぉわ、ん
-
やっべ面白すぎ
長編ですか?
-
面白そう携帯のAナンバーBナンバーみたいなものか
-
乙
人格間の意志疎通完璧なんだな、面白い
-
ちゃねらー思い出すな
-
期待
-
新作か
がんばって
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続き、今日にも可能性あるんだな
期待してる
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おもしれぇ
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乙や期待等レスありがとうございます!嬉しいです
2話投下は明日になります。ごめんなさい
>>56
ありがとう
一応長編の予定だけど何話までとかは今のところ未定です。
ちなみにマインドBという単語は確かちびまる子ちゃんの漫画で出てきてそこから貰った。気がする
そのまま解離性同一性障害(多重人格)にしなかったのは発症原因に虐待とかが絡んできて重くなると思ったからです。
症状は解離性同一性障害とほとんど似ているものの
その発症条件や治療法はまったく別のもの、と認識して読んでいただければ幸いです。
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長編か、完結まで是非頑張って欲しい
二話も期待してます
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これは面白い
期待してます、乙
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(*゚∀゚)「なーなー兄者っ!昨日は何処で何してたんだよ!」
ろくに手をつけていない問題用紙をそっちのけで、鉛筆をくるくると弄びながらつーが尋ねた。
( ´_ゝ`)「だからー、普通に家に帰っただけだって。そんで妹者とちょっと遊んだんだ」
昨日放棄した分と、今日の分の課題を時間内に片付ける事に苦戦していた兄者が
若干疲れた様子で答える。
(`・ω・´)「まったく兄者は。
この前も同じ事やって怒られたっていうのに、ちっとも懲りないんだからな。
ロマネスク先生が怒るのも当たり前だぞ!」
今日の分の課題を数十分前に終わらせ、
現在読書中の本から顔を上げずに口を挟むシャキン。
ζ(゚ペ*ζ「そうだよ!そのせいでデレ、昨日妹者ちゃんと遊べなかったんだからね!」
スケッチブックにクレヨンで文字を書く練習をしていたデレが、口をへの字に曲げて頬を膨らませた。
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(;´_ゝ`)「ごめんごめんデレちゃん。今日はちゃんと弟者に約束させとくからさ」
ζ(゚ー゚*ζ「絶対だよ!放課後、絶対ねっ!」
( ´_ゝ`)「うん!今伝えた!テレパシー送った!」
(`・ω・´)「テレパシーとは違うと思うけど……」
( ´_ゝ`)「僕らはいつも以心伝心☆」
( ^ω^)「はいはい、お喋りそこまでー!もう2時間目が終わっちゃうお」
担任であるブーンがパンパンと手を鳴らし、
それぞれの課題に取り組んでいた4人に向かって声を張り上げた。
ζ(゚ー゚*ζ「先生見て、デレ3枚も練習したの!じょーずに書けてるでしょ?」
( ^ω^)「おー、上手く書けたおね。100点だお!
それじゃあ、先生がおっきい花丸つけてる間に、クレヨン片付けて手を洗ってくるんだおよ」
ζ(゚ー゚*ζ「はーい!」
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(;^ω^)「つーは……おお、見事にまったく進んでない」
(*゚∀゚)「あひゃ、だってわかんないんだもん!」
(;^ω^)「しょうがない、明日一緒にやるお」
(*゚∀゚)「あひゃー」
( ^ω^)「兄者は残った分宿題ね。
弟者に手伝ってもらってもいいけど、ちゃんと自分の力でやってくるよーに」
(;´_ゝ`)「えー!俺の貴重な時間がぁ!」
( ^ω^)「自業自得って言葉知ってるかお?以後文句は受け付けません」
(#´_ゝ`)「先生のオニチク!この前重過ぎて廊下の床破壊した事校長にバラしt」
( ^ωФ)「なんか言ったであるかお」
(;´_ゝ`)「なにもいってないよ!ぼくはいいスライムだよ!ぷるぷる!」
( ^ω^)「それでよし。ぷるぷるすんな」
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( ^ω^)「あと、シャキン。悪いけど放課後残ってくれるかお?ショボンと話がしたいお」
(`・ω・´)「はい、分かりました。伝えときます!」
キーンコーンカーンコーン
( ^ω^)「じゃあ今日はこれで終わり。
3、4時間目は通常授業だから、みんなそれぞれの教室に戻るおー」
(*゚∀゚) ζ(゚ー゚*ζ「「「「はーい!」」」」( ´_ゝ`)(`・ω・´)
(`・ω・´)「起立、礼!」
(*゚∀゚) ζ(゚ー゚*ζ「「「「先生さよならー!」」」」( ´_ゝ`)(`・ω・´)
( ^ω^)「さよならおー!」
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それぞれ使用していた文具や教科書を片付ける4人。
だがそのうちの3人は、教室へ帰る前にここでやるべき事がある。
( ^ω^)「さてと。じゃあデレ、ツンと交代ね。兄者もだお」
( ´_ゝ`)「ほーい」
ζ(゚ー゚*ζ「うん!……先生、また明日!」
( ^ω^)「おっおっ、また明日ね。バイバイだお」
ζ(^ー^*ζ「バイバイ先生!」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ζ(゚−゚*ζ
元気良くブーンに手を振った後、フッと表情を消したデレが数秒間押し黙る。
その瞳は先ほどまでの輝きを失い、ぼんやりとした視線が何も無い空間を漂っていた。
-
ζ(゚−゚*ζ
ζ( − *ζ
ξ ⊿ )ξ
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「……」
次にはっきりとした光をその瞳に宿した時、
その顔つきは先ほどまでのあどけないデレとは違っていた。
ξ;゚⊿゚)ξ「……わ、やだ。クレヨン使ったの?ベタベタ」
そこに居たのは、デレと交代で意識上に現れた、基本人格の『ツン』だ。
自分の両手に目をやり、小さく驚いた声をあげる。
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( ^ω^)「お、ごめんお。一応さっき洗わせに行かせたんだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「綺麗に落とせてないですよ。もー……」
( ^ω^)「ごめんごめん。次からはちゃんと確認するお」
(´<_` )「先生」
さっきまで『兄者』だった『弟者』が、背後からブーンに声をかけた。
(´<_` )「じゃあ、俺はこれで教室に戻ります」
( ^ω^)「あ、弟者。うん、バイバイお!
……あっそだ。悪いけど弟者、兄者の宿題手伝ってあげてくれないかお?」
(´<_` )「聞こえてましたよ。せいぜい馬鹿兄者がサボらないように見張ってます」
( ^ω^)「よろしくお願いするおー」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「うー、爪に入っちゃったのが取れない……」
手先に残る感覚に気持ち悪そうな声をあげつつ
まだポタポタと手から雫を零し、ハンカチで丁寧にそれを拭くツン。
洗面所から帰ってきた彼女に、弟者が声をかける。
(´<_` )「あ、津田」
ξ゚⊿゚)ξ「あーはいはい、分かってるわよ。放課後、ラウンジ公園でしょ?
昨日からデレったらそればっかりなんだから」
(´<_` )「ん。じゃあ、妹者連れてくから」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。お願いね」
既にお互い了承しあっている約束を確認し合い、ツンが先に教室を出て、弟者がその後に続く。
2人とも2年生なので、クラスは違うが目指す階は同じだ。
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(`・ω・´)「では先生、放課後にまた」
そして、ブーンに対して礼儀正しく一礼し、凛々しい態度で教室を出て行くシャキン。
( ^ω^)「うん、またね。みんな授業頑張るんだおよー」
各々自分達の教室へと帰っていく3人。
その3人の背を見送ると、ブーンは振り返って
( ^ω^)「さてと。あとはつーだけだおね」
(*゚∀゚)「あひゃ!」
行儀悪く自分の机に腰掛け、足をブラブラさせているつーに向き直った。
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( ^ω^)「あーもうこら、つー!ちゃんと椅子に座るお」
(*゚∀゚)「まだ眠くないよ!昼休みまでいいだろ!」
( ^ω^)「だめだめ。次はしぃが勉強する時間だお。
それとも、しぃの分まで勉強したいのかお?」
(*゚∀゚)「それはやだ!」
( ^ω^)「だったらしぃと交代だお。ほれほれ降りる」
(*゚∀゚)「……ちぇー、わかったよ」
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説得されて、しぶしぶ椅子へと座るつー。
(*゚∀゚)「つまんねーな」
( ^ω^)「今はまだ準備と練習の時期だお。
もう少しすればつーも、兄者やシャキンみたいに
自由に自分の時間を持てるようになるおよ」
(*゚∀゚)「わかってるよ!焦らずゆっくり、だろ!」
( ^ω^)「そうそう。焦りは禁物、時間をかけて着実にだお。
さ、しぃと交代。出来るおね」
(*゚∀゚)「おう!じゃあまたな、先生!」
( ^ω^)「また明日。つー」
-
(*゚∀゚)「……」
(*-∀-)「……ふー……」
(*-∀-)「……」
机越しにブーンと向き直ると、目を瞑り、体から力を抜く。
最近になってようやく、この一連の動作が自然に出来るようになってきた。
ごく自然にリラックスした状態になったつー。
対峙するブーンは、明瞭な声で『彼女』を呼び覚ます。
( ^ω^)「しぃ。起きるお。次の授業が始まるお!」
-
(*゚ー゚)「じゃあ先生、いってきます」
( ^ω^)「はいお。いってらっしゃーい」
小さくお辞儀をして、特別教室を出て行くしぃ。
自分の教室へ向かおうと廊下の方を振り向いた時
見知った人物が窓際の壁にもたれ、こちらに手を振っていることに気がついた。
(*゚ー゚)「……あ」
从'ー'从「しぃちゃんおはよー」
(*゚ー゚)「ナベちゃん!迎えにきてくれたの?」
从'ー'从「授業早めに終わったからね〜。教室行こ!」
(*゚ー゚)「うんっ!ありがとう」
从'ー'从「次の授業、荒巻おじいちゃんだからね。ゆっくり行っても平気だよ〜」
(*^ー^)「あはは」
( ^ω^)「……しぃは最近楽しそうだお。もう大丈夫みたいだおね」
次第に遠ざかっていく2人の明るい笑い声を聞きながら
ブーンは教室の戸から顔を出して、一人呟いた。
-
/ ,' 3「え〜。芭蕉の句にはぁ〜……」
(*゚ー゚)「……」
VIP高校1年・羽生しぃ。
彼女がマインドBを発症し、つーの人格が生み出されたのは中学2年生の時。
しぃは真面目で大人しく、良く言えば控えめな、悪く言えば少し内気な性格。
でも他人への思いやりがあって、心配りができる優しい女の子である。
-
晴れて念願の私立中学に合格した彼女は、数人の明るく活発な友人達に囲まれ
いつも誰かと行動し、幸せそうに笑う、ごく普通の女子中学生だった。
(*^ー^)
成績は中の上、友達との関係も良好。
放課後は友達と街へ遊びに。週一のクラブ活動を楽しんで、テストで良い点を取ろうと奮闘する。
楽しく、青春の光に煌いていて、特に何の問題も無かった1年間。
そこに小さな歪が生まれたのは
春が来て2年生に進学した、その時だった。
中学初めてのクラス替えで、しぃは運悪く親しい友人達と離れ離れになってしまう。
新しい教室。知り合いのいないクラス。
少し人見知りの気があるしぃは、張り出されたクラス表を見て不安に駆られた。
それでもクラスの離れた友人達は、当然のように新しいクラスで新しい友達を作り
以前と変わらぬ楽しげな笑顔で2年生としての生活を送っていく。
(*゚ー゚)
だが、普段からあまり積極的で無いしぃは、友達の作り方が分からなかった。
考えてみれば、入学時に声をかけてきてくれたのはいつも向こうから。
自分から声をかけて友達を作れた経験は記憶に無く
1年生の時に次第に増えていった友達も全て、他人の人脈の恩恵であった事に気づく。
-
新しいクラスの誰かに声をかけるタイミングを逃したまま、一日、一日と日は過ぎる。
今日こそ誰かに声をかけようと意を決しても、簡単な筈のその一言はまるで鉛のように重く
絞り出すべき声は相手に届く事無くひっそりと消えていった。
しぃ一人を取り残して、残酷に時間だけが過ぎていく。
気がつけばしぃは、クラスで完全に孤立した存在となってしまっていた。
(*゚−゚)
そして教室という閉鎖空間において、人は群れを成す事で優勢を得
その対照として集団からはみ出た弱者を食い物にする。
あっという間に、しぃは新しいクラスの中でいじめの標的にされた。
-
(* −)
『死ねばいいのに』
『キモい』
毎日耳に入ってくる、嘲笑、囁き。そしてエスカレートしていく嫌がらせ。
相手にとってはただの遊び。ゲーム感覚で繰り広げられるそれも
その対象となる無力な被食者にとってはどんな小さな悪意も、それが与える苦痛は耐えがたい。
耳も、目も、頭も何もかも。
敏感に人の悪意を感じ取る。
それは例えば、小さな善意やほんのからかいだったとしても区別がつかないほどに。
常に人に怯え、何に対しても自分に向けられた悪意と感じ取り過剰に反応してしまう。
疑心暗鬼と被害妄想は、ちっぽけな彼女が抱え込めなくなる程肥大し。
それは小さな物でも一日、一日と積み重なり、彼女の心を着実に潰していった。
-
学校という空間は狭い。
違う教室の事とはいえ、以前の友人達にもそんなクラスの雰囲気は自ずと伝わっていた。
すると、危険を察した彼女らまでもが、飛び火を払うかのようにしぃを避けるようになったのだ。
誰かに相談することも出来ない。
親には心配をかけたくないし、学校に味方はいない。教師ですら見て見ぬふりをする。
常に周りの机から見張られているかのような閉塞感。息苦しさと絶望感。
四面楚歌。敵陣に一人取り残されたしぃに、身を守る術は何も無い。
-
(* −)
どうしてこんな事になったのか。
しぃはただ大人しかっただけ。
人より、ほんの少し内気な性格だっただけ。
新しい人間関係を作るのに、一歩勇気が足りなかった それだけだ。
そして、なにかされても、ただ耐えて口を噤み。
たった一言やめてほしいと その言葉が言えなかっただけなのに。
ただそれだけなのに。
-
(* −)
ああ。
どうして自分はこうなんだろう。もっと強い人間になりたかった。
人に悪意を向けられても、怯む事無く立ち向かっていける勇気を持った人間に。
常にビクビクと人の顔色を伺うことなく、自分の思うまま行動できる強い人間に。
なりたかった。
(* ∀)
そしてしぃは―――
弱く、ちっぽけで、内気で暗い。
大嫌いな、『しぃ』でいることをやめた。
-
(*゚∀゚)
『つー』は数回目を瞬き、自分が木製の椅子の上に座っている事に気がついた。
周りには沢山の人がいて、品の無い笑い声や無駄に喧しい会話でとても騒がしい。
左側の窓から差し込む光が眩しかった。目を細め、視線を下に向ける。
そして、机の上が何故こんなに散らかっているのだろうと訝った。
くしゃくしゃに丸まった紙屑。何か分からない破片や粉状のもの。消しゴムのカス。
そんなものが自分の目の前に、山となって積まれている。
元々散らかっているのは気にならない性格だが、それらが自分の物で無いことは明らかで
そしてどう見ても、価値の無いゴミの類にしか見えなかった。
なので特に何も考えず、右腕で軽くそれらのゴミを払い落とした。
-
一瞬、周りの喧騒が途絶えた気がしたが、そんな事よりも
ごちゃごちゃしたゴミ達を払った後の、机の表面までもが
荒々しく汚い落書きで埋め尽くされ、刃物か何かで削った痕で傷だらけなのを発見する。
おそらくちょっと掃除したくらいではどうにもならないぐらい汚い状態だった。
元よりそこにたまたま座っていただけの机を綺麗にする気も毛頭ない。
きったねぇ机だなぁ。
不快感を感じ、つーは席を離れた。
おそらくこの机はよっぽど散らかし癖のある誰かの机なのだろう。自分の知ったことではないが。
立ち上がり、この煩い場所から離れようと数歩歩いたところで
数人の女子が立ちはだかり、自分の行く手を塞いだ。
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『掃除しなさいよ』
自分を睨みつけ、床に指を差している。
何のことだか分からず、その指の先を追うと
先程自分が払い落としたゴミが床に散乱していた。
誰のだか分からないゴミを誰のだか分からない机から払い落としてやったというのに
何故自分がそんな面倒なことをしなくてはならないというのか。
元より掃除は大嫌いだ。
不快だった。
目の前で敵意を剥き出しにしている女子達も
今では喧しく騒ぎ立てることをやめて、食い入る様にこちらの様子を見つめている
この部屋の人間全部、何もかも気に喰わなかった。
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「掃除しなさいよ」
自分を睨みつけ、床に指を差している。
何のことだか分からず、その指の先を追うと
先程自分が払い落としたゴミが床に散乱していた。
誰のだか分からないゴミを誰のだか分からない机から払い落としてやったというのに
何故自分がそんな面倒なことをしなくてはならないというのか。
元より掃除は大嫌いだ。
不快だった。
目の前で敵意を剥き出しにしている女子達も
今では喧しく騒ぎ立てることをやめて、食い入る様にこちらの様子を見つめている
この部屋の人間全部、何もかも気に喰わなかった。
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「邪魔だ。退けよ」
集中した視線の晒し者にされていることと、この不愉快な教室にいることに酷く苛立ち
つーは目の前の女子を押しのけて外へ出て行こうとした。
一瞬怯んだ様子を見せた女子だったが、甲高い声で何かを喚き腕を掴んできた。
誰かに体を触られることは慣れていなく、反射的にその腕を払いのける。
パシン!
女子の手を振り切ったその手に、乾いた音を立て何かが当たった。
行く手を阻む壁となっていた数人の女子のうち一人が、
長い棒状の物をこちらに投げつけたのだ。
プラスチック製の箒だった。
「掃除しろ!」
箒が当たった箇所にじわりと広がる痛みが、瞬く間に抑えきれない怒りへと変わっていった。
何故だかは分からないが、この場所の何もかもが憎い。
この場所を滅茶苦茶にしてやりたい。みんなめちゃくちゃにしてやる。みんなみんなみんな―――
つーは素早く地面に目を走らせると
たった今投げつけられ床に乾いた音を立てた、得物に手を伸ばした。
-
結果、つーはクラスメイトの女子四人を傷つけ、止めようとした教師にも軽い怪我を負わせ、
教室の窓ガラスを割り、机を数台、床に投げつけて破壊した。
幸い、その女子生徒達の怪我も軽いもので済んだが、
そのすぐ後で行われた病院での検査の結果、羽生しぃにはマインドBの症状が確認され
しぃのもう一人の人格、『つー』が判明した。
教室で教師達に取り押さえられ、無理矢理病院に連れていかれて検査を受けさせられたせいで
しばらくつーの興奮状態は続き、また誰かを傷つける危険性から部屋に隔離されていたが、
それから2日経った朝、隔離室で暴れ狂うつーが急に大人しくなり、基本人格のしぃの意識がフと浮上した。
教室で起こった事件について、しぃはもちろん何も覚えていなかった。
それから間もなく医師から告げられた、自身に下された診断結果と
自分が知らぬ間に四人の同級生を傷つけ、教室で暴れ回り物を破壊したという事実は
大きなショックをもたらし、彼女にはとても受け入れられるものでは無かった。
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そして、マインドB発症の判明に伴ういじめの発覚。
学校側は、重大な問題を見過ごし一人のマインドB患者を出したとして世間から責め立てられた。
新聞やメディアにとりあげられ、押し寄せるマスコミの波。好奇の視線。
どちらにせよ、しぃはこれ以上継続して同じ中学に通うことは不可能だった。
やむを得ず、元居た中学からは転校し、住んでいた土地も離れ
中学3年時は新しい学校へカウンセリングを受けながら通学した。
しかし、中学2年生の時の事件から、人と深く関わる事を避けるようになり
しぃはますます自らの殻に閉じこもるようになってしまう。
結局、中学を卒業するまで
学校での人間関係も、つーに対しても、彼女にとって上手くはいかなかったようだ。
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しぃとつーはお互いの存在に対しての認識を持っていない。
それは人格間での“共存意識”と呼ばれるものだ。
兄者と弟者のように、人格同士、意識の奥底で相手にコンタクトを取ったり
表に出ている人格を通して、世界を見たり聞いたりすることが一切不可能なのである。
つーはしぃの存在を認識すらしていないし、
一方しぃは得体の知れないつーという人格に対して、ただただ恐怖しか感じていなかった。
自分の好きな時に意識上に現れ、好きなだけ動き回り自由奔放な振る舞いをするつー。
そして、彼女の気が緩んだ時などに、突然意識の奥底から引っ張り上げられ混乱するしぃ。
これでは学業に支障が出るどころか、通常の生活を送るのも非常に困難な状態だ。
そのため、効率の良い人格交代の方法を学ぶ場として
マインドB専属カウンセラー兼教師であるブーンが担当する
vip高等学校特別教室、マインドBクラスが選ばれたのだった。
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入学した当初、まだつーは制御の効かない危険な存在だった。
明確な悪意があるわけでは無いが、常に自らを殻に閉ざして生活しているしぃの反動なのか
感情が昂ぶりすぎて暴走してしまう事が時々あった。
そこでブーンはつーと、まず学校では名前を呼ばれるまで覚醒しないという約束をした。
意識の交代をスムーズに行えるよう、しぃとつー、両方と何度も練習を繰り返した。
時間が来たら相手と交代するルールを2人に教え、互いに約束を守らせ。
ゆっくりと時間をかけて、つーは規則を飲み込み、クラスのみんなとも除々に仲良くなっていった。
最初は人との協調性など無いに等しく、集団での行動に慣れず
何かと制限され我慢する事の多い生活から来るストレスと負担が重なり、トラブルを引き起こす事も多かったつーだが
ブーンが信頼がおける人物であり、自分達の事を親身に思ってくれている事が理解できると
彼女は案外素直にブーンとの約束を守り、いいつけを守った。
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ブーンの熱心な取り組みと粘り強い根気の成果ももちろんあるが
それより何より、最初に事件を起こしてしまった狂暴面から
周囲から手の付けられない野獣同然の目で見られ、ただ畏怖され、拒絶されるだけだった存在のつーが
自分と同じ境遇の者達とともに、限られてはいるが自分としての時間を与えられ
しぃでは無くつーとして、一人の人間として扱われる事が、純粋に嬉しかったのだ。
そして今。
日常生活で自由に行動出来る段階にはまだ至らないが、
マインドBクラスで過ごすつーはクラスの一員として有り余る元気を周囲に振りまき。
入学当初はまだ人間関係に対して不安を持っていたしぃも、
幸運なことに、仲の良い友達に支えられ平和な日々を送っている。
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从- -从 クカー スピー
(*゚ー゚)(ナベちゃんたら、あんなに涎垂らして…)
キーンコーンカーンコーン
Σ从'ー'从「!お昼っ!お昼だぁ!おべんとー!」
(;゚ー゚)「えええええ」
/ ,' 3「……んじゃ、授業終わりま」
从'ー'从「しぃちゃん机〜!机寄せよ!」
(;゚ー゚)「もう、ナベちゃんったら!気が早いよー」
/ ,' 3「……。ワシの授業って一体……」
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2話ここまで。3話は日曜日あたりに投下します
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時間早いな、ここまで一気によんだ
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100ゲト、追いついたと思ってたら終わってた
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しぃつー描写にスカッとした、やっぱり面白い
乙です
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すげぇ好き
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おもろいし、今日もくるのかな
wktk
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過去作とかある?
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ふんごるもっふ!!行きずりトマトsocietyさんでまとめてもらってました!!
ありがとございます!では短いけど3話いきます!
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―食堂―
_
( ゚∀゚)o彡「よっしゃ席確保ぉ!今日のおすすめメニューはなんだなおるよ上等兵!」
('(゚∀゚∩「玄米オムライスのカレーソースがけでありますジョルジュ隊長!」
_
( ゚∀゚)o彡「なるほど手応えのありそうな相手だ。腹が鳴るぜェ!
突撃だ!!」
('(゚∀゚∩「我々も隊長に続くぞ!走るよ弟者ー!」
(´<_` )「残念だが今日も俺は弁当持参だ。2人で行ってらっしゃい。
あと食堂で走るな危ない」
-
_
( ゚∀゚)「馬鹿野郎!毎日毎日かーちゃん弁当で食費を浮かす昼飯に何の意味がある!?
金とおっぱいは使ってこそなんぼだろ!」
('(゚∀゚∩「毎月雀の涙程のお小遣いの癖によく言うよ!
あとおっぱいの使い所とやらを小一時間ほど謹んでお聞きしたい!」
(´<_` )「こういう毎日のいじらしい節約努力が将来山となるんだよ。
いいからさっさと買ってこい、ジョルジュになおるよ」
_
( ゚∀゚)「マメなかーちゃんで羨ましいよ畜生!
俺だってたまには……!手作り弁当おふくろの味で素朴な優しさに浸りたい!
そんな小さなメランコリックを胸に抱えつつ行ってきます!」
('(゚∀゚∩「神風見せてやるよぉ!」
(´<_`;)「だから走るなっつの!」
-
馬鹿騒ぎをしながらカウンターにメニューを注文しに走る、2人の友人の後姿を見送る。
昼休みというだけでよくあそこまで元気が出るものだと感心しつつ、
あちこちから漂う美味しそうな匂いに空腹感を刺激されながら。
vip高校内に設置された学生食堂は、生徒達を魅了する品数豊富なメニューと
毎週のおすすめメニューや日替わりランチまで用意されている、
味はそこそこだが安価とボリュームにこだわった、貧乏学生達の強い味方だ。
授業中抑え込んでいた空腹を満たすべく食堂通いの生徒達が詰め寄せて
昼休みのこの時間、席はほぼ満席状態。
各々好みのメニューを声を張り上げておばちゃん達に注文する声や
思う存分休憩時間を楽しむべく繰り広げられる友達同士でのゆったりした会話。
昼休みの食堂は、学生達の活気とお喋りと良い匂いに満ちている。
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クラスの友人であり毎度の昼飯メンバーである
ジョルジュとなおるよの2人も例外に漏れずその喧騒の中の一要因となっており
周囲のやかましさに負けず劣らず……いや、明らかに周囲から一層際立つレベルで
持ち前の騒がしさをここぞとばりに発揮している。
正直友達と思われるの恥ずかしい。
今もカウンター前で学食ベスト5メニューの宣伝文句を一品一品大声で読み上げながら
吟味している最中だ。周囲の目線やおばちゃん達の生暖かい笑いなどどこ吹く風。
弁当開けずに待っててやってるんだからさっさと選べよ。
まあ、そんな2人の底抜けの明るさと、持ち前の馬鹿を思い切り発揮できるところは嫌いじゃない。
その陽気さがあの2人の良い所だということは分かっている。
だからこうして友達やってるんだけど。
-
さて。
あの2人のランチ選びはもう少し時間がかかりそうだから
俺はその間、読みかけの文庫本でも取り出して待つことにした。
(´<_` )「……ふぁ」
腹はかなり減っているのだが、少しばかり眠い感じがして軽く目をこする。
午前中にマインドBクラスの授業がある日はいつもそうだ。
きっと兄者が無駄にエネルギーを使いすぎるせいだ。ったく。
栞を挟んでおいたページを開き、片方の紙面にずらりと並んだ活字を追う。
読み始めて間もなく、眠気のせいか文字が一瞬ボヤけた気がした。
-
_
( ゚∀゚)「おーとじゃ!お・待・た・せv」
('(゚∀゚∩「だよ!」
( )「……」
_
( ゚∀゚)「わりーわりー、ちょっと時間かかっちゃったぜ!」
('(゚∀゚∩「お詫びに、一口ぐらいなら分けてあげても良くってよ!
我が軍がパートのおばちゃん軍から確保した兵糧は、
優秀な指揮官である貴殿にも等しく配給される権利が……」
(く_ )ミ クルッ
ヽ( ´_ゝ`)ノ「お帰りジュルずになっちん!」バァーン!
('(゚∀゚;∩「よー!?」
_
Σ(;゚∀゚)「うお!兄者になっとる!!」
ヽ( ´_ゝ`)ノ「お昼休みはうきうき兄者たいむ!」
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('(゚∀゚;∩「きゃー変態よ!学校抜け出して幼女の部屋に侵入する変態ロリコン男よー」
( ´_ゝ`)「なんだ昨日のこと知ってんのか。どだ!俺弟者のふり上手かっただろ!」
_
(;゚∀゚)「べ、べべべっつに、俺全然気づいてたし?うん!寧ろ気づいてたからね!?
全然気づいてたけど、そこはあえて友達として見逃してやっただけだし!当然だよねー!」
( ´_ゝ`)「この味は!……嘘をついてる『味』だぜ……ジョルジュ・ジョヴァーナ!」
('(゚∀゚;∩「やっぱり昨日、昼休みの時点で兄者だったかよ。懲りない奴だよ……」
_
( ゚∀゚)「昼飯食わないでそのままマインドBクラスに行くっていうからおかしいと思ったぜ」
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( ´_ゝ`)「俺の迫真の演技!なんならこのままハリウッドにスカウトしてもらってもよろしくてよ!」
('(゚∀゚;∩「ロマネスク先生に怒られて大泣きしてたくせに調子乗るんじゃないよ!」
(;´_ゝ`)「なんで知ってんのおおお」
('(゚∀゚∩「3年の先輩から教えてもらったんだよ!
廊下の隅までロマネスク先生の怒鳴り声と兄者の泣き声が響いてたってよwww」
(;´_ゝ`)「いやんもうお嫁にいけない!」
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( ゚∀゚)「心配しなくても貰い手なんて現れねーよwww
……まぁ、とにかく腹減ったし、飯食おうぜ飯!」
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('(゚∀゚∩「そだよ、せっかく確保した兵糧が冷めちゃうよ。
弟者には悪いけど、先にいただきますだよ!」
_
( ゚∀゚)「ちゃんと弟者と弁当分けるんだぞ兄者。お前ちゃんと謝ったの?昨日のこと」
( ´_ゝ`)「もちだともジョルず隊長。俺は男の義理人情を踏み躙るような真似はしないぜ」
_
(;゚∀゚)「どの口が言ってんだか……。まぁいいや、弟者もそのうち出てくるだろ」
('(゚∀゚∩「よーし!それじゃあさっそく」
( ´_ゝ`)「いっただき」
( ´_ゝ`)「ま」
( ´_ゝ`)
_
( ゚∀゚) 「?」 ('(゚∀゚∩
ヽ(´<_`#)ノ「はいそこまでええええ!!」ズバァーン!!
_
Σ(;゚∀゚) 「うおおお!!」Σ('(゚∀゚;∩
-
(´<_`#)「しばらくは好き勝手にさせないぞ馬鹿兄者!反省しろ反省を!!」
兄者の意識を無理矢理奥に引っ込めさせる。
危ない危ない。今日はもう学校にいる間は兄者は出たらいけない事に決めたんだ。
兄者がすんなり了承する筈も無いことは分かっていたが、うっかり気を抜いてしまった。
いつもならばせっかくの休憩時間だ、兄者だって自由に友達と喋ったり昼飯を楽しむ権利がある。兄者が出たい時は大抵好きに時間を使わせてやるのだが、なにせ昨日のことがあったすぐ後だ。
勝手に学校を抜け出した事も充分すぎるほどの大問題だが
その上『約束』を破ったことも、前から問題になっている兄者の困った行動の一つだった。
今月に入って数えても、兄者が『約束』を破ったのはもう3回目だ。
俺や母者が気づいていないのを含めたら、もしかしたらもっとあるかもしれない。
母者やブーン先生にもそこのところを今以上に厳しくするよう言われていた。
-
(´<_`#)「しばらくは好き勝手にさせないぞ馬鹿兄者!反省しろ反省を!!」
兄者の意識を無理矢理奥に引っ込めさせる。
危ない危ない。今日はもう学校にいる間は兄者は出たらいけない事に決めたんだ。
兄者がすんなり了承する筈も無いことは分かっていたが、うっかり気を抜いてしまった。
いつもならばせっかくの休憩時間だ、兄者だって自由に友達と喋ったり昼飯を楽しむ権利がある。
兄者が出たい時は大抵好きに時間を使わせてやるのだが、なにせ昨日のことがあったすぐ後だ。
勝手に学校を抜け出した事も充分すぎるほどの大問題だが
その上『約束』を破ったことも、前から問題になっている兄者の困った行動の一つだった。
今月に入って数えても、兄者が『約束』を破ったのはもう3回目だ。
俺や母者が気づいていないのを含めたら、もしかしたらもっとあるかもしれない。
母者やブーン先生にもそこのところを今以上に厳しくするよう言われていた。
-
兄者にとって酷な約束だということは俺も分かっている。
だが、守ってくれないと困るのは俺や兄者ではなく
俺達にとって最愛の妹者なのだ。
兄者にはそこのところの意識をしっかりさせる必要がある。
よって、今日みたいに一日交代禁止のルールも厳しく守らせなくてはならない。
兄者が意識の奥から抗議の声をあげてくる。
頭の中で兄者の声が反響しまくってかなり五月蝿い。
だが心を鬼にして無視に徹底する。
シャキンやツンとは違い、俺と兄者は精神面の強さからいうと丁度五分五分といったところだ。
お互いちょっと気を抜いている時なら簡単に入れ替わることができる。
意地でも出させるか!
-
(´<_`#)「大体兄者は勝手すぎるんだ!それで結局その被害を受けるのはいつも俺!
やってられるか!!」
(´<_`#)
∩´<_`#∩「あーあー何も聞こえなーい!!」
(´<_`#)「あっ、この!俺を通じてジョルジュとなおるよに訴えかけるのやめろ!!
お前はアイフルのチワワか!?でも残念でした、ほらこうしたら見えませーん!」
(´<_`#)
(´<_`#)「なるほど分かった、よっぽどロマネスク先生を呼ばれたいらしいな!
いいだろう、兄者がその気なら」
('(゚∀゚;∩「お……弟者さん弟者さん」
(´<_`#)「なんだなおるよっ!今忙しい!」
_
(;゚∀゚)「いやその……できたら兄者との喧嘩は心の中だけでやった方が……」
(´<_`#)「だからk」
(´<_` )
『…………』
-
支援
-
気がつけば、さっきまで騒がしかった食堂内は今や完全に静まり返り
各々好きな席に昼食を広げ笑いあっていた生徒達は、皆同様に目を丸め口をぽかんと開けて
昼食に伸ばした手を、他愛無い会話を繰り広げていた口を止め
その視線をただ一点―――
―――すなわち俺の元へと集中させていた。
(´<_` )
(´<_` )
(´<_` )「……お」
(´<_`;)「……お騒がせしました……」
おいなんとかいえよばかあにじゃ。
-
_
(;゚∀゚)「まあなんだ、あんま落ち込むなよ弟者」
(´<_`;)「す、すまん2人とも……うわああ死にたい……」
なるべく目立たないよう移動した壁際の席で、弁当を広げる事も忘れ
手で頭をかかえこみ机に撃沈する。
ああいつもこうだ。
兄者のペースに乗せられて結局恥ずかしい思いをするのはいつも俺。
その癖当人は調子が悪くなるといつも引っ込んでしまう。
出来る事ならぶん殴ってやりたいが、それで結局痛い思いをするのも俺じゃないか。
実際、兄者と喧嘩して顔が腫れるまで兄者の、すなわち自分の顔を殴り
気づいた時には自分が物凄く痛い思いをしていたのは小学生高学年の時だっけ。
あの時は小学生ながらに、心から自分馬鹿だと思いました。畜生泣きたい。
_
( ゚∀゚)「まぁまぁ気にスンナ!兄者が何かやらかすのは俺らももう慣れっこだしさ」
('(゚∀゚∩「そうだよ!それに、たまには思いっきり喧嘩するのも良いと思うよ!
特に弟者は、たまにはあれぐらい怒鳴ってすっきりしなきゃだよ!」
-
(´<_` )「……はは」
本来ならジョルジュやなおるよは、先程の大多数の人達のように
好奇や奇異の目で、まったく違う生き物のように俺を見てもおかしくはないのだ。
厄介で面倒な病気と関わる事を避け、俺の存在そのものを無視したっておかしくない。
実際今まで、そういうことだって何度か経験してきた。
だがこうして励まされ、共に笑うことが出来るのは
この病気を理解し、それでも距離を置かずに自然に接してくれる
目の前の大切な友達のおかげだった。
-
(´<_` )「……ありがとな、2人とも」
_
( ゚∀゚)b「おう!くよくよしてたら飯が不味くなっちまうぜ!」
('(゚∀゚∩「そうだよ!
どんなにくるしくても
おいしいものたべて
うんこしたらなおるよ!」
_
( ゚∀゚)「名言いただきましたー!!」
少なくとも自分は人間関係には恵まれている。
……兄者もな。
心の奥で、小さく同意する声が聞こえた。
-
以上です。支援あざです!
次は投下日未定です。でも近いうち投下できると思います。
>>104
短編ばっかり。連載は初めてです。
そういえば2010年の百物語祭り?の時にも多重人格物投下してました。流石の。
-
支援間に合わなんだ
乙乙
-
乙
-
乙乙
ジョルジュもなおるよも良い奴だ
-
ジョルジュが驚く度に眉毛がぶっ飛んでたので、ちょっと修正
>>111
111 :名も無きAAのようです:2012/05/20(日) 22:18:30 ID:VOO9GD8U0 _
( ゚∀゚)「おーとじゃ!お・待・た・せv」
('(゚∀゚∩「だよ!」
( )「……」
_
( ゚∀゚)「わりーわりー、ちょっと時間かかっちゃったぜ!」
('(゚∀゚∩「お詫びに、一口ぐらいなら分けてあげても良くってよ!
我が軍がパートのおばちゃん軍から確保した兵糧は、
優秀な指揮官である貴殿にも等しく配給される権利が……」
(く_ )ミ クルッ
ヽ( ´_ゝ`)ノ「お帰りジュルずになっちん!」バァーン!
('(゚∀゚;∩「よー!?」
_
Σ(;゚∀゚)「うお!兄者になっとる!!」
ヽ( ´_ゝ`)ノ「お昼休みはうきうき兄者たいむ!」
-
違う方がぶっとんでた!
>>111
_
( ゚∀゚)「おーとじゃ!お・待・た・せv」
('(゚∀゚∩「だよ!」
( )「……」
_
( ゚∀゚)「わりーわりー、ちょっと時間かかっちゃったぜ!」
('(゚∀゚∩「お詫びに、一口ぐらいなら分けてあげても良くってよ!
我が軍がパートのおばちゃん軍から確保した兵糧は、
優秀な指揮官である貴殿にも等しく配給される権利が……」
(く_ )ミ クルッ
ヽ( ´_ゝ`)ノ「お帰りジュルずになっちん!」バァーン!
('(゚∀゚;∩「よー!?」
_
Σ(;゚∀゚)「うお!兄者になっとる!!」
ヽ( ´_ゝ`)ノ「お昼休みはうきうき兄者たいむ!」
-
ああああ何やってんだ俺
すいません
>>111
_
( ゚∀゚)「おーとじゃ!お・待・た・せv」
('(゚∀゚∩「だよ!」
( )「……」
_
( ゚∀゚)「わりーわりー、ちょっと時間かかっちゃったぜ!」
('(゚∀゚∩「お詫びに、一口ぐらいなら分けてあげても良くってよ!
我が軍がパートのおばちゃん軍から確保した兵糧は、
優秀な指揮官である貴殿にも等しく配給される権利が……」
(く_ )ミ クルッ
ヽ( ´_ゝ`)ノ「お帰りジュルずになっちん!」バァーン!
('(゚∀゚;∩「よー!?」
_
Σ(;゚∀゚)「うお!兄者になっとる!!」
ヽ( ´_ゝ`)ノ「お昼休みはうきうき兄者たいむ!」
-
>>114
('(゚∀゚∩「そだよ、せっかく確保した兵糧が冷めちゃうよ。
弟者には悪いけど、先にいただきますだよ!」
_
( ゚∀゚)「ちゃんと弟者と弁当分けるんだぞ兄者。お前ちゃんと謝ったの?昨日のこと」
( ´_ゝ`)「もちだともジョルず隊長。俺は男の義理人情を踏み躙るような真似はしないぜ」
_
(;゚∀゚)「どの口が言ってんだか……。まぁいいや、弟者もそのうち出てくるだろ」
('(゚∀゚∩「よーし!それじゃあさっそく」
( ´_ゝ`)「いっただき」
( ´_ゝ`)「ま」
( ´_ゝ`)
_
( ゚∀゚) 「?」 ('(゚∀゚∩
ヽ(´<_`#)ノ「はいそこまでええええ!!」ズバァーン!!
_
Σ(;゚∀゚) 「うおおお!!」Σ('(゚∀゚;∩
-
以上です……ジョルジュの眉毛ェ……
-
眉毛乙w
楽しみが増えてほんと嬉しいわ
次も期待してます
-
「おいしいものたべて、
うんこしたらなおるよ!」
懐かしいな、たしかに名言だ
-
乙乙
兄者の約束が気になるな
妹者に会っちゃいけないのかな
-
( ^ω^)「久しぶりだおね、ショボン」
茜色に染まる放課後の教室。
昼間の賑やかさとは打って変わって、静けさに包まれた広い教室内は心なしか薄暗く
ただ遠く聞こえてくる、部活動に勤しむ生徒達の威勢良いかけ声が物寂しさを紛らわしてくれる。
そんな中でただ二人、机をくっつけて対峙する形となった、僕ともう一人の生徒。
僕の向かい側には、どこか儚げな印象を受ける猫背気味の男子学生が座っていた。
(´・ω・`)「……」
控えめに下がった眉が特徴的な、彼の名前は八又ショボン。
シャキンの基本人格である彼は、正真正銘、ここvip高等学校の三年生である。
-
今日こうして彼との面談の場を設けたのは、通常の学校生活の時間内で
シャキンの協力無しに彼と直接話をする事が極めて難しいからだ。
厳密に言えばショボンは僕の担当する生徒では無い。
だが当然、だからといって彼に何も干渉しないというわけにはいかない。
基本人格とマインドB、二人の人間の協力無くして問題の解決は在り得ないのだ。
そしてその解決するべき、ショボンが現在抱えている大きな問題は
彼が極度の対人恐怖症であり、人前に現れる事を異常に恐れる事だった。
それが弊害となって、マインドBクラスでの授業時間以外でも
ほとんどシャキンに実世界での行動を任せている状態が、中学の時からほぼ三年間も続いていた。
-
マインドBクラスでのシャキンの出席状態は完璧といっていい。
遅刻することもなく、毎日欠かさず出席し、成績も優秀。
精神年齢は高校生の域を超え、頼もしくリーダーシップ性のある性格で
クラスのみんなから親しまれる兄貴的存在だ。
だが、彼の基本人格であるショボンが所属するクラス―――
―――3年C組での八又ショボンの出席状態は酷いものだった。
学習面での能力は決して低くはない。
単純な成績だけを見れば、シャキン同様聡明で優秀な生徒と言ってもいい。
ただ、彼が授業時間中ペンを握り教師の声に耳を傾け
正当な評価を教師につけさせてくれることが出来たならばの話だが。
実際はほとんどの授業をシャキンが受け
家に帰った後、彼の部屋で人格間での特別授業が施されている模様だった。
-
大多数の人間が押し込められた狭い教室内で
授業終了までの1時間、意識を保ち続けることは彼にとって非常に難しい責務なのだ。
そのため授業と同様、テストや試験もショボンは滅多に受けようとはしない。
結局のところ彼の代わりとしてシャキンが受けることになるのだが、
彼がショボンのフリをして授業に出たり、代わりにテストを受ける等といったことは決してしない。
正々堂々がシャキンのモットーで、そういった『ズル』行為は彼が極めて嫌うものなのである。
出席時にショボンの名前を呼ばれればきちんと、自分は八又シャキンであると授業担任に訂正させ
回収された答案用紙には、大抵の場合『八又シャキン』の名が書かれているのだが、
マインドBクラスに所属する生徒の成績を評価することは出来ないので
教科担任の教師はほとほと困って、結局ショボンの成績にしてしまう。
-
この学習体勢を含めた今の生活が、ショボンにとって、そしてシャキンの双方にとって
良い結果をもたらさない事は誰が見ても明白だった。
このまま、シャキンに実生活のほぼ全てを任せ
ショボンを自分の殻に閉じ込めるままにしていては、確実に彼は駄目になってしまう。
ショボンに積極性を身につけさせ、シャキンへの依存傾向をやめさせる。
そしてシャキンにも、彼に対する過保護気味な姿勢を改めさせる必要がある。
それが、ショボンと、そしてシャキンの二人と解決していかなければならない大きな課題だった。
-
( ^ω^)「最近どうだお?何か楽しい事、あったかお?」
(´・ω・`)「……」
声をかけるが、ショボンは決して僕に目を合わせようとはしない。
少し俯き加減で、目で見てとれるほど消極的なオーラを放っている。
これがいつもの彼のスタイルなのだが、最近は本当に彼と会って会話する機会が久しく無かったので
ショボンは僕が、彼に対して怒っていると思っているのではないかと心配になってきた。
( ^ω^)「シャキンから聞いたお。今、鉄道模型に凝ってるんだっておね。
先生も子供の頃は夢中になったもんだおー」
僕は怒っていないということを分からせるために、極力声のトーンに気をつけて
沈黙の壁がどんどん広がっていかないように、一方的に声をかけ続ける。
僕の呼びかけに何のアクションも起こさず、こうして沈黙を貫いている彼だが
家族の前にさえも現れる事を頑なに拒否し続けた時期があったことを思えば
こうして面談の場を設けさえすれば、限られた時間ではあっても
教師である僕の前に赴いてくれるようになっただけ進歩したと言えるだろう。
-
(´・ω・`)「……」
不思議なものだ。
同じ人間の顔なのに、彼になると途端、不健康で、どことなくやつれて見える。
生活面でもほとんどの行動を任されているらしいシャキンは、
自分を含めたショボンの体調管理も徹底的に取り仕切っている筈だから
そう見えるのは恐らく精神的なものからきているのだろうけど。
ぼんやりと、薄い膜がかかったかのような虚ろな瞳を
決してこちらに向けようとしない、暗く影の差した顔。
もしも日頃活き活きと活動しているシャキンだけを知っている人が、今のショボンを見たら
決して同じ人間とは思えないだろう。毎日顔を合わせている僕だって半ばそうだ。
-
( ^ω^)「……ショボン?大丈夫かお?」
(´・ω・`)「……」
鉄壁の沈黙に加え、あまりにも彼の顔色が優れないので
もしかして本当に具合が悪いのでは無いかとだんだん心配になってきてしまった。
彼と面向かって話す機会が無かったここ最近、
一体ショボンがどれだけ外界の人間と接触をし、もしくは一切のコンタクトを絶っていたのか
僕にはシャキンの口から一言二言聞き出す以上に踏み入って知る術が無かった。
もしここ数日、学校でも家でもほとんど外界との関係を拒み
意識の奥深くにじっと身を沈めていたのだとしたら
こうして机を向かい合わせ、他人と顔をつき合わせている状態は彼にはきつすぎたのかもしれない。
-
もっと違う形で対話に臨むべきだっただろうか……と考えあぐね
しばしの沈黙に身を委ねていると
(´・ω・`)「先生……僕、知ってるんですよ」
唐突にショボンが口を開いた。
はっとして意識を戻すと、いつの間にか俯いていた顔を上げ、
視線を合わせるとまではいかないが、彼ははっきりと僕の方を向いていた。
( ^ω^)「え?」
あまりに小さな声だったので、これだけ距離が近くなければ完全に聞き逃していただろう。
……“知っている”?何を?
(´・ω・`)「あの人から聞いたんだ」
( ^ω^)「?あの人?……何の事だお?ショボン」
その問いに、ショボンは応えず、ただじっと僕の顔を見据えるままだ。
それは僕に何かを訴えかけている沈黙のようでもあり、そうでなければ他のどのようにも捉える事が出来た。
怒っているのか?責めているのか?それとも僕に何か救いを求めているのだろうか?
あるいはそのどれでも無いのか。
その声はか細く、表情はあまりに心許なく、何も彼の感情を読みとる事が出来ない。
-
(´・ω・`)「先生なら僕たちを」
コン、コン
(´・ω・`)「!」
突然のノック音。
続けて何かを言いかけた彼の、見開いた目が素早く扉へと走り、そしてすっと光を失う。
それはかなり控えめで、遠慮がちな小さいノックだったが
それでも彼がこの場から逃げ出したいと思う理由に至るには充分だったようだ。
ガラッ
('_L')「ブーン先生、先生に相談したいという方が……
……あ、すいません。お邪魔でしたか?」
(`・ω・´)「……」
学年主任のフィレンクト先生が扉の前に姿を見せた時、僕の前に座っていたのは
凛々しい眉が印象的な、逞しく大人びた青年だった。
( ^ω^)「……いえ、大丈夫ですおフィレンクト先生。
少し待っていて下さいますかお?」
('_L')「分かりました」
-
今日はもう駄目だな。
シャキンに協力してもらっても、ショボンはもう出てこないだろう。
これ以上の彼との面談が不可能になった事を悟り、僕は若干肩を落した。
(`・ω・´)「先生?」
( ^ω^)「お」
(`・ω・´)「上手くいかなかったんですか?」
( ^ω^)「いや、そんなことないお。もうちょっと長く話したかったんだけどおね。
……でも、ショボンも、ちゃんと自分から話もしてくれたんだお」
(`・ω・´)「そうですか」
( ^ω^)「今日はこれで良いお。また近いうちに、話そうと思うお」
(`・ω・´)「はい、お願いします先生。
ショボンの奴も本当は、変わりたいとは思っているんです」
( ^ω^)「分かってるお。ここに来る子で自分の事を諦めてる子なんていないお」
(`・ω・´)「はい。……それでは先生、僕は失礼します」
( ^ω^)「うん、協力してくれてありがとうシャキン。
気をつけて帰るんだお。また明日ね」
(`・ω・´)「はい、また明日!」
-
扉の前で待機していたフィレンクト先生にも威勢良く一礼し、
普段通りのしっかりとした足取りでシャキンは出ていった。
( ^ω^)「……あ、お待たせしましたおフィレンクト先生。
ご用件はなんでしたかお?」
('_L')「はい、ブーン先生に是非相談したいという方から先ほど連絡がありまして。
間もなく学校に来られるそうです」
( ^ω^)「というと」
('_L')「マインドBを発症した男の子の親御さんだそうです。
つい最近発症したらしく、息子さんも一緒に連れてくるとおっしゃっていました」
-
マインドB専属カウンセラーの資格を持ち
症状を持つ子供達のクラスを受け持っている事もあり
僕の元には時々こういうお客が訪れる。
心療内科に行けばマインドB専用相談窓口があるし、
無償で相談受付を行っているボランティアの支援団体もいくつか存在している。
それでも僕なんかの所へ来るのはやはり、金が一円もかからないという理由の他
学校の教師という、信頼のおける肩書きの力が大きいのかもしれない。
あまり力になれていると思うことは無いが、
それでも少しでも当人の心の支えや生活の手助けになれればと思い来客を断る事は無い。
発症者の状況によっては、僕より一流のカウンセラを薦める事もあるし
時間を見つけてちょくちょくその発症者に会って話を聞く事で、生活の手助けをしたり
自然な治療環境と通学が適任と判断した場合には、
他の専門士達と相談した上で我がマインドBクラスに迎え入れる事も稀にある。
発症者の状況も症状の度合いも、背負っているものは人それぞれ様々だ。
その発症者に一番合った改善方法は何か、それを見つける事が僕にできるほんの手助けだと思っている。
-
( ^ω^)「そうですかお。分かりました」
('_L')「なんだかとても焦燥している感じでしたが……。入学希望者でしょうかね?」
( ^ω^)「いや、それは分かりませんお。
とにかく当人も連れてきてくれるなら話が早い。直接話をして様子を伺ってみますお」
('_L')「お願いします。応接室にお通ししますので」
( ^ω^)「はいお。教室の戸締りしてから行きますお」
-
フィレンクト先生が去った後、
先程までショボンと向かい合わせに座っていた机と椅子を直す。
そしてフと、先ほどのショボンの言葉の続きが気になった。
彼は何を言いたかったのだろう。
知っている?何を?あの人とは一体誰の事だ?
まったく見当がつかない。
あの暗く重く沈んだ瞳から、何かを読み取る事は出来なかった。
教師として、カウンセラーとしての未熟さ故だろうか。
決して自分の感情を他人に悟らせない、彼の鉄の防壁を
突き崩す術を未だに僕は持ち合わせていなかった。
そして、その堅固すぎる防壁は、僕や他の人間に対して頑なに聳え立つだけでなく
まるで、彼の保護者的存在であるシャキンさえも拒むかのような……
-
( ^ω^)「……」
……まあいい。少なくとも彼は僕に何か話したい事があるわけだ。
近いうち、彼が僕に今日の話の続きをしたくなったなら、
自然と彼と対話が出来る良い機会を持てるかもしれない。
この時僕は、ショボンの言った言葉についてあまり深刻には考えていなかった。
むしろ良い傾向だと。
そう捉える事にして、僕を訪ねてやってくるマインドB患者への対応へと脳を切り替えた。
一つ一つの窓に鍵がかかっている事を確認し、教室の戸に鉄の鍵を差し込む。
夕日色に染まる無人の教室を後にして、応接室のある一階へと向かった。
-
以上4話です。近いうちにとか言っといて結構経ってますね。すいません。
あと、文丸さんにもまとめてもらってました!あざです!
-
おおお乙です!
またなんか気になる感じになってきた
-
乙乙!
微妙に不穏な匂いがしてきて続きが楽しみだ
-
おもしろいぜー!
-
ω^)チラッ
-
l从・∀・ノ!リ人「デレちゃーん、こっちこっちー!」
ζ(゚ー゚*ζ「わぁっブランコやるやる!デレこっちね!」
ニューソク町から2駅離れた、シベリア町のラウンジ公園。
小さく寂れてはいるが、遊具は十分にあるこの公園で
妹者とデレが、元気いっぱいに声を張り上げ、楽しそうにはしゃぎ回っている。
(´<_` )「……ふぁ」
そんな2人の様子を、公園隅に設けられた大きな木の下のベンチで見守るのは
学校が終わった後、電車に乗って妹者を連れてきた弟者だ。
手元には時間潰し用の文庫本を持ちながらも、実際そちらにはあまり目をくれず
若干眠そうに目を擦りながら、遊びに夢中の2人を眺めている。
-
待ってたぜ!支援
-
ζ(^ー^*ζ「わー、すごく高いよ!お空に飛んでいきそう!」
l从・∀・ノ!リ人「妹者も負けないのじゃ!」
小学4年生の妹者と、精神年齢が丁度それくらいであるデレの2人は大の仲良しだ。
デレは週に一度は妹者とこうして公園で遊べるよう、ツンと約束している。
その為、ツンはこの公園に来てデレへと人格交代し
何かあった時の為に弟者が2人を見守るという形を、VIP校に入学した一昨年からずっと続けていた。
自分達の暮らすニューソク町にもここより大きく、より手入れされた公園はある。
だが、毎回わざわざ電車に乗って2駅離れたシベリア町まで来るのは
ツンがそれを強く望んだからだった。
-
今「デレ」である彼女はああやって幼い子供同様にはしゃぎ、走り回ってはいるが
外見はVIP高校2年・津田ツンのままなのだ。
年頃の女の子、加えて優等生でプライドも高い彼女としては
同じ高校に通う生徒達や地元の人間に見られるのを恥ずかしがり、それを嫌がるのは当然だろう。
ツンの気持ちを考慮して、弟者も何も文句は言わず
こうして妹者を連れてきては、彼女らのボディガード役に徹している。
もちろん、今は制服ではなく、一度家に帰って着替えてきたツンは
汚れたり走り回っても良いよう、安物のジーンズにラフなTシャツと、ばっちり公園用の装備を固め
今は静かにデレの意識の底へと身を沈めていた。
それに、プライバシーな問題を除いても
子供も近所にはあまり住んでいないらしく、学校終わりの昼下がりの時間になってもそれほど賑わわず
弟者が妹者とデレの姿を見失わない、大きすぎる事の無い丁度良い広さのこのラウンジ公園は
ツンにとっても弟者にとっても、幼い2人の子を安心して遊ばせる事が出来る最適な場所なのだった。
-
(´<_` )「……」
弟者の意識の奥底でもう1人、その遊びに加わりたがっている大きな子供がいた。
今日一日、弟者によって謹慎を強いられた兄者だ。
学校という窮屈な場所からやっと解放され、2人の楽しそうな笑い声を聞いて
自分もはしゃぎたくてたまらないのだ。
だがここで彼が意識上に現れる事はない。
昼食の時のように、弟者が油断するのを待ち
隙あらば浮上しようと狙っている気配も感じられない。
-
それを十分理解しているから、弟者もあえて気を張る事はせず
あたかも兄者と並んでベンチに腰掛け、公園を眺めているかのように
普段通り平穏な心持ちを保つ。
『……』
脳内を反響する、いつもの喧しい軽口も聞こえず
ただ弟者の目を通してデレと妹者の様子を眺めている兄者。
その沈黙からは、誰よりも兄者に近い筈の弟者でさえ感情をよく読み取る事が出来なかった。
-
デレが、週に一度はこうして公園で思いきり遊ぶという約束を、ツンと交わしているのと同じように
弟者にも、お互いが上手くやっていける為にマインドBの兄者と約束しているルールがある。
それは、妹者とは月に3度、それも弟者と母者の承認の上でしか会ってはいけない事。
そして、妹者の前で人格交代はしない事。
この2つだった。
マインドBという複雑な疾患を理解するには、妹者はまだ幼すぎるからだ。
今はこうして、マインドBであるデレと友達として自然に接する事が出来ている妹者だが
それが身内であれば事はそう簡単にはいかない。
-
慣れ親しんだ兄が、物静かな口調で至極平穏に過ごしていたかと思えば
次の瞬間には子供のように突拍子の無い行動を取り、それまでしていた事を忘れ
記憶も、性格も、感情も、何もかも全くの別人となってしまうのだ。
最初に誰もが心配したのは、幼い妹者に混乱が生じ
精神的なショックを与えてしまう事だった。
家庭内でどちらかの親がマインドBを発症した場合
その子供の心のケアが必要になってくるケースも少なくは無い。
それが身近な近親者であればある程、当人の中に存在する、相反する2つの人格を
周囲が理解し受け入れる事は容易な事では無いのだ。
小さな子供なら尚のこと。
大人でさえも受け入れ難い、わけの分からない状況に、心と感情がその重荷を背負いきれず
幼い心に傷をつけてしまうかもしれない。それが大人達の危惧した事だった。
そこで、小学6年生の弟者にマインドBの症状が発覚した時
診断を下し、担当した精神科医と家族との間でその”ルール”は設けられた。
以来隙在らば周囲の目を盗み、盟約を破棄して妹者に会おうとする兄者に、皆は手を焼く事となる。
-
だが……
誰よりも兄者の事を大切な家族として、2人目の兄として慕っている妹者に
これ以上下手な嘘を吐いて誤魔化すことに、一体何の意味があるのだろうか?
弟者にマインドBが発症した時、ほんの幼児だった彼女ももう小学4年生。
今年で10歳になるのだ。
そろそろ大人達も、下手に隠す事をやめ、妹者に全てを明かし
ぼやかしてきた部分を、鮮明にさせる必要があるのではないか。
時が経ち、2人を取り巻く周囲の人々の認識は変わった。
妹者はおおらかな心を持つ優しい子供で、
何よりマインドBの兄者やデレに柔軟な理解を示す事が出来ているじゃないか。
妹者なら大丈夫。幼い彼女を守る努力をする期間はもう終わったのだ。
そう、誰もが思うようになった。
-
そこで今、ルールを解除する時期について
弟者と母者、ブーンの3人とで会談が行われている。
弟者の兄者に対する理解と、教師としての立場から見たブーンの判断を軸にして
話し合いは良い方向に進んでいた。
確かに兄者は稀にルールを破り、問題のある行動を起こす時もあるが
それも戒めるべき悪意は無く、兄者にしてみればほんの悪戯感覚と、純粋な愛情からくるものに過ぎない。
それに、一見自由奔放で無責任な性格ともとれる兄者だが、
彼の、弟者と妹者の兄としての責任感にはブーンも一目置いていた。
例え制限が外れたからといって、彼は決して暴走したりやりすぎたりしてしまう事は無い筈だ。
兄者は今までと変わらず弟者と妹者の良き兄でいてくれる。それがブーンの見解だった。
-
そして母者も、本心では自分のもう1 人の息子として兄者を受け入れ
彼が他の子供達と同じように、家族の一員としてごく自然に扱われる事を望んでいる。
もうすぐ、早ければ妹者が10歳の誕生日を迎える頃には
兄者も妹者の兄として、自由に毎日彼女と顔を合わせ
兄妹としてごく自然に日々をその傍で過ごすという、ささやかな日常が実現できるかもしれない。
そうなってくれたなら兄者はもちろん喜ぶし、弟者も嬉しい。
兄者が真に妹者の事を大切に思っている事を、誰よりも知っているからだ。
-
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者ー!」
(´<_` )「ん、どうした?妹者」
l从・∀・ノ!リ人「ぎっこんばったんするのじゃ!ちっちゃい兄者、早く早く!」
(´<_` )「あー、はいはい」
手招きする妹者の後ろでは、デレがシーソーの片側に座ってにこにこと待っていた。
いくら心は同い年同然といっても、デレの体は女子高生のそれ。
決して彼女が重いと言っているわけでは無いが
妹者とデレがシーソーをしても重さが吊りあわず、あのギッコンバッタンが成り立たないのだ。
妹者に手を引かれ、本を鞄にしまい腰をあげる。
-
(´<_` )「2人とも、しっかり乗ったか?」
l从・∀・ノ!リ人「ばっちぐなのじゃ!」
ζ(^ー^*ζ「弟者おにいちゃん早くー」
弟者が長い木の板の片方に跨り、デレと妹者はもう片方に2人一緒に座った。
これが、3人でするいつものシーソースタイル。
そろそろこの公園内も、学校帰りの小学生や小さい子を連れた親御さん達で僅かながら賑わってきた。
少し恥ずかしい気もするが、2人の笑顔の前ならそんな取っ掛かりなどいくらでも捨てられる。
(´<_` )「よし。いくぞー」
l从*・∀・ノ!リ人「きゃー」
ζ(^ー^*ζ「あははは!」
高校生の男女と、小さな女の子1人。
楽しそうにシーソーに乗って笑う、3人の姿が微笑ましかった。
-
(;^ω^)「ですから先程から申してます通り、うちの学校ではそれは出来ないんですお」
応接室にて、ブーンは先程から何度目かのNOの返事を喉の奥から押し出した。
(゜д゜@「どうしてですか!?私はただこの子を元のタカラちゃんに戻してほしいだけなんです!」
(,,゚Д゚)「……」
ソファから立ちあがらん勢いで、すごい剣幕で迫る中年女性はなおも早口でまくしたてる。
その隣では、だるそうにポケットに手を突っ込んだ目つきの悪い男子が
そんな彼女を睨むようにしてソファに身を沈めていた。
マインドBを発症したという息子を、半ば引っ張るように連れてきて
ブーンの力を頼りに学校へと訪ねてきた母親。
その息子は、心底うんざりしている様子を隠そうともせず、怒りを含んだ黙りを決め込んでいる。
ブーンがマインドBクラスのある3階から降りてきて、応接室に姿を見せた時から
挨拶もそこそこ、ずっとこの調子だった。
-
(゜д゜@「早く、うちのタカラちゃんを元に戻して下さいって言ってるんですよ!
先生のクラスはマインドBを発症した子を正常に戻して
世に送り出す為の特殊学級なんでしょ?」
(;^ω^)「違いますお。このクラスでの方針と目的はあくまで治療ではなく
人格それぞれにコントロール能力を身につけさせて、同じ体を持つ2人の人間として
円滑に社会生活を送れるようにする事ですお」
あまりの剣幕に若干押されながらも、これ以上相手を刺激しないよう気をつけて
その誤った認識を訂正する。
マインドBという症例自体非常に稀少で、まだまだ世の中への浸透率も低いのだ。
その治療方法についても、正しい理解が得られていないのはある意味当然だった。
-
(゜д゜@「2人の人間?何言ってるんですか!タカラちゃんは、私のタカラちゃんは……」
だが今の彼女にはブーンの言葉は届かないようだ。
鬼気迫る様子でまくしたてる女性の隣から、舌打ちが聞こえる。
(,,゚Д゚)「……っせぇなぁ、クソババァ」
(゜д゜#@「!ほら!うちのタカラちゃんはいつもニコニコ笑ってる優しい子で、こんな言葉絶対に使いませんよ!
こんな人はうちの子でもなんでもありません!早く消して!!」
(;^ω^)「お母さん、やめてくださいお。マインドBも一人の人間なんですお。
本人の目の前で、彼の存在そのものを否定するような発言は控えてくださいお」
-
(゜д゜@「何言ってるんです先生、マインドBに人権が認められていますか?いないでしょ?
これは病気なんですよ。病気なら治すのが筋の通った対処法ってもんでしょ!」
( ^ω^)「……確かに、マインドBが認識され初めてまもない頃は、
に生まれたもう一人の人格を消す―――
そういう治療方法が主流となっていた時代もありましたお」
急き立てる女性に対し、ブーンは落ち着いたトーンで説明し始めた。
( ^ω^)「でも、実際その方針を取ったマインドB完全治癒成功率は極めて少なく、
かえって人格間の相互関係に混乱を招き
本人達に悪い影響を与える結果となる事態が勃発したんですお」
-
(゜д゜@「何言ってるんです先生、マインドBに人権が認められていますか?いないでしょ?
これは病気なんですよ。病気なら治すのが筋の通った対処法ってもんでしょ!」
( ^ω^)「……確かに、マインドBが認識され初めてまもない頃は、
後に生まれたもう一人の人格を消す―――
そういう治療方法が主流となっていた時代もありましたお」
急き立てる女性に対し、ブーンは落ち着いたトーンで説明し始めた。
( ^ω^)「でも、実際その方針を取ったマインドB完全治癒成功率は極めて少なく、
かえって人格間の相互関係に混乱を招き
本人達に悪い影響を与える結果となる事態が勃発したんですお」
-
( ^ω^)「人格を消すという事は ひとりの人間を殺す事も同じ」
普段と変わらない柔らかな声の調子。
しかしその言葉には、確とした重みがあった。
( ^ω^)「自分の存在が消されると知った当人は当然恐怖を抱き、
その恐怖は自然と憎しみや敵意へと変わってしまう」
( ^ω^)「お互いどちらが生き残れるかの生存競争の相手として認識させ、関係を拗らせるよりは
信頼関係を築き、協力し合って生きる力を身につけさせる。
それが、この病気と向き合って生きていく、現時点での最も良好な手段なんですお」
-
(゜д゜@「……それって結局病気をそのまま見て見ぬフリしてやりすごすって事でしょ?
先生はそれでもマインドBの専門カウンセラーですか!?」
なんとか理解して欲しいという、ブーンの切実な訴えは彼女の心を素通りしたようだ。
変わらず続く糾弾に、あからさまな溜息をついてギコが横から口を挟む。
(,,゚Д゚)「先生、こんな分からず屋のババァに理屈説いたって無駄だぜ。
ちゃんとした病院も行ったんだ。何軒もな。でも聞きゃしねーんだから」
(゜д゜#@「あんたは黙ってなさい!」
(,,゚Д゚)「タカラの奴、もうこいつの声は聞きたくないって引っ込んじまって出てきやしねーんだ。
おかげで俺が文句の引き受け番だ。耳がおかしくなりそうだよ」
-
がんばれブーン先生
-
( ^ω^)「……ギコ君、だったかお?君のことを話してくれるかお?」
(,,゚Д゚)「話すことなんか無いよ。ババァは始終こんな調子だし。
どこへ行ったって、誰も俺の事をまともな人間として扱おうとしない。もううんざりだ」
( ^ω^)「僕のクラスではそんな事は無いお。
ここでは基本人格もマインドBも、それぞれが1人の生徒として過ごしているお」
(,,゚Д゚)「先生のクラスの事は聞いたけどさ。……そんな事信じられねーよ」
( ^ω^)「さっきも言ったおね?
同じ体を持つ2人の人間として、みんなに認められるようになるって。
社会に出て、そう出来るように手助けすることが、僕のクラスの目的なんだお」
(,,゚Д゚)「……本当にそんなこと出来るのかよ?」
( ^ω^)「少なくとも、今の君の助けにはなれるお。
そうだ。ギコ君が良かったら、一度うちのクラスの子達と会ってみるかお?」
( ^ω^)「みんな、ギコ君と同じマインドBの子達なんだお。
僕もなんでだって話を聞くし、きっと、少しでもギコ君の力になれると思うお」
(,,゚Д゚)「……」
-
(゜д゜@「結構です!こんな学校にうちのタカラちゃんを入学させたりしないわ!もう帰ります!」
(,,゚Д゚)「!」
(;^ω^)「お。でもお母さん。ギコ君とタカラ君には、何かしらのサポートを受ける必要が」
(゜д゜@「もっと大きくてちゃんとした治療をしてもらえる病院に行きます!
ほら、さっさと行くわよ、立ちなさい!」
(#゚Д゚)「……!」
ガタン!!
(#゚Д゚)「っせぇババァ!もうこんな無駄な診療所巡り、飽き飽きなんだよ!」
バン!!
机に強く両手を叩きつけ、荒々しく立ちあがると
ブーンが反応する間も無く、乱暴に戸を開け放ち、ギコは走り去ってしまった。
-
(゜д゜@「結構です!こんな学校にうちのタカラちゃんを入学させたりしないわ!もう帰ります!」
(,,゚Д゚)「!」
(;^ω^)「お。でもお母さん。ギコ君とタカラ君には、何かしらのサポートを受ける必要が」
(゜д゜@「もっと大きくてちゃんとした治療をしてもらえる病院に行きます!
ほら、さっさと行くわよ、立ちなさい!」
(#゚Д゚)「……!」
ガタン!!
(#゚Д゚)「っせぇババァ!もうこんな無駄な診療所巡り、飽き飽きなんだよ!」
バン!!
机に強く両手を叩きつけ、荒々しく立ちあがると
ブーンが反応する間も無く、乱暴に戸を開け放ち、ギコは走り去ってしまった。
-
(;^ω^)「あ、ちょっギコ君!待ってくれお!ギコくーん!!」
(゜д゜@「………」
(;д;@ ブワッ
(;д;@「……もうあんな人知らないわ!
私のタカラちゃんを返してよ!!」
(;^ω^)「お、お母さん!?待って下さいお!!せめて連絡先を―――!!」
居た堪れない空気が数秒。そして、突然泣き出した母親までもが
部活で遅くまで残っている生徒達が目を丸くする中、脇目も振らずに廊下の彼方へと姿を消した。
-
(;^ω^)「……Oh……」
親子が去り、1人取り残された応接室。
唐突な事態に呆気に取られ、身動きできないブーンに代わって
追うのは無駄と判断したロマネスクが、やれやれ、といった様子で元の席へ腰を降ろした。
(;ФωФ)「凄まじい剣幕のご婦人であったな。我輩耳が痛いわ」
一つ深く息を吐くと、柔らかいソファに身を沈め
痺れてしまった聴覚を正常に戻そうとするかのように、軽く首を振る。
流石の猛将・ロマネスクも彼女の剣幕には気押されてしまったようだ。
最も彼がその場をブーンに任せ、親子との話し合い中一切姿を見せなかったのは
何もあのオバサンの迫力に萎縮し逃げ腰になったからという理由では無く
それぞれの担う役割というものを、端然と踏まえているからなのだが。
-
(;^ω^)「2人とも行っちゃったお……。なんてこったい」
( ФωФ)「結局こちらからは何も手は出せず、か」
テーブルに並べられたまま結局誰も手をつけなかった、来客用の良質の茶に手を伸ばし
ブーンに出されたそれを啜る。
渋い。
( ФωФ)「だがあそこまで取り乱すのも、無理は無い事かもしれんな。
実の親御であれば尚更だ」
( ^ω^)「だお。一概にあのお母さんの言う事が間違ってるとも言えないお」
( ФωФ)「ああ。
……難しいことであるな。全てを受け入れろというのは」
( ^ω^)「無理もないお。
特に身内にとっては、それまで普通に暮らしてた家族が
いきなり全くの別人になっちゃうんだから。
すぐにそれを受け入れろって言っても、無理な話だお」
( ФωФ)「ふむ。……マインドBが、ただ障害としてでは無く
一つの個性、個人として認められる世の中になればいいのだが」
( ^ω^)「それを実現させるのが、教師を目指した時からずっと僕の、僕らの目標だお!」
( ФωФ)「うむ。もちろんである」
-
( ФωФ)「しかし、あのギコという少年が気になるな。
あのままではとても、まともな治療やセラピーが受けられるとは思えん」
( ^ω^)「でも結局連絡先も何も分からずじまいだったお……」
( ФωФ)「ああ。だがあの2人、既にいくつかの治療機関を巡回済みのようであったな」
( ^ω^)「……お!」
( ФωФ)「この町付近の心療関係の知り合いをあたれば、
ギコの情報を掴む事が出来るかもしれんぞ」
( ^ω^)「だお!その可能性は大だおね。
さっすがロマネスクだお。さっそく何人かに電話してみるお!」
-
道が見えなくなってしまったと思った時でも、ロマネスクがいれば心強い。
ブーンは元気を取り戻し、鞄から取り出した手帳をパラパラと捲った。
そして、例え自分の生徒でなくても、助けを必要としている子供がいれば放っておけない。
そんなブーンの御節介焼きに手を貸すのも、ロマネスクは悪い気はしなかった。
ブーンの力になれる事がいつも誇りだった。
これから先もずっと、自分にとってもブーンにとっても、それは変わらないだろう。
-
( ・∀・)「やぁ!君、ギコ君って言うんだろ?
君の事は知っているよ。君が何を必要としているのかもね」
怒りに任せて学校を飛び出してからどれ位経っただろう。もう日も暮れてきた。
行く当ても無ければ、帰る場所だってどうせ無い。
ぶつけようの無い苛立ちを、ふつふつと沸き立たせながら
馴染みの無い町をぶらついていた、ギコの目前。
いやに馴れ馴れしい声音で自分の名を呼ぶ男が、電柱に寄りかかって笑っていた。
-
( ・∀・)「やぁ!君、ギコ君って言うんだろ?
君の事は知っているよ。君が何を必要としているのかもね」
怒りに任せて学校を飛び出してからどれ位経っただろう。もう日も暮れてきた。
行く当ても無ければ、帰る場所だってどうせ無い。
ぶつけようの無い苛立ちを、ふつふつと沸き立たせながら
馴染みの無い町をぶらついていた、ギコの目前。
いやに馴れ馴れしい声音で自分の名を呼ぶ男が、電柱に寄りかかって笑っていた。
-
その男の存在で真っ先に目を惹いたのは
まったく傷んでいる様子の無い――天然色なのかもしれない――月の光のような金髪。
外見的には、20代後半といったところだろうか。いや、もっと若いかもしれない。
イケメン。
彼の容姿をなるべく短く、簡素な言葉でまとめる必要があるとするなら
そのカタカナ四文字で充分事足りるだろう。
だが、決して大口というわけでも無いのに
固まったまま貼り付けられたような、笑っている口だけが
その整った顔の中でやけに強く存在を主張していて、その、どこか作りモノのような笑みが
美形の優男という単調なイメージに、アンバランスな不自然さを生み出していた。
(,,゚Д゚)「ああ……?」
怪訝な表情で男を見やるギコの前、それは軽やかに柱の影から躍り出た。
-
( ・∀・)「完全なひとりの人間になりたくはないかい?
もう二度と誰からも、君がただの分裂した人格だの、想像の産物だなんて言わせないよ」
(,,゚Д゚)「あんた誰だ?」
( ・∀・)「名前なんて大した意味は無いが、今は、モララーと名乗っておこうかな。
君を助ける事が出来る人間だ」
モララーと名乗るその男の美しさや、爽やかでカリスマ性のある外見と反して
口から出てくる言葉ははっきり言って胡散臭さMAX。
心の警報がたちまち喧しい音と光を出して騒ぎ出した。
(,,゚Д゚)「?……あんた精神科医か?セラピスト?」
もしくは詐欺師かペテン師か。そうでなければ頭のイかれた宗教団体の勧誘か?
-
(,,゚Д゚)「ふん、本当にそんなこと出来るのかよ」
( ・∀・)「僕なら君にそうしてあげる事が出来るよ。君だけが本当の人間になる。
もう、人の影にコソコソ隠れて出てこようとしない意気地無しや、
君の事を認めようとしない、あんな女に付き合うのは嫌だろ?」
――――“あんたは人間じゃないわ!!”
赤の他人である女の金切り声が、耳の奥で劈いた。
まったく予期しなかった電流。
不意を突かれ、警戒と不信感に身を固めていたギコは―――
その思いがけないショックに、築きあげた防壁に微かな穴隙を穿ってしまった。
-
不穏な気配
-
(,,゚Д゚)「……タカラはどうなるんだよ?」
( ・∀・)「君がそんな事を考える必要は無いさ。彼は不要な人間だ」
(,,゚Д゚)「どういうことだ?」
( ・∀・)「君がこの世に現れたのがその証明さ。マインドBは新人類なんだ。
この世界に相応しい、真の人間こそがマインドBであり君だ。
もう1人は不要になったんだよ。だからこの世界には、新たに君が必要となった。
そうだろ?」
(,,゚Д゚)「……」
やはりこの男は怪しい。というか多分、頭がおかしい。
言ってる事はわけが分からないし、そのツクリモノじみた笑顔からは
どことなく危険で、不穏なオーラさえ感じる。
-
……なのに、心の奥底では
この男の言葉に惹かれはじめているのは何故だろう。
俺だけが ほんものの人間になる。
―――駄目だ、飲み込まれるな。
ギコは軽く頭を振った。
-
(,,゚Д゚)「……よく分かんねーけど」
(,,゚Д゚)「でも、あの学校の先生は、俺達が2人の人間として生きていけるようになるって言ってたぞ。
その手助けをしてくれるって」
( ・∀・)「ははっ!そんなこと信じちゃいけない」
( ・∀・)「そう言って油断させながら、君を消してしまうつもりだよ」
(;゚Д゚)「……!」
( ・∀・)「そんな言葉を信じちゃいけないよ。奴らの言うことはなにもかも」
ただの、キレーゴトなんだから。
そう言って、宵の空に輝く金色の髪をした男は、三日月のように笑った。
-
5話は以上です。レスありがとうございますす!
いきなりほぼ1ヶ月放置だと?すまぬ…すまぬ…!!
遅くなった理由はオバチャンパートとモララーの胡散臭さに我ながらイラァ…してしまったからです。嘘です。
前回投下した分を読み直したら、地の文の間隔がぎちぎちで読みにくかったので
今回その辺余裕を持たせるように意識してみましたが、如何でしょうか?
あと今更ですが2話のしぃの話で"共存意識"って言ってたの、正しくは“共在意識”ですね。お恥ずかしい!
何か質問等あればお気軽にどぞー
-
楽しみな分待ち遠しかったわ
十分読みやすいしなんだか物語が大きく動きそうな気配がしてまたたのしみだ
乙乙
-
おつ。
-
おつおつー
-
いいとこで続きやがって
次も楽しみにしてるぜ
-
乙おつー
続きが楽しみだ
-
妹者とデレかわいい
続き期待
-
超待ってる
-
「妹者、なに描いてるの?」
「お花畑!」
「そっか、いっぱいお花描いたんだな。
じゃあ、この女の子は誰?」
「いもじゃなのじゃ!」
「へー、かわいく描けてるな。
隣にいる、この人は?」
「あのねー、おとじゃおにいちゃん」
「ああ、俺かぁ。
……ん?」
「じゃあ、この人は?妹者の左にいる」
「これはねー、あにじゃ!」
「……あにじゃ?あにじゃって誰?」
「あにじゃは、あにじゃなのじゃ!」
-
妹者は不思議な子だった。
「いーもじゃ!遊ぼ!」
本人すら認識していなかった、弟者の中に存在するもう1人
―――悪戯好きな男の子の存在を、最初に発見したのは
他の誰でも無く、当時たった4歳の妹者だった。
-
その理由の一つは、兄者が特別、妹者の前にだけ多く現れたから。
兄者は妹者以外の家族の前には滅多に姿を見せなかったのだ。
何故なら
妹者の母親らしい、この家の中でも一番強そうな女の人は
以前悪戯が見つかった時に怒られたので怖かったし
中学生の女の子は、同じ年頃の友達の家に遊びにいったり
宿題や勉強をするのにいつも忙しそうで自分とはちっとも遊んでくれない。
他にも誰かいるのかもしれなかったが、あまり興味は無かった。
そんなわけで、この家の中で兄者が一番大好きなのは、小さくて可愛い、無邪気な妹者だった。
いつも2人で絵を描いたり、人形や、弟者のおもちゃを使ってごっこ遊びをして遊んだ。
-
「真ん中がいもじゃでー、こっちはあにじゃなのじゃ」
「じゃあこいつは?この、妹者の右にいるやつ」
「おとじゃおにいちゃん!」
「ふーん……」
いつものように、妹者の部屋でスケッチブックを広げ、思い思いに絵を描いていた兄者と妹者。
描いた絵について楽しそうに説明する妹者の話を聞いていた兄者は
色鉛筆の平らな缶のケースに貼られている「流石 弟者」と名前の書かれたシールを見ながら
前々から疑問に思っていたことを口に出した。
「なー妹者、“弟者”って誰?」
.
-
「いもじゃのおにいちゃんなのじゃ!」
「お兄ちゃん?妹者のお兄ちゃんは俺だろ?」
「もう1人のおにいちゃんなのじゃ。あにじゃ、会ったことないの?」
「知らないなぁ。
……そいつ、この家にいるのか?いつも何してるんだ?」
「おとじゃおにいちゃん、あにじゃがいるときはいないのじゃ。
ねんねしてるのかな?」
「ふぅん。
でも、みんながさぁ、俺のこと兄者じゃなくて、弟者って呼ぶんだよ。
おかしいだろ?」
「きっと、あにじゃとおとじゃおにいちゃん、そっくりだからまちがえてるのじゃー」
「そうなの?そいつと俺、似てる?」
「うん。そっくり!」
-
「へー、おもしろいな。じゃあみんな、俺のこと“弟者”だって思ってるんだ」
色鉛筆をくるくる回し、しばらく黙り込む。
やがて、新しい遊びを思いついた時のような顔をして、にぃっと笑った。
「よーし。
じゃあ俺は、見破られないようにそいつのフリしてみんなを騙そうかな」
「だますの?」
「騙すっていったって、悪いことするわけじゃないよ。
ほら、いつもごっこ遊びするだろ?あれと一緒」
「ごっこなのじゃ!」
「そ。誰にも俺のこと、弟者じゃなくて兄者だって、気づかれないかゲームしよう!」
-
「いいか?俺が本当は兄者だっていうのは、俺と妹者だけの秘密なんだ。
俺はみんなの前で弟者のフリするから、妹者はそのこと言っちゃだめだよ」
「うん!きっとみんな分かんないのじゃ」
「ふっふっふ。気づかれないさ、誰にも」
それからは「弟者」と呼ばれると返事をし
家族の前に出る時も「弟者」として振舞うようになった。
悪戯が何より好きな兄者にとって
自分がみんなを騙しているスリルを味わうのと、その人達の反応を見るのは面白かったし
そもそも兄者には、呼ばれる名前が兄者だろうが弟者だろうがどうでも良かったのだ。
誰もが自分の事を、自分とは違う他人の名前で呼んだとしても
ただ1人妹者さえ、自分が兄者であると分かってくれていたなら、それで良かった。
-
「妹者、今日は何して遊んだの?」
「あにじゃとかいじゅうごっこして遊んだのじゃ!」
「この絵、妹者が描いたのかい?上手だねぇ」
「ううん、あにじゃが描いたの!」
.「ねぇ妹者、”あにじゃ”ってどんな子なんだい?」
「男の子。おとじゃおにいちゃんとそっくりなの。
いもじゃといっぱい遊んでくれるの!」
.
-
その頃、“あにじゃ”の名前を頻繁に口に出すようになった妹者に対して
周囲はその存在を、小さい子供にはよくある”見えないお友達”だろうと解釈した。
通称『イマジナリーフレンド』と呼ばれるものだ。
空想の中だけに存在する、本人以外には見えないお友達。
人間関係という概念に未だ慣れていない、幼い子供に割と起こりやすい現象である。
何故妹者がそんなものを作り出したのか、
考えられる理由の一つに、まず、環境の変化によるストレスが疑われた。
妹者は今春幼稚園に入園したばかり。
特に通園を嫌がる素振りも無く、毎日楽しく通っているように見える妹者だったが
もしかしたら、不慣れな環境や初めての人間関係に少し疲れてしまったのかもしれない。
お迎えに行くと、仲の良い友達に元気よく手を振って
家までの道すがら、その日の昼食やお遊戯の事を楽しそうに報告するのに
家では部屋で空想上の友達と遊んでばかりいる。
そんな幼い娘のことを、母者も父者も心配した。
-
でも幼稚園では友達も沢山いるようだし、明るい性格の妹者は友達作りに積極的だ。
それに、なんといってもまだ幼い子供のこと。
大人達が難しく考える程、そんなに深刻な事態では無いのかもしれない。
『そういうことは妹者ちゃんくらいの歳の子には、割とよくある事なんですよ』
『妹者ちゃんは明るい子ですし、同世代の子の中でもコミュニケーション能力は高い方です。
そのうち現実の対人関係をきちんと学ぶことが出来るようになれば
成長するにつれて、その”見えないお友達”も自然と消えることでしょう』
相談を持ちかけた幼稚園の教員にもそう元気づけられて
母者と父者は安心し、しばらくは妹者が空想の友達と遊ぶのを静かに見守ることにした。
-
―――だが、大人達の安心をよそに
その”見えないお友達”の行動は、時が経つにつれ次第に目立つようになってきた。
それは大抵の場合、ちょっとした些細なことだったが。
何故かいつも、主な被害を被ることになるのは、妹者の8つ年上の兄・弟者だった。
弟者が知らないうちに、自分のノートに落書きされている。
いつも整理整頓を心がけている弟者の部屋が、いつの間にか本やおもちゃで散かっている。
弟者の持ち物が、妹者の部屋や、本人が置いた記憶の無い場所で見つかる。
そういった出来事が、しょっちゅう起こった。
そんな時妹者に尋ねると、決まって「あにじゃがやった」というのだった。
これにはどう対応したら良いものか、流石の母者も頭を悩ませる事になる。
子供の躾には人一倍厳しい母者。
だが、妹者が実際にそういう事をしている所を目撃した事も、証拠も無い以上
いくら4歳の子供とはいえ、本人がしていないと言い張る事をしつこく言及する事は出来なかった。
それに実際、妹者がいない時や眠っている時にも度々そういう事が起こるので
それらのちょっとした現象はますます不可思議で、解決法も見つからなかった。
-
そして、弟者はというと。
その頃から時々急に意識を失い、気づくと時間だけが経っていて
その間の記憶は一切無く、どうやってそこへ来たのかも全く分からない場所に立っていたり
自分がやった覚えも無いことを友達や家族から聞かされる、というような事を度々経験していた。
もちろん、ずっとおかしいとは思っていたものの
いくら考えてもこの不可思議な現象の原因が思い当たらない。
更に、頭の中で誰かの声が聞こえる事も稀にあった。
その声は不明瞭で、自分に話しかけている風では無く、何を言っているのか聞き取れない。
ノイズのように唯耳障りなだけの雑音にも聞こえるが、かろうじて人の声である事だけは判断出来た。
この謎の声の正体がなんであるにせよ、意識を喪失し、無自覚で行動する事に加え
頭の中で誰かの声が聞こえるだなんて、明らかに異常だ。
―――自分は頭がおかしくなったのだろうか?
そういえば母者や友達から、最近よくぼぅっとしている所を見ると聞かされた。
意識を失っている間、自分がそんな状態で勝手に歩き回っているかと思うとぞっとする。
-
薄々、自分の持ち物が知らぬ間に移動している時等は
妹者ではなく、自分が無意識中にやった事なのかもしれないと感じていた。
意識を失っている間の自身の行動について、弟者は
精々夢遊病患者のように、ふらふら徘徊する程度のイメージしか持っていなかった。
あまり信じたくはないが、本当にトランス状態になっているとするなら
無自覚に物を違う場所に置いたり、部屋を散らかす事くらいはするかもしれない。
―――だが、まさかその間、自分がまったく別の人間となって好き勝手動き回り
妹者と遊び、喋り、絵を描いているなんて夢にも思わなかったのだ。
誰かに相談する事も考えたが、こんな事が知れたら頭がおかしいと思われるかもしれない。
そうでなくても、何か、重い病気だったとしたら?
それを告げられるのが怖かった。
得体の知れない恐怖と不安がじわじわと募る。
でもせめて、人に変人扱いされる前に少しでも自分で原因を突き止めたかった。
-
どうしても意識を保てず、暗い穴にすっと落ちていく瞬間、咄嗟に時計を見る。
計った結果、喪失する時間は一日のうち長くても2〜3時間。
今のところ生活に然したる支障は出ていないし、頑張れば意識を手放さずにいる事が出来た。
意識を保とうとすればするほど、頭の中の雑音は一層喧しくなるが
しばらく気を集中して耐え続ければ、それは自然といなくなるのだった。
そうして弟者は、その不思議な現象の正体を突き止めることを胸に決め
努力の甲斐あって、意識喪失の回数も除々に減りつつあった。
今では自分を暗い穴へと引っ張る”なにか”の力を、数回に一度は抑えこむ事が出来る。
このまま、意識をずっと保ち続け、時間が失われるのを完璧に防ぐ事が出来れば。
この理解不能の現象に振り回される心配をしなくて良くなる日が来るかもしれない。
希望が垣間見え、弟者には事態が良い方向へと進んでいるように思われた。
とはいえ時々は、自分がやった覚えも無い事で
困った事態に陥る事もしばしば起こった。
.
-
「弟者、何があったのかちゃんと言ってごらん」
「だから知らないってば!俺じゃないよ!」
一度、近所に住む小さい子供の親が、うちの子がお宅の長男に叩かれたと言って
母者に文句を言いに家まで怒鳴り込んできたことがあった。
だが弟者には全く身に覚えが無い。その時間は例の意識喪失を起こしていたからだ。
かと言って、常識的に考えて無意識中にそんな事が出来る筈も無かった。
「俺じゃないって言ってんのに!」
「そりゃあたしだって、あんたが理由も無しにそんな事する子だとは思ってないよ。
でも近所の奥さんも、あんたがその子のこと叩いてるの見たって言うんだから……。
弟者、あたしは何があったのか知りたいだけなんだよ」
そんな事を言われたって、まったく身に覚えが無いことを説明出来る筈も無い。
自分がやったのではないと何度言っても、どうしても信じてくれない母者に腹が立ち
「……知らない!!」
「弟者!」
我慢出来なくなって、部屋へと駆け込んだ。
-
「弟者」
「………」
夜になって、弟者の部屋を訪れた母者が、その背中にそっと声をかける。
「妹者から聞いたよ。妹者の人形取り返してあげたんだってね」
部屋の中心、地べたに座りこちらに背を向けている弟者は
目の前に広げた自由帳にむかって、鉛筆でガリガリと何か描いているようだった。
「だからその子の事叩いたりしたんだろ?」
「……そうだよ。あいつ、妹者を泣かせたんだ」
まだ怒っているのか、手を休めず振り向きもしないまま投げやりに答える。
だが不思議と、その声音に棘は感じられなかった。ただ、事実を淡々と話している感じだ。
「妹者をいじめたんだもん。
妹者を泣かせたんだから、そいつも泣かしてやったんだよ」
「なるほどね。あんたがなんでそんな事したのか、これで分かったよ。
理由を最初から話してくれたら、あたしも頭ごなしに叱ったりしなかったのに」
「………」
-
「……母者?なに?……さっきのこと?
だから、俺は知らないって言ってるじゃないか。
ったく……」
ぶつぶつとそう言うと、またすぐプイと顔を前に戻す。
そして、自分の前に広げていた自由帳や鉛筆を怪訝そうに見下ろしたかと思うと
さっさと片付け、乱暴に引き出しにしまって、ついでに部屋の電気も消してしまった。
「俺、もう寝るからね。
……おやすみ」
顔も合わせないまま素っ気無くそう言って、闇の奥へと消えていく。
「……ああ、わかったよ。
おやすみ、弟者」
……まったく、この年頃の子ときたら扱いにくい事この上ない。
まあ、いい。とにかく、納得出来る理由を知ることが出来たのだから。
妹を思っての行動に免じて、今回の件はこれで終わりにする事にし
灯の消えた弟者の部屋を去った。
-
>>219の前
「でもいいかい、これからは何か腹が立つことがあっても
自分より小さい子に手をあげたりしちゃいけないよ。
いいね?弟者」
「………」
「弟者?」
「………」
「………?」
ようやくこちらの呼びかけに反応を示した弟者は、きょとんとした顔で振り返り
母者が部屋の入り口に立っているのを見ると、途端、むっとして顔をしかめた。
-
「……母者?なに?……さっきのこと?
だから、俺は知らないって言ってるじゃないか。
ったく……」
ぶつぶつとそう言うと、またすぐプイと顔を前に戻す。
そして、自分の前に広げていた自由帳や鉛筆を怪訝そうに見下ろしたかと思うと
さっさと片付け、乱暴に引き出しにしまって、ついでに部屋の電気も消してしまった。
「俺、もう寝るからね。
……おやすみ」
顔も合わせないまま素っ気無くそう言って、闇の奥へと消えていく。
「……ああ、わかったよ。
おやすみ、弟者」
……まったく、この年頃の子ときたら扱いにくい事この上ない。
まあ、いい。とにかく、納得出来る理由を知ることが出来たのだから。
妹を思っての行動に免じて、今回の件はこれで終わりにする事にし
灯の消えた弟者の部屋を去った。
-
―――たまに発生する、そういったトラブルに弟者が巻き込まれることは何度かあったが
それでも誰も、この家に弟者の他にもう1人、男の子がいることには気がつかなかった。
小さな妹者の他には誰も。
覚えの無い記憶や時間喪失に、弟者が1人悩んでいても
兄者にとってはその日常に何ら不都合な事は無く、弟者の存在自体知らないまま
学校でも家でも、好きな時に出てきて、好きなように遊んだ。
そうして毎日は、表面上は静かに、変わらず過ぎていった。
-
―――弟者が5年生を終え、春から6年生になる新学期間近のある日。
その日の午後、クラスの友達と遊びに公園へ出かけたのは弟者だったが
その友達と日が暮れるまで思いきり遊んで、体中汚して帰ってきたのは兄者だった。
汚れた服に土のついた顔もそのまま、自分の部屋(実際は弟者の部屋だが)に戻る。
そうしてすぐ、勉強机の上に
目新しい綺麗な本や、新しいノートが整然と並べられているのを見つけた。
まだ一切手がつけられていない、6年生用のぴかぴかの教科書やノート。
「………」
それらを手にとって眺めているうちに、兄者はいい事を思いついた。
黒いフェルトペンを取り出して、キャップを外す。
前々から、自分の持ち物全部に他人の名前が書かれているのは
気に入らないと思っていたのだ。
-
その日の夕方、買い物から帰ってきた母者に真っ先に弟者が泣きついた。
弟者に手を引かれるまま部屋に入った母者が見たのは
新学期から6年生になるのに備え、買い換えた新品のノートや何冊もの新しい教科書が
勉強机の上に乱雑に散らかっている惨状。
それだけなら特に驚く事も無いのだが、その教科書やノートを見て母者はぎょっとした。
どの冊子の名前欄にも 黒い文字ではっきりと
「流石 兄者」 という文字が書かれていたからだ。
弟者はもちろん、自分が書いたのでは無いと言い張る。
自分が書いた筈が無かった。
-
面白い 支援
-
あまり字が上手じゃない子供が書き殴ったような拙いその字は、一目見ても
小学生ながらにきっちりと均整の取れた弟者の筆跡とは違っていた。
かと言って弟者の他に、中学生の長女がそんな子供じみた悪戯をするわけが無いし
平仮名も満足に書けない4歳の妹者が漢字を書ける筈が無い。
その教科書やノートはずっと弟者の部屋に置かれていて
部屋の鍵を持っている弟者以外に誰も出入りはしていない筈だ。
一体誰がこの名前を書いたのか、母者にも弟者にも全く分からなかった。
……しかし、ノートに書かれた「兄者」の名前には、みんなが聞き覚えがあった。
まさかと思いつつも、母者が妹者に尋ねる。
すると彼女はやはり、いつものように無邪気にこう言うのだ。
「あにじゃがやった」
と。
流石に、この不可解な出来事には母者も得体の知れない不気味さを感じ
問題を解明しない訳にはいかなくなった。
-
「あにじゃがいるんだもん。ほんとに、あにじゃがいるんだもん!」
妹者がいつも持ち歩いている、お気に入りのスケッチブックには
自分や弟者とともに、その”あにじゃ”を描いた絵が何枚もある。
その絵を指差しながら、妹者は必死に訴えた。
絵の中では、妹者と弟者、そして妹者の言う”あにじゃ”が手を繋いで笑っている。
温かな配色のクレヨンで塗りたくられた、普段ならば微笑ましく見える筈のその絵さえも
今この状況では何ともいえない不気味さを感じてしまう。
「いい加減にしな妹者、そんな子何処にもいないでしょ。
全部、妹者が作ったお話なんでしょ?」
「ちがうもん!」
母者に、今までに無いくらい怖い顔で問いただされても
空想の友達を信じて疑わない4歳の女の子は、居もしない子供の存在を断固として否定しなかった。
「いもじゃ、いつもあにじゃと遊んでるもん。
おとじゃおにいちゃんの本に、おなまえ書いたのだって―――」
-
「妹者!嘘吐いちゃ駄目だよ、正直に言いなさい。
弟者の本にイタズラしたのも、妹者なのかい?」
「ちがうもん!あにじゃがやったの!」
「いい加減にしなさい妹者!!」
「……っ!いるんだもん、ほんとに、あにじゃがいるんだもん……っ!!」
とうとう泣き出した妹者を前に、母者も困り果ててしまった。
実際、今回の事件の犯人が妹者だとは母者だって思っていない。
4歳の小さい女の子にこんな事は出来ない。そんな事は深く考えなくても分かる。
―――じゃあ、一体誰が?
もしかして本当に、妹者の言う見えない誰かがこの家にいるというのだろうか?
まさか。
-
ktkr支援
-
「うああぁん、あにじゃぁ……っ!」
「………」
その様子を、妹者の部屋の前で恐る恐る覗いていた弟者は
不意に、意識が暗い、深い穴にすぅっと吸い込まれていくような、奇妙な浮遊感を感じた。
いつも時間を失う前に感じる、あの感覚だ。
今日はいつもより唐突に、強引ささえ感じた。
咄嗟に意識を保とうと試みる。だが、今日に限ってどうしても
自分を穴に引きずり落とそうとする“なにか”を退ける事が出来ない。
あ、落ちるな。
意識を手放す瞬間、頭の奥深くで
「妹者が泣いてる」
はっきりと、誰かの声を聞いた。
.
-
支援
-
いいよいいよー
-
「妹者、どーしたの?」
さっきまで、自分の新品の教科書やノートに落書きされた事でひどく動揺し、目に涙さえ浮かべていた弟者が
まるで何事もなかったかのように、平然とした様子で母者と妹者の前にふらふら歩いてきて
妹者と目線が合うように屈むと、涙に濡れたその顔を、不思議そうに覗き込んだ。
「どした?誰かに泣かされたのか?」
前々から弟者には、妙に気分が変わりやすいところがあるのを知っていた母者だったが
今回のこの変わりようには流石に唖然としてしまった。呆れ混じりの溜息をつく。
「……弟者、今は部屋に行っといで」
「なんで?妹者が泣いてるのに?
……おばさんが妹者を泣かしたのか?」
「……はぁ?」
「妹者をいじめるのは許さないぞ」
怒りを含んだ表情で、むっとして自分を見上げる弟者の顔を
母者は困惑しつつまじまじと見入った。
-
「何言ってるんだい弟者、いじめたりするわけないだろ。
妹者が”兄者”がいるって嘘ばっかり言うから……」
「妹者は嘘つきなんかじゃない!
だって、俺はここにいるもん。な、妹者!」
「え?」
「ひぐっ……あにじゃぁ……っ」
「そーだ妹者、遊びにいこ!
今日、みんなで作った秘密基地教えてあげる。だから泣きやんで」
その男の子は片手を伸ばすと、にっと笑って妹者の頭を撫でた。
「……うん!」
「よーし決まり。行こう!」
-
「ちょ、ちょっと待ちな弟者。弟者?」
「もう弟者ごっこはやめた。
今度は妹者と秘密基地で遊ぶんだ」
「……!?」
ぞっとして母者は弟者の顔を凝視した。なにかおかしい。
やけに子供っぽく、あっけらかんとした口調。
掴みどころの無い飄々とした表情、顔つき。
―――弟者と違う。
改めて見てみても、それは、生まれてから今日まで育ててきた自分の息子とは
声の調子も雰囲気も、笑い方さえ何もかもが別物であると、本能的にそう感じた。
今、妹者の手を引いて連れていこうとしているのは、自分のよく知る息子じゃない。
―――どこかよその、別の子だった。
.
-
「あにじゃ、いこっ」
「おう!いいか妹者、秘密基地なんだから、場所は内緒だぞ。
他の誰にも―――」
ガッ!
「弟者!?……あんた、弟者……だよね?」
気がつくと母者は、咄嗟に弟者――だと思う――その子の肩を両手で掴んでいた。
思ったより大きな声が出て、心配と動揺のあまり肩を掴む手にも力が入ってしまった。
その剣幕に、今まで飄々としていた彼も、ひっと小さな悲鳴をあげる。
目を覚まさせるように、掴んだままの肩を軽く揺すった。
-
「大丈夫かい弟者、しっかりしな!!」
「え、大丈夫だよ?俺は……」
母者の気迫に怯み、男の子の顔が引き攣る。
妹者が、不安そうにこちらを見上げている。
普段肝が据わりきっている母者も、この時ばかりは軽いパニックに陥っていた。
―――だが心の奥では、今自分の目の前にいるのが誰なのか、気づきつつあった。
.
-
先程はつい大声をあげてしまったが、これ以上驚かせれば
どれだけ強く掴んでいても、この子は簡単にこの手をすり抜け逃げていってしまうだろう。
直感でそう感じた。
声のトーンに極力気をつけて、ゆっくり、慎重に言葉を選ぶ。
「………あんた、弟者だよね」
「………」
「………弟者じゃないの?」
「………」
-
「…………”兄者”なのかい?」
思いきって、その名を口に出す。疑惑は既に確信に変わっていた。
一瞬、驚いた様子で目を見開き、何か言いかけてから―――咄嗟に口を噤む。
しかし、目の前の母者の真摯な表情を前に、ついに逃げられなくなったと悟ったのか
悪戯が見つかってしまった時のような、バツの悪い表情を浮かべて
「うん」
兄者は小さく頷いた。
-
+ + + + + + + + + + + +
妹者は不思議な子供だ。
他の誰もが騙されてしまう、兄者お得意の「弟者のふり」も妹者だけには通用しない。
ただ一目見ただけで、自分の目の前にいる相手が誰なのか
例え姿は同じでも、妹者はいつだって見分ける事が出来る。
それは、弟者が兄者でも。ツンがデレだとしても同様に。
妹者の曇り無いまっすぐな瞳には、ありのままのその人の姿が映し出されるのだった。
だから、公園で遊んでいる時
妹者の目に映るデレは、17歳の女子高生の姿では無く
自分と同じ年頃の、無邪気で元気な幼い少女の姿なのだ。
.
-
+ + + + + + + + + + + +
「弟者」
時間は、丁度ブーンと親子が学校の応接室にて話し合いをしていた頃に遡る。
名前を呼ばれた気がして、弟者はハッと顔をあげた。
勉強疲れのせいか少しぼぅっとしていたようだ。
咄嗟に妹者とデレの方に目を向けると、見知らぬ男が2人の前に立ち、何やら話しかけていた。
瞬間、心臓が跳ねる。
-
何時の間に公園内に入ってきたのだろう。
遠目に見た感じ、爽やかな優男風。そして、人目を惹く金色の髪をした、若い男。
一見害はなさそうな人物に見えるが、開いていた文庫本を置いて慌ててベンチから立ち上がった。
(´<_`;)「―――あの、何か?」
l从・∀・ノ!リ人「あっ、ちっちゃい兄者!」
人好きしそうな笑顔がこちらに向けられる。それに伴って金髪がさらさらと波打った。
( ・∀・)「あれれ、もしかしてお嬢さん達の保護者の方かな?」
.
-
(´<_`;)「あ……はい、まぁ」
l从・∀・ノ!リ人「今ね、おにーさんに道教えてあげてたとこなのじゃ」
ζ(゚ー゚*ζ「おにーさん、シベリア駅に行きたいんだって」
無邪気に応える2人を前に、男は困ったような笑みを浮かべて頭を掻いた。
( ・∀・)「あはは、道が分からなくて困ってたんですよ。
この辺は人通りも少ないし、誰かに聞くことも出来なくて。
そしたら公園の方から楽しそうな声が聞こえてきたものだから、ついね」
( ・∀・)「慌てさせてしまったならごめんなさい。一応怪しい者じゃありませんよ」
(´<_` )「あ、ああ、いえ。……それで、道は……」
l从・∀・ノ!リ人「妹者が教えてあげたのじゃ!
だって妹者、シベリア駅で降りてここまで来たんだもん」
( ・∀・)「いやぁ、てっきり地元の子だと思ったんだけど。
お出かけ先の町のことまで詳しく知ってるなんて偉いなぁ。
おかげで駅までの道が分かったよ。本当助かりました」
l从*・∀・ノ!リ人「だってよく来るもんっ。ねー」
ζ(^ー^*ζ「ねー」
-
( ・∀・)「ありがとう、お嬢さん達。これで電車の時間に間に合うよ」
l从・∀・ノ!リ人「おにーさん、電車に乗ってどこ行くのじゃ?」
( ・∀・)「VIP町だよ。ちょっとした用事があるんだ」
l从・∀・ノ!リ人「VIP町!?妹者達、そこに住んでるのじゃ!」
( ・∀・)「わぁ、本当かい?
だったら、僕もしばらくVIP町にいる予定だから、また会えるかもしれないね!」
ζ(^ー^*ζ「また会えるといいね!」
l从・∀・ノ!リ人「のじゃ!」
( ・∀・)「そうだね。
……おっと、じゃあそろそろ行くよ、親切なお嬢さん達。またね」
( ・∀・)「きっとまたすぐに会えるさ」
そう言って軽く手を振りながら、金髪の男は公園を出て行った。
-
l从・∀・ノ!リ人ノシ「「またねー!」」ζ(゚ー゚*ζノシ
(´<_`;) ホッ
(´<_`;)(変質者だったらどうしようかと思った……)
男の背を見送り、ほっと胸を撫で下ろす弟者。
そのシャツの裾を、妹者がくいくいと引っ張る。
l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者!妹者、ちゃんと道案内できてえらかった?」
(´<_` )「ん?あ、ああ。偉い偉い。お利口さんだったぞ妹者」
l从*・∀・ノ!リ人「えへへー」
(´<_` )「人に親切にするのは大事なことだからな。
でもいつも言ってるように、道を聞かれたからってその人について行ったりしちゃ駄目だぞ?
デレちゃんもな」
l从・∀・ノ!リ人「わかってるのじゃ!」
ζ(゚ー゚*ζ「わかった!」
-
(´<_` )「ならよし。
……さてと、どうする?2人とも。俺らもそろそろ帰るか?」
l从・∀・ノ!リ人「まだ遊びたいのじゃー」
ζ(゚ー゚*ζ「デレもまだ遊ぶ!」
(´<_` )「はいはい、分かったよ。じゃあもうちょっとだけな」
l从・∀・ノ!リ人「「はーい」」ζ(^ー^*ζ
-
l从・∀・ノ!リ人「ふんふふーん♪」
∬´_ゝ`)「あら妹者、お絵かきしてるの?」
その日の夜。
リビングの机に向かって鼻歌を歌いながら、楽しそうに色鉛筆を走らせる妹者。
大学から遅く帰宅した姉者が、通りがかりついでに妹者の絵を覗き込んだ。
∬´_ゝ`)「何の絵描いてるのー?」
一応紹介しておくと、彼女は現在大学2回生の流石家長女、流石姉者。
弟者より3つ年上で、彼女が上にいたからこそ、弟者にはその名が与えられた。
-
l从・∀・ノ!リ人「今日、デレちゃんと一緒に公園で遊んだ絵なのじゃ!」
∬´_ゝ`)「へーどれどれ。私にも見せて」
l从・∀・ノ!リ人「どぞー」
色鮮やかな遊具や、青く生い茂る木々の描かれた公園の風景。
拙く、塗りが雑な部分も目立つが
何より楽しい気持ちが画用紙いっぱいに溢れている、無邪気でのびのびした子供らしい絵だ。
その中で、ブランコに乗っている満開の笑顔の女の子2人を指差して姉者が尋ねる。
∬´_ゝ`)「ふむふむ。これは妹者ね。で、こっちがデレちゃん?」
l从・∀・ノ!リ人「なのじゃ!」
∬´_ゝ`)「じゃあこっちで、ベンチに座ってるのは弟者かな?」
l从・∀・ノ!リ人「うん!」
∬´_ゝ`)「あはは、似てる似てる。
……あら?」
-
順に紙上の人物を追っていた姉者は、4人目の人物を指差して首を傾げた。
画用紙の隅の方、他の誰でもない、大人の男の人が描かれている。
ただの背景の人物のようには見えない。
第一背景だとしたら、公園の絵なのだから子供が描かれているべきだろう。
∬´_ゝ`)「この男の人は?」
l从・∀・ノ!リ人「公園で会ったおにーさんなのじゃ!」
∬´_ゝ`)「誰それ?」
l从・∀・ノ!リ人「道が分からなくて困ってたのじゃ。だから妹者、教えてあげたのじゃ」
∬´_ゝ`)「へー、偉いじゃない妹者。
道案内したこと、母者にも教えてあげなくっちゃね。きっと褒めてくれるわよ」
l从・∀・ノ!リ人「えへん。困ってる人がいたら、助けてあげるのはとーぜんなのじゃ!」
∬´_ゝ`)「うふふ、その当然の事をするのがなかなか難しいのよ」
得意気に胸を張る小さな頭を撫でてやる。
その手の下で照れたようにはにかんだ幼い笑顔は、純粋な優しさで満ちていた。
-
l从・∀・ノ!リ人「……あ、そうだ!
姉者にいいこと教えてあげる」
∬´_ゝ`)「?なあに?」
l从・∀・ノ!リ人「そのおにーさん、姉者好みのなかなかのイケメンだったのじゃよ」
∬´_ゝ`) ガタッ
.r ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
\/ /
Σl从・∀・;ノ!リ人 ビクッ
-
∬*´_ゝ`)「m j s k !!!
その人学生?年の頃は?どこに住んでるの?ジャニーズで言うと誰!?」
l从・∀・;!リ人「うわあ…」
必死杉乙。
そう言わざるを得ない姉の食いつき様に身を引きつつ、目を泳がせて逃げ道を探す。
l从・∀・;ノ!リ人「え、えーっとえーっと……」
l从・∀・;ノ!リ人「あ、そうだ!そのおにーさん、しばらくVIP町にいるって言ってたのじゃ。
また会えるかもしれないのじゃ!」
∬*´_ゝ`)「きゃあっ、流石妹者だわ!私の恋のキューピッド!
会ったら絶対紹介してよね。約束よ!」
l从・∀・ノ!リ人ゝ「らじゃ!のじゃ」
-
∬*´_ゝ`)「キャンパス内の男ほぼ壊滅状態だったからそろそろ諦めかけてたけど、
唐突で思いもかけない外での出会いってのも全然ありよねっ!
今年こそ、彼氏イナイ歴=年齢秘録に終止符を打つのよ!!」
姉者は男に求める理想像が高すぎるのじゃ…
呆れ混じりのその呟きは心の中にそっとしまい込んで、妹者は再び描きかけの絵に目を戻した。
l从・∀・ノ!リ人「おにーさんも、きっとまた会えるって言ってたのじゃ。
楽しみなのじゃー」
一人頬を染め興奮する姉を他所に、そう呟くと
画用紙の隅に描かれた、黒髪の人物を指でなぞり、嬉しそうに笑った。
.
-
キテタワァ
-
以上で6話終わりです!支援あざです!
前半にAAが全く無い件。やべー
そして報告。
リアル事情が厳しいのと、次の話のプロットが全く出来てないという理由から、8月〜9月は少しお休みします。
9月に進行状況を報告させて頂きます。早ければ9月中に7話を投下出来…たらいいなぁ。
-
そしてここでちょっとしたCM。
( ^ω^)百物語のようです2012 in創作板( ω )
八月十日〜開催予定
その場のノリと勢いで進行役を務めさせて頂くことになりました。
不束者ですが開催期間中宜しくおながいします。
('(゚∀゚∩みんなの参加待ってるよ!
企画は文丸さんがまとめて下さるようで、
もう既におどろおどろしさMAXの素敵な企画ページが用意されております!スゲェ!!
http://boonbunmaru.web.fc2.com/collaboration/dreadful_story/dreadful_story.htm
詳しくはこちらと、前総合スレの流れを見て下さいませ。
これで祭りにも箔がつくってもんよ!
このマインドBといい、ほんとに文丸様様様様です。
という感じのなんやかんやで8月中はちょっと留守します。ごめんなさい
待ってるとか乙とか期待とか一言一言身に沁みます。なるべく早く次の話投下出来るよう頑張ります!
-
おつ
読んでて引き込まれる
モララー動いてるねえ不穏だねえ
百物語あんただったか! 応援してるよー
-
髪の色うわあああ
今回の投下も一話からの描写がなきゃホラーみたいなもんだよな…
乙!!
-
百物語あなたでしたかwww
参加するので楽しみですw
乙!
-
黒・・・髪・・・!?
乙!
立候補してたのあなたかw
祭も続きも楽しみにしてるよ!
-
おつ、今回も面白かった!
百物語も応援してるぜ
-
ちょっと伸びるのぅ…
楽しみに待ってる
-
>>252
∬*´_ゝ`)「キャンパス内の男ほぼ壊滅状態だったからそろそろ諦めかけてたけど、
唐突で思いもかけない外での出会いってのも全然ありよねっ!
今年こそ、彼氏イナイ歴=年齢秘録に終止符を打つのよ!!」
姉者は男に求める理想像が高すぎるのじゃ…
呆れ混じりのその呟きは心の中にそっとしまい込んで、描きかけの絵に目を戻す。
l从・∀・ノ!リ人「おにーさんも、きっとまた会えるって言ってたのじゃ。
楽しみなのじゃー」
一人頬を染め興奮する姉を他所に、そう呟くと
画用紙の隅に描かれた黒髪の人物を指でなぞり、嬉しそうに微笑んだ。
-
デレかツンは気付いたんやろか
-
待ってます
-
>>1です。長らくだんまりですいません
現在、なるべく9月中の投下を目指して7話を執筆中ですが
次話投下は10月の頭になるかもです。もうしばらくお待ち下さいませ
あと、8月末の感想スレで感想拝見して飛び跳ねました。ウヒョー!
-
待ってるぜ
-
待ってるよー楽しみ
-
「出席番号1・羽生つー!」
(*゚∀゚)ノ「あひゃひゃひゃ!おはよー先生………あひゃっ?」
「出席番号2・流石兄者!」
(;´_ゝ`)ノ「はいはーい!て、おわ!」
「出席番号3・津田デレ!」
ζ(゚ー゚*ζノ「はーい!ブーン先生こんにt………あれ??」
( ФωФ)「よし。最後に出席番号4・八又シャキン!」
(`・ω・´)「はい!!」
語尾に疑問符が飛ぶそれぞれの反応を静かに見終えた後
「八又シャキン」の項目に最後の丸印をつけ、ぱたんと出席簿を閉じる。
-
ついにきたか!
-
( ФωФ)「以上で出席確認終わり。シャキン、号令を頼むである」
教壇の前に立つロマネスクは
一人を除き、きょとんとした様子の面々を見渡しながら
今日も皆元気そうである。 と内心で頷いた。
( ФωФ)(ちょっと面白かった)
-
(*゚∀゚)「あひゃ!いつもの先生じゃないじゃん!ロマじゃん!!」
( ´_ゝ`)「先生どったの?病気?
だからメタボ症候群には気をつけろと日頃あれほど」
挨拶が終わるや否や、さっそく騒ぎ始めるクラスの騒音担当2人。
とはいえ、その容姿や風貌は普段教壇に立っている人物と変わりなく
顕著に変化している点を挙げるなら、引き締まったその表情ぐらいのものなのだが。
それでも精神間での人格交代が日常的となっている、マインドBクラスの生徒達には
彼の全身から放たれる貫禄ある雰囲気から、それがブーンでは無くロマネスクだと一目見て分かるようだ。
それに、服装等細かい趣味もブーンと彼では若干の違いがある。
明色を好むブーンとは対照的に、大人びた渋い色のネクタイをきっちり結んで
堂々と黒板の前に立つ人物は紛れもなく、VIP高等学校特別クラス・副担任教師の姿だった。
-
(*゚∀゚)「わかった!サボりだ!ずりぃんだー」
( ´_ゝ`)「むむっ!さては良い歳して登校拒否か!
悩みがあるなら、サスガ・メンタルクリニックが
いつでもあなたを待ってるって言っておいたのに!」
(;ФωФ)「引っかき回されてむしろ悪化しそうな診療所であるな……」
頭に浮かぶまま、勝手な憶測と疑問を投げかける兄者とつーだが
ロマネスクがブーンの代わりに授業を受け持つことはこれが初めてでは無かった。
月に何度かブーンの代わりに彼が教壇に立つことはあり、その事自体はさして珍しくは無い。
それでもその事は、生徒達に前もって知らされるのが此のクラスでの決まり。
だからみんな不思議そうな顔をし、頭に疑問符を浮かべているのだ。
(*゚∀゚)「今日はロマの番なのか?つーちゃんそんな話聞いてないぞ!」
(`・ω・´)「つーは聞いてたって忘れる癖に」
ζ(゚ー゚*ζ「先生お風邪かな……??」
Σ( ´_ゝ`)「ハッ!もしやドッキリか!?カメラここだ!!」
( ФωФ)「えーい喧しい、みんな静まるである。特にそこの問題児2人」
-
ちょっとしたイレギュラーな事態に、俄かに湧き立つ教室内を一喝し
厳粛な咳払いをした後、生徒達に向き直るロマネスク。
( ФωФ)「今日はブーンは休みである。別に具合が悪いというわけでは無い」
( ФωФ)「ただ、皆が社会に出てから起こり得る、こういった突然の事態にも対応できるよう
たまにはこういう日を作るのも良い練習になると思ってな。
ブーンと2人で決めたのである」
(`・ω・´)「なるほど。応用力を磨く抜き打ち訓練ってわけですね!」
(*゚∀゚)「ぬきうち〜?」
( ´_ゝ`)「訓練?防災訓練?」
( ФωФ)「うむ、そういう事である。とは言えやる事は普段の授業と変わらん」
( ^ω^)ノシ「というわけで、みんないつも通り授業頑張るんだおよー」
Σ(;´_ゝ`)「おわ!」
-
きてたああああ!支援!
-
厳格な表情を保っていたロマネスクの表情がふにゃっと崩れ、瞬時に別人を形作る。
次に現れた柔和なにやけ面は、生徒達へと親しげに手を振った。
(*゚∀゚)「あひゃ!先生だ!」
ζ(^ー^*ζノシ「はーい」
(`・ω・´)「任せて下さい!」
(;´_ゝ`)「うわーびびった。顔の筋肉どうなってんの?」
-
_,
( ФωФ)「ブーン、今日一日は我輩に任せる約束である。
あまりちょくちょく出てこられると練習にならんぞ」
瞬時に引き締まる顔と低くなった声で、呆れ混じりにたしなめるロマネスクに対し
把握だお、という軽い返事とokサインが心の声で返って来た。
( ФωФ)「……まぁ、とにかくそういうことである。みんな改めて、今日一日よろしくな」
(*゚∀゚) ( ´_ゝ`)「「はーい!!」」ζ(゚ー゚*ζ(`・ω・´)
少しのごたごたがあったものの、元気の良い返事をスタートの合図にして
今日もマインドBクラスの授業が始まる。
-
( ФωФ)「順に今日の分の課題を取りに来るである。まずはつー」
(*゚∀゚)「あひゃ!」
授業とはいっても、ここで行われるそれは
教師が黒板の前に立ち、文字を書き、それを生徒がノートに写す……という形では無い。
一つの条件を元に集められた彼らは、学年もクラスも精神の年齢もバラバラで
ロマネスクから今日の分の課題を受け取り、それぞれの机で個々の勉強に取り組む。
それをブーン(今日はロマネスクだが)が見て回り
何か困ったことがあれば助けてやる……といった
いわば補習教室のような形だ。
-
(*゚∀゚)「あひゃひゃ!ロマ!ここ、昨日わかんなかったとこ!」
( ФωФ)「うむ、一緒にやる約束であったな。どれどれ」
さっそく、プリントをひらひらさせながらつーが声をあげた。
つーの精神年齢は、明確には診断されていない。
発現した当初、半ば強制的に受けさせられた検査の記憶を思い出すのか
脳波測定や知能指数のテスト等を嫌がり、ろくに検査を受けたためしが無い所為だ。
そのつーにブーンが用意した教材は
算数や国語等一般的な教科の、小学校で習うような基礎固めの問題。
それらを時間をかけ、ほぼつきっきりのマンツーマンで取り組んでいる。
ブーンの教室に来るまで、周囲は暴走事件を起こした凶暴性ばかりに目を取られ
まともにつーに勉強を教えようとした者など誰一人としていなかった。
それに加え、学習自体にさほど興味の無いつーは
精神的に達していると思われる年齢に対し、学業面でかなりの遅れを取っている。
-
(;ФωФ)「うーむ。つーはまず、解答欄に文字を収める練習を頑張った方が良いな」
(*゚∀゚)「でっかい字で書いた方が見やすいだろー?」
( ФωФ)「枠からはみ出た回答同士が融合しまくって
紙の上がしっちゃかめっちゃかなのである……」
(*゚∀゚)「枠は壊すためにあるんだよぉ!!」
( ФωФ)「だまらっしゃい」
(*゚∀゚)「あひゃー」
( ФωФ)「さて。じゃあまずはこの問3の問題から……
って、兄者こら!なにしとるか!」
Σ(;´_ゝ`)「ぎくぅ!」
( ФωФ)「教科書に落書きするでない、また弟者に怒られるぞ。
2人で使う物は大事に扱えといつも言ってるであろうが!」
-
精神年齢が丁度同じくらいの兄者は、弟者の高校二年生用の教科書をそのまま使っている。
初めのうちは母者が配慮して
ちゃんと2人分の教科書を持たされていた2人だったが
教科書代が勿体無い、カバンが重くなる、等の理由から
今ではその心遣いを断り、一冊を使い回ししているのだ。
もちろんノートやワークブック、問題集等は個別に用意されているが
勉強嫌いで飽き症な兄者の悪い癖で、最初の数ページしか手をつけておらず
あとは大半が空欄か、飛ばして白紙のページが多い。
その進み具合を見れば、同じ教材を扱う弟者よりも遅れていることが一目瞭然だった。
-
( ФωФ)=3「ったく兄者は、目を離すとすぐ別のことに気が逸れる」
(;´_ゝ`)「あひゃひゃ〜、だってわかんねーんだもん!」
(*゚∀゚)「つーちゃんの真似すんな!」
( ФωФ)「兄者は集中力が足りなさすぎである。
ほれ、デレを見習え」
ζ(゚ー゚*ζ「〜♪」
デレが楽しそうに問題を解いているのは、小学校低学年向きの教材。
机の上に置かれたその中には、カラフルな表紙の塗り絵や、折り紙等も混じっている。
彼女の精神年齢は、小学4年生の妹者と同じくらいなのだが
ツンがマインドBを発症し、クラスに入学したのがつい一昨年のこと。
発現時に受けた検査によって、精神面や知能になんら問題は見られなかったデレだが
国語や算数等の学習面に関しては、ほぼ白紙の状態だった。
その為デレはこの教室に来て、まず文字の読み書きを覚える事から始めたのだ。
-
ζ(゚ー゚*ζ「デレ、お勉強大好きだもん!」
( ФωФ)「うむうむ偉いぞ。デレはいい子であるな」
(*´_ゝ`)「ほんとほんと。素直で可愛いし、頭も良いし、将来が楽しみだな〜」
ζ(^ー^*ζ「あにーちゃんもがんばって勉強しなきゃ、妹者ちゃんに嫌われちゃうよ!」
(;´_ゝ`)「ぐはぁ!兄者の精神面に999のダメージ!!」
(*゚∀゚)「あひゃひゃwwwもっと言ってやれデレ!」
元々賢い子供のデレは学習能力も高く、読み書きはすぐに上達した。
今では低学年向きの児童書や教科書は難なく読めるし、識字能力にも長けているが
さらに地名等の漢字が読み書き出来るようになれば、より日常生活の助けになるだろう。
万が一、ツンが眠っている状態で迷子になったり
1人でおつかいをする事があっても安心だ。
-
( ФωФ)「遅れた分は宿題、または補習に回すであるからな。
みんな、頑張って今日中に課題を済ますのである!」
(`・ω・´)「任せてください!」
(*-∀-) ゜ スピー
∩( ´_ゝ`)「ろませんせー、つーが居眠りして教科書に涎垂らしてまーす」
(`・ω・´;)∩「そう言う兄者はノートの隅にパラパラ漫画描いて遊んでまーす!」
Σ(;ФωФ)「ああもう、小学生であるかお前ら!
とりあえず兄者は一発デコピンさせろ、つーは涎拭け!」
Σ(*-∀-)「んがっ」
ζ(゚ー゚*ζ「〜♪」
-
+ + + + + + + + + + + +
キーン コーン カーン コーン
6時間目終業を知らせる鐘が、高らかに校内へ響き渡る。
全員で軽く教室内の掃除をして、今日の授業はお終いだ。
(`・ω・´)「起立、礼!」
(*゚∀゚) ζ(゚ー゚*ζ「「「「先生さよならー!」」」」( ´_ゝ`)(`・ω・´)
( ФωФ)「うむ。さよならである」
一日ラストの授業から解放され、さらに明日からの連休を控えている為か
元気よく挨拶する彼らの顔は、心なしかいつもより晴れ晴れとしていた。
-
待ち侘びた!!!!!
支援支援
-
ζ(゚ー゚*ζ「先生、先生」
( ФωФ)「ん?どうしたデレ」
終礼が済んだ後、ロマネスクの元へと駆け寄るデレ。
嬉しそうな笑みを浮かべ、ちょいちょいとその服の裾を引っ張ってくる。
ζ(^ー^*ζ「うふふ……あのね。
明日、お休みだからね、パパが新しいお洋服買いに連れてってくれるの。
ツンちゃんとデレと、どっちも買ってくれるって!」
( ФωФ)「はは、それはよかったであるな。
ツンと一緒に、一日中思いっきりパパさんに甘えると良いである」
ζ(^ー^*ζ「うん!」
-
うおおきてるううう!!
待ってた支援!
-
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあまたね、ロマ先生。ブーン先生も!」
( ^ω^)ノシ「おー、デレばいばいだおー」フニャッ
(*´_ゝ`)ノシ「デレちゃんばいばーい!元気でなー」ニュルッ
( ФωФ)「じゃあなデレ。良い週末を過ごすである。
それから、にゅるりと割り込んでくるでない兄者」
(;´_ゝ`)「ブーン先生はスルーなのに!?俺だってデレちゃんにバイバイしたい!」
(*゚∀゚)「やーい、兄者のロリコンやろー!」
(;`・ω・´)「どこで覚えたんだそんな言葉!」
ヾ( ;_ゝ;)ノシ「ち、ちがわいちがわい!俺はデレコンかつ妹コンだー!!」
(`・ω・´)「それ何のフォローにもなってないぞ兄者。むしろ自滅だろ」
-
ζ(^ー^*ζ「えへへ。
あにーちゃんもつーちゃんも、シャキンにぃちゃんもばいばいね」
ζ(゚ー゚*ζ「………」
ζ(゚−゚*ζ
ζ( − *ζ スゥ…
ξ ⊿ )ξ
ξ゚⊿゚)ξ
( ФωФ) ヽ( ;_ゝ;)ノ (*゚∀゚) (`・ω・´)
Σξ;゚⊿゚)ξ ギョッ!
-
ξ;゚⊿゚)ξ「な、なんなのあんたら?人の前に密集して。こわっ」
( ФωФ)「数時間ぶりに起きて発した第一声がそれであるか」
( ´_ゝ`)+「男同士、ロリータコンプレックスという崇高な精神の素晴らしさについて
有意義な語り合いをしていたところだ!」
(`・ω・´)「結局認めてるんじゃないか……」
ξ;゚⊿゚)ξ「げ!あんた兄者ね。
って、ええ!?兄者だけならともかく、八又先輩や先生までそんな……!?」
Σ(;ФωФ)「うぉい!?」
(`・ω・´;)「誤解だ津田君!僕は違うぞ!」
(*゚∀゚)「ところでロリコンてなんだ??あひゃひゃ」
-
( ´_ゝ`)「じゃあなロマちゃん!今日は俺このまま帰る!」
( ФωФ)「うむ、弟者によろしくな。
それと、休みの間に予習復習しっかりやっておけよ」
( ^ω^)b「連休明けに僕がしーっかり確認するから、覚悟しとくよーに!だお」
( ФωФ)「だそうである。
母者さんにも、気を抜き過ぎないよう見張っておいてくれと連絡してあるからな」
( ´_ゝ`)「鬼や……鬼がおる……」
(`・ω・´)「ロマネスク先生、さようなら!
ほら行くぞ兄者、先生の邪魔になる」
( ;_ゝ;)「お前もかシャキン!誰か俺に優しくしてよ!」
( ФωФ)「はいはい。兄者もシャキンも、気をつけて帰るであるぞー」
-
( ФωФ)「……さてと。じゃあ、つーはしぃと交代であるな。
ほれ、机から降りる」
(*゚∀゚)「おう!今日は良い感じに眠いぜ!」
( ФωФ)「まぁ、今日は授業中の居眠り見逃さなかったであるからな。
いつもそれくらい素直なら良いのだが」
(*゚∀゚)b「あひゃひゃ〜。
じゃあ、つーちゃんは寝るぜ!
おやすみロマ!」
自分の机に腰掛け、足をブラブラさせていたつーが
軽快に地面へと降り立ち にっと笑った。
-
从'ー'从「しぃちゃーん帰ろー」
(*゚ー゚)「ナベちゃん」
ロマネスクに挨拶をし、教室を出るとすぐ
間延びした調子で自分の名を呼ぶ、聞き慣れた声がした。
窓際で小さく手を振る渡辺の元へと駆け寄るしぃ。
数時間ぶりに覚醒した直後、マインドBクラスでの授業の後はいつも
自分の存在が不明瞭になってしまったかのように意識がぼんやりとして
複雑な不安感が、しぃの胸の内を支配する。
何度経験しても、未だその感覚に慣れることができない。
だが、廊下に立ち、のんびりと手を振ってこちらへ向って微笑む親友の姿を見つければ
心細さは掻き消えて、いつだって暖かな安心感で満たされるのだ。
-
(*゚ー゚)「いつもごめんねナベちゃん。廊下で待つの、退屈でしょ?」
从'ー'从「平気だよ〜。今日はロマネスク先生だったんだね〜」
(*゚ー゚)「そうなの!私達も知らなかったんだけどね、5時間目の始めにね……」
自分のクラスの授業が早く終わった時はいつも
三階奥にあるこの教室まで来て、自分を待ってくれている渡辺。
そんな彼女にしぃは、自分が扉を開けて出てくるまで
決して教室の中には入らないでほしいという約束を交わしていた。
マインドBクラスで過ごす空白の時間―――
”つー”として動いている姿を、親友である彼女に見られたくないのだ。
もちろん渡辺は、しぃがマインドBという症状を抱え、特別クラスに通っている事は知っている。
が、その固い約束の元、実際に”つー”である彼女を見た事は一度も無い。
-
本人であるしぃだって、つーのことは全く知らない。
声さえまともに聞いたことが無い。
しぃが脳内で描く”つー”のイメージは、ただただ
中学の時のあの忌まわしい事件を起こした、危険な存在であるという認識だけだ。
人格間での共在意識を持たず、“つー”である間、意識が完全にシャットダウンされるしぃは
ブーンやロマネスクから
“つー”は自分の行動や感情を抑制する力を身につけつつある
もうむやみに暴走したり、人を傷つける危険性は無い。
いくらそう聞かされても
自身が認識していないものを、はっきりと信じきることなど出来なかった。
-
かつて暴走しクラスメイトを傷つけた”つー”としての凶悪な姿を
親友である渡辺にだけは、絶対に見られたくない。
万が一その姿を
自分の心の奥底に眠る本性を知られてしまったなら
彼女はきっと、もう二度と自分に優しく笑いかけてくれることは無いだろう。
そのことを考えるだけで
中学時代味わったのと同じ、叫び出したくなるほどのドス黒い恐怖が胸を締め付ける。
もう二度と、あんな思いをするのは嫌だった。
それだけではない。
いつか”もう1人の自分”が
幸せで平穏な日常のさなか、唐突に現れ
大事な親友である彼女を傷つけるのではないか―――
いつまで経っても拭い去れぬ不安が、しぃの心の奥底に居座り続けていた。
-
( ФωФ)「ふー」
( ^ω^)「おつかれーだお。ロマネスク」
いつも持ち歩いている紙袋の中に、色んな教科の教材を片付けながら
一息零すロマネスクに心の声で労いの言葉をかけるブーン。
とはいえ、表に出ている人格の視界を通して外界の様子を把握する事が可能なので
実質ロマネスク同様、午後の授業をずっと生徒たちと共に過ごしていたのだが。
誰もいない教室。
人格間での交代をする時のような、声や表情の変化を表に出すことはせず
そのまま、心の内だけのブーンとロマネスクのやりとりが続く。
-
( ^ω^)「で、どうだったかお?”ぬきうち担任交代”やってみた感想は」
( ФωФ)「ふむ。
まぁ、約二名ほど赤点つけたくなる者もいるにはいるが……」
( ФωФ)「今では皆充分、クラスとしてのまとまりを見せている。
あやつらなら、少しばかり変則的な事が起きても問題無く対応出来るであろう。
心配は無いである」
( ^ω^)「だおね。
じゃあ、このまま手続きを進めるお。早ければ来週には……」
( ФωФ)「ああ。なにせ急に決まったことであるからな」
( ФωФ)「今日は、心構えのつもりで我輩が急遽授業を担当することに決めたが
なかなかいい練習になったである」
( ^ω^)「皆に知らせるのは3日前くらいにしといた方がいいおね。
あんまり早くに知らせすぎると、つーや兄者の集中力がますます落ちそうで心配だお」
( ФωФ)「なに、しっかり者でまとめ役のシャキンもいる事だ。
そんなに心配せずとも、大丈夫であるよブーン」
( ^ω^)ゞ「僕もみんなのこと信頼してないわけじゃないんだけどおね」
( ФωФ)「わかっておる」
-
( ^ω^)「で、どうだったかお?”ぬきうち担任交代”やってみた感想は」
( ФωФ)「ふむ。
まぁ、約二名ほど赤点つけたくなる者もいるにはいるが……」
( ФωФ)「今では皆充分、クラスとしてのまとまりを見せている。
あやつらなら、少しばかり変則的な事が起きても問題無く対応出来るであろう。
心配は無いである」
( ^ω^)「だおね。
じゃあ、このまま手続きを進めるお。早ければ来週には……」
( ФωФ)「ああ。なにせ急に決まったことであるからな」
( ФωФ)「今日は、心構えのつもりで我輩が急遽授業を担当することに決めたが
なかなかいい練習になったである」
( ^ω^)「皆に知らせるのは3日前くらいにしといた方がいいおね。
あんまり早くに知らせすぎると、つーや兄者の集中力がますます落ちそうで心配だお」
( ФωФ)「なに、しっかり者でまとめ役のシャキンもいる事だ。
そんなに心配せずとも、大丈夫であるよブーン」
( ^ω^)ゞ「僕もみんなのこと信頼してないわけじゃないんだけどおね」
( ФωФ)「わかっておる」
-
( ФωФ)「では、あとは任せるぞ」
( ^ω^)「はいお。シュビドゥバタッチヘンシーン」
_,
( ФωФ)「なんであるかそれは」
( ФωФ)
( ω )
( ^ω^)
きっちりと締めたYシャツの第一ボタンを外し、首を回して一息。
さて 明日から連休だ。
色々準備しなくてはいけないこともあるので
家へ持ち帰る仕事は出来るだけ減らしておきたい。
学校を出るまでの時間を、生徒達から回収したワークブックやプリントの採点に当てることに決め
教室から溢れ出てくる3年生達へ挨拶を返しながら、ブーンは職員室へと向かった。
-
+ + + + + + + + + + + +
地下の下駄箱にて上靴をローファーに履き替え、校舎を出る。
校門付近は、同じく授業から解放されて帰宅する生徒達で賑わっていた。
从'ー'从「それでね〜、そこでまた
毎度お馴染み波瀬川先生の初恋話が始まっちゃって〜」
(*゚ー゚)「あはは……
……あ」
( ´_ゝ`)「ジョルずー、なっちーん、カラオケいこー」
_
(;゚∀゚)「うおーのしかかんなアホ!重いー」
(*´_ゝ`)「ふひひwww」
(*゚ー゚)(流石先輩だ)
-
それは確かに先程、特別教室にて5時限目の初め顔を合わせた
一学年上の先輩の姿なのだが。
(;゚ー゚)(えーと……。
兄者先輩の方……だよね)
眉毛が特徴的な同級生に、中学男子のノリで楽しげにじゃれつくその様子を見れば
今の彼が”どっち”なのか、一目で分かる。
-
(*´_ゝ`)「JOL( ・3・)で山崎Pの最新曲ついに配信されたらしいぞ!
明日いこ明日!」
('(゚∀゚∩「明日は土曜だから混むかもよー。予約いれなきゃ良い機種とれないよ!」
_
( ゚∀゚)「予約はまかせろー!ご希望の機種はございますか?」
(*´_ゝ`)o彡「くるっそ!くるっそ!ボカロアニソン歌いまくるおwwwww」
_
( ゚∀゚)「おーし。じゃあ俺となおるよと兄者と弟者、4人で予約入れちゃる!」
(´<_` )「いや、3人でいいから」
_
(;゚∀゚)「ハイテンションの兄者に急に冷静につっこまれると一瞬びびるな〜。
分かってるって弟者、じゃ、明日待ち合わせな!」
-
ヾ(*´_ゝ`)ノシ「ひゃっほおおおおい!!!流石ジョルジュ隊長!!
そこにしびれりゅあこが……」
(´<_` )「兄者うるさい。……でも、いいのか?2人とも。
俺と兄者が行くと、結局1人で2人分歌う事になるから
なんだか悪い気がするんだが……」
_
( ゚∀゚)「何言ってんだよ、さっきまで真面目な顔でバンプとかコブクロとか歌ってた奴が
次の選曲でいきなり美少女アニメのOPノリノリの振り付けつきで歌いだすから面白いんだろ!」
('(゚∀゚∩「声も歌い方もガラッと変わるから面白いよ!退屈しないよ!」
(´<_`;)「そ、その楽しまれ方は不本意だ!
頼むから俺と兄者は別人として聴いてくれえええ」
(´<_` )
(´<_` )
(´<_`;)「いやそれ兄者しか得しないだろ!どこが良い事だよ!!」
_
( ゚∀゚) ('(゚∀゚∩(多分兄者が
「いいこと思いついた、俺が振り付け踊って弟者がアニソン歌えば万事解決じゃね?」
とか提案したんだな……)
-
(;゚ー゚)
時折僅かなタイムラグが挟まれるものの
瞬時に180度変わる雰囲気の変転ぶりや、謎の1人ツッコミの様は
いくら事情を知っているとはいえ、見ているとぎょっとするものがある。
現に、フと周りに見をやると
その様子を遠巻きから奇異の目で伺う、数名の生徒の姿が視界に入った。
-
同じ症状を持ち、別の人格が同じクラスに所属しているとはいえ
弟者とはマインドBクラスで集まった時の、出席確認前の数分しか顔を合わせる機会は無く
普段の学校生活においても、それ以上の接点と言えるものは乏しい。
それでも、マインドBクラスで見る流石弟者は、いつも冷静で真面目そうな
どちらかといえば物静かな印象の先輩だ。
(´<_` ) (*´_ゝ`)
その彼が、あんな風に突然
突拍子無く、テンションの高い性格に一変してしまう光景は
実際にこの目で見てもなかなか信じ難い。
彼だけではない。
-
ξ゚⊿゚)ξ ζ(^ー^*ζ
責任感が強くモラルに厳しい、大人びた印象のあるツンだって
人格が交代すれば、無邪気な幼い女の子になって
お人形遊びやクレヨンでお絵かきをしたりするのだ。
(`・ω・´) (:::::::::::)
シャキンの基本人格である、ショボンという人にはまだ会ったことは無かったが
やはり、何事にも積極的で頼りがいのあるシャキンとは正反対の性格で
自らの殻に篭り続ける、内向的な人物だと噂で聞いたことがある。
-
そして
(*゚−゚) (:::∀:::*)
(*゚−゚) (―――私も)
―――マインドBという奇病。
それは、どんなに周りの家族や友達が受け入れて、自然な関係に見えたとしても
世間の目からすれば、異常である事実を否定することは出来ない。
もしも何も知らないで彼らを見たとしたら、まず頭がおかしい人だと思うだろう。
それが普通だ。
おかしいのは、自分達の方なのだ。
-
(*゚−゚)(……)
本当のことを言えば、”つー”になど二度となりたくはなかった。
事実ブーンの授業を欠席しようとした経験だって、今までに何度もある。
授業をサボるなんて、もちろんいけない事だとは分かっているのだが。
それでも、みんながみんな、全く違う別の誰かになってしまう、あの教室が。
それが普通のことのように受け入れられてしまう、あの空間が怖い。
だが、大人しく真面目な”いいこ”であるしぃには
自分をあたたかく迎え入れ、最善を尽くして頑張るブーンの気持ちと努力を、
何よりも一人娘の幸せを願い、引越しまでして見つけた治療の場に未来と希望を託した
両親の期待を裏切ることなど、出来る筈も無かった……
-
从'ー'从「?しぃちゃん、どうしたの〜?」
(*゚ー゚)「あ……な、なんでもないよ」
既に弟者達は校門を出て、その姿は見えなくなっていた。
無意識で追ったその視線と関係無く、脳は別のことを思考する。
(*゚−゚)「……」
(*゚−゚)(……いっそ……)
“つー”なんて、いなくなっちゃえばいいのにな……
.
-
以上で7話の投下は終わりです!
うわああめちゃ遅くなったのに待ってたとか支援とか……!ブワッ
10月の頭とか言っといてなにやってんだろねおれぁ。あはは
……はい。ほんとに面目ない。
だってあんな面白そうな祭り始まったら描くしかないやん……!書くしかないやん……!
ええ、中途半端に現行書き溜めほったらかしてがっつり描いてましたともごめんなさい。
ううっ、激励のお言葉ほんとに身に沁みます……!感涙です!読んでくれてる方本当にありがとう
次回投下はまたも未定ですが、10月に入ってリアルの方も落ち着いてきたので頑張ります
あああでもラノベ祭まだまだ描き書きたいからまた遅くなるかもしれませ………頑張ります!!
-
乙
次回も楽しみにしてる
-
待ってたよ乙!
しぃ…受け入れられてなかったのか…
そろそろ物語が大きく動きそうな気配
ラノベ祭の方も楽しみにしてるよ
-
おお来てた
おもしろかったよー乙!
-
乙!
百物語が終わったと思ったらラノベ祭に現行と忙しいな
>>1の絵好きだから楽しみだ
-
おつ
ゆっくり書いてくれたらいいよー!
-
あ。そういえば一つだけ
この前ちょっと(良い意味で)びっくりしたこと
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『おれは楽しみにしてた新作の続きが来たからwktk状態でスレへ読みに行ったと思ったら
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ 自現行のタイトルがなんかかっちょいい英語のアルバムタイトルになって使われていた』
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれも何をされたのかわからなかった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ むしろ喜んでだとか続き全裸待機だとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
一度このポルポル使ってみたかった
-
乙!
待ってた!
すごい嬉しい!!
-
ああ、あったねそういや
マインドB
俺も笑った記憶あるけど、なんの現行だったっけ?
-
乙乙!
受け入れてる奴もいればどうしても受け入れられない奴もいる
みんな個性豊かで楽しみ
-
乙
-
>>319
下克上のようですじゃなかったかな
あれはちょっとびっくりしたわ
とりあえず乙!
-
乙
ほのぼのしてるのに不穏な気配しかしないのが大好きだ
-
おつ
-
乙
渡辺いいキャラだなぁ
一番楽しみにしてる現行だぜ
次も楽しみに待ってる
-
乙乙しぃちゃん闇堕ち?
-
乙!
兄弟のカラオケ見てみたいなwww
モララーとか三日後のお知らせとか気になることばっかでwktk
-
まだかなー
-
<^ω^;削除>
-
まだかなー
-
まだかなーまだかなー
-
.r==x r==x
/三/.|/三/ |
(三(/(三(/_/
l ̄¨'| ̄ ̄¨|
l;::::::::|:::::::::::::l
l;::::::::|:::::::::::::l
l;::::::::|:::::::::::::l
l;::::::::|:::::::::::::l
l;::::::::|:::::::::::::l
l;{==}!::{==}:::l
r|:::::::::::::::::::::::|
_ノ  ̄`ー--、,;;l~ヽ
,∠==、ヽ `i'ー- . l
/ ヽ| 「`'ー、`ー、 .ノ
l ミ| / `ー、ヽ
/j R|イ ー-ァ、. Y゙
{ [`ュハハハr''~] ̄ ___ノ
あ け ま し て お め で と う ご ざ い ま し た
8話投下します
-
津田ツンの家は父子家庭である。
大きな薬品会社の重役として働く父と、一人娘のツン。
決して貧しくはないが、たった2人だけの淋しい核家族。
父と娘の静かな暮らしが、都心の欧風住宅にあった。
ツンがまだ幼い頃は、祖母が通いでなにかと世話をしてくれていたが
その祖母も、孫娘が中学にあがる頃に亡くなり。
自然、家のことは長女のツンが担当するところとなった。
掃除洗濯や料理等の家事全般は、祖母の手伝いで幼い頃から自ずと身につけてきた。
会社では重要なポジションに就いていて、毎日夜遅く帰ってくる父親。
そんな父に、余計な負担や懸念をかけることなど出来ない。
甘えてはいけない。我慢しなくてはいけない。
子供でいてはいけない。
“ツン”は、しっかりしなくては、いけなかった。
.
-
爪'ー`)y‐「じゃ、行こうか」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
火の始末、及び各部屋の消灯の有無を一通り確認し、戸締りをして家を出る。
誰もいない家に向けて「いってきます」はもうしない。
昔は毎日欠かさず声に出していた気がするけれど、いつの頃からか
父も私もそういうことは自然とやめてしまっていた。
-
爪'ー`)y‐「ツン。お父さん、今日も帰りが遅くなるんだけど大丈夫かな?」
ξ゚⊿゚)ξ「大丈夫よ。それよりお父さん、歩きタバコはやめてってば」
爪;'ー`)y‐「あ、あー、ごめん。いや吸う気は無いんだよ。ほんと。
こうして持つのが癖になっちゃってさ」
ξ゚⊿゚)ξ「だったらまず、持ち歩くのをやめることから始めないとね。
家で吸わなくなったのは嬉しいけど、会社に着いたらその分吸うんでしょ。
意味無いじゃない」
爪;'ー`)y‐「そ、そんなことないよー。あはは」
困ったように浮かべた父の笑顔には、誤魔化しの色が仄めいていた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……」
“デレ”が姿を現わしてから
父から私に対しての気配りが大げさになったような気がする。
大の愛煙家である父が禁煙を決意したのも、その配慮の一つであることは明らかだった。
きっぱりやめると宣言しておいて、その実なかなか守れてはいないようだけど。
こうして毎朝家を出る時間を一緒にするようになったのも、昨年の春に父が言い出したこと。
その為父の出勤時間に合わせて、少しだけ早めに家を出なければいけなくなった。
そうは言っても、元々早めに登校する習慣が身についているし
HRの時間までは本を読むなりして潰せるので、特に苦には思わない。
それよりもこの年にして毎朝一緒に家を出、駅前のバスターミナルまで付き添われて
親に手を振って学校へ向かうというのは、どうにも気恥ずかしくて未だに納得がいかない。
学校くらい1人で行けるわよ。ほんとに、お父さんは心配性なんだから。
-
……とはいえ、早くにやもめの身となった父にとって
私にとって父がそうであるように、たった一人の家族なのだ。
その一人娘がある日突然、
せいぜい小説やテレビのドキュメンタリーでしか耳にしたことの無いような
その治療法や発症要因さえ未だはっきりと解明されていない、理解不能な病を患い、
こうして特殊学級のある学校に通っているのだから、必要以上に気を揉む気持ちも分かるけれども。
爪'ー`)y‐「金曜日は1時限目から特別授業の日だったよね」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
爪'ー`)y‐「ああ、そういえばこの前言ってたっけね?今日は確か……」
信号が赤に変わり、2人、白線の前で待ちぼうけを食らう。
隣で取り留めのない話を続ける、頬のこけた横顔は、気のせいかやつれて見えた。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
-
自分の仕事以外のことには滅法弱く、苦労性で何かと気負いをする、そんな人だから。
だからもしかしたら、娘の発病の原因が、
ずっと放ったらかしにして、重荷を背負わせた自分にある
なんて。悪いペシミズムに囚われて一人抱え込んでいるのかもしれない。
ζ(゚ー゚*ζ「―――あ!」
爪'ー`)y‐「え?」
……ただでさえ日頃、仕事で頭を悩ませストレスに身を磨り潰しているこの人に
これ以上余計な心配なんてかけてはいけないのにな。
-
「デレ!!」
ξ゚⊿゚)ξ「―――、え」
爪;'−`)「駄目じゃないか!
急に走っちゃいけないって、お父さんいつも言ってるだろう!?」
気がつくと視界は真っ暗で、煙草臭いコートに頭を押し付けられていた。
頭上で、鬼気迫る剣幕の父が焦燥の混じった大声をあげている。
依然赤信号の横断歩道、その白線のギリギリ手前。
隣で同じように信号待ちしていたサラリーマンの、ぎょっとしたような顔。
さっきまで見ていた景色が微妙にズレていて、自分達が少しだけ移動していることに気がついた。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「??」
直前の会話やいつも通りの朝と、今の状況が結びつかない。
パパがこわい顔をしてる。どうしてだろう?
フと、視線を道路の方へ向けると
先ほどまで指先で弄ばれていた筈の、マイルドセブンの一本が
いつの間にかアスファルトの地面を転がって、走ってきた車にくしゃりと轢き潰されるところだった。
爪; −)「もうちょっとで大変なことに……」
ξ;゚⊿゚)ξ「お、お父さん」
困惑しつつも、頭上の相手にそっと声をかけた。
デレなら父のことを「パパ」と呼ぶ。私はツンだと、目を見て訴えれば落ち着いてくれる筈だ。
すぐに父にもアイコンタクトが通じたようで、うんうんと、微かに頷くと
強い力で抱きしめていた腕から徐々に力が抜けていくのが分かった。
-
爪;'−`)「……いきなり道路に飛び出そうとしたんだよ。危なかった……」
急に声のトーンが高くなったから、すぐにデレだって分かったよ。
そう、一つ大きな息を吐き出しながら付け足す。
ξ;゚⊿゚)ξ「あ……ありがとう。ごめんね、お父さん」
父がいなかったら、そのまま道路に飛び出していたかもしれない―――
状況を飲み込むに従い、徐々に早くなる鼓動と、じわりと走る嫌な感覚。
ξ;゚−゚)ξ(もう、デレったら)
悪い子。
すぐにデレの姿を探したが、もうあの子は見つからなかった。
普段とは違う取り乱した様子の父を見て、怯えてどこかへ行ってしまったに違いない。
後でうんと叱ってやらなくちゃ……。
-
私自身、普段から彼女が簡単に出てきてしまわないよう気をつけているし
先生や周囲の人達に、安全に関する基本的な約束事は常々言い聞かせてもらっているのだが
それでも幼い子供のこと、今みたいに突拍子無く出てこられたらどうしたって防ぎようが無い。
ξ゚⊿゚)ξ「……何か見つけたのかしら?」
爪;'−`)「そうかもしれないね。嬉しそうな顔をしてたから」
それにしても一体、何に反応して急に意識の奥から浮上したのか。
横断歩道の向こうを見渡してみても、デレが心奪われそうな店やオブジェ等は見当たらなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「………!」
―――――その時、不意に。
-
いなくなってしまったデレの姿を無意識に追ううち、フッと
彼女の残していった微かな記憶の断片が集い、言葉となって浮かんできた。
掬い取れたのはたった一言。
ξ゚⊿゚)ξ(―――――”公園”?)
……大好きな公園を見つけたと思って、つい走り出してしまったのだろうか。
馬鹿なデレ。こんな都心の住宅街の真ん中に、公園なんてある筈無いじゃない。
……それとも、何かを見て
いつも行く公園の情景が瞬間的に思い出されただけなのだろうか?
一体何を見て?
辺りを見渡しても、公園が連想されそうな物など何も見つからない。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
……物、で無いとしたら。
あるいは人、だろうか?
-
きてたー!待ってたよ支援支援
-
爪 −)「ツン」
暗闇から手繰り寄せた細やかなメモリの欠片で、輪郭をそっと形作ろうとするその前に
再び伸びてきた大きな手によって しかと抱きしめられて
私の視界はまた、煙草の匂いのするコートに覆い隠された。
爪;−;)「……お前になにかあったら、お父さん、もう生きていけないよ」
ξ゚−゚)ξ
ごめんね。お父さん。ありがとう。大好きよ。
取り留めもなく浮かんでは消える、短い言葉の端々と
何処かから込み上げてくるあたたかな感情は
私とデレ、どちらのものだったんだろう。
-
+ + + + + + + + + + + +
(´<_` )「おはよう」
ξ゚⊿゚)ξ「おはよー」
(`・ω・´)「おはよう羽生君!」
(*^ー^)「おはようございます」
それぞれ自分のクラスで朝のHRを済ませてきた4人が
3階、廊下奥の突き当たりにひっそり位置する特別教室へと集まる。
基本的に真面目な生徒揃いなので、今し方教室の戸をくぐったしぃをラストに
始業の10分前には既に全員が自分の席に着いていた。
-
(`・ω・´)「そうだ弟者、羽生君にも聞いてごらんよ」
(*゚ー゚)「ふぇ?」
着席して早々、思いがけず自分の名を出されたしぃは
きょとんとした顔をして、順にシャキンと弟者の方を見る。
(´<_` )「あ、はい。
しぃちゃん、ちょっと聞きたいんだけどいい?」
(*゚ー゚)「?はい」
(´<_` )「あのさ。午前中にマインドBクラスの授業がある日って、午後の授業疲れたりない?」
(*゚ー゚)「……へ?」
(´<_`;)「いや、俺の場合すごく眠くなったりするんだよ。授業もちょっとダルいし……
体育で動きまわった後みたいな」
(;゚ー゚)「……う、うーん……」
(;゚ー゚)「どうだろう……。
……あんまり感じたことは無いかも、です」
(´<_`;)「そっかぁ」
-
(*゚ー゚)(……むしろなんか、すっきりする、ような……?
………気のせいかな)
(*゚ー゚)「……津田先輩は?そういうことあるんですか?」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん。まあ、たまにはあるけど。いつもってわけじゃ無いわね」
(´<_`;)「じゃあやっぱうちの馬鹿が無駄に騒いでエネルギー使いすぎるせいだ」
ξ゚ー゚)ξ「苦労人ねーw」
溜息をつき、がっくり肩を落とす弟者。その傍らでシャキンは首を傾げた。
(`・ω・´)「そうかな?
僕が見てる分だと、つーも兄者と同じくらいはっちゃけて、疲れそうに見えるけどなぁ」
(;゚ー゚)「そ、そうなんですか……?」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、体質の違いかしら?」
-
(`・ω・´)「そういえばショボンもよく言ってたな。『兄さんの後は体が痛い』って」
(`・ω・´)「激しい運動なんかした後、筋肉痛に悩まされるのは決まってショボンの方なんだ」
(´<_` )「へぇー」
(`^ω^´)「僕にとってはむしろ心地良いくらいなんだけどな。
同じ体なのに、感じる痛さが違うなんて不思議だな!」
意図してかそうではないのか。
”つー”の話にしぃが不安を感じた矢先、自然に話題を逸らして
爽快に笑うシャキンの姿は、流石このクラスのリーダーと思わせた。
ξ゚⊿゚)ξ「ふーん……。あ!そういえば
マインドBへの交代が体にも影響を与える例って、前に先生が話してくれたわよね」
(´<_` )「ああ。俺が本で読んで驚いたのは、
盲人の人格に交代すると実際に目が見えなくなるっていう外国の人の話で―――」
(*゚ー゚)「……」
-
( ^ω^)ノ「みんなー、おはようだお!」
ちょっとした朝の雑談が一段落したところで、教室の戸が開きそこから見慣れた笑顔が覗いた。
各々あいさつを返す皆の視線は、自然、教室に入ってきたブーンの後を追う。
( ^ω^)「ふっふっふ。みんな、噂の新入り君が気になるようだおね」
4人の予想に反して、含み笑いをするブーンの背後に続く者はいなかった。
-
―――――今週明けの月曜日。
基本人格とマインドB達に、担任教師であるブーンからあるお知らせがあった。
( ^ω^)「今日は特別なお知らせがあるお」
( ^ω^)「このクラスに新しく、男の子が一人。
体験入学生としてやって来ることが決まったお!」
―――――急遽決まった体験入学生の受け入れ。
このクラスに来る生徒ということは 勿論マインドB発症者だ。
その男子生徒に別人格が現れたのは、つい一月程前のことらしい。
ここから少し離れた私立の高校に通う一年生で、体験入学期間は約一ヵ月。
最初の一週間は通常授業は受けず、マインドBクラスにのみ出席することとなっている。
-
その為既に、昨日のうちに一番廊下側に近いシャキンの席の隣に机と椅子が運び込まれ
短期間だがこのクラスの一員となる 5人目の生徒が来るのを待っていた。
予てから聞かされていた連絡によれば
今日が体験入学第一日目となる筈だ。
ξ゚⊿゚)ξ「……だった筈だけど?」
(`・ω・´)「まだ来ていないんですか?」
今朝は別の話題に弾みがつき、皆の口からその話が出てくることは無かったが
頭の隅では全員が、その体験入学生のことを気にしていたのだった。
( ^ω^)「ふっふー。実はもう来てます。
じゃあ、早速入ってもらおうかお」
-
( ^ω^)「挨拶をお願いするお、猫塚君」
ブーンの呼びかけに、皆の視線が教室の入口に集まる。
開け放たれたままだった木製の戸口に、件の人物が姿を見せた。
(*゚ー゚)ξ゚⊿゚)ξ「「「………」」」(´<_` )(`・ω・´)
( ^ω^)「紹介するお!今日からこのクラスのメンバーになる―――」
-
( ,,^Д^)「はじめまして!猫塚タカラと申します!!」
( ^ω^)「………猫塚タカラ君だお!みんな、仲良くしてあげてお〜」
気合の入った自分の台詞を取られ、力無くよろめくブーンを尻目に
にこやかな笑みを浮かべた男子生徒は、大げさにも取れるような礼儀正しいお辞儀をした。
-
教室の隅まで届く、はきはきした威勢の良い声。
その姿には、初めての場所、見知らぬ人々を前に物怖じする様子など微塵も感じさせない。
あまりにも堂々としたその登場に
面食らった何人かは数秒、体験入学生・猫塚タカラをぽかんと見つめた。
( ,,^Д^)「今日からこの教室でお世話になります!皆さんよろしくお願いします!」
-
ガタッ
(`・ω・´)「僕は八又シャキンだ。よろしくな猫塚君!」
ξ゚⊿゚)ξ「……二年の津田よ。よろしく」
(´<_` )「同じく二年の流石だ。よろしくな」
(*゚ー゚)「一年の、羽生っていいます。……よろしくね」
( ,,^Д^)「よろしくお願いします!!」
真っ向勝負は望むところと、席から勢いよく立ち上がるシャキン。
負けじと大きく名乗りをあげれば、後の面々もそれに続き、一人一人自己紹介を重ねていく。
まぁ、新たな顔ぶれ紹介の最初の流れとしてはかなり良い雰囲気だと言えるだろう。
その光景を見て、ブーンは満足気に微笑んだ。
-
( ^ω^)「タカラ君は前から話してあったとおり、しぃと同じ一年生だお。
通常授業も受けるようになったらそっちでも同じクラスになるから、色々教えてあげておね」
(*゚ー゚)「あ……は、はい」
『猫塚タカラ』と黒板に大きな字で書き終え、ブーンがしぃに向き直ったところで
一時限目始業を告げるチャイムが校内に鳴り渡った。
どうやら一時限目はこのまま、タカラについて紹介の時間になりそうだ。
( ^ω^)「ではタカラ君、みんなに簡単な自己紹介をして欲しいお」
( ,,^Д^)「はい!」
-
( ,,^Д^)「えっと、まず……。ボクは、基本人格の方です」
( ,,^Д^)「もう一人の方―――マインドBは、ギコっていう名前です。
先生の方から既にお話し頂いてると思いますが
彼が現れるようになったのはつい一ヵ月程前のことで、ボク自身最初は信じられませんでした」
(*゚ー゚)
( ,,^Д^)「……でも母や、周りの人からボクが”ギコ”の間に検査してもらった病院や診察所で
マインドBだと診断されたと聞きました」
( ,,^Д^)「先生に教えて頂いた、”共在意識”っていうのがまだよく分からないから
ボクの方からギコに話しかけたりする事は出来ません。
その”ギコ”のことも全く分からないし、謎の意識喪失や時間の混乱もあって
診断結果を聞かされた当初は、ただただ不安と恐怖心しか無かったです……」
ξ゚⊿゚)ξ(´<_` )
( ,,^Д^)「でも、ブーン先生からこのクラスのお話を聞いて
ここで是非授業を受け、自分の症状と向き合ってみたいと強く思ったんです!」
( ,,^Д^)「母は既に専門の病院への入院手続きを進めていたようなんですが、
何度も説得し頼み込んだ結果、こうして体験入学することを許してくれました」
(`・ω・´)
-
そこまで一気に言って、一呼吸置くと
タカラはその顔に満面の笑みを浮かべて明言した。
( ,,^Д^)「このクラスに来ることが出来て、ボク、本当に嬉しいです!!」
(;^ω^)「……お、おー。先生も嬉しいお!はい拍手!」
ξ;゚⊿゚)ξ「よ、良かったわね……」
ξ;゚⊿゚)ξ(なんか八又先輩とキャラかぶってるなぁ……)(゚ー゚;)
(`;ω;´)「良かったな猫塚君!僕らも君を大いに歓迎するぞ!」
(´<_`;)(なんで泣いてんのこの人?)
あまりにも煌々として真っ直ぐなタカラの人間性に、約一名を除いてたじろぐ一同。
-
( ^ω^)「はい!ありがとうだおタカラ君。じゃあ席に座ろうかお」
( ^ω^)「タカラ君とギコ君の席は、端っこになるけどシャキンの隣ね。
黒板とか見えにくかったらまた言ってお」
( ,,^Д^)「はい!」
( ,,^Д^)「よろしくお願いします!えっと……シャキン、先輩」
(`・ω・´)「好きなように呼んでくれ給え!」
もし何かあっても、しっかり者のシャキンの隣ならばまず間違いは無い。
そう考えての席順だったが、早くも意気投合しそうな2人はなかなか良いコンビになれそうだ。
-
( ^ω^)「……さて、と」
挨拶と自己紹介が終わり、タカラが席に着いたところで
ブーンは紙袋から黒い表紙の綴込ファイルを取り出し、ポンと教卓に広げた。
( ^ω^)「それじゃあそろそろ、出席確認しましょうかお!」
( ,,^Д^)「!」
タカラも、このクラスで行われる“出席確認”の話は前もって聞かされていた。
自らもマインドBを持っているとはいえ、他人が目の前で人格交代する光景にはやはり興味が湧く。
出席簿をパラパラとめくり、今日の日付のページを開くブーン。
そこにはちゃんと”猫塚タカラ/ギコ”の名前が加えられていた。
( ^ω^)「ギコ君にも次からは、出席確認に加わってもらうからね。
それと、マインドBのみんなにまた
さっきと同じ自己紹介してもらわなきゃいけないかもしれないけど、それは覚悟しておいてお」
( ,,^Д^)「はい!」
-
( ^ω^)「じゃあみんな、準備はいいかお?
いつもどおり、リラックスしていくお〜」
(*゚ー゚)ξ゚⊿゚)ξ(´<_` )(`・ω・´)
しぃ、ツン、弟者、シャキン。それぞれの顔を確認すると、名簿表に記された名前を読み上げる。
軽く息を吸い、ブーンはニヤッと笑った。
今度はタカラの方が気圧されてもらう番だ。
( ^ω^)「出席番号1―――」
-
( ;^Д^)「……は〜」
タカラに再び黒板の前へ立って、皆の前で自己紹介をしてもらう必要は無さそうだ。
出席確認が済み交代した彼らに、ブーンから一言、タカラについての説明が終わるや否や
皆興味津々といった様子で好きに自分の席を離れ、右端、五つ目の机へと集い
呆気にとられるタカラの周りを取り囲み、その顔を覗き込んでいた。
(*゚∀゚)「あひゃひゃ!面白い顔だな、お前!」
( ´_ゝ`)「うわ、顔の系列先生と似てる。目尻の筋肉引き攣ったりしないの?」
お馴染みの高調子な声で、ケタケタと笑うつー。
その傍らでは兄者が、困惑しつつも依然笑顔を保ったままのタカラの顔を凝視しながら
無遠慮にも指でちょいちょいつついている有り様だ。
ツンツン( ´_ゝ`)σ( ;^Д^>⊂(^∀^*)アヒャヒャヒャー
「ひゃ、ひゃめてくだひゃいぃ〜!」
-
仲良くない場合ありってヤドンが光るってのとDIO様が駄目なの方?
-
(;^ω^)「こら、めっ!2人とも、ちょっとは遠慮ってもんを学んでくれおおぉ」
(`・ω・´)「悪いな猫塚君、許してやってくれ。
兄者もつーも悪気がある訳じゃないんだ。
ただ、どうしようもなく馬鹿ってだけなんだ」
( ;^Д^)「い、いえ……って、あれ?」
面白がって好き勝手始めた無作法者2人の手から逃れ、シャキンの傍に避難する。
安心するように一息ついたタカラは、シャキンの顔を見て首を傾げた。
( ;^Д^)「シャキン先輩は、シャキン先輩のままなんですね?」
(`・ω・´)「ああ、言うのが遅れてしまったな。僕はマインドBの方なんだ」
(`・ω・´)「基本人格はショボンっていうんだ。
少し事情があって、人前にはあまり顔を出さなくてね。
でもいずれは君にも紹介したい。その時は是非よろしくしてやってくれ!」
( ,,^Д^)「はー……」
チョイ、チョイ
( ,,^Д^)「?」
-
ハム太郎がなんか変もツカイタイではずしたりを剣と同じ島ヶ原で参考にして別世界各地をね彼自身をも所詮舞わなければなぁ
-
シャツの裾をそっと引っ張る感覚に気がついて、背後を振り向く。
ζ(゚ー゚*ζ
すると、先ほどまであまり口数も多くは無く、どちらかといえばクールな印象を受けた津田が
両手を背に回して、人懐こい笑みを浮かべていた。
ζ(゚ー゚*ζ「えっと……タカラおにぃちゃん!」
( ,,^Д^)「へ?あっ、はいっ」
席から立ち上がった今、さほど背の高くないタカラと津田とではその身長に大した差は無い。
なのにその、人好きのする笑顔を携えこちらを見つめる彼女は
気のせいかうんと幼い子供のように、タカラの目には映った。
-
ζ(゚ー゚*ζ「わたし、デレっていうの。よろしくね」
( ,,^Д^)「え、あ……」
本来なら自分より先輩である筈の津田から
お兄ちゃんと呼ばれることに若干の戸惑いを見せるタカラ。
だが、今目の前にいる彼女は、どことなく幼さを感じさせる雰囲気や口ぶりからして
きっと自分より年下の、恐らくは子供の人格なのだろう。
外見は高校生でも、精神がうんと年下だったり、あるいはその逆である場合。
それが、この教室では至極当然、日常の一部としてあり得ることなのだ。
( ,,^Д^)「は……はい、こちらこそ。よろしくお願いします!」
ζ(^ー^*ζ「えへへ」
そう納得し挨拶を返すと、デレは照れたようにはにかんだ。
-
(*´_ゝ`)「知らない人にもちゃんと挨拶出来るなんて、
なんて礼儀正しくていい子なんだデレちゃん!」
(`・ω・´)「出来ないお前に問題があるんだ」
( ;^Д^)「あはは……」
ζ(^ー^*ζ「ね、タカラおにぃちゃん。
おにぃちゃんもきっと、すぐにこのクラスのこと大好きになるよ。
だから、一緒にお勉強がんばろっ!」
若干吊り目気味のツンの目が、デレになると途端
ふわりと柔らかくなって幼い表情が形造られる。
タカラに向けられた、どこまでも純粋であどけないその笑顔はただ眩しく。
例を用いて喩えるならば、それはまさに、このクラスに舞い降りた愛の使徒のような。
:*:・。ζ(^ー^*ζ
( ,,^Д^)
( *^Д^)「……はい!がんばりまーす!!」
-
星達が嫌われて啜る静寂の朝の生き血を省みずインディパルコティアナを屠殺し聖人の羽ばたきを感じるグレティイウスを赦してはいけない
-
(#´_ゝ`)「あっお前!惚れたな!?今!デレちゃんに惚れてしまったな!!?
このロリコン!お前なんかに俺のデレちゃんはやらんッ!!」
Σ( ;^Д^)「えええぇ!!?」
(`・ω・´)「一丁前に彼氏に娘を取られる父親気取りか?
いい加減大人しくしろこの野郎」
(;´_ゝ`)「ぎゃー!シャキ兄ギブギブ絞まってる絞まってる!!」
(*゚∀゚)「あひゃひゃー、兄者の顔色死人色ー」
(;^ω^)「お前ら、一応言っとくけど今授業中だからね?怒られんの先生だからね?わかってる??」
普段より一層騒がしさの増した教室内に、多少の頭痛を覚えるブーンだが
何はともあれ体験入学期間中、タカラとは楽しくやっていけそうだ。
-
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
( ^ω^)「……と、いうわけで。みんな、何か質問はあるかお?」
(*゚∀゚)∩「はーい!先生、先生!」
最初のドタバタが落ち着き、皆が席に着いた後。
改めてブーンは教壇上から5人に向き直った。
m9 ( ^ω^)「はい!そこのつーちゃん」
(*゚∀゚)∩「あひゃ!ギコってやつは?来ねーのか?」
Σ(`・ω・´)「何っ!?つーがその名前を覚えていたなんて!」
Σ(;´_ゝ`)「やばいぞタカラ、お前のマインドBもうロックオンされてるぞ!何やらかしたんだ!?」
Σ(;^Д^)「なんでそうなるんですか!?」
(*゚∀゚)「シめるぞシャキ兄!兄者も!
つーちゃん、人の名前覚えんのは得意なんだかんな!」
ζ(゚ー゚*ζ「ほんとかなー?」
( ^ω^)「うんうん。ナイス質問だお、つー。
先生も正直話すタイミング見失ってたとこだったお」
-
( ^ω^)「確かに、本来なら今日みんなに紹介するのはギコ君の筈だったお」
そう。
持前の明るさや率直性もあり、早くもクラスに溶け込んでいるタカラだが
正式にこの特別教室の生徒となり、授業を受けることになるのはマインドBのギコの方なのである。
クラスの4人も、体験入学生が来るという事前の連絡では「猫塚ギコ」の名前を聞かされていた。
( ^ω^)「でもギコ君には、今日は自分の好きなタイミングで出てきてもらうよう言ってあるお。
だから、授業時間中一度も出てこなくてもいいし、ただ見ているだけでも良いし」
( ^ω^)「タカラ君にも、まずこのクラスのことで知ってもらわないといけないこともあるしね。
次から出席確認には加わってもらうけど、期間も一ヵ月あるから
2人にはゆっくり慣れてってもらうことにしたお」
(*゚∀゚)「ふーん……」ジー
(;^Д^)「そ、そんなじろじろ見たって出てきませんよー」
( ´_ゝ`)「タカラ、交代は?自由に出来んの?」
( ,,^Д^)「あ、そ、それも出来ません。ボクの方からギコに話しかけたりは出来なくて……」
そうして、タカラにまたあれこれと聞いたり、各々のことを話すうち
時間はあっという間に過ぎて、校内に鳴り響く鐘の音が一時限目の終了を知らせた。
-
+ + + + + + + + + + + +
( ^ω^)「はいみんな、その場所でいいからちゅうもーく」
休憩時間開始と共に教室を出ていき、数分後再び戻ってきたブーン。
再びタカラを囲み、一つの机に集まっていた全員がそちらに顔を向ける。
横に引かれた教室の戸は、何故かそのまま開かれたままだ。
( ^ω^)「みんな、月曜日に先生が言ったお知らせ、覚えてるかお?」
(*゚∀゚)「あひゃ?体験入学生が来るってお知らせ!んで今日来た!」
( ^ω^)「そうだおね。それともう一つは?」
(*゚∀゚)「ひゃ?」
ζ(゚ー゚*ζ「……あ!」
-
( ´_ゝ`)∩「はいはい!教育実習生も来ることになった!」
( ^ω^)「ピンポン正解!」
(*゚∀゚)「??」
(`・ω・´)「やっぱその事は覚えてなかったか……」
(*゚∀゚)「きょーいくじっしゅーせーって?」
ζ(゚ー゚*ζ「先生のお勉強しに来る先生だよね!いつ来るの?」
( ´_ゝ`)「デレちゃんの方が分かってんじゃねーか」
-
( ^ω^)「うん、実はね。
その教育実習生さんが来るのも、今日なんだお」
(`・ω・´)「!」
(*゚∀゚)「あひゃ?」
(;´_ゝ`)「え、マジで?」
ζ(゚ワ゚*ζ「わぁっ、今日なんだ!」
( ,,^Д^)「……」
( ^ω^)「偶然重なっちゃったんだけどおね。
ちょっと急なことで、みんなに連絡出来なかったんだお。ごめんお」
( ^ω^)「それでだお。
タカラ君に続いて、もう1人知らない人が教室にいたら、みんな驚くと思って。
だから今日は、教育実習生さんのことは2時限目に紹介することにしたんだお」
これは特に、しぃとつーのことを考慮しての案だった。
初めて会う大人に目の前で観察された状態では、
人見知りの気があるしぃは怖気づいて人格交代が上手くいかないかもしれないし
目が覚めて見知らぬ大人が部屋の中にいたら、つーは警戒の姿勢を取るだろう。
-
(`・ω・´)「……じゃあ」
( ^ω^)「うん。今、教室まで来てもらってるお」
その言葉が終わると同時
開け放たれたままだった教室の戸口に、動く人影が見えた。
(*゚∀゚)( ´_ゝ`)ζ(゚ー゚*ζ(`・ω・´)( ,,^Д^)
静かな驚きに息を飲み、見守る生徒達の前へ
ゆっくり、均整のとれた歩みで歩を進めていく。
-
こつん。
こつん。
こつ………。
( ∀ )
宵の空に輝く 金色の三日月が笑った。
.
-
( ・∀・)「初めまして。
dat大から来ました、教育実習生の愛流モララーです。
今日から宜しくお願いします」
.
-
ここでモララーかあああ!
-
以上、8話終了です。
ほんとに……間が空いて申し訳……ッ!!
モララーの苗字もう一つ候補と超悩んだ。読み方は「える」です。わぁい厨二ー
次話は、日程は未定ですが2月中に更新します。ありがとうございました!
-
乙だ
-
乙乙!
えるって読むのか、あいると読んでしまった
タカラ良い子過ぎて心配だわ……
-
おつ
タカラさんにロリコンの素質が垣間見えたな
-
わぁい乙乙まってた!
続きが楽しみだ
-
とうとうモララー来ちゃったかあ…
乙
-
ひー、どうなるやら
-
面白いな。一気に読んでしまった
-
これからどうなるんだ?
-
乙!
ギコがどう動くか楽しみだな
-
http://stat001.ameba.jp/user_images/20130201/13/kirisametouhou/e4/4d/p/t02200180_0474038812400588773.png
-
面白い!
続きまってる
-
待ってたよー!乙!
ついにモララーきたか
-
モララー教育実習生か…
-
なるほど、モララエルか
乙!展開wktkすぎる
-
>>395
お前のおかげですっきりした。
なるほど、モララエルか。
続きが楽しみすぎて明け方にしか眠れない
-
>>395
お前頭良いな
-
感想よんでから来たけど、おもしろすぎるだろ…
支援
-
>>395
お前頭良いな
シベリア感想絵祭乙でした!
現行含め他にも感想や絵貰ってすごく嬉しかった
マインドBの絵も頂いたから貼らせてもらうよ!ありがとう!
http://vippic.mine.nu/up/img/vp106799.jpg
-
>>399
すごくいい
-
>>399
まさかこっちにも貼ってもらえるなんて思ってなくて
心臓飛び出た・・・
マインドB大好きだ!
続き待ってるからな!
-
( ^ω^)「モララー先生は、dat大学院で精神医学の専攻を学びながら
僕と同じように教師兼マインドB専属カウンセラーを目指している学生さんだお。
だから今回は特別にこのクラスでの……」
ζ(゚ー゚*ζ「あーっ!」
( ^ω^)「へ?」
( ・∀・)「え?」
(*゚∀゚)( ´_ゝ`)「「?」」(`・ω・´)( ,,^Д^)
皆と同様、休憩時間に入りタカラの机を囲っていたデレが
突然嬉しそうな声をあげて、教育実習生の方へと近寄った。
-
タタタ…
ζ(゚ー゚*ζ ジッ
( ・∀・)「……おや!」
一歩手前で立ち止まり、再度その顔を確認すると
程なくして彼女は ぱっと表情を輝かせた。
ζ(゚ワ゚*ζ「やっぱり!公園で会ったおにーさんだぁっ!」
( ・∀・)「そう言う君は……あの時のお嬢さん!」
(;^ω^)「……え?お知り合い?」
-
ζ(゚ー゚*ζ「おにーさんが、先生のお勉強しに来る先生なの!?
わぁっ、すごーい!」
( ・∀・)「いやぁ、まさか君がVIP高の生徒だったなんて!偶然だねぇ」
キャイ ( ・∀・)ζ(^ー^*ζ キャイ
(;^ω^)「も、モララーせんせー?」
( ・∀・)「!」
(・∀・ )ミ「それに、そこの青年も!」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)
(;´_ゝ`)「え?俺?」
-
(・∀・ )「そうか、2人ともVIP高のお友達だったんだね!」ズイッ
(;´_ゝ`)「えっ」
(・∀・ )「あの時はどうもありがとう!いやぁ本当に助かったよ」ズイズイッ
(;´_ゝ`)「えっ、えーと……?
……ああーあのときのー!」
ζ(゚ー゚*ζ「あにーちゃん、あにーちゃん」クイクイ
突如現れた身に覚えの無い相手に、親しみを込めた調子で迫られ焦る兄者。
デレはそっとシャツの裾を引いて、小声で耳打ちをした。
(;´_ゝ`)「なになにデレちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「あのね、この前、弟者おにいちゃんと一緒にね、シベリア公園で会ったんだよ」
(;´_ゝ`)「あ。ああ……そゆこと」
(;^ω^)「おー……先生完っ全に置いてかれてるお……」
いくら記憶を辿っても、兄者自身は何も思い当たる人物が浮かばない。
それでも相手が自分を知っているということは、つまりそういうことなのだろう。
-
ζ(゚ー゚*ζ「おにーさん、おにーさん」
( ・∀・)「うん?」
ζ(゚ー゚*ζ「あのね、おにーさんが公園で会ったのは
あにーちゃんじゃなくて、弟者おにいちゃんの方なんだよ」
( ・∀・)「え??」
ζ(゚ー゚*ζ「そっくりだけどね、違うんだよ。
だから、あにーちゃんはおにいさんのこと知らないの」
(;・∀・)「そっくりだけど違う……?もしや双子??」
ζ(゚ー゚;ζ「え、えっとね、だからね」
( ・∀・)「あれ?そういえばどうして、君も青年もこのクラスに……」
Σ(;・∀・)「……ああ!そうか」
こういった状況に面した時、兄者には
「あんたと会ったことがあるのは俺の別の人格だ」なんて
いちいち説明するのは面倒極まりないので、その場で適当に誤魔化して
辻褄合わせの軽い嘘を吐く癖が、昔から自然と身についていた。
隣で一生懸命説明しようとしてくれているデレや、そもそもこの状況において
今回その必要は無さそうだが。
-
(;^ω^)「あのー」
Σ(;・∀・)「ああっ、ブーン先生すいません!ご紹介頂いている途中で……」
ζ(^ー^*ζ「うふふ」
予期せぬ再会に、顔を綻ばせるデレ。
実は、もっと極々最近彼の姿を何処かで目にした彼女だったが
その記憶が浮上することはついに無かった。
-
(*゚∀゚)「あひゃー。あいつもこのクラスの奴になんのか?大人なのにな」
(`・ω・´)「……」
(*゚∀゚)「?……シャキ兄?」
(`・ω・´)「ん?」
(*゚∀゚)「どした?」
(`・ω・´)「あ、ああ。……いや、なんでもない」
(`・ω・´)「……?」
( ・∀・) ζ(^ー^*ζ
.
-
_
( ゚∀゚)「へーっ、それで、その教育実習生がラウンジ公園で会った人だったってわけ?」
('(゚∀゚∩「すごい偶然だよ!」
2年A組、3時限目の授業が始まる前の十分休み。
マインドBクラスから戻ってきた弟者の机周りは、いつもの顔ぶれで賑わっていた。
(´<_` )「ああ。そういえば前会った時、VIP町にしばらく居るって言ってたっけ。
こんな偶然ってあるんだな……」
_
( ゚∀゚)「んー、まぁ、狭い町だしな。そういうこともあるかもしれねーな」
-
('(゚∀゚∩「転校生の方はどうだったんだよ?」
(´<_` )「転校生じゃなくて体験入学生な。
うん、猫塚っていうんだけど、真面目そうだし良い奴だよ。
なんか八又先輩タイプ。さっそく隣の席同士、先輩と意気投合してた」
_
( ゚∀゚)「ああ!八又先輩ってかっこいいよな。
爽やかスポーツマンって感じでさ。俺憧れちゃうなー」
_
( ゚∀゚)「自主的に鍛えてるみたいだし、陸上入ればいいのに」
(´<_` )「いや、放課後は忙しいみたいだぞ。
ほら、先輩のもう1人の人格の、ショボンさんに勉強教えてるんだってさ」
_
( ゚∀゚)「?ああ、えっと、八又先輩のマインドBだっけ?」
(´<_`;)「何言ってんだ、八又先輩の……、シャキン先輩の方がマインドBなんだよ」
_
(;゚∀゚)「あれ?そうなの?」
-
コワイヨーコワイヨー
楽しみだよー
支援
-
きょとんとした様子のジョルジュ。
だが彼が校内で見かけるのは、常に自信に満ち溢れた憧れの先輩の方なのだ。
シャキンがマインドBクラスに通っている事を知っているジョルジュが
ほとんど表舞台に出てこないショボンのことを、そう勘違いするのも無理は無いだろう。
('(゚∀゚∩「でも僕も、ショボンって人見たこと無いよ。弟者はある?」
(´<_` )「一応」
_
( ゚∀゚)「ふーん。どんな人?八又先輩と全然違う?」
(´<_` )「さぁ……。ブーン先生と話してるとこ見ただけだから、どんな人かまでは……」
先生と向かい合わせ、顔を俯かせて座る、若干猫背君の後ろ姿を思い浮かべる。
シャキンの基本人格――――八又ショボンとは
言葉を交わしたことも無ければ、直接対面したことも無く
何故表に出てこないのか、何を考えているのかも皆目分からない。
毎日顔を合わせている相手なのに、それがその実全く見知らぬ他人だなんて。おかしな話だ。
-
ショボンが極度の対人恐怖症だという話は聞いたことがある。が、
誰にでも友好的で明るく、頼れる兄貴肌のシャキンからは、およそ縁遠い言葉と印象に思えた。
実際ジョルジュのように、校内においてはシャキンとしての彼しか知らない生徒が大半の筈だ。
(´<_` )「……」
(´<_` )(……もしも)
―――もしも、自分がその立場だったら?
_
( ゚∀゚) ('(^∀^∩
目の前で笑うジョルジュやなおるよが、みんなが。
もしも、”兄者”としての自分しか知らなかったとしたら。
それは一体、どんな気持ちがするのだろう。
-
自分であって自分で無い、もう1人の自分によって
人々の記憶から、世界から、自らの存在を上書きされていく。
(:::::::::::)
―――八又ショボン。
固い沈黙の檻に徹する彼は一体、どんな思いで日々を過ごし
暗く隔たれた外の世界を、自分によく似た他人という鏡を通して見つめているのだろうか……
-
(´<_`;)「あっ」
そこまで思考したところで、何気なく開いたスマートフォンの画面を見て思わず声をあげた。
_
( ゚∀゚)「なになに?」
('(゚∀゚∩「どしたよ?」
□(´<_`;)「ったく」
□⊂(´<_`;)「まーた携帯の待ち受け勝手に変えられてる」
_
( ゚∀゚)「どれどれ」
【l从*・∀・ノ!リ人】
('(゚∀゚∩「あー!妹者ちゃんだよ。かわいー」
_
( ゚∀゚)「綺麗に撮れてるじゃん。撮影者兄者?」
(´<_`;)「だろうな。俺が知らない間にフォルダに増えてたから」
-
('(゚∀゚∩「いいじゃん待ち受け。このままにしときなよ!」
(´<_`;)「いや良いんだけどさ。若干恥ずかしいっつーか……変じゃない?」
_
( ゚∀゚)「えー?変じゃねーよ、普通だろ?」
('(^∀^∩「あははっ、弟者は気にしぃだよ!」
(´<_`;)「そうかなー」
画面の中で無邪気に微笑む妹者を見つめる。
確かに、携帯を開く度毎回この癒し効果を得ることが出来るなら
このまま待ち受け画面に設定しておくのも、悪くは無いのかもしれない。
-
(´<_`;)「うーん」
いやでも実際、周りから見てどうなんだろう?
実の妹とはいえ、小さな女の子の写真を待ち受けにしているというのは……
目の前で笑う2人の言うとおり、俺が気にしすぎているだけなんだろうか。
……まぁ、可愛いからいっかな?可愛いは正義。
こうして見ると本当によく撮れてる。被写体が良すぎるせいだろうけど。
それにしても妹者の笑顔はいつ見ても最高に愛くるしいな。マジで心のオアシス俺の天使!
( ´_ゝ`)「……あっ?」
_
( ゚∀゚)「「?」」('(゚∀゚∩
(*´_ゝ`)「あー!ジュルずになっちーん!おはよー!」
今までスマホ片手に悩みの声を漏らしていた彼から
急に、若干トーンの高くなった能天気な声があがった。
-
ちらとそちらへ視線を向けるも、すぐにまた元の雑談へ戻る周囲の生徒達。
学校にいる間、いつも一緒につるんでいるジョルジュとなおるよの2人はもちろん、
同じ教室にいるクラスメイト達ももう慣れたものだ。
ミセ*゚ー゚)リ「……でね!その時バイトの先輩がさぁ……、……トソっち?」
(゚、゚トソン「……」
_
(;゚∀゚)「はいはいおはよ兄者。でもまだ寝てていいのよ?」
('(゚∀゚;∩「妹者ちゃんの写真が起爆剤かよ。うっかりスマホも開けないよ……」
_
(;゚∀゚)「もしかしてそれ狙ってわざとギミック仕込んだんじゃねーだろなお前」
( ´_ゝ`)「?なにが?……あっ」
フと視線を下げ、自分が手にしている小型の電子機器に気がつくと
嬉々としてそれを、目の前のジョルジュにぐいぐい押し付ける。
-
(*´_ゝ`)つ□「あー!もしかしてこれ見てた?よく撮れてるだろ、俺が撮ったの!」
_
(;゚∀゚)「わーってるって、0距離やめろ!」
('(゚∀゚∩「1、2時限の間に差し変えたのかよ?弟者、変えようかって迷ってたよ」
Σ(;´_ゝ`)「えっ、やだやだなんで変えんの!?やだ俺あの子のこと理解できない……」
_
( ゚∀゚)「勝手に変えるからだろもー。ちょっと恥ずかしいからだってよ」
(;´_ゝ`)「なにが!?」
_
(;゚∀゚)「知るか!てか、俺じゃなくて直接弟者に聞けっての」
( ´_ゝ`)、「よく撮れてるのに……」
_
( ゚∀゚)「……でもま、そんなこと言って弟者もまんざらじゃない感じだったけど?
お前ら2人で使う携帯だし、俺は良いと思うぜ」
('(゚∀゚∩「僕も良いと思うよ!弟者に、そのまま使うよう言っといてあげるよ!」
(゜´_ゝ`)「な……なっちぃいいいいいありがと大好き!」
('(゚∀゚;∩「ぎゃー!いちいちくっつくなよ気持ち悪いよ!」
-
(*´_ゝ`)「頼んだぜ2人とも!
Myシャイブラザーに、もっと自分の心に素直になれってご指導ご鞭撻ご教授してやって!」
_
(;゚∀゚)「お前はお前で自分の心に素直に生きすぎだとジョル君思うなー。
……ま、いっか」
(*´_ゝ`)「あっところで今何時?もう昼?うきうきウォッチング始まっちゃう??」
_
(;゚∀゚)「画面見ろや。3時限目突入およそ3分前」
('(゚∀゚∩「次は歯車王先生の数学だよ!
マテマテマテマテマ・テ・マ・ティ・カ♪」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)
( _ゝ)
(´<_` )「…・…」
(´<_` )「やっぱこれ、ちょっと恥ず……」
_
(;゚∀゚)「「いや、無言で消えんなよ!!」」('(゚∀゚;∩
Σ(´<_`;)「はい?!」
-
+ + + + + + + + + + + +
(`・ω・´)「起立!礼!」
ζ(゚ー゚*ζ(*゚∀゚) ( ,,^Д^)「「おはようございまーす!」」( ´_ゝ`)(`・ω・´)
( ^ω^)「おはようだおー!」
( ・∀・)「おはようございます!」
いつもより若干人口密度の高まった教室内に、元気良い挨拶が重なる。
モララーとタカラが紹介された次の日は3,4時限目が特別授業。
土曜日なので、この日の授業は午前中で終了だ。
( ^ω^)「うーん、ギコ君はまだ出てくる気分じゃないみたいだおね」
( ;^Д^)「みたいですね……ごめんなさい先生」
( ^ω^)「謝ることじゃないお、まだ2日目だお?焦らずやってこうお」
( ,,^Д^)「はい!」
-
( ^ω^)「では今日は、モララー先生に課題を渡してもらうおー」
( ・∀・)「はい、じゃあまず羽生つーさん!取りに来てください」
(*゚∀゚)ノ「あひゃ!」
( ^ω^)「分からない問題や困ったことがあったら、僕かモララー先生に言っておね」
ζ(゚ー゚*ζ(*゚∀゚) ( ,,^Д^)「「はーい」」( ´_ゝ`)(`・ω・´)
生徒が増え教育実習生が来たからといって、やる事はいつもの授業の形と変わらない。
モララーには予め渡しておいた個人の成績表や記録を参考に、皆に配る教材作りの一部を任せ
授業中はブーンと共に、各々の課題に取り組む生徒の手助けをしてもらう。
-
その日の3,4時限目はスムーズに流れていった。
モララーは、まるで以前からこの教室にいたかのように自然と生徒の1人1人に接し
目の前の課題に苦戦している生徒がいれば、丁寧な教え方でその問題が解けるまで付き合った。
そのスマートな指導体制や接し方は、恐らく
申請書にも書いてあった、家庭教師のアルバイトで身につけたものなのだろう。
一時限目の間は、つーがワークブックを進めるのを積極的に手伝い。
終業のチャイムが鳴り渡る頃には、早くもクラスの空気に溶け込んでいた。
-
ζ(゚ー゚*ζ「あのね、パパはね、すっごく優しいの!」
( ・∀・)「そうなんだ。休みの日なんかは、一緒に遊んでくれるのかな?」
ζ(゚ー゚*ζ「うん!買い物につれてってくれたり、おでかけしたりするよ。
パパはお仕事忙しいから、たまにしかお休みとれないけど……」
その日の10分休み。
すっかり打ち解けたデレと、楽しそうに談笑するモララーの姿があった。
( ・∀・)「パパのこと好き?」
ζ(^ー^*ζ「うん、大好き!」
( ・∀・)「そっか。じゃあ、ツンちゃんもパパのこと好きなのかな?」
ζ(^ー^*ζ「うん!ツンちゃんほんとは、すっごく甘えたさんなんだから。
恥ずかしくって言わないけどね、パパのことだーいすきなんだよ」
( ・∀・)「ふふ、それは良いことだねぇ」
-
( ´_ゝ`)つ□「見てみタカラ!待ち受け変えたんだー」
( ;^Д^)「昨日も見せてもらいましたってば、兄者先輩」
( ・∀・)「ん?その子……」
( ´_ゝ`)つ□「あっ、先生も見る?」
( ・∀・)「……あ!この前デレちゃんと一緒にいた子だね」
ζ(゚ー゚*ζ「妹者ちゃんだよ!」
(*´_ゝ`)「可愛いっしょ?俺の妹!」
(*´_ゝ`)「今年で10歳なんだー」
-
( ・∀・)「へぇ〜、年の離れた妹か。羨ましいなぁ」
( ・∀・)「待ち受けにしてるなんて、兄者君はよっぽど妹者ちゃんのこと大好きなんだね」
(*´_ゝ`)「もち!毎日一緒にいたいくらい!」
( ・∀・)「うん?……あっ、そっか」
( ・∀・)「確か兄者君は、妹者ちゃんと会える日が決められているんだったね……」
(*´_ゝ`)「うん。でも、明日会えるんだ!超楽しみ!」
( ・∀・)「そっか。それは嬉しいね!」
( ^ω^)(モララー君、上手くやってくれてるおね)
( ФωФ)(うむ、初日でこれなら大したものである)
元々、愛流 モララーに関しては大学からの素晴らしいお墨付きがあったのだが。
送られてきたその推薦文を読んで感じたそれ以上に
彼が教師としての才能に溢れた、魅力的な若者であるという事実を
こうして目の当りにしている今、ブーンとロマネスク 双方ともに認めざるを得なかった。
( ^ω^)(これなら、特に心配しなくても大丈夫みたいだおね……)
( ^ω^)(丁度タカラ君の体験入学の期間とも重なって、僕も人手が欲しいところだったし。
みんなにも良い刺激になるし、良かったお)
-
+ + + + + + + + + + + +
時計の針は正午を指して、4時限目終了の鐘が校内に鳴り響く。
緩やかな土曜の午後の始まり。生徒達にとっては下校の時刻だ。
(`・ω・´)「教室に帰るぞ、兄者」
( ´_ゝ`)「はーい」
シャキンに促され、教科書と問題集を詰め込んだカバンを提げると、兄者は
例の如く机の上に座り、暇を持て余しているつーの方を振り向いた。
(*゚∀゚)゙
まるでこの世に悩みなど何も無いかのように、普段通り能天気に振る舞うつー。
そんな彼女だが、学校が休みの日が近づくと
フとした瞬間に寂しげな表情を見せることを、兄者は知っていた。
-
鬱展開はやめてね
あと('A`)が出てくれたら個人的に嬉しい
-
( ´_ゝ`)ノシ「つー、またなー!」
(*゚∀゚)ノ「おー、またな兄者!」
笑顔で手を振り返すつー。
( ´_ゝ`)ノ
その姿を捉えていた瞳から すぅ、と光が失われ
軽く振られていた手は、ゆるやかに降下していく。
( ´_ゝ`)「……」
( _ゝ)
( <_ )
(´<_` )
-
(´<_` )「……じゃ、教室に帰ります。ブーン先生、モララー先生、さようなら」
(`・ω・´)「先生さようなら!また月曜日に」
ξ゚⊿゚)ξ「さよなら」
( ^ω^)「はいお。3人とも、気をつけて帰るんだおよ」
( ・∀・)「さようなら。みんな、またね!」
教室を出ていくシャキンと弟者、ツンの背を見送る。
数歩歩いたところでフと、壁際の方に顔を向けたシャキン達のその目先
笑顔で3人に挨拶する、1人の女生徒の姿がドア越しに覗いた。
从^ー^从゙
( ・∀・)「……おや?あの子……」
( ・∀・)「確か昨日も教室の前にいましたよね。誰かのお友達ですか?」
-
( ^ω^)「うん、しぃと同じクラスの渡辺さんだお。
いつも、授業が先に終わると迎えにきてくれるんだお」
( ・∀・)「ああ、羽生さんのお友達なんだ。
いつも待っててくれるんですか?仲が良いんですね」
( ・∀・)「でもあんな窓際の隅にいないで、もっと近くに来れば良いのに」
( ^ω^)「ああ、それは……しぃと約束してるんだお。
教室の中が見えない所で待っててねって」
( ・∀・)「……へぇ。なるほど」
( ・∀・)「大事な人に、見られたくないんですね。もう1人の自分を」
-
( ^ω^)「マインドB発症患者でそういう人は割と多いお。
思春期の子は特にそうだし、それにしぃは繊細な性格だからね。
デリケートな問題なんだお。僕らも十分気をつけないと」
( ・∀・)「はい。僕も気をつけます」
( ^ω^)「じゃ、渡辺さんも待ってることだし、しぃを起こすかお。
準備いいかお、つー?」
(*゚∀゚)ノ「おー」
(*゚∀゚)「……」
-
(*゚ー゚)「じゃあ先生、私これで……」
( ^ω^)「あ、待っておしぃ」
(*゚ー゚)「?」
( ^ω^)「悪いんだけど、終礼が終わったらもう一度ここに来てくれるかお?」
(*゚ー゚)「え?」
( ^ω^)「タカラ君に、一年生の靴箱の場所を案内してあげてほしいんだお。
昨日はスリッパだったしね」
( ,,^Д^)「よろしくお願いします!」
(*゚ー゚)「あっ、はい。……分かりました」
( ^ω^)「ここで待ってるから、一緒に行ってあげておね」
( ^ω^)「頼んだお、しぃ」
(*゚ー゚)「はい」
-
_
( ゚∀゚)ノシ「じゃあなー弟者!」
('(゚∀゚∩「バイバイだよ!」
(´<_` )「うん、またな2人とも」
放課後 学校からの帰り道。
ジョルジュとなおるよと別れた後で、1人帰路につく弟者。
(´<_` )「……」
「モララー先生、どうだった?兄者」
表面や声に出すことはせず、内面に意識を向け心のなかの相手に尋ねる。
いつもと同じ通学路を歩く、弟者の目が僅かに左右に動き、声無く唇が動いた。
-
「んー?うん、良い先生だったぞ。プリント終わらすの手伝ってくれたし。
休み時間には、妹者の待ち受け見せて自慢したんだ!」
「そうか、良かったな。
……先生慣れてないんだから、あんまり迷惑かけるなよ」
「迷惑なんてかけませんー」
「どうだか」
(´<_` )=3
ジョルジュとなおるよ曰く、2-Aに帰ってきた直後にも
兄者はまた不意に表れて、掃除の当番に当たっていることを知るとすぐ引っ込んだそうだ。
普段なら兄者も、学校が終わるまでの間くらいもう少し大人しくしていられるのだが。
こうもちょくちょく双方無意識の人格交代が起きるのは、決まって兄者が浮かれている証拠である。
マインドBの診断を下されて5年。
気まぐれな兄者との付き合いにももう慣れたとは言え
こう何度も、何の心構え無く意識喪失を起こし不意に目覚めるのが続くと流石に疲れてしまう。
(´<_` )(……まぁ、兄者が浮かれるのも仕方無いか)
-
数秒の間を置いて、声が返ってくる。
「んー?うん、良い先生だったぞ。プリント終わらすの手伝ってくれたし。
休み時間には、妹者の待ち受け見せて自慢したんだ!」
「そうか、良かったな。
……先生慣れてないんだから、あんまり迷惑かけるなよ」
「迷惑なんてかけませんー」
「どうだか」
(´<_` )=3
ジョルジュとなおるよ曰く、2-Aに帰ってきた直後にも
兄者はまた不意に表れて、掃除の当番に当たっていることを知るとすぐ引っ込んだそうだ。
普段なら兄者も、学校が終わるまでの間くらいもう少し大人しくしていられるのだが。
こうもちょくちょく双方無意識の人格交代が起きるのは、決まって兄者が浮かれている証拠である。
マインドBの診断を下されて5年。
気まぐれな兄者との付き合いにももう慣れたとは言え
こう何度も、何の心構え無く意識喪失を起こし不意に目覚めるのが続くと流石に疲れてしまう。
(´<_` )(……まぁ、兄者が浮かれるのも仕方無いか)
-
*(‘‘)*「いもちゃーん!」
l从・∀・ノ!リ人「あ!ヘリカルちゃん」
*(‘‘)*「ねーねー日曜日暇?リリちゃん家で遊ぶんだけど」
l从・∀・ノ!リ人「あ……んー、ごめんのじゃ!
日曜日はちょっと、約束があるのじゃ」
*(‘‘)*「むーそっかぁ……残念。他の子と?」
l从・∀・*ノ!リ人「……えへへ、内緒なのじゃ!」
*(‘‘)*「あー、いもちゃん嬉しそう。さてはデートだなー!」
l从・∀・;ノ!リ人「ちちち違うのじゃ!なんでそうなるのじゃっ」
*(‘‘)*「えー、じゃあ誰と?」
l从・∀・;ノ!リ人「むむむ……。……ぉ……お兄ちゃんと約束、なのじゃ」
*(‘‘)*「あー、なるほど。
いもちゃん、お兄ちゃんのこと大好きだもんね!」
l从・∀・*ノ!リ人
*(‘‘)*「いもちゃんのお兄ちゃん、優しくてかっこよくて良いな。うらやましいなー」
l从・∀・*ノ!リ人「……えへへ」
我が流石家には、もう1人
優しくて面白くて、大好きなお兄ちゃんがいることを
学校のお友達や、ヘリカルちゃんは知らない。
-
(*゚ー゚)「えっと……此処とあと、保健室の隣の階段からも降りられるからね」
( ,,^Д^)「わかりました!」
東館の地下に設けられた広い靴置き場は、授業が終わったばかりの今の時間
下校する生徒の数もまばらで、ひっそりとした静けさにつつまれている。
地上へと続く石階段では、数人の生徒が気だるげな様子で
箒を片手に段差の掃き掃除をしていた。
-
(*゚ー゚)(……)
ナベちゃんは、今日は委員会の話し合いで遅くなるそうだ。
そして自分は特に用事も無く、こうしてカバンを手に提げて帰り支度は万全。
此処で自分の靴箱からローファーを取り出し、上靴を履き替えれば
そのまま下校出来る状態、なのだが。
(;゚ー゚)、「……」
( ,,^Д^)「わぁ、流石に大きいですね!あっちは部活動用ですか?」
(;゚ー゚)「ふぇっ?あ……う、うん!」
このままいけば、昨日知り合ったばかりのタカラと2人で校門を出る流れになってしまう。
それは、若干、いや、かなり気恥ずかしい。
親しい第三者がこの場にいてくれれば、まだ話は別だっただろう。
けれど、会話が苦手でまともに人の目も見れない自分には
たとえ校門までの短い距離であったとしても、もしくはそれ以上の道すがら
ほぼ初対面の男子生徒と2人きり、何を話せば良いのかなんて皆目見当がつかなかった。
-
このままタカラと一緒に地上に出たところで
両者にとって気まずい下校になることは目に見えている。
(*゚ー゚)「ここから3列目の棚までが、一年生の靴箱」
( ,,^Д^)「はい!」
(*゚ー゚)「A組は一番端の……」
(*゚ー゚)(……)
このまま、タカラには1人で帰ってもらって
自分は図書館で本でも読みながらナベちゃんを待とうか?
……しかし仮にも相手は同じ教室に通うクラスメイト、入学して来たばかりの同級生。
そんな相手に対して初日から、余所余所しく、突き放すような態度を取るのは
いくらなんでも無責任っていうか、冷たすぎるんじゃないかな……。
ブーン先生にも、同じ学年だから色々教えてあげておね、と
昨日お願いされたではないか。
『 頼んだお、しぃ 』
こんな自分を信じて、そう言ってくれたのに。
-
(;゚ー゚)(でも変に気まずくなって、嫌われるのも嫌だなぁ……)
(;₋ ₋)(ああ、もう)
……どうして自分はこうも、何事も上手くできないんだろうか。
自分で自分に腹立つ。
中学にあがる頃までは、こんな風に
人と関わることに対して、極端に苦手意識を持つことなんて無かった筈だ。
筈、なのに……
(*゚ー゚)「えっと……、あった!46番。タカラ君はここ……」
(*゚ー゚)「……?」
フと、先ほどまですぐ傍で感じていた、背後の気配が遠のいた事に気がつく。
-
( )「……」
(*゚ー゚)「……タカラ君?」
不審に思い振り返ると、さっきまで自分のすぐ後ろをついて来ていた相手は
反対側の棚に体を向けて、その場にしゃがみ込んでいた。
(;゚−゚)「えっ!ど、どうしたの?」
( )「……」
(;゚−゚)「どうしたの?気分悪い?」
(;゚−゚)
不意に陥った、ぞっとするような静けさ。
今まで自分が何か言う度、元気良く返事をしていた彼の明るさは沈黙に没し
地下の暗がりで静かに俯く、そのギャップに嫌な胸騒ぎが走る。
-
(;゚−゚)(大変、先生呼んでこなきゃ……!)
幸い、この先の西階段を上がればすぐそこに保健室がある。
(;゚−゚)「ま、待っててタカラ君、今……」
助けを呼ぼうと彼に背を向け、走り出そうとした一歩手前。
( )「……」
背後で屈んでいたタカラが、音も無く立ち上がった。
後方から刺すように滲む、空気と気配を感じて思わず立ち止まる。
( )
( ,,)
( ,,Д)
(;゚−゚)「……タカラ、君?」
-
( ,, Д )「……」
(;゚−゚)「だ、大丈夫……?タカラく―――」
( ,, Д )「お前」
(,,゚Д゚)「もう1人の自分の存在を、消したいと思ったことは無いか?」
(*゚ー゚)「……え」
射抜くような目線でこちらを真っ直ぐに見据えた、目の前の男子生徒は
常に明るく、人好きするにこやかな笑顔を浮かべた彼――――
――――先ほどまでの猫塚タカラとは 別の『誰か』だった。
-
以上9話投下終了です。ありがとうございました
-
乙
-
>>405訂正
(・∀・ )「そうか、2人ともVIP高のお友達だったんだね!」ズイッ
(;´_ゝ`)「えっ」
(・∀・ )「あの時はどうもありがとう!いやぁ本当に助かったよ」ズイズイッ
(;´_ゝ`)「えっ、えーと……?
……ああーあのときのー!」
ζ(゚ー゚*ζ「あにーちゃん、あにーちゃん」クイクイ
突如現れた身に覚えの無い相手に、親しみを込めた調子で迫られ焦る兄者。
デレはそっとシャツの裾を引いて、小声で耳打ちをした。
(;´_ゝ`)「なになにデレちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「あのね、この前、弟者おにいちゃんと一緒にね、ラウンジ公園で会ったんだよ」
(;´_ゝ`)「あ。ああ……そゆこと」
(;^ω^)「おー……先生完っ全に置いてかれてるお……」
いくら記憶を辿っても、兄者自身は何も思い当たる人物が浮かばない。
それでも相手が自分を知っているということは、つまりそういうことなのだろう。
-
ついでに、本編関係無いけどふいに描きたくなったオマケ↓
※擬人化注意!
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_856.png
髪の色一応どっちでもいけそうな色選んだつもりだけどもうほぼ精神体イメージ……
-
うおー、ギコ…
-
<^ω^;削除>
-
うぉー!
待ってたぞー!
ほのぼの明るいのに不穏の影が拭えないな
-
絵も上手いとかwwwつー可愛すぎ
-
乙
嫌な予感がひしひしと…
-
おお絵柄いいな!
特になんだこのデレかわいすぎんだろ……
本編から嫌な予感しかしないだけにほっとしたww乙
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乙乙
あと絵うめぇwwwかわええww
>>448のマインドBバージョンも見てみたいと思ったのは俺だけですかね
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乙乙!!
ギコ…お前…
>>455
俺もだ!
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>>455
>>456
マインドBバージョンってこういうことで良いだろうか
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_858.png
猫耳とか精神イメージだからなんでもありだぜふっははー
乙もオマケに触れてくれた人もありがとう!
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久々に読み返してみたが、やっぱり面白い!
続き待ってるよー
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待ってるー
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待ってます
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待機!
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来てるかと思ったじゃねえかorz
待ってる
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逃亡作品を上げるなというのに…
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たかが数ヶ月で何を仰る
面白いものはいつまでだって待つよ俺は
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マダカナー
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ズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテルズットマッテル
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(こわい)
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作者ー戻ってこないと>>466に呪われるぞ!
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ネエクリスマスモスギチャッタヨ
コノママトシコシシチャウノ…?
ズットマッテルヨ
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まつよー
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待ってる
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マダカナー
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作者です。黙って更新停止してしまい本当に申し訳ないです
自分用の振り返りメモ代わりの登場人物紹介のあと、9.5話と10話を投下します
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登場人物まとめ ※()内の年齢は推定精神年齢
( ^ω^)内藤ブーン 30歳
VIP高等学校特別クラス担任。能天気で大らかな性格。
教師兼マインドB専属カウンセラーであり、自らもマインドBの発症者。
生徒達のことを何より大切に思っている。
マインドBが一つの個人、個性として社会に受け入れられる世の中を実現する事が夢。
( ФωФ)杉浦ロマネスク (?歳)
ブーンのマインドB。副担任としてブーンと協力してクラスをまとめあげる。
温厚なブーンの性格とは反対で、厳格な性格。だが意外と甘いところもある。
.
-
◇基本人格◇
(*゚ー゚) 羽生しぃ 16歳
1年A組。物静かで少し内気な女の子。他人に対し優しく思いやりがある。
つーの存在を認識しておらず、つーに対しては恐怖心しか抱いていない。
人と深く関わることに対し恐れを抱く。
(´<_` )流石弟者 17歳
2年A組。真面目な性格で順応性に優れている。
兄者には少々手を焼いているが、時々喧嘩しつつも折り合いをつけなんとか上手くやっている。
自由奔放な性格の兄者に振り回され主に被害を被る苦労人。
ξ゚⊿゚)ξ津田ツン 17歳
2年B組。はっきりとした物言いをする強気な女の子。父子家庭。
大人びた性格でプライドが高い為、なかなか人に弱音を吐くことが出来ない。
(´・ω・`)八又(やまた)ショボン 18歳
3年C組。極度の対人恐怖症。マインドBであるシャキンに依存している。誰にも心を開かない。
人前に出ることを恐れ、シャキンに実生活での行動をほとんど任せている。
( ,,^Д^)猫塚タカラ 16歳
VIP高等学校へ仮編入してきたマインドBクラス体験入学生。
体験入学期間中は1年A組の生徒として授業を受けている。
礼儀正しく、いつも笑顔を浮かべている。非常にハキハキした性格で、シャキンとは気が合う。
.
-
◇マインドBクラス生徒◇
(*゚∀゚) つー (?歳)
出席番号1。しぃのマインドB。しぃの存在を認識していない。
常にハイテンションでおしとやかさに欠けるが、彼女のおかげでクラスは賑やか。
時々感情が高ぶりすぎて暴走してしまう為、実生活での行動を制限されている。
( ´_ゝ`)流石兄者 (17歳)
出席番号2。弟者のマインドB。物事をあまり深く考えない、自由奔放な性格。
年の離れた妹のことを溺愛しているが、会えるのは月に3回と決められている。
悪戯好きでお調子者だが基本的にルールは守り、一応兄としての責任感も持っている。
ζ(゚ー゚*ζ津田デレ (7歳)
出席番号3。ツンのマインドB。明るく活発な女の子。
幼くあどけないが頭の良い子で勉強が好き。妹者と友達。
(`・ω・´) 八又シャキン (24歳) 一人称:僕
出席番号4。ショボンのマインドB。クラスのまとめ役でリーダー的存在。
少し堅苦しい喋り方をする、成績優秀爽やかスポーツメン。
ショボンに対してやや過保護気味なところがある。
(,,゚Д゚)猫塚ギコ (?歳)
タカラのマインドB。マインドBクラス体験入学生。
社交的なタカラと違い、常に人を威嚇するようなオーラを纏う。
タカラの母親が嫌い。
.
-
◇その他◇
l从・∀・ノ!リ人 流石妹者 9歳
小学4年生。基本人格かマインドBかをすぐに見分けることのできる不思議な子。
4歳の時、兄者の存在を最初に発見した。デレと友達。お絵かきが大好き。
( ・∀・) 愛流(える)モララー
dat大学院で精神医学科専攻の大学生。常に笑顔を浮かべた物腰の柔らかな好青年。
教育実習生としてマインドBクラスにやって来る。月の光のような金髪が特徴的。
_
( ゚∀゚) 長岡ジョルジュ 17歳
2年A組。弟者・兄者・なおるよの友達。
常にハイテンションで馬鹿騒ぎが大好き。
弟者・兄者両方と仲が良く、兄貴肌で友達思いの面も持つ。
('(゚∀゚∩ なおるよ 17歳
2年A組。弟者・兄者・ジョルジュの友達。
明るく前向きでいつもポジティブシンキング。
ジョルジュと同じく弟者・兄者両方と仲が良い。
从'ー'从 渡辺 16歳
1年A組。しぃの友達。通称ナベちゃん。マイペースでおっとりとした温厚な性格。
授業が早く終わるといつも、しぃを迎えにマインドBクラスまで来てくれる。
.
-
登場人物まとめは以上です
ここから本編
-
(´<_` )「妹者、妹者」
l从-∀-ノ!リ人゜「んにゃ……」
(´<_` )「朝だぞ妹者。そろそろ起きなきゃ」
l从-∀-ノ!リ人「んー」
眠そうな声で返事をして、もそりと布団から上体を起こす妹者。
体は起きても、その寝惚けまなこは閉じられたまま。
瞼の裏では未だ、心地良い夢の続きを見ているのかもしれない。
l从-∀-ノ!リ人「あふ……」
(´<_` )「お、起きれたな。偉い偉い」
あちこち寝癖のはねた髪を、そっと撫でつける。
-
へ、遅かったな。
これがあるからブーン系はやめられねぇぜ
支援
-
(´<_` )「顔洗っておいで。もうすぐ朝ご飯できるってさ。
今日は兄者とお出かけするんだろ?支度しなくちゃ」
l从-∀-ノ!リ人「んー、わかったのじゃ、ちっちゃいあに……」
(´<_` )
l从-∀・ノ!リ人「……む?むむむ!」
(´<_` )「?どうした?妹者」
l从・∀・ノ!リ人 ハッ
l从・∀・ノ!リ人「き、きさまはっ!?」
(´<_` )「おいおい、貴様て」
びしっ。
鋭くも、どこか可愛らしい効果音を伴って、俺の眼前に一本の指が突き立てられた。
寝癖髪をピンと跳ねさせた水玉パジャマの名探偵が、その姿勢のまま決めのセリフを言い放つ。
-
m9l从・∀・ノ!リ人「きさまはっ……!
ちっちゃい兄者のフリしたおっきい兄者じゃな!?」バーン!
(´<_` )
(´<_` )「……ふっ」
( <_ )「ふっふっふ……」
マジ天使幼女探偵に正体を暴かれた犯人の俺は
動揺することもなく不敵な笑みを浮かべ……
ヽ(*´_ゝ`)ノ「あったりー!!」
今まで保っていたぱっとしないフェイクフェイスを、後光差すイケメンフェイスへと変貌させた!
l从・∀・*ノ!リ人「やっぱり!おっきい兄者なのじゃー!」
(*´_ゝ`)「おはよー妹者ーっ」
l从・∀・*ノ!リ人「おは兄者ー!」
-
こうして俺の待ちに待った、妹者との楽しい一日が始まったのだった。
( ^ω^)マインドB!のようです 9.5話
.
-
(*´_ゝ`)「いやーやっぱり名探偵妹者には敵わないなー」
l从・∀・ノ!リ人「ふっふー。寝ぼけ妹者だからってあなどってもらっちゃ困るのじゃ。
当てっこは妹者の十八番なのじゃ!」
(*´_ゝ`)「流石だ妹者!それでこそ妹者!そんな妹者が大好きだー!!」
_
l从・∀・ノ!リ人「しかし寝起きにそのテンションは
懐深い流石の妹者でも若干ざらりとくるものがあるのじゃ……」
(;´_ゝ`)「おおぅ急激な温度差!どこかに何かがグサリと刺さったぞ今!」
l从・∀・ノ!リ人「大体、妹者が気づかないフリしてそのままスルーしたりしたら
後でこっそり泣いちゃうんだから、よせばいいのにのぅ」
(;´_ゝ`)「へぁっ!?なっななっ泣いてなんか……ないんじゃからね!!?」
l从・∀・ノ!リ人「あからさまな動揺っぷりが逆にすがすがしいのじゃー」
( ;_ゝ;)「てか、気づかないフリとかそんな殺し技やめてくれよ妹者ー
どこでそんな技覚えたんだ、入れ知恵者はどいつだ!
姉者か?姉者だな?あの女狐ッ!」
l从・∀・ノ!リ人「妹者オリジナルなのじゃ。ちなみに今の女狐発言は上申させてもらうのじゃ」
( ´_ゝ`)「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」
-
l从・∀・ノ!リ人「大体、姉者や父者にはいくら間違われても平気なくせに……
おっきい兄者の変態思考ロジックは、純な妹者には理解不能なのじゃ!」
(*´_ゝ`)「だって妹者に当ててもらうのが一番嬉しいんだもーん。 もはや生き甲斐?」
l从・∀・;ノ!リ人「う、うわあ……だんだん可哀想な人に思えてきたのじゃ……」
(;´_ゝ`)「や、やめてー実の兄者をそんな一歩引いた目で見ないでー?」
ヽ(*´_ゝ`)ノ「ま、ま、それより!遊びにいこう妹者!」
l从・∀・ノ!リ人「朝ご飯食べてからなのじゃよー」
それもそうだ。腹が減ってはなんとやら。
2人で布団を丸め、その場で正座し妹者の準備が終わるのを待とうと思ったが
レディのお着替えタイムなのじゃと、しっしと部屋を追い出されてしまった。
仕方が無いので、そのままその足でリビングへと向かう。
-
( ´_ゝ`)ノ「姉者おはよー!」
∬´_ゝ`)「おはよ。兄者」
リビングのテーブルについている、先ほど女狐呼ばわりした流石家長女に挨拶する。
日曜日なので、ゆったりしたルームウェアを着込んでコーヒーを飲んでいる姉者。
妹者には後でクレープでも献上して、先ほどの失言については忘れてもらえればいいのだが。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「おはよう兄者」
( ´_ゝ`)「あ、おは……」
左向かいの席、広げられた新聞紙の向こうから名前を呼ばれ振り向く。
持っていた新聞を卓上に降ろし、そこからこちらへ顔を覗かせた
このどことなく幸の薄そうな顔をしたハg(ry おっちゃんは……
-
( ´_ゝ`)
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)
(;´_ゝ`)
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)
(;´_ゝ`)「………??」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ちょwwwwwwwwwwww」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)ノシ「わ、私私!パパだよ父者だよー」
∬;´_ゝ`)「こら兄者、父者いじめないの。可哀想でしょ」
姉者の言う通り、流石に可哀想なので冗談はこのくらいにしておく。
-
( ´_ゝ`)「うそうそ、冗談だってwwwwおはよ、父者」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「うう、その冗談やめて本気で凹むから……」
そりゃあ、自分の息子に顔忘れられてたら凹むなんてものじゃ済まないだろう。
まぁ、半分くらいは冗談じゃなく、本気で時々存在忘れそうになるんだけど……。
だってこの人本当に影薄いんだもん……頭も薄いんだもん……。
それでも一応この家の大黒柱、父者とも挨拶を済ませ
椅子をひいて、姉者の隣の席に座る。俺と弟者の席はここ。
台所からお味噌汁の良い匂いがする。
トントンと葱を刻み、みんなの朝食を作っているのは、我が流石家のドン・母者だ。
そして、忘れちゃいけないマイブラザー弟者と、マイエンジェル妹者。
これが俺の家族、流石家の面々である。
もうすぐ妹者も起きてきて、家族揃って朝ご飯。みんなで食べるのは久しぶりだ。
弟者は寝てるけど、その分俺が食べるから、いるってことにしといて。
-
(*´_ゝ`)「「いただきまーす!」」l从・∀・*ノ!リ人
妹者と会える月に三回の機会、俺はこうしてリビングで食卓につくことを許される。
だって家族揃ってご飯を食べるということは
どうしたって妹者と顔を会わせることになってしまうからだ。
それはルール違反で、してはいけないことだと母者や弟者、ブーン先生と約束している。
誰も何も言わなくたって、この家の人達はみんな良い人なので
その事に対して罪悪感じみた何かを感じているのが、何となく伝わってしまうのだが
仲間外れにされたような疎外感なんてこれっぽっちも抱かない。もうとっくに慣れたことだ。
ちっとも苦ではないしイジけてなんかいないよ。いやほんとにほんとに。
それでも俺に申し訳なく感じるようなら、空いてる席に可愛いテディベアでも置いて
それに「兄者」って書いた紙貼って、俺もいるってことにしといて。
なんてな。あーやっぱり、家族で食べる飯は上手い!
朝食が終われば妹者とお出かけだ。
最近クラスであった面白い話をしたり、今日一日の予定を妹者と相談したりして
みんなで過ごす朝の時間は楽しく過ぎていった。
-
+ + + + + + + + + + + +
〜ニューソク町繁華街、映画館前〜
(*´_ゝ`)「『マゾか★マジか』面白かったなー!妹者」
l从・∀・*ノ!リ人「面白かったのじゃ!ほむほむちゃん最強にかわいいのじゃ!」
(*´_ゝ`)「お嬢ちゃんわかってるねぇ。それでこそ俺の妹!」
(*´_ゝ`)「よーしじゃ、次どこ行くー?妹者」
l从・∀・ノ!リ人「どこでもいいのじゃ?」
(*´_ゝ`)「いいよいいよ。妹者が決めて」
l从・∀・ノ!リ人「んー、えっとじゃあね、あのね……」
(*´_ゝ`)「うんうん」
l从・∀・ノ!リ人「……ラウンジ公園行きたいのじゃ、おっきい兄者!」
-
( ´_ゝ`)「おっ、公園か?
いいけど、今日は沢山お小遣い持ってきたから
ゲーセンでも買い物でも、何処でも妹者の好きなとこ行っていいんだぞ?」
l从・∀・ノ!リ人「のじゃ!妹者、公園でおっきい兄者と遊びたいのじゃ!」
(*´_ゝ`)「……!そかそか!
よーし、じゃあ行くか−!」
l从・∀・*ノ!リ人「れっつごー!」
妹者と手を繋いで、久しぶりに、近所の公園へと向かった。
俺が子供の頃から変わっていない、妹者ともよく遊んだ懐かしい公園だ。
-
『ちょっ、おい、待てよ弟者ー』
『今日の弟者ははっちゃけてるなぁ』
『じゃあまた明日なー、弟者!またな!』
『こらっ、弟者!あんたまた体中泥だらけにして!』
『あら弟者、母者に怒られたの?』
『ただいま弟者。ほーら、お土産あるぞー』
『………』
.
-
『……妹者!ただいま!』
『わーい、あにじゃじゃ!あそんで!』
.
-
――――誰も。
俺のことを気づいてくれる人は誰もいなかったけれど。
それでもあの頃は、ただ1人 大好きな妹者さえ
自分が”兄者”であると分かってくれていたなら、俺はそれで良かったんだ。
世界には俺と妹者の2人だけで、子供の俺はそれで満足だった。
あの頃はな。
………でも今は、世界に2人だけじゃちょっと寂しいかなぁ。
俺を“兄者”と呼んでくれる人が、こんなに沢山増えたから。
.
-
+ + + + + + + + + + + +
l从‐∀‐ノ!リ人゜「ふぁ……」
( ´_ゝ`)「いっぱい遊んで疲れたなー。
お風呂も入ったし、そろそろ寝よっか」
l从‐∀‐ノ!リ人「んー」
半分寝かけている妹者を、部屋の前で降ろす。
そろそろお別れの時間だ。
楽しい時間はあっという間で、名残り惜しいが仕方が無い。
俺はそっと扉を開けて、妹者を部屋の中へ入れた。
( ´_ゝ`)「じゃあ、おやすみ。妹者」
-
l从・∀・ノ!リ人「……、おっきい兄者!」
( ´_ゝ`)「ん?」
l从*・∀・ノ!リ人「今日は、おっきい兄者と遊べて
とってもとっても、とーっても、楽しかったのじゃ!」
(*´_ゝ`)「……おう!俺も楽しかったぞ妹者ー!」
l从・∀・ノ!リ人「それじゃ、おやすみなさいなのじゃ。おっきい兄者」
(*´_ゝ`)「おやすみのちゅっちゅー」
l从・∀・ノ!リ人「キモいのじゃ!良い夢見ろよ!」
バタン
(*´_ゝ`)「ぶべっ」
漢らしい捨てセリフと共に勢いよく閉じられた、木製の扉に熱いキスをかます。
-
(*´_ゝ`)「妹者も良い夢見ろよー」
さて。じゃあ、俺もそろそろ眠ろうかな。
明日学校で、ブーン先生達に今日のことを話すのが楽しみだ。
妹者の部屋の前。
スマートフォンを開いて時間と画面を確認したあと、俺は心の内側に意識を向けた。
( ´_ゝ`)「……おやすみ、妹者」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)
( _ゝ)
( <_ )
(´<_` )
(´<_` )「……」
-
(´<_` )「い」
(´<_`;)「……い、あいだっ!いたたた……」
(´<_`;)「……あー?」
(´<_`;)「え、なにこれ?なんであちこち打ち身やすり傷だらけなんだよ……体痛いし。
一体今日一日何やってたんだ。映画観てモール行くんじゃなかったのか?」
(´<_`;)「ったく……。
……ん?」
(´<_` )
(´<_` )「……ま、とにかく楽しくは過ごせたみたいだな」
-
【(*´_ゝ`)vvl从・∀・*ノ!リ人】
右手に握られていた携帯機器を掲げ、何気なく開いてみたら
そこには画面一杯の、満開の笑顔が2つ並んでいた。
揃ってピースをきめる2人の人物のうち、片方は確かに自分である筈なのに
その幸せな記念写真に映っている笑顔は紛れも無く、俺ではなく兄者のものだった。
今は意識の奥で眠っている兄の、自慢気な声が聞こえた気さえして、思わず笑みが零れる。
扉の向こうの妹者に声無くおやすみを言い、俺は自分の部屋へと向かった。
-
9.5話ここまで
10話投下始めます
-
( ;ω;)「いやだおいやだお!ロマネスク、いなくなっちゃいやだおぉ!!」
『therapy room』
簡素な英書体でそう綴られた、白くて重いドアの向こう側。
大病院の三階、児童精神科ユニットの小さな一室で
幼い少年の叫びが痛切に響き渡った。
.
-
ζ(゚−゚*ζ「ね……先生、ほんとなの?」
( ^ω^)「え?」
その日の出席確認でツンと人格交代してからずっと
どこか浮かない表情を浮かべ静かに席に着いていたデレ。
普段の元気いっぱいの彼女らしくなく、大人しく何故だか落ち込んでいる様子の彼女を
周囲が心配し、具合が悪いのかと、何度声をかけても静かに首を振るばかり。
そんなデレが、後半の授業が始まり数分後、意を決したようにそっとブーンに尋ねたのだった。
ζ(゚−゚*ζ「昔は……病院にいったら、マインドBは消されちゃってたって」
( ^ω^)「お……」
-
唐突に、デレが口にした質問。
それはブーンが、以前ギコを連れてきた保護者に対し語った
一昔前に主流として浸透していた治療法のことだろう。
基本人格を残し、後に発生したマインドBを消滅させる。
1つの治療法として、そういう方法も存在するのだということを
ブーンも、周囲の大人達も誰も、幼いデレには教えていなかった。
教える必要が無かったからだ。
ζ(。 。*ζ「……ツンちゃんがね、そういう本読んでたの……
むずかしい言葉ばっかりで、よくわかんなかったけど、でも
ツンちゃんがそれを読んで気になったことはわかったの」
ツンは勉強熱心で、知的好奇心の強い子だ。
自分の症状についても詳しく知りたいと思うのは当然で
日頃から本やインターネット等でマインドBに関する情報を集めている。
それらの文章を読んで生じたツンの感情を、心の内に眠るデレが敏感に感じ取り
漠然とした言葉として聞いてしまったのだろう。
-
思いつめた様子のデレの声に、各々課題に取り組んでいた皆の手も自然と止まる。
デレは頭の良い子だ。
下手な誤魔化しは、より彼女に不安を与えるだけだろう。
( ^ω^)「……そうだおね。
全部の病院でそうだったってわけじゃないけど、確かに、そういう治療法もあるお。
特に数十年前までは、その治療法が沢山の人に使われていたんだお」
( ・∀・)「……」
( ^ω^)「数年前まで、この病気については今以上に分からないことが多かったから
発症した人にとって一番良い療法は何か、どの病院でも色々なやり方が試されていたんだお。
まぁ、今でもまだ詳しいことはあまり分かってないんだけどおね」
-
( ^ω^)「……実際、僕がマインドBを発症した8歳の時には
発症者にはほぼ例外なくその治療法がとられていたお」
(*゚∀゚)「……!じゃあ医者の奴ら、ロマを消そうとしたのか?」
若干体を強張らせ、2人の会話に耳を傾けていたつーが
デレの隣の席から、緊張の入り混じった疑問の声を投げかけた。
( ^ω^)「うん。そうだおね」
事も無げなブーンの返事。それを聞いたつーが、驚いた顔をして顔を曇らせる。
( ´_ゝ`)「でもさ」
その様子を廊下側の席から見ていた兄者が口を挟んだ。
( ´_ゝ`)「結局そんな方法、上手くいかなかったんだろ?
だって、ロマ先生は今もブーン先生と一緒にいるもんな」
( ^ω^)、「いや、それは……」
( ´_ゝ`)「?」
-
ζ(゚−゚*ζ「先生」
小さな、ほんの呟きのようなデレの声が、やけに重みを伴って教室内に響いた。
ζ(゚−゚*ζ「”消す”って、どういうこと?
消されたらどうなっちゃうの?いなくなっちゃうの?どこにも?」
( ^ω^)「……それは先生にも分からないお。でも、デレ」
ζ(゚−゚*ζ「それって、その人を殺すってことじゃない」
(;^ω^)「お」
ζ(゚д゚*ζ「どうしてそんなことするの?ひどいよ!」
唐突に、デレの瞳から涙が零れ出た。
ζ(;−;*ζ「マインドBだって1人の人だって、先生教えてくれたもん!
デレだって、ツンちゃんと一緒にちゃんとここにいるって。そう言ってくれたもん……!
なのに、なのに消しちゃうなんて……そんなのひどいっ!」
-
(`・ω・´)「……」
(;´_ゝ`)「デレちゃん」
(;゚∀゚)
ζ(つ−;*ζ「なんでそんなことするの……?邪魔だから?いらないから?
デレ、ツンちゃんやパパに邪魔だって、いらないって言われたら……
それで消されちゃうなんて、そんなのやだ!ぜったいやだよ!!」
( ・∀・)
(;^ω^)「お、デレ。落ち着くお」
(;´_ゝ`)「で、デレちゃん!そんなこと、ツンちゃんが言うわけないだろ!?」
(;゚∀゚)「あ、あひゃっ、デレ、泣くな!泣くなよっ!」
突如泣き出したデレに、その場の空気が一気に緊迫したものへと変わる。
デレの悲嘆ぶりに狼狽える兄者とつーは、その両隣にて思わず席を立つが
どちらも、どうすればいいのか分からず困惑している様子だ。
動揺する教室内に、それまで沈黙していたシャキンが言葉を発しかけたその時
今までこの場には存在し無かった筈の、低く厳格な声が発せられた。
-
( ФωФ)「デレ」
( ФωФ)「大丈夫である。
昔と違って、今では、そのやり方では駄目だと、沢山の人が気づいたのである」
ζ(;−;*ζ「ロマせんせ……」
( ФωФ)「デレが消されてしまうなんて、そんなことは絶対に無いのである。
我輩が守るであるからな。わかったか?」
( ^ω^)「……それに、僕もね。このクラスにいるみんなもだお」
ブーンが教室を見渡す。
真剣な表情をしたシャキンと兄者が、同時に頷いた。
-
( ^ω^)「ね。だから安心するお、デレ」
ζ(;−;*ζ「……」
ζ(;−;*ζ「ぅ゙んっ」
約束だよ。
大粒の涙の零れるその瞳から、すぅ、と光が失われていく。
ζ(;−;*ζ
ζ(゚−゚*ζ「……」
ξ゚−゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ
-
ξ゚⊿゚)ξ「……誰か泣いていたの?」
ほんの数秒、内に向かっていた彼女のまなざしが再び世界を捉え
きょとんとした様子で一言、自分を見守る周囲の皆に疑問を投げかけた。
( ^ω^)「デレだお」
ξ゚⊿゚)ξ「デレが?」
左手で自らの頬に触り、指を濡らした涙の痕を見て、彼女は怪訝そうな顔をした。
_,
ξ゚⊿゚)ξ「泣いてたの?どうして?」
( ^ω^)「ちょっとね。僕から話すお」
-
(;´_ゝ`)「デレちゃん大丈夫かな?シャキ兄」
(`・ω・´)「デレは感受性が強いからな。そのせいで少しショックを受けただけさ。
とりあえず落ち着いたようだし、心配することは無いだろ」
(*゚∀゚)「……」
(*゚∀゚)「モララ先生」
フと、ブーンがツンに、先ほどの出来事を説明しているその様子を
押し黙り見つめていたつーが、小さな声で傍らのモララーの名を呼んだ。
( ・∀・)「うん?」
(*゚∀゚)「さっきデレが言ってたこと、本当なのか?」
( ・∀・)「……マインドBを消してしまうという治療法についてかい?」
デレが眠り、皆の様子が落ち着いたことで
再びつーの課題の手伝いを進めようとしていたモララーが、その手を止める。
-
( ・∀・)「ああ。本当だよ」
つーの瞳に映る、不安の色が濃くなった。
( ・∀・)「今でもね、その治療法を行っている病院は少なからず存在するんだ。
専門家や研究者達にとっても、この症状はまだまだ解明されていない部分が多い
未知の病気であるからね」
(*゚∀゚)、「……そーなのか」
( ・∀・)「ショックかもしれないけれど、その方法が間違っていると
きっぱりと言いきる事は、現時点では出来ないんだよ。残念だけどね」
( ・∀・)「みんなどの手段が発症者にとって一番いい方法なのか
手探りで探しているところなんだからね」
(*゚∀゚)「……」
( ・∀・)「むしろ、このVIP高校が特殊なのさ。
専門的な施設以外で、それも、新しい視点と観点から
発症者の社会適応能力を育もうという試みはとても素晴らしいと思う。
だからこそ僕はこの学校へ学びに来たんだよ」
-
( ・∀・)「君も、ブーン先生からそう聞かされただろう?ギコ君」
(,,゚Д゚)「……」
話を一旦区切り、つーから視線を外したモララーは
シャキンの隣、廊下側の席で先程から会話には一言も参加せず
険しい目つきをしている男子生徒に話しかけた。
( ・∀・)「君も、この学校のそういう特殊なスタイルに興味を持って
このクラスに体験入学する気になったんだよね」
(,,゚Д゚)「……まーな」
( ^ω^)「お。ギコ君には、初めて会った時も先生少しその話をしたおね」
(,,゚Д゚)「ああ」
猫塚タカラがマインドBクラスに来て、今日で一週間が経った。
入学初日とその翌日は、ブーンの呼びかけに応えようとはせず
学校内での行動を全てタカラに任せ、ずっと沈黙を貫いていたギコだったが
週末が明けて最初の授業時間中、誰も気がつかない間に
いつの間にかタカラに代わり、自分の席に大人しく座っていたのだった。
それからは、ブーンから名前が呼ばれると素直に人格上に現れ
授業がある二時間だけは、このクラスに”出席”するようになっていた。
-
( ^ω^)「さーさ、みんな!あと30分しか無いお、みんな自分の勉強に戻って。
ツンは、自分で好きに勉強してても良いし、読書の時間にしてもいいおよ。
授業が終わるまではこの教室にいてね」
ξ゚⊿゚)ξ、「デレが迷惑かけたみたいね。ごめんなさい」
(`・ω・´)「何を言ってるんだ津田君。誰も迷惑なんて思っていないぞ」
( ´_ゝ`)「そうだぞツンちゃん。迷惑なんてかけてないって!
だから、デレちゃんのこと怒ったりしないでくれよな」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。ありがとね」
(*゚∀゚)「……」
-
+ + + + + + + + + + + +
( ^ω^)「じゃあねしぃ。気をつけて帰るんだおよ」
(*゚ー゚)「はい先生。また明日」
ぺこりとお辞儀し、教室を出るしぃの背中を見送る。
朝のことがあってか、珍しく落ち込んでいる様子のつーの事が少し気にはなったが
幸い人格交代に支障が出ることは無く、いつも通り、つーは眠りしぃは起きた。
次に意識上に現れた時には、彼女のプラス面である持ち前の能天気さを発揮して
小難しい話など、悲しいことなど忘れてくれていたらいいのだが。
例え他の場所でそうで無かったとしても、少なくともこの場所は、この教室は違うのだから。
しぃも、つーも、他のみんなも。誰も消されなどしない。みんなが居て良い場所なのだから。
.
-
(*゚−゚)「!」
从'ー'从「あ、しぃちゃん。やっほ〜」
( ,,^Д^)「しぃさん!」
しぃに気づき手を振る渡辺に、タカラが振り向く。
授業終了までの時間に、人知れず退席していたらしいギコに代わり
その後の時間は自習に当てて、シャキン達と同じように先に教室から退場していた彼だったが
廊下にていつものようにしぃを待つ渡辺と、軽くお喋りをしていたようだ。
( ,,^Д^)「明日から同じクラスですね。よろしくお願いします!」
今日までマインドBクラスの授業にのみ出席し、その為にVIP高へ通学していた彼だが
明日からはしぃや渡辺と同じ、1年A組のクラスで通常授業も受けることになっている。
マインドBクラスの皆と同じ授業コースを明日に控えたタカラは、心無しかはりきって見えた。
(*゚−゚)「あ……う、うん。そうだね」
从'ー'从「よろしくね〜。教室の場所もう覚えた?」
( ,,^Д^)「はい、バッチリです!」
(*゚−゚)「……」
-
生徒達それぞれが自分の場所へと帰り、2人残された教室。
( ・∀・)「ブーン先生」
( ^ω^)「?」
回収したプリントや教材をまとめ、教室の後片付けに取り掛かろうとしていたブーンの背後
1年A組へと戻るしぃ達の後姿を見送っていたモララーが、不意に声をかける。
( ・∀・)「聞いてもいいですか?」
( ^ω^)「なんだお?」
集めた用紙をトントンと机の面で慣らして揃え、何の気無しに聞き返すブーン。
( ・∀・)「―――誰かに”消されたら”どうなると思いますか?」
( ^ω^)「……お。さっきの話かお?」
( ・∀・)「はい」
-
( ・∀・)「先程デレちゃんに疑問をぶつけられた時、先生は分からないとおっしゃいましたよね」
( ・∀・)「確かに、消された後どうなるのか?
それは、そのマインドB本人にしか分からないでしょうね……」
( ・∀・)「でも、ブーン先生。先生は、どうなると思います?」
( ^ω^)「……」
( ・∀・)「それってやっぱり、”死ぬ”ことと同じだと思いますか?」
作業していた手を止め、モララーに向き直るブーン。
-
( ^ω^)「……僕は、人為的にマインドBを消滅させる治療法が施された患者を
今まで何人か見てきたお」
( ^ω^)「いずれ消される予定のマインドBと、セッションを通じ対話をする機会も多かった。
そして、僕はその治療が完了した後も、彼らと再び接触しようと試みたんだお」
( ^ω^)「でもね」
( ^ω^)「彼らの誰も……、今まで笑い、悲しみ、考え、僕と会話していた筈の
もう1人の人格は完全に消えていた」
数秒の沈黙。モララーから目を逸らしたブーンの表情には陰りが見えた。
( ^ω^)「僕の感じたままのことを、言葉にして言わせてもらうと」
( ^ω^)「少なくとも、消滅の処置を施された人格については……
……生きているとは言わないと思うお」
その答えを聞いて、モララーはにっこりと微笑んだ。
( ・∀・)「ええ。僕もそう思います」
-
その笑みが何を意味しているのか、ブーンには分からなかった。
授業時間中、勉強を手伝いながら生徒達に向ける柔和な笑顔と変わらない筈なのに
今この教室、彼と対峙して改めて自身に向けられたそれは、何故だか酷く空っぽで
だが極めて本物そっくりに精巧に再現された、作り物めいてブーンには見えた。
( ・∀・)「この学校は素晴らしいですね」
( ^ω^)「……」
( ・∀・)「1人の人間が生きていく上で、余計な物は邪魔だから、不要だからと
もう1人の人間を、まるで腫瘍をメスで切除するかのように無感情に切り捨てる」
( ・∀・)「人1人殺しておいて、それが人助けだなんて笑わせてくれます」
( ・∀・)「そんなことが許されて良い筈がありません。そうでしょ?先生」
( ^ω^)「……そうだおね」
手元の教材をまとめて、モララーは微笑んだ。
( ・∀・)「ありがとうございます。先生の意見、参考にさせて頂きますね」
-
――――2年A組 教室 1時間目終了後の10分休み
ミセ*゚ー゚)リ「ねーねっ!トソっち」
(゚、゚トソン「はいはい、どうしたんですかミセリ」
ぴょんと飛び跳ねるようにして、同級生でいつもつるんでいるトソンの席へとやってくるミセリ。
いつも通りのこの行動。今日も他愛無く中身も無い、暇つぶしの為のお喋りが始まるのだろう。
そう思っているトソンの前で、親友のミセリは
何故かニヤニヤと口元を緩ませ、不可解な笑みを浮かべている。
(゚、゚トソン「?どうしたんですかミセリ気持ち悪いですよ」
ミセ;゚ー゚)リ「ひどいなぁ。
いやね?トソっちにちょっと聞きたいことがあってね?」
(゚、゚トソン「聞きたいこと?」
ミセ*゚ー゚)リ「あのさ?最近、トソっちさぁ……」
(゚、゚トソン「……なんですか」
含み笑いする彼女の目線がチラチラと、今の時間は空席になっている
『ある席』に向けられているのに感づいてしまうトソン。嫌な予感がする。
-
ミセ*゚ー゚)リ「―――なんとなくいつも、弟者君のこと見てない?」
((゚、゚;トソン「へぁっ!!?」
思いがけぬ威力を持った次の言葉に、不覚にも思いっきり反応してしまった。
ミセ;゚ー゚)リ(へぁって……)
(゚、゚;トソン「なッ!!そ……っ!そそそんなことはありませんっ!!」
ミセ;゚ー゚)リ「え、ほんとに?でもさぁ、最近いつも弟者君の席の方見て」
(゚、゚;トソン「き、気のせいでしょう気のせい。な……っなんでそんな事思うんですミセリ」
-
ミセ;゚ー゚)リ「いや……もしかしたらトソっち」
(゚、゚;トソン「……」ゴク…
ミセ;゚ー゚)リ「弟者君のこと好きなのかな?とか……」
((゚д゚;トソン「ぶぼぉッ!!?」
ミセ;゚ー゚)リノ「きたなっ唾飛んだ!
って図星かい!やっぱり図星かい!!」
(゚д゚;トソン「ち、ちちちがっ!……い、ます!」
ミセ;゚ー゚)リ「え、えぇー、……ほんとにぃ?」
(゚、゚;トソン「ほ、ほんとです。いいいい加減なこと言うと怒りますよアホミセリ!」
ミセ;゚ー゚)リ「アホミセ!?おい今心の中での呼び名漏れただろ!!」
(゚、゚;トソン「撤回なさいミセアホリ!」
ミセ;゚ー゚)リ「なんだそれ!?」
-
ミセ;゚ー゚)リ「まぁいいけど……。
ふーん?そっかぁ……。なーんだ私の思い違いかー」
(-、-;トソン「あ、当たり前でしょう。全く、何をいきなりそんな根も葉も無い話……」
ミセ*゚ー゚)リ「ま、そりゃそうだよねー。あんな変人」
(゚、゚#トソン「弟者君は変人じゃありませんっ!」クワッ
ミセ;゚ー゚)リ「こわっ!ちょ、やっぱり好きなんじゃん。図星でしょ!」
(゚、゚;トソン ハッ
(゚、゚;トソン「……嵌めましたね、ミセリ」
ミセ*゚ー゚)リ「嵌めるなんて人聞き悪いなぁ。友達としてはそういうこと気になるって」
勝ち誇ったかのように腕組みをし、得意気に笑みを浮かべる彼女を前に
ついにトソンは観念する。ここまで暴かれてしまっては認めざるを得ない。
-
こういう事にだけは勘が鋭い友人の洞察力を、トソンは少し甘く見すぎていたようだ。
自身の警戒力の甘さに落ち込む彼女を前にして
ふふんと勝利の笑みをたたえていたミセリだったが
しばらくすると何か思い悩むように、より深く腕を組み首を傾ける。
ミセ;゚ー゚)リ「……でもなぁ……。
……うーん、弟者君かぁ……。弟者君……ねぇ」
(゚、゚#トソン「なんですか」ムッ
ミセ;゚ー゚)リ「いや……こんな事言いたくないけどさ。
……でも正直、ちょっと……」
(゚、゚#トソン「弟者君の何が悪いんです!」
ミセ;゚ー゚)リ「いやいや、いや。怒らないでよトソっち。
そりゃ、弟者君はかっこいいよ?優しいし。好きになる気持ちも分かるよ、うん」
ミセ;゚ー゚)リ「でも……ね。わかるでしょ。一緒の教室にいて」
ちらり。今は空席になっている例の席に、意味ありげな視線を送る。
-
ミセ;゚ー゚)リ「しょっちゅう“別の人”になっちゃうんだよ?いきなりさ。
トソっちだって最初はびっくりしてたじゃない。変な人だって」
(゚、゚#トソン「それは……!弟者君がマインドB発症者だって知らなかったからですよ。
今では、弟者君がああなってしまうのは、病気のせいだってちゃんと分かってます」
(゚、゚#トソン「弟者君本人には何も悪いところなんてありません。そんな風に言うのはやめてください」
ミセ;゚ー゚)リ「いや……まー、そうなんだけどさぁ」
(゚、゚#トソン「なんですか。ミセリに弟者君のなにがわかるって言うんですか」プリプリ
ミセ;゚ー゚)リ「ごめんごめんってトソっちー。わかったもう言わないからさ。機嫌直してよ」
むっとして不機嫌になるトソン。
それを慌てて宥めつつも、やはりミセリの懸念は拭い去れない。
ミセ;゚ー゚)リ(うーん)
ミセ;゚ー゚)リ(……正直、友達として応援すべきかは……迷っちゃうよね〜)
やっぱり友人としては、複雑。
.
-
+ + + + + + + + + + + +
( ´_ゝ`)ノシ「ツンちゃーん」
ξ゚⊿゚)ξ「ん?」
6時間目の授業が終り、帰り支度を済ませて教室を出ると
片手に箒を持ったジャージ姿の兄者が、2年A組の教室から駆け寄って来た。
ξ゚⊿゚)ξ「どうしたの?兄者」
弟者のジャージを着てはいるが、目の前にいるのは兄者だとすぐに分かる。
同じ見た目でも、弟者の方は自分のことを下の名前で
馴れ馴れしくちゃんづけで呼んだりすることなど無いからだ。
-
( ´_ゝ`)「デレちゃん大丈夫かな?朝、あんなに取り乱してたから」
ξ゚⊿゚)ξ「あら、大丈夫よ。元々あの子、気分にムラがあるんだから。
今日はたまたま悪い日だっただけよ。私も気をつけるし」
ξ゚⊿゚)ξ「それに、明日は妹者ちゃんと遊ぶ日だしね。
いつも通り、元気なデレに戻るわよ」
( ´_ゝ`)「そっか。ならいいけど」
ξ゚ー゚)ξ「……なに、あんた。それ言う為にわざわざ出て来たの?」
ツンの記憶によれば、兄者は特別教室を出る時にいつも通り弟者と人格交代していた筈だ。
面倒臭いことは大嫌いで、掃除の当番などいつも弟者に任せっぱなしの兄者が
わざわざこの時間にジャージ姿で表に出てくることは珍しい。
ツンの顔に、フと柔らな笑みが浮かんだ。
ξ゚ー゚)ξ「ありがと兄者。デレのこと心配してくれて」
(;´_ゝ`)「あ、あれ?もしかしてツンちゃんもどっか具合悪い?大丈夫?保健室行く?」
ξ#゚ー゚)ξ「殴るわよ」
(;´_ゝ`)「冗談だってー」
-
ξ゚⊿゚)ξ「ったく……。まぁいいわ。
じゃ、妹者ちゃんによろしく言っといてよね」
( ´_ゝ`)「おう!じゃ、明日の放課後、公園でなー」
ξ゚⊿゚)ξ「はいはい」
ξ;゚⊿゚)ξ「ってバカ!大きな声でそういう事言わないでって言ってるでしょ
公園で遊んでること誰かに知られたらどうすんの!?」ヒソヒソ
(;´_ゝ`)「そんなに見られるの嫌かぁ?
公園で無邪気に遊ぶ女子高校生、可愛いと思うけどなぁ。俺は全然有り」
ξ#゚⊿゚)ξ「それは中身デレだから許されるの。見た目は私なんだからね。忘れないでよ!」
(;´_ゝ`)「乙女心って難しいぜ……兄者よくわかんない」
「………」
-
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、そうだ。
あんた、出てきたからにはちゃんと最後まで掃除終わらしてから帰んなさいよ」
(;´_ゝ`)「え、え〜。でもでも、当番当たってんのは弟者の班でー。俺じゃないし……」
ξ゚⊿゚)ξ「つまんない言い訳しないの。普段迷惑かけてる分それくらい働きなさいよ」
(;´_ゝ`)「俺別に3班じゃないのになぁー。ちぇー」
ξ゚ー゚)ξ「そーいうの屁理屈って言うのよ。ほら行った行った!」
(;´_ゝ`)「うぁい」
箒を片手に小さく不満を零しながら、ぶらぶらと割り振られた場所に戻る兄者。
ロッカーの影、ひっそりと身を隠しその場を立ち去った、クラスメイトの姿には気がつかなかった。
-
以上で10話投下終了です。ありがとうございました
2年もの期間途中放置してしまいごめんなさい。本当に面目無いです。
長い間ブーン系を離れていましたが、どうしても続きが書きたくなったので恥を忍んで戻って参りました。
更新ペースは変わらず遅めと思いますが、気長に見守って頂けると嬉しいです。
11話は来週2月15日の投下予定です。
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もう内容忘れたから最初から読み直すわ
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おかえりー
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これ大好きだったから帰ってきてくれて本っ当に嬉しい、とにかく嬉しい
乙でした!
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待ってたよー
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予告でみたけど面白いです
しえん
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待ってたんだよ・・・ほんとこれだからブーン系やめらんないわ
おつ。モララー不穏だなー
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信じてたよ!
戻って来てくれて嬉しいぜ!
乙!!
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待っててよかった
乙
-
おかえりー、待ってた。おつおつ
-
どうしよう、ブーン系民が全力で俺を泣かせにかかってくる
乙も何もかもありがとうございます。11話投下します
-
放課後、授業を終えた先生達が各々自分の作業に取り組む職員室。
デレの算数のプリントを前に、丸づけする手が止まっているブーンに気がついて
ロマネスクは暗闇の端からそっと声をかけた。
( ФωФ)「まだあの言葉が気になっているのであるか?」
( ^ω^)「……ああ、うん」
声には出さず、心の内での会話。
お互い長い付き合い、2人とも、承諾無く相手の思考に踏み入ることはしない主義だが
その様子を傍から見るだけでも、思い詰めているブーンの心境がロマネスクには分かった。
-
( ФωФ)「消されたマインドBはどうなるのか……、か。
随分、切りこんだ質問であるな」
( ^ω^)「……」
ブーンを通じ、ロマネスクも先日のモララーとの会話は聞いていた。
一日の授業が終わった今、教育実習生のモララーは職員室にはいない。
この学校には教育実習生用の控え室等は元々用意されていないので
授業時間以外は職員室と同じ階にある空き教室を控え室としてあてがわれている。
-
今は教育実習生を受け入れる時期では無い。
今回はdat大からの強い要望があった為、特別に彼一人を迎え入れることとなったのだが
普通なら何人もの教育実習生が同時に待機する場となる、この使われてない空き教室は
たった1人で使用するとなると途端、どうしようもなく広く、ただただ持て余す空間となった。
だが他に彼の為に用意できるような場所が無かったのだ。
もちろんモララーは申し訳なさそうな、遠慮がちな笑みを浮かべたものの
そのことについて特に文句は言わなかった。
職員室入口に設置されている鍵棚に鍵が返却されていないのを見るに
おそらく彼はまだ学校に残り、今日の授業内容を記録したレポート作成や
ブーンから指示された教材作りの作業に取り組んでいる筈である。
-
”それってやっぱり”死ぬ”ことと同じだと思いますか?”
マインドBを基本人格から完全に取り除くことを目的とした、人格消滅の処置。
カウンセラーの資格を取得する前、研修生として各地の病院や治療施設を巡っていた学生時代
研修を受けた施設のうち半数以上は、まだその治療法が主流として患者に施されていた。
実際にそのセッションに加わり、何人もの患者と接し
マインドBが基本人格から取り除かれる過程を間近で見てきた経験もある。
それはブーンにとって、思い出す度微かに胸の痛みを伴う辛い記憶だった。
.
-
あの頃の自分は、彼らと対話し、悲痛の叫びを、恐怖や悲しみを耳にしたとしても
ただ見ていることしかできない無力な学生だった。
あの時、目の前にいるのに救えなかった彼ら。
確かにそこに存在している筈の、自分達と同じように、考え、笑い、泣く人間である彼らに
決してあのような思いは、自分の存在を消される恐怖や悲しみなど味わわせたくない。
ブーンが胸に抱く理想の根幹には、その強い思いがあった。今でもその思いは変わらない。
だが―――
( ^ω^)「……やっぱり考えちゃうんだお」
( ФωФ)「―――消滅させられた彼らがどうなるか、か?」
教師になり、自分の思う方針を実践できる環境を得た今も尚
救えなかった過去の患者達のことが、フと脳裏を掠めては、ブーンを考えさせるのだった。
-
先日改めて、モララーに問われた疑問。
赤ペンを握る手を置いて、ブーンはロマネスクとの会話に心を傾けた。
( ^ω^)「ロマネスクはどう思う?」
( ФωФ)「ふむ。幸いそればかりはまだ我輩も経験したことが無いのでな。
悪いがなんとも言えないのである」
( ^ω^)「……本当に?」
( ФωФ)「おかげさまで」
( ФωФ)「……なんであるその疑いの目は」
_,
( ^ω^)「だーってあの時」
(;ФωФ)ノシ「やめやめ、その話はもういいであろう。
全く、ブーンは案外根に持つタイプで困るである」
_,
( ^ω^)「……まぁ、今、こうして居てくれてるからいいけどお」
( ФωФ)「ふむ。まぁそれで勘弁してくれ」
-
( ФωФ)「話を戻そう。あくまで我輩の意見だが
深い眠りにつくことを永眠と呼ぶならば
”死”という表現も間違いでは無いであろう」
( ФωФ)「言葉にすると、なかなか辛いものがあるが。な」
( ^ω^)「……だおね」
( ФωФ)「例えば、強制的に眠らされている状態だとしても
そこに本人の意識があるか無いかでまた違ってくるであるな。
……言ってみれば植物状態のようなものかもしれない」
植物状態。
ロマネスクのその言葉を聞いて、ブーンは不意に
研修生時代、セッションを通し関わったことのある一人のマインドB患者のことを思い出した。
-
( ^ω^)(……)
その子はマインドBが発覚して数ヶ月、専門の治療施設に入院し”消滅”の治療を受けていた。
担当医からの指示を受け、研修生である自分も彼との1対1でのセッションを許されたのだ。
といっても、ごく簡単な会話をほんの数十分、簡素なセラピールームで2,3回しただけだったが。
とても物静かで口数の少ない
感情をあまり表に出さないタイプの少年であったことを覚えている。
彼のマインドB、別人格の方が自分の前に現れることはついに無く
それだけだったならこうして今、思い出すことも無かったかもしれない。
それ程印象の薄い少年だった。
-
ところがその後、自分の知らないところで事態は急変した。
彼は“消滅”の治療が最終段階に入った途端、ある日突然謎の意識喪失を起こし
そのまま意識が回復することはなく、原因不明の昏睡状態に陥ってしまったのだった。
そのようなケースは世界的に見ても非常に稀で
現在に至るまで他に同じ症例を聞いたことは無い。
-
―――だが、“消滅”治療の問題性が注目され
大半のマインドB医療機関が今の治療法に移ったことも
その子の事件があったことが、多少は影響しているのだという話を
カウンセラー仲間から昔聞いたことがある。あくまで噂程度の話だったが。
既にその病院での研修を終え、他所の診療所で手伝いをしていた自分も
その知らせを聞いて、一度だけ彼の様子を見に病院を訪ねたことがあった。
白いベッドに眠り、栄養補給用の点滴やチューブに繋がれた彼の姿を思い浮かべる。
生気を失った青白い顔に、心無しか安らかな表情を浮かべ、その時の彼はまるで……
( ^ω^)(……あの子はまるで、死んでいるようだった)
.
-
「ブーン先生?ブーン先生!」
(;^ω^)「あっ、はい?」
急に名前を呼ばれた為、心の内側から外へ。瞬時に意識を切り替えそちらへ顔を向ける。
いつの間にかすぐ傍に立ち、少し困ったような顔を浮かべこちらを見下ろしていたのは
学年主任のフィレンクト先生だった。焦るブーンに、ふふと笑みを零す。
('_L')「ロマネスク先生と今後の学習計画についてご相談ですか?お電話ですよ」
どうやらロマネスクとの会話中、僅かに唇を動かしているのを見られたようだ。
そのまま考え事をしていたせいで、電話が鳴っていた事にも気がつかなかった。
(;^ω^)ゞ「おー、すみませんお。誰からですかお?」
(;ФωФ)ゞ「すまないフィレンクト先生。以後気を付けるである」
ロマネスクの謝罪はフィレンクト先生には聞こえない。
-
('_L')「流石さんからですよ。はい」
(;ФωФ)「あー母者さんからか」
(;^ω^)「ありがとうございます」
フィレンクトから受話器を受け取り、保留ボタンを止めて耳にあてる。
( ^ω^)】「もしもし、お電話代わりました。内藤ですお」
『ブーン先生かい、忙しいのにすまないねぇ。いつもうちの子達がお世話になって』
( ^ω^)】「いえいえ」
堅苦しい挨拶はすっとばし、やたら男前な口調で電話に出たのは
流石弟者の、そして兄者の母親である、流石家最強主婦・母者だ。
個性溢れる流石家の面々をその腕っぷし一つでまとめあげる
豪快な性格の剛腕肝っ玉母ちゃんである。
-
『先生には本当に感謝してるよ。クラスの子達にもね。
特に兄者の馬鹿なんか普段から迷惑かけっぱなしだろ?悪いね」
(;^ω^)】「いえいえ……」
そこは若干否定し辛い。
『それで、次の会談のことなんだけどね』
( ^ω^)】「はいお。来週の予定でしたおね」
―――母者の言う会談とは、ブーンと生徒の家族との間で定期的に行われている話し合い
いわば保護者を交えたチーム・ミーティングのことだ。
家族とのこうしたこまめな連携も、本人の手助けに繋がる大事な取り組みの一つであり
学期内に大体3,4回は各生徒達の親御に学校まで出向いてもらって
互いに色々な報告をしあったり、相談事をもちかける場としてこうした機会を設けている。
『一応、内容だけ事前に確認しときたいと思ってね』
( ^ω^)】「わかりましたお。では僕からお話させて頂きますおね」
-
( ^ω^)】「前にもお話しました通り、僕は
兄者君にとっても妹者ちゃんにとっても、もう良い時期が来たと思って。
“ルール”の解除を考えていますお。次の会談では、その話が中心になると思います」
『先生がそう言ってくれて嬉しいよ。あたしからもそれとなく伝えて良いんだね?』
( ^ω^)「お願いしますお。来週頭には僕からも言いますし。一応心構えのつもりで」
ブーンとしては、本当はもっと早くにその決断を出したかったのだが。
一番最初に弟者を診断しそのルールを設けた担当ドクターは、かなりの慎重派だった為
彼と話し合い同意をもらうのに、少し時間がかかってしまったのだ。
『うんうん。それを聞きたかっただけなんだよ。
ありがとうね、先生。兄者も妹者も、きっと喜ぶよ』
( ^ω^)「ええ、僕も嬉しいですお」
『ま、あの馬鹿が浮かれすぎてハメ外さないように、しっかり見張ってないとね』
そう、なんだかんだ言いつつも、電話の向こうの声は嬉しそうだ。
-
ブーンは思う。
タカラの母親のように、悲しいことに、自分の子に芽生えたもう1人の人格の存在を
どうしても認めようとせず、息子の身に起きた不幸を悲観するだけの例がある一方で
母者のように、マインドBである兄者のことをも真に自分の子として受け入れ
実の息子同様、心からその幸せを願う親もいる。
母者の持つ、包容力の深さと真っ直ぐな優しさからくる愛情が
マインドBが認められる社会を作りたいという理想を持つブーンには嬉しかった。
( ^ω^)「―――それでは失礼しますお。母者さん。また来週に」
『ああ、よろしく頼むよ先生。それじゃ』
それから数分、来週の会談で行う予定のいくつかの話を確認し合い
流石母者との電話は終了した。電話中、片手で取っていたメモを清書する。
-
(`・ω・´)「失礼します。ブーン先生、いらっしゃいますか?」
電話を終えたブーンが、やりかけになったまま止まっていた採点作業に戻ろうとした時だ。
職員室の入り口にて、室内によく通る凛々しい声が発せられた。
ジャージ姿の男子学生は、ブーンが机に座っているのを確認すると ぺこり、一礼する。
( ^ω^)「お、シャキン?」
戸口に立つ彼を見て、中へ入って来るよう促した。何か用事だろうか?
( ^ω^)「どうかしたかお?シャキン」
(`・ω・´)「すいません先生。少し、相談があるんです。ショボンのことで」
( ^ω^)「お?」
-
実を言うとこのところ、八又ショボンとの関係はあまり上手くはいっていなかった。
以前ならシャキンが協力し、みんなが帰った教室で面談の場を設けさえすれば
ほんの数分、短い時間だけでも、例え一言も言葉を発することが無いにせよ
かろうじてブーンの呼びかけにだけは応じ、意識の奥から沈んだ顔を覗かせてくれていたのだが。
それが、ここ数日の間に2回行った面談で
どちらも彼はシャキンと交代するのを拒否し、一切出てこなくなってしまったのだった。
彼との信頼関係を、綱を渡る思いでやっと築きあげ 3年生に進学してから
こんなことは初めてのことで、ブーンは困惑した。
-
教室に人が増えたことが原因かとも考えたが、それでもショボンが元々在席する通常クラスでは
40人弱の生徒達が机を並べ学習する、大人数のクラス編成なのだ。
今更周囲の生徒や先生が1人2人増えたくらいで、それが彼の恐怖心をことさら掻き立て
意識の奥底にますます閉じ籠もる要因を作ってしまったとは考えにくい。
そもそも通常クラスでの活動に加え、マインドBクラスも然りその他の場所であっても
環境の変化その他諸々の総てに対応するのは
学校での活動をほぼ任されっぱなしのシャキンの方だというのに。
シャキンから話を聞かなければ、ショボンは
タカラやギコ、モララーの存在さえ知らないかもしれなかった。
その事を考えると、急な体験入学生や教育実習生の受け入れが問題であるとは思えない。
では何故?呼びかけに応じなくなってしまったのか?
何も話そうとしないショボンに対し、シャキンもブーンも困っていたところだったのだ。
-
( ^ω^)「どうしたんだお?」
(`・ω・´)「実は……。
最近、ショボンの奴、家でもあまり僕と話そうとしなくて」
いつでも生気に溢れはきはきと物を喋るシャキンが
言い辛そうに小さく口を動かし、ブーンから目を背けた。
こんな様子の彼を見るのは珍しい。
(`・ω・´)「その」
(`・ω・´)「あまり上手くいっていないんです」
( ^ω^)「……そうなのかお?」
初めて耳にする話だ。
普段のシャキンからは、そんな素振りは全く見られなかった。
……いや。本来なら、彼がこうして己の口でそれを認める前に
教師である自分が気づくべき問題だったのかもしれない。
-
家では空いた時間、学校であった出来事を話し勉強を教え、内気な彼を励まして
誰より基本人格のショボンのことを一番に気にかけているシャキンだ。
そんな、ショボンのことを弟のように想う彼でこそ
肉親を置いて一番近しい存在である筈の自分でさえ、周りの人間と同じように
小さな拒絶を示されているという事実を、認めることが辛かったのかもしれない。
加えて、ショボンの抱える問題に対し常日頃真剣に取り組んでいるブーンやロマネスクに
これ以上の心配や迷惑をかけることは忍びなく、なかなか言い出すことが出来なかったのだろう。
シャキンはそういう性格だ。
簡単に弱音は吐かず、自分で解決しようとする。
だからこそ彼は大丈夫だと、周囲は安易にそう思ってしまう。
-
彼の精神年齢は既に大人だ。
しっかり者で、リーダーシップもあり、クラスのまとめ役でもある。
だけど、自分は先生で、シャキンは僕の生徒なのだ。もっと頼ってくれてもいいのだと
小さく項垂れるシャキンを前に、ブーンは教師としての自分の力不足を痛切に感じた。
( ^ω^)「わかったお、シャキン。
家でのショボンの様子、もっと聞かせてほしいお」
(`・ω・´)「はい」
彼の力になる為、ブーンは机の上を手早く整理して腰をあげた。
2人で静かに話をするには何処がいいか少し考えて
相談室の部屋を貸してもらえるよう、担当の先生に許可を貰いに行く。
-
+ + + + + + + + + + + +
(*゚ー゚)「ナベちゃん」
HRの時間が終わって、一日分の授業が終了した1年A組の教室。
眠そうに目をこすり、帰り支度をしている渡辺に、しぃが声をかけた。
从'ー'从「あ、しぃちゃん〜。帰ろ〜」
(*゚ー゚)「……ごめんね、今日ちょっと、用事があって。一緒に帰れないの」
从'ー'从「そうなの?どんな用事?」
(*゚ー゚)、「う、うん。……ちょっとした用事だよ」
从'ー'从「そうなんだ〜」
(*゚ー゚)「うん。だから……悪いけど先に帰って」
从'ー'从「待っててもい〜?」
(;゚ー゚)「え?」
-
予想外の渡辺の提案に、たじろぐしぃ。
(;゚ー゚)「で、でも、悪いよ。そんな……。
いつ終わるか分からないの。すぐかもしれないけど……」
从'ー'从「じゃあ、5時まで待ってる」
(;゚ー゚)「え、え?いいの?ナベちゃん」
从^ー^从「帰り、一緒に寄りたいお店あるんだ〜。
5時まで待ってしぃちゃん来なかったら、諦めるから」
(;゚ー゚)「ナベちゃん……」
从^ー^从「ここで寝てるから、終わったら起こしてね」
从- -从「じゃあ、おやすみぃ……」
-
最後にそれだけ呟くと、本当に渡辺は机に突っ伏して寝てしまった。
しばらく横で突っ立っていると、小さいが、気持ちよさそうな寝息まで聞こえてくる。
どうやら本当に寝てしまったようだ。
周囲はまだ、掃除当番に勤しむ班や、帰りに寄るゲーセンの話で盛り上がる男子生徒達等
一日の勉強から解放された生徒達の賑わいで騒がしい。
自分には絶対に無理だ。
しぃは、安らかに寝息を立てる渡辺を見てそう思った。
从- -从 スー スー
(;゚ー゚)(ナベちゃんたら、本当に寝るのが好きなんだなぁ……)
-
渡辺はよく眠る。
休み時間はもちろん、授業時間であってもしょっちゅうだ。
よほど夜遅くまで起きているのかと思ったが、そういうわけでも無いらしい。
単純に、眠るのが好きなのだそうだ。
一度その理由を聞いた時、「夢で遊ぶのが楽しいから」と
にこにこしながら話していたのを思い出す。
なんとも、のんびりした性格の渡辺らしい。
(*゚ー゚)「……。じゃあ、行ってくるね。ナベちゃん」
先日から同じクラスで学ぶことになったタカラの姿は、既に教室には無かった。
既に何人かの男子生徒と親しくなっている様子だったので、彼らと一緒に帰ったのだろう。
すぅすぅと眠る渡辺の背中に小さく声をかけ、しぃは教室を後にした。
.
-
11話投下終了です。
12話は今現在8割程書けているのですが、13話を大体形に出来てから投下したいと思うので、次は来月になりそうです
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乙
次も楽しみにしてるわ
-
乙
先が気になる
-
おつー
わたなべいいこや・・・
-
本当に日常と不穏な空気のバランスが好きだ
-
乙でした
不穏な影があって先が気になる
ナベちゃん可愛い!
-
乙
面白すぎて一気に読んでしまった
-
うおおおおお続きいっぱい来てるううう乙!
モララーが何を目指してるのかわからなくなってきて怖い
-
強くぶつかっても怪我をしないよう、壁と床一面をクッション性の詰めもので覆われた
薄暗く、狭く、家具も何も無い殺風景な部屋が、26インチのTV画面の中映し出されている。
その部屋の中閉じ込められた、乱れた制服姿にボサボサの髪をした少女は
完全に自制心を失い、自分ではどうすることもできない混乱に支配されて
叫び、唸り声をあげ、暴れ狂っていた。
彼女が前へ後ろへ忙しなく動き回り、防護壁に頭や体を打ち付ける度
どっ、どっ、と くぐもった鈍い音がする。
何度も繰り返されるその動きには動物じみたものがあった。
冷たい椅子にぽつんと座らされた、14歳になったばかりのしぃは
唖然として言葉を失い、凍りついたように身を強張らせ固まったまま
見開かれたその目を一点、TVの画面に釘付けにされていた―――
-
隔離部屋の監視カメラに録画された映像。
それを再生し指差しながら、傍に控えていた医師が言う。
『見てごらん。これが、君が意識を失っていた間の、2日間の映像だよ』
しぃを最初に診断したその精神科医は、まず彼女に
己の中のもう1人の人格を、その存在を認識させることが治療の上で重要だと考えたのだ。
彼女は隔離部屋からわけもわからず連れ出されたばかりで、まだ2日3日も立っておらず
此処がどこなのか、何故自分がここにいるのかもまだよく分かっていないというのに。
しぃは、自分が気がついた時には、覚えも無いのに体中が痛かった原因と
喉がひどく枯れて、しばらくはまともに声すら出せなかったことの原因を知ることはできても
画面の中で野獣のように暴れ、ここから出せと猛り吠える、自分と同じ姿をした何者かが
自身の内に眠るもう1人の姿と認めることなど、その状況ではとてもできる筈も無かった。
彼女の呼吸が乱れる。
徐々に早く、そして、必要以上に深く酸素を取り込みはじめた。
-
「こんなの私じゃない……!!」
―――――それは、医師の意に反して
彼女にただただ恐怖と絶望のみを、深く深く残酷に、刻み付ける結果となった。
その姿を、声を聞くのが耐えられなくて、パニックに陥り泣きじゃくるしぃ。
私じゃない。これは私じゃないと、何度も繰り返される痛切な訴えは、すぐに悲鳴へと変わり
映像はほんの1分程度で停止され、医師はそれからまもなくして担当を外された。
-
その たった1分弱の映像が、しぃの記憶の奥深くに、決して消えないよう痛ましく刻まれている。
忘れたくても忘れることもできない。あれが、あの凶暴な目をした少女が“つー”。
クラスの同級生を、先生を傷つけた。全てを壊し、めちゃくちゃにした。
私の姿を借り、眠る怪物の姿だと。
.
-
職員室のある一階の北側端、階段脇の目立たぬ一角に
以前は授業に使われていたものの、学校の改築に伴い教室数が増えた為
現在では滅多に使用されることの無い、古い空き教室がある。
普段誰も気にもしない、いつも静かで無人のこの教室。
特別クラスへの教育実習を願い出た、愛流モララーの控え室として
学校側が急遽用意したのは、この空き教室だった。
この時間、中ではまだ彼が作業に取り組んでいる筈なのだが
外から中の様子を知ろうにも、閉められた戸の小さな窓から見えるのは
覗き見防止用に取りつけられた暗い色のカーテンだけで
中に人がいるのかいないのか、それすらよく分からない。
なので、帰宅やクラブ活動に向かう生徒達で賑わう放課後の時間帯でも
その静かな教室が、廊下を通り過ぎて行く彼らの注意を引くことは特に無かった。
-
現在時刻、6時限目終わりのまだ明るい午後16時前。
扉前にてぽつんと一人、教室を見上げ佇む女子学生の姿があった。
(*゚-゚)「……」
不安と緊張の入り混じるその表情は僅かに強張り、瞳は落ち着きなく揺れて
今現在ひしひしと彼女を押し潰そうとする恐れの色を伺うことができる。
だが同時に、何かを決心したような、確たる強さの光がその中には存在していた。
簡素な木製の扉に挑みかかるように、細い足を一歩踏み出す。もう一歩。
永遠とも思えるような長い躊躇いの後、慎重に、控えめで小さなノックを2回。
それから数秒耳を澄ませ、一呼吸置くと
意を決したようにしぃはその教室へと足を踏み入れた。
-
天井に一か所のみ点けられた電灯の元
仄かに照らされる教室内は薄暗かった。
室内が嫌に広く感じられるのは、教卓や、他の大多数の机や椅子等といった備品が
あらかた隅に片づけられていて、通常の教室と対比し物寂げな空間を作り出しているからだろう。
がらんとした部屋のその中心。
生徒達に長年使い古された学校机の中でも、比較的割と綺麗めなそれが1人分と
そこから少し離れた位置にもう一脚、どこにでもある質素なパイプ椅子が
真正面では無く、微妙に机と斜めに向かい合う形で置かれていた。
( ・∀・)「やぁ。待ってたよ、羽生さん」
そのパイプ椅子に腰かけるモララーは、今まで読んでいた本をぱたんと閉じると
ごく自然にくつろいだ様子で、教室入口に立つしぃに向け優しく微笑みかけた。
-
( ・∀・)「本当は、もっと小さくて静かな部屋で君とお話したかったんだけど。
2人だけの教室なんて、広すぎて落ち着かないよね?」
(;゚-゚)「……?」
しぃの足が止まる。
モララー本人にも他の誰にも、今日この時間
自分が彼の元を訪れる事など、しぃは話していなかった。
そう 誰にも話さなかった筈だ。
”あの日”からずっと。何日も、そのことばかり考えていた。
だが決して、誰にも、その思いを口に出すことは無かった。
ほんの一言、どんなに些細な、ちょっとした一言でも
他の誰かの口からぽつりとでも否定の言葉を聞かされたなら
たちまち、自分が簡単に怖気づき挫けてしまうのが分かっていたから。
止められるのが怖かったのだ。
そして、どうか誰にも、先生にも両親にも、知られないようにと願わずにはいられなかった。
何故なら、今から自分がやろうとしているのはきっと―――悪いことなのだから。
-
――――だから。
モララーが自分の来訪を知る術等無い。知っている、筈が無い。
( ・∀・)「まぁ、そんな贅沢も言ってられないかぁ。
せっかく先生方に用意して頂いた部屋なんだから。ね」
だがどうやら、予め今日この時間にしぃがこの教室を訪ねる事は
モララーには当然のように分かりきっていたことのようだった。
モララーのあまりにも自然な態度に、動揺を覚えるしぃ。
だが、屈託無くこちらに語り掛けるその声の調子には、妙に心を安心させる効果があって
彼女の中に芽生え始めた警戒心を、いとも容易く包み込んでしまう。
予め今日は、事前にモララーと打ち合わせて、ここへ来て彼と話をする予定だったのだ。
何ら不思議なことは無いと、そんな錯覚にさえフとすれば陥ってしまいそうになる。
しぃは、自分自身何処から来るのか分からない震えを紛らわす為、浅く息を吸った。
-
( ・∀・)「さ。じゃあ、席へ座ってくれるかな?羽生さん」
(;゚-゚)「……モララー先生。あの、私……あの」
( ・∀・)「君が何を望んでこの教室へ来たのか、僕には分かっているよ」
(;゚-゚)「……」
( ・∀・)「座ってお話しよう。大丈夫だよ、羽生さん」
大丈夫だよ。
しぃはまるで、その言葉に導かれるかのように
どこか心許無い動作でふらふらと席に近づき、慎重に椅子に腰を降ろした。
先程まであった、微かな震えは既に止まっていた。
-
斜め向かいのパイプ椅子に腰かけているモララーの目線は、微妙にしぃからズレていて
彼女が言われたとおり着席し、不安げにこちらの出方を伺っている様子を確認すると
そのまま、まるで目の前の何も無い空間にしぃがいて、それに話しかけるかのように彼は話し始めた。
( ・∀・)「君が不安を感じているのは分かっているよ」
(*゚-゚)「……」
( ・∀・)「僕なら君の力になれる。
……そう、ギコ君から聞いたんだよね?」
しぃは頷いた。
固く表情を結ぶ彼女の脳裏に、数日前の記憶が蘇る。
マインドBクラスにて、モララーとタカラを紹介された次の日。
正確に数えれば、もう9日も前のことだ。
放課後の靴箱、そこで交わしたギコとの会話を思い出す。
-
(,,゚Д゚)「もう1人の自分の存在を、消したいと思ったことは無いか?」
強い意志を感じるその瞳でこちらをじっと見据え、彼は言った。
(;゚-゚)「な、何……言ってるの?……タカラ君。どうしたの?」
(,,゚Д゚)「俺はタカラじゃない」
(;゚-゚)「……」
(,,゚Д゚)「俺の名前は、ギコだ」
ギコ。
その名前に、しぃはもちろん聞き覚えがあった。
特別クラスに仮入学することになった、猫塚タカラのマインドB。
彼は今日の授業時間中、一度も意識上に現れることは無かったと、ブーンから聞いていた。
-
では、そのギコが何故今このタイミングで。何故自分の前に姿を現したのか。
突如変貌した目の前の男子生徒に混乱するしぃには、事態が全く飲み込めなかった。
彼は何を言っているのだろう。もう1人の自分を、消す?
(;゚-゚)「……ギコ、君……?どうして」
早まる鼓動を感じつつ、口をつい出る疑問を投げかけようとしたその前に
ギコの口から続く言葉が、彼女の動揺をさらに掻き立てる。
(,,゚Д゚)「俺がやろうと思ってること、お前にだけ教えてやろうか?」
(;゚-゚)「?」
ギコが一歩踏み出し、しぃへの距離をずいと詰めた。
(,,゚Д゚)「俺はな。
―――タカラのことを、消してやりたいと思ってるんだ」
(;゚-゚)「!?」
-
(,,゚Д゚)「タカラはな……邪魔なんだよ。
俺にこいつは要らないんだって、気づいたんだ」
(;゚-゚)「……!そ、そんな」
(,,゚Д゚)「俺は」
ギコはブツブツと続ける。
(,,゚Д゚)「俺は……、お前なんか要らないって、そう言われた。
……だけど、要らない人間はどっちかな?それを証明してやるよ」
(;゚-゚)「……?」
(,,゚Д゚)「思い知らせてやるんだ」
しぃには、ギコの言っている言葉の意味が分からない。ただ怖かった。
何かを恨むように、忌々しげに、何も無い空間を睨めつけるギコだったが
傍らで固唾を飲むしぃの怯えを感じ取ったのか、次の瞬間にはフと、怒りの感情を消した。
-
(,,゚Д゚)「……お前はどう思う?」
(;゚-゚)「え?」
(,,゚Д゚)「酷い奴だと思うか?俺のこと」
(;゚-゚)
(;゚-゚)「ぁ……」
―――そんな風に、思ってはいけない。
―――そんな酷いことを言ってはいけない。だって。
だって……
…………。
だって、……なんだ?
なんだった、ろうか。
-
しぃは、ギコを前にしてどうしても口に出すことができなかった。
“いい子”のしぃなら咄嗟に口に出しそうなこと。
彼の間違った考えを正す為の、自分が良い人である証を示す為の、数々の薄べらな言葉を。
……その考えは間違っている、なんて。目の前のギコに対しどうして言えるだろうか?
よりにもよって、今この瞬間、誰より彼の言っていることが理解できてしまう自分が?
そんな権利が自分にあるのか?彼の言葉を否定すること、即ちそれは。
(,,゚Д゚)「お前も、そうじゃないのか?自由になりたがってる。そうだろ?」
(;゚-゚)「……!」
結局、しぃは何も言えなかった。
淡々と言葉を紡ぐギコの訴えは全て、自分の胸の内で叫び続けた想いだった。
言いたくても、決して言葉に出してはいけない言葉だった。先生にも、親にも、誰にも。
-
(,,゚Д゚)「自由を望むことは―――いけないことか?羽生しぃ」
追い打ちをかけるように、ギコは尚も問いかける。
しぃは、自身の鼓動が早まるのを感じながら
必死になって思考を巡らしギコの言葉を反復した。
自分であって自分でない、もう1人の人間を、消してしまいたい。
彼の言っていること、そしてその気持ちを、しぃは痛いほど理解できた。
恐らくは、特別クラスに通う皆の中では自分が一番。
そう、少なくとも今この場に置いては、自分こそ誰より
目の前の怒れる男子の気持ちに共感できる立場にあることを認めないわけにはいかなかった。
-
が、唯一つ。
唯一つ、自分と彼、両者の置かれている立ち位置には
無視できない決定的な相違点が存在することにも、しぃは気づいていた。
決定的な相違点。それは――――
――――ギコはあくまで、タカラのマインドBであるという点だ。
立場が1つ違うだけで、途端、ギコの話す言葉の持つ意味が全く違ってくる。
-
マインドBが、主人格の消滅を望んでいる。
それはしぃからすれば、理解した途端ぞわりと毛が逆立つような、恐ろしい話だった。
(;゚-゚)「ま、待って。でも……そんなこと、できないでしょ?」
マインドBを消滅させる治療法があるという事は知っている。
だが、現在その治療方針をとっている病院はほとんど残っていない筈だし
そもそも基本人格が消滅させられた例など聞いたことが無い。
だって、もしそんなことがあったならきっと大問題になっている筈だ。しぃはそう思った。
(,,゚Д゚)「できなくなんか無いぜ?
病院で廃止になっただけで、その方法があることに変わりは無いんだからな」
(;゚-゚)「で、でも」
(;゚-゚)「……でも、だって……。
……ギ、ギコ君は……、マインドB、なんでしょ」
(,,゚Д゚)「……」
-
(;゚-゚)「だったら、その……。タカラ君を、消す……なんて。
できる筈無いよ。だって彼は」
(,,゚Д゚)「基本人格だから、か?」
(;゚-゚)
(,,゚Д゚)「マインドBは消滅させることができる。でも、主人格は消されたりしない。
……そう思ってるんだ、な」
ギコの声には、しぃの心の内を見透かし、若干、哀れみや呆れを感じさせるような
そして、少量だが隠しようの無い、静かな苛立ちの感情が含まれていた。
息を飲み黙り込むしぃから視線を外し、ギコは光差す地上へと続く石階段を眺めた。
(,,゚Д゚)「……確かに、簡単に人格を消すなんてことはできないだろうな」
しぃは僅かに身じろいだが、どうしたらいいのか分からなかった。
鉛のような沈黙の後、ギコが口を開いた。
-
(,,゚Д゚)「だけどな。もっと簡単に、もう1人を黙らせる方法があるんだ。
二度と、意識上に目覚めさせないようにする方法がな」
(;゚-゚)「えっ?」
(,,゚Д゚)「そうできるって、教えてもらったんだよ」
ここにきて初めて、ギコの口元に
極々注意しなければそれとは分からない程の笑みのようなものが浮かんだ。
(,,゚Д゚)「いわば、”眠らせる”んだ。深くな」
(;゚-゚)「眠らせる……?」
-
(,,゚Д゚)「そうだ。消す必要なんか無い。
そうすればもう、お前の中のもう1人だって、二度と出てくることは無いぜ」
(;゚-゚)「ほんとに!?」
(,,゚Д゚)「ああ。教えてもらったんだよ。その人はそれが出来るって言うんだ」
(;゚-゚)「だ……誰が?その人って……誰のことなの?」
(,,゚Д゚)「教えてやるよ」
―――――先生には秘密だぞ。
.
-
( ・∀・)「何も悪いことじゃないよ」
(*゚-゚)
( ・∀・)「むしろ、自然に持つものだと思う。
……もう1人の自分を消してほしいと願う気持ちは」
( ・∀・)「この学校は特別な場所だから
それが特別悪いことのように思ってしまうかもしれないけれどね」
( ・∀・)「僕は君みたいな子を可哀想に思う。だから、ギコ君に伝えてもらったんだよ」
(*゚-゚)「……」
-
『マインドBも、1人の命ある人間なんだお。
僕は、マインドBが障害としてではなく
1つの個性、個人として扱われる社会を実現することが夢なんだお!』
『あくまで今は、単なる理想だけどね。でも、いつかきっと……』
(*゚-゚)
(*゚-゚)「……モララー先生」
( ・∀・)「うん?」
(*゚-゚)「モララー先生が、ブーン先生の……、マインドBの生徒達だけで作られた
この学校の特別クラスに、教育実習に来たのは」
(*゚-゚)「マインドBが基本人格と一緒に、普通の人と同じように生きていける手助けをする。
その、ブーン先生のやり方や考え方に共感して、自分もそうしたいから、だから……」
(*゚-゚)「だから……、それを学ぶ為に来たんじゃ……ないんですか?」
-
( ・∀・)「もちろん。僕はブーン先生のクラスをとても素晴らしいものだと思っているよ。
君の言う通り、その有りのままの教室を実際に目で見て、感じる為に此処へ来たんだ」
( -∀-)「僕は驚かされたよ。それがマインドBであれ、誰も存在を否定されたりしない。
一人の生徒として、皆が活き活きと学校生活を送り、未来への明るい道を歩んでいる」
(*゚-゚)
( ・∀・)「……だけど、羽生さん。君はそうじゃないよね?」
(;゚-゚)
( ・∀・)「大きな、押し潰されそうな不安を毎日抱えているのに、周りの誰も助けてくれない」
( ・∀・)「あの教室は、君の為の場所じゃない。
マインドBのみんなの為、”だけ”の教室だ。」
( ・∀・)「誰も、君の声に耳を傾けてくれない……。
それってすごく、不公平なことだと思うんだ。違うかい?」
(;゚-゚)「………」
(;゚-゚)「ブーン先生は」
-
( ^ω^)『協力してくれるかお?しぃ』
(;゚-゚)「……ブーン先生は……!」
(;゚-゚)「私のこと、助けようとしてくれてる」
( ・∀・)「うん。そうだね。
君が入学当初からブーン先生にとてもお世話になっていることは僕も知ってるよ」
( ・∀・)「それまで一切、周囲の人間を寄せつけなかった”つー”の心を開き
人格交代のルールを彼女に教えて守らせた。
それで君は、自由奔放な性格の別人格に振り回されることも無く
円滑な高校生活を送れるようになり、親しい友達もできた。そうだろ?」
口元をきゅっと引き締め、小さく頷くしぃ。
( ・∀・)「……だけど僕はね。マインドBクラスで、みんなと過ごして思ったんだ。
それって、他のみんなにはそうで無かったとしても
君にとっては適したやり方とは言えないんじゃないかって」
( ・∀・)「ブーン先生が間違っているとは思わない。
たかだか精神医学を専攻して1年2年の、知識も経験も乏しい一学生風情が
こんな疑問を持つこと自体、出過ぎた行為だと自分でも思うよ」
-
( ・∀・)「―――だけど、君みたいに別人格の消滅を望んでいる子も確かに存在する」
( ・∀・)「だろ?」
(;゚-゚)(……どうして)
どうしてモララー先生は、私の気持ちをここまで見透かしているのだろう。
自分自身の胸の内に隠し続けた思いを、まるで心を読むかのように的確に
目の前で言葉にして語るモララーの自然な振る舞いと言動は、どこか非現実じみていて
ここにきてようやくしぃに、違和感と得体の知れない薄ら寒さを覚えさせた。
(;゚-゚)(……)
が、この場から身を引き逃げるという判断を下すには
今の彼女は既に彼の話術に引き込まれすぎてしまっていて
引き返そうにも耳を塞ぐにしても、事態を変えるにはあまりにも遅すぎた。
-
( ・∀・)「共存か、独立か。
君みたいな子には、どちらかの道を選ぶ権利を、僕は与えて然るべきだと思うんだ」
( ・∀・)「そして僕はね。君にその道を選ぶチャンスを与えてあげることができるよ」
(;゚-゚)「……ほ……ほんとに?」
机の下で固く握る手に、自然と力がこもった。
(;゚-゚)「できるんですか?」
(;゚-゚)「”つー”を消すことが。本当に……できるの?」
( ・∀・)「消すっていうのは、ちょっと違うかな。
正しく言えば、眠らせるんだよ。深く、深くね」
( ・∀・)「誰に呼ばれても、二度と目覚めることは無いように。絶対に」
(;゚-゚)「……!」
(;゚-゚)「……眠らせる……だけ?」
-
( ・∀・)「そう。君は“つー”を失うが、殺すことにはならない。
誰も傷ついたり、悲しむことにはならないよ」
( ・∀・)「それも僕がやってあげる。君が罪を背負う必要は、一つも無いんだよ」
(;゚-゚)「……っ、でも」
(;。。)「でも、そんなことしたら……
……ブーン先生が悲しむんじゃ……」
( ・∀・)「君は優しいね。羽生さん」
モララーが微笑む。
迷子になった子供に声をかける時のような、優しい、優しい声だった。
( ・∀・)「でもね、考えてごらん。
元々君1人だったのが、また元の1人に戻るだけだよ。
君がそれで幸せを得られるのなら、先生もきっと分かってくれる筈さ」
( ・∀・)「ブーン先生は君の幸せを望んでいる。
僕にもその手伝いをさせてほしい」
-
よっしゃリアル遭遇
しえん!!!
-
(;。。)「……」
( ・∀・)「……君にはまだ迷いがあるんだね?」
(;。。)「……」
( ・∀・)「決断するには勇気がいるよね。
……でも、僕の言うその方法は、その人の強い意志が無いと成立しないんだ」
そこでフと、言葉を区切ると
モララーは椅子から立ちあがり、しばらくの間顔を伏せ思い詰めた様子のしぃを眺めていた。
そして
( ・∀・)「一つお願いがあるんだ。つーちゃんと話をさせてくれない?」
数十秒程の間があって、次に彼が口にした言葉は意外な提案だった。
(;゚-゚)「!えっ」
( ・∀・)「君が心を決めれるようにね」
-
( ・∀・)「僕だってカウンセラーを目指している人間だ。
マインドBの意志を完全に蔑ろにするつもりは無いんだよ。
つーちゃんにも理解してもらえるよう、僕から話してみるよ」
(;゚-゚)「……!?そ、そんなこと」
無理だ。
自分が永遠に眠らされるなどと聞いて、誰が快く頷いたりするだろうか?
ましてやあの―――つーが、そんな頼みを聞き入れてくれるとは思わない。
当然のように反発し、自分か、モララーか、または周囲の誰かに。
自分の身を守る為、攻撃の意志を向けるだろう。
また酷い事態を招く可能性だってあるかもしれない。誰かを傷つけてしまうかもしれない。
そうなった時自分は、つーを抑えきれる自信が無い。
もう二度と、中学の時味わったあんな思いや混乱を味わうのは嫌だった。
-
できることなら、モララーにはこのまま
内側で眠る彼女が何も知らない間に、その存在を無かったことにしてほしかった。
つーを起こしてほしくない。しぃは縋るような思いで首を横に振った。
( ・∀・)「僕に任せてくれれば大丈夫。
時間はかかると思うけど、彼女にも協力してもらえるよう努力するから」
(;゚-゚)「……」
( ・∀・)「きっと、君の迷いも消えると思うよ。約束する」
( ・∀・)「……つーちゃんを、呼び出してもいいかな?」
(;゚-゚)
.
-
うああああしぃちゃんんんんん!!!
-
『出席番号1、羽生つー!』
(*゚∀゚)「あひゃっ、おはよせんせ……、……あひゃ?」
聞き慣れた声に呼び起され意識奥から元気よく目覚めたつーは
声の聞こえた方に、普段なら教卓の後ろに立っているべき人物の姿が見当たらないことと
そもそも教卓も他の机も見当たらない、このがらんとした薄暗い場所が
いつもの教室とは違うことにすぐに気がついて、間の抜けた声を出した。
しばらくぽかんと口を開け瞬きした後、不思議そうに辺りを見渡す。
(*゚∀゚)「……???」
( ・∀・)「やぁ。おはようつーちゃん」
(*゚∀゚)「!あひゃっ、モララ先生?」
斜め向かいに置かれた椅子の隣に立つモララーが、そんな彼女を見下ろして声をかける。
右手に持つボイスレコーダーは、見えないようにそっと胸ポケットにしまった。
-
今日、つーがモララーの顔を見るのはこれで二度目だった。
この日のマインドBクラスでの授業は5,6時間目で、いつも通りクラスでの2時間を過ごし
それが終われば先生や皆とお別れして、人格交代をし、そこから後は記憶が無い。
が、時間の感覚が非常に曖昧なつーにもはっきりと分かるのは
眠ってから今目覚めるまでの間、経過したと思われる時間は普段よりもうんと短く
午後の授業が終わってから、大した時間は経っていない筈だという事だった。
(*゚∀゚)「なんで、モララー先生がいるんだ?ブーン先生は??
それに、今日はもう授業終わったんじゃないのか?」
( ・∀・)「今日はね、授業じゃないんだよ」
(*゚∀゚)「あひゃ?」
-
つーは困惑した。
モララーは初めての授業の時から優しく、話し相手にもなってくれるし
勉強の苦手なつーがその問題を理解できるまで、時間がかかっても根気よく付き合ってくれる。
打ち解けさえすれば割と誰にでも懐く傾向のあるつーは、そんなモララー先生のことが好きだ。
だが自分と、目の前のモララー以外誰もいない、どこにあるのかも知らない教室。
いつもと違う、初めて直面する今の状況はわからない事だらけで不安を掻き立てる。
つーは、そわそわと落ち着かない様子でモララーの顔と周囲の景色に視線を泳がせた。
( ・∀・)「驚かせてごめんね。でも大丈夫、心配はいらないよ」
(;゚∀゚)「ブーン先生は?兄者は?デレは?……みんな、なんでいないんだ?」
( ・∀・)「ここにいるのは僕1人だよ。
君と2人だけで、話したいことがあるんだ」
(;゚∀゚)「……?」
( ・∀・)「すぐに済むから、聞いてくれるかな?」
(*゚∀゚)、「う……うん」
-
モララーは、今まで微妙に斜めに置かれていた椅子の角度を、机の正面に来るよう調節して
丁寧な動作でゆっくりと腰かけた。机向いに座るつーの目を覗きこみ、話を続ける。
( ・∀・)「君に教えてあげたいことがあるんだ」
(*゚∀゚)「?」
( ・∀・)「君のもう1人の人格。しぃちゃんの話だよ」
(*゚∀゚)「……しぃの話?」
つーは、しぃのことを知らない。
顔も知らないし、声を聞いたこともなければ、どこにいるのかもわからない。
時々は、しぃのことについてブーンから話を聞くこともあるにはあったが
彼女にまつわるどんな話を聞いても、つーにとってそれは所詮見も知らぬ他人の話でしか無く。
(*゚∀゚)「……」
その名前が出たからには、今回もまた今までと同じように
さして興味も抱かない、どこかの誰かのつまらない話を聞かされるのだろうと思った。
-
( ・∀・)「つーちゃんはしぃちゃんのこと、知らないんだったよね」
(*゚∀゚)「うん。知らねーんだ。会ったこともないし」
( ・∀・)「僕は今日、しぃちゃんと話をしたんだよ」
(*゚∀゚)「そーなんだ……」
( ・∀・)「何の話をしたと思う?」
(*゚∀゚)「?わかんない」
( ・∀・)「じゃあ教えてあげるね」
モララーは、いつも教室で勉強を教える時と同じような、優しい語り口調だった。
つーは、ブーンはどこにいるのだろう、隣の教室で待っているのだろうかと考えていた。
-
( ・∀・)「しぃちゃんはね」
( ・∀・)「君のことを消そうとしている」
(;゚∀゚)「へ?」
つーは虚をつかれモララーの顔を見た。
( ・∀・)「先週の金曜日に、デレちゃんが言っていた話を覚えてる?」
(;゚∀゚)「?デレが?……なんのこと?」
(;゚∀゚)「あっ」
( ・∀・)「マインドBを消す方法があるって話をしたこと、覚えてるかい?」
(;゚∀゚)「……」
先週。金曜日。
つーは前述の通り時間間隔が非常に曖昧で、曜日の概念にもまだ危ういところがあった。
それが先週のこととなると、さらに日付を特定し記憶を浮上させるのには時間がかかる。
だがデレが泣きだし、ブーンの話にショックを受けたあの日のことはすぐ思い出すことができた。
-
( ・∀・)「しぃちゃんはね」
モララーは続ける。
( ・∀・)「君にいなくなってほしいと、そう思っているんだ」
(;゚∀゚)「……??」
そんなことを言われても、つーはどう反応すればいいのか分からなかった。
あまりに突然の宣告であり、その言葉の意味の持つ冷やかさとは対照的に
モララーの声のトーンは変わらず柔らかで、他愛無い世間話を持ち掛けるかのようだ。
(;゚∀゚)「………」
ぐるぐると思考が回り出す。
しぃが、自分を消したがっている。
いなくなればいいと思っている。
デレの泣き出したあの金曜日に、ブーン先生が言った。
マインドBを消す治療法のこと。でもそれは昔のことで、今はしないって。
-
( ・∀・)「君はどう思う?」
(;゚∀゚)「へ?なにが?」
( ・∀・)「しぃちゃんに、消されてもいいと思うかい?」
(;゚∀゚)「え?やだ!」
( ・∀・)「だよね」
それはそうだろう。誰だってそう答える筈だ。
消されるのなんて嫌だと、痛切に訴えたデレの泣き声が記憶の中に響いた。
( ・∀・)「消されたくなんかないよね」
(;゚∀゚)「う、うん。……そんなのやだよ!」
( ・∀・)「じゃあ、どうする?」
(;゚∀゚)「??」
-
( ・∀・)「君はどうする?
しぃちゃんに消されないために。どうしたらいいと思う?」
(;゚∀゚)「、え……?」
つーにはわけがわからなかった。
モララーの言う言葉の意味も、モララーが何故こんなことを聞いてくるのかも
ここは何処で、ブーンは何処にいて、ブーンはこのことを知っているのか??
不安と緊張から、昔の癖が出てきていた。チラチラと、教室の入り口に視線が泳ぐ。
戸はぴったり閉められているが、鍵はかかっていないようだ。おそらく。多分。
だがそれでも、閉じ込められているような気がして落ち着かない。
(;゚∀゚)「どうするって……。そんなの……」
つーの顔が歪んだ。
(;゚∀゚)「わ、わかんないよ。
あたし……ほんとに、しぃのことは知らないもん。
だから、そいつがどう思ってたって、どうしたらいいかなんてわかんない」
( ・∀・)「なるほどね」
絞り出すように、目まぐるしく忙しなく回転する脳内に若干の頭痛を覚えながらも
なんとか思考をまとめ言葉を紡ぐつーに対し、モララーは、飲みこみの悪い生徒に
ゆっくりと問題を諭す教師のように、寛大な笑みを浮かべ微かに頷く仕草を見せた。
-
( ・∀・)「つーちゃんは、ブーン先生のクラスが好きだよね?」
唐突に切り出された質問に戸惑いながらも、よく分からないままつーは大きく頷いた。
( ・∀・)「ブーン先生のことも、ロマネスク先生のことも、クラスのみんなのことも好きだよね」
(;゚∀゚)「うん」
( ・∀・)「―――彼女は君から、その全てを奪おうとしているんだよ」
(;゚∀゚)「!!」
その時初めて、つーの顔が恐怖で引き攣った。
-
(;゚∀゚)「……」
(;゚∀゚)「……なんで」
数秒の沈黙の後に、彼女の口から自ずと零れ落ちた疑問の声は
外の廊下を歩く生徒達の声に掻き消され、ほとんど聞き取れないほどだった。
( ・∀・)「しぃちゃんに聞いてみるかい?」
(;゚∀゚)「え?」
( ・∀・)「君に、しぃちゃんの声を聞かせてあげようか?」
(;゚∀゚)「な、なに?……どういうこと??」
( ・∀・)「“共在意識”という言葉を、ブーン先生から教えてもらったことはあるかな?」
(;゚∀゚)「……?えっと」
( ・∀・)「わかりやすく言えば、人格間で互いに共有できる意識のことだよ。
例えばそう、兄者君みたいに」
( ・∀・)「兄者君が、弟者君と心の中で会話できたり
弟者君を通して、意識の奥から外の世界を見たり聞いたりできるのを知ってるかな」
-
つーは考える。
そういえば、教室で―――ごく稀にだが
まるで誰かと会話しているかのように、兄者が1人で喋っているのを見ることがあった。
大抵は退屈した時や、どうしても勉強をやりたくない時などに小声でブツブツ言っているだけで
ブーンにそれとなく注意されるとやめるし、授業中はそういう事はほとんどしない。
そんな、気にもならない程度のことなのだが。
この学校に来て最初の頃、不思議に思ってそれを見ていると
ブーンがやって来てどういうことなのか教えてくれた。
兄者は弟者と、デレはツンと、そして、ブーンはロマネスクと。
心の中で相手と話したり、外に出ていない時でも外の様子を知ることができるのだそうだ。
そう教えてもらっても、正直その時ブーンの話は見事に頭を素通りしていって
そして今日に至るまで、本当の意味ではなにもわかっていないのだった。
-
そう、つーにはわからない。
前に何度か、その練習をしてみようということになって
ブーンから、しぃの姿を探してみろと言われたが
つーにはそれがどういうことだか、どうしても理解できなかったのだ。
つーはブーンの期待に応えようと、一生懸命言われたとおりやってみた。
ブーンに励まされながら、何日も何日も練習を繰り返した。
だが何度試みても手応えはなく、結果としてそれは一度も上手くはいかなかったのだ。
がっかりして落胆する自分に対し
今はできなくとも、焦らずゆっくりできるようになればいいとブーンは言い
そうしてとりあえず今は、その問題は端に置いておくことになったのだった。
-
きっとモララーはそのことを知らないのだろう。
つーの目に、相手を失望させてしまうことへの恐れが滲み出た。
( ・∀・)「しぃちゃんの声を聞いてみたいと思わない?」
(;゚∀゚)「……でも。あたし、できない」
つーは俯いた。
悲しい気持ちが込み上げてきて、慣れない状況に疲れてもいた。
いつもなら意識の奥底で眠っている時間だ。
本当はそうしたかったが、意識ははっきりと覚醒しピリピリと緊張していて
どれだけズ太い神経の持ち主だったとしても、とてもこのまま自然に眠れそうにはない。
( ・∀・)「大丈夫。僕ができるようにしてあげる」
(;゚∀゚)「へ?」
どうやって?そう問いかけるつーの視線に、モララーはにっこりと微笑み返した。
-
( ・∀・)「彼女の声を聞けば、分かる筈だよ」
( ・∀・)「自分が消されないために、どうすればいいのか分かる筈だ」
(;゚∀゚)「……」
その言葉にどんな意味が含まれているのか、つーには分からなかった。
( ・∀・)「一時的に、君にしぃちゃんの声が聞こえるようにしてあげるね」
(;゚∀゚)「え……え?
……そんなこと、できんの?」
ブーン先生にも、できないのに?
( ・∀・)「僕ならできるよ」
(;゚∀゚)「……」
短くそれだけ言って、モララーはつーの目を覗きこんだ。
つーは少し身じろぎしたが、何故かそこから目を逸らすことはできなかった。
( ・∀・)「今からやってみようね」
-
( ・∀・)「いいかい?僕の目を見てね。今から僕が言うことをよく聞いてね」
(;゚∀゚)「う……うん」
そう促され、わけがわからないままに頷く。
( ・∀・)「いいかい」
( ・∀・)「今から君は眠るけど、でも意識だけは保っていて
心の中で、彼女の言葉を聞くことができるんだよ」
( ・∀・)「それに、君が起きたいと思ったら、その時は
誰かに名前を呼ばれなくても自然に目を覚ますことができるんだよ」
(;゚∀゚)「……」
モララーの声は不思議と胸に心地よく響いた。
-
( ・∀・)「君は眠るんだよ。いつもやってるみたいに。できるよね?」
(*゚∀゚)゙
眠るのは得意だ。いつもブーン先生とやってるもの。
( ・∀・)「でも、覚えておいてね。完全には眠らない。心の中では意識を保っているんだよ」
(*゚∀゚)
( ・∀・)「目を閉じて」
言われるとおり、つーは目を閉じた。
体から、ゆっくりと、自然に力が抜けていく。
(*-∀-)「……」
( ・∀・)「君ならできるよ」
-
見知らぬ教室。モララーの顔。どんどん遠ざかって消えていく。
暗闇の中、灯火のように揺らめく声だけが最後までそこに残っていた。
いつものまどろみとは違う、暗い穴へ すっと1人落ちていく感覚。
それを遠くから眺め見るように、傍観するように、でもやはり落ちているのは自分で
やがて何も見えなくなった。
.
-
(*-∀-)
(*- -)
( ・∀・)
( ・∀・)「おやすみつーちゃん。
次に君が目覚めた時、強い意志を持てるよう僕は願ってるよ」
-
(*゚ー゚)
( ・∀・)「羽生さん」
(*゚ー゚)「え」
(*゚ー゚)「あ……あれ」
(*゚ー゚)「モララー先生?」
( ・∀・)「うん。おはよう」
しぃは驚いた顔をして、咄嗟に周りを見た。見慣れない教室だ。ここは?
そしてすぐに、つい先程交わしていたモララーとの会話を思い出す。
(;゚ー゚)「あ……」
-
(;゚-゚)「……つーと話したんですか?」
( ・∀・)「ああ、話をしたよ。少しだけね」
(;゚-゚)「……そ、それで!」
(;゚-゚)「……どう、だったんですか……?」
その声は不安と緊張で震えていた。
( ・∀・)「そうだね。今日はまだ第一段階。
ほんの抽象的なことしか話さなかったんだ」
( ・∀・)「それでも一応、君に協力する意志はあるかどうか、確認してみたよ」
(;゚-゚)「……」
-
( ・∀・)「ただ。残念ながら……」
モララーは一呼吸置いて、僅かに首を振った。
( ・∀・)「あまり良い返事はもらえなかった」
( ・∀・)「今のところ、彼女にその気は無いようだね」
(;゚-゚)
その答えを聞いて、しぃが明らかに落胆した様子が分かった。
( ・∀・)「あまり話もできないうちに、意識の奥へ帰って行ってしまったんだ」
( ・∀・)「……このままだと、協力してもらうのは少し難しいかもしれない」
(; - )
(; - )「……そう、……ですか」
-
( ・∀・)「そんなに落ち込まないで。今日は第一段階だって言ったろ?」
( ・∀・)「初めからそんなに上手くいくことではないよ。
こういうことには時間をかけなくちゃ」
(; - )「……」
(; - )「……上手く、いきますか?」
( ・∀・)「いくとも。でもさっきも言ったとおり、まずは本人の強い意志が大事だからね。
それを覚えておいて」
ね、羽生さん。と彼は続ける。
( ・∀・)「つーに、いなくなって欲しいだろ?」
(; - )
しぃはこくんと頷いた。
それを見てモララーは微笑む。
( ・∀・)「焦らず、ゆっくりやっていこうよ。また僕の元を訪ねてくれればいい。
この学校で実習期間が終わるまでは、まだ時間があるんだから」
( ・∀・)「……だから今日は、もうお帰り。ね」
モララーに優しくそう諭されても、しぃは溢れ出る失望を隠すことができなかった。
-
( ・∀・)「じゃあね羽生さん。気をつけて。またクラスで会おう」
しぃは、とぼとぼとした足取りで1階の空き教室を後にした。
今日で全てが上手くいく とまでは流石にいかないまでも
少なくとも今の状況から、少しでも良い方向へ前進できると。
そんな淡い期待を抱いていた。
だがそれは、あまりにも楽観しすぎた考えだったようだ。
考えてみれば、そんなに上手い話がある筈が無いのだ。
一朝一夕で片付くような、そんな簡単な問題では無い。
そのことは、頭では充分分かっていたつもりだった。期待しすぎてはいけないと。
何度も何度も自分の気持ちに歯止めをかけていた。今までずっとそうしてきたように。
-
でも。
それでもと。しぃは考えてしまう。
ギコが教えてくれた話はあまりに理想的に聞こえて
ついつい無意識のうち、期待を膨らませすぎてしまっていたのだ。
不意に与えられた希望に縋ろうとする気持ちを、完全に抑えつけることなど無理な話だった。
今日で普通の子になれる筈だったんだ。
もう、特別クラスに通っているからと言ってクラスメイトから変な目で見られる必要も
それでも仲良くしてくれる、優しい渡辺に隠しごとをし続ける必要も無い。普通の。
もし何もかもが総て上手くいったならまず、何より親友である彼女に真っ先に知らせたかったし
日々一人娘の心配を抱え頭を悩ませている両親もきっと、その知らせを聞いて喜んでくれる筈だった。
のに。
待ち望んだその機会が、失敗に終わってしまった。
その事実を認めることはあまりに辛かった。
-
しぃが密かに膨らませていた期待は、今では完全にしぼんでしまっていて
日の沈みかけた廊下をふらふらと歩く、彼女の足取りをのろく重くさせた。
モララーの言った言葉が頭の中で繰り返される。
つーは自分に協力する気は無い。協力してもらうのは難しいと。
彼はさも残念そうな口ぶりでそう言ったが、そんなことは最初からわかっていた。
だって、あの”つー”だもの。
隔離室に入れられ壁や床にぶつかり、喚き暴れていた、あの凶暴な少女が
素直にモララーの言うことを聞き、自己を犠牲にしてまで協力してくれるとは思えない。
そう。そんなことはしぃからすれば、分かりきったことだったのだ。
きっと、これから先何度モララーが説得を試みたとしても、自分の望みは叶えられないだろう。
-
(*。。)「……」
きっともう、普通の子にはなれないんだ。
(*。。)「……そうだ、ナベちゃん」
咄嗟に携帯の画面を見て時間を確認すると、4時46分と表示されていた。
思ったより時間が経ってしまっていた。渡辺はまだ待ってくれているのだろうか?
重く、沈んだ気持ちを引き摺ったまま、階段をあがり1年A組の教室を目指す。
彼女の顔を見て楽しい時間を過ごせば、少しはこの気持ちも軽くなるだろうことを祈って。
-
つーは闇の中で目を覚ました。
目を開いている筈なのに、辺りは真っ暗で何も見えない。
自分は何処で何をしているのだったか。つーは懸命に思い出そうとした。
つい先程まで誰かと話していたことをぼんやりと思い出したが
顔をあげ周囲を見回しても、何処にもその相手の姿らしきものは見当たらなかった。
誰もいない。ひとりぼっちだ。
何も見えない。何も感じない。つーは途方に暮れた。
.
-
その時。
「!」
驚き、きょろきょろと辺りを見渡す。
―――誰かいる。
依然何も見えないが、確かにこの何も無い空間の中、自分以外の誰かの気配を感じたのだ。
その気配を手繰るように人の姿を探し続けていると、そのうち何処からか声が聞こえてきた。
声は非常に小さく、不明瞭な喋り方ではっきりしない。だが、確かに誰かが何かを喋っている。
つーは声のする方向へ耳を傾けた。
『〜〜〜、〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜』
―――まるで水の中で、誰にも聞かれないよう秘密の独り言を呟いているかのようだった。
音はくぐもりノイズのようなものも混じって、何を言っているのか全く聞き取れない。
つーは苛立った。もっとよく聞きたいのに。
-
――――君は彼女の言葉を聞くことができるんだよ。
「!」
途端、そのボソボソとした声のボリュームが僅かに大きくなる。
まだ小さいが、さっきよりはずっと聞き取りやすい。つーはその声に集中した。
集中すればするほど、どんどんその声は近くなる。
分厚い壁は取り払われ、邪魔なノイズもいつの間にか聞こえなくなっていた。
「……?」
-
そうして分かったのは―――どうやら声は
なにやらボソボソと文句のようなことを呟いているようなのだった。
もしくは不満や悲しみを嘆いているのか。その声の主が酷く落ち込み、沈んでいる様子が伺えた。
やはり、誰かに話しかけているわけではないようだ。
そしてもちろん自分に話しかけているのでもない。
一体何を喋っているのだろう。まだよく聞こえない。
何故かはわからないが、その声を聞かなければ。
言葉を聞かなければいけない気がした。
つーはもっとよく聞こえるよう耳を欹て、じっと神経を集中させた。
――――――………
.
-
『“つー”なんていなくなればいいのに』
「!?」
びくりと体を震わせる。
だしぬけに自分の名前が呼ばれたことにも驚いたし
なにより、その言葉の持つ ぞっとする程の冷やかさに身を強張らせた。
-
声が明瞭さを増すと共に、何も見えない暗闇の中
ぼんやりと、誰かの輪郭が浮かびあがってきた。
誰か――― 誰、だろうか。人であることは確かだ。
(* - )
顔はよく見えない。女の子、だと思う。学校の制服を着ている。
――――――ああそうか。あれが。
(あれが、“しぃ”なんだ)
つーは感覚的にそう理解した。
ブーンは、心の内に目を向けて、その姿を探してみるよう言った。きっと見つかる筈だからと。
これがそういうことだったのだ。これが、そういうことだったのか。
自分にもその姿を見つけることができた。つーは夢中になってもっとよく見ようと目を凝らした。
-
あれがしぃなんだ。
あれがしぃなんだ。
あれが“つー”のことが嫌いな“しぃ”なんだ。
改めて、その姿をまじまじと見つめる。
暗い顔をして俯くその女の子は、年は自分と同じくらいか。
……あれが しぃ?
つーが今まで想像していたイメージよりもずっと
なんとも弱弱しく、小柄で、ちっぽけな存在に思えた。
(* - )『“つー”なんていなくなればいい。“つー”なんて……』
―――彼女は君から、その全てを奪おうとしているんだよ……
(……どうして)
-
どうしていつも 与えられるのは彼女で 奪われるのは自分なのだろう。
つーの心は急激に色を失っていった。
まだボソボソと何か言っているしぃの姿を、視界に捉え続ける必要は最早無い。
視界は再び黒一色となり、辛うじて見えていたその輪郭も呆気なく塗り潰された。
だが、それはもはや静寂の黒では無く。
-
――――させない――――
怒り、が。
――――そんなことさせない!!――――
黒闇の中で 閃光を発した。
-
2階までもう2,3段というところで、1年A組の教室が見えてきた。
戸にはめられたガラス窓から、まだ教室に数人の生徒が残っている様子が伺える。
ようやく階段をあがりきり教室に近づくにつれ、丁度真ん中あたりの席
机に突っ伏し寝入っている状態の渡辺の姿を確認することができて、しぃは安堵した。
(*゚ー゚)(良かった、まだ残っててくれた)
1時間前教室を出た時と全く同じ体勢の渡辺に、思わず笑みが零れる。
こんな時間まで待たせてしまい申し訳ない気持ちと、その姿を見つけて嬉しいのとで
今まで重かった足取りが自然と軽くなるのを感じながら、しぃは教室の戸に手をかけた。
-
(*゚ー゚)
(;゚-゚)「!!?」
ぎょっとして、咄嗟に後ろを振り返る。
今、確かに、誰かの声を聞いた。それも、耳のすぐ傍で。
いる。
誰かがそこに立っていた。自分の背後、すぐ後ろに。
(*゚-゚)「ぇ」
しかし、驚きに目を見開いた彼女の瞳には―――
その”誰か”の姿はおろか、向いの1年B組の教室も
見慣れた廊下や壁、天井や床さえ、何ひとつ
何ひとつ映し出されることはなかった。
-
12話投下以上です。支援ありがとうございました
4月終わるまでちょっと忙しくなるのでまたしばらく更新できないです。なんとか5月中には……!
それとこの場をお借りして、申し上げたいお礼が一つ
ブンツンドーさんに1話から最新話までまとめていただいたようで、この前気づいてびっくりしました
イラストも一緒にまとめられていたのが個人的にとても嬉しいです。ありがとうございます!!
-
乙
気になるところで焦らすなあ
-
くうううう気になる
乙!
-
乙!
次も待ってる
-
乙!
-
おつ
うわあああつーを消そうとするかと思いきやまさかのしぃに消滅フラグが!
続きがこわいけど気になって仕方がない!
-
モララー何がしたいんだ…今後の展開が気になるとこ。
乙です!
-
乙乙
被害者が増えていくなあ
-
おつー
モララーの毒牙こわすぎんだろ・・・
-
おつ
-
乙です!
基本とBが入れ替わる時は隠れてる方が出てこようとして?が基本っぽいけども
出てきてる方が自分から引っ込んで、もう一方を引っ張り出すことも出来るのかな
-
>>1です。乙ありがとうございます、いつも励みになっております。
>>657
「引っ張り出す」というのを、Bが眠りAが目を覚ます、自然な人格交代では無く
寝ている状態の別人格を無理矢理起こし、自身は意図的に隠れる、という意味として考えると
兄者と弟者は可能っぽいですね。1話でそれらしいことをしています。
精神面の強さが五分五分くらいだとできるみたいです。特に彼らは年齢も同じなので入れ替わりやすいんだと思います。
本人の意志を無視してデレがツンを引っ張り出したりは、不可能では無いですが難しいです。
ショボンは、実はよくシャキンに対してそれをしているのですが、そのことについては今は伏せておきます。
復帰して一番書きたかったパートに突入です!
遅くなりました、13話投下します。
-
一昨年の春の話。
( ^ω^)「さて、じゃあまずは出席確認だお!準備はいいかお?出席番号1……」
始業のチャイムが鳴り終わり、教卓前にて出席簿を開くブーン。
黒板を前に横一列、等間隔に並べられた机は3席しか無い。
一番窓際の席には、3年生の男子生徒が座っている。
おっとりした性格の彼は、このクラスにいる時は面倒見の良いお姉さんだ。
その隣には、2年生の上履きを履いたジャージ姿の八又シャキン。
そして、4月にVIP高に入学してきたばかりの1年生の流石弟者。
みんなそれぞれ席に着き、名前を呼ばれるのを待っている。
窓からは丁度、薄桃色の咲き誇る桜木がそこかしこに覗いて
教室にいる彼らに自然と、これから始まる新しい学期の幸先を感じさせた。
-
この場に姿の見えない津田ツン、彼女もこの年VIP高へと入学した新一年生なのだが
入学して半年程は、デレの為にもっと小さい子向けの就学プログラムに通っていた。
なのでブーンとは顔見知りであったものの、まだ正式にクラスの一員となってはいない。
ショボンの対人恐怖症は、ブーンとの1年間の取り組みにより
この頃にはやっと、家族と再びぽつぽつ会話をこなせるようになったレベルの話で
それが学校という環境下となると、道のりは遠くまだまだ絶望的であった。
そんな訳でシャキンは、ショボンが二年生に進学したことでますます気を引き締め
眉毛もきりっときめて、1年生の時と同じその席に、背筋を伸ばし姿勢正しく座っている。
つまるところ、いつも通りの頼れるシャキンだった。
-
そして兄者は。
( ^ω^)「出席番号1、流石兄者!」
(*´_ゝ`)ノ「はい!はい!はい!はーい!!」
(;^ω^)「”はい”は一回で充分!!」
そう、兄者だ。
彼は、たった3人しか生徒のいないこの小さなクラスのことで春から舞いあがっていた。
なんせ彼にとって初めての、”まともな”学校生活がこの春ついに幕を切ったのである。
中学3年間は、学校側が特別に雇ってくれた講師からマンツーマンの補習授業を受け
勉強面での遅れを取り戻し、それとは別にマインドBの為のクリニックにも週2で通っていた。
しかしどうしても、中学校の普通クラスでは
”兄者”としての振る舞いを禁じられ、存在をないがしろにされて
弟者のオマケのような扱いを受けることが、いつも不満でたまらなかったのだ。
なんせ、弟者が変人扱いされない為だとは言え
クラスで自分の友達を作ることさえ許されなかったのだから。
マインドBに特別配慮があることで有名なVIP高への入学は
一般校で3年間我慢した兄者にとって、言ってみればご褒美のようなものだった。
-
一旦入学が決まってしまえば、特殊学級であることなど彼は気にしなかった。
たまたま空いているからという理由でなく、その為だけに存在する自分達の教室と
弟者と共有する必要の無い机と椅子、同志のようなクラスメイト達。
それらの細々とした事柄に、人生を楽しむ才のある兄者は
次から次へ逐一特別な喜びを見出しては、傍から見れば馬鹿みたいに嬉しがって
まるで、初めて地球へ観光しに来た宇宙人のような、彼の喜びの爆発を見守りながら
ブーンは苦笑し、ロマネスクは呆気に取られ、シャキンは肩をすくめてみせた。
そうして、兄者はすぐにこのクラスのことを「俺達のクラス」と呼ぶようになった。
まずは弟者に、それから家族に。
そして、入学してすぐ仲良くなったジュルジュやなおるよ達にも
俺達のクラスが、俺達のクラスはと、得意気になって自分達の教室のことを話して回り。
中でも、否応なしに四六時中話の聞き手に選ばれてしまう弟者は
こと兄者相手だと特に発揮される持ち前の忍耐強さを示して
大抵の場合は寛容な心持ちで、その話に長い時間耳を傾けてやっていた。
……が、それが2週間も超すと流石の彼もとうとううんざりしてしまって
意味も無いのに耳栓を持ち歩き、顔を会わせる度ブーンにブツブツ文句を零す程だった。
-
ブーンに連れられて、つーがこの教室へとやってきたのは
そんな、騒がしい最初の何週間かが季節の移ろいと共にゆっくりと過ぎゆき
落ち着いた親密さの元に、クラスがまとまりだした頃だった。
羽生しぃはここから3駅向こうの中学校で3年生のクラスに在席しており
つーがVIP高に入学し正式に特別クラスの生徒となるのは、まだ一年先の話だ。
だが、彼女が円滑な学園生活を送れるよう、丸一年かけてやっておかなければならない
下準備とも言える細々した計画を、ブーンはあらかじめ つーの為に用意しておいたのだ。
いずれ通うことになるこの教室の空気に慣れさせること。
それもその下準備の重要な一つだった。
前学期までに特別のカリキュラムが組まれ
つーは週3回、特別クラスにのみ通うことが決まった。
ブーンに付き添われて初めて教室へとやってきたつーは、まるで
大人に叱られて、不貞腐れながら嫌々罰を受けにきた子供のようだった。
-
彼女の場合は、初めての自分のクラスとはいっても
兄者のように喜びに満ちたものにはならなかった。
まず、つーは閉じ込められることが大嫌いだった。
例えそれが錠のかかっていない部屋でも、鍵穴を見るだけで疑心を膨らませ
自分がここから出て行くことを制限されていると一度思い込むと
彼女はどうしても我慢がならないようなのだった。
どんなにブーンがその閉塞感から気をそらせようと頑張っても、途端に集中力を無くし
扉の方ばかり気にするようになって、何であれ他のことをさせることができなくなってしまう。
この恐怖症とも呼べるこだわりが、今まで連れられた専門施設やクリニックにおいて
立派な資格を持った心理学者やセラピスト達からの働きかけを頑なに跳ね退け
事態を極端に難しくしていた一番の原因だった。
ドア一つバタンと閉めるだけでたちまちそこはつーにとって安全な場所では無くなり
そんな危険な場所にいる人間達のことを、彼女は決して信用しようとはしないのだった。
-
とはいえ、常に出入口を完全に開け放しておく、ということは難しい条件だった。
悲しいかな つーには、人を怪我させ物を壊した前科があり
その彼女が逃げ出してまた事を起こす可能性を、現時点で誰も否定することができないし
そうなった時一体誰が責任を取るのか、治療する側としては心配しないわけにはいかない。
そんなわけで、最低限手動でロックできる施錠設備の整ったドアのある部屋でしか
彼女とのセラピーの場は実現できなかったのである。
もちろんこれでは全く上手くいかなかった。
錠の締まる カチリという音一つで
つーにしか見えない、招かれざる恐怖が部屋に忍び寄りそのまま居座って
その日のスケジュールが滅茶苦茶に破綻してしまうことも、珍しいことでは無かった。
-
そしてもちろん、つーは勉強も大嫌いだった。
マインドBの為の専門治療施設やクリニックとは違い、ここは学校でブーンは教師だ。
みんなと一緒に教室で1年を過ごすには、何かしら勉強し学ばなければならない。
ブーンが毎日、つーにもできる簡単な問題を用意してどんなに励ましても
彼女はそれに取り組むことを頑なに拒否した。プリントを見ようともしなかった。
ブーンにとってもつーにとっても、辛い何日間かが続いた。
つーはこの部屋にいることを拒み、勉強することを拒み、指示されることを嫌い
さらに、教室のみんなと仲良くしようと努力する気も、さらさら無いようだった。
まず彼女が攻撃の対象に選んだのは、年上で体格も良い、3年生の男子生徒。
女性のマインドBを持つ彼が、見た目は男なのに女の子のような振る舞いをするのを見て
つーは露骨に「頭がおかしい」と口に出した。ここは頭のおかしい連中のクラスだと。
それでもその女の子が自分に優しく世話を焼こうとするのを鬱陶しがり、親切を跳ね退けて
終いには酷い意地悪を言って泣かせ、兄者を本気で怒らせることもあった。
-
(#´_ゝ`)「謝れよ馬鹿つー!!」
(#゚∀゚)「なんだよ!あたしの邪魔するのが悪いんだ!
泣き虫なのが悪いんだ!お前らみんな大っ嫌い!」
(#゚∀゚)「こんな教室大っ嫌いだ!!」
―――兄者とつーの組み合わせはまさに最悪だった。
ことあるごとに小さな衝突が絶えず、顔を合わせればすぐ子供の喧嘩が始まる。
身長175cmの兄者に対し、20cmもの身長差あるつーは
それでも気性の荒い山猫のように果敢に食ってかかり、相手を怒らせることに長けていて
その挑発に対して、子供のような性格の兄者もすぐ癇癪を起こすので
ブーンかシャキンか、それでも収拾のつかない時はロマネスクが出てきて
2人を引き離し、教室の両端に置いた椅子にそれぞれ座らせるまで続くのだった。
-
兄者がよく自分の家族のことを口に出すのが、つーにはことさら気に喰わなかった。
教室でする普段の会話で、兄者はよく家族のことを喋りたがった。
ほんの5年程前まで、妹者以外、自分に家族はいないと思っていたのだ。
最初こそぎこちなく、”妹者の”家族として家の人達のことを見ていた彼だが
今ではすっかり家族の一員として流石家に馴染み、一線置くことも無くなって
自分を暖かく迎え入れてくれた皆のことが、兄者は大好きになっていた。
面倒見てくれる両親や姉、いつも一緒にいてくれる弟、そして、愛してやまない妹のこと。
―――そのどれも、つーには与えられないものばかり。
それ故、兄者本人にはその気が無くても
目の前で家族のことを口に出されると、まるで自慢されているように
どうしても、自分に対するあてつけのように つーには聞こえてしまうのだった。
-
ガンッ‼
(#´_ゝ`)「いってぇこいつ!」
(#゚∀゚)「ふん、悔しかったらやり返してみろ!できねーんだろ弱虫!」
(#´_ゝ`)「しねーよ!弱虫じゃないけど!」
(#゚∀゚)「なんでだよ!馬鹿兄者!」
(#´_ゝ`)「自分より小さい奴に手をあげるなって、母者に言われたからだ!!」
(#゚∀゚)「……!!」カチン
―――こうして、第二ラウンド突入となるのだった。
-
(;^ω^)「こら2人とも、やーめーるーお!兄者ほら、レモナが怖がってるお?」
|゚ノ ;Д;)「あーん!モナー君!モナー君!」
(#゚∀゚)「あぁもううるさいな!男の癖にぴーぴー泣くんじゃねぇ!」
(#´_ゝ`)「黙れ馬鹿つー!レモナさんは女の子だって言ってんだろ!」
(#゚∀゚)「どこがだよ!?どう見ても男じゃん!」
(`・ω・´)「レモナさん、落ち着こう。ほら、大丈夫だから」
(#´_ゝ`)「いたっ!ちょ、また蹴ったこいつ!先生なんとかしてよ!」
(;^ω^)「ああもう、2人ともいい加減n……(#ФωФ)「やめんかこらあああぁ!!!」
(;´∀`)「もなもな。何事モナ……」←レモナの主人格
教室は大混乱だった。
-
( ^ω^)「つー。この教室では、誰かを傷つけるようなことはしちゃいけないんだお。
レモナに酷いこと言うのも、兄者を蹴ったりするのもいけないことだお」
教室隅に置かれた反省用の椅子に座らされ、不貞腐れながらブーンを睨むつー。
(#゚∀゚)「……」
( ^ω^)「2人にちゃんと、謝らなきゃ駄目だお。
そしたら今日は、残りの時間自由にしていいから」
(#゚∀゚)「……知らないっ!」
(;^ω^)「あっこら、つー!!」
癇癪が手に負えなくなると、逃げ出すことさえしばしばあった。
そうした場合、シャキンに後を任せ、急いでブーンが連れ戻しに走り
大抵はそのまま、ブーンとつー不在のまま終業の鐘が鳴る。
つーはまだ外を恐れていたので校舎から出ようとしなかったのは救いだが
すばしこく小柄なつーを広い学校内で見つけ出し、慎重にそっと近づいて
さらに逃げ出さないよう宥めて連れ戻すというのは、なかなか簡単なことでは無かった。
-
それでも授業時間中、ブーンは戸に内鍵をかけることは決してしなかった。
閉じ込めるのが逆効果だということは分かっていたし、なにより
ただでさえ慣れない環境からくる不安に押し潰されそうになっているつーに
これ以上少しでも余計な恐怖を与えたくなかったのだ。
他の子に苛々をぶつけ誰も寄せつけないよう肩をいからせながら
つーが必死に小さな自分を守り、恐怖と戦っていることがブーンにはわかっていた。
なので、あまりに大騒ぎの日が続き校長に大目玉を食らうこともあったが
しばらく彼女に無理強いはせず、慣れるまで好きにさせておくことにしたのだった。
-
ある日、レモナが泣きながら教室に入ってきた。
聞けば、クラスの男子にからかわれて怖い思いをしたのだという。
みんなが声をかけ慰めたが、彼女はなかなか泣きやまなかった。
つーも明らかに気にしているようで、不安気な様子でピリピリと落ち着かず
そこでその日は通常の授業はやめ、話し合いから始めることになったのだ。
こういう日には、それぞれが抱える色々な気持ちや感情について
皆で話したり意見を言い合う、話し合いの時間を作ることに決めていた。
マインドBという特殊な症例を背負う子供達にとって、このミーティングは
自分の気持ちに向き合い、自分自身理解するのにとても効果的な方法だったからだ。
-
そしてブーンはこれを、つーに自分の気持ちを話させる良い機会だと思った。
心無い悪口を言われ、どんなに傷つき悲しい思いをしたか
しゃくりあげながらレモナが話すのを聞いている最中、ちらとつーの方を見ると
珍しく静かである彼女は何か考え込むように、真剣な顔をして押し黙っていた。
レモナが話し終わり、皆がまた彼女に慰めの言葉をかけた後
それまで大人しく席に座り話を聞いていたつーに、ブーンは話題を振ってみた。
( ^ω^)「つーは今まで、何か怖い思いをしたことはあるかお?」
ブーンとつーを除く3人の視線が彼女に集中した。
(*゚ぺ)「………」
(*゚ぺ)「………あるよ」
急に注目されたことに少し怯みながらも、つーは口を開いた。
-
その日の話し合いで初めて、つーは”あの日”、隔離室でどんなに怖かったかを口にした。
何がなんだかわけがわからず、誰も話を聞いてくれないし、閉じ込められて怖かったと。
この教室でやることに、つーがまともに参加しようとしたのはこれが初めてだった。
みんながじっと耳を傾け、自信無さげに語られるその話を聞いていた。
緊張をはらみ、時間をかけて紡がれるその言葉は
不思議と、聞く人の心に切に訴えかけるような力を持っていて
その場にいる全員が、つーの恐怖や痛みを傍でひしひしと感じることができた。
隣の席で話を聞いていた兄者は、つーが話し終えると
「俺もわけがわからなくて怖かった時があるから、わかるよ」と
ぽつりとその気持ちに同情を示した。
ブーンは、今まで兄者の口からそんな話を聞いたことが無かったので
多いに興味をそそられたのだが、その話についてはそれ以上触れられず
つーも詳しくは聞かなかったので、今掘り下げることはやめておいた。
-
なんか久々の更新だね
最近はどのスレも無駄上げばかりでまともな状態じゃなかったからなぁ
酷いのは何年も前のスレを上げたりしてるし
なんでこんな荒らすんだろうな
-
|゚ノ ^∀^)「誰も知ってる人がいないんだもの、怖かったに決まってるわよね」
(*。。)「うん」
(*。。)「それに、出してって何度も言ったのに、どうしても出してくれなかった」
(`・ω・´)「だから、教室にいなきゃいけないのが嫌いなのか?」
(*。。)「……わかんない。
別に、閉じ込められてるわけじゃないって、わかってはいるんだよ」
(*。。)「わかっては、いるんだけど……」
-
―――その日から、授業の最初に15分程時間をとって
気持ちの話し合いをすることが、このクラスでの日課となった。
つーもこれには毎回参加した。彼女は気持ちを言葉にするのが好きだった。
他の人が話すのに熱心に耳を傾けて、自分の思いを口に出すことに夢中になり
そうしている間は、いつも傍にある苛立ちや不安を忘れられるようだった。
その日課が良いきっかけとなったらしい。
少しずつ、つーは教室でクラスの皆と話をするようになった。
-
最初こそ口数少なく、ブーンが質問をするとなんとなく応える程度だったが
しばらくすると積極的に他人との会話に参加するようになり、自分からも話をするようになった。
次第に、兄者と喧嘩することも、レモナに意地悪を言うことも無くなって。
そして何より前進したと言えるのが、しぃとの人格交代のやり方を覚え
初めてブーンに協力する姿勢を見せはじめたことだ。
何度も練習を重ね、上手くできるようになるのに時間はかかったが
最初の頃の、危なっかしい爆弾のような印象とはうって変わって
一度そのルールを身につけてしまうと、彼女はなかなかに信頼できる相手であることが分かった。
つーはブーンとの約束を誠実に守り
名前を呼ばれれば意識の奥から目覚め、決められた時間になるとしぃと交代し、眠った。
”出席”と”退席”をスムーズに行えるようになるまでに、2ヶ月もかからなかった。
これにはクラス全員が喜んだ。
なにせ、人格交代をコントロールできるようになれば
来年からの、つーとしぃ両方の高校生活が確実に上手くいくようになる。
あんなに難しいと思われていた始めの一歩を、彼女は持ち前の一生懸命さで見事勝ち取ったのだ。
皆に褒められ照れながらも、つーは得意気に歯を見せて笑った。
-
クラスの皆が、つーがこの教室でゆっくりと花開いていく様子を見守った。
シャキンは暇な時に勉強を見てやったり、好きなスポーツのことを話したりして
レモナは女の子らしく、今までつーにとって全く縁の無かった
お洒落のことやファッションのことで楽しいお喋りを持ちかけ、ネイルの仕方等を教えてあげた。
最初の頃あんなに仲の悪かった兄者とは、何か2人だけで話しては楽しそうに笑っていた。
( ^ω^)「兄者と何話してたんだおー?」
(*^∀^)「先生には秘密なんだー!」
つーはよく笑うようになった。
いつの間にか閉所恐怖症的なこだわりも薄れ、扉が閉まっていても気にしなくなり
勉強は変わらず苦手だが、何事にも一生懸命取り組んで、ブーンや皆を喜ばせた。
そうしてつーも、『俺達のクラス』の仲間となったのだ。
-
+ + + + + + + + + + + +
教室の壁にかけられた時計の針が、午後4時30分過ぎを指していた。
とっくに一日分の授業を終えた教室内。
見ればまだ数人の女子生徒が残っていて、行儀悪く机の上に腰かけ
雑誌をめくり、ぺちゃくちゃと尽きぬおしゃべりに笑い声をあげている。
从- -从 スー スー
そんな喧しい雑談の場からぽつんと離れ
まるで机と一体化しているかのように、爆睡する渡辺の姿があった。
1時間程前からほぼ同じ体勢のまま、一向に起きる気配も無く眠り続ける渡辺に
最初のうちは女子達もくすくす笑い、時々ちら見しては話のネタにしていたのだが
今ではもうほとんど景色の一部と化していて、最早誰もがその存在を覚えていない程だった。
-
そんな渡辺が。
从- -从 スー…
从- -从 …ンガ
从- -从
从- -从
Σ从;- -从「えっ!しぃちゃんが!?」
起きた。
-
「?」
「あ、ナベ起きた。おはよー」
「どしたの?」
从;'ー'从「……あ」
口元に涎のあとをつけながら、きょろきょろと辺りを見回す渡辺。
从;'ー'从「あ、あれ、……しぃちゃんは??」
「あはは、ナベちゃん寝惚けてる」
「しぃちゃん?ああ、羽生さん?いないよ?」
「ナベ、羽生さん待ってたの?
私らずっといたけど、教室には帰ってきてないよ。ねぇ」
「ねー」
从;'ー'从「……!た、大変だぁ……!」
从;'ー'从「しぃちゃん、探さなきゃ!!」
-
そう言って勢いよく机から立ち上がったかと思うと、鞄も持たないまま
不思議そうに注目する女子達の前を通りすぎ、頼りない足取りでフラフラと教室を横切って
ゴチン☆
結果、扉から大幅に横へ逸れて柱に頭をぶつけた。
从;ー'从「あいたたたぁ〜……」
「「「大丈夫かなぁ……」」」
何がどうしたのか、いきなりの渡辺の行動に目を丸くしながら
おぼつかない足取りで教室を出て行く彼女の背を、級友達は心配そうに見送った。
-
_
( ;∀;)「だーっ!補習終わったあぁ!!」
('(;∀;∩「ジメジメした薄暗い地下牢からやっと解放された捕虜の気分だよー!!」
( う_ゝ`)「ふぁ〜、待ってんのだるかった。はよ本屋行こ2人とも」
_
(#゚∀゚)「くぅ〜!俺らが苦しんでる間に1人だけのうのうと……!
大体お前が居残りしなくて済んだのは弟者のおかげの癖にぃ!」
('(゚∀゚#∩「ついでに言うと図書室で本読んで時間潰してたのだって弟者の癖にぃ!」
(;´_ゝ`)「なんで責められてんの俺?理不尽!
俺だってちゃんと待ってたよ!?」
('(゚∀゚∩「兄者よ。自分達の頭の足りて無さが赤点の原因だと分かってはいても
1人補習免れた友人に、ただただ怒りと悲しみをぶつけるしか出来ない。
そんな時もあるんだぜ俺ら」
(;´_ゝ`)「ただの八つ当たりって認めた!
あっ、てか今の弟者の真似!?似てないし分かり難いよなっちゃん!!」
-
_
( ゚∀゚)「まぁとにかくだ。こうして解放されたからには、一刻も早くジャプソを買いに行くぞ!」
('(゚∀゚∩「そうだよ、早くしないと売れ切れちゃうよ!
特に今週号は例の最終回が……」
( ´_ゝ`)「ん?」
_
( ゚∀゚)「え?」
( ´_ゝ`)
(;´_ゝ`)「………あっ、悪ぃ!ジョルずになっちん。
俺ちょっと、寄るとこあるんだった。忘れてた」
_
(;゚∀゚) 「「えー!」」('(゚∀゚;∩
-
_
(;゚∀゚)「んもー、どこよー」
( ´_ゝ`)「業務スーパー。母者に買い物頼まれてたんだった」
('(゚∀゚;∩「ぅええ!?思いっきり反対方向だよ!」
( ´_ゝ`)「うん、ごめんな。俺買い物行くから、2人とも先帰ってて」
_
(;゚∀゚)「はぁ!?」
('(゚∀゚;∩「なんだよ兄者、今になってジャプソの割り勘代惜しくなったのかよ!?」
(;´_ゝ`)人「違う違うそんなんじゃないってー。ほんと、ごめん2人とも」
_
(;゚∀゚)「……ったく、しょうがねぇなー」
( ´_ゝ`)「急ぐから、じゃ、また明日な!ジャプソ頼んだぞー」
('(゚∀゚;∩「見せてもらう気満々かよ!図々しいよ!」
「来週号おごるからさー」そう言いながらブラブラと手を振って
兄者は校門前でジョルジュ達と別れ、帰り道とは反対方向へ歩いていく。
_
(;゚∀゚)「なんなんだよもー、兄者の奴……」
('(゚∀゚;∩「よー……」
-
見慣れたその後姿には、すぐに追いつくことができた。
( ´_ゝ`)「おい」
校門を出て右に曲がった、駅から反対方向の通り道。
少し歩いてすぐに、目的の人物を見つけることができた。
横断歩道を前に立ち竦む、小柄な背中に声をかける。
( ´_ゝ`)「お前、つーだろ?何やってんだよ」
(*゚-゚)「………」
数秒の間を置いて、ゆっくりこちらへ振り向く顔。
固く結んだその表情から、感情は読み取れない。
やはり人違いではなかったようだ。
2年前の初夏、初めて会ってから
教室で過ごした騒がしい日々に彼女が見せたような
決して周りの人間を寄せつけない、手負いの山猫にも似たオーラを纏った
限りなく危なっかしくて、怖れる程に傷つきやすい。昔の”つー”がそこにいた。
-
13話ここまで。ありがとうございました
次話は二週間後にはあげたいと思います。もし無理そうなら報告に来ます
-
乙だ
-
モナーとレモナいいね
おつおつ
-
乙
マインドBの人格達は苦労してきたんだなあ
-
来てたー!!
やっぱり最初から上手くいってたわけじゃないんだな…
続きが楽しみだ。
乙!!
-
おつ
モナーは卒業してなにやってんのかちょっと気になるのう
ゆっくり築いてきたものが壊されちゃったのかな・・・つー・・・
-
「兄者はいいなー」
授業合間の10分休み。
暇そうに鉛筆を弄びながら
不意に、独り言のように つーが呟いた。
なんとなくノートの端に落書きをしていた兄者は、手を止めて隣の席を見る。
なにが。兄者が聞くと
だって。つーが続ける。
「家に帰ったら母さんや父さんがいて、おかえりって言ってくれるんだろ?」
「……あたしには誰もいないんだ。だってあそこはしぃの家だもん」
「なんで、しぃには優しい母さんや父さんがいるのに、あたしにはいないんだろう」
「あたしの家族はどこにいるのかなぁ。
……何処にも、いないのかなぁ」
.
-
( ´_ゝ`)「お前、つーだろ?何やってんだよ」
(*゚-゚)「………」
心許無げにぼんやりと佇んだまま、つーは何も答えない。
その沈黙と表情からは、いつもの明るい快活さは身を潜めていて
普段の彼女を知る人が見たら、別人と見違えても無理は無いと思える程だった。
影さえ薄くなったように思えるその様子は、まるで
世界から1人隔離されて、自身を食いつくそうとする孤独にじっと耐えているようにも
胸を掻き毟られるような激しい怒りと、何者にも対する冷やかな拒絶を呈しているようにも
はたまたそこに何かを見出そうとする意味など、何も無いかのようにも感じられた。
一つ溜め息をつくと、呆れたような顔をして兄者はつーに近づいた。
-
(;´_ゝ`)「ほんと何やってんだよ。上履きのまま外出て……。
学校出る時は、靴履きかえるんだぞ。知らなかったのか?」
つーは訝しげに兄者を見た。
急に呼び止められたことと、予想外だった兄者の登場に若干目を丸くしながら
しばらくの間、彼女はただ推し量るようにじっと兄者を見ていた。
まるで、街を歩いていて突然見知らぬ他人から親しげに声をかけられたとでもいう風に。
(*゚-゚)「……」
兄者と目を合わせたまま、慎重につーは口を開いた。
(*゚-゚)「……靴、どこかわかんないもん」
( ´_ゝ`)「じゃあ、誰かに聞けば良かっただろ。靴箱の場所」
(*゚-゚)「あたしの靴なんか無いよ」
(*゚-゚)「知ってる癖に」
-
( ´_ゝ`)「……鞄は?どうしたんだよ」
つーはチラと視線を外して、自分の手元を見た。だがそこに鞄は無い。
(*゚-゚)「……わかんない」
( ´_ゝ`)「なんだ、教室に忘れたのか?しょうがないな」
( ´_ゝ`)「じゃあ、一緒に取りに行ってやるから。
ほら、戻るぞ学校」
(*゚-゚)「やだ」
(;´_ゝ`)「なんでだよ。お金も定期も無いのに帰れないだろ」
(*゚-゚)「あたし、帰らない」
(*゚-゚)「しぃの家になんか、帰らないから」
( ´_ゝ`)「……なら、どこに行くつもりなんだ?」
沈黙。
-
( ´_ゝ`)「どこに行くつもりだったんだよ。もう暗くなるってのに」
(*゚-゚)「……」
(*゚-゚)「……あたし……、あたしの家族を、探しに行く。
あたしの母さんと父さんを、見つけるんだ」
(*゚-゚)「言ったよな?いつか家族を、探しに行くって。それがあたしの夢なんだって」
( ´_ゝ`)「今からか?馬鹿だな、電車の乗り方も知らない癖に」
( ´_ゝ`)「迷子になって、心細くなって、絶対後悔するぞ。それでもいいのか?
事故に遭うかもしれないし、先生や家の人にも迷惑かけるぞ。
そんなの俺が許さないから」
つーが兄者を睨む。
その瞳には怒りよりも、言い様の無い悲しみの色が滲み出ていた。
さらにこちらへ歩み寄ろうと近づく兄者から、警戒するように一歩後退る。
-
( ´_ゝ`)「学校戻ろう、つー。
鞄見つけて、靴履き変えたら、しぃちゃんの家まで送ってってやるから」
(*゚-゚)「あたしが約束破ったこと、しぃの家族に言う気だろ」
咎めるように、つーは暗い目で兄者を見た。
(*゚-゚)「名前呼ばれるまで寝てなきゃいけないのに、“つー”のまま、外へ出たって」
(;´_ゝ`)「言わないよ。なんで今日に限ってそんな疑心暗鬼になってるんだよ。変だぞお前」
(*゚-゚)「あたし、家には帰らない。もう、しぃにもならないから」
( ´_ゝ`)「それは駄目だ。俺が送ってく。
もう遅いし、しぃちゃんのお家の人心配するだろ」
-
(*゚-゚)「………」
(*゚-゚)「しぃが、いなくなったら。しぃの家族が心配する。
でも、あたしは?あたしの心配をしてくれる家族は、どこにいんの?」
( ´_ゝ`)「……」
(*゚-゚)「兄者にはわかんねーよ。
心配してくれる家族がいて。自分のことを認めてくれる誰かがいつも傍にいて。
あたしには……”つー”には何も無い。家も、家族も、自分の物も」
(*゚-゚)「あたしの靴なんて無い。あたしの鞄だって無い。
全部、全部しぃの物だ。あたしの為に与えられた物なんて、どこにも無い!」
声を荒らげそう叫ぶと、唐突につーは『羽生しぃ』と名前の書かれた上履きを乱暴に脱ぎだした。
いきなりの行動に驚いて、兄者は慌てて駆け寄り止めようとする。
-
(;´_ゝ`)「なにしてんだよ!」
(#゚-゚)「こんな物!捨ててやるんだ、みんな!」
(;´_ゝ`)「やめろ馬鹿、裸足だと足怪我するだろが!」
(#゚-゚)「なんで止めるんだよ、しぃが困るからか!?
上履き無いと、しぃが困るから!」
(#゚-゚)「しぃが怪我すると困るからだ!そうなんだろ!!」
(#´_ゝ`)「違うわ!落ち着け馬鹿つー!」
脱いだ靴を地面に叩きつけて、兄者に肩を強く掴まれると
つーはその傷ついた瞳に、苛々とした怒りを含んで頭上の相手を睨みつけた。
二人の視線がかち合う。
―――そうしてすぐに、どうにもならない鬱憤と絶望が、大粒の涙となって溢れ出した。
今まさにその手で触れている、痛みの鮮烈さに戸惑って
兄者は言葉を詰まらせた。
-
(;´_ゝ`)「……どうしたんだよ?つー。何があったんだ?」
(;´_ゝ`)「なにか……、誰かに何か言われたのか?」
(#;-;)「……もう、もうウンザリなんだよ!」
鋭くそう叫び、兄者の手を跳ね退ける。
(#;-;) 「もうウンザリだ!
“しぃ”なんて顔も知らねー奴の為に、あれやるなこれやるなって
赤の他人にとやかく言われて!制限されてよ!」
(#;-;)「ずっと眠ってるのなんか嫌に、決まってるのに!
あたしは、ずっとあたしのままでいたいのに!」
(#;-;)「先生だって結局は、しぃにばっか都合の良い約束守らせて
邪魔者のあたしに、言うこと聞かせたいだけなんだ!!」
涙と共に溢れ出る、抑圧され続けた感情を
つーにはどうしても止めることができなかった。
(#;-;)「……みんな……!
あたしのことなんて、どうでもいいんだぁ……!」
みんなに好かれる“いい子”でいようと
ずっと我慢し気持ちを隠し続けていたのは、しぃだけでは無い。
-
つーも同じく、いや、もしくはそれよりもずっと―――
明るい笑顔と性格の舞台裏、彼女自身気がつかない無意識の内ではずっと
その心の奥底では常に、“あの日”自由を奪われた冷たい隔離室と同じ
自身を閉じ込める堅牢な檻に対して、日々膨らんでいく疑念や不満、そして恐怖を
なんとか押さえ殺しコントロールしようという、懸命な努力が続けられていたのだった。
だが―――それも、もう限界だった。
(#;-;)「こんなのズルいよ!もう嫌だ!!」
つーが怒鳴る。興奮のあまり擦れたそれは、もうほとんど叫び声に近かった。
-
( ´_ゝ`)「……つー」
(#;-;)「兄者にはわかんない……」
(#;-;)「愛してくれる家族がいて。誰にも、嫌われてなんかいなくて。
いつだって好き勝手出来る、兄者にはわかんねーよ!!」
( ´_ゝ`)「………」
愛してくれる家族。
ああ、そうだったよな。兄者は思う。
つーはいつも、家族に憧れていた。
本当は誰より寂しがり屋で、小さな体に深い孤独を抱えていて。
いつだって一生懸命、誰かに愛してもらいたがっていた。
-
なんとなく隣の席同士、暇な時間、お互い他愛も無い話をすることも多くなって。
ある日こっそり打ち明けてくれたそれは
自分にはどうしてやることもできない願いだった。
家族を……父親や母親を、彼女に与えるなんていうことは。
“父親や母親”を、与えてやること は。
兄者はしばらく考えを巡らせ、天井を仰いだ後
隣の席に座っているつーに そっと耳打ちした。
「親は無理だけど、兄者にならなれるぞ」
「へ?」
「だって俺は”兄者”だからな」
きょとんとした顔をして、隣の席の彼を見返すつー。
-
「名前のことじゃないよ。兄貴って意味で」
つーはますます意味が分からない様子で、不思議そうにその顔を見つめている。
真っ直ぐな視線に晒されることとなり、若干怯んだ兄者はごにょごにょと付け足した。
「えーっと、だからな……」
理解するのに少し時間がかかるつーにも分かるよう、要領良い言葉を探す。
ペンを取り出し、机の上に広げたノートの端に
小さく 『兄者』『兄ちゃん』 と書いた。
「”兄者”って、兄ちゃんって意味なんだよ」
「?そうなのか?」
つーにも見えるよう差し出したノートの文字を、交互に指で示す。
「そう。漢字、一緒の入ってるだろ」
2つの文字をじっと睨みつけ、5秒程経ってから、つーはぱっと顔をあげた。
「あ、ほんとだ!おんなじ!」
「だろ?」
「これとこれ、おんなじだな!」
-
「うんうん。話を先に進めるぞ?
だからだ。そしたらみんな、俺のこと『兄ちゃん』って呼んでることになるだろ?」
「えっ!ブーン先生も?」
「そう。先生も。シャキ兄も。ロマ先生とかもみんな」
「えー!なんか変だな、それ」
「そう。変だろ?俺別に、先生やシャキ兄の兄ちゃんじゃないもんな。
だから、先生達が俺のこと呼ぶときは、『兄者』っていう名前として呼んでるんだよ
……わかる?」
「うーん?んー……。……あ!そか、わかった!
『にぃ』っていう名前の人がいて、ちゃんをつけたらにぃちゃんだけど、
それはにぃちゃんって名前を呼んでるだけで、兄貴って意味にはならないってことだな!」
「お、おおぅ……発想の転換だな。お前実は結構頭良いんじゃないか?」
「あひゃっ、まーな!」
-
「よし。まぁ、そういうことなんだけど
でも実は、この世で俺のことを『兄ちゃん』って意味で
『兄者』って呼んでも良い人がいます。さて、それは誰でしょう?」
「え?え?えと……」
「……あ、わかった!兄者の妹だ!」
「そう、正解!あと、弟者もな。この2人は俺のこと
兄ちゃんとか兄貴って意味で、『兄者』って呼んでるわけだ」
「そうなのか!」
「そうなの。『兄者』って呼ぶだけじゃ、知らない人が聞いても分からない。
俺の名前が流石兄者だって知ってる人が聞いたら、ただ名前を呼んだだけだと思うだろうな。
でも、本人同士だとちゃんと意味が分かってるんだ。それって、なんか良いだろ?」
「な……なんかかっこいいな!」
「だろ?」
-
「……でな。ここからが、俺が言いたかったことなんだけど」
「あひゃ?なに?」
「つーも俺のこと、『兄ちゃん』って意味で、『兄者』って呼んでもいいよ」
「……え」
「親は流石に無理だけど。
……お前の兄ちゃんになら、なってやっても良いよ」
「………」
「………」
「………」
「へ??」
-
ぽかん。
つーにまた、”何言ってんだこいつ”とばかり不思議そうな顔をされて
兄者は、さっきから自分で自分の名前を連呼したり、紙に書いて説明したり
小難しそうによく分からないことを言っている今の状況が、急激に恥ずかしくなってきた。
照れを誤魔化すように、わざとらしく咳払いをする。
そそっと、広げていたノートを若干縦に傾けて、今更なのだが
自分とつーが何を話しているか、周囲に極力バレないよう壁を作った。
まぁ、ブーン含め同じ教室内にいる他数名は既に
そんな2人の様子にはとっくに気がついていて
周囲の席から微笑ましげに見守っていたのだが。
-
「だ……だからな。えっと、まぁ、お前が嫌ならいんだけど……さ。あの、つまり」
「あひゃっ、ほんとか!?」
急に嬉しそうな声をあげるつーを前にして、兄者は目を丸くした。
てっきりまた、理解が追いつかず頭に疑問符を浮かべまくっているものと思ったが
どうやらあの説明で、兄者の言いたいことはちゃんと伝わっていたらしい。
ついでになんと、思わず席から立ち上がる程度には喜んでくれているらしい。
「じゃああたし、兄者のことこれから兄ちゃんって意味で呼ぶ!
あひゃひゃっ!兄ちゃんができたんだ!兄者が兄貴だ!わーい!」
「つー。つーちゃん。つーさん?
ちょま、ちょ、ちょ、ちょっと。シー。シー!」
そんな反応をされるとは思ってもみなかった兄者はというと
慌てて人指し指を唇にあて、今や教室中が興味津々で注目する中
はしゃぎだしたつーの袖を引き必死で机に繋ぎ留める。
-
「なんだ?兄者!」
「うん。はい。兄者で良いんだけど。
だけどほら、さっき言ったこと思い出してみ?」
「あひゃ?」
「本人同士しか分からない方がかっこいいって話だよ。な?
だから、つーが俺のこと『兄者』って呼んでも、知らない人が聞いたら
ただつーが俺の名前を呼んだんだなって、思うだけだろ?」
「だけど、つーは俺のこと『兄ちゃん』って意味で呼んだんだって、自分でわかってるし
俺も、つーがそういう意味で呼んだんだなってわかってる。
その方が良いだろ?秘密っぽくて。かっこいいだろ?な??」
兄者は最早必死すぎて自分が何を言っているのかもよく分からなくなってきていた。
本人は気がついていないが、既に恥ずかしさのあまり顔が真っ赤に染まっており
つーはそんな兄者の様子を、面白いなーと思いながら眺めていた。
-
「あひゃー」
「わかった?つまり?」
「あひゃ。これから兄者はつーちゃんのこと、つー者って呼ぶってこと?」
「他の人に言い触らしちゃ駄目ってこと!!」
「あひゃひゃ、わかった!秘密だもんな!」
つーも兄者の真似をして、人差し指を唇に当てる仕草をし にかっと笑った。
-
その後しばらく遊びのように、小声で時折、『兄者』と呼んではくすくす笑い
兄者がはいはいと返事するのが続いたが、やがてそれも満足したようで
鐘が鳴り授業が始まると、上機嫌で目の前のプリントに取り組み始めた。
家族のことを口にした時の暗い影は、いつの間にか消え去っていた。
「兄者と何話してたんだおー?」
「先生には秘密なんだー!」
“秘密”というワードを、まるで言葉を覚えたばかりの子供のように
嬉しそうに使う彼女は、本当に意味を分かっているのか。
真意がどうであれ、隣の席からその様子を眺める兄者は
この世で『兄』と呼ばれる相手が1人増えたことに、悪い気はしなかった。
-
兄者にしてみれば、その時なんとなく思いついた話をポンと口に出してみただけで
孤独な彼女を慰めてやろうとか、励まそうとか、そんな偉そうなことを考えたわけでは無い。
どうしてあんなことを言ったのか、今考えてもはっきりした理由は答えられないが
あの時は、寂しそうに俯くつーに、ただ笑ってほしかっただけなのかもしれない。
つーには笑っていてほしかった。悲しい顔はさせたくない。
今だってそうだ。
兄者は、目の前で傷つき疲れた、ぼろぼろのつーを見た。
彼女はいつでも頑張り屋なのに、その見返りがあまりに少なすぎる。
-
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「……好き勝手、なぁ……」
(#;-;)「……」
( ´_ゝ`)「……俺だって、妹者に会いたいの我慢してんだけどな」
寂しそうに笑みを浮かべながら兄者は言った。
( ´_ゝ`)「そりゃ、うん。たまには破るけどな?
でも、ブーン先生と約束したから、なるべく守るようにはしてるんだ」
( ´_ゝ`)「―――つーだってそうだろ?」
-
( ´_ゝ`)「ブーン先生やロマ先生が、お前としぃちゃんが
どうやったら上手くやってけるかって、真剣に考えて、一緒に頑張ろうって言ってくれて。
自分達の為に一生懸命になって、本当に大事に思ってくれてること知ってるから」
( ´_ゝ`)「だから約束、守ろうって思ったんだろ。違うか?」
(*;-;)「……」
( ´_ゝ`)「……俺が自分の好きなようにしてるっていうのは
実際その通りだから、別に良いけどさ」
( ´_ゝ`)「ブーン先生のことそんな風に言うのは、つーらしくないよ」
ゆっくり、兄者が歩み寄る。つーはもう遠ざかろうとはしなかった。
-
( ´_ゝ`)「それに俺は、お前のことどうでもいいなんて思ってない」
( ´_ゝ`)「……俺だけじゃないだろ。
先生も、デレちゃんも、シャキ兄も、レモナさんも。
みんな、お前のこと大事に思ってるよ」
( ´_ゝ`)「お前がこのままいなくなったりしたら、デレちゃんは泣くぞ」
( ´_ゝ`)「それから俺も。……妹がいなくなったのと、同じくらい心配するよ。
そして、絶対探しにいく。絶対に」
優しく、悲しげに兄者が言った。
( ´_ゝ`)「……だから、そんなこと言わないでくれよ。つー」
(*;-;)「……っ」
不意に新たな涙がこみあげてきて、つーの頬を滑り落ちた。
緊張の糸が切れ、体から力が抜ける。
見る見る間に、顔がくしゃくしゃに歪んで
つーは声をあげ、その場で泣きじゃくりはじめた。
-
つーは泣いていた。泣きに泣いた。
先程までの不信に満ちた警戒心は消えていて
後に残ったのは、どこまでも脆く痛ましい無防備さだけだった。
そんな彼女を前にして、兄者は少し躊躇った。
目の前で途方に暮れ、泣いている女の子相手にどう行動したら良いのか
今までの短く浅い人生経験を辿り頭を巡らせてみても、情けないことにかなり自信が無い。
自分じゃなくて、昔からやたらモテ気質のある弟者ならば
こんな時とるべき一番スマートでスタイリッシュな方法を
なにか知っているかもしれなかった。
それは最早昔からの癖のようなもので、窮地に立たされた時よくそうするように
一瞬、彼にバトンタッチして、困っている彼女をなんとか助けてやってほしいと願ったが
いや、今そうするのは男として、兄としてやってはいけないことのような気がする。
そう考え直して、ギリギリ意識を手放すのを踏みとどまった。
-
( ´_ゝ`)(そうだ)
兄者は決めた。とりあえず、もし妹者が泣いたならこうする。
位置的にも丁度良いし、よく妹にやるのと同じように
自分の胸下あたりに位置している、つーの頭を撫でようと手を伸ばした。
が。いや待て、小さい子相手でも無し、撫でるのは流石に変かな。
そう思い改めて、行き場を無くした右手を数秒 虚しくさまよわせた後
手を伸ばし、思いきってその小さな体をぎゅうと抱きしめた。
小さなつーの体は兄者の両腕にすっぽりと収まる。
そっと手を添えると、彼女は兄者の胸に頭を預け大きく泣き出した。
-
ここは学校近くの目立たぬ公道で、今の時間帯は人通りが少ない方だとは言え
帰宅途中の会社員や主婦、道行く誰かの視線が背中に突き刺さるのを
兄者はチクチクと感じていた。誰かがこちらを見ているのがわかっていた。
傍から見れば自分達は一体何をしていて
そして、どんな関係だと思われているのだろうか。
若干のきまり悪さを覚えたが、割とすぐに考えることをやめた。
何も気恥ずかしいことなんて無い。泣いてる妹を慰めてるだけ。それだけだ。
そう考えて、兄者はもうあれこれ気にしないことにした。
実際時間が経つと周りのことなどあまり気にならなくなっていた。
今気がかりなのはただかわいそうなつーのことだけ。
そして、世間知らずの彼女が1人でどこかへ行ってしまう前に、
危険な目に遭う前に姿を見つけ、こうして引き留められて良かったと
腕の中に確かに存在する安心を実感するのみだった。
-
自分の視線より下にある、髪の跳ねた頭をポンと軽く叩く。
わぁわぁと、絶叫にも近い泣き声が段々と小さくなって
そのうち、しゃくりあげるようなすすり泣きに変わった。
つーはひどく疲れた様子で、大人しく抱かれたまま兄者の胸に頭をもたせ掛けている。
兄者はただ背中をさすって、つーが次第に泣きやむのを黙って見ていた。
(*;-;)「兄者」
( ´_ゝ`)「うん?」
ここまでぴったり寄り添っている状況でも無ければ
恐らく聞き逃していただろう、か細く擦れた声でつーがぽそりと呟いた。
顔を見たくないのか、見られるのが嫌なのか
それとも文字通り疲れ果てていて、目を合わせる為に頭をもたげるのも億劫なのか
つーは俯いて兄者のシャツを握りしめたまま、言葉を続ける為に短く空気を吸った。
-
(*;-;)「つーちゃん、消されたくない」
( ´_ゝ`)「へ?」
つーの一人称が、『あたし』から
心に余裕がある時の、いつもの名前呼びに戻ったので
兄者は内心ほっとしつつも、間の抜けた声を発した。
(*;-;)「つーちゃん……ブーン先生や、ロマ先生や
兄者や、デレや、シャキ兄のことが、みんなのことが好きだ。
消されたくなんかないよ。ずっとあの教室で、みんなと一緒にいたい……!」
(;´_ゝ`)「消されるって?なんのことだ?」
(*;-;)「聞いたんだ、さっき」
声が震えた。
-
(*;-;)「しぃが言ってるの、聞いたんだ。『つーなんかいなくなればいい』って!
それで、 “つー”のこと、消すつもりだって……そう、言ってた」
( ´_ゝ`)「!」
言ってた。
―――誰が?そう言ってた、の だったろうか?
一瞬、つーの頭に疑問がよぎった。
が、未だ心深く刻まれた、冷ややかな しぃの声が
僅かに生じたその疑問を、波のように攫っていく。
そうだ、しぃが言っていた。
繰り返し。何度も何度も。泡のようにフツフツと。
消してやるって。自分はそれを聞いたのだ。
確かそう……だった。筈だ。
何か肝心なことが抜けているような気がしたが、それが何なのかはわからなかった。
-
( ´_ゝ`)「お前、しぃちゃんの声……聞こえるようになったのか?」
その言葉を聞いて驚くと同時、兄者は理解した。
なるほど。これで、つーがこんなにも急に取り乱してしまった理由がわかった。
先週デレが、ツンの読んでいた本の内容にショックを受けて泣き出したように
心の中で他の誰かの声を聞くことに慣れていないつーが
不安定なアンテナが遠い電波を拾い、途切れ途切れに言葉の端々を拾うように
思いがけず共在意識に目覚め、そんな言葉を聞いてしまったのだとしたら。
恐怖を感じ、こうして切迫した行動に出てしまったことにも納得ができる。
しぃが日頃つーを恐れているように、つーは今 しぃのことを
自分を殺そうとする幽霊のように怖がっているようだった。
そもそもまともに意志疎通のできない、頭の中で聞こえる声などホラーでしか無いだろう。
しかもその声が、自分の消滅を望むような不穏なことを呟いていたとしたらなおさら。
-
いなくなったらいい、か。
もしも自分が相方に言われたら、正直かなりこたえる言葉だ。
面と向かって言われたことは―――あるな。一度か二度は。
でもそれも、弟者がマインドBの診断を下されて間もない頃
お互い色んなことが上手く行かなくて、些細なことで喧嘩ばかりしていた頃の話だ。
もちろん今でも、彼が日常でフとした瞬間、絶対にそう思わないとは思わない。
ただ数年の付き合いを経て、自分も彼も、思考にガードをかけるのが大分上手くなった。
そもそも誰より近い存在であれ、他人の頭の中を無暗に暴くようなことはしない。
自分がされて厭なことは、人にやってはいけない。母者の教えであり世の理だ。
何を考え、どう思うかなんて人の自由。2人とも何も言わずとも理解していることだった。
しぃとつーには、その信頼関係や、頭と心を守る術が一つも身につけられていない。
今回こうして、つーが傷ついてしまったのも仕方の無いことだった。
-
どんなに酷い事でも、頭の中で思うだけでは罪にはならない。
言葉や文字にして外へ出さない限り、相手が超能力者や読心術の天才でも無ければの話
人の思考は人を傷つけない。誰も見たり聞いたり気にしたりはしない、その人だけの物だ。
だが、マインドBという特別な関係下においてはそうもいかない。
お互い意思疎通に不慣れな段階の人格間での、一番困った問題だ。
しぃが、相手を傷つけるような言葉をつい心の中で思ってしまい
それをつーが運悪く聞いてしまったからといって、誰も責めることなんかできない。
言うなれば今回のことは不幸な事故であり、誰も悪くなど無いのだ。
つーはそれを分かってくれるだろうか。
できるなら、いつもの朗らかさと、彼女の持つ純粋な優しさとで
明るく笑いながら、しぃのことも許してほしい。兄者はそう思った。
-
( ´_ゝ`)「消されたりなんかしないよ。馬鹿だな。
しぃちゃん、ついそんな風に思っちゃっただけだって」
(*;-;)「でも、消してやるって。
つーちゃんから、みんな奪うつもりだって言ってた!」
( ´_ゝ`)「ほんとか?……。
……もしそうだとしても、心からそんな風に、考えてはないと思うけどなぁ。
誰だってカッとなって、つい酷いこと言っちゃうことってあるだろ?」
( ´_ゝ`)「つーは、しぃちゃんのことよく知らないだろ?
しぃちゃんだって同じように、つーのことよく知らないから
だから、なんとなく怖いって思ってるだけなんだよ。
それでつい、そんな風に思っちゃったんだ」
( ´_ゝ`)「人って、自分がよく知らない物に対しては、怖いって感じちゃうものなんだよ」
突然感情がこみあげてきて、兄者はそっとつーの髪を撫でた。
泣かないでほしい。つーにはずっと、笑っていてほしいと思った。
-
( ´_ゝ`)「だからさ、つー。
せっかく、しぃちゃんの声が聞こえるようになったんだろ?」
( ´_ゝ`)「だったらこれから時間かけて、2人で沢山話して
ゆっくり、お互いのこと知っていったら良いんじゃないかなぁ。
つーのことちゃんと知ったら、しぃちゃんももう、そんなこと絶対に思わないから」
( ´_ゝ`)「しぃちゃん、そんな酷い子じゃないし。
お前だって、悪い子なんかじゃないもんな」
兄者は微笑んだ。
(*;-;)「………」
(*;-;)
(*つ-⊂)゙ グシグシ
何か考えるように黙り込み、しばらく静かになった後
唐突に、つーは乱暴に手で目元を擦りはじめた。
(;´_ゝ`)「あ、ちょっと待て。えっと」
慌てて、ブレザーのポケットを探る。無いか。
尻ポケット。無い。えーと
-
(鞄!前ポケットだ兄者!)
(;´_ゝ`)(センキューマイブラザー!!)
天の啓示のような救済の囁きを脳にキャッチして
鞄を開け、中からポケットティッシュを取り出す。
几帳面な相方に感謝しつつ、というか、聞いていたのか弟者よとつっこみをいれつつも
1、2枚引き抜いて差し出してやると、素直に受け取り一生懸命涙を拭いて
それから、彼女にしてはなかなか控えめな仕草で小さく鼻をかんだ。
(;´_ゝ`)(あ、ハンカチかな)
こういう時は。
そう思って一応ハンカチも取り出し渡そうとすると、遠慮しているのか首を振る。
なので、なんとなくまだ濡れている頬に、手を添えてそっと拭いてやった。
一通り涙と鼻水を拭き終えたつーの顔は、それはまぁ酷い有様だった。
その顔を見た途端なんだか気が抜けてしまって、思わず兄者が笑うと
それにつられたつーも表情を緩め、白い歯を見せて笑った。
-
( ´_ゝ`)「落ち着いた?」
しばらくして、兄者が尋ねた。
つーは小さく頷く。
きまり悪いのか、少し顔を赤くして俯いている。
( ´_ゝ`)「学校、戻るか?」
(*。。)「……ぅん」
( ´_ゝ`)「よし。どうする?ブーン先生、まだ残ってると思うけど。
先生んとこ行って、いつもみたいにしぃちゃんと交代してから帰るか?」
(*。。)「……」
( ´_ゝ`)「家に帰るまで起きてたいんなら、それでもいいよ。
だけど、家に着いたらちゃんと、しぃちゃんと交代しなきゃ駄目だ。できるか?」
(*。。)「……わかんない。
交代は、いつも先生に手伝ってもらってたもん」
(*。。)「つーちゃん、1人で上手くできるかわかんない。
……それに、しぃの家の人に会うの、怖い。会いたくない」
( ´_ゝ`)「……じゃあ、ブーン先生のとこ行かなきゃな」
-
(*。。)「怒られる」
( ´_ゝ`)「別に、なにか悪い事したわけじゃないだろ。怒ったりなんかしないって」
( ´_ゝ`)「それにあの時言っただろ」
( ´_ゝ`)「俺はお前の兄貴なんだから、お前がもし怒られたら全力で庇ってやるよ」
(*。。)「……」
(*゚∀゚)「……ん」
ずっと俯いていたつーが顔をあげた。
( ´_ゝ`)「よーし。じゃあ行くぞ」
(*゚∀゚)「……うんっ」
つーが笑った。
少し照れ臭そうに頬を赤らめ、鼻を啜ってはにかむ。
いつもの、特別教室での2時間が大好きな、やんちゃで元気なつーの顔だった。
-
その顔を確認し、兄者は一つ頷くと
道に転がったままだった上靴を二足拾い上げた。
(*゚∀゚)、「あ!わ、悪ぃ。靴……」
Σ(;゚∀゚)「あひゃっ!?」
―――そうしてついで、ひょいとつーの体を抱き上げる。
背と両足のひかがみに腕を回し、落ちないようしっかりと支えて。
完全に不意を突かれたつーは小さく収まって、そのまま運ばれる形となった。
-
(;゚∀゚)「ちょ、何すんだよ兄者っ!」
( ´_ゝ`)「上履きは外で履くもんじゃないからなー」
(;゚∀゚)「じゃ、このまま歩くって!降ろせよ!」
( ´_ゝ`)「駄目」
(;゚∀゚)「なんでだよ!?」
( ´_ゝ`)「言っただろ。道に何か落ちてたら危ないからなー」
(;゚∀゚)「はぁ!?そんなの……!」
(;。。)、「………!
あ……、そ、そうだな。
しぃの体に怪我させちまったら、悪いもんな……」
( ´_ゝ`)「阿呆」
( ´_ゝ`)「”つー”が怪我しないようにだろ」
つーが兄者の顔を見る。
すぐ傍で目と目が合って、兄者はニッと笑った。
( ´_ゝ`)「靴なんかどうだって良いけど、お前が、痛い思いしたら嫌だからだよ」
-
14話ここまで。登場人物の感情を上手く表現するのって難しいですね
あと兄者が姫抱っこまでするとは思わなかった。勝手にやってた
次回はなるだけ今月中にあげれるように頑張ります!
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乙!
-
乙乙
兄者がお兄ちゃんしてていいな…
-
乙
兄者ナイス
悪い方ばかりに転がらなくて何より
-
おつおつ
兄者いけめんかよお〜かっこいいじゃんよー
-
おつ!
-
兄者よくやった乙!
-
VIP総合でちょっと話題になってたから読んだけど面白いなこれ
次回も楽しみー
-
お前ら兄者もだけど弟者パイセンの相方へのフォローもイケメンだからな
-
兄者がイケメンすぎる
乙
-
モララーのことブーンに伝わるかな?
なんにせよ次回が楽しみ
-
兄者も弟者もイケメンなのに二人合わさることで変人になっとる
-
だがそれがいい
-
从'ー';从三「しぃちゃ〜ん!」
三从;'ー'从「どこ〜!?」
パタパタと、普段の彼女のおっとり具合からすれば充分早い方だと言える速度で
暮れつつある夕日に照らされた廊下を走る、渡辺の姿があった。
これまでに、本館の1階から3階まで、閉まっている教室も含め一つずつ覗き
図書室のある別校舎まで探したが、しぃは見つからない。携帯も繋がらない。
せめて行先だけでも聞いておけば良かったと、1時間以上前の自分に後悔しながら
渡辺は息を切らし、人の少ない学校内を走り回っていた。
しぃと交わした約束の時間はとっくに過ぎている。
念の為に靴箱も確認してみたが、彼女の外靴は置かれたままだった。
なのにしぃは何処にもいない。連絡も無い。絶対に、何かがおかしい。
-
从;'ー'从「うう、ここにもいないや……」
最後の望みをかけてやってきた南館で、渡辺はがっくりと肩を落とした。
室内プールを始めとし、体育設備が中心に整っているこの建物は
今の時間帯、体育会系クラブの生徒達が大勢集まって練習場となっている。
一階食堂は既に閉まっているし、一般の生徒が探せそうな場所は限られていた。
从;'ー'从「どうしよう、一度教室に戻った方がいいかな……」
時を刻む時計の針がじわじわと胸に暗雲を生む。
もしかしたら、もう教室に戻っているかもしれない。
閉ざされた扉の前で途方に暮れて、彼女は再び本館の方へ戻ることに決めた。
(・∀・ )「ん?」
从;'ー'从「あっ、モ……モララー先生」
別校舎と南館を繋ぐ、グラウンドに面した長い渡り廊下を走っている時
向い側からこちらへ歩いてくる人物に気がついて、渡辺は立ち止まった。
息切れでよろめきそうになりつつも、膝に手をつきなんとか息を整える。
-
(・∀・ )「おや、渡辺さん。まだ残っていたのかい?
それに、どうしたの?そんなに慌てて」
从;'ー'从「あ、あのっ、モララー先生。
しぃちゃん……。しぃちゃん見ませんでした?」
(・∀・ )「しぃちゃん……羽生さんを探しているのかい?」
モララーは微かに首を傾げた。
(・∀・ )「……どうして羽生さんを探しているの?そんなに慌てて」
从;'ー'从「あ、えっと……。
あの、しぃちゃん、約束した時間になっても帰ってこないから……。
携帯も繋がらないし、心配になっちゃって」
(・∀・ )「ああ、そうなんだ。それは心配だねぇ」
从;'ー'从「はい……」
(・∀・ )「……あ!そうだ、そういえば。さっき見かけたよ、羽生さん」
数秒の間、黙って渡辺を見つめていたモララーだったが
不意に声をあげて、にこりと渡辺に笑いかけた。
-
从;'ー'从「えっ、本当ですか!ど、どこで?」
(・∀・ )「本館の方で見たよ。職員室へ向かっているようだったけど」
从;'ー'从「本館?ふえぇ、行き違いになっちゃったのかな……」
(・∀・ )「みたいだね。今ならまだ間に合うよ、早く行ってあげて」
从;'ー'从「ありがとうございます、モララー先生!
じゃ……、さよならっ」
(・∀・ )「うん、さようなら。気をつけてね。
あんまり暗くならないうちに帰るんだよ」
从'ー';从三「「はーい!」
-
(・∀・ )「……渡辺さん、渡辺さん」
从'ー';从「へ?」
(・∀・ )σ「そっちは南館の方だよ。君が来た方でしょ。
本館はあっちね」
Σ从'ー';从「あっ、いけない!」
三从;'ー'从「しぃちゃ〜ん!」
( ・∀・)「……」
(;・∀・)「大丈夫かなぁ……」
おぼつかない足取りでフラフラと本館へ突撃していく
渡辺の背を見送りながら、モララーは不安げに呟いた。
-
渡り廊下を抜けて本館に行くには、横道から別校舎を経由すると近道だ。
息を切らしながら校舎の廊下を突っ切って、石階段を駆け下りる。
从;'ー'从「はぁ、はぁ……」
―――だが、彼女は慌てすぎていた。
从;'ー'从「きゃっ……!」
不意によろめき、その拍子に大きくバランスを崩してしまう。
段差の方へ重心を移した足がもつれた。
踏み外す階段。
一瞬の浮遊感。
.
-
(;´_ゝ`)「あれ」
職員室の扉を開けて、兄者は困惑した。
室内を見渡しても、馴染みの席にも、ブーンの姿が見当たらない。
いつも、割と遅い時間まで職員室の自分の机で作業していることを知っていたし
特に今日は5,6時間目がマインドBクラスでの授業の時間割だったので
きっとまだ残っている筈だと、予想をたてていたのだが。
壁にかけてある時計を見ると、もう5時半を回ったところだった。
流石に、既に仕事を済ませて帰ってしまったのかもしれない。
どうしよう。
隣でつーが不安そうな顔をする。兄者も困って、お互い顔を見合わせた。
-
ブーンがいないとなると、どうやってつーに人格交代させたらいいのか分からない。
一応立ち直ったとはいえ、まだまだ精神的に不安定で
疲れきっている状態の今のつーでは、交代もいつも通りとはいかないだろう。
フとしたきっかけでまた困ったことになってしまう可能性だって充分にある。
なんとかしぃを目覚めさせ家に帰すことができればいいのだが
うっかり間違ったことをして、これ以上つーを動揺させたくなかった。
このまま彼女を家に帰すことはできない。
ブーンの助けが必要だった。
('_L')「ああ、ブーン先生なら確か第二保健室ですよ」
戸口にて立ち竦む2人に気がついて、フィレンクトが声をかけてくれた。
('_L')「相談室を借りたいと言って、鍵を持って行かれた筈ですよ。ほら」
そう言って、扉横の鍵棚を指さす。
確かに、「第二保健室」と文字の書かれた鍵が無くなっている。
教えてくれたフィレンクトに礼を言って、兄者は職員室の戸を閉めた。
-
きた!支援
-
(*゚∀゚)「第二保健室ってどこ?」
( ´_ゝ`)「保健室の隣だよ確か。綺麗な校舎の方だな」
(*゚∀゚)「そこに先生いんの?」
( ´_ゝ`)「みたいだな。先生カウンセラーだから、誰かの相談に乗ってるのかもな」
(*゚∀゚)「?相談?」
( ´_ゝ`)「第二保健室ってそういうとこなんだよ。怪我した時に行くのとは違うの」
(*゚∀゚)「ふーん」
( ´_ゝ`)「お悩み相談の邪魔して悪いけど、こっちも緊急だしな。行こっか」
(*゚∀゚)「うん!」
( ´_ゝ`)「よし、じゃ……」
「しぃちゃん!」
(*゚∀゚)「!?」
背後から突如あがった声に驚いて、つーはびくりと肩を跳ねさせた。
-
从*'ー'从「見つけた!」
(;゚∀゚)
(;´_ゝ`)「ナベちゃん?」
从*'ー'从「良かったぁ。ここにいたんだ!」
ずっと探していたしぃの姿を見つけ、安心を顔に浮かべる渡辺。
(;゚∀゚)「……?」
(;´_ゝ`)
突如現れた予想外の人物を前に、兄者は焦った。
よく特別クラスまで迎えに来てくれる渡辺に、しぃはある約束を交わしている。
待っている間教室の中は決して覗かないでほしい。
自分が出てくるまで離れて待っていてほしいと。
自分が”つー”でいる時の姿を、大事な親友に見られてしまうことを恐れ
しぃが常日頃、何よりそのことを気にかけているのを兄者は知っていた。
今、この状況で渡辺と会うのはまずい。
戸惑う2人の胸中を知らず、渡辺は嬉しそうに近づいた。
-
(;゚∀゚)、
つーは、自分に親しげに声をかけてくる女の子が誰か分からなくて一歩後退った。
从'ー'从「あっ、弟者先輩も一緒だったんですね!」
(;´_ゝ`)「あ、俺兄者の方ね」
Σ从;'ー'从「え?あ!ごめんなさい!」
(;´_ゝ`)「いやいいよ。それよりナベちゃん、今ちょっと……」
从;'ー'从「そうだしぃちゃん!大丈夫?」
(;゚∀゚)「へ?」
急に切羽詰まった表情になり、渡辺がつーに詰め寄った。
从;'ー'从「どこも怪我とかしてない?何かあったとか、ない?」
(;゚∀゚)「??」
-
从;'ー'从「何も無かった?大丈夫??」
( ´_ゝ`)「……?」
しきりに、つーの―――しぃのことを心配する渡辺に、兄者は疑問を感じた。
まるで、もう少しで危ないことになりかねなかった先程の事件を
その場にいなかったにも関わらず、見越していたかのような口ぶりだ。
もしくは、何か大変なことがしぃの身に起きようとしていたことを、知っていたかのような。
(;゚∀゚)「な、なんもないよ」
大丈夫かと繰り返す渡辺にたじろいで、ぼそぼそと答えるつー。
从'ー'从「ほんと?……良かったぁ」
(;゚∀゚)「……」
その答えを聞いて、渡辺はほっと胸を撫でおろした。
从^ー^从「心配したんだよぉ。でも、何も無かったなら良かった」
-
心配した?一体何を?
渡辺はしぃの親友だ。姿が見えなければ、探すのは当然だろう。
だが先程の様子は、とてもただ探していたという風ではなかった。
一体渡辺は何を案じて、しぃのことをそこまで必死に探していたのだろう……
从^ー^从「じゃあ、ほら!もう遅いし」
从^ー^从「帰ろ、しぃちゃん」
1人惟る兄者を置いて渡辺はつーに手を差し伸べる。
そうしてそっと、その手を掴んだ。
(;゚-゚)「!」
―――それは決して力をこめてはいなかったし、不意をつくような動きでもなかった。
だがその瞬間
つーの頭に、いつかの何処かでの光景が、フラッシュバックした気がした。
無意識に 反射的にその手を払いのける。
-
从'-'从
(;゚-゚)「ぁ……」
驚く渡辺の顔を見て、つーの胸に後悔が生まれた。
そんなつもりは無かった、のに。
从;'ー'从「……あっ、ごめんねしぃちゃん。びっくりさせちゃった?」
(;´_ゝ`)「お、おい!つー」
(;´_ゝ`)「あ」
しまった、と兄者は顔に出したが既に遅かった。
从'ー'从「”つー”?」
渡辺が兄者の顔を見る。
きょとんとした顔で、その名を繰り返した。
そうして次に、目の前に居る―――親友によく似た誰かの顔を見つめた。
-
(;゚-゚)「……」
从'ー'从「”つー”って、しぃちゃんの……」
最初の驚きが、ゆっくりと理解に変わっていく。
从'ー'从「……」
从'ー'从「もしかして……」
从'ー'从「あなたが、そうなの?」
(*゚-゚)「……」
(*゚-゚)「……あたし、しぃじゃないよ」
从'ー'从「……つーちゃん、なの?」
犯した罪を認めるかのように、ばつが悪そうな顔で つーは小さく頷いた。
怒られるとでも思っているのだろうか、緊張した面持ちで渡辺の反応を伺う。
傍で事の成り行きを見守る兄者も、どうしていいか分からずただ口を噤むしか無かった。
沈黙が流れる。
-
(*。。)「……」
(;´_ゝ`)「……」
从'ー'从「……」
从*'ー'从「……そうなんだ!初めましてだね」
(;゚-゚)「へっ?」
渡辺はぱっと顔を輝かせた。
きょとんとするのは、今度はつーの番だった。
-
从*'ー'从「しぃちゃんはあなたのこと、あんまり教えてくれないし……。
ずっと、会ってみたいと思ってたんだよぉ。
会って、お話したいなって」
(;゚-゚)「??」
从*^ー^从「やっと会えたね!つーちゃん。
私、しぃちゃんの友達の、渡辺っていうの。ナベって呼んでね」
(;゚-゚)
(;゚-゚)「……し……しぃじゃなくて、がっかりしないの?
……あたしのこと、怖くないの?」
恐る恐る、つーが尋ねる。
-
从*^ー^从「がっかりなんかしないよぉ。こうして、会えて嬉しいもの。
だって、友達の友達は友達だもん。ですよね?兄者先輩」
(;´_ゝ`)「え?あ、はい!そう、そうだね!?」
どうやって上手くこの場を切り抜けようかと思考を巡らしていた兄者は
渡辺に邪気の無い笑顔を向けられ、思わず声を裏返した。
从*^ー^从「よろしくね〜、つーちゃん!」
(;゚∀゚)「あ、あひゃっ……」
(;゚∀゚)「あひゃひゃ……
へ、変な奴だなー。お前」
从*^ー^从「あはは、なにそれ。つーちゃんこそ、変わった笑い方〜」
(;´_ゝ`)(天然パワーすげぇ……)
思わぬ展開に面食らったが、兄者は安堵の息を吐き、つーは気が抜けたようだった。
どうやら、天衣無縫な性格の渡辺の前では
どんな思慮や誤魔化しも策するだけ意味の無いことらしい。
-
从*'ー'从「じゃあ、つーちゃん、兄者先輩。みんなで一緒に帰りましょ!」
(;´_ゝ`)「あ……ごめんナベちゃん。俺らちょっと、ブーン先生に用があって。
帰る前に先生んとこ行かなきゃいけないんだ」
从'ー'从「そうなんですか?じゃ、待ってますね!
ちょっとくらい遅くなっても平気ですよ私、門限ゆるいから」
(;´_ゝ`)「いやっ、でもあの、時間かかるかもしれないから。
ナベちゃんは、先に帰っててほしいなー。つーは、後でちゃんと送ってくからさ」
从'ー'从「えー、一緒に帰りたかったのに……」
(;´_ゝ`)「ごめんね。つーとはまた今度、仲良くしてやってよ」
从'ー'从「はい!
……じゃあまた今度、一緒に帰ろうね、つーちゃん。約束ね」
(*゚∀゚)「う……うん!」
少しまごつきながらも元気よく返事するつーは、どことなく嬉しそうだった。
-
( ´_ゝ`)「あ、そうだナベちゃん。
つーの……、しぃちゃんの鞄、どこにあるか知らない?」
从'ー'从「鞄?う〜ん、教室には無かったと思いますけど……」
( ´_ゝ`)、「そっかー」
从'ー'从「しぃちゃん、教室を出る時は確か持ってましたよ。無いんですか?」
(*。。)、「……あ、あたし……どこかに落としちゃったかもしれない。
……よく覚えてないんだ」
从'ー'从「そうなんだ。
大丈夫だよつーちゃん、落し物なら事務局に届いてるかもしれないし!
あたし、見てきますね兄者先輩。待っててください!」
( ´_ゝ`)「あ、じゃあ俺が行くよ。2人はここで―――」
( ´_ゝ`)「?……ナベちゃん、血が」
(*。。)「?」
(;´_ゝ`)「……ってナベちゃん!?怪我してるじゃん!」
渡辺が体の向きを変えた拍子に、スカートで隠れていた右足の膝が見えた。
擦りむき、皮の捲れた膝頭から血が出ているのを見て、兄者が驚きの声をあげる。
-
<从;'ー'从「あっ、さっきちょっと転んじゃって〜……。えへへ、私っていっつもドジで」
(;゚∀゚)「大丈夫か!?ナベ!」
从'ー'从「へーきへーき、大したことないよ。今まで、痛いのも忘れてたくらいだもん」
兄者は慌てて、残っていたポケットティッシュを手渡した。
渡辺が軽く血を拭く。傷はほとんど乾いていたが、損傷箇所からはまだ血が滲み出ていた。
(;´_ゝ`)「保健室行かないと」
从;'ー'从「そんなぁ、大丈夫ですって。
それに、今の時間じゃ保健室もう閉まってると思うし」
(;´_ゝ`)「あ、そっか」
从^ー^从「それにほら、バンドエイド持ってるんですよ。女子力!
私しょっちゅうどこか怪我するから、すぐ無くなっちゃうんですけどね」
(;。。)「……ごめん、ナベ。あたしのせいだよな」
从'ー'从「ふぇ?なんで??」
-
(;。。)「しぃのこと探して、走り回ってたんだろ?だから、こけたんだろ?
あたし……、あたしが勝手に、どこか行こうなんて思ったから……。
それで……」
从'ー'从「……つーちゃん」
つーは項垂れた。
ほら見ろ。いつだって、自分は人を傷つけてばかりいるじゃないか。
そんなつもりが無くたって、気づけばいつも周りの誰かを傷つけてしまう。
しぃが自分のことを恐れ、毛嫌いするのも当然だった。
こんな奴、いない方が良いに決まってる。
どうして自分はいつもこうなんだろう。
つー自身、どうしようもないこんな自分が大嫌いだし、悲しかった。
-
从'ー'从「……」
そんなつーの顔をひょいと覗きこんで、渡辺は笑った。
从^ー^从「なに言ってるの、つーちゃん何も悪くないでしょ?
私が一人で勝手に慌てて、ぼうっとして転んじゃっただけだよ」
从^ー^从「つーちゃんは悪くないよ。だからそんな顔しないで」
(;。。)「……でも」
从'ー'从「ほらほら、元気出して。ねっ。
そうだ、可愛いお花柄のバンドエイドあげる。怪我した時使ってね」
そう言って、ポーチから取り出したポップな小花模様の絆創膏を優しくつーの手に握らせる。
-
(*゚-゚)「……いいの?」
从*'ー'从「いいよ。お友達になった記念」
しばらく渡辺の顔をじっと見つめた後、つーは頷いて
貰ったそれを大事そうにスカートのポケットに仕舞った。
(*゚∀゚)「……ありがと」
渡辺もにっこりと微笑んで、擦りむいた膝小僧にぺたり、バンソウコウを貼りつける。
(*゚ー゚)「……」
(;´_ゝ`)「消毒とかしなくて大丈夫かなぁ」
从^ー^从「心配しすぎですよ〜兄者先輩。
こんなもん、唾つけときゃ治る!って昔、おばあちゃんも言ってたし」
(;´_ゝ`)「やだ、おばあちゃん男前……」
-
从'ー'从「あっ、そうだ。そんなことより、しぃちゃんの鞄」
( ´_ゝ`)「うん、俺見てくるよ。ナベちゃんはここで、つーと一緒にいてくれる?」
从'ー'从「でも、ブーン先生に用事あるんでしょ?
先にそっち行った方が良くないですか?」
( ´_ゝ`)「あ、確かに」
从'ー'从「でしょ?やっぱり私が……」
(*゚ー゚)「ナベちゃん」
从'ー'从「へ?」
兄者と渡辺がつーの方を振り返る。
彼女はどこかぼうっとした表情で、渡辺の方を見つめていた。
-
渡辺いい子すぎる
-
(*゚ー゚)「……?」
(*゚ー゚)「……あれ……、なんで」
从'ー'从「?」
( ´_ゝ`)「?どうした?」
声をかけても反応が無い。
まるで、たった今目が覚めたばかりとでもいう風に瞬きを繰り返し
呆然とした様子で、どこか視線を彷徨わせている。
不思議に思い、2人は顔を見合わせた。
( ´_ゝ`)「……」
从'ー'从「どうかしたの?つーちゃん」
(;゚ー゚)「え」
-
―――渡辺が何気なく名前を呼んだ瞬間、その表情が凍りついた。
从'ー'从「?」
(;゚-゚)「……!?」
(;゚-゚)「あ……」
(;´_ゝ`)(まさか)
明らかに、先程までのつーと様子が違う。
困惑し言葉を失う彼女を前に、渡辺は首を傾げ、兄者はドキリとした。
嫌な予感がする。
-
(;゚-゚)「うそ……嘘、なんで……」
(;゚-゚)「なんで?……そんな……嫌……!」
ほとんど聞き取れない独り言をブツブツと繰り返しながら
彼女は怯えたように、兄者と渡辺を交互に見た。
从'ー'从「……」
从'ー'从「……しぃちゃん?」
渡辺が不意に、彼女―――”しぃ”の名を呼ぶ。
从'ー'从「しぃちゃんなの?」
(;゚-゚)
ぎこちない動きでそちらへ顔を向けた、しぃの視線が
瞬間、渡辺の持っている、血のついたティッシュを捉えた。
-
从'ー'从「大丈夫?……しぃちゃん」
(;゚-゚)「……血……!?」
(;゚-゚)「ナベちゃん、怪我……!?」
从'ー'从「え?ああ、これ」
从^ー^从「大丈夫、大したことないよ。少し血が出ただけ」
―――しぃの顔が一気に青褪めた。
目を見開き、ガタガタと震えだす。
渡辺の言葉も耳に入らないのか、恐怖に顔を引き攣らせた。
-
(|li゚-゚)「……うそ……」
信じられない思いで、小刻みに震える自らの手を見る。
瞬く間に、恐ろしい考えが彼女の頭を支配した。
(|li゚-゚)「そんな……!!」
从'ー'从「しぃちゃん……?」
(;´_ゝ`)「しぃちゃん、違う!違うよ!!」
咄嗟に兄者が弁明しようとする。だがその声は届かない。
しぃはただ力無く首を振り、拒絶するかのように2人から距離をとった。
-
:(|li゚-゚):「い、いや……」
从;'ー'从「しぃちゃん?どうし―――」
(|li -)「いやあああああぁぁっ!!!!」
从;'ー'从「あ……、待って!」
(;´_ゝ`)「しぃちゃん!!」
呼び止める声を振りきり、2人に背を向けて
認めたくない現実と心を襲う恐怖から、しぃは逃げ出した。
-
(|li;-;)「うそ、嘘だ……嘘だよ……、そんなの嫌……!!」
泣きながら、薄暗い廊下をふらふらと歩く。
どうして?何故急に、こんなことに??
1年A組の教室に辿り着いた。渡辺の姿を見つけて安心した。
そこから先の記憶が一切無い。何がなんだか訳が分からない。
茜色した陽は暮れて、校舎内は既に薄暗く
明らかに、あれから時間が経っているのが分かる。
移動した記憶も無いのに、全然違う場所に突然居た。
何故か渡辺も一緒に。そして。
そして彼女は、自分のことを”つー”と呼んだ。
ここまで条件が揃えば、何が起こったのか嫌でも理解してしまう。
-
(|li;-;)(……ナベちゃんに見られた……!!)
ついに。とうとう。見られてしまったのだ。大好きな渡辺に。
これまで隠してきたことが、なにもかも無駄になってしまった。
一番見られたくなかった姿を知られてしまった。
信じたくない。しぃは顔を覆った。
それに、血。渡辺は怪我をしていた。
優しい彼女は平気だと言って笑っていたけれど、あれは……あれは、まさか。
(|li∩-∩)(嫌!)
認めたくない。理解するのが怖い。
だが、そうとしか考えられなかった。
-
また―――やってしまったんだ。
中学生の時の記憶が、感情が、まざまざと蘇る。
耳を塞いでも、目を閉じても、何処に居ても逃げられない。
ざわざわ。ざわざわ。ざわざわ。
教室での事件を書き立てたスクープ誌。家に、学校にと無遠慮に押しかけるマスコミ。
“生徒4名・教師1名負傷” “凶暴な二面性” ”隠された裏の顔” “心の闇”
好き勝手噂を流し、興味本位で自分をなじる世間の人々の声が聞こえる。
まただ。あの時と同じ。2年前の悪夢と同じ。
知らぬ間に自分の世界はぐちゃぐちゃにされて、踏み躙られて、もう二度と戻ってこない。
-
こうなる日が来ることを恐れていた。
ゆらゆらと不安定だけれどそれでも幸せで、満たされた平穏な日々を
大切なものを。また滅茶苦茶に壊されて、自分1人置き去りにされる日が来るんじゃないか。
それをずっと恐れていた。いつだって心の奥底で、ずっと、ずっと恐れ続けていた。
壊された。また、奪われたのだ。
親友の渡辺を。誰より愛情深く、暖かく笑いかけてくれる優しいあの子を。
“つー”が傷つけた。
許さない。
-
(|li;-;)(許さない、許さない!!)
大切な、大切な親友だったのに。それなのに。
“つー”のことを知った彼女は、きっともう友達でいてくれない。
だって怪我までさせられたのだ。気味悪がって、距離を置いて当然だ。
しぃの世界が音を立てて崩れていく。
底の無い井戸に1人落ちていくような
どこまでも孤独で真っ暗な絶望が襲った。
頭の中で声がする。五月蠅い。五月蠅い!
(|li;-;)(消えて!お願い!!)
お前なんか知らない。
.
-
救いを求めて、苦しみから逃れたくて―――
その足は無意識に、ある教室へと向かっていた。
開かれた扉。
何かの力が働いて、しぃはふらふらとその中へ誘われていく。
「やぁ、羽生さん」
救いを求める彼女に、闇の中から声がした。
天使のような顔をした男が、机に寄りかかり微笑んでいる。
( ・∀・)「迷いは消えたかな?」
.
-
(|li;-;)「”つー”を消して!お願い、今すぐ!!」
そう懇願した後すぐ、彼女は手で顔を覆った。
(∩-∩)「―――嫌だっ!嫌!やめろ!!」
(∩-∩)「お願い早く消して。早く!!」
( ;-;)「やだ!あたし消えたくない!!」
( ;-;)「早く!」
( ;-;)「兄者」
(∩-∩)「お願い!!」
( ・∀・)「いいだろう。”君の”願いを叶えてあげる」
-
歪んだ三日月が、星ごと夜を飲みこんだ。
.
-
( ^ω^)「?今、誰か叫んでるような声が聞こえなかったかお?」
(`・ω・´)「……いえ?僕は何も」
( ^ω^)「そうかお?」
(`・ω・´)「……」
(;´_ゝ`)「つー!!」
从;'ー'从「しぃちゃん!!」
兄者と渡辺が、横たわる人影を見つけその教室に駆けこむ。
仄暗くがらんとした広い空間の中心。
誰もいない教室で、しぃが。つーが。眠るようにして倒れていた。
-
15話投下以上です。支援ありがとうございました!
次話は、今現在プロットしか書けていない状態です。
いつになるか未定ですが、一ヶ月超えるようなら報告に来まする
-
来てた乙乙
-
乙!ナベちゃんの天使ぶりに癒されたと思ったら、思わぬ落とし穴が…
-
乙
ちょっとした行き違いで取り返しのつかない所まで……
お互いに対話できないのが辛いな
-
おつおつ!かなり深刻な展開になってきた…
しぃとつーは大丈夫なのかな…
次も楽しみにしてる
-
しぃもつーも悩んでることとか怖いこととか近いのになぁ
諸々の運が悪いしタイミングに恵まれ無い
しぃはもしも中学のいじめが無かったらマインドBは発症しなかった?
流石兄弟の過去話
-
途中で送信してしまった
流石兄弟の過去話読んでるとあまり関係なく発症してそうな気もするけど
-
おつ
えええええナベちゃん天使からのえええええええ
もう・・・どうなったんだよ・・・つー・・・
-
乙!今回も面白かった
ナベちゃんは予知能力でも持ってるのか…?
>>797
でも兄者が言ってた、「わけがわからなくて怖かったこと」が気になるんだよなぁ
諸々の謎がどう明かされるのかすげー楽しみ!
-
おつ
ナベちゃんは…って思ったけど予想は心の中だけでしとく
ほっこりとハラハラで続きが楽しみすぎる
-
>>1って他にも何か書いてたりしてる?
あったら教えてほしい
-
>>1です。乙や感想いつもありがとうございます
>>801
長編はこの作品だけで、他は短編や中編、祭参加作品等を6年程前からちょこちょこ書いておりました
一番最近ではGWのケツ祭で、片づけられない兄者と、種も仕掛けも無いようですというのを書きました
-
>>802
あれ貴方か!どっちも好きだ
-
>>802
なん……だと……
あれ同じ作者だったのか
-
追いついたぞ面白いなこれ
-
>>1です。もう7月も終盤なんて嘘みたいです。
今現在、16話の進み具合は半分とちょっとくらい。
次の更新は来月になります。できれば第二週目あたり……の予定
-
待ってるぜい
-
追いついた。面白い。モララーは子供たちも自分と一緒にしたいのかな
期待支援
-
(‘_L’)「……と、いうことで……
今日は、ブーン先生の代わりに私が授業を担当します」
( ´_ゝ`)「……」
(`・ω・´)「……」
ζ(゚ー゚;ζ
(;^Д^)
短くそう告げた後、フィレンクトは手元のファイルから個々の教材を取り出した。
いつもブーンがやっているのと同じように、出席確認をし、授業を始める準備をする。
フィレンクトの立っている教壇を前にして
横に並んだ5つの机のうち、丁度真ん中の席だけは
授業が始まっても誰も座らないまま、空席となっていた。
-
(‘_L’)「今から1人ずつ、今日の課題を配りますからね。
皆、いつものように自分の勉強に取り組んで……」
ζ(゚ー゚;ζ「先生!」
フィレンクトの声を遮って、唐突にデレが叫んだ。皆の視線が集まる。
ζ(゚ー゚;ζ「つーちゃんは?病院って……、どうしたの?病気なの?」
震える声。教室の空気が張り詰めた。
(‘_L’)「……」
少し間を置いて、フィレンクトが静かに口を開く。
(‘_L’)「……先生も詳しいことは分からないんですよ、デレさん。
ただ今、羽生さんは病院にいて、ブーン先生はそちらへ行かれています。
どうしてそうなったのか、何が原因なのか、現時点では確かなことは何も言えません」
(‘_L’)「羽生さんのことが心配なのは分かりますが、今は待ちましょう。
ブーン先生も、明日になれば学校へ来てくださいます。
何か分かればきっと、その時に皆さんに話してくださる筈です」
-
(;^Д^)「先生!昨日の放課後に羽生さんが倒れて、救急車で運ばれたって本当ですか?」
ζ(゚ー゚;ζ「!」
(;^Д^)「運動部の友達が、羽生さんが救急車で運ばれるの見たって……
それに今、意識不明の状態で、病院で眠ってるって、クラスのみんなが言ってました!」
(`・ω・´)「猫塚君。根も葉も無い噂を声高に口走り不安を煽るような真似はよせ」
隣の席のシャキンが鋭く制する。デレは不安気にタカラの方を見た。
(;^Д^)「で、でも。羽生さん、昨日は元気にしてたのに。
いきなり倒れるなんて……、救急車なんて……。一体、なにがあったんですか?」
(`・ω・´)「……先生方も調べている途中なんだ。詳しいことは誰にも分からない。
ブーン先生が病院の先生から話を聞いて、何か分かったならきっと
明日にも僕達に話してくれる筈だ」
ζ(゚ー゚;ζ「つーちゃんに何かあったの?デレ、つーちゃんが大丈夫かどうか知りたい!」
(;‘_L’)「デレさん、タカラ君、落ち着いてください。
今大事なのは、ブーン先生を信じて待つことですよ」
-
( ,,^Д^)「……兄者先輩。兄者先輩は何か知らないんですか?」
唐突に、タカラが席から身を乗り出して
廊下側の自分の席からは一番遠い、窓際の兄者へと声を投げかけた。
( ,,^Д^)「昨日の放課後、羽生さんと……
兄者先輩か、弟者先輩かわからないけど、一緒にいるの見たって。
救急車が来た時も一緒だったって、クラスの子が言ってました」
( ,,^Д^)「何か知ってるんですか?」
(`・ω・´)「猫塚君」
シャキンが再度、咎めの意味を込めてタカラに釘を差す。
それでもタカラは聞かずにはいられないようだった。
-
( ´_ゝ`)「……」
兄者は、教室に来た時から既に弟者と人格交代していて
その時から今まで、彼にしては珍しく無口を貫いていた。
縋るような気持ちで、デレも隣の席の兄者を見る。
だが兄者は、自分に向けられたそんな視線に応じる気も無いようで
何を考えているのか分からない表情で、ただじっと押し黙ったままでいた。
じれたタカラが、次の言葉を発しようと口を開く。その時
( ´_ゝ`)「……知らないよ」
タカラから若干顔を逸らして、彼は短くそれだけ答えた。
傍から見て、兄者が今その話題に出来るだけ触れたくない様子なのは明らかだった。
-
(;^Д^)「でも―――」
( ・∀・)「タカラ君。フィレンクト先生の言うとおり、今は勉強に集中することが大切だよ」
それまでフィレンクトの傍らに控え、沈黙を守っていたモララーが口を開いた。
優しい口調でタカラを宥める。
( ・∀・)「ブーン先生は今まで、自分がいなくても
皆がいつもどおりきちんと勉強できるように、一生懸命取り組んでこられたんだからね」
( ・∀・)「だから、ブーン先生が帰って来た時にがっかりさせないように
今は先生を信じて待っていようよ」
(`・ω・´)「そうだぞ猫塚君。今は騒いでも仕方が無い。
無意味に騒いで、デレやみんなを不安にさせるのはやめるんだ」
( ,,^Д^)「……おい、どういうことだよ」
急に低くなった声音で、唸るようにタカラが呟いた。
周りの皆がその顔を見やると、ガタンと席から立ちあがり誰にともなく尋ねる。
-
(;゚Д゚)「羽生しぃが倒れたって、どういうことだ?
クラスの奴ら、何の話をしてる?本当のことなのか?」
力のこもった話し方と強めの口調から
タカラに代わってギコがこの場に現れたことが分かった。
普段、他人や周りの状況にあまり興味を抱かないで、口数少なく無愛想にしているだけのギコが
この手の話題に反応して一方的に出てくるのは意外なことだった。
彼にしては珍しくショックを受けている様子で、顔に焦りを浮かべている。
急に現れたギコに戸惑うフィレンクトに代わって、シャキンは静かに諭した。
(`・ω・´)「……ギコ君、座りたまえ。みんなはただ憶測で不確かな噂を口にしているだけだよ」
(;゚Д゚)「意識不明で、植物状態だって、言ってるの聞いたぞ!おい、本当なのか!?」
(;‘_L’)「そんなの嘘ですよ、タカラく……、いや、ギコ君。落ち着いて。座りなさい」
(;゚Д゚)「?あんた誰だよ。あの先生、いねーのか?おい!なんでいねーんだよ?」
怒鳴るギコ。面食らった顔をするフィレンクト。
また話がややこしくなった、とシャキンは目を伏せて溜め息をついた。
-
ζ(゚ー゚;ζ「??しょくぶつ……?」
デレにはその言葉の意味は分からなかった。
ただ、その異様に緊迫した空気と、いつもと違う教室が怖かった。
マインドBの生徒を相手するのに慣れていないフィレンクトは
当惑しながらも、なんとかギコを落ち着かせようともう一度今の状況を説明する。
タカラの母親がブーンの元にギコを連れてきた時や、体験入学の手続きの際などに
フィレンクトはギコと何度か顔を会わせているのだが、彼はそのことを覚えていないようだった。
兄者は、一番離れた窓際の席からその様子を眺めていて
ギコの発する不穏な言葉の数々に人知れず眉を顰めた。
無神経なタカラにも、ギコにも苛立ちを覚える。
今日はここにはいたくない。そう思った。
-
( ・∀・)「ギコ君、羽生さんに何があったのか、詳しいことは先生もまだ分かっていないんだ」
(;゚Д゚)「……!モララ、先生」
( ・∀・)「確かなことはまだ何も言えないけどね。
羽生さんには今、ブーン先生がついているから大丈夫だよ。何も心配は無い」
(;゚Д゚)「でも!」
ζ(゚ー゚;ζ「ねぇ、あにーちゃん……本当に知らないの?
つーちゃん、どうしたの?病気なんかじゃ、ないよね?」
(;´_ゝ`)、
デレに心配そうな顔で詰め寄られて、兄者は困惑した表情を浮かべた。
迷いながらも口を開きかけて、結局、何も言えないまま居心地悪そうに目を逸らす。
安心させてあげたいと思ったが、「大丈夫だよ」などと無責任なことも言えない。
口は上手いしその場をしのぐ術にも長けているが、小さい子相手に嘘を吐くのは苦手だった。
とりわけ、昨日まで明るく笑っていたクラスの仲間の身を、心から案じている幼く可愛い子には。
不意に、目がぼんやりとして虚ろになり、後ろめたそうにしていた顔の表情が消えた。
-
ζ(゚ー゚;ζ「ねぇ、あにーちゃん」
(´<_` )「……兄者は」
逸らされた視線がすっと正面を向いて、真っ直ぐにデレの目を見つめ返す。
(´<_` )「兄者は今、あんまり話したくないって。デレちゃん」
ζ(゚ー゚;ζ「弟者おにいちゃん?」
(´<_` )「うん。……だから、ごめんな。
つーちゃんのことは、今は聞かないでやってくれるか?」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
それだけ言って、弟者はデレから視線を外した。
-
(;‘_L’)「みんな、落ち着いてください。ギコ君も。さぁ、座って」
―――フィレンクトの努力も虚しく、その日の授業は成功とはとても言い難かった。
騒がしい最初の数十分が過ぎた後、ようやくそれぞれが自らの課題に取り組み始めたのだが
ギコもタカラも動揺していて、その後も無意識の人格交代を何度か繰り返し、どちらが
出てきたとしてもその度に不穏な言動を連ねて、デレをますます不安にさせるばかりだった。
皆が皆、集中力を無くし神経過敏になっていた。
教室は始終騒々しく、ついにはシャキンがギコに怒鳴りつける場面もあったし
兄者は結局、その落ち着かない場を弟者に任せ、誰が呼びかけても応えようとはせず
授業が終わってもそのまま戻ってこなかった。
学年主任としてブーンからクラスのことを任され、子供達を預かったフィレンクトは
混乱するクラスをなんとか纏めようと、2時間の間せかせかと動き回っていた。
が、実際は生徒達のなかで何が起こっているのかほとんどついていけておらず
自分自身も多少冷静さを失っていて、専門分野のモララーに頼るところが多かった。
-
チャイムが鳴り、授業が終わった後もごたごたが続いた。
デレは、不安や緊張からか上手く人格交代することができなくて
その結果ツンは次の授業に大幅に遅れることとなり、慌てて教室を飛び出していった。
タカラが普段以上に落ち着かない様子なのも、ギコの動揺が影響しているようで
このまま通常クラスに戻り授業を受けるのは難しいとして
モララーの判断で家に帰されることになった。
(´<_` )「じゃあ、八又先輩。俺、クラスに戻ります」
(`・ω・´)「ああ。何か言われても気にしないようにな」
(´<_` )「はい」
しぃの噂は1年生を中心にして密かに囁かれ、誰も正確には事態を把握しておらず
マインドBクラスの生徒達、皆が皆何かしらの不安を抱えていた。
.
-
(;^ω^)「一体何があったんだお?」
時は、昨日の放課後に戻る。
ブーンは、兄者と渡辺を相談室の椅子に座らせて2人から事情を聞いていた。
つーが倒れたと言って、血相を変えた兄者が相談室に駆け込んできたのが
ほんの数十分程前のこと。
彼女を乗せた救急車には教頭が付き添い
ブーンは事態を把握する為学校に残ったのだった。
今回の件とは直接関わりの無いシャキンは、先に家へと帰させた。
(;´_ゝ`)「つーが……、あいつ、1人で学校の外に出てて……」
兄者は、放課後に1人学校の外を歩いていたつーを見つけ、学校に連れ戻したこと
突然しぃが出てきて、渡辺の姿を見てパニックになってしまったことなどを
心もとない様子で説明した。
-
(;´_ゝ`)「……それで……、はぐれちゃって……。
……見つけた時には、倒れてたんだ」
从;'ー'从「……」
一通り兄者からの話を聞いたあと、ブーンは納得いかない顔で首を振った。
(;^ω^)「……つーは今日の授業中、いつも通りに見えたお。
急にそんな、切羽詰った行動を起こすなんて……」
(;´_ゝ`)「……」
(;´_ゝ`)「あいつ、言ってたんだよ。しぃちゃんの声を聞いたって。
いなくなればいいって、言ってたって……それで、すごく怖がってた」
(;^ω^)「!まさか。共在意識が芽生えたのかお?」
(;´_ゝ`)「だと思う。多分まだ、そんなはっきりしたものじゃないと思うけど。
声だけ聞こえたみたいだった」
(;^ω^)「それで……それでこんなことに?」
ブーンの脳裏に、期待に応えようと一生懸命努力していた つーの姿が思い浮かんだ。
-
人格間での共在意識を持つことは、マインドBにとって重要な意味を持つ。
別々の人間が、バラバラだった意識を繋ぎ合わせ、互いの情報を共有し
2人協力してコントロールできるようになれば、実生活においてかなりの手助けになるのだ。
しぃとの人格交代のルールを覚えて、次のステップへ進むこととなった彼女への課題。
ブーンはつーの為、しぃの為にそのやり方を教え、根気よく練習に付き添って
人一倍頑張り屋の彼女が、なんとかしてその方法を得ようとするのを見守ってきた。
元から何の問題も無く、人格同士お互いコミュニケーションをとれるケースもあれば
一生相手の存在を認知できないで、すれ違ったまま終わるケースもある。
しぃとつーはその後者のタイプだった。
みんなにはできることが自分にはできないと、頑張った分がっかりしていたつー。
諦めた訳では無いが、焦って片づけなければいけない問題でも無いと言って
自分が別のことに取り組んでいる間に、彼女が1人、密かに努力を続けていたのだとしたら?
健気な努力の末に勝ち得たチャンスが
傷つきやすい彼女を逆に追い詰めてしまったのだとしたら。
……それでこんな結果になったのだとしたら、つーが不憫でたまらなかった。
-
ブーンは項垂れた。
教師として、カウンセラーとして、こうなる可能性があることも考慮しておくべきだったのだ。
予測して然るべきだった。ブーンは、自分の考えが足りていなかったことを嘆いた。
自分は、良かれと思い彼女にチャンスを与えようとした。
だが、それは間違った考えだったのか?
(;´ω`)「……僕のせいだお……」
(;´_ゝ`)「先生のせいじゃないよ」
(;´ω`)「僕が……」
兄者と渡辺の目の前で、ブーンの目が内面を覗いているようにぼんやりし声無く唇が動いた。
彼くらい長年マインドBと付き合っている大人になると、人格交代する時でさえ
普段滅多に人前でその様子を出したりはしないのだが、今は動揺しているせいか
心のなかでの会話がブツブツと漏れ聞こえていた。
-
ぐいと、ブーンが身体の位置を変えた。
顔をあげ、2人を見る。その眼には鋭い光が宿っていた。
( ФωФ)「我輩はそれだけが原因とは思わんな」
意味ありげにそう言って、渡辺にもロマネスクだと分かる表情を浮かべる。
( ФωФ)「仮に、つーが急に共在意識に目覚めたとして
そこまで極端な行動に出るとは考えにくい」
从;'ー'从「……」
( ФωФ)「つーはああ見えて賢い子だ。
馬鹿ではあっても、愚かな真似はしない。そうだな?兄者」
兄者は強く頷いた。
-
( ФωФ)「確かつーは、しぃが自分を消したがっていると言って、怖がっていたと言ったな」
( ´_ゝ`)「うん」
( ФωФ)「我輩はそこに疑問を感じるのである」
( ФωФ)「しぃが日頃、つーの存在を恐れていたことは事実である。
だが、常日頃からそれだけ強い感情を、共在意識に目覚めたばかりのつーが
真っ先に受信してしまうような、それ程強い意識を
しぃは果たして、つーに対して常時抱いているものだろうか?」
(;´_ゝ`)「……どうかな。
自分に向けられた嫌な言葉とか、結構優先的に聞こえちゃうし……。
たまたま しぃちゃんも気分が落ち込んでて、そんなこと思ったんじゃ」
( ФωФ)「確かにそうかもしれん。
だが、それにしても偶然が過ぎると思うぞ」
( ФωФ)「しぃのことといい、つーの行動といい、何か違和感を感じるである」
深く腕を組み、宙を睨むロマネスク。
上手くできすぎている。彼はそう言いたいようだった。
-
( ФωФ)「しぃがつーのことを、強く意識することとなった何か。
つーがしぃの声を拾い、追い詰められた行動に出た何か……」
( ФωФ)「”なにか”きっかけがある筈である。思い当たることは無いか?」
(;´_ゝ`)「……」
(;´_ゝ`)「……わかんないよ。授業の後はしぃちゃんに会ってない」
从;'ー'从「あ、あのぅ」
それまで、思い詰めた表情で
2人のやりとりを聞いていた渡辺が、おずおずと口を開いた。
从;'ー'从「授業が終わった後なんですけど、しぃちゃん、用事があるっていって……
……1人でどこかへ行ったんです」
( ФωФ)「用事?」
从;'ー'从「はい。なんの用事かは言ってませんでした……。
それで私、教室で待ってたんです。でも、しぃちゃん帰ってこなくて」
-
( ФωФ)「兄者がつーを見つけたのは何時頃であるか?」
( ´_ゝ`)「えっと、ジョルジュとなおの補習終わった後だから……5時前だと思う」
( ФωФ)「6時限目の授業が終わって、HRが終わったのは3時半頃であるな」
从'ー'从「はい」
( ФωФ)「ということは、その1時間30分程の間
しぃが何処で何をしていたかは分からないということか」
( ´_ゝ`)「その1時間半の間にしぃちゃんに何かあったってこと?」
( ФωФ)「恐らくな。その”用事”というのが気になるである。
誰か事情を知っている者はおらんだろうか」
从'ー'从「えっと……しぃちゃん、いつ終わるかわからないって言ってました。
私、きっと誰か先生にお手伝いでも頼まれたんだと思ったんですけど……」
( ФωФ)「ふむ。どの先生か、心当たりはあるか?」
从'ー'从「うーん。担任の鈴木先生か……
あとは、古典の荒巻先生にも時々、コピーの手伝いとか頼まれてますよ」
-
( ´_ゝ`)「先生はずっと相談室にいたのか?」
( ФωФ)「いいや。あれは確かな……4時頃か?」
( ^ω^)「うん。4時までは職員室で作業していたお」
ブーンが出てきて答える。
心強いロマネスクの存在が影響してか
先程までの落ち込みようから幾分か回復したようだった。
( ´_ゝ`)「それまで、どの先生がいたかいなかったか、分かる?」
( ^ω^)「うーん……職員室は出入りが激しいからね。
非常勤の先生もいるし、放課後は部活動もあるし。
全員は把握できないお」
( ФωФ)「だが、先生のうちの誰かが事情を知っている可能性はあるな」
( ´_ゝ`)「生徒で誰か見てる奴がいるかもしれない」
( ФωФ)「ああ。それも含め、調べていく必要があるであるな……」
-
( ФωФ)「―――だが、いいか?原因を調べる必要はあるが
お前達に犯人探しのような真似はしてほしくないである」
( ^ω^)「だお。とにかく、僕とロマネスクはこの後 しぃの運ばれた病院へ向かうお。
しぃが意識を取り戻したら、何があったか直接聞くことができる」
( ^ω^)「だから今は、早まった行動はしちゃ駄目だお。兄者も渡辺さんも。いいおね?」
(;´_ゝ`) 从'ー';从
念を押され、神妙な面持ちで2人は頷いた。
(;´_ゝ`)「先生。……つー、大丈夫だよな?」
ブーンとロマネスクが一旦話を止めると、恐れを顔に出して兄者が尋ねた。
-
(;´_ゝ`)「あいつ、言ってたんだよ。”消えたくない”って。
目が覚めた時、もしも……」
( ^ω^)「……」
(;´_ゝ`)「……もしかして、つーが、いなくなったり……しないよな?」
从;'ー'从「……」
( ФωФ)(……)
( ^ω^)「……大丈夫だお。兄者。
先生、いつも言ってるお?マインドBだって1人の人間だって。
君達も、つーも。簡単に消えたり、いなくなったりなんてしないお」
( ^ω^)「きっとすぐに意識も戻る。そしたらまた、元気なつーに会えるお。ね」
兄者を励ますブーンの言葉に、微かに不安の色が仄見えていたのは気のせいだろうか。
-
(;´_ゝ`)「……」
( ФωФ)「ほれ、そんな顔をするでない。お前の行動は正しかったぞ兄者。
お前がつーを見つけていなければ、本当に危ない目に遭っていたかもしれん。
よくやった。偉かったな」
( ^ω^)「そうだお。それに、渡辺さんも。
しぃのこと心配して、必死に探してくれたんだおね。ありがとうだお」
从;'-'从「……でも」
从;'-'从「でも……、わ、私のせいで、しぃちゃん、びっくりしちゃって……
それで……それで、こんなことに」
いつも笑顔の渡辺が、泣き出しそうな顔で唇を噛み締めた。
从;'-'从「私が余計なことしたから……!」
( ^ω^)「……それは違うお。渡辺さんは悪くない」
( ^ω^)「悪いのは先生だお。しぃとつーのこと、もっと分かってないといけなかったのに……
こんなことになって、2人を巻き込んでしまって申し訳なく思うお」
-
( ^ω^)「だから2人とも、絶対に自分を責めたりしちゃいけないお」
(;´_ゝ`)「……」
从;'-'从「……」
( ^ω^)「……さ、兄者も渡辺さんも疲れたお?
今日はもう帰って、ゆっくり休むお」
ブーンの言うとおり、2人とも疲れた顔をしていた。
( ФωФ)「後のことは任せておけ」
( ^ω^)「また明日ね。暗いから気をつけて帰るんだおよ」
優しく促され、ブーンとロマネスクにさよならを言って
2人は相談室の扉をくぐり学校を後にした。
-
( ´_ゝ`)
別れ道、トボトボと帰路へつく小さな背中を見送る。
渡辺は、今回のことは自分のせいだと思い落ち込んでいるようだった。
兄者も後悔していた。ブーンはああ言ってくれたものの
つーのすぐ傍にいながら何もできなかった自分が情けなくて、悔しかった。
自分に泣いて助けを求めた、つーの声が、顔が忘れられない。胸が重く感じた。
( ´_ゝ`)「……」
「兄者」
( ´_ゝ`)
不意に、名前を呼ばれた気がして顔をあげる。
兄者は歩きながら、自分の内面に目を向けてその声の主を見た。
いつでもそこには弟者が立っている。
先程の話し合いの最中も、会話に参加してこないだけで
皆と同じようにそこに椅子をひいて座り、耳を傾けている姿が兄者だけには見えていた。
-
今は、まるで肩を並べて歩いているかの如く、すぐ隣に存在を感じるようだった。
探るような顔つきで、弟者が兄者に尋ねる。
(´<_` )「……モララー先生の教室で、しぃちゃんが倒れていたこと、気にならないか?」
意味深な物言いに、兄者は弟者の顔を見返した。といっても、心のなかでだが。
( ´_ゝ`)「……関係無いだろ?」
(´<_` )「ああ。確かに、関係は無いかもしれない。
でも、どうしてあの状況で、しぃちゃんはあの教室へ向かったんだろうな」
( ´_ゝ`)「……モララー先生が、なにか……関わってるっていうのか?弟者」
(´<_` )「そうは言ってない。
だが、兄者と別れた後、何故かあの場所で倒れていたのは事実だ」
-
だったらさっきみんなの前でそのことを言えば良かったじゃないか。
兄者はそう文句を言いかけたが、この慎重な弟が注意深く言葉を選び
何か考えを持ってあえてあの場に現れなかったことも分かっていた。
今になって、こうして自分にだけ耳打ちをするような真似も
今の時点ではあの場で持ち出すべき話ではないと彼が判断し、理解していたからこそ。
それも含め全てわかっている。わかっている、筈なのだが
今の兄者は弟のように冷静に物事を客観視するだけの
心の余裕を持ち合わせてはいなかった。
-
( ´_ゝ`)「……ロマ先生も言ってたろ。犯人探しみたいな真似はするなって」
(´<_` )「そんなつもりは無いよ」
( ´_ゝ`)「弟者は何か心当たりでもあるのか?」
(´<_` )「……いいや。だけど」
_,
( ´_ゝ`)「……」
尚も何か言いたげな弟から顔を逸らし、兄者はせかせかと歩を進めた。
何か考え込んでいるのかむっつりと黙り込んで、不機嫌そうに見える。
(´<_` )「……兄者、今日のことは」
(´<_` )「兄者のせいじゃないよ」
-
ふっと、兄者の姿が消えた。
顔をあげて見てみれば、見慣れた石垣に『流石』の文字。
気づけば弟者は自分の家の前に立っていた。辺りは日が落ちてすっかり暗い。
いつの間にか、もう家に着いたのか。
ここまで歩いてきた筈の兄者は既に隣にはいなかった。何処にも。
家の前に着いても何も言わないまま、ドアを開けて母者の顔を見る前に
帰宅が遅くなったことの説明を弟者に託して、兄者は意識の奥深くの世界へ引っ込んでしまった。
(´<_` ) =3
そんな彼の様子を察して、弟者もこれ以上何か伝えようと努力するのを諦めた。
今の兄者は、他のことに意識を向ける余裕が無いほどに
目の前で病院に運ばれていった つーのことを気にしているようだった。
(´<_` )「……ただいまー」
―――翌日になって登校しても、ブーンは学校に来てはいなかった。
代理のフィレンクトによれば、つーはまだ病院にいると言う。
彼女の意識は戻ったのか、今どんな状態なのかもわからない。
その事が、兄者をますます無口にし、彼の心中を曇らせた。
誰とも口を聞く気にはなれなかった。デレとも、弟者でさえも。
-
+ + + + + + + + + + + +
ミセ*゚ー゚)リ「ねーねー!トソっちー」
(゚、゚トソン「……なんですかミセリ」
机の下からぴょこんと顔を出し、意地悪い猫みたいにニタニタ笑うミセリ。
トソンはそんな親友の顔を怪訝そうに見返した。
自分でも、不貞腐れているのが分かっていた。
ミセ*゚ー゚)リ「へへへー。実はね?ちょーっとしたニュースがあるんだけどね?聞きたい??」
答えはNOだったが、どっちみちミセリが自分の返答など気にしないことは分かっていた。
(゚、゚トソン「つまらない話なら後にしてください。今そんな気分じゃないんです」
ミセ*゚ー゚)リ「まーまー聞いて聞いて!
あのねー?トソっちにはちょっとショッキングなニュースかもしれないんだけどー」
-
ほらね。聞いてない。呆れるトソンの前で、ミセリはへらへらと笑った。
どうやらこの友人は、その”ちょっとしたニュース”とやらを
余程自分に聞かせたくてたまらないらしい。
ミセ*゚ー゚)リ「実はね。ここだけの話……」
口に手をあて、一拍置いて、今の時間空席になっている とある席をチラと見やる。
じろりと睨みつけるトソンの視線を無視して、”ちょっとした”という言葉とは裏腹に
まるで、今世紀最大の重大発表でもするかのように、浅く息を吸い込んでミセリは言った。
ミセ*゚ー゚)リ「……弟者君って、B組の津田さんと付き合ってるんだってー!」
.
-
(゚、゚トソン「……」
ミセ*゚ー゚)リ「だってー……てー……テー……」←セルフエコー
(゚、゚トソン「……」
ミセ*゚ー゚)リ
(゚、゚トソン
ミセ*゚ー゚)リ
(゚、゚トソン「……」
(-、-トソン「……知ってますよ」
短くそう言ってトソンはそっぽを向いた。
-
ミセ*゚ー゚)リ「ありゃ?知ってたの??」
(-、-トソン「……」
予想に反してあまりに味気無いリアクションに、ミセリはきょとんとして首を傾げた。
それ以上何も言わないトソンを前にして、邪魔されないのを良いことに
彼女は楽しそうに話を続ける。
ミセ*゚ー゚)リ「この前の土曜日にね、シベリア駅で
こっそり待ち合わせしてるとこ見たって子がいるんだー。
2人とも私服に着替えて、仲良さそうだったってさ。確かな筋よ!」
(-、-トソン「……」
ミセ*゚ー゚)リ「うんうん。やっぱさー
同じマインドB持ちで、特別教室に通ってる者同士、気が合うんじゃないかな?
ほら、2人とも読書好きで、秀才タイプだし。お似合いだよね!」
わざとやっているのだろうが、やけに嬉しそうな態度に腹が立つ。
トソンは苛々とした溜め息を吐いた。わざわざ教えられなくても分かっている。
-
なにせ先日の放課後、廊下にて
2人で待ち合わせの約束をしているところを
運の悪いことに、ばっちり目撃してしまったのだから。
「じゃ、明日の放課後、公園でな」
「はいはい」
|゚、゚;トソン「……!」
ロッカーの影に身を隠し、弟者にもツンにも、誰にも気づかれないよう
一人その場から走り去り、泣きながら家へと帰った。
あんな光景見たくなかった。信じたくなかった。
その夜はあまりのショックに、家に帰ってからも涙で枕を濡らしたものだ。
-
―――あれから、今日でもう4日経つ。
流石にもう落ち着いて、いつもの冷静な自分を取り戻したとはいえ
廊下で見た仲の良さそうな2人の姿は、日常のなかフと脳裏をよぎっては
ギトギトとした嫌な気持ちを呼び起させ、決して平常心でいさせてはくれないのだった。
ミセ*゚ー゚)リ「それからね!これも噂なんだけど、弟者君たら1年の子とも……」
そんな胸中を知ってか知らずか、今日のミセリはやたらに五月蠅い。
これがもし、見たくない現実を直視してしまった最悪のあの日だったなら
目の前で愉快そうに喋る頭の足りない友人の細い首を
鶏を屠るようにきゅっと絞めているところだったろう。
実際今だってそうしてやりたいくらいだ。この能天気なお喋りミセリめ。
ミセ*゚ー゚)リ「〜〜〜、〜〜〜」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン(……でも)
(-、-トソン(考えてみたら、当たり前ですね)
-
流石弟者はかっこいい。
鼻のすっと通った整った顔をしていて、身長も高いし、真面目だし
それに、少々無愛想ではあるものの、誠実で優しいのだ。
読書が好きでいつも本を読んでいるのも、共通の趣味で好感が持てたし
もしも一緒に好きな本のことなど語り合えたなら、きっと楽しいだろうなと思った。
実際話をしたことなんてほぼ無いし、一方的な片思いでしか無いのだが
そういう話に無頓着でうぶなトソンにとって、人生で初めての初恋の相手だった。
この際、突発的に騒々しい別人になることは置いておいて。
トソンの中で、弟者はまさに理想のタイプであり憧れの存在だったのだ。
-
……だからこそ、自分にとって理想の男性像である彼に
既に恋人がいるという事実を知っても、ああ、やっぱりか。
と、どこかで納得してしまっている自分がいる。
それに、相手はあの津田ツンだというのだから。
地味な容姿の自分と違って、彼女は学年の中でもトップクラスで可愛い。
性格は少しきつめだが、それを差し置いても男子の間で人気があるし、頭も良いので有名だ。
(-、-トソン(……それに)
(-、-トソン(同じようにマインドBを持っていて、同じ特別クラスに通っていて……)
ミセリの言う通り、これ以上無いほどにお似合いでは無いか。
心のなかで、人知れず乾いた笑いが出た。
-
ミセ*゚ー゚)リ「……だからさ、トソっち」
(゚、゚トソン
ズブズブと、泥のような深い思想に1人はまっていくトソンを現実に引き戻し
ミセリはずいと顔を近づけ、強めの口調で言った。
ミセ*゚-゚)リ「―――これできっぱり、諦めなね?」
先程までのふざけた態度を急に止め、やけに強く念を押してくる。
最初に弟者の名前が出た時も、彼女は決して良い顔はしなかった。
彼女は彼女なりに、自分のことを気にかけているということなのだろう。
(゚、゚トソン「……」
ミセリの言いたいことは分かっているつもりだ。
恋は盲目という言葉も知っているし、私だって馬鹿じゃない。
―――だが
(゚、゚トソン(余計なお世話よ)
休憩時間が終わり、席を離れていく親友の背を見つめながら
心のなかで舌打ちをした。
-
すいません、少し席外します
-
うおおおおきてる!しえん
-
待ってた!支援
-
やたー!!きてたー!!
-
キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
-
やっべぇ普通に大文字の送り火忘れてたわ
ちょっと見て来ました。今年も相変わらず「K」にしか見えませんでした。
再開します
-
(-、-;トソン「はあぁぁ〜」
体操着姿でのろのろと階段を登りながら、トソンは盛大に溜め息を吐いた。
今は3時間目。体育の時間で、皆別館へと移動しているのだが
何故彼女1人だけが本館に戻り、のろのろと教室を目指しているのかというと
トソンは今日、自分が鍵締め当番だったことをすっかり忘れてしまっていたのだった。
普段は絶対にこんなミスしないのに。
体育館に移動し授業がはじまって、しばらくしてからやっと
誰1人として教室の鍵を閉めていないという衝撃の事実に気づいたのだった。
おかげで本館までの長い渡り廊下を逆戻りし
1人鍵を閉めに来なければいけない破目になった。
この時間はA組、B組ともに体育で、A組は南館、B組はグラウンドで授業が行われている。
その為2年生の教室が並んでいる廊下は、C組とD組の教室から先生の声が聞こえる以外
比較的静かなものだった。
-
(-、-;トソン「なにやってんだろもう、超ダサ……」
まったくもう。先程の休憩時間にした、ミセリとの会話を思い出す。
彼女が急にあんな話をするものだから、あれからそのことばかり考えていて
鍵のことなどすっかり忘れ、ぼーっとしたまま教室を出てしまったのだ。
自分が間抜けだったことは重々承知の上だが
こうもツいていないことが続くと、ついつい他人のせいにもしたくなるというものだ。
階段を登りきる頃には、疲労に心労も相まって どっと歳をとったように感じた。
誰もいない、静まり返った廊下を1人歩く自分は傍から見ればさぞ情けない姿に違いない。
-
(-、-;トソン「さっさと締めてさっさと戻ろう……」
(゚、゚トソン「……ん?」
その時ふと、トソンは足を止めた。
自分達の教室の前に、誰か立っているのに気づいたからだ。
さらに……よくよく見てみれば
遠目に見えるその人物には見覚えがあった。
(゚、゚トソン「あ」
(゚、゚;トソン「あれって……」
-
―――10分程前―――
ζ(゚ー゚*ζ「……あれ」
階段を降りている途中、デレははたと立ち止まった。
ζ(゚ー゚*ζ「あれ?」
段差に立って視線をめぐらし、上を見て、下を見た。
もう一度ゆっくりと、同じように辺りを見まわす。何度見ても、どう見ても階段だ。
それは分かる。分かるのだが。でも、どうして自分は階段を降りているのだろうか……。
-
デレはぼんやりと記憶を辿った。今はツンの時間の筈だ。
だって、ついさっき特別クラスで交代したばかりだもの。それは覚えている。
いつもより時間がかかってしまったので、ツンは次の授業に遅れると言って焦っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「………」
ツンはどこにいるのだろうと思い、探してみる。が、彼女はどこにもいなかった。
名前を呼んでも、いつもみたいに返事してくれない。
いつもなら、困った時はすぐ助けてくれるのに。
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚;ζ
どうしよう。
迷子になってしまったのだと理解して、途端に心細さがデレを襲った。
-
迷子になった時は、できるだけその場を動かないで
ツンが出てくるまで待つように言われている。それが一番安全だからと。
だが、早くなんとかしないとツンは次の授業に遅れてしまう。
自分のせいで彼女に迷惑はかけたくなかった。早く2年生の教室へ行かないと。
とはいえ―――デレは今、自分が一体どの校舎の、何階の階段にいるのかも分からなかった。
ζ(゚ー゚;ζ
おちつけ、おちつけ。パニックを抑え、自分に言い聞かせる。
……ツンは当然、次の授業の為に自分の教室に向かっていた筈だ。
どうして途中でいなくなってしまったのか、それはわからないが、とにかく
ツンがこの階段を降りていたのだから、このまま降りるのが正解だと思われた。
降りた先が全然見当違いな場所だったらどうしよう。
先生に見つかって、サボってると思われて怒られたらどうしよう。
不安を抱えながらも、デレは前へと進むことにした。
-
ζ(゚ー゚*ζ「!2年……D組」
階段を降りた先で、最初に目についた教室の札を読み上げ
デレはほっと胸を撫でおろした。どうやらここが2年生の階で正解のようだ。
辺りは静かで、誰の姿も見えない。
授業はもう始まっているようだ。急がないと。
ζ(゚ー゚*ζ「えっと……ツンちゃんは、2年B組だよね」
アルファベットは既に学習済みだ。順番も覚えている。
ここがD組で、確か、ツンの学年のクラスはDまでしか無い筈だから
D、C、B、Aと辿っていけば良い。デレは頭の賢い子だった。
D組の教室を通りすぎ、次に、隣の教室にC組の札を見つけた。
長い廊下を歩きながら、教室では無さそうな鍵のかかったドアは幾つか無視して
2年B組の文字を探し、きょろきょろと辺りを見渡す。
後ろを振り向くと、廊下を挟んで向い側に教室が2つ並んでいた。
デレは小走りに近寄り、ガラス窓をそっと覗きこんだ。
-
ζ(゚ー゚*ζ「……あれ」
窓からは、机と椅子が沢山並んでいるのが見える。
生徒の物であろう、脱いだ制服や鞄や教科書が机の上に置かれていた。
だが、電気は消えていて薄暗く、生徒は1人もいないようだった。
頭上の札を確認してみると、2年B組と書かれている。
目指していたツンの教室だ。だが、何故誰もいないんだろう?
隣に並んだ教室へと駆け寄り、同じようにガラス窓に顔を近づける。
こちらも誰もいない。隣り合った教室は同じようにしぃんとしている。
試しに扉に手をかけてみると、ガラガラと音をたててあっけなく開いた。
とはいえ、誰もいないのでは中に入っても仕方が無い。
A組、B組の教室を前にしてデレは途方に暮れた。
-
ζ(゚ー゚;ζ「どうしよう……」
もう放課後のわけは無いし
きっとB組のみんなは他の場所で授業を受けているんだ。
そうあたりをつけるも、デレはツンの時間割など把握していなかった。
道がわからなくなったら、誰かに聞いて教えてもらいなさい。
優しいパパの言葉を思い出す。
何の授業で、何処にいるのか、誰かに聞けばわかるかもしれない。
だが、辺りを見渡しても誰もいないし、だからと言って
中で授業をしている最中のC組、D組の教室に入るのは流石に躊躇われた。
扉を引いた途端一斉にこちらへ向けられるであろう、40人あまりの視線を想像してぞっとする。
-
ζ(゚ー゚;ζ「……」
デレは考えた。
3階の特別クラスに戻って、モララーに助けてもらおうか。
でも、マインドBクラスでの授業が終わってから時間が経ってしまっているから
戻ってももう誰もいないかもしれない……。それに、今日はブーンも、ロマネスクもいない。
ζ(゚ぺ;ζ
先生もいないし、つーもいないし、その上ツンちゃんまでいなくなってしまった。
兄者は何も教えてくれないし、シャキンもぴりぴりしているし、みんな怒っているみたいで怖い。
どうしてかはわからないが、今日はなんだか嫌なことばかり起きる。
不意に泣きそうになって、デレはぎゅっと涙をこらえた。
パパのところに帰りたい。
-
支援支援
-
涙が出そうになったので、慌てて目元を擦り
どうしようか考えて、しばらく「2年B組」の文字を見つめた。
これからどうしたらいいのかわからない。誰でも良いから、誰かに助けてほしかった。
他に行く当ても無くて、A組とB組の教室前を行ったり来たりする。
ζ(゚ー゚;ζ(どうしよう、どうしよう……)
良い考えが浮かばない。早くしないと、ツンが……
ζ(゚ー゚*ζ「……あ!」
―――その時、不意に
遠くからこちらへ歩いてくる誰かの人影に気づいて、デレは声をあげた。
-
その誰かは、ツンと同じくらいの歳の女の子だった。
制服ではなく体操服を着ている。
デレはすぐに、その女学生が履いている上履きのつま先のカラーが緑色なことに気づいた。
この学校で生徒が履いている上履きは、学年ごとにカラーが分かれている。
確か、1年生は赤、2年生は緑、3年生は紺色。
―――2年生は緑!
すると、こちらに歩いてくるあの女の子は2年生の筈だ。
A組かB組、どちらかの生徒かもしれない。
デレは顔を輝かせ、B組のみんなが何処へ行ったか聞こうと思い
ツンと同じ年の筈の、自分からしたら年上のお姉さんの元へ駆け寄った。
向こうも気づいたようだ。目を丸くしてこちらを見ている。
-
(゚、゚;トソン
なんということだろう。今一番会いたくない相手に出くわしてしまった。
2年B組、津田ツン。無意識に、4日前の嫌な記憶が蘇る。
(゚、゚;トソン(なんで??)
今の時間、B組はグラウンドで体育の授業を受けている筈だ。
それが何故制服姿のままこんなところにいるのか。サボり?
ζ(^ー^*ζ
(゚、゚;トソン
いや、しかもなんでそんな嬉しそうな顔して小走りでこっち来んのよ。
トソンはツンとは直接の面識は無い。
クラスが同じになったことも無ければ、話したことさえ無い筈だ。
それなのに、彼女が笑顔でこちらへ駆け寄ってくる理由とは??
他に思い当たる節も無くて、トソンは嫌な予感がした。
-
(゚、゚;トソン(ま、まさか……)
(゚、゚;トソン(……私の弟者君に色目使ってんじゃ……
……とかなんとか言われるんじゃ!?)
混乱して、あまりに突飛しすぎた考えに突っ走るトソン。そんな筋合いは無い。
たじろぎ、思わず後ずさるも、恋敵・津田ツンはもうトソンの目の前まで来ていた。
愛想の良い笑顔が怖い。一体……
ζ(゚ー゚*ζ ズイッ
(゚、゚;トソン「あ……」
ζ(゚ー゚*ζ
(゚、゚;トソン
ζ(^ー^*ζ「こんにちは!」
(゚、゚;トソン「、へ?」
―――やけに元気いっぱいの気持ち良い挨拶をされ、トソンは拍子抜けした。
-
ζ(゚ー゚;ζ「あっあっ、授業中だから静かにしなくちゃだね……」
目を丸くしてぽかんとするトソンの前で
慌てて、シィッと口元に指を当て目線をきょろきょろさせる津田ツン。
それから、歯を見せて へへとはにかんだ。
(゚、゚;トソン
―――なんだ、これ。
目の前の彼女は、トソンの知っているツンのイメージでは無かった。
知り合いでは無いが、彼女はなんていうか、もっとハキハキした性格だった筈だ。
勝手な印象だが、生徒会長とかやってそうな……そんな感じの。
男子に注意する時なんかも、結構きつい言い方してた気がする。
-
ζ(^ー^*ζ「えへへ……あらためまして、こんにちはっ」
秀才お嬢様(?)キャラってこんな癒し系天然要素も兼ね揃えてるものなの?
それともこれは演技なのだろうか。
自分を油断させる為か……もしくはぶりっこというやつか。
(゚、゚;トソン「……」
それにしても
ζ(゚ー゚*ζ
(゚、゚;トソン(くそう、やっぱり近くで見ると本当に可愛いな……)
自分より背が低く、小柄で、女の子として理想の背丈。
大きな瞳に長い睫毛、白い肌に、綺麗な金色の髪。
まるで西洋のお人形さんみたいだ。地味で目立たない自分とは大違い。
-
世の中これくらい容姿が愛らしければ
多少のぶりっこは許されてしまうものなのかもしれない。
しかもその見た目に加えて、意外な二面性を持っていることも今明らかになった。
普段つんけんしているのが嘘みたいなこのぽわぽわぶり。どっちが演技かは知らないが。
男の人ってこういうの好きそうだもんなぁ。ギャップ萌えとか言ったっけ?
この容姿と性格で、彼のことも好きにさせたのだろうか……
そこまで考えて、トソンははっとした。―――心がざわつく。
心臓の中で大量の虫がぞわぞわ蠢いているような、すごく嫌な感じがした。
胸がむかむかする。
―――こんな子嫌いよ。大っ嫌い。
-
(゚、゚トソン、「な……なんですか」
ζ(゚ー゚*ζ「あ!あのねあのね、ちょっと聞きたいことがあって」
(゚、゚;トソン「はぁ……」
そんなトソンの胸中も知らず、津田ツンはにこにこと質問を投げかけてくる。
(゚、゚;トソン(調子狂うなぁ)
ζ(゚ー゚*ζ「えっと……おねーさんって、高校2年生?」
(゚、゚トソン「?そうですけど?」
“お姉さん”という物言いが少しひっかかったが、つっこまない事にした。
例え面識が無くとも、上履きのカラーを見れば同じ2年生だと分かるだろうに。
彼女なりの冗談か何かのつもりなのだろうか。トソンは少し苛立ちを覚えながら答えた。
-
ζ(゚ー゚*ζ「そっか!よかったぁ。
あ……あたしも!高校2年生、なんだけどねっ。
2年B組なんだけど……。その、教室にもどって来たのに、誰もいなくって」
(゚、゚トソン「それは……そうですよ。今は、A組もB組も体育の時間ですから」
ζ(゚ー゚*ζ「!そうなんだ!えっと、B組は今、どこで体育の授業をしてるの?」
(゚、゚トソン「?わからないんですか?」
ζ(゚ー゚;ζ「あ、あの、その……忘れちゃったの」
もじもじと俯き、目線を泳がせるツン。本当に困っているようだ。
(゚、゚トソン「いつもと同じ場所ですよ」
ζ(゚ー゚;ζ「……ど、どこだった……かなぁ?」
(゚、゚トソン
-
頭の回転が早いトソンは徐々に勘付いてきた。
明らかに、目の前の彼女はさっきから、様子も言動もおかしい。
いつものハキハキしたツンとは違う、あどけない喋り方。
子供のようなトーンの高い声に、口調、それに幼い仕草。
改めて見てみても、演技やぶりっこしているようには思えない。
まるで本当に、5,6歳くらいの幼い女の子を相手しているようだ。
幼い女の子……。
トソンはハッとした。
-
(同じようにマインドBを持っていて、同じ特別クラスに通っていて……)
そうだ。ツンは特別クラスに通っている。
彼女のマインドBがどんな人物なのかは聞いたことが無いが、きっと性格も記憶も違う筈だ。
本人とマインドBとで性格が異なることは、いつも弟者を見ていたので知っていた。
ζ(゚ー゚*ζ
もしかして―――目の前のこの子は、ツンではなくて
(゚、゚トソン(……津田ツンのマインドB……!?)
-
ζ(゚ー゚;ζ「おねーさん?」
(゚、゚トソン
……もしこの子が本当にツンのマインドBで、うんと小さい女の子だったなら。
さっきから自分のことを”お姉さん”と呼ぶのにも頷けた。
時間割のことや、体育の授業の場所がわからないのも納得できる。
トソンは確信した。
(゚、゚トソン「……」
―――この子は津田ツンじゃない。別の”誰か”なんだ―――
.
-
ζ(゚ー゚;ζ「そ、それでね!早くしないとツンちゃんが……、じゃないや
あの、あたし、授業におくれちゃうの。だから、場所を教えてほしいんだ」
ζ(゚ー゚;ζ「け、ど……」
(゚、゚トソン「……」
ζ(゚ー゚;ζ「?」
急に黙ってしまったトソンに疑問を抱き、顔を覗きこむデレ。
ζ(゚ー゚;ζ
……どうしよう、もしかしたらこのお姉さんも迷子なのかもしれない。
自分と同じように、行くべき場所がわからないのだろうか。それで、困っているのだろうか。
迷子が2人。どうしたらいいんだろう。
なんで、何も言ってくれないんだろう……。
やっと希望の光が見えたと思ったのに、またもデレの心は不安でいっぱいになった。
一度我慢した涙が目尻に熱を持たせ、堪らず泣いてしまいそうになる。
-
ζ(゚-゚;ζ「……おねーさ……」
心細さに耐えきれず、もう一度声をかけようとしたその時。
トソンは顔をあげ、心配そうに自分を見つめるデレに視線を合わせた。
ζ(゚-゚;ζ
(゚、゚トソン「……ええ、わかりました」
(^、^トソン「私が連れて行ってあげますよ」
僅かに潤んだ金色の瞳をまっすぐに見つめて
トソンは愛想良く ニコリと微笑んだ。
-
16話投下以上です。支援等ありがとうございました!
次回の投下予定日は未定です。
なるべくさくっと書きあげて早めにあげれたらいいなぁ……
今年の百物語ももう終わってしまいますね。
やはり大好きなイベントです。来年も楽しみ!
-
乙!
-
きてた!!乙
-
不穏だな...
乙!
-
最後のトソンの笑顔不穏すぎるんだが!?
つーもデレちゃんも心配だ……乙乙!
-
不安要素が多くてドキドキするな
面白かった!乙!
-
乙です!しぃとつーも最後のトソンもどうなるんだろう……
色々な問題が渦巻いてきて続きがめちゃくちゃ気になる!
-
乙
トソンは普通にいい子でしたコースであってほしいけど
不穏な方向に転がるコースもそれはそれで見たいような
-
トソンが道を踏み外さないことを祈る
-
弟者は何か勘付いたのかな?
てか勘違いやでトソン…
-
(゚、゚トソン「ところでツンさん。こんな話を知っていますか?」
ζ(゚ー゚*ζ「!」
不意に呼びかけられて、デレはぱっと顔をあげた。
前を行くトソンは相変わらずこちらの顔を見ようともせず、スタスタと歩を進めていく。
「私が連れて行ってあげますよ」
そう、体育の授業が行われている体育館まで案内してもらう約束をして
あれから2人で本館を出た後、学校の敷地内を歩いている間もずっと
何か考え込んでいるのか固く表情を結び、黙りを決め込んでいたトソン。
こちらからあまり余計なことを喋って、高校生では無いとバレてしまっては困るし
とはいえずっと黙ったままなのも気まずくて、どうしたらいいか困っていたところ
しばらくぶりに彼女の方から口を利いてくれたので、デレは嬉しかった。
-
ζ(゚ー゚*ζ「どんな話?」
(゚、゚トソン「……この学校の裏庭に、戦前からの建物で
今もなお取り壊されていない古い体育館がありますよね?」
ζ(゚ー゚*ζ「……?そうなの?」
(゚、゚トソン「ええ。この学校が設立された時からある建物で
終戦後、他の校舎が次々新しいものに建て替えられていく中
今も現存しているのはあの体育館だけなんだそうですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「……そうなんだ!すごいね」
デレには、トソンが何故今急にそんな話を持ち出したのかは分からなかったし
『戦前から』という言葉がどれくらい前のことを指しているのかもいまいちピンとこなかったが
とにかく、その体育館とやらがすごーく古いということだけは分かった。
-
(゚、゚トソン「どうして今もその体育館だけが取り壊されず
ひっそりと残されているのか、その理由はご存知ですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「へ?……もったいないから?」
(゚、゚トソン「違います。実は、ある噂があるからなんですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「どんな?」
(゚、゚トソン「それはですね……」
そこでふと言葉を区切り一拍置くと、トソンは立ち止まってデレの方へと振り向いた。
同じく足を止めたデレに向け、彼女なりに精一杯怖い顔を作り声を落として言う。
-
(゚皿゚トソン「……出るんですよ……」
ζ(゚ー゚*ζ「……?なにが?」
(゚皿゚トソン「幽霊が、です」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
(゚皿゚トソン
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚o゚*ζ
ぽかん。
デレはトソンの顔を見た。
-
ζ(゚o゚*ζ「おばけさんが??」
(゚、゚トソン「オバケさんなんて可愛いものじゃないですよ」
(゚、゚トソン「噂によるとあの体育館、
戦争中は地元民の避難場所として指定されていたそうなんです」
ζ(゚o゚*ζ「?」
(゚、゚トソン「けれどある日、爆撃された際に火が燃え移って
あの場所で人が何人も焼け死んだそうですよ」
ζ(゚o゚*ζ「?火事があったの?」
(゚、゚トソン「ええ。その証拠に
中にはあちこち燃えた痕があり、床も天井も焼け焦げてボロボロで
扉の内側には、閉じ込められ火と煙に追い詰められた人々が
もがき苦しみながら滅茶苦茶に引っ掻いた、爪の痕が生々しく残されているとか……」
ζ(゚o゚;ζ「……そうなんだ……。閉じ込められちゃったの?かわいそうだね」
-
気分はどこぞの淳二とばかり、おどろおどろしい雰囲気を醸し出し話を続けるトソン。
(゚、゚トソン「ですから、あの場所には今も亡くなった人達の霊が閉じ込められていて
誰もいない筈の体育館から時折、中から助けを求める苦しそうな呻き声や
女の人の泣き声や、大勢の人の逃げ惑う音が聞こえてくるんです、って……」
ζ(゚o゚;ζ「えぇっ、すごい!不思議だね」
(゚、゚トソン「……ゾッとしませんか?そんな声が聞こえてきたら」
ζ(゚ー゚;ζ「うーん……もう燃えてないよって、教えてあげたらいいんじゃないかな?」
(゚、゚;トソン「いや、相手は幽霊ですよ。話が通じる筈ないでしょう」
ζ(゚ー゚;ζ「そうなの?おばけ語とかあるの?」
(゚、゚;トソン「ねーよ!!あっ、いや、多分……」
思わずキャラを忘れかけ、咳払いで誤魔化すトソン。
-
(゚、゚;トソン(……なんだかなぁ)
トソンは肩透かしを食らったような気分だった。
いまいち期待していた反応と違う。
朗読はするのも聞くのも好きだし、語りには一応の自信があった。
だが、あれだけ気合を込めて迫真の怖い話を聞かせたというのに
目の前の少女は全然怖がっている風には見えない。
話にはノッてきているが、なんというか、食いつくポイントがややズレているような。
_, 、_
(-、-;トソン「……うーん……」
ζ(゚ー゚*ζ「?」
小さい子には少し難しい話だったかもしれない。
それとも、元々この手の話には耐性があるのだろうか?
-
(゚、゚;トソン「と……とにかくそれで!
取り壊すと祟られるとか、学校に災いが及ぶとかで
誰も使用しないにも関わらず、今も残っているって噂ですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ!おねーさん物知りだね!」
(゚、゚;トソン「この学校では有名な話ですよ……。あ」
渡り廊下の東側に面したグラウンドに居る生徒達に見られないよう
広い学校の背面をグルッと回り、青い狗尾草がボウボウに生えた裏道を通り抜けた先で
トソンは立ち止まり、その巨大な建物を見上げた。隣に立つデレもそれに倣う。
ζ(゚ー゚*ζ「?」
(゚、゚トソン「……そ、それで!これがその」
若干芝居がかった動きで、おもむろに手をそちらへ向けるトソン。
(゚、゚トソン「……幽霊が出るっていう、噂の古い体育館なんですが……」
-
―――2人の目の前には、いかにも年季の入った丸屋根の建物が聳え立っていた。
辺りはひっそりと静まり返り、人がいた形跡も、誰かがいる気配も無い。
周囲は雑草が茂り、薄汚れた壁は所々罅割れて、割れている窓も幾つか見える。
まだ日の高い昼前にも関わらず、その建物全体からは
いかにも何か出そうな薄気味悪い雰囲気が醸し出されていた。
ζ(゚o゚*ζ「うわぁ」
(゚、゚トソン「ほら、なんだか怖いでしょ?」
ζ(゚o゚*ζ「ほんとだ。古いねー」
体育館を見上げ、しげしげと眺めるデレ。
VIP高にこんな建物があるなんて知らなかった。帰ったらパパにも教えてあげよう。
-
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「……えっと」
(゚、゚トソン「それでですね……」
数秒の間を置いて、トソンはぼそりと言った。
(゚、゚トソン「―――2年B組は、今日はここで体育です」
ζ(゚ー゚*ζ「え?」
-
びっくりして、デレは隣に立つトソンの顔を見た。
ζ(゚ー゚;ζ「え、だって、今は誰も使ってないんじゃ」
(゚、゚;トソン「きょ、今日は特別ですよ。
せっかくの体育館ですし、使わないと勿体無いですからね!」
ζ(゚ー゚;ζ「でも火事でボロボロって……」
(゚、゚;トソン「大丈夫ですよ。最近修復したんですよ……多分」
喋りながら、トソンは自分でも無理があるなと思った。
先程の話と矛盾しまくっているし、口を開く度にボロが出ていく感覚がする。
もちろん今も中に人のいるような気配や音などしないし
建物と周りの状態を見れば、もうずっと誰も使用していないのは明らかだ。
ここで今も授業が行われているだなんて、いくら小さい子でもおかしいと気づく。
再度体育館を見上げ目を丸くするデレから、トソンはそそくさと距離を置いた。
-
―――別に、元々大した考えがある訳では無かった。
ただ、弟者とツンとのことでひどく傷つけられた仕返しに
ちょっとした意地悪をして、怖がらせてやろうと思っただけなのだ。
この子が津田ツンじゃないのならば
後に学校で彼女と顔を会わせても、自分の仕業だとバレる心配は無いし。
なにより、憎き恋敵と同じ顔をして、何も知らないこの子供は
トソンにとって、個人的な仕返しをするのに丁度都合の良い相手だった。
ただそれだけだ。
そこで偶然フと思い浮かんだのが、この古い体育館にまつわる例の怪談話。
小さい子なら、幽霊の話もころっと信じて簡単に怖がらせることができると思った。
……のだが。
ζ(゚ー゚*ζ
(゚、゚;トソン
でも今、話を聞かせても目の前の女の子は平然とした顔をしているし
さっきまで雰囲気たっぷりにつまらない噂話を真剣に語り、嘘を吐いて
それを必死に誤魔化そうとしている自分が、トソンはなんだか馬鹿らしく思えてきた。
-
(-、-;トソン「……じゃ、じゃあ。
A組は別のところで体育なので……私はこれで」
それによくよく考えてみれば、呑気にこんなことをしている場合ではない。
早く授業に戻らなければ流石にそろそろ怪しまれるだろう。
強面の体育教師に睨まれるのは御免だった。
授業時間中に油を売って、こんなことをしている今の状況が急激に恥ずかしくなってきて
誰かに見つかる前に、トソンはさっさとこの場を離れることにした。
……まぁ、少なくともこれで津田ツンは次の授業に大幅に遅れることになったのだし。
彼女へのちょっとした報復としてはもうそれで充分だ。
これ以上厄介なことになる前に、こんな所に長居は無用と トソンは踵を返した。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、うん!教えてくれてありがとう、おねーさん!」
(゚、゚;トソン「どういたしまして」
ζ(^ー^*ζノシ「じゃあ、またね!バイバーイ!」
(゚、゚;トソン「……」
トソンの姿が見えなくなるまで、デレはずっと手を振っていた。
-
―――1人その場に残されたデレは、再び体育館を見上げた。
だが扉にはもちろん鍵が掛かっているので中に入ることは出来ない。
元来た道を引き返すしか無いのだが、この裏庭には他に人がいる建物も無いし
それに、わざと分かり難いルートを通って来たから、あの子は当分迷うことになるだろう。
(゚、゚トソン「……」
卑怯なやり方だと自覚してはいるが、自分にはこんなつまらない逆襲が似合っている。
そう納得し、しばらくデレが入り口を探してウロウロするのを
トソンはこっそり茂みに隠れ遠くから見届けるつもりでいた。
-
ヽζ(゚ー゚*ζ
そうとは知らないデレが扉に手をかける。
そしてすぐに、封鎖されていることに気づいて困惑の表情を浮かべる
―――筈だった。
ヽζ(゚ー゚*ζ ギィッ
Σ(゚、゚;トソン(え!?)
少し押されただけの扉は、錆びた金具を軋ませながら簡単に開いてしまった。
(゚、゚;トソン(っな……)
(゚、゚;トソン(なんで開いてんの??)
-
実は、扉に備え付けられた錠は錆びて脆くなっており
以前に生徒の誰かが肝試しに訪れた際、こっそり壊していたのだった。
何も知らないデレが中へと足を踏み入れる。
少しだけ開かれた扉。暗闇に物怖じもせず、歩を進めていく少女の後姿。
混乱したまま、その光景を目で追うトソン。
そしてその時、フと―――
――――鍵の他に、扉に備え付けられた古い閂が目に入った。
錆びているが、見たところ壊れてはいないように見える。
(゚、゚;トソン
トソンは何故か、そこから目が離せなくなった。
-
暗い。
ζ(゚ー゚;ζ「……誰もいない……」
デレは扉を開けて体育館の中へ入り、埃の積もる床にトンと足をつけた。
が、当然そこで体育の授業など行われている訳は無い。しんと静まり返っている。
トソンの話では、中は焼け痕で半壊しているということだったが
天井や床には所々小さな穴が空いているものの、見渡す限り特に酷く損傷している箇所も無く
埃が積もり蜘蛛の巣が張り巡らされている以外は、思いの他綺麗な状態が保たれていた。
窓から差しこむ光で細かな埃が漂っているのが見える。
デレは目の前のステップを降りようと段差に足を踏み出した。
-
ζ(゚ー゚;ζ「うーん……」
ζ(゚ー゚;ζ「おねーさん、間違えちゃったのかな」
首を傾げ、独り呟きながら階段を降りようとした、その時
ギ……ガシャンッ
後ろから、唸るような重い金属音が響いた。
はっとしてデレは振り向く。
ζ(゚ー゚;ζ「え?」
少しだけ開けておいた筈の扉が、閉ざされていた。
-
デレは驚き、振り向いた姿勢のまま数秒扉を見つめていたが
じきに視線を前へ戻すと、足を一歩踏み出して段差を降りた。
トントントン。早く降りて、次の授業に向かわないと。
次の授業……
ξ;゚⊿゚)ξ「遅れちゃ……」
ξ;゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「へっ?」
“ツン”は、階段を降りて教室のある2階の廊下へと到着したつもりが
やけに広く、薄暗い空間が目の前に広がっていたので驚いた。
-
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「どこ此処」
ぽつり、素直な感想を呟く。
この場所に見覚えは無かったし
どうして自分がこんな場所にいるのかも、皆目見当がつかなかった。
自分は夢でも見ているのだろうか。呆然として辺りを見渡す。
確か、体育が行われているグラウンドに向かっていた筈なのに。
暗く、吹き溜まった薄寒い空気が体を通りすぎる。
所々穴の空いた床や天井。埃っぽくて少し黴臭い。
一歩踏み出すと、板張りの床がギィと軋んだ。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……??」
どうにも上手く回らない頭を働かせ、ツンは考える。
何もかもわからないことだらけだが、まず此処は何処なのか
ぐるりと辺りを見渡して思考を巡らせた。
―――遥か頭上にある天井に、柱の無い広い空間。
向こう端の、そこだけ高くなっているところはステージだろうか。
木材でできた床によく目を凝らすと、ほとんど擦れてはいるものの
微かにコートラインらしき線が引かれているのも見えた。
その他、ガランとしてほとんど何も置かれてはいないが、この建物はまるで
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ「体育館?」
-
でも、こんな古そうな体育館が新築の南館内にある筈は無いし
校門近くの第一体育館でも無い。ここの学校施設は大体が比較的新しくて綺麗なものだ。
―――だが、此処がVIP高校の体育館だとすれば、あと一つ……
あと一つ。ツンには思い当たる節があった。
ξ゚⊿゚)ξ「……え゙」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「まさか」
全身の動きが止まる。
ξ゚⊿゚)ξ「……こ……ここって……」
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ
ξ|li゚⊿゚)ξ サーッ
-
ミセ*゚ー゚)リ「ねぇねぇなお君!ちょっといいかな?」
2年A組の授業が行われている南館三階。
体育館隅の一角にて、ミセリはこそこそと同チームのなおるよを手招きした。
('(゚∀゚*∩「!!な、なんだよミセリちゃん!?」
名簿順で振り分けられ、コート外の壁沿いにて自分達の順番を待つ暇な時間。
別グループ同士のバレー試合が終わるのを熱心に観戦しながら待っていたなおるよは
今回たまたま同じグループとなったミセリからの、予想外のお声掛けにドキリとして飛びあがった。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、声抑えて抑えて!内緒の話だから」ヒソヒソ
きょろきょろと周囲に視線を巡らし、口に手を当て声を潜めるミセリ。
('(゚∀゚*∩「な、内緒!?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。あのね、ちょっと聞きたいことがあるんだけどね……」
そう言ってミセリは、意味深なワードに一層胸を高鳴らすなおるよの目を覗きこんだ。
('(゚∀゚*∩(ミセリちゃん可愛いよ……)
-
ミセ*゚ー゚)リ「なお君ってさ、弟者君と仲良いじゃん?」
('(゚∀゚*∩「!だよ!」
ミセ*゚ー゚)リ「弟者君のこと色々知ってるよね?」
('(゚∀゚*∩「うん!」
ミセ*゚ー゚)リ「それでね、ズバリ聞きたいんだけど……」
ちらと、今はジョルジュと共にコートに出て試合中の弟者の姿を見やる。
ミセ*゚ー゚)リ「……弟者君が、B組の津田さんと付き合ってるってほんと?」
('(゚∀゚∩「……えっ!弟者が、つ……津田さんと??」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。2人がシベリア駅で一緒にいるとこ見たって友達が言っててね」
ミセ*゚ー゚)リ「本当なのかなー?って」
なおるよは、ミセリから突拍子も無く予想外の質問をされ
なんのことか分からない様子で、しばらく頭に疑問符を浮かべていた。
が、やがて閃いたように「あ!」と大きな声をあげた。
どうやら声を控えめにひそひそ話を続けることは彼には難しいらしい。
-
トソン……もうだめだな
-
('(゚∀゚∩「あー!違うよ!
多分それ、妹者ちゃんと公園に遊びに行くところだったんだよ!」
ミセ*゚ー゚)リ「え、妹者ちゃん?って、えーと……弟者君の妹だっけ?小学生の」
('(゚∀゚∩「そうそう!津田さんと妹者ちゃんは仲良しで、よく一緒に公園で遊んでるんだよ!」
ミセ;゚ー゚)リ「えっ、津田さんが??その、ちっちゃい子と一緒に公園で遊ぶの?」
('(゚∀゚∩「そうだよ!弟者はその付き添いだよ!」
ミセ;゚ー゚)リ「へ、へー。意外。津田さんって結構子供好きなんだ……」
('(゚∀゚∩「うん!そ……、あ」
('(゚∀゚∩
ミセ*゚ー゚)リ「?」
-
('(゚∀゚∩
('(゚∀゚|li∩(これ、人に言っちゃいけない話だったよ!!!)
自分はなんて口の軽いお調子者の馬鹿なんだと後悔したが、時既に遅し。
彼は弟者から、ツンのマインドBであるデレが妹者と仲が良くて
週に一度シベリア駅近くの公園に出かけ遊んでいることは聞かされていたが
ツンが、自分が公園で遊んでいることを人に知られるのを嫌がる為
固く口止めされていたことを思い出した。
言ってしまったことが知れたら、ツンからも弟者からも怒られる。
いやそれ以前に、軽々しく約束を破るなんて男として最低だ。なおるよは青褪めた。
-
('(゚∀゚|li∩「……」
ミセ*゚ー゚)リ「なお君?」
('(゚∀゚;∩「ひゃっ、ひゃい」
ミセ*゚ー゚)リ「あれ……もしかして今の、秘密の話だった?」
('(゚〜゚;∩「う、うん……だよ」
ミセ*゚ー゚)リ「あー、そうなんだ」
('(´〜`;∩「……僕、約束破っちゃったよ……」
ミセ*^ー^)リ「大丈夫大丈夫、、内緒の話だから」
('(゚〜゚;∩「ミ……ミセリちゃん、誰にも言わないでくれるかよ?」
ミセ*゚ー゚)リ「うん!私言わないよ」
('(゚〜゚;∩「ほんとに?」
ミセ*゚ー゚)リ「ぜーったい言わない!約束」
('(゚∀゚∩
('(゚∀゚*∩ パアァ
ミセ*゚ー゚)リ(まぁ、どっちにしろトソっちに教えるつもりは無いしね)
-
Σ('(゚∀゚;∩ ハッ
('(゚∀゚;∩「で……ででもなんでミセリちゃん、急にそんなこと聞くんだよ?
も、もしかして!もしかしてミセリちゃん、弟者のこと……!?」
ミセ;゚ー゚)リノシ「ん?あっ違う違う!そんなんじゃないよ」
ミセ*゚ー゚)リ「ただね、私の友達で1人、弟者君のこと気になってる子がいるから
その子の代わりにこっそり調べてあげてるんだー」
('(゚∀゚∩「友達?」
ミセ*゚ー゚)リ「そ。それだけだから、あんまり気にしないで。
私がこのこと聞いたってことも、秘密だよ?」
('(゚∀゚∩「わ……わかったよ!」
ミセ*^ー^)リ「ふふっ、ありがとねなお君。
秘密の話教えてくれて。助かっちゃった!」
('(゚∀゚*∩「……どっ」
('(゚∀゚*∩「どーいたしましてだよー!」
-
ミセ*^ー^)リ +:゚('(゚∀゚*∩。+゚*
_
(;゚∀゚)「お、おいあれ見ろ弟者……。なおの奴が女子と話しして浮かれてる!」
(´<_` )「ほんとだ。あれ垣花か?珍しいな、何の話してるんだろ」
_
( ゚∀゚)「さぁなぁ……。でも、あのなおのデレ顔見ろよ。
すっかり舞い上がりやがってくれちゃって、憎いね青春だねぇ」
(´<_` )「え、なに?なおって垣花のこと好きなの?」
_
( ゚∀゚)「いやいや見てたら分かるだろー?教室でもさぁ、反応わかりやすすぎだってw」
(´<_` )「へぇ、そうなんだ。どうりで嬉しそうなわけだな。
良かったじゃん、なお」
_
(;゚∀゚)「……お前ってさー、その顔してるくせにそういう話マジで鈍いよなぁ。
安心通り越してその余裕ある感が逆に腹立たしいぜ。あと流石に心配になってくる」
(´<_`;)「顔とそれがどう関係あるんだよ」
('(゚∀゚*∩(なんて良い子なんだよミセリちゃん……!)
ミセ;゚ー゚)リ(……にしても、トソっち遅いなぁ??)
-
(゚、゚|liトソン「はぁっ、はぁっ」
―――息を切らし、トソンは走っていた。
自然と震えが込み上げてくる手を強く握りしめる。
(゚、゚|liトソン(どうしよう)
―――こういうのを、”魔が差す”と言うのだろうか。
デレが体育館の中へ入っていくのを見届けた、あの後
トソンは気づかれないよう扉に近寄り、閂を閉めて施錠してしまった。
気づいたら錆びついた閂棒に手をかけていて
ガチャンと扉を閉めてから、すぐに怖くなって逃げ出したのだ。
-
(゚、゚|liトソン(どうしようどうしようどうしよう……閉めちゃった……)
そんなつもりじゃなかったのに。だって、鍵が開いてるなんて知らなかった。
別にそんな、酷い目に遭わせてやろうなんて思わなかった。閉じ込めたりなんて。
ただ、あの子があんまりにも怖がらないで、ケロッとしているものだから
ただもうちょっとだけ、もう少しだけ怖がらせてやりたくなったのだ。
そう。ただもうちょっと、ほんの、少しだけ―――
あの子も自分と同じように、誰かに裏切られて、嫌な気持ちを味わえばいい。
自分と同じくらい、心を傷つけられれば良いんだと、そう思ってしまったのだ。
今更戻って扉を開けたりしたら、自分がやったということがバレてしまう。
もう取り返しはつかない。今はとにかくこの場所から離れたかった。
-
(゚、゚;トソン(……で、でも)
(゚、゚;トソン(そのうち誰か気づくよね?)
―――大丈夫、大事にはならない。ならない筈だ。
そのうち、用務員さんか、先生か誰かがきっと気づく。
鍵が開いてたのが悪いんだ。あの子が疑いもせず、中に入ったのが悪いんだ。
トソンは必死で自分に言い聞かせた。
私は悪くない。大したことではないと。
未だ手に残る、錆びついてザラザラした厭らしい鉄の感覚を無理矢理揉み消した。
自分がしでかした悪行に怯え、その場を逃げ去る彼女の耳に
廃れた体育館を反響する絶望の叫びが届くことは無かった。
-
17話以上です
wordでは割と可愛かったデレのぽかん顔が大分アレなことになってて焦りました
次話は上手くいけば日曜日に
-
乙
-
おつおつ!
ツンどうなるんだ……
嫉妬すると自分でも信じられない行動とかする事とかあるんだろうな
トソンもだけど、ミセリもなんか気になる
-
乙
次話はすぐだなんて嬉しいこと言ってくれるじゃない
-
乙
デレにもツンにも大ダメージの予感
-
乙!しぃつーの次はツンとデレちゃんが……!!
-
トソンの目的が、ツンに嫌な思いをさせることだったなら
充分すぎる程にその目的は果たされたようである。
ξ|li;Д;)ξ「φ○×※;?▲〜〜〜!!!?!?」
トソンが急いでその場を離れ、授業が行われている南館へ戻ろうとしている頃
閉じ込められたツンは完全にパニックになって、開かない扉を無茶苦茶に叩いていた。
もし今この付近を、体育館の例の噂話を知っている人物が通りがかったなら
あまりに鬼気迫るその叫び声を聞いて、死者達の魂が中で大暴れしているものと思い
青褪めて立ち所に逃げ出していたに違いない。
―――だが残念ながら、ツンにとってはまったく運の悪いことに
授業が行われている今この時間帯、寂れた裏庭の片隅を通るような誰かは
生徒も教師も、用務員でさえ誰も存在しなかった。
-
ξ|li;⊿;)ξ「いやあああああ!!なんで開かないの!!?」
―――ツンにはわけがわからなかった。
マインドBクラスでの授業が終わって、デレと交代して。
でも時計を見ると、授業終了から既に15分あまりが経過していて
次の科目は体育だから、授業が行われているグラウンドまで
教室の鍵を貰いに行かなきゃいけなくて……
それで急いでいた筈なのに、何故今こんな場所にいるのか。
どうして扉が開かないのか。
-
そして何故―――よりにもよって”此処”なのか。
さっきから必死に頭の隅へと追いやって、考えないようにしていても
呪われた古い体育館に纏わるおどろおどろしい噂話が次々と脳内再生されて
実はかなりの怖がりである彼女をますます恐慌状態へと追い立てていた。
気のせいか、背後にゾワゾワとした嫌な気配を感じる。
誰かが怨めしそうにこちらを見ているような気がする。
火に炙られ苦しみながら死んでいった、大勢の亡霊が。
……今、ツンが必死になって叩いている扉には
噂で聞いたような、死に際の爪痕等は見当たらないようだったが。
半狂乱のツンにはそれどころでは無かった。
むしろその風説を今、形にして再現してしまいそうな勢いだ。
-
ξ|li;⊿;)ξ「誰かー!!」
声の限り叫び、いくら叩こうと固い扉はビクともしない。
ξ|li;⊿;)ξ「!そっ……そそっそうだっ携帯……!」
ξ|li;⊿;)ξ「……は、教室の鍵付きロッカーに入れてたんだったああああうあああぁあぁあん」
誰かに助けを求める術も無い。
自分の力ではどうにもならないことが分かって
ついに、彼女はへなへなとその場に崩れ落ちた。
途方に暮れた子供のように蹲り、自らの肩を抱いてしゃくりあげる。
ξ;⊿;)ξ「ぅ……うっ……ぐすっ……なんで……」
-
―――子供の頃からずっと、霊とかお化けとか、そういうのはとにかく駄目だった。
ツンは暗闇が怖かった。
台所の隅の暗がりや、押入れの奥。トイレの扉を開けた先。
誰もいない筈の闇の中に、何かが潜んでいるような気がして
一度意識してしまうと、どうしても怖くてたまらなくなる。
お母さんはいない。お父さんはお仕事。1人ぼっちのお留守番。
ξ;⊿;)ξ「怖いよぉ……!お父さぁん……!」
1人にしないで。1人に……
広い体育館に、少女のすすり泣く声が虚しく響いた。
-
来たー!続き気になってたんだ支援!
-
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――――― ― ― - - -
「こわくなんかないよ」
――――― ― ― - - -
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-
懐かしい声を聞いた。
小さい頃お友達だった、女の子の声だ。
寂しい時1人で泣いていると、いつの間にか傍にいて
いつも一緒に遊んでくれた女の子。名前も知らない女の子。
「大丈夫、パパが帰ってくるまで一緒にいてあげる」
そうして2人で沢山遊んだ。お人形遊びや、おままごとなんかを。
どこから来たのかも、どこに住んでいるのかも分からない。
あんなに仲が良かったのに、何故だか名前も、顔も思い出せないが
ただひとつ、いつも笑顔でとても勇気があったのを覚えてる。
-
「おばけさんなんかこわくないよ。
ツンちゃんをこわがらせたら、わたしが めってしてあげる」
そう言って女の子は優しく微笑んだ。
――――ママが死んでしまって、ひとりぼっちで、いつも泣いていた私の傍にいてくれた。
.
-
誰にも言えない本当の気持ちも、秘密のお願いも
その子にだけはなんだって相談することができた。
―――本当は、お父さんにお家にいてほしい。
1人にしてほしくない。お父さんにもっと遊んでほしい。
ご飯も一緒に食べたいし、夜寝る時も傍にいてほしいのだと。
お父さんはお仕事で大変で、そんな我が儘を言って困らせてはいけないのはわかっていた。
だから誰にも言わなかった。言えなかった。でも、その子は特別だから。
私がそっと打ち明けると、女の子は明るい笑顔で
「まかせてツンちゃん」
そう言ったのだった。
-
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... ... ...:.:. . ... ....:.:.:.:.::..
ξ-⊿゚)ξ「ぅ……?」
微睡みから抜けて、ツンは目を開けた。
ぼんやり視界に広がる、がらんとした平らな空間。
全体的に薄暗いが、窓から差す日の光は先程と変わらず
どこまでも続く物寂しい空間をひっそりと照らしてくれている。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
自分はどうして、こんな所に1人でいるのだったか……。
夢から醒めて、寝惚けた頭が徐々に冴えていく。
自分の置かれている状況をはっきりと思い出して、ツンは戦慄した。
-
どうやらあれから眠ってしまっていたようだ。いや、ほぼ気絶に近いだろうか。
目を覚ましても、ドラマのように都合良く状況は好転してくれてはいないらしい。
ツンは落胆し、深く溜め息を吐いた。もう叫ぶ気力も残っていない。
さっきまで泣いていたせいで瞼が重く、腫れぼったかった。
ぐしぐしと手で擦った後、鞄からティッシュを取り出し鼻をかむ。
ξ。。)ξ「……はぁ」
……どうして自分がこんな目に。
このまま誰にも気づかれず、ずっと閉じ込められたままなのだろうか。そんなの嫌だ。
なるべく考えたくないことではあったが、このまま夜になったらどうしよう。
日が落ちて真っ暗になった体育館は、想像するだけでも身震いする程怖ろしくて
一度は飲みこんだ恐怖が再び喉元にせりあがってきた。
耐え難い閉塞感に、ぐっと息が詰まる。
-
………――――
ξ゚⊿゚)ξ「!」
その時突然、古い金属が擦れるような耳障りな音が響き
ツンはビクッと肩を跳ねさせた。
咄嗟に、音のした入り口方面に目を向ける。
次いで、ガチャン、と何かが外れるような音。
ギイィィッ……
縦に光の線が現れ、扉が外から押し開けられる様子をツンはじっと見つめていた。
-
ツンちゃああああん
支援!
-
(:::::::::::::)
外界の光に照らされて、そこに立つ誰かの姿が現れる。
闇慣れした視界に眩しい光を受けて、ツンは目を細めた。
ξつ⊿゚)ξ「……おとーさん?」
( ^ω^)
(;^ω^)「……お」
ξ゚⊿゚)ξ
-
(;^ω^)「ツン!!」
ブーンが立っていた。
額に汗を浮かべ、ぜぇぜぇと肩で息をしている。
いつもの上着は着ておらず、シャツはよれよれでみっともない。
勢い余って転びそうになりながら、慌てて自分の元へと駆け寄ってくる。
―――ツンが、自分を救う王子様のように思い描いた
いつも身なりに気を使っている父親の姿とは、それこそ程遠かったが……
ξ゚⊿゚)ξ「……あ……」
ξ;⊿゚)ξ「っあ」
ξ;⊿;)ξ「……うわああああああぁん!!
せんせええええぇえぇぇ!!!」
無我夢中で、彼女はブーンに抱きついた。
-
(;^ω^)「ツン!大丈夫かお!?どこも怪我してないかお!?」
シャツを強く掴みながら、涙でぐしゃぐしゃの顔をあげ
かろうじてうんうんと頷くツン。
泣きじゃくる彼女をその腕にしっかりと抱きとめながら、ブーンは胸を撫でおろした。
顔は涙と鼻水で酷い有様ではあるものの、確かにどこも怪我等はしていないようだ。
心配していた分どっと安堵の波が押し寄せて、思わず体から力が抜けた。
ξ;⊿;)ξ「えぐっ、えぐっ」
(;^ω^)「怖かったおね。よしよし、もう大丈夫だおー」
普段彼女が自分自身を守っている、プライドや強気な態度が取り払われて
完全に無防備な状態となったツンは、まるで幼い女の子のようだった。
いつもの強がりが邪魔をしない。
しばらくそうしてブーンに抱きしめられたまま、ツンはただただ泣いていた。
-
+ + + + + + + + + + + +
爪;'-`)「どうも、お世話を掛けました」
ξ*。。)ξ「……」
学校から連絡を受け、ツンを迎えに来た父親が一礼する。
その隣で娘は、恥ずかしいのか少し顔を赤くして床を見つめていた。
娘が行方不明になったと聞かされ、血相変えて会社を飛び出し
学校まで車で駆けつけた父親の狼狽ぶりと取り乱し様は
傍から見ていて気の毒になるくらいだった。
幸いなことに彼が学校に着いてすぐ、ツンが見つかったと朗報が入ったのだが
ブーンに連れられて現れた娘の姿を見て、その無事を確認すると同時
安心のあまりその場に泣き崩れる程に。
そんな父親の腕の中で、ツンはまた少し泣いた。
-
(;^ω^)「いえ、こちらこそ……ご心配おかけして本当に申し訳ないですお」
(;‘_L’)「今回のことは私の責任です。
ブーン先生からクラスを任されておきながら、面目無い……」
ブーンの隣に立つフィレンクトは、すっかり憔悴しきった顔をして
父親に対し、これ以上無理というくらい深々と頭を下げた。
―――マインドBクラスでの授業を終えて職員室へと戻ったフィレンクトは
生徒が一人、次の授業に遅れることになると予め連絡を入れておいた体育教師から
授業が終わる頃になっても、彼女がまだグラウンドに来ていないことを聞かされて仰天した。
すぐにフィレンクト、モララー他教職員達による学校内での捜索が開始され
ツンが行方不明になっていることを知ったシャキンや弟者、他数名の生徒も加わって
皆でツンを探したのだが、何処にもいない。すぐに父親の勤める薬品会社へと連絡が行った。
そしてそこに、つーのことで朝から病院へ行っていたブーンが学校へと戻ってきた。
フィレンクトから話を聞いて事態を把握すると
彼はすぐさま、自分もツンを探しに走ったのだった。
-
ロマネスクと相談しながら思いつく限り校舎の至る所を駆け回っていた彼は
しばらく経った時、偶然、例の裏庭のことを思いつく。
というのも、一昨年につーが教室から逃げ出したのを探していた時
いつもなら決して校舎の外へ出ようとしない彼女が、安全な隠れ場所を探してか
一度だけその裏庭の茂みに隠れていたことがあったのを思い出したのだ。
まさかそんな所にいるとは思わなかったものだから、見つけるのが遅くなってしまい
1人心細くなって震えていたつーの姿が脳裏に浮かぶ。
すぐさま裏庭へと向い、文字通り草の根分けてツンの姿を探していたブーンは
建物脇の茂みの影に、壊れた南京錠と切れた鎖が落ちているのを発見した。
施錠されている筈の、今は使われていない体育館。
まさかと思い掛かっていた閂を外すと、少し押しただけであっけなく扉は開いて
中には探していた少女が1人、取り残されたようにぽつんと蹲っていたのだった。
-
―――どうしてこうなったのか、何故あんな場所に居たのか
ブーンや父親がツンに聞いても、確かなことは何一つ分からなかった。
それには、ツンはとにかく疲れていて、それにまだ怯えてもいたから
父親の傍を離れるのを嫌がって、デレの証言を得ることができなかったことが大きい。
デレが何を知っているかは、当然皆が非常に興味を持ったことだったが
たった今救出されたばかりで動揺しているツンに無理な人格交代を要求し
あれこれ質問攻めするのは流石に憚られたし、ブーンも賛成しなかった。
とは言え、閂は外側から掛けられていたのだ。
偶然や事故の可能性は限りなく低く、外から誰かが掛けたと見てまず間違いは無いだろう。
ツンにはそんな目に合わされるような心当たりなど無かった。
それに、大人達が心配しているようなこの事態の深刻さも
今はよく把握できていないように思えた。
質の悪い悪戯かもしれないが、これがもしいじめなどの問題であったなら大問題だ。
原因を究明し二度と同じようなことが起きないよう対策を講じる必要がある。
ツンの父親には深く謝罪すると同時
今回の事件については今後学校側で念入りに調査すると約束して
今日のところはこの件は一旦終わりとなり、ツンは家へと帰されることになった。
-
( ^ω^)「ツン、今日は大変な一日だったおね」
ξ*。。)ξ「ん……」
( ^ω^)「帰ってしっかり休むんだおよ。
なにかあったらいつでも先生に連絡するお」
ξ*。。)ξ「……先生……ありがと」
もじもじして俯きながら、ツンはぽそりと礼を言った。
普段より口数少ない彼女は、その仕草もなんとなく幼く見える。
それから、ブーンにだけ聞こえるような声で
小さく「それと」と付け足した。
ξ゚⊿゚)ξ「……私が泣いたこと、みんなに言わないでよ」
( ^ω^)「お、わかったおー!
先生とツンだけの秘密にしとくお!」
ξ*゚⊿゚)ξ「……」
有難いことに、父親は娘可愛さにそれ以上騒ぎたてることもなく
素直にブーン達教師に礼を言ってから
疲れきった様子のツンを車の助手席に乗せて学校を後にした。
-
爪'-`)y‐「……」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
しばらくの間車の揺れに身を任せ、ツンはぼんやりとしていた。
ダッシュボードに備え付けられた灰皿の中
くしゃくしゃに潰された数本の煙草が見える。
半年程前から父は、大好きな煙草を極力我慢して
会社の喫煙所でしか吸わないよう、自分なりのルールを定め
半禁煙とでも言うような中途半端な努力を続けていた筈だった。
だがそれも、今日は突然のことで心配のあまり
学校へ着くまでの車の中でいつもより余分に吸ってしまったのだろう。
今も精神的動揺を誤魔化す為か、窓を開け片手に1本楽しんでしまっている。
ツンはそのことについて特に何も言わなかった。
今回のことで、自分がどれだけ心配をかけたか分かっていたから。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……ごめんねお父さん。お仕事の途中だったのに」
爪'-`)y‐「そんなこと気にしなくていいさ」
開いた窓から、父親はふーっと白い息を外へと逃がした。
爪'-`)y‐「ツンが無事で良かった。本当に」
ξ。。)ξ「……」
爪'-`)y‐「……」
爪'ー`)y‐
くしゃり。吸い終えた煙草を灰皿に押し付けて、彼はフと娘に微笑みかけた。
爪'ー`)「……泣いたこと気にしてたみたいだけどね」
爪'ー`)「ツンは少し、頑張り屋さんすぎるところがあるからね。
たまには思いっきり泣いて、うんと感情を発散させなきゃ」
ξ。。)ξ「……」
-
爪'ー`)「思えば小さい頃から、ほんとにツンは泣かない子だったなぁ……。
寂しくても、決して寂しいとは言わなかった。ずっと、私に遠慮していたんだろ?」
ξ。。)ξ「……別に」
爪'ー`)「いいんだよ。私も、ツンが必要以上に甘えてこないのを良いことに
仕事にばかり目がいって、つい放ったらかしにしてしまったんだ」
爪'ー`)「駄目なお父さんだよ。ほんとに」
ツンは小さく首を振った。
赤に変わった信号を前に、走るのを止めた車の中で
父親は助手席に座る娘へと視線をうつした。顔をあげたツンと視線がかち合う。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ「お父さん。あのね」
爪'ー`)「うん?」
ξ゚⊿゚)ξ「さっきね……懐かしい夢を見たの」
爪'ー`)「へぇ。どんな夢だい」
ξ゚⊿゚)ξ「小さい頃、いつも一緒に遊んでくれた女の子の夢」
爪'ー`)「女の子?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん。幼稚園の頃だったかな……
いつも、私と一緒に遊んでくれてた子がいたでしょ?」
-
爪'ー`)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「その子のこと、久しぶりに思い出したの。
……ずっと忘れてたのに」
爪'ー`)「ああ」
爪'ー`)「そうだね。私にも時々、その子の話を聞かせてくれたっけね」
ξ゚⊿゚)ξ「あの子、なんて名前だったっけ。
思い出せないの……。お父さん、覚えてる?」
爪'ー`)「……」
彼は頷いた。
-
爪'ー`)「……私もそのお友達のことが気になってね。
一度、お婆ちゃんに聞いてみたことがあるんだ。
ツンはどんな子と遊んでいるんだいって」
爪'ー`)「……そしたらね」
爪'ー`)「お婆ちゃんは、そんな子いないって言うんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
爪'ー`)「ツンは家ではいつも、1人で遊んでるって。
それがまるで、まるで見えない誰かと遊んでいるみたいに
楽しそうに誰かに話しかけたり、おままごとしてるってさ」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
爪'ー`)「……」
爪'ー`)「だけどね」
爪'ー`)「私はちゃんとその子に会ったよ」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
爪'ー`)「ある日―――仕事を終えて家に帰ると、ツンが私にこう言ったんだ」
-
「パパ。ツンちゃんはね、パパにおうちにいてほしいんだって」
「ツンちゃんは、おうちにひとりはいやなの。
さみしいし、こわいから、パパにずっといっしょにいてほしいの」
「ツンちゃんをひとりにしないで。おねがい、パパ」
「おねがい」
.
-
爪'ー`)「……はっきりと覚えてる」
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)「あの時は……自分の不甲斐なさを痛い程感じたよ。
こんな小さな子にずっと我慢ばかりさせて、なにやってんだってね」
爪'ー`)「でも同時に、やっとツンが本当の気持ちを話してくれたと思って、嬉しかった」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
爪'ー`)「……ただね。いつものツンとは少し様子が違っていたんだ。
喋り方や雰囲気も違うし、なんていうか……姿はツンなんだけど
その実全然知らない別の子を相手してるような
不思議な感覚を味わったのを覚えてるよ」
爪'ー`)「私が名前を呼ぶと、少し怒ったみたいに『ツンじゃないよ』って答えるしね。
まぁその時は、そういうごっこをしてるのかなと思ったんだけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
-
爪'ー`)「―――次にその子に会ったのは、あれからずぅっと時間が経って
お婆ちゃんが亡くなった、翌年の夏のことだった」
ξ゚⊿゚)ξ
爪'ー`)「家に帰ると、ツンが小さい子みたいにお人形で遊んでるんだ。
制服のままで、着替えてもいなくて、クレヨンであちこち汚してね。
それで、私の顔を見るなり『おばあちゃんどこ?』って聞くもんだから」
爪'ー`)「心配になって、必死に名前を呼びかけるとこう言ったんだよ。
”ツンじゃないもん。忘れちゃったの?”ってね」
爪'ー`)「―――それで分かったんだ。
『ああ、あの時の女の子だ』って」
-
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ「そっか」
信号が変わり、車が動き出す。
ツンは黙って、しばらく窓の外の流れゆく景色を眺めていた。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ「私も今、あの子の名前思い出した」
爪'ー`)「……」
-
ξ゚⊿゚)ξ「……デレは……
昔からずっと、私の傍にいてくれたんだ」
爪'ー`)「……そうだね」
ξ゚⊿゚)ξ「お父さん」
ξ゚⊿゚)ξ「今度は私、ちゃんと自分で言う」
爪'ー`)
-
ξ゚⊿゚)ξ「……私を1人にして、いなくなったりしたら嫌だよ」
ξ゚⊿゚)ξ「……前に、お父さん
私になにかあったら……って言ったけど」
ξ゚⊿゚)ξ「それは、私も同じなんだからね?」
爪'ー`)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「約束だよ」
―――それは、言葉にして交わすにはあまりに曖昧で不確かな約束だった。
爪'ー`)「……わかった」
爪'ー`)「絶対に、お父さんお前を1人にはしないよ。
もちろん、デレのこともね」
だがそれでも ツンは頷き、すべてわかっているという風に優しく微笑みかけた。
-
住宅街に差し掛かり、2人の暮らす街が流れていく。
不意に、ツンは悪戯っぽく にやっと笑った。
ξ゚ー゚)ξ「じゃあもう、煙草もやめてもらわないとね」
運転に集中しながら、父は横目でちらとその顔を見た。
ξ゚ー゚)ξ「お父さんには長生きしてほしいもん。
これからも、ずーっと一緒にいてくれるんでしょ?」
爪'ー`)「……そうだなぁ」
彼はしばらくの間、無言で前方の道路を見つめていたが
やがて、手元の箱から煙草を一本引き抜きくるっと回してみせた。
爪'ー`)y‐「わかった。これで最後にするよ」
そう言って、観念したように娘に笑いかける。
彼は手早く、ライターで火をつけると
最後の1本になる筈の、そのほろ苦いひと喫いを深々と味わった。
-
18話以上です!支援ありがとうございました
女の子泣かせまくっててごめんね
-
乙!
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乙です!本当面白かった
ツンとデレはずっと一緒だったのか……
ひとまずツンが助かってよかった
ツンの今後の心情とかしぃやトソンとか、気になる事が多いな
続きも楽しみにしてる!
-
乙
俺タバコ辞めるわ
-
おつ
トソンに応報はあるかなー
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よかったー乙乙
しっかり共存してモララーのちょっかいなんか跳ね返してほしいね
-
乙
相変わらず面白い
次も楽しみ
-
乙!
デレ本当良い子だなぁ
-
おつ!デレいい子すぎかよぉ・・・
トソンがどうでるかが気になる
-
乙
綺麗な話だ
-
うーん相変わらず読ませるなあ
-
トソンにはとことん絶望を味わせてやってほしい
-
>>1です。いつも乙や感想ありがとうございます!
スレの残りがあと少しなので、19話を書き溜めてる間絵で埋めることにしました
19話はなんとか10月中に投下できるよう頑張りますのでちょっとだけ遊ばせてください
あと、質問や気になること等あればなんでも気軽にレスして頂けると嬉しいです!
※擬人化
(*゚ー゚)(*゚∀゚)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1816.png
どうなるしぃつー
( ^ω^)( ФωФ)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1815.png
なかなか活躍させられなくて歯痒い先生コンビ
-
ロマ可愛い
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絵まで上手いのかよ
しぃとつーの対比が最高です
-
絵上手っ!すげえなあ……
ろまーん可愛い
-
>>975
やっぱり主人格(普段表に出ている方)が主導権持ってるのか?
マインドBと主人格が上手く共存出来ているのがレアパターンで、その中でこの2人がたまたまそうなのかもしれんけれども
-
>>975
上手いなあ
2枚目見てふと思ったがマインドBは心の中では独自の姿を持ってるのか?
例えばツンだと心の中でデレと対峙した時、高校生ツンと幼女デレの対峙になるの?
-
絵までうまいとかちょっと・・・しぃつーかわいすぎんだろ・・・
ブーンとロマが入れ替わると毎回髪の毛掻き上げてオールバックになるのかな
-
ロマわろたw
そういえば絵も上手かったな
pixivにアカウント持ってたよね
-
うおおレスありがとうございます
>>979
描きながら、ブーンお前マインドBの人権尊重論どうしたんだよwと心の中でつっこんでました
まぁこの場合は髭生やしても外の人に見えるのは結局ブーンの顔ですからねw
主導権握られてるというより、ロマネスクは大人なので大抵の場合折れてあげます。がんばれ
>>980
マインドBというか、実際の多重人格だとそうみたいです(それぞれ容姿を持ってる)
ビリー・ミリガンの本(すごく好き)を読むと、各人格ごとにそれぞれ
髪の色や瞳の色、身長体重年齢、出身国まで細かく記載されていて面白いですよ!
肖像画まであるくらいなので、恐らく本人の心の中だけで見える姿があるのだと思います
>>981
想像して噴いたw実際見た目は顔つきがちょっと変わるくらいかと
作中ではアニメ的表現で、人格にあわせてうっすら髪の色や瞳の色が変わったり
髪の毛が跳ねるくらいの変化をイメージして書いています
>>982
お絵かき楽しいです
-
>>983
ダニエル・キイス?のやつだよね確か
遥か昔に読んだ覚えがあるww
そこから影響受けてんならこの作品のマインドBも心の中では独自の姿があるって解釈でいいのかな
答えてくれてサンクス
-
※擬人化
ξ゚⊿゚)ξζ(゚ー゚*ζ
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1819.png
癒し。フォックスパパとの親子設定は結構気にいってます
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かわええ!
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癒される〜
絵ウマー
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かわええええええ!!
フォックスパパ、娘さん達を僕にください
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※擬人化
(´<_` )( ´_ゝ`)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1821.png
シリアスパートに突入して兄者は全然ふざけてくれなくなるし
弟者はますます影が薄くなるしでどうしよう
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好きな絵柄だ
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※擬人化
(´・ω・`)(`・ω・´)
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1822.png
-
そういやショボンメインの話はまだだよな
楽しみー
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めっちゃイケメンやん
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ショボンの方が本来の人格のはずなのにこの薄さ
あんまり目立たないけどこの2人も結構な問題抱えてるよな
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※擬人化
_
( ゚∀゚)o彡('(゚∀゚∩(´<_` )
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1823.png
会話書くのすごく楽しい
从'ー'从
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1824.png
ナベちゃんの下の名前何にしようか迷ってます
l从・∀・ノ!リ人
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_1825.png
妹者かわいいよおおおおおおおお
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はよストーリー全裸待機風邪
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ひとまず絵はこれで一旦終了にします
色んな人物を描く練習になって楽しかったです!
19話の書き溜め具合は、現在40%くらい
新スレは次話投下の時に立てます。できれば今月中に
それでは、お付き合いくださりありがとうございました〜
-
乙
次話楽しみにしてる
-
乙
あれ…
ホモじゃないのになおるよが一番可愛く見えるだと……?
-
乙つつ
面白くてここまで一気読みしたわ
おかげで寝てねえ
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