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アルカード君の大冒険- 1 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/03/29(水) 19:17:07
- 管理人様乙ラルフカレー様です。
長文ネタはこちらということなので僭越ながら投下させていただきます
まずは今まで投下してたものを貼っておこうと思います
私も棚さんのSS(;´Д`)ハァハァしながらお待ち申し上げておりますので…
- 2 :導入部〜第一話:2006/03/29(水) 19:19:14
- 昔々…ある国にとても仲の良い親子が住んでいました。子供の名前はアルカード、お父さんの名前はドラキュラ、
お母さんの名前はリサ。三人は召使いの死神さんといっしょに、つつましくも幸せな
日々を過ごしていました。そんなある日のこと…。
突然東の空に大きな竜巻が現れたかと思うとすごい勢いで悪魔城に襲い掛かってきました。
迫り来る竜巻から子供を守ろうと夫婦はとっさに身を躍らせ、
竜巻は彼らを飲み込み西の空のかなたに消えてしまいました。
後に残されたアルカードはただ呆然と悲しみの涙にくれるばかり…
アルカード「父上、母上…わたしを守るために…ううっ。」
デス「わが主と奥方様……アルカード様への深い愛情しかと見届けました。どうか安ら(ry」
アルカード「何言ってるんだよデス!父上と母上はまだきっと生きてる!早く助けに行かなくちゃ!」
デス「た、助けにですと?!しかしあの状況では主はともかく人間である奥方様は…」
アルカード「いいから行くの!!」
こうして二人の長い旅が始まったのです。
<〜第一話・旅立ち〜>
二人がお城近くの村の外れにさしかかった時、突然見慣れない人影が二人の行く手を遮りました。
それはアルカードと同じ年頃の少年でした。
???「待て!そこのオンナみたいなガキとあやしげな奴!」
アルカード「……わたしたちのこと?」
ラルフ「そうだ。ここより先は我々ベルモンドの修行の森だ。お前のように弱そうなガキを通すわけにはいかん。」
デス「フン、我々が何処へ行こうが我々の勝手というもの。人間如きに指図される謂れはないわ。」
ラルフ「…そうか、ならば通るがいい。そのガキが俺を倒すことが出来ればの話だがな!」
アルカード「ええっ?!」
- 3 :第二話:2006/03/29(水) 19:24:29
- <〜第二話・森の中で〜>
アルカードと死神さん、そしてラルフは森の奥深くへと足を踏み入れました。
ラルフ「…当主様、居ないみたいだな。」
ラルフがキョロキョロと頼りなさげに周りを見渡すので、不安になったアルカードはラルフの手を握ろうとしますが・・・
ラルフ「触るな馬鹿!俺はヴァンパイアハンター…見習い…なんだ!俺がいつか当主になったら
お前なんか、コテンパンに」
デス「ふむ…ということはその当主はヴァンパイアハンターか。何処かに出掛けておるのか、昼寝でもしておるのか
どちらにせよ好都合です。さっさとこの森を抜けてしまいましょう坊ちゃま。」
ラルフ「うぐっ…。」
後先考えぬラルフの言動に助けられ、三人が森を抜けようとしたその時です。
突如近くの木の上から黒い影が舞い降りてきました。
三人の前に現れたのは鞭を握り鬼気迫る顔でこちらを睨みつける金髪の青年でした。
アルカード「出たっ!!ど、どうしよう……!そうだ、まずは話し合いだよ。
避けられる争いは避けなきゃいけないって母上が言ってた!」
デス「ですが話の通じる相手であるかどうか……私が考えますにこの男はベルモン」
レオン「そのとおり。俺はベルモンド家の当主にしてヴァンパイアハンターのレオン・ベルモンドだ。」
アルカード「あ、あの、わたしはアルカード。ラルフとはさっきお友だちに…」
ラルフ「なっ、なってねーよ!!」
レオン「…そうか。この美味い肉の事しか考えていなかったラルフにもやっと友人が出来たか。
ならば君とそこのお付の死神を成敗するわけにもいかないな。次の獲物が来るまで待つとしよう。」
再び軽やかな二段ジャンプを駆使し木の上に登ろうとするレオンにアルカードは慌てて尋ねました。
アルカード「ちょっと待って。次の獲物って…わたしたちの後に魔物が来たら…殺しちゃうの?」
レオン「うん、そうするつもりだよ。何せ我々の生k」
アルカード「ダメ!お願いだから悪いことしてない魔物たちを傷つけないで!」
レオン「困ったね……。少年、ベルモンドは魔族に慈悲は与えても決して屈することはない。
どうしてもやめてほしいならば…ラルフと同じく力ずくで俺を倒すんだな。」
アルカード「……! わかった。あなたと戦う!」
さて、アルカードは無事森を抜けることが出来るのでしょうか…
- 4 :第二話〜第三話:2006/03/29(水) 19:26:23
- 死神さんとのコンビネーション攻撃で見事レオンを打ち破ったアルカード。
レオンが魔物狩りを始めたのも、竜巻で森の食べ物が無くなったために
ドロップアイテム目当てで仕方なく始めたことと知り、旅への思いを新たにするのでした。
レオンに見送られながら無事森を抜けた一行は西に位置する谷へと足を踏み入れます。
そこは霧の深い日の光が殆どささないじめじめとした場所でした。
アルカード「ふぅ…何か寒いね。」
ラルフ「西の谷は年中雨模様だからな…そのうち一雨くるぞ。」
デス「そういう重要な事はさっさと言わぬか小童!坊ちゃまは水が苦手なのだぞ!」
ラルフ「誰が小童だ、この頭陀袋!!…いやそうじゃない!アルカード!?」
そうこうしている間にも空から水滴がポツポツ落ち始め…間もなく雨へと姿を変えました。
なすすべもなくアルカードが震えていると、
近くの洞窟からフードを目深に被った男が姿を現しました。
この雨の中、頭にフードを被っている以外にはレザーパンツしか履いていません。
???「おや、このような所に子供とは珍しい…雨宿りがしたいならば
俺の住処で温かいお茶でもお出ししますからどうぞこちらへ…」
アルカード「ありがとう。」
ラルフ「お前は馬鹿か!またはアホか!!あからさまに怪しい奴じゃないか!」
アルカード「…ラルフはどうして初めて会った人にそんな酷いことを言うの?」
相変わらず疑う心を欠片も持たないアルカードは、ラルフの言葉に耳を貸すことなく
男の後へ付いて行ってしまいました。
実はアルカードにとっては初めて会った人では無かったのですが…
- 5 :第三話:2006/03/29(水) 19:28:50
- 三人が通された洞窟内は、冷たい岩肌に囲まれた実験室の様相を呈していました。
部屋の隅ではアルカードが放り込まれるのに最適なサイズの鍋が
ボコボコと不気味な音をたてています。
ラルフ「アルカード、とって食われるぞ!!」
デス「これまた何処かで見た事があるような施設…うーむ、一体何処で…」
死神さんがうんうん唸っていると、
謎の男はアルカードへ湯気の立ち込めるコップを差し出しました。
???「さぁ、お茶をどうぞ…。」
アルカード「はい、いただきます。」
ラルフ「馬鹿!!飲むな!」
ラルフはすんでのところで怪しげな液体の入ったコップを叩き落しました。
アルカード「ああ…」
アルカードの大きな瞳が朧月のようにじわじわと曇ってゆく様子に
ラルフはほんの少し胸が痛みましたが、ぎろりとアルカードを睨みつけ言いました。
ラルフ「こんな不審人物の淹れた不審な飲み物を不審がらずに飲む奴があるか!
雨が嫌なんだったら俺の上着を雨避けにしろ。さっさとここから出るぞ!」
アイザク「くっ…先程から聞いていれば怪しげだの不審だの…
穏便に事を済ませようと思っていたが気が変わった。お前たち子供二人は
鍋の具材、そこのゴミ袋は……萌えないゴミの日に出してくれるわ!!」
デス「ゴ、ゴミ袋だと…」
アルカード「デスはゴミ袋なんかじゃない!…萌えないゴミって何?」
ラルフ「うるせぇ!悪い魔女ならぬ魔男はヴァンパイアハンター!
…見習いの俺が成敗してくれる!いくぞ、アルカード!!」
アルカード「う、うん!」
さあ、二人の少年の運命は?そして魔男アイザックの目的は一体何なのでしょうか…?
アイザク「ま、負けた…この俺がこんなクソガキ二人に…」
デス「坊ちゃまとその下僕の力、思い知ったか魔男め。さてトドメは私が」
アルカード「ちょっと待ってデス!様子が変だよ。」
アイザク「くっ…これでは薬が…ジュリア…。」
アルカード「薬?もしかしてそのジュリアって人に薬を買ってあげるために…?」
アイザク「ああ…ジュリアは俺の妹なんだが、俺は悪魔精錬士を辞めてから収入がゼロになって、
妹の薬も満足に買えない状態だったんでこうして谷に迷い込んだ奴に
茶を飲ませて代金取ってやろうと思ってたんだが……全然ダメでな。」
ラルフ「そりゃそうだろうよ。引っ掛かるのはよほどの馬鹿か箱入りだけだ。」
デス「待て!悪魔精錬士だと!?もしや貴様…アイザックか!!」
アイザク「そういう貴方はもしやデス様!ということはこの汚らしくない方の少年は…!」
ラルフ「汚らしくて悪かったな。」
アイザク「はぁ……しかしいずれこうなることはわかっていたし、
ドラキュラ様のご子息に成敗されてかえって良かったのかも知れないな…。」
アルカードは力なく蹲っているアイザックに歩み寄ると、何かキラリと光るものを差し出しました。
アルカード「あの、アイザックさんこれ良かったらさっきのお茶のお礼にもらってくれませんか?」
デス「ぼ、坊ちゃま!!それは主と奥方様よりいただいた大切な剣ではありませんか!!」
アルカード「…だってわたしはこれくらいしかお金に出来そうなのを持っていないし…。
それに、アイザックさんはジュリアさんを助けるためにずっと頑張ってきたんだよ。わたしには
兄弟がどんなものかよくわからないけど、その気持ちは大切にして欲しいから…」
アイザク「…そのような大切なものをいただく訳にはいきません。お気持ちだけで十分です」
アルカード「でもこのままじゃ薬が…。」
アイザク「なに、商売が駄目ならまた「別の方法」を探しますよ。」
アイザックは妙に晴れやかな笑みを浮かべ、三人を見送りました。
ラルフは背中越しに「ヘクターの身包み剥ぎに行こうっと。」と嬉しそうな声を聞きましたが、
寒そうに擦り寄ってくるアルカードを、自分の上着で極力優しく包み込むのに必死で、
そんな台詞は頭の隅から消えてしまいました……。
- 6 :第四話:2006/03/29(水) 19:38:01
- アルカード「デス、聞いて聞いて。」
谷の出口が見え始めたとき、頬をほんのり桃色に染めたアルカードが死神さんにそっと話しかけました。
アルカード「あのね、さっきラルフが抱きしめてくれたときにね、…父上みたいな匂いがして、
母上みたいに暖かかったんだ…どうしてだろう?母上と同じ人間だからかな…?」
うっとりとしたアルカードの様子に、デスは骸骨の顔を溶岩のように真っ赤にして叫びました。
デス「あ、主や奥方様のようですと!?坊ちゃま、あの小童にどんな不埒なことをされたか知りませんが
あんな知性も品性も持たぬ野蛮者は片田舎で分相応の人間の嫁でも取って貧相な暮らしをしながら
老いぼれるのが似合いというものまぁこの年頃からあの下品な有様では嫁に来る娘が存在するか
どうかも疑問ですが坊ちゃまにはとても釣り合わない…」
死神さんの長いお話が始まりましたがアルカードの耳にはこれっぽっちも届いていません。
ラルフ「おいアルカード、このまま西に行くのか?ここから先は色々「出る」って噂だぞ。」
アルカード「出るってなにが?」
ラルフ「決まってるだろ、悪霊だよ。あそこに見える遺跡に住んでて、
侵入者の身体を乗っ取っては次の獲物を襲うそうだぜ。」
アルカード「オバケ…でももし父上と母上が居たら…。……。い、行こうラルフ!」
ラルフ「何だぁ?怖いのかよ。『わたしを守ってください、お願いしますラルフ様』
って泣いて頼んだら守ってやらなくもないんだがなぁ?」
ラルフの意地悪な言い方に、アルカードは大きな声で言い返しました。
アルカード「絶対言わない!もし怖くても怖くなんかないから大丈夫!」
ズンズン先に進んでいくアルカードをラルフはニヤニヤしながら追いかけます。
デス「坊ちゃま!また私の話を聞かず勝手に……お待ちくだされ坊ちゃま~!」
果たして不気味に聳え立つあの遺跡に、アルカードのお父さんとお母さんがいるのでしょうか?
そして遺跡に住むという悪霊の噂は本当なのでしょうか?
様々な不安を抱えたままアルカードは遺跡の扉を開くのでした…。
遺跡の扉の先は、延々と暗く冷たい道が続いていました。
恐怖を和らげる呪文を呟くアルカードの視界にある物体が飛び込んできました。
ぼんやりとした光の玉です。
ラルフ「人魂の一種だな。見てろよアルカード、このベルモンド最強…になる予定のラルフ様が追い払ってやろう。」
果敢に光の玉ヘ挑みかかるラルフでしたが、敵もさるものラルフの攻撃をスラリとかわしてしまいました。
ラルフ「逃げるな!アルカードに俺の強さを見せつけられないだろうが!」
苛苛したラルフが大声を出したその時です!突如物陰から銀色の髪を
短く刈り上げた青年がラルフに襲いかかりました。
ネイサン「隙ありっ、喰らえ!!」
青年の攻撃をもろに受けたラルフはカエルの潰れたような声を上げて引っくり返ってしまいました。
アルカードは死神さんの制止を振り切りラルフのもとへ駆け寄ると、キッと青年を睨みつけます。
ジュスト「ネイサン、ヒューをとっつかまえたか!?」
そこへもう一人、今度は長髪の青年が現れました。そして現場の惨状に息を飲みます。
ジュスト「何だこれは……ネイサン、犯罪者捕りが犯罪者になってどうするつもりだ?」
ネイサン「ち、違う!これは不幸な事故なんだ!大体ジュストだって魔法で光の玉操って
『あのヒステリックな様はヒューに違いない。頑張れネイサン』とか言って俺を嗾けただろう!」
ジュスト「うーん、俺何処かでこの倒れてる少年見たことがあるんだよなぁ。」
ネイサンと呼ばれた青年の反論には耳を貸さずに、長髪の青年が二人の側に屈み込みました。
ジュスト「このお肉大好きでベルモンド家のエンゲル係数を上昇させてそうな顔は…野生児ラルフ君かな―?」
デス「坊ちゃま私が思うにこの男もベル」
ジュスト「すまないな少年、完全にこちらの勘違いだ。俺はジュスト・ベルモンド、今は家を離れて
ある男を探しにこの遺跡に潜り込んでいる。しかし参ったなぁ」
ジュストは卒倒しているラルフの頭をバシバシと容赦なく殴りながら笑い始めました。
ジュスト「ラルフ、こんな所で昼寝してると腹壊すぞー。
さてこの馬鹿は放っておいて俺たちの話を聞いてくれ少年。」
ネイサン「おいジュスト!…少年、俺の話も聞けよ!いや、聞いてください!」
デス「しかたありませんな…では私は自慢の鎌でこの小童の魂を冥土まで送って」
アルカード「絶対ダメ。」
- 7 :第四話(2):2006/03/29(水) 19:39:05
- ラルフ「ジュストてめぇ…今度同じことしやがったら、森の熊の餌にしてやるからな!」
ジュスト「それじゃあ俺はお前をその熊の餌にしてやるぞ。なっ?」
ラルフ「ぐっ。」
年甲斐もなくラルフをからかうジュストに、ネイサンは呆れ顔になりながらもアルカードに尋ねました。
ネイサン「ジュスト…。なぁアルカード君、君は悪霊の噂を知っていてここに潜り込んだのか?」
アルカード「うん、竜巻にさらわれた父上と母上がいるかもしれないから…」
ネイサン「竜巻…もしかするとそれは、冥界の門のせいじゃないかな。」
アルカード「冥界の門?」
デス「坊ちゃま、蔵書庫の主の授業で教えた筈では?まさかまた授業をさぼって…」
アルカード「……だってお庭で遊ぶほうが楽しかったんだもん……」
死神さんの呆れた様子にしょんぼり俯くアルカード。そんなアルカードをラルフは鼻で笑います。
ラルフ「ほぉー、お坊ちゃんなのに授業をさぼったんだ。へぇー…痛ぇ!!何しやがるジュスト!」
ジュスト「お前も俺の魔術授業の時、机に三秒と向かっていなかっただろうが。」
ラルフの頭をアルカードが心配になるほど小突きながら、ジュストはアルカードに説明を始めました。
ジュスト「冥界の門とは死者の行き着く世界、冥界とこの世界を結ぶ門だ。普段閉じられている
それを一度開けば、とてつもない大きさの竜巻が世界を襲い世界に住むものたちを
冥界へと誘ってしまうという。」
ネイサン「俺の住んでいる村にも竜巻が襲ってきて、兄弟子のヒューが行方知れずになってしまったんだ。
ジュストも幼馴染の男も同じでね、だから俺達は同じ目的のもと行動を共にしている。」
アルカード「それじゃあどうしてさっき襲いかかって来たの?兄弟子さんなら戦わなくても…」
ジュストは力無く首を振りました。
ジュスト「それがなぁ、あいつら遺跡の中で再会したとたん、凄い形相で襲いかかってきて」
ネイサン「返り討ちにしてやったんだけど逃げられてしまったから、
また捕まえようと張り込んでたんだよ。」
ジュスト「だが、これ以上待っていても無駄かもな。こうなったらこちらから出向いてやろう。」
淀みなく言い切り、迷うことなく進んで行くジュストに、ある者は深いため息をついて、
ある者は怒り心頭で痛む頭を押えて、ある者は大人の歩みに遅れないよう、慌ててついて行きました。
ラルフ「おい、行けども行けども同じ風景じゃねぇか。」
ジュスト「うるさい子供は置いてくぞ。そろそろ遺跡の最深部にたどり着く筈だ。」
そして一行が足を踏み入れた如何にも怪しげな部屋
…そこは一筋の光もささない闇の世界でした。
アルカード「…真っ暗だ。」
ラルフ「く、暗闇だからって怖がるんじゃねーよ。あっ、こらくっつくな!」
アルカード「ええ?ラルフには触ってないよ?」
二人の間に冷たい沈黙が横たわります。
ラルフ「ば、馬鹿言うなよ…お、お化けは触っても実体なんかない……グハッ!」
アルカード「ラルフ?どうしたのラルフ!」
アルカードには何が起きたのかサッパリわかりません。
そこへ、地を這う暗い声がアルカードの耳を掠めました。
???「チッ、狙いを違えたか…ジュストと同じ気配がしたんだが…」
ジュスト「!?アルカード、こっちに来い!奴は忍者だ、暗闇では勝てない!」
???「そこか、ジュスト!我が積年の恨み、思い知れ!!」
ジュストヘ向けて目にも止まらぬ速さで襲いかかる黒い影。
その正体は?ラルフの安否は?アルカードの戦いはまだ続くようです…。
- 8 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/03/29(水) 19:40:49
- 文字制限にかかったり無駄に長かったり…orz
掲示板画面圧迫してスマソorz
- 9 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/03/29(水) 20:03:42
- 感想もこっちでいいのかな?
仔姐さんGJ!かわいいよかわいいよ読んでてニマニマする。
和むなぁ…(*´∀`*)
勢いで仔ラル仔アル描いてみたり
ttp://www.geocities.jp/jinny256jp/koralal060329.gif
ドラキュラ君の髪型はいまいちちょっと抵抗があったw
ロンゲキャラの幼少時→セミロングってのは安直だな、ヘク太と見分けつかないよ…orz
あと仔姐さんのヅュストがすげー好みなんですがw
なんでこんなに可愛いのこの人、私も魔術習いたいwww
- 10 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/03/29(水) 22:44:51
- ネタ投下人です
>>9
どうしよう可愛すぎるこの生物たち(*´Д`)デスサマモエモエ
自分の中では仔アル=ドラキュラ君のイメージ(デス様に対してちょっと横暴)
でネタ投下してたんですが、姐さんのセミロングアルも可愛すぎて悶え死にそうですよ(*´Д`)ハァハァ
- 11 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/03/29(水) 23:39:58
- ヅュスト…机に三秒しかむかわない生徒をよくぞここまでっつーかw
さぼりとはいえやっぱりぼっちゃま全開な仔アノレカワイス
そして絵の姐さんもかわいいよかわいいよ(*´∀`)ウフフフフ
ふよんふよん飛び回る爺をしりめに二人で仲良くツンツンデレデレしてるといいよ
- 12 :第四話(3)〜第五話:2006/03/30(木) 23:51:30
- 暗闇に視界を奪われる中、刃物が冷たく交錯する音だけが響き渡ります。
アルカード「どうしようデス。ラルフも何処にいるかわからないし、全然周りが見えないよ。」
デス「私には手に取るようにこの部屋の様子がわかりますぞ。
坊ちゃま、ただ目で見るのではありません。
闇の眼をもって視るのです。…坊ちゃまにはまだ難し過ぎましたかな。」
アルカード「…。」
頬を膨らませるアルカードは次の行動へ移ります。
クンクン。アルカードは小さな鼻を懸命に動かし始めました。
デス「坊ちゃま!またそのようなはしたない真似を…!」
アルカード「だってこれが一番よくわかるんだ。……ジュストさんが危ない!」
どうやって察知したのかはわかりませんが、片方の刃物がはじけ飛んだ音からも
ジュストに危機が迫っている事は確かなようです。
アルカード「えっと、これをこうしてああして…呪文を唱えて……ムニャムニャ…」
デス「ああ、いけません坊ちゃま!魔物を呼びだすにはまだお勉強が足りな…」
アルカード「大丈夫だよ!…多分。いって、コウモリさん!」
死神さんの引き止めも虚しく、アルカードが叫んだ瞬間。
ボコン!と何かが凹む大きな音がしました。
???「ぐわぁぁぁー!…ガクッ。」
影が悲鳴を上げてその場に倒れ込みます。
事の成り行きを見守っていたネイサンはジュストに呼びかけました。
ネイサン「ジュスト、無事か!?」
ジュスト「ああ、こっちは大丈夫。突然現れた大きなタライが
マクシームの頭を直撃しただけだ。」
ネイサン「タライ?お前一体何を言っているんだ!」
ジュスト「そういえば灯りを点けるのを忘れてた。いやぁ、道理で戦いにくいわけだ。」
ジュストは手の平に小さな炎を呼び出し、部屋はようやく暗闇から解放されました。
…アルカードの顔が真っ赤だったのは、炎の光に照らされたからだけではありませんでしたが。
暫くして、ジュストはマクシームを縛り上げようとしましたが、すぐに手を止めてしまいました。
闇の奥から不気味な威圧感を放つ男が現れたからです。
???「ほぉ…中々やるではないか。いや、そうでなくては面白くない。」
アルカード「誰?」
???「俺はこの遺跡の主だ。闘技場の主と呼ぶ者もいる。」
アルカード「遺跡の主さん…あの、わたしの父と母を知りませんか?」
???「ああ、知っているとも。何故ならあの竜巻を呼び起こし、
彼らを攫わせたのは他ならぬこの俺なのだからな。」
アルカード「ええっ!!……ち、父上と母上を返せ!もし返さないっていうなら…!」
???「良いだろう、お前の両親は返してやる。」
アルカード「ほ、本当!?」
デス「坊ちゃま、罠のにおいがしますぞ!お気を付けくだされ!」
???「くくく…好きなほうを選び給え。」
アルカード「好きな…??」
意味がわからず首を傾げるアルカードの前で、お父さんとお母さん…
のようなものが姿を現し、アルカードににじり寄りました。
ママ?「そうよ、アルカード…このサキュバスをベースとしたセクシーママか!」
パパ?「ミノタウロスをベースとしたワイルドパパか!」
「「さぁ、どちらがいい!?」」
ジュスト「…。」
ネイサン「……。」
アルカード「………。 どっちも嫌だっ!!!」
???「…そうだな。まだ幼い少年に母か父を選択させるなど、
俺は少々思いやりに欠けていたようだ。」
遺跡の主は笑いに耐えぬといった口調で言い放ちました。
???「ならば遠慮することはない、両方とも受け取るがいい!!」
アルカード「そういう問題じゃないー!!」
???「開け、冥界の門!いでよ、我が下僕よ!この小蝿に真の闘いの恐怖を教えてやれ!」
アルカード「父上と母上の格好をしてわたしを騙そうとするなんて!もう怒ったぞ!」
普段の彼からは考えられない怒りのオーラを纏い、アルカードは遺跡の主に立ち向かうのでした…。
- 13 :第五話(2):2006/04/01(土) 00:00:17
- 果敢に両親の姿を真似た魔物に戦いを挑むアルカード。
そんな彼を二つの影が庇いました。ジュストと、遺跡の魔術から解き放たれたマクシームです。
ジュスト「アルカード!この化け物は俺たちに任せて先に行け。」
マクシーム「詳しい話はジュストから聞いた。君の両親を助けられるのは、冥界の門が開いた今しかない!」
アルカード「でも…」
マクシーム「おいおい、少しは俺にもカッコイイ役をくれよ。勇気ある少年への罪滅ぼしに
幼馴染と共闘する役をな!」
ジュスト「ネイサンと一緒に門の前まで行くんだ、急げ!」
アルカード「は、はい!」
ジュスト「それから、あのいくら殴っても死なない野生児も連れていってくれ。
今はご覧の通りふらついてるが、いざという時は君の頼もしい盾になるから。」
ジュストの指さす方では、傷だらけのラルフがフラフラと立ちあがろうとしている所でした。
アルカードは彼に駆け寄り、小さな手を差し出しますが、ラルフはその手を取ろうとはしません。
アルカード「ラルフ、大丈夫?痛いならそこで待ってても…」
ラルフ「何で俺がお前の指図を受けなきゃならん!さっさと行くぞ!」
アルカード「…とっても痛そうなのに。」
ラルフ「うるさい!これぐらい平気だ!」
ネイサンはもしやジュストは自分に面倒を押し付けたかっただけなのではないかと
頭を抱えましたが、もはや引き返すことはできませんでした。
ネイサン「そういえばあの男、一体何処へ消えたんだ…?
もう出て来ないのならそれはそれで構わな…!」
アルカード「どうしたの?ネイサン…お兄さん。」
ネイサン「門の前に誰か居る。」
???「…久しぶりだな、ネイサン。」
ネイサン「ヒュー!お前か!とっととそこから離れろ!危ないぞ馬鹿!」
ヒュー「先の戦いでは油断したが…ここで待っていれば必ずお前が来ると思っていた。
さあ、決着をつけようではないか!」
ラルフ「お前、あいつに何か恨まれるような事したのか?」
ネイサン「……気にするな。…俺たちは安全な場所に避難しよう。」
ネイサンは不思議なほど冷静に、少年二人を両脇に抱えあげ、
地上より数メートル高い場所に飛び移りました。
ヒュー「逃げるかネイサン!かかってこい!」
ラルフ「…なんだぁ、あいつ。」
ネイサン「あいつは高所恐怖症だからな。こうしていれば安全だ。
それにそのうち始まるはず…」
ネイサンの言葉が終るかどうかのタイミングで、周囲に不気味な音が響き渡り、
巨大な門がミシミシとうごめき始めました。
ゴゴゴゴゴ…
そしてゆっくりと門が開き、隙間から目も開けていられない強烈な風が吹きこみました。
その風に混ざって、巨大な岩の塊が三人に襲いかかります。
ラルフ「アルカード、ボサーッとするな!俺の後ろに隠れてろ!…痛てっ!」
デス「これはたまらん!これほどの強さとは…
主が太刀打ち出来なかったのも無理はない!」
ラルフ「うるせー!頭陀袋は風と一緒に吹き飛べ!」
ネイサン「ヒュー、お前も気をつけろー!そこ一番危ないぞ!」
ヒュー「何を…!他人の心配より自分の身を案じたらどうだ!!」
ヒューが吹き荒ぶ風の中、ネイサンに向けてビシリと指を指したのとほぼ同時に、
彼の後頭部に岩の破片が直撃しました。
- 14 :第五話(3):2006/04/01(土) 00:18:24
- ネイサン「ヒュー!言わんこっちゃないな。…ん?また何か来るぞ。岩じゃないみたいだが…」
ネイサンは目を凝らして門の向こうを見つめました。
彼の目には、小さな黒い物体が寄り集まって出来たような塊が、
凄いスピードで門を駆け抜ける様が映りました。
そしてその塊は力尽きたのかフラフラと地面に不時着したのです。
同時に一層強い突風が襲いかかりました。
ラルフ「うわっ!?何だこの…!」
アルカード「ラルフ!」
何ということでしょう!まるで風が意志をもっているかのように、
ラルフの体を門の方向へと引き寄せています!
アルカード「ラルフ―!」
アルカードが止める間も無く、ラルフは門の向こうへと吸いこまれていきました。
しかし泣いている暇はありません。風は次の目標をアルカードに定め、
ラルフと同じように門の側まで引き込みました。そして……
デス「しまった!坊ちゃま〜!」
周りが全く見えない時間が暫く続いた後、門は無情にもバタリと閉まってしまいました。
アルカードは目をギュッと瞑って身を縮こませ、次に来るであろう
冥界の地面に叩き付けられる衝撃に備えていました。
アルカード「…?」
しかし、いつまでたってもその痛みは襲って来ません。
それどころか誰かに抱きかかえられているような、温かな感じさえしていました。
恐る恐る目を開け、周りを見渡すと先程と変わらぬ遺跡の風景が広がっていました。
???「大丈夫でしたか?」
どうやらアルカードは誰かに助けられ、今その人に抱えられているようです。
視点を上へと移動させると、銀色に輝く髪の青年と目があいました。
アルカード「……ヘクターお兄ちゃん!」
デス「坊ちゃまー!坊ちゃまご無事で……。き、貴様はヘクター!何故お主がここに!?」
ヘクター「ちょっと事情があって家に居られなくなりまして…お城ヘ行ったら
メイドのプロセピナから皆さん西の方角ヘ出向かれたと聞いたので追いかけてきたんですよ。」
アルカード「どうしてわたしたちを追いかけて?」
ヘクター「それは…。」
???「―全てを知るお前ならばそれがわからぬはずはないぞ、アルカード。」
アルカード「!?」
- 15 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/04/01(土) 03:08:30
- ヘク太キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
展開がシリアスっぽくなってきたね、タノシミスw
- 16 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/04/01(土) 23:22:45
- 同じくへく太キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!
「ヘクターお兄ちゃん!」かわいいな仔アノレw
あと「ネイサン…お兄さん」ワロス。「ネイサンさん」はやっぱ言いづらかったのか。
ヒュー激しくGJっていうか…ゲームでもパラレルでも相変わらず
何したいんかわからん人だなwネイサンさん乙。
- 17 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/04/01(土) 23:35:37
- >>16
結局自分の欲望に忠実なもんだから、今度も洗脳されたんだよ>ヒュー
といってみるテスト
もーヤベェよGJですよ。もぉ姐さんのSS大好きだよーw
- 18 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/04/02(日) 00:28:11
- 同じく「ネイサン…お兄さん」ワロタw
仔姐さんのヅュストに萌えた勢いで…(゚∀゚)
ttp://www.geocities.jp/jinny256jp/jusral060402.gif
逃亡3秒前w
- 19 :第六話:2006/04/02(日) 14:36:23
- アルカード「何?今の変な声―」
声のした方向へと顔を向けるアルカード。
そこでは地上に伏せていた塊が飛散し、あとには一人の女性が横たわっていました。
さらさらとした長い髪に、お月様のように白い肌。黒いドレスを身に纏ったその女の人は、
アルカードがずっと探していた人でした。
アルカード「は……」
フルフルと身体を震わせるアルカードをヘクターはそっと自分の足元ヘ降ろしました。
地に足がつくのも待ちきれず、アルカードはその人のもとへと飛んでいきます。
そして叫びました。
アルカード「母上、母上―!」
いつも自分を温かく包み込んでくれた細い手を取ると、まるで氷のように冷たく
アルカードはゾッとしましたが、それでもようやく再会出来たお母さんに一生懸命呼びかけます。
アルカード「母上!」
アルカードが何度その言葉を繰り返したかわからないほどの時間が流れた後…
お母さんの瞼がピクリと動き、細かく瞬きをしました。そして、彷徨う瞳が
ようやくアルカードを捉えると、お母さんの唇から小さく言葉が紡がれました。
リサ「…アルカード…。良かった、無事だったのですね…」
アルカード「母上………ううっ。」
リサ「ごめんなさい、アルカード。私達を助けるために…
きっとここにくるまで、たくさん怖い思いをしてきたのでしょう…」
息子の小さな頭をお母さんの手が優しく撫でると、
アルカードはお母さんに縋り付き、エンエンと泣きだしてしまいました。
アルカード「母上、母上―。会いたかった!ずっと会いたかった!」
お母さんとの再会に頭が一杯のアルカードは、
自分の後ろに立つ長身の男の存在には全く気がついていませんでした。
痺れを切らした男は、出来るだけ威厳たっぷりにアルカードに話しかけました。
???「…息子よ、私は無視か。」
アルカード「!…あっ…。父上!父上もいたんだ!!」
ドラキュラ「いたんだとは何事だ。全くお前は母の事となると私に目もくれず」
アルカード「父上っ、父上ー!」
弾丸と化したアルカードがお父さんであるドラキュラの懐へ飛び掛りました。
予想外の衝撃に危うく体勢を崩しかけたお父さんでしたが、
妻と息子の手前涼しい顔をしてアルカードを受け止めました。
- 20 :第六話(2):2006/04/02(日) 14:43:49
- ドラキュラ「う、うむ。息災だったようだな我が息子アルカードよ。」
アルカード「父上、母上は大丈夫なの!?」
ドラキュラ「安心しろ。冥界に居る間は私が守っておいた。冥界の瘴気にも
極力当たらないようにしたが、疲れが出てしまったのだろう。」
アルカード「じゃあ母上にくっついてたコウモリさんたちは父上だったんだ。
どうやったらたくさんのコウモリさんになれるの?どうして今まで冥界からでてこなかったの?
それからヘクターお兄ちゃんはどうしてわたしたちを追いかけてきたの?それから」
ドラキュラ「待て、息子よ。そんなにたくさん聞かれては答える暇がないではないか。」
アルカード「あ…。ごめんなさい。」
お父さんを困らせてしまった自分に、アルカードはぺロリと舌を出しました。
そしてお父さんは、コウモリさんになる為にはもっともっと勉強しなければならない事と、
冥界の門はこの世界からしか開くことが出来ず、出ていきたくても出ていけなかった事を話してくれました。
ドラキュラ「また開く機会はあるだろうと考えていたが、こんなにも時間がかかるとは思いもしなかった。
おかげでリサには苦しい思いをさせたな…。」
アルカード「……。」
ドラキュラ「そんな顔をするな息子よ。さて…、あやつが我々を追いかけてきた理由…、
それはアイザックに関係する事ではないのか?」
お父さんの目線の先には、険しい顔のヘクターがいました。
ヘクター「仰るとおりです。アイザックの妹を助けるために、是非リサ様の力をお借りしたい。」
ドラキュラ「…どうする、アルカード。」
アルカード「ええっ、わたしが決めるの?」
ドラキュラ「当然だ。我々を助けたのがお前ならば、リサに協力を請う者を受け入れるかどうかも
お前が決めて何が悪い…それに…」
お父さんはアルカードにこっそり耳打ちしました。
ドラキュラ「こんな話リサにしたら無条件で薬を作って飛び出してしまう。
ヘクターは優秀だったが出奔した身だし、受け入れるにしても無条件というのは
少々癪に触るのだ。」
アルカード「父上のイジワル!」
ドラキュラ「お前は母がずっと外にお出かけしても平気なのか?朝はデスに起こされ、
昼は蔵書庫の主と本を片手に昼食、夜寝るときはデスに本を読んでもらい、
時には添い寝する生活になる…」
アルカード「それはヤダ!……でも条件なんて…。あっ、そうだ!」
親子のコソコソ話が終り、アルカードはヘクターの方へ振り返りました。
アルカード「ヘクターお兄ちゃん!母上にお願いしたら薬は絶対作ってもらえるよ。
でも、その代り…わたしのお願いを聞いてください。」
ヘクター「お願い?俺に出来る事なら良いのですが…何でしょう?」
アルカード「……わたしと一緒に、冥界ヘ行ってください!」
ヘクター「な…」
デス「なんですとぉぉーーー!?」
元々白い骸骨の顔を真っ青にした死神さんの絶叫は、
扉の向こうの冥界にも届きそうな程大きなものでした。
- 21 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/04/02(日) 22:10:30
- >>アルカード「!…あっ…。父上!父上もいたんだ!!」
ちょwww仔アノレヒドスwwwwパパン泣いちゃうぞwww
ところでふと思ったのだがへく太を身ぐるみ剥ぎにいった金履きはどうしたのだろう。
まだ捕まってなくてよかったねへく太…(つд`)
次はラノレフ救出大作戦クル──────!?
- 22 :第六話(3):2006/04/04(火) 00:23:39
- アルカードの突拍子もないヘクターへのお願いに、お父さんは開いた口が塞がりませんでした。
お父さんにしてみればほんのすこしヘクターを困らせることが出来ればそれで良かったのに、
自分の息子はその遙か上を行ってしまったのですから無理もありませんでした。
ドラキュラ「何を考えておるのだ、お前は…。」
アルカード「だって、父上は母上と一緒に居ないといけないし…」
デス「坊ちゃま、あのような人間の小童のために御身を危険に曝すなど、許しませんぞ!」
アルカード「デスはこうだし…ヘクターお兄ちゃん、お願いです。
もうお兄ちゃんしか頼れる人がいないんです。」
ヘクター「…そうですね。アイザックが随分とアルカード様の世話になったと聞きましたし、
俺も相応の誠意というものを貴方に示すべきでしょう。」
デス「な、な、な…!生身の人間風情が死者の行き着く世界で
坊ちゃまをお守り出来ると思っておるのか!」
ヘクター「問題はない。俺は常人よりは死と闇の世界の勝手を知っている。」
だから俺の心配はしないでください、と言いたげにヘクターはアルカードの頭を撫でました。
音にならない言葉に、アルカードの顔がパッと明るくなりました。
アルカード「ありがとう、ヘクターお兄ちゃん!」
デス「まったく…何故私が坊ちゃまは兎も角あの若造のために
冥界の門を開かねばならないのだ。坊ちゃまも坊ちゃまですぞ、
私は坊ちゃまのためを思ってお止めしたのに私の気持ちを少しも理解して」
ブツブツと恨み言を呟く死神さんを尻目に、アルカードはヘクターに手を引かれて
冥界へと進んでいくのでした。
その様子をお父さんは眉間に深い皺を寄せて見つめ、
扉が重い音をたてて閉まると同時に鉛よりも重苦しいため息を人知れずついたのでした。
- 23 :第七話:2006/04/08(土) 20:45:47
- 冥界に入ってすぐ、アルカードの目に一つの看板が目に止まりました。
そこにはこう書いてありました。
「ラルフ・ベルモンド保管所この先すぐ。どなたでもお好きなように救出なさってください。」
アルカードはひどく喜びました。
アルカード「ラルフが?やったぁ!」
ヘクター「アルカード様、こういうのも白々しいですがこれは明らかに怪しい看板ですよ!」
アルカード「でも、早くラルフを助けないと。わたしたちがこうしている間にも、
ラルフが酷い目にあっているかも…」
あの雨の降る谷で、自分をギュッと抱きしめてくれたラルフの暖かさと、
のみ男一人分だけ見せてくれた優しさの記憶が甦り、
大きな瞳を潤ませるアルカードを前にしては
ヘクターもこの小さな暫定的主人の手を引いて先を急ぐしかありませんでした。
二人は看板の背中に続く道を歩み始めました。
やがて、アルカードのお家にそっくりなお城に辿り着きました。
入り口に貼りつけられた紙にはこう書いてあります。
アルカード「『ことに銀髪の方や小さなお子さまは歓迎します。』
…わたし達が入っても良いみたい。」
扉をガタンと開けると、また変な扉がありました。
アルカード「何か書いてある…『剣・弓矢・イノセントデビル他ことに攻撃的なものはみんなそこに置
いてください。』『そしてここにある綺麗なお水で体を洗ってください。』
『お水がお嫌いな方は全ステータス異常防止のお母さんが縫ってくれたマントを脱いで
こちらの宝石をお持ちください。』…だって。
…冥界に住んでる人もお母様にマント縫ってもらうのかな?」
ヘクター「…。この条件を呑まない限り、扉は開かないようですね。」
二人はそれぞれ武器を置き、ヘクターは怪しげな小瓶に入った水を体に塗り、アルカードは宝石を
手に取りました。すると、アルカードの顔はみるみるうちに真っ青になってしまいました。
アルカード「…キモチワルイ…。この宝石のせいかな。あれ?手から離れない!」
ヘクター「大丈夫ですか?呪われた物品だったのかも…すぐに手当てを…」
アルカード「ヘクターお兄ちゃん水びたしだから触っちゃダメ!」
ヘクターの手から逃れるようにアルカードは扉を開きました。
アルカード「…ラルフ!」
扉の向こうの部屋の中では気を失ったラルフが転がされていました。
アルカードは急いでラルフの元へ走り寄ろうとしましたが、突然現れた人影に阻まれてしまいます。
リヒター「フハハハハ、久しいなヴァンパイア・ハーフの少年。」
アルカード「お前は遺跡の悪い人!ラルフを攫ったのもお前だったんだ!」
リヒター「このベルモンドの少年にはまだやってもらわねばならないことがある。
『この男』よりもより若く、力を求める器が必要なのだ。」
ヘクター「待て!一体何を言っている!?この男とは誰のことだ!」
リヒター「お前たちがそれを知る必要はない。俺の策に嵌まり呪いを受け、使い魔も使役出来ぬ
弱き者を戦いの宴に招待してやろう。
世界が混沌に沈む様を、冥界の住人となって見届けるがいい!」
アルカード「うう、体に力が入らないよぉ…ヘクターお兄ちゃん〜」
ヘクター「そ、それが俺も…もしや先程の水は…アイザックの…ガクリ。」
アルカード「ヘクターお兄ちゃん〜!?アイザックさんがどうしたの!しっかりして!」
ヘクターまでもがリヒターの卑劣な策略に倒れ、アルカード絶体絶命のピンチ!
アルカードのラルフを助けたいという気持ちは果たして奇跡を呼ぶ事が出来るのでしょうか?
- 24 :弟八話(1):2006/04/09(日) 22:14:55
- 数刻も経たない内に、アルカードは遺跡の主の手によってボロボロにされてしまいました。
アルカード「うう…。痛いー…」
頼りにしていたヘクターは敵に攻撃する間もなく倒されました。
もはやアルカードには立ちあがる元気も、それを支えてくれる人も居はしないのです。
自らの勝利を確信し、遺跡の主は声高に叫びました。
リヒター「邪魔者がいなくなった今こそ、新たな肉体を手にいれ世界を混沌の中へ誘う時!
世界は混沌に黒く身を染め、愚かな人間どもは不安と恐怖にその身を委ねるがいい!
フハハハハ!!」
アルカード「ああ…黒いモヤモヤが…」
遺跡の主の身体から真っ黒な霧が抜け出てくる様に、アルカードは息を飲みました。
何かを求めるようにふわふわと彷徨うそれはゆっくりと近くへ倒れているラルフの体に重なりました。
その瞬間、アルカードの視界は真っ暗になりました。慌てる間もなく体中に衝撃が走り、
アルカードの身体は宙に浮きました。
アルカード(?)
アルカード(わたし、死んじゃうのかな…?)
身体中がズキズキと痛むのに、アルカードはあまりの衝撃の強さに声も涙も出せません。
アルカード(父上、母上…。ラルフ…助けてあげられなくて、ごめんね…)
そのまま、アルカードは意識を手放してしまいました。
- 25 :弟八話(2):2006/04/09(日) 22:17:07
- ラルフ「…おい爺さん!雲行きがすげえあやしいぞ。俺の体に何かあったんじゃねーだろうな!」
J「確実に何かあっただろうな。ここはお前の魂が作った世界だ。そう遠くないうちに
侵略者が来て、ここは壊滅するだろう。」
ラルフ「それってつまり俺が死ぬってことか!?」
J「そうではない。お前の肉体は残る。ただ魂が別のものになるだけだ、安心しろ。」
ラルフ「とどのつまり俺は死ぬのに、安心できるか!」
地平線の遙か向こうまで草原が続く場所で、壮年の男の人と、ラルフが言い争いをしていました。
ラルフ「くそぉ…目が覚めたら冥界かと思ったら、「俺の魂が作った世界」なんてわけのわからん
所にいるわ…くたびれた記憶喪失の爺さんはいるわ…。挙句に俺が死ぬかもしれないだとぉ。
ふざけんな!今頃あの馬鹿箱入り息子は俺を追い駆けて冥界にホイホイ…」
J「ん?見ろラルフ、空から何か落ちて来るぞ。」
男の人の言葉にラルフは文句を中断して空を見上げました。上空から落ちて来る小さな物体に
目を疑い、思わず叫びました。
ラルフ「アルカード!?」
J「何だ、お前がいつも言ってたボーイフレンドか。あれは早く行ってやらんと地面に激するぞ。」
ラルフ「だ、誰がボーイフレンドだ!クソ、俺が行くまで激突するなよっ」
野生のチーターもかくやというスピードでラルフは走りだしました。
アルカード「…。んん?…あれ…ラルフ?…ここ、天国なの?」
羽根のように軽いアルカードを間一髪受け止めたラルフでしたが、ボロボロになったアルカードの様子に、
気遣う言葉も忘れて声を張り上げます。
ラルフ「俺を勝手に殺すな!どうしてこんなに傷だらけなんだよお前。」
そして二人はお互いの身に起こった事を少しずつ相手に話しはじめました。
ラルフ「じゃあこのままだと俺の身体はそのあやしい霧に支配されて、世界は混沌に包まれるわけか。」
アルカード「…ここがラルフの魂なんだぁ…広いなぁ。」
ラルフ「物珍しそうにキョロキョロ見るな!お前は人の話を聞いてるのか!」
アルカード「うん。ここにあの黒いモヤモヤがきて…ラルフの魂を壊して、体を乗っ取っちゃうんだよね。」
J「奴は今度こそ本格的に、肉体を支配するつもりなんだろう。打ち滅ぼすなら今しかない…と思う。」
アルカード「誰?」
ラルフ「Jとか言う爺さんだ。そっち見んな!俺の方を見ろ!…爺さん、そいつを知ってるのか?」
- 26 :弟八話(3):2006/04/09(日) 22:19:58
- J「いや…何となくそんな感じがしただけだ…。何故か奴の思惑が俺には手に取るようにわかる。」
ラルフ「胡散臭いな、何でこんな奴が俺の中に居るんだよ。」
アルカード「ううん…Jさん、ラルフにちょっと似てる…レオンさんや、ジュストさんにも…」
ラルフ「なんだそれ。まぁいい、さっさとあいつを、ボロボロにして!メチャメチャして!地面に這い蹲らして、
闇に還してやる!アルカード、お前は爺さんとここで待ってろ。」
J「待てラルフ。お前武器も無しでどうやって戦うつもりだ?」
ラルフ「うぐ…そういえば…。な、なにいざとなったら殴り倒してたり噛みついたり」
J「実体がないかもしれないのにか?俺の持つこの聖なる鞭を貸してやろう。」
ラルフ「聖なる鞭ぃ?それはアホレオ…もとい当主様が持ってる唯一の鞭だぞ。紛い物かよ。」
バシリと空気を切る音が響きラルフの横髪が一房、ひらりと草茂る地面に落ちました。
アルカード「ラルフ!…の髪の毛が…」
J「品質はごらんのとおりだ。ただしこれを渡すには条件がある。アルカードを連れて行く事だ。」
ラルフ「何だと!バカ言うな、こんなボロボロになってるアルカードを連れて行けるか。
…第一、アルカードが行きたがる筈ない」
アルカード「行くよ!このままじゃ世界が真っ暗になっちゃう。それに…ラルフはわたしの大事なお友だちで
…ずっと一緒にいてほしいし、いなくなってほしくなんてないから…。」
アルカードの白く小さな手が縋るようにラルフの大きな手を握りました。
ラルフ「…わかったよ。どっちにしろこの糞爺はお前を連れていかないと鞭は貸してくれんらしいしな。
そうだ、仕方ないんだ。決して嬉しくなんかないぞ。」
アルカード「ラルフ何言ってるの?」
J「決まったな。お前に鞭を貸そう。そうそう言い忘れるところだったが…」
ラルフ「まだあるのかよ。記憶喪失とか言ってたが実は単なる老人ボ…痛―っ!」
J「スマン、何故か本能的に手が出てしまった。この鞭は半人前のお前一人では到底真価を発揮できない。
二人の力を合わせることが重要だ。わかったか?」
二人はコクリと頷き、男の人に別れを告げました。
そして足早に草原を駆けぬけ、地平線の果てへと向かうのでした。
- 27 :+α話:2006/04/14(金) 01:36:20
- ラルフは先程貰ったばかりの鞭を誇らしげに腰にかけ、地平線の果てへと進んで行きます。
一方のアルカードはちょっと遅れ気味です。
どうやら墜落したときに足を捻ってしまったようです。
それに気がつき、ラルフは文句を言いながら取って返しました。
そして、アルカードの辛さを少しでも解消しようとアルカードをおんぶしようと考えました。
アルカード「ええっ?わたしのおんぶはいつも父上がしてくれるんだよ。ラルフは父上よりずっと小さいのに、
潰れちゃうかも…」
ラルフ「馬鹿にするな。ヒョロヒョロのお前なんかなぁ、俺一人でも十分おぶれる。
それとも、このまま置いていかれたいのか?」
アルカード「…いや!」
かくして、ラルフはちょっぴり無理をしながら男の子一人をおんぶする事になりました。
アルカード「…ヘクターお兄ちゃんみたい。」
ラルフ「誰だよ、そのヘタうんちゃらって?」
ラルフの言葉が棘を含んでいることに、懐かしさからほんのり頬を染めるアルカードは全然気がつきません。
アルカード「ヘクターお兄ちゃんはね、父上の”おでしさん”?だったお兄ちゃんで…
お昼のお庭で遊んでくれたり、お外の世界の事教えてくれたり、夜寝る前に
一緒のお布団に入ってご本を読んでくれた人なんだ。」
ラルフ「ふーん。そうかよ!一緒の布団にな!!俺も3つまではベルモンドサバイバル雑魚寝野宿やってたがな!」
アルカード「?どうしたのラルフ?何で怒ってるの?」
ラルフ「別に!…なぁ、そのヘクターって奴のこと…す…好きだったりするのか?
俺は別にどうだっていいんだがお前がどう思ってるのかが気に…なってもないけど!」
アルカード「好きだよ!大好き!優しくて、暖かくて。…時々怖い時があるけど、でも好き。」
ラルフ「……。」
アルカード「ラルフどうしたの?どこか痛いの?」
突然自分を支えてくれていたラルフの背中がぐらりと傾き、アルカードは慌てました。
ラルフ「お前なぁ…それじゃあ俺はヘクターの代わりなのかよ。アルカード、お前俺をなんだと思ってるんだ?」
アルカード「ラルフはラルフだよ?お友だちのラルフ。」
暫く、重苦しい沈黙が流れました。
ラルフ「…もういい!お前もう喋るな!喋ったら放り投げて置いていくからな!」
アルカードは、理由は全然わからなくともラルフが本気で怒っているのは、
しがみついている彼の背中から感じることが出来ました。
アルカードの頭の中でははてなマークと、今までとは違うラルフの態度のことが
ぐるぐると回っていました。
何よりもそんなラルフを見るとアルカードの小さな心臓がきゅぅっと締め付けられる
事実に、アルカードは戸惑いを隠せないのでした。
- 28 :第九話:2006/04/15(土) 00:57:10
- 広大な闇の裾野に二人の少年がたどり着いた時、既にラルフはかなり参っていました。
迫り来る闇の支配によって彼の魂は弱っていたからです。
ですがそんな様子は億尾にも出さず、ラルフは実体の掴めぬ強大な闇に鞭を振るい続けます。
アルカード「ラルフ、Jさんが言ったとおりにしないと勝てないよ!」
こうしている間にも、ラルフの魂の領域である地上がじわじわと闇に続く奈落へと姿を変えていきました。
地上に残ったアルカードをハラハラさせながら器用に飛び跳ね攻撃を繰り返すラルフでしたが、
最後には自分とアルカードの足場だけを残して
周囲は見るも無残に崩れ落ちてしまいました。
ラルフ「くっ…やはりお前の力を借りるしかないのか、アルカード…。」
アルカード「そうだよ!わたしと一緒にその鞭で戦おう!」
ラルフ「だが、これが本当の聖なる鞭なら闇の一族であるお前が触れればただでは済まないかもしれない。
最悪死んじまうぞ。俺たちの鞭のせいでお前に何かあったら…」
続く言葉を口の中でモゴモゴさせているラルフの肩口にアルカードの小さな頭が寄りかかりました。
いつもとは違う真剣なアルカードの雰囲気にラルフはびっくりしましたが、見下ろした先にはいつもの笑顔がありました。
アルカード「それでもラルフを守りたい!ラルフの住む世界を守りたい。
心配しなくても大丈夫だよ、ラルフが一緒なら鞭さんも怒らないから。」
ラルフ「怒らない証拠はあるのか?」
アルカード「うーん……魔族の勘、かなぁ?」
ラルフ「…。」
アルカード「……。」
ラルフ「お前は非常事態時に何を暢気に構えてんだ!この天然坊ちゃんが!!
いいぜ、お前の勘を信じてやる!」
言葉の乱暴さに反して嬉しそうなラルフに今度はアルカードがびっくりする番でした。
ラルフ「よく考えてみればベルモンドたる者この程度の生命の危機に臆するわけにはいかない。
何よりお前との勝負はまだついてないんだ、冥界からの支配者だろうが
聖なる鞭だろうが、俺がお前をちゃんと守ってやる!」
アルカード「でも先にラルフを守るって言ったのはわたし…」
ラルフ「いや、もう決めた!正確にはどっちでもいい!とにかくコイツを倒して
一緒に元の世界へ帰るんだ、アルカード!」
アルカード「…うん!」
二人の手が鞭に重なった瞬間、闇を切り裂く眩い光が辺りを包みました。
そこから先のことは、アルカードはあまり覚えていません。
ただ真っ白な世界でどす黒いこの世にあってはいけない何かの断末魔の悲鳴を聞いたように感じました。
でも、握った鞭に力を吸い取られて意識も定かではありませんでした。
程なく睡魔に沈んだアルカードはふわふわと何処かへ運ばれていきました。
- 29 :第九話(2):2006/04/15(土) 01:07:08
- ???「そろそろ起きろよ、少年。」
アルカード「む……母上、まだ眠いー。」
???「君の母親はあっち。」
アルカード「…ん。…あれ?」
リサ「アルカード!」
ネイサン「良かった、気がついたんだな!」
ジュスト「一時はどうなることかと思ったよ。起きられるか?」
アルカード「母上?ネイサンお兄さんにジュストさん…?あの」
デス「坊ちゃま〜!坊ちゃまが無事に戻られるか心配で心配で…
私の身体は骨だけになってしまいましたぞ!!」
アルカード「うう…デス苦しいー。…ここどこ?わたしはさっきラルフと一緒に…」
???「ちゃんと混沌を倒してきてくれたから、俺が君の魂を肉体に戻して元の世界へ届けたんだよ。」
アルカード「…あなた誰?」
ソーマ「神様。…みたいなものかな。」
アルカード「神様?神様、わたしさっきまで」
ソーマ「ラルフとかいう子と一緒にいたんだろ。それさっき聞いたよ。あの子ならそこに居るけど?」
神様みたいな者と名乗った紅い瞳の少年が指差した先に、ピクリとも動かないラルフが投げ出されていました。
ソーマ「今回の一件、つまり『混沌』と呼ばれる存在がこちらの世界にまで侵入してしまったのは、
我々の監視体勢が不十分だったことにある。そんな中君は見事
友人の内に宿ろうとした混沌を打ち滅ぼしてくれた。ありがとう…と、一応神様らしく言っとく。」
ドラキュラ「己自身は何もせず高見の見物とは、立派な神もあったものだ。」
ソーマ「しようがないだろ、あいつが世界への影響力を強めたせいで、俺は魂を使役する能力を
使えなくなったんだよ。ユリウスは俺に面倒押し付けて何処かに雲隠れするし…ま、あの放浪癖の抜けない
オジサンのことはどうでもいいか。少年、君にはお礼に願い事を何でも叶えてやるよ。
さぁ、どんなことでも…って、あれ?」
神様が長々と事情を説明しているというのに、アルカードは構うことなくラルフの体を揺さぶり続けていました。
アルカード「…ラルフ…起きて、起きてよー。」
ソーマ「あ、残念だけどその子もう死んでるよ。往生際が悪いというか、乗り移り先の魂を
バラバラにして消滅なんて最後まで嫌な奴だよなぁ。」
アルカード「そんな!神様、ラルフを生きかえらせて!」
ソーマ「…それは出来ないよ。魂を一つ復元するためには一つの魂が必要なんだ。
他のお願いなら何でも聞くけど。そうだな、地位とか名誉とかお金とか…」
アルカード「そんなの欲しくない!そうだ、デスならラルフの魂を元に戻せるよね?」
デス「ムムム…坊ちゃま、私の鎌は魂を刈り取ることは出来ても呼び戻すことは出来ませぬ…。」
アルカード「…!」
全ての希望を絶たれたアルカードは耐え切れなくなったようにお母さんの胸に飛び込みました。
辺りは暫くアルカードのすすり泣く声だけが暗く響きました。
- 30 :第九話(3):2006/04/16(日) 22:10:06
- デス「ええい、仮にも神と名乗るのであれば反則技の一つや二つを使って助けぬか!」
ヘクター「そうだな。アルカード様は助かってその友人が助からないと言うのは道理が通らんだろう。」
ジュスト「あの子には俺の親友と違ってまだまだ矯正出来るものが沢山あったというのに、ちょっと酷過ぎないか?」
ソーマ「そんな恨めしそうな目で見るなーっ!待ってよ、今考えるから……生贄は倫理的にダメ。
自力で修復するのも、無理。…うーん…。」
リヒター「この場にあるのは頭数ぐらいだし…ここは間抜けにも操られた俺が責任を取って魂を捧げ」
ソーマ「それだ!!」
ソーマの一言に度肝を抜かれたのは、他ならぬ言いだしっぺのリヒターでした。
ジュスト「やっぱり生贄作戦か!黒魔術なんて俺始めてだから研究心が疼くよ〜。
立場上表立って応援は出来ないけど、後学のためにもよく観察しておこうっと。」
リヒター「えええー!?……いや、自分で言い出した事だ…覚悟は出来ている。」
そんな二人に、神様青年の冷たい視線が突き刺さります。
ソーマ「…盛り上がってる所悪いんだけど、俺が言ったのは頭数で何とかしようってことだよ。」
デス「こんな頭まで筋肉ばかりの連中が寄り集まって何が出来るというのだ。
せいぜい小童ゾンビ化儀式のセッティング作業に扱き使うぐらいだろう。」
アルカード「ラルフ……。」
デス「ご安心くだされ坊ちゃま、原型は極力留めておきますので。」
土色の肌に淀んだ瞳のラルフが自分を抱きしめる光景を想像し、アルカードは身を震わせました。
アルカード(だ、大丈夫。わたしは魔物の王様、父上の息子なんだ。ラルフがゾンビになっても……
なっても…………。……。やっぱり嫌〜!)
アルカード「デスの馬鹿!嫌い!」
デス「なぁ〜〜っ!!??坊ちゃま〜!」
ソーマ「……ここに居る全員の魂をちょっとずつ貰って、ちょうど一人分の魂を作る。」
アルカード「そんな事出来るの……?」
ソーマ「やったことないからわからないなー。まぁ、ちょっとずつ貰うわけだから
寿命が急激に縮む事態にはならないだろうけど。」
アルカード「……でも、ちょっとだけ命が短くなるの?…人間はわたしや父上よりずーっと
生きられる時間が短いって爺が言ってたよ。……皆の大事な命が……」
ジュスト「何だ、そんな事ぐらいでラルフ一匹が助けられるならこっちからお願いしたい位だよ。」
ネイサン「千尋の谷に突き落としても死なないベルモンドは、まぁ一応尊敬するべきハンター一族だし…」
マクシーム「そうだ!俺達の心は今一つになろうとしている!」
ヒュー「ああ……ベルモンドを復活させ、聖なる鞭は俺の手に還るという目的のもとにだ。」
ネイサン「ヒュー……お前もういいから休め。」
- 31 :第九話(4):2006/04/20(木) 23:40:18
- ソーマ「では……少年の死体を中心に手を繋いで一つの輪を作ってくれ。」
アルカード「……。」
神様少年の言うとおりに、その場にいる全ての人達で大きな輪を作りました。
ソーマ「皆の心を一つにするんだ。そうすれば上手くいく……と思う。」
ジュスト「ラルフの魂が戻って来るように祈れば良いんだろう?簡単じゃないか。」
ヒュー「ネイサンがやるというのに、兄弟子である俺が協力しない訳にもいくまい。」
ネイサン「…じゃあ、俺の手を握るべき方の手に針を仕込んであるのはどういう訳…」
ヒュー「うるさい!兄弟子からの試練だ!」
リサ「アルカード。」
アルカード「はい、母上。」
リサ「貴方が出会ったのは皆良い方達ばかりですね。この方達の力を借りればきっと貴方のお友だちを助けることが出来るでしょう。」
アルカード「はい。」
リサ「だから、貴方も私も一生懸命お祈りすることにしましょう。」
アルカード「……はい。あの、母上。」
リサ「何ですか?」
アルカードは表情を曇らせました。自分のせいでラルフを死地に追いやった悲しみとはまた違う暗い感情が、頭の中に渦巻いていたせいです。
アルカード「今まで、わたしはラルフをたくさん怒らせちゃいました。でも何でラルフが怒ってるのかわからなくて。
ヘクターお兄ちゃんや、父上母上と同じ位好きだって言った時も怒ってた。ラルフはわたしが嫌いなのかな…もし大嫌いなわたしがお祈りしたら、
ラルフはもう戻って来てくれないかも……。」
とても辛そうな息子の顔を見たお母さんは、優しく微笑みました。
リサ「お友だちが貴方の事を嫌いだと言ったのですか?」
アルカード「ううん。」
リサ「では、まだお友だちが貴方を本当に嫌いかどうかわからないでしょう?それに、好きだからこそ相手を怒る事もあるのですよ。」
アルカード「よくわからない…。」
リサ「今はわからなくても良いのですよ。いずれお友だちが貴方に教えてくれる時が訪れます。
ただこの一時だけは、お友だちを助けたい気持ちで心の中を一杯にしましょう。」
アルカード「うん……。」
右手にお母さんの手の、左手にお父さんの手の温もりを感じながらアルカードは目を閉じて祈り始めました。
アルカード(お願いです、ラルフを生き返らせてください。ラルフがわたしのことが好きじゃなくても、
わたしはラルフが好きだから、ラルフとずっと一緒に居たいんです。
もうおねしょしたお布団をヘルファイアで燃やしたりしません。トマトジュースだけじゃなくて牛乳もきちんと飲みます。
お勉強もします。夜更かしもしないように頑張ります。……だから、ラルフを……)
- 32 :第九話(5):2006/04/20(木) 23:44:17
- 永遠とも思える時が、目を閉じた暗闇に流れていきました。
もしかすると、ダメだったのかもしれない。誰もがそう思った時でした。
ラルフ「……にく……。死ぬ前に、一度でいいから腹いっぱい肉喰いたかった……。
次に産まれてくる時は…もうちょっと素直にならないとな……喰いたい肉は喰えないし、
好きな奴には好きって言えねーし……碌なことがな…」
二度と開かれないと思われていたラルフの唇から、途切れ途切れに言葉が紡がれました。
しかも随分と悲壮な死に際の言葉のようです。
アルカード「ラルフ!」
アルカードの悲鳴に近い声に、ラルフの瞼がうっすらと開かれました。
ラルフ「ああ……?」
ラルフはアルカードの姿を確認すると、一度死んだとは思えぬ勢いで飛び起きました。
ラルフ「な、何でお前がここにいるんだよ!俺すっかり自分が死んだと思って―」
アルカード「ラルフ―!」
ラルフ「のわっ!!」
俊敏に飛び起きたとはいえやはり黄泉路を彷徨った身のラルフは、
アルカードの喜びの弾丸アタックによって、再び地面に背中をぶつけてしまいました。
ドラキュラ「アルカード。そんなに手荒に扱うと、我々の苦労と魂が水の泡になってしまうぞ。
……私の話を聞いているか、息子よ。」
お父さんが拗ねていることに、アルカードは全く気づかずラルフにじっと抱きついていました。
アルカード「ラルフ、痛い所はない?苦しい所はない?」
ラルフ「苦しい!お前が乗っかってるせいで死ぬほど痛い!」
さすがのアルカードも慌てて飛び退きました。そしてしょんぼりと項垂れます。
ラルフ「べ、別にヒョロヒョロのお前が乗っかっても普段の俺なら何ともないんだがな!
病み上がり…いや、死に上がりなんだから少しは優しく扱えよな!……。」
アルカード「……。」
ラルフ「なんだよ。あっ、そうだ。さっき俺は変なことを言ったかもしれんが、好きな奴はお前なんかじゃないぞ。
さっき守ってやったのは、放っておいたらお前が殺されそうだったからで……」
アルカード「ううっ……。」
ラルフ「なっ、なにも泣くことないだろうが。面倒くさい奴。」
突然涙をぽろぽろ零し始めたアルカードに慌てふためくラルフの頭上に、強烈な痛みが走りました。
ラルフ「いてぇー!誰だこの…やっぱりお前かジュスト―!俺の頭が悪くなったらどうすんだ!」
ジュスト「それ以上悪くなれるのなら、殴るのを止めるぞ俺は。お前折角死に掛けて素直になろうと思ってたのに、その言い草はないだろう。」
ラルフ「素直って何だよ。俺はアルカードのことなんかこれっぽっちも……。」
アルカード「ラ、ラルフは…わたしのことが嫌いなの?」
ラルフ「…うぐっ。」
デス「貴様……坊ちゃまが身命を賭して助けた恩を忘れ返答に詰まるとは!今一度冥土送りにしてくれる!」
アルカード「デス、ダメだよ!」
ネイサン「残念だな。このまま友情が壊れてしまうのは…」
ヘクター「友人というのもよく考えて選ばねばいけないな。」
マクシーム「全くその通りだ。素直に物を言えない男は嫌われるぞ。」
- 33 :第九話(6):2006/04/21(金) 00:06:34
- 全員の視線が一斉にラルフヘ集まります。針のむしろ状態のラルフは出来るだけ小さな声で、
そして素直な気持ちを少しだけ込めて言いました。
ラルフ「……別に嫌いじゃない。勝手に勘違いするな。顔がわりと可愛い所も、弱そうなのに無駄に元気な所も、
世間知らずな所も、笑うともっと可愛い所も…将来今より顔が良くなりそうなのも、
別に嫌いじゃないからな!
これで良いか頭陀袋!もう二度とこんな馬鹿げたこと言わんぞ!」
デス「まだ私を頭陀袋というか小童!」
顔を真っ赤にして死神さんと喧嘩しているラルフの言っていることが、
アルカードには良くわかりませんでした。
でもとりあえず嫌われていなかったことだけは理解して、ほっと胸を撫で下ろしました。
アルカード「じゃあ、また手を繋いでもいいの?嫌じゃない?」
ラルフ「別に……。おい、言った側から手を握るな!」
アルカード「どうして?ラルフはお家に帰らないの?」
ラルフ「家だぁ……?」
ソーマ「そりゃそうだろ。用事は済んだし子供は帰らなきゃな。」
ラルフ「お前誰だよ。俺より年上っぽいからってジュストみたいな命令をするな。」
ジュスト「何か言ったか?」
ソーマ「俺はこの世界の神様みたいなものだぞ。」
ラルフ「……こんな変な奴が居る所からはさっさと出て、家に帰るぞ、アルカード!」
ソーマ「そんなに神様っぽくないのかな俺……。」
ドラキュラ「髭を蓄えるのが良いだろう。私の経験則からすると漏れなく貫禄が出る。」
ソーマ「そうかなぁ…。まあいいや、気を付けて帰れよアルカード。牛乳も飲むように。」
アルカード「うん!ありがとう神様!」
ラルフとアルカードはしっかりと手を握り自分たちの家へと帰って行きました。
- 34 :第九話(7):2006/04/21(金) 20:44:00
- お母さんはヘクターが頼んだ通りに、ジュリアの待つアイザックのお家へと向かいました。
そのせいかはわかりませんが、お父さんはお城に戻っても暫く元気がなさそうでした。
ネイサンとヒューは何やら言い合いつつも、途中皆と別れ村への旅路を進んで行きました。
ジュストはマクシームがまた放浪の旅に出てしまったので、一休みする意味もこめて拳が炸裂する魔術授業を
ラルフと続けるつもりだと言い、世界崩壊の危機に一切慌てず騒がず木の上で昼寝していたらしいレヲンは、
これまた慌てず騒がずジュストを迎えいれる準備を始めています。
遺跡の主のその後の消息はわかりません。ただ、彼はアルカードに不思議なメガネをプレゼントしました。
ラルフの不機嫌が暫くおさまらなかったのは言うまでもありません。
長い旅と冒険は終りを告げ、
皆がそれぞれ自分たちの場所へ戻って行きました。
もう二度と、世界が竜巻に襲われ暗闇に染まる心配はありませんでした。
アルカード「こうして、冒険を終えたアルカードはお父さんとお母さん、
そして死神さんといつまでも幸せに暮らしたのでした。……めでたしめでたし。」
- 35 :最終話:2006/04/21(金) 20:55:35
- デス「おおお…坊ちゃま、この様な感動巨編をお一人の力で書き上げられるとは!特に最後の一行が素晴らしいですぞ!
邪魔なものは全て取り払った感涙の一文。死神である私の心にも深く染み入りましたぞ。」
アルカード「もう…デスはちょっと褒めすぎだよ…。」
爺「そうですな。数多の書物に目を通した立場から評させていただくと、
人物の描写不足も目立ちますし、最後は説明が足りぬ点が多くあります。
この点を改善すればより高尚な物語にさせる事が出来ますぞ。しかし…ううむ…この独創的な挿絵は…
アルカード様の描かれたものですかな。」
アルカード「うん。これがわたしで、母上と父上に、デスはこれだよ。凄く格好良く描けたと思うんだ。」
デス「これが私……ゴミ袋だとばかり…。ま、まぁ宜しいでしょう。
忌々しいラルフ・ベルモンドの名前を締めの文に載せない判断、お見事です坊ちゃま。」
アルカード「……。」
爺「その様子では、物語はこれで完成というわけではないようですな、アルカード様。」
デス「蔵書庫の主よ、それは一体どういう意味だ。」
爺「それはアルカード様にお聞きした方が早いでしょうな。こうしている間に音も立てずにドアを開け、出ていかれましたが。」
デス「坊ちゃま!?またお勉強が…お主、知っていながら何故止めなんだ!」
爺「アルカード様からリサ様特製の三時のおやつをプレゼントされまして。」
デス「賄賂に弱いのは相変わらずか!…やはりあの小童のもとに……。」
爺「これはトマト味…ふぉっふぉっふぉっ。流石リサ様、中々美味ですな。」
デス「何たることだ…今後はお召し物を取り上げるお仕置きも考えておかねば!」
死神さんが恐ろしいお仕置きを考えているとは露知らず、
お城とベルモンド家の森のちょうど真ん中辺りにある小高い丘の上で、ラルフとアルカードは向かい合う形でちょこんと座りこんでいました。
自作の本と一緒に持ってきたアルカードのバスケットの中にはサンドイッチが詰めこまれています。
ラルフの興味は本よりもそちらに向いているようでした。
アルカード「ラルフー。見て見て、この前ラルフが『字ばっかりで難しくてわからん!』って言ってたから絵も入れてみたんだ。」
ラルフ「わからないなんて言ってない、つまらんと言ったんだ!…お前勉強はいいのか?」
アルカード「夜にお勉強するから平気。お昼はラルフと遊びたいの!」
ラルフが大きく口を開けて不格好なピーナッツバターサンドイッチに齧り付きました。
トマトサンドイッチには手をつけないようにしていました。
可愛い子程、怒ると怖いという事を知らない以前のラルフであれば、全てを平らげてしまっていたでしょう。
アルカード「それよりラルフ、この本最後の一番大事なところをまだ書いてないんだ。」
ラルフ「大事なところ?絵が下手糞もといゲージュツ的ですって注意書きか?」
憎まれ口を叩いてしまう癖は中々抜けないラルフです。
アルカードは頬を膨らませました。
アルカード「違うよ!ラルフのこと!」
ラルフ「俺のこと?」
アルカード「うん。ラルフがこれからどんなに幸せに暮らしていくかを書くの。」
こんな事を言って、ラルフにはまた鼻で笑われるか、怒られるかのどちらかだとアルカードは身構えていましたが、
ラルフはそのどちらもせずに黙り込んでアルカードをじっと見つめました。
アルカードは生まれて始めて、恥ずかしいようなくすぐったいような気持ちを覚えました。
ラルフ「そうだな―。お前がもうちょっと世間知らずじゃなくなったら、近くの街まで遊びに行くのも良いかもな。」
アルカード「それ知ってる!人間は好きな人とお出かけするのをデートって言うんだよね?」
ラルフ「……そうとも言うかもな。」
アルカード「ラルフ変なの。お顔が真っ赤だよ?」
まだ幼い二人は、友だちとしての幸せの道を歩み始めました。
ですが二人が本当の幸せを手に出来るのはまだ先の、そして別のお話です。
アルカード君の大冒険はまだまだ続きます。
が、とりあえずこのお話は……
おしまい。
- 36 :名無しさん@うまい肉いっぱい:2006/04/21(金) 21:05:30
- というわけで長きに渡ったネタ投下も、終了と言いますか一段落つきました。
こんなネタでも萌えていただけたのならば幸いです(*´Д`)
絵師さん始め、感想叫んでくださった方々、本当にありがとうございました。
- 37 :ネタ投下人@仔ラルいっぱい:2006/04/24(月) 21:57:43
- 死に掛けたり死んだり、仔ラルフの扱いがあまりにヒドスだったせいなのか
今度はラルフ君メインで妄想ネタがモリモリ湧き上がってまいりました…
感想スレに書かれてた「お城を抜け出し」ネタ(;´Д`)ハァハァ
- 38 :ラルフ君の小さな試練・第一話:2006/04/25(火) 22:57:00
- 昔々、小さな国の外れにある大きなお城に仲の良い親子が住んでいました。
お父さんの名前はドラキュラ、お母さんの名前はリサ。そして元気いっぱいな男の子の名前はアルカード。
三人は召使いの死神さんや使用人(?)とともに、慎ましくも波瀾万丈な生活を送っていました。
そんなある日のことです。
いつものように仲良くお昼の食卓を囲んでいたドラキュラ夫妻とアルカード。
ですがアルカードのお皿に盛りつけられた料理は殆ど減っていませんでした。
お父さんは、大好きなトマトジュースにも手を付けないアルカードに目を丸くしました。
明日はお父さんも苦手な雨が降るかもしれません。
ドラキュラ「どうしたのだアルカード。いつもならば私や母の分まで好物を食べようとするお前が。」
心配げな父の言葉にアルカードは頬を膨らませることで答えました。
お父さんは膨らんだ息子の頬を突っつきます。
するとアルカードの頬っぺたはさらにぷっくり膨らむのでした。
リサ「あなた。アルカードは自分がお外に出られないのですっかり拗ねてしまったのよ。」
お母さんの笑いを含んだ答えにお父さんは目を剥きました。
ドラキュラ「何、そんなことか。ダメだダメだ。外の世界は人間の世界、まだ幼いお前が
迂闊に人間の住処に近寄ろうものならすぐに取って喰われてしまう。」
アルカード「ラルフはわたしを食べないもん。」
ドラキュラ「ものの例えだ。何にせよ、もっと勉強をしてもっと力を備えてから外に出ることは考えなさい。
デスと蔵書庫の爺から聞いたが、この頃は城を抜け出しては
そのベルモンドの子供と遊び呆けているそうだな。」
魔王でもあるお父さんが、怒った瞳でアルカードを一睨みすれば、
アルカードは可哀想なほど真っ青になり何も言い返す事が出来ません。
ドラキュラ「私はお前にこれから一生外に出るなと言っているのではないぞ、アルカード。
だが今は城の中で外の世界について勉強するだけで十分なのだ。」
アルカード「母上もそう思う?」
もはやお父さんには何を言っても無駄だと悟ったアルカードはお母さんに救いを求めました。
お母さんは少し考えた後、口を開きました。
リサ「そうね…確かにデスや爺に迷惑をかけるのは良くないことだわ、アルカード。
それからお昼ご飯も食べないでお父様を心配させるのも、やはり良くないことですよ。」
アルカード「うん。」
リサ「けれど、あなたが人間の世界を知りたいと思うのはとても大切なことだと、私は思います。」
アルカード「わたしは人間の世界も知りたいけど……ラルフと約束したから…。」
リサ「約束?」
アルカード「うん、……お外に出て二人でデートするって!」
- 39 :ラルフ君の小さな試練・第一話(2):2006/04/25(火) 22:59:50
- アルカードの発言ですっかり頭に血が上ってしまったお父さんの命令によって、アルカードは自分の部屋に閉じ込められてしまいました。
アルカード「父上どうしてあんなに怒ったんだろう。これじゃあお庭にも出られないよ。」
デス「当たり前です!坊ちゃまと野蛮生物がデ―おお、口にするのもおぞましい!」
アルカード「どうしておぞましいの?ふぅ、もしかするとずっとこのまま出られないのかな。」
デス「まさか。今までの遅れていたお勉強を終らせればすぐにもお庭で遊べますぞ。」
アルカード「お庭なんかどうでもいいよ!お外に行きたいの!ラルフと一緒にお出かけ―」
デス「いけません!言っておきますが、扉や窓から逃げようとしても無駄ですぞ。
扉は必要な時以外は魔術で開かないようにしましたし、窓も少し開く程度ですから。」
死神さんの言うとおり扉は堅く閉ざされ、アルカード専用の脱出口である窓は
アルカードの細い手がやっと通るぐらいしか開きませんでした。
死神さんが出ていった後、アルカードは絨毯の上に座り込みました。
アルカード「どうしよう。ラルフは『世間知らずじゃなくなったら』って言ってたけど、
父上の言うとおりお勉強してたら五十年ぐらいかかっちゃうかも。」
きっとその時にはラルフは良くてオジさん、悪くてお爺さんでしょう。
お友だちとデートどころではないかもしれません。
アルカード「早くここを抜け出さないと。―あっ、そうだ!」
何か思い出した様子のアルカードは、部屋の片隅に置いてあった大きな箱に飛びつきました。
狼男のぬいぐるみやオルロック特製の目覚まし時計、埃を被った難しい魔術本に埋もれたそれをパカリと開くと、
そこには不思議な輝きを放つ球形の塊が安置されていました。
アルカード「エヘヘ。父上が新しいのと交換した時にこっそり取っておいたんだ。」
何処に出しても恥ずかしくないとても良い子なアルカードにも、
普通の子供と同じく好奇心からくる悪戯好きな面はあるのです。
塊がアルカードの掌の上でキラリと瞬きました。
アルカード「絶対お外に出てラルフと遊ぶぞ〜。」
- 40 :ラルフ君の小さな試練・第一話(3):2006/04/25(火) 23:01:54
- 一方その頃、ベルモンドの修行の森の奥深くにあるベルモンドの屋敷でもちょっとした騒動が起きていました。
ご当主様の名前はレオン。つい先日帰って来たベルモンド一の頭脳派さんがジュスト。
そして一家の最年少にして驚天動地の暴れん坊の少年がラルフでした。
そのラルフが、アルカードに会う為にドラキュラ城ヘ出向くというのですから
上へ下への大騒ぎになるのも無理はありません。
ジュスト「ラルフ!お前、まさか手ぶらでアルカード君のお家ヘ行くんじゃないだろうな。」
ラルフ「ちょっと遊びに行ってやるだけだ。土産なんか要るか。」
レオン「美味い肉持たせる事も考えたんだけどさ。途中で食べちゃいそうだろう、この子。」
ジュスト「あぁ、なるほど。山羊に手紙持たせるより危険な行為に違いない。」
ラルフ「なるほどじゃねぇ!」
レオン「そういうわけだから、このお金を使って近くの町で何か買っていきなさい。」
ラルフ「こんなに金は要らん。使わなかった分は貰うからな。」
レオン「ほら、ハンカチとティッシュ忘れるなよ。」
ラルフ「そんなものより十字架と聖水だ!」
ジュスト「折角お迎えに行くのにいつもの格好で良いのか?」
ラルフ「いつもの格好で何が悪いんだ?」
ジュスト「レオンに似てそういうのには無頓着だなぁ。
町行くついでによそ行きの服を一つでも買ってみたらどうかな?」
ラルフ「誰が買うか。」
ラルフは、渡された金貨が一見ボンクラ当主にしか見えないレオンが汗水垂らして手に入れた
ドロップアイテムを換金したものと知っていたので、あまり文句を言いませんでした。
お下がりの十字架もだいぶ年季がはいっています。
正直なところ町へ行ってもあまりお金を使うことは考えていませんでした。
ラルフ「何か高いもの買ってあいつが喜ぶか疑問だしな。」
ラルフはお友だちの家に持って行く「お土産」の意味をきちんと理解はしていませんでした。
かくして、ラルフは久々に町ヘ繰り出すことになったのです。
勿論その先に何が待ち受けているのか、彼は知る由もありませんでした。
- 41 :ラルフ君の小さな試練・第二話:2006/04/27(木) 21:02:46
- 修行の森を出て暫く進むと、向こうで何かがフラフラ漂っているのが見えました。
小さな黒い蝙蝠です。
ラルフ「???何で蝙蝠がこんな所に。」
場違いな生物の出現に首を捻りつつも、ラルフはそっと近寄って蝙蝠に掴みかかりました。
すると意外なほどあっさりと蝙蝠は捕まってしまいました。
ラルフ「……。」
ギュッと握りこむと手の中の蝙蝠は苦しげにキュウキュウ鳴きます。
「ラルフ―。」
ラルフ「!!??」
突如聞き覚えのある声が耳に届き、ラルフの心臓が飛び跳ねました。
ですが辺りには人っ子一人いません。視線は自然と不審な黒い蝙蝠へと向きます。
ラルフ「まさかこの気味悪い蝙蝠の仕業か。魔族の手先だな、こいつめ。」
ギュウギュウ締め付けると、またもや聞き覚えのある声が…
「やめて―。」
悲しげに訴えていました。
ラルフ「……。お前まさか。」
蝙蝠はラルフに捕まえられる数刻前、アルカードから散々な評価を受けました。
アルカード「なにこれ〜!父上の蝙蝠さんと全然違う!」
あからさまに不満な様子のアルカード。
折角お父さんの目を盗んで魔導器を手に入れたのに、
その努力(?)をあざ笑うかのような頼りない使い魔が召喚されてしまったからに他なりません。
何せこの蝙蝠、真っ黒な体だけがお父さんの蝙蝠と唯一同じ所で
可愛らしい瞳、ボンヤリして早速部屋の窓にぶつかる動作の鈍さ、
なのに何処か主人であるアルカードを冷めた目で見ている不躾さと、
残る能力はまるで月とスッポンである事をアルカードはものの数分で理解しました。
それでもアルカードの頼みの綱であることには違いありませんでした。
アルカード「あのね蝙蝠さん、ここからずっと西ヘ行った所に、大きな森があるんだ。
そこに住んでるラルフに助けに来るようお願いしに行ってくれないかな?」
蝙蝠はそんなの自分でやれよと言いたげに、フンと鼻を鳴らしました。
ですがアルカードだってそう簡単に諦めるわけにはいきません。
アルカード「お願い蝙蝠さん!わたし一人じゃ無理でも、ラルフが来てくれたら
きっとここを抜け出す良い方法があるはずだから!
それに、わたしもデスや爺がいない時はお手伝いするよ。」
暫くして蝙蝠は、いいともいやとも伝えることなく飛び立って行きました。
アルカード「―変な蝙蝠さん。大丈夫かなぁ。」
爺「大丈夫とは勉強の進み具合ですかな、アルカード様。」
アルカード「うわっ!」
音も無く背後に近づいた蔵書庫の主に、アルカードは心臓が止まるかと思いました。
爺「フォッフォッ、今蝙蝠が飛んでいったように見えましたが。
おかしいですのぉ、こんな真昼間に。」
アルカード「うう、爺に見られるなんて。三時のおやつ、食べられなくなっちゃう……。」
- 42 :ラルフ君の小さな試練・第二話:2006/04/27(木) 21:05:26
- ラルフ「お前、アルカード?」
蝙蝠は苦しげに鳴き続けるだけです。
ラルフ「なわけないよな。」
全くその通りだと言わんばかりに蝙蝠の首が縦に動きました。
ラルフ「ん?お前ケガしてるぞ。森を抜けてここまで来たのか?」
ラルフの言葉に図星をつかれたのか、蝙蝠は黙りこんでしまいました。
ラルフ「悪いが俺は手当てする道具なんか―」
そこまで言った所でラルフは眉を顰めました。
ラルフ「―ハンカチ。どうせジュストに無理矢理持たされたもんだし、別にいいか。」
ケガをした部分に清潔なハンカチを巻きつけてあげる間、蝙蝠はじっとしていました。
人馴れしているはずはないので、警戒心が薄いのでしょうか。
ラルフ「野生の生き物にしては大人しいな。…どこぞの坊ちゃんみたく箱入りなのか」
上手とは言えない手当てを終えて、この蝙蝠をどうしたものか、ラルフは頭を捻りました。
ラルフ「今から帰るのも面倒だしなぁ。手当てはしたし、放って行こう。」
言葉がわかるはずもない蝙蝠に対しても意地悪な物言いをするラルフ。
本当はそんなつもりは毛頭なかったのですが、この蝙蝠の目を見ていると何故か口が悪くなってしまうのです。
コウモリ「キーキー!」
ラルフ「何だよ。そんなに睨むな。わかったよ、連れていけばいいんだろ。
ただし、騒いだり暴れたりしたら捨てて行くからな。」
コウモリ「キュー。」
とりあえず自分の服の胸元に蝙蝠を放り込んだラルフ。
蝙蝠はそこから可愛い顔だけ出した状態で、暖かそうに目を閉じました。
ラルフ「おい、少しは遠慮して自分で飛ぶそぶりをしろ!」
どうやらラルフの拾い物は随分と面倒くさがり屋だったようです。
日光を遮る場所に落ち付いて安心したのか、すぐに眠りについてしまいました。
ラルフ「蝙蝠だったら蝙蝠らしく洞窟でぶら下がって寝てればいいだろうが。何でそこなんだ?」
その後一頻り文句を言い終え気を取り直したラルフは、すぐ目の前に迫った町ヘ足を向けるのでした。
- 43 :ラルフ君の小さな試練・第三話:2006/04/29(土) 15:15:56
- 久しぶりに訪れた町の人出は相当なものでした。
まだ成長途中の、はっきり言えば小さいラルフは人の流れに押され好き勝手に進むことも出来ません。
ラルフ「くそっ、押すな馬鹿。いてーっ!誰だ、俺の足踏んだのは!」
それでも何とか店先に辿り着いたラルフは、その店に置いてある怪しげな商品の数々に目を疑いました。
ラルフ「甲冑に魔術の道具に、髑髏にネックレスに食器…おっさん、ここ何屋なんだよ。」
ハマー「ハマーの何でも屋だよ坊っちゃん!好きなだけ見ていってくれ。」
商品以上に怪しげな丸坊主の厳つい顔の店主に胡散臭さを感じつつも、手近に置かれた品物を手に取りました。
随分使い込まれた跡のあるその小刀は、所々不気味な褐色の塊がこびり付いていました。
ハマー「それはこの前仕入れたばかりの短刀だ。切れ味は折り紙付きだから、お母さんの調理用にどうだ?」
ラルフ「あいつにこんなもん持たせたら俺の命がいくつあっても足りん。それにこの短刀とてつもなく嫌な感じがするぞ。
呪い付きじゃないだろうな。」
ハマー「じゃあこれだ。いつまでも元気でいてほしい気持ちを込めて、廃屋になった魔女の住処から
拝借してきた筋力増強剤。ただ使い過ぎると化け物になる副作用が―」
ラルフ「―あれ以上強くならなくていい。」
何を思っているのか、些か顔色が悪くなったラルフを見て店主は盛大に溜息をつきました。
ハマー「坊っちゃん、冷やかしなら帰ってくれよ。こちとら全然商品売れなくて困ってるんだぞ。」
悲嘆に暮れる店主を横目に、ラルフは幾分マシなプレゼントの品を探し始めました。
すると町の喧騒に目を覚ました蝙蝠が顔を出し、ラルフの気を何かに向けさせようとしました。
ラルフ「何だよ、いい物見つけたか?」
その方向にはちょっとまともそうな宝飾品が飾ってありました。
ラルフ「高ぇ!」
ですがどれもラルフの手持ちの金貨では手も足も出ない額の品ばかりです。
その事実をつき付けられ、ラルフはむかむかした気持ちになってしまいました。
ラルフ「……どうして俺があいつのためにこんなもの買わないといけないんだよ。
安上がりな食い物の方が良いに決まってる。飾り物じゃ腹は膨れないしな。」
ハマー「恋人にプレゼントか?この頃の子供は進んでるねぇ。」
ラルフ「こ、恋人じゃねぇよ!あんな箱入り!」
顔を真っ赤にして否定するラルフをどう解釈したのか、店主はいくつか商品を指差して言いました。
- 44 :ラルフ君の小さな試練・第三話:2006/04/29(土) 15:23:03
- ハマー「坊っちゃんが買える値段だとこの辺りだろう。」
色取り取りの宝飾品が並んでいますが、どれも安っぽい感は否めない見た目の品ばかりです。
ベルモンド家の戦場である食卓で生き抜いてきたラルフにとって、
美味い肉とまずい肉を見分けるのは造作もないことでしたが、
全く興味も縁もなかった飾り物ではその能力を発揮することは出来ません。
ラルフ「ネックレス…いやダメだ…。イヤリング……違うだろ。
そもそもアルカードは男なんだよ!こんなもんやれるか!」
ハマー「男の恋人か!?ますます進んでるな坊っちゃん。」
ラルフ「違うと言っているだろうが!デカイ声で言うな!」
コウモリ「キュー!」
ラルフ「お前もうるせーぞ!ん?……なぁ、この赤いブローチは?」
ハマー「ああそれか?何年か前に吸血鬼の男が持ってた宝石をブローチにしたもので、買い取り手が付かなくて困ってたんだ。
ちゃんと知り合いの教会に頼んでお払いまでして貰ったのによぉ。
売れなくちゃ仕方ないから特別価格にするぞ、どうだい?」
ラルフ「ふーん。」
ハマー「男の子でも喜んでくれそうな謂れの品じゃないか?わくわくするだろう?」
言われてみれば、毒々しい程真っ赤に染まった石には不思議な力があるような気もします。
邪悪な感じもしません。
あくまで半人前のラルフの判断では、ですが。
ラルフは頭の中でこれを胸元に付けたアルカードを想像してみました。
銀色の髪と白い肌に、赤く輝くブローチはとても似合っていました。
ハマー「おい坊っちゃん!何ニヤニヤしてるんだ?」
コウモリ「キー?」
ラルフ「ニヤニヤしてない!……それじゃこれ……」
「この赤いブローチを買おう。」
ラルフ「ああ―?」
よく通る声と共に、一つの指がラルフの目的の品に向けられました。
ラルフ「おいっ、先に見付けたのは俺だぞ!」
ラルフが今にも飛び掛らん勢いで睨んだ先には、
ラルフよりずっと背が高い男の人、ヘクターが立っていました。
ラルフの前に突如現れたヘクター。彼がブローチを手にする目的とは?
まだまだラルフ君の試練は続きそうです。
- 45 :ラルフ君の小さな試練・第四話:2006/05/05(金) 02:07:45
- ラルフ「お前はこの前の―!くそっ、いきなり現れたかと思えば善良な少年の買い物の邪魔をしやがって!」
ヘクター「いやちょっと待ってくれ。そのブローチは子供には少々危険な代物だ。
即刻俺に引渡しする事をおすすめする。」
ラルフ「何をー!偉そうに何様のつもりだ!アルカードから聞いたぞ、貴様、悪魔精錬士だったそうだな。」
ヘクター「こんな街中でその話題を口にしないでくれ。」
ラルフ「うるさい!俺は悪者と、俺より弱い奴には従わん!悪者なお前のことだ、
その地位にものを言わせて数々の悪行三昧の挙句あの箱入りバカなアルカードを……」
そこまで言ってラルフの頬は最高潮に紅く染まりました。
ヘクター「?どうしてそこでアルカード様が出てくるんだ?俺の話を聞いていたのか?」
ラルフ「そ、そうやってしらばっくれても無駄だ!ブローチは渡さん!どうしても欲しいと言うなら死んでもらう!」
ヘクター「俺が無事にブローチを貰える選択肢はないのか?」
ラルフ「ない!聖なる鞭でお前を倒せないのは残念だが、
ベルモンド当主・レオンの初陣を飾った名刀「アカサビ」の錆にしてくれる!」
腰元に下げられた刃毀れの激しい短刀の切っ先と並々ならぬ殺気がヘクターに向けられます。
ヘクター「人の多い往来で刃物を振り回すな!」
ハマー「あーあ。何で俺の行く所毎度面倒事が起きるのかねぇ。」
蝙蝠の目を通して血気に逸ったラルフの様子を見ていたアルカードは困り果ててしまいました。
アルカード「ダメだよラルフ!……蝙蝠さんラルフを止めて!」
見ているだけで何もすることが出来ない無力感に苛まれながら蝙蝠に救いを求めます。
その願いが通じたのか、蝙蝠がラルフの胸元から勢い良く飛び出しました。
ラルフ「あ、コラ何処へ行く!」
ラルフが止める間もなく蝙蝠は人混みの中へ消えていきました。
ヘクター「あの蝙蝠……どこかで見た覚えが……。」
ラルフ「くっ、蝙蝠なんかに俺は気を取られんぞ!死ねっ!」
ヘクター「だから人の話を聞け―」
ヘクター絶体絶命のピンチ!……とその時です。
- 46 :ラルフ君の小さな試練・第四話:2006/05/05(金) 02:10:24
- 町の果てまでも届こうかという怒号が二人の耳を劈きました。
???「こらぁーーーっ!!トマトドロボー!」
その声に今までの威勢が嘘のように硬直するラルフに、ヘクターは首を傾げました。
ラルフ「この馬鹿でかい声は……。」
???「待てー!そこの蝙蝠―!!食べるならお金払いなさいー!!」
コウモリ「キー!」
無事(?)ラルフの胸元に舞い戻ってきた蝙蝠は、その口を赤く染めていました。
それに反比例してラルフの顔は青く染まるのでした。
ラルフ「……おい、元極悪悪魔精錬士、命拾いしたな。今日はこの辺で勘弁してやる!
に、逃げるんじゃないぞ!急用を思いだしたんだ!」
ヘクタ「急にしおらしくなったな。ブローチはいいのか?」
ラルフ「命あってのブローチだ―」
怒声が響く側と逆方向に踵を返したラルフ。
しかしラルフの襟首はその怒声の主に掴まれてしまいました。
金髪の三つ編み、気の強い瞳を宿した女の人です。
???「貴方が飼い主ね!全くどんな躾してるのよ、
うちのお爺ちゃんが苦労して育てたトマトを盗もうなんて――あらっ。」
ラルフ「……。」
???「―ちょっとこっち向いて顔見せなさい、少年。貴方もしかして―」
ラルフ「人違いだぜ、オバさん!俺はラルフなんて名前じゃないぞ!」
ボコリ!
事の成り行きを見守るヘクターの目の前で鉄拳制裁が行われました。
百戦錬磨の戦士もかくやという程の威力に、
直撃を受けたラルフの頭には大きなタンコブが出来上がりました。
アルカード「痛そう……。」
見ているだけでも痛みが伝わったのか、アルカードもラルフと同じく頭を押さえてしまいました。
???「自分から口滑らせてれば世話ないわね、ラルフ。」
ヘクター「知り合いか?」
ラルフ「違う!俺にソニアなんて母親はいないぞっ!!」
ソニア「我が息子ながら鞭で叩きのめしたくなるほど災いを齎す口なんだから。」
ヘクター「―つまり母子の間柄か。言われてみれば」
ソニア「そんな事よりラルフ!貴方の懐に飛び込んでる蝙蝠が食い逃げしたトマトの代金、さっさと払いなさい!」
ヘクター「―人の話を聞かない所が特にそっくりだ。」
ラルフ「俺が人の話を聞かん奴のように言うな!というか何故俺が払わんといけねーんだよ。」
ソニア「貴方のペットでしょうが。昔から『勝手に付いて来た』とか色々理由つけて生き物拾って来ては、
世話と躾は碌にしないからこういう事になるのよ。」
母子のやり取りを半ば呆れながら傍観するヘクターとは反対に、
遠くお城の一室に居るアルカードは目を輝かせていました。
- 47 :ラルフ君の小さな試練・第四話:2006/05/05(金) 02:12:29
- アルカード「……。」
デス「坊ちゃま!」
アルカード「わわわっ!」
デス「少し目を離した隙にまたボンヤリとして!本のページが全く進んでおらぬではないですか!」
アルカード「だってこのご本もう読んだもん。」
デス「何度も読みかえして理解を深めるのです。それに坊ちゃまはただでさえ忘れっぽいのですから。」
とりあえず勝手に使い魔を放ったことは、死神さんにバレていないようです。
ホッと胸を撫で下ろすアルカードでしたが、それをどう受け取ったのか死神さんは唸りました。
デス「むむむ。私も四六時中坊ちゃまに付きっきりには出来ませぬし、
蔵書庫の主はその点信用ならぬ。ここはやはり先日届いたこの手紙―」
死神さんは黒衣の袖から白い封筒を取りだしました。
アルカード「これお手紙?」
デス「はい。差し出し人はアイザックとなっております。」
アルカード「アイザックさん?父上に用事なのかな?」
デス「―坊ちゃま宛てです。読んでみた所先日のお礼にプレゼントを贈るとか何とか……」
アルカード「わたしに来たお手紙なのに何でデスが先に読むの?」
デス「何を仰られますか!用心に用心を重ねるためです!」
不貞腐れたアルカードは死神さんの手から奪い取った封筒から
手紙を取りだし、まじまじと文面を見つめました。
デス「これで坊ちゃま周辺の守りは更に厳重になりますぞ〜。」
アルカード「?」
- 48 :ラルフ君の小さな試練・第五話:2006/05/07(日) 00:42:31
- ラルフが母親であるソニアにこってりしぼられている頃、
アルカードの住むお城にプレゼントが届きました。
でもその中身をアルカードは知りません。
何せ自分の部屋から一歩も出られないのですから。
コンコン。
そんな中、アルカードの部屋の扉が遠慮がちに叩かれました。
アルカード「誰?爺なの?それともデス?」
扉の向こうにアルカードは呼び掛けますが、返事がありません。
何の反応もない事を不審に思ったアルカードは椅子から立ちあがり、扉ヘと近づきました。
バタン!
アルカード「わぁっ!!」
すると突如扉が開き、驚いたアルカードはその拍子で床に尻餅をついてしまいました。
恐る恐る顔を上げるアルカード。そこにはアルカードの何倍もあろうかという真っ黒な巨体に
四つの目と恐ろしげな牙を持つ魔物が立っていました。
アルカード「あなたは誰!デスは?爺は?皆何処に行ったの!?―まさか。」
アルカードの頭の中は恐ろしい想像でいっぱいになります。
勿論死神さんと爺がこの魔物の大きな口で食べられてしまう想像です。
アルカード「……あなたが皆を……!?」
そして真っ青に顔が染まったアルカードに、その魔物が無言のまま近づいて来ました。
アルカード「やだー!来ないでー!!」
伸ばされる大きな手を避けて、部屋の隅へと逃れるアルカードでしたが、
窓は開かない扉はいつの間にか閉まっている状況です。
アルカード「来ないで!母上ー、父上ー、助けてー!!!」
滅多に出さない大声で呼べど叫べど誰も助けに来る気配はありません。
そうこうする間に、とうとうアルカードの身体は魔物の影に覆われてしまいました。
- 49 :ラルフ君の小さな試練・第五話:2006/05/07(日) 00:44:55
- アルカード(食べられるー!助けて!ラルフ助けて!!)
アルカードはギュッと目を瞑り、自分が食べられる恐怖に身を縮ませました。
アルカード「……???あれ?食べられてない。」
目を開けたアルカードの前には小さな可愛らしい花束と、小さなラッピングされた箱が差しだされていました。
???「……。」
アルカード「……あの、もしかしてこれをわたしにくれるのかな?」
魔物はコクリと頷きました。でも表情は全く崩しません。
アルカード「わたしを食べない?」
???「…!…!」
その問いには必死に首を縦に振る魔物でしたが、やはり無表情のままです。
ですがアルカードはその魔物の言いたいことを理解できたようでした。
アルカード「えっ、貴方がアイザックさんの手紙に書いてあったプレゼント?」
???「・・・?・・・!」
アルカード「この箱がアイザックさんが持たせてくれたお土産で……この花はあなたが持ってきてくれたの!?」
???「……。」
アルカード「ごめんなさい。嫌な事言って……いつも母上が『見た目で物事を判断してはいけません。』
って教えてくれたのに……勝手に怖い魔物だと思っちゃって。本当にごめんなさい!」
大きな瞳を涙で滲ませるアルカード。暫くその様をじっと見ていた魔物は、
自分の大きな両手でアルカードの小さな体をそっと抱きあげるのでした。
- 50 :ラルフ君の小さな試練・第五話:2006/05/07(日) 00:46:37
- アルカード「魔物さん……。あ、そうだ。魔物さんのお名前は何て言うの?」
???「……。」
閉じたままの大きな口から言葉が発せられる事はありませんでした。
でも魔王の息子であるアルカードには全てわかっているのです。
アルカード「アベル?魔物さんはアベルっていうんだね。」
アベル「……。」
アルカード「え?箱を開けてくれ?うんわかった!」
わくわくしながら箱を開けると、そこにはチーズが入っていました。
アルカード「あっ、チーズだ。ワインと一緒に食べると美味しいモノって父上が……」
アベル「……?」
アルカード「別に何でもないよ。どうせ父上がいいって言うまで、外に出て遊べないんだから。」
アベル「……。」
アルカード「うん、お外でラルフと遊びたい!そうだ、アベルわたしをお外に連れていって。」
アベル「……!!……。」
アルカード「ええっ!アベルがわたしの遊び相手になるようにデスから言われたからダメ?……むぅ。」
アルカードはアベルを見つめました。例えどんなに無表情でも、
今アルカードの手にある摘みたての花の束からは優しさが零れんばかりに詰めこまれているのを感じます。
アルカード「わかった!それじゃあこれからアベルとわたしはお友だちなんだね。よろしく!」
友だちの印に握手をしようとしたアルカードでしたが、
アベルの両手はそのアルカードを抱えあげるために塞がっていました。
アルカード「……。」
アベル「……。」
アルカード「アベル〜、今笑ったなー!」
悪魔城の一室で、ようやく部屋の主の明るさが取り戻されようとしていました。
- 51 :ラルフ君の小さな試練・第六話:2006/05/13(土) 22:03:21
- 一通り事情を説明し、お母さんの第二、第三のゲンコツから逃れたラルフ。
しかし新たな誤解が生まれた事に再び頭を抱えてしまいました。
ソニア「心配しなくても、母さん貴方のお友だちが人間じゃなくても全然気にしないわよ。」
ラルフ「友だちなんかじゃねぇよ!」
ソニア「なぁんだ。恋人作ってるとは母さんが暫く見ない間に随分ませたわね。」
ラルフ「勝手に恋人にするなっ。俺は、俺はあいつのことは、お、お前みたいなオバさんより
ちょっとだけ可愛いかなと思ってるだけなんだからな!……クソッ何言わせるんだよ、ソニア!」
あたふたするラルフを尻目に、ソニアはそっと大きな袋を差し出しました。
ソニア「自分から勝手に口滑らせておいてよく言うわ。さぁ、これ持っていきなさい。」
内心期待しながら中身を確認したラルフの顔は、すぐに渋いものに変わりました。
ラルフ「うえっ、トマトじゃねぇか。こんな腹に溜まらないもんじゃなくて、肉くれよ肉!」
ソニア「誰が貴方の底無し胃袋に収納しなさいなんて言ったの。
お友だちに持って行ってあげるのよ!それで蝙蝠が台無しにしたトマトの件は帳消しにしてあげるわ。」
ラルフ「……。」
ソニア「面倒臭いからって途中で食べたり捨てたりなんかしたら、母と子の愛の修行を再開するからね。」
ラルフ「昔お前が俺にやらせた、千尋の谷に突き落として這い上がらせる修行なんざ、今日日流行らねーんだよ!」
騒ぎ立てるラルフの後ろで突っ立っていたヘクターにも、ソニアは威勢良く声をかけました。
ソニア「そこのうだつのあがらない銀髪のお兄さん!貴方もこんな子供相手に本気にならないで、
ブローチ譲ってくれないかしら?」
ヘクター「いや、別に個人的に所有したいからではなく、これには危険な存在が―」
ソニア「なら尚更よ。『若いうちの危機には買ってでも遭遇しろ!』これベルモンド家の家訓ね。
その中身だって大体想像はついてるんだから。まぁ安心して馬鹿息子にくれてやって頂戴。」
ヘクター「正体をご存知なんですか?」
ラルフが油断した隙に抜け目なく盗まれた赤いブローチがヘクターの手の平でキラリと輝きました。
ソニア「我が家にとっては因縁深い代物よ。」
ラルフ「何だ?俺を除け者にして勝手に分かった風な口を利くな!これだからオバさんは話が長くて困るぜ。」
ソニア「あんたも母親に向かって偉そうな口を利くなっ!!」
ボコッ!
懲りる間もなく再びゲンコツを喰らったラルフ。その様子を見てヘクターは戸惑いの色を隠せません。
ヘクター「やはりベルモンドとはいえ、子供にこれを渡すのは……」
ソニア「そういうわけだから、さっさとここを出発してラルフをお友だちの家へ連れていってやってね!
残念だけど私は店番があるのよ!ラルフ、次に会う時まで体鈍らせるんじゃないわよ!」
- 52 :ラルフ君の小さな試練・第六話:2006/05/13(土) 22:08:12
- そんなヘクターの戸惑いなど何処吹く風。ソニアは人ごみの中へと消えていきました。
ヘクター「やはり人の話を聞かないのは、親の教育と性格に問題があるのか……。」
ラルフ「うるさい!あれはどうしようもない乱暴女で、子供の育て方なんて修行が一番だと思ってる、
普通の優しい母親っぽい事は何一つしてない奴だが……
つ、強い女だ!お前多分あいつより弱いぞ!だからソニアを悪く言うな!」
ヘクター「お前もさっきから悪口ばかり言ってたじゃないか。」
ラルフ「お、俺はいいんだ。そのうちあいつより強くなるから問題ない!
そ、それに久しぶりに会ったからな、あいつが俺に会えなくて寂しがってると思って
ちょっとからかってやったんだよ。」
ヘクター「―はぁ。とりあえず町を出ようか。こんなに周囲の注目を集めては出来る話も出来ないだろう。」
ラルフ「……おっさん、このブローチくれ。」
ハマー「おうよ。プレゼント用にラッピングしてやるぜ。リボンは何色がいい?」
ラルフ「要らんことをするな!!……赤とかならまぁ、ないよりマシだろ。」
顔は不機嫌でも何処か嬉しそうなラルフと、重苦しいものを背負いながら町から出ていくヘクターなのでした。
ですが、ラルフは気づいていません。このブローチが実は恐ろしいものをその身に隠し持っていることを……。
アルカード「こうしてわるい人間を見事にやっつけた魔界の勇者は、自らの剣にわるい神父の魂を閉じ込め、
魔界は永遠に静かな闇に包まれたのでした。……おしまい!」
アベル「……。」
アルカード「面白かった?これはね、デスから貰った絵本だよ。でもこのわるい人間ラルフに似てる気がするんだ。」
アベル「……。」
アルカード「え?もう精錬術のお勉強の時間?アイザックさんから預かってきた本があるの?
……やだなぁ。この前みたいに蝙蝠さんじゃなくてタライが出来たら恥ずかしいよ。」
アベル「……。」
アルカード「アベルもヘクターお兄ちゃんとおんなじこと言ってくれるんだね。変なの。」
そう言ったアルカードの頬っぺたは窓の向こうの夕暮れよりも紅く染まっていました。
アルカード「蝙蝠さんどうしたんだろう。やっぱりラルフ、来てくれないのかな……。」
- 53 :ラルフ君の小さな試練・第七話:2006/05/24(水) 23:03:35
- ラルフ「う……。あれ?ここは……?」
アルカード「あっ、目を覚ましちゃった。」
ラルフ「アルカード?」
アルカード「このまま目が覚めなきゃ良かったのに。」
ラルフ「え……。」
レオン「ラルフ、お前には失望したよ。いつまで経っても鞭の腕前は上がらないわ……」
ジュスト「勉強はしないわ。まぁでもお前の頭で勉強なんか、させるだけ無駄だよな。」
ラルフ「なっ……」
ネイサン「そうそう、将来的には俺が鞭を譲りうける事になったから、安心して家を放り出されてくれ。」
ラルフ「勝手に決めるな!ベルモンド家の未来の最強当主は俺だ!」
ソニア「あの時千尋の谷に突き落とした後そのまま捨てて来れば良かったわ。」
レオン「要らない子だもんな。」
アルカード「ラルフが遊びに来てくれないから、恋人作っちゃったよ。」
ラルフ「こ……。お、俺には……関係ない。」
アルカード「ラルフよりずっと強くて、優しくて、怒らなくて、……とっても気持ちが良いんだよ。」
ラルフ「き、気持ちいいだとぉ!何がだよ!」
アルカード「うるさいなぁ。ラルフなんかと口利いたら誤解されちゃうから、もうお家に来ないで。」
ラルフ「頼まれたって誰が行くか!」
ソニア「そうね、貴方は厄介者ですもの。お邪魔虫なのよね。」
ラルフ「うるさい!元からアルカードは嫌いだったんだ。もうわざわざ遊んでやる必要なくなって
清々したぜ。それに、あんな森の奥の、古臭い家なんか、元々出て行ってやろうと思って」
ジュスト「あーあ、泣いちゃったよ。」
レオン「泣いたって可愛くないのになぁ。」
ジュスト「そうだ!どうせ要らない子なら、魔術実験体に使えばいいんじゃないか?」
ソニア「それいいわね。」
アルカード「やだ、ゾンビみたいになったらずーっと生きてるんでしょう?気持ち悪い。」
ラルフ「ううっ……」
「……ラルフ、ラルフ!しっかりしろ!」
ラルフ「……んあ?」
ラルフは揺さぶられる感覚で意識を取り戻しました。
ヘクター「どうしたんだ?急に眠りこけたと思ったら、今度は酷く魘されてたぞ。
お前が泣くとは相当怖い夢だったのか?」
- 54 :ラルフ君の小さな試練・第七話:2006/05/24(水) 23:05:33
- ラルフ「泣いてねーよ!これはあくびだ!」
目元をごしごし擦るラルフに、『眠りながらあくびなんて器用な真似が出来るのか』
と聞きたくなったヘクターでしたが、小さな少年の感情を逆なでする必要もないだろうと沈黙を守りました。
???「どうだ、我が力が織り成す悪夢の居心地は……」
ラルフ「何だよヘクター!言いたいことがあるならはっきり言え!」
ヘクター「いや、俺は何も言っていないぞ。」
ラルフ「じゃあ誰が言ったってんだよ。」
???「馬鹿な人間め。我が溢れる魔力を感じ取ることも出来ぬか。ならば―」
一瞬、横なぶりの強い風が吹いたかと思うと、
ラルフの両手にしっかりと握られていたプレゼントの袋が地面に転がり落ちました。
ラルフ「うわっ!」
袋はバサバサと騒がしい音をたて、やがて一点が脆くも破れました。
ヘクター「しまった!まさかこれが奴の―ラルフ、避けろ!」
ラルフ「避ける?!何からだ!?」
コウモリ「キュー。」
ラルフ「馬鹿、顔出すな!吹き飛ばされる―」
バシリ!
視界が殆どない猛烈な強風の中―
袋から躍り出た赤いブローチと、ラルフの忠告を聞かず空中に放り出された蝙蝠がぶつかり合う鈍い音が響きました。
ヘクター「―去ったか?ラルフ、何処か嫌な感じはしないか?」
ラルフ「こんな状態で良い感じなんかするかよ!」
ヘクター「そうではなくてだな……」
コウモリ?「ハハハハ!我が野望ついに成就せり!新しき肉体を手に入れ、再び人間どもを―
ん?何故かこの肉体は妙に小さいような。子供の体とはこんなものなのか?」
ラルフ「おい、蝙蝠が喋ったぞ!」
ヘクター「やはりあのブローチはかの吸血鬼を封印したものだったのか……」
ラルフ「吸血鬼だと!それがあの蝙蝠に乗り移ったのか!」
- 55 :ラルフ君の小さな試練・第七話:2006/05/24(水) 23:06:47
- コウモリ?「……蝙蝠?―何っ!!確かに無防備な子供の方を狙った筈…!!!」
ラルフ「でもアホっぽい奴だな。吸血鬼は吸血鬼でも三流吸血鬼かよ。」
ヘクター「油断するな。封印される前は現ベルモンド当主と激戦を繰り広げた輩と聞くぞ。」
ラルフ「あのボンクラ当主と?……ますます弱そうだ。」
ヘクター「お前はもう少し自分の家について学んだ方が良いな。」
ヘクターとラルフが延々と会話を交わす上空で、コウモリの肉体を借りた吸血鬼は
些か焦り気味に飛び廻っています。
コウモリ?「ええい、例え肉体のせいで我が全力が発揮できずとも、人間風情には負けぬはず―!」
バシン!
蝙蝠の攻撃が到達する前に、ラルフの強烈な一撃が蝙蝠の腹部を直撃しました。
ラルフ「さっさとくたばれ!俺に変な夢見せやがったのもお前だな!」
元々細い堪忍袋の緒が盛大に切れてしまったラルフは、蝙蝠をギリギリと締め上げます。
それを止めたのはヘクターでした。
ヘクター「落ち付け。そこで首を締めた所で死ぬのはアルカード様の使い魔だけだ。」
ラルフ「知ってたのかよ。」
ヘクター「吸血鬼が惹きつけられたぐらいだ。ただの蝙蝠ではないだろう。
ドラキュラ様のものではとも思ったが……それにしては愛嬌があり過ぎるからな。」
コウモリ?「ドラキュラだと!」
ラルフ「うるさい、黙れ!」
コウモリ?「グゥ……。」
ヘクター「だから止めろと言っている。」
ラルフの手から蝙蝠を奪い取ったヘクターはこう言いました。
ヘクター「古の吸血鬼よ。素直に封印の石に戻る気はないか?」
コウモリ?「フン、人間に命令され従う吸血鬼など吸血鬼ではない。」
ヘクター「では何が望みだ?」
コウモリ?「そこのノータリンの餓鬼よりは話が出来そうな人間だ。」
ラルフ「未来の最強ヴァンパイアハンター、ラルフ・ベルモンドをノータリンとは聞き捨てならんぞ
三流吸血鬼め!」
コウモリ?「ベルモンド?あのベルモンドか。なるほど、腕っ節だけは達者な遺伝子が
脈々と受け継がれる哀れな一族なのだな。」
ヘクター「この少年をあまり刺激しないでくれ。」
- 56 :ラルフ君の小さな試練・第七話:2006/05/24(水) 23:08:06
- コウモリ?「暇なのでな。それにこんなトラブルに見舞われては機嫌が良くなる筈もあるまい。」
ヘクター「つまり暇つぶしがしたいんだな、暇な古の吸血鬼よ。」
コウモリ?「そうだ。当分の目的はまんまと罠に嵌めてくれたドラキュラの面を見に行く―とするか。」
ラルフ「なっ。そこには俺が行くんだぞ!お前は来るな!」
コウモリ?「ほう?まだ吸血鬼退治などという益にならん仕事をしているのかベルモンドは。
では見物するものが一つ増えたわけか。」
ラルフ「別に退治しに行くわけじゃない……。」
コウモリ?「それでは勘違いの挙句吸血鬼と禁断の恋にでも落ちたか。
向こう見ずなベルモンドの考えそうな事だな。
そういえば風の噂でドラキュラの子供は人間の妻に似て、中々の器量良しと聞いた。」
ヘクター「下世話な噂まで耳に挟む、相当暇な吸血鬼か。」
ラルフ「お前変な事考えてないだろうな!
残念だがあいつは器量良しなんかじゃないぞ!見に行くだけ無駄だ!」
ヘクター「それを言うならこの吸血鬼―ヴァルターを止めるだけ無駄だぞ。
そうそう悪さが出来る状態でもないし、ドラキュラ様に言えば何らかの封印の方法が
あるかもしれない。―連れていこう、というか勝手に付いて来るだろう。」
ラルフ「……なあ、あのブローチはどうなるんだ?蝙蝠の腹に付いたままだぞ。」
ヘクター「なら付いたままなんだろう。」
ラルフ「金出して買ったのは俺だぞ!あれじゃあ使いようがないだろ!」
ヘクター「そうは言ってもな……。」
ラルフ「……。」
一方のアルカードも蝙蝠に起こった異変を感じ取っていました。
アルカード「蝙蝠さんとも連絡つかなくなっちゃった。心配だなぁ。」
アベル「……。」
アルカード「うん。平気だよ。蝙蝠さんは心配だけど、ラルフと一緒だからきっと大丈夫だよ……」
アベル「……。」
それでも小さくため息をつくアルカードは暫く元気を取り戻すことはありませんでした。
- 57 :ラルフ君の小さな試練・第八話:2006/06/01(木) 20:43:02
- ラルフ「着いた……。ようやくドラキュラ城に到着したぞ!」
ヘクター「相変わらずこの周辺は天気が悪いな。昼間だというのに薄暗い。」
ラルフ「そんな事より、ここまで来たんだからお前はもう帰れよ。」
ヴァルター「『一緒に城に潜入してアルカードを取られるのは面白くないし―』」
ラルフ「そうだ!呼ばれたのは俺なんだぞ。お前なんかお呼びじゃ……
こ、このアホ吸血鬼!何寝ぼけた事言ってやがる!!」
ヴァルター「なに、貴様の心のうちを代弁してやっただけの話だ。」
ラルフ「いい加減なこと抜かすなっ。剥製にしてやる!」
ヘクター「まぁまぁ。じゃあ俺はここで退散するとして、どうやって城に入るつもりだ?」
ラルフ「知れたこと、男は黙って正面突破だ!!」
ヘクター「あの玄関にどうやって辿り着くと?」
ヘクターが指差した先には大きな扉があります。恐らくあれが正面玄関です。
ですがその手前は見渡す限り断崖絶壁。
二段ジャンプを会得していないラルフが飛び越そうとした所で、
奈落の底に落ちて死者の仲間入りをするのが関の山でしょう。
ラルフ「へっ、これだから悪魔精錬士は脳味噌まで筋肉で困るぜ。
ちゃんとあそこに跳ね橋があるじゃねぇか。
あれをおろせばすぐにだって辿り着けるだろ。」
ヴァルター「で?羽根も生えていないお前がどうやってその橋の稼動装置を操作するのだ?」
ラルフ「………知るか!」
ヴァルター「ベルモンドに封印され幾星霜、人とは少し見ぬ間に
著しく退化していく生き物だということを今になって思い知らされたぞ。」
ラルフ「何だとぉ!俺はレオンよりは頭良いぞ!おいヘクター、どうするんだよ。」
ヘクター「正面玄関がダメならば、勝手口から入ればいいだけの話だ。」
ラルフ「勝手口〜?」
ヘクター「ぐるっと回れば勝手口があるんだ。鍵は昔貰ったものを持っている。」
ラルフ「……アホくさ。正面をあんなに厳重にしてても意味ねぇ何の変哲もない勝手口だな。」
ヘクター「だが俺が居なければ見つける事も出来なかっただろう?」
ラルフ「俺はベルモンド最強になる予定の男だ!こんな秘密の入り口ぐらいすぐに見つけられたぞ!」
ヴァルター「先程『男は黙って正面突破』などと言っておった輩とは思えんな。」
- 58 :ラルフ君の小さな試練・第八話:2006/06/01(木) 20:44:43
- 勝手口から忍びこんだ部屋には古今東西の調理器具や棚に納められた食器が
所狭しと並べられていました。
その中でも特に目につく巨大な鍋が一つ、ぐつぐつと音を立てています。
そこから発せられる芳ばしい香りに吸い寄せられるラルフが一匹。
ラルフ「このデカイ鍋……おっ、美味そうなスープが煮えてるぞ。」
ヴァルター「食に飢えた人間は醜いな。」
ヘクター「待てラルフ!お前の足元にあるそれは……!」
心なしか震える声でヘクターが指差した方向に目を向けると、
そこには小さな靴が二足と黒い布が一枚。
ラルフ「靴?どっかで見たことがある靴だな。……これは布切れか?」
ヘクター「マント……ではないだろうか。」
ラルフ「マント?はっ、こんなちっぽけな布切れじゃあ俺より小さい子供のマントにしか……。」
ヘクター「……。」
ラルフ「……。」
最悪の事態を想像しつつも、口に出せない二人の代わりにコウモリが小さな口を開きました。
ヴァルター「何だ、ドラキュラの息子は晩餐の具にされたのか。
首から上だけでもあれば使いようもあっただろうに。」
ラルフ「縁起でもねぇことを言うな!アルカード!残ってたら返事しろ!」
思わず身を乗りだして鍋に語り掛けたラルフでしたが、返事などあろうはずがありません。
ヴァルター「返事をしても肉と骨では仕方あるまい。」
ラルフ「アルカードー!くそぉ、誰がこんなことを!」
あまりの悔しさに歯軋りするラルフ。
そこへ、扉を開き中へ入る気配が……。
アベル「…!…!!」
謎の巨大生物の手には何枚にも重ねられたお皿がありました。
ちょうどスープを盛りつけるのに適した深さです。
この生物がアルカードを飯の具に―。
こう結論付けたラルフを押しとどめるなど、お母さんであるソニアかジュストでなければ出来ません。
ラルフ「てめぇか!暢気に皿なんか用意しやがって!アルカードの仇だ、死ねっ!!」
ヘクター「ラルフやめろ!そいつはアイザックの―」
ラルフ「てやぁぁぁ!!」
ボコン!!
謎の生物は顔色も変えずに、お皿を守りました。
結果、運の悪いことにラルフの頭は勢い良く謎の生物の腕に直撃してしまいました。
ラルフ「きゅう〜。」
- 59 :ラルフ君の小さな試練・第八話:2006/06/01(木) 20:46:33
- ヘクター「いわんこっちゃない。」
アルカード「アベル―、そっちでラルフみたいな声がしたけど、どうしたの?」
ペタペタと素足と思しき足音が部屋に近づいて来ます。
同時に親子の会話もヘクターとヴァルターの耳に届きます。
リサ「アルカード、体をちゃんとキレイに拭かないとダメよ。」
アルカード「お風呂キライ〜。」
リサ「そうね、今日は我慢できていた方かしら。
……あら、着替えは向こうに置いてきたの?」
アルカード「うん。お着替えが済んだらすぐアベルと遊べるように置いてあるんだ。」
開かれた扉の向こうに、頭から湯気をのぼらせた男の子が姿を現しました。
トレードマークのマントと靴はありません。やはりここにあったそれらは彼のものでした。
男の子の視線は、誤って打ち倒されたラルフに向けられました。
一瞬の沈黙の後、男の子はようやく倒れている物体の正体に思い当たったようです。
アルカード「あれ?ああっ、ラルフ!来てくれたんだね!……ヘクターお兄ちゃんも!
ヘクターお兄ちゃんー!」
喜びを抑え切れないアルカードはヘクターの首元に飛びつきました。
ヘクター「は、ははは……ご無沙汰してますアルカード様。」
ヴァルター「ほぉ、中々の上玉ではないか。あの老いぼれの息子とは思えん。」
アルカード「えへへ……ヘクターお兄ちゃんって暖かくてきもちいい。」
ヘクター「そ、そうですか?あの……俺のことよりラルフが」
アルカード「?」
- 60 :ラルフ君の小さな試練・第九話:2006/07/02(日) 00:14:47
- 恐ろしい魔物から痛恨の一撃を喰らってしまったラルフは、夢の住人になっていました。
ラルフ「おっ、うまそうな肉発見!」
当然夢の世界ですからラルフの幼い欲望が全開です。
可愛い女の子は出てきませんが、古今東の西様々なお肉がラルフを迎えてくれます。
ちょっと目を離した隙にラルフが食べようとしていた肉を拝借する当主様もいません。
もっと野菜を食べるように口を酸っぱくするジュストもいません。
肉ばかりに口を付けると容赦無く愛の鉄拳制裁を下すお母さんもいません。
ラルフはとっても幸せでした。でももっと幸せになりたいと思っていました。
そこへ、人の大きさほどの骨付きお肉が現れました。
ラルフ「でけぇ肉だなー。」
手を触れたそのお肉からはほんのりと温かい熱が伝わってきます。
二度と巡りあえないかも知れない大きな好物にぎゅっと抱きつくと、
お肉も嬉しいのかプニプニ動きました。
ラルフ「この肉動くぞ。……ウヘヘ、もう喰えねぇ〜。」
ラルフ「むぅ……?あれ、肉……。」
肉にかぶりつこうと大きく開けていた口は虚しく空気を取り込んでいました。
でもラルフの腕には何か柔らかいものが抱えられています。
その正体を確かめようとラルフは首をゆっくり傾けました。
アルカード「すぅ……。」
ラルフ「ぎゃっ!」
どんな魔物に出会っても生来の意地っ張りとプライドの高さが幸いして、
情けない声を上げることは無かったラルフでしたが、
既知との遭遇に一世一代の叫び声が口から飛び出てしまいました。
- 61 :ラルフ君の小さな試練・第九話:2006/07/02(日) 00:15:45
- ラルフの声に、すっかり寝入っていた様子のアルカードが目を覚まします。
アルカード「……あれ?わたし寝ちゃったのかな。折角ラルフを起こそうと思ってたのに。」
目を開いたアルカードはラルフとは正反対にのんびりと呟きました。
まだ意識の半分は夢の中のようです。
ラルフ「は、はぁぁ?ねねね寝言は寝てから言え!何がどうして人を起こすのに自分から寝てるんだよ!」
アルカード「―むむ。仲良しな人を起こす時は、こうやってお隣でくっついてあげると良い
のかなって思ったから。わたしも母上が近くに居ると、
眠くてもすぐ起きようって思うから。」
ラルフ「だからって布団の中まで入ってくるなキモチワルイ!……あ?布団……?」
ここでようやく自分がふわふわのベッドに寝かされている事に気がついたラルフでしたが、
そんな事を深く考える間もなく、「キモチワルイ」と言われたアルカードの表情はみるみる
うちに深い悲しみの色に染まっていきました。
アルカード「きもちわるい……。」
ラルフ「な、泣きそうになる奴があるかっ。畜生、さっきから頭―そうだ、頭がキモチワルイんだ!」
アルカード「……頭が痛いの?あ、そうだ。ここに飲み物とお薬があるからラルフが
目を覚ましたら飲ませてって母上が言ってたよ。」
ラルフ「薬……。俺は最強のハンターになる予定のラルフ様だ、これくらいなんともない。飲み物だけ貰おう。」
ゴクリ。アルカードが運んできたもののうち、
彼の左手にある薬には目もくれずに右手のコップを奪い取りました。
そして二度目の悲劇が彼を襲うのでした。
ラルフ「うぇーっ、なんだこりゃぁ!」
アルカード「トマトジュースだよ。美味しいでしょう?」
ラルフ「まずいぞ。」
アルカード「そんなぁ……喋るようになったコウモリさんが持ってきたトマトで作ったのに……。」
ラルフ「喋るコウモリ……ああっ、あの三流吸血鬼野郎無事だったのかよ?!
俺を倒した魔物の目は節穴か!……いてて。」
- 62 :ラルフ君の小さな試練・第九話:2006/07/02(日) 00:16:58
- アルカード「ラルフ、あんまり怒ったら父上みたいに『けつあつ』が上がっちゃうよ。
やっぱり痛くなくなるお薬飲もうね。」
ラルフ「絶対飲まん!」
頑なに薬を拒否するラルフ。
アルカード「飲まないと頭痛いままだよ。」
ヴァルター「更に頭も悪いままだぞ。―ああ、それは元からだな。」
ラルフ「うるせぇ!痛かろうが悪かろうが飲ま……おいコラ、どさくさに紛れて何言ってる、雑魚吸血鬼野郎。」
何時の間にかベッドの上空を旋回していた蝙蝠に、ラルフは自慢の拳を振り上げました。
ヴァルター「おおっと危ない。真実を言ってやったまでだが?」
アルカード「コウモリさん。」
ヴァルター「うんうん。やはり近くで見る方が断然愛らしいな。」
アルカード「?ラルフのこと?」
ラルフ「気色悪い誤解をするな。」
アルカード「じゃあわたしのこと?……何だか恥ずかしいなぁ。」
褒められて悪い気はしないのか、近くに降りて来た蝙蝠の頭を嬉しそうに撫でるアルカード。
ヴァルター「うむ。誇りに思って良いぞ。何せ夜の王たるヴァルター様の寵愛を受ける予定なのだからな。」
ラルフ「いい加減にしろこのヘンタイヤロー!!」
アルカード「ラルフやめてよー!コウモリさんが死んじゃうじゃないか!」
そうやってドタバタと三人(?)が騒いでいる所に、一筋の光―ではなく一筋の黒い影が差しました。
- 63 :ラルフ君の小さな試練・第九話:2006/07/02(日) 00:18:27
- デス「坊ちゃま!お静かになさいませ!」
ラルフ「げっ。変態の次はズタブクロかよ。」
デス「相変わらず頭の良さは減るのに口は減らん小僧だ。
これで坊ちゃまの下僕でなければ私の大鎌の餌食に―」
……。
デス「貴様!よくよくみれば坊ちゃまと寝所を供にするとはなんたる狼藉!
とっとと出ていかぬか!」
ラルフ「俺が寝てる間にコイツが勝手に入って来たんだよ。」
デス「聞く耳持たん!」
ラルフ「おいアルカードさっさとベッドから降り……。」
アルカード「ぐぅ。」
ラルフ「二度寝してんじゃねーよ!」
それから暫く死神さんとラルフの言い争いは止まりませんでした。
そしてちゃっかりラルフのお土産であるトマトをアルカードに贈って好感を高め、
一緒に眠りについた稀代の吸血鬼のことなど、ラルフの頭の中からは飛んでいってしまったのでした。
- 64 :ラルフ君の小さな試練・第十話:2007/01/18(木) 23:21:04
- ラルフ「ったくよー。お前が変な所に服置いて風呂に入ったから俺が酷い目に遭ったんだぞ、わかってんのかよ。」
アルカード「だってラルフが来てくれないからたいくつだったんだもん。」
ラルフ「……肉にされたと思って心配したこっちの身にもなれってんだ……」
高い天井に子供たちのお喋りな声が響き渡ります。
あの後アルカードはひとしきりのお昼寝タイムを楽しみ、お友達のラルフと大好きなヘクター、そして死神さんと一緒に
三人家族十分すぎる程広い食堂へ向かいました。
ラルフは食堂手前の扉の巨大さから清貧の虫が疼いていました。
ラルフ「にしてもデカ過ぎる。なーんでこんなに縦長いテーブルで飯食おうなんて思うんだよ。」
デス「貴様のその席は特等席だ。椅子に座らせてやっただけでもありがたく思わんか!!」
ラルフ「なぁーアルカードー」
アルカード「どうしたのーラルフー」
ラルフ「お前の声、全然聞こえねぇーぞー」
それもそのはず、ラルフの悪い予感は「とてつもなく縦長いテーブルの端っこに追いやられる」
という形で的中したのですから。
ラルフ「大体飯食う場所のくせに、ここは暗すぎるんだよ。
ろうそくの明かりだけじゃ向こうに居るアルカードのマヌケ顔が見えないだろ。」
そう言って口を尖らせるラルフとは正反対に、アルカードはお隣に座っているヘクターと何やら楽しそうにしています。
その膝の上には件の蝙蝠が陣取っているのかと思うと、心穏やかではいられないラルフなのでした。
ヘクター「……アルカード様、俺はいいですからベルモンドの少年とも話をしてください。」
子供ながら深い何かを込めたラルフの視線に、ヘクターは呆れつつその意を汲んであげるのですが。
アルカード「ラルフともお話したいけど……ヘクターお兄ちゃんともお話したいんだ。
お兄ちゃん今度はいつ来てくれるかわかんないんだもん」
と、ちょっぴり照れくさそうな少年の言葉にガクリと肩を落としました。
- 65 :ラルフ君の小さな試練・第十話:2007/01/18(木) 23:22:24
- さて。
見た目は怖くても器用なアベルのお料理が完成するのを待つばかりであった食堂に、奇妙な緊張感が生まれたのはそれから間もなく。
このお城で一番偉い人が登場してからです。
ドラキュラ「……ふむ。今日は珍しく客人が多い、何とも素晴らしき日だ。全員が招かれざる客である点は除いてな。」
開口一番の皮肉に、招かれざる客のうち最も子供なラルフがいち早く反応しました。
ラルフ「なんでぇー……えらそーに。」
ただし彼には珍しく小声で。
ヘクター「それはどうも。」
最も大人であり、元上司の捻くれぶりには慣れっこなヘクターは軽く受け流し。
ヴァルター「ハッハッハ!そう嬉しさを隠す必要もあるまい!このヴァルター様が直々に足を運んでやったのだ、
感謝するがいいわマティアス!!」
ドラキュラ「私をその名で呼ぶなーーーーーッ!!!」
ヴァルター「何故このヴァルター様が貴様の意見を聞かねばならんッ!!」
最も大人気ない吸血鬼はわざわざ一瞬即発の状態を作り出すのでした
ドラキュラ「ならば喰らえぃっ!地獄の業火を!!」
ヴァルター「なんの!」
すぐ傍で魔族同士の決死の闘いが始まり、アルカードとラルフの子供二人は戦々恐々でしたが
既に耐性が付いていたヘクターは、相変わらず心配性の死神さんに締め上げられていました。
ヘクター「ラルフと闘った時はすぐに勝負がついたのに、吸血鬼同士だと嘘のように活き活きしてますね。」
デス「ヘクター!何を悠長に感想を述べている!あの蝙蝠は一体何なのだ!」
ヘクター「……ああ、言ってませんでしたか。何でも稀代の吸血鬼である男の魂が宿っているそうですよ。」
デス「稀代の吸血鬼――まさか!その名はヴァルターではないか?!」
ヘクター「さすが、よくご存知ですね。」
デス「な、なんといことだ……五百年前、闇の覇権を争ったお二人が再び合間見えようとは…!
このデス、どちらに味方するかなぞ選べませぬぞ!」
ヘクター「この間は50年前とか言ってませんでしたか……。」
アルカード「父上、蝙蝠さんをいじめないで!」
- 66 :ラルフ君の小さな試練・第十話:2007/01/18(木) 23:23:13
- 食堂が混沌の海に落ちようとしたその時、一人の美しい女神が軽やかに舞い降りました。
リサ「食事の支度が遅れて申し訳ありません。皆さん、まずはスープからお召し上がりくださいね。」
ドラキュラ「む・・・。」
ヴァルター「は・・・。」
アルカード「母上!」
リサ「今日はアルカードの好きなトマトとレンズ豆のスープよ。ヘクターも、ラルフさんもたくさん召し上がってください。」
デス「奥方様!給仕は召使のプロセピナにおまかせください!しかもそんな汚らしいベルモンドに
恵んでやる必要はありませぬぞっ!」
リサ「あらー、私もアルカードのお友達と仲良くなりたいのですよ、デス。」
ラルフ「……。」
アルカードはラルフの顔が真っ赤に染まっているのを遠目に見ながら首を傾げました。
アルカード「ラルフどうしたのー?また頭痛くなってきたの?」
ラルフ「別に……。」
アルカードのお母さんは、自分のお母さんとは違う優しい香りがしたとは、死んでも言えないラルフでした。
でもことお母さんのことに関しては、鋭いアルカードです。
アルカード「母上はわたしだけの母上だもん。ラルフにはあげないよっ。」
ラルフ「あ、アホか!」
大声でとんでもないことを叫ぶアルカードに、今度はラルフの顔が青くなりました。
アルカード「……ラルフにお肉はわけてあげようと思ったんけど、やーめた。」
ラルフ「なにぃ!?」
リサ「ウフフ、二人とも仲良しさんね。」
ラルフ「……。」
しかし一瞬元気を取り戻したかに思えたラルフも、微笑を絶やさないお母さんには無言で俯いてしまうのでした。
アルカード「・・・・・・つまんない。」
先程までの楽しさは何処へやら、アルカードのご機嫌はすっかり雨模様になってしまいました。
ほっぺも最高潮に膨らみます。
ヘクター「アルカード様、余所見をしながら食事をしてはいけませんよ。ごぼれてます。」
アルカード「ヘクターお兄ちゃん。」
ヘクター「どうしました?」
アルカード「母上がラルフと仲良くしてると、何だか意地悪な気持ちになっちゃうんだ……。
わたし病気になっちゃったのかな?」
さすがのヘクターもこの疑問を軽く受け流すことは出来ず、言葉を詰まらせるのでした。
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