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風来の女戦士〜砂の惑星〜- 1 :名無しさん:2012/10/19(金) 22:51:16
- はるか未来のとある惑星。長年続いた戦乱のせいで大地は荒れ果てた。しかしそれでも人々は何とか生き延びていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ひとりの少年が砂漠の中を走っていた。いや追われていた。
少年を追うのは二人の傭兵くずれの男たちだった。やがて少年は男たちに追いつかれてしまう。
「待ちやがれこの餓鬼!」
「うわっ」
男の一人が少年を羽交い締めにした。
「へへ、なぁ坊や。その水筒を俺たちに寄こしてくれよ!何もしないからさぁ、へへへ・・・!」
「や、やだよ・・・やめて・・・!」
「んだとぉ?こんの糞餓鬼がぁ!」
もう一人の男が懐かた鈍く輝くナイフを取り出し振り上げた。少年は思わず目を瞑った。
その時。一筋の光線がナイフを振り上げた男の眉間を貫いた。男はぽかんとした顔でどさりと倒れた。
「な、だ、誰だ!?」
男が振り向いた。視線の先には人影があった。人影がマントをなびかせて、こちらに近づいてくる。
それは女性だった。黒いビキニを身に纏い、凛々しさと美貌を兼ね備えた顔。見たことないほど巨大な胸を揺らしながら歩いている。
背中には高性能セラミックサーベルを腰に下げ、その手にはビームガンが握られていた。だが・・・。
「な、・・・は、腹が・・・!?」
女性のお腹は大きく膨らんでいた。明らかに臨月に近い妊婦だった。
「そこのあんた。死にたくなかったら、その坊やから手を離しなさい・・・」
女性は男にビームガンを突きつける。
レイラ 妊婦戦士。寡黙ながら心優しい女性。
リコ 砂漠の町に住む少年。
- 2 :名無しさん:2012/10/20(土) 01:33:45
- リレー小説です。よろしくお願いします。
- 3 :無明:2012/10/20(土) 01:55:22
- 「んだとて」
女に命令されたのか、反抗しようと口を開いた瞬間。
男の額を閃光が貫き、男は物言わぬ肉の塊と化した。
ぽかんと口を開けている少年に、女は手を差し伸べた。
「大丈夫かい?坊や。ここいらはとにかく危ない。あたしのところに来るんだ」
黒いビキニにテンガロン・ハット、ボロボロのポンチョというミスマッチな姿の妊婦は、少年の手をとると岩に偽装された扉を開く。
その中には、最新式の機械や新鮮な食料が並んでいた。
- 4 :名無しさん:2012/10/20(土) 02:32:23
- 「す、すごい・・・」
「あたしの秘密基地ってところだ。まぁゆっくりしてきなよ」
妊婦は近くのコートハンガーにテンガロンハットとポンチョを掛けて、椅子にゆっくりと腰をかけた。
改めて見ると美人だった。例え妊婦であっても、色気と魅力を持つ豊満な身体だった。興奮してしまい、思わず股間を抑えた。
「あたしはレイラ。坊やの名前は?」
レイラという妊婦の美貌と肉体にぼぉっと見蕩れてた為、正気を取り戻した。
「ぼ、僕はリコ。歲は14。近くの町に住んでます」
- 5 :無明:2012/10/20(土) 02:43:18
- 「はぁ………なんだってこんな所来たのさ坊やは。ここは地獄の一丁目、文字通りの『鬼の市場』さ」
鬼の市場。
ここがそう呼ばれるのは、おおよそ人間の罪を凝縮した場所と言われているからである。
ここには秩序の守り手もいなければ、天罰を下す代行者もいない。
人間のどす黒い欲望が、渦を巻き続ける地なのだ。
説明をひと通り受けたリコの目は、やはりレイラの孕み腹に釘付け。
「何さその目は。この子はあたしの大事な子だ。あんたにゃやらないよ………それにしてもどこまで大きくなるのかねえ。このままじゃ産まれる頃には5キロ超えちまうよ………」
- 6 :名無しさん:2012/10/20(土) 09:17:59
- 自分の大きな孕み腹を困りつつも、どこか嬉しそうになでるレイラの顔は優しかった。
「とにかくここは危険なんだ。今日はここに泊まって行きな。明日、あんたの住む町に送ってやるからさ」
「ありがとうございます、お姉さん」
返事をするが、リコはレイラの孕み腹をチラチラと見ている。そのことにレイラはすぐ気づいた。
「そんなにあたしのお腹が気になるのかい。それともあたしみたいな孕み女が好きなのかい?ふふ、おかしなやつだね。なんだったらあたしの腹を触ってごらんよ」
「え、そんな」
「いいって。触ってみな」
レイラに優しく諭され、リコは彼女の孕み腹にそっと触れた。
- 7 :無明:2012/10/20(土) 17:58:54
- 「母を………思い出します………」
「あんたのおふくろさんだって?一体どういう意味だいそりゃ」
「僕の母は………4年前に野盗に殺されたんです………生まれる前の、妹と一緒に」
どうやら、リコもかなり壮絶な人生を生きてきたらしい。
それを感じ取ると、レイラはまたも優しく諭すように言った。
「そういうことかい………辛かっただろう?いいから、今は空きなだけお泣きよ。あたしの胸を貸してやる」
- 8 :名無しさん:2012/10/20(土) 22:04:05
- レイラは胸の水着を外し、巨大な乳房をぶるんと露にした。
「お、お姉さん・・・!?」
「ほら、あたしの胸に飛び込んでおいで。今はあたしがあんたのお袋さんだよ」
ニッコリと微笑み、自分の乳房をなでる。リコはツバをごくりと飲み込み、レイラの乳房に飛び込んだ。レイラの匂いが鼻腔に広がる。
「母さん・・・・・・母さん・・・!」
レイラの乳房を揉みしだくうちに野盗に殺された、臨月の母親の姿を思い出し、リコを涙を流した。そして乳飲み子のようにレイラの乳房をしゃぶった。
「あんたの気がすむまで、思い切り甘えていいよ・・・」
レイラはリコの頭を優しくなでた。リコは気のすむまでレイラの乳房に甘えるのであった。
- 9 :無明:2012/10/21(日) 00:22:34
- 30分ほどで、リコは立ち直ったのか涙を拭いて椅子に座り直した。
「しばらく、ここに置いておいてもらってもいいですか………?探している人がいるんです」
「探している人?」
「ええ、薬屋のジェンマという人で、父の薬を作ってもらっているんです」
「そんな奴に会いに、わざわざあのシムーンの中を………?凄いできた子だねえ」
- 10 :<削除>:<削除>
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- 11 :名無しさん:2012/10/21(日) 02:45:09
- リコの父親は彼を養う為に働いていたのだが病で倒れ、リコが病気の父親の為に薬代を稼いでいた。ジェンマは月に一度、町に来ては薬を売ってくれていた。
しかしここ最近町に来なくなったのでリコ自らが鬼の市場に出向く為、無謀にも「血の海」と呼ばれる砂漠地帯を渡っていたのだった。もしレイラに会わなかったら、命を落としていただろう。
「よし、あんたの為にジェンマ探しを手伝ってやるよ」
「本当に!?ありがとう、お姉さん!」
「お姉さんって言われるのは恥ずかしいからレイラでいいよ。あんな砂漠地帯を渡ったから疲れたろ。砂まみれだし、あたしと一緒にシャワーを浴びよう」
リコはレイラの手に引かれ、服を脱ぎ、シャワー室へと入った。
シャワー室は一人用なので狭く、どう向きを変えてもレイラの孕み腹がリコの体に密着する。
- 12 :無明:2012/10/21(日) 03:12:43
- 「れ、レイラさん………」
「仕方ないだろう?あたしゃ今こんなに腹が出てるんだ。どうしたって当たっちまうよ」
女性とここまで近づいたことが、物心ついてからはないのだろう。
リコは今までにないほど緊張していた。
また、彼の男性としての部分も、妙に興奮しているのも事実だった。
- 13 :名無しさん:2012/10/21(日) 11:50:02
- リコの男性の部分がレイラの孕み腹にこすれ、ますます固く膨張する。
レイラはそれを見て、呆れるように笑う。
「あたしの身体で興奮してるのかい?本当にリコは変わってるねぇ」
「だって、レイラさんってきれいだから・・・」
「あはは、そう言ってもらえると嬉しいよ
!」
顔を赤らめるリコの頭をなでるレイラ。
「リコ、女を抱いたことがないんだろ。そうだね・・・・・・シャワーを浴びる前に、ここで女の抱き方を教えてあげるよ」
レイラの突然の言葉にリコは驚きを隠せなかった。
「えぇ、でもそんなお腹じゃあ赤ちゃんに悪いよ」
リコはレイラの孕み腹に手を置いた。レイラも自分の腹に手を置く。
「こんなに大きくなったら、いつ産まれてきてもおかしくないから大丈夫だよ・・・・・・遠慮しないでいいよ。あたしが手取り足取り教えてやるからさ・・・・・・」
レイラの女の顔に、リコはすっかり魅了された。
「う・・・うん・・・・・・よ、よろしくね・・・・・・」
レイラはリコと唇を重ね合わせた。
二人は狭いシャワー室で抱き合った。
先ほどまでの乳飲み子と母親としてではなく、男と女として。
- 14 :無明:2012/10/21(日) 16:49:47
- 翌朝、当然ではあるがリコは真っ赤なまま目覚めた。
まだ起きていないレイラに気づかずベッドを降り、服を改めて着直す。
ジェンマを探す前になにか食事がいるかと考えたリコは、あまり期待せずに貯蔵庫を開いた。
「え………」
そこには、リコでは想像もつかぬほど、多種多様な食べ物が入っていた。
あっけにとられ、固まるリコ。
「おや、起きたのかい」
と、そこに薄いネグリジェをまとっただけのレイラが現れ、リコはますます見を固くした。
- 15 :名無しさん:2012/10/21(日) 18:52:08
- 新鮮なミルクに新鮮な果物。リコはひさしぶりにたらふく食べることができた。
「よく食うねぇ。まぁ、あんなに激しく動いてたから当たり前か」
レイラの言葉でリコは喉にミルク詰まらせ、むせた。激しく咳き込むリコを見てクスクス笑う。
昨夜のことを思い出し、今だにありありとレイラの裸体が脳裏に浮かぶのでリコはまた赤面した。
「あはは、また顔が赤くなってるよリコ。まだまだ心は初心なんだねぇ」
これ以上昨夜のことを話題にされるのは困るので、リコは話題を変えようと質問した。
「レイラさん、どうしてこんなに新鮮な食料が豊富にあるんですか、どうやって手に入れたんですか?」
- 16 :無明:2012/10/21(日) 19:23:37
- 「ふふ、やっぱり知りたいかい。食事を終えたらついてきな。いいもん見せてあげるよ」
レイラは笑って、この地下基地のドアの一つを指さした。
「あのドアの向こう、ですか?」
「そうさ。まあ見なよ。驚くだろうし、何よりこの世界を救う、カギなのかもしれない」
意味深な事を言うレイラに、さらなる期待を抱くリコ。
あっという間に朝食を終えて、むしろレイラを催促するくらいになっていた。
「まあまあ、そう慌てない。ほら。コレがあたしの守るべきものだよ………」
そう言いながら何重にもロックのかかった扉を開くレイラ。
その先には、まるで室内とは思えない大草原と青空、あらゆる種類の野菜や果物の畑、そして家畜の住む広大な空間があった………
入口入って直ぐのところに、かつての大戦争で使われていたときく、パワードスーツが立っていた。
状態からして、装着車はすでに死んで、かなりの年月が経過しているようだ。
「アレは………?」
「あいつはね………あたしが唯一愛した人。そして、この子のお父さん………」
- 17 :名無しさん:2012/10/21(日) 20:45:24
-
「ここは食料生産プラントさ。外の世界でも栽培できるように品種改良し続けているんだ」
大戦のせいで大地が荒れ果ててしまい、ほとんどの木々や植物が枯れ、それを餌とする家畜たちも激減してしまったのだ。
「ここを創った奴は戦争で大地が汚染されるのを予想して、地下にプラントを造って動植物たちを持ち運んだそうだよ」
近くの樹木の根元に座り、レイラはお腹をなでながらリコに説明をする。
「あいつはここを創った奴の子孫でね。あたしもリコみたいに野盗に襲われたところを救われたんだよ」
- 18 :無明:2012/10/21(日) 21:15:02
- レイラは、パワードスーツの装着者との馴れ初めを話し始めた………
優しかったその男性に惚れ込み、傷が癒えた後も彼に付いて行っては身の守り方などを教えてもらったこと。
共同生活の思い出。
そして、別れ。
一度だけ野盗に攻めこまれたことがあり、このプラントだけは襲わせまいと男は一人奮戦して、すべての野盗をなぎ倒したという。
そして、レイラが彼をこのプラント内に引きずり込んだ時には、もう息絶えていたと。
「その前の晩に、一度だけ。あいつに抱いてもらった。この子は、その時の子なんだ」
遠い目で語るレイラ。
リコは、話を聞くうちにあることを考え始めた。
「レイラさん。ここに、他に武器はありますか?」
- 19 :名無しさん:2012/10/21(日) 22:41:32
- 「あるのはあるけど………どうして?」
「僕、強くなりたいんです。強くなって父を、そして……レイラさんを守りたいんです!」
「あたしを守るだって、なんでまた?」
レイラは少し驚いた。リコは真剣だった。
「レイラさんが赤ちゃんを産んでいる時に野盗とかに襲われたら一溜りもないでしょう。それにもし外にいる時に産まれそうになったら……」
「あたしなら大丈夫だよ。例え産気づきながらでも野盗たちを追っ払ってやるさ、こう見えてあたしは強いんだよ」
過去に、外を歩いている時にレイラが大きなお腹の妊婦であることを狙われ、野盗たちに襲撃されたことが何度かあった。しかし、そのたびにレイラは野盗たちを返り討ちにしたのだった。
「でも、もしものことがあったら…………もう僕は母さんも、妹も失いたくないんです…………」
レイラの孕み腹に手を置き、リコは悲しそうな顔をした。自分の目の前で殺された母親のことを思い出したのだろう。
どうやらリコは亡き母親の姿をレイラに重ね合わせているようだ。レイラはそのことを察知した。
「そうだったね、あんたはお袋さんと妹を…………。わかったよ、あんたに身の守り方を教えてあげるよ。そして、あたしとこの子を守ってくれるかい……?」
- 20 :無明:2012/10/22(月) 00:20:23
- 「はい!」
リコは威勢よく答え、その翌日から戦い方の手ほどきを受けることとなった。
「ほらほら!この程度の的にぐらい、当ててご覧よ!何のためにその銃を渡したと思ってるんだい!」
不規則な軌道を描いて飛ぶターゲットを操作し、レイラの怒号が飛ぶ。
リコが渡されたのは、旧式ながら高火力の大型レーザーマグナムだった。
この銃をなぜ渡されたのかは知らないが、リコにとっては大事な力だ。
何度も心が折れそうになるが、リコはそれでもあきらめなかった。
父を、レイラを守りたい一心でだ。
この重い銃は、まっすぐ構えるにも一苦労。
それでも、リコは飛び交うターゲットに照準を合わせ、撃ち続けた。
- 21 :名無しさん:2012/10/22(月) 19:01:11
-
次に教えてくれたのは剣の扱い方だった。
セラミックサーベルを渡され、振るい方、剣を扱う時の身のこなし方を教えてくれた。
そして畑の角に放置されていた案山子をターゲットに、ひたすら剣を振るう。
「こら、そんな振り方じゃあ致命傷すらあたえられないよ!」
その後もレイラに叱咤されながらも、剣を振るい続けた。
「よし、じゃあ試しに、この棒であたしと手合わせしてみよう」
レイラはリコに棒を渡し、自分も棒を持った。
「さぁ、この腹を突きさす勢いでかかってきな」
そう言って、自分の腹をぱんっと軽く叩いた。
- 22 :無明:2012/10/22(月) 20:11:07
- 「えっ………」
「何言ってんだい!ためらってちゃ殺られちまうよ!」
一瞬躊躇するリコを、怒鳴るレイラ。
そして次の瞬間。
「こんなふうに、ね」
風切り音をたて、レイラのもつ棒がリコの頬をかすめた。
ピッと擦過音がして、リコの頬に赤い線が走る。
- 23 :名無しさん:2012/10/22(月) 21:12:46
- 「うわぁ……!」
傷口に手を当てて血がでてるのを確認したリコは動揺した。
「少しでも戸惑ったら死んじまうよ。敵を殺ると決めたら、さっさと殺っちまうことさ!」
「わ、わかった……!」
なんとかリコは気を持ち直し、レイラに向かって棒を振るった。
しかし、妊婦とは思えぬ身軽な動きで楽々と避けた。そしてレイラはリコの手首を素早く叩いた。
「痛っ…!」
棒を落とし手首を抑えうずくまるリコ。レイラはリコのそばに屈み、叩いた手首を優しく摩った。
「まだまだだね。でもまぁ初日にしてはこんなもんだろう。じゃあ今日はこのぐらいにして、一緒にシャワーを浴びよう」
- 24 :無明:2012/10/22(月) 21:22:49
- 「いっ、たたたた………」
「我慢しな。傷口に砂が入ってたら危ないだろうに」
シャワーを浴び、そのあとで傷の手当をしてもらっているリコ。
砂嵐の吹き荒れるこの地では、一つの怪我が大病につながることさえある。
だからこそ、手当の技術は持っていなければならない。
翌日、リコが教えられたのは「攻撃の躱し方」であった。
- 25 :名無しさん:2012/10/22(月) 22:56:26
-
銃で狙われた時、刃物で襲われた時や、集団で襲われた時の敵からの攻撃の躱し方をみっちりと教えられ、リコはくたくたに疲れてしまった。
レイラが躱し方を実演してくれたが、大きな孕み腹を気にせずに腹這いしたりかなり無茶なことをするのでリコは内心、心配の連続だった。
夕食を済ませ、レイラが言う。
「まだまだ危なっかしいし訓練が必要だけど、これだけ教えたら外でも少しは動けるだろうさ。明日からジェンマってやつを探しに行ってみよう。ただし、あたしの側から絶対に離れちゃ駄目だよ」
「ありがとうございます、レイラさん」
二人は明日に備え、早く寝ることにした。
- 26 :無明:2012/10/23(火) 06:12:24
- 翌日、早速二人は市場に出た。
ジェンマを探すためでもあるが、もう一つ。
リコにここのルールを教えるという目的もあった。
市場を歩いていると、早速青果店の店主から声をかけられる。
「よう、レイラじゃないか。その坊主はどうした?まさか手ェ出したんじゃ………」
「バカ。そんなわけないだろう?こいつが野盗に襲われてたから、助けてやったついでに人探しを手伝ってるのさ」
事情を聞くと、青果店の店主は腕を組み、感心した様子で言う。
「ほぉ………よくできた坊主じゃねえか………それにレイラ、あんたはここの良心だな、やっぱり」
「お褒めに預かり光栄、ってかい?そうだそうだ。あんた、ジェンマって薬売りを知らないかい?」
- 27 :名無しさん:2012/10/23(火) 20:48:05
- 「それならうちの商品を買っておくれよ。妊婦なんだから酸っぱいもん欲しいだろ?これなんかどうだい、採れたてだぜ」
店主が手元の果物をつかんで、レイラの目の前に差し出す。
「やれやれ、しょうがないね。2つくれよ」
懐から硬貨を取り出して店主に渡した。
「まいど!ジェンマってやつがいるかは知らないが、路地裏に怪しげな薬を扱っている婆さんがいるはずだぜ。そいつなら薬繋がりでジェンマのことを知ってるかもしれないぜ?」
「そうかい。ありがとよ、生きてたらまた会おうな」
「じゃあなレイラ!それと坊主、レイラにすっぽり搾られて干からびて、おっ死ぬんじゃねぇぞ〜!」
「うるさいよッ!!!」
2人は青果店を後にした。店主の出した果物は確かに採れたてだったが、プラントで採れた果物より味は劣っていた。
「ここのやつらはとにかく金で動くのさ。いろいろ聞きだすには金が一番さ。もしくは半殺しにするかだね……」
人混みがごった返す市場で先に進むのは困難である。その時、通りすがりの男とリコの肩がぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさ………がっ!」
謝ろうとした瞬間、リコは首元を掴まれた。パイロットゴーグルを被った傭兵くずれっぽい男だった。
「おい坊主!人様の肩ぶつかっときながらその態度はなんだぁ?慰謝料として有り金全部置いて……!」
「パンザ!てめぇまだ生きてやがったのかい!?」
「ん……げぇ、レ、レイラじゃねえかっ?!」
レイラの存在に気づくや否や、パンザと呼ばれた男は急いで首元から手を離した。さっきまでの勢いはどこへやら。その目はすっかり怯え、急にへこへこと腰を低くした。
「いや〜、ひ、ひさしぶりだな〜レイラさん!あらら、お腹もすっかり大きくなっちゃってから〜、さ、触っちゃってもいいかな…………?」
たちまちパンザの顔面にレイラの拳が直撃した。後ろに吹っ飛び、小物を売る屋台に突っ込んだ。
「よくもあん時、あたしを置き去りにして真っ先に逃げやがったね!!!あんたのおかげでこの子もろとも死にかけたんだよ!!!」
- 28 :無明:2012/10/23(火) 23:33:43
- 「そ、そりゃ命あっての物種といいまして………」
「だからって原生生物だらけの場所に丸腰の妊婦をほっぽり出してパワードスーツで逃げていく奴が居るかい!このドアホ!!」
どうやらレイラとパンザの間には、なにか因縁があるようだ。
すっかり怯えきったパンザに、レイラは脅しつけるように尋ねる。
「ちょうどいい。あんたに人探しを手伝ってもらうよ?ジェンマって薬売りだ」
「ジェ………?」
「いいからさっさと手伝いな!これまでの事のうち、半分をチャラにしてやる」
「は、はひぃ!!」
パンザは悲鳴混じりで返事すると、手当たりしだいにジェンマのことを訪ねはじめた。
- 29 :名無しさん:2012/10/24(水) 06:23:56
- 「レイラさん、あのパンザって人…………」
「あぁ。以前、人を襲う生物を退治して欲しいって頼まれてね。そん時にやつと組んだんだがあたしをほっぽり出して逃げやがった。おかげで命からがら逃げるはめになっちまった」
「ひどいことするやつだなぁ」
「まったくだよ。リコはあんな腰抜け野郎になったら駄目だよ?」
「あらぁ、レイラじゃないの。ひさしぶりね。すっかりお腹が大きくなって」
その時ひとりの女が話しかけてきた。化粧をし、香水をつけた綺麗な女だった。見た目から売春婦であることがわかる。
「よぉ、マンナじゃないか。元気そうでなによりだ。あたしはもうすっかり臨月だよ」
「本当におっきいわねぇ。お腹触ってもいいかしら…………あら、そちらの坊やは?」
レイラはマンナという女性に事情を説明した。
「人探しだなんて大変ねぇ。はじめまして坊や。あたしはマンナっていうの。よろしくね」
「あ、はじめまして。リコっていいます……」
「かわいいわね。もしレイラに飽きたら、あたしが優しく抱いてあげるからね」
「えっ……!」
「はは、残念だけどこいつはあたしにほの字なんだ。こんな身体でも興奮してくれるからね。まだしばらくはあんたに靡かしないよ。そうだろ、リコ?」
そう言うとレイラはリコを抱き寄せた。巨大な胸と孕み腹がリコの顔と身体に密着する。
- 30 :無明:2012/10/25(木) 06:24:21
- 「れ、レイラさん………!」
「あら、先約入りなの。残念」
「それよりもだ、マンナ。あんたジェンマって薬売りを知らないかい?リコが探してるんだよ」
「あら、こんな子の手伝いなら大歓迎。ジェンマ?そういえば最近見ないわね………やっぱり路地裏のルミネ婆さんに聞いたほうがいいんじゃないかしら。同業者だし」
やはり青果店の店主と同じ事をいうマンナ。
こうなれば行く価値はあるか、と2人はルミネという老婆が店を開く路地裏に向かうことにした。
- 31 :名無しさん:2012/10/25(木) 20:19:16
- 「じゃあねレイラ。元気な赤ちゃんが産まれたらまっさきに知らせてね。それと坊や。レイラが赤ちゃん産んだ後でいいからあたしの元に来てね、坊やなら大歓迎よ。」
路地裏に向かう途中、リコはパンザのことをふと思い出した。
「レイラさん、パンザは」
「なぁに、ほっときゃいいのさあんなヤツ。あたしの時と違って町中で置き去りにされるんだから大丈夫だろうさ。あたしって優しいだろ?」
2人は顔を見合って、クスクスと笑った。
路地裏に入ると先ほどまでの喧騒が嘘のように静まりかえっている。
乞食が道端に寝ているほかに、いくつかの露天商が怪しげなモノを売ってるだけであった。訳の分からない薬を売っている商人がレイラの孕み腹をチラリと見て話しかけてきた。
「おいそこの姉ちゃん。そんなに赤ん坊が育っちまったら堕ろせなくて大変だろう?でも安心しな。この堕胎薬を飲んだらたちまちのうちに赤ん坊を堕ろせるぜ。だけども母体にゃあ無害だ。どうだい買わないか?安くしとくぜ」
「悪いがこの子はちゃんと産むつもりでね。他を当たりな」
「ちっ、ならでかい腹を晒すんじゃねえよ。さっさとあっち行け、しっ、しっ!」
商人は心底嫌な顔をした。
- 32 :無明:2012/10/27(土) 23:44:56
- 「裏通りはこういう薬売りばっかりでやんなるよ、ああほんとに」
愚痴りながら路地裏を進むレイラ。
いかがわしさを漂わせる薬売りの屋台を無視しながら、ルミネという老婆の店がないかを探す二人。
なかなか見つからず、諦めの色が見えかけたその時だった。
「ウェヒヒヒ…………そこのお姉さんとお坊ちゃんや。もしかしてアタシをお探しかい?」
地面に布を広げたその上で、桃色の花がついた、樹の枝のような杖を片手に老婆が薬を売っていた。
- 33 :名無しさん:2012/10/28(日) 01:31:58
- 「・・・あんたがルミネ婆さんかい?」
「ヒヒ・・・そうとも、アタシがルミネさ」
ルミネ婆さんは歯の抜けた口でニヤニヤと笑う。しわくちゃの顔がさらにしわくちゃになる。
「なんだい?あんたも堕胎薬が欲しいのかい。あたしの薬は売春婦どもに人気があってねぇ」
ティヒティヒ笑いながら、杖の先端でレイラの孕み腹からぷっくり突き出た臍をとんとんとつつく。レイラは呆れ顔で杖を払いのける。
「やれやれ・・・・・・だからあたしゃこの子を堕ろす気はないって!」
「ヒヒヒ・・・冗談じゃよ。あんたがレイラだろ?噂に聞いてるよ。身重の女戦士の活躍をねぇ」
「そりゃどうも婆さん。ところで聞きたいことがあるんだ。隣にいるリコって坊やの頼みでね」
リコはルミネ婆さんに事情を説明した。
「ジェンマねぇ・・・そういや最近見かけないね。山向こうの町に行ったきりだね・・・・・・」
- 34 :無明:2012/10/30(火) 20:50:07
- 「山向こうの街?」
「ああそうさ。あいつの売る万能薬の原料になる鉄甲龍の鱗を取り扱ってるやつなんて、それこそあの辺りにしかいないだろうねえ…………」
ルミネの言葉に驚くリコとレイラ。
「鉄甲龍!?鉄甲龍ってあの鉄甲龍!?」
「そうともさ。大昔の戦争で産まれた最強最悪のバケモノ。その鱗があいつの薬の原料なのさ」
とてつもない自然治癒力を持つ鉄甲龍の鱗なら、たしかに万能薬にもなりうるだろう。
だが、今大事なのはそこではない。
つまり、ジェンマは山向こうの街にいるということだ…………
「ルミネ婆さん、ありがとう。この坊やと一緒にジェンマを探しに行ってくるよ」
- 35 :名無しさん:2012/10/30(火) 23:18:01
- 「まぁ待ちなさい。せっかくだからあたしの薬をやるよ」
ルミネは懐から琥珀色の液体が入ったビンを取り出した。
「これは?」
「ルミネ特製の爆薬じゃよ。もし鉄甲龍に襲われたらこいつを叩きつけてごらん。時間稼ぎになるじゃろうて。あぁ、アタシがこんな薬を持ってることは市場の皆には内緒じゃぞ?」
ルミネはウェヒヒと奇妙な笑い声をあげた。
「それにしてもレイラさん。そのお腹で山越えは……」
リコはレイラの臨月腹を見る。確かにこの腹を抱えての山越えは相当大変だろう。
「そうだね。この腹じゃあ山越えは危険だろうね。こうなったら……お、いいところに」
向こうからパンザが走ってきた。必死に探し回ったらしく汗まみれである。
「れ、レイラさん!ジェ、ジェンマって……く、薬売りは……山向こうの……!」
「ちょうど良かったよパンザ。山越えの為にあんたのホバーバイクを貸してくれよ」
「ふぇ……へぇっ…………な、なんで…………へぇ!?」
「いいから貸せ。もう半分チャラにしてやるから。それとも今までの罪を、この場で償うかい?」
そう言いつつレイラはビームガンをパンザに突きつけるのだった。
パンザのホバーバイクが置いてあるジャンク置き場へと向かう3人。
「しかし……大丈夫なんですかい?最近いろいろと物騒ですぜ。山向こうの遺跡の街は」
「物騒?」
「なんでもカルト教団が住み着いているらしいんですよ。確かマダニヤ教って名前で、頭と腕のもげた妊婦の地母神像を祀ってるそうで」
「へぇ、妊婦を祀ってんのかい。ならあたしは生き神様だね!いっそのことその遺跡の街に住もうかね?」
得意げに豊満な胸と臨月腹を張るレイラ。
「いやいや……レイラさんなんかは行かないほうがいいですよ。その教団は地母神への生贄として、妊婦の生き胆と胎児を捧げるんだそうですよ…………」
- 36 :無明:2012/10/31(水) 13:03:26
- 「流石に掻っ捌かれるのは勘弁さね…………ても、あたしはリコについて行く。それが義理ってもんだ。分かったかこのヘタレ!」
レイラは啖呵を切ると、そのままパンザのホバーバイクに跨がった。
ただし、レーザー砲のトリガーのあるタンデムシートに。
操縦するのは、自ら立候補したリコだった。
- 37 :名無しさん:2012/10/31(水) 18:42:28
- パンザから操縦の方法を教えてもらい、リコとレイラの乗るホバーバイクは発進した。
「それじゃあ行ってきます、パンザさん」
「絶対に返してくれよ。俺のなんだからな!」
市場で準備を整えてから、2人は鬼の市場を出発した。
リコのすぐ後ろにレイラが座る。彼女の胸と孕み腹が背中に密着するせいで、リコの男性器は固く膨らんでいた。
「……リコ、ひょっとして興奮してんのかい?」
「だってレイラさんの胸とお腹が背中に触れるから……」
「やれやれ、今は我慢して操縦に集中しな。山を越えたらいいことしてやるからさ」
2人を乗せたホバーバイクは山を目指して荒野を走る。
- 38 :無明:2012/11/04(日) 01:27:48
- とりあえず、山まではなんの障害もなくついた。
問題はここから。
鉄甲龍の棲むと言われる、山を越えていく。
いくら強いといえど、レイラは妊婦だ。
いつ、何があるかなんてわからない。
自然の中の、危険も多い。
もし、なにかあったなら自分はレイラを守れるだろうか。
怖い。
だがやるしかない。
震えながら決意して、リコはレーザーガンを握りしめた。
- 39 :名無しさん:2012/11/04(日) 17:46:20
- 2人の乗るホバーバイクが険しい山道を登る。
「レイラさん、お腹は大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。あんたの操縦なら安心して身を任せられるよ。この子も元気そうにお腹を蹴ってるよ」
パンザのホバーバイクは性能がよく、急な坂道でもエンストすることなく走り続けている。
「……リコ、気を付けな」
「どうしたの?レイラさん」
レイラに訳を聞こうとした瞬間、一筋の光線がホバーバイクの真横を通りすぎた。
斜面を滑り落ちながら、4人の野盗が現れた!
- 40 :無明:2012/11/04(日) 18:18:28
- 「ヒャッハァー!!カモが来やがったぜ!!」
「てめぇ、ここを素通りしようなんざいい度胸だな………」
「女と有り金置いて行きやがれ、ガキャァ!!」
「孕み女だろうが関係ねえや!!犯してズタボロにしてぶっ殺してやる!!」
野盗たちは口々に言い、武器を構えてリコとレイラににじり寄る。
リコの手は震えていたが、しっかりとホルスターにかかっている。
レイラにいたっては、動じた様子もなくテンガロン・ハットを目深にかぶり直した。
「どうした小僧!?はいと言わなきゃぶっ殺しちまうぞ!!」
それにも気づかず、野盗の一人は声を荒げて大ぶりのライフルを構える。
「撃つぞ………」
小さくつぶやくリコ。
「あぁ?」
野盗は、はっきりとは聞いていないようだった。
「撃ちますよ………」
「何だ、何が言いてえんだコラ!!」
「撃っちゃうって、撃っちゃうって言ってるんだーーーーーーーー!!」
リコは叫びとともにレーザーガンを抜き、野盗の眉間に照準を合わせ引き金を引いた!
白い閃光が突き抜け、野盗は眉から上を丸くえぐられ息絶える。
「こいつ、ボスを!!」
「てめえ、もうガマンならねえ!!」
「ぶっ殺してやる!!」
三人が次々と武器を構え直し、レイラに向けた。
だがレイラは、その内の一人の武器に目をやるとすぐさま、早撃ちで彼の武器以外を蜂の巣にした。
「そのライフル、Zk198荷電粒子ライフルだね………。悪いが、あたしの目の前でその銃を使っていいのは、宇宙に一人だけって決まってんだ!」
- 41 :名無しさん:2012/11/04(日) 20:01:52
- 「つ、つぇえ……!」
「うわあああ……」
ライフルを持った男がどさりと倒れ、動揺する野盗たち。
「どうだ?孕み女にズタボロにされてぶっ殺されるのは?」
レイラはニヤリと笑う。
「な、このボテ腹が……!」
片方の男が逆上しレイラの腹に銃を向けようとした。しかし、すぐさまリコのレーザーガンの光線が男の腕を貫いた。
「ぎゃああああ!!!」
腕を押さえうずくまる男。もう一人の男はすっかり青ざめた顔になり、武器を放り捨てて手を上げた。
「ままま、待ってくれ!悪かった、こ、降参する!だ、だから命だけは……!!」
しかし、レイラはツバを吐き、男にビームガンを突きつける。
「いやだね。お前たちみたいなヤツはここで始末しないとな」
「ひぃいいっ……!?」
その時、金属が擦れるような、耳障りな轟音が山に響いた。
その場にいた者は思わず耳を塞いだ。
「レ、レイラさん、これは!?」
「やばい、鉄甲龍の鳴き声だ!リコ、フルスロットルで逃げるんだっ!!!」
リコはすぐさまホバーバイクのアクセルを踏み、その場から全力で走り去った。
「ま、待ってくれ!お、俺を置き去りにしないでくれぇっ!!!」
男が助けを求め必死に叫んだ。しかし、リコとレイラにその声は届く訳がなかった。
- 42 :無明:2012/11/04(日) 21:47:55
- 「………」
「リコ、振り返っちゃいけない。ああいうのはどうせすぐに野垂れ死ぬもんさ」
ふとリコは、ホバーバイクのハンドル付近についているナビを見た。
地図を登録しておけば、ルートを表示してくれるものである。
「レイラさん、あの鉄甲龍、もしかして………僕等を追い出して、山向こうの街に向かわせているんじゃ………」
「何馬鹿言ってんだい!そんなこと………」
「でも、僕らが鉄甲龍から逃げるための道が、このとおり山を越える道なんです!」
ナビを覗きこみ、レイラは後ろを見る。
うっすらと、鉄甲龍のシルエットが見えた。
ナビを見直し、レイラはニヤリと嗤う。
「あったみたいだね………よしリコ!このまま山を越えるよ!!」
- 43 :名無しさん:2012/11/04(日) 23:49:48
- 「はい!」
ホバーバイクは全速力で坂道を走った。
それから数時間が経ち、2人はなんとか峠を越えることができた。
後は道を下って行けば、街まであと少しである。
少し休憩をする為に見晴らしのいい場所にバイクを止め、少し離れたところに座った。
リコとレイラは眼前に広がる光景を見て、ぼそりと呟いた。
「あれが、遺跡の町…………」
かつて古代文明の城下街の遺跡が完全な形で発掘された場所だったのだが、先の大戦でほとんどの遺跡が破壊されてしまった。
その遺跡の残骸に人が住み出し、今の街の形となったのだ。
なんでもその文明は妊婦の戦士を崇拝してたとある学者は言うが、真実か定かではない。
- 44 :無明:2012/11/05(月) 00:25:50
- ホバーバイクで街に乗り込むやいなや、ざわざわと呪詛めいた声が聞こえ始めた。
「女だ」
「孕み女だ」
「生贄だ」
「マダニヤ様への生贄だ」
歴戦の勇士たるレイラはそれにも動じることはなく、すれ違うヒトにジェンマの名を訪ね歩く。
当然、万一を考えて右手は腰にやったままだ。
- 45 :名無しさん:2012/11/05(月) 01:11:26
- ジェンマのことを訪ねるが、聞く人聞く人が知らないと答える。それだけでなく聞く人聞く人がレイラの孕み腹を舐めつけるに見てくる。
レイラはその反応に嫌悪感を抱いた。リコはレイラのお腹を庇うようにして前を歩く。
「はぁ、こんなにジロジロと見られるのはたまったもんじゃないね。嫌な目付きだよ。まだやらしい目で見られるほうがマシだよ」
「みんなレイラさんのお腹ばかり見てるね……」
「あぁ、みんなあたしの身体目当てだね。冗談じゃないよ、腹ぁ掻っ捌かれるのはね」
ジェンマの行方を聞き出せないまま時間が過ぎ、日が暮れていった。
- 46 :名無しさん:2012/11/05(月) 15:29:26
- なかなか自分たちを快く受け入れてくれるわけでもないこの地で、二人を一泊させてくれる相手など見つかるわけがなかった。
そしてとうとう日は落ち、あたりが完全に暗くなる。
ホバーバイクを動かしていては目立つと、路地裏に隠れようとしたその時だった。
「待ちな」
声がして、前方に長い、とてつもなく長いライフルが差し出される。
銃剣もとりつけられていて、あわててホバーバイクのブレーキを踏むリコ。
さてはカルト教団の者か、と手をホルスターにやり出方をうかがうと、今度は笑い声が聞こえてきた。
「あはははは、違うよ。アタイは敵じゃない。この町の『真実』を知る人間さ」
リコとレイラはその声に誘われるまま、比較的形の残っている建物に入っていった。
そこで出迎えくれたのは、一人の女だった。
年のころはリコより少し上といったところで、左目には眼帯をしており、右の額から頬にかけて大きな傷跡がある。
そして、右足のひざから下がなく、簡素な金属のシリンダーがついた棒状の義足となっていた。
「悪いね、おっかない見た目で。アタイはプラム。このあたりの『真実』を知る人間さ。当然、ジェンマも知ってる。あいつには痛みどめで世話になったかんね」
- 47 :名無しさん:2012/11/05(月) 19:20:14
- 「ジェンマのことを知ってるんですか、彼は今どこに!?」
リコはプラムに詰め寄った。
「単刀直入に言うとジェンマはあの教団のやつらに捕まってるよ。薬を無理矢理作らされているんだ」
「薬?鉄甲龍の鱗から作った万能薬ってやつをかい?」
「嫌、そうじゃないよ。なんでも不老不死の薬だそうだよ。それもね……」
プラムはレイラの孕み腹をちらりと見て、こう言った。
「その薬の材料はね…………生贄にされた妊婦の肝なんだよ」
- 48 :無明:2012/11/05(月) 21:23:29
- 「なっ………」
驚くレイラとリコに、がちゃり、と義足の音を立てながら近寄るプラム。
「それに、奴らは生贄を捧げているというがね、あの遺跡は本来、いうなれば古代の病院みたいな場所だったんだと思う」
「古代の、病院?」
「ああそうさ。あの石像は血を浴びると動くって言うが、アレは本来ならきっと血の状態を見るとか、そういうものだったはずだ。でなきゃ、薬棚とかが近くにある意味がわからんよ」
遺跡のことを語るプラム。
彼女は考古学者の娘で、数少ない、現存する遺跡であるこの地を調べに父と訪れたさい、根城にしようとしていたカルト教団に襲われたのだという。
そのあとは影から教団に抵抗しており、いつか遺跡から奴らを追い出すのが目的だと語った。
「ってなわけだ。あんたら、アタイと組まないか?アタイは父さんの発見したここを取り戻す。あんたらはジェンマを救い出す。どうだ、利害は一致してるだろ?」
- 49 :名無しさん:2012/11/05(月) 23:17:58
- 「そうだね、ジェンマを救う為にはその教団連中を追っ払うしかないね……。リコ、覚悟は出来てるかい?」
「もちろん、やるならとことんやります。それに妊婦さんたちをこれ以上死なせたくないよ……!」
リコはその瞳に静かに怒りの炎を灯していた。殺された母親のことを思い出したのだろう。
「よし、交渉成立だね!よろしく頼むよ2人共!」
プラムはにこりと笑って2人と握手を交わした。
「泊めてくれるところがなくて困っただろ?アタイが泊めてあげるよ。これからアタイの秘密基地へ案内してあげるからさ」
プラムはぎこちない動作で膝を屈め、足元のブロックを取り外した。そこには梯子の掛かった暗闇が広がっていた。
「秘密基地は食料もあるし、水浴びも出来るよ。野宿するよりはるかにマシさね」
地下通路に義足の音と足音が響く。ふいにリコが口を開いた。
「プラムさん、その身体の傷はどうして……」
- 50 :無明:2012/11/05(月) 23:49:27
- 「これも、教団のせいさ。そりゃ父さんもアタイも、せっかく見つけた遺跡を変な連中に壊されたくないから立ち向かったのさ。
この銃だってあいつらのだ。こっちには拳銃くらいしかなかったからね。
あいつらの武器は恐ろしいものだった。銃弾ははるか向こうで破裂したってのに、目の前を右足が吹っ飛んでいって、石畳の破片が顔を切り裂くのが見えたんだから………
父さんはアタイを連れて引き下がって、アタイの応急処置をしてくれた。ありあわせの素材で義足の組立をしたり、最低限の傷の消毒と縫合をしてくれた。
でも、父さんは、1人で戦っている最中に腹に銃弾を食らって、粉微塵に吹き飛んだ」
プラムの言葉に、言葉の出ないらしいリコ。
「母さんは、ずっと前に死んだ。兄弟もいない。だからアタイは決めたんだ。あいつらからここを取り返して、そのまま野垂れ死んでやるって」
- 51 :名無しさん:2012/11/06(火) 01:06:01
- 「プラムさん……」
プラムの言葉を聞いて、リコはただ黙るしかなかった。代わりに口を開いたのはレイラだった。
「プラム、なにも野垂れ死ぬことはないよ。野垂れ死んでいいのは野盗みたいな連中さ。あんたはまだ若いから死んじゃあいけない」
さらにレイラはしゃべる。
「なぁプラム。この遺跡から連中を追い出したら、あたしの所に来なよ。実はあたしも秘密基地を持ってるんだ。それも誰もがびっくりするようなやつさ」
「びっくり…………?」
「そう。それで、うちに来て仕事を手伝ってもらいたいのさ。あたしはほら、見ての通りの腹ボテだろ?いずれこの子の世話もしないといけないからさ。とにかく人手が欲しいんだよ」
「アタイみたいな奴でいいのかい?片足がないんだよ、役に立てるかな?」
「いいんだよ。むしろ大歓迎さ……」
レイラはにっこりと優しく微笑む。慈悲と母性に溢れる笑顔だった。
しばらくプラムは考えるような表情をした。
「…………うん、わかった。アタイみたいな奴でいいんならあんたの秘密基地とやらに行かせてもらうよ。えぇと……」
「あたしはレイラ。そして彼が」
「僕はリコって言います」
「そうか。レイラ、それにリコ……改めてよろしく頼むよ!」
- 52 :無明 Birth Shopの更新もお願いします:2012/11/06(火) 01:29:29
- 「そうと決まれば話は早いわけだ。いつ攻める?」
「少なくとも、いまは止めた方がいいね。奴ら、きっとあんたらを探すのに躍起になってるよ」
少年と妊婦の二人組がここにきたという事実は、おそらく教団の耳にも入っていることだろう。
「だったら、今日はもう寝たほうがよさそうですね」
「その前に腹ごしらえに決まってるだろうに」
「そうそう、腹が減っては戦はできぬ、ってね………」
プラムは後ろの棚に積んであった袋をゴソゴソとあさると、中からあるものを取り出した。
「っと。食うかい?」
プラムの差し出したものは、瑞々しい光沢を持ったリンゴだった。
あっけにとられるリコに、プラムは更にしゃべる。
「教団の奴ら、何をしてるのかしらないが、こんなものまで持ってたりするんだ。例の『不老不死の薬』ってやつの応用かもね」
とりあえず、3人で1つずつリンゴをかじり、その日はそのまま眠ることにした。
深夜、リコは目が覚めた。
理由はひとつ、横で寝ているプラムが、泣いていたからだ。
「とうさん………っ、ううう………うぁあ………」
- 53 :名無しさん:2012/11/06(火) 20:07:18
- (…………プラムさん、お父さんを目の前で殺されたんだっけ)
目の前で親が死ぬ瞬間を見てしまったのだ。あまりにもショックだったであろう。
リコも4年前に母親を殺されたのだ。だいぶ落ち着いたが、今でも時々母親が殺される瞬間の悪夢にうなされることがある。
(父さん、大丈夫かなぁ…………)
リコは寝返りをうった。ただ暗闇が広がっていた。暗闇の中でプラムの泣き声が響いていた。
泣き声を聞くうちに、リコはふたたび眠りに落ちた。
目が覚めると、部屋の奥のほうからちゃぷちゃぷと水が跳ねる音がする。
音のするほうに行ってみると、そこには水の張った室内プールがあった。
そして、一糸纏わぬ姿で泳ぐレイラの姿があった。
「あぁ、おはようリコ。あんたも一緒に泳がないかい?気持ちいいよ」
- 54 :無明:2012/11/06(火) 21:52:12
- 「れ、レイラさん………」
「ついでに砂まみれの体を洗わないと。戦う前には身を清めるのがきまりってもんさ」
そういうとレイラはプールサイドまで泳いできて、リコを強引に引っ張りこんだ。
「う、うわぁ!!」
ざぶん、と景気のいい水音が響きずぶ濡れになるリコ。
「も、もう!何をするんですかレイラさん!」
「何って、一緒に泳ぐに決まってんじゃないか。ささ、ぬいだ脱いだ」
わいわいと騒ぎながら取っ組み合う二人。
と、そこにプラムも現れた。
「面白そうだね………アタイも混ぜな」
- 55 :名無しさん:2012/11/06(火) 23:55:55
- そう言うとプラムはプールサイドに腰を降ろし、義足を外してから服を脱いだ。
小ぶりな乳房にほっそりとしたスレンダーな体つきだった。まだ発育途中という印象があった。しかしその体にはまだ生々しい傷痕が残っていた。
「へへ、凄い体だろ?よいしょっと……」
プールに入り、2人の側による。
「ほら、リコも脱ぎなよ!大丈夫だよ、男の体がどうなってるか知ってるからさ」
「そういうことだ、ほら脱ぎな!」
「…………はい」
結局、雰囲気に押されリコも裸になった。
「ねぇ、レイラのお腹の赤ちゃんは、リコとの間に出来た子なのかい?」
ふいにプラムはレイラの孕み腹を撫でながら聞いた。
- 56 :無明:2012/11/07(水) 00:10:56
- 「まさか。そんなこたぁないよ。この子の父親は、もう死んでだいぶ経つ」
「へぇ………じゃあなんでリコと一緒に?」
「ああ、それはね。そもそもリコがジェンマを探してたんだ。リコの親父さんがジェンマの薬を飲んでいるんだが、フイにジェンマが来なくなったからだとさ」
その後もぺらぺらと、事情を説明するレイラ。
どうやら、お互いのことをよく知っておくべきだと感じたかららしい。
「ありがとう、レイラ。次はリコのことを聞かないとだね」
そういってプラムは、片足ながら見事な泳ぎぶりでリコに近づいた。
- 57 :名無しさん:2012/11/07(水) 20:45:45
- 「聞いたよ、リコは父親想いなんだね」
「あ、ありがとう、プラムさん」
「プラムでいいよ。リコとは歲も近いしね。……リコの父さんの面倒は誰が診てるんだい?母さんかい?」
「うぅん、父さんの仕事仲間に世話してもらってるよ。母さんは……4年前に野盗に殺されたんだ。お腹の中にいた妹と一緒に……」
「あっ………………ごめんね……嫌なこと思いださせちまって……」
しゅんとなるプラム。リコは首を横に振った。
「いいんだよプラム……だから僕は強くなりたいって思ったんだ。母さんや妹をもう亡くしたくないから。だから……」
リコは顔を上げ、レイラを見た。
巨大な乳房、どっしりとした尻、まんまると膨らんだ臨月の孕み腹。産まれ来る子を迎える母の姿。
「だから僕はレイラさんを守りたいんだ」
プラムもレイラのほうを見る。そしてくすりと微笑んだ。
「ふふ……リコはレイラに惚れてるんだね」
- 58 :無明:2012/11/08(木) 00:10:56
- 「そ、そんな。僕はただ………」
顔を赤くして、しどろもどろになるリコ。
その様子を見てレイラもプラムもケラケラ笑っている。
「全く。それじゃ否定しきれてないよ」
「か、からかわないでくださいよ!」
やがて、リコも釣られて笑い出す。
そんな楽しい時間は、あっという間に過ぎていった………
「さて。ここに父さんの描いた遺跡の見取り図がある。アタイ達が頼れるのはこれだけだ」
そう言って、地面に見取り図を広げてみせるプラム。
所々、いろんな色で印が付けられている。
- 59 :名無しさん:2012/11/08(木) 18:18:59
- 「この印は?」
「遺跡には隠し通路があってね。それを記してるんだ。やつらも知らないだろうさ」
「なるほど、その隠し通路を使えば身を隠しながら近道できるって訳だね……」
そのほかに武器庫と貯蔵庫、祭壇、生贄を閉じ込めておく牢獄の場所などが描かれていた。
「ジェンマは寝る時以外はここの地下室に閉じ込められて薬を作らされているはずさ」
そう言ってプラムは見取り図の一箇所を指さした。
- 60 :無明:2012/11/09(金) 00:55:04
- 「ここの地下室は貯蔵庫経由でここと、直接でここの2つが祭壇につながっている。きっと、儀式で使うための薬や道具を運ぶ道だったんだろうね………」
考古学者の娘であるゆえか、道の配置などを見るたびに色々言っているプラム。
リコとレイラはそれを聞きながら、どうすればジェンマを助け出し、安全に逃げられるかを考えていた。
「道が2つ。どう思います?レイラさん」
「間違いなく、直接つながる方は警備も厚いだろうね。逆に貯蔵庫のほうは、貯蔵庫自体の警備は厚いが、この道となればそうでもない」
「よし、アタイがこの銃で、貯蔵庫の中身に火をつけてやろうじゃないか。きっと奴ら大慌てだよ」
「確かに………それなら相手を驚かすことも出来ますからね!」
あれこれと相手を撹乱する方法を考えつつ、決行の時を迎えた………
- 61 :名無しさん:2012/11/09(金) 19:52:16
- プラムの案内で、建物の影に隠れながら人目のつかない裏道を通り遺跡を目指す3人。
遺跡に近づくにつれ、人混みがちらほらと目立ち出し、遺跡の門前には人だかりが出来ていた。どうやらマダニヤ教の集会のようだ。
そして遺跡のバルコニーに黒いローブを着た男たちがいた。その中で一際派手な飾りを付けた男がキンキンと耳に障る高い声で演説をしていた。
「あいつが教祖のガアムさ…………あいつらがこの遺跡を、そして父さんを奪いやがったんだ…………!」
プラムは双眼鏡をレイラに渡した。双眼鏡でガアムの姿を確認し、リコの双眼鏡を渡した。
でっぷりと太った禿頭の男だった。ぬめりとした白い肌。眉はなく、その目はカッと見開かれていた。口角から泡を飛ばし、ガアムは語る。
「子供たちよ、この荒れ果てた大地を楽園へと再生させる為に我らの偉大なる母、大地母神マダニヤの復活が必要なのです…………!」
- 62 :無明:2012/11/13(火) 01:59:59
- 何かの呪文めいた言葉を、次々と口にするローブの男たち。
声が唱和し、バルコニーの周囲に反響して大きな音となる。
騒がしく人でごった返すそこは、リコたちの足音を隠すにはちょうどよかった。
そう、プラムの金属の足音さえも………
人ごみに紛れ、遺跡の中に忍び込んだ3人。
狭い石造りの通路では、プラムの足音が耳障りなほど反響する。
しかし、集会の最中だからだろうか。
警備しているらしき人物の姿は見えない。
不審に思いながらも、少しづつ奥に進んでいった………
- 63 :名無しさん:2012/11/13(火) 18:16:32
- 「それにしても警備が手薄ですね………」
リコは不安に思いつぶやいた。」
「罠かもしれないね。気を付けたほうがいいよ」
レイラはすでにビームガンを抜いている。リコも真似てレーザーガンを抜いた。
注意を向けながら隠し通路を使い、貯蔵庫のある場所へと近づいてゆく。
- 64 :無明:2012/11/19(月) 01:38:31
- プラムもその長いライフルを担いで、ゆっくりと進んでいく。
警備が薄すぎるのをさすがに不審に思い、3人が引き返そうとした、その時!
前方から、プラムと同じライフルを構えたローブ姿の人物が3人現れた。
そして後ろからは、狭い通路に適しているのか、短い銃をもったローブ姿の男4人。
3人は、取り囲まれてしまったのだ。
- 65 :名無しさん:2012/11/19(月) 18:20:22
-
ガシャンと鉄格子の閉まる音が響く。
さすがに7対3、さらに狭い通路となるととても敵わない。
3人は捕まり、さらに武器を奪われて牢獄に閉じ込められたのだった。
「ちくしょう…………あと少しだったってのに…………!!」
プラムは唇を噛み締めながら悔しがった。リコは心配そうにレイラのほうを見た。無表情で自分のお腹をなでながら、牢獄の奥のほうを見ている。
リコも奥のほうを見る。そこには生贄として殺されるであろう、数人の一糸纏わぬ妊婦達がいた。
- 66 :無明:2012/11/22(木) 03:55:30
- 「あいつらを殺して、薬を作ろうってのか………」
レイラはそう呟くと、あたりを見回す。
交代して時間が立っている上に、見張りは1人。
脱出するなら、今しかない。
レイラはそう考えると、リコとプラムに耳打ちし一計を案じた。
「あの………あの!!」
リコが椅子に座っていた見張りを呼ぶ。
「なんだ?」
見張りが振り向くと、鉄格子の中でレイラは腹を抱えて苦しんでいた。
ただならぬ様子に焦る見張り。
「産まれるって………この人が!」
リコの言葉に大慌てで、まず様子を見ようと見張りは鍵を開けて牢の中に入ってきた。
しゃがみこんでレイラの様子を見る見張り。
「このままでは生贄の意味が………まて、今薬を」
そう言って立ち上がろうとしたその瞬間、声もなく絶命する見張り。
プラムの義足、その足裏から太く鋭い鉄杭が伸び、彼の頭を貫いていたのだった。
「ふん………」
プラムはまるで汚いものを見るかのような目で一瞥すると立ち上がり、見張りが隠し持っていたカギを探しだす。
そして机に無造作に置かれていたそれぞれの武器を投げ渡す。
レイラはケロッとした表情で立ち上がると、閉じ込められている妊婦たちに言った。
「あとでちゃんと戻るから!」
- 67 :名無しさん:2012/11/22(木) 17:03:00
- 「それにしてもレイラの演技は見事だったよ!」
プラムは喜々としてレイラを見た。レイラもニッコリ笑って、得意そうに孕み腹を叩いた。
「まぁ、鬼の市場で生き抜いてきたからね。あれぐらい屁でもないさ」
「でもレイラさん、本当に産気づいたら……」
「あぁ、そん時はリコとプラム。あんた達がこの子を取り上げてくれよ」
「は……はい!」
リコの気の入った返事にプラムとレイラはクスリと笑った。
3人は忍びながら、牢獄を出た。
- 68 :無明:2012/11/24(土) 02:03:13
- さっきと同じ通路にまでたどり着くと、ガアムが何やら話しているのが見えた。
何を言っているかは聞き取れないが、怒りをあらわにしているのが見て取れる。
そこに、3人がかりで引き連れられてきた、やせ細った男。
その姿を見て、リコは声を上げそうになった。
そう、引き連れられてきたのはジェンマ。
かなり衰弱しているようで、返事もできていないようだった。
レイラとプラムも顔を見合わせ、3人は行動を開始した………
- 69 :名無しさん:2012/11/24(土) 22:01:23
- 貯蔵庫の入口の前には、見張りが二人立っていた。
「マダニヤ様への捧げ物がまた増えたそうだ」
「あぁ、我らに逆らうあの小娘を連れてな。ありがたいもんだ」
「あの孕み女はともかく、その小娘とガキはどうするんだ?」
「ガアム様曰く、ガキには我々の教義をみっちり叩きこんで聖戦士にするそうだ。小娘は孕ませて捧げ物にするんだと」
「へへへ、それなら散々いたぶって孕ませてやろうか・・・」
「孕ませたらマダニヤ様に捧げ物にすりゃあいいもんな、マダニヤ様々だよ本当に」
見張りたちは愉快そうに笑った。
その時、視界の隅で何かが動いた。見張りの一人がなんとなくちらりとそちらを見た。
刹那、闇の中から一筋の光線が見張りの頭を貫いた。なにがなんでも起きたのか理解できぬまま、ぽかんとした顔でどさりと倒れた。
「なっ・・・!??」
もう一人の見張りとにかくライフルを闇に向けた。
すると闇の中から、さっと駆け出してくる人影があった。
こちらに向かって走ってくる、抜き身の刃を持つ、腹がはちきれんばかりに膨れた女。それはレイラであった。
(なんで妊婦がこんなところに・・・?!)
突然の襲撃とこちらに向かってくる刃を持った妊婦の姿に動揺する見張り。
その隙に、レイラは身重の体に似合わぬ身軽な動きでサーベルを振るい、見張りの首を切り落とした。
- 70 :名無しさん:2012/12/15(土) 13:06:58
- 三人は見張りの死体を角にやり、貯蔵庫へ侵入した。
プラムは貯蔵された荷物に火を放つ準備をする為、リコとレイラはジェンマが監禁されているであろう部屋へ向かった。
- 71 :無明:2012/12/16(日) 02:25:58
- リコたちの予想通りの部屋にジェンマはいた。
やはり遠目で見て分かるほど衰弱しきり、まともな会話もできなさそうな状態だ。
今にも息絶えてしまいそうなジェンマの様子を見て、リコはどうしたものかと考え込んだ。
- 72 :名無しさん:2015/08/09(日) 21:30:56
- 「そうだっ、これを使おう。」
リコは普段持ち歩いていた。どんな衰弱している人も元気を取り戻す回復薬を取り出した。
「さっ、これを飲め。」
リコはジェンマに回復薬を飲ませ様子を見た。
- 73 :名無しさん:2015/10/12(月) 10:45:59
- ※72 訂正
リコではなくレイラでした。上の文のリコは全部レイラだと思ってください。
- 74 :名無しさん:2015/10/14(水) 20:13:53
- 「う・・・。」
ジェンマは軽いうめき声を出し、目を開いた。
「父さん!」
「り・・・リコ・・・。リコなのか?」
リコは父に抱き付いた。
だが、レイラがそれを引きはがした。
「感動の再会は、全部が終わってからにしな、リコ!」
「あ、うん・・・。」
まだ意識が混濁しているジェンマを腕を組んで立たせ、走るリコとレイラ。
プラムは二人を待っていた。
「プラム・・・、準備は終わったのかい?」
「ああ・・・。これを使う日がくるなんて夢のようだよ。」
プラムはスイッチの付いた機械を見せた。
「何、それ?」
リコはプラムに聞く。
「起爆装置さ。」
「ええっ!?」
プラムは義足を手で叩いて言う。
「義足の中に爆弾を隠していたのさ・・・。
小さいが高性能だよ。この遺跡を粉々に破壊する威力はある。」
「で、でもプラム。なんで?ここはお父さんの・・・。」
「父さんは死ぬ前に、私に爆弾とこの起爆装置を渡したんだ。
悪党どもの手に渡るぐらいなら、この場所を破壊してくれってね・・・。」
「・・・本当にいいの?」
リコの声に、プラムは小さくうなずいた。覚悟は本物のようだ。
- 75 :名無しさん:2015/10/14(水) 20:24:14
- ※ジェンマはリコの父じゃありませんでした。
3行~8行はとばしてください。
- 76 :名無しさん:2015/10/14(水) 20:27:09
- 「とにかくここをぶっ壊すのは、みんなが逃げてからだよ。」
四人は、妊婦達が囚われている場所へと戻った。
レイラ達は妊婦達に言う。
「走れるかい?」
「はい。」
それを確認すると、レイラはプラムに告げた。
「プラム、お前は彼女たちと一緒に行ってくれ。」
「ええ!何でよ!アタイも戦うよ!」
「この辺りの道を知ってるのはあんただけなんだよ。
誰が彼女たちを逃がせるんだい?」
「・・・で、でも。」
リコはプラムの肩に手を置いた。
「プラム・・・時間がないんだ。君のお父さんの仇は僕たちが討つ!
君が手を汚さないでいいんだ。」
「・・・・・・わかったよ。」
プラムも仕方なさそうに答えた。
レイラとリコは、まだ捕らわれた人間がいないかを調べ、
そしてこの教団を破壊すべく、奥へと向かう事にした。
「一時間だ。
その時間を過ぎても私たちが戻ってこなかったら、ここをぶっ壊しな。」
「・・・分かった。」
「この人をお願いします。」
ジェンマを妊婦達に預けると、二人は走り出す。
「死ぬなよ!リコ!レイラ!」
そう叫ぶプラムに、二人は少しだけ笑って見せた。
- 77 :名無しさん:2015/10/15(木) 03:24:18
- 見張りを倒しながら、遺跡の奥へと向かう二人。
そこで二人は驚くべきものを発見した。
白い粉の詰まった袋が沢山置いてあったのだ。
「なんなんだ、コレ・・・。」
リコが呟く。
レイラはその一つを手に取って調べてみる。
「・・・どうやら、これは麻薬の様だね。」
「麻薬!?」
「よくある話だよ。麻薬製造している事実を隠蔽するために、
何かにカモフラージュするってのはさ。」
「じゃ、じゃあ不老不死の薬ってのは・・・。」
「そんなもん、嘘っぱちさ。これが教団の真の目的。
妊婦を攫っているのは、労働者を増やす為。
薬に詳しいジェンマを攫ったのも、その為だったんだろう。」
レイラの説明に、リコは拳を握りしめる。
「ひどい・・・、許せない・・・!」
「ああ、この事実を世間に公表してやらないとね。
だがその前に、この遺跡に住む蛆虫どもを、駆除するとしようか。」
倒した見張りの持っていた遺跡内の地図によれば、奥に牢獄が書かれてあった。
「とにかく、ここへ向かうよ。」
「はい!」
二人は先を急いだ。
そして二人は最深部へとたどり着く。
- 78 :名無しさん:2015/10/15(木) 03:41:32
- 広場が見えてきた。下を見下ろすと、ガアムが狂信者たちを囲んで演説をしていた。
「よし、リコ。あたしが連中を引きつけるから、あんたは牢獄に囚われている人たちを解放しな。」
「レイラさん、大丈夫?」
「心配するなって!」
レイラはリコの頭を撫でながら、笑って見せた。
リコが奥へと消えるのを見届けると、レイラはビームガンを抜き、銃口を定めた。
そして、引き金を引く。
途端にガアムの頭の上半分が吹っ飛び、血と脳をまき散らしながら倒れた。
教祖に何が起こったのか理解できないでいる狂信者たちの上に、ばらばらと爆弾が落ちてきた。
爆音とともに、遺跡内で爆発が起こり、狂信者たちが吹っ飛ぶ。
遺跡の柱の一部が崩れ落ち、広場は大パニックとなった。
レイラの存在に気付き、銃を向ける者たちがいた。
だがすぐさまレイラの連射がそれを薙ぎ払っていく。
「さあ、今宵があんたらの命日だよ!」
レイラは銃を撃ちまくった。
一方、リコも牢獄へとたどり着く。
見ると、中では多くの女性や子供たちがいた。
すると、一人の女性がリコに語り掛ける。
「・・・誰ですか、ここには女子供しかいませんよ・・・。」
リコは牢獄の錠前を銃で破壊しながら言う。
「心配しないで!あなたたちを救けにきたんだ!」
だがリコは、その女性の顔を見た途端、思わず息をのんだ。
「・・・か、母さん・・・?」
そこにいたのは、レイラとよく似た体つきをしている美女。
そしてその顔は忘れもしない。リコの母、マリッサのものであった。
- 79 :名無しさん:2015/10/15(木) 03:56:58
- 牢獄の扉を開いたリコは、マリッサに駆け寄って、その手を握った。
マリッサも、信じられない表情をしている。
「リコ・・・?リコなのね・・・?」
「か・・・、母さん・・・?ど、どうして・・・。」
マリッサは、数年前に野盗に連れ去られた。もう命はないものだと思っていた。
「嗚呼、リコ・・・。貴方にまた逢えるなんて・・・!」
マリッサは涙を流してリコを抱きしめた。
「母さん・・・!」
リコの目にも涙があふれた。
マリッサの話では、彼女を攫ったのは野盗ではなく、教団の手の者だったという。
奴隷として捕まったマリッサは、牢獄で同じように連れてこられた妊婦達と出会った。
そして、牢獄内でマリッサは女児を出産した。
見ると、マリッサの後ろに幼い女の子が立っていた。
「この子は、ひょっとして・・・。」
「ええ、リコ。貴方の妹よ。名前はシェニーよ。」
リコは涙を拭き、笑いながら女の子の頭を撫でた。
「・・・こんにちは、シェニー。やっと逢えたね・・・。」
シェニーは、不思議そうな顔でリコを見つめていた。
- 80 :名無しさん:2015/10/15(木) 04:17:52
-
その時だ。
「リコ!」
その声にリコは振り向く。
「レイラさん!」
奥からレイラが走ってやってきた。
「なにモタモタしてるんだい!」
「レイラさん、奴らは・・・?」
「奥の方へ引っ込んでいったよ。でも逃げたわけじゃない。
武装して戻ってくるさ。数が多すぎるから、こっちが不利になる。
約束の時間も近いよ、早くここを脱出しないと!」
「でもこんなに沢山の人たちをどうやって連れ出そう?
小さい子もいるし・・・。」
するとマリッサが二人に告げた。
「大丈夫。私、抜け道を知っているの。」
「え!?」
リコとレイラは、思わず叫んだ。
- 81 :名無しさん:2015/10/15(木) 04:25:34
- それぞれ子供を連れた女性たちを引き連れ、レイラたちは遺跡の更に奥へとやってきた。
「ここよ。」
マリッサが指さす先には教団が崇めていたマダニヤの像があった。
その裏には、隠し階段があったのだ。
「凄い、母さん。こんな場所よく見つけたね!」
「私も長い間この場所にいたからね。この抜け道の存在は前から知っていたんだけど、
どうにも皆を連れて逃げ出せる機会がなくて・・・。」
「よし!行くよ!」
子供たちを優先させ、一同は遺跡から脱出した。
レイラ達が遺跡から離れて、数分後。
巨大な爆音がしたかと思うと、遺跡は音を立てて崩壊したのである。
瓦礫の雨に、教団の連中は一人残らず押しつぶされた。
まるで、マダニヤの天罰が下ったようだった。
「・・・・・・終わったね。」
レイラは呟いた。
「よく頑張ったわ、リコ。」
「母さん・・・!」
母の胸に飛び込むリコ。その姿は、レイラに甘えていた時とまったく同じだった。
レイラは笑みを浮かべて、リコに語り掛ける。
「良かったねリコ。お袋さんと妹に逢えて。」
リコは顔を上げると、レイラの方を向いて笑った。
「うん!」
- 82 :名無しさん:2015/10/15(木) 04:42:45
- 教団のやってきた悪事は、プラムと攫われていた女性たちの証言によって、
世間に広く知れ渡る事となった。
教団の本性を知って、目を覚ました遺跡の町の人々は怒り、事実を知っていた連中を残らず縛り首にした。
ようやく肩の荷が降りたプラムは、新たな遺跡を発掘する為に、リコとレイラに別れを告げて旅だった。
そして、リコとレイラは、マリッサとシェニーを連れて、リコの故郷へと戻る。
ジェンマの薬のお蔭で、父の容態も快方に向かい始めたという。
そしてレイラは男児を出産。赤ん坊を取り上げたのは、リコであった。
数ヶ月が経ち、レイラはリコの元から発つ事となった。
「リコ、あんたはもう一人でも家族を守れるほどに成長したね。
私は、また旅に出る事にするよ。」
「レイラさん・・・。」
「そんなしょげた顔するんじゃあないよ。また来るからさ。」
リコにキスをすると、レイラは赤ん坊を背負い、ホバーバイクに乗って去っていく。
その後ろ姿に向かい、リコはいつまでも手を振るのであった・・・。
風来の女戦士~砂の惑星~ 完
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