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ダンゲロスSS4 幕間スレ
1
:
メインGK(珪素)
:2014/10/06(月) 01:28:42
ダンゲロスSS4の物語に関連する、試合前、あるいは試合の合間などのSSを投稿するスレッドです。
参加者以外の応援SS、応援イラストなども常に受け付けています。
177
:
撫津美弥子
:2014/12/11(木) 13:05:30
―――――
「みーやーちゃん!授業終わったし遊ぼうぜー!」
「わあっ!ちょ、ちょっと待ってよ!」
「お、れいれいだ!遊ぼうぜれいれいー!」
「……れいかはお稽古があるから、あんたたちなんかとは遊ばないの」
それはまだ、美弥子がまだほんの少しだけ今よりやんちゃで、タロマルが転校してきていなかった五年生の頃の話。ああ、眞雪は大して変わってないの。
「毎日それだな!」
「当然なの……あなたたちとは違うの」
その頃のれいかは、美弥子の事も眞雪の事も見下してたの。
だって、彼女達は、魔人だったから。
魔人と付き合ってはいけないって言われてたから。
「なー、いつだったら稽古ないん?」
「明日も明後日もあるの」
「休みの日は流石にないんでしょ?」
「あるの」
「ええー!?本当に!?」
いつまでも二人はしつこく話を聞いてきて、本当に迷惑だと思ったのを覚えているの。
「その次の次の次の日もお稽古だからあなた達とは遊べないの、じゃあね二人とも」
「……なんでついてくるの」
「一緒に帰るくらいはいいじゃーん」
「眞雪は言い出したら聞かないんだから」
「みやちゃんだってついてきたかった癖にー!」
正直とても鬱陶しかったし、勘弁してほしいと思ったの。
こんなところをもしママに見つかったら、きっとまた……って思ってたの。
「んじゃあまたな!」
「麗華、また明日」
「……」
もう来なくていいの。そう思ってたのに、毎日毎日しつこくやってきて。
「麗華ピアノ弾けるの?すごいなー」
「れいれいすごい!」
「……れいれい?」
「あだ名つけた!ないと不便だろ!」
「いや……」
「不便なことはないでしょ別に!」
勝手にツッコミされるし。本当にもうなんなの。
毎日毎日好き勝手言ってばっかりだったの。
「れいれい、今日は何行くの?」
「今日は、バレエ……」
「バレエ!すごい!」
「すごくないの……バレエはあんまり得意じゃなくて……」
「面白くないの?」
「……そうじゃないけど、得意じゃないの」
「ふーん」
いつのまにか、れいかは二人にいろいろ話すようになってたの。
この時の事を話すと美弥子はいつもごめんねっていうけど、本当はとても安心出来ていたの。
「今日は華道なの」
「それ面白い?」
「れいか的にはあんまり」
「花見ててもどうしようもないしな!」
「ええー、お花いいじゃん」
「れいかも見てるだけならいいけど」
「なら見てごらん、あそこにいるのが人食い花だよ」
「いないよそんなの!!」
「その血で赤く中身が詰まった果実がスイカとなるんだよ」
「そんなグロいものじゃないから!!」
「ふふふ」
この頃になるとれいかは、自分から声をかけて一緒に帰るようになってたの。
もう、最初の頃の考えなんかすっかり消えていて、れいかはすっかり二人と話すのが楽しくなっていたの。
でも、ある時。
178
:
撫津美弥子
:2014/12/11(木) 13:06:04
―――
「麗華、少しこっちに来なさい」
「え……は、はい」
「昨日あなたはそろばん塾に遅刻したそうですね」
「あ……そ、その、それは」
「まさか一分だけだから、等という言い訳をするつもりではないでしょうね」
こう言われると、れいかは頭がちかちかして、涙が出そうになってしまうの。
でも泣いてしまうともっと怒られてしまうから、れいかはただ正座して聞いているしかないの。
遅刻した理由は……
「あの魔人の子達でしょう」
「……!」
そう、れいかは……塾に向かう途中に美弥子達に会って、思わず少しだけのつもりで遊んじゃったの。
だからほんの少しだけ遅れてしまって……
「あの子達に何を唆されたの」
「そ、それは……!」
「麗華」
「……」
「あなたはしっかりとした教養を身につけてもらわないと困るの」
「……」
れいかの顔は多分真っ青だったと思うの、少し気持ち悪くなって、でも必死に泣くのはこらえていたの。
「その喋り方の癖も直さないといけないの、わかっているの?」
「は、はい……」
「もっとしっかり」
「はい……」
「……これからあの子達と話すのは禁止。すぐ家に帰って、塾に真っ直ぐ向かいなさい」
「それは……!」
「麗華」
「……!」
「いいわね」
「……はい」
言い返したかったのに、れいかは何も言い返せなかったの。
ママに逆らう事なんてやっぱり出来ないの。
もう、美弥子と眞雪とは話せないんだって、ただそれだけ考えていたの。
―――
「れいれーい!一緒に帰ろうぜー!」
「麗華、行こう」
「……」
れいかは二人を、無視しなきゃいけないの。
二人を、通りすぎて、家に帰らなきゃ。
「れいれーい?」
「麗華?」
行かなきゃ、二人の顔を見ないように。
「れいかは、あなたたちとは違うの、あんたたちなんかとは遊ばないの」
そう言って麗華は素早く立ち去るしかないの。
ごめんね、ごめんね。そう思っていたの。
179
:
撫津美弥子
:2014/12/11(木) 13:06:48
―――
「ただいま……」
「おかえりなさい麗華、今日はバイオリンの塾ね」
「……はい」
バイオリン……行きたくないな。
そう考えてしまって、美弥子と眞雪の顔が浮かんで、どうしようもなくなって。
なんだか二人の声が聞こえてきた気がしたの。
「れいれーい!」
「麗華ー!」
「……!」
れいかは二階の窓を開けて外を見たの。
そしたら、そこには確かに二人がいて、れいかに手を振っていたの。
れいかは思わず行きたくなって、駆け出して。
「駄目よ麗華」
「……!……ママ」
「あの子達と遊んではいけません」
「……」
「麗華、もし魔人と付き合って貴女に何かあったら……」
「でも」
「わかってほしいの。麗華」
でも、でも、麗華は。
「……れいれい、こないな、どうする!撃つか!」
「馬鹿!そんなことしたらそれこそ一生遊んでくれなくなるっての!!」
「でもみやちゃんは遊んでくれるじゃん」
「へ、返答に困ること言わないで!」
れいかは……
「れいれい!ちょっとだけでもいいから遊ぼうぜー!」
「麗華!もし迷惑だったら言ってくれていいけど……でも、私も麗華と遊びたいよ!」
れいかは……!
「……れいかは……行きたい……!」
「麗華……!」
「ごめんなさい、ママ、でも……
……美弥子、眞雪……!れいかは……れいかは、二人と、一緒に、遊びたいの!!」
その時、れいかの体がふわりと浮かんだ気がしたの。
……ううん、実際にれいかの体は浮かんで……気が付いたら、さっきまで家の中にいたのに、美弥子と眞雪の目の前にいて。
れいかは、ふわりと、二人に抱きかかえられるように、落ちて。れいかを含めて三人分の短い悲鳴が聞こえたの。
「……れ、麗華?」
「……あれ……?ここ……」
「……みやちゃん、なんかした?」
「するわけないじゃん、ってか出来るわけないじゃん……」
「……これ、って……」
その瞬間、れいかは、魔人になったの。
180
:
撫津美弥子
:2014/12/11(木) 13:07:21
―――
「……麗華、あなた」
「……あ、あの……その……」
れいかは、ママに会うのがとても怖かったの。
だって、あんなに魔人と遊んじゃいけないって言われてきたのに、れいか自身が魔人になっちゃうなんて、しかも、ママの目の前で。
もうママには嫌われてしまうんだって思って、家の中に入る事が出来なくて。
でも、そうしていたらママの方から家を飛び出してきて。
「……麗華……」
「……ご、ごめんなさい……!!」
れいかは、能力を使ってどこかへ消えてしまいたいと思って。
何も考えずに能力を使って……でも。
「人が急に移動するなんてあるわけないじゃない!」
そんな言葉が聞こえてきて、れいかは、消えてしまうことができなくて。
「大丈夫だよ麗華」
「……え……?」
「だって、麗華のお母さん……うちのお母さんと同じ目してるもん」
何を言ってるんだろうって、その時思ったの。
「麗華」
「は、はい」
「……そんなにその子達と遊びたいの?」
「……はい」
「……」
ママはとても怖い顔をして、もう、れいかは我慢できずに泣いていたかもしれないの。
美弥子はそれを見て頭を撫でてくれて、眞雪もそれを見て背中をさすってくれたの、ちょっと乱暴だったけど。
「……あなた、ピアノを続ける気持ちはあるの?」
「うっ……」
「ピアノはまだやりたいのと聞いているの」
「あ、あの、その、やり、たいです……」
「正直に答えなさい」
れいかはもう生きた心地がしなくて、でも。
二人がそばにいてくれたから、多分素直に話す事が出来たと思うの。
「ぴ、ピアノは、やりたい、の」
「バイオリンは」
「あ、あの……あんまり……」
「……そう、じゃあバイオリンはもうしなくてよろしい」
「……あの」
「そろばんは」
「ご、ごめんなさい、やりたく、ないの」
「バレエは、あまり成績はよくないけど」
「ば、バレエは、続けたい、の……」
「そう」
れいかは、質問の意味がわからなくて、でも、ママはしゃがみこんで、れいかの顔を見てきて。
泣いてたらまた怒られると思って、涙を無理にぬぐおうとして、だけどママはそんな私の涙を優しく拭いてくれたの。
「……その子達と遊びたいなら、それくらいの時間は用意してあげる」
「……ママ?」
「あなたが魔人になってしまうくらい思い詰めていたなんて思っていなかったの。本当にその子達に騙されてるんだって思ってたのよ。
……ごめんなさい、麗華」
その後の事は、もう、泣き続けいてた事だけしか覚えていないの。
でも、それは悲しかったからでも、怖かったからでもなくて。
「よかったね、麗華」
「……美弥子……ママ……ありがと、なの……っ!!」
「……あれ!?私は!?」
そしてれいかは、美弥子と眞雪と、一緒にたくさん遊べるようになって。
タロマルが転校してきて。一緒にいろんなところへ行って。美弥子の事も……ついでに眞雪とタロマルの事も、どんどん好きになっていって。
……そして、今。
181
:
撫津美弥子
:2014/12/11(木) 13:07:55
―――――
「……あの、美弥子のママ」
「どうしたの?」
「……その、もし、言える時があるとしたら、その……」
「うん」
「……ごめんなさい、なんでもないの」
美弥子のママは、ふふっと笑いながらそう言ってまた頭を撫でてくれたの。
ごめんなさい。でも今は、やっぱりまだ言えないの。
―――――
「美弥子、さっきの話だけど」
「う、うん」
れいかは美弥子の部屋に戻ってくると、美弥子のベッドに座って少しだけまとまった気がする自分の考えを言う事にしたの。
こういう事が言えるようになったのは、きっと美弥子達のおかげね。
「美弥子はれいかの事をたくさん助けてくれたの」
「麗華……」
「だかられいかは、美弥子を助けるって決めてるの。でも、上手く行かないことのほうが、とっても多くて、れいかは、あんまり美弥子の役に立てないの……」
「……!……そんなこと、ないよ!」
美弥子ははっきりと言ってくれる。そうなの、それが美弥子なの。
「……美弥子、れいかも、多分タロマルも同じなの。上手く行くとかじゃなくて……助けようとしてくれるのが、それが、それだけで、嬉しいの、ね?」
「……!」
「おお!それでした!みやタン!な!だから平気でしたな!」
「……麗華……シェルロッタ……」
「ね、美弥子?だから、安心してほしいの、ね?」
「……うん」
今度はれいかが美弥子の頭を撫でてあげるの。
……もし、美弥子に何かあったら。美弥子が帰って来れなかったら。
その時に美弥子のママに説明するのは、きっとれいかの役目なの。
でも、れいかは……れいかは、そんな事、嫌。したくないの。
だから、れいかに出来ることは……少しでも、美弥子を安心させてあげること。
美弥子が無事に帰って来てくれるように……れいかも、美弥子の力になるの。
182
:
山口祥勝
:2014/12/11(木) 15:26:16
【新世界の神、始めました】
「おい、こら、時ヶ峰。目を逸らしてるんじゃねえ」
山口祥勝は激しく唾を飛ばしながら、時ヶ峰健一に詰め寄った。泥だらけのランニングシャツに作業用ズボンというラフな身なりで、肩に担いだ鍬を今にも時ヶ峰に振り下ろさんとばかりに睨みつけている。
「何をそこまで怒っているのか、さっぱり分からんな」
対する時ヶ峰は相も変わらず2m50cmの偉丈夫に神々しい後光を纏わせながら、しかしどこかバツの悪そうな表情を浮かべている。希望崎最強にして創世神・時ヶ峰健一。どこまでも我を通す強さを持つがゆえに、嘘や誤魔化しの下手な男であった。
「バレバレだ。マントの下に隠してるもんを、見せてもらおうか」
「断る。そんな義理はない」
「今日からお前のメシは三食全てもやしにするぞ」
渋々といった顔で、時ヶ峰はマントを払う。兄妹と思しき幼い少年と少女が、身を寄せ合って震えていた。
「まぁ〜〜〜〜〜〜〜た人に相談もなく連れてきやがって。アレか? ゴリラ優しさか? 見た目だけでなく心根まで優しいゴリラ・ゴリラ・ゴリラになってしまったのか? クソッタレ」
「ちゃんと俺が面倒を見る」
「そのセリフを聞くのももう三度目だ。お前は捨て犬を拾ってきて毎日散歩するって約束したくせに翌週にはもうゲームに夢中になる子供か? 俺はお前の代わりに犬の世話をするお母さんか? あーん?」
「捨て置けば良かったと? まだ食糧の貯えには余裕があるだろう」
「せめて相談してから連れてこいって話だよ! あとお前もたまには修行とかなんとかいって出かけずに畑仕事なりなんなりしろ。世界創世したからには責任を取れ、主犯!」
それから小一時間ほどの説教が続いた後、結局山口も幼い兄妹の面倒を見ることを了承した。時ヶ峰は何かぶつぶつと呟きながら、また早々にどこかへ出かけてしまった。
(……自由人か! 全く面倒見てねえじゃねえか。言ったそばからなんて野郎だ)
183
:
山口祥勝
:2014/12/11(木) 15:27:32
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ほら、お前ら。勢いだけで農具を振り回そうとするな。まずはしっかり足をついてだな」
「ヨシカツのおっちゃんがいじめる」「トキガミネサマのほうがやさしくて好きー」「そーだそーだ」
「クソガキども、畑の養分にしてやろうか」
元『世界の最終処分場』こと新世界は、人が住むにはなかなか過酷な環境である。建造物の一部やら、機械部品、瓦礫の山――中途半端に切り取られた文明の欠片はほとんどその意味を成さない。しかも、気候や地形の形質を無視してそこかしこに氷河や砂漠、サバンナや湿地や火山地帯などが点在している。環境が落ち着くまでにはしばらく掛かるだろう、というのが時ヶ峰の言だった。
加えて自然界には、時に魔人をも食い殺す危険な猛獣が存在しうる。山口は勿論、時ヶ峰にとってすら例外ではない。このサラダボウルのように乱雑で無秩序な世界は、基準世界以上にそういった危険を孕んでいた。
当然のことではあるが、子供たちの仕事ぶりは拙い。開墾にせよ狩りにせよ建築にせよ。教えながらの作業になる分、山口一人でやった方がまだ効率が良いほどに。
それでも、親鳥から口移しで餌を受け取る小雀のように育てるつもりはなかった。そう簡単にくたばる気はないが、何せ花恋が優勝するなり他の手段が見つかるなりすれば、山口は元の世界に帰るつもりなのだ。
『基準世界に連れてくればいいじゃない』
「それが出来るとは限らねーだろ。誰か一人しか帰れないとかなら俺は自分を選ぶぞ。それに、どっちにしろ甘やかすとお前みたいに育つからダメだ」
『あなたって本当に最低のクズね。いっそそっちに永住したらいいのに』
「俺は慈善家じゃねえ。ただの配信者だ」
『そう』
『A子メシ食いながらスマホいじんな』『行儀わるいやつらめ』『オマエモナー』『無限ループってこわくね?』
「お前ら、人がひもじい思いをしてる間にオフ会してんのか? いい度胸だな」
『タンうめぇwwwwwww』『祥勝の不幸でメシが美味い』『#雑草で糊口を凌ぐ祥勝に励ましの肉画像を送ろう』
“掃き溜め”のクズどもは、山口が死なない程度に酷い目に合う展開が三度のメシよりも好きな連中である。
『私達が我慢したって、恵まれない子供たちにおいしいごはんが届くわけじゃないし』
そういう事を言っているんじゃない。言い返そうとした時、足元が大きく揺れて思考を遮られた。
地震――にしては、揺れが小刻みで規則的だ。それに、少しずつ大きくなって……震源が、近づいてきている?
子供の一人が、あっ! と声を上げて指差した。時ヶ峰だった。全長80mはある巨大な何かを、素手で引き摺っている。
「すごーい!」「トキガミネサマ、かっけー!」「この世界、あんなのもいるんだ!」
「貴様の言う通り仕事をしてきた。これで文句はないだろう」
「Grrrrrrr……」
巨獣は、まだぴくぴくと震えていた。時ヶ峰が今一度腹を殴ると、完全にその動きも止まった。
「今日は熊鍋だ」
(もう嫌だこの世界。早く帰りてえ。潜衣、お前だけが頼りだぞ……)
184
:
山口祥勝
:2014/12/11(木) 15:30:56
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
基準世界、某所。
「なんか悪いな。成り行きで協力してもらってるのに、こんな歓迎会まで開いてもらっちゃって」
「堅い事言いなさんな」「そーそー」「酒飲める口実みたいなもんだし」
その日は”掃き溜め”のメンバーのうち、希望崎圏内に在住し都合のついた10名ほどによる新歓オフ会であった。
「本当に私はお金出さなくていいのか? ここ、結構いい店じゃないのか」
「良いのよ。っていうか、今日は誰もお金出さないし」
「えっ?」
花恋の疑問に、庄司愛子はメニュー票を捲りながらこともなげに応える。
「祥勝の武器の補充とか、興信所に払う調査費とかが浮いてるから、今日の支払いはそこから出すの。すいません店員さん、一番高いお肉ってどれですか?」「祥勝のカネで食う肉がうまい!」「生ビールの奴挙手!」「ヘイ!」「はーい!」
(あいつも結構大変なんだなぁ……)
同情半分、呆れ半分に思いながら、花恋は塩ホルモン焼きに箸を伸ばした。
185
:
本葉柔
:2014/12/12(金) 23:12:52
『本葉柔 vs 時ヶ峰堅一(その4)』
川沿いに植えられた桜の花もあらかた散って、葉桜の季節になろうとしている。
連休を間近に控え、誰もが浮き足立っている四月下旬。
私は交差点の角の塀の陰にこっそりと隠れて、あいつが来るのを待ち受ける。
(遅刻遅刻ー、ってね)
左手には、こんがりキツネ色に焼けた美味しいバタートースト。
誰が見ても一切怪しくない遅刻しそうになって慌ててる美少女だ。
尾行を重ねることによって、時ヶ峰堅一の通学ルートは完全に把握した。
偶然を装って角から飛び出して、激突する。完璧な計画。
塀の向こうから、時ヶ峰の足音が聞こえてきた。
足音だけでも、はっきりと彼だとわかる。
歩幅が広く、力強い足音を聴いてるだけで、背の高い彼が真っ直ぐに背筋を伸ばして姿勢よく歩く姿が目に浮かぶ。
バタートーストを口にくわえて突撃準備。
自分のおっぱいに手を当てる。
緊張で早鐘のように鼓動が鳴り響いている。
おっぱいに当てた手に、ぐっと力を込める。
弾力のあるおっぱいに、手がふんわりと包み込まれる。
更に手に力を込める。
おっぱいがふにゃりと押し潰されて変形する。
更に更に力を込める。
時ヶ峰が近付いてくる。
曲がり角まであと3歩、2歩、1歩……今だっ! 突撃っ!
「ボンバーッ!!」
私は叫んだ! バタートーストが宙に舞う!
角から飛び出し、時ヶ峰に突っ込む!
射程距離内! 右腕をおっぱいから解き放つ!
おっぱい弾力により急加速した拳が時ヶ峰を襲う!
バヅン! 拳が音の壁を突き破る破裂音!
おっぱい柔術奥義・スーパーソニック当身!!
超音速アンブッシュで死ね! 時ヶ峰! 死ねェーッ!
私の正体を見た奴は生かしておくものかァーッ!
マッハ5の拳が時ヶ峰の筋肉の鎧を貫き、右肩を貫通する!
赤い血を撒き散らしながら千切れ飛ぶ、丸太のように太い右腕!
クリティカルヒットォオーッ!
希望崎に入学して以来、最大のダメージを与えてやったぜェェェーッ!
衝撃波がゴウと広がり、桜の小枝をへし折り残り少なくなった花弁を全て吹き飛ばす。
民家の窓ガラスがビリビリと震えて砕け散る。
186
:
本葉柔
:2014/12/12(金) 23:15:42
もちろん私も無傷では済まない。
右拳はグシャグシャに複雑骨折し、撓骨尺骨は解放骨折して前腕から突き出し、右肩は完全に外れた。痛い。
だが、時ヶ峰のダメージのが大きい!
好機を逸さず追い打ち!
左のおっぱいから左腕を解き放ち、トドメの左スーパーソニック当……ゴボォーッ!?
時ヶ峰の左ショートフックが、私の脇腹に叩き込まれる方が先だった。
私は桜並木を飛び越え、鮮血混じりのゲロを吐きながら川の向こう岸を目指してキリモミ飛行。
おのれ時ヶ峰、手加減しやがってー!
右腕一本を失ってなお、内蔵破裂で済む程度の優しいパンチであしらってくる余裕が憎たらしい!
桜の花弁が散らばった川の土手に突き刺さるように華麗な着地を決める私!
これで一勝三敗! 入学してからは三連敗! おのれおのれー!
一敗目は人気のない学園の森の奥に呼び出して、“真の姿”に変身して戦ったが勝てなかった。
二敗目は東京湾の海上で船ごと沈めて水中戦に持ち込んだが、それでも駄目だった。
基本的に時ヶ峰が油断してなければ“真の姿”でも全く勝ち目は無いと言って間違いなかった。
こいつ人間じゃねえ。
だから今回は不意打ちで一気に殺すつもりだったが、それでも届かなかった。
強い……。
187
:
本葉柔
:2014/12/12(金) 23:16:10
「おーい、本葉ぁー、大丈夫かぁー?」
土手に刺さりっぱなしの私の所に時ヶ峰がやってきて、よいしょと引き抜いた。
大丈夫なわけないだろ。
私の耐久力を完全に把握した上で、きっちり行動不能になるだけのダメージを入れといて白々しい。
ほんとコイツむかつく!!
もう右腕が再生してやがるし!
腕と一緒に学生服の右袖も千切れ飛んだので、右腕は素肌が剥き出しだ。
ほんと、筋肉たっぷりで逞しい右腕。惚れ惚れするほど憎たらしい。
「こいつを持っとくといい。超再生能力があるエクスカリバーの鞘だ」
きらびやかな装飾の施された剣の鞘が、私のお腹の上に置かれた。
説明されなくても知ってる。
私自身には王の器はないのでエクスカリバーを使うことはできないが、時ヶ峰の側に居ればこうやって鞘による回復の恩恵を受けることができる。
剣の持ち主本人ほど超再生はしないけど、腕とお腹の痛みはずいぶん楽になったし、傷口も徐々に塞がってゆくのがわかる。
「そして、こいつがフラガラッハ。必中属性を備えた剣で、慣れれば手に持った感触で隠れてる敵の位置が判ったりもする」
「なっ! それじゃ私の不意打ちは完全にバレてたの!?」
「まあな。だが、思ってた以上に速かったんで、喰らっちまったよ。いいパンチだった」
「おのれー、そうだったとは。油断の無い奴めー!」
「本葉以外にも俺を狙ってる奴は多いからな。少しでも油断してたら、あの世行きさ」
そして、時ヶ峰は私のことをひょいと抱え上げると、いわゆるお姫様抱っこで運び出した。
こうやって時ヶ峰に医務室へ運ばれるのもたぶん三度目だ。
以前の二回は完全に気絶していたわけだけど、うっわー、こいつは恥ずかしいな!
私のおっぱいにはM44エナジーが沢山詰まってるので、見た目はおっぱい以外は細い体つきにもかかわらず、体重は2トン以上ある。
それをここまで軽々と運ぶとは、時ヶ峰やっぱりバケモノだ。
しかし、こうやってコイツの逞しい腕に抱えられて運ばれるのもなかなか……いや待て、私は今、何を考えた!?
なんということだ。私はついに気付いてしまったのだ。
どうしよう、顔が熱い。
一度気付いてしまうともう駄目だった。
坂道を転げ落ちるように、私の心はあっと言う間に決まってしまった。
熱い熱い。ほっぺたが燃えるように熱い。どうしよう。
私が時ヶ峰堅一に執着していた理由は、当初の殺意からいつの間にか摺り変わってしまっていたのだ。
スーパーソニック当身がたぶん通用しないことも、やる前からわかっていた。
父親にじゃれつく子供のように、受け切られることを期待して甘えていたのだ。
まさか私が、相手の腕を吹っ飛ばしてしまう程の重度のツンデレだったなんて!
うわあああ、恥ずかしいいい!
私の顔は、私の真っ赤な髪の毛よりも、もっともっと真っ赤だったことだろう。
恥ずかしいついでに、一番気になることをついつい訊いてみた。
「あのさ、時ヶ峰は私の“真の姿”を知ってるでしょ? アノ姿のこと、正直、どう思ってる?」
「あー、あのカニかぁ……」
時ヶ峰は、少し困った顔で考え込んだ。
うあああああ、しまった聞くんじゃなかったあああ!
何聞いてんだよ私のバカああああ!
そして、時ヶ峰の答えはこうだった。
「うーん、あれはあれで可愛いんじゃないか?」
ウソだっ! 変な気を使いやがってコイツめー!
……ん? “あれはあれで”って言った?
じゃあさじゃあさ、もしかしてもしかすると、普段の私は“これはこれで”ってことになる!?
もしかして両想いなのかも!?
冷静に考えてそんなわけ、なかったのだけれど、その時の私は天にも登るような気持ちで、幸せだったんだ。
そして、ケンちゃんの腕の中で揺られながら、いつまでも医務室に着かなければいいのに、とか思ってたんだ。
(おしまい)
188
:
ツマランナー
:2014/12/13(土) 12:08:31
【希望崎大学生のバイト】
ジャーン!
「聞いて下さい。『ウオッチウイッチ』」
「ワン、ツー、ワンツーさんし」
ジャカジャカジャカジャカ
「運命を捻じ曲げる時計の欠片 それが全ての始まりだった
私は時計の魔女と化し 世界を巡るの」
ジャカジャン!
「避けられぬ戦いの運命 望み抱く戦士達
時計の欠片かき集め 願い叶えるのは誰」
ジャーン!
「うん、取りあえずここまでやね。澤君カメラ止めてーや」
「ハイ」
こんにちは、希望崎大学生の澤です。
俺は今、ツマランナー先輩が未完成の新曲を歌ってるとこを撮影するというバイトをしていた。
カメラ構えてるだけで10万貰えるとか、ツマランナー先輩なのにコミックソングじゃないとかもあるが、
俺が一番驚いたのは先輩の見た目だった。
ゴス服も黒パンも履かず、スッポンポンでベース持って歌う先輩の全身は時計盤だらけになっていた。
どうしたんですかと聞くと知り合いにしてもろた特殊メイクやねんという返事。
だが、俺はそれが嘘であるだろうと思っている。歌詞の内容や最近の先輩の言動も合わせて考えると、
おそらく先輩は迷宮時計の所有者だ。
俺が迷宮時計の実物を見るのはこれで二度目になる。
それにしても、梶原さんの腕に書かれたヘタな腕時計と全然違うじゃないか。
あれを見せられた時は大笑いしたなあ。それでその後に金剛くらったんだっけ。
「澤君、どしたん?上手く撮影できへんだん?」
「うわっ!」
迷宮時計の事について考え込んでいる俺の目の前にツマランナー先輩の股間が飛び込んでくる。
ハンドクリームの蓋ぐらいの時計盤が数個埋まっているそこには男性器は見当たらない。
「先輩、近いです!」
「え、ナニ?ワイのここ気になるんや。やーん、澤君のエッチー。見られると身体熱くなってくるわー」
股間周囲の時計盤がドクドクと脈打つと、時計盤の隙間が徐々に広がっていき、
そこから勃起したチンチンが出てきた。
「澤君のせいでこんなになってもうたわー、これは一発ヌカんと収まらへん!」
「せ、先輩、冗談ですよね?まさかバイド代10万ってこれも含めて・・・」
「ゴメンゴメン、冗談に決まっとるやん。ワイはホモやけど澤君はタイプじゃないから」
チンチンを萎ませて時計盤の隙間に押し込むと先輩は万札の入った封筒を俺に手渡す。
「そんじゃこれ約束の10万」
「でも本当にいいんですか?こんなに貰って」
「ええの!ワイな、急に今のワイを記録として残しておきたくなったんや。
前にも言ったけど、ワイが信じられるのは澤君ぐらいしかおらんかったから。
そんじゃあこれから色々ドタバタするから暫く会えへん思うけど、一段落したら
焼肉でも食べに行こ?」
「梶原さんも誘っていいですか?」
「そやな!梶ちゃんと三人で行こか!」
「梶ちゃんって、その呼び方だと別の漫画キャラになりますよ」
「え?でも梶ちゃんこないだギャラクティカ孫六使えるって言ってたで!
梶ちゃんのペンネームって嘘喰いからやろ?」
梶原さんの名前を出した時の先輩の反応で俺は確信した。
ツマランナー先輩は梶原さんが迷宮時計の所有者だと知らない。
いずれ戦うであろう相手の名前を出されてあんな笑顔でいられるわけがない。
ツマランナー先輩は嘘とか隠し事とかすげー苦手なんだ。
迷宮時計を特殊メイクと言った時も目が泳いでいたし、俺に迷宮時計の知識が無くても
何かおかしいと気づけただろう。
でも、梶原さんの事についてはおかしな反応は無かった。そういう事だ。
自宅に戻った俺は梶原さんのスマホに電話する。
「おう澤、お前の用意してくれたモノ中々役に立ったぞ。で、今日はなんだ?作戦会議はまだ先のはずだが」
「迷宮時計所有者が一人見つかりました。梶原さんも良く知ってる人です」
To be continued.
189
:
ミスター・チャンプ
:2014/12/14(日) 03:12:16
とても――とても遠くまでやってきた気がする。
距離はそこまで離れていない。自転車を使えばすぐそこだ。
けれど、ここまでの道のりは目の前の巨大な橋を見たときに感じる気持ちと同じ――ただ、長かった。
希望崎学園の正門へ続く、東京湾に架かった巨大で力強い、そして無骨な希望崎大橋。
まっすぐ続く橋のずっとむこうに、冬の白みがかった空をバックに希望崎学園が見える。
ここまで来て、それでもこれ以上は近付こうと僕には思えない、遠い遠い場所。
そんな場所へ、彼女は悠々と歩いていった。
自分の居場所ではないこと。自分の想い人は居ないこと。残酷な事実を知るだけの行為を、平然と。
そして今、彼女は橋を渡り、再びこちら側へと帰ってきた。
「あの……どうでした?」
「何処の馬の骨とも知らん男が生徒会長をやっていた」
「ええと……その、残念でしたね……やっぱり……」
「阿呆が。初めから分かっていたことだ。私の目で確認したかっただけだ」
異国の地で、異なる時間軸の旅先で巡り合った時と同じ――彼女は凛々しく強かった。
僕が怖くて近寄れなかった場所へ行き、僕が見ることのできなかった事実をしっかりと見る。
いつか、僕も彼女のように歩くことが……いいや、できれば、彼女と共に歩くことができれば……。
「あの! 斉藤さん!」
あの日――
たとえ同じに見える希望崎があっても、そこは自分の求める場所ではない。
そうだろうが、少なくとも何百年も前の外国に置き去りよりは百倍マシだと、僕達と共に来た彼女を。
せめて、この世界に来て良かったと思わせられたならばと、精一杯に心意気だけは格好つけて、
僕は、なけなしの声量を振り絞った。
続く言葉は……これから考える!
――――――
その時、聴き馴染みのあるテーマソングが脳内に鳴り響いた。
***
190
:
ミスター・チャンプ
:2014/12/14(日) 03:23:07
人喰みの陽炎を倒しても、この世界の不穏な空気は変わらなかった。
泥濘の不知火を倒しても、この世界の焦げ臭い瘴気は消えなかった。
怨嗟の黒潮を倒し、吸魂の雪風を倒し、落命の初風を倒し、足切りの親潮を倒し、
獄炎の夏潮を倒し、沈降の早潮を倒し、致死の天津風を倒し、悲哀の磯風を倒し……
陸を走る『世界の敵』を、『世界の敵』の一部を倒し続けた。
――キュア・フレンドシップ!
あの日の沖縄旅行で見た夏の青空をイメージさせる、自慢の髪色を魔力で黄色く染め上げて、
飛行機を一つ拝借し、魔力回路のリンクによって精神操作。己の足場として使い……
烈火のティーガー、極光のセンチュリオンなど、空を暗雲に染め上げてきた、
空翔る『世界の敵』の一部を倒し続けた。
――キュア・ビクトリー!
皆で一緒に素潜りした夏の海をイメージさせる、自慢の髪色を魔力で赤く燃え上がらせ、
手にした剣で一刀両断。噴き上がる魔力をまとわせた武器は、この世で最も切れ味が良い。
魔法使いの全力疾走による水上走行を邪魔する過飾のヘルキャット、虚栄のアベンジャーを切り落とし、
波に潜む『世界の敵』の一部を倒し続けた。
――キュア・テンカウント!
辿り着いたのはヨーロッパの奥地。『世界の敵』の頭である“白い家”。
“白い家”は強かった。空に浮かび自転を続けるこの敵は、自身の回転により世界を回す。
“ふとっちょ”、“のっぽ”のサブユニットが全ての存在を白く塗りつぶす。
だが、それでも私は負けはしない。漆黒の髪色で白を黒く塗り替えて、彼の物語に終止符を打つ。
十週間で全てを終えて、闇の晴れた世界に一人、私はゆったりくつろいでいた。
ここ、ハワイのオアフ島の、ラジオが陽気な音楽を奏でるビーチで、常夏の空と海を堪能する。
とにかくずっと笑い続けて、お腹が痛くて仕方なかった沖縄旅行。
次はハワイだ! ――言い出したのは、誰だったろう。
「……かつ!」
全身を満たす達成感に揺らされながら、空と海から切り取られたような青髪を、
ちょこんと白い砂浜に広げ、大の字になった。
目をつぶり、ただ、ラジオパーソナリティーが語る言葉に聴き入っていた。
『Yeah! もう1941年も残すところあと僅かとなったが皆は今年もハッピーだったかい?
そんな本日12月7日! ここパールハーバーは最高の晴れ空で俺は実にハッピーさ!
さて、最高にハッピーな俺がお届けする次なる曲は最高にエキサイティングなナンバー――』
―――――――
その時、聴き馴染みのあるテーマソングが脳内に鳴り響いた。
***
191
:
ミスター・チャンプ
:2014/12/14(日) 04:23:05
ドアを押し開けると、チリンと小さな鈴の音が鳴った。
見れば、花を象った可愛らしいドアベルがくっついていて、なるほどと思う。
店内は壁にも、席と席との間取りにも、山ほどの生花が飾られた店内にふさわしい意匠だ。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥から声をかけてきたエプロン姿の綺麗な女店主に導かれ、
席に着くと適当に女店主の勧める料理を頼み、一息つく。
店内の奥、視線は自然と蔦を絡ませ花に彩られたフラワーアレンジメントに吸い寄せられる。
「噂には聞いていましたが、綺麗な店内ですね。いや、実に。特にあの奥の花飾りは」
「あら、ありがとうございます。素敵でしょう?」
「しかし、これは全部、生花ですか。その分、下世話ですが維持費も大変そうだ」
「そうですねえ。それは苦労もありましたけれど、やっぱり私が花好きでして」
店内には私以外の客もいないため、女店主と適当な話をして過ごす。
全ての座席は事前に私が偽名を使い分けて予約済みであるだけに、遠慮なく話を続けられる。
来ない客に首をひねる女店主の様子を横目に、運ばれてきた料理を食べた。
「あの、もし違っていたらごめんなさい。……お客様はもしかして、エルフ小林さん?」
「ほう! メイクもしていないのに、よく分かりましたね」
「あら、まあ! やっぱり! 私、代々木ドワーフ採掘団のファンでして、声が同じだなって」
食後の紅茶を飲みつつ、いつ話を切り出そうかと考えていたところに、相手からの渡し船。
これは重畳、とティーカップをソーサーに置いた。
花柄の陶器がキンと高い音をたてた。
「先日は私共の応援メッセージコーナーに出演して頂いて、私からもお礼を述べさせて頂きますよ」
「いえ、お礼だなんてそんな。私、もう、あれからずっと気分が良くて、ねえ。
あらごめんなさい。こんな一人で笑っちゃって」
「いえいえ、美人の笑顔を間近で見られるなんて、世の男共の嫉妬を買うくらいですよ」
「まあ、お上手で」
――それでは始めよう。
「今日はですね、実はプロレスの方ではなくて、二足の草鞋を履いている裏の仕事の最中でしてね」
「まあ、『裏』なんて、なんだか物騒な響き」
「実際は地味で地道な裏方作業ばかりですがね。ちょっと、ほら、私共の団体にイタコがいるでしょう?」
「はあ。ええ、ミスター・チャンプの一件で注目されていましたねえ」
「こう、ですね。死者の念だとか、そういったものまで辿って、まあ面倒な作業を続けてきた訳です」
「まあ! よく分かりませんけど、なんだか聞いているだけで怖そうなお話」
――裏の世界の魔法使いのお仕事。
「いや、しかし何度見ても素晴らしいですね。あの花飾りは」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。この店の自慢ですのよ」
「あの大きさでは飾り付けも大変でしょう? 人の身体が一つすっぽり入ってしまいそうですし」
「好きでやってますからどうってことないんですよ? 慣れもありますしね」
「生花を扱うのがお好きなんですねぇ。実に」
「ええ。好きなんです。生花」
――三人の犠牲を出したチームリーダーの、けじめという奴を。
「あら、何か落とし――」
コトリとスーツの裾から転がり出たものを見た瞬間、女店主が言葉を上擦った短い悲鳴に変えた。
絹を裂くような悲鳴とはまさにこのことか、などと暢気な台詞を頭に浮かべ、
ゆっくりとした動作で床に転がる手のひらサイズのダルマをつまみ上げた。
「おやおや、どうしました? ただのダルマですよ? 店主さんは何かダルマに怖い思い出でも?」
「いえ……その……」
「ああ、いいんですいいんです。思い出したくないようなことなら言われなくても結構ですよ。
いやはや、すみませんねぇ。怖がらせてしまいまして。これも仕事の関係で持ち歩いていまして。
ええ、いやしかし、店主さん。私はそれで幸いにも、初めて笑顔以外を拝むことができましたよ。
店主さんの。はは、いや、美人は笑顔も良いですが、泣きそうな顔というのも実に趣きがある」
そして、ダルマをゆっくりとポケットの中に仕舞い込んだ。
「すみませんね。本当に。私は美人を見たらつい虐めたくなる性分でして」
――――――
その時、聴き馴染みのあるテーマソングが脳内に鳴り響いた。
***
192
:
ミスター・チャンプ
:2014/12/14(日) 04:45:14
「ほう? これは」――山奥で滝に打たれていた修行僧姿の男が。
「おやおやァ」――鬱蒼とした林の藪の中から、嗄れた男の声が。
「あっ! この音楽!」――都会のマンションの一室で、少年が。
「……ん」――コンビニ店員が、レジを打ちながら小さく呟いた。
その音楽を知る人々が、都会で、田舎で、楽しげに、忌々しげに、
老若男女、世界中の、世界中で、一瞬間――揃って耳を傾けた。
その曲は世界を股にかけるプロレス団体、代々木ドワーフ採掘団の一人――
ミスター・チャンプのテーマソング。
『
皆様お待たせ致しましたッ!
これより始まるは代々木ドワーフ採掘団のスーパーヒーローッ!!
“双頭のバズーカ”ミスター・チャンプの命を懸けた闘いですッッッ!!!
』
ヒーローは、いつもファンの前に。
『刻に奉げるカプリッツィオ 〜完〜』
193
:
しお
:2014/12/15(月) 21:52:32
tp://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4667837
劇場の呪いがまだ体内に残留していたので放出します。
194
:
刻訪結
:2014/12/16(火) 05:05:57
【幕間Ⅱ:あわい】
(本文ここから)
「いち、に! さーん、し!」
「ここでまわって〜」
「せーのっ」
「はいハイ!」
放課後、学園の屋上。
まだ陽射しは強く、踊り始めてから30分程でけっこう汗をかいてしまった。
『シスター』である真実が会長権限でゲットした鍵を使い、私たちは誰もいない屋上でダンスの練習をしている。
再来週に開かれる文化祭で披露するのだ。
なんでこうなっちゃったのかはよくわかんないけど、気がついたらそういうことになっていた。
ダンスなんてやったことないから大変……変な所が筋肉痛になるし。
でも、4人で踊っているときは、最高に楽しいのだ!
「さて、休憩にしましょうか」
「そうだねー」
「ノドが渇いたのだ」
「あっ、ボクのお茶飲む?」
モデルみたいに手足が長くて美人なのは、糸音ちゃん。
切れ長の目も凛としててかっこいい。
小麦色の肌が健康的な印象を与えているのは、早百合ちゃん。
ちっちゃくて元気がよくてかわいい。
見た目によらず気がきくボクっ娘は、真実。
私の幼なじみで、親友だ。
入学してすぐの新入生合宿で同じ部屋だった私たちは、1年半の月日が経った今もこうしていつも一緒にいる。
学園生活イコール4人でいる時間といっても過言ではない。
私たちが揃えばなんだってできる、そんな気さえしていた。
「うーん、やっぱり結丹の花飾りはカワイイのだ」
「でしょ? 真実が選んでくれたんだもんねっ」
「あらためてそう言われると恥ずかしい〜…」
私が頭につけている花飾りを、早百合ちゃんが羨ましそうに見ている。
これは、真実がこないだ私にくれたものだ。
ずっと4人でいるとさっき言ったばかりだけど、真実からそれを渡されたときはふたりきりだった。
背中合わせでも真実がもじもじしているのがわかって、めちゃめちゃ可愛かった。
ツバキをあしらった花飾りは学校にしていくにはちょっと派手だけど、私は毎日必ずつけていく。
その髪よりも赤くなった真実をうりうりしていると、糸音ちゃんがおずおずと切り出した。
「あ、あの…早百合」
「なんだー?」
「え、えーと、その……」
「??」
うつむいて人指し指をつっつき合わせる糸音ちゃん。
きょとーんとしている早百合ちゃんをよそに、私たちは視線を合わせる。
(これはあれだね、真実)
(あれですな、結丹ちゃん)
(真実もあんなかんじだったのかな〜 見たかったな〜)
(さ、さあね! 内緒だもん!)
ひそひそと私たちが会議している横で、糸音ちゃんも心が決まったようだ。
カバンに手を突っ込むと、中から綺麗にラッピングされた箱を取り出して、早百合ちゃんに差し出した。
「これ! あげますから!」
「おー、ありがとう。開けてもいいのか?」
「どうぞ!」
糸音ちゃんの絹のように白い肌が真っ赤っかになっている。
早百合ちゃんが箱を開けると、小さな白百合のイヤリングがちょこんと台に座っていた。
はっきり言おう。センス良すぎだよー!
「うわー!! かわいいねー!」
「これって百合の花だよね! 早百合ちゃんにぴったり!!」
きゃいきゃい騒いでる私たちをよそに、早百合ちゃんはいまだ無言だ。
じっとイヤリングを見つめていて、表情はうかがえない。
糸音ちゃんが不安そうに言う。
「ど、どうですか……? 早百合が結丹さんの花飾りをいつもじぃっと見てたので、買ってみたんですけど……。こんなプレゼントはイヤ、でしたか?? うう……」
緊張感が私たちの間に走る。
そして、早百合ちゃんがゆっくりと口を開いた。
「糸音……」
「は、はい!」
泣きそうな顔になっている糸音ちゃん。
はらはらしながら見守る私と真実。
195
:
刻訪結
:2014/12/16(火) 05:08:44
しかし、早百合ちゃんは満面の笑顔を向けると、
「ありがとうなのだーー!!」
と叫びながら、糸音ちゃんに飛び込んでいったのだった。
ホッとする私たち。
「ちょっ、ちょっと早百合……!?」
「すっごいうれしい! 糸音だいすき!」
早百合ちゃんに抱きつかれててんやわんやになってる糸音ちゃんをみていると、私も真実も表情が緩んでしまう。
「いやぁ、青春ですねえ」
「うん、青春だね!」
満足したのか、早百合ちゃんが糸音ちゃんの上から起き上がった。
すっかり堪能したようだ。
ごきげんな様子の彼女の視線が、ふっと私の方を向いて止まる。
「あれ、どうしたのだ? 右腕」
「かさぶたになってますね」
「ほんとだー。 結丹ちゃん大丈夫?」
言われて見てみると、制服の袖をまくったことであらわになっている私の腕に、確かに黒いかさぶたのようなものができていた。
いつのまにこんなのできたんだろう?
記憶を辿ってみる。
チクリと傷跡が軋んだ。
その感覚を私はよく知っていた。
私はこのアトを見たことがある。
なぜ刻まれたのかももうわかる。
痛みはどんどん強くなっていく。
「でもそのかさぶた、不思議な形をしています」
「そうなのだ、これってまるで、黒い花――
******************************
――瞼を開けると、私のよく知っている天井が広がっていた。
ソファから起き上がって周りを見渡す。
テーブルは昨夜のままだった。
上毛早百合ちゃんを斃して闘技場から戻ってきた私を、パパとママはぎゅっと抱きしめてくれた。
それで気が緩んだ私は、そのあと泥のように眠った。
そして一夜が明け、昨日は祝勝会をしたのだ。
といっても、ちょっと夕食が豪華だっただけだけど。
迷宮時計の戦いに私が巻き込まれていることを知っているのはパパとママだけなので、宴会の名目は私の依頼達成祝いということになっていた。
でも、会員の人も結構来てくれて、嬉しかった。
いっぱい食べていっぱいおしゃべりして、気がついたらソファで寝ていたらしい。
毛布をかけてくれたのはママかな。ありがとう。
それにしても、久しぶりに良い夢が見れたと思ったらこれだ。
本当にうんざりする。
もう私には幸せになる権利はないけど、ちょっと疲れたな。
夢の中では真実も早百合ちゃんも元気で、もうひとりの子は糸音ちゃん? 早百合ちゃんがチラっと口にしてた名前だったと思うけど、その子も楽しそうだった。
私の腕が綺麗だったり真実と親友なだけじゃなくて幼なじみだったり微妙に現実と違ったけど、どこまでが現実でどこからが夢なのかも、もはや判らなくなってきている。
右腕がじくじくする。
刺繍した糸はいつも、お仕事が終わったらすぐに痛くないようにしながら解いてもらっている。
でも、今回はなぜかそうするのが躊躇われた。
あの子が私と同い年だったから?
あの子が真実に似てたから?
わからない。
とはいえ、これ以上刺繍したままにしておくのは良くない。
玉結びを切って、糸を少しずつ腕から抜いていく。
糸が肉にこすれる音がする。
ぽたぽたと血が、空いた穴から流れている。
けれどもその痛みが、私に今いる世界が現実であることを教えてくれた。
夢でないことを確かめるためによくほっぺをつねったりするって言うけど、私を夢と現実のあわいから引き戻すのは、腕から脳に伝わる感覚だったのだ。
糸をようやく腕から外し終えた私は、机の棚の中にしまってあるクロスを取り出す。
そこには、黒い刺繍がいくつもいくつも施されていた。
196
:
刻訪結
:2014/12/16(火) 05:09:44
私は針を用意すると、早百合ちゃんと私の血が混ざりあった糸を通す。
そして、右腕のときと同じように、クロスに糸を刻みこんでいく。
ほどなくして、黒い百合の花が小さく咲いた。
ぱたぱたと栗色の小動物が飛んできて、刺繍に付いていた私の血をなめる。
この子はりすずめ。私の可愛いペット。
体つきやしっぽはシマリスのそれだが、肩からは羽が生えており、その柄はスズメのそれだ。
より正確に言うと、シマリスの体にスズメの羽が黒ずんだ糸で縫い付けられている。
私の特殊能力『赫い絲』は、血染めの糸を媒介に特性を移植する能力だ。
そして糸を私の血で染めたときは、その糸を使って生き物と別の生き物の一部を縫い合わせることで、主となるものにもう片方の特性を追加することができる。
たとえば羽を縫い付けられたリスは、スズメのように空を飛ぶことができるようになる。
私の血が黒に近づくまでに縫わないとダメだとか、それぞれの生き物の大きさが違いすぎたらダメだとか、糸の長さが1mを下回ると再現率が下がるとか、いろいろ条件はあるけど、一度成功したら主となった生き物が死ぬまで有効だ。
例外は魔人の特殊能力で、これは糸が黒になるまでしか効果が無い。
もっとも、自分の体に他の魔人の体をくっつけようなんて人はそうそういないから別に問題ないけど。
私は絶対にイヤだし。
りすずめは気が済むまで血をなめると、私の懐にもぐりこんできた。
くすぐったいけど可愛いから許してあげよう。
窓の外をみると、黒猫がベランダの柵の上を歩いていた。
久しぶりにこの子の仲間を増やしてあげてもいいかもしれない。
何とくっつけるのがいいかなあ。
そんなことを考えていたら。
ガチャリとドアが音を立てて開いた。
「あれ、お嬢だけか。久しぶりぃ。…………おいおい、なんて顔してるんだよ、まったく」
ドレッド・グラサン・色黒と、何がとは言わないが三拍子をそろえた、いかついニイチャンが私をみている。
これが街中なら悲鳴を上げて助けを呼んでもおかしくない状況だが、その人は私のよく知っている人だった。
「……まっつん」
「その呼び方はやめろって」
刻訪祀。魔人商工會『刻訪』の最高戦力。
私やお兄ちゃんがここに来たとき、とりわけ親身になって、家族のように支えてくれた人のひとりでもある。
約1年ぶりの帰還だった。
(本文ここまで)
※よろしければ
>>80
>>81
>>82
もどうぞ! そちらの後編は…今年中に書けたらいいな…。
197
:
刻訪結
:2014/12/16(火) 05:15:19
訂正失礼致します。
>>195
***…のあとすぐ
×いっぱい食べていっぱいおしゃべりして、気がついたらソファで寝ていたらしい。
○いっぱい食べていっぱいおしゃべりして、いつの間にかソファで寝てたみたい。
198
:
古沢糸子
:2014/12/19(金) 01:03:16
『グラス・オニオン』
「あら、おはようございます。お待ちしておりました」
工房内で私を待ち構えていた胡乱な侵入者は熟練の笑顔で臆面も無くそう言ってのけた。ガラス越しの逆光に照らされた異様なシルエットの輪郭にスペクトル光が帯びる。入り口の戸を破壊したのも、こいつか。私は鞘に収められた剣の柄に右手を添えた。
「……ああ、おはよう。で、貴様は誰だ。そのでかい図体の邪魔な椅子ごとたたっ斬られたくないならば、直ちに出て行くがいい」
「お仕事がお忙しいところ申し訳ありません。直接伺わないとお会いできないようでしたから。足が悪いものでして、このままで失礼致しますわ」
「誰かと聞いている。名を名乗れ。或いは死ね」
戯言を吐き出すその喉元へと、瞬きの間に剣先を突きつける。しかしその腹立たしい作り笑いが消えることは無い。その顔に露骨にもう一度にっこりと笑顔を作ると、その女は語った。
「失礼、申し遅れました。私は古沢糸子と申します。少々お時間をとらせてはいただけないでしょうか。樹脂あくりるさん?」
古沢糸子。その名は一ガラス職人に過ぎない私にも耳に覚えがある。ドブ周りをうろつく小汚いネズミだ。それもその汚らわしい牙と爪に毒を持っていると聞く。
「ふん、噂には聞いていたぞ。探偵め。貴様か、あのクズを失職させたのは。それ自体は愉快痛快で至極結構、だがおかげで私の臨時収入も粉々だ。今度は何をやらかすつもりだ?」
「いやですわ、人聞きの悪い。それに今回はただの人探しでして……」
「……ほう。ろくな予感はしないが、言ってみろ」
私は剣を鞘に収めると、次の言葉を待った。そして発せられたその単語は、やはり私を落胆させるに十分であった。
「――飴石英さん。たがね、せきえい。彼が今どこにいるか、ご存知ありませんか?」
しばしの間、私と探偵とは視線を交わし睨み合った。その目にはこちらの動作を一片たりとも逃すまいとする気迫が満ち溢れている。探偵にとって言葉とは口から放たれるものだけではない、そのことは重々承知。だが餌を待ちわびるその態度はあまりにも拙速に見えた。
「随分焦っているようだな、探偵。余裕が感じられんぞ。生憎だが奴の行く末なんぞ私は知らん」
視線を外し、安楽椅子の横を通り抜ける。
「どけ」
安楽椅子探偵は、ため息を吐くとおとなしく引き下がった。私は見向きもせず工房の先へ進み、珪砂の袋を溶解釜へと開け入れた。もはやあれは居らぬものとして日々の作業を始めることとする。
「……最後にもう一つだけ」
だが探偵はしぶとく食い下がる。
「キリコという名の女性に心当たりは……?」
そのときの私は、随分と間抜けな顔をしていたように思う。なぜこうも呆気にとられたか、己にも心あたることはない。
「……なんだ? 奴がまた新しい女でも作ったのか? 知らんな」
その言葉を聴いて、探偵は今度こそ心底からにまりと笑った。理由はわからぬが、実に腹立たしい。
「無駄足だったな、探偵。もう交わす言葉は一片も無い」
「貴重なお話を頂き、感謝極まりないですわ。それではまた」
「二度と来るな」
そうして古沢糸子は去って行った。その日製作した板ガラスは、透明度、厚みの均一さ、どこをとっても低品質極まりないものとなった。とても重要顧客に納品できるような代物ではない。全く無駄な一日であった。
一日を一枚のガラスに喩えるならば、人生はそれは一枚一枚重ねていく作業である。重ねるごとに、透ける風景はゆがみ、よどみ、沈んでいく。それを全て砕いていったとき、最後には現れるものは何であろうか。或いは何も残らないのかも知れぬ。
199
:
古沢糸子
:2014/12/19(金) 01:07:26
上記誤字訂正をお願いいたします。失礼いたしました。
最終文、 ×最後には → ○最後に
お手数をおかけいたします……
200
:
古沢糸子
:2014/12/19(金) 01:24:26
もう一点、最終段落(上の訂正も文ではなく段落でした)
×人生はそれは → ○人生はそれを
誠に申し訳ないです……
201
:
その日、久坂俺と (馴染おさな:1)
:2014/12/20(土) 01:49:32
「ヤベーッ! 遅刻遅刻! うおおおお!!」
オレ、即ち久坂俺はこの時、大慌てで駅の階段を駆け上っていた。焦れったいような低段差の階段を、二段飛ばしで登っていく。 階段の中腹に差し掛かった頃、頭上から出発のメロディーが響いてきた。ヤバイ! 駅員のよくわかんねえアナウンスも聞こえてくる。ヤバイ!! コレに乗り遅れたら次の電車は13分後! このままでは蜜柑崎探偵事務所のアルバイトに遅れてしまう! ちなみに蜜柑崎探偵事務所の所長である蜜柑崎檸檬のアネキは世間には知られていないが睨んだ相手に隠しておきたい真実を自白させてしまう能力を持つ魔人であり、このままだとオレは遅刻の罰でベラベラと隠しておきたい真実を垂れ流すマシンとなってしまうのだ! 効果時間は24時間なので明日学校で色々と隠しておきたい真実を明かしてしまう事になってしまうし、これは一度やられると良く分かるのだが、すごく喉が渇く!
『ドアー、シャーッリッサー』
「うおおおおおお!!」
最後の階段を五段飛ばしで登りきり、ホームで踏ん張る。オレの長い足はぐっと押し縮められると、伸びた勢いでバネの如くオレを射出! 閉まるドアの隙間を飛翔突破! 回転! 着地! 顔面着地! 顔面セーフ! じゃない! いてえ!
「ハーッ……だがどうだ……オレは間に合ったぜ……!」
『カケコージョーサー、オヤムケダシェー』
どうやらオレの駆け込みにより電車のドアは一旦開いていたらしい。オレの後ろで再びドアが閉まる。クソッ! そんな事ならオレが飛び込まずとも発車を待ってくれよ! っていうかもっと聞きやすい喋り方してくれよ!
「俺…………君?」
「誰だ!」
そんなこんなして汚れっちまった服をパンパンとはたいていると、名前を呼ばれた。女の子だ! 声の主を見れば……おう! 良い感じの美少女じゃないか! いや、美少女っつうにはちょっと大人っぽい。美女? 美女ってのもなんか違うな。おしゃれした新社会人ってカンジだ。これからデートと見た! いや、でもその割にはオレに声をかけたな? ん? オレの名前知ってる?
「……キミ、どこかで会ったっけ」
「あ」
そう言うと女の子は目に見えて動揺する。おっと、こんな事では檸檬のアネキに叱られちまう。探偵たるもの、他人とは上手く付き合え。オレは練習したイケメニズム溢れるスマイルを顔に作った。
「ごめん、急に声かけちゃったりして」
「あ……その、私」
「オレ、久坂俺って言うんだ。君は?」
「あっ……えと……桃園、めぐみって言います」
「名探偵コナン」
「え?」
そのままするりと私の隣に座った彼、久坂俺は、突然そんな事を言った。
「名探偵コナン。知ってる?」
「あ、はい、一応……」
「オレ、その探偵やってるんだよね。だから気になっちゃうんだよな。会った事ない人に名前呼ばれちゃうと」
「……そう、なんですか」
「もしかしたらオレの探偵としての素質を恐れた刺客なのかもしれない! ってね。……どう思う?」
「考えすぎだと思います……」
「あちゃー。でもオレの名前知ってたのは本当だよね、めぐみチャン。どこで知ったの?」
「え、と……ごめん、なさい。わかりません」
「へえ?」
目を丸くする彼に、私は続ける。
「ごめんなさい。変ですよね。でも、確かに会った事があって……」
「あーハイハイ。オレの顔は知ってた。名前も。一致した。だけどいつ知ったかは分かんないと。まーよくあるよな。オレだって初めて立って歩いたのはいつどこでとか聞かれてもわかんないし」
「そう、そんな感じで……」
それからしばらく、私は彼と話をした。彼はクルクルと表情を変え、明るく、忙しく、途切れる事なく色々な事を話してくれた。
だが、そんな時間も長くは続かない。車内アナウンスがその地名を告げた時、私は彼から視線を外す。彼は目ざとかった。
「次で降りる感じ?」
「はい」
「そっか。なんか残念だな。色々話せたのに。初めて会ったって感じしなかったよな? なんかホントにオレとキミ、どっかで会ってたかも……」
「……思い出せました?」
「いや全然! でもさ、仮に昔会っててそれを思い出せなくても、今こうやって会って仲良くできたって事が結構大事だと思うな、オレ……あ、そうだ」
202
:
その日、久坂俺と (馴染おさな:2)
:2014/12/20(土) 01:50:16
彼はポケットをゴソゴソと漁り、名刺のようなものを取り出して私に差し出した。蜜柑崎探偵事務所、とある。
「コレさ、オレの勤め先」
「勤め……?」
バツが悪そうに頭を掻く彼。
「ゴメン、ちょっとカッコつけた。バイトしてんだ、そこで。助手としてね」
「どうしてですか?」
「まあ、人生何でも経験っつうじゃん? オレ、将来刑事になりたいんだよね。だから若い内から色々知っときたいなって思って」
電車が速度を落とし始める。
「それで探偵助手って、随分前のめり」
「いや、でもコレがなかなか奥深くって! ……あっといけねえ、長話もできないんだよな。ま、何かあったらさ、頼ってくれよ。サービスするぜ?」
「……うん」
私は素直に頷き、それを受け取る。
「名探偵コナン」
彼の手が、私の手首を掴んだ。
強く、固く。
「知ってる? ……主人公の江戸川コナン。本名、工藤新一っつうんだけど、なんで江戸川コナンって名乗ってるのか」
「え……?」
状況をつかめない私など関係なしに、彼は語り続ける。その表情から、さっきまでの明るさや軽さは消えていた。
「あいつは毒を飲まされて、身体が子供になった後、幼馴染みの毛利蘭に見つかって、名前を聞かれた。だが、新一が生きていると知られれば、新一を殺そうとした連中が放って置かない」
「あの、何の話……」
「だから偽名を使ったんだよ。とっさに目に入った二つの名前……江戸川乱歩の苗字と、コナン・ドイルの名前を借りてさ。江戸川コナンだ」
さっと、身体の血液がどこかに引いていくような感覚。あるいは、心臓が縮こまるような。
「『桃園』香織は今月新刊を出した女作家だったな。秋江『めぐみ』は今週のヤンマガの巻頭グラビア担当。どっちも中吊り広告に名前がデカデカ出てるぜ」
「あ……」
「別にキミの本名なんてどうでも良いんだ。たださ……なんで咄嗟に偽名なんて名乗った?」
電車が止まった。ドアが開く。私は咄嗟に彼の手を払い、駆け出した。振り返らない。履き慣れないヒールで、それでも走る。転ばないように。
「……っ!」
けれど、私の中では注意より焦りが勝った。些細な凹凸に引っかかり、前へとつんのめる。視界が揺らぐ。階段はまだ何段も続いて――
――思わず目を閉じた私の身体に、衝撃が走る。だけど思っていたよりも痛くない。浮遊感。
「危ねえ」
「!」
すぐ後ろから、彼の声。それで気付いた。転びかけた私の身体を、咄嗟に俺君が支えてくれたんだ。まるでそれは、後ろから抱きすくめられるみたいで。
「〜〜っ!」
「あ、悪い。悪ぃ!」
彼が私の態勢を整えつつ身体を離した。爆発しそうなくらいに拍動する心臓を服の上から押さえつけつつ、俺君の顔を見上げる。少しバツが悪そうに、視線を逸らして、頭のてっぺん辺りを掻いて。
昔から変わらない。俺君の照れ隠し。
「……電車、行っちゃいますよ。急いでるんじゃないんですか」
「いや、別にそれは良いよ。それよりキミの事だ」
「偽名を使ったから?」
「それもあるけど、それだけじゃない。キミの目。すごく辛そうだった」
「つらそう?」
「話してる最中もたまにそんなだったけどさ。さっき、オレの手を振り払う時……なんつうのかな。悪事がバレて逃げようとするヤツとは違ってて。なんつうか。ゴメン、オレもよく分かんないんだけど」
発車ベルが俺君の背後で鳴り響く。だけど彼は、ちっともそれを気にする様子を見せない。
203
:
その日、久坂俺と (馴染おさな:3・完)
:2014/12/20(土) 01:50:47
「……もしさ」
「ん……」
「もし、もしさ! ……オレが何かキミに、気づかない内になんかしてたら、ホントごめん。いや、とりあえず謝っとくみたいのはダメだとオレは思うんだけど!」
電車のドアが閉まった。ゆるやかに速度を上げながら発車していく。
「でも、もしそうじゃなくって、オレと関係のない所で、キミが本当に辛い思いをしてるなら、オレ、力になれる事、ないかな」
「力、に」
「ほら……オレ探偵だぜ! 秘密は厳守! 家族にも友達にも言えない事、相談してくれて構わねんだ! 問題解決! ……ほら、今なら無料で良いぜ!」
調子はずれなくらいに明るい口調で言う俺君の様子に、つい私は笑ってしまった。俺君も安心したように、自然な笑いを浮かべた。やっぱり、昔から変わらない。
笑顔も、他人の心に敏感なのも、いざという時は損得勘定なんて真っ先に放り投げて、困った人を助けずにはいられない所も、全部。
――変わらないね。
喉元から出てきた言葉を飲み込む。そんな事を言えば、また彼の心を乱すだけだ。代わりに私は少し考え、口を開く。
「目的が、あるんです」
「目的?」
「はい。ずっと……ずっと果たしたかった事が。ううん、果たせるだなんて思ってもいなかったけど、突然目の前にチャンスが来て」
「そっか。チャンスを掴んで逃がさないのは大事だよな」
「それで……そのために、今日までずっと頑張ってきて。あとちょっとで、届くんです」
迷宮時計に表示される参戦者人数は、順調に減少してきている。このペースでいけば、残りあと二、三度の戦いで、勝負は決するだろう。それがおさなの見通しだった。
「その、チャンスについて、詳しくは言えないんですけど」
「うん」
「……応援、してくれませんか」
「応援?」
「私の目的を、です。俺君に応援してもらえば、私、頑張れるから」
目をしばたたかせる彼。でもすぐに笑って、明るく言った。
「おう、頑張れ! 何だか分かんねえけどさ! 応援するぜ! 努力は必ず報われるさ!」
「……ありがとうございます」
赤くなる顔を咄嗟に伏せて、俺君へ背中を向ける。
「なあ!」
俺君の声。私は振り返らない。
「また会えるか? ……また話、できるか? 今話せなかった事、全部話して貰えるか!?」
――許されるなら。
今すぐ手にしたすべてを捨てて、彼にすべてを話したい。
何もかも打ち明けて、彼に抱きしめてもらって、彼の胸の中でたくさん泣いて。
そんな事ができたなら、私はもう死んだって良い――いや、できるだろう。彼はきっと、それを許してくれる。
でも。
それは私の望みじゃない。
私が欲しいのは、彼の同情や哀れみなんかじゃない……そんな物で私が救われる領域は、もうとっくに終わっているんだ。
「……会えますよ」
階段を降りきった所で、私は振り返った。階段の上の方、陽射しの下に立つ彼を眩しく見上げて。
「目的を果たして、会えたら。たくさん話したいです」
「……そっか!」
その笑顔を刻みつけ、私は踵を返し、今度こそ振り返らずに歩き出した。
表情を引き締める。温かな記憶はすぐに脳の奥底へ仕舞い込み、これからすべき事を考える。
――まずは撫津弥生を探さなければならない。
心が静かに冷えていくのを感じて、また少し、私の胸が痛んだ。
204
:
稲枝田
:2014/12/24(水) 14:28:32
ウィッキーさん tp://p.twipple.jp/tU9FP
リュネット tp://p.twipple.jp/YMbol
刻訪結 tp://p.twipple.jp/8C8OE
折笠ネル tp://p.twipple.jp/XM5V2
雲類鷲ジュウ tp://p.twipple.jp/UbTdQ
梶原恵介 tp://p.twipple.jp/XirPH
205
:
ツマランナー
:2014/12/26(金) 14:32:41
『迷宮ウオッチ』
歌とダンス:ベースのお姉やんとはっぱガールズ(ヨツバニャン・ボンバニャン・ワカバニャン・コウ)
「そんじゃはじめるでー、迷宮体操第一〜」
ジャンジャカジャカジャカジャン!
「ワンツー、さんし」
戦闘戦闘戦闘戦闘 戦闘空間出れへんねん
戦闘戦闘戦闘戦闘 戦闘避けるのできへんねん
自分も対戦相手も 願いが大事やで
迷宮迷宮迷宮 ウオッチッチ!
ネガワク・ケヒャケヒャ・オイオイ・ツッコミ・オレクン・ウィーアー・ウオッチッチ!
今日は学校遅刻した インタビューをされたんや
どうして彼が来たねんな? どないしてウイッキーさんおるんやねん?
どわっはっは〜 迷宮時計のせいやねん そうやんな?
ウオッチ後何人? めっちゃ多い〜 死ねや!
ジャンジャカジャカジャカジャン!
戦闘戦闘戦闘戦闘 戦闘空間出れへんねん
戦闘戦闘戦闘戦闘 戦闘避けるのできへんねん
自分も対戦相手も 願いが大事やで
迷宮迷宮迷宮 ウオッチッチ!
ツラヌキ・ウエット・サンゼン・ヒーロー・カリバー・アーアー・ウオッチッチ!
タイマン勝負だったのに 世界の敵も現れた
どうしてこんなん倒すねん? どっからこんなん来たんやねん?
どわっはっは〜 基準世界のせいやねん そうやろな?
ウオッチ後何人? まだ多い〜 死ねや!
ジャンジャカジャカジャカジャン!
戦闘戦闘戦闘戦闘 戦闘空間出れへんねん
戦闘戦闘戦闘戦闘 戦闘避けるのできへんねん
自分も対戦相手も 願いが大事やで
迷宮迷宮迷宮 ウオッチッチ!
セックス・テンソウ・フェンリル・ボヘミヤ・グリズリ・フェデール・ウオッチッチ!
今日は五感がおかしいで 何だか色々おかしいで
どうして味覚に色あるねん? どうして視覚に味あるねん?
どわっはっは〜 蒿雀ナキのせいやねん マジ妖怪や!
ウオッチ後何人? 増えとるやん〜 死ねや!
ジャンジャカジャカジャカジャン!
戦闘戦闘戦闘戦闘 戦闘空間出れへんねん
戦闘戦闘戦闘戦闘 戦闘避けるのできへんねん
自分も対戦相手も 願いが大事やで
迷宮迷宮迷宮 ウオッチッチ!
トレジャー・アルベド・ショドー・コロンダ・トショカン・キュアキュア・ウオッチッチ!
政治家爆発四散した 全裸のオッサン現れた
どうしてこないになったねん? マジでほんまにどないやねん?
どわっはっは〜 迷宮時計のせいなんか これはちゃうやろ?
ウオッチ後何人? ループした〜 死ねや!
ジャンジャカジャカジャカジャーン!
206
:
千葉時計草(伊藤日車)
:2015/01/01(木) 23:06:23
『探偵を巡る別世界からの反応(その3)』
某世界妃芽薗学園・某時間にて
「花撰集;枝折(アンソロジー;ブックマーク)」
菖蒲(あやめ)が校門を背中合わせにして梅枝(うめがえ)を折ると、周囲は仄かな芳香に包まれた。
それも、冬の風に攫われて長続きしない。息を吐くと白い。留め置けた気がした。夏の花は、遠い。
栞は本に挟む標(しるべ)。持ち主に居場所を知らせる花撰集(アンソロジー)の一頁は、
花鶏から貸し与えられた能力のひとつを意味した。
「……様」
菖蒲は呟く。待ち合わせは花鶏様、此度の顛末を報告せねばならない。
日車は死んだ、死んだのだ。その一助を担ったのは自分だと言うのに、何を。
「向日葵は、枯れましたか?」
何を聞いているのだろう。わたくしが見送ったというのに、死出の出立を。
「いいえ、枯れていませんよ。それも長くは持ちませんが」
ま・た。枯れるでしょうね。
ぽんとかじかむ手にからめられる、大きく。意図不明の慰めを聞いて、理解しようと脳を働かせる。
振り返らない、そこに答えがあるのに、これは矜持だ。解答編を読むのは答えを出してからだ。
どうしてだろうか?
数多の探偵を殺めてきた菖蒲はその体温の在処を知らない。学園と外界を挟んだ境界線は、揺らぐ。
「ええ、時計草はまた現れたそうですよ。このままでは幾らの探偵が無駄に枯らされることか?」
日車がその役目のいくばくかを担ってもらえるなら、それは嬉しいことですね。
第一級探偵は心の中で呟いた。
これが漏れ聞こえることはないだろう。ははは、何の意味があるかは知らないけどね。
だって……?
「時計草は、”彼女”の意志は伊藤日車と名のつく、魂を同じくするすべての人工探偵に
憑いて回ります。お前は、その一翼を担ったのだから、感謝しなければいけませんね」
お前が、下らない下心を出したばかりに数多の伊藤迷路は未亡人ですよ。
事実だ。
伊藤迷路は泣いている。菖蒲の知る迷路もまた、日車の無残な姿を見て泣いていた。
女の身で女型(めがた)の探偵を押し付けられた、そう思っていた。
あわよくばと思ってしまった淫らな私を咎めるように、葬列の場でもいたたまれなくなり菖蒲は逃げ出した。
「それは……何を、どんな意味でおっしゃられたのですか? わたくしはそのような――」
菖蒲は努めて平静を保ったが、声の調子でようやく感づいたらしい。
横恋慕をしていたと言うのは正確ではない。だが、良からぬ気持ちを僅かなりとも
抱いてしまったと言うのは正しかった。
いや、気付いたところで遅いのだが。振り向こうとする間にも言葉は放たれた。
天から降り注ぐ言葉は上の言葉であり、神の声に似ていた。
「そう言うなら這いつくばるのは止めにして、真冬の太陽を仰ぎ見てはどうか?
ササニシキは泥砂とキスをして生きるのでなく、人と探偵、顔を突き合わせることを選んだのでは?」
気が付くと、菖蒲は仰向けになっていた。
草履の裏が視界を占めて、太陽が、見えない。
207
:
千葉時計草(伊藤日車)
:2015/01/01(木) 23:06:58
「さて、地の文はここで終いにしましょうか」
……それは、
「黙りなさい。何かを変えたいのなら口に出して言うのです。
私、工藤之新本格月宮ヶ雷花(くどうのしんほんかくつきみやがらいか)が言っているのですよ。
木様の友人が無様に敗れたために、私の存在が泡沫の如く、語られる機会が消え失せてしまったのですよ?
責任を取りなさい。伊藤日車はこれからも、どこかで死に続けます。
遠藤之本格古笹ヶ菖蒲(えんどうのほんかくふるざさがあやめ)、木様には敵を討つことも、
迷宮時計の謎を解くことも叶いません。そこで足の裏を舐めながら、口を噤んで私の推理を黙り聞け。
時計草は『欠片の時計』と一体化した参加者です。
いや、むしろ。どこからが卵で鶏なのか? 死ぬために生まれる彼女達は相方たる人工探偵が
何度死のうと乗り換えて復活します。
双子のきょうだい藤原京と、何度この戦いに挑んで散っていったか、私は面倒なので数えていません。
しかし、そこまで際限のない問題ではありませんでした。
何故なら、はじまりがあっておわりがなければ――時計ではないからです。
藤原京を見失った時計草は日車を手に入れました。二歳児を言い包めること、容易かったでしょうね。
花鶏が木様に何を目的として、この戦いの観測を言いつけたのか?
分かる気がしますよ。迷宮時計の副産物、繋がり続ける平行世界の発見と時計草の破壊です。
迷宮時計はね、部外者が関わること自体が時間の無駄なのですよ。
あれはね、エゴを貫き通すための小道具なのですよ。参加者の皆様も理解しているでしょうが、
個々人が主張する『迷宮時計』の正体など、最後の一人が確定させるまでは妄想に過ぎないのです。
たとえ、ループしていようが一つの世界を現実に破滅に導こうが、そんなものは大河から弾き出された
飛沫のひとつに過ぎない。ふふ、滑稽、滑稽!
そんなもののために、みんなが泣いて笑って怒って、散らすなんて!
馬鹿の集まりですね、なぜ時計そのものが願いを叶えてくれると思いました?
願いを叶えるのはどうあったって、その者の意志に違いないじゃないですか?
全能足り得ても、全知足り得ない、己の手の届く範囲しかどうこう出来ない、そんな不完全な魔法のランプ!
どうして信じられないんでしょうね?
百人、千人、百万人にも、チャンスを与えてくれたのですよ? 時逆順は、優しいじゃないですか?
それなのに、どうしてみんな、幸せになろうと思わないのでしょうね?
迷宮時計を残酷なものにしたがって、みんなを不幸にしたかった魔法少女は、だから消えたのかな?
結局、思いの強いものが生き残って、真実(エゴ)を押し付ける。
時を遡り、設定を書き換える。糸目の正体ひとつとっても、千差万別。
けれど、生き残る。真実は収束する。
誰も、この戦いの中でひとりひとりが求める世界、そこに基準世界が近づいていることに気付いていない。
一度でも勝った時点で自分の世界はより強固なものになっているというのに。
ん? もごもごと口を動かしてどうしましたか?
ええ、地の文が否定された以上は会話文がすべてですからね。
勝手に解釈しますよ。
『時だってぶたれちゃたまらない』と、気違い帽子屋は言いました。
藤原京と時計草、ふたりについて調べなさい。
人間の方々は魂の在処を知りたがっていますが、
人工探偵のそれはもうどこにあるのか確立されているのだから。
私は一つしかいない。魂は一探偵に一つだから。
木様も一つしかない。魂は一探偵に一つだから。
ふたりはひとつのところにしかいない。
だから、これを読んでいるすべての参加者に、決勝戦に歩を進めようと言う者に告げましょう。
時計草を破壊せよ! 彼女を永久に眠らせよ! さもなくば――、痛い!」
208
:
千葉時計草(伊藤日車)
:2015/01/01(木) 23:08:07
「――随分、好き勝手やってくれたものだ。
木君の言い分を借りれば、参加者でも何でもない雷花が喚きたてている。
語るべき言葉を持つは日車、あの子だけだとなぜわからない?
先に言っておこう。私、遠藤花鶏は愚妹『雷花』の首を完全にきめて、あと一歩で落とす状態にいる。
足を動かすことは出来ない。
ジメジメと、やかましい。キノコ栽培でもしていなさい」
「ぐ――、花鶏。木様――」
「姉様(あねさま)と呼びなさい、と言いながら更に極めます」
「が――、三十路越えの若ブリっ子が、私よりチビッ子なくせにお姉さんぶるんじゃねーよ……」
「……、いつも座っている木身に合わせるためにわざと背を縮めてあげているのですよ……」
「ぎ、ぇ……」
落雷!
地の文が戻って来た時、そこに電気椅子探偵の姿はなかった。
この雷は何ら物理的に影響を与えるものでは無いと言えど、菖蒲の目を晦ませるには十分で。
菖蒲が視力を回復させた時、背中合わせに立たされていた。
果たして、今度は上手くやれるだろうか? 菖蒲にはわからなかった。
振り返った時、そこにあるのは圧倒的な過去そのもの、自らの手で時代を築き上げた先人の姿だ。
菖蒲は第一級探偵を見たことは今まで一度もない。
振り返り、見たのは小さな自分だった。過去はいつだって、小さく美しく見える。
非正規の、望まれぬ人工探偵の正体がはじまりの人工探偵のクローンだったとはどんな皮肉だろう?
「雷花は馴染おさなにも先の話をしているかもしれない。
日車には悪いけれど、彼女に優勝してもらった方が丸く収まる、そういうこともあり得ると覚悟して。
あの女なら時計草を破壊してくれるかもしれない。なら、日車が人柱になった甲斐もあると言うもの」
菖蒲は首肯の言葉を吐いた。
「はい、お母様……」
209
:
ツマランナー
:2015/01/05(月) 15:51:36
『ツマランナーエピローグ』
ジャーン!
「聞いて下さい。『糸目射止める』」
「ワン、ツー、ワンツーさんし」
ジャカジャカジャカジャカ
「ワイには一つ下の後輩がいる〜 しょっちゅう喧嘩した奴がいる〜
ワイが漫研に遊びに行って澤君を誘惑する度に〜 梶ちゃんにどつかれた〜」
ジャカジャカジャンジャン
「漫研の男〜 漫拳の漢〜 今日は漫拳使い梶原惠介の〜 必殺技を教えよう〜
半年前漫研に遊びにいった時〜 目を細めながら梶ちゃんはこう言った〜」
ジャン!
「『おいカマ野郎、漫画世界の糸目って全体的に強キャラなんだぜ』確かにそうだね!」
ジャカジャカジャン
「糸目 糸目 ビバ糸目 糸目のニンジャ(左衛門兄様)
糸目 糸目 ビバ糸目 糸目の超人(ラーメンマン)
糸目 糸目 ビバ糸目 糸目の立海(データテニス)
糸目 糸目 ビバ糸目 そんな糸目で今日もワイは漫研から追い出された〜 サンキュー!」
ジャーン!
パチ パチ パチ
「いい曲じゃねえか。この末期がんの身体にも感動が伝わってくるぜ」
「飯田ぁ!よくもヌケヌケとワイの前に出れたなあ!」
再会は突然だった。ツマランナーが次のツアーで発表する新曲を練習している所に突如
拍手と共に飯田トオルが出現した。ツマランナーはさっきの曲で得た力で糸目オーラを纏い
遠慮無しの全力で蹴りかかる。
「死ねや!百戦百勝脚ー!」
「おっと」
飯田トオルはツマランナー渾身の蹴りを片手で止める。
「ひでえな、かつての仲間にいきなり本気の攻撃か?」
「こちとらお前が色々怪しいのはとっくに御存知なんじゃい、ボケ!」
世界標準時計との融合が解除され迷宮時計自身から情報を得る事は出来なくなったが、
本葉柔、そしてワカバウツキとの情報交換はツマランナーに多大な知恵をもたらした。
勉強はロクに出来ない彼だったが、他世界の事情通達の意見からようやく飯田トオルの
存在のおかしさに気付き、飯田トオルが認識操作と時空移動を行いながら迷宮時計争奪戦を
監視しているという結論に至っていた。
「15年以上全然年とらんし、四葉との勝負を当たり前の様に実況するし、マジふざけんなや!」
「お前の知らない世の中にはな、初対面の相手を幼馴染にする魔人もいるんだぜ。
頼れるけど病気のオッサンを演じ続ける能力があってもいいだろ?」
「ドアホ、飯田の能力の原理とかはどーでもええねん?質問するから答えろや」
「よし、この末期がんの俺が答えられる事なら教えてやろう。お前は俺のお気に入りだからな、
三つまでなら許そう」
三十秒が経過しツマランナーの糸目が解除される。漫画的糸目パワーに12ビートを乗せた
連撃を会話の合間に放ち続けていたが飯田トオルにダメージを与える事は出来なかった。
殴るだけムダと考えたのかツマランナーは構えを解き、苦々しい顔をしながら質問タイムに入る。
210
:
ツマランナー
:2015/01/05(月) 15:53:41
「そやな、まず絶対聞きたい事一つ目、四葉とウツキとコウ、それから本葉ちゃんには何もしてへんやろな?」
「おやおや、復讐鬼そのものだったツマランナーさんが随分と甘い事言う様になったもんだな」
「ええから答えろや」
「俺が興味あるのは優勝の可能性のある迷宮時計所有者だけさ。四葉の所には一度行って
ドーナツ一緒に食べただけだ。で、この世界に来てからは真っ直ぐお前に会いに行ったから
何の心配もいらないぞ。ボンバーなんてのは知らん」
「そうか、ほなら質問タイムは以上や。こっからは拷問タイムや!」
ツマランナーが両手を大きく振り回すと地面から金属製の糸が舞い上がり飯田トオルの身体に巻き付いた。
「うおっ!?」
「漫拳はフェイント、これが糸目射止めるのホンマの狙いや」
高速の打撃に合わせてベースの弦で糸の結界を作り出す、それがツマランナーの新曲
『糸目射止める』の真の効果だった。
ベーシストだから糸使いのスキルが使えるという展開に無理を感じる読者もいるだろうが、
そういう人は『ピアノ線を手にしたラトン先生』を想像して欲しい。
どうだろうか?ピアノ線を使って相手をバラバラにするラトン先生が容易にイメージ出来ないだろうか?
だったら、相手を一時的に捉える程度の糸技術をツマランナーが使っても問題ないだろう!
「また成長したなツマランナー。だが、並の魔人ならともかく、こんなんで俺の動きを止めたつもりか?」
「今やコウ!やったれー!」
「はい!」
飯田トオルの背中に衝撃が加わると両手を同時につかみあげられる。
ステルスを解除したコウが飯田トオルをパロスペシャルの体勢でガッチリ固定していた。
「確か・・・ワカバウツキの所持品のコウちゃんか。お前、いつからここにいたんだ?」
「ツマランナーさんが新曲歌ってる時の合いの手、あれ私です」
「なるほどな、だがやめておけ。お前の技は俺には効かない。ボスキャラにデバフやバステが効くか?」
「いや、以前緊急脱出装置で飯田ぶっとんどったやん。コウの技術も普通に効くんちゃうの」
全員しばし沈黙。
やがて飯田トオルが黒幕めいた表情のまま口を開いた。
「やめてくれコウちゃん、その技は俺に効く。というか無力化は既に効いてる」
「・・・」
「・・・」
「やめてくれ」
「・・・コウ、やってまえ。魔人能力無効化とスタンガンと万力の三点セットや」
「了解」
211
:
ツマランナー
:2015/01/05(月) 15:54:35
【数分後】
「こんな小汚いのが迷宮時計争奪戦の元凶?」
「おいおい、出会って早々酷いなウツキちゃん。ところでこのパロスペシャル外させてくれない?
手首骨折していて痛みが尋常じゃないんだけどなー」
「お幸、絶対離さないで」
飯田トオルに反撃する力が残って無い事を確認したツマランナーはウツキを呼び寄せて
事情を説明した。戦闘力の無いウツキはもしもの時の為、三メートルほど距離をとりながら
尋問に参加する。
「状況は理解しとるな飯田?三つと言わず知っとる事全部話さんかい。この戦いは誰が仕組んだのか、
誰を倒せば終わるのか、敗退したワイらに出来る事はあるのか、いずれ世界が終わるとしたら
タイムリミットは存在するのか、それからえーと、とにかく全部や!!」
「そんなん知らねー、俺は通りすがりの末期がんホームレスだって」
「無関係なホームレスがどうやって20世紀末の梅田からここまで来るねん!コウ、電撃や」
「アジャパー!わかったよ、説明するから紙とペンくれ。どーせお前もアホだから
紙に書かんと理解できないだろうからな」
ツマランナーはウツキからボールペンを借りると飯田トオルの口に押し込み、
裏返しにした楽譜を地面に置いた。飯田トオルの両手はパロスペシャルで固定されたままだ。
飯田はブツブツと文句を言いながらも口でペンを振り回し、楽譜の裏に器用に字を書いてみせた。
【支配者】迷宮時計完成まで辿り着きその支配権を得た人物(目的は戦いを永遠にを楽しむ事?)
【中間層】俺(支配者からの注文に従い迷宮時計争奪戦を調整する手駒。俺以外にもいるかも?)
【下層】迷宮時計参加者(迷宮時計の力を高める為の器や争奪戦を運営する手駒候補)
【介入者】日本政府、スズハラ、ニャントロ、探偵(迷宮時計を利用しようとしている?俺も詳しくは知らん)
【最終処分場】迷宮時計の力によるループで生じた未来無き滅びた世界。
(かつて最終処分場として滅ばされた世界があったが、争奪戦がループし続ける限り
歪みは増え続け、第二第三の処分場が生まれるだろう)
【迷宮時計裏ルール】迷宮時計所有者は殺意を刺激され多かれ少なかれ戦闘による解決を望む様になる。
(俺の観察では様々な人間がこの効果で戦闘行為に躊躇しなくなった。ツマランナー、お前もそうだっただろ?)
【迷宮時計争奪戦今迄の流れ】
1:一人の転校生がバラバラになる
2:欠片になった転校生、復活の為に自分を集めた者の願いを叶える事にする
3:転校生の欠片が揃う、だが集めた人物は願いの力で完成を拒絶し争奪戦のループが始まる。
4:何度目かのループで俺、飯田トオルが優勝手前まで行き真実を知り手駒となる。
212
:
ツマランナー
:2015/01/05(月) 15:55:41
「・・・これ本当?」
ウツキの顔には怒りとも呆れともつかない感情が浮かんでいた。
彼女自身迷宮時計の行いには熟知しており、飯田が書いた事の半分以上は既に知ってはいた。
だが知らなかった部分、そのどれもこれもウツキの想像を超える最悪の情報だった。
「俺の想像の部分もあるが、俺が優勝直前で出会った奴が黒幕かそれに近い人物だと考えている。
迷宮時計の目的が全パーツ合体しての復活なんだから、何度もループさせてるのは迷宮時計の意思とは
別の存在であり、その上で迷宮時計の力を自在に使える人物って事になるだろ?」
「お前何が目的やねん?何でそんな奴に従ったんや」
「協力すれば世界を元に戻してやると持ち掛けられた。俺の居た世界は最終処分場に巻き込まれ
滅びかけていたからな。本当は優勝して世界を修復したかった。自分の世界が消える原因になった
あいつをぶっ倒して終わらせたかったんだが・・・今は見ての通り『ホームレス』さ」
ツマランナーは飯田が自分にやたら干渉してくる事の理由にようやく気付いた。
この男は自分と同じ目的で戦っていたのだ。迷宮時計の影響で自分の世界が滅ぼされる可能性を無くす為に
優勝を目指した自分。迷宮時計のループにより消えていく世界で時計の欠片を手にし、
元凶を倒す為に動いていた飯田トオル。
飯田トオルはツマランナーと同じ、いや、遥かに過酷な状況で迷宮時計による危機と戦っていたのだ。
「コウ、パロスペシャル解除して治療してやれ」
「よろしいのですか?」
「私からもお願い、お幸。この人には敵意は無いわ」
偽ギブアップは千里眼。戦闘力が無い代わりに話術に長けたウツキは
飯田トオルの本心を見抜いていた。二人の言葉に従いコウは飯田の拘束を解除する。
「おー、だいぶ楽になった。で、改めて質問はあるか?」
「飯田さん。貴方に命令を下していた人物の名前を聞いておきたいのですが」
「ああそうだな、参加者の中には奴の名を知っているのも結構いるしもったいぶる必要もないな。
あいつはマジもんの戦闘狂でさ・・・」
飯田トオルが黒幕(かもしれない人物)の名を語ろうとしたその時、横からツマランナーが口を挟む。
「そや飯田、さっきの話聞いて気づいたんやけどお前のおったっていう世界、もう救われとるぞ」
「マジでか!?」
「最終処分場やろ?ワイらに勝った本葉ちゃんは復興したそこから来たねん」
「聞いてねえぞオイ・・・よし、ちょっと確認してくる」
飯田トオルは空に向かって手をかざし、カーテンをめくる様に空間を引っ掻いた。
「開け、異界門!」
しかし、何もおこらなかった。
「開け異界門!開けっての!俺は迷宮時計争奪戦調整者飯田トオルだぞ!」
「すみません、何してるんですか?」
「普段はこうやって平行世界を移動してるんだが・・・開けーっ!!お、来たっ!」
空間に亀裂が入り、空が割れ闇が流れ込む。闇の中心には千を超える時計を組み合わせて作った
巨大な龍がとぐろを巻いており、その龍が大きく口を開くと地面に闇色の息が吹きかけられ、
その部分は瞬時にモザイク化して砕け散った。この様子を見たツマランナー、ウツキ、コウの三人は
SANチェックです。
「おいコラ飯田ーっ、何ちゅうもん呼んどるんや!」
「タイミング的に俺が呼んだみたいに見えるけど俺じゃねえよ!」
「で、明らかにヤバイあれは何ですか?」
「時計龍、ループによって生じた歪みをエネルギーにして動き、召喚された場を最終処分場と同じ状態に
するまで暴れ続ける存在で、俺をこき使ってきた奴の切り札の一つだ。平行世界移動が封じられた状況と
合わせて考えると、俺が裏切ったと認識した奴がこの世界ごと俺を切り捨てる為に送り込んで来たんだろうな」
「つまり飯田さんのせいなのですね」
「しゃあない、皆でアレ止めるで」
「頑張れよー」
「「「お前も戦えよ飯田トオル!」」」
飯田トオルに命令し迷宮時計の力で永遠の闘争を楽しんでいたという人物は誰だったのか?
そいつが本当に黒幕なのか?だが、まずはこの世界の危機をなんとかせねばならない。
戦えツマランナー!時計龍を打ち倒しこの世界を救うのだ!
ツマランナー編 終わり
213
:
稲枝田
:2015/01/07(水) 03:05:27
古沢糸子
tp://p.twipple.jp/5piXT
214
:
本葉柔
:2015/01/07(水) 08:26:52
『ディスコ突入五時間前』
いやいや、コレないでしょ。
いくらなんでもコレは恥ず過ぎるんですけど!?
なんで、この服こんなに体にぴったり張り付いてるのー!?
こんなの服の上からでもおっぱいの形とか体型とか丸わかりじゃないの!!
やだあああーっ!!
「おーい、本葉ぁー、まだ試着終わんないのかー?」
「あううー、今終わったけど見ちゃダメーっ!」
次の戦闘空間は過去のディスコ。
ツマランナーさんと若葉卯月ちゃんの迷宮時計はとても強力で、戦闘空間の情報は前よりもずいぶんと詳しくわかるようになった。
今度は間違いなくAD1980年代の日本。
(※基準世界等では時ヶ峰紀元のATではなく、ADと書くらしい。なんかヘンな感じだ)
ケンちゃん達と時代考証を重ねた結果、ディスコに溶け込むためには『ボディコンシャス』というタイプの服がベストという結論になったんだけど――
こんなの恥ずかしくて着れないよーっ!!
これ着てってさ、もし図書館の時みたいに服装ミスって回りは普通の服着てたらどうするの?
はっきり言ってこれ完全に痴女だよチジョ!
警察に逮捕されて連行されて即場外負けだよおおっ!
この服ってケンちゃんの趣味なんじゃないの!?
ケンちゃんの変態っ! 変態変態へんたーいっ!
††††
すごく恥ずかしいボディコンシャス服を2着買ってから、フライドチキンを頬張りながら作戦の再確認。
パパとママに迷宮時計のことを説明したので、軍資金はばっちりなのが心強い。
というか、コレって完全にデートだよねデーート!!
この点では迷宮時計に感謝しなくもないね!
「日下景、という人物はこの世界では見つけることができなかった。完全に別世界の人間か偽名だな。能力のヒントもないので怖い」
うん。怖いよう。
もし即死能力とか持ってたらどうしよう。
「図書館では失敗したけど、今回もフラガラッハでサーチ・アンド・アンブッシュでいいんだよね?」
ケンちゃんがうなづく。
ふううー、ケンちゃんが保証してくれると心強いぜー!
「本当は変身して開幕直後にフィールド全体を焼き尽くすのが一番勝率が高いんだが、無関係の人を大量に殺しかねないからそれは出来ない。だが、ヤバいと思ったら即変身するんだぞ」
うん。できるだけ人は殺したくない。
でも、ケンちゃんの所に帰るためならば、いざとなったら殺す。
その覚悟はできてる……つもり。
スパイシーなチキンをがぶりとかじる。
おいしい。
ケンちゃんと一緒に食べると、ただでさえ美味しいチキンが超おいしい!
「ところでさ、前から聞きたかったんだけど、本葉の本名って“堀町”なのになんで“本葉”って名乗ってるんだ?」
おおお、ケンちゃんが私のことに興味持ってくれてる!
これは偉大なる一歩ではなかろうか!?
「ほら、私って孤児だったでしょ。今のパパとママの所に養子に貰われて戸籍は変わったけど、“本葉”ってのは本当の両親の名前みたいなんだ」
だから、もし本当の両親がまた私に会いたいと思った時にすぐ判るように、普段は“本葉”の方を使うようにしてる。
もちろん、堀町って名前が嫌なわけじゃないし、今のパパとママは大好きだよ。
私のことを引き取ってくれて立派に育ててくれたんだから、感謝してもしきれない。
「悪い。立ち入ったこと聞いちまったみたいだな」
あわわわ、ケンちゃんがまた変な気遣いしてやがる!
ケンちゃんならば、どんどん立ち入って来てオッケーだよ!
もっと来なさい! ウェルカム!
「ぜんぜん! ママだって本葉って名前はステキだって言ってくれてるし大丈夫!」
「あー、あの人、草花なら何でも大好きな感じだもんなあ」
「うん。ママの花好きには困ったもんだよねー」
店内には観葉植物がたくさん置かれていて、ファーストフード店にしては緑がやけに多い。
これは、この店に限ったことではなく、ママが住んでるこの街では普通のことだ。
窓から見下ろす街にも、花と緑が溢れている。
ディスコの戦いまで、あと五時間。
今回も私は絶対に勝ってみせる。
そして、ケンちゃんとパパとママが暮らしている花いっぱいの街に、必ず帰ってくるんだ。
(本編に続く)
215
:
上毛早百合
:2015/01/16(金) 21:48:04
【もし早百合と糸音が協力していたら】
これは、もし早百合と糸音が協力して迷宮時計探索任務を請け負ったらという、「もし、たられば」の話である。
◇◇◇
とある深夜。
迷宮を無事手に入れた早百合達は、活動拠点である隠れ家で一休みをしていた。
早百合はストーブを前に腰掛け、手に入れた腕時計型の迷宮時計を手の中で弄んでいる。
糸音は手織り機で黒い布を織っていた。
ふと、早百合が口を開いた。
「……この時計を手に入れるまでの旅は、ひたすら長く感じたのだ」
「まぁ、実際苦労しましたからね。事前に調べていた欠片の時計があるであろう在り処、あるいは持ち主の情報が偽物だったり、既に誰かに取られたりしていて時間を結構費やしましたからね」
「でもそれだけの時間をかけてグンマーの外を動き回った甲斐もあって、素晴らしい外界の思想を学べたのだ。グンマーの様な全体主義ではなく、個人を大切にするという個人主義。この違いを学べたのは大きいと想うのだ」
「そうですね。全体主義に完全に染まっていた頃の早百合は、手を切ろうとしたりしましたもんね」
「うっ。それは恥ずかしい過去なのだ……」
◇〜回想〜◇
それは任務に出かける前日の夜のことであった。
用事があって糸音は早百合の部屋を尋ねた。
「早百合、明日の任務のことですが――」
しかし途中で糸音の言葉は止まった。
早百合が持っている物、そして早百合が今から行おうとしていることに気づいて言葉を無くしたからだ。
「なんだ? 用件があるなら早く言うのだ」
「『なんだ?』じゃないですよ! 貴方、今何をするつもりで裁断機なんかに左手を……!」
「見れば分かるだろう。今から切断するのだ」
「切断!? そんな、なんの為にそんなことを……!」
「それは――」
左手を使った策のことを、早百合は詳細に説明した。そしてそのために今から左手を切断するのだと。
「勝利の為に、これは致し方ないことなのだ」
「……」
「糸音……?」
「……ッ!」
パァン、と激しい音がした。
「いと、ね……?」
早百合は頬を押さえる。糸音に頬を打たれたのだ。
「やめて下さい……!それは、あなたの、大事な左手でしょう!!」
「だが、ハマればこの策はかなり有効に働くはずなのだ……グンマーの為には仕方のないことなのだ」
「策がどうこうではありません! 戦闘空間での戦闘ならいざ知らず、この基準世界で切断したら二度と左手は戻ってこないのですよ!?」
「そんなこと、分かっているのだ。でも」
「でもじゃない! そのハマるかどうかも分からない策なんかより、手の方が大事に決まってるでしょう!? お願いですから、そんな馬鹿げたことはやめて下さい……!」
縋りつくように早百合の左手を両手でつかむ糸音。
普段冷静な糸音の必死な訴えに早百合は。
「……分かったのだ。糸音がそこまで言うなら、しょうがないのだ」
「本当ですか? 後でこっそり切断したりしたら怒りますよ」
「そんな面倒なことはやらないのだ。でもなんでそんなに必死に止めたのだ……? 別に糸音の手を切断するわけでもないのに」
「それは……なんででしょうね? グンマーの教えに沿うなら、グンマー人はグンマーの宝。だから体も無闇に傷つけてはいけない、ということでしょうか。うーん、でも少し違う様な……よく分からないですけど、とにかく衝動的に止めなくてはいけないと思ったのですよ」
「ふーん。優等生の糸音にも分からないことはあるのだな。そういえば、ここに来た用件はなんだ?」
「あ、それはですね。集合時間を早めに変更しないかって話なんですけど――」
◇◇◇
「思えば、私のあの時の感情は『他人を想う』ということだったのでしょうね」
「うむ。グンマーに居た頃はそんな単純なことも知らなかったのだ。グンマーでは損得を第一に考えるよう教えられてきたからな」
「えぇ。他のグンマーの皆さんにも……他人を想うということを……教えたい……もの、です……」
「……糸音?」
「……」
早百合が無言になった糸音の方を見ると、糸音は眠ってしまっていた。
それを見て、思わず微笑んだ。
「まったく、しょうがない奴なのだ」
早百合は布団を持ってきて、糸音の肩に掛けてやった。
この任務を受けてから得たもので一番大きかったもの。
それは糸音との強い絆だろう、と早百合は思う。
糸音の隣に椅子を持ってきて、早百合も布団に包まって眠り始めた。
【END】
216
:
フランシスカ(西)
:2015/01/21(水) 21:39:13
【フランとゴリラの大冒険!迷宮時計編】
『VSシスターセシル』
フランとゴリラはとっても仲良し。
いつも一緒にお散歩するの。
「今日は懐かしのアリマンヌ児童館に行こう!」
「ウホウホ……じゃねーよ!何で俺がゴリラなんだよ!」
「えー、だって人類よりゴリラに近くない?」
「酷いなお前……」
フランとゴリラが聖アリマンヌ教会附属のなかよし児童館に行くと、美しいピアノの音色が聞こえてきました。
「これ弾いてるの、きっとセシルだよ」
「ふむ、ずいぶん上手いな。プロ級じゃないか?」
「ふふふー、自慢の幼馴染みです!」
「だが、何だろう。この曲の美しさの中に感じられる深い哀しみは……」
「おおう、音楽センスも冴えてるぜ流石だぜ。――そうなの。彼女も私と同じで捨て子なんだ。ま、児童館のみんなはそんな子が多いけどね」
「……ふむ」
そして、フランとゴリラは児童館の中に入っていきます。
フランの予想は大正解!
礼拝堂のピアノを弾いていたシスターセシルが来客に気付いて出迎えました。
「久しぶり。この方が例の彼氏?素敵な人じゃない!フランったらやるねー」
「ただいま、セシル。あんまり児童館に顔を出せなくてゴメンね」
「ドーモ、彼氏のゴリラです」
「えっゴリラ!?」
だけど、おやおや?児童館のみんなの様子がおかしいです。
なにやらひどく落ち込んでいます。
「どうしたの?」
「ウホウホ」
シスターセシル達が言うには、シスター長が教会の金を横領してホストに貢いだ挙句に夜逃げしてしまったそうです。
お陰で、元々苦しかった聖アリマンヌ児童館の台所事情は火の車。今にも閉鎖の危機に瀕しているのです。
「そうだったとは・・・」
「ウホウホ」
「そうだ、こんなところにパスタがあるわ」
「ウホウホ」
フランはキッチンタイマーとパスタの束を取り出して、得意の料理を児童館のみんなにふるまいました。
それはもう最高にアルデンテな出来映えで、シスターセシルと児童館のみんなは少し元気が出てきました。
でも、たった一食のパスタでは台所事情が抜本的に改善するわけもありません。
それに、フランの作ったシーフードパスタはとっても美味しかったけど、魚介類が苦手な子どもも多いのです。
リュネットちゃんみたいに、海の幸が大好きな子ばかりならいいんですけどね。
「そうだ、こんな所にキノコがあるわ!」
「いや、キノコじゃなくて剣だが」
「まあまあ、キノコも剣もアレの隠喩だから一緒一緒!」
「おい……俺のキャラ壊しすぎだろ……」
そう言いながらも、ゴリラはどこからともなく『けんの山』を大量に取り出しました。
『けんの山』とは、基準世界における『きのこの山』のニッチを占める人気のお菓子です。
歴史の復元力によって、この世界の歴史と文化は基準世界とほとんど同じ経過を辿っていますが、このように細部は色々と違いもあるのです。
ともかく、チョコレート菓子が嫌いな人間なんてほとんど居ません。
セシルもみんなも『けんの山』を食べて大喜び!
「ピアノ弾くぞ!ピアノ弾くぞ!ピアノ弾くぞ!」
「昆布で殴るぞ!昆布で殴るぞ!昆布で殴るぞ!」
「ボンバー!ボンバー!ボンバー!」
「俺の筋肉だ!俺の筋肉だ!俺の筋肉だ!」
217
:
フランシスカ(西)
:2015/01/21(水) 21:39:39
チョコレートには、人間の脳を活性化させる魔法のような効果があることは皆さんご存知ですね!
そして、ゴリラが良いことを思い付きました!
「そうだ。今度、女性限定の世界格闘大会が開かれるって話、聞いてないか?俺も女装して参加しようと一瞬思ったんだが」
「やめて!」
「賞金がすごいって話だぜ。誰か腕っぷしの強いシスターとか居ないか?」
「うーん、フラン、出てくれる?」
「うー、ゴメン。わたしちょっといま別件でたてこんでて……」
「はいっ!私が出ます!」
「駄目。大事な話の最中だからリュネットちゃんは向こうで遊んでてね」
「私つよいのに……」
シスターセシル達は、リュネットちゃんが兵器であることを、まだ知らないのです。
「そうだ、マリー!」
「あ、マリーならば行けそう行けそう!」
シスターマリーは、ちょっと不良っぽい女の子ですが正義感に溢れていて、我流の喧嘩殺法も中々の強さです。
よし、マリーに頼んでみよう、とフランが腰を上げましたが、セシルは引き止めました。
「慌てないで、フラン。マリーをその気にさせるには、まずはエルザに話した方が早いよ」
「なるほど!」
シスターエルザは、幼い頃からのマリーの親友で、マリーの扱いならば聖アリマンヌ教会で最も上手いのです。
でも、実はエルザは重い病を患っていて……というお話は別の機会にいたしましょう。
これは、フランシスカとゴリラの物語ですからね!
「目的のシスター服ももらえたし、今日もいい事したね!」
「ウホウホ!」
「あの……ゴリラ扱いしたの怒ってる?」
「べつに」
「ううー、ごめんなさい」
「気にしてねぇよ」
「ふふ、明日も一緒に出掛けようね!」
「おう」
めでたしめでたし。
(裏決勝戦【過去】地下墓地に続く)
218
:
本葉柔
:2015/01/23(金) 20:16:11
>>216-217
特にトリックとか仕掛けてはいなくて、普通にフランシスカ=本葉柔です。
ゴリラ扱いされてるのは、時ヶ峰堅一くんです。
本葉柔はクリスチャンで、洗礼名がフランシスカであるということを説明する主旨のSSですので、深読みする必要はありません。
219
:
本葉柔
:2015/02/13(金) 21:55:27
『スプリング・ハズ・カム・フォー・マイ・フェア・レディ』
切り裂きジャックが死んだらしい。
とんだ間抜け野郎だ。
だが、ロンドンの闇がすべて排除されたと思ったら大間違いだ。
まだ俺がいる。
切り裂きジャックの義兄弟、バネ脚ジャック様がな!
(題名のスプリングって、そっちのスプリングなのーっ!?)
なんだ? 時空を超えた突っ込みが飛んできたぞ?
まあいい。
俺は、切り裂くだけしか能がないリッパーの奴とは違う。
両足をバネに変える最強の能力『ドクター・ナカマツ』で、世界を恐怖で染め上げてやる。
(能力名が時空を超えてるんだけどーっ!? ていうか、シェルロッタの能力の完全下位互換で最強とか言ってるーっ!?)
誰だよお前、うるさい幼女だな!
能力ってのは本体性能が伴ってこそ最強なんだよ!
見よ、ロンドン橋を軽々と飛び越えるこの身体能力!
(私は、友達を止めてくれた子の様子を見に来たんだ。ところで、そっち行かない方がいいよ。――もう遅いけど)
「ぐあっ!?」
ロンドン橋の上空で、俺は目に見えない網に絡まれて宙吊りになった。
なんだこれは!?
何が起こっている!?
眼下のロンドン橋には、二人の少女。
銀のマントを身に纏い、赤い花の髪飾りを付けた黒髪の少女が言った。
「――霞絡(ミスティックキャッチャー)。霧の町ロンドンでは全然見えなかったでしょ?」
もう一人のオリエンタルな作業着の少女が、キラキラとした物を放り投げた。
あれは――硝子玉?
硝子玉はシュー、と音を立てながら霧の尾を引いて高速で飛んでくる。
そして、俺の目の前で爆発した!!
「ぎゃあーっ!」
硝子玉の砕けた破片が目に入り、俺の視界は奪われた。
さっきから、何が起きてるのかまったく解らねえ!
(上から来るよ。気をつけて!)
「えっ?」
いや、気を付けろって、何にだよ?
どう気を付ければいいんだよ!?
「スーパー爆ν百貫落としッ! ボンバーッ!!」
上空から降ってきたのは、とてつもない大きさの……おっぱい!!
「グギャボェーッ!!」
とてつもない重さのおっぱいに押し潰され、俺はロンドン橋に叩き付けられた。
俺は……世紀の殺人鬼バネ脚ジャックは……おっぱいに潰されて死ぬのか……。
それは、けして悪い気分ではなかった。
220
:
本葉柔
:2015/02/13(金) 21:56:10
††††
「ふー、一丁あがり! ……この人、死んでないよね?」
と、おっぱいの大きな赤い髪の少女、本葉柔。
「さあ? 天国に行ったような顔してるけど?」
と、椿の髪飾りを付けた銀マントの少女、刻訪結。
「大丈夫。まだ息はあるみたい。あとは警察に引き渡せば事件解決だね」
と、作務衣を着た琥珀色の瞳の少女、飴びいどろ。
三人は、なんかこうスラップスティックな理由で、ロンドンを騒がす殺人鬼を捕まえなければならない立場に追い込まれてたっぽいのだ。
(いや、もうちょっと理由ちゃんと煮詰めてからSS書こうよ!?)
と、ツインテールで半透明な幼女、撫津美弥子。
「ところで、私たちがバネ脚ジャックを捕まえたりして、歴史が変わっちゃわないかな? ちょっと心配」
本葉柔は、超必殺技で乱れた着衣を整え、こぼれかけた大きなおっぱいを包み隠した。
「別にいいんじゃない? 少なくとも、切り裂きジャックの時よりは影響小さそうだし」
バネ脚ジャックを糸で縛って拘束しながら、刻訪結が答えた。
「うん。それに、この人は本物のバネ脚ジャックじゃないんだ。切り裂きジャックに感化されて、自分がバネ脚だと思い込んじゃった別人なの」
この時代に来てから少し時間の経っている飴びいどろは、他の二人よりも事情に詳しい。
「ふーん、それで殺人鬼になんちゃったのか。怖いね」
(いやいや、結さんも比較的怖い殺人鬼寄りのキャラだからね!?)
「思い込みの激しい人もいるもんだねえ」
(自分がボンバー星人だと思い込んでる人にだけは言われたくないと思うよ!?)
その時!
ミシミシ、ドガジャガース!!
おっぱい柔術の破壊力に、ロンドン橋が崩壊した!!
「きゃあああーっ!!」
「うわーっ!?」
「柔ちゃんのおっぱい馬鹿ぁーっ!!」
春とはいえまだ冷たいテムズ川に落下する3人の少女とバネ脚ジャック!
(題名の『マイ・フェア・レディ』って、ロンドン橋の歌詞ーっ!?)
「ボンバーッ!!」
本葉柔が遮光ゴーグルを外して巨大蟹ボンバーνに変身!
オール状の第四歩脚でテムズ川を華麗に泳ぎ、結とびいどろとジャックを救出する!
「ボンバー……(ふふ、ケンちゃんと三度目に戦ったときのことを思い出すな……)」
テムズ川に浸かりながら本葉柔は、大好きな彼との思い出を振り返った。
三度目の対戦は、船ごとケンちゃんを沈めて水中戦に持ち込んで、負けた。
強かったなあ、ケンちゃん。
ケンちゃん。大好きなケンちゃん。
私は、19世紀のロンドンでも元気にやっています。
結ちゃんと、びいどろさんとも、仲良くできてます。
ケンちゃんの声が聴けるから、寂しくなんかありません。
でも、できるだけ早く迎えに来てね。
――愛してるよ、ケンちゃん。
(ちょっと待って!! しんみりとした感じで締めてるけど、大惨事起こしたの柔さんだからね!?)
(本葉柔エピローグ、おしまい)
221
:
本葉柔
:2015/02/13(金) 23:22:21
>>220
誤「ふーん、それで殺人鬼になんちゃったのか。怖いね」
正「ふーん、それで殺人鬼になっちゃったのか。怖いね」
訂正ですー。
222
:
minion
:2015/02/22(日) 01:43:53
山禅寺ショウ子。
tp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=48890983
制約の関係で対戦相手としては敬遠されがちでしたが、ゆるふわ愛され系でイメージアップを図ります。
223
:
ゆとりのぽこぺん
:2015/03/01(日) 20:40:29
野試合風SS
梶原惠介対ツマランナー
戦闘空間:反省会会場
ジャーン!
ツマ「黒パン一筋ツマランナー!」
ジャーン!
梶「仏教一筋サブイネン!」
ツマ「待て」
ジャーン!
梶「色々浮気中カミマクリン!(裏声)」
ツマ「待てちゅーに」
ジャーン!
梶「どうもー!ワイら三人合わせて〜オモロナイトファイブ!」
ツマ「待たんかい!」
梶「どうしたんやツマランナー、このサブイネン&カミマクリンに何かおかしい所でもあったんか〜?」
ツマ「お前は!漫研の!梶ちゃん(本名は山崎智樹)やろが!」
梶「馬鹿な、つかみのネタまで完璧に覚えたのにどうしてバレたんだ!」
ツマ「顔の半分だけメイクして左右で別の衣装着るとかの努力は認めるが、そんな一人二役すぐばれるわい」
梶「ふっふふ、よくぞ見破ったなツマランナー。そう、俺は梶原惠介だ!」
バアァーン(変装解除)
梶「どうやらこの女装用のズラもスキンヘッドに見せる為のハゲズラも無意味に終わってしまった様だな」
ツマ「お前は元々スキンヘッドやからハゲズラは本当に無意味やったな。で、本物の二人はどこ行ったん?」
梶「デート中だ。だから今日は俺とお前で漫才するぞ」
ツマ「勝手に決めんなや!」
梶「えー、大会ですが糸目の神父がぶっちぎりで優勝してしまいましたねー」
ツマ「え?本当にやんの?今日そういう流れ?」
最前列でカメラを構えたスタッフが『お二人はメタな流れ全部把握しているという設定でお願いします』
というカンペを構えていた。仕方なくツマランナーは漫才を続行する。
梶「どうですぅ〜?ツマランナー先輩はアレと当たったら勝ちの目が見えますぅ〜?」
ツマ「うっわ、むっちゃムカツク敬語やな。普通に喋れや」
梶「で、どうなんだよ。あんたはアレに勝てるか?」
ツマ「ワイに勝った本葉ちゃんや梶ちゃんに勝った風紀バカを倒した探偵がほぼ一方的にやられたんやで。
勝てる気が全くせーへんわ」
梶「俺は勝てる!!」
ツマ「何でそんなに自信持って言えるねん。魔人の勝負は相性ってよく言うけどアレは別格すぎやろ」
梶「忘れたかツマランナー先輩。この梶原惠介にはまだ未公開の『漫拳三大奥義』が残っている事を」
ツマ「あー、そんな設定あったような無かったような」
梶「あったんだよ。マジでゴイスーな奥義があったんだ。本編で使う機会は無かったがな」
ツマ「ほー、んじゃ神父にも通じるという三大奥義見せてみろや」
梶「びびるなよ〜、まずは三大奥義その一、全ての生物から中二力を貰って放つ『魔人玉』!」
ツマ「要は元気玉やね」
梶「おっし、んじゃやるぜ!迷宮時計によって生まれた全ての平行世界の生物よ、
オラにちょっとずつ中二力を分けてくれ!!」
ツマ「いやそれはスケールでかすぎやろ!でもまあ確かにそれなら神父も死ぬ、間違いなく死ぬわ」
梶原が両手を上にあげると小さな光の玉が発生し、それは少しずつ、本当に少しずつ大きくなっていく。
手を上げてから二十秒後にはそれはビー玉ぐらいの大きさにまで成長していた。
224
:
ゆとりのぽこぺん
:2015/03/01(日) 20:42:32
梶「いいぞ、もっと集まれ」
ツマ「なあ梶ちゃん、これいつまでかかるの?」
梶「ウィッキーさんのカメハメ波を超えるのに三十分、神父を確実に消すとなると北海道を完全消滅
させるぐらいの威力でないと確実じゃねえから8時間両腕上げっぱなしだ」
ツマ「効率悪すぎやろ!そりゃあ本編で使う機会無いわ!」
梶「効率を上げる方法もあるにはある」
ツマ「お、サタン方式か?」
梶「そうだ、人々両手を上げてくれれば効率はダンチだ。つーわけで会場の皆さんにお願いしよう」
ツマ「せやな」
梶「こらーっ、貴様ら何で俺のいう事を聞かねえんだー!世界が滅びようとしてるんだぞー!」
ツマ「それアカン頼み方やー!」
梶原の頼み方は明らかにアカン頼み方だった。だが会場内の観客の一部は両手を上げて行った。
観客1「ケヒヤヒャー!俺の中二力であの腐れ神父が死ぬのなら喜んで協力しますよぉぉぉー!」
観客2「魔人玉で良い奴に生まれ変わってまたな!死ヒャアー!」
何という事だ、観客に紛れていた糸目達の中二力で魔人玉の色が変色していく!
これはもう糸目玉ではないか!約束された敗北の玉は梶原のコントロールを外れて重力に引かれるように落下。
両腕の間をすり抜けて梶原の頭部に直撃。ゴキリという嫌な音と共に首が曲がっちゃいけない方向に曲がった!
ツマ「梶ちゃーーーーーーーーーーーーん!」
梶「ふう、自分から頸椎を外さなきゃあ死んでたぜ」
ツマ「梶ちゃん、生きとったんかワレ!でもアカンやん、この技」
梶「そうだな、糸目の力が強制的に混ざる時点でこの技では神父には届かねえ。次いくぞ次!
梶原三大奥義その2!えー、この技は俺の元ネタの一つ喧嘩商売より引用した技です。
ツマランナー先輩、ちょっとそこに寝てくれ。奥義その2はダウン後の追撃技なんだよ」
ツマ「はいな」
BOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
ツマランナーが横になった直後、梶原の尻からむっちゃ臭い屁が吹き出し顔面に直撃した!
梶「奥義その2、『梶原メタン』!!」
ツマ「がっ、ぐあああこれうっぐうううう幕張おおおおおおおじざああああああああ」
梶「その臭さ数字にしてクサヤの一万倍以上!!」
tマ「テラフォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
喧嘩商売全く関係無かった。
だが最早ツッコミすらままならなかった。ツマランナーは顔中の穴から液体を流し叫び続ける。
やがてツマランナーは鼻の穴に指を突っこみ強引に鼻全体を抉りとった。
ジャーン!
ツマ「ぎ、聞いてぐだざい『ケアルガエスナ』」
ジャカジャカジャカジャカ
ツマ「バーディにひどりはひづよう、がいふぐやぐ〜、ぎょうもたのんまずブリーズド〜」
ジャカジャカ
ツマ「はーい、びつよーなのばHPがいぶくでずが?ぞれどもバズデでずが?
えーいめんどうりょうぼうかげればぜんがいふぐ〜」
ジャーン!
ツマランナーに染みついた臭いと抉った鼻が修復されていく。
歌唱時間が少なかったので完治とはいかないが普通に喋れる程度には回復した。
225
:
ゆとりのぽこぺん
:2015/03/01(日) 20:44:17
ツマ「よっし、7割がた治った。まだ髪の毛とか臭いし鼻ヒリヒリするけど」
梶「どうですぅ〜、俺の奥義その2の感想は〜、どうですぅ〜」
ツマ「驚いたけど、これで神父倒すのは無理や」
梶「なにぃ!」
ツマ「だってあいつバステの類完全無視してくるやん。悪臭浴びせても体色を七色にしながら
襲ってくるだけな気がするで」
梶「そう言われるとそんな気がしてきた。それじゃあ期待できるのは最後の奥義だけか。
この奥義はあまり使いたくなかったんだがなあ」
ツマ「もったいぶってないで使えや。ワイはもう死んでもいいぐらいの覚悟はできたで」
梶「でもなあ、正直この技は危険すぎるわけだ。三大奥義の中でも禁じ手としてずっと封印してきた奥義だ。
その名は・・・『G・ファイナル』」
ツマ「なんかカッコイイやん!どんな技や?」
梶「この技は段差が無いと使えないんでな。先輩、ちょっとステージと客席の間の階段まで移動してくれ」
ツマ「もう放屁は勘弁やで」
梶「その階段はすべるぞー!」
ツマ「は?」
梶原がそう言った瞬間ツマランナーは足を滑らせた!
ツマ「うわああああーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
階段を転げ落ちると共に服が脱げて行き、全裸になり床に転がった。
その時である!いつの間にか一緒に転がっていた猟奇温泉ナマ子と本葉柔、
そして日下景が上から降ってくる!
ビターーーン!
鏡餅の様に積み重なる4人!もろちん全員全裸!そして心なしか全員の顔がエンピツで書いたかの様な
汚い輪郭かつ中途半端な劇画風になっている!
ツマ「うう・・・」
ツマランナーは動けない、落下のダメージもあるが上に乗っている柔の体重はトン単位なのだ。
自分以外は全員気絶している様でどうにも動きようが無い。
どうしたものかと悩む暇は無かった。
プップー
ツマ「はうあ!?」
突如クラクションの音がなったかと思うと・・・室内だというのに居眠り運転のトラックが
ツマランナー達に向かって突撃してきた!
ツマ「ギャー!」
全裸で動けない状態でトラックに直撃したツマランナー達は当然バラバラ死!
ツマランナー、柔、ナマ子、日下、梶原の肉片が路上に転がる!
そう、いつの間にかトラックが突っ込んでもおかしくない路上へと場所は移っていた!
そして、サラリと死者に混ざっている梶原惠介!
梶「G(画太郎)・ファイナル、それはギャグキャラほど大ダメージを受ける最終奥義。
だが、対象は必ず複数選ばれ、最初の一人以外は完全ランダムとなる。
ぐっ・・・やはり制御しきれなかったか。グハァ!!」
生首だけになった梶原は自分の技を解説後力尽きた。辺りに死〜んという擬音が響いた後
トラックからビールとピザを持った糸目の神父が降り近くの酒場に入っていった。
戦場:路上
梶原惠介対ツマランナー対猟奇温泉ナマ子対本葉柔対日下景対綾島聖
勝者、綾島聖!
オチがついたので終わる
梶原さんとの勝負が書きたくて書きたくて書いてしまいました。
226
:
不祝誕生日
:2015/10/25(日) 14:10:46
エピローグを書きました。俺にとってSS4とSSドリームマッチをつなげるSSになればいいと思っています
tp://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5960702
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