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FFDQかっこいい男コンテスト 〜なんでもあり部門2スレ目〜

1名無しの勇者:2017/11/23(木) 04:21:29
FFDQなんでもあり部門の小説専用スレです。
シリーズ、作品の枠を超えた作品を投稿する時はこちらで。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

前スレ FFDQかっこいい男コンテスト 〜なんでもあり部門〜
jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/3012/1152707561/

284 1/2:2018/08/04(土) 00:09:04


 板張りの縁側に腰掛け、そのまま上半身をくてりと仰向ける。
 斜め上に視線をずらすと、波のような木目の天井が目に入った。誰か言い出したか忘れたが、幾度目かの再築のときに和室が欲しいとごねられ、B主がわざわざジパングを始めとした和式建築の国に出向いて技法を学んで作ってくれた一室だ。
 冬場はみんなで囲炉裏を囲みながら鍋をつついたりなどしていたが、真夏の今はここを訪れる者はほとんどいない。せっかくの藺草や杉の香りも、この酷暑の中ではその存在が薄れてしまっている。それが無性に勿体なく思えて、肺深くまで大きく息を吸い込んでみると、やはり匂いよりも先にむわりとした温度と湿気が先に立った。暑い。氷水を張った盥に浸した足をかき回すと、ぱちゃん、と跳ねるような水音が鳴った。
「だらっしない格好ですねえ」
 突然ぬっと上から覗き込むようにして見知った顔が現れた。
 反射的に足を振り上げて飛沫を飛ばす。見事に水滴をかけられた相手は、この、と舌打ちして上げたほうの足を捕らえた。そのまま覆い被さるように身を乗り上げられる。
「邪魔だ、触るな、暑い」
「足癖の悪い勇者様にはお仕置きです」
「お前そういう台詞って言ってて恥ずかしくならないか」
「正直恥ずかしいですね」
 素直に認めた8主はごろりと隣に横になり、もぞもぞと足だけでブーツを脱ぐと盥の中に突っ込んできた。
 足癖悪いのはどっちだ。
「狭い、やめろ、出てけ。溶ける」
「ヤですよ。みんなあの蒸し暑い広間で設定温度28℃で頑張ってるのに、一人だけこんなとこでこんな涼しいことして。ずるいです」
「広間にしか空調ついてないのはお前らが散々宿舎を壊してきたからだし、28℃までなのもお前らのせいで修理費がかさんで余裕がないからだし、誰もこの部屋を使うななんて言ってない」
「あーあー屁理屈はもういいですから詰めて下さい。この姿勢で両足入れるのキツイんです」
「これは屁理屈とは言わない。ってか自分で自分のぶん用意すりゃいいだろ」
「……あんた、ほんっと物分り悪いですね。この暑さでノーミソ溶けちゃったんですか。エテポンゲですか」
 なにか反論される前に、8主は横這いの姿勢のまま、俺の身体を背中から抱き込むように腕で引き寄せた。
 ちょうど項のあたりに吐息が触れて、それまでの涼が瞬時に吹き飛んでいく。
「っ、」
「イチャイチャしたいんですって馬鹿正直に言われなけりゃ分からないんですかバカ」
「……ノーミソ溶けてんのはどっちだ、バカ」
 反抗するように腕の拘束が強まった。肌と肌とが密着して、正直イチャイチャとかより暑い。とにかく暑い。汗が絡んで気持ち悪い。
「気持ち悪い」

384 2/2:2018/08/04(土) 00:15:50
「そりゃコッチの台詞ですぅー。汗臭いですよあーた」
「お前だって充分臭えよ。そう思うなら離れろよ」
「いーやーでーすー」
 男二人が密着してひとつの盥に足つっこんで、なんだこの状況は。夏のホラーか。それにしても暑い。暑すぎて引き剥がすのも面倒になってしまった。極力身体を動かしたくない。
「おい」
「何か?」
「……いいや、」
 だから8主の手がだんだんとおかしな動きを始めて、服の下に侵入して汗の浮いた皮膚を執拗に撫でてきたり、腰骨や鎖骨や肋骨などの少し出っ張った部分を指先でくるりとなぞり上げてきても、俺は仰向けで地面に落ちて人が通り掛かるまでぴくりともしない蝉(3主曰くセミファイナルと言うらしい。なんだそれ)みたいに身じろぎしなかった。だってこうして待っていればそのうち、

「真っ昼間から縁側で何してんだあんたらはー!!!」

 ……エロ撲委が来てくれるって分かってたから。
 まるで夏雲のような羊の大群に突き飛ばされ、ぎゃああああ、とありきたりな断末魔を残して入道雲(こっちは本物だ)の彼方に消えた8主を見送り、乱された衣服を整える。ふたりぶんの体温のせいで盥の氷がほとんど溶けてしまっていた。これは新しく入れ直したほうが良さそうだ。全く手間をかけさせてくれる。心の中で悪態をつき、盥から足を抜くと傍らに置いていたタオルで水滴を丁寧に拭った。
「……4主さんさあ」
「ん?」
「いま僕が止めに入らなかったら、それはそれでいいやって思ってたでしょ」
「まさか」
 7主はまるで信じていない顔で肩を竦めた。暑い中頑張ってくれた羊たちに礼を言い、一頭一頭を撫でながら餌をやっている。
「今回は見逃してあげるけど、次からは二人まとめてぶっ飛ばすよ」
「夕食後のデザート、しばらくの間お前の分いっこ増やしてやる」
「………………買収されてあげるけど、それ認めたも同然だからね」
 ああ暑い暑い、のぼせちゃうよ、とぼやきやがら7主が引き上げていく。
 ここ数日は酷暑にやられて流石の5主すら大人しくしていたのに、頭の沸いた馬鹿のせいで出動させてしまって申し訳ない。申し訳ないけれど、どうにか勘弁願いたい。
 なにせこの暑さだ。馬鹿が二人も出てしまっても仕様がないだろう。

4名無しの勇者:2018/08/04(土) 00:35:53
今年も84の日を祝いにきました
短時間クオリティで申し訳ない

前スレ微妙に残ってるけどだいぶぎりぎりなのでこっちに投下

5名無しの勇者:2018/08/04(土) 17:29:25
夏の84投下おつ!&祝84の日!
イチャイチャしたい8主と実は満更でもない4主いいなあ

684 1/2:2019/08/04(日) 17:43:27
 人間たるもの、万物に対し好みの差が出るのは致し方なし。
 まあ僕の場合は純度100%のニンゲンという訳ではないけど、その辺を突っ込むのはあまりに野暮。要はヒトに限らずとも、個として生きている以上任意の対象に好きか嫌いかどうでもいいか、くらいの感情は抱いて然るべきだよねって話だ。
 そして今は夏である。
 なんの関係があるんだとの突っ込みも時期尚早。順に語るから待ってほしい。
 夏というのは暑い。この宿舎に北半球南半球の概念があるのかは知らないけどとにかく暑い。そして人は暑いときほど肌の露出が増える。日焼け対策をしている女性陣などの例外はあるけど大体そういうものだ。
 故に1主さんが鎧兜を外して村人Aになったり、3主さんがステテコパンツ姿で扇風機に向かって「あ゛ーー」とかやってたり、7主さんがアロハシャツにビーサンで海の男(解釈違い)していたりする訳で。
 そんな中、4主さんは普段の長袖シャツではなく紺色のゆったりしたタンクトップにエプロンを身に着け、極めつけに髪を括っている。
 いや分かる、シャツがタンクトップなのは前述の通りだし、エプロンなのは今が昼食の支度中だからだ。そして4主さんの髪は宿舎の面子の中では長い方だし、髪を下ろしていることによる暑さは結構馬鹿にならない。括るのは理に適っている。
 しかしながら髪を、しかもわりと上方で括るとどうなるか。
 簡単なことだ。項が見える。
 ここで冒頭の話題に戻る。ヒトには大なり小なり任意の対象について好きか否かを感じるものだと。
 今この場合、任意の対象を人体の部位に定めるものとする。
 そして僕は人体の構成部品の中でも特に好意的に感じ、その該当箇所について脳内で様々な議論を巡らせながらじっくりと鑑賞したくなる部位がある。
 そう、項だ。
 要するに僕は項フェチなのだ。
 いや、フェチと呼ぶには語弊がある。誰彼構わず好きなわけじゃない。あらくれやおっさんの項にはまるで興味はない。
 ただ、かつてククールに連行されたパブで給仕していたバニーに対して真っ先に視線奪われたのが項で、宿舎の居間にあるテレビで流れるCMに可愛い子がでたときについ見てしまうのも項で、11主君から見せてもらったムフフ本でまじまじと見てしまったのも項で、4主さんと寝るときについつい触れたり噛んだり舐めたり嗅いだりしてしまうのも項だった。だからまあ、つまりはそういうことなのだ。

784 2/2:2019/08/04(日) 17:44:08
 その項が今、無防備に目の前に晒されている。
「…………何してんですか」
「見りゃ分かるだろ。そうめん茹でてんだ」
 たかがそうめん、されどそうめん。この気温の中この人数分のそうめんを茹でるのはかなりの重労働だ。それこそ髪なんて括らないと熱が籠もってすぐ熱中症になる。
 わかる。理屈は分かる。分かるけどさあ。
「……………よりによって僕の前でそんなことします…………?」
「麦茶取りに勝手に台所来といてなに言ってんだ馬鹿8主。手伝う気もないくせに」
 この無自覚具合よ。わざとやってんのか。昨日もさんざ弄られたのになぜ分からない。
 露わになった項にかかる、雑に括った髪からひとふさ溢れたほつれ毛。うっすら上気した肌は赤い痕をより際立たせ、夏場の農作業による日焼けにも負けず全力で存在を主張している。そこをつう、と汗の雫が伝ってゆく様を見せつけられたとあっちゃあ、ねえ。
「……塩分、」
「あ?」
「塩分補給、してもいいですか」
「んなこといちいち確認しなくていいよ。棚の奥に塩飴あるし、冷蔵庫の中に茄子漬けあるから好きにつまめ。倒れられたら面倒だ」
 4主さんは菜箸片手に鍋とにらめっこするばかりで一度もこちらを振り返らない。タンクトップにエプロンというのももう駄目だ。ポイントが加算されすぎてオーバーヒートしている。
 好きにしろ、と許可も得たので、ふらふらと茹だった脳みそのままその背後に歩み寄った。
 この美味そうな餌を拝領すべく、くは、と小さく口を開ける。そうしていざ味わうその直前に忘れず一言。礼儀は大事だ。
「……いただきます」


 直後、宿舎中に大絶叫が響き渡り、腹部に会心のエルボーをくらった僕はろくに手当もされないまま部屋に放り込まれて食事抜きを言い渡された。
 後から聞いたその日の昼食風景は、うだる暑さの中なぜか髪を下ろした4主さんが阿修羅のような形相をしている中、みんなでガタガタ震えながらそうめんを食べたらしい。
 手っ取り早い納涼ができたことをみんな僕に感謝するべき。

8名無しの勇者:2019/08/04(日) 17:45:59
間に合ってよかった
今年も84の日おめでとう

8主くん変態くさくしてすまんかった

9名無しの勇者:2019/08/04(日) 19:54:13
84の日おめでとうございます!!
そして素敵なお話をありがとうございました…!!
夏の宿舎の日常感と84の色っぽい雰囲気がたまらなく素敵です、本当にありがとうございます!!

1084 1/2:2020/08/04(火) 11:56:50
 4主さんがご機嫌だ。
 鼻唄を歌っているし、目つきが比較的穏やかだし、口角もいつもより上がり気味。
 何かいいことでもあったんだろう。子供みたいだなと嗤おうとして、そういえば子供だったことに気付く。少なくとも自分より1歳子供なのは間違いない。
 出来立ての朝食をぱくつきながらぼんやりそんなことを思う。甘辛い鶏そぼろを混ぜ込んだ卵焼きが美味しい。
 理由なんてどうせこの卵が割ったら双子だったとか、ごはんがいつもよりふっくら炊けたとか、牛乳を分量きっかりで使い切ることができたとか、そういうみみっちいことの積み重なりなのだ。なんともお手軽なことである。
 仮にも勇者ともあろうものがそんな安上がりでいいのか。そこまで考えて、身近の勇者は全員カルピスの濃度やら唐揚げの数やらラーメンの仕上がりやらでご機嫌になる人間ばかりだったことを思い出して味噌汁をぐっと飲み込んだ。今朝は昆布だし。ちょっと口の中火傷した。
「4主さん、お茶」
「ああ」
 ほら。いつもなら自分で淹れろ、だの頼み方がなってない、だのと小言を言うのに今日はこの通り文句もなく引き受ける。周りから俺も俺も、と上がる声に応えて急須を取りに立ち上がる背を見遣った。あそこに一発蹴りでも入れたら流石に怒るだろうか。いや、何すんだって苦笑してそれで終わるかも。ああ腹立つ。
「情けない顔してるねえ」
 隣の7主さんが呆れたように息を吐いた。ぽりぽりつまんでいるぬか漬けも4主さん特製だ。そういえば今年も立派なキュウリが生った、とか笑ってたっけ。それも一因か。
「男の嫉妬は醜いよー。ましてヒト相手でもないやっかみなんて。そんなに独占欲強かったっけ」
「今朝はそういう気分なんです」
「ああ、マリベルもよくそういうことあったよ。大丈夫? お腹にカイロ貼る?」
「ぶちますよ」
 この繊細なオトコゴコロは誰にも分かるまい。特に、こうしている今も気の抜けた顔で全員分の茶を注いでいる人なんかには。
「確かにさ、一緒に朝寝するはずの相手が自分ほっぽってさっさと朝食の支度してたら、起きた瞬間にがっくりくるのも分かるけどね」
「……知ってるならほっといて下さい」
 そんなの今更じゃない? と言われたところで、嫌なものは嫌だし腹は立つ。慣れるもんでもないでしょ、こういうのは。というよりなんで知っている。
「何やら艶めかしい話題を察知!」
「帰れ」
「帰れ」
「そんなひどい…」
 突然湧いた5主さんをいなし、ごちそうさま、と手を合わせて席を立つ。むしゃくしゃするからこのまま自室で二度寝しよう。どうせ予定もないんだし。目が覚める頃にはきっと、このくさくさした思いも消化できている筈だから。たぶん。

1184 2/2:2020/08/04(火) 11:57:32
「……なんとも」
「ねえ」
 ずす、とお互い揃ってお茶をすする。今日の茶葉はほどよく香ばしい玄米茶だ。
「どう見たって照れてただけじゃん」
「4主さん、明らかに8主くんのほう見ないようにしてたしね」
「何を今更初々しいふりしてんだか」
「そんな気分だったんでしょ。マリベルもよくそういうことあるし」
 翠色の隙間からちらりと覗く、聞こえているのに聞いていないふりをする耳は真っ赤に染まっている。あの髪だと少し赤くなるだけでも目立ってしまうのがちょっとだけ気の毒だけれど、いちいち忠告するほどでもない。
「にしても、今日の卵焼きは美味しかったねえ」
「ねえ。そぼろがよくマッチしてた。あれまた出して欲しいね」
 4主さんを目で追うのに必死だった8主くんは、自分の卵焼きだけがひと切れ多かったことにすら気づいてもいないのだ。全く注意力散漫なことである。これだから最近の公式からの勇者扱いに調子乗ってるやつは。

12名無しの勇者:2020/08/04(火) 11:58:31
2020年84の日おめでとう
今年も懲りずに投下

13名無しの勇者:2020/08/04(火) 19:30:40
素敵な84ありがとうございます!
照れ隠し4主も嫉妬しすぎて卵焼きサービスに気付かない8主も可愛い

14名無しの勇者:2020/08/04(火) 19:31:13
すみませんsage忘れました…

1584:2021/08/04(水) 00:32:59
 灰色の緞帳に閉ざされていた空がいつの間にかからりと晴れ渡り、うだるような暑い日々が訪れた。夏はいつだって唐突にやって来て、そして唐突に去っていく。
 梅雨という季節はそのジメジメとした湿気やカビの発生、洗濯物が乾かないなどの理由から一般的には忌避されがちだが、4主はさほどでもなかった。降り続ける雨の音は聞いているだけで心が安らぐし、雨粒が流れるたび空気中の淀みや汚れも丸ごと洗い流されて行くようで気分がいい。濡れた草や土の匂いも、故郷の山を思い起こさせるようで悪くなかった。
 何より、梅雨の間は、晴れ間が少ない。
 夏にありがちな快晴は、どんよりとした曇り空よりもよほど4主を憂鬱にさせた。4主は青空が嫌いだった。澄んだ青であればあるほど腹が立つ。服は乾くしパンはカビないし作物はよく育つ、いいことづくめのはずの夏空の、無神経な青さが大嫌いだった。
 とは言え、それを誰かに言う必要もなく。家事を請け負う身として晴れのほうが雨よりも捗るのも確かなので、4主は黙々と長雨の間に溜まりに溜まったリネンをひたすら洗い、大判のランドリーバスケットに詰め込み、屋外の物干し台まで担いでいった。以前にもまして大所帯となったので、これだけでもかなりの重労働だ。
 そうして順番に干していき、最後のひとつを竿にかけ、風に飛ばされないよう洗濯バサミで止めたところで、額に滲んだ汗を雑にぬぐって息をついた。見上げた空は変わらず青く、むかつくほどに晴れている。
「曇ればいいのに」
「乾かなくなりますよ?」
 突然背聞こえた声に思わずびく、と肩が跳ねた。いつの間にか背後に立っていた8主が呆れたような顔でこちらを見ている。
「そのうち乾燥機を買うつもりだから問題ない」
「そんなお金どこにあるんです」
「お前らが無駄に宿舎破壊しまくるのを止めさえすれば簡単に捻出できるんだがな」
「とか言って、そういう便利な電化製品買ったあとでやっぱり天日干しのほうがいい! ってなるに10000G。4主さんてそういうとこあるじゃないですか。機械よりも手作業が優れてるっていう謎理論。エクセルにソロバンで計算した値を打ち込むタイプ」
「ならないっての。あとそこはせめて電卓にしろ」
 ざあ、と流れる風がシーツをはためかせる。白い波のようなその合間で、二人の髪や裾も揺れていた。この調子ならそれほどかからずに乾いてくれるだろう。
「晴れてるの嫌いなんですね。相変わらず」
「晴れじゃなくて青空。……てか相変わらず、って」
「まさか気づかれてないとでも? バレバレですよ貴方。晴れの日だと眉間のシワが3割増になってますもん」
「あ、そ」
 隠しているつもりはなかったが、それでもいざ言い当てられてしまうと妙な気持ちになる。横目で様子を伺ってみるも、8主はひらひらはためくシーツを見ているだけで何を言ってくるでもなかった。
「ところで、何か用か」
「いえ別に」
 じゃあなんで話しかけた。
 そう言いたいのをぐっと堪えた。今ここでいつものように口喧嘩を始めて、余計なことを突っ込まれて困るのはこちらだ。たとえば天空の勇者のくせに空が嫌いなのか、などと言われたら言葉に詰まった挙げ句みっともなく激高してしまうかもしれない。あくまでたとえばの話だ。
「……俺は戻るぞ」
 空になったバスケットを片手で抱えて足早にその場を立ち去る。そろそろ昼飯の準備をしなければならない。今日は冷やし中華の予定だ。キュウリとトマトを山ほど刻んで、錦糸卵とハムとあらかじめ仕込んでおいた蒸し鶏も乗せて。
 そんなことを考えていたら、不意に空いた腕を取られて引き寄せられ「なに、」抗う間もなく視界が白で埋まる。シーツを被せられたのだと、気づいたときには目の前に8主の顔が迫っていた。
 夏場に触れる他人の皮膚は、やっぱり他の季節よりも熱い。
「…………」
「…………」
「……何で?」
「いや、コレ被ってれば空も見えないでしょ、と思って」
「意味が分からんし、百歩譲ってシーツ被せたのはいいとしても今の行動の理由にはならないだろ」
「せっかく空から見えなくしたのに、何もしないのも勿体ないでしょう」
「……意味が分からん」
 シワの寄ったシーツを広げて掛け直す。唇に残った感触は手の甲で拭い去ったが、頬の火照りだけはどうしようもない。
 気づいたら青空もなにもどうでもよくなっていて、それ以上にけたけた笑う隣の原色男のほうがよほど憎たらしくなっていた。


「ところで真っ白い布を頭から被るって、なんか意味ありげでいいですよね」
「言ってろ」

16名無しの勇者:2021/08/04(水) 00:35:04
今年も84の日おめでとうございます

17名無しの勇者:2021/08/04(水) 20:14:10
GJ!今年もおめでとう

18名無しの勇者:2021/08/05(木) 11:40:24
GJ! 84の日おめでとう
4主ならエクセルにソロバンやりそうで笑った

1984 1/2:2022/08/04(木) 21:45:02
 上から流れる冷風が、汗ばんだ肌をするりと撫でて心地良い。砂糖と塩とレモン汁をぶちこんだ急拵えの経口補水液が身体にじわりと浸透していき、生き返るような気分でほう、と息をつくと、当て擦るように傍らから溜息がこぼれた。靄がかった視界が少しずつ正しい色を取り戻していく。

「最初からこうしてりゃ良かったんですよ。そしたらこんなことにもならなかったのに」
「だから悪かったって……もういいだろ」
「やらかした側がもういいだろとか言い出すのってよくないと思うんですよね。しつこく言われて当たり前のことしでかしておいて」

 うぐ、とものが詰まったような呻き声を上げ、それきり4主は黙り込んだ。8主の勝利である。というか勝って当然だ。原因は目の前で苦虫を噛み潰したような顔をしている張本人なのだから。


 今年も例に漏れず節電だ何だと騒がしい夏を迎え、相変わらず下がるどころか右肩上がりな電気代の明細に、4主はなんと一時的にすべての冷房器具の使用を禁止するよう言い出した。その期間、最低でも一週間。当然他の面子からは非難轟々で、ふだんは節約に協力的な1主や9主といった面々ですらやんわり反論したほどである。年々ひどくなるこの猛暑では、冷房なしは文字通りの死活問題だ。
 もちろん4主自身も本気でそんなばかげたことを実行させようとした訳ではない。要は全員を宿舎から追い出すための口実だったのだ。
 人がいなくなれば必然的に電気使用量も下がる。なので皆実家に帰るもよし、ファミレスやビジホに籠もるもよしで、めいめい好きなように過ごしてくれ、と。結果として皆久しぶりの里帰りや遠出をすることになり、なんとあの3主は渋々ながら住み込みの短期バイトを始めた。なんでも最初のうちは喜々としてネットカフェに入り浸っていたそうだが、自室との環境の差がかえってストレスとなり、開き直って小遣い稼ぎをすることに決めたんだとか。とうとう暑さで気が違えたかとも思ったが、まあ普段よりもよほど社会性のある行動なので誰も余計なことは言わなかった。1主なんて感激のあまり号泣していたくらいだ(ちなみにバイトの内容はPCのデータ打ち込みで、歴代最速のタイピング記録を樹立したらしい)。
 そんな風に皆が出払っている中、ほぼ無人となった宿舎にただひとりだけ滞在し続けた人物がいたのである。ご丁寧にも宣言した通り一切の冷房器具の使用をせずに。

2084 22:2022/08/04(木) 21:45:32
 冷房禁止宣言が出てから3日ほど経った今日、トロデーンで新作レシピの研究をしていた8主はふと忘れ物を思い出して宿舎の自室へと取りに向かった。誰もいないだろうと思いつつ、一応玄関先で声をかけたが案の定返事はない。ここまでは想定通りだったが、なんと鍵もかかっていなかった。確かに盗まれて困るような財もなにもないが、いくらなんでも不用心すぎる。うだる暑さに苛立ち半分呆れ半分でぼやきながら、なんとなく覗いた台所ですっかり溶けてぬるくなった保冷剤の山と共にぶっ倒れている4主を見つけたのがつい先刻のことだった。パッと見は茶そばが床に散乱しているようにしか見えず、流石の8主も甲高い悲鳴(CV梶裕貴)を上げてしまった。
 慌てて死体(のようになった4主)を担ぎあげて居間に寝かせ、引き出しの奥に厳重封印されていたエアコンのスイッチを入れ、3主の部屋から拝借した端末でレシピを調べて即席の経口補水液を作ったあたりでようやっと諸悪の根源の意識が戻ったのである。

「あのままだったら本当に死んでましたよ。過去イチ情けないザオラルの使用理由を打ち立てずに済んで良かったですね。もっと大いに感謝してください、この僕に」
「分かってるよ……。本当に感謝してます、アリガトウゴザイマス」
「なんっか心がこもってないんですよねえ」

 まあいいか、とその場は流してやる。しばらくはこのネタで擦れるだろうから、あまり一度に深追いしすぎないほうがいい。こういうのはやればやるだけ効果が薄れてしまうものだから。これからのことを想像して、8主はこっそりとほくそ笑んだ。

「というかですね、あんなこと言い出したからにはてっきり4主さんも山奥の村に帰省するのかと思ってたんですが。そもそも誰も見てないのにクソ真面目に冷房切る必要ありました? こっそり使えばいいものを」
「村には4女とシンシアが行ってて……ふだん譲歩してやってるんだからこんなときくらい二人きりにさせろ、って言われるとどうにもな……。それに、みんなに強要しといて自分だけズルするわけにもいかないだろ」
「は〜〜ほんと、クッソ真面目なことで」

 杓子定規というか、頭が四角いというか。自分でこうと決めたら嘘やごまかしができないのだ。それはもう、馬鹿がつくほどに。

「けどま、これに懲りたら無理に節電しようなんて思わないことですね。命に関わったら元も子もないでしょ」
「確かにその通りだし、今回はやりすぎたとも思ってるけど……元々はお前らが使いすぎなきゃいい話だし、突き詰めると無駄に宿舎を壊して修繕費がかさむのが一番の原因なんだが……」
「そこを言われると果汁のアイデンティティーに繋がるのでなんとも……まあ、しばらくは控えめにしまんで。ちょうど錬金でひと山当てたとこですし。7主さんも海の家バイトで稼ぐって言ってましたしね」
「そりゃあ有り難いことで」

 多少なりとも責任を感じていたのか、わずかにばつが悪い顔をした8主に、4主ははは、と気の抜けた声で笑った。今日はやり込められてばかりだったので、僅かながらでも胸がすく思いだ。

「ところでですね」
「うん?」


「他のひとたちは多分もう二、三日は帰ってこないわけですけど。本調子に戻ったら早速、冷房使いたくなるようなことでもしません?」

21名無しの勇者:2022/08/04(木) 21:46:30
今年も84の日おめでとうございます

22名無しの勇者:2022/08/04(木) 21:57:41
今年も心の経口補水液ありがとうございます!
8主の最後の提案の仕方が可愛いなぁ…

2384 1/1:2023/08/04(金) 22:00:58
 世の中には得てして「ははあなるほど」となる慣用句やら諺やらなんやかんやが溢れているものだけれど、中にはいわゆる真っ赤な嘘というものもあるわけで。8主はしみじみとそれを実感していた。全くもって共感できない。欠片もそう思わない。でなければこの動悸や息切れ、急激な体温の上昇はなんだというのか。不整脈か。そうかな。そうかも。
「なに1人で変な顔してんだ」
 ぬけぬけと元凶が他人事のようなことを抜かす。ぬけぬけとぬかすってなんか被ってるな。頭痛が痛いみたいな感じか? 違うな。フリースタイルのラップに組み込めそう。
「ひとの悩み顔を言うに事欠いて変顔扱いとは随分ですね」
「おまえこの間俺が献立に悩んでたら辛気臭い顔とか言ってなかった?」
「過去にこだわる男はもてませんよ」
「ああ言えばこう言う……」
 げんなりしながら向かいの席に座る4主の頬に、少し俯いたことでさらりと髪の毛がかかる。肩より少し下まで伸ばされた髪は別段丁寧に手入れをしているわけでもないのにいつも流れるようにさらさらしている。仮に自分が伸ばしたところでこんな風にはならないだろう。たぶん5主のようになるのに違いない。11主のような真っ直ぐなサラツヤストレートというわけではないが、先端にいくにつれ緩く曲線を描く翠色は見た目も涼しげでこの時期にも飽きない。そのくせ冬になればなったでなんとなく温かみのあるように思えるのだから、得な髪色だと思う。
「……何?」
「なんでも」
 目つきがきつい。悪者顔。魔王フェイス。凶相。どれも真実だ。実際胡乱げにしている今も非常に人相が悪かった。
 ただ、世の中は顔が怖いことと顔立ちが整っていることは両立するのだ。
 鋭い目は青みの強い紫でいわゆる瑠璃色に近く、目尻までくっきり二重の瞼はその目を更に印象付ける。あとは定番として睫毛が長い。伏し目がちになると頬に影を落としそうなほどだ。鼻筋はすっと通っており、向きや角度なども非常に適切な値ですね、としか言いようがない。眉や鼻はほんの少し均衡が崩れるだけで見た目の印象がまるで変わる、とどこかで聞いたことがあるが、それでいくとこの顔は正に奇跡のバランスなのだろう。褒めすぎだろうか。でも実際そうなのだから仕方ない。
 畑仕事でよく日に焼けた肌は健康そうだが、冬場など陽光に当たらない日が続くとたちまち白くなる。色白とまではいかないが、もとの肌はそこそこ色素の薄い方なのだ。あの髪色で肌がこんがり小麦色でもなんだかミスマッチに思えるから妥当と言えば妥当である。髪も目も肌も、なんというか全体的に寒色系だ。全身から漂う幸の薄さにより拍車をかけている。ワンポイントのスライムピアスまで合わせればもう何と言うか、ズルい。どうしてこの見た目でスライムピアスをつけようと思ったのか。そりゃあ自分だって装備しようと思えばできるのだけれど、何なら他のメンツだって装備できるけれど、スライムピアスといえば、のように代名詞になっているのが何と言うかズルい。うまく言語化出来ないがとにかくズルいのだ。
「……あのさ」
「何ですか」
「何で人の顔じっと見つめてくんの」
「いいじゃないですか減るもんじゃなし」
「ええ……」
 そう、減るものではない。生まれついてのものなのだから、これまでもこれからも多少の変化こそあれ4主はずっとこの顔なのだ。だから慣れなければならない。でなければこちらばかりが振り回される一方だ。そんな不公平など認められるか。けれどさっぱり慣れる気配もなければ飽きることもない。むしろこうしてまじまじと見たせいでかえって心拍数が上昇した。ちくしょう、なんでこの人こんな顔してるんだ。
「4主さんてなんでそんな顔なんですか」
「さっきから何なの? 喧嘩売ってんのか」

 ああちくしょう、悔しい。こっちばかりがしてやられっぱなしだ。
 美人は3日で飽きるとか何とか。世の中の格言は嘘ばっかりだ。8主はしみじみとため息を付いた。

24名無しの勇者:2023/08/04(金) 22:01:48
自己満ですが今年も84の日記念にss投下
短いですが

25名無しの勇者:2023/08/04(金) 23:21:53
今年も84の日おめでとうありがとう
4主はズルいよな、8主


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