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双子x双子(リレー)
1名無しさん:2013/05/18(土) 02:07:21
「良い知らせと悪い知らせがあります」
病院のベッドの上で目覚めた深谷千明は、受けた診察の結果を宣告された。
「まずは良い知らせからしましょう。胎芽も心拍も二つ確認できました。一卵性です」
「・・・はい」
「悪い知らせですが、残念ながら、恐らくあなたの体は双子の妊娠に耐えれません」
「やっぱり・・・」
長年付き合った自分の体は、自分が一番知っている。
こうなる予想はしていたものの、千明は大きく落胆した。
お腹の中で着床した、まだ胎児ですらなってない命たち。
そのどれかを選んで殺すなんて、千明はできなかった。

「私が半分引き受けてあげる!」
そんな千明を助けたくて手術を求めたのは、彼女の双子の妹である千穂だった。
一卵性で遺伝子が瓜二つの姉妹だからの奇跡か、拒絶反応は一切起こらなかった。

こうして移植手術は無事に成功し、千明と千穂の双子姉妹の妊娠生活が始まった・・・・・・

2名無しさん:2013/05/19(日) 07:48:56
数週間が経ち3ヶ月に入ろうかというころ、二人は洗面所とにらめっこをしていた。
つわりも二人同時に起きたからだ。
「あ、あは。流石双子の赤ちゃんだね…シンクロしちゃって、うっ、うぷっ…」
青ざめた顔で微笑みながら千穂が話す。
千明はそれを見ながら苦笑いしながら吐き気に耐えていた。

3名無しさん:2013/05/20(月) 02:21:26
ややポジティブな妹・千穂と違って、わりとネガティブな姉・千明は
子供時代の事故で片足が傷ついていしまい、長時間は立っていられない。
と言っても、車椅子に頼らないと生活できないほど不便なわけでもない。

高校に良い人と出会って、卒業してすぐに結婚し、子宝が授けられた千明。
大学に挑んだものの見事に落ちてしまい、姉から胎児を分けて宿した千穂。
双子姉妹のお腹にそれぞれ、同じ遺伝子を持つ『元』双子だった胎児がいる。

月日を刻んで時は過ぎ、つわりが始まってからまたたく間に4ヶ月が経過した。
千明と千穂は、もうマタニティが普段着になるほど、お腹が目立ってきていた。

4名無しさん:2013/05/23(木) 07:37:18
「んしょ、んしょ……ふぅ…」
足を引きずりながらリビングダイニングに入り、千明はソファーに腰を下ろした。
「おっはよー、今日も赤ちゃんたち元気いっぱいだね!」
「そうね…」
カウンターで仕切られたキッチンにいる千穂に適当な相槌を返し、テレビの電源を入れる。
栄養を求めているかのような胎動に眠りから起こされて、今日も千明の一日が始まった。
「はいはい、もうすぐ朝ごはんできるからちょっと待っててね!」
飯を要求する赤ちゃんに話しかけつつ、大きなお腹を揺らしながら千穂はフライパンを動かす。
「…この子たち、ずいぶんせっかちね……パパ似かしら」
「あはっ、それ言えてるかも!」
お腹をさすって千明がポツリと呟いたら、同様の胎動を感じた千穂もお腹をさすって明るく笑った。
双子姉妹の子宮に分けられた双子の胎児たちは今日も、寸分の狂いもなくシンクロしていた。

しばらくして、朝ごはんができた。千穂のお得意料理の『ハムエッグ和風ツナ添え』だ。
「いただきます…」
「いただきます!」
ちょうど二人が箸を手にしたその時、テレビに千明の夫――赤ちゃんたちのパパが映された。
そう、仕事のためほとんど家にいない千明の夫は、世界中を飛び回る敏腕記者なのだ!

5名無しさん:2013/05/26(日) 09:55:17
「あっ…」
「おおっ?」
テレビからパパの声が聞こえたからか、もうじき8ヶ月になる胎児たちは一斉に反応した。
ちょっとくすぐったい、赤ちゃんが子宮という名の布団の中でモゾモゾしてるかのような胎動。
食事をねだる力強い動きとは微妙に違く、好奇心に満ち溢れてワクワクしている動きだ。
「パパ絶対ビックリするよね、こんなに私たちのお腹が大きくなってんだから!」
「そうね…この子たちが生まれる前に帰ってきてくれればって話だけど……」
仕事の都合上、二人のつわりが終わった頃からずっと家にいなかった赤ちゃんたちのパパ。
テレビでたまに顔が見れるから安心だけど、やはり早く帰ってきて欲しいと二人は思った。

「さてと……千穂、そろそろ時間ね」
朝ごはんを食べ終わってから少しすると、胎動も疲れたのかだいぶ収まった。
今日の予定は、双子だった胎児を分けてくれた病院で8ヶ月の検診を受けること。
「りょーかい! さぁ、座って座って!」
千明が椅子から立ち上がるのを見て、慣れた手つきで千穂は車椅子を用意した。
お腹が大きくなってから、ただでさえ足の悪い千明は歩行での外出を控えている。
歩けないわけではないが、万が一転倒でもしたらを考えての最良の移動手段だ。

6名無しさん:2013/05/26(日) 17:27:18
――秋。

「ふわぁ……いけない、また寝ちゃった…」
まさに澄み渡った青い空の下、ベランダの安楽椅子に千明はゆったりと昼寝から覚めた。
天高く馬肥ゆる秋と言ったものの、体の弱い千明にとっては眠気が止まらない秋だった。
来るべき出産へ向けて体力を溜めておこうと、彼女の脳が体がそうさせていたからだ。

「ふんふふん〜♪」
一方、姉の千明と違って元気を持て余している妹の千穂は、散歩の秋を満喫していた。
38週になるお腹を大事に抱え、木漏れ日の中で鼻歌交えてゆっくりと公園を歩く千穂。
来るべき出産に備えて、安産のために少しでも足腰を鍛えようと、彼女はそう決めた。

7名無しさん:2013/05/28(火) 03:11:10
「いいこ〜、いいこ〜、すくすくそだて♪」
軽やかなリズムに乗ってお腹をなでりつつ、公園からすぐそこのカフェの前を通った時、
「っととと?」
漂うコーヒーの香りに惹かれたか、千穂のお腹の赤ちゃんがうぞうぞと動きだした。
「ちょちょちょっと、いきなり!?」
余裕がほとんどない臨月子宮の中で動きだした胎児は、さながらエイリアンのよう。
額から汗がぼたぼた落ちる程、引っ張られた子宮筋肉は鈍痛と共にギュッと縮む。
「うぐっ!」
「…うぐっ……いたたた…」
千穂がお腹を押さえてうつむいたのと同時に、千明も痛いぐらい強い胎動に襲われた。
引きつるようにカチカチに張っているお腹をなでりつつ、千明は赤ちゃんに話しかける。
「…まっ、まだ出ちゃダメだからね…?」
すると、ママの言葉に応えるかのように、臨月子宮に包まれて赤ちゃんが鎮まった。

「陣痛……ではない、みたいね…よかった」
しばらくしたら痛みが徐々に引いていったのを確認し、思わず小さく息をついた千明。
「…千穂、大丈夫かな……」
赤ちゃんたちがシンクロするのを知っている千明は、千穂を心配しながら時計を見る。
短い方の針は3に指している。眠気でうつらうつらしてたら、もう15時になっていた。

8名無しさん:2013/05/30(木) 02:52:29
「うー、まだお腹がジンジンするー」
だいぶ張りのおさまったお腹を刺激しないように軽く時計回りにさすって、
「よしよし、いいこだから、もう暴れちゃダメだよ?」
千穂は、もたれかかっていた壁から背を離し自宅の方へ足を踏み出した。
赤ちゃんたちシンクロしてるから、さっき千明もきっと辛かったに違いない。
そう思いつつ、千穂はつまづかないよう気配りをしながら足を速めた。

「まだちょっとジンジンするけど……やっぱ、違うみたい」
そのごろ、ベランダから室内へと移動した千明は時計とにらめっこしていた。
予定日まであと2週弱だけど、いつ生まれてもおかしくないと医者が言ってたから。
「ふわぁ…もう少し、寝よ……」
大きいお腹に手のひらを当てて、安心して大きなあくびをした千明は再び目を閉じた。
さっきの強い胎動こそ赤ちゃんからのゴーサインだったことを、察するはずも無く。


――双子の千明と千穂姉妹の子宮に分かれた『元・双子』。
今までに前例の無いシンクロ出産が、今夜中に、始まる――

9名無しさん:2013/06/04(火) 05:55:33
「ただいまー、お姉ちゃん!今夕御飯作るねー!」
玄関で靴を脱ぎながら千穂がそう話しかける。
「ゆっくりでいいからね、お腹、痛くなったでしょ?」
「大丈夫大丈夫。まったくもぅ、お姉ちゃんは心配性だねぇ」
心配そうに語りかける千明に笑顔で答える千穂。
エプロンをしながら、台所へと向かっていった。
「さて、と。パパも帰ってくるし、大人しくご飯を待っててね。」
そういいながらお腹を撫でる千穂。
そう、今日は世界をまたにかける千明の旦那さんが帰って来る日だったのだ。
腕によりをかけておもてなしをしなきゃね、などと考えながら千穂は夕御飯の支度をしはじめた。

一時間くらいたったくらいであろうか。
「さてと、あとは肉じゃがの用意を…」
そう呟きながらじゃがいもを切ろうとしたときだった。
千穂のお腹に、激痛がはしる。
「うっ!いたたたたぁっ!」
思わずお腹をかかえ、前屈みの姿勢で床にへたりこんでしまう。
しばらくその体勢でいたが、なかなか痛みはひかなかった。
「いたたた…お、お姉ちゃん…大丈夫…?」
痛みに耐えながら、千明の心配をする千穂。
「うぅぅっ!わ、私なら大丈夫だから…貴女は自分のことだけ気にしなさいな…」
そう返事をする千明。
しかし、その顔には脂汗がながれ、かなり苦しそうであった。
「ふぅ、ふぅ…お、収まってきたかな…ひょっとしたら、陣痛なのかも…肉じゃがは置いといて、早めに晩御飯にしようかな…」
そう呟くと千穂は食器の用意をしはじめた。

10名無しさん:2013/06/05(水) 03:27:50
「――っ…また、来た…」
「痛たた…お姉ちゃん、どう?」
ちょうど晩ごはん食べ終わろうとした頃、二人のお腹がまたカチカチに張って来た。
今回は心の準備があったおかげか、思ったより割りと耐えられる痛みに感じる。
「うん…間違いない、と思う……」
「私、ちょっと病院に電話してくる!」
千明がうなづいたのを見て、疼くお腹を両手で支えて千穂は腰を上げた。
これぐらいの痛みならまだまだへっちゃらよ、と謎の余裕を見せながら。

だが――

11名無しさん:2013/06/06(木) 04:57:46
「そんな、どういう事ですか!」
「すみません、産婦人科のベッドなどが空いていないんです…そちらでなんとかしてください…」
叫ぶ千穂に無情にもそう答える看護婦さん。
「そんな…そんなのって…うぅぅっ!」
唖然としながら立ち尽くす千穂に、無慈悲に陣痛が襲いかかる。
「仕方ないわ、千穂…ここで、産みましょう…」
千明は痛むお腹を抱えながらそう千穂に話しかける。
「姉さん…そうね、仕方ないわね…」
そういうと千穂も覚悟を決めた。
そんな二人に、一つの希望が現れる。
「ただいま…って、千明に千穂ちゃん!どうしたんだよ!」
そう、千明の旦那さんが家に帰ってきたのだった。

12名無しさん:2013/06/10(月) 03:22:42
「あなた、帰ってきたのね…よかっ、たぁ・・・」
「あ、赤ちゃんたちがぁ、あ、痛ぁああーーー!!」
つらそうな笑顔で夫を迎える千明に対し、千穂は大げさにお腹を抱えて痛がっている。
この光景を目にして、何が起こったのか全く察せない男は世の中には居ないだろう。
「――千明!、千穂ちゃん!」
頭脳は理解するよりも早く体を動かし、二人の腹に千明の旦那は手を当てる。
赤ちゃんたちもパパを認識したのか、陣痛の合間を縫って同時に胎動を始めた。

13名無しさん:2015/08/15(土) 23:49:08
「二人とも病院には電話したの?」
「・・・・今混んででベッドが空いていないって、いっ、つつつっ。」
旦那の質問に千明が答える。
「くっ、いくらなんでも無責任するぞ。」
とは言えもう他の病院を当たっている暇は無さそうである。
そうしている内に二人からパチンッと言う音がしたと同時に床に水溜りが出来る。
どうやら二人同時に破水してしまったようだ。

14名無しさん:2015/09/02(水) 23:15:38
「えっ!?、同時に破水した?」
旦那は驚いた。
「もしかして陣痛の間隔も?」
それは双子だからかなのか、まるで二人同時に産まれようとしているように見えた。

15名無しさん:2015/09/05(土) 10:10:53
「やはりここで産むしかないか。」
「うっうんそうだね。」
「わ、たしもそう思う。」
千明の旦那は家で産むしかないと思ったようだ。
その言葉に千明と千穂も賛同する。
そうしている内に二人同時に排臨が始まった。

16名無しさん:2015/09/09(水) 17:34:23
「「ひっひっふーーっ!ひっひっふーーー!!」」
胎内の胎児が同時に産まれたいと言う意思からなのか。
それとも元から二人が双子だからかなのか。
二人は息ピッタリに同調して息んでいた。

17名無しさん:2015/09/10(木) 17:59:44
そしてほぼ同時に頭が見え始めた。
「この調子だと本当に同時に産まれそうだ・・・・」
千明の夫はそう思い二人を見守っていた。

18名無しさん:2015/09/11(金) 23:11:24
「「ひっひっふーーっ!ひっひっふーーー!!」」
ついに頭が完全に出てきた。
いよいよ産まれてくるのか近いと千明の夫は感じる。
「二人とも、もう息むのをやめて!!」

19名無しさん:2015/09/15(火) 17:56:45
「「ズルリッ!!!」」
なんと双子は同時に産まれ出たのであった。
「う、産まれたんだね、赤ちゃんたち。」
千明は無事産まれたことに安堵する。
「う・・・うん・・・・そうだねお姉ちゃん。」
千穂は出産したからか疲れているようだ。
夫はその同時に産まれると言う奇跡としか言えない光景に涙していた。

20名無しさん:2015/09/17(木) 00:03:27
産まれた子供達は娘であった。
こうして無事に出産は終わったのである。
そして千穂は千明夫妻とシェアハウスで同居することにし、3人で双子の面倒を見ることにしたのである。
双子は3人の親に見守られながらすくすくと育っている。

双子x双子 終

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