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【場】『 湖畔 ―自然公園― 』

1『星見町案内板』:2016/01/25(月) 00:04:30
『星見駅』からバスで一時間、『H湖』の周囲に広がるレジャーゾーン。
海浜公園やサイクリングロード、ゴルフ場からバーベキューまで様々。
豊富な湿地帯や森林区域など、人の手の届かぬ自然を満喫出来る。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
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      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
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             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
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                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
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★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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242神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/18(日) 00:40:43
ある日の夕暮れ。
人もほとんどいないような時間。
シーズンならバーベキューを楽しむ人たちでいっぱいになっているはずの場所にそいつはいた。

『よき体を作るものは』

「いいトレーニング」

『そして?』

「食事」

燃える火。
そしてその火に焼かれる多くの肉。
たった一人でバーベキュー、ではない。
その傍らには赤褐色の人型ヴィジョン。スタンドが一体。

しかしこの二人、肉の焼き加減を見守っているわけではない。

『そこ、またズレたぞ!』

「……」

ダンスを踊っていた。

243小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 00:09:34
>>242

人気もほとんどなくなり、穏やかな時間が流れているその場所に、もう一つの人影があった。
洋装の喪服を身に纏い、その上からやや色味の違う黒いコートを羽織り、黒い帽子を被っている。
ふと、夕方の自然公園を少し歩いてみたくなり、散歩に出てきた途中なのだ。
不意に、その足が止まり、ある一点に視線が集中した。

  ――……?

男性の傍らに、見慣れない『誰か』がいる。
その姿に興味をそそられ、そこに立ち尽くしたまま、目の前の光景を見つめる。
無意識の内に、静かに見守るような形になっていた。

244神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 00:24:27
>>243

『ここの振り付けは、こうだ! こう!』

「大将?」

『どうした?』

「確かに、僕普段使わない動きをトレーニングに入れたいなーって言ったよ?」

『あぁ』

「でも恋ダンスは違うくない?」

切れのいい動きで踊る人型。
本体らしい男は困った様子で頭を掻いている。

「肉焦げちゃうよ」

『よし、いったん休憩だな』

焼けた肉を紙皿の上に乗せる男。
そこで、あなたと目が合った。

「わ、人がいる」

245小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 00:46:36
>>244

  「こんにちは」

挨拶と共に深く頭を下げた。
肌の色は新雪のように白い。
身に着けている衣服の色のせいで、それが余計に際立っている。

  「ごめんなさい。失礼とは思ったのですけど――」

  「その――少し気になってしまったものですから……」

そう言って、申し訳なさそうに顔を伏せる。
見つめていたことに気付かれたという気恥ずかしさのせいか、頬には若干の赤みが差していた。
まもなく気を取り直して、再び顔を上げた時には、頬の色は元に戻っていた。

  「何かスポーツをなさってるんですか?」

穏やかな、しかしどこか陰のある微笑みを浮かべて、そう尋ねた。

246神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 00:55:38
>>245

「あぁ、どうも。こんにちは」

頭を下げる男。
黒と金がまじりあった長髪を一つ結びにしている。
服もまた黒と金がまじりあうジャージだ。
その上にジャンバーを羽織っていた。

「気にすることじゃないよ」

『うむ。その通りだ』

にこりと笑って言う言葉を隣の人型が後押しする。

「スポーツっていうか、ダンス?」

『いや、これもプロレスだ。プロレスである。プロレスだろう』

「うん。ちょっと黙ってくれないかなぁ」

『なっ……』

247小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 01:21:40
>>246

  「お気遣いありがとうございます」

まず男性を見て、それから人型の方へ視線を移す。
線の細い自分とは対称的に、筋骨隆々とした姿からは、生命力に溢れている印象を受ける。
おそらくは本体であろう男性を反映しているのだろうと思えた。
『彼』が何者なのかは、最初に見た時から。おおよそ理解はしていた。
それでも、珍しいことには変わりがない。
今までに、自分のもの以外のスタンドを見たことは少なかった。

  「プロレス……ですか?そう――プロレスをされてるんですね……」

人型の言葉を受けて、小さく頷き、何気なく呟いた。
スタンドはスタンドを使う者にしか感じ取れない。
目の前にいる男性――神原が、そのことを知っていたとしたら、
この喪服の女もスタンド使いだということが分かるだろう。

248神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 01:28:27
>>247

「そう。僕はレスラーなんだ」

『そして俺がトレーナーだ』

「ん?」

肉を噛みしめながら小首をかしげる。
しばしの思案。

「大将が見えるの?」

『師匠と呼べ』

「師匠、ああもういいや。君もそういう人?」

そういう人。
つまりはスタンド使いであるのだろうか。
男は念のために確認した。

249小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 01:50:59
>>248

  「はい」

投げかけられた質問に対し、特に隠すこともなく、呆気ない程に素直に肯定した。
敵対的なスタンド使いに出会ったことがないため、警戒心が薄いというのもある。
元々の性格として、嘘をつくことを好まないからというのも理由の一つだ。
何よりも、この男性が悪い人には見えなかったからというのが、一番の理由だった。

  「私も同じものを持っています」
  
  「そちらのトレーナーさんのようにお話はできませんが……」

  「見せていただいたお返しに――私も少しお見せします」

利き手である左手を持ち上げ、軽く握る。
すると、その手の中に一振りの『ナイフ』が出現した。
その後ゆっくりと手を開くと、『ナイフ』の像は徐々に薄れ、最後には霧のように掻き消えた。

250神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 02:00:17
>>249

「わぁ、ナイフか」

『俺とは違うタイプのスタンド』

男自身もあまり自分のもの以外を見たことがないのだろう。
素直に驚いた声をだす。

「ナイフかぁ。使いどころありそうだなぁ」

「料理するときとか……あ」

「食べる?」

バーベキューの網を指さし問うた。

251小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/20(火) 23:09:20
>>250

  「誘って下さってありがとうございます――」

  「では……お言葉に甘えて、少しだけお邪魔させていただきます」

少し考えてから、そう答えた。
見知らぬ男性とバーベキューをするというのは、傍から見ると奇妙な光景だろう。
しかし、自分と同じような人間と出会えたことは嬉しいことであり、もう少し話をしてみたかった。
こうして町の中でスタンド使いに出会うことはあまりない。

もしかすると、自分でも気付かない間に出会っているのかもしれないが……。

  「こちらには、よく来られるんですか?」

252神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/20(火) 23:39:25
>>251

「好きなだけ食べてね。お酒が好きならそれもあるよ」

こんと足で蹴った先には箱型のカバン。
その中に酒もあるのだろう。

「はい。紙皿と割りばし」

『しっかり食ってトレーニングッ。それすなわち肉体増強の道なり』

肉を焼き、野菜も焼く。
次々と肉をひっくり返し、紙皿の上にのせていく。

「こっち、か。トレーニングできるならどこにでも。面白いもの、刺激のあるものがあるならどこにでもいる」

「巡業中はいろんなところ行くけど、コッチでの試合も結構あるから」

253小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/21(水) 00:03:39
>>252

  「どうもありがとうございます」

左手で割り箸を、右手で紙皿を受け取る。
両方の薬指にある結婚指輪が、夕日を受けて小さく光っていた。

  「お酒は嫌いではありません」

  「ですけど――今日の所は、お気持ちだけいただいておきます」

そう言いながら、先程からの陰を帯びた表情で、穏やかに口元を綻ばせた。
アルコールは必要な時だけ摂ることにしている。
幸いなことに、今はその時ではなかった。

  「色々な場所へ行かれてるんですね」

  「私は存じ上げない世界ですけど……」

  「もし、この町で試合をされるのなら、私も一度拝見させていただきたいです」

254神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/21(水) 00:41:54
>>253

「そう。残念だなぁおいしいのに」

おかまいなしに男はカバンから酒瓶を取り出す。
ブランデーであった。コップに注ぐとそれを一気にあおる。

「うん。ぜひ来てね」

「マスメディアが盛り上げてくれる分僕らも頑張るからね」

「今は休みの期間だからチケット持ってないけど」

「あ、神原幸輔(かんばる こうすけ)の名前があるポスターがあったらその団体のチケットを買うといい」

「僕が出てるからね」

255小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/21(水) 01:13:13
>>254

  「神原さん――ですね。分かりました。その際は是非……」

ちょうどいい焼き具合になった肉と野菜を網から拾い上げ、口の中に入れる。

  「おいしいです」

素直に感じたままを口にし、柔らかい笑みを浮かべた
野外でバーベキューというのはあまり馴染みがないため、自分にとっては新鮮な経験だった。
なによりも、自分と同じような人間――スタンド使いと会話していることで、
心の触れ合いを感じていることが大きいのかもしれない。

  「私は何も差し上げるものがないのですけど……」

  「今日ここで出会った記念に、せめて名前をお教えしておきます」

  「私は小石川――小石川文子といいます」

そう言って、再び微笑んでみせた。

256神原 幸輔『ストロンガー・ザン・アイアム』:2016/12/21(水) 22:17:48
>>255

「それはよかったよ。いいお肉かったからね」

「おかげで素寒貧だけど」

『レスラーは男を売るのだ。即ち見栄の商売なりッ!』

「うん。師匠はお金払わないもんねぇ」

また酒をのむ。
今度は瓶から直接ラッパ飲みだ。

「小石川さんかぁ。よろしくね」

『さぁ、幸輔踊るぞッ』

「え? ほんと?」

二人はまた踊り始める。
それは先ほどよりちょっぴりうまい踊りだった。

257小石川文子『スーサイド・ライフ』:2016/12/21(水) 23:42:05
>>256

息の合った二人のやりとりを見て、自然と口元が緩む。
同時に、ほんの少しの寂しさが胸の内をよぎった。
いつでも誰かが傍らにいてくれる。
かつては自分のそばにも、そんな人がいた。
幸せだった時のことを思い出して、その顔に浮かんだ陰の濃さが、不意に増す。

  「――ふふッ」

しかし、再び目の前で踊り始めた二人の姿で、その暗さも打ち消されてしまった。
つられたように、自身も小さく笑う。
先程よりも、少し明るい微笑み。
それが彼らによってもたらされたものであることは言うまでもない。
しばらくの間、自分に明るさをくれた二人を、優しい視線で見守り続けていた。


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