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めにあおばやまほととぎすはつがつお- 1 :ゆむ:2010/01/31(日) 20:58:39
- 水の流れと身の行方
これは俺の人生を変えたひと夏の出来事である。話を始めるにあたってまずは一番最初の出来事から話していきたい。
初夏に俺の母親が再婚をした。相手は同い年のサラリーマン。
出会って3ヶ月でゴールインというスピード再婚だった。俺は別に義理の父親を嫌がるような駄々を捏ねるわけでもなく、それよりも母親が俺にいろいろと気を使ってくるので心配するなと精一杯祝福してやった。
再婚相手の男性は思っていた以上にまともで責任感のある人で、この人なら母親を任せられると感じたのと同時に俺は一生この人を父さんと呼ぶことは無いだろうと思った。
相手方の住んでた家が賃貸だったため、うちの購入していたマンションへの引越しとなり、物事はとんとん拍子で進んでいった。
そして全国の高校生が夏休みを迎えるこの夏の時期、二人再婚旅行でヨーロッパへと旅立って行った。願わくば成田離婚にならないことを祈るばかりだ。
俺も素直に快く、嫌な顔せず笑顔で、気を使わせずに見送ることが出来たが・・・問題がひとつだけ残った。俺の目の前には再婚相手の連れ子、つまり俺の義理の妹、もうすぐ誕生日を迎える近藤静ちゃん1歳がいることだ。
- 2 :名無しなメルモ:2010/01/31(日) 20:59:38
- 俺の名前は近藤啓太、高校1年生。旧姓国枝。俺は俺が生まれた年に親父が死んでしまったため16年間母子家庭で育った。
そのため1人暮らしのスキルはこの16年間でかなり上達したが、子供の相手をするのはほぼ初めてだった。いや思い返すと初めてかもしれない。
新婚旅行は一週間、離乳食やだっこは俺でもすぐに出来たが泣き止ませたりおむつを取り替えるのは大変だ。
一緒に暮らし始めて約1ヶ月だが、親の再婚生活中に俺がいかに義理の妹の世話をしていなかったのかが如実に表れてしまう。
なにしろ1歳の子供はじっとしてくれない、少しでも機嫌が悪いとすぐに泣いて暴れてしまう。
最初の2日間は子守に疲れ果てて気を失い欠けていた。何しろ夜も泣き出して寝かせてくれないんだ。
3日目には、ようやく静の子守にも慣れてきて静も最初こそ距離があったものの、少しづつ俺のことを慕ってくれるようになってきた。1日目ははパパーどこー!!って泣き叫んでいたくせに。
そして4日目、朝飯も何事もなく静に食べさせると俺は高校へ行く支度を始めた。今日はテストの補修課題を受け取りに行かないとならない。
それに脳みその作りが良くない俺は課題をこなすにも馬鹿でも理解できる参考書が無いと捗らないわけだ。
普通だったら終業式にでも借りるのだが、脳みその作りが良くない俺はそのことに気づくのも夏休みに入ってからだった。
本当は静のこともあるので近所の本屋で買って済ませたいが、バイトもしていない俺には楽しみの欠片も無い勉強ということに使うお金は生憎持ち合わせていない。
無難に学校の図書館を利用するのが一番だ。もしかしたら片親生活が長かったせいか、貧乏性になっているのかもしれない。
俺の通う高校までは歩いても30分と掛からない。高校受験も交通費が掛からないのを第一条件で選んでたし、まぁ何にしても安く済むのに越した事はないよな。
抱っこ紐を着けて静を胸元に抱き背中にはベビー用品を詰めたリュックを背負い準備は万端だ。静も久しぶりのお出かけで機嫌が良い。
最近は「にーちゃ」って呼ばれるようになったし、少しだけ二人の間柄も実際の兄妹に近づいてきたのではないだろうか?
外は曇りだったが降水確率は0%だ。俺は静をあやしながら高校へと脚を向けた。
- 3 :ゆむ:2010/01/31(日) 21:01:50
- 美中に刺あり
課題を担当科目の教師から受け取り、図書館で苦手分野の資料を集めていたら結構な量になってしまった。
静は図書館に着く前に寝てしまったので集団で利用する大きな勉強机の上にそっと寝かせておいた。
「あら近藤君じゃない」
聞き覚えのある声が背中から聞こえる。できることなら後ろを向きたくないが向かないといろいろと面倒なので後ろを向く。
「よ、よう若木・・・」
やっぱり・・・そこにいたのはうちのクラス委員長、若木恵理だった。夏休みだっていうのに制服姿だ。
正直言って俺はこいつが苦手だった。若木は頭が良くスポーツもよく出来るし顔の造りも丁寧に出来ているが、
なんていうか・・・高飛車な性格なのか、こいつと話しているといつも見下されているようでどうも気分が悪いのだ。
「参考書や資料をそんなに抱えているなんて、近藤君にしては珍しいわね」
「いやぁ、夏休みの課題がなかなか進まなくてな・・・」
実際進むどころか踏み出してすらいないけど。
「若木は・・・これまた難しそうな本を借りてんなぁ」
「これはエミリー・ディキンソンやフランク・ノリスの原書本よ他の作品が面白くて借りに来たの」
原書本って・・・・和訳されていない本なんか読んで本当に面白いのか?俺からしてみたら本当に意味が理解できているのか疑いたくなる。
「あら、その子は?」
すると若木は俺の後ろで寝ている静に気づく。
「あぁうちの親再婚してさぁ、相手側の娘さんで旅行中の両親に代わって面倒見てるんだよ」
「へぇ・・・・・そうなの、大変なのねぇ」
そういうと若木は机に近づき静の寝顔を覗き込む。
こうして微笑んでいる若木の顔を見ると本当に綺麗だよなぁ。これで性格がもう少しおしとやかだったらなぁ・・・。
「じゃ、じゃあ俺本借りてくるから!」
若木に何か言われる前に俺は受付に向かうことにした。若木は机の上にいる静を眺めている。
・・・若木は根っからの委員長体質なのか、それとも頭の可哀想な人を見ると助けたくなるのか、
クラスどころか学年でも頭の悪い部類に入る俺にいろいろと小言を言ってくる。
あるときはテスト前に「こことここは絶対に覚えておきなさいよ」と強い口調で言われたり
あるときは提出課題の期限に「まだ終わってないの?今日までなんだからしっかり終わらせなさいよね」と文句を言われたり
この間帰るときなんか「近藤君はボンヤリしているんだから交通事故には気をつけなさいね」と注意されたり、全く俺は小学生かっつうの!
- 4 :ゆむ:2010/01/31(日) 21:02:54
- 今日もいろいろ言われる前に帰るが吉だ。早々に借りる本を記入して静を連れて行くことにしよう。
このままだと夏休みが終わっても課題が終わってないなんて事の無いようにね、とか言われそうだ。
「あら、もう終わったの?」
「あぁ・・・・・・ってちょっ!!」
俺が元居た場所を向くと若木が持っている本を整理していた。が、俺が叫んだのは静が眼を覚まして机の上に立ち上がっていたからだ。
寝起きだからか、足取りがフラフラとしている。俺が驚いたのを見て若木も気づいたようだ。
すると静はおぼつかない足取りで机の端までヨタヨタとふらつき机から落ちそうになる。
『危ない!!』
俺と若木が同時に声を上げた。走って助けようとしたが間に合わない!
静の体が傾いて机から落ちる!!と思ったとき若木は持っていた本を投げ捨てて静目掛けて体ごと突っ込んでいた。
若木は静を抱きかかえるようにしてそのまま机と椅子にガッシャーンと音を立てて倒れこんだ。
「若木!!」
俺はスグに二人のもとに駆け寄った。倒れた椅子の間に若木が静を抱えながら蹲っている。
「おい若木!!」
俺は若木の上半身を起して頬を軽く叩く。綺麗なキメ細かい白い頬は柔らかく弾力がありほのかにいい香りが・・・ってそうじゃない!
「ん・・・・」
意識を取り戻したのか若木の眼がゆっくりと開く。
「若木・・・大丈夫か?」
すると若木は最初ポカーンとした顔をしていたがだんだん顔が今にも泣きそうな顔になっていく。
やべぇ打ち所が悪かったか?こんな不安げな顔の若木を見るのは初めてだ。
「お、おい・・・・大丈夫かよ若」
「にーちゃ!!」
ガバッ
ちょっ・・・!!やばいマジで脳にダメージがあるみたいだ!起きた若木は俺を見るやいきなり眼に涙を浮かべて
ハグしてきたのだ!あぁ女の子の胸って柔らけぇ・・・。とかそんなこと考えている場合じゃねえ!落ち着け俺!!
「おい若木!どうした!!」
俺は抱きしめてきた若木を両手で引き離すと若木は困ったような微妙な顔をしてこちらを見ている。
そ、そうだ!それより静は大丈夫か!?
「んー・・・・」
小さく静の声がしてスグに声の方向を探すと、少し離れたところで頭を押さえながら起き上がろうとしているのが見えた。
「良かった・・・しず・・・」
「痛たた・・・・・・・全く・・・妹さんのことなんだからしっかり守ってあげなさいよね!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、なんだって?」
1歳の妹の口からいきなり流暢な日本語が発せられたので俺は意味を捉える前に聞き返してしまった。
「へ?」
すると静もおかしな顔をしてこちらを見る。
そして約10秒後
『えぇぇぇっっっ!!!!』
俺と妹が叫ぶところをうちのクラス委員長が見て笑い出した。
- 5 :ゆむ:2010/02/01(月) 16:43:48
- 山高きが故に貴からず
「・・・・で、どうすんのよ!?」
俺は今、1歳の妹に向かって正座で座っている。
「いや・・・どうすると言われましても・・・・」
「入れ替わっちゃってるのよ!?どうにかしないでどうするのよ!!」
ここは保健室。保険の先生はいなかったけどようやく落ち着いて話せるようになった。
静・・・・・の体になった若木を抱え、暴れる若木・・・・・の姿をした静を連れてくるのは大変だった・・・。夏休みで受付の人がいなくて助かったぜ・・・。
俺達3人は保健室でもう一度、若木と静の頭をぶつけてみたり、強く念じてみたり、シチュエーションを再現してみたりしたけど
若木は静のままで、静は若木のままだった。ちなみに若木になった静は泣きつかれてベッドで寝ている。
びゃーびゃー泣いて鼻水や涎まで垂らす優等生の姿なんか正直見たくなかったぜ。
「じゃあこんな姿で高校生活を送れって言うの?」
若木は正座している俺の頭をペシペシと叩く。今の若木では正座姿の俺よりも背が低く、その小さな体ではどんなに叩かれても痛くは無い。
「はい・・・あの・・・すみません」
「すみませんじゃないわよ!!」
今度は頬っぺたを叩かれる。しかし俺に一体どうしろと・・・入れ替わった人同士を元に戻せるビックリ能力なんか俺は持ち合わせちゃいない。
入れ替わったこと自体とんでもハプニングなんだし・・・。それにしても妹に殴られるドメスティックでバイオレンスな日がくるとは思ってもいなかった・・・。
問題は静だ、親が帰ってきて女子高生になっちゃいましたなんて新しい父親に合わせる顔が無い・・・。下手したらバツがもう一個着く可能性だって・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
二人の間で長い沈黙が続くと
「・・・・・とりあえず、近藤君の家に連れて行って頂戴」
「え?」
「このまま学校に居るわけにもいかないじゃない、とりあえず近藤君の家で作戦会議よ!」
「で、でも若木の家の人たちにはどう説明するんだ?」
「こんな情けない姿で事情を説明しに行くわけにも行かないし・・・・そうね、ちょっと近藤君私の鞄から携帯取って」
情けない姿って・・・一応、義理でも俺の妹なんだぞ・・・。
「・・・・こ、これか?」
俺は鞄から携帯を見つけ出し若木に渡す。・・・意外と可愛い携帯使っているんだな、ファンシーなストラップも着いているし。
若木は受け取った携帯を両手で操作をし始める・・・・・がどうやら悪戦苦闘しているようだ。
いくら現代の携帯電話が小型軽量化していても流石に1歳児には大きすぎるようで、ボタンを押すどころか落とさないようにするので精一杯みたいだ。
「もうっ!ちょっと近藤君、代わりにメール打って頂戴!」
怒る若木から携帯を受け取る。
「勝手に他のメールとか見ないでよね!!」
「あ、はい、わかってます・・・すいません・・・」
はたから見たらかなり危ない光景だよな・・・高校生が1歳児に向かって敬語でペコペコ頭下げているんだから。
- 6 :ゆむ:2010/02/01(月) 16:47:29
- 「・・・・で、お前の母親になんて打てばいい?」
「えーと友達の家に泊まるから今日は帰らない、って打って」
俺は言われたとおりに携帯を動かす。
「最後に2、3日経っても帰ってこなかったら捜索願いを出してねって入れておいて」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!それじゃあまるで俺が誘拐しているみたいじゃないかよ!」
「第三者から見たらほぼ誘拐よ!じゃあ最後に笑マークでも入れておいて、3日経っても戻れなかったら流石に親へ説明しに行くしかないでしょ」
「わ、わかったよ・・・・」
メールを打ち終わり送信ボタンを押す。誘拐犯として捕まらないことを祈っておこう・・・。はぁ・・・全くなんでこんなことに・・・。
「じゃあその携帯の電源を切っておいて、何か連絡があっても電池が切れたって言い訳がたつし」
「・・・・・・」
体が入れ替わっても若木はやっぱり若木だ、どんな状況下でも逞しい。俺には無理だ。てか普通の人間だったら冷静に対処できねぇし適応もできねぇよ。
「それじゃあ近藤君の家に向かうわよ、こんなところ他の人たちには見られたくないし。親御さんは旅行中なんでしょ?」
「あ、ああ、わかった・・・・・静起きろー帰るぞー」
俺はまだ眠そうな女子高生の妹を起し、義理の妹になった委員長の体を抱き上げて抱っこ紐で結び始めた。
「きゃあっ!!ちょっと何すんのよ!!」
「な、何って抱っこ紐で抱えようと・・・」
俺はそう言いながら若木を抱っこ紐の間に入れて抱える。
「ちょっとやめてよ!は、恥ずかしいじゃない!!」
「しょうがないだろ・・・校内ならともかく、その体の歩幅に合わせて家まで歩いていたら日が暮れちまう」
「タクシー代出すから!!」
「じゃあ校門まで抱えていくよ」
「きゃぁぁぁっっ」
「にーちゃー!しずかもだっこー!」
「ごめんな静、お兄ちゃんは委員長様を抱っこしなくちゃいけないんだよ」
騒ぐ静をあやしつつ、顔を真っ赤にして俺の胸元を殴りつける若木を無視して昇降口へと向かう。
入学してから今までいろいろ文句を言われてきたので、ちょっとした仕返しだ。せいぜい1歳児として相応しい対応をされろ。
片手で俺と若木の荷物、もう片手で静を引っ張る。胸元には若木を抱え、なんかいろいろと大変だし重い・・・・。
それにしても本当に・・・冗談抜きで真面目な話・・・元に戻らなかったらどないしよう・・・・。
- 7 :だだんだんだだん:2010/02/01(月) 22:05:09
- ゆむさん!
おもしろいです!!
若木さんには、精神的にも幼くなってほしいです^^;
- 8 :ゆむ:2010/02/02(火) 19:54:21
- 働かざる者食うべからず
「若木・・・・」
「何よ?」
「にーちゃー」
「お前財布にいくら入れてんだよ・・・それに高校生でカードって」
「5万円ぐらいでしょ、カードは親が持たせたのよ」
「おなかーたべたいのー」
「はいはい静ー今スグ作るからお兄ちゃんから降りてねー」
「ちょっと!!それ以上私の体に触ったら殺すからね!!」
「静から寄ってくるんだからしょうがねぇだろ」
「にーちゃー」
「・・・・一刻も早く戻らないと・・・・近藤君に何かされてからじゃ遅いわ」
「本人目の前にして何にもしねえって・・・」
「ちょっと、それって私がいなかったら何かするってこと!?」
「そういう意味じゃねぇって・・・・・はぁっ・・・」
「にーちゃー!!」
今の状況を説明するとエプロンを着けて台所に立っている俺、
その俺に若木の姿をした静が上からオンブするみたいに覆いかぶさっていて
その様子を見ている静の姿をした若木が文句を言ってくる。
全く・・・なんでこんなことになっちまったんだか・・・。
まぁ戻る方法は今のところ頭の良い若木にまかせるとして、俺が今出来ることは3人分の昼飯を作ることぐらいだ。
・・・ところで静は若木の体だけど離乳食の方がいいのか?それともしっかり大人の飯を作った方がいいのか?
少し悩んだが、結局静は上手く噛むことが出来ないと判断し、おかゆとコンソメスープを作ることにした。離乳食はレトルトだから簡単だ。
作っている間、静はドタバタと家の中を駆け回ったり飛び跳ねたりと体が変わったことで大はしゃぎしていて気が気でなかった。
子供は子供の体格だからこそ元気いっぱい動き回れるけど、それを女性とはいえスポーツ万能高校生の体でされると危険極まりない。
それに制服姿だと、その、スカートが乱れまくりで、その・・・・中の布地まで丸見えなんだよ。けどマジマジ見たり変に触ったりすると若木に怒られそうなので口で注意することしか出来ない。
若木は考え込みながら何かノートに書いているみたいだが、はたから見たら小さな子供がお絵かきをして遊んでいるようにしか見えない。
そうこうしているうちに飯が出来上がったので食卓に並べる。
「おーい静ー若木ー飯出来たぞー、一旦休んで食事にしようぜー」
「わかったわ」
「あいーおなかすいたー!」
静は大人用の椅子に座らせて首には涎掛けの代わりにハンドタオルを巻いてやる。
「・・・近藤君、私はこれに座るの?」
「ん?そうだよ、今のお前じゃ普通のテーブルじゃ高すぎるだろ」
若木の前に置いてあるのは静が普段使っているテーブル付きのベビーチェアだ。
「あぁ、じゃあ座らせてやるよ・・・・よっと」
「きゃあっ!」
俺は若木を持ち上げてベビーチェアに座らせてやる。そして足の間と腰をベルトで固定して落ちないようにしてやる。
「ちょっと・・・これじゃ足が閉じられないじゃない」
「・・・まぁ子供用の椅子ってそういうもんだからなぁ・・・飯食う間だけの辛抱だろ、我慢してくれ」
「はぁ・・・もぅ・・・しょうがないわね」
情けないって感じの溜め息を吐いている若木の前に出来たばかりの離乳食にリンゴジュースの入っているストローつきプラスチックマグカップと子供用のプラスチックスプーンを並べる。
- 9 :ゆむ:2010/02/02(火) 20:01:16
- 「にーちゃーたべたいー!」
「あ、そうか!ごめんな静」
しまった、静はまだ一人で食事をした経験が無くスプーンも上手く使えないんだった、俺が食べさせてやらんと。
俺は食事をスプーンで一口サイズにして静に食わせてやる。
「ほら、あーんしなさい」
「あーーーーーん」
「・・・・・・・」
・・・・・俺に向かって大きく口を開いている若木の姿の静は・・・なんていうかとても艶やかだった。
遊びすぎたのか、それともの夏の暑さのせいなのかうっすらと汗をかき蒸気している頬、ピンク色の唇、長いまつ毛に綺麗な大きい瞳、無邪気な仕草、何か俺の知っている妹の静でも委員長の若木でもない変な感じがした。
食べさせてやると、いつもの知性的な若木の姿からは想像も出来ない雑な食べ方だった。まぁ当たり前なんだけど。
口に入れたものはときどき胸元にこぼし、噛むというより上あごで潰している感じでくちゃくちゃと音をたてていた。
「にーちゃー、おいちーねー」
食べながら満面の笑みで微笑む静を見て思わずドキッとしてしまった。
やべぇ・・・一瞬道を踏み外しそうになっちまった。
「きゃあっ!」
ガチャッて音と同時に若木が声を上げた。
見るとベビーチェアのテーブルに離乳食の入った皿がひっくり返って中身が散乱している。
「おい、どうしたんだよ若・・・」
若木の顔を見ると口の周りにはご飯がベットリとくっ付いており、服にもところどころこぼした後がある。
手もベトベトで中身が女子高生とはいえ、これでは食べ物で遊んでいる幼児みたいだった。
若木は申し訳無さそうな、そしてばつの悪そうな顔をしてこっちを見ていた。
「・・・・プッ・・・・ククククッ」
「ちょ、ちょっと、笑わないでよ!しょうがないじゃない!思うように手が動かないし指だってスプーンを持つのがやっとなのよ!?」
俺が噴出したのを見て若木が怒る。しかし口元を汚し不器用にスプーンを持って必死に説明している若木の顔を見ると笑いがこみ上げてしまう。
「クッ・・・悪い悪い、ちょっと待ってろよ」
確かに手が上手く動かないようで、スプーンも指先ではなくグーの形で握るようにして持っている。
俺は若木の顔とテーブルを拭くと食器を片付けて離乳食を作り直す。
「・・・・・・」
その間、若木は文句を言うわけでもなくずっと黙っていた。
「ほら、作り直したの食わせてやるから」
俺は若木にいつも静が使っている涎掛けをつけてやるとスプーンを持って若木の口元まで運んでやった。
「ご、ごめんなさい・・・・」
「いいよ、その体じゃしょうがねえって」
静と若木を交互に食事をさせてやり、自分の分も少しだけ腹に入れた。
「何か味付け薄いわね・・・」
「離乳食ってそういうもんだからな、ほらあーんして」
「あんまり子供扱いしないでよね」
「はいはい」
若木は終始恥ずかしそうにしていたが、1パックとスープを食べ終わると流石にお腹いっぱいになったみたいだった。
逆に静はたくさん食べる。茶碗一杯では全然足らず、スープもあっというまに飲んでしまった。
結局俺の食う分も分けてやり、子供サイズのお粥とスープとはいえ2人前は食べている。同い年の女子も結構食べるんだなぁ。
「ちょっと、あんまり食べさせないでよね・・・少しダイエットしようと思ってたんだから」
この体でこれ以上痩せるところあんのか?胸は結構立派だが・・・足とか凄い細いぞ。
「わかったよ、静はいっぱい動いてたからお腹すいてたんだって」
「にーちゃー・・・もーいー」
静もようやくお腹いっぱいになったようで、胸元のタオルで口の周りを拭いてやり食事を片付けることにした。
さて、これからどうするか作戦会議をしないとな・・・。まだ半日だってのにクタクタだ・・・・これで戻らなかったら親が帰ってくるころには過労死しているかもしれないな。
- 10 :ゆむ:2010/02/03(水) 19:39:23
- 汗顔の至り
片付けも終わり俺は若木と今後どうすれば元の体に戻すことができるのか話し合うことにした。
静はお腹もいっぱいになったようで、隣の部屋で眠っている。高校生の体になっても眠る時間は短くならないようだ。脳の使い方のせいだろうか?
それにしても・・・何という無防備な格好で寝ているんだ。スカートは膝上まで捲れ上がり眩しい太ももがあらわになっている。
制服もぐしゃぐしゃで、お腹がめくれてへそが丸見えだ。下着もチラッと見えている。
俺は変な気になりそうなのを抑えてタオルケットをかけてやると若木のもとへと戻った。
「そういや、さっきは何をノートに書いていたんだ?」
「あ、ちょっと待って!」
俺は若木のノートを取り上げてペラペラとめくってみた・・・・・・。
「あの、若木さん・・・」
「・・・・わかってるわよ!」
「・・・・これは一体なんの絵ですか?」
「文字を書いたつもりなの!それで!」
ノートに書かれていたのは書きなぐったような丸や四角と様々な方向へ飛び跳ねている線だった。
それもノート一面に書かれている。まるで現代アートの作品みたいだ。
「さっきも言ったけどこの体が不器用すぎるのよ!それにこんな小さな手じゃペンもしっかり握れないし」
確かに静はボールを持ったり積み木を積むことは出来ても折り紙や形になっている絵を描くことはまだ出来なかった。
「こんなんじゃこれから勉強も出来やしないわ・・・」
食事のときもいろいろあったので流石の若木も大分落ち込んでいるようだ、それにこのまま元に戻らないのは俺も困る。こんな高飛車な妹はゴメンだ。
「ま、まぁ文字じゃなくて口で説明してくれよ、何か考えてたことはあったんだろ?」
「・・・・まぁいいわ、まず普通に考えて精神が入れ替わるなんてこと普通じゃ起こり得ないわ」
「そりゃそうだ、頭の良くない俺でも理解できる」
「で、現に私の記憶は静ちゃんの体に移ってしまっている。脳を移植したわけでもないのにこういう現象になってしまっているのは
もしかしたら魂とかそういう存在のせいなんじゃないかって思っているの」
「若木らしくない非科学的な意見だな」
「・・・私もそう思うわ。それで、もし魂がぶつかった拍子で入れ替わってしまったなら私と静ちゃんの魂は体から抜けやすい不安定な状態ってことよ
だからもしかしたらこのまま二人とも近い位置にいれば魂が引かれあって何かの拍子に元に戻るんじゃないかってことが一つの考え」
「なるほど、でもそれで戻らなかったらどうするんだ?」
「そうね、もし1日たっても戻らなかったら今度は離れてみようと思っているの」
「さっきの逆か」
「そう、つまり私の脳の信号が静ちゃんの体に行ってしまっているんじゃないかってこと」
「信号?」
「脳っていうのは本来、運動・知覚など神経を介する情報伝達の最上位中枢で脳の信号は微量の電気信号で行われいるの
まだ解明されていない部分も多いけど、それが必ずしも神経のみを通して伝達しているかはまだ確証していないのよ、そうでなければおかしい、説明がつかないってだけで
まぁ結果的に神経へ送られていても外部からの電気信号でもいろいろと体は動かせるし、特定の電波を飛ばして人を操る実験もされているわ
つまり、神経への影響は外部から微量の刺激を一定の間隔で送っていれば動かせるし意識もまたしかりよ、脳を錯覚させれば意識していない感覚も受けられるわ」
「う、うん、よくわからんけど」
何かだんだん混乱してきた。回転率の遅い俺の脳がオーバーヒートしそうだ。
「スウェーデンの研究者で脳を錯覚させて人に別の体を持っているかのように操作した人がいたわ
それは脳に擬似信号を送って錯覚させていたんだけど・・・つまり外部からの影響で他人の感覚を移したりするってことね
他にも脳波をデジタル化にする研究では他人との脳をシンクロさせて自分以外の肉体感覚を感じさせようとしたりね」
「あ、あぁ・・・つまりどういうことだ?」
「つまり・・・静ちゃんと私の脳の電波が互いの体に送られてしまっているから、体を引き離せば脳の電波は元の体に送られて元に戻れるんじゃないかってことよ
もしくは二人の脳や一定の生体内電波伝搬みたいなものがシンクロしてたりしてるのかも・・・今回の私たちは記憶が移っても手が上手く使えなかったりバランスが取りづらかったりしているのも、もしかしたら記憶を司る脳の扁頭体だけが・・・」
「近くにいても戻らなければ二人の体を離してみるってことでいいか?」
駄目だこれ以上話を聞いていても俺には理解できん。
- 11 :<削除>:<削除>
- <削除>
- 12 :ゆむ:2010/02/03(水) 19:45:36
- 「まぁそういうことね、学校で頭をぶつけたり同じシチュエーションでも戻らなかったんだからいろいろと試してみるしかないわ」
「じゃあそれまでは静が起きても暴れないように気をつけないとな、元に戻ってお前の体に傷とか出来てたら大変だしな」
「そ、そうね・・・」
急に立ち上がったかと思うと何故か若木の頬が赤く染まる。
「あっ・・・・」
「どうした?」
若木は辺りをキョロキョロと見回したと思うと小さく震えだした。
「どうした?体がおかしいのか!?」
「・・・・レ」
「え?」
「・・・・・・トイレ」
真っ赤になっていたから何だと思ったら便所かよ・・・ビックリさせんなよな・・・。
「あぁ、トイレなら玄関の方・・・ってお前の体じゃドアが開けられないか、着いて行ってやるよ」
「ちがうの!」
「へ?」
「・・・・・・しちゃったのよ」
「何を?」
「・・・・・・・・・もうっ!馬鹿!!鈍感!!我慢できなかったの!!トイレに行きたかったけど間に合わなかったの!!でちゃったの!!」
そういうと若木はボロボロと泣き始めた・・・・そ、そうか・・・漏らしちゃったのか・・・ど、どないしよ・・・。
そりゃあ静はまだトイレトレーニングすら始めてないからおむつ履いてて平気だけど、いくら静の体でも中身は高校生だもんなぁ・・・我慢できなかったのはちょっとなぁ・・・。
「・・・・で、大と小どっち?」
「・・・・小」
俺は少しホッとした、それならまだダメージは少ない。・・・まぁそういう問題じゃないのは分かるけど。
「ふぅ・・・・じゃぁそこに寝てくれ」
「・・・・・なんでよ?」
若木は泣いた顔でたずねる。なんでって言われてもなぁ・・・・。
「いや、おむつ換えてやるから、ほら早くしろよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
少しの間があった後
「ぜっっっったい嫌ぁっっっっ!!!」
泣きながら絶叫する若木、顔を真っ赤にしながら本気で嫌がっている。っていうかパニクっている。
「嫌って、じゃあどうするんだよ?そのまま濡れたおむつ履いてんのかよ?」
「そんなこと一人で出来るわよ!!何であなたに下半身を見せなきゃいけないのよ!?」
1歳になる義理の妹の下半身を見ても何とも思わんわ!!とツッコミを入れようとしたが止めておくことにした。
「わかったよ、じゃあ換えを持ってくるから・・・」
俺が新しいおむつを持ってくるまで若木はまだ涙を浮かべていた。
あんなに高飛車な若木が人前で涙を見せるなんて・・・ってか高飛車だからプライドが許さないのか?それとも乙女心ってやつか?年齢イコール彼女いない歴の俺にはよう分からん。
自分の体じゃない1歳児の体なんだからトイレに間に合わなくても、下半身見られても多少は平気な気もするけど・・・。
「ほら、これが新しい換えで、これお尻拭きだからコレで股を綺麗にしたらこのガーゼで拭いてくれ
濡れているとむれてかぶれやすくなるからな、取り替えたらこのビニール袋に入れておいてくれ」
俺がしゃがみながら若木に教えてやる。なんか子供におつかいを頼むような少し不安で心配な気持ちになる。
すると若木は静の寝ている隣の部屋に入ると
「絶対覗かないでよね!!」
と言ってバタンと勢い良く襖を閉めた。1歳の体でも何かとパワフルだよなぁあいつ。
「はいはい、わかったわかった見ませんよ・・・」
まぁ粗相を犯した自分の後始末を他人、それも異性にしてもらうのは確かに恥ずかしいかもな。
- 13 :ゆむ:2010/02/03(水) 19:46:32
- 失礼>>11書き込む位置を間違えてしまったため削除をお願いします。
ご迷惑をおかけしました。
- 14 :ゆむ:2010/02/03(水) 19:47:46
- でもまぁいくら静の体でも若木なら着替えぐらい出来るだろう、と思っていたが勢い良く襖を閉めて5分もしないうちに若木からドア越しでお呼びがかかった。
「こ、近藤君、ちょっと来て・・・」
「なんだよ・・・覗くなとか来いとか・・・」
俺がブツブツ言いながらドアを開けるとスグ目の前・・・いや膝の前に若木がいた。
ズボンは脱いでいて下半身はおむつしか着けていない。上着を下に引っ張っておむつを隠そうとしているが半分も隠れていない。というか丸見えだ。
「で、どうしたんだ?着替え終わったのか?」
「・・・・・テープを剥がして頂戴・・・」
「テープって・・・?」
少し悔しそうに若木が言うもんだから理解するのに少し時間がかかった。なるほど、手先のおぼつかない静の体だ、なかなか紙おむつのテープを剥がすことができず悪戦苦闘していたのだろう。
俺は何も言わず指でピッと両サイドにあるテープを剥がしてやる。
するとおむつが落ちそうになって慌てて若木がしゃがみ込む。
「あ、ありがと!もういいわ、早く出て行って!」
本当に大丈夫かよ・・・。またもや心配になりながら俺は部屋を出て行った。
それからさらに10分後
遅い、遅すぎる。もしかしたらどこか転んで頭をぶつけたのではないだろうか?それとも脳にまた異変が起きて倒れたとか・・・。
と少し心配になってきた俺。
「おーい若木ぃー、大丈夫か?」
襖をノックして声をかけてみる。しばらくして、
「う、うん・・・大丈夫」
声が聞こえて少し安心した。ゆっくりとドアを開けるとズボンを履き終っていた若木がビニール袋を俺に突き出していた。
「み、見たりしないでよね!」
「あほ!そんな物を見て喜ぶ趣味なんか持ってねぇよ」
恥ずかしさのせいか俺と顔を合わそうとしない若木から俺はビニール袋を受け取ると、おむつ用のゴミ箱へと捨てに行く。
若木はそれからもお漏らしをしてしまったことが大分応えたようで、その後も俺に文句を言うわけでもなく
寝ている静の隣でおでこをくっつけたり、意識を集中させて元に戻ろうと試みていた。
さすがに俺も「しょうがないって、お漏らしなんて静の年ならみんなしているんだから気にしないでどんどんしろよ」なーんて無神経な言葉をかけるわけにもいかず
寝ている静と戻ろうとする若木の邪魔にならないように、別の部屋で課題を進めることにした。
- 15 :とも:2010/02/04(木) 18:19:18
- >ゆむさん
ずっと読ませてもらいましたが、もう最高に楽しいお話ですね!
萌えるポイントをうまく捉えておられるのですごすぎます!
幼い身体になった若木はお漏らしや食べこぼしをしたり、高校生の身体になった静が鼻水を垂らしたり無邪気にはしゃいだりする姿を見るのがたまらなく快感です♪
特に優等生の若木にとってお漏らしは屈辱でしょうね(笑)
これからも楽しみに見させてもらいます☆
- 16 :ゆむ:2010/02/05(金) 20:23:02
- 下手の考え休むに似たり
いやぁ馬鹿だ馬鹿だ、脳みその造りが雑だと思っていたが予想以上に俺の馬鹿は悪化の一途をたどっているようだ。
まさか参考書を要しても分からないなんてどんだけ理解力が無いんだ俺。英語が一番苦手だと思っていたが数学も知らない間に未知の領域へと授業は進んでいたようだ。
机の上に広げられたノートと教科書と参考書とプリント、右手にはシャーペン、左手には消しゴム
かれこれ30分近い時間をかけて終わらせようと努力をしたが、今では文字とのにらめっこだ。
何しろ何が分からないのか分からないことすら分かろうとしないのだから進むわけが無い。
「・・・・近藤君何しているの?」
振り返ると椅子の側に若木が立っていた。残念ながら元には戻れなかったみたいだ。さらにさっきまで泣いていたせいかうっすらと目が赤い。
「・・・・・夏休みの補修課題だ、苦手な教科が多くて参ってんだよ」
「なるほどね、今はなんの科目?」
「数学」
「それじゃ私が教えてあげるわよ、夏休みの課題はもう終わっているし」
完璧人間かよこいつ、7月中に夏休みの課題や宿題を終わらせる奴なんて漫画の中のキャラクターだけだと思っていたぜ。
「んー・・・・じゃ、じゃあちょっと教えてくれ、マジで分かんねぇんだよ」
俺はそう言うと若木の体を抱え上げる。
「きゃあっ!!ちょっと何するの!?」
「何って・・・課題を見てもらおうとテーブルの上に・・・その体じゃ椅子に座ったってテーブルの上が見えねぇだろ」
「だったら、課題を私の目線に持ってきなさいよ!たかだか1メートルぐらいの高さでもかなり怖いんだからね!?」
確かに言われてみれば課題を床に広げた方が親切だったか・・・。まぁこれ以上文句を言われるのも嫌なので抱え上げた若木をテーブルの上にチョコンと座らせる。
どうやら若木は本当に怖かったようで、終始俺のシャツを握っていた。静なんて抱え上げるとキャアキャア喜んでくれんのになぁ。
「全く・・・本当に鈍感なんだから・・・で、どこが分かんないのよ?」
かくして俺は、俺の膝丈ほどしか無い女の子に勉強を教えてもらうことになった。第三者が見たら1歳の女の子に勉強を見てもらっているんだから俺はどんだけ馬鹿なんだと誤解されそうだ。
- 17 :ゆむ:2010/02/05(金) 20:25:07
- -30分後-
「若木・・・・お前凄ぇな!」
「当たり前でしょ、それよりも近藤君が勉強しなさ過ぎているのよ!よくそのレベルでうちの学校に入れたわね」
手が小さい若木では文字を上手く書けないので口で説明してもらったのだが、的確に分かりにくいところを上手い具合に要領良く教えてくれたので
参考書と照らし合わせて進めると、まるで絡まった糸がほどける様に簡単に理解することが出来た。
「まさに見た目は子供でも中身は大人、いやそれ以上だな」
おかげ様で、ある程度数学を片付けることが出来た。ここまで分かっていればあとは俺でも何とかできる。
「ちゃんと授業を受けていればこんな苦労だってすること無わよ?・・・もしまた分からないことがあったら
元に戻った後でしっかり教えてあげるけど・・・」
説明が終わり床に下ろした若木が少し照れたように言う。褒めた俺も少し気恥ずかしい・・・・とそのとき。
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
いきなり隣の部屋から大きな泣き声が響く、どうやら静が目を覚ましたらしい。
しかし女子高生の体ともなると声量も大きい、近所に変な噂を流される前に泣き止ませないと・・・。
「どうした静ー!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・!」
俺が隣の部屋へ向かおうとすると若木はバランスを取りながら立ち上がろうとしている。
しかし今は静を泣き止ませる方が先決だ。
「うええぇぇぇぇぇ・・・・にぃぃちゃぁぁぁ・・・・・」
部屋を開けた先に俺を待ち受けていたもの・・・・まぁそれは若木の姿をした静なんだけど・・・・・・。はぁ・・・・さて・・・・・これはどうしたものか・・・・・。
静は俺を見ながら顔中を濡らして泣き喚いていた。ちなみに静が泣いていた原因は至って簡単で当たり前のことだった。
「ふぅ・・・やっと追いついた・・・ちょっと勝手に先に行かないでよね・・・・で、どうしたっていう・・・・」
「あ、若木!!ちょっと待ってくれ・・・・まだ入らないで・・・」
俺が声をかける前に若木は小さな顔を襖から覗き込ませ部屋の中を見てしまう。
「・・・・・・・・・・・」
「あ、あの・・・・・・若木さん?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
「お、落ち着け若木!!仕方ないだろ!?」
「うわぁぁぁぁぁん!!にぃぃぃぃちゃぁぁぁぁ!!」
「静も泣くなよ!今兄ちゃんが何とかしてやるから!!」
「何とかって何する気よ!?変態!!!!」
「んなこと言ってる場合かよ!?」
若木が取り乱すのも無理は無い。何故なら目の前で自分の体が下半身をビショビショに濡らして泣き喚いているのだから・・・。
あぁ・・・俺は親が旅行中の間、義理の妹と穏やかな夏休みを過ごすはずだったのに・・・。一体こんな波乱万丈な一日になるなんて誰が予想しただろう・・・。
とりあえず俺は静を泣き止ませ若木を説得させて、この大惨事の後始末をすることとなった。
- 18 :ゆむ:2010/02/06(土) 18:27:46
- 事が延びれば尾鰭が付く
シャァァァァァァァッ
風呂場でシャワーの流れる音が響く。
俺の右手にはシャワーが左手には若木・・・もとい若木の体になった静のふとももが掴まれている。
たまに静の肌に当たったお湯が顔に跳ねてくすぐったい。俺の顔先数十センチには一糸纏わぬ若木の下半身が広がっている。
・・・・が、俺はどんなに眼を開いても映ってくるのは暗闇だけだ。
「見たら殺すわよ、近藤君」
幼い声ながら冷ややかな台詞を若木が度々はさんでくる。
今の状況を説明すると、俺はタオルで目隠しをして、静は濡れた部分を洗うため制服の下を脱ぎ、
若木は俺の目の代わりをして右や左と指示を出している状態だ。
たまに静がきゃっきゃっとくすぐったそうな声を上げる。
「それぐらいでいいわ、お湯を止めて出て行って、変な場所触ったら殺すわよ」
目を隠している俺だが若木が決して冗談ではなく本気の目で喋っていることが想像できる。
手探りでシャワーの蛇口を探してお湯を止める、目は見えなくても何というか女性の肌の匂いが感じられ、視界が無い分何か変な気持ちになりそうだった。
俺は邪な気分から脱出するために、色々な角に体をぶつけながら早々と風呂場から出て目隠しをはずした。
そして静が粗相を犯した衣類を洗濯機に放り込みボタンを押して脱衣所から逃げるようにリビングに戻ってきた。
戻ったはいいが、俺にはこれからの難題が重くのしかかってきた。
静のお漏らしは元に戻らなかった場合これからも続くことが予想される。
もちろん2回3回と回数を重ねるごとに俺の体力と若木の精神力は消耗されていくだろう。若木にいたっては現実逃避すらしかねん取り乱しぷりだったしな。
しかしそのためにはいろいろと準備もいるし、若木も説得しなくちゃいけないかも・・・。
ガチャッ
振り向くと着替えの終わった静と若木が出てきた。
静に着せるよう若木には母親のズボンとTシャツ、それに新品のショーツを渡してあったが
平均的中年女性体型である母親の服は若木の体になった静には少し小さいらしく、余裕のある造りのデニムもスキニーの様だ。
若木はまだ恥ずかしさが残っているのか顔を少し赤らめながら俺を睨んでいる。
「にーちゃー!!」
いきなり静が駆け寄ったと思ったらそのまま俺に飛びついてきやがった。
俺は抱きしめる形で静を受けとめたが若木はもう注意をしなくなっていた。
「こら、降りなさい静・・・・あ、若木大変だったな・・・」
「うん・・・・・でも仕方ないわ、私の体とはいえ中身はまだ1歳の妹さんなんだもの」
どうやら少し冷静さを取り戻したようだ。よかったよかった、憎しみは何も生まないんだぞ若木。
「と、ところでさ・・・実は今日の食材とか色々買いに行かなきゃならないんだよ・・・
こんな事態になるって思わなかったからさ、でも2人をここに残したままじゃ行けないだろ?」
「買い物に付き合うくらい私は別にいいわよ、それよりも妹さんに気をつけてなさいよ」
「あ、あぁ分かってるよ、家のすぐ近くにホームセンターがあるからそんなに時間はかからないから」
家から歩いて5分ほど先にはスーパーやらドラッグストアやらファーストフードが合体したホームセンターがある。
- 19 :ゆむ:2010/02/06(土) 18:28:22
- 「あ、それと近藤君・・・」
「なんだ?」
「その・・・あの、また今回見たいなことがあると困るから・・・アレを買って妹さんに着けておいてほしいのよ・・・」
「アレ?・・・・アレってまさか・・・」
「だってまた私の体で服を汚したりしたら大変でしょ?・・・それに外でもし何かあったら・・・私は恥ずかしさのあまり海外へ引っ越すかもしれないわ」
海外って若木はどんだけプライドが高いんだ・・・まぁわからないでもないが。
「わかった、ちょうど俺も今の静におむつを買っておいた方がいいと思ってたんだ、若木を説得せずに済んでよかったよ」
「そんなにはっきり言わないでよ!それじゃあ私がいつもおむつしているみたいじゃない!」
・・・・・・てか静の体の若木も、若木の体の静も今は必要だろうが。
「まぁとりあえず、買いに出かけるか」
「そうね、さっきみたいな事にならないうちにさっさと済ませましょ」
「たーい!」
静は何も分かってなさげだったが笑顔で返事をした。
根がなくとも花は咲く
「近藤君・・・この体勢・・・恥ずかしいんだけど・・・」
「我慢してくれよ・・・少しきついけど大丈夫か?」
「うん・・・・でも・・・これじゃあ足が閉じれない」
「仕方ないだろ・・・うし、大丈夫そうだ・・・痛くないか?」
「へ、平気だけど・・・・誰かに見られたりしたら・・・」
「見られてって・・・誰に見られても今の若木なら変に思われねぇよ」
「やっぱりタクシーにしない?」
「こんな少しの距離でタクシー使えるかよ、それに抱えられるのが嫌だって言ったのは若木だろ?」
「そうだけど・・・これも十分恥ずかしいわよ・・・・」
若木が今乗っているのはうちの静用ベビーカーだ。今まで近場は抱っこ紐か徒歩で移動しているし、長い距離のときは車でチャイルドシートに載せているから
ほとんど活躍の場がなかったうちのベビーカーだったが、まさかこんな形で使うとは思わなかったぜ。
今の若木はベビーカーに座り、体はベルトで固定され足元は落っこちないようにベビーガードになっているため足が閉じれないような形になっている。
その格好がどうも若木には恥ずかしいようで、さっきからそわそわと小さな自分の体を動かしている。
最初は抱っこかおんぶしながら向かおうとしたのだが、頑なに嫌がられてしまった。小さい子は総じて可愛くてわがままなものだが、中身が若木になったとたんただの女性のわがままに聞こえてしまうのだから不思議なものだ。
「静ーお兄ちゃんと買い物に行くぞー」
「あーい!」
近くで積み木遊びをしていた静を呼ぶと靴を履かせてやり買い物に出かけることにした。
「にーちゃー!これのりたいーのりーたいー!」
静は以前まで自分の乗っていたベビーカーが気に入っていたのか、俺の腕を引っ張りながらのりたいアピールをしてくる。
しかし今の静の体ではこのベビーカーはあまりにも小さすぎる。仮に乗れたとしても頭の可哀想な女子高生としか見られないだろう・・・あぁなんと悲惨なことだ、早く戻れるといいな我が妹よ。
- 20 :ゆむ:2010/02/06(土) 18:31:00
- 靴を履かせて鍵も閉めて何事もなく買い物へ行けると思っていたが、マンションから出て少し歩くとやばい事態が訪れた。
「あらあらー近藤さんちの息子さんじゃないー」
「!!」
最悪だ・・・!声の主は下の階に住む藤浦さんちのおばさんだった。
藤浦のばばぁ・・・俺はどうもこの人が好きになれなかった。世間一般に言われているオバタリアンを形にしたような人で、話は長いし噂が好きで安いものに目がない。
体型は中年女性のぽっちゃり体型で、過去にはしょうもない世間話を30分も付き合わされた挙句に好きな子はいないと答えただけで近藤さん家の息子は同性愛者という噂を近所に広ませた張本人でもある。
誤解が解ける3ヶ月間、俺は会う人会う人に変な目で見られて引きこもりになりかける寸前だったんだぞ・・・!!
「あらー、親御さんが旅行中の間に彼女とデート?妹さんも連れてこう見ると新婚夫婦さんみたいねー、いや若いっていいわねー」
やばい!このままだと俺が若木を家に連れ込みさらに結婚を約束したカップルみたいに誤解されてしまう!もしそんなデマを近所中に流されたりでもしたら・・・!!
「それにしても可愛らしい彼女さんねー」
「違います!ただのクラスメイトですから!」
「へっ?」
「なっ!」
藤浦のばばぁが驚くのも無理はない、ベビーカーの中にいる1歳程の幼児が流暢な日本語で二人の関係を否定したのだから。
「ちょっ!!いっ、いやなんでもないんです!ちょっとこれからクラスメイトと買い物行くんで・・・失礼しまーーーす!!」
俺は静の手を引き、ベビーカーを押すと急いでその場から立ち去った。藤浦のばばぁはポカーンと立ち尽くしていた・・・お願いですから、前以上に変な噂を流されませんように。
「おい!今の状況を弁えろよ!1歳の子供があんな風に喋ったら誰だって驚くだろうが!?」
「だ、だっていきなり彼女とか新婚夫婦とか言うんだもの・・・!!」
「だってじゃねぇよ・・・これで変な噂が流されたりしたらどうするんだよ・・・」
「な、何よ・・・近藤君は・・・!私と付き合ってる噂が広まるのがそんなに恥ずかしいの!?」
「ちげぇよ!妹の静が天才少女やらIQ200とか言われてたら大変だってことだよ」
「え!?あ、あぁ〜・・・・そ、そういうことね、大丈夫よきっと気づかれていないから」
お前はあの藤浦のばばぁをあまく見ている・・・。後悔してからじゃ遅いんだよ・・・全く。
「さ、さっさと連れて行ってよね、元に戻る方法もいろいろ試さなきゃいけないんだから!」
「はいはい、全く分かっておりますともお嬢様」
「にーちゃー・・・のりたいのーっ・・・!!」
「こら静っ背中に圧し掛かるのはよしなさい」
また静が歩いている俺の背中に抱きついてくる。中身は静でも若木の体となると流石に重さが堪える・・・てか胸がムギュッて・・・。
「ちょっと!これ以上私の体に変な事したら警察に訴えるからね!」
「だから俺は何もしてねぇって!もうスグ着くんだから静かにしててくれ・・・・!」
全く若木は顔を赤くして何怒ってるんだか・・・。ベビーカー押しながら乗っている女性に罵詈雑言を浴びさせられながらも必死で頑張る俺は召使いの気分だ。いや既に立場は召使いと同じか・・・。
二人が入れ替わって半日が過ぎたが・・・・親が帰るまでに戻らなかったら俺は本当に誘拐犯で捕まりかねん・・・。
- 21 :ゆむ:2010/02/08(月) 18:41:54
- 木にも萱にも心を置く
「近藤君・・・・・・騙したわね」
「どうしたんでしゅかー?お兄ちゃんと離れるのが寂しいんでしゅかー?」
「覚えていなさいよ・・・」
「おやおやーそんな怒った顔しちゃ駄目でちゅよー、1歳らしく大人しく遊んでいてくだしゃいねー」
「じゃあお預かりいたしますね、今日は親御さんと一緒じゃないんですか?」
「ええ、今二人とも旅行中で・・・じゃあ妹をよろしくお願いします」
「いってらっしゃいませー」
「じゃあそういうことでスマンな若木」
俺は若木の小さな頭を撫でると静の手を引いて売り場に戻った。そう、若木には黙っていたがここのホームセンターには託児ルームが着いている。
母親が静を連れて買い物に行くときはいつもここを利用していて、俺も何度かここのベビーシッターさんと顔をあわせている。
流石の若木もここで人目を引くわけにも行かず、他の年端もいかぬ子供達に紛れて1歳児を演じているようだ。
まぁこれもこんな自体に陥ってしまった超常現象を恨んでくれ。スマン若木。それに静の着替えもあるので出来れば文句言う若木の居ぬ間に済ませたい。
静の手を引きながらさっさと買い物を始めようとしたが、外とは違い静の行動が目立ってしまって仕方ない。
それもそうだ、女子高生の体とはいえ中身は歩くことを覚えて日も浅い1歳児なのだから体と動きのギャップが第三者からは奇妙に見えてもしょうがないと言えばしょうがない。
何しろ歩き方は大股で歩くし、急にしゃがんだり俺に飛びついてきたり、急に大声を出して周囲を驚かせる。しかもその相手が女子高生の中でも綺麗な部類に入る女性なのだから
すれ違う人様も何かいけないものを見てしまったような顔をしていく。特に男性からの目線は別の意味も感じ取れる。何度も謝るがスマン若木、これもお前の豊満な体が悪い。美しさが罪とはよく言ったものだ。
「にーちゃーこれぇー」
俺の服を引っ張って静がお菓子を渡してきた。見ると教育テレビに出てくるキャラクターがパッケージを飾っているカラフルなキャンディだった。
俺はしばらく考えたあと、今の静にこれを食わせるのは危険じゃなかろうかと判断した。のどでも詰まらせでもしたら大変だ。
「静ーこれはまだ静には早いから、また今度にしようねー」
そう言って俺は渡されたお菓子を元あった棚に戻した。すると静が
「うっ・・・・うぇ・・・・・うぇーっ・・・・」
いつもクールで冷静で知的な若木の顔が涙で溢れグシャグシャになっていく。やばい!これは静が大泣きするときのパターンだ!
「うぇぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
静はそのまま床に座り込むと大声で泣き始めてしまった。この体なので声もいつもより大きいし顔は鼻水まで垂れてきてしまっている。
辺りを見渡すと注目を集める度頃ではなかった。近くにいた小学校低学年ぐらいの女の子は呆気にとられたように口をあけ呆然としているし
おばさん達のグループは何事かしらと集まってきた。挙句の果てにはベテラン店員のような人がやってきて「大丈夫ですか?お怪我でもしましたか?」と慌てふためくし。
俺は「大丈夫です、ちょっと可哀想な子で・・・」と曖昧に言葉を濁して追い返すと棚からさっきのキャンディの箱を取り「ほら、兄ちゃんが買ってやるからな泣き止もうな」と静を泣き止ませながら逃げるように食品売り場を後にした。
藤浦のばばぁといい・・・本当に変な噂にならないでくれよ・・・・どうか知り合いに見つかっていませんように。
- 22 :ゆむ:2010/02/08(月) 18:44:16
- これ以上、静が事件を起こす前に俺は早々と食品を買い介護コーナーに向かった。
そう、今の静はいつ足元に水溜りをつくってもおかしくない。早めに大人用の紙おむつを付けさせておかないと最悪大惨事になりかねない。
スリムな若木の体型を考慮してSサイズのものを選んでレジへと進んだ。静かはまだ目に涙を浮かべながらヒックヒックと泣いている。
「ごめんなー静・・・・ほら欲しかったキャンディを買ってやるから笑ってくれよー」
静の頭を撫でて落ち着かせてやる。同年代の女性に泣かれると他の人から見られたら痴情のもつれに見られてしまう。
本当に頼むぜ神様!どうか同級生とか知り合いにだけは出くわさないでくれ・・・!
大人しくなった静を連れてレジを済ませると着替えのためにトイレへと向かうことにした。・・・・・がここで大きな難関が待ち構えていた。
今・・・・この姿の静を連れて男子トイレに入るのはかなりマズイ・・・!下手したら通報されるかもしれない。いや女子トイレに入る訳にもいかんし・・・・それこそ通報されちまう。
考えた挙句、俺は静をその場で待たせて男子トイレに誰もいないのを確認した後急いで個室へと連れ込んだ。普通なら小さな妹の着替えを手伝っている優しい兄の映像だが
少し涙目の綺麗な女子高生を連れ込む様子はアダルトな雑誌にでも出てきそうなシチュエーションだ。しかも相手は綺麗なクラスの委員長。
車椅子用の大き目の個室に入ると動き回る静を宥めながらズボンを脱がし、下着も脱がしておむつに履き替えさせようとした、が。
「!!!」
悪い若木、どう謝ればいいのか分からないが、この世に生を受けてから彼女はおろか告白さえしたこともされたこともない俺に
美人で有名な学級委員長様の下半身露出は刺激が多すぎる。しかしここで道を踏み外しては兄として漢としての名誉が守れねぇ!
「にーちゃーさむいー」
「ちょっ・・・・ちょっと大人しくしていようねー静ー」
落ち着け!相手は妹だ!いやむしろマネキンか何かだと思うんだ!俺はただこの綺麗なマネキンの足におむつを通せばいいだけなんだ!変な気を起こすな!
-やく5分ほど近藤啓太が見えない敵と戦っておりますがお見苦しいので省略させていただきます-
危ねぇ危ねぇ・・・あと少しで理性が持って行かれるところだったぜ・・・。
「にーちゃーしずかねーつかれたー」
「あぁ、わかったよー家に帰ったらおやすみしようねー」
無事に下着交換を済ませる事のできた俺は、静を連れた男子トイレ脱出の策も成功し若木の待っている託児所へと向かっていた。
買い物の最中泣いて暴れて着替えの最中悪戦苦闘している俺をよそに動き回っていた静は疲れたのかだらしなく俺に寄りかかりながら歩いている。
ようやく託児所へたどり着くとそこにはエプロン姿のお姉さんに抱えられた若木がダランと体を垂らして眠っていた。
「おかえりなさい、今日は妹さんご機嫌斜めみたいでオモチャにも触らないで大人しくて・・・暫くして様子を見に行ったら寝ちゃってたんですよ」
「そうだったんですか、ご心配おかけいたしました」
そりゃあ若木だってそんな小さな体で動いていたら普段以上に疲れると思うし、何だかんだ言っても精神的に大分しんどかったはずだ。
俺は託児所のお姉さんから起こさないように小さな若木の体を抱え上げて託児室を後にした。
「ん?この感触は・・・もしかして」
若木の体を抱えていたらふと変な違和感を覚えた。・・・まさかあの時・・・いや、プライドの高い若木ならありえるかもしれない。
しかしそれならいつ事態が悪化してもおかしくない・・・。むしろ若木が寝ている今こそが絶好のチャンスなんじゃないか?いや予備は生憎持ち合わせていないし・・・。
いつもの静なら昼寝は1時間ちょっとしているはずだから、家に帰ってからでも間に合うか・・・?
そっとベビーカーに若木を乗せて飴をピチャピチャと音を立てながら舐める静と手を繋ぎ俺達はホームセンターを後にするのだった。
- 23 :ゆむ:2010/02/09(火) 21:33:03
- 鳴かぬ蛍が身を焦がす
家に帰ると静は夕方から始まる子供向け番組に夢中になっており、俺は若木をソファに寝かせて服に手をかけるところだった。
ゆっくりと寝ている若木を起こさないように手を動かす。若木が着ているチェニックを捲ると可愛らしいお腹とヘソがあらわになった。
次にスカート着きの柔らかい綿100%のズボンに手を掛ける。ロンパースタイプになっているので出来るだけ若木を起こさないように慎重に股の間のボタンを外す。
「やっぱり・・・思った通りだったか」
ズボンの下に若木は何も着けていなかった。子供らしいプニプニとした下半身があるだけだった。
そう、若木は自分で紙オムツを着けると言ったが身に着けておらず、替えに渡したのは恐らく汚したオムツと一緒にビニール袋に入れて手渡したのだろう。
そういえばあの時の若木はどこか俺の顔を見ず、そわそわしていた気がする。あの時は恥ずかしさのせいだと思っていたが、なるほどこういうことだったのか。
自分の才能に釣り合ったプライドを持つ若木のことだ、きっとおむつを履くのが余程嫌だったに違いない、嫌なそぶりは存分に見せていたしな。
しかし、いつまでもこのままの状態にする訳にはいかない。今の若木がトイレを我慢できないことは分かっている。
もしも仮に今度も粗相をしておむつを付けずにビショビショにしてしまったら大変だし、湿疹や変な病気にでも出来てしまったらそれこそ事件だ。
俺は若木の寝ている間に何かあっても大丈夫なように新しい紙おむつをお尻に敷かせてつけようとした。
と、その時寝ている若木が少し動いたかと思うと小さなその体に力を入れたように身を縮こまらせた。
まずい・・・・・・実は俺はこの症状を何度か経験している。こんな風に静の体に力が入って震えているときは・・・・・・・。
・・・・・チョロ・・・チョロチョロチョロチョロ
・・・・・おしっこをするときだよ・・・・。はぁ・・・・俺は思わず頭を抱えてしまった。
以前に静のおむつを取り替えようとしてやられてしまったことは1、2回あったが、まさか委員長様の寝小便する瞬間を拝見することになるとは思ってもいなかった。
まるで噴水のように若木の体から飛び出た水は下におむつを敷いていたお陰で上手くそこに吸収されいった。
流石に1歳児のお腹に溜まっていた量は微々たるもので数秒で勢いを無くし、寝ている若木は体をブルッと震わせてスッキリしたせいか、気持ち良さそうな顔で寝ていた。
若木がおむつを履いていなかった事に気づいていなかったら今頃若木は着ていた服をビショビショに濡らして恥をかいていたところだろう。
全く危なかったぜ、感謝してくれよ。俺は汚れたばかりのおむつを取り替えようと若木のお尻を持ち上げたそのときだった。
「ん・・・・・・うぅん・・・・」
若木が声を漏らした!やばい!この状況に気づかれたらもはや言い逃れしてもカッターナイフか包丁で体を刺されかねん!!
若木はうっすらと半目を開けた。俺はいよいよ死も覚悟すべきだと思っていた、が若木はそのまま目を閉じて眠りに落ちてしまった。
「あ、あれ?・・・・・助かった・・・・のか?」
・・・・ふぅ、だ、大丈夫だったよな?ばれなかったよな・・・?そりゃあシチュエーションから見てみると
眠ってしまった同級生のクラス委員長を家のソファーで寝かせ服を脱がして下半身に触れようとした。
が、しかし今のクラス委員長様である若木恵理は誰が見ても1歳児である俺の妹の姿なのだ!決っしてこれは犯罪じゃない!
お漏らししてしまった妹のオムツを取り替えてやる事が犯罪なら、日本が少子高齢化で嘆かれている理由にも納得できる。
俺はまた若木が目を覚まさないようにと俊敏に後始末をして新しいオムツに取替え服を着させてやった。
何度も言うがこれは犯罪では無いしやましい気持ちなんかも無い!しかし気分は完全犯罪をやり抜いた気分だぜ・・・。
途中若木の顔が赤く恥ずかしそうな表情になっていた気もするが、あえてそこは気づかないふりをした・・・。
- 24 :ゆむ:2010/02/10(水) 20:46:45
- 食を願わば器物
若木が目を覚ます間は静の相手で精一杯だった。
はしゃぐは歌いだすわで、遊び相手になってやるといっても静の体は立派な女子高校生の体格なのだ。
抱きつくわ、胸が揺れて顕になりそうやら、泣きそうになるわと心休まる暇が無かった。
何十分か遊んでからようやく若木が目を覚ました。自分の下着が変わっている事に気づいて何か言われるかとドキドキしていたが
若木は以外にもおはよう、と素っ気無い返事を返してきた。
俺もおはよう、と返すと部屋には気まずい雰囲気が漂った。ど、どうしよう・・・話す内容が思い浮かばない。
若木も赤くなりながら気まずそうな顔をしている。横では静がキャッキャッとはしゃいでいる。さて、どうしたもんかと思っていたその時
クゥゥゥゥーーーキュルルル
若木のお腹から可愛らしい音が部屋に響いた。
「プックッ・・・・ククク」
「フッ・・・フフフ」
『アッハハハハハ!』
変な雰囲気の最中、間抜けな音が鳴ったもんだから二人ともつい可笑しくなりお互い声を上げて笑ってしまった。つられて静も笑い出した。
「そっか腹減ったよな、いつもはおやつの時間だから今二人の分持ってくるよ」
「ごめんね・・・ありがと」
最後のありがとが何に対するありがとなのかは俺は若木に聞かなかった。
冷蔵庫にしまってある1日1個のおやつを取り出してスプーンと一緒に二人の前に並べる。
「今日のおやつは取っておき、バステルのプリンだ!」
プリンは静の大好物で、機嫌が悪いときにはプリンを使って泣き止ますときもあるぐらいだ。
しかもプリンで有名なバステル!親と一緒にデパ地下で買ってきたやつだ。
普段は安っぽいお菓子しなんて食べない若木も、これなら喜んで食べてくれると・・・
「へぇ、今のスーパーにはこんなプリンがあるんだぁ」
「え・・・・ち、違うぞ若木」
「じゃあコンビニ?」
「し、知らないのかよ?バステルのプリン・・・このなめらかカスタードショートなんて1個380円もするんだぞ!?」
「やっぱり買ってきたものじゃない、うちでデザートが出るときは出来立てをお店から持ってきてもらうわよ?出来立ての方が美味しいし」
・・・一度こいつが家で生活している様子を見てみたいもんだぜ、俺の頭には昔のフランス映画に出てきそうな洋館が思い浮かぶ。
「変な顔しないでよ、いくら私だって知り合いの家に上がって出来たてを出せなんて言わないわ、さぁ早く食べましょ静ちゃんも待ってるし」
若木が子供ようのベビーチェアに座っている横では静が笑顔でプリン!プリン!と叫んでいる。こんな満面の笑みだったら、写真を撮れば若木に好意を寄せてる奴にはきっと高値で売りさばけるだろう。
- 25 :ゆむ:2010/02/10(水) 20:49:04
- プリンとスプーンは二人分持ってきたが、二人とも一人で食べる事ができない。なのでまずは静から。
「はい静、あーーーん」
「あーーーーーん」
スプーンを上手く使いこなせない静には俺が口まで運んでやるしかない。
「おいちーねーにーちゃー」
「そうだねーおいしいねー」
「ちょっと、私の体とあんまり変な空気作らないでよね・・・」
隣で若木が文句を言ってくるが、同じく1歳児の体で上手くスプーンを使えない若木にも俺がベビースプーンでプリンをすくって食べさせてやる。
「ほら、あーんして」
「ちょ、ちょっと、あーんなんてあんまり恋人みたいな言い方しないでよ・・・!」
「あぁ、静かに食べさせるときの癖でな、ついだよつい」
自分で恋人といったのが恥ずかしかったのか、若木の頬がポッと染まっていた。照れ隠しなのか若木は急いでプリンをパクッと加えた。
モグモグと食べると食べた若木の表情がフニャフニャと笑みで崩れだしてきた。
「え・・・やだっ・・・これ美味しい・・・・すっごく美味しい・・・!!」
小さな自分の手で笑っている顔を戻そうとするがニヤニヤとなかなか元に戻らない。
「なんだ、若木もプリン好きだったのか?」
「そ、そんな事無いけど・・・でもこんなに美味しいの始めて!」
きっと静の体になって、味覚も変化したのかもしれない。子供は辛いのや苦いのには少量でも敏感に反応するらしいが、逆に子供が好きなお菓子はより美味しく感じるのだろう。
もともとプリンが好物の静の体なのだし、あの若木がここまで言うのだから余程美味しいのだろう。二人の口に交互に運ぶが静は流石に食べる早さも量もあり気づくと中身は
ほとんど空っぽになっていたが若木は3分の2ぐらいで大分満足した顔になっていた。
「んー俺も食べたくなってきたからちょっと貰うぞ」
俺は若木の食べさせていたベビースプーンで残りのプリンをすくって食べた。うーん、流石バステルのプリンは絶品だぜ。
「あ!ちょっと私が食べていたスプーンで食べないでよ!」
「なんだよ、俺だって食べたかったんだから少しぐらいいいじゃねぇか、全部食べきれない訳だし」
「違くて・・・それじゃ・・・間接になるじゃない・・・!少しは気にしなさいよデリカシーないわね!」
「なんだよそれ・・・じゃあ静の方のスプーンで食べるからいいよ」
俺は静に食べさせていた普通のスプーンに持ち替えて食べ始めた。
「あぁぁぁっ!そっちはもっと駄目ぇっ!!」
じゃあ一体どうしろっていうんだ・・・。真っ赤になりながらベビーチェアの中で暴れまくる若木を落ち着かせ、コップに牛乳を入れて出してやる。
少しはカルシウムを取って、穏やかな性格になってくれ・・・。願わくば、元の体に戻ったときは静にこの気の強さが移っていませんように。
- 26 :ゆむ:2010/02/12(金) 19:59:15
- 乗り掛かった船
おやつの時間も終わり、夕飯の支度を始めることにした。
静はまたしてもテレビに夢中で踊っているのか床が響いて聞こえてくる。
するとご飯を研ぐ俺のズボンが引っ張られている気がして下を見ると若木が掴んでいた。
「どうした?元に戻れるアイデアが浮かんだか?」
「違くて・・・その・・・・さっきはごめんなさい」
珍しく素直な若木に少し驚いた。
「なんだよ、別に食べさせるだけなら昼食のときにも・・・」
「だから違くて!・・・だから・・・・あれ・・・・取り替えてくれて・・・・」
ようやく若木の言いたい事に気づく。寝ている若木におむつを着けたことだ。
やっぱりあのときの若木は起きていて気づいていたのか・・・?
「き、気にすんなよ、そりゃあ着けてなかったときは驚いたけど、たいしたことじゃねぇよ」
出来る限り平然を装い、料理の手を進める。
「でも・・・でもね私・・・着けたくなくて着けなかったんじゃないのよ」
ん?・・・どういうことだ?
「あのね・・・その・・・今、こんな体で一生懸命自分で着けようとしたんだけど・・・なかなか上手くできなくて・・・
自分で出来るって言った手前・・・近藤君の手も煩わせるわけにはいかなくて・・・それに見られるのはやっぱり恥ずかしかったし・・・」
そうか、思えば自分でおむつのテープも取れなかったんだから着けるのだって大分苦労したはずだよな。
「それで結局着けずに過ごしていて・・・もしも外で惨事が起きたら近藤君にも怒られるんじゃないかと思ってて・・・
とても不安で・・・・結局謝りたくてもなかなか素直に謝れなくて・・・実は入れ替わってから・・・怖くてしょうがなかったの・・・
もう・・・この体になってから・・・・涙腺まで緩くなった・・・みたい・・・・」
下を向くと若木の小さな瞳からは涙がボロボロと零れ落ちて戸惑ったように袖で拭っていた。
俺はなにも言わずに近くにあったハンカチを渡してやる。
「・・・・ありがと」
「・・・・おう」
しばらく無言の中俺は黙々と料理をしながら何故か今の姿の若木を愛おしく感じていた。
- 27 :ゆむ:2010/02/12(金) 20:04:09
- 食事の下ごしらえが終わる頃には若木も泣き止んでいた。若木は近くにあった子供用の椅子に座り、気の抜けたような表情で料理している俺を見ていた。
「ねぇ近藤君・・・」
「ん?」
泣いた後だから子供独特の甲高い声が少ししゃがれている。
「もしも・・・・もしもね?・・・このまま元に戻らなかったら私は近藤君の妹として過ごす事になるのよね・・・」
「・・・・そうだな」
「そしたらそのうち幼稚園に通わなくちゃいけないってこと?」
「そういうことになるな」
「歌とかお遊戯とか、園児に混じってしなくちゃいけないのかしらね・・・」
「そうだなぁ・・・でもその前にトイレトレーニングに予防接種にアレルギー検査も待ってるぞ」
「そして小学校に行って中学、高校に通って・・・元の年齢に追いつくころには近藤君は三十路過ぎになっているわね」
「そう考えるとちょっとした父親の心境だな」
そう答えると若木はふふふと微笑んだ。
「そう考えると日本は飛び級が無いから地道に年を重ねるしかないわね・・・」
「あぁそうだな・・・静もあんな状態だと戻らなかったらこの先大変そうだ」
「静ちゃんはあのままだと・・・病院の精神科に行かされちゃうわね」
「わずか1歳なのに、早くも女子高生の生活を覚えさせいと行けないんだから苦労しそうだ」
「私の父親に見られたら我が家の恥だとか言われて縁を切られちゃったりして」
「馬鹿言うなよ、親を捨てる子供がいても子を捨てる親がどこにいるんだよ!?」
「うちの父親は厳しいから・・・近藤君が思っているよりとても複雑な家庭なの」
思わず言葉が詰まってしまった。
「・・・まぁ・・・中身は俺の大事な妹だし、何かあったら俺が責任を取って面倒見るから安心しろよ」
うわっ・・・つい反射的に思ってしまった事を口走ってしまった・・・。恥ずかしくて顔が熱くなる・・・!
「そうね、近藤君って巧偽拙誠って感じの人だから・・・このままでも悪くないかもね・・・」
「こうぎせっ?なんだって?」
言葉の意味が難しすぎて分からなかった俺は、若木が放った最後の一言が耳に届いていなかった。
「ねぇ、ちょっと私の体を持ち上げてくれない?」
そう言うと若木は椅子から降りて俺の足元に近づいてきた。
「どうしたんだよ急に?」
「ほら、早く!」
「こ、こうか・・・?」
俺は若木の脇に手を入れてヒョイッと持ち上げた。
「ねぇ、そのまま、たかいたかーいってやって!」
外見が1歳児でも大人の知性を持ち合わせていた若木の顔が、この時は本当に1歳児かのように笑った。
- 28 :ゆむ:2010/02/12(金) 20:05:12
- 「よっしゃ、驚くなよ!」
俺は若木の行動を深く考える事はせずに、その小さな体を持ち上げると放り投げるように上に掲げ上げ、
ゆっくり胸元まで戻してまた上に掲げ上げたかいたかいを繰り返した。
若木はとても嬉しそうな笑顔で、静の顔のはずなのにその無垢な笑顔は何故か高校生だった若木の顔と重なった。
俺の腕も疲れ始め、若木を床に下ろしてやると若木はどこか懐かしむような・・・まるで楽しかった旅行先の思い出を浮かべるような幸せそうな表情をしていた。
「私ね、小さい頃父親にたかいたかいをしてもらうのが大好きだったの・・・私の父親って仕事がとても忙しくて家には眠りに帰って来てるようなもんだった
だからいつまでもたかいたかいをおねだりして、少しでも長く父親と遊んでいられるたらいいのにといつも思っていたわ」
若木の幸せそうな表情が少し寂しげになる。俺は返す言葉が見つからず相槌で答えていた。
「でも何年かしたら怒られるようになったわ、子供じゃないんだからそういうことを言うのはやめなさいって
その時はとても悲しかったけど・・・・今度は勉強やテストで良い点を取ったりすると喜ばれるようになって、
父親に褒めてもらいたくて一生懸命勉強したし礼儀やマナーも覚えたわ、少しでも長く父親と話せるように頑張った・・・
でも何年か前に気づいたの・・・・小さかったとき私を喜ばしてくれた様な父親をもう見ることはできないんだって
今の父親は私の形をした優等生・・・誰に見せても恥ずかしくないような自慢できる宝石みたいな娘が欲しかったのよ」
若木はまるで独り言をしているかのように喋り続けた。声は幼児独特の甲高い声なのに妙に迫力を感じた。
「でも、まさか高校生にもなってこんな事してもらえるなんて、思ってもみなかったわ
少し懐かしくなっちゃった・・・ありがとね」
若木も若木なりに苦労していたってことか・・・うちは今までずっと母子家庭で親父って存在を少し羨ましくも思っていたが
みんなが望んでいる物を与えられていたとしても全てが満たされることは無いんだよな、それが家族って存在だとしても。
若木の中は俺が今まで見てきてそして思っている以上に混沌として深いんじゃないだろうか。こんな状況でも俺はまだ若木のほんの一部しか知らないのかもしれない。
「元の体になったこんなこと、してもらえないもんね」
「お、ポジティブシンキングってやつだな!そうそう物事は前向きに考えなきゃいけないよな!」
たかいたかいしたぐらいで若木の心を回復できるならお安い御用だ。
「あれ・・・?」
「ん、どうした?」
「静ちゃん、急に大人しくなったわね」
「そういえば・・・・また寝ちゃったのかもしれないな」
言われて見ればさっきまで床をドスドスと鳴らして踊っていたり、テレビの曲に合わせて声を出していたのだが
いつの間にかテレビの音しか聞こえてこなくなっていた。
一応気になった俺は部屋を覗いてみたが・・・。
「あれ、いない・・・・どこ行ったんだ?」
テレビはつけっぱなしになっていたが、肝心の静の姿が見当たらない・・・。
「ちょ、ちょっと近藤君!窓!!外!!」
遅れて入ってきた若木が叫びながら窓を指差した。
見ると何と静が窓を開けてベランダに飛び出ているではないか!
小さな体のときは窓の鍵まで手が届かなかったし、窓を自力で開けるような力も無かったから油断していたが
今の静は一般女性の体力を持ち合わせている。きっと器用に指で開錠させて窓を開けて外に出たのだろう。
『危ない!!』
俺と若木は同時に声を張り上げた。静がベランダの手すりから上半身を外に乗り出してまるで鉄棒をするかのように足を浮かせたのだ。
外の景色が気になったのか分からないが、うちの部屋は3階だ!落ちたりでもしたら怪我どころじゃ済まない!
最悪、二人とも元の体に戻れなくなったりでもしたらそれこそ取り返しがつかない!
俺は急いでベランダに出ると静の体を後ろから抱えこんだ。しかし急に俺に取り押さえられて驚いたのかこの危険な状況でバタバタと暴れるではないか。
静を・・・そして若木の体を守るため俺は渾身の力で後ろへ引っ張った。形で言えばバックドロップ・・・あるいはジャーマンスープレックスの様な体制だったかもしれない。
足がもつれた俺は静とそのままの状態で部屋の中に倒れ込もうとした・・・・・・が、しかし俺と静の後ろには小さな脚で駆けつけた若木の姿があった。
「ちょっ!!うぉぉぉぉっ!!」
「キャァーーーーッ!!」
「ふぇぇぇぇぇん!!」
三人の叫び声が重なり合う中、ズドーンと大きな効果音を立て雪崩れ込むように倒れ込んだ。
- 29 :ゆむ:2010/02/14(日) 19:24:08
- 昨日は人の身今日は我が身
「痛つつつっ・・・・」
軽く意識が飛んだが、俺は体の様々な痛みを感じながら体を起こした。
頭や膝などいろいろな箇所をぶつけたみたいで、ズキズキとした痛みが感じられる。
そして俺の胸元には駆けつけた若木が抱えられていた。とっさにかばったのだろうか・・・。
若木も気がついたようでゆっくりと目を開けてキョロキョロと辺りを見回し俺の顔を見ると、またいつものように若木の口からは文句を言われ
「うぇぇぇぇぇぇぇぇええええん!!」
え!?ちょっ!!なんだ!?いきなり若木が大きな声を出して泣き出したではないか!涙どころか鼻水まで垂れ流している!
やばい、これは頭を酷く打ったな・・・あの若木がこんな顔をグシャグシャにして泣くなんてこれじゃあ本当の1歳児じゃないか。
「にーちゃあああああ!!いたいぃぃ!!うぇぇぇぇぇぇ!!」
いよいよいかんな・・・こんなまるで若木が静みたいににーちゃーなんて俺のことを呼ぶなんて・・・・ってあれ?
「え!おい!!静!?静なのか!?」
急に叫んだせいで声が裏返ってしまったが、俺が叫んでも元に戻ったのか泣き止む気配がない。
静が元に戻っているということは、だ。若木もきっと元の体に戻っているはずだ!そう思った矢先、スグ横で起き上がる気配が。
・・・・・・・・・・・ん?
あれ、若木の体ってこんなに背が高かったっけ?それに髪も短いし・・・・ちょっ・・・性別まで違うように見えるぞ・・・・
誰だこの男?目つき悪いっていうか、モテなさそうっていうか、年齢イコール彼女いない歴な感じ・・・って
おいおいおいおいおい!!!!
俺はようやく体の違和感に気づき、スグに自分の体を見下ろす。いつの間にか俺の髪はサラサラロングヘアーへと伸びており、体のラインも細く・・・
肌は陶器のように白くてスベスベで胸には成熟した二つの実りがムニュッと・・・いつの間にこんなけしからん体に・・・
「おぉ・・・俺の胸が・・・これはなかなか・・・エベレストとはいかないまでもモンブランぐらいはあるな・・・」
と、そこで俺は誰かの気配を感じ取った。
今の状況を説明すると、元の体に戻った静が泣いていて、何故か女性みたいな体つきになった俺は自分で自分の胸を鷲づかみにしており
その俺の正面には殺気すら感じる男がその光景を見詰めていた。
えーと、まさかとは思うけど・・・。
「わ、若木さん・・・・ですか?」
細く綺麗な声で俺は尋ねた。
「・・・・・ってぇ・・・」
「え?」
「・・・最っ低ぇっ!!なによこれ!?どうして私が近藤君になってんのよ!?それに近藤君が私の体になっているじゃない!!
信じられないわ!!ライオンの檻に肉持って飛び込む様なものよ!!あっちゃいけないことよ!!」
もはや静と入れ替わった以上に興奮してる俺の体になってしまった若木・・・頼むから女性口調はやめてくれ・・・・
俺の声でそんな言い方をされても気持ちが悪いだけだ。
「ま、待て若木!!落ち着け!!なにもやましい事を・・・」
と言いかけて胸を揉んでいるこの状況では説得力の欠片も無い事に気づく。
- 30 :ゆむ:2010/02/14(日) 19:25:30
- 「・・・近藤君・・・」
「は、はいっ!!なんでしょうか!?」
急に冷ややかな口調になった若木に対して俺は慌ててビシッと体勢を整えやましい気持ちが無い事を行動で示してみた。が、効果はなかったみたいだ。
「・・・・・・死んでちょうだい・・・こんなこと許さるはずがないわ・・・」
「ちょっ!!ちょっと待て!!なっ!?頼むから落ち着いてくれ!!」
必死で暴走している若木を宥めようとするが・・・。
「こんな状況で落ち着いていられるわけないでしょ・・・!
異性の・・・しかも近藤君に私の体を預けるぐらいなら・・・・!
死なないんだったら、私が近藤君を殺してあげるわ・・・・!!そして私も死ぬーーー!!」
目の色が変わっている若木が近づいてくる・・・やばい本気だぞ・・・!!
「そんなことしても俺も若木も元に戻れないだろうが!!
頼むから許してくれ若木ぃぃぃぃ!!」
美人で有名なクラス委員長になった俺が恐怖の断末魔を上げ
ごくごく一般の高校生男子になってしまった若木が俺の首を絞めようとし、
さっきまで泣いていた、数ヵ月後には2歳の誕生日を迎える妹が笑い出した。
その後、藤浦のばばぁに俺が同級生を襲ったという噂をばらまかれることになるのだがそれはまた別の話だ(ある意味間違ってはいないが・・・)
旅行から帰ってくる親に気づかれないように若木は俺を演じて、俺はまるでホテルみたいな若木の家で
頭の良い、良識あるお嬢様を演じなくてはならなくなるのだが・・・・まぁそれもまた別のお話ってことで。
一難去ったと思ったら今度は百難が降りかかってきた気分だよ全く・・・・・。まぁ実はこれからも若木と静はちょくちょく入れ替わる事になるんだが、残念だがそれもまたまた別のお話にしておこう。
まぁ俺からの忠告は小さな妹と美人のクラス委員長がいる奴は夏休みに本を借りに行かない方がいい
きっと人生を変えるような大事件が起こるはずだ。悪い意味でな。
完
- 31 :ゆむ:2010/02/14(日) 19:45:56
- あどがき的なもの
まず始めに何故小説のなんか書き始めたかというと画像掲示板が使用できずに暇を持て余していたからです。
実はそれ以上でもそれ以下でもありませんでした。活性化に繋がればそれでいいやとか思ってました。振り返って読んで見ると至らない箇所ばかりで申し訳ありませんでした。
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。きっとツマラナイと思ったはずです。自分でもそう思います。
この掲示板の本質である「若返り急成長」というモノを話の後半では置き去りにしてしまった有様です。痛快の念です。
ただ、このめにあおば〜を書いている上で大変な部分も多かったですがそれ以上に楽しかったです。反省すべき点もありますが自己的に満足でした。
本当はもっと色んな場面や展開を考えていたのですが、登場人物が余りにも引っ掻き回すのでむりくり終わらせられました。
まあ、ある意味無事(?)に終わる事が出来てホッとしています。今度はもっとシッカリした話を書きたいです・・・。
このスレッドもこんな少しの話で終わらせるのも勿体無いので、次の話が出来たらリサイクルして使いたいとも思っています。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。 さて、絵でも描いてくるか。
- 32 :どんさん:2010/02/15(月) 00:18:00
- すごく面白かったです。
続きが待ち遠しいと感じられる作品をありがとうございました。
主人公が遭遇した出来事は相当にあぶないことなのに、それを品よくまとめた文才は素晴らしいですね。
- 33 :名無しなメルモ:2010/02/16(火) 01:10:17
- よかったです。
自分の体を思い通り動かせない若木さんがかわいかったですね。
読みやすい良い作品ありがとうございます。
- 34 :とも:2010/02/16(火) 11:29:25
- 久々に続きを見るのがわくわくする素晴らしい作品に出会えました☆
本当に文章も物語の展開も上手いな〜と思いました。
お漏らしをして恥ずかしがる若木に萌えました♪
ゆむさん、ありがとうございます!
- 35 :とら:2010/02/16(火) 22:41:07
- 話がトントンと進んでよかったですよ。
面白いお話をありがとうございました。
- 36 :ゆむ:2010/04/22(木) 23:26:57
- ワレオモウユエニワレアリ
※この作品は前作「めにあおばやまほととぎすはつがつお」とは全く関係ありません。
またストーリーの都合上この掲示板の本質である「若返り急成長」のシーンがなかなか始まらないかもしれませんがご了承。
さらに作品に対する感想、要望、皮肉、不平、不満、罵詈雑言の類、誤字脱字の指摘などはメールアドレスまで送ってくださると嬉しいかもです。
- 37 :ゆむ:2010/04/22(木) 23:30:05
- ワレオモウユエニワレアリ
彼女は自分の人生が恵まれていることに気づいていた。
確かに生まれ育った環境が周りの人達より恵まれていたことは確かかもしれない。
だが彼女には愛すべき異性もいない、オリンピックで金メダルを取ったわけでもないし、ノーベル賞を受賞したわけでもない。
家で母親の作った料理を食べ、妹と話し、父親と笑い、学校に行って勉強して、友達と遊ぶ。
ただそれだけの繰り返しが彼女にとっては、至福の境地であった。他には何もいらないとさえ思えた。
息を吸うだけでも瞬きするだけでも眠りに落ちるときでも、そこには何不自由ない生活があり。
日々改めて彼女は自分が恵まれている存在だということを認識していた。
しかし、幸せであるが故その満ち足りた時に出来た染みが黒く滲み出している事に彼女は気づかなかった。
いや、実際には気づけなかったのかもしれないし気づいていないふりをしていたのかもしれない。
だがいくら過去の過程を悔やんでも現在の結果が覆ることはないし未来は誰にも分からない。のかもしれない。禍福は糾える縄の如し。
東京都文京区千駄木駅の近く。
西日が彼女のシルエットを地面に映し出す。スカートからスラリと伸びた足、ブレザーの上からでも凹凸の分かるウエストと腰。
胸は然程大きくないが形の良い膨らみを作り出している。髪は色素が薄いのか西日で反射してチョコレート色に輝いている。
光沢のある髪は肩まで伸び日本人にしては掘りの深い端正な顔が影を作っている。
一見どこにでもいるような女学生だったが、それが若さなのかスタイルなのかそれとも黄金比的なバランスなのか分からないが彼女の姿はまるで完成された作品の様な雰囲気を纏っていた。
辻本かなめ、それが彼女の名前である。都内の私立高校に通う17歳の女子高生。
映画監督の父に元女優の母、中学生になる可愛い12歳の妹。
勉強もスポーツもそれなりにこなし、同級生はおろか先輩後輩、教師に至るまで一目を置かれ信頼されている。
かなめにとって与えられた環境は出来るだけ無駄にせず、それ相応の努力をするものだと幼い頃から思っていた。
運動神経が良い体に生まれたならスポーツで発揮し、感動するような絵を描く才能があればそれで世を震わせ、稀に無い頭脳を秘めているのであればそれを開花させるべきだと。
人それぞれに与えられた肉体と環境で出来る最大限のパフォーマンスをしなくてはならない、自分は恵まれているのだから無駄にしてはいけないと常日頃から胸に秘め実行してきた。
だがそれはまるで少女漫画に出てくるキャラクターだと周りは嫉妬と憧れの交わった声をあげる。
かなめは自身にとって至って普通に暮らしているつもりなのだが、その普通の日常が周りから見れば非日常になるのであれば
彼女の暮らしを羨望の眼差しを向けられることになる。それは告白や相談、時にはスカウトまで世界は彼女を放っておかなかった。
しかしそんな苦労を伴っても、今の生活を送れていることに彼女は度々感謝した。誰に感謝する訳でもなく、その一瞬一瞬の幸せを噛み締めこうして生きていける事に彼女は感謝し続けた。
そして辻本かなめはいつもと変わらぬ学校生活を終え、家路につくのであった。
- 38 :ゆむ:2010/04/22(木) 23:35:31
- 家までの帰り道で彼女は学校で話していた内容を思い出しふふふっと可笑しそうな顔をした。
『きっと映画監督や女優の人が住む家ってきっと有名な建築デザイナーの人が構成した
近代的で、でも街の景観を壊さないようにしてあって、キッチンやバスルームや家具にいたるまで洒落ていて、
お高い物が普通に飾ってあったりするんだよ!』まるで実際に見たことがあるかのようなクラスメイトの喋りにかなめは笑いと呆れが重なった溜息を吐き出した。
−実際にそんな家に住んでたらテレビ番組のお宅訪問とかに出演できるのかな・・・?−
そんなくだらない事を考えながらかなめは実際に自分の住む家にたどり着く。
そして実際に映画監督や女優やその子供たちが住んでいるのは、そこそこのマンションの一室だったりする。
千駄木駅の周りには谷中霊園や日本医大、足を伸ばせば上野動物園や生地や布地の問屋街などがあり都内都外問わず人が訪れる地域でもある。
そんな人がごった返す区域から少し外れた不忍通りと呼ばれる路地の裏。町から隠れるようにそのマンションは建っていた。
4LDKと少し広めの住まいにしっかりとした防犯設備。意外と芸能人や大物歌手は隠れ家を兼ねてこういう質素な場所に好んで住んでいたりする。
かなめがフロントでキーカードを指し暗証番号を入力すると、どうやら妹は先に帰ってきている事が分かった。音も重力も感じないエレベーターで上り自宅のドアノブを捻る。
靴を脱ごうとしていると、かなめの妹が廊下から走ってきた。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!大ニュース!!大ニュース!!」
妹の里穂はかなめより頭一つ程背が低い。どちらかというと細身に入る体系でもともと長い手足がより一層長く見える。
マッシュルームボブの髪に小さな顔に付いた大きな目がキョロキョロと動き、それが幼さと陽気さを感じさせた。
「どうしたのよそんなに興奮して、ついに彼氏でもできたの?」
こんな風に騒ぐ妹もかなめにとっては日常茶飯時であった。驚きながらもかなめはうっすらと眉間に皺を寄せる。
「違うって!もはや彼氏が出来る出来ないなんて二の次なの!だって戌井十夢がお父さんの映画に出るんだよ!?」
「戌井・・・?あぁ!里穂のお気に入りの俳優さんか、良かったじゃない」
「違うの違うの!!あのね!?お父さんがね、明日の仕事場で戌井十夢に合わせてくれるんだって!!あぁぁどうしよう・・・!!!」
里穂の顔がニヤニヤと崩れていき、体で幸せを表現したいのか自らの体を抱きしめクネクネと揺らしている。
「あらあらそれなら本当に良かったじゃないの、楽しんでくればいいじゃない」
「え?モチロンお姉ちゃんも一緒に来てくれるに決まっているよね・・・!?」
笑いながら姉に尋ねる里穂。
「なんで私が付き添わなきゃいけないの?」
満面の笑みで妹に即答するかなめ。
「えぇぇぇ!だってお姉ちゃんが一緒に居てくれないときっと倒れちゃう!戌井様を見ただけで感動して失神して昇天して天国に行っちゃうよ!!」
見ただけで失神するならかなめがいてもいなくても関係ない気がするが。
「私があんまりそういうのに興味が無いの知ってるでしょ・・・学校にだって親の仕事を話してないのに・・・」
「あぁーーー!そんな事言ったらお父さん泣いちゃうよ?娘たちのために一生懸命働いていたのに、かなめは人に教えられないような職業だと思ってたのかー!って」
「私は静かに暮らしたいの!お父さんの仕事は大変なのも知っているけど、芸能人は興味無いし会いたいとも思ってないの!」
「それでもお願い!!一生の内にある数え切れない内の1回でお願い!!横に居てくれるだけでいいから、お願いお姉ちゃぁん・・・!」
顔の前で手を合わせ、猫なで声で頼み込む利穂。
「はぁ・・・全く仕方ないわね・・・でも余り失礼の無いようにしなさいよ?」
「はぁい!ありがとお姉ちゃん!あぁ、私もお姉ちゃんみたいに大人な女性になりたいな!」
「はいはい、わかったわかった」
かなめはこめかみを押さえながら、里穂は姉の腕にしがみ付きながらリビングへと足を向けた。
- 39 :ゆむ:2010/04/22(木) 23:40:16
-
かなめの部屋
仕事の都合で父親が居ないがそれはいつものことだった。母親、妹、かなめという女性3人の食事が終わると、かなめは自分のベッドに倒れ込むように体を沈めた。
仰向けに寝転がると理穂から貸してもらった戌井十夢が表紙を飾っている雑誌を開く。先ほど「明日会いに行くんだから前もって勉強しておいてね!」と無理やり里穂に渡され雑誌だ。
戌井十夢、年齢24歳。18歳で舞台デビューをして21歳で新人俳優賞、翌年には主役を演じた映画「リバースワールド」が日本アカデミー最優秀作品賞に選ばれ一躍日本中にその名前が知れ渡ることとなる。
近年では舞台や俳優活動のほかに声優や脚本、美術の世界にもチャレンジを試みている。
しかし彼が異様に注目されているのはプライベートや友人、家族関係に至るまで情報が余りにも少なく私生活についても不明な点が多く、
スキャンダルの影すら感じさせないところにある。逆にそういうミステリーで神秘的なところにひかれるファンも少なくない。
演技力は愚か健康管理やファンクラブ活動、勉学に至るまで申し分の無い才能を発揮させている。
−まさに完璧人間ね・・・ちょっと羨ましいかも−
かなめも世間一般的には完璧人間の部類に入るのだが、かなめは自分を普通の女子高生だと認識しているため本人による自覚がない。
−それにしてもこの顔・・・テレビや雑誌でよく目にするけど・・・何か気になるのよねぇ・・・−
雑誌の中には中世的で艶やかな、しかし見方によっては男性的にも見える、まるで絵画の世界から抜け出してきたような
美青年がカメラに向かって微笑みかけている。しかしそこにナルシズムや見下すといった思惑は感じられず、
ただただ美しいとしか表現できない戌井十夢の姿が映っていた。
−会ったことないはずなのに・・・以前どこかで見たような気がする・・・どこだっけ?−
かなめは頭の奥深くにこびりついている様な記憶の断片を引っ張りだそうとしたが、どうしても思い出すことはなかった。
しばらく思い出そうとしていたが無駄だと気づくとスグに諦め勉強机に座って復習と課題を始めることにした。
「お姉ちゃーん、お風呂空いたよー!!」
いいタイミングで廊下から里穂の声が響いてくる。わかったーと返事を返し脱衣所に向かうかなめの頭には戌井十夢の事など綺麗に忘れさられていた。
- 40 :ゆむ:2010/04/23(金) 20:14:18
- 某舞台事務所入り口
翌日、学校も終わり太陽が沈みかける夕刻、そこには私服に着替えたかなめと理穂の姿があった。
服装は清楚なボーダーニットとデニム姿のかなめ、その横で姉と手を握っている里穂は張り切ってきたのかコクーンシルエットのチェックワンピにタートルとどこか大人びた風貌から気合の入り方が伺えた。
世田谷区と台東区の狭間にかなめと理穂の父親、辻本乱銅が勤める舞台事務所がある。
三階建てで、少しお洒落な外装はは一見するとステクリニック、もしくはスポーツジムかと思わせる外観だが、中には稽古場や事務所はもちろん、客間や衣装部屋、講義室など数多くの個室に別れている。
見た目以上に奥行きがあり広々とした空間が広がっていた。
かなめと里穂の父親、辻本乱銅のマネージャーから客間の様な部屋に通されるとそこには父親と楽しそうに喋っている雑誌で見た戌井十夢の姿があった。
「ひゃっ!!」
自分の恋焦がれてた人を間の辺りにして里穂は思わず小さな悲鳴を出してしまった。
緊張しているのか目の焦点も微妙に合っていない。頬も一瞬にして赤らんでいる。
小さな悲鳴で乱銅が2人の姿に気づくと戌井を立たせ紹介させようとする。里穂は本当に失神しそうな勢いでテンパっている。
「おぉ、ようやく来たな!戌井君、この2人が私の自慢の娘だ!」
口の周りに生えた無精髭が歪み満面の恵比須顔を浮かべる乱銅。
「どうもこんにちわ、戌井十夢と申します。お父さんの辻本監督には大変お世話になっております」
綺麗な笑顔と透き通るような声を響かせながら戌井は二人に握手を求めてきた。
「はわわわわあああああ」
もはや錯乱状態の里穂と握手を交わし次にかなめへと手を差し出す。
平静を装っていたかなめであったが、本物の戌井十夢の迫力に軽く目を潤ませていた。
「は、始めまして・・・辻本かなめと申します、父がいつもお世話に・・・」
「始めまして?」
かなめが言葉を捜しながら喋っている途中で戌井は不思議そうに声をあげた。
「あ・・・な、何か失礼なことでも言いましたか?」
「あ、いやスミマセン、何でもないんです」
戸惑うかなめにニッコリと戌井は微笑んだ。その微笑んだ表情だけで何人の女性が心を奪われるのだろうか。
父親を挟みながらかなめと里穂は戌井といくつか言葉を交わし里穂にはその場でサインがプレゼントされた。
「あぁぁぁ・・・りがとぉ・・・・ございますぅ・・・・!」
いつもの活発な理穂からは想像も出来ないほど大人しくなってしまった。かなめもこんな妹の姿を見るのは初めてかもしれない。
他愛も無い社交辞令程度の一言一言に感動している里穂。そんな会話がしばらく続き。
「明日ここで舞台稽古があるんです、もし時間があったら見学に来てください」
「えぇぇぇ!!っはい!!絶対来ます!!学校休んででも来ます!!」
「いや、学校にはちゃんと行ってください・・・稽古は昼過ぎから夜までやってますから」
「あ、ありがとうございます!滅多に経験できるモノではないので明日も是非見学に来させてもらいます!!地震が起きても津波が来ても来ますから!!」
「お父さん・・・里穂に何とか言ってあげたら・・・?」
「いやいや、かなめも母さんに似て随分と・・・・・・おっと、もうこんな時間か・・・2人共もう日が暮れるから、マネージャーに家まで送って行ってもらいなさい」
かなめは興奮状態が続く里穂を宥めながら、戌井と別れの挨拶を告げ父親の指示に従うことにした。
- 41 :ゆむ:2010/04/23(金) 20:14:49
- 某舞台事務所廊下
「やった!やった!どうしようお姉ちゃん・・・!戌井様と明日も会うことができるなんて・・・!
もしこれがきっかけで友達として連絡先の交換とかしちゃったりなんかして!!」
キャアキャアと叫ぶ妹をたしなめるようにかなめは語りかける。
「少しは落ち着きなさいって・・・明日もそんなに興奮していたらドン引きされるわよ?」
「お姉ちゃんもあの戌井様に会ったんだから逆にもっと興奮するべきだよ!!逆に失礼だよ!?
そんなに冷静なのが信じれられないよ!!あぁでも戌井様もお姉ちゃんみたいな大人なタイプが好きなのかな?
だってほら、喋っているときも私よりお姉ちゃんを見ている時間の方が長かったし・・・でもそしたら
お姉ちゃんと戌井様が付き合うことになれば私は義理の妹かぁ・・・それも悪くないかも!!あぁでもそれなら私もお姉ちゃんみたいな女性になりたい!!」
里穂はマシンガンの様に口から発射され続け、かなめは重く息を吐いた。
「はぁ・・・何があなたをそこまで熱くさせるんだかね・・・」
「ねぇねぇ!明日は何を着ていけばいいかな!?稽古の感想とか聞かれちゃったらどうしよう・・・!?」
「はいはい、お姉ちゃんはちょっとお手洗いに行ってくるから先に外行っててね」
かなめが廊下脇のトイレに入った後も里穂は一人でキャアキャアと騒ぎ、その声がトイレまで響いてきてかなめはげんなりした。
「あれ?かなめさん」
かなめがトイレを出るのと同時に戌井が廊下の先から声を掛けてきた。
「あ、すいません先ほどは妹がいろいろと失礼な事を・・・」
「はははは、気にしないでください、それよりもかなめさんに一つお尋ねしたい事があって・・・」
「私に・・・ですか?・・・えぇいいですけれど、答えられる事でしたら」
戌井は先ほどと変わらぬ美しい笑顔のままだ、しかし先刻まで客間で話していた時とは雰囲気が幾分か違っていた。
そしてしばらくの間があった後。
「あの、かなめさんが今叶えたい願いはありますか?」
「は?」
全く想定していなかった質問にかなめはポカーンと口をあけてしまった。
「あなたが叶えたい夢、願い事、願望・・・例えば、流れ星に願うようなことですよ」
「そんな急に言われましても・・・・・・願い事ですか・・・」
かなめはしばらく真剣な表情で考え込み返答した。
「私は・・・今とっても恵まれています、家族に友達に環境に・・・この時代に生まれたことに感謝したいぐらいなんです
だから私が願うような事は思い浮かびませんでした・・・もし願いが叶うなら、そうですね・・・・
私の代わりに大好きな妹の願いを叶えてあげてください、きっとそう言うと思います」
かなめは自分の言った答えに嘘はなかった。それは本当に心の底から思った回答だった。
「なるほど・・・こんな優しいお姉さんが居て理穂さんは幸せだ」
「そんな、家じゃ喧嘩もしますし姉として妹の事は心配するものですよ?」
「ははは、そうかもしれませんね、とても良い意見が聞けました、ありがとうございます」
そう言うと戌井は一言お気をつけてと言い残し廊下の先へと戻って行った。
その場で立ち尽くすかなめは今のは一体なんだったのだろうと、しばらく呆然としていた。
−やっぱり人気のある俳優さんとかってああいう不思議で少し変な人が多いのかな・・・?−
ようやく外で待つ妹の元へ足を向けたが今あった事を里穂に話すとまた五月蝿くなりそうなので黙っていることにした。
しかし、かなめは気づいていなかった。
先ほど戌井からされた質問で自分でも見えないほど程とてもとても小さく芽生えた感情に。
彼女は人前で初めて「自惚れていた」ということに、かなめは気づいていなかった。
- 42 :ゆむ:2010/04/23(金) 20:15:30
-
辻本家リビングルーム
「それでね!?握手をしてくれたうえにサインまでもらっちゃったんだよ!?私の名前まで書いてくれて!!あの戌井様が私のためだけに、ここまでしてくれたなんて!!」
「よかったわね、里穂ちゃんが戌井十夢の大ファンだったことをパパも覚えててくれたのね。けど、お箸の手が止まってるわ、今は食事中よ?」
「けどね!けどね!戌井様が明日舞台稽古の見学に来ないかって言ってくれたの!?本当どうしよう!夢見たい!」
「食べるか喋るかどっちかにしなさいね、少しはお姉ちゃんを見習いなさい・・・・・ってお姉ちゃん?」
「え、あ、御免なさい聞いてなかった、どうしたの?」
「どうしたの、帰ってきてからずっとぼんやりとして?」
「あれだよ!きっとお姉ちゃんも戌井様のファンになったのよ!だって生で戌井様を見たのよ!?
生でしかもお話することができたなら誰だって戌井様のファンになっちゃうよぉ!」
里穂の言うことはあながち間違ってはいなかった。かなめは帰り際、廊下で戌井に声を掛けられてから
帰りの車内でも家に戻ってからも食事中も、彼の事が頭から離れなくなってしまっていた。
昨日までは全然興味も持っていなかった人物だったが、今では戌井十夢の姿も声もあの優しい微笑みもふと気づくと思い出している自分がいた。
もしかすると極めて恋に近い感情なのかもしれなかったが、それに気付かないかなめにとっては何故彼の事がこんなに気になるのかと悩ませていた。
そしてそれは昨日の夜にかなめが戌井の事を思い出そうとしていた気持ちと似ていたのかもしれない。
−明日、舞台稽古を妹と見学しに行ったらもう一度話をしてみよう、そしたら少しはスッキリするかもしれない−
かなめはそう決意すると、いつもの様に食事も勉強も妹への相手も母への気遣いもそつなくこなし明日への高鳴る鼓動を感じながら静かに眠りに落ちた。
明日も変わらぬ恵まれた日常を与えられると思いながら。
- 43 :ゆむ:2010/04/24(土) 19:27:50
- その夜かなめは長い長い夢の中にいた気がした。
寝ているのに意識はある、だが身体の感覚が無い。まるで自分の体が液体か何かになってしまったような。
溶けたアイスの様な体感・・・。意識だけが無重力の空間でさまよっているような・・・不思議な、だけどとても気持ちの良い永遠とも思える時間。
かなめの部屋
窓から差し込む光がまぶたの上から眼球を刺激する。
−何年間も眠りについていた・・・・・・まるで白雪姫のような時間だったなぁ・・・・・・−
寝起き様にそう感じながら瞳を開いた。しかしそんなロマンチックな事を考える彼女の目を覚まさせたのは王子様のキスではなく下半身に感じる違和感だった。
−んー・・・よく寝れてスッキリとした気持ちだけど寝ていてもスッキリしたような・・・・・・・・・・・・って!!えっっっ!!!!−
かなめは目を覚ました体制のまま、ゆっくりと自分の手を布団の中へと忍び込ませた。
びちゃっ、擬音で例えるならこんな音だろうか。
下着はおろか、シーツにまで達している濡れた感触に鼻にツンとくる刺激臭。福がお尻にびったりとくっついて不快感を与える。
−ウソッ・・・!この年で・・・・・・お、おねしょなんて・・・!!−
ゆっくりと掛け布団をめくってみると、そこにはぐっしょりとお尻を中心として薄茶色に染めてしまった光景が目に飛び込んできた。
−・・・・・・っあれっ?−
高校生にもなっておねしょをしてしまった恥ずかしさはあったが、かなめは何か別の違和感を感じた。
が、それにはスグに気づく。それは違和感というか単純な疑問で「何故自分の寝ていたベットがこんなに大きくなっているのか?」ということだった。
寝ていたベッドは片手を伸ばせばはみ出すぐらいの横幅で、縦幅も自分の身長より何10cmかだけ余裕のあったベットだったが
今かなめが上半身を起こしている状態でも軽く2倍はありそうな大きさになっていた。
それに高さも自分の膝丈ぐらいのだったのに、自分の腰ほどはあるかという大きな高さ、まるでキングサイズの様なベッドだ。
かなめは一瞬自分が別の部屋で寝てしまったのでは?と辺りを見回そうとしたときだった。
ガチャッ
「おっはよー!かなめーーー!!」
「!!!!」
かなめの部屋に里穂がノックも無しに入り込んできたのだ。かなめは驚きつつ慌てて自分の粗相した姿を手で隠そうとした、が
流石に手で覆っただけでは布団の染みまで隠すことはできず、パジャマのヒップラインからべっとりと濡れてしまっていることがバレバレだった。
−ど、どうしよう・・・!!絶対里穂に笑われる!!あんなにお姉ちゃんみたいになりたいと言われてきたのに・・・これじゃあ大失態よ・・・!!姉としての面目丸つぶれ・・・!!−
頭の中でグルグルと言い訳やら今後の姉としての立場について思いを巡らせていたが、妹の里穂が発した言葉はかなめの想像よりも遥か斜め上の台詞だった。
「・・・ん?あぁーあぁー、また失敗しちゃったの?しょうがないなぁ片付けてあげるからお風呂行っといで、今度はちゃんと夜もおむつ履いておきなさいよー」
−え・・・?・・・えぇ!!??−
言葉にならない。口をパクパクと開くが声が発せられない。発せられたとしても何を言っていいのか分からなかった。
さらに里穂はかなめが失態したこの情景がさも当然の様に受け入れ、まるで当たり前の様にかなめを布団から降ろさせたのだ。
この現状にかなめはもちろん言葉を失い続け、濡れたパジャマが気持ち悪かったが、そんな事が些細だと思えるほどさらに大きな疑問が頭に浮かんだ。
−・・・・・・なんで・・・・・・なんで里穂がこんなに大きいの・・・?−
確かに昨日まで一緒に夕飯を食べて話をしていた里穂はかなめより頭一つ分は背が小さかったはずだ。
しかし、今布団から降りて床に立ったかなめだが正面にいる里穂は明らかに、そしてはるかに自分より大きかった。
何しろかなめの目線にはちょうど里穂のお腹がある、表情を伺おうとすれば首を大きく上げなければならなかった。
−何!?何!?何!?何なの!?里穂が大きい!!違う!まずはこの状況でも変だと思わない理穂は・・・−
何から話していいのか分からかなめの頭はさらに混乱していく。
「ほらほら、早く体を洗いに行った!」
パニック状態のかなめを里穂は追い出すように部屋の外に連れて行き、かなめが汚したシーツを布団から外そうとしていた。
あまりにもデカくなった里穂にかなめは何も言えずに立ち尽くすしかなかった。そして1つの事実に気づく。
−・・・これは里穂が大きくなったのではない、私ががとても小さくなっているんだ!!−
- 44 :ゆむ:2010/04/24(土) 19:28:22
- 辺りを見回すと部屋のドアも廊下も天井も自分の知っている家だとは思えないほど巨大に見えた。しかしそれは自分の身長が、体格が、あまりにも小さく幼くなっていたからだったことに気づく。
かなめは体を自分の手で触り、自分の目で変わり果てた肉体を確認していく。形の良かったバストは薄く平らな胸にちょこんと乳首があるだけ、手も足も短くなっており肌の上からうっすら見えていた筋肉も今は柔らかいふくよかな脂肪が付いていた。
腰のくびれも無くなっており胸と腰の境目もはっきりしない、下半身は未だぐっしょりと濡れた感じが残っており恥ずかしくも情けない気分にさせる。
そしてようやく自分の着ていたパジャマもいつも来ていたものではなく、幼い子供が着ているようなパイル生地で出来たピンクの可愛らしい服になっていた事に気づいた。
さらにそれを自分が着れている事に対し、焦燥と不安で鼓動が大きく高鳴ってくる。
−・・・そ、そうだ!!お母さんに会えば!!きっとこの状況がおかしい事に気づいてくれる!!−
濡れたパジャマを気にする暇も無くかなめは台所へと急いだ。巨大な椅子、巨大なテーブルの足、巨大な冷蔵庫、アトラクションの中にでもいるような感覚に戸惑いながら母親の元へと走る。
−何よこれ!?こ、これじゃあまるで不思議の国のアリスじゃない・・・!!−
「お・・・お母さん!!」
台所まで行くとそこには、いつものエプロンでいつもの様に食事の私宅をしている母親の姿があった、しかし今のかなめからしたらすさまじい程の巨体に見える。華奢な体格の母親がまるでプロレスラーに見える。
−かなめ!?ど、どうしたのその姿!!そんなに小さくなって!!病院に行かないと!!−
と、頭の中でこの事態がおかしいという事を証明してくれる台詞をかなめは望んでいた・・・が、母親が口にしたのはこれが現実だと実感させる台詞だった。
「かなめ・・・またおねしょしちゃったの?駄目じゃない、お姉ちゃんの言うことを聞かないと・・・早くシャワーを・・・」
「ちょ、ちょっと待って!ちょっと待ってよ!!今の私変じゃない!?だってこんなに小さいのよ!?」
母親の今の現状を正当化している内容に思わず喋っているのを遮りかなめは声を張り上げた。
「どうしたのかなめ、まだ寝ぼけているんじゃない?ほら、服脱がせてあげるから脱衣所に行きましょ」
まるで自分の言葉に耳をかさずに脱衣所まで連れて行く母親に憤りを感じるかなめ。
「だって昨日まで高校生だったのに!今はこんなに小さくなっちゃってるなんて何かの病気よ!!」
手を引かれながら大きく叫ぶその声は子供独特の甲高いものになっていたが、今のかなめにはそれに気づく余裕を持ち合わせていなかった。
「どうしちゃったのよ?高校生って、まだかなめは小学校に入ったばかりじゃない・・・夢か何かで高校生になってたの?それともお姉ちゃんに何か酷いことでも言われたの?」
「違う・・・違う・・・」
見た目はいつもの母親なのに・・・いつもの妹だったなのに、自分だけがいつもと違うという事に、そして誰もそれに気づいていない事にかなめの目から自然と涙がこぼれた。
「ほら、脱衣所についたからパジャマ脱ぎましょ、このままだと臭いが移っちゃうかもしれないわよぉ?はい、バンザイしましょー」
「・・・・・・そんな子供扱いしないで・・・・・・」
「・・・今日のかなめはどうしたの?何か嫌な事でもあった?」
母親の子供に語りかけるような口調がさらにかなめの心を痛めつけていく。事実今のかなめは誰が見ても子供の姿なのだが。
「自分で出来るからいい・・・出て行って・・・!」
涙声で怒るかなめに母親はやれやれといった表情で肩を竦めながら脱衣所を後にした。母親としての経験上ここは放っておいた方がいいと思ったのかもしれない。
−落ち着かなきゃ・・・冷静に今の状況を判断して・・・このおかしい現象を何としなくちゃ・・・!!−
一糸纏わぬ姿になり風呂場に入るかなめだったが、その姿は昨日までの艶やかさ等皆無で大人びるどころか幼さしか見当たらない容姿だったが、表情だけは子供とは思えないほど迫力に満ちていた。
- 45 :とも:2010/04/25(日) 07:58:37
- >ゆむさん
いつも楽しみに読ませてもらっています☆
姉妹の立場逆転は最高ですね!
しっかり者の姉だけにお漏らしはかなり恥ずかしかったでしょうね(笑)
- 46 :ゆむ:2010/04/25(日) 21:03:31
- 辻本家バスルーム
両手で大きなシャワーの取っ手を掴みながら身体を洗っていくかなめ。
しかしその姿は大凡高校生とは思えないほど幼い体つきをしていた。
−朝目が覚めてから、自分の体がこんなに小さくなってしまったのに妹も母親もまるで当然の様に接してくる・・・−
これがドッキリだというなら大掛かりもいいところだ。しかし、かなめは温いシャワーのお湯を浴びながら考えている内に、今の状況を理解できる1つのアイテムを見つけることができた。
「これは・・・子供用のシャンプー?」
かなめが手にとったものは女児が見るようなアニメのキャラクターがパッケージになっている子供用のシャンプーだった。
−・・・こんなの、昨日までは置いていなかった・・・・・・それに私のお気に入りだったシャンプーが無くなっている・・・−
そして思い出す、先ほどまて着ていたパジャマも昨日着ていた服とは違う。そもそもあんな子供服自体、辻本家には無かったはずだ。
−もし私が高校生の身体から若返ったり、もしくは縮んだのなら着ていた服がぶかぶかになっていたはず・・・・・・ということは・・・?−
少しづつ絡まった人を解くように現状の自体を把握していく。かなめはゆっくりと風呂場の鏡に映し出された顔を見つめた。
そこには幼い自分がぼんやりと見つめ返していた。そう、アルバムを見返したときに写っていた自分の顔に間違いなかった。年齢こそ違うが辻本かなめ本人だ。
−この子は私・・・この身体は誰でもない、小さい頃の私に間違いない・・・!−
そして先ほどの姉や母親のこれはさも当然だという言動を思い出す。
−・・・・・・小さな私の姿が二人とも普通だと思っている?だけど昨日までは確実に高校生の私だったしお母さんも里穂も目の当たりにしているはず・・・−
そしてかなめは1つの結論に至り小さく呟いた。
「ここは・・・昨日まで私がいた世界じゃない・・・?」
かなめはこの世界が今まで17年間生きてきた世界では無いんじゃないかと予想した。ここではかなめが小学生として暮らしていて、里穂が姉として存在している世界。
記憶だけが何故か高校生のかなめに移ってしまったということに。
かなめが高校生の姿だった時に使っていたシャンプーは無くなり、子供用のシャンプーが手元にある。
それはここが昨日までの世界ではなく、今は別の世界に自分が存在している意味していた。
しかしそこでまた1つ疑問が浮かんだ・
−それでも変よ・・・私は小学生の頃・・・ううん、小さい頃からおねしょなんてしたことなかったはずなのに・・・−
そう、かなめは物心ついたときからすでにおむつ離れをしていたし、記憶では里穂がいた頃には逆にその世話をしてあげたことの方が印象に残っている。
しかし先ほどまでの感じでは、この世界のかなめは常日頃からおねしょをしているということになっている。
−この世界の私は、高校生の私とは微妙に何かが違っているとか・・・?・・・でも何かしらの原因で小さい私になったのならまた何かの因子で元に戻れるかもしれない・・・でなきゃ、このまま小学生として人生をやり直すことになる・・・!−
まるで誰もいない世界に1人だけ残されたかのような不安を覚えながら、まずはこの世界での自分を知らなくて先ほどまでのやりとりで熱くなった頭を冷ましつつかなめは風呂場から上がった。
- 47 :<削除>:<削除>
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- 48 :ゆむ:2010/04/26(月) 19:42:12
-
辻本家脱衣所
いくら小学生の自分とはいえ高校生のときと比べ幼くなった身体を見つめてかなめは溜息を吐いた。長年努力や苦悩を兼ねて育て上げた自分の肉体が振りだしに戻ってしまったのだから当たり前だ。
今の自分には大きすぎるバスタオルでその貧相な体を拭き終わった。が、また1つ昨日までの我が家と違う箇所にかなめは気づく。
「・・・あれ?」
−タンスに・・・下着が入ってない・・・?−
いつもだったら脱衣所にあるタンスの下から2番目には自分の下着が入っていたはずだ。
しかし下着が入っている引き出しを開けてみるとそこには予備の石鹸やら電球などがしまわれて、他の段にも自分の下着だと思わしきものが見つからない。
「かなめー体洗った?朝食できてるわよー」
渡りに船。まさにそんな言葉がかなめの頭によぎった。小さな自分が過ごしていた家のことなど知る由も無かったところで母親がかなめの様子を見に来たのだ。
「ご、ごめんなさい、もう出たから・・・で、その・・・私の下着なんだけど・・・どこだっけ?」
うまく言葉を選びながらしどろもどろで尋ねるかなめ。ここで自分が違う世界の住人なんて言ったところで耳を傾けてくれるわけが無い。また寝ぼけていると思われるのがオチだ。
ここは見た目は子供でも中身は大人らしくこの世界のかなめを演じながら少しづつ様子を伺うしかなかった。
「あら、もうきれちゃったの?そこにまだ無かったかしら?」
下着がきれるとはとはどういうことだろうかと思いながら、母親が指差すほうに視線を向ける。
「・・・えっ!?」
かなめの背筋が凍りついた。
−・・・これは何かの冗談、ジョーク、勘違いの類、そうに違いない−
しかし母親の目からはそんな様子など感じとれなかった。
「なんだまだあるじゃない」
そういうと母親は洗濯籠の横にあった、「ピンク色のビニールパッケージ」の中から「女児用」の「紙おむつ」を取り出した。
「もう、かなめがこの間学校で履かずに失敗しちゃって先生に呼び出されたときは顔から火が出るかと思ったのよ?気をつけなさいね」
きっと母親のいう失敗とはトイレに間に合わなかったということだろう。
「これ・・・履くの?・・・」
かなめは引きつった顔で尋ねる。まさかもう一度眠りにつくわけでもないのにおむつを履けと言う母親の言葉が信じられなかった。
「先生とお母さんとかなめで約束したでしょ?しばらくは履いて通うって」
この世界のかなめはどうやら一般より発育がよろしくないらしい。先ほどまでおねしょを常日頃からしていたと思っていたことでさえ氷山の一角だったようで、
未だに、ここでのかなめは日常生活でもおむつが外れていなかったようだ。だがいくら今のかなめが昨日まで高校生でも今はこの世界の小学生でしかない。
演じる以上この世界での自分の立場を弁えて行動せざるを得なかった。それがどんなに恥辱に塗れた事であろうと。
「ど、どうしても履かなきゃダメ・・・?」
「どうしたのよ?昨日まで恥ずかしがらずにちゃんと履いて通ってたのに、とりあえずこの間失敗したばかりなんだから今週いっぱいは先生との約束どおり履いて通いなさいね」
母親が紙おむつを手渡すとキッチンの方に戻っていった。かなめが手にした女児用の紙おむつには可愛らしいキャラクターやハート、花柄などがプリントされておりそれがより一層恥ずかしさに拍車を掛ける。
−・・・早く元に戻らなくちゃ・・・・・・!!−
かなめは心の中で強く決心し直して恥辱に満ちた下着に足を通した。
- 49 :ゆむ:2010/04/26(月) 19:45:24
-
辻本家リビングルーム
リビングのテーブルには既に里穂が座っており一足早く朝食に手をつけていた。
脱衣所で唇を噛み締めながら苦渋の表情で何年ぶりかの紙おむつに足を通し、誰かに見られでもしないようにとかぼちゃシルエットのデニムとチュニックに
着替えたかなめは自分の椅子へと座った。いつも自分が座る場所にあった椅子も子供用の座高の高いチャイルドチェアに代わっていた。
しかしそんな事よりかなめは自分の履いているカサカサとした履きなれない下着の感触に戸惑っていた。傍から見れば落ち着きの無い子供の様に見えるだろう。
座ったかなめの前に母親が朝食を持ってくる、メニューは今までとあまり変わったところは見られなかった。
シーザーサラダに焼きたての食パン、サニーサイドアップとヨーグルトに牛乳。いつもの朝食だった。
「お姉ちゃんのときは夜もそんなに失敗してなかったのにねぇ」
「かなめは大器晩成型っていうの?きっと小学校を卒業してから成長して色っぽくなるタイプだね!」
「でも流石に入学して何回も先生を困らせちゃってからは登校拒否にならないか心配したわよ」
「あぁー・・・先月も私が迎えに行くまでビショビショのズボンで泣きっぱなしだったし、でもどこの学校にもそんな子の1人や2人いるって」
「こういう時にパパが励ましてくれればいいのに、相変わらずカメラやら役者やらで帰ってこないし・・・」
「でも昨日、かなめと一緒に戌井様に会えて良かったぁ・・・あ、今日も会うんだった!かなめ!忘れちゃダメだよ!」
「え!?あ・・・うん・・・」
二人の会話を聞きながら、かなめはここでの自分がどんな存在だったのかを少しづつ理解していった。
この世界のかなめは、以前の自分と比べて決してよくない評価を受けているということも。
−・・・だけどどこか昨日までの世界と繋がっている箇所もあるみたい・・・戌井十夢と会ったことはこっちでも事実みたいだし−
「!?」
朝食を食べながら世界の繋がりを考えていたかなめが動きを強張らせた。
それは一瞬口の中に粉薬でも含んだのかと思えるほど強い苦味だった。
−これって・・・ピーマン?−
あまりの味に飲み込むことができず、口の中から苦味の元をつまみ出してみると、その招待は千切りにされたピーマンだった。
今までのかなめだったらピーマンは別に苦手な食材でもなかったし、食べられないという訳でもなかった。
しかし今口の中に広がった味は確かにピーマンでありながら、今まで味わったことの無い強い苦味を感じた。
何かの間違いかと思いもう一度、サラダを口に入れるがまた嫌な苦味が口に広がり飲み込むことを拒んでしまう。
−体質が変わっているかもと思ったけど・・・もしかして味覚まで変わっちゃってる!?−
確かに意識して食事に手をつけてみると甘みや苦味、香りに食感までが今までより少し変わっている気がした。
正確に言うとより敏感にそしてより極端になっているように感じた。そして苦手な食べ物に変わってしまったピーマンを食べるのに難航していると
母親から好き嫌いしちゃ駄目よと指摘され、返す言葉が無く俯きながら食事を片付けた。
- 50 :とも:2010/04/27(火) 23:50:59
- >>ゆむさん
もう最高の展開ですね!
恥ずかしそうにオムツを履くかなめに萌えました☆
優等生がお漏らし少女になってしまったのが可愛いです♪
これからもよろしくお願いします。
- 51 :ゆむ:2010/04/28(水) 21:19:33
- 辻本家玄関
子供であろうと大人であろうと人は各々に義務を持ち合わせている。
それはどんなに嫌であろうが辛かろうがこなさなくてはならない。
例え中身が高校生であったとしても、その世界で小学生なら小学校に通ってみんなと仲良くお勉強をしなくてはならない。
最初こそ風邪を言い訳にして欠席にしてもらおうかと思ったが母親にスグ仮病だと見抜かされてしまった。
かなめにとって今の自分と同い年ではあるが、1年生の児童と一緒に国語や算数を学ぶというのに大きな抵抗があった。
しかし何がきっかけで元に戻れるか分からない現状、少しでも多くの情報を得るために仕方なく学校に通うことにした。
−うっ・・・ランドセルってこんなに大きかったっけ・・・?−
かなめは数冊の教科書やノート、筆記用具が入ったランドセルを背負うとその重さに少しよろけてしまった。
小学校1年生にとって6年間の成長を見据えた設計になっているランドセルは確かに大きく感じてしまう。
今のかなめの姿は誰が見てもランドセルと身体のサイズが不釣合いで、いくら標準サイズのランドセルといえでもそれは背負ったかなめの姿を余計小さく見せるだけだった。
「代えの下着は持った?ハンカチとティッシュは大丈夫?名札もつけた?」
心配そうに玄関まで見送る母親を後にしてかなめと理穂はそれぞれの学校へと足を向ける。
「先生困らせちゃダメだよ?トイレに行きたくなったらちゃんと言うんだよ?忘れ物しないようにね?今日も戌井様に会いに行くんだから!」
「わ、わかってるってば・・・!!」
この世界では姉という立場になっている里穂も別れ際までかなめの事を気にしていた。
今まで妹としての里穂しか見たことのなかったかなめは立場が入れ替わったことに多少憤りも感じていたが、献身的な里穂の姿に少し新鮮さも覚えていた。
公立の小学生は基本的に登校班と呼ばれる地域で数人のグループに分かれ学校に通うこととなっている。
−しょ、小学生の子たちってどんな風にコミュニケーションとってるんだろう・・・−
小学校には数年ぶりのブランクがあるかなめは流石に緊張を隠せないでいた。それは過去の1年生だったときの自分より今の世界の自分のほうがいろいろと劣っていることも関係していたし
何よりかなめは自分のクラスメイトさえも誰1人知らなかったことが1番の原因だった。唯一の救いと言えば、昔通っていた小学校と同じ学校に行くことだった。
−もし誰かに話しかけられたりしたらなんて言えばいいんだろう・・・?それよりみんな今の私についてどこまで知っているの・・・?おむつを履いて学校に通っていることもバレてたり・・・?−
様々な思いを巡らすかなめだったが、そんな心配をよそに集合場所に行き数人の児童が揃うと「おはよう」や「じゃあ行きますか」など簡単な言葉を交わし無言で登校班は動き出した。
わずか4人のグループだったがかなめは一番小さく、おそらく班長だと思われる里穂と同じぐらいの身長を持つ男子の後ろを、歩幅の差に苦労しながら着いていった。
−こ、こんなに小さいと・・・こんなにも距離が違って見えるなんて・・・!−
学校までは家から1kmもない近所だったのだが小さなかなめの体は重いランドセルも相まってまるで登山でもしている気分だった。
−はぁ・・・歩幅が違うだけでこんなに遠く感じるなんて・・・そ、そういえば何で私、公立の小学校にしたんだっけ・・・ふぅ・・・中学は私立だったけど、うちの両親なら公立じゃなくて私立に通わせそうな気がしてたけど・・・小さいときのことだから思い出せないや・・・−
- 52 :ゆむ:2010/04/29(木) 19:07:54
- 文京区不忍通り
文京区には20に及ぶ小学校が存在する。多いところでは児童数が800人を超す学校もあるが、かなめが通っていた矢中小学校は200人強と
他の学校と並べても比較的学級数の少ない小学校だった。辻本かなめは数年前、確かにここの小学校を卒業し中学も卒業し、現在は高校に進学していたはずだった。
しかし卒業したはずのかなめはまた再び小学校1年生としてこの矢中小学校に通っている。
−何でこんなことになっちゃったんだろう・・・?−
かなめは大きなため息を漏らす。何故かと問われると、この世界には高校生の体を持つ辻本かなめなど存在せずいるのはただ1人、小学生としての辻本かなめしか存在していなかったからだ。
しかしかなめの意識は高校生のままだ。だが世間はそんな事などお構い無しにかなめを小学生だと認識しこの世界の住人として取り込んでいく。
かなめにとってこんなことになってしまった原因など分かるはずもない。分からないからまたこうして数年ぶりの小学校へと足を運ぶのだった。
無事に学校へと到着し、登校班と別れると校舎には次々とこの学校の生徒が集まってくる。名札には名前のほかに学年とクラスも書いてあったので、登校してからかなめが行く教室には迷わず進むことが出来た。
1年2組 つじもとかなめ
おそらく母親が書いたものであろう名札にはそう書かれており、1年生の教室は昇降口の正面のため焦ることなくクラスに入れた。
−1年生かぁ・・・戻れなかったらまた1から数字やひらがなのお勉強かぁ・・・−
教室に入ると既に半数近くの生徒が来ており、それぞれお喋りをしていたりノートに落書きしていたりランドセルから教科書を出していたり様々な光景が広がっていた。
机にはそれぞれの名前シールが貼ってあったおかげでかなめも自分の席をスグに発見できた。
−思ったよりスムーズにこの世界に順応できている・・・よね・・・?・・・・・・でも何か違和感っていうか・・・あれ!?−
家にいた頃には気づく事は無かったが、同年代たる1年生の生徒を見てかなめは違和感の正体を少しづつ確認することができた。
今のかなめは小さかったのだ。もちろん小学校1年生なのだから小さくて当たり前なのだが、かなめが気づいたのは
小学校1年生の中でも自分はとても背が低い部類に入るということだった。
通学してくる途中もクラスに入ってからも、おそらく自分より背の低い生徒には遭遇しなかった。しかしそれは6年生の学級で自分が1番下だからだと思っていた。
だが教室に入るとその戸惑いは核心に変わり、周りの生徒と比べるとその差は一目瞭然で、皆かなめより10cmほど背が高く比べる相手によっては頭1つ分も違っていた。
かなめ自身、自分の身長が今いくつあるなのか知る由も無かったが。はたから見たらかなめだけ1〜2歳年下だと思われても仕方が無いほど身長と体格に差があった。
−私が小学生の頃は背は高くは無かったけど平均並みの身長はあったのに・・・・・・どうして前の私とこんなに差があるの・・・!?−
自分の体が辻本かなめである事には間違いないのに、今の体は明らか発育が遅いと言っていい。
もちろんこのまま元に戻れなければ、何年間もこの体で人生を新たにやり直さなくてはならない。そう思っただけでかなめは焦り戸惑い嫌な汗をかく。
「かーーーなめちんっ!!おっはよぅ!!」
「ひゃぁっ!!」
大きな声と共に座っていた背後から勢いよく抱きつかれかなめは小さく悲鳴をあげた。
振り向くとそこにはどうやら同級生らしい少女が微笑んでいた。可愛らしい柄の入ったタートルトップスにフリルのついたキュロット。長い髪を上でお団子に結び
広いおでこの下ではパッチリとした大きな目がかなめを見つめている。
かなめよりは背が高いが1年生の中だと低いほうなのだろう、ランドセルも帽子も少し大きめに見える。
「あ、ええと・・・つ、つるおか・・・さん・・・どうしたの?」
抱きついてきた少女の名札を見てかなめは驚きながら尋ねる。
名札には1年2組 つるおかまい
と書かれている。かなめに声を掛けてきたということはそれなりの仲なのだろう。
- 53 :ゆむ:2010/04/29(木) 19:10:07
- 「かなめちんこそどうしたの?つるおかさんって呼ぶなんて!いつもみたいにまいちんで呼んでよね!」
「ま、まいちん・・・お、おはよう・・・」
どういう風に接していいのか迷っているかなめをみて、同級生の鶴岡舞は不思議そうに首をかしげた。
「なんか元気ないね?からだのどっかわるい?あ!それともまたおもらししちゃったんだ!」
「えぇっ!?ち、違うよ!!ちょっと寝坊したからまだボウッとしているの・・・!」
いきなりお漏らしをしていると勘違いされてかなめは顔を赤くした。
−そ、そっか・・・お母さんや里穂の話を聞くと今の私は既にお漏らし常習犯ってことになっているんだ・・・!ということはクラスのみんなにもその場面を見られているってこと・・・!?−
まいちんと呼んだ少女が自分がお漏らししていると勘違いしたということは、つまりクラス全員に知られている可能性があるということだ。
その事に気づきかなめは自分の下半身を包む、紙おむつの存在に意識がいき余計に顔を赤らめる。
「かなめちん、かおがまっ赤だよ!?びょうきかもしれない!!今日は朝ごはんちゃんとたべた!?」
心配そうにかなめの様子を伺う舞にかなめはたじろぎながら大丈夫だからと静まらせる。多少言葉はあどけないものの、まいちんの言葉は休むことを知らない。
そのやりとりがしばらく続いたが、担任と思われる40代ほどの女性が入ってきて騒ぐ児童を自分の席へと誘導させていった。
とりあえずかなめは舞の質問攻めから開放されほっと胸をなでおろし、少しづつ冷静さを取り戻していく。
−授業が始まればクラスの様子を見ながら今の私がどういう人物なのか情報を集められるはず・・・−
朝のホームルームが始まっても小学校の1年生というのはなかなか静かにならないもので、担任が大きな声をあげて、時に個人個人を注意をしながら学校の話を進めていく。
かなめは口を閉じ担任の話に耳を傾けながら辺りを見回すが、残念ながら見覚えのある顔などおらず、担任の中年女性にも心当たりはなかった。
つまり、この教室内では過去の自分と繋がるものは何一つないということを意味していた。
矢中小学校1年2組教室
授業さえ始まれば誰もかなめの事を意識しなくなるし、かなめも邪魔されること無くクラスの様子を探ることができた。
普通に担任の話を聞き、黒板に書かれたことをノートに書き写し、授業の内容を理解するだけで小学生として自分の役割を果たすことができた。
休み時間にはまいちんと呼ぶ少女と会話をしつつ上手く情報を聞き出し、何かしらの手がかりを得ようと尽力したし、実際高校生であるかなめが
小学校1年生の女児をあしらう事など容易かった。元の体とのギャップにはやはり多少戸惑うことがあったが時間が経ち冷静になるにつれ、かなめは以前のような落ち着きを取り戻していった。
そして何より・・・。
−体育や身体測定の無い日で良かった・・・−
この事に心底かなめは安堵した。もし授業か何かで着替えることになっていたら、子供とはいえ同級生の面前で自分のおむつ姿を晒す羽目になっていたのだ。
−それにしても1年生の授業って短いんだなぁ−
そう、小学校の1年生は基本的に1日4時間の授業で下校する決まりになっている。高校で6時間授業に加え部活や補習など時間で換算すると11時間以上も学校に居た時と比べるととても早く感じた。
授業が全て終わり給食の時間が訪れる。1年生は食後に清掃を行い帰りのホームルームをして小学生としての1日が終わる。
結局学校ではこれといった情報を得れそうになかったので、かなめは早く家に帰り何かしら事態の進展をさせたかった。
- 54 :ゆむ:2010/04/29(木) 19:10:53
- 「ねーねーかなめちん、今日はいつものかなめちんと違うねー」
「え?そ、そうかな・・・?」
久しぶりに食べる給食の味に懐かしみながらかなめは舞の問いかけに答える。ちなみにここでかなめは自分がシイタケも食べれなくなっていたことに気が付いた。
「そうだよー!いつもはもっとまいに対してしゃべりかけるし、元気なかんじなのに今日はずっと大人しいんだもん!へんだよ!」
「えっと・・いつもの私って・・・どんな感じ?」
「んーと・・・泣くときもあるしーあと運動はにがてだったけど、よく外で一緒に遊ぶしー・・・あ!あと、このあいだ先生がかなめちんのことをマケスキダイって言ってたよ!」
「マ、マケスキダイ?」
「えっと、負けるのがきらいな人のことをマケスキダイって言うんだって!」
−あぁ、負けず嫌いのことか・・・そっか、お漏らしの事もあるから内気で根暗なんじゃないかと思ってたけど違ったみたい−
「この間も坂上君にチービチービって馬鹿にされて私が間に入るまで泣きそうになりながら喧嘩してたんだよねー!」
「そ、そうだっけ・・・?」
舞に普段の自分を聞くと、負けず嫌いだけど泣き虫の明るく男の子とも喧嘩するような女の子といったイメージだった。
かなめは自分が小学校の性格がどんなのだったか思い出すことが出来ずこの世界の自分と比較することが出来なかったが、この体の持ち主はそれなりに小学生としての生活を満喫しているみたいだ。
−そういえば、今この体に高校生の私が入っているんだから、もしかして高校生の体に小学生の辻本かなめがは入ってたりするのかな・・・?−
かなめはふと疑問を浮かべたが、今の現状で分かるはずもないのだから深く考えるのはよそうと給食を食べることに集中した。もちろんシイタケを食べるのに手こずってはいたが。
給食の時間が終わり、同級生が騒いでなかなか捗らない掃除を済ませるとスグに下校の準備が始まり、こうして何年か振りの小学校は無事に終われるとかなめは思っていた。
−結局、元の世界との共通点は発見できなかったな・・・−
かなめは静かに肩を落とし、ホームルームで担任の話が始まった。と、まさにその時だった。
ぶるっ・・・!
かなめは全身を身震いすると下腹部に僅かな刺激を感じた。
それはこの体になってもしっかりと分かる、尿意という感覚だった。
かなめは僅かに今自分が履いている下着とこれまでの・・・この体がしてきた経由を思い出して一瞬ひやっとしたが
尿意の感覚自体は微々たるもので、ホームルームが終えるまでは余裕で我慢が出来るほどの尿意だった。
しかしかなめは侮っていた。今の自分が以前の高校生のものではないことに。そして忘れていた。この体が過去に1年生だったときのかなめと体質が違っているということに。
- 55 :<削除>:<削除>
- <削除>
- 56 :名無しなメルモ:2010/04/30(金) 09:51:44
- ゆむさんは文才もあるんですね〜
とにかく今一番勢いのある作家さんですので頑張って下さい!
- 57 :とも:2010/04/30(金) 11:08:51
- 僕も同感です!
ゆむさんは本当に文才があると思います。
いつも次回が楽しみで仕方ないですからね。
これからも応援しています。
- 58 :ゆむ:2010/04/30(金) 20:31:57
- 2分、3分と最初はかなめも尿意を気にすることなく担任の話に耳を向けていたのだが
4分、5分と時間が経つにつれ意識せずにいられなくなっていた。僅か数分の間なのに最初に感じた尿意は膀胱を圧迫し続け、力を込めていないと漏れ出してしまいそうだった。
まるで1分1分が1時間の様に感じる。自分でも信じられないほど尿意は高まっていく。
ホームルームの時間は約10分ほど、担任の話、日直の話、連絡事項、帰りの挨拶となっている。
−ウソッ・・・終わるまであと5分近くあるの!?−
かなめは時計を見つめ絶句する。自分でも何でこんなに尿意が強くなっているのか分からない。時計の秒針が進むスピードが遅すぎるんじゃないかと感じられ、それがさらにもどかしい。
これが授業中だったら手を上げてお手洗いに向かうところなのだが、帰りのホームルームでしかもあと数分で終わるのにお手洗いに行くためだけに皆の注目を集めるのはかなめにとって顔から火が出る程恥ずかしかった。
日直の話が始まったがもはやかなめの耳には届いていない。額からは嫌な汗が流れてくる。手のひらも汗で滲んでくる。
しかしかなめはいくら小学生の体になったからといってここで失態を犯してしまえばそれこそ過去の自分を否定してしまう、自分はそんな失態は絶対に犯さないと気持ちを引き締めた。
もはや一瞬でも気を抜いてしまえば決壊してしまいそうなほどの辛さがあったが唇を噛み締めながら必死で耐え続ける。
−中学生のときに腹痛でテストを受けたときでもここまで辛くなかったかもしれない・・・−
連絡事項も終わりいよいよ帰りの挨拶でようやくホームルームは終わりとなる。
かなめはお腹の力が抜けないよう腰を屈めながらゆっくりと席を立つ。
−はやく!はやく!はやく!はやく!はやく!はやく!−
担任は小学生相手だからかゆっくりと「いいですかーそれではー気をつけてー」などとのんびり挨拶を始める。
一刻を争っているかなめからしたら、早くして!!と怒鳴りつけたい気分だった。
「みなさん、さようならー」
『さようならー!!』
担任の帰りの言葉に続いて児童達の声が教室に響く。
そしてクラスメイトがランドセルに手を掛けたり、隣の子と話を始めたその瞬間にかなめは教室の外へと急いだ。
しかし急ぐといっても走って向かうことはできなかった。
今足を大きく広げてダッシュをするだけでも、お手洗いに着く間もなく尿意から開放される自体になるであろう。そこまで事態は深刻だった。
出来る限り刺激を与えることなく歩幅を小さく、しかし出来るだけ早足で廊下へと向かう。
歩いて廊下に出るだけでも尿意は確実に強くなってきている。しかしかなめは催しているという素振りを見せないようにしていた。まだそれだけのプライドが残っていた。
しかし、もし両手で股間を押し付けて内股であからさまトイレを我慢している素振りをしながらトイレへ向かえば尿意が抑えられたのかもしれない。
漏れちゃう!漏れちゃう!と声を上げてみたら少しは尿意がまぎれたのかもしれない。
太ももをこすり合わせ地団駄を踏めば尿意が多少は引っ込んだのかもしれない。
しかしかなめはいくら今が小学生だとしても高校生としてのプライドを保ちつつ何とか出来る限り目立たぬ様にお手洗いへと向かった。
いや小学生といえでもトイレに間に合わずにお漏らしをするなどと、一般からしたら耐え難い恥辱に満ちたことなのだ。
今までそういう事とは無縁だったかなめからしたら、ここは何としても越えてはならない一線だった。
- 59 :ゆむ:2010/04/30(金) 20:37:58
-
児童たちの肩や鞄がぶつかるたびにかなめはより一層下腹部に意識を集中させた。
もはや少しでもお腹に些細な刺激が加われば全て終わってしまうような瀬戸際に立たされていた。
しかしその中を耐えつつようやく彼女は女子トイレのドアを開けることができた。
−あと少し・・・!あと少し!−
目には涙がうっすらと浮かんでいる。思考もはっきりと定まらない。ヨチヨチと腰を屈めて歩こうとするが1歩進むたびに全身からじわっと脂汗が滲む。この歩幅の短い小さな体に憤りさえ覚える。
そして個室のドアノブに手を掛けてゆっくりと中に入る。もう我慢しなきゃという気持ちより早く終わらせたいという気持ちの方が強かった。
だがガチャっと個室の鍵を閉めたとき、かなめは心の中で微かに思ってしまった。
−あぁ・・・これでもう大丈夫だ・・・−
尿意を感じていたときからそうだったのだが、かなめは侮り続けていた。
今の自分の体はオムツで学校に通うほど頻繁にお漏らしをしているということしかし自分は絶対にそんな事はしないと信じきっていたこと
かなめには知る由も無いことだが、この世界のかなめがお漏らしをしたときは大抵「安心」してしまった時だということを。
大丈夫、それだけで今のかなめの体には響くほど大きな影響を与えた。
大丈夫なんだからもう力を抜いてしまおう、いくら「我慢」という意識が頭にあっても体はもう「安心」していいのだから。
かなめの全身にそんな電気信号が走り抜けた。
じゅわっ・・・
一瞬かなめはそれがなんの感触なのか分からなかった。手は既にズボンを下げようとしていた。
ちょろっ・・・ちょろちょろちょろろろろ
「あっ・・・!!」
かなめが踏ん張ろうとするより少し早く下腹部は開放感にあふれていく。
いくら強く押さえ込もうとしても一度溢れ出した水は止まってくれず勢いを増していく。
しょわぁぁぁぁぁぁぁぁ
「いやぁっ・・・!っ・・・あっ・・・!だっ、だめっ・・・!!」
言葉もむなしく今まで我慢をしていた分だけ意識は遠のく。膝はガクガクと笑いだしもはや目の焦点は合っていない。
気持ちよさだけがかなめの体を包んでいく。もはや至福とさえ感じる時間。
体外へと溢れでた水も、かなめの掃く女児用のおむつに吸い込まれカサカサとした感触からじっとりと水を含んでいきぷっくり厚くなっていく。
勢いよくはじかれた飛沫がサイドギャザーでも止められずに太ももへと数滴垂れだしたが、おむつ自体はその機能をしっかりと発揮していた。
じゅくじゅくと確実にかなめの排出された水分を吸い取っていき、下半身にはその生暖かさがじわりと伝わっていく。
いったいどれ程の時間がたったのだろう、僅か数秒、数十秒のことがかなめにとっては何十分間もの出来事に感じられた。
ちょろっ・・・・ちょろろ・・・ちょろっ
出すものを出し切った開放感が次第にかなめの頭を冷酷なまでに冷めさせていく。熱かった体も汗が乾き肌寒く感じる。
ぶるっ・・・。
かなめは尿意を感じ出したときのように身震いをしたが、それが肌寒さのせいなのか出し切った気持ちよさのせいなのか分からなかった。
しかし股間を中心とした下腹部だけは先ほどまで体内で温まっていたおしっこのせいでじんわり暖かく感じ、さらにぐじゅっとした
おしっこを吸い込んだ吸収材の肌触りが気持ち悪さと不快感を与えてくる。
かなめはもう自分がどうしたらいいのか分からなかった。先ほどまでトイレで用を足すということが出来なかった今
これから何をしたらいいのかと思考する力も行動に起こす力も残っていなかった。
「・・・ふ・・・ふぇ・・・っ・・・ふぇぇぇっ・・・」
かなめは声を殺しながら泣いた。溢れ出てくる涙を手で拭うがとめどなく瞳から流れ落ちる。
かなめが涙したのは決して恥ずかしかったりだとか気持ち悪かったからではない。自分自身が情けなかったからだ。
当初さえ、たとえこの体のまま生きることになってもお漏らしなんか絶対にしないし、おむつなんかスグに外して、数年後には以前の自分に戻れる
そんな自信さえあったが、そんな気持ちを今の出来事でぶち壊され、このまま手のかかる1年生として生きるしかないのかもしれないという恐怖とここまで落ちぶれて浅ましくさえ見える自分に延々と涙した。
そしてそれは傍から見ればお漏らしをして泣き喚いているようにしか見えない女子児童そのものだった。
- 60 :とも:2010/05/01(土) 19:23:00
- 我慢できる!と思っていたのにお漏らししてしまったかなめが可愛いな〜と思いました。
本人は恥ずかしくて仕方ないでしょうね!
オムツが水分を含んでぷっくりしていく様子に萌えました。
- 61 :名無しなメルモ:2010/05/02(日) 10:24:16
- 自分も長い事このジャンルの作品を見てますが、
ゆむさんのような文才のある方が書く作品は初めて見ました。
描写がしっかりしてて、物語も続きが気になる構成で
早くも続きが楽しみです!
自分もこの位文才あればなぁ…。
- 62 :ゆむ:2010/05/03(月) 18:18:42
- 矢中小学校女子トイレ
「あれ・・・かなめちんっ!?」
無人だった女子トイレに女の子の声が木霊した。
かなめにとっては聞き覚えのある声。
「ま・・・まいちん・・・?」
泣き声で何とか返事を返すかなめ。
「誰か泣いていると思ったら、やっぱりかなめちんだ!どうして泣いてるの!?」
かなめは袖で目を擦りながら個室のドアを開け、そこにはやはりランドセルを背負った鶴岡舞の姿があった。
「トイレで1人で泣いてるなんてどうしたの!?また男子に何か言われたの!?」
心配そうに顔を覗き込む舞にかなめは口を閉ざすしかなかった。まさかお漏らしして泣いていたなんて同級生に言える訳がなかった。
しかし舞はここが女子トイレである事、ホームルーム中のかなめの不穏そうな態度、そして今泣いていることである程度予想がついていた。
むぎゅっ!!
「キャァッ!!」
かなめが声を上げたのも無理はない、舞はいきなりかなめの股間の部分を手で掴み上げたのだ。
そして舞の手の中にはたっぷり水分を吸い取り重くなった紙おむつの感触があった。かなめもグッショリと濡れてしまった感触を肌で直に感じ恥ずかしさと不快さが相俟る。
「あぁーあぁー、やっぱりお漏らししちゃったんだぁ!」
「ち、違うの!!これには事情があって!!」
かなめらしくもなく必死で言い訳をしようとするが舞は聞く耳を持たなかった。
「いいよいいよ!いつものことだし!ランドセルは教室でしょ?今とって来るから待っててね!」
かなめの言葉を遮り一方的に喋ったかと思うと舞は教室に戻っていってしまった。
取り残されたかなめは濡れたおむつの感触に耐えながらただひたすら舞が戻ってくるのを待つしかなかった。
そしてしばらくすると舞がかなめのランドセルやら巾着袋やらを持って戻ってきた。
「ほら、さっさと着替えて帰ろ!!」
舞はまるでいつもの事の様に、呆然としているかなめに指示を出す。
流石に同級生と言えでも下半身の裸体を見せられず、個室で汚した下着をビニール袋の中に入れて口を閉じる。
新しく履きなおすのも紙おむつというのがかなめのプライドを痛めつけるが、最早そんな事をいえる立場ではなかった。
着替える最中、かなめは自分がズボンを履いて来た事に少し後悔した。スカートだったら上履きを脱げばそのまま履き直す事が出来たのだが
ズボンだと一度下半身を丸出しにしないといけなかった。幼い自分の秘部と汚してしまったおむつを眺めまた涙が零れ落ちそうになったが何とか堪えて着替えを進める。
恥ずかしさはあったものの、紙おむつの感触も朝は履きなれなかったため違和感しかなかったが、新しく履きなおすと先ほどの気持ち悪さと比べ少しだけすっきりとした気持ちになった。
「ご、ごめんなさい・・・いろいろ手伝ってもらっちゃって・・・」
「いいって!私とかなめちんの仲じゃない!ほら、早く下校班へ集合しよう!」
最初こそ、失態を犯したことで笑われたり馬鹿にされたりするのではないかと思っていたかなめだったが気にする素振りもない舞の姿に壊れかけそうな心が大分救われていた。
かなめと舞は手を繋ぎ女子トイレを出ると、2人とも少しだけ照れながら昇降口へと向かっていった。
- 63 :ゆむ:2010/05/04(火) 20:02:26
- 小学校低学年は基本的に帰りのグループに別れ、教師や保護者グループと一緒に家まで下校することになっている。
かなめと舞は帰る道が別々なため、挨拶を交わし別れるとそれぞれの帰路に向かって歩き出した。
舞と離れ1人きりになったかなめは1歩1歩進むたびに少しづつ気持ちが重くなっていった。学校に行くまではおむつなんかのお世話にならず中身は高校生として振舞う予定だったのに
あんな失敗をしてしまい、さらにそれが家族にしかも妹にばれてしまうかと思うと胸の中に暗い闇が覆っていくような気分だった。
今のかなめから見る世界はあまりにも大きく、そしてその分自分の小ささを実感してしまう。
−今の自分に出来る事なんてあるのかな・・・−
自信喪失しつつかなめは下校班と別れ自分の住むマンションへとたどり着く。
家に帰ると母親からは同情と愛念の塗れた言葉を掛けられたが、今のかなめにとっては屈辱でしかなかった。
−もしも戻れなかった可能性を考えると・・・−
想像してかなめはより暗い気持ちになっていく。
母に汚した下着の入ったビニール袋を渡すと、高校生の時とはガラリと違う子供らしくなった自分の部屋に入っていった。
半ば引きこもるようにランドセルを下ろしたかなめは布団の中にもぐりこむ。
約半日とはいえ、あまりにもギャップのあるこの世界に、そして元に戻るきっかけさえ見つからない現状に頭を悩ませ続け疲労は溜まっていた。
そしてタービンの様に動かし続けた頭は次第に思考力を失っていき、静かに静かに眠りの世界へと落ちていく。
−どうしてこんなことになったんだろう・・・−
そんな自分の言葉がループするように意識を失っていった。
かなめの部屋
いつの間にか眠りに落ちてしまったかなめの耳に女性の声が響いてくる。
「・・・め・・・・・・なめ・・・・・・かなめ・・・」
−誰かが呼んでいる・・・起きなくちゃ・・・−
ゆっくりと瞼をあけるかなめ。
「かなめー!寝てるのー!?」
部屋をノックする音と共に里穂の声がドア越しに聞こえる。
体を起こしたかなめは自分の体が変わっていたことを忘れていたため一瞬驚いたが、少しづつ今朝からの出来事を思い出し今までのことが夢ではなかったのだと実感していく。
−!!−
そして今朝の失態を思い出し冷やりとしたかなめはスグに下半身に手をやりしくじっていないか確認をする。そして失敗はしていなかったものの慣れない紙おむつの感触に苦虫を噛み潰したような表情になる。
「かなめー!入るわよー!」
ガチャッ
ドアを開けて部屋に入ってくる里穂。今朝も味わったことだが、互いの身長の差にかなめは少しばかり困惑してしまった。
「ご、ごめん、お姉ちゃん・・・寝ちゃってて・・・」
体格の差からかあるいは環境に馴染んで来たせいか、かなめの口から里穂の事をお姉ちゃんと違和感無く呼んでいたが本人は全く気づいていない。
「もぅ!今日はまた戌井様に会いに行くって言ってたのに!!」
時計を見ると昨日会いに行くと約束した時間に近づいていた。
- 64 :ゆむ:2010/05/04(火) 20:04:03
- 「ご、ごめんなさい・・・スグに支度するから・・・」
かなめからしたら内心今日はもう休みたい気分だったが、昨日と共通点のある場所だったら何かしらの手がかりがあるかもしれないと思い寝起きの体を動かした。
里穂は既に用意が出来ているようで、今朝の制服姿から私服へと着替えが済んでいた。
かなめは寝癖のついた髪をとかし、適当にあった子供服に袖を通して支度を済ませていく。
「そういえばお母さんから聞いたわよーかなめまた学校でお漏らししちゃったんだって?」
「えっ!?・・・いや・・・ぅん・・・その・・・」
小さな声で言葉を濁しながら、里穂にその事を話した母親に少しばかり熱り立った。
「今朝も言ったじゃない、トイレに行きたいときは恥ずかしがらずに言いなさいって・・・」
「・・・・・・」
我慢に我慢を重ねてトイレまで辿りついたが、結果的に紙おむつのお世話になってしまったのでかなめは無言で答えるしかなかった。
昨日までかなめに憧れていた里穂が今ではかなめをしかる立場に変わってしまっている。
「ほら友達の舞ちゃんだっけ?」
「え?あぁ、うん・・・舞ちゃん」
「いつもあの子に面倒見てもらっているんでしょ?友達でも小学生になったんだから少しは舞ちゃんを見習いなよ?」
ピシッ!
その時、かなめの何かが音を立てて壊れた。
−昨日まで私のようになりたい、お姉ちゃんのようになりたいって言っていた里穂が・・・?
私に向かって・・・しかも小学1年生を見習いなさい・・・?・・・里穂が私に対して言ったの・・・?
高校生の私に・・・1年生の児童を目指しなさい・・・!?−
里穂の何気ない一言、いやその何気なさ故に姉としてのプライドをかつてない程傷つけられたかなめは唇をわなわなと震わせる。
それは怒りとも呆れとも憤りとも違う、まるでその言葉の意味が飲み込めない様な気持ちはかなめの頭を真っ白にしていく。
「ほらほら、支度出来たなら向かうよ!今日はお迎え付きなんだから急がなくちゃ!!」
里穂は放心状態に近いかなめの手を引いて外に待つ昨日会った父のマネージャーへの元へと掛けていった。
もはやかなめは戌井の事などどうでもよかった。それよりもこの辱めに近い世界から抜け出したい気持ちでいっぱいだった。
−これ以上自分の惨めさを味わう前にどこかに消えてしまいたい・・・!この世界は私には辛すぎる・・・!元に戻りたい・・・!!−
車に乗り込んで舞台事務所へと向かっている最中も里穂が車酔いなのか心配するほどかなめの表情は儚げで僅かに震えていた。
そして本人の知る由も無く、他人からすればその言動は彼女をさらに煩わしく面倒のかかる児童に見せていた。
- 65 :ゆむ:2010/05/05(水) 19:39:35
- 某舞台事務所
昨日と同じ舞台事務所のはずなのに今のかなめにとってはそれは巨大な要塞か何かのように感じられた。
大きなガラス戸で出来たドアもかなめの小さな体では開けられそうになかった。
マネージャーの話では、どうやら父親の乱銅は不在らしい。しかし里穂は父親の事などどうでもよく、いち早く戌井十夢に会いたがっていた。
二人は昨日挨拶を交わした客間ではなく、70坪ほどの広さがある稽古場へとマネージャーに通された。
そこにはすでに10人前後の役者と指導員や見物人と思われる人達が大きな声を出しながら舞台稽古に励んでいた。
かなめも里穂も今まで何度か生で役者の演技を見たことがあったが、屋内でしかも稽古の場に立ち会ったのは初めてだった。
本番ではないというのに真剣に満ちた役者の演技とそこから発せられるピリピリとした空気が先ほどまではしゃいでいた里穂の口を閉ざさせていた。
2人はしばらく迫真の演技に圧倒されながら稽古場入り口でジッと佇んでいた。だが里穂の口は閉じていても目は戌井を見つけた瞬間心を奪われたように
まるで戌井以外は目に入っていないのではないかと思えるほど食い入る様にただただ戌井十夢の演技を見つめていた。
「おーっし!じゃあ休憩!!」
ホール内に演技指導員と思われる男性が大きな声で叫び、演じていた役者はそれぞれ散りだしてその場にへたり込んだり飲み物を口にしたりと
まるで演技から開放されたように各々体を休め、だんだんと和気藹々とした空気に変わっていった。
戌井十夢もかなめと里穂の姿に気が付いたようで、タオルで汗を拭きながら手を振って近寄ってきた。
昨日会った涼しげな顔とはまた違った、汗をかき火照った体はどこか同姓でも顔を赤らめるような艶かしさがあった。
「2人とも本当に来てくれたんですか!ありがとうございます!」
「いっ・・・いえっ!!とんでもないです!!とても良い演技で感動しちゃましたっ・・・!!」
里穂は昨日戌井と会った時と同じく緊張して振るえながら戌井と言葉を交わす。
「ははは、そう言ってくれると嬉しいですね、本番の出来を楽しみにしていてくださいね・・・
と、おや?・・・そちらはかなめさんでしたね」
「え?あ、はい・・・」
かなめはここでもまた小学生としての自分と認知されているのかと思い落胆する。
いや、しそうになった。
「これはまた・・・昨日とは随分違ったお姿になられましたね?」
「なっ!?」
「え、そうですか?かなめがそんなに違って見えますか?」
「ええ、昨日のかなめさんは凄く大人らしくて綺麗な女性に見えましたけどね」
淡々と昨日との違いを喋る戌井に里穂は不思議そうに首をかしげる。
そしてかなめは言葉を失ってしまった。
−えっ!?!?!?どどどどどうして!?昨日までの私を戌井さんは知っている!?−
ようやく高校生だったかなめとの接点を間の辺りにし、さらにさも当然の様な態度の戌井に対しかなめは何を喋ったらいいのか分からなかった。
「どうしたんですか、かなめさん?」
「!!」
いきなりその中心人物となる戌井に声を掛けられたため、かなめはあわあわと言葉を探していた。
「んー・・・どうやら混乱しているみたいですね」
- 66 :ゆむ:2010/05/05(水) 19:43:30
- 「あ、あの戌井さん・・・大丈夫ですか?」
高校生のかなめを知らない今の里穂からすれば戌井は意味不明な事を喋っているように思えるだろう。戌井もそれを感じ取ったのか。
「あぁ、すみません里穂さん・・・そうだ!次は衣装と小道具を使った本番をある程度想定したリハーサルを行うんです。
里穂さん、お手数なんですが控え室から僕の衣装を持ってきてもらえませんか?」
「えぇ!?戌井さんの衣装をですか!!!よ、喜んで!!!スグに持ってきます!音速で、いえマッハで持ってきます!!」
興奮からか支離滅裂な事を口にする里穂。
「助かります、それじゃあマネージャーさん一緒に付いていって控え室の場所を教えてあげてください、衣装には僕の名前が書いてあるタグが着いてますので」
「かしこまりました」
マネージャーも里穂の横でニッコリと頷く。
「よしっ!じゃあかなめ!一緒に行こう!!」
「えっ!?」
かなめからしたらこれで戌井に堂々と問い立てることができると思った矢先、里穂がかなめの手を引っ張り連れて行こうとする。
「あ、かなめさんはどうやらお手洗いに御用があるようですね、それでは僕が案内しましょう」
「え?・・・あ、はい!そうなんです!さっきから我慢していて、ごめんなさい戌井さん」
するとこれまた戌井がうまい具合に事を運び、それにかなめも乗っかり良い感じに理穂と別れようとした。
「んもうっ!トイレなら早く言ってよね!さっき行ってくばよかったのに・・・すみません戌井さん、それじゃあ妹をお願いします」
「ええ、里穂さんも僕の衣装をお願いします、それじゃあかなめさんお手洗いはこっちですから」
そうして里穂とマネージャー、かなめと戌井で稽古場から出て別々になった。
戌井はそのまま廊下に出ると人気の無い用具置き場へとかなめを連れ込み内側からガチャリと鍵を閉めた。
「すみません、こんな汗をかいたかっ・・・」
グッ!!
喋っている途中でかなめは戌井の服を掴みあげた。もっとも本来だったら胸倉でも掴むところのなのだが長身の戌井に対して背の低いかなめはシャツの裾を掴むことしかできなかった。
「これってどういうことですか!?あなたの仕業ですか!!」
かなめは甲高い声を張り上げて戌井に攻め寄った。
「しっ!静かにしてください、大声を出したら誰かが来てしまいますよ?」
掴みかかってきたかなめを冷静になだめる戌井
「・・・それじゃあ質問に答えてください、あなたの仕業だったんですか?」
「仕業って何がですか?」
「っ・・・!!分かってるんでしょ!こんな小学生の姿になっていることです!」
声を抑えながらかなめは怒りを顕にする。
「あぁ、いまのかなめさんは小学生だったんですか、いやいやてっきり幼稚園ぐらいかと・・・」
「はぐらかさないでください!!」
笑顔で冗談を言う戌井に対しかなめはもう一度声を荒げた。
「・・・その体に何か不満でも?」
「不満も何も・・・高校生からいきなり小学生になったら誰でもショックですし不満も生まれます!」
かなめはあえて今朝のベッドを汚したことや学校での失敗や今履いている下着の事は触れなかった。
「でも、それはあなたが望んだことなんですよ?」
「わ、私が?・・・そんな事ある訳ありません・・・!こんな姿を私は望んでなんかいません・・・!」
興奮が少しづつ収まっていくのに比例して、かなめの言葉は冷静さを取り戻していく。
- 67 :とも:2010/05/05(水) 23:41:17
- >>ゆむさん
かなり面白い展開になってきましたね!
真相を知りたいかなめの気持ちが伝わってきます。
また続きも楽しみにしています。
- 68 :ゆむ:2010/05/07(金) 20:18:57
- 「僕が昨日あなたに尋ねたんですよ、願い事はありますか?って。覚えていますか?」
ゆっくりと昨日のシーンを思い出すかなめ、しかしあのときの答えは
「小学生なんかになりたいなんて言っていません・・・ただ」
「ただ、私の代わりに妹の願い事を叶えてあげてください、そう言いましたよね?」
「え、ええ・・・そうです」
そうあの時確かにかなめは妹の願い事を叶えるように望んだ。
−で、でも・・・たとえそうだとしても利穂が願うならきっと・・・−
「きっと、私もお姉ちゃんみたいな素敵な女性になりたい、妹の里穂さんならそう答えると思ったんじゃないですか?」
−!!−
まるで心の声が読まれているかのような戌井の言動にかなめは服を手放し1歩後ずさった。
「っ・・・確かにそう答えるかもとは思いました・・・でも実際は違ったということですか?」
「その通りです」
「じゃあ里穂が私を小学生にしたいと願ったとでも言うつもりですか・・・?」
かなめは未だにこの事態を里穂の願いが生んだ現象だとは思えなかった。家族として、そして姉妹として里穂がこんな願いをする理由が分からなかった。
「ちょっと違いますね、里穂さんはあなたを若返らせたいとは思っていませんでしたよ?」
「・・・・・・じゃあ何を願ったんですか!?」
「まだ分からないんですか?里穂さんはこの様な願いを心に秘めていました
『姉の様な完璧な人物が家族にいていつも姉妹で比べられる、私だって世間一般からすればそこそこのレベルにいるのに・・・
もし願いが叶うなら、私以上に何でも出来る姉よりも手間がかかってもいいから私を引き立ててくれる様な妹が欲しい』と」
「・・・・・・・・・・・・」
「これはあなたが願った結果でもあって、妹さんの願った結果でもあるんです、みんなの願いが叶った結果に何が不満なんですか?」
「・・・・・・それは、本当に妹・・・里穂が?」
「ははは、もしもあの時かなめさんが少しでも自惚れたような答えじゃなくて、私利私欲の願いだったならこんな事にはなっていなかったかもしれませんね」
かなめは全身の力が抜けてその場にへたり込みそうになった。
「で、でも・・・それが里穂の願いだったとしても・・・なんで現実に・・・どうして戌井さんが・・・あなたは・・・一体?」
「おや、そんな事まで忘れてしまったんですか?・・・・・・まぁ仕方がないんですけどね」
先ほど稽古が終わった後に見た戌井の顔はそこには無かった。まるで不気味とさえ感じる見たことも無い暗い笑顔がそこにはあった。
「僕の名前は戌井十夢だけど、本当の名前はサムヤサと言います。昔は悪魔とか神様とか色々と呼ばれていましたけど実際はデーモンの指導者という立場です。
契約して願いを叶えし者とも呼ばれていましたね、そうそう最近知ったんですが僕の存在がランプの魔人の元ネタになってたんですよ?」
「あ、悪魔?神様・・・?魔人・・・?」
あまりにも突拍子も無い台詞にかなめは一瞬言葉の意味が理解できなかった。
- 69 :ゆむ:2010/05/07(金) 20:20:13
- 何を言っているんですか、かなめさん・・・あなたもそうなんですよ?
辻本かなめ、本当の名前はヨムヤエル・・・まぁ何百年も昔の話ですから忘れて当然ですけどね、あれ?もう千年以上前でしたっけ」
「い、戌井さんこそ・・・何を言っているんですか・・・?」
戌井はゆっくりと震えのくるような声で少しばかり口調も変えながら話し出す。
「忘れている様なので思い出させてあげますよヨムヤエル、元々天使だったあなたは不幸な人間を救おうとして私と契約を結んだんですよ
あなたは自らが人間になり私と契約を結んだ。そしてその契約は生まれ変わる毎に新たな願いを叶え続ける・・・。
そして契約によって僕もあなたも人間として何百年も死んでは新たな体に生まれ変わる事となった。
あなたは自ら人間となって人間の不幸を分ち合ったうえで全ての人類を恵まれた幸せな世界に導きたいと、今思えば夢物語なことを仰ってたんですよ?
そして何回も人間として生を受け、僕もその度に願いを叶え続けてきたんです。昨日のようにね」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・おや?まだ思い出せないのですか、あなたの契約のせいで私まで人間として生まれ変わっているのに・・・仕方ありませんが無理やり思い出させますね」
何も答えられないかなめに対し、戌井、いやサムヤサは人差し指でかなめの額にそっと触れた。
−・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!−
そしてかなめは思い出す、うっすらとだが過去の自分を。
「わ・・・私は・・・」
かなめが思い出したのはヨムヤエルとしての記憶だった。戌井ことサムヤサと契約を結んだ時の記憶。
自分が今まで何回生まれ変わったのかは分からないが、ヨムヤエルとしての自分をかなめは認識することが出来た。正確に言うと勝手に頭の中に流れ込んできて認識させられたのだが。
「契約によると1人の人間に叶えてやれる願いは3つまで、1回目は覚えているかい?」
スッと先ほどまでの優しげな戌井の顔に戻ったサムヤサが優しく問いかける。
「1回目の願いそれは・・・」
かなめは少しづつ思い出す。あの悪夢の様な出来事を・・・。いっそ忘れていたいぐらいだった過去の不幸を・・・。
錆びたコンクリートの臭い、カビた畳、腐ったような臭いのする台所、ずっと忘れていた昔に住んでいたアパート。
泣き叫ぶ母、怒り狂う父親、そしてその父親である辻本乱銅に殴られている幼い自分。
−いや!いや!思い出したくない・・・!!−
頭から赤い液体が垂らしながらかなめはアパートから逃げ出し、そして父親は泣いている母親の顔にガラスで出来た灰皿を投げつける。
そう、映画監督として大成しなかった父、女優としての人生を投げ出し売れない映画監督と結婚して体を売りながら生活を支えていた母親。
そこに里穂の姿は無い、まだ生まれていなかったのかもしれない。
裸足で外へ逃げ出したかなめは1人の若い青年と出会った。そう、その時の青年が・・・。
「・・・あの時・・・あの時会ったのが戌井十夢だったのね・・・全然気づかなかった・・・」
過去の記憶が蘇ったせいで心を消失しかけていたが、かなめは戌井を雑誌で見た時の違和感の正体をようやく知った。何年も前に、かなめは人間として人間の戌井と会っていたのだ。
「そう、そして僕はまだ幼かった君に願いを尋ねた」
−あの時の願ったこと・・・それは・・・・・・−
「・・・家族みんなの願いが・・・叶いますように・・・私は・・・そう願った・・・」
かなめはポツリポツリと思い出しながら口に出した。
「そう、そして君の父親は映画監督として成功して、母親は女優として成功した後に幸せな家庭を持った、君は恵まれた環境を望んだ、結果みんな幸福な人生を歩めることになった」
−そう、そしてあの不幸なだけで何も願いの届かなかった幼い時の世界は消えて無くなり・・・全てが上手く様な恵まれた世界になった・・・−
「そして、2つ目の願いも叶えられたはずだ」
- 70 :ゆむ:2010/05/07(金) 20:23:51
- 「2つ目も思い出したようだね。そうだよ、里穂ちゃんは君が願ったから生まれた妹だったんだよ」
−そう2つ目の願いは可愛くて明るい妹が欲しい、そう願って姉妹として過ごす世界になった・・・−
かなめは里穂が自分の願い事で現れた存在だということを思い出した。ただ単に自分が欲しかったという理由だけで生まれて来た妹だということに。
自分の願望でこの世に生を受けたということに対しかなめの心には罪悪感に似た感情が生まれていた。
「そして3つ目は昨日の願いだ」
「・・・・・・妹の願いを叶えてほしい・・・」
かなめはへなへなとその場に座り込んでしまった。結局は自分で願っておいてこの様な世界になってしまったのだ。
自分で妹の存在を、そしてその妹の願いも望んでおきながら、結果自分の積み上げてきたモノを失い今の体になってしまったのだ。かなめの心にはポッカリと穴が空き何も考えられなくなっていた。
そこで戌井は手をパンッと叩く。
「で、本当はこれでハイ御仕舞い、僕も俳優業へと戻って、君は今までの記憶を無くし新たな小学生ライフを満喫するはずだったんだ」
「え・・・?はずって・・・?」
思考停止していたかなめは座り込んだまま顔を戌井の方へ向ける
「何故ヨムヤエルは高校生の記憶が無くならなかったと思う?ヨムヤエル・・・今は辻本かなめさんか・・・1つ目の願い事は何だったかな?」
「・・・・・・!」
「そう、家族の願いが叶いますように、そう願ったんだ。ということは後から生まれたとはいえ妹の里穂さんも家族の一員、つまり昨日の願いは3つ目ではなく1つ目に含まれていたって事だ」
「そ、それじゃあ・・・」
「その通り、今日は3つ目、最後の願いを聞きたいんだヨムヤエル」
「3つ目の願い・・・」
あと1回だけ自分の願いが叶う、しかし今のかなめにとってはそれだけで十分だった。
「だけどいいかい?君は既に2回の願いで素敵な家族と恵まれた環境を与えられている。それは妹の願いで君が幼い小学生になったとしても
しっかりと恵まれた世界、家族、友達、環境を与えられているはずだ。今、昨日の世界に戻るということは妹の願いを無視したということになる。まぁそれで辻本かなめはいいのかもしれないが、
問題はヨムヤエル、君は僕と最初に会った時に人間たち全てを恵まれた世界に導きたいと話した。それなら例え辻本かなめとしての願いから生まれた妹もその人間たちに含まれているはずだろ?
今、過去の記憶も取り戻した君は人間として、そして人間を導く天使として答えなくちゃいけないんだよ?それが僕との契約だからね」
「・・・・・・・・・」
かなめは思い出す、今日1日体験した中でもイジメも無く家庭内暴力も無く自分の体以外は何不自由の無い生活だったということを。
それは過去の記憶を持っていなかったら、確かに幸せな1日だったのかもしれない。そしてヨムヤエルとして人間を導く使命を思い出し、願いを心に決める。
「あれ戌井さーん!衣装持ってきましたよー!!」
廊下から里穂の声が響いてくる。どうやら稽古場に戌井がいなかったので探しに来た様だ。
「君が何をすべきなのか分かっているならそれでいい、さぁヨムヤエル時間が無いんだ、悪魔とも呼ばれるサムヤサとして君の・・・辻本かなめの3つ目の願いを聞き届けよう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私の・・・・・・3つ目の願いは・・・・・・・・・!」
- 71 :ゆむ:2010/05/08(土) 20:30:09
- 東京都文京区千駄木駅の近く。
西日が彼女のシルエットを地面に映し出す。スカートから伸びるふっくらと肉付きの良い足、可愛らしいピンクのシャツからはその丸みを帯びた体のラインを浮かび上げる。腰の辺りは履いている下着のせいか少しばかり膨らんでいた。
成長期前の胸はまだまだ性別で比べられるまで達しておらず。髪は色素が薄いのか西日で反射してチョコレート色に輝いている。
光沢のある髪は肩まで伸び日本人にしては掘りが深いが幼さの残る顔が可愛らしく感じる。
一見どこにでもいるような小学生だったが、それが若さなのか性格なのかそれとも黄金比的なバランスなのか分からないが彼女はどう見ても幼い女子児童なのにどこか大人の雰囲気を纏っていた。
辻本かなめ、それが彼女の名前である。公立小学校に通う7歳の女子児童。
映画監督の父に元女優の母、中学生になる12歳の優しい姉。
勉強もスポーツも得意な方ではなく、先輩、教師はおろか同級生に至るまでいろいろと手を煩わせている。
かなめにとって与えられた環境は出来るだけ無駄にせず、それ相応の努力をするものだと思っていた。
運動神経が良い体に生まれたならスポーツで発揮し、感動するような絵を描く才能があればそれで世を震わせ、稀に無い頭脳を秘めているのであればそれを開花させるべきだと。
人それぞれに与えられた肉体と環境で出来る最大限のパフォーマンスをしなくてはならない、自分はいろいろと足りないが環境が恵まれているのだから無駄にしてはいけないと常日頃から胸に秘め実行してきた。
小学校に入学してもトイレトレーニングを続け昼も夜も失態を犯し、好き嫌いに苦労をしながら克服を目指し、発育は良くないが人一倍勉強して運動する。
かなめは自身にとって至って普通に暮らしているつもりなのだが、その普通の日常が周りから見れば非日常になるのであれば
彼女の暮らしを白い目で見られることもある。それは同級生に紙おむつの世話をしてもらったり、幼稚園児から年下扱いされたり、たまに道に迷った時にまで世界は彼女を放っておかず助けてくれた。
そんな迷惑ばかりかけている自分でも、恵まれた生活を送れていることに彼女は度々感謝した。誰に感謝する訳でもなく、その一瞬一瞬の幸せを噛み締めこうして生きていける世界に彼女は感謝し続けた。
そして辻本かなめはいつもと変わらぬ学校生活を終え、家路につくのであった。
そしてそれを見つめる一人のとても美しい青年。
「人間の一生なんて泡沫夢幻みたいな存在なのかもしれないね・・・まさか今まで自分が作り上げた人格を捨ててまで周りの望む世界の一部になるなんてね・・・人のために人としての自分をリセットした・・・。
・・・誰だって完璧な人間っていうのを目指してる、それでも誰一人として一生たどり着くことはできない、だから僕みたいな・・・悪魔みたいな人間に憧れるのかもしれない・・・」
自称気味に美しい青年は笑う。
ピリリリリリリリリ
青年が幼い女児を見つめて笑っていると上着に入れておいた携帯が鳴り響いた。
「もしもし・・・・・・え?あ、はい!すみません!今スグ撮影現場に戻ります!」
青年はまるで悪魔の様にも美しい笑顔をして自分もまた、その人間の世界へと身を潜ませていく。自分の契約者が新たに生まれ変わるその日まで。時異なれば事もまた異なり。
完
- 72 :名無しなメルモ:2010/05/08(土) 21:04:08
- あとがき的ななにか
前作に引き続き、誤字脱字から始まり文章の意味が上手く伝わりづらい自家撞着、駄文とも言える今作を読んでいただけたのであればまさに感慨無量です。
いろいろと感想を寄せてくれた皆様、誠にありがとうございました。
諸肌を脱ぐ思いで書きましたが、前作「めにあおば〜」とは作風も書き方も大分変えました。
当初書き始めようとした際に、こんなストーリーが書きたい!という強い思いで書き始めたのに何故か書き終えてみると
自分は何でこの様な作品を書きたかったんだ?と首を傾げてしまう始末で、次に書くときはもう少しシッカリとした話を書きたいです・・・。
話的には超展開を書きたいと思っており、パラレルワールドかと思いきや神話だったんかい!がある意味一番の笑いどころだったのかもしれません。
途中で某池袋が舞台の話と似たような箇所がチラホラと出てきましたが偶然で狙ったり真似た訳ではありません。
反省すべき点も多かったですがやはり書いてて楽しかったですし、リバースワールドという単語を出せたことも自己的に満足でした。
このスレッドもこんな少しの話で終わらせるのも勿体無いので、次の話が出来たらリサイクルして使いたいとも思っています。
それではワレオモウユエニワレアリを読んでいただき、本当にありがとうございました。
ちなみにイラストのリクエストを寄せてくださっている方々、一応ですが暇を見て描きたいと思っております。
現在、某事情で絵を描く時間がなかなか取れないでいますが、決して期待せずに(ここ重要)気長に(ここも重要)希望と違ったり描かれなくても恨まないでください。お願いします。
あ、アギーラさんもしこのコメントを読んでいるのであれば一言。
リクエストが詳細過ぎに加え一種のストーリーに近いため、1枚の絵に収まりきらへん!そのリクエストって最早アニメーションや漫画レベルですからwだから3ページぐらいになるやも。
- 73 :とも:2010/05/11(火) 11:34:15
- ゆむさん、ありがとうございました☆
いつも楽しみに見させてもらいました。
また次回もよろしくお願いします。
- 74 :どんさん:2010/05/13(木) 07:29:47
- ゆむさま、素晴らしい小説をありがとうございました。
こんなに続きが気になる物語は久し振りです。
- 75 :ゆむ:2010/08/16(月) 18:44:55
- 日本のアイドル若返りっ!?
※この作品は前作「めにあおば〜」「ワレオモウ〜」の内容とは全く関係ありません。
さらに作品に対する感想、要望、皮肉、不平、不満、罵詈雑言の類、誤字脱字の指摘などはコメントもしくはメールアドレスまで送ってくださると嬉しいかもです。
- 76 :ゆむ:2010/08/16(月) 18:46:26
- 日本のアイドル若返りっ!?
午前六時 東京都板橋区 某マンション
「マネージャー……マネージャー……!!」
日も昇りきらぬ早朝、部屋の電気もつけずにゴソゴソと部屋の片隅で携帯電話を弄る人物がいた。
「どうして……なんで……!?」
携帯電話から発せられるコール音に対し苛立ち混じりに呟いている彼女は一糸纏わぬ姿だった。ポッコリと膨らんだ腹に短い手足、大きな瞳にはうっすらと涙が滲み口元には生えかけた乳歯が何本か覗かせており呟くたびに涎が垂れている。地べたに座り込み、ふっくらとした紅葉のような手で携帯を弄る姿は玩具で遊んでいる赤ん坊にしか見えなかった。
彼女を「女」だと判別できるのは下腹部にある性器の有無だけでそれ以外では区別する事ができなかった。つまりその程度の成長しかしていない子供にしか見えなかった。
しかし彼女は歴とした二十五歳の成人した女性であり、豊満とした乳房にスポーツで養った肉体美を武器にしてグラビアアイドルとして活躍しており、雑誌の表紙を飾ったこともある同年代の女性から憧れられる様な存在であり名を花園アザミと言った。
正確に言うと憧れられる存在であったと過去形になるだろう。昨晩までボディチェックをしていつもと変わらぬ自分の体である事を確認し、丹念に保湿性の高いクリームを体に塗って床に着いたのだ。
いくら仕事が忙しくても就寝時間だけは削らなかったアザミはたっぷりと睡眠をとった後、毎朝決まった時間に起きる事を日課としていた。
しかしこの日はいつもよりか、目が覚める時間が早かった。奇妙な違和感が全身にあった。第六感がアザミに対して警報を鳴らしている。最初に気づいたのは下腹部を中心にジットリと気色悪く濡れていた事だった。始めは就寝中に何か飲み物でも零したのかと思ったが、意識がはっきりするにつれその感覚は何処か懐かしくもあり何かを出し切ったような開放感があった。手をそっと忍ばせ臭いを嗅いでみると独特の酸っぱい臭いが鼻を刺してくる。
それは間違えようも無くおねしょだった。何十年か振りの恥ずかしさを覚えたアザミだったが次第に次の違和感を感じる。自分の下半身には何も身に着けていなかったのだ。
「あれ……?」
疑問を浮かべるのと同時に発した言葉にさらなる疑問が浮かぶ。
―……今のは一体誰の声?―
「……えっ……これ、わたしのこえ?」
自分の口から出た声は発声練習で培った通るような美声ではなく、まるで言葉を覚えたばかりのような舌足らずの声だった。アザミの頭に次から次へと疑問が浮かぶ。声の異変に気づいたアザミは次に自分の口の中がいつもと違うことに気づく。矯正までして綺麗に整えた自分の歯がすっかり無くなっていた。背筋に嫌な汗を掻きながら舌先で口内を探るとところどころに小さく生えかけた歯があるのに気づく。アザミは自分に起きた異変を確かめるために急いで起き上がったのだがまるで全身に麻酔が打ってあるかのように体が重く、そして自分がブカブカの寝巻きに身を包んでいる事にも気づいた。まるで自分の身体では無くなってしまったみたいだ、胸元にあった重量感は消え失せ、くびれのあったおなか周りにはぶよぶよとした腹巻でも巻いてあるかのような脂肪の感触があった。体全体が重く感じ口はまるで舌が麻痺でもしているみたいに喋り辛かった。
そして濡れた衣服をまるで寝袋から抜け出すように脱ぎさったアザミは途轍もなく広くなったベッドの上で自分の身に起きた異変を自らの眼で確認する事となった。それは先に記述していた通りの肉体でその瞬間アザミは軽いパニック状態に陥いる事となった。
自分の身に起きた現実を受け入れる事が出来なくなったアザミは、より自分に起きた異変をしっかりと確かめるためにも姿見のある場所へと向かうために立ち上がろうとした。しかし。
「きゃぁっ!!」
立とうとしただけなのに、まるで立ち上がり方を忘れてしまったみたいに両足で立った瞬間にバランスを崩してその場に倒れこむように尻餅を着いてしまった。幸い倒れこんだ場所がベッドだったため痛みは感じなかったがグッショリと濡れたシーツの冷たさがお尻から伝わりアザミの頭を残酷なまでに現実へと覚まさせていく。
その後何度もゆっくりと立ち上がろうとしたのだが、自転車に乗り始めた子供の如く歩こうと踏み出す度にバランスを崩してコテンと尻餅を着くのだった。アザミ自信気づいていなかったが、今のアザミの足には立ち上がれるだけの筋力が備わっていなかった。
疲れ始めハァハァと荒い息遣いになってきたアザミは立ち上がるのを止めて寝返りを打つようにしてベッドから転がり落ちた。鈍い痛みが体中に走るがそんな事は気にしていられなかった。這い蹲りながら姿見の前まで辿り着き、そして胸から飛び出すのではないかと思えるほど高鳴る鼓動を抑えながらアザミは変わり果てた自分の姿を目にする事となった。
- 77 :ゆむ:2010/08/16(月) 18:48:31
- それから数十分間、この事態をどうすべきなのか、警察を呼ぶべきなのか救急車を呼ぶべきなのか、それとも親に連絡すべきなのか。焦る頭で一生懸命に考えた挙句、アイドルの自分が今すべき事はマネージャーに事の事態を伝えるのが一番先だという考えに辿り着いた。
そして話の冒頭へと戻る。
アザミにも自分の身体がどうなってしまったのかは大体予測が着いていた。
まず間違いなく自分の体が若返ってしまった。それもかなりの年数を……と。
どうしてこうなってしまったか等考えて分かるはずも無いのでその事について頭を絞ることはとっくに止めていた。まずはマネージャーと連絡を取る事、今の身体では1人で病院に行くことも出来ない。それどころか家から出ることさえ出来ないかもしれないのだ。一刻も早くアザミは自分を助け出す人物と連絡を取りたかった。
ガチャッ
ようやくマネージャーの携帯電話と繋がりアザミは安堵の余り涙を零しそうになった。
「あ、花園さんですか……!?」
「マネージャー!!とりあえず、いそいでいえまできてく……」
「大変なんです!!新人アイドルの大橋宇美が……!!」
やっとの思いで繋がった携帯電話の口からは花園アザミを、そして所属する芸能事務所を、さらには後に日本全国を大きく変える事件の開巻劈頭なる一言が発せられる事となった。
- 78 :とも:2010/08/17(火) 00:18:12
- >>ゆむさん
いつも楽しく見させてもらっています。
早くも次回が気になって仕方ありません。
さすがに美女が急に乳児まで若返ると動揺しますよね(笑)
新作ありがとうございます!
- 79 :ゆむ:2010/08/17(火) 18:43:04
- 午後一時 東京都世田谷区 国立医療センター
川嵜雪乃はただひたすら後悔していた。それは今まで自分は特別な存在だと思っていた事も、醜い女性を密かに鼻先で笑っていた事も、自らに訪れる未来はきっと同姓から憧れの対象となり華やかな人生を桜花する事に疑問すら抱いていなかった事も全てだった。
「はい、川嵜さーん次は服を着てみましょうねー」
静まり返っていた児童用リハビリルームから若い女性の声が響いてくる。薄いピンク色のナースウェアーを着た看護師の女性が笑顔で小さな幼児に指示を出していた。
きっと以前の雪乃なら、この背の低く胸の小さい、童顔の藤娘の様な女性を同情の目で見下していたことだろう。しかし今の彼女はどの女性を見ても決して笑う事など出来なかった。唯一、鏡で見る自分の姿を抜かして。
幼児は紙おむつだけを着用しており、目の前にはウエストがゴムになっているデニムのズボンとウサギの刺繍が施されているアンクレットソックス、キャミソールにジッパータイプのパーカーが床に置かれていた。
しかしこの服はついさっきこの幼児が脱いだばかりのモノだった。
着ていた服を1人で脱いで、それをまた1人で着る。それがこの一見幼児に見えるミス青山に輝いた事もある川嵜雪乃のリハビリだった。
リハビリの当初こそ同姓の目の前で自分の情けない肉体を晒す事にとても抵抗を示していた雪乃だったが事務所と親の説得により死ぬかリハビリかの苦渋の選択の結果リハビリする道を選んだ。
- 80 :ゆむ:2010/08/17(火) 18:43:40
- ミス青山に選ばれた後にスカウトされ芸能界に足を踏み入れたがアイドルデビューをする為の道は思っていた以上に険しかった。バストカップを維持したままウエストを細くするために胸に晒を巻いて苦しい思いをしながらジムのルームランナーを走ったり、今まで以上に過酷な食事制限やスキンケアをしたものだ。美容に掛ける時間は倍近くなり、校内のアイドルから日本のアイドルになる為死力を尽くして自らの肉体美を作り上げた。それが今やブラジャーが必要ないほど平らな胸には乳首がチョコンとあるだけで、自慢だった長い手足は肉付きの良いふっくらとした短く柔らかいモノになっていた。歩く度に、息をする度に今の自分の姿を実感させられ雪乃にとってリハビリは残酷な罰ゲームでしかなかった。
今の雪乃では立っている状態でズボンや靴下を履く事は出来ない。やったところでバランスを保てず倒れることは自明の理であった。一旦床に座り込む事から着替えは始まる。靴下を履くことはそう難しくなく、問題はズボンだ。長い筒状の穴に足を通すためには腰をくねらせ足先を動かさなくてはいけない。そして片足を通した後もう片足を通すのが困難だった。ズボンを半分履いているため動きが制限され、小さいお尻や太ももを振りながらようやく履き終わる。そして最後にズボンのボタンを留めるのだが、小さく丸いまるでミニトマトの様な指は思ったように動いてはくれず金具で出来たボタンを穴に通すという簡単とも言える作業にもかなりの集中力を必要とした。
雪乃がこのリハビリをする時はいつも脱ぐときは上から、着るときは下から履くことにしていた。理由はこの惨めなおむつだけの姿を少しでも見られたくなかったからであった。実際、今の姿で紙おむつを履いているところを他人に見られても、このぐらいの子ならまだ仕方ないと思われて当然だが雪乃はこの履いているだけでまだ1人でトイレにも行くことが出来ないと思われることが絶えがたい屈辱だった。事実、見た目の通り雪乃はまだ1人でトイレに行くことすら出来ない。
自分自身の容姿にかなりの自信を持っていた雪乃にとって今の姿は耐え難い恥辱を伴いそれでも生きているのは将来の自分の姿を思い描きいつか返り咲くという野望を抱いていたからだ。
フリルの着いたキャミソールを肩に通してパーカーに袖を通す。服というのは脱ぐ時よりも着る時の方が体に工夫と体力を用いられる。ところどころ左右のバランスが変だったりしているが何とか服を着た雪乃は最後の難関であるジッパーに手を掛ける。不器用な指先でジッパーの留め具を重ね合わせ小さなつまみを親指と人差し指で必死に掴もうとするのだが、その度に上手く掴めずに重ね合わせた留め具が外れたり滑ったりして雪乃を苛立たせた。
横でジッと見ている看護師の女性はリハビリ当初こそ雪乃が失敗する度に応援の言葉を掛たりアドバイスを送っていたのだが、それが余計に雪乃にストレスを与えている事を知り今では何をして次に何をするかという指示しかしない様にしていた。それも負けん気が強く、プライドの高い雪乃を信頼してでの判断だった。
- 81 :ゆむ:2010/08/17(火) 18:45:36
- 四苦八苦した後、雪乃はようやく全て1人で服を着る事が出来た。靴下の向きがずれていたり、キャミソールが肩から落ちそうになっていたり、見られるのが嫌だった紙おむつもその生地の厚さからズボンの上からでも分かるぐらい強調はされていたが、結果的に1人で脱いで1人で着終わったのだ。一種の達成感を味わった雪乃に看護師が次の指示を与える。
「じゃあ次はトイレの練習ですねー」
1人ではまだトイレに行くことの出来ない雪乃には、毎回このトイレの練習というのが必要だった。十数メートル先のおまるまで歩き服を脱ぐ仕草をしておまるにしゃがみ込み、それが終わると服を着る仕草をして手を洗ってまた数メートル歩き戻ってくるというものだった。
1人暮らしをしていた雪乃は自分の変化の際にまず警察に助けを求め救出をされた。そして数日間気を失うように眠った。目を覚めた後、雪乃が所属している事務所のマネージャー、社長、警察というメンバーで集まると現在起きている現状を知らされる事となった。
雪乃は自分の身に起きた事件はきっと何かの幻覚か病気の一種だと思っていた。しかし雪乃が若返った日と同じくして全国の女性、しかもある程度メディアに露出をしている二十代の女性が同じ変化を起こしていたのだ。
実にアイドル、歌手、若手女優、声優、雑誌モデル、有名コスプレイヤー、イメージガールなど多種多様な職業の女性だったが、どの女性にも一定のファンが着いているのとインターネットや雑誌、テレビで彼女達の個人情報や素顔が載っているという関連性があった。その対象者は雪乃と同じく年齢にして約一歳から五歳児程度まで若返っているという。
この事はメディアに一切報じられることなく、秘密裏に事件の真相を警察と政府は追っていた。警察側は個人情報の保護の為やらいろいろと説明をしていたが、事務所の社長は政府のお偉いさんが若返りの原因を他国に知られること無く突き止めたいだけだろうと話していたが。雪乃もそう思っていたし、事実政府が極秘に海外で調査したところそういった事件は報道どころか存在していなかった。つまりこれは日本だけで起きた現象なのだ。
一斉に全国各地の若くして人気者となっていた女性がいなくなり、マスコミを中心とする報道機関はアイドルのストライキやらボイコットと騒ぎ立てていたが、政府から報道の自粛を求められ一部のサブカルチャー団体や女性達のファンクラブ会員などがネットを初めとして集まりテレビ局や事務所に暴動を起こしていたが政府は彼女達とその親族、そして仕事関係者の中でもそれなりの立場にある者にしか事実を話さず、変化した全ての女性を本人の意思と関係なく政府の監視下の元へと匿った。
ネット上では彼女達が若返ったという噂も広まってはいたが、他にも人体実験の為美しい女性をさらっただとかアイドルを中心に狙ったテロ組織の犯行だとか結局のところ、若返りを含めたどの噂にも信憑性は無く結局はオカルトと思われ事の事実は一般層に知られる事はなかった。
国立研究所の研究員が雪乃の体に起きた変化を調べたところ、肉体年齢にして二歳児程度にまで若返っていることが分かったが原因は他の女性達同様解明されることはなかった。雪乃以外の女性では立ち上がって歩くことが出来ない年齢にまで若返ってしまった女性もいたので不幸中の幸いと言っていいのか不自由は多いとはいえ自らの体である程度移動できる年齢に若返った事に雪乃は少しだけ安堵した。
- 82 :ゆむ:2010/08/17(火) 18:46:16
- 歩けるとはいえ、今の体で十メートル歩くというのは以前の体で百メートル歩くようなものだった。入院してからリハビリを続けてはいるので若返った当初よりかは動けるが、それでも走ったり飛び跳ねたりすると度々転んだり足が上手く動かなかったりする事があった。
1歩1歩慎重に、それでも出来るだけ大人のような歩き方を意識して数メートル先のおまるにまで辿り着く。おまるはアニメキャラクターが描かれた可愛らしい造りになっており手を掴む部分にもそのキャラクターをモチーフにした人形がコミカルなポーズで装着されている。
雪乃が若返ってから気づいた事なのだがこの世界にある全てのモノは人間の大人が使う事を前提として作られており、子供用は子供が好むデザインでしか作られていないという事だった。
このおまるも誰一人として若返った女性がトイレのリハビリをする為に使用する等と考える者は1人もいなかったであろう。履いている紙おむつもいかにも赤ちゃんや幼児が興味を抱くような可愛らしいデザインで描かれていたし、食器も洋服も歯ブラシも全て幼い子が好む形と柄ばかりでそれを使用する……正確にはそれしか使用出来ない雪乃は自らが本当の二歳児になってしまったかの様な錯覚を覚えその度に辱めを受けた様な気持ちになりストレスを感じざるを得なかった。
ここでの練習は実際に服を脱がなくてもよかった。必要なのはトイレで用を足すという行為であって服の着脱ではなかったしその練習は先ほど既に終えていた。
ズボンを脱ぐという動作をしておまるに跨る。そして取っ手を掴むと看護師の女性が秒数を数え始めた。
「いーち、にー、さーん、しー」
実際の幼児がするトイレトレーニングならば秒数ではなく、チーッやチョーッなどと用を足す擬音を口にして出している行為を演出するのだが、今行っているのは見掛けは幼児でも中身の年齢は二十代の女性だ。そんな子供じみた事はせずに看護師が十秒を数えた時点で終わりとしている。
「はーち、きゅーう」
「……ぅぁっ……!」
リハビリ中全く声を発していなかった雪乃が小さく擦れる様な悲鳴を上げた。声に気づいた看護師の女性は秒数を数えるのを止めて雪乃の様子を伺うと、小さく震えていた顔が次第に赤く染まっていく。
「……もしかして出ちゃった?」
恐る恐る看護師が尋ねると雪乃は下唇を噛み締めながら赤くなった顔でコクンと頷いた。
トイレで用を足すイメージをして踏ん張ったせいか、自らの意思とは関係なく本当に出てしまい、雪乃はおまるに跨ったままジッと肌越しに感じる濡れた不快感に耐えていた。
看護師は雪乃をヒョイと抱きかかえると、代えの紙おむつや着替えを用意してあるフロアータイプのおむつ交換台まで連れて行き、先ほどまで雪乃が先ほど苦労して履いたズボンをスルスルと脱がせおしっこを吸収した紙おむつを顕にさせた。手馴れた手つきでサイドのテープを剥がし紙おむつを雪乃の股から抜き取るとウェットティシュで濡れている下半身を丁寧にふき取りガーゼで肌に残った水滴を吸い取る。新しい紙おむつを取り出しテキパキと交換を済ませるとそのまま雪乃を立たせた。
自身の下半身を丸出しにされた挙句、両足を開脚させれられるという行為はいつまで経っても雪乃が慣れる事は無く、顔は茹蛸の様に真っ赤に染まっていた。
そんな姿に気づいたのか看護師はズボンを拾い上げながら明るい笑顔で口を開いた。
「じゃあここからはまた自分でズボンを履いてトイレ練習の続きをしましょう」
そう言うと脱がせたズボンを雪乃の手に渡す。
「……かわいらしいかおをして、けっこうきびしいことをいうのね……」
先ほどまで喋る事の無かった雪乃が眉間に軽く皺を寄せながら呟いた。
「そうです、これは小さい子のトレーニングではなく成人女性のリハビリですから」
ニッコリと笑みを浮かべハキハキした声で喋る看護師の姿に雪乃は仕方ないわねといった表情で微笑んだ。
- 83 :名無しなメルモ:2010/08/18(水) 00:06:52
- ゆむさん更新ありがとうございます!
芸能人やアイドルが1歳〜5歳に若返るなんて最高のシチュエーションです!
ハイハイしか出来ない年齢まで戻された子は歌手かアイドルかコスプレイヤーか・・と気になります
どうやらアイドルや芸能人を乳幼児に戻したいという願望の犯人がどこかにいるようですね
自分としてはぜひともまだまだ他にも犠牲者を出してもらいたいです
セクシーなグラビアアイドルとかが新生児まで戻される展開もぜひお願いしますね
それでは応援してますので続き頑張って下さい!
- 84 :とも:2010/08/18(水) 08:49:13
- >>ゆむさん
幼児生活になって恥ずかしがる雪乃がたまりません。
着替えに四苦八苦してオムツにお漏らしして替えてもらう様子にも萌えます。
いつもドキドキな展開をありがとうございます。
- 85 :ゆむ:2010/08/18(水) 20:58:59
- 正午 北海道札幌市 中央警察署
「そうですか……わざわざご足労頂きましてありがとうございます」
「いえ……こちらこそ……」
「それじゃあ刑事さん、私達はこれで失礼いたします」
警察署内にある応接室で二人の男性刑事が可愛らしいワンピースを着た少女とスーツ姿の何処か洒落た雰囲気のある五十代ほどの男性に深々と頭を下げて立ち上がる。パッと見ただけでは親子の様に見えなくもない少女と男性だが、少女は北海道で活躍していたシンガーソングライターで男性は少女の所属している小さな音楽事務所の社長だった。
少女はどう見ても小学校に入る前の四、五歳程度にしか見えなかったが実は歴とした二十四歳の成人女性である。しかし、おそらく誰が見ても彼女を成人女性だと気づく者はいないであろう。そこまで彼女の肌、声、雰囲気、動き、服装の全てが幼かった。唯一、あどけなさは残るが実際の子供には到底出来ない話し方を除いて。
刑事二人は少女と男性が応接室から出て行くと靴音が聞こえなくなったのを確認してから口を開いた。
「まさかあの子が朝丘來羅だったなんてなぁ」
鼻の下から顎まで連ねた髭を弄りながら加賀昭二は呟いた。手元の写真には端正な顔立ちをしたショートカットの若い女性が写っていた。
「えぇ、小さい頃から男性的な方なのかと思いきやフランス人形の様な可愛らしさでしたねぇ……」
加賀昭二よりかもいささか若く見える男性、楠木利明が音楽雑誌を見つめながら相槌を打つ。
数週間前、日本の各地で二十代の女性が年端もいかぬ幼児へと若返る事件が起きた。いや、現時点では事件と呼ぶのか現象と呼ぶのか定かではないのだが。
政府は女性達が若返った原因を急速に究明するのと同時にこの事実に対し素早く報道規制をかけ、全容を丸ごと隠すという荒療治に打って出た。そして結局のところ警察を全て動かすわけにも行かず、警視庁のエリート組や秘密警察と呼ばれる裏組織、国立研究所の研究員などを含めた総勢百名足らずを集め事件の全貌を調べようとした。その為もちろん警察といえでも末端の者にはこの事実を知らされてはいない。
- 86 :ゆむ:2010/08/18(水) 20:59:31
- しかしいくら海千山千の者達を集めたとしても、この奇怪とも言える事件の足がかりさえ掴めないでいるのが現状だった。
「北海道まで来てみても、結局は他の人たちと変わりませんでしたねぇ……まぁ精神まで退行しちゃってたり精神安定剤を投与されて喋ることすら儘ならなかった人達と比べればまだましな方か……加賀さんは話を聞いてどう思いました?」
楠木は固まった背筋を伸ばしながら先輩の加賀に尋ねる。
「楠木、あんまり不謹慎な事を言うもんじゃない……俺は朝丘來羅に言うような事は何もねぇよ、強いて言っても見た通りの自分の作り上げてきた時間と体を粉々にされちゃいましたって感じの……今まで会って来た可哀相な女性達と同じように見えたよ」
低いドスの聞いたような声で加賀は答える。
加賀も楠木も本来北海道警察署に所属している訳ではなく普段は都庁で勤務をしている。三十四歳で警視正になった加賀とその部下の楠木もまた二十六歳という年齢であり、二人とも俗に言うキャリア組だった。二人とも若いうちから手腕を発揮しており加賀に関しては後に警視監、警視総監になるのは確実だと噂されるほど頭が切れ、正義感溢れる人物だった。
「やっぱりアレじゃないですかねー海外からの薬物テロとか……やっぱり報道規制掛けない方が良かったんじゃないですかね?」
「政府のお偉いさん方は若返りの秘密を独占したいだけなんだよ、それに海外からのテロだとして何で二十代のしかも人気のある女性だけしか狙わねぇんだ?それだったらもっと無差別に攻撃したほうが国を弱体化できるもんだろうが」
「じゃあ悪の秘密結社とか古代文明の力とか……?」
「小学生の妄想じゃねえんだからオカルト言うな」
事実加賀自信も事件の原因を探るためオカルトと呼ばれるような書式や専門家に話を聞いて回ったりもしたが参考になるような話は何1つとして見つからなかった。
―しかし……これはやはり誰か人間が起こした犯行だ……それとも宇宙人か?いや馬鹿な……―
らしくない考えを頭に浮かべ加賀は自嘲気味に笑った。
「でも昔あったじゃないですか、ほら、ノートに殺したい奴の本名を書いたら死ぬって漫画……今回の事件も本名をノートに書いたら若返るっていうオチだったりして」
本気なのかふざけているのか分からない様な喋り方で楠木は話をしながら広げた書類とノートパソコンを片付ける。
「だからオカルトは止めろ。それに例えそうだとしても、それは本名を書くんだろ?若返った女性達の中には偽名で本名を事務所にしか教えず世間に公表していなかった者もいたんだぞ、一般人には無理だし事務所の連中だとしても日本全国の会社に顔が通じてるって訳じゃ無ぇだろうが」
「いえいえ、その話には悪魔の目っていうのがあって……」
- 87 :ゆむ:2010/08/18(水) 21:02:26
- 話に切りが無いと感じた加賀は冷めた緑茶を口にしながら楠木の話を受け流していた。これで仕事が出来なければ一緒にチームを組むこともなかった事であろう。ある意味この性格なうえ仕事は人並み以上にこなすことが出来るのだから厄介だとも言える。
加賀も楠木の言う漫画は知っていた。ノートに殺したい人物の本名を書くと殺すことができ、しかも死因や時刻まで操れ、悪魔と取引することで相手の本名を見られる悪魔の目を持てるというモノだ。
実際に今回の出来事もその話を信じそうになるほどSF映画みたいな事件だった。まず、二十代女性でしかも一定の人気を誇っている人物だけが若返るなんて事からまず病気や、無差別に起きる事件ではない事が分かる。しかも同じ日のほぼ同じ時刻にだ。一般人と言える様な女性が1人もいない事が事件の怪しさを物語っていた。さらに若返った年齢が皆、一歳から五歳児までというのも加賀は不思議で仕方がなかった。二十八歳の女性が一歳になってたり二十歳の女性が五歳だと変化もバラバラだったが、その例外に見当たる人物もおらず、これが一体何を意味しているのか捜査員全員が疑問に思っていた。
「今回の出来事で若返った女性は何人いたか覚えているか?」
加賀は楠木の話を遮って尋ねる。
「えっ?えーと確か二百十六人だったと思いましたけど……ちなみに僕達が会ったのはさっきの朝丘來羅で五十三人目です」
そう、何と二百十六人もの女性が若返っているのだ。本当にこれでは漫画や映画の話ではないか。事実は小説よりも奇なりなんて言葉を加賀は心底嫌っていた。いつだって事が起きるというのは人と人が交わってから発生するものであり、所詮人は人が考える事以上の事は出来ないし、どう頑張っても人は羽ばたいても空を飛べず、誰が何をしても心臓が止まれば死ぬ、それがこの世の理だと加賀は常々考えていた。今回の事件も犯人の影がチラついている以上……いや、加賀の中で犯人は絶対にいると確信していた。いるのであれば何をしてでも捕まえる、それが加賀の信念であった。
先ほどの疑問点の他にもう1つ加賀は気にしていたことがあった。
「今回の事件でおかしなところは二百十六人という人物が若返っていながら誰一人死んでいないというところなんだよな……」
「あ、前にもそれ仰ってましたよね、でもこの間初めて自殺者が出たとか……」
「……それは仕方ないが、言いたい事はそうじゃない、二百十六人もの成人女性が若返った時刻に誰一人として車を運転していたりアルコールを大量に摂取していたり1人で山に行っていたり、火を使っていたりしていなかったって事だ。まるで全員無事に若返る事が予め予測していたようじゃないか……?」
実際に二人が事情聴取した五十三人のうち四十五人とは会話する事が出来たのだが聴取した全員、部屋で寝ていたりホテルに泊まっていたり彼氏やマネージャーと一緒に居たりと若返って命の危機に合う様な場面や場所に居た人物は誰1人としていなかった。
- 88 :ゆむ:2010/08/18(水) 21:03:44
- 「あぁーそうなんですよねー……でも例え犯人がいたとして、その思想や目的だって……もはや犯人像さえも分かっていない訳だし、単独犯なのか複数犯なのかも分からないんですからいくら政府直々の御命令だとしてもこれじゃあ解決の糸口さえ見つからないっすよー……あ!若返った女性が好きな若返りフェチの犯行ってのはどうっすか!?自分が好きな女性を若返らせてそれを隠すために他の女性も……」
加賀はもう楠木に口出しする事を止めていた。加賀の頭の中にはもちろん若返る女性が好きだという人種が存在するという事も知ってはいたが、それが今回の女性達を狙ったとするならばかなりお粗末な犯人だったと言う事になる。その様な趣味嗜好を持ち合わせているのならばきっと自らの目の前で楽しむであろうし。例えば東京に居たとして若返ったかどうか確認できない北海道の地にいる女性を対象にして何の得があるというのだろうか?そしてそういう奴こそ一般人や復讐したい相手にその様な力を使用するものではないか?
―犯人がこんな事件を起こして何を得するっていうんだ……!?―
他にもこの世の綺麗な女性に嫉妬している女性や自分以外のアイドルを嫌っている同職の女性なども犯人像として考えていたが、どれもこれも二十代限定でしかも大学のミスコンレベルの女性達にまで対象を絞るという理屈が見つからなかった。
―なんでこの年代の女性だけなんだ……決してこれは偶然ではない、犯人が居たとしてもこれでは自らこの事件には犯人がいますと教えているようなモノではないか……!?―
結局いくら考えても今の現状では何も分かる筈がなく、北海道で若返った被害者全員に会った今、加賀も楠木も東京へ戻り報告書を提出する事以外に出来ることは何もなかった。
片付け終わった二人はコートを着てバッグを背負うと応接室を後にした。エレベーターで一階へと降りる際に加賀はふと考えていた。
―しかし何故あの日だけしか若返る現象が起きなかったんだ……?…………いや待て…………あの日だけだと……!?違う!!もしかしたらあの日だけでしか若返らせる事が出来なかったんじゃないのか……?年齢もそうだ、二十代だけ若返ったんじゃなくて二十代の対象者しか若返らせる事が出来なかったんじゃないのか!?―
手続きを終え警察署から出ると加賀は懐から煙草を取り出し火を着けた。加賀の中では
この一連の出来事に携わった時からこれは歴とした犯罪なのだと胸に強い思いを抱いていた。だがそれと同時に疑問も浮かぶ、何故ここまで限定した女性を対象にしたのか?先ほど思ったように例えその限られた女性しか若返らせる事が出来なかったのだとしても、これでは誰かの意思による犯行ですよと自らヒントを与えている様なものじゃないか。それに二百人以上の女性を対称にする理由が見つからない。その思いが加賀の刑事としての正義感にチクチクと嫌な刺激を与えていた。
トゥルルルルルルル
電子音が響いたかと思うと楠木はすばやい手つきでバックから携帯電話を取り出し通話ボタンを押す。
「あ、はい楠木です……あ、やっぱりそうでしたかぁ……分かりました……いえいえ、ありがとうございます……とんでもないです!それじゃあまた何か分かったら連絡してください……ええ、それじゃあ」
「……誰からだ?」
加賀が煙草の灰を携帯灰皿に落としながら尋ねる。
「主任研究員の山庵さんですよ、今回若返らなかった知名度のある女性の中ではスポーツ選手や作家、後はメディアに姿を露出していない声優だったり、就労目的で滞在している外国人とかだったんですけと……で、調べたらやっぱり若返った人達の中にはこういう職種の人達は1人もいなかったんですよねぇ」
「お前、そんな事を1人で調べていたのか……」
加賀が驚いたように髭を弄りながら目を丸くした。
「僕だって僕なりにこの事件の真相を追っているって事ですよ、こんな事件に遭遇できるのなんて一生に一度ですよ?何かワクワクしてくるじゃないですか!まるでSF小説みたいで興奮しませんか!?」
「感心した俺が馬鹿だったのかもしれん……全く、さっさと東京に戻って次の聴取に取り掛かるぞ」
「加賀さんもあんまり僕の事で自己嫌悪しない方がいいですよ、それじゃあ解決に向けて頑張るとしますかぁ……ね!!」
空港まで向かう送迎用の車に二人は乗り込み、まだ解決の糸口も見つかっていない奇怪な事件を雲をも掴むが如く挑んで行くのだった。
- 89 :名無しなメルモ:2010/08/19(木) 00:58:23
- 更新ありがとうございます!
216人もの日本のアイドル達が1歳から5歳に逆戻りしたんですね!
中には巨乳や爆乳のグラドルが1歳児になってしまった事例もあるはずです
そう考えると興奮が納まりませんね
- 90 :名無しなメルモ:2010/08/19(木) 07:50:34
- いつも萌えな小説をありがとうございます。
1歳児になったアイドルと5歳児になったアイドルの違いやどんな共通性があったのか気になりますね
どうも元の年齢は関係なさそうですので元の肉体がセクシーなほど幼くなるように設定されていたら嬉しいです。
スリーサイズやバストのカップ数が高い程幼い身体になってしまうとか・・・
- 91 :ゆむ:2010/08/19(木) 21:30:43
- 午後四時 埼玉県さいたま市 某保育園
子供達がはしゃいでいる声が窓越しから聞こえてくる。加賀が思わず外を見つめると可愛らしいフリルの付いたピンク色のワンピースを着こなして同い年ぐらいの女の子と楽しげに遊んでいる少女が見えた。おままごとをしているのか下着や服が汚れる事を気にせず外で遊ぶ姿は微笑ましくもあった。
加賀は手元の写真に目を落とすとそこには美しいというより格好良い女性の姿が写っていた。川月聖夜、若い頃から美青年や王子など俗に言う男性役を多くこなして来た人気若手俳優だ。男性よりもむしろ同姓のファンが多く、そのハスキーで通る声と高身長に加え男よりも男らしくスマートな身のこなしに女性に愛される女性として人口に膾炙していたのが彼女だった。
トントンッ
保護者室と呼ばれる園児の親や保育士が集まる部屋のドアをノックする音に加賀と楠木は素早く立ち上がると、ドアを開け初老の男性が教員室に入ってくるのを確認してから同時に頭を下げた。
「すいません、お忙しい中わざわざ……」
「いえいえ、娘を迎えに来たついでですからお気になさらず……それにこちらからも頼みたい事がありましたし」
深い皺を寄せながら笑う初老の男性からは自愛に満ちた表情が放たれており、加賀も楠木も少しホッとしたような笑みを浮かべた。
加賀と楠木は都庁に勤める刑事である。二十代の女性が幼児に若返るという怪奇とも言える謎の出来事が発生した後に政府は報道規制を掛けて捜査本部を立ち上げたが事件は解決の糸口も見つかっていなかった……加賀と楠木はその真相を追ってこの保育園まで出向き事情聴取という名の解決の手がかりを探しに来ていた。
今まで会ってきた人物からは顔を合わせた途端に泣かれたり原因解明できない警察に対し罵声を浴びせてきたり殴られそうになった事もあった。なので今回の物腰柔らかな初老の男性に出会えて二人はどこか胸をなでおろす思いがあった。
「彼女が……川月聖夜さんですか?」
楠木が窓を覗きながら先ほどの遊んでいる少女に視線を預けながら初老の男性に問う。
「……ええ、そうです……」
男性が意味深な間を取りつつ質問に答える姿を加賀は自身の髭を弄りつつ黙って見つめていた。
初老の男性は川月旭という名で、川月聖夜……本名川月紗代の実父であった。本来だったら外の少女はまだ四、五歳程度で、六十近い男性の娘だとは思えなかったし、何しろ少女は何処からどう見てもまだ子供で二十代の川月聖夜とは明らかに歳が離れ過ぎていた。
しかし少女は確実に川月聖夜であった。数ヶ月前、日本の各地で二十代の女性が年端もいかぬ幼児へと若返る事件が起きて、彼女もまたその被害者であった。いや、現時点では事件と呼ぶのか現象と呼ぶのか定かではないのだが。
「まぁあんな風に遊んでいる彼女を見ることが出来て良かったです、思った以上に元気そうで何よりですよ」
楠木が取って付けた様な世辞を入れつつ話を本題に入れる。
「本来こんな事は私達が介入する事では無いのですが……なんで川月さんは、若返った原因を解明するための検診と診断を断り、しかも強制では無いにせよ捜査協力も断り続け、さらには被害者に与える国からの支援金まで断ってまで聖夜さん……いや、紗代さんの新しい戸籍を求めたりしたのですか?」
加賀は楠木に対し本題にいきなり切り出しすぎだと怒鳴りたくなる衝動を抑えて黙って川月を見つめ続ける。
- 92 :ゆむ:2010/08/19(木) 21:33:05
- しばらく沈黙が続いた後、川月はゆっくりと柔らかな声で喋りだした。
「私もいつの日かこうやって説明しなくてはならないと思っていました……これを見ていただけますか……」
そう言うと川月は一枚の紙を取り出した。おそらく白かったであろう紙は日に当たって薄茶色に変色しており、何回も折っては広げたのか折り目が強く残っている。楠木がそっと丁寧に受け取り紙に目を通す。
「これは……紗代さんの診断書ですか?……いや、しかし報告では一度も受けてないと……?」
「はい、これは一年ほど前に診断してもらった時のものです……そしてその診断書の結果にはクロイツフェルト・ヤコブ病の可能性がある書かれています」
「クロイツ……?すみません、医療関係にはあまり詳しくなくて」
「全身の不随意運動と急速に進行する認知症を主徴とする中枢神経の変性疾患だ」
楠木が喋っている途中で加賀が髭をいじりながら病気の説明をした、楠木はもちろん川月も驚いた表情で加賀を見つめた。
「……よく、ご存知ですね……娘は小学生の時に自動車事故に会い、手術を行いその時にドイツから輸入された乾燥硬膜を移植しました」
「なるほど……それで、潜伏期間の後に発祥の可能性があったという訳ですか……」
「あのぉ加賀さん……つまりどういうことなんですか?」
楠木は二人が何を言っているのか分からないといった様子で話の腰を折り解説を求めた。
「ヤコブ病ってのは十年も二十年も潜伏していつ発祥するかも分からない病気なんだ、そして発祥したら約数ヶ月で脳がスカスカになって死んでしまう、確か治療法方は見つかっていなかった筈ですが……川月さん?」
「ええ、そうです……娘も発祥はしていなかったのですが、その輸入した乾燥硬膜を移植したのは娘を含めて四人でした……そして娘以外の三人はヤコブ病で既にこの世から他界しています」
「つまり紗代さんが発祥する可能性は極めて高いと……」
ようやく楠木も話の内容を理解できたところで、川月は紗代こと俳優、川月聖夜の生い立ちを話し始めた。
川月紗代は埼玉県で生まれ、下には三歳下の弟がいた。家は決して裕福ではなかったが、それなりの暮らしは出来ていたし父の旭も母も優しく愛情を満遍なく注がれて幸せに暮らしていた。
紗代が六歳のときに母親と共に大きな交通事故に合った。原因は整備不良のトラックがハンドルを奪われて紗代と母親の乗っていた軽自動車に突っ込んだのだ。母親は即死で紗代は難しい手術の後なんとか一命を取り留めることができた。
まだ三歳の弟を残し母親は他界してしまい、父親は家事と仕事を両立しながら二人を育てた。弟は名を葉柄と言い、生まれつき体が弱く育ちも遅かった。医者曰く二十歳まで生きれれば良い方らしかった。そんな葉柄に友達は少なかったが、その分紗代は葉柄をとても可愛がり、ほかの姉弟と比べてもとても仲が良く、紗代は体の弱い葉柄のために親以上に一緒の時間を過ごした。
父親の負担を少しでも軽くするため紗代は家事を手伝い、中学校に上がる頃には家の事は一通り出来るようになっていた。しかしその時期に葉柄は治療のため入退院生活に入り家計はさらに火の車になっていった。
- 93 :ゆむ:2010/08/19(木) 21:38:19
- 中学校で紗代は男子を初めとしてクラスからイジメに合っていた。暴力を振るわれたり罵声を浴びせられるという訳ではなく所謂シカトであった。弟の病気や貧乏な家の紗代に近づく者はあまりおらず、またその端正な顔立ちから、年頃からか同姓にも良く思われていなかった。それでも挫けずに学校へ通えたのは家族への愛と弟から貰う励ましの言葉があったからだった。互いが苦しくても姉弟の二人が一緒に居るときだけイジメの事も良くない体の事も忘れて幸福な時間を過ごすことが出来た。
卒業が近づきイジメがエスカレートしてきた頃、イジメの存在に気づいた父親は激怒して学校側へ怒鳴り込み厳重注意を行うと共に男子からのちょっかいがイジメの原因に繋がった事を知った父親は紗代を卒業後、規律正しい事で有名な女子高に通わせることにした。
高校での紗代は恋愛対象のいない、しかも異性交遊を禁止されている学校からか上級生からも下級生からも男役として好まれ憧れられた。しかし紗代はそういったモノに一切興味は持たず、高校側の許可のもとアルバイトと学業を両立させていた。弟の容態も良くなっており退院したら高校に通いたいと言っていた弟の為に退院祝いに学費を出そうと心に決めていた。
しかしその思いもむなしく弟は紗代が三年生になると何の前触れも無く静かに息を引き取った。病気は確実に良くなっていたし医者も高校通学を視野に入れた退院を検討していた。しかし葉柄はこの世を去った。紗代は過酷なまでの現実を前に父親と共に涙を流した。
父親の説得の元、紗代は自ら稼いだ額に父親の援助を受け大学へと進学する。
そして大学で全国の人を励まし応援したいという気持ちのもと、演劇の道に足を踏み入れ俳優を目指す事となる。元から顔立ちも良く背の高い紗代はモデルなども兼ねながら着実に活躍の場をステップアップしていった。
初めてのドラマ出演が大ヒットを記録し、そのスピンオフ作品に紗代が主演女優として選ばれその年の新人俳優賞を受賞し、今までの辛い人生からようやく明るく輝いた道に出れたと父親の川月旭も思っていた。だが……
「そんな時にこの病気が……」
「そうです……こんなことってありますかねぇ……紗代は何も悪くないのに……こんなに頑張っているのに決して幸せになれないのかと私は怒りさえ覚えました」
髭を弄りつつ加賀は険しい表情で診断書を見つめる、楠木は川月の話に心を打たれてぽろぽろと涙を流していた。
病気の事実を知ってからも紗代は舞台やテレビ局に迷惑を掛けたくないと、ギリギリまでこの事を世間に公表しないでいた、しかしいつ爆発するか分からないダイナマイトを抱えているようなモノで紗代に掛かるストレスも日に日に増していき、いつの日か演技以外で笑顔になる様な事は無くなっており、父親と会う時間も少なくなっていた。時折1人で泣くこともあったらしく、自分の人生を嘆き父親に対しても強く当たる事もあったという。以前ならば弟の葉柄が励ましてさえくれれば、紗代も救われていたのかもしれないが、父親を含めて弟の代わりになれる存在など他に誰もいなかった。しかし病気の存在を知っている誰もがそんな彼女にケチをつけたり怒ったりする事など出来ず、黙って気が済むまで受け止めてやることしか出来なかった。
- 94 :ゆむ:2010/08/19(木) 21:40:54
- 「はい……しかしそんな時に奇跡が起こりました……私は始めて神という存在を信じ、感謝しました……」
「今回の若返り現象か……」
「ええ、娘が若返った時は驚きましたが、さらに驚いたのは若返った日に掛かりつけの病院で診察してもらった時です。なんとヤコブ病原因である手術の跡が無くなっていたんだす……事故前の肉体に若返ったせいなのか、移植の跡も無く健康そのモノになっていたんです」
「……なるほど」
「……うぅっ……いい話だなぁ……」
涙をハンカチでふき取りながら話に感激する楠木を無視して加賀はさらに話を進める。
「しかし、それで何故新しい戸籍を……?」
「……実は若返ってから紗代は人が変わった様に明るくなったんです、精神が退行した訳ではないと思うのですが……なんていうか無邪気というか小さい頃も服は弟のお下がりになる事を知っていたので少年みたいな格好をしていたり性格もサバサバしていたんですが、若返ってからはその反動なのか女の子みたいな可愛らしい服装を好むようになりまして……」
加賀は先ほど窓越しにみた若返った川月紗代の姿を思い浮かべた。
「そして気づいたんです、紗代は子供時代に辛い経験をし過ぎてきた……そして自信の病気も知り精神はボロボロになってしまった……しかしそこで何もかもをリセットする若返るという奇跡が起きて……紗代は全てをやり直して新しく生きたいんだと感じました、今まで私も紗代に対して辛い思いをさせてきました……だからもう一度……一から今まで出来なかった青春を取り戻させてあげたいのです」
「そうですか……ですが若返りの原因解明の為に検診ぐらいは出来るんじゃないですか?」
「強制でないのであれば、紗代にはもう過去を思い出させるような事をさせたくないのです……もちろん世間には若返った事は話しませんし紗代の中では自分は一度死んで生まれ変わったとも言っていました、そして弟の分までしっかり生きると……出来れば……娘を辛い過去から解き放ち、そしてそっと生かしておいてくれませんか?」
「…………分かりました、私達では判断しかねますので上にこの事を伝え追ってご連絡を致します」
「ありがとうございます……」
「……出来る限り紗代さんの意思を尊重させたいのが私共の思いですし、日本の法律上これ以上あなた達を拘束する事も出来ません、観測下で犯罪さえ行わなければ手出し出来ないのが法律の限界ですから」
加賀の言葉に川月は静かに瞼を濡らした、楠木は目を赤くしてウンウンと頷いている。
「ちなみに電話で話した件なのですが……」
「あ、ハイそれなら大丈夫です……私達にはもう必要の無いモノですから……どうぞ」
すると川月はバッグの中から今では珍しいビデオテープやらアルバムを取り出した、大分年数が経っているらしく見た目からでも十分古さを感じた。
「あ、お父さーーーん!!」
外で幼い姿へと変貌した人気俳優、川月聖夜が手を振っていた、しかし若返ったとは思えないほどその表情は幸福に満ちたモノだった。川月旭は立ち上がると、それではこれで、と会釈をすると出会った時のような自愛に満ちた表情で娘の元へと向かっていった。
「加賀さん……どうでしたか?」
「今回は……限りなく白に近い黒だったな」
加賀は川月をこの事件の犯人ではないかと密かに睨んでいた、実はヤコブ病の事を加賀だけは事前調査で既に知っていた。そして今までの捜査に非協力的な態度から見て、若返りという狙われる技術を拡散して惑わせるため今回の事を起こして娘を救ったのではないかと考えていたのだが……。
「これはもう直感で分かった、川月は単なる幸せな被害者だ」
加賀が手に持つビデオテープの一本には『紗代 五歳 運動会』と書かれていた。
- 95 :名無しなメルモ:2010/08/20(金) 01:16:22
- >>94
ゆむさん更新ありがとうございます
いろんなアイドル達が幼児や乳児になって人生をやり直してますね
1歳ジャストにされた女の子達にはどんな意味が隠されてるのか本当に楽しみです
ゆむさん、続き楽しみに待ってますよ
- 96 :Gyophry:2010/08/20(金) 06:04:36
- 単なる幸せな被害者。
それまでは紗代の人生こそ皮肉と呼ぶにふさわしかったかもしれない。
でもそれらが払拭された今になって、去り際の加賀が口にした言葉もまた
皮肉と言わずにはいられない。
じんわり心に沁み入る話で、続きが気になります。
この謎に納得のいく解答が見出せない自分が悔しくてならんとです。
- 97 :ゆむ:2010/08/21(土) 23:04:04
- 午前七時半 千葉県木更津市 某一戸建て
日曜日の朝、学生や会社員はいつもよりも長く寝ていられる一日。木更津の中でも海に一番離れている町にある、とある家庭の朝はとても平和なものだった。ローテーブルの上には炊き立てのごはんや、納豆に味噌汁、漬物に卵焼きに煮物と見ているだけで食欲を掻き立てられる極々一般的な日本の朝食風景が広げられていた。
尾野彩華は一週間前から妹夫婦と一緒に暮らしている。綾香の右隣には既に尾野という苗字を使っていない三つ下の妹、瀬戸内明菜がお茶を入れて正面にいる旦那の幸治郎さんに渡している。そして彩華の左隣には一人娘の麻衣子ちゃんが彩華の食事を手伝おうと哺乳瓶の用意をしている。
尾野彩華は二十八歳のアイドル声優だった。アイドルとは言ってもそこまで活躍していた訳ではなく、アニメキャラクターの声やそのキャラクターソングを歌い、たまに洋画の吹き替えやナレーション等を定期的にこなしているだけで普通の声優と対して変わらない、同期の女性声優から見てもいまいちパッとしていなかったのだ彩華だった。演技力も性格も決して悪くは無いのだがこの業界では一番の武器である個性が彩華には欠けていた。一時、地方ラジオでパーソナリティを勤めた事もあったが、その性格故に当たり障りの無いトークを行ない良く言えば放送事故が無い、悪く言えば面白く無かったというのが業界での評価だった。デビュー当初こそ豊満なFカップと母性溢れる顔立ちから水着撮影などアイドルとしての仕事も入ってはきていたが二十八という年齢になり、妹は二十歳で子供を作り既に結婚しているため、長女として父親から見合いの話も持ち出されており今後の活動を悩んでいた時期だった。しかしそこに彩華……いや誰もが予想していない出来事が起きる。
- 98 :ゆむ:2010/08/21(土) 23:05:25
- 今から約数ヶ月前、日本の各地で二十代の女性が年端もいかぬ幼児へと若返る事件が起きた。いや、現時点では事件と呼ぶのか現象と呼ぶのか定かではないのだが。そして彩華もその犠牲者の1人だった。
若返ったその日、彩華は自宅で就寝していた。この日は仕事の予定も入っておらずゆっくりとした休暇を取る予定だった。しかし、ゆっくり寝た後、目が覚めると彩華はまず体を動かせない事に気付いた。腕は動かせるし首もある程度動く、しかし体を起こす事が出来なければ寝返りをしようにも布団が異様に重くなっており動くことがで出来なかった。それにベッドがとても広く感じる。助けを呼ぼうとしても口から発せられるのは滑舌の良いいつもの自分の声ではなく、まるで言葉を覚えたての赤ん坊や幼児が喚く様な意味不明な叫びだった。仕事の予定が入っていない為、マネージャーが心配して家に来る事も無いし、誰かと遊ぶ予定も無く彼氏もいなかった為、この状況はまさに絶望的だった。何しろベッドから出て携帯電話を取ることすら出来ないのだ。
半日以上の間その状態が続き意識も朦朧としてきた時、部屋にチャイム音が響き渡り、それからしばらくして事務所のマネージャーと救急隊員によって彩華は救出された。後日談によると事務所の女性声優数人が彩華と同じく若返えるという現象が起きて、事務所は急いで所属している女性声優の安否を確認して回っていたという事だった。
彩華は病院に運ばれ、そこでやっと自分の姿を鏡で見ることとなり絶句した。鏡に映っていたのはふっくらとした肉付きに閉じることも出来ないほど短くぷにぷにとした足、そして不器用な程これまた短くて小さな手、顔は丸くなっており髪も細く繊細になっている、まだ1人で歩くことも出来ないであろう可愛らしい幼児が驚いた顔をして自分を見つめていた。
彩華の母親は数年前に他界しており、父親は地方の料亭で板前をしていた。都内で働く彩華にとって父親には正月だけ妹夫婦達と一緒に挨拶しに行く事にしていた。逆に一時間も掛ければ会える妹とは数ヶ月に一度という頻度で主婦とアイドルの生活を笑いながら語り合う日を一年に何回か送っていた。
リハビリは予想以上にきつかった。というよりも他の若返った女性達と比べてもかなり幼くなってしまった彩華はリハビリ以前に、まずは一歳児並みに動けるようになるところから始まった。最初に意思の疎通を図るために顔の筋肉を動かし喋る練習から始まり、両足で立ち上がったり手で何かを握る等と実際の一歳児程度の幼児と同じような行動をするのが彩華の課題だった。それから数ヶ月経ち、職場への復帰を諦めきれずにいた彩華だったが、妹の誘いもあって政府が若返った女性達を今後どの様に対応するのかはっきりするまで妹夫婦の家にお邪魔することになった。
「はーいあやかちゃーん、ミルクでちゅよー」
彩華からすれば姪という呼び名になる麻衣子が哺乳瓶の乳首を口元まで寄せてくる。二十八歳になる彩華からすれば辱めにしかならないが、麻衣子からすれば始めての妹が出来た様なモノでまだ五歳といえども精一杯下の子の世話しようと頑張っていた。
- 99 :ゆむ:2010/08/21(土) 23:06:11
- 政府は彩華を含めた若返った女性達の事を世間には公表せず、秘密裏に原因解明を探ろうとしていたため若返った事を親族と関係者以外に話すのはご法度となっていた。妹夫婦は彩華の若返りを既に知っていたが麻衣子に関しては事実を話しても、重大さを把握していないが故ポロっと口に出してしまう可能性があった。妹夫婦と相談した結果、事実を隠して親戚の娘を一時的に預かることにしたと偽った方が良いという結論になり、この瀬戸内家では彩華は一歳になった親戚の子供という立場で生活をしていた。
もともと怒りっぽい方ではなく、どちらかというと穏やかな性格の彩華だったが新しい生活は大人としての自尊心を崩される様な日々が続いた。
彩華は麻衣子の腕に抱かれながらゆっくりと哺乳瓶のミルクを飲んだ後、カラフルなプラスチック容器に盛り付けられている離乳食を食べさせてもらった。そう、若返ってからはまず食生活に慣れるまでが大変だった。まだ顎の筋肉も弱く食道も小さな彩華は固形物を食する事は出来ず、病院ではおかゆの様な味付けの薄い流動食しか食べれなかった。妹夫婦の家に来てからも口にするのはベビーフードばかりで今も目の前に美味しそうな日本の朝食が広がっているのに味気ないペースト状の食事は彩華の心を暗くした。
次に辛かったのが衣類だった。トイレに行けない、それどこかまだ排尿感覚さえ無い彩華がおむつを取り替えてもらうのは致し方ないと思っていた。しかしこの生活で与えられる衣類は殆どが麻衣子のお下がりだった。身の回りの世話をしてもらい、さらに経済的にもお下がりを着る方が良いというのは彩華としても理解はしていたが、姪の着れなくなったベビー服に袖を通すというのは些か恥辱を伴った。この体になってから彩華は出来るだけ無地やボーダー、色も地味目なモノを着たかったのだが、出てきた服は妹か或いは麻衣子ちゃんの趣味なのかピンクや水色や白など明るい色を使い、フリルやハート、女の子向けのキャラクターが可愛らしくプリントされている様な服ばかりで、もちろん幼児にしか見えない彩華の体には良く似合ってはいたが、二十八歳にとっては精神的にかなりきついものがあった。
若返った体も、普段は重いだけと思っていたFカップの胸も無くなってしまうとそれはそれで寂しく、何かに◯まって立つ事は出来ても歩くことは出来ない彩華の移動手段は常にハイハイであり、走り回る麻衣子から逃げる事も出来ず仕事をする事の無くなった日常は以前より眠る時間は長くなったものの、それでも長く感じた。だが本来の性格からか、彩華は嫌な事があっても一切不満を垂らさずに今の環境を受け入れる事にしていた。今の自分に彩華に出来ることはそれしか無いのだから。
「ほら、無理矢理飲ませるから彩華ちゃんが嫌がってるじゃない」
状況を察したのか妹の明菜が娘の麻衣子を注意してようやく自由の身になった。そのまま明菜に食事を手伝ってもらい平和な朝食は無事に済む事が出来た。
「それじゃあ買い物に言ってくるからパパは子供たちをよろしくね」
「気をつけていってらっしゃい」
「いってらっしゃいー」
時刻は十時になろうとしていた。今日は日曜でスーパーの朝市があるため明菜は車で買いに出てしまった。普段ならば彩華と麻衣子を一緒に連れて行くのだが今日は休日という事もあり、子供たちは父親の幸治郎と一緒に留守番をする事になっていた。駐車場から車が発進する音をしっかりと確認してから幸治郎は麻衣子に何かを教えるように語りかけた。
「いいかい?パパはこれから二階の書斎で勉強をしなくちゃいけないんだ、だから麻衣子はお姉ちゃんとして彩華ちゃんの面倒を見ていて欲しいんだ」
お姉ちゃんという言葉に麻衣子は表情をパァッと明るくして大きく頷いた。
「わかった!まいこ、おねえちゃんだから!」
すると満足げに幸治郎は微笑んで、何かあったら絶対パパを呼ぶんだよと釘を刺して二階に上がっていった。彩華は幸治郎の行為に大人の男性としての怪しさを感じながらも静かに見送った。たまには家で妻の居ない時間を楽しむ事だって必要だろうと、大人の気を利かせた。それに朝食も済みお腹も膨れた事で彩華自身にも軽い眠気が襲ってきて麻衣子が遊ぼうとしてくれているのだが、睡魔の方が強くリビングで身を丸めて眠りに落ちた。
しかし父親と母親の目も無く、彩華も寝てしまった事で麻衣子は大人たちの考えとは全く違う五歳児の考えるお姉ちゃんとしての行動を可能にさせてしまったのだ。
- 100 :ゆむ:2010/08/21(土) 23:11:56
- 彩華は食後の眠りに落ちてから三十分ほどしてようやく目が覚めた。電車に乗っているかのようなカタカタと体が揺れる感覚に眩しい日差しが彩華の脳を覚醒させていく。
―ふぁぁ……どうしてもお腹がいっぱいになると眠くなっちゃうのよねぇ……うっ……それにしても外の日差しが眩しぃ…………え!日差し!?―
彩華は家のリビングで寝てたはずなのに、外の日差しを浴びている事実に一瞬で目が覚めて体を起こした。
―ここは……―
彩華が見回すと、どうやら自分はベビーカーに乗って外に連れ出されている様だった。ベビーカーには押し手が乗せている子供と向き合うタイプと、押し手が進む方向と子供が同じ向きになるタイプの二種類がある。彩華が乗っていたのは前者でこれも麻衣子が小さい時に使っていたものだった。どうやら寝ている間に乗せられてたらしい。ベルトで固定されているもののふんわりとした柔らかいシートとその中に入っている体にフィットしてくる様なマットが揺れを最小限に吸収して心地よかった。
乗っていたベビーカーが向き合うタイプだったため、揺れの招待は麻衣子がベビーカーを押しているからだと確認する事は出来たのだが、しばらくして彩華の心は急速に不安で覆われていく。
幸治郎さんの姿も妹の明菜の姿も見当たらないのだ。まさかと思いながらもあどけない喋りで麻衣子に向かって語りかける。
「ぱぱぁ……ぱぱぁ……?ままぁ……?」
「あ、彩華ちゃんおきたんだ!パパは家でおべんきょうだから、きょうはおねえちゃんがおさんぽにつれてって上げるからねー!?」
彩華の不安は的中した。なんと麻衣子は自分を連れて一人で散歩に出ていたのだ。五歳児1人の外出でさえ危ないのに、一歳の自分を連れて散歩だなんて無謀としか思えなかった。事実、無謀だという事を知らないからこそ五歳児の麻衣子は彩華を連れ出して来たのだが。
―だけど何かあってからじゃ遅いのよ……!?―
「なきそうな顔でどうしたの彩華ちゃん?」
彩華の不安な表情を察したのか麻衣子が手を止めて覗き込んでくる。
「パパァ……ママァ……」
正体をばらさないようにしながら幸治郎と明菜の事を呼んで家に帰りたい事をアピールしようとする彩華だったが、麻衣子はそんな意図など気付かず全く別の行動に出た。
「あ、わかった!おしっこ出ちゃったのね?」
「ふぇっ!?」
麻衣子がわかったと言わんばかりに声を上げながら体を抱え上げたので、急なその行動に彩華は小さな悲鳴を上げた。
ベビーカーから出るとそこはどうやら家の近くにある大きめの運動公園のようで、噴水や遊具、食事をするような木で出来たテーブルや他には走っている人もいた。麻衣子は近くにあったベンチに彩華を寝させて着ていたロンパースを脱がせ、履いていた紙おむつのテープを切った。
「あぁ、やっぱり!ごめんねーきもちわるかったねー?」
先程麻衣子に指摘されてから彩華は自分の下半身がじっとりと濡れている事に気付いた。排尿の間隔さえ無い今の自分が情けなかったが、この体になってからそういう事態には慣れてはいた。だがやはり姪に下半身をマジマジと見られるのはあまり気持ちの良いものではなかった。
麻衣子はまず、いつも母親の明菜が使っているおむつ交換セットの中からウェットティッシュを取り出して彩華の秘部を綺麗に拭き取る。次に新しい紙おむつを取り出そうとしているのだが、母親の見よう見まねでやっているためかモタモタとした手つきで紙おむつの前後を確認して悩んでいる。下半身を丸出しにしたままの彩華としては早く済ませてもらいたいのだが、自分で交換も出来るはずが無いので心配と心細さの合い混じった感情で麻衣子を見つめる事しか出来ずにいた。ようやく、仕組みが把握できたのか麻衣子は紙おむつを広げ彩華のお尻の下に新しい紙おむつを滑り込ませた時だった。
- 101 :ゆむ:2010/08/21(土) 23:13:39
- 「あっ!麻衣子ちゃーん!!」
遠くで若い女の子の叫ぶ声が響いた。彩華と麻衣子が同時に声の方向を向くと、麻衣子と同い年程の少女がこちらに向けて大きく手を振っていた。
「あっ美優ちゃん!!」
麻衣子は視線の方向に体を向けて手を振り替えした。
「ごめんね、彩華ちゃん、ちょっとまっててね!」
「……ぇえっ?」
そう言うと、なんと麻衣子はそのまま美優ちゃんと呼んだ少女の方向へ駆け出してしまったのだ。
「ぇっ……えっ?ふぇっ!?……ま、まいこちゃぁん…………」
上手く回らない口で麻衣子を叫ぶが返事は返ってこない。あまりの突然の出来事に一瞬彩華の頭が白くなる。何しろ自分は1人で家に帰ることはおろか、歩くことすらまだ出来ないのだ。しかも下半身を丸出しの状態で人目のつく屋外のベンチに寝かされてしまっている。不安から少し遅れて恐怖という感情がジワジワと湧き上がってくる。
これが妹や幸治郎さんなら彩華もこれほど慌てなかったであろう。しかし、今一緒に外に来ているのは僅か五歳の女の子なのだ。もしかしたら友達と遊んでいるうちに自分の事を忘れてしまうかもしれない。戻ってくる前に野良犬にでも襲われたら下手をすれば死んでしまうかもしれない、知らない子供に悪戯されるかも、危ない大人に誘拐されるかも。ありとあらゆる怖い妄想が次々に浮かび、彩華は体を震わせた。何しろ今の自分はいくら二十八歳の頭脳を持っていても体は無力な幼児なのだ。どんな事態が起きてもされるがまま、自分の意思とは関係無しに流れに身を任せる事しかできないのだ。
麻衣子が離れてどれだけの時間が経ったのか分からない。一分か……それとも十分は経ったのか。下半身は素肌に風が通る度に肌寒く、上半身を起こす事は出来ても、ベンチの上という危険な状態でそれ以上体を動かすこともできなかった。お尻に敷いてあった紙おむつは動いているうちにベンチの遥か下まで落ちてしまった。何とかベンチの上で四つんばいになると綾香は必死で麻衣子を探そうとするのだが、その低い視点で何処を見回しても見つからなかった。焦りがどんどんと先程浮かべた恐怖を現実のものへと近づけさせ彩華の目には涙さえ浮かびはじめていた。
「まいこおねえちゃぁぁぁん……」
出来る限りの大きな声で麻衣子を呼ぶが近くを走っていた男性がチラッとこちらろ見ただけで肝心の麻衣子は姿を現さない。
その後も何度も叫んだのだが麻衣子はこちらに帰ってくる気配がなかった。もうどこに行ってしまったのか分からない。まるで無人島に1人で漂流してしまったかのような絶望感に怯え彩華の理性は限界を迎えた。
「ふ……ふぇぇぇぇぇええええん」
若返った体は涙腺が緩いのかどうかは分からないが、自ら何もする事の出来なくなった彩華はもう感情を爆発させて泣き上げるしかなかった。不安な気持ちを泣き声にして響かせるその姿は誰がどう見ても一歳児そのものだった。
1人で泣いている幼児の姿に流石に周りにいた大人たちも心配し始めたのか何人かがどうしたものかと集まって来る。そして彩華も涙以外にも鼻水や涎を垂らし息が切れて、わぁわぁと泣くことに疲れてきたとき、ようやく麻衣子が大人たちの間から現れた。彩華はやっと来た麻衣子に今度は安堵の涙を浮かべる。
「あぁ!彩華ちゃん、どうしたんでちゅかー?おねえちゃんがいなくなってさびしかったんでちゅねー、よちよち」
居なくなった事を詫びる訳でもなく、新しいおむつに替える訳でもなく、麻衣子はそのまま彩華を抱き上げて赤ちゃん言葉であやした。彩華は決壊した涙を止める事が出来ずに、安心を掴んで話さない様に下半身を顕にしつつも麻衣子の大きい体を抱きしめ続けた。
- 102 :ゆむ:2010/08/21(土) 23:14:50
- ヒックヒックと彩華が泣くのを落ち着きはじめたので、ようやく周りの人たちも離れ、泣いてぐしゃぐしゃになった顔を綺麗にしてもらった後、やっと彩華は麻衣子に新しい紙おむつに替えてもらった。
「この子、麻衣子ちゃんのいもうと?」
先程手を振っていた美優ちゃんと呼ばれる少女が麻衣子に尋ねる。
「ううん、彩華ちゃんはしんせきの子で今は、麻衣子がめんどうを見てあげているの!」
えっへんと威張らんばかりに美優ちゃんに対し胸を張る麻衣子を彩華はやれやれと泣き腫れた顔で見上げていた。
「じゃあ、その彩華ちゃんもいっしょにあそぶ?」
「うん、いいよ!!」
彩華の意見など関係無しに、麻衣子が勢い良く承諾をする。だが当の彩華は遊ぶ遊ばないより前に、別の不安を感じていた。美優ちゃんはもちろんの事、先程まで綺麗な洋服を着ていたはずの麻衣子だが、今の格好は頭からびしょ濡れで所々泥がはねたのか茶色い染みになっていた。恐らく下着も靴の中も水が入ってしまっているであろう。麻衣子が顔を擦ると手についていた土がどこかの民族化粧の様に目の下に模様を描いた。
「彩華ちゃん、じゃあおねえちゃんたちといっしょに、ふんすいのそばでおしろをつくろう!」
そう言うと麻衣子は彩華を抱えたまま友達と一緒に噴水に向かって駆け始めた。そして遅れて彩華の悲鳴に似た泣き声が木霊した。
遊びも終わり泥だらけの格好で家に帰ると、既に明菜はすでに帰ってきており麻衣子はもちろんの事、旦那の幸治郎も子供達が抜け出した事に気付かなかった事で怒髪天を衝く怒りを受けることになった。
麻衣子の場合は着ていた服と彩華を乗せたベビーカーまで泥まみれにしていたため、庭でパンツ一丁になってベビーカー洗いの刑となった。半泣きでだっておねえちゃんだからとブツブツと文句を垂れていたが、母親の明菜とすれば何事も無く帰ってきてくれてホッと安堵していた。家に帰って麻衣子も姉の彩華の姿も無く、ベビーカーまでもが消えていたときは心臓が止まる思いだったのだ。
彩華は麻衣子よりも先に明菜にシャワーで綺麗にしてもらうことになった。アレだけ大変な思いをしたのに、実は家を出てから二時間も経っていない事に彩華は驚いた。確かに子供のときは一日の時間がとても長いと感じていたが、若返ったせいかここ最近は大人だった時と比べ、日を追う毎に時間の流れが遅く充足しているように感じていた。
「ごめんねお姉ちゃん……まさか麻衣子が1人で外に出るなんて思ってもなくて……」
彩華の小さな頭についた土をシャワーのお湯で洗い流しながら明菜は幼い姉に謝った。
「いいのよ……べゆに、だえかが、けがすゆなんてこよもあかったんやから」
上手く呂律が廻らないせいか、ゆっくりと喋り気にしていないと彩華は妹を許す。
「でも、麻衣子はお姉ちゃんが来てから色々変わったのよ?」
「えっ?」
「以前は嫌な事があったらスグに泣いていたし、散らかしたら片付けないし、好き嫌いも多かったけど、お姉ちゃんが家に来てから何かとお姉ちゃんだからって自分の事は自分でするようになったし、我侭を言わなくなったから……これでもお姉ちゃんには感謝しているのよ?」
「……そっか」
妹夫婦の家に来てから面倒ばかり掛けてしまっているのではないかと、少しばかり気が重かった彩華だったのだが、これでも少しは麻衣子ちゃんの自立に役立ってはいたのかと思うと気持ちが少しだけ軽くなっていくのが分かった。
だが、彩華の心はどこか……充実した日々を送っていても、若返ってから肉体以外に何かを失ってしまった様な変な感覚があった。
- 103 :ゆむ:2010/08/21(土) 23:16:09
- 体を拭いてもらい、新しい服に袖を通して抱っこをされながらリビングに戻ると、付けっぱなしにしてあったテレビから可愛らしい少女の声が聞こえた。
彩華は抱えられながら何処か懐かしい響きの声に反射的にテレビの映像を見つめた。
「……あれ?お姉ちゃんどうしたの!?」
明菜が抱えている姉がボロボロと泣いているのに気付いて焦りながら尋ねる。しかし彩華は妹に対して何も語らなかった。
何故自分でも忘れていたのか分からなかった。テレビに映っていたのは少女向けアニメで、かつて自分が声を当てていたキャラクターが自分ではない誰か別の女性の声で一生懸命、悪役のキャラクターと戦闘しているシーンだった。
彩華は若返り、若返った姿で過ごすうちに無意識のうちに大人だった時の居場所を忘れて自分が傷つかないようにしていたことに気付いた。彩華はこの精神が狂うような現象の後、どんなに恥ずかしい事や大変な事があっても、そこに自分の居場所を作ることで何とか自我を保ってきていたのだった。かつての自分の居場所を忘れている事に気付かず。
しかしテレビの映像でかつて自分が確かにいた場所は、すでに別の声優によって奪われて……いや、代わりになってもらっており、居場所を失って初めて自分がいかにアイドル声優という職業を愛していたのかを実感した。個性が無いと言われても、同期はどころか後輩に追い抜かれても、そこは立派な彩華の居場所だった。肉体の若返りも姪に対する立場も、妹に世話になることも、お下がりを着る事にも絶えられたのに、かつて自分が存在した証も居場所も自分が気づかない間に無くなってしまっていた事に静かに涙を流した。それは数時間前、麻衣子を呼ぶ時とは違い、大人の……仕事に誇りを持つ女性の涙だった。
- 104 :ゆむ:2010/08/22(日) 20:28:43
- 午後十時半 東京都千代田区 警視庁記録室
加賀は1人でモニターに映し出される映像を見つめていた。ここ最近は整えていないのか髭は様々の方向へと自在に伸びていた。
「やはり……しかし何故ここに……」
川月から受け取ったビデオテープは中の映像を動画データーに変換してUSBに入れておき、オリジナルは本人に返していた。
加賀の手元には膨大とも言える若返った女性達のデーターが広げられていた。そしてその中の一枚の写真を取り上げるとモニターと交互に確認する。
川月は若返った娘の検診を断っていたため、説得の上、娘の過去のデーターと呼べるモノを全て提出することで合意した。若返りの原因さえもつかめていない現状、まずはどういう若返りなのかを調べる事から始まった。
つまり、背が低くなり、骨格が変わり、皮膚が変化した事で結果的に子供の様な外見になったのか、それとも十数年前の肉体と全く同じ組織細胞に変化して本当に子供時代の肉体へと若返ったのかということだった。現在の調査ではほぼ間違いなく後者であると研究員は報告している。若返った後の女性達も本来の成長速度で肉体が発達していることが分かっていた。
しかし、加賀はそんな事を見比べている訳ではなかった。手元にある写真は、元人気俳優の川月聖夜ではなく別の女性が写っていた。
「何故……彼女がここに……」
誰も居ない、夜の記録室で加賀は自身の髭をザリザリと弄りながら食い入る様にモニターの映像を睨んでいた。
- 105 :ゆむ:2010/08/22(日) 20:29:41
- 午後一時 東京都港区 某スタジオ
天井が高く広さのあるスタジオで証明が当たっている場所には子供部屋の様なルームセットが作られている。そこで無邪気に遊ぶ姉妹の様な二人組が何台かのビデオカメラで撮影されていた。
その現場から少し離れた所で石辻紫は煙草に火をつけぼんやりと撮影風景を眺めていた。
石辻紫は小さな芸能事務所の代表取締役である。もともとモデルで活躍していた紫が当時の好景気で稼いだ金と、世間の波に乗っかるようにして立ち上げた事務所だった。しかし時が経つにつれ、アイドルを目指す若手も時代の流れと共に少なくなりアレやコレやと色々な事業に手を出したが上手くいかず、結局はアダルトビデオや風俗関係に手を出して何とか傾きかけた事務所を持ち直してきたと言う所だった。
こんなはずではなかった……と紫は度々思い返すが、過去に戻ることは出来ないし自身ももう若くはない。世間から見ればまだまだ美しいと言われる部類に入る紫だったが、五十を前にしていよいよ老化の始まりを隠せなくなってきた。離れた場所で撮影されている子供達に惨めな嫉妬さえ覚え、そしてそんな事を考えてしまった自分に嫌気がさし、磨り潰すように煙草を灰皿に押し付けた。
撮影されているのは白雪美琴という元レースクイーンのグラビアアイドルだった。豊満な肉体が魅力的で、強気な性格と妖艶さから和製ラミアとネット上などで比喩される程の人気を博していた。
しかし撮影されている子供はどう見ても二、三歳程度の幼女と小学校高学年程の女の子だった。しかし高学年の児童はともかく小さな幼女は確実に白雪琴美であった。約数ヶ月前、日本の各地で二十代の女性が年端もいかぬ幼児へと若返る事件が起きた。いや、現時点では事件と呼ぶのか現象と呼ぶのか定かではないのだが。
白雪琴美は変わり果てた姿で幼児用紙おむつのコマーシャルに出演していた。
紙おむつは有名ブランドで今回用いるコマーシャルの費用にもかなり額を投資していた。コンセプトは兄や姉でも下の子の世話ができるように、暴れる幼児を小中学生でも簡単に取り替える事を可能にする伸びるギャザーと心地よい肌触り、可愛らしい有名アニメキャラクターを新しくデザインに用いたことを前面に売り出すといったものだった。
カメラモニターに映し出されている琴美はピンク色のTシャツに袖を通し、姉役の女の子から逃げ回っている。下にはズボンもスカートも履いておらず新しいデザインになった紙おむつが歩くたびに可愛らしく揺れている。じゃれ合う様にして姉役が琴美を捕まえると琴美は笑いながら姉役の腕の中で暴れまわる。しかしそんな琴美に手を焼きながらも姉役が紙おむつに手を伸ばすとスルッと脱がし、新しい紙おむつを手にするとじゃれ合いながらもまるで遊ぶように履かせたところでカットの合図が出る。
もちろん今までの一連は全て演技であり、小さい頃からおむつ離れが早かった琴美は若返った今でも紙おむつの世話になっている訳ではなかった。全ては演出であり衣装も全て用意されたものだ。
- 106 :ゆむ:2010/08/22(日) 20:30:54
- 休憩に入ると各々喫煙所やスタイリストの元へと散らばり張り詰めていた空気が和らぐ。しかし琴美の演技は休憩中でも続く。政府から若返った事を他言しないように、もしばらした場合はそれは犯罪であると忠告されていたので、こうやってコマーシャルに出演出来るのも事務所に所属している他の子役の名前を使っているからだった。
琴美は母親と偽っている年配マネージャーに駆け寄りそのまま休憩室へと消えていった。
紫はぼんやりとその光景を眺めていると後ろから静かに声を掛けられた。
「いやぁ、まさかあの子が和製ラミアと言われていた白雪琴美さんとはねぇ……」
いきなり琴美の正体を明かした男の声に紫は焦りながらもゆっくりと振り返る。
「あ、あなたは……」
「お久しぶりですね、本庁から来ました楠木です……覚えてますよね?」
「え、ええ……久しぶりですね、で今日は何の用事からしら?話すことは数ヶ月前に全て言いましたし、検診も欠かさず通わせているはずですけど?」
紫は髪を◯き上げながら平然と答える。
「あなただって何故僕が来たか分かっているでしょう?国家機密に入る今回の事件で被害者である白雪琴美が何故コマーシャルの撮影なんかに出演しているのかという事です」
「なんかとは酷い言われ方ね、これはちゃんとしたビジネスよ?事務所にいる子役の名前を使って出演しているから世間にバレる心配はないから大丈夫よ」
「一ヶ月毎に被害者の方々には法外とも言える支援金を出しているハズです、それに報道規制も掛けている中こんな自らバラしにいくような真似……」
「報道規制って言ってももうそろそろ限界でしょ、ネットやマスコミにだってもう隠しきれないわよ、若返った被害者だって元の姿には時間を掛けなきゃ戻れないって事を自覚してきている時期だし我慢にも程が」
「話をズラさないでください」
紫の言う通り若返った現象が起きてから数ヶ月経った今、世間には真相の噂がチラホラと流失しだし政府は被害者からのストライキを恐れ被害者同士の接点をさせないように躍起していた。しかし楠木はそれが余計事態の悪化を招いていることも分かっていた。楠木自身も政府のやり方に大いに不満を抱いていたが、若返らせた原因も犯人も見つけられない自分が言える立場ではないという事も分かっていた。
「一ヶ月に一回の支援金じゃあ、あの子の借金を当分は返済出来ないのよ」
紫は二本目の煙草に火を着け、ゆっくりと吸い込み吐き出した。
「あの子の家は結構な借金があってね、家族に返済の責務を家族に擦り付けて父親が蒸発しちゃったのよ、それで今は娘が頑張ってお金を稼いでいるって訳よ」
紫は白い煙を吐き出しながら語り目を細めた。
「しかし、若返った彼女を名前を偽っているとはいえメディアに露出する様な事を……」
「……楠木さん、これは大きなチャンスなんですよ」
「……チャンスとは一体?」
煙草を吸いながら平然とした態度で居る紫に楠木は眉を細めた。
「今の芸能界には優秀な子供が足りないのよ、しっかりと演じて言われた通りに行動してこちらが望む以上の事をしてくれるような子供がね……なのに募集してやってくるのは自分の子供を自慢したいようなどうしようもない親と躾のなっていないガキ、こちらが注意でもして泣かれたりすると訴えてやると言わんばかりに文句を言ってくるような親が日本にはたくさんいるのよ、あんた達が出してくれって頭下げに来たのに子供が少しメディアに出ただけで手のひら返した様に威張る連中がね」
- 107 :ゆむ:2010/08/22(日) 20:32:00
- 「……なるほど、しかしそれは仕方の無いことじゃないんですか?」
「私もこの間までそう思っていたわよ、しかしそこで現れたのが大人の演技力を持ったプロ意識の高い幼児になった女性達、まさに金の卵よ。知ってる?こういう紙おむつや幼児用製品のコマーシャルって言うのは大変で、子役に泣かれでもしたら撮影が一時間ズレるなんてざらだし、こちらの思惑通りに動いてくれないことなんて日常茶飯事なのよ、レッスン料とか取って何とかお金になるぐらいな感じ……だけど彼女……琴美は違う、言われた通りの演技を行いどんな要望……例え幼児の様な大人の女性からしたら恥ずかしい格好でも台詞でも自身を捨ててまで演じる事が出来る……素晴らしいと思わない?」
「あなたは人としての道理を外してまで金銭を必要としているんですか?」
淡々と質問を投げ返す楠木に紫は煙草を灰皿に押し付けると大きな溜息を吐いた。
「……言っておくけど私だって鬼じゃないんだから無理にあの子を働かせている訳じゃないのよ?あんな体になったんだから国の医療センターか何処かで預かってもらいなさいよって琴美には言ったのよ?」
「だけど彼女は承諾しなかった?」
「まぁ、そういう事になるわね……あの子のプロ魂なのかアイデンティティなのか分からないけどアイドルは無理でも役者として働きたいって言うから私も彼女の心意気に乗って働く場を用意してあげただけよ、それにこれは芸能界にとっても革命的な出来事なのよ」
実際紫の言った事は間違っては無かったが本心としては棚からぼた餅と言わざるを得なかった。この不況の中、日本……いや世界から見てもトップレベルの演技力を持つ子役を与えられたのだから。
しかし、楠木の関心はそんなところには無かった。
「そうですか……変だなぁ」
そう呟くと楠木は現状にはまだ介入しないという事とくれぐれも正体をばらさない様忠告するとその場を後にした。
楠木自身にも報道規制の限界は感じていたし、若返った女性のストレスや原因解明に至っていない事に苛立ちを通り越して投げやりにすらなっていた。その中で楠木が今回の件で変だと感じたのは琴美は何故借金の返済を言い分に事務所の社長に言い訳をしてまで仕事をしているのかということだった。楠木の調べた資料では琴美の借金は若返る数週間前に全て返済してあるとの記録が残っていた。
- 108 :名無しなメルモ:2010/08/23(月) 07:59:59
- ゆむさん更新ありがとうございます!
グラビアアイドルがオムツのCMに・・ギャップがかなり興奮しますね!
とにかくセクシー系が1歳児に逆戻りが一番ギャップがあって萌えますよ
これからも続きを楽しみに待ってます!
- 109 :ゆむ:2010/08/23(月) 16:56:21
- 午後一時二十分 東京都港区 某スタジオ控え室
「琴美さん……もうこれで止めにしませんか?」
背の高い中年女性が両サイドに取っ手の付いる幼児用のマグカップでジュースを飲んでいる小さな女の子に丁寧に話しかける。
「やめるって……なにを?」
細く甲高い少女は幼児特有の声で中年女性に対し敬う気持ちのの欠片も感じさせることなく問い返した。
少女の名は白雪琴美と言い、暦とした二十七歳の成人女性だった。しかし若返った彼女は今では四歳児程の容姿となっていた。四歳といえでも小さい頃は発育が遅かったため一、二歳若く見え実年齢よりもさらにさらに幼く見えた。
「琴美さんは若い女性の憧れで、テレビでだって女性の強さを象徴したようなアイドルって騒がれてたのに……なのにこんな惨めな仕事をしなくたって……」
琴美は小さくなった手を眺めつつマグカップをテーブルに置いた。
遥か上からの目線で琴美を見つめる中年女性はマネージャーであり、今では名を偽って琴美の母親という事にしていた。
「べつにわたしは、みじめとおもってなんかいないし、つよいじょせいっていうのも、わたしがそういうふうに、えんじていたからでしょ?どんなすがたになっても、わたしはわたしに、じしんをもっていたいの」
幼い口調からか喋りが息継ぎのため所々途切れるがはっきりとした言葉は若返る前の琴美の姿を彷彿とさせていた。
「でも……」
マネージャー、田所峰子は琴美の指先を見つめ話そうとしたが途中で止めた。琴美の右手の親指は他の指と比べ赤く腫れたようになっており爪は軽くふやけていた。峰子はその原因が琴美の指しゃぶりにあると気づいていた。
ストレスを感じない訳がなかった。強気なキャラクターを演じていたとはいえ自身が鍛え整形などに頼らず育て上げた体が若返ってしまったのだから。それに喫煙家とも知られていた琴美が若返った後、煙草が吸えず代わりに人がいない所で指しゃぶりをするようになったが峰子はそれを止めさせられる事が出来ず、社長も社長でそんな琴美の前で無神経に煙草を吸ったりするのが嫌で仕方がなかった。
峰子は琴美が煙草の他にも若返ってから好きなお酒も飲めず、付き合っていた彼氏とも連絡を取る事が出来ず自然消滅していたのも知っていたし、その切なさを自ら慰める事も出来ずそれでも平然とした態度を振る舞い仕事をしようとする彼女に掛けられる言葉も無く、そしてそんな自分がとても情けなく思えていた。
「そろそろ、きゅうけいもおわりでしょ、へやをでたら、ははおやになりきりなさいね」
- 110 :ゆむ:2010/08/23(月) 16:57:08
- 峰子にとって琴美は自身の生きがいでもあった。あがり症の性格ゆえアイドルになる事を諦め、芸能事務所のマネージャーとして働き何人もの芸能関係者と携わってきたが、琴美は大成するという確信にも似た自信があった。峰子は自身が果たせなかった夢を琴美に託すように今まで以上にマネージメントをこなし、それに答えるように琴美も様々なメディアで活躍した。峰子はこの仕事に携われて幸せだと感じ、琴美からは他人にはないモデルとしてのオーラが確かに存在していた。
しかし若返りの一件で築き上げたモノは無残にも崩壊してしまった。マネージャーの自分でさえそう感じていたのだから当人の琴美は想像を絶するショックだったであろう。だが琴美は若返って検診の日々をしばらく送ると社長と峰子に仕事の復帰を要望して二人を驚かせた。
「なぜ琴美さんは……そこまでしてこの仕事を続けているのですか?私、知っているんです……借金は全て返済したって……」
峰子の発言に琴美は履いていた紙おむつのズレを直しシャツの乱れを整えた。他者から見たら幼児に対してその親とも言える年齢の女性が自分よりも目上に対するかの様に喋っているのだからさぞ滑稽に見えることだろう。
「マネージャー、そのことを、ほかのひとに、はなしたりした?」
振り返った琴美の眼差しは既に幼児のそれでは無かった。
「……いえ、今琴美さんに話したのが初めてです」
たじろぎながら峰子は喉が渇くのを感じつつ琴美の問いを返す。実際に他人に話していないというの真実だったし、例え誰かに話してしまっていたとしてもそれを隠す事無く琴美には話していただろう。それだけの迫力が彼女にはあった。
「だったら、しんじつをはなすから、そしたらなにもいわず、いままでどおり、わたしのしごとをてつだって」
「……わ、わかりました」
峰子が搾り出すように返事をすると、琴美は今までの経由とこれから自分が行う事を話し始めた。
琴美が事務所に入る時に口にした、父親の借金を肩代わりしているというのは真っ赤な嘘であった。借金をしたのは琴美の母親で父親は母親の借金癖に困り結果離婚したのだった。
琴美は大好きな父親と別れる原因を作ったギャンブル好きな母親を恨みつつ、その後も借金を繰り返してまでギャンブルに嵌る母親を哀れにさえ思った。
琴美が小学校低学年のとき、母親に連れられて子役タレントをプロデュースする芸能事務所に入れられた事があった。初めは何故自分がこの様な場所に入れられたのか理解ができなかったが、年を重ねるにつれそれは母親が自分の事を可愛がり皆に自慢したいが為に親バカの如く事務所に入れたのだと思っていた。
そしてその期待に応えようと子供服のモデルや国営放送の教育番組に出演しては持ち前の性格と大人びてきた見た目で活躍した。そして離婚してからでも数ヶ月に一回会える父親に褒めてもらうためにも、テレビや雑誌越しに父親に自分の姿を見てもらう為にも精一杯頑張った。
- 111 :ゆむ:2010/08/23(月) 16:57:46
- しかし若くして仕事をこなせばこなすほど母親の本当の意図が分かってきた。母親は自分を芸能界で活躍させてお金を稼ぎたかっただけだったのだ。ギャラは全て母親に管理されていたし自由に使えるお金など持たせてもらえなかった。さらに、芸能事務所に入れる時に借金をさらに重ねてまで自分をこの世界に担保代わりとして入れたことを知り、琴美は自分がまるで先行投資された競馬の馬や株券ではないかと失望し嘆いた。
生活は琴美の活躍もあり、まともな生活を送られるようになっていた。しかし琴美が高校を卒業するのと時同じくして母親の経営していたスナックが潰れ、さらに母親は性懲りも無くギャンブルを続けており多額の債務を抱えていた。その頃から父親と連絡が取りにくくなって来ていたし、琴美の気持ちとは逆に顔を合わせる事も少なくなっていた。
今の事務所に所属するときも借金がバレると色々スキャンダルになるからと母親と琴美は父親が借金を残して家を出て行ったのだと自ら社長に話していた。母親がこれ以上ギャンブルに嵌らない様に精神科の治療を受けさせ、琴美が二十七の誕生日を迎える頃にはようやく借金完済の日が近づいてきた。そしてそれから数ヶ月して琴美は若返ってしまった。
琴美がこの仕事を続けてきた理由は二つあった、1つは借金の返済、そしてもう1つは高校を卒業してから会えずにいた父親に会うためだった。自分が仕事を頑張れば頑張るほど父親と出会え探せるチャンスが増えると思っていたし、父親もきっと何処かで自分を見てくれていつかは向こうから連絡をして来てくれるかもしれないと考えていた。
そして借金を返済して若返った今でも仕事をこなしている理由も二つある。1つは先ほどの父親と出会えるチャンスを探すため、きっと父親なら若返った自分に気づいてくれると思っていた。そしてもう1つは私達が若返ったという事を世間に公表するためだった。
厳しい報道規制が掛かった今、現状を世間に公表しようとした段階で政府に捕まってしまうだろう、だから琴美は借金がまだ残っていると社長を騙し仕事をしてメディアに出ている裏で自分の幼い頃の画像や密かに手に入れた他のアイドルの幼少時代の画像をネット上でばら撒いたり、今の自分が使っている別の子役の名を静かに広め、公式に掲載している写真の子供出演している子供が違うという事を知らしめようとしていた。
こうした政府が関与している規制が掛かった状態で真実というのは世間に広まりにくく、話題を広める為にはある意味スキャンダルも必要だと琴美は考えていた。そして何とかバレる事無く現在に至っていた。
「わかがえったからって、じぶんにぜつぼうしてなにもしないのは、にげているのといっしょよ、まずはどういうかたちであれ、しんじつをしってもらわないと」
琴美の話を聞いた峰子は先ほどとは打って変わったような表情で強くうなずいた。
「はい……さっきの約束通り、今まで以上に琴美さんの仕事をお手伝いさせていただきます」
その声には琴美に対する同情も心配も迷いも感じさせないる気に満ちた力強さがあった。
- 112 :ゆむ:2010/08/25(水) 20:09:45
- 午後七時五十分 千葉県 国立環境研究所
営業時間など存在しない研究所といえでも夜中の七時を過ぎると昼間とは打って変わって人の気配が消える。無機質で温もりを感じさせない冷たい廊下の奥にあるのは結構な広さのある講義室だった。加賀は数十分前から1人でそこに待機していた。
午後八時を回った頃にようやく講義室のドアが静かに開けられた。中に入って来たのはスーツを着た細身の背の高い鉛筆の様な外見をした中年男性だった。
「お待たせしまして申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ急なアポでご迷惑をお掛けしました、野口さん」
中年の男性は名を野口泰蔵と言い、この研究所で環境リスク研究プログラムに携わっている研究員であり、刑事である加賀昭二が最近になって追い求めていた人物でもあった。
「ところで娘さんはお元気ですか?」
「ええ、今は精神も安定しており以前の様な明るさを取り戻してきてますよ」
野口には一人娘がおり名を野口美野里といい、女性向けファッション雑誌や企業のイメージガール、最近では舞台や声優などと活躍の場を広げていた若手女優である。
だが今では若手女優であったと過去形になる。半年前、日本の各地で二十代の女性が年端もいかぬ幼児へと若返る事件が起きた。いや、現時点では事件と呼ぶのか現象と呼ぶのか定かではないのだが。
野口美野里も若返った1人だった。加賀も若返った美野里と親の野口泰蔵、事務所の社長の三人に事情聴取を行っていたが特に気になる点も無く、野口美野里を検診という名の政府の監視下に預ける事を承諾してもらいそれから数ヶ月間、その存在を忘れていた。
- 113 :ゆむ:2010/08/25(水) 20:10:57
- 二人は机を正面に向かい合わせせる様にして座るとまず加賀から口を開いた。
「それで、その娘である美野里さんは今何処にいらっしゃるんですかね?」
「……おや?警察の方がその様な事を言うなんて可笑しな話じゃないですか?」
ほくそ笑む様な野口の態度に一瞬加賀は違和感を覚えた。
「……それはどういう事ですか?」
「どういう事って、政府は若返った女性全員に小型GPSを埋め込んでいたじゃないですか」
加賀は思わず硬い唾を飲み込んだ。何故なら野口がサラリと語った内容は政府内でも極秘として扱われていた内容だったからだ。確かに若返った女性達の略全員に居場所を特定できるよう小型のGPSを箇所で言うと肩甲骨の辺りに注射器の様な物で埋め込んでいた。それもレントゲン写真等には写りこまないように素材と埋め込む場所に工夫をしてまで。
「冗談にしては面白くありませんね、そんな物はありませんし、そういった物騒な事は政府は行いませんよ」
加賀は平然を装いながら自身の髭を弄りつつ笑顔を浮かべた。
「これでもですか?」
野口は加賀に連られた様に笑うと懐から小さな機械部品の様な物を取り出し机に置いた。そしてそれと同時に加賀の表情が真剣なものになる。置かれたのは先ほど存在しないと口にしたばかりの小型GPS装置だった。
「何故これを……?」
「娘に埋め込まれてあったものを外しただけですが?……大方、美野里の所在を調べようと現在地を調べたところこの研究所から動く気配も無く親の私に連絡しても娘は元気でいる等と言っているから、殺したか、もしくは若返りの研究を独自で行っているとでも思ったといった所でしょうか?」
見事なまでの図星に加賀は一瞬言葉を見失う。
「ええ、確かにそれは政府が本人の許可無く秘密裏に行ったものです、非礼はここで詫びますのでどうか他の人達には御内密に……」
加賀が深く頭を下げようとするのを野口は微笑みながら止めた。
「そんな、いいですよ最初から分かってた事でしたし……それに今日は何か聞きたい事がきてここまで来たんでしょう?加賀昭二さん」
数ヶ月前に初めて会った時、何故野口を印象の薄い男として記憶していたのか加賀は自分を問い詰めたくなった。目の前にいるのは本心の見えない笑顔のマスクを貼り付けた不気味な男だ。
「……野口美野里は今どこにいる?」
口調と声質が変わり半分脅すように加賀は言い放った。
「研究所内に居ますので後で呼んで来ましょう、その前に美野里への用件をお伺いしておきましょう」
研究所内に娘が居る事に若干不審に思いながらも加賀は話を進める。
「野口さん、あなたは美野里さんの実の父親じゃありませんよね?」
「……ええそうです、美野里は元々孤児で、1歳の時に私が孤児院から引き取って養子した娘です」
「では何故、結婚もしていない1人暮らしの男性が養子に招いたりしたんですか?」
「ほぉ、よくお調べになりましたね」
まるでテストでいい点を取った子供を褒めるように野口は満足そうに喜び頷いた。
「でも、それは本当に聞きたい事ではないのでしょう?順を追ってからその質問には答えますよ」
加賀は野口に何を話しても心の中を見透かされている様な不快感を覚え、核心である内容が記録されているスマートフォンを取り出し1つの動画を再生させた。
「これを見ろ」
- 114 :ゆむ:2010/08/25(水) 20:13:46
- 動画の内容は幼稚園の運動会か何かの様子が移しだされていて、可愛らしい女の子の姿が映し出されている。どうやらお昼の食事中を撮影している様で、まだ年端もいかぬ女の子は弁当食べるのに悪戦苦闘していて父親であろう撮影者が笑いながら手を貸してビデオを回している。そこに1人の若い女性が現れ女の子の前に屈みこんできた、そして聞き取れないが撮影者と会話をしながら女の子とスキンシップをしながら笑い会っている。
加賀はそこで画像を停止させた。ここまでの内容ならとても微笑ましい様な光景であった。
「これが……何だと言うんですか?」
「惚けるなよ……何で二十年以上前の映像に若返る前の野口美野里が映っている!?」
そう、動画の中に映っていた女性は半年前に若返った筈の野口美野里の姿にそっくり……気味悪いほど瓜二つだった。
「……それはただの美野里に似ている人じゃないんですか?」
「これを見てもそう思うか?」
待ってましたと言わんばかりに加賀は封筒から大小様々な写真を取り出した。ピントが合っていなかったり、色が落ちている写真もある。中には映像から切り出してきた写真もあったが、どの写真も端や野口美野里そっくりな女性が写されていた。日付を見ても殆どが今から二十年以上前の写真であった。
これらは全て今回の若返りの一件で若返った女性達から押収したものだった。最初は加賀も美野里そっくりの別人か、もしくは本当の母親かと思っていたが、ホクロの位置や話している動作、映像や画像から推測できる身長やボディライン全てが若返る前の野口美野里と瓜二つだった。
「これでもまだ惚け続ける気か……?もう一度言う、何で野口美野里が二十年以上前の映像に映っている?」
「そこに映っているのが若返る前の野口美野里だからじゃないんですか?」
野口の言葉に加賀は一瞬言葉を無くした。
「……!!なんだと!?じゃあ野口美野里は二十数年間、歳を取る事無く生きてきたというのか?調査内容にはしっかりと子供時代の写真や記録も……」
「じゃあ美野里は二十年前に既に若返っていたんじゃないのでしょうかね?今回の事件みたいに」
「なん……だと……?」
「彼女は今回若返った人達の幼少期に接触を試みて、その後自分もその人達に紛れ込むために若返ったっていうのはどうでしょう?」
「そんな馬鹿な仮説を信じられるか!!急に人が居なくなれば記録に残るし、そもそも若返った原因も分からない!しかもそれならば野口美野里とは一体何者だという話になる!」
怒鳴る加賀に野口は先ほどのふざけている様な態度から一変して恐ろしく冷たい視線を加賀に向けた。
「そうです、もともと彼女は人間ではありません」
「人間じゃないだと!?ふざけるな!!冗談もそこまでにするんだな!!今すぐお前と野口美野里は署まで同行して……!!」
「加賀昭二さん、私は人間ではありません、人造された人間なんです」
透き通る様な甲高い声が室内に響き渡り加賀の怒声を涼しげに消し去った。言葉を遮られた加賀は嫌な汗を掻きながら講義室の入り口に目を向けると、そこには以前会った時と同じく、幼く若返った野口美野里が儚げな幽霊の様に……まるでそこに存在していないかの様に佇んでいた。
- 115 :名無しなメルモ:2010/08/26(木) 08:08:33
- ゆむさん更新ありがとうございます。
日本中のアイドルを乳幼児に逆戻りさせた事件の真相に近付きつつありますね
何の目的でどんな方法で若返らせたのか、赤ちゃんまで戻されたアイドルと幼児で助かったアイドルの違い・・
今後の展開がすごく気になります、ゆむさんの小説は本当に最後の最後まで目が離せませんね
暑い日が続きますがくれぐれもお体を壊されないよう気をつけて下さいね
- 116 :ゆむ:2010/08/26(木) 19:27:20
- 午後八時三十分 千葉県 国立環境研究所
「人造された人間だと?笑えない冗談だ……ともかくいい所に来た、父親と一緒に署まで来てもらう」
怒りの形相で加賀は美野里の元へと近寄る。
「ちょっと待ってください、話ならここでも出来る」
野口泰蔵が加賀を言葉で止めようとするが加賀は聞く耳を持たず美野里の前に立った。その様子に美野里は無表情のまま大きく息を吐いて開口する。
「……わかりました、この事件の真相をあなたにお話し致します」
いきなりの台詞に加賀は怪訝な表情を浮かべたがそんな事はお構い無しに美野里はポケットからいきなり小さなナイフを取り出すと、加賀が止める間も無く鋭利な小さな刃で自分の腕をザックリと深く切り裂いた。
「なっ!?」
「実際に見てもらった方が早いです」
いきなり美野里が取った行動に怯んだ加賀は瞬間的に自殺かと思ったが、僅か次の瞬間には信じられないモノを目にした。
切り裂かれた白く輝く大理石の様な幼い肌は流れる様に血にみるみる染まっていくが、十秒程経つと勢いが弱まりそして血液の噴出は止まった。美野里は持っていたハンカチで傷口を拭うと先ほど自ら傷つけた跡が植物の成長を早送りしているかの様に深く裂けていた切れ目が見る見る事故再生していき最後には跡すら残っていなかった。手品のようなありえない展開に加賀は自分が今何をしたらいいのか見失っていた。
「私は頭部を破壊するか心臓を貫かれない限り再生を繰り返すバイオサイボーグです、今の時代から換算して約四十年後に作られ時間を逆行して来ました。今の言葉で言う所の未来人……と言うよりは未来人造人間です」
発せられた声はとても大人びて……いや、人口音声の様な正確さで……そして一切感情が込められていない無機質な音でもあった。
加賀は汗で湿った手で髭を弄りつつこれは悪い夢かさもなくは悪質な冗談ではないかと自分自身に問い質した。事実は小説よりも奇なりなんて言葉を心底嫌っている加賀にとってバイオサイボーグだの未来人等と到底信じられる話ではなかった。若返りという絵空事の様な事件に足を踏み込んでいても美野里の口から発せられる言葉は加賀の頭を混乱させるだけだった。
「落ち着いてください加賀さん……私も最初は驚きましたが……これは国家に関わる重要な事なんですよ……」
野口がふらつく加賀の肩に手を当てるとそのまま落ち着かせながら近くの椅子に座らせた。
「その通りです、これは日本を救うためのプロジェクトなのです。是非加賀昭二さんにも協力を……」
カチャッ
美野里の話を遮ったのは鉄と鉄とが重なりあう撃鉄の音だった。加賀が汗を額から零らせながら手にしていたのは警察官が一般的に使用するリボルバータイプの拳銃ニューナンブM60で銃口はしっかりと美野里の方へと向けられていた。
- 117 :ゆむ:2010/08/26(木) 19:28:25
- 「ふざけるなと言ったはずだ、もしこれ以上未来人だのサイボーグだのと御託を述べるなら拳銃の引鉄が動くぞ、未来人やサイボーグを殺したところで後はどうとでも処理はできるからな……分かったらさっさと署まで来てもらう」
加賀の声は軽く笑っていたが目は笑っておらず本気なのが伺える。しかし銃口を突きつけられた美野里は臆する事なく加賀に近づく。
「撃ってもらって結構です、その方が説明をするよりも早そうですから」
美野里の目も決して冗談ではなく確かに本気であった。まさか人気の無い研究所の一室で少女に刑事が拳銃を向けているなんて誰も思わないだろう。野口はその様子を止めるわけでもなく黙って見つめていた。
「それ以上近づくな、本当に撃つぞ!!死にたいのか!?」
美野里は既に加賀が1歩歩けば手の届く位置にまで近づいている。加賀の拳銃を持つ手は微かに震えており、背中には先ほどよりも大量に嫌な汗が流れている。
「大丈夫ですよ、私が今死ぬことは絶対有り得ません」
加賀の警告を無視して冷静な表情のまま美野里は1歩踏み出して加賀の持っている拳銃を掴もうとした。その瞬間。
ガキンッ……!!
高らかに鉄の弾ける音が室内に木霊した。加賀が手にしていた拳銃のトリガーは確かに引かれていたが、発せられたのは銃声ではなく不発した銃弾の音だった。何処かに不具合があったのか発砲は不発に終わり、鉄の焦げた様な臭いが広がる。
「馬鹿な……!?」
加賀は普段から拳銃を持ち歩いている訳ではなく、必要な時以外は署の方に預けている。今回持ち出したのは争い事になる可能性があったためで持ち出す前に念入りに整備をしてきたばかりだった。凡そ不発する事などありえなかった。
「無理ですよ加賀さん、美野里を殺すことはできないんです」
一部始終を見守っていた野口がようやく口を開く。
「落ち着いてください加賀さん、いいですか?未来っていうのは無限の選択肢があるんですよ、そしてその分だけ可能性が広がっている」
「……何を言っている?」
「何千、何万、何億という未来への可能性が私達には広がっています。しかし美野里が未来から来たことで、私達のこの世界と美野里のいる未来が繋がってしまったんです。我々の未来は美野里が転送してきた無限大のうちの未来一つしかないんですよ」
「そんな戯言……」
「戯言ではありません、今この世界はその未来に向かうため動いているんです。例えばその未来に加賀さんが生きていれば、どんな事があっても加賀さんは今死ぬことは無い。私もまた然りなんです」
加賀は一瞬また怒鳴ろうとしたが、今起こった事を思い出し返す言葉が見つからなかった。
「わ、分かった……その話を半分だけ信じることにしよう……だが……ならば何故未来から来てこんな事件を起こしたというんだ……!?」
今この状況で、とりあえず冷静さを取り戻す為に加賀は少しでも時間が欲しかった。野口が美野里に視線を預けると美野里はゆっくりと事の顛末を話し始めた。
- 118 :名無しなメルモ:2010/08/27(金) 18:29:19
- ゆむさん更新ありがとうございます!
急展開に驚くばかりです、犯人?は未来から来たサイボーグですか〜
一連の若返り事件とどう結び付いていくのか凄く楽しみです!
続きかなり期待してますよ〜実は国家機密と若返りフェチとの結び付くとか(笑)
- 119 :ゆむ:2010/08/27(金) 19:59:01
- 美野里が来たのは今から約四十年後の未来だった。科学力の発達により日本が世界で初めてタイムマシーンの理論を解明したのだが、地球の軌道や磁場の影響等で過去にタイムスリップするには何百年かに一度訪れる一定の時間帯にしか行えなかった。しかも遡れる時間は決まっているし、それが成功する可能性も極めて低く人体実験を行えるはずもなかった。つまり事実上限りなく不可能に近かった。
美野里が来た未来もまた過去に美野里という人物がタイムスリップして訪れており、同じ歴史が繰り返されていた事は日本の超重要機密記録として残されていた。
本来であれば四十年後の日本は世界的な地位を失い欠けており、出生率の低下から来る少子化や財政難、難民騒動や企業の買収などで世界に誇れる様な日本の武器は少しづつ失い欠けていた。そこで政府は莫大な予算を掛けていた科学産業の1つであるバイオサイボーグとタイムマシーン理論で現代の技術を過去に持ち帰り日本の未来を変えようとしていた。
そして結果、後に美野里と名づけられるサイボーグは時間を遡り七十年前の日本に降り立った。そう、今回の若返り事件が起きる三十年前である。二十歳の肉体で生成されたバイオサイボーグには欠点が二つあった。1つはある程度意思を持って動くことは出来るが、インプットされてある指示に向かってでしか行動できないこと。もう1つは肉体の治癒能力や自己再生能力は実際の人間以上なのだがその為に肉体の老化をする事が出来ず、機能の低下が始まるとその場で生命活動を停止してしまう事だった。本来生物とは発生・成熟・老化と進むのだが科学力の限界からか、人工生命体を作り上げても実際の人間と同じように成熟は出来ても歳をとらせる事は出来なかった。
過去に来た美野里はまず大学を卒業したばかりの野口泰蔵と接触する。戸籍どころか身分を証明する物を持っていない美野里は過去のデーターに従い野口に事情を話すと、野口の性格柄かスグに信じてもらい匿って貰う事となる。過去の出来事を全て記憶してある美野里は野口に未来技術の基礎から教え始めるのと同時に資金提供を始める。日本の法律上、身分を証明する物が無くてもギャンブルでお金を稼ぐことは比較的楽だった。未来の情報を記憶している美野里は競馬や競輪、競艇などで目立たずに少しづつお金を稼いでいった。そして次に美野里は一番の問題である政府を変えようとしていた。いくら技術を過去に教えても他国に盗まれたり買収されたのでは意味が無く、そういった事例は過去に多く取り上げられていたが日本政府の性質上、上手く隠蔽されており抜本的に処置しなければ日本の科学と研究者に未来が無いのが現状であった。
しかしそのためにはいくらお金があっても足りず、老化が始まる時間も残り数年だったため野口と美野里は未来の記録に従いある行動に出た。
それは未来の技術と過去の記録で将来活躍されている事が確定している女性達と接触して、ある一定の時期になれば若返るナノマシンウィルスを投与する事だった。
一見とんでもない作戦だったがこれには大きな利点があった。まずは皆一斉に若返らせる事で政府を初めとして自分達の存在をうっすらと気付かせることができる事。事例も出さずに未来の科学力を餌に政治家に挑んでも結果は見えていたがテロ的に行えば嫌でも事実を目にする事となる。そして政府はそれを確実に報道規制を掛けて隠蔽してくる。次に美野里を死なせない為に美野里自身も若返る事により戸籍を新しく用意する事が出来る事、さらに二十年後、また美野里に老化が始まる前に若返る時も若返る女性達と一緒に若返る事により紛れ込み正体を潜ませる事が出来る事だった。そして、その際に将来的に政府と渡り会える人物と密かに接触しなければならず、若返りを故意の仕業と匂わせつつこちらの武器として人員を確保する事が目的でもあった。
- 120 :ゆむ:2010/08/27(金) 20:01:08
- 結果その事件を起こすために老化が始まるまでの数年間、野口への資金と技術の提供を行い若返らせるナノマシンウィルスを作成して幼き被害者の女性達と接触した。この若返りウィルスは第二次性長期が始まる前までに投与すれば脳に記録されている生後一年から五年程の肉体に若返るというものだった。
人間は自身の成長や肉体の設計図を脳に記録する事ができない。例えばトカゲは尻尾を切ると再生する事ができる、これはトカゲの脳には尻尾を作る設計図が常に記憶されているからだ。だから切られても元の同じ状態に戻すことができる。だが人間は腕を切っても再生はしない、何故ならば人間は体を作ったり成長させた側からその設計図を脳から消去させていってしまうからだ。十歳程になると人間は第二次性長期に入り、肉体の記録が完全に脳から消されてしまうため、低年齢に若返らせる為にはそれまでの接触が必要だった。そうすれば一番若い肉体のデーターを脳に残したまま、一定時期にその肉体に変化するようナノマシンにプログラムすればいい。
その為大人にこのウィルスを投与しても子供になる事はないが、投与された時期の肉体年齢は記憶されるため、例えば三十歳でこのウィルスを投与して二十年後に発動させるようにすれば五十歳から三十歳に若返る事は出来る。
そして準備が全て整った後に美野里は自らにプログラムさせていたナノマシンによって一歳程度まで若返った。二十代の姿のままではいずれ身分がバレる恐れがあったが、赤ん坊にまで若返れば捨て子としてこの時代に身分を与えられ紛れる事が出来る。野口は自分の正体をばらさない様にして若返った美野里を孤児院へと連れて行き、数ヵ月後に美野里を野口家の養子として迎え入れた。そして何食わぬ顔で日本の科学力の底上げを手伝い、美野里は芸能界に入り若返っても被害者の1人としてばれないように潜伏した。結果、無事女性達に接触した後、有名になった二十代女性二百数十名は若返り、それに紛れて美野里もまた二回目の若返りを行った。若返るタイミングは美野里が来た時代の過去に起きた、今回の事件を参考にすれば一番犠牲者の少ない時間を知ることができる。そして全ては順調に事を運んだ。
そして今、この研究所の一室に至る。
「……いくつか聞きたい事がある」
険しい表情のまま髭を弄って話を聞いていた落ち着いた加賀がようやく口を開いた。
「なんでしょうか?」
幼い体に若返った美野里が応えると険しく睨んだまま加賀は尋ねる。
「まだ全部信じた訳じゃないが……何故こんな周りくどい事をした?若返らせなくても政府に事情を話して秘密裏に事を進めて個人ではなく日本という国に未来の技術を提供すればよかったじゃないか」
「先ほど話したように、過去に戻れるタイミングは決まっており決まった過去にしか戻れません、そして今の時代では技術を国に提供したところで他国との交渉材料に使われるのがオチです。私達が行おうとしているのは日本を世界トップレベルの経済大国に戻し、建て直すためであってそれには今の政府を潰さないと駄目なのです」
「では何故有名人ばかり狙った!?それもこんなに大人数を……!?」
「性別や年齢や地域などに特定してしまえばそれはそこだけの現象だと判断されてしまいますが有名人等は別です。私達はどうしても誰かに気付いてもらうために、有名人という人間的主観に左右される人物を対象に選ぶ必要があったのです。ただスポーツや芸術関係者などは世界的な位置から考えても失わせる様なことはしませんでした。」
「だが、現に若返った事で自殺している女性も三名いる、それに精神的に病んでいる者だって多い、お前達のやったことは暦とした犯罪だ」
「自殺した三名の女性は、1人は重度の薬物依存者で若返って摂取できなかった事による死亡、二人目は若返らずに生存していたら将来的にストーカーから発展して殺人を犯し自らも自殺してしまう女性、三人目は二世代に渡り戸籍を偽装して日本に入り込んだ某国のスパイでどの人物も若返らた方が良いと判断した女性達でしたし若返らなくても先はありませんでした、それから精神を病んでいる女性達も未来では将来的に幸せな生活を送る事になります。中には若返った事で幸せになる女性もいた筈です。犯罪という事は承知していますが、この話はあなたが信じるか信じないか任せるとします」
- 121 :ゆむ:2010/08/27(金) 20:02:17
- 加賀は自身の髭を弄りつつ間を空けてからさらに尋ねた。
「……ではお前達はこれから何をするつもりだ?」
「つまりですね加賀さん」
次に野口が待ってましたと言わんばかりに会話に入ってくる。
「今の政府を一掃するためには民間の後押しが必要なんです、本来今の日本人はそういう事に不向きなのですが、逆に集団心理はそういう時に強く働く。この時代における癌であり、近代合理主義の負の要素と言えます。しかし、そこで若返りという武器が最大限に活かせる訳です」
「……おい、つまりそれは若返った女性達のストライキで現状況を全てバラして今の政府の信用を落とすってことか……?」
今までの話を聞いて加賀は若返った女性達の今後について一切触れられてなかったのが気にかかっていた。若返らせて放り投げでは余りにもお粗末な展開だ。しかしそれを利用するなれば、確かに今の政府に一撃与えられる武器になりかねなかった。
「ご理解が早くて助かります。既に現在はそのストライキが発生する臨界点の状態です。その現象を大きくする為にも、多くの女性達を若返らせてきたのです。そしてそれには後押しして彼女達を導く指導者が必要なんです」
「指導者……?」
「政界にも繋がりを持ち、世間体からも立場のある肩書きがある民衆の代表、加賀昭二さん、あなたですよ」
「……こ、この野郎!!」
野口の台詞に加賀は机を叩き割らんばかりに叩き付け、怒声を上げた。
「大概にしろ!俺は今まで国の為に身を粉にする思いで働いてきたんだぞ!?そんな事する訳が無い!!しかもそんな売国奴な真似をやっても国に潰されるだけだ!!」
「その為にもあなたが必要なのです」
美野里が落ち着かせる様に語り掛ける。
「ストライキを起こさせた後、あなたは警視総監を始めとして国のトップに交渉を持ちかければいいのです」
「交渉だと……!?」
「つまり若返りの原因を発見出来たと言えばいい訳です。金ならいくらでも用意できまがそれではお偉いさんは頷かない。ですが世間の後押し、若返りの秘密、未来の技術、そして資金……これだけの武器があれば日本政府のトップを代える事が可能です。民間には女性の若返りには新しいウィルスやら病気だったと説明させて国として最大限の保護とアフターフォローさえすれば問題ありません」
「何で……俺にそんな事をさせようとする?他にも優秀で相応しい連中はいるだろう?」
「いいえ、あなた以外に適任者はおりません……何故なら加賀昭二は私が来た時代では首相となっていたからです」
「……ははっ……ふっはっははあははははっ!!!」
突然知らされた自身の未来に笑い出した加賀は、懐に隠していた手に収まるような小さな拳銃コルト25オートを取り出し、一発天井に発砲して今度は不具合が無い事を確認すると、自らの眉間に銃口を向けた。
「なら、俺が今ここで死んだらどうなる!?
お前らの陰謀も全て終わりだ!そうだろう!?」
野口と美野里は互いの顔を見合わせたあと残念そうな顔を浮かべる。
「加賀さん、あなたが何をしても1つの未来と繋がっている以上世界がそれを許しません」
「野口泰蔵そして野口美野里……今の会話は全て録音されて家のパソコンに記録されている!俺が死んだ後お前らの犯行は全て明らかになるだろう!!俺は自らの正義を貫くために潔い死を選ぶ!!」
パァンッ!!
先ほどの美野里に向けていた拳銃とは違い、加賀がトリガーを引くと火花が起きて重厚から銃弾が飛び出した
死を覚悟して走馬灯の様に色々な思いが頭を過ぎる。銃弾の音が木霊して耳に届く頃にはえも言われぬ達成感さえあった。しかしその瞬間加賀の腕がガクッと下がり拳銃の向きが変わった。そして遅れて加賀は右腕腕に鈍い痛みを感じた。痛みで上手く動かず、握っていた拳銃を落としてしまう。痛みの原因はスグに理解する事が出来た。腕の腱が断裂してしまっていた。以前柔道をしていた頃に同じ怪我をしていた事もあり痛み自体に疑問は抱かなかったが、何故腕に大きな負担を掛けた訳でも無いのに腕を負傷したのかが理解できなかった。まるで運命が定められているかの様な嫌な思いが加賀の汗となって吹き出てくる。
決して加賀が死ぬことを恐れた訳でなかった。加賀が死ぬという事を世界が許していなかったのだ。
- 122 :ゆむ:2010/08/27(金) 20:04:34
- 「何故だ……何故だぁっっ!!」
右腕を垂らしながら加賀は天井に向かって叫声を上げた。
「……加賀さんは今この場で死ぬことはありません、これは既に決定事項なのです、それは僕も一緒なんです」
死にきれずに呆然と立ち尽くしている加賀に何かを悟ったような表情の野口が話しかける。
「この事件で一番重要だったのは今日この日にあなたと出会うことだったのです、この後あなたは白雪琴美という事実を広めようとする人物を始めとして、私達と共に多くの若返った女性達の存在を明かして国を変えていきませんか?……わが身可愛いこの国のトップを未来ある若者達の手で掴み取るんです」
「………………」
無言のまま加賀は美野里を呆然と見つめた。
「私は知っています、あなたが政府の汚い面も、裏で何をしているかも、そして若返りや資金さえあれば交渉出来てしまう程、今の政界が腐りきっているということも……あなたはあなたの力でそれを変える事が出来るのです。未来がそれを保障します」
「……なぁ未来人さん、じゃあ死ぬことも出来ない俺が……俺が今までやってきたことは何だったんだ……?」
「今、この時の為であったとしか言えません。あなたが本当に正義を貫く覚悟があるということはよく分かっています。ならばそれを成す為にすべき事は、平和な未来を作るためにすべき事は、既にもう分かっている筈です」
美野里の言葉があった後、部屋は沈黙に支配された、一定の感覚で響く時計の音以外、部屋の中にいる三人はまるで時が止まってしまった様に薄暗い部屋で口を閉ざしていた。
一体どれくらいの時間が経ったのかは分からないが、ようやく加賀がゆっくりと自身の髭を弄りながら口を開いた。
「……いつかお前らを裁くために、今はお前達の言う未来とやらに従うことにしておこう、だがいつの日かお前達の罪は絶対に償ってもらう……!」
そして意識しないうちに熱いものが顔を濡らしながら、そのまま加賀は部屋を出て行った。野口泰蔵も美野里も、引き止める事はしなかった。加賀は1人で立ち去っていく。途轍もなく長い長い答えが決まっている公式を解いて行く為に。
- 123 :ゆむ:2010/08/28(土) 20:14:58
- おまけ 番外編
午後二時 東京都豊島区 某マンション
霧島千夏はランドセルを机に降ろすと着ていた衣類を脱衣所に投げ捨て一糸纏わぬ姿になると、そのまま風呂場に入りシャワーを浴び始めた。ホームヘルパーが清掃をして行ったのか気になっていた汚れが全て落とされアロマオイルでも垂らしていったのか気持ちの良い香りがバスタブから広がってくる。
千夏は二十四歳という年齢で小学校に入り直す事になった。それは親でも所属している事務所でもなく自らの意思で人生をやり直すことを決めたのだった。
シャワーのお湯を弾く肌はとてもみずみずしく、髪も幼さ特有の細くて繊細か輝きを放っていた。二十四という年齢だが胸はカップ数どころか未だ膨らむ前兆さえ訪れておらず、首から下には産毛すら生えていない。口元から見える歯は乳歯が生え変わるため抜け落ちており、幼く可愛らしい表情に加えその歯抜けの姿はより一層二十四とは思えないあどけなさを感じさせた。
シャワーのお湯で汗を流していくうちに千夏の手はゆっくりと初潮も訪れていない自らの秘部に触れる。肉体の中で唯一若返っていない脳の記憶に刻まれた二十四年の経験が幼い千夏の体を無意識のうちに慰めようとしていた。
今から一年程前、日本全国で二十代の女性が若返るという事件が起きた。千夏も被害者の1人で、ローティーン雑誌を中心として子供番組の司会や特撮番組にも出演している売れっ子女優だった。親とは家族の縁を切ってまで踏み込んだ世界で霧島千夏は着実に知名度を上げていった。数ヵ月後には自分がパーソナリティを勤める番組が始まることになっており親は相変わらず連絡すらしてこなかったが事務所も同期の仲間も応援していてくれた。しかしその道は一瞬にして閉ざされる。
千夏は他の女性たちと比べてそこまで酷く若返ることは無かった。一歳から五歳ほどまで若返った女性達の中でも五歳という比較的年齢が高い状態で若返りが止まった。しかし二十四歳が五歳になったのだからショックが無いと言えばもちろん嘘になる。原因解明の為、政府保護の下病院や研究施設で検診を続け慣れない体でリハビリを続けた。政府からの支援金で新しくマンションの一室を借り、与えられたホームヘルパーに身の回りの世話をしてもらいながら孤独な生活を送った。凡そ半年間、千夏は仕事も何もせず事務所との連絡も絶っていた。
そして若返りの原因が新種のウィルスだと発表され、半年間もの間それを隠し続けていた政府に対し若返った女性達を中心として大規模なデモやストライキが起こり、それに支援していた科学者や警察にも繋がりを持つ新党が後押しをして社会現象にまでなっていた。今や政権交代も時間の問題だと噂されていた。
しかし千夏はそんな事には微塵も興味は無かった。若返った体を以前の知り合いに見せる心境にもなれず、結局は新しい戸籍を作成してもらい本当に五歳児として生きていく道を選んだのだった。一ヶ月に一回、生活に困らないだけの支援金が振り込まれ、保護者には親ではなく事務所で親しかった年配の男性マネージャーになってもらったが、生活に介入する事は無く結局は今まで通りホームヘルパーに世話してもらう日々が続いた。
一年経った今は義務教育として小学校に入学し、児童に紛れて算数やひらがなを教わっている。大の大人がランドセルを背負って一年生になるなんてある意味屈辱を伴う生活なのかもしれないが、千夏にとっては幸福とも言える毎日だった。
千夏が女優時代に積極的に子供番組や子供が好む作品に出演していたが、実は千夏は少年愛者であった。所謂ショタコンである。物心付いた時から児童に対し愛情と性的興奮を感じる傾向にあった千夏にとって子供達と触れ合い競演することは退屈な日常を彩るスパイスであった。
- 124 :ゆむ:2010/08/28(土) 20:16:10
- 若返った千夏はまず見違えるほど幼くなった自分の体に興奮をした。そして生地の厚いアニメキャラクターの描かれた児童用ショーツやフリルの付いた可愛らしいロリータファッションにドレスの様なネグリジェを着られる事に感動さえ覚えた。背が低くなって見える世界が変わり、今となっては同い年の児童と遊ぶことも授業を受ける事も数歳年上の小学生に年下扱いされるのも全てが千夏にとって嬉しい出来事だった。
若返った女性達の殆どは未発達の体故に性欲が無くなり、初潮前の体になるため生理も無くなる。しかし千夏はその性癖故、生理は無くなっても性欲が無くなる事は無かった。それどころか日を重ねる事に身体は更なる刺激を求めるばかりだった。
シャワーを浴び終わった千夏は火照った体にタートルトップス、そしてフリルキュロットを履いてドライヤーで髪を乾かし始める。そして着替えが全て終ったところで家のチャイムが鳴る。
「はーい」
トテトテと幼い足取りで千夏は玄関に向かい自分より背の高い防犯用のチェーンを外してドアを開けるとそこにはランドセルを背負ったままの少年が立っていた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
「うん、ただいま千夏」
そういうと成れたように玄関に入ると少年はチェーンを掛け直し二人はリビングルームへ向かった。
少年の名は諏訪大輝といい、千夏と同じ小学校に通う五年生であった。さらに大機は千夏と同じマンションに住んでおり、その為登校班も一緒だった。入学当初から大輝の容姿を可愛らしく、格好良く、そして愛おしく思っていた千夏は積極的にアプローチを掛けてまた一人っ子の大輝にとっても千夏は妹の様な存在でいつしか二人は実の兄妹の様に毎日遊ぶ仲になっていた。
大輝は最近、家で母親と口論になる事が多いらしく学校から帰ってくると自分の家には真っ直ぐ帰らず、まず千夏の家で時間を潰して夕食間際になって帰るという生活を送っていた。千夏が話を聞くとどうやら親は大輝を塾に通わせたいらしいのだが、大輝は頑なにそれを断っているらしい。
「でもお兄ちゃんは頭良いし、もっと勉強を頑張ってみたらいいと思うんだけどなー」
二人はソファに座ってテレビゲームをしながら話し始めたが、大輝の目線はしっかりとテレビ画面に向けられている。
「千夏はまだ一年生で分からないかもしれないけど、高学年になると難しい問題がたくさん出るんだよ」
「ふーん、でもお兄ちゃんはそれ解ける訳でしょ?」
「凄く面倒くさいんだ、算数だって十分の六掛ける二足す三引く四割るみたいな長い公式をずーっとやらなくちゃいけないんだ」
千夏が本当は二十四歳から若返った事を知らない大輝は一年生でも分かるようにと出来るだけ簡単に難しさを伝える。
「あはははは、めんどくさーい!」
「あ、負けた!!千夏はこのゲーム上手いなぁ」
ゲームはどうやらパズルゲームみたいで、勝負は千夏が勝ち越している。
「ちょっとジュース取ってくるねー」
「うん、ありがとう」
千夏は立ち上がって冷蔵庫へ向かう途中にふと大輝の背中を眺める。二十四歳の千夏だったら細い腕に少年独特の薄い胸板、すね毛の生えていないすっきりした足にときめいていただろう。もちろん今でもときめくのだが、六歳の体からみた十歳の少年はとても大きく逞しく感じられ、少年愛とは別に実際の男性に対するような愛情の様な物を感じていた。実際、大輝は同年代の少年達と比べて体格は決して大きくなかったがとても紳士で落ち着いていた。この体になってから子供達の見方が大分変わってきたことに千夏は気付いていた。以前なら五歳も四歳も児童として対して変わらないと思っていたが、小学校一年生から見た幼稚園児や保育園児は自分以上に幼く見え、逆に小学校の三年生や四年生は実際は自分より生きた年数が短いはずなのにとても頼りがいのある先輩に見えた。通学中に高校生を見掛けた時は未成年なのにとても大人だなぁと無意識のうちに感じていた。そしてそれに気付く度に今の自分の体を思い出し密かに興奮をしていた。
- 125 :ゆむ:2010/08/28(土) 20:19:31
- 千夏は持ってきた二つのジュースをテーブルに置くと甘える様に大樹に抱きついた。
「ちょっと、重いよ千夏」
抱えるような体制になり大輝が困ったように注意する。しかし千夏は体を大輝の腕の中に包まれたまま首を伸ばして大輝に口付けした。
「こら、くすぐったいって……」
舌をチロチロと出して大輝の歯茎や舌を味わう千夏だったが、大輝にとってはペットに甘えられるような嬉しくもあり困った心境だった。
「千夏ね……お兄ちゃんの事大好き」
耳元でゆっくり囁く千夏の甘い吐息に大輝はビクッと身を震わせる。
「うん、僕も千夏の事が好きだよ、だからもう降りてくれないか?」
そう言われてようやく千夏は大輝から離れた。しかし離れたと思うと今度は自分の着ている衣類を脱ぎだしてショーツさえも脱ぎ去り生まれたままの姿になった。
「ねぇ、また裸で抱っこして!!」
千夏がそう言うと大樹は先程よりもさらに困った顔になった。
千夏は何度も大輝と遊んでいるうちに甘えるだけでは足りなくなり、今度は温もりを欲していた。そして千夏はどんどんと大輝を誘い込み性への扉を開かせていった。そして大輝もそれに戸惑いながら初めて感じる、えも言われぬ快感に溺れていった。
千夏の手もあり大樹も同じように裸になるとうっすらと顔が赤くなっていくのが分かった。
「千夏……こういうのは、やっぱりよくないと思うんだ」
「どうして?」
「こんな事をしていたら、大人になった時に後悔しそうな気持ちになるんだ」
「千夏分かんない……」
「人に裸を見せると恥ずかしいだろ?千夏はまだ小さいから分からないかもしれないけど、大人になればなるほど自分の体っていうのは大事な人にしか見せちゃいけないんだ」
「千夏にとってお兄ちゃんは大事な人だよ?それに大人になったら駄目なら今だけでも裸でお兄ちゃんに甘えたい……」
「…………」
千夏の我侭に大輝は参ったなぁと頭を掻くがその隙に千夏は裸の大輝に抱きつく。
大樹の体は成長期を迎えており、陰毛もすね毛も髭も生えてはいなかったが骨は伸びうっすらと付いた筋肉が肌越しに感じられた。白くて薄い少年の肌は女性の様にスベスベとしていて抱きついた千夏は大輝が呼吸をする度に動く胸に静かに顔を埋めた。
二人は裸でソファに横になり静かな時間を過ごした。そして千夏は大輝の下腹部に自分の体をゆっくりと押し付け擦るように身を寄せ始めた。性器が次第に膨張していくのを確認して千夏は体位を入れ替え大輝の秘部にキスをした。
「……っ」
大輝はその感触に声を上げそうになり、体に力を込める。最初こそ力尽くで行為を止めさせようとしていた大輝だったが、最近は裸で抱き合ってしまえばもう止めても無駄だと半ば諦めてなされるがままにしている。
千夏は皮を手で剥くような事はせず、舌の先でゆっくりと刺激しすぎないように弄る。そして汗ばみ独特の臭いに興奮しながら小さな口で大輝の性器を銜える。毛の生えてない下腹部は肌触り良く、全てを銜えきれず舌と指先を上手く使いながら千夏は大輝を愛する。
垢や汗の味すら愛おしく、そして何より二十四歳とはいえ、今では小さな一年生の女児児童になっている自分に良い様に弄ばれている綺麗な少年というこのシチュエーションに千夏は大人のとき以上に自らの体が刺激を欲しがり、気持ちよくなりたいという欲求を抑えられなくなっていた。
- 126 :ゆむ:2010/08/28(土) 20:20:10
- 皮に包まれたままとはいえそれなりの大きさになると千夏は銜えるのを止めて抱っこをするような形で大輝と抱き合った。大輝が下で千夏が上になり、互いの性器を重ね合わせるように、両手を互いの背中に回し抱き合い互いを愛した。
「んんっ……ぁっ!」
「あぁっ……」
千夏の性器ではまだ大輝を受け入れることが出来ないため、擦り合わせるようにするしかなかったが微々たるその刺激は性感帯を少しづつ高めていき、その度ピリッと電流が走るような快感が二人の体に走り、千夏は幼い声で嬌声を上げる。二人の綺麗な薄桃色をした乳首も反応してヒクヒクと起ち上がる。そしてどれだけの時間が経ったのかは分からない。汗で塗れ、うっすらと瞳は潤み、肌には快感により鳥肌も立っている。千夏は体に走る刺激により頭はぼんやりと沈み大輝の体と重なりあったまま混じり溶け合う様な感覚に酔いしれていた。そして二人の息遣いも荒くなり互いの秘部からうっすらと透明な液体が溢れてきた頃。
「ち……千夏っ……ぅあぁっ!!」
「お兄ぃちゃんっ!!……んぅっっっ!!」
二人が唸るように声を上げて互いを抱きしめる腕の力が強くなり、大輝の体がビクッと震えたかと思うと、同時に絶頂を向かえ溜まっていた電流が体に全体を襲い流れた。
鼓動はより一層高鳴り、二人の下半身に何か熱いものが込み上げて来るのを感じていた。
大輝の性器では大人ほど強く精子を出すことはできず、トロッとした白濁の液体が先からジワリジワリと溢れて体に垂れ、千夏はその気持ちよさからヒクヒクと軽く身震いに似た痙攣を起こしていた。
「んぁっ……!!」
そして大輝は体の上で小さく叫ぶ千夏の声を聞くのと同時に、自分が出したものとは違う何か生暖かい感触に気付いた。
「ん……?……あぁっ!千夏!お前おしっこ出てるよ!?」
絶頂に達した千夏の秘部からはパタパタと途切れ途切れに放尿され下にいる大輝の体を濡らしていた。
「ご……ごめんなさぃ……だって気持ちよかったから……」
千夏は快感から少し遅れて恥ずかしさが込み上げ、しかも体に走る痺れによって止めることのできなかった事実を指摘され赤くなった。
千夏にとって大人とは違い敏感で少しの刺激でも反応する幼い体は性欲を感じた時に今まで味わったことの無い新たな快感を生ませていた。そして大輝も1人で弄る時以上に襲う快感がより一層抱いている千夏を愛おしくまるで運命で結ばれたのかの様に思えた。
二人は裸のままベトベトに濡れた体でおしっこによりグッショリ濡れてしまったソファーの上で少しだけ笑った後、フェイスタオルで軽く体を拭いた。
「ねぇお兄ちゃん、一緒にお風呂入ろ!!」
「全く……全然反省してないなぁ、今度これ以上我侭言うようだったらお尻叩きの刑だからな!」
「えぇっ!!…………でも、それはそれでいいまも」
「ん、何か言ったか?」
「ううん!じゃあ言う事聞くから一緒に入ろうよぉ!」
「はぁ……千夏が大人になった時が心配だよ……まぁ汚れたままじゃ僕も家に帰れないし、もう少しだけ千夏と一緒にいてあげるよ」
「はやく、はやくぅ!!」
千夏がいつの日か自分の正体を大輝に教える日が来るのかもしれないが、今はそんな事を考えずに今味わえるだけの幸せを全て受け止めるために、中身が二十四歳の小学校一年女児児童として今見上げている男性を愛するだけだった。
- 127 :ゆむ:2010/08/28(土) 20:24:01
- あとがきてきなさむしんぐ
疲れました。はぁ。何か色々と絵とか別の小説の合間に今回のアイデアが浮かび、友人監修の元でこの話を作ってみました。
まぁなんとか完成する事が出来まして自己的にとても満足でございますです。はい。
今回のストーリーに関しては何かと大変だったのですが、その詳細はまた別の場所で。
実は他にも色々とアイデアはあったのですが収拾がつかなくなりそうだったのでこのぐらいでまとめてみました。え、納得がいかない!?恐れ入りますが仕様でございます、駄文故ご了承ください。
コメントorメールをくださった皆様、大変励みになりました。感謝感激恐縮です。
それでは最後まで読んで頂けたのでしたら本当にありがとうございました。またいずれ。
- 128 :管理者★:2010/08/31(火) 20:52:06
- スレッド作成者及び執筆者からの依頼がありましたので、9月10日を目途に、このスレッド及び内容の総てを削除します。
削除後は、執筆者からの再投稿を除き、再掲載されることはありませんので、内容が気になる方は各個人にて保存しておいてください。
尚、削除後も、この作品の著作権は、それぞれの執筆者にありますので、他所への転載配布には必ず許可を得てください。
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