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吸血鬼の娘 リレー小説
1名無しさん:2013/01/13(日) 00:32:26
「ほれっ」
「・・・探偵さん、この女の子がそうなのか?」
俺は、自分が探しているモノの写真に一瞬、目を疑ったら。
「名前は夜宵 真弓、間違いなく吸血鬼だ・・・と言いたいが、残念ながらその娘だ」
「娘・・・?」
俺は、今度は自分の耳を疑った。
何でも探せる、と大口叩いている探偵がいると聞いて試そうと依頼していたが・・・
「ああ。ご存知、吸血鬼は普段、吸血と言う儀式で眷属を増やす」
「うん」
「で、稀に直系の子孫を残すときもある。この娘のようにな」
探偵さんの説明を受け、俺は渡された写真をもう一度よく見た。
それに写されたのは−−
長い黒髪を後ろに束ね、140センチあるかどうかの極端に小柄で、色白の女の子。
そして・・・その控えめな体型に比べると、あまりにも不自然に出張っている腹部。
もしこれが人間だったら、どう見ても赤子を身ごもっている妊婦さんではないか。

2名無しさん:2013/01/20(日) 18:58:18
「その・・・探偵さん、この子って・・・」
「キミの見たままが正解だ。ちなみに中身の情報もこの通りさ」
今度は俺は、一冊の小冊子を渡された。
表紙に『母子手帳』と、クレヨンみたいな字体で印刷されている。
可愛らしいイラストの下で書かれた名前はもちろん、『夜宵真弓』。
女の子らしく、黒いボールペンで書いたやけにキレイな字だ。
「その娘の通っている産院から拝借したものだ、疑う余地は無かろう」
「・・・わかりました。じゃ、最後に一つ聞かせてくれ」
「どうぞ何なりと」
「この子・・・夜宵真弓は、今どこにいるんだ?」
「そうだな・・・今現在だとしたら」
探偵さんは腕時計を見て少し考えた後、こう答えてくれた。
「xxx駅から出てすぐのショッピングモールの4階にある飲食店にいるはずだ」

3無能:2013/01/22(火) 12:34:52

「わかった。早速いってみる。」
俺は探偵さんに依頼料と報酬を払い、早速夜宵 真弓のいるショッピングモールへいくことにした。
×××駅のショッピングモールへは、ここから遠いため、電車を使うことにした。
電車に乗っている間に探偵さんに渡された報告書を一通り読むことにした。

4名無しさん:2013/01/23(水) 07:50:39
(まさか、こんな電車の中で女の人の母子手帳を見る羽目になるとは・・・)
かなりドキドキしながらも出来るだけ自然を装って、もらった母子手帳をめくる。
どうやら、最後にデータが記録されたのは30週に検診にいった時のようだ。
えーと、その時の子宮底長は36センチで、胎児の体重は1569グラム・・・
・・・他にもいくつかエコー検診の数値とか書かれているが、理解できなった。

結局、母子手帳から得た情報は『普通の単胎妊娠で30週までは異常なし』ぐらい。
胎児の性別はまだ判明していない、あるいは本人の意向か、手帳に記録されていない。
(・・・そもそも、この母体データは本当なのか?これで18歳?)
一番驚いたのは、夜宵真弓はさっき写真で見たときよりも小柄だった事実だ。
身長13xで胎児を含めた体重が3xとか、完全に小学生レベルだろこれ・・・

いろいろ疑問を心に抱き、遂に電車はxxx駅に着いた。いよいよだ。
果たして吸血鬼の娘『夜宵真弓』はどんな子なのか、この目で確かめよう。

5名無しさん:2013/01/27(日) 23:12:45
早速、言われた通りに四階の飲食店へと向かう。
適当な席に座り、様子を伺ってみる。
「居た…」
彼女は直ぐに見つかった。
小さな身体に不釣り合いな大きなお腹を抱えながら、ウェイトレスをしているようだ。

見つけたは良いが、どうしようかと考える。
…とりあえずは、小腹が空いたし飯でも食べようか。

6無能:2013/01/27(日) 23:29:17

「すみません!」
「はい、すぐにお伺いいたします。」

「日替わりランチとオレンジジュースをおねがいします。」
「かしこまりました。」
日替わりランチとオレンジジュースをやってきたウエイトレスに注文する。
ちょうどうんよく注文をうかがいに来たウエイトレスは彼女だった。
近くでよく彼女を観察できた。

7名無しさん:2013/01/28(月) 01:07:14
透き通るように美しい白い肌は日光に当たらないという吸血鬼の娘故か。
実物を見ると、小さな身体は小学生と変わらない様に見える。
小学生と違うのは、やはりその大きくせりだしたお腹に有るだろう。

一通り眺めた後、去り行く彼女の背中をみながら、物思いにふけっていた。

8無明:2013/01/28(月) 02:03:07
そもそも、なぜこんな年頃の娘が、妊娠しているのか。
それは、俺のせいといえよう。
俺は、吸血鬼の研究をしている学者だった。
研究のため、ある吸血鬼の居所を 探してもらう報酬として「自分の到着までに綺麗にしておくなら、何をしてもいい」と言って、屈強な荒くれ者達に捜索を頼んだのだ。
実際、俺が到着した時には綺麗さっぱり片づいていた。
飛び散った精液の痕跡と、完全に水分を失った荒くれ者達の亡骸を残して。
そう、吸血鬼はどこかに消えてしまった。
そして、ようやく見つけたのが彼女。
俺は知的好奇心だけじゃない、目的がある。
彼女への、贖罪だ。

9名無しさん:2013/01/28(月) 02:50:40
俺に出された日替わりランチは、質素ながらも美味かった。
特に付け添えのたらこスパ、この世のものとは思わない食感だ。
・・・そんなことはさておき、一つ、気にかかることがあった。

この飲食店の従業員たちが、食事を楽しむ客たちが、俺以外の全員が、
彼女――夜宵真弓を、妊婦扱いせずに普通に接しているのだ。
その様子はまるで、彼女が妊婦であることを認識できないようだった。
(吸血鬼は変身能力を持って、暗示術の類にも長けている・・・)
とっさに脳によぎる、自分の研究レポート。こんな所で役に立ったとはな。
とにかく、観察するのはここまでだ。ちょっとつついてみよう。

10無明:2013/01/31(木) 17:43:40
思い切って、ここは他の店員に聞いてみよう。
「あの、すいません………」
手を上げると、気のよさそうな男性店員がはい、と応答した。

その男性店員、伴さんは意外な答えを返してきた。
「無理はしないように、って言ってるんだけどね………」
別に、認識阻害をしているわけでも何でもない。
彼女自身が、妊娠のことは気にしないでくれと周りに頼み込んでいるのだそうだ。
しかし、客相手にいちいち頼み込んでいるわけがないだろう。
そう思って、彼女が料理を運んでいくところを観察してみたら、客に対してのみ認識阻害を使っていることが分かった。
どうやら、彼女はこの店の店員たちになんらかの恩があるようだ。
ある程度情報も収集できたなら、次は彼女に直接、接触してみよう。

11名無しさん:2013/02/01(金) 23:01:32
食事を終え、会計に向かう。
タイミングが良かったのか、レジ打ちは彼女がしていた。
この機会を逃さない手は無い。

「あの、すみません。お話したいことがあるのですが。」
「なんですか?こんな小さな子を捕まえて…
まさか、ロリコンなんじゃ…」
「え、えぇと…」

しまった、そういう風に捉えられてしまったか…と思いきや。
「ふふふ、冗談です。そうですね…シフトが空いて帰るまで一時間くらいあるので…
それからでも良いのでしたら…」

そうですか。では出入口で待ち合わせで。
そう答えて、俺は店を出た。

12無明:2013/02/02(土) 00:03:14
待つこと57分と24秒。
従業員用の通用門の方から、彼女は現れた。
黒い長袖にダウンジャケット、黒いスカートにハイソックス、黒いミュール。
肌だけが嫌に白く目立つ、そんな格好だった。

「あなた、学者さん、ですよね?」
早速この一言。
どうやら、お見通しらしい。
「吸血鬼を研究する学者さんって、みんな同じ薬の匂いがするんですよ?」
「匂い?」
「ええ。人間に、分からない匂いが」
「じゃあ、君はまさか、最初から………?」
「秘密、です」
そう言っていたずらっぽく笑う彼女。
やはり、とても18歳に見えない。
よくて中学1〜2年といったところか。
身体能力は当然、それくらいの人間の女の子と比べれば遥かに高いんだろう。
しかしそれでも、体に掛かる負担は隠せないようだった。
彼女が現在暮らしている洋館………ではなく、その隣にある6畳一間のボロアパートに着く頃には、結構疲れているようだった。

13名無しさん:2013/02/02(土) 01:02:19
「ふぅ。ただいまーっと…どうぞ、何もないところですが。」
「失礼します…」

そういいながら、ボロアパートの一室に入る。
そこにはこじんまりとした少女らしい部屋があった。

「何か飲みます?と言ってもお酒なんかは無くてお茶かジュースになりますけど。」
「じ、じゃあお茶で。」
こういうシチュエーションは慣れてないせいか、少し緊張する。
しばらくして、コップをもってコタツの俺の正面に座る彼女。

「さて、その学者さんが私になんの用ですか?」
お茶を口に含むか含まないかに、そう尋ねる彼女。
さて、どう切り出したものか……

14無明:2013/02/02(土) 01:09:40
「そうだな………単刀直入に言わせてもらおう。君と、君の赤ん坊を観察させてほしい」
学者だと一発でばれてしまった以上、余計な隠し事は無駄だと判断するべきだ。
なら、こんな風に直球勝負しかない。
「やっぱり学者さんって、変態ですね。女の子を、観察、したいなんて」
「そういう意味じゃないんだ。君達は他者の血を吸うことで仲間を増やす。でも、君は今」
「妊娠してますね」
俺の言葉を遮って話す彼女。
「教えてあげます。何でこの子を産もうと思ったのか。その代わり…………」
「その代わり?」
「私のおやつと、この子のパパになってもらいます」

15名無しさん:2013/02/02(土) 01:58:31
俺は直ぐに彼女の言葉を反芻した。
おやつになれ、というのはおそらく血を吸わせろ、という事だろう。
父親になれ、というのは親がわからない子供故だろうか。

二つの条件を飲めばなぜ赤ちゃんを産もうかと思ったかというのを教えてくれるという。
血を吸わせる恐怖より、学者の好奇心の方が勝った。
故に、俺は二つ返事で答えた。

16名無しさん:2013/02/02(土) 07:39:19
(血を吸わせたことにより記憶が弄られた演出です。夢気分)

朝。暖かい布団の中で俺は重たい目を覚ました。
卵をバターで焼いている、食欲をそそるいい香りが、脳を活性化させる。
「おはようです……パパ」
ここでやっと起きた耳。心をくすぐらせるささやきが聞こえた。
このキッチン付きだけが良心的な6畳間アパートの、台所の方からだ。
「ああ、おはよう・・・真弓」
寝起きのたどたどしい発音で、朝ごはんを作っている彼女の名を呼ぶ。

吸血鬼を研究する学者である俺は、教え子で助手でもある真弓と結婚したのは、つい半年前の話だった。
彼女を妊娠させた責任を取ってという形だったが、世の中から憚れ、アパートに身を寄せてくらしていた。
・・・・・・しかしなんだろう、この不確かな感。・・・もうじき俺と真弓の、待望の第一子が生まれるのに。

17無明:2013/02/02(土) 17:44:05
例えるなら、頭にもやでもかかっているかのような感じだ。
彼女には、そもそも学術的興味から近づいたことと、いろいろあって助手を務めてもらっていたことだけは覚えている。
ところが、その状況と今とがはっきりと結びつかない。
寝ぼけているんだろうか?
「今日はお休みですから、一日中家にいますね」
不釣合いなお腹を抱えて、彼女が歩いてくる。
朝はオムレツとトースト、それにトマトジュースとサラダ。
簡素な朝食でこそあるが、彼女の負担を考えれば仕方ない。
おとなしく、朝食をいただくことにしよう。

18名無しさん:2013/02/03(日) 00:26:55
レストランで働いているのも手伝ってか、真弓の手料理は申し分なかった。
食べている内に、感じていた違和感も何処かに消えてしまっていた。

研究の論文をかかなければいけないため、大学へと向かう準備をする。
準備をして、出かけようとすると、真弓が
「行ってらっしゃいのチューです」
と言いながら、頬にキスをしてくれた。

19名無しさん:2013/02/03(日) 16:21:19
(真弓は、予定日は再来月あたりだと言ってた・・・再来月辺り、か・・・)
アパートからずいぶん離れたところの駐車場へ歩く途中、俺はずっと彼女のことを考えた。
・・・・・・否、大人しく家で俺の帰りを待っている彼女のことがずっと頭から離れなかった。
頬に手をやると、真弓のあのやや血色の悪いくちびるの柔らかさがまだ残っている。
目覚めた時から感じてる胸騒ぎが収まらないまま、俺は駐車場にたどり着いた。

20名無しさん:2013/02/07(木) 04:01:28
「遅かった、ですね。戸締り、安心できました?」
「なっ・・・」
水増しをしても中古としか見えない俺の車から、家にいるはずの真弓が
下ろした後部座席の窓からひょっこり顔を出し、俺を呼んでいた。
「ふふふ、変な顔ですね、『パパ』。」
狐につままれたような顔してるだろうな、俺を見て思わず少しだけ頬を緩めた彼女。
「お、おう」
頷くしかなかった俺。そういえば、戸締りが心配で一旦確認して来た所だった。
なぜど忘れしていたんだろう。朝起きた時もこうだったし、一度診てもらおうかな・・・・・・

「えっと、真弓? 今日は確か・・・」
ハンドルを回し、駐車場から車を出しながら、俺は真弓に今日の予定を尋ねた。
大学行く、と記憶していたが、もはやそれを信じられない。うやむやで、怖い。
「・・・・・・△△産婦人科、です。この子の、30週検診、いきます」
一拍おいてから、彼女は座席に置いてたらしい母子手帳を俺に見せるようにバックミラーに映せ、
まるで『忘れちゃったの?』とでも言い出しそうな表情で、俺たちの今日の予定を教えてくれた。

検診の結果は、子宮底長36センチや胎児体重1569グラムなど、至って普通の数値だった。
残念ながら胎児の性別は判明できなかったが、エコー検診で一つ注意が必要な点が見つかった。
まだ30週で自然に治る可能性はあるが、俺と真弓の赤ちゃんは今は逆子になっているようだ。
「・・・・・・」
帰りの車中で、真弓はずっと黙ってお腹をさすっていた。
無理もない。最悪の場合は帝王切開とか、ずいぶんショックだろうな・・・
ここは赤ちゃんのパパである俺が、彼女の機嫌をどうにかしないと。

21妊蔵:2013/02/09(土) 02:05:03

「真弓、なんか甘いものでも食べて帰らないか?」
女の子は甘いものが好きって言うし、機嫌直らないかなぁ?
「甘いものよりも私のおやつは帰ってから食べるわ。」
おやつって俺の血だよな。
血を吸われると頭がふわふわするんだよなぁ。
でも真弓は少し機嫌直ったみたいだし、あとは出産本でも本屋で買ってくか。

22名無しさん:2013/02/11(月) 03:28:05
「んっ。この本に記載されているのより、楽じゃない体勢ね。」
血を吸わせる用意のつもりで首筋を洗っておいたが、風呂上がりにバスタオルを巻いて寝室に入る
俺の目に映るのは、ネグリジェ姿でベッドに伏せていて、お尻だけを上に突き出した真弓だった。
「な、ななな・・・」
「おかえり、パパ。もうちょっと待って、今大事なところなのです」
普段とあまり変わってない口調で、真弓は俺の取り乱しようを見て涼しい顔であいさつし、
「んっ。んっ。」
そしてそのまま腰に力を入れ、重力でいつもより出張って見えるお腹を左右にゆっくりとフリフリした。

「ま、真弓・・・お、俺は・・・」
ごくりと唾を飲んだ俺。
これは決して欲しがって誘っている訳ではない。逆子体操だ。
と、理性では分かっていながら、生理現象は防ぎようがなかった。

23名無しさん:2013/02/14(木) 03:41:03
「すやすや……」
理性が再び意識のコントロールを取り戻したごろ、最初に耳に入ったのは真弓の寝息だ。
夜の一族である吸血鬼には到底見えない顔で、彼女は俺に身を寄せて添い寝していた。
古人いわく「精の一滴は血の十滴」。どうやら、おやつところが大満腹にさせたようだ。
「真弓、おやすみ」
そっと布団を掛け直してあげた後、俺も眠りに落ちた。・・・今夜は良い夢見れそうだ。

24無能:2013/02/15(金) 18:19:33

「パパ、朝御飯だよー!」
何時にも増して元気な真弓の声で起こされた。
精で満足した日の真弓のテンションとパワフルさは凄い。
で朝からご飯も豪勢だし、至れり尽くせりだよなー。
俺も朝御飯を食べて仕事にでかける。

25名無しさん:2013/02/16(土) 03:30:02
「店まで送ろうか?」
「大丈夫です。エスカレータ乗って行きますから。」
飲食店でバイトしてる真弓は、シフト制で毎週の火・金・日に働いて他は休みだ。
シフトのある日は彼女を4階の仕事場まで送ってあげるのが、夫である俺の務め・・・
・・・と思ったが、気遣ってくれるのか、今日の彼女は自力で店まで行くつもりらしい。
「よいっしょ、と。」
2キロ弱の胎児は、140センチ未満のちっちゃい体にはさすがに車を降りるのも一苦労だ。
びっくりするほどでかいお腹を支え、真弓は可愛らしい掛け声をしながら地に足をつけた。
「おいおい、本当に大丈夫か?」
「パパは心配性ですね。はいこの通りですから。」
白い頬をほのかに染め、真弓は手助けしようと伸ばした俺の腕を掴み、そっと30週の腹に当てる。
すると、確かな体温とやや抵抗のある触感と共に、腹の中の赤ちゃんは俺の腕に反応を示した。

26名無しの権兵衛 if更新希望:2013/02/17(日) 00:00:43

「それに昨日補充してもらったので元気があり余ってますので。」
真弓はホントに生き生きしているなぁ。
仕事が終わったら早めに迎えにいこう。
俺は早速俺の働いている大学の研究所にむかった
ちなみに俺が吸血鬼と共に暮らしているのは、学者仲間には秘密だ。
まぁ探偵に依頼した時のこともあるし、研究材料(まぁ俺も人のことは言えないが)にされかねないしな。
俺はまぁ真弓と結婚の報告だけはしたから、真弓の体格をみてロリコンだと噂ができてしまったけど。

27名無しさん:2013/02/18(月) 03:49:33
あれから一ヶ月ほど、俺と真弓は夢のようでありふれた日常のような毎日を送った。
いよいよ明日に真弓の……いや、俺たち夫婦にとっての「宣告の日」がやって来る。
「……パパも、起きてます?」
「ああ、そわそわして眠れないんだ」
・・・逆子だと診断されてから、真弓は毎晩、あの辛そうな体操を頑張っていた。
もし明日の36週検診でまだ治っていないのなら、最悪帝王切開が待っている。
まぁ真弓のことだ、切開せずに自然分娩で赤ちゃんを産もうとするのだろう・・・

28無能:2013/02/19(火) 17:47:14

「大丈夫ですよ、きっと。私とパパの子ですから。」
真弓は俺の手を自身のお腹に当てて微笑んでいる。
そのままそっと真弓を抱き締めたまま2人で自然と眠っていった。

「夜宵さん。診察室にお入りください!」
「パパいってきますね。よいっしょっ。」
真弓は、お腹を支えるように立ち上がり診察室へいってしまった。

29名無しさん:2013/02/22(金) 04:44:17
一緒に入室できない以上外で焦ってもしょうがないので、自分を落ち着かせるために
俺は産婦人科から出て、すぐ隣の駐車場にある自販機でコーヒーを買うことにした。
「あら・・・?もしかして、先生なの?」
自販機の前には、すでに先客がいた。見た感じそれなりの腹囲だ。妊婦か?
大きな日よけ帽子をかぶって素朴なワンピースを着ている女性が、俺を先生と呼んでいる。
確かに俺は研究者の身だが、真弓以外の女性の教え子(助手)がいた記憶がない。

「キミは・・・?」
俺は一歩下がって、その女性に素性をたずねる。
「先生だよね?あたしを忘れたの?そりゃできちゃってから大学辞めちゃったけど・・・」
女性は、きょとんと表現するよりやや複雑な表情で俺を見つめた。

謎の女性は「原見紗月」と名乗り、現在双子の男児を絶賛妊娠中の妊婦だそうだ。
俺の教え子で助手だったと断固自称してきたが、俺の記憶だとその子は真弓のはず。
ましてその女性も真弓と同じ妊婦(真弓は単胎だけど)となったら、なおさら怪しい。
しかし何故だ、この「この女性の顔に見覚えがある」感は一体・・・?

30名無しさん:2013/03/02(土) 03:03:20
(あの子・・・俺の記憶にいない。しかし仮に人違いだとしたら、俺が俺だと判りすぎてる・・・)
結局、訳が分からないまま俺は駐車場を、原見紗月と名乗る謎の妊婦さんを後にした。

「――はい、気を付けます。ありがとう、ございました」
コーヒー片手に産婦人科に戻ったら、ちょうど真弓が診察から出てきたところであった。
「・・・どう?赤ちゃん、回ってくれた?」
真弓の表情からしてもう答えは分かったけど、あえて結果を聞く俺。
すると、見ればどれだけ嬉しいかが良く分かる笑顔で、彼女は小さく頷いた。

31無明:2013/03/03(日) 03:35:34
お墨付きをもらったという事で、無事に赤ん坊は頭を下に向けたようだった。
ところが問題はこれ以外にもある。
強靭な身体の吸血鬼である真弓にはあまり気にすることでも無いのだろうが、赤ん坊が平均より大きく、難産の可能性が高いらしいとの話だった。
それでもなお、真弓は自然分娩、しかも自宅での出産を望んでいた。

帰宅後、いつものように真弓に抱きつかれてからやっと思い出した。
あの原見紗月という女性は、確かに俺の助手だった。
真弓しかいないように感じていたのは、彼女と真弓の二人がいたころはとてつもなく忙しかったからだ。
彼女が妊娠を機に抜けてからは仕事も減り、だから覚えていることも多かったというわけだ。
何だ、と自分で納得して、俺は真弓の作った夕飯を食べようとした。
真弓も一緒に食べているが、突然真弓は驚くような事を言ってきた。
「今日から、一緒にお風呂、入ってください」

32名無しさん:2013/03/04(月) 22:33:34
「お、おう・・・」
脈絡もなく突然すぎた真弓の提案にどさくさに同意した俺だが、
このアパートの風呂場は脱衣所も無いほど狭く、湯船も一人用の小さいやつだ。
まあ通常なら一人暮らしが丁度良い6畳間の格安物件だし、仕方ないけど・・・

子供が生まれたら引越しも考えようと思いつつ、俺は食事を済ませて風呂場に入った。

33無明:2013/03/04(月) 23:52:08
なぜ真弓がそのようなことを言ってきたのか。
てっきり吸血鬼としての何かに関係があるのかと思っていたら、そうではなかったらしい。
「そんなの決まってるじゃないですか。転んだら危ないからです」
そういう真弓の姿は、実際傍から見たら転んでしまいそうに見えるほどアンバランスだった。
140cmに満たない小柄な身体なのに、お腹だけが大きく突き出している。
さすがにここまで来ると吸血鬼といえど苦しいらしく、すぐに息が上がってしまっている。
狭苦しいながらも真弓の体格ならと、湯船に一緒に入り思う。
どうしても病院での出産を拒む真弓のため、「陣痛が急に始まったことにして病院をごまかして、二人で赤ちゃんを取り上げる」という出産プランも練った。
もうすぐ、一人ぼっちの彼女は一人ではなくなる。
ならば、俺もお伴させてもらおう。
たとえこれが、操られているがゆえの感情だとしても………

34名無しさん:2013/03/05(火) 02:45:16
数日後。
産休をもらえてのんびり自宅にいられる真弓に黙って、俺は不動産屋へ行った。
サプライズにするつもりもあるが、これからも増えるであろう家族のためにもある。
予算とセールスマンとの激しい戦いの末、それなりの物件を押さえる事に成功した。

「む?あれは・・・」
気分よく安全運転で帰路につく途中、見覚えのある女性の姿に俺は車を止めた。
それは、両手に食材のいっぱい詰まった買い物袋がふたつ、重たそうにバランス悪く歩いている原見紗月だった。

35無明:2013/03/06(水) 04:00:04
「大丈夫か?」
車の窓を開けて紗月に声をかける。
「先生………思い出した?」
ふう、と大きく息を吐き荷物を俺に手渡す彼女。
「一応、な。家、近所だろ?手伝ってやるよ」
そして紗月を家に送る道中、色々と話した。
何もかも、包み隠さず。
俺が真弓を気にかけていた理由。
記憶操作をかけられているかもしれない疑念。
でも、真弓との生活を捨てる気がないこと。
全てを話し終えた頃、紗月は苦笑いしていた。
「色々複雑な気分だけど、その、なんていうか、応援するよ、先生」

36名無しさん:2013/03/07(木) 03:53:30
「まあやれる所までやってやるさ。ところで紗・・・コホン、原見くん」
今の俺も紗月も、それぞれの家庭を持ってる身だ。
要らぬ疑いを避ける為、これからは苗字で彼女のことを呼ぼう。
「なんですか先生?」
「その・・・ふ、双子って大変だよな?ほ、ほらっ、お腹の中でケンカしたりとか」
って何言ってんだよ俺。他人の奥さんに気軽に聞く事じゃないだろそれ・・・
なんか話題を探そうと思ったら、急に気になってしょうがなかったんだ。
「・・・・・・・・・・・・・」
ほれ見ろ、ドン引いて紗月気まずそうな顔で黙ってしまっ――
「・・・・・・さわってみる?」
「えっ」
黙ったまま長考をした紗月の口から出た言葉に、俺の心が揺さぶられた。
二人分もする紗月の胎動は真弓のとどう違うのか、気になって仕方がなかったのだ。

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38無明:2013/03/08(金) 01:58:10
沙月は「両手で違うところを触ってみるとよく分かる」というので言われたとおりにしてみる。
すると、ちょっとずれて両手を蹴り返す感触。
なるほど、母体と別の人格をもった生命が「2人」いるわけだ。
しばらくそれを堪能した後、他愛のない話をしてから帰宅することにした。

いつものように真弓が出迎えてくれて、夕食を食べて、お風呂に。
小さくて、透き通るように白くて、なんとなく雪像を想起させる真弓の身体。
もうすぐ、そこから新しい命が生まれてくる。
いつだろうと、真弓だって待ち望んでいる。
そしてとうとう、それは来た。
39週検診の翌日、太陽が完全に落ちた頃だった。
真弓が、陣痛らしきものを訴えたのは。

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41名無しさん:2013/03/11(月) 05:12:26
「何・・・だと・・・? すまん、もう一回言ってくれないか?」
「だから、産まれそうって、言ったんです。」
トントントンと包丁のリズムを維持しつつ、真弓は晩ごはんを作りながら答えてくれた。
「産まれそうって、痛くないのか?お腹」
「はい、今は元気です。この子も、頑張ってますから」
いつものような落ち着きを保っていても、どこか冷静になりきってない口調。
俺は刑事ではないが、夫として、彼女は嘘をついてないことだけは確信した。
「・・・・・・一服してくる」
初産は長引くとよく言われてるし、真弓のあの様子だと、今夜中には産まれないだろう。
・・・と自分に言い聞かせるも、はじめて父となる俺は動揺を抑えきれなかった。

42無明:2013/03/13(水) 03:51:11
しばらくして、俺は病院に連絡を入れた。
内容は真弓と打合せたとおり、「急に陣痛が強くなったらしく動けそうにない」の一点張り。
やがて本当に痛くなってきたらしく、真弓も声を上げ始めたのでなんとか信じてもらい、携帯越しに指示を受けながら俺が赤ちゃんを取り上げることとなった。
大丈夫だ。
知識は頭に入れてある。
俺は携帯を片手に、ベッドでウンウン唸っている真弓のところに向かった。

「手………握ってて、ください………」
不安そうな目で俺を見つめる真弓。
あのいつものすました雰囲気はどこへやら、いまはすこし怯えているようにも見えた。
考えれば、俺があの時、好奇心を優先して彼女に荒くれ者達をけしかけなければ、今頃こうはなっていなかっただろう。
俺はその小さな罪悪感もひっくるめて、彼女の手を握った。

43名無しさん:2013/03/20(水) 02:14:48
「あっ……いっっっ…………ぁアァ!」
「真弓っ!」
手形が残るぐらい強く握り返してくる真弓の手を、力いっぱい握り返す。
口に出していない俺の一念に呼応したと思わせるほど、真弓のお腹がわずかに波打った。
胎児が、赤ちゃんが、動いている――真弓の中から出ようと、必死に頑張っているのだ!

44名無しさん:2013/03/21(木) 18:43:04
美少女エロ画像

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45無明:2013/03/21(木) 22:04:51
この小さな体だ。余程苦しいのだろう。
彼女の年齢は見た目よりは高いが、その年齢でさえ一般社会では若過ぎる出産といえよう。
おまけに、望んだ子でさえないというのに。
それでも彼女はいま、出産しようとしている。
「私っ……独りだった………家族が、欲しかっ、たん、です……!!」
陣痛の合間、途切れ途切れに語る真弓。
すでに外は真っ暗で、無慈悲な夜の女王たる月が、その顔を覗かせていた。

46名無しさん:2013/04/01(月) 04:31:30
「い、息を吸って・・・ゆっく、っり、は、吐いてっ、っっっ〜〜〜〜」
陣痛が強まり、頼みの綱の呼吸法も役に立てなくなってきた。
この状態になったらそろそろ子宮口全開になるごろだと、参考書が言ってた。
「真弓・・・ちょっと痛いかもしれんが、腕・・・入れるからな?」
子宮口の開き具合を確かめるために、俺はキリッと意志を固め、真弓に手を突っ込んだ。
「ひゃぁん!」
俺の腕という異物が入ったせいだろうか、感度の良い真弓がさえずりだす。
それと共に、潤んだ強張る産道が一気に絞めてくる。俺が痛みを感じるほどに。

47無明:2013/04/01(月) 04:58:47
子宮口の開き具合は、指が何本入るかで簡易的に測れるという。
ゴム手袋をした俺の手のうち、指四本がすんなりと入っていく。
多少の誤差はあるだろうが、俺の手は大きい方だ。
今までよく耐えてくれた真弓のためにも、この言葉をかけてあげるべきだろう。

「もういきんでいいぞ」と。

「いっ………うぅぅう〜〜〜〜〜〜〜!!!」
俺がそう言うやいなや、再びの陣痛に悶える真弓。
不釣り合いなほどせり出したお腹が外から見てもわかるほど、陣痛でぐぐっと締まった。
その途端、真弓の秘所から半透明の液体が溢れ出る。
破水。
10ヶ月をかけて、真弓の胎内で育まれてきた命が、外界に出る時が近づいている。
俺は真弓の手を、もう一度しっかりと握った。

48名無しさん:2013/04/05(金) 02:11:48
その時、不思議なことが起こった。

俺の体を、意識を、ぶっ飛ばそうなほどの、「存在感」。
ソレを認識した瞬間、俺の脳が五感が一瞬、衝撃を受けた。
動物的に、本能的に、威圧される。それは畏怖、それは恐慌。
これは催眠術ではなく、ましてや記憶操作でもない。
これは、現実。
俺が存在しているこの場所で起きた、真実だ。

真弓の産道に入った赤ちゃんが、この名状しがたい「気」を放っていた・・・・・・

49無明:2013/04/06(土) 02:03:42
化け物でも、産まれてくるというのだろうか?
だが、俺はこんな所で踏みとどまっているわけにはいかない。
無事に出産を終わらせ、真弓と一緒にこの子を育てていくことが、俺に出来る、彼女への贖罪だから……!!
「っく、あ………んんっ!!」
真弓が、苦しげな声を上げる。
でもそのたびに、確かに、確実に。
赤ん坊が産道を進み、外界にでようとしていた。

50名無しさん:2013/04/07(日) 01:34:36
「赤ちゃんが見えたぞ!いきむのやめるんだ、真弓!」
「は、はひぃ……」
俺の指示通りに、真弓は腰の力を抜き、呼吸を切り替えた。
胎児の旋回に邪魔しないように、自然とその控えめな尻が浮かぶ。
「はぁ、ひぁ、ふぅぁああっ〜」
骨盤を脱臼させる限界まで左右に大きく開いた、色白で華奢な両足。
その真ん中から、真弓の太ももよりも太い『塊』が、ゆっくりと吐き出されーー

51無明:2013/04/07(日) 03:40:11
「あ゛っ!?」
短く、真弓が悲鳴をあげる。
ゴキリッ、と何かしら危険な音が響いた。
その途端、ずるりと赤ん坊が生まれ落ちた。
即座に、スポイトで赤ん坊の鼻や口に粘り着いた粘膜を取り除く。
赤ん坊の様子を見ると、真弓の血色の悪さとはまるで真逆の、如何にも「赤ちゃん」然とした、立派な女の子だった。
「はぁ………あ………産まれ、ました………?」
「バッチリだ。どこもおかしくなんかはない」
実際そうだ。
指もそろってるし、おかしいところは何もない。
ここまで来れば、俺は決意するしかなかった。
守ってみせると。
文字通り、この子の父親として、真弓の夫として……

52名無しさん:2013/04/09(火) 03:48:01
「こ、これは、いったい・・・」
きちんと滅菌消毒したハサミでへその緒を切った、その瞬間の出来事だった。
赤ちゃんから切り離されたへその緒が、ボロボロと灰のように崩れていったのだ。
「ァ……またなんか、出ちゃうっ……ん゛っ」
真弓からぽとりと落ちる胎盤も外気と接触する時点で風化し、やがて塵の塊となった。
「・・・・・・」
俺は慌てて、腕の中で産声をあげている赤ちゃんをもう一度確認した。
吸血鬼のような牙も無ければ、あるべき血液の温度もちゃんとある。
うん、どこからどう見ても、吸血鬼ではなく人間の赤ちゃんだ。

53無明:2013/04/11(木) 03:36:51
「牙は別に、赤ちゃんのときから生えてる訳じゃないです」
吸血鬼の回復力ゆえか、意外とすぐケロリとした真弓がいうには人間と同じで、吸血鬼らしい特徴は成長するにつれ備わるものだという。
それは追々調べていくのが、俺の目的でもある。
だが今は……
「名前、考えないとな?」
俺と真弓の娘として、育てることのほうが重要だ。

こうして生まれた長女「夕佳」を加えて、俺の探求は続く。
数年後には夕佳が弟妹を欲しがって大変なことになったりするが、それは、別の話……

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