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ネタ振りスレッド〜その2〜

825野望乱立(その六) ◆I9WFnCXgeU:2011/12/20(火) 13:30:33
「おい、旦那よお」
頭だけを出して、楊丙が尋ねる。
「何だ?」
「いいのかよ」
「何が?」
「だから。あいつを逃がしちまって、いいのかよ」
「一人で追うのが怖くなったか?」
「馬鹿言うない。俺は鮮卑の楊丙だ。あいつが半端なく強いってことはよーくわかったが、それとこれとは話が別だ」
「なら、行け。俺のことは気にするな」
「そういうわけにはいかねえ。馬超は旦那を裏切ったんだろ? 俺なんぞより旦那の方がよっぽど、あいつに恨みがあるはずだ。それなのに、何で追わねえんだ?」
「御大将の命令だからだ」
「腑に落ちねえ。命令だろうが何だろうが、旦那は自分が納得しなければ無視するに決まってる」
「決めつけるな」
成抗は苦笑した。
「納得してるのさ。だから、追わない」
自分の心の内を説明したのは、 この粗野な男が、意外と人の機微に通じていることに驚いたからだった。


西涼馬家を代表する者の座を賭けての、戦い。
戦さを起こす理由として、ここまで愚かなものもそうはあるまい。
そんな戦さで死んでいく兵も哀れだし、何より「国造り」を目指す成抗にとって、そんなものには何の価値もない。
それなのに、不必要な戦さの原因となり、かつ西涼軍に甚大な損害を与えかねない武将を、ここで黙って見送る。
追わない。
それは、成抗が馬騰の命令に、本心から納得しているため。
理において、ではなく、情において。
つい先ほど展開された、馬騰と馬超のやり取り。
互いの武を競わんと、屈託なく誓い合った親子。
その姿に、成抗は痺れた。
あの時の馬親子は、己の武こそに自分の価値を据え、それ以外は何も望まない、まさに成抗が理想とし、そうありたいと願う羌人だった。
行商人の波羽於莉と大陸を回るうちに、合理的な物の考え方を身に着けたとは、成抗自身、自覚するところではある。
だが、本質は変わっていないことを、今日、自覚した。
あんな姿を見せつけられたら、もう何も言えない。
利ではなく、名をかけての、戦い。
何と馬鹿げた、そして素晴らしい戦さだろう。
戦さとは、こうでなくてはならない――。


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