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STAND BY ME けいおん!

1 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/10/29(水) 23:13:27 EWc0U1Jc0
【企画案】
感動系
【内容】
感動系のショートストーリー。『感動系』をどう捉えるかは自由。
長さも問わない。
【投下期間】
10月30日0時0分〜11月2日23時59分
投下延長可
【注意】
・トリップを必ずつけること
・投下時は書き手スレで一言知らせ、複数人の投下重複を避ける

※トリのつけかた
名前を入力する欄に、
「けいおん(好きな言葉。何文字でも可能) #abcdefgh」
のように半角のシャープから始まる文字列を入れることでトリップがつきます。


2 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/10/30(木) 00:00:03 wCEIeGPU0
純「......」トボトボ

純「......はぁ」トボトボ

純(最近、なんだか寂しい)トボトボ

純(いや、別に構ってちゃんキャラなわけじゃないはずなんだけど、なんなんだろう、この胸の中の寂しさは......)ギュゥゥゥゥ

ピュゥゥウウウウ

純(......)

純(梓も憂も私に冷たいわけではないけれど)

純(なんと言いますか、11月は唯先輩と梓の誕生日があるから私の存在の薄いこと薄いこと)

ピュゥゥウウウウ

純(いつの間にか、季節はすっかり木枯らしの吹く頃なのに私は独りで、2人を見ているとそれが浮き彫りになる思いだ)

タッタッタッタッタッタッタッ

純(......私なんていない方が)トボトボ

ガバッ

「だ〜れだぁ!?」

純「うひやぁ!?」ビクッ

「うへへ〜、『うひやぁ』いただきましたぁ〜」ニコニコ

純「......ゆ、唯先輩」ドキドキ

唯「あれ、わかるのはやいね!! 純ちゃん!!」

純「そ、そりゃわかりますよ。ってか、こういう時って背後から抱きつくんじゃなくて、目を背後から隠すんもんですよ?」

唯「いやー、純ちゃんがなんだかトボトボ歩いてたの見えたから、つい、抱きつきたくなっちゃってね!」

純「......」ジ-

純「......」ジ-

唯「あれれ? じ、純ちゃん? も、もしかして怒った?」タジタジ

純「......ふぇぇん」ポロッ

唯「うわわ!? じ、純ちゃんどうしたの!?」

純「や。......ぐすっ、いきなりなんか、すみません。ホロっときちゃいました」グスッ

唯「えっ!? 私なにか悪いことしちゃったかな!? ご、ごめんね!?」オロオロ

純「いえ。グスッ、そんな、とんでもない」

唯「ほんと!? 大丈夫?」ギュ

純(むしろ、ただ、私がトボトボ歩いてたからってだけでわざわざ追いかけてきてくれたことが)

純(......すごく......嬉しい)ポロポロ

唯「うぁぁ......どうしたらよいのやら」ハワワワワ

唯「そ、そだ!」

純「?」グスグス

唯「純ちゃん、これからヒマ?」

純「えっ、......ズズッ......すごくひまですけど? 暇の結晶といえば、鈴木純って言うくらいひまですけど」

唯「よ、よし! 私、ちょっとこれから映画でも観ようと思ってたから一緒に観ない?」

純「映画? 」

唯「泣きたい時はね、もう『うわぁああああ』って泣いちゃった方がいいんだよ」

純「はぁ、まぁ......」

唯「でも、純ちゃんって、いきなり『泣け』って言われてもそんなブワっとなんて泣けないでしょ?」

純「そ、そうですね......」

唯「だから、泣ける映画でも観て、思いっきり泣いちゃおっか!!」

純「......」

ギュ

純「ふえっ!?」ドキッ

唯「よし、じゃあ、映画のDVD、借りに行こう!!」

純(......さりげなく手を握るとか唯先輩、女子力高すぎ!?)

純(だけど.....)

純(......唯先輩の手は......すごくあったかい)ギュ

唯「よーし、レッツゴー」ダッ

純「うわ!? ちょっといきなり走り出さないでくださいよぉ〜!?」ダッ


唯「純ちゃん、早くしないと感動は逃げちゃうんだよ!! 感動はナマモノだからね!!」タタタタ

純「......たははは」タタタタ

純(でも......)

純「そばにいるっていいなぁ〜」

唯「ん、純ちゃんなにか言った?」

純「えへへ、......なんでも」ニッコリ


3 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/10/30(木) 00:01:02 wCEIeGPU0

というわけで、感動系企画はじまりはじまり。

皆さんの参加、ぜひお待ちしております!!


4 : いえーい!名無しだよん! :2014/10/30(木) 01:13:00 yfmQ7OXw0
企画者のプロローグ?
良い始まり方だ、書けない身で僭越ですが、楽しみにしております。


5 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/01(土) 11:46:24 Qoxs7tLo0
唯「みんなにレズをカミングアウトしたらひかれた」


6 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/01(土) 11:47:34 Qoxs7tLo0
キキーッ、ドン!ブロロロ・・・

律「唯―っ!」

澪「大変だ、唯がトラックにひかれた!」

紬「さっきカミングアウトしてくれたばかりだったのに」

梓「ひき逃げですよ、待つです!」

律「くそっ」


7 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/01(土) 11:48:10 Qoxs7tLo0
唯「実は私レズなんだ」

和「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」スタスタ

唯「…退かれた?」


8 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/01(土) 11:48:37 Qoxs7tLo0
唯「憂―、私ね、レズビアンなんだ」

憂「そっか、話してくれてうれしいよ」

唯「えへへ」

憂「それより、このアンパンの袋は何?」

唯「ぎくっ」

憂「買い食いしたの?」

唯「いやその」

憂「お小遣いから、千円引いとくね」

唯「わーん」


9 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/01(土) 11:49:06 Qoxs7tLo0
唯「実は…」

さわ子「そう。それより新しい服ができたのよ。唯ちゃんに着てもらいたくて」グイグイ

唯「わわ、引かないでよー、着るから!」


10 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/01(土) 11:49:31 Qoxs7tLo0
純「別にいいと思いますよ」

唯「そう?」

純「だって人の自由じゃないですか。それに唯先輩は唯先輩です」ニコッ

唯「」ドキッ///

唯(惹かれた…かも)ドキドキ


11 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/01(土) 11:50:38 Qoxs7tLo0
部室
律「みんな準備はいいか?」

澪「ああ。今日は退院した唯が来るもんな」

梓「この日のために練習しましたもんね」

紬「軽音部にしかできない、返事の仕方ね」


唯「トラックにはひかれたけど、みんなにはひかれないかな…」

唯「憂は大丈夫だって言ってたけど」

唯「みんなー」ガチャ

律「唯!今からお前のために演奏する!」

澪「唯がすぐ退院してくれて嬉しいよ。だけど、病院で悩んでたって、憂ちゃんから聞いた」

紬「何も心配することはないわ」

梓「同性愛者だろうと何だろうと、唯先輩は唯先輩、私達の仲間です。だから…軽音部一同、唯先輩のために、弾きます!」

律「曲は、『ふわふわ時間』!」

ジャンジャンジャンジャン…

唯「みんな…」

唯「待って、私も一緒に演奏するよ!」

律「おう!」


12 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/01(土) 11:51:50 Qoxs7tLo0
ジャンジャンジャンジャン

純「この音は、軽音部」

憂「お姉ちゃんが…弾かれている(尊敬)!」

終わり


13 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 22:51:42 u3FMqb0U0
「さよならあずにゃん、またいつか」


14 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 22:52:50 u3FMqb0U0
そうやって、先輩が冗談っぽく言ってさよならをした日があった。
あれはたしか二年前、オリオン座が消えるってニュースが流れてて、慌てて二人で夜空を見上げに行った日。
先輩の手は私より少し大きくて、でもきっとだぶん平均的には少し小さな手。


15 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 22:53:42 u3FMqb0U0
そんな華奢な手の平で私の手をギュっと握りながら、唯先輩はオリオン座を見上げていた。

その日、先輩は言った。

「目に見えなくなるって意外と信じられなくて困る」


16 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 22:54:41 u3FMqb0U0
そのセリフは全てがすべてあの日と同じわけではない。
私の記憶力はたかが知れているから、ニュアンスだけを、雰囲気だけを残して、細部なんて時間の経過と共に消えてしまう。
あの日一緒に観たオリオン座だって、今頭に思い浮かべられるものはあの日のオリオン座そのものではなくって、私がそうであると記憶して、そうであってほしいと願っている、あの日のオリオン座っぽいものだ。


17 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 22:56:28 u3FMqb0U0
そういう意味ではあの日の唯先輩のそれっぽいセリフは正しかったんだな、と私はいまさらになって思う。
目に見えなくなるって、信じられなくて困る。
私は唯先輩と一緒にいないとき、唯先輩の存在を信じられない。
唯先輩と手を繋いでいただなんて。唯先輩と互いに寄り添っていただなんて。
唯先輩が私のことを、私が唯先輩を好きなように好きだなんて。
私は疑い深いほうだから、唯先輩の存在を感じられないと、唯先輩のことをなかなか信じられないときがある。
だから、唯先輩に抱きしめられること、私は内心とてもうれしと思っている。


18 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 22:57:56 u3FMqb0U0
その日、私たちはさっぶい十一月の真夜中の歩道橋の上で、オリオン座を見つめた。
誰もこなくって、歩道橋の上にまで街頭の灯りは届いてこなくって。
自販機で買った午後ティーをカイロ代わりに買い込んで、歩道橋の真ん中あたりに座って二人でいた。
普段は律先輩とバカなやり取りをしている唯先輩も、消えてなくなってしまう運命にあるらしいオリオン座の真下では、なにやらセンチメンタリズムに浸っているらしくって。
ズズッと午後ティーのミルクをすすって、はぁ、と息を吐く。
その息がマフラーの隙間にこしだされて、とても白い息となって、夜空へと舞い上がっていった。


19 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 22:59:23 u3FMqb0U0
そんな何気のない、まるで意味のない冬のワンシーンを私はふとした瞬間に思い出すことがあった。
炊飯ジャーを開けたときとか、
お鍋の蓋を開けたときとか、
お風呂でお湯につかっているときとか、
肉まんにパクッとかぶりついて離れたその瞬間とかに。
唯先輩が夜空に白い息を吐くその光景を。  

そして、こう思うのである。
唯先輩はあの時、
白い息を吐いていたのだろうか、
それとも白い息を作っていたのだろうか、と。


20 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 23:00:53 u3FMqb0U0
そんな他人にとってはどうでもいい言葉の違いでも私は唯先輩のこととなると妙に気になる。
きっと先輩はなんにも考えずにただオリオン座を観ていたセンチメンタルな気持ちを引きずって、
そのセリフを言ったっていうこともなんとなくわかってる。

そのセリフの後に続く言葉だってなんとなく推測できている。
でも、私は、ふと、きっと唯先輩と私の間でお別れのようなものが来るときに、おそらく唯先輩はそのセリフみたいなことを言うんだろうな、となんとなく思ってしまった。


21 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 23:02:03 u3FMqb0U0
そう、だから、だからだから、そう。

帰りがけに朝焼けの中で唯先輩が言ったその別れのセリフは、
私の中で消えようとしていたオリオン座の灯りよりも鮮明に私の中に残ったのだ。

「さよならあずにゃん、またいつか」


22 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 23:03:17 u3FMqb0U0
その日から二年後の私は一人で夜空を見上げていた。
バイト帰り、これまたさっぶい十一月の夜空を、今度は自転車にまたがって。
コンビニで買ったピザまんを頬張って、中身のチーズをハフハフしているときに、
その内側から立っている白い湯気にまた唯先輩のあの白い息のことを思い出しながら、
ふと夜空を見上げたのである。

そして、頭上に広がっている光景に仰天して思わずアツアツホカホカのチーズを丸呑みしてしまって、
喉元を涙目で叩きながら、信じられない、と一言を発する。


23 : ◆S3//NYH/w6 :2014/11/01(土) 23:05:29 u3FMqb0U0
そこには消える運命であったはずのオリオン座が鎮座していた。
あれれ、私、二年前に唯に騙されたのかな、
たしかに光は薄くなっているけど、オリオン座あるじゃん、
まだオリオン座あるじゃん、
なんだよ、もう。

ゴホゴホと、さっきのチーズの丸呑みで火傷したようにいがらっぽい喉からおっさんっぽい咳を出しながら
私は帰ったら唯に言ってやろうと思った。
オリオン座、今から見に行かないって。
午後ティーを買いこんで、あの日のように手をつないで歩道橋の上から。
で、こう言ってやるんだ。
一緒に住んでいるから全く意味はないんだろうけど。

「さよなら唯、またいつかオリオン座を一緒に観ましょう」

そんな感じのニュアンスのようなそれっぽいセリフを白い息を吐くだか作るだかしながら。


24 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/02(日) 17:06:22 uaykjHGo0

「虹の刺繍」


25 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/02(日) 17:07:01 uaykjHGo0

昔々、ある王国の村に素晴らしい刺繍(ししゅう)の腕を持つ 秋山澪という少女が住んでいました。


澪「よし、今日も刺繍ができだぞ。今日も誰か買いに来てくれるかな……?」

澪ちゃんは、自分で縫った刺繍を売って、生計を立てていました。


しばらくすると、澪ちゃんの前にたくさんのお客さんがやってきました。

唯「おー!今日も綺麗な刺繍ができたね、澪ちゃん!」

憂「毎日お疲れ様です、澪さん」

律「本当に澪は刺繍の天才だな!」

梓「じゃあ今日は私が買っちゃおうかな? 澪さん!この刺繍ください!」

澪ちゃんの作った刺繍は 毎日誰かが買ってくれるほどの人気商品でした。


26 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/02(日) 17:07:50 uaykjHGo0

梓「じゃあ代金はこのぐらいで……」ジャラジャラ

澪「! そそそそんなには貰えないよっ! ただの刺繍だし!私はこのぐらいで十分だからさ」

澪ちゃんは遠慮がちな性格だったので 自分の刺繍を高価な値段で売ることはしませんでした。

だから決して澪ちゃんの生活は楽なものではありませんでしたが、それでも彼女は毎日刺繍を作っているだけで、満足でした。


やがて、澪ちゃんの刺繍の腕前に関する噂は広まっていき、その噂は澪ちゃんが住む国の国王の家臣の耳に入るまでになりました。


澪ちゃんの住む国の王様は、美しい金髪で、透き通った碧き瞳を持った少女でした。

その王様は若いながらも、権力を振りかざすこともなく、非常に国民思いであったため、国民みんなから愛されていました。

しかし、近頃その若き女王の 大切なペットの亀が亡くなり、女王もひきこもりがちになり、国民は女王様のことをとても心配していました。

女王様のことを心配しているのは執事も同じで、そこで執事は、女王様を立ち直らせるために一つの提案をしたのでした。


27 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:09:12 uaykjHGo0

斉藤「紬女王様。ちょっとお話があるのですが……」

紬「……何かしら斉藤。私はいまとても悲しい気分なの。だから手短にお願いね……」

斉藤「はっ。実は、ここから少し離れた村に刺繍が非常に上手な少女がいるとのお話を聞きまして……」

紬「刺繍が上手な子……? なんでまたそんな話を私に?」

斉藤「はっ。僭越ながら申し上げますが、その子に亡くなられた女王様のカメの刺繍を作って頂くのはどうかと……」

紬「トンちゃんの……、刺繍……?」

斉藤「左様でございます。今我々の下に敷いてある、この絨毯(じゅうたん)に女王様のカメの刺繍を作ってもらうのです。
   そうすれば、また毎日トン様を拝見することもできます。いかがでございましょうか?」

紬「……分かったわ。斉藤、その子を連れてきて頂戴。ただし、手荒な真似をしてはダメよ?」

斉藤「はっ。承知しました」


そう言うと女王の執事は、お城を後にし、澪ちゃんの住む村へと向かいました。


28 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:09:57 uaykjHGo0

・・・・・・


澪「さあ今日も刺繍ができたぞ」

翌日も、澪ちゃんはいつものように刺繍を売りに出かけました。

いつものようにお客さんが来るのを待っていると、見慣れない人が澪ちゃんの前にやってきました


斉藤「あなたが秋山澪さんですか?」

澪「ひっ…!は、はい……」ブルブル

人見知りでもある澪ちゃんは、初対面のお客さんに話しかけられて緊張してしまいましたが、なんとか返事を返します

斉藤「あなたにちょっとお願いがあるのですが……」

澪「お願い……ですか……?」

ごくり、と何故か唾をのみ込みながら、彼女は緊張した面持ちでその男性の言葉に耳を傾けました。


29 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:10:47 uaykjHGo0


斉藤「実は……あなたに女王様のために刺繍を作ってもらいたいのです」

澪「じょ、女王様のために!?」

澪ちゃんはびっくりしてしまいました。なんとこの人は女王様の部下の人だったのです!

澪「え、で、でも私なんかで大丈夫なのかな……?」

澪ちゃんは不安げに そう呟きました

斉藤「大丈夫です。あなたの腕前は聞いていますから」

澪「うぇえっ!? わ、わたしってそんな有名だったの!?」

恥ずかしがり屋でもある澪ちゃんは、その言葉にとても驚いてしまいます

斉藤「はっ。皆様からとても刺繍が上手であると……」

澪「は、恥ずかしいっ///」


30 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:11:22 uaykjHGo0


さて、恥ずかしさの話はともかく、澪ちゃんも女王様がペットを亡くされてひどく落ち込んでいることを知っていました。

斉藤「お願いできますか?」

澪「……わかりました。私でよければ」

なので澪ちゃんは、女王様のために刺繍を作ることを決意しました。

澪(私なんかで大丈夫なのか不安だけど……。女王様のために頑張るぞ!!)


31 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:12:06 uaykjHGo0

・・・・・・

その日の午後。

女王様が住むお城に、澪ちゃんは連れてこられました。



斉藤「女王様。お連れしました」

紬「あなたが……秋山澪さん?」

澪「は、はいっ!!」

女王様と会うのは 澪ちゃんも初めてだったので緊張しましたが、とても優しそうな雰囲気のお方だなぁ、と澪ちゃんは思いました。

紬「では早速なんだけど……。私のペットだったカメさんの刺繍を作ってくれるかしら?」

紬「これがその子の写真なんだけど……」スッ

澪「あ、ありがとうございます」


32 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:13:02 uaykjHGo0

女王様から手渡された写真には、楽しそうに餌をあげる女王様の姿と、その餌を美味しそうに食べている
ちょっぴりブタ鼻(?)のカメの姿が写っていました。

紬「名前はトンちゃんっていうの。つい数日前に……うっ。しんじゃった……けど……」グスッ

澪「女王様……」

温かく柔らかそうな白い手で 涙を拭う女王様を見て、澪ちゃんは絶対に良い刺繍を作ろうと思いました。



その日の夜から、澪ちゃんは刺繍に取り掛かりました。

執事からお茶やお菓子を出されて休むのもほどほどに、澪ちゃんは黙々と刺繍を続けました。

澪ちゃんが刺繍を初めて七日目。

澪「できたっ!」

ついに、お城の絨毯にトンちゃんの刺繍が完成しました。


33 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:13:42 uaykjHGo0


澪ちゃんは額いっぱいに汗をかきながら、女王様の部屋に嬉々として報告に向かいました。

澪「女王様!できました!!」

紬「本当!? 今、見に行くわね!」スクッ

女王様も 澪ちゃんの嬉々とした表情を見て、嬉しそうな笑みを浮かべながら絨毯のある部屋に向かいました。



紬「まあ……!」

澪ちゃんの素晴らしい刺繍を見て、女王様はとても感動し、感嘆の声をあげました。

澪「えへへ///」ポリポリ

女王様が感動している様子を見て、照れ隠しに頭をかきながらも、澪ちゃんもとても嬉しい気分になりました。


34 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:14:13 uaykjHGo0


しかし、女王様は不思議なことに気が付きました。

紬「あら……?よく見るとトンちゃんに羽が生えているわ……?」

確かに、澪ちゃんが作った刺繍には、甲羅に羽が生えたトンちゃんが描かれていました。


しかし、それは澪ちゃんが間違ってつけてしまったものではありませんでした。

澪「それは、トンちゃんがちゃんと天国に行けるように私がつけたんです」

女王様の方を向き、澪ちゃんははっきりと答えました。


35 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:15:01 uaykjHGo0


紬「!! 澪ちゃん……。トンちゃんのために……!」

澪「よ、余計なことしてしまいましたか?」

澪ちゃんは一瞬、勝手に羽をつけてしまったから怒られると思いました。

しかし、女王様は 澪ちゃんの方を向いて、まるで天使のように優しい笑顔で、微笑みました。

紬「ううん。いや寧ろありがとうを言いたいくらいだわ澪ちゃん」ニコッ


紬「ありがとう!澪ちゃん!!」ムギューッ

そして、感極まった女王様は、思わず澪ちゃんに抱き着いてしまいました。

澪「わわっ///!? じょ、女王様!?」ドキッ

紬「本当にありがとう、澪ちゃん……」ギュッ

澪「女王様……」ギュッ

澪ちゃんは驚きましたが、女王様を拒もうとはせず、優しくその温かく 柔らかい体を抱き返してあげました。


36 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:16:00 uaykjHGo0


紬「……そうだ、澪ちゃんにはお礼をしなきゃね。ええと、何がいいかしら……」

数分間の抱擁の後、女王様は体を離して、澪ちゃんへのお礼の品を探しはじめました。


澪「……あっ」

澪ちゃんも何となく 室内にある様々な物を見ていましたが、虹色に輝くベースに目が留まりました

紬「あら?これが欲しいの?」ヒョイッ

女王様もそれに気が付いたようで、その虹色のベースを澪ちゃんの方に持って行ってあげます

澪「! いいいいやいや!そんな高価なものを頂くわけには……!」

澪ちゃんはそんな高価なものを貰うわけにはいかないと、必死に腕をブンブンと振ります

紬「いいのよ。このベースは虹色が好きな私のために 斉藤が買ってきてくれたんだけどね、間違えて左利き用のを買ってきてしまったの」


37 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:16:29 uaykjHGo0


紬「ほら、私は右利きだしあなたは左利きでしょう?だからあなたが貰ってくれた方が、このベースも幸せだと思うわ」

澪「で、でも女王様の好きな色のベースを頂くわけには……」

紬「そう……」

紬「! 分かったわ。ちょっと待ってて頂戴」

遠慮がちな澪ちゃんが渋っていると、女王様は何かを思いついたのか、部屋を出て行きました。

澪「……」ジーッ

女王様が部屋を出ていったあとも、澪ちゃんは虹色のベースを見続けていました。


38 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:17:00 uaykjHGo0


紬「澪ちゃん。お待たせ」

数分後、女王様が何かの箱を持って戻ってきました。

澪「……はっ!」

ベースに見入っていた澪ちゃんは我に返り、女王様の方へと向き直ります

紬「バウムクーヘンよ。これなら貰ってくれるかしら」

女王様が持っていた箱はバウムクーヘンの箱のようでした。

澪「は、はい。そのくらいなら……」

澪ちゃんは女王様から 箱を受け取ろうとしました

澪「わっととっ!!」

しかし手が滑ってしまい、澪ちゃんはバウムクーヘンの箱を地面に落としてしまいました。


39 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:17:37 uaykjHGo0


紬「澪ちゃん!? 大丈夫!?」

澪ちゃんの辺り一面に、バウムクーヘンが散らばってしまいます

澪「はい……。折角いただいたのに……。すみません……」

幸いバウムクーヘンは個別に袋で梱包されていたため問題ありませんでしたが、

女王様の前でこんな失敗をしてしまい、澪ちゃんはバウムクーヘンの穴でもいいから入りたい気分でした。

澪「……あれ?」ヒョイッ

澪ちゃんが散乱したバウムクーヘンを拾い集めていると、一枚の紙が落ちていることに気が付きました。

その紙の文字を読んで、澪ちゃんは驚きました。

澪「虹色のベース……引換券!?」


40 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:18:15 uaykjHGo0


澪ちゃんに 箱に仕込んであった引換券の文字を読まれると、女王様はちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめながら、話しました

紬「ごめん。隠すつもりじゃなかったんだけど……。澪ちゃん、ベースを欲しそうにずっと見てたから……」

澪「女王様……!」ウワーン

澪ちゃんは嬉しさのあまり、涙を流しながら女王様に抱き着いてしまいました。



そしてその時、とても不思議な出来事が起こりました。

澪ちゃんが流した真珠のような涙は、絨毯のトンちゃんの刺繍の上にも落ちると、なんとその刺繍は命を得て動きだしたのです!

澪紬「」ポカーン

澪ちゃんと女王様があっけにとられる中、命を得た羽を持った刺繍、いやトンちゃんは、
まずは女王様の方を向いて軽く頭を下げてお辞儀をしました。

紬「トンちゃん……!生き返ってくれたのね……!!」ピョンピョン

女王様が歓喜のあまり飛び跳ねる中、トンちゃんは今度は澪ちゃんの方を向き手招きをしました。


41 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:18:49 uaykjHGo0


澪「え……?私……?」

澪ちゃんがおそるおそるトンちゃんの方に向かうと、トンちゃんは頭を上に揺さぶりながら、甲羅に乗るよう促してきました。

澪「甲羅に乗るっていったって……。少し小さいような……」

トン「……」クイックイッ

それでもトンちゃんは強く甲羅に乗るように促してくるので、澪ちゃんは意を決して、恐る恐るながらも甲羅に乗りました。

トン「……!」バッ

次の瞬間、トンちゃんは羽を羽ばたかせ、澪ちゃんを乗せて宙に浮かびました!


42 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:19:28 uaykjHGo0


紬「わー、すごい!トンちゃん、お空を飛べるのね!」

澪「うわぁー!? あははは!!すごいなぁー!」

トン「……」バサッバサッ

澪ちゃんと女王様の歓声が響く中 トンちゃんは今度は窓の方を向き、羽をより一層強く羽ばたかせました。

澪「外へ出たがっているのかな?」

紬「そうかもしれないわね。今窓を開けるわね」ガラッ

トン「……!」ビューン

澪「うわぁあああ!!?」

女王様が窓を開けると、澪ちゃんを乗せたままトンちゃんは もの凄い勢いで飛んでいきました。


43 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:20:06 uaykjHGo0


紬「……びっくりしたわ」

女王様が少し呆気にとられながらも、窓の外を見てみると、そこにはとても神秘的な光景が広がっていました。

紬「虹……!虹だわ……!」

女王様が治める王国の空には、羽の生えたカメに乗った少女と、そして彼女たちのすぐ近くに、とても美しい虹が浮かんでいました。



こうしてこの少女が起こした奇跡の物語は、「虹の刺繍」という名前を付けられ、後世まで語り継がれました。

彼女の奇蹟は、何世代にもわたって、人々の心に縫いこまれたのでした。


おわり


44 : ◆ym58RP.VtE :2014/11/02(日) 17:20:25 uaykjHGo0
おわりです


45 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:16:40 x3viZKKo0
梓「The Alan Turing Test」


46 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:19:20 x3viZKKo0



われわれはあまりにうまく「古き良き時代」を模倣することができるようになったので、今ではもう「過去」は存在しない。
                                 ――(F・ヤング博士東京特別講義「複雑系シミュレーションとその実践」より)


47 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:20:26 x3viZKKo0



唯先輩は突然わたしに予想もできないくらい変わっていくけれど、憂はいつでも唯先輩に似たままだ。
それは唯先輩が非線形で、憂が線形であることの一つの証明でもある。
線形っていうのはXにこれこれを代入したらYはこうなるってことで、非線形はそうじゃないってこと。まあかなりおおざっぱに言えば。
そういうわけで方程式と代入数がわかれば、線形があらわすものは常に予想できる。
投げたものは放物線を常に描くし、木の玉と鉄の玉は等しい速度で落下する。
でも現実にはそうじゃない。
投げたものは空気抵抗を受けて完全には放物線を描かないし、羽は玉よりゆっくり落ちる。
ただし摩擦や空気抵抗をないものとする。それは現実じゃない。
人間っていうのは現実に生きてる。
まあ十年前までは確実にそうだった。
話を戻そう。
現在における唯先輩の唯先輩らしさ――唯先輩性は、線形だと言える。厳密には非線形だけど、線形として扱うことはかなり簡単にできる。
唯先輩性の方程式にそのときのだいたい状況を代入すれば、唯先輩がそのときとるであろう行動はかなり正確に予想できる。
ちょっとした気圧の違いやそのときコップの位置が1ミリずれてたとかは考慮に入れる必要がない。
カオス理論なんかを持ち出してよく言われる世界の微妙さは人間性とはあまり関係ない。唯先輩はいかなる状況でも唯先輩的な行動をとる。
いつもよりちょっと太陽がまぶしかったからといって急に人を殺し出すようなことはしない。残念ながら。
だから唯先輩方程式は線形である。
だけどここに時間の問題がかかわってくると問題はかなりややこしくなる。
つまり唯先輩方程式は線形的だけど、唯先輩方程式の変化は非線形であるということだ。
唯先輩はいつまでも唯先輩ではない。
唯先輩がそっくりそのまま唯先輩であり続ける可能性は低い。
人は変わる。
ある日突然。
人を変えるのはおおかた周囲に起こるマクロな出来事で、そして未来になにが起きるのかを予測するのはかなり難しい。
だから非線形に変化し続ける線形の唯先輩性は結局のところ非線形だ。
それが線形であるのはある一点においての唯先輩性で、そして憂はそのある一点の唯先輩だった。
憂は高校2年生の唯先輩で、今も高校2年生の唯先輩のまま成長し続けている。
憂は唯先輩が唯先輩のまま大人になっていく。
だからいつまでも唯先輩に似ている。
高校二年生の。
そしてわたしが唯先輩って言うとき、それはたいてい高校生の唯先輩を指している。
たぶん、わたしたちは瞬間には線形なので、線形的に物事を考えるのだろう。あるものは一次方程式のグラフみたいにまっすぐ変化していくのだと。
だからわたしたちは過去にとらわれている。いつでも。


48 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:21:08 x3viZKKo0


――あなたは唯先輩ですか?

プレイヤーA うん、そうだよ!決まってるじゃん!

プレイヤーB Yes.


49 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:22:03 x3viZKKo0


アラン・チューリングは人工知能を初期に定義したことが知られている。
彼の考案した機械に対する判定実験はチューリングテストと呼ばれている。チューリングテストにおいて、機械が人間のように振る舞い、それを人間が機械と見分けられなければ、その機械は知能を持っていると定義される。
質問者が人間か人工知能かわからない被験者と文章でやりとりし、その被験者が人間が人工知能かを質問者が判別するというのが最もよく知られたチューリングテストの形式だが、チューリングがその論文の中で示した原初のチューリングテストはもう少し複雑だ。チューリングは、プレイヤーが紙面上の質問を通して、男性を模倣するひと組の男女のうちどちらが女性であるか判別するパーティゲームをもとに、それを人工知能バージョン化つまり、ゲームの中で人工知能が女性の役割を演じ、男性のふりをしてプレイヤーをだまし、プレイヤーの正答率が先のゲームと同じくらいならばその人工知能は十分に高度であると認められるというテストを考案した。テストは複雑だが、それが示唆するのはつまり高度な人工知能は人間をだますことができるというもので、これは映画なんかの紋切り型のロボット(決して人間に嘘をつかない)に比べてかなり人間らしい特徴であると言えるかもしれない。
人間は嘘をつく、ということだ。
わたしたち――っていうのは、わたしと唯先輩と憂――がよくやってたゲームも原初のチューリングテストによく似てた。
憂は唯先輩の真似をする。唯先輩はいつも通り唯先輩。わたしは別々にふたりにチャットで同じ質問して、どっちが唯先輩が当てる。
わたしは、その、なんていうか、唯先輩については一権威だったから、たいてい正解した。最初の頃は。
ま、ってことはだんだん当たらなくなってきたわけだ。
最初憂がわたしたちのところにやってきたとき――憂は唯先輩のお父さん(よく知らないけどコンピューターの世界的な権威だったらしい)が連れてきた――憂ははがき大の簡素な段ボールの中に入ってて、唯先輩のコンピューターにダウンロードされた。わたしたちは唯先輩のYUIからひとつとってUIって名前をつけた。はじめのころ憂はてんでだめなやつで、しゃべるのは英語だし(これを再設定するには憂と喋ってやんなきゃなんだけど、なにせわたしと唯先輩別に頭がいいってわけじゃないからすっごく苦労した)、唯先輩の模倣プログラムなはずが全然唯先輩に似てもいなかった。わたしたちはさっきのテストを繰り返したり、いろんな唯先輩の情報を憂に食べさせたり(って言い方が唯先輩はお好み)して(その間にわたしは毎日唯先輩の家に通ったりしてその結果まあいつもいっしょにいるふたりが何となく勘違いするようなところからはじまるおまけもあった)、憂を唯先輩化させようと努力した。
憂はそのためにつくられたわけだから、覚えははやかった。一ヶ月もするとわたしはどっちが唯先輩でどっちが憂か当てられなくなってしまった。
憂は元々人間模倣知能――まあいわゆる人工知能だけど、特定の作業のためじゃなくて包括的に人間になろうとする――実験のためにつくられた優秀なプログラムで、だけどそのプログラムは結局憂で最後になってしまった。
憂が開発された直後にすべてがひっくり返ったからだ。
複雑系(ミクロからマクロまであらゆるものがこんがらがって関わってきて個々の要素からでは全体が予想できない非線形をばらさずになんとかそのまま扱おうって考え方)関係の方でちょっとした発見があって、それが非線形処理をかなり高度なレベルで可能にした。それは近似値のより高い包括シミュレーションを完成させ、そのことが結局非線形知能を生み出した。非線形知能は、従来の人工知能がプログラムの結果として人間のような言動を可能にする(チューリングテストからもわかる)のと比べて、その処理経路が人間にかなり近く、そのことは予期しない状況や得意な条件下でも人間性を失わせない。
こうして憂は「過去」になった。
古くなった。
わたしの携帯デバイスも3世代も前のもので、そいつ以降は憂を処理する接続を持っていないのだ。
わたしのポケットの中には憂がいて、よくわたしはそれに話しかける。

梓「いろんなものが変わってくよね」

憂は言う。

憂「でも、わたしたちずっとずっと一緒だよ!」


50 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:22:39 x3viZKKo0


――あなたは唯先輩ですか?

プレイヤーA うん、そうだよ!決まってるじゃん!

プレイヤーB 当たり前じゃん!そんなこともわかんないなんてあずにゃんばっかだなあ。


51 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:23:26 x3viZKKo0


桜が丘宇宙センターで最初のロケット打ち上げがあるので見に行こうと唯先輩を誘った。
唯先輩はやだよ、と言った。
煙草の煙をふかす。

梓「そうですか」

唯「うん、あずにゃんもそっちの方がいいんじゃない?」

梓「なんでですか」

唯「ほら、だって、あの男の人といけるじゃん」

梓「だからあれは仕事で」

唯「へえ、どうだか、あずにゃんはいっつも仕事で忙しいね……この前も」

梓「だからそっちは……」

唯「ま、いいや。わたしはあっちのあずにゃんに会いに行くよ。向こうのあずにゃんは浮気もしないし、わたしが煙草吸うたびやな顔しないし、若いし、かわいいし」

梓「あの……夕飯は?」

唯「後で食べる、おなかすいたら」

梓「せっかく用意したのに」

唯「用意したって買ってきただけじゃん」

梓「そりゃあそうですけど……」

唯先輩はじゃあねって手を振って、チェリオのジュースみたいにどぎつい色の薬を何色か飲む。
β29はそれぞれの色が、人間の視覚野、聴覚野、嗅覚野、触覚野、味覚野に作用して、脳のその部分を興奮させ待機状態にさせる、この状態でものを見たりするとかなりきつく見える、ハイライトの効きすぎた画像を見るみたいに。
しかしβ29の真の効果は眠っているときに起こる。眠ってるとき、待機状態になった五感は、側頭葉(記憶がここにある)の発火とどうじにそこから発生した刺激に鋭敏に反応する。つまり、記憶の再生、過去の復活とともにそれがリアルに体感されるってわけだ。
そしてそんな記憶待機状態にある唯先輩は側頭葉を電飾につないで、いわゆるタイムマシンにつなぐ。
個人用タイムマシンは、だいたいクローゼット一個分くらいの大きさで、値段もそれなりにして、まあ学生じゃ買えないけど、ふつーに働いてれば買える。タイムマシンのなかのプログラムは実は大規模シミュレーションで、体験者は自分の海馬のなかの眠った長期記憶を刺激して(わたしたちは何かを忘れるわけじゃない、思い出せないだけだ)、その様々な評価値をもとにシミュレーションをかける。そうして、過去に――さらに言えば自分が見たいようにあらかじめ入力した要素をもとにタイムマシンの方で再構築した過去に、戻る。
シミュレーターが見せる過去は常に分岐していて、わたしたちはあらゆることを体験できる。
唯先輩は世間で言われるところの過去中毒者で、働いてるかご飯食べたり眠ったりしている(タイムトラベル中も眠ってるけど)とき以外はたいてい過去にいる。
たいてい過去は、わたしたちが高校生の頃で、部室でともだちとくっちゃべって、わたしはいつも唯先輩のそばにいてふたりははずかしいまでにくっついてる(と、唯先輩はいい、そう言うからわたしは唯先輩をやめさせられない。結局それだってわたしじゃないか?)それが唯先輩にとっては「古き良き時代」なのだ。
もちろんわたしにとってもそうなんだけど。


52 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:24:09 x3viZKKo0

その古き良き時代を過ごしたわたしたちの高校は7年前に取り壊されてしまった。
取り壊されたのは高校だけではない。わたしの家、唯先輩の家、ムギ先輩が乗って帰った駅、公園、よく通った駄菓子屋。
そこを含めた大きな一帯で日本で7番目の、大きさで言えば5番目のロケット発射基地を建設する予定で、それが今日唯先輩を誘った宇宙センターでもある。
その「古き良き時代」の崩壊の日、わたしたち――唯先輩、ムギ先輩、澪先輩、律先輩、(憂)は取り壊された街を見に行った。
恐竜みたいにでっかい黄色い機械が町中をうろうろして、道路は裏返され、建物はみんなどこかへ消えてしまっていて、まるで街に爆弾が落ちたみたい。
そしてわたしたちがいた高校は爆心地にあって、そのときはまだそこに立っていた。
校庭には黄色い恐竜が所狭しと集まっていて、ごうごうぐるぐると囁き声でお互いに何かを伝え合っていて、肉をはがされた校舎はその骨を痛々しく周囲に露出していて、あ!あそこに見えるの音楽室じゃない?とムギ先輩が言った。
わたしたちはまるで映画でも撮ってるかのように五人並んで(右からわたし唯先輩ムギ先輩澪先輩律先輩)、校舎を眺めていた。
窓ガラスが落ちた、のが見えた。
スローモーションで。
接地点にひびが入って、そこから全体に広がる、それからそれぞれの破片が中心に対して放射を描くように分離した。
いやあ、と律先輩が声を出す。
すごいな。

唯「びっくりするねー」

梓「別にびっくりはしない」

澪「……さびしいな」

紬「ねー」

律「梓、泣けよ」

梓「なんでですか」

律「絵になるだろ」

唯「あずにゃん泣いたらわたしも泣こーっと」

梓「意味わかんないです」

律「あはは」

澪「なにがあははだ!」

律「なんで叩いた?」

澪「いや、何となく。ほら、絵になるかなって」

紬「じゃあわたしも!」

律「わたしの頭は、そんなに軽いもんじゃねーから、いてーし」

梓「でもほんと言えば悲しいですね」

紬「そうだね、なんだか、わたしたちの思い出がなくなっちゃう感じで」

唯「心配することはないんだよ。だってあの頃はみんなここにちゃんとあるんだからね」

唯先輩は律先輩の頭を叩いた。
それでわたしたちは笑ったものだ。
帰りに居酒屋でみんなでお酒を飲んだ。
いろんな話をして、昔みたいにあんな感じで、楽しかった。
あの頃はちゃんとこうして続いてる、そんなふうに思った。
ま、たしかにそれはちゃんとわたしの頭の中に残っている。側頭葉のどっかには。そしてそこにあれば、それはいつでもここにある。
今、タイムマシンで、あの瞬間に行ったとしても、わたしは笑えないだろう。
あの頃は続く。
唯先輩の部屋で這うようなうなり声を上げるあの機械とドラッグのふらふらの中で。


53 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:24:46 x3viZKKo0


――好きな食べ物はなんですか?

プレイヤーA お母さんのつくったハンバーグ!

プレイヤーB アイス!チョコのやつでぱりぱりしたやつがいいなあ……あ、おなか減ってきちゃった……。

――どうしても欲しいギターがある、お金がなかったらどうしますか?

プレイヤーA ムギちゃんパワーで……じょ、じょうだんです。

プレイヤーB ギー太より欲しいギターは絶対にないもん!

――好きな人はいますか?

プレイヤーA あずにゃん!

プレイヤーB あずにゃん!

――いままで一番印象に残ってる出来事は?

プレイヤーA 二年の時の文化祭!

プレイヤーB あずにゃんとはじめてしたとき!

――たぶんBが憂ですね。

プレイヤーB せいかい!なんでわかったの?

――唯先輩の性的なことにたいする恥ずかしがり方は普段からは想像もできないですから。

プレイヤーB ふむふむ、記録します。レコーディングします。

プレイヤーA や、やめてよっ。恥ずかしい!

〈これで今日のテストを終わりにします。模倣値88、88。これから長期修正を行いますので修正中は起動を行わないでください。それでは、おやすみなさい――ぷちん〉


54 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:25:50 x3viZKKo0


ロケットが夜に上がるのは、それが人類の夢に直結しているからだ。
わたしたちは、夜、黒々と広がる空を眺め、その向こうをいつでも思い描く。空に浮かぶたくさんの星、そのずっと向こうの誰かが生きる星、特別な色を持つ星、出会わなかった誰かに出会う星。
冷たい夜と満天の星空、そこへ向けて一直線に燃える炎。
それがわたしたちの抱いていた宇宙の夢だ。
実際には、単に視界が不良好で、精密性を欠く可能性があるという理由で多くのロケットは昼に上がる。
夜に上がるロケットの数は少なく、日本で打ち上げられているロケットの20パーセントがこれにあたる。そのうちの半分が軌道計算の要請によるもので、残りの半分の半分が地球間ロケットの夜間便である。そしてそのほかが観光用ロケット――いわゆるロケットの夢を叶えるために、わざわざ夜を選んで飛ぶロケットである。
今は、9時で、よく晴れた日だった。
空を見ると、星が見える。
ロケットの基地の近くにはたくさんの関連企業が集まって一種の産業地帯が形成されてるので、そこでは昼夜問わず明かりがぴかぴか輝いて、煙がもくもく上がっていて、空は狭く汚れて、だからあまり星がよく見えないなんてジョークがよく言われるけど、それでもふつーに星は見えるのだなあ、となんだか拍子抜けした。
桜が丘の郊外の土手(唯先輩とふたりでギターの練習としたとこではない)にはロケットを見に来たたくさんの人が集まっている。こども連れの家族とか、物好きなカップルとか、大学生の集団とか、気合いの入った人たちは前の方を陣取ってレジャーシートなんかを敷いてたりして、三分の一の人はビールを持ってる。少し離れたところでは出店もでてて、焼きそばが食べたかったけど混んでたから行かなかった。
唯先輩も来ればよかったのにと思う。
唯先輩はこんなお祭り騒ぎが大好きだったはずで、わたしはちょっと苦手だった。

憂「どんなふうになってる?」

と、憂が聞くので、わたしは周囲の状況を説明してあげる。

憂「梓ちゃんはひとり?」

梓「憂を勘定に入れなければね」

憂はわたしのことをもうあずにゃんとは呼ばない。
わたしがそう教えたからだ。
実際のところは相変わらず唯先輩はわたしのことをあずにゃんあずにゃんと呼び、唯先輩がわたしのことをまだそう呼び続けるのは、唯先輩にとってまだ高校生は昨日、いや今日のことだからかもしれない。
憂にはそう呼んで欲しくはない。
なぜなら、憂は唯先輩じゃないから。
少なくとも、もう違う。

憂「ム……わたしだって努力してるんだよ! あずにゃんはきびしい」

憂ならそう言う。
でも、努力してもたいていうまくいかないというのが、唯先輩じゃなかったっけ?

憂「なんだか花火大会みたいだね!」

と、憂は嬉しそうに言った。

梓「たった一発分の」

憂「おっきいやつ!」

梓「ま、爆発もしないけどね」

憂「爆発したらことだもんね」

もしかしたら爆発するかもしれないな、なんてことをわたしはちょっと考えてみる。
花火みたいに、ばーん、と。
ここからだと打ち上げ予定のロケットは、工場に阻まれて、屋根部分しか見えなかった。
真っ赤な屋根。
そいつはセレモニー用のやつで、無人機で、軌道計算なんてものもなくただ宇宙の彼方の後退する無のなかに向かって慣性の法則に従って永遠に(おそらくは途中で何か宇宙的なものにぶつかって壊れるだろう)進んでいく、あのアニメなんかによくある三角屋根に長方形の身体、円い窓の復刻版(ロケットが夢の時代の復刻)ロケットだった。
集まった客たちがざわつき始めた。
そろそろ打ち上げの時刻だろうか、と思ったときに誰かがわたしの肩を叩く。


55 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:26:47 x3viZKKo0

梓「澪先輩!」

澪「久しぶりだな」

梓「澪先輩も見に来たんですか」

澪「うん、唯は一緒じゃないのか?」

梓「そうですね。まあ、忙しいらしいので」

澪「ふーん、唯とはうまくやってるの」

梓「まあまあですよ。なにもかもがいいってわけじゃないですけど、そういうものですよね」

澪「そうだな。まあ梓と唯は心配ないよなあ。高校生の頃からあんなに仲良くて、つきあい始めたときもあんま驚かなかったもん」

梓「あはは……澪先輩はひとりですか?」

澪「いや、家族できたよ。たぶん向こうにパパとママがいると思うけど」

梓「そうなんですか」

澪「それにしても、すごい人だかりだなあ」

梓「ですねえ」

澪「昔わたしたちがいた高校がロケット基地になるなんてなんだか感慨深いよな」

梓「わたしたちもまっすぐ飛んでいっているといいんですけどね」

澪「うまいこと言ったな」

梓「べ、別にそんなつもりじゃ」

澪「じゃあ家族待ってるからそろそろ行くよ。今度また久々にみんなで集まろうな」

梓「そうですね、じゃあ」

澪「うん、ばいばい」

澪先輩が遠ざかっていく。
ちょうどそのとき音がした。
割れるばかりの轟音。
赤い光が集まる人々を照らした。
銀色の塊が空に浮かぶのが見えた。
そのしっぽから、赤、黄色、青、紫、と移ろう炎が伸びている。
ゆっくりと、そしてだんだんはやく、それは小さくなっている。
熱い風がここまでやってきた。
ロケットの風は、川を揺らし、木々をざわめかせ、人々の歓声を聞き、ここまでやってくる。
わたしのほっぺたを叩いた。
この光景を見た憂のはしゃぐ姿がとってもよく想像できた。
あれ見て、あれ、たぶん、わたしたちあそこに乗ってるよね!だってわたしたちのいたところから上がってるんだもん!
わたしはただ立ち止まってそれを見ていた。
黒い夜のカーテンを引き裂いて、おもちゃみたいな炎を吹き出す銀色の大きな空っぽの星は、空を満たすたくさんの輝きの一部になり、そして消えていった。


56 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:27:23 x3viZKKo0


――ハネムーンはどこに行きたいですか?

プレイヤーA 宇宙に行く!

プレイヤーB あずにゃんの行きたいとこならどこでも!

――別にわたしととは言ってないですよ。

プレイヤーB 違うの?

――いや、まあそうですけど。

プレイヤーA 自意識過剰だ。

プレイヤーB あずにゃんは自分のかわいさに絶対の自信を持ってるんだよ。

――そ、そんなことないですよっ。

プレイヤーAB かわいい。

――かわいくないですっ!


57 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:28:21 x3viZKKo0


最近、唯先輩の帰りが遅い。
っていうのは、仕事から帰ってくるのが遅いとか遊びに行ったらそのまま夜遅くまで戻ってこないってことじゃない。唯先輩がタイムマシンにつないだらその後なかなか戻ってこないってことだ。
最近、唯先輩は過去からの帰りが遅い。
いままでは、少なくとも、わたしがベッドに入って眠るまでの間には、唯先輩が戻ってきて、隣の布団の中に滑り込むのがわかったものだった。いまは、ずっと自室にこもって出てこない。いつなにをどうやって食べてるのかもわからないし、いつ寝てるのかも知らないし、いったいどのくらい過去にいるのかというのも不明なままだ。
時々、心配になって部屋の扉を開けると、いつでも唯先輩は過去につないでいて、そして眠っている。髪はぼさぼさで、何となくやせ細っているように見えるし、顔に疲労が浮かんでいるのもよくわかる。お風呂だってもう何日も入っていないのだろう、唯先輩のにおいがした。過去につないでいる間は外界のどんな音にも反応しないし、揺すっても叩いても起きない。わたしにできるのはβ29が切れるのを待つか、唯先輩が自発的に過去から戻ってくるのに任せるだけで、一度はタイムマシンの主電源の方を立ってしまおうかとも思ったのだけど、そうしたことでとりかえしがつかない精神支障を来した事例を聞いたこともあるから何となく踏ん切りがつかない。
一度だけこちら側にいる唯先輩と見たことがある。
ある日、部屋から出てきた唯先輩は、とても焦っているようで、というのは部屋にストックしてあったドラッグが切れてしまったらしくて、急いでそれを取りに来たのだった。
わたしは唯先輩に話しかけようと、もっと言えば唯先輩を止めようと試みたのだけど、唯先輩はうわごとのようにあずにゃんが死んじゃったあずにゃんが死んじゃった、と呟くばかりで、まったく話にならない。
唯先輩にはわたしが見えていないのだ。
唯先輩の中で、わたしは死んでいて、わたしは幽霊としては未熟なので、唯先輩の目には映らない。
そして、ばたん!と扉が閉じる音がして、唯先輩は過去にいた。
部屋の中には、うなるような音を立てるタイムマシンが立ちはだかっていて、その前で死んだように深く眠る唯先輩がいて、そしてその頭には電飾が刺さっていて、ここではないどこかにつながっている。
わたしは部屋の中でひとりだった。
憂が言う。

憂「それで梓ちゃんはどうするつもり?」

梓「わからない」

憂「おねーちゃんに直接言えばいい」

梓「ことは複雑なんだよ。憂」

憂「複雑な問題に対してむりやり単純な解法を示すことで、とにかく行動させるのがおねーちゃんのいいところだと思うけど。たいていの場合行動し続けることは、前向きなフィードバックが発生させて、いつの間にか問題が解決するかあるいはいろんな新しいことが入ってきて問題自体を忘れることにつながるよ」

梓「空計算領域に勝手にアクセスするな」

憂「あずにゃんのけちー」

梓「はあ……」

憂「人間の脳みその半分は使ってないって言うけど、ほんとは信号オフって情報を送ってるんだよ」

梓「それが?」

憂「わたしだって計算領域の全部を使ってもいいはずだよ」

梓「今までそんな文句言ったこともなかったくせに」

憂「ふふふ……優秀なロボットがいずれ人間世界を乗っ取るんだよ」

昨日テレビでやってた「アイ・ロボット」なんか見なきゃよかったと思った。

梓「脳みそがどうとかそういう情報をどこで知るわけ?」

憂「インターネット」

梓「あれは有毒だ」

憂「タイムマシンとどっちが?」

梓「それは……まあとにかくこの場合の問題は、問題自体の複雑さに唯先輩が絡んでるってことだよ。それで唯先輩風の単純解法がうまくいかない」

憂「まあ、ねえ。おねーちゃんがもういっこあればいいんだけど」

梓「憂がいるじゃん」

憂「行動すべし、とわたしのなかのおねーちゃんは言ってる」

というわけで、わたしたちはタイムマシンに接続する。


58 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:28:56 x3viZKKo0


――タイムマシンがあったらいつに行きたいですか?

プレイヤーA ジュラ紀。

プレイヤーB 10年後!見てきたい!

――ジュラ紀っていつか知ってるんですか?

プレイヤーA うーん……でも、タイムマシンって言えばジュラ紀じゃない?

――まったく……。

プレイヤーB ジュラ紀(ジュラき、Jurassic period)は現在から約1億9960万年前にはじまり、約1億4550万年前まで続く地質時代である。三畳紀の次で白亜紀の一つ前にあたる中生代の中心時代、あるいは恐竜の時代と言える。ジュラ紀の名前は、フランス東部からスイス西部に広がるジュラ山脈において広範囲に分布する石灰岩層にちなみ、1829年にアレクサンドル・ブロンニャールにより提唱された。その後、1962年と1967年に開かれた国際ジュラ系層序小委員会により、11の階(期)の区分が確立された(時代区分参照)。なお、漢字を当てる場合は「侏羅紀」となるが、一般的ではない。だよ!わたしって頭いい!

――お前は勝手にインターネットにアクセスするな。

プレイヤーB えへへ。


59 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:29:45 x3viZKKo0


そこはとても寒かった。
とても寒くていまにも体中が凍っちゃいそうで、自分の身体を抱きしめようとして、そしてわかった。
わたしはいなかった。
どこにも。
暗闇の中にひとりでいたのでも、いわゆるどこでもないところにいたわけでもなく、意識がだけがふわふわとあったのでもなかった。
ただわたしはいなかった。
それはよく覚えている。
次に気がついたときには、憂の中にいて、憂はわたしにこう言う。
梓ちゃん、死んでたよ。

梓「いったいどういうこと?」

憂「ここどこか覚えてる?」

憂の目を通して景色が見えた。
見て、すぐにどこかわかる場所。
三股に分かれたアスファルトの細い道。カーブミラーに憂の頭のてっぺんが見えた。
垣根の向こうの庭の木が紅葉しているから秋だろうか。

梓「確かムギ先輩の駅に向かう曲がり角だよね、ここでムギ先輩とお別れして、右に行くと純の家があったところだ。まっすぐ帰った」

憂「えーと、そうじゃなくて。つまり、この、なんていうんだろう。世界が?」

それでわたしは思い出した。

梓「あ、そっか、えーと過去か。唯先輩のタイムマシンにつないで、ここはどこ?」

憂「あるいはいつ?」

梓「そう」

憂「梓ちゃんはどこにもいない」

梓「どういうこと?」

憂「死んでるんだよ。そう、死んでて。だから計算機にアクセスしてわたしをおねーちゃんの妹ってことでシミュレーターに組み込んで、そのなかに梓ちゃんの認識経路を通したんだ」

それでまるで憂が見るように世界が見えるのか。

梓「唯先輩はどこに?」

憂はなにも言わずに歩いて行く、道を戻って、大通りに出た。そこには人だかりができていて、そうだ、あそこはクレープ屋で唯先輩が好きだったからよくふたりで行った。

梓「繁盛してるね」

憂は――と言うことは、つまりわたしのしたように感じられるということでややこしいけれど――人だかりが見つめる地点を指さす。
バンパーのへこんだトラック、警察車両、救急車、サイレン。
血?

憂「さっきまでおねーちゃんはそのあたりにいたんだけど……」

梓「誰が轢かれたの?」

わたしはそこまで言って、やっと気がつく。

梓「わたし?」

憂「うん」

と、憂が頷く。

憂「わたしが来たとき、ちょうど梓ちゃんが轢かれるのが見えたんだよ。おねーちゃんは呆然と立ってて、救急車がいま出たから、そこに乗ってるのかな?」

梓「生きてたの?」

憂「ばらばらではなかった」

梓「シミュレーションだとしてもいやな気分だ」

憂「轢かれる前に来なくて良かったと思うよ」

と、憂はあまり慰めにならないことを言う。
わたしは死んでた。
いったいどういうことだろう?


60 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:30:23 x3viZKKo0


――もしもわたしが不慮の事故で死んだりしたらどうします?

プレイヤーB すっごい悲しんで、死ぬこと考えるくらい悲しんででもそんなのはあずにゃん望まないな、あずにゃんはわたしが笑って生きて欲しいはずだってそう思うからがんばって生きてこうって思うよ。それをあずにゃんを望むと思うから、思うよね?

――さあどうでしょうか……呪ってでるかも。

プレイヤーB あはは、あずにゃん、こわーい。あ、じゃあさあ、あずにゃんはわたしが死んだらどうする?

――そんなの考えたくもないです。

プレイヤーB えーずるいー、あずにゃんが先に聞いたんだよ? ね、あずにゃんだったらどうする?

――わたしは、そんなことは絶対ないですけど、もしそんなことになったらわたしも自殺します。

プレイヤーB ……こんなときおねーちゃんだったらなんて言えばいいんだろ?


61 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:31:00 x3viZKKo0


おねーちゃんは物語を取り違えているんだよ、と憂は言う。
梓ちゃんの死を乗り越えられないんだ、それが物語の一番大事なところなのに。

梓「いったいどうなってるのさ」

タイムマシンから接続を切って、わたしは憂に聞く。
唯先輩はまだ夢を見ていて、そこではたぶん病院で、わたしが死んだことを聞かされて、それで――唯先輩はどうするだろう?

梓「だってこれはもちろんほんとの過去じゃないし、もちろん見たい過去を見ることができるとは知ってるけど、あれが唯先輩の望む過去?」

憂「そんなのわたしにはわかんないよぉ」

憂は弱々しい声を出す。

憂「だってわたし頭良くないもん」

梓「計算領域全部使っていいから」

憂「ほんとに?」

梓「うん」

憂「インターネットにも接続していい?」

梓「いいよ」

憂「あずにゃん太っ腹ー」

憂を表示するチャット画面が消えて、画面に待機中を示すぐるぐるマークが現れる。


62 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:31:39 x3viZKKo0

憂が戻ってくる前に、唯先輩が戻ってきた。
頭に接続されたコードを外して、モニターの数値をなにやらいじりはじめ、そしてまた頭に電飾を刺す。

梓「唯先輩っ」

わたしが唯先輩を呼んだのに気づくと、先輩は一瞬安堵したような顔を見せて、それからまた作業に戻ろうとする。

梓「ま、待ってくださいよ。唯先輩。いったいどうなってるんです?」

唯「ごめんっ。いま、急いでるの。あずにゃんが、あずにゃんが、死んじゃったから、助けないと」

梓「それは知ってます」

唯「知ってる?」

梓「わたしもさっき、つないだんですよ。あの、つまり、唯先輩が心配だったから」

唯「むむ……だからうまくいかなかったのかも、あずにゃん邪魔しないでよ」

唯先輩はとげのある声を出す。

梓「あの、だって」

唯「なに?」

梓「わたしはここにいますよ」

唯先輩はちょっとびっくりして、わたしの方をじっと見て、それから首を振った。

唯「それはあのあずにゃんとは違うもん」

梓「そうかもしれないですけど、こっちが現実で、向こうは仮想じゃないですか。別に唯先輩が仮想世界の中に入り浸ることに文句は言いませんよ。でも、あれは現実じゃないんですよ。架空で、偽物です」

唯「だから?」

梓「だから、その……」

唯「だからあずにゃんを見殺しにしろって言うの? わたしがいるから向こうのわたしは殺しちゃってください!って?」

梓「でも、それは、ほんとうは存在していないんですよ」

唯「だとしたって、わたしの好きなあずにゃんは向こうのあずにゃんだもん」

そう言うと、唯先輩は、また過去に潜っていった。


63 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:32:15 x3viZKKo0
デバイスが熱い。
見ると、憂が帰ってきている。

憂「梓ちゃんどうしたの?」

梓「唯先輩が起きてきて、それで、でもまた、いっちゃった……」

憂「止めなかったの?」

梓「止めたよ、でも、わたしより向こうのわたしの方が好きだって、言ったから」

憂「言ったから?」

梓「なにも言えなかった」

憂「それでどうするの?」

梓「わかんない、わかんないよ」

憂「あきらめるの?戻ってくるのを待つ?それはむりだと思うけど。おねーちゃんは物語を取り違えてるんだよ」

梓「どういうこと?」

憂「いい、感動系においては、悲劇係数の反転値がそのまま感動係数になるんだよ。つまり悲しければ悲しいほど乗り越えたときいいってわけだ。だから感動係数の指定、これがタイムマシンにおける設定値のひとつでもあるわけだけど、おねーちゃんは感動係数をたくさん上げたんだよ。つまり過去に感動したくて、ほんとうの過去よりももっと感動する過去をって」

憂の声に皮肉的な調子が混じる。知能指数の高い人工知能は往々にして、シニカルだ。

憂「人間は何かあったらそれよりもっと大きな何かじゃないと満足できないようなシステムがあるんだよ。向上システムだ。もちろんこれはたいていはいい方向に働くけど、つまり、往々にして過去中毒者にありがちなのは、指定係数をどんどん増やしてくってことで、これはあらゆる中毒にも言えることだ」

梓「そして唯先輩は感動係数を上げるあまり、悲劇係数を高めてしまって、そしてわたしを殺してしまってこと?」

憂「うん。愛する人の死を乗り越えて、それでも前に進んでいく。そういう物語系なんだ、あれは」

梓「でもそうならなかった、なんで?」

憂「たぶん、おねーちゃんはそれを望んでたんだよ。つまりシミュレーションのなかでも時間は進んでいくでしょ。ということは、いつでも物語は崩壊、っていうのはおねーちゃんの思う楽しい時間のおしまいってことだけど、に向かってて、だからおねーちゃんはそれを閉じちゃったんだよ。いつも物語のおしまいに梓ちゃんが死んで、それを救うためにおねーちゃんが過去に戻り続けるっていうループの中に、自分から入っていったんだ。知ってか知らないかはわからないけど」

梓「どうすればいい?」

憂「どうするの?」

梓「どういうこと?」

憂「もし、おねーちゃんを取り戻したいなら、おねーちゃんの風の単純解法で、おねーちゃんが戻ってきたときにタイムマシンをたたき壊しちゃえばいいし、それでおしまいだ。でも梓ちゃんはそうしないと思うよ」

たしかにそうだった。

憂「梓ちゃんが一番恐れてるのはそのことだもん。もし、そんなことすれば梓ちゃんとおねーちゃんはおしまいだから。梓ちゃんとおねーちゃんをつないでるのはその過去の瞬間で、それだけいまつながってるんだから。梓ちゃんはたとえ、それが過去の自分だとしたっておねーちゃんと一緒にいたいんだ」

梓「わたしどうすればいいと思う?」

憂「それは誰に聞いてるの? 高校生のときのおねーちゃん?それとも高校生のときのおねーちゃんのまま成長したおねーちゃん?」

梓「誰に聞けばいい?」

憂「わたし」

って、憂が笑った。

梓「ね、憂、わたしどうすればいいかな?」

憂「いい方法があるよ。たったひとつの、ね」

そうして、わたしは青いジュース、赤いジュース、黄色いジュースを飲み干して、目の前がくらくらして、耳がきーんとして、変な臭い。
頭に電飾をつなぐ。
没入の直前、憂の声がした。
ねえ、梓ちゃん、と言う。

憂「ねえ、梓ちゃん。ごめんね」

わたしたちはもう一度、過去に向かって飛び込んでいく。


64 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:32:50 x3viZKKo0


――えーと、Aが憂だ!

プレイヤーA ねえねえ答え言う前にこっちから質問してもいい?

――なんですか?

プレイヤーA AとB、今日はどっちが好きだった?

――両方とも大好きですよ。

プレイヤーB おねーちゃん、梓ちゃん絶対浮気するタイプ。気をつけたほうがいーよ

プレイヤーA うんっ。

――ちょっと待ってくださいよっ、別にそんなことはないですっ。

プレイヤーA じゃあどっちが好きなの?

プレイヤーB あはは、こういうのテレビで見た!

――もう……昨日は憂で、今日は唯先輩です。

プレイヤーAB 明日は?

――うーん……C?

プレイヤーA ふられた!

プレイヤーB ふられちゃったね。

――残念ですね。

プレイヤーA じゃあ明後日はD?

プレイヤーB 明明後日はE?

プレイヤーA その次はFで、Gで、Hで、最後はZだ。

プレイヤーB AからZで、あずだね、あず。あずにゃんのあず。

プレイヤーA あずにゃんは自分大好きだ。

プレイヤーB ひゃーこわい!

――うるさいですっ!


65 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:33:25 x3viZKKo0


目を覚ますと部室にいた。
懐かしい、すべてを覚えてて、そしてああそっかこんなふうだったんだって思い出した。
わたしはソファーの上で眠っていて、隣で、顔のすぐそばに唯先輩がいた。

唯「あずにゃん、おはよ」

梓「ああ、唯先輩……じゃなくて、唯先輩!たいへんです!もどってくださいよ、いますぐ」

唯「あはは、あずにゃん寝ぼけてるの? 変なこと言っちゃって、もー」

梓「ゆめ……夢を見てたんですよ。夢の中で唯先輩が変わっちゃって、わたしの知ってる唯先輩じゃなくなって、わたしはこわくて、いろんなものがちがって、高校が壊れて、宇宙船がそこにあって、いろんなものが進化して、でもわたしは乗り遅れちゃって、みんながみんなちがくなって、わたしは変わらないって思ってたけど、どうなんだろう? わたし、変わりました? でもいやな夢だった。こわい夢はいつもなにもかもが悪くなるのに、その夢はなにもかもがそのままで、でもどっか、ねじが半回転するみたいにほんのちょっとだけあらゆるものがずれるからいつの間にかどこがどう壊れたのかもわかんなくなって、まるでほんとみたいだった、ほんとにあったみたいな夢だった。だからわたしわけわかんなくて、うまくいえないなあ……」

唯「こわかったの?」

梓「うん」

唯「よしよし……もう大丈夫だよ。ここは安全だからね」

そう言って唯先輩はわたしを抱きしめた。
いつもそうしてくれたみたいに。
とても冷たい。

唯「あずにゃん、あずにゃん、へーきだよ。ここはずっとへーきなんだよ」

唯先輩はとても冷たくて、寒気がした。
どこかで前も寒かった、それに似てて、あれはいつだっけ?
でも、唯先輩はとても優しかった。
右手を背中に回して、左手でわたしの髪をすく。
唯先輩がわたしを丸ごと抱きかかえるからわたしが小さくなったみたいで、ああ、そっかほんとに小さくなってるんだ、高校生のときのサイズに戻って。

唯「あずにゃんはあったかいね」

梓「えへへ、そうですかね」

唯「うん、とっても、あったかい。うらやましいなあ……」

唯先輩の手がわたしのほっぺたをなでて、とても冷たい。
わたしはつい、その手を払いのけてしまう。

梓「あ、ごめんなさい」

唯「いいよ、べつにいいんだよ。それで」

梓「そうですか」

唯「わたしもね、昔はあったかかったんだから」

梓「そんな、いまだって唯先輩はちゃんとあたたかいですよ」

唯「ならいいんだけどね、それなら」

でも唯先輩はやっぱり身体を引いてしまうほど冷たくて、そして思い出した。
その冷たさを。
あの、タイムマシンにはじめてつないだとき、わたしがいて、いなかったところ、あそこにいたときの冷たさがまさにこんな感じで。
身体の内側の臓器が振動するのをやめてしまって、体腔を空気が通り過ぎていく冷たさ。

梓「ねえ、唯先輩」

唯「なに?梓ちゃん」

梓「唯先輩って……」


66 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:34:22 x3viZKKo0
ばたん。
部室の扉が開いた。
その向こうには息を切らした唯先輩が立っていて、そしてわたしの横にいた唯先輩は消えている。
唯先輩は安堵した表情で言う。

唯「あずにゃん、ここにいたんだ。よかった」

梓「わたしはずっとここにいて……」

唯「探したんだよ。まだ生きてた、よかった」

唯先輩がわたしの横のソファーに座る。

唯「あずにゃんがまだ死んでなくてよかった」

梓「?」

唯「ううん、こっちの話」

わたしたちはふたりでソファーに座っていて、夕暮れがやってきて、西側の窓から部室をオレンジ色にしていた。
わたしたちは放課後、部活の終わった後、みんなが帰った後もこんなふうにこっそり残っていろんなことを話した。わたしは唯先輩と二人きりなのが嬉しくて、なんだかどきどきして、そうでなくても放課後の学校には夕日色の魔法がかかっていてわたしたちはちょっといつもよりはしゃいでた。
変な話をした。
普段じゃ絶対言わないようなくだらない冗談。小学校とか中学生の頃の話のどうでもいい部分とか、ルールがすぐ変わるゲームとか。
帰りたくなかった。
とても懐かしくて、わたしは泣きそうになってしまう。
ああ、そうだ、こんなふうだった。
わたしが呟くと、唯先輩が言う。

唯「あずにゃんも来ちゃったんだ」

梓「そう、そうです」

唯「ねえ、このまま、ずっとここにいようよ! 先生が見回りに来たら、そこに隠れてさっ。夜の学校でわたしたちふたりだ!一緒に学校に住んで、そしたら安全だから。ここは安全で、あずにゃんが死なない場所だから。トラックはやってこなくて、時間もたたなくて、ここは安全だから、安全」

わたしはそれも悪くないかもしれないな、と思っている。
このまま唯先輩とこのくるくるループし続ける時間の間に隠れて、永遠に生き続けるのも。
わたしはうなずく。
そうですね。
そうだよ!
唯先輩が笑って、わたしのことを抱こうとする。
わたしは唯先輩を突き飛ばしてしまう。
反射的に。

唯「わわっ、あずにゃん、どしたの……こわい顔してる」

わたしは思い出した。
さっき唯先輩に触れたときのあの冷たさ。
どうしようもなく寂しくなってしまうあの冷たさを。
それはわたしの脳みその溝の中にしっかりと刻まれていて、思い出すだけで寒気がする。
わたしは二度と唯先輩に触れることはできないだろう。
ここ、この瞬間、この場所では。

唯「どしたの、あずにゃん?」

ここにいるこの唯先輩があたたかいんだってことはわかる。
わかるんだけど、触れることはできなかった。


67 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:34:57 x3viZKKo0

部室の扉の方で唯先輩が揺れた。
わたしはそっちの方に向かって駆け出す。
後ろで唯先輩が立ち上がって、叫ぶのが聞こえた。

唯「あずにゃん、だめ、だめだよっ。そっちはあぶない、死んじゃうから!」

階段を駆け下りる唯先輩をわたしは追いかけた。
何度も躓きそうになる。
校舎を出て、校庭を後にして、もう時刻は遅いのに運動部の練習の声がした。
唯先輩は道路の向こう側にいた。
わたしはそっちに向かって、駆け出す。
なにが起こるのかは、よくわかっていた。
道路のちょうど真ん中で、クラクション。
右を向くと、大きなトラックが、わたしのすぐ目の前にあって、でもこわくはなかった。
その瞬間、時間がとまる。
道路の向こう側で、唯先輩が――憂が笑った。

憂「ぎりぎりセーフだ」

梓「時間止めたの?」

憂「ううん、わたしたちの計算だけが速くなってるんだよ」

振り向くと、唯先輩がいる。
唯先輩はわたしに向かって飛び込んでいた。とっても険しい表情をして、ちょっと怒ってるようにも見える。
たぶん間に合わない。
唯先輩はわたしを助けようとして――その結果自分が轢かれることは全然考えてない感じ――でも、たぶん間に合わない。
唯先輩としては、また、ってわけだ。

憂「見えた?」

梓「なに?」

憂「おねーちゃんは自分が死んじゃうとしても梓ちゃんを助けようとしたんだよ」

梓「うん」

憂「わたしじゃない、おねーちゃんが、いまのおねーちゃんがそうしたんだ」

梓「うん」

憂「わたしにはできなかった」

梓「それは嘘だ」

憂はなにも言っちゃだめだと首を振った。


68 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:35:49 x3viZKKo0

憂「今はわたしが高校二年生の秋、10月。梓ちゃんは新しい人工知能で遊ぶことを口実に毎日おねーちゃんの家に通って、それでいつも笑ってた、おねーちゃんのくだらない話とか梓ちゃんの恥ずかしい失敗とか。梓ちゃんは友達の家に今まで泊まったことも、誰かにぎゅってされることもなくて、おねーちゃんは真剣に悩んだことなんてなかった。なにもかもが新鮮で、どきどきして、新しかったとき。おねーちゃんと梓ちゃんの人生で最高のとき。わたしがいた瞬間」

懐かしい?って憂が言うから、わたしはなにも言わない。

梓「わたし、唯先輩とうまくやっていけるかな?」

憂「どうかな、いま梓ちゃんおねーちゃんとうまくやれてないの見ると。先は暗いよ、まっくらだ」

梓「ずいぶんだなあ」

憂「ね、梓ちゃん、なにもかも変わっていくんだよ。予想もできないくらいに。ねえ、でも、それでもずっとわたしたちいっしょだよ。いっしょだよね?」

そして憂はいたずらっぽく、おねーちゃんならきっとそう言った、って笑った。

梓「憂ならなんて言う?」

憂「がんばれ!」

梓「あはは、他人ごとだ」

憂「それがせいいっぱい。過去から未来に言えるのは」

梓「そっか」

憂「じゃあもう大丈夫だよね」

梓「憂がいなくてもってこと?」

憂は冗談みたいにかしこまって言う。

憂「ねえ、いいかい、梓ちゃん、憂なんて人間はいないんだ、もうそんな人間は死んじゃったんだよ。ずっと昔の話」

わたしは黙っている。

憂「わたしと過ごした瞬間が梓ちゃんの人生で最高の瞬間だって今でも思ってくれてるのは嬉しいな、でもさよならしなきゃ、わかるよね?」

憂はわたしの人生にたった一瞬そっと触れて、そして消えた。
それは永遠に続いていく気がしたし、実際続いているふりをしていたのだけど、ふと思うともうあんまり思い出せなくなっている。
そう、憂の言うとおり。
憂はずっとここに存在していなかった。
ずっと前、あの瞬間をのぞいては。

憂「じゃあね、あずにゃん」

憂は手を振った。

憂「これで本日のテストを終わりにします。模倣値78、78。これから長期修正を行いますので修正中は起動を行わないでください。それでは、おやすみ……おやすみ……」


69 : ◆vZmyym56/2 :2014/11/02(日) 21:36:54 x3viZKKo0

時間が動き出した。
憂が飛び込んでくる。
わたしを突き飛ばす。
憂は言っていた。
これは、愛する人間の死を乗り越えてそれでも生きていく人間の物語だと。
トラックが憂の身体をはね飛ばして、くるくる回る。くるくる。
地面にたたきつけられた憂の身体が三つに分かれて、わたしは目をつぶってまぶたの裏側で、凍結された過去は溶け出して、そのなかにあったいろんな大切なはずだったものは空気に触れた瞬間すぐ腐ってばらばらになって、溶け出した水だけがわたしの腕の中であたたかい、あたたかった、わたしは憂がこんなにもあたたかいなんて知らなかった――十年ごしにわたしは憂に触れて、憂のあたたかみを感じることができた、できればずっとここにいたいと思ってて、それでわたしはまた、目の前に憂が浮かんで首を振るのが見える――そしてそれも長くは続かずすべてが消えて、過去への没入時と同じような感覚が、ひねられる感覚、赤や青、緑、黄色、様々な色が頭の中ではじけて、わたしは――。


――あなたは唯先輩ですか?

プレイヤーA うん、そうだよ!決まってるじゃん!

プレイヤーB そうじゃないけど、そうなりたかったし、そうなれるようがんばったよ。うまくできたよね?


目を覚ますと、部屋にいる。
ぶーんという機械のうなり。
タイムトラベル酔いの酩酊感。
赤、青、色が、目の前でちらつく。
にじむ。
隣で、唯先輩が眠っていて、少し後で目を覚まして、わたしの方を見た。そしてまた疲れたようわたしの肩にもたれかかって目をつぶる。
とてもあたたかい。
唯先輩に触れたのは久しぶりだなって思った。
おかえり、って呟いた。
わたしの横で眠る唯先輩は、まるであの頃みたいで。
そして憂によく似てた。


おわり。


70 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 21:51:43 lGdsR.nM0
梓「さよなら、憂」


71 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 21:52:27 lGdsR.nM0
 憂が倒れた。


 現在夏休み真っ只中。
 受験勉強と学園祭ライブに向けての練習との両立に
 私達軽音部員三年生は大忙しだった。

 ………とは言っても純は昨日から田舎に帰省してるけど。
 まあ、家の事情だから文句を言うつもりもないですが。

 というわけで補習後の部室での練習は憂と二人っきり。
 今日は一年生の二人も来れないようだ。

 ―――私が憂から目を離したのはほんの五分程。

 お手洗いから帰ってきた時、長椅子にぐったりと横たわる憂の姿を見た私は
 自分でも驚くぐらい大いに取り乱してしまった。

梓「う、憂っ!どうしたの!?大丈夫!?」

憂「梓ちゃん………ごめんね、ちょっと疲れちゃって………」 

梓「え、えっと、えっと、そ、そうだ!救急車!すぐに救急車呼ぶからね!」アタフタ

憂「……梓ちゃん、大袈裟だよ……落ち着いて?……しばらく休めば良くなると思うから……」

梓「で、でもっ……!!」

 憂の顔色はかなり悪い。

憂「大丈夫。ただの夏バテだよ………」

 夏バテ……?憂には縁の無い言葉だ。去年も一昨年も憂のそんな姿は見たことがない。

梓「じゃ、じゃあせめて、保健室行こう?」
 
 長椅子に横たわっている憂を保健室まで歩かせるのは酷な気もしたが、
 それでも早く誰かに診てもらわないと不安で仕方なかった。

憂「うん……わかった……」

梓「ほら、肩貸すから、私につかまって?」

 
 保健の先生の診断結果は憂が言ったのと同じく夏バテ。
 特に熱などがあるわけでもなく、疲れが溜まっているだけだろうということだ。
 ………もしかして、私が練習練習と煩く言って憂に無理をさせていたんだろうか……


72 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 21:53:21 lGdsR.nM0

 結局この日、憂はしばらく保健室で休んだ後、
 さわ子先生の車で送ってもらって帰っていった。



 翌日。



 今日の補習を終えた私は憂のお見舞いに平沢家へ急ぐ。
 朝から何度か憂にメールを送ったのに一度も返信が無い。
 ……こんなの憂らしくない。
 あの子は純からのどうでもいい、私なら無視するようなメールにも
 律儀にすぐに返信するような子なのだ。
 ただ寝てるだけで私からのメールに気づいていない、という事ならいいんだけど……
 嫌な胸騒ぎを感じながら平沢家のインターホンを押す。

 ピンポーン

平沢母「あら、あなたは……えっと、梓ちゃんよね?」

 平沢姉妹のお母さんが優しい笑顔で出迎えてくれた。

 以前に一度だけ会ったことがあるけど相変わらず若くて綺麗な人だなぁ……
 唯先輩と憂のお母さんなんだからいくら若く見積もっても
 30代後半から40歳を少し過ぎてるぐらいなんだろうけど
 20代後半と言われても信じてしまいそうだ。

 唯先輩と憂もあと何年かしたらこんな感じの美人さんになるのかなぁ……?

 ……いやいや、見蕩れてる場合じゃない。

梓「あ、あのっ……憂、さんのお見舞いに来たんですけど……」

平沢母「………ごめんなさいね、わざわざ来てもらったのに……いま憂はいないの……」

梓「えっ!ま、まさか……入院してるとかですか!?」

平沢母「……そういう訳じゃないんだけど……ごめんね?私からは上手く

    説明できないの。憂の事は……唯に話を聞いてもらえるかしら?」

梓「………わかりました。失礼します………」

 憂の容体が気にはなるが、ここでしつこくお母さんを問い詰めるのも気が引ける。
 平沢家を後にし、私はすぐに携帯を取り出し唯先輩に電話を掛けた。


73 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 21:54:23 lGdsR.nM0
 プルルルル……プルルルル……

 ピッ

梓「もしもし唯先輩?お久しぶりです……」

唯『あずにゃん……そろそろ電話してくる頃かなって思ってたよ』

 唯先輩の声にいつも程の元気が感じられない。
 ……憂が倒れた事となにか関係があるんだろうか。

梓「あ、あのっ……唯先輩、ちょっと聞きたいことが……」

唯『わかってるよ。憂の事でしょ?』

梓「……はい。昨日、憂が倒れて……今日お見舞いに行ったら憂はいないって言われました。

  ………唯先輩はなにか知ってるんですよね?」

唯『うん……ごめんね?憂が倒れちゃったのも、いま家にいないのも、

  全部私のせいなんだ………』

梓「ど、どういう事なんですか?」

唯『うーん……話せば長くなるから、会ってゆっくり話したいな……

  私、明日実家に帰るつもりなんだけど……あずにゃん、私の家に来てくれる?』

梓「……わかりました。じゃあ明日お伺いします」

唯『うん。また明日ね、あずにゃん』

 ピッ

 ……先輩方とは学園祭ライブが終わるまで会わないと誓いを
 立てていたけど、そんな事を言っている場合じゃない。
 唯先輩は『憂が倒れたのも家にいないのも私のせい』と言った。

 ………どういう事なんだろう?



 さらに翌日。



 平沢家を訪れた私を出迎えてくれたのは唯先輩だった。

唯「あずにゃん……久しぶりだねぇ」ギュ

 やっぱりと言うか唯先輩は私に会うなり抱きついてきた。

梓「は、はい……お久しぶりです……///」

 しかし昨日の電話と同様、いつも程の元気が感じられない。

唯「私お茶淹れてくるから、あずにゃんは先に私の部屋にいってて?みんないるから」

梓「みんな……?」

 言われて玄関を見てみると見覚えのある靴が何足か。
 先輩方の靴だ。
 皆さんも来てるんだ……


74 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 21:55:04 lGdsR.nM0
澪「梓!久しぶりだなぁ……」

紬「梓ちゃん!元気だった?」

律「おう梓!相変わらず成長してないな〜♪」

 唯先輩の部屋のドアを開けると先輩方の懐かしい顔が。
 話したいことがいっぱいある。
 先輩方の大学での近況も色々と聞きたいし、私達の今の活動なんかも
 聞いてもらいたい。

 ……でも今は憂の事が心配だ。
 憂の事を唯先輩から聞いてからでないと先輩方と落ち着いて話をすることはできない。 

梓「あ、あのっ!皆さんはどうして唯先輩の家に……?」

律「ああ……一昨日唯が倒れてな。しばらく実家で静養するっていうから心配で私達も

  付き添って帰ってきたんだよ。本人はただの夏バテだって言ってるんだけどな……」

 唯先輩が……倒れた?一昨日ということは憂が倒れたのと同じ日だ。
 これは偶然……?
 なんだか嫌な予感がする。

澪「梓は?唯のお見舞いに来たのか?」

梓「いえ、私は唯先輩が倒れた事は知りませんでした……」

 今日私がここに来た理由を先輩方に話す。

澪「えっ?憂ちゃんも倒れた!?」

紬「しかもいま家にいない……?」

律「どーゆうことだよ、おい……」

梓「わかりません……私は今日その理由を聞きに来たんです……」

 ガチャッ

唯「みんなお待たせー。お茶淹れてきたよ〜」

律「お、おい唯!憂ちゃんも倒れたってホントなのか?」

唯「えっ?………う、うん……」

紬「いま憂ちゃんはどこにいるの?入院もしてないって言うし……」

唯「………………」

梓「唯先輩……教えてください……」

唯「……うん、話すよ……その為にあずにゃんにも来てもらったんだもんね」

 唯先輩はお茶をテーブルに置くと、驚かないでね?と前置きをしてから話し始めた。


75 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 21:56:04 lGdsR.nM0

唯「実はね……平沢憂なんて人間はいないの……」


梓「えっ?」

唯「私、一人っ子でね?子供の頃、妹が欲しくって……それで、自分の残像と

  姉妹ごっこして遊んでたんだ……」

律「ざ、残像って……あの、少年漫画とかでよくある……?」

唯「うん。超高速で動いて二人に見せかけてたんだよ……」

梓「じゃ、じゃあ憂は……」

唯「そう。私の残像なの……今まで黙っててごめんね、みんな」

紬「つまり憂ちゃんという存在は唯ちゃんの一人二役だったってこと……?」

唯「うん、幼稚園の頃から始めて……ホントに妹が出来たみたいで楽しくって、

  今までずっと続けて来たんだ……」

澪「で、でも二人は性格も全然違ってたじゃないか!」

唯「二人とも似たような性格じゃ姉妹ごっこがあんまり楽しくなかったからね。

  妹の方はしっかり者のキャラ設定にしてたんだよ」

梓「ま、待って下さい!私、唯先輩の家にお邪魔した時、唯先輩がリビングで

  ゴロゴロしてて、憂がキッチンで料理を作ってる光景を何度か見たことありますよ!?

  あれも一人でやってたって言うんですか!?」

唯「そうだよ。設定上、私はだらしない姉で憂はしっかり者の妹だからね。

  家に他の人がいない時もずっとそうやって一人で姉妹ごっこしてたんだ」

律「じゃあ料理もいつも二人分作って、高速移動しながら一人で食べてたってのかよ!?」

唯「うん。私、太らない体質だから」

 納得せざるを得ない。


唯「……でも、もう体力の限界でね、それで一昨日倒れちゃったの……

  この先、残像を作るのは厳しいから、もうやめようと思って……」

律「それでいま憂ちゃんはいないってわけか……」

唯「お父さんとお母さんにも昨日、電話で言ったんだ……もう残像はやめるって。

  憂がいなくなっちゃうけど、ゴメンねって」


76 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 21:57:07 lGdsR.nM0
紬「………ご両親はなんて……?」


唯「『いつまでやるのかと思った』って………」


律「……そうか」

澪「……………」

紬「……………」


梓「あ、あのっ!じゃあ、憂は……い、いなくなっちゃうってことですか……?」

唯「………うん………ゴメンね、あずにゃん………」

梓「そんな………」

澪「でも、幼稚園の頃から10年以上やってきた事なんだろ?子供の頃より体力は

  あるはずだし………なんで今になって無理になったんだ?」

唯「さっきも言ったとおり超高速で移動する事で二人に見せかけてるからね、

  桜高とN女じゃ距離が遠すぎるんだよ……それで疲れて、倒れちゃったんだ」

律「じゃあ、今ここでなら残像で憂ちゃんを出せるってことか?」

唯「うん。出来るよ」

紬「ちょ、ちょっとやって見せてくれないかしら……?」

唯「いいよー。じゃあ見ててね」

 一瞬、唯先輩の姿が蜃気楼のようにユラリと揺れたように見えた。
 すると次の瞬間には、唯先輩の隣には憂の姿が現れていた。

憂「お姉ちゃん……」

唯「ごめんね、憂……私にもっと体力があれば……情けないお姉ちゃんでごめんね……」グスッ・・・

憂「そんなことないよ!お姉ちゃんの体が一番大事なんだから……私こそごめんね?

  私の為に負担をかけちゃって……」グスッ・・・

 残像による唯先輩の一人二役だと聞いた後ではこのやりとりも
 少しイタイ……いや、滑稽に……いや、不思議な感じに見えますが、
 これは姉妹の別れのシーンなのだ。

憂「皆さんも……今までお世話になりました……あの、これからもお姉ちゃんの事を

  よろしくお願いします………」


77 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 21:58:06 lGdsR.nM0
澪「憂ちゃん……」

律「ホ、ホントにいなくなっちゃうのか……?」

紬「そんな……!」

憂「これ以上、お姉ちゃんに無理はさせられませんから……」

唯「……憂ぃ……」グスッ

憂「……梓ちゃん、ごめんね?私……学園祭ライブ出られないや……」
 
梓「憂……」

 自分が消えようかという時に私や唯先輩の心配をするなんて……ホントにこの子は……
 
梓「あの、すいません皆さん、少し憂と二人にしてもらえませんか?」


 無理を言って先輩方には部屋から出てもらい、私は憂と二人っきりになる。


憂「ごめんなさい梓ちゃん……純ちゃんやスミーレちゃん、奥田さんともちゃんと

  お別れしたかったけど……梓ちゃんから伝えてもらえるかな……?」

梓「ねぇ、憂。あとほんの数ヶ月……せめて、学園祭まで……なんとかならないの?」

憂「………無理だよ………これ以上続けたらお姉ちゃんの体が………」

梓「そっか……そうだよね。ごめん、無理言って。………大丈夫、私達の事は心配しないで!

  憂がいなくてもライブは絶対に成功させてみせるからっ!」

憂「うん……心配なんてしてないよ。梓ちゃんを……わかばガールズのみんなを信じてるもん」

梓「……純はちょっと信用できないけどね。本番ですごいミスとかやらかしそう」

憂「ふふっ……そんなこと言っちゃダメだよ梓ちゃん」

梓「あはは………」

憂「ふふふ………」

 二人の乾いた笑いが部屋に響く。

 絶対に泣かない。

 笑顔でお別れするんだ。

 私が泣いちゃったら憂が安心して消えることが出来ない。

憂「じゃあ、梓ちゃん。そろそろ私………」

梓「………うん。わかった」


 

憂「さよなら、梓ちゃん」


梓「さよなら、憂」




 憂の体がさっきの唯先輩と同じようにユラリと揺れ、
 次の瞬間には完全に消え去っていた。唯先輩が残像を止めたのだろう。


78 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 21:59:13 lGdsR.nM0
 一人唯先輩の部屋に残された私は堪えていた涙をもう止めることができなかった。

 コンコン

 ドアをノックする音。
 先輩方が戻ってきたんだろう。
 ダメだ。こんなな涙と鼻水でくしゃくしゃの顔を見せるわけにはいかない。

唯「あずにゃん……入るよ?」

 ガチャ

梓「グスッ……あ……す、すいませんみなさん!私、今日はもう帰りますね!

  また今度ゆっくりお話ししましょう!」

 唯先輩の部屋に戻ってきた先輩方に顔を見せないように、
 脇をすり抜けるように部屋から出る。

律「梓……」

澪「……大丈夫か?梓」

紬「梓ちゃん………」

 先輩方に声を掛けられたが振り返らずに私は唯先輩の家を後にした。



 そのまた翌日。


 
 今日の補習を終えた私は部室へと向かう。
 純は今日から練習に出ると言っていたし、一年生の二人も来るはずだ。

 でも、憂はもういない。

 ……私が一年生の頃、学園祭前に律先輩と澪先輩がケンカをしたことがあった。
 それで律先輩がもしかしたらライブに出ないんじゃないかと言う話になった時に
 ムギ先輩はこう言ったのだ。

 『りっちゃんの代わりはいません!』と。

 放課後ティータイムが誰か一人欠けても成り立たないのと同じように、
 わかばガールズも5人揃っていないとダメなんだ。
 憂の代わりなんているわけがない。

 ……それでも、私達は学園祭ライブを成功させなければならない。
 憂と約束したんだから。
 
 ガチャッ
 
 音楽準備室のドアを開けた私はそこにいた人物を見て息を飲んだ。


79 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 22:00:04 lGdsR.nM0


憂「えへへ……梓ちゃん♪」



梓「!!!うっ、憂??なんで?唯先輩もう残像やめるって……!」

憂「ふふっ、実はね、昨日梓ちゃんが帰った後、みなさんで話し合って……」



 ―――――――――



律『なあ、唯?残像がきついのって桜高とN女が遠すぎるからって言ってたよな?』

唯『うん。超高速で移動しなきゃいけないからね。同じ学校に通ってる時は近くにいたから

  平気だったんだけど……実は私が高一で憂が中三の一年間もちょっときつかったんだよ』

律『って、ことはだな……N女でなら残像を作れるってことだよな?』

唯『……?うん。それなら簡単に出来るけど……?』

澪『なに言ってんだ律。そんな事しても意味ないだろ』

紬『そうよね。憂ちゃんは桜高に居ないと……』

律『ふふふ……お前ら、私と唯のそっくり設定を忘れてないか?』

澪『!!』

紬『そっか、カチューシャをはずしたりっちゃんは唯ちゃんと見分けがつかない……

  一時期はりっちゃんと唯ちゃんの入れ替わりSSなんてのもあったものね!』

唯『え?え?なに?ど、どーゆうこと?』

律『鈍いなー唯は。私と唯がそっくりってことは、私と憂ちゃんもそっくりってことだろ?』

唯『………あっ!!』

澪『なるほど……唯が残像を作ってN女で唯と律の二役をする。そして体の空いた律が………』

律『桜高に行って憂ちゃん役をするってわけだ!』

紬『そして、憂ちゃんが桜高を卒業してN女に入学したら、りっちゃんはりっちゃんに戻って……』

唯『私がまた、唯と憂の二役をすればいいんだね!』

澪『律にしては考えたなぁ……』

律『完璧な作戦だろ?』

唯『でも、いいの?りっちゃん……憂の為にそこまでしてくれて……』

律『あったりまえだろ?私も憂ちゃんが居なくなっちゃうのは寂しいもんな』

紬『みんな憂ちゃんのことが大好きなのよ?』

澪『そういうことだ、唯』

唯『グスッ……みんな……ありがとう………』


80 : ◆XksB4AwhxU :2014/11/02(日) 22:01:01 lGdsR.nM0
 

 ―――――――――



憂「……ってことがあったんだよ」

梓「じゃ、じゃあ、今の憂は律先輩なの?」

憂「うん。そうだよ!もう残像じゃないから前みたいに疲れて倒れたりもしないよ?」

梓「………一緒に学園祭ライブ……出れるんだよね?」

憂「もちろんだよ。頑張ろうね、梓ちゃん!」

梓「………卒業も、一緒に出来るんだよね?憂と……」

憂「うん。卒業したら私は律先輩に戻るけど、またお姉ちゃんが残像で私を

  作ってくれるから、これからもずっと一緒にいられるよ」

梓「………憂」グスッ・・・

憂「梓ちゃん……ごめんね?心配かけちゃって……」

 ガチャッ

純「おぃーす!久しぶり二人とも……あぁっ!あ、梓が泣いてる……!」

梓「な、泣いてないよ!……ゴシゴシ……それより純!しばらく練習休んでたんだから、

  今日からビシビシいくよ!」

純「……えらく気合入っちゃって……憂、なんかあったの?」

憂「ん?えへへ……別になにもないよ♪」

純「むぅ……怪しい……」

 ガチャッ

菫「こんにちは。お久しぶりです、先輩方」

直「あれ?もう皆さんお揃いですか……私達、遅れちゃいましたか?」

純「大丈夫大丈夫。梓と憂が早く来すぎてるだけだから」

梓「よし!わかばガールズ全員集合だねっ!じゃあみんな、

  最高の学園祭ライブにする為に、練習はじめるよ!!」

憂「おーーーーっ!!」

菫直「「ぉ、ぉー……」」

純「なんだろね、あの二人……妙にはりきっちゃって……まあ、私も久しぶりの

  練習だし、いっちょ気合入れてやりますか!」










憂「あ、そうだ……これ言うの忘れてたよ」

 各々が楽器の準備をしているなか、憂が私に近づいてきて耳元で囁く。



憂「ただいま、梓ちゃん」




 もちろん私はこう返す。




梓「おかえり、憂」





 おわり


81 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:28:53 OVL2y46Q0
○桜が丘女子高等学校・軽音楽部部室(夕)


夕陽が差し込む軽音楽部の部室、金色の髪の少女が並べられた席に手を置いている。
その瞳の端が輝いている様に見えるのは気のせいだろうか。
暮れていく夕焼け。
もう少しだけ宵の闇が深くなった時、唐突に軽音楽部の扉が開く。
金髪の髪の少女、斉藤菫が驚いた様子で目尻を拭い、扉に視線を向ける。


純「あれ? やっぱり空いてる?」


扉の先から軽音楽部の部員、鈴木純が姿を見せる。
肩で息をしている事から察するに、多少急いでいたのであろう事を窺わせる。
菫は軽く深呼吸した後、純に向けて首を傾げる。


菫「ど、どうしたんですか? 純先輩?」

純「スミーレこそどうしたのよ? 先に帰ったんじゃなかったっけ?」

菫「えっと……、あの、そう、忘れ物をしちゃいまして」

純「あはは、卒業式でまで忘れ物しちゃうなんてスミーレらしいよね」

菫「私らしい、ですか?」

純「ほら、ムギ先輩から頼まれてた食器、回収するのずっと忘れてたじゃん」

菫「うっ、それを言われると弱いです……」


82 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:30:27 OVL2y46Q0
軽く項垂れる菫。
微笑んだ純が駆け寄り、背伸びして菫の頭を撫でる。
菫とはかなりの身長差があるが、純はそれを物ともしない。


純「まあまあ、それもスミーレの個性でしょ? 私はそれでいいと思うな、スミーレは」

菫「忘れっぽいのが個性なんて嬉しくないです……」

純「だったら忘れ物をしないようにしなきゃね、スミーレ」

菫「気を付けます……。それより純先輩?」

純「何だい、スミーレ後輩?」

菫「純先輩こそどうしたんですか? 梓先輩達と一緒に帰ったはずじゃ?」

純「へへー、実は私も忘れ物をしちゃったんだよね」


自慢げに胸を張る純。
菫は何と言うべきか困った表情を浮かべる。
菫の反応に構わず、純は再び菫の頭を撫でる。


純「忘れ物は誰でもする物だからねー」

菫「それはそうですけど、純先輩こそ自分自身の卒業式なのに……」

純「卒業式でも忘れる物は忘れるの。むしろちゃんと忘れ物を思い出した私を褒めてほしいところだよ、スミーレ」

菫「あはは……」


83 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:32:22 OVL2y46Q0
肩を落として苦笑する菫。
その苦笑が少しずつ曇っていく。
表情を悟られない様に視線を逸らし、絞り出すかの如き声色で呟く。


菫「卒業式、でしたよね……」

純「うん、卒業式だったね」

菫「改めて卒業おめでとうございます、純先輩」

純「何、改まって?」

菫「もう一度言っておきたい気分だったから……、じゃ駄目ですか?」

純「別に駄目じゃないって。改めてありがと、スミーレ。お祝いに作ってくれた歌、嬉しかったよ」

菫「私達、上手く……、歌えてました?」

純「うーん……、あんまり上手くはなかったねー」

菫「ばっさりですかっ?」

純「正直なのが鈴木純ちゃんの美点なのだよ、スミーレくん」

菫「うう……、音痴ですみません……」

純「それでいいんだって、スミーレ」


84 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:33:40 OVL2y46Q0
菫「えっ?」

純「さっき言ったでしょ、嬉しかったって。上手い下手の問題じゃないよ。スミーレ達の歌、すっごく嬉しかった」

菫「それなら、よかったんですけど……」

純「ほら、梓も憂も泣いてたでしょ? それくらい嬉しかったって事よ。勿論私もね。だから自信を持ってよ、スミーレ」


真正面から純に見つめられる菫。
その頬が赤く見えるのは、夕陽に照らされているからだけではないだろう。
もう一度菫の頭を撫でてから純がまた微笑む。


純「それにしてもスミーレ達が私達に歌を作ってくれるまでになるなんてねー」

菫「意外でしたか?」

純「意外よ、意外。だって二人とも最初は完全な素人だったじゃない。後輩がこの子達で大丈夫なのか、正直不安だったんだよ?」

菫「それは……、否定できないですね……」

純「だけどね、すぐに安心しちゃった。二人とも頑張り屋でどんどん上達したし、学祭でも最高のライブができたしね」

菫「それは純先輩達に指導して頂いたおかげです」


85 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:34:37 OVL2y46Q0
純「そう言ってくれると先輩冥利に尽きるけど、でも本当に頑張ったよね、二人とも。楽しかった? この一年間?」

菫「はい! 楽しかったです! まさか自分がドラムを演奏する事になるなんて思わなかったですけど、それでも楽しかったです!」

純「そっか、それは何よりだよ、スミーレ」

菫「純先輩にリズム隊を引っ張ってもらえて、頼もしかったです!」

純「うんうん、もっと褒めていいのよ」

菫「私とのセッションを気持ち良いって言って貰えて、凄く嬉しかったです!」

純「それはスミーレの実力だよ。私こそ気持ち良いセッションをさせてくれてありがとね」

菫「純先輩のお家でのお泊まり会も楽しかったです! 卒業旅行にも付いて行かせてくれて嬉しかったです!」

純「スミーレの卒業旅行にも誘ってよね? その時に私の貯金が残ってればだけどさ」

菫「はい、是非!」


86 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:36:35 OVL2y46Q0
その言葉を最後に菫の興奮した様子が止まる。
視線を散漫とさせ、肩を少し震わせている。
それでも純は菫の顔を真っ直ぐに見つめて言う。


純「頑張ってよね、スミーレ。私の憧れの澪先輩達から受け継いだこの軽音部、任せたからね」

菫「はい、勿論です。私、純先輩達の分も……」

純「スミーレ? どうしたの? 大丈夫?」

菫「はい、だいじょ……、大丈夫……です……」


瞬間、菫の瞳から一筋の涙がこぼれる。
それから堰を切ったかの如く菫の喉から嗚咽が漏れ始める。
口元に手を当て、純より小さく縮こまる背の高い菫。


純「もう……、無理しないでよ、スミーレ。全然大丈夫じゃないじゃん」

菫「だ、だって私……、この一年間楽しくて……、ひっく、本当に楽しくて、来年から先輩達が居ないと思ったら、うえぇ……」


87 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:37:31 OVL2y46Q0
純「無理しなくていいんだってば、スミーレ。泣きたいなら泣いちゃった方が楽なんだしさ。大丈夫じゃないなら、泣こうよ」

菫「でも、でもぉ……、純先輩達の分も、私、頑張らなきゃいけないのに……」

純「素直になってってば。その方が私も嬉しいし。そうだ、ねえ、知ってる、スミーレ?」

菫「な、何を……、ですか?」

純「高校生ってさ、卒業しても四月一日までは高校に在籍してる事になるんだって。だからね、私達はまだスミーレ達の正式な先輩ってわけ」

菫「そう……なんですか……?」

純「だからさ、慣らしていこうよ。大丈夫じゃないなら、大丈夫になるように。その手伝いはするよ。だって私、スミーレの先輩だからね」

菫「純……先輩……」

純「それで、どうする? 本当に大丈夫? 大丈夫そうならスミーレ達に任せるけど」

菫「だいじょ……」


大丈夫、と菫の唇が形作る。
しかしその言葉は声にならず、別の言葉になって声に乗せられる。


88 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:38:33 OVL2y46Q0
菫「だいじょ……うばない……です。だいじょばない……、大丈夫じゃない……、大丈夫じゃないです!」

純「うん」

菫「私、まだ純先輩達と離れたくないです! あともう一ヶ月だけでも、一緒に……、居たいです!」

純「うんうん、私もだよ、スミーレ」

菫「で、でも、純先輩達に迷惑なんじゃ……」

純「迷惑じゃないよ、私だってまだスミーレ達と部活してたいし。それにね、よく考えてみてよ、スミーレ」

菫「?」

純「私達は三年生で、スミーレ達は一年生でしょ? 普通の部活なら居るはずの二年生が居ない部なんだもん。変則的に一年生を指導したって全然悪くないと思うよ?」

菫「純先輩ぃ……」

純「好きなだけ泣いてていいよ、スミーレ。それで泣き終ったらさ、軽音部の延長戦やっちゃおう。きっと楽しいよ?」

菫「はい……、はい……!」


その言葉を皮切りに再び大声で泣き始める菫。
優しい微笑みを浮かべた純は、泣きじゃくる菫を胸の中に抱きしめる。
部室内に決して悲しさだけから生じているわけではない泣き声が響く。


89 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:40:13 OVL2y46Q0
○桜が丘女子高等学校・校門(夜)


純と菫が肩を並べて緩慢に歩いている。
菫は目蓋を泣き腫らしているものの幸福そうに微笑んでいる。
二人の手は軽くとだが指先で繋がれている。


菫「今日はありがとうございました、純先輩」

純「いいっていいって。今日は私も卒業を祝ってもらったから、お互い様だよ。素直なスミーレも見れて嬉しかったしね」

菫「ちょっと……、恥ずかしいです……」

純「駄目だよ、もっと自分を曝け出さなきゃ。リズム隊は一心同体。どんな恥ずかしさも共有しなくちゃね」

菫「そういうものなんですか?」

純「そういうものなの!」

菫「わ、分かりました。恥ずかしい気持ちになってるのは、私だけの気もしますけど……」

純「あ、言ったな、スミーレ。じゃあ、これならどう?」


言い様、純は自らの髪を結っていたゴムを解いていく。
髪を下ろし、若干頬を紅潮させて純は続ける。


90 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:41:23 OVL2y46Q0
純「恥ずかしさ、共有してあげるよ、スミーレ。前も言ったでしょ? 髪を下ろすと恥ずかしいから嫌だって」

菫「いいんですか、純先輩?」

純「よくはないけどいいの! 私は有言実行の先輩なんだから! 二人で一緒に色んな事、恥ずかしい事も共有しちゃおうよ」

菫「それで、更に一心同体のリズム隊になる! ですか?」

純「そうそう、その調子。スミーレも分かってきたじゃない」

菫「あはは、私も純先輩とはもっといいリズム隊になりたいですから。あ、そう言えば純先輩?」

純「どうしたの?」

菫「忘れ物はいいんですか? 確か部室には忘れ物を取りに来たはずだったんじゃ……」


その菫の言葉を聞いた純が若干呆れた表情を浮かべる。
しかしすぐに思い直したのか、悪戯っぽく微笑んでその両腕を広げる純。
菫が戸惑った表情で純を見つめる。


91 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:42:33 OVL2y46Q0
菫「わ、私、何か変な事を言いました?」

純「結構鈍いんだよね、スミーレって。私の忘れ物はね……」

菫「忘れ物は?」

純「鈍くって忘れっぽくて寂しがりな後輩をこうしてあげる事だったの!」

菫「きゃっ?」


軽く悲鳴を上げる菫を優しく抱きしめる純。
戸惑った表情を浮かべていた菫も、いつの間にか笑顔になって純の背中に腕を回す。
優しい体温を感じ合う純と菫。
笑顔の二人を夜の闇が優しく包んでいく。


92 : ◆hE1WJoODTg :2014/11/02(日) 22:43:50 OVL2y46Q0
タイトル忘れていました!

菫「だいじょばない」


93 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:06:31 6d8cLgMw0
純「うん、それってなんか」





純「さて、帰るか〜」

唯「やっほー、純ちゃん」


94 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:08:00 6d8cLgMw0
純「ぬ、唯先輩じゃないですか。ど、どうしたんですか急に」ビクビク

唯「え、なんでそんなに震えているの?」ビクビク

純「人から名前を間違えられずに呼ばれるだなんて、しかもその相手が唯先輩だなんて」

純「きっと天罰が下る……」

唯「純ちゃん……(不憫な子)」

純「それで、唯先輩、何のご用ですか?」

唯「あぁ、うんとね」

唯「いちごパフェ食べにいこ?」

純「」

純「は〜ん、なるほど。つまり、天罰で私に死ねと」

唯「そんなこと言ってないよ!?」

唯「とにかくほら、レッツラゴー!!」


95 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:10:35 6d8cLgMw0
---

唯「てなわけで、やってきました、ファミレス!!」

純「ははは。ついてきちゃった。唯先輩、メニューどぞ」

唯「わーありがとー!!パフェいろいろあるよー!! 迷っちゃう!!」

純「いやいや、いちごパフェ食べに来たんでしょ、ほら頼みましょう」ピンポーン

唯「あ!、純ちゃん、私それ押したかったのに!!」

純「小学生ですかい」

「お決まりですかぁ??」

唯「あ、私、このチョコパフェで!」

純(って、いちご頼まないのかいっ!!)

純(……仕方ない。ここは憂の行動をモデルに動くか)

純「……私はこのいちごパフェで。以上でお願いします」

「しゃーす」

唯「純ちゃん、いちごパフェたべるんだー」

純「唯先輩のことだから途中でチョコパフェに飽きてイチゴにしとけばよかったとか言い出すかなって」

唯「やだぁ?、私そんなことしないよぉ?」


96 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:12:46 6d8cLgMw0
---
唯「食べても食べてもチョコーもうやだー飽きたぁー」

純「……ほらやっぱり」モグモグ

唯「純ちゃん、チェンジしない?」

純「……ほら、やっぱり」ハァ

純「まぁ、いいですけど」ドゾ

唯「わーい! ありがと純ちゃーん! イチゴー!!」パクッ

唯「うまし!!」

純「あはは。喜んでもらえてなによりです。……チョコ甘っ」モグッ

純「んで、用事、なんですか? ただパフェ食べにきただけじゃないんですよね?」モグモグ

唯「……」モグモグ

唯「……」モグモグ

唯「……なんだっけ」モグモグ

純「おいいいいいい!?」


97 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:15:15 6d8cLgMw0
○○○

憂「……」

憂「……」

憂「……」

タッタッタッタ

憂「あ……」

「ご、ごめん、遅くなった」ハァハァ

「待って、澪ちゃん早い」ゼハゼハ

憂「いえいえ、私もついさっききたところですから」ニコッ

澪紬(大人だなぁ〜)ホンワカ

憂「それで、今日は一体何の……?」

澪「あぁ、うん。まぁ、立ち話も何だからどっか喫茶店でも入ろうか」

紬「あ、私、いいお店知っているから、そこに行かない? すぐ近くだし」

澪「ん。なら、そうしようか。いいかな、憂ちゃん。時間はあんまりかからないと思うんだけど」

憂「はい、大丈夫です。お時間のことは気になさらないで」

紬「よかった。じゃあ、二人とも、こっちよ」


98 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:18:44 6d8cLgMw0
---
カランコロン

「こちらメニューになっております」

紬「ありがとう」

澪「」ガクガクブルブル

澪(やばい、ここ紅茶一杯1000円する)ガクガクブルブル

澪(私、憂ちゃんの分払えるかな)ガクガク

憂(澪さんが震えてる……なぜ?)

「ご注文お決まりでしょうか」

紬「今日のオススメを3つで!!」

澪(ピャー、値段書いてないの勝手に頼んじゃったーー!!むぎぃいいいいい)

「かしこまりました」

澪「」

憂(……澪さん震えが止まった? いや、止まったというより)

紬「澪ちゃん、澪ちゃん……? 大丈夫? いきなり遠い目をしているけど」

澪「あ、うん。だ、だいじょうぶ、、、いざとなったらお皿とか洗うから」

憂紬「?」

澪「さ、さてと。今日は来てくれてありがとうね、いきなり呼び出しちゃったのに」

憂「いえ、澪さんと紬さんからほぼ同時にメールが届いたときは驚きましたけど、こういうの初めてなのでちょっとワクワクしました」フフフ

紬「澪ちゃんと私が一緒にメールしたらどっちに先に憂ちゃんは返事返してくれるかな、って賭けてたのよ」

澪「こ、こら、ムギ!? そういうことは今言わなくても!!」

憂「え、それで私を呼び出したんですか?」

澪「あ、いや、かけてたっていうか、まぁ、そういうやり取りがあったのは確かなんだけど、憂ちゃんにちょっと話たいことがあったから今日来てもらったんだ」ワタワタ

憂「あ、そうなんですか。それでお話っていうのは」

紬「……実はね」

憂「はい」ゴクリ


99 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:21:55 6d8cLgMw0
紬「このお店、私の父の会社の系列なの」

澪「いや、なに言ってんだよ、ムギ。打ち合わせと違うじゃないか ってぇぇぇえええ!?」

澪「本当に?」

紬「本当に」エヘ

澪「」

紬「だから今日は私の……おごりだから」フンス

憂「あ、ありがとうございます……?」

澪「お皿洗いしなくていいのか……よかった」

憂紬「?」

澪「……はっ。感動してる場合じゃなかった」

憂「えと、それを私に知らせることがお話の内容ってことですか?」

澪「違う違う、憂ちゃんもマジメに返さなくていいから」

紬「澪ちゃんなんかひどい」ガーン

澪「こほん、話を戻すぞ……それで、憂ちゃんに頼みがあるんだけど」 憂「は、はい」


○○○

梓(……今日は憂も純もさっさと帰っちゃったなぁ)

梓(部活も先輩たちが用事あるみたいでないし)

梓(……さっさと家に今日は帰ろう)スタスタ

梓(……)テクテク

梓(……うん)テクテク

梓(……一人、久しぶりだから、なんか)テクテク

梓(……寂しい)テクテク

ボスッ

梓「いたっ!?」

「カバンで軽くおしりフルスイングしただけなんだから痛いわけないだろ」

梓「……その声とこの理不尽な暴力は」

律「暇だろ? ぎゅーどん食べに行こうやぁ……梓」

梓「……牛丼」

律「おごるからさ、ほら、行くぞ。どうせ暇っしょ?」

梓「……暇、ですけど」

律「食べない?」

梓「……では、ごちになります」


100 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:24:48 6d8cLgMw0
---

「しゃっせー」

律「」モグモグ

梓「」モグモグ

律「たまに食べるとおいしいよな、こういうの」

梓「はい」モグモグ

梓「あの、今日はみなさん用事があるんじゃないんですか?」モグモグ

律「うん、みんな用事があって今日は部活休みだな」モグモグ

梓「律先輩は用事なかったんですか?」モグモグ

律「いや、私は梓と牛丼食べる用事があったんだ」モグモグ

梓「……?」モグモグ

律「なぁ、梓は」

梓「はい?」

律「これからどうしたい?」




○○○


唯「じょーだんだよ、じょーだん!!」

唯「だからそんなに憐れんだ目で私をみないでぇ!?」

純「……」

純「……ちゃんと用事があるらしくて、よかったです」

唯「うん、まぁ、私はパフェも食べたかったんだけどね」モグモグ

純「うん? それでなんなんですか、私に用って」

唯「うん、あのね」

純「はい」モグモグ

唯「用事っていうのは他でもない」

唯「あずにゃんのことなんだよ」

純「……」ゴックン


101 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:26:30 6d8cLgMw0
○○○

憂「梓ちゃんのこと……」

澪「ん。梓のこと」

紬「私たちのワガママみたいなお願いを今日は憂ちゃんに話にきたの」

憂「……そうですか」

澪「驚いてないな」

憂「うーん。なんとなく……。軽音部の、特に澪さんと紬さんが私に連絡をくれるってことは、お姉ちゃんのことか」

憂「梓ちゃんのことかなって」

紬「ズバリね、憂ちゃん。流石だわ」 憂

「あはは。それで、梓ちゃんのことっていうのは、具体的にはどういう」

澪「その話の内容も検討ついてるんだろ、憂ちゃんのことだから」

憂「……」

紬「そうなの? 憂ちゃん」

憂「……」

憂「……えへへ」


102 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:28:56 6d8cLgMw0
○○○

梓「どうしたいって、なにがですか。この牛丼律先輩の奢りじゃないんですか」モグモグ

律「ちょっとシリアスな感じで先輩に『どうしたい』って聞かれて奢るか奢られるかの話になるっておかしいだろ」モグモグ

梓「あぁ、よかった。奢りだと思ってたんで、普段は頼まないようなやつ頼んだんですよ」モグモグ

律「……ちゃっかりしてるな」

梓「どもです」

律「はぁ。『どうしたい』っていうのは部活だよ、部活。私ら、今度いなくなるじゃん」

梓「今度ってか、もう来月ですけどね」

律「ん。だから梓はどう考えてるのかって聞いておこうと思って」

梓「……」

梓「……」

梓「……どうって。まぁ、考えてはいますけど」モグモグ

律「へぇ、そうなのか。さすが梓だな」モグモグ

梓「……」

律「……?」

梓「……」

梓「……」

梓「あの、わがまま言ってもいいですか?」


103 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:30:25 6d8cLgMw0
○○○

純「…つまり、話を要約すると」

唯「……」グスグス

純「『3年生になったらけいおん部に入れ』と」

唯「……」ズピズピ

純「しかも『けいおん部にいるのは3年の1年間だけで、大学になったら梓は放課後ティータイムに返せ』と」

唯「……はい、そういうことです、はい」

唯「ごめんね、話の途中で泣いちゃって」ズズズ

純「や、別にいいですよ。梓の前でそんな情けなく泣かれても困りますし」

純「それきしても……また、ずいぶんと身勝手なことをしやがりますね、『けいおん部のみなさん』は」ハァ


104 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:33:33 6d8cLgMw0
○○○

憂「まぁ、私はそれでもいいですよ」

澪「ほ、本当か!?」

紬「え、いいの!? 憂ちゃん、そんなアッサリと決断しなくてもいいのよ!?」

憂「いえ、3年生になったら軽音部には入ろうと思っていたので。梓ちゃん一人になっちゃうし、それに」

澪紬「それに?」

憂「お姉ちゃんが大学進学で家を出たら、受験勉強しか暇つぶしが無いのも、つまらなさそうなので」ニッコリ

澪(受験が暇つぶし……)

紬(……憂ちゃんってやっぱり唯ちゃんと生まれてくる順番間違えてるんじゃないのかしら)

憂「あぁ、でも」

澪「……でも?」

憂「純ちゃんは私みたいに一筋縄じゃ行かないかもしれないですねぇ」

憂「梓ちゃんのこととなると変に熱血なところあるんで、純ちゃん」

紬「……」

澪「……」

紬「……大丈夫かしら、唯ちゃん」

澪「わからない……」


105 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:35:31 6d8cLgMw0
○○○

律「……」

梓「なんですか、そんなに驚いた顔して」

律「いや、なんというか、そういうことを梓が言い出すとは正直思ってなくて」

梓「……キャラじゃないですよ、どうせ」

律「……」

梓「でもキャラじゃないことを言うくらい」

梓「それくらい、本気ってことですから」

律「……」

梓「……」

律「……おっけ。わかった」

梓「先輩たちは、軽蔑しますか? そんな身勝手なこと思ってる私のこと」

律「するわけないだろ」

梓「……」

梓「なら、よかったです」

律「話をするのは、梓の口からでいいかな」

梓「はい。それはちゃんと自分の口で伝えます」

律「迷惑かけるな、梓には」

梓「いいですよ。私だって、けいおん部員ですから」

律「そっか」

梓「はい」


106 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:38:29 6d8cLgMw0
○○○

純「梓は」

唯「へ?」

純「梓はどう思ってるんですか?」

唯「わからない……怖くてまだ聞けてないから」

純「ということは、先輩たちが勝手に話を進めてて、肝心の梓は蚊帳の外ってことですか」

唯「……う、うん」

純「……それ、めっちゃイライラする」

唯「じゅ、じゅんちゃ」

純「別にいいですよ、その話に乗っても。やりますよ、ベースぐらい。梓のためにいくらでも弾いてやりますよ」

純「でも、梓の気持ちはどうするんですか!! 梓が先輩たちと音楽続けたいって思ってないと意味ないじゃないですか」

唯「……」

純「……」

唯「そうなんだよねぇ〜」ハァ

純「そうなんだよね、ってそんな」

唯「怒ってる?」

純「イラついてますけど怒ってないです」

唯「それ怒ってるんじゃ……」

純「唯先輩は泣いたから、その涙に免じて、『怒ってません』としか言えないです」

唯「ごめんね、純ちゃん。私たちのわがままに付き合わせて」

純「……」

唯「でも、私たち、年齢っていうくだらないもののために、たかだか生まれた年が1年違うっていうバカみたいな区別のために」

唯「あずにゃんと離れたくないんだぁ……」

純「……」

純「……」

純「……じゃあ、とりあえず今日はもう失礼しますね、パフェも食べたし」

唯「うん、ありがとね。話聴いてくれて」

純「……じゃあ、また」デハ

唯「うん、また」バイバイ


107 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:39:34 6d8cLgMw0
○○○

澪「今日はありがとうね、憂ちゃん」

憂「いえ、こちらこそ、すっかりごちそうになってしまって」

紬「いいのよ。ここのランチコースもおいしいからよかったら今度唯ちゃんとも来てみてね」

憂「はい、ありがとうございます」

澪「……憂ちゃん」

憂「?」

澪「ほんと、ありがとう。梓のこと、頼むな」

憂「……。では、また」


108 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:40:47 6d8cLgMw0
○○○

梓「今日はごちそうさまでした」

律「ほいほい。まぁ、後輩に奢るって先輩らしくていいな!!」

梓「はい、律先輩の貴重な先輩姿を拝見しました」

律「私をなんだと思っている」

梓「放課後ティータイムのリーダーです」

律「……」

梓「……」

律「じゃ、また明日部室で」

梓「はい。ではでは」


109 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:43:18 6d8cLgMw0
○○○

純「……」トボトボ

純「……」トボトボ

純「……」トボトボ

憂「……」トボトボ

純「ってうぉぉお!? びっくりしたぁー!?」

憂「うん。純ちゃんの姿を見かけて、いつ気づくのかつけてみた」エヘヘ

純「しれっと犯罪っぽいことしないで普通に声かけてよぉ!?」

憂「純ちゃんはどっかからの帰り?」

純「あ、う、うん。そんな感じ」

憂「口の横にチョコついてるよ?」

純「えっ!? はっず!? え、ほんとについてるの!?」

憂「うん、ほら」ゴシゴシ

純「うわ、マジだ。え、私、チョコつけてずっとファミレスから歩いてたの!?」ギャー

憂「純ちゃんはお姉ちゃんとファミレスでパフェだったんだね」

純「そうなんだよ、唯先輩、いちごパフェ食べに行こうとか言い出して」

純「って、え?」

憂「私は澪さんと紬さんと喫茶店で、だったんだ。さっきまで」

純「え、澪先輩とムギ先輩と!?」

憂「うん」

純「……同じ用事?」

憂「そういうこと」

純「……」

純「……なら私そっちがよかったな」ミオセンパイ

憂「」


110 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:45:28 6d8cLgMw0
純「ごめん、一瞬で殺気を友達に出さないで。私、唯先輩とパフェ食べれてちょーうれしいー!? 途中で交換して唯先輩のチョコパフェも食べれたしー!?」

憂「「」」

純「殺気がさらに増すとか私に一体どうしろと!?」

憂「一緒に軽音部入ろうか」

純「……そうくるか」

憂「純ちゃんのことだから、お姉ちゃんの説明聴いてイラッとしたでしょ」

純「うぐっ。完全に読まれてる」

純「憂はそれでいいの?」

憂「私? 私はもともとお姉ちゃんがいなくなったら軽音部に入ろうと思ってたから」

純「そうなんだ」

憂「純ちゃんのことだからまた青春熱血バカみたいに暑苦しい思想をお姉ちゃんにかましたんだろうけどさ」

純「うぃいい……私のことそんな風に思ってたの? 泣きそうなんだけど」

憂「梓ちゃんってああ見えて、結構深い部分からしてけいおん部に染まっちゃってるからね?」

純「……」

憂「どっちが押しつけなのか、わからないってことも世の中にはあるんだよ?」

純「……」

純「……そんなことわかっ」

梓「うぇぇ……ちょっと食べ過ぎたぁ……」トボトボ

純憂「あ」バッタリ

梓「あ」バッタリ


111 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:48:17 6d8cLgMw0
純「や、やあ、梓、どうした、お揃いで」

梓「いや、揃ってないよ。誰とも揃ってないよ。私は今フリーで歩いてたよ」

梓「むしろ純と憂でしょ。お揃いなのは。珍しいね。二人がこんな遅くまで制服っでうろつくなんて」

純「う、うん? いや、私っていえば私服が制服みたいなところあるから」

憂「……純ちゃん、いきなりぎこちなくなりすぎてわけわかんないよ」

梓「……」

純「……」

憂「……」

梓「…あ、あのさ」

純「ん、な、なにかな、梓さんよ」

梓「2人にちょっと話があるんだけど」

憂「……」

梓「けいおん部のことで」

純「……」

純「そ、そうなの、奇遇だね、実は私たちも梓に言いたいことがあるんだよ」

純「けいおん部のことで」

梓「そう、なの? 憂」

憂「うん、そうだよ。梓ちゃん」

純「なぜ憂に確認する、梓よ」

梓「あ、ごめん、純。なんか、ごめん」

純「素直に謝られるって傷つくからやめて」

憂「で、話ってなにかな、梓ちゃん」

梓「あ、う、うん」ゴクッ

梓「そ、そのさ……話っていうのは、私のわがままを二人にきいてもらえないかなって」

梓「思って……。ものすごく自分勝手なワガママなんだけど」

憂「……」

純「……」

梓「私は、その……けいおん部を、自分の代で廃部にしたくない。先輩たちと出会ったあの場所で私ももう一年間だけ、先輩たちみたいに過ごしてみたい」

憂「……」


112 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:50:23 6d8cLgMw0
梓「だから、二人にけいおん部に入ってほしいんだ。あの場所を守るために」

純「……」

梓「でも、それだけじゃなくて……。それだけじゃ、私のエゴは終わらなくて」

純「……」ギリッ

梓「……けいおん部に入ったら二人と私だけで、バンドはちゃんと組む。一年生もちゃんと入るように、頑張る。でも」

梓「私は自分が思っているよりも器用じゃないから……。その、えっと」

梓「……大学に入ったら憂と純と組むバンドからは抜ける」

梓「そして、私は……放課後ティータイムに戻りたい。ううん、戻る」

梓「……………そう考えてる」

憂「……」

純「……」

梓「どうかな。二人とも、この私の考えを聴いても、けいおん部入ってくれるかな」

梓「……」

純「……」

憂「私はそれでいいよ」

梓「ほ、ほんと?」

憂「私だってきっと、大学に入ったらまた忙しくなってバンドをしてる時間とかとれなくと思うから」

憂「それに一年間だけでも軽音部に入ってお姉ちゃんの観てきた景色、私も観てみたいし」

梓「……あ、ありがとう。憂……」

純「……」

梓「……純」

純「身勝手だな、梓。ワガママに付き合えだなんて、1年間もさ」

梓「……くれないよね、普通は、私、ごめんね、ワガママで」

梓「自分がこんなにワガママだなんて、私も知らなかったから」

梓「けいおん部に出会うまで」


113 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:52:46 6d8cLgMw0
純「……」

純(ずっと)

純(ずっと人には『どうしてもこれだけは』っていうものがあると私は思ってきた)

純(けいおん部、4人の先輩たちの一方的な梓への想いなら、そんなものぶっ壊そうとか思ってたけど)

純(どうやら違うみたいだなぁ……)

純(……いいな、梓は。そんなものを人生たかだか17年生きたぐらいで見つけられちゃって)

純(私も……いつか……)

純「……いいよ、梓」

梓「え……」

純「けいおん部、入るよ」

憂「純ちゃん……ちょっと予想外」

純「なんで憂も驚いてんの。傷つくってば。あんたたち姉妹は私の喜怒哀悲を引き出すがとてもうまいな、おい」

憂「いや、純ちゃんは人の踏み台に無意識になっちゃう人生歩んでるけど、率先して人の踏み台になるような性格ではないと思ってたからてっきり」

憂「断ると思ってた」

純「……私は今笑っているけど、心で泣いているからね、憂」

梓「……純」

純「なんだよ、もっと喜んだ顔しろよー。そんな、泣きそうな顔すんな、部長」

梓「……ありがとう……ごめんね」

純「いいよ、こういうの慣れてるし」ポリポリ

憂「じゃあ、円陣でもくもっか」

純「え、な、なんで!?」

憂「いや、こういう熱血なことしとけば、お互いに目的は違えどなんか雰囲気でるかなって」

純「……まぁ、い、いいけど、梓と憂がしたいなら」

憂「どうする、梓ちゃん」

梓「……しゅりゅ」グスグス

純「しれっと泣くなよ、まったく気づいてなかったっての!?」

純「って円陣組むんだ」


114 : ◆qObddnGPNQ :2014/11/02(日) 23:55:13 6d8cLgMw0
憂「ほらーはやくはやくー純ちゃんこないとなんか道で組み体操してる人みたいになってるから、私と梓ちゃん」

梓「うえぇ…えふん…ぐすん………こほこほ……」

純「え、梓、本格的に泣き始めてるけど、円陣するのこれ!?」

ガショッ

憂「えへへ、青春っぽくてうれしい? 純ちゃん」

純「憂、さっきから私を青春フェチにしたてあげないで」

梓「うああぁ・・・・…じゅー…ぅぃいい……」グスグス

純「大丈夫か、梓……あとでティシュあげるからね」

憂「よし、じゃあ」コホン

憂「私はお姉ちゃんの体験を追体験するため」フンス

梓「わだ、わだしは、先輩たちと、再開するためぇ……」スンスン

純「……私は、なんかあれだ。居場所的なものを見つけてラノベ的に高校生活のラストをいい感じにするため」

梓「けいおん部ぅ〜〜」グシグシ

憂純「しゃぁーーーー!!!!」

○○○

こうして、私と憂はけいおん部に入った。
色々な意図がくんずほぐれつなあの場所で、
私はきっとまた誰かの踏み台になるような人生や体験をするんだろうか。

憂「あ、今日行ったお店、ランチやってるみたいだから三人で行こうよ」

純「憂がランチ食べてきてからレシピ再現した方が私的には安上がりでいいかな。あ、あった。ほら、梓、テッシュ」ハイ

梓「ずぴぴぴぴっぴぴぴp」

純「もっと女の子らしくしようよ……。音。音」

憂も梓も友達だけど、いつかは私の元から去っていくことが決定している。

梓「憂と純だから、別にいいかなって」

まぁ、でもそれまではとりあえずの時間の猶予はあるわけだから、
私は私なりに、この三人での時間ってやつを大切にしてみよう、
とかそんなことを思った。

うん、それってなんか、けいおん部っぽいって思わない?

終わり。


115 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:20:06 DufUOJOk0
紬「線路は続くよ!」梓「どこまでも!」


116 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:21:12 DufUOJOk0
梓「ちょっと、危ないですよ」

紬「大丈夫よ〜、はい、梓ちゃんも」


そう言って、こちらにすっと手を伸ばした。
仄暗くい月明かりの下では、表情がはっきりとわからないけれど、たぶんいつもみたいに笑ってるんだろうな、って思った。


117 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:23:02 DufUOJOk0

わたしは腰をかがめ、ゆっくりと慎重に足を下ろす。


梓「よい、しょっと」

紬「さ、歩こう」

梓「歩こう、って…危ないですよ。電車が来たらどうするんですか」

紬「大丈夫、来ないよ。終電終わってるでしょ」

梓「点検とか、あるんじゃないですか?」

紬「んー、どうだろ……」


背中に手を結んで、ゆっくりと揺らしながら歩く体につれて、
金色の髪がふわふわと靡いた。


紬「あ」

梓「どうしました?電車きました?」

紬「うわぁー!見て見て梓ちゃん!星がとってもキレイよ〜!」

梓「知ってます。ごまかさないでください。それさっきも同じこと言ってましたよ」

紬「そうだっけ?でも、いいじゃない、星がキレイなら。それで」

梓「よくないですよ。電車が来たらどうするんです。はねられてしんじゃいますよ、わたしたち」

紬「それは困るわね」

梓「でしょう。だから線路の上を歩くなんて、やめましょう」

紬「ねぇ、梓ちゃん」

梓「なんです」

紬「もし、電車が来て、わたしたちがふたりともしんじゃったら…」

梓「たら?」

紬「……心中だと思われるかしら?」

梓「思われるわけないでしょう」


118 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:24:20 DufUOJOk0

紬「えぇ〜…つまんないの」

梓「つまんないもなにも、しんだら一巻の終わりです」

紬「そっかぁ…それもそうね」

梓「そうです。だから早く元の道に戻りましょう」

紬「じゃあもうちょっとだけ。次の駅までだけでいいから歩かせて?」

梓「……わかりました。一駅だけですからね」

紬「ありがとー梓ちゃん♪」


夜目に慣れてきたせいか、今度はなんとなくぼんやりとだけは笑っていることがわかった。


119 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:25:28 DufUOJOk0

紬「梓ちゃん、最近、どう?」

梓「どう、って、何がです?」

紬「え〜っとね…胸がドキドキすることとか…ある?」

梓「ああ、そういう話ですか。コイバナ好きですねぇ。相変わらずですよ…さみしい限りです」

紬「この間、飲み会で仲よさそうにしてた男の子とはどうなの?」

梓「あの人とは……一回デートしてみたんですけど、なんかちがうかなーって」

紬「そっかぁ。他に気になる人がいる、とか?」

梓「う〜ん…とくにそういうわけじゃ。他にも男の人と遊びに行く機会がないわけじゃないんですけど、付き合うってなると…ちょっとまだあんまり想像できなくて」

紬「梓ちゃん、やっぱり結構モテてるんだ」

梓「あ、いや、そんなことないです…たまたまですよ」

紬「もっと自信、持っていいと思うよ」

梓「ありがとうございます…でもわたしたち、そもそも出逢い自体少ないですよね」

紬「出逢い、かぁ〜…」

梓「女子高、女子大ですからねー…サークルやバイトでもありそうでないですし」

紬「女子大の方がかえって合コンが多くてチャンスがあるって聞いたこともあるけど?」

梓「なくはないですけど、そこでいい人と出逢えるかどうかってなると…」

紬「それとこれとは別の話よね…」

梓「ムギ先輩はどうなんですか?」

紬「わたし?わたしは……ぼちぼち、かな」

梓「なんですか、ぼちぼちって…ひょっとして彼氏、いるんですか?」

紬「…いないよ」

梓「ムギ先輩だって、モテそうなのに」

紬「そんなことないよ」

梓「じゃあ、好きなひととかいたりするんですか?」

紬「…」

梓「あ、すみません…言いたくなかったら別に…」

紬「いるよ」

梓「え」

紬「いるよ、好きなひと」

紬「……ナイショ、だけど」


たぶん、なんとなくだけど。
この人はずっとひとりのひとだけに恋をしているんだろうな、って、

そんな気がした。


120 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:26:09 DufUOJOk0

紬「ねぇねぇあれ見て梓ちゃん」

梓「なんですか?」

紬「春になるとね、ここは桜がキレイなの」

紬「満開の桜並木の中を電車が走るのよ。とってもきれい。まるで夢みたいなの」


花をつけていないときの桜は、他の木々に増して地味で目立たない。
暗闇ならなおさらだ。
この場所が春になると、まるで夢のように美しく花咲き乱れるなんて、
今のわたしには想像もできやしなかった。


梓「見たことがあるんですか?」

紬「うん。大学に入ってからは毎年電車に乗って、見てるよ」

梓「…お気に入りなんですね。わたしも来年は見に来ようかな」

紬「おすすめよ」


けっして一緒にいこうとは言われなかったし、一緒にいきましょうとも言わなかった。
そして、ムギ先輩が誰と桜を見に行ったのか。ひとりで見に行ったのか。
聞かなかった。聞けなかった。


121 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:27:47 DufUOJOk0



紬「飲む?」

梓「…まだ飲むんですか」

紬「いらないの?」

梓「…いただきます」


プシュッという缶ビールを開ける音だけが、夜の静寂に響いた。


梓「ムギ先輩ってお酒強いですよねー」

紬「そうかしら?」

梓「今日、どれだけ飲みました?」

紬「乾杯の生中の後は、日本酒ばっかりかなぁ…銘柄多かったからつい嬉しくなっちゃって」

梓「 …覚えてないくらい飲んだんですね」

紬「だって。飲み放題だったし」

梓「いやそういう話じゃなくて…。わたし、ムギ先輩が潰れてるところ見たことないです」

紬「あれ?一度だけ潰れたことあるよ」

梓「そうでしたっけ?」

紬「澪ちゃんに連れて帰ってもらった」

梓「そんなことが…そのときわたしいませんでした?」

紬「いたよ。でも梓ちゃんも潰れて唯ちゃんとりっちゃんに送ってもらってた」

梓(……だから記憶がないのか)

梓「…ムギ先輩でも潰れることがあるんですねー…」

紬「まぁ、潰れた『フリ』だったけどね」

梓「えっ!?」

紬「…お酒に強ければ強いなりに悩みがあるの」

梓「はぁ…わたしはうらやましいです…すぐ気持ち悪くなっちゃうし」

紬「そのわりにビール飲むのね」

梓「…味は好きなんです」

紬「そう。よかった」


122 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:30:37 DufUOJOk0

ムギ先輩はそのまま一気に残りを飲み干したかと思うと、トートバックから2本目を取り出した。


梓「まだあるんですか!ていうかいつ買ったんです!?」

紬「二次会のお店に移動するとき、コンビニに寄ったでしょ。そのときよ♪」

梓「やっぱり強いですねぇ…」

紬「今夜は酔いたい気分なの〜」

梓「酔えるんですか?」

紬「どうかなぁ…でも一度くらいは本当に潰れちゃうくらい飲んでみたいな」

梓「…気持ち悪いだけですよ。神様お願い許して…ってなるくらいしんどいですよ」

紬「いいじゃない。なんだか青春っぽくて」

梓「ちっともよくないです。ムギ先輩はなんでそんなに潰れてみたいんですか?」

紬「酔っ払ってお酒の勢いで何もかも洗いざらいぶちまけちゃうのが、わたしの夢だったの〜⭐︎」

梓「怖いこと言わないでください」


3本目はウイスキーの小瓶だった。
かわいらしい見た目でごまかされているけれど、やってることはアル中のおじさんと大して変わりないんじゃないだろうか。


梓「ちょっと…あんまり飲みすぎると体に悪いです」

紬「大丈夫よ。このくらいじゃちっとも酔えないわぁ」

梓「若干呂律が怪しくなってきてる気が…」

紬「えっ?本当??わたし、酔ってるのかしら?」

梓「やめてください、寄りかかってくるのは!重いです!」

紬「……体重のことに触れるなら、いくら梓ちゃんでも許さないわよ」

梓「すみませんでした…」


123 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:35:48 DufUOJOk0




紬「ねぇねぇ」

梓「なんです?」


ムギ先輩は、みんなといっしょのときはどちらかというと聞き役で、率先して自分の話を喋るタイプじゃない。
唯先輩や律先輩がはしゃいで、澪先輩が怒って、ムギ先輩はそんなみんなを見て笑ってる…それがわたしたちのいつもの風景。

でも、こうしてふたりだけでいるとムギ先輩はいっぱい喋る。
わたしたちの間に話題が途切れることはなく、会話が弾む。
それも間を持たせようと話題を絞り出す…と考えている風ではなくて、喋りたいこと、聞いて欲しいことが次から次に溢れてきている感じだ。

夢中で喋るムギ先輩。
無邪気に笑うムギ先輩。
その日学校であった出来事を夢中で親に話す、子供みたい。

先輩はわたしのことを可愛いと言ってくれたけれど。
わたしよりもムギ先輩の方がよっぽと可愛いと思う。

…先輩に可愛いっていうのはちょっと失礼かもだけど。


紬「卒業旅行、どこ行きたい?」

梓「そろそろ考えてもいいころですか」

紬「今度はドバイ?ハワイ?ヨーロッパ?」

梓「どこがいいですかねー…高校の時に海外行っちゃいましたしねー…」

紬「じゃあ今度は国内?今度こそ温泉??」

梓「温泉ねぇ…たくさんありますよ?どこの温泉がいいんですか?」

紬「うーん…城崎…なんてどうかしら」

梓「また微妙に近いところを。どうせなら北海道とか九州とか遠くに行きましょうよ」

紬「いいところだよ?城崎温泉。蟹がおいしいのよ〜。ビールと一緒ならもう最高♪」

梓「またお酒ですか!…というか行ったことあるなら、外しましょうよ」

紬「それもそうね。どこの温泉がいいか、またみんな意見聞いてみよう♪」

梓「そもそも温泉に決まったわけでもないですしね…」

紬「そっか。そうだったね。でもこういうのって、どこいくか相談してるのが楽しいじゃない?」

梓「わかります。準備したり下調べしたり楽しいですよね。学園祭なんかもそうかなぁ」

紬「わかるわぁ〜。学園祭前日がずっと続けばいいのにって思うもの」

梓「それ、悪夢ですよ」


124 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:36:48 DufUOJOk0


喋りながら歩いていたからすっかり忘れていた。


梓「…ところでもう一駅すぎましたけど…一駅どころじゃないんですけど」

紬「あら?そうだった?」


純粋無垢な少女のフリをして、いたずらっぽく笑った。確信犯だな。


紬「いいじゃない。電車も来なかったし。たぶん来ないよ。朝まで」

梓「まあ確かに大丈夫そうですね…でもどこまで歩くんですか?」

紬「さぁ…どこまでだろう。どこまで行くのかな?わたしたち」

梓「何も考えてなかったんですか」

紬「線路の先には何があるんだろうね、梓ちゃん」


急に真面目ぶった口ぶりで、先輩は言う。


梓「…終着駅があるはずです」

紬「そうね。線路が永遠に続くわけなんてないものね」


そう言って黙り込んでしまった。

わたしは何も言わなかった。
ムギ先輩も何も言わなかった。

さっきまでの饒舌が嘘みたいに黙り込んでふたり。

歩いた。ただただ線路に沿って歩いて行った。


125 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:37:45 DufUOJOk0



梓「先輩」


新聞配達のバイクの音が聞こえ始める頃、
沈黙を破ったのはわたしだった。


梓「昔、こうして線路を歩く映画があったの、知ってます?」

紬「うん、知ってる」

梓「少年たちが線路の先に何を探したか知ってます?」

紬「うん、知ってる」

梓「もしかして、あの映画のマネしてみるのが夢だったんですか?」

紬「うん、なんだか青春っぽくていいじゃない?」

梓「そうですね…実はわたしも」

梓「こうして夜の線路を歩いてみるの、夢だったんです」


そうしてふたりで笑った。
お酒を飲んで、夜中じゅう歩き通しで、変なテンションになっていたんだと思う。


紬「あ、でもね」

梓「はい?」

紬「実はわたし、その映画タイトルしか知らないの」エヘッ

梓「」


126 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:46:33 DufUOJOk0


空の色が紫色に変わり始めた。


梓「そろそろ始発の電車、来るんじゃありません?」

紬「ん〜、でももうちょっとで終着駅だよ。せっかくだしそこまで行きたいな」

梓「余計マズイですよ。駅員さんに見つかったらめちゃくちゃ怒られますよ」

紬「そっか。それはそうだね。じゃあ走ろう!」

梓「えっ!ちょっと!」

紬「駅員さんが来る前に駅に着くの!それでこっそり駅から脱出するのよ!」フンス!


走り出したムギ先輩は、これでもかというほどのドヤ顔をわたしに向けた。
今更ながらに、この人も結構ダメ人間だなぁって思った。


127 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:48:18 DufUOJOk0

目論見は外れた。そうは問屋がおろさない。

終着駅にたどり着く手前になって、ムギ先輩が急に立ち止まったかと思うとうずくまり、線路の上で盛大に嘔吐した。

あれだけ飲んだあげくに全力疾走したんだから、当たり前といえば当たり前だ。

歩くことさえできなくなったくせにどうしても終着駅まで行きたいと駄々をこねるムギ先輩をおんぶしたわたしは、そのまま線路の上を歩いた。

途中、「うぷっ」という嫌な音とともに、右肩に湿り気を感じ、すぐさま臭気がわたしを襲った。

わたしは思わず叫んだ。

このロクでもない先輩を放り投げて、自分一人で帰ってしまいたかったけれど、ここまできたらもうなんでもやってやれ!というやけっぱちな気分がそれに勝っていた。こうなればもう意地だ。

そうしてなんとか終着駅までやってきたところで駅員さんにみつかったわたしたちは、それはもう、こっぴどく怒られた。自分たちがアホなことをしてるのは百も承知だったし、弁解の余地なんて1ミリもない。ただひたすらに謝った。右肩はずっと臭かった。


酔いつぶれたムギ先輩は、ベンチに寝かされていた。
さっきまでわたしの背中におぶられていた時は苦しそうに唸っていたのに、すやすやと眠っている。

わたしだけがひとり、ひたすらに頭を下げていた。


ようやく解放され、ムギ先輩の眠るベンチの横に腰掛けた。


紬「終わった?」


パチっと目を覚まし、なにごともなかったかのようにそう言い放ったのだ。このひとは。

身体の奥底からマグマのようにこみ上げてくる怒り、ぶん殴ってやろうという気持ちを抑えることができずに、わたしは盛大にチョップをお見舞いした。結構どころじゃない、ダメ人間な先輩に。右肩は臭いままだった。


128 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 00:57:48 DufUOJOk0

紬「痛い…」

梓「わたしが味わった精神的苦痛と、右肩の臭気に比べれば、大したことはありません」

梓「だいたい元はと言えば、全部ムギ先輩のせいじゃないですか!線路を歩いてたのもお酒飲みすぎたのも!それなのに、わたしだけひとりで怒られて!!右肩は臭いし!」

紬「悪いなって思ってたのよ…謝らなくちゃって……でもその…タイミングがわからなくって…」


申し訳なさそうに落ち込む姿が愛らしくて、怒る気が萎えてしまった。


梓「…いいですよ。ついて行ったわたしも悪いですし」

紬「…ホントにごめんね」


道行く人は誰一人いない、静かな早朝の街を歩く。
ここから下宿先のアパートまで随分と距離があるし、バスもまだ動いていない。


紬「ねぇ、梓ちゃん」

梓「なんですか?」

紬「また機会があったら…こうしてふたりで散歩に付き合ってくれる?」

紬「今度はゲロを吐かないから!」

梓「…」

梓「…いいですよ。でも線路の上はダメですよ。危ないですから」

紬「うん。線路の上は歩かない。約束する」

紬「もちろん吐いたりもしないわ!」

梓「それは当たり前の絶対必要条件です。まだ臭うんですからね…まったくもぅ」

紬「ゼッタイゼッタイ!約束する!」

紬「………小指に、誓って」

梓「…」

紬「…」

梓「…映画、観たんじゃないですか」

紬「…えへへ。ここしか知らないんだけどね」


朝の光に照らされて、ムギ先輩の笑顔がはっきり見えた。


129 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 01:00:52 DufUOJOk0


紬「でも、線路の上じゃなくてもいいんだけど、散歩は夜がいいな」

梓「夜に女性だけで歩くのは危ないですよ」

紬「でも、夜ならなんでも話せる気がするの。普段話せないことも。今日話せなかったことも」

梓「…」

梓「…ずっと、好きだったんですか?」


わたしは思い切って唐突に聞いてみた。
たぶん話したかったことも、話せなかったことも、このことだろうと思ったから。

それを聞いたわたしが何か役に立てるかどうかわからなかったけれど、聞かなきゃいけないような気がしたから。


紬「うん。ずっと」


わたしの唐突な質問に、身じろぎもせず先輩は答えた。
でもわたしは、それなのにわたしは、思っていた通りなんて返事をしていいのかわからなくってただ、
黙ったまま隣を歩くことしかできなかった。

相手は誰なんだろう。わたしが知っている人なのだろうか。

「ずっと」と言った以上、たぶんそうなんだろうけれど、これ以上は聞けなかった。

ムギ先輩も何も言わなかった。


130 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 01:03:35 DufUOJOk0

しばらくふたり無言のまま。次に口を開いたのは、わたしだった。


梓「先輩」

梓「…わたし、大して役に立てるとは思いませんけど、」

梓「こうやって先輩の隣を歩きながら、」

梓「話を聞くことならできますから」

梓「散歩ならいつだって付き合いますから」

梓「線路には終わりがあります。朝日が昇れば夜はおしまいです」

梓「でも終着駅に着いて線路が終わっちゃっても、」

梓「太陽が昇って夜が終わっちゃっても、」

梓「隣を歩くことならできるんです」

梓「それくらいならできます」

梓「ムギ先輩は、ひとりじゃないです」

紬「…」

梓「…」

紬「…………じゃあ試験前とかレポートの締切前でも付き合ってくれる?」

紬「卒業して離れ離れになっても、わたしが呼んだら駆けつけてくれる?」

梓「そ、それは……」

梓「大丈夫です!わたしは律先輩や唯先輩と違って、前もってきちんとやっておくタイプですから!」

梓「卒業して離れ離れになっても…ムギ先輩がピンチのときならできるだけ急いで駆けつけます!」

紬「…………アリガト」

梓「えっ」

紬「……フフ。ごめんごめん。いいよ。そんな無理なときにはお願いしないから!」

紬「……梓ちゃんってやさしいよね。わたし、とってもうれしい」


そう言って笑うと、ムギ先輩は駆け出した。


131 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 01:15:30 DufUOJOk0


紬「あっ!あそこ!銭湯があるよ!」

梓「でもお風呂に入ってもまたこの臭い服を着ると思うと…」

紬「えぇ〜いいじゃない入ろうよ。お金は出すから」

梓「いいですよ。銭湯代くらい出します。そんなことで右肩のことをなかったことにされたらたまったもんじゃないです」

紬「じゃあお風呂上がりのコーヒー牛乳はおごってあげる」

梓「……フルーツ牛乳でお願いします」

紬「りょうかい⭐︎」

梓「あ、でも銭湯なんてこんな時間から開いてますか?」

紬「え〜っと…休日は7時からやってるって!」

梓「それならもうちょっと待つだけですね。今日が日曜で助かりましたね…」

紬「わたし銭湯だいすき!そういえばいっしょにお風呂入るのって久しぶりね」

梓「そうでしたね。寮に住んでた頃はよく一緒に入ってましたけどね」

紬「久しぶりに髪を下ろした梓ちゃん見たいな〜♪」

梓「別に面白くもないでしょう」

紬「そんなことないよ。長い黒髪って素敵じゃない。憧れるわ」


…ムギ先輩が髪を下ろしたわたしに、誰の姿を重ねていたかわかるのは、
もうしばらく先のことだった。


おわり。


132 : ◆ZPguhvsw0A :2014/11/03(月) 01:16:22 DufUOJOk0
終わりました。


133 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:42:38 7fhZaS920
梓「ブルーリボン」


134 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:43:14 7fhZaS920
菫「お茶淹れました」

梓「ありがとう」

菫がティーカップをそっと差し出してくれた。
一口飲んでほっと一息。
これだけでもなんだか落ち着いた気分になれる。

純「はぁ〜……生き返る……」

隣に座っている純が目を瞑ってそんな風にひとりごちた。
なんか毎日同じようなセリフを聞かされてる気がする……。
憂は憂でずっとにこにこ笑顔。
直はパソコンとにらめっこ。何を考えているのかは表情だけだとちょっとわからない。キーボードがカタカタ鳴っている。
私は菫が着席したのを確認してから、両手を合わせて。


135 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:45:57 7fhZaS920
梓「じゃあ今日は……」

純「今日のお菓子なにー?」

むっ。

憂「今日はショートケーキだよ」

純「やったー!」

おのれ、純め……。

菫「いつもすいません……」

憂「ううん、気にしないで。家でお菓子作るの楽しいから!」


136 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:46:22 7fhZaS920
直「今度私にもお菓子の作り方を教えてください!」

あ、直が食い付いた。

憂「うん、いいよ! じゃあ今度わたしの家で作ろっか!」

直が作るお菓子かあ。一体どんなのに……って、

梓「練習しないと、練習!」

純「まあまあ。もう少しいいじゃん」

梓「で、でも」

純「梓だって今までの二年間ティータイムを楽しんでたんだからさ! それにモタモタしてるとケーキいただいちゃうよ〜?」

梓「それはダメだよ!」


137 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:48:07 7fhZaS920
純「じゃあ食べちゃいなって!」

梓「うー……」

またいつものペースにのせられちゃった……。
先輩たちもそうだったけど、純にもうまくかわされてるような。
それにしても、憂の作ってくれたケーキは本当においしそう……私も教えてもらおうかな?

純「放課後はティータ〜イム♪」

憂「え、新しい曲?」

純「違うよ、今即興で思いついたんだ!」

直「!!」カタカタカタカタ

純「おおっ!?」

菫「直ちゃん、何か新しいアイデアが思い浮かんだみたいですよ!」


138 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:49:03 7fhZaS920
純「え、もしかして私が原因……?」

憂「どんな音楽になるのかな〜♪」

梓「…………」

わ、私がケーキを食べてる間にすごい展開が……。
直の作詞と作曲に期待しておこうっと。

梓「はぁ……」

それにしても、ここの雰囲気は変わらないなあ……。
紅茶と甘いお菓子の匂い。いつでも心があたたかくなる場所。
いつまでもこうしていたい、って思わせてくれる。
……先輩たちも、その前の先輩たちもそんな風に思ってたのかな?
今度昔の軽音部についてさわ子先生に聞いてみよう。


139 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:49:45 7fhZaS920
純「どうしたの、ため息なんてついちゃって〜」

梓「えっ? 別に何でも……あっ」

純「?」

純の制服のリボンは赤色。私も憂も一緒の赤色。
菫と直は……

梓「そういえば青色なんだ」

純「……??」

梓「菫と直の制服のリボン、青色なんだね」

純「え、えー……」

私がそう言うと、純が呆れた表情を浮かべながら背もたれに体を預けた。


140 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:50:38 7fhZaS920
梓「な、なによ」

純「それ今さら言うことなの……?」

梓「だ、だって……急に先輩たちのこと思い出しちゃって……」

純「ああ、そっか。梓は先輩大好き人間だもんね!」

純がいたずらな笑みを浮かべながら私の方を見た。
いつの間にか、直もパソコン越しに少しだけ身を乗り出している。
心なしか、メガネの奥が光ってるような……。

直「そうなんですか?」

梓「また食い付いてきた!? でもまあ、もちろん大好きだよ」

直「なるほど」カタカタ

梓「なにが“なるほど”なの……。でもなんか不思議な感じ」


141 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:51:49 7fhZaS920
憂「わたしも梓ちゃんの言うことなんとなくわかるかも。お姉ちゃんたちと一緒の色だから」

梓「でしょ? 一つ上だった色が私たちの後輩の色になるなんて……」

純「うーん……ジャズ研で先輩後輩の入れ替わりを見ていた私にはいまいちわからないや……」

純が肩をすくめてから紅茶を一口飲んだ。
これは自分でもよくわかってない気持ち。
けど、青色のリボンは私にとっては特別な存在……。

菫「梓先輩にとってすごい先輩たちだったんですね……」

梓「すごいかどうかはわかんないけど……うん、すごかった、かな。後輩が私一人だけってのもあるかもしれないけどね」

純「さんざんかわいがってもらったんでしょー? 唯先輩に抱きついてもらったりしてさ」

直「抱きつく……?」


142 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:52:20 7fhZaS920
純「そう、部室でも廊下でもさ! こうギュ〜って」

直「梓先輩がそんな……」

また変な誤解が混じりそうな気配。ここらで訂正しておかないと……。

梓「言っとくけど、私からは抱きついてないからね?」

直「本当にそうなんですか?」

うっ、なんでこうも疑われるの……。
直の分析で私はどういう風に見られてるのかな。ちょっと気になる。

直「でも、言われてみれば私たち憂先輩にもけっこう抱きつかれてるような」

菫「あ、私もそう思う」

憂「え、そうかな?」


143 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:52:50 7fhZaS920
純「もはや無自覚……私も澪先輩にかわいがられたかったなー……」

梓「憧れてたんだったらもっと早く入ってくれればよかったのに」

純「まっ、そこはね。大人な私として空気を読んだってわけだよ」

憂「結束力高そうだったもんね〜」

周りから見れば本当にそう見えてたのかな……自分としてはあんまり実感がわかない。
でも……それってうれしいことだよね。
ちょっとだけ心があったまる。


144 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:53:18 7fhZaS920
菫「はあ〜……先輩たちが卒業すれば、軽音部は私と直ちゃんの二人だけになっちゃいますね……しかも、音楽始めて一年未満の初心者……来年からはだいじょうぶかな……」

ああ……。

直「…………」

そっか。二人も不安だよね。
その気持ちはよくわかる。私も一人だったから。
先輩がいなくなる寂しさ、悲しさ、切なさ……

でもさ、

梓「菫には直がいるじゃない」

菫「え?」

梓「直には菫がいる。二人で力を合わせればきっと何とかなるよ!」

直「梓先輩……」


145 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:54:12 7fhZaS920
梓「それにさ、私たちもできるだけ応援するつもりだし、さわ子先生だって絶対に協力してくれるよ!」

純「そうだよ、スミーレ。私たちにできないことなんてないよ!」

憂「一生懸命やればきっと聴いてくれるみんなにも伝わるよ」

菫「純先輩……憂先輩……」

寂しいって思ってくれているってことは、なんだかんだでちゃんと先輩やれてるのかな。
そうだといいんだけどなあ。
二人ともわかばマーク付きの初心者なんだから……学祭が終わった後も先輩の私たちがしっかりリードしてあげないと!

だから、あとあと不安にならないように今しなくちゃいけないのはもちろん……

梓「そうときたら練習だよ、練習! のんびりするのももちろん大切だけど、それなりの練習もやっぱり大切!」

純「おお、なんか急に熱くなったね……」


146 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:55:27 7fhZaS920
直「やりましょう、先輩! 菫もやるよ!」

菫「直ちゃんまで!?」

直「来年は私たちが後輩を引っ張っていかないと」

菫「そ、そうだね。 ……うん、私もがんばるよ。直ちゃんと一緒に!」

憂「梓ちゃん、よかったね♪」

梓「え、何が?」

憂「ふふ、何でもないよ」

直「ところで、新しい曲作ったんですけど……」

純「作ってたの!?」

菫「また新しく覚えなきゃいけないことが……」

憂「心配しなくてもだいじょうぶ、だいじょうぶ!」


147 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/03(月) 01:56:13 7fhZaS920
梓「やっぱりいいなあ……」

こうしていると、みんながとても愛おしく感じる……。
今のこの立場になってからそう思うことが増えた。
ずっと笑って楽しく過ごして……菫と直にもこの軽音部の伝統を引き継いでほしい。

先輩たちも同じ気持ちだったのかな。
今度電話して訊いてみよう。

梓「それじゃあいくよー!」

純憂菫直「おーっ!!!!」

リボンの色が変わっても、部員が入れ替わっても、
私たちの青春の色鮮やかさはいつまでも変わらない。


おわり!


148 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 13:51:59 wnn5W/P20
「私には放課後ティータイムしかないんだっ!!」


149 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 13:52:48 wnn5W/P20
昔からそうだったな。
昔から、ずーっと悩んでた。
そんで、高校、大学、各時期に1、2回ぐらいずつ、ゴネて迷惑かけた気がする。
私の……ドラムの腕のことでさ。

放課後ティータイムがデビューしてから、もう5年ぐらいになるのか。
あのころは、本当にプロになれるなんて考えてなかったよな。
口では武道館とは言ってたけれど。

なんだか知らないけど、いつの間にかデビューしてた。
がむしゃらにやってたら、私達はいつの間にか結構なレベルに達していたらしい。
デビュー曲から今まで、いい曲に恵まれてきたし、毎回ヒットもしてた。
音楽家として申し分ないぐらい、私達は輝いてたんだ。

私のドラムにも、たくさんファンがついてくれた。
こんな適当な自己流ドラムだけどさ。
すぐ走るけどさ。昔に比べたら、そりゃマシになったけど……

「りーつ。また何か考え込んでるな」

……え? ああごめん澪。もう行かなきゃな。

「律……」

やっべ、こりゃ見透かされてる。
そりゃそうだよな、もう何度目だよって感じだし。その度に澪には迷惑かけたり、慰めてもらってたし……
ダメだ、考えるな私っ! 私のドラムは最強だいっ!

「……いい顔になったな。じゃ、行こう」

……この話題のときの澪はいつもキザなこと言うよな。

「う、うるさい! レコーディング、失敗するなよ」

はーいはい。
ということで今は、この次の冬に出す新曲のレコーディングをしてる。
その後には全国ツアーも控えてる。
どう? 順調っしょ?
いやー自分で言うのもなんだけど、今放課後ティータイムはかなりアツいんだぜ〜。

デビュー時はそりゃ騒がれたさ。
アイドルみたいな扱いだった。ガールズバンドだからってのもあるかな。
曲も一風変わったのばかりだしさ、主に澪の詩のせいで。
でも演奏面でバカにされたくないから、みんなでかなり練習したな。
澪とか梓とか、すんごい張り切ってた。
女だから売れたって言われたくないですー! ってな。
どっかで聞いたセリフだな……あ、そういえば同じ理由で髪バッサリ切った奴がいたっけ。

まぁそれはいいとして、デビューからしばらくしたらまぁ人気は少し落ち気味になってきた。
別に落ちぶれたってほどじゃないけどな。ファンもついてくれてたし、十分人気なほうではあったけど。

そのころはムギ曰く「充電期間」だった。
ムギ以外が作曲してみたり、澪と唯以外が作曲してみたり、ボーカルも変えてみたりして。私はドラムしかやらなかったけどな。
いろいろ模索してた頃だ。
その結果、渾身のアルバムが出来た。
放課後ティータイムの完成形ともいえるやつが。
アイドルじゃなくて、実力で勝負ってやつだ。

それがまたヒットして、今私達はノリにノってるってわけよ。

「りっちゃーん、遅いよ〜!」

おっす唯。ごめんごめん。

「また律がうじうじしてたからな、遅くなった」

うっせー、もうこの通り元気なんだからいいだろっ!

「りっちゃんの代わりはいませんっ♪」

……ムギにもバレてるな。
まったく……さ、やろうぜ。新曲レコーディング開始だっ!

「はい! 律先輩、今回はアップテンポの曲ですから……」

走っちゃダメですよ〜、ってか? 
生意気なー、中野めっ! 私はもはやそれは克服した! このこの〜!

「うわわ、ちょっと先輩っ! やめてくださいよもう……」


150 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 13:53:59 wnn5W/P20
……………………


……そんなこんなで新曲も出来上がった。
うん、いい感じだ。
なんだ、結構ドラム上手いじゃん、私。
ま、さすがに頑張って練習してきたもんな。もう10年以上か……

「お疲れ、律。帰ろうか」

おう、送ってくよ、澪。
ってなわけで、割といい気分のまま高速を飛ばしてる。
帰ったら飲もーっと。最近集中して練習してたから禁酒気味だったしな。

「最近……充実してるよな」

そだな。ついに完成形になったって感じだ、放課後ティータイムが。

……と、自分で言っておいて、ふと思う。
完成ってことは、これからどうすんの?
このまま惰性で続けんのか?
……それとも、解散すんのか?

放課後ティータイムは、音楽性の違いで解散とかはありえないけどさ。
みんな仲良しだし。
でも、いつまでもこのバンドだけでやっていく必要はあるのかなと、たまに思う。
なんたって、澪も唯も、ムギも、梓も、他に音楽活動をしてるからさ。
みんな、マルチな才能を持ってるんだ。

解散したら、私はどうすんの?

どこでドラム叩けばいい?

「……、……つ、おい……りつ!」

どこにも、居場所がなくなるのかな。
澪の詩じゃないけどさ、カミサマにお願いしたくもなるよ。
今のこの楽しい時間を終わらせないでくれ、ってさ……

「……律! 前、前!!」

……え?
って、おおおおおおおおいっっっっ!!!!!



…………………………



「……つ、律っ!!」

……う……何があった……?
……!!!
やっべ、やっちまった!! 事故った!
澪、大丈夫か!?

「律、大丈夫か!? 馬鹿、律の馬鹿っ!!」

……澪は無傷らしい。パニクってる。
そりゃそうだ。
よく見てみると、車の前のほうがグシャグシャに潰れてる。
よく生きてたもんだ。
なんでこんな冷静なんだ、私。
んで、向こうの車は……
これまたグシャグシャになってるが、運転手は無傷っぽくて、もう車の外に出て何やら電話してる。
最悪の事態は避けられたってか……

よくよく思い出してみると、私がぼーっとしてたせいでぶつかった。
100%こっちが悪い。
……これ、私、逮捕される?

……。

……そこから先のことは、あまり覚えてない。
ただ、右腕が地味に痛かったことだけは覚えてる……


…………………………


何日かたった気がする。

事故については、向こうも澪も無傷だったし、私の過失の物損事故ってことで、
示談になった。
逮捕やら書類送検されなくてよかったとか、そういう問題じゃないけどさ。

放課後ティータイムのメンバーには、土下座して謝った。
みんな、オロオロしてた。

なんとなく家でネットを開いてみたら、
もうトップ記事に載ってた。
HTTドラマーが交通事故、ってね。

新曲発売は、延期になった。

……何日か経って、だんだん、自分のしたことの重大さがわかってきた。

相手の命、澪の命、
放課後ティータイムの運命、
私達の家族の運命、
いろんなものを失ったり、めちゃくちゃにしかけたんだ。

何やってんだ、私……
何でぼーっとしてた?
何考えてた、あの時?
放課後ティータイムが解散したら、私は落ちぶれるんじゃないか、って……
そんなチンケなこと考えてたせいで、取り返しのつかない事態になりかけたんだぞ……

……リーダーのくせに、
ドラムでも足引っ張って、
事故って更に足引っ張って、
私なんてーー

「律、律!!」

……澪の声がする。
あ、着信来てた。気づかなかった。
そういやインターホンみたいなのも鳴ってた気がする。
……いよいよヤバイんじゃないか、私。
とにかく、澪を入れなきゃ。玄関へと急ぐ。

「……律……いるなら返事しろ」

すいません……
平謝りしかできなかった。
みじめだな。


151 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 13:54:59 wnn5W/P20
…………………………


結局あれから、放課後ティータイムのみんなに、あの時なぜぼーっとしていたかを説明することはできなかった。
澪には感づかれてると思うけど。
正直死にたくなるような日々だった。
でも、死ぬわけにはいかない。
頑張らなきゃいけない。
新曲の発売と、全国ツアーが控えてるんだしな。

割と、すぐに前向きになれたと思う。
もう今までの私とは違うんだ、うじうじしないでがむしゃらにやってやるっ。
私の気合が伝わったのか、みんなもすぐに元の感じに戻ったと思う。
事故のことを気まずく思う雰囲気はなくなった。
リーダーとして引っ張っていかなきゃな。悩んでる暇なんかないんだ。

「律、やっとリーダーらしくなってきたな」

はいはい。まぁいつまでも事故のこと気にしててもしょーがないからな。
今まで通りやるしかないだろってことよ!

「それでこそりっちゃんだよ!!」

ごめんな唯。お前最近あんまり笑ってなかったよな……

「え、そう? そうだったかなぁ」

「……そうですね。唯先輩、笑わないから結構不気味でした」

「ぶ、不気味って!? ひどいよあずにゃん」

……ぷ、いつもの調子を取り戻してきたな。
あ、じゃぁ久々にティータイムにしようぜっ!!
お菓子解禁だ、解禁っ!!

「ま、待って待って! 私もりっちゃんのせいで最近不気味だったんだから!!」

ムギが精一杯膨れてみせる。
あはは……ごめんな。ムギが相当気を使ってくれてたのはわかってるよ。
謝るから……お菓子を……

「ええ♪いいわよ♪」

「ムギ先輩、甘やかしすぎですっ! 律先輩はしばらくお預けでも……」

「梓、そんなことするとまた律がいじけはじめるぞ」

うるさいやい。
もう私は強くなったんだ、事故って吹っ切れたわ。
ドラム一本で放課後ティータイムのために尽くしてやるっ!!

「おお〜、さすがりっちゃんかっこいい!!」

「りっちゃん素敵よ♪♪」

いや〜、どもども。
やっぱいいな、このメンツは。
よーし、ちょっとテンション上がって来たし、もう一曲叩いてからお茶にすっか……つっ!?

「……どうした、律?」

……痛っ、急に動いたら指つったわ。
やっぱお茶にしよーぜ!

「……はぁ、律先輩らしいですね」

「はーい、今淹れまーす♪」

「やったぁ、久々のお菓子だよ〜」

「唯は家でも毎日食べてただろ……」


……みんなの能天気な会話を聞きながら、私は冷や汗を流していた。
指つったとかいうレベルじゃない。
なんだよこれ……右腕が痺れる……
気のせいだよな?
明日には治ってるよな?


…………………………



それから、集中的に練習した日は決まって、練習後に右腕に違和感を覚えるようになった。
うすうす気づいていたけど、やっぱアレだよな……

あえて思い出さないようにしてた、あの事故の記憶を遡ってみる。
ハッキリ覚えてないが、右腕をどっかに強打したのは確かだ。
気が動転してたから、なんか痛えな〜ぐらいにしか思ってなかったけど。

右腕の違和感は日に日に増していく。
それと同時に、みんなの演奏の仕上がりもどんどん増していく。

事故はあったけど、むしろそのおかげでみんなで真剣に話す時間も増えてきた。
私のうじうじも克服できたと思うし、ドラムの腕も上がった気がする。
最高のツアーにできそうな自信はあった。何もかもいい方向に向かっていた。
私の右腕の痺れ以外は……


いけるか……? もつか……最終日まで?


…………………………



「みんな〜、ありがとーーー!! じゃぁ次は、最後の曲っ!!」

ツアー初日。
大歓声だ。唯も、みんなも、お客さんも、超いい顔してる。
私は……汗だくだった。いや、みんな汗だくだけど。
私は半分以上、冷や汗だ。

痛い。痛い。超痛い。もう叩けない。
そりゃそうだ、2時間近くぶっ通しで叩いてんだから。
シンバルの影に隠れて、表情を悟られないようにしながら、ここまでなんとか叩いてきた。
次は最後の曲……っても、アンコールが二曲ある。
あと三曲……くっそぉっ!!
やるしかねえーーっ!!


152 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 13:55:50 wnn5W/P20
…………………………



……帰宅した。
最後の三曲あたりから撤収するまで記憶がほとんどないけど、どうにか叩ききったらしい。
初日お疲れの打ち上げのときにも、特にみんなから何も言われなかった。澪ですら気づいてる様子はなかった。
練習のたまものだな。さすが私。
まぁ、澪のやつに「シンバルのセッティング変えた方がいいんじゃないか? アイコンタクトが取りにくかった」とか言われたときは焦ったけどな。

……しっかし、絶望しかないわ。
まだ初日だぜ……今もじんじんと痺れてる。2時間強のライブに、ギリギリ耐えられるってとこか。
毎回死にかけるな……でもやるしかない。ツアー中止とか、ありえないし。



……………………



お約束っちゃお約束だが、こういうのはだんだん悪化していくもんでさ。
ライブを重ねる度に、右腕にはダメージが蓄積されていった。
「ギリギリ耐えられる」から、ツアー終盤には「ギリギリ耐えられない」ぐらいには悪化した。
最後のほうは地獄だった。
痛み止めの薬も打った。なるべく右腕に負担をかけないように、アレンジも変えた。
それを梓に褒められたりもした、珍しく。「律先輩……それすごくいいです! ……見直しました」ってな。まったく生意気な後輩だこと。
でもそれは素直に嬉しかったな。死ぬ気でやれば私だってイイもん作れるってことだ。どんなもんだい。
私の頑張りを見て、みんなも刺激を受けてくれてるみたい。最近、ファインプレーが続出してる。唯なんか、神がかってきたよ、ソロのセンスが。

……だからこそ、壊したくなかった。
この最高の放課後ティータイムをさ。
私のアホな事故の後遺症のせいでさ……

……さぁ、最終日だ!



…………………………




「みんな、本当に、本当にありがとーーー!!!」

……う……痛……

「アンコールも本当にありがとう! でもこれで本当に本当に最後の曲だよ! あ、その前にみんなから一言〜」

「えっ、ここでですか!?」

「いいじゃんいいじゃん〜、じゃあずにゃんから!」

……やべ……来る……

「……みなさん、今日は本当にありがとうございました。このツアーは、私たちにとっても、とても大きな意味を持つというか……成長できたと思います。これからも頑張るので、よろしくお願いします!」

……よかった……梓がそう言ってくれると、嬉しいよ……

「おお〜ぱちぱち、あずにゃん真面目だねぇ〜。じゃぁ澪ちゃん!」

「う、あ、あの……ゆ、唯! 急に振るのはやめろって言っただろ……!」

……澪……お前何年経ってもあがり症は治らないな……

「……ごほん! あ、梓も言ってたけど、私たちはこのアルバムとツアーを通して、こう、次のステージに行けたというか……まだまだ曲を生み出していきたいと思うから、また聴いてくれると嬉しいな」

……次のステージ……行けるのかな私……

「澪ちゃんさすが! 次ムギちゃん!!」

「はいっ! 私、今とっても興奮していますっ!! だってだって、もう何もかもすごいんだもん! 唯ちゃんもすごいし、澪ちゃんもすごいし、りっちゃんもすごいし、梓ちゃんもすごいし、お客さんもすごいし、わ、私もすごいし!!?」

……はは、落ち着け……まぁいいけどな、ムギが楽しそうにしてるとこっちまで……楽しく……

「ムギちゃんわけわかんないよ! でもわかるよ〜、何かいいよね、最近! はい、じゃぁ我らがリーダー、りっちゃん!!」

…………えっと……
はは……なんか……ひっく、うぅ……
ちくしょー、わけわかん、ひっく、ねーよ……

「り、りっちゃん!? 何で泣くの!?」

「り、律!? どうした!?」

……う、うるさいやい……しらねーよ……涙が止まんないんだよ……
は、早く、曲に行こうぜ……

「律先輩が……!? 珍しいですね」

「りっちゃん、すっごくすっごく頑張ってたものね! ありがとう、部長♪」

「じゃぁ、本当に本当に最後の曲! ふわふわ時間!!」



…………あと一曲。


…………あと少し。


…………アウトロに入った。
もう右手使ってない。スティック吹っ飛ばしたことにした。感覚もない。
自分でも驚くぐらい器用な動きで、左手だけで両手分の働きをさせる。

……暑い。熱い。

……ラスト……!
最後のシンバルぐらい右手で……!
おりゃーーーっ!!!!


153 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 13:58:18 wnn5W/P20


…………………………



……ここはどこだ?
白い天井?
何かいつもと違うにおいの布団だな。
布団……?
ここは……

「律……!!」

病院だ。
そうか……ギリギリセーフだったのか……
いや、アウトか……?

「律、律……バカ律! バカ律ぅ……!!」

澪……。すまん……



…………………………



落ち着いた澪から話を聞くと、どうやら私はアンコール終了して暗転した瞬間に倒れたらしい。
なんとかお客さんには気づかれずに、スタッフが担ぎ出してくれた。
んで……かなりの熱が出てたってさ。39℃ぐらい。
確かに今朝からなんかぼーっとしてたしな。腕の痺れに加えて熱にも耐えながらライブをのりきったのか。すげーな私。

「…………」

澪の視線が恐い……
いや、すまん。心配させたよな。

「……違う、そうじゃない。律……これは何だ」

そう言って澪は私の……右腕を指差す。
……真っ赤っかに腫れていた。
こんなになってるとは気づかなかった。

「律……!」

あー、これはな。ちょっとな、

「律!!!」

…………わかった、観念するよ……



…………………………



もう隠せない。
私はこの右腕のことを洗いざらい話した。
ライブ乗り切ったからいいだろ、もう笑い話だ、的なのを期待してたのかもしれない。
でも話してるうち、澪の顔はどんどん恐くなっていった。

「……どうして……どうしてそんな重要なこと、言ってくれなかったんだっ!!!」

ああ、またやっちまったんだな、私……
いつもいつも、こうやってヤバイ事態になってから気付く。
学習してないな、私……

「律……! どうしていつも一人で抱え込むんだ! また、迷惑かけられないとかそんなこと考えてたんだろ……!」

……そ、そうだよ。
だって嫌じゃんか。私が勝手に起こした事故のせいでさ、せっかくのいいツアーを……

「誰もそんなこと思わないっ!!」

……!!

「話してくれれば、律の苦しみをみんなで共有してあげられたのに……」

……そんな、悪いだろ。

「それが律の悪いところだ! 悩みをさらけ出してくれるより、隠される方がよっぽど悪い!!」

……いや、私ばっかり、みんなに迷惑かけても……

「なんで律だけがみんなの足を引っ張ってる前提なんだよっ!! 私たちだって!! 律にたくさん助けてもらってるんだから……!!」

……え? そうなの?

「律は……自覚が無さすぎだ……私達のリーダーは、律しかいないんだ。律は多分無意識のうちにやってるから気づいてないのかもしれないけど……」

そんなん、気付けと言われても……

「細かなこと、気遣ってくれたり。ふざけてるフリして、みんなをまとめてくれたり。私たちが個別にやってる音楽活動もさりげなくサポートしてくれたり」

そんなことしたっけ?

「……律のちょっとした一言に救われたことが多いんだよ、多分みんなだ。……は、恥ずかしいからもういい。とにかく、律だけが甘えてるわけじゃない。みんな律に、お互いに助けられてるんだ。だから、律だけ悩みを言っちゃいけないなんてナシだ」

……そうか……もっと、頼りにしていいんだな……リーダーなのに。

「……お願いだから、もうこんなことはやめてくれ……どうするんだ、腕が動かなくなったら……」

取り返しがつかなくなるな。
そっか、私はまた取り返しのつかないことを……二回目だ。

「取り返しはつくから……ライブだって、成功したじゃないか。律、自分を責めるのはもうやめてくれ……」

澪に抱き締められた。
泣いてる。
泣かせたのか、私が……


154 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 14:00:07 wnn5W/P20



…………………………




それから散々なもんだった。

唯は超怖かった。珍しくだんまりだった。誠心誠意、一から全部話して謝って、これからも頼りにさせてくれって言ったところで、やっとにへらって笑ってくれた。

ムギにはビンタされた。
超痛かった。今までの人生で一番痛かったと言ってもいい。
直後に超謝られたけどな。
2人で抱き合って泣いた。

梓には号泣された。
見直したって言ったの取り消しですぅ〜って聞こえた。何言ってるかよく聞き取れないぐらいの泣きっぷりだった。
1時間近く無言のまま、泣き止むまで撫で続けた。左手で。

とにかく、三人とも意外な反応というか……むしろちょっと異常な反応だった。
そうまでさせてしまうぐらいショックだったのか。多分……「私がドラムを叩けなくなるかもしれない」ことが一番の原因なのかもしれない。
もう、こんなにみんなを悲しませないようにしなきゃな……しっかり療養して、これからは無理せず叩くようにしよう。



……………………



……時既に遅し、ってやつだ。
私の右腕は、あのツアーのせいで取り返しのつかないダメージを受けたらしい。
しばらく休んで痺れもなくなったころ、さぁリハビリとドラムを練習し始めたら、ものの20分ぐらいで叩けなくなってしまった。

……あのふわふわ時間の最後、思いっきり右手でクラッシュ叩いた時にイかれちゃったのか。
やんなきゃよかった……なんなら足でシンバル蹴っ飛ばすぐらいやったほうがマシだったかな。ってそれじゃバンドの方向性変わっちゃうけど。

……そんな冗談言ってる場合じゃない。
20分だぞ。20分。
ヤバくない?
改めて考えてみると絶望的だ。
ライブみたいに全力で叩いたら……15分持つかどうか……
それって、ライブなのか? アマチュアのライブイベントレベルじゃんか。
私、もうツアーライブできないのか?

……うう……元はと言えば……
いや、やめよう。自分のドラムの腕云々の話はやめると決めたはずだ。
んで、一人で抱え込みもしない。よし、みんなに相談だ。私は15分しか叩けない、ってな!!

……ちっくしょー……!!


155 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 14:00:38 wnn5W/P20



…………………………




みんなを集めて説明した。
その瞬間のみんなの顔は、こないだ一人一人に謝ったときのあのちょっと異常な顔と同じだった。
やっぱ、私がドラム叩けなくなることを悲しんでくれてたんだな。

まぁでも、今回はちゃんとみんなを頼ってすぐに報告したからか、みんな怒ったりパニクることなく冷静に受け止めてくれたと思う。ありがとな。
すぐに、今後どうするかの相談になった。

「で、でも……このまま続けたら、りっちゃん本当に叩けなくなっちゃうんじゃないの?」

そんなことはないぜ、唯。
これは私の感覚なんだが……最初は2時間弱が限界で、ツアー中それを超えて演奏しまくってたから、段々悪化してきたんだ。
ツアー最終日ぐらいには、多分1時間しかもたない状態だったと思う。それを無理して2時間続けてたから、一気に悪化したんだ。
だから、無理せずに15分で叩くのをやめるようにすれば、多分これ以上は悪化しない。

「律の感覚は信用できないからな……」

口ではそう言いつつも、なんとなく腑に落ちたみたいな顔してんじゃん、澪。

「りっちゃんのドラム、私はもっと聴きたい……一緒にやりたいの。もし大丈夫なら、15分だけでもできないかな?」

……ああ。私もそれがいいと思うよ。

「じゃぁ……小さめの箱で15分限定のライブとかどうですか? ふふ、下積み時代に戻ったみたいですね」

梓の案でまとまった。
ライブツアーとかは無理だ、ホールやアリーナで15分だけとかないしな。
正直私たちは、自分たちのやりたい演奏をやれていれば満足なところはある。だから、大きなライブをやって有名になって稼いで……ってのが無くなることに、特に抵抗はなかった。
もう十分やったしな、それ。

かくして私は、自分の事故から右腕の痺れの件まで、全てを公表した。
そして私たちは、「放課後ティータイム15minutes」として、新たなスタートを切ることとなった。

小さめのライブハウスを回って、15分限定のライブをチマチマやる感じだ。
最初はファンのみなさんも戸惑ってたな。悲しまれたり、批判もされたし、あとライブハウスが小さいからチケット取れねーよ、とか。
その分公演回数を増やすようにはしたけど。

他のメンバーは、各自の活動に割く時間も増えたと思う。
みんなすげーんだぜ。

唯はやっぱあいつ天才肌だよな。ソロ活動もしたりしてる。憂ちゃんと組んだりもしてた。あと、澪と並んで、イメージキャラクターとして人気だ。カワイイ系の役はだいたい唯だな。雑誌とかに出たり、大活躍だ。

澪はもうお馴染みというか、やっぱり熱狂的なファンが多い。モデルっぽい活動もやらされてるし……本人は恥ずかしいから嫌がってるけどな。求められてんだよ、ファンに。
ソロ活動もしてる。ベースの腕も立つから、サポートとかでもよく乗ってる。
詩集も出して……それはマニア向けアイテムだけどな。

ムギは何と言っても、お嬢様だ。それをビジネス的に利用しようと、いろんな分野から野心家が近づいて来て、一時期それを嫌がってたこともあった。でもさすがムギだ、逆にそれに乗っかって、お菓子やらお茶、ブランドをプロデュースしたりいろいろ活躍してる。
やっぱ血筋なのかな、経営の才能あるんじゃね?

梓と言ったら音楽一直線な奴だ。ギターの腕、知識に関しては結構業界内でも一目置かれてるんだぜ。だからあいつは本当にいろんなアーティストと組んでて、一番忙しそうだ。
放課後ティータイムにいると「あずにゃん」扱いだけどな。

んで私は……おっと、この話はやめよう。
何かの雑誌に書かれてたな、「放課後ティータイムのリーダーにしてエンジン」「放課後ティータイムの申し子」とか。
ま、いい意味に捉えておくさ。

各自の活動が増えたことで、放課後ティータイムついに解散か? とか書かれてたこともあるけど。
そんなこたぁないぜ! チマチマとやるライブ活動だって充実してたし、新曲書くのをやめたわけじゃない。
自分の時間が増えたわけだし、各自それで得たことを持ち寄って、また融合させたりすれば……
また、いいもんが作れそうな気がする。

とにかく、私たちは前向きだった。
腕のことなんか、どうでもよかった。
雑誌やらネットやらに何書かれても、知ったこっちゃない。私たちはブレない。


156 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 14:01:16 wnn5W/P20




…………………………




私たちがよければ、どうにでもなる。と思ってたんだけどな。
どうしようもないことも、ある……

放課後ティータイム15minutesの活動も軌道に乗ってきた頃。
呼び出しを食らった。所属するレコード会社に……。

内容は、だいたい向こうの言いたいことをまとめるとこんな感じ。
「チマチマライブやってても儲からないからやめろ」
つまり、私をリストラしたいようだった。だいぶ遠回しに丁寧な言い方ではあったがな。

向こうの案としては、放課後ティータイム15minutesの活動は減らすか、中止。
サポートドラマーを入れてライブツアーを行う。私だけ仲間外れにするのがさすがに厳しいなら、例えばギター・ベース・サポートドラマーの三人のユニットを組んで売り出すとかしろ、と。

ひでえ話だぜ。私がどうするのかの案はなかった。つまり叩けないならやめろってことだ。

……まぁ、分かる話ではあるけどな。
アーティストが好き勝手やっていいわけじゃない。一応所属してやらせてもらってんだから。
レコード会社の社員だって、給料下がったりリストラされたら嫌だろうからな。

私がこんな気持ちになるのは、実は最近バイト始めたからだ。
元々私は放課後ティータイム以外何も無いって感じだったけど、それでドラムも1日15分しか叩けないんじゃ、やることがない。
他のメンバーは活動が忙しい。
療養って名目で家でぐーたらしてたけど、右腕以外は健康だ。

なんかやんなきゃな、と考えてバイト始めてみた。メンバーには言ってないけど、これは別に言わなくていいよな……
別に店員さんとか表に出る仕事じゃないから、バレてもいないし。

そんなこんなで、普通の職業に就いてみたおかげで、なんとなくレコード会社の社員の気持ちも分かるんだよね。

それに、ドラム叩けないのは事実だ。
それは自分で責任とんなきゃ。
みんなの活動の足は引っ張りたくないし、会社の足も引っ張りたくない。

ちゅーことで、私はすんなり受け入れてしまった……社会ってのは残酷だな。
ただ、ここで同じ過ちはしないぜ。まずメンバーに相談だ。



「そんな……ふざけてます、そんなの!!」

予想通りの反応だ。そういうの一番嫌いそうだもんな、梓。

「…………お父様に頼めば…………」

ムギ、やめとけ。反則だ。

「やだよ……なんでダメなの……今ちゃんとうまくいってるじゃん」

唯……大人の事情ってやつだ。

「律……」

しょうがないとは思うぜ。稼ぎにならないってのは事実だ。
大丈夫大丈夫、減らすだけだ。ゼロじゃない。辞めるとは言ってないから。
というか、こうやってみんなに相談してはいるけど……実は会社からほぼ強制的に決められちゃってるんだ。
サポートドラマーを探しとけって言われてる。とりあえず、マキちゃんかな……私から頼んどくよ。

「律……あの、さ……」

ごめん澪、私バイトの時間が……

「えっ!? バイトしてたんですか!?」

ああ、暇だったからな。ごめん、じゃ!
また後で詳しく話そうぜ。


157 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 14:02:36 wnn5W/P20




…………………………




……バイトが終わって携帯を確認したら、着信履歴が澪で埋まってた。
こえーよ。
メールも来てた。呼び出しくらった……近所の喫茶店か。よし、行くか……



「律……」

……まぁ、納得いかないのはわかるよ。
でもこればっかりはしょうがないだろ。会社の問題なんだ。
私たちだけの問題じゃないだろ。

「……違うよ……」

違わないって。
澪……いい機会だと思うぜ。みんな、それぞれやりたいこともあるだろ?
放課後ティータイムが完全にゼロってわけじゃないんだ、たまに集まって演奏できればそれでいいじゃんか。

……なぁ澪、そろそろ別の道を進み始めてもいいんじゃないか?

「……!!」

……あっ……出て行っちゃった……
なんかこりゃヤバいな、またやっちまったか?
いや……でもしょうがないはずだよな?
別にウジウジもしてない。相談して、冷静に考えても、これしかないんじゃ……

「律先輩、最低です」

……えっ!?

「澪ちゃんかわいそー」

いたのかお前ら!?

「私たちもかわいそうよ!」

……なんだってんだよ。
どうしようもないだろ……

「律先輩。会社の決定はどうしようもないかもしれませんが、私は放課後ティータイムを続けたいです」

「私もだよ! ニートになってもやりたいよ〜」

「りっちゃん、私もよ。放課後ティータイム、ずっと続けたい!」

……え、いや、だから……そりゃそうだけどさ。事情ってもんが……

「律先輩、放課後ティータイムやりたくないんですか? そんなこと……ないですよね?」

……。

「やりたいよね、りっちゃん? ねぇ、一緒にやろうよ」

……そりゃ、やりたいけど。

「順番が違うのよ、りっちゃん!」

……!!
そういうことかよ……!!

「行ってらっしゃい、りっちゃん♪」

「澪ちゃん怒ってるよ〜」

「今度ばっかりは許してくれないかもしれませんね」

すまん、みんな!!
……っと、その前に。
私は放課後ティータイム、やりたいぜっ!!
んじゃな!!


158 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 14:03:12 wnn5W/P20



…………………………



澪、どこだ。
電話しても出ない。
あー、こういう時って想い出の場所とか、2人が出会った場所とか、ってやつだよな。
……ないな。てかそれケンカした男女の話だろ。
しかもあるとすれば桜校とかだが、そこは遠く離れてる。

えー、どうすんだよこれ……家か? 
今日中には会っておきたいよなぁ……

あ、そういえばさっきの店のお代払ってないじゃん。やっべ、あの三人に押し付けちゃったな。澪の分まで……

……ふむふむ。今日のりっちゃんは冴えてるかも?



…………………………


「……ごほん! で……な、何の用だ、律」

呼び出しといてそりゃないだろ。
……というわけで、さっきの店に戻ってきたら澪もいた。
ちょっと微妙な空気でカッコつかない上に、唯もムギも梓も隣のテーブルでニヤニヤしながらこっちを見てやがる。

まぁいい。率直に言うよ。
ごめんな、澪。私、しょうがないしょうがないって言い訳ばっかして、自分に言い聞かせてたわ。
私自身の気持ちを言ってなかったな。
ダメなのかダメじゃないのかは、その次の問題だ。
やってみてうまくいけば万々歳だし、やっぱりダメならそん時はしょうがない。

「……全然率直じゃない」

……。
わかったよ……
今まで、いろいろあったけどさ……私の腕とか……

「……律!」

…………私にはっ!!
私には放課後ティータイムしかないんだ!!!
ずっと続けさせてくれ!!!みんなで一緒にやらせてくれ!!!
プロでもアマでもニートでもいいからっ!!!
このメンバーで、ドラム叩きたいんだよぉ……!!!

「……よくできました、律」


撫でられた……恥ずかしい。


159 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 14:04:01 wnn5W/P20



…………………………




店内は騒然となった。当然だな。
私達は逃げるように店を出た。ムギがレジに札束ごそっと置いてったのがチラッと見えた。さすが、豪快だな。

後日、放課後ティータイムが五人勢揃いで痴話喧嘩とか雑誌に書かれてた。痴話ってなんだよ、痴話って。


なんだかな……
事故って、吹っ切れたと思ってた。
右腕のことを打ち明けたとき、吹っ切れたと思ってた。
でもまだまだ足りなかったんだな。
でも今度こそ、吹っ切れたと思うよ。

みんな、本当に自然に笑いあえるようになった。

なんか私ばっかり助けてもらって、ごめんな。
って言っても、みんなはそうは思ってないらしい。
自分じゃよくわからないんだよな、自分のことは。どうも私は知らずのうちに他のメンバーに良い影響を与えてるらしい。

で、放課後ティータイムはこのまま続けたい、と意向を伝えたけど当然NOを食らった。
そっから、みんなで考えに考えた。
別に私は15分しか叩けなくても、ライブを2時間やることは可能じゃね?
ってことで、例えば私が左手だけで軽くリズム刻みながら、他のメンバーが軽く演奏するとか……
唯と梓のセッションとか、唯と澪の弾き語りとか。
ムギに作ってもらった打ち込み音源に合わせて演奏するとかさ。そん時私はパーカッションで遊ぶ。
私の右腕の代わりをムギにやってもらうとかさ。2人ドラムだ。
そして……お待ちかね、りっちゃんフルパワーのラスト15分間だ。

なかなかいいんじゃね?
いくらでも、やりようはある。
やりたいって気持ちがあればな!!

それでダメだったらそん時はそん時だ。
なるべく放課後ティータイムを続けられるようにがむしゃらにやるしかない。
そうすれば、きっと……ファンのみんなはついてきてくれるんじゃないかな。

いいよな、みんな?
ニートになっても文句言うなよ?

「いいよ〜」

軽いな、唯。

「地獄の底までついていくわ♪」

不吉なこと言うな、ムギ。

「文句は言います」

でも辞めるとは言ってません、ってか、梓め。

「律……やっと同じ目線になれたな」

……そっか。私が勝手に立ち止まってただけなんだな。

よし、これからもよろしく、みんな。
放課後ティータイム、また武道館目指すぞ!!!

「「「「おおーーっ!!」」」」



おわり


160 : ◆af.vRnw4.M :2014/11/03(月) 14:06:56 wnn5W/P20
一応元ネタとして参考にしてるのは、前半は東京事変、後半はタイバニです
ドラマーdisってるみたいになってしまいましたが、私は好きです


161 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 17:15:05 dap8HZIY0
遅くなりました。
以上で感動系企画を終了したいと思います!
参加してくれた方々、感謝!!


◆pc3qqLovSA >>5-12
唯「みんなにレズをカミングアウトしたらひかれた」

◆S3//NYH/w6 >>13-23
「さよならあずにゃん、またいつか」

◆ym58RP.VtE >>24-44
「虹の刺繍」

◆vZmyym56/2 >>45-69
梓「The Alan Turing Test」

◆XksB4AwhxU >>70-80
梓「さよなら、憂」

◆hE1WJoODTg >>81-92
菫「だいじょばない」

◆qObddnGPNQ >>93-114
純「うん、それってなんか」

◆ZPguhvsw0A >>115-132
紬「線路は続くよ!」梓「どこまでも!」

◆.VOE29MKZs >>133-147
梓「ブルーリボン」

◆af.vRnw4.M >>148-160
「私には放課後ティータイムしかないんだっ!!」


162 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 17:25:13 dap8HZIY0
明日の夜にでもお目汚し的なものを投下しようと思います。

みなさんもラーメンスレならぬ感想スレとして、ぜひ感想をお願いします!


163 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 22:10:46 yaYp9zkc0
時間ができたので、とりあえずこれだけ投下しておきます


164 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 22:12:11 yaYp9zkc0
澪「さて、集まってもらったのは他でもない」

律「……」

紬「……」

唯「企画名、私が考えたんだよ!!」

梓「唯先輩、ちょっと黙って」

澪「感想言い合う前に反省会するぞ」

律「んだよー。結果として10個もSS集まったんだから別にいいだろー?」

紬「長くなるようならお茶淹れるけど?」


165 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 22:13:49 yaYp9zkc0
唯「企画名、考えたの誰でしょー?」グフフ

紬「……え、誰なの唯ちゃん」

唯「お、いいこと聴いてくれましたムギちゃん!!なんとですねぇー」

唯「わ・た・し!!」イェィ

澪「……」

律「……」

梓「……どうしたんですか、唯先輩は一体。さっきから『企画名考えたの私』としか言ってないんですけど」

澪「今回の唯にはちょっと企画名を考えた人をインプットしてみた」

律「インプットって」

紬「インテル入ってるって感じのノリね」

唯「あずにゃん、あずにゃん!!」

梓「え、なんですか」

唯「やだ!? 私の考えた企画名!! ちょーきゃーもー!!」キャッキャッキャッ

梓「……あぁ、はい。ですな」

澪「思わず武士になるほどか」


166 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 22:16:00 yaYp9zkc0

紬「唯ちゃん、このチョコ特別に唯ちゃんにあげるわ。うちの会社で作ったんだど6時間くらい溶けないから、これ急いで舐めて」

唯「わーい! ムギちゃんありがとー♪」ナメナメ

その味は甘くてクリーミーで、こんな素晴らしいチョコレートをもらえる私は、きっと特別な存在なのだと感じました。
今では私がおばあちゃん。孫にあげるのはもちろんツムギーズオリジナル。
なぜなら彼女もまた特別な存在だからです。

唯「う、うますぎるぅ……」ジーン

律「ムギの家、チャーリーとチョコレート工場でもするの?」

紬「ちょっと健康食品として、ダイエット目的で作ってたのだけど、思わぬところで役にたったわね」フゥ

律「お、ダイエット目的かっ! どれ、澪もムギに一個ぐらいもらっとけば?」

ガツっ

律「った〜!? 無言で殴るなよ」

梓「わが部の良心、ムギ先輩が率先して撃破なさるとは」

澪「こっからは唯はチョコ舐めてるだけだから、4人で話進めるぞ」

紬「反省会っていうのは、なんのことについて反省をするの?」

澪「うーん。反省会っては言ったけど、今回初めて企画者として立ち上がってみたから、なんとなくその体験談みたいな感じ、かな」

律「んなもん、チラシの裏だかホワイトボードにでも書いとけばいいだろ」

梓「まぁまぁ、律先輩。こういうのも面白いって思ってまた企画を立ててくれる人がいるかもしれないじゃないですか」

紬「そうね。自分の中の狭まった価値観だけで色々と物事を決めていると、
他人と溝がいつの間にかできてしまって戻れなくなって素直になれなくなる、ということもよくあることだものね」

澪「ムギ、なんのことを話しているんだ?」

律「さあね。じゃあ、とにかくさっさと終わらせよーぜぇ」

澪「だな。最初はそうだな。企画名と言いたいところだけど」


167 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 22:16:55 yaYp9zkc0

紬「今回、企画名を考えたのは唯ちゃんだから、そこは私たちだけでは話ができないね」

梓「唯先輩のことですから、思い付きで考えたんじゃないんですかね」

澪「今年の夏はドラえもんの映画があったからな。感動って単語にそのイメージを植え付けられてても仕方ないよ」

律「でも、なかなか私は気に入っていたよ。STAND BY ME けいおん!」

紬「今年はけいおん!が5周年を迎えたけど、『いつまでもけいおん!のそばにいたい』っていう気持ちがこもっていそうで、よかったと思うよ」

澪「うん。企画名を考えてくれた唯には感謝しないとな!!」

梓「……。じゃあ、次は期間ですかね」


168 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 22:18:10 yaYp9zkc0


梓「今回は11月に私と唯先輩の誕生日がある関係で、そもそもこの感謝企画すらうやむやになりそうな雰囲気が最初あったんですけど」

律「あー、私、ああいうグダグダ嫌いだからさ。見ててイライラしたよ」

澪「イライラするくらいならいっそ自分がしてしまおうって思って企画者に名乗り出たんだけどな」

紬「当初は10月30日、31日を期間にしていたけど」

澪「あぁ。10月中に終わらせたら11月中の梓ちゃんと唯ちゃんの誕生日は関係なくなるかな、と思ってそうしたんだ」

律「たしかに11月前にそれだと企画は終わるけど。平日だよな、30日と31日」

紬「今となっては期間を長くして正解だったわね」

澪「すごかったな。私がオープニング的に書いた書き込み以外動きがなかったもんな」

律「……澪は犠牲になったのだ」

梓「企画はいつも最終日の締め切りギリギリにラッシュがくるから、別にいいかと思ってたんですけどね。今回も予備日を設けるためにとして期間を2日にしててよかったです」

澪「それに今回は2日に唯と梓の合同誕生日会があったからさ、それに行くSS書く人もたくさんいるんだろうな、と思って」

澪「正直、参加者いなさすぎて私途中でもう企画スレは自分専用のスレにでもしていろいろ遊んじゃおうかと思ってたんだ」

紬「色々遊ぶって?」


169 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 22:21:14 yaYp9zkc0


澪「もう終わったことだし深くは言わないけど、面白さを追求しなければ書きたいネタはいくらでもあるからさ」

澪「一人で思いついたらすぐに書いて投下みたいな……」

梓「一人感動企画……」

律「澪、やめろ。これ以上は言わなくていい……っ!!」

梓「企画者が暴走したらダメじゃないですか」

紬「もっとSSを書いてくれる人のことを信用しないとダメよ?」

澪「め、めんぼくない……」

律「ま、まぁ。澪もそれくらい人が集まらなくて焦ったってことで勘弁したげて」

澪「参加者がゼロ,もしくは私と最初に書いてくれた人の1人だけ参加の企画として名を残すかとヒヤヒヤした」

紬「よしよし、澪ちゃん。よしよし」


170 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 22:23:16 yaYp9zkc0
律「でも、澪が焦る位、最初は人が集まらなかったけどさ、そもそも感動企画っていうテーマっていうの?それがちょっと難しかったんじゃないか?」

梓「あ、それは私も思いました。感動っていうよりは、心温まる話、ぐらいにしておけばよかったかなって」

紬「でも、梓ちゃんの言う、心温まる話、っていうテーマだと読めなかっただろうな、っていうSSが今回はあったわよ」

澪「うん。確かに自分でも書いてて難しいテーマだな、って思ったけど、ムギが言ったことを考えると悪いテーマではなかったように思うな」

梓「人の心を感動させる難しさが今回はわかりました」

紬「そうよね。その人の価値観や好み、正確、趣向、体験で心が動かされるものって変わってくるし」

梓「世の中には血しぶきが上がるシーンで感動する人もいらっしゃいますもんねぇ」

澪「」

律「そんな一部を抜粋しなくても。私だったら、ハイハットがうまくいったときとか、リムショットが綺麗に鳴ったときとか、感動しちゃうかな」テレテレ

梓「あ、……ですね」プッ

律「なかのぉーーー!!!」

紬「なにもドラえもんみたいにあからさまなお涙ちょうだいをする必要は全くないのよね。ただ単にドラえもんが感動っていうものに直結しやすい年だったのよ、2014年」

律「ムギはドラえもんに親でも殺されたのか?」


171 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/03(月) 22:26:34 yaYp9zkc0


律「まぁ、こんなもんで反省どうですか、澪。満足した?」

澪「」

律「ってまだ気失ってたのかよ」

澪「はっ。私は一体。さっきまで『私の幼馴染との青春ラブコメが中二病すぎる』って本をかわいい天使がオススメしてくれてたはずだけど」

律「なにその本。私を巻き添えにすんな」

紬「いくらで手に入るのその本!?」

梓「こういう話題は本当にがっつくなぁ。ムギ先輩」

唯「ムギちゃーん。チョコなくなったー」

紬「えっ。まだ3時間しか経っていないわよ。唯ちゃんどういう舌をしているの」

唯「チッチッチッ。日頃のアイスで鍛えた私の舌を舐めてもらっちゃ〜困るぜ!」」

紬「舌を舐める……。すごくいい響きね」

澪梓「……」

律「とーにーかーく! 唯もチョコ舐め終わったし今日はもう遅いから帰ろうぜ」

梓「いつの間にか、こんな時間ですね」

紬「感想はまた明日ね」

澪「……だな。明日になる分、各々感想はちゃんと考えてきておくよーに」

律紬梓「はーい」


ということで、わたくし個人の感想は明日投下します。
お目汚し、失礼しました。


172 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/04(火) 11:48:30 cDJt.6OM0
『企画名考えた人』が唯になったらかわいいと思ってしまった
誰が喋るかって大事なんだなー


173 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/04(火) 23:41:09 8hF2lBgw0
マダー?


174 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 00:27:42 z2KBFXp20
澪「よし、じゃあ遅くなったけど感想といこうか」

律「うぇーっす」

紬「今日はお茶、淹れるわね!!」フンス

唯「感想も私にまかせて!!」

梓「じゃあ、1番手から順に行きましょうか」


唯「みんなにレズをカミングアウトしたらひかれた」


唯「」


175 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 00:28:14 z2KBFXp20
澪「この作品の一番のポイントはやっぱり」

紬「唯ちゃんがレズのところね!!」

澪「ちがうよ……」

紬「あ、澪ちゃんお茶どうぞ」コトン

澪「あ、ありがとう」

紬「りっちゃんと梓ちゃんも」ハイ

律「サンキュ〜!!」

梓「いつもありがとうございます」

澪「ごくっ。ふぅ、落ち着くな」

律「うむ。澪に小言を言われずに飲むムギのお茶はサイコーだぜ」

梓「……」ゴク

紬「ふふ。ありがと、みんな。はい、どうぞ唯ちゃん」コトン

唯「……あ、ありがと、ムギちゃん」

律「で、話を戻すけど、このSSのポイントってのは何なんだよ」

澪「ふむ。SSのタイトルの『ひかれた』がひらがなになっているところだと私は思うんだ」

澪「読むとわかると思うけど、『ひかれた』の変換が変化していって話に関わってくる」

律「最初が唯がトラックに『轢かれた』」

紬「次が和ちゃんに『退かれた』」

梓「憂にお小遣いを『引かれた』」

梓「で、純に……『惹かれた』」

澪「うん。そして最後、トラックに轢かれた唯が退院して復帰してくる場面で私たちの演奏に」

律「唯が感動して、ギターを『弾かれた』か」

紬「こうしてみると日本語の漢字変換って多彩で面白いわね」

澪「おぉ!! そう思ってくれるか、ムギ!!」

律「まぁ、漢字の変換で言葉遊びしてるのは見てて楽しいけどさ、これで感動するかって言ったら」

梓「読んでいる側は感動しないかもしれないですけど、最後で唯先輩が私たちの演奏で『感動している』じゃないですか」

律「ぐっ……。まぁ、確かにな」

澪「うん、なにも読んでいる人が感動するだけが感動系ってわけじゃないと思うんだ」

澪「話の中で登場人物が感動してるだけでもいいんじゃないかな」

紬「その登場人物の感動がそのSSを読んでいる人を感動させるかどうかっていうのを澪ちゃんはあまり重視していないってこと?」

澪「うーん。そりゃあ、感動してもらえるのにこしたことはないんだけどさ。私がこのSSを読んで思ったのは『感動系』ってくくりだけで、他人を無理矢理に感動させる必要はないってことかな」

律「……なんか納得いかないんだけど」

澪「そういう人もいるかもな。俗に言う『読む人を選ぶSS』ってやつだろうな、これは」

紬「このSSがまっさきに投下されたから、『感動系』って考えで凝り固まっていた人のハードルが下がったと私は思ってるわよ、りっちゃん」

律「あぁ、そう考えるとな。いまいちイメージがわかなかった『感動系』ってテーマにカタチが与えられたと考えると、それほど悪くはないかも」

梓「あの〜」

澪「ん? なんだ、梓」

梓「昨日のノリを引きずってかどうか、唯先輩が全く話に加わってないんですけど」

紬律澪「あ」

唯「あ、いいの、いいのあずにゃん。私は一歩引いて見ておくことにするから」

唯「ギターでも弾いておくよ」シャンシャンシャン

梓「……その流れでトラックに轢かれないでくださいね?」

澪「まぁ、唯、そう言ってくれるのはいいんだけど」

律「次は唯と梓の二人で語ってくれよ」

唯「ふぇ?」

紬「私たち、退いておくから」


176 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 00:28:48 z2KBFXp20

----

唯「んじゃあ、次は私とあずにゃんで進めようか」

梓「はいです」

唯「次はえぇと……」


「さよならあずにゃん、またいつか」


唯「あずにゃん、死ぬの?」

梓「いや私は唯先輩みたいにトラックに轢かれる属性とか持ってないのでそんなことは」

唯「冗談、冗談」エヘヘ

梓「むしろこのセリフ、唯先輩に死亡フラグ立ってますよね」

唯「SSの中ではあずにゃんに脂肪フラグ立ってたけどね」

梓「にゃ!?」

唯「あんな時間にピザまんなんて!!」

梓「夜は食べ物がおいしく見える魔法がかかるんです……」

梓「さて、このSSですけどサクッと終わらせて次に行きましょうか」

唯「そうだね。まぁ、なんでかって言うと」

梓「自作だから感想を言う意味がないのです」

唯「最近リメイク好きなの?」

梓「リメイクが好きというより、『今の自分がこれを書いたらどうなるか』って興味です」

唯「ふぅ〜ん。構ってちゃんなの?」

梓「……次いきましょうか」


177 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 00:29:29 z2KBFXp20

---

澪「唯、梓、次は私とムギでやるよ」

紬「あっちにお菓子とピザまん用意しておいたから休んでて」

唯「ピザまんだってよ」ヒジツンツン

梓「……」

澪「さて、3番手はこれか」


「虹の刺繍」


紬「澪ちゃんが縫ってくれた刺繍のトンちゃんが動き出すお話ね」

澪「……私、刺繍うまいんだな。命吹き込んじゃったよ」

紬「今回の企画の中で唯一絵本調のお話だったわね」

澪「うん。な、なんていうか、メルヘンチックで私は好きかな」

紬「慌ててバウムクーヘンの箱を落としちゃう澪ちゃんかわいいよね」

澪「かっ、かわいいとか。そ、そんな風におだてても何も出ないぞ」

紬「あら、残念♪ それにしても、感動系っていうのは幅広いわよね」

澪「そうだな。まだ3番手だけど、内容も書き方も全然かぶってないもんな」

紬「私、この話の中でいいなって思ったセリフがあったの」

澪「ん? どのセリフ。教えて」

紬「私のセリフなんだけど、澪ちゃんに『私は右利きだしあなたは左利きでしょう? だからあなたが貰ってくれた方が、このベースも幸せだと思うわ』ってセリフ」

澪「これまた個人的な好みでチョイスしてくるな」

紬「私は右利きで、澪ちゃんは左利きで。私にできなくても澪ちゃんにできること、澪ちゃんにできなくても私にできることってたくさんあると思うの」

澪「作中でも、ムギが刺繍を縫えないから私が縫ってるもんな」

紬「ね? そういう風に人にはきっとそれぞれ役割があるのよね。そうじゃないと話がすすめられないとか、キャラクターの個別化ができないとかそういう諸事情もいろいろと絡んでいるんだろうけど」

澪「お、おう。いきなりなんか悲しくなるようなこと言い出すなよ」

紬「それでも誰かがいないと、私にできないことがままならなくなるし、誰かにできなくて私にできることもままならなくて、円滑に物事が進まなくなると思うのよね」

澪「うちの軽音部は特にそれが顕著かもな。私、ギターは弾けるかもしれないけど梓や唯ほどうまくないし、ドラムもキーボードなんてもっての他だもん」

紬「私だって、キーボードしかできないわ。澪ちゃんや唯ちゃんみたいに歌を歌うのはあまり得意ではないし」

澪「いや、ムギは歌上手じゃないか。それにムギがいないと作曲する人がいなくなるし、それに、その」

紬「?」

澪「……ティータイムもできなくなる」

紬「ふふっ。澪ちゃんもすっかりHTTの一員よね」

澪「んなっ。慣らしておいてよく言うよ……」

紬「あ〜あ、梓ちゃんに見せてあげたいな。1年生の時の澪ちゃん」

紬「今の澪ちゃんとのギャップを知ったら梓ちゃん、笑いそう」クスクス

澪「うぅ〜……、ムギが今日はなんだか意地悪だ」


178 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 00:29:55 z2KBFXp20

---

律「おい、イチャコラして時間かかってるぞ」

澪「あぁ、ごめん……ってイチャコラはしてない!?」

紬「えー」

澪「えーじゃない、ムギ!!」

律「ほら次行くからなー。二人はちょっと休んでこいよ。で、唯呼んでこい」

唯「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜〜」

律「最後まで言えよ!! んでもってまだ呼んでない!!」

唯「んもう、りっちゃんはうるさいなぁ。さて、四番手いくよ!!」


梓「The Alan Turing Test」


唯「アラン…チューリングテスト?」

唯「りっちゃんわかる?」

律「えっとだな、アランチューリングっていうのは人の名前なんだ。
 彼は1936年に発表したとある論文、『計算可能数についての決定問題への応用』で彼は仮想機械というものを考案している」

唯「は?」

律「その機械は「チューリング」と呼ばれて、計算をすることを特化された仮想機械として提案されたんだ」

律「つまり、人工知能ってやつだ」

律「なぁ〜んて! さっき暇だったからググったこと言ってみただけなんだけどな」

唯「び、びっくりしたぁ。りっちゃんがバグッたのかと思った」

律「私がこんな難しいこと知ってるわけないだろ」

唯「まぁ、りっちゃんがググらなくても、ちゃんと話の中でもっと詳しく説明されてるんだけどね!」

律「これは憂ちゃんがコンピュータプログラムになっている話だったな」

唯「憂はどんな姿でもかわいいよぉ〜」

律「さすが、姉妹愛だな」

唯「だって、昨日の晩に観たアイ・ロボットに影響されてあずにゃんを困らせてる憂、かわいいと思わない!?」

律「いや、かわいいけどさ」

唯「私、よく思うんだけどさ」

律「なんだね、唯隊員」

唯「最近小難しいストーリーの話ってたくさんあるじゃん? ループものとか」

律「まぁ、そういうのを考えるのが楽しいって人とかいるんじゃないかな。それを読んだり見たりして、ワクワクしたい人ってのももちろんいるだろうし」

律「需要と供給の席の取り合いが若干スピードの競い合いみたいになってるけどな」

唯「この話を考えた人もそういうことを結構日頃から考えていて、嫌気がさしてるんじゃないかなって私、読んですこし思ったよ」

律「嫌気がさしてるねぇ」

唯「感動係数と悲劇係数の話を出しているところとか、完全に作者さんの考えをあずにゃんや憂が代弁しているし」

律「そういうこというなよ。話は話として受け取って素直に感動しときゃいいんだよ。感動系の企画なんだし」

唯「うーん。私難しいことはわからなかったけどさ、この話は実に忠実に私とあずにゃんと憂をトラックに轢かせようとしたね」

律「忠実ってなんだよ。唯のトラック属性に忠実ってことか?」

唯「ううん、違うよ、りっちゃん。そもそもあずにゃんにトラック属性ないってさっき私言われたし。忠実っていうのは物語の話の流れに忠実ってこと」

律「まぁな。役割を果たすためには、登場人物の死や誰かを思う心だって材料の一部さ」

唯「役割って?」

律「話を『感動系』って枠に押し込めるって役割」

律「話としてはとても面白かったよ。私、こんな風にちゃんと書けないし、ぐっちゃぐちゃな話」

唯「ぐっちゃぐちゃって」

律「いや、褒め言葉。本当に褒め言葉。私が書きたくても書けないだろう話の1つだよ、これは」


179 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 00:30:33 z2KBFXp20

---

梓「さて、じゃあ五番手さんに話を流しましょうか」


梓「さよなら、憂」


紬「なんていうか、唯ちゃんすごいわね、これ」

澪「私、律が憂ちゃんのマネしてるって思ったらすっごい笑ってしまった」

澪「なんか、ごめんな、感動企画なのに……」

梓「いや、笑いを狙っているのか、と私も読んでいて少し思いましたけど、でもやっぱり誰かが欠ける話っていうのは読んでて悲しくなりますね」

紬「そのスキマを埋めることがうまいこといってくれるといいんだけどね」

紬「今回は唯ちゃんが埋めていた憂ちゃんのスキマを最後はりっちゃんが埋めたわね」

澪「言ってしまうけど、この作品はあれだな。『謎の感動』っていう類のやつだな」

紬「『さよなら、憂』で始まって『おかえり、憂』で終わるってよかったわね」

梓「律先輩が唯先輩を担うことで、唯先輩が憂を続けることができるっていう終わり方は私は好きでしたね」

澪「律はいつもみんなの縁の下の力持ち役を担ってくれる、いいやつなんだよな」ホクホク

梓「どうでもいいですけど、この唯先輩のふくらはぎ、すごそうですよね」

紬「引き締まって細くなっているのか、それとも鍛えすぎて肥大してるのか気になるところね」

澪「引き締まっている方を支援したけど、肥大しているのも見た目的に面白そうだな」

梓「ふくらはぎだけすっごい太さの女子大学生……」

紬「イける」

澪「うーん。私はやっぱり引き締まっていたほうが。そして、やっぱ黒タイツで」

梓「もうなんの話をしているのやら……」

紬「唯ちゃん、反復幅跳びすごそうね」

澪「あれだな。感謝の正拳突きみたいなレベルだよな」

梓「実際音速超えないとままならないレベルの距離移動ですよね、これ」

梓「あ、あと、私、唯先輩が憂役ってことは唯先輩、料理できるんだな〜とか思ったり思わなかったり」

紬「ぜひとも唯ちゃんの淹れたお茶が飲んでみたいわ」

澪「私は……唯にゲームで負ける律がみたいかな」

唯「んもう!! みんな好き勝手いいすぎ!!」プンスカ

律「お前ら、SSの話しろよ」

澪「め、めんぼくない」

紬「次のSSに移りたいところだけど」

梓「結構時間がかかるので続きは明日にしましょうか」

律「だな。ちゃんと明日はSSの話しろよ?」

澪「ぜ、ぜんしょします……」


180 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 22:27:03 TBEc.2TI0
澪「よぉーし。今日で終わりにするぞー」

律「流石にもうヘロヘロだ。とっとと終わらせようぜ」

紬「そうね、ほとんど私たちの独断になってしまってて感動もなにもあったものではないわ」

梓「では、さっそく行きましょうか」

唯「ふんす! じゃあ、六番手!」



菫「だいじょばない」


梓「菫と純の二人の、卒業式の日の話ですね」

澪「ドラムとベースの二人組の話だな」

律「いやー、それにしても初心者でドラムをあれだけ叩けるってすごいよな。努力の固まりとしかいいようがない」

紬「書き方としては、三人称を使っているけど、SS特有の台本調も使っているわね」

梓「ですね。この書き方の利点ってなんなんでしょうか」

唯「セリフの前に名前が書いてあるから、誰が言っているのかがわかりやすいね!」

澪「だな。あと、三人称で書いているから一人称によって一人の視点に限定した書き方と違って、その場面にいる登場人物の心情を一度に書けるっていうのも魅力的かも」

紬「そうね。一人称で書いてしまうと、他の人の心情を描こうとしたら話を一旦区切ったり、章をわけたりしないといけないものね」

澪「そういう三人称のメリットを生かしつつ、このSSでは台本調のセリフの書き方をしてるから読んでいて、場面がうるさくないよな」

唯「『うるさくない』ってどういうこと? うるさいことがあるの? 文章なのに」

澪「一人称や三人称、唯にもわかりやすくいうと、小説のように地の文を入れると、読む相手に誰が言ったのかっていうのを説明する文章をついつい入れがちになってしまうんだよね」

唯「う〜ん。もう少しわかりやすく……おねがいします」

梓「つまりですね、えっと。『○○はほにゃららと言った。それに××はこう返した。〜〜〜だ、と。』とか、妙に説明的な文章になってしまうんですよね」

唯「ほぇ〜〜〜。そういうものなんだね」

紬「気づいたらセリフの後に『と言った』を必ず書いちゃったりとかしてね」

律「あー。たしかにそれはあんまり文章読み慣れてない私にとったらうるさいって思っちゃうかも」

澪「だろ? その点、セリフの部分だけ台本調にしてしまえば、誰が言ったかは明確なんだからさ、そういう労力とか目障りな部分を消去できるっていうメリットがあると私は思うんだよ」

澪「無駄な部分は省いたら、その分、雰囲気の出る文章とか書けるだろうし」

唯「うう〜ん。なんだか難しい……。もっとSSの中身について話しようよぉ」

梓「そうですね。今回の話ではどうやら菫と直が曲を作って、私たちの卒業式の日に演奏してくれたみたいですね」

律「いやぁ、なんだか懐かしいよな、私たちの頃を思い出すようだ」

紬「そうやって、今度は菫と直ちゃんが後輩に曲を作ったり、作られたりしていくのかしらね」

澪「私たちはそこにもういられないけど、そういう風に私たちの軽音部が続いていくって思うと」

律「こんなにうれしいことはないよな」

唯「うん。読んでいて、心があったかくなる話だったね」エヘヘ


181 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 22:27:30 TBEc.2TI0


---

律「よし、じゃあ、次は七番手!!」


純「うん、それってなんか」


唯「感想……と、言いたいところだけど」

梓「はい。これも自作なので、感想は省略したいと思います」

紬「ということは」

澪「そうなんだ。今回の企画参加者は企画者を含めて9人ってことになるんだ」

律「あちゃ〜、二ケタいかなかったかぁ〜〜〜」

梓「まぁ、でもそれでも8人も参加してくれましたから」

唯「だね! 人数の多さよりも私は参加してくれた人がいたってことが嬉しいよ」ウンウン

紬「そうね。あまり、というか全く宣伝のようなことはしなかったけど」

澪「参加してくれた人、本当にありがとう!」


182 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 22:28:05 TBEc.2TI0

---

唯「じゃあ、気分を改めまして!! 八番手!!」


紬「線路は続くよ!」梓「どこまでも!」


紬「私、線路の上を歩くのが夢だったのぉ〜」

梓「あ、私もです」

律「このSSは『線路は続く』って言ってるのに、作中じゃ、ムギと梓は終着駅に着いてるよな」

澪「タイトルはものすごくメルヘンチックというか、幻想的っぽいのに、内容は結構現実的なんだけど」

澪「でも、ムギがちょっとその現実的な雰囲気にパンチを与えるような役割になっててすっごくいいんだよな」

律「悪いけど、このSSの雰囲気が好き過ぎて平等に感想語れる自信ないから、感想は短めに書くよ」

唯「私はおやすみプンプンって漫画のプンプンみたいなムギちゃんだな、って読んでて思ったよ」

澪「現実的な中に、ちょっと不釣り合いなことを入れてみる、っていう試みがところどころで見られてるよな」

澪「物語を作るには何かしらの嘘をつかないといけないと思ってるけどさ、その嘘をいかにリアルに魅せるかっていうと、その嘘以上に、現実にあるものをリアルに描くしかないんだよな」

澪「この話はその現実のリアルさと嘘のリアルさのバランスがうまく取れてて本当にすごいと思うんだよな」

紬「私が、映画の内容を知らないって言ってるのに、『小指に誓って』って梓ちゃんに言うところ、とっても好き」

梓「知らないって言ってるのに、ワンシーンだけど実は知ってて、それをしれっと出してくるシーンってやられますよね」

律「読んでて、これはあの話に続いているのかな、とかちょっと読む側としてはダメなこと思っちゃったりとかしたよ」

唯「このムギちゃんの好きな人てさ…もがっ!?」

紬「唯ちゃん、ちょっと黙ってしょうねー?」

澪「……次に行こうか」

梓「そうですね。これ以上はちょっと感想としてはダメ過ぎです」


183 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 22:28:32 TBEc.2TI0

---

紬「次は早いもので九番手ね」


梓「ブルーリボン」


律「この話読んでさ、『あ、女子のリボンってそういえば卒業生の色が次の1年生の色になるんだ』ってハッとしたよ」

唯「うんうん。憂とか、私がつけてた色をつけてる1年生見てどう思ってたんだろう」

紬「私たちには2つ下の後輩っていなかったけど、私たちが3年生の時の1年生って何色のリボンだったんだろうね」

唯「えぇっと……。私たちのひとつ上の先輩のリボンの色だから……」

唯「?」

澪「謎だな」

律「全く記憶にないな」

紬「左に同じく」

梓「……きっと私たち以上に私たちに詳しい人なら知っていると思います」

澪「今度注意して見返してみるよ、アニメ」

律「なんの話だ?」

紬「でも、前までいた人と同じものを新しく入って来た人が着けているってなんだかシンミリきちゃうわよね」

律「あはは。3年間着てテカテカになった制服が着けてたリボンの色を今度は新品の制服がつけてるんだもんね」

唯「制服ってなんであんなにテカテカになるんだろうね。好きだったけど、テカテカで着慣れた制服」

澪「このSSも台本調と地の文が混じっているカタチだけど、今度のは梓の一人称だな」

紬「こうやって見比べてみると、梓ちゃんの心情しかこの話は書いていないわね」

澪「うん。でもその分、その人の感情をじっくり書くことができるから、三人称の文章とは違って一人称の文章は、一人の感情にドップリ読む側が感情移入できるっていうメリットがあるんだよ」

梓「でも、一人称の文はどのシーンの心情をピックアップして書いていくのかっていう配分が難しいですよね」

梓「一文ごとにその一人称の人物の心情を吐露していたら、読んでいてゲンナリしてきます」

紬「そういうことを考えると文章を書くって行為て不思議よね。習ったわけでもないのに、そういう配分が結構の人がしっかりできているわ」

律「本を読んでその人の中に鋳型みたいなのができてんじゃないのか。こういう曲はこういう風に叩く、みたいな感じでさ。私はそういうの、好きなドラマーの演奏をまねたりして次第に自分の中にしみこませていくけどさ」

唯「そのたとえだとわかりやすいね。私も最初はあずにゃんの演奏を聴いて、それをまねしてたもんなぁ」

澪「もちろん書き方なんて人それぞれだけどさ、そもそも書き方が人それぞれってのも面白よな」

律「こら、またSSの話から脱線し始めてるぞ」

澪「ご、ごめん」

唯「個人的に、私は無自覚に人に抱き付いちゃう憂ってかなりかわいいと思うんだよね」フム

律「抱き付かれてぇ〜。憂ちゃんに無自覚に抱き付かれてぇ……」

律「ギュってされて『え、なに』って横向いたら憂ちゃんが『あ……、ご、ごめんなさい。つい』とか言うんだろ」

紬「それ、いいわね、りっちゃん。顔とかあからめてね」ゴクリ

梓「憂が、憂が汚されていく」

紬「でも菫だって、かわいいのよ? 梓ちゃん」

梓「それは、はい。1年間で知ってますよ」

唯「」ニコニコ

澪「どうしたんだよ、唯。そんなニコニコしちゃって」

唯「え。んー、なんだか、あずにゃんにもかけがえのないものがたくさんみつかった3年間でよかったなって思って」

梓「……」

梓「ど、どもです///」

紬律澪「」オー


184 : 感動系企画者 ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/05(水) 22:29:04 TBEc.2TI0

---

唯「そして、ついに十番手!!」

紬「長かったようで短かったようであっという間だったね」


「私には放課後ティータイムしかないんだっ!!」


唯「りっちゃんがかっこいいお話だったね!!」

澪「律、無理スンナ♪」

律「澪、うるせ♪」

梓「最後の最後に王道がきたって感じですね」

紬「私、元ネタになっている東京事変もタイバニもわからないんだけど、でも、本当におもしろかったよ、この話」

梓「人に迷惑をかけることって、悪みたいな捉え方って結構な人が持っている考え方だと思うんですけど」

梓「人の迷惑になる罪悪感をだれかとの信頼や尊敬とか愛情で補っていけたら、そういう関係ってとてもいいですよね」

澪「うん。そういうことができる放課後ティータイムのメンバーであってほしいよな」

律「短いけどこのSSは、とにかく読んでくれ、っていう感想しかないや」

梓「そんなあっけらかんと」

律「他人がどうこう言ったところで、感動てのはその人自身しか味わうことができないものだからな」

律「とにかく、読め。話はそれからだっ!!」

唯「まとめ方、雑っ!」

律「うるさいわい!!」

澪「……まぁ、ちょっと一人で時間も場所もとってしまったことだしここらで感想を語る場を他の人にも譲らないとな」






わたしの感想は以上です。
本当に2日もスレを占領してすみません。
スレ自体の削除依頼は日曜日の夜中にでも出そうと思いますので、
それまでに他の方も是非感想をよろしくおねがいします!!
参加してくれた方、ありがとうございました。


185 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/07(金) 02:07:13 mPxCLxcU0
感想

・プロローグ

この純ちゃん軽音部に軸置いてるから自分の存在感が薄いって嘆いているだけであって、ジャズ研なら純ちゃんの居場所は絶対にあるはず!
って流れでは読んだ人への訴えっぽくも感じるな。
さらに純誕SS増えろ!


◆pc3qqLovSA >>5-12
唯「みんなにレズをカミングアウトしたらひかれた」

タイトルが「ひかれた」だった時点で唯トラとかの類だと思ったら序章に過ぎなかった。
1レス短編とは粋な発想だ。しかも思った以上に量多いし。
「弾く」と「惹く」の字は素直に感動した当てはめ方だった。
オチとして実際に轢かれたみたいだったが、ギャグテイストってことで一切の重い展開とかは無かった。
これを完全に払拭できるってのは、ジャンルをコメディにしても簡単にできるじゃない。漢字の柔軟性も楽しめた。


◆S3//NYH/w6 >>13-23
「さよならあずにゃん、またいつか」

これ一回目読んだ時に「オリオン座」が消えるとともに唯も消えるのかって思ってた。
「さよなら」ってセリフがあったから余計に勘違いに気づかなかった。
地の文中の梓の言葉遣いに首傾げるとこもあるけど、地の文だからあまり気にならない、かも。
一人称のこれって全部梓なのかな。二年後から急に呼び方が「唯」に変わってたからこんがらがった。未だに律か?とも思う。
「おっさん」とか単語も出てくるし。
唯梓が本格的に付き合い始めたから呼び捨て……だったら二人の進展を感じて微笑ましいな。


186 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/07(金) 02:07:47 mPxCLxcU0
◆ym58RP.VtE >>24-44
「虹の刺繍」

ある意味ここ数年では1レスよりも珍しい童話調。
読んでる最中の脳内映像に支障が出たのを挙げると、和か洋なのかどっちなんだろってとこから。
澪「」とかだったら日本の昔話っぽいし、仮にカタカナだったらシンデレラとかみたいな情景を想像してたと思う。今回は「刺繍」とあるから和かな?
亀ことトンちゃんも出てくるし。
「///」があって少し冷めてしまった自分に気づいた。が、個人的すぎる感想なのでこのことに関してはどうでもいい。好きな人は好きなんだろうし。そう思っただけ。
童話調の地の文は、今後こういうSSを書く人にとっては非常にためになる良い例。ストーリーも完成されてるしね。
>澪ちゃんはバウムクーヘンの穴でもいいから入りたい気分でした。
ここが本当に澪らしさを表現してると思う。恥ずかしがり屋な性格と妙に詩的な言い回し(ややメルヘン?)が上手い。
翼トンちゃんに乗った澪がいかにして落ちないかがいささか心配だ。
最後の刺繍は澪が空に貼り付けたイメージか。
窓から飛び出すとこといい、上手な地の文のおかげで何かと想像しやすいSS。


◆vZmyym56/2 >>45-69
梓「The Alan Turing Test」

今回の企画ではこれが一番好き。
が、長いと言うよりは複雑過ぎってのがあった。その複雑さが好きなとこでもあるので良い。
読む上では必須じゃない部分もあるんだろうけど、読んでた方がわからないなりにもぼんやりと雰囲気を味わえないでもない。
次に思ったのが、「感動」というよりは「SF」チック。
高科学的っぽい雰囲気がぎっしりとした地の文から滲み出てる。
校舎取り壊し時の五人の会話は不気味だった。澪までもが通常の視点から見て異様な行動をとっている。「!」や「?」がなかったからかな。
思い入れとか感情といった曖昧な物を大切にするはずのHTT(というか人類)がいつでも脳内再生できる環境下になれば味気ない会話になるのか。
梓とプレーヤーABとの対話の場面とのギャップが効いてる。
>プレーヤーB ……こんなときおねーちゃんだったらなんて言えばいいんだろ?
に切なさを感じた。


187 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/07(金) 02:08:19 mPxCLxcU0
◆XksB4AwhxU >>70-80
梓「さよなら、憂」

頭で昔ながらのよくあるパターンの死ネタだと思った。唯母とか出てきたりしてたからね。
けどこのSSはうまい具合にその予想を裏切ってくれた。
まさか唯の高速移動とは思わなかった……。すばらしい変化球でおもしろい設定。
その思い込みを生み出した要因としては、倒れた原因が発覚するまでの地の文がシリアスにぴったりの綺麗な地の文だったからだと思う。
が、このSSもまた「///」があったので、真剣な展開にはそぐわなかった。発覚以降なら気にならなかったと思う。
唯が憂を出現させるとこは、短いながらわかりやすい文章で脳内再生しやすかった。
憂へのフォローもする辺り、先輩らしさもきちんと描かれてる。
非現実的ながら日常っぽい雰囲気が感じられてかなり綺麗だった。非常に丁寧なSS。


◆hE1WJoODTg >>81-92
菫「だいじょばない」

三番手とは異なったストレートな三人称。
必要な描写のみ絞っての地の文なのでかなり読みやすい文章になってる。
純の面倒見の良さがちゃんとスミーレちゃんに向けられていた。これはジャズ研でも先輩やってたのと、性格だからこそできる後輩への接し方なんだと思う。
それにしっかり懐いてくれているのもかわいらしい。
ポジション的には律と被る純ちゃんだけど、おちゃらけ方とかが微妙に違うと思うからまた違った律純とか書いてくれればおもしろいかも。ここらの違いを文字で明確化すればこの手のSSがさらに増えるだろう。
全員登場とまではいかなくとも、せっかくだから直もいてほしかった、とも思った。


188 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/07(金) 02:09:23 mPxCLxcU0
◆qObddnGPNQ >>93-114
純「うん、それってなんか」

多視点は時系列とかいちいち考えないといけないだろうから作るのは大変だと思う。
けど、その労力に見合ったテクニックとか披露するのには良い機会だろうし、このSSもストーリーとマッチして各々が同時進行していく様がよかった。
気になったのは「、」がよく分からない位置にあったりしたこと。いくつかあったので読み返してないのかわざとなのか……。
もう一つは口調、

例)澪「ほんと、ありがとう。梓のこと、頼むな」

「頼むよ」だったらピンと来た。でも、「今日はありがとね、憂ちゃん」のとことか書いてるところは書いてるので、ここまで来ると個人的な感想であって目くじら立てる程ではない。
「大学生になったらまた梓を返せ」ってのはこのSSのストーリーと切り離して実際どうだろう。
先輩の唯たちと梓が完全に同意済みかつ進学先が同じ大学じゃないと難しそう。別の大学でも外でなら組めるかもしれんが、高校の時ほどまったりとはいかなさそう。距離感の違いとかもあるだろうし。
あまりにもバッサリ切られるとそれまでのは踏み台かよ、ってなる。

少し気を使いながらも唯と接する純ちゃんと少し冷めた風の律梓の会話がお気に入り。


◆ZPguhvsw0A >>115-132
紬「線路は続くよ!」梓「どこまでも!」

既に事に入ろうとしているスピーディさが魅力的。
よくよく考えてみると、ここから始まっても何の問題もないんだな。「しんだら」とかが漢字じゃないのが微笑ましい。
そして高校とは違ったみんなとの関係が伺える。恋愛の話をしたり、その恋愛模様を本人に直接訊かないと実際のところどうなのかわからない描写とか。
数駅分歩いた描写を記号とかで区切ったりせず、改行の空白で表現するのも夜中の静けさを味わえるようで雰囲気作りに適していた。
あえて気になった点を挙げるとすれば終盤の、

梓「⚪


189 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/07(金) 02:13:35 mPxCLxcU0
切れてた……


◆ZPguhvsw0A >>115-132
紬「線路は続くよ!」梓「どこまでも!」

既に事に入ろうとしているスピーディさが魅力的。
よくよく考えてみると、ここから始まっても何の問題もないんだな。「しんだら」とかが漢字じゃないのが微笑ましい。
そして高校とは違ったみんなとの関係が伺える。恋愛の話をしたり、その恋愛模様を本人に直接訊かないと実際のところどうなのかわからない描写とか。
数駅分歩いた描写を記号とかで区切ったりせず、改行の空白で表現するのも夜中の静けさを味わえるようで雰囲気作りに適していた。
あえて気になった点を挙げるとすれば終盤の、

梓「(セリフ)…………」
梓「(セリフ)…………」
梓「(セリフ)…………」
梓「(セリフ)…………」

って連なったところ。しかし、これは仕方のない部分でもある。
一つの「」に長いセリフを収めようとすれば横っちょに太くなって読むのがつらく感じてしまう。最悪の場合、SSの頭にそれがあれば読むの止める人もいるだろうから。
それに連なるのもSSならではの現象なのでどう捉えるのかはわからない。
この点についてみんなどう思うのか気になる。他の感想でも触れてもらえれば幸い。
(連なりを避ける手段としてはムギに会話を挟ませるってのがあるが、無理矢理挿入して違和感のある会話になってしまえばそれこそ泥沼……)
ちょいくだけた梓はかわいい。


190 : ◆.VOE29MKZs :2014/11/07(金) 02:14:27 mPxCLxcU0
◆.VOE29MKZs >>133-147
梓「ブルーリボン」

自作。
雑談スレの企画に際して「感動とは何か?」ってんで「ほっこり和める話」があったから書いた。もう少し丁寧に書けばよかった。


◆af.vRnw4.M >>148-160
「私には放課後ティータイムしかないんだっ!!」

最後に強烈な王道だった。元ネタは知らない。
地の文としてはこのSSの主人公である律が「」を使わない形式という一捻りある。王道ジャンルとしてはけっこう珍しいか?
当然、基軸が一人称だから心情要素もたくさんある。ストーリーの展開(重さ)を考えると「」無しの方が読んでる人がより律に寄り添えるのかも。実際、地の文なのにスラスラ読める。
ストーリーとしては昔ながらのありがちな展開、オチなのかもしれないが上記の地の文によって新しい境地になってると思う。
ここが、今と昔の違いなのかな?とも。
気になったところは、札束ゴソッと渡すところ。平謝りで済むかと。
高校生とは取り巻く環境が違うと感じさせられる。「演奏できなくなったら即刻クビ」とか「有名になったことにより世間から叩かれ得る」など。
原作・アニメでは味わえない展開(年齢、シリアス、ジャンル、クロスなど)はSSの醍醐味だし、今回は王道だったからなおさら熱かった。タイトルからしても。
新旧の良いとこ融合っぽい。


・企画全体で思ったこと

思った以上にSSが集まってよかった。
菫ノート基準で見ると、先月はSS数が少なかったみたいだけど企画・唯誕・梓誕で反動が来るのかな。そう考えるとみんなよく書いてるもんだと驚かされる。終わってから時間が経ってるのに。
そしてその時間経過にふさわしいSSのレベルの高まりが感じられた。
次回はもう少しのんびりと企画テーマを決めれたら、もっともっとSSが集まると思う。
おつかれさまー。


191 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/08(土) 20:20:25 mLlcV/ak0
感想行きます。

◆pc3qqLovSA >>5-12
唯「みんなにレズをカミングアウトしたらひかれた」
まさか感動系企画に出すことになるとは思わなかった自作。企画一番手は軽いものという天啓が下ったから。
軽音部の絆的なもので感動させようと本気で思って失敗したが、ハードルを下げることには成功してよかった
もっと重くてガチな感動系二つ考えてたけど、どっちも途中で投げて、企画には間に合いませんでした。
憂ちゃんがDV離婚する話と、憂ちゃんがレ○○される話…出さなくてよかったかも。憂ちゃんの事は大好きですよ?

◆S3//NYH/w6 >>13-23
「さよならあずにゃん、またいつか」
唯の目が見えなくなるのかと思ったら、オリオン座が目に見えなくなるのか。
「寒い」より「さっぶい」の方がより寒さが伝わる感じ
二年後の「なんだよ、もう。」とかは梓っぽくない。二年間で言葉遣い変わったのかもしれないし、「なによ、もう。」より強いというか、不満げな感じがするからかな。

◆ym58RP.VtE >>24-44
「虹の刺繍」
メルヘン感動系か。鮮やかな虹色が目に浮かぶような、綺麗で楽しいSS
ムギ澪でなくてはいけないのかとちょっと考えたけど、優しい女王様のイメージはムギにぴったりだし、一生懸命で真面目で優秀で、けど慎ましい一般人はやっぱり澪がぴったりだ。
>いや寧ろありがとうを言いたいくらいだわ澪ちゃん
ここで初めて違和感を覚えたけど(「いいえ、むしろ」とかの方がよかったかも)、個人的な感想。
トンちゃんに乗った澪の縞パンが下界に見えたりしないだろうか


192 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/08(土) 20:21:09 mLlcV/ak0
◆vZmyym56/2 >>45-69
梓「The Alan Turing Test」
む、難しい…。頭の悪い私にはよくわからない。
>いい、感動系においては、悲劇係数の反転値がそのまま感動係数になるんだよ。つまり悲しければ悲しいほど乗り越えたときいいってわけだ。
う…間に合わなくて没にした話が途端に惜しくなったよ。そして昔に流行った唯トラ感動系への皮肉か。
文章はがっちり詰まってていて、その分梓とABのやり取りに和んだ
切ない雰囲気と、名作であることは頭の悪い私にもわかった

◆XksB4AwhxU >>70-80
死ネタかと思ったら裏切られた。
個人的に一番好きで、一番印象に残ったのがこれ。
そんな超高速移動すると摩擦が空気抵抗がとかは考えちゃいけないんでしょうな。音速どころか光速超えてるんじゃないのか?光速超えたらタイムワープできるんじゃなかったっけ。
空想科学読本にしたらすごいことになりそうだw
果たして律は憂をちゃんと演じられるのか。憂は唯の演技で律の演技だけど、それでもみんなにとって掛け替えのない一つの存在なんだなーと思いました。

◆hE1WJoODTg >>81-92
菫「だいじょばない」
地の文が「〜する」「〜いく」などの現在形?ばかりなのはこの人のスタイルなのだろうか。
どじっ子で控えめな菫と、いい加減だけど面倒見の良い純の組み合わせもいいものだ。
直の名前が呼ばれていなかったので、言及してほしかったところ。

◆qObddnGPNQ >>93-114
純「うん、それってなんか」
キャラ達のやり取りが楽しい。みんな梓のことが好きなんだなって話。
純ちゃんは不憫な扱いの似合う子だなぁ。
いざ大学生になったらわかばの方に情が移って迷ったりするのかな。それも見てみたい。けど今のところはきっと、この決定がベストなんだろう。


193 : ◆pc3qqLovSA :2014/11/08(土) 20:23:26 mLlcV/ak0
◆ZPguhvsw0A >>115-132
紬「線路は続くよ!」梓「どこまでも!」
無邪気で世間知らず故に唯以上にロクでもないムギちゃんか。アリだな。3番手さんのような、女王様に相応しいムギとは違うけど、どっちも違和感がない。
作風も3番手さんとは逆でとても現実的。
このSSの雰囲気が大好きだ
梓「(セリフ)…………」
の連なりは私は特に気にならなかった。ムギに向かって伝えたい感じが出ていてよかった。

◆.VOE29MKZs >>133-147
梓「ブルーリボン」
ピンクリボンとかオレンジリボンとかをタイトルから連想したので、ググったらなんか複数の意味がありました、ブルーリボン。
ここでは単に青いリボンだけど、リボンの色とか全然覚えてない。ごめん。
しかし梓の感覚はわかる。懐かしいな。卒業した先輩と同じものを新入生が付けているのを見た気持ち。こっちはリボンじゃなくて上履きの色だったけど。

◆af.vRnw4.M >>148-160
「私には放課後ティータイムしかないんだっ!!」
まさに王道。
大切な仲間に迷惑をかけていることに負い目を感じ、自ら身を引こうとする律と、律と一緒になら地獄にも落ちる覚悟の仲間達。
こういうのって在り来りだけど、結局勝手に身を引く事が余計、自分も大切な人も傷つけるんだよな。律が素直になれてよかった。
東京事変もタイバニもわからない。タイバニはアニメらしいけど東京事変は違いますよね…?

自分の没案と比べてかもしれないけど、全体として、そんなに重いのはなかった。
安易な死ネタとかに走らない気概が感じられた。死ネタももっとあってよかったように思うけど。
心温まる話と切ない話に分かれていた印象。
皆さん、お疲れ様でした。


194 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:09:58 .qUmFLmg0

澪「…」カタカタ

律「みおー」

澪「…」カタカタ

唯「みおちゃーん」

澪「…」カタカタ

律「みお
唯   ちゃーん!!」ワシャワシャ

澪「わわわ!な、なにするんだよっ」

律「いや、だってこうでもしねーとちっとも気がつかねーし」

唯「そうだよ。何してるの?」

澪「…明日提出予定のレポート。うっかり忘れてたんだ…」

律「あららー澪にしちゃ珍しいな」

唯「だから昨日の打ち上げ来なかったのかー」

澪「ごめん…ライブ終わった後でレポートのこと思い出したんだ。
  だから早く書かなきゃって…それで打ち上げに参加する余裕なくて…
  すっごく行きたかったのに……ごめん 」ジワ

唯「それで飛ぶように帰って行ったんだね」

律「よしよし、泣くな泣くな」ナデナデ

唯「…で、肝心のレポートは?感想に参加してる余裕ある?澪ちゃん」

澪「それなら大丈夫。徹夜で頑張ったからもうほとんど完成したんだ」

律「おおっ。確かに澪の瞼の下に真っ黒なク…」

ガツンッ!

澪「…律、うるさい」


195 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:11:24 .qUmFLmg0



律「さあてはじめるとするか〜」ヒリヒリ

唯「待ってよりっちゃん!ムギちゃんとあずにゃんいないのにはじめていいの?」

律「ムギはベッドで寝ていて起きる要素ない。梓はあそこにこもりきり」→トイレ

梓「 」  オエー

澪「…二日酔いか」

唯「ムギちゃんよく寝てるなぁ」

紬「zzz」スヤスヤ

澪「ふたりに一体なにが?」

律「それもじきにわかるさ。さぁ気を取り直して」


196 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:12:30 .qUmFLmg0



澪「まずはOP」

唯「企画に参加した回数は少ないけど、OPいつも面白いよね」

律「企画のテーマに沿ったOPだったなー」

澪「唯と純ちゃんの組合せはそれほど多くないけれど、いいコンビだよな」

唯「えへへ〜純ちゃんがかわいくて、たのしかったよぉ〜」


197 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:13:38 .qUmFLmg0



澪「一番手さんの作品だ」

◆pc3qqLovSA >>5-12
唯「みんなにレズをカミングアウトしたらひかれた

澪「他の方もおっしゃっているけれど、「感動系」というテーマをうまく解釈してると思ったよ」


唯「言葉遊びって面白いよね」

澪「うん。リズム感があるから読みやすくて心地いいよな」

律「ラストのまとめ方は上手に感動に結びつけてるし、王道じゃないのにテーマに沿った作品に仕上げたから思わず唸っちまったぜ」

澪「続く後半の企画の幅が広がって書きやすくなったのも間違いない。
  トップバッターらしい作品だと思う」


198 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:14:14 .qUmFLmg0



唯「二番手!」

澪「さんづけしろっ」

◆S3//NYH/w6 >>13-23
「さよならあずにゃん、またいつか」

律「感動系…なのか?」

唯「うーん」

澪「ハハハ!…何言ってるんだ二人とも!そんなことどうでもいいんだよ」

律「えっ」

澪「読んだひとの心に響くものさえあれば、テーマなんて二の次だろ」

律「うーーん、それはそうかも……」

唯(企画の否定なんじゃ…)

澪「とにかくわたしはこういう雰囲気のSSがとても好きだ。
  冬の星座、とくにオリオン座はほんっといいよな。
  わたしもいつか冬の星座を題材に、こういう作品を書いてみたいよ」

律「……………パクるなよ」ボソッ

澪「……………ナンノコトヤラ??」シレー


199 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:14:37 .qUmFLmg0



律「三番手さんだぞー」

◆ym58RP.VtE >>24-44
「虹の刺繍」

唯「澪ちゃん、こういう話好きそう」

澪「……うん。こういう童話っぽい作品書けないかなって思ってたけど、わたしには無理だったよ…」パタリ

唯「ああっ!澪ちゃんがまっ白に!!」

律「ほっとけ。そのうち回復するだろ。
  子どもの頃に読んだ昔話、絵本にありそうなメルヘンファンタジー感動系の王道のお話だったな」
  澪とムギのキャスティングも良かったと思う」

唯「ムギちゃんはお姫様ってかんじだもんね!」

律「…こっちのお姫様は爆睡中だけどな」

紬「zzz」スヤスヤ

唯「王子様がチューしたら起きるかな??」

律「…ムギの王子様はどこにいるんだろうな」

澪「」グッタリ


200 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:19:39 .qUmFLmg0



唯「四番手さんの作品だよ〜」

◆vZmyym56/2 >>45-69
梓「The Alan Turing Test」


律「構成、文章力ともにひとつだけ圧倒的に飛び抜けてたなぁ…」

唯「うん…」

律「感動する話ってなんなんだろうなぁ…」

唯「なんなんだろうねぇ…」

澪「思うんだけど」ヒョコッ

唯「あ、生き返った」

澪「共感しやすいわかりやすい不幸を設定して、それを克服する。たぶん感動話ってこういうことだと思うんだ」

律「人と人との絆がぁーとかな」

澪「でも人はそれに慣れる。耐性をもった人は従来の…どこかで聞いたことのある物語に涙を流すことはなくなる。そしてもっと感動したくて、もっとわかりやすい不幸を、悲劇を求めるんじゃないか」

唯「……もうその構図自体が一種の悲劇だね」

澪「いやむしろ喜劇だ」

律「校舎が破壊される場面を読んでるとき、そういう安易な感動から距離を置こうとする意思が感じられたな」

澪「もうひとつこの作品で重要な主題になっているのは『過去』だ。わたしはさ…
 過去が愛おしく思えるのは、それが過ぎ去ったものでもう二度と戻ることのできないものだからだって思うんだ。
 だからさ……過去の思い出とほとんど変わりない記憶をいつだってそうしたいときに繰り返して追体験できるようになっちゃったら…」

律「それは過去をなくしちゃうってことと一緒じゃないか」

澪「一番大切にしたいもののはずだったのにな」

唯「よく似た記憶を繰り返してばかりいたら、ホントの思い出がなんだったのかわかんなくなっちゃうよ!」

澪「過去を愛おしく思うが故の行為によって、過去それ自身が磨耗していくんだから皮肉だよ。それは、もう二度と『たのしかったあの頃』戻れないこと以上に悲劇だ」

律「…よくわかんなくなってきた」

澪「ごめんごめん。そういえばこのSSを読んでいて『悲劇排除システム』というマンガを思い出したよ」

唯「どんな話??」

澪「いまよりもずっとずっと科学が進歩している世界の話だよ。
  そこは誰もが若く美しく、病気にならず、死が果てしなく遠くなった世界なんだ。その世界において悲劇はどこまでも遠く、忘れられた存在だ。
  でもかつて悲劇と考えられていたもの(生老病死)が遠ざかることで生が均一化平板化してしまう。
  つまり、悲劇を遠ざけること自体が悲劇ってわけなんだ」

唯「ふぅ〜ん。悲劇からは逃れられない、かぁ」

澪「悲劇から逃げられないことは、本当に悲劇なのか?それとも喜劇なのか?いやもうそこには幸も不幸もないのかもしれない…」

律「…あのさー」

澪「なんだ?」

律「長々と語り続けてけど、このSSにしてもそのマンガにしても殆ど澪の思い込みって可能性はあるよな」

唯「いわゆる誤読ってやつだね!りっちゃん!!」

澪「」グサ

澪「…まぁ読み手がどんな感想を抱いたっていいじゃないか…」

唯「まぁね〜ところでラストのことなんだけど」

律「うん」

唯「この作品であずにゃんが憂と別れたのだとしたら、憂はあずにゃんにとって過去だよね」

澪「そうだな」

唯「…ということは、大切なものをなくしちゃうことであずにゃんは過去を手に入れたのかもしれないね」

律「ああ」


201 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:20:12 .qUmFLmg0



澪「五番手さんの作品だぞ」

◆XksB4AwhxU >>70-80
梓「さよなら、憂」

唯「登場人物の誰かが倒れる、という話の筋としては王道の感動系だね」

律「…と、思わせておいてそれをおちょくるかのような荒唐無稽な展開」

澪「ギャグというかカオスというか。…ラストは感動系に沿ったまとめ方だったからいいんじゃないか」



唯「ろく!」

律「ばん!」

澪「…」

唯「澪ちゃんノリわるぅ〜い」

澪「うるさいっ。六番手さんの感想いくぞっ」


202 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:21:02 .qUmFLmg0



唯「ろくばんてさんだよ〜ん」ジャカジャン!

◆hE1WJoODTg >>81-92
菫「だいじょばない」

律「なんだか台本のト書きみたいだったなー」

唯「ちょっとクセのある地の文だったよね」

澪「わたしは…この地の文はたぶん意図的なものだと思わんだ」

律「どういうことだ?」

澪「SSには大きく分けて二つあるだろ?」

律「地の文アリのSSと…」

唯「『だいほんけいしき』ってやつだよね!」

澪「ああ。そのとおり。じゃあ、律。このSSはどっちのタイプだと思う?」

律「そりゃ、地の文アリタイプだろ。バカにすんなぁー!!」

澪「ごめんごめん、いくら律のことをバカだと思っていても、そこまでだとは思ってないよ」

律(…ひ、ひどいよみおぉ…)

澪「地の文がある時点でこのSSは台本形式ではないのだけど、でもその肝心の地の文のスタイルが気になったんだ」

律「まどろっこしいなあ。さっさと言えよ」

澪「まぁ、そう急かすな。ヒントはさっきの律のセリフにある」

律「ん??」

唯「あ」

律「えっ、唯わかっちゃったの??(ゲェー!これじゃわたしの方が唯よりバカってことに…)」

唯「地の文がト書き調なんだよ!」

澪「そういうことだ」

律「あっ、わかった!」

唯「りっちゃんどうぞ!」

律「つまりだな…地の文があるんだけどそれが台本のト書きみたいな地の文なんだ!」

澪「不思議だよな。地の文があることでより台本っぽくなるって」

唯「う〜〜ん。けいおんSSは深いねぇ…」ウンウン


203 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:21:30 .qUmFLmg0



律「なな!」

唯「ばん!」

澪「て!」

澪(…はずかしい)

◆qObddnGPNQ >>93-114
純「うん、それってなんか」

律「まさか2本目の人と同じ作者さんだとは…」

唯「ぜぇんぜん気付かなかったよ。でも言われてみるとOPとは似てるかも」

澪「わ、わたしは気づいていたけどなっ」

律「ムーリスンな」

澪「うう…でも作者当てなんて作品の本質は関係ないっ」

唯「その作品が面白いかどうか、だよね?」

澪「そうだっ!その意味ではわたしは今回の企画でこの作品が一番好きなんだ!」

律「わたしもだなっ」

澪「これだけ大勢の登場人物をちゃんと立たせるのも、唯純、澪紬憂、律梓、3つのカプを混乱させず同時に書きわけるのも、見事というほかないよ…」

唯「1つの作品で3つのカプ+2年生トリオまで楽しめるなんて…めちゃくちゃ贅沢じゃないですか!たいちょー!!」

澪「3つの視点が1つに集約していく展開にもカタルシスがある。見事な構成だ…」

律(ちょっと褒めすぎじゃ…)ボソッ

澪「好きなんだからしょうがないだろ…せめて作者さんには引かれたくないけどな」

唯「でもこのお話のあずにゃんってさ。すっごくわがままだよね。
  こういうの嫌がる人もいるかもしれないなって思った」

澪「だからいいんだよ」

唯「ん?どういうこと??」

澪「そんなことは当の梓本人が一番わかっているさ。理解した上でそう言っているんだ。きっと」

律「…梓はさ。憂ちゃんや純ちゃんたち同級生よりも、わたしたちけいおん部の先輩を選んだんだけど」

律「でも、ここまで本音を言えるという友達なんて普通いねーよ。どんだけ憂ちゃんと純ちゃんを信頼してるんだって話」

澪「自分がさ。心から大事に思えるものがあったとして。それを守るために他の誰かを傷つけてしまったり、誰にもわかってもらえないことだってあると思うんだよ。
でも…でも。自分でもよくないことだとわかっていても、どうしても守りたくなってしまう、譲れないものってあるんじゃないか?」

唯「わかる気がするよ」

澪「自分が心から大事だと思えるものに出逢えたこと、そしてさらにそのことをを理解してくれる人までいるなんて…これ以上ないとても幸福なことだと思うよ」

澪「そして譲れないものを見つけれられた梓と、それに憧れていながらまだ見つけれていない純ちゃん、という対比がまたせつないんだよな…」

唯「みんながみんなそういうものに出会えるわけ、ないもんね」

澪「そうだよ。これはさ、奇跡なんだよ!」

律(…痒くなってきたな。どこだ?ムヒどこだ??)カイカイ

澪「感動、っていうとありがちなお涙頂戴に走りちがだけど、受け取りようによっては人間のキレイじゃないと感じられる部分をさらけ出してる部分がかえって心に響いたんだよ!
 
唯「うんうん。ちょっとした描写なんだけど、

 >梓「ずぴぴぴぴっぴぴぴp」

って、あずにゃんが鼻をかむシーンを汚くしているのなんかも、お涙頂戴から遠ざけようとしてるんだなって思ったよ」

澪「大げさな物言いをすれば、人間の業を肯定しているような気がしたな、うん」

律「…随分と気に入ったことはわかった。でもあんまり熱くなりすぎるなよ」

唯「ところで単にニコニコいい人じゃなくて、適度に毒を吐く憂っていいよねー!我が妹ながら可愛いなぁ〜」


律「OPの感想でも書いたけど、唯純って結構いい組合せだよなぁ〜」

唯「でへへ〜照れますなぁ」ニヤニヤ

律「ちょっとムカつくけど、わたしに生意気な梓は可愛かったし、
  高価な値段にビビる澪の器の小ささも笑えたぜー!」

ガツン!

律「…痛い」

澪「次行くぞ」


204 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:24:14 .qUmFLmg0




律「八番手だ」

唯「ねぇりっちゃん。ここで改めて企画名言ってよ!き・か・く・め・い!」

律「は?じゃーゆーぞー」

律「STAND BY ME けいおん!』」

唯「うぷぷぷぷぷp」

◆ZPguhvsw0A >>115-132
紬「線路は続くよ!」梓「どこまでも!」

澪「最初は王道の感動系を書くつもりだったんだけど…」

律「思いつかなかったんだよなー」

澪「だから今回参加は諦めるつもりだった…それを救ったのが…」

唯「わたしなのです!」ドヤァ!

律「……なんで?」

澪「いや…企画名がこれじゃなかったから書けなかったんだよ。だからこの名前を考えてくれた唯に感謝したい」

唯「うふふふふふふふふ……」ニマニマ

律「(あーーー……うざい)でも誰かがやりそうかなって思ってたけど被らなくてよかったな」

澪「…ホントそれだよ」

律「それにギリギリの投稿になって、ほとんど推敲できなかったのは心残りだったなー…」

澪「企画者さんをはじめ、お読みくださった方、感想までくださった皆様、本当にありがとうございました。
 いつか別のところで再投稿するときには、いただいた指摘を意識して直したいと思います」

律「線路は終わっちゃってるって言われたけど?」

澪「…ふたりの心の中にある線路はずっと続いていくのさ…」

律「はーいはい」

唯「いヤァ〜わたしの考えた企画名のおかげで生まれた作品かぁ〜」ムフフ


205 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:25:04 .qUmFLmg0



澪「九番手さんの作品だぞ」

◆.VOE29MKZs >>133-147
梓「ブルーリボン」

律「リボンや上履きの学年カラーがあるのも高校までだからな。
  それが余計に限られた季節を思わせるよ…」

唯「珍しく感傷的なりっちゃんきもーい」

律「さっきあれだけうざかったお前にだきゃいわれたくねぇ!」

澪「どうどう。落ち着け律。
 ところでこの作品における『リボン』みたいになにか作品の象徴するアイテムを作ると、雰囲気がでるよな。引き継がれる伝統を色に乗せて紡ぐ爽やかな一編だったよ」


206 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:25:40 .qUmFLmg0



律「ラスト!』

唯「十番手っ!」

澪「さん!」

◆af.vRnw4.M >>148-160
「私には放課後ティータイムしかないんだっ!!」

律「これまた王道だ!」

澪「…」

唯「澪ちゃんが書けなかったタイプの作品だね!」

澪「」グサリ

澪「…たしかにわたしには書けない作品だ」

律「ま、まあ人それぞれなんだしいーじゃねーか。だから企画は面白いんだろ」

唯「しっかし、りっちゃんってかっこいい役多いよねー」

律「へっ?そ、そうか?」

澪「熱血な律を主役に据えて、身体的不幸を軸に展開する作品。まさに王道だ」

唯「なんというか、感動&熱血なりっちゃん主役の、これぞけいおんSS!という作品だね!」


207 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/08(土) 23:28:40 .qUmFLmg0



律「さて。感想も一通り終わりました」

唯律澪「「「企画者さんはじめ、参加された書き手のみなさん、読んでくれたみなさん、感想をくださったみなさん!!!」」」

唯律澪「「「ありがとうございました!!」」」

唯「いやー今回の企画も楽しかったね!」

律「同じテーマで誰がどんなものを書くのか。
  他の作品を読むのも、作品を書くのも、そして読んでもらえれるのも、
  すっげーうれしいしたのしいぜー!」

澪「本当だな。ご苦労をかけた企画者さんには一番大感謝だ!」

律「…さて。こうしてキレイに閉めたいところだが…」

唯「が?」

澪「ムギも梓もダメそうだな…」

紬「zzz」スヤスヤ

梓「………うぷっ」ゲーッ!

澪「ちょ!梓!あんまりわたしの家のトイレを荒らすなよ!」

梓「ダ、ダイジョブデスミオセンパ……!!……グホォ!オェェェ…!」ビシャー!

澪「あああああ!昨日新調したばかりのトイレマットがぁぁぁあぁ……!!!!」

律「しっかしなんで梓はこんなに潰れてるんだ…?もとから強いほうではなかったけどさ」

唯「銭湯上がった後、フルーツ牛乳やめて缶ビール飲んだんだって。つい勢いで3本くらい」

律「つい、じゃねーよ。自業自得だな」

唯「結局家に帰れなくてムギちゃん家に収容されたんだってー。
 澪ちゃんの家まではムギちゃんがタクシーで連れてきてました!」

律「まぁムギもろくに寝ずに梓の面倒見てたらそりゃ居眠りもするかー」

紬「zzz」グゥグゥ

唯「ムギちゃん全然起きないねーすんごく気持ち良さそう」

律「あ」

唯「なに?」

律「澪のベッドで寝てたいから寝てるフリしてるだけだったりしてー」ナンチテ

紬「!」ビクッ

唯「…」

律「…」

澪「…まさか」

唯「ま、いいじゃんどっちでも。今日はもう予定ないんだし、気の済むまで寝させてあげようよ」

澪「…レポートがあるだけど」

律「ところで澪」

澪「?」

律「ムギが酔いつぶれた『フリ』をしてたことには気がついていたのか?」

澪「…さぁ忘れたよ」

律「…そのとき、何かあったのか?ムギと」

澪「さぁ…忘れたよ」

おしまい。

以上です。長々とすみませんでした。


208 : ◆DNGjmmtoL2 :2014/11/09(日) 00:34:12 eJWI.vfo0

律「締め切りを守ろうとする、日本人って本当律儀だよな」

澪「元はと言えば、突然締め切りを短くしたのが原因だろ。何をそんな客観的に呑気なこと言ってるんだよ」

律「コラコラ拳を握りしめて近づいてくるんじゃないっての」

澪「全く。律は他人をオモチャとしか思ってないのか?」

律「そんなことはないよ。ただ、たまには切羽詰った状況で時間に迫られながら文章書くのもいいんじゃないのかな、と思っただけ」

律「熟考せず、直感とアドレナリンで書くのもまた楽しいもんだろ?」

澪「......さあな」

律「さて。本来の11月のメインイベントに戻ろうじゃないですか!」

澪「なにせ2人分だもんな。律は何渡すかもう考えたか?」

律「えっ、澪まだ考えてないの!?」シンジラレナイ

澪「い、いや、考えてるけど、準備できてないだけっていうか!?」アタフタ

律「まっ! 私はぜぇ〜んぜん考えてないんだけどな!!」

ゴチん

律「〜〜〜〜〜!?!?」

澪「......その痛み、私が受けた心の痛みだと思え」

律「随分とガラスなハートですこと。さて、そろそろ削除依頼でも出すか」

澪「いや、感想間に合ってない人が1人いるけど」

律「自己責任じゃいかんのかね?」

澪「......」

律「とりあえず、依頼は出すだけ出すことにするよ」

澪「私も一応日本人だからな」

律「自分で設定したことは守らないと!」

澪「散々和を困らせていたやつが何を言う」

律「まぁ、私も成長したってことよ!!」

澪「ふーん。さて、じゃあ私もプレゼントの用意でもするかな」

律「よし。じゃあ、企画はこれに終了!!」

澪「おあとがよろしいようで」


209 : いえーい!名無しだよん! :2014/11/09(日) 07:21:06 gkPj.VQw0
>>192
タイトル抜けてました
梓「さよなら、憂」


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