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FFDQかっこいい男コンテスト 〜ドラゴンクエスト8部門〜

1名無しの勇者:2004/11/29(月) 21:32
DQ8の小説専用スレです。
書き手も読み手もマターリと楽しくいきましょう。

*煽り荒らしは完全放置。レスするあなたも厨房です*

257追憶 9/15:2007/09/04(火) 05:20:43
月日が流れ、私は見習いから正式な騎士になった。
騎士になった後も彼の側から離れることはなく、
いつしか私は彼の側近中の側近として周囲に認識されるようになっていた。
3歳の年齢差も年を取るほどに気にならなくなり、
彼と2人きりのときは互いに砕けた口調で軽口を言い合い、一緒に酒を飲むこともあった。
彼は、順調に頭角を現しており、それに従って、
少なくとも面と向かっては彼の出自をどうこう言う者はいなくなっていった。
銀髪の少年―その頃には青年といっていい年になっていたが、
私の中には、どうしても、あの屈託ありげな少年の頃の面差ししか浮かんでこない―
との関係は相変わらずであったが、少年も正式に騎士になってからは少し落ち着いたようで、
以前のような正面切った衝突はなくなっていた。

そして、ついに彼は、マイエラ聖堂騎士団の騎士団長に任命された。
彼の能力からすれば当然だが、出自を考えれば破格の待遇だった。
彼はその膨大な業務に忙殺され、愚痴をいいつつも、その目は楽しそうに煌めいていた。
書類仕事の合間には、2人で若い者たちに剣の訓練をつけに行き、
時には私と彼とで真剣を用いて稽古をすることもあった。
そんな時、周囲は若い団員で埋め尽くされ、私は、そのたびに見習い時代の自分を思い出した。
もちろん、そんな生活の中でも彼が聖務を怠ることはなかった。
私もその頃は彼の隣で共に神に祈りを捧げるようになっていたが、
彼の祈りは相変わらず痛々しいまでに真摯で、私は、やはりその姿を目にすると胸が苦しくなるのだった。

今思えば、あの頃が、最も幸せな日々だったと思う。




そして、あの忌まわしい事件が起きた。

258追憶 10/15:2007/09/04(火) 05:21:10
あのときの彼の表情は忘れられない。
彼は、ただ呆然と院長の遺体を見下ろしていた。
彼の、あんなにも途方にくれた顔を見たことがなかった。
まるで置き去りにされて迷子になった子供のようだった。

しかし、彼が迷子のような表情を見せたのは、あの一瞬だけだった。
その後の彼は、火事の後始末、怪我人の手当ての指示、葬儀の準備、
各方面への連絡等、寝る間もなく働いた。
疲労で蒼ざめた彼を見て、私を含めた団員達が
少しでもいいから休んでくれるよう頼んだが、彼は冷ややかにそれを黙殺した。
彼からは、一切の表情が抜け落ちていた。まるで、凍り付いてしまったかのようだった。

院長の葬儀の日は朝から曇り、優しく暖かかった慈父の死を天も嘆いているかのようだった。
葬儀のミサでは彼が告別の祈りを行った。
騎士団長がこんな大きなミサを取り仕切るなどというのは前代未聞であったが、
修道院には院長の後継者足りえる人材は育っていなかった。
これは以前から心配されていたことだったのだが、院長は周囲の讒言を気に止めず、
特定の修道士を後継者とするそぶりも見せなかった。
もしかすると、院長は彼を後継者にと望んでいたのかもしれない。
ミサでの彼の詠唱は感動的で、それを聞いて涙しない者はいなかった。
彼の紡ぐ聖なる言葉はよどみなく、聖堂の隅々にまでに行き渡り、体を、心を浸していった。
私は、彼の深く響き渡る声を聞きながら、昔、回廊で静かに聖典を読み解いていた掠れ声を思い出していた。
そして、不意に、我々は二度とあの日々には戻れない、という不吉な予感に胸をつかまれ、思わず壇上の彼を仰ぎ見た。
神に対し、院長への心からの祝福を哀切を込めて祈りながら、彼の表情は仮面のようだった。

259追憶 11/15:2007/09/04(火) 05:21:37
埋葬のときには冷たい氷のような雨が降り出していた。
彼は、埋葬の間中、身を切るような雨粒に全身打たれながら別れの言葉を詠唱していた。
フードもかぶらず、額に乱れかかった前髪からひっきりなしに雫が伝い、
彼の高い鼻梁や頬から地面に転がり落ちていった。
転がり落ちていったのは、雨粒だけであっただろうか。
濡れそぼった彼は相変わらず恐ろしく無表情で、その点は確かめようもなかった。

葬儀の後、私は、ある団員から彼が異母弟を放逐することに決めたらしいという話を聞いた。
少年を、院長の敵の探索という名目で、素性も知らぬ者達とともに旅立たせることにしたというのだ。
そのことを聞いたとき、私は、葬儀の際に漠然と感じていた不安の正体を悟った。
表情を一切消した仮面のような彼の顔。
彼は、自分の心を切り捨てようとしているのではないか。
そのために、少年を放逐しようとしているのではないか。
そうして、心を全て切り捨てて、彼は、いったい何処に行こうとしているのか。
彼が何を考えているか分からないのが、ひたすら恐ろしかった。

少年が旅人達とともに修道院を発った日の夜、私は執務室に彼を訪ねた。
院長の葬儀以来、彼と直接話すのは初めてだった。
彼は、ノックして入ってきた私を見ても表情を変えなかった。
そして、私が口を開く前に、氷の様な口調で告げた。
「お前に持ち場を離れてよいと命じた覚えはない。戻れ。」
彼が、2人きりのときに私に対してこのような命令口調で話さなくなってから久しかった。
私が返す言葉もなく立ちすくんでいると、彼は私の目を見据えて冷たく言い放った。
「聞こえなかったのか。去れ。」
そして、私の返事を待たずに執務室の奥の資料室に消えていった。
去れ、と私を見据えた彼の目は、狂おしげに輝いていたが、あの煌めきは感じられなかった。

260追憶 12/15:2007/09/04(火) 05:22:03
その後、彼は変わった。
騎士団長としての職務を放棄したというのではない。
むしろ、修道院長を兼任するようになり、今まで以上に精力的に職務をこなすようになった。
修道院は彼の働きにより以前よりも潤うようになり、巡礼者も増え、
それに伴って騎士団の仕事も忙しくなり、団員達も徐々に、かつての明るさを取り戻してきた。
しかし、彼は、激務を理由に、公式の行事以外は執務室に篭るようになった。
それまでも決して人と親しく交わる性格ではなかったし、何かと厳直すぎる嫌いもあったが、
それでも面倒見は良く、細やかな気配りで団員達を見守っていた。
そして、団員達も、そんな彼を畏れ敬いながらながらも慕っていたのだ。
が、事件後の彼は、団員と心を通わせることを拒否するようになった。
団員との交流を避け、必要なことだけを指図して執務室に戻っていく彼は、
冷たいオーラをまとった氷像のようだった。
まるで、暖かなふれあいにあったら溶けてしまうとでもいうような。
聖務も相変わらず務めていたものの、院内での日課は、激務を理由にしばしば休むようになった。
他方、俗世に向けてのミサは以前にもまして大々的に行った。
彼は、飾り立てた祭壇で神を讃える言葉を高らかに唱えたが、その目は何も見ていなかった。
そこには、熱に浮かされながら真摯に祈りの言葉を紡いでいたあの頃の彼の姿はなかった。

261追憶 13/15:2007/09/04(火) 05:22:32
その後の彼の行跡については多くを語るまい。
彼は、人としての心を切り捨て、彼を慕う者達の手を振り切り、遮二無二登りつめ――そして転落した。
そこまでして彼が得んとしたものは何だったのかは、未だ私には分からない。
ただ思い出すのは、余りにも真摯だった彼の神への祈り、彼の激情をこらえた暗い瞳、
そして、あの日の院長を見下ろす呆然とした表情…。
彼は、自分に架された十字架を耐えながらも神の救いがあることを信じ、求め、
―――そして手ひどく裏切られたのだ。

いや。

神は裏切ることはしない。
神は、ただそこにあるだけだ。
彼が、神に対して余りにも無垢だっただけだ。
あの煌めく瞳で、彼はただひたむきに神の愛を求めすぎたのだ。

私はあのとき、聖地ゴルドにいた。
変わり行く彼に心痛めながらも、結局、彼から離れることはできなかった。
しかし、戦いが始まったとき、我々聖堂騎士団は、
神殿へと続く階段への扉から先に進むことはできなかった。
扉が開かなかったのだ。
扉には強力な結界が張られており、我々の知っているいかなる呪文、力をしても、開けることはできなかった。
私の隣の団員は、賊の仕業だと悔しがったが、私はそうは思わない。

262追憶 14/15:2007/09/04(火) 05:22:57
扉に張られた結界にはどこか見知ったパターンがあった。
彼がこの結界を張ったのだとしたら―――。
ばかげている。
彼の力がいかに強大であろうと、4人を相手に勝てる目算はほとんどない。
私は大声で彼の名を叫び、両の拳に血がにじむまで扉を叩き続けた。



彼は―――自分を殺したかったのだろうか?
神を信じていないにも関わらず、汚れた手で聖職の最高位に登りつめた自分を?
神が、最後には正義の裁きを下してくれるのを、待っていたのだろうか?
そして、全てを葬り去って―――消えたかったのだろうか。
彼が心を切り捨てるために手放した、あの少年の手によって。


今も、分からない。
しかし、もしそれが彼の望みだったのだとしたら、またしても彼の望みは神に受けいれられなかったことになる。
戦いが止んだ後、破壊しつくされた聖地に踏みとどまっていたのは私だけだった。
しかし、結界が消えた扉から降りてきたのは彼ではなかった。
激昂して詰めよる私に、両手に顔をうずめて銀髪の騎士はつぶやいた――あいつは、生きてる、と。

263追憶 15/15:2007/09/04(火) 05:23:18
大罪を犯してなお生きることは、死ぬことよりも辛いかもしれない。
しかし、彼は、もはや自ら死を選ぶことはないだろう。
彼の死は、あのとき、神によって拒否されてしまったのだから。
だから、彼は、今日もこの広い荒野のどこかを彷徨っているに違いない。

だから、私は、今日も彼の魂のために祈ろう。
祭壇の前に跪き、いつか見た彼のように手を組んで頭たれる。

しかし。
祈りのために目を閉じれば、浮かんでくるのは、過ぎ去りし日の彼の姿。
滑らかな黒髪を肩まで流し、皮肉な笑みを口もとに結び。
そして、翡翠の煌めきをもつその瞳は、今も、私を捉えて離さない――――。

264名無しの勇者:2007/09/04(火) 05:26:10
以上です。長くてごめんなさい。
聖堂騎士団の誰か→マル、あくまでもプラトニックで、という感じです…。

265名無しの勇者:2008/02/03(日) 00:54:34
乙です!
この兄弟プラトニックでも(・∀・)イイネイイネー

266名無しの勇者:2009/05/05(火) 05:09:38
今更でなんですが非常に萌えました
ここもう見てないですよね
兄弟萌えと団長萌えについて語り明かしてみたかったです

267名無しの勇者:2009/05/11(月) 01:06:14
|∧∧
|・ω・)    ダレモイナイ...
|⊂     ステテコダンス スルナラ イマノウチ...
|


※GW中に初プレイして今さら萌が来ました。
 なので、ひっそりと投下。
 掛け算未満の主&クク/以下、長文14レスほど失礼します。

268主&クク 1/14:2009/05/11(月) 01:07:32
「遅いな」
 買い物に行くと言い残して出て行ったきり、半時経ってもさっぱり帰ってこない男のベッドを眺めながら
俺はぼやいた。
 ヤンガスの故郷パルミドの教会隣に建つ宿屋は、薄汚い町の様子とは対照的に極めて清潔だった。
 何日も前からこの宿を拠点としているが、へとへとに疲れて戻って来た時に美味い飯と綺麗な寝床を提供
してもらえるのは正直に言ってありがたい。
 旅の一行の中には、お年頃のレディも含まれていることだしな……そういや彼女、ゼシカも旅先で湯が使
えると言って喜んでいたっけ。
 しかし今の俺たちは呑気に構えていられない、とある大きな問題を抱えていた。
 なんと町に着いた途端に馬車馬が盗まれてしまったのだ。
 普通の馬ならそれでも良かった。盗みを働いた罪深い男からはきっちりと金を巻き上げたのだから、その
代金を元手に別の足を探せば済む話だ。
 だが、それができないのにはれっきとした理由があった。
 その盗まれた馬車馬ってのが、ただの動物ではなかったのだ。
 馬の本当の正体は、憎き道化師ドルマゲスの呪いの所為で本来の姿とはかけ離れた生き物にされてしまっ
た、トロデーン国のミーティア姫なのである。
 にわかに信じ難い話だろうと思う。現に、俺も最初にその話を聞かされた時は、姫が呪いをかけられた瞬
間を見ていないこともあって「まさか」と疑いの声を上げたものだ。
 だって、普通は信じられないだろ。
 修道院で素行が悪いと散々咎められてきた俺だって、これでも一応は敬虔な女神の信徒なのだ。
 ミーティア姫の身の上に起こった不幸が神の御業によるものならば、姫が犯した何らかの罪に対する罰が
下ったのだとも言えるが、そうでないのだとすれば質の悪い嘘か、はたまたまやかしに過ぎない。
 だが、俺をじっと見つめる馬の目は確かに人間の言葉を理解しているようだったし、家畜に貶められて尚、
姫の仕草からは気品さえ感じられたのだ。
 それに何より姫の父親であるトロデ王が、可愛いミーティアが馬にされてしまったのだと小煩く主張し続
けているのだから、もう信じるより他はなかった。
 トロデ王その人も、ドルマゲスの手によって魔物へと変化させられてしまっているからである。

269主&クク 2/14:2009/05/11(月) 01:08:33
 さて、その大事な馬姫様が盗まれた挙げ句に、次々と買い手が替わり、現在の持ち主が判明してさっそく
直談判に向かったところ、俺たちは「馬を返す代わりに宝石を取ってこい」と無理難題を吹っ掛けられてし
まったのであった。
 ミーティア姫の身柄を預かっているのは、女盗賊のゲルダ。
 パルミドの町から少し離れた湖畔にアジトを構える彼女だが、どうやらヤンガスとは古い馴染みらしい。
 そう聞いて多少の安堵感を抱いていた訳なのだが、実際に対面してみれば……ヤンガスの野郎、ゲルダに
一方的に押されっぱなしで、結局、俺たちは別段行く必要のない洞窟へと足を向ける羽目になってしまった。
本当に使えない男だ。
 その使えない男が、日頃から「兄貴」と呼び慕っている相手──そいつがどう見たってヤンガスより年下
なのがどうにも解せない──の帰りをさっきから俺は待っているのだが、待てども暮らせども一向に戻って
こないのは、いったいどういう訳なんだろうか。
 薬草や毒消し草といった細々とした物が入り用だとかで、店が閉まる前にと慌てた様子で買い物に出掛け
たと記憶している。
 はて子供の使いじゃあるまいし、そう珍しい品物でもない道具類の買い出しにそこまで手間取る筈がない
と思うんだが。
 ぼんやりした間抜け面を思い起こした途端に、俺はとてつもなく嫌な予感に襲われて舌打ちした。
 明日は朝も早くから洞窟探検に出発しなきゃならないってのに、どいつもこいつも面倒かけさせやがって。
ああ、ゼシカは別だ。彼女の愛らしい顔立ちと巨乳に罪はない。
 ベッドから立ち上がった俺は細剣を腰に帯びると、階段を下りて宿屋を後にした。
 宿に併設されている酒場の賑わいを横目に表通りへと出てみれば、……何やら向こうが騒がしい。
「兄貴ー! 今、助けるでがすよー!」
 しかも薄っぺらい板を叩き壊さんばかりに殴る音に被さって、聞き慣れた男の怒声がする。
 まったく頭が痛い。俺は額に手を当てた。
 あっちの方角って、確か……犯罪者通りとか何とか呼ばれてなかったか? 昼間から浮浪者や集りの連中
がウロウロしていて、その時点で二度と近寄りたくねぇなと思っていたのだが、ひょっとして俺は厄介な出
来事に直面しやすい体質なのだろうか?
 いやいや、厄介事を引き寄せやすいヤツらは他にいて、俺はあくまでそいつらの不幸体質に引き摺られて
いるに過ぎない。そうだよな。うん、そうだ。
 俺は自分に言い聞かせ、短く息を吐き出すとヤンガスが暴れている方角へと駆け出した。

270主&クク 3/14:2009/05/11(月) 01:09:31
 犯罪者通りの入口に建つボロい掘っ立て小屋で暮らしている人間は、パルミドの町に住むごろつき共の中
でも、まあそこそこ恵まれている身分らしい。
 幼い頃に上等な暮らしを送っていた俺の目にはどっちもどっちに見えるが、寝る場所に屋根と壁が付いて
るだけ幾らかマシなのかもな。
「うおー! 兄貴ィー!」
 しかしその壁をまさに破壊しようと暴れている男がいて、その周りでは騒ぎを聞きつけた野次馬が何だ何
だと集まってきて人だかりを成している。
 暴力行為によって注目の的になるのは避けたいんだがな。
 俺は仕方なくヤツに近づいて、その肩を叩いた。
「おいヤンガス、やめとけ。幾ら昔に捨てたからって、ここはお前の故郷だろ。あまり暴れるな」
「兄貴を攫うヤツらがいるような町は、故郷でも何でもないでやんす! ……あれ? ククールじゃないで
すかい」
 斧を両手に掲げて振り回さんとしていた山賊崩れは、こちらを振り返って目をぱちくちさせた。
 見れば見るほどにむさ苦しいヒゲ面である。
 俺は思わず自分の顎を撫でた。
「そうだ。落ち着けよ。何やってんだ、お前は」
「何って、兄貴が! 拉致されたんでがすよ! あっしが見つけた時にはもう兄貴はここに連れ込まれてて、
あっしはそれを助けようと……あああ、今ごろ兄貴がこの中でどんな目に遭わされているか……」
 地団駄を踏むヤンガスの言葉を聞いた途端、自分の頭に血が上るのが分かった。
 脳裏にひらめいたのは卑猥な単語のアレやソレで、怒りのあまり全身がおののき鳥肌が立つ。
 兄貴ー!と、またもや狂ったように叫び出したヤンガスのずんぐりした肩を掴み、俺はヤツの巨体ごと扉
に向かって体当たりした。
 男二人分の体重が手伝うまでもなく、脆く粗末な戸はバリバリと音を立てて呆気なく破れた。俺は、顔面
を強打して床に突っ伏しているヤンガスの体を大股で跨ぐと、掘っ立て小屋の中へと侵入を果たした。
「おいおい、壊した扉は修理してくれるんだろうな?」
 ニヤニヤと笑いを浮かべている屈強な男たちの間で、首を竦ませている小柄な体。俺はそいつに素早く視
線を走らせる。服装は乱れていない。よし、まだ何もされちゃいないようだな。
 しかしこんな状況だというのに、ヤツの表情に緊張の色は見られない。
 どうせこんなこったろうとは思ったが……。あまりにも緩すぎて、来て正解だったとも、そのままどうに
かされちまえとも思えてくる。
 無性にイラッとして俺は腕を組んだ。

271主&クク 4/14:2009/05/11(月) 01:10:35
「怖いねぇ。綺麗な顔が台無しだ」
 ごろつきの一人が俺のほうを見ながら言い、そいつではない誰かがひゅうと口笛を吹いた。
 そちらに冷たい一瞥をくれてから、俺は正面に視線を戻した。
「こっちの兄ちゃんは、あんまりにも簡単にホイホイついてくるもんだから、ちっと可哀想に思えたんだけ
どよ。お前さんなら骨がありそうだし、商品としても立派な売り物になりそうだ」
「ああ、ただ大人しいだけの人形じゃつまらないって手合いの連中は、さぞ喜ぶだろうよ」
 俺はこれまでの経験から実感を込めて答えると、顎をしゃくって外を指し示した。
「来いよ。帰るぞ」
「おっと、タダで帰すわけにはいかねぇな」
 男が素早い動きであいつの肩を掴んだ。
 小汚ねぇ手で触りやがって、クソ野郎が。
「酷い目に遭いたくなければ、この兄ちゃん共々、おとなしくしてるこったな」
「そのセリフ、そっくりそのまま返すぜ」
 俺は、男たちを睨みつけたまま鼻を鳴らした。
「何だぁ? その細っこい体でやろうってのか? 案外、命知らずなんだな」
「待て。体つきはともかくとして、こっちの騎士様はどうもこういった場に馴れてるようだ。なあ?」
 相槌を求められた俺は、男たちに向かって肩を竦めてみせた。
「さあね。俺は別にアンタらと喧嘩しに来た訳じゃない」
 そう言いながら、とっ捕まった状態でしおらしくしている間抜け面に視線を向ける。
「何せ人質を取られてるから、やり合うには分が悪い」
 刺々とした口調から俺の不機嫌さを感じ取ったのか、あいつが決まり悪そうに眉を下げるのが見えた。
「じゃあ何だ。俺たちと交渉しようってのかい」
「まあ、そんなところだな」
「なら、お手並み拝見と行こうか」
 男が楽しげに言って、腕を組んだ。
 俺はぐるりと周囲を見回した。ごろつき共の視線が俺ひとりに注がれているのを確認する。
 試す、値踏みするといった類の視線に晒されるのには慣れていた。不快感は禁じ得ないが、そんなものは
そいつらの鼻を明かしてやれば吹き飛ぶ程度の塵だ。
 だいたい交渉と言ったって、読みが当たっていれば勝算はこちら側にあるのだ。俺はさっそく話を始めた。

272主&クク 5/14:2009/05/11(月) 01:11:23
「まずはアンタらに、こちらの立場を理解してもらいたい。俺たちは今、女盗賊のゲルダから依頼を受けて
る身でね。ここいらに住んでるなら名前くらい知ってるよな? ビーナスの涙って宝石をさ」
「知ってるも何もお前、そりゃあ、あの剣士像の洞窟にあるっていうお宝のことだろ?」
 ごろつきの一人が声を上げた。
 俺は頷く。
「その通り。前人未到の洞窟に眠る、女神の涙。俺たちは彼女との約束を果たすために、そいつを取りに行
く話になってる。まあ、約束って言うか、互いに欲しい物を交換し合うんだ。これは正式な取引ってやつさ。
ただ、アンタらも知ってるとは思うが、あの洞窟は結構ヤバくてね。こっちとしちゃあ、仲間が一人でも欠
けると厳しい訳なんだよ」
「なら、俺が代わりに仲間になってやろうか?」
 ニヤついた顔で言う男に向かって、俺はわざと思案するフリをした。
「それは構わんが……。ただ、うちには強力な魔法の使い手がいるんだが、もし万が一、巻き込まれて丸焦
げにされても文句を言わないってんなら、連れて行ってやってもいいぜ」
「へへ……俺ぁ、逃げ足だけは速いって昔から評判なんだ」
 大の男が仲間同士で顔を見合わせてニタニタ笑って、胸糞悪い光景だったらありゃしねぇ。
 俺は間髪入れずに告げてやった。
「あと、そいつの連れてるネズミだけどな。気に入らない相手のアソコに潜り込んで、アレをがぶりと噛み
千切るんだ」
 それでもいいなら……と言葉を紡ぐより前に、男たちが固まったように動きを止めた。
 そうして視線が一斉に、あいつとポケットから顔を覗かせているネズミへと集中する。
「……」
「……」
 つぶらな瞳をしたネズ公が抗議にも似た鳴き声をキーキーと上げたが、今の状況では凶暴な生き物がいざ
食い千切らんと息巻いてるようにしか聞こえない。困った様子のあいつが小さな体を撫でてあやしてやって
も逆効果だ。
 勿論、アレを噛むなんてのは嘘っぱちである。本当にそんなことをされたら堪らない。想像しただけで大
事な場所が縮み上がる思いだ。俺は、心の中で十字を切った。
 まるで真冬の曇り空のようにどんよりと雰囲気が重くなった。
 あいつの肩を掴んでいたオッサンも心なしか青ざめた表情で、ようやっと体を離す気になったようだった。

273主&クク 6/14:2009/05/11(月) 01:12:09
「俺たちは明朝ここを発ち、予定では、その日のうちにビーナスの涙をゲルダの元へ届けることになってる。
それは向こうも了承済みだ」
 説明を続ける俺の足元で、気を失っていたヤンガスがウーンと呻いた。
「あっ、トーポ」
 服のポケットからネズ公がするりと抜け出し、ぴょんと地面に降り立った。
 顔を引きつらせた男たちがいちどきに退き、めいめい壁にへばり付く。
 地べたに突っ伏したまま唸るヤンガスの周りをウロチョロしているネズミに駆け寄り、サッとその体をす
くい上げると、ヤツは何事もなかったように俺の隣に立った。
 さすがに今のこの脱出の機会を見逃すほど阿呆ではなかったようでひと安心だ。
 俺は、何食わぬ顔で話を続けた。
「……ただ、こうして俺とこいつがアンタらに捕まって、このままどこかに売られて、ビーナスの涙を取り
に行く者がいなくなったとする。そうなると取引を交わしてる以上、ゲルダも商売にならなくなるって訳だ。
そこで彼女が素直にお宝を諦めてくれりゃいいが……もう何年も前からアレを欲しがってるって話だしな。
俺としては『取りに行けませんでした』、『ハイそうですか』なんて、あっさりと話を受け入れてくれる気
がしない。まあ妥当なところで、俺たちがお宝を取りに行けなくなった理由を探るだろう。そうしてアンタ
らの妨害に遭ったがために、お宝が手に入らなくなったと分かれば──」
「ゲルダさん、きっと怒るね」
 横からのほほんと相槌が入った。
 視線を向けてみれば、ヤツは昼間出会った女盗賊の姿を思い浮かべているのか、秋の黄金色の畑を思わせ
るネズミの毛を撫でながら宙を睨んだのち、しみじみと呟いた。
「うん。怒ったら怖そうだ」

274主&クク 7/14:2009/05/11(月) 01:12:51
「わ、分かった! 俺たちだって、ゲルダを敵に回すのは本意じゃねえんだ」
 ごろつき共が、慌てふためいた様子で喚いた。
 俺は心の中で呆れて溜め息をついた。アジトに行く前のヤンガスも相当ビビっていたが、何ともはや……。
パルミド界隈の男連中はよほどあの女盗賊に恐れをなしているらしい。気持ちは分からんでもないが。やは
りレディは過激すぎるより、適度に刺激的なほうがいいよな。
 俺の好みはさておき。
「アンタらが話の分かる人たちで良かったよ」
 だからもう一切関わるなと言外にほのめかせ、俺はにっこりと上等な笑みを浮かべた。
 それから素早く隣のヤツの肩を抱き寄せて囁いた。
「何ポカンとした顔で突っ立ってんだ。早いとこ荷物持って外に出ろ」
「え? あ、うん」
 ポケットにネズミを大事そうにしまってから、ヤツは道具袋をよいしょと持ち上げて肩から下げた。
 よたよたと建物の外に出て行く後ろ姿を確かめて、俺はいまだにウンウン唸っているヤンガスのそばに膝
をつくとその巨体を揺さぶった。
「おい。ヤンガス、起きろ。宿に戻るぞ」
「ウーン……。兄貴は……あっしの兄貴は……どうなったでげすか……」
「お前の兄貴分は無事だ。さあ、いい加減目を覚ませ。お前を宿まで引っ張って行けってのか? 生憎と俺
は肉体労働が大嫌いなんだ」
 俺は、ふらつきながらも何とか起き上がったヤンガスに肩を貸してやった。
「うう……顔が痛いでやんす……」
「急を要したとはいえ悪かったな。後で手当てしてやるよ」
 そうして呆気に取られたように立ち尽くしている男たちを振り返って手を振った。
「邪魔したな」
 後ろで、はあ、とかなんとか返事をしていたようだったが、野次馬を掻き分けて宿へ向かう俺の耳はもう
何も聞いちゃいなかった。

275主&クク 8/14:2009/05/11(月) 01:13:39
 宿屋に戻ったのち、ゼシカに協力してもらい人工的に作り出した氷の塊を真っ赤になったヤンガスの鼻に
押し付けて回復呪文を唱えた俺は、落ち着きを取り戻してそのまま眠ってしまった元山賊の男を彼女に任せ
て二階へと戻った。
 割り当てられた部屋の扉を開けば、ベッドの隅に腰掛けて項垂れていたバンダナ頭が弾かれたように顔を
上げた。
「パルミドの治安の悪さは、ヤンガスから聞いて知ってたろ」
 開口一番諭すように言うと、ヤツはしょぼんと俯いた。
「ごめん」
「何であんな所にいた? 道具屋は、ちょっと奥まってはいるけどこの宿屋の並びだろ」
「宿屋まで荷物を運んでやるって言って聞かないんだ。自分で持てるからいいって断ったんだけど……それ
で、強引に荷物を持って行かれて……あ、でも本当に宿屋の前まで運んでくれたんだ。だから、お礼を言っ
て帰ろうとしたら、お前ネズミ連れてんのか、って言われて」
「……それで?」
「トーポに、チーズをあげるからって」
 美味しいんだって。パルミド産のチーズ。
 ヤツが嬉しそうに言うと、チーズという単語に反応したのかネズミの黒くて小さい鼻先がひくひくとうご
めくのが見えた。
 食い意地の張ったネズ公め。
 俺は、飼い主と良く似た阿呆面を覗かせたネズミを鋭く睨みつけた。
 こいつほどの大きさでないにしろ修道院にもネズミはわんさと居たから、俺にはすっかりお馴染みの生き
物なのだが、今くらいこの小動物が憎いと思ったことはない。
 視線がかち合うと、ネズミは驚いたようにヂュッと短く鳴いてササッとポケットの中へ引っ込んだ。
「お前がそいつを大切にしてるのは、よく分かってるけどな」
 壁に寄りかかったまま、俺は足を組み替える。
「トーポの為に、お前のほうが危険に晒されてどうするよ」
「ごめん」
 ああ、完全に子供を叱っているような気分になってきたぞ。
 俺は組んでいた腕をほどき、しょぼくれているヤツのそばに歩み寄ると隣のベッドに腰掛けた。

276主&クク 9/14:2009/05/11(月) 01:14:34
「お前さ。さっきから謝ってるけど、何が悪いかちゃんと分かってるのか?」
 行儀悪く股を開いて前屈みになり、ヤツの顔を意地悪く覗き込んでやる。
 いつも脳天気な面構えをしているくせに、この時ばかりは驚いたように目をしばたたいた。
 そうしてから、一生懸命に考え込む素振りを見せる。
「ええと……その、迷惑かけたんだなって思って」
「それだから、『ごめんなさい』?」
 ヤツはこくりと頷き、それから恐る恐ると言った様子で「違うのか?」と上目遣いで問うてきた。
 まったく、そうじゃねえだろ。俺は深々とした溜め息を漏らした。
「馬鹿。こういう時は普通、『心配かけてごめんなさい』だろうが。誰も迷惑だなんて思っちゃいねえよ」
 バンダナの上から、片手で髪をわしわしとかき混ぜてやる。
 するとヤツはきょとんとした後で、たちまち嬉しそうに微笑んだ。
「そうか。ありがとう」
 花が咲くように、ってのは今みたいなのを指すんだろうか。そりゃあ見事な表情の移り変わり様だった。
 俺はムカついて相手の頭を小突いた。
「でもお前、危機感が足りないから今回の件で一個貸しな。馬姫様が無事戻ったら、酒の一杯でも奢れよ」
「分かった」
 にこにこしながら頷くもんだから、俺はまたまた呆れ返った。
 ああ、こいつやっぱりガキと一緒だ。幾ら目的が同じだからって、旅に同行したのは誤った判断だったの
かもしれない……まあ、どのみち聖堂騎士団を追い出された俺には他に行き場所なんてなかったけどな。
 でも、すっかり忘れていたが、この男はこれでもトロデーン国王陛下の覚えめでたき近衛兵で、俺がこい
つらの旅に加わってからも、戦闘時には実に頼りがいのある腕前を見せてくれていたのである。
 だから、おもむろに強い力で両肩を掴まれて泡を食っている内にヤツが頬に唇を押し当てて行き、俺から
離れて行った後も、間抜けなことに抵抗の一つすらできなかった。

277主&クク 10/14:2009/05/11(月) 01:15:12
「ちょっと、お前、何、してんの」
 百戦錬磨のククール様としたことが……。思いきり狼狽してしまったではないか。
 それでも何とか心の動揺を抑えて体勢を整えると、俺は再びベッドに座り直したヤツの顔をまじまじと見
つめた。
「これ? ごめんなさいとありがとうの意味を込めた挨拶だけど……」
 俺の質問を受けて、ヤツは小首を傾げた。
 それが何か問題でもあるのかと言わんばかりのお気楽な口調に気抜けする。
「誰に教わったんだ。お前の親か?」
「いや、トロデーン城の皆にだよ。俺にとって周りの人たちが親代わりなんだ」
 そう言って照れ臭そうに笑ったヤツの顔を見るまで、俺はもう一つ、この男にまつわる事情を綺麗さっぱ
り忘れていたことに気が付いた。
 幼少の頃に親と死に別れた俺とは違い、ヤツは物心がつく以前に両親と離れ離れになったのだという。
 この世界に生を受けた以上、少なくともその時点で母親は存在していた筈だが、両親共にこいつの記憶に
刻まれることなく姿を消してしまった。
 死んだのか、それともやむにやまれぬ事情によって我が子を手放したのか。それは定かでない。
 俺は、勢いに任せて口を滑らせた自分の迂闊さを呪って一瞬、目を閉じた。
「……悪ィ」
「いいよ。俺は気にしてないから、ククールもそんなに気を使わないでくれよ」
「そう言われてもね……」
 なぜそこで明るく笑い飛ばせるのだろう。俺は居たたまれない思いで溜め息をついた。
 俺が両親を喪った時、それまで蝶よ花よと育てられてきた子供だっただけに、心境としては目の前が突然
真っ暗になったような気分だった。
 それから初めて出会った血の繋がりのある兄から手酷く拒絶された時にも、俺は同様に深い絶望感を味わ
った。
 兄貴との確執は現在進行形で続いているけれども、俺が生きている限り、親父たちと過ごした日々は楽し
かった頃の記憶としてこれからも残っていく。オディロ院長もそうだ。俺を本当の息子のように育ててくれ
たあの人がもうこの世にいないのだと思うと悲しくて堪らないが、ドルマゲスを討てば……きっといつかは
俺の心の傷も癒える日が来ると信じている。
 だけど今、俺の眼前にいるこいつには幸せな思い出に昇華できるほどの記憶の断片すらないのだ。
 なのに、なぜ笑える? 俺にはまったく理解できなかった。

278主&クク 11/14:2009/05/11(月) 01:16:09
「両親はいないけどさ」
 ヤツが、ぽつりと呟いた。
 のろのろと顔を上げた俺を大きな目で見つめて、にこりと笑う。
「家族同然の人たちは沢山いるんだ。だから、そっちだけで手一杯だよ」
 俺は絶句したのち、思わず吹き出していた。
「手一杯って……そんな言い方あるかよ」
「いや、本当に凄いんだよ。爺ちゃんに婆ちゃん、兄弟、姉妹……っていう感じで、城のどこに行っても知
り合いだらけ! 俺のやったことが、全然違う所で仕事してる人たちにも知られてたりするんだ。皆は『小
さな城だから仕方ない』って言うけど、何だか納得いかないよ」
 唇を尖らせて憤慨しているが、やたら饒舌になるのは家族を自慢したくてしょうがないって有り様だ。
 家族か。ちょっとだけ羨ましいかもしれない。
「で、お前は何か失敗をやらかす度に、さっきみたいに謝って回っていたって訳だ」
 底意地悪く言ってやると、酷いなぁククールとか何とか返してきやがった。
 フン。トロデーン城に住まう連中の魂胆が何となく読めてきたぞ。
 おおかた、こいつがさっき俺にしでかした突拍子もない挨拶とやらは、何も知らない脳天気野郎をからか
ってやる目的で誰かが言い出したことで、そんでもってこいつが馬鹿正直に従うもんだから今さら引っ込み
がつかなくなって、今の今まで真実を告げられずに来たのだろう。
 まあ、でも何と言うか可愛がっている相手からごめんねって言われて頬にチューされたら、何でも許した
くなる気持ちになるのは分かる。
 さすがの俺も、さっきはちょっとときめいたしな。純粋ってのは偉大だ。
「あんまりよそではやらないのかな?」
 よそどころか、お前とお前の周囲限定の習慣だ。
 不可思議そうに首を傾げているヤツに心の中で突っ込んでおいて、悪い遊びを思いついた俺はいかにもな
思案顔で顎をさすった。
「あんまりと言うか、俺の知ってる挨拶とは違うな」
「へえ。ククールが知ってるのはどんなの?」
 やって見せてと訴える瞳がやたらと輝いていて、罪悪感が脳裏をちらっと掠める。
 でもなぁ。人間、やっぱり好奇心には敵わないんだよな。
 そこで俺はヤツに向かって顎を突き出し、唇を指先でとんとんと叩いた。
「ここ」

279主&クク 12/14:2009/05/11(月) 01:16:45
「え?」
 ぽかんとした顔が、ますます間の抜けた表情を作り出す。
 内心では笑いを堪えている俺だが、表向きはいたって真面目な風を装った。
「頬じゃなくて、ここにするんだよ。本心から悪いと思った相手には、唇でないと誠意を伝えることができ
ないんだ」
「……それ、本当?」
「俺はそう教わったぜ」
 素知らぬ顔で答えてやる。
 するとヤツはぐっと眉間に皺を寄せ、それからしばし黙り込んだ。
 俺は、相変わらず心の中でニヤニヤしながら相手の出方を観察していた。こっちの出任せを疑うだけの知
恵と警戒心は備わっていたのが驚きだが、どうするべきかと真剣に迷っているあたり、こいつはやっぱり世
間知らずの阿呆に違いない。
「悩むってことは、本気で申し訳ないとは思ってないんだな」
 せっかく助けてやったのにと悲しげに首を振れば、まごついていたヤツも慌てて体を前に乗り出してきた。
「唇にすればいいのか?」
 意を決したように尋ねてくる。
「そう。両頬に一回ずつと、最後に唇に一回だ」
 おお、神よ。人をからかうのに歯止めが利かないひねくれた性格をお許し下さい。
 そう祈りながら、俺は利き手のてのひらを胸に当てて神妙に目を閉じた。
 十秒ほどの沈黙が降りた。
 ほどなくして顔にかかる髪がすくい上げられ、耳の下からうなじにかけて温かい手によって包み込まれる
のが分かった。
 ふうん。結構、男らしい手つきをしてるんだな。
 そういやこいつの剣技は素手で柄を握る様式だったっけ。
 擦り切れたりマメができて潰れたりしねぇのかな、と革手袋を常用している俺としては素朴なギモンなの
だが、まあ、そのうち尋ねてみようと思う。
 羽が触れるように静かなキスが両の頬に落とされた。
 その続きは……ま、普通の男なら迷うところだよなぁ。
 しばらく待っても唇に触れるものがないため、俺は仕方なく瞼を開いた。
 そうしたら意外と近い位置にあいつの顔があって、思いがけず胸がどきりと高鳴った。

280主&クク 13/14:2009/05/11(月) 01:17:16
「何だよ。するのかしないのかハッキリしろ」
 自分が感じてしまった気まずさを打ち消そうとして、俺はちょっと強気に出てみる。
 すると、あいつは場違いなほどうっとりしながら言った。
「ククールは……睫毛まで銀色なんだなぁ」
「はあ?」
 答えになってねえだろと言いかけた俺の口を何か柔らかいものが塞いだ。
 何かってこの場合、あいつからのキスに決まってるよな。
 上から覆い被さるようにして深く深く口づけられて、俺は目を白黒させた。ぬるりとした感触がして背筋
がぞくりとわななく。おいおい、ここまでがっつりと交わす予定じゃなかったんだが……。しかも完全に頭
を抱えられていて余計な動きを封じられている。さすがは兵士、戦い慣れているといったところか。
 いや、感心している場合じゃない。
 逃走経路を断つのは、モンスター相手だけにしてくれ!
 思いのほか濃く口づけてしまった俺たちは、それから何度か顔の角度を変えて、キスを続けた。
 ようやっと唇が解放される頃には、互いの呼吸も若干乱れつつあって、今日の俺は心底疲れ切っていて良
かったぜと思わざるを得なかった。
 これで体力が有り余っていたら正直、結構……やばかった。
「えっと、これでいい?」
「ああ……」
 げっそりとしながら俺は答えた。
 何という敗北感。
 打ちのめされて項垂れている俺とは対照的に明るい表情を浮かべたヤツは、何やら意を決したように短く
息を吐き出すと、おもむろに立ち上がった。
「どこに行く気だ?」
 意気揚々とした態度を訝しんだ俺はヤツに問うた。
 何だか嫌な予感がするのは気の所為か?
「今の、ヤンガスにもしないとな。さっき助けに来てくれたし」
 そうきたか。
「待て待て待て待て」
 焦った俺は、くるりと体の向きを変えて走り出そうとしたヤツの首根っこを咄嗟に捕まえていた。

281主&クク 14/14:2009/05/11(月) 01:17:45
「苦しいよ」
 涙目になって訴えるヤツを無視して、俺はずるずるとその体をベッドの位置まで引きずり戻した。
 さっきのアレをヤンガスにもするだと? 逆に吸われまくって美味しく戴かれちまうのがオチだ。それだ
けは許せん。あってはならないことだ。
 しかしこいつの今の勢いじゃあ、敬愛する馬姫様やトロデ王にだってキスをしかねない。そんなことをし
てみろ、余計なことを吹き込んだのが俺だってすぐにバレてしまうではないか。
 俺は、自慢の長い髪が馬にムシャムシャ食べられる光景を想像して総毛立った。
「するのは俺だけにしておけ」
「どうして?」
「パルミド地方にはない習慣かもしれないだろ」
 ううむ、我ながら苦しい言い訳だ。
「そうか。トロデーンとマイエラでも違うんだもんな」
 だがヤツはあっさりと信じ込んだ。ああ……こいつが阿呆で助かったぜ。
 俺がほっと胸を撫で下ろしていると、ヤツはいっそ不気味なほど無垢な笑みを浮かべた。
「色々教えてくれてありがとう」
「えっ、あ……ああ、別に礼には及ばねぇよ」
 そうして、しどろもどろになる俺をよそに、赤いバンダナを取り去り、袖口をまくり上げて気合い十分と
いった様子で目の前に立ち塞がった。
「だめだよ。ちゃんと気持ちは伝えないと」
 へっ?
 俺は間の抜けた声を上げてヤツの顔を仰ぎ見た。
 その瞬間、俺の両頬はがっちり挟み込まれてしまう。
 おい……この状況はまずいのではないか。何か知らんが目が輝いてるぞ。
 俺は自由の利く目玉を動かしてヤツの服のポケットから見え隠れしているネズミに助けを求めたが、ネズ
公は我関せずといった様子で、くわぁと欠伸をしてからモゾモゾと潜り込んでしまった。くそっ。
「ククールだけにするからね」
 なぜかそう宣言されてしまい、今さら忘れてくれとも言い出せず、俺はヤツにこの悪戯を仕向けたことを
後悔した。

282名無しの勇者:2009/05/11(月) 01:18:29
以上です。
まだ萌の衝動が大きくてカプというより単体モエーな感じですが
この話のククは受けっぽい予感です。誘い受けのちヘタれる、みたいな。

久々に文章を書いたので、うまくまとまってないかもしれません。
お目汚し失礼いたしました。

283名無しの勇者:2009/05/24(日) 20:54:32
>>282
純粋な主が可愛かった!どうもありがとう。

284名無しの勇者:2009/05/29(金) 23:59:48
>>282
新作キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!職人さんGJです!
ピュアなのに攻めとか好物すぐる
自分から仕掛けといてドツボに嵌ってる99もイイ!w
今はまだ8プレイ中でしょうか?是非また書いて下さい!

285名無しの勇者:2009/06/04(木) 20:36:47
これはいい主&九九
萌えました

286名無しの勇者:2009/08/01(土) 01:18:59
久々に来た
やっぱり8はいいな
9が一段落したらもう一度やり直そう

287名無しの勇者:2011/01/03(月) 21:49:48
>>282です。
感想を下さった方々、ありがとうございました!
御礼が遅くなってしまい大変申し訳ありません。

これを投下した当時はサイト作る気でいたんですが
先日、某小説SNSのアカウントを取ったので
そちらに加筆修正してうpしてあります。
DQ作品はあまり置いてませんが
お暇でしたらそちらもご覧頂けると嬉しいですー。

288名無しの勇者:2011/01/04(火) 00:09:44
某小説SNSとか知らんし…

289名無しの勇者:2011/01/04(火) 01:25:28
この過疎っぷりはやっぱりこの板以外に投下する場所があるからなのかなぁ…
ちょっと淋しい

>>287
投下乙でした
時間ができたら探しに行きますね

290名無しの勇者:2011/01/04(火) 01:41:11
この過疎っぷりはやっぱりこの板以外に投下する場所があるからなのかなぁ…
ちょっと淋しい

>>287
投下乙でした
時間ができたら探しに行きますね

291名無しの勇者:2011/01/04(火) 02:27:56
この過疎っぷりはやっぱりこの板以外に投下する場所があるからなのかなぁ…
ちょっと淋しい

>>287
投下乙でした
時間ができたら探しに行きますね

292289:2011/01/06(木) 00:00:27
ギャー!連投すみません!今、気付きました…本当に申し訳ありません

293名無しの勇者:2011/08/31(水) 16:03:14
確かにねー、過疎ってる…

294名無しの勇者:2011/09/01(木) 00:23:53
個人サイトで更新しているところが少ないからこういう場所だと
余計に過疎ってしまうのかな。

295名無しの勇者:2011/09/25(日) 11:45:52
逆に手軽に個人サイトを持てるようになったから、ここに敢えて投下する必要がなくなったのかなあ?なんて。
過疎るのは悲しいので、かいてみた

296名無しの勇者:2011/10/12(水) 00:03:24
過疎はいやあああ!
てわけでカキコ

297名無しの勇者:2011/10/12(水) 00:29:16
だれか いる?

298名無しの勇者:2011/10/12(水) 17:17:51
いるよ。
投稿祈願カキコ。

サイトを見てもほぼ倉庫化してるところばかりだし
せめてここで神職人光臨して欲しいね。

299名無しの勇者:2011/10/12(水) 18:43:18
神にはなれません、人間ですが投下させて下さい。8好きすぎてもう大変です
・主クク
・大人っぽい?主
・小学生っぽいククール←
・キス以上エロ未満
な内容ですが、OKな方はドウゾ

300予想の範囲外 主クク 1/3:2011/10/12(水) 18:57:12
夜分遅く。
疲れた体を部屋の中へ引き摺るようにして、ベッドまでたどり着いた。
赤いマントと上の騎士団の服を半ば投げるように脱ぎ落としてシャツとズボンというラフな姿になると、なりふり構わず仰向けの状態でダイブする。
大丈夫、これを見ているのは同室になった赤いバンダナの青年くらいだ。
ーー銀髪が白いベッドの上で踊るように散った。

「あー、疲れた」

なんとも不機嫌そうな表情で、彼は力を抜いた。

「そうだね。毎日このくらい疲れてたら、もう君も夜遊び出来ないんじゃない?」

その様子を見て、苦笑混じりにこちらを揶揄する仲間の声が聞こえてきた。

「なんだよ。んな毎日毎日酒場に入り浸ってるわけじゃねえし、朝帰りだってしてないんだからいいだろ」

「僕にはそもそもワインの美味しさがわからないけどね……ほらほら、そんな格好してると襲われちゃうよ?」

エイトがベッド周りに散らばったククールの制服を律儀に拾い、こちらへ手渡してきた。
その、なんというのだろう……。年下の彼のその大人びた感じが何だか気に障った。それが疲れていたせいかはわからない。とにかく、その表情を崩すためにちょっかいをかけてみたくなったのだ。

だからククールは突然、自らの利き手でエイトの右腕を引っ張った。

「うわっ!」

驚きの声をあげてエイトがこちらに倒れこんできた。当たり前だ、かなり力任せに自分の方へ引っ張ったのだから。そしてこれはククールの中では予想の範囲内の出来事。

「なら、襲ってみる?」

「……え」

エイトの目が困惑で大きく見開かれ、対称的にククールの瞳が悪戯っぽく細められた。

301予想の範囲外 2/3:2011/10/12(水) 19:10:14
見つめあうこと数秒が経過した頃、ククールが唐突に噴き出しす。そして掴んでいたエイトの右腕を離してと思いきや、腹を抱えて大笑いしだした。

「ぶは、あはははは!じょーだんだよ、冗談!」

大人びた奴の鼻を挫いてやろうというやや子供染みた発想を抱いたククールとしては、エイトのきょとんとした顔がいかにも何も知らない無垢な子供のような表情であったから満足したのだろう。

「……ククール」

ぎしりと軋む音が耳元から聞こえた。
ぎしり。そんな音をたてるものはこの部屋の中にはベッドしかない。状況を詳しく言えばククールの耳のすぐ横に、先程彼が解放したエイトの右手があった。これがその音をたてたのか。そう理解するのに数秒かかる。見事に見下ろされる格好になったククールはそれだけ狼狽えていた。

「あ、あの……エイト?」

「なに?」

「退かないのか」

「どうして?」

今度はエイトがくすりと笑う。先程のあどけないようなきょとんとした表情は何処へやら、というような変貌ぶりだった。

「君が襲ってみるかって言ったんだろう」

顔が、不自然に近い。
互いの吐息がかかる距離にあるのだ。

「だ、だから冗談だって……オレ野郎の趣味は無いし、ひ」

ぺろ、と唇を舐められ情けない声が漏れる。
怯んだ隙に、これから言うはずだった静止のための言葉が相手の唇によって呑み込まれた。ということは、既に唇と唇が触れあっているらしい。
ちゅ、という耳につく音が聞こえる。これが現実なのかどうか未だ判断しかねるククールはただただ固まっていた。
しかしすぐに抵抗する羽目になる。

「ーー!」

何かが唇を割って侵入してくる感覚。こいつ、舌を……!
ククールは心の中で毒づいた

「ん、んんーー!!」

相手のそれを自分の舌で押し出そうとするが、反対に絡めとられてしまった。何処でこんなの習ったのか、と疑問に思うほど、正直上手い。

「……ふ、」

唾液が頬を伝って一筋流れていく。いやこれは本気でまずい、頭がぼーっとしてきたのが分かった。
畜生、息が苦しい。
なりふり構わずに手足をばたつかせると、タイミングを見計らったかのようにようやく唇が離された。

302予想の範囲外 3/3:2011/10/12(水) 19:32:58
「はぁっ」

一気に息を吸うと、案の定噎せた。げほげほと咳き込む自分に比べ、目の前の奴は随分と涼しい表情をしている。

「なんて顔してるんだ」

「は……?そんなに酷い顔してるか、オレは」

「うん。涙目で、頬が赤くて全体的にピンクの弓矢な感じ」

「エロスってことな」

まさかエイトからのキスで息切れするとは思わなかった。というか、キス自体されるとも思ってはいなかったが。

「ちなみに僕は同性とキスしたのは初めてだけど、君にもこういう趣味は無いんだったよね」

「……ああ」

「そんなククールはこれ以上の行為をして欲しい?」

「切実にいいえ」

お前は何処の鬼畜だと突っ込みそうになるが止めておいた。更に厄介なことになりそうだとオレの勘が告げているから。

「じゃあ、からかってごめんなさいは?」

「……もう本当すみませんでした。まさか乗ってくるとは思わなかったんです」

「わかればよろしい」

エイトは素直に上から退いた。
その顔はいつも通りの人畜無害そうな表情であったから、ククールはほっとしてベッドの上で溜め息をつく。

「そういえばククールって百戦錬磨じゃなかったの?」

「……野郎は対象外だって言っただろ」

「ふうん。ま、知識さえ教えてくれればまたお相手するよ」

にこりと笑って放たれたその言葉にククールは凍り付くが、その視線の先では何事もなかったかのようにエイトが寝る準備を進めている。
……神よ、羊の皮を被った狼がこんな近くにいたなんて知りませんでした、全くもって予想外の出来事でした。
ククールが天を仰いでいるその横では、年下の彼が先ほどと何ら変わらない大人びた表情をして、静かに笑っていた。

303予想の範囲外 作者後書き:2011/10/12(水) 19:37:36
小学生というのは大袈裟でしたが、幼めなククールと大人な主人公の絡みが好きですので投下してみました。
指摘などがありましたら優しく教えてくださると嬉しいです

閲覧ありがとうございました。

304名無しの勇者:2011/10/12(水) 19:46:46
まさかこの展開で投下が来るとは嬉しいなあ嬉しいなあ。
女の子相手ならイケイケな癖に男相手だとウブになるククがおいしいです。
投下ありがとうございました。

305名無しの勇者:2011/10/22(土) 19:29:05
は、投下されてたとは!
主クク萌えました、乙です

306名無しの勇者:2011/10/30(日) 16:05:37
うおお…主に押されるククール可愛いよククール
お子様だと馬鹿にしてた相手にいただかれる展開大好きだ
ご馳走様でした有り難う


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