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女傑ビビカ2
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遠き悠久なる昔。
まだ神が人の世の地を踏みしめていた時代。
人と神の血を引いた女戦士がいた。
女戦士は子を身籠った身体で、戦場を駆け回り、人の世を苦しめる悪しき神々や怪物を退治した。
その功績を認められた女戦士は、女神と認められ、やがて全ての神の中でも最強の力を持った戦女神とまでなっていた。
人の世の、とある神殿。
女神ビビカの住まうこの神殿は、ビビカのように強い子が産まれるようにと、妊婦たちの安産祈願の巡礼所のような所であり、
すぐ近くにある小さな町では、世界各地から集まった数多の妊婦たちが行き交いしているのであった。
神々とその従属のみが住まう事を許されているこの聖地で、一人の少年が話をしていた。金色の髪をした、利口そうな可愛い顔立ちの美少年だ。
彼の名はエルシオ。まだ幼いが、上級天使の素質を持った少年である。そして、ビビカを孕ませた夫でもあるのだ。
ビビカは双子を出産しており、その子供たちは普段はビビカがあやしているが、ビビカが怪物退治の旅をしている間は、エルシオや町の人々が面倒を見ているのだ。
エルシオの手には光る水晶球が輝いており、その中には神官たちの姿が映っていた。
エルシオと神官たちは、この水晶球を通じて、会議をしているのだ。
「身籠った女性が?」
「はい、エルシオ様。妊婦をさらう事件が人界で多発する事件が起きていまして・・・。
しかも町に住む一般の町民たちだけではなく、孕んでも冒険を続けることが出来る程の、名うての妊婦戦士たちも多く、行方知れずなのです・・・。」
「その調査に向かったトマスやキモン、その他大勢の戦士たちも、半死半生の状態で帰ってきており、重体です。詳しい話は、傷を癒してから聞くつもりですが、そろいもそろって皆重症なので、何時の話になりますやら・・・・・・。」
「なんと、そうですか・・・・・・、それは弱りましたね・・・。妊婦さんたちの安否が心配です・・・。」
頭を抱え悩むエルシオ。その時である。
「ちょっと待ったぁああっ!」
ドスドスと地響きがエルシオに向かって迫ってくる。
そしてドアをぶち破・・・りはせずに、ひとりの女がドアを開けて入ってきた。
淡い銀色のショートヘアーが目立つ、2メートルを優に超えるむちむちと肉付きの良い肉体をした、愛嬌のある可愛らしい顔立ちをした大女だ。
今にも母乳があふれ出てきそうな、CDサイズの黒々とした巨大乳輪と大きめの乳頭が目立つ、少し垂れ気味の爆乳がズドンと突き出ており、その両方の乳房には、一歳を迎えたばかりの、双子の赤ん坊が吸い付き、ビビカの溢れんばかりの母乳をちゅうちゅうと吸っていた。
しかもその下にある腹は、エルシオとの子を身籠った、臨月をとうに過ぎた孕み腹で、その後方には出産の為に大きくなったかのような、巨大な尻が揺れていた。
「その妊婦失踪事件、是非ともこのビビカにお任せを!」
ビビカはキラキラと輝く目で、ぽかんとするエルシオに向かって、そう言い放った。
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「び、ビビカさん・・・。なぜ裸なのですか・・・。」
「おおっと、これは失敬!森の泉で子供たちにお乳をあげながら沐浴をしていたのですが、エルシオ様のお話がこの耳に届きまして!」
ちなみに、森と神殿とは軽く5キロメートルは離れている。とんでもない地獄耳である。
「平和になった今の世に、私が暴れられるような事態はもう無いものと思っていたのですが、そんな事件が世間で起こっていようとは!
是非とも、わたくしにその事件を解決させてください、エルシオ様!!」
そう言いながらビビカは、正座をするのであった!
ビビカ(外見年齢20歳くらい)
半人半神の女戦士。人々を守る戦神。世をあだなす存在を駆逐する旅をしている。
妊婦を守る安産の神でもあり、自身もまた臨月で三つ子を孕んでいる。
能天気かつ陽気で、猪突猛進な性格。人の話をあまり聞かない。 種族は神だが、人の血を引いているので、肉の体である。
半分神の血を引いてるので普通の人間よりも力も強く頑丈。
特に子宮が頑丈で中の胎児に影響はないため、激しい戦闘をしても大丈夫である。
エルシオ(外見年齢11、2歳くらい)
ビビカが仕えている、天界の新米天使。あまり深く考えず行動するビビカとは対照的に、賢い。
まだ幼く、戦闘能力も低いが、上級天使の素質を持っている。ビビカの腹の中の子の父親である。
一見クールな性格に見えるが、その本心は、よく無茶をしているビビカの身を気遣っている、優しい性格。
妊婦の女戦士が大立ち回りをして、大暴れする話にしたいと思っています。ビビカの戦闘描写を深く書いていって貰えると、うれしいです。
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呆気にとられるエルシオであったが、はっと気づき、ビビカの孕み腹を見ながら言った。
「し、しかしビビカさん。貴方は臨月をとうに過ぎたであり、お腹の中の子は三人もいるので心配です。事件の事は我々に任せて、ゆっくりと養生を・・・。」
「お気遣い、感謝しますっ!!心配には及びませんよ、エルシオ様!
それほどまで心配なのでしたら、今すぐこの場で我が子たちを産み落とし、元気な姿をお見せしましょうか!!
この子たちも、ずっと狭い腹の中にいて、そろそろ窮屈でしょうからね!」
そう言いながら、両手を腰に当てた仁王立ちで、ズイと巨大な孕み腹をこれでもかとエルシオに見せつけるビビカ。
フンフンと、野牛のように鼻息をしながら自信満々に笑う。
もちろん冗談なのだろうが、もしエルシオがそう望むなら、本気で今ここでいきみかねない迫力である。
「む、無茶は辞めてください。ビビカさん。僕はビビカさんの事が心配だから・・・。」
「はい、ありがとうございます、エルシオ様。このビビカ、この子供達を絶対に傷つけさせません。
どうか大船に乗ったつもりで、いてください!何卒、調査の許可を・・・。」
懇願するビビカをしばらく見つめていたエルシオだが、やがてはぁと軽くため息をつき、ビビカに言った。
「・・・・・・分かりました・・・。妊婦失踪事件でも本当に、無茶だけはしないでくださいね。
いくら強くて頑丈とはいえ、ビビカさんは人の肉体を持った女神様なんですから・・・。」
「おぉ、ありがとうございます!!」
ビシッと敬礼をするビビカ。
そして乳房に張り付いていた我が子たちをエルシオに預け、すぐさま旅の準備をし始めた。
露出度の高い、必要最低限の部分しか隠せていない水着のようなビキニアーマーを着込むビビカ。
面積が小さすぎるので、陥没気味の乳首はともかく、デカくて濃い乳輪は、まる見えである・・・。
「それでは行ってまいります、エルシオ様!このビビカ、世の為人の為、粉骨砕身で闘って参ります!武運を祈っていて下さい!!では!!」
雄叫びをあげながら、武器を持つのも忘れ、そのまま外へとビビカは走り出すのであった。
部屋は嵐が過ぎ去ったように、静寂が訪れた。ふと水晶球から、神官の声がした。
「よ、よろしいのですかエルシオ様・・・。まだ何の手掛かりも掴めていない状態で、ビビカ様を一人で向かわせて・・・。」
「分かっています・・・。でもビビカさんは最近、腕を振るう機会がなかったので、うずうずしていたのでしょう。
僕にビビカさんのような戦力は、まだありませんが、僕とビビカさんはお互いに今いる位置が分かるので、
もしビビカさんが助けを求めなければいけない状況になったら、至急、この伝承の球を向かわせ、知恵を貸します。
・・・とにかくしばらくは、伝説の戦神であるビビカさんに任せましょう・・・。ふぅ・・・。」
そう言いエルシオは、参拝客の女性たちの相手をするべく、その場を後にするのであった・・・。
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信じられない脚力で、あっという間に故郷から遠く離れるビビカ。
しかし彼女はうっかりしていた。武器は無くても戦える自信があるが、旅の路銀を用意するのも忘れていたのだ。
「しまった、弱りましたね・・・。これでは毎日、野宿です・・・。
おっ、あんな所に町が!よし、とりあえずあそこで日銭を稼ぐとしよう!失踪事件の情報も聞くことが出来るだろうし!」
喜び勇んで、霧に包まれた荒れ果てた様子の街に飛び込むビビカ。
しかしこの町は通称、「追剥の町」と呼ばれており、ならず者たちのたまり場なのだ。
宿に泊まっても、少し油断しただけで身包みを剥がされてしまう、常に用心をしておかなければならない、とんでもない町なのである。
町にはほとんど女性の姿が見えず、町ゆく人々は、ビビカの孕み腹をじろじろと見ていくが、当のビビカは気にせずに、路銀を稼げそうな場所を探す。
「カワイイ姉ちゃん。そんなにデカいケツ揺らして、どこに急ごうってんだい?」
ひょいと、いかにも胡散臭そうな風貌の男性がビビカに話しかける。
「おお!実はわたくし無一文でして!どこか働ける場所を探しているのです!」
「へぇ・・・、ならそこにある酒場に行くといい。あそこは毎日なにかしら力比べをしていて、大金が動く賭けをしているからねぇ・・・。」
「なんと!それは耳寄りなお話!ありがとうございます!!」
「しかし、無一文で挑もうってのはさすがに無茶だぜぇ?払えるモンがなけりゃあ、何をされても構わないってところだからなぁ、ヒヒッ。」
「無茶はビビカの専売特許!!最初から負ける事を考えていたのでは、何もできません!!それではっ!!」
驚く男を尻目に、酒場へと飛び込むビビカであった。
酒場は賑わっており、そこらかしこで屈強そうな男たちが、腕相撲やら派手な殴り合いやらをして、力比べをしている。
「おぉ、なんと豪気な場所だ!気に入った!よし、片っ端から勝負を挑むとしますか!」
酒場の人間たちの中でも一際大きい巨体のビビカは、相当目立つ。周囲の人間たちは、ビビカに注目していた。
「そこのあなた!私と力比べをしませんか!」
ビビカはカウンターで酒を飲んでいた、目に深い傷のある男に声をかけた。
「ん・・・?ほぉ・・・、そんなボテ腹で、この俺に力比べを挑もうってのか、姉ちゃん?」
「はい!」
「いいぜ、何で勝負をしたい?」
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「それではシンプルに、腕相撲などいかがでしょうか!私が勝てば金貨を3枚ほどいただきたい!」
「いいだろう、じゃあ俺が勝ったら・・・、そうだなぁ・・・。」
男はちらりとビビカの孕み腹を見て、狡猾に笑いながら言った。
「よし。それじゃあ、全裸になって、そこのカウンターに乗って四つん這いになって、出産ショーでもやってもらうかなぁ、ヒヒ。」
「なんと!!そ、それは酷な条件ですね・・・。」
「やるのか?やらないのか?」
「・・・分かりました、その条件でかまいません!」
「よし来た!おい店主、審判やってくれ!」
ただちに粗末なテーブルが用意され、ビビカと傷の男が向かい合って、腕相撲の体勢を整える。その横には審判役の店主が立っている。
臨月の女戦士の出産ショーという、とても珍しいものが見られるかもしれないと、店中のギャラリーたちが集まっていた。
傷の男は、デカい腹を揺らしている身重のビビカを見て、いいカモが来たと思い、ビビカとの勝負を受けた。
「それではレディ〜〜〜・・・、ゴー!!」
レフェリーである店主の掛け声が店中に響き渡る。
しかしその瞬間、自分のその判断は間違っていたと、男は思い知る。
「うおりゃあぁっ!!!」
なんとビビカの馬鹿力で、男の片腕は即座にテーブルに叩きつけられたばかりか、その体は勢いあまって一回転して店の床へと叩きつけられたのである!!
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店に集まった野次馬たちはビビカの豪腕にざわついた。
「ち、ちくしょぉ…なんだこの怪力女は…
ったく!!!いけすかねえなあ!!!!お前らやっちまえ!!!!」
傷の男が苦い顔でそう叫ぶと客の中から10人程度だろうか
短剣を持った猛者たちが駆け寄りビビカを囲んだ。
「なんだ。私とやろうってのかい!?面白いねえ。」
その時だった。
「あんたたちやめときな!!!!!みっともないねえ!!!!!」
酒場の入口に目をやると大柄の女性が立っていた。
「か、カシラ!!!」
「負けを潔く認めな!男らしくないよっ!!!!」
カシラと呼ばれる女性がずんずんこちらに向かってきた。
皮の服を着た赤毛の女性を見てビビカは直ぐに気付いた。
「もしかして…エナ殿!!!!!!」
「久しぶりだねえビビカ!」
なんとその女性は過去に黒騎士との戦いを共にした山賊エナだった。
エナは相変わらず男のような肩幅、こぼれるような乳房、
そしてエナもまたビビカに負けることない巨大な腹をしていた。
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夜の闇も更けた町の酒場は、さらに客の数が増え、賑わいを増している。
その大騒ぎの中心にいるのは、ビビカとエナだ。
二人の大女は、互いの巨大な孕み腹を突き合わせながら、同じソファに座る。
巨大なテーブルに山盛りに盛られた御馳走を物凄い勢いで、もう二時間以上も食べ比べをしているのである。
「ッふぅぅ・・・!!これで58枚目っと・・・。
ふふふ、どうやら私の勝ちのようだねぇ・・・。そろそろ降参した方がいいんじゃないのかい、ビビカ?」
「なんの!私の胃袋はこれしきの量では、びくともしませんよ!!うぉりゃああ!!!」
「まだ喰えるのかい!?相変わらずだねぇ!!うごぉああああ!!!」
「ぬぉおおおおおおお!!!」
一心不乱に飯を食べまくる二人に、それを見ている周囲の人物たちの方が腹いっぱいになるのであった・・・。
大国に単身乗り込み、力試しの意味で強大な騎士団たちに勝負を挑んでいた女豪傑のエナは、いつしか「暁のエナ」と呼ばれ、
一万もの子分を率いる世界最強の盗賊団の頭を務める程にまでなっていたのである。この追剥の町も、エナの所有物の一つである。
とはいえ、「暁のエナ」は同業者の山賊や盗賊しか狙わない山賊である為、騎士団を壊滅させられた国以外での評判は良い事が多いらしい。
勝負が着かない為、ひとまず二人はひと段落して箸を置き、久しぶりの旧友との会話を楽しんだ。
「にしてもビビカ、あんたは今でもそのでっかいボテ腹かかえて怪物退治の旅をしてんのかい?
相変わらずだねぇ・・・、私が言えた義理じゃあないけど・・・。」
「エナ殿もとても立派なお腹をしておりますよ!
しかしエナ殿が、あの「赤き牙」と呼ばれる最強の山賊団を務めているとは驚きです・・・。」
「別にたいした事じゃあないよ。むかついた連中を叩きのめしていたら、いつの間にか頭領になってくれって云われて、その地位についてるだけさ。
今はここでこの子を育ててるんだよ。」
エナの太い腕には、ぐっすりと眠る女児の赤ん坊が抱かれていた。
「可愛いものですね。私も双子を産みましたが、やんちゃで困ったものですよ。
神の力を引いているから、力も強くって・・・。」
「ははは、子供は元気ならそれでいんだよ!あんたの腹の中の子も、もうすぐなのかい?」
「ええ、臨月はとうに過ぎているのですが、なかなか産まれてくれる気配が無くて・・・。」
「そうかい、私もおんなじなんだよ。・・・よし!それなら!」
するとエナは子供をそっと女性の部下に預けると、すっくと立ちあがり、やにわに毛皮の服を脱ぎ捨てた。
褐色の爆乳がボルンと露になり、おおっと歓声が起こった。
「あ、エナ殿。どうされたのですか?」
「なにって、食ったし呑んだし、ちょっと腹ごなしにあんたと勝負したくてね、ビビカ。」
「えぇ!?」
「最近、どうも歯ごたえのあるのと闘えてなくて、腕がなまっててね。
そこにあんたが現れてくれて、嬉しくてね!ビビカ、あんたに敗けてから、いつかもう一戦やりたいと思ってたのさ!
産まれたら、当分戦えなくなっちまうしね。
さあ、ビビカ!やろうぜ!!」
Tバック状の下着一枚の姿で酒場の中央にまで歩き、ビビカを手招きするエナ。
「カシラが闘る気だぞ!!」
「おお、やったぜ!!俺たちじゃ束になっても勝てない、カシラのバトルが見られるぞ!!」
「相手もデカい腹の妊婦だ!!!これはスゲェ事になりそうだぞ!!!」
「あの腹同士で殴り合いの大喧嘩だ!どちらかが破水するのは間違いないぜ!!」
「俺はカシラが勝つ方に金貨10枚賭けるぜ!!」
赤き牙のメンバー、町の客たちも二人の勝負に興味津々の様子だ。
ビビカにとって、どうにも断れる状況ではなさそうである。
「・・・仕方ありませんね。」
腹をひと撫ですると、ビビカも立ち上がり、エナの前にまで向かい立った。
「あんがとよ、ビビカ。」
エナはやさしく微笑む。
体格の良い、大女の妊婦同士によるプレグナント・デスマッチが、今まさに始まった。
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「レディ!!!ゴォー!!!」
バチィン!!!!
そう店主が叫ぶと上半身裸の身重の巨体が激しくぶつかり合った。
明かりに照らされた汗まみれの乳房とせり出した妊婦腹が
じりじりぬるぬる擦り合っている。
「エナ殿、やっぱり普通のお腹じゃないですね!」
「流石ビビカ、ビビカの腹も双子の時よりもでかいよな!腹の子は何人!!」
「3人!もしかしてエナ殿も…」
「あぁあたしも3人の赤ん坊さぁっ!!!」
その時ビビカはぶつかり合うエナの臨月腹から伝わるものに違和感を感じた。
(もしかしてエナ殿…神の子を孕んでいるのでは…)
そして察した。
エナの三つ子の妊娠と妊婦失踪事件と何か深い関係があるのではないかと。
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(まあ、特に確証があるわけではないけれど、今はともかくこのエナ殿に勝たねば・・・!!)
ビビカは強く拳を握りしめる。そして。
「ぬおりゃあああっ!!!」
ビビカの渾身の右ストレートがエナの顔面に炸裂する!!
「うごおぁっ!!」
まともに食らったエナは、派手に吹き飛ぶ。
「わああっ!!!」
「ひいぃ!!!」
吹き飛んだエナの巨体は、七人ぐらいの男を巻き込んで、店の壁にブチ当たった!!
神の血を引く者同士の戦いは、近くで見ているだけでも命懸けである。恐ろしさのあまり、たまらず逃げ出し始めた者までいる程だ。
「へへへ、すまねぇな、アンタたち・・・。」
口元の血を拭い、ムクリと起き上がるエナ。
巻き込まれた男たちは皆、そろいもそろって失神してしまっているが、当のエナには大してダメージが効いてないようである。
すると、エナは身をかがめる。
「今度は・・・、アタイの番だオラアアッ!!!!!」
「!!」
妊婦とは思えぬ素早いエナのタックルがビビカの体を両手で抱き掴み、そのまま突き進む。
そして店のカウンターに、二人の体が突っ込んだ!!
「うわああっ!!」
ガッッッシャァアアアーーーーーーーンッッ
派手に酒や水の瓶が割れ、重なり合って倒れている二人の体に、大量の液体が降り注ぐ。
「うぅ・・・。」
壁にぶつかり、そのまま床に叩きつけられたビビカは、頭がくらくらしている。上の胸当ては完全にずれ落ち、乳房は丸出しの状態だ。
ビビカの体に覆いかぶさるように、エナの体がのしかかる。
「どうしたどうしたビビカァ!!まだまだ楽しもうぜぇ!!!!!」
久しぶりの歯ごたえのある相手に、エナはすっかり興奮していた。
激しい戦闘は間違いなくエナの破水の時期を早めつつあるが、今の彼女は、ビビカを倒す事しか考えていない。
「乳しぼりの時間だ!!」
両手を大きく拡げたエナは、そのままビビカの爆乳を根元から掴むと、万力の如くの握力で握りしめた!!
「うああっ!!!」
じわりとビビカの乳房から母乳が滲みだしたかと思うと、次の瞬間、母乳が噴水の様に噴き出し始めた!!
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「あっ…あぁ……」
三つ子の為に張りに張ったビビカの母乳がこれでもかという量搾り出された。
乳の張りが楽になった反面、ビビカの腹は
締め付けられる様にカチカチに張り、ビビカは腹を抱えた。
「どうだいビビカ!!!腹の子は様子は!!!観念する気になったかい!?」
しかしビビカは神の血の混じった頑丈な身体。
これくらいではまだ出産には至らない。
不敵な笑みを浮かべたビビカは
油断したエナの三つ子のいる腹に飛びついた。
強靭な握力で腹をガシッと掴み、
かき回すように野次馬の中にエナを投げつけた。
ガシャアアアアアアアアアン!!!!!!
今の衝撃で木製の店の床に大きな穴が開いた。
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「うぶぅっ!」
エナは腹を抱えて倒れる。
「はぁ・・・、はぁ・・・!」
びしょ濡れの体で起き上がり、拳を構えるビビカ。
エナのあまりにも強靭な握力で握られた為、ビビカの両の乳房からは、未だにピュピューッと母乳が滴り落ち、床を真っ白く染め上げていた。
二人の凄まじすぎる戦闘ぶりに、人々は遠巻きに離れ始め、たまらずエナの子分たちがエナに呼びかけた。
「かっ、カシラ!もうそのへんで!!」
「この暴れっぷりじゃあ、店がぶっ壊れちまいやす!!」
「うっせぇ!!あたいは、ビビカと楽しんでんだ!!邪魔だから離れてろ!!」
「ひぇっ!!」
エナに一喝され、子分たちは慌てて引っ込む。
店内には、ビビカとエナの二人だけとなった。
再びエナは、ビビカと向き合う。
「へへ・・・、まだ乳が出てんのかい、ビビカぁ・・・。乳牛より凄いねぇ・・・。」
「赤子への大事な乳をむやみに出させるのは感心しません!・・・でも、お陰で張りはいくらか治まりましたが。」
「そうかい・・・。そんなら、もっと搾り尽くしてあげるよっ!」
乳房と孕み腹を揺らし、エナは猛牛の様に突進する。
しかし今度はビビカは、エナのタックルを紙一重でヒラリと躱す。
「今度は私の番です、エナ!!」
そしてなんと今度は、エナの乳をその太い腕でチョークの要領で締め上げたのだ!!
「ぬぐあああああああああああああ!!!!!」
エナの爆乳からも乳が噴き出し始める!
「どうだ!!」
「くうぅっ!!」
しかしエナも負けてはいない。左手でビビカの下のビキニアーマーの紐の部位をひっ掴むと、そのまま上へと持ち上げたのだ。
「うわああっ!!」
ギリギリと恥部に鋭い痛みを感じ、ビビカは思わず力を緩めてしまう。
「食らいなっ!!」
その隙にエナは渾身の力でビビカの巨尻にスパァアンッと、右手で張り手を食らわせた!!
エナの掌が、ビビカの尻に沈み込む!!
「うあっ。」
前のめりに倒れ、思わずカウンターに突っ伏すビビカ。その突き出た尻に、エナのスパンキングの嵐が襲った!!
「そのでか尻、猿みてーに真っ赤っ赤にしてやんよ!!」
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スパァアンスパァアンスパァアン!!!!
ビビカの巨尻にエナの真っ赤な手形が残る。
「これでとどめぇっ…くっ…!!!!!!」
エナの腕の動きが突然止まり、急に腹を抱えて縮こまった。
「ぐ…ぐぐぅ…かぁああ……」
うずくまるエナは巨尻を後方に突き上げ力んだ。
プシュゥーーーーーーっ!!!!!
音を立てエナの陰部から勢いよく水が噴出した。
破水だ。
「あ……ああああぁ………」
エナは顔を床につけ、羊水にまみれた尻を天に突き上げた。
ビビカに腹を掴まれ投げられ、母乳を搾られ腹はパンパンに張り
神の血を継いでいない純粋な人間のエナの身体は流石に限界に来ていた。
「カ、カシラぁ!!!!」
出産が始まったエナを心配し
子分たちがエナの周りに群れを成した。
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倒れたエナは、荒く呼吸をしながら呟いた。
「クッ、タイムリミットか・・・・・・!これからだったってのに・・・!」
「ふぅ・・・、ふぅ・・・。やっと限界が来ましたね、エナ殿。」
すると、喧騒の中、エナにされるがままだった筈のビビカが、ゆっくりと立ち上がった。
「ビビカ・・・。
はっ、まさかお前・・!!」
エナはビビカの様子を見て、すぐに気づいた。
戦闘中、ビビカはエナの体がもう出産を始めているのに気が付いていたのだ。
なので、エナが自然と破水をするのを待つ為、余力を残し、あえて好きに尻を叩かせていたのである。
「くくく・・・、ははは・・・!!いやあ、参ったねぇ!流石だよ、ビビカ。
闘ってる最中の相手に身体を気遣われていたとあっちゃあ、戦士としておしまいだね。
ビビカ、あんたと違って、少なくとも、この腹じゃあ今後戦えない・・・。あたいの負けだ。」
「いえいえ・・・、あと一分ほどエナ殿が持ちこたえていたら、私の方が破水をしていたところでした・・・。
この勝負、引き分けってところですね!」
真っ赤に腫れあがった尻を摩りながら、ビビカはにこりとほほ笑むのであった。
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安堵の笑みを浮かべたのも束の間。
エナの陣痛が強まっていた。
初めてビビカに負けた時のように
ほぼ全裸に近いその身体で大の字に寝そべった。
「あぁあああああああああああああ!!!!!!!!!
うまれっるぅうううううううううう!!!!!!!!」
叫び声と共に褐色の爆乳と三つ子のいる腹を腰から天に突き上げ
脂汗にまみれているエナ。
乱闘騒ぎに湧いていた先ほどの空気とは一変
周りの子分たちは動揺を隠せない表情である。
「あんなたち!エナ殿の子分なんだろ!!!あたしと一緒に介抱しな!!!」
「は!はい!!!」
先ほどまでビビカに敵意を見せていたエナの子分たちが
まるでビビカの子分になったかのように従えていた。
エナを支える子分たち、
ビビカはたくましいエナの太ももの間の
子宮口の正面を堂々とした表情で陣取っていた。
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数時間が経過した。
「エナ殿、しっかり!!」
「ううううう・・・・・・うぐうううううう・・・!!!」
脂汗を流しながら、エナの体力は限界を迎え始めていた。
エナは二人の子を産み終えており、残すは一人だけだ。
しかしその子が先の二人に比べ巨大児である為、頭は見えるが、なかなか出てこない状態なのだ。
このままでは、母子ともに危険である。
「やべぇぞ、カシラももう体力が・・・!」
「こうなったら、もう腹を開くしか・・・。」
不安そうにざわめく赤き牙のメンバー達。
するとビビカがある提案を言った。
「仕方がない・・・、こうなれば、私がエナ殿の腹を押して強制的に出産させます!
エナ殿を鎖か何かで床に縛り付けてください!」
「ええ!?そんな無茶な・・・!!」
「早く!!!エナ殿は、もう時間がないんだぞ!!!」
「は、はい・・・!」
急遽、太い釘と鎖で、エナは大きく股を開いた状態で、巨人ガリバーのように全身を床に縛り付けられた。
舌を噛まないよう、猿轡も口にはめられた状態だ。
「エナ殿・・・、もう少しのご辛抱を・・・!!」
もうほとんど意識を失いかけているエナの剥き出しの孕み腹に、ビビカはそっと両の手を置いた。
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仰向けのエナの最後の子がいる腹の上にどっしりまたがるビビカ。
店内が静まり返る。
エナの腹部に片手をかざし深く息を吸ったビビカ。
次の瞬間、全体重をかけたビビカの掌底打ちが臨月腹に炸裂した!!!!
ドォオオン
「ああああああああああああああああ」
猿轡の奥底からエナの叫び声が聞こえた。
子宮口からメリメリと巨大な頭が顔を出した。
「カシラ!!!頭が見ましたぜ!!!後もう少し!!!」
自分の腹の子と共に呼吸を整えるように深く息を整えるビビカ。
目を見開いたビビカはもう一度エナの腹に掌底打ちを放った!
ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!
ばしゃあああああああああああ!!!!!!!
血混じりの羊水と共に先に産まれた二人の倍はあろうかという大きさの
巨大児が勢いよく噴出された。
「カシラ!!!!やったぜ!!!!」
店内は歓喜に沸いた。
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数日後、エナのアジトの一室。
ようやく体力が回復したエナは、ベッドに寝ながら、傍で座るビビカと談笑していた。
「まったく・・・、無茶するねぇ、ビビカ。
出産より、アンタの掌底で死んじまうかと思ったよ!」
「すみません。一刻を争う事態だったので、ああするしかないなと思いまして・・・。」
「まあ、いいさ。感謝してるよ。子供たちを救ってくれてね。」
「しかし、元はといえばエナ殿が決闘で、無茶な形で破水したから、あの様な出産になったのでは・・・。」
「うっさいよビビカ!!」
そして二人は、どちらからともなく笑い合うのであった・・・。
「しかしビビカ。アンタ、なにかする事があってこの街に立ち寄ったんじゃあないのかい?」
「あっ、しまった!そうでした!
エナ殿、実はお聞きしたい事が・・・。」
ビビカは神殿での経緯をエナに話した。
「う〜ん・・・。妊婦失踪事件ねぇ・・・。
噂にゃあ聞いてるが、あたいは特に知っている事はないよ。すまないね。」
「そうですか・・・。」
「・・・でも、怪しい場所なら知ってるよ。」
「え!本当ですか!」
エナはムクリと起き上がると、傍の机の引き出しの中から地図を取り出し、ビビカに見せた。
「エナ殿、これは・・・?」
「この世界で唯一にして最大最悪の、悪法の街「サドバトス」への地図さ。ゴッドシティとも呼ばれてるよ。
表向きじゃあ敬虔な神教国家を謳っちゃあいるが、その裏じゃあ麻薬の買収、大量殺人、凶悪犯罪なら何でもござれな無法地帯の街なのさ。
さらに今じゃあ御法度とされている、殺し合いを目的とした闘技場まで日夜開催されているとか・・・。」
「なんですって!!そんな場所がまだ存在していたのですか!!!許せない!!!」
ビビカは怒りの声をあげた。
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「今の平和な世の中で、可能性が考えられる場所は、ここだけしかないね。
ビビカ、間違いなく危険だろうが、行く気だろ?」
「勿論です!!平和を導く戦女神として、このふざけた国をブッ壊してやります!!!」
「ハハハ!それでこそ女傑ビビカだ!!気を付けていくんだよ!!」
「はい!」
こうして目的地が定まったビビカは、エナと別れ、サドバトスへと進路を取るのであった。
追剥の町から旅立つこと数日。
エナから貰った食糧も底を尽いた頃、ようやくビビカはサドバトスがある大陸へと渡る船があるという港町へとたどり着いた。
さっそく船を手配しようとするビビカ。
しかしサドバトス行きへの船は、どこの船乗りたちもサドバトスの噂を恐ろしがって、出そうとはせず、ビビカは途方に暮れていた。
そんな時、三十代ぐらいの男がビビカに話しかける。
その男が言うには、自分はとある船の船長で、ビビカにサドバトス行きへの船を手配してくれるという。
「おお、ありがとうございます、キャプテン!感謝の言葉もない!」
「いえいえ、ではこちらに・・・。」
案内された船はとても大きく近代的だが、ボロボロで怪しげな風貌をしていた。
「この船に乗れば、明後日には大陸へと着きます。渡し賃も、貴女が持っている分だけでかまいませんよ・・・。」
「おお、なんと有り難い!本当にありがとうございます!」
「いえいえ・・・。」
喜び勇んで船に乗り込むビビカ。
乗船した者たちの中で、女性はビビカだけであり、船はゆっくりと出港を始めた。
ビビカを案内した船長は、恐ろし気な顔つきで部下と話している。
「ふふふ、久しぶりに獲物がかかったな。しかも孕み女だぞ。見たか、あのでかい腹・・・。」
「ええ、呑気に腹を摩りながらテラスで海を見つめていましたよ。くくく、ここが何の船なのかも知らずにね・・・。」
この船はサドバトスへと奴隷を送る船であり、乗組員は全員奴隷商業に携わる極悪人たちだったのだ!
何も知らず、案内された船室で呑気に眠るビビカを他所に、ゆっくりと夜が更けていくのであった・・・。
-
「大きいお腹ですね!」
夜が明けテラスで海の朝日を眺めているビビカに
声をかけてきたのは20歳前後であろう
陽気なポニーテールの女性だった。
緑色の布の服を着ているその女性の腹部を見ると
ビビカ程ではないが膨らみを帯びている。妊婦だ。
「おう。あなたもサドバトスへ?」
「はい。お腹の子の父親が神聖な街サドバトスに出稼ぎに行ったきり
戻ってこれないようなので、そこで産もうと思っているのです。
この船にはそういった家庭のお嫁さんや妊婦さんも
多く乗っているみたいですが…あなたもそういった妊婦さんですか?」
「ま、まあ似たようなものだな…」
神聖な街?ビビカはサドバトスの噂を耳にしてはいたが
彼女にはそのことは伝えなかった。
お互い名を名乗った。
彼女は自分の名をイリーナと名乗った。
ビビカは半人半神であることも
旅の目的も彼女には伝えなかった。
「しかしこの船の様子、なんだか変だと思いません?
大都会へ向かう船なのになんだか異様というか…
それでちょっと不安になってビビカさんに声かけたんです。
なんだか信頼できそうな方だったので!」
確かにこの船の中の雰囲気は異様だった。
誰かに狙われているような殺気を感じていたビビカは
浅い睡眠をとりながらも警戒をしていた。
-
航海の旅は二日目を迎え、もうそろそろサドバトスへの大陸が見えようかという頃。
船のならず者たちは、行動を開始した。
イリーナや他の妊婦たちを捕まえると、船倉に閉じ込めたのだ。
「さてと、あとはあのデカい女だけだが・・・、こんなに大勢で取り囲む必要があるのか?」
「馬鹿いえ。ボテ腹とは言え、相手は女戦士だ。用心に越した事はないだろ。」
「それもそうだな・・・。」
そう言いながら歩く男たちの姿は、いつしか人間ではなく化生の姿へと変貌していた・・・。
シャァァァァァァ・・・・・・
「ふぅ・・・、気持ちがよいな・・・。」
一糸纏わぬ姿で、浴室のシャワーを浴びるビビカ。
数日前に搾りに搾った筈の乳房は、もうたっぷりと母乳を蓄えており、パンパンに張りつめていた。
「放っておくと、いくらでも大きく膨らんでいくのが困り者だな・・・。
サルバドスへ着いたら、何人かの子に乳を吸ってもらわなくてはいけませんね・・・。」
温かな湯を全身で浴びながら、ビビカが乳房を揉み解していた時だ。
バァァンッ
「何ッ!!」
乱暴に扉が開かれた音にビビカが振り返ると、手に剣や鎌などの武器を持った、様々な姿かたちをした獣人の魔物たちがぞろぞろと侵入してきたのだ。
「邪魔するぜぇ、戦士サマ。」
「貴女たちは・・・、人外の者だったのか!」
「ヘヘヘ、そういう事よ。この船が罠だったとも知らずに、呑気なモンだぜ!」
「私と闘る気ですか!?」
「お前みたいな丈夫で、色々と役に立ちそうなヤツは特別、丁重に扱わなきゃならないんでね・・・。
悪いが、総出でかからせてもらうぜ!!」
ビビカは全裸の状態で魔物たちと向き直り、拳を握りしめながら考える。
自分ひとりなら海へと飛び込んで脱出する事も可能だが、イリーナ達も今頃捕まっているであろうから、そうするワケにもいかない。
「仕方がない・・・、かかってこい!!獣ども!!!」
巨大な船の上で、ビビカVS五十体もの魔物たちとの戦いが幕を開けた!!
-
おおおおおおおおりゃああああああああ!!!!!!!!
ビビカの叫び声と共に襲い掛かった獣人たちが次々と投げ飛ばされていく。
先ほどまで綺麗に片付いていたビビカの木製の宿部屋の
壁や床に穴が開き、机やベッドまでも粉々になり
一瞬にして廃墟のような風貌へと変えた。
何十人と獣人を吹き飛ばしても劣れる事を知らない裸のビビカ。
今まで以上に張りに張った乳房からは力む度にあちこちへと母乳が噴出された。
激しい動きに産み月の近い三つ子腹から強い胎動を感じていたが
難なく40体ほどの獣人をなぎ倒して行った。
後方に構えていた下っ端の獣人たちが話をしている。
「おいおい!嘘だろ…アレが本当に噂に聞いていた
赤い牙の頭領かよ?人間とは思えねえな…」
「腹の大きさはあんくらいデカかったはずなんだが…
でも待てよ!サドバトスのボスに孕まされたエナって女は
髪が赤かったはずだぞ!!!」
「じゃああの女がエナじゃなかったら何だって言うんだよ!!!!」
「ちょっと待ちな!!!!!!あんたたち聞こえてるよ!!!!!!!
エナを孕ませたやつが何だって!!!!!!教えな!!!!!!!」
「まずい!!こっちに来るぞ!!船長の所へ報告するぞっ!!!」
下っ端の獣人は颯爽とビビカの元を去って行った。
-
「なんという凄まじき力だ・・・、美しい・・・。
あれは、女神の力に他ならない・・・。」
遠くからビビカを眺める船長の姿は、青い肌の蛸の姿をした獣人であった。
輪郭や胴体は人の形をしているが、その両手足は何本もの触手がまるで手足を形成するかのように、絡み合い、その体を立たせるように支えていた。
「待てぇ!!」
血染めの拳を握りしめ、乳房と孕み腹をドスドスと揺らしながら、船の甲板へと踊りだすビビカ。
「こんの怪物妊婦があっ!!」
数匹の獣人が頭上からビビカ目掛けて襲い来る。が、
「フンッッッ!!!」
信じられぬ反射速度で躱された後、ビビカの肘打ちや足刀が、獣たちに撃ち込まれる!!
「ぐがぁっ」「ごぇはっ!!」
派手に吹き飛んだ魔物たちは、船にぶつかり、海へと投げ出されていった。
「ひぃぃ、な、なんて女だ・・・。」
「俺らじゃあ、とても敵わねぇよ!逃げろ!!」
退却を始める獣人たち。その一体が、ふとビビカの異変に気が付いた。
「お、おい、見ろ!あいつ、何する気だ!?」
「ふんぐぐぐぐ・・・・・・。」
見ると、甲板の隅で顔を真っ赤にしたビビカが、股を大きく拡げた状態で、身体を屈めている。
「しめた!!あいつ、いきみ出しはじめたぞ!!」
「あんなボテ腹で闘ってたのが、無理があったんだ!今だ、やっちまえ!!」
チャンスとばかりに襲い掛かる魔物たち。
しかし、ビビカは遂にいきみ始めたわけではなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
派手に母乳を噴き散らしながらビビカが天高く持ち上げたのは、船の巨大な鎖だったのだ!!
「なっ、なにぃ!!」
「罪のない女たちを狙った事、このビビカを怒らせた事、地獄で懺悔しろぉ!!!!!」
凄まじい速度で鎖をブンブンと振り回すと、ビビカは鞭のように、残りの獣人たち目掛け、鎖を横薙ぎに叩きつけた!!
-
「素晴らしい女神だ。
赤い牙の頭首だと思っていた女が
まさか妊婦の女神だったとはねえ。」
残りの獣人たちが鎖の下敷き中、蛸姿の船長は余裕の笑みを浮かべた。
「次はあんたの番だよ。」
ビビカはジャリジャリと重い鎖を手元に巻き始めた。
「おっと…いいのかなあ。この船の舵を取っているのは私。
この船を沈める事だって容易い。
沈んだ所で私は海でも生きれる身体だがな。
息絶えるのは船倉にいる妊婦たち…。」
「くっ…!卑怯な…!!」
「まあ落ち着きなさい。外を御覧なさい。」
船の前方には高い塀のある城がそびえ立つ島が見えて来た。
「サドバトスにもう直ぐ着く。話は着いてからでもいいじゃないか。
それに赤い牙の頭首を孕ませたうちのボスの話も聞きたいんだろ?」
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
その時だった。隙を見せたビビカに宿部屋倒れた獣人たちが一斉に襲い掛かり
ビビカの手足に鎖を巻きつけその先には錨をくくりつけた。
顔を真っ赤にして必死に抵抗する裸のままのビビカだったが
乳房から母乳が噴出するだけでびくともしなかった。
「安心しなさい。あなたの命もお腹の子の命も保障しますよ。
こんなに活きの良い女神の妊婦を連れて帰れるなんて大手柄だ。
ここで産気づかれたら価値が下がる。
お前たち!この女を船倉に連れて行きなさい!!!」
-
(まずい、このままでは私だけではなく、イリーナ殿達まで・・・!!)
ビビカは、両腕に力を籠める。そして、
「ふんぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
ブッッッッッチィィィィ!!!
渾身の力で鎖を引きちぎり壊した!!!
「なっ・・・!!」
「ウオオオオオオオオオ」
両手中に巻いた鎖の拳が、獣人たちに炸裂する!!
「ぐべああっ!!」
今度こそ一人残らず子分どもを海へと殴り落とすビビカ。
「ま・・・、まてっ・・・!
この舵がどうなっても・・・!!」
あわてて舵を壊そうとする船長。
だが、それよりも早く神速のフットワークで、ビビカは間合いを取ると、
船長の顔面に、拳を叩き込んだ!!
「ッッッぐぁはあっ!!!」
血反吐を吐きながら、船長の体は海へと落ちていった。
「はぁ、はぁ・・・・・・。」
すぐさま船の舵の進路を変えると、
ビビカは戦争の扉をこじ開けて、イリーナや他の妊婦たちを解放した。
「ビビカさん・・・、ありがとうございます・・・っ!
本当に凄い・・・!!たった一人で、あの恐ろしい人たちを蹴散らしちゃうなんて・・・!」
「イリーナ殿、時間がありません。
この船の進路は変えました。
この近辺の島々まで船を走らせ、そこの人々に助けを求めてください。
私は・・・、あの島へ行かなくてはなりませんので、ここでお別れです。」
「そんな・・・、ビビカさん御一人であそこへ行くのですか・・・?」
「ええ、あそこにはイリーナ殿や、他の方々の親族だけでなく、
いまだ多くの妊婦が幽閉されているのだと思います。そんな人々を助けねば・・・。」
「で、でも、ビビカさん・・・。」
「大丈夫!このビビカにお任せください!
あっという間にイリーナ殿たちのところへ、ご家族を帰らせてみせますよ!」
笑顔でドンと胸を叩くビビカ。
「・・・わかりました、ビビカさん。ご厚意に甘えさせてもらいます。
貴女のその神懸かった強さ。私が心配するだけ、野暮なものなのでしょうね。
しかし、くれぐれも無理をしないでくださいね・・・。」
彼女の強さを目の当たりにしたイリーナ達も、ビビカに望みを託すのであった・・・。
「はい!」
こうしてイリーナ達を逃がすことに成功したビビカは、
船の中にあった小舟で単身、囮になる形で、サドバトスへと向かうのであった。
-
サドバトスの近代的で巨大な城下町の一角にある、小さな港に到着したビビカは、
わざと奴隷商人たちの処へとおもむき、お前たちの船長とその子分たちはぶちのめし、船の女たちは全て逃がしたと告げた。
相手は驚き、すぐさまビビカを捕まえるが、ビビカは今度は抵抗をしなかった。
サドバトスの中へ入国するには、一度捕まって入った方が手っ取り早いと考えたからだ。
身包みをはぎ取られたビビカの拘束は、厳重なものであった。
顔の上半分には、十字の紋章が入った、銀色のマスク状の鉄仮面を取り付けて視界を制限させられ、口には馬の様に轡がかけられる。
さらに両腕には鎖の繋がった手枷が取り付けられていた状態で、ようやく入国を許可された。
素っ裸でサドバドスの街中を乳を揺らしながら歩かされるビビカは、人々の噂声に耳をすます。
「なんて大きな女だ。乳も尻も牛の様にデカい・・・。」
「乳輪もあんなにデカく、どす黒い・・・。しかも乳が滴っているじゃあないか・・・。」
「おお、見ろ。あの腹を・・・。」
「孕んでいるのね。中の子が蠢いているわ。この国で堂々と、あんな今にも産まれんばかりの大きなお腹を見せつけるなんて、なんと恐れ多い・・・。」
「・・・でも羨ましいわ。私も、一度でいいからあんな孕んだ姿で、この街を歩いてみたい・・・。」
「シッ!なにを勝手なことを云ってるんだ!警察に聞かれたら、厳重に処罰されるぞッ!」
人々の声を聴くうちに判った事は、どうやら敬虔な神教国家であるサドバトスは、禁欲を美徳とする国という事だ。
国の許可が下りない内は、勝手に子を作る事は許されないという。もっとも、裏では何をしているか分かったものではないが。
ビビカはこれまでの人生でエルシオにしか体を許した事はなく、交わった相手もエルシオのみという清廉な身体だが、
淫欲に耽り、その過程で今まで何人もの子を孕んだ女だと、町衆たちは勝手に噂しあっていた。
(気持ちの良い〝設定〟ではないが、隙を見て逃げ出すまでの辛抱だ、我慢しよう。)
そしてビビカは、教団警察と呼ばれる、サルバドスの警察が管理する、小さな刑務所の監獄へと連れていかれた。
「ほう、神の力を感じるな・・・。しかも強力な・・・。
小賢しい天の者どもが、また刺客をよこしたか・・・?」
近代的なサドバドスの首都の中央に位置する、サドバトス城。
その玉座で、一人の男がワイングラスを片手に、王の椅子に座っていた。
闇のように禍々しい漆黒の、重厚な鎧を着た、恐ろし気な顔立ちの男だ。その体躯は、ビビカ程ではないが、巨大である。
男の名は、「暴王」ヴォルネル・ハインヤード。
サドバドスの初代国王にして、この大陸を統べる程の魔力を持った男である。
「くくく。しかし我が手の中で、わざわざ握りつぶされに来るとは、天も懲りぬものだな・・・。」
静かに笑いながら、ヴォルネルはワインを口にした・・・。
-
一方、ビビカは警察署の狭い檻の中に鎖で縛られた状態で閉じ込められていた。
ビビカは、持ち前の地獄耳でこの国の素性を大まかだが調べ上げていた。
なんでもこの国の司法や警察は王であるヴォルネルを頭目とした、サドバトス教団と呼ばれる集団に全権が委ねられているという。
(ヴァルネルを始めとしたサドバトス教団が、真っ黒な邪教集団だとすれば、
エナ殿の言う通り、この国はとんでもない横行がまかり通っている無法地帯だな。)
すると檻が開けられ、黒フードを纏った男たちが入ってきた。
「誰です?」
ビビカが尋ねると、中央に位置する男が答えた。
「我々はサドバトス教団の神官を務める者だ。聞けば、そなたは女神と称しているらしいな?」
「ええ。私は戦神ビビカと申します。」
「神の名を騙るなど、この国の平和を乱す要因だ。厳重に処罰されると知っての言動か?
ただでさえ我が教団の許可なく子を、しかも多胎児を孕む事は、我が国が崇める神に背く重大な反逆行為であるのにな。」
この男たちも奴隷商、そして教団の悪事に携わっているには違いない。
はじめから難癖付けて、ビビカを重罪人に仕立て上げ、この国から逃がさない筋書きなのだろう。
「なら、どうするおつもりか?」
静かに尋ねるビビカに対し、神官はニヤリと笑うと返答した。
「そなたには重労働を担当する奴隷になってもらい、場合によっては闘技場にて、剣闘士もやってもらう。
そこで巨額の資金を稼ぎ、我が教団への布施を貢ぐことが出来れば、自由の身にしましょう。」
-
「剣闘士…面白そうですね。この檻の中じゃ退屈でしかたない。
それに名を上げればこの島のボスとやらに会えるのですよね。」
「あぁ。闘技場に王ヴォルネルも観に来ることだろう。
しかしそれは最後まで勝ち続ければ…の話だがな。」
「それなら話は早い。いつからその闘いが始まるんですか。」
「もう明日からだ。
他の妊婦たちは明日の為に何ヶ月も鍛えぬているが
お前にはそんな時間は要らないだろう。」
「ちょっと待て…妊婦たちって…」
「あぁ。これから出てもらうのは妊婦同士の剣闘だ。
勝ち残った者は自由の身、
掟に反した妊婦たちは皆自分の子を平穏に産み育てたいが為に
必死に剣術や格闘術を鍛え抜く者もいれば、
獣人の魔力で化け物のような力を手に入れる者もいたり様々だ。
これもまたサドバトスのビジネスの一つだ。悪く思うな。」
-
「遅いなぁ、ビビカさん・・・。」
夜の神殿ではエルシオが水晶球を見ながら、ビビカの行方を探索していた。
「やっぱり全然映らない・・・、これはどこか強力な魔法がかけられた場所にビビカさんが居るから、僕の探索を阻害されているな・・・。
ビビカさんの強い聖力は感じるから、生きているのは間違いないけど、
こんなに長くビビカさんが神殿から離れる事はなかったから、これは不味いことになるかも・・・。」
不安げなエルシオが危惧しているのは、ビビカの身の安全だけではなく、その強大な力についてだった。
元々天に属する戦士たちは、時々神殿などで、戦闘で浴びた魔物の血を洗い清めてもらわなければならない。
魔の物の血肉には強大な魔力が存在する為、その清めの儀を怠ると、
聖の力が魔の力へと変化し、聖なる戦士や天使は魔の力に取り込まれ、暴走してしまう事があるのだ。
これを「堕天化」と呼ぶ。
-
「・・・・・・。」
エルシオは眼を閉じる。
かつて天族に反旗を翻し、世界を滅ぼそうとした、とある魔の一族と激突した天魔大戦を思い出していた。
ビビカがまだ初産だった頃、ビビカは天の戦士たちのリーダーとして第一陣を指揮し、
身重の体にもかかわらず、常に先頭で一騎当千の活躍をし、見事その邪悪な魔族を滅ぼすことに成功した。
しかし、その戦闘で多くの魔の血を浴び過ぎたビビカは、堕天化し、「ブラックビビカ」となってしまったのだ。
暴走したビビカはバーサーカーと化し、敵味方の区別なく暴れだしてしまった。
ブラックビビカの力は、戦っていた魔族たちよりもはるかに恐ろしく、厄介な存在であった。
天族総出でビビカを抑え込む事によって、ようやくビビカの堕天化を祓う事に成功したのである。
激しい傷跡の残る戦地。
その中央で全身に堕天化した影響で疲弊し気を失い、仰向けに倒れているビビカ。
戦闘で裸になった全身には、夥しい魔の血を浴びており、血まみれの臨月腹だけが、もごもごと蠢いている。
眠るビビカの傍らで、エルシオはそっとその頭を撫でるのであった。
エルシオは回想を止めると、目を開く。
「僕たち天族でさえ、ビビカさんの中で暴れていた邪気を祓うだけで精いっぱいだった・・・。
・・・またビビカさんが堕天化して暴走したら、沢山の国が・・・、いや、下手をすればこの世が終わってしまうかもしれない。天界も、人界も。
ビビカさんを捜しに行かなくちゃ。」
人界で天使の姿は目立つ為、エルシオは普通の人間の少年の姿になると、水晶球を大きなリュックに詰めて旅の支度をする。
そしてビビカを捜すべく、人界へと旅立つのであった・・・。
-
一方、ビビカは剣闘士たちの養成所兼宿舎へと連れて行かれていた。
この兵舎はこの国中の罪状ある妊婦たちや、孕み腹の女戦士たちが一斉に収容されているという。
「ここは・・・・・・。」
ビビカは驚きのあまり、目を見開いた。
宿舎の中にはいくつもの檻があり、その中には大勢の女性たちが入っている。
元々の職業、人種、体格、年齢、そのいずれもバラバラであろう女性たちの一同に共通するところは、その誰もが、腹部が膨らんでいるという所だった。
女戦士、剣闘士、町人、踊り子・・・、果ては貴族とも思える妊婦も収容されていた。妊婦失踪事件でいなくなった妊婦とは、彼女たちの事に違いなかった。
「でっかいねぇ、お姉さん。お腹も体も。」
声をかけられたビビカが振り返ると、そこには小柄な少女が立っていた。
褐色の肌に、三つ編みの髪、粗末な白いワンピースのような服。
そして彼女も、その細い体とは対照的に、腹部が大きく膨らみ、蠢いていた。
「私の名はヤナ。お姉さんと同じ罪人だけど、この宿舎の人たちのお目付け役をしているの。よろしく!」
「名はビビカです。天から遣わされた戦士です。」
ヤナという少女は笑顔で手を差し出す。ビビカも繋がれたまま手を出し、握手をした。
妊婦たちの中でも一番大柄なビビカは、特別丈夫な専用の檻の中に入れられる。勿論、全裸な上に、鉄仮面や鎖に繋がれた手枷も取り付けられたままだ。
更には拘束具として全身を丈夫なベルトでガッチリと縛られている。ビビカにとっては拘束になっていないが、今は大人しくそれらを身に着けている。
その傍らにはヤナが座っており、二人は話をしていた。
「へえ、お姉さん、戦士なの!港であいつら相手に啖呵を切ってたの、格好よかったよー!」
「! あなたも港町にいたのですか?」
「うん、私もけっこう稼いでいるから、町へ出ていても許されてるんだよ。勿論、長い期間宿舎から離れていると連れ戻されるけど。
でも女の人で奴隷兼剣闘士をやらされるなんて、相当珍しいよ。普通はどっちかなのに。お姉さん、相当腕がたつのね?」
「ここへ入ると布施を納めなければならないとか?ここの方たちは何を?」
「力仕事の労働、バーなんかでの踊り子やホステスなんかの水商売、そして拳闘や街中でのストリートファイト、大体はこんな感じで皆それぞれ稼いでるねー。
ちなみに私は踊り子をしているの。これでも人気ナンバーツーなのよ?
お姉さんもそのでっかいお腹を揺らして闘えば、観客も興奮して大金を出すから、たっぷりと稼げると思うよ?
ちゃんと稼いで、布施や妊娠税を収めていればひどい扱いは受けないし、私がみんなをサポートしてるから、安心してね。」
「妊娠税?」
「孕んだ女性がこの国に払わなくちゃいけない税の事。多胎児の場合は割増で、出産税もかかるの。
しかも堕胎は絶対に許されないから、一度孕んだら死ぬ気で金を納めなくちゃならないってわけ。」
「なんという国だ・・・。」
「でも街も街で裏通りやスラムがあって危険だからさー、人によっちゃあここの方が安全だっていう人もいるよ。
私もスラム育ちで、この国の裏の部分はよーく知ってるからさ。」
「・・・ヤナ殿、貴女も妊娠を?」
「ああ、このお腹?見る?」
ぺろんと服を捲り上げるヤナ。
下着も付けていない裸体で、大きな孕み腹が動いていた。
「私のお腹もおっきいでしょ!双子なの。
昔は私の一族も有名な貴族だったんだけどね、国がサドバトスに滅ぼされて生き残った私はこの国に連れてこられたの。
隙を見て逃げ出して、また捕まるまではずっとスラムで育ってたんだ。このお腹の赤ちゃんはね、友達だった男の子とのなの・・・。
もう、死んじゃったけどさ・・・。」
乾いた笑みを浮かべながら、ヤナは孕み腹を撫でた。
-
その時、檻の外から声がする。
「あの・・・、ヤナちゃん。」
「ん?ああ、シルヴィーさん。」
声のする方を見ると、一人の妊婦が立っていた。
背が高く、ウェーブのかかったブロンド髪が特徴の、育ちのいいご婦人という印象の豊満な肉付きの女性であった。
ひょうたん型が目立つおっぱいには、金、白銀、宝石で装飾された派手な装飾のビキニ風の踊り子衣装を着込んでいた。
剥き出しになったお腹はビビカのように大きく膨らんでおり、妊婦であることは明らかであった。
「この衣装、最近ずれ始めてきちゃってね・・・。
出来れば、もう少し大きめの面積の物が欲しいの。手配してもらうことが出来る?」
顔を赤らめながら、ブロンドの貴婦人は話す。
「・・・あら、新人さん?初めまして、私はシルヴィーといいますの。」
ビビカに気づいたシルヴィーという女性は、ぺこりと挨拶をした。
ヤナ(14)
元貴族の少女。双子の臨月。
気ままな性格で、踊り子を職としているが、スラムで泥棒をしていた経歴がある為、俊敏に動くことが出来る。
この宿舎のお目付け役で、必要な物は彼女が手配してくれる。
シルヴィー(43)
元大国の女王を務めていた女性。慈悲深く、高潔で優しい性格。三つ子の臨月。
ヤナと同じようにヴォルネルに一度、自分の国を滅ぼされており、同じく囚われている五人の王女や王子、
そして自分の身の中で眠る我が子たちを守るため、踊り子として暮らしを送っている。ちなみに、人気ナンバーワンである。
元は姫騎士をしていた事もあるらしい。
-
「ビビカ!?あなたもしかしてリトルバーグ国王を救ったあの女傑ビビカ様?」
ビビカの名を聞いてシルヴィーが大きな声を出した。
「た…多分そのビビカだと思いますが…」
ビビカとエナの過去の戦いを知る者は思った以上に多いようだった。
「私たちの国では貴方の名を知らぬものはいませんよ。
まさかこのような形で出会えるなんて。
あなたが南の国を救っている間、我々の国は
ヴォルネルに制圧されていたのです。
どうか用心棒にとビビカ様を探していたのですが
見つける前に我が国は滅びてしまい…」
そんな会話を聞いたヤナは
過去の二人の格の違いを知り目を丸くしている。
暗い表情から突然目を輝かせるシルヴィー。
「そうだ!ビビカ様!!!チーム戦!!
私と一緒にチーム戦を組みませんか!!
ビビカ様となら絶対に優勝出来る!!」
「チーム…戦?」
「チーム戦は3対3で戦うバトルロワイヤル形式だよ。
基本的に妊娠している女同士であれば問題ないけど
お腹の子が一人なら単胎の妊婦同士、多胎なら多胎の妊婦同士での戦いになるよ。
でもシルヴィーさん、ビビカさんと組んであともう一人はどうするの?」
「それは決まってるじゃないですか。ヤナちゃんよ。」
「えぇ!!?正気ですか!?」
「多胎戦で一番有利なのは一番お腹の子が少ない双子。
そしてあなたは14歳でまだ若い。私よりもきっと動けるはず。
私は知っているんですよ。ヤナちゃんがスラムの大男たちを倒していたことを!」
「うーん……どうしますビビカさん?
エントリーは明日からですけど
私もシルヴィーさんもビビカさんも臨月でしょうし即決しないと
お腹の赤ちゃん産まれて出産税も払わなくちゃいけなくなりますよ。」
-
「私は・・・、その戦いに参加する事はできません。」
ビビカの答えは、意外なものであった。
「えっ、なぜですの!」
「シルヴィー殿・・・、私は戦女神であり、血の滾るような戦いをする事は、我が存在の証明そのものだと感じています。
しかし、それと同時に私は、妊婦たちを守護し、健やかな愛する子が産めるように願う女神でもあるのです。
私がここへとやって来たのは、必死に我が子を守ろうと闘う母親たちを守るためです。
望まぬ形で闘っている彼女たちに、拳や剣を向ける事は、決してあってはならないのです・・・。
私の拳と剣は、常に武勇を目指す猛々しきもの、そして悪しきものにだけ向けられるのです・・・!」
能天気で猪突猛進で、
よく後先を考えずに闘うビビカであったが、そう静かに喋る姿は、まるで別人のような、まさに慈愛に満ちた女神そのものの姿であった。
「・・・確かに、そうですね。ビビカ様は、私たち妊婦を守ってくださる女神様なのですもの。
その使命を忘れ、性急な事をお願いしてしまいましたわ。ごめんなさい・・・。」
「い、いえいえ!謝る必要などございません、シルヴィー殿!
シルヴィー殿が私をお誘いしてくれたのも、シルヴィー殿が我が子を守らんとしようとするがため!
その判断は、間違っておりませんよ!」
「そうですか、ふふふ。お優しいですのね、ビビカ様。」
にっこりと笑いあうビビカとシルヴィーであった。
そんな二人にヤナが語り掛ける。
「・・・さてと!なんか話が振り出しに戻っちゃったみたいだけど、
ビビカさん、どうやって布施や税金を稼ぐ気なの?」
「そうですね・・・、う〜ん・・・。
・・・・・・他に剣闘大会はないのですか?」
「・・・それが、あるにはあるんだけど・・・。」
「本当ですか!教えてください!」
-
「でもシルヴィーさん。ビビカさんがやれそうなものって、もうこれしか残ってないよ。」
「それはなんなのですか、ヤナ殿!」
「・・・あのね、ビビカさん。実はこのサドバトスは人と人との戦いだけでなく、
サドバトス教団が造り上げた魔物と闘う剣闘大会も開かれてるの・・・。」
「おお、なんと!そんな剣闘まであるのですか!」
「うん。しかもそれもただ闘うだけでなく、特殊な場所やルールで闘うことも多い物なの。
危険すぎて、毎年数百人もの沢山の戦士の命が失われているわ。
でも、女の人が出場するのはめったにないから、その分、人気も上がるだろうね。」
「魔物たちが相手なら、このビビカも思う存分、腕を振るえるというもの!
決めました!その剣闘大会、是非とも参加したい!」
「・・・すごいね、ビビカさん。即決なんて・・・。
肝が据わりすぎだよ・・・。」
「でしたら、私もお手伝いさせてください!」
「シルヴィー殿!?」
「私は女王であると同時に、聖なる魔法を扱う術を会得した、僧侶の力も持っています。
サポーターとしてビビカ様が傷ついた時も、癒せると思います!ぜひ、私めもお供に!」
「それは心強い!ぜひ、お願いいたします!」
「・・・しょうがないなー。あくまでビビカさんのサポートでよかったら、私も戦士として参戦してあげるよ?ビビカさん。」
「ヤナ殿!」
「ヤナちゃん!参加してくれる気になってくれましたのね!ありがとう!」
こうしてビビカ(主力戦士)、ヤナ(ビビカ、シルヴィーのサポート)、シルヴィー(後方にて二人の援護、回復係)のチームで、
波乱に満ちた剣闘大会が幕を開くのであった・・・。
-
エントリーを済ませた、翌日。
「ワァアアアアアアアアアアアア」
第一闘技場。
そのすぐ隣の第二闘技場では、妊婦剣闘士たちが闘っている。
サドバトスにはいくつもの様々な闘技場が点在しており、第一闘技場は、円形のオーソドックスな巨大闘技場で、幾多もの剣闘士が集まっていた。
「モンスターファイトへようこそ、皆様っ!!!
人と魔との恐ろしい戦いを、どうぞお楽しみくださいっ!!!
そして、今日はなんとっっ!!!
臨月を迎えた三人の妊婦剣闘士が参戦だあああっ!!!
今日の剣闘大会は、一味違うぞおおおぉっっ!!!!!」
「ウォオオオオオオオオオオオオ」
実況の情報に、満員の客たちのボルテージは高まりつつあった。
闘技場の控室。
数十人もの男の剣闘士たちがそろって注目するのは、初参戦であるビビカチームであった。
ヤナ、シルヴイーはともかく、多胎児を孕んだうえ、神の名を騙り、さらには奴隷商船で暴れて壊滅させたというビビカは、サドバトスで特に注目の的であった。
「いい?まったくの新人は、最初は手ぶらに近い状態で大会に出なくちゃいけないの。
剣闘大会で自分の強さをアピールしないと、客から武器や装備、お金や食料なんかをもらえないんだ。」
独自の情報網で密かに調べ上げた、今回の闘技場のルールをビビカ、シルヴィーに教えるヤナ。
ヤナの装備は普段と変わらない。しかし服の中には、何か武器を隠し持っているのだろう。
シルヴイーは派手な踊り子の衣装に、黒い魔法のフードを纏い、杖を携えている。
初参戦のビビカの装備は、無いに等しく、ビキニアーマーの他は粗末な剣と楯のみで、しかも鉄の仮面は取り付けられたままだ。
試合中でも、勝手に外すことは許可されていない。
「戦績をあげなければ、自由に装備もできない・・・、というわけですね。しかしご安心を!このビビカ、徒手空拳でも立派に闘ってみせますよ!」
「それは頼もしいわね!
でね、今回の大会(第一回戦)の相手なんだけど・・・、どうやらキマイラの獣人らしいの・・・。」
「キマイラ!いきなり強敵の相手ですわね・・・。」
第一回戦のルールはシンプルに、選ばれた剣闘士たちと、一体の魔物との勝負である。
たった一体と思われるが、その相手のキマイラが曲者なのだ。
ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持ち、身体の各部位には、それぞれの生物の頭が生えている。
さらに獣人である為、二足で立ち、人のような筋骨隆々とした強靭な手足で俊敏な動きをする強敵なのだ。
しかも口からは火炎や氷の魔法を放つという。
激戦は必至であった。
-
「おい出てきたぞ!!あれが神の妊婦だぞ!!!!」
「でけえ!!!でけえ腹の女だ!!!やらしいぞ!!!」
普段は腕試しをする見習い剣士や
名の通った旅人が獣人と戦うことが多い
高貴な第一闘技場だが今日は客層が違う。
妊婦同士の悲痛な叫び声を聞く為にやってきた
第二闘技場の卑しい輩が大勢集まってきていた。
もちろんビビカ目当てだ。
「えぇ…こんなにお客さんいるなんて聞いてないよぉ…」
シルヴィーに隠れるように現れるヤナ。
「でも私たちが勝てばこれだけの人たちから軍資金が貰えるのよ。
ちょうど良いチャンスよ。ねえ?ビビカ様?」
先頭を切って闘技場に足を踏み入れたビビカは
真っ直ぐ前を見つめ、貫禄のある仁王立ちをしていた。
その猛々しい姿に場内は沸いた。
「二人とも…来ますよ。」
ビビカがそういうと正面にあった鉄格子が開き
二足歩行のキマイラが目を光らせゆっくりと姿を見せた。
-
「グルルルル・・・・・・。」
低い獣のうなり声をあげながら出てきたキマイラに、観客の歓声があがる。
頭部は巨大な獅子の頭、その後頭部には背中合わせの様に、山羊の頭が生えており、
胴体部分は山羊だが、手足の部分は筋骨隆々とした獅子の獣人であり、臀部には太い尻尾のように繋がった大蛇が首をもたげていた。
キマイラは闘技場内をキョロキョロと見渡している。獲物を見定めているのだろう。
「恐ろしい・・・。あんな生物を造っているなんて・・・、やはり、この国は狂っているわ・・・。」
杖を握りしめ、緊張した様子のシルヴィー。魔物との戦闘は久方ぶりなのだろう、無理もない。
ヤナはビビカの後ろに廻り、そっと話す。
「ビビカさん、作戦通り、まず私とシルヴィーさんで、襲ってくる他の剣闘士たちをかたずけるわ。
それが落ち着いたら援護に向かうから、まずはキマイラをお願い。気を付けてね!」
「ええ、お気を付けください!ヤナ殿!シルヴィー殿!」
選手たちがそれぞれ位置につくと、実況の声が響き渡る。
「さあ、それではさっそく始める事にしましょう!!
最後に立っているのは勇敢なる剣闘士たちか!それともやはり、キマイラか!
もしくは、誰ひとり立っていないのか!!
運命のゴングが今・・・・・・!!」
カァアアアアアアアアアアンッッッッ
「鳴り響いたぁあああああッッッ!!!」
「うぉおおおおおおおおおおお」
たちまち、そこらかしこで剣と剣が火花を散らす戦いが始まった。
剣闘士同士で戦う者、大物狙いでキマイラを目指す者たちだ。
当然、孕み腹のヤナとシルヴィーを狙い、襲い掛かってくる男たちもいる。
しかし、
「やぁああっ!!」
ドグォッッッ!!
「ぐぇぼおぉっ!!」
相手の男の剣を身軽な動きで軽やかに躱すヤナは、間合いを詰めると、男の首筋に鋭い蹴りを叩き込んだ。
「私、拳法も嗜んでるのよ?」
地響きをたてて倒れる男に、ヤナは妖しく微笑んだ。
「フリーズ!!」
シルヴィーの氷結魔法で、剣闘士たちの足元が凍り付く。その隙を突いてヤナが迎撃する。
長い付き合いなのか、ヤナとシルヴィーの連携はピッタリであった。
一方、ビビカの方は。
-
キマイラの周りを、幾人もの剣闘士たちが輪になって、取り囲んでいる。しかし、
「ブォオオオオオオオオオオ!!!」
獅子の口から巨大な炎が噴き上げ、剣闘士たちに襲い掛かった!!
「ギャアアアアアアア!!!」
灼熱の炎を浴びてしまい、火達磨になって倒れ、転げまわる者が続出していた。
更に背後から回ろうとする者には、獅子の背後にある山羊の口から氷結魔法が放たれ、氷で身動きが取れなくなってしまう。
「なっ・・・、くそっ・・・!!・・・」
更にそれに大蛇が襲い掛かり、その首筋に食らいつく。
「がッ・・・・!!・・・えぁ、ハッ・・・ッ!!!」
猛毒に侵された剣闘士たちは、血を吐いて絶命するのであった。
「ヒィイッ・・・、な、なんてバケモンだ・・・!!」
キマイラの恐ろしさにすっかり尻込みしている剣闘士たち。その背後から、大きな影がヌッと現れた。
「下がっていて下さい、危険ですよ。」
「えっ・・・?ひぃっ!」
振り返った男たちは、武器を放り出して怯えて身を屈めた。
そこには、ビビカの巨体がドンと立っていたからだ。
怯える男たちの間をゆっくりとすり抜け、ドシドシと地響きを響かせながら、ビビカはキマイラの前に堂々と立つ。
そして武器を構えると、腹を震わせ咆哮した。
「さあ来い!!!このビビカが相手になるぞ!!!!!」
ビビカに気づいたキマイラも、うなり声をあげながら、彼女に近づく。
キマイラも、この戦いの最大の強敵はビビカだと気づいていたようである。
-
孕み腹の大女と怪物は、向かい合い対峙した。
「おぉ、見ろ!!あの妊婦が闘うみたいだぞっ!見ろよ、あのデカい体ッッ!」
「スゲェ・・・!本当に孕んでやがる・・・。なんで、あんな腹で産気づいちまわねぇんだ?」
「すげぇな、あの孕み女・・・。他の剣闘士たちは、すっかり縮みあがっちまったってぇのに、
あのキマイラにちっともビビってねえぞ・・・。」
「しかもあの体躯、キマイラにまったく引けをとってねえ・・・!
ヤベェ、これは面白くなりそうだ・・・!!」
ビビカの巨体と孕み腹に観客はすっかり興奮し、大きく沸き立っていた。
静かにビビカは、キマイラを見つめる。
固唾をのんで人々が見守る中、遂にビビカが動いた。
「やぁああああああああ!!!」
縦一直線に剣がキマイラの脳天目掛けて振り下ろされる!!が、しかし。
ガキィインッ
「何ッッッ!!!」
剣が古い所為なのか、キマイラが丈夫な所為か、根元から剣が折れてしまったのだ。
「ならば・・・・ッ!」
ビビカはすぐに剣を捨てると、マウントを取ろうと、キマイラの体に飛び掛かった!!
-
ビビカが瞬時にキマイラの頭部を両手で掴んだかと思うと
粉塵を上げビュンビュンとジャイアントスイングをし始めた。
その姿に男の剣闘士たちやヤナ、シルヴィーも目を丸くした。
会場内は大いに盛り上がる。
でああああああああああああああああああああ!!!!!!
ビビカの雄叫びと共にキマイラは闘技場の土製の壁に吹っ飛び
壁はあっという間に粉砕してしまった。
目にも止まらぬ速さでビビカは身重の身体とも思えぬ大跳躍で
倒れたキマイラの所までジャンプし
ヒップドロップを叩き付けた。
「ビビカさん…すごい…」
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
苦しむキマイラの尾を掴んだビビカは
両手で引きちぎり闘技場の中央に投げ捨て
追い込みをかけるよう盾を武器にし
容赦なくキマイラの喉元へ突き刺した。
「うおおおおおおおおすげえぞおおおおおおお!!!!!
あの女がキマイラを一瞬でヤッたぞ!!!!!!!!」
会場の誰しもがビビカに注目していた。
-
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
魔物の血を全身に浴びながら、握りしめた拳と、筋肉が盛り上がった太い両腕を天高く突き上げ、獣の如く咆哮するビビカ。
ビビカらしい、気持ちの良い豪快なパワーファイトに、観客たちは興奮し、いつまでも沸き立ち続けるのであった・・・。
キマイラを倒したビビカの強さに、いつ処刑に処されてもおかしくない程の第一級重罪人であるにもかかわらず、剣闘士ビビカの人気は跳ね上がった。
巨体の妊婦女戦士を見ようと、次回の大会も既に予約は超過している程の人気ぶりであった。
今回の戦いでビビカには、布施や税を払ってもまだ有り余るほどの多額の報酬が支払われた。
しかしビビカは、その稼いだ金額のすべてを、兵舎の自分以外の妊婦たちに分け与えたのである。
そのお陰で、巨額の布施や税が払えず、
一か八か剣闘士として戦うしかないという、ギリギリの瀬戸際まで追い詰められていた妊婦たちと、その子供たちの命は助かる事となった。
大会を大いに沸かせてくれたビビカの扱いも少しだけ優しくなり、牢獄での手枷やベルトは取り外され、分厚い塀に囲まれてはいるが、兵舎の庭を散策しても良い事になった。
数日後。
澄んだ青空と暖かな日の当たる、早朝の時刻。遠くで小鳥たちの鳴き声が、静かに聴こえてくる。
「フゥーーー・・・・・・、気持ちの良い朝だな・・・・・・。空気が美味い。」
ヤシの木や熱帯系の植物がところどころに生い茂っている兵舎の庭の中で、腹を暖める為にビビカは、木製の風呂桶で日に当たりながら泡風呂に漬かっていた。
一見すれば、まるでリゾート地でくつろいでいるかのようだ。
「お腹の張りはどうですか?ビビカさん。」
「はい、心配はありませんよ、ヤナ殿。この子たちも、元気に動いています。」
日光に煌めく水面の下にある、巨大な孕み腹を撫でるビビカ。
一緒に湯に漬かりながら、その広い背中をゴシゴシとスポンジでやさしく洗っているのは、すっかりビビカに懐いて妹分になったヤナであった。
-
「いたっ…いたたたた……」
「どうしましたヤナ殿?身体の具合でも?」
前かがみになり腹を摩るヤナ。
「実は今朝起きてからなんかお腹に違和感があって…
もしかしたら来たかも…陣痛…」
流石に純粋な人間のヤナにとって
闘技場での戦闘は身体に負担がかかっていたのか
双子のいる臨月腹は悲鳴を上げていた。
ヤナは腰を抑えながらゆっくり湯船から出ると
四つん這いになり床を見つめながら静かに深呼吸をし始めた。
「ちょっと待ってて下さいヤナ殿!人を呼んできます!」
ビビカ全身泡と水に塗れている裸の状態も気にせず
バタバタと乳房と腹を揺らしながら皆がいる兵舎内へ向かっていった。
「ビビカ様!!!!ビビカ様!!!!」
向かう途中の廊下でいつもの踊り子姿で
お腹を放り出してうずくまるシルヴィーが呼ぶ。
「ビビカ様!」
「どうしましたシルヴィー殿!」
「人を呼んできて欲しいのです!」
「人?」
「赤ちゃんが…赤ちゃんが産まれそうなのです!!!」
「なに!シルヴィー殿も!!!?」
-
「シルヴィー殿もって・・・、まさかヤナちゃんも・・・!?」
「はい、ヤナ殿も陣痛が来たらしいのです・・・。」
「で、でしたら・・・、わたしより・・・、ヤナちゃんを先に助けてあげてください・・・!!・・・」
「そういうわけにはまいりません、シルヴィー殿!二人とも連れて行かねば!」
シルヴィーの体を抱き上げると、ビビカは急いで兵舎へと戻る。
シルヴィーの踊り子仲間たちに事情を伝え、シルヴィーを預けると、ビビカは急いでヤナの処へと駆け戻った。
しかしビビカが戻ってみると、そこには腰に手をあてながら、なんとか立ち上がっている様子のヤナがいた。
「ヤナ殿!」
「あ、ビビカさん・・・。」
「体調はどうなのですか!?」
「あ、うん・・・、なんか陣痛の方、引いてくれたみたい・・・。
アハハ・・・、ごめんねビビカさん・・・。心配かけちゃって・・・。」
「いえいえ、大事にならなくて何よりですよ。それより、シルヴィー殿が・・・。」
「え?シルヴィーさんが、どうかしたの?」
ビビカとヤナは、お腹の様子に気を付けながら、急いで兵舎の方へと戻るのであった・・・。
-
ビビカたちが兵舎の居間に戻ると
皆が食事を取るために置いてあった大きな円卓がどけられ
部屋の中央に股を大きく開くシルヴィーの姿があった。
「はぁあ…はぁああああああああああ…!!!!!!」
妖艶な吐息のような声で息むシルヴィー。
ブロンドの長い髪は汗でぐっしょり
三つ子のいる巨大な鉄球のように
丸光りしている臨月腹もまた汗で艶やかだった。
それを取り囲む宿舎の妊婦たち。
「シルヴィーさん!大丈夫!?え!もう赤ちゃんが見えてる!」
初産でないシルヴィーのお産の進行は思ったりも早かった。
「私に任せてください!お産の立会いは初めてではないから!」
シルヴィーの足元へ回るビビカ。
陰部から胎児の頭の先が既に見え隠れしていた。
ヤナは汗ばむシルヴィーの右手を両手で包み励ましの言葉を掛け続けた。
-
「あぁ、産まれるぅぅ!!」
ブシッと音を立てて、羊水を噴き出しながら、シルヴィーの子の頭が出てきた。
「やった・・・!頭がでてきたよ!」
「シルヴィー殿・・・、その調子です!一人産めば、後の出産は楽ですよ!」
「そうです・・・か・・・、わかりましたわ・・・・・・うぅ!!!」
必至の形相でいきみ続けるシルヴィー。
「ああ、あなた・・・、どこにいるの・・・・・・?」
長い出産の間、時折、うつろな表情で空に向かい誰かに呼びかけているシルヴィー。
今は亡き夫の顔を思い浮かべているのだろう。
「シルヴィーさん、しっかり!」
「シルヴィー殿!」
必至に彼女の手を握りしめるヤナ。励まし続けるビビカ。
そして、とうとうその時がきた。
「あっ・・・・、ああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!」
ズバシャアアアッッ!!
遂にシルヴィーの秘部から、第一子が出てきたのである。
-
その後、第2、第3と立て続けにシルヴィーは子供を産み、その出産を終えた。
シルヴィーの身柄は、兵舎から離れ、今はサドバトスの産院で療養をする事となった。
今は脂汗を浮かべながらも、産院のベッドの上ですっかり落ち着いた顔で眠っている。
しかし、シルヴィーの身の上は罪人であり、あくまでもサドバトスの奴隷。
羽毛の枕と柔らかなベッドで眠るだけでも、税金がかかるシステムなのだ。
すっかり夕陽も落ちた大都市サドバトスでは、あちらこちらで街の灯が灯り始めていた。
ビビカとヤナは、兵舎の庭先で話し合っている。
「よかったね、シルヴィーさんの赤ちゃんたち、無事に生まれてくれて・・・。」
「ええ、大事がなくてよかったです・・・。」
「うん。今はとにかく休養をしなくちゃね。・・・でも、よわったなあ・・・。」
「ん?どうされたのです、ヤナ殿?」
「いや実はね・・・、今日は街の酒場で踊らなくちゃならない日なのよ。」
「なんと!」
「もし酒場で産気づいちゃってたら、すぐにそこで出産ショーをしなければならない決まりだから、
シルヴィーさんはいいタイミングで産む事ができたたんだろうけど・・・。
シルヴィーさんは踊り子の皆にとって稼ぎ頭だし、私も今はこんな体調だし・・・。
今日に限って出られないとわかったら、お客さんの数も少なくなっちゃうかも・・・。」
腹を撫でながら、不安そうにするヤナ。
その姿を見て、ビビカは胸を叩いた。
「ならばその役目、このビビカが承りましょう!!」
「え、ええぇッッ!?」
-
「…で、お姉さんがシルヴィーちゃんの代わりに?」
「はい、よろしくお願いします!」
夜の華やかな酒場通り。その一つの酒場である、街の裏通りに面したスラム地区にある妊婦パブ。
ヤナとビビカは、この妊婦パブへと入店していた。
シルヴィーの代わりに働きたいというビビカに、どうしようかと迷うヤナであったが、
他に良い手も思い浮かばないので、仕方なく付き添いという形で、ビビカを連れて街へ出るのを許可された。
この店は兵舎から派遣された妊婦たちを働かせている店であり、主な仕事は妊婦ウェイトレスや踊り子によるダンスショーだが、
頻繁に大金を賭けた力比べも行われている。
さらに働いている最中に産気づいたものには、出産ショーが義務付けられているという。
場所が場所である為、ガラの悪い連中がたむろする事もあり、危険な場所なのだ。
パブの店主は、ビビカの体をジロジロと見渡すと、こう告げた。
「まぁガタイは良いだろうけど・・・、ここはならず者のお客さんが入ってくることも多いからなあ。
お姉さん、剣闘大会で凄い活躍してた人でしょう?でも、ウチの人気No.1のシルヴィーちゃんの代わりをするってんなら、
相当、覚悟してもらうよ?なにせウチは『何が起こっても自己責任』の信条だからな。
たとえお客に絡まれようとも、今日は朝までじっくり働いてもらうぜ。」
「はい!勿論ですとも!!!」
ビビカは、相変わらずの笑顔で、能天気に元気よく返事をするのであった。
しかしビビカとヤナは二週間後には、第二回戦である大会を控えており、しかもビビカはその間は炭鉱で男たちに囲まれて鉱山を掘る重労働をしなければならないのである。
次の大会もさらに過酷なものであるには違いなく、ビビカは更に強靭な魔物と戦わなければならないだろう。
しかしビビカは、そのすべてをトレーニングとして考えていた。
(まだまだ、私がもらった報酬では、重税に苦しむこの国の人々を救うことは到底できない・・・。
もっと名をあげなければ。この子たちには負担になるかもしれんが、私はまだまだ腹を揺らしてこの街で大金を稼がなければならない。しばしの間、我慢していてくれ。)
能天気なビビカの笑顔の裏には、強い女神としての決心が潜んでいたのであった・・・。
ビビカの衣装は、上半身は貝殻で誂えた紐ビキニに、下半身は葉っぱを編んで作られた腰布のみというとんでもないものであった。
酒場の中央にあるダンスホールにて、どうなる事かとはらはらしているヤナが傍で見守る中、
踊り子ビビカの妊婦ダンスポールショーが始まった。
「さあさ、お立合い!!女神ビビカの巨象の舞を!!!」
舞などした事のないビビカの踊りは素人同然であったが、
力強く爆乳を縦横に激しく揺らしまくり、ドスンドスンと地響きを響かせながら、
臨月の孕み腹と、丸見えの巨大尻を豪快に揺らすビビカの姿に、観客は一同釘付けであった。
-
大勢いる客の目の前まで行き、
とんでもない大きさの乳房をぶるんぶるんと振り回し
前にも増して巨大化したお腹を右に左に大きく揺らし
見たこともないその妖艶な巨体にならず者達は
歓声すら失い息を荒くし魅了されていた。
そこへやってきたのはシルヴィーの踊り子衣装を着たヤナ。
シルヴィー無き今はナンバーワンダンサーはヤナである。
双子のいるお腹を露にし、腰を激しく揺らすその妖艶な振る舞いは
ビビカとはまるで違う美しさだった。
ビビカもヤナの傍へ行き、見よう見まねで踊ってみせたが
敵う腰使いではなかった。
最初は不恰好なダンスのビビカを笑う客だったが
学習能力の高いビビカが10分20分共に踊っていくうちに
その動きはヤナに近いものになってきた。
気付けば1時間以上も踊っていた二人。
裸にも近いその格好を曝け出しているビビカであったが
ヤナと同じ時間を過ごし、なんだか楽しげだ。
そんな雰囲気に観客も呑まれ、多胎妊婦の舞をまだまだ観たいと
大金の入ったおひねりがいたる所から飛んできた。
ダンサーの時間の前半が終了した。
楽屋へ戻り、一休憩する二人。
「ヤナ殿、すごいですね!普段とはまるで違う美しさ!
尊敬します!…ヤナ殿?」
「っつぅー……いた……いたたた……」
「どうしましたヤナ殿!?まさかお腹が!」
「いや…大丈夫…ちょっと長い時間踊ったから
お腹張っただけだと…思う…多分…いたた……」
ヤナの表情は以前の浴槽の時と同じような表情をしていた。
もうすぐダンサーの出演時間の後半が始まろうとしていた。
-
「本当に大丈夫なのですか、ヤナ殿?」
「大丈夫大丈夫!お客さんを待たせるワケにはいかないから、行こっ!」
心配するビビカの手を引いて、ヤナはダンスホールへと戻っていった。
そして、ダンスタイムの後半が始まった。
(本当に大丈夫なのだろうか、ヤナ殿・・・・・・。)
ビビカはM字開脚の姿勢で、リンボーダンスを踊る。
観客は、まるで三つある巨大なプリンのように妖しく震える、ビビカの下から見る乳と孕み腹に大興奮していた。
一方ヤナの方はポールにつかまりながら、妊娠している為か小柄な体には合わない、大きめに成長している尻を突き出して激しく踊る。
汗を流し、笑顔で一生懸命に踊る二人のダンスショーは、大盛況のうちに幕を閉じたのであった・・・。
大満足した様子の店主に、多めの給金とおひねりをもらったヤナとビビカは、まだ空が白み始めた頃に、ようやく帰途についた。
街中を歩くビビカとヤナ。
ヤナはいつもの服装だが、ビビカは着替えるのを忘れ、踊り子衣装のままだ。これが昼間なら、とんでもない注目の的であろう。
「ヤナ殿。私はお役に立てたでしょうか?」
「うん・・・・・・、ビビカさんがいてくれたおかげだよ・・・。」
ビビカは、ヤナの異変に気が付いていた。
観客は誰一人として気が付いていなかったが、ビビカは踊りの最中から、ヤナがどこかおかしい様子だと感じていたのだ。
事実、ヤナの顔と背中は汗でびっしょりであり、白いワンピースが透けて、肌がくっきりと見えており、
よく見るとその足元からぽたぽたと水が滴り落ちていたのである。
その足取りもフラフラとした、おぼつかないものであり、とうとうヤナはビビカに寄りかかった。
「ヤナ殿・・・?」
見ると、ヤナのその表情は、明らかに疲弊した顔つきであった。
-
「ヤナ殿、まさか・・・!?」
慌ててビビカはヤナを抱っこすると、人のいない裏通りへとヤナを運び、建物の陰に彼女を降ろすと、その様子を見た。
「はぁ・・・、はぁ・・・、うぅ・・・・・・。」
荒い息のヤナを四つん這いの姿勢で屈ませると、ビビカはヤナの服を捲り上げた。
「こ、これは・・・!!」
そして、驚愕した。
ヤナの尻からは、胎児の頭がもう半分以上にまではみ出していたのだ。
そう、ヤナはダンス踊っていた時点で既に破水しており、流れ出る羊水を汗でごまかしながら、
出産をしながら、激しく華麗な踊りを踊っていた。ヤナはそれを隠しながら、見事に舞を踊り切っていたのである。
「ヤナ殿・・・、産気づいていたのなら、なぜもっと早く言ってくれなかったのですか・・・!」
「・・・・・・だって・・・、出産ショーなんて・・・・・・、やだもん・・・・・・。
この子は・・・私とあいつの・・・大事な赤ちゃんだもの。私の赤ちゃんを・・・下種なならず者連中たちなんかに、絶対に見せてやるもんか・・・!」
そう呟くヤナの瞳は、強い母親の目をしていた。
-
宿舎まで徒歩10分程度の距離だったが
そこまで連れて行くにはもう間に合わない程お産は進行していた。
ビビカはヤナを路地裏のもっと奥の方へ抱きかかえ
ワンピースを腹までたくし上げ成長した巨尻を露にさせた。
「あっっっあああああああ!!!!!
あがぢゃん産まれるぅぅぅ!!!!!!!!!」
遠吠えを上げる狼のように状態をそらし汗まみれで息むヤナ。
ピュウウブシャアア
子宮口からは音を立て羊水が噴出し
胎児の頭全体が顔を覗かせた。
「もうすぐですヤナ殿!!!」
「ああ!!!んあああああああああああ!!!!!!!!!!」
ブシャッッブリンッ
ヤナの子宮から勢いよく飛び出た胎児を見事にキャッチするビビカ。
血に塗れた胎児をビビカの裸にも近い貝殻で隠された大きな乳房で抱きかかえた。
「ヤナ殿!大きい元気な女の子だ!」
-
その後、ヤナは二人目の女の子を産み、出産を終えた。
しかしまだ未熟さの残る小さな体で、二人もの赤子を産んだヤナは、とても衰弱していたため、急遽産院に搬送されることとなった。
「ごめんなさい、ビビカさん・・・。傍でもっと色々とアドバイスしてあげたかったんだけど・・・。」
「仕方のない事ですよ・・・。それより今は、シルヴィー殿と同じく、体を休めてください。」
「うん・・・、ありがとう。」
運ばれていくヤナを、ビビカは静かに見送った。
一方、サドバトスの城では、王ヴォルネルと剣闘大会主催者である神官たちが円卓を囲み、第二回戦の会議をしていた。
「あのビビカという女神、聖戦士というだけあって、類いまれなる戦闘センスと強さの持ち主です。」
「まさかあのキマイラを瞬殺するとは・・・、いまだに信じられん。」
「さて・・・、それではどの怪物をビビカにあてがえましょう?」
「あの巨体に膂力だ・・・、一匹や二匹を戦わせるだけでは、体力を削ることも難しいだろう・・・。」
神官たちが悩みふけっている時、ヴォルネルが口を開いた。
「――――ならばいっそ、我が国の強靭な怪物たちを一度にぶつければよい。
第二回戦は、『獣の坩堝』で執り行うのだ。」
-
「けっ・・・、獣の坩堝!?」
神官たちからどよめきの声があがった。
「我が王、ヴォルネル様。お言葉ですが、あの闘技場は生存率0%の、いわば剣闘士の〝処刑場〟。
闘いの場には相応しくはないかと・・・。」
「フッ、だからよいのではないか・・・。あの大女は、ちと強すぎる。
サドバトスだけではなく外からの金持ち共も、ビビカを気に入り、大枚を落としている以上、
圧倒的に不利な状況で戦ってもらうぐらいの事をしないと、賭けが成立しないだろう。
それに・・・、次から次へと襲い来る怪物たちに対し、必死に我が子を守りながら腹を揺らして戦う妊婦の大立ち回り・・・。
どうだ、考えるだけで興奮するであろう・・・?」
「は、はい・・・、確かに民衆は興奮するでしょうな・・・。」
「分かりました、その様に取り計らいます、王・・・。」
「フフフ・・・・・・。」
王ヴォルネルは、邪悪な笑みをたたえるのであった・・・。
そして二週間後、雲一つない真っ青な青空の下、ついにビビカの第二回戦が始まった。
場所は、第十三闘技場。通称、『獣の坩堝』。
今回のルールは、サドバトス国の地下に存在する古い地下迷宮遺跡を冒険し、最深部の宝物部屋にまでたどり着くことが、勝利条件である。
しかしこの遺跡は少し改造されており、幾つかの地下部屋には観客席のある闘技場がある。
そして、危険な古代の罠や、サドバトス教団の造り上げた怪物たちが、侵入者を待ち構えているのだ。
今まで宝物部屋にまで行き着いた者は存在していないが、もし遺跡を突破することが出来れば、
ビビカは報酬の他に、街を何日でも自由に散策してもよい、自由の身になれる許可が貰えるのだ。
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア
第一回戦の大会より、遥かに多い観客の歓声に包まれながら、ビビカは入場した。
まるで人気女子プロレスラーが入って来たかのような、ビビカの人気である。
たっぷりと昼飯を腹に詰め込んできた為、腹がさらに大きく膨らみ、
よくずれ落ちそうになるビキニパンツを両手で直しながら、口元のソースをペロリとベロで拭う姿は、とても剣闘前とは思えぬほどの余裕ぶりだ。
鉄仮面は取り外してもよくなったものの、ビビカの装備は相変わらずのビキニアーマー。
他には、自分の身長の半分ぐらいの長さの刃渡りの剣と楯、そして銀色に光るメイス一本だけだ。カンテラと僅かばかりの食糧も持っている。
一回戦と同じく、実況の声が聞こえてきた。
「さあ、彗星のごとくあらわれた聖戦士、ビビカ!!!
今日の彼女の戦場は、生存率皆無の処刑場、獣の坩堝だあぁっ!!!
謎と罠に満ちたこの遺跡で、果たしてビビカは幾多もの怪物たちを退け、再び日の当たる地上へと生還する事が出来るのかあぁっ!!?
それでは・・・、運命のゴングを・・・ッ、今ッ!!!!!」
カァアアアアアアアアアアアアアアンッッッ
「ウオオオ、死ぬんじゃあねぇぞお、ビビカァ!!!」
「俺はお前のボテ腹に全財産賭けてあるんだからなあっ!!!」
観客の野次も意に介さず、ビビカはズンズンと巨体を震わせ、闘技場の中央にある遺跡の入り口へと、堂々と足を踏み入れていった。
「暗いな・・・、灯りをつけないと・・・。」
ビビカはカンテラに火を点けながら、長い道を歩く。
一筋の光もない暗闇なので、ビビカの目が慣れるまでは、カンテラの灯りだけが頼りである。
遺跡内部を、一時間も歩き続けるビビカ。
後ろに聞こえていた観客の歓声も、既に聞こえてこない距離にまで離れていた。
「・・・この獣の坩堝という場所は、怪物だけでなく罠も多くあるらしいな・・・。慎重にいかねば・・・。」
その時だ。
ババッ!!
「何!!!」
上空からなにか巨大な影がビビカに降りかかったのである!!
「うぉおっ!!?」
剣を構える暇もなく、腹を震わせながら、ビビカは後ろへと押し倒された!!!
-
「よお久しぶりだな!ビビカ!」
「エナ殿!!!!どうしてここに!!!!」
そこに現れたのはビビカ同様ビキニアーマーに身を包んだエナの姿だった。
「どうしてってこの人たちがあんたの危機を教えてくれたのさ。
神の血が入ってるとは言えさすがにもう臨月なんだ。一人で無理しなさんな。」
目を上空にやると2体の翼の生えた人型のものが降りてきた。
「ビビカさん。よかったお腹の赤ちゃんたちも無事でしたね。探しましたよ。」
「エルシオ様!」
「ビビカさんの気配が消えたので心配になってサルバトスへやってきました。
その途中、赤い牙のエナさんと天使のイリーナさんにビビカさんに出会い
ここまで着いて来てくれました。」
「ビビカさん!先日はありがとうございました!」
「え?天使?イリーナ殿…天使の羽が生えてるということは…」
「そうですよ。私はエルシオさんと同じ上級天使です。」
「どうして教えてくれなかったんですか!」
「いやビビカさんが自分の事をあまり語りたがらなかったし
上級天使の嫁でいて神の血を受け継いでる
凄い人だったなんて知らなかったからー」
そう話すイリーナは前より増してお腹は大きく
乳房はふくよかになった印象だった。
久々の再開に談笑していたが
エルシオが真剣な表情でささやく様に話しかけた。
「調べていくうちに分かったのですが…
この国の王ヴォルネルは我々”天使”とは相反する種族
”悪魔”の血を継ぐ者だと言うことが分かりました。
ヴォルネルの本当の目的はこの国の統制ではなく
悪魔の種族を繁栄し、この世界を支配すること…」
「悪魔の繫栄…世界の支配…」
「ビビカ、あたしが産んだ三つ子いるだろ?
あれの父親はそのヴォルネルなんだ。」
「なんですって!!!!」
「その名前を知ったのはここに来てからだったんだけどな
ビビカと再開する10ヶ月前、赤い牙に襲撃を仕掛けてきた
ヴォルネルの軍隊にあたしたちはボロクソに負けちまったんだ…
そしてあたしはその頭領のヴォルネルに強姦されちまって…
そのときやつが置いて行ったのがビビカに渡したサドバトスの地図だったんだ。」
「ヴォルネル…なんて卑劣な…」
「きっとヴォルネルの種を植え付けられたのはエナさんだけではないはずです。
この国にも国の外にもきっと沢山いるはずです。
ヴォルネルはより強い女性の母体を探しています。
妊婦剣闘士を競わせているのもそう、
自分以外の子どもを孕んだ妊婦や神の子を孕んだ妊婦を重罪人にするのもそう、
全ては自分の最強の子孫の繫栄の為なんです。」
「だからさ!あたしは許せねえヴォルネルをぶっ飛ばしてやりたいんだよ!!!」
「私はヴォルネルに連れ去られた夫を取り戻したい!
大事なお嫁さんを守りたいエルシオさんと同じ気持ちです!」
力技で突き進んでいたビビカだったが
心強い仲間の知恵が加わったビビカ一行。
『獣の坩堝』への挑戦が始まる。
-
今はまだ暗闇の道が続いているが、この遺跡の内部には闘技場もあるという。
もしそこに行き着いた時、一人で入った筈のビビカが仲間を連れた集団で現れた際に、
闘技場からビビカを観察する、ヴォルネルの手の者に不審に思われる可能性がある。
エナに至っては、ヴォルネルに顔を知られているので、不味いことになる危険性が高い。
幸い宝物庫にまでたどり着けば、そこから地上へと出られるらしいので、ビビカ達はそれぞれ二手に分かれて行動する事にした。
ビビカはエルシオ、エナはイリーナとだ。
「宝物庫にさえ辿り着けば、後はそれぞれのタイミングで、出口からサドバトスの街へと潜り込みましょう。
そして、それぞれでヴォルネルの情報を探りましょう。
ヴォルネルの手の者が見張っているかもしれませんから、後で落ち合う際も、十分に気を付けてからにしましょう・・・。」
エルシオの考えに、三人は頷いた。
「そんじゃあ、あたい達はこっちの別れ道からいくぜ!なるべく闘技場のあるルートは避けて通るから、心配すんなよ!」
「ビビカさん、エルシオさん、お気をつけて・・・。」
「はい、御二人も気を付けてください・・・。」
「エナ殿も、つい最近、出産したばかりの体なんですから、無茶をしないでくださいよ!」
手を振りながら歩くエナと、その傍に付き添うイリーナの姿は、迷宮の奥へと消えていった。
「・・・では、エルシオ殿!この中へ!」
ビビカは、エルシオが持ってきた大きめのリュックの蓋を開いた。
「え?」
「エルシオ殿の姿を見られると、不審に思われる可能性がありますからね!
私がエルシオ殿が入ったリュックを背負って歩きますから、エルシオ殿はこの中で私のサポートをお願いします!」
「わ、分かりました・・・。」
身重の嫁におぶさるのは、気が引けるエルシオだったが、一度言い出したら聞かないビビカの性格も熟知していたので、大人しくリュックの中に入る事にした。
小柄な体格の為、エルシオの体はすっぽりと納まった。
「重かったら行ってくださいね、ビビカさん。」
「なんのなんの!まったく負担ではありませんから、ご心配なく!」
エルシオのリュックを背負い、元気よくのしのしと歩くビビカであった。
「灯れ、天の火よ。」
エルシオが聖言を唱えると、ビビカの前方に炎が浮かび上がった。
「後方は僕が見張ります。周囲に気づかれないよう、天使の力でビビカさんをサポートしますから。」
「エルシオ殿の聡明なる御力を借りれるとは、心強い!このビビカ、大船に乗ったつもりです!」
そして、歩き続けるビビカ。
「ん?」
見ると、前方に巨大な壁があり、道を塞いでいた。
「しまった、この道は行き止まりですかね。」
「いいえ、この壁、何か怪しい気配を感じます。壁を探ってみてください。」
「分かりました。」
エルシオに言われた通り、ビビカは壁を手探りで調べてみた。
-
ゴゴゴ……
ビビカが少し力を入れると石の壁が前方へと動いた。
「きっとここは隠し戸です。もう少し前へ押してみてください。」
エルシオの言う通り壁を押すビビカ。
隠し戸を押した先には涼しげで暗い空間が広がっていた。
「エルシオ殿、もう少し火を明るく出来ないですか。」
「やってみます!」
ビビカの周りにある灯火の数が5つへと増え、広い空間が照らされた。
目を凝らしてみるとさながら小さな闘技場といった雰囲気だった。
もちろん客席には誰もいない。
「!!!気をつけてください!前から何かがやってきます!!」
ビビカは長剣と楯を構えた。
ズズズ…ズズズ…
ビビカよりも一回り大きいモンスターのようなものがゆっくり近付いてくる。
徐々にその姿が灯火に照らされ明らかになっていく。
「あ…あれは!?」
照らされた先には下半身は大蛇、上半身は黒髪の裸の女性の姿があった。
瞳は完全に人のものではない。
「あれはエキドナ…魔獣を産み出す魔獣の母と呼ばれるモンスター。
ほら。お腹を見て。」
「お腹…大きい…まさか。」
「ああ…新しい魔獣の子どもを孕んでるに違いない。
それでもきっと俊敏なはず…
鋭い爪や牙にも気をつけてください。毒があるかもしれません。」
「お腹の子を守る為に必死ってワケね!私と同じだ!」
ビビカとエキドナ…両者ともにらみ合ったまま一触即発の状態だった。
-
「シャァアアアアアアアアアアアア!!!」
エキドナの体躯が、ビビカ目掛けて襲い来る!
「爪の攻撃です!」
「はい!」
素早い動きで繰り出すエキドナの爪をビビカは躱す。
「でやあっ!!」
一瞬の隙を突き、ビビカは剣を持った手で、エキドナの首に水平チョップを食らわした!
もろに食らったエキドナの頭部は、床に激突する。
「シャギョアァッッッ!?」
そしてそのまま、倒れて気絶してしまった。
「やったね、ビビカさん。でも・・・、なぜわざわざ握った剣でなく、拳で倒したの?」
「エルシオ殿も、分かっているでしょう。
このビビカ、たとえ怪物でも、孕んでいる生物は殺さない主義なのです!」
「ふふふ・・・、ビビカさんらしいね・・・。」
「さあ、次の場所へ参りましょう!」
ビビカとエルシオは、奥へと歩みを進めた。
また長い間歩き続けると、今度は噴水のある小部屋へと到達した。
「ここは、休憩所のようですね。
ビビカさん、まだまだ歩けるでしょうが、ひとまず体を休めてください。」
「はい。」
部屋に異常がないかを一通り調べ上げると、ビビカはエルシオが入ったリュックを下した。
ビビカは噴水の水で顔を洗い、体の汚れも水で拭き取っている間、エルシオは焚火を作ると料理をしていた。
鍋にパン、卵、バナナ、ミルク、炊いた米を入れ、混ぜながら煮たものだ。
「おっ、何やらいい匂いですね。」
エルシオの隣に座り、料理を眺めるビビカ。
「はい、ビビカさんの体にやさしい妊婦食を作りました。熱いので、ゆっくり冷まして食べてくださいね。」
そういいエルシオは、ビビカに木のスプーンを手渡した。
「美味しそう!いただきます!!」
大鍋を片手で持つと、腹を揺らしてガツガツと掻き込むように食べるビビカ。
「これは甘くてうまい!お腹にたまる上に、暖まりますね!」
「そんなに慌てて食べなくても大丈夫だよ、ビビカさん・・・。」
大鍋いっぱいあった妊婦食を、ビビカはものの十秒でたいらげてしまった。
「ふぅ〜、食べた食べた!久しぶりのエルシオ様の料理は格別ですなぁ!」
腹を撫でながら、笑うビビカ。
「まったく、もう・・・、ビビカさんは・・・。まぁとにかく、体を休めてください。
また長い間、探索を続けなければならないでしょうからね。」
「はい、わかりました。
・・・おお、そうだ!私一人だけ腹を満たしていては、申し訳ないですね。」
「え?」
次の瞬間、ビビカは胸の水着を勢いよく外すと、巨大な乳房をばるんと露にした。
乳頭からは、母乳が滲み出ている。
「ビ、ビビカさん・・・!?」
「さあ、エルシオ様。どうぞ、私の乳をお飲みください。」
微笑みながら、ビビカは自分の乳房をなでた。
-
目を閉じ赤ん坊のようにビビカの乳に吸い付くエルシオ。
抱きつくには汗ばんだ三つ子腹が少し邪魔そうだったが
圧迫されている感じも嫌そうでないエルシオだった。
「しかし不思議ですね…」
「不思議?」
「罪人の処刑場とも呼ばれる『獣の坩堝』だというのに
さほど危険な罠や凶暴なモンスターは出てこない…
このルートで本当にあってるんでしょうか…」
「エナさん、イリーナさんの行方が不安ですね…」
一休みしたビビカとエルシオは噴水の場を後にし
遺跡の一本道を進んでいった。
-
一本道を抜けると、今度は広い部屋へと出た。
「なんだ、この部屋は・・・。」
そこは薄暗いが、豪華な洋風の大広間のような部屋だった。
壁には絵画や、斧に剣、槍などの武器が掲げられ、大理石の床には長いテーブルや皿に燭台、天井には大きなシャンデリア、暖炉に鎧まである場所であった。
さっきまでとは明らかに、異質な場所である。
ビビカはキョロキョロと、部屋を見渡す。
「出口らしいドアや窓は、どこにも見当たりませんね・・・。」
「ビビカさん、この部屋を調べてみましょう。」
「はい。」
エルシオをおろし、二人は大広間の探索を始めた。
「暖炉の中が怪しいな・・・。」
エルシオは身を屈めて、暖炉の中に入り、上を見てみた。
その時だ。
カシャンッッ
「えっ。」
「なにっ!!」
なんと、暖炉から鉄格子が出現したのだ。
「エルシオ様ッ!!」
暖炉に閉じ込められたエルシオは、天使の聖なる力で、檻を壊そうとするが、
檻には強力な魔術がかけられており、新米天使であるエルシオの天の力でも、ちょっとやそっとじゃびくともしない物であった。
すぐさまビビカはエルシオに駆け寄ると、しゃがんで鉄格子を掴んだ。
「安心してくださいエルシオ様、こんな檻、すぐに・・・!」
その時、エルシオは、ビビカの背後に忍び寄る邪悪な気配に気が付いた。
「あっ!!ビビカさん、危ない!!」
「!」
エルシオの声に、ビビカが振り返ると、なんと巨大な鎧が斧を振り上げていたのだ!!
「くっ、魔物か!!」
即座に横転して身を躱すビビカ。
そしてすぐさま大剣を手に持つと、動く鎧の胴体に、
一刀で斬りつけた!
だが、
「ギギギ・・・。」
「なんとっ!!」
斬りつけられた鎧は少しよろめいたが、その体には傷一つ、ついていなかったのだ。
「――――なかなか頑丈な鎧のようですね、ならば・・・。」
ビビカは大剣を強く床に突き刺すと、身を屈めて鎧に突進した。
「関節技で極める!!」
鎧を倒そうと、ビビカは鎧の足に組み付いた!!
「ギィッ!!」
これにはたまらず倒れた鎧の足を、両腕でつかむビビカ。
「もらった!!」
その時、そのビビカの両腕が羽交い締めにされた。
「なっ!」
「ビビカさん!!」
暗闇から突如現れた、もう一体の別の鎧が、ビビカを捕まえていたのである。
倒れていた鎧Aは、素早くビビカから距離を取る。
ビビカを捕まえた鎧Bの力は、強靭なものであった。
「二体もいたのか・・・、それにこの力・・・、
これは少し倒すのに骨が折れそうですね・・・。」
ビビカと動く巨大鎧二体との、パワーファイトが始まった!
-
鎧Bに掴まれたビビカは離れようと母乳で溢れた乳房と
三つ子のいる孕み腹の身体を右に左に揺さぶる。
豪腕な鎧Bではあったが何か身軽だったのを感じた。
攻撃を仕掛けようと近付く鎧A
「はあああああああああ!!!!!」
ビビカは雄たけびを上げ、両腕に全精力を込めると
掴んでいた鎧Bの元を離れ向かってくる鎧Aに
臨月腹の先端から体当たりを仕掛けた。
ガシャン!!!!
壁の絵画に吹き飛ばされた鎧Aは怯む。
そこを狙ってビビカがメイスを持って
鎧Aの首元へ突き刺す。
ガシッ!!!!ガシャン!!!!!!
鎧Aの兜が吹き飛ぶ。
「こ、これは…!!」
なんと吹き飛んだ鎧Aには人が入っておらず空洞だったのだ。
その隙に鎧Bがビビカの背後から突進してくる。
気配に気付いたビビカはメイスの柄の部分後方へ突き出し
鎧Bの首元へ突き刺した。
ガシャン!カラン…
鎧Bも同様、中はがらんどうだ。
首が取れた2体の鎧はそれでもビビカを目指して動き出す。
「ビビカさん!そいつらは魔術で操られています!」
-
「魔力の根源は・・・、あそこです!」
エルシオが指さす方を見ると、そこには一枚の絵画があった。
「ビビカさん、あの絵画を破壊してくださいッ!!」
「わかりました!!」
ドスドスと孕み腹を揺らしてビビカは走る。
そして一瞬足を屈ませた後、絵画に向けて大跳躍した。
空中で体を反転させると、ドデカイ巨尻を突き出した。
「ビビカ・ヒップッッッッッ!!!」
全体重を乗せたビビカのヒップアタックが、絵画に炸裂する!!
着地したビビカは、絵画を見やる。
壁と絵画には、まるで象のような巨大な尻の跡が、くっきりとへこんでいた。
勿論、絵画は裂けており、額縁は砕け、粉々になって床へと叩き落ちた。
と、それと同時に魔術が解けたのか、後ろの鎧たちが、音を立てて崩れ落ちた。
「やりました!エルシオさ・・・ま!?」
エルシオの方へと振り向いたビビカは驚愕する。なんと、エルシオの姿が忽然と消えていたのだ。
「エルシオ様!?」
慌ててビビカは暖炉の部分に駆け寄ると、屈みこんで中を覗いてみた。
暖炉の部分は、ぽっかりと穴が開いており、下には暗闇が果てしなく広がっていた。
どうやらエルシオが入った檻は、エレベーターの様に地下へと送られてしまったようだ。
「エルシオ様ーーーーーーッッ!!!」
ビリビリと部屋中が震える程の大声で、エルシオに呼びかけるビビカだったが、暗闇からは何も返ってこない。
エルシオを追おうにも、ビビカのサイズでは穴を通り抜けることが出来ない。
窮地に見えるが、ビビカは意外に冷静であった。
眼を閉じて、エルシオの気配を探る。どうやらエルシオは、この遺跡の最深部の方へと送られているようであった。
「エルシオ様は、宝物庫に近い場所へといるようだ。
・・・よし!ならば、私もすぐにそこへ向かうだけだ!」
その時、ビビカのヒップアタックが炸裂した場所から、
ピシピシと亀裂が走ったかと思うと、壁が音を立てて崩れ落ちた。
「これは・・・!!」
開いた壁の穴の奥には、次なる道があったのだ。
「待っててくださいね、エルシオ殿・・・!」
武器をしまい、リュックを背負うと、ビビカは遺跡の奥へと進んでいく。
しかし『獣の坩堝』も、もう中盤地点を超えている。
この先、一人道を行くビビカに、息をもつかせぬ程の頻度で、魔物たちが襲い来る事を、彼女はまだ知らない・・・・・・。
-
遺跡を歩くビビカ。すると背後から影が襲ってきた!!
「!」
影の攻撃を身体を回転させて躱すビビカだったが、勢い余って背中のリュックと武器を落としてしまった。
「しまった!」
複数の影たちは、ビビカのリュックや武器ををひっ掴むと、奥へと走り去った。
「待てっ!!」
すかさずビビカも後を追う。影を追うと、ビビカは広い場所へと出た。
「ここは・・・!・・・」
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
ビビカが入るなり、歓声が彼女を出迎えた。
「ここは・・・、地下闘技場の一つか・・・!」
ビビカは辺りを確認する。
最初の地下闘技場に比べて少し広く、観客たちも満員だった。
腹を揺らして戦うビビカのパワーファイトを一目見ようと、今か今かと待ちかねていた様子だ。
「さぁ、ようやく大本命の戦士ビビカが、この地下闘技場Gへとやって参りました!」
実況の声が聞こえてきたかと思うと、なんと上空から、巨大な鳥籠のような檻が落ちてきた!!
「何!!」
ガシャアアアアンッッ
鳥籠は、ビビカのいる場所を丸ごと包み込んだ。
ビビカも、檻の中に閉じ込められてしまったのだ。
檻には内側に太い針が生えており、迂闊に触ることは出来ないようだ。
「この檻には強い電流が流れており、触れるとまる焦げは必至だぞ!!
さぁて、ビビカはこの地獄から抜け出せることは出来るのでしょうか!!」
見ると、ビビカの前には、筋骨隆々とした狼の獣人たちが、なんと百体もいたのだ。奴隷船で戦った時の、倍の数である。
さらにその奥には、三体のキマイラ獣人がビビカを見つめている。
その中央にいる一体は、他の二体より大きく、他の獣人たちと違うのは、女性の様に乳房が存在していた。
どうやら、あのレディーキマイラがボスのようである。
「ルールは簡単!たった一体だけ立っていた者が勝者だぁ!
この空間で大量に血を浴びれば、獣たちはその匂いに興奮し、更に凶暴化する事だろう!
果たして巨体戦士ビビカは、臨月の腹で闘い抜く事が出来るのかあっ!!!」
百体もの血に飢えた狼が、ビビカを取り囲んだ。キマイラ三体は、様子見をしている様で動かない。
ビビカに武器はなく、この厳重に囲まれた檻では、観客の支援も期待できない。まさに四面楚歌だ。
しかしビビカは冷静に、そしてその眼に、熱く闘志の炎を燃え滾らせていた。
「私はエルシオ様の元へ行かねばならんのだ。
そこを通してもらうぞ・・・!」
深く深呼吸をし、ビビカは拳を握りしめると、身体に気合を入れた。
「ふんぐぐぐ・・・!!!・・・」
顔を真っ赤にしたビビカの肉体がパンプアップし、胸の鎧が弾け飛び、爆乳が露となった。
その肌が少し赤くなり、筋肉が隆起して盛り上がったのだ。
力を籠め過ぎたせいか、張った乳房からは力む度に、色黒の巨大乳輪から母乳が噴出された。
オオッ、と観客席から驚く声が聞こえる。
「さあ!!!かかってこい!!!!!」
拳を構えたビビカは、単身、獣の群れに飛び込むのであった。
-
何体もの狼獣人たちがビビカに覆いかぶさるように襲い掛かる。
う”おおおおおおおおおおおおおおおおお
ビビカの雄叫びと共に鳥篭の格子まで跳ね飛ばされ
次々と電撃に命を落としていく数十の獣人たち。
赤みを帯びたビビカは全身から湯気が立ち上り
まるで本能で蠢く獣のような瞳をしていた。
狼獣人たちはそれでも次から次へと爪を立てビビカの元へ襲い掛かる。
四方八方から獣人たちが飛び掛ってくるもその全てに反応し殴る蹴る。
20体、30体攻撃をし続けるうちに辺りは狼獣人たちの血で塗れ
ビビカの身体もまた獣人たちの返り血で塗れていった。
-
気づけば血だまりの中で、100体もの獣人を倒していたビビカ。
圧倒的に人間離れしたビビカの戦闘の凄絶さに、観客や実況も息を呑み、言葉を失っていた。
これが神の戦いなのかと、恐怖を覚える者もいた。
様子をうかがっていたキマイラ二体が、ビビカの背後から襲い掛かってきた!
だがビビカは瞬時にキマイラの攻撃を躱すと、向かい合ったキマイラたちの首を、両腕でがっちりと挟み込んだ。
「うぉらぁぁっっ!!!!!」
そしてそのまま全体重をかけて、勢いよく大地へと背面から飛び込んだのだ。
「ギャキアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
ネックブリーカー・ドロップのような技が極まったが、ビビカの太い腕がギロチンの役割となり、
大地に倒れた瞬間、キマイラ二体の首をへし折ったのである!!
キマイラは血を吐いて絶命した。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
大技を決め、立ち上がるビビカだが、さすがに少し体力が消耗してきたようである。
だが、まだボスが残っている。
遂にレディーキマイラが、ゆっくりと歩み寄ってきた。
呆然としていた実況だったが、はっと我に返ったように気がつき、実況を再開した。
「なっ・・・、なんて戦士なんだ・・・!!彼女は、神の名を騙る偽物なんかじゃあないっ!!
正真正銘、地上へと遣わされた女神様なんだあぁっ!!!」
-
レディーキマイラは突如歩みを止め、天を仰いだ。
キイェェエアアアアアアアアアアアアアアア
大股を開き、力を入れるレディーキマイラの身体が
突如変化しているのに気付いた。
腹部がもこもこと丸く盛り上がり、両乳房も肥大していった。
猛スピードでその身体は変化を遂げ
最終的には巨大な胎児を孕んでいる妊婦のような姿になった。
その腹はビビカの三つ子のいる腹より遥かに巨大なものだった。
「ど、どういうことだ…」
キイェェエアアアアアアアアアアアアアアア
レディーキマイラが再び苦しそうな奇声を上げるのと同時に
キマイラの股間から体液が勢いよく吹き出てきた。
その姿はまるで出産している経産婦のようだった。
ボゴッボゴボゴ…ビュシューーー…ブリブリブリュ…・・・…
レディーキマイラはやがて倒れこみ
その陰部から命が産まれ出てくる鈍い音を発しながら
1体の巨大な羽の生えたドラゴン獣人の子供が出てきた。
-
「なんということだ。どういう原理かはわからないが、
孕んで産んだというよりも、胎内で魔物を錬成していたようだ。
こうして、魔物たちは、その数を増やしているのか・・・!」
レディーキマイラはうずくまったまま、動けないようである。
「仕方ない。無抵抗の者を殺すわけにはいきません・・・。」
ビビカはドラゴン獣人の子を抱き上げると、レディーキマイラに手渡した。
歓声があがり、鳥籠の檻が上がった。
すぐにビビカは、エルシオを追うため、闘技場の出口から出ていった。
そこに落ちていたリュックを拾い、ビビカはゆっくりと深呼吸をした。
「ふぅーーー・・・、ふぅ・・・。」
パンプアップしていた肉体も、元の状態に戻る。
見ると、ビビカの腹もさっきのレディーキマイラ以上にでかくなっている。
ビビカは戦っていた時、あれでも肉体を張りつめさせ、その膨張を抑え込んでいたのである。
「あまり、無理はできないな・・・。この子たちはいくらでも大きくなる。
早くこの場所を攻略しないと、産んでしまいかねない・・・。
エルシオ様のもとへ急がねば・・・・・・。」
ビビカは地下へと続く階段を降りていく。
ここには蝋燭が灯った燭台が壁に付いていたので、いくらか歩を進めるのは楽であった。
しばらく歩き続けると、ようやく扉が見えてきた。
「エルシオ様の反応は・・・、あそこか・・・!」
ビビカは急いで扉を開けて、中へと飛び込んだ。
-
見ると、そこはさっきの闘技場より遥かに広い場所だった。
洞窟のような場所で、岩肌の壁は所々が苔むしており、地下だというのに天井の隙間から光が差し込んでいた。
そしてここには、巨大な宝の山が点在していたのだ。
「この宝の山。そして、地下だというのに光が見えているという事は、つまり・・・!」
そう、ビビカは遂に宝物庫の場所へと辿り着いたのである。
「やった・・・!しかし、エルシオ殿は・・・?」
「ビビカさーん!」
「! エルシオ殿ォ!!」
声のした方へ即座に駆け寄るビビカ。
見ると、壁の中に檻があり、エルシオがそこで座っていた。
エルシオの檻の魔力は消えかかっていた為、すぐにビビカの怪力で檻を捻じ曲げて、エルシオを脱出させた。
「エルシオ殿、よくぞご無事で!大丈夫ですか!!」
喜ぶあまり、エルシオに抱き着くビビカ。エルシオは窒息しそうだ。
「うぐぐ・・、ぼ、僕は平気です!そ、それよりビビカさん、僕のためにこんなになって・・・!
身体中血まみれじゃないですか・・・!」
「え?ああ。これは怪物との戦闘の返り血ですよ。ご心配なく!」
抱き着くビビカの体から解放されたエルシオは、顔を赤らめていた。
「その・・・、ビビカさん・・・。胸の鎧が無くなっているのも、戦闘の際に・・・ですか?」
「あ、いえ、これは自分で引きちぎったといいますか・・・。」
その時だ。
「ブモォオオオオオオオオオオッッッ」
大きな鳴き声が、宝物庫に木霊する。
「出たな・・・、早く姿を現すがいい!」
宝物庫に入った瞬間から、声の主の気配に気づいていたビビカは、すぐにメイスと楯を構えた。
やがて奥から、ズンズンと巨大な影が現れた。
それはこの地下宝物庫の番人であり、いままで幾人もの剣闘士を処刑してきた、
この『獣の坩堝』の最大最強の怪物、雄牛の獣人ミノタウロスであった。
黒い毛をした荒々しい牛の頭に、胴体部分は人の体だが、
所々に黒毛が生えており、足の部分は蹄であった。
そして手には、長い柄をしたダブルヘッドアックスを持っていた。
近づいてくるミノタウロスに臆すことなく、向き合うビビカ。
「遂にボスがお出ましのようです。エルシオ殿は、どこか安全な場所へ!」
「何を言うんですか、ビビカさん!貴女一人だけを戦わせ続けるワケにはいきません!!僕も戦います!!」
そう言いエルシオは、ビビカの横に立つと、天使の姿へと変わるのであった。
-
巨体のビビカの3倍以上はあると思われる大きさの
ミノタウロスの猛襲が炸裂する。
ビビカとエルシオへ向けて本能の如く斧を振り下ろす。
辺りは突き刺さった斧の攻撃痕やミノタウロスの暴れまわった足跡で
荒れ果てた姿へと変えてゆく。
始めはミノタウロスの隙の多い動きに
ビビカもエルシオも容易に回避していたが
ミノタウロスの猛襲は留まるどころか戦いに慣れていくように
斧を振り下ろすスピードが増しているようだった。
狼獣人、キマイラ獣人たちの戦いでスタミナが切れ始めているビビカ。
その時
三つ子の妊婦腹で思わずよろけるビビカ。
「しまった!!!!!!!!」
真上にはミノタウロスの斧が振り下ろされていた。
「ビビカさんあぶない!!!!!!」
ミノタウロスを背にビビカの楯になるエルシオ
「エルシオ殿!!!!!!!!!!」
ガキィイイイイン!!!!!!
その時翼を広げたエルシオの全身は銀色へと変化した。
「大丈夫ですか!」
「エルシオ殿!!?」
「僕は今身体を鋼鉄へと変える魔法をかけました!
ビビカさん、やはりその裸に近い格好でこの獣人と戦うのはとても危険です!
合体しましょう!!!!」
「合体!?こんなときに…ですか?エルシオ殿…」
顔を赤らめ女の表情になるビビカ
「えっ!?いやそういうわけではありません!!
僕が鎧になってビビカさんをお守りします!」
「鎧に?」
「ビビカさんじっとしていてくださいね!」
エルシオはそう言うと銀色の姿のまま翼を広げ
ビビカの胸元へと飛び込んだ。
両羽でビビカが包まれたかと思うと二人は神々しい光に包まれ
その眩しさにミノタウロスは怯んだ。
光が止むとそこには白銀の鎧に包まれたビビカの姿があった。
「こ、この姿は!?」
「上級天使は神をお守りする為に武器や防具、鎧に姿を変えて
力になれる魔法を兼ね備えています!
あの獣人の斧の攻撃も防げるはずです!
でも…ごめんなさい…ビビカさんの身体があまりにも大きいものだから
お腹の部分だけは守れていません。
そこだけは気をつけてください。」
今まで使い古されていた小汚いビキニアーマーから一変
エルシオの白銀の鎧に身をまとい
世界の救世主のような井出達に変貌したビビカ。
堂々と前へ突き出た肌色の三つ子腹がより一層強さを引き立たせていた。
-
「ありがとうございます、エルシオ様!」
「それより、前を見て!!向こうは迫ってきてますよッ!!」
「ヴォオオオオオオオオオオ!!!」
ミノタウロスは斧を振り上げ、ビビカに向けて振り下ろしていた。
「たぁっ!!」
迫りくるミノタウロスの斧をかわすと、聖戦士ビビカはその頭上へとジャンプした。
「ッッしゃらあッッ!!!」
そして持っていたメイスを天高く振り上げると、ミノタウロスの脳天へと叩き込む!!
「グモオオッッ・・・!!!」
メイスが折れ、粉々に砕ける程の力をブチかまされ、額から血を流しながら、さすがにミノタウロスの体はよろける。
「まだまだぁっ!!!!」
さらにビビカは拳の正面に楯を装着すると、その顎に強靭なアッパーを叩き込んだ!!!
「グモオオオオオオオオオ!!!!」
ズズゥーーーーーーーーーンッッ!!!
この連撃にはたまらず、歯を何本か飛ばしながら、ミノタウロスの体は一瞬宙に浮かび、
派手に後ろへと倒れたのである。
スタンッ、と地上に着地するビビカ。
「ヴオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
赤い目を更に充血させ、吠えるミノタウロス。ダメージは効いているが、怒らせたようである。
ビビカのメイスは根元から折れ、楯はひしゃげてしまい、もう使いものにはならない。
残る武器は大剣のみだが、ビビカはメイスと楯を地に置くと、両手を構えた。
「まだまだ、ここからが本番だ・・・!!!」
ビビカのファイトスタイルは、古今東西様々な武器の扱いに手慣れているだけではない。
なによりのその持ち味は、自分のこの巨体を一番の武器とし、派手なモーションで繰り出す華麗なプロレス技なのだ。
巨大な怪物相手に素手で挑むビビカは、まさに神の姿といえよう。
(び、ビビカさんの体・・・、すごい熱気だ・・・!!一瞬でも気を抜くと、鎧が外れてはじき出されちゃう・・!!)
身体が暖まってきた事により、膨れ上がろうとするビビカの筋肉を、
エルシオは必至に、なんとか包み込んでいた。
起き上がったミノタウロスは、ビビカに拳を放つ!!
「うぉらぁッッッ!!!」
ビビカはそれをよけ、拳は派手に地面に衝突し、巨大な破壊音が響いた。
さらにビビカは、ミノタウロスの腕を伝って走った!!
そして肩の辺りにまで到達すると、高くジャンプする。
「喰らえぇッッッ!!!!!」
なんとビビカはミノタウロスの後頭部に、全力で延髄蹴りをかましたのだ!!!
ビビカの狙いは、ミノタウロスの脳震盪であった。
-
(ビビカさんの身体…すごい熱い…僕にこびりついている汗はまるで熱湯のようだ…
少し息苦しいけど大変な思いをしているのはビビカさんも一緒…
それにあんな攻撃をくらった獣人はもう動けないだろう…お疲れ様ビビカさん)
その時だった
ブウウモモオオオオオオオオオオオオオオオ
倒れていたミノタウロスは敵意に満ちた怒号を上げ
全身に力を込めて立ち上がった。
今まで牛に近かったその身体はみるみる膨れ上がり
マッシブな格闘家の如く筋肉隆々に変化し
細かった2つの角は太く大きく伸びていった。
目は真っ赤に充血しておりビビカをにらみつけ殺意に満ちていた。
「ほう…ようやく本気を出す気になったんだね。
知ってましたよ。まだまだ本気じゃなかったってことくらいはね。」
まだまだやれるといった闘志を見せるビビカは
改めてファイティングポーズを取った。
しかしエルシオはビビカの体力の限界を肌で感じていたのだった。
-
見た目には疲れを微塵も感じさせない強い表情で大剣を抜き、ビビカは構える。
ミノタウロスは斧を縦横無尽に振り回し、激しい連撃を繰り出した。
ビビカも流麗な剣撃で、激しく火花を散らせながら、その攻撃を捌いていく。
ガキッッ ガッッッ
ガキイイィィンッッッ!!!!!
ミノタウロスのパワーに対し、互角以上の力で剣戟を繰り広げているビビカの姿は大したものであったが、
息もつかせぬ連撃に対して、なかなか反撃の隙が窺えないでいた。
(間違いなく、与えたダメージは効いている筈・・・。もう一度、反撃のチャンスがあれば・・・!!)
その時、ビビカの背中が岩肌にドンとぶつかった。
(しまった!!)
避け切れなくなったところに、斧が差し迫る!!!
「くっ!!!」
ビビカが、剥き出しの孕み腹を両手で庇った時だ。
ビビカの体が軽くなったか感じたと思うと、その体は瞬間移動をしたかのように消えたのだ。
斧が音を立てて切り裂いたのは、岩肌だけだった。
「ヴォ!!?」
突然いなくなった獲物の行方を、目で追うミノタウロス。
ビビカは、その頭上に浮かんでいた。いや、飛んでいたのだ。
「こ・・・、これは・・・!!」
後ろを振り向き、驚愕するビビカ。
彼女の背中からは、巨大な白い翼が生えていたのである。
-
「よかった間一髪でしたね!僕の鎧から翼が生える魔法です!
ただしこの魔法を使っている間は防御は半減していますし
無制限には飛んでいられません。
それにビビカさんの大きな身体を支え続けるほど
僕の体力は持ちません。ビビカさん僕に支持を!!!」
「わかった!ではこの遺跡の天井まで飛んで欲しい!」
「天井まで!?」
「この大剣一本だけでは太刀打ちできません。
しかし上空から勢いをつけて額の傷に思い切りこの剣を突き刺せば
頭部に深いダメージを与えられるはず!!!」
「分かりました!!!」
羽の生えたその姿で風を巻き上げ天井まで勢いよく舞う。
身重のビビカを上空まで持ち上げるエルシオも力の限界があった。
「くっ重い…い、いきますよ!!!」
「はい!!!」
上空から下降する身重のビビカの落下速度は
とんでもないスピードだった。
両手で構えた大剣は見事ミノタウロスの額の傷に深く突き刺ささり
ミノタウロスの頭部から大量の血の滝が流れ出た。
-
「ゴヴォオッ・・・!!!」
血を吐き、遂に処刑獣は地響きをたてて倒れた。ビビカの勝利だ。
「はぁ、はっ・・・!!」
一緒に地面に投げ出される形で倒れたビビカ。
「ビビカさん・・・ッ!!」
元の姿に戻ったエルシオが心配な声をあげるが、ビビカはすぐに立ち上がった。
「大丈夫です、エルシオ様・・・。
早く・・・ここを抜けましょう・・・。」
よろよろとした足取りだが、光の差す方向へと歩くビビカ。その巨体を支えるエルシオ。
やがてビビカとエルシオの目に見えてきたものは、階段とその上から溢れてくる、外の光。
「ビビカさん、ここから先は僕は鎧になっておきます・・・。大丈夫ですか?」
「はい・・・、わかりました。大丈夫ですとも!」
「おぉーーーーーーーっとおおお!!!!
大方の予想通り、遂に女神ビビカが、あの獣の坩堝から生還してきたぞぉぉ!!!
本当になんて戦士なんだぁ!!!!
お越しの皆々様。勝者の健闘を称え、どうか盛大なる拍手をッッ!!!!!」
地上に出てきたビビカを迎えたのは、観客の大歓声と大拍手。
どうやら出口も、別の闘技場に繋がっていたようであり、そこにも満員の観客が座っていたのだ。
こうして、ビビカの第二大会は幕を閉じたのであった・・・。
夜のサドバトス。
兵舎に生きて帰ってきたビビカを、他の女戦士たちは英雄の様に称賛していた。
エルシオの存在は隠しておいた方がなにかと都合が良さそうなので、鎧になったままである。
街でも、あの恐ろしい地獄から帰ってきたビビカの事は、大変な噂になっているらしい。
ビビカのグッズまで密かに作られて売られているとか。本当に人気レスラーのような扱いだ。
「恰好いいわね、その鎧!地下迷宮にあったの?」
「あぁ・・・、いやその、はい。えっと・・・、見つけ・・・たんですよ、はい!」
長い歓迎の場を、ようやく切り上げると、ビビカは自分の部屋へと戻った。
「こんな場所で暮らしているのですか、ビビカさん?これじゃ只の牢獄じゃないですか!
身重の人たちを罪人に仕立てあげて、こんな劣悪な環境に閉じ込めているなんて・・・!!なんてヤツだ、ヴォルネルめ・・・!!」
二人きりになり、ようやく人の姿に戻ったエルシオは憤慨の声をあげていた。
「ええ。ですから私は、なんとか大会に勝ち残って、王ヴォルネルを倒す機会を窺っているのです・・・。
しかし、今回の大会の報酬で、ここの人たちにもいくらか良い水準の生活をさせてあげられる筈ですよ、エルシオ様。」
ビビカは素っ裸の姿でベッドに横になり、戦いの疲れを癒す。
エルシオはその横で、ビビカの体中の汚れを、水にぬれたタオルで一生懸命に拭き取り、身体の傷も治癒していた。
「そういえば、エナさんとイリーナさんは、どうしたんでしょうか?」
「はい、私も二人の安否が心配です。エナ殿は大変強い方なので、命の心配は必要ないでしょうが・・・。」
鉄格子から見える、夜の三日月を見上げながら、ビビカは呟いていた。
-
サドバトス城
王座に座るヴォルネルと神官が対面していた。
「そうか…聖戦士は突破したか…」
「獣の坩堝…ヴォルネル様の獣たちがあんな結末になってしまいましたが
期待に添えた結果になったかどうか…」
「まあいいじゃないか。
確かに獣の坩堝にいる獣人たちは私の魔術で
エキドナやレディーキマイラ、メスの獣人たちを孕ませ産ませた
言わば私の子供たちのようなもの。
しかしあれらは実験の掃き溜めにすぎない。
本当に強き者は淘汰されてゆくもの…
その生き残りがあの聖戦士だったにすぎん。
益々あの女に我が悪魔の子を産ませてみたくなってきた。」
「ヴォルネル様!先日の獣の坩堝での戦いですが!
侵入者がいることが発覚いたしました!!!」
「何を慌てている…そんなこと今気付いたというのか…」
「えっ…?といいますと……」
「オスの天使が一匹、孕んでるメスの天使が一匹、
それに私が孕ませた赤い牙の頭領の女が一人…いたのだろ?」
「はっ…まさにそのとおりでございます…」
「気配でとっくに気付いていた。
何をしに来たのかはしらんが、まあいいじゃないか。
聖戦士が勝ち進むまでのお膳立てだとすれば。
私は早くあの女傑ビビカと会いたいのだ。
早くあの女の腹の中に私の子孫を植えつけたくてたまらないのだ。」
普段冷徹な表情の暴君ヴォルネルだったが
ビビカのことになると不敵な笑みを浮かべるヴォルネルに
神官たちは寒気すら感じていた。
-
次の日。
第二大会を勝ち残った事で、ビビカは外出の許可をもらい、ヤナとシルヴィーお見舞いに、産院を訪れていた。
ビビカの服装は、いつものビキニアーマーを着込んでおり、
産院に着くまでエルシオは、ビビカの右腕に光る、銀色のブレスレットへと変化していた。
無茶な形で出産をしていたヤナとシルヴィーだったが、具合は快方に向かっているらしく、元気な様子だ。
ベッドの上で、ヤナは鼻息を荒くして、興奮している様子だった。
「水晶球の中継を見ていました、ビビカさん!あのサドバトス最大の処刑場と云われた、獣の坩堝を攻略してしまうなんて・・・、
ビビカさん、本当に凄いです!!」
「いえ、あの地下迷宮での戦いは壮絶であり、私も危ないところでした。
エルシオ様の助けがなければ、私は遥かに苦戦を強いられていたに違いありません。」
ビビカの横に座っているのは、人間の姿のエルシオだ。
「いや、そんな・・・。僕なんて、まだまだ半人前ですよ・・・。」
「あなたが、ビビカ様の旦那様なのですか?」
シルヴィーが、優しくエルシオに話しかける。
「あっ、はい。エルシオと申します。御二人の事は、ビビカさんから聞いています。
僕がいない間、ビビカさんが御二人に、たいへんお世話になったようで・・・。」
ヤナとシルヴィーに、頭を下げるエルシオ。
「うふふ。
あのビビカ様の御身体に子種を植え付けて、五人もの子を孕ませるなんて、どんな豪傑な方かと思っていましたが・・・、
こんなに若くて可愛らしい旦那様だった事に、驚いておりますの・・・。」
-
エルシオは顔面を真っ赤にしてうつむき
それを見たビビカもまたはにかむ表情を見せた。
「それにしてもビビカさんのお腹、また一段と大きくなってない!?
なんかこう…ビビカさんが立ってるだけでお腹がドドンと迫ってくる感じ!」
「そうなんですヤナ殿。神の力を使っているからなのか
どうしても必要以上に力を込めるとお腹の中の子たちの
筋力の発達にも影響があるらしく、こんなお腹になってしまって…」
「ビビカさんは人間の妊婦さんだとしたら
もういつ産まれてもおかしくない状態なのだから
いっそのこと出産を終えてから闘技場での戦いに挑んだ方がよいのかと…」
「何を言ってるんですかエルシオ様!こんな状態だからこそ
闘技場に乗り込み、サドバトスの奴隷妊婦たちの生活を
楽にすることが出来たのです!
だから最後まで産み留まり、勝ち残るつもりです!」
「僕はビビカさんとお腹の子を心配してぇ…」
「ふふふ。やっぱり仲がよろしいのですね。」
二人の掛け合いを楽しそうに見守るシルヴィー。
「しかしあの獣の坩堝を攻略した後だというのに
サドバトス城にいた奴隷兵たちも解放したんですよね。大したものです。」
「奴隷兵の解放?そんなことはしてませんよ。」
「あれ?じゃああの噂はデマだったのでしょうか…。
身体の大きな女傑と天使が牢獄の一部の奴隷兵を解放したって言う噂…。」
「もしかして!!!」
「きっとエナ殿とイリーナ殿だ!!!」
その後二人の情報を聞いてみたものの
それ以上の噂は出回っておらず
未だにどこで何をしているかは不明だった。
しかし二人の行方が確認出来たことに
ビビカもエルシオも安堵の表情を浮かべた。
エナ、イリーナを見つけ合流を果たしたい思いもあったが
今はそんな時間の余裕はなかった。
第三大会の日程が近付いていたのだ。
-
兵舎に戻ったビビカ(と、変化したエルシオ)の元へ、
大会の使いの者が来ており、ビビカに第三大会の内容を告げた。
「なんと・・・!」
それを聞いた、ビビカとエルシオは驚愕する。第三大会のルールは、今までとは一風変わったものだったからだ。
第三大会が行われる場所は、闘技場ではなかった。
それは「鬼刃街」と呼ばれる、サドバトスの三分の一を占める国土に存在する、スラム街であった。ビビカもヤナと一緒に、訪れた事があった場所である。
この国の犯罪のほぼすべてがそこで行われているという、どす黒い人間の欲望が、渦を巻いている場所だ。
この街で「三週間生き延びる」のが、第三大会の内容であった。
勝利条件は、ただそれだけなのだが、勿論、いくつかの制約がある。
まず一つ目は、開始直後にビビカへの武器や装備の携帯はまったく許されていないという事だ。
ビビカはまったく空手の状態で、どうにか鬼刃街のどこかで武器を調達しなければならない。
二つ目は、一つ目と同様に金銭の類も多く持ち合わせてはならない事。寝るところ、食べる物も、なんとかして自分で調達していくしかないというワケだ。
さらに三つ目は、なんと鬼刃街全体において、ビビカの首に莫大な懸賞金が賭けられているという事。
それは懸賞金に魅せられたならず者たちが、昼夜問わずに、ビビカを襲ってくる可能性があるという事だ。勿論、ビビカの身に何が起こっても、大会側は不問にするらしい。
四つ目は、第三大会の途中でビビカが出産をしても敗北になる事。
更に上空からは、監視兼中継カメラとして、大まかにだが常に上空から魔法の水晶球がビビカを見張っており、
街の中で、誰かに匿われ続けるような事になっても、その他不正になる行為を見つければ即失格とするとの事だ。
つまりビビカは、この三週間、あらゆる人間、もしくは怪物たちとの戦闘から、自身の身を護り続けなければならないという事だ。
おまけに寝床は、裏通りの道端で寝る事が多くなるかもしれない。まさに浮浪者のような生活を強いられるのである。
そして、ルールを告げられた直後に、すぐさまビビカの身柄は鬼刃街へと連行される事となった。
こうして、ビビカの第三回戦の大会が、静かに幕を開けたのである・・・。
-
第三大会 一日目 昼。
「本当になんてヤツなんだ、ヴォルネルめ・・・!
明らかにビビカさんの体に負担をかけて、赤ちゃんを産ませる気でいるんだ・・・!!」
ここは鬼刃街の一角。
中央街ほどではないが、人通りで賑わっており、時折「殺しだ」「放火だ」等の、物騒な声が聞こえていた。
「まあ、そうあせらないでください。エルシオ様。
武器については、エルシオ様がこうして変化しているブレスレットがあるので、ひとまず心配はいらないでしょう。」
ビキニアーマーの基本装備すら取り外されたビビカは、白いボロ布を全身に巻き付けただけの、ほとんど裸に近いものであった。
それ以外に身に着けているものは、エルシオが変化したブレスレットのみだ。武器にはならないと判断された為、これを持つことは許されたのが幸いだ。
とりあえずビビカは腹ごなしとして、屋台でラーメンを食べていた。三杯ほど食べたところで、手持ちの金はすっかりなくなってしまった。
「ふぅ・・・・・・。まだまだ全然食べ足りませんね・・・。」
お腹を撫でながらつぶやくビビカに、エルシオが囁きかける。
「で、でもビビカさん・・・。常に上空から監視されてるって事は、僕が天使の姿で手助けしている所を見られたら、
ヴォルネル達に、ビビカさんに仲間がいると判断されて、失格になる可能性があるんですよ?
つまり、僕は武器の状態でしか、ビビカさんの傍にいる事はできないという事なんです。
怪しまれる可能性があるので、あまり表立って会話もできませんし・・・。」
「大丈夫です、エルシオ様。要は、三週間路上生活をして生き延びれば良いだけなのです!もしかしたら以前の大会より、簡単かもしれませんよ!
もし喧嘩を吹っ掛けられても、私の力で追っ払って見せますので、ドンと大船に乗った気でいてください!ハッハッハッハッ!!」
そう言い、爆乳とボテ腹をダブンダブンと揺らして豪快に笑うヴィヴィカであった・・・。
食事を済ませ、とりあえず鬼刃街を探索してみるビビカとエルシオ。上空をよく見ると、ちっぽけに見えるが、水晶球の球が浮かんでいるのが見えていた。
「さてと、寝床は人が通らないような建物の陰などで寝るとして、問題は食料の確保だ・・・。
どうやって、お金を稼ごうか?」
ビビカは考える。
その時、ビビカはふと、ヤナとこの街で踊っていた事を思い出した。
「そうだ!あそこだ!」
そしてビビカが向かった先は、妊婦パブであった。
ビビカはここで踊り子や給仕をして働きたいと店主に申し込んだのだ。
人気の踊り子であるシルヴィーとヤナがいない今、店主は喜んでそれを承諾した。
控室では、エルシオの叫ぶ声が聞こえた。
「びっ・・・、ビビカさんっ!!!なんなのですか、その恰好はあっ!!!」
建物内までは、外にいる時より監視の目が行き届いてはいないので、こっそり人の姿に戻れたエルシオであったが、
着替えたビビカの踊り子衣装を見て、驚きの声をあげていたのだ。
「しぃっ、お静かに・・・、エルシオ様・・・。どこで誰が監視しているのか、わからないのですよ?」
「でっ、でっ、でっ、でもっ・・・、かっ、かっ、貝殻に葉っぱって・・・ッ・・・!!・・・・・・
そっ、そんな恰好で踊らなくちゃいけないの・・・・・・?
み、見てるこっちが、恥ずかしくなっちゃいますよぉ・・・!」
恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして、ビビカの衣装を見るエルシオであった。
-
第三大会 一日目 夜。
音楽と共に巨大腹をぼうんぼうんと縦横に揺らし登場するビビカ。
「あれは巨象の姉ちゃんじゃねえか!!!!」
「ヤナと一緒に踊ってたあの女か!!!!」
「巨象が帰ってきたぞ!!!!」
「あ、あんなでかい腹とっくに臨月過ぎてるだろうに!!!」
「すげえ!今夜はここで出産ショーになるのかよ!!!」
常連客はあの時のステージぶりに登場したビビカに沸き、
初見の客はその巨大すぎる腹に貝殻と葉っぱだけで隠した衣装という
衝撃的な井出達に興奮が抑えられなかった。
以前出演した時はまだ”ビビカ”という名は知れ渡ってはいなかった為
ステージで腹を揺らす彼女が指名手配中のビビカという認識はない。
ただビビカが言い放った「巨象の舞」という名にインパクトがあり
”巨象の女”という二つ名で再出演が熱望されていたというのを
店主に後から教えてもらった。
(ビビカさん…本当にこんなやつらの前でこんな踊りをし続けるのですか…)
(今だけの辛抱です。ここで生き残る為の手段です。
あとでエルシオ様の目の前でも巨象の舞を見せてあげますから。)
(いやいや…そういうことでは…)
ヤナとシルヴィーに密かに教わっていた妖艶な腰使いに
前にも増して巨額のおひねりがステージ上へと投げ入れられた。
-
ビビカの体温は凄まじい熱量になっており、熱い汗を流している。
彼女のダンスは、普通の臨月妊婦なら、とっくの昔に破水している程の激しいものであった。
しかしビビカは見事それを耐え抜き、舞踊を完遂したのであった・・・。
大盛況のうちに舞踊ショーは終わり、ビビカは報酬をもらうことができた。
「やった、なんとかお金を手に入れる事が出来ましたよ、エルシオ殿!」
「はい、ビビカさん!とりあえず、服装をなんとかしましょう!」
大金を貰ったビビカであったが、多くの金を持ち続ける事はルール違反になる為、武器屋に入り、装備を整える事にした。
大会中は踊り子で稼ぐ必要もある為、普段の服装は踊り子のようなものにする事にした。
胸には金と銀で装飾されたニップルカバーの様なビキニアーマー、下の方はいつもと同じ紐ビキニという最小限の面積のものだ。
その後、大量のエネルギーを補給する必要がある為、ビビカは中華料理店へと入った。
そして美味い飯を腹いっぱいになるまで食べるビビカ。エルシオもこっそりと戻り、夕飯を食べていた。
店を出る頃には、もらったお金はほとんど無くなっていた。
熱いシャワーを浴びたい気分だが、宿代を節約するため、井戸の水をかけて洗うだけで我慢する事にした。
ビビカはいまだに喧騒が聞こえる、鬼刃街の中心部から離れると、
ひっそりとした建物の間にある狭い路地にボロ布を敷き、ようやく横となった。
「ふぅ・・・・・、苦しいな。少し食べ過ぎたか・・・。」
自身の孕み腹を撫で続けるビビカに、エルシオが囁く。
「ビビカさん、お腹は大丈夫?」
「はい、落ち着いておりますよ。今はただ、胃がちょっと苦しいだけです。」
「本当に大丈夫?あんな激しい踊りを踊ってて、本当に赤ちゃんが飛び出るかと思ったもん・・・。」
「私の丈夫さは、エルシオ殿もよく知っておられるでしょう?大丈夫です、心配は要りません。
とにかく今は、ゆっくりとお休みください・・・。」
優しくビビカはエルシオのブレスレットを撫でる。
「わかったよ・・・。ふああ・・・。」
あくびが聞こえたかと思うと、エルシオは眠ってしまった。
ビビカの傍にいる為、ずっと変化の術を使用し続けていたエルシオも、相当な力を消費している為、疲れて眠り込んだのである。
しかし眠った状態でも、ビビカとエルシオは意志を共有している為、ビビカの意志でエルシオを他の武器に変化させることも可能なのである。
「おやすみなさい、エルシオ様・・・。」
そして、ビビカも目を閉じるのであった。
-
「・・・・・・寝たか?」
「ああ、今だ。囲め。」
夜も更けた静かな街中で、数十の影が、眠るビビカの周りを取り囲んでいた。
それは粗末な服装をした、いかにもなならず者の集団であった。
男たちは両手に武器を持つと、目でお互いに合図を交わす。
そして一斉にビビカ目掛けて、襲い掛かった!!
しかし、
バシュゥウウッ!!!
「!!」「何っ!!」「うぉっ!?」
激しい跳躍音が響いたかと思うと、ビビカの姿は消えていた。
慌てて辺りを見渡すならず者たちの上空から、声がした。
「そろそろ来る頃だと思っていたぞ、獣どもめ!」
「あ、あそこだ!!」
見ると、ビビカは街灯の上に片足だけを乗せて立っていた。凄まじいバランス感覚である。
「料理店を出た頃から、怪しい影が追ってきている事は、分かっていた。
狙いは、私の首か!?」
「そうとも!!」
男たちの体がバリバリと割れ、禍々しい獣人の姿へと変化する。
「こんな街中でも、危険な魔物たちが、人間に擬態して普通に出歩ているのか・・・。
本当にこの国は、なんでもありなのだな・・・。」
リーダー格らしい男は、蜂のような顔に、毒針の付いた腹と翅をもった虫の獣人であった。
「ビビカ!!お前には多額の懸賞金がかかっているからなぁ!!!やっちまうぞ、てめぇら!!!」
獣人たちは、ビビカへと襲い掛かってきた!
「エルシオ様は疲れて眠っておられるのだ!静かにかかって来い!」
ビビカも街灯から飛び降りて着地すると、そのまま魔物たちに向かって腹を揺らして突進し、飛び掛かっていった!!
-
さすが幾多の戦いに勝利してきたビビカ。
鬼刃街の野蛮な獣人たちが複数襲い掛かろうと
次から次へと殴る蹴るぶん投げる。
ざっと12人程度いた虫型の獣人たちは倒れていった。
残るはボスの蜂の姿をした獣人だ。
「この程度の人数で私に敵うとでも思っているのか。」
「おぉっと…さすがの聖戦士ビビカ様は違いますなあ。
我々みたいな身分の低いものには手も足も出せませんよ。
でも…身分の低いものは低いものなりの戦い方っていうのがあってねえ。」
「どういうことだ!」
「この女に…見覚えはあるな。」
蜂獣人は一枚の白黒写真をビビカに見せた。
そこには手足が鎖につながれ乳房も臨月腹も露にされた
裸のイリーナの姿だった。
「お!お前イリーナに何を!」
「いい女だぜぇ。おしとやかでこんなに美人だって言うのに
こんなに乳はでかいし、おまけに赤ん坊も産まれそうな大きさだって言う。
母乳もぴゅーぴゅー出るし、なめずり回すのにちょうどいいぜ。」
「なんて卑劣な…」
「女傑ビビカ、俺たちのアジトに来てもらおうか。
まあ来てもらわなくたっていいんだぜ。
この女を俺の毒針で腹の子からじわじわ毒に侵していくっていうのも楽しそうだ。」
歯を食いしばりながらも
蜂獣人の言われるがまま彼のアジトへ着いていく事にした。
-
蜂獣人に案内される形で、鬼刃街の奥へと連れていかれるビビカ。
しかしその途中でエルシオは目を覚まし、そして瞬時にビビカの状況を察していた。
(ビビカさん、これは・・・?)
(イリーナ殿が、どうやら連れ去らわれたらしいのです・・・!そして、あの獣人は、彼女の命が惜しければ付いてこいと・・・!)
(なんですって・・・!しかし、あのエナさんや上級天使であるイリーナさんをとらえる程の実力者が、ヴォルネル以外に、まだこの街にいたというのですか?)
(私も、そこが疑問なのです。ですが、とにかく今は、あの魔物についていくしかありません・・・。)
やがてビビカ達は、とある建物の中へと連れていかれた。
建物の中には床に巨大な石の扉が開いており、地下への階段が通じていた。
「さあ、ここに入りな。」
「・・・・・・。」
ビビカが中へと入り、階段を降りていくと、上の扉が重い音を立てて、閉じた。
すると突然、蜂獣人が翅を開いたかと思うと、上空へと飛んだ。
「ひゃはは、まんまとひっかかったなぁ!!あの写真は、俺たちが作ったニセモンの写真さ!」
「何ッ!!」
「さあ、俺たちのボスに挨拶しなぁ!!!アンタを殺したくてたまらねぇらしいぜっ!!」
「待てっっ!!」
後を追って走り出すビビカ。
やがて階段が途切れ、広い空間の部屋が現れた。
「よくきたなぁアアア・・・!!・・・」
「ビビカさん!!」
「!」
声のした方へ、ビビカは振り向く。
「! お前はッ・・・!!」
「ククク・・・、聖戦士ビビカ。お前は街に足を踏み入れた時から、すでに俺の獲物だったんだぜ?」
ビビカは驚愕した。
そこに立っていたのは、全身を鎧で包んでいる漆黒の巨大な騎士。
剣先が三日月の形になっている大剣を持ったその禍々しい姿は、かつてビビカが倒した筈の「首切りゾアム」こと、黒騎士だったのだ!
-
「なぜお前がっ・・・!お前は昔、私とエナ殿とレミリオ王子の手で・・・。」
驚いた様子で、ビビカは叫んだ。
相変わらず中は空洞の鎧の中から、禍々しい声が響いてきた。
「そうともよ。確かに俺は二回目の死を迎えた。しかし、どうも俺ってヤツは、よくよく悪運の強い星の下に生まれているらしい。
この国の王のヴォルネルって野郎が、あの焼け跡から唯一残っていた、俺の怨念が残ったこの愛剣を媒体に、黒魔術で俺を地獄から復活させてくれたのよ・・・。」
「なんだとッ・・・!!」
「そして俺はこの国へと渡り、ヤツの部下になる形でこの国で働いているのさ・・・。なぜか分かるか・・・?」
「・・・・・・復讐・・・ですか。」
「その通り!!ヤツに命を握られてるってのもあるが、最大の理由はお前に復讐するためだよ、ビビカァァ!!」
怒りの声をあげながら、黒騎士ゾアムはビビカに剣を突き付けた。
「わざわざ蘇ってまで私を倒しに来たのは、ご苦労な事ですね。
よかろう!!何度でも地獄に送り返してやる!」
ビビカはブレスレットを嵌めた腕を突き出す。
ビビカの意志に呼応するかのように、エルシオのブレスレットが変化し、
手の甲の中央へ垂直に、銀色の日本刀のようなブレードが出現したのだ。
「ほう・・・!面白ぇ武器を持ってんじゃねぇか・・・。
それじゃあ、行くぜッッッ!!!」
巨大な剣を構え、黒騎士が迫ってきた。
「やぁああああ!!!」
ビビカは剣をレイピアの様に構えると、一歩踏み込み、高速の突きを繰り出した!
「ははは、のろいぜぇぇっ!!!」
しかし、その突きを黒騎士は、巨大な体ですべて躱していた。
そして間合いを詰めると、ビビカに剣を振り上げた!!
「ヒャハァッ!!」
「なんのッッ!!!」
ビビカも、素早く剣を振りあげる。
ガキィイイインッッ!!!
ビビカと黒騎士の剣が、空中でぶつかり合い、火花が散った!!
-
つばぜり合いの音がアジトの中を激しく響く。
以前戦っていた時よりも剣の技術向上には自信があったビビカ、
しかし以前黒騎士を倒した時はエナと共に倒していた事を思い出す。
そして何よりお腹の子は3人に増えており
遥かに動きが鈍くなっている自分に気付いた。
刀を振り払い、黒騎士と距離をあけるビビカ。
「どうした聖戦士…剣を通して焦りを感じるぞ…
まさかあの聖戦士ビビカがこんな所で負けを感じ始めているんじゃないか…」
「……」
ビビカは何も答えなかった。
(今は1対1とは言え、あの蜂獣人が何も仕掛けてこないとも思えない…
圧倒的に不利だ…エルシオ様の力や
身の回りのものを使って何とかならないものか…)
この閉ざされた環境で勝てる術を模索していたのだった。
-
「ビビカさん!」
エルシオがビビカに呼びかける。
「どうしました?」
「さっきからこの部屋を観察していたんですけど、この部屋は壁や床が石で出来ていますよね・・・。」
「はい。」
「そこで思いついたんですけど、あれを・・・、ああして・・・。」
「成程!さすがエルシオ殿!!わかりましたっ!!」
「何をコソコソしゃべくっていやがるッ!!」
ギロチンの様に迫る黒騎士の大剣をなんとか躱しながら、ビビカは素早く壁の方に駆け寄った。
「でやあああああああぁぁ!!」
そして、剣で壁を切り裂いた。
岩壁は剥がれ、石の塊が落ちていった。
「無駄だぜ!!壁を切り裂いて脱出しようって腹だろうが、
この部屋の壁は八方を厚い石壁に囲まれてる上に、ここは地下だ!!
逃げられやしねぇぜっっ!!」
「何を見当違いな事をっ!私が用があるのは・・・、こいつだっ!」
ビビカは斬った石壁から落ちた、石の塊をひとつ掴んだ。
「でやあああああああああああッッッッ!!!!!」
そして野球選手の様に振りかぶると、空中目掛けて投げつけたのだ!
「何ぃっ!!」
「ぐぎゃあああああっっ!!!」
バキィイイッ!!
石の塊は上空の暗闇の中に入ったかと思うと、隙を伺っていた蜂獣人の頭を砕いて、
落ちてきたのだった!!
「くっ・・・、てめ・・・、えっっ!!?」
一瞬隙を取られた黒騎士が、ビビカの方に目を戻すと、眼前に石の塊が迫っていたのだ。
ビビカは上空に石を投げた際、すぐさま黒騎士に向かい、第二投を放っていたのである。
ガンッッ!!
「ぐおっっっ!!!」
顔面にまともに喰らった黒騎士は、さすがによろける。
すかさずビビカは黒騎士に向かい、ダッシュしていた。
「うぉおおおおおおおおおおお!!!!!」
ガゴォンッッ!!!
ビビカの渾身のラリアットが黒騎士に炸裂し、黒騎士は床に叩きつけられる!!
「ぐがぁっっっ!!!」
「今です!ビビカさん!」
「はい!」
黒騎士を葬るには、その鎧を破壊するしかない。
ビビカは両手で黒騎士の首を掴みにかかった。
-
「食らええっっっっっっ!!!」
ビビカは黒騎士の首を両手で掴むと、天高くジャンプした。
そして両手を高く上げたかと思うと、そのまま高速で黒騎士の体を、頭から地面に落ちている剣へと叩きつけたのだ!!
「グバガ、ハァッッ!!!」
黒騎士の体と剣は、ひび割れ、黒い煙が噴き出していた。
勝負有りである。
「どうだ!!」
「グ、クッ・・・、クク、ク・・・。」
崩壊していく黒騎士だが、その声は笑っていた。
「何が可笑しいのですか?」
「クク、ク・・・、ビビカ・・・、お前は気づいていないが、
この第三大会は、お前をサドバトスの民衆たちの目から遠ざける為の大会なのだよ・・・。」
「なんだと・・・?どういう事だっ!」
「ビビカ・・・、お前がサドバトスで生きながらえているのは、
今この国で英雄視されているからに他ならない・・・。
そこで、ヴォルネルのヤツは考えたのさ。
全国民の目が、お前がいる鬼刃街に集中している今だからこそ、『聖戦士』を処刑できるのはな・・・。」
その時、ビビカ達のいる部屋が、大きく振動しはじめた。
そして、部屋が高速で動き始める感覚を、ビビカとエルシオは感じた。
「な、なにっ・・・!?」
「こ、これはっ・・・!」
「ククク、俺は『移動』している間の時間稼ぎに過ぎなかったのさ・・・。
出来れば、この手でお前を倒したかったが・・・、ざん・・・ね・・・んだ・・・ぜ・・・。」
黒騎士の体と剣は崩れ落ち、砂と化した。
「待て、黒騎士!!ちゃんと説明しろっ!!」
ビビカが黒騎士に駆け寄った時だ。
ガコンッッ!!!
「うわっ!!」
また部屋が大きく揺れ、今度は上へと上昇していく。
その感覚は長かったが、やがて振動もようやく納まり、部屋はどこかで止まったようだ。
「一体、何が・・・?」
「! ビビカさん、あれを!!」
見ると、部屋の壁と天井が透けるように消え失せていた。
そして壁の外には、サドバトスの街並みを一望できる風景があった。
「こ、ここは・・・?」
「ようこそ、我がサドバトス城へ・・・。」
「!」
ビビカが振り返ると、いつの間にかそこに大男が立っていた。
漆黒の鎧に深紅のマントを纏い、禍々しい貌をした暴王ヴォルネルであった。
-
「お初に・・・、聖戦士ビビカ。」
ヴォルネルは深々と、ビビカに頭を下げた。
「貴様・・・、まさかヴォルネルか!?」
「作用。ここは我が城の最上階。そこへ、そなたを招待したのだ。
壁に天井もない吹き抜けの部屋に、見渡す限り一面に見えるサドバトスの夜景は美しいものであろう?」
「ふざけるな!一体、これはどういう事だ!」
「黒騎士はしくじったが・・・、まあ目的は果たしたといえるな・・・。
第三大会の本来の目的は、そなたをこの場所へ誘導するためのものだったのだよ、ビビカ。
・・・お前を、我が同胞とする為にな!!」
「なんだと・・・!」
「堂々とお前を、私と同じ魔の者にするのはいつでもできる事であった。
しかし、大会でのお前の活躍は目を見張るものがあった。我が国の民や、誘拐した妊婦たちからの人気と信頼は絶大な物だ。
そこで、私は考えた。
お前を民衆たちに気取られず、この城内へと運び、そして我が同胞へと変えた方がよいと・・・。
そうすれば私は心強い右腕を持つことが出来、お前は今後から愚鈍な民衆を指示して導く、我が国の『聖騎士』として、
サドバトスを益々栄えさせる役回りを演じさせるという、素晴らしい考えだ・・・。」
「その為に、このような回りくどい方法で、私を?」
「そうとも、お前の腹はもう出産寸前だ。産まれてくる神の子は、我が部下として教育してやる。
今宵が、『聖戦士』ビビカの終わりの日だ。
さあ、私が直々に相手をしてやる・・・。
第四大会・・・、いや、決勝大会を始めようではないか・・・!!」
-
「しかし随分と貧相な刀だな。
本当にその装備だけで私に敵うとでも思っているのか…」
ビビカは何も言わずに刀の柄を強く握った。
「聞いているのはビビカにではない。
そこの天使にだ。分かっている。
その刀がビビカの夫だということくらいは。
どうだ。姿を見せてはくれないか。」
ビビカの手の中から離れ、元の姿へ戻るエルシオ。
エルシオの表情は硬く、冷や汗をかいているようにも見えた。
「いくら幾多の激戦を勝ち続けてきた女傑ビビカだとは言え
第三大会のハンディキャップがついたまま…
というのも私としても腑に落ちない…
………そうだなあ…………
……………………
さあ、出てきなさい!
先程からその扉に隠れているのは分かっているのですよ!!!」
城内へと通じる大きな鉄の扉へ向かって大声で呼びかけるヴォルネル。
ギギギギギィ……
重い音を立ててゆっくりと扉が開く。
両手で押し開けているのはエナの姿だった。
その後ろには羽根を生やした状態のイリーナもいた。
-
「エナ殿!」
「イリーナさんっ!」
「ようビビカ、エルシオ!お前たちもこの城に潜入してたんだな!」
「どうしてここに?」
「それが・・・、この城には多くの罪のない人々が囚われていると聞いて、
エナさんと協力して、ずっとこの城に隠れて調査していたんですが、
見つかっちゃって・・・。」
よく見ると、イリーナの顔は汗ばみ、しきりに腹を抑えていた。
「イリーナ殿、貴女まさか・・・!」
「ああ、イリーナのヤツ。無理して、この城の神官たちと戦い過ぎた所為で、
とうとう産気づいちまっているのさ・・・。」
「え、エナさん・・・。私は平気・・・、まだ戦えます・・・。」
「ああ、分かってるさ!でも、もう頭が出てきちまってる状態なんだよ!あんまり無茶はすんなって!」
すると、遠くから神官たちや、城兵たちの声が聞こえてきた。
「あの侵入者たちは何処だ!?」
「この近くにいるはずだ、探せ!!」
ヴォルネルはエナを見て、話しかける。
「久しぶりだな、エナ。私の子供たちは元気か?」
「ああ、元気だよ!てめぇに似ずにかわいいさっ!!」
エナは手にしていたトマホークを、思いっきりヴォルネルの首元目掛けて投げつける!
しかし、それをサッと躱すヴォルネル。頬をかすめただけで、一筋の切り傷が出来ていた。
「フッ、相変わらず豪胆な女だな・・・。」
「てめぇこそ、片腕をへし折って、腹に風穴ブチ開けてやった傷は、元気そうに再生してるじゃないか。
あの時、首をもぎ取っておくべきだったかねぇ・・・。
まぁ、いいさ。
てめぇのツラを見に来たのは、一言ことわっておきたくてねぇ。
あの子たちの親権は、あたいのモンだ!いいね!?」
「フフ、わざわざそんな事を言いたかったのか・・・。律儀なヤツだな。
どうだ、お前たちも混ざらぬか?」
「へっ、余裕こいてるねぇヴォルネル!
てめぇはずっと監視していた割には、目の前にいるビビカの凄さと恐ろしさを何一つわかっちゃいないよ!
その二人だけでこんな国の一つや二つ、ぶっ壊すには充分なのさ!」
そしてエナは、ビビカとエルシオに向かい、話す。
「ビビカ!エルシオ!この馬鹿王をぶっ殺すのは、あんた達に任せる!あたい達は、兵隊どもの処理と、
この城に捕まっている連中を一人残らず解放しにいく!それでいいかい!?」
「はい、エナ殿!イリーナ殿!お気をつけて!!」
「気を付けてください!」
「よし!行くよ、イリーナ!」
「はい!」
その場から立ち去るヤナとイリーナ。その二人の後を追う声が聞こえた。
「いたぞ、あそこだ!」
「追え!」
ヴォルネルは再び、ビビカとエルシオに向き合う。
「やれやれ、この私を前に、相変わらず大した度胸の女だよ・・・。
お前たちも当てが外れたな、加勢が加わらないで?」
「何を言っている!あの二人は、きっと囚われている人々を救い出してくれます!
加勢は、それだけで十分!」
「ええ、そうです!」
-
「・・・まぁ、いい。始めるとしようか。」
「ビビカさん!」
「はい、エルシオ殿!」
エルシオはビビカの背中に廻り、純白の翼がビビカを包む。
それが光り輝いたかと思うと、ビビカの姿は変わっていた。
背中に巨大な翼が生えていたのだ。
「ほう・・・、まさに女神といった風情だな。」
「ヴォルネル。貴方の方こそ、仲間を呼ばなくていいのですか。私たちは一向にかまいませんよ。」
「侵入者たちにここまでたどり着かせてしまうような、無能な部下の手助けなど、要りはしない。
それに、私自らが作成した、この城内闘技場には特別な仕掛けがいくつも施されていてね・・・。私にはそれだけで十分なのだよ。
さて、始めようか・・・!」
「ええ・・・!」
対峙をするビビカとヴォルネル。
遂にこのサドバトスと、そこにいる全ての人々の命運を決める戦いの火蓋が、切られたのだった。
「・・・・・・。」
少し屈んで両手を構えた姿勢で、じりじりと迫るビビカ。
持ち前の巨体と、それを活かした、素手のプロレスラースタイルで、ヴォルネルを叩き潰すつもりだ。
ヴォルネルは最初の場所に、不遜な笑みで腕を組んで立ったままだが、その眼はビビカを捉えたまま、一切離してはいない。
今のところ、ビビカの腹の中にいる子供たちは大人しい。体調は万全だ。しばらくは激しい戦闘を行っても、大丈夫であろう。
ビビカは冷静に相手を観察していた。
体格、パワー、スピード、戦闘においてのテクニック、その全てにおいて、ビビカはヴォルネルに勝っている。
しかし、この闘技場は相手のフィールド。何があるのか、まるで油断は出来ない。
ヴォルネルの全身は鎧で完全に武装が施されており、打撃の攻撃の類を鎧部分に与えても、あまり効かないだろう。
さらにその手の指の先端は鋭く尖っており、掴まれただけでもダメージは必須だった。
(狙うは、唯一、素肌を見せている頭部・・・。相手の構えにも隙が多い。
・・・しかし、不用意に迫れば、何が飛び出してくるかわからんな・・・。)
「どうした!かかってこないなら、わたしから行くぞ!!臨月腹の戦士よ!!」
と、ヴォルネルが急に動き出し、ビビカに迫った。
シャキン!!
「!」
なんとヴォルネルの右の手の甲から、巨大なかぎ爪が三本飛び出したのだ!!
-
「その翼ごと、背中を斬り落としてくれるっっ!!」
「エルシオ殿ッッ!!」
ガキィンッッッッッ!!!
ビビカに迫ったかぎ爪は、エルシオが変化した翼に当たった。
しかしエルシオは、翼を畳ませた態勢で硬質化させた事により、かぎ爪をガードしていた。
「ほう・・・!なかなかのパワーだ・・・!
只のか弱いガキの天使かと思っていたが・・・、
ビビカを孕ませるだけの事はある。貴様も、油断できん力を秘めているようだな・・・!」
「やぁあっ!!」
「おっと!」
ビビカのパンチを躱したヴォルネルは、すかさずビビカから間合いを取る。
「エルシオ様!大丈夫ですか!?」
ビビカは背中のエルシオに呼びかけた。
「大丈夫です!ビビカさん・・・、背面は僕が必ず護ります。
ビビカさんは安心して、前面の攻めに応じてください。」
「エルシオ様・・・・・・、分かりました!」
再び、ヴォルネルに向き合い、じりじりと歩み寄るビビカ。
「・・・おっと、そこの辺りは足を踏み入れない方がいいぞ?」
「何?」
すると、ビビカの足元に踏んでいた岩が、小さくへこんだ。
カチリ
それと同時に、何か小さな音が聞こえた。
-
「ビビカさん!!」
「!!!」
空気を劈く音が聞こえたと同時に、ビビカは後ろへと飛びのいた。
それと同時に、数本の矢がビビカの目の前を飛んで行ったのだ!!
どうやら、闘技場の周りにある壁から発射されたようだ。
「なんだと・・・!!」
驚くビビカに、ヴォルネルは笑いながら言った。
「ハハハ、危ないところだったな。
実はこの闘技場の床には、いくつかトラップスイッチを仕掛けさせてもらっていてね。
勿論、私には何がどこにあるかを全て把握している。
ああ、それと、
翼で空中に逃げても、城中の塔から、飛んでいる物にたいして四方八方から矢が飛んでくる仕掛けを施してある。
君たちは地べたで闘い続けるしかないのだよ・・・。私と、いつ襲い掛かってくるともしれん罠とね・・・。
勝負を続けようじゃないか・・・!」
「くっ・・・、なんて卑怯な・・・!」
エルシオが怒りの声をあげる。
「卑怯?私は勝てる戦しか、せんのだ!!さぁ、来るがいい!!
そのデカい腹で、どこまでやれるかな!!」
ヴォルネルは高らかに笑い、今度は自分の方からビビカ達に歩み寄ってきた。
「どうしよう、ビビカさん・・・。地上で逃げてても、いつかはトラップに引っかかっちゃう・・・。」
「そうですね・・・。今、私が持っている武器もこれだけですし・・・。」
ビビカはなにやらゴソゴソと、豊満な胸元を探り始める。すると、なんと中からバックラーを取り出したのだ。
バックラーとは小型の楯で、防御だけでなく、殴る、刺す、斬る等の攻撃にも転化させることが出来る武器だ。
ビビカは以前にキマイラ戦でも、この楯を使い、勝利している。
「ビビカさん、い、いつの間にそんな物を・・・。」
「これで、ある程度の防御は出来ます!ヤツは私に負担をかけ続け、出産するのを待っている筈・・・。
まだどこにどんなトラップが在るかは判りませんが、こちらも攻めるまでです!」
ビビカも、ズンズン腹を揺らしてヴォルネルに向かっていく。
「シャァッッ!!」
「なんのっ!!!」
キィイイインッッ
ヴォルネルのかぎ爪攻撃を楯で防ぐビビカ。火花が飛び散った。
さらに続く攻撃を、ビビカは捌いていく。
(狙うべくは、ヤツの脊髄・・・!なんとか隙を見て、飛び掛かろう・・・!)
-
攻撃を防いでいる間にも小さなトラップを何度も踏むビビカ。
「ビビカさん危ない!!!」
カキンッ
危な気だがトラップの矢を
なんとかバックラーで防ぐビビカ。
「ビビカさん、今のこの格好では不利です!鎧なります!」
エルシオはそういうと両翼でビビカを包み込み
ミノタウロス戦の時のように白銀の鎧へと姿を変えた。
もちろんその大きな巨腹は隠しきれていない。
闘技場内のトラップには爆薬が仕込まれているものもあった。
ヴォルネルは何度も爆薬のトラップを踏みつけているが
マントをなびかせ、びくともしていない様子だ。
(ビビカさん…気付きました…)
(何がです?)
(ヴォルネルのマントです…爆炎の中にいる時…
何かマントで自身を守っているようにも見えます…
天使でもあのような魔術が存在します…
きっと悪魔にもあの程度なら使いこなせるはず…)
(分かりました!マントですね!)
なんとか背後に回ろうとするビビカだったが
中々隙を見せないヴォルネル。
(くっ…何か飛び道具の一つでもあればいいのだが…そうだ!!!)
ヴォルネルの攻撃を巨腹と爆乳を激しく揺らしジャンプで交わしながら
刺さり損ねた矢を集め始め、束を作った。
「エルシオ様!!!これに火を灯してください!!!」
「!!!!そういうことか!!!!分かりました!!!!」
業火を上げたいまつに変えた矢の束を
ヴォルネルの足元にひるがえっていたマントへと投げつけた。
見事命中した矢の炎はマントへ燃え移り、ごおごおと音を立て炎上していった。
「やったか!!?」
-
見ると、ヴォルネルのマントは燃え尽きて無くなっていた。
「やった!」
「フッ、マントを燃やした位で、何を喜んでいる。」
「しかし、これで不用意に爆薬を踏んでいくというワケは、いかなくなったでしょう?」
「ハハハ!我が鎧があれば、爆薬など効きはせぬわっ!」
かぎ爪を前に突き出しながら、ヴォルネルは突進した。
「ぬんッ!!」
迫りくるヴォルネルの手首を、すんでのところで両手で掴むビビカ。
「ヌウ・・・ッ!!」
ヴォルネルの体は停止し、かぎ爪は、ビビカの目と鼻の先で止まった。
「よし、捉えたぞ!!」
そのままビビカは、片腕に装着していたバックラーで、ヴォルネルを殴りつけた。
「うらあああぁぁっっ!!!」
バキイイィッ!!
「ぬごぁッッ!!」
楯のパンチを食らったヴォルネルは、地面へと倒れた。
「今だ!!ビビカ・ヒップ!!!」
ビビカはくるりと回転すると、ヴォルネルの胴体部目掛けて、剥き出しの巨尻を向けた。
-
ボゴォオオオオオン
ビビカの全体重を乗せたヒップドロップに
流石のヴォルネルの鎧にも相当な衝撃が加わった。
ぶりんと尻を振り上げすぐに立ち上がると
怯んでいるヴォルネルの顔面に
追い討ちをかけるように渾身のビビカのトーキックが炸裂した。
「ぐわあぁあ!!!!!!!!」
「やったよ!ビビカさん!!!」
2メートルの距離吹っ飛ぶヴォルネル。
顔面から血を流しながらゆっくり立ち上がる。
「よくも………
よくもこのヴォルネル様の顔を汚してくれたなああああ!!!!!!」
ヴァアアン!!!!
ヴォルネルが叩きつけるように右足でトラップのスイッチを踏んだ瞬間
ビビカの足場がボロボロと崩れ落ち
闘技場の中心に大きな穴が開いた。
「うわあああああああああああああああああああ」
「ビビカさん!!!!!!」
息つく暇もなく真っ逆さまに落ちるビビカの鎧から
すかさず翼を広げるエルシオ。
息を整え、自分たちが落ちてきた穴を見上げた瞬間
血まみれのヴォルネルの目の前に現れた。
「な!なに!!!!!!!!!!」
「このアマがああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
ヴォルネルの怒号と共に
憎しみの篭った右ストレートがビビカの左ほほに炸裂し
再び大穴の底へ急降下していった。
バゴオオオオオオオオオオオオン
砂煙を上げて大穴の底へ突き落とされた。
「い…いたたた……」
「大丈夫ですかビビカさん!!!」
「あぁちゃんと受身は取った…が腰は強く打ったかもしれない…」
再び上を見上げるとかなり高い所から落とされたことが分かった。
ヴォルネルの気配はない。
周りの暗闇に目を凝らすと
ヴォルネルの部下やサドバトスの奴隷たちが処刑された跡
…だとでもいうのだろうか
闘技場以上に広い空間に無数の人骨の残骸が散らばっていた。
-
「僕に掴まって!とにかく、ここから脱出しよう!」
「はい・・・。」
ビビカの肩を組み、頭上に拡がっている穴へと、エルシオが羽ばたこうとした時だ。
「!!!!!」
「シャアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
暗闇から、ヴォルネルがかぎ爪を振り上げて、飛び出してきたのだ。
その狙いは、ビビカの孕み腹だった。
「ビビカさん、あぶないっっ!!!!!!」
一瞬のことであった。
「エルシオ様ッッッ!!!!!!!!」
倒れたエルシオを、即座に抱き上げるビビカ。
ビビカの孕み腹に覆いかぶさる様に庇い、翼を広げて身を挺して彼女を守ったエルシオの背中には、
痛々しいかぎ爪の痕が広がり、血が流れていたのだ。
「・・・だい、じょう・・・ぶ?ビビカ、さん・・・・・・。」
「エルシオ様・・・・・・。」
ビビカの胸の中でエルシオは、ビビカのお腹を優しく撫でる。
「よかった・・・。赤ちゃんたちも、無事で・・・、へへへ・・・・・・。」
「なんという無茶な事を、エルシオ様・・・!あのような攻撃、躱せましたのに・・・!
なぜ、こんな・・・・・・!」
「ふふ・・・、すぐ無茶するビビカさんの癖が移っちゃったかな?
それに・・・、お嫁さんを・・・守るのは・・・、お婿さんの・・・務めでしょ?
大丈夫・・・・・・、心配・・・しないで・・・、
こんなの・・・、かすり傷だよ・・・!・・・イテテテ・・・・・・。」
動けなくなる程の激痛に襲われているにも関わらず、エルシオはビビカに笑顔を向けていた。
命にかかわるという程ではないが、この傷では、エルシオの戦闘は続行不可能であった。
「エルシオ様・・・・・・。」
エルシオをギュウと抱きしめ、ビビカは涙ぐんでいた。
ヴォルネルは、かぎ爪から滴り落ちるエルシオの血を舐め、嗤いながら言い放った。
「フン、バカな餓鬼だ。
わざわざ身を挺して他者を庇うという、愚考を行うなどと・・・。
力はあっても、所詮は、下等な天使か・・・。」
その言葉を聞いた時、ビビカの髪が鬼の様に逆立った。
頭の中で、何かが切れる音がした。
-
「び、ビビカさん・・・?」
エルシオは、ビビカの気配が変わったことに、すぐに気づいた。
「・・・エルシオ様・・・・・・、少しの間だけ、待っていてください・・・・・。」
ビビカは抱いていたエルシオを、近くの壁にそっと優しく置くと、ヴォルネルに向かって振り返り、ズンズン歩いて行った。
「ビビカさん・・・、ま、まさかっ・・・、痛ゥッ!!」
慌ててビビカに駆け寄ろうとしたエルシオだったが、痛みで動くことが出来ない。
ヴォルネルは、迫るビビカに血塗れのかぎ爪を向けた。
「今度は貴様の番だ、ビビカ・・・!
あの餓鬼の目の前で、なぶり殺しにしてくれる・・!!」
ブチンッ、と、歩いているビビカの胸元の鎧が勢いよく弾け飛び、真っ黒な巨大乳輪の目立つ爆乳が、ブルンと露になった。
上だけでなく、下の鎧も同様にして、弾け飛んでいた。
ビビカの筋肉が膨張して盛り上がり、その肌はみるみるうちに紅潮していた。
凄まじい怒りでだ。
ビビカは口を開いて、ヴォルネルに呼びかける。
「キサマ・・・・・・、今、なんと云った?」
「あ?なんの事だ、ぎゃ、ぐっっ。」
ヴァゴオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!!
ヴォルネルは、その返事を最後まで言う事が出来なかった。
なぜなら、気づけばビビカの神速の拳が顔面の中央へと深くめり込んでおり、その体は30メートルも吹っ飛ばされ、
凄まじい勢いで、壁に叩きつけられていたからだ。
「ご はっっ。」
ヴォルネルは血反吐を吐き、歯が何本も飛び散った。
ひび割れた壁から外れ、床へと倒れ落ちようとするヴォルネルの体。が、しかし。
バギャアアアッッ!!!!!
「!!!!!!ぐぎ ゃあ ああ&・;#a*ああ$:アア☆#!=>ああああああ!!!!!!」
声にならない叫び声をあげるヴォルネル。
300キロを軽く超える剛速球で投げつけられた、50キロの岩石の塊が、さらに顔面にめり込み、またもや壁に叩きつけられたからである。
「・・・もう一度云ってみろ、ヴォルネル・・・!
エルシオ様が・・・下等だと?
小物が・・・!!!」
「ぐ はっ・・・・!!! な なんだ と・・・ッ・・!」
顔面をグシャグシャに潰されながら、ヴォルネルは、ようやくビビカの異変に気付いた。
ビビカの体中に赤黒いオーラが纏っており、凄まじい熱気が辺り一面に迸っている事を。
血塗れの顔でビビカの顔を見たヴォルネルは、産まれてから一度も他者に怯えたことの無かった強大な悪魔である筈の自分の体が、
明らかに恐怖で震えている事を感じた。
ビビカのその表情は、修羅か、羅刹か。
天に属する存在でありながら、その布一つ纏っていない巨大な裸身から放たれるビビカの闘気は、明らかに悪魔じみていた。
「び・・・、ビビカさん・・・!」
エルシオはビビカが、遂に怒りで「堕天化」してしまっていた事に気づいた。
「ヴォルネル・・・、テメェには・・・、地獄は生温い・・・!!
アタシが閻魔の代わりに、見せてやるよ・・・!!!!!」
そう告げながらビビカは、いや、
『ブラック・ビビカ』はパキパキと、指を鳴らすのであった・・・・・・。
-
グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
地響きと共に雄叫びを上げるビビカの筋肉は益々と膨張し
ボゴォンという音と共にただでさえ巨大なその三つ子腹が大きくなり
乳房もまた一回り大きくなり噴火した溶岩のように噴出し続けた。
怒りに満ちたその瞳で睨みつけ、牙の生えた歯で食いしばる
その表情は誰が見ても赤鬼のようなモンスターだった。
その変貌に圧巻したヴォルネルは倒れこんだまま動けなかった。
たじろぐ暇もなく堕天化したブラックビビカが
ヴォルネルの前に現れ、みぞうちを何度も何度も何度も何度も殴り続けた。
漆黒の鎧もひび割れ神速の拳はヴォルネルの腹に直撃した。
呼吸をする暇もないヴォルネルに顔面を
全体重をかけて踏みつけるビビカ。
バゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン
ビビカが踏みつける度にその威力で周囲の残骸は吹き飛び
手も足も出ないヴォルネルを中心に地面には亀裂が出来ていた。
そんな状態のヴォルネルに対しても馬乗りになり
情け無用の猛襲をまだやめなかった。
-
目を爛々と輝かせ、血まみれの拳でヴォルネルに拳を叩き込むブラックビビカ。
ビビカがヴォルネルを凄まじい勢いで殴る度に、その衝撃が城にも伝わり、壁や床に亀裂がはしり、音を立てて割れていく。
亀裂は天井部分にまで届き、瓦礫が雨の様に落ちてきた。
このままでは、城が崩壊してしまい、まだ中にいる人々が、危険だ。
しかし、怒り狂っている今のビビカは、ヴォルネルの息の根を止める事しか考えていない。
「まずい・・・!!早く、ビビカさんを正気に戻さないと・・・!!!
エルシオは力を振り絞り、まずは動けない自分に治癒の力をかけて、背中の傷を治し始める。
傷が治り次第、すぐにビビカに清めの儀を行う為だ。
「グヴォハァッ・・・ッハァ・・・!!!!!
オ・・・・・・オノ゛レッ・・・・・・、
オノ゛レ゛ェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」
その時、もう既に絶命したかに思われたヴォルネルが、獣の如く吠えた。
「ムウッッ!!!」
ブラックビビカは拳を止めると、ヴォルネルから離れる。
「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・・・!!!!!!」
ヴォルネルの体に、凄まじい量の魔力が集まっていく。
ヴォルネルは、この国で今まで蓄え続けていた魔力を全て、自分自身に注いでいたのだ。
たちまち、ヴォルネルの体が、ぐんぐんと大きくなっていく。
「ほう・・・、まだそんな力が残っていたのか・・・、おもしれぇ・・・!!」
ビビカは、ニヤリと笑った。
そして足元に落ちていた数本の鎖を拾い上げると、自身の身体の膨張を抑えるかのように、腹と乳房に鎖を巻き付けた。
実際、巻き付けた途端に、膨張した乳房と孕み腹に鎖が喰い込んだ。
締められた孕み腹は、まるでビビカの腹を突き破って生まれようと蠢いている胎児たちを抑えるかのように、
締められた乳房からは、熱い母乳が滞ることなく噴出し続けていた。
ビビカのその姿はまるで、何千年も封じられている、妊娠中の怪物が現世に蘇ったかのような、恐ろしいものであった。
奴隷船での戦いの時のように、両腕と拳にも鎖を巻き付け、ビビカの戦闘の準備は万端であった。
その間、ビビカの1.5倍ぐらいの大きさになったヴォルネルの体は、さらに変化して獣人化していく。
ヴォルネルは頭部に二つの巨大な角、黒い毛を全身に生やした、筋肉質の山羊の様な獣人になった!!
「ゴォオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
立ち上がるとビビカに向かい、吠えるヴォルネル。
その体からは禍々しい魔力に満ち溢れ、もはや、人間の姿の時の知性は失われている様である。
「あたしを食いたいか・・・!!!いいぜ、かかって来なァァ!!!!!!」
パァーンと、自慢の巨尻を勢いよく叩き、自信満々の表情で両手を広げて仁王立ちをするビビカ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
牙を向けながら、ヴォルネル・・・、
いや、魔の獣人ゴッドゴートは、ビビカに向かって突進してきた。
ビビカのサドバドスでの最後の肉弾戦が、幕を開けたのであった!!!!!
-
ゴットゴートと化したヴォルネルはうなり声を上げ
ビビカへ向かって殴りかかる。
ヴォルネルの猛襲を次から次へと韋駄天の如く避け
避けた先の地面は殴った反動で地割れが起きていた。
どんなに避け続けていてもヴォルネルの猛襲は止むことがない。
その時だった。
「うっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
何も攻撃を受けていないビビカの表情が歪んだ。
急に動きを止め地面に右ひざをつく。
赤みを帯びていた肌が徐々に肌色へと戻っていく。
次の瞬間ヴォルネルの右手が鋭くビビカを狙う。
「ビビカさん!!!!」
バゴゴゴッゴゴォオオオオオオオオオオオオオオン
ビビカの楯となったエルシオの胴体にヴォルネルの拳が直撃し
遠くへと吹き飛ばされた。
硬直化が間に合わなかったエルシオは瓦礫の下敷きになり傷だらけだ。
「ビ……ビビカさん……も、もしかして……」
肌や髪が元に戻り、堕天化が治まったビビカだったが
母乳が吹き出る乳房と丸々と巨大化した孕み腹はそのままだった。
そして片ひざをついた太ももの間からは
汗以上に滴り落ちるものがあった。
「あ…あぁ……ついに……
破水がきてしまったようです……こんな時に……」
堕天化してしまったことによってお腹の三つ子は急成長。
更に身体に負荷をかけてしまったビビカについに出産の時が来てしまった。
流石の聖戦士ビビカとは言え、巨大化した三つ子の出産の痛みは容易なものではない。
ビビカはそれでも陣痛の痛みに耐え戦おうとしていた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
理性を失ったヴォルネルは勝利を悟ったのか
天に雄叫びを煽ると弱ったビビカを狙い
強く握り締めた拳を振り下ろした。
「ビビカさん!!!!!!!!!!!!」
カキン!!!!!!!!!
ギリギリギリ……
ヴォルネルの振り下ろした拳が
音を立ててじりじりせり上がっていく。
「間に合ったね!!!ビビカ!!!!!!」
「エナ殿!!!そ、その格好は!!!!」
そこにはビビカを守る白銀の鎧を着たエナの姿があった。
大きな楯でヴォルネルの拳を防ぎ、右手には大きな斧、
白銀の鎧からは翼が生えており
そして剥き出しになった腹部は丸みを帯び前へせり出している。
まるで臨月の妊婦だ。
「イリーナの鎧になる魔法で駆けつけたよ!!!!
この腹かい???
今はあたしと合体してイリーナの子があたしの腹の中にいるよ!!!
この城の中でイリーナの子を産んじまうのは危なっかしすぎる!!!
悪魔の子を3人も孕んだ子宮だ。天使の子一人くらいたいしたことない!!!
あたしがイリーナの子を守る!!!
そしてあんたもあんたの腹の赤ん坊たちもね!!!」
-
「早く旦那を助けてやりなっ、ビビカ!」
「はい!ありがとうございます、エナ殿、イリーナ殿!」
すぐさまビビカは倒れているエルシオの元へ駆け寄り、瓦礫を退かした。
「エルシオ様!」
ビビカに抱き上げられたエルシオは、話す。
「僕は、大丈夫です・・・!それより、ビビカさん・・・。
早くエナさんたちの加勢をッ・・・!!」
エルシオは気が付いていた。
かなり前から破水しているイリーナと合体したという事は、エナの体も陣痛に襲われている筈である。
早くしないと、ビビカより先に戦えなくなる時が来ることは、自明の理であった。
「はい・・・、わかりましたっ!」
ビビカもそれを悟っていた為、エルシオを横たわらせると、
すぐさまエナたちのもとへ向かった。
ゴッドゴートの攻撃を、華麗に躱すエナ。
しかし、その肌には汗が大量に流れていた。
(早く決めないと、産まれちまうね!こりゃ!)
その時、ヴォルネルの首元に、鎖が巻き付く。
「ゴォッ!?」
「ビビカ!!」
ヴォルネルの体を怪力で引きずっているのは、ビビカだ。
「今です、エナ殿!イリーナ殿ッ!」
「ああ、わかった!!おるぁあああああああああああ!!」
鎖を外そうとするヴォルネルの胸元に、持っていた斧を突き刺すエナ。
「ゴォアアアアアアアアアアアアアアア」
胸元に深くめり込んだ斧から鮮血を噴き出し、叫ぶヴォルネル。
「やった・・・ぜ・・・、ッ!?」
勝利を確信したかに見えたが、突如エナがうずくまってしまったのだ。
エナの股部分を見ると、見え始めていた頭がもう半分以上出てきてしまっていたのだ。
「うっ・・・、もうちょっとだってのにっ・・・!!」
すかさずエナに、拳を振り上げようとするヴォルネル。
「させるかああああああああああっっっ!!!!!」
ビビカはその背中に飛びついて、ヴォルネルの首を締めあげた。
-
「ガゥァアアアアアアアアアアアアアアア」
暴れるヴォルネルだが、ビビカはしっかりとヴォルネルの首を締めあげて離さない。
その時、叫びながら、ヴォルネルの背中から巨大な翼が生えた。
そしてビビカを背負ったまま、空中へと飛びたったのだ!
「ビビカァ!!」
「ビビカさんっっ!!」
壁に突っ込んでぶち壊しながら、再び外へ出たヴォルネルは、さらに暴れだす。
「うっ!」
城壁の傍へと投げ出されたビビカは、大きな乳房と腹を揺らしながらも、なんとか受け身を取りながら着地した。
その近くにヴォルネルも着地し、聖戦士にとどめを刺すべく、ビビカに近づいて行った。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
倒壊した瓦礫の中で、目を閉じて仰向けになったまま、荒い呼吸をするビビカ。
見ると、外の夜空も、もう少しで夜明けを迎えようとしている。
全裸のビビカの体はところどころ擦り傷があり、腹の中の子たちは産まれようと、ビビカの腹は大きく胎動している。
脂汗が滝の様に流れ落ち、もう限界を超えているのは、だれの目から見ても明らかだ。
しかしビビカは立ち上がり、ヴォルネルに向かいあうと、両の拳を握りしめた。
「さあ・・・・・・、かかって来い・・・・・・!
私は・・・、全ての母親と子を守る・・・!!
女傑ビビカだっっっっ!!!!!」
走り出すビビカ。握りしめた拳を、ヴォルネルに向かい放つ!!!
「グゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
ヴォルネルも拳を握り、ビビカに向かい放った!!
ズガァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!
「ビビカさんッ・・・!」
「ビビカァ!!」
ビビカとヴォルネルの後を追って、エナを連れて穴から出てきたエルシオが見たのは、
朝日を背に浴びながら立っているヴォルネルと、その近くで倒れているビビカの姿であった。
「ビビカさんっっっ!!!!!」
エルシオは、ビビカの傍へ駆け寄った。
「ビビカさん、そんなっ・・・!」
涙ぐみながらビビカを抱き上げるエルシオ。
しかし、
「・・・エルシオさま・・・。」
「! ビビカさんっっ!!!」
ビビカは優しい顔で、エルシオに笑いかけていた。
「見ろ、エルシオッ!」
エナの声を聞いて、ヴォルネルの方を見たエルシオは、そこでようやく気が付いた。
「・・・ヴ・・・・・・・ヴォ・・・・・・っ!!!」
ヴォルネルの身体は立ったまま痙攣して、血を吐いていた。その胸元からは、凄まじい量の血が流れていたのだ。
ヴォルネルの拳を躱したビビカの最後の一発が狙ったのは、ヴォルネル自身ではなく、その胸元の斧だった。
ビビカの拳を叩き込まれた斧は、さらにゴッドゴートの体に深くめり込み、致命傷を与えていたのだ!!
-
「エルシオッッ!!ほっといたら、ヤツの傷は再生しちまう!!今だ!!」
「はい!!」
エルシオは、両手を合わせると、天使の聖言を唱えた。
「命を虐げ、血と暴力の闇へと堕落した咎人よ・・・!
その魂を、天の火にて焼き尽くし、洗い清めんっ・・・!!」
エルシオの両手から、神々しい光が放たれ、ヴォルネルを包んだかと思うと、その体から炎が噴き出したのである。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
・・・・・・バ・・・カナ・・・・・・ッ・・・!!!!!!
ワタ・・・・シガ・・・・・・、マケ・・・ル・・・・・・ナ・・・・・・・
・・・・・・・・ド・・・・・・・・・・・ッ・・・・・・!・・・・・・・・」
天の炎に包まれたヴォルネルは、叫び声をあげたが、やがてその声も途切れた。
朝日の光の中、灰も残さずヴォルネルの魔の体は燃え尽き、その悪しき魂は、天へと連れていかれたのであった・・・。
「ふぅ・・・・・・、やっと・・・・・・、終わりましたね・・・。」
エルシオも瓦礫に座り込み、ようやく安堵の表情を浮かべた。
「はい・・・・・・、皆さんがいてくれたお陰ですっ・・・!」
ビビカの頭を撫でながら、エルシオは優しく笑った。
「やりましたね、ビビカさん、エナさん、エルシオさんっ・・・!」
エナとの合体を解除したイリーナは汗を浮かべながら、健闘を称えた。
「イリーナ、あんたもよく頑張ったよ!
さあ、ビビカ!あんたもはやいとこ、産院へいかねーと!!」
イリーナの体を抱き上げながら、エナは言った。
「なんのなんの、エナ殿。
このビビカ、戦闘をやり過ぎたお陰で、すっかりお腹が減ってしまいました!
エルシオ様!!城下へ降りて、御飯屋へ向かいましょうっ!!」
「ええっ!!?な、なに言ってんのビビカさん!!
破水してるんだから、産院が先に決まってるでしょ!!」
するとビビカは仁王立ちで立ち上がり、朝日に向かって高らかに笑う。
「お産は、後からでも大丈夫です!激しい勝負の後の御飯ほど、美味しい物はないのですよ!!
さあ、参りましょう!!!わっはっはっはっはっは・・・うっ!!!!!!!!!」
その時、ビビカの尻から勢いよく羊水が噴き出したのであった!!!
大きなお腹を抱えながら、尻を高く突き出しながらうずくまるビビカに、三人が駆け寄る。
「び、ビビカさんっ!!!」
「だ、大丈夫ですか!?」
エナは、ビビカの尻を確認して、叫ぶ。
「やべぇ・・・・・・!コイツの尻が肉厚でデカすぎる所為で、よく見えなかったが、もう胎児の頭がほとんど出てきちまってんじゃねぇか!
エルシオ、湯だ!!湯をわかしてくれっ!!」
「は・・・、はいっっ!!」
そのたった一時間後。
朝日に包まれた、崩壊したサドバトス城の瓦礫の中で、三人の新しい命が、元気よく産声をあげたのであった・・・。
-
その後、ヴォルネルが死んだ事により、狂気の国サドバトスは崩壊した。
悪事に関わっていた神官たちをはじめとした悪人たちは、今まで抑圧され続けていた民衆たちの怒りが爆発し、全員処刑にされた。
ヴォルネルが作り出した魔物たちもヴォルネルが死んだ事により、その魂は浄化され、天へと還っていったのであった・・・。
剣闘士や妊婦たちは解放され、世界中から集められ、捕まっていた名だたる妊婦戦士たちも、全員、自由の身となった。
シルヴィーとヤナは、帰る故郷がない為、他に帰る場所のない妊婦たちや、統治者たちを失って混乱している国民たちを集めて、
今度こそ平和で安全な国を作ろうと、組織を発足していた。
シルヴィーを女王、ヤナをその秘書とした新生サドバトス国が産まれるのは、少し先の話である・・・。
エナも仲間たちの待つ「赤き牙」へと帰っていき、無事に子を産んだイリーナも、天の国へと戻っていったのであった。
数か月後、傷を癒したビビカとエルシオも、サドバトスの人々と別れを告げ、神殿へと帰るべく船に乗っていた。
「今度は女の子か・・・、色んな事がありすぎたけど、無事に生まれてくれてよかったよ。」
ビビカの胸の中で眠る赤ん坊たちは全員女の子であり、すやすやと眠っていた。
「妊婦失踪事件解決の一番の功労者は、ビビカさんだからね。天の人たちも褒めてくれるよ!」
「ありがとうございます、エルシオ様!」
「でもね、ビビカさん!やっぱりお腹の大きな妊婦さんが、怪物退治をするだなんて危険すぎるって事が、
今回の件で充分すぎる程わかったから、もうこんな無茶なことはしちゃダメだからねっ!」
「はい!わかっております!」
その時、悲鳴が聞こえた。
「たっ、たっ、たっ、大変だぁっっ!!海賊船の艦隊が見えてきやがったぁ!!」
「ありゃあ、ここら辺の海を支配している、キャプテン・デスの一味だぁ!!しかも、二十隻ぐらいはあるぞ!!」
「み、見ろ!!東南の方から、化け物が近づいてきやがる!!ありゃあ、リヴァイアサンだあっ!!」
「上空からも、ハーピーの群れが迫ってきてるぞ!!もうダメだぁ、俺たちはみんな死ぬんだぁっっ!!!」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
船員と船客たちの悲鳴と鳴き声で、大パニックになっている船の中で、ビビカは静かにエルシオに目をやった。
「・・・・・・あの・・・、エルシオ様・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・あぁ〜〜〜、もうっ!!わかってるよ!!
子供たちと船の人たちは僕が守るから、行ってきて!ビビカさんっ!!」
「はいっ!!!」
エルシオに子供たちを渡し、大きな斧を二つ手に持ったビビカは、船のへさきへと堂々と立つと、
眼前に迫る怪物たちに向かい、叫んだ。
「さあいくらでもまとめて来い、怪物たちっ!
この母なる神、ビビカが成敗してやるぞっ!!」
ビビカの鬨の声が、木霊となって大海原に響きわたった・・・。
とある大国に、ひとつの昔話が存在する。
その大国は、魔物たちを支配する恐ろしき王が君臨している国であった。
王は、強大な魔力で民衆たちを苦しめていた。
そこに、大きな腹をした巨体の女戦士が訪れた。女戦士は身籠っており、臨月の腹をしていた。
当初、妊婦戦士は囚われの身であったが、デカい腹を揺らしながら魔物たちを打ち倒していき、
その国の中で、徐々に仲間を増やしていったという。
そして妊婦戦士は天使の力も借りて、暴虐の王を見事に討ち滅ぼし、その国を救ったと云われる。
救われた人々は、その女戦士『ビビカ』を女神として、御神像を建て、末永く崇めた。
その国ではいまでも、大きな孕み腹を見せながら、堂々と仁王立ちをする、女神ビビカの像があるという・・・。
女傑ビビカ2
END
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