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黒の月―― Lucifer went forth from the presence of Jehovah

50 ◆kmP3XI7i0M:2017/08/06(日) 00:28:44 ID:Zp4VpA3k0
>>49

そこは、果てのない草原だった。

青々とした草が生い茂り、水平線はどこまでも真っ直ぐに走り続ける。──だが、そこに陽の光はない。
宙空に在り、この世界を照らすのは、“黒の月”にも似た、儚く煌めく球体。だが光量は僅かにすぎない。
人の眼であっては、一寸先も見えぬ闇と変わりなかった。 だが、桜井にはそれでも、この世界を優に見渡すことが出来た。

 ≪ここは……。≫

桜井は、獣だった。黒い色をした獣。天と地とを塗り潰す色。四足で歩む世界に風はない。闇から脚を抜き、また刺すように、前へと進む。
しばらく歩むと、水辺が見えた。覗き込むと、そこには獣の姿ではなく、少年の姿が映っている。

 ≪そうだ、俺は── 、   これ、は  …… ≫

だけど、それが“誰”なのか分からない。自分なのか、他人なのか。人間なのか、悪魔なのか。
懊悩に紛れて、後ろに気配を感じた。唸り声を上げて振り向くと、そこには、水面に映る少年が立っていた。

 ≪貴様は、獣だ。≫

 ≪獣であれば、余が統べてやろう。 それこそが、貴様の安楽。≫
 ≪最早、狭間で苦しむこともあるまい。──さぁ、傅け。跪け。頭を垂れろ。≫
 ≪余の器であった功に報いて、この地で永遠に、歩み続けることを許そう。≫

少年は、獣に語りかける。その声を聴くと、獣は不思議と、そのような気がした。だって、人間であっても獣であっても、同じだ。
俺は取り込まれては、周りの皆に助けて貰った。──そんな自分が厭で、醜くて、必死に努力した。それでも、押さえきれない。
今日だって、同じだった。なら、ここで終わってしまう方がいい。そうすれば、皆に迷惑をかけることもない。

春日も、大宮も、ノラも、四羽も、黄昏も、きっと、その、方、が  ── 、




「 …… 、良いわけ、ないよな。どんだけ甘えるんだよ、俺はッ──!! 」



次の瞬間には、桜井は立ち上がり、拳を握りしめ、目の前の“偽物”を強かに殴りつけていた。
幻想の中だからだろうか。それは笑ってしまうほど吹き飛んで、地平線の彼方に消え去る。──気分爽快だ。
自分のことなんて、どうでもいい。あの仲間たちを助けないと。アイツらは、良い奴だ。俺は沢山、助けて貰った。
なら、アイツらのことも助けないと。それぐらいの事も出来ないほど、桜井直斗は弱くなった積もりはない。──それは、ノラの言う“自信”に違いなかった。


「……おい、ベオルクスス!!お前とは後でじっくり話してやるから、今日は二度と出て来るな!!
 力だけ俺に寄越して寝てろ!!今度出て来たら、ぶっ飛ばすぐらいじゃ済まさないからな!!」


闇の中に叫ぶと、桜井は背後の水辺に飛び込む。光輝く水底に沈み、それから、浮かぶ感覚。
水面からは、獣の、この上なく上機嫌な遠吠え。──、ベオルクススが彼に望んでいたのは、この“強さ”だったのかも知れない。





「……ぷはっ!!」

「目が醒めたか、桜井。さっさと構えろ。」

春日が告げる。桜井の方を振り向きもしない。他の仲間たちも、一瞥こそすれ、すぐに上空に向き直った。
桜井は苦笑して立ち上がる。結構キツかったのに、まるで自分で打ち破って当然だ、みたいな反応。

──それが、桜井には本当に嬉しかった。


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