■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■

吸血鬼の娘さん
1名無しさん:2013/06/15(土) 01:17:01
※本作品はリレー小説です。
「さん」は3の意味です。 
「吸血鬼の娘」及び「吸血鬼の娘G」の続編に当たります。
前作キャラの続投はOK、でもサブキャラ止まりでお願いします。
Gの最後で産まれた巧人と雁優雅の娘たちがメインでお願いします。


新キャラ設定:

巧人(たくと)
人間と吸血鬼のクオーターで、今回の主人公。人間に近く、吸血鬼の力は無い。
両親、幼なじみの芽音、さらにその妹たちからも「たっくん」と呼ばれている。
気分や感情が高まると噛み付く癖があり、普段は意識的に平常心を保っている。
一人称は「僕」 雁家の三姉妹には下の名前で呼び捨て。

雁 芽音(がね)
吸血鬼の名家に産まれた由緒正しきお嬢様・・・という肩書きを持つ、吸血鬼の娘。
といえど一般人である父の血を強く引いたため、一見人間と何ら変わらない。
巧人とは赤ちゃん時代からの幼なじみ。長女で下に四つ下の妹が二人いる。
一人称は「わたし」 母には「母上さま」、妹たちにはちゃん付けで呼ぶ。

雁 ことね。雁 あかね 
鏡映しのような双子。よく二人一緒にいて、左右逆の行動をする。
二人を区別するポイントとして、一人称はそれぞれ「ことね」と「あかね」。
お互いのことも名前で呼んでいるため、一斉に喋りだすとややこしい時も。
受け継がれた吸血鬼の血が濃く、色白で華奢で太陽の光が苦手。
母と姉には「さま」付けでよぶ。   (※芽音の「母上さま」と区別するため)

2名無しさん:2013/06/15(土) 02:17:34
「はい、わたしはだーれだ?」
図書館で受験勉強をしていたところ、巧人は突然後ろから目隠しされた。
聞きなれている柔らかい声、ちょっと良い香りがする柔らかい指。
そして何よりも、こんな幼稚なイタズラをするのは、たった一人――
「僕たちもう子供じゃないんだから、そういう子供っぽいことやめてくれ、芽音」
「むー、いいじゃん別に」
今日も滑らかに決まっているサイドテールを揺らして、軽く頬を膨らませる芽音。
お嬢様学校の中でも指折りに入る超がつくお嬢様である彼女は、今日もかわいい。
「・・・隣、確保しておいたから」
「わぁ、ありがとう!たっくんだいすき」
「だから子供じゃないからそうやすやすと抱きつかないでくれ・・・」
やれやれと目を閉じ、無抵抗で幼なじみの芽音の抱擁を受け入れた。
柔らかくて良い香りがする好きな女の子に抱き付かれて、当たっている。
彼女の首に噛み付きたい衝動を抑えるのに、巧人はもう精一杯だった。

――運命に結ばれた二人は、赤ちゃんのごろからすでに付き合っていた。

3名無しさん:2013/06/16(日) 01:39:55
「あー、また姉さまたっくんと手繋いでるー」
「あー、また姉さま母さまにしかられるー」
図書館からの帰り道、やけにハモった女の子特有のあざとい声に、
夕日に照らされ顔が赤く染まった巧人と芽音は振り向いた。

「あかね、どうしよっかなー」
「ことね、おなかすいたなー」
鏡映しのように左右逆のポーズを取っている双子がそこに立っていた。
このセーラー服の子悪魔・・・子吸血鬼たちは、芽音の妹のあかねとことね。
いつか芽音を妻にしたい巧人にとっては、未来の義妹たちのようなものだ。

「ったく、そんなせびり方あるのかよ。芽音、どうする?」
「んー、母上さまに知られたら怖いし・・・」
小首を傾いて3秒ぐらい長考した後、芽音は巧人に小さく平謝りした。
「やっぱ今日もお願い!おやつ程度でやめさせるから!」
「・・・だろうな」
仕方ないと嘆いて、巧人は袖まくりした腕をあかねたちに差し出す。
今日もまた、雁家の三姉妹に振り回されて巧人は大量の血を吸われた。

そしてその夜――

4九条:2013/06/16(日) 22:39:56
『いただきまーす!』
五人揃って食事が始まる。テーブルは名家にしてはわりと狭く、お皿がところ狭しと並んでいる。
武弘たっての願いで、食事はテーブルを囲み家族団らんでというのが三人が幼い頃からの雁家のルールだった。
「今日は遅かったわね。またあの巧人くんと一緒だったの?」
優雅が芽音に訊ねる。その顔は少し不機嫌そうだ。
「まさか、そんな毎日一緒じゃないよ。」
「そう?…あかね、ことね、貴女達芽音と一緒に帰ってきたわね。巧人くんと一緒じゃなかった?」
「姉さまは一人だったよね、あかね?」
「うん、今日は一人だったよね、ことね?」
「そう?ならいいのだけど…」
優雅は納得いかないような顔をしながら食事を再開しはじめた。

食事も終わり、執事やメイドに食器を渡した後、芽音はお風呂に入っていた。
家庭的な人の方が巧人は好きなのかな、と時々食器洗いなどを手伝っているが、今日は止めにしておいた。
湯槽に肩まで浸かると、思わず溜め息がでる。
(母さま、たっくんのこと嫌いなのかな…)
ちゃぷちゃぷと音をたてながら考え事をする。
(やっぱり、既成事実を作った方が良いのかな…)
鼻の下辺りまで湯槽に浸かりブクブクと音をたてながらそんなことを考える。

同じ頃、あかねとことねの部屋では。
宿題を終わらせた二人は仲良くテレビを見ていた。
実は彼女達は少しオタクが入っている。
小さい頃からアニメや特撮、ライトノベルや漫画を見るのが二人とも好きだった。
最近では深夜アニメも見るようになっていた。今は、録画していた五人組が主役のロボットアニメを見ていた。
主人公の一人が敵幹部と戦闘開始するシーンを見ながら、あかねが呟く。
「最近、たっくんますます格好よくなってきたね、ことね。」
「うん、姉さまと恋してるからかな、あかね。」
「…このままじゃ、姉さまにたっくん取られちゃうよ、ことね。」
「そうだね、あかね…」
芽音や巧人にも秘密にしているが、二人にも巧人に恋心がある。
小さな頃から芽音と巧人の関係を見てきて、憧れから羨望へとシフトしていったのだった。
二人とも、初潮は来ている。
子供がどうやって出来るのかも知っていた。
(いざとなれば、たっくんと無理矢理…)
そんなことを考えながら、ぼんやりとテレビを見ていた。
主人公と幹部の戦いが互角で終わり、二人が破壊されたコクピットから姿をみて邂逅するシーンで終わってスタッフロールが流れるのを見ながら、二人はベッドへと潜っていった。

芽音とあかねとことね、三人の思いが交差しようとしていた。

5名無しさん:2013/06/18(火) 01:04:16
中間テストを終えて、いよいよ明日から高校生活最後の修学旅行だ。
「――この下着でたっくんと、きゃぁ、うふふ」
頑なに自分と巧人との交際を反対する母上さまが身近に居ない、またとないチャンス。
この機を活かすべく、既成事実を作ってしまおうと芽音は張り切っていろいろ用意した。
「・・・ことね、見てた?」
「あかね、聞いてた?」
そんなウキウキ浮いている芽音を、同じたっくんを狙っているあかねたちはドアの隙間から観察していた。
(『このままだと、たっくんは姉さまに取られてしまう』)
研ぎ澄まされたように目を光らせたあかねとことねは、密かについて行くことを決意した。

通常ならありえない話なんだが、二人は雁家の優秀な血を引いている吸血鬼の娘だ。
適当な『運転手さん』を捕まって記憶を弄れば、バスを尾行するぐらい造作もない。
・・・と、実はまだ記憶の弄れ方を教わっていないあかねとことねはこう思っていた。

〜 そして、夜が明けた 〜

6名無しさん:2013/06/19(水) 01:31:07
「行ってきまーす」
「気をつけてね、芽音。」
バッグを肩にかけ、走る芽音を見送る優雅。
あかねとことねも見送っていた。
「さて、貴女達も…ホントに行くの?」
「うん、そうだよ母さま…」
「ふぅ…詳しくは聞かないけど…気をつけるのよ?」
「わかってるよ、母さま。」
そういうと二人は芽音の後ろをついていった。
二人は前の日の夜、優雅に相談をし、記憶操作の仕方も教わっていたのだった。

しばらく後のバスの中で。
巧人は後ろから二番目の席で芽音と隣同士に座っていた。
「ユタカサン、アノキミョーキテレツナゾウハナンデスカ?」
一番後ろで金髪の長い髪の少女が少年に訊ねる。
「あれか?あれは太陽の像やな。懐かしいわぁ、ここは姉貴とよう来たもんやで」
鼻筋に絆創膏の少年がそう答える。
「ユーちゃん、またルーちゃんとイチャイチャしとるんかいな?」
短い髪の目のキツい少女が溜め息混じりに話しかける。
「ええやろ姉貴、別に世間話なんやから」
「でもやな…」
不服そうに顔をしかめる少女。
最初の少女の名前はルシャーティ。
少年とその隣の少女の名前は前田豊と前田恒美(つねみ)。
三人はそれぞれ同じ時期にイギリスと大阪から来た転校生だ。
ちなみに、前田姉弟は同い年で血の繋がらない姉弟である。

「賑やかだね、う、うぷっ」
眼鏡で弱気そうな少年が通路の折り畳み席から話しかけてきた。
彼は津田健太。クラスで二番、全国でも二桁の秀才だ。
ちなみに一番は巧人。全国では一桁に近い二桁である。
「あらあら、大丈夫?健太くん。先生と前の席に移動する?」
セミロングの髪をうなじで束ね、眼鏡の女の先生が心配そうに訊ねる。
彼女は金本真弓。巧人のクラスの先生だ。
噂では健太と付き合ってるとか婚約してるという話しもあるが、さだかではない。
「は、はい…すみません…」
そういうと二人は最前列の席へと移動していった。
ルシャーティと豊と恒美、それに健太と巧人と芽音が同じ班のメンバーであった。

(登場人物を増やして見ました。とはいえ巧人と雁姉妹がメインなので、三人組や先生と健太カップルの話が書きたいという稀有な人がいたらスピンオフという形で別のスレで、という事で。)

7名無しさん:2013/06/19(水) 04:22:57
「おっちゃん、もうちょっと早くならないの?」
「おっちゃん、もうたっくん見失いそうだよ!」
一方、巧人と芽音たちが乗っているバスを追いかけているワゴン車の中。
運転手のおっさんを催促しながら、あかねとことねはせっせと着替えていた。
無造作に脱ぎ捨てられたセーラー、女子力が芽生え始めた色白で華奢な体。
「・・・・・・お嬢ちゃんたち、えらいべっぴんさんやな」
突然、なめ回すような視線でバックミラーから生着替えを堪能した運転手は口を開いた。
しかも出した言葉は、記憶操作で与えた指令『バスを追う』とは関係ない意思表現。
「うそっ・・・あかねたちのこと、分かっちゃうの?」
「そんな・・・ことねたちのこと、見ちゃったの?」
これが意味することはつまり――――運転手のおっさんは正気に戻ったのだ。
(どうしよ、ことね・・・)
(こわいよ、あかね・・・)
やり方だけ聞いた付け焼刃だから破られたのか、今はそれを考える余裕がない。
運転手のおっさんに裸を見られたことに怯えて、双子は抱き合って震えていた。

8名無しさん:2013/06/19(水) 22:49:41
「そんな不安そうな顔せんでもええやん。安心せぇよ、俺はロリコンじゃあらへんからな。お金ももらっとるし。…せや、うちのかみさん、もう臨月なんやけどな…」
そういうとおっさんはのろけ話をしはじめた。
(大丈夫そうだね、あかね…)
(でも万が一があるし気をつけないと。最悪もう一度記憶操作しないとね、ことね。)
そんなことを考えながらも、ワゴン車は進んでいく。

(あれ…?)
巧人はあることに気づく。
さっきから最後尾のこのバスの後ろを着いてくる車がある。
その車を吸血鬼の血をひく視力で確認すると、後部座席に、見覚えのある顔。
(あれは…あかねとことね?いや、でもまさかな…)

そんなことを考えながらも、バスは先を進んでいく。

9名無しさん:2013/06/22(土) 03:40:36
――『たっくんへ。大事な話があるから、消灯時間後こっそり抜け出してきて』
修学旅行初日の夜、芽音はメモを使って巧人を男子部屋から呼び出した。

「先生にばれたらやばいよな、これ・・・」
夜中で大浴場前の休憩室に来た巧人は、自販機にコインいっこ入れる。
するとその途端に、
「えいっ」
ビッ。ガタン。女の子らしい細くて柔らかい指が自販機のボタンを押した。
さらに背中に乳房が当たっている感触。心臓の高鳴りがハッキリと聞こえる。

「芽音・・・って、うわぁ?」
ぎゅっと後ろから抱きしめられて驚いた巧人は、抱きしめた相手の名前を呼ぶ。
と同時に、この時間では誰もいない女湯の脱衣所に強引に引きずられた。


(少女既成事実製造中・・・・・・)


「ことね、本当にたっくんこの部屋にいるの?」
「先生が言ったからあってるはずよ、あかね」
一方、巧人たちの修学旅行を引率する先生の記憶をいじって聞き出した情報を元に、
頑張って追っかけて来たあかねとことねは、男子部屋の前でドキドキしていた。
「そんじゃいちにのさんで・・・あれ、なんか、姉さまのにおいがする?」
「ホントだ、ちょっとだけだけど、たっくんのにおいも・・・あっ!」
何が起きてるのかを察した双子は、ハッとした表情で一斉に夜中の廊下を走り出した。

10名無しさん:2013/06/23(日) 00:36:18
「ここだね、あかね…!」
「うん、開けるよ、ことね!」
匂いをたどってやってきた二人が、女湯の扉を開ける。
ガラガラガラ!
「うわっ…て、あんた達、なんで!?」
突然ドアを開けられ、さらに予想もしない人物の登場に、驚く芽音。
その姿は上半身は着ているが、下半身は一糸纏わぬ姿だ。
「やっぱりだね、あかね。」
「どうする?ことね。」
「ここは当然…ことね達も、だよ、あかね。」
そういうと二人はするすると着ている物を脱ぐ。
「ちょ、ちょっと!なにするのよ!」
「うるさいよ姉さま!」
そういうとあかねはにらみつける。
「あんた…力を使ったわね…」
そういうと芽音は厳しい顔になる。
だが、彼女は指一本動かなかった。
「たっくんにも、使わないとね」
そういうとことねも巧人をにらみつける。
「ど、どういう事だよあかね、ことね!」
巧人は叫ぶが、二人は無視していた。
『覚悟してね、たっくん』

(少女既成事実中…)


翌朝。
あかねとことねは、巧人班のメンバーと金本先生と向かい合っていた。
「あらあら、困ったわねぇ…二人も、着いてきたいなんて」
「先生、妹達は帰しても良いんですよ?」
「とはいえ、せっかく来ちゃった訳だし…そうね、部屋割りを変えましょうか」
「え、どんな風に?」
巧人が先生に訊ねる。
「そうねぇ、巧人くんの部屋に、双子ちゃんと芽音ちゃん。芽音ちゃんの代わりに豊くんをルシャーティさんと恒美ちゃんの部屋かしらね。」
「先生、僕は?」
「健太くんは、私の部屋、かしら。…嫌、かな?」
「い、いえ!そんなことは!」
健太は顔を赤くしながら否定した。


こうして、あかねとことねを加えた修学旅行が始まったのだった。

11名無しさん:2013/06/23(日) 02:47:54
危険な香りがした3日間男女相部屋の修学旅行を終えて早くも一ヶ月。
「――やったぁ!」
計算して排卵日を合わせた芽音は、学校の女子トイレでガッツポーズを決めた。
なぜなら、確認のために用意した妊娠検察薬が『陽性』と反応したからだ。
望んだ既成事実が、大好きな巧人との赤ちゃんが、お腹に宿ったのだ。

「いやいやまだ喜んじゃダメだからねわたし・・・この子を、母上さまから守らないと」
鏡の中の自分に言い聞かせ、芽音はおへその下に手を置き精神集中を始める。
母相手に効くかは知らないけど、『赤ちゃんがいる』ことに対しての認識阻害をかけた。
せめて安定期ぐらいまで赤ちゃんの事を秘密にしておきたいと、彼女は思っていた。

・・・・・・当然のことだが、事がそう上手く運ぶわけもなく――

12名無しさん:2013/06/24(月) 02:09:01
妊娠発覚から2ヶ月ほど過ぎたころ。
「うっ、うぷっ…」
吐き気に襲われた芽音は、そのまま洗面所へむかう。
「貴女、やっぱり妊娠してるのね?」
優雅が芽音に問いかける。
「えと、そんなことは…」
「私を甘く見ないでね。貴女のことなら直ぐにわかるわ。最近、顔色も悪いし、なんとなく雰囲気が変わったもの。」
「…はぁ、母さまにはかなわないなぁ…」
「相手は…聞かなくてもわかるわ。どうせあの子でしょ?…産むつもり、なのね?」
「う、うん…」
「なら仕方ないわね。…でもちゃんと、相手にも話をするのよ。」
「わかってるよ、母さま…」

一方その頃あかねとことねの部屋では。
「気持ち悪いね、あかね…」
「うん、ひょっとしたら…だよ、ことね…」
「どうしよう、あかね…」
双子の身にも変化が起きていたのだった。

数日後、学校で。
「もうすぐ文化祭よ。今日は出し物を決めましょう」
先生が、クラス全員に話しかけた。
(先生、身体が丸くなったみたい。顔つきも柔らかいし、私みたいに、妊娠したのかな?)
芽音はそんなことを考えていた。
出し物がメイド喫茶に決まり、ホームルームが終わった所で、芽音は巧人に話しかける。
「たっくん、今日は一緒にかえろ?」
「良いよ。ちょっと待っててね。」

(帰り道…きちんと、赤ちゃんのこと話さないと…)
そんなことを考えながら巧人の準備を眺めていた。

13名無しさん:2013/06/26(水) 03:26:14
「・・・とまぁ、こんなところね。おめでとうマユちゃん、大祖母に昇格よ」
「あら、かのユガちゃんもずいぶん丸くなったじゃない?もしかして娘に甘い?」
「そんなわけあるか」
自らブレンドした真っ赤な紅茶を一口飲んで、真弓の皮肉を受け流す。
吸血鬼らしい不敵な笑みを浮かびながら、優雅は窓の外に目を向けた。
「産むと決めた責任がどれほど重いか、あの子たちじきに分かるさ」


「――た、たっくん!あ、あのね、わたしね、その・・・」
一方、自宅前まで送っもらった芽音は勇気を振り絞って巧人に告白しようとしていた。

14名無しさん:2013/06/27(木) 04:04:22
「マジ…かよ」
赤ちゃんが出来たの。そう聞いた巧人は思わず絶句した。
「…学校は?どうするんだよ?」
「ちゃんと、通うわよ。認識阻害も使ったりしてね。さすがに、大学は無理かも知れないけれど…」
巧人の質問にそう答える芽音。
「そうか。…俺も覚悟を決めなきゃな…」
「えっ?」
「大学を出て、仕事についたら…結婚してくれ。それまで、待てるか?」
「う、うん!」
芽音の顔は明るい笑顔に包まれていた。

一方その頃…
『うっ、うぷっ!げぇ…はぁ、はぁ…うっ、うげぇっ!』
吐き気が増した双子が、部屋のトイレで嘔吐していた。
「さすがにもう、隠しきれないよ、あかね…」
「覚悟を決めて、話さないといけないかもね、ことね…」
お腹を無意識に擦りながら、二人は相談していた。

そんなこんなで、時は過ぎていき、文化祭当日を迎えようとしていた。

15名無しさん:2013/06/28(金) 03:21:12
12月。
年が明けたら大学入試が始まるこの時期、巧人は毎日猛勉強をしていた。
告白してから学校へ行かずに巧人の傍にいる芽音も、胎児の成長は順調だ。
何もかも上手く行った・・・とまではいかないけど、それなりに二人は幸せだった。

一方、妊娠した事実を隠したまま安定期に突入したあかねとことねは毎晩、
子宮の奥がジーンと疼くて眠れないほどの力強い胎動に苦しんでいた――

16名無しさん:2013/06/30(日) 02:17:15
ある日、あかねとことねは優雅に呼ばれた。
「なに、母さま。あかねたちに用事?」
「…単刀直入に言うわ。貴女達、妊娠してるわね。」
「…な、なんのことかわからないよ、母さま」
「とぼけてもわかるわ。…時期的に、修学旅行のころかしら。相手は…まあ、予想はつくけれど。」
「母さま、ことねたちどうするつもり?」
「…どうもしないわ。どうせ産みたいんでしょう?…でも、ちゃんとけじめはつけなさい。」
「けじめ…でも、話すのこわいよ、母さま…」
「姉さまも妊娠してるし…たっくん、負担になっちゃうよ…」
「それでも話なさい。お父さんを知らないで産まれた子供はかわいそうじゃない。」
「…わかったよ、母さま…」

翌日。
すっかり身体が丸みを帯びた先生の終業の号令を聞いた巧人が、校門をくぐる。
「…あれ、あかねとことね?」
「たっくん、あかねたち、話したい事があるの」
「今日は、ことね達と帰ってくれる?」
「…いいけど…なんだよ話って?」
「ここじゃ話せないよ、たっくん」
そういうとあかね達はあるきだした。
「仕方ないなぁ…」
そう呟きながら、巧人は二人の後ろをついていった。

17名無しさん:2013/07/01(月) 03:55:08
「ほら、たっくん、あかねたちを見てて」
「なんだ、このあざは・・・これは一体?」
双子が人目の付かない暗い小道で巧人に見せたのは、服を脱ぎかけた半裸だった。
あらわになったあかねとことねの腹部は不自然に膨らみかけていて、あざだらけだ。
「ねぇ、たっくん、ことねたちを助けて」
「助けてって・・・イジメ?」
「ううん、ボコボコされたのは本当だけど、そうじゃないの」
「うん、母さまがいったの、あかねたちの自業自得だって」
あざが疼きだしたのか、あかねとことねはお互いお腹を撫で合って涙目になった。
その様子は、まるでお腹の赤ちゃんに蹴られて息を呑んで苦笑ってる芽音のよう。
この光景を目にして、巧人は一つとんでもない答えにたどり着いた――

18名無しさん:2013/07/02(火) 22:12:28
「お前らも、妊娠してるのかよ…まだ、小さいのにか…?」
「う、うん…」
巧人の質問に頷く二人。
「そうか、時期的には俺の子供か…?」
「そうじゃなきゃ相談しないよ、たっくん。」
「そうか。…にしてもこれは異常だよな、アザが出来るなんて。…まさか、胎児が吸血鬼の身体に拒絶している…?」
「どうしよう、たっくん…」
「俺にはどうしようもできねぇな、すまない…」
「そんなぁ…」
「吸血鬼の力を使わなければ、多少はマシにはなるかもしれねぇが…確証はないな」
「…仕方ないね、わかったよ、たっくん」
「…しかし…芽音にどう説明すりゃいいんだよ…」
巧人は頭をかかえていた。

19名無しさん:2013/07/03(水) 03:08:20
と、その時。
「あぐぅ」
突然、ことねがアザだらけの妊婦腹を抱えて苦しみだした。
「ことね!・・・なっ、これは?」
うずくまることねの体を支えた巧人は、あかねたちが助けを求めたわけを理解した。
外からでもハッキリと分かる胎動。いや、胎動と言うにはあまりにも攻撃的すぎた。
まるで中にいるのは母体を隠れ蓑として巣食っている『冒涜的な何か』みたいだ。
「くそっ、しょうがねぇな・・・あかね、そっちは大丈夫?お腹の調子は?」
「う、うん。たぶん今、おねんねしている、かも」
お腹を撫でつつ聞かれたままに答えたあかねは、嘘をついている様子は見られない。
「よし」
これを見た巧人は小さく頷き、一口息を吸った後、思いっきり自分の中指をかんだ。
「要するにこれが欲しいんだろ? 吸わせてあげるから少し大人しくしてくれ」
そしてそのまま、だらだらと血を吹き出す中指を一気にことねのアソコに差し込んだ。
すると――

20名無しさん:2013/07/05(金) 05:26:47
吸わないはずの胎児に血を吸われるような感覚。
それに加えて…
「なんだ、これ。紋章…?」
ことねのお腹にうっすらと、模様が浮かぶ。
「たっくん、これなんだろ…」
ことねが、不安そうに話す。
「分からねぇ、多分俺のおばあちゃんか優雅さんなら分かるかもしれないけど…」
巧人は厳しい顔でお腹の紋章を見ていた。

21名無しさん:2013/07/09(火) 03:13:50
やがて紋章はことねのお腹に溶け込み、肉眼では認識できなくなる。
胎児の暴走を抑えるためじゃないが、念のためあかねにも同じ行為をしてみた。
「う」
子宮口が勝手に巧人の指に吸い付く不快感に、思わず固唾を飲んだあかね。
そのままお腹を見つめると、やはりことねのと同じような紋章が浮かんだ。

しかし、血を得て満足したことねの胎児と違い、あかねのは大した反応を示さなかった。
紋章が溶けてなくなったのを見て、巧人は血を吸われた指をずぼっとあかねから抜く。
「たっくん、あとで、一緒に、母さまに会いにいこう」
巧人との繋がりを失ったあかねが軽くあえぐと、ことねと一緒に半脱ぎの服を着なおした。

22九条:2013/07/09(火) 12:30:12
「紋章が現れた、ですって?」
巧人達に話を聞いた優雅が驚いた顔をする。
「うん、母さま何か知らないかな?」
「…古くから言い伝えにはこう有るわ。『始祖が産まれる時胎児は血を求め、母体には紋章が現れる』…ってね」
「『始祖』?」
「えぇ。純血の吸血鬼の中でもトップクラスの能力を持つ者をそう表すの。…でもおかしいわね。始祖は純血種から産まれないハズなのに…」
そういうと優雅は考えこむ。
それを見ながらあかねとことねは不安そうにお腹を撫でていた。

23名無しさん:2013/07/10(水) 03:06:40
『タラ、タララララ〜』
いつまで続くか知らない静寂を破った、巧人の携帯の着信メロディ。
すかさずそれを開くと、待ち受け画面に芽音のアバター表示された。
微妙に本人と似てないデフォルメされたチビキャラは、不満そうでプンプンしている。
「あ・・・」
やばっという顔をする巧人。芽音を待ってから一緒に帰宅する約束を思い出した。
あかねとことねの事でドタバタになって、綺麗さっぱり忘れちゃったのだ。

24九条:2013/07/10(水) 17:31:14
次の日。
「昨日は済まんかった!」
素直に頭を下げる巧人。
「もう!次やったら絶交するかもよ?」
怒った顔をする芽音。
(あかねとことねの赤ちゃんのことは黙っていよう。心配かけたくないし、なんだか、嫌な予感がする)
そんな事を考えながら時は進む。

年が明けて3月。
受験も一通り終わり、卒業式を迎えた。
巧人だけでなく、芽音も大きなお腹を抱え、式に出席していた。
式も順調に進み、祝辞になった。
金本先生が大きなお腹を抱え、撫でながら壇上に登る。
祝辞が始まって数分。
先生の様子が、変わっていた。
大きなお腹をずっと撫で、眉間に時々皺がよる。
スピーチもなんだか、たどたどしい。
なんとか祝辞が終わったようだが、少し前屈みでゆっくりと進む。
席に戻ってすぐに保険の先生に何か話しかけている。
そのまま立ち上がり、体育館を抜け出していった。
保険の先生が、卒業生の席にいた健太に耳打ちをした。
「…分かりました。ごめん、巧人くん。用事が出来たから、答辞頼みたいんだけど…いいかな?原稿はこれだから」
「いいけど…」
返事を聞くか聞かないかに、あわてて進んでいく健太。
それを見た後俺は答辞の原稿を眺めていた。

25名無しさん:2013/07/11(木) 09:18:12
(そういや芽音の予定日いつだっけ・・・)
自分だけ聞こえる声量でため息をつきながら、巧人は心配そうな顔で芽音を横目でみた。
ルシャーティと恒美に挟まれた席にいる彼女の顔は穏やかで、大人びた母親のものだった。
認識阻害の働きで同級生たちは気付いてないけど、今は大きなお腹やさしく撫でている。
おそらく陣痛が始まっていた金本先生と違って、何の異状もないいつもの芽音だ。
(・・・さて、答辞に集中するか)
安心した巧人は、視線を答辞の原稿に戻した。

26名無しさん:2013/07/11(木) 22:56:35
答辞も終わり、式が無事に終わる。
健太も先生も、そのまま戻らなかった。
帰りに保健室の近くを通ると、微かに先生のうめき声が聞こえた。
(頑張ってください、先生…)
そんな事を考えながら教室に戻る。
式も終わり、皆は名残惜しそうに思い思いに話している。
芽音もいくつかある輪の中の1つに加わり話していた。
しばらくたった位だろうか。
(あれ…)
芽音の様子が、おかしい。
にこやかに話しはしているが、顔が厳しい。
お腹もずっと撫でている。
「ごめん、最後の思い出に学校を一通り回って帰りたいから、そろそろ行くね。」
芽音が少し眉間に皺を寄せながら、カバンを持ち立ち上がる。
「そう?また会おうね、休みとかに」
クラスメイトのその声を聞いて、芽音はあるきだした。
俺はその後も教室にいたが、どうしても気になり学校を回る。
理科室、体育倉庫、クラブ棟。
いろいろ回るがなかなか見つからない。
最後に、屋上へと登る。
そこには、金網越しに校庭を見つめる芽音がいた。
「ここにいたのかよ。探したぜ?」
「ここから眺める校庭が好きだったのよ。」
そんな事を話ながら、俺は彼女を眺めていた。
「うっ!」
しばらくそうしていると、芽音が金網にしがみつき崩れ落ちる。
「芽音!」
あわてて俺は芽音に駆け寄る。
「…あは、もう我慢出来ないよ…ここで、産んじゃうかも。」
笑みを浮かべるが、直ぐにその顔が苦痛で歪む。
「芽音…」
「私なら大丈夫だよ…それよりあかねとことね、大丈夫かな…」
「あかねとことね?お前、ひょっとして知ってるのか?」
「あの子達の事なら母上さまに聞いてるし…わたしなりに調べたから」
「調べた?何を?」
「あのね…」
そういうと芽音は語り始めた。

要約するとこうだ。
始祖が、純血ではない者から産まれた例が一つだけある。
言い伝えにもなっているそうだが、ハーフの吸血鬼の娘と、その眷属の男が恋に落ち出来たそうだ。
その話によると、胎児に母体が付いていけなくて、かなり難産になったらしい。
3日3晩苦しんだ挙げ句、血を吐きながら産んだそうだ。
話によれば死にはしなかったものの、名家に産まれたその娘は二度と表舞台に出れない身体になってしまったという。
「だから心配なのよ、あの子たち…うぅぅぅっ…」
苦しみながらもそう話を終えた芽音。

27名無しさん:2013/07/12(金) 03:32:54
「痛ぃ・・・痛いよたっくん、たっくん、たっくンンン――ッ!」
少々涙声を出しても大丈夫な屋上で、巧人と二人きり。
いいえ、赤ちゃんも入れて親子三人の初めての共同作業だ。
狂ったように最愛の人の名前を呼び続け、芽音は大きく体を仰け反った。
吸い込まれそうな空に向かって、もはや陣痛の塊と化しているお腹を突き出す。
必要の無くなった認識阻害の術を解いたせいか、それはいつもよりでかく重く見えた。
(おいおい何を考えてるんだ僕・・・今はそんな場合じゃないだろうに)
ついさっきの芽音の話に影響され、あかねとことねのことがいっぱいになった巧人の頭。
なぜかは知らないが、陣痛に苦しんでいる芽音を見て、急に不吉な予感がしたのだ。

28名無しさん:2013/07/12(金) 04:42:25
芽音が学校の屋上で苦しんでいる頃。
雁家の双子の部屋で、あかねとことねはベッドに倒れこんでいた。
その身体や額には、脂汗がにじんでいる。
「うぅぅぅっ…い、痛いよ…ことね…」
「こ、ことねもだよ、あかね…これ、ひょっとしたら…」
「うん、陣痛、かも…あぁぁぁぁぁっ!」
固くはりつめたお腹を撫で、二人はベッドに横たわる。
子宮は胎児を拒絶するかのように激しく収縮する。
二人の長く厳しい出産が始まっていたのだった…

そんな事を知らず、巧人は芽音の右手を握りしめ応援していた。
ちなみに芽音の左手はひたすらお腹を撫でている。

29名無しさん:2013/07/14(日) 02:05:36
「あっ、くる、ぐっ、うぅううぅぅ!!!」
「がぁぁあ!?」
握りつぶす勢いで、痛み逃しに芽音は巧人の手を全力で握った。
「ご、ごめ・・・」
「気にするな、これぐらい朝飯前さ・・・」
吸血鬼の血を引いて無ければ、リストカットぐらい残虐な光景になるところだった。
それでも、大量の血飛沫が巧人の潰れた掌から脈を打つように吹き出してゆく。
当然といえば当然だが、その一部は芽音のお腹に服越しにぶちまけている。
しかし紋章はもちろん、陣痛中の芽音は何の異変も起きては居なかった。

30名無しさん:2013/07/14(日) 18:56:10
(良かった、芽音の赤ちゃんは始祖じゃないみたいだ。力を持っているかはわからないけど…)
そう考え安心する巧人。
(となるとやっぱり心配なのはあかねとことねだよな…)
どうしても嫌な予感が拭いきれない。
「たっくん…心配なら、私の実家に行こう…」
「…いいのか?」
「うん、私もあかね達の事気になるし…うっ…」
「わかった、行こう。」
そういうと巧人は芽音を背負って歩き始めた。
「認識阻害、やるね…」
そういいながら力を使う芽音。
二人の様子は透明人間のように無視されていた。

一方その頃双子は…
「ぐぅ…ぐぁぁぁっ!、痛い、痛いよぉぉぉぉ!助けて、あかね、あかねぇ…!」
「…む、無理だよ…私だって苦し、いんだもん…あぁぁぁぁぁっ!」
余りの苦しさに叫び続ける二人。
だがその子宮口は固く閉ざされたままだった。

31名無しさん:2013/07/16(火) 03:06:56
「うぁあああああ!!」
双子らしくハモって苦痛の叫びを上げる、未だ幼いあかねとことね。
産みの苦しみを受ける二人の胎内に、新たな「始祖」がうごめいていた。
それは、胎動のレベルをはるかに超えた、もはや「脈動」であった。
ドクン、ドクンと、あかねとことねの子宮は内から押されて変形する。
「いやぁあああああ!!!」
そのたびに鮮烈な声で絶唱する二人は、もはや意識を保つことも難しくなってきた。

32名無しさん:2013/07/17(水) 00:34:53
「大丈夫か、あかね!ことね!」
苦しんでいた二人の部屋に、巧人が現れた。
「たっくん…どうして…」
あかねが虚ろな目で呟く。
「二人が心配だったからな。芽音も陣痛が来てるし連れて帰ってきたんだ。」
「姉さまも…?大丈夫…?」
ことねがこちらも虚ろな目で呟く。
「ああ、アイツなら普通の赤ちゃんみたいだし大丈夫だろ。それよりお前達だよ。…大丈夫か?」
「…正直、凄く苦しいよたっくん」
「でもたっくんが来てからこの子達もおとなしいし、大丈夫かも…」
二人はそう答えた。
「…そうか、俺は部屋の外に居るから、なんか有ったら呼ぶんだぜ?」
そういうと巧人は部屋の外に行こうとした。

33名無しさん:2013/07/18(木) 02:12:39
「そこまでよ、この部屋の外に行かせないわ」
部屋の外には、芽音たちの母親である吸血鬼の優雅さんが立っていた。
「薄々気付いていただろう? あかねたちから生まれようとしてるモノの正体」
「・・・・・・はい」
吸血鬼らしい凍える寒気を漂わせる、いつになく真剣な優雅さん。
威圧された巧人は、ただ頷くことしかできなかった。
「どうやら覚悟自体はできているようね、なら話は早いわ」
そう言いながら、優雅さんはビロードで包んだ一つの古びた小瓶を取り出した。
優雅さん曰くそれは出産を助けるための儀式に使われた薬品、だそうだ。
「・・・これを、ことねたちのお腹にぶちまければ良いんだな」
巧人は、見た目よりズッシリとした小瓶を手に取った。
「ぐっ」
瓶越して持っているだけで、自分の中の吸血鬼の血が騒ぐ。
あかねとことねはまだ子供だ。この謎の薬を直に受けてしまったら――

34名無しさん:2013/07/20(土) 07:16:27
「たっくん…遠慮しないでいいよ…」
「ことねたち、この子を産めるなら死んでもいいよ…」
死ぬのは困るけれど…それほど覚悟してるのか。
俺は思い切って二人のお腹に薬をかける。
『うぐぅぅぅぅ!』
かけられた二人が叫びながら苦しむ。
お腹に紋章が浮かびあがり、そのまま定着する。
「この魔方陣は胎児の魔力を吸い上げて、そのぶんを母体に供給するの。下手をすれば母体は耐えられないけれど…二人の能力にかけるしかないわね。」
優雅が巧人にそう話す。
二人の様子は、胎児の魔力が小さくなったからか、安定しているように見えた。
「魔方陣が赤く点滅したら…そんな事は少ないかもしれないけれど、注意するのね。魔力に魔方陣が耐えられなくて、魔力が逆流する可能性があるわ。そうなれば…間違いなく、母体は耐えられない。無事に産めても、後遺症が残る可能性があるわ。」
「後遺症って…」
「そうね、確実なのは記憶の喪失ってところかしら。あとはならないとわからないわね。」
「そう、ですか。」
俺は何事もない事を願っていた。
「貴方はここで二人に付き添いなさい。芽音は私が見ているから。」
「…わかりました。よろしくお願いします。」
そういって俺は優雅さんに芽音のことを任せたのだった。

35名無しさん:2013/07/21(日) 01:21:36
<三時間後>
「う、ぐぅ〜〜〜 あっ・・・あかちゃん、なの?な、なんか降りてきてる・・・」
子宮口がまだ開き切っていないけど、なんとなく陣痛に合わせて息んでみたら、
中の赤ちゃんを押し出そうと子宮がぐぐっと動いていたと、芽音は感じた。
「どうやら、もう息んで良いみたいね」
そんな芽音のお腹を軽くポンと叩いて、優雅は安心した表情を見せた。

「はぁ、はぁ・・・た、たっくん・・・」
「だめ・・・いたいの、もういや・・・」
一方、気を抜いたら意識が飛んじゃいそうなあかねとことねは、ついに限界を迎えた。
過ぎた陣痛を抑える薬は確かに効いてたが、長引いたせいで二人は弱りきっている。
このままだと魔方陣が逆流し、逆に母体の魔力を吸い上げて胎児に供給しかねない。
「くそっ、一体どうすればいいんだ?」
苦悩する巧人。かと言って非力な自分は何も出来やしない。
「くそっ、くそっ!」
イライラが爆発し、自分の腕に歯を立て噛みつく巧人。
その時だった、巧人の腕から滲みだした血に、あかねとことねが反応を示した。

36名無しさん:2013/07/21(日) 07:31:12
「血…だ…」
「吸わせて…吸わせてぇっ!」
叫びにも似た懇願に、たじろぎながらも腕を近付ける。
二人はむしゃぶるように腕にくらいついた。
しばらく吸わせていると、二人の顔色がみるみるうちに良くなっていた。
それに伴い魔方陣が大きくなる。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
二人のお腹が偶然向かい合わせになる。
大きくなった魔方陣が重なりひかりだす。
(うわっ!)
激しい光に包まれた後、魔方陣からホログラムのように透明な少女が現れた。
「私はシャルロット・ヴァランディ…私を呼ぶのは誰…」
シャルロット…ヴァランディ?芽音がいっていた。…たしか、始祖を産んだハーフの吸血鬼の少女。魔方陣に召還されたとでも言うんだろうか。

37名無しさん:2013/07/23(火) 02:29:24
「…血の繋がりは命の繋がり…」
透明な少女が踊りだすと、急に詩を謳いだした。
「いっ、ひぎゃぁああ!?」
「あ、あぁ、いたいぃいい!!」
魔方陣がそれと共鳴し始め、あかねとことねが再び苦しみだす。
しかし痛がるこそするが、前と比べると二人のお腹の様子は大きく違った。
恐らく、胎児たちは透明な少女の詩に牽引され、出ようとしているのだろう。
『んぁあああああ!!!!!』
――と巧人が推測してた、その瞬間だった。
あかねとことねが本能的に一斉に腰を浮かせ、全力で息み出した。
大量の羊水がプシャーと、景気の良い音と共に二人の産道から噴き出す。

38名無しさん:2013/07/24(水) 16:46:51
(破水したのか?…シャルロットさんが現れてから、凄く順調だ…)
巧人はその力に驚嘆した。
『ふぅぅぅん!はぁ、はぁ、ふぅぅぅん!』
二人が同時に息みを加える。
ぽやぽやした髪の毛が生えた頭が見え隠れしようとしていた。

同じ頃、芽音の方では。
「うぐぅぅぅぅ!ふぁ、ふあああっ!」
こちらも同じように必死に息んでいた。
赤ちゃんの姿も少しづつ現れようとしていた。

39名無しさん:2013/07/25(木) 03:56:01
透明のシャルロットさんの謎の歌のお陰で難産から一転順調となったあかねたちと違い、
少しづつ産道をこじ開けて現れようとした芽音の赤ちゃんは、なかなか進んでくれなかった。
直に娘の助産をしている優雅さん曰く、なぜか羊膜が強靭すぎて自然に割れないらしい。
明確的には違うが、例えるなら今の芽音はとても大きな卵を産んでいるようなものだ。

40名無しさん:2013/07/27(土) 07:58:22
「芽音、ちょっと我慢してね」
そういうと優雅は爪を伸ばす。
そのまま芽音の秘部に持っていき、爪で羊膜を裂いた。
「うぐぅぅぅぅ!」
その効果は大きく、破水して、陣痛も強くなっていた。

41名無しさん:2013/07/27(土) 23:20:36
『うぐぅうぅぅ!!』
かなり苦しそうだ。
『早くしないと・・』
何故かそんなことを思ってた。

42名無しさん:2013/07/31(水) 03:02:26
(主語もなく難解な41は小説としての文体になっていないと思いますが、
セリフの部分は『』なので、双子側だと勝手に判断しリレーを続きます)

「んんん〜〜〜〜〜」
破水のお陰で解放された芽音が息むと、驚くほどずるりと赤ちゃんが旋回した。
骨盤を抜け、子宮口を抜け、産道を通過し、そのまま一気に吐き出され――
「よっと」
この瞬間に晴れて祖母となった優雅の手のひらに、ポンと産み落とされた。
吸血鬼の血を引いてるとは思わないほどの、極めて人間に近い赤ちゃんだった。

43名無しさん:2013/10/18(金) 00:00:47
おぎゃあ、おぎゃあと産声をあげる。元気な女の子だ。
「はじめまして、私の赤ちゃん…」
芽音は涙を流しながら呟く。

あかねとことね達の居る部屋にも産声が届く。拓人の耳にも届いた。
(産まれたのか…良かった…)
それと同時に、シャルロットさんの歌が止まる。
その瞬間。
『うぐぅぅぅぅっ!』
二人が同時に息み、胎児が娩出される。
見た目は普通の、二人の始祖の女児。
「やったね、あかね…」
「もうにどと産みたくないよことね…」
そう言いながらも二人とも笑顔だった。

三人の拓人の娘―綾香(あやか)と紗香(さやか)と円香(まどか)達の物語はここから始まる―

44名無しさん:2014/08/26(火) 16:18:00 ID:???
終わり

■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■