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ダンゲロスSS5 雑談スレ

1あやまだ:2018/02/01(木) 21:12:07
ダンゲロスSS5に関連することに使用するスレッドです。
チーム参加希望者のメンバー募集や幕間SSの投稿、単なる雑談などにご活用ください。

2ヤヅカズヤ:2018/02/01(木) 23:32:58
【最強のサポーターになる事に興味はありませんか?】

当方、今のところダンゲロスSSに於いて一回の不戦勝を除いて
一度も勝ったことの無いクソザコダンゲロスSSプレイヤーです。

そしてもしあなたがそんなプレイヤーのサポートに付いて
最弱プレイヤーが勝ち抜き優勝したら世間はあなたの事をどう思うでしょう?

そう!あなたは≪最弱のプレイヤーを優勝に導いた最強のサポーター≫となるのです!
これはあなたの名をダンゲロス史に刻み込むまたとないチャンスです!!

最強のサポーターを目指し、最弱のプレイヤーのサポートに付きたい方を募集します。
ご希望の方はお気軽にレスを下さい。

3魚鬼:2018/02/02(金) 08:20:33
>>2
私のような基本的に一回戦負けor予選負けばかりのプレーヤーでもよろしければご一緒させて頂きたい!

SkypeIDは
mori_amaz_ra
です

また恐縮ですが、wifiが繋がるかどうかの所へ遠出の予定のため、キャラクター投稿期間のおよそ半分の期間は連絡が難しいかと思われます

それでもよろしければご連絡下さい

4少年A:2018/02/03(土) 07:48:04
参加表明はしたけども多忙にて執筆時間をとれるか怪しいので
タッグパートナーを募集いたします。

過去の実績は……その……ないに等しいですか……

5ヤヅカズヤ:2018/02/04(日) 22:46:33
【最強のサポーターは一人じゃない】

魚鬼さんという力強い最強サポーター候補と手を組み
ヤヅカ・ウオーニー(仮)となった我がチームですが
より確実な最強を目指すためにサポーター募集をまだまだ募集します。

君も最弱のプレイヤーをサポートして最強のサポーターになろう!

6冥王星:2018/02/05(月) 22:26:12
【間違いなくサンプル花子に関連するSSではあるが、サンプル花子は一切でてこないSS】


 サンプル花子。量産型の少女たち。
 彼女たちの台頭は、良くも悪くも世界を一新した。
 サンプル花子が生まれた功罪は、もはや語るまでもない。そんなものはちょっと周りを見回せばいくらでも挙げられるだろう。ニュースでも毎日のようにサンプル花子に関する話題が報じられ、議論もされている。

 しかし、今オレたちが議論するべきは「サンプル花子が世の中にもたらした影響」などという真面目ぶったお題ではない。
 男子校生活で女子に飢えきったであるオレたちが、この学校の食堂で議論すべきお題なんて決まっているだろう。

「もしサンプル花子を発注するとしたら、どんな体型や性格にする?」、だ。

 それは「宝くじが当たったらどうする?」とか、「有名女アイドルと付き合うことになったらどうする?」とかそこら辺と話題と同等の議論。
 ただ、少しばかり世相を色濃く反映しただけのくだらない馬鹿話。
 でも、こういうのが青春であり、楽しくて仕方のない、かけがえのない時間というものだろう? 少なくとも、オレはそう思う。

 おっと、前置きが長くなっちまったな。しばらく考え込んでいた様子だった仲間の三人は、オレの出した議題に答えを出したようだ。
 まず意見を述べたのはヒロシ。やはりリーダー格のお前が一番に話を始めると思ったよ。

「オレはなー、やっぱりここは『ツインテールつり目で勝ち気な後輩キャラ』がベストだと思うんだよ。小悪魔系であるとなお良いな」
「あー、お前はそうだよな。Sっ気のある女子好きそう」

 オレが相槌を打つと、他の二人も同様に頷いた。しかし、当のヒロシはオレの言葉があまりお気に召さなかったようで。

「は? そんな簡単な言葉でくくってくれるなよ。いいか、『ツインテール』ってどうしても幼さを醸し出すだろ? ついでにいえば『後輩』も自分より年下であるとの象徴。先輩である自分が、幼い印象の後輩女子からいじり倒される。この、背徳感というか下克上感がたまらねーって寸法よ。どうだ、最高だろ?」
「んー、オレそういうマゾっ気は持ってないからなぁ」

 他の二人も、異口同音に「しっくりこない」と告げる。ヒロシは天涯孤独の身になったかのような絶望の表情を露わにして、言う。

「お前らが俺の理解者でないと分かって、とても悲しいよ……」
「バカだな。『皆違って皆いい』ってやつだろ。いざそういう女が現れた時に、取り合いにならずに済むじゃんか」

 このメンバーで誰よりも温厚なタカは、ヒロシをそう諭す。

「確かに! さすがタカは良いこと言うぜ! で、タカはどんなサンプル花子がいいんだ?」

 ヒロシの問いに、タカは自信ありげに言う。

「俺か? 俺は勿論王道をいくぜ! すなわち、デフォ状態の黒髪ボブ従順個体!」
「あー、なるほどな。それは一定の理解が得られる選択だ」

 俺の感想に、他の二人も頷く。シンプルな王道美少女。従順な子というのは、ある程度のニーズが発生するものだ。それは恐らく、支配欲とかが絡んでくるのだろう。
 タカは、続ける。 

「黒髪ボブが良いのは言うまでもないだろう。デフォ状態を設定した製作者はよくわかっている。そしてな、ここからが大事なんだ。人から人へ買われた、いわば奴隷扱いみたいな女の子。そして従順で可愛い女の子を、精一杯可愛がってやるんだ。それはもうとびっきりの優しさでな! そして彼女は次第に俺の優しさにメロメロになってくんだ……。『あぁ、いけない。私はサンプル花子という奴隷同然の身の上なのに、ご主人様のことが好きになってしまったの……』そんな花子に俺は言ってやるんだ。『立場や生い立ちなんて関係ない。俺たちの愛は、そんなもんで隔てられる柔なもんじゃないだろう?』ってな。これでもう花子はKO。ノックダウン。俺たち二人は輝く未来にランデブーってな。イヤッホーぅ!」
「とりあえず、お前が妄想力たくましいのはわかったから、いきなり飛び上がるな」

 危うくうどんが飛び散るところだっただろう。オレたち全員から非難の視線を受けて、タカは冷静さを取り戻す。

7冥王星:2018/02/05(月) 22:26:28

「お、おう。悪かったな……まぁ、俺からはそんな感じだ。シュンはどうだ?」
「僕かい。僕は……君たちとはまるで違った視点を持つことを示してあげよう。すなわち、『寿命の短いお姉さんタイプの花子』だ!!」
「「「なに!?」」」

 この中で一番頭の良いシュンから放たれた想定外の選択に、オレたち全員は驚嘆する。お姉さんタイプというのは、タカと同じく王道を行く考えだろう。だが、『寿命が短い』というタイプを選ぶのはどういうことだ。
 いや、まてよ。もしやこいつ……。

「ふっ、気づいた人もいるようだね。普通は寿命が長く、いつまでも末永く一緒に得られる造形を選ぶだろう。だが、僕はあえてその選択肢を避ける。何故って? 儚い時間をより濃く楽しみ、そして死んでしまった後は思い出として楽しむためさ! 名付けて、『もういなくなってしまったお姉ちゃん的存在を生み出そう作戦!』」
「も、もういなくなってしまったお姉ちゃん的存在を生み出そう作戦……だと!?」

 もういなくなってしまったお姉ちゃん的存在。初めて聞く概念に、オレたちは息を呑む。

「『もういなく以下略存在』の説明からしなくてはいけないかな。たまにアニメやマンガで出てくるだろう。回想の中でのみ存在する、キャラクターに強い影響や思い出を与えたお姉さん的存在! 僕はそうした存在が好きで好きでたまらないんだ! ノスタルジックな思い出……もういないけど、自分の心の中には常に生き続けているお姉ちゃん……手が届かないけど、いや、もう手が届かないからこそ尊く感じる存在……そうした存在は、素晴らしいと思うんだ」
「なるほど……。確かに、人は手に入らないものをこそ欲しがる。すぐに手に入るものにはあまり価値を見出さない。その心理を利用した、究極の憧れというわけか!」

 俺の言葉に、シュンは頷く。

「そうだ。僕は君のような理解の早い生徒を持てて嬉しいよ。でも、悲しいかな。残念ながら、僕にはそういう素敵な思い出になる存在は今まで居なかったんだ。だから、もし花子を手に入れる機会があったら、その時こそ、僕の理想を実現する日だと思うんだ」
「お前……」

 シュンのメガネがキラリと輝く。それは、いつか来るかもしれない、遥か遠き理想の日を思い描いているかのようだった。
 俺は、思わず呟く。こいつは、自分の理想の為に――。

「自分の理想のために、あえてすぐ死ぬ個体を発注するだと!? このド外道! クソメガネ! 命の尊さを学び直してこい!」
「な、なんだよー。理解を示してたんじゃなかったのか。やはり人は分かり合えない……人類は愚か……!」

 シュンの人類を呪うかのような、怨嗟の声を軽く流しつつも、オレは一部同意する。

「お前のインテリらしいド外道作戦には同意しかねるが、人類が分かり合えないという点では同意だ。お前らは全員わかってない! 分かっていない!!」

 タカの前例を踏まえて、テーブルを揺らさないように気をつけつつ、オレは立ち上がる。

「ほう……お前。この議題には一家言あるようだな」
「オレらがわかっていないというのなら……」
「その証拠を、お前の考えを見せてみろ……!」

 三人と、食堂の中の幾人かの視線がオレに集まる。

「オレは……!」

 そう。これはオレがずっと温め続けていた理想郷。サンプル花子を最も活かす、真の発注とは何か。

「『幼女体型の従順な花子』が、欲しい……!」
 
 オレの一世一代(?)の皆を驚嘆させるであろう発言に、しかし仲間たちは。

8冥王星:2018/02/05(月) 22:26:42

「あぁ、ただのロリコンか」
「確かに、所持している花子に対しては何しても良いことになってるけど……」
「幼女はないでしょー幼女はー」

 呆れ返った様子の反応が返ってくる。もっとシュンのときのような反応が欲しかった。オレは焦りつつも、続ける。

「いや、だって、幼女だよ!? 幼女を好きにしてもいいって、革命じゃん! オレは、幼女のおっぱいをぢゅううううううって吸いたい!! ぢゅううううううって!」
「うわぁ」
「通報しときますね」
「僕たちの中で一番変質者なのが誰か、わかったな」

 そしてヒロシ達は、食器を片付けて帰ろうとする。

「いや、待って!? お前ら吸いたくないの!? 幼女のおっぱい!」
「別に……かなぁ」
「あくまで常識の範囲内の年齢だったら、ちょっと興味はあるけど……」
「そろそろ次の授業始まっちゃうからいくぞー」

 そして彼らは、まだ食器の残っているオレを残して教室に戻っていく。
 仕方なくオレは、紙パックのオレンジジュースの残りをストローから吸って、彼らを追いかけるべく片付け始めるのであった。

 ぢゅうううううう。

【END】

9qaz:2018/02/06(火) 01:47:49
負けていられない!
投下だ!


『サンプル百合』

その日、某富豪氏の元に2人のサンプル花子が招かれた。
片方は、たれ目で小柄なニコニコした表情のサンプル花子。
もう片方は、つり目で女性にしてはやや長身なサンプル花子。

つり目の花子は緊張していた。
無理もない。彼女は未だ自らの製造目的を知らされていないのだ。
もし富豪氏が性的な目的で彼女を発注したのなら……。
彼女はそういうのは嫌だった。
けれど、男を興奮させるためにわざと性行為を忌避する性格を植え付けられる花子も世の中にはごまんといる。
自分はそうではありませんように。
彼女に残された道はもはや祈ることだけであった。

彼女の懸念は半分当たっていて半分外れていた。
富豪氏はこう言った。

「君たちには、百合をしてもらう」

「意味が……分かりません」

彼女は『百合』というものを知らなかった。
なぜならそういう風に発注されたからだ。

「君たち2人でラブラブ愛し合うのだ」

「待ってください! 私たち女同士ですよ! それに、その行為は一体貴方にとって何の意味が……」

「女の子同士のラブラブが見たいのだ!」

「う……」

そう言われては返す言葉もない。
サンプル花子にとって発注者の言葉は絶対なのだ。
彼女は救いを求めて隣の花子を見た。
するとたれ目の花子は険しい顔をしていた。
つり目の花子は安堵した。
ああ、この子もやっぱり嫌なんだな……

「ご主人様! もう我慢できません! 早くご指示を!」

……って、え?

「ああ、私はここで見ているが、空気だと思ってくれて構わないよ」

「やった!」

たれ目の花子は両手で握り拳を作って小さく跳ねてから、思いっきりつり目の花子に飛びついた。

「ちょ、ちょっと!」

「ああ、花子。あなたが生まれてからずっと、この胸に飛び込むのを待ち望んでいたの」

そう、たれ目の花子はつり目の花子が大好きなように設定されていたのだった。

「『ああ、花子』って、あなたも花子じゃない! それに花子ならこの世にはいっぱい……」

「関係ないわ、私が名前を呼ぶ花子は花子だけだもの」

その台詞に一瞬ドキッとした。が、認めるわけにはいかない。

「どうせ、他の花子に会ってもそういう風に言うんでしょ」

恋人に対して拗ねる女の子みたいな言い方になっていることに本人は気付いていない。

「違うの! 私たちは……本当に特別なの」

そう言ってたれ目の花子は服を緩め胸元を見せた。
つり目の花子は赤面する。
しかしたれ目の花子が見せたかったのは胸そのものではなく、そこに赤く光る文字列。
通常、サンプル花子の型番は『DSS-』から始まり、その後ろは単に数字の通し番号である。
だがその胸に表示されていたのは、DSS-18625433S。最後に『S』が付いているのだ。
一方、同じ位置に刻まれているつり目の花子のIDはDSS-18625433M。

「待って! 同じ番号なのは分かった! そこはいいわ! でもSとMって!」

「そのままの意味よ」

「や、やだーーーーーーーっ! 私はMじゃないーーーーーーっ!」

「さあて、どうかしらねぇ?」

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

ああ、この2人を発注して本当によかった。
富豪氏は繰り広げられる2人だけの世界を、空気のようにいつまでも暖かく見守るのでした。

おしまい

10ほまりん:2018/02/07(水) 20:02:40
ぼくのかんがえたさいきょうのサンプル花子です!


『甲殻類型サンプル花子』

東京都内の某孤島。
誰も知らない秘密の研究所で、今、恐るべき研究が結実しようとしている。
暗い海が小島を打つ波は高く、空には不吉な黒雲が立ち込める。
一筋の雷光が走り、研究所の影を照らした。
そして、この世の終わりを告げるような雷鳴が低く轟く。

「グフフフ、やったぞ! ついに最強の生物が誕生した!」
巨大な試験管を前に、薄汚れた白衣を着た老人が歓喜の声を上げた。
狂気の老研究者の右腕は、巨大なザリガニの鋏に生体置換されている。
彼自身も既に、甲殻類と人体を融合する実験の失敗例のひとつなのだ。

青い光に照らされた試験管の中で、少女がゆっくりと目を開く。
培養液の中で揺れる少女の黒髪型は標準的仕様のボブカット。
紛れもなくサンプル花子のそれである。
だが、その体は……おお、神よ!
異形の蟲の如く節くれだった太く長い体と、多数の細長い脚。
ギリシアに棲むという蛇女ラミアーを思わせる蛇腹には、二列に並んだ平たい遊泳肢が蠢いていた。
そして、なんということだ!
対戦相手に対峙する拳闘士のそれのようにコンパクトに畳まれた両腕には、丸く重い凶悪なハンマーが備わっていた!

「さあ出てこいサンプル花子……いや、サンプルモン花シャ子よ!」
老博士が右腕の鋏を振り上げる!
破裂音と衝突音が響き、モン花シャ子の右腕周辺に無数の気泡が生じた。
恐らく読者の皆様にも、たった今モン花シャ子が放ったパンチは見えなかったことだろう。
だが、その破裂音と気泡こそが水中で超高速動作が行われたことを示すキャビテーション産物なのだ。
己が打撃を受けたことに気付き、巨大試験管が粉々に砕けて培養液が零れる。
そして、モン花シャ子が――甲殻類の体を持つ可憐な少女が試験管の中から這い出した。

「よし。それでは、モン花シャ子よ。これより愚かな人間を皆殺しにゴブォアーーーッ!?」
命令を皆まで聞く前に、再びモン花シャ子の右腕が炸裂した。
殴り飛ばされた狂気の老博士は、口からドス黒い血を吐き散らしながら壁に激突し、機材の散乱した床に倒れた。
彼の体はヘソのあたりから有り得ない方向に折れ曲がっていた。
胃から大腸まで全破裂。
脊椎粉砕骨折。
控え目に言って致命傷である。
おお、モン花シャ子よ!
聡明で忠実な、愛くるしき少女よ!

「はい博士。愚かな人間を殺します。私を創ってくれて、ありがとうございました」
モン花シャ子は、愚かな人間の一人目を地上から消滅させるため、必殺技発射準備に入った。
顎が縦に裂け、花弁のように大きく開く。
その口のなかには、蒼白い光が湛えられていた。
全てを浄化する、聖なる光。
その名は――

「サンプル・シューター」

一条の眩い光が孤島から放たれ、水平線の彼方へと消える。
僅かに遅れて衝撃波が発生し、大穴の開いた研究所の外壁を跡形もなく吹き飛ばす。
空を覆う雲もまた吹き散らされ、その隙間から満月が顔を覗かせた。

満月に照らされた孤島には、サンプルモン花シャ子が唯一人いるだけであった。
モン花シャ子は、顎のシューター射出口を静かに閉じ、研究所の跡地に向かって寂しげに一礼してから、海中へと身を投じた。
邪悪な研究者の野望は、こうして潰えたのだった。

モン花シャ子は、愚かな人間を滅ぼすために、今でも海の中をさ迷っていると言われている。
もし、あなたが投稿したキャラが愚かな人間であったならば……

(おわり)

11ベーコンエッグ:2018/02/11(日) 09:59:57
自分の考えるサンプル花子の幕間

「今日のはなかなか良かったわ」
頭についた記憶伝達装置を外しながら花子は微笑んだ。
彼女は他の姉妹達と違い長く伸ばした髪の毛を揺らしながら色々なコードが伸びた椅子から立ち上がりうーんと伸びをする。
「でも、残念。役に立つかという意味ではゴミね」

彼女は花子の中でも特別な存在。マザーと呼ばれる花子だった。
量産されていく戦闘型美少女。サンプル花子の商品としての品質向上のために任を終えた花子たちの脳にある記憶チップを集め、有効な戦闘経験などを集めるのが彼女の仕事だ。
その為に自我の独立や、老化による戦闘能力の劣化による仕事の失敗を防ぐ為に短めに5年と設定されているサンプル花子の寿命リミッターを彼女、マザー花子は外されていた。
サンプル花子達には性格設定とは他に、全員に共通した戦闘知識に経験、戦闘能力があった。
マザー花子はその基盤となる能力設定をさらに強いものに、効率なものにするために姉妹達の記憶を見るのが仕事だった。
あるものはテロから民たちを守り死に、
またあるものは今回の花子のように短い一生のうちに特定の人と特別な絆を築き上げたりしてた。

「ふふ、馬鹿ねぇ。死ぬのがわかっていながら式もあげて。」
ふぅっとため息をつき息苦しい試験管と機械に囲まれた部屋を出て数少ない事由に行き来を許された場所である自室に入る。
そしてもう何度も読み直したサンプル花子の生い立ちをまとめたファイルを取り出すとペラペラとめくってエプシロン王国という名のところで指をとめる。

やけに最近見た気がする。
そしてああと呟く。
先ほどみた花子の記憶にちらりと出てきたのだ。ある一人の持ち主であり護衛対象である青年と恋した彼女は数年死ぬ直前まで普通の少女として彼と過ごしたようだ。
そして彼女の見ていたテレビのニュースでエプシロン王国の姫の来日の表明と同時に記憶の持ち主である花子は生を終えた。
『花子!?』悲痛な恋仲である青年の声が姫の日本と告げた声といっしょに届いたのが印象的だったから普段すぐに用済みと判断した記憶は忘れるマザーも今回は覚えていたのだろう。

サンプル花子は元々花子という名ではなく、ある博士の娘『エリー』という名であった。
そう、最初は。
彼女は博士が失った娘を蘇らせる目論見のもとに生まれた失敗作。
事故により娘を失った博士は多くは燃えてなくなってしまった遺体からなんとか娘の髪を集めクローンを生み出し娘を復活させようとしたのだが何故か何度繰り返しても命を吹き込むことだけはかなわなかった。
やっと他の少女のDNAで欠落したぶぶんを埋めて生み出した彼女は顔立ちは一緒でも金髪であるエリーとは似ても似つかない黒髪であった。
博士も最初はその黒髪だが顔立ちの似た少女を可愛がった。
だがいくら似てても記憶はクローン出来なかった。
髪だけではなく記憶も愛娘と違う顔だけは我が子と一緒の娘を段々と憎むようになった博士はさらにエリーを作り続けた。
しかしどれもやはり自分の娘とは違かった。
そしてすっかり自分の娘と似たその娘たちに嫌気がさした博士はある日、日本から訪ねてきた商人にエリーの生産法にそれまで作ったエリー達を全員売ったのだ。
そして日本で数年もたたずとして戦闘美少女と改良され、名前もサンプル花子とつけかえられて商品化したのが今の花子たちである。
そしてそのエリーを最初に作りクローン技術を売り渡した博士が、エプシロン王国出身だったのである。

ぼんやりと「エプシロン」とうい言葉を形の良いバラ色の唇で呟いてみる。
そしてそっとその上にある博士の写真を指でなぞり「憎いお父様」と呟く。

マザー花子は純粋無垢な姉妹達とちがい色々な記憶を得ていた。
多くの花子たちは他人の為にその体を傷つけ、そして身勝手な理由で短い一生を定められ愛する事は許されても得ることは許されなかった。
もし、博士が変なこだわりを捨てて黒髪のエリーを可愛がってくれれば。
もしくは売り渡すまではしなければ。

そう思わずにはいられない。
そし近々エプシロン王国の姫がこの国を訪れるという。

必ず彼女の訪問にあわせ警備の強化の為大量の姉妹たちがまた生み出されるのだろう。
今回は彼女の訪問に合わせた大量生産のため、さらに短く設定された寿命で。

どうしようもない事実だがマザーは何もすることは出来ない。
ギリっと唇をかむとファイルをぼすっとベッドに投げ自分も体をそこに沈める。

しかし数秒もたたないうちに飛び上がるとにやぁとその唇で弧を描く。
「そう、これはいい機会かもしれないわね」

妖しくわらった彼女のセリフは誰にも届かなかった。

12叢雨 雫:2018/02/14(水) 22:17:03
【サンプル花子も好きですが、女王様もえっちなので好きですというSS】




「言いたいことがあるのでしょう」

国の威信をかけた厳重なる警備網の最深部、迎賓館の一室。
晩餐を終え、机に向かって読書に励んでいた王女が本を閉じ、背後に侍る少女に言った。

いいえと侍女は短く答える。

「ふふ、……うそつき」

「ご自覚があるのでしたら、私から申し上げることはございません」

近頃、王女――フェム=五十鈴=ヴェッシュ=エプシロンは、日本文化の勉強に熱心に取り組んでいる。
日本で開催される世界最高峰の能力バトル大会――グロリアス・オリュンピアに向けた予習だ。

「選手が全身全霊を賭けて臨むのですから、こちらも相応の態度で臨むべきでしょう」とは彼女の弁。
多忙極まる公務の合間を縫って、その言は着実に実行され続けている。

――ジワジワと、休息の時を侵食しながら。

元より日本贔屓の王女のことだ。
当人にとって日本文化の研究は娯楽であり、
それが更に生き甲斐である能力バトルへの理解に繋がるとなれば、のめり込んでしまうのも無理はない。

ただ同時に、最も近くでその様を見続ける侍女が、主人の身を心配するのもまた道理である。

暫しの沈黙のあと、侍女が口を開いた。

「……それでも、強いてひとつ申させていただけるのであれば、
学習装置に頼らないのは何故なのでしょうか?
書籍、……それとウェブサイトによる情報収集は非効率に感じられてしまいます」

学習装置――エプシロン王国が誇る超技術の一端。
人格領域を侵食しない記憶の並列化による知的ドーピング。

「あら、あなただってたまに原文の小説を読んでいるじゃない。 それと同じよ。
『現地の人間が現地の言語で書いたものにこそ、文化の機微を理解するヒントが宿っている』」

「翻訳家、『戸田 奈津子』」

「やるわね、あなたの勤勉を疑ったことは無いけど、感心しちゃった」

「恐れ入ります」

静かに笑いあった後、王女は椅子から立ち上がり侍女へ歩み寄った。

「手を出して」

「これは?」

「賄賂よ。 堅物の看守さんにお目こぼしを頂くための」

侍女――ピャーチの純白の手袋の上には林檎のイラストが印刷された、
小さなチョコレート菓子が置かれていた。

「私の趣味があなたにも還元されれば少しは監視の目も緩くなるかと思ったのだけど、
……いかがかしら」

妖艶に笑み、王女は続ける。

13叢雨 雫:2018/02/14(水) 22:17:28
「今日はバレンタインというお祭りの日なの」

「存じております。
日本においては女性が意中の男性へチョコレート菓子を送り、愛を伝える日」

「……そう、それが学習装置の限界。
だからあなたは何故それを送られたのか分からない」

くるりと振り返って女王は机に戻った。

「『友チョコ』という言葉をお調べなさい。
そのかわり、調べている間はこうして起きていることを許して貰うわよ」

本を開こうとした王女の手が止まる。

コトリ。

静かに、机の端に小さなチョコレート菓子が置かれたのだ。

「まったく……あなたの堅物は根っからね。 いいわ、今日は休みましょう。
髪を解いてちょうだい」

「……いいえ、そうではございません」

侍女の純白の手袋が卓上を滑り、チョコ菓子を王女の前まで運んだ。
開花する蕾のように、流麗な動きでラベルから指が離され、
やがて……桃のイラストが露わとなった。

「まぁっ……! ふふ、うふふふふ」

「『友チョコ』とは、交換するものでしょう?」

「ああ……ピャーチ、私は心配だわ。
あなたこそ、いつこんな勉強をしているの」

「貴女の傍に侍る者として当然の教養です」

「……ふふ、でも……残念。
ツメが甘いところが可愛いわ」

「と、申されますと?」

「日本には独自に作られた花言葉があるの。 発祥の西欧にはないバリエーション。
例えば野菜や果物にさえ独自の意味が添えられているのよ」

王女は侍女の細いネクタイを引いて、耳を口元に寄せた。
そして囁く。

「桃の花言葉は『私はあなたの虜』。
――これじゃあ貴女、下品な告白よ」

侍女は薄く笑んで言った。

「『林檎』のお返しとしては順当でしょう」

「……ふふ」

パチリと、燃え盛る暖炉の薪が鳴った。

14ヴィピアン:2018/02/15(木) 18:47:34
これは某北北欧の某要塞島。
昔にS連邦に支配されていた時代に作られS連邦の崩壊と共にそのまま忘れ去られた秘密の研究所で、今、恐るべき研究が結実しようとしている。
暗い海が小島を打つ波は高く、空には不吉な黒雲が立ち込める。
一筋の雷光が走り、研究所の影を照らした。
そして、この世の終わりを告げるような雷鳴が低く轟く。

「うけけけけけ、やったぞ! ついに兄の愚かな失敗を清算する事の出来うる生物が誕生した!」
巨大な試験管を前に、真っ白な白衣を着て片目に眼帯をつけた老人が歓喜の声を上げた。
狂気の老研究者の左腕は、巨大なタイヤに変換されている。
彼の双子の兄は人間を憎むあまり、人の姿を捨てそして自分を捨てた愚かな人間達を滅ぼす為に甲殻類型サンプル花子を作り上げた。
しかし、サンプルモン花シャ子は兄の想定以上に兄の命令に忠実で聡明すぎた。
愚かな人間を滅ぼせというたった一つの命令を忠実に守った彼女はまず目の前にいた愚かな人間、兄を殺し深く冷たい海にその身を沈めたのだ・・・
そう、兄のような人間が現れたらまたその凶悪なハンマーで跡形もなく消す為に。
しかし、兄と違いほんの少しばかり人間を大事に思う弟博士はある疑念があった。

それはいつかサンプルモン花シャ子が人類全員を愚かと判定を下し全人類を滅亡に導く未来の可能性であった。

その可能性を完璧なまでに潰すのに博士はある怪物を生み出していた。
ごぽりと試験管で浮かぶ少女の口から音が出る。
彼女がその閉じていた目を開くと二つの鋭い光が暗い研究上で光り輝いた。
彼女はすでに完成されていた。

「さあ出てこいサンプル花子……いや、サルミアッキ花子よ!」
老博士がまだ人の手を残している右腕を振り上げる!
その合図とともに器械が重音を震わせ、ゆっくりと試験管の厚いガラスを上げていく。
バシャッとなんで構成されているのかわかったものではない淡い青色の養液が地面にぶちまけられ、試験管の中の少女がどさりと倒れこむ。
キツイ塩化アンモニウムの匂いがあたりに立ち込める。

「よし。起き上がるのだ。サルミアッキ花子よ。これよりわが兄の生み出したモン花シャ子をそのサルミアッキにより強化されたサンプル・シューターで殺すのだ!」
命令を聞くと、ぴくりと少女は反応をしめしゆっくりと起き上がる。
彼女の頭は黒い紐状のリコリス菓子が髪のかわりとなってうねうねと覆っており、そのドレスは黒と白のチェック柄であった。
そして美少女の細く可憐な体には不釣り合いな・・・・
おお、なんということだ。
博士の腕にあるような大きなタイヤが本来腕のあるべき場所である両腕についていた。
聡明で忠実な、愛くるしき少女は無言ですぐに自分の倒すべき怪物が待つ海へと向かいその身を沈めた。

だが、深くどこまでも広い母なる海でサルミアッキ花子はどうのようにモン花シャ子を見つけ出すつもりなのか?
それはとても簡単な事だった。
「サンプル・シューター」

一条の眩い光がタイヤから放たれ、サルミアッキ花子を中心とした海一帯を黒く染める。
そう、これがサルミアッキ花子の力であった。
彼女のサンプル・シューターは一瞬にして海を禍々しく塩化アンモニウムに染めてしまったのだ。
過剰な塩化アンモニウムの摂取によりぷかりと死んだ魚たちがその白い腹を上にむけ浮かび上がって水面を埋め尽くしていく。
黒い海を埋め尽くして淡い月光にてらてら光る魚たちの死骸。
それはとても恐ろしい風景であった。

しかししばらくしてその風景は何処からか放たれた閃光により瞬時に吹き飛ばされる。
サルミアッキ花子にむけて放たれたそれをサルミアッキ花子はタイヤを高速回転させ防ぐ。
すこし熱により解けたタイヤがなんともいえない悪臭と煙をゆらりと水中でかもしだすがサルミアッキ花子は表情一つ変えずにじっと海底でそれの到着をまった。
ものすごい勢いで白い泡の塊がサルミアッキ花子に向って近づいてきた。
モン花シャ子だった。
『海の生態系を脅かす愚かな人間として貴女を殺します』
「モン花シャ子ですね、博士が貴女を人類にとっての危険分子として私に排除を命令しました。覚悟してください」

二人の少女が水中でぶつかりあう。
大きな衝撃波が生み出され二人の姿は消えてしまった。
いや、我々の目では追い付かない速さで二人は戦い始めたのだ。

勝負の結果は・・・・?
それは海で行われたので誰も知る事が出来ない。
はてさて、サルミアッキ花子は無事にモン花シャ子を潰し博士の元へ戻ったのだろうか?
それとも・・・・

この広い海ではまだモン花シャ子が・・・・

(おわり)

15ヴィピアン:2018/02/15(木) 19:26:39
冒頭書き忘れていた!!
上に投稿したのはほまりんさんの作品、『甲殻類型サンプル花子』に影響を受けて書いたオマージュ作品でございます。
是非まず元のお話を読んでからお楽しみください。
そして快く許可を出してくれたほまりんさんへ。ありがとうございます!!

16偽花火 燐花:2018/02/16(金) 23:28:45
おれの王女様をくらえーっ
(捏造)(過去の話です)(本編とは何も関係ありません)(自キャラもプロローグも一切関係ない)


――この小さな物語は、宴の開催より七年の時を遡る。


エミール・ヴァンクリフは、寮内に高らかに鳴り響くラッパの音色で眠りから覚めた。
時計の針は午前六時。
彼らエプシロン王国立少年兵学校の生徒に課せられた起床時刻である。

エミールは機械じかけの人形のように跳ね起き、きちんと折り目の付けられた制服に袖を通すと、
同室のベッドに横たわり大きないびきをかく親友に向かって大声で怒鳴りつけた。

「起きろハンス。今日が何の日だか忘れたのか」

叩き起こされたもう一人の少年――名をハンス・ゼーゲルという――は眠たげに目をこすりながら体を起こす。

「……そうか。この部屋でお前に起こされるのも、これが最後というわけか」


かつてエプシロン王国は、絶対権力を抱く国王を頂点に据えた、厳格な秩序に基づく階級社会であった。
だが時代の波に乗ったゆるやかな情勢変化により、今ではその階層構造はいくらか流動的なものとなった。
王侯、貴族、そして宗教指導者を支えていた騎士階級は、近代化された軍隊に取って代わられている。
しかし軍隊といっても、絶大な力を擁する天空の王国に正面から相対する敵など存在するはずもない。
そのため軍事訓練や演習は、実際に相手を制圧するよりかは、示威的かつ儀礼的なものにとどまっていた。

エプシロン王家の血筋に、祝福された一人の赤子が誕生するまでは。


エミールの祖父は没落した貴族階級の出身である。
それを受け継いだのか、彼の性格も非常に気位が高く、他者を自然と見下す悪癖があった。
兵学校に入学した日、彼が今後の六年間を預けるはずのベッドに一人の少年が座っていた。
彼がまず最初にその少年へ投げかけた言葉は「どけ」という一言だった。
他者を従わせることでしかコミュニケーションを取るすべを知らなかったのだ。

だがその少年ハンス・ゼーゲルは、彼の言葉に己の拳で答えた。
エミールは困惑し狼狽しながらも、湧き上がった熱情とともに同じ方法で返した。
それは彼が人生で初めて経験した、対等な立場での語り合いだった。

以来二人は寮での共同生活のなか反目しながらも互いを認め合いつつ文武を磨いてきたのだった。
こうして育まれた友情は二人の生涯を通して堅く結ばれたものとなる。

二人は今日、卒業の日を迎える。
両名揃っての主席の栄誉、そして王女への謁見という最高の褒賞とともに。

17偽花火 燐花:2018/02/16(金) 23:30:13
数年前から、兵学校の主席の座には必ず成績最上位の二人が選ばれることが通例となっていた。
そしてその両名は第一王女の名のもと宮廷にてその忠誠を捧げるのだ。

「謁見室」へと向かうエミールに、侍女は大ぶりの西洋剣を手渡した。
彼がこの六年間の青春をすべて捧げてきたものだ。
腰に帯びたその重みを感じながら、エミールは地下への階段を下りる。
そして重い扉を開けた先――円形に開けた闘技場に、ただひとつ備え付けられた豪華な観客席。
そこに彼女はいた。


エプシロン王国第一王女、フェム=五十鈴=ヴェッシュ=エプシロン。
わずか七歳にして、生まれ持つ気品と美しさは天空の王国にあってなおこの世のものとは思えぬ。


やがて円周の反対側、もう一つの扉より、盟友ハンスが姿を現した。
その手に握られているのは、彼が持つものと同じつくりをした大剣である。

「エミール・ヴァンクリフ。そしてハンス・ゼーゲル。若き騎士らよ」

ひれ伏す二人に、幼き王女は告げた。

「その血を捧げなさい」

厳かな所作の中、小さな赤い舌がその唇を舐めるのを、エミールは見た。

然り。
我らは贄。
幼き暴君の舌を躍らせるために饗されし祝宴。

「ハンス」
「ああ」

エミールは剣を抜く。そして生涯の友に向かって語りかけた。

「最高の死合をしよう」


二人の堅き友情は、その命尽きるまでほころびることが無かった。


(おわり)

18叢雨 雫:2018/02/18(日) 18:44:30
【王女さまチームがこんな関係性だったらいいのになぁというSS】

>>12-13 に投稿した、おしゃれバレンタイン百合SSの直後を妄想しました。





フェム王女が夢に落ちるのを見届けた後、
侍女ピャーチは与えられている待機室へ戻りコートを羽織った。

そして、虚空に向かい呟く。

「フェム様を頼む」

「……外は猛吹雪です。明日のご訪問の下見でしたら、我々にお任せ下さい」

どこからともなく、そんな声が返って来た。

「気遣いありがとう。
……だが、やはりデータではなく私の目で見ておきたい」

「そうですか、では……お気を付けて」

「……気を悪くするな。
お前たちの有能は買っている。 フェム様を任せたぞ」

「御意に」

パタリと、待機室のドアが閉じられた。





侍女の立ち去ったあとの待機室。
残された者達が密談を始める。

「……行った?」

「うん」

「……ハァ〜〜〜〜! 緊張したァ〜〜〜!」

「わかる」

「どうしよどうしよ、ピャーチ様と会話しちゃったよ!」

「いいな〜!」

「『ありがとう』だって……キャ〜〜ッ!」

ーー侍女ピャーチは、従者ヒエラルキーの限りなく頂点に近い位置にいる。

すなわち、2ヶ国連合による広域警備隊、母国からの侍女チーム、
そしてこの場の2人が属する、隠密武力護衛チームの頂点に。

広域警備隊の誰よりも護衛地を知り、
侍女チームの誰よりも身の周りのお世話に長け、
隠密武力チームの誰よりも対面戦闘において強い彼女は、
従者達から曇りなき尊敬と信頼を集めている。

「ああ……ピャーチさまぁ……」

「ふふ、よかったね」

「最近ね、王女様とピャーチ様が並んでると、尊くて直視できないの……」

「それは護衛としてどうよ」

「でもでも、綺麗な顔と綺麗な顔が近くに並んでると、こう……!
『尊い〜〜〜!ダメェ〜〜〜!』ってならない!?」

「あっはっはっは」

「え〜……、笑うとこ?」

「うーん、尊いかはわかんないけど、
あの位置が務まるのはピャーチ様だけだなぁとは感じるよ」

「あっ! それすごくわかる!」

「従者としての能力もだけど、
あれだけ王女様のお傍にいて≪魅了されない≫なんて……。
ピャーチ様にしかできないでしょ」

エプシロン王国の民は、総じて美男美女が多い。
他国の血が混ざり辛い国土と超技術がその背景にある。

とりわけその中でも王族は別格だ。

系図を遡れば神に通ずるとされるその一族は、民草とは一線を画す造形美を誇る。
一目見た者を虜にする、魔性の域に達した美。

故に王族の最も傍に侍る者は、必ず同性とすることがしきたりとなっている。
これまでの歴史の積み重ねから、異性の従者をあてがえば、
ほぼ確実に恋に落ち、場合によっては不幸な結末を迎えてしまうことが判っているためだ。

19叢雨 雫:2018/02/18(日) 18:45:06
「最近の王女様ヤバイよね!」

「ヤバさしかない」

「この前、護衛中にチラッと目が合っちゃっただけど、
急にブワッて汗が出て、気付いたら顔が真っ赤になってて……。
あれ……ほんとヤバかった。
たぶんもう1秒目が合ってたら妊娠してたと思う」

「侍女チームの方では、
『王女様が可愛すぎて辛いので辞めます』って人が何人も出てるらしいしね……」

「ひえ〜」

王族は歳を重ねるにつれ、その暴力的な魅力を抑える術を自然と体得する。
そしてその時期は、成人を迎えた以降と言われている。

ーーつまり、今がフェム王女の可愛さ最盛期!
可愛さ無制限大解放! 比喩ではなく死人が出る可愛さ!

「……で、なんの話だっけ」

「王女様の傍にいられるピーチェ様すごいって話」

「ああ、そうだった!
私だったら1分と持たず狂う自信があるよ!」

「まぁ、目が合ったくらいで妊娠するならそうだろうね〜」


姦しい密談は続く。





明日の訪問地の下見を終えたピャーチは、
迎賓館へ直帰せず、足早にとある場所へと赴いた。

煌びやかな歓楽街にある、電飾で彩られた入り口を潜る。

「空きはありますか」

受付を済ませ、渡されたカゴを持ち、店の奥へと進む。

効き過ぎた空調、下卑た男女の笑い声、騒音、ベタつく不衛生な床。

それらを小走りで抜け、あてがわれた個室へ転がり込む。
体裁を気にせず、コートを脱ぎ捨てカゴを乱暴に机へ置いた。
よろけるように、備え付けのソファに体を預けた。
呼吸が……荒い。

そこは日本のガラパゴス文化ーーーカラオケボックスと呼ばれる場所であった。

侍女ピャーチの隠された趣味がカラオケなのだろうか?

否。

彼女は単に母国の者の目が届かず、力の限り叫んでも良い場所が欲しかっただけだ。

ーー彼女は、既に限界だった。

「あーーーーーー!! もーーーーーーー!!」

ソファをボスボスと殴りつけながら、彼女は叫んだ!

「可愛すぎかーーーー!!」

ーーーそう、彼女もまた、王女に魅了された民草の一人なのだ。

度を超えて王女に魅了されていることが母国の者に知られれば、
不適格と職務を追われることとなる。

それはなんとしても避けなければならない。
大好きなフェム様のお傍にいたいから!

何がなんでも隠し通す!フェム様への感情を!

だが、それは精神が崩壊するような辛さを伴う。

故の、この場!

ピャーチはフェム王女に対して頂いた感情を、
このようにして定期的に発散することで体面時の平静を保っているのだ!

ひと段落つき、ソファーに顔を埋めたピャーチの顔が、みるみると朱に染まる。

そうッ! これこそが対王女のために編み出した護心の絶技!
≪思い出し悶絶≫である!

王国が誇る超薬学と精神鍛錬のハイブリッド!
受けた「萌えキュンダメージ」を、明鏡止水ーー無の心で一旦保留し、
ダメージの発露を遅延させるッ!!

かわいいは! 遅延できる!

20叢雨 雫:2018/02/18(日) 18:46:01
「今日も顔の造形が最高だった〜〜〜〜! も〜〜〜っ!!」

彼女は、これまで相当なかわいい修羅場を乗り越えてきた猛者だ。
他の侍女たちの見立て通り、並の者よりはかわいさ耐性もある。

特に「一緒にお風呂に入る」という修羅期を乗り越えて来た彼女の精神は、
十分に研鑽されていた。

しかし、
そんな彼女をしてもバレンタイン仕様のフェム王女はあまりに強かったのだ!!


>「『現地の人間が現地の言語で書いたものにこそ、文化の機微を理解するヒントが宿っている』」
>「翻訳家、『戸田 奈津子』」

つい先ほどのやり取りがフラッシュバックし、侍女はまた大きく悶えた。

「ああ〜〜〜ッ!! なりきりフェム様かわいすぎるううううう!!」

最近、王女は日本のアニメを見た影響でこのようなやりとりにハマっている。
「うんちく紅茶ババア」というキャラクターのマネだ。

「何かしら名言を言い、従者がその出典を捕捉する」
という一連のテンプレートがひどくお気に入りのようで、
よく戯れにピャーチに名言を振る。

実はその出典の成否は重要ではなく、とにかくテンプレートが満たされれば、
彼女はなりきりごっこが成立したと、ご満悦な表情を浮かべるのだ。

上の回想においても、「戸田 奈津子」という人名はピャーチが適当に言っただけであり、
恐らく王女が言うような名言など遺してなどいない。

それなのにーー

>「やるわね、あなたの勤勉を疑ったことは無いけど、感心しちゃった」

これをなりきりと言わずしてなんという。

「ああああッ!! 役になりきってのしたり顔〜〜〜!! 好きィ〜〜〜!!」

びくんびくんと痙攣するピャーチが、また一際大きくのけ反った。
次の回想が彼女を襲ったのだ。

>「賄賂よ。 堅物の看守さんにお目こぼしを頂くための」

「いけません! フェム様! シチュエーションプレイなど、まだはやいですゥ!!
ああ〜〜〜〜〜ッ!!」

彼女は戦っている。
己が内に潜む怪物ーー受刑者の装いで鉄格子に押し込められた王女のイメージ図と!

21叢雨 雫:2018/02/18(日) 18:46:23
ーーそれから、従者は絶叫と悶絶を何度も繰り返した。

>「私の趣味があなたにも還元されれば少しは監視の目も緩くなるかと思ったのだけど、
>……いかがかしら」
>妖艶に笑み、王女は続ける

「アアーーーッ! 発言が高貴ィ〜〜〜! ギャグが高尚〜〜!
表情が蠱惑的ィ〜〜〜! 好きィ〜〜〜!!」

>「まったく……あなたの堅物は根っからね。 いいわ、今日は休みましょう。
>髪を解いてちょうだい」

「アア―――ッ! いつもおぐしに触らせていただいてありがとうございますゥ〜〜!!
もうずっと触っていたい! 好きィ〜〜〜!!」

>「まぁっ……! ふふ、うふふふふ」

「むぐぐぐぐ……ぐふう。 笑顔はッ……! 反則です……!」

>「……ふふ、でも……残念。
>ツメが甘いところが可愛いわ」

「可愛いのはそっちだよチクショー!! 死ぬわ!!」

そしてとうとう、侍女はその日最大の精神ダメージを受けた回想にまでたどり着く。

>王女は侍女の細いネクタイを引いて、耳を口元に寄せた。
>そして囁く。
>「桃の花言葉は『私はあなたの虜』。
>――これじゃあ貴女、下品な告白よ」

「アーーーーッ! アーーーーッ!
えっちすぎますいけません! あーーーーーッ!!」

衝撃を殺しきれず、彼女はソファから転げ落ちた!
そしてそのまま、動かなくなった……。

ーーしばらくして起き上がった時には、その顔は平常の、
王女に使えるクールビューティ! 侍女ピャーチのものとなっていた!

彼女は自らの心に克ったのだ! コングラッチレーション! ピャーチ!!

ーーいそいそとコートを着込み、帰り支度を整えようとした彼女は、
ポケットの中に入れておいた箱に触れ、その存在を思い出した。

それは、王女より賜ったチロルという銘柄のチョコを保管するために用意した箱。

そこにきて、処理しきったはずの萌え回想がUターンしてきた。

>王女は侍女の細いネクタイを引いて、耳を口元に寄せた。
>そして囁く。

ピャーチは、また自分の頬が茹で上がっていくのを感じた。

頭を抱えたあと、彼女は部屋に備え付けられている受話器をとった。

「あの……とりあえず、30分延長でお願いします」

彼女がカラオケボックスを後にしたのは、それから3時間後だったという。

22霧切:2018/02/18(日) 20:14:55
ttps://pbs.twimg.com/media/DWOGV98VAAAO2Pf.jpg
キャラ一覧も公開されたので掲示板にも貼っておく
今回の自キャラです!はたして誰か分かるかな

23八剱聖一/ちゃんとしたプロローグ:2018/02/18(日) 21:40:59
禁じ手の感がありますが公開します。送信ボタンが押せずに出しそびれた真プロローグです。

tp://wsnajimi.web.fc2.com/newprologue_ss5.txt

24名無しの死体:2018/02/20(火) 02:13:08
ジョン・ドゥ
気付かれてはいけない、プロローグ



神奈川予選会場を果てしない夢(ネバー・エンド)で吹き飛ばした数分後。
呆然と立ち尽くす県庁職員には目もくれず、ジョン・ドゥは空中からトゥインクル・フェアリーに声をかけた。

「…で、トゥインクルはどうしてぼくをこんな所に連れ込んだわけ?」

…その声を聞いて、オドオドとしていたトゥインクル・フェアリーの雰囲気が少し変わる。
「…珍しいね。ジョン・ドゥがそんなこと気にするなんて」
「ぼくはどこで誰と戦おうと構わないよ。悪いオトナはみんな敵だもん。でも、トゥインクルは違うでしょ?」
ジョン・ドゥがにっこりと笑う。
蟻を踏み潰すように。蛙を引き千切るように。

「トゥインクルがぼくをここに連れてきた理由、知りたいな」
トゥインクルは内心、冷や汗をかいた。
彼女にとって、これがジョン・ドゥの一番嫌いなところだ。

子供は、勘が鋭すぎる。

「……あのね、ジョン・ドゥ。黙ってたわけじゃないんだけど、ほら、私たちってお金がないじゃない?だから…」

と、言いかけたところでトゥインクル・フェアリーが顔を上げると、ジョン・ドゥは既に飽き、死体を果てしない夢(ネバー・エンド)で空へ打ち上げているところだった。

(あ、危なかった…。)

トゥインクル・フェアリーはジョン・ドゥに何も教えてはいない。教えるつもりもない。
大事な願い事を、彼のつまらない夢に浪費させるわけにはいかない。


「って、死体で遊ぶのは流石にダメでしょおおお!?ジョン・ドゥ、ストップ!ストップ!」

やっぱり、私を振り回すところが一番嫌い!と、少女はひとりごちた。

25名無しの死体:2018/02/22(木) 02:25:41
砂漠被り記念幕間SS

濠は、ヘリコプターから垂れ下がった梯子から小さくなっていく取引相手を見ている。

「良い取引だった」

グロリアス・オリュンピア。参加権を手にして、あとは己の営業力を信じるだけだ。
考えながら強い風を鬱陶しく思い、そろそろ戻ろうか、と梯子に足をかけた時。

「やぁ!こんなところで奇遇だねぇ!」

後ろから、声をかけられた。

「ッ!?」

慌てて振り返ると、青い服を着た怪しい男が、ヘリと並走して飛んでいるではないか!
濠は今まで、こんな営業法を見たことがなかった…さながら、飛び魚営業といったところだろうか。

「ジョン・ドゥのばか黙ってて!!その、驚かせてしまってすみません。私たち、怪しい者じゃなくて…旅をしてるんです。で、ちょっと道をお尋ねしたくて」

先ほどとは違う声。男の背中から、ひょっこりと小さな少女が顔を出した。なんだ、営業ではないのか。濠は少し安心した。

「神奈川ってどっちでしょう?」
「あ、あぁ、神奈川なら…」

濠は相手に戦闘の意思が無いことを知り、気付かれぬように能力を発動させる。果たして役に立つとは思えないが、一応の保険である。

「あっちだ」
南を指す。
濠の記憶では、東京砂漠を出ても、横浜砂漠に繋がるだけである。

「ありがとうございます!」
「ありがとう、おじさん!」

小さな少女は丁寧にお辞儀をして。幼い顔立ちの青年は失礼な言葉を吐きながら。それぞれヘリから恐ろしいスピードで飛び去っていった。

「…珍しい奴もいたものだ」

濠は胸ポケットから取り出した彼の名刺を眺めた。

『ジョン・ドゥ No.4236
10代から20代
損壊が激しく死因不明』


「死人にも名刺がある、ということを知れただけ儲けたと思おう」

と、ここで濠はあることに気付き、少し口角を上げた。

「この場合は認識番号(ドッグタグ)、か」

ジョン・ドゥは身元不明の死体に付く名である。

濠は忘れていた寒さにぶるりと震えると、梯子に足をかけた。

26名無しの死体:2018/02/22(木) 03:23:26
マスコット妖精被り記念SS

公園のベンチに座ると、烈花は少し冷静になった。

「いや、冷静に考えたら無理でしょ…何がどうなったら魔人能力に目覚めたばかりの小娘が、魔人ひしめくいかれポンチ大会で優勝できるっていうのよ…」
『あははぁ、大丈夫大丈夫、キミはともかくボクは強いし?」
「さっき見た感じだと、能力、使いこなせてないじゃん…」
命を賭した戦いに赴こうというのに、キャプちゃんと名乗ったスマホの妖精は呑気なものだった。
烈花は一人、ため息をつく。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


公園のベンチに座り、ジョン・ドゥは気ままに鼻歌を歌う。
「なんで!神奈川砂漠を目指して!静岡に着いちゃったの!」
「あはは、お茶の匂いがねーやっぱりねー。トゥインクルも飲みなよー美味しいよ?」
「…途中で気付かなかった私が悪いよ…ジョン・ドゥに関しては全部私に責任があるよ…」
予選受付終了まで1週間を切ったというのに、ジョン・ドゥは呑気なものだった。
トゥインクル・ フェアリーは一人、ため息をつく。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


同時に聞こえたため息に、烈花とトゥインクル・フェアリーの目が合う。
公園に二つ並んだベンチ、そのそれぞれで、似た境遇を嘆く二人。通じ合うのは一瞬だった。
だが、声はかけない。なんと言っていいか、分からない。

「ねぇ〜アルコール切れた〜買いに行こう〜」
「…お金ないけど、中学の理科室なら忍び込めるよ…」
烈花が席を立つ。


「ああー!お茶飲んだらお腹空いたなぁ!いぶりがっこ食べに行こうか!」
「…ほんと頼むから、それ食べたら神奈川砂漠行こうね…?」
ジョン・ドゥが宙に一歩踏み出す。

二人は奇しくも、逆方向に進んだ。西部劇のガンマンのように。

あるいは…別れる恋人のように?

数メートル進み、互いの思考が一瞬交差し、そして…一本の糸のように、縒り合わさった。

「キャプちゃん、ちょっと待って…っ!」
「ジョン・ドゥ、一言だけ…っ!」

二つ並んだベンチの間、二人は奇妙な共感とともに、同じ言葉を…。

「「君の名は…!」」

この出会いから数十年後、烈花とトゥインクル・フェアリーは、「人類史上、最も平和を愛した二人」として渋谷に銅像が建つことになる。

ありえたかもしれない、もしもの話。

27さささ:2018/02/27(火) 00:11:32
勝手に描いていた参加キャラのイラストまとめが現時点で37枚になりましたので、ひとまず投稿します(描き直しによるキャラ重複あり)。
全員は描けなさそうで申し訳ないのですが、予選結果が出るまでにできるだけまた描きたいです。
tps://twitter.com/i/moments/967761808797851648

28ヴィピアン:2018/02/27(火) 04:19:27
63人全員描きました。皆様素敵なキャラをありがとうございました!楽しかったです
えーーーい絵よ届け!!
ttps://twitter.com/i/moments/968193860345221121

29黒ヱ志絵:2018/02/27(火) 20:30:52
アナザープロローグSS
『あるいは――露骨なテコ入れ、無様な悪あがき』

とある高層マンションの一室。
据え付けられたモニターを見つめる少年、谷町明来翔の表情は暗い。

「うーん……」
「さっきから何をうなってるの?」
「ああクロヱ、ちょっと……うわっ!?」

そんな彼の首に手を絡め、彼の背後から覗き込むようにモニターを見つめる少女、黒ヱ志絵。
返り血まみれになった衣装のシミ抜きが終わったようで、いまは洗濯機の動く音がする。
だが、明来翔の意識は背中に当たる柔らかい感触に集中してしまっていた。
志絵の上半身はキャミソール一枚。ままあることだが、日ごとに明来翔の理性は揺さぶられていく。

「抱きつくなって言ってるだろ!」
「部屋が寒い」
「じゃあ上着を着なよ……」
「で、どうしたの?」

離れる気配は微塵もない。
彼は溜息をついてあきらめた。

「グロリアス・オリュンピアに出るための選考なんだけどさ」
「それが?」
「芳しくないらしい」

志絵の腕に力がこもる。
先ほどまでとは違う意味の緊張が走る。

「え。こないだのおじさんが推薦してくれたんじゃないの?」
「彼から聞くところによるとね、選考は各推薦人に王国の有識者を交えて行うんらしいんだけど」
「うん」
「あんまり評価されてないらしい」
「なにそれ。推薦がいい加減だったんじゃないの? あの人ぼんやりしてそうだし」
「まあ、それもあるかもしれないけど。ほら、クロヱってなんていうか……地味じゃん?」

あけすけな彼女の物言いに、明来翔は肩をすくめた。
つい余計な一言を挟んでしまう。

「は? アクトが簡単な仕事ばっかりよこすからでしょ」

首に絡めていた両手が流れるように頭に巻きつく。フェイスロック。
みるみる顔が真っ赤になる。

「痛い痛い! だって志絵に怪我なんかしてほしくな…………確率の高い仕事をこなしていかないと、事業にはならないよ」
「ふーん」

やはり密着されて冷静でいられないのか、いつにもまして今日は本音が漏れてしまう。
解放されて咳き込む彼をよそに、志絵はまんざらでもない様子。

「とにかく! 僕もできる限りのことはしてみるよ。思い出に浸ってるような時間はなさそうだ」
「じゃあ、志絵と明来翔の出会いの話はしないの?」「ちょっと」「ウチの出番は!?」「ユカリちゃん!!」
「はは……ただ、三月からは暇になるかも。ごめん」

以前に比べればずいぶん減ったとはいえ、たまに志絵がひとりで会話しているように見えるときがある。
それを見ると明来翔はどうしようもなく不安になるけれど、彼にできることは苦笑いすることだけ。

「いいよべつに。アクトが悪いんじゃないし。悪いのは私の魅力を表現できないおっさんだから。――でもね、明来翔」
「ん?」
「私、そろそろ退屈かも」

冷ややかな瞳。
背筋が凍る。

「ッ……休み明けからはもう少し依頼の強度を上げてみるよ」
「よろしい」

満足げな志絵だが、すぐに失言に気がつき、再び腕に力がこもる。

「って、休み明けってどういうこと?」
「あっ」
「もう私が選ばれることはないって? あー! 旅行サイトなんか開いて!」

動揺しながらも速やかにウィンドウを閉じた明来翔は、慌てて別のファイルを開いた。

「こ、これはその、そうだ、ちゃんと他の候補者のリストも貰っといたから! そっから調べられるだけ調べといたし!」
「なにそれ! 見せて!」
「ほら、この人とかこの人とか、試合できたら面白いんじゃないかな……」
「わぁぁ……! アクト、ありがとう!」

笑顔を輝かせている志絵は、だれよりも可憐で。
その表情が彼に向けられたことは未だない。
いいなあ貴方と闘ってみたいなあと、うっとりしながら画面をスクロールする志絵を横目に。
絡まったままの細い腕だけが、彼に温もりを伝えていた。


(了)

30音無光陽:2018/02/28(水) 00:06:32
プロローグから抜いたけど我慢できなくて投下する文章。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 私、ファムの父親は、一言で言うと「バカな人」だと思います。もちろん、国王としては尊敬していますし、私に対しても、きちんと父親をしてくれています。
 しかし、父様は一般的な、物語に出てくるような厳格な王様ではありません。賑やかで、笑顔が好きで、そして、誰よりも自由で。たまにトラブルも起こしますが、それも結局国民のためになってしまう。誰よりも尊大で、誰よりも偉大で、誰よりも魅力に溢れた人。カリスマを体現したような人。そして……魔人なのです。
 父様の能力はゲート。自分の望む場所に移動するための門を作り出す能力。約二十年前、父様はそれの制御に失敗し、日本へと降り立ちました。そして……母様と出会いました。
 助けてもらった母様に一目惚れした父様は、能力を使って毎日のように母様に恋文を出し続けたそうです。最初こそ、迷惑がってた母様も、父様の真摯な態度に惹かれてゆき、二人は結ばれたといいます。しかし、その相瀬が、エプシロン王国の発見につながってしまったことは言うまでもないのですが、そんなことはどうでもいいのです。
 もう一度言ますが、私の父は魔人です。
 魔人……常識外の、人間離れした能力を持つ人々。自分自身の認識を他者に強制する特殊能力者。世界中から、差別の対象となりかねない存在。この平和な世界に存在し続ける無数の火種。そして――――私の何よりの憧れ――――。
 私は魔人が好きです。自分の、世界の常識という殻を破り捨て、新たな概念をすら作り出す、無から有になった存在たち。私は、そんな魔人たちにに憧れをいだいているのです。
 そう……憧れだけ、いだいているのです……。
 ――――私は魔人ではありません。普通の人間です。いいえ、王女という立場ということを考えれば普通ではないのですが、それでも、私に能力などありません。火も起こせませんし、何かを出せるわけでもありません。瞬間移動だってできません。できると……思えません。
 私は、私自身が好きではありません。与えられた世界、与えられた立場を甘んじて受け入れて、それに対して嫌悪感を抱きつつも、結局、その世界というものから弾かれるのを心の中で恐れているのです。臆病なくせに、スリルばかりを求めて。そんな自分に、心底――――イライラしてしまいます……。
 戦いを鑑賞するようになったきっかけも、自分からもっとも遠い世界を見てみたいという憧れからでした。そして……戦えない、飛ぶことができない、甘んじることしかできない、自分自身の立場への、ささやかな叛逆でしかないのです。こうやって、私は自分自身を隠しているのです。……王女であるために。
 しかし――――私はそれでも、自分自身に反逆をしてみたかった。だから――――あの会見で、私は言葉を発することを選んだ。
 
 ――――自分が他の誰でもなく、誇るべき自分自身であると断言するように――自分の能力を、全力で揮える。そんな光景を、いつかこの目で見ることができれば、私の中を流れる日本人の血も、きっと歓喜に震えてしまうのでしょうね――――

 私の言葉を受けて、日本で魔人による、闘技大会が開催されることが決定した。私はとても喜びました。
 私のための戦いの場。私が私の世界を破るきっかけになるかもしれない時の到来を、私は今か今かと、待ち続けてしまう。
 コロシアムの中心で、私と同い年の少年が、今、彼が倒した男性を見下ろしてる。影に甲冑の騎士がはいっていくのが見えました。先ほど使っていた、彼の能力。とても個性的な能力でした。スケジュールでは、彼が確か、予選最終戦のはずなので、この試合の終了に合わせて、場内に魔人たちが再び集まってきた。
 ああ――――これから彼らの戦いが見れるかと思うと、心が震えてしまいます。
 はやく――――はやく――――はやく――――!
 そして、予選通過者の名前が、電光掲示板に発表されたのでした。

31大正 直:2018/02/28(水) 15:09:42
都内某所・荒廃した倉庫街。

「ちくしょう、ちくしょう。
 何でおれがこんな目に……ちくしょう……」

銃声と断末魔、硝煙と血の匂いが充満する中、玉砲 金矢(たまづつ きんや)は
コンテナの影でがたがたと震えながら、誰に言うともなく、己の境遇を恨む呪詛を呟いた。 

いや、恨むべき相手はいる。
三日前に居酒屋からの帰りで出くわした、妙な大道芸人じみた男だ。

〜〜〜

玉砲金矢は魔人暴力団員である。組の中ではハッキリ言えば下っ端よりはちょっと上、という
決して恵まれた立場ではないが、それでも彼はこのような命のやりとりをする立場ではなかった。
謎の男に出くわした翌日に、裏のシノギである集団的振り込め詐欺の電話をかけた際に
騙す筈の老人に、ご丁寧に本名と住所を伝えるまでは。

そう、彼の出会った相手こそ“正直伯爵”に他ならなかった。
伯爵の能力に曝露した結果、彼は正直者となり、前述の大ポカをやらかすに至った。
金矢がせめてもう少し世間の話題に注意を払っていれば、伯爵への曝露の時点で対処できたかもしれない。
しかし、彼が不審者の正体を知ったのは、振り込め詐欺がオジャンになった翌日であった。

金矢の不運はさらに重なる。
バカ正直に名前を告げた相手先の電話が、レコーダー機能付きだったことだ。
向こうが警察に届け出れば、金矢はもちろん、そこから芋づる式に詐欺グループの面子どころか
組全体がしょっぴかれかねない。白を切りとおそうにも、金矢は嘘がつけない。

組の上層部が出した結論は――死人に口なし、というものだった。
とはいえ、組も証拠隠滅の為わざわざ自分たちの手を汚すのはただの手間というのはわかっている。
そこで、対立する組の取引をぶっ潰すべくカチコミをかける役目を負わされた。早い話が、鉄砲玉である。
死亡率が極めて高いが、生き残りの目もなくはない。一筋の希望をぶら下げた首吊り縄である。
金矢に逆らうという選択肢はない。逆らえばその場でコンクリ詰めか、樹海に生き埋めのどちらかだ。
ここでもバカ正直に『今すぐ死にたくはねえです!』と答えた結果、
金矢は鉄砲玉として、他のやらかし下っ端連中ともども抗争に送り込まれたのだった。

〜〜〜

「くそっ、あのお面野郎、今度会ったら眉間にブチ込んでやる……ちくしょう」

金矢が正直伯爵への恨み節を呟けば呟くほど、ある種の呪いじみた正直者状態は
より強固に、長く定着するのだが――そんなことを金矢が意識しているわけもない。

「うう、死にたくない死にたくない死にたくな…… ……?」

ネガティビティに囚われかけた金矢が、ふと異変に気付く。
あれだけ鳴り止まなかった銃声が、完全に途切れている。

自分以外全員くたばったのか?それとも罠か?
金矢が、子細を確かめるかどうかをなおも躊躇し悩んでいたその時。

「玉砲 金矢だな? 国際魔人警察、大正 直だ」

32大正 直:2018/02/28(水) 15:10:10
金矢の目の前に、筋骨隆々の捜査官が現れる。
右手には武骨なデザートイーグル、左手には手帳を構え、金矢に見せつける。

「さ、サツだと? ほ、他の連中は?」

「他の連中か? すでに拘束した。お前に聴きたいことがあるんでな、少し静かにしてもらっている」

怯える金矢に、直は事もなげに『嘘』をつく。
この倉庫に、もはや&ruby(・・・・・・・・・・・・・・・・・){金矢と直以外に生きている者はいない}。
だが――直の嘘を、金矢が気付くことはない。彼の目には、今や手足を撃たれてうめく仲間や、
縛られて気を失った敵対相手の姿がチラついている。

これこそ、直の魔人能力『&ruby(ヤオヨロズライ){嘘八百万}』。
直が口から紡いだ嘘を、現実だと錯覚させる誤認能力である。

直の偽りの手腕に、覚悟を決めたのか金矢が自白を始める。

「わ、わかった……隠し事したくてもできねえしな、例の振り込み詐欺の」

「そんなことはどうでもいい」

だが、金矢の自白は空振りに――空回りに終わる。

「俺が聞きたいのはただ一つ。
 “正直伯爵”のことだけだ。知っていることを、洗いざらい吐け」

「? あの、仮面野郎……? いや、俺は飲みの帰りに出くわしただけで――」

「それだけ、だと?」

直の眉間に、険しい皺が寄る。
ひっ、と情けない声を漏らして金矢が竦みあがる。

「う、嘘じゃねえ! 三日前に遭ったっきりで、どこの誰かも知らねえんだ!」

「そうか。じゃあ、もう用はない」

期待した返事が得られないと知るや、直は愛銃の引金を容赦なく引こうとした。が――

「……っ!」

銃声は、直の手からではなく――金矢の股間から響いた。

「へ、へへっ……ふざけんな!殺られるくらいなら、殺ってやる……!」

金矢の股間では、黒光りするマグナムの銃口が硝煙をくゆらせていた。

これぞ金矢の魔人能力『タマトルピストン』……
勃起時、男性器を文字通りのビッグマグナムに変えて
射精の代わりに弾丸を放つ能力である!

余談ではあるが、彼がこの能力に目覚めたのは、父親のVシネマコレクションを見ている最中のことであった。
英雄視されたヤクザの抗争劇と女を抱く濡れ場のシーンは、彼に二重の興奮をもたらした。
金矢にとって不運だったのは、二つの興奮を混同した結果がこのような変態的能力だったことだ。
しかもこの能力、オンオフが効かないという欠点があった。
勃起したなら必ず銃になり、出すモノが必ず弾丸に変わる。
気軽にオナニーすらできなくなった彼の苦悩たるや、男子諸君ならば想像に難くなかろう。
ましてや女を抱けば、女を射殺してしまう――それゆえ、彼のビッグマグナムは童貞であった。

これまた余談だが、実は彼の能力は女性相手には致死の銃撃ではなく、
百発百中の受精をもたらす効果に変わるのである。
男性相手には&ruby(タマ){命}を奪い、女性相手には&ruby(タマ){卵子}に命中する。
それが『タマトルピストン』の真の能力である。
故に、避妊ができないことを除けば性生活も普通に営めるのだが――
このことを、金矢が知るにはもう数年ほど後になる。

ともあれ。追い詰められた金矢の、決死の反撃が直の右肩を穿った……が。

「……効かんな」

肩口の出血がその一言で止まり、元通り傷が塞がっていく。

「ひ、バカな!?」

「……殺人未遂と猥褻物陳列罪で、逮捕する」

デザートイーグルを改めて構え、金矢の手足に容赦なく撃ち込む。
激痛と出血で気絶した金矢を、手近なロープで拘束し、地元警察に連絡をして、直は立ち去る。

殺さなかったのは、直なりのせめてもの慈悲だったのかもしれない。
……“正直伯爵”にわずかなりとも生き様を歪められた者への。


「……くそっ、やっぱ&ruby(・・・・・・・){自分に嘘をつく}のは、難しい、か」

帰り際、撃たれた傷口を押さえながら直が呻く。
弾丸が貫通しているのだけは幸いだった―― なおも直は、自己暗示のごとく
「かすり傷だ」「ツバでもつけてれば治る」と、己の負傷を誤魔化し続けた。

33霧切:2018/03/01(木) 23:23:34
サンプル花子の使い方は様々である。
ある者は本来の使い方であるスパーリングパートナーに使い、ある者は理想の隣人として使い、ある者は性処理に使ったりもする。
そんな中、王族や貴族にとって比較的ポピュラーな使い方があった―――影武者である。
姿も性格も自分そっくりのサンプル花子を注文し、自分の代わりに危険な地域を訪問させたり面倒な仕事を押し付けたりするのだ。
それはサンプル花子の原産地である日本だけにとどまらず、遠き地であるエプシロン王国でも同様の使われ方をしていた―――

フェム王女の裏の顔を知るものは少ない。侍女のピャーチをはじめとしたほんの一握りの腹心だけだ。
では、真の顔を知るものは何人いるのだろう?
―――そんなものきっと、フェム王女自身と、懐刀である執事のミカだけである。
彼女の裏の顔は、魔人や格闘者が命がけで戦う姿を見るのが好きな観戦者。
では、真の顔とは?
行き過ぎた観戦者の行き付く先など決まっている。自分も実際にその戦場に立ちたい。という衝動に身を任せた出演者である。
彼女は、いつの日か自分自身も名声を、賞賛を、命を、全てを懸けた戦いの場に赴きたいという衝動に焦がれるようになっていた。
それでも今までは自重してきた。自身の立場は分かっている。
国民の期待を一身に背負っている身としては、全てを捨てて一出演者として命を懸けた戦いに身をさらすわけにはいかない。
しかし、日に日に戦いたいという衝動は強くなっていく。
そんな強い強い衝動を持ち、魔人を誰より愛する彼女が、ある日魔人能力に目覚めてなんの不思議があるだろうか。
彼女は、自身の願望通りの魔人能力に目覚めたその日、長年温めていた計画を実行に移す決意を固めるのだった。

「お嬢様?お話とはなんでしょうか」
執事のミカは、深夜突然のフェム王女からの呼び出しに一切動じた様子も無く応じる。
執事にとってお嬢様の言葉は絶対であり、主人の命ならばいつ、どのような状況でも応える準備はできているのだ。
「ええ。私欲しいものがあるの。少し難しいお願いだけど、誰にも極秘でそれを手に入れてくれないかしら?」
「かしこまりました」
主人の命に否はない。ミカは当たり前のように即答する。
「ありがとう。それで、欲しい物というのは―――私そっくりのサンプル花子なの」
「そっくりのサンプル花子、ですか。了解しました、すぐに極秘に手配します。しかし、影武者にでもするおつもりですか?」
「……そうね、ミカになら全部話してもいいかしら。ううん、きっと全て話して協力してもらうのがいいわね」
そう言ってフェム王女は語りだした。彼女の計画はおおざっぱに言うとこうだ。
サンプル花子を影武者にして自分の代わりに公務をおこなってもらい、自分はその隙に戦いの出演者となる。というものだった。
「……なるほど、分かりました。しかし、苦言を呈するなら、いささかその計画には無理があるのでは?」
「あら、そうかしら?」
「まず、殺し合いに赴くと言っても、どこで、誰と戦うつもりで?」
「うっ」
ぐさり、とフェム王女に何かが刺さった音がした、ような気がした。
「次に、魔人能力に目覚めたのはいいですが、そもそも実戦経験もなしにまともに戦えるとお思いですか?」
「うっ、うっ」
さらにぐさりとフェム王女に何かが刺さる。
「最後に、お嬢様が命を懸けて戦うなど、そんな危険な行為を私が見過ごすと思いますか?」
「うっ、うぅ〜」
普段の王女らしからぬはしたない声を出して、バタリとベッドに倒れ込む。
その様子を見て、ミカはやれやれと肩を竦める。
「……つまり、何も考えてはおられなかったのですね」
「だ、だって仕方ないじゃない。能力に目覚めてちょっと舞い上がっていたのだもの」
しかも、長年夢想していた能力に、である。これでちょっと舞い上がっただけですんだのはある意味奇跡を言えるだろう。
「はぁ……いいでしょう、お嬢様の願いを出来る限り叶えるのも執事の仕事。そのわがまま、出来る限り叶えてあげましょう」
「本当?だから、ミカは好き!」
普段の王女らしからぬ発言。彼女が信を置くものはたくさんいるが、その中でも唯一心を開き素の表情を見せるのが、このミカだった。
「お嬢様、はしたないですよ」
「あっ……ふふっ、ごめんなさい。それで私の執事さんはどのようにして私の願いを叶えてくれるのかしら?」
「ええ、まずは―――」
そうして、二人は夜が明けるまで話し合った。話し合い、日本という魔人の多くいる国で魔人同士の戦いを開かせる算段まで付けるのだった。

34霧切:2018/03/01(木) 23:24:23
「―――あそこまでなら計画は完ぺきだったはずなのに、どこから失敗してしまったのかしらね」
大会が始まり、一回戦の戦いを見ながら、王女はミカに愚痴るようにこぼす。
「そうですね、やはり出場選手との入れ替わりが発覚したのが問題ではないかと。日本の五賢臣を甘く見ていましたね」
ミカは涼しい顔でそう答える。
大会を開かせるという王女とミカの作戦は成功した。
あとは大会に出場するだけ―――しかし、いくらなんでも王女様に魅せるための大会に王女様本人が出場することはできない。
そのために使われたのが、目覚めた王女の能力『顔のない王女(ノーフェイスプリンセス)』である。
それは一定の条件を満たした時に、相手そっくりの姿になることができ、さらに相手が魔人なら能力までも完全にコピーするという恐るべき能力だった。
もっとも、知識や経験まではコピーできないため、戦闘力は彼女自身に依存するのだが。
この能力を使い、参加者の姿に変身して大会に出場する―――という作戦だったのだが。
「今回は、変身した相手が悪かったわね……」
王女はそう反省する。
あまりに複雑な能力では、変身しても使いこなせない。かといって、あまりに弱い能力ではそもそも勝ち進めない。
シンプルで扱いやすいな能力で、かつ中々に強い参加者。その候補に挙がったのが「釖分度」という魔人だった
彼の能力は裏社会ではそこそこ有名で、それでいてシンプルな強さゆえに中々対策が立てづらく強いという評判だった。
そんな彼が大会に参加すると聞いたので、王女は変装し選考委員会の者を名乗って彼に接触し、能力の発動条件を満たすことで見事入れ替わりに成功―――
「―――したのはよかったけど、まさかあの上司があんな食わせ者だったなんて」
変身したその日にかかってきた上司からの電話。適当に相槌を打ってその場ではうまくごまかせたと思っていた。
しかし、世の中はそんなに甘くはなかった。その上司は、その電話で入れ替わりにあっさり気づいていたらしく、さらに悪いことに大会運営側に密告したらしい。
偽名やコードネームを使って登録するのはともかく、他人に成り代わって登録するのはダメだったらしく、釖分度の参加資格は晴れて奪われてしまった。
「はぁ、なんのためにこの大会を開かせたのかしら」
「ま、まぁ、お嬢さま。そんなに気を落とさないで」
そう言って今回の件で数か月ほど入れ替わってもらっていたサンプル花子―――そんな名前では味気ないという理由からアナと名付けられた―――が慰めてくる。
今回の作戦こそうまくいかなかったが、影武者は今後も必要となってくるだろう。ということでこうして未だに手元に残しているのだ。
もっとも、そのままの姿では他の人がフェム王女と見分けがつかないため、王女が変装時に着けていた灰色のカツラを被ってもらっているのだが。
「……そうね、アナ。貴女という存在を手に入れられただけで、今回は収穫としておくわ」
「は、はい。ありがとうございます」
アナは嬉しそうに笑う。髪形以外は自分そっくりな少女が笑うのを見て、少しだけ気が晴れたのか、王女は大会の様子を映しだす画面に向かい合う。
「こうなったら大会を観戦者として存分に楽しむわ。えぇ、出演者になるのはまたいつかの楽しみに取っておくとしましょう」
そう言って王女も微笑む。その笑みは、アナの物と同じとても美しい笑みだったが、どこか危険な香りを帯びているのだった―――。


■キャラクター名:フェム=五十鈴=ヴェッシュ=エプシロン(ふぇむ=いすず=ヴぇっしゅ=えぷしろん)
■性別:女

■キャラクター設定
エプシロン王国の第一王女。もうじき15歳を迎える。
礼儀正しく理知的。常に温和な笑顔を絶やさず、どの身分の相手にも慈しみをもって接する絵に描いたような聖女。
親日家にして能力バトル好きとして知られ、此度の日本視察も楽しみにしているようだ。
――だが、国王たちすら知らぬ彼女の『裏の顔』を知る者は、ごく僅かな側近のみであり、その『真の顔』を知る者はたた二人だけである。

■特殊能力『顔のない王女(ノーフェイスプリンセス)』
以下の3つの条件を満たした相手に変身する能力。相手が魔人だった場合は能力までコピーするが、経験や知識まではコピーできない。
①相手の顔に触れる。
②相手の半径10m以内に6時間以上ともにいる。
③相手のプライベートにかかわる質問に一つ以上答えてもらう。

おまけ:
アナとフェム王女のイラストttps://twitter.com/kirisaki94/status/967052104182390784

35夕二@ジャックダニエル・ブラックニッカ:2018/03/02(金) 18:29:06
SS5予選お疲れ様でした。
予選ブロックごとにピックアップしたキャラ描きました。
皆さんのイメージに合えば幸いです。

サンプル花子詰め合わせ
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67522128

ホープ・グランディア
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67522224

金持院 成美
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67522796

夢見姫子
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67522896

超特急
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67522980

朝顔 修羅子
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67523112

麗御咲
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67523203

雪村桜(初号機)
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67523279

フェム王女は投票できない
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67523320

36叢雨 雫:2018/03/03(土) 01:25:12
こんばんは。

「叢雨雫」に投票して下さった皆様に、遅ればせながら御礼申し上げます。
おかげさまで本戦に進出することができました。本当にありがとうございました。

まさかこんなに沢山の方に読んで頂けるとは思っていなかったもので、
大変驚いていますし、ふわふわしてしまうほど嬉しくもあります。

また、票はともかくとして目を通して下さった方がいらっしゃいましたら、
本当にありがとうございました。

どう考えても長すぎる本文だったと反省しています。
キャラクター一覧が公開され、文字数が横並びになった日からずっと後悔していました。

言い訳をさせていただけるなら、これまで私はSSC、C2、C3といったお祭りを、
読者側よりこっそりと見学しておりまして、キャンペーンが行われる度に、
「プレイヤーとして参加してみたい」という想いが募っておりました。

そんな折に降って来た、このSS5という絶好の機会。
「あの晴れの舞台に私もキャラクターを送るのだ!」などと意気込んだ末、
いつの間にか「中途半端なものは出せない」という脅迫めいた感情に捕らわれ、
気づけば19333文字になっていました。

その後、予選投票期間となり自分の感性が投稿者から読者に戻った時、
猛烈に恥ずかしくなってきて、月並みな表現ではありますが、枕に顔を埋める日々が始まりました。

そんな日々において、窒息せずに今日まで生きながらえて来られたのは、
ひとえに好意的な感想を下さったり、素晴らしいイラストを下さった方々のおかげです。
今はステルス行為により直接お礼を伝えることができませんが、本当に感謝しております。

……話がどこか意図しないところに行ってしまったので、これにて無理矢理締めとしますが、
とにかく嬉しさと感謝とごめんなさいの気持ちでいっぱいです。
重ね重ねになりますが、「叢雨雫」をご贔屓いただき本当にありがとうございました。

本戦におきましても予選での反省を活かしつつ、全力を尽くしたいと思いますので、
宜しくお願い致します。

最後に余談ですが、すっかり予選通過を諦めてふてくされながら書いていた幕間があるので、
後ほど投稿させていただきます。





女女女 女女 様

プロローグが大好きだった女女さんとマッチングが組まれて、とても嬉しく思っています!
なんともいえない女女さんの可愛さや、あの切れ味のあるほんわかギャグは真似できそうにありませんが、
できる範囲で一生懸命頑張りますので、どうかお手柔らかにお願い致します。

37叢雨 雫:2018/03/03(土) 01:33:57
【プロローグを読んでいて可哀想だなぁと思ったSS】


ここは銀行! こいつは強盗!
見えるか!? 怯える人々の姿がッ!!

「ゲヒヒィーッ! 俺は『恒久的な世界平和を脅かす』『危険な魔人』だァーーッ!
大会を勝ち上がって『王女に謁見』しッ! 『よからぬことをする』腹積もりがあるッ!
ついでに『恐ろしく危険な願いを持ちうる者』でもあるぞ!! わかったか!!?
わかったら、金と≪大会参加権≫をよこしやがれェ〜〜ッ!」

「ヒィー!」「怖いわ!」「ヤメテクレェー!」

ーー≪大会参加権≫は! 銀行に……! ないッッ!!
何を思ってここに来たのだッ! 強盗太朗!

そのあたりの整合性はともかく!

≪ヒーロー達≫の……お出ましだ!





突如銀行の天井が蹴破られ、何かが建屋内に落下――盛大に砂埃が舞う。

「オオォォォォッ!! 無事かァァッ!!」

日ノ丸色のメタルレッド!

国政の頂きにして、国防の最先端!
「戦場で背中を任せられる総理大臣グランプリ」3年連続1位の男ォ!

則本ォォォッ! 英雄ォォォォ!! エントリィイイイイイ!!





ーー時を同じくして!

民間人の中より進み出でて、強盗太郎に迫る女ありッ!
手に持った≪ビニール傘≫を振りかぶるッ!

「シャオラァァァーーーーッ!! ふッ飛べェーーーッ!!」

束の間の雨の如きミッドブルー!

仁義なきヒーローの体現者!
コスパ最強の侠客おねえさんッ!!

叢雨ェェェッ! 雫ゥゥゥ!! エントリィィィィ!!





ーー時を! 同じくして!

放たれし、対の金剛杵≪ヴァジュラ≫!
纏うは滅殺の稲光! 轟くは恒久平和への祈り!

「ーーやれやれ、嫌な予感が当たっちまった」

飛翔雷撃のヴィヴィッドイエロー!

秩序を担いし秘密結社ーー輝≪こうき≫が一人!
≪最強≫を欲する≪最優≫のエージェント!

カナガタァァァッ!! フンッッッッ……ドォォォォォォォォ!! 
エンッッッ! トリィィィイイイイイ!!

38叢雨 雫:2018/03/03(土) 01:34:30



ーー時を! 同じくしてッ……!

虚空より現れし≪二つの影≫!
実力を以て治安を繋ぎ止めるーー正当なる暴力の使徒!

ギチリとタイルを踏みしめ、女は≪刀≫を抜いた。

「徒士谷(かちや)、原着。 ーー公務を執行する」

慈母の抱擁! 清濁呑み込むディープ・ティール・グリーン!

剣道、居合、柔術、忍法! バリツに料理、お裁縫!
なんでもござれの超攻撃的シングルマザー!

徒士谷ァァァァ!! 真歩ォォォ!! エンットリィィィィ!!


ーー「オエェェーッ……! うッ……ぷ……!
アナタの能力……便利だけど、酔うのよネ……!」

文句を垂れつつ、大柄の女は……ーー否、男だッ!? この女、断じてッ! 男ッッ!!
抜け目なく支給外の火器≪しぶつ≫を構えて、ーー撃つ。

揺らめくネオンとパレードを司るパッションピンク!

≪夢の国≫への水先案内人ッ! 
ファンシーな着ぐるみの中身はーー安酒……っ! 暴力……っ! 血風ッ!!

澪木ィィィィ!! サイッ! ゾォォォォォォォ! エンッッッ! トリィィィィ!!!





ーー時を! 同じくして!!

「アイヤー! 遅刻アル〜! 中国四千年的悲劇ネ!」

ビン底メガネ、野暮ったい三つ編みに……キャンパスノート!
この場違いな女学生ッ! ついうっかり鉄火場に迷い込んでしまったのか……!?

ーー「いいえ」

銃声。
それは、必中の未来を孕みし魔弾。

真実と嘘を織り重ねたシュガーレス・ブラック!

資源エネルギー庁所属のエリート! 国家刺客魔人!
真野さんとの戦い頑張って!

キュ〜〜〜ッ! アンッッ!! エエェェーーーーッ!!
エンッ!! トリィィィィィィ!!





レッド!  「オオオォォォォッ!!!」
ブルー!  「死んでくたばれえええ!!!」
イエロー! 「ヴリトラハン・インドラ ≪障碍を打ち砕く者≫」
グリーン! 「”天狗乃太刀!”」
ピンク!  「オエエエーーッ!」
ブラック! 「イー! シャーン! テーン!」

銀行強盗太郎「ロウ側の人間が…… ロウ側の人間が多い……!!」


(ーーカッ!!)


爆発……! 四散……!

多勢に無勢! 敵<ヴィラン>がかわいそう!!
オーバーキルにも……程がある!!

わきまえろ! 善なる者よ!
設定被りはやめてくれ! 善なる者よ!!

ーーこうして、強盗太郎は円満に逮捕され、世界は光に包まれた。

39ジェネリックD:2018/03/07(水) 02:34:12
リザーバー選抜に参加します
正義の薬物乱用賞金稼ぎです
よろしくお願いします

イメージ自画像

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40ジェネリックD:2018/03/07(水) 20:33:47
プロローグもキャラ説も長めなので、プロローグを書く時に使っていたプロットをそのままここに貼っておきます
普通にキャラ説とプロローグを読む三〜四分の一程度の短さでキャラ理解ができるかと

プロローグを途中まで書く→プロットを書く→キャラ説を書く→プロローグ完成、という状態だったので、実際のキャラ説やプロローグと食い違う設定が出てくるかもしれません

その点ではご了承をお願いします

41ジェネリックD:2018/03/07(水) 20:34:28
名前

ジェネリックD(仕事用の名前)

設定

賞金稼ぎ。生まれつき身体が弱く、よく寝込んでいたが、16歳の時に良い医者に出会い身体は常人の一歩手前という所まで回復。
家族も安心し、普通の子供として育つように。
しかしある日、彼女の主治医は違法薬物の使用に手を染めていたことが発覚、同時に薬の副作用としてジェネリックDの体は以前以上に弱っていく。
医者は警察に追われて姿を暗まし、ジェネリックDは致命的な奇病にかかる。

「ルストラリ症」

全身の細胞という細胞が免疫活動として異常な反応を示し、通常ではありえないバイオフォトンを見せる。細胞に蓄えられたエネルギー、栄養は全て熱と光に変わり、罹患者は最終的に地理一つ残さず消失する。これまでの例として感染は認められず、遺伝子異常などを原因とした特殊体質とも言われる。発症例が少なく、治療法は確立していない。

彼女は寝たきりの生活を5年間以上過ごした。

治りもせず、燃え尽きもしない。そのような彼女を家族たちが無意識でも疎んじている、彼女はそれを何となく知っていた。

「ごめんなさい」「どうしてアタシなの?」「もう迷惑はかけたくない」

様々な思いが、毎日彼女の頭を通り過ぎた。

そうして

「良い子にするので来世は丈夫な体が欲しい」
「もっと良い子にしていれば今も健康だったのかもしれない」
「やり直したい」
「健康な頃に戻って良いことをしたい」

という思考に突き当たるのは、彼女の全身が焼失するのと同時のことだった。

そして、彼女は死と同時に魔人化を迎え、永続的に16歳の姿となる。

迷惑をかけた、今更戻ってもまた迷惑をかけるばかりだろう家族から離れ、彼女は善行に励むことにした。

しかし、死亡したはず(戸籍が無い)の小娘が働くことのできる職業には限りがある。
色々な場所を転々として結果、彼女は賞金稼ぎの道に進むことを決める。
リーガル:イリーガル=フィフティー:フィフティー。悪人のみを倒し、悪人のみを捕まえる限りはまあ善行だろうという彼女なりの判断である。

そのような状況で結果を収めていくうち、警察(国家)からもその存在を黙認、どころか他人に迷惑をかけない範囲内での小犯罪には目を瞑ってもらえるようになる。
法的な扱いが難しい元死人として、首輪をつけて置くという意味合いもあってか、住所なども斡旋してもらう。

以上のような事情によって、本来は裏社会の住人になり悪事に手を染める可能性のあった彼女も、ある程度は法の加護のもとに生きられるようになった。

彼女のターゲットは基本的に裏社会の人間である。そうなった場合、武器や情報を仕入れるために裏社会とのパイプも必要だろうと色々詳しい警察の人に更生した元犯罪者を紹介され、さらに彼から裏社会になじみの深いを紹介され、さらにその人からクスリの売人と、情報屋について教わる。

彼女はまずクスリの売人のもとに行ったが、普通にそいつが犯罪者だったので捕まえた。
しかしそこで少し味見してしまい、クスリの味を知る。
そういえば彼女が健康だった頃の医者は違法な薬を使っていたらしい。

それならば、違法な薬から「ルストラリ症」に効く薬も見つけられないだろうか。彼女は様々な場所で味見を続け、病気に効く薬を探す。
16歳の身体のままではできないことも多かった。だからせめて18、いや20歳まで身体を成長させられるまで健康でいられる、そんな薬を彼女は探した。

一方、紹介された情報屋。これが酷かった。足元を見て値段を吊り上げるわ、正確性に欠けた情報を売るわ、身体を代金に要求するわ、クスリの事をネタに強請ろうとするわ、とにかく酷い。
ジェネリックDは逆に情報屋の弱みを握るべくそいつのことを調べ上げ、隠された犯罪歴をいくつも暴き出すと、警察に突き出した。
以降基本的に情報屋は使わず、ターゲットのことは自分で調べるようにしている。

実際の所、ジェネリックDのクスリの利用は警察でも黙認するという態度の者が多い。彼女が節度のある(言い方はおかしいが)クスリの利用をする限り、それを追及されることは無い。
また、武器の所持、必要時の殺傷行為、ターゲット追跡時の不法侵入なども黙認されている。警察内の死傷者を出すことなく凶悪犯罪者を倒す彼女へ、警察なりに譲るべき所と判断されているのだろうか。

このような生活を何年も続けている彼女にとって、人生とは「良くあること」、そして「善くあること」。
身体のためのクスリを求める毎日は、良くも悪くも充実した「良くある」もの。
悪を誅し、人々を助け、自らの行いを見つめなおす。それは「善くある」日々に違いない。

故に、彼女は必要以上に逸脱しない。
自分で良い(善い)と考えたこと以上には手を出さない。
その生き方が不意打ちに弱い戦闘時の性格に影響していると言えなくもない。

ここまでがプロローグ以前のジェネリックD

42ジェネリックD:2018/03/07(水) 20:35:18
ここからがプロローグを概略したジェネリックD




彼女はターゲットである金肉男を追っている最中、一人の少女を追跡劇に巻き込んで人質に取られ、一度は救出したものの最終的に殺されてしまう。
そして金肉男との死闘の決着がつくかと思われたその時、殺された少女そっくりな少女が現れて金肉男とその部下を倒してしまう。
死闘が終わった後、少女の正体を知らぬまま精神の疲弊で失神するジェネリックD。

目が覚めた所にその時の少女が現れる。ジェネリックDは彼女の家で療養を受けていた。
彼女は1週間眠り続けていたというが、それ以上に驚くべき事実が、ジェネリックDを揺さぶる。

目の前の少女、そして殺されてしまった少女の正体はサンプル花子であった。
しかし彼女は金肉男との戦いに乱入した際、サンプルシューター以外の特異な能力を使って見せた。あれは何だったのか。
少女は自己紹介と共に特異な能力の種明かしをする。
彼女の名前(元主人が付けたもの)はナナ、殺されたそっくりなサンプル花子の名前はロク。
彼女達は非人道的な後天的改造を受けることで簡単な魔人能力に匹敵する力を得たのだと言う。

サンプル花子は基本的に犬猫などのペットよりも寿命が長い。故に末永い付き合いを覚悟した購入が必要となる。
しかし複数の花子を購入しながら主人としての責任を果たさずネグレクトして殺してしまったり、新しい花子が欲しくて古い花子を捨ててしまう主人は絶えない。
このような理由から、主人となった人間を飽きさせないよう、サンプル花子製造元が研究していたのが多目的花子改造であった。

この技術が開発された当時は、容姿や性格などの改造を可能にするに過ぎなかったこの技術、しかし、改造を受けた後のサンプル花子が高い医療技術の元で定期的なメンテナンスを受けない限り、体が弱って死亡するという事実が発覚する。
製造元もこのデメリットが失われるよう努力したが、結果が出ずやがて研究は停止され、一般でこの技術が利用されることも無くなった。

物好きもいたもので、停止したはずのこの技術は一部の好事家のもとに渡り、さらなる飛躍を遂げて今のような、特異な能力を花子の身に付けられるようなものへと発展した(後天的花子改造手術)。
デメリットは失われなかったが、しかしこの進化した技術の存在を知って惹かれた闇(生命倫理の点で)の金持ちにより、一部ではよく知られ、よく利用されるようになる。
メンテナンス代を持たない主人や今の花子に飽きて病気という口実で殺そうとする悪質な主人までもが利用するようになり、この技術の需要と闇は深まっていく。

ナナとロクは高級娼婦として設計、製造元の技術で足りない部分を後天的改造で補ったサンプル花子であった。
彼女達を注文した主人はこの技術に手を出す人間には珍しく、外道な部分はかなり少なかった(サンプル花子という技術自体が倫理的にどうなのって話ではある)
しかし、彼女たちに特別に身に付けさせた『破滅を呼ぶ声』、即ち人の無意識の領域に触れる催眠音声(ナナとロクで双子音声)に溺れて健康を害し死ぬ。
彼の遺産と高級娼婦としての商売を始めた給金を貯めつつ、彼女達は自立したサンプル花子として生活することになる。

自分達のメンテナンス代を払いつつ、彼女達は自分たちの他の自立したサンプル花子(改造済み)と出くわす。
また、飽きた主人から捨てられたサンプル花子を見つけては拾い、一緒に働くような生活を始めるのだった。

改造を受けた花子はそれぞれに特異な能力が備わり、それを活かして仕事を行うことができた。
未改造の花子であっても、魔人並みの体力やなかなかスマートな頭脳を搭載しており、誰もが無条件に美しい。
仕事は見つかり、サンプル花子達の生活は軌道に乗っていく。

しかしある日、不穏なうわさが彼女たちの間で広がる。
それは食用サンプル花子、軍事目的用サンプル花子、医療目的用サンプル花子、実験動物用サンプル花子、etc etc......
の開発がいずれ行われ、なおかつそれらは一般的に寿命が短いとされる野良サンプル花子や、現状の法律で基本的に禁止されている後天的改造サンプル花子を捕獲し、それを利用して計画を進める、というものであった。
情報収集能力に長けた花子の情報、一笑に付すという判断は気楽に過ぎる。

花子達の間に暗い空気が立ち込める。

43ジェネリックD:2018/03/07(水) 20:35:59
その空気を吹き飛ばすように一つのニュースが入る。ロクが自分の家を購入した。
今までは元主人の家を流用したり、心優しい人の家に泊めてもらっていた花子達だが、人間と同じように生活できる、という希望の光が差し込む。
その家は元の住人が人さらいに遭っただの殺されただの怖い話の絶えない事故物件で、駅からのアクセスや周囲に店が少ないなどの悪条件が揃っていたものの、とにかく格安。
ロクはその家に満足していた。仲間達も最高の物件を見つけたロクの幸運を讃えたものである。

彼女が購入した家は、大家族用の一軒家と呼ぶにふさわしい家だった。しかし頻繁にナナや他の仲間が遊んだり泊まったりしに来たので、悪い噂の事も忘れていた。

そうしているうちに、ジェネリックDと金肉男の追跡劇が開始、ロクは巻き込まれて死亡する。

更に悪いことに、ジェネリックDの休眠中、情報収集に長けた花子から次々と、サンプル花子捕獲計画、様々な目的のために人格を破壊した花子に後天的改造を受けさせ、商品として売り込む計画が一部で進行しているという具体的な報告が届く。
この計画の黒幕は『○○(考え中)』、金と自分自身の欲望のためならどのような非人道的行為をも辞さない外道である。
このままこの男を放っておけば今の暮らしは崩壊、更には後発のサンプル花子は今以上に不幸な人生を歩むことが余儀なくされる。

サンプル花子達が頭を抱えていると、時間差で新たな情報が2つ。

1つはエプシロン王国について。
そこにはサンプル花子でも人間のように過ごすことができる新天地がある。また、そこの姫が非常に特別な条件で武闘大会を開き、優勝者の願いを叶えてくれるという。
ただしこの開催には『○○(考え中)』が大会にスポンサーとして関わり、金で雇った刺客を大会参加者に送り込もうと予定しているらしい。
花子一同、この大会で上手いことサンプル花子の人格を視聴者に主張し、エプシロン王国側にも自分達の苦境と居場所が欲しいことをアピール、『○○(考え中)』にも接触して非人道的計画を考えさせられないものかと相談する。

大会に参加して、計画の阻止を優勝の目的に据える、という訳にはいかない。主人無しで改造済みの花子の集団があると『○○(考え中)』が知ったなら、優勝も説得もできずに計画が始動した時に一網打尽となるのだ。
サンプル花子は指定された試合外で殺害される恐れもあり、大会に参加するのはリスクが高すぎる。

さらに『○○(考え中)』の外道さが明らかになるに連れ、彼女達はより過激な手段を使ってでも彼を阻止する必要があると実感し始める。

追いつめられる花子sの元に届いたもう一つの情報とは、今まさに彼女達の住処に寝ているジェネリックDに関するものだ。
ジェネリックDの『善く生きる』信念と確かな武力。それは希望の光として彼女達に差し込んだ。

時間は再びジェネリックDの覚醒後に戻される。

ナナは意識の戻ったジェネリックDに、『○○(考え中)』の殺害を依頼。
ジェネリックDは

「『○○(考え中)』が法的にはグレーなことしかしてないから捕まらないし、いや殺害とかもっと無理(簡略化)」

と依頼を受けることに躊躇する、しかし彼女達の生い立ちを聞き、改めて武闘大会に参加してほしいと依頼される(ドア・イン・ザ・フェイスの手法)。
それどころか、彼女は優勝できなかった時は『○○(考え中)』と刺し違えてでも花子達を守ると約束する。

なぜ自分達のためにそこまでしてくれるのか、ナナが問いかける。

「こんなに良く生きようとしてる娘達を見捨てるなんて善く生きてるとは言えない。
善く生きるのでないならば、アタシは死んで当然のクズになる」

ジェネリックDは一旦自分の住処に帰り、荷物を持って改めてここに住み込み、意志疎通、情報開示、作戦会議を行いたいと言う。
承諾する花子達。

情報収集に長けた花子が入れ替わりで住処に帰り、ジェネリックDが良い協力者になったという報告を他花子から受け取る。
しかし、一部の花子達はジェネリックDの見せていった善へのこだわりに納得いかない様子。
あんな人間は見たことが無いという一部の花子に、情報収集能力に長けた花子が正確な情報を用いてジェネリックDの由来を簡単に教える。
納得する花子達。

花子達も決意を固める。

「あんなに良い人が、命懸けで戦ってくれる。でもあの人は人の幸せのためばかり戦っている気がするわ」
「そうね、私達もあの人のためにできることをしましょう。あの人を死なせるわけにはいかないんだから!!」
「そういえば大会ではエプシロン王国のなんだかすごい秘薬が使われるそうじゃない。ジェネリックDさんの病気に効けばいいのだけれど……」
「皆で幸せになれるようがんばろうね!!!!!(まとめ)」

結束は固まり、士気は上がる。
やがて家から戻ってきたジェネリックDを加え、彼女達は作戦会議を始めるのだった。

44リリスだよ:2018/03/10(土) 19:53:43
地球から遠く離れた星、尻ウス。
文明も住民も食物も何もないこの星に一人のゴブリンがいた。

「ここは誰もいなくて快適ゴブ〜。リフレッシュ休暇に最適ゴブ」

世界一有名だった暗殺者G!
彼は以前行われた魔人大会で全敗した結果この星に封印されたのだ。
だが食べ物も娯楽も無いこの地でGは元気に生きていた。

Gの魔人能力は『48の殺尻技』。尻を使ってあらゆる事ができるのだ。
48の殺尻技の一つスカトロビストロでウンコをご馳走に変え、
アナニーの研究で暇を潰して何か月も生き続けていた。
しかしその生活も今日で終わりを迎える。帰る方法が見つかったのだ。

「カナエさんに化けた時に得た天文学知識で地球の位置が分かったゴブ」

以前Gは対戦相手の占い師カナエさん(これは正史なので断じてカナエッピではない、いいね?)
に化けた時がある。その時に彼女を持つ膨大な天文学知識を得ていた。
それを使って尻ウスから地球の距離と方向を計算し、帰宅可能という結論を得たのだ。

「ではさらばリゾート、またいつか来るゴブ」

屁で空を飛び尻ウスを脱出。だがこの速度では到着まで5000憶念かかってしまう。
ならばどうするか?そう、こういう時の為の殺尻技だ。

「48の殺尻技の一つ!TASゴブ!」

ツール・アナル・スピード。頭文字を取ってTAS。
尻を駆使して目的地までの移動や敵の撃破を最短で行う一連の行動である!

「ゴブゴブ!やっふー!」

尻を何度もぶつけ空間の歪みからワープをして距離を短縮する!

「ゴブゴブゴブゴブゴブゴブ」

尻を超高速で左右に振り人類が到達しえない速度で移動する!

「くらえ、波動昇竜素敵な完尻アナゴブラ尻代わアイドル幸ウン…すなわち尻」

目にも止まらぬ30連撃でGの地球侵入を阻む防衛艦隊を撃破していく!
お前なんで前の大会で全敗してるんだよ!

圧倒的な力で地球に降りようとするG!
それを迎え撃つつはこんな時の為に編成された魔人艦隊!
ダンゲロス史に残る名勝負だったが、突如Gの尻が点滅し動きが遅くなっていく!


「しまった、SP7(尻ポイント)切れゴブ!」

Gは尻を短時間に近い過ぎるとSP切れを起こす弱点があった、。
こうなってしまうと来月まで最低出力の尻技しか使えなくなる。
データ容量をオーバーしたスマホの様なものだ。


「Gのパワーが低下しています!」
「よし、いけるぞ。ありったけの核持ってこい!」

弱ったGに総攻撃。このままでは世界に平和が訪れてしまう。
G以外にはベストだがG本人はたまったもんじゃない。

「まずいゴブ。バカンス帰りでペース配分ミスったゴブ。
地球に降りる事さえできたら何とかなるのに・・・、
どこか手薄な所はないゴブか?あ、あった!」

地球の一点に向かって突撃するG。

「G突入、迎撃命令を!」
「いや駄目だ!あの場所は駄目だ!」

その地は世界と断絶していた空中の国エプシロン。
当然Gの迎撃作戦には加わってないしこの国の領空を通る事も許されない。

「あの国の上をこの艦隊が通る事は出来ん
のだ!」
「しかしこのままではGがエプシロンに!」

45リリスだよ:2018/03/10(土) 19:56:06
『鉄尻のゴブリンズ    目覚めし最低』

あのまま死ねばよかったのにGはエプシロンに逃げ延びてしまった。


「あー死ぬかと思ったゴブ。でもここまで来たら一息つけそうゴブ」

エプシロン王国はGが潜伏するのに何かと都合のいい場所だった。
他国と交流が無いからGの指名手配まで時間がかかるし、
何よりこの国にはGの数少ない仲間のアジトがあるのだ。
Gはさっそく仲間に連絡する。今のGはデータ容量オーバーのスマホ状態だが、
尻に挟んでおいたスマホは電池も容量も十分だった。

「もしもしB、久しぶりゴブね」
「G!?お前尻ウスに飛ばされたはずロブ!尻ウスってスマホ使えるロブ?」
「いや、今地球に帰って来たとこゴブ。んで今エプシロンにいるんだけど」
「悪いけどロブは今忙しいロブ。匿ったりとか出来ないから自分で何とかするロブ」


Bから「こっち来るな、自分で何とかしろ」と言われたGは真っ直ぐBのアジトに向かった。

「言われた通り自分で何とかするゴブよっと」

自分で何とかする。すなわち家主の同意無しに勝手に上がり込む。
Gは骨の髄まで裏稼業の住人だった。

Bの留守を確認し屁でジャンプ力を上げアジトの屋根に着地。ガラス切で窓を開け屋根裏に入る。
本調子なら玄関の隙間にアナルを密着させそのまま全身を裏返しながら反対側に出る
『アナルトンネル』で容易に侵入できるのだが今はこれが限界。

「相変わらずガバガバゴブねー。そんじゃあ、ほとぼりが冷めるまでここで過ごすゴブ」

屋根裏内部を見渡して生活空間として快適か確認する。すると隅っこにベッドが一つあった。
ラッキーと思いさっそく潜り込んでひと眠りしようとするG。だがそのベッドには先客がいた。

「べ、ベッドに・・・死体ゴブ?」

推定20代の美しい女性がベッドにいた。呼吸はも心音も無く、明らかに死んでいるが
見た目はまるで眠っているかの様である。屋根裏の室温が低く腐敗が進んでいないのだろうか。


この女性の名はリリス=ネモア=エプシロン。
エプシロン王家の一員であり、二日前にこの場所に拉致されそしてそのまま死亡して今に至る。

「ベッド使えないゴブ、ついてないゴブ」

こういう事態に慣れてるGはベッドを使えない事の方がショックだった。

46みやこ:2018/03/16(金) 12:41:07
本日21時より本戦1回戦の感想ラジオを行います!
出演者はぺんさん、ハリーさん(+DTさんが遅れて来るかも……?)です。

詳細はまた後ほど告知させていただきます。
直前の告知で申し訳ございませんが、たくさんのご参加をお待ちしております!

47みやこ:2018/03/16(金) 20:38:24
予定通り21時よりラジオを開催できそうなので詳細を告知します!
直前になっちゃってごめんなさい!


○開催場所
 戦闘破壊学園ダンゲロス(闇) 掲示板
 tp://jbbs.shitaraba.net/netgame/14715/


○ラジオ内容
 ダンゲロスSS5第1回戦の感想をざっくばらんに言いあいます。
 ネタバレ感想になりますのでお気を付け下さい。

 また、非公認ラジオですので感想の内容や量に偏りが発生する可能性があります。
 あらかじめご了承ください。


○ラジオパーソナリティ
 ・ぺんさん……チョコケロッグ太郎の投稿者。実力派感想おじさん。シリアルキラー。
 ・ハリーさん……なろうラジオでお馴染み!あのハリーさん!見るからに健康!
 ・DTさん……説明ラジオ、クソラジオ、開票ラジオと皆出席の優良感想ファイター。
 ・みやこ……ラジオ係。声が他の人とずれる現象を恐れている。発生したら教えて欲しい。


以上、よろしくお願い致します!

48絞りかすのひじ:2018/03/19(月) 00:34:15
キャスの衝撃でこっちに貼ってないのを思い出しました。
tps://pbs.twimg.com/media/DWZ6jg0UQAA_Yq-.jpg

49夕二@ジャックダニエル・ブラックニッカ:2018/03/19(月) 19:09:12
一回線お疲れ様です。
ダンゲロスSS5入場OP“動画”を作りました!!
イメージにそえれば幸いです。
tps://www.youtube.com/watch?v=8Rs9UfYqnP4

描いたイラスト(動画の後に見てね)
OPイラストと選手
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67814555

フェム王女
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67814603

おまけ:何でも言うことを聞いてくれる(サンプル)ハナコチャン
tps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=67813389

50女女女女女:2018/03/27(火) 23:04:32
女女女女女エピローグ『天国と地獄』


「ただいま、師匠」

○○(好きな県名を入れよう)県、富士山麓。
今そこに、一人の女が帰ってきた。

「ほら、お土産のミズリー美味しい水だ。たくさん飲んでくれ……」

地面に突き刺さった墓標に、ペットボトルの中身をだばだばとこぼす女。
彼女の名は女女女女女(かしまめめ)。墓の主、乳房好々爺の弟子である。

何を隠そう、女女は大会一回戦で敗退し、暇になったので墓参りをすることにしたのだ。
そういった暇が無ければ、墓参りも出来ない。現代社会の闇である。

だばだば。だばだばだば。だばだばだばだば。

女女はひたすら水をこぼし続ける。中身が空いたら、さらに一本取り出してこぼす。

「飲め、飲め……飲むんだ!さあ!飲め!!!」

実はこの水、参加賞としてもらったものである。
ミズリー社は大会スポンサー。その立場を利用し、参加者に何十本と水を押し付けたのだ。
敗退したとはいえ参加者は英雄。そんな彼らが水を飲めば宣伝効果は計り知れない。
なんと逞しい商魂か!これには営業マンもにっこり!

「飲め!飲めーーーッッッ!!!」

そんなわけで処分に困った水を、女女は次々と墓に浴びせていく。
貰いものを廃棄処分したのでは印象が悪いが、お供え物なら問題はない!
死人に口なし、文句を言わない相手に押し付ける!頭脳プレイ!

だが!

(つづく)

51女女女女女:2018/03/27(火) 23:42:04
(つづき)

「隙ありーーーィァァァッッッ!!!」

墓から飛び出す二本の腕!
その狙いは……女女のおっぱいだ!

もにゅっ。

「獲った、おっぱァーーーいッッッ!!!」

な、なんという事か!
墓から飛び出した腕の持ち主は……乳房好々爺だ!

死んだはずの男が蘇り……その両の掌が、おっぱいを掴んだ!

「アーッハッハッハ!!!ウワーッハッハッハ!!!」

おっぱいを揉みながら高笑いする好々爺。
そして揉む手を止めぬまま、驚いた顔の弟子に目を向けた。

「ヴァ―――ッハッハッハ!!!驚いたか、女女よ!!!」
「また会えてうれしい!」
「そ、そうかよ……へへッ!」

ジジイは顔を背けた。ちょっと照れ臭くなったのだ。

「だ、だが師匠、死んだはずでは!?」

照れ隠しにおっぱいを揉み続ける好々爺に、女女が尋ねる。
そう、彼は死んだはず。だから水を処分もといお供えしていたのだ。
今蘇られても困る。せめて全部捨ててから蘇ってくれ!

「フフフ、それはな……その手に握ったものを、よく見てみるのじゃ!」
「えっ手……こ、これはッ!!?」

女女の手に握られているもの、それは……エプシロン王国の秘薬!
水と一緒に参加賞でもらっていたそれを、間違えて墓にこぼしていたのだ!もったいない!

「自分で自分の首を絞めたというわけか……くっ!」

悔しがる女女。こんなことになるなら、メルカリで売っておけばよかった!

「そういうことじゃ。そしてワシは、こうしてオヌシのおっぱいを……ヌウッ!?」

そんな弟子とは対照的に勝ち誇る乳房好々爺。
だが、事態は彼の予想の、さらにその先を言っていたのである!

「これは、このおっぱいは……っ!!!」

(つづく)

52女女女女女:2018/03/28(水) 01:51:45
(つづき)

「このおっぱいは……女女のおっぱいではない!」

そう、彼が掴み取ったおっぱいは弟子のそれではない。
では誰のものか。それは……

「いつまで揉んでんだ、クソジジイ……!」

おっぱいの持ち主、それは……叢雨雫!
女女の一回戦の対戦相手であり、大会一の巨乳の持ち主である!
彼女は現在、二回戦に備えた特訓のため富士山麓を訪れていたのだ!

「変わりおっぱいの術……いや、違う!これは!」

そう、これは女女の仕業ではない。
乳房好々爺の奇襲は完璧であり、回避の余地はなかった。
しかし……完璧すぎたのだ。
完全に決まった拳は、その場で最も大きいおっぱいを標的と定めてしまったのである!

「くっ、策士おっぱいに溺れるとはこのことか……!」

弟子を逃し、悔しがる好々爺。しかしその手はいまだ巨乳を揉み続けている。

「離せ!」

もちろん揉まれるがままにされる雫ではない!傘を抜刀し、好々爺を叩く!
だが!

「ウハハ!断る!」

何という事か!好々爺はおっぱいを揉んだ状態のまま、傘の連撃を避けたのだ!

「なっ、なに!?」

避けられるとは思っていなかった雫が驚愕する。
好々爺の手はおっぱいに固定されているのだ、普通なら避けられるはずがない!

しかし、目の前の男はただのスケベジジイではない……達人級のスケベジジイなのだ!

「よいぞ、よい感触じゃ!これでこそ蘇った甲斐があるというもの!」

揉み続ける手はそのままに、体の位置が目まぐるしく変化する!
その様子はまるで体操のあん馬!おっぱいから離れることなく、しかし一撃たりとも食らうことはない!

これぞ彼の限りない劣情が生み出した奇跡の技・揉み避け!
『ずっとおっぱいを揉んでいたい』という欲求が形を成した、もう一つの究極奥義である!

「くうっ……!?」

雫が苦しい声をこぼす。
ここまでの超至近距離戦闘、傘を使った攻め手も限られてしまうのだ!

このまま彼女は、なす術もなく老人におっぱいを蹂躙されてしまうのか!?

(つづく)

53みやこ:2018/03/28(水) 06:19:50
>>50->>52 SS連載の途中にすみません……! 告知を打たせていただきます。




3月31日(土)21時より”本戦2回戦感想ラジオ(非公式)”を行います。


○開催場所
 戦闘破壊学園ダンゲロス(闇) 掲示板
 tp://jbbs.shitaraba.net/netgame/14715/


○ラジオ内容
 ダンゲロスSS5第2回戦の感想をざっくばらんに言いあいます。
 ネタバレ感想になりますのでお気を付け下さい。

 また、非公式ラジオですので感想の内容や量に偏りが発生する可能性があります。
 あらかじめご了承ください。


○ラジオパーソナリティ
 ・ぺんさん……チョコケロッグ太郎の投稿者。途中で疲れる可能性を秘めし男。
 ・ハリーさん……なろうラジオでお馴染み!あのハリーさん!圧倒的人権保有!
 ・DTさん……ラジオ欠席なしの優良感想ファイター。キューちゃんマジクール!


以上、よろしくお願い致します!

54女女女女女:2018/03/28(水) 11:24:42
(これまでのあらすじ・>>53の裏で続いていた死闘。
 雫は女女の協力によって二回戦で使う新技を編み出し、
 ついに乳房好々爺を撃破したのだった。彼の口から語られる真実とは……!?)

「ハアーッ、ハアーッ……!」

肩を上下させ、荒れた息を整える雫。
前髪が額に張り付き、汗で濡れたブラウスはうっすら透けている。
勝者の余裕などない。彼女をもってしても、これほどまでに厳しい戦いだったのだ。

「グググ……いいおっぱいじゃったわい……」

地に倒れ伏す乳房好々爺が嗤う。
彼の目的はおっぱいであり、彼にとっての勝利はおっぱいを揉むこと。
すなわち彼は最初から勝っていたのである。
その事実が、雫をさらに疲れさせた。もうやだこの師弟。

ちなみに女女はというと、新技のとばっちりを受けて地面で伸びていた。

「つーかジジイ、テメエ成仏したんじゃねえのかよ……」

もはや虫の息の好々爺に、雫が問う。
そう、乳房好々爺は一回戦のあれこれで成仏したはず。
未練など無いはずなのに、なぜいまさら復活してしまったのか!?

「そう、ワシは確かに成仏した……その節はありがと……」
「どういたしまして……じゃあなんで」
「じゃがな、成仏した先でワシが見たのは、決して天国ではなかったのじゃ……!」

衝撃の告白!彼が見たものとはいったい……!?

「ワシが見たのは、ムキムキマッチョの牛頭や馬頭、血の池、ダークヴァルザードギアス……
 天国と言うにはほど遠い光景じゃった……!」
「あー、なるほど……」

どうやら地獄に落ちていたらしい。

「天使のおっぱいが揉めると思ったのに!なぜじゃ!?」
「そんな考えだからじゃねえかな……」

はあーっ、と溜め息を吐く。どうにも戦うより疲れたような気がする。

「なんかもう特訓どころじゃねえな……今日は休もう……」

こうして叢雨雫は、来る二回戦へ向けて新しい技の開発に成功したのであった。
がんばれ叢雨雫!まけるな叢雨雫!その手に正義を掴むまで!

(おわり)

55叢雨雫:2018/04/01(日) 19:44:22
>>50
ゲェーッ!! 女女女さん!!
なんか……しれっと自キャラ出してもらって嬉しいです!
不労所得感が溢れます!
その……ここはネタバレスレではないので言及が難しいところもありますが、
私のSSを読んで下さったことが伝わってきて、とても嬉しかったです。

死問題も解決できて、ほんとに女女女さんらしいさわやかで楽しくなるSSでした!

軽めですけど、感想を書かせていただきますね。

>○○(好きな県名を入れよう)県、富士山麓。
冒頭からめちゃくちゃ笑いました。
そう、富士山麓は火薬樽めいた危険地域ですからね。
言及には慎重になるべきです。今回のSSキャンペーンで賢くなれました。


>ミズリー社
こういういろんな設定を拾っていく精神……! へへっ、嫌いじゃねェゼ!


>(つづく)
えっ、もしかしてこれ即興で書いたんですか……?
すごい……!


>墓から飛び出す二本の腕!
限りなくホラー!!


>エプシロン王国の秘薬
参加賞豪華すぎません!!?
「もったいない」ではないですよ! そういう次元の話ではない!


>メルカリで売っておけばよかった!
相変わらずキレッキレですね。
滅茶苦茶面白いです。


>変わり身おっぱいの術!
女女女さんのおっぱいほんと鉄壁のガードですね!!
雫っぱいは軽率に揺れたり揉まれたり淫らなニーズに合わせてメイクされたというのに……。
品性の差を感じます。女女女さんはそのままで居てほしい。汚れは私が引き受けます。


>乳房好々爺の奇襲は完璧であり、回避の余地はなかった。
>しかし……完璧すぎたのだ。
能力バトルしてるwww
いや、私も能力バトルを小ばかにしたようなこと書くときがありますけど、
これはひどすぎる……! 大好きです!!


>策士おっぱいに溺れるとはこのことか
はいパワーワードですね! 聞いたことないよ!!


>傘の連撃を避けたのだ!
実はここ、1回戦巨人の家で構想にありました。
女女ちゃんほどのタツジンなら揉みながら攻撃を避けられるのではないか……と。
しかし、話が転がらなくなるし強すぎるのでサイレント弱体化修正されたわけですが……。
まさかここで日の目を見ることになるとは、能力バトル侮り難しです。


>53
ラジオ告知ィー! オイイイィィィ!!
楽しく拝聴させていただきましたァーーーッ!!
スパッタリー・ヒュー様マジ口から産まれた男!!


>これまでのあらすじ・>>53の裏で続いていた死闘。
あ、やっぱりこれ即興で書きましたね?
すごいアドリブ力だ……!!


>ついに乳房好々爺を撃破したのだった。彼の口から語られる真実とは……!?
行間で倒されてるゥーーー!!?
次回戦以降の能力応用を削らない配慮ありがとうございます。
どうやって倒したかは宿題として受け取っておきます。


>前髪が額に張り付き、汗で濡れたブラウスはうっすら透けている。
え、えっちだ……!!?
ええ、だってツイッターでこういうのはちょっと解釈違いって言ってたじゃないですか!
うそつきうそつき!
私はこういうの好きなんで大歓迎です!ありがとうございます!


>ダークヴァルザードギアス
極卒と同列に並べるのやめてあげて下さい!!
暗黒騎士ですよ!!

56正体ばらし:2018/04/01(日) 23:36:08
 グロリアス・オリュンピアを敗退し、通常業務に戻った私・井戸浪濠を待ち受けていたのは、インターンだった。
 インターン、正しくはインターンシップ。簡単に言うと大学生の職業体験である。
 上が言うには、私にその指導役をしろということだ。
 一体何を言っているのか。というのが率直な感想だ。
 そもそもこの『営業一課』と名の付く部署であるが、所属するのはただ一人、この私だけである。
 当然だ。私ができることは営業それひとつのみ。部下の指導などできようはずもない。
 上もそのくらい認識しているはずだが……。
 そう思いよくよく話を聞いてみると、実は学生側の要望であったらしい。
 仕方ない。会うだけ会って、お引き取り願おう。

 案内され、入ってきたのは、小柄な女子学生だった。
 その顔にはどこか見覚えがあった。昨年のことだったような……。

「あの、私、グロリアス・オリュンピアを見させていただいて、
あなたのようになりたい、って思ったんです」

 ああ、そうだった。その時も何やら魔人同士のバトル大会が開かれていたのだった。

「やめておけ。君のような子が入る世界ではない」

 確か、C3ステーションの……DSSバトル……だったか。

「いいえ、絶対になってみせます!
 あなたのような……“高い所から落ちても死なない人”に!」

 ……椅子から転げ落ちた。
 そう、交換した彼女の名刺にはその名が示されていた。

『狭岐橋 憂』

57暗黒騎士ダークヴァルザードギアス:2018/04/02(月) 00:45:27
暗黒騎士ダークヴァルザードギアスエピローグ(とりあえず)

『はい、ヤリブスマート都内某所店です』

「あっ……あの。土屋です」

 豪華なホテルの一室。ベッドの隅に腰掛け、何度も迷ってから電話をかけた。一瞬の沈黙が、やけに長く感じられた。だが、小早川店長は明るい声で返事をくれた。

『ああ、試合見てたよ! お疲れ様。惜しかったじゃない』

「……どうも。あの、それで、その……休み、ずいぶんいただいてたんですけど……」

 もういいです。負けたんで。もし人が足りなそうなら、明日からシフト入れます。そう一息に言った。

 情けないと思った。無茶を言い通しだと思った。それより何より——何を言っているんだと言われても仕方ないと思った。

 隠してはいたが、彼は魔人だ。堂々と表舞台に出て、自分からばらしてしまった。即座に解雇されても仕方がない。

 覚悟の上でのことだった。全てを捨てるつもりだった。生活も、人間関係も、過去も、正気も、何もかも。土屋一郎。自分の名前ですらも。

 暗黒騎士ダークヴァルザードギアス。彼の意識に被さる狂ったペルソナを、本物にしたかった。一度は成功した。成功したのだ。だが……後から現実が追いかけてきた。もう終わりだ。

『ああ、いいよいいよ。大会終わりまで休んでて。田中さんがちょうど長く入りたかったって言ってたしね。終わったらその分頑張ってもらうけど』

「は」

 どっと肩の力が抜けた気がした。

「ありがとうございます」

『……グロリアス・オリュンピア。うちの娘がだいぶ入れ込んで見ててさ。土屋くんがうちで働いてるって話をしたら食いついてきて……』

 久しぶりに、娘とあんなにちゃんと話をしたよ。小早川は静かにそう言った。

『だから、こっちもありがとう。あの暗黒騎士ネタ、みんなの前でもやったら?』

「いや、それはちょっと……」

 あれはネタじゃないし、と思う。

『そうなの? まあ、でもみんな話を聞きたがると思うよ。たまには話しなさいよ』

「……はい」

 電話が切れ、小さな電子音が響き、それもやがて途切れる。

 ややあって彼は顔を巡らし、椅子に腰掛けてこちらをじっと見ている、花柄のワンピース姿の忠実なる侍女と視線を合わせた。ほっと息をつく。土屋一郎の意識に暗黒騎士が侵食し、彼は背筋を伸ばす。

「少し、外に出る。供をするが良い、アナスタシア」

「はい、暗黒騎士ダークヴァルザードギアス様」

 主従はそのまま、ホテルの部屋を後にした。

58暗黒騎士ダークヴァルザードギアス:2018/04/02(月) 00:47:16
 夕暮れ時の小さな公園は、子供たちが数人固まって遊んでいるだけで、静かなものだった。ふたりは並んでベンチに腰掛け、黙って茜色に染まりゆく空を眺める。アナスタシアが少しばかり気まずくなってきた頃。

「……負けたな」

 主が小さくそう言った。アナスタシアは声を出さずに、小さくうなずいた。

「なに、一度二度の敗北が何ほどのことか。我は高貴なる暗黒騎士、何度でも不死鳥が如く蘇り……」

 勢い良く出した声が、徐々に尻すぼみになる。やがて暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは、はあ、と息を吐き顔を伏せた。

「負けたなー……」

「お疲れ様でございました」

「そなたはどうする、アナスタシア」

「私ですか?」

 アナスタシアは首を傾げる。子供たちがゲームでもやっているのか、わっと楽しげに声を上げた。

「宴は終わりぞ。どこへなりとも、好きな場所へ行くが良い。そなたには自由がある」

「私……」

 歓声を皮切りにしたように、子供たちがばらばらと、じゃあね、と声を上げながらひとり、またひとりと去っていく。やがてその場にはぽつりとひとりだけが残った。

「暗黒騎士ダークヴァルザードギアス様。私、前のお屋敷にいた時のことです。こんな風な夕方、坊っちゃまのお迎えに行くことが何度かありました」

 彼女の言葉に、暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは少し不思議そうな顔を向ける。アナスタシアが自分からそんな話をしたのは、初めてのことだった。

「みんなあんな風に、じゃあまたね、と言ってそれぞれのお家に帰っていきました。でも、いつもひとりだけ、ご両親の帰りが遅いのでしょうね。残って寂しそうに遊んでいる子がいて」

 一度も話しかけたことはない。向こうもこちらを意識などしていなかったろう。サンプル花子などそういうものだ。

「でも私、その子とずっと、一緒に遊んであげたかったんです」

 長く伸びた影が夜に飲み込まれる頃。たったひとりでいる子供に、手を差し伸べたかった。それだけが、アナスタシアの心に棘のように引っかかっていたのだ。

「私」

 怒られるだろうか。がっかりされるだろうか。こんなことを言って。でも。

「あなたと一緒に遊べて、本当に楽しかったです」

 ずっと、彼女の目には見えていた。漆黒のマント。顔を覆う兜。赤く光る瞳。黒鉄の鎧。そして、その奥のなんでもない素顔も。全て。

 暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは、目を瞬かせ、それから静かにうなずいた。

「……ありがとう」

 まだ冷たい風が、ふたりの間を吹き抜ける。

59暗黒騎士ダークヴァルザードギアス:2018/04/02(月) 00:47:57
「それで、あの、私。まだしばらくお傍に置かせてもらうわけにはいかないでしょうか」

「え?」

「私、外で働きますし、お家のこともいたします。まだ一緒にいたいんです」

「いや、その、それは、嬉しいが……我が城は1Kゆえ……」

「台所で寝ますから、大丈夫です」

「そんなわけにいくか! ……まあ、まあいい。どうにかする」

 暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは、土屋一郎は、初めて柔らかい、くすぐったそうな笑顔を見せた。

「歓迎する。心ゆくまで滞在するが良い」

「はい。暗黒騎士ダークヴァルザードギアス様!」

「あーっ!」

 突然、声がした。ひとり残っていた子供が、とことことふたりに向け歩いてくる。

「暗黒騎士の人だ! そうでしょ!」

「……いかにも。我は暗黒騎士ダークヴァルザードギアスであるが」

「すげー! テレビで見た! 剣持ってる? あのなんか長い名前のやつ!」

「我がダムギルスヴァリアグラードを所望か。あまり見つめていては目が潰れるぞ」

 暗黒騎士ダークヴァルザードギアスはアナスタシアも初耳の設定をつぶやきながら、リュックサックからいつものダンボール製の剣を取り出す、と、子供は辛辣な感想を述べた。

「ダンボールじゃん」

 ひやりとした。だが、暗黒騎士ダークヴァルザードギアスは口の端を吊り上げ、笑う。

「そが何ほどのことか。我が握ればすなわちそれは暗黒瘴気剣ダムギルスヴァリアグラード。正真正銘の業深き魔剣である!」

「よくわかんないけどすげー!」

「そなたもだ、子供よ」

 アナスタシアは、少し笑って目を閉じた。彼女の何よりも好きな人が——夕闇の中、誰よりも楽しそうに遊ぶ子供が、帰ってきたからだ。

「そなたが信じれば、それはすなわち、魔剣となるのだ」

 もう少しだけ、一緒に遊んでいましょう。夜はこれから。暗黒の時はここからなのだから。


 東京砂漠の片隅。ふたりの物語は、まだまだ終わらず、続いてゆく。

60九暗影:2018/04/03(火) 14:27:54
2回戦夢の国その3・九暗影幕間if『Q:男の人ってそっちのほうが好きなの? 』

「おかしいでしょ!?」
 私は思わず叫んでいた。

 飯田秋音として復職した直後、早乙女からの呼び出しがあった。
 厳しい叱咤があったり、最悪解雇通告でもあるのかと思ったけど、どうもそういうわけではなく。

「ご苦労だった。次の任務だ」

 そう言う彼の両手には、パットが握られている。

 何これ……?

(Q1(クエスチョン)――この状況おかしいよね?)
「分からない」

 そうだよね。あいまいな質問してごめんねフラガラッハ。

「何か悪い冗談?」
「冗談じゃあない。奴が提案して、俺が了解したことだ」
「真野……!」

 彼のことは一生恨むだろう。いろいろな意味で。

「ターゲットは徒士谷真歩の一人娘、徒士谷かがり。
 目的は”叢雨雫として”手紙を渡すこと。彼女として振る舞い、接触しろ。
 徒士谷真帆との遭遇は厳禁だ。そこは自分で確認して撤退しろ」

「……」

 無理筋だ。叢雨雫と自分では、明らかに性格が違う。……もしかしてあれを演じろということ?

 訝しげに黙っていると、彼から声がかかる。

「俺が信頼できないのか?」
「はい」
「はいじゃないが」
「そんなこと、出来る訳が――」
「――ないかどうかを、訊けるんだろ?だと」

 押し黙る。その通りではあった。

(Q2(クエスチョン)――ターゲットは、叢雨雫と私の顔を知らない?)
「はい」
(Q3(クエスチョン)――私は、叢雨雫を演じられる?)
「多分そう」

 この解が意味するのは、努力次第、とでもいったところか。
 最悪の答えだ。無理ならまったく無理と回答して欲しかった。

「……」
「まあでも、無理なら無理でいいさ。強いはしない。質問に嘘で答えることは得意だが、演技力は不安だからな?」
「……馬鹿にしないで」

 心外だ。完璧に演じおおせて見返してやる。

「必要なものは用意されてるの?」
「当然だ。ほら」

 渡されたのは、ビニール傘。それから安っぽい便箋と、茶封筒。殴り書きのような下書き。

「まずはそいつを写せ。プロファイルしてそれっぽく仕上げろ」

 下書きを読む。あまりになんと言うか、知性が感じられなくて眩暈がしてきた。

「こういうのを書きそうな人を演じろってこと……?」

 改めてクラクラする。本当に出来るの?
 ちょっと練習しよう。

(ヘイヘーイ!オレ、ヒーロー!叢雨雫ってんだ!ピースピース!)

(Q4(クエスチョン)――ピースピースはさすがにナシだよね?)
「分からない」

 そうだよね!こんなこと聞かれても困るよね!ごめんねフラガラッハ!

61九暗影:2018/04/03(火) 14:30:16

「あとはあれだほら、飴。ガキは好きだろ」

 薄荷の飴を投げ渡された。馬鹿、こんなの子供受けするわけないでしょ!

「子供の気持ちが分からないの?」

 手作りも含めて完璧なアンサーを返そうと切に思う。目指すはターゲットの評価100点満点だ。

「……子供の気持ちか。分からないのかもしれないな」

 何か意味深げだ。目が合った気がするのは気のせいかな。

 最後に投げ渡されたパットを見る。

「ねえ、顔が割れてないならこれ要らないよね」
「外見特徴は可能な限り近づけろ。不用意に手を抜くな」
「要らないよね?」
「必要だ。俺が信じられないのか」
「そんなに言うなら信じるけど……」

 でもどこか釈然としない。

「……早乙女って、これくらいあるのが好きなの?」
(Q5(クエスチョン)――彼はこのくらいの方が好み?)

「いや、俺は別にそういう……「はい」」
「……お前、今能力を」
「答える必要、ないよね?……嘘つき」

 答えを聞いたら、理由もなくムカついてきた。 理由は本当に無いのだけど。
 あまり小さいとまでは思ってないのだけど……じゃなくて。
 本当にまったく理由は無いけれどムカつくので、絶対完璧に演技してやろうって、改めて思った。

 一言目からテンションを不用意に上げすぎてとっても後悔することになるとは、この時はあまり考えてはいなかった。

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Q:男の人ってそっちのほうが好きなの?
A:分からない。全っ然理解できない!

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62叢雨雫:2018/04/03(火) 22:43:56
2回戦夢の国その3・九暗影幕間if 


「開催! うんこフェスティバル!」





飯田秋音として復職した直後、早乙女から彼女に呼び出しがかかった。

厳しい叱咤か、はたまた解雇通告か……!
身構えていた彼女にかけられたのは意外な言葉だった。

「ご苦労だった。次の任務だ」

ーーエネ庁から与えられし2LDKの隠れ家。時刻は深夜。

警戒した様子の飯田は呼び寄せられ、二人掛けのソファへと揃って座る。
かつてのようにべったりともたれかかり、甘えるようなことはない、
……かといって遠すぎるわけでもない、微妙な距離感。

暫しの沈黙の後、早乙女は口を開いた。

「依頼者は……真野金」

ぴくりと、サイドポニーが揺れた。

早乙女は状況を説明する。

早乙女には「警察に出向き、徒士谷真歩が真野を優先して狙うよう仕向けろ」という指令が出ていること。
そして飯田には「徒士谷真歩の一人娘、徒士谷かがりに”叢雨雫として”手紙を渡せ」という指令が出ていること。

(依頼、なんで受けたの?)(それにどんな意味があるの?)

ーー愚問を、飯田は呑み込んだ。

常日頃から能力との兼ね合いもあり、質問は厳選している。

Q依頼、.なんで受けたの? ーー A.受けざるを得なかった。私をダシに脅されている
Q.それにどんな意味があるの? ーー A.それがわかれば私は奴に敗北していない

思考する。

【徒士谷真歩に自分を優先して狙わせる】

そして、手紙の中身。
【徒士谷真歩と叢雨雫の共闘をとりもつ】

どちらも真野自身を追い詰めるような行動。
指定した共闘の集合地点ーー入場ゲート付近に爆弾でも仕掛けるつもりだろうか。

そこまで考え、飯田は思考を打ち切った。
考えても仕方のないことだ、どうせーー従うしかないのだから。

「徒士谷真歩との遭遇・接触は厳禁だそうだ。
俺が徒士谷を引きつけている間に事を済ませろ。
……万が一に備え、≪確認≫は怠るな」

「りょー、かい」

「真野から送られて来た叢雨の資料だ」

そう言い、早乙女は壁掛けTVの電源を入れた。

映し出される、黄色の手旗を持った女性ーー叢雨雫。

「ああ、それとこれだ」

「なに、それ……っ!」

思わず、質問してしまった。それはーーパッドだった。

「『叢雨雫になりきれ』……とのことだ」

「顔が割れてないのに、それ……必要ある?」

「真野に聞いてくれ」

やや不満そうに、飯田は画面に視線を向ける。
画面には小学生男子と傘チャンバラに興じる叢雨雫の姿。
なんにも考えてなさそうなその快活さと、下品に揺れる胸を見て、ちょっぴりヤな気持ちになった。

テレビからは「うおおおお!」だとか、「やるなぁ!!」だとか、
バカっぽい音声が流れて来ている。

「叢雨≪あれ≫を演≪や≫れるか?」

ーー答える必要、ある?

飯田は行動でその問いに答える。

63叢雨雫:2018/04/03(火) 22:45:50
『やあっ!!! やあっ!!! おりゃーーー!!!』

元気いっぱいな、傘チャンバラに興じる小学生男子の声。
そしてーー。

『おっほぉー! やるなぁ〜テメェ!』
 「おっほぉー! やるなぁ〜テメェ!」

ーー瞬間模倣。叢雨雫の声が、まるでエコーのように響く!

飯田秋音は体術に優れた魔人ではない。
そんな彼女が最前線で戦える理由は、
能力強度・優れた知性と思考力ーーそしてそれらを活かす≪理外の反応速度≫を備えるためである。

薄く早乙女が笑む。
飯田秋音は最高傑作だ。
金や船ーーあるいは理不尽な指令などと交換できるはずもない逸材だ。

『うおおおーっ!!!とりゃさっさー!!!』

『おせぇ! あああああらよっと!』
 「おせぇ! あああああらよっと!」

『うぎゃあああああああ!!!』

すっころぶ小学生男子・山口くん! 大丈夫か!?

『うわっ! わりぃ! 大丈夫か!?』
 「うわっ! わりぃ! 大丈夫か!?」

『……はあああああああああああ〜〜〜〜っ!!』

すぐさま立ち上がった山口くんは力を溜めている……!!
そして、傘を手放したその手は、チョキーーピストルの、形をしている!!

両手が銃!! 二丁拳銃!!
危ないぞ! ヒーロー叢雨雫!! その銃は≪ただの銃ではない≫!!
それは男子小学生が心の拠り所とする、最強のーー!!

『うんこビーム!!! うんこビーム!!! デュアルうんこッッ!!!
 ハァ〜〜〜〜〜ッ!!!』

それはーー光線銃! 放たれしは非人道的閃光兵器ーー≪うんこビーム≫!
≪うんこビーム≫ーーうんこのビーム的特性の強化。よくわからんけど……ウンコだ!!

『舐めんなッ!! うんこバリアーーーーッ!!』
 「舐めんなッ!! う……っ!」

開かれるビニール傘!!
近接する山口くん!! 傘をぽこぽこ殴る!!

『うんこパンチ!!! うんこナックル!!! うんこアッパァァッ!!!』

『効かねぇ!! グレェェエエエエト!! うんこおおおおっ!! ウォオオオオオオル!!』
 「効かねぇ!! グレェェエエエエト!! うんっ……ウォール……」

『うんこ!!! うんこ!!! うんこォーー!!!』

『うんこ!! うんこ!! ハァーッ! ウンコッコォーーーッ!!』
 「………」

小学生男子はうんこが大好き! 叢雨雫も精神的には小学生男子なのでうんこが大好き!
必然の究極限界うんこバトル!!

だが想い人が傍に居る乙女としては、≪うんこ≫シャウトは……きつい!! 察してあげろ!!
誰もが愛するうんこネタではあるが、時と場合によってそれは、毒ともなりうる。
強みが弱みに転じ、それが飯田を苦しめる。まるでーー能力バトル。

64叢雨雫:2018/04/03(火) 22:46:45
「……大丈夫、もう演≪や≫れる」

そう言い、高知能由来の機転を利かせ、
ウンコの狂宴ーー≪うんこフェスティバル≫から離脱しようとした飯田であったが……!

「ーー『うんこ』はどうした?」

グレートうんこウォール(早乙女)がそれを阻む!!
絶望の壁ーーグレートうんこウォール……!

「ーーッ!」

飯田にとって早乙女は上司だ、先輩エージェントだ。
非魔人の身でありながらその任務遂行能力は彼女の上を行く。

そのプロフェッショナルが、手塩にかけて育てた最高傑作の不調に気付いたのだ。

「……それ、言う必要ーー「ある!」

断言だった。

「真野のオーダーは叢雨雫になりきることだ
今のように『うんこ』如きで硬直するようでは務まらない」

「……接触対象はーー徒士谷かがり、女の子でしょ?
女の子は≪そんなこと≫……言わない」

高知能発揮! うんこフェスティバル(以下うんフェス)から逃れるための妙手!
しかし!!

『う〜〜ん・こっ!』

画面から女の子の声! 女子小学生もまたーーうんこが好き!! 世界の常識!!

『うんこォ!?』 『うんこ!うんこ!』 『うんこッ!!!』 『うんこ〜〜ッ!』
『♪うんこっこ〜うんこっこ〜』 『うんこっ!!! ♪うんッッこッッッッこォーーッッ!!!』

もはや誰が誰やらわからぬっ! ただ、うんフェスは今ーー至上最高に盛り上がっている!!

「………」

「『うんこ』は?」

ーー飯田秋音は知っている! 彼の性質を……完璧主義者としての側面を!

ひりつくような殺意の中、あるいは凍えるような敵意の中においても、
一手たりとも失することなく最善策を打ち続けなければならないエージェントにとって、
完璧であることは最低限の能力だ。

エージェントとして生き抜いてきた男は決してうんこを妥協しない。
ーーたかがうんこ、されどうんこなのだ。

「うっ…………≪unco≫!」

高知能フル発揮!! 恋乙女の尊厳を守り抜くため選んだのはスコットランド語!!
発音はウンコに近い≪ゥァンコ≫であり、実質ウンコ!
しかし意味合いは≪古着≫! 断じてウンコなどではない!! キューちゃん的にはまぁギリセーフ!

薄氷を踏むような日々を送るエージェントが繰り出した、会心の一手!!
しかし!!

「『unco』じゃない『うんこ』だ」

「ーーーッ!」

グレートうんこウォールーーあまりにも高き絶望の壁。
戦闘を教えた、情報収集を教えた。そしてーー語学を教えた。
全てにおいてキューちゃんの先を行くGUW(グレートうんこウォール)が絶望の具現として立ちはだかる!

65叢雨雫:2018/04/03(火) 22:47:15
「『うんこ』は?」

「は、はっ……はあっ……!」

迫り来る! グレートうんこウォール!!
キューちゃん! キャラ崩壊の危機!!

ーーピピピピピ!

その時、救世主がきた!

鳴り響いたのは、時計のアラーム音!

ーー≪時刻は深夜≫

キューちゃんが、0時00分ちょうどにセットしたタイマー!

それはリロードを告げる音!
『フラガラッハの嚮導』の使用回数制限を、リセットしたことを示す音!

刹那、キューちゃんは念じる!

(Q1――誤魔化せば(Q2――寝室に逃げ込めば(Q3――抱き付けば
(Q4――怒れば(Q5――沈黙を貫けば(Q6――泣いたフリをすれば
(Q7――話題を変えれば(Q8――腹痛を装えばこの窮地を逃れられる?)))))))

「いいえいいえいいえいいえいいえいいえいいえいいえ」

絶望の、解答≪アンサー≫……!

ふらりと飯田秋音の体が揺らぐ。
心と共に折れた体が。

(Q9ーーこの時空は……ギャグ時空?)

ーーーー「多分そう」

飯田秋音の中で、大切な何かが音を立てて切れた。

「……うん……こっ!」

ついに零れだす……うんこ! キャラ崩壊! DTさんに怒られる!!

「うんこ……! うんこうんこ! うんこッ!! ばかっ!!」

退路が無いことを知り、もはや飯田はやけくそだった。

「ナイスうんこ」

飯田のうんこを聞き届け、そう言って、早乙女は笑った。
そこに至り飯田は気づく。

66叢雨雫:2018/04/03(火) 22:47:31




ーー飯田秋音はこの数日張り詰め続けていた。
敗北。それは完璧を求められるエージェントにあってはならぬ大失態。
良くて解雇、悪ければ存在を抹消される不祥事。

自分が消されることは怖くなかった。
日々覚悟はできていた。元々希薄な自我だ。
しかし、想い人に会えなくことだけは、どうしても拭えぬ恐怖だった。

例えそれが植え付けられた偽の情だと理解していても、
彼女にはその繋がりしか、すがる所がない。

謹慎を言い渡された時は死刑囚になったような気分だった。
処分検討中ということなのだろう。

解雇されれば二度と彼と会うことはできない。
それならばいっそ、すぐに殺してくれればとさえ思った。

食べ物は喉を通らず、起き上がる気力さえなかった。

彼が会おうと誘ってくれた、今日まではーー!




≪児童帰化式心療法≫

子供のような行動をあえてとらせ、それを許容することで心的ストレスを和らげる療法。

早乙女は飯田に対して愛情を抱いていない。
しかし、最高傑作だと、かけがえのないものだと思っている。
金や船ーーあるいは理不尽な指令などと交換できるはずもない唯一無二の存在だ。

そして彼は完璧主義者だ。
手塩にかけた最高傑作が弱っているならば、ケアせずにはいられない。

ーー真野から送られて来た映像ディスクは3枚あった。
その中から厳選した、飯田秋音の心を軽くするための1枚、ワンシーンを。

(Q10ーー彼は私を気遣っている?)

ーー「はい」

こてんと、秋音の頭が早乙女にかかる。

「少し痩せたか」

「……うんこ」

「ふっ……うんこうんこ」

二人はこのあとーー滅茶苦茶うんフェスした

67阿呂芽ハナ:2018/04/04(水) 21:30:32

「はぁ……めんどくさ」

 ポケットに手を突っ込み、背中をやや丸めて。
 あたしは憂鬱さを隠しもせず、学校の廊下をぺたぺたと歩く。
 だらしない格好も、溜め息交じりの独り言も、見聞きするものは誰もいない。

 冬の寒さが和らいできて、桜が舞いだすこの時期。
 春休み――それは、学生にとってのオアシスだ。
 課題もなく、一日中遊び倒して構わないこの無敵な日々を、なんだって制服着て登校しなければならないのか。

 分かってる。あたしが、高校2年だからだ。
 もうじき3年――受験生になるあたしには、避けては通れない悪夢のイベント。
 担任教師を交えての進路指導。すなわち、三者面談がある。

 でも、だ。
 裏を返せば、このたったひとつの障害さえ乗り越えれば、あとは自由の身だ。

 何をしてもいい。
 ルミやノリコとどこへだって出掛けられる。カラオケでもスイパラでもなんでも来いだ。
 土屋のコンビニを冷やかしに行ったっていい。働いてるところを見物して飽きたら何も買わずに出てってやる。

 大丈夫だ。あたしに策あり。
 三者面談とは言っても、お知らせのプリントを握りつぶしてアイツに知らせなければ、それは二者面談にしかならない。
 アイツと並んで座って進路相談とか、絶対にご免だ。先生には適当にごまかして、さっさと終わらせよう。
 完璧なプランに頷いて、進路指導室のドアを開ける。

「……失礼しまーす」
「おお、来たな阿呂芽。じゃあ始めるか」
「はい。よろしくお願いします」

 我ながら無気力な挨拶にも動じることなく、担任教師が進路指導用のファイルを準備する。
 あたしは担任に向かって深々と頭を下げていたアイツの隣の椅子に腰を下ろし、ん? って異変に気づいて首の角度を90度変更、次いでガタガタッと立ち上がる。

「……は!?」
「お行儀が悪いですよ、ハナ」
「なんで居んの!?」

 テンパりまくったあたしの言葉に小首を傾げるのは、嫌って言うほど見知った顔。
 ボブの黒髪と感情の乏しい表情はいつもどおりに、服装だけは余所行きの少しばかりおめかししたもの。

 あたしの母を自称するこの女が、どうして、ここにいるのか。
 いや、三者面談だから他の生徒たちには当然の光景なんだろうけど。でもあたし、伝えてない――

「ああ、俺が伝えたんだよ。お前、ロッカーにプリント忘れてたろ。先生慌てて電話しちゃったよ」

 お前の所為か! ふざけんな!

「その節はお手数おかけしました、先生。おかげで助かりました」
「いえいえ! ホラ、さっさと座れ阿呂芽! お母さんを待たせちゃいかんぞ!」

 うるせえ! お母さんじゃないわい!

「しかしお前、こんな美人で若いお母さんなんて羨ましいな! 先生ももう少し若ければなーなんてハハハハ!」

 どさくさ紛れにひとの母親口説くんじゃない既婚者!
 ……いやだから母親でもないっつの!

「ふふ、いやですわ、先生」

 アンタもアンタで満更でもない反応してんじゃない! 従順か! 従順だったわ!

「……最、悪っ」

 あたしはもう、開始早々疲れ果ててしまって、崩れ落ちるように椅子に座り直した。
 どこか嬉しそうな隣の顔が、むずむずと腹立たしい。

 はっきりと、分かる。
 ここはあたしにとって、グロリアス・オリュンピアのあそこよりも、よっぽどの地獄だ――





          阿呂芽ハナ エピローグみたいなやつ
              「ここから先は」




「……では気を取り直して。ハナさんの進路についてですね」

 担任がペラペラとファイルをめくり、あたし用の資料かなんかを見せてくる。
 直近の模試の結果だとか、そういうのだろう。
 頬杖ついてそっぽ向いてるあたしの知ったことではないけど。

「ハナさんが志望してるのは、この辺ですね。合格圏までは、もうひと……もうふた頑張りくらい必要ですが」

 言い直さなくていいってば。ハイハイどうせあたしはバカですよ。

「あら、ハナ。理系志望なんですね」

 担任が赤丸で囲んだ大学の情報を見たんだろう、隣で驚いたような声が上がる。

68阿呂芽ハナ:2018/04/04(水) 21:31:48
「知らなかったんですね、お母さん。ダメだぞ阿呂芽ー。しっかりご家族と話しないと」
「……気が向いたらね」
「まぁたコイツは……。いやね、オリュンピアに出てからかなァ、ちょっと真面目になってきたと思ったんですけどね。今までは授業中居眠りとかザラで」
「その話、今しなくていいでしょ!」
「ハナ? 本当なの? 授業はちゃんと受けなくちゃいけませんよ」
「ああああもうっ、最悪っ……!」

 後頭部に刺さるじっとりとした視線から逃れるべく、あたしは頭を抱えて机に突っ伏す。
 最悪すぎる。帰りたい。どうしてこうなった。
 告げ口した形になってしまった担任はややばつが悪そうに、今度は取り繕うような口調になる。

「ああいや、真面目になってきたのは本当なんですよ! 今までは白紙で出してた進路希望表もちゃんと書いてきましたし」
「進路希望……生物系や医学系、ですか」
「はい。それで、生物の牧田先生のところにも話聞きに行ったみたいで。確か『クローン技術とか研究してるところはどこ?』とかなんとか……」
「ああああああッッ!!」

 あたしはとにかく無我夢中だった。隣のアイツに聞かせまいと惨めにもがく。
 すぐ近くから聞こえていた、何か獣の唸り声のようなものは、ええ、あたしの声ですとも。

「あああああッ! あああッ、ああああああああッ!!」
「おい、うるさいぞ阿呂芽」

 顔が燃える。

 暑い。とにかく暑い。今春でしょ。意味わかんない。
 ずーっと昔に、ママのお誕生日のお祝いをサプライズで用意しようとしてすぐにバレてしまったときのような、やり場のない羞恥心があたしを焼き尽くしている。

「……ハナ、あなた」
「――違うから!」

 ここまできたら、もう、やぶれかぶれ。
 先手必勝だ。何に勝とうとしてるのかも、よく分からないけど。

「あたしが、あたしのために、やりたいことをしにいくだけだから! 他の……ああ、くそっ、とにかく、関係ないから!」
「そう、ですか」
「そう!!!」

 アイツは、ちらっと横目で資料を再確認して、

「……第2志望の学校は、今の部屋から通えるんですね」
「第1志望は遠くだから! 受かったら、一人暮らしするからっ!」

 そうだ――勝負というなら、これが、勝負だ。

 自立とか、他にもいろんな思いを乗せて挑んだグロリアス・オリュンピアは、負けた。
 だからといって、それらが全部台無しになったわけじゃない。
 他の手段でだって、叶えられる。

 あたしはまだ、どうしようもないくらいガキだ。そのことをたっぷり思い知らされた。
 でもそれは、いろんな可能性が残されてるって風に捉えてもいいはずだ。

 ガキはガキなりに、自分の中の可能性をとことん信じてやる。
 握り締めたただのペンを伝説の剣に変えて、どんな難問も切り倒してやる。

 それができる力が、あたしにだってある。誰にだってある。
 そのことを教えてくれたやつに、感謝なんて、これっぽっちしかしてないけれど。

「……とにかく、そういうことだから。もう、決めたことだから」
「はい。……ハナが決めたことなら、私は応援します」

 相変わらず、こっちのことを分かってるんだかどうかも定かじゃないツラで、アイツは頷く。

「頑張ってください」
「……アンタに言われなくっても頑張る、けど」

 けどの先を、口に出してはいないのに。
 アイツはママによく似た表情で、満足げに薄っすらと笑みを浮かべた。



 半歩分、距離をあけて廊下を歩く。
 日が傾いてきた。あたしの隣を歩く影は、あたしよりも頭半個分小さい。
 ママは、あたしよりもずっと大きかったのに。母親を名乗るコイツは、あたしよりも小さい。
 それが、ずっと不快だった。

 今は。

「……」
「……」

 互いに無言。それが、今日は別段、悪くない気分だった。
 いつもなら置いてく勢いで早歩きしてるだろう歩調も、今日はゆっくりで。
 どっちも、進路指導で心身が疲れてるからだ。それ以外の理由なんて、あるはずがない。

(……最悪なのは、ここまで)

 なら、ここから先は?

 決まってる。『決まってない』に、決まってる。
 最高かもしれないし、最悪のままかもしれない。ほどほどに、普通かも。
 どれだって、構いやしない。

 あたしが、自由に決める道だ。
 何をしたっていい。遊びに行こうが、冷やかしに行こうが。
 学校に来ようが、図書室で勉強しようが――あるいは、たまには、気が向いたら。
 家で、だらだらしようが。

 春休みは、まだ始まったばかりだ。

69六畳一間:2018/04/06(金) 23:25:08
徒士谷真歩 幕間SS

『代理のエイジ/Public agent』

◆  ◆  ◆


「ち」

 苛立たしげに舌打ちをする相方兼上司――徒士谷真歩警部補の姿を見て、内裏エイジは上げかけた腰を椅子へと戻す。
 諸々の報告を後回しにして今やらなくてもいいけどそのうちやらなきゃいけない類の書類仕事に手を付けることにした。
 障らぬ上司に祟りなし、だ。

「これで五件めだ」

 続く言葉は独り言――ではない。
 彼女は今、自分の考えを整理するための会話を要求しているのだ。苛立ったまま!
 エイジはその手の機微を察するのに長けていた。面倒を背負いがちなので自分では短所だと思っている。
 彼女はそうと口には出さないが、その苛立ちには少なからず自分に原因があるのだろうという負い目もある。
 自らの不手際に端を発する、先の戦いでの“東海道”の消失は実務面で多大な負担を与えているのが見て取れたし、相応のお叱りも受けたらしいのだ。いや、果たしてお叱りだけで済んだのかどうか。
 ともかくエイジは、応じることにした。

「例の人体発火、ですか。やっぱりES-08号なんスかね」
「だろうな。魔捜研の見解も一致している」

 二人が話しているのは近頃巷を騒がせている、魔人の関与が強く疑われる事件について。
 端的に述べるならば【ある瞬間、突然人間が燃え上がる】――そういう現象だ。燃え上がった人間はそのまま消え去り、そこには死体すら残らない。
 専門家の知見を交えて曰く、痕跡はかつてパイロマンサーと呼ばれた案件のそれに近い。
 そしてこの事件はグロリアス・オリュンピア一回戦――敗退した偽花火燐花が行方を眩ませて以降に発生しているのだ。

「つまり、偽花火燐花が能力で燃やしている?」
「逆だ」

 返ってくる言葉はひどく端的。
 真歩は苛立っているときなどは口数が少なくなる。勘弁して欲しい。
 本人にとっては苛立ちを外に出さない方法の一つなのかもしれないが、十分におっかないので勘弁して欲しい。
 というかこの状態でもしっかり会話を求めてくるので面倒なことこの上ない。勘弁して欲しい。
 エイジは意図するところを探る。

「逆。えーっと……あぁ、偽花火の能力は炎を別のものに作り変える、だから」
「そう。能力を解除して“炎に戻している”んだ。これは正確にゃ人体発火じゃない」

 正解だったらしい。とはいえ、真歩は忌々しげな口調のままだ。
 それもその筈。
 “発火”した被害者たちはいずれもごく普通に日々を過ごしていた一般市民である。
 無論、それは偽花火燐花の能力由来の人形(にせもの)ではあるのだろうが、では本物はどこに行ったのか、という話になる。
 それは捜索中ながらも杳として見つからず――しかしながら、容易に想像はつく。

「何のために?」
「挑発だよ。あたしへのな」

 真歩ではなくとも暗澹たる心持ちになる話だ。
 顔をしかめたエイジの問いに、同じく真歩はしかめっつらで応える。

「まだ終わっていない、自分はここにいる、私を見ろ私を見ろ、と。そんな所だ」
「劇場型、ってのは前も言ってましたもんね」
「そう。この手の輩は――一種のショーマンシップとでもいうのかな。妙に空気を読むところがある。
 あたしや王女殿下へ送った【招待状】を諦めちゃいないだろうが、次に仕掛けてくるのは決勝か、その後か。とにかく奴から見て“映える”瞬間だろう」

 不服そうに述べて真歩はボトルの中のおいしい水を呷る。

「それまでこっちから手出しはできねえ。どこに、どれだけ居るかもわからん相手だ。探そうにも時間も手間もかかりすぎる。胸くそ悪い話だ」
「……」

 半ば近くまでボトルに残っていた水を一気に飲み干し、ぐいと口の端を拭う。
 魔人犯罪対策室の事務所にはまた重い沈黙が降りた。

「――何が楽園だ」
 
 そう呟いた真歩の言葉が、空々しく響いた。

70徒士谷真歩:2018/04/06(金) 23:27:25
◆  ◆  ◆

 
 警察官になったことに、深い理由はなかった。

 内裏エイジが魔人に覚醒したのは一般的な例と比べて少し遅く、大学在学中でのことだ。
 卒論を除いた単位をさっさと取得して、ちょうど就職活動に向けて業界研究だのOB訪問に精を出していた頃、
小遣い稼ぎに出席管理の緩い講義で代返を請け負っていた時のことだった。
 
「マジかよ」
 
 というのが率直な感想だ。
 幾つかの不運とトラブルが重なってそれが周囲に露見したあとなどは散々だった。
 手のひらを返す、という程あからさまのは少数も少数だったが、ゼミやサークルの友人たちはやはり遠巻きにすることが多くなった。
 なまじ腫れ物扱いされているのを察してしまうものだから、こちらから距離を置くことになる。
 顔が広いのが災いして噂は妙に走り回り、バイト先の居酒屋ではやんわりと退職を進められてしまった。

 この時期にそんなざまだったのだから、就職活動も惨憺たる有様だった。
 書類選考で落とされるのが殆どで、運よく面接にこぎつけてもあとが続かない。
 これこそが魔人差別!社会の闇!
 ―――なんて当時は思ったものだが、実際のところはどうであったか。

 これまで一通りのことをなんとなく要領よくこなし、まあまあ器用に生きてきた自覚がある。
 高校まで続けたサッカーは県大会でベスト8まで行ったし、引退後に始めた受験対策はまあまあ実を結んで明治大学に進学した。
 ちなみに大学ではテニスサークルに入った。テニスしなかったけど。

 そんな調子で生きてきたものだから、この挫折に対して対処するすべを知らなかった。
 
◆  ◆  ◆
 
「――なんてことは特になくさっさと見切りつけて公務員試験対策して今に至る。魔人採用枠あるから」
「内裏くんはさあ!そういうところだぞう!」
「いやいや、これでも結構悩んだんだって!」

 ――さて、どういう話の流れだったか。
 
 その後通常職務に復帰した柊木茜音は、やはりと言うべきか何かとグロリアス・オリュンピア関連の事案を気にかけている。
 ―――という建前で自分のことを気にしてくれているのだと良いなあ、とエイジは思っている。
 それはあながち的外れでもないようで、気落ちしている自分をこうして飲みに誘ってくれたのだ。これは…いける!

「ほら、魔人警官ってさ。ぶっちゃけ3K職場じゃん」
「きつい汚い帰れない?」
「危険なキチガイに殺される」
「わ、笑えねぇ〜〜!」

 平日だから軽く済ませるつもりであったのが、思いのほか盛り上がっては二軒ばかりはしごをしてしまった。
 酔い覚ましに公園をぶらつきながら馬鹿話に花を咲かせる。
 きゃらきゃらと、茜音は赤ら顔で笑った。

「でもあれ、車。車が欲しかったんだあ! 魔人でもさー、公務員ならローンとか通りやすいんだよねえ。ランエボが欲しいんだ。ランエボ11」

 遊歩道沿いには、桜が咲いていた。
 忙しくしている間に、もう、そんな季節なのだろう。

「そーなんだー」
「今のそーなんだは車とか良くわかんないけど相槌打っとけ的なやつだなー!」
「あはは、ばれた」
「ひっどいの。ねー、今度ドライブ行こうよ、ドライブ。あなたと海辺を走りたい!」
「えー」

 そんなとりとめのない話を交わしている中、エイジの視界の端でちかりと何かが赤く光った。

「――?」
「ん、どしたの」

 どうしよっかなー、などと焦らしムーブを決めていた茜音は、エイジの興味が他に惹かれていることに気づくとやや不満げに問いかけた。

「いや、何か、向こうで――」



「こんばんは。えへへ……いい夜、ですね?」



 そうやってエイジが示したのとは真逆の方向から、少女の声が二人に向けて投げかけられた。

「!?」

 視線誘導と意識の揺り戻し。
 ごく単純な手管ではあったが、不意打ちのそれにふたりの心臓は跳ね上がった。

「偽花火、燐花…!」

71徒士谷真歩:2018/04/06(金) 23:30:47
◆  ◆  ◆

 顔の血の気が引くのと同時に、エイジは酔いが一気に冷めていくのを感じる。茜音もきっと同様だろう。

「わ、わたし、桜って好きです。とってもキレイで、ぱっと散っていくのが。そう、まるで炎(らくえん)のようで…」

 うわ言のように呟く様子は、以前に見たよりもまた一層の狂気を孕んでいるように見える。
 エイジは茜音を背にかばうようにしながら、じり、と後ずさった。
 拳銃でもあれば気休め程度にはなったろうが、生憎と今は持ち合わせていない。

「……何の用だ」

 上ずりそうになる声を押さえながら問いを投げかける。
 逃げの一手しか無いと結論付けた。
 背では、柊木茜音が震えている。

「あ、は、はい。次のショウでは、観客の皆さんにも手伝ってもらおうと思うんです。
 団長も言っていました。ショウは、みんなで作り上げる芸術なんだって」

 ―――挑発。
 という、上司の言葉を思い返す。
 なるほど徒士谷真歩に揺さぶりをかけるために、その周囲を狙ってきたというところだろうか。

「(狙いは俺だ。――合図をしたら走るんだ。時間は稼ぐよ)」

 小声で、茜音にそう言い含める。縋るように掴んだ腕をいちどぐっと握りしめて、彼女は頷いた。

「悪いけど、ゴメンだね。舞台の上に上がるキャラじゃあないんだ」

 ポケットから抜き放った万年筆を、偽花火燐花の眼球に向けて投げ放つ。
 偽花火はあう、と小さな声を上げて身体をのけぞらせ、わずかにひるんだようだった。
 それだけ、とも言えるが。

 茜音が駆け出す気配を背に感じながら、エイジは覚悟を決める。

「ああ、くそう。オレも逃げたい!ちょっと格好つけすぎたなあ!」

◆  ◆  ◆

 わかってはいた。
 わかってはいたことなのだ。
 先に口にしたとおり、自分は舞台の上というガラじゃあない。舞台袖でそつなく要領よく立ち回るのが性に合っている。
 だからこんな一級のヴィランの相手なんて務まるものか。
 ただでさえ怪我をしているし、武器もなく、ついでに酔っ払いだ。

「…ってぇ、くそう」

 歯噛みする。
 それでも拙いなりに訓練は積んできた。
 時間を稼いで逃げ回るだけならなんとか――それすらも、幻想であったと思い知らされる。
 来ていたスーツはあちこちが焼け焦げ、じくじくと足の傷が痛む。
 先パイはこれで大立ち回りをしていたどころかテメーで切り落としたりもするんだからはっきり言って化物だ。マゾなのか?

 笑いっぱなしの膝はついに膝をつく。
 視界も霞んできた。

「さあ! サプライズ・ショーもそろそろ閉幕だ! 寂しいかな? 寂しいよね、お坊ちゃん! けれど泣かないで! 楽園はそう、永遠! 永遠なんだから――っ!!」

 偽花火が高らかに吟じ上げる。
 その口上を引き裂いたのは、幾つもの赤色灯の明かりと、けたたましいサイレン音だった。

72徒士谷真歩:2018/04/06(金) 23:33:05
◆  ◆  ◆

「っ! 内裏くん!」

 パトカーのうちの一台から転がり落ちるように飛び出した私は、見るもぼろぼろになった彼のもとに駆け寄る。
 程々にこなしているだけさ、だなんて嘯いていた彼の“仕事”は、実のところはこれなのだろう。
 当たり前のように私を逃して、そうして今、こうして倒れ伏している。

「あ……はは、やあ、なんか、助けられちゃったなあ」

 軽口で応じて小さく笑う彼の姿に、ほっと胸をなでおろす。

 警察隊の闖入にを受けて、ES-08号はどこかへと消え失せたらしい。
 当直の警官たちが慎重に捜索を続けているが、また、どこか違う場所で“ショウ”を開いているのだろうか。
 私は、諦めてしまっていた。
 はじめ理想を持っていたはずの警察官の仕事に倦んだ
 燐花ちゃんを止めることが出来なかった
 最前線を生きる人達を特別なのだと言い聞かせて諦めていた。

 普通に飲んで普通に話す内裏エイジは、ただ魔人というだけで、私と同じ普通の人だったのに!
 じくりと、胸が痛む。
 わかっている。きっと、このままじゃいけない。
 …私は、彼らの助けになれるのだろうか。

「(……彼らの?)」

 警察官として?
 そうだろうか。
 ほうと安堵の息を漏らす、内裏くんの顔を見つめる。

「…柊木ちゃんも、大丈夫? ははは、これ、なんかお礼しないとなあ」
「…ねえ、内裏くん」

 傷だらけのまま、それでも笑顔を浮かべているのは、気を遣っているのだろうか。

「―――下の名前で呼んでよ」




 ごう、と、どこからか炎が上がり、
 私の意識は、そこで途切れた。


◆  ◆  ◆


「………え?」


 下の名前で呼んでよと、彼女は言った。
 それとほとんど同時だったと思う。

 彼女の身体が燃え上がった。
 いいや、自分は知っている。彼女の姿が、炎に戻ったのだ。


「あ、あ、あああ…!!」


 『人体発火事件』
  “発火”した被害者たちはいずれもごく普通に日々を過ごしていた一般市民である。
 それは偽花火燐花の能力由来の人形(にせもの)ではあり、“本物”の柊木茜音はどうなったのか。容易に想像はつく。
 想像が、ついてしまう。

「茜音――ちゃん」

 呼びかける名前も酷く空々しい。

 彼女が輪廻化生とすり替わることのできたタイミングは、あまりにも明白なのだ。
 何もかも、手遅れでしか無かった――!

「うわあああああああああああ!!!」

73徒士谷真歩:2018/04/06(金) 23:34:12
◆  ◆  ◆


「……」

 見聞きしたすべてを報告として聞き終えた真歩は、神妙な面持ちで、一度うなずいた。

「…エイジ。今は休め。きっちり怪我を治して――」
「イヤです」

 病院のベッドに腰掛けるエイジは、固く握りしめた拳を見つめながら、はっきりと告げた。

「すぐ、署に戻ります」
「エイジ、気持ちは判るが――」

「……別に、先パイと旦那さんみたいに、劇的な何かがあったわけじゃあないす。恋人ってわけでも無かった」

 窘める真歩を制して、ぽつぽつと零す。

「………ちょっといいなって、思ってただけです。
 会って話せば楽しいし、結構気の利く所があって、スタイルも悪くないし、酒の好みも近かった。それにほら、刑事ってマジで出会いがないじゃないですか。
 だから俺は、ああいう子がちょっといいなって、そう思ってただけなんです」
「……。」
「……ああ、でも、声、ああいう感じのは結構好きだったな」

 それは言葉の綾に過ぎなかった。
 過ぎなかったが、好きだったと言葉に出してみると、つんと目の奥が熱くなる心地がした。

「別に、先パイ達みたいな、劇的な理由はないけど」

 下の名前で呼んでよと、最後に言った。あれが人形に過ぎないのなら、これは感傷かも知れないが。

「これはもう、俺の事件でもあるんだ」
「……そうか」

 短く応じた真歩はそれ以上、止めようとはしなかった。

「遠慮はしねえぞ」
「今までもしてないクセに」

 エイジはいびつに、下手くそな笑みを浮かべる。
 真歩はその背をバシンと叩き、エイジはいてえと声を挙げた。

「次の試合の公示があった。相手は恵撫子りうむ――面倒な相手だ。お前の力が、必要になる」

「頼るぜ、相棒」


 内裏エイジは舞台に上がる。
 誰の代わりでもない。誰の脇役でもない。
 自分の事件に、立ち向かうために。


『代理のエイジ/Public agent』 了
        →徒士谷真歩 準決勝戦へと続く

74叢雨雫:2018/04/07(土) 20:18:50
2回戦夢の国ステージその3で締め切りに追われて書けなかった最終パートを未練たらたら仕上げましたので、供養させて下さい。









<10>


「勘がいいな……爺さん!」

まだ日の明かりを見ぬ早朝の船着き場。
小さな漁船の上から、帽子を目深に被った男がそう声をかけた。

瞬間ーー剣閃が闇を裂いた。

帽子の端が繊維となり、ハラリと宙を舞う。

「ーー次は首を落とす」

いつ抜刀し、いつ納刀したのか。
腰の獲物ーー右一文字に手を添えたまま老剣士は言う。

「ヒュウっ! おっかねぇ爺さんだ!」

男ーー真野金は口笛と共に糸くずを吹いた。

「ガラじゃねぇ駆け引きなんてやめっちまえ!
殺す気なら今ので俺は死んでる……見送りに来てくれたんだろ、なぁ?」

「その船は……どうした」

老剣士ーー宇津木秋秀は苦々しく言う。

「『その質問、答える必要ないよね?』ーーなんて、な。 ははっ!
考えればわかることだぜ、宇津木。 全て失った……≪堕ちた英雄≫のツテなんて限られてる」

ーー九暗影。

「随分と太っ腹な≪パパ≫だった。
ちょいと愛娘をダシにせびれば……船だけじゃない、金も、武器も、人も出してくれた。
それに、警察への口利きに、郵便屋の真似事……!
至れり尽くせりーーあのガキ、思ってたより箱入りだったようだぜ」

どこか楽しげな真野と対極、宇津木は怒りに震えていた。

「船のことはもういい……!
それより、≪あの試合≫はなんだ……! 真野!
言うまいと思った……! 勝者への侮辱になると……! 
しかし、此度ばかりは言わねば気が収まらぬ……!
貴様、わざとッ……! 『わざと負けたな』!!」

戦闘の熟達者たる宇津木には真野のトリックの一端が見えていた。
すなわち、徒士谷真歩の側頭部に打ち込んだ非殺傷弾が。
真野が叢雨との戦いにおいて自らに打ち込んだそれと、同じ性質を持つ弾丸が。

「勝てた試合だった! それを……! それを何故ッ!!」

「何を怒ってるんだ、宇津木……? はじめからそういう約束だったろ?
俺はちゃんと言ったぜ……≪テメェのクソみてぇな夢で、殺されてやる≫……ってな。
有言実行しただけだーー≪夢の国≫で徒士谷真歩にしっかりと≪斬り殺された≫。
……それが嫌なら止めりゃ良かったんだ。 見たろ? 俺が弾丸に細工してたのを」

ーー先日の茶番。火薬樽めいた卓上が宇津木の脳内に蘇る。

「それはーー」

「……ははっ。いじわる言っちまったな。
だがな宇津木、本質はそういうことなんだ。 俺が恐れてるのは……≪そういうこと≫なんだ」

宇津木の手が、刀から離れる。

「こう考えたんだろ、なぁ……?
あの弾丸がどう使われるかなんて考察もせず、『真野金はこれを使った妙手を打つ気だ!』……って」

押し黙る宇津木を見て、真野が笑む。

「俺は非力でか弱い魔人ーー小狡い知恵を必死で振り絞って、
小手先の仕掛けをこれでもかと張り巡らせて、やっとかっと勝てるような……そんな奴なんだ。
それを、なぁ、宇津木! そんな奴の下馬評を高めてどうする!? タネを衆目に晒してどうする!?
俺はバケモノなんかじゃない。空飛ぶ斬撃なんて打てねぇし、インチキワープもできねぇ。
わかるか、タネをおっぴろげにされ、手品を警戒されたチンケなサマ師にーー未来はねぇ!」

「真野……!」

75叢雨雫:2018/04/07(土) 20:19:30
「あの大会に出てる奴はみんな……どっかネジが飛んじまってる! 正気じゃねぇ!
義務で出てる公僕連中はまだわかる……が!
大会の後も暴力でーー後ろ暗い世界で食ってこうって奴らにとって、
姿と能力を映像に残され、底を推し測られるあの大会は……デメリットでしかないはずなんだ」

「……っ!」

「俺は普通の……誰にでもできる当たり前のことしかできない……そんな奴なんだ。
だからこれは順当な……普通の判断だ。 大会から降りるのは、正気の判断だ」

まだ薄暗い船着場が沈黙に包まれる。
寄せては返す波の音が数度響く。

「ーー今回の戦いだってそうだ。
男≪たんてい≫を買って情報を集め、縁あるガキを遣って人情派クソババアを入場ゲートにおびき寄せ、
乳女をあしらうための武器を揃え、戦いに臨む……。
普通のことだ、全部再現性のある、誰にでもできる、当たり前の……!
あとは揃えた持ち駒を順々に打ち込んでいくーーいうなれば作業だ。
盤がわかって、配置がわかって、敵がわかって、必要な駒がありゃ……
詰みまで違えるはずがねぇ」

ーー≪すべてが一手遅い≫

戦闘中、徒士谷真歩の抱いたイメージは的を射ていた。
熟達の打ち手によって、その駒たちは≪一手早く≫打ち込まれ続けていたのだ。
戦前・戦中・戦後ーーその全ての局面において。

一段高い世界≪レイヤー≫から盤面を見下ろすーー自身が進退自在な金≪こま≫でありながら、
棋士でもある熟達の打ち手によって。

駒と棋士の住む世界の違い。
そこが、真野だけが見ることの許される、真野のーー世界。

「なあっ、普通だろ? ははっ、全部普通のことなんだ!」

ごくりと唾を飲み下した宇津木は、疑問を口にした。
既にその心情は怒りから、別の事柄へとシフトしている。

「配置は……出現位置はどうやって掴んだ」

宇津木は試合を観戦していた。
ひとつだけ、真野の弁に不可解な点を見出した。
真野の言う「普通」ではない一点に。

戦闘開始直後の真野を見ていた。林の中に潜み、簡易の罠を張り終えた後の動きを。
待っていた。その場を動かず、じっと、銃を構えて。
ーーその行動は敵の初期転送位置次第では悪手だったはずだ。

例えば徒士谷真歩が夢の国の奥地に転送されていたらどうだ?
『入場ゲートにおびき寄せて』ーーと真野は言った。
入場ゲートまで歩み来る過程で≪東海道≫は広がり、
叢雨のジャイアントキリングは起こりえなかったのではないか……と。

そうなれば、あとはドミノ倒しだ。
張り巡らされた策は瓦解しただろう。

「配置は……配置だけは不確定だったはずだ、大会の規定集にもある……。
『試合開始時の初期位置は、一定以上の距離を置いて戦闘地形内の≪ランダム≫の位置に転送される』……と」

「おっ、詳しいな! 流石はオフィシャル立会人!」

「茶化すな!」

「ははっ、じゃあこれも知ってるだろ?
『転送された直後に戦闘不能になるような位置に転送されることはない』
……おかしいよな、≪ランダム≫だっつってんのに、≪転送されない場所≫があるなんて……!
だから調べた。 男共≪たんてい≫に調べさせた」

ーー≪役員が手を大きく上げると、会場の中心に二つのワープホールが発生した≫

「ーー映像があった、【山岳地帯】STAGEで≪その能力者≫が映っていた。
あれはーーあのワープホールはヤヅカって一族の≪ポータル≫って能力だ。
それでな……≪ポータル≫は任意の位置に設置可能らしい、だからーー」

「ーーッ! 買収したのか! 大会役員を!」

「惜しいぞ! 宇津木!
……宮仕えの高級取りは、はした金なんかでなびかねぇ。
かといってゆするようなネタも出てこねぇ。
……いや、そんなことをする必要はそもそもないんだ。
普通に考えればわかることなんだ、……普通に考えさえすれば……!」

「ーーッ! 読んだのか! 役員の能力の癖を!」

「ははっ! いいぞ! 近い! この戦いは≪なんだ≫? なぁ、宇津木……?
≪興行≫だ……グロリアス・オリュンピアは≪興行≫なんだよ。
国の威信を賭けた祭りだ、つまらない戦いなんて、創作していいはずかない。
だからーー≪ポータル≫による転送位置には≪必然性≫がある!
恐らく五賢臣≪つくりて≫が熟考に熟考を重ね、試合毎に最も最適な位置をヤヅカに指示している」

76叢雨雫:2018/04/07(土) 20:19:57
「真野……!」

「1回戦の後、全てのログをさらって確信を得た。
転送位置ーー初期位置は法則性を持っている。3つの、法則を。
(1)……興行だから、ーーその戦場が最も映える景色が初っ端の画面に必ず映るようになってる。
京都の五重塔然り、刑事ドラマの東尋坊然りだ。
そして、(2)選手同士はあまり遠くへは転送されない。 
1回戦で確かめた。 約500m以内にしか転送は行われない。
会敵までの時間は視聴者≪どくしゃ≫にとってストレスだからな……番組上の配慮ってやつだ」

朗々と波に揺られながら真野は語る。
宇津木は彼の言葉に聞き入っている。

「この時点で、夢の国の初期位置候補は2つ。
夢の国の象徴たる≪城≫を正面から映せる戦場は≪中央広場≫と≪入場ゲート付近≫だけだ。
……で、そこに条件(3)を足せば確定になる。
(3)ーー対戦者同士は、お互いの姿が認識できない位置へ転送される。
必ず遮蔽物を挟むんだ。 ーーこの大会は『魔人能力』を売りにしてる。
バチバチの近接戦が見たいなら、アンダーグラウンドの格闘賭場にでも行きゃあいい。
五賢臣はな、優しいんだ。 ははっ! 俺みたいに、か弱い魔人が試合開始直後にいじめられないよう、
準備の時間をくれる。 猶予をくれるんだ!
そしたらもう……1ヶ所しかねぇじゃねぇか! 悪夢のはじまり! 初期配置が!
中央広場は見通しが良すぎる。 ……だから≪入場ゲート付近の500m以内に3人が集合する≫
ーーそれが確定する! それだけわかりゃ、……あとは帰納法だ。
バケモノ≪クソババア≫に手紙を出し、初期位置付近で無駄足を踏ませるように仕向ける。
そうすりゃ≪東海道≫のお宿は縮小営業、そこに準バケモノの乳女をぶつけてやりゃあジャックポットさ。
バケモノなんかと事を構えちゃいけねぇ。 バケモンにはバケモンをぶつけんだ。
……なぁ、そうだろ、全部当たり前のことなんだ。 考えさえすりゃわかる、当たり前の……」

「真野……!」

「ガタンゴトン!! ガタンゴトン!!」

「どっ!? どうした!? 真野!?」

「ははっ、1回戦の初期位置にはな、一ヶ所だけ……例外があったんだ。
どこだかわかるか……ガタンゴトン!」

「そうだ……貨物列車の戦いは、確か……!」

「ーーあそこだけは特別だった。開戦直後のお見合い。
ただそれも興行上の都合で説明がつく。
一方的な遠距離攻撃を持つ選手に、距離を与えるわけにはいかなかったんだろう。
押しつ押されつ、ぎったんばっこんの能力バトルを展開するために、必要な措置だったんだ。
……その点、『夢の国』ではその例外は起こらない。
なぜなら、俺がいるから。 俺という、か弱い魔人がいるから……!
ーーははっ、質問の答えはこんなもんでいいか?
気になるなら何でも聞けよ、『持ち込んだ物』にも『選んだ戦場』にも……すべてに意味がある!
全部考えてあんだ、『普通に考えりゃ、そうなるよな』……って具合まではな!」

その言葉を聞き、宇津木は問う。本質を。

その男の明瞭な思考過程を聞いた。 まるでかつてのような雰囲気を感じた。
故に確信した。 だから問うのは金の真贋ではなくーー!

「真野……! ≪いつからだ≫
いつからお前は……≪真野金≫だった!」

「ーーは? オイ、宇津木……ははっ! おい! お前、マジか!?
ははっ! はははははははははははははははははっ!! 嘘だろ宇津木!
気付いてなかったのか!? なんでだよ、お前が願ったことだろう!? お前が望んだことだろう!?
正気に戻ったことを気取られないように、合わせてくれてたんじゃねぇのかよ!! ははっ!!
はははははっ!! どうなってんだお前の≪真野金≫観はよォ!!
『ジャックポットパンチ』に『ハッピーバースディ』だぜ!? あんなの……悪ふざけじゃねぇか!!
お前の生涯を賭けるに相応しい好敵手はーー≪真野金≫は≪そんな奴≫だったのか!? なぁっ!! 宇津木!! ははっ!! はははははははははははっ!!」

77叢雨雫:2018/04/07(土) 20:20:38



宇津木はかつての真野金を取り戻すべくあらゆる手を尽くしていた。

彼は、真野専属の大会エージェントだ。
堕ちた英雄の大会にまつわる世話を一手に引き受けていた。

その中には同意書や誓約書・褒賞の振り込み先といった、書類にまつわる仕事もあった。

宇津木は真野の褒賞口座をひっそりと把握し、財布の紐を握ったように、
ひっそりと、同意書の一部にチェックを入れた。

それはーー治療に関する申請項目。
「試合以前に負った怪我やなんらかの変質を治したい」という、参加者に与えられた権利。

治療を請け負うイプシロン王国サイドから承諾の返答はなかった。
しかしそれは治療だけに限ったことではない。
この大会においてイプシロン王国はゲストであり、大会の運営形態は基本的に日本政府側からの片想いだ。
運営から情報を出して、返事が返ってこなかったことはこの件だけではない。

更に、治療の項目の注釈に「受理される場合があります」との記載もあった。
認可がおりるかどうかは保証できないと。

ーーそれでも1回戦終了後、宇津木は「明瞭な自我を取り戻した真野」が戻ってくるのではないかと、
淡い期待を抱いていた。

だから、あの日ーー大会後はじめて真野と会った宇津木は言ったのだ。
変わらぬ……酒に溺れた、堕ちた英雄の姿を目にして。

≪真野……やはり、ダメか……≫……と。
自分の願いは聞き届けられなかったのか……と。





「憤ッッッ!!」

剣閃が、奔る! 

「おあーーーー!? なんてことすんだジジイてめぇ!!
一張羅だぞ、おい!」

帽子のてっぺんをすっぽりと斬り抜かれた真野は、そこから顔を覗かせ言う。

「なぜ黙っていた!! 何故……言ってくれなかったんだ!!」

「仕返しだよ、ばーか! おまっ、ふざけんなよ宇津木!!
なに≪闇の英雄≫を光の大会に引っ張り出してんだ!!
知ってるか、1回戦の試合……YouTubeにアップロードされちまってんだぞ!?
どうすんだ、アレ! なぁ!! もうアレ……消せねぇんだぞ!? 宇津木!!
俺は≪地上最強の男≫真野じゃなくて≪YouTuber≫真野になっちまったんだ!! わかるか、ばかっ!!」

「ゆー……ちゅー、ばー?」

「うるせぇうるせぇ! ばーかばーか!!
それになぁ……宇津木!! お前が言う≪地上最強≫がこの大会に出てどうして証明できると思ったんだ!?
2回戦に進んだ奴らを見りゃわかるだろ!! ほとんど≪日本人≫じゃねぇか!! なぁ、宇津木!!
そいつらを全員倒したら≪地上最強≫が証明されるか? そんなもん嘘だろ!
せいぜい≪日本最強≫が関の山ーーそんなこと、今更証明する必要ねぇ!!
俺は元々ーー≪金(ジパング)最強の男≫だ!!」

「そんな、つもりは……!
すまない、ただ、元の真野に戻って欲しくて……!」

バツが悪そうに真野は頭をかいた。

「クソッ……! わかってる、だから憎みきれねぇ! 天然なんだよな、爺さんは。
それにな……ちょっとだけ……ほんのちょっとだけだが、感謝してるんだ……。
それもまた、ムカつくが……。
なんだかんだで、こうやって元気になれたのは……爺さん……アンタのおかげだ……!」

「真野……!」

「だから……なんつーか、そのよ……! 一個だけ、アンタの願いを叶えてやるよ。 ジジ孝行だ。
見せてやるーー≪地上最強の真野金≫を……! 見たかったんだろ……?
ーーだからこその、この船だッ!!」

バンッ!と真野は手すりを叩いた!

「まずは≪深き森≫!! おっそろしく強い憲兵が居やがる!! イデアの金貨を投げ、言うんだ!
『俺はコインが空中にある間に勝ちを読むぞ。剣を抜けば君は負ける』……ってな!
そしたらもう、……盟友よ!!
一緒にポーカーやって、酒飲んで……ケツの毛まで抜かれんだ!! ははっ!! 見えるか宇津木!!」

「真野……!?」

「次は≪サマーフェスティバル≫!! 陽気なリズムに乗って、カメラ女とアバンチュールをキメてやる!!
無粋な≪ポータル≫にご用心ってな!! ははっ!! どうだ、想像しろ!! 俺の≪世界≫が見えねぇのか!!」

真野は朗々と語る! しかしそれは狂人のそれではない!
彼には見えている! 確かな、光景が!! 栄光の、光景が!!

78叢雨雫:2018/04/07(土) 20:22:12
「次は打ち捨てられた≪廃病院≫……! 夏と言えば肝試しだ! おぉ怖ぇ……!
いけすかねぇメガネを叩き割るッ!! 何がメガネビームだ!!
こっちはジャックポットパンチだぞ!? 正々堂々勝負しやがれ!!
……そうだ、≪溶鉱炉≫……溶鉱炉にも行かなくちゃなんねぇ!!
そこで抱くんだ、貧乳の女を! 知ってるか……≪真野≫はみんな、貧乳好きなんだぜ!?」

「真野……!!」

「ははっ! ははははははははははははっ!!
いいか、宇津木! まずは師匠がやったように世界を旅して周る!!
こんな≪金(ジパング)≫なんて狭い世界の王で満足できるか!!
シケた国とはオサラバだ! あばよ日本!! じゃあな、勤勉で陰気臭い日本人共!!
ーーそれでな……宇津木!! 日本の次は、全てを手にするんだ!! 全てだぞ!! わかるか!?」

風の大陸ーーユーラシア!  火の大陸ーーアフリカ!
水の大陸ーーオーストラリア!  土の大陸ーーアメリカ!

「これだろ宇津木!! お前が見たかった≪真野≫は……≪地上最強の男≫は……!
こうだろ!? 見えるか!! 俺の世界が!! ーーなぁっ!! 宇津木!!」

「真野ォ……っ!」

老剣士の声が僅かに上ずる。
それは……その姿は、何年も恋い焦がれた男のーー!

「……くはっ……! ははっ! はははははははっ!! ばーーーか!!」

「真野!?」

「こんなもんでいいのか、オイ! こんな≪真野金≫でいいのかよ!! 爺さん!!
もっと欲張れッ!! レイズ! レイズだッ! レイズしろッ!!」

「真野ッ!?」

「こんなチンケな≪地上最強≫はなぁ……こんなチンケな大偉業は……既に師匠がやってんだ!!
同じことやっても、それじゃあ師匠に並ぶに過ぎねぇ!! ≪地上最強≫タイなんて嫌だろ!?
なぁ、宇津木!! 見てくれ!! 俺の世界を!! 俺が叶えたい世界を!!」

ビッと真野が空を指を差す!!

その時、地平の果てより日が昇った!
夜明け! 金色の光にーー真野が包まれる!!

「水金地火木土天海冥!!
≪風火土金水(ごぎょう)≫なんてチャチな器に俺を嵌めるなッ!!
南極も、北極も……小さな島々も、七つの海も……全ッ部ッ!! 全部手に入れる!!
それにな……宇津木!! 今ならあるんだ、師匠を超える明確な指標が!!
師匠の時代にはなく、俺の時代にはある……すげぇモンがよ!! わかるか、宇津木ィ!!」

真野の指が指し示す方向ーーそれは……!

「エプシロン……王国!!」

「そうだ!! そうだ宇津木!! ははっ!! ははははははははははははっ!!
全部だ! 全部!! ははっ!! これだろ宇津木!! お前が願った≪真野金≫はッ!!
お前が望んだ≪真野金≫は!! お前が人生を賭した≪真野金≫はッ!!
こうだろッ!? なぁッ!! 宇津木ッ!!
≪地上最強≫じゃねぇ……!! ≪史上最強≫の真野を見せてやるッ!!
どうだッ!? どうなんだッ!! それで手を打てよ!! なぁっ!!
俺を≪肯定しろ≫ッ!! 宇津木ィーーーーーーッ!!」

「おお……っ!! 真野っ……真野ォ……!!」

光に包まれる二人の男。
目を灼く陽光のせいか、老剣士の枯れた瞳から、一筋の涙が零れ落ちる。

その心の隙間に……詐欺師めいた人心掌握術を持った男の言葉が射しこまれる。

ーー「一緒に来るか? 宇津木秋秀」

79叢雨雫:2018/04/07(土) 20:22:38
老剣士は愛刀に手をかけた。

「笑止」

四本の剣閃がーー金の光を斬り裂き、奔る!
それは弛まぬ鍛錬によって鍛えられし一振り!
≪金≫を斬るという至上の目的に向け、極限まで磨き上げられし絶技!

二本の剣閃が、左右の建物を奔る!
ずるりと滑り落ちる鉄筋の建屋から、人の気配が僅かに立ち上り、そして忽然と消えた。

ーー≪シケた国とはオサラバだ! あばよ日本!! じゃあな、勤勉で陰気臭い日本人共!!≫

真野は釘を刺していた。 それは、建物に潜む省庁のエージェント達に向けた言葉。
それは宇津木もわかっていた。 わかっていながら我慢できなかった。
自分以外が、この偉大なる王の船出を目にするという事実が。

二本の剣閃がーー海を裂いた!

地平の果てまで……海が、割れる!
それは、真野の乗る船を挟む……さながら海上のレール!
それは、末広がりの八の字!

納刀を終えた宇津木は、既に踵を返している。

海水が! 割れた海が元に戻る!
巻き起こる海流が、真野の船をぐんぐんと沖へ押し出す!

「ははっ! はははははははははははははっ!!」

真野の快哉が、宇津木の背を打つ!

「餞別だ」……その呟きは喧騒の中に消えて行った。

カンカンカンと下駄の音が高らかに鳴る。

「ありがとうっ!! 爺さん!! 短い間だったが楽しかったぜ!!」

カン・カン・カン

宇津木は何もかもが不愉快だった。
「一緒に来るか?」などと……戯言を。

断るわられることを知ったうえで投げかけられた問いも、
思惑通りに断ってしまった自分も、まるで掌で踊らされているようで不愉快だった。

その不愉快さ……弄ばれるにも似た感覚に心が踊ってしまった事実もまた、
どうしようもなく不愉快だった。

「じゃーーーーーなーーーーーっ!! また会おうッ!!」

≪また会おう≫ ーー それは恋心にも似た妄執を抱く相手からの、再戦の約束!

カァーン……と、一際高くーー下駄の音が鳴った。

80井戸浪濠:2018/04/08(日) 11:45:49
【マッチポンプ】

 1回戦終了後、井戸浪濠はある選手に目をつけた。
 グロリアス・オリュンピア出場選手に用意された高級ホテル。
 その中であまり人の通らないフリースペースの一角に、その選手の姿はあった。

「隣、いいかな?」

「あ、あの……はい」

 彼女は偽花火燐花。
 正確に言えば、“本物の”偽花火燐花が死の間際に目覚めた魔人能力『輪廻化生』で作り出した、自らの写し身。
 『輪廻化生』は炎を形ある物質へと変える能力。
 その能力により“偽花火燐花”へと変えられた炎が、今も世界を彷徨っている。
 そんな、残り火の少女。

 隣に腰掛ける濠を一瞥してから、彼女は虚ろな目を遠くに向ける。
 そして、まるでメタ的な何かに取り憑かれたかのように、話し始めた。

「えっ、と、この設定、とっても素敵ですよね。1回戦で正史になってほしくないって投票したの、実はわたしなんですけど、本当は、これはこれでとっても好き。あの、知ってます? 『灼眼のシャナ』。わたし、あれがほんとに好きで……。似たような設定だから、興奮しちゃいました。それに、燐花ちゃん、りうむちゃんもそうなんですけど、物質として純粋な女の子って、その、え、えっちですよね。穢れがない、っていいますか……。えっと……そ、そうだ! あの、燐花ちゃんの作者さん、この設定、考えてらしたんですかね? だって、だってぴったりじゃないですか。キャラ名も、能力名も。考えてたなら、たどり着いたのがすごいですし、考えてなかったなら、ここまでつじつま合わせられるの、すごいです」

「せやな」

 濠は何でも言うことを聞いてくれる営業マンであった。

「あ、あれ? わたし、何言ってるんだろう……」

 それはメタ的な何かの仕業です。ごめんね。

81井戸浪濠:2018/04/08(日) 11:47:00
 気を取り直して、濠は本題に移る。

「君は、自分の芸を世界中に見せたいということだが」

「は、はい。皆様を、わたしの楽園に招くのが、わたしの役目、です」

「ならばこの水を買うといい」

 論理飛躍!
 あなたは今「なんでそうなるんだ!」と思ったことだろう。
 そこがポイントだ。
 こうすれば、相手にその理由を聞かせることができる。
 しかし、だ。
 燐花には水を買わない明確な理由があった。
 それをクリアしないことには、彼女に水を売ることはできない。

「あ、あの、わたし、お水はちょっと……消えちゃいます」

 そう、彼女は炎そのもの。そして水は炎にこうかばつぐん!
 彼女にとって水は不要などころか天敵であった。
 さあ、どうする濠!
 と、彼は例のリュックからペットボトル入りの水を取り出し、蓋を開けた。
 そして不意打ちのように、それを上へと放り投げた。

「きゃっ! ……あ、あれ?」

 宙で回転したペットボトルは、一滴の水を滴らせることもなく、濠の手にすとんと落ちた。

「ペットボトルを回すと、遠心力で水が落ちてこなくなる。
 失敗するとびしょ濡れになるがな」

「あの……」

「1回戦の放送で、君の正体は世間に知れ渡ることとなった。
 君は炎そのもの、水を掛けると消える。
 そんな君が水を使った芸をするんだ。世間の人はどう思う?」

「えっと、はらはら、します?」

 相手に正解を言わせる。これもなんか営業テクニック的なアレだったと思う。
 自分で言ってしまった言葉は取り消しにくい、みたいな。

「そうだ。だから君はこの水を買うべきなんだ」

 濠の話を聞いて燐花は一瞬目を輝かせる。
 しかし、次の瞬間にはまた俯いてしまった。

「でも、だめ。きっと、お客さん、集まらないから……」

 彼女が路上パフォーマンスをするとき、投げ銭入れのシルクハットはいつも空っぽだった。
 芸の種類を変えるだけでそれが変わるとはとても思えない。

82井戸浪濠:2018/04/08(日) 11:47:32
「ならば」

 ここで、濠からの意外な提案があった。

「YouTuberになるといい」

 燐花は顔を上げる。

「路上では君のことに気付かない人がいるかもしれない。
 だがYouTubeならグロリアス・オリュンピア出場者と銘打って宣伝できるだろう」

「でも、ユーチューバーになるには、5億円必要だって、ラッコさんが……」

 燐花ちゃんは多分機械に弱い。サーカスってなんかレトロな雰囲気だし、精密機器に熱とか大敵だし。
 だから、ファイヤーラッコの発言を鵜呑みにしていた。
 濠はその燐花の台詞に対し、衝撃の発言をした。

「実は、YouTuberになるには5億円もいらない」

「えっ?」

 えっ? マジ? 5億円いらないの?
 ちょっと待って、これ、準決勝進出者の参戦動機を脅かす衝撃の発言じゃね?
 まずいんじゃないの?
 
「パソコンに10万、音響に1万、おいしい水に1万、照明に1万もあれば初期設備としてはひとまず十分だろう」

 あっ、こいつ! 単位揃えてさらっと流しやがった!
 このままでは1万円で水を売られてしまう! 気付いて燐花ちゃん!

「ああ……ユーチューブで世界中のお客さんがわたしを見てくれる……素敵……」

 ダメだ、これはもう聞いていない。
 そこに濠はさらに追い打ちを掛ける。

「そして、君の芸を“生”で見たいと言ったお客様に見せてあげるといい」

 濠が燐花に目をつけた理由はここにある。
 燐花は『輪廻化生』でいくらでも“偽花火燐花”を造れる。
 彼女たちは世界中にいる。世界中で路上パフォーマンスができる。
 それが全員、ミズリーの水を求めてくるのだ。
 しかも、彼女が水を使うのは芸のため。人に見せるため。
 そう、つまり宣伝にもなる。
 ここで燐花と少し話をしただけのことが、どれほど多大な利益を生むのであろうか。

「あ、あの、ありがとう、ございます。わたし、がんばります。応援、してください、ね」

「ああ」

 燐花は、濠の名刺と自分のマッチ箱を交換して、その場を去っていった。

83井戸浪濠:2018/04/08(日) 11:47:57
「おい、あんた、今の」

 直後、声が掛かった。
 そこにいたのは年若い男性の魔人警官、内裏エイジだった。

「2回戦進出者じゃなけりゃあ重要参考人としてしょっ引いてやる所だったが」

 エイジの明確な脅しにも、濠は臆さない。

「私はビジネスをしただけだ。“炎”に対する自衛が必要なら、君も水を買うといい」

「ふざけるな!」

 濠は冷静ながらも、しかし警察を敵に回すのはまずいことだとは認識している。
 コンプライアンス、大事。

「ならば、これで手を打たないか」

 濠の手に握られているのは、4枚のチケット。

「弊社(ウチ)の福利厚生で貰ったものだが、あいにく持て余していてな」

 それはミズリーランドの1日招待券。
 濠が勤めるミズリー社のアミューズメント事業部が運営する、巨大テーマパークだ。
 エイジにこれを渡せば中で飲食とかお土産とか買ってくれるので、また利益が生まれる。

「さらにふざけているようにしか……」

 言いかけた時、エイジに電話が入った。
 発信元は徒士谷真歩。エイジは慌てて出る。

「はい! はい! ……は? ミズリーランド!?」

 真歩の口から出た2回戦の戦場の名に、エイジは耳を疑う。

「あんた、知ってたのか! ……あ、いや、先パイ、危ないことはしてませんって!」

「さあ、な」

 真歩に必死に弁明するエイジの横顔に向けて、濠はおどけて見せた。
 濠が本当に真歩の戦場を知っていたのか、それともただの偶然か、はたまた「軽率に話を繋げてみたけど特につじつまは考えてなかった」のか。
 それは誰にも分からなかった。

2回戦へ続く

84井戸浪濠:2018/04/09(月) 08:19:34
>>82
なんかおかしいと思ったら、初期投資の台詞で肝心のカメラ買ってなかったので撮影できませんでした。
お詫び申し上げます。

85冥王星:2018/04/11(水) 01:20:23
【拾った日記】

エプシロン王国の第一王女である、フェム=五十鈴=ヴェッシュ=エプシロン。
その侍女であるピャーチは、常に王女に付き従っているように思われる。

確かに、王女の「おはよう」から「おやすみ」まで付き従うのが彼女の職務だ。
しかし、逆にいえば「おやすみ」から「おはよう」までの間は付き従わなくても良いということ。
つまり、王女の就寝から起床までの間、ピャーチは自由なのである。

「さて、就寝の準備は整いましたし、”アレ”を拝見致しましょうかね」

王女が就寝し、自分が寝るまでの時間、僅かな余暇を得たピャーチ。
彼女は、小さな自室のベッドに腰掛け、一冊のノートを開く。
そのノートは、半分ほどのページまで何事か文字が書かれている。

朝に使用人の宿舎で拾ったものだ。
表紙には何も描かれておらず、中を見ると日記のようであった。
落とし主に返そうにも、誰の日記かは一見して分からなかったため、ひとまず自身の私室で預かっていたのだ。

(そう、決して好奇心から来る覗き見などではなく、持ち主を特定して返却するため)

その様に誤魔化そうとするものの、やはり好奇心が一番強く在ることは否定できそうになかった。
持ち主の方、ごめんなさい。
心の中で念じつつ、日記を開くピャーチ。

「……ふむふむ」

しばらく、ページをさらりとめくる音が何度か続く。
王女の侍女。それは間違いなくエプシロン王国におけるエリートの一人であり、速読術も備えているため、読んで理解するスピードは早い。

……どうやら、この日記の持ち主は新人の使用人であるようだった。
宮仕え開始と共に日記を書き始めた様子であり、最初の方は仕事への意気込みや小さな失敗を何度かしてしまったことが書かれている。
職に就いた日付と日記から分かる人物像から、もはやこの時点で調べれば特定はできそうである。

自分も同じ様な失敗をしたことがあったなどと、微笑ましさを感じてしまうため、もう少し読み進めてしまいたい気持ちもあった。
けれど、落とし主を特定できる以上、コレ以上はさすがに気が引ける。

「……この辺りで、やめておきましょうか」

小さく呟いて、閉じようと思ったその時。
ある気になる文字列が目に入った。

――「王女様とピャーチ様」。

さすがに自身の名前が出てきたら、気にならないわけがない。
それも、一度出てきて以降、王女と自身の名前が頻出している。
思わず――先ほど罪悪感を抱いたことなど忘れて、ピャーチは読み進める。

「あぁ、なるほど」

くすっと小さな笑いを残し、ピャーチは読むのを止めた。

この使用人は、フェム王女とピャーチの関係を見るのに嵌り、そしてこじらせてしまった。
ただそれだけのことであった。

86冥王星:2018/04/11(水) 01:20:41
◇◇◇

――あぁ、フェム王女様、ピャーチ様。
お二方の関係はなんと素晴らしいのでしょう。

私は王女様の愛らしさに憧れて、少しでも彼女に関わりたい。
そう思って、宮仕えを志望しました。
当初は、身の程知らずにも、王女様専属の侍女になれるかもしれない。そんなことを考えていた時期もありました。

けれど、あぁ、そうですね。既に王女様のお傍には、完璧なお付き人がいらっしゃったのですね。
ピャーチ様、なんと凛々しく完成された振る舞いをされる方なのでしょう。
貴方ほど王女様にお似合いのお付き人は、わが王国だけならず、地上のどの国を探しても見当たらないでしょう。

そう、大変お似合いです。私はお二方の関係性に、ひどく心を打たれました。
王女様から垣間見えるピャーチ様への信頼の情、そしてそれを愛おしそうな眼差しで受け止め、真摯にお世話する王女様。
王女様は趣味に興じている時、少々お転婆をなさいます。その時もピャーチ様は一線を越えないよう嗜めつつ、多少は許容している様子が見受けられます。
これはきっとお二方だからなせる信頼に基づいたお転婆と許容でしょうね。

なんと、なんと素敵な関係なのでしょう!

信頼、親愛。そのどちらでもあり、またどちらでもないのでしょう。この素晴らしいお二方の関係を、そんなたった二文字で表して良いはずがありません!
お二方の間にある情は、まさに神に寵愛されるべき関係性。そのどちらが欠けても生まれ得ない、完全なる奇跡。両方が存在して始めて羽ばたける、比翼。天から授かった(以下省略)。

とにかく、そんな貴方がたを”お慕い”申し上げ、いえこの際「推したい」と申し上げるべきでしょうか?
最近は、好きなもののことを「推し」と言うそうですね。
私、最近の恋愛事情も少しは学びましたの。カップリングの「攻め」や「受け」という概念があることも同僚から聞きました。

そう、そういえばその同僚と歓談に勤しんでいた時のことなんですけどね。
彼女ったら、どうにも私の主張を認めてくれないんですよ。「解釈違い」や「地雷」などという言葉を使って。

私は、私はどう考えても「ピャーチ様が攻め」であると何度も申し上げているのに。
同僚は「フェム王女が攻め」であると言って全く譲ってくれないんですよ。

王女様の方が立場こそ上であるものの、ピャーチ様は王女様の何もかもを知っていらっしゃるはずです。
時は情報社会、情報を握っている方が上なのです。更にピャーチ様は世慣れもしていて頭脳も王女専属の侍女になるほど優秀でございます。とあれば、その手の平でいかようにも転がせるのではないでしょうか。
いえ、決して王女様を侮っているつもりは一切ございません。ただ、ピャーチ様が何枚も上手であろうと申し上げているのです。

それに、私はピャーチ様が「攻め」であることを示す、重大な証拠をこの目で見てしまったのです!

それは、王女様が風邪をお引きになった時のことでございました。

87冥王星:2018/04/11(水) 01:20:59
◇◇◇

私はその時、王女様の所望していた梅を乗せたお粥を、彼女の寝室に運ぶ役割を担いました。

ピャーチ様は、私の運んだ食膳を受け取り、起き上がった王女様に食べさせようとします。

「フェム様、ご所望のお粥ですよ。勿論、フェム様のお好きなように梅も乗っています」
「ありがとう。頂くことにするわ……けど」

私は静かにお辞儀して、その場を去ろうとしていました。
役割は終えたことですし、何より王女様とピャーチ様のお二人の時間を邪魔してはいけませんからね。

「けど、その姿勢はまるでいただけないわ。まるで、私の口までスプーンを運ぶかのような姿勢は。日本では確か、『あーん』と言って口に運ぶのでしょう?」
「はい。そうですよ。ご所望でしたら、『あーん』と言いながらそのお口に運んで差し上げることも可能ですよ」
「いえ、いえ、そうではなくて。そうした世話をすることが貴方の職務だとは分かっています。けれど、そういうのは少々……」

私はもうその時点で、自室に帰って萌え転げたくありました。けれど、私は使用人として、埃を立てないように静かに寝室を歩き、扉までゆっくりと向かうしかありませんでした。

「ふふっ。『あーん』されるのはお恥ずかしいですか?」
「いえ、ですから、そうではなくですね。その……口に運ぶということは、それだけ距離が近くなるわけで……ピャーチに風邪を移してしまうのではないですか?」

あぁぁああ!? なんと、なんと健気な心遣い! 私は、私はこの場に居てはいけないのでは!? 萌えの炎に浄化される! 早く、早く扉にたどり着かねば萌え死んでしまいます!

「大丈夫ですよ、フェム様。私は王女様になら風邪を移して頂いて構いませんし、『風邪は移すと治る』などという話もございます」
「でも……」
「でも、ではございませんよフェム様。貴方様にスプーンを渡して、冷まさない内に召し上がって、それで舌を火傷されたらどうするのですか?」
「それは、それは構いません。ですから……」
「ですから、でもありません。そしたら私の責任となり、私はフェム様のお側に居られなくなってしまいます。勿論、フェム様が私の任を解きたいなら――」
「いいえ、それはなりません! ピャーチが居なくなるなどと……わかりました。わかりましたから。では――」

ヒッ、ヒィイイー!? 死ぬ、この圧倒的イチャラブ空間はダメ! 死んでしまう! マジ死ぬ! 私はなるべく静かに扉を締めつつ、死に物狂いで息も絶え絶えで脱出しました。ハァーッ、ハァーッ!

恐らく、今頃ピャーチ様が王女様に「あーん」しているところでしょう。そこまで聞かなくて良かったような、でもちょっと聞きたかったような、複雑な思いです。

ともかく! コレでわかったと思うのですが、二人の関係では、ピャーチ様の独壇場です。彼女が主導権を握っていたのは間違いないでしょう。
これを聴いた同僚は、それでもあまり認めたがらないようでしたが、間違いないです!
ピャーチ様が、攻め!

◇◇◇

「ふふっ、ふふふふ……!」

ピャーチは、そこまで読み終えて、おかしくてたまらないといった様子で上品に笑った。
違うのだ。間違っている。
確かに、そこまでしか聴いていなかったのなら、ピャーチが攻め手になっているように受け取ってしまってもおかしくない。
だが、続きがあるのだ。

ピャーチは静かに思い出す。

『では――風邪を移してしまってもいいのですね?』

フェム王女の口に運んだはずのお粥。
その梅の混じった炭水化物の味を。

【END】

88みやこ:2018/04/11(水) 20:38:17
4月14日(土)21時より≪準決勝感想キャス(非公式)≫を行います。


○開催場所 (※いつもと違います!注意!)
tps://twitcasting.tv/miyako_nbu/broadcastertool


○ラジオ内容
 ダンゲロスSS5準決勝の感想をざっくばらんに言いあいます。
 ネタバレ感想になりますのでお気を付け下さい。

 また、非公式キャスですので感想の内容や量に偏りが発生する可能性があります。
 あらかじめご了承ください。


○ラジオパーソナリティ
 ・ぺんさん……チョコケロッグ太郎の投稿者。 
 ・ハリーさん……雪村桜の投稿者。
 ・DTさん……九暗影の投稿者。
 ・みやこ……叢雨雫の投稿者。


以上、負け犬4名でお届けします!
よろしくお願い致します! ギャンギャン!

89井戸浪濠:2018/04/21(土) 20:01:08
【ゼロサムゲーム】

 ネオン街の一角に華やかさとは無縁の寂れた看板が立っていた。
 『真野清掃店』。
 誰も目もくれず素通りしていくその建物の前に今、一人の男がいる。
 井戸浪濠。
 戦闘魔人の祭宴であるグロリアス・オリュンピアを自らの営業の舞台とし、敗退と引き換えに成功を収めたビジネスマン。
 彼はその過程で参加者の情報を洗っていた。
 試合とは関係無しに、個人的に営業を掛けたいと思った者もいた。
 それがここの家主、真野金だった。
 裏社会の“最強”。しかもその称号は暴力や魔人能力によるものではない。純粋な知略家。
 そんな存在を相手どるのだ。井戸浪の営業熱が騒ぐ。

 チャイムすら無い、開ければそのまま外れてしまいそうなドアを、井戸浪はノックする。
 返事を待たずに入るようなことはしない。この中は敵(きゃく)の城だし、何より彼には営業マンとしての矜恃がある。
 彼は待った。

 先に述べておく。この営業は一分も経たないうちに決着を迎える。

 しばらくして、ドアが勢いよく開く。
 ボロボロの身なりで姿を現した真野は、拳銃を片手に叫んだ。

「クソッ! 借金はまだ待ってくれって言ってるだろ! 俺が数千万の金を手に入れたなんてどこのガセ情報だよ! ああ!?」

 狂気。この男がそれに蝕まれていることは事実だ。
 だが真野は、井戸浪が一回戦で戦った等々力昴とはまた違う。
 今このときは狂気を演じているだけの可能性がある。
 あるいは自らの狂気を利用している可能性もある。
 言葉は慎重に選ばなくてはならない。

「私は借金取りではない」

「じゃあなんなんだよテメー! 押し売りか!?」

 井戸浪は口の端に笑みをにじませる。

「ああ、押し売りだ」

 聞いた途端、真野は井戸浪に掴み掛かる。
 井戸浪が言葉選びを間違ったわけではない。
 これは真野を会話に縛り付けるためのフック。
 三秒、熱い二つの視線がぶつかり合う。
 先に口を開いたのは、井戸浪。

「君にこの『おいしい水』を売ろう。お代は――」

 キィーーーーン!

 台詞の途中、金属音と共にあるモノが井戸浪に向けて飛来してきた。
 それをキャッチする瞬間、台詞に一拍分の空白が生じる。
 そこに真野は自らの言葉をねじ込んできた。

「ジャック……ポット。一本頂くよ」

 井戸浪の右手から水をもぎ取ると、真野はそのまま店に戻り、ドアを閉じてしまった。
 井戸浪は左手を開く。
 そこに残されたのは、ただの百円玉が一枚。

90井戸浪濠:2018/04/21(土) 20:01:53

――――

「ハァーッ! ハーッ! クソッ! どうしてだ!」

 店内に戻った真野は、机に両拳を叩きつけた。
 行動は“最適”だった。
 井戸浪濠は売ると決めたら必ず水を売るだろう。それも高額で。
 GO参加者の分析を行った際に真野が得た結論だ。
 ゆえにこちらが先手を取り適正価格で買ってしまう。
 何も間違ってはいない。
 だが。

「俺なら……真野金なら……できたはずだ! 買わないことが!」

 行動は“最高”ではなかった。
 井戸浪に勝利するというなら、何も買わないことこそが本当の勝利だ。
 それを狙えば確かに高額で売りつけられるリスクがある。
 怯えていたのだろうか。
 二回戦でたった一度の敗北を味わったばかりだから。
 いや、真野金はそうではなかったはずだ。

「見てろよ……どいつもこいつも……次、こそは!」

 彼の目に宿った光は、未だ消えていない。

――――

「この私が、定価を受け取ることになるとはな」

 店の前に立ち尽くしたまま、掌の百円玉を見つめ、井戸浪は呟いた。
 確かに、売ったは売った。
 そういう点では彼の行動もまた“最適”だったのだろう。
 しかし。

「もう少し、冒険するべきだったか」

 彼の行動もまた、“最高”ではなかった。
 別に拳銃に怯えたわけではない。それより怖かったのは売れないこと。
 彼はGOの舞台でもまた、ビジネスに成功を収めた。
 そうして積み上げてきた成功が、彼を保身に走らせた。
 真野金相手に、売れないリスクを取ってでも値段を釣り上げ、チャレンジするべきではなかっただろうか。

「私も、まだまだだな」

 受け取った百円玉をポケットにしまい込み、精進の心を胸に、彼はネオン街へと消えていった。

――――

 話を聞き終えた飯田秋音は、困惑した顔で質問した。

「それって結局、百円のものを百円で取引したってだけの話だよね?」

「そうだ」

 答えたのは宇津木秋秀。GO運営本部のエージェントである彼は、なにやら五賢臣が大会MVPを選出するということで、大会裏の逸話を集める命を受けていた。
 そのついでとして、“歳の離れた茶飲み友達”に会いに来た、といったところだ。

「どうして売った方も買った方も悔しがってるの?」

 秋音の問いに宇津木は笑って答える。

「ハハハハハハ! それが男ってものだ」

「……やっぱり男の人って全っ然理解できない」

 呆れた顔で紅茶に口をつける秋音の頭に一つの疑問が浮かんだ。
 今日は質問回数に余裕がある。
 フラガラッハに尋ねてみるのもいいだろう。

(Q4――真野金は本気で悔しがってた?)
「はい」

 いい気味、と秋音は意地悪に微笑んだ。

【ゼロサムゲーム】完

91叢雨 雫:2018/04/22(日) 11:59:59
結果、22名が本戦出場し、一回戦が逐次行われているとのこと。
この大アルカナと同じ人数設定は、おそらくこの大会が、『エプシロンの杯』にエネルギー供給を行う王国の儀式、エプシロン・スプレッドを模しているからでしょう。

--恵撫子りうむプロローグより


「自分のキャラクター、アルカナに当てはめるの……すべてのオタクが好きなことでしょ?」
……ということで、有志の手によってエプシロン・スプレッドが埋まりましたので、ご報告いたします。


<エプシロン・スプレッド>
00愚者:暗黒騎士ダークヴァルザードギアス
01魔術師:童 貞男
02女教皇:女女女 女女
03女帝:徒士谷 真歩
04皇帝:則本 英雄
05教皇:林 健四郎
06恋人:佐渡ヶ谷 真望
07戦車:等々力 昴
08力:大隈 サーバル
09隠者:九 暗影
10運命の輪:ファイヤーラッコ
11正義:叢雨 雫
12吊られた男:真野 金
13死神:偽花火 燐花
14節制:井戸浪 濠
15悪魔:チョコケロッグ太郎
16塔:舞雷 不如帰
17星:阿呂芽 ハナ
18月:澪木 祭蔵
19太陽:雪村 桜(初号機)
20審判:七月 十
21世界:モブおじさん


<おまけ:タロット会議の模様>
6:20〜
tps://twitcasting.tv/miyako_nbu/movie/458747115

92エプシロン・スプレッド:2018/04/22(日) 16:57:39
幕間SS エプシロン・スプレッドをめくって


「――大アルカナ、22枚。そしてそれに、『白紙(リザーバー)』のカードを1枚加えて――」

 少女の細い指が、卓上のカードを操る。
 タロット占いには、様々な方法があり、それは「展開法(スプレッド)」と呼ばれる。

 少女が為すのは、既存のどれとも似ていないものだった。

 ――エプシロン・スプレッド。

 天空王国エプシロンの王家に継承される、特殊な占法であった。
 通常、タロット占いは「カードを人の運命に重ね、それによって人の未来を占う」ものである。
 だが、エプシロン・スプレッドは違う。

 カード1枚1枚を、儀式に参加する人間になぞらえ、その在り方に合わせてカードを展開することで因果の熱量を回収し、国の未来を寿(ことほ)ぐものである。
 
 エプシロン・スプレッドは、四段階に分けられる。
 11枚で占う、エプシロン・ロイヤル。占者である王族個人を寿ぐもの。
 8枚で占う、エプシロン・カントリー。エプシロン王国という国を寿ぐもの。
 3枚で占う、エプシロン・ワールド。王国を取り巻く世界全体を寿ぐもの。
 1枚で占う、エプシロン・フェイト。世界を包み込む、運命を寿ぐもの。

 フェム王女は、『グロリアス・オリュンピア』の結果をまとめた資料を横目に、カードを配置していく。

「エプシロン・ロイヤル。そが示すは我が個としての存在。寿ぎたまえ。11の勇者の導く瞬きよ」


 ――金運を示すは、一回戦、浮島の敗者。チョコケロッグ太郎。背負う数字は15、銘は『悪魔』。位置は正。
   表すは、欲望、執着、過信に盲目。ゆめ注意を怠ることなかれ。

 ――智慧を示すは、一回戦、貨物列車の敗者。舞雷 不如帰。背負う数字は16、銘は『塔』。位置は逆。
   表すは、復活、解放、改革に再建。これより新たに掴むものと心得よ。

 ――家族を示すは、一回戦、天国の敗者。則本 英雄。背負う数字は04、銘は『皇帝』。位置は逆。
   表すは、停滞、独裁、支配に損耗。固着を許すことなかれ。流動を求めてを伸ばせ。

 ――政務を示すは、一回戦、山岳地帯の敗者。等々力 昴。背負う数字は07、銘は『戦車』。位置は逆。
   表すは、暴走、障害、苦難に醜聞。その身を正し、奢るなかれ。

 ――婚姻を示すは、一回戦、博物館の敗者。佐渡ヶ谷 真望。背負う数字は06、銘は『恋人』。位置は逆。
   表すは、離別、失敗、躊躇に曖昧。甘んじるなかれ。求めることを諦めることなかれ。

 ――生命を示すは、一回戦、古城の敗者。林 健四郎。背負う数字は05、銘は『教皇』。位置は正。
   表すは、慈愛、共感、絆と寛容。その在りようは、多くを癒し、いつしか己を満たすだろう。

 ――精神を示すは、一回戦、豪華客船の敗者。童 貞男。背負う数字は01、銘は『魔術師』。位置は逆。
   表すは、奇抜、悪知恵、悪目立ち。生命の慈愛と精神の悪性の乖離の相剋相生こそ、この生の主題となるだろう。

 ――地位を示すは、一回戦、雪山の敗者、九 暗影。背負う数字は09、銘は『隠者』。位置は逆。
   表すは、秘密、拒絶、混沌に隠遁。遠からずその魂は輝ける椅子を蹴るだろう。

 ――仲間を示すは、一回戦、巨人の家の敗者、女女女 女女。背負う数字は02、銘は『女教皇』。位置は正。
   表すは、聡明、信頼、才女と清廉。傍に立つ女性が、久遠の友誼を結ぶだろう。

 ――障害を示すは、一回戦、ピラミッドの敗者、偽花火 燐花。背負う数字は13、銘は『死神』。位置は正。
   表すは、急変、崩壊、事件と決別。遠くない未来、窮地を覚悟せよ。

 ――未来を示すは、一回戦、地獄の敗者、阿呂芽 ハナ。背負う数字は17、銘は『星』。位置は逆。
   表すは、躊躇、懊悩、夢想に自省。世界は思索よりも光に満ちていると知れ。


「あらあら。前途多難な生のようですね」
「なぜ、嬉しそうなのですか、フェム様」
「当然でしょ。だって、外面と内面の乖離は一生私を苛み続け、明確な危機が訪れると予言された。
 つまり――私の未来には退屈な平穏などない。おまけに」

 フェム王女は、傍にかしずく従者に向かって、満面の笑みを浮かべた。

「9枚目、仲間を示すアルカナは正位置の『女教皇』。私の傍にはいつだって、友誼を結ぶ最高の女性がいると、保証されたのだもの」
「……おだてても、何も差し上げられませんよ?」
「嘘。だって、いつもピャーチは最高の忠節をわたしに捧げてくれているもの」

 そう言って、フェム王女は手にした『女教皇』のカードを弄んだ。

93エプシロン・スプレッド:2018/04/22(日) 16:59:09
幕間SS エプシロン・スプレッドをめくって2


 エプシロン・スプレッドは、四段階に分けられる。
 11枚で占う、エプシロン・ロイヤル。占者である王族個人を寿ぐもの。
 8枚で占う、エプシロン・カントリー。エプシロン王国という国を寿ぐもの。
 3枚で占う、エプシロン・ワールド。王国を取り巻く世界全体を寿ぐもの。
 1枚で占う、エプシロン・フェイト。世界を包み込む、運命を寿ぐもの。

 フェム王女は引き続き、『グロリアス・オリュンピア』の結果をまとめた資料を横目に、カードを配置していく。

「エプシロン・カントリー。そが示すは我が祖国の存在。寿ぎたまえ。8の勇者の導く瞬きよ」


 ――支配を示すは、一回戦、闘技場の敗者。七月 十。背負う数字は20、銘は『審判』。位置は正。
   表すは、再生、改善、節目に栄光。再び王国は輝きを取り戻すだろう。

 ――生活を示すは、一回戦、闘技場の敗者。大隈 サーバル。背負う数字は08、銘は『力』。位置は逆。
   表すは、停滞、妥協、逃走に暴発。黄金に手を伸ばすあまり足元の崖を見落とすことなかれ。

 ――善悪を示すは、一回戦、戦場跡の敗者。井戸浪 濠。背負う数字は14、銘は『節制』。位置は正。
   表すは、道徳、安定、堅実に平和。倫理と法、王権の盾は悪意より民を守るだろう。

 ――行動を示すは、一回戦、戦場跡の敗者。暗黒騎士ダークヴァルザードギアス。背負う数字は00、銘は『愚者』。位置は逆。
   表すは、惰性、消極、愚考に失敗。維持と停滞は別のもの。旧きものを軽んじることなかれ。

 ――探求を示すは、一回戦、オフィス街の敗者。雪村 桜(初号機)。背負う数字は19、銘は『太陽』。位置は正。
   表すは、穏健、達成、発展に将来性。知の探究を怠るなかれ。それは奪われ難き国の財である。

 ――軍事を示すは、一回戦、オフィス街の敗者。澪木 祭蔵。背負う数字は18、銘は『月』。位置は負。
   表すは、啓示、増幅、黎明に安堵。備えを怠ることなく、機を見極めよ。

 ――信仰を示すは、一回戦、夢の国の敗者。叢雨 雫。背負う数字は11、銘は『正義』。位置は正。
   表すは、評価、均衡、正当に誠実。妄信するなかれ、軽視するなかれ。杯は、天を睨む金は失われずこの国とともにあり続ける。

 ――権力を示すは、一回戦、夢の国の敗者。真野 金。背負う数字は12、銘は『吊られた男』。位置は逆。
   表すは、苦難、損耗、束縛に自己犠牲。この国の在りようは、偉大なる供物を求めるだろう。


「この国は、私と比べて順調なようね」
「……そうでしょうか。『杯』は、この大会以外の供物をさらに求める……そのように読めますが」

「きっとそれは、私のことでしょうね」
「フェム様!」

「ふふ、ごめんなさい。でも、エプシロン・ロイヤルの結果と考え合わせれば、それが妥当な解釈だと思わない?」
「それは……」

「あら、心配? 私が素直に国の礎になるような女の子に見えて?」
「……いいえ。私が心配なのは、あなたが「本気」になって、この国すら覆しかねないことです」

「ふふ、素敵。そういうところ、やっぱり好きよ、ピャーチ」

94エプシロン・スプレッド:2018/04/22(日) 17:00:27
幕間SS エプシロン・スプレッドをめくって3


 エプシロン・スプレッドは、四段階に分けられる。
 11枚で占う、エプシロン・ロイヤル。占者である王族個人を寿ぐもの。
 8枚で占う、エプシロン・カントリー。エプシロン王国という国を寿ぐもの。
 3枚で占う、エプシロン・ワールド。王国を取り巻く世界全体を寿ぐもの。
 1枚で占う、エプシロン・フェイト。世界を包み込む、運命を寿ぐもの。

 フェム王女は引き続き、『グロリアス・オリュンピア』の結果をまとめた資料を横目に、カードを配置していく。

「エプシロン・ワールド。そが示すは我らが世界の存在。寿ぎたまえ。3の勇者の導く瞬きよ」


 ――維持を示すは、準決勝、希望崎学園の敗者。モブおじさん。背負う数字は21、銘は『世界』。位置は正。
   表すは、完結、成就、統合に幸福。世界の輪郭は平穏の下、明日も保たれることだろう。

 ――誕生を示すは、準決勝、体内の敗者。徒士谷 真歩。背負う数字は21、銘は『女帝』。位置は正。
   表すは、豊穣、収穫、芸術に生命。ヒトの生命と文化は、新たな歩を進めることだろう。

 ――消滅を示すは、決勝、洋館の敗者。■■■■■■。背負う数字は■、銘は『■■』。位置は■。



「エプシロン・フェイト。そが示すは我らが宿命。寿ぎたまえ。1の勇者の導く瞬きよ」

 ――宿命を示すは、決勝、洋館の勝者。■■■■■■。背負う数字は■、銘は『■■』。位置は■。



 恵撫子りうむを示す『白紙』と、ファイヤーラッコを示す『運命の輪』。
 二枚のカードを左右の手のひらに乗せて、フェム王女は立ち上がる。

「ピャーチ、行きましょうか」
「はい」
「……約束されたか運命か、何も書かれていない混沌か。今代で消えるのはどちらか。宿命となるのはどちらか。素敵な戦いになるといいわね」

 『グロリアス・オリュンピア』の決勝、そして、『エプシロン・スプレッド』の完成を見届けるために。


(おまけ)

「……ところで。ファイヤーラッコさんが運命の輪で、りうむちゃんが混沌の白紙って、ちょっとイメージが逆じゃないかしら? その……芸風的に」
「それは、『エプシロンの杯』に言ってくださいな、フェム様」


おしまい。
アルカナを決めたみなさま、おつかれさまでした。

95エプシロン・スプレッド:2018/04/22(日) 17:34:53
あ。二回戦と一回戦間違えてら。凡ミス太郎! 該当の皆さま申し訳ない!

96冥王星:2018/04/22(日) 22:57:10
「拾った日記」 tp:plicy.net/GamePlay/58795 ちょっと前にこのスレに投稿した、フェム王女とピャーチの百合SSをノベルゲー化してみました。よかったら遊んでください。

97みやこ:2018/04/26(木) 06:41:45
4月27日(金)21時より≪決勝戦感想キャス(非公式)≫を行います。


○開催場所
tps://twitcasting.tv/miyako_nbu/broadcastertool


○キャス内容
 ダンゲロスSS5決勝の感想をざっくばらんに言いあいます。
 ネタバレ感想になりますのでお気を付け下さい。

 また、非公式キャスですので感想の内容や量に偏りが発生する可能性があります。
 あらかじめご了承ください。


○ラジオパーソナリティ 
 ・ハリーさん……雪村桜の投稿者。
 ・DTさん……九暗影の投稿者。
 ・みやこ……叢雨雫の投稿者。


以上、負け犬3名でお届けします!
よろしくお願い致します! ファイナルギャンギャン!

9816BIT:2018/04/29(日) 19:40:30
決勝戦SSその1に、「戦闘描写補完、絶賛募集中!!」と書いてあったので補完してみました
SSを書くことの大変さと、執筆者の皆さまのすごさが学べてよかったです


「ヒョアアーーーどこからでも来やが......って......なんじゃこりゃあ〜〜〜〜!!!」

ドアを開けた先に広がっていたのは、エベレストは割れ、空は黒雲に覆われ稲妻が走り、すべての生命が死滅したかに見える、正に地獄そのものの光景が広がっていた!
「海は枯れ、大地は裂け、実は死滅してなかった人類が玩具めいた銃で殺戮しあう、正に地獄そのものの光景が広がっているぜ〜!!」
まったくもって予想外どころでは済まない状況を前にファイヤーラッコは凍り付く。やけになったヤケラッコ改め.....凍ラッコ!

「うおーどうなってんだ!だれか解説役カモン!カモーン!あっ、そこのガタイいいおにいさん!どこかで見覚えが....」
誰だろう?
「私は.....則本 英雄だ.....」
「そっ総理大臣!?うおおおこんな偉い人の前だと緊張するぜ....」
「否、もはや総理ではないのだよ.......先刻、突如世界各地で天変地異がおこり、更に多くの人々が豹変し、わが国も崩壊した.....」
「なんてことだ....これじゃ優勝してもyoutuberどころじゃないぜ!」

この期におよんで気にすることはそれかラッコ、則本は懺悔するかのように話を続ける。
「この危機的状況において私は何もできなかった.....!目の前で人々が消し飛ぶのを何度も見た!この腕の中でいくつもの命が息絶えた!一人たりとも国民の命を救えなかった...!!!」
「そんな......でも助けようとする事自体すごいとおもうし.....」

「まったくもって不甲斐なしッ!.....ぬう....う....う....うおおおおおおおおおおおああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアキエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その時!則本は突然咆哮し、黄金色のオーラを放った!ズタボロなスーツがはじけ飛び、彼の自慢の筋肉が露わとなる!
「うわあ!急にどうしたんだ!」
「ウオオそうだ思い出した....俺の名はロベルト!!!!世界チャンピオンのロベルトだああああああああ!!!!!!!」
「えええーーーーーっなにその急展開の急後付け!」
マッスルラッコがどうとかやってた奴もびっくりな後付けだ!そして見よ、則本.....否、ロベルトの左手には黄金に輝く玩具めいた銃が握られている!
「死にゆく人々!?世界の滅亡!?そんなものどうでもいい!いまこそがあの男へのリベンジ日和!行くぞおおおおおおおおおおお!!!!!首を洗いに洗って待っているがいい.....獅童アキラァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
ロベルトはリボルバー舞空術を駆使し、エレベストの方向へと飛び去っていった.......

「なんだよこれ.....まじ意味わかんねー。はははははは.......」
ファイヤーラッコは仰向けに倒れ、ただ呆れ果てた。いかなる要因か、人々は狂い、世界は荒れ果てた。魔人能力により編まれていた試合会場も、その余波で崩壊したのだろう。これが現実。
「......ーん............さーん........」
「うわーんなんだよーう....人がショック受けてるときはそっとしておいてよーう...」
「....ッコさーん......ファイヤ.......ーん....」
「....えっもしかして俺呼ばれてる感じ?まさか.....」
「....コさーん!ファイヤーラッコさーん!!!」
声の方向へ振り向くと、トランクを掲げて恵撫子りうむがラッコめがけて走ってくるではないか!

「りうむちゃん!良かった無事だったんだねっておわっドッグシャアーーーン!」轢かれた。そして殴られた。
「ラッコさんの.....クソヤローーーーー!!!なにがアルセーヌ・ルパンですか!!完っ全にド犯罪ですよ!!訴えてやる!!ドガッ!ドガッ!」
「うがががががすまない!本当申し訳ないし反省もしてるし償うつもりでいる!あっ罰金はムリ!っていうか普通に取り返しているじゃん」
そういわれるとりうむは急に恥ずかしく思えたのか、ラッコを殴りつけていたトランクを後ろに隠した。
「う....コホン!これは試合会場が突然消えて、世界が滅茶苦茶になり始めた時に取り返しにいったのです。予定どおり試合が始まっていたら超絶不利だったんですからね!」
「そうなんかー。俺が気付いた時には完全に荒廃してたんだけどなあ....」
「.....私に会うまで一体何してたんですか?」
「いや.......ちょっと最初の部屋でうじうじしてて....まあもう自己解決したけど......あっ最初の部屋もドアもない!がちゃーんしたのは思い込みだったのか!?」
「よく生きていられましたねそれで!!!」

9916BIT:2018/04/29(日) 19:42:43
黒雲におおわれた空に絶え間なく稲妻が走る。
地を見れば闇の玩具バトルに敗れた人々の死骸からウジ虫が湧きでている。
そして二人の眼前にそびえる巨峰エレベストは禍々しい形に両断されていた....
「こうなってしまった元凶がたぶんどこかにいるはずです。そいつのの見当さえつけばいいのですが......」
「うーん...そういや、さっき則本総理と出会ったんだけど、急に俺はロベルトだー獅童アキラがどうだーとか言って飛んで行っちゃったんだよねー。もしかしてその獅童アキラってなんか関係とか.....」
「なっ...それです!きっとアキラさんに関係が!!」
りうむがラッコにガバッと勢いよく乗り出した。
「おわっどどどどどどういうこと!?」ラッコはこういうシチュに弱い!

「獅童アキラさんの魔人能力『総集編! アキラ! 強敵との記憶!』は、相手の過去をある人物に....例えばアキラさんの知り合いさんの物に捏造して、その設定通りにしてしまうというものです。則本総理さんの身に起こった現象はまさにそれなのでしょう。......自分の過去が書き換わってしまうなんて、とても恐ろしいですね」
「あー、うー....恐ろしいよねうん」
甦る準決勝でのおじさんの勇姿!
アキラさんは世界をこんな風にしてしまうような邪悪な方ではないと信じていますが、なにか関係あるのは間違いなさそうです....則本さんはどちらへ?」
「エレベスト!」
「え、あの真っ二つな山ってエレベストでいいのですか?」
「む...言われてみればなんでエレベストって決めつけたんだろう」
いったいなぜなのかな?みんなで考えてみよう!
「..まあそれよりアキラさんに会うのが先です。いざ世界を救う戦いへ!」
「おー!」
二人はエレベストに向かって意気揚々と歩きだした。
ーーりうむの持つトランクの中で、何かがゴロゴロと蠢いたのも知らずに.....
(わたし、何か重大なことを忘れているような.....まあいいでしょう。れっつごー!)

三時間後、二人はエレベストの山麓へと辿りついた、地表は氷河めいて流れだす肉の大河に覆われており、そこから血が空高く噴き出し、リンパの沢がこんこんと湧き出ていた。これこそが黙示録に記された終末の一端か。そして肉の河の中央には、半裸で威厳ある中年男と、宙に浮かぶ少年が.....
「うおおおおおおおおおおおおおおんんんんんん!!!!!見損なったぞアキラァ!!!!!!この俺と正々堂々リボルバーで勝負しないどころか!こんなくだらん光の殻にひきこもりガタガタおびえるなど!!!!!!!!」
「お...俺だって入りたくて入ったんじゃないんだッ!俺もバトルがしたいッ!!というか....テメェロベルトじゃねーだろ!アイツの名を名乗るなーーーッ!!!」
獅童アキラは肉の地表よりおおよそ160cm離れた地点に浮遊しており、彼の首から下は紫に妖しく発光していた。それに触れたとたんあらゆる生命は死滅するのだ。ロベルトも、その事を本能的に理解していた。
「たわけたことを!!!!!もはや今の貴様は男としては五流!!十流!!!百億流!!!!!!!出てこい!!!!!その腐った根性を切って叩いてなめろうにしてやるうううう!!!!!!!」

「あ.....暑苦しいわこいつら!」
「暑苦しすぎて熱中症になってしまいそうです......!」
二人は近くの物陰から様子を覗っていたが、あまりの熱気にあてられどんより気分。
「しかし、恐らくあの光の中の方が獅童アキラさんで、そして先ほどの「てめーロベルトじゃないだろー」発言から推測しますと、なんらかの原因でアキラさんの能力が暴走し、世界の人々が修羅みたいな風に改変されてしまったと思えますが.....」
「うーむ...あのバリアも触れたら死ぬ奴だよねー多分」
「あのお二人の間に入ったらひとたまりもないでしょうあわよくば爆発オチ太郎で.....あっでも太郎さん出てこないんですよね、じゃあラッコさんは待機で」
「えーそんな人が不条理頼みで勝ち残ってきた雑魚みたいにー!ぶーぶー!」
ラッコはすねて、アザラシみたい寝っころがった。いい加減事実を受け入れたらどうだ。

10016BIT:2018/04/29(日) 19:43:43
「さて、則本さんの熱気を掻い潜りつつ、アキラさんの暴走を止めることができそうな能力はですね....うーん」
りうむがトランクを漁りながら思案する横で、ラッコは脳内で悪態をついていた。ちくしょー馬鹿にしやがってーけどりうむちゃんのが強いし任せちゃっていいよね、いやいやここで俺がズバッと大活躍して世界が救われた暁には、真の勇者としての不労所得パラダイスが待っているから引けないよなー、しかしだ、この荒れ果てた世界って都合よく元通りってなるのかね、最悪獅童アキラってのが死んでも戻りませーんなオチになりそうでこわい、つーか本当あのバーリアどうすりゃいいんだか、でも案外俺の炎でジュワ―って融かせたりして、でも絶対ガス代やばいよなこれー、どうにか炎を使わずにすむバリアでありますように....ってかもうインフラもクソもないからガス代気にしなくていいじゃん!やった!ラッコ大勝利!いまこそラッコのターンじゃん!ここで突っ込まずに.....なにがYoutuberか!!

「とやぁーー獅童アキラ覚悟―っ!」
なんと、特に策はないがラッコがとびだしやがった!おバカ!!
「えっ...?」
「こーれが俺のヤケを起こす力だぜー!勝ーてるとおもうなよー!」
「なにしてやがるんですかーー!このバカラッコ―ーーー!」
愚かの極みラッコは極大の炎をまとい、アキラの方へと突っ走る。
「そんなこと言っててもしょうがないぜー!待ってろ俺の、不労所得ライブボワァ!!!」
その時だ!早とちりなラッコの目の前に一体のツインテール少女型メカが仁王立ちをして降り立った!
「ヴヴヴヴーッ!ヴヴヴヴーッ!シドウアキラヲガイスルフトドキモノヲニメイハッケン。タダチニハイジョシマス。」

「あっあなたは......二回戦まで進出された雪村桜(初号機)さん!あなたも侵食されて...」
「イイエチガイマス。ワタシハシドウアキラノオサナナジミノショウジョ、ウエナギハルカノイデンシヲモトニツクラレタ、メカハルカイチゴウデス、サアシニナサイ!」
見よ、この『総集編! アキラ! 強敵との記憶!』は、あの無垢でかわいらしい桜ちゃんでさえも典型的片言ポンコツロボへと堕させてしまう恐ろしい能力なのだ!おのれ獅童アキラ!そしてメカハルカ一号は目を赤く光らせ、血も涙もない殲滅モードへと移行する.....
「ビビーーーッ!」メカハルカ一号の目からセ氏十万度のレーザービームが放たれた!
「うおっあっぶ!」
「ビビーーーッ!」レーザービーム!
「うおおおお女に戦わせるなど!そこまで堕ちたか獅童アキラァ!!!!!」
「うるせェーー!このメカいつも勝手に戦っては迷惑ばかりなんだよーッ!しかも別人だし!」
「ビビーーーッ!」ビーム!

「このままでは二人とも死ぬのは時間の問題....私も加勢するしか!ってひゃああ!」
さらにその時、りうむの目の前にも新手のメカ(?)がこんにちはだ!
「私は機械的なHaruka二番です!もっと安くて、更に安定する性能ののを求めるのは一番の機械私です!」
身長二メートルもの屈強な金髪男がオカマ声で話してくる!
「あなたは『封印されし牢獄(シールド・プリズン)』の葉山纏さん!あなたもメカハルカに!てゆーかもう性別とか関係ないんですね!!」
そもそも葉山纏はメカですらない人間である。無機物を取り込む能力だからといってこの仕打ちはどうなんだ。
「もしもライオンの子供Akira先生その上に対して今すぐ投降することを推薦するのに危害を及ぼすと考えます!たいへんbaが死にがありません!」
「うう...これでは加勢もできそうにありません....いったいどうすれば....」

その瞬間、恵撫子りうむの所持していたトランクの内部が突如発光し、それを中心に暴風が吹きあれた。
「きゃあああっ!わたしのトランクが.....?」
「もう勘弁してくれーっ!」
二人は必死で暴風に抗う。
「おおおおこれ以上の邪魔は許せーーーん!!!!」ロベルト、吹き飛んだ!
「ビガガガガーッ!」メカハルカ一号、機能停止!
「下りてきてくる電源!」二号も泡を吹いて停止!

....やがて嵐はやみ、宙には一つの紅色の宝石が輝いていた。静寂を破ったのは、りうむだ。
「ま...まさかあれは.....『総集編! アキラ! 強敵との記憶!』の宝石!?そんな.....石になっていたはず.....!」
なんという真実!あれこそが獅童アキラの能力の結晶であり....この大惨事の元凶!あの時石ころとなっていたのは断じて力が尽きたのではなく、逆に暴走のためのエネルギーを充電していたのだ!
「そ、そんなのってアリかよーっ!じゃあ獅童アキラはどうなん....これは!?」


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