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日常の境界
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「当職はお腹が減ったナリ。腹ペコペコちゃんナリよ」
「僕も減りましたよ……どこか行きますか?」
裕明はチラリと横目で貴洋を見た。
机にだらしなく足を投げ出しているのは、既に集中力が切れていることを如実に表している。
既に外は真っ暗で、近くのアイスクリーム屋はとっくに閉まっている。
上下のフロアに人の気配はなく、事務も帰ってしまっていた。
「どうして依頼人の殺害予告を処理したら当職に殺害予告が来るナリか。訴状作るのも飽きたナリよ」
「僕のところには来ませんねぇ……よっぽどマズイことしちゃったんじゃないですか?」
またその話か、と内心辟易する。
暇になると必ず口を突いて出てくるのが、「当職は殺されるナリ」だ。
正直かんべんして欲しい癖ではあるのだが、この男案外憎めないところがある。
法務となるとからっきしなのだが、一緒に仕事をしていると安らぐというか、お互い臥薪嘗胆の日々を送った苦しみを知っているのだ。
だからこそ、この法律事務所を共同で立ち上げることにしたのだ。
「弁当でも買ってきます。ついでに夜風にも当たって来ますね」
「行ってくるナリ。当職は唐揚げ弁当が食べたいナリよ」
「売ってたら買ってきますよ」
そう言って、裕明は立ち上がった。ポケットを探ると、まだ数本は入っていそうな煙草の箱が見つかる。
カツカツと革靴の音を響かせて、裕明はドアを押し開けた。
「ふぅ、寒いな。こんな日に限って相談が沢山来るというのは、何の因果なんだろうな」
外に出ると、金属バットを持って素振りを繰り返している男がいる。
彼は貴洋を見張るためにわざわざ貴重な一日を丸々事務所の前で潰しているのだ。
「僕の写真は欲しがらないのに、あいつのだけ欲しがる理由が分からん……」
ぶらぶらとあてどもなく歩く。唐揚げ弁当を売っている店はどこだろうか。
頭の中で地図を思い出す。虎ノ門近くに深夜までやっている弁当屋があったはずだ。
少し遠いが、休憩ではなく散歩だと思えば大したこともない。
空を見上げれば、青ざめた満月が冷え冷えと東京の街を照らしていた。
「ん、自販機だ。ありがたい」
煙草とジュースの自販機が、寝静まった世界で目が痛くなるほどの光を放っている。
缶コーヒーを一本買うと、すぐ目の前にあった公園へと入っていく。
ベンチに腰を下ろして、プルタブを曲げる。
アロマの香りが一瞬鼻をくすぐって、ほっと一息つくことができた。
煙草の箱を取り出して一本抜き、口に咥えた。
「あと何分くらいかな……ん、ライターはどこだ?」
白い先端に火を付けようとして、懐を探るが、肝心のライターが見つからない。
腰やスラックス、尻ポケットまで探しても見つからず、事務所に置いてきたことを悟るにはそう時間はかからなかった。
「困ったな、コンビニで買うのも癪だし……」
「良かったら、これ使う?」
一人の世界に、突如入り込んできた声。
びくりと肩を震わせて振り向くと、一人の女性がいた。
長い髪は腰を超えて膝裏まで届き、それを後頭部で束ねている。
全体的にほっそりとしていて、しかしスーツを着ていることから大人であることは容易に分かる。
ネクタイに、弁護士のバッジ。
端正に整ったその姿とは裏腹に、顔にはまだあどけなさすら残るような可愛らしさがあった。
隣に座ったその女性は、細い煙草を既に咥えていた。
ジッポーのヒンジが開く音が公園にこだまし、シュッと小気味良い音と共に炎が上がる。
オイルの香りが僅かに残り、世界が静寂に戻る。
「ライター、ないんでしょ? 使ってもいいわよ」
「あ、ああ……ありがとう。でも、どうしてここに?」
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日本語がおかしいことに、言ってから気が付く。
目の前にいる女性は弁護士で、それ以前に大人だ。
何時にどこで何をしていようが、何も問題はない。
大方仕事だろうと思い直し、守秘義務があるなら言わなくて良いと告げる。
その女性は、子供っぽい笑みを浮かべながら、無言で煙を吸っていた。
なぞかけをされている気分になり、裕明は煙草に戻って考えた。
シュボッ……オイルライターを使うのは久しぶりだった。独特の匂いが漂ってくる。
「ありがとう、助かったよ」
「いいのいいの、こういうのはお互い様だから」
「それで、さっきの質問に戻るけど……弁護士の仕事だった?」
彼女はふふっと小さく笑った。
その仕草に、奇妙な鼓動を感じる。
「半分あたりで、半分はずれ。仕事が終わった後サボってるの。あなたは?」
「僕? ちょっと社長に頼まれてね、買い出し中。ちょっと、いや、結構遠回りで」
「あはっ、それじゃぁ私と一緒だ! ねぇ、名前はなんていうの? 私は綾乃。小西綾乃」
裕明は声に詰まった。
灰がぽとりと土に落ちて、さらさらと流れて消える。
「僕は……Y岡裕明。僕も弁護士なんだ」
鳩尾の辺りがくっと凹んだ気がした。
おかしい、僕は弁当を買いに来ただけではないのか?
どうでもいい日常を過ごし、無能だデブだとネットで叩かれ放題の弁護士と一緒に仕事をして、
家に帰ったらビールを呷って寝るような。
そんな、灰色の人生を過ごしてきたんじゃないか。
目の前の現実は……なんだ? 楽しい夢でも見ているんじゃないか。
「どうしたの、狐につままれたような顔しちゃって」
「いや……小西さんみたいな女性と出会えるなんて、夢でも見てるんじゃないかって……」
「あはっ! 私くらいの女なんてそこらにいるよ?」
「そんなことはないさ。だって僕には……」
「僕には?」
慌てて煙草を吸った。何も考えたくない。考えられない。
コーヒーをぐびぐび飲むが、途中で喉を上手く通らず咽せこんでしまった。
すると、綾乃はにひにひ笑いながら、立ち上がった。
「私は自由! もうめんどいクライアントもいない! 同じ名字の上司もいない! 私はどこまでも自由で、何でもできちゃう!」
仕事、終ったんだな。しかも、とびっきり顔を顰めるような山を越えたんだ。
山の中で迷っている、自分の法律事務所など、核でも打ち込んで綺麗さっぱり消してしまいたい。
それくらい、綾乃は開放感に溢れていた。
「ねぇねぇ、ここで会ったのも何かの縁よ。そっちの社長のことなんて忘れて、どこか飲みに行きましょ♪」
「あ、いや……そうしたいのは山々なんだが」
綾乃が、くるくる踊りながら問いかけてきた。紫煙がふわりふわりと、彼女を取り巻くように渦を作る。
しかし、これ以上時間を潰し続ける訳にもいかない。
社長もとい貴洋は、余りに腹が減りすぎると顔が横になるのだ。
あれのおぞましさは何度も見たいものではない。
「僕もお腹が減ってるんだ。早く何か食べないと」
「真面目なのね、裕明君ってば」
タメ口を聞いてくる綾乃だが、それでも嫌な感じが少しもしない。
どうしてだろう。分からない、分からない、分からない……
「それじゃこうしましょ。来週とか再来週とか、適当なタイミングで改めて顔合わせってことで!」
そう言って、綾乃はさっと胸から一枚の名刺を出して、渡してきた。
慌ててスーツを探してみるが、名刺は事務所に置いてきてしまったようだ。
「分かった。明日にでもメールを出しておくよ」
「うんっ、よろしくね裕明君っ! じゃぁそっちの社長が怒らない内に解散しましょっか♪」
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いたずらっぽい笑みで、足取り軽やかにステップを踏んでいる綾乃。
それを見ていて、一つ思い出したことがあった。
「月夜の舞踏会……?」
都市伝説なのか、それとも本当のことなのか。
猫の集会。
華麗に踊る彼女は、その中で一番踊りの上手い猫に見えたのだった。
「お仕事頑張ってね☆ ばいばーい!」
そうして、彼女は消えた。
路地を曲がった瞬間、裕明は弾け飛んだように走り出したのだが、角を曲がると、彼女はもういなかった。
頭を振ってみるが、ぐらぐらするばかりで何も起きない。
公園に戻ると、冷え切った缶コーヒーが一本、置いてあるだけだった。
***
「遅いナリよ裕明! たかが弁当一つに何時間かけてるナリ!!」
「たかが開示一件に何ヶ月かけてるんですか、貴洋さんは」
唐揚げ弁当2つ。
お茶とスポーツドリンクのペットボトルが1本ずつ。
時刻は既に、タクシーでないと帰れなさそうな時間帯へと突入しかけていた。
しかし、裕明の心に鬱屈したものは溜まっていなかった。そう、深夜残業の今でさえも。
懐に入った一枚の名刺。それだけで、心が洗われるような気がしたのだ。
──この、糞にまみれたような世界から。
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当職のSSに登場する人物は全て架空のものです
当職の描く人間関係は物凄く適当です
当職の萌えはKNSたんです
当職のエロはその内にお見せできるかと思います
当職の膣内にはいつも弟がいます
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くっさ
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コテで自己主張しておまけにまんこかよ救えねえな
しかしそんなあなたも救うことができるのがエル☆カンターレです
http://happy-science.jp
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地獄で智津夫っちに詫びろ糞まんこ
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申し訳ありませんでした
以後ROMに戻ります
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なかなか名作やと思うけどなぁ
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掛け合いがライトノベル的ではありますが、非常に丁寧に書いてあることが伝わってきます
KNSを完全に女性として書くのは基本ホモのここでは厳しいかもしれません
この叩きに折れず、デリュケー独特の不文律を踏まえつつ次作を書くことを切に望む。
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ハゲのおっさんで仕切り直してくれたら応援するやで
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貶すわけではないが、文章の出来がどうこうではなく単にデリュケーには合わない
作者は一度冷静になって、貴洋を性的な目で見つめ直すべき
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幸恵のSSとか受け入れられてたし女性がアカンわけやないと思うけどな
ただ女体化KNSって淫夢におけるピンキーのような存在やろ?
新芋を招き入れる差し油としては優秀やけどここではノイジーマイノリティやろな
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そんなに悪くない思う
ここは普段ネタとホモに満ち溢れた場所だから合わない人もいるでしょうけど
続きあるなら一応期待してます
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高校の時の文芸部がこんなノリの小説を書いていた気がする
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改めて、初心者が気軽に投稿できるスレがあればいいなと思った一瞬でした。
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ワイの理解が悪いのか分からんけど小西が女に見えたのは山岡くんの現実からの逃避や理想を小西見て垣間見たんやないか
この後普通にホモ路線に突き進みそう
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沙耶の唄かな?
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何がいかんのかわからん
別にKNS女路線のSSでもええやろと思うんやが
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別にいいけど虫歯治すのに肛門科行くようなもんやぞ
歯医者行った方がええと思うで
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ワイは評価するで〜
次回作はコテ無しで頼む
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くっさいニコニコでやれ
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ここの他の作品読んだ上でこれを投稿してるんだとしたら、その勇気は凄いと思った(小並)
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コテNGで見えないからほっといたけどこんなレス付くなら読んでみたいわ
次はコテ付けないで投稿してクレメンス
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一周回って面白かったわ
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面白い都築を切に望む
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女を出すなら六実ケーで書いて欲しい
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>>1ちゃんのエロがみたい(小声)
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