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009 小袖袴

1ε【サブGK】:2011/08/05(金) 00:24:12
お名前 : 仲間同志

2<削除>:<削除>
<削除>

3ε【サブGK】:2011/08/05(金) 00:25:49
■能力原理
付喪神に纏われている少女自身の能力によっ
て、特殊能力発動を終えたばかりの魔人をも
う一度能力発動可能なコンディションにす
る。
さらにもう一度能力を発動してもらう。
魔人能力を見られて満足した少女は、身に纏
う着物の能力によって帰宅する。
因みに帰宅する際、着物は役目を終えてその
場に残るが、下駄だけは持って帰る。

以下、能力制約の詳細
「今回は右手が動かないんだから、表立って
危ないことしちゃ駄目だよ」
「うん」
「もし抗争に巻き込まれても、表立って争い
ごとに向かう人のサポートなんかも危ないん
だからね」
「う、うん」
「戦場をうろつくなんてもってのほかだって
わかっているよね」
「は、はい」
「よし。それじゃあ社(やしろ)もしっかり
とご主人様を守ってね」
「えぇ……それじゃ能力を肌で感じられない
よ……」
「だから能力を喰らっちゃ駄目でしょー!」

***

「今回は陰でひっそり……本当に潜入任務に
なりそうだね」

守りをおろそかにすることは出来ませんが、
約束を守りつつ抗争を近くで見ることはでき
るかもしれませんよ。
自分は表立って戦闘に参加せず、表立って戦
闘に参加していない人のサポートを動かずに
すればいいでしょう。

「うーん……そうだね。どうしても近くで見
たくなるような凄い能力か、運命の出会いで
もあったら考えてみようか」

■希望発動率
102%

■希望評価点数
30点

4ロリバス(不祝誕生日(ロンリーバースデー)):2011/08/05(金) 00:28:53
GK会議まとめ。

計算まちがいなし。
希望崎だしこれで問題ないかと

5ε【サブGK】:2011/08/05(金) 00:29:29
■キャラクター説明
性別:無性

病気の少女に纏わせている小袖、小袋帯、袴、襦袢、足袋、舟形下駄。いわゆる付喪神。
それぞれが別の付喪神なのではなく、全てひとつの付喪神の一部である。
その本体は、民家、土蔵、神社の三つの建造物と、それらが建つ土地、そしてその土地を
囲む塀が収合して出来た日本家屋の付喪神である。
元々はそれぞれの家屋、土地、塀は別の場所で年ふり付喪神となったものであるが、いつの時か、同じ場所に集まり、ひとつの付喪神となった。
この付喪神の収合については、誰かがそれぞれの付喪神の能力を合わせて利用するために人為的に行ったのではないかともっぱらの噂である。
なお、この日本家屋の現所有者は、今回のハルマゲドンにてこの付喪神の一部に纏われている病気の少女である。

***

付喪神全体名:社(やしろ)
元は五つの付喪神が合わさって出来た付喪神であり、五つの能力を備えている。
以下、各能力詳細。

能力1:袖中の箱庭(しゅうちゅうのはこにわ)
家屋と土地を囲む、塀の能力。
社全体の大きさを最小で掌サイズまで自在に縮めることができる。
旅行時など、袖の中に自分の家を入れて運べるため、大変便利である。
ただし、危険な場所へ社を持ち込むのは前線へ本陣を移動させるようなものであるため、使用は慎重に行っている。

能力2:蓬莱の歓待(ほうらいのかんたい)
家屋の建つ、土地の能力。
この土地において、大地の恵みは常に尽きず、湧き出る水は決して枯れない。
家庭菜園には四季を通じて種々の野菜、果物、香草、薬草、綿花等がなり、池や井戸は水源も不明だが常に水を湛えている。
また、土地に建つ家屋にも能力効果が発揮されたのか、民家に備えられた燃料や土蔵の中にあるがらくたも尽きることがない。
日常生活を送る上で、最も重宝する能力である。

能力3:夢の寄辺(ゆめのよるべ)
社の持ち主の少女が母屋として使用している民家の能力。
この家屋内の物を身につけていると、所有者の身に危険が迫った際、その物が身代わりとなって所有者を守る。
具体的には、所有者を亜空間へ落とし、家屋内の布団の中に着地させる。
この能力を使うと『崖から落ちる夢をみて布団の中で飛び起きた』気分が味わえる。
また、身代わりとなった物が壊れていなかった場合、布団の中からその物が残されている場所まで亜空間経由で移動も可能。
基本的に自動で発動する能力だが、所有者が外出の目的を果たした際など、帰宅目的での使用も可能。
社の持ち主の少女を守る要と言える能力である。

能力4:サの便(さのよすが)
土蔵の能力。
物だけでなく、人の想いや中二力を収めることができる。
土蔵の中のがらくたにもその能力が発揮されるため、このがらくたを持って魔人能力発動の場に居合わせれば、
能力を使用した魔人から溢れる中二力を保存することができる。
なお、社の持ち主の少女が元気な時に愛用しているメモ帳は、この土蔵の中からざくざくと出てくる刀剣を材料に作成したものである。
少女はこの能力を使って、多くの魔人の能力を収集して楽しんでいるらしい。

能力5:忘失(ぼうしつ)
神社の能力。
かつて神社であった、今ではまします神のいない、空の神殿が発する忘失の力。
詳細を語るには文字数が足りない。

また、社の中には、持ち主の少女が生活する上で必要になった、付喪神ではない建造物も混ざっている。
現在、母屋、土蔵、神社の他、お客様を迎えるための建物、少女のお目付け役が寝起きしている武道場、温泉脇の脱衣所の三つが建てられている。

6ε【サブGK】:2011/08/05(金) 00:40:48
■エピソード
ここは古い古いものたちが集まったひとつのお屋敷。
染みひとつない壁に磨かれた窓がはめ込まれ、庭には大理石の彫刻と噴水が昇ったばか
りの朝日で輝いている――そんな洋風の館ばかりが立ち並ぶ町の一角で、このお屋敷だけはどこか別の時代から引っ越してきたかのようです。

本日はそんな、閑静な高級住宅街の中、周囲に溶け込む努力を放棄して佇む奇妙なお屋敷のご紹介をいたしましょう。
塀の内側の様子は、私が言うのもなんですが、なかなかに不思議な光景が広がっておりますよ。

まず、門をくぐって最初に目に飛び込むあれは、半円かというくらいに傾斜のついた木造アーチ橋です。
このお屋敷は塀の内側をなぞるように川が流れておりますので、門をくぐったら、その川に掛かる橋を渡ることになるわけです。
では橋を、よいしょっと、渡ると、この通り。今度は茂る緑のトンネルがお出迎えいたします。
この豊かな緑は川に沿ってお屋敷の庭をぐるりと巡っておりますが、綺麗に四分割、区画分けでもされているかのように、
それぞれ春の植物、夏の植物、秋の植物、冬の植物が集まって賑やかにしております。
門があるのは春の植物が生える春の庭ですから、本当に春の時分になれば、梅、桃、桜と、咲き誇る花が、それはそれは綺麗なものです。
もちろん他の夏、秋、冬の庭もそれぞれ素敵なところですが、そのあたりはまた別の機会にお話いたしましょう。
さあ春の庭を抜けますと、ちょっとした広場に出ます。
いずれはここにも何か建つかもしれませんが、今はただ柔らかい緑の絨毯を踏んで楽しむか、
そうですね、偶にお屋敷の主人がご友人を誘ってバーベキューなどなさっております。
この広場をまっすぐ進めばお屋敷の中心、枯山水にぶつかります。この枯山水は通称中庭と呼ばれております。
枯山水と言いましたが、まあ日によって岩の位置や砂の模様が変わるものですから、ときには岩がひとつもない、銀沙が広がるだけなんてこともあります。
なんでそんな風に様子が変わるかといいますと、まあ私の趣味だから、ですね。

それでは中庭の向こうをご覧ください。正面に見える藁葺屋根に土壁のいかにも古風な民家。あちらがこのお屋敷の母屋になります。
銀沙の先に建つ藁葺屋根なんて、他では滅多にご覧にはなれない光景でしょうね。
こちらからでは見えませんが、母屋の裏手には立派な土蔵がひとつ、生い茂る木々にまぎれて建っておりまして、
その中にはいつからあるのかも判らないようながらくたと、このお屋敷の主人が趣味で集めたものが詰まっております。
視線を右に移してもらって、中庭の右側、あちら側が夏の庭になりますが、あそこに建っているのは来客をもてなすための家です。
今は雨戸が全て閉められていますから分からないでしょうが、中央に囲炉裏のある広い板間が二つと土間がひとつ、三つが横一列に並んだ細長い形の木造家屋となっております。
囲炉裏にあたりながら談笑するもよし、あるいは土間側を除く建物の三面がすべて縁側ですから、縁側に腰掛け、枯山水や夏の庭を眺めながらお茶を飲むなんてこともよろしいでしょう。
そして来客用の家に中庭をはさんで相対しているあちらは神社の拝殿です。
まあ神社といいましてもあの通り拝殿しかありませんし、そりゃあ昔はいらっしゃったのかもしれませんが、今では祭られている神様もおられません。
神社にこんなことを言うのも変ですが、がらんどうってやつですね。冬の庭の侘しさによくあっているとも言えるでしょうか。

あと、このお屋敷で特筆すべき事と言えば洞窟。夏の庭の奥と冬の庭の奥、どちらも外周を流れる川の近くに洞窟があります。
夏の庭の洞窟は様々な鉱物の結晶があちこち生えており、かと思えば足元から溶岩が湧き出している、なんとも刺激的な場所です。
この洞窟の入口付近には硫黄泉と塩化物泉、二種類の温泉が湧いており、また、脱衣所も併設されておりますから、よろしければここで疲れを癒していかれてはどうでしょうか。
冬の庭の洞窟は通年、壁面を分厚い氷が覆っている天然の氷室になっておりまして、料理に使うお肉や、アイスクリームなども冷やされております。

ああ、あとひとつ。既に通過してしまいましたが、春の庭にはお屋敷の主人の警護をしている者が寝泊りしている建物もありました。
この建物は武道場としても使われており、警護の者やお屋敷の主人が、日々、己を鍛錬しております。
はい、そうです。あなたをこのお屋敷まで案内したのがその警護の者ですね。

さて、お屋敷の主だった建物についてはご紹介を終えましたので、そろそろこのお屋敷に住む方々の紹介と参りましょう。

7ε【サブGK】:2011/08/05(金) 00:41:19
まず紹介するのは、当然、お屋敷の主人ですが、こんな古めかしくてみょうちくりんな造りのお屋敷の主人といったらさぞかし偏屈そうなご老人を想像なさるかもしれません。
しかし、事実は奇なりとでも言いましょうか、なんと年若いお嬢さんがこのお屋敷を取り仕切る主人なのです。
なんでもこのお嬢さん、自分で考えた苗字をお役所に申請するため、世帯主にならないといけないからなどという理由で
ご実家を飛び出し、このお屋敷を見つけて住み始めたそうなのです。
さてさて、そんな立派なご主人様はと言いますと……今、ちょうど来客用の家で目を覚ましたところですね。
その日の気分で寝る場所を決めるのがこのお屋敷の主人ですから、ときには母屋以外でも寝起きするのです。
今は毎朝の日課である体調の確認、布団の中で体のあちこちを軽く動かして様子を見ています。
ああ、そう。主人は体の一部が突如全く動かなくなるという病気を抱えておりまして、そのためにこんな日課ができたわけです。
右腕がまだ動かないようですね。あの一瞬見せる寂しそうな表情は出来れば拝みたくないものです。
体の確認を終えまして、まず布団から這い出て枕元の有明行灯の覆いを外して部屋を明るくし、立ち上がって部屋の外へ向かって、
障子を開けて縁側に出て、片腕でちょっと開け辛そうに雨戸をガタガタと鳴らして家の中へ朝の空気を取り込んでいますね……
……と、ああ、これはどうもすみません。つい主人の愛らしい動作を追ってしまいまして、話が先へ進んでいないですね。
うっかりこのまま主人の動きを日暮れまで追い続けるところでした。
ええと、そう。主人の紹介でしたね。外見はあの通り、黒髪黒目で中肉中背。すらっと伸びた脚と、肩甲骨のあたりまで伸ばしたストレートの髪が特徴です。
も少し幼い時分に魔人となりまして、元気なときにはいつでもどこでも駆け回って素敵な出来事、凄いことを探しております。
とにかく昔から御伽噺や神話などが大好きで、夢見がちに育っていたそうなのですが、
魔人になって大概の場所へ行ける体を手に入れてからはその性分に拍車がかかったようで、後を追う警護の者などはいつも大忙しだと言っております。
まあ今のように病気で体のどこかが動かないときは大人しくお屋敷で庭を眺めておいでですがね。
あ、主人の魔人能力ですが、まあ主人の性格がそのまま出ておりますが、身の回りに奇跡や凄いことを引き起こすという能力です。
普通は起こらないような偶然が重なって厳重な警備をしている場所に忍び込めてしまったり、派手な能力を持った魔人達が偶然近くで喧嘩を始めたり、よく晴れた日に雷が落ちたり。
ええ、大抵は本人だけ喜んで周囲は頭を抱えるような結果になりますね。
あと結果が目に見える形で現れることといえば、周囲の魔人の能力使用を助ける効果があることでしょうか。
主人にとっては魔人能力もその目で見たい凄いことのひとつなのでしょうね。最近はそのことを利用して、
魔人の巣窟なんて言われる学園に転入して好きなだけ凄い魔人能力を見て歩くのが趣味になったそうですよ。

おや、お話をしているうちに主人はすっかり身支度を整えられたようで。
ええ、元気なときは動きやすさを優先した服装をしていますが、病気のときは和装でゆったりと過ごしております。

お屋敷の主人については話しているといつまでも終わりませんし、ひとまずこれで次に移りましょう。
はい、今、縁側に腰かける主人の隣にいるのが主人の親友です。
主人が幼いころからの付き合いだそうで、今は母屋の一室を借り受けて寝泊りしております。
はい、鳥ですね。
オオタカをそのまま大きくして、片翼で大の大人一人簡単に覆えるほどの大きさになった、そんな感じですね。
まああの鳥に関しましてはその大きさと、人の言葉を喋る能力があることと、あとは主人にご執心であることくらいを覚えておけばいいでしょう。
あの鳥の主人に対する言動を色々と挙げるとなかなか面白いことになりますが、その辺はまたいずれお話しましょう。

警備の者については、まあこちらにいらっしゃるまでに大体ご覧になった通りだと思ってもらって結構ですよ。

さあて、お屋敷の紹介についてはこのあたりでひとまず終了といたしましょうか。
あとは主人の近くで、実際に主人の話を聞いて、そうやってこのお屋敷のことを知っていってください。
では、お屋敷の主人とその親友の会話に聞き耳をたててみることにいたしましょう。

8ε【サブGK】:2011/08/05(金) 00:41:44
「少し寂しそうだね」
「……うん。やっぱりばれちゃうね」

おや、どうやら主人は落ち込んでいるご様子。
俯き気味の主人に、鳥が声をかけています。

「みんな、今はどうしているかな」
「この時間だと授業中じゃない?」
「きつねちゃんと稲荷山ちゃんは真面目に授業を受けているかな……虚居ちゃんは授業と
関係ない本を読んでて……梨咲さんは何やってるんだろ……埴井ちゃんはアイドルのレッスンをやってるのかな」

どうも学園に行けないのがご不満の様子ですね。
少し前に主人が通う学園で起こった紛争で仲良くなった学友のことを思い出して寂しさをまぎらわしています。
……それにしても、

「それにしても、最近は随分と寂しそうにしているみたいだけど」
「……それもやっぱりわかるんだ」

そう。病気の症状が現れているときはいつも寂しそうといえ、最近は輪をかけて寂しそうに見えます。

「凄い能力を持った人、みんなどんどん死んじゃって……」
「あ、そっか……」
「みんななんで私より先に死んじゃうかなぁ……近頃は学園も平和で……平和なのはいいんだけど……」

なるほど。凄いことを捜し求めて、やっと凄い人の集まる学園に転入して、だというのに
凄い人がどんどん死んでしまって、と。
確かに寂しいものがあるのでしょうね。
特に主人の場合は病気もありますし、自分より先に他人が死ぬことに何か思うことがあるのかもしれません。

「そういえばこの前能力使ったときも凄い強い想いがふたつ見つかったんだけど、あれも死んだ人の未練だったみたいだし……」
「……」
「あれだけの想いなら私の能力がなくても近場で凄いことを引き起こせそうなくらいだったけど……」

主人は奇跡や凄いことを願う人の思いを集めて何かを起こす能力です。
その想いを集める範囲は世界中、さらには平行世界にも及ぶので、場合によっては遠くの出来事もおぼろげに知ることができるのだとか。
その能力で気になる場所を探して出かけることもしばしば。
しかし……今回の場合は……そのふたつの想いはもしかすると……

「何か、誰か、凄いこと……」
「今は、さ。ゆっくり休んで、元気になったら色々やればいいよ。どうしても気が晴れな
いなら私が景色のいいところにでも連れて行こうか?」

落ち込む主人にもたれかかられてテンション上がってますね。あの鳥。
主人を元気付けたいなら学園の生徒会長と番長の失踪について話してあげればいいだろうに。
多分、例のふたつの想いって、その二人じゃないかと鳥自身も思っているでしょうに。

9ε【サブGK】:2011/08/05(金) 00:42:12
「!」
「ど、どうしたの?」
「学園の生徒会長と番長って失踪したの!?」
「えぇ!?そ……それは」

うろたえてますね。鳥。
ついでに山乃端一人が消息を絶ったなんて風の噂も合わせて教えてあげれば完璧でしょうに。

「!!」
「あ、う、もしかしてその顔……山乃端一人の……噂?」
「やっぱりそうなんだ!ちょっとこんなことしてる場合じゃないよ!何処!?目的地!!」
「……もう待ってと言ったって止まらないよね……」
「心配してくれてありがとう。でもここで止まるくらいなら最初から病院のベッドで眠っているよ。よし、準備して出かけよう!」

明るい主人の表情、久しぶりですね。やはり主人にはいつも元気でいてもらわないと。

「あ、それと……教えてくれてありがとう。社(やしろ)」

いえ、どういたしまして。ご主人様。
それではお出かけになるご主人様にひとつプレゼントを差し上げましょう。

「わ、かわいい下駄」

神通力のようなものは持ち合わせていませんが、元から付喪神で、新しく私の一部となる新顔です。
あなたのことをいつも陰ながら気にかけている人からの贈り物ですよ。

「うん!お礼を言わなくちゃ」

あとは、さて、

「黙っといてって言ったのに……」

そんなににらまないでくださいな、鳥さん。
あなたはいつも主人の体を気遣っていますが、私だっていつも主人の心を気遣っているのです。
私はこの屋敷全体の付喪神。主人の着物の袖も、寝具の枕も、私の一部なのですから。
いくら付喪神とはいえ、これ以上の塩分過剰摂取は主人の身を守る観点からも控えたいところなのです。
それに、あなたもそんなものを用意している時点で黙り通す気なんてなかったのでしょう?

「?何かあるの?」
「あぁ!私のプレゼントのこと喋ったね!?」
「えっ!なになに?」
「あ、もう。……ええっと、片手じゃいつものペンは使えないでしょ。矢立もちょっと使い辛そうだったし、だから」
「へぇ、筆ペンかぁ。ありがとう!」

さて、そんな鳥さんのプレゼントに合わせて私からもひとつ。
土蔵の中に積まれていた和紙を切りそろえてメモ帳にしてみましたよ。
いつもの鉄製みたいに魔人能力を刻み込むことはできないでしょうがよろしければ使ってくださいな。

「うん。みんな、ありがとう。これなら左手でメモ帳を持って……筆ペンを……もぐもぐもむもむ」
「えっ、口に咥えて書くの?」

そういえば主人は両手はおろか、口や足でも字が書けるのでした。
病気に打ち勝つその気力は大したものです。

「じゃあ出発しよう!目指すは――凄いこと!」

御意。
それでは行きましょう。

では新顔君、初陣ですからしっかりと。
ひとつ言っておきます。
私達は世にいる魔人達に見せ付けてやらねばならないことがあります。
権力を持つ、あるいは金を持つ、あるいは代々能力を研鑽する家系の魔人達が、
この世には大量の魔人が溢れていることを認識しながら、魔人能力への組織的対処を怠っている者達とは違うということを。
私達は常に主人を守るために全力で防御能力を幾重にも張り巡らしています。
遠距離防御能力を常時使用していない、権力や、金や、経験を無駄遣いする輩とは違うと見せ付けてあげましょう。

■応援参加率
忙しいけどやる気はあるよ(参加率51〜80%)

■GKへの一言
エピソードという名のキャラクター説明が長くてすみません。
どうぞ宜しくお願いします。

10無色ノ蠅炎:2011/08/05(金) 22:49:53
■キャラクター名
小袖袴

■性別:女性
普通

■学年:
学生以外

■所持武器:
病気の少女(tp://www45.atwiki.jp/debutvselder/pages/98.html)

■出身校:
希望崎(ガイドライン能力/シークレット/ステ合計25)

■ステータス
攻撃力:0 防御力:1 体力:3 精神力:3 FS:18

■FS名:
所持武器への愛

■特殊能力名
目的の達成

■特殊能力内容
効果1:能力休み解除
タイプ:瞬間型
範囲+対象:同マス(味方)
時間:一瞬

効果2:味方特殊能力強制試行
タイプ:瞬間型
範囲+対象:同マス(味方)
時間:一瞬

効果3:能力休み解除
タイプ:瞬間型
範囲+対象:同マス(味方)
時間:一瞬

非消費制約1:自分以外の味方が召喚した
キャラクターのみに有効
非消費制約2:自分の初期位置でしか使えな

非消費制約3:スタメンだと使用不可
消費制約:自分死亡
支払い方法:即座に支払う

■能力内容の補足
発動率計算
(((80+80+80)*1*1*0.65*0.95*0.8)-
55*1)*2.8=102.032……102%

11ε【サブGK】:2011/08/05(金) 22:58:29
【メール返信用】

仲間同志 様

流血少女サブGKのεと申します。
この度は、当キャンペーンに投稿していただき誠にありがとうございます。
お返事が遅れて申し訳ありません。キャラクター「小袖袴」の発動率計算が完了いたしましたのでご連絡いたします。
本キャンペーンでは、一度しか能力の変更ができないためご注意ください。
変更した結果にプレイヤーの方で満足できなかった場合、変更前か変更後の能力を任意で選びステータスだけを変更するか、
能力なしのキャラクターとするかを選んでいただく形となりますのでご了承ください。



■キャラクター名
小袖袴

■性別:女性
普通

■学年:
学生以外

■所持武器:
病気の少女(tp://www45.atwiki.jp/debutvselder/pages/98.html)

■出身校:
希望崎(ガイドライン能力/シークレット/ステ合計25)

■ステータス
攻撃力:0 防御力:1 体力:3 精神力:3 FS:18

■FS名:
所持武器への愛

■特殊能力名
目的の達成

■特殊能力内容
効果1:能力休み解除
タイプ:瞬間型
範囲+対象:同マス(味方)
時間:一瞬

効果2:味方特殊能力強制試行
タイプ:瞬間型
範囲+対象:同マス(味方)
時間:一瞬

効果3:能力休み解除
タイプ:瞬間型
範囲+対象:同マス(味方)
時間:一瞬

非消費制約1:自分以外の味方が召喚した
キャラクターのみに有効
非消費制約2:自分の初期位置でしか使えな

非消費制約3:スタメンだと使用不可
消費制約:自分死亡
支払い方法:即座に支払う

■能力内容の補足
発動率計算
(((80+80+80)*1*1*0.65*0.95*0.8)-
55*1)*2.8=102.032……102%


対象が単体なのか、複数なのか明記されていませんでしたが、
補足の計算式から単体であるものと判断して計算させていただきました。
発動率は、希望発動率通り102%となります。

この内容で問題ないようでしたら確定ということでよろしいでしょうか?
能力の確定、もしくは変更・修正箇所などございましたらお気軽にご相談ください。

12ε【サブGK】:2011/08/06(土) 16:57:40
仲間同志です。
ご確認有難うございます。

ご指摘通り効果対象は同マス味方1人でした。記述が抜けてしまい申し訳ありません。
能力は確定でお願いします。
ただ、設計段階で気付いていなかったことが二点あるため、今のうちに質問をさせてください。

質問1.制約の関係でまず実現不可能だと思いますが、効果1,2,3をそれぞれ別の味方に使用することは可能でしょうか。

質問2.効果対象に低発動率の味方を選んだ場合、効果1または効果3が空撃ちになる場合があると思いますが、空撃ち禁止のルールとの兼合いはどうなるのでしょうか。
1.効果1、効果3共に空撃ちとなっても効果2のみ発動
2.効果1が空撃ちとなった場合は行動キャンセルだが、効果3が空撃ちとなっても効果2までは発動
3.効果1が空撃ちとなった場合は行動キャンセルで、かつ効果3が空撃ちとなった場合は遡って効果1,2の発動をキャンセル
イメージとしては上記3通りのいずれかだと思うのですが……

お忙しいところお手数をかけますが、よろしくお願い致します。

13ε【サブGK】:2011/08/06(土) 16:59:49
ふむ・・・能力はこれで確定でいいとのことですが、
この質問への回答はどうしよう…

14ε【サブGK】:2011/08/06(土) 21:02:07
とりあえず、空撃ち禁止のルールでは効果のうちどれか一つでも空撃ちになるようであれば使用できないわけですが…

15ε【サブGK】:2011/08/06(土) 21:03:43
ただまあ、この能力の場合発動する段階では対象が能力使って能力休みになるかどうかわからないわけなので、
認めてもいいような気はする…うーむ…

16ε【サブGK】:2011/08/06(土) 21:05:31
そもそも、コレ能力休みじゃないキャラに能力休み解除使ったけど意味ないよねってことになるだけだから
空撃ちにはならないかな。質問2の方は問題なし。

17ε【サブGK】:2011/08/06(土) 21:07:48
質問1に関しては、これは判断がつかんね。
どっちでもいいとは思うけれどぴえらさんとロリバさんの意見次第かなあ。

18ε【サブGK】:2011/08/07(日) 13:15:18
>質問1.制約の関係でまず実現不可能だと思いますが、効果1,2,3をそれぞれ別の味方に使用することは可能でしょうか。

別々の対象を取ることはできません。


>質問2.効果対象に低発動率の味方を選んだ場合、効果1または効果3が空撃ちになる場合があると思いますが、空撃ち禁止のルールとの兼合いはどうなるのでしょうか。
>1.効果1、効果3共に空撃ちとなっても効果2のみ発動
>2.効果1が空撃ちとなった場合は行動キャンセルだが、効果3が空撃ちとなっても効果2までは発動
>3.効果1が空撃ちとなった場合は行動キャンセルで、かつ効果3が空撃ちとなった場合は遡って効果1,2の発動をキャンセル
>イメージとしては上記3通りのいずれかだと思うのですが……

この能力ですと、対象制限を満たすキャラクターに対して能力を使った場合は能力休み解除の効果が発揮されないというだけで、空撃ちにはなりません。
問題なく発動できます。
対象制限を満たすキャラクターがいない場合は、対象がいないものとして空撃ちとなり、全ての行動がキャンセルされます。

19ε【サブGK】:2011/08/07(日) 14:05:00
To:流血少女GK様


仲間同志です。
質問への回答ありがとうございました。
能力については特に疑問等ありませんが、キャラクター説明・エピソード・能力原理について表記ゆれの修正等しましたので、
以下のものを使用していただけますようお願い致します。

20ε【サブGK】:2011/08/07(日) 14:05:35
〜〜キャラクター説明 ここから〜〜
病気の少女に纏わせている小袖、小袋帯、袴、襦袢、足袋、舟形下駄。いわゆる付喪神。
それぞれが別の付喪神なのではなく、全てひとつの付喪神の一部である。
その本体は、民家、土蔵、神社の三つの建造物と、それらが建つ土地、そしてその土地を囲む塀が収合して出来た日本家屋の付喪神である。
元々はそれぞれの家屋、土地、塀は別の場所で年ふり付喪神となったものであるが、いつの時か、同じ場所に集まり、ひとつの付喪神となった。
この付喪神の収合については、誰かがそれぞれの付喪神の能力を合わせて利用するために人為的に行ったのではないかともっぱらの噂である。


病気の少女を――少女自身が強く拒否する場合を除いて――常に護っている存在である。
己の持つ能力に強い自信を持っており、常々、地位や金を持つ者、あるいはその親族でありながら、世に溢れる魔人能力への対処として「隠れ家」「逃走経路」「防御能力」を組織立って確保しない輩は何なのだろうかと思っている。


***


付喪神全体名:社(やしろ)
元は五つの付喪神が合わさって出来た付喪神であり、五つの能力を備えている。
以下、各能力詳細。


能力1:袖中の箱庭(しゅうちゅうのはこにわ)
家屋と土地を囲む、塀の能力。
社全体の大きさを最小で掌サイズまで自在に縮めることができる。
旅行時など、袖の中に自分の家を入れて運べるため、大変便利である。
ただし、危険な場所へ社を持ち込むのは前線へ本陣を移動させるようなものであるため、使用は慎重に行っている。


能力2:蓬莱の歓待(ほうらいのかんたい)
家屋の建つ、土地の能力。
この土地において、大地の恵みは常に尽きず、湧き出る水は決して枯れない。
家庭菜園には四季を通じて種々の野菜、果物、香草、薬草、綿花等がなり、池や井戸は水源も不明だが常に水を湛えている。
また、土地に建つ家屋にも能力効果が発揮されたのか、民家に備えられた燃料や土蔵の中にあるがらくたも尽きることがない。
日常生活を送る上で、最も重宝する能力である。


能力3:夢の寄辺(ゆめのよるべ)
社の持ち主の少女が母屋として使用している民家の能力。
この家屋内の物を身につけていると、所有者の身に危険が迫った際、その物が身代わりとなって所有者を守る。
具体的には、所有者を亜空間へ落とし、家屋内の布団の中に着地させる。
この能力を使うと『崖から落ちる夢をみて布団の中で飛び起きた』気分が味わえる。
また、身代わりとなった物が壊れていなかった場合、布団の中からその物が残されている場所まで亜空間経由で移動も可能。
所有者が外出の目的を果たした際など、帰宅目的での使用も可能。
社の持ち主の少女を守る要と言える能力である。


能力4:サの便(さのよすが)
土蔵の能力。
物だけでなく、人の想いや中二力を収めることができる。
土蔵の中のがらくたにもその能力が発揮されるため、このがらくたを持って魔人能力発動の場に居合わせれば、能力を使用した魔人から溢れる中二力を保存することができる。
なお、社の持ち主の少女が元気な時に愛用しているメモ帳は、この土蔵の中からざくざくと出てくる刀剣を材料に作成したものである。
少女はこの能力を使って、多くの魔人の能力を収集して楽しんでいるらしい。


能力5:忘失(ぼうしつ)
神社の能力。
かつて神社であった、今ではまします神のいない、空の神殿が発する忘失の力。
詳細を語るには文字数が足りない。


また、社の中には、持ち主の少女が生活する上で必要になった、付喪神ではない建造物も混ざっている。
現在、母屋、土蔵、神社の他、お客様を迎えるための建物、少女のお目付け役が寝起きしている武道場、温泉脇の脱衣所の三つが建てられている。
〜〜キャラクター説明 ここまで〜〜

21ε【サブGK】:2011/08/07(日) 14:06:01
〜〜能力原理 ここから〜〜
付喪神に纏われている少女自身の能力によって、特殊能力発動を終えたばかりの魔人をもう一度能力発動可能なコンディションにする。
さらにもう一度能力を発動してもらう。
魔人能力を見られて満足した少女は、身に纏う着物の能力によって帰宅する。
因みに帰宅する際、着物は役目を終えてその場に残るが、下駄だけは持って帰る。




以下、能力制約の詳細
「……ただ、今回は右手が動かないんだから、表立って危ないことしちゃ駄目だよ」
「うん」
「もし抗争に巻き込まれても、表立って争いごとに向かう人のサポートなんかも危ないからなるべく控えるようにね」
「う、うん」
「よっぽどのことがない限り戦場をうろついちゃ駄目だからね」
「は、はい」
「よし。それじゃあ社(やしろ)もしっかりとご主人様を守ってね」
「えぇ……それじゃ能力を肌で感じられないよ……」
「だから能力を喰らっちゃ駄目でしょー!」


***


「今回は陰でひっそり……本当に潜入任務になりそうだね」


病気の症状が出ている以上、いつもの学園のように守りをおろそかにすることは出来ませんが、約束を守りつつ抗争を近くで見ることはできるかもしれませんよ。
自分は表立って戦闘に参加せず、表立って戦闘に参加していない人のサポートを、目立つほど動かずに行えばいいでしょう。


「うーん……そうだね。どうしても近くで見たくなるような凄い能力か、運命の出会いでもあったら考えてみようか」
〜〜能力原理 ここまで〜〜

22ε【サブGK】:2011/08/07(日) 14:06:36
〜〜エピソード ここから〜〜
ここは古い古いものたちが集まったひとつのお屋敷。
染みひとつない壁に磨かれた窓がはめ込まれ、庭には大理石の彫刻と噴水が昇ったばかりの朝日で輝いている――そんな洋風の館ばかりが立ち並ぶ町の一角で、このお屋敷だけはどこか別の時代から引っ越してきたかのようです。


本日はそんな、閑静な高級住宅街の中、周囲に溶け込む努力を放棄して佇む奇妙なお屋敷のご紹介をいたしましょう。
塀の内側の様子は、私が言うのもなんですが、なかなかに不思議な光景が広がっておりますよ。




まず、門をくぐって最初に目に飛び込むあれは、半円かというくらいに傾斜のついた木造アーチ橋です。
このお屋敷は塀の内側をなぞるように川が流れておりますので、門をくぐったら、その川に掛かる橋を渡ることになるわけです。
では橋を、よいしょっと、渡ると、この通り。今度は茂る緑のトンネルがお出迎えいたします。
この豊かな緑は川に沿ってお屋敷の庭をぐるりと巡っておりますが、綺麗に四分割、春の植物、夏の植物、秋の植物、冬の植物が集まって賑やかにしております。
門とつながっているここは春の植物が生える春の庭ですから、本当に春の時分になれば、梅、桃、桜と、咲き誇る花が、それはそれは綺麗なものです。
もちろん他の夏、秋、冬の庭もそれぞれ素敵なところですが、そのあたりはまた別の機会にお話いたしましょう。
さあ春の庭を抜けますと、ちょっとした広場に出ます。
いずれはここにも何か建つかもしれませんが、今はただ柔らかい緑の絨毯を踏んで楽しむか、そうですね、偶にお屋敷の主人がご友人を誘ってバーベキューなどなさっております。
この広場をまっすぐ進めばお屋敷の中心、枯山水にぶつかります。この枯山水は通称中庭と呼ばれております。
枯山水と言いましたが、まあ日によって岩の位置や砂の模様が変わるものですから、ときには岩がひとつもない、銀沙が広がるだけなんてこともあります。
なんでそんな風に様子が変わるかといいますと――まあ私の趣味だから、ですね。


それでは中庭の向こうをご覧ください。正面に見える藁葺屋根に土壁のいかにも古風な民家。あちらがこのお屋敷の母屋になります。
銀沙の先に建つ藁葺屋根なんて、他では滅多にご覧にはなれない光景でしょうね。
こちらからでは見えませんが、母屋の裏手には立派な土蔵がひとつ、生い茂る木々にまぎれて建っておりまして、その中にはいつからあるのかも判らないようながらくたと、このお屋敷の主人が趣味で集めたものが詰まっております。
視線を右に移してもらって、中庭の右側、あちら側が夏の庭になりますが、あそこに建っているのは来客をもてなすための家です。
お客様はあそこで囲炉裏にあたりながら談笑し、あるいは縁側に腰掛け、枯山水や夏の庭を眺めながらお茶を飲むなどして過ごします。
そして来客用の家に中庭をはさんで相対しているあちらは神社の拝殿です。
まあ神社といいましてもあの通り拝殿しかありませんし、そりゃあ昔はいらっしゃったのかもしれませんが、今では祭られている神様もおられません。
神社にこんなことを言うのも変ですが、がらんどうってやつですね。冬の庭の侘しさによくあっているとも言えるでしょうか。


お屋敷の建物はこんなところとして、あと、このお屋敷で特筆すべき事と言えば二つの洞窟でしょうか。夏の庭の奥と冬の庭の奥、どちらも外周を流れる川の近くに洞窟があります。
夏の庭の洞窟は様々な鉱物の結晶があちこち生えており、かと思えば足元から溶岩が湧き出している、なんとも刺激的な場所です。
この洞窟の入口付近には硫黄泉と塩化物泉、二種類の温泉が湧いており、また、脱衣所も併設されておりますから、お屋敷の住人の憩いの場となっております。
冬の庭の洞窟は、通年、壁面を分厚い氷が覆っている天然の氷室になっておりまして、料理に使うお肉や、アイスクリームなどが冷やされております。


これでお屋敷の庭についても大体紹介しましたか……


ああ、あとひとつ。既に通過してしまいましたが、春の庭にはお屋敷の主人の警護をしている者が寝泊りしている建物があります。
この建物は武道場としても使われており、警護の者やお屋敷の主人が、日々、己を鍛錬しております。
はい、そうです。あなたをこのお屋敷まで案内したのがその警護の者ですね。


さて、これでお屋敷の主だった建物についてはご紹介を終えましたので、そろそろこのお屋敷に住む方々の紹介と参りましょう。

23ε【サブGK】:2011/08/07(日) 14:07:01
まず紹介するのは、当然、お屋敷の主人ですが、こんな古めかしくてみょうちくりんな造りのお屋敷の主人といったらさぞかし偏屈そうなご老人を想像なさるかもしれません。
しかし、事実は奇なりとでも言いましょうか、なんと年若いお嬢さんがこのお屋敷を取り仕切る主人なのです。
なんでもこのお嬢さん、自分で考えた苗字をお役所に申請するため、世帯主にならないといけないからなどという理由でご実家を飛び出し、このお屋敷を見つけて住み始めたそうなのです。
建設的かどうかは置いておくとして、その行動力は賞賛に値するものがあると思いませんか。
さてさて、そんな立派なご主人様はと言いますと……今、ちょうど来客用の家で目を覚ましたところですね。
その日の気分で寝る場所を決めるのがこのお屋敷の主人ですから、ときには母屋以外でも寝起きするのです。
今は毎朝の日課である体調の確認、布団の中で体のあちこちを軽く動かして様子を見ています。
ああ、そう。主人は体の一部が突如全く動かなくなるという病気を抱えておりまして、そのためにこんな日課ができたわけです。
右腕がまだ動かないようですね。あの一瞬見せる寂しそうな表情は出来れば拝みたくないものです。
体の確認を終えまして、まず布団から這い出て枕元の有明行灯の覆いを外して部屋を明るくし、片腕でちょっと開け辛そうにガタガタと部屋の木戸を開けて縁側に出て、部屋の中へ朝の空気を取り込んで……
……と、ああ、これはどうもすみません。つい主人の愛らしい動作を追ってしまいまして、話が先へ進んでいないですね。
うっかりこのまま主人の動きを日暮れまで追い続けるところでした。
ええと、そう。主人の紹介でしたね。
外見はあの通り、黒髪黒目で中肉中背。すらっと伸びた脚と、肩甲骨のあたりまで伸ばしたストレートの髪が特徴です。
も少し幼い時分に魔人となりまして、元気なときにはいつでもどこでも駆け回って素敵な出来事、凄いことを探しております。
とにかく昔から御伽噺や神話などが大好きで、夢見がちに育っていたそうなのですが、魔人になって大概の場所へ行ける体を手に入れてからはその性分に拍車がかかったとか。
まあ今のように病気で体のどこかが動かないときは大人しくお屋敷で庭を眺めておいでですがね。
あ、主人の魔人能力ですが、まあ主人の性格がそのまま出ておりますが、身の回りに奇跡や凄いことを引き起こすという能力です。
普通は起こらないような偶然が重なって厳重な警備をしている場所に忍び込めてしまったり、派手な能力を持った魔人達が偶然近くで喧嘩を始めたり、付喪神となった家と会話することができるようになったり。
まあ能力の効果によって凄いことが起こったのか、はたまた本当の偶然か、本人にも判別がつかないそうですから、効果がどれほどのものなのかいまいち分かりにくい力ではありますね。
ただひとつ、結果がはっきり目に見える形で現れることといえば、周囲の魔人の能力使用を助ける効果があることでしょうか。主人にとっては魔人能力もその目で見たい凄いことなのでしょうね。
最近はそのことを利用して、魔人の巣窟なんて言われる学園に転入して好きなだけ凄い魔人能力を見て歩くのが趣味になったそうですよ。


おや、お話をしているうちに主人はすっかり身支度を整えられたようで。
ええ、元気なときは動きやすさを優先した服装をしていますが、病気のときは和装でゆったりと過ごしております。
今日は縁側で親友と終日、四方山話をして過ごす心積もりでしょうか。


お屋敷の主人については話しているといつまでも終わりませんし、ひとまずこれで次に移りましょう。
はい、今、縁側に腰かける主人の隣にいるのが主人の親友です。
主人が幼いころからの付き合いだそうで、今は母屋の一室を借り受けて寝泊りしております。
はい、鳥ですね。
オオタカをそのまま大きくして、片翼で大の大人一人簡単に覆えるほどの大きさになった、そんな感じですね。
まああの鳥に関しましてはその大きさと、人の言葉を喋る能力があることと、あとは主人にご執心であることくらいを覚えておけばいいでしょう。
あの鳥の主人に対する言動を色々と挙げるとなかなか面白いことになりますが、その辺はまたいずれお話しましょう。


警護の者については、まあこちらにいらっしゃるまでに大体ご覧になった通りだと思ってもらって結構ですよ。


さあて、お屋敷の紹介についてはこのあたりでひとまず終了といたしましょうか。
あとは主人の近くで、実際に主人の話を聞いて、そうやってこのお屋敷のことを知っていってください。
では、お屋敷の主人とその親友の会話に聞き耳をたててみることにいたしましょう。

24ε【サブGK】:2011/08/07(日) 14:07:26
「少し寂しそうだね」
「……うん。やっぱりばれちゃうね」


おや、どうやら主人は落ち込んでいるご様子。
俯き気味の主人に、鳥が声をかけています。


「みんな、今はどうしているかな」
「この時間だと授業中じゃない?」
「きつねちゃんと稲荷山ちゃんは真面目に授業を受けているかな……梨咲さんは何やってるんだろ……埴井ちゃんはアイドルのレッスンをやってるのかな」
「……学校に行けなくて寂しい?」
「……うん」


どうも学園に行けないのがご不満の様子ですね。
少し前に主人が通う学園で起こった紛争で仲良くなった学友のことを思い出して、寂しさをまぎらわしているようです。
体が動かないときはいつもどこか寂しそうにしている主人ですが……
……それにしても、


「それにしても、最近は随分と寂しそうにしているみたいだけど」
「……それもやっぱりわかるんだ」


そう。病気の症状が現れているときはいつも寂しそうといえ、最近は輪をかけて寂しそうに見えます。


「凄い能力を持った人、みんなどんどん死んじゃって……」
「あ、そっか……」
「みんななんで私より先に死んじゃうかなぁ……」


なるほど。凄いことを捜し求めて、やっと凄い人の集まる学園に転入して、だというのに凄い人がどんどん死んでしまって、と。
確かに寂しいものがあるのでしょうね。
特に主人の場合は病気もありますし、自分より先に他人が死ぬことに何か思うことがあるのかもしれません。


「そういえばこの前能力使ったときも凄い強い想いがふたつ見つかったんだけど、あれも死んだ人の未練だったみたいだし……」
「……」
「あれだけの想いなら私の能力がなくても近場で凄いことを引き起こせそうなくらいだったけど……」


主人は奇跡や凄いことを願う人の思いを集めて何かを起こす能力です。
その想いを集める範囲は世界中、さらには平行世界にも及ぶので、場合によっては遠くの出来事もおぼろげに知ることができるのだとか。
その能力で気になる場所を探して出かけることもしばしば。
しかし……今回の場合は……そのふたつの想いはもしかすると……


「何か、誰か、凄いこと……」
「今は、さ。ゆっくり休んで、元気になったら色々やればいいよ。……どうしても気が晴れないなら私が景色のいいところにでも連れて行こうか?」


落ち込む主人にもたれかかられてテンション上がってますね。あの鳥。
主人を元気付けたいなら学園の生徒会長と番長の失踪について話してあげればいいだろうに。
多分、例のふたつの想いって、その二人じゃないかと鳥自身も思っているでしょうに。

25ε【サブGK】:2011/08/07(日) 14:07:53
「!」
「ど、どうしたの?」
「え?学園の生徒会長と番長って失踪したの!?」
「えぇ!?そ……それは」


うろたえてますね。鳥。
ついでに山乃端一人が消息を絶ったなんて風の噂も合わせて教えてあげれば完璧でしょうに。


「!!」
「あ、う、もしかしてその顔……山乃端一人の……噂?聞いちゃったんだ……」
「やっぱりそうなんだ!ちょっとこんなことしてる場合じゃないよ!出かけなくちゃ!」
「……もう待ってと言ったって止まらないよね……」
「心配してくれてありがとう」
「『でもここで止まるくらいなら最初から病院のベッドで眠っているよ』だよね……。仕方ないなぁ」


一度勢いのついたこの人は止まりませんからね。
それにしても明るい主人の表情、久しぶりですね。やはり主人にはいつも元気でいてもらわないと。


「あ、それと……教えてくれてありがとう。社(やしろ)」


いえ、どういたしまして。ご主人様。
そうそう、お出かけになるご主人様にちょうどよいプレゼントがありますよ。


「わ、かわいい下駄」


神通力のようなものは持ち合わせていませんが、元からの付喪神です。
今しがた、私の造りと、ご主人様の紹介を終えたばかりの新顔ですが、あなたのことをいつも陰ながら気にかけている人からの贈り物ですよ。


「うん!後でお礼を言わなくちゃ」


あとは、さて、


「黙っといてって言ったのに……」


そんなににらまないでくださいな、鳥さん。
あなたはいつも主人の体を気遣っていますが、私だっていつも主人の心を気遣っているのです。
私はこの屋敷全体の付喪神。主人の着物の袖も、寝具の枕も、私の一部なのですから。
いくら付喪神とはいえ、これ以上の塩分過剰摂取は主人の身を守る観点からも控えたいところなのです。
それに、あなたもそんなものを用意している時点で黙り通す気なんてなかったのでしょう?

26ε【サブGK】:2011/08/07(日) 14:08:13
「? 何かあるの?」
「あぁ!私のプレゼントのことも喋ったね!?」
「えっ!なになに?」
「あ、もう。……ええっと、片手じゃいつものペンは使えないでしょ。矢立もちょっと使い辛そうだったし、だから」
「わぁ、筆ペンかぁ。ありがとう!」
「う、うん。どういたしまして」
「あ!外出用の筆をくれたってことは、もしかしてさっき言ってた『景色のいいところ』って……」
「う……社に先を越されちゃったし、ちょっと格好つかないなぁ……」


やはりそういうことでしたか。お先に失礼しました。
さて、そんな鳥さんのプレゼントに合わせて私からもひとつ。
土蔵の中に積まれていた和紙を切りそろえてメモ帳にしてみましたよ。
いつもの鉄製みたいに魔人能力を刻み込むことはできないでしょうがよろしければ使ってくださいな。


「うん。みんな、ありがとう。これなら左手でメモ帳を持って……筆ペンを……もぐもぐもむもむ」
「えっ、口に咥えて書くの?」


そういえば主人は両手はおろか、口や足でも字が書けるのでした。
病気に打ち勝つその気力は大したものです。
この先に待つであろう大騒動、主人はその気力を存分に奮ってください。
動かぬあなたの右手に代わり、私が火の粉を払いましょう。




「じゃあ出発しよう!目指すは――凄いこと!」
〜〜エピソード ここまで〜〜




大変長くなって申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。

27ε【サブGK】:2011/08/07(日) 14:08:26
なげーw

28無色ノ蠅炎:2011/08/10(水) 20:33:31
To:流血少女GK様

仲間同志です。
お忙しいところ度々申し訳ありませんが、キャラクター説明とエピソードについて修正点があったため、差し替えをお願い致します。


――キャラクター説明ここから――
病気の少女に纏わせている小袖、小袋帯、袴、襦袢、足袋、舟形下駄。いわゆる付喪神。
それぞれが別の付喪神なのではなく、全てひとつの付喪神の一部である。
その本体は、民家、土蔵、神社の三つの建造物と、それらが建つ土地、そしてその土地を囲む塀が収合して出来た日本家屋の付喪神である。
元々はそれぞれの家屋、土地、塀は別の場所で年ふり付喪神となったものであるが、いつの時か、同じ場所に集まり、ひとつの付喪神となった。
この付喪神の収合については、誰かがそれぞれの付喪神の能力を合わせて利用するために人為的に行ったのではないかともっぱらの噂である。

病気の少女を――少女自身が強く拒否する場合を除いて――常に護っている。
言葉を喋ることはできないが、少女とはなぜか会話ができる模様。
屋敷内のものは大概ふわふわと漂うように動かせるため、少女以外とはボディーランゲージによって会話する。
己の持つ能力に強い自信を持っており、常々、地位や金を持つ者でありながら、世に溢れる魔人能力への自衛手段を用意していない輩は何なのだろうかと思っている。

***

付喪神全体名:社(やしろ)
元は五つの付喪神が合わさって出来た付喪神であり、五つの能力を備えている。

能力1:袖中の箱庭(しゅうちゅうのはこにわ)
家屋と土地を囲む、塀の能力。
社全体の大きさを最小で掌サイズまで自在に縮めることができる。
旅行時など、袖の中に自分の家を入れて運べるため、大変便利である。
ただし、危険な場所へ社を持ち込むのは前線へ本陣を移動させるようなものであるため、使用は慎重に行っている。

能力2:蓬莱の歓待(ほうらいのかんたい)
家屋の建つ、土地の能力。
この土地において、大地の恵みは常に尽きず、湧き出る水は決して枯れない。
家庭菜園には四季を通じて種々の野菜、果物、香草、薬草、綿花等がなり、池や井戸は水源も不明だが常に水を湛えている。
また、土地に建つ家屋にも能力効果が発揮されたのか、民家に備えられた燃料や土蔵の中にあるがらくたも尽きることがない。
日常生活を送る上で、最も重宝する能力である。

能力3:夢の寄辺(ゆめのよるべ)
社の持ち主の少女が母屋として使用している民家の能力。
この家屋内の物を身につけていると、所有者の身に危険が迫った際、その物が身代わりとなって所有者を守る。
具体的には、所有者を亜空間へ落とし、家屋内の布団の中に着地させる。
また、身代わりとなった物が壊れていなかった場合、布団の中からその物が残されている場所まで亜空間経由で移動も可能。
所有者が外出の目的を果たした際など、帰宅目的での使用も可能。
社の持ち主の少女を守る要と言える能力である。

29無色ノ蠅炎:2011/08/10(水) 20:34:07

能力4:サの便(さのよすが)
土蔵の能力。
物だけでなく、人の想いや中二力を収めることができる。
土蔵の中のがらくたにもその能力が発揮されるため、このがらくたを持って魔人能力発動の場に居合わせれば、能力を使用した魔人から溢れる中二力を保存することができる。
なお、社の持ち主の少女が元気な時に愛用しているメモ帳は、この土蔵の中からざくざくと出てくる刀剣を材料に作成したものである。
少女はこの能力を使って、多くの魔人の能力を収集して楽しんでいるらしい。

能力5:忘失(ぼうしつ)
神社の能力。
かつて神社であった、今ではまします神のいない、空の神殿が発する忘失の力。
詳細を語るには文字数が足りない。

また、社の中には、持ち主の少女が生活する上で必要になった、付喪神ではない建造物も混ざっている。
現在、母屋、土蔵、神社の他、お客様を迎えるための建物、少女のお目付け役が寝起きしている武道場、温泉脇の脱衣所の三つが建てられている。
――キャラクター説明ここまで――


――エピソードここから――
ここは古い古いものたちが集まったひとつのお屋敷。
染みひとつない壁に磨かれた窓がはめ込まれ、庭には大理石の彫刻と噴水が昇ったばかりの朝日で輝いている――そんな洋風の館ばかりが立ち並ぶ町の一角で、このお屋敷だけはどこか別の時代から引っ越してきたかのようです。

本日はそんな、閑静な高級住宅街の中、周囲に溶け込む努力を放棄して佇むこの奇妙なお屋敷のご紹介をいたしましょう。
塀の内側の様子は、私が言うのもなんですが、なかなかに不思議な光景が広がっておりますよ。


まず、門をくぐって最初に目に飛び込むあれは、半円かというくらいに傾斜のついた木造アーチ橋です。
このお屋敷は塀の内側をなぞるように川が流れておりますので、門をくぐったら、その川に掛かる橋を渡ることになるわけです。
では橋を、よいしょっと、渡ると、この通り。今度は茂る緑のトンネルがお出迎えいたします。
この豊かな緑は川に沿ってお屋敷の庭をぐるりと巡っておりますが、綺麗に四分割、春の植物、夏の植物、秋の植物、冬の植物が集まって賑やかにしております。
門とつながっているここは春の植物が生える春の庭ですから、本当に春の時分になれば、梅、桃、桜と、咲き誇る花が、それはそれは綺麗なものです。
もちろん他の夏、秋、冬の庭もそれぞれ素敵なところですが、そのあたりはまた別の機会にお話いたしましょう。

30無色ノ蠅炎:2011/08/10(水) 20:34:18
さて、しばらく歩いて春の庭を抜けますと、ちょっとした広場に出ます。
いずれはここにも何か建つかもしれませんが、今はただ柔らかい緑の絨毯を踏んで楽しむか、そうですね、偶にお屋敷の主人がご友人を誘ってバーベキューなどなさっております。
この広場をまっすぐ進めば……はい、目の前に広がる枯山水、通称「中庭」にぶつかります。ここが位置的にお屋敷の中心になります。
枯山水と言いましたが、まあ日によって岩の位置や砂の模様が変わるものですから、ときには岩がひとつもない、銀沙が広がるだけなんてこともあります。
なんでそんな風に様子が変わるかといいますと――まあ私の趣味だから、ですね。

それでは中庭の向こうをご覧ください。正面に見える藁葺屋根に土壁のいかにも古風な民家。あちらがこのお屋敷の母屋になります。
銀沙の先に建つ藁葺屋根なんて、他では滅多にご覧になれない光景でしょうね。
こちらからでは見えませんが、母屋の裏手には立派な土蔵がひとつ、生い茂る木々にまぎれて建っておりまして、その中にはいつからあるのかも判らないようながらくたと、このお屋敷の主人が趣味で集めたものが詰まっております。
視線を右に移してもらって、中庭の右側、あちら側が夏の庭になりますが、あそこに建っているのは来客をもてなすための家です。
お客様はあそこで囲炉裏にあたりながら談笑し、あるいは縁側に腰掛け、枯山水や夏の庭を眺めながらお茶を飲むなどして過ごします。
そして来客用の家に中庭をはさんで相対しているあちらは神社の拝殿です。
まあ神社といいましてもあの通り拝殿しかありませんし、そりゃあ昔はいらっしゃったのかもしれませんが、今では祭られている神様もおられません。
神社にこんなことを言うのも変ですが、がらんどうってやつですね。冬の庭の侘しさによくあっているとも言えるでしょうか。

お屋敷の建物はこんなところとして、あと、このお屋敷で特筆すべき事と言えば二つの洞窟でしょうか。夏の庭の奥と冬の庭の奥、どちらも外周を流れる川の近くに洞窟があります。
夏の庭の洞窟は様々な鉱物の結晶があちこち生えており、かと思えば足元から溶岩が湧き出している、なんとも刺激的な場所です。
この洞窟の入口付近には硫黄泉と塩化物泉、二種類の温泉が湧いており、また、脱衣所も併設されておりますから、お屋敷の住人の憩いの場となっております。
冬の庭の洞窟は、通年、壁面を分厚い氷が覆っている天然の氷室になっておりまして、料理に使うお肉や、アイスクリームなどが冷やされております。

これでお屋敷の造りについては大体紹介しましたか……

ああ、あとひとつ。既に通過してしまいましたが、春の庭にはお屋敷の主人の警護をしている者が寝泊りしている建物があります。
この建物は武道場としても使われており、警護の者やお屋敷の主人が、日々、己を鍛錬しております。
はい、そうです。あなたをこのお屋敷まで案内したのがその警護の者ですね。

31無色ノ蠅炎:2011/08/10(水) 20:34:52

さて、これでお屋敷の内部構造は大体ご理解いただけたでしょうか。
それではそろそろ、このお屋敷に住む方々の紹介と参りましょう。


まず紹介するのは、当然、お屋敷の主人ですが、こんな古めかしいお屋敷だというのに、なんと取り仕切るのは年若いお嬢さんなのです。
なんでもこのお嬢さん、自分で考えた苗字をお役所に申請するため、世帯主にならないといけないからなどという理由でご実家を飛び出し、このお屋敷を見つけて住み始めたそうなのです。
建設的かどうかは置いておくとして、その行動力は賞賛に値するものがあると思いませんか。
そんな立派なご主人様が、今、何をしているかと言いますと……ちょうど来客用の家で目を覚ましたところですね。
その日の気分で寝る場所を決める人ですから、ときには母屋以外でも寝起きするのです。
今は毎朝の日課である体調の確認、布団の中で体のあちこちを軽く動かして様子を見ています。
ああ、そう。主人は体の一部が突如全く動かなくなるという病気を抱えておりまして、そのためにこんな日課ができたわけです。
右腕がまだ動かないようですね。あの一瞬見せる寂しそうな表情は出来れば拝みたくないものです。
体の確認を終えまして、まず布団から這い出て枕元の有明行灯の覆いを外して部屋を明るくし、片腕でちょっと開け辛そうにガタガタと部屋の木戸を開けて縁側に出て……
……と、ああ、これはどうもすみません。つい主人の愛らしい動作を追ってしまいまして、話が先へ進んでいないですね。
うっかりこのまま主人の動きを日暮れまで追い続けるところでした。
ええと、そう。主人の紹介でしたね。
外見はあの通り、黒髪黒目で中肉中背。すらっと伸びた脚と、肩甲骨のあたりまで伸ばしたストレートの髪が特徴です。
も少し幼い時分に魔人となりまして、元気なときにはいつでもどこでも駆け回って素敵な出来事、凄いことを探しております。
とにかく昔から御伽噺や神話などが大好きで、夢見がちに育っていたそうなのですが、魔人になって大概の場所へ行ける体を手に入れてからはその性分に拍車がかかったとか。
まあ今のように病気で体のどこかが動かないときは大人しくお屋敷で庭を眺めておいでですがね。
あ、主人の魔人能力ですが、まあ主人の性格がそのまま出ておりますが、身の回りに奇跡や凄いことを引き起こすという能力です。
普通は起こらないような偶然が重なって厳重な警備をしている場所に忍び込めてしまったり、派手な能力を持った魔人達が偶然近くで喧嘩を始めたり、付喪神となった家と会話することができるようになったり。
まあ能力の効果によって凄いことが起こったのか、はたまた本当の偶然か、本人にも判別がつかないそうですから、効果がどれほどのものなのかいまいち分かりにくい力ではありますね。
ただひとつ、結果がはっきり目に見える形で現れることといえば、周囲の魔人の能力使用を助ける効果があることでしょうか。主人にとっては魔人能力もその目で見たい凄いことなのでしょうね。
最近はそのことを利用して、魔人の巣窟なんて言われる学園に転入して好きなだけ凄い魔人能力を見て歩くのが趣味になったそうですよ。

おや、お話をしているうちに主人はすっかり身支度を整えられたようで。
ええ、元気なときは動きやすさを優先した服装をしていますが、病気のときは和装でゆったりと過ごしております。
今日は縁側で親友と終日、四方山話をして過ごす心積もりでしょうか。

32無色ノ蠅炎:2011/08/10(水) 20:35:06

お屋敷の主人については話しているといつまでも終わりませんし、ひとまずこれで次に移りましょう。
はい、今、縁側に腰かける主人の隣にいるのが主人の親友です。
主人が幼いころからの付き合いだそうで、今は母屋の一室を借り受けて寝泊りしております。
はい、鳥ですね。
オオタカをそのまま大きくして、片翼で大の大人一人簡単に覆えるほどの大きさになった、そんな感じですね。
まああの鳥に関しましてはその大きさと、人の言葉を喋る能力があることと、あとは主人にご執心であることくらいを覚えておけばいいでしょう。
あの鳥の主人に対する言動を色々と挙げるとなかなか面白いことになりますが、その辺はまたいずれお話しましょう。

あとこのお屋敷に住んでいるのは警護の者だけですが、警護の者については、まあこちらにいらっしゃるまでに大体ご覧になった通りだと思ってもらって結構ですよ。

さて、お屋敷の住人紹介についてはこのくらいですね。
あとは主人の近くで、実際に主人の話を聞いて、そうやってこのお屋敷のことを知っていってください。
では、お屋敷の主人とその親友の会話に聞き耳をたててみることにいたしましょう。
はい、縁側に近づいて、あとはちょっとこの物陰で隠れて待っていてください。
ここなら主人の声もよく聞こえるでしょう。

さて――主人は今、どんなことを話してらっしゃることやら。

33無色ノ蠅炎:2011/08/10(水) 20:35:24


「少し寂しそうだね」
「……うん。やっぱりばれちゃうね」

おや、どうやら主人は今日も落ち込んでいるご様子。
俯き気味の主人に、鳥が声をかけています。

「みんな、今はどうしているかな」
「この時間だと授業中じゃない?」
「きつねちゃんと稲荷山ちゃんは真面目に授業を受けているかな……梨咲さんは何やってるんだろ……埴井ちゃんはアイドルのレッスンをやってるのかな」
「……学校に行けなくて寂しい?」
「……うん」

どうも学園に行けないのがご不満の様子ですね。
少し前に主人が通う学園で起こった紛争で仲良くなった学友のことを思い出して、寂しさをまぎらわしているようです。
新参対古参の対立、でしたか。あのときの主人はそれはもう楽しそうにしてましたし、仲の良い学友もできたと喜んでいました。
あんな経験をした後ですと、やはり今の体が思うように動かないときというものが殊更辛く感じられるのでしょう。
ただ……それにしても、

「それにしても、最近は随分と寂しそうにしているみたいだけど」
「……それもやっぱりわかるんだ」

そう。病気の症状が現れているときはいつも寂しそうといえ、最近は輪をかけて寂しそうに見えます。
学友に会えないというだけなら、あの後何度か学友をお屋敷に招待して遊んでいますし、もう少し元気でいてもいいはずなのですが。
文机に向かってぼんやりとしていること、縁側でうつむいていること、土蔵の隅で縮こまって時間を過ごしていること……
いつもよりその割合が多いこと、このお屋敷の住人は皆、気付いています。
一体どうしたことなのでしょう。

「……」
「……凄い能力を持った人、みんなどんどん死んじゃって……」
「あ、そっか……」
「みんななんで私より先に死んじゃうかなぁ……」

なるほど。凄いことを捜し求めて、やっと凄い人の集まる学園に転入して、だというのに凄い人がどんどん死んでしまって、と。
確かに寂しいものがあるのでしょうね。
特に主人の場合は病気もありますし、自分より先に他人が死ぬことに何か思うことがあるのかもしれません。

「この前能力使って、凄い強い想いがふたつ見つかって、凄いことが見られるかもって嬉しくなって、だけど、その想いもいつの間にか死んだ人の未練になっていて……」
「……」
「あれだけの想いなら私の能力がなくても近場で凄いことを引き起こせそうなくらいだったけど……なんで死んじゃったんだろう……」

主人は奇跡や凄いことを願う人の思いを集めて何かを起こす能力です。
その想いを集める範囲は平行世界や異次元を含むおよそあらゆる場所に及ぶので、場合によっては遠くの出来事もおぼろげに知ることができるのだとか。
その能力で気になる場所を探して出かけることもしばしば。
まあ、なにはともあれ、これで主人の気落ちの理由がわかりました。
病気の症状に加えてすぐ近くに居たはずの凄いことを起こす人が皆死んでしまった。
しかもタイミング悪く、気にかけていた強い想いを持った人まで死んでしまい、そのことでここ最近の凄いことを起こせる人達の喪失をはっきりと自覚してしまった、という訳ですね。
わかったからにはどうにかしたいもの。
喪失を感じているならば、埋め合わせて余りあるものを与えてみせましょう。
主人を元気付ける最高の方法と言えば――


「何か、誰か、凄いこと……」
「今は、さ。ゆっくり休んで、元気になったら色々やればいいよ。……どうしても気が晴れないなら私が景色のいいところにでも連れて行こうか?」

落ち込む主人にもたれかかられてテンション上がってますね。あの鳥。
主人を元気付けたいなら学園の生徒会長と番長の失踪について話してあげればいいでしょうに。

34無色ノ蠅炎:2011/08/10(水) 20:35:46

「!」
「ん?どうしたの?」
「え?この前新しく決まったって言ってた生徒会長と番長って失踪したの!?」
「えぇ!?そ、それって」

うろたえてますね。鳥。
ついでに山乃端一人が消息を絶ったなんて風の噂も合わせて教えてあげれば完璧でしょう。

「!!」
「あ、う、もしかしてその顔……山乃端一人の……こと?」
「やっぱりそうなんだ!ちょっとこんなことしてる場合じゃないよ!出かけよう!」

効果覿面。
やはり主人には凄いことが見られる可能性こそ最高の薬ですね。

「……もう待ってと言ったって止まらないよね……」
「心配してくれてありがとう」
「『でもここで止まるくらいなら最初から病院のベッドで眠っているよ』だよね……。仕方ないなぁ」

一度勢いのついたこの人は止まりませんからね。
それにしても明るい主人の表情、久しぶりですね。やはり主人にはいつも元気でいてもらわないと。
さあ忙しくなりますよ。早速出発準備を……と、おや、こちらに何かおっしゃりたいご様子。

「あ、それと……教えてくれてありがとう。社(やしろ)」

いえ、どういたしまして。ご主人様。
そうそう、お出かけになるご主人様にちょうどよいプレゼントがありますよ。
……はい、物陰からご登場。

「わ、かわいい下駄」

神通力のようなものは持ち合わせていませんが、これも年代物の付喪神です。
今しがた、私の造りと、ご主人様の紹介を終えたばかりで……あなたのことをいつも陰ながら気にかけている人からの贈り物ですよ。

「うん!後でお礼を言わなくちゃ」

あとは、さて、

「黙っといてって言ったのに……」

そんなににらまないでくださいな、鳥さん。
あなたはいつも主人の体を気遣っていますが、私だっていつも主人の心を気遣っているのです。
私はこの屋敷全体の付喪神。主人の着物の袖も、寝具の枕も、私の一部なのですから。
いくら付喪神とはいえ、これ以上の塩分過剰摂取は主人の身を守る観点からも控えたいところなのです。
それに、あなたもそんなものを用意している時点で黙り通す気なんてなかったのでしょう?

「? 何かあるの?」
「あぁ!もしかして私のプレゼントのことも喋ったね!?」
「えっ!なになに?」
「あ、もう。……ええっと、片手じゃいつものペンは使えないでしょ。矢立もちょっと使い辛そうだったし、だから」
「わぁ、筆ペンかぁ。ありがとう!」
「う、うん。どういたしまして」
「あ!外出用の筆をくれたってことは、もしかしてさっき言ってた『景色のいいところ』って……」
「う……社に先を越されちゃったし、ちょっと格好つかないなぁ……」

やはりそういうことでしたか。お先に失礼しました。
さて、そんな鳥さんのプレゼントに合わせて私からもひとつ。
土蔵の中に積まれていた和紙を切りそろえてメモ帳にしてみましたよ。
いつもの鉄製みたいに魔人能力を刻み込むことはできないでしょうがよろしければ使ってくださいな。

「うん。みんな、ありがとう。これなら左手でメモ帳を持って……筆ペンを……もぐもぐもむもむ」
「えっ、口に咥えて書くの?」

そういえば主人は両手はおろか、口や足でも字が書けるのでした。
病気に打ち勝つその気力は大したものです。

「帯もしっかり締めて……よし!これだけあれば準備はOKだね!」

この先に待つであろう大騒動、主人はその気力を存分に奮ってください。
動かぬあなたの右手に代わり、私が火の粉を払いましょう。


「じゃあ出発しよう!目指すは――凄いこと!」
――エピソードここまで――


長いメールを何度も申し訳ありませんが、
宜しくお願い致します。

35ε【サブGK】:2011/08/14(日) 06:32:10
流血少女GK様。


キャラクター「小袖袴」を投稿した仲間同志です。
投稿期限ぎりぎりになってしまいましたが、エピソードについて修正をしましたので、差し替えをお願い致します。

36ε【サブGK】:2011/08/14(日) 06:32:28
――エピソードここから――
ようこそ、古い古いものたちが集うお屋敷へ。
ここは白亜の豪邸が立ち並ぶ閑静な住宅地の中の異世界、どこか別の時代から引っ越してきた異邦人、時の流れから隔絶された天地――例えるならそんな場所です。
今日からあなたもこのお屋敷の一員となること、しっかりと覚悟していただきましょう。


それでは早速、このお屋敷のご紹介を始めます。
門をくぐったその先は、私が言うのもなんですが、なかなか不思議な光景が広がっておりますよ。




では参りましょう。まず、白木造りの門を抜け、同じく白木造りの橋を渡って、お屋敷の庭へ入ります。
このお屋敷は塀の内側をなぞるように川が流れておりますので、内部へ進むには、まずこの橋を渡る必要があるわけです。
そして、橋を……渡ると……この通り。茂る緑のトンネルがお出迎えいたします。
ここは先程渡った川の内側を、そしてお屋敷の建物達の外側をぐるりと巡る、通称「四季の庭」です。
四角い外壁の各面に沿うよう、春の庭、夏の庭、秋の庭、冬の庭と分けられ、それぞれに異なる趣を醸しているこの区画は、お屋敷の華と言えるでしょう。
門とつながっているここは春の植物が生える春の庭ですから、春の時分になれば梅、桃、桜と、咲き誇る花がそれはそれは綺麗なものです。
もちろん他の夏、秋、冬の庭もそれぞれに雅やかなところですが、委細を語っていてはお屋敷の紹介が先へ進みませんからね……
そうですね。今、特筆しておくべきことは夏の庭と冬の庭にあるふたつの洞窟くらいでしょう。
夏の庭の洞窟は様々な鉱物の結晶があちこち生え、かと思えば足元から溶岩が湧き出す、なんとも刺激的な場所です。
まあ洞窟の中にはお屋敷の住人も滅多に立ち入りませんが、この洞窟の入口には温泉が湧いておりますので、そちらは憩いの場として頻繁に使われております。
冬の庭の洞窟は、通年、壁面を分厚い氷が覆っている天然の氷室になっておりまして、料理に使う食材等の保存庫として利用されております。
その他、四季の庭については、また日を改めて、詳しくご紹介することにいたしましょう。
本日のところはこのお屋敷の造りをざっくりと把握してもらうことが目的ですから、先へ進みます。
さて、しばらく歩いて春の庭を抜けますと、このようにちょっとした広場に出ます。
ここがお屋敷の住居が建つ区画になります……と言っても、春の庭に面したこちらはこの通り、何も建っておりません。
いずれはここにも何か建つかもしれませんが、今はただ柔らかい緑の絨毯を踏んで楽しむか、そうですね、偶にお屋敷の主人がご友人を誘ってバーベキューなどなさっております。
この広場をまっすぐ進めば……はい、目の前に広がるこの枯山水、通称「中庭」にぶつかります。ここが位置的にお屋敷の中心になります。
枯山水と言いましたが、まあ日によって岩の位置や砂の模様が変わるものですから、ときには岩がひとつもない、銀沙が広がるだけなんてこともあります。
なんでそんな風に様子が変わるかといいますと――まあ私の趣味だから、ですね。
さて、これまで門からこの中庭へ、まっすぐ歩いてご紹介してきましたが、まだ歩いていない他の三方も似た造りとなっております。
つまり、このお屋敷の庭はどの方向から見ても、外側から順に川、四季の庭、住居、中庭という造りになっているというわけですね。


お屋敷の庭の造りは大体、以上になります。
次は、その庭の中に建つ、お屋敷の建物達について見ていきましょう。

37ε【サブGK】:2011/08/14(日) 06:33:13
それではまず、中庭の向こうをご覧ください。正面に見える藁葺屋根に土壁のいかにも古風な民家。あちらがこのお屋敷の母屋になります。
銀沙の先に建つ藁葺屋根なんて、他では滅多にご覧になれない光景でしょうね。
また、こちらからでは見えませんが、母屋の裏手には立派な土蔵がひとつ、生い茂る木々にまぎれて建っておりまして、その中にはいつからあるのかも判らないようながらくたと、このお屋敷の主人が趣味で集めたものが詰まっております。
視線を右に移してもらって、中庭の右側、あちら側が夏の庭になりますが、あそこに建っているのは来客をもてなすための建物です。
お客様がいらした際は、お屋敷の主人とお客様とが、あそこで囲炉裏にあたりながら談笑し、あるいは縁側に腰掛け、枯山水や夏の庭を眺めながらお茶を飲むなどして過ごしております。
来客用の建物に続きまして、中庭をはさんで相対している、左側のあの建物。あちらは神社の拝殿です。
まあ神社といいましてもあの通り拝殿しかありませんし、そりゃあ昔はいらっしゃったのかもしれませんが、今では祭られている神様もおられません。
神社にこんなことを言うのも変ですが、がらんどうってやつですね。冬の庭の侘しさによくあっているとも言えるでしょうか。
あの拝殿はお屋敷の主人が気まぐれに寝起きすることがある程度で、ほとんど使われておりません。
あとひとつ。既に通過してしまいましたが、春の庭にはお屋敷の主人の警護をしている者が寝泊りしている建物があります。
この建物は武道場としても使われており、警護の者やお屋敷の主人が、日々、己を鍛錬しております。
はい、そうです。あなたをこのお屋敷まで案内したのがその警護の者ですね。


お屋敷の建物についての紹介はこれでおよそ全部です。


さて、これでお屋敷の内部構造は大体ご理解いただけたでしょうか。
それではそろそろ、このお屋敷に住む方々の紹介と参りましょう。

38ε【サブGK】:2011/08/14(日) 06:33:30
まず紹介するのは、当然、このお屋敷の主人ですが……このお屋敷を取り仕切るのは、まだ年若いお嬢さんです。
なんでもこのお嬢さん、自分で考えた苗字をお役所に申請するため、世帯主にならないといけないからなどという理由でご実家を飛び出し、このお屋敷を見つけて住み始めたそうなのです。
建設的かどうかは置いておくとして、その行動力は賞賛に値するものがあると思いませんか。
そんな立派なご主人様ですが、さて、今、何をしているかと言いますと……ちょうど来客用の家で目を覚ましたところですね。
主人はその日の気分で寝る場所を決めるので、ときには母屋以外でも寝起きするのです。
今は毎朝の日課である体調の確認、布団の中で体のあちこちを軽く動かしての様子見をしています。
ああ、そう。主人は体の一部が突如全く動かなくなるという病気を抱えておりまして、そのためにこんな日課ができたわけです。
どうやら右腕がまだ動かないようですね。あの一瞬見せる寂しそうな表情は出来れば拝みたくないものです。
体の確認を終えまして、布団から這い出て枕元の有明行灯の覆いを外して部屋を明るくし、立ち上がって軽く伸びなどしながら部屋の外へ向かい、片腕でちょっと開け辛そうにガタガタと部屋の木戸を開けて縁側に出て……
……と、ああ、これはどうもすみません。つい主人の愛らしい動作を追ってしまいまして、話が先へ進んでいないですね。
うっかりこのまま主人の動きを日暮れまで追い続けるところでした。
ええと、そう。主人の紹介でしたね。
外見はあの通り、黒髪黒目で中肉中背。すらっと伸びた脚と、肩甲骨のあたりまで伸ばしたストレートの髪が特徴です。
も少し幼い時分に魔人となりまして、以来、元気なときにはいつでもどこでも駆け回って素敵な出来事、凄いことを探しております。
とにかく昔から御伽噺や神話などが大好きで、夢見がちに育っていたそうなのですが、魔人になって大概の場所へ行ける体を手に入れてからその性分に拍車がかかったのだとか。
まあ今のように病気で体のどこかが動かないときは、大人しくお屋敷で庭を眺めておいでですがね。
あ、主人の魔人能力ですが、まあ主人の性格がそのまま出たと言いますか、身の回りに奇跡や凄いことを引き起こすという能力です。
偶然が重なって厳重な警備をしている場所に忍び込めてしまったり、派手な能力を持った魔人達が偶然近くで喧嘩を始めたり、付喪神となった家と会話することができるようになったり。引き起こすことは様々です。
まあ能力の効果によって凄いことが起こったのか、はたまた本当の偶然か、本人にも判別がつかないそうですから、効果がどれほどのものなのか、いまいち分かりにくい能力ではありますね。
ただひとつ、結果がはっきり目に見える形で現れることといえば、周囲の魔人の能力使用を助ける効果があることです。主人にとっては魔人能力もその目で見たい凄いことなのでしょうね。
最近はそのことを利用して、魔人の巣窟なんて言われる学園の中、好きなだけ凄い魔人能力を見て歩くという趣味を持たれたようです。
主人は学園から帰ってくると、いつも嬉々としてその日の出来事を語っておられますからね。主人の語る武勇伝はなかなか面白いものですよ。
どのような内容かと言いますと、例えば――

39ε【サブGK】:2011/08/14(日) 06:33:56
――


――おや、話をしているうちに主人は朝食も終え、すっかり身支度を整えられたようで。
ええ、元気なときは動きやすさを優先した服装をしていますが、体が不自由なときは和装でゆったりと過ごしております。
今日は縁側で親友と終日、四方山話をして過ごす心積もりでしょうか。


お屋敷の主人については話しているといつまでも終わりませんし、ひとまずこれで次に移りましょう。
はい、今、縁側に腰かける主人の隣にいるのが主人の親友であり、このお屋敷の住人です。
主人が幼いころからの付き合いだそうで、今は母屋の一室を借り受けて寝泊りしております。
はい、鳥ですね。
オオタカをそのまま大きくして、片翼で大の大人一人簡単に覆るほどの大きさになった、そんな感じですね。
まああの鳥に関しましてはその大きさと、人の言葉を喋る能力があることと、あとは主人にご執心であることくらいを覚えておけばいいでしょう。
あの鳥の主人に対する言動を色々と挙げるとなかなか面白いことになりますが、その辺はまたいずれお話しましょう。


あとこのお屋敷に住んでいるのは警護の者だけですが、警護の者については、まあこちらにいらっしゃるまでに大体ご覧になった通りだと思ってもらって結構ですよ。


さて、お屋敷の住人紹介については、私からはこのくらいですね。
あとは主人の近くで、実際に主人の話を聞いて、そうやってこのお屋敷のことを知っていってください。
では、お屋敷の主人とその親友の会話に聞き耳をたててみることにいたしましょう。




***

40ε【サブGK】:2011/08/14(日) 06:34:24
「少し、寂しそうだね」
「……うん。やっぱりばれちゃうね」


おや、どうやら主人は今日も落ち込んでいるご様子。
俯き気味の主人に、鳥が声をかけています。


「みんな、今はどうしているかな」
「この時間だと授業中じゃない?」
「きつねちゃんと稲荷山ちゃんは真面目に授業を受けているかな……梨咲さんは何やってるんだろ……埴井ちゃんは……」
「……学校に行けなくて寂しい?」
「……うん」


どうも学園に行けず寂しい思いをしているようです。
家に居ても思うことは、先日の学園紛争で仲良くなった学友のこと。
新参対古参の対立、でしたか。あのときの主人はそれはもう楽しそうにしていました。
あんな経験をした後ですと、やはり今の体が思うように動かないときというものが殊更辛く感じられるのでしょう。
ただ……それにしても、


「それにしても、最近は随分と寂しそうにしているみたいだけど」
「……それもやっぱりわかるんだ」


そう。病気の症状が現れているときはいつも寂しそうといえ、最近は輪をかけて寂しそうに見えます。
学友に会えないというだけなら、あの後、何度か学友をお屋敷に招待して遊んでいますし、もう少し元気でいてもいいはずなのですが。
文机に向かってぼんやりとしていること、縁側でうつむいていること、いつもより多いと、お屋敷の住人は皆気付いています。
出来ればその胸の内を語っていただきたいもの。


「……凄い能力を持った人、みんなどんどん死んじゃって……」
「あ、そっか……」
「みんななんで私より先に死んじゃうかなぁ……」


なるほど。
凄いことを捜し求めて、やっと凄い人の集まる学園に転入して、だというのに凄い人がどんどん死んでしまって、と。
確かに寂しいものがあるのでしょうね。
特に主人の場合は病気もありますし、自分より先に他人が死ぬことに何か思うことがあるのかもしれません。


「この前も、凄い強い想いがふたつ見つかって、凄いことが見られるかもって嬉しくなって、だけど、その想いもいつの間にか死んだ人の未練になっていて……あれだけの想いなら、私の能力がなくても凄いことを起こせそうだと思ってたのに……なんで死んじゃったんだろう……」
「強い想いが……ふたつ?」
「うん。妃芽薗……だっけ。あの女子校。今も未練があそこに残っているみたいだよ」


病気の症状に加えて、すぐ近くに居たはずの凄いことを起こす人が皆死んでしまい、悲しく思っていた。
そこへ重なった、気にかけていた強い想いを持った人の死という出来事。そのことによって、ここ最近の凄いことを起こせる人達の喪失をはっきりと自覚してしまった。
――主人の気落ちの理由はそういうことでしたか。
これはなかなか元気付けるのが手強そうですね。ひとつふたつの凄いことを見せるだけでは分が悪いでしょうか。
だとすると、やはり主人を一息で元気にするためには――

41ε【サブGK】:2011/08/14(日) 06:34:48
「何か、誰か、凄いこと……」
「今は、さ。ゆっくり休んで、元気になったら色々やればいいよ。……どうしても気が晴れないなら私が景色のいいところにでも連れて行こうか?」


落ち込む主人にもたれかかられてテンション上がってますね。あの鳥。
主人の体調が万全でないときはいつも外出を渋る癖に、自分から外出の話を持ちかけるとは。
そんなに主人を元気付けたいなら、学園の生徒会長と番長の失踪について話してあげればいいでしょうに。
ふたつの強い想いって、おそらくこの二人のものだと、鳥自身も思っているのでしょう?


「!」
「ん?どうしたの?」
「え?この前新しく決まったって言ってた生徒会長と番長って失踪したの!?」
「えぇ!?聞いちゃったの!?」


うろたえてますね。鳥。
ついでに山乃端一人が消息を絶ったなんて風の噂も合わせて教えてあげれば完璧でしょう。


「!!」
「あ、う、もしかしてその顔……山乃端一人の……こと?」
「やっぱりそうなんだ!ちょっとこんなことしてる場合じゃないよ!出かけよう!」


効果覿面。
やはり主人を元気付ける一番の薬は――ハルマゲドンですね。


「……もう待ってと言ったって止まらないよね……」
「……うん、いつも心配してくれてありがとう」
「『でもここで止まるくらいなら最初から病院のベッドで眠っているよ』だよね……。仕方ないなぁ」


一度勢いのついたこの人は止まりませんからね。
それにしても明るい主人の表情、久しぶりですね。やはり主人にはいつも元気でいてもらわないと。
さあ忙しくなりますよ。出発準備を……と、おや、こちらに何かおっしゃりたいご様子でしょうか。


「あ、それと……教えてくれてありがとう。社(やしろ)」


いえ、どういたしまして。ご主人様。私は当然のことをしたまでです。
あ、そうそう。お出かけになるご主人様にちょうどよいプレゼントがありますよ。


「わ、かわいい下駄」


神通力のようなものは持ち合わせていませんが、これも年代物の付喪神です。
先程、私の造りと、ご主人様の紹介をしていたのですが……あなたのことをいつも陰ながら気にかけている人からの贈り物ですよ。


「うん!後でお礼を言わなくちゃ」


あとは、さて、


「黙っといてって言ったのに……」

42ε【サブGK】:2011/08/14(日) 06:35:06
そんなににらまないでくださいな、鳥さん。
あなたはいつも主人の体を気遣っていますが、私だっていつも主人の心を気遣っているのです。
私はこの屋敷全体の付喪神。主人の着物の袖も、寝具の枕も、私の一部なのですから。
いくら付喪神とはいえ、これ以上の塩分過剰摂取は主人の身を守る観点からも控えたいところなのです。
――それに、あなたもそんなものを用意している時点で、黙り通す気なんてなかったのでしょう?


「? 何かあるの?」
「あぁ!もしかして私のプレゼントのことも喋ったね!?」
「えっ!なになに?」
「あ、もう。……ええっと、片手じゃいつものペンは使えないでしょ。矢立もちょっと使い辛そうだったし、だから……ん」
「わぁ、筆ペンかぁ。ありがとう!」
「う、うん。どういたしまして」
「あ!外出用の筆をくれたってことは、もしかしてさっき言ってた『景色のいいところ』って……」
「う……社に先を越されちゃったし、ちょっと格好つかないなぁ……」


ふふふ、やはりそういうことでしたか。まあ、お先に失礼させていただきました。
さて、そんな鳥さんのプレゼントに合わせて私からもひとつ。
土蔵の中に積まれていた和紙を切りそろえてメモ帳にしてみましたよ。
いつもの鉄製みたいに魔人能力を刻み込むことはできないでしょうがよろしければ使ってくださいな。


「うん。みんな、ありがとう。これなら左手でメモ帳を持って……筆ペンを……もぐもぐもむもむ」
「えっ、口に咥えて書くの?」


そういえば主人は両手はおろか、口や足でも字が書けるのでしたね。
体のどこが動かなくなっても大丈夫なようにという訓練の賜物ですが、病気に打ち勝たんとするその気力はたいしたものです。


「袴もしっかり……よし!これで準備はOKだね!」


この先に待つであろう大騒動、主人はその気力を存分に奮ってください。
動かぬあなたの右手に代わり、私が火の粉を払いましょう。




「じゃあ出発しよう!目指すは――凄いこと!」
――エピソードここまで――




宜しくお願い致します。

度々の修正になってしまい大変申し訳ありませんでした。


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