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ここだけファンタジー世界世界長期スレpart1

995リヒト@剣士:2014/07/06(日) 03:11:38 ID:hLbw/0ZY
>>992-994

「――― !?」

リヒトは、鳩尾を蹴りこまれて激しくむせた。吐き気もするが、それは普通に堪えられる。
鎧を着ていたし、狼の踏み込みの初動を感知した瞬間に腹筋に力を込めて衝撃を緩和したため、
その程度のダメージで済んだのだ。
無防備に受けていたら、アバラの一本ぐらい持って行かれただろう。

ともあれ、それで狼が離れた。どうやら命は奪われないらしい。
許されたのかどうかはわからない。だが、彼女の吠え声を聞く限りは、

「ぐっ……。
 いい、のか……? 俺を、殺さなくても……」

痛みにうめき、上体を起こす。
そこに、少女がやってきた。
彼女が、言葉をかけてくれながら鎧の蹴られた部分に触れる。
そして彼女はその爪を鎧に立て、

『この痛みも覚えていて。姉さんのことも、ずっと覚えていて。
 忘れたら許さない。噛み殺すから』

「――― っ」

その表情の変化にリヒトは息を詰め、しかし真顔で頷いて、

「あったりめーだ。忘れるもんか」

言って、首筋の傷を親指で拭いつつ立ち上がる。
指についた血は、すぐに雨で洗い流された。
首筋からはまだ血が滲んでいるようだが、すぐに塞がるだろう。
そこへ、少年の声がかかった。それは、

『……また来るね、来ても良いでしょ? シェルム、ここにいるんだもの』

「勿論だ。墓参する奴は多い方が、アイツにとってもいいだろうしな」

と言うか、

「俺に、いいも駄目も言う資格なんざねーよ。
 むしろそりゃあ、俺が言われたっておかしくねーんだ。
 だから、」

一息。
それで身体の力を抜く。正直まだ鳩尾は痛むが、だいぶ良くなった。
彼は口角を上げしかし眉は下げ気味の笑みで、

「――― サンキュ」

それは、今、墓参りを拒否されなかったことに対してだけではない。
シェルムを預けてくれた時から今までの日々。それら全てに対してだ。

銀狼と、少年の姿が遠ざかっていく。去ろうとしているのだ。
教会の建物に沿って曲がれば、その姿はすぐに見えなくなる。

「……ほら、二人共行っちまうぜ」

だというのに、傍らでは未だにこちらを睨みあげている存在があった。
茶色の少女だ。

「シェルムの事は忘れねぇよ。絶対だ。約束する」

リヒトは顔を彼女に向けた。
少女の頭に手を載せようと一瞬右腕を動かし、しかし思いとどまる。
彼は開いた右手を握り、

「もし、俺がアイツのことを忘れてるとお前らが判断したら、いつでも殺しに来い。
そんときゃ、大人しく殺される。文句は言わねぇ。

だから、今は行けよ」

言って、リヒトは二人の去っていった方を顎で示す。

「俺は……、もうちっと雨に打たれて行くさ」

曇天の空を見上げる。
自分の背面は泥だらけで、正直少し、否、かなり冷えてきた。
だけど、今はそんな気分だった。


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