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アニメキャラ・バトルロワイアルIF part4

1 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/09(土) 18:16:28 Hx7oCY020

アニメキャラでバトルロワイアルをする企画、アニメキャラバトルロワイアルIFのSS投下スレです
企画の特性上、キャラの死亡、流血等の内容を含みますので閲覧の際はご注意ください。

【したらば】ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17138/
【wiki】ttp://www7.atwiki.jp/animelonif/
【前スレ】ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1448217848/
【地図】ttp://i.imgur.com/WFw7lpi.jpg


【参加者】
2/7【ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
●空条承太郎/●ジョセフ・ジョースター/●モハメド・アヴドゥル/●花京院典明/ ● イギー/●DIO/ ● ペット・ショップ
2/6【クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
●アンジュ/●サリア/●ヒルダ/ ● モモカ・荻野目/○タスク/○エンブリヲ
2/6【ラブライブ!】
○高坂穂乃果/ ● 園田海未/ ● 南ことり/●西木野真姫/ ● 星空凛/○小泉花陽
2/6【アカメが斬る!】
○アカメ/●タツミ/○ウェイブ/ ● クロメ/●セリュー・ユビキタス/●エスデス
2/6【とある科学の超電磁砲】
○御坂美琴/○白井黒子/●初春飾利/ ● 佐天涙子/●婚后光子/●食蜂操祈
2/6【鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
○エドワード・エルリック/●ロイ・マスタング/○キング・ブラッドレイ/●セリム・ブラッドレイ/●エンヴィー/●ゾルフ・J・キンブリー
2/5【PERSONA4 the Animation】
○鳴上悠/●里中千枝/ ● 天城雪子/ ● クマ/○足立透
1/5【魔法少女まどか☆マギカ】
●鹿目まどか/●暁美ほむら/●美樹さやか/○佐倉杏子/ ● 巴マミ
2/5【アイドルマスター シンデレラガールズ】
○島村卯月/●前川みく/ ● 渋谷凛/○本田未央/●ロデューサー
3/5【DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
○黒/○銀/ ● 蘇芳・パブリチェンコ/●ノーベンバー11/○魏志軍
3/4【寄生獣 セイの格率】
○泉新一/○田村玲子/○後藤/ ● 浦上
1/4【やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
● 比企谷八幡/○雪ノ下雪乃/●由比ヶ浜結衣/●戸塚彩加
1/3【Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン/ ● 美遊・エーデルフェルト/●クロエ・フォン・アインツベルン
0/2【PSYCHO PASS-サイコパス-】
●狡噛慎也/●槙島聖護
1/2【ソードアート・オンライン】
●キリト(桐ケ谷和人)/○ヒースクリフ(茅場晶彦)


26/72

【基本ルール】
最後の一名以下になるまで殺しあう。
その一名になった者は優勝者として如何なる願いも叶えることができる。(「死者蘇生」「巨万の富」など)
参加者のやり取りに反則はない。

【スタート時の持ち物】
※各キャラ所持のアイテムは没収され代わりに支給品が配布される。
1.ディバック どんな大きさ・物量も収納できる。以下の道具類を収納した状態で渡される
2.参加者名簿、地図、ルールブック、コンパス、時計、ライトの機能を備えたデバイス。(バッテリー予備、及びデバイスそのものの説明書つき)
3.ランダム支給品 何らかのアイテム1〜3個。
 ランダム支給品は参加作品、現実、当企画オリジナルのものから支給可能。
 参加外、およびスピンオフの作品からは禁止。
(とある科学の超電磁砲のスピンオフ元である、とある魔術の禁書目録からアイテムを出すなどは禁止)
4.水と食料「一般的な成人男性」で2日分の量。

【侵入禁止エリアについて】
・放送で主催者が指定したエリアが侵入禁止エリアとなる。
・禁止エリアに入ったものは首輪を爆発させられる。
・禁止エリアは最後の一名以下になるまで解除されない。

【放送について】
6時間ごとに主催者から侵入禁止エリア・死者・残り人数の発表を行う。

【状態表】
キャラクターがそのSS内で最終的にどんな状態になったかあらわす表。

生存時
【現在地/時刻】
【参加者名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:
1:
2:
※その他

死亡時
【参加者名@作品名】死亡
残り○○名


2 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/09(土) 18:17:52 Hx7oCY020

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:00:00〜02:00
 黎明:02:00〜04:00
 早朝:04:00〜06:00
 朝 :06:00〜08:00
 午前:08:00〜10:00
 昼 :10:00〜12:00
 日中:12:00〜14:00
 午後:14:00〜16:00
 夕方:16:00〜18:00
 夜 :18:00〜20:00
 夜中:20:00〜22:00
 真夜中:22:00〜24:00

【予約について】
キャラ被りを避けたい、安定した執筆期間を取りたいという場合はまず予約スレにて書きたいキャラの予約を行ってください。
予約はトリップを付け、その作品に登場するキャラの名前を書きます。
キャラの名前はフルネームでも苗字だけでも構いません。
あくまでそのキャラだと分かるように書いてください。

【予約期間について】
予約をした場合、執筆期間は五日間、三作以上書いて頂いた方は最大で七日間です
ただし予約は任意ですので強制ではありません。

【作品投下のルール】
予約なしで作品を投下する場合、必ずしたらばにある投下宣言スレにて、投下宣言を行ってください。

※トリップとは
酉、鳥とも言います。
名前欄に#を打ち込んだあと適当な文字(トリップキーといいます)を打ち込んでください。
投稿後それがトリップとなり名前欄に表示されます。
忘れないように投稿前にトリップキーをメモしておくのがいいでしょう。
#がなければトリップにはならないので注意。


3 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/09(土) 18:18:18 Hx7oCY020

【能力・支給品の制限について】

◆クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
・パラメイルの様に強すぎる初期支給品は自重
(登場話で破壊など、納得できる理由もありうるので展開次第)
・エンブリヲの復活能力、死者蘇生の禁止

◆PERSONA4 the Animation
・ペルソナは可視で物理干渉を受ける

◆ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
・スタンドは可視で物理干渉を受ける
・スタンドDISCの支給は禁止
・アヌビス神は支給可能だが人格の乗っ取りは考慮すること

◆アカメが斬る
・帝具の相性(使用可否)は書き手の判断に任せる
・奥の手の再使用にインターバルを設けることを推奨
・八房の死体ストックをゼロにする

◆とある科学の超電磁砲
・パワードスーツは支給禁止

◆ソードアート オンライン
・アバター状態での参加が可能かつ推奨される
・ユイは支給禁止

◆魔法少女まどか☆マギカ
・ソウルジェムは本人支給。
・魔女状態での参加は原則禁止(展開次第で魔女化するのはあり)

◆その他、何かしら制約を受ける能力や支給品
・洗脳、時間停止、強い再生能力、テレポートなど

◆強い制約を受ける能力や支給品
・首輪やそれに準ずるものへの安易な干渉、死者蘇生、時間逆行など
(他ロワの例:参加者単独ではほぼ不可能、禁止に近い制約)

※これらの制限は書き手の任意で設定できるが、便利すぎると思った場合は仮投下を推奨する


4 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/09(土) 18:18:39 Hx7oCY020
以上です。これからもよろしくお願いします。


5 : ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:10:56 iKglyiJo0
スレ建て乙です。投下します。


6 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:12:50 iKglyiJo0
背後で巨大な爆発音がする。
振り返れば、確かにあの場所は彼らのいた場所で。

「マスタングさん...!」
「ッ...!」

別れ際の微笑みを見た時には既に悟っていた。
彼は、ここで命を散らすのだと。
私たちを守るために、命がけでエスデスを食い止めるのだと。

ずっと戦ってきたあの人の力になりたかった。
ずっと傷ついてきたあの人と一緒に逃げたかった。

だが、あの場では、マスタング一人に任せる選択肢以外は存在しえなかった。
自分達が共にいたところでなにもできはしないのだから。

「...止まっちゃ、ダメだよ」

だから、未央は彼女の手を引く。
振り返るな、前を向こうと。

「...わかって、ます。あの人たちのためにも、私たちは」

あの人たちとは、ここに至るまでに命を散らした者たちを指す。
何処か知らない場所で命を落としてしまった渋谷凛と前川みく。
絶体絶命の危機の中、皆を救うためにエルフ耳の男に一人立ち向かったプロデューサー。
他の者に迷惑をかけないためにと一人立ち去り決着をつけようとした暁美ほむら。
己の命が尽きる最期まで戦い続けた空条承太郎。
自分達を逃がすためにあの場に留まったロイ・マスタング。
そして―――

(ごめんなさい―――いままで、ありがとう)

最期まで卯月を気遣い、護ってくれた『正義の味方』に感謝と別れの言葉を胸中で告げる。
彼女は死んだ。
マスタングとの会話で、それは決定的になった。

だが、それが足を止めていい理由になるはずもない。

彼女が遺した『弱者を護るための正義』を絶やしてはならない。
それが、残された者の使命だ。護られた意味だ。

だから

「...生き残るんだ」

二人は、改めて言葉にして、決意する。

この命、無駄にはしないと。



彼女たちが目指すのは、音ノ木坂学院。
咄嗟に逃げ出したため正確な方角はわからなかったが、図書館まで辿りついた二人は、そこで進路を相談することにした。
マスタングからは、エドワード・エルリックを頼れと手紙を受け取った。
しかし、エドの居場所や情報を二人は知らなかった。
ならば、優先すべきはなにか。北にいると思われる田村や狡噛たちと合流するか。それとも、音ノ木阪学院へ向かって穂乃果たちへと謝罪するのか。
相談した結果、彼女たちが優先したのは、穂乃果たちへの謝罪だった。
二人は休む間もなく音ノ木坂学院へとその足をすすめた。


この時、もしも彼女達が北上していれば、猛スピードで南下してくるキング・ブラッドレイと遭遇していたのだが、二人がそれを知る由はない。


7 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:14:00 iKglyiJo0


しばらく進んだ時のことだった。


突如、未央の膝ががくりと崩れ落ち、喉を抑えて咳き込みだす。
血が地面を濡らすのを見た卯月は慌てて未央の肩に手を置き呼びかける。
心配そうに顔を覗き込む卯月に対して、未央は微笑みを返す。
だが、医療の知識を持たない卯月でも分かる。
未央が、明らかに無理をしていることなど。
その原因が、自分が傷付けた喉や、切断した耳のせいであることも。

「ごめんなさい、わたし」
「大丈夫。ちょっと立ちくらみしただけだから」

度重なる嘔吐や吐血により顔は血の気が薄くなり、更には全身はボロボロ。
流石に、承太郎やマスタングたちほどではないが、一般人が受けた傷としては、こうして歩けているだけでも奇跡だと言ってもいい。
そんな有り様でなにが大丈夫なのか。

「...少し、休憩しましょう。それと、先に首輪交換所へ向かいましょう。もしかしたら、なにか医療道具が貰えるかも...」

だから、卯月はそう提案する。
これ以上、未央を傷付けさせないために。
これ以上、なにかを失わないように。

「だ、大丈夫だって。こんなのへっちゃら...」
「死んじゃってからじゃ、遅いんですよ」

瞳を涙で潤ませながら訴えかける卯月に、未央は思わず言葉を失った。
彼女はいま、純粋に未央を心配してくれている。
こんな状況だと言うのに、一歩間違えば死に至る環境だというのに。
あの優しい『島村卯月』が戻ってきてくれたことが、これ以上なく嬉しいことだと思えてしまった。
そして、そんな卯月にこうまで懇願されれば、未央に断ることなどできなかった。

「...そうだね、ごめんしまむー。私、また周りが見えてなかったかもしれないね」
「...謝らないでください。悪いのはぜんぶ、わたしなんです」

よろける未央を支えながら、少しだけ南下した後、卯月は小さな家屋へと足を踏み入れる。
中に誰もいないことを慎重に確かめ、卯月は未央を運び入れる。

この家は簡素な二階建てであり、よく見れば地下室も見受けられる。
一階には台所があるのみで、ベッドは二階と地下室にしかない。
卯月はいつ襲撃を受けても逃げられるよう、未央を二階へと運びベッドへ寝かせる。


8 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:15:22 iKglyiJo0

「お水、飲みますか?」
「あー...うん、欲しいかな」

卯月はデイバックからペットボトルを取り出し、未央の口に水を含ませる。
未央が慌てず、ゆっくりとそれを飲み干すのを確認すると、卯月は階段を降り、空になったペットボトルに水を注ぐ。
念のため毒見もするが、味にも身体にも異常は無いことから、正真正銘ただの水道水であることが確認できた。
再び二階にあがり、未央へとペットボトルを手渡す。
受け取ったペットボトルの水を飲み、未央がふうっ、と一息つくのを見届けると、卯月はホッと胸を撫で下ろした。

「助かったよ、ありがとしまむー」

微笑みを浮かべ、卯月への礼を言う未央。
それに答えようとして


『―――ありがとう』


「―――ッ!」


未央の何気ない言葉が、去り際のほむらの言葉と、微笑みと重なり。


『ここを繋ぎ合わせれば...うーん裁縫よりも難しいです』


同時に、己の犯した『罪』のノイズが卯月の脳裏を支配する。
たちまちに罪悪感が、己への嫌悪感が、言い表せない負の感情が湧き上がり、そして。

「―――――ぅ」

嘔吐。
激しく咳き込み、込み上げてきたものを床にぶちまける。
量自体は多くはないが、それでも足りないとでも言うかのように、卯月のえづきは止まらない。

(しまむー...)

苦しげむ卯月に、堪らず未央は手を伸ばす。

(...これで、いいんだよね)

きっと、卯月はあのことを決して忘れないだろう。
きっと、思い出す度にこうやって苦しむのだろう。
でも、それでいい。
自分のやったことを後悔できるのなら、それはちゃんと罪と向き合っている証だ。

(...私も、一緒に背負うから)

だから、いまは必死に生き延びよう。
繋がれた命を大切にしよう。

伸ばした手が卯月に触れそうになったその時。

コンコン、と扉を叩く音がした。


「失礼、私の名はヒースクリフ。殺し合いには乗っていない...少し話をしたいのだが、いいかな?」


9 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:15:59 iKglyiJo0




息を切らしながら、イリヤは街を歩く。
身体に溜まった疲労もさることながら、クロエが与えてくれた魔力も枯れかけている。
そのため、イリヤは飛ぶのを止め、徒歩での移動を余儀なくされていた。

『...イリヤさん』
「...なに」
『少し休憩しましょう。そのままだと』
「わかってる。でも、黒さんに追いつかれちゃいけないから」
『...今からでも遅くありませんよ。ちゃんと謝って』
「謝って許して貰えたらどうするの。それでクロと美遊は生き返らせられるの?」
『それは...』
「今さらイイ子ぶって戻る気なんかないよ」


イリヤの言葉に、ルビーは思わず口をつぐむ。
『戻れない』ではなく『戻る気はない』。
クロエを殺してしまったことで一気に揺らいでいたイリヤの心。
そこに追い打ちをかけるようにキンブリーに諭され、足立の言葉でそれは傾ききってしまった。
例え、黒やヒルダが如何なる手段を用いて説得しようとも。
例え、美遊の仇であるキング・ブラッドレイを討ち取ろうとも。
例え、戸塚と光子、殺された二人がイリヤを許そうとも。

全てを敵に回してでも美遊とクロエを生き返らせるその決意は、誰にも揺らがせることはできないだろう。
それこそ、イリヤが望む二人以外には―――。

「ねえ、ルビー」
『?』
「ここに足跡があるの。これを追っていったら、誰かいるのかな...?」
『...イリヤさん、まさか』
「少しだけ匿ってもらって、余裕ができたら殺すよ」
『そんな!流石にそれは!』

喚こうとするルビーを、無理やりデイバックにねじ込んで黙らせる。
お人好しに付け込み、その隙を突いて殺す。
そうだ。
いまからイリヤがしようとしていることは外道のそれだ。
だが、もう躊躇うことはない。

―――死から目を背けるな、前を見ろ

例え、幾多の屍を積もうとも。
例え、幾多の死者の意思を冒涜しようとも。

己の為に全てを手に入れると、決めてしまったから。


10 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:17:03 iKglyiJo0


ヒースクリフという名をセリューや承太郎から既に聞いていた卯月は、最低限の警戒心を保ちつつも、彼を家に招き入れた。

「あの、どうして私たちがここにいることを...?」
「簡単なことさ。途中まで足跡があって、それを辿ってきただけさ」

軽い挨拶だけ交わすと、未央と卯月はベッドの上で、ヒースクリフは側にある椅子に腰をかけて情報交換に取り掛かった。

「そうだな...まずは、私の方から話そうか」

そうして、ヒースクリフはポツリポツリと話を始める。
エスデスと別れて行動してから、黒(ヘイ)という青年に出会い、その仲間である銀(イン)、そして同行者であった戸塚という少年の仲間の雪ノ下を捜索。
雪ノ下は無事に見つかり、アカメたちに保護させたこと。
しかし、銀という少女はまだ見つかっていないということ。

「彼女を探しているんだが、心当たりはないかい?」
「ごめんなさい」
「そうか...残念だ」

わざとらしく溜め息をつくヒースクリフだが、果たしてその腹にどれだけの落胆を抱えているのか。卯月たちには測ることはできなかった。

「それで、次はきみたちについて教えてくれないかな」

促されるままに、卯月は自らの周りにあったことを語り始める。
セリューのこと。キング・ブラッドレイや足立透のこと。
そして、散っていった者たちのことも。

「―――そうか。まどかは足立に殺され、承太郎は最期まで戦ったのか。共に脱出を誓った同士たちのことを知れてよかったよ。ありがとう」

『―――ありがとう』

「ッ!」

微笑みかけたヒースクリフに反応し、卯月の脳裏に再びノイズが走り、たちまち顔が青ざめる。
その様子に、未央は慌てて卯月の背中に手を当てる。

「...すまない。なにか気に障ってしまったのかな」
「だ、大丈夫です」

治まらない震えに耐えながら、卯月はヒースクリフへと向き合う。

己の冒した罪を告白するために。
決して、目を背けないように。


11 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:18:27 iKglyiJo0

「あ、あの、わたし」

―――人を、殺したんです

そう告白しようとした彼女の言葉。

ドン、ドン

しかしそれは新たな来訪者のドアを叩く音にかき消された。


この中では戦闘経験が豊富であるヒースクリフが真っ先に臨戦態勢に入り、未央たちを庇うように背を任せ、ドアへと向き合う。
声を出さないように、と人差し指を己の口に当てるジェスチャーに、未央と卯月は頷いて指示に従う。

やがて。

ドアを開けてやってきたのは、一人の少女。
息を切らし、ふらふらとおぼつかない足取りでいくらか歩いたかと思えば、ドサリとうつ伏せに倒れ込む。
二階にいるヒースクリフ達に気が付いていないのか、倒れ込んだまま荒い息遣いで喘ぎ続けている。
ヒースクリフと卯月は互いに顔を見合わせ、こくり、と頷き合い、階下へと降りる。

「大丈夫か、きみ」

声をかけるが、反応は無い。いや、反応する余裕がないというべきか。

「なにがあったんだい?よければ話を聞くが...」

ヒースクリフの問いに、少女は答えない。
ただただ、デイバックを抱きかかえ息を荒げるだけだ。

「...だいぶ辛そうだな。よし、とりあえずベッドで安静にさせておこう」

ヒースクリフは、イリヤを抱き上げるとそのまま地下室へとイリヤを運ぶ。

「...?ヒースクリフさん、ベッドは」

上にもあるし、未央ちゃんもいるからそっちの方がいいのでは。そう言いかけた卯月だが、睨むようなヒースクリフの視線に圧されて口を噤む。
ヒースクリフはそのまま地下室のベッドにイリヤを安置。上階へあがると、紙に文字を書きながら言った

「彼女はどうやら疲労が溜まっているようだ。しばらくそっとしておいた方がいいだろう」


『彼女は殺し合いに乗っている可能性がある』


12 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:20:31 iKglyiJo0

「ほ、ほんとうでッ!」

思わず声をあげようとした卯月は、咄嗟に己の手で口を塞ぐ。
ヒースクリフが筆談を要求していることから、万が一にでも知られるべきではない話なのだろう。
それを咄嗟に理解したのだ。

「初対面の人間との会話は、慣れていなければそれだけでも疲労を溜めてしまうからな。いまはなるべく触れない方がいい」

『イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。黒くんから聞いた情報に一致している。同じような容姿の人間がいなければまず間違いなく彼女だ』

「...!」

『ただ、あくまでも精神が不安定というだけで、確実に乗っている訳ではないらしい。しばらくは様子見といったところか』

「わ、わかりました」


イリヤが殺し合いに乗っている可能性がある。
この情報を共有した二人は、ひとまず二階へと上がり、未央とも今後について話し合いをすることにした。


「...どうしましょう」
「彼女が確実に乗っているのなら、対応しやすいのだがね」
「対応ってことは」
「別に殺すとは限らない。ただ、少し手荒な真似も遠慮なく行使できるというだけさ」
「どっちにしても、だよ。どうしてあの子はあんなに疲れてたのかな」
「激しい戦闘に巻き込まれたか、強者に遭遇して返り討ちにされたか...もしかしたら、彼女は何者かに追われていたのかもしれないな。そして、助けを求め、足跡を追ってここまでやってきた、と」
「...もし誰かが追ってきてたら」
「ここに来るかもしれないな」

どうしようか、と未央と卯月は考え込む。
もしも、イリヤが本当に乗っているのだとしたら、今すぐにでも逃げるべきだ。
しかし、イリヤが乗っていない場合、疲弊しきっている彼女をここに置いていくことになる。
そんなことをすれば、再び命が摘まれることになる。
それは嫌だ、という当然の倫理観が、セリューやマスタングから受け継いだ『弱者を護る正義』が、二人の決断を遅らせていた。

「下手にイリヤを刺激するのもよくないとなれば、どうするか」

ヒースクリフが顎に手をやり思案にふけり、三人の中で沈黙が訪れる。
やがて、思案のタネも尽きたのか、顎から手を離し、二人を見まわす。


13 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:21:11 iKglyiJo0

「...とりあえず、いまある支給品を確認しようか。策を考えるのはそれからだ」

互いに支給品の確認をし合う三人。

「私のグリーフシードと眼鏡、そして指輪。君たちは...なんだい、それは」
「これはマスティマっていう道具で、羽根が生えて空を飛べます」
「わたしの帝具は、クローステールです。糸が操れます」
「糸...?」

『糸』の単語に、ヒースクリフが思案にふける表情を浮かべる。

「...それは応用が効きそうだね。よし、こうしよう」

「私は、これから一人で彼女と話し合う。その間、君達は外で見張りをしていてくれ。もしイリヤが乗っていたら、共に逃げ出そう」
「き、危険だよ!もしイリヤちゃんが乗ってたら」
「大丈夫さ。私にはコレがある」

ヒースクリフは、己の着る鎧を指差す。

「これは帝具シャンバラ。使用者をどこか近くに瞬間移動させる道具だ。ただ、燃費が激しく何度も発動できないがね。
それに、私だけが危険なわけじゃない。君達にもそれなりにはリスクがある。...これから彼女を追ってくるかもしれない参加者との交渉だ」

「話が通じる相手ならばいいが、後藤という怪物のような話が一切通じない相手が来るかもしれない。もし、そんな参加者が現れ、気付かれたらすぐに大声を出して私に呼びかけてくれ。そうすれば私もシャンバラで逃げられる」

「な、なるほど...」

「私たちの命運は君達にかかっていると言っても過言ではない。...頼んだよ」

未央と卯月の肩に手を置くヒースクリフに、二人はイリヤに聞こえないような小さな、しかし力強い声を揃えて、ハイと返事をした。

「できればなにもないのが一番だがね...では、互いに健闘を祈ろう」

そうして、二人を送り出すヒースクリフ。
彼の歪んだ微笑みに含まれた思惑に、二人が気づくことはなかった。


14 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:22:11 iKglyiJo0



黒の死神は夜を駆ける。
ただ、己の大切な者を護るために。

(イリヤ...!)

足立とのいざこざにより、その姿は見失ってしまった。
だが、彼女が目指していたのは南。それだけはハッキリとしている。
彼女は、確かに銀を殺すと言っていた。
もう、彼女を止めることはできないだろう。
ならば、なんとしてもイリヤより先に銀を探し出すか―――イリヤを殺す。

南下する道中で、黒は複数の足跡を発見した。
途中でコンクリートに踏み入っているせいで途切れているものの、所々に血が滴っている。
何者かがいた証拠だ。

「......」

イリヤは、派手な出血はしていなかった筈だ。
しかし、もしこの血の主が銀かその同行者のものならば。
そうでなくても、他の参加者がいれば足取りを掴むことができるかもしれない。
ならば、追わない理由はないだろう。

血痕を辿り、街並みを散策する黒。

やがて、血痕は一つの民家の前で途絶え、黒の足も自然とそこで止まる。

それと同時に、黒の視界の端に妙なものを捉える。

(これは...糸?)

あと数歩踏みこめば足がかかる位置に、糸が一直線に敷かれていた。
確実に罠だ。
そして、この罠を跨げば隠されたもう一本にかかる。そんなところだろう。

「...俺に戦意は無い。出てこい」

黒は、物陰に姿を潜めるものに声をかける。
気配を隠しきれていないことから、戦闘慣れしていない者であることはわかったが、下手に近づくのは相手を刺激することになる。
そのまま互いに相手の動きを待つこと数分。やがて痺れを切らした潜伏者は、姿を現した。


15 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:23:07 iKglyiJo0
「あの、私、本田未央っていいます。こっちが島村卯月」

潜伏者の二人、未央と卯月は戦意が無いことを示すために両手を挙げながら黒へと問いかける。

「あなたは...黒さんでいいですか?」
「銀に会ったのか!?」
「い、いや、ヒースクリフさんに聞いて」
「...そうか。それで、奴はいないのか?」
「ヒースクリフさんは、イリヤちゃんと家の中にいます」
「ッ!」

黒は、卯月の言葉を聞いた途端、すぐさまドアへと駆け寄ろうとする。
が、しかし。張り巡らされていた糸に気が付くと、その足を止めて怒鳴りつける。

「早くこれを回収しろ!」
「は、はい!」
「黒さん、イリヤちゃんは...」
「...あいつは、もう殺し合いに乗っている。銀も殺すと宣言していた」

未央と卯月は息をのむ。
イリヤは殺し合いに乗っている。
そんな彼女と、ヒースクリフは一人で対面していることになる。
彼は、瞬間移動ができる帝具を持っていると言っていた。
しかし、それを使う暇もなく殺されていれば...!

卯月が糸を回収し終えるのと同時に。

ガチャリ。

ドアノブを回す音が鳴る。

黒は友切包丁を手に臨戦態勢をとり、卯月と未央は固唾を飲んで状況を見守る。

ギィ、と音が鳴り、扉は開かれる。


その瞬間。

黒は弾けたように跳びかかり―――


「...無事だったのか」

振られた刃は、ヒースクリフの眼前でピタリと止まった。


16 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:24:25 iKglyiJo0

「やあ、黒くん。きみこそ無事でなによりだ」

ヒースクリフの無事に、未央と卯月はほっと胸を撫で下ろす。

「...イリヤはどうした」
「いまのところは無害だが...追手がきみということは」
「ああ。イリヤはゲームに乗っている」
「そうか。...それは残念だ」

黒は、ヒースクリフと話し合いをするため、ひとまず友切包丁をおろす。
が、しかし。
それとは対照的に、彼は剣を抜いた。

「きみはイリヤへの対処を頼むよ」
「ヒースクリフ...?」
「私はやるべきことができた」

そう言うなり、彼はツカツカと少女たちに歩み寄り。



「―――え」


―――ヒュン


一閃。


一筋の光が卯月の頬を切裂き、血を滲ませた。


17 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:26:04 iKglyiJo0


「...どういうつもりだ」


黒がヒースクリフを睨みながら問う。
黒は、ヒースクリフが剣を突き出すため引いた腕に手刀を当て、その剣先をずらした。
もし、黒がずらしていなければ、間違いなく彼は卯月の脳天を貫いていただろう。

「...危うく騙されるところだったよ。この悪魔にね」

そう呟くヒースクリフの眼に宿るのは、完全なる敵意。
その対象は、島村卯月。

「え...」
「なにを言ってるの、ヒースクリフさん」
「きみは知らないようだね。この女の、おぞましい残虐性を」
「...どういうことだ、ヒースクリフ」
「これを見ればわかるよ」

ヒースクリフはデイバックに手を入れ、中にあるモノを取り出す。
その取り出されたモノに、黒は目を見張る。

「これは...!?」

それは、少女の"練習"の成果だった。

「ッ...!」

純然たる悪意の塊だった。

「見るんだ、黒くん、未央。これがこの女の本性だ」

少女の犯した消せない罪だった。

「あ、ああ、い、ゃああぁぁあああぁああ、あぁ、あ」

再び『罪』を眼前に晒された卯月は、全身を震わせ、声にならない悲鳴をあげて蹲る。



『―――ちょっとかたい―――』

『思ったよりも―――って硬いんですね』

『ここを繋ぎ合わせれば……うーん裁縫よりも難しいです』



ノイズは、やがて鮮明な声に変わり、卯月の脳内を蝕んでいく。


そうだ。これは私がやったんだ。


全部、わたしの所為だ。


わたしの...


18 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:27:05 iKglyiJo0

「どうだい、黒くん。これを見れば一目瞭然だろう」
「...こいつらは誰なんだ。あんたの知り合いか?」
「一人は私の同志で、もう一人はその友人だ」
「...そうか」

それきり、黒は彼を止めようとしなかった。
当然だ。首輪の回収ならいざ知らず、仲間の骸をこんな目に遭わせられて怒らない人間などいない。
例え、死んでから遺体をこうしたのだとしても、もし銀や黄、猫がこんなことをされれば、ヒースクリフと同じく、いや、それ以上の怒りをもって卯月を殺しただろう。
だから、黒はヒースクリフを止める言葉などかけることはできなかった。

―――尤もそれは、ヒースクリフの言葉が彼の本心だった場合の話だ。

黒は今まで数多くの契約者を、その感情の乏しい合理的で冷たい目を何度も見てきた。
いま、黒がヒースクリフの目から感じているのはそれに近い。
表情は怒りの色を浮かべているが、その目は決して感情的にはなっていない。
黒の眼には、ヒースクリフが怒りの面を被っているようにしか見えなかった。
だが、わざわざこんなことをする以上、意味はあるのだろう。
それこそ、島村卯月という少女の本性を調べるため―――などだろうか。
だから、黒はヒースクリフを止める言葉をかけずに、この顛末を見守ることにした。


「し、しまむーはもうこんなことしません!」

震える卯月と、睨みつけるヒースクリフの間に、未央が割って入る。
このままではいけない。誤解を解こうと。

「その保証はどこにある」
「ほ、保証って」
「先に断っておくが、『私たちを信じて』などという妄言は聞くつもりはないよ。私と君たちが出会ってからさほど時間も経っていないしね」
「うっ...」
「それとも、きみも共犯なのかな?ならば、なぜこんなことをしたのか詳しく聞かせてもらおうか」

ヒースクリフの追求に、未央は言葉を詰まらせてしまう。
反論できない。
まどかとほむらの遺体をこうしたのも。
衣服を剥いで着用しているのも。
その上でこうして生きているのも。

その行為の全てが他者から見れば嫌悪を抱くものだろう。

でも、それでも。

「...お願いです」

未央は、卯月に生きてほしい。

「しまむーには、償うために生きてほしいんです」

償って。償って。償って。

その途中で。
どれだけ罪に苛まれてもいい。
どれだけ苦しんでもいい。

それでも、友達として卯月には生きてほしい。

その我が侭だけは、どうしても譲れなかった。


19 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:28:33 iKglyiJo0


「許さなくてもいい。お願いです。しまむーの命だけは...!」
「未央ちゃん。もう、いいの」

必死に懇願する未央だったが、しかし卯月はそれを止める。

「これはわたしのやったことだから...わたしが向き合わなくちゃ」
「しまむー...」

全身を、声を震わせながら立ち上がり、突き出された剣と正面から向き合う。
未央の目から見てもわかる。
彼女が恐怖を抱きながらも、それでも必死に抗おうとしていることが。
ならば、止めるべきではないのだろう。卯月の望み通りに向き合わせるべきだろう。
そうして未央は躊躇いつつもその身を引いた。

「ヒースクリフさん。まどかちゃんとほむらちゃんをこうしたのはわたしです」

「それだけじゃありません。わたしは、西木野真姫という子も殺してしまいました」

「...!」

予想外の名前に、黒が目を見張る。
西木野真姫。
音ノ木坂学院で別れた高坂穂乃果の友人の名だ。

「言い訳なんてしません。わたしが信用できなければ、殺してもらっても構いません」

「でも、お願いです。どうか未央ちゃんだけは...助けてあげてください」

そして、卯月は深々と頭をさげる。
ポタリ、ポタリと卯月の目から雫が落ちる。
やはり、死ぬのは怖い。
例え覚悟を決めようとも、南ことりの、由比ヶ浜結衣の無残な姿が脳裏に焼き付いて離れない。
それでも。
卯月はその恐怖と同じくらい、いやそれ以上に未央に生きて欲しかった。
ニュージェネレーションズ最後の仲間であり、こんな自分を見捨てなかった彼女に死んでほしくなかった。
だから、多くは望まない。ただ、未央だけは助けてほしかった。


20 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:29:52 iKglyiJo0
「しまむー...」
「......」

ヒースクリフの剣はおろされない。

頭をさげ続ける卯月。
剣を突き付けるヒースクリフ。
不安げな表情で顛末を見届ける未央。
ただ状況を静観する黒。

沈黙が空気を支配し、数分が経った後、やがて口火をきったのは黒だった。

「...もういいだろ、ヒースクリフ」
「もういい、とは?まさかこの程度で彼女を信用しろと?」
「ヒースクリフ、俺たちは、こいつらはなんだ。絶対に失敗を侵さない機械か歯車か?確かにこいつは道を踏み外した。だが、それはこんな状況にいるからで、誰でもあり得たことだ。こいつが特別なわけじゃない」
「......」
「踏み外した道を戻ろうとする意思があるなら、こいつへの判断を下すのは俺たちじゃない。違うか?」

もしも、償いをしようとする卯月をそれでも"悪"と糾弾するのなら、それをすべきは彼らではない。
完全な部外者であり、己も多くの人間を手にかけてきた黒でも。同志の凄惨な遺体を目前にしても、感情的な目になれないヒースクリフでもなく。
それこそ、西木野真姫の友である高坂穂乃果や小泉花陽、それに遺体を辱められた【二人】の友の役目だろう。

睨む視線をぶつけ合い、やがて先に折れたのはヒースクリフだった。

「...ここで手を出せば、悪者は私だな」

彼は、はぁとひとつ溜め息をつき、突き出していた剣をついに下ろした。

「わかった。この場はひとまずおあずけだな」
「あ、ありがとうございます!」
「勘違いしないでほしいが、私は君たちを信用している訳ではない。なぜこうなったのか、詳しく聞かせてもらおうか」
「は、はい」

どうにか事態が収束したことに、黒はぽつりと息を吐く。

(―――さて)

彼らの問題が解決した後は、自分の番だ。
黒は、ヒースクリフを牽制しつつも、片時も室内から気を逸らさなかった。
イリヤ。彼女がここにいる以上、決着は着けなければならない。
全てが手遅れになる前に、ここで、イリヤを殺す。
これは自分だけの問題だ。彼らを巻き込むわけにはいかない。

「...ヒースクリフ。お前は」

そいつらを連れて目的地へと向かえ。
そう指示を出そうとしたその時だ。







「やっぱり来たんだね、黒さん」


21 : 漆黒の花 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:30:53 iKglyiJo0



それは突然だった。

魔法少女の姿をしたイリヤが地下室から飛び出し、黒たちへ向かってなにかを投げつける。

「避けろッ!」

投げつけられたそれに真っ先に反応したのは、常にイリヤの動向に注意を向けていた黒。
それが何かは解らないが、この状況で使う物だ。ロクなものではない―――それこそ、爆弾かなにかだろうか。
黒は咄嗟に近くの木にワイヤーを打ち込み傍に居た未央を回収し、ヒースクリフもまた盾を構えながら卯月を庇うように距離をとる。
そんな刹那の瞬間の中、それでも黒は投げられたモノを正確に視界に捉えていた。

電気スタンド型のそれとの距離はまだ遠い。
仮に爆弾だとしても、多少なりとも怪我は負うかもしれないが、被害は少ないはず―――


が、しかし。

(なにっ!?)

投げつけられたモノは、突如速度を増して四人へと襲い掛かる。
イリヤがソレを破壊しない程度の威力の光弾を放ち、勢いに乗せたのだ。

そして、地下に潜ればいいイリヤとは違い、四人はそれを避ける術を持たず。





閃光と爆風が、周囲を包み込んだ。


22 : ミツボシ☆☆☆ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:32:18 iKglyiJo0



「うっ...」

脳髄を掻き回されるような吐き気と共に未央は起こされた。
なにがどうなったのかさっぱりわからない。
わかったのは、黒が何かから庇ってくれたということだけだ。

「しま、むー、へいさ、ん、ひーすさん...みんな、どこ?」

元から痛めていた喉だったが、爆風による熱でやられてしまったようで、もはや声として成り立っているかも怪しいほどに掠れていた。

「ぁぐっ...!」

激痛。
右耳を切断された時よりも更に耐えがたい痛みが、未央の脚を襲う。
何事かと目を向ければ、そこにあったのは筆舌にし難いものだった。
爆風により皮はほとんど剥がれかけ、更には爆弾の破片がところどころに突き刺さり、とめどなく血が溢れている。

「――――――――!!」

未央は声にならない絶叫をあげた。
激痛に涙がとめどなく溢れてしまう。
当然だ。
これは気合や根性でどうにかなるものではない。
よくて半身不随、最悪死に至るものだ。

だが、それでも。

(さがさ、なくちゃ)

それでも、未央は諦めなかった。


『生きろ』

『君達は生きてくれ―――それが私の願いだ』


二人の男の顔が、最期の言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。
それを支えにして、どれほど不様な姿でも諦めることはしなかった。
ただただ、皆で生き抜くために、いまは前だけを向いていた。


23 : ミツボシ☆☆☆ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:34:03 iKglyiJo0

「ます...ティマ!」

盾から生えた翼が、未央の身体を僅かに浮かばせる。
これならいくら脚が傷ついていようとも動くことができる。
できればもっと上空から探したいところだが、いまの疲労を考えればそれだけで体力は底を尽きるだろうし、イリヤに見つかって撃ち落とされる危険もある。
ならば、地道でも着実に捜索すべきだろう。
幸い、爆弾による二次被害でところどころに火が点いており、全域とは言わずとも、探索が不自由にならない程度には周囲が見渡せた。


やがて、未央は横たわる人影―――島村卯月を発見。
未央はすぐに卯月のもとへと飛び、容態を確認する。

「しまむー、しまむー!」

ほとんど掠れてしまって大声が出せないが、それでも必死に呼びかける。
しかし、卯月は目を覚まさない。

(お、おちつけ...こういう時は、あまり揺らしちゃダメなんだよね)

うろ覚えではあるが、そんな応急処置知識で卯月の容態を確認する。
身体は、自分程は傷ついてはいないし、呼吸もしている。
おそらく打ち所が悪かったのだろう。
だが、こうして生きていてくれたことに、痛みとは別の涙が溢れてくる。

(..泣いてる場合じゃない。黒さんとヒースクリフさんを探さないと)

未央と卯月が爆風に煽られながらもこうして生きているのは、あの二人が庇ってくれたからに他ならない。
ならば、必ず見つけ出す。
きっとこの辺りにいるはずだ、と考え、未央は改めて周囲を見まわす。


―――それは、偶然だった。


彼女は、偶然視認できる距離にいた。
彼女は、偶然小火の近くにいた。

その偶然が重なって―――今まさに光弾を放とうとしていたイリヤと未央の目が、合った。


24 : ミツボシ☆☆☆ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:35:06 iKglyiJo0
「―――!」

逃げなきゃ。
直感した未央が、卯月を抱えて飛び立とうとするが、もう遅い。

二人を飲みこむには充分なほどの光弾が放たれる。

(そんな...)

ここに来てから、大勢の人に支えられてきた。

自分の身を削って戦ってくれた人たちがいた。

皆を助けるために、絶対に敵わない相手に立ち向かった人がいた。

アイドルを目指す者として励ましてくれた人がいた。

別れ際まで身を案じてくれた人がいた。

その死の間際に生きろと言ってくれた人がいた。

自分の感情を抑えて猶予を与えてくれた人がいた。

生きてくれと身体を張って逃がしてくれた人がいた。

大勢の人が生かしてくれたからこそ、こうして自分達は生き延びてこられた。

なのに、こんなにあっさりと終わってしまうのか。

彼らの託してくれた想いを、命を無駄にしてしまうのか。

(いやだ...)

間もなく、光弾は二人を包み込み、容赦なく命を刈り取るだろう。
それは、いくら泣こうが喚こうが決して覆すことのできない運命。
誰にでも訪れる容赦ない『死』という現実。

(いやだ!)


未央は、咄嗟に卯月を抱きしめた。
それは、なんの打算も無い、純粋な気持ち。
『卯月を守りたい』。そんな、ただ一つの揺るぎない想いだった。

現実は残酷だ。
未央はただのアイドルの一人であり、この殺し合いの中でも弱者の部類だ。
そんな彼女に、光弾を五体満足で防ぐ術などない。


25 : ミツボシ☆☆☆ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:35:53 iKglyiJo0
―――だが、奇跡というものは、いつだって起こり得るものだ。



かつて、とある農村に心優しい青年がいた。
彼は、笑顔溢れる子供たちに囲まれて、一人の教師として平穏な日々を送っていた。
しかし、そんな日々は突如奪われた。
子供たちは理不尽に殺され、しかしその罪を告発することは許されず。
喪った子供たちは"無かった"ことにされ、仇をとることもできなかった。
だから、彼は力を欲した。
こんなことが許される国を変えるため、そして二度と同じ悲劇を繰り返させないために。



かつて、気弱で病弱な少女がいた。
少女は、いつだって独りぼっちだった。勉強も、運動もなにも出来なくて。友達だって一人もいなかった。
けれど、そんな彼女にも手を差し伸べてくれる人がいた。笑顔を向けてくれる人がいた。
少女は、その人とずっと一緒にいたいと思っていた。
しかし、そんな淡い想いは突如壊された。
少女の慕った人は、みんなを守るためにと命を落とし、誰にも知られることなく死んだ。
少女は認められなかった。なぜ心優しい彼女が死ななければならないのか、こんな現実を認めなければならないというのか。
だから、彼女は力を欲した。
こんな理不尽で残酷な現実を変えるため、そして二度と彼女を死なせないために。



帝具、万里飛翔マスティマ。
それは、青年の想いに触れ続け、この会場に来てからは少女の想いに触れ続けてきた。
期せずして、それらに触れたマスティマは、帝具特有の拒絶反応を示さなかった。
ずっと彼らの想いに応えてきた。

だから、今回もそれと同じだ。

『他者を護りたい』。
その想いがあれば、マスティマはいつだって力を貸してくれる。
理不尽な現実を打ち壊してくれる―――そのための羽根が、ある。



光弾が着弾する寸前、マスティマが光り輝き翼を形成する。
普段の白翼ではなく、文字通り光の翼を。
それは、マスティマの奥の手―――『神の翼』。
全てを跳ね返すそれを侵すことは、何者にもできはしない。
光の翼は、未央たちを包み込み、光弾を跳ね返す。
その矛先は―――光弾を放った主、イリヤ。
あまりの突然の事態に、イリヤは驚愕の表情のまま光弾に飲みこまれた。


26 : ミツボシ☆☆☆ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:37:11 iKglyiJo0

「あ、あれ...?」

思わぬ出来事に、未央は気の抜けた言葉を漏らす。
なにが起きたのか全く分からない。
先程までイリヤの居た場所には、もう何者も残っていない。
わかったことはひとつ。
未央と卯月は、生きているということだけだ。

「うっ...」
「しまむー!」

卯月が目を覚ますのを見て、未央の顔が思わず綻ぶ。
無事でよかった。それ以外の言葉がいるものか。


「あれ...わたし...」
「気を失ってたんだよ。はやく黒さんたちを探さないと」

なぜ、自分たちが助かったのかは、正直いってわけがわからなかったが、これは好機だ。
未央は、目を覚ました卯月を抱えて黒たちの捜索を始めようとする。

―――しかし、奇跡を起こすには必ず代償がついてまわるものだ。

「ぁ...?」

ごぷり、と口から大量の血が溢れだし、同時に全身の皮膚が裂けて血が霧状に宙に四散する。
全身から力が抜け、未央の身体はバシャリ、と己の出した血だまりの中に倒れ伏した。

「未央ちゃん!?」
「―――――――」
(おかしいな。こえが全然でないや。からだも、ぜんぜんうごかないし)

無償で起こせる奇跡などたかが知れている。
死をも拒絶するほどの奇跡を起こすのなら、それ相応の代償が必要だ。
大した訓練も積んでおらず、マスティマとの相性が抜群とは言えなかった彼女が払った代償は、己の持つ生命エネルギーの大部分。
その結果、未央の身体は張り裂け、内臓に至るまで全てが破壊されてしまったのだ。

「大丈夫未央ちゃん!?」

卯月が必死に声をかけるも、未央の返事はない。
卯月はどうにか止血できないかと、慌てて自身のデイバックを漁るが、使えそうなものはない。
すぐに未央の支給品を探り―――見つけたのは、二つの首輪。

(これを交換すれば、もしかしたら...!)

現在の正確な場所はわからないが、おそらく交換所のある闘技場との距離はさほど遠くはないはず。
それまで未央の命がもつかはわからない。


27 : ミツボシ☆☆☆ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:38:02 iKglyiJo0

「ッ...黒さん、ヒースクリフさん!」

周囲に呼びかけるが、彼らの姿は見えない。
爆発から自分達を護ったのだ。もしかしたら、未央と同じように身動きすらとれないのかもしれない。

ならば―――

(私が―――助けなくちゃ)

卯月が選んだのは、首輪交換所へ向かい、医療道具を手に入れること。
本来なら一人で向かうべきなのだが、もしここに未央を置いていけば、イリヤに殺される可能性は高い。
黒やヒースクリフも助けたいが、探している内に手遅れになってしまうのは最悪のパターンだ。
そうなる前に、一か八か命を繋ぐ医療品が出ることに賭ける。
かつてやったようにクローステールで跳びまわり移動する。
そうすれば、少なくとも普通に走るよりは早く辿りつけるはずだ。
卯月は、未央の身体を背負い、クローステールを近くの木々に打ち込んだ。

―――重い。

人間一人を運んで移動する、それ以上の重さを卯月は実感している。
いま、この背に背負っているのは、未央の生命そのものだ。
しくじれば、未央は死ぬ。
それでも、卯月は未央を手放しはしない。
『未央を助けたい』―――ただ、その一心が、彼女の身体を突き動かしていた。

「ッ!」

ぐらり、と視界が揺らぐ。
脳震盪で気絶していた所為で、急な運動に脳がついてこれなかったのだ。
幸い、地面との距離はさほどないため、クローステールを身体に巻いている卯月にはさほどダメージはない。
だが、未央は別だ。このまま地面に叩き付けられれば、ひとたまりもないだろう。
卯月は、未央を抱きしめつつ、己の身体を半回転させ、顔面から地面に衝突する。
自分を下敷きにして未央への衝撃を可能な限り減らしたのだ。

(...痛い)

いまの自分の顔を鏡で見れば、到底アイドルとして華やかなステージに出られるようなものではないだろう。
それがどうした。
先刻の、右耳を切裂かれながらも放ってくれた未央の頭突きは、もっと痛かった。
跳ぶのが駄目なら、走っていく。走るのもダメなら、這ってでも辿りついてみせる。


(絶対に、死なせないから...!)

抱えては未央の血で滑って落としかけて。
背負っては未央の上体がぐらりと、崩れ落ちそうになって。
その度に、未央の身体を庇って卯月の身体は傷ついていく。


...もしも、デイバックの中に未央を入れて運べば、いち早く首輪交換所へと辿りつけただろう。
だが、卯月にはそれが出来なかった。
現状の整理だけで頭が一杯で、そこまで思考が廻らなかった。それもあるかもしれない。
いや―――もしかしたら、卯月は心のどこかで既に気付いていたのかもしれない。
首輪交換所まで、未央の命がもたないこと。
どうあがいても、本田未央は間もなく死ぬということに。



それでも。
大切な人を絶対に助けたい。
大切な人の最期を見届けたい。


この矛盾する両者を求めることは、罪なのだろうか。


28 : ミツボシ☆☆☆ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:40:00 iKglyiJo0



(...死ぬんだね、私)

視界はぼやけ、全身が冷たくなって、もはや痛みさえ感じなくなってきた。
それでも、わかる。
しまむーはまだ諦めていない。

傷ついて。
泥にまみれて。
顔をぐしゃぐしゃにして。

それでも、しまむーは必死に私を助けようと頑張っている。

(...これで終わりなんて、やだなぁ)

ようやくしまむーの本当の気持ちに気付くことが出来て。
ようやくお互いに解りあえて。
ようやく、肩を並べて隣に立てたのに。

これ以上側にいれないことが本当に申し訳なくて、でもこれほど大切に想ってくれることが妙に嬉しくて。
そんな複雑な気持ちで胸が一杯になる。


それだけじゃない。


(黒さん、ヒースクリフさん、鳴上くん、狡噛さん、タスクくん、ウェイブさん、泉くん、かよっち、アカメさん、雪乃ちゃん、田村さん...みんなは無事かな)

感謝をしたい人たちはいっぱいいる。

(承太郎さん、マスタングさん...それに、セリューさんも。みんなが繋いでくれた命も...ここまでみたい)

謝りたい人たちもいっぱいいる。

...心残りが多すぎるよ、ホント。

「...ねぇ、しまむー」

でも、いくら惜しがっても残された時間は待ってくれない。
両親や学校のみんな、プロデューサーにみくにゃんに346プロのみんな、そしてしぶりんの顔が浮かんでくる。

...辛くて苦しいこともあったけど、あのアイドルとしての日々をみんなとおくれて本当に楽しかった。

(みんなと、しまむーに会えて本当によかった)

最後に、しまむーに、『ありがとう』と『ごめんね』を伝えるため。
残る力を振り絞って、私は口を開いた。







最後に見たのは、喉を貫く銀色の刃だった。


29 : ミツボシ☆☆☆ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:40:57 iKglyiJo0


刀が、卯月の頬を掠めて突き出される。
僅かに遅れて、ドン、と何かがぶつかるような衝撃と共に、卯月と未央の身体が地面に投げ出される。

「...お姉さんって、ズルイね」

振り返ると、誰かの血で刀を濡らし、息を切らしながらこちらを見下しているイリヤが立っていた。

「自分はこんなことをしておいて、他の人が許してくれたらそれで全部済ませちゃうんだ」

イリヤが、無造作になにかを投げ捨てる。
ごろり、と地面に転がるソレと、卯月の目が合う。


―――死から目を背けるな、前を見ろ

キンブリーの言葉が、イリヤの頭の中をリフレインする。

「私はこの人たちを知らないよ。でも、この人たちはロクに知らないあなたにこんなことをされたんだよ」

『ぅ…あ……!』

呻く真姫の声が、その苦悶の表情が、卯月の脳裏をよぎる。


―――貴方が殺す人々のその姿を正面から見ろ


「私は、あなたが何人殺したかなんて知らない。でも、これだけはわかるよ」


『やっぱり、μ'sの、高坂穂乃果の手先というだけでもう手遅れだったんですね。このまま放置しておくと、きっとあなたもことりちゃんのように間違いを犯す。だから、その前に殺してあげます』


『うーん、ちょっと硬いかなあ』

『思ったよりも骨って硬いんですね……硬いから骨か』

『ここを繋ぎ合わせれば……うーん裁縫よりも難しいです』


今までの行いの、笑みを浮かべて犯した罪の数々が呼び起こされる。



―――そして忘れるな、忘れるな、忘れるな



「あなたの事情なんて知ったことじゃない」



『ぐちゃぐちゃして気持ち悪い――ごめんなさい』

『何度もぐちゃぐちゃにしてごめんなさい』


まるで、私たちを忘れるなと言わんばかりに。
絶対に、お前を許さないとでも訴えかけるように。


―――奴らも、そして私も、貴方の事を忘れない


「あなたに殺された人たちは、あなたが真っ当な道に進むことなんて望んでないんだよ」


イリヤと、【彼女たち】の虚ろな目が、卯月をじっと見据えていた。


30 : ミツボシ☆☆☆ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:41:51 iKglyiJo0


静寂が訪れる。
卯月も。
イリヤも。
生者は誰も口を開かない。

ただ、そよ風だけが僅かに草木を揺らすだけだ。


やがて、動き出す影がひとつ。
それは、卯月の傍らにそっと立ちあがる。

「未央ちゃ...」

名前を呼びかけて、異変に気付く。
未央の喉元には、大きな切れ目があった。
歪んだ裂け目から僅かに内側の肉が覗いていた。
そこから血が滴り流れていた。

なにより―――彼女の目には、光が灯っていなかった。

「みお...ちゃん」

どうして。
なんで。
いやだ。
そんな感傷ばかりが卯月の脳内を支配する。

「これは置いていくよ。わたしには、味方なんていらないから」

イリヤが刀とひとつの首輪を置いて立ち去るのと同時。
未央の身体ががくり、と崩れ落ちて卯月の身体に覆いかぶさる。
彼女の身体を抱きしめ、触れて。
本田未央は、二度と笑ってくれないことを理解した時。


「―――――――――」


卯月の叫びが、虚しく響き渡った。


31 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:44:07 iKglyiJo0



己の放った光弾にのまれたイリヤは、生きていた。

エドワードたちに放ったものと比べて威力が劣っていたのもあるが、比較的距離が空いていたのも幸運だった。

『WRYYYYYYY!!!』

光弾を放った直後だったイリヤは脱力して動けなかったが、代わりに僅かに自由を得たルビーがイリヤと光弾の間に割って入り、イリヤへの直撃を防いだ。
ルビーと光弾の衝突の衝撃を受けたイリヤは、爆発の余波で身体を痛めつけられ、地面を転がされる。

「あ、ありがとう、ルビー」

幾分かは身体を焼かれたが、まだルビー共々生きている。
元来より頑丈なカレイドステッキであったが、DIOの吸血鬼の血を取り入れたことにより微弱ながら強度も上がっていたため、イリヤの即死を防ぐことができたのだ。


―――しかし。


『...イリヤさん』
「...なに?」

ピシリ、とルビーの柄にヒビが入る。ここまで酷使し続けたツケに耐えきることはできず、徐々にルビーの身体が崩壊していく。


『いまだから告白しますけどね、私がイリヤさんを選んだ理由は、面白そうだからってだけなんですよ』
「......」
『だってイマドキ魔法少女に憧れててお兄さんに恋してなろりっこ、なかなかみつかるものじゃありませんよ』

ヒビは、柄から先端にまで走っていく。
イリヤに、それを止めることはできない。


『いや〜、楽しかったですねぇ。お兄さんのアレを見ちゃって鼻血まで出して興奮ちゃうわ、メイド服着た美遊さんに欲情するわ、お兄さんに密着するクロさんに嫉妬して自分にマジビンタして面白健気に頑張るわ。
理想の姉とやらを目指して妙ちくりんなことしてた時なんか傑作でしたよ。ほんと、見てて飽きない人でしたよイリヤさんは』
「...ルビー」

呑気な声で語るルビーを、イリヤは強く握りしめる。
そして、震える声で言った。


「迷惑ばっかりかけてごめんね」
『...なんで、優しくしてくれるんですか。悪いのは、全部私なのに』


32 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:45:42 iKglyiJo0

ルビーは、この殺し合いにおいてもずっとイリヤの傍にいた。
なのに、なにもできなかった。


戸塚を殺させ、クロエを殺させ、キンブリーに諭させ、DIOに洗脳させ、足立に煽らせて。
その結果がこの様だ。
結局、ルビーは、何一つできやしなかった。

「そうじゃないよ。悪いのは、わたし。全部わたしなの。わたしが弱かったから」
『イリヤさん...』
「ルビーだって、わたしの大切な仲間なのに酷いこと言っちゃった」


―――ルビーは私の何だっていうの?ただの道具じゃない!美遊とクロを生き返らせることができるの?できないでしょ!何もできないくせに私のやることにいちいち口を出さないで!

イリヤが思い出すのは、キンブリーを殺した直後の言葉。


「ルビーがいたから、凛さんに、美遊に、ルヴィアさんに、クロに会えたのに、わたし、ルビーをただの道具だって...」


全ての始まりはルビーだった。
いきなりお風呂場に流れ落ちて来たと思えば、ほとんど強制的に契約させられて、凛さんのカードの回収を手伝わされることになって。
そこからイリヤの混沌とした日常と戦いは始まった。
恐いことや苦しいこと、辛いことはたくさんあったけれど、それでも美遊たちに会えて本当によかったと思ってる。
なのに。


―――いい、ルビー? 今度何か私に口を出したら――ここから放り投げるからね


言ってしまった。考え無しに、感情の赴くままの言葉でルビーを傷付けてしまった。


「嫌だよ...クロも美遊もサファイアもルビーも。みんな諦めたくないよ!ずっと一緒にいてほしいよ!」
『...そう言ってくれるだけでも、私は幸せ者ですよ』

ついには先端の五芒星にまで亀裂が入り。

「いかないで...!」
『最期に仲直りができて―――本当に、よかった』


ルビーは、優しく、満足げな声を漏らして、そして。

パリン、と音を立てて砕け散り。
カレイドステッキ・マジカルルビーはその生命を止めた。

「るびぃ...!」

ルビーの残骸を抱きしめ、イリヤは咽び泣く。
死んだ。
また、イリヤの大切な者が目の前で死んだ。

「...少しだけ...まってて。絶対に、ルビーも、生き返らせるから...」

涙を拭い、イリヤは再び立ち上がる。
例え、誰にも望まれていなくても、イリヤは全てを取り戻す。
他ならぬ、自分のためだけに。


33 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:46:46 iKglyiJo0

そんな折だ。
視界の端で、卯月が未央を運び出そうとしている姿がうつる。
どこへ向かうか知らないが、彼女は何度傷つこうが、何度不様に転げまわろうが、決して未央を見捨てようとしない。

「...なんで」

ぽつり、とイリヤの口から言葉が漏れる。

もしも、美遊やクロエが目の前で死にかけていたら。
イリヤも卯月のように、必死に足掻いていただろう。
そして、彼女たちが死んでもそのことを悔やんで、目いっぱい悲しんで、それでも前へと進むのだろう。
いまのイリヤが選ばなかった、光の照らす道を歩むのだろう。


―――同じ殺人鬼なのに、なんであの人とこんなに違うんだろう。


だから、あの卯月の姿が眩しくて。羨ましくて。憎たらしくて。

自然と、彼女の後を追っていた。
その途中で、彼女の罪の痕を見つけた。

魔が差した、とでもいえばいいのだろうか。
気が付けば、彼女の"罪"をデイバックに詰め込み、代わりに一振りの刀を取り出していた。
破れたデイバックの底から、ポロリ、と首輪が幾つか零れ落ちるが、イリヤはそのことに気付かない。


許せない。許せない。...許さない。

黒い感情の赴くまま、イリヤは駆けだし、そして―――


34 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:47:53 iKglyiJo0



(...なにやってるんだろう、わたし)

勝手に卯月に嫉妬して。
八つ当たりでもするかのように、キンブリーの言葉を傘に彼女を責めたて、尚且つ見逃して。

―――全部自分の為だろ。正当化して美化するなよ、気持ち悪い

―――言ってやればいいじゃない。この娘は自分の境遇に酔ってるだけの、ただの殺人鬼だってさ!

足立の言った通りだ。
いまのイリヤは、自分勝手に他者を振り回して悦に入っているだけの殺人鬼だ。

(...でも、構わない。例えどれだけ汚れても、わたしは...)



ふらふらと、覚束ない足取りでイリヤは歩く。
いまどこにいるのか、自分がどこを目指しているのかすらわからない。
それでも、イリヤは諦めない。
例え、美遊とクロエ、ルビーやサファイアがいなくなろうとも。
彼らを、全てを勝ち取るために、前へ進み続ける。

あてもなく辿りついた場所は、ひとつの民家。
伸しかかるように扉を開け、前のめりに倒れ伏す。

(あれ...この臭い...)

鼻腔をつく鉄の臭いに、イリヤは弱冠の嫌悪感を表に出す。
言葉に出さなくともわかる。
これは、血だ。血の臭いだ。

疲れ切っている身体をどうにか起こして、それの出所を確認する。
ほどなくしてそれは見つかった。

「...戸塚、さん」


戸塚の横顔が不意に脳裏によぎる。
もしも。
もしもあの時、ちゃんと彼の死に向き合えていたら。
もしもあの時、ちゃんと自分の犯した罪と向き合えていたなら。
少なくともクロエを殺すことなどなかったはずだ。
イリヤの心境がそんな後悔に包まれる。


自分はいつもそうだ。
考え無しに言ってはいけない言葉を吐いて。
肝心な時に逃げ出してしまって。
その結果、大切な者を傷付けてしまう。

「でも、もう言い訳はしないって決めたから」

例え、今まで犯した殺戮の全てが、DIOに、キンブリーに、足立に、ヒースクリフに扇動されたことだとしても。
選んだのは自分だ。
脚を止めれば、道を戻れば―――全てが無駄になる。
だから、止まれない。止めるつもりもない。



ギィ、と扉を開ける音がする。

イリヤは、慌てて振り向き来訪者の姿を確認する。


「ここにいたのか、イリヤ」


35 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:48:50 iKglyiJo0

来訪者は、黒だった。



「...生きてたんだね、黒さん」
「......」

黒は、未央を庇う際に能力を発動し、コートを防弾化していた。
それにより幾分かのダメージは免れたものの、顔の右半分にも火傷を負ってしまう。
更に、ワイヤーで引っ張られている張本人だったこともあり、その身体は爆風でより遠くへと吹き飛ばされてしまった。
イリヤを探し出すのに時間がかかってしまったのはそのためだ。



「それで、どうするの?まだわたしを止めてみる?」

銀を殺すと宣告した時のように薄ら笑いを浮かべるイリヤ。
そんな彼女に対して、黒は。

「...俺は、銀を護りたい」

答えなど考えるまでもない。
そう言わんばかりに、傷のついた仮面を被り、宣言する。

「だから―――お前を殺す」

宣言と同時に黒は駆けだし、イリヤとの距離を詰める。

(本当に、容赦なく殺しに来るんだね)

そうでなくてはいけない。

イリヤは戦いが好きなわけではない。
しかし、強くなるためには、本気になった彼を殺せなければならない。
黒を殺し、美遊の仇を殺し、全てを殺し、望みを叶える。
例え、味方が誰一人いなくても。
この望みを叶えるまでは死ぬわけにはいかない。


36 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:49:43 iKglyiJo0

「ッ!?」

突如、バサリ、と黒へ向かってなにかが投げられる。

(服...!?)

投げつけられたソレに、黒の視界は塞がれてしまう。

(光弾か!)

黒は幾度も自身を襲った技を直感する。
視界を塞ぎ、光弾で殺す。
この場を制するための咄嗟の思いつきとしては効果的このうえない。
黒は、すぐに己の身を包もうと迫る服を切裂こうとして、包丁を握る右手を左の鎖骨付近まで構えて。

(―――イリヤは、転身をしていない)

イリヤは光弾を放つ際、常にその衣装を変えていた。
しかし、イリヤは転身をしていない。
魔力の温存なのだろうか、理由までは解らない。
だが、その違和感が黒の右手の包丁を放し、その身をかがませる。
黒の頭上を、イリヤの投げた服が放された包丁を巻き込み通り過ぎ。

「あ...」

黒は、呆然とするイリヤへと走り距離を詰め、ついに左掌で、彼女の喉元を掴みとった。


カラン、と黒の背後で包丁と首輪が落ちる音がした。
イリヤの狙いは、目隠しによる奇襲ではなく、プリティ・サリアンセットで包んだ首輪を斬らせ、自爆させるというものだった。
だが、その目論見は外れ。
勝利を収めたのは、黒だった。


「―――終わりだ、イリヤ」


37 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:50:55 iKglyiJo0

後は、能力で電撃を流せば、それだけでイリヤは死ぬ。


―――へい、さん、おねが、い


脳裏に戸塚の声がよぎる。


―――みんなを、いりやちゃん、を


彼の最期の言葉が、交わした約束が、能力の行使を躊躇わせる。
今まで何度も経験してきたことなのに、感情を隠すための仮面を着けているのに、どうしてもふんぎりがつかない。
しかし。


「...早くあの人を追いかけないと、手遅れになっちゃうよ」


イリヤの言葉が引き金となり、黒の躊躇いは消えた。
僅かな躊躇いが銀を殺す。そうなる前に、決着を着けなければならない。
黒の身体が、青い光に包まれる。


(...ここまで、かぁ)

結局、イリヤは『アーチャー』のカードを使えなかった。
エドワード達との戦いの時も。
キング・ブラッドレイとの戦いの時も。
少し前の黒との戦いの時も。
そして、いまも。
使うべき機会はいくらでもあった筈なのに。
汚れた手段でもなんでも使ってみせると決めたのに。
『クロエ』に人殺しをさせたくない。
そんな我が侭が、黒の言った『捨てられない優しさ』が―――心のどこかであったのかもしれない。
たぶん、本当のことはイリヤ自身にもわからない。



「...すまない」

『護ってあげられなくて、ごめんね』

黒の言葉が、最期までイリヤを気遣っていた『彼』の声と重なる。
傷ついた仮面を被った黒の顔は、なんだかとても悲しげに見えた。



「やっぱり」

少女はニコリと笑う。涙が頬を、男の手を伝い流れる。

「あなたたちは優しいね」

まるでその姿は無垢な天使のようで。


その姿から、男は、決して目を逸らすことなく。



―――お前の仲間も、イリヤも『助ける』




少年と交わした約束は、電撃と共に破り捨てられた。


38 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:51:41 iKglyiJo0


「実は私は魔法少女に興味があってね」

開口一番この言葉を聞かされた時、イリヤが抱いた感想は『なに言ってるんだろうこのおじさん』だった。
その想いが顔に出ていたのか、ヒースクリフは咄嗟にそういう意味じゃないんだ、と訂正した。

「私は、ゲームが始まって間もないころに魔法少女に出会ったんだ。その子だがね、とても変わった身体をしていたんだ。
なんと、どんなに酷い怪我を負ってもとある核さえ残っていれば決して死ぬことはないというものなんだ。...きみも魔法少女なら心当たりはないかな、と思ってね」

そう言うなり、ヒースクリフは己のデイバックをごそごそと探り、あるモノを引きずりだした。
ソレは、文字通り縫い合わされた二人の少女の遺体だった。

イリヤの喉がヒッ、と鳴る。

イリヤ自身、全ての者を殺して優勝する覚悟は決めている。
しかし、首輪を回収するだけならまだしも、この悪意しかない肉塊を見せられては怖気づいてしまうのは無理もないことだろう。

「彼女たちの名前は、鹿目まどかと暁美ほむらと言うんだが、知らないかな?」

ヒースクリフの問いに、イリヤはふるふると首を横に振る。

「そうか...やはり、一口に魔法少女と言ってもその性質までは同じではないか」

それだけを確認すると、ヒースクリフは死体をデイバックに仕舞いこんだ。
そんな彼の様子を見て、イリヤは純粋に疑問に思う。

彼は、黒やヒルダたちのような"お人好し"ではないのか?
なぜ、後藤やエンブリヲでもやりそうにないことをこうも平然とやってのけるのか?

「ああ、ひとつ言い忘れていたね。まどかたちをああしたのは私じゃない。上にもう一人いただろう?彼女さ」
「...えっ」
「状況が落ち着いてから彼女たちを埋葬しようと思って持ち運んでいたんだがね。先程、彼女の支給品を確認した際、彼女が糸を操る帝具を持っているのを見て確信したよ。コレをやったのは彼女だと」

「あなたたちは...あの人は、殺し合いに乗っているの?」
「いいや。乗っていない―――というのが、表向きの顔だね。ちなみに言うと、まどかも乗っていなかった。なのに、こんな目に遭わされている...あんまりだと思わないかい?」

イリヤの頭の中が、疑問で埋め尽くされる。
これまで会ってきた"乗っていない"人たちはこんなことを決してしない。
だというのに。
あの人は"乗っていない"?
殺し合いに乗った自分以上に残酷なことをしている癖に、あの人は他者から許されることを肯定している?
そんなの―――


「私は上に戻り、彼女にこのことを問いただしてくるよ。私の言っていることが本当かどうか、ここに身を潜めて聞くのもいいかもね」

それだけ言い残し、ヒースクリフは上階へと上がっていく。
いますぐにでも転身し、彼の無防備な頭を狙えば殺すことは可能かもしれない。
けれど、胸に生じたこのドス黒いなにかがどうしても振り払えなくて。
結局、イリヤは彼の言う通りに従い、微かに聞こえる話し声に耳を傾けた。


39 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:52:56 iKglyiJo0


(やれやれ、しくじったな)

爆弾に吹き飛ばされた茅場晶彦は、しばらく地面に寝転がりつつそう思った。
茅場がまどか達のことについて卯月に問い詰めたのは、黒の予想していた、卯月の本性を探る意味合いもあった。
しかし、彼の本当の狙いは、至ってシンプルなもの。
首輪が欲しかったのだ。それも、異能力者のものではなく、異能力者との比較用に、彼女たちのような一般人のものが。
殺すだけならいつでもできた。
しかし、彼のゲームの管理者たる視点がそれを憚った。

例えば、残る参加者が一致団結し、後は首輪を外すだけだという段階まで辿りついたとしよう。
そうなった場合、主催者のとる行動は大きく分けて三つ。

①静観を決め込んで、参加者たちの行動を見届ける。
②ゲームの成功を諦めて首輪を全て起爆させる。
③なにかしらの不利な情報を突き付け、参加者内の混乱を煽る。

茅場が危惧したのは③の場合だ。
もしも、首輪欲しさに卯月たちを殺したとしよう。
そうした場合、『ヒースクリフが島村卯月と本田未央を首輪欲しさに殺した』という情報は、主催者に確実に知れ渡る。
もしそんな情報を、切羽詰まった状況で流されれば、茅場は孤立し、味方は誰もいなくなるだろう。
あるいは、首輪を解除した瞬間に袋叩きにされるかもしれない。
だから茅場は、『島村卯月を殺せる正当な理由』が欲しかった。

本性を暴かれた卯月が襲い掛かってきたので返り討ちにした、ヒースクリフはまどかの仇を討つために証拠を揃えた上で殺害した、卯月を嫌悪したイリヤが殺害した、なにかのアクシデントで死んでしまった...

とにかくなんでもいい。
自分に疑念が及ばない方法であればなんでもよかった。
そのために、まどかたちの死体を黒にまで見せつけ、わざわざ『シャンバラでワープが出来る』などと嘘をついてまでイリヤと二人きりになり卯月の悪評を流し、イリヤが殺しにきやすいようにわざと扉を開けて卯月を問い詰めていた。

その結果が、予想だにしなかった爆撃。
黒の言葉もあり、どうにか直撃はしなかったものの、やはりダメージは免れなかった。

「今回は完全に私の悪手だったな...まったく、キリトくんに正体を勘付かれた時といい、どうにも私はツメが甘いようだ」

HPゲージも、既に1/3を切っている。このダメージは戒めとして受け取っておこう。
新たに気を引き締め直して、茅場は立ち上がる。
北部では激しい戦闘音がけたましく響いているが、いまはそちらは放っておいても構わないだろう。
いま必要なのは黒だ。
魏志軍が銀を連れているかもしれないことを伝え、銀捜索の効率をあげるべきだろう。


40 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:53:53 iKglyiJo0

茅場が南下し、黒を探すこと数分。

やがて、民家へと足を踏み入れる人影を発見。
背丈から考えて、おそらく黒だ。
彼の後を追い、茅場もまた民家へと足を踏み入れた。


「無事だったか、黒くん」
「......」
「黒くん?」

愕然と立ち尽くしていた黒。
彼の視線の先に横たわるイリヤを発見して、全てを察した。
黒は、いまここでイリヤを殺したのだと。

「...きみが悪いわけじゃない。悪いのは、こんなゲームを開いた広川だ」
「気を遣うな。慰めなんて俺はいらない」

どう見ても不安定だから慰めているんだがね、と内心に思いつつ、茅場は己の目的を伝える。

「未央たちと会う前、私は魏志軍と出会った。成り行きで共闘しただけだけどね」
「...あいつとか」
「彼は教えてくれたよ。この付近で、銀と対峙したことがある、と」
「!」

黒の眼の色が変わる。
イリヤを殺したことで腑抜けていれば面倒だと思ったが、杞憂で終わって助かった。

「そして、私は彼から頼まれたんだ。『地獄門にて貴様を待つ』と伝えてくれとね。それに、もしも彼が銀を見つけたら保護してくれることも約束してくれた」
「...そうか」
「卯月たちやこの付近の捜索は私に任せてくれ。合流場所は、アインクラッドにしたいと思う」
「わかった」

魏志軍が、銀を連れて地獄門で待っている可能性がある。
それだけ聞けば充分だ。
黒は、コートを翻し足早に立ち去ってしまった。


41 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:54:50 iKglyiJo0
「...さて、と」

一人残された茅場は、剣を取り出しイリヤのに喉元に宛がう。
そして。
ストン、という音と主にイリヤの頭部と身体が泣き別れ、茅場はイリヤの首輪を回収する。
次いで、放り捨てられた妙なコスプレを調べてみると、首輪がひとつ見つかったので、イリヤの首輪と合わせてデイバックに入れた。

(島村卯月と本田未央は...まあ、放っておいても構わないだろう)

彼女たちの生死は不明だが、わざわざ探す必要は無いと思っている。
いくら帝具を扱えようとも、それだけでは異能力者やキング・ブラッドレイのような強者たちとは渡り合えない。
彼女たちを殺せる正当な理由もないうえに敵対していない以上、運よく合流できれば儲けもの、程度に考えておくのが吉だろう。

(ほむらたちの遺体を失ったのは残念だったが...万が一のことを考えてソウルジェムだけでも回収しておいてよかったよ)

身体とセットで調べられればなおよかったが、あまり贅沢はいえない。
これだけでも持ち帰り正体を調べることができれば御の字だ。

「...そういえば」

ふと、ほむらのソウルジェムを見て自分の支給品について思い出す。

「たしかまどかの話では、グリーフシードは魔女の卵らしいが」

ほむらのソウルジェムを仕舞い、グリーフシードの説明書を改めて確認してみる。

「このグリーフシードには有効期限が付いている...これはどういうことなんだろうな」

このグリーフシードがこのまま有効期限が過ぎたらどうなるのだろうか。
主催のなにかの制限で効力を失うのか、それとも―――
普通なら、この考えに至った時点でグリーフシードを手放すだろう。

「直に期限の放送だ。焦らなくても答えは出るか」

しかし、彼は違う。そんなもので、彼の好奇心は殺せない。

稀代の天才ゲームクリエイター、茅場晶彦。
この状況に置かれても、彼の好奇心と興味は未だ留まることを知らない。


42 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:55:33 iKglyiJo0
【F-7/一日目/真夜中】


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:残HP30%、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式×2、デイバック×2、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation、
美少女聖騎士プリティ・サリアンセット@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、ほむらのソウルジェム、キリトの首輪、イリヤの首輪、クロエの首輪、
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:銀と言う少女を探す。ひとまず当初の予定通り音ノ木坂学院へ向かう。
2:チャットの件を他の参加者に伝えるかどうか様子を見る。
3:主催者との接触。
4:ロックを解除した可能性のある田村玲子、初春と接触したい。
5:北西の探索を新一達に任せ、自分は南の方から探索を始める。
6:南の花陽やヒルダの方も余裕があれば探す。
7:キリトの首輪も後で調べる。
8:余裕ができ次第ほむらのソウルジェムについて調べる。最悪、ゲームが終わってからでも構わない。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。


43 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:56:44 iKglyiJo0

暗闇の中を黒は駆ける。
北部ではけたましく轟音が鳴り響いており、戦闘が起きていることが窺える。

「......」

イリヤの命を奪った左手を強く握りしめる。

彼女の最期は笑顔だった。
使命から解き放たれたような、優しく、穏やかな笑顔だった。
犯した罪に苦しみ続けた彼女は、その死によって救われたのだろうか。

(戯言だ。俺は間に合わなかっただけだ)

黒が行使したのは、救済などではなくただの殺戮だ。
イリヤの説得より、銀の安全を優先しただけだ。
交わした約束を破り、挙句の果てに殺したことを正当化しようとしている。
甘い。
そんな甘い自分を、黒は許したくはない。


―――早くあの人を追いかけないと、手遅れになっちゃうよ


イリヤの言葉が、黒の脳裏にこびりつく。

(わかっている。だから、俺は)

必ず銀を護る。
護れなかった約束も、イリヤのことも、決して忘れない。
それらを全て背負って、黒は進む。
例え、その足取りがどれほど重くても。

銀を護る。それだけのために―――いまは往く。


【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(絶大)、全身にダメージ(大)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)、精神不安定(大)、顔の右側に火傷の痕。
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、首輪×1(美遊・エーデルフェルト)、傷の付いた仮面@ DARKER THAN BLACK 流星の双子
[道具]:基本支給品×2、ディパック×2、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation
[思考]
基本:殺し合いから脱出する。
0:地獄門へ向かい、銀を守る。魏志軍も殺す。
1:銀や戸塚の知り合いを探す。銀優先。
2:後藤、槙島、エンブリヲ、足立を警戒。
3:二年後の銀に対する不安
4:雪ノ下雪乃とも合流しておく。
5:地獄門で魏志軍と決着を着けた後、アインクラッドでヒースクリフと合流する。
6:戸塚、イリヤ...

[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。
※足立の捏造も入っていますが、情報交換はしています。




イギーの首輪、クロメの首輪、空条承太郎の首輪、花京院の首輪、キンブリーの首輪は、F-6南東部、F-7、G-7エリアのどこかに散らばって落ちています。夜間に見つけるのは困難でしょう。
クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、DIOのエキスが染みこんだイリヤのハンカチ、DIOのサークレットはF-7の一室に放置されています。


44 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:58:26 iKglyiJo0



『いらっしゃいませ。こちらは首輪交換コーナーでございます』

首輪交換所に辿りついた卯月を出迎えたのは、そんな無機質な声だった。

『首輪をお持ちの方はこちらにお入れくださいませ』

卯月は、イリヤの置いていった首輪を、指示通りに投入。
彼女の目には、なんの力も宿ってはいなかった。
散々しがみ付いてきた生への執着も。
エスデスに言い放って見せた『弱者を護る正義』への憧憬も。
なにもない、虚ろな闇だけが卯月の眼に宿っていた。

『確認中です...首輪ランク3、コード、セリュー・ユビキタス』

セリュー。その名を聞いた瞬間、卯月は首輪交換機に掴みかかった。
イリヤが置いて行った首輪は、セリューのものだった。
だが、イリヤがセリューを殺したのか、と怒りを覚えることすらなく。
卯月は、首輪交換機の情報提供ボタンを押しながら縋り付いた。

「教えてください、セリューさん」

―――死から目を背けるな。


誰かの声が卯月の頭の中で木霊する。
聞き覚えのあるような、でもあまり馴染みのないような。
そんな不思議な声だった。


―――貴方が殺す人々のその姿を正面から見ろ


これから卯月が聞こうとしているのは、セリューを裏切る行為だ。正義とはかけ離れた行為だ。


―――そして忘れるな、忘れるな、忘れるな


それでも、真姫の苦悶の表情が、自ら壊したまどかとほむらが忘れられないから。


―――奴らも貴方の事を忘れない


だから、卯月はきいた。聞いてしまった。


「優勝したら、今まで死んだ人を全員元の身体で生き返らせることはできますか」


45 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 00:59:35 iKglyiJo0

『その質問は、願いの再確認となるため、首輪ランク1のものに該当します。それでも構いませんか?』

画面に表示された『Yes』と『No』のパネル。
卯月は震える指で『Yes』のパネルを押し、返答を待った。

『友達のために他人を殺してもいい?そんな訳ないだろ、取り繕っても悪は悪だ』

かつて、セリューが南ことりに言い放った言葉を思い出す。
ことりは、仲間を生かすために殺し合いに乗った。
セリューは、それを悪だと言ってのけた。
だが、卯月が交換機に聞いたのはそれ以上の悪党染みた行いだ。

全てを生き返らせるために、全てを殺す。

もし、こんなことをセリューが聞けば、まず間違いなく断罪するだろう。
それでも―――

『詳細は説明できませんが、優勝者がそれを望めば可能です』


卯月の目が見開かれる。
いま、交換機は確かに告げた。
優勝して全ての者を生き返らせることは『可能』だと。

それはつまり。

未央も。
凛も。
プロデューサーも。
みくも。
セリューも。
まどかも。
ほむらも。
真姫も。
マスタングも。
ことりも。
結衣も。
承太郎も。


命を落とした全ての者が、再び生命を取り戻すということだ。


46 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 01:01:15 iKglyiJo0

「...セリューさん」


声が震える。
これから卯月が行おうとすることは、全ての者たちへの裏切りだ。


ほむらはこんなことをさせるために最期にお礼を言ってくれたわけじゃない。

わかっている。

承太郎はこんなことをさせるために言葉を遺したわけじゃない。

わかっている。

マスタングはこんなことをさせるために命を賭けて逃がしてくれたわけじゃない。

ぜんぶ。

未央はこんなことをさせるために傷ついてきたわけじゃない。

なにもかも。

セリューはこんなことをさせるためにずっと護ってくれたわけじゃない。

わかっているんです。


でも...


―――あなたに殺された人たちは、あなたが真っ当な道に進むことなんて望んでないんだよ

いくら正義を謳って弱者を護ろうとも、そんなものはただの自己満足だ。
それで、殺し、壊した者たちが許してくれるはずもない。
彼女たちが望むものはなんだ。それこそ、また大切な者たちと日常を歩むことだろう。

それに、誰かを護る意志すらなく罪を犯し、セリューを裏切っている卯月に―――正義を語る資格は、ない。


「わたし、頑張りますから。頑張って、みんなを生き返らせますから」

ポタリ、と水滴が交換機のタッチパネルを濡らす。
おそらく、島村卯月は二度と笑顔になることはできないだろう。
優勝して大切な者たちと再び出会えても。
敬愛する正義の味方に微笑みかけられても。
己の罪を、他者に許されたとしても。
卯月は、絶対に彼女自身を許さない。

自分はどんなに汚れてもいい。悪党でもいい。
自分は彼らと同じ場所に立てなくても。ただ、もう一度あの人たちに笑ってほしい。
それが、卯月が己に課す償い。そして

「だから―――最後に、わたしを殺してください」

涙と共に彼女が求めるものは、かつて憧れた正義の味方による断罪だった。


ここにはもう、正義の味方も、ガラスの靴を待ちわびるシンデレラもいない。

いるのはただ一人。償いに全てを賭した殺人者だけだった。


47 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 01:02:22 iKglyiJo0


【G-7/古代の闘技場・首輪交換機内/一日目/真夜中(放送直前)】


【本田未央@アイドルマスターシンデレラガールズ 死亡】
【カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 破壊】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:『首』に対する執着、首に傷、疲労(絶大)、精神的疲労(超絶大)、大切な者たちを失った悲しみ(絶大)、鼻血、全身に擦り傷、後頭部にたんこぶ
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、死者行軍八房@アカメが斬る!、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの) まどかとほむらの縫い合わされた死体、
デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪 屍人形:本田未央(マスティマ装備)
[思考]
基本: 優勝して全ての参加者を生き返らせ、最後にセリューに自分の行いの全てを告発し断罪される。
0:確実に生き残る。手段は択ばない。
1:真姫、まどか、ほむらのことを、自分の犯した罪を絶対に忘れない。


[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※μ's=高坂勢力だと卯月の中では断定されました。
※精神は正常です。
※未央の屍人形は、帝具万里飛翔マスティマの飛翔能力のみ使用できます。また、使用の際はクローステールを仕舞い、八房を手にする必要があります。


48 : 嘘と強がりの向こう側 ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 01:02:50 iKglyiJo0
投下終了です。


49 : 名無しさん :2016/04/15(金) 01:31:15 dYEaQ2Tc0

投下お疲れ様です。
アイドルのどちらかが落ちるかと思っていましたが未央でしたか。
マスティマの覚醒でやったかと思ったところでイリヤの方が上手でしたね。
戸塚の願いもあるけれど、ここで殺さないと全てが嘘になりますよね黒さん。
それと色々なことが掌の上に収めているヒースクリフは順調ですね。
手に入れたソウルジェムも気になります。

投下終了直後ですが気になった点がいくつか。

・移動について
島村卯月の状態表に【放送直前】と書かれています。
冒頭の描写から彼女は図書館【D-5】から最終的に【G-7】へ移動しています。
流石に疲れきった状態でこれだけのエリアを移動することは不可能だと思います。
仮に万全状態だったとしてもただの徒歩ではやはり厳しく、イリヤとの交戦も考えると尚更です。

・ルビーの最期について
ルビーは壊れる直前にイリヤへ別れの言葉を述べますが、本来なら彼女を止められなかったことを後悔するのでは。
やりきったように朽ちていきますがルビーはキンブリーにイリヤが諭された時には後悔していました。
佐倉杏子と戦ってい時には彼女へ助けを求めていたはずです。
殺し合いに乗ってしまったイリヤに対して何も言わないのは違和感を感じました。

・島村卯月のマーダー転向について
本田未央が死んだことを加味したとしても唐突だと思います。
前の話では彼女の説得により正気を取り戻したはずですが逆戻りです。
リレー無視というよりも前の話が気に食わないから無理やり軌道修正したように感じます。

・イリヤの移動について
これは別にどうといったことはありませんが、イリヤは誰かの足跡を見つけて移動していました。
誰の足跡でしょうか。北から降りて来ているため島村卯月と本田未央とヒースクリフのものではありません。
黒はイリヤよりも後に図書館へ辿り着いているため、彼のものでもありません。
イリヤが誰の足跡を辿ったか不明になっています。図書館へ行くための理由でしょうが破綻しています。


50 : ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 02:05:15 iKglyiJo0
感想とご指摘ありがとうございます。

>移動について
冒頭の描写ではまだ夜中で、尚且つエスデスやブラッドレイが戦い始める前なら間に合うかな、と思って書きました。
ただ、改めて他の話を見て考えてみて無理だと思ったら修正します。

>ルビーの最期について
修正します。


>島村卯月のマーダー転向について
唐突でしたか。もう一度考え直してみます。

・リレー無視というよりも前の話が気に食わないから無理やり軌道修正したように感じます。
ただ、こういった思いは一切ないのでそれだけはお伝えしておきます。

>イリヤの移動について
これは多分私の描写ミスですね。すいません。
F-5にも街と草原の堺目があり、そこにあった僅かな足跡と血痕を辿って追ってきたということです。
なので、イリヤは図書館へは行ってません。

改めてみると結構ポカやらかしてますね...
修正が無理だと判断したらこちらにも破棄の連絡をしますので、他にも気になった点があればご指摘お願いします。
ただ、いまはちょっと寝ますので返信はおくれます。すみません。


51 : ◆dKv6nbYMB. :2016/04/15(金) 07:34:46 iKglyiJo0
おはようございます。
今回は修正だと骨組みから変える必要がありそうなので、破棄します。
キャラ拘束、申し訳ございませんでした。


52 : 名無しさん :2016/04/15(金) 18:33:22 aEpdsOWQ0
そこまで違和感のある作品でもない気がしたが、修正の必要はあるのか?
何にせよ執筆お疲れさまでした


53 : 名無しさん :2016/04/15(金) 19:41:21 ulZBL/fg0
執筆お疲れ様でした
イリヤのモノローグ等、素晴らしい所も多々見受けられたので
破棄は残念ですがどうか気負わずに


54 : ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:05:34 lYH2HfBc0
投下します。


55 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:07:46 lYH2HfBc0
―――嘘だろおい!?

燃えさかるコンサートホールの中、残された"彼"は非常に焦っていた。
同行者と結託し、ほむらという少女の懐に入り込み、血の雨を降らせてやろうと画策したところまではよかった。
ところが、だ。
精神に干渉する間もなく少女に投げ捨てられ、結託した同行者は頭を破壊されて死んでしまう。
頼りなさげな風貌の足立という男が新たに現れ、一人の少女を毒殺したかと思えば、今度はそれを契機に追い詰められて。
更には妙な力に覚醒した男が空条承太郎の隙を突いて腹を切裂いた。
"彼"の干渉する間もなく事態は転々としていくが...

―――あの野郎、なんで火なんか!

足立が放った爆弾がコンサートホールを燃やし、瞬く間に火が会場中を覆っていく。
その余波を受け、"彼"の身体も幾分か折られてしまう。
このままでは非常にマズイ。
ただ一人残された、傷ついた承太郎に助けを求めるが...


―――お、おい、承太郎!俺も連れて行ってくれ!今回は見逃してやるから!な!?


声すら発せない"彼"に承太郎が気付くはずも無く。
やがては彼もコンサートホールから脱出してしまった。


―――そんな!火自体は俺の能力で覚えられるからいいとして...


"彼"の能力に、戦えば戦うほど強くなるという、シンプルにして強力なものがある。
その能力を生かし、触れた炎の温度を学習すれば焼け死ぬことは無くなる。
だが、ここまで火が廻れば、誰かがコンサートホールに立ち入ることは難しくなるし、誰も訪れなければ"彼"は存在すら認知してもらえなくなる。
つまり、ゲームが終了しても、永久にここに放置されることになるのだ。



―――誰か助けてくれぇー!ヒィィィィ、孤独だよぉー!



燃えさかるコンサートホールの中、誰にも聞こえない"彼"の叫びが響き渡った。


56 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:08:23 lYH2HfBc0


狡噛慎也の最期を見届けたアカメたちは、泣き疲れて眠りについたタスクと、狡噛の遺体をコンサートホール内へと運んだ。

結局、アカメたちの進路は当初と変わらず。
コンサートホールから、順に北西部にあるはずのロックを探することにした。
コンサートホールの一室に狡噛の遺体を安置すると、タスクに比べて比較的余裕のあるアカメが、単身で見回りを兼ねた探索を請け負った。



「......」

コツリ、コツリと靴が床を叩く音がする。
慣れない。
人の死は数多く経験してきた。
今までも、そしてこれからも経験していくことだろう。
しかし、仲間を失うこの苦しみに慣れることは―――決して無い。
こうしている今でさえ、タツミやウェイブ達の安否が気がかりでしょうがない。

冷静に振る舞うのは、次の戦いに影響を及ぼさないよう切り替えるためだ。
そういう方法しか、アカメは知らない。
こうして、別のことで気を紛らわすことしか...できない。

やがて、歩き続けること十分程度だろうか。

なにかに躓き、アカメの上体が崩れる。

「......?」

乱雑に置かれた瓦礫は避けて歩いていたはずなのだが、妙なでっぱりに躓いてしまった。

集中できていないのか。
そんなことを思いつつ、パンパンと両手で頬を叩き、気を引き締め直し、探索に戻る。
本来ならこれだけのことなのだが...

「......」

気になる。
先程のでっぱりが妙に気になる。
アカメは、踵を返してでっぱりのもとへと戻る。


57 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:08:55 lYH2HfBc0
「これは...柄?」

小さな瓦礫に挟まれて刀身は見えないが、この形状からしてまず間違いなく刀の柄だろう。
瓦礫をどけ、その正体を確認してみる。
やはり刀であり、瓦礫に挟まれたせいか、刀身がいくらか折れてしまっているが、その刃渡りは村雨に勝るとも劣らずの美しさだ。

――――た、助かったァァァァァァ!!

突如、頭の中に響いてきた歓喜の叫び。
アカメはすぐに刀を構え、周囲に殺気を放つ。

しかし、気配はない。


――――ヤッタアアァァァァ!天は俺を見捨てていなかったんだァ!

またも響く叫び声。
再び身構えるが、やはり気配はない。


(...まさか)


刀を床に置いてみる。
すると、たちまち声は消え去った。

間をおいて、拾い上げてみる。


――――み、見捨てないでくれ!もうこんなところで独りは嫌なんだァァァァ!


「...刀が喋っているのか」

刀が意思を持ち、言語を用いるという奇妙な現象。
既に、ルビーという喋るステッキと遭遇していたためにできた発想だった。


類は友を呼ぶ。スタンド使いは引かれあう。
言い方は様々だ。
ナイトレイドの切り札、アカメ。
呪われた刀に認められた彼女が、妖刀アヌビスを見つけられたのもまた、ひとつの運命だったのかもしれない。


58 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:09:26 lYH2HfBc0



目を覚ましたタスクが行ったのは、状況の再確認。
なぜ自分は眠っていたのか、なぜ...
傍らに横たわる狡噛の遺体を見て、全てを思い出す。

「狡噛、さん...」

タスクから滴る水滴が、狡噛の顔に落ちる。

死んだ。
アンジュを喪い、タスクの最後の支えになっていた男が死んだ。
命を奪ったのは―――俺だ。

「俺が...俺の所為で...!」

もしかしたら。
もしかしたら、狡噛はあの状況でも逆転の一手を撃てたかもしれない。
もしかしたら、自分が介入しなければ、彼は槙島との決着を着けられたかもしれない。
だが、彼は死んだ。
過程や思惑はどうであれ、タスクの放ったナイフが、彼の命を奪った事実に変わりはない。

いまのタスクにできることは、ただただ悲しみに身を任せ、己の無力さに打ちひしがれることだけだった。

雪乃も新一も、タスクと同じだ。

何もできなかった。
図書館であれだけ身体を張って戦った男に対して、なにもしてやれなかった。
ただ、その死を看取ることしかできなかった。必死に名前を呼ぶことしかできなかった。

彼らにできることは―――狡噛慎也という一人の男の死を悼むことだけだ。

「...雪ノ下。ここを任せてもいいか?」

やがて、新一は雪乃の肩に手を置き、雪乃もまた返事の代わりに頷きで返す。
タスク達のいる一室から退出した新一は、ふぅ、とひとつ溜め息をつく。


59 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:10:26 lYH2HfBc0

『...槙島のことか?』
「わかるのか」
『なんとなく、な』

新一が考えていたのは、槙島聖護のことだ。
彼が奈落へと身を投げた時、新一の心にひとつの穴が空いたような苦しさに襲われた。
狡噛慎也を殺し、サリアの暴走の引き金となった男だというのに。
確かに憎しみや敵意といった感情はある。しかし、おそらく、四人の中で新一だけは彼の死も悼んでいた。

「おかしいよな。仲間を殺した奴だっていうのに、そいつが死んだことを素直に喜べないなんて...」
『...別におかしくはないだろう』

ポツリとミギーが呟く。

『きみもサリアを説得する時に言っていただろう。理由はどうであれ、槙島は人の心の隙間を埋めてくれる男だと』
「...ああ」
『私は人間の細かい感情はわからないが、そんな男が死んで悲しいと思うことは不自然ではないと思うがな』
「......」
『なんだその目は?』
「いや...なんでもない」

あの合理性を徹底しているミギーが、槙島の死を惜しんでいる。
放送直後に言った通りだ。
ミギーは、槙島聖護に興味を持っていると断言した。
槙島が身を投げる時、ミギーは合理性を排してでも触手を伸ばし、彼を助けようとした。
新一もミギーも、槙島を刺したアカメを責めるつもりはないし、正しい判断だったと思っている。
この件でアカメへの信頼が揺らぐことすらないだろう。
だが、それで槙島への想いが消えるかと問われれば、話は別だ。
新一の心に空いた穴は当分は塞がらないだろうし、ミギーの彼への評価も覆らないだろう。
そんな複雑な感情を抱きつつ、新一は再び溜め息をついた。


「みんなと一緒にいなくていいのか、新一」

探索を終えたアカメが、新一と合流をする。

「...いまは、ちょっとな」
「...無理はしてないか?」
「大丈夫。考え事をしてただけだから」

心配そうに顔を覗き込もうとするアカメだが、新一は立ち上がりそれを拒否。
そうだ。槙島のことは、自分とミギーだけの問題だ。
わざわざ皆に話すことじゃない。
顔を上げ、探索の労いの言葉をかけようとした新一だが。


「アカメ、それなんだ?」

彼女の手にある刀の存在に気が付く。
中ほどで折れた抜き身の刀だ。探索の前までは確かに持っていなかった筈だが...

「さきほど拾ったんだ。...これについても話がしたい」


60 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:11:12 lYH2HfBc0



(...なんて声をかければいいのかしらね)

未だに狡噛に縋り付くタスクを見ながら思う。
雪乃は決してタスクを軽蔑している訳ではない。
純粋に、ここまで悲しんでいる人間に対してどう接すればいいのかがわからないだけだ。
彼を慰めるとき。
もしも八幡なら、自分を八つ当たり用の悪役にでも仕立てて彼の悲しみを発散させたかもしれない。
もしも結衣なら、無理にでも励まそうと奮闘するだろう。
しかし、それらは彼らの場合だ。
雪乃はあくまでも雪乃。
彼らの行動は予想できても、彼らそのものには成り得ない。
どうすればいいのか、雪乃はどうしようもなく途方に暮れていた。

「......」

やがて、タスクは立ち上がり、ごしごしと目元を拭う。

「...もういいの?」
「...ああ。いつまでも悲しんではいられない」

タスクは顔だけ振り向かせて、疲れ切った微笑みで雪乃に言った。

「それに、ずっと立ち止まってたらアンジュや狡噛さんに蹴り飛ばされちゃうよ。はやくあの広川ってバカをブッ飛ばせ、...ってね」

彼のその姿を見て、雪乃は察した。
この人は、強くて、同じくらい弱い人なんだと。

彼が無理して強がっていることは一目瞭然だ。
少し小突けばたちまちに崩れてしまうほどに不安定だ。

それでも。

そんな彼でも、雪乃の手助けなど必要なしに立ち上がってみせた。

(...結局、私は無力なのね)

この場を新一に頼まれたはいいものの、雪乃はなにもできなかった。

放送の前に新一と共にアカメたちの力になると決意したのに、何にもできやしない。
誰もかれも、雪乃の手助けを必要としない。
ここにいるのは、ただ護られるだけの非力な少女でしかない。

それでも

―――新一、雪乃。これから先も、お前達の力を借りるときがくるかもしれない

―――今すぐは難しいけれど...きっといつかはあなたを頼るわ

アカメの言葉と、かつて結衣に言った自分の言葉が重なる。

(もしも、私が必要とされる時が来たら、その時は―――)



ガチャリと扉を開け、アカメたちが部屋に戻ってくる。

「もう大丈夫なのか?」
「...心配かけてごめん」
「いいんだ。仲間の死を悲しむのは、悪いことじゃない」

アカメが椅子に腰かけ、探索の成果を報告する―――のだが。

「アカメさん、それは?」

真っ先に目についたのは、一振りの抜き身の刀。
刀身が欠けているものの、刃渡りに関しては異常に美しいと表せるほどであった。
それは、常にナイフや銃火器を扱うタスクは勿論、刃物に関して専門的な知識を持たない雪乃も抱いた感想だ。

「この刀は、コンサートホール唯一の生存者だ」

アカメは語る。
妖刀から聞いた、コンサートホールで起きた惨劇を。


61 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:12:28 lYH2HfBc0



「嘘だろ...」

新一は思わず呟いた。
アカメの持つスタンドの宿る刀、アヌビス神の証言では、肉の芽を埋めつけられた花京院がほむらを操りコンサートホールを襲撃。
しかし、彼は以前に襲った鹿目まどかに殺害され、更には足立透がまどかを毒殺したのだという。

ジョセフからは、花京院がDIOに肉の芽を埋めつけられている時間軸から連れてこられた可能性があると聞いていた。
その予想は的中し、最悪の事態を引き起こしていたのだ。

「...なんだか、やるせないわね」

肉の芽に操られていたとはいえ、花京院が鹿目まどかを襲っていたのは事実。
そして、まどかが花京院を殺したのもまた事実。
しかし、コンサートホールの関係者は足立以外は皆既にこの世を去っている。
誰を責めることもできず、なにが正しかったのかもわからない。
あるのは、不幸な因果が絡み合った結果だけだ。

「...その肉の芽を埋め込んだっていうDIOは、ジョースターさんもかなり危険な奴だって言っていた」
「DIO、か...」

コンサートホールで起きた悲劇を聞いたアカメは、アヌビス神を強く握る。
もしもその場にアカメが居合わせていたらどんな判断を下したかわからないが、これだけはいえる。
DIOという男は、葬らなければならない"悪"だと。

尤も、肝心のDIOは既に死んでいるのだが、それをアカメたちが知る由はない。

「しかし、足立が毒殺をしたとなると...」
『たしかペットボトルの水がどうとか言ってたような』
「ペットボトル...と、なると、これか」

アカメは足立から強奪したデイバックからペットボトルを取り出し、確認する。

『そう!たぶんそれだ!流石姐さん、手際がいい!』
「...アヌビス。お前の声は大きくて五月蠅い。もう少し静かにしてくれ」

ちなみにこのアヌビス神、触れている者にしか声が聞こえないため、皆に伝えるときは彼の言葉を意訳してアカメが喋っていることになる。

『アヌビス神といったか』

『うわっ、なんだこいつはァ!?右手が喋った!?』

『きみはジョセフ・ジョースターと同じくスタンド使いらしいが、なにか能力があるのか?』

興味深々、といった風にミギーはここぞとばかりに詰め寄る。


62 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:13:21 lYH2HfBc0
『そ、そうか。俺の能力を聞きたいか。なら教えてやる!俺の能力は、物質を透過することと、【覚える】こと!覚えるものは相手の攻撃!敵の斬撃・打撃、如何なる攻撃のパターンにおいても全てを覚え、この俺のパワーとスピードを増すことができるのだ!』
「...敵の攻撃を受ける度に、この刀のパワーとスピードを増すことができるらしい」

戦えば戦う程強くなる刀。
それだけ聞けば、かなり強力な力に聞こえる。

そして、そんな刀とアカメの達人の剣技が合わされば...!
新一はそんな期待を込めた眼差しでアカメを見るが。

「......」

当のアカメは、アヌビスを様々な角度から眺めているだけだ。
むしろ、新一の目が確かなら不安げな表情でもある。

「...アヌビス」
『はいよ!』
「少し確かめさせてほしいことがある。...新一、ミギー、手伝ってくれ」

アカメが席を立つと、それにつられて、首を傾げつつ新一も立ち上がる。

「ミギー、剣術の立ち合いはしたことがあるか?」
『実際におこなったことはないが...アヌビスの性能をテストするつもりか?』
「そうだ。実際に確かめてみないとイマイチ実感できない」
『了解だ。攻撃の速さは?』
「一刀ごとに速くしてくれ。それと、私が合図をしたら一旦止めてくれ」

ミギーが両手を剣に変え、それに対してアカメもまた普段の戦闘態勢をとる。

『フッフッフッ...この圧倒的なパワーを実感して腰を抜かすなよ』

「始めてくれ」
『わかった。シンイチ、きみはあまり動くなよ』

新一が頷くと、ミギーはゆっくりとアカメに斬りかかる。
アカメがそれをアヌビスで受けると、次いで逆側の刃で斬りかかる。
アカメが再びそれを受け、再びミギーが逆の刃で斬りかかり、アカメはそれを受ける。
それらを交互に繰り返しつつ、徐々にミギーの速さが増していく。
動じることなく、アカメはそれをアヌビスで捌き続ける。

『どうした、そんなもんかァ!?』

得意げにミギーの攻撃を捌くアヌビス神(アカメ以外に彼の声は聞こえないが)。
ブラッドレイほどでは無いとはいえ、雪乃のような一般人では反応できない速度での攻撃を捌けるのは、流石に実力を自負するだけはある。
と、思いきや。

「...?」

アカメの様子がおかしい。ブラッドレイとあれほどの猛攻を繰り広げた彼女の顔が、明らかに焦燥を帯びている。
疲労が溜まっているのもあるのだろうが、それにしてもここまで必死になるだろうか。


63 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:14:49 lYH2HfBc0

「―――そこまでっ!」

アカメが叫ぶと同時に、ギィン、と甲高い音が鳴り、ミギーの刃の動きも止まる。

「アカメ...?」

息を切らしながら、アカメは片膝を地に着ける。

『どうだこのアヌビス神の力は!?この俺さえいれば、どんな敵にもゼ〜〜〜〜〜ッタイに、負けなァい!』
「...すごく使いづらい」
『そうだろうそうだろう、やはり使いづらい...え?』

アヌビスは己の耳を疑った。
いま、アカメはなんと言った。
このアヌビス神を、使いづらいと?

「...お前の重さや硬さが一刀毎に変わるのが非常に厄介だ」
『え?』

アヌビス神の学習能力。
それは、如何なる攻撃においても、そのパワーやスピード、攻撃パターンを憶えることである。
しかし、覚えられるのはアヌビス神だけであり、使用者に伝染はしない。
ミギーの攻撃を捌いていたのは、全てアカメの実力であり、アヌビス神の力ではない。

アカメは歴戦の殺し屋である。
帝具村雨以外にも様々な刀は使ってきたが、しかし一太刀受ける毎に重量や硬度が変化する刀など使ったことがない。
慣れない刀を扱うには、剣の重さや切れ味に慣れるといったそれなりの経験値が必要なのだが、アヌビス神の能力はそれを許さない。
慣れようとする傍から、重量から硬度、切れ味に至るまでが変化してしまうのだ。
そんな刀を振るえば、その度に誤差が生まれ、速い攻撃に耐えることができなくなってしまう。
これを完璧に扱うなど、アヌビス神本人以外には不可能だろう。

つまり。

「お前がいくら強くなろうとも、私がついていけなければ無意味だ」

アカメとアヌビス神の相性は最悪だった。

「お前のその覚える能力、発動しないようにすることは出来ないか」
『そ、そりゃあ、出来なくはないけどよ...』
「たぶんそっちの方が使いやすい。変えてくれるか?」
『わかったよ...』

絶対の自信があった己の能力が、使いづらいとあっさりと切り捨てられてしまった。
これでは透過能力を使えることを除けばただの喋る剣だ。
アカメの同意さえあれば身体を操れるようだが、その精神操作も刀身が短くなったせいか、長続きはしそうにない。
自らのアイデンティティーを減らされたアヌビス神は、しぶしぶと溜め息をつくが、それを知るのはアカメのみだ。


64 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:15:24 lYH2HfBc0
アヌビス神の能力の確認を終えたアカメは、椅子に座りこれからの進路を話し合う。

『これからの行動だが、私は当初の予定通りにいくべきだと思う』
「ここから北をしらみつぶしに探しに行くルートだな?」
『ああ。現状、ロックの場所がわからない以上、それが確実だ』
「ロック...?」
「タスクは知らなかったか。俺たちはヒースクリフって人から聞いたんだけど、なんでも南東、南西、北西エリアのどこかに地獄門のロックを外す鍵があるらしいんだ」
「地獄門って...この一番右端の?」
「ああ。ここを解除することが、このゲームから脱出する鍵になる...かもしれないってさ」

『一応、きみたちの意見も聞きたいが...どうだ?』
「私は構わないが」

アカメに続き、新一、雪乃、タスクの順番に、肯定の意を示す。

『...わかった。では、ここをもう少し探索したら次の施設へと向かおう。...だが、その前に』

皆が席を立とうとする中、ミギーがタスクの名を呼び止める。

『狡噛慎也のことだ』
「......」
『首輪の解除は、我々の生存の上で必須条件といえる。そのため、ひとつでも多くのサンプルが必要だ』
「...首輪の回収、だな」

俯いたまま答えるタスクに、ミギーが沈黙で肯定する。

「俺もいつまでも子供じゃない。いまはそれが必要なことくらいはわかっているつもりだ」
『ならば話は早い』
「けど、それは俺にやらせてくれ」

強い口調で。先程まで泣き腫らしていた男とは思えないほど、真っ直ぐな目でミギーを見据えて言う。

「俺は、狡噛さんを護れなかった。だから、そのことを絶対に忘れないために...俺が、やらなくちゃいけないんだ」
『...そうか。ならば後はきみに任せる』

ミギーは、賛同も反対もせず、ただそれだけを告げた。
ミギーは人間の感情を全て理解しているわけじゃない。
ただ、ここまでタスクが強く主張するなら、彼に任せた方がいいだろうということだけはわかっていた。

「...使え、タスク」

アカメが、アヌビス神をタスクへと手渡す。
ナイフを使って切断するよりは簡単に切れるだろう。
アヌビスを受けとったタスクは、横たわる狡噛のもとへと歩み寄る。


65 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:16:10 lYH2HfBc0

「...雪ノ下」
「いいえ。私も見届けるわ」

首を切断する一部始終を見せまいと、新一が雪乃を部屋から連れ出そうとするが、雪乃はそれを拒否。

「どんな犠牲の上で私が生きているのか、なにも知らないままは嫌だもの」

その強い意思の宿る瞳を見れば、新一はそれ以上引き留めようとはしなかった。

三人が見守る中、タスクは狡噛の傍らに立つ。

「...狡噛さん」

しゃがみこみ、アヌビス神をそっと喉元に当てる。

『そのまま押し込めばあっさり切れるからな。あまり力は入れなくていいぞ』
「...気遣ってくれるのか?」
『早くここから出たいだけだっての...ああイヤだ。恐ろしい』

それが建前か本音かはわからないが、その言葉だけは受け取っておく。

「......」

かけたい言葉も、言わなくちゃいけない言葉もたくさんある筈なのに、なにも思いつかない。
だから、タスクは一言だけ。

「―――ごめんなさい」


首を切裂き首輪を回収すること。
護れなかったこと。
狡噛と槙島、二人の問題に割って入ってしまったこと。

それら全ての謝罪の言葉と共に、タスクは狡噛の首を斬りおとした。


タスクは狡噛の首輪を回収し、アヌビス神をアカメへと返す。

(俺は、必ずこの腐ったゲームを壊します...だから...!)

首輪を握りしめ、タスクは心中に誓う。
アンジュを、モモカを、サリアを、狡噛を死へと追いやったこの殺し合いを完膚なきまでに破壊すると。

――――だったら、食らいつけ。


狡噛の声が聞こえた気がした。

違う。
これは、きっと自分に都合のいいただの幻聴だ。
それでも。


――――お前の執念で、奴らの喉笛を引き裂いてやれ。


背中を押すその声は、とても頼もしく思えてしまった。


66 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:16:49 lYH2HfBc0

【D-2/コンサートホール/一日目/真夜中に近い夜中】


【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(大)、頭部出血(中、止血済)、頬に掠り傷、全身にかすり傷、奥歯一本紛失、顔面に打撲痕
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース(刀身欠け)
[道具]:基本支給品一式、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本:悪を斬る。
1:北西の方に向かいロックを探索する。
2:タツミとの合流を目指す。
3:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
4:村雨を取り戻したい。
5:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂と足立は次こそ必ず葬る。
6:エスデスを警戒。
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。


【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
0:とにかく生き延びたい
1:とりあえずいまは助けてくれたアカメに従う。
2:DIO様に会ったら...どうしよう。


※500年前この剣を作った刀鍛冶のスタンドが剣に憑りついたもの。
主な能力は以下の三つになります。
・物質を透過して、斬りたいと思った対象だけを斬ることができる
・一度受けた攻撃を憶え、その度に力と速さが強化されていく
・精神を乗っ取る

※アヌビス神の制約は以下の通りです
・アヌビスが精神を乗っ取れるのは、対象の合意があるか、気絶している時だけ。
・アヌビスの精神が表面化している時の記憶は対象者の精神が戻ったときも引き継がれる。
・精神を乗っ取れる時間は10分。また、連続して乗っ取ることはできない。その10分間は身体の所有者はアヌビス神の精神を押しのけることはできない。
・通り抜ける力は使用可。


※参戦時期はチャカが手にする前です


以下の制限が新たに発覚しました。

・精神を乗っ取れる時間は刀身の長さに比例する。(現在は半分程度の長さのため、五分程度が限界)
・最初の学習から一定時間(約5分)を過ぎると、それまで覚えたものを全て忘れ、最初の強さに戻ってしまう。
・首輪が鍔の部分についており、無理に外そうとすると爆発する。首輪ランクは3。
・折れた刀身にはアヌビスは宿らない。
・覚える能力のON/OFFは可能。OFFにした場合、最初の強さに戻ってしまう。


67 : 息もできないほど責めたてる現実に ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:17:37 lYH2HfBc0



【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(大)、出血(止血済み)、横腹に刺し傷、ミギーにダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0〜1 消火器@現実、分厚い辞書@現地調達品、
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:北西部のロックを探索する。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)エスデスを警戒。
3:ホムンクルスを警戒。
4:サリア……。
5:イリヤって確か、雪ノ下達が会った……。
6:余裕ができたら指輪やロボットも探してみる。
7:黒って人とも合流した方が良いのか……。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※ミギーの目が覚めました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。

【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)
[装備]:MPS AA‐12(残弾4/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:基本支給品、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0〜1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:北西部へと向かいロックの探索をする。
2:比企谷君……由比ヶ浜さん……戸塚くん……
3:イリヤが心配。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。


【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(大) 、アンジュと狡噛の死のショック(超絶大)、狡噛の死に対する自責の念(超絶大)、後悔(超絶大)
[装備]:刃の予備@マスタング製
[道具]:基本支給品、前川みくの首輪 、狡噛慎也の首輪、サリアのナイフ
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを破壊する。
0:北西部へと向かいロックの探索をする。
1:アンジュを探し、弔いたい。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイと遭遇した時は穏便に済ませられないか交渉してみる。
5:御坂美琴、DIOを警戒。
6:エドワードから預かった首輪を解析したい。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。
※エドワード、杏子、ジョセフ、猫(マオ)、サファイアと軽く情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。


68 : ◆dKv6nbYMB. :2016/04/17(日) 10:18:10 lYH2HfBc0
投下終了です。


69 : 名無しさん :2016/04/17(日) 11:11:20 dOmsaIy20
投下乙です

そ、そうか…ジョジョ勢はまだ全滅してはいなかったッッ!!
しかしアヌビス君、承太郎もDIO様ももう死んでるぞw


70 : 名無しさん :2016/04/17(日) 18:04:26 m/mxKt9AO
投下乙です

アヌビス持たせれば、雪乃も戦力に数えられるな


71 : 名無しさん :2016/04/17(日) 19:48:22 Yr6o0VCE0
このロワのアヌビスは萌えポイント高いな
女の子との組み合わせが非常に和む


72 : 名無しさん :2016/04/17(日) 20:13:10 6JZOiyXA0
投下


73 : 名無しさん :2016/04/17(日) 20:19:52 6JZOiyXA0
失礼しました。投下乙です

まさか予想外の場所からジョジョ勢復活。
アヌビス神はここまで放置されてたのが不思議なくらいいいキャラしてますね。多ロワのデルフリンガ―を思い出しました
DIO様も承太郎も死んで浦島太郎状態だろうけどアカメさんとの組み合わせは非常に良いとおもうので頑張ってほしいです。
無力を噛みしめるゆきのんは少し不安になるなぁ、彼女も必死に戦ってるんですけどねぇ…
そして、決意を新たにするタスク、執行官から受け継いだ牙は主催にとどくのか

一つ指摘なんですが瓦礫に挟まれた程度で折れるなら燃え盛るコンサートホールに耐えられたのと少し矛盾する気がするので
刀身が欠けていると言うのは削っても良いと思うんですがどうでしょうか


74 : ◆dKv6nbYMB. :2016/04/18(月) 01:40:05 QgVS9jgA0
感想とご指摘ありがとうございます。

>瓦礫に挟まれた程度で折れるなら燃え盛るコンサートホールに耐えられたのと少し矛盾する気がするので
刀身が欠けていると言うのは削っても良いと思う

ご指摘の部分を修正次第修正用スレにあげてきます。


75 : 名無しさん :2016/04/18(月) 11:58:54 04ivqfqg0
>>74
修正ありがとうございます、お疲れ様でした


76 : ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:30:17 zrhQhbgI0
投下します。


77 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:32:43 zrhQhbgI0
「...なにこれ?」

この俺、足立透が首輪交換所の景品を貰って抱いた感想がこれだ。
黒の奴から首輪をかっぱらって交換したのはいいものの、その景品がコレ。
ポケットティッシュひとつ。これだけだ。
入れた首輪のランクが1とか言ってたし、あまり期待はしてなかったけどさ...

「...いやいや、これはないでしょ。もう一回押してみよっと」

きっとこれはなにかの間違いだよ、うん。だってさ、仮にも一人ぶんの命を入れたんだよ?それなりに見合った報酬じゃないと釣りあわないでしょ。
そんな考えで、俺はもう一度交換ボタンを押してみた。

『交換は一度だけで、支給品もランダムです。新たに交換される場合は、新たな首輪をご投函ください』

なめてんのかこいつ。
そう吐き捨てようとした俺だが、落ち着いて考えてみる。

(待てよ。もしかしたら、これも変わった支給品なんじゃ)

俺自身、妙な支給品は多く見てきている。
本物のライトセイバーとか、ビタミン剤に紛れた青酸カリとか、グリーフシードとかいうよくわからない魔法少女専用回復アイテムとか。
だったら、このティッシュも鼻をかんだら疲れがとれたり、毒が塗ってあったりするんじゃ...
そんな期待を込めながら、俺は足元の受け取り口から出てきた説明書を読んでみた。

『市販のポケットティッシュ@残念でした』

「クソが!」

思わず俺は交換機を蹴り飛ばした。
だが、交換機はウンとも寸とも言わない。
代わりに、俺はあまりの脚の痛さに蹲ってしまう。
なにこのポンコツくん凄い硬いんだけど。

「クソッ...なんなんだよ。こんなもん置いて期待させやがって。マジで死ねよ広川の奴」

爪先の痛みで涙目になりながらも、俺はどうにか気持ちを落ち着かせる。
とりあえず、他の奴らが首輪でいいものをゲットしたりしたらムカつくから壊しておこう。
タロットカードを握り潰し、マガツイザナギを召還。そのまま、間髪入れずに剣を突き立てさせる。
が、しかし。
剣は刺さらない。硬すぎる。
ならばと殴らせてみるが、一向に壊れる気配を見せない。
...そんなあっさりと壊されたら置いた意味もないし、当然といえば当然かな。


78 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:33:35 zrhQhbgI0

「...はぁ、やめやめ。もういいや」

壊せなかったのは残念だが、いつまでもイラついていても仕方ない。
どうせ壊せないなら、他に有効活用したいものだけど...。
うん、何にも思いつかない。
硬いだけのこいつをどう扱えっていうんだよ。
ん?硬いってことは

「そうだ、こんだけ硬かったら盾にできそうじゃんか」

マガツイザナギで攻撃してもビクともしないコイツだ。
そうそう壊せる奴なんていないだろ。
幸い、そこまで大きくはないし、頑張ればデイバックに詰めこ...

「...とられてんじゃんか、デイバック」

いや、デイバックに入れられなくても、普通に運べば...

「ふんぎぎぎぎぎ!!」

ゆ、床に固定されてて全然動かない。
あと、俺の感覚が確かなら、こいつ凄い重い。
マガツイザナギでもギリギリ運べるかどうかくらいだ。
これでは盾の使用なんてとてもじゃないが無理だ。

クソがっ!と再びケリつけるが、またも俺の爪先を痛めるだけ。

当の交換機はピンピンしてる。

「...ちくしょう、なんなんだよ広川の奴...」

あのクソ主催に対しての何度目かの悪態をつく。
なんで自分ばかりこんな目に遭うのか。
思い返せば、いままでロクな目に...
ああもう、やめやめ。何回目だよ、今までの不幸を振り返るの。
一旦マガツイザナギを消して、俺は努めて冷静に考える。


少し前向きに考えよう。
いまここに誰も来ていないってことは、首輪交換機を使おうとする奴らの待ち伏せができるってことだ。
当然、そいつらは誰かの首輪を持っている上に、そいつら自身の首輪も持っていることになる。
つまり、だ。
俺はそいつらを仕留めれば、最低でも首輪を二つ手に入れることができる。
しかも、それなりに戦いが出来る奴なら首輪の報酬も期待できるはず。
失敗すればさっさと逃げればいい。

「いける...いけるぞ、俺」

誰に言うまでも無く、俺は呟く。
そうだ。今度こそいける。
いまの俺の居場所を知ってるのはあのまっくろくろすけだけ。
あいつはあいつでイリヤとかいうガキに構ってるからそう易々とはこっちに来れないはずだ。
よし、そうと決まれば早速待ち伏せ場所の確認だ。
俺は意気揚揚と交換BOXの扉を開け。

「おや」
「うそぉ...」

少し離れた場所に立っていた火傷顔の男を見つけたとき、俺は思わず口をあんぐりと開けてしまった。


79 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:36:19 zrhQhbgI0



ヒースクリフと別れた魏は、地獄門へと向かうついでに、一度滝に寄り、次いで首輪交換機のあるアインクラッドへと足を寄せていた。
黒と戦うのは最優先だが、できればこの怪我も癒したい。
そのため、ここを訪れるかもしれない参加者から首輪を奪おうとしたのだが...

(使用中だったとは。まあいいでしょう)

目の前の男が何者かはわからない。
だが、やることは変わらない。
首輪を奪い支給品と交換するだけだ。


(なんでこのタイミングで他の参加者が来るんだよ!?ありえねえだろクソが!)

冷静な魏に対して足立は、大いに動揺していた。
良い策を思いついた途端にこれだ。もう何度目だよと叫びたくなる。
毒殺による内部崩壊を目論めば偶然見ていたという理由であっさりと犯人だと判明して。
逃げ出せたかと思えば殺人者名簿に載せられてた上に承太郎にハメられて追い立てられて。
電車に乗ろうとしたらまた承太郎たちに見つかって。
あいつら追っ払って一休みかと思えばエンヴィーとヒルダの戦いに巻き込まれて。
どうにか切り抜けて後藤と戦った集団に入り込もうとしたらエスデスがやってきて全部ブッ壊されて。
むしゃくしゃしたから雪乃に八つ当たりをしようとしたら槙島に邪魔されて。
皆殺しを決意したらアカメたちに後藤を押し付けられた挙句支給品すら全て奪われて。
黒に保護されて、首輪も奪えてようやく運が廻ってきたかと思えばこれだ。

もう不幸という言葉すら生ぬるい。
広川が足立のもとに参加者を送り込んでるんじゃないかと疑うくらいだ。

(...いや、待てよ。尖った耳に、火傷の痕。こいつの容姿、どこかで聞いたような...)

尖った耳、火傷の痕。
これらのワードで断片的になにかを思い出す。

『襲われたって...大丈夫だったの?どんなやつ?』
『えっと、魏志軍さんっていう、尖った耳で、顔に火傷の痕があって...』

そうだ、思い出した。
コンサートホールで承太郎たちと戦った魏志軍って奴だ。
それに、黒からも危険人物だということを伝えられている。
だったらさぁ...


80 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:37:54 zrhQhbgI0

「もしかしてきみ、魏志軍ってやつ?」
「私の名をご存じとは。誰から聞いたのですか?」
「コンサートホールでちょっとね。そんなことよりさ、ちょっときみ、適当に参加者を襲って首輪もってきてくんない?」
「...?」
「僕の言う事を聞けってことだよ」
「なにを言いたいのかわかりかねますが」
「察しが悪いなぁ...こういうことだよっ!」

足立はタロットカードを握りつぶし、マガツイザナギを召還する。
魏はそれを見て、咄嗟に身構える。

「ハハッ、びびった?僕ねぇ、きみが手も足もでなかったまどかちゃんと承太郎くんをブッ殺してここまで生き残ってきたんだよ。つまりさ、きみじゃあ僕には敵わないってこと」
「...ほう。それはそれは...」

足立の言葉を聞いた魏が、一瞬なにかを考えるような素振りを見せる。
が、すぐに顔をあげ。

「...ならば、彼らから受けた雪辱は、代わりにあなたで晴らすとしましょうか」
「あっそ。...僕さぁ、少しイラついてたところなんだよね。だからさぁ」

マガツイザナギが地面に剣を叩きつけ砕く。

「痛い目みても、後悔しないでよ?」

マガツイザナギが剣を振りかぶり、魏に襲い掛かる。
斬撃であるため受ければ血は流せるが、あれだけ巨大な剣では致命傷は免れない。
魏はマガツイザナギの剣を躱し、己の左手首をナイフで切りつける。

(この能力にあの姿形...コンサートホールの、いや、ジュネスで戦った彼らにより近い)

目の前の男の能力は、ジュネスで戦った少年と少女、特に少年の操る人形に非常に酷似している。
ならば、この人形を傷付ければあの男にもダメージが伝わるはずだ。
そして、できた隙を突き仕留める。
魏は、マガツイザナギへと腕を振るい血を飛ばすが、しかしそれは剣で全て受け止められる。
舌打ちをしつつ指を鳴らすが、剣が崩れるだけで、足立とマガツイザナギにはダメージが伝わらない。


「お前の能力は全部黒くんから聞いて知ってるんだよ、バーカ!!」
「なに?」

思わぬ名前を聞き、魏の動きが僅かに止まる。
自分の能力が知れ渡っていること自体はなんら不思議ではない。
しかし、足立はいま確かに黒の死神の名前を出した、ということは。

(奴は、この近くに...!)

そんな、戦闘中、ましてや契約者では生じえない隙を、足立は見逃さない。
マガツイザナギが投げつけた折れた剣を、魏は咄嗟に跳躍で躱す。
魏が自分の迂闊さに気が付いた時にはもう遅い。

「ぶっとべオラッ!」

マガツイザナギの拳が、魏の胸部を強く殴りつける。
魏の身体が地面を跳ねて後方に吹きとばされる。
これまで交戦した新一にスタープラチナ、バゼットの手袋を着けたタツミやエスデスほどの威力はないが、いまの傷ついた身体では受けたくないダメージだ。


81 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:40:02 zrhQhbgI0

「さーて。そろそろ僕に従う気になったかなぁ?」

手放した剣に変わり、マガツイザナギに新たな剣を呼び出させる。

足立は上機嫌だった。
思っていた通り、この男は承太郎や後藤に比べて弱い。
あの流れる血にさえ気をつければ問題なく勝てる。
このまま力でねじ伏せることができれば、体のいいパシリとして使えそうだ。
そんな期待を込めつつ足立は笑みを浮かべる。
人に使われることはあっても、人を使うことはないため、その充足に優越感を抱いているのだ。

「御冗談を。...その姿かたちに特徴、やはり彼に似ている」
「は?」
「彼の能力と同じく、多数の人形と入れ替えることが出来るのか、それとも...」
「ちょっと待て。いまなんて」

足立の言葉を待たず、魏がデイバックを宙に投げる。
この時、一瞬だけ足立の視線がデイバックへと移る。
その瞬間だ。
突如デイバックから溢れ出した水流が、マガツイザナギへと襲い掛かってきたのだ。

「なっ!?」

足立は慌ててマガツイザナギを自らの元に寄せて剣を盾にするように構え、水流を受け止めさせる。
幸い、水流はどうにか受け止められる程度の圧力のため、足立自身が飲みこまれることはない。
しかし、これでマガツイザナギの自由は奪われた。
魏は、その隙を見逃さず足立との距離を一気に詰める。

「まっず...!」

マガツイザナギは水流を受け止めているため、迫りくる彼を迎撃することが出来ない。
一旦消して体勢を立て直そうにも、戻した瞬間水流にのみこまれてしまう。
電撃を発動しようにも、両手が塞がっているため狙いを定められず、かといって片手だけで受け止められる水流ではない。
迫りくる彼に立ち向かうには、足立自身でどうにかしなければならない。
が、しかし。

「くそっ!」

慌てて振るった足立の拳はあっさりと掴まれてしまう。
当然だ。
魏は、暗殺者である黒やアカメと渡り合える程の体術を有している。
手負いとはいえ、それでも一般人では相手にすらならない。
それに対して、足立はただでさえ疲弊しきっているうえにあくまでも一般人だ。
一応、警察になる過程での訓練はこなしているが、それだけである。
己の手で殴り合ったことなど数えるほどあるかも怪しい。
そんな彼の拳など、魏にとってはそよ風にすらならない。


82 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:40:44 zrhQhbgI0


魏の裏拳が、足立の顔面を捉える。

「ぶっ!」

顔面を包む痛みに一瞬怯むが、すぐに我に返る。
マガツイザナギを介して伝えられたスタープラチナの拳に比べれば、大したことはない。
数歩よろけた後、水流が消えたことを確認した足立はすぐにマガツイザナギに剣を振りかぶらせる。

「おっと」

魏は、掴んでいた拳を引き寄せ、足立の首根っこを掴み盾にするようにマガツイザナギへと向き合う。

「す、ストップストップ!」

振り上げられたマガツイザナギの剣が、静止の声と共にピタリと止まる。

(チクショウ、これじゃあマガツイザナギで振り払えねえ...!)

いま、足立の身体は盾にされている。
また、気の所為でなければ、足立の首を掴む際に魏の血液も着けられた。
これではマガツイザナギはなんの手出しもできない。
剣はもちろん、電撃なんて以ての外だ。
マガツイザナギを消して再召喚しようにも、そんなことをすれば即座に殺されるだろう。
かといって、肉弾戦でどうにか出来る相手ではないのは証明済みだ。
つまり。

「幾つか質問に答えていただきましょうか」

現状、詰みであることを、首元に当てられたナイフと共に足立は実感した。


83 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:42:22 zrhQhbgI0

「先程、あなたは黒という人物から私の能力を聞いたと言いましたね?」
「そ、そうそう!さっき別れたばっかなんだけどさ、あっ、もしかしてきみ彼の友達だった?なら早く合流してあげた方が」
「友達...?」

足立の首を絞める力が強まる。

(ヤバイ、なんか地雷ふんだ?)

黒は魏志軍を警戒していたが、花京院と承太郎のように話のズレが生じている可能性もある。
そう考えた足立は、黒と友好的な関係にあるかを尋ねようとしたが、しかし魏の反応を見てそれは間違いだと思い直す。

「ごめんごめん、僕ってば早とちりしちゃったみたいで...」
「...その黒という人物の特徴は?」

続行される質問にどう答えるかを思案しようとするが、魏の視線とナイフがそれを許さない。
嘘をついたりとぼけたりすれば、即座に殺すと訴えかけている。
仕方なく、足立は素直に答えることにした。

「真っ黒いコートを着てて、黒髪で、ワリと細身で...」
「電撃の能力は?」
「電撃?いやー、僕が戦ったわけじゃないし、よくわからないよ。ワイヤーは上手に使ってたけどね」

今度こそは間違いようもない。
黒のコートに、ワイヤーを巧みに扱う男。
魏は、足立から得た人物像を聞き、彼が出会った『黒』は、ほぼ間違いなく魏の追い求めるあの男であると確信する。

「あのー、そろそろ離してくれないかな...」
「...次の質問です」

足立の首をナイフで軽く小突くと、懇願することもなく渋々と口をつぐんだ。

魏は、足立は殺すつもりでいるが、後々に厄介になるであろうあの能力について知っておくのも悪くない。
そう考え、尋問を続行する。

「あなたの人形を出す能力。契約者とも違うようだが、あれはなんですか」
「し、知らないよ。ペルソナっていう能力なんだけど、たまたま使えたから使ってるだけで、詳しくはわからないし...」
「そうですか」

溜め息をつく魏に、溜め息をつきたいのはこっちだと内心で唾を吐きかける。
実際にオモテに出せば即座に殺されるためやらないが。


84 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:44:42 zrhQhbgI0


「次の質問です...私は、ジュネスであなたによくにた能力を持つ少年たちと戦いました」

ピクリ、と足立のこめかみが動く。

「あの少年の能力は、非常にあなたのモノと酷似していましたが」

足立の脳裏に、『アイツ』の顔がよぎる。
甘い戯言ばかりほざき、絆を振りかざし、足立の全てを否定してくる『アイツ』の顔が。

「あなたは彼らの仲間なのですか?」

(『アイツ』の、仲間...?)

魏のその言葉に、足立の思考が真っ黒に染まる。

俺が、独りでも戦ってきたこの俺がだ。
あの甘ったれのクソッタレな『アイツ』の仲間だと?

「...ざけんじゃねえぞ...」

気付けば、そんなことを口走っていた。
命を握られているこの状況でだ。

「俺が、『アイツ』の仲間だと...!?」

普段ならば、適当なことを言ってお茶を濁しているところだ。
もしも、殺し合いが始まった直後の時点で、『アイツ』が脱出の鍵を既に握っていたとしたら、適当に便乗させてもらうこともしたかもしれない。
だが、いまは違う。

この殺し合いを経て、足立の憎しみは募りに募っている。
後藤との戦いで気付かされた『アイツ』への深い憎しみは、もはや理性で抑えられるものではなくなっていた。

「もういっぺん言ってみやがれ。てめえのそのツラ、消し炭にするぞ」

足立の血走った眼に、隠すつもりのない怒りの形相を見て魏は薄く笑う。

(―――なるほど。これなら、使えそうだ)

足立は黒と出会っていた。鳴上を憎悪している。
これら二つがあれば、まだ利用価値はある。

「最後の質問...いえ、提案ですか。私は、あなたの出会った黒に用がある。あなたは、私の出会った少年に用があるようだ。そこでです。ここはひとつ、協力でもしてみませんか?」
「...あぁ?」


85 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:47:13 zrhQhbgI0


魏と幾分かの情報交換をした後、首についた血をティッシュで拭いつつ、足立は首輪交換機付近を離れ南下していた。

結局、足立は魏の提案を承諾せざるをえなかった。
あの状況ではどうしようもなかったのは事実だし、意地を張って無駄に命を落とすような真似はしたくなかったのだ。


(黒を見つけたら地獄門に来るように伝えろ、か...)

魏が一時的な同盟の条件に提示したのが、黒への伝言だった。
足立としては、それを伝えて魏が死のうが黒が死のうがどちらにしても好都合なため、それ自体は二つ返事で受け入れた。

黒への伝言の他に足立が魏から得た主な情報は三つ。

エスデス、キング・ブラッドレイ、そして鳴上悠についてだ。

前者二人に関しては、彼らの戦いの最中、ヒースクリフと二人がかりで奇襲を仕掛け奈落へと突き落としたらしい。
キング・ブラッドレイというフィジカルモンスターに関しては、まだ生きている可能性が高いとのことだが、エスデスはかねてより重症だったらしく、まず助からないだろうというのが魏の見立てらしい。

(まさかあの女が死ぬとはね。...ラッキーといえばラッキーかな)

正直、この件に関しては完全に想定外だった。
聞けば、まどかとほむらの死体を繋ぎ合わせるという、彼女たちを殺した張本人でさえドン引きし吐き気を催すような行為をしていたらしい。
できればこの手で今までの雪辱を晴らせればよかったが、そんなキチガイ女と関わらずにすむのならそれにこしたことはない。


そして、鳴上悠。

聞けば、『アイツ』はジュネスで里中千枝と共に魏と交戦したらしい。
電車を使った様子もないらしいことから、おそらくはあの付近にいるはずだ。

(待ってろよ、クソガキ。てめえは、必ず俺が絶望の淵に叩き込んでやる...!)

『アイツ』の手がかりを得た足立は、憎しみを胸に抱き進む。


「...そういえば」

ふと、魏から聞いたジュネスでの出来事について気になった。
里中は、鳴上と一緒にいた青髪の少女から現れたモンスターに殺されたらしい。
そのモンスターが出現した経緯は、鳴上ともう一人の仲間のタツミがグリーフシードとかいう物を渡す渡さないで揉めている内に、タイムリミットを迎えたとのことだ。
グリーフシードといえば、ヒースクリフの持っていた支給品で、まどかのソウルジェムを浄化するのに使っていた物のはずだ。

(その青い髪の女の子って、たぶんまどかが言ってた美樹さやかってことになるよな)

致命傷でもソウルジェムさえ無事なら生きていられるのが魔法少女だ。
ソウルジェムが濁り切ったさやかからモンスターが出てきたということは、つまり魔法少女はソウルジェムが濁り切れば死ぬのではなく、モンスターに生まれ変わるということだ。
だが、自分が殺した二人は、モンスターになっていない。
放送で呼ばれている以上、死んでいないことはありえないはずだが、これはどういうことだろうか。

「...まあ、俺の運が良かったんだろ。うん、そういうことにしておこう」

既に終わったことを気にかけても仕方ない。
ならば、前向きに捉えて今後のやる気の糧にしよう。
痛む右腕を押さえながら、再び足立は『アイツ』のいるであろうジュネスへとその歩みを進めた。


86 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:48:13 zrhQhbgI0



「さて、と」

南下していく足立を見送った魏は、これからの方針を考える。
いま現在、黒への言伝を知っているのは足立とヒースクリフの二人。
この会場の中で二人のどちらかでも黒に出遭える確率はあまり高くない。
それでも、黒自身がヒースクリフとの交流で地獄門へ来る確率は高い。
つまり、言伝通りに地獄門で待つのが利口な選択肢に思える。

(...だが)

魏は、ジュネスで遭遇して以来、銀を見つけていない。
銀を自分が連れていることを知れば、奴は必ず地獄門へやってくるが、彼女がいなければ後回しにされてしまう可能性は高い。
また、黒が銀を見つけていた場合も同様だ。
奴からしてみれば、自分はこれまで葬ってきた数々の契約者の内の一人に過ぎないだろう。
銀を既に保護しているのなら、奴がわざわざ決闘に応じる理由はない。

(...いっそのこと、足立を追ってみるか?)

足立はまず間違いなく自分を葬りたいと思っている。
もしも黒の正確な場所を知っていれば、いち早く黒と合流して潰し合わせようとするだろう。
もしかしたら、地獄門で待つよりも彼を追った方が早く黒と戦うことができるかもしれない。

(だが、奴の正確な居場所を知らなければそれだけでも時間を無駄にしてしまう)

魏は、第二回放送後からは東エリアを中心に行動しており、黒も東エリアで銀を探していたと思われる。
しかし、掴めた手がかりはヒースクリフと足立からの情報だけ。
どうやら何度もニアミスしているようだ。
下手に動けばそれだけ黒と戦えるチャンスを減らすことになるのかもしれない。

(言伝通りに地獄門で待つか、足立を追うか、はたまた来た道を引き返すか...)

どの選択肢が正しいのかはわからない。
非常に悩むが、時間は有限だ。
合理的判断のもと、魏が下した答えは...


87 : この情熱、この衝動は、自分を壊して火がつきそうさ ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:49:18 zrhQhbgI0

【H-4(南部)/一日目/真夜中】

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)、爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血、若干の落ち着き、満腹
[装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品
[道具]ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み) 警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする)
0:皆殺し。とりあえずいまはジュネスの方面へと向かう。
1:特に鳴上は必ず殺す。優先順位は鳴上>エスデス>後藤>その他。
2:黒と魏志軍をぶつけ合わせて両方潰す。
3:落ち着いたので少し冷静に動く。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
※黒と情報交換しました。



【H-4/一日目/真夜中】

【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
[状態]:強い決意、疲労(絶大)、黒への屈辱、背中・腹部に一箇所の打撃(処置済み)、右肩に裂傷(処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕、左肩に裂傷、銀に対する危機感
[装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、スタングレネード×1@現実(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲(星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、
     暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器) 流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×4、
     ビタミン剤の錠剤@現実×11(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品) ビリヤードの球(細工済み)×7
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:地獄門に向かい黒を待つか、足立を追うか、やはり南下して黒と銀を探すか。道中、銀を発見したらなるべく刺激しないように地獄門まで連れて行く
1:BK201(黒)の捜索。見つけ次第殺害する。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、可能な限り消耗の激しい戦闘は避ける。
4:あのドールは……。
5:あの男(ブラッドレイ)は危険。もっと準備をしなければ。
6:足立は可能な限り利用する。できることなら鳴上と潰し合わせたい。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。
※ペルソナとスタンドの区別がついていません。
※銀の変貌に勘付いていますが、黒との決着を優先しています。


88 : ◆dKv6nbYMB. :2016/04/22(金) 22:50:04 zrhQhbgI0
投下終了です。


89 : 名無しさん :2016/04/22(金) 23:53:50 Cc7zfUYI0
ギリギリですが投下乙&IF一周年おめでとうございます!

MVPマーダー候補と名高い足立さんとエルフ耳さんの邂逅
この二人は一年間かけて書き手の方々が育てあげたある意味IFの顔で、見ていると感慨深いものがあります
しかしDIO様やエスデス将軍より長生きするとはだれが予想したか…w
ここまで生き残ってきただけあって二人とも戦い方が洗練されてきていて見ごたえがありました、ポケットティッシュを引く足立さんはさすがだw
足立さんはジュネスに向かうようですが、黒さんも番長も近い位置に居るのでエルフ耳も一緒に来たら波乱になりそうで楽しみです


90 : 名無しさん :2016/04/23(土) 08:45:57 ut.VmYPU0
投下乙
ポケットティッシュとかいうどうあがいても活用できないアイテムは草
エルフ耳さんは着実にフラグを展開していってて良いですね


91 : 名無しさん :2016/04/23(土) 17:38:23 HNo7JstUO
投下乙です

過ぎた過去は忘れようとした直後にこれまでの不幸を数え直すはめになった足立w
どっちも主人公憎しで共通してるのね


92 : 名無しさん :2016/04/23(土) 20:03:47 AcTEK8B20
投下乙です。
「友達...?」
(『アイツ』の、仲間...?)
地雷を踏み合うふたりはマーダー。まだまだがんばって貰いたいですw


93 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/04/24(日) 22:15:23 towIfjbs0
お疲れ様です。
1年ですか……1話投下直前に何故か本スレ2本制で進むと言われたのが懐かしく感じます。

短いですが投下します。


94 : 踏切板 :2016/04/24(日) 22:17:05 towIfjbs0

 果て無き闘争の果てに眠りへと落ちた後藤は推定二時間が経過した後、身体を起こした。
 自然と起床し、睡眠時間の割合にしては比較的に身体が楽になっているようだ。血の巡りが潤滑油を垂らしたように好調である。
 
 朝日はまだ昇っていない。そもそも日付変更前であり、やはり身体の回復が普段よりも良好だ。
 カーテンを開けても変わらず少々の月灯りが差し込むだけだ。
 この感覚から推定するにまだ放送も始まっていないだろう。

 次なる場所へ足を進めるのもいいだろう。
 元の顔見知りから殺し合いで名を覚え死線を回避し続けた敵もいる。

 さて、これからどうするか。と表情には出さないものの、思考を張り巡らせる。
 ベットの縁に座り考えこみ――それらを放棄させるような音が東から響く。

 差し込む光は淡い月灯りではなく、瞳を閉じてしまうような強い雷光だった。
 自然で発生するような雷ではなく、人為的に生み出された落雷。
 寝起きの状態にとっては、タイミングのいい起爆剤となる。意識が確立した。

 無意識だ。本能が叫んでしまう。
 未知なる遭遇を経た寄生生物にとって殺し合いの環境は刺激の宝庫だ。

 元より行き先など決まっていない。
 指標が無ければ確実に参加者が居るであろう東へ自然と足が動く。

「ふん、忌々しい下等生物め」

「――――――――今のは俺の、声……か?」

 扉を蹴り開けた先には誰も立っていない。
 後藤を迎えるのは夜風であるが、肌寒さも感じさせていなかった。
 ふと聞こえた謎の声。
 声帯は彼のソレであり、後藤にとっては意識のない発生である。

 身体に何か変化が起きているのは確実である。
 だが、根拠も確証も無ければ立証も認識も不可能だ。
 自分の身体に何かが起きている。漠然とした状況しか把握出来ていない。

 無論、解った所でどうということは無く、殺し合いの時は進み続ける。
 後藤は次なる宴を目指し、ただ、進むのみ。


95 : 踏切板 :2016/04/24(日) 22:17:57 towIfjbs0


【B-8/発電所前/一日目/真夜中】


【後藤@寄生獣 セイの格率】
[状態]:寄生生物一体分を欠損、寄生生物三体が全身に散らばって融合、疲労(大)、スタンド能力『隠者の紫』発現
[装備]:S&W M29(4/6)@現実、鎖鎌@現実
[道具]:基本支給品、首輪探知機、拡声器、スピーカー、デイパック×2、基本支給品×2、S&W M29の予備弾45@現実、一撃必殺村雨@アカメが斬る!(先端10センチあまり欠損)、アンジュの首輪、佐天涙子の首輪、DIOの首輪、不明支給品0〜1(アンジュ分、武器らしいものはなし)、不明支給品0〜1(キリト分、武器らしいものはなし)
[思考]
基本:優勝する。
0:東へ進む。
1:泉新一、田村玲子に勝利し体の一部として取り込む。
2:異能者に対して強い関心と警戒(特に毒や炎、電撃)。
3:セリムを警戒しておく。
4:余裕があれば脱出の手掛かりを集める。首輪も回収する。ヒースクリフ(茅場晶彦)に興味。
5:田村怜子・泉新一を探し取り込む。
6:黒、黒子とはこの身体に慣れてからもう一度戦いたい。
7:武器を使用した戦闘も視野に入れるが、刀(村雨)はなるべく使用しない。
8:氷の女(エスデス)とも戦ってみたい。
9:足立とは後でリベンジしたい。
[備考]
※広川死亡以降からの参戦です。
※異能の能力差に対して興味を持っています。
※会場が浮かんでいることを知りました。
※探知機の範囲は狭いため同エリア内でも位置関係によっては捕捉できない場合があります。
※デバイスをレーダー状態にしておくとバッテリーを消費するので常時使用はできません。
※敵の意識に対応する異能対策を習得しました。
※首輪を硬質化のプロテクターで覆い、その上にダミーを作りました。
※首輪の内側と接触している部分は硬質化して変形しません。
※黒い銃(ドミネーター)を警戒しています。
※寄生生物三体が全身に散らばって融合した結果、生身の運動能力が著しく向上しました。
ただし村雨の呪毒によって削られ、130話「新たな力を求めて」の状態を100%とすると現在は75%程度です。
※寄生生物が0体になった影響で刃は頭部から一つしか出せなくなりました。全身を包むプロテクターも使用できなくなりました。
※吸血鬼を食ったことで徐々に吸血鬼の力を手に入れつつあります。が、後藤自身に首輪がついている以上そこまで能力は変わりません。指からの吸血は不可能です。
※運動能力が若干向上しました。以前の状態が75%程度であれば、現在は80%程度です。
※『隠者の紫』の像が出現しました。現在保有している能力はなにもありません。
※傷の再生は、掠り傷程度ならすぐに再生できますが、それ以上の傷の再生はかなりの時間と血液を必要とします。
※気化冷凍法、空裂眼刺驚、肉の芽、吸血鬼・ゾンビエキス注入は使用できません。
※DIOを捕食したことにより若干ではありますが彼の意識があります。


96 : 名無しさん :2016/04/24(日) 22:23:16 towIfjbs0
投下終了します。これからもよろしくお願いします


97 : 名無しさん :2016/04/24(日) 22:25:21 IdcMimaI0
投下乙
DIOの意識が残るとは恐ろしい…
ちなみに、何らかのきっかけで後藤の意識がDIOに飲まれる可能性もあるんですかね?


98 : 名無しさん :2016/04/24(日) 22:30:54 kqly2m6s0
さすがに死亡したキャラが実質復活になりそうな展開は不味いのでは
ただでさえ前のリレーではDIOよりもジョセフの影響が強いとなっているようでしたし


99 : 名無しさん :2016/04/24(日) 22:34:13 /ikhB2120
投下乙です
これぐらい大丈夫だと思います
若干と書いてるしお遊び程度でしょう


100 : 名無しさん :2016/04/24(日) 22:36:34 /ikhB2120
それと 作者じゃないので何とも言えませんが今回の話でディオ復活と捉えるのは難癖だと思います。
毎回氏が書いた作品にだけ無理矢理な指摘が散見されているようにも思えます


101 : 名無しさん :2016/04/24(日) 22:41:26 kqly2m6s0
そういうつもりは無かったのですが、後々後藤の精神を乗っ取る、なんてことになると復活展開に繋がりかねないんじゃないかなーと思っただけで
確かに尚早だったかもしれませんね、すいません


102 : 名無しさん :2016/04/24(日) 22:47:36 IdcMimaI0
>>100
あいや、ただの確認というか、そうなったらそうなったで面白いな的な軽いノリで聞いたもんで、難癖とかじゃないんで安心してくださいな

というか私個人は執筆者が誰かなんて一々調べたりしないんで、受け手も難癖だ難癖だと敏感になりすぎてると息苦しいですよ


103 : 名無しさん :2016/04/24(日) 23:48:45 A.O8B2hw0
t


104 : 名無しさん :2016/04/24(日) 23:51:22 A.O8B2hw0
失礼しました、投下乙です
まぁ、これ以上DIOの意識が前に出なければ問題ないかと
吸血鬼化が微弱でジョセフの影響がより色濃く出てる中、DIOの意識が出てきた補完は欲しい所ですが


105 : 名無しさん :2016/04/25(月) 00:03:27 7URFLyOI0
とうk


106 : 名無しさん :2016/04/25(月) 00:06:24 7URFLyOI0
投下乙です
前の話を読み直したけど影響がジョセフ>DIOってことにはなってないような
スタンドに目覚めるならDIOの意識が混じっても問題ないしむしろ普通だと思う
単純に考えて脳食べてんだから


107 : 名無しさん :2016/04/25(月) 17:50:09 4lo5k0j6O
投下乙です

ルビーと似たような症状じゃないの?
それとも、ハイテンションになったりWRYY言ったりは吸血鬼全般の特徴だっけ?


108 : 名無しさん :2016/04/26(火) 06:32:41 1gulCsEM0
>>107
ジョジョ本編だと意外と名有り吸血鬼ってディオの他は少ないんだけど(スト様とかチョイ役のベック位)
ハイになって奇声上げてるのはともかくW(U)RYYYY絶叫してるのは居なかったと思う
息子のジョルノは無駄無駄ラッシュの時に叫んでるから、どっちかと言うとディオ特有って考えるべきじゃないかな?


109 : 名無しさん :2016/04/27(水) 01:42:35 C8S0MKjo0
この話もうwikiに収録しても大丈夫ですかね?
もう少し待った方がいいかな?


110 : 名無しさん :2016/04/27(水) 03:44:35 GSmhyyTc0
いいと思います


111 : 名無しさん :2016/04/28(木) 00:56:10 Ww4Fvpw20
収録していいと思う


112 : 名無しさん :2016/04/28(木) 02:40:19 bef1xiQo0
OKもらったんで収録しときました


113 : 名無しさん :2016/04/28(木) 21:12:09 cliYe9Vg0
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114 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:18:16 WQQzbSrQ0
投下します


115 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:19:18 WQQzbSrQ0
「ごめんなさい、初春さん」
 
今はもう答えない少女に向かい、穂乃果は一言だけ弔いの言葉を残す。
外での戦闘音が静まり、巨大な足音が遠ざかっていく。
戦場を変えたのか、あるいはどちらかが逃走を始め、追跡が始まったのか定かではない。しかし、一つだけ言えることがある。
恐らくエンブリヲはこの気に乗じ、あわよくば邪魔者を消そうと画策しているのではないかという事だ。
倒壊した学院から、穂乃果は飛び出し周囲の様子を確認する。やはり、予想は当たっているかもしれないと穂乃果は思った。
 
(多分、エンブリヲは邪魔な人を……特にヒルダさんなんかを殺したいと思ってる筈。
 ならきっと、エンヴィーを利用するんじゃないかな)
 
確証はないが、エンブリヲはあの時、穂乃果を連れて脱出しようとはしなかった。
一応の協力体制を取っている以上は、二人で行動した方が両者の安全も考慮できる。
勿論、穂乃果が単に足手纏いだったり、あの瞬間移動は、自分一人でなければならない等の制約があったのかもしれないが、しかし些か引っかかる部分が残る。
エンブリヲは何らかの思惑があり、それを穂乃果に見られたくはなかったのではないか?
 
(何にしても、私が近くにいればあの人は妙な事は出来ない。
 ヒルダさん、花陽ちゃん、白井さん……!!)

穂乃果の判断は、間違ってはいなかった。
エンブリヲはエンヴィーを参加者の数減らしに利用し誘導していた。
ただ、彼女の読み間違いは一つ、それはエンブリヲ自らは学院周辺に留まっていたことだ。
だが穂乃果は誘導にエンブリヲもまたその身を晒していると推理し、飛び出してしまった。
こうして二人はすれ違い、思惑は交差したまま、互いに逆の方へと進む事となる。







116 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:20:04 WQQzbSrQ0


 
「トロいってのも罪よね」
 
電撃が撓り、それが花陽の横方に直撃した。
青い紫電が花陽を照らし、彼女は余波に巻き込まれ地面を転がった。
制服が土で汚れ、スカートから覗くソックスが擦り剥け、赤に彩られる。痛みに耐え悲鳴を押し殺し、顔を歪める花陽に御坂は更に電撃を放った。
ほぼ、無我夢中で動いたことが幸いした。
理性的に動いたのであれば、花陽の動体視力と身体能力では、二撃目の電撃は避け得なかっただろう。
直感的な動きがこの一瞬のみ、御坂の予想を遥かに超えたのだ。
自分の真横に空いた黒焦げのクレーターを凝視しながら、花陽は自身の幸運とそれが尽きてしまった事を悟る。
 
「ぐっ……ハァ……ハァ……」

「案外粘るじゃない。
 運が良いんだか、悪いんだか」

これだけ雷音を鳴らしながら、誰の姿も見えないとなると、どうやら先に逃げた花陽よりもエドワード達の方が、先に行ってしまったのだろう。
恐らくはすれ違い。いくら消耗しているとはいえ、ただのスクールアイドルと鍛錬を重ねたエドワード達では脚力には差が出る。
一エリアも、決して狭くはない。明確な集合場所がなければ、再度の合流も難しい。

「……そうか、学院に向かおうとしたのね、アンタ。
 じゃあ、あそこにはアンタのお仲間が沢山いる訳だ」

御坂が凶悪な笑みを浮かべ花陽に問いかける。
これが意味するのはここで花陽を殺し、その後で学院にいるであろう仲間達も殺すという宣告だ。
花陽の顔色が更に青くなり、冷や汗が流れた。その様を見て、御坂は学院がある一定の人物達の集合場所として、活用されている事を確信する。
 
「ち、違……!」

「嘘が下手。
 まあいいや。どっちにしろ、アンタはここで殺すから」
 
ディバックを置き、花陽は全速力で御坂から距離を取る。
運が良ければ、御坂はまだディバックに人が収納されていることを知らない。せめて、最期はあの二人を巻き込まない場所で死ねば、この場での死者は最小限に抑えられる。
 
「……ごめんなさい、皆――」

視界が一転し、黒色に染まる。
一瞬、ここがあの世なのかと思ったが、それは花陽の早とちりだった。
黒より深い闇色が、花陽の視界を染め上げる。それが人の形をしていると気付いた時、花陽の前で背を向けていた男が振り返った。
 
「小泉花陽だな?」
 
「は、はい!」

「高坂穂乃果の知り合いだ。
 黒と言えば分かる、先に行け」

「でも……」

「早くしろ!」

躊躇うが、以前のヒルダの死に様が頭の中で浮かび、花陽はディバックを掴んだまま走り出した。
このまま残った所で足手纏いがいい所だろう。
むしろ、ヒルダのように自分を庇って、黒を死なせてしまうかもしれない。

(逃げたか)

花陽が走り去っていくのを確認しながら、黒は内心で舌打ちをした。
銀を見つけ出すか、イリヤを止めるかの事態にこのような場面に出くわすのは、はっきり言えば運が悪い。
もしも彼女が穂乃果から聞いたとおりの花陽の特徴と、一致していなければ見捨てていたかもしれない。
だが、見つけてしまった。そうなった以上、一時的にとはいえ同行していた、穂乃果の友達を黒は見捨てられなかった。

「……トロいのは、私もか」
「早めに、ケリを着けさせてもらう」
「私としては、もうちょっと遊んでても良いんだけどね」

黒からすれば、さっさと御坂を片付け銀とイリヤの探索に戻りたい。
時間との勝負だ。
逆に御坂からすればもう少し遊んでても良い。
彼女はまだ黒子と対峙し、殺し合う覚悟が完全には決めていないのだから。
互いの思惑のズレを感じながら、黒はもう一度舌打ちをし一気に駆け出した。






117 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:20:26 WQQzbSrQ0


「しまむー大丈夫?」

「は、はい……」

「もうすぐで、学院だから!」

卯月の手を引きながら、未央は周囲を警戒しながら走り続けていた。
彼女達が逃亡先に選んだのは音乃木坂学院、理由としては所在不明のエドワードより、ある程度居場所が分かる鳴上と合流した方がいいのではないかと未央が考えた為だ。
勿論、未だエンブリヲに捕らえられている可能性もあったが、放送で名を呼ばれていない以上、鳴上もエンブリヲからの脱出に成功したのかもしれない。
何より、学院はアカメ達が向かった先でもある。彼らと合流できれば、これ以上なく心強いのは間違いない。
しかし、その考えは誤っていたと二人は思い知らされる。彼女達の近辺で、巻き起こる戦闘音に巨大な氷のドーム、これらの戦闘にエスデスが関与しているのは、誰の目から見ても明らかだ。
二人は身を潜めながら、それでも着実に学院へと歩を進ませていく。

「か、かよちん!?」

「未央ちゃん!」

二人の眼前に息を切らした花陽が写る。
卯月の件が既に知られている事も考慮し、若干緊張気味に口を開く未央だが、それらの思惑は一瞬にして消し飛ぶことになる。
見れば以前とは違い、足は傷だらけ、服も泥に塗れたりと明らかに普通ではない。しかも、同行者であるアカメはおろか新一、雪乃すら居ないのだ。
嫌でも彼女達の身に何かあったのだと、未央に予想させてしまう。

「何があったの? 皆は?」

「アカメさん達なら大丈夫、色々あって別行動してて……。
 それよりも……卯月ちゃん……」

花陽は卯月へと視線を向ける。
学院での情報交換で、真姫を殺めたのが彼女であることは知っていた。
そして、未央は固唾を呑む。
分かっていた事だ。学院を目指す以上、いやそうでなくても卯月の犯した罪を、彼女達の前で謝罪させなくてはならないことは。
花陽の目は怒りに染まっていた。普段、温厚な彼女からは考えられないほどの鋭い目付きで卯月を睨む。
それでも、彼女は敢えて目を逸らし何も言及はしなかった。

「今はこの場から離れる方が先だから」

酷く、感情を抑えた声だった。
聞いているだけで、胸が抑えつけられる。今すぐにでも逃げ出したいほどだ。
未央でこれなのだ。真姫を殺した卯月など、耐えているだけでも奇跡と言ってもいいかもしれない。

「事情を話すね」

花陽は未央の様子を見る限り、卯月は少なくとも今は殺し合いに乗る素振りがないのだと考える。だから、怒りを抑えこみ、合理的に思考する。
サリアの時とは違い、強引な手に出ようとしたアカメが居なかった分、花陽の中で冷静さが失われていくようだったが、それを押さえ込むように口を開いた。
出来る限り簡略し、二人に事の経緯をある程度話す。
その間に花陽は卯月への怒りを忘れられるような気がした。

「そっか、鳴上くんが……」

事情を聞く限り、グッドニュースは二つ、先ずエスデスが戦いに赴き足止めを食っていること、それから、鳴上は既にエンブリヲから開放されていることだ。
問題はそのエスデスが闘争を終え、こちらに向かってくるかもしれないことだろう。
ウェイブは行方不明、アカメと新一は雪乃救出の為不在となるとエスデスに対して、自分達だけで対処しなければならなくなる。
しかも近辺には、まだ御坂などの危険人物もいる。考えたくはないが、黒が万が一敗北でもすれば次にその毒牙に掛かるのは花陽達だ。

「とにかく、早く逃げないと、学院に行けば、少なくともエンブリヲさんは居るから」

「その人、私達を最初に襲ってきた人だけど……」

「大丈夫、少なくとも穂乃果ちゃんが居れば」

そう言いながらも、花陽も内心ではエンブリヲを怖れている。
本当ならアカメや新一と合流したい。だが、現状で頼れるのはエンブリヲしかいないのだ。
自分の無力さを実感させられながら、花陽は未央と卯月の顔を見た。
二人とも異論はないらしい。


118 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:20:50 WQQzbSrQ0

「北から、イリヤが来る」

「え?」

聞き覚えのない第三者の声、それは花陽の掲げるティバックから響いたものだった。
それと同時に桃色の光が花陽達に降り注ぐ。
普段ならば、見とれていると思えるほどに綺麗な光だが、この場で潜った修羅場の経験が花陽にあれが自分達に害を為す存在だと直感させる。
それは未央も同様で、咄嗟にマスティマを広げ、光を撥ね退ける。
衝撃に耐え切れず、未央は体制を崩し背中を地面に打ち付けるが、光はそのままあらぬ方へと逸れていった。

「やっと、見つけた」

空から舞い降りる白銀の少女、その姿は花陽達が幼い頃に憧れた、正義のヒロインにも似ているような気がした。
それでいて、その目付きは彼女達が憧れたものよりも、歪で歪んだものだった。
似ていた。花陽を襲った御坂の目付きと、目の前にいる少女の目付きはある種同質のものだ。

「……イリヤ」

「貴女を殺す、その後で黒さんも殺す」

花陽のティバックから這い上がり、銀は光を感じない虚ろな瞳をイリヤに向ける。

「ヒルダさんは? 何処行ったの」

「……亡くなったよ」

「ヒルダ……」

「そうなんだ」

顔見知りが死んだことに、イリヤと銀は僅かに動揺を見せたが、イリヤは即座に気持ちを切り替え杖を向けた。
また桃色の光が集約し砲弾として放たれる。
その寸前に卯月が糸を引き、イリヤの周囲を糸で囲む。だが一瞬でイリヤは、卯月の真後ろへと移動した。
帝具の扱いに慣れたところで、転身し身体能力が上昇したイリヤの敵ではない。
むしろエスデスのようになまじ実力があり、慢心や楽しみが入れ込む隙がない分、弱者に見せかけた帝具の不意打ちは難しいだろう。

「先ずは貴方から」

「ひっ……」

杖から魔法が放たれるより早く、花陽はヘルメットを取り出しイリヤへと振るった。
最悪の犯罪者、槙島すら屠る強度、固さを誇るサイマティックスキャン妨害ヘメットだが、それはあくまで彼の完全な不意を突いてこそ為しえた事だ。
加え、槙島を打倒した常守朱もまた曲がりなりにも犯罪者を取り締まる監視官であり、その身に幾重もの鍛錬を積んでいる。
戦闘における心得、純粋な腕力共に一般人の比ではない。
だが花陽は学生、良くて誇張してもスクールアイドル、多少の運動に長けていたとしても、実質は無力な一般人に過ぎない。

「――え」

『い、イリヤさん、何てこと――』

「か、かよちん……嘘……」

ザンという、鈍く鋭い音が耳を付く。魔力を斬撃に変化させたものだ。
振りかぶったヘルメットはイリヤに回避され、そのまま花陽の“右腕”ごと吹き飛んでいった。
花陽の肩より下からは鮮血が飛び散り、花陽と近くに居た卯月の顔を赤く汚す。

「あっ、あ、ぁ……」

絹を裂くような悲鳴と共に、花陽は肉体と精神的なダメージの二重苦に堪らず膝を折る。
その残酷な場面に卯月も未央も、ルビーですら呆気に取られてしまう。
イリヤはそんな事に構いもせず、再び杖を振りかざす。今度は腕などではなく、その命を摘み取る為に。


119 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:21:05 WQQzbSrQ0

「……!? なっ」

イリヤの即頭部を強い衝撃が襲った。
遠心力を受けたヘルメットが、そのままイリヤの頬にも減り込み、彼女の小柄な身体は堪らず吹き飛んでいく。
確かに、花陽の反撃は失敗に終わった。だがいくらイリヤでも、姿の見えない死角を突かれれば一溜まりもない。

「花陽ちゃん!!」

「ほ、のか……ちゃ、ん」

花陽と同じ制服を纏った、茶髪の少女が駆け寄ってくる。
その姿に安堵を覚えた花陽は意識を手放し上体が傾く、それを穂乃果は両手で支えた。

「そんな、花陽ちゃん……こんな……」

片腕を失くした友人の姿に、穂乃果は狼狽し取り乱す。
ここまで血は嫌と言う程見てきたが、その対象が親しい身内となれば話は別だ。

「は、早く! 腕を拾ってバックの中に、まだ間に合うと思います!!
 それに、あの娘また……!!」

最も早く、冷静さを取り戻したのは卯月であった。
良くも悪くもこの場で一番残酷な光景を目に、尚且つ作り出した為にそれらへの耐性が多少なりとも上がったことに加え、彼女は腕の再生にあてがある。
彼女はセリュー存命時、イェーガーズ本部でマスタングは自身の右腕を練成し、再生したのを目撃していた。
更に言えばディバックの特異な空間は、氷の融解や生物の腐敗を防ぐ作りになっているのも聞いている。
即座に腕を保存し、傷口を止血して錬金術師、マスタングが最後に記したあのエドワードと合流すれば、あの右腕は再び花陽の一部に戻れるかもしれない。
それらの希望的観測が卯月に思考を緩ませず、迅速な指示を与えさせた。

「花陽ちゃん、ごめん!」

穂乃果は、腕を咄嗟にバックに放り込む。そして激痛に顔を歪ませている花陽の左肩に手を回してから、半ば引き摺るような形で駆け出す。
その時、僅かにイリヤへ視線を向ける。
あの一撃が効いたのか、まだふらついていた。逃げるなら、今が絶好にして最後の好機だ。
未央も我に帰り、銀の腕を引き一気に駆け出す。
逃げていく穂乃果達に、イリヤは杖を振るって光弾を放つが狙いが定まらない。

「ルビー……何で、後ろのこと……教えてくれなかったの?」

『ち、違います。私もうっかりしてて、それで』

「……役立たず」

頭から流れる血を拭い、イリヤは舌打ちをした。
あの場で、また誰も殺せなかった苛立ちが増していく。そして、何より言い様のない不快感が、イリヤの中を占めて行くのだ
腕を、人体を切り落とした感触が手に残り、吐き気がする。以前のイリヤなら、吐いていたかもしれない。

「行かないと」

だがそんな不快感も、無視できるようになってきた。
内心に秘められた様々な思いを振り切るように、イリヤは遠くへ逃げた穂乃果達の追跡を始めた。







120 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:21:22 WQQzbSrQ0


しばらく走り、穂乃果は地図にはない民家を見つけた。
学院ではイリヤに見つかりやすい。エンブリヲと合流できれば良いのだが、そのエンブリヲも所在が不明なのだ。
下手に学院に戻るよりは、ここに留まる方が良いだろう。
穂乃果は花陽の怪我も考慮し、この民家で一先ずイリヤをやり過ごす事を決意した。

「花陽ちゃん、しっかりして!」

「もう少し、圧迫して」

「わ、分かった」

制服のブレザーを包帯かわりに巻きつけ、花陽の腕に巻きつける。
紺色が真紅に染まっていく様は、怪我人の花陽のみならず見ている者達の不安も煽っていくようだった。
更に銀の指示で、穂乃果は傷口を抑えていく。

「あと氷水、腕の保存に使える」
「私、探してくる!」
「タオルや袋も、居るんですよね?」

幸いにして、ここは本当に一般的な民家だ。
腕の保存に必要なものは探せばすぐに揃う。
何より、ドールとはいえ元エージェントであり黒のサポートもしていた銀は、応急手当の心得を多少は齧っていたのも幸運だった。
こうして迅速な処置により、花陽の容態は一先ず落ち着き生命の危機は辛うじて去った。

「ありが、とう……ごめんね、みんな……」

未央が氷水を見つけ、卯月がタオルや袋を調達する。
腕をタオルで包み、袋に入れ更に水を入れた袋に押し込む。
そのまま、ディバックの中に仕舞い込んだ。

「っ、あぁ……」
「かよちん!」
「花陽ちゃん!」

だが決して、痛みが消え去った訳ではない。
改めて腕をなくした衝撃と、痛覚を刺激された物理的な苦痛は花陽を容赦なく甚振っていく。
こればかりはどうしようもない。鎮痛剤もなければ、それを扱える医療関係者もいないのだから。
いっそのこと、気絶していればここまでの苦しみはなかったのだろうが、花陽の意識は嫌と言うほどクリアで鮮明だ。

「高坂さん、話さなきゃいけないこと、あるの……」
「え?」
「未央ちゃん……」

苦々しく未央は口を開く。

「ごめんね、しまむーちゃん、こんな時に話さない方が良いかもしれない……だけど、私は高坂さんに全部真実を伝えなきゃいけないと思う。だから……」
「……」
「穂乃果ちゃん、私も学院で別れた後の事を……話さなきゃ」

未央の話そうとしていることには、恐らく卯月の事も含まれているのだろう。
そう避けては、通れないことだ。むしろ、それを未央の口から伝えてくれるだけ、情けを掛けてくれているのかもしれない。
未央は一度卯月の顔を見てから、ゆっくりと頷いた。
穂乃果もその苦しそうな声に堪らず、耳を塞ぎたくなるが、こうまでして伝えたい以上は最後まで聞き取らねばならない義務があるのだと覚悟を決める。
花陽は穂乃果と離れてから巻き込まれたエスデス、エンヴィーが巻き起こした乱戦を、未央は目の前にいる少女が真姫を殺めた卯月である事を全てを伝えた。

「そんな……」

ほんのつい数時間前まで、会話をしていたヒルダが死んだ。
アンジュに続き、彼女まで死なせてしまった。
そして、真姫の仇である卯月までもが目の前に居た。
穂乃果は頭の中が真っ暗になるような錯覚を覚える。

「何で、殺したの」

「それは……私、あの、その」

自分の犯した罪を償わねばならない。そう考えて、卯月は事の経緯を話そうとして言葉に詰まった。
どう話せば良い? まず高坂勢力の事から話さねばならないが、どう見ても目の前の穂乃果は悪の首領には見えない。
むしろ、悪の被害者。友を想う、ごく普通の少女ではないか。
高坂勢力なんて、ただの肥大妄想に過ぎない。挙句の果てに、それが理由だなんて言えない。
怖い、絶対にこんな事、口が裂けても言えるはずがない。


121 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:21:43 WQQzbSrQ0

「あの……」

気付いたら、一歩後退りしていた。
怖い、怖い、怖い。逃げたい、逃げたい、逃げたい。
助けて、助けて、助けて、セリューさ――

「逃げちゃ駄目だよ。しまむー」

そっと、温かい手が卯月の背を押し支えてくれた。

「一緒に私も居るから」

そして温かく手を握り締めてくれる。

「未央ちゃん……」

こんな罪に汚れた自分でもずっと一緒に居てくれる。
だから、勇気を出せた。例え、ここで殺されたとしても怖くない。

「全て、話します」

全て受け入れる勇気を以って、卯月は言葉を紡ぐ。

「――ふざけないで」

そして、卯月の勇気の告白に対する返答は怒りだった。
セリューのふざけた陰謀論に、彼女に対する穂乃果の心象は最早覆らないレベルで、どん底にまで落ちている。
尚且つ、そんなものを信じ込み勝手な理由で、それこそ下手をすれば海未を殺したサリア以下の理由で、真姫に手を掛けた卯月を許せるわけがない。
押さえ込む理性すら沸かず、穂乃果は拳を卯月へと振り抜いた。
女性とは思えぬ腕力で、卯月の頬がミシリと音を立てる。唾と口内に出来た切り傷の血液を撒き散らしながら、卯月がそのまま床へと倒れこむ。

「まっ――」

未央は穂乃果を止めようとする自分を無理やり律する。
これは、当然の報いなのだ。殴られるぐらいされて当然だと。

「貴女みたいな人のせいで!!」

そのままマウントポジションを取り、穂乃果は卯月の胸倉を掴み上げ怒鳴り散らすと床へ叩きつける。
頭こそ打たないが、背に走る衝撃が穂乃果の怒りを物語っていた。
きっと、殺される。だけどしょうがない。
それで気が済むのなら、構わない。

「返して……返してよ! 返して真姫ちゃんを!!」

頬を何度も何度も平手で打ち続ける。
卯月の顔は赤く染まり、腫れ上がっていく。

(多分、もっと痛かったんですよね)

糸で切り裂いた真姫の表情は、忘れられなかった。
驚愕と苦悶と絶望に染まった顔は、絶対に自分じゃ味わいたくない。
――けれど、私はそれを他人にしてしまったんだ。

「セリューも、貴女も、自己満足で身勝手の殺人者の癖に……!
 貴女は、貴女達は正義の味方でも何でもない!」

「それは違う、セリューさんは私達を守ろうとしてくれたから、だから」

そこで未央は口を挟んでしまった。
例え、間違っていたとしても彼女の信念は本物だったと思うから。
自分達を守り、散っていったセリューに対して、その言葉だけは未央は聞き流せない。
だが穂乃果は未央を見もせず、更に怒りを込めた声で叫ぶ。


122 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:21:58 WQQzbSrQ0

「……何が正義なの? 
 そうだよね、ことりちゃんは殺し合いに乗った。だから、悪だったんだよね。
 でも真姫ちゃんは何をやったの? 教えてよ、何がいけなかったの。
 そっか、貴女達の気に入らない事をすれば悪、気に入る事をすれば正義なんだ」

「ち、違――」

「じゃあ、私も同じ事するね。
 これも正義だよね」

穂乃果はそう言い、ヘルメットを振り上げる。
例え女性の力でも、この至近距離で顔面を何度も殴打し叩きつければ、死かそれと同等の痛みを与えられるだろう。
未央も流石にマスティマを広げるが、やはり躊躇う。
もしも、ここで穂乃果と決別すればきっと卯月は一生罪を償えない。だが放っておけば、卯月は死ぬ。

「やめて、お願い……お願い!! 殺さないで!!」

卯月を救い、罪を償わせる。その両方を選んだ結果、未央が取ったのは懇願。
涙が溢れ、鼻水と混じったぐちゃぐちゃな汚らしい顔で未央は穂乃果に向かい、卯月の命を懇願した。
恥も何もかも捨て、頭を下げて土下座までする。
それでも構わない。こんな奴は殺さなきゃいけない。
正義の味方面をして、好き勝手し続けた奴を許せるわけがない。

――撃てないのなら止めておきなさい。
――あなたには、人の命は背負えないのよ


アンジュの声が頭の中で反響した。

(アンジュ、さん……)

あの時はアンジュに止めてもらった。
けれど今は、止めてくれる者は誰も居ない。
居るのは、死刑の執行を待つ愚かな罪人と、それを止めて欲しいと請うしかないと哀れな罪人の友だけだ。

(アンジュさんが言ってた。
 恨んでるけど、それを覗くと殺す理由が見つからなかったって)

少なくとも今の卯月は殺し合いに乗ってはいない。
むしろ、花陽の為に動いてくれすらいた。それでも、やはり許せない。
彼女が抱いていた正義が、未だそれを何処か肯定しつつあり、狂気の根源にあったセリュー=ユビキタスが。

――あの女が許せない。

ヘルメットが床を叩き、転がっていく。
足元に転がったヘルメットを銀が担ぎ上げ、腕の中で抱いた。

「良いの?」

振り上げたヘルメットを穂乃果は手放した。
最後に全力でその頬を引っ叩き、それだけで穂乃果は卯月から離れる。
未央の顔は途端に喜びに染まり、卯月の胸へと飛び込んでいく。卯月も唖然としながら、強く未央を抱きしめた。

「あ、ありがとう、穂乃果ちゃん……!」
「――やめて」

それだけ言い、穂乃果は黙って花陽の横に座り込んだ。
いっそ、殺し合いに乗っていたら殺せたのだろうか。それとも、やはりサリアの時のように――


123 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:22:12 WQQzbSrQ0

「……これで、良いんだよね」

銀のティバックから、飛び出したカマクラがヘルメットを玩具にするのを見て、穂乃果は自分にそう言い聞かせた。

「ニャー」

このわざとらしい猫声をあげて、カマクラがヘルメットを転がながら穂乃果に寄って来る。
穂乃果が手を伸ばすと目を細め、頭を伸ばすカマクラ。顎を撫でてやると、気持ち良さそうに喉を鳴らしてきた。

「猫、好きなの?」

銀もカマクラに手を伸ばし尻尾の付け根辺りを撫でる。
実はここは猫の性感帯で、最も気持ちよくなる場所だ。カマクラは更に目を細め、恥ずかしそうに首を振る。
それでも満更ではないのか、抵抗はしない。

「……どうかな、犬の方が見慣れてるんだけど」

犬の話をしたせいか、カマクラが唐突に不機嫌そうな素振りを見せると、そのまま穂乃果から離れて銀の膝の上に乗ってしまった。

「あーあ、嫌われちゃったかな」





124 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:22:44 WQQzbSrQ0



電撃を練り上げ、眼前の敵へと叩きこむ。
もう幾度となく繰り返し、そして見飽きた光景だ。
タイミング、その射程規模、まさしく必殺の電撃だったと御坂は思う。
だが、目の前の男はそれをまるでものともせず、正面から突っ込んできたのだ。
電撃の中を突破した黒は、手にした友切包丁を振るう。砂鉄を操り盾として受け止めたが、逆に欠けたのは砂鉄の方だった。

(間違いない、コイツ電撃が効かない……!)

御坂の経験上考えられる要因は三つ、その内二つは反射されているか、打ち消されるかのどちらかだ。
しかし、電撃そのものに異常はない。つまり電撃自体が黒には通用しないのだろう。

「同じタイプの、能力ってことか」

電撃を地面に放ち、その反動を用いて御坂は後方へと飛翔する。
御坂も、暗部で殺し合いを経験したフレンダと肉弾戦で渡り合う猛者だが、それでも本職の暗殺者である黒の方が遥かに格上だ。
このまま、近接戦闘で御坂が勝ち得る要素はない。
加えて、あの包丁もどきも厄介といえる。砂鉄と斬り合いながらも、寧ろ消耗してるのは砂鉄の方という有様。
あれで包丁の体をしていなかったら、誰もが認めた稀代の名刀であったことは間違いない。

(御坂美琴、最強の電撃使いか)

黒子からその詳細は聞かされたが、改めて対峙するとその強大さが嫌でも分かる。
御坂の飛ばす砂鉄を防ぎながら、また黒も攻めあぐねていた。
電撃の感電は同タイプな以上は無力だ。これは以前交戦した、ニックとの戦闘でよく理解している。
故に接近戦で物理的に仕留めるしかないが、御坂の砂鉄の刃を包丁一本を頼りに突破するのは自殺行為だ。
砂鉄を友切包丁で弾きながら、黒もまた一気に後退する。

仕切り直し。
互いに体制を整え、戦力を図り合い、戦術を練り直す。

真っ先に動いたのは黒。
この辺が市街地である事を利用して、周囲の建物へと回り込む。
砂鉄による追撃は全てコンクリートを抉り、灰色の粉塵を撒き散らすだけで、黒本人には掠りもしない。
遮蔽物を利用し、距離感を曖昧にさせ、御坂の狙いを疎かにさせるのが黒の狙いだ。

「――なんて、すばしっこいのよ!」

今までの戦ったDIO、ブラッドレイ、エスデス、後藤などの大物達は全て真っ向から御坂に挑んできた。
それは彼らがより優れ、まさしく最強の力を有した強者であるからだ。
だが、黒はいま彼ら強者とはまた真逆の戦法を用いた。それは傍から見れば、あまりにも小細工に徹したつまらぬ戦法だろう。
そして御坂もどちらかと言えば、ブラッドレイのような大物達の戦いを望む方だ。
気性が逆の黒の戦いに苛立ちが溜まっていき、集中力が疎かになるのは時間は掛からない。

「そこっ、取った!!」

十を超える攻撃の末、黒の影を完全に捉え砂鉄の刃が人影を抉った。
黒の上体はぐらりと揺れ、そして一気に前屈みになり疾走する。
ほんの僅か数ミリ先、紙一重で砂鉄を避けたまま黒は友切包丁を手に、御坂の心臓へと一直線にその刃を奔らせる。
これ以上ない、完璧な一撃、御坂が避けれる道理はない。


125 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:23:06 WQQzbSrQ0

「……何!?」

否、御坂の身体を紫電が巡り、御坂は黒の翳した友包丁を見事に避けた。
脳に直接電気を流し、その反射速度は極大にまで高めたのだ。
一瞬で、人間を超えた動体視力を経た御坂に、黒の対応が僅かに遅れる。
その隙を見逃さず、御坂は腕を伸ばしきった黒の胴体に砂鉄を滑り込ませ、容赦なく腕を引く。
自らの胴体が、バターのように切り裂かれる前に素早くワイヤーを撓らせ、御坂の腕に巻きつける。
腕の動きと連動していた砂鉄が逸れ、コートの端を僅かに刻んでいく。
肉に食い込み、血を滲ませるワイヤーを砂鉄で切りながら御坂は後ろへ下がり、忌々しく黒を睨み付けた。

黒も御坂も互いに思う。
もしも、電撃が通じてさえいれば今の攻防で、既に決着は付いていた筈だと。

(不味いな)

時間がない。
黒の焦りが募る。
このまま仮に御坂を倒したとしても、イリヤに銀を殺されれば意味がない。
やはり、あの時に花陽を見捨てるべきだったか。契約者ならば、迷わずそうしていただろう。

「やっぱり、急いでるのね」
「……」
「釣れないわね。少しくらい、話してもいいじゃない」
「御坂美琴、お前に構っている暇はない。消えろ」
「何で私の名前を……黒子にでも会ったの?
 それと、私に喧嘩売ってきたのは、アンタなんだけどね。
 だからって訳でもないけど、見逃すわけにはいかないわ」
「なら、死ね」

幾人もの契約者を屠った神速の腕捌き。
反射神経を高めた御坂でも、見逃しかねない程の速度で飛来物が投擲される。
飛来物を砂鉄の剣で切り伏せる、同時に黒が一気に加速し肉薄した。
御坂の首に向けて薙ぎ払われる友切包丁、上体を逸らし避ける。僅かに切っ先が首の皮一枚を掠り、痛覚が刺激された。
だが、そこまでだ。突っ込んできた黒は、その体制を大幅に前のめりへと傾けている。
勝負を焦り過ぎたあまり、一か八かの賭けに出た結果は惨敗。
手元に集結させた砂鉄が剣を為し、御坂は黒の頭上へと容赦なく振り下ろす。
今度こそ完全な詰み、黒の身体能力に技巧を考慮してもこれは回避不能な一撃だ。

「アンタ、焦りすぎよ!」

黒の投げた投擲物が、音を立てて地面を打ち付ける。
真っ二つに切られた容器からは、液体が絶え間なく零れ落ち地面を湿らせていった。
それらの光景が、コマ送りのように黒の目に写る。これが俗に言う、走馬灯という奴なのだろう。

「なっ……!!?」

濡れた地面から湧き上がる、砂鉄の槍。
御坂の操作したものではない別種のそれが、勝利を確信し剣を振り上げた御坂の胸元へと直撃した。


126 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:23:30 WQQzbSrQ0

「がっ、は、」

黒が投げたのはローション、液体だ。
御坂とは違い黒の能力は規模があまりにも矮小で、空気中に電撃を流すことも出来ない下位互換にある。
しかし、その反面同じ能力であることに違いはない。ならば、御坂と同じ使い方も規模が下がるだけで可能である筈だ。
故に黒はローションを通し、地面に電撃を間接的に砂鉄に干渉させ槍を形成した。

「……ハァ……ハァ……」

もっとも砂鉄の操作は電撃から発生する、副産物の磁力によるものである。
慣れない能力の応用は、異常なまでの集中力が要求された。今回は何とか成功したが、これから先の実戦でも決して使える様なものではない。

「――ったく、やるじゃない。今のは死ぬかと思った」

「……チッ」

槍に突き上げられた御坂は、重力に従い落下していく。
だが、そのフォームは生気を失くした屍のものではない。生きた人間の華麗な着地だった。

「いい線は行ってたわね。同じ電撃使いとして、感心したわよ。
 私の砂鉄を、見よう見真似で使うなんてさ。アンタ頑張れば、もっとレベルが上がるんじゃないかな」

御坂は砂鉄の槍が迫る寸前、黒の磁力以上の磁力でその操作権を強引に奪い去ったのだ。

「……ジャック・サイモン、そいつもアンタみたいな変な光を出してから氷を操ってたわね。
 あれを見てなかったら、もしかしたらアンタの奇襲に対策が遅れたかも」
「お前が、ノーベンバー11を殺したのか」
「ノーベンバー……そういう名前だったんだ。
 ……もしそうだったら、アンタは怒るわけ?」
「いや」
「そう……。てっきり、仲間かと思ったけど」

後藤との戦いで、杏子やジョセフと共に共闘した白スーツの男。
飄々として掴みどころがなかったが、今思うとあまり嫌いな人物ではなかったかもしれない。

(って、感傷に浸る場合じゃないか)

黒の電撃の規模は大体は知れた。
能力だけならば、こちらが確実に勝てる。
あとは着実に相手を攻め、消耗させ詰ませていくだけだ。

「ほう、君が御坂美琴か」

再度、仕切りなおし。
また両者が距離を取り、体制を整えなおした時、新たな第三者が来訪した。






127 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:24:09 WQQzbSrQ0


ぎこちない空気ながらも、落ち着きを取り戻した穂乃果は銀と一緒にもう一度屋内を探索し始めた。
万が一だが、何か花陽の助けになるものがあるかもしれないし、気分転換という意味もあっただろう。
この中には、本当にごく一般的な民家で穂乃果達現代人ならば、誰でも触れた事のあるようなものばかりが置かれている。
それがいつもの日常を彷彿とさせ、僅かな安らぎを与えてくれた。
しばらく辺りをさまよってから、台所に入り適当に辺りを漁ってみると、幾つかのお菓子やジュースが見つかる。
気紛れに一口食してから、穂乃果は改めて食欲がないことを思い出し、台所を出た。

「――ん……」

「声?」

この時、ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。
男の声だ。あまり男の知り合いは多くない穂乃果だから、突き詰めればこの場で出会った男性の声か。
マスタングではない。エンブリヲは論外、ならこの声は――

「――銀!!」

銀の名と声が穂乃果の中で一致し、声の主を連想させた。
数時間前に別れたばかりの黒の声だ。
確か花陽の話では、御坂に襲われた彼女を助け交戦に入ったらしいが、きっと御坂に打ち勝ちここまで来たのだろう。
後藤を相手に、あれだけの立ち回りを見せたのだ。御坂相手でも引けを取ることはない。
銀も先ほどの話を思い返し、黒が自分を探しにきたのだと確信する。

「黒さん、黒さんだよ!」
「黒……黒なの!?」
「銀? 銀なのか!?」

僅かな間だが、共に行動した穂乃果は溜息を吐き安心感に浸る。
これでもう一安心だ。黒と一緒ならば、これ以上頼もしいことはない。
銀も盲目であるにも関わらず駆け出し、民家の扉を勢いよく押し開ける。
やっと、最愛の二人は再会できたのだと穂乃果は安堵し――

(待って、本当に黒さんなの?)

嫌な予感がした。
この時、彼女は自分達があまりにも安易で、迂闊な判断をしているのではないかという疑念に駆られる。
そうだ。もっと冷静に事態を判断して、先に銀の観測霊を飛ばして本当に黒なのか確認した方が良いのでは。
遅れて銀の後を追い、手を伸ばすがもう遅い。

「黒、ヘ――」

「……見ーつけた」

銀の胸を光線が貫通した。

「イリヤ、ちゃん……」

黒ではなく、イリヤは笑っていた。
どうしようもなく嬉しそうな顔でいて、どうしようもなく楽しそうな顔で。


128 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:24:26 WQQzbSrQ0

「な、んで……黒は……」

『銀、すまない』

「……え」

「この杖、声が変わるんだ。
 ほら」

『だって可能性感じたんだ! ジャッジメントですの!』

イリヤの杖から発せられる声が黒から穂乃果のものへ、そして穂乃果から黒子のものへと変化していく。
ルビーの持つボイスチェンジャーを使用し、彼女はこの辺一体を黒の声を流しながら汲まなく探索し続けた。
銀ならば、きっと反応するだろうと考えて。

「本当はね。ルビーにこんな強制できないんだけど、広川が私の自由にルビーを使えるようにしてくれたみたい」

穂乃果が以前見たルビーは、もっと生気に溢れていたはずだ。イリヤもルビーを相棒のように信頼し、戦っていたのを覚えている。
それが今は主従関係、いやそんなものではない。情も何も感じないほど、冷徹に道具として扱っているイリヤに穂乃果は身震いした。 

「あとは黒さんも殺さなきゃいけないけど、その前に穂乃果さん達も殺してあげるね」

穂乃果は反射的に銃を抜いて、イリヤに構える。
震えた銃口はイリヤに照準を定めさせない。引き金を引いても弾丸はあらぬ方向へと飛んでいく。
対してイリヤは十分に魔力を溜め、穂乃果の眉間へと撃ち込んだ。

「ひっ」

足を縺れさせ、尻餅を付いてしまったのが幸いした。
イリヤの放った弾丸は穂乃果の頭上を通過し、民家へと直撃し爆音を巻き起こす。
コンクリートや木材の混じった灰を被りながら、穂乃果は冷静さを取り戻し倒れた銀を抱き起こした。

「逃げないと、早く……」

ディバックに銀を収納すれば、穂乃果は大した労力もなく逃げ出せる。
だがいくら無限の収納を誇るバックとはいえ、人一人を入れるにはある程度の時間が掛かってしまう。
しかも花陽の時とは違い、イリヤは健在。モタモタしている穂乃果を見逃すはずがない。
イリヤはもう一度狙いを定め、魔力の弾丸を射出した。

「マスティマ!」

騒ぎを聞きつけた未央が咄嗟に翼を広げ二人を庇う。
弾丸が弾かれ、穂乃果は銀を連れたまま未央の元まで駆け抜ける。
何時でも殺せる穂乃果達から視線を逸らし、イリヤは未央を睨み付けた。
あの翼は邪魔だ。先ほどの、ヘルメットの一件もある。下手に不確定要素を残せば、足元を掬われかねない。
真っ先に未央から潰すべきとイリヤは決めた。


129 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:24:41 WQQzbSrQ0

「ッ、はや――」

マスティマを除けば全ての能力はイリヤが勝る。
一瞬で距離を詰め、翼の展開が間に合わない超至近距離でイリヤは魔力を放つ。
その寸前、身体に掛かる負荷にイリヤの動きは止まった。
――身体が辛め取られている。蜘蛛の巣に掛かった蝶のように、イリヤは全身を糸により拘束された。
未央の影に隠れた卯月が糸の手応えを感じ、恐る恐るイリヤの様子を伺いに顔を出した。

「あ、ぶな……しまむー、ナイス」
「怪我は?」
「大丈夫、だけど銀ちゃんが」

穂乃果に支えられた銀を見て卯月は顔色を変える。
胸を撃たれているのだ。急所は外れたお陰で息はあるが、早めに治療をしなければ命に関わってしまう。
だから、先ずは捕縛したイリヤを早急に無力化させなければ――

「な、何?」

糸の手応えが増していく、いや強引に引っ張られていく。
不味い、イリヤは糸に捕らわれながらも無理やり身体を動かそうとしている。
このままでは、彼女の身体が糸で細切れになるのは時間の問題だ。

「やめて下さい! このままじゃ貴女……」

イリヤの身体に糸が減り込み、今にもはち切れそうだ。
その痛ましい姿が殺したくない、傷付けたくないと卯月の中の良心に働きかける。
まどかやほむらよりも、幼く小さな少女の姿に揺らいでしまう。
だがそこで気付く、イリヤの身体に傷一つ付いていない事に。
何より、イリヤの力が少女のものを既に超えたものであるという事に。
結び付けられた身体をイリヤは強引に動かし、糸と繋がった卯月ヤを手繰り寄せる。

「だ、駄目……!」

一重に言えば、実戦不足。卯月がクローステールを使った相手は、殆どが一般人か抵抗しない死体のみ。
糸の鋭さに耐えた上で力づくで動く相手など、卯月の数少ない経験にはない。
そんな卯月と、物理保護に身体能力を向上させたイリヤが力比べをすれば、当然イリヤに分がある。


130 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:24:59 WQQzbSrQ0

「これで、二人目……」

卯月がイリヤの元へと引き摺られていく。
足元の卯月に杖が翳された。
未央が駆け出すが、もう間に合わない

「うわあああああああ!!」
「――ッ」

悲鳴にも似た叫びと共に、イリヤに向かい花陽が飛びかかった。
卯月達に気を取られていたイリヤは裏口からこっそりと抜け出し、イリヤの横方にまで接近した花陽に気付けない。
穂乃果からのヘルメットの不意打ちといい、今回のことといい、ルビーはイリヤに対して意図的なサポートを行っていないのが裏目に出た。
イリヤの知覚能力自体はただの小学生と大差はない為、ルビーのサポートがなければ、素人でも容易にその隙を突ける。
腕力で尚且つ相手が隻腕であると、場面だけ切り抜けばイリヤが優勢だが、不覚の事態に弱い元来からの弱点と体格差から、彼女は花陽にルビーを奪われてしまった。

「ルビー、返して――」
「は、早く……この娘を!」

イリヤと共に地べたに叩きつけられ、右腕の切断面が更に痛むのを花陽は耐え、残った左腕でルビーを強く握り締める。
情報交換で得ていた通り、杖をなくした瞬間、イリヤはその力を全て失くし転身が解けていく。
一番近くに居た卯月が駆け出し、イリヤへと手を伸ばす。この好機を逃せばきっとイリヤも自分達も、傷付けあう事を予見し糸を張り巡らせる。
あとは軽く締め上げ、彼女を気絶させ拘束すれば良い。

『いけません! 皆さん逃げて!!』

「――夢幻召喚(インストール)」

花陽の腕の中でルビーが叫ぶ。
同時に銀色の閃光が瞬き、花陽の身体を貫いた。

「ごっ、は……あ、ぁぁ」

最早悲鳴すら上げられない。
声を上げる為の器官すらズタズタにされ、彼女の身体は無数の剣の山と化していた。
流れゆく血の量が、花陽の僅かな寿命を示しているようだった。

「いや、いや……花陽ちゃん……いやああああああああああ!!」

眩い閃光の中から、赤の外套を纏い、髪を束ねたイリヤの姿が視認出来た。
まるでその姿は以前、穂乃果が見たクロエのものと瓜二つ。
ただ違うのはその肌の色と、クロエからは全く感じられなかった冷酷な殺意。

「クロース――」

目にも止まらない神速で、イリヤは両手に握った双剣で卯月の糸を全て両断する。
彼女を拘束しようとした糸は全てが糸くずとなり地面に重なった。
もう一度、周囲に糸を囲おうとして、その全ての手応えが消えた。
先は糸を斬られたという感触があった。だが、次はそれすら感じさせないほどの速さ。
次元が違いすぎる。帝具だけ持っていても、勝ち目どころか逃げられすらしない。


131 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:25:29 WQQzbSrQ0

「しま――」

名前すら未央は呼びきれない。
いつ取り出したのか、いつ射たのかも分からない矢が卯月の眼前に迫っていた。
その余波だけで未央達は吹き飛ばされ、民家の壁に打ち付けられる。

(死ぬの?)

セリューに助けてもらった命だった。これらずっと、贖罪を重ねていく命だった。誰かを守ろうと思った命だった。
でもそんなものは、圧倒的な力の前には全てが塵芥と化す。
意志も決意も全てが蹂躙され、後には敗者の骸しか残らない。
穂乃果も花陽も銀も未央も、このまま朽ちて果てていくのだろう。
矢が発光し、爆音と爆風が巻き起こる。
その余波で地面が抉れて土煙が煙が吹き荒れた。

「うそ、だ……」

土煙が晴れていく。
ミサイルでも、激突したのかと思わせるクレーターが刻まれる。そこに人が居れば肉片すら残らない。

「……ぁ」

ただし、それが人であったのなら。
未央は、その黒色の巨人を見たことがあった。
エンブリヲから、自分を救ってくれたペルソナというお化け。
それが今、まさに卯月を片手に抱き上げながら土煙の中から姿を見せた。

「鳴上、くん……?」

鳴上のイザナギが卯月を連れて、未央の横へと座らせる。
そして、静かにイザナギと共に鳴上は歩を進ませていく。
その後ろ姿は見ているだけで、何とかしてくれるような不思議な迫力があった。

「……覚えてる」

イリヤが戸塚を殺してしまった場面が蘇る。
そう、本当ならイリヤはこの男を殺していた筈だった。
あの殺意は刷り込まれたものだとしても、忘れようにも忘れられない。
イリヤにとっての終わりでもあり、そして始まりを告げさせてしまったのは、他の誰でもないこの男なのだから。

「ああ、俺も覚えてる」

おぼろげな意識の中で、それでも自分を殺そうとした少女とそれを庇った少年の姿は、鳴上の記憶に刻み込まれていた。
きっと、この少女は目の前で鳴上が死に掛けてさえいなければ、こんな道を進むことはなかったのだろう。


132 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:26:13 WQQzbSrQ0

「……っく」

無数の剣で串刺しになった血塗れの少女が、胸を貫かれ今にも死に掛けている銀の姿が。
全ては目の前のイリヤがやったこと。それも戸塚の時とは違い、紛れもない自分自身の意志でだ。

「君はどうして、こんなことを」
「亡くしたものを取り戻したいの。お兄さんにもあるでしょ」
「それは……」

意識をなくす直前まで、一緒に居たタツミはいない。ジュネス付近のさやかの氷像も消えている。
考えたくはないが、気絶している間に何かがあったのは明白。
この場でイリヤと真っ向から戦えるのは、鳴上一人ということになる。
だが、それで良いのだろうか。
偶然であったとしても、恐らくがイリヤをこのような凶行に走らせた元凶は鳴上だ。
タツミ曰く、様子がおかしい何らかの洗脳があったのではないかと考察はしていたが、善悪を超えたところできっとイリヤを止める資格は鳴上にはない。
あの場に鳴上さえ居なければ、イリヤはこんな道を選ばなかったかもしれない。
本当にイリヤを救うべき男は、タツミから聞いたイリヤを助けると戸塚に約束した黒はこの場には居ない。

「……ぁ、はぁ……が……」
「ッ?」
「ほ、のか……ちゃんを……み、んな……ぐっ……ごほっ……!!」
「花陽ちゃん、花陽ちゃん!!」

声を発するだけで想像を絶する痛みを以っていても尚、友と仲間を思い鳴上に懇願する声。
駆け寄り抱き上げた穂乃果の腕の中で、花陽の視線は鳴上の方を向いていた。
今にも消え入りそうな痛んだ身体で、それでも仲間や友の身を案じている。

「必ず、守る。だから安心してくれ」
「……よ、か――」

言葉に出さずとも、花陽が最後に紡ごうとした台詞が鳴上には分かった。
鳴上は花陽の事を知らない。
だが友を想う強い花陽の絆に敬意を、そして彼女自身を救えなかった自らの不甲斐なさの謝罪を込め、鳴上はそう約束した。
最後に救われたような安らかな笑顔を浮かべて、花陽は腕の中で息を引き取った。

「……俺なんかに君を止める資格はない」

この戦場に立ってい良いのは鳴上ではない、他の誰かなのだ。
それでも、場違いの役者だとしても構わない。
花陽が守りたかったものを、壊させるわけにはいかない。それが戸塚という少年と、黒が交わした約束を守らせない結果になろうとも。

「俺を庇ってくれた人の約束を破らせることになっても、君を思ってくれている全ての人達の思いを踏み躙ることになったとしても―――俺は君を倒す」

イリヤの眼前に立ちはだかり、鳴上は宣戦布告した。
例えどんな理由があったとしても、同情すべき点があろうとも鳴上はイリヤの敵で居続ける。
自らが救えなかった少女の願いの為に、鳴上は拳を握り締めた。
願わくば全てのケリが着く前に、彼女の救世主が現れることを祈りながら。


133 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:26:33 WQQzbSrQ0

「きっと、お兄さんは正義の味方なんだね」

常に悪者をやっつけ、弱者の味方であり続ける光の存在。
子供心ながらイリヤも憧れていたことはあった。
目の前の鳴上も、そういう存在なのだろう。
例えどんなに傷付こうとも前に進むことの出来る、強い存在であり常に正しい人間だ。
だからこそ相容れられない。
“悪”であるが故に、“正義”とは必ず対峙しなければならない。

「この先、大勢の笑顔をお兄さんは守るんだと思う。
 でもね。お兄さんが居たら、美遊とクロは二度と笑えない。だから―――貴方を殺(タオ)す」

だから、ここに誓いを立てる。独善的で矮小で無価値な己への誓いを。


カッ

「ペルソナ!!」

「――――投影、開始(トレース・オン)」


譲れぬ境地を踏みしめ。
今、同じ愚者たる正義と悪がここに交差した。








134 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:28:28 WQQzbSrQ0






イザナギと黒と白の夫婦剣、干将・莫耶が火花を散らす。
体格及びその得物を見れば、イザナギが遥かに上回りパワーも並みのサーヴァントを凌ぐ。対するイリヤはその身を英霊化させたとはいえ、その格は神話に名を連ねた神には及ばぬ無銘の存在。
劣化しているとはいえ、仮にも神格の存在が無銘の英霊に劣る道理はない。

「ぐっ……!」

しかし、圧されていたのはイザナギだ。
神格とはいえ、それを操るのが鳴上である以上技量、経験、判断力は英霊と化したイリヤに劣る。
加えイリヤが夢幻召喚した英霊は、とある聖杯戦争において知名度の恩恵を受けられず、己の身体スペックの不利を補う戦いを強いられてきた。
格上との戦いは、むしろこの英霊の得手ともいえるのだ。

互いの剣が打ち合い続け、既に数は二十を超える。
耐久の限界が訪れ、罅割れゆく干将・莫耶に機を見出した鳴上はイザナギを一気に攻めへと転じさせた。
同時にイリヤも後退し剣を手放す。
瞬間、干将・莫耶は光に包まれ起爆する。爆破に巻き込まれたイザナギは鳴上に激痛を齎しながら、地面へとその巨体を打ちつけた。
壊れた幻想(ロークンファンタズム)。英霊が己の宝具を壊すことで、暴発させる捨て身の技。
正規の英霊ならば躊躇う、それをイリヤは構わず発動させる。彼女にとって宝具など替えの効く武器でしかない。
爆風に晒されたイザナギを視認しながら、イリヤは新たに投影した干将・莫耶に更に魔力を流し込む。

「オーバーエッジ」

二対の双剣の刀身が歪み、その姿を翼へと変貌させる。
先の倍以上の長身の刃を携えイリヤは駆け出す。

「ジャックランタン!」

イザナミから、かぼちゃの悪魔へとペルソナが変化する。
ジャックランタンのランプが揺れ、その瞬間炎が増大しイリヤを包み込む。
エンブリヲ戦で見せた、ホテルの一部屋を軽く焼きかねない炎の威力は生身の人間が耐えうるものではない。
だがイリヤは双剣を×字の形に振るい、疾風を巻き起こしながら文字通り炎を切り捨てた。
更に切り開かれた炎の跡をなぞるようにして、干将・莫耶が投擲される。
白の剣は、ジャックランタンの脳天に突き刺さる。頭をかち割るような鈍痛が鳴上を襲う。
もう一つの黒の剣は、鳴上の脇腹を抉った。不幸中の幸いは頭痛により、鳴上が僅かに体制を崩したことか。
でなければ、既に彼の身体は串刺しになっていたことだろう。

「が、ああああああああああ!!!」

耐え切れない苦痛に鳴上は悲鳴を上げる。
少なくない数のシャドウを相手にしてきたが、これほどの痛みを感じたのは鳴上の生涯ではこれが初だ。
傷を抑え、頭痛に耐えながらぼやけた視界で敵を見る。
既に視界にイリヤはない。あるのは、宙を舞う無数の干将・莫耶。
理解よりも早く、直感で察知する。これより繰り広げられる死の剣技を。

「アラハバキ!」
「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎむけつにしてばんじゃく)」

左右から双剣が降り注ぐ。ジャックランタンからチェンジしたアラハバキがその物理耐性を利用し鳴上を庇う。
この二対は引かれ合う性質を持っているのだろう。それを利用した剣戟だが、間一髪で鳴上は凌ぎきったと確信した。

「―――心技、泰山ニ至リ(ちからやまをぬき)」

即座にまた双剣を投影したイリヤ。
終わらない。先の一撃ははじまりに過ぎない。

「―――心技黄河ヲ渡ル(つるぎみずをわかつ)」
(これは、防げない……!?)

アラハバキが防いだ双剣がイリヤの持つ双剣に引かれ、鳴上へ降り注ぐ。
後方からの双剣と前方からのイリヤの剣撃。
挟み撃ちの両撃に対し、鳴上の使用可能なペルソナは一度に一体のみ。
アラハバキの目が光り放たれた光弾が地面を打つ。その地響きはイリヤの剣筋にも影響し、引かれ舞う後方の双剣も同様に鳴上から逸れた。

「―――唯名別天ニ納メ(せいめいりきゅうにとどき)
 ―――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われらともにてんをいだかず)……!」

鶴翼三連。
これはその全てが必殺であり、相手の予測や想像の裏をかく業。
如何な場面、窮地にあったとしても、その都度姿形を変え敵を屠る剣技。
既に鳴上はその術中に嵌っている。
崩れた体勢から一気にイリヤは飛躍し、同じくアラハバキの攻撃で体勢を崩した鳴上に剣を滑らせた。
イリヤの剣はアラハバキが盾となって遮られる。だが、死角から降り注ぐ双剣は鳴上の身体を切り裂いていく。


135 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:28:55 WQQzbSrQ0

「ラクシャーサ!」

アラハバキが光に包まれ、イリヤと同じく二対の剣を携えた異形が鳴上を抱え飛翔する。
先ほどまでのペルソナとは、比べ物にならない身のこなし。
ラクシャーサは、向かいくるイリヤの剣戟を全ていなし、投影した双剣を次々と打ち砕いていく。
正史においてラクシャーサは最強クラスの剣技を持ったペルソナであるヨシツネとすら斬り合える。
この場において幾らか劣化しようとも、これしきの剣技を捌きえない道理はない。
相対する敵に対し、柔軟にペルソナを変えられるワイルドの力が本領を発揮した。

「投影、開始(トレース・オン)」

しかし、無限の可能性を秘めるのは鳴上だけではない。
イリヤの身に秘めたる二つの力もまた無限の可能性を有する。

(アレを殺せる何かを―――)

聖杯の器、願望器としての機能。
望んだ魔術を理論や過程をすっ飛ばして行使するその力は彼女の魔力が及ぶ限り、あらゆる願望を叶え続ける。
そしてもう一つはクロエの力でもあり、今はクラスカードとなったアーチャーの投影魔術。
ある世界では無限の剣製とすら呼ばれたその力の片鱗はあらゆる剣を模倣し創り出す。

投影するはDIO戦においてウェイブが手にした黒の片手剣エリュシデータ。
そしてもう一つ、サリア戦でキリトが振るった妖刀・一斬必殺村雨。

駆ける。
光すら思わせる踏み込み。
秒さえ追いつけない神速の剣閃が交差した。
剣風の嵐が巻き起こり、鳴上の身体を斬り裂かんばかりに吹き荒れる。
ラクシャーサにノイズが走り、そのダメージがフィードバックされ激痛が全身を襲う。

(凌ぎきれないのか?)

物理攻撃に対し、前線を張ってきたラクシャーサが遅れを取るほどの剣技。
それも無理からぬことだ。何故ならイリヤの放つ剣裁きは、アインクラッドに置いて英雄とすら称された黒の剣士キリトとナイトレイドの切り札アカメの暗殺剣を完全に模倣したもの。
イリヤの投影はその剣の姿形、性質のみならず刀剣に宿る「使い手の経験・記憶」ごと解析・複製している。
エリュシデータからはキリトの技量を、村雨からはアカメの技量を。百戦錬磨の剣士達の技量が合わさったいま、ヨシツネすら退けたラクシャーサですらその太刀筋は見切れない。

「―――ッ!!」

ラクシャーサの剣が跳ね上げられ、片腕が舞い上がる。
ノイズがより酷くラクシャーサを蝕み、鳴上の右肩に痛みが集中した。
残った左腕で振るわれた剣をイリヤは屈んで避ける。

「スターバースト・ストリーム」

二刀流上位剣技。
連続16回攻撃。二刀流の俊敏さを以って、二刀による剣撃を敵の体に次々と叩き込む。星屑のように煌き飛び散る白光は空間を灼く。
SAOプレイヤーの中でも最大の反応速度を持つキリトにのみ許され、彼の象徴ともいえる二刀流スキルの一つ。
イリヤがエリュシデータの他に村雨を選んだ理由はここにある。キリトのみが使えるスキルを再現するには、曲がりなりにもこの場でキリトが振るった剣が必須だった。
僅かながらではあるが、キリトの動きを覚えていた村雨は見事、スターバースト・ストリームの模倣へとイリヤを補佐してくれた。
真の担い手たるキリトの放つものに比べれば、数段劣る歪な贋作に過ぎないが、その16の剣戟の壮絶さは想像に固くない。
まさしく空間ごとラクシャーサを斬り刻み、妬き尽す。全身を細切れにされたラクシャーサのダメージは最早常人が耐え切れる許容量ではない。
悲鳴すらあげられず、意識を失いかけながら、その衝撃に身を嬲られ鳴上は後方へと吹き飛んでいく。


136 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:29:10 WQQzbSrQ0

「―――、ぁ」

求めるは、これ以上ないほど確実な止め。
イリヤは弓を投影し村雨を矢として変形させる。
即死の効果を得た凶悪な矢は、如何なペルソナで防ごうともその身を呪毒が回り、本体を死に至らしめることだろう。

「……バイバイ」

ふと口ずさんだ言葉に、クロエの面影を感じ取る。
実は少し期待していないでもなかった。もしかしたら夢幻召喚で、またクロが笑ってイリヤに語りかけてくれるのではないかと。
―――ただの幻想だった。以前のセイバー戦とは異なり、意識もはっきりとイリヤのものでクロエの意識は何処にもない。
イリヤの中の願望機の力も美遊とクロエを生き返らせてはくれない。

「二人の為にもっと殺さないとね」

残る四人の少女達を殺し、あの黒の死神もこの手で葬り去る。
残りの魔力量は決して多くはないが、元より膨大な量の魔力を有するイリヤだ。
黒の戦いまで十分に魔力は温存できるだろうし、その後は回復に充てれば良い。
まだ戦える。そして何より、もう――誰でも殺せる。
花陽の腕を斬り、ズタズタに斬殺しても何も感じない。鳴上を殺しても同じだ。

『皆さん、逃げて!』

銀の治療の為に穂乃果達はまだこの場に留まっていた。
追う手間もない。銀に止めを刺し、彼女達を全員殺しつくすのに三秒と掛からない。

「ベルゼブブ!!」

強大なエネルギーが村雨を弾き飛ばす。
とっさに壊れた幻想として村雨を起爆させるが、その爆破ですらこのエネルギーに飲み込まれ消滅する。
爆風を巻き上げながら、男のシルエットがはっきりと写し出され、そしてイリヤの視界に鮮明に刻み込まれた。

「ここに居る誰もが、見たくもない現実を突きつけられてきたんだ」

再度村雨とエリュシデータを投影しイリヤは駆け出す。
剣の記憶を辿り、キリトの記憶と経験を引き出す。
再現するはジ・イクリプス。二刀流最上位ソードスキル。
その剣閃は太陽のコロナの如く、相手に全方位から27連劇の剣尖を殺到させる最強のスキル。
速度威力ともにこれは避け得ない。耐えようがない。
それに対し鳴上は手を翳す。瞬間、舞い上がった土煙が吹き晴れ、視界がよりクリアに写し出される。

「君だけが全てを失った訳じゃない!!」

これより相対するは最速にして、暴食を司りし魔王ベルゼブブ。
高速の羽音を響かせ、その巨体をイリヤへと叩きつける。


137 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:29:34 WQQzbSrQ0

「―――ガ、ァ」

捉えきれなかった。
その速度はジ・イクリプスを以ってしても追いつけない。
否、キリトが放ったジ・イクリプスならば、あるいは魔王すらも捉えきったかもしれない。
しかし贋作を本物が超えることは叶わない。ましてや、本物の意志が贋作の意志と相反するのであれば、その本来の力を引き出すことなど到底不可能。

(きっとキリトさんが、私を止めようとしてたのかな)

キリトもイリヤと同じく人を殺めた。
だが彼は最期まで罪を償い戦い抜いた。誰かを守る為に、その対象の中にきっとイリヤも含まれていたはずだ。
ならこれは彼に対する裏切りなのだろう。だからこそ、キリトから借りただけの文字通り、ただの贋作では本物を超える事など出来なかった訳だ。

「……死んだ人間は……帰っては来ない。君の絆を誰かの血で染め上げても良いのか?」

やっぱり鳴上という男は強いのだろう。
その口からは全て正論と綺麗事しか吐かない。ずっと正しくて強くあり続ける。

「……お兄さんは強いね」

地面に叩きつけられ、腹部と背中に強い打撲痛がイリヤを蝕む。
声をあげるのも辛いが、それでもきっとここで黙ってしまったらイリヤの負けになるような気がした。

「でもね、どんな理由があっても。
 好きな子のことを守るのは当たり前でしょ」

鳴上の言うことは正しい、でも正しいから人はそれを選べるわけじゃない。
例え間違っていたとしても、守りたい縋り続けたいものがある。

「―――私は〝友達と妹〟を見捨てたままじゃ、前へは進めないから…ッ!」

二人だけの味方は立ち上がる。
どうしようもない悪でありながらも、全てを敵に回してもイリヤが戦わない理由にはならない。

「ルビー!!」

イリヤは手放したルビーへと手を伸ばす。
逃げようとするルビーだが英霊の脚力に対しそれは些細な抵抗だった。
ルビーはあっさりと、その手の中に握り締められた。

『イリヤさん、貴女はどうしてここまで……もうやめましょう』
「駄目だよ、ルビー。私最低の悪者だから」
『悪者なんかじゃ、イリヤさんは被害者で……イリヤさんは救われなきゃ駄目なんです!』
「ありがとう。だけど、私やらなきゃいけないから」

―――他人が嫌がることしちゃダメ。ワケもなく人を傷つけるのは……いけないことなんだよ……。
いつかそんな事も言っていた。自分がしていることは、それを否定する行為なのにだ。
キリトと同じく過去の自分までイリヤは裏切っている。この先もずっと裏切り続ける――友達も母親も戦友達も、救うべき対象である二人さえも。

「投影、開始(トレース・オン)」


138 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:29:50 WQQzbSrQ0

使っていて良く分かった。
これは戦うものではない。
この英霊(ちから)は生み出すものだ。
余分な事は考えるな。現実で勝てない敵ならば、それに勝ち得るだけの自身を生み出せば良い。
イメージするものは常に最強の自分。外敵など要らない。自分とって戦う相手とは、自身のイメージに他ならない。
分かる。願望気としての機能が、英霊の使い方を教えてくれる。

『なっ!? これはまさか……』

最強の自分、それを担う自身を思い浮かべた時、イリヤの中に浮かんだのは剣ではなく杖。
既に失われたはずの、もう一つのカレイドステッキ・マジカルサファイア。
機能全てが完全に再現された訳ではない、無論サファイアとしての意志もそこには存在しない。
だが真に迫った贋作として、サファイアをイリヤは再現しきった。

「ごめんね、嫌だと思うけど力を借りるねサファイア、ルビーも!」
『……』

二本の杖が合わさった時、その真の力が発揮される。
イリヤが光に包まれた。
ステッキが重なり一つの杖を形作る、それと同時にイリヤの姿が大きく変貌する。
ピンクを基調としたフリルのドレスに背より大きく羽広げた魔力の翼。

ツヴァイフォーム。
ルビーとサファイアの同時使役による両ステッキの融合化で顕現する最強形態。

「それが、君の……」

鳴上の使役するベルゼブブとは対極にあるような神々しさ。
それを例えるのなら、天使あるいは女神と呼べば良いのだろうか。

「貴方ごと、全力で全て薙ぎ払う!」
「そんなことはさせない!」

何をする気か、鳴上は否応なく理解する。
あれだけのエネルギーを有した存在だ。やろうと思えば、この辺一体を消し飛ばすことも可能。
同時にベルゼブブとイリヤが飛翔する。
しかしイリヤはベルゼブブを優に追い抜き、一気に遥か上空へと上り詰めた。
そして上空のイリヤから、ベルゼブブの脳天目掛け魔術の刃が降り注ぐ。
対してこちらの氷属性の攻撃は全てが回避され、上空に対象を逃した無数の氷が精製され続けた。
回避しきれなかった刃がベルゼブブを貫き、羽を破き、足を?ぐ。天空の覇者たる魔王は無様に地べたを這い蹲る。

「ぐ、あああああ!!」

邪魔な蝿を落とし、天空の制空権はイリヤが握った。
これから成すは悪そのもの。
正義を堕とし、悪が打ち勝つ最悪の物語。
ステッキに集結する膨大な魔力。鳴上が今までに見たどの攻撃も比較にならないだろうそれは、避けるとか逃げるといった選択肢がなかった。
ただ一つ、残された選択肢は迎撃のみ。鳴上本人が助かるのはおろか、この場に居る全員の命を救うにはそれしか術はない。
鳴上はベルゼブブへと目を向ける。
地に堕ちた魔王は満身創痍、だがその戦意はまだ衰えてはいない。
これならばあと一撃だけ、あの直斗の影ごとダンジョンを消し飛ばした最大攻撃ならば放つことができる。


139 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:30:05 WQQzbSrQ0

「逃げろみんな、ここから今すぐ離れるんだ!」

無意味かもしれないとは知っていても鳴上は大声で未央達に叫んだ。

「鳴上くんは……鳴上くんはどうするの?」
「俺はあの娘の攻撃を止める」
「だけど、だけど鳴上くん! 危ないよ!」
「早く行ってくれ! ……もう誰かを死なすのはうんざりなんだ」

恐らくは未央の友達だろう少女をみすみす目の前で死なせ、クマと雪子を亡くし、千枝には死ぬ間際まで世話をかけてしまった。
挙句の果てに自分の知らないところで、またさやかとタツミまで恐らくは―――。

「そん、なの……」

止められなかった。
とても悲痛で痛々しい鳴上の顔を見た時、未央は言葉に詰まった。
そのまま強く腕を引かれ、為すがまま未央の視界から鳴上は小さくなる。



「―――多元重奏飽和砲撃(フォイアクヴィンテット)!!」

「メギドラオン!!」

未央が最後に見たのは強い光の渦に飲み込まれた鳴上と大きな蝿の姿だった。








140 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:30:38 WQQzbSrQ0




新たに現れたのは盾を持った壮年の男。
いや、もう少し若いのかもしれない。外見と内面の年齢が合っていないようなそんな奇妙な印象を受けながら、御坂はその男ヒースクリフに視線を向けた。

「久しぶり……というほどでもないか黒くん」
「ヒースクリフ、気を付けろ。知っているとは思うが奴は手強い」
「状況としては簡単だな。
 君と黒くんが戦っている。余程何かが拗れたのでなければ、御坂くんが殺し合いに乗っていると見て間違いないかな」
「そうよ、大正解。
 で、どうすんの? ここで私とやり合うのも良いし、あの黒いのに任せて逃げるの?」

まあどっちにしても逃がさないが。
そう心に付け加えながら、御坂は改めてヒースクリフを観察する。
一見隙がなく武術の達人にも見えるが、果たしてその実態は何なのか。
何故かは分からないが、妙に彼だけが何処か遠くに離れた場所から、ここを除いているような感覚を覚えるのだ。

「黒くん、私と組んだとして彼女に勝てると思うかな?」
「さあな」

他人事のように黒は受け流す。
なるほど、簡単に勝たせてくれるほど甘くはないと解釈すべきなのだろう。
となれば逃げるか。しかし、これもあまり取りたい方策ではない。
単に逃げれば、それだけで黒からの印象は下がる。無論、ここから一人切り抜けられる策がないでもない。
銀の名を出せば、黒は喜んでヒースクリフにその探索に行くよう指示を出し、合法的にこの場を離脱できる。

「そうだな。少し、話を聞いてもらえないかな御坂くん」

だがヒースクリフが選んだのは敢えて駒の保持だった。
エスデスと別れて以降、ヒースクリフはアカメ達や黒個人に恩は売れたが、仲間そのものをまだ手にしてはいない。
この先のゲームで、ソロを続けるのは厳しい。ブラッドレイ戦で嫌と言うほど思い知らされたものだ。
エルフ耳のような一時的な共闘も、それを相手が受け入れるなどの運がなければ、安定した戦力にもならない。だからこそ、戦闘力が高い黒をこの場で抱え込む事をヒースクリフは企んだ。

「先に結論から言うと、ここは見逃して欲しい」
「駄目に決まってるでしょ」
「そうなるだろうね。だから、それに見合うものを用意しよう」
「何だってのよ」
「情報だよ。君が喉から手が出るほど欲しがるような情報さ」

HPに余裕があれば黒と共に御坂を退けるのも悪くはない。
だが如何せんヒースクリフは、この場での戦闘にまだ自身が適応していないことを痛感する。
ブラッドレイの戦いやエルフ耳での戦闘で、はっきり分かったのが攻撃の反応がまだ鈍いという事だ。
他の参加者とは違い、アバターで参加している以上そこには生身とは違う余裕があり、なまじ余裕があるからこそ油断が生まれてしまう。
ブラッドレイの脳天を狙った突きもアバターだからこそ耐え、そこから反撃に転じれたように見えがちだが、あれは避けて反撃するのが正解なのだ。
やはり意識の違いというものが、土壇場で生まれてしまうのか。文字通りの実戦を重ねた猛者達に、たかだがゲームプレイヤーが何処まで通用するか。
よほど切羽詰った状況でなければ、戦闘は避けるのが無難だ。それがあのレベル5の電撃使いともなれば、なおさら。

「先ず、君と相性が悪いと思われる同じ電撃使いの情報から話す」

電撃使いという言葉に御坂と黒の関心が一気にヒースクリフへと向いた。
どうやら話を聞かせるというお膳立ては済んだらしい。
これで御坂は少なくとも、話を聞くまでは手を出しては来ない。

「足立透という男だ。聞いた事はないかな。
 非常に危険で狡猾、そして君の電撃をものともしない同じタイプの能力者だ」

黒と戦っていたということは、恐らくだが同じ電撃を身体から発生させるが故に、能力の強みを最大限発揮させられなかったのではないか。
御坂の内心を予測したヒースクリフだが、それは見事的中したらしい。
同じ能力者ならば、俄然彼女の興味を引くだろうと見越して話したこの情報は、かなり取引を優位に進ませてくれる。


141 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:31:36 WQQzbSrQ0

「足立、ねぇ」
「そうだ。だから戦うのなら気を付けた方がいい」

嘘は何一つ言っていない。実際、電撃を操ったのは本当だ。
ただ本体にまで、電撃が効かないかどうかまでは知らないが。

「でもさ、私その情報を知っちゃったらアンタ達を逃がす理由がもうないわ」

(掛かってきたな)

御坂の言葉が脅しているようで、その実かなりの積極性を帯びてきていた。
彼女はまだヒースクリフから、情報を引き出したいと耳を傾けている。

「これでもIT技術者だ。首輪の解析には自信がある」

あえて足立の情報で好奇心を煽ったところで肝心の切り札を出す。
あの好戦的な雰囲気だった御坂ならば、あるいは嘘と切り捨てたかもしれないが、今の彼女はそう簡単に物事を決め付けはしない。

「何ですって?」
「証明する術はないが……なにか適当な質問をしてみてくれ。答えて見せよう」

御坂もまたその手の知識には能力の性質上詳しい。
数問、技術者でなければ答えられないような質問をぶつけたが、ヒースクリフは難なく答えてみせた。

「さて、ここからが本題だが、君の目的は優勝だね。
 生き残るというよりは、何か願いを叶えたい。それが理由だろう」
「……知った風な口を聞かないで。
 殺すわよ?」
「すまない。
 どちらにしろ、君の目的が生存優先でも何でも構わない。
 不安じゃないかな? 連中が約束を守るか否か、君は心の底からそれを信じてるとは思えない」

改めて問われたのは主催への信憑性の有無だった。
はっきりいえば、考えたくもないことだと言わざるを得ない。本当に御坂が優勝したとして、連中がそれを叶えるのか。
実に今更だ。もう何人も手に掛けた癖に。

「優勝者への願い、元の場所への生還。それら二つは、別に連中が叶えなくとも構わないものだ。
 むしろその約束を破る方が、ずっと理にかなっている。馬鹿正直に乗った参加者ならば首輪も外していないだろうし、それを起爆させるだけでわざわざ守る必要もない」

「それが、何だって言うのよ」

「保険を掛けないかと言っている」

「保険?」

「そうだ。もしも連中が約束を守らないようなら、それなりの報復をしなくてはならない。
 その為には、彼らを脅す材料が必要ではないかな?」

つまりヒースクリフはこう言っている。
やりようによっては、首輪を外し連中を潰せるかもしれない。
万が一に連中に願いを叶える意志がない場合、主催と渡り合えるかもしれない切り札をここで潰すのは惜しいと。

(ようは自分を売り込んでるって訳か)

ここまで進んだ道を引き返せというわけでもない。
ただいざという時、利用し合える仲でいることは御坂の意志や決意にも反さない。
確かに、そういった時に備えての保険は必要かもしれない。

「一つ、連中が願いを叶えないんじゃなく、叶えられないって可能性はないわけ?」
「それはないな。主催も馬鹿じゃない、余程の捻くれ者でなければ、やれないモノを取引に使いはしない。
 誰だって保身は考えるはずさ、その時に何が一番使えるのかもね。でなければ、そんなもので我々を釣ろうとはしないだろう」
「……良いわ、今回だけは見逃してあげる。その代わり次はないわよ」
「話が分かって助かるよ」

乗った側の参加者と協定を結べるというのも悪くないメリットだ。
いわゆる仲間ではなく、ビジネスとして接することのできる御坂は、もしもこの先、主催との戦いに突入したとき利用できる。
彼女も願いを叶えられる確信がなければ、こちらの話に乗る可能性もあるだろう。だからわざわざああやって揺さぶってやったのだ。
御坂に言った保険は、そのまま裏を返せばヒースクリフの保険の一つでもある。


142 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:31:58 WQQzbSrQ0

互いが目を合わせたまま後退していく、それが一定の距離に達した時、その場にいた全員は一気に踵を翻し駆け出した。

「何とか助かったな、黒くん」
「ああ、お前のお陰だ」
「それと黒くん、聞いてくれ。銀という少女の居場所が分かった」
「何?」

エルフ耳から得た情報を黒に教える。
やはり銀は南東の方に居たのだ。下手をすれば、先ほど出会った花陽が銀と既に接触しているかもしれない。
焦りが募る黒をヒースクリフは宥める。

「まずは学院の方が良いだろう。参加者の接触機会の多さを考えれば、穂乃果や黒子といった少女達はかなりのものだ。
 銀の情報を掴んでいてもおかしく――――」

知性と平静さを常に兼ね備えていたヒースクリフの口が開いたまま、彼は空を見上げていた。
呆然としていたのだ。その思考を一気に放棄するほどの神々しさに。

「なんだ、アレは……」

天空に君臨する天使の如き少女とそこから放たれる光の放流。
何が起きているのか完全な理解は二人には出来ないが、しかしあれが破壊を司っていることだけは分かる。

「銀、まさか」

嫌な予感というものは当たってしまうものだ。
黒の脳裏を過ぎった銀の姿を振り切ろうとして、限界が来た。
冷静さを保てないまま、黒は光の方角へと走り出す。
遅れて我に帰ったヒースクリフも思考を再開させ、黒の後を追う。

「……美しい」

いや、本当に我に帰ったのかも自分自身で怪しいぐらいだった。
ヒースクリフはあの光景に心打たれ、惹かれているのだ。光に集まる哀れな蛾のように。







143 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:32:24 WQQzbSrQ0





最早、そこに広がるのは神話の戦いに他ならない。
圧倒的な光の濁流が灼熱を生み出す。
それは空間すら捻じ曲げ、軋ませるほどの莫大なエネルギーの衝突。

「ォオオォオオオオオオオオ!!!」
「ハアアァァアアアアアァアアアアアアアアアアアアアア!!!」

鳴上が駆るは、あのルシファーにも次ぐ最強の悪魔ベルゼブブ。
その万能属性攻撃メギドラオンは、その実力に相応しい強大な力を有している。
しかし、敵もまたそれに匹敵、いやあるいは凌駕しうるかもしれない強大な力の主。
イリヤの駆るツヴァイフォーム、それが放つ多元重奏飽和砲撃。
これはかの英雄王の宝具、天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)すら退けた正しく最強の砲撃。

(圧しきれない……!)

拮抗は決して長くはなかった。展開は鳴上の劣勢という節目を迎える。
まず鳴上の力が、この場では薄れていたことが要因の一つか。
本来誰かとの絆によって広がるワイルドの力が、エンブリヲの感度50倍に晒された結果、ほぼ誰とも関わらず完全に発揮できなかったことはかなりの痛手だ。
だがイリヤにも、それは言えることだ。残り少ない魔力に加え、元よりあの英霊の投影は剣を模倣することにのみ、特化している。
強引に投影したサファイアは、これまでの投影品に比べあまりにも拙い。当然これを使ったツヴァイフォームは完全な力を引き出せていない。
このツヴァイフォームで、あの天地乖離す開闢の星と打ち合えば、イリヤの敗北は免れない程に弱体化していた。

(ダメージが抜け切らない……このままじゃ!)

勝敗を別ったのはダメージの総量だ。
ペルソナのダメージ総量とイリヤの受けたダメージ総量を見れば、明らかにペルソナで受けたダメージが大きすぎる。
むしろ、スターバーストストリームをモロに受けながらも、立ち上がれている鳴上が異常だと言っても良い。
スタンドと違い痛覚のみで致命傷にはならないものの、土壇場において鳴上にフィードバックされてきたダメージが表面に出てきたのだ。

『イリヤさん可能な限り短期決戦を、このツヴァイフォーム通常の魔術回路だけでなく筋系、血管系、リンパ系、神経系まで擬似的に魔術回路として誤認させています!
 長ければ長くなる程イリヤさんの身体に深刻なダメージが残ってしまうんです!』
「ルビー?」

そして何より。

『イリヤさんには負けました。良いですよ、一緒に世界最大の悪党になろうじゃないですか。
 地獄に行くときは一緒ですよ!』
「……だけど。あんなに酷いこと言ったのに」
『今更。何言ってるんですか、私にも責任がない訳じゃない。もう貴女と私は立派な共犯者です。
 仲直りです、イリヤさん。この先何処までも、お供します!』

使われるだけだったルビーがイリヤに助力し始めてしまったこと。
例えそれが間違った信念だとしても、どうして彼女がイリヤを見捨てられようか。
これまでも、ずっとそうだった。イリヤの決めたことに、ルビーはずっと助力し共に戦ってきた。
ならば、これからもそうであるべきだ。マジカルルビーとしてイリヤの大切なパートナーとして。
もうルビーに迷いはない。それが誤りであっても構わない。
イリヤが望み選んだ道ならば、それを助けるのが自分の役割だ。 

「ごめん、ありがとう、ルビー。
 ―――行くよ!」
『はい!!』

何時だって一人と一本で切り抜けてきた。
ずっとルビーは力を貸してくれた。
一人と一本の力が合わされば、どんな敵だって乗り越えられる。
光の波がより強く輝きだす。最早ベルゼブブは風前の灯、そこには魔王としての威厳など微塵も残っていない。
鳴上の最大の敗因は、皮肉にも彼が信じる絆をまた彼女達が築いてしまったこと。
元より鳴上に勝ち目などなかったのだ。
結束した彼女達の絆に、たった“一人”の鳴上が勝てる訳がない。


144 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:32:41 WQQzbSrQ0

「これ、でェ……!!」

魔力の渦が鳴上を包み込んでいく、きっと痛みも感じずに死ぬのだろう。

(俺は……ごめん、千枝……みんな)

―――壊せ。

あの時の声がまた響く。
鳴上を引き摺り下ろそうと、何かが絡み付いてくる。
それは女性のようなフォルムをした幽霊のような存在。
違う。最早それは肉体を得た人間の姿。



『諦めないで』




千枝の、みんなの声が響いた気がした。
後ろに視線が泳ぐ、今にも倒れそうなほど覚束ない足取りで銀が鳴上の元へと歩んできていた。

「銀……逃げろ、君は……」
「千枝なら、きっと逃げないから」
「……!!」

あの時の声が薄れていく。
纏わりついた女の姿が消える。
かわりに不思議な安心感があった。

「私の力なら……」

千枝のペルソナを進化させ、鳴上に呼びかけたあの力。
あれならばきっと。

「だけど、あの声は……」
「大丈夫押さえ込む。私も、みんなと黒を守りたい」
「っ……!」

ドールとは思えない固い決意の表情は鳴上の心に響いた。

「……?」

だが現実はいつだって薄情だ。銀の身体に、はもう足を動かすほどの力も残っていない。
彼女の意志とは裏腹に足は崩れ、全身を地面に打ちつける。
だが痛みはない銀を支えたのは、とても柔らかく温かい人の腕だった。

「私が、銀ちゃんを守るよ」
「……穂乃果」
「ここで逃げたら私、花陽ちゃんにもμ'sの皆に顔向けできないから!
 私も一緒に戦う!!」

花陽も真姫も凜も海未もことりも、皆が皆にの戦いに望んで散っていった。
それを穂乃果だけが、逃げるなんて許されるはずがない。いや穂乃果自身が許せない。
やれることなどたかが知れている。どうせ銀を支えて、庇うぐらいしかできない。
構わない、自分のやれることを、今この瞬間に立ち向かっていかなければ、きっと明日へのゴールには届かない!

「これは……」

力が沸いてくる。
不思議と前にも感じたことのあるような力だった。
その出所は銀。以前、ジュネスでも似たような共鳴をしたことがあったが、あの時とは違う。
憎しみに染まり、破壊しかもたらさない憎悪ではない。これはこの力は絆の力だ。

「……ずっと私は私が怖かった」

自分が自分でなくなるあの感覚。
きっとそれが目覚めれば、誰もが死に絶える最悪の災厄を齎すだろう自分が。
この場でもより強く、銀のなかに語りかけてきたあの娘が。

――抗っても無駄なのに。

違う。今はこの力で誰かを救うことができる。
抑えてみせる。どんな災厄だって―――


145 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:33:00 WQQzbSrQ0

「――――ッ!!」

死にかけていたベルゼブブの目に光が戻り始める。
同時にメギドラオンの火力が増大し始めた。

『イリヤさん、相手の力が増してきてます! 
 気を付けてください! このフォームも長くは!!』
「わか、てる……!!」


穂乃果も銀も覚えている。
詳細までは分からないが、穂乃果も自分と同じ友達を失った同類だ。
けれどやはり、彼女も鳴上と同じ正義の人間。イリヤの敵。
そして銀、イリヤの中身を見透かしていた彼女とは恐らく性根の部分でも繋がっているのだろう。
だからこそ、ここで決着を付ける。

「もっと、もっと力を……!!」
『ですが……いえ分かりました。イリヤさん!!』

血が滲む、頬が赤く染まる。
全身がズタズタに壊れていくのが分かる。だけど止まれない、ここで止まれば二人を助けられない。
全力で目の前の壁を越える。越えて、イリヤはその先へ進む。

「マスティマァァアアア!!!」
「クローステール!!!」

「なっ……!?」

全身を捕縛する糸、イリヤを囲い降り注ぐ白翼。
二人の帝具使いが放つ全霊の一撃がイリヤに直撃した。

「……本田?」
「今だよ、鳴上くん!」

所詮、一般人が操る帝具にツヴァイフォームを破るほどの威力などない。
だがその二撃は間違いなく、イリヤの気を逸らし隙を生んだ。

「ああ……任せろ!!」


――お待ちしておりましたお客様。

青い発光に包まれたタロットカードが並ぶ。
鳴上の脳裏に浮かぶ鼻の長い老人と鳴上の動きがシンクロした。
二枚のカードが二人の腕に合わせ、一枚のカードに重なり合う。
瞬間、二体のペルソナが一体のペルソナへと生まれ変わった。

ゾロアスター教に伝わりし大天使。
邪悪を討つ者。

「スラオシャ!!」

ベルゼブブが光に包まれる。鳴上のペルソナが、新たな力を向かえ変化していく。
千枝と同じだ。正史の未来で目覚める筈の力を銀の力で数段すっ飛ばし、鳴上に覚醒を齎したのだ。
瞬間、イリヤの手元に違和感が走る。
鳴上を圧倒していた多元重奏飽和砲撃が反射されていた。

『イリヤさん、あの化け物は光を反射をする力がある。
 真っ向勝負は危険です!』
「ぐ、ゥ―――」

スラオシャから放たれたメギドラオンと、固有スキルである光反射はイリヤの多元重奏飽和砲撃を正面から打ち破る。
絆なんて言えるほど、鳴上にとって未央も穂乃果も銀も卯月も付き合いは長くない。
だが、それでも彼女達は共に戦ってくれた。それだけで鳴上は戦える。


146 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:33:39 WQQzbSrQ0

「俺は一人なんかじゃない!!」

遥か天空へと向かい光の柱が迸る。
暗闇を割くように夜空を切り裂き、光は徐々に薄まっていく。
そして上空より女神が堕つる。

否、堕ちているのではない。己が意志で下降しているのだ。
イリヤはルビーを柄として魔力の刃を大剣として形成する。
下降の勢いに乗せ、鳴上をペルソナごと両断するつもりだ。

「ゴホッ……ぁ、ハァ……勝つ、よ……ルビー!!」
『はい、イリヤさん! 勝ちましょう!!』

喉に血が絡む。全身が血で染まっていく。視界は赤く、色を正しく認識できない。
最早、痛みという感覚すら麻痺するような重態。
でも諦めない。まだ戦える。ここで倒れたら、それこそ嘘だ。

「行こうか……イザナギ!!」

己が絶対の信頼を寄せる無二のペルソナを呼び出す。
鳴上に逃げる気はない。
ここで全てを終わらせる。
イリヤに惨劇を始めさせてしまった者として、全てのケリをつける。

「はああああああああああ!!!」
「―――ッ!!」

交差は一瞬、イリヤとイザナギの剣が閃く。
月明かりよりも鋭い。それでいて透き通り、美しい刹那の閃光。
全てを乗せた剣閃が闇夜に輝いた。







147 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:34:23 WQQzbSrQ0



改めて考えると主催が願いを叶える保障は本当に何処にもない。

「もしアイツらが願いを叶えてくれなかったらさ、私何の為に人殺してたんだろ」

それこそ救いようがない。だから、御坂はヒースクリフという保険に敢えて乗ったのだから。
とはいえ次に顔を合わせれば殺すつもりだが。

(そういやエドワードが言ってたっけ、首輪を外すのを試すのは許されるとかなんかと)

首輪に関して御坂はここまで何一つ考えてきていない。
だが、そろそろ考察に移るべきだろうか。
殺し合いを否定する気はないが、確かに主催を脅す切り札は欲しい。
一先ずサブプランとして、検討はしておいた方がいいのかもしれない。

(まあ、それを理由に殺しを止めるなんて逃げは……もう私には許されないけど)

そこまで考えた時、ふと空がやけに明るいのに気がついた。
黒とヒースクリフが向かった方向だ。
その上空にあったのは、馬鹿でかい蝿と両翼を生やした銀髪の少女。
少女の方は見たことがある。名前は……美遊という名に反応していたところを見ると、名簿で彼女に近い位置にあった名前。
多分、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンという名だろう。

「あれ、やばいわよね」

遠目だがイリヤの振るう力の強大さは嫌でも分かる。
そしてそれがどんなインチキでリスクを背負っているか、赤く染まり続ける身体が物語っていた。

「止めなさいよ。死にたくないでしょ、馬鹿なんじゃないの」

ふと口走った言葉に自嘲げに御坂は笑った。
誰であろうと死んでくれたほうが、楽に決まっているのに何を心配しているのか。
しばらく見ていて、よく分かった。
きっとどうしようもなく愚かで、馬鹿げた願いを叶える為にその身を削り続けているのだろう。
奪われた日常を取り戻す為に自分以外の全てを敵にして。

「よくやるわよね」

御坂は背を向けた。
あのイリヤとやり合う気はない。どうせ勝手に自滅してくれるだろう。
避けたほうが労力も割かずに済む。
まあ首輪換金で復活するかもしれないが。

「……頑張れ」

一言だけ呟く。
もう何処にも味方は居ないだろう少女に向かって、この瞬間だけ御坂はイリヤにただ一つの声援を送った。
次、対峙すれば容赦も加減もなく殺す敵同士でも。今だけは――







148 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:35:00 WQQzbSrQ0




「ァ、ア―――」

先に倒れたのはイリヤだった。
血反吐を吐きながら、着地もできず地べたを転がっていく。
悲鳴すら上がらない。あるのは声にならない呻き声。

「勝った……鳴上くんが勝った!!」

「……ガ、ハッ……」

「―――え?」

未央の目に写ったのは剣ごと両断、その上体を両断され、崩れ落ちるイザナギ。
そして袈裟掛けに血を噴出し力なく倒れていく鳴上の姿。

「そん……な」

絶望に染まった未央の顔、酷くイリヤの脳裏にこびりつく。
でもこれだけの絶望じゃ足りない。もっと多くの屍の先にイリヤが辿り着く場所がある。

「……ゥ、ウゥア、ァ―――!!」

禄に動かない身体で杖を大振りに振り回す。
ここに呼ばれた戦う力を持った者なら、なんてことはないただの光弾。
威力も速度もまるでない。しかし、力を持たぬ弱者からすれば別だ。
イリヤにとっての強敵はもういない。残ったのは戦う術を持たない弱者達。
いける。彼女達を全て抹殺するぐらいなら、そして首輪換金で身体を回復させる。
先に進める。二人を助け出すことができる。

「ひっ……」

漏れ出した悲鳴は、誰の者だったか。少なくとも銀のものではなかった。
既に彼女は声も上げられないほど死に掛けている。
胸に穴を穿たれ、更に切り裂かれた銀は文字通り人形のように力なく倒れ逝く。
固めた決意の贄として、死神の枷は断ち切られた。

(どう、すれば……)

後ずさる未央。もうどう抗えば良いのかも分からない。
花陽が死んだ、鳴上も倒された、銀が殺された。
マスティマで戦う? 逃げる? 無理だ、死にかけの女の子一人に勝てる気がしない。

「い、や……」

「―――イリヤ!」

未央に放たれた魔力の刃は盾によって遮られた。
その盾より飛び出す黒い影を、イリヤは忘れない。
自分が殺すと宣言した男を。
もう、その目には殺意しかない。イリヤを殺さないという選択肢は、既に消え失せている。
それでいい。それでこそ、やっと黒を殺せる。

足をバネにして一気に飛びあがる。
そのまま脳天目掛け、ステッキを振りかざす。

「……ゴフッ!」

血が喉を逆流する。視界がまともに見えない、目の前の全てにモザイクが掛かっているようだ。
右腕に力が入らず、感覚がない。きっと神経がいかれたのだろう。
動くたびに骨が軋む音がする。骨折か罅か、無事な骨の方が少ないくらいだ。
皮が裂け、肉が破裂する。もう色んな痛みが混じって、何が痛いのかも分からない。

黒の包丁がイリヤの胸を捉えた。


149 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:35:58 WQQzbSrQ0

「……何?」

だがイリヤはそれを読んでいた。
使い物にならない右腕を盾にする。友切包丁はイリヤの心臓へとは届かない。
友切包丁を持つ手に力を込め、捻り下ろす。骨を砕き、肉を切り裂いてイリヤの右腕は半分以上が切断され、皮一枚で辛うじて残った。
黒はそのまま、イリヤの左腕を友切包丁で薙ぎ払う。

「ッッ!!」

イリヤの左腕の肘から先が消えた。
声帯すら壊れたのだろうか、声にならない悲鳴と引きつった表情が黒の目に焼き付けられる。
宙を舞うステッキ。両腕を失ったイリヤ。
決着は付いた。あとは本当の止めを―――

『イリヤさん!!』
「ガ、ァアアアアァァァアア!!!」

宙を舞うステッキをイリヤはその口で噛み咥える。
少女には似つかわしくない咆哮で、先端を刃化させたステッキは黒の胸を穿たんと向かう。
完全な不意打ちと共に、イリヤの威圧に蹴落とされた黒はたじろいでしまった。

「何をやっている黒君!!」

糾弾が響き、イリヤを一筋の剣閃が貫いた。
強く噛み締められたステッキが、零れ落ちる。見開いた目が下手人を睨みつけ、穿たれた胸から血を流し、ボールのように落ちていく。

『う、あああああああああああ!!!』

まだ終わらない。
ルビーが消えゆく刃を携え、黒の腹部へと突き刺した。

「ぐっ……!!」

だが如何な霊装と言えど使い手のない霊装は無力だ。
腹部のルビーを握り締め、黒は全力の電撃を流し込む。
外装が内部機能が、蹂躙し破壊され尽くされる。
ビクビクと痙攣し力の弱まったルビーを引き抜き、黒はそれを堪らず投げ飛ばした。

『■■■■■■■■■』

言語機能すら、まともに働かない。
黒とヒースクリフからすれば訳の分からない雑音を残しながら、ルビーはその機能を停止させ砕け散った。
イリヤは瞳に涙を溜め、何度も顔面を地面に打ちつけながら立ち上がる。
可愛らしかった顔は見る影もない。美しかった身体のラインは全て崩れさり、赤黒い肉の塊にしか見えない。

「やめろ、イリヤ……」

目の前が真っ暗で、歩いているのか平衡感覚も分からない。
それでもまだ戦える。武器だって、喉笛に噛み付けば殺せる。
まだ……まだ……!!







150 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:37:29 WQQzbSrQ0



「削除だと?」

エンブリヲがキーを打ち続ける。
数分前には、モニターに表示されていた死亡者の情報は微塵もない。
消されたのだ。エンブリヲがエンヴィーに構っている間に何者かに。

穂乃果は先ずありえない。これらを弄るほどの知識はない、初春も死んでいる上に仮に生きていたとしても消す理由がない。
ならば他の参加者か。しかし、これもまたありえない。あれだけエンヴィーが大暴れしているなか、学院に近づく参加者が果たしているだろうか。
何より、ディスプレイに触れられた形跡が全くない。つまり外部から消されたのではなく、内部からこのデータは削除されたのだ。
そこから導き出される答えは自ずと決まってくる。

(裏切り者(ユダ)が居るな)

何百年と前に滅ぼした世界に存在した聖書に例え、エンブリヲは一人胸内で呟く。
このデータを消した理由は単純明快、知られたくないデータがそこに存在したから。
これはエンブリヲが推測した、知られても困らない情報だから会場に敢えて残したという考えから、大きく逸れる。
ならば、どうしてそんなものを会場に用意したのか。主催側に殺し合いの破壊を目論む、何者かが居るからに違いない。
より複雑に考えるならば、参加者にこの殺し合いを開き遂行しようとしている者を倒させたいと考えるものが居るのかもしれない。
これは考えれば考えるだけ結論が出ず確信には至らないが、何にせよ反旗を翻そうという者は間違いなく存在している。

もう一度キーを打ち込み、データの復元に望むがやはりモニターは無機質な光をエンブリヲに照らすだけ。
モニターには何も写らない。
入念に消されている。それだけで、このデータの重要性が分かる。
忌々しさと腹正しさが沸き、同時に一つの勝算がエンブリヲには見えてきていた。
まずは裏切り者と接触する。それがエンブリヲにとっての策の一つ。
これだけあからさまな情報を与えるということは、参加者全体で見ても首輪の解析は芳しくないのだろう。
エンブリヲは知る由もないが、実際にタスク、エドワードといった知識及び技術に明るい者達は戦闘などに巻き込まれ、大した考察を行えずにいる。
それに痺れを切らし、この場で最も首輪の解析に明るいであろうエンブリヲに情報を提供したと考えれば矛盾はない。
若干の自身への過大評価も交えながらも、エンブリヲはキーをまだ打ち続ける。

(危険な賭けではあるが)

これはメッセージだ。
エンブリヲが打ち続けたキーはこのパソコン内にメッセージとして残り続ける。
ネットワークとして繋がっている以上、主催側なら誰でも中を垣間見ることが可能だろう。
他にも、裏切り者に気付けるようにお膳立てはしている。
例えばエンブリヲが打ち続けるキーボートの音。これには規則性がある。
軍が扱うモールス信号だ。彼はメッセージを残しつつ、この信号を敢えて盗聴させるよう姿勢を低くし、首輪を近づけて鳴らし続けていた。
都合よく裏切り者にのみ通じればそれで良し、他の主催に筒抜けになったとしても構わない。
主催のなかに混じった裏切り者にエンブリヲが気付いていると、裏切り者本人に伝わればそれで十分。

無論、既に裏切り者が処分されたことも想定しているが、恐らくそれはないとエンブリヲは推測する。
もしもエンブリヲが主催ならば、この消されたデータを見た可能性のある者は確実に処分している。しかし未だエンブリヲは健在だ。
つまりは泳がせたいのではないか。それは裏切り者の正体を見極める為に。
殺し合いに無意味な干渉をして、参加者に妙な疑惑を持たせたくないだけかもしれないが、それでも今のエンブリヲは一人だけ、首輪を爆発させても疑念を持つ者は少ないだろう。
ましてや今までに大多数を敵に回したエンブリヲとなれば、尚更誰かの報復を受けたと考えるものもいるかもしれない。
よって裏切り者は、まだ完全にはばれていない。のうのうと奴は殺し合いの運営に関わっていると考えられる。


151 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:37:40 WQQzbSrQ0
(場合によっては私の首も飛ぶかもしれんな。
 フフ……久しぶりだよ、死ぬかもしれない博打を打つというのは)

ユダはイエスを銀貨30枚で売ったという。これは決して高い値ではない。
むしろ、ユダはイエスの生まれ変わりと神格化を補佐する使いだったという説があるほどだ。
上手く向こうの裏切り者とコンタクトが取れたところで、その裏切り者がこちらの完全な味方とは到底いえない。
どちらに転ぼうと、非常に危険な綱渡りだ。どの方策も必ずリスクが付いて回る。
調律者と名乗ってから、これほどのスリルを味わったことは一度もない。
だからか、妙な高揚感が胸をしめたのは。
一通りのメッセージを入れエンブリヲは僅かに伸びをすると席を立ち、穂乃果の探索へと向かった。

「さて、穂乃果もそろそろ探さねばね」

穂乃果とは何処かでニアミスをしたのは学院内に居ないことから明白だ。
大方、花陽やヒルダ辺りの心配をして飛び出したのだろう。
どうせ少女の足だ、そう遠くまでは行っていない。若干の余裕を持ちながら、エンブリヲは倒壊した学院を後にした。







152 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:38:57 WQQzbSrQ0





「イリ、ヤ……?」

イリヤの死因はいたって簡単だ。
ツヴァイフォームの反動。
カレイドステッキの投影などという強引な変身手段を用いたツヴァイフォームは、本来以下のスペックで更に本来以上のリスクをイリヤに課した。
結果としてイリヤはその反動に耐え切れず、全身から血を噴出し、死を迎えただけ。
黒との連戦があろうがなかろうが、彼女は必ず死を迎えていただろう。
砕け散ったステッキの残骸と、奪われ続けた少女の遺体は並んで血の海へと放り出された。

「これ、は……」

そう、黒とヒースクリフが辿りついた時には全てが終わっていたのだ。
無残な姿に変わった花陽と銀、血の海に横たわるイリヤ。

「銀!!」

我に帰り、穂乃果の腕に抱かれた銀へ黒は駆け寄る。
ヒースクリフも続く。治療をしようと視線を向けるが、その容態は芳しいとはいえない。
これほどの傷を負いながら、かなりの無理をしたのだろう。はっきりいえば、手遅れだ。

「……黒」
「銀、しっかりしろ。すぐに治療してやる」

黒もヒースクリフと同じ見解であるはずだ。
声を出すだけで激痛が走り、銀の身体は悲鳴をあげている。
ただ黒認めきれず、言葉はそれに反したものを選んでしまう。
ほぼ外部者のヒースクリフからすれば滑稽にも見える光景だが、敢えて言及はしない。
最期に、二人だけの時間を過ごさせるぐらいの良識はあるつもりだ。

「……良かった。黒とみんなを、傷つけなくて」
「銀!」

光子から語られた蘇芳の言った二年後の未来が脳裏を過ぎる。
イザナミと銀。そして銀と別れてしまった黒。
何があったのか、現在の黒には予測もつかない。だがそれが関係していることは、薄っすらと黒には理解できる。

「……もう一緒に居られない」
「違う。お前は助かる、俺のそばに居てくれ! これ以上、大切なものを失いたくない……!」
「ずっと、一緒に――――」
「銀? 銀!!」

黒の腕の中で銀は目を瞑る。
温もりが抜けてゆく、徐々にその肉体は冷えやがては腐り果て、なくなるのだろう。
死んだのだ。銀はもう二度と動くことも話すこともない。
黒の傍から、永遠に離れていってしまった。

「俺が、もっと早く着いていれば……」

黒の全身から、全ての力が抜けていく。
銀は死ななかったかもしれない。他の連中も助けられたかもしれない。

「無様だね」

耳障りな声だった。
傲慢で他者を見下しきった悪意に満ちた声。

「……エンブリヲ」
「フッ、ゴキブリのなかでは記憶力は良い方らしい」

友切包丁を抜く黒から、穂乃果が両腕を開いてエンブリヲ庇う。
それは黒にとっては、予想外の行為だ。すかさず振るってしまった友切包丁を穂乃果の前で止める。

「何の真似だ」
「いまは同盟中なんです。この人は首輪の解析ができるから」
「ふざけるな。そいつは、戸塚やイリヤを……」
「ふざけて、ません」
「……」

穂乃果の顔を見て黒は友切包丁を下ろした。
少なくとも、エンブリヲに敵対の意志はないのだろう。
穂乃果の様子を見る限りは多少は信用できなくもない。


153 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:39:25 WQQzbSrQ0

「彩加もそこの銀という女性も、全く可哀想なものだな」
「なんだと?」
「君はイリヤを死なせ、彩加との約束も禄に果たせず、愛した女すら守れない。
 お笑いだな、最低の男じゃないか」

その口調には明らかな悪意が込められていた。

「貴様……!」
「この際はっきり言おう。
 君は一体、何をしていた。
 この様子を見る限り、悠や穂乃果達が死力を尽くして戦ったのだろう。
 では君は?」

「俺は……」

分かっていた。銀の探索に関し、黒はあまりにも遠回りをしていたことは。
他者へ移った情が原因で、銀を疎かにしていた自覚はあった。情報があまりにも少なく、無意味な捜索を繰り返したことも事実だ。
もっと合理的に動けていればあるいは。

「君が早くイリヤを見つけて、説得すればこんな事にはならなかった。
 愛した女を想い彼女を早く見つけ出せば、今頃は生きて抱き合えたことだろう。
 果たせもしない約束をして彩加をぬか喜びさせ、挙句の果てにイリヤも銀も助けられない」 

「やめろ……」

「そもそもが、結局イリヤを追い込んだのは君だろう?
 その尻拭いも全て悠にやらせるとは、同じ男とは思いたくないね」

「やめろ!!」

戦場で培った戦闘技術も何もない。
ただがむしゃらに動き、黒はエンブリヲの胸倉を掴んだ。

「害虫が私に触れるとは、その思い上がり許しがたいな」

エンブリヲが黒に触れる。
その瞬間、黒の身体を激痛が走り堪らず黒は地べたへと蹲った。

「ぐああああああああ!!」
「痛覚を50倍にした。しばらく反省しているといい」
「エンブリヲさん止めて下さい! 貴方だって人の事言えない!
 アンジュさんが死んだのは、貴方が凜って人を攫ったからかもしれないんですよ!」
「何を言っている穂乃果。
 私とアンジュの愛は、君達の枠には当て嵌まらないよ」

黒を庇うようにしてエンブリヲに突っかかる穂乃果を見て、エンブリヲは心底満足したのだろう。
多少なりとも、これで電撃の恨みは晴れたというもの。実に心地よい。
指を鳴らすと黒の身体から痛みが消し飛んだ。

「……待って、しぶりんを攫ったって言ったの?」
「誤解だ。私は彼女達を保護しようとしたんだが、アンジュとちょっとした誤解から――」
「アンタのせいで、しぶりんは!!」

マスティマを広げた未央がエンブリヲに躍り掛かるが、一瞬で姿を消したエンブリヲは未央の頭をこずく。

「あ、ひィ……!!」
「未央ちゃん!?」
「美しいよ……未央。君は綺麗だ。
 この短期間で、強く美しく賢く成長したんだね。ビューティフォーッ!」

感度50倍が炸裂し未央の全身を快感が駆け巡った。
悔しさを感じながらも、快感に屈しかける未央。身体は全く動いてくれない。
卯月もこんな場面は初めてな為、何をどう対応すべきか分からない。

「悪ふざけはそこまでにして貰おうか」

エンブリヲの首筋に無機質で冷たい感触が走る。
剣の刃が首の皮一枚といったところで止まっていた。
あと一ミリでもめり込めば、その首から大量の血液が飛び出ることだろう。

「君も私と同じく、殺し合いに乗っていないらしい。このまま友好的な関係を築きたいのだが?」
「……良いだろう。
 私も君達と、情報を交換したいと思っていたところだよ」

感度50倍を解き、未央は卯月に介抱されながらよろよろと立ち上がる。
それを見てから、ヒースクリフは倒れた鳴上の容態を確かめた。
傷口は派手に見えて、そう深くはない。適当な応急処置を施し、ヒースクリフは鳴上を担いだ。







154 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:40:25 WQQzbSrQ0


――わかった。お前の仲間も、イリヤも『助ける』

――お前に銀は奪わせない。


結局、何もできなかった。
戸塚との約束も守れず、銀を守れなかった。
最悪の結末だ。

エンブリヲの言うことももっともだ。
黒は多くを欲しすぎた。穂乃果のような一般人でもない彼は、多く背負い込むことが如何に無謀であるかよく知っていたはずだ。
それでも彼は、戸塚と約束を交わした。そして気付けば自分を重ねてしまい、イリヤを最後まで救うことも殺すこともできなかった。
この惨劇は全て、自分が招いたものだ。何もかも、決断できなかった自分自身が銀を殺したのだ

「銀を埋葬したい。俺は先に行ってる」

「……良いが、学院の付近では駄目なのかな」

「一人になりたいんだ」

ヒースクリフとエンブリヲの話し合いで一先ずは学院で落ち合うことになった。
倒壊した場所ではあるがまだ生きた教室はあるし、あれだけドンパチをやらかしたこの近辺よりはマシだ。
ベルゼブブとツヴァイフォームの戦いは、あまりにも派手すぎた。しかも夜中である以上、あの閃光を他の参加者が目撃した可能性は高い。
特に御坂もまだ近辺に居るのだ。早めに場所を移したほうがいい。
黒も合流場所は分かっているし、埋葬場所を拘るわけではない。
それでも一人になりたかったのだ。

「イリヤの埋葬も頼む。
 このカードとあのステッキも……イリヤと一緒に、美遊という少女と同じ場所に寝かしてくれ」
「分かった。君も埋葬が済んだら学院に来てくれ。
 エルフ耳のことで話したいこともある」

そう言ってヒースクリフにカードを手渡す。
銀を殺した張本人だが、黒はイリヤの遺体に妙な哀れみさえ沸いていた。
こんな血みどろになるまで、彼女を救えなかった後悔。そして全てが銀の死に結びつく因果。
あの悲惨なイリヤの姿は忘れようにも忘れられない。もっと早く辿り着いていれば、イリヤに殺しの道を促した者より早くイリヤと合流していれば。
全てに間に合わなかった自分が何よりも恨めしい。

そして黒は一人カジノへと向かった。
銀の埋葬場所に適していると思ったわけではない。ただ酒が欲しかった。

「銀、俺は……」

痛んだ腹部を抑え、力なく歩く。
黒の死神の面影はそこにはなく、死人の背中が虚ろに揺れていただけだった。






155 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:40:50 WQQzbSrQ0



(さて一応クエスト自体はクリアになるのか)

ヒースクリフが挑んだクイベント内容は銀との接触。それだけだ。
殺せとも守れとも書いていない。揚げ足を取るようだが、文面通りに受け取れば彼のクイベントは達成にはなる。

(いや、私は間に合わなかった。黒くんと同じだな)

少し寄り道をし過ぎた。我ながら、自嘲してしまうものだ。

(……しかし全てが終わったわけではない)

振り返れば妙だ。何故UB001は銀の処遇をヒースクリフに伝えなかったのか。
単にヒースクリフがイベントを達成してから、追々伝える予定だったのか、単に忘れただけか。
深く考えすぎかもしれない。希望的観測も交えていないといえば嘘になる。
しかし、本当はUB001も処遇を決めかねていたのではないか? 

(分からないな。UB001は他の主催の目を盗み独断で動いている。
 可能な限り、連絡は短い回数で済ませたいはずだ。わざわざ指示を分割する理由はない)

懐のデバイスを強く意識する。
幸いなのが、このイベントのクリア判定が実に曖昧だという点だ。
そしてUB001は曲がりなりにもゲームマスターとしては公平な部類に入る。

―――UB001:放送後、闘技場の首輪換金所へ

UB001より送られた一つのメッセージ。
恐らくまだ終わっていない。銀の死は始まりに過ぎないのだ。
これはクイベントの成功か失敗を伝えると同時に、まだ何かがあるという強い直感がヒースクリフの中にはあった。


「ヒースクリフ」
「ッ?」

珍しく、ヒースクリフが驚きを見せる。
外面には出さないが、エンブリヲの話しかけてきたタイミングには気味の悪さを感じた。

「悠を見せてくれ。私は軽症なら、ある程度の治癒ができる。
 未央も耳を治してあげたとこでね」

見れば欠損した未央の耳とガラガラだった声は元通りになっている。
素直に喜ぶ卯月と、複雑な表情を浮かべた未央の姿が印象的だ。
制限の事を考えれば、手足などは欠損部位は無理でも、軽いものなら治せるということか。

(その異能を見逃したのは惜しいな)

ヒースクリフは鳴上をそのまま引渡す。
エンブリヲは鳴上の服のボタンに触れ、丁寧に一つずつ解していく。
鳴上の息遣いを感じながら、細くしなやかでそれでいて力強い胸板に手を翳した。

「……悠」
「エン、ブリヲ……?」
「やっぱり、君は私の元へ帰ってきたね」

恋人に囁くような細い声が鳴上の耳を撫でた。
嫌悪感を感じながらも、癒されてゆく身体に鳴上は抗えない。
万全とは言いがたくもさきよりは幾分楽になる。

「ところで、君のペルソナはイザナギだったか」
「……? 何の――」
「いや良い……君はもう暫く休んでいた方が良いな」

「イザナギ、天地開闢において神世七代の最後にイザナミとともに生まれ、国産み・神産みにおいてイザナミとの間に日本国土を形づくる多数の子を儲けた男神」

「ヒースクリフ?」

「それがどうしたのかなエンブリヲ」

鳴上にしか聞こえない声で囁いた筈だが、何時の間にか背後に立っていたヒースクリフにエンブリヲは動揺を見せる。


156 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:42:17 WQQzbSrQ0

「いや、何でもないよ」
「そうか、もしやと思ったのだが。すまない、『仲間』を疑うのは良くないな」
「ああ、そうさ。ヒースクリフ」

胸内でエンブリヲは舌打ちをする。
奴は何かを隠している。そしてイザナギとイザナミについて感付いていることに。
データを削除される寸前、エンブリヲの興味をそそったイザナミ。
あれが果たして、鳴上のイザナギと関係ないと言い切れるのだろうか。

(死んだ銀の身体を調べたかったが、まあいい。
 悠、君が私の元に戻ったのは幸運だったよ。君のペルソナを調べればあるいは)

科学者としての性がエンブリヲの興奮を高めていく。
ああ、実に研究しがいのあるものばかりだ。
ペルソナ、イザナミ、他にもイリヤの中にあった物も知りたい。
イリヤは死んだが、主催連中ならば正体を知っている可能性だってある。

(ヒースクリフ、やはりあの男はきな臭い。
 もしや裏切り者と関係があるのかもしれない)

中々に面白くなってきた。
エンブリヲは誰にも見られないよう静かに笑みを浮かべた。

「なんだ?」

その時、何か女性の影がこちらを見たように思えたのは気のせいだろうか。
エンブリヲの脳裏にイザナミの単語が浮かんでは消えた。





157 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:43:37 WQQzbSrQ0



(―――俺は負けたんだ)

イリヤとの戦いで鳴上は死力を尽くした。
勝てると思っていた。これ以上もう誰も傷付かないと。
銀、穂乃果、未央、卯月の力を借りて。花陽の守りたいという意志を受け継いで鳴上は戦った。
なのに、倒れた。イリヤ達の絆に打ち負かされた。負けてはいけない筈の戦いに、鳴上は破れたのだ。
みんなが傷付いた。あの時、鳴上が勝ってさえいれば、これ以上の犠牲はなかった。

「もう、分からないよ」

鳴上の耳に悲痛な少女の声が聞こえた。
誰に話しているわけでもない。ただ、偶々近くに鳴上が居ただけだ。

「どうしてなの……どうしてこんなことしなきゃならないの……! もう、嫌だ……嫌だよぉ……」

殺し合いに呼ばれたμ'sのメンバーは穂乃果一人だけになった。
もう仲間といえる者は誰一人としていない。自分一人だけだ。
あまりにも痛々しい花陽の姿、恋人と永遠に引き裂かれた銀。
そして憎むべき対象の筈なのに、とても可哀想で見ていられなかったイリヤの末路。
ずっとここまで血しか見ていない。血だらけだ。

(すまない……俺がもっと強かったら……)

鳴上はなんて声を掛けていいのか分からなかった。
花陽もタツミもさやかも銀も千枝も。本当はイリヤだって、助けられたはずだった。
一人になってはっきり分かる。自分が如何に弱くて、脆い下らない存在なのか。
鳴上は、ただ無力さに胸を締め付けられ続けた。





【小泉花陽@ラブライブ!】 死亡
【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】死亡









『イリヤさん……最期まで一緒、ですから……』


―――ルビー、サファイア、美遊、クロ……ごめんね、みんな……。




【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 死亡
【カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】破壊


158 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:43:54 WQQzbSrQ0


【F-6/一日目/真夜中(放送開始)】


【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、悲しみ(極大)、卯月に対する憎しみ、嘔吐感
[装備]:デイパック、基本支給品、音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:練習着、花陽の遺体、カマクラ@俺ガイル
[思考・行動]
基本方針:強くなる
0:どうしてこんな……。
1:花陽ちゃん……。
2:マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
3:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――

[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。
※花陽と情報交換しました。

【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0〜2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
0:主催の裏切り者を見つけ出しコンタクトを取る。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:穂乃果を利用する。
6:真姫の首輪を回収した後、北部の研究施設に向かう。
7:ヒースクリフを警戒、情報を引き出したい。
8:学院に向かい情報交換。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。
※首輪の警告を聞きました。
※モールス信号を首輪に盗聴させました。

【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、喉頭外傷、セリューに対する複雑な思い、右耳欠損(止血済)
[装備]:
[道具]:デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪
[思考・行動]
基本方針:生きてみんなと一緒に帰る。
0:生き残る。
1:エドワードとの合流。
2:島村卯月を守る。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。
※花陽と情報交換しました。


159 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:44:10 WQQzbSrQ0


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い、穂乃果に対する罪悪感
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:誰かを守る正義を胸に秘め、みんなで元の世界へ帰る。
0:セリューとエスデスのことは忘れない。
1:エドワードとの合流。
2:本田未央を守る
3:結局セリューは生きて……?
4:花陽さん……。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※高坂勢力関係は考えを改めました
※花陽と情報交換しました。


【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、セリューに対する複雑な思い、喉頭外傷及び右耳欠損(治癒済み)
[装備]:
[道具]:デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪
[思考・行動]
基本方針:生きてみんなと一緒に帰る。
0:生き残る。
1:エドワードとの合流。
2:島村卯月を守る。
3:鳴上くんが無事でよかった
4:かよちん……。
5:エンブリヲからはしぶりんの事を聞きだす。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。



【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胸に切り傷(治療済み)、イリヤに負けた事への後悔
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:俺が負けたから……。
1:さやかとタツミのことが知りたい。
2:未央に渋谷凛のことを伝える。エンブリヲが殺した訳じゃない……?
3:足立さんが真犯人なのか……?
4:エンブリヲを止める。
5:マスタングを見つけ出し、ぶっ飛ばす。
6:里中……。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
※スラオシャを会得しました。一度の使用で6時間使用不可。
回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。


160 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:44:26 WQQzbSrQ0


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:HP45%、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、まどかとほむらの縫い合わされた死体、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation、キリトの首輪
    クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ルビーの残骸、イリヤの遺体
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:学院に向かい情報交換。 その後、闘技場の首輪換金所へ。
2:黒に魏からの伝言『地獄門にて貴様を待つ』を伝える。
3:チャットの件を他の参加者に伝えるかどうか様子を見る。
4:主催者との接触。
5:ロックを解除した可能性のある田村玲子、初春と接触したい。
6:北西の探索を新一達に任せ、自分は南の方から探索を始める。
7:南の花陽やヒルダの方も余裕があれば探す。
8:キリトの首輪も後で調べる。
9:余裕ができ次第ほむらのソウルジェムについて調べる。
10:一応頼まれたので、イリヤを美遊と同じ場所に埋葬する。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。



【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)、腹部に刺し傷(処置済み)、戸塚とイリヤと銀に対して罪悪感(超極大)、銀を喪ったショック(超極大)、飲酒欲求(超極大)
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、首輪×1(美遊・エーデルフェルト)、傷の付いた仮面@ DARKER THAN BLACK 流星の双子
[道具]:基本支給品、ディパック×1、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation 、銀の遺体
[思考]
基本:……酒。
0:銀を埋葬する。
1:カジノで酒を探す。
2:酒を飲む。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。
※黒がジュネスへ訪れたのは、エンヴィーが去ってから魏志軍が戻ってくるまでの間です。
※足立の捏造も入っていますが、情報交換はしています。


※イリヤの所持品はメギドラオンと多元重奏飽和砲撃の余波で吹き飛び周囲に散らばっています。
 クラスカードは使用中だった為、現場に残っていました。


161 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:44:36 WQQzbSrQ0


【F-5/一日目/真夜中(放送開始)】

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×2 、回復結晶@ソードアート・オンライン(3時間使用不可)、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
1:ゆっくりとアインクラッドへ向かう。(黒子との遭遇を避けるため)
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
6:首輪も少し調べてみる
7:イリヤにちょっとした共感。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。


162 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/04/30(土) 04:47:35 WQQzbSrQ0
投下終了です
あと入れ忘れたんでタイトルは「その手が守ったものは」でお願いします


163 : 名無しさん :2016/04/30(土) 08:47:51 dDOL8YNo0
投下乙です
黒さんが飲んだくれの二期黒さんと化したか…。誰も救えない無念の結末だったなぁ
報われなかったがイリヤvs番長はどっちも熱かった
皆が鬱々としてる中腹の底を探りあうブリヲとヒースクリフ。考察も一気に進みそうだな


164 : 名無しさん :2016/04/30(土) 08:57:22 5edmOww20
超大作投下乙でした!

あぁ…イリヤ、地の文でも書かれているとおり奪われ続けた子だったなぁ
彼女も他の者の命を奪っていたのは確かですが、悲劇というほかない
戦闘がこれまでのアニIでも屈指スケールだっただけに、余計にもの哀しさが際立ちます
特にアーチャーイリヤからツヴァイフォームVSベルゼブブの流れはは圧巻の一言
脳内で『エミヤ』のBGMが流れっぱなしでした。
スターバーストストリームやジ・イクスプリス等、クロス要素も冴えまくりで、彼女がもしスタンスが違えば皆を守るために使えたかもしれなかった…
結末は悲劇ではあったけど、最後にルビーはイリヤと仲直りできて良かったね。
黒さんは…このまま飲んだくれにならないで何とか頑張ってほしいものです
エルフ耳さんが号泣不可避なことになりそうなので
そして最後にタイトル…この話にこれは皮肉ですね…

あと、状態表で未央の耳と喉がそのままなのでそこだけwiki収録の際に修正すればいいと思います


165 : 名無しさん :2016/04/30(土) 09:32:55 WQQzbSrQ0
>>139のフォイアクヴィンテッドは誤りです
ちゃんとした名前はクヴィンテッド・フォイアです
すいません
あとブリヲの下のちゃんみおはコピペミスです
本物は卯月の下にあるので無視でお願いします


166 : 名無しさん :2016/04/30(土) 14:24:56 EFGR80KY0
投下乙です

穂乃果からしたら島村さんはそりゃ許せないよなぁ、これからどうなるか心配しつつも拗れる事をちょっぴり期待。
そしてイリヤVS番長はかっこ良いの一言、血みどろで戦うイリヤを見て、そうか、イリヤも衛宮の血筋だったなぁと。
ふんだんに盛り込まれるドライ要素は、欝だけど熱い!
銀ちゃんとかよちんには合掌、寂しくなってしまうなぁ


167 : 名無しさん :2016/04/30(土) 19:52:44 HPUl7SUg0
投下乙です

イリヤァ…ここまで悲しくなったのはみくにゃん以来かも。彼女もずっと被害者だったなぁ
仲直りの所の二人は本当に輝いてて、主人公然としてました。ただ、其れゆえにこの結末のダメージは余計にデカい
かよちんも銀ちゃんも番長も死にもの狂いで戦って、イリヤも血みどろで戦って、あぁこれはロワ。主人公の居ない群像劇なんだなぁと再確認しました


168 : 名無しさん :2016/04/30(土) 20:15:21 9m0RcupoO
投下乙です

主役達が軒並み凹む中、マッド2人の出会いは何を齎すのか


169 : ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:05:17 Bui9EqzM0
本投下します。


170 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:06:26 Bui9EqzM0






「...なんだよ、ここ」

目を覚ましたら、真っ暗闇の中だった。
そこかしこに瓦礫が散らばっており、瓦礫から降りれば脛まで浸かる血だまりの海。
奇妙、異質、不気味。
そんな言葉では言い表せない不快感が醸し出されている。

「...あたし、確かにエドたちと一緒にDIOと戦ってたよな?」

あたしの記憶が間違いでなければ、妙な殺し合いに連れてこられて、たくさん戦って、色んな奴が死んじまって。
最後の記憶は、イリヤの爆弾を防いだところだ。
その後、もっとでかい爆発に襲われて...

「そうだ、エドは、サファイアや他の奴らはどうなったんだ?」

あたしの防御結界で耐えられなかった爆発だ。
全員五体満足なんて都合の良いこと...

『あるはずないよねぇ』

背後から声が聞こえた。
あたしはすぐに振り返り、魔法少女に変身し、槍を突き付ける。

「...!」

振り返った先にいたあたしは目を疑った。
瓦礫の上に座っていたのは、あたし。
影みたいに真っ暗な身体で、眼に金色の光を灯した、あたし自身だったんだからさ。

『我は影、真なる我...まあ、小難しいこと言ってもわかんないだろうからさ、あたしのことはあんたのシャドウとでも呼んでくれればいいよ』

シャドウと名乗ったそいつは、黒色の林檎を齧りながらにやついた顔であたしを見つめてくる。

「...なんなんだよ、あんたは」
『もっと解りやすく言おうか?あたしはあんた。あんたの生み出したものさ』

ますます訳が分からない。
あたしと同じ姿をしてはいるが、あたしはあたしで、こいつはこいつだろ。

『まだわからないって顔してるねぇ。だったら、あたしがあんたって証拠を見せてあげるよ』


171 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:06:51 Bui9EqzM0


そういうなり、シャドウは自分の掌を合わせて、そのまま左右に開く。
すると、その掌から零れ落ちるのは、幾つかの小さな紙人形。
それぞれ神父、女性、女の子、幼児の特徴をしていた。


『むかーしむかし。あるところに心優しい神父様がいらっしゃいました』

シャドウは、小さな子供に聞かせるように、ゆったりと語り始めた。
...馬鹿にしてんのかこいつ。

『神父さんはいつも悩んでいました。どうして、世の中から不幸はなくならないんだろう。どうすれば消えるんだろう、と』
『そこで神父さんは決めました。新しい時代を救うには、新しい信仰が必要だ。だから、教義にはないことかもしれないけれど、少しずつ説教を広めていこうと』
『もちろん、そんなことをしてしまったから信者のみんなはカンカンです。たくさん集まっていたみんなもすぐに神父さんのもとには訪れなくなり、神父さんも本部から破門されてしまいました』
『そんなことがあって、神父さんと家族のみんなはすっかり貧乏になってしまいました。家族揃って食事にすらありつけず、いっつもひもじい思いをしていました』
『かつての信者だった人たちや、そうでない人たちのもとへ訪れ、一生懸命神父さんの考えを熱弁しても、誰も相手にしてくれません。それどころか、これでもかと罵られたり、水をかけられたり、神父さん達はすっかり嫌われ者になってしまいました』
『でも、神父さんは頑張りました。家族の支えもあって、諦めることなく説法を説きつづけました』

『ある日のことです。神父さんが起きると、教会には大勢の人々が押し寄せていました。もしかして、とうとう街から追い出しに来たと言うのか。神父さんは覚悟を決めて皆の前に出ました』
『するとどうでしょう。押し寄せた人々はみな、神父さんの説法をもっと聞きたいと口々に言ってくるじゃありませんか』
『もちろん神父さんは大喜び。皆に自分の説法を説けば、皆は神父さんの言葉を信じ、お布施まで寄付してくれます』
『ああ、これでようやく家族を、世の中を幸せにできる。私が蒔いていた幸せの種は、決して無駄なんかじゃなかった―――神父さんはそう思っていました』
『でも、それはただのまやかしでした。本当は神父さんは何にも成し遂げていなかったのです』

「...もういい」

『神父さんは、彼の説法を突如人々が聞き入れるようになった理由を知ってしまいます。それも、彼にとって絶対に許せない最悪の理由を!』
『ある夜、神父さんは誰も居なくなった筈の教会で大勢の人々が倒れているのを見つけました。その人々の中、唯一立っていたのは奇妙な恰好をした自分の娘ただ一人でした』
『娘は言いました。私は皆がお父さんの話を聞くのと引き換えに、お父さんのために魔法少女になったと。―――それが、どれほど神父さんを傷付けるのかも知らないで』

「やめろ」

『それを聞いた神父さんは絶望してしまいました。当然です。神父さんのやってきたことは、全て世迷言の無駄な努力で、その上娘に悪魔に魂を売らせてしまったのですから』
『色んなものを抱え込んだ神父さんは壊れてしまいました。お酒に溺れ、護ってきたはずの家族にまで手を挙げる始末です』
『そうして、とうとう神父さんは...』

グシャリ、とシャドウの掌の人形が、ひとつを残して握りつぶされる。

『ただ一人、疎ましい存在になった娘を置いて、家族みんなで天国へ旅立ってしまいましたとさ』

「やめろって...言ってんだろうが!!」

触れられたくもないことをぺらぺらと喋る口を黙らせるため、あたしはシャドウへと槍を振るう。
しかし、シャドウの身体を貫いたかと思えば、まるで幻かのように掻き消えて。

『これでわかっただろ?あたしはあんた。つまり、あんたのことならなんでも知ってるってさ』

声のした方へと振り向くと、五体満足のシャドウが笑みを浮かべて立っていた。


172 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:07:44 Bui9EqzM0

「チッ...それで、なんの用で現れたんだよ」
『要件?別にないよ。あたしはあんたがいるから生まれてきて、ここがあるからあんたの前に現れた』

ますますもって、意味が分からなくなる。
こいつはあたし自身だとか、ここがどうとか、用件もなく現れたとか。
頭の中がこんがらがってサッパリだ。
こんなところ、一秒たりともいたくない。

「...なら、さっさとここから出してくれ」
『なんで?』
「決まってんだろ。まだなにも終わってない」

そうだ。
御坂のことも。
イリヤのことも。
さやかのことも。
エドや関わった奴らのことも。

まだなにも終わってはいない。だから




「あたしのこれまでに決着をつけるためだ」『みんなの不幸を見たいから』



...は?


173 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:09:15 Bui9EqzM0


『なに意外そうな顔してんのさ。あんたもホントは気付いてんだろ?ここまで生きてきた理由って奴にさ』
「なにをいって」
『あんたのソウルジェムは、感情によって濁りやすさが変わるのは知ってるよねぇ。なのに、あんたは無事にここまで生きてきた。殺し合い云々じゃない、もっと根本的なことさ』

シャドウが、血の池を歩きばしゃばしゃと鳴らす。

『普通、自分が原因で家族が自殺とかしたらさぁ、もっと落ち込むもんだよねぇ。それこそ支えがなけりゃ戦いなんざ禄にできないくらいには』
『でもあんたは違った。マミさんを突き放して、挙句に信念も持たずに生きるためだけに魔女を狩って、使い魔が何の罪もない一般人を殺そうとも知らんぷり』
『そんなやり方でここまで生き残ってきたあんたが、今さら誰かの力になる?お笑い草も甚だしいよ』

シャドウは、マミさんや父さん、それにノーベンバーやアヴドゥル、ジョセフの恰好をした紙人形を作りだす。
それらを持ったまま自分の手を血の池に突っ込み、引きずり出すと、人形はどろどろの血に塗れてグロテスクな様相を醸し出した。

『素直になりなよ。父さんやマミさんが死んだ時、ホントは"ザマアミロ、あたしの言う事を聞かないからこうなったんだ"って思っただろ』
『正義の味方気取ってた美樹さやかをブッ飛ばした時、"イキがってるからこうなるんだよ"って、スカッとしてたんだろ。わざわざ慰めるフリをしてあいつを教会に呼んだのも。自分より前を向いてるあいつの身体と理想が崩れてく様を見たかったんだろ』
『ここに来てからはどうだ。出会いがしらに承太郎に喧嘩ふっかけて。それからも色んな奴に迷惑かけてきた。ノーベンバーもアヴドゥルもジョセフも。みーんな、あんたのせいで死んだ』
『そんなあいつらの死も、結局あんたを楽しませるためだけのものなんて、つくづく救われないよ』

「ちがう...」

『DIOに洗脳されてた時だってそうさ。あいつの洗脳能力は完全じゃなかった。実際、イリヤって子は曲がりなりにもDIOに逆らったしね』
『でもあんたは違う。猫と再会しても、御坂に殺されかけても、アヴドゥルが必死にあんたを止めようとしても!...あんたは逆らおうとすらしなかった』
『居心地がよかったんだろ?いくら不幸を振り撒こうが、あんたのやったことは全部DIOに押し付けられて、自分は悪くないから安全圏で高みの見物が出来る。最高の環境じゃないか』

「ちがう...あたしは...」

『ちがうっていうならさぁ。どうしてあんたの周りの奴らは次々に死んでいくっていうのに、あんたはこうしてソウルジェムも濁り切らずに生きてこられたんだろうねぇ!』

「...!」

『認めろよ。あんたは、自分より恵まれた奴らがだいッキライで、奴らが破滅していくのを見たいだけだってさぁ!』

「あたしは―――!」

そこまで言いかけて。
自分がなにを言ったのかもわからないまま、引きずり出されるような感覚と共にあたしの意識は遠のいた。


174 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:10:02 Bui9EqzM0



「...ふむ」

市庁舎を一通り探索し終えた田村は、顎に手をやり考える。

(広川に所縁がある場所だ。なにかしらあると思っていたが...)

結論からいえば、目ぼしいものはなにもなかった。
多少棟内が荒れている程度で、人が長時間滞在していた痕跡も見当たらない。
わかったことは、かつて自分もそれなりの頻度で利用していた市庁舎と寸分違わぬ構造であったことくらいか。

(...もしかしたら、この市庁舎はただの囮かもしれないな)

主催の広川に所縁のある施設だ。
彼を知る者ならば、まず怪しいと睨んで捜索するだろう。
事実、自分もなにかがあると期待してこの市庁舎に足を運んだ。
そして、元来の市庁舎と寸分違わぬお蔭で、『ここには必ずなにかがある』と視点を狭めていた。
だが、それが広川、ないしは裏に潜む者の狙いだとしたら。
こうして参加者の目がこちらに向くように誘導しているのだとしたら。
おそらく、ここ以外の北西エリアに大切な何かを隠しているはずだ。

(まあ、単に私が見落としているだけかもしれないが)

少なくとも、田村一人でこれ以上市庁舎を探索するのは時間の無駄遣いとなりそうだ。
ならば、そろそろデイバックで眠る彼らを起こしてもいいだろう。
田村はデイバックの中から、ウェイブ、次いで佐倉杏子を取り出し床に横たえる。
しかし、よほど疲れているのか、二人は呻き声を微かにあげるだけで未だに目を覚まさない。

「仕方ない」

仮にも重症人を乱暴に扱うわけにはいかないので、ペットボトルの水を両者の顔にかける。

「ぶはっ!?な、なんだ!?」
「起きたな」
「あれ?あんた...どこだここ」

目を覚ますなりキョロキョロと周囲を見回すウェイブに続き、杏子もゆっくりとその上体を起こす。

「えっと、あんたは...」
「まだ名乗っていなかったな。田村怜子。それが私の名だ」
「田村...ミギーの仲間か!」
「そういうお前はウェイブだな。マスタング達やサファイアから聞いている」
「マスタングにサファイア...!マスタング達に会ったのか!?サファイアはどうなったんだ!?あいつらは無事なのか!?」
「落ち着け。順番に説明しなければ混乱するだろう」
「あ...わ、ワリィ」


175 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:10:26 Bui9EqzM0
取り乱すウェイブが落ち着くのを見計らい、田村は語る。

最初に説明したのは、サファイア達のことだった。

「先程の戦闘だが、お前はどこまで覚えている?」
「えっと、DIOっておっさんが後藤に食われて、イリヤって子が爆弾を投げてきた辺りまでは憶えているんだが...」
「ならそこまでは省くぞ。あの時、イリヤの放った光弾から、私とエドワード、それにお前達を庇い、セリムとサファイアは死んだ」
「なっ!?」
「死んだ...!?」

思わぬ名前を聞いたウェイブと、今まで意識が朦朧としていた杏子が同時に驚愕の声をあげる。
ウェイブが驚いたのは、サファイアが死んだこともそうだが、それ以上に、セリムまでが自分達を庇って死んだという事実だった。
セリムとは図書館で既に戦っており、その理由も、父であるキング・ブラッドレイのために殺すだとか死にたくないから嫌々戦うなどではなく、単に正体を知られたからだというひどく一方的な理由からだった。
雪乃が言っていたように、ホムンクルスだからと不必要に警戒をしていたこちらにも非はあるのかもしれないが、それを差し引いても、自分と狡噛への容赦ない猛攻や花陽への言葉は、到底自衛の枠では納まらないものだった。
次に出遭えば再び戦うことになる。そう覚悟していたウェイブだからこそ、セリムが自分達を庇って死んだという事実は信じられるものではなかった。
だが...こうして自分達が生きているということは、田村の言葉は真実なのだろう。

「...どうしてあいつは俺たちのことを庇ったのかな」
「さあ。それは私にはわからないわ」

セリム・ブラッドレイはホムンクルスであり、その思考を言葉も無しに共感するのは不可能だ。
人間であるウェイブやエドワードはもちろん、ただでさえ感情の起伏の薄い寄生生物なら尚更だ。
だが、それでもわかることはある。

「彼は最期に母を呼んでいた。私にわかるのはそれだけよ」

永き年月を生きたホムンクルスが、その最期に偽りの家族の名を呼ぶ。
人間の感情などわからないと言っていた彼の、最後に見つけた『人間』としての答えなのだろう。

「なぁ...サファイアは、本当に死んじまったのか?」

杏子が、焦点の定まらない眼で田村に問う。

「ああ。『このような場所で、良い仲間に恵まれ幸運だった』。そう言い残して壊れてしまったよ」
「そう...か」

それを聞くと、杏子は力なくがくりとうなだれてしまう。
よほど仲が良かったのか、相当なショックを受けていることがウェイブの目から見てもわかる。
いまの彼女には下手な慰めの言葉は逆効果だろうとウェイブは判断する。


「...続きを話してもいいかしら」
「...頼む」


176 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:11:20 Bui9EqzM0


田村が次に話すことにしたのはマスタングのことだ。

「彼と出会ったのは、DIOの館の付近よ」
「DIOの館...?なんだってそんなところに」

マスタングとは、狡噛が目を覚ましてから音乃木阪学院で落ち合う予定だった。
しかし、DIOの館は図書館からでは真逆の方角だ。
まさか道を間違った訳ではあるまい。

田村は語った。
マスタングが、生きていたセリューと合流した時に起きたこと。
そのセリューも、本田未央や島村卯月を助けるために命を落としたことを。

「...そうか。セリューは、最期まで正義を信じて戦ったんだな」

ウェイブの視界が滲む。
彼女の正義論は異常だった。
己の主観で善悪の全てを判断し、悪と見なした者には一切の躊躇も情けもかけない。
他者から見れば、自分勝手な傲慢な振る舞いとしか思えない。
しかし、それでも。
彼女は、最後まで護るべき民を見捨てなかった。どれだけ傷ついても護り抜いてみせた。
彼女の正義の全てが過ちではなかった。その事実に、ウェイブの心は幾らか救われたような気持ちになった。

「ごめんな、セリュー。お前が辛い時に側にいてやれなくて...」

同時に、とめどない後悔が襲う。
なぜその場に自分はいなかった。
セリューの隣で戦うのは―――同じイェーガーズである自分の役目だったはずだ。
共に戦い、傷つき、過ちを償う。
その役割をマスタングに押し付けてしまった。

自分はいつもそうだ。
ボルスさんの時も。
クロメの時も。
そして、セリューの時も。
大切な者たちが苦しんでいる時に、いつも側にいてやれない。

これは誰の責任でもない。
偶然にも不運が重なってしまっただけ。戦場でなくともよくあることだ。
それに、ウェイブがアカメたちと共に行動していなければ、アカメたちが全滅していた可能性は非常に高い。
ウェイブという人間は一人であり、どちらかを選ぶしかなかったのだ
このことでウェイブを責める者はいないだろう。田村やマスタングらはもちろん、クロメやセリュー、いなくなってしまった者たち全てを含めてだ。
だが、それで済ませられるほどウェイブは合理的な人間ではない。
彼の後悔は、その命が尽きるまで消え去ることは、決してない。

だからこそ強く思う。
彼女の遺したものは、必ず護らなければいけないと。


177 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:11:58 Bui9EqzM0


「なあ...マスタング達は無事なのか?」
「......」

田村の中で一瞬の躊躇いが生まれる。
DIOとの戦いで躊躇いなく味方についたことや、これまでの会話から、ウェイブが仲間思いな男であるのはわかる。
そんな彼に、卯月のことを伝えるべきか否か。
答えはすぐに出た。

「マスタング達は、私から逃げ出した島村卯月を追っている」
「どういうことだ?」

もしも、未央たちが卯月の説得に失敗し、重傷ないし殺害された場合。
その牙はウェイブにも向けられる可能性は高い。
そうなれば彼のことだ。
卯月を殺せないだけならまだしも、下手をすれば背を向けた途端に殺されかねない。
そう判断したため、田村は伝えることにしたのだ。

「島村卯月は、私と共に行動していた西木野真姫を殺した」
「――――!?」

ウェイブの目が大きく見開かれる。
信じられない―――というよりも、理解をしたくない、といったような表情だ。
当然だろう。
仲間が命を賭けて守った者が、護るべき者の命を摘み取ったというのだから。

「嘘だろ...」
「本当よ。だから、私はここにいて、マスタング達は南の方角へ向かっている」

田村は嘘偽りなく語る。
卯月が真姫に致命傷を与えた時のこと、そして田村の殺気に怯み、逃げ出したことを。

「なんでだ...なんでこうなっちまうんだよ...!」

怒りや悲しみ、様々な感情が入り混じり、ウェイブの強く握られた拳が震える。
そして、感情のままに部屋を飛び出そうとするウェイブだが、しかし田村は呼び止める。

「いまあなたが行ってどうするつもり?」
「決まってるだろ、卯月を探すんだ!」
「あなたが説得する、とでも言うのかしら」
「そうだ。セリューは俺の仲間だ。だから...」
「奴があなたの言葉に耳を貸すとでも?」

田村の睨みに、ウェイブはひとまず押し黙る。

「島村卯月は、セリュー・ユビキタスに依存している。しかし、その彼女が死んだと認識したいま、どうなるかはわからない」
「だったら尚更だろ。俺が卯月を止めなきゃ...」
「逆効果だ。仮に奴が『自分の描いたセリューの正義』を行使し続けると決めたとしよう。ただでさえセリューの最期に居合わせなかった仲間であるお前が、奴の『セリュー』の信念を否定すれば、お前に対する敵対心はより増加するだろう」
「じゃあ放っておけって言うのかよ!?」
「仮に、奴を説得できる者がいるとしたらだ。それは奴をよく知る者か、セリューの最期に立ち会った者だろうな」
「ッ!...くそっ」
「なんにせよ、奴を探し出すのは放送が終わってからの方がいい。もし、マスタングと未央が呼ばれ、奴だけが呼ばれなかったとしたら...」
「...ああ、わかってる」

卯月をよく知る者―――本田未央。
最期までセリューと共に戦った者―――ロイ・マスタング。
もしもその両者で説得が不可能であれば、ウェイブでは力不足だ。
最悪、これ以上罪を重ねる前にこの手でケリをつけなければならないかもしれない。
いまのウェイブにできるのは、マスタングたちを信じることだけだ。

ひとつ深呼吸し、両手で頬を叩き気を引き締め直す。


178 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:12:48 Bui9EqzM0


「それで落ち着くのか?」
「まあ、少しな。...ありがとよ、おかげで一人で突っ走らずにすんだ」
「そうか。...それで、お前はどうする」

田村は、ウェイブから視線を外し、杏子へと問いかける。
サファイアが死んだと聞かされてから、ずっと塞ぎこんだままだったのだ。

「...エドワードは」
「?」
「エドワードはどこへ行った?」
「猫と共に、御坂美琴とキング・ブラッドレイを止めると出ていった。おそらく、東部か南部...いや、東部側だろうな」
「...そうか」

ふらり、と力なく立ち上がると、田村に背を向け扉に手をかける。

「...なら、あいつのところに行くわけにもいかないよな」
「佐倉...?」
「あたしは南の方にでも行くよ。運が良ければ、ほむらやまどかの奴も見つけられるかもしれないし」
「―――待てよ」

杏子の様子に異変を感じたウェイブが、肩を掴み呼び止める。

「あのエドワードって奴を追う訳でもなく、一人で行動するつもりかよ」
「......」
「お前もそれなりに戦えるのはあのDIOっておっさんとの戦いでわかったけどよ、ブラッドレイ達以外にも、後藤とかエンヴィーみてえな危ねえ奴はたくさんいるんだぞ。だったら俺たちと...」
「一緒にいて、どうなるんだよ」

杏子は、肩を掴むウェイブの手を払う。
なにすんだ、と言いかけるウェイブだが、彼女の目を見た途端に言葉を失ってしまった。

「どうせ、あんたらも死んじまうんだろ」

彼女の目に、もはや生気などなかった。
生きる気力を失くした死人の目をしていたのだ。

「あたしと関わった奴はみんな死んじまう。ノーベンバーもアヴドゥルもジョセフも...サファイアも」

ノーベンバーに本当にやりたいことを探せと遺されて。
アヴドゥルに命を繋がれて。
エドにもう一度立ち上がる力を貰って。
ジョセフにDIOの能力を広めろと託されて。
...なにができた?

「もう嫌なんだよ、あたしのせいで誰かが死んじまうのはさ」

何にもできなかった。
サファイアの仲間のイリヤを僅かにでも止めることすらできなかった。
サファイアがいなかったら、DIOの能力を広めることすらできなかった。
ジョセフの仇を討つこともできずに、DIOは呆気なく後藤に喰われた。
サファイアや曲りなりにも力を貸してくれたセリムも自分を庇って死んだ。

杏子自身は途中で田村に引きずり出された所為で忘れてしまったが、デイバックの中でシャドウに言われたこと、そしてサファイアという仲間を失ったことが重なり、エドとの出逢いでぶちまけ薄れたはずの喪失への恐怖が再び蘇ってしまったのだ。


179 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:14:14 Bui9EqzM0


「田村。エドと別れる時、あいつはあたしについてなんか言ってたか?」
「いいえ。あなたのことはウェイブ共々頼まれただけよ」
「...やっぱりな。エドの判断は正しいよ」
「どういう意味だよ、佐倉」
「あたしなんざ、連れて歩く価値もねえってことさ。だってそうだろ?キング・ブラッドレイも御坂もとんでもない奴らだ。なのに、あいつは一人で解決しようとしてるんだ」

単純に考えて二対一。ましてや、その二は参加者の中でもトップクラスであろう実力者だ。
DIO一人に歯牙にもかけられなかったエドが勝てる確率など、針の穴を通すよりもわずかなものだ。
その確率を少しでもあげるには、戦力となる者が必要だ。だが、エドはあえてそれを放棄した。
共に戦うと約束した仲間であるはずの杏子を置いて、敢えて単身で戦おうとしているのだ。
つまり。

「こんな役立たずの疫病神、連れて歩く方がどうかしてる。...なあ、あたしの言ってることは間違ってるか?」

悲痛な面持ちで問いかける杏子に、ウェイブは『間違っている』と断言することはできなかった。
例えば、先の図書館での分離のように、大雑把ながらもメリットとデメリットを配慮しつつ話し合いそのように行動したのなら、その結果に後悔することもできる。
エスデスと足立の件のように、状況が許さないうえで且つ意思疎通をして別れるのならば、まだ納得はできる。
だが、今回のように何も言われずに置いて行かれれば、残された者はどうしようもない。後悔も納得もできないまま足を止めてしまう。
果たして、エドワード・エルリックは杏子を気遣って置いて行ったのか、それとも本当に足手まといだと判断したのか。
おそらくは前者だろうが、杏子を納得させられる慰めの言葉など思いつかない。

返答がないことを確認した杏子は、再び背を向け部屋から出ようとする。

「お前のその考えは間違っている」

しかし、今度は田村が杏子を呼び止めた。

「お前がいなくなったところで、私たちが生き残る確率があがるわけじゃない。単純に戦力が減るだけだ」
「...でも、あたしに関わった奴はみんな死んだ」
「お前が殺したのではないだろう。お前が裏切りでもしない限り、共に戦う者への不利益はゼロだ」
「みんなあたしを庇って死んだんだぞ!ノーベンバーもアヴドゥルもジョセフもサファイアも!あたしのせいじゃなけりゃ、誰が...!」
「それは彼らが選んだだけだ。彼ら自身がお前を生かしたいと思っただけで、お前が原因で死んだわけじゃない」

ここへと連れてこられる前―――死ぬ前のことを思いだす。
容赦なく襲いくる弾丸の雨の中、田村は自らの子のために命を捨てた。
反撃しようと思えば反撃できた。逃げ出そうと思えば逃げ出せた。
けれど、そのどちらを選ぼうとも、自分の子が人間たちに敵視される危険性は高かった。
だから、田村はどちらも選ばず、子供の身の安全を泉新一に託すことを選んだ。そして彼女は命を落とした。
その死の責任を子供に負わせるつもりなど毛頭ない。田村がそうしたいと思ったから護っただけのことだ。
ジョセフ以外の面々は知らないが、おそらく彼らもそうなのだろう。
如何な思惑があれ、彼らが生かしたいと思ったからそうしただけで、杏子がいるから死んだわけではない。
少なくとも、田村はそう思っている。


「当てもなくさまようくらいなら私たちと一緒にいろ。迷惑をかけたくないと言うなら尚更だ」


180 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:14:49 Bui9EqzM0

あくまでも冷静に、事実だけを告げる田村に、杏子は反論ができなかった。
田村の言葉に間違いは無い。しかし、理解はできても納得などできない。
やはり、共に行動してきた者たちの死は、どうしても杏子の足を竦ませてしまう。
言葉だけで全てを振り払えるのなら、世の中に悩みや苦しみなんてものはないのだから。

「―――でも、あたしは」
「わかった」

杏子が必死に振り絞ろうとする拒絶の言葉を遮ったのは、ウェイブ。

「俺たちは、お前がいままでどんな経験をしてきたのかは知らないし、田村の言葉で納得できないなら、俺にお前を納得させることなんてできない」

だから、と言葉を区切り、拳を握る。

「どうしても出ていくって言うなら、俺たちも連れていけ。そんで、お前が置いて行かれたことを気にしてるなら―――勝手に出てったエドワードの奴をぶん殴るぞ!」

単身で御坂とブラッドレイを止めに行ったエドワードに、ロイ・マスタングの背中が重なる。
彼は、天城雪子を殺してしまった罪悪感から、共に戦おうとしたウェイブを気絶させて一人で勝ち目のない戦いへと挑んだ。
おそらく、エドワードも同じなのだろう。
彼がウェイブと田村、果ては関わり深い杏子を何も言わずに置いていったのは、戦力差や彼らの実力を見損なったわけではない。
自分が傷だらけになるのは平気だが、身内が少しでも傷つくのには耐えられず冷静さを失ってしまう。
だから、誰よりも責任を感じてしまい、無謀だと思われるようなことも率先して引き受けてしまう。...残された者がどう思うかを考えられずに。
そんな彼らを止めるには、一度正面からぶつかり合わなければどうしようもない。
それは身を持って経験したことだ。
故にウェイブは決めた。
エドワードの優しさが仲間を苦しめていることに気付かせるため、もう一度杏子とエドを会わせると。

「私たちから離れたいから出ていくと言ってるのに、私たちが着いていっては意味がないだろう」
「うっ...と、とにかくだ。誰も死なせたくないのは俺も同じだ。佐倉、お前が自分を責めようが、俺はお前を見捨てねえぞ」

杏子は思う。
無茶苦茶だ。
杏子は彼らのことはほとんど知らないし、その逆も然りだ。
お節介にもほどがある。エドワードも大概だと思ったが、コイツらはそれ以上だ。
だからこそ死なせたくないというのに、彼らは見捨てようとしてくれない。
どうして誰もかれもが放っておいてくれないのか、どうして...

「...もういい。勝手にしろ。後悔しても知らないからな」

それだけ吐き捨て、杏子は膝を抱えて蹲る。
情けないと思いつつも、その両頬を伝う涙を止めることはできなかった。
それは嬉しさからなのか恐怖からなのか...もはや、それすらわからない。

やがて、今後の方針を決めるため田村は口を開く。

「とりあえずは情報を交換するとしよう。私たちは互いのことを知らな過ぎる。...これではロクに目標も立てられないからな」

田村の提案を承諾し、ウェイブはこれまでの経緯を語りはじめる。

彼らが共有しなければならない情報は数多い。

それらを全て語り終えた時、彼らの命運を分ける放送の鐘は鳴り響くだろう。

三者三様の敗北を突き付けられる最悪の鐘が―――


181 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:15:38 Bui9EqzM0
【B-3/市庁舎/一日目/真夜中】



【田村玲子@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、卯月に対する怒り?
[装備]:なし
[道具]:デイバック、基本支給品 、錬成した剣、悪鬼纏身インクルシオ@アカメが斬る!、園田海未の首輪、食蜂操祈の首輪、ジョセフ・ジョースターの首輪、ウェイブ、佐倉杏子(デイバッグ内)
[思考]
基本:基本的に人は殺さない。ただし攻撃を受けたときはこの限りではない。
0:情報交換をする。放送後、これからの方針を話し合う。
1:脱出の道を探る。
2:コンサートホール及び市役所を探索した後初春と合流する。
3:島村卯月は殺す。マスタング達が説得に成功したら……?
4:ゲームに乗っていない人間を探す。
5:スタンド使いや超能力者という存在に興味。(ただしDIOは除く)
6:エンヴィーには要警戒。もしも出会ったら……
[備考]
※アニメ第18話終了以降から参戦。
※μ's、魔法少女、スタンド使いについての知識を得ました。
※首輪と接触している部分は肉体を変形させることが出来ません。
※広川に協力者がいると考えています。協力者は時間遡行といった能力があるのではないかと考えています。
※剣の他にも、何かマスタングから錬成された武器を渡されたかもしれません。
※エドワードの仮説を聞きました。



【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(超絶大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0〜3(セリューが確認済み)、南ことりの首輪、浦上の首輪
タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!、雷神憤怒アドラメレク@アカメが斬る!(左腕部のみ 罅割れあり)
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
0:情報交換をする。放送後、これからの方針を話し合う。卯月たちを探す。杏子はエドワードにもう一度会わせてやりたい。
1:エスデスが誰かを害するのなら倒す。出来れば説得したいが。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具は移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:サリア……。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。



【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神的疲労(超極大)、顔面打撲 、精神不安定(超極大)
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×3@魔法少女まどか☆マギカ、使用不可のグリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:情報交換をする。放送後、これからの方針を話し合う。...できれば、誰とも関わりたくない(死なせたくない)。
1:イリヤや御坂美琴は―――――
2:ジョセフ……。
3:もしさやかが殺し合いに乗っていれば説得する...?

[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※DIOのスタンド能力を知りました。
※シャドウと遭遇中に田村にデイバックから引きずり出されたため、デイバック内での記憶はほとんど忘れています。


182 : Anima mala ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:17:17 Bui9EqzM0



――――ただ、護りたかっただけなんだ。

『...チッ』

暗い、暗い闇の中。

金色の眼をした少女は、瓦礫の上で佇んでいた。

『いつまで寝ぼけてやがんだよ』

時々血の池をパシャパシャと蹴りながら、真っ黒な林檎をつまらなそうに齧っている。

『―――そうさ。あんたは、あたしと向き合う必要なんかない』

『あんたはもう、思い出したはずだろうが。マミさんが死んで、ノーベンバーに教えられて、アヴドゥルに命を繋がれて、エドに出遭って。更にはジョセフやサファイア達が時間稼いでくれたんだ』

少女は、光すら見えない空を見上げて呟いた。

『いい加減に目を覚ましやがれ。護りたいものがあるなら、あの時みたいに何もかも手遅れにならない内にさ』

少女の傍らに置かれている血で赤く染まった紙人形たち。
少女を挟んだ反対側に。それぞれ、金髪で小さな、やや田舎臭い服を着た、黒の長髪を携えた、三つの人形が、血で染まらぬようにと横たえられていた。


183 : ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:18:02 Bui9EqzM0
投下終了です。


184 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/07(土) 00:52:18 qVcRXsMY0
投下乙です
杏子はやはり吹っ切れませんね
ニーサン的にはそんなことはなかったんでしょうが、このすれ違いが酷いことにならないと良いのですが

それとそろそろ放送案募集ですかね
いつもと同じで一週間程の期限かな


185 : ◆dKv6nbYMB. :2016/05/07(土) 00:59:48 Bui9EqzM0
>>184

感想ありがとうございます。


そうですね。
このまま予約が入らなければ、キリよく5月9日の0時から一週間でいいかと思います。


186 : <削除> :<削除>
<削除>


187 : 名無しさん :2016/05/07(土) 23:04:04 NX7Lm2420
投下乙です
シャドウが関係しているせいで、煽りと糾弾(をどう受け止めるか)が一種のテーマになってる感じがするな
杏子は果たして乗り越えられるか

そして、次の放送でそろそろ終わりも見えてくるか


188 : 名無しさん :2016/05/08(日) 00:46:06 edggT5Ls0
じゃあ放送募集開始ですね
大事なこと忘れてましたが投票日は来週の日曜でしょうか
それとも一日明けて次の月曜の方が良いですかね


189 : 名無しさん :2016/05/08(日) 00:49:25 ODz3MJSg0
>>188
9日って書いてるけど?


190 : 名無しさん :2016/05/08(日) 00:56:48 edggT5Ls0
>>189
すいません見間違えました


191 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/05/15(日) 13:32:23 E8nGjRIE0
お疲れ様です。

放送募集のお話をしたらば管理人にしていなかったようなので報国しました。
(投票の関係で)

放送募集日程は毎回名無しさんで進んでおりますが、連絡が必用な場所にはちゃんと連絡するようにお願いします。


192 : ◆dKv6nbYMB. :2016/05/16(月) 00:28:00 6jNPjY.A0
告知です
5/19日の0時まで仮投下スレで放送案を募集中です
放送案募集期間中の予約は禁止となりますのでご了承ください


193 : ◆dKv6nbYMB. :2016/05/21(土) 00:36:40 FYO9orio0
放送話投下します。


194 : 第四回放送 ◆dKv6nbYMB. :2016/05/21(土) 00:37:56 FYO9orio0



さて。これから四回目の放送の時間となるが...この殺し合いが始まってから一日になるとは早いものだ。
各々どういった思いで過ごしたかはわからないが、私にとってはあっという間でもあるし、長かったとも思える有意義な時間だったよ。
とはいえ、諸君が聞きたいのは私の感傷などよりも、役に立つ情報だろう。挨拶はこのくらいにしておくとしよう。
では、記録をとる準備をしたまえ。
...できたかな?では、禁止エリアから発表しよう。

禁止エリアは

G-5
D-3
E-4

だ。

続いて脱落者の発表だ。...未だにここまで戦いの火種が燻っていたことには私自身驚いているよ。

DIO
セリム・ブラッドレイ
ロイ・マスタング
槙島聖護
狡噛慎也
初春飾利
エンヴィー
ヒルダ
タツミ
エスデス
美樹さやか
小泉花陽

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン

以上一四名だ。

この放送を終えた時点で、72名もいたきみたちも、気が付けばもう21名となっている。
正直、ここまで順調に進むとは予想外だったよ。
そこでだ。ここまで順調に進めてくれたきみたちのやる気が更に上がるように褒美を加えるチャンスを与えよう。
まあ、このチャンスを逃しても深刻なリスクは発生しないため、軽いレクリエーションのようなものだと思ってくれ。

10人。

次の放送までに10人以上の死者が出れば、優勝した者には、願いを叶える権利に加え、望んだ者を五人まで蘇生させる権利を与えようと思う。
この殺し合いで死んだ者でも、殺し合い以前に死んだ者でも構わない。
仲間がいるから殺し合うのを躊躇う者でも、優勝すれば大切な者たちと共に元の場所に帰ることができるんだ。
望んだ者たちを生き返らせた上で、この殺し合いに関する記憶を消して元通り、なんてことも可能だ。
今まで人類が築きあげてきた歴史のように、見たくないものなどわざわざ見る必要もないしな。
ちなみに、10人に届かずともこちらからペナルティを与えることはしないため、是非とも参加してくれたまえ。


どうだい、この話を聞いてやる気が湧いてきたのではないだろうか?
もちろん、この権利を使うかどうかはしょくんらの自由だ。
蘇生の権利が不必要であれば、元来通り望みをひとつだけ叶えるだけとなる。
...ただ、私の言葉を信じず、たった一日で培った薄い繋がりを信じて無駄なことを続けるのは止めておいた方がいいとだけ忠告しておこう。
虎視眈々としょくんらの寝首をかこうとしている者もいる...かもしれないしな。
そんなことに己の生を費やし、せっかくのチャンスを棒に振るのは...あまりオススメしない。


さて、そろそろ放送の時間も終えようか。
機会があるかどうかはわからないが、次の放送でまた会おう。


195 : 第四回放送 ◆dKv6nbYMB. :2016/05/21(土) 00:38:51 FYO9orio0





ふぅ、と一息をつき、広川はマイクを手放す。

『思い切ったことをするものだな』
「ええ。なにせ終盤ですからね。彼らにもこれくらいの役得があってもいいでしょう」

背後の強大な存在に、広川は視線だけを向ける。

『それで円滑に進むのなら構わないが...少々気にかかる』
「なにがです?」
『お前のことだよ、広川』

"フラスコの中の小人"は、広川へと向ける視線に殺意を含ませる。

『首輪交換機のこともそうだが、何故私に黙って行う?』
「......」
『下手な小細工は計画を狂わせる。...それがわからない人間ではないだろう』

ピリピリと空気が張り詰める。
それに当てられ、広川のこめかみから一筋の汗が流れる。
だが、それだけだ。
彼は一切動揺もせず、ただジッと眼前の強者を見据えている。

『答えたまえ、広川剛志。お前はいったい、なにを企んでいる』

もこり、と地面が動き出したかと思えば、四本の石柱が広川を取り囲む。
答えなければ殺す。
広川を見下す視線とその行いには、そんな意味も込められていた。

「....私を殺すと言うのなら好きにするといい」

だが、それでも広川は揺るがない。

「だが、あなたは必ず後悔するでしょう。『殺した意味がなかった』とね」

まるで、自分は何も悪いことなどしていないとでも言うかのように、釈然とした態度で、堂々と言ってのけた。

『あくまでもきみには何の裏もないと』
「ええ。私はこの殺し合いの主催としての務めを果たしているだけですよ」


196 : 第四回放送 ◆dKv6nbYMB. :2016/05/21(土) 00:39:27 FYO9orio0

シン...と静寂に包まれる部屋の中。

『...いいだろう。広川よ、いまはまだお前に運営を任せる。だが、次に余計なことをすれば命は無いと思え』
「肝に銘じておきますよ」

それを最後に、"フラスコの中の小人"は広川を残し、部屋から立ち去った。


それから数分が経過した時だった。
ピロン、と広川の持つ携帯電話の音が鳴る。
メールが届いた音だ。

"どうだった?"

書かれていたのはこの一文だけだ。
広川は慣れない手つきで、携帯のボタンを操作し、返信を返す。

"流石に少々肝を冷やしたよ。アレの件といい、急に頼まれても困るのだがね"
"ごめんね。でも、断ろうと思えば断れたはずだよ?"
"まあ、ただの隠れ蓑として招かれたこの殺し合いがどう動くのかは個人的に興味があるからな"
"そのために静観するんだ"
"どの道私の生前の願いを果たすのは不可能らしいからな。なら、興味を満たすために僅かな時間を生きるのも悪くない"

返信を終えると、携帯電話を閉じ、椅子に腰かけ背もたれに身を預けた。

「もうすぐかな」

誰にも届かない彼の声が虚空に消える。



誰にも知られない、舞台裏でのほんの一幕。
しかし誰に知られずとも確かに物語は進んでいる。

生者たちはそれぞれの思惑を抱き、長く短い一日を終え―――新たな一日が始まる。


【残り21人】


197 : ◆dKv6nbYMB. :2016/05/21(土) 00:40:14 FYO9orio0
投下終了です


198 : 名無しさん :2016/05/21(土) 18:58:17 9dGYS6tQO
投下乙です

随分あからさまな念押し
これでは「蘇生を疑う人ばっかりで困ってます」と言ってるようなもの


199 : <削除> :<削除>
<削除>


200 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:43:23 c3YfH66.0
投下します


201 : LEVEL5-judgelight- ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:47:16 c3YfH66.0
「最悪だな」

猫がポツリと呟く。
先ほど響き渡った第四回放送。
そこに並んだ名前の殆どを、エドワードと黒子は知っている。

狡噛慎也
ロイ・マスタング

二人の共通の知り合いでもあり、特に狡噛は知能冷静さ共に実に優れ、頼れた人物であったが亡くなった。
彼の末路がどうだったかは想像に難くない。同じく名前を呼ばれた槙島聖護と相討ったのだろう。
狡噛と槙島の間に因縁があるのは狡噛の話しぶりからも良く分かる。

そしてマスタング。
エドワードが中尉に殴り飛ばさせる前に彼もまた逝った。
消せない罪を背負いながらも、マスタングは己の答えを経たのだろうか。

「大佐、馬鹿野郎……!」

初春飾利
黒子と別れてすぐに何者かに殺害されたのだろう。
下手人はエンブリヲか、あるいは他の何者かに殺害されたのか。
どちらにしろ学院に残してきた穂乃果の安否が気になる。

「初春……こんなことならばやはり……」

分かっていたはずだった。エンブリヲに気に入られた穂乃果はともかく、初春を一人残すことが如何に危険だったか、
それでも黒子は御坂を追わないという選択を選べなかった。
伝わる涙は、黒子の頬を後悔で濡らしていった。


小泉花陽

自分達が命を賭して逃がした彼女もまた命を落とした。
悲しみと無力さが、二人を締め付ける。
これも自分達の判断ミスだったのかもしれない。もし黒子かエドワードのどちらかが花陽に付いていれば、このような結末にはならなかったのではないか。
少なくとも御坂に気を取られていなければあるいは。


202 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:47:44 c3YfH66.0


彼女に関しては黒子とエドワードは名前しか知らないが、花陽が託された二人の内の一人だった。
ヒルダの知り合いでもあり、猫や黒の仕事仲間でもあった。

「黒の奴、また飲んでいなきゃいいが」

銀を喪ってからの黒はまさに廃人の一歩手前といったところだった。
生まれつき酔えない体質だったのか、泥酔状態ということはなかったが、それでも幼女に手を上げたり服を脱がしたりと散々な事をやらかしたことを猫は忘れない。
とはいえ銀に関しては黒もイザナミ関連で―――猫の呼ばれた時系列では―――殺すとまで豪語していたのだ。恐らく一区切り付いているだろうし、そこまでの心配は不要かもしれないが。

イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
黒子は彼女を殺さずに最悪の場合でも拘束すると黒に言っていた。
しかしそれは叶わない。黒が彼女を殺めてしまったのか、何にせよ黒子の知らぬところで彼女は息絶えてしまった。

「どうすんだ。お前はこれから」

放送後、心の整理を一段落付けてから、口を開いたのはエドワードだった。
黒子が泣き止むのも待たず、彼は忙しなく口を動かす。
それを責めるつもりは黒子にはない。むしろ、下手な慰めより有難いくらいだ。
涙を拭いながら黒子は元の凛々しい顔を取り戻し断言する。

「……決まっていますわ。こんな下らない殺し合いを、一刻も早く終わらせること。
 それが私のやることですわ」

止まっている暇など一秒たりともない。
きっとここで泣き崩れていれば、初春に佐天さんに心配を掛けてしまう。それにあのにくったらしい婚后光子にも、あの世から高笑いで馬鹿にされることだろう。

「……だな。
 となれば話は早い、この傷を何とかしてここに来る御坂の奴を止める」

「ええ、今こそこの首輪を使うときですわね」

婚后光子と巴マミの首輪。
両者とも高いランクの首輪だ。換金すればかなりの高レアのアイテムと交換出来るだろう。
首輪が箱に投げ込まれ、機械音声が案内を始める。
慣れた手付きで黒子が機械を弄り、エドワードが後ろから興味深く観察する。
そして次の瞬間、二人の意識は闇に包まれた。


「これは……?」

意識を失くしたのはほんの数秒。しかし、その数秒の内に身体から疲労と傷がある程度消失していた。
決して万全ではなくコンディションも最悪に近いが、それでも以前の傷付いた身体に比べれば遥かにマシだ。
自然回復では決してありえない現象だ。これには何かしらの異能が必ず関わっている。
 
「エルリックさん、もしかしたらこれは貴方達が使う錬金術なのでしょうか?」

黒子が自分とエドワードの身体を交互に見ながら呟く。
後に合流した花陽が言うには、マスタングは切断された腕を錬金術で繋げ直したという。
これも同じように錬金術を使った超回復なのだろうか。

「似てる……とは思う。けど、多分別のものだ。
 以前自分で腹の傷を塞いだから分かるけど錬金術の治療の感覚と違うんだ」

ここに呼ばれる前にキンブリー戦で負った致命傷を、エドワードは自身の魂を賢者の石として治療に当てたことがあった。
だが、あの時の感覚や感触と今回の回復は別のようなものに感じる。
しかし違うが、近いものではある。

「……それともう一つ。前々からマスタングさんにも聞きたいと思っていたのですが、例えばゴーレム……大きな土人形を操ることは可能でしょうか?」
「土人形?」
「ええ以前、交戦した学園都市の侵入者がそんな能力を使っていたのですわ」

エドワードは両手を合わせると地べたに触れる。瞬間、小さな人形が盛り上がり自由に動き始めた。

「一応、俺がやる場合はこんな感じだな。ただし」

その両手を地べたから離す。すると今度は人形は固まったまま動かなくなった。

「練成エネルギーが途絶えれば、こいつは活動を止めちまう。
 お前の言ってた土人形はどうだった?」
「完全な自立行動でしたわ」
「練成陣はあったのか?」
「いえ、ただチョークで文字を刻んでいたかもしれません」

錬金術師として解釈するのなら、メイ・チャンの扱っていたような遠隔練成だろうか。
あれならば自立行動のように見せた操作も不可能ではない。
しかし気になるのは、文字を刻んでいたという点だった。
無論、練成陣に文字を刻む場合もあるが、それでも文字単独で起動するのは珍しい。


203 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:48:07 c3YfH66.0

(文字、そういやあそこで見つけた練成陣も文字があったな)

田村と共に発見したあの練成陣。そこに刻まれた理解不能な文字。
あれの意味をずっと図りかねていたが、あるいは黒子の言っていたゴーレム使いに何か通じるものなのではないだろうか。

「私、以前にルビーさん。
 イリヤさんのステッキとそのお話をさせてもらいましたの。
 どうやら、それは魔術なのではないかというお話でしたわ」

「……魔術」

魔術にはエドワードも心当たりがある。
実際、魔法少女の杏子にも遭遇しているし、彼女が更にサファイアを使い変身した姿も見ている。
魔術というものが存在してもおかしくはない。

「素人考えなのですが、主催の振るう私達の及びつかない技術には魔術が絡んでいるのではないでしょうか。
 この回復も魔術を使っていると考えれば、説明が付く気がしますの」
「そうなると厄介だな。ここでその魔術に明るい奴なんて、殆ど居ないんじゃないのか?」

イリヤ、美遊、クロエ。
魔術に関わっていたいただろう三人の少女はもうこの世にはいない。
ではそのステッキは? サファイアはエドワードがその目で最期を看取った。
残ったのはルビーだが、所有者のイリヤが死亡した時点で彼女も破壊されている可能性もある。

「新しい課題は魔術の解析だな。
 あの血の練成陣の文字が魔術なら、きっと錬金術と系統は似てるはずだ。理屈さえ分かれば何とかなるかもしれない」

「そうなりますわね。
 私も助力はしますが……如何せん科学側の人間です。エルリックさんに全て任せてしまうかもしれませんが」

このアインクラッドまで二人は敗走した形で辿り着いたわけだが、ある意味思わぬ収穫ではあったかもしれない。
これがなければ魔術とやらが関わっていた事など、エドワードは思いつきもしなかっただろうし、先の練成陣の解析ももっと遅れていただろう。
それだけにエドワードは納得がいかない。

(なんで、連中は錬金術で治療しなかった?)

そもそも、エドワードと黒子の治療を錬金術ですればこんな情報を与えなくても済んだ。
魔術に関して、この場に残った人物は殆どが無知であるにも関わらずだ。敢えて連中はその手札を切ったのは何故か。
更にいえば、この換金システムの報酬はランダムであった筈だ。どうして、エドワード達に限っては狙ったかのように回復を与えてくれたのか。
黒子も内心ではエドワードと同じ疑問を抱いていたようで、口調とは裏腹に表情は釈然とはしていなかった。

「来るな」

ふと猫が呟いた。
何が、と返すほどエドワードも黒子も鈍感ではない。
その能力の性質上、普通のネコは近づいただけでも不快さを感じ離れていってしまう。
そんな能力の持ち主はこの島にただ一人しか居ない。

「お姉様、ですわね」

学園都市レベル5第三位。超電磁砲の御坂美琴。
最強の電撃使いが近づいてきている証だ。


204 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:48:34 c3YfH66.0

「エルリックさん、私はお姉様を生きて無力化させたいと考えてますわ。
 もし貴方が殺す気なら……」
「安心しろ。俺も殺す気はねぇ」

黒子がエドワードの顔に視線を向ける。
黒とは違い、少なくとも不殺の心得については揉めることはないらしい。

「やる気満々って感じね」

改めて相対し、黒子は喉を鳴らす。
普段とは程遠い薄暗い表情。常日頃から黒子に向けるような温厚な顔ではない。
黒子は知っている。これが殺意の類であることを。
そして、殺意から垣間見える哀愁。あの時と同じ、夏休みの間に御坂が見せたものだ。
黒子ではどうしようもない。深く暗い闇の底に御坂は居るのだろう。恐らく、御坂を救い上げられるのはただ一人しかいない。

(上条……当麻……!)

既に亡くなった人間に思いを寄せても、上条は決して現れない。
御坂の涙を拭った彼女のヒーローは敗れてしまったのだから。

―――御坂美琴と彼女の周りの世界を守るってな。名前も知らないキザでいじけ虫なやろうとの約束なんだよ

(守れていないではありませんか……貴方は……!!)

お門違いの怒りなのは分かっている。
それでも上条さえ生きていれば、あの時のようにもう一度御坂を救ってくれたのではないか。
そう思えてならない。そう頼ってしまう、自らの無力さに苛立ちが沸く。

「黒子、私と組まない?」
「どういう意味ですの?」
「聞いたでしょ。放送よ、放送。五人なら死んだ皆を生き返らせられる。
 皆で帰れるのよ。帰りましょう黒子」

広川の流した放送では十人死ねば五人までの人間を蘇らせると言っていた。
真偽は不明だ。しかも、このタイミングで流すのもきな臭い。
それでも一筋の希望ではある。何より、御坂と戦わない選択肢があるのなら、黒子は―――

「お断りしますわ」
「なんでよ? 皆で帰れるのよ! 佐天さんも初春さんも、婚后さんだって……!」
「だからこそですわ。私は逃げる為の理由に友達を使いたくない!
 誰かを犠牲にした報酬など、こちらから願い下げですの!!」

僅かだが、期待はしていた。
仲間を救う為ならば、黒子はお姉様と共に戦ってくれるのではないかと。
淡い期待だ。御坂と黒子は違う。黒子の正義は如何な状況に陥ろうとも歪むはずがない。

(そうよね、私が誰よりも知ってたことじゃない。
 この娘は……一人で歩ける。立って進める。私とは違って、ヒーローは要らないんだから)

それがとても誇らしく、そして寂しい。

「お姉様はそこまでして……上条さんを蘇らせたいんのですの?」
「……かもね」
「私のせい、ですわね……。お姉様が何よりも苦しんでいる時に限って、何も出来なかった」

御坂と上条の間には何かがあった。
8月21日。寮にまで上条が訪れ、何らかのヒントを経て彼は御坂を救った。
それだけだった。黒子はそれだけしか知らない。
御坂が何に苛まれ、苦しんできたのかも。上条が何と戦い、御坂を救い出したのかも。
黒子はずっと、御坂の後ろを走り続けてきたのだ。ただの一度も並び立った事はない。


205 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:49:01 c3YfH66.0

「本当ならそれは、私の役目でなければいけなかったのでしょうね」
「違うわよ。アンタじゃ、どうにもならなかった。最強(アレ)に勝てたのは最弱(アイツ)だけ」
「だからこそですわ。力及ばない私自身が何よりも恨めしい」

遠い。
御坂美琴が遠い。

自分の無力な手なんて届かない場所で戦う御坂が、あまりにも離れすぎていた。
もっと早くに気付くべきだった。
きっとこれは罰なのだろう。
誰よりも助けを必要とした時に何も出来なかった。己への神が与えた戒めだ。

「私一人の命なら、もしかしたら差し上げたかもしれませんわね。彼にそれぐらいの借りは返すべきですもの」
「黒子……」
「でも、それ以外は認められません! 人の命を奪い去る貴女だけは!」

ああ、それでも。例えこれが戒めなのだとしても白井黒子は認めることが出来ない。
誰かを傷付け、奪い続ける。そんな残酷な法則など。

「なら、どうするってのよ! もう私は止まれないのよ!」
「止めてみせますわ。
 白井黒子として風紀委員(ジャッジメント)として、友と……そして上条当麻“達”の意志を継ぎ―――」


―――御坂さんのこと、止めてあげてください。

(ええ、やってみせますわ。見ていなさい初春、貴女の意思を決して無駄になんかしない!)

―――約束だ。御坂美琴と彼女の周りの世界を守るってな。
   
   俺は今、そいつとの約束をちゃんと守れてるか?

(お礼を言いますわ。名前も知らない何処かの誰かも、お姉様を守って下さった上条さんも。
 だから、貴方が果たせなかった約束のもう半分は私がやり遂げる!!)

上条が果たせなかった約束。それを今果たせるのは、立ち上がって戦えるのは黒子しかいない。
御坂の平穏を願い、約束を取り付けた顔も名前も性別も知らない、キザでいじけ虫な何処かのエツァリ(だれか)の為にも。
迷っていた黒子の背を押した初春の為にも。
恐らくその最期まで、御坂を慕い信じ続け逝った友の為にも。


「『そのふざけた幻想をぶち殺しますわ!!』」


そこに上条の意志も込めるよう黒子は咆哮のような大声で以って、御坂に言い放つ。
御坂美琴の抱くの幻想を殺し、彼女が壊そうとする全てを、その彼女自身の世界を守り抜く。
そう御坂にも、黒子自身にも言い聞かせ、楔を打ち込むかのように。


206 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:49:31 c3YfH66.0

「―――ッ!?
 ……そう、いいわ。来なさい、白井黒子!!」

黒子の宣言が開戦の合図となり、御坂の身体を紫電が駆け巡る。
空間移動で一気に後方へ下がった黒子。逆にエドワードが両手を合わせ、前線へ駆け出し巨大な壁を練成する。
電撃の槍は阻まれ、壁を焦がすに終わる。

「俺も一枚噛ませてもらうぜ。黒子!」
「チッ、錬金チビが」
「誰がスーパーマイクロアルティメットドチビだ!!」

下らないやりとりに気を取られた隙に黒子が御坂の背後へ移動する。
全身から電撃を放出し、御坂は身構えた。
黒子の性格上、体内に異物を飛ばす戦法は取らない。幻想を殺すという宣言から考えても、黒子は御坂を無力化することだけに留めるはずだ。
それならば外部への攻撃、それも黒子の得意とする肉弾戦のみに気を使えばいい。
触れれば感電必須の御坂へ黒子は鉄パイプを抜き、大振りに振りかぶった。

(力を貸してもらいますわよ、ヒルダさん)

その先に括り付けたのはヒルダの首輪。
マスタングの炎も黒子の空間転移も弾くこれならば、御坂の電撃も通さない。
遠心力で勢いを高めた首輪が御坂に直撃する。
首輪を頭とした鉄パイプは、まさにハンマーのような形で御坂へと向かっていく。
頭部を狙った一撃をガードで受け流しながら、足元の砂鉄を操作し黒子へと覆う。

「素早い、わね!」

黒子の居た場所を砂鉄が抉りぬきながら、影のように空間移動から姿を見せた黒子へと向かってゆく。
同時に御坂の背後からエドワードが拳を振り抜いた。
神々しく輝くダイヤモンドの拳は電撃を通さない。
身体を沈め、拳を避けてから電撃を纏わせた肘内をその顔面へとお見舞いする。だが、その肘をエドワードの左足で蹴り上げれた。

「随分、豪華な手足じゃない!」

「うおっ……!!」

光り輝く左足の義足もまたダイヤモンド。
右腕と同じく、炭素繊維の豊富な材質で出来ているのだろう。
舌打ちと共に御坂は全身から電撃を大放出する。
蹴り上げた体勢から、地面に手を置き一気に体勢を引き戻すとそのままエドワードは後退し電撃を避けた。

(やっぱ、半端じゃねえなこいつ)

不殺を掲げる黒子やエドワードにとって、もっとも効果的な無力化の方法は殴打だ。
素人ならまだしも格闘に関しては鍛錬を積んだ二人ならば、それを用いることでの気絶は難しくない。
しかし、御坂の能力は電撃。下手に触れれば、感電死。よくても致命傷が待っている。
かといって遠距離からの攻撃では加減が効かず、御坂を死なせる怖れもある。
ダイヤモンドの機械鎧ならば殴れなくはないが、それも右腕と左足に限定される。それだけで御坂に近接戦を挑むのも無謀だ。

(先ずは電撃を封じる!)

両手を合わせてから地面に手を置き、練成を開始する。
作り出すのは避雷針、それも一つや二つではなく練成の範囲が届く限りの無数に練成していく。
御坂の電撃が飛散し、吸い寄せられた。

(電撃が……。あのチビ、本当に邪魔!)

合わせたように黒子が接近し御坂へ鉄パイプを見舞う。
重心を後ろに傾けてから、パイプを避け地面から吸い寄せた砂鉄を剣に変化させる。
甲高い金属音と共に鉄パイプの先の首輪と砂鉄の剣がせめぎ合う。
数度斬りあいながら、黒子は空間転移を用い御坂の死角へ回り込む。
だが、それらの動きは全てが先に読まれ、的確な剣閃が黒子を待ち構えていた。
これまで、常に共に並んで戦ってきたのだ。黒子の癖、思考は御坂が誰よりも良く知っている。


207 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:49:46 c3YfH66.0

「くっ……!」

首元に迫った砂鉄の剣をパイプ先の首輪を当てたことで弾く、
その弾かれた反動を利用した御坂は返す刃で、パイプそのものを切断した。
リーチが極端に狭まり、先端の首輪が地面に転がり落ちる。
それを黒子が拾う間もなく、御坂は一気に蹴り飛ばす。
砂鉄の剣に電流を流し、御坂は黒子へと更により深く踏み込んだ。
鉄パイプで受ければパイプごと切断。運良く耐久が持とうともそこからの感電。
残された防御は回避のみ、演算を即座に済ませ黒子の姿が御坂の視界から消える。

(消えた、現れる先は……)

御坂への有力打の為、転がった首輪の前か。あるいは戦力の建て直しの為、エドワードの近くか。
いくつかの転移先を浮かべては消していく。
黒子の思考を限りなく、忠実に脳内で再現しシュミレートする。

(捉えた)

御坂の死角、一定の保たれた距離。そして転移された瞬間に現れる影。
何より、あの黒子が逃げを選ぶはずはないという確信と共に黒子の転移先に瞬時に当たりを付ける。
撃つのは必殺の超電磁砲(レールガン)。
電撃では避雷針で散らされる、砂鉄では動きが遅く黒子に再度の空間転移を許してしまう。
ならば、彼女を葬るのは自らの二つ名でもあり、音速の数倍の速さを誇る超電磁砲こそが相応しい。

「死ね、―――」

それ以降の台詞が紡げない。
黒子の名を叫ぶことが出来ない。
まだ躊躇しているのか、悩んでいるのか?

だが、御坂の胸内とは裏腹に指はより迅速に、より正確にコインを弾く。
超電磁砲が放たれた。

「―――ッ!」

しかし、超電磁砲の先にあったのは黒子ではなく五本の鉄パイプ。
超電磁砲はその高熱と共に鉄パイプを溶かし、巻き込みながら虚空へと飲まれていく。

「“読めて”いるのは、貴女だけではありませんわ!!」

上空より降り注ぐ、黒子の声。
御坂が見上げた瞬間、回りは鉄パイプにより囲まれる。
それこそまさしく、罪人を捕らえた牢獄のように。

「こんなものでぇ!!」

黒の剣閃は一瞬でパイプの檻を両断した。
この程度で拘束されているようでは、レベル5の名折れだ。
檻から飛び出した御坂は空中から落下する黒子へ視線を戻す。
既に彼女は消えていた。次に黒子が現れる場所、それは―――

「そこ!」

ヒルダの首輪の目の前に黒子が現れ、御坂はタイミングを完全に合わせ砂鉄を振るう。
黒子が御坂を倒すにはどうしても、この首輪が必須なのだ。誰だってその行動派容易に予想が付く。
空間移動の演算を開始するが、砂鉄の動きが早すぎる。秒すら置かないそれは捕食者の如く、黒子を覆う。
そこへエドワードが飛び込み、その右腕を振るう。
ダイヤモンドへと練成した機械鎧は砂鉄から生み出された刃を弾き、黒子は演算を終えエドワード共に姿を消した。

(何処に……!?)

御坂の背後から咆哮と共に現れたのはエドワード。
ダイヤの拳と共に一気に肉薄し、御坂の頬へと振りかぶる。
掌を掲げ、拳を受け止めた。痛みと痺れが駆け巡るが、それらを無視し電撃を放出する。
この距離ならば避雷針の影響は受けない。


208 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:50:07 c3YfH66.0

「―――ッ!」

エドワードは左足を振り上げ、御坂の顎元へ。
爪先は顎を掠り、御坂は空を見上げる形で後方へ体勢を崩す。
その隙に手の拘束を振りほどき、エドワードは一気に距離を取る。
もっともそれも計算の内、御坂は瞬時に体制を立て直しエドワードへと直進する。
振り上げられる電撃を纏ったアッパー。
直後、御坂のアッパーはダイヤの掌によって遮られる。

「!?」

払われたアッパーから、エドワードの左足の回し蹴り。
身体を屈めてから蹴りをやり過ごし、御坂は足をバネに前進するが、そこへ更にエドワードの振りかぶった足からの踵落とし。
後ろへ傾きバク天で回避してから、受身を取り追撃の右ストレート。
同じく、御坂の顔面を狙うエドワードの右ストレート。
速さは互角、精度も同等。ならばそれを担う者の動体視力は?
エドワードは首を傾け、拳を避ける。御坂は左手で拳を受け止める。
そのまま拳を握り締めながら、足元の砂鉄を槍状に変化させ棟元へと穿つ。だが強引にエドワードはその手を振りほどき、避けていく。

「……ぐっ!?」

御坂の眼前に黒子が現れると共に腹部に走る鈍い衝撃。
鉄パイプその先に括り付けられていた首輪が御坂の腹部にめり込んでいた。
唾液と共に息を吐き出す。
加減など一切ない骨の一、二本は折るつもりだったのかもしれない。
更に顎を狙った一撃を両腕を交差させ受け止めるが、堪らず後退し腰を落とす。

(不味い、二対一だと勝ち目は薄い)

避雷針により得意の電撃は封じられた現状。
タイマンでの戦いならまだしも、二人掛りで代わる代わる接近戦を続けられては御坂のスタミナが先に切れる。
先にどちらかを落とさなければ、御坂はジリ貧だ。

「はああああああああ!!!」

愚痴を漏らす間もなく、黒子が再び空間転移で御坂の背後へ回り鉄パイプを振るった。
同時に御坂の磁力よりディバックより鉄塊が飛び出す。
間合いは十分、エドワードの磁石の磁力にも掛からない。
演算も間に合わないだろう。それでも黒子は限界まで、身体を後ろに逸らせ回避。

「読めていると言いましたわ!」

御坂の顔を狙ったフルスイング。
完全に懐に潜り込まれた御坂では避けられない。
能力の使用も間に合わない。恐らくはこれを貰えば、御坂の意識は飛ぶだろう。
それが何時間か何分か何秒かは分からない。だが、確実にその間に御坂は戦えないよう無力化させられる。

「―――ッ!?」

だからこそ、御坂はその頭を垂れた。
まるで首を差し出すかのように、死刑執行される囚人のようにも見えただろう。
それが何を意味するのか、黒子には分かる。
命を差し出している。この手を緩めねば、御坂は死ぬのだ。
頭部という硬い箇所とはいえ急所。黒子は回避を想定しながら顔を狙ったが為に、それは頭を打つ程に加減していない。
このまま殴りぬければ死ぬかもしれない。
その直感が腕の動きを緩ませ、停止へと向かわせる。御坂を死なせること、それは黒子にとっての敗北でもある。
彼女の目的はあくまで御坂を止めることにあるのだから。


209 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:50:22 c3YfH66.0

「……やっぱり、ね」

乾いた声だった。
羨むようでもあり、哀れむようでもある。
紫電が黒子を照らす。この近接距離では避雷針の効果も期待できない。
振るいきった腕に身体が傾き、回避も間に合わない。
残されたのは空間移動、だが御坂の電撃と空間移動が同じく0から演算を開始すれば、その複雑さとレベル差によりどうしても後手に回る。
僅かコンマ数秒。一秒にも満たぬ間だが、黒子にとってはあまりにも長すぎる時間だ。

「御坂ァ!!」

自らの存在を誇示するかの如く、エドワードが咆哮し地面を練成し柱を練成する。
狙うは御坂、仮にこのまま黒子に電撃を放ったとしても、このまま柱にぶつかりやはり御坂は意識を失う。
それだけの速さ、強度だ。ここで御坂は電撃を中断し回避に移るのが何よりの最善。

「グ、ッ……!!」

だが、御坂は避けなかった。

「なっ!?」

「ッ、ァ……ガァ」

短い悲鳴が耳を付く。
柱に吹き飛ばされながら電撃を放つ御坂。
その電撃で焼かれ崩れていく黒子。
エドワードは堪らず走り出し黒子に駆け寄る。
抱き寄せ、揺すぶるが反応はない。

「おい、黒子! 黒子!!」

息もしていない。
脈も心拍音も聞こえない。
焦りが募り、エドワードの脳内で医療知識が駆け巡る。

「頼む、間に合ってくれ!」

両手を合わせ、黒子の胸に手を置く。
彼女の心臓に電気ショックを与え、心臓マッサージを行う。
脳や筋肉の活動でも電気は発生する。錬金術で筋肉を刺激すれば、心臓マッサージに必要な分の電気も持ってこれるだろう。
心配を蘇生した後に外傷の治療を行えば、まだ黒子は助かる。

「クソっ、戻って来い。黒子!!」

鼻をつく異臭と僅かに黒焦げ、煙まで上がる黒子の身体。
避雷針を仕掛けたお陰で電撃の威力が下がったのが幸いだったか。
消し炭にまで焼かれていたら、いくらエドワードでも手の施しようがない。

「ッ? 何だ」

甲高い破壊音が無数に響き渡る。音の方を向き、エドワードはその光景を凝視した。
黒の砂鉄がエドワードの練成した避雷針を次々と飲み込み、破壊してゆく。
更に同じくエドワードが作った巨大磁石も、また音速の数倍の速度で鉄塊が叩き込まれ、粉々に砕け散った。

「色々作ってくれたけど……妨害係が居ないとやっぱ楽に壊せるわね」

「御坂、お前……意識が……」

焦りによって視野が狭くなっていた。
応急処置に当たる前に御坂を完全に拘束すべきだったと。
しかし、御坂は笑いながら首を横にふるう。まるでエドワードの心を読み、それを否定するかのように。

「私は気絶なんてしてない」
「何?」
「これよ」

御坂の手から一つの銀色の塊が転げ落ちる。
それは御坂が戦闘に用いた鉄塊から更に小さく切り取ったものだった。


210 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:50:45 c3YfH66.0

「電熱で熱くして、手の中で握り続けたのよ。
 それでアンタの攻撃を喰らっても強い刺激で気絶しなかったわけ」

電撃の鞭が撓り、エドワードへと振るわれる。
正真正銘、レベル5第三位の超電磁砲の手加減抜きの電撃だ。
黒子が受けたものとは訳が違う。一瞬で人体とは分からぬ有様へと焼き尽くされる。
ディバックに黒子を放り込む暇も無い。黒子から離れるようにエドワードは大きく距離を空け、電撃を避け続ける。

(やべえ、どうする? 黒子の手当ても時間との勝負だ。けど御坂も簡単には……)

避雷針を作れば御坂の攻撃は緩くなるが、すぐに再び壊されるだろう。
あれは破壊しようとする御坂を、黒子が奇襲することで成り立っていた。彼女を欠いた今、エドワード単独では戦いきれない。

「残るはアンタだけだけど、動かなければ楽に殺してあげるわよ?」

「ふざけんなよ御坂……お前、大事な妹分を殺したんたぞ!?」

やり方は気に入らないが、御坂は知り合いを手に掛けた直後だ。
間違いなくその精神面は大きく動揺している。
言葉で攻めながら、隙を見つけ一気に叩く。

「いいか、こんな事しても死んだ人間は戻らねえ!」
「……本当にそう思ってるわけ?」

エドワードの予想に反し、御坂は冷たく言い放つ。

「アンタ言ってたわよね? 
 主催から願いを叶う方法を奪えば、私に無闇に殺しまわるよりこっちの方が絶対可能性が高いはずだって。
 それってアンタも、アイツらの台詞を少しは信じてる。信じたくなる理由があるんじゃないの?」
「何?」
「例えば……お母さんとか」

年齢の割にエドワードの身長は小さく、栄養状態が偏っている。
それを考えた時、御坂が思いついたのはまともな食事を摂れない環境がいかなものかだ。
余程特殊な環境でなければ、親がちゃんとした食事を与えるはずだ。つまり、親が居ないのではないか? 
そして、そんな食事を作れないのは大体は男親。ならエドワードは母親を亡くしている可能性が高い。

「……」

そんな適当な推理で、実際推理自体は外れているただの勘のようなものだったが、それでも間違っては居ない。
エドワードの口が閉ざされる。脳裏に優しかった母親とそれを蘇らそうとして、アレを作り上げてしまった最悪の光景が浮かぶ。

「やっぱり、図星か」
「ああ、そうだよ。俺達は母さんを作ろうとした……。
 間違いだったんだ。理論は完璧だったのに、それでも俺は右手と左足を……弟は身体全てを持っていかれた!
 お前にその禁忌を犯す覚悟はあるのか? 大事な妹分も友達も全部殺しても、それは上条って奴じゃない“何か”かもしれないんだぞ!!」

エドワードの義手と義足。それが彼らの罪の証であり、消せない贖罪の後なのだろう。
御坂は一瞥をくれ、笑いながら答える。


211 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:51:05 c3YfH66.0

「構わないわ。
 これが駄目なら、また別の方法で生き返らせる。それが駄目ならまた別の方法を探す!
 私の世界、アンタの世界じゃ駄目でも、また他の世界を探す。アイツを地獄の底から引き上げるまでは!!」

「ざけんな……そんな方法で蘇っても……上条って奴が喜ぶはずねえだろ!」
「そうね。だけど、私にはアイツが居て欲しい。アイツには生きていてほしい!」
「友達を全部巻き込んでもか!? お前にはまだ失ってないモンがあっただろ! 黒子も初春って奴も、お前が乗りさえしなきゃ救えたかもしれねえ!!」

「ええ、助けられたかもしれない。
 けど殺し合うのを先延ばしにするだけじゃない。友達を皆失わず、殺し合いからの脱出、そんなこと本当に出来ると思ってるの?」

「何?」

「私だって考えたわよ。
 皆、傷付かないで、生きて帰れる方法。だけどそんな事どうやってやるのよ?
 主催は私達の能力を全て把握し、掌握してる。
 私達は既に負けてる、詰まされてるのよ。どうやって連中を真っ向から倒すってのよ!
 出来もしない、幻想を抱き続けてみんな死ぬよりも……そんな中で一人しか蘇らせられないのなら、私は一筋の希望に縋りつきたい。
 アイツを救ってやりたい!!」

「御坂、戻って来い! その先には……俺達みたいな間違いを犯すな!!」

「五月蝿いのよアンタは!!」

激昂する御坂に対しエドワードは両手を地面に付けた。
感情的に怒鳴り散らす御坂は、電撃も砂鉄も纏わない。完全な隙だ。
土から盛り上がった柱は御坂の腹へと叩き込まれる。

「―――だから、効かないのよ!!」

左腕を右手で握り締め、その爪は皮を破り肉に食い込み、骨にまで達しているかもしれない。
痛みをまた更なる激痛で打ち消し、御坂は意識を繋ぎとめる。
左腕から手を離し、血に濡れた右手を翳す。電撃がエドワードへと向かい、その余波でエドワードは吹き飛ばされる。
柱の練成が止まり、腹部を抑えながら御坂は歩み出す。

「私はアンタがアイツに似てると思ってた」

柱を更に練成し、エドワードは御坂へと放つ。

「けど、違うわね。アンタはアイツとは違う」

柱は全て御坂の周りに集まった砂鉄に両断されていく。

「アンタは自分の生き方を誰かに押し付けてるだけ、アイツみたいに誰かを救うわけじゃない!!」

距離は狭まっていく。

「押し付けてるのは、お前だろうが! 上条の為に誰かを殺すなんて等価交換が認められる筈がねえ!」
「……そうよ。それは私もアンタと同じ、だからアンタじゃ私には勝てない!」

拳を握り駆ける。
砂鉄の刃を掻い潜り、電撃の鞭を避けて御坂の懐へと潜り込む。
エドワードは全霊を込めた一撃をその頬へと叩き込んだ。


212 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:51:27 c3YfH66.0

「目ェ覚ませ、御坂!!」

確かな手応えと共に御坂の身体はエドワードの拳を離れ、殴り飛ばされていく。
そんな予見とは裏腹に御坂はまるで動じない。
顔が拳により殴られようとも、瞼一つ閉じずその拳を受け切る。

「何度も言わせないでよ、効かないって」

エドワードは殺さない。
今までの戦いもそれが後藤であれ、DIOであれ、イリヤであれ、彼は殺さないよう配慮し戦い続けてきた。
殺さない意志はある意味この場に呼ばれた誰の意志よりも堅く、エドワードの二つ名に相応しい鋼の信念といえる覚悟だ。
しかし逆を言うのなら、エドワードは殺すことが出来ない。
ならば来ると分かって覚悟すれば、耐え切れる。
死なない攻撃を避ける必要など、何処にもないのだから。

「それがアンタの“殺さない覚悟(じゃくてん)”、だからあのみくって娘も誰もかもアンタの生き方(つよさ)に着いて来れず死ぬのよ!!」

「ッ!?」

もしも、殺していればどうなっていたのだろうか。
それで絶対に殺せていたという確証はない。それでも、もし殺していれば。

御坂を殺していれば、みくは生きていたかもしれない。御坂さえ居なければ、彼女に止めを刺す人物は居ない。
アヴドゥルも不意を突かれ死ぬことなど先ずなかった。
それどころか、先ほどのエスデス達との乱戦も、あるいは御坂の乱入で戦力が分散しなければ、タツミ、さやか、黒子とエドワードの四人がかりならばもしかしたらエスデスを止められたのではないか。
彼女は強大だが満身創痍だった。タツミ一人であそこまで渡り合えたのだから、死者は最小限食い止められたのかもしれない。

それだけじゃないない。DIOをあの場で仕留めていれば、ジョセフは殺されなかったかもしれない。
後藤もエドワードと対峙したあの場面で殺していれば、犠牲者はこれ以上増えなかった。死亡者も今よりもずって減っていたのでは? あのジャックサイモンも死なずに済んだかもしれない。

脳裏に浮かぶ、IFの数々。希望的観測だって混じってる。そう簡単なわけがない。
でも、それでももしかしたらという疑念は止まることを知らない。
今まで考えたことも否定したこともない、己の信念に挟まれた異はエドワードを揺すぶるのには十分すぎた。

「―――しま」

御坂の掌が迫る。
それはほんの僅かな揺らぎに過ぎなかったが、戦いの中ではあまりにも長すぎた。
もう御坂がエドワードに触れるのに数ミリも残っていない。秒も待たずにエドワードは感電し黒子の二の舞となるだろう。


213 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:51:47 c3YfH66.0

「ッ? があああああ!!!」

御坂の細腕を鉄パイプが貫通する。
まるで最初からそこにあったかのように転移してきた鉄パイプ。
エドワードに触れかけた手は止まり、御坂は視線をそれを飛ばした人物が居るであろう場所へ向ける。

「黒、子……?」

「……お姉、様ァ!」

身体から煙を上げながらも、全身が痺れ激痛に苛まれながらも。
確かな心臓の鼓動と共に白井黒子は立ち上がる。
殺したはずだ。威力こそ抑えたものの、人間が耐え切れる電撃ではない。

(あの時のエドワードの手当てのせい?)

御坂との再戦で完全な手当てではなかったものの、あれが要因で黒子は息を吹き返した。
そう考える以外には納得がいかない。

(いや、そんな事はどうでもいい。考えるべきなのは、黒子が生き返った事実と黒子が私の体内に異物を空間移動させた事実)

腕に生えたパイプを見つめながら、御坂は舌打ちをする。
この攻撃は先ほどとは訳が違う。最悪、死んでも構わないという意志のもとに放たれた。
避けなくてもいい、殺さない攻撃ではない。

「止めろ、黒子。まだちゃんとした手当てもしてねえ、お前は先に逃げろ」
「いえ、エルリックさん。ここは私に任せてくださいまし。
 私一人でここは戦いますわ、貴方は高坂さんの方をお願いします」」
「駄目だ、一人じゃ御坂には勝てねぇ」
「いえ、勝ちますわ」

エドワードは引かない。
強い人間だ。一度決めたことを貫こうとし、何よりも目の前の人間を見捨てることはしない。

「私は―――」

そんな人間を説得させる方法は一つしかない。
より強く、より堅く、自らの意志を示し認めさせること。
黒子にとっての意志を、誇りを、強さを見せ付ける言葉はやはりこれ以外にない。

「ジャッジメントですの!」

右腕についた紋章を左手で掴み、付き付け宣言する。
いつものように、常日頃から名乗り続ける正義の名を。
たったそれだけで、エドワードの鋼の意志すら捻じ曲げ、認めさせるほどの説得力があった。
下手をすれば、エドワードよりも一回りも小さい身体が大きく見える。
この戦いに打ち勝ち、全てを守るという確固たる覚悟がエドワードの胸を大きく打ちつける。


214 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:52:13 c3YfH66.0

「だから、必ず勝ちますわ!!」
「だけど……」
「……高坂さんは強いお方です……けれど少し不安な部分もありますの。
 お願いしますわ。高坂さんのこと、支えてあげてくださいまし……」

今でもそれが正しかったとは思えない。本当ならここに踏みとどまるべきだったのかもしれない。
だがエドワードは背を向けた。黒子の言う高坂、彼女を探す為に駆けていく。

「分かったよ……。
 でも、絶対に……絶対死ぬなよ!!」

(お願いしますわ、エルリックさん。
 それと、申し訳ありません。高坂さん、私は多分最後までそばに居られないでしょう。……でも決して貴女は負けないで)

去っていくエドワードを見送りながら、胸内でこの場でもっとも縁深く、共に修羅場を潜り抜けた少女への別れと激励を送る。

「行かせると……」

「お姉様の相手は私ですわ!!」

エドワードを追おうとした御坂の眼前に鉄パイプが現れた。
あと一歩踏み出していれば、今頃全身を頭から串刺しになっていたことだろう。
思わず冷や汗を流しながら、御坂は一気に後退し黒子へと向き直す。

「アンタ……本気で……」
「……私の正義(ちから)でお姉様を止められないのであれば、私は自らの枷を外しますわ」
「何ですって?」

御坂は殺さない攻撃では倒せない。
今までの戦いで、嫌というほど分かってしまった。
御坂を止めるには、同じ土俵で渡り合うには自らの正義を折る。
分かっている。自らが越えようとしている一線がどんなものか。
自らは人を殺めた罪人となり、御坂美琴は二度と救われない。
本来ならば絶対に避けなければならない最悪の結末。

それは裏切りだ。

人をこれまで殺めなかった自らへの。
そんなものを望まないだろう上条、初春、佐天、御坂の世界の平和を願った誰かへの。
二度と白井黒子は正義を名乗れない。
自ら手を汚し、血に濡れた手はどんな高潔な理由を述べようと、正義以外の何かに過ぎない。

「構いませんわ。
 それで誰かを守れるのなら……これ以上誰の犠牲も出さないで済むのであれば……!」

守る為に力を振るう。そこに正義はない。
あるのは、ただ守りたいという願望のみ。その先は修羅の道。
例え、この戦いに勝ったとしても、黒子は帰れない。血塗られた世界へと誘われるように進み続けるのだろう。


215 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:52:35 c3YfH66.0

(もう決めたこと。躊躇いなんてない、私一人が修羅に堕ち、お姉様を止められるのなら!)

ただ、これだけは忘れない。忘れてはいけない。光の正の道を外れようともその芯にある信念だけは。
拳を強く握り締める。
それだけは絶対に離さない決意と共に御坂へと拳を向ける。

「お姉様、決着を着けましょう」
「……そうよ、私はそれを望んでた」

響いてくる。
自らを止めようとする初春と佐天の声が。
やたらやかまししく、騒ぎ立てる婚后光子の騒ぎ声が。
説教をかますツンツン頭の上条の声が。

(謝りますわ皆。きっと、許してなんかくれないし、許されていい筈もない。
 上条さんの約束も結局、私は果たせなかった。私を信じてくれた、初春も佐天さんも婚后光子も貴女達の事、裏切ってしまいますわね。
 けれども、私は―――)

振り払う。
もう戻れない戻らない過去に決別を告げ、黒子は進み続ける。

「黒子ォォォォォ!!!!」
「お姉様ァァァァァ!!!!」

御坂美琴VS白井黒子。
正真正銘の殺し合いが今幕を開く。






216 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:53:26 c3YfH66.0



考えたこともなかった。
白井黒子、レベル4の大能力者でありその空間移動と真っ向から殺し合うなど。
ある程度のシュミレートは行ったことはある。だがそれは彼女が自らの信念により、人を殺さないという考えを考慮しての元だ。
その枷を外した今、恐らくこれが最初で最後の白井黒子の本気。

「ッ! あっぶな……」

強い。
上条や一方通行も御坂では適わなかった強敵だが、彼らはその特異さゆえに強い。ある意味ジョーカーの存在だ。
黒子はそういうものを抜きに純粋に強い。
御坂の服を異物が掠る。空間転移で飛ばした異物が狙いを外し、姿を現したのだ。
もう何度も見た光景であり、未だそれに慣れない。
黒子が狙うのは全てが急所、頭、胸といった箇所はもちろん、体内の器官を出鱈目に狙った一撃は良くて致命傷、場合によっては即死へと繋がりかねない。
砂鉄を巻き上げ視界を奪い。狙いを的確に定めさせないよう、御坂自身も絶えず走り続け電撃を放ち続ける。
黒子も常にテレポートしながら、御坂を視界から離さず異物を放ち続ける。

「いっ……!?」

左太ももに走る激痛。
滲みあがる赤と、そこから生えたペンで事態をより早く理解する。
止まれば死ぬ、動き続けなければ死ぬ。
痛覚の電気信号に介入し、痛みという感覚を麻痺させる。黒子が鉄パイプをワープさせるより素早く御坂は駆け抜ける。
その間、わずか一秒もない。まるで墓標のように突き立てられた鉄パイプを背後に確認した時、御坂はまだ己の生存を確信した。
まだ生きていると。戦うことが可能であると。

「はあああああ!!」

言葉すら紡げない。
女性があげるには不釣合いな咆哮と共に電撃を御坂は放つ。
黒子に当てようとは考えない、狙いを付ければそれだけ黒子の反撃にも繋がる。
当たるのを願った出鱈目な広範囲射撃。
黒子の姿が消える。
同時に御坂も更に脚力を込め、加速し続ける。
互いが抱える一撃必殺。それを叩き込む瞬間を計り続け、静寂が二人を包む。

「「―――ッ!!」」

振り向き様に電撃の槍を、背後に回りその脳天に鉄パイプを。
直感と共に横方へと飛び退け受身を取る。地べたで身体を擦り掠り傷ができ、御坂の痛覚が刺激される。
身体を傾けながら、紙一重で電撃を避ける。ツインテールの右側が焼かれた不快感と異臭が黒子の鼻孔をつく。


217 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:53:54 c3YfH66.0

「ハァ……ハァ……」

「くっ……」

両者共に動きが止まる。
ほんの僅かな休息の時間と隙を伺い、戦略を練る両者の図り合い。
互いの目を睨みあいながら、考えることは共通してどう相手を殺すかだ。

(あれだけ動いておいて、まだ余裕があるだなんてつくづく底なしですのね、お姉様は)

対して黒子は相当の無理を強いている。
実のところ立っているのも精一杯だ。
電撃のダメージは重く、声を張り上げただけでも倒れるのではないかと自分が心配になるほどだった。

(でも、まだ倒れるわけにはいきませんわ。為すべきことを為すまでは……!)

鉄パイプも残り十本を切った。
自身の体力共にあまり時間はない。

「ぐ、ぅ……」

悲鳴をあげる身体に鞭打ち、演算を開始する。
同じく御坂も動き出し、指に挟んだ鉄塊を弾き出した。
音速を超えたそれは、愛用のコインのものと比べれば幾段劣るが超電磁砲そのもの。
更にそれが五発同時に放たれ、計六発が黒子を穿たんと奔る。

(やはり、お姉様も短期決戦を狙っていますのね)

鉄塊をかわしながら黒子は確証を得ていく。
やはり考えたとおりだ。御坂の目的は上条一人の蘇生から、ここで亡くした友を含めた蘇生へと変わってきている。
それを為すには、次の放送までに十人殺しを達成しなければならない。
しかし、御坂とて無尽蔵の電撃を内包しているわけではない。
ここまでの戦いで電撃を使いすぎている彼女は、可能な限り消耗は抑えるべきである。
つまり狙うのは消耗が最も抑えられる短期決戦。

(丁度いいですわ。私も短期決戦は望むところ)

鉄塊を避け終えた黒子へと砂鉄の刃が降り注ぎ、電撃の槍を投げ飛ばす。
避ける。避ける。避ける。
そして攻撃の合間と共に攻撃の演算を開始し、異物を御坂の体内へと繰り出す。
もはや異物であれば何でもいい。デバイスが、地図が、名簿が、飲料水の入ったペットボトルが。あらゆるものを飛ばし、御坂の急所を狙い打つ。
御坂もまたそれらを避け続けていく。黒子の癖、思考、目線の移動で目測を立て安全地帯へと走り、再度また転移先の予測を立て走り続ける。
服が破け、頬を掠り、腕の皮を食いちぎり、異物が御坂の身体を壊そうと乱れ飛ぶ。


218 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:54:13 c3YfH66.0

(やっぱり、黒子は私の消耗を狙わない……攻撃してこないってことはアイツも時間がないってこと!)

万全ならば、御坂の電撃が切れるまで消耗を待ち続けるのも良手だろう。
いくら御坂でも逃げに全力を傾けられれば、確実に体力切れから倒れてしまう。
それをしないのは黒子もまた、それまで体力が持つか分からないから。
黒子も余裕がない。傷付き衰弱した肉体は能力の演算、僅かな運動、揺れですらいまは身体を蝕む毒となっているはず。

(だからって、私も消耗を待ってらんない)

黒子は能力を回避及び、いまは遠距離からの人体破壊に特化した空間移動を存分に発揮し戦っている。
このまま消耗を待ち続けるにしても、一撃で体内を穿たれ殺す異物を避け続けるには御坂の消耗は激しすぎる。
余裕を持たせて見せているが、御坂のスタミナも既に限界に近い。
この先の戦いを考えれば、早期に戦いを終わらせたい。

(より迅速に)
(もっと早く)
(確実に)
(間違いなく)
(お姉様を)
(黒子を)

((殺す!!))

二人の思考が一致したと共に超電磁砲が黒子の左腕を掠り焼く、空間転移で現れた鉄パイプが御坂の右肩を貫いた。
御坂は黒子の胸に、黒子は御坂の脳天と互いに急所を狙いあった一撃は僅かなズレと共に二人の悲鳴を轟かせ合う。


219 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:54:30 c3YfH66.0

「ッ、ぐ、ゥ……ァアアアアアアアア!!!」

悲鳴か雄たけびかも分からない叫びと共に御坂は砂鉄の剣を手に駆け出す。
先の攻撃でよく分かった。これまでの疲労と消耗と共に、御坂の演算にブレが出てきている。
あの一撃は演算さえ完璧なら、黒子をミンチへと変えていた。
恐らく、空間転移で移動し続ける黒子を射撃で捉えるのはもう不可能。
今の行える演算では当てる前に御坂が倒れる。

(当てられないなら、当たる距離まで行って殺す!!)

真っ向から突っ走る御坂を目に黒子もまた痺れを覚える左腕を殴り飛ばす。
痺れは酷いが痛みはある。まだ動かせる。使い物になる。
あの超電磁砲は欠陥品だ。演算が上手くいかなかったのだ。
完璧な超電磁砲であるなら、左腕ごと消し飛んでいた。

(この程度で済んだことこそが何よりの証拠、そしてお姉様は私の演算が不完全なことにも気付いている)

黒子もまたこれまでの戦いの負担から演算能力が大幅に低下していた。
本当ならば、肩ではなく脳天を貫かなくてはおかしかったのだ。
常日頃から共にあった御坂が感付かない訳がない。
この特攻は黒子の演算の精密が落ちたことで、自らに当たる可能性が下がったからこそ。

(直接勝負なら、受けて立ちますわ!)

袈裟掛けに振るわれる砂鉄の剣を身体を逸らし避ける。
胸を鈍痛が襲う。急激な運動に、ダメージが抜けない心臓はついていけない。
足が覚束なくなり、縺れ転びそうになる。それを膝の力で耐え抜き、俯こうとする上体を背骨が折れん限りの力で以って振り上げる。
振りかぶった御坂が全身より電撃は発する。巻き込まれるより先に空間転移で回避。7

「ぐっ、こんな、時に……!」

痛みが演算を妨害していく、無視。転移先へと演算を収束させる。痛みがより強く心臓を痛めつける。
電撃が広がる。黒子の制服をパチパチと音を立てながら、焼いていく。
自らの頬を殴り、集中力を復帰させ正常な演算へと修正。能力を発動。

「ッ? チッ」

狙った箇所への移動ではないが、それでも電撃自体は避けられた。
すぐに黒子を見つけた御坂は剣を振りかぶりながら走り出す。
転移した場所は御坂から離れていない。距離はすぐに詰められる。
ディバックへと手を伸ばす黒子。御坂はそれを見ても構わず、剣を振り下ろす。
演算完了よりも、御坂が黒子を殺害する方が遥かに早い。
だが、剣が黒子を切り裂く寸前、砂鉄が空中で分解され黒子のディバックへと引き寄せられていく。

(あのチビが作った磁石の破片!?)

黒子のディバックに収納されたのはエドワードが練成し、御坂に粉砕された巨大磁石の破片だ。
バック内で一箇所に集められた磁石は、また強大な磁力を発揮し砂鉄を吸い寄せていく。
慌てて、後方へ飛びのく御坂の胸を鉄パイプが抉った。
完全な直撃ではないが、パイプは皮を破り血が滲み出した。


220 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:54:52 c3YfH66.0

(このまま退く? ……いや、ここは攻める!)

痛みが御坂を怯ませる。
だが黒子の演算は不完全。
しかも能力を一度使用したが為に再演算の手間が掛かる。
この距離、この間合いなら一思いに殺せる。
怯みかけた御坂は自らを奮い立たせるかのように足を前に踏み出す
右手に電撃を溜め、それを黒子へと放出する。
御坂の演算も誤差が生じ始めているが、それを考慮しても尚、この距離ならば避けえようもない一撃。

(身体が動かない……演算も間に合わない……)

距離が近すぎる。空間転移も自らが動く回避も無意味だ。
だが、黒子の目はまだ死なない。絶対の勝利を得るが為に黒子は左拳を作り振るいあげる。
御坂からすれば異常な光景だ。
よもや、人の拳一つで突破できる規模の電撃ではない。
黒子が電撃に拳を叩き付けた。
高圧電流の塊はすぐに皮膚を溶かし、内部を壊し黒子という人間の肉体を破壊しつくしていく。

「なっ!?」

だが、電撃は次の瞬間“打ち消さ”れた。
まるであの右手のように跡形もなく。
瞬間、背後より轟く雷音と煌く雷光。そして同じく消失した黒子の左腕。

(打ち消した……? いや移動させた? 左腕ごと!?)

電撃は自体は所詮大した重量を持たない。
少なくとも人間一人を移動させるよりは、遥かに演算も楽に素早く終えることが出来るはずだ。
残るはタイミング、捨てる方の腕で触れ、全身に感電するより先に演算を完了させ腕ごと電撃を消し飛ばす。
無茶苦茶にも程がある。演算も能力の発動だけを最優先し、殆どの数式を、すっ飛ばした歪なものであるに違いない。
成功したこと自体が奇跡の産物。それだけの奇跡を引き当てながらも、片腕を失くすという代償を支払わねばならないあまりにも重いリスク。

(私は……賭けに勝った……!!)

それでも十分すぎるほど、黒子にとってはリターンを得た。
“打ち消された”と錯覚した御坂はこの戦いの中でもっとも驚愕に染まり、そして動揺するはずだ。
黒子の右手が鉄パイプに触れる。御坂は気づかない。
式を組み立て、転移先の座標を設定する。御坂が気付く。
演算完了。終わる、この演算を終えた時、全てのケリが着く。


221 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:57:05 c3YfH66.0

「ッ、ギャァァアアアァアア!!」

ザンという音と共に御坂の右耳が宙を舞う。
小規模とはいえ、自身の肉体の欠損の痛みと、精神的な衝撃は御坂から悲鳴を引き出す。
鉄パイプが御坂の顔の横に現れ、僅かな滞空と共に落ちて行く。

(そん、な……)

外した。
疲労の為か、腕を欠損した精神的ショックとダメージの為か、あるいは制限か。
理由は何であれ、最後の最後で、この超至近距離で黒子は演算をしくじり、最後の好機を逃した。

「ァ……私、の―――」

耳が千切れた痛みすら押さえ込み、御坂は己の勝利を確信する。
最後に響かせるのは黒子の敗北と自らの絶対的な勝利の叫び。
今度こそ、本当に能力の発動も何かも間に合わない。もう一度、同じ方法で電撃を避けることも無理だ。

「う……、ァ」

限界を告げ、地面に這い蹲る身体に黒子は抗い続ける。
左腕の欠損から、血が噴出し体温は下がり意識は朦朧とする。
最早痛みすらない、残るのは生を根こそぎ奪われ去った身体の虚無感。
動かない、動こうとすらしない。死を目前にしても肉体はそれすら受け入れようとしている。

(ここで、終わるわけには……!)

不意に右手に感覚が戻る。
次いでは足、身体を覆う虚無が晴れる。
動く、動き出せる。
いや、支えられている? 温かい三つつの腕がしっかりと黒子を抱きかかえ、唐突にやたら五月蝿い高笑いが轟く。

『感謝しなさい、この婚g――――』

『白井さん、私達の分まで』

『御坂さんのことお願いします』

(みんな……?)

これはただの幻覚、気のせいだ。
正義を捨てて、御坂を殺すことを決断した黒子にあの高潔な三人の友が手を貸すなど。
極限状態にあった脳が走馬灯と共にあらぬ幻を見せたに過ぎない。

(嘘ですわねこれは、でも、それでも―――)

だとしても、それが全て偽りの優しい幻想(うそ)だとしても白井黒子が立ち上がらない理由にはならない。
電撃を纏った腕を屈んで避け、そこから眼前へと上体を浮かす。
手には有らん限りの力を込め、拳を握る。
後は全ての力を解き放つ、ただ全てを込めて御坂の頬をその拳で殴りぬける。


222 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:57:22 c3YfH66.0

「―――お姉様ァァァアアアアアアアア!!!」

首が?げてしまうのではないかというほどの衝撃と鈍痛。
足が縺れ、全身から力が抜けていく。
脳から思考が奪われ、意識が薄れ、視界が反転していく。

(だ、め……ここで、寝たら……私は……)

耐えろ。耐えろ。耐えろ。
この程度なら死なない。痛いだけ、耐え切れるはずだ。
意識を手繰り寄せろ。手放せば全てが無駄になる。これまで、あらゆる犠牲に積み上げられた幻想が壊される。

「ガッ、ァ、私……は」

初春が佐天が婚后がみんなが居た日常が懐かしい。
私が壊され、壊そうとしたのはあの日々だった。輝くしくも美しいあんな日々をもう一度だけでいいから手にしたい。
けれど、それは無理だ。友達全員で生きて帰れるなどあり得ない。上条(ヒーロー)を失った御坂は。そんな現実と立ち向かえるほど強くいられない。
でも、いまは違う。さらに十人の命を捧げることで、友をも蘇らせられる。

ようやく分かった。
上条も皆が居たあの日常は、何を犠牲にしても必ず取り戻さなければならないと。

(ここで……!! 立たないと―――)

強い決意とは裏腹に肉体は根をあげた。
意識が沈む、御坂の意志に逆反し視界は黒に染まる。

ドサリと重い音を立て、御坂美琴は堕ちた。







223 : お姉様(みさかみこと) ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:58:34 c3YfH66.0




勝利の時間は一時だった。

(ああ、やっぱり……)

浮かんだのは己の無力さの恨めしさ、不甲斐なさ。
重力に抗う力も残されず、黒子は倒れ付す。

(本当に無様ですわね)

手繰り寄せた世界の先でも、ずっと憧れ手を伸ばし続けても。
自分は御坂の後ろを追い続け、常に周回遅れだった。

「……私は何時まで経っても、お姉様の隣には立てなかった」


「―――何、言ってんのよ」

「え?」

「何、呆けた顔してんのよ。
 アンタはね。レベル5(わたし)を倒した、唯一のレベル4よ。
 もっと堂々と誇りなさい。白井黒子、アンタは勝者なんだから」

他でもない。
黒子の知る、『超電磁砲』の“御坂美琴”の目で声で、彼女は言葉を紡ぐ。
勝ったのはアンタだと。他の誰でもない白井黒子の勝利を誰よりも信じて疑わず、声を大にして。

「で、敗者は勝者のいうこと聞いたりするわけだけど。何かある黒子?」

「お姉様……お願いがありますの」

「何?」

「抱いてくれませんか」

「……もう、しょうがないわね」

呆れたような顔をして、それでいて優しさに溢れた顔で御坂は黒子を腕の中で抱き止めた。
温かい、胸から御坂の鼓動が響き、触れてるだけで安堵する。

「頑張ったわね黒子」
「……後は任せても?」
「ええ、アンタの分まで……私が……こんな殺し合い、ぶっ潰してやるから……。
 だから、寝てなさい。全て終わったら、……また起こしてあげる」

「そうですわね……。私は寝ますわ。
 フフ、良かった。お姉さまが……戻ってきてくれて……」

誰よりも憧れ、心酔し、少しでも届こうとした。
優しいお姉様の胸の中で黒子は瞼を閉じた。






224 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:59:00 c3YfH66.0



「……馬鹿、何で死んでんのよ」

白井黒子と御坂美琴は死んだ。
今、この瞬間、彼女達の幻想は殺されたのだ。
残ったのは、物言わぬ冷たい亡骸と。御坂美琴だった、ただのレベル5。

「勝っても死んだら、意味がないじゃない……」

もしも白井黒子が生きていれば、この幻想は続いたかもしれない。
御坂美琴として、黒子が必死に掴んだこの幻想は現実として昇華されたかもしれない。

「……本当に……なんで……黒子が死ななきゃいけないのよ」

きっと涙を流すのはこれが最後だ。
初春さんの分も佐天さんの分も婚后さんの分も、ついにで食蜂操祈の分まで泣いてやった。
誰かに聞かれるのではないかと思ったが、涙は止まってくれない。
大声で泣き叫んだ。
それから泣きながら、御坂は虚ろに黒子に手を伸ばした。
御坂が焼いたことで一つだけになったツインテールを解き、髪を下ろしてやる。
大人びた雰囲気に変わり、さっきまでの不恰好な髪型から整のえてあげた。
顔の埃も払って、そして黒子の生き様を刻み込むように、右腕の風紀委員(ジャッジメント)の紋章を付け直した。

「じゃあね、黒子。……さようなら」

丁寧に黒子の首を落とし、首輪を回収してから再び首を元の位置へと固定する。
目立たない所で、電撃で地面に大穴を開けてそこに黒子を収め。そこからあとはずっと手作業で土を被せ続けた。
本当に今にも目覚めそうで、いきなり目を開けて御坂に抱きつくんじゃないかと思うほど綺麗な顔で……。



「……行かなきゃ」

全ての作業を終え、御坂は転がっていたヒルダの首輪もティバックに放り込む。
御坂を止めた黒子は居ない。
歩みを止める理由はもう何処にないのだ。

「黒子も初春さんも佐天さんも婚后さん上条(アイツ)も……ついでに食蜂操祈、アンタも。
 全員、こちらまで引っ張りあげる」

この先に何があっても構わない。全て粉砕し、邪魔する奴は殺しつくす。
世界の全てが敵に回ったとしても……どんな方法を使ってでも殺す。

「ふふ……はは、あはは……。
 世界が広い。
 夜空の奥行が見える
 閉塞なんてどこにもない!可能性はどこにでもある!まだまだ、私の前にはまだまだ!掴むべき手がかり、上るべき高み、目指すべき頂上がどこまでも広がっている!!」

これだけの世界が巻き込まれた殺し合いならば必ず死者蘇生の法も見つかるはずだ。
あのチビがいう禁忌とやらが何だ。真理がなんだ。
まとめて、叩き潰し、踏み潰し、蹂躙し尽くしてやれば良い。
それが大罪というのなら構わない。地獄の底に落とされるのなら、その地獄の閻魔ごと全てを薙ぎ払う。
覚悟は出来た、引き返すなど考えも浮かばない。だから、そのためにより強い力がいる。
例えそれが一方通行だろうと、万物を掌握する神様だろうと捻じ伏せる力が。

「手に入れてやる。皆を取り戻す為の力を……何もかも……」

友の屍を越え、更なる地獄の底へと御坂は歩みだした。




【白井黒子@とある科学の超電磁砲】 死亡


225 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:59:32 c3YfH66.0



【H-4/二日目/深夜】


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)全身に刺し傷、右耳欠損、深い悲しみ 、人殺しと進み続ける決意 力への渇望
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×1、回復結晶@ソードアート・オンライン、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、黒子の首輪、ヒルダの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:黒子も上条も、皆を取り戻す為に優勝する。
1:次の放送までに十人殺しを達成し、死者を五人生き返らせる権利を取り付ける。
2:可能な限り、徹底的に殺す。
3:ブラッドレイとは会ってから休戦の皆を確認次第、殺すかどうか判断。
4:首輪も少し調べてみる。
5:万が一優勝しても願いが叶えられない場合に備え、異世界の技術も調べたい。
6:全てを取り戻す為に、より強い力を手に入れる。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。



【H-5/二日目/深夜】

【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神的疲労(大)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、黒子に全て任せた事への罪悪感と後悔
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、パイプ爆弾×2(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:黒子から託された、高坂穂乃果を探す。
1:大佐……。
2:前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、御坂、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
6:魔術を解析したい。発見した血の練成陣に、魔術的な意味が含まれていると推測。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。
※仮説を立てました。



【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:帰る。
0:エドワードと共に行動する。
1:黒の奴、飲んでないといいが。
2:銀……。


226 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/05/29(日) 16:59:45 c3YfH66.0
投下終了です


227 : 名無しさん :2016/05/29(日) 19:52:50 NjJKY5j6O
投下乙です

生き返らせる対象が丁度6人
呪われてますな

早速1人
あと9人


228 : 名無しさん :2016/05/30(月) 08:05:20 MRB1fhl20
投下乙です
禁書の因縁は美琴の勝利か
暗い結末しか待ってなさそうだなあ


229 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/05/31(火) 23:28:34 iv5qMTXk0
投下お疲れ様です。
黒子もお疲れ様。憧れであり大切な友である御坂との対決は割りきっても割り切れないでしょうに。
殺し合いを経てそれぞれの立場がぶつかり合うのは、原作で見られないカードも見ることが出来るのは二次創作のいいところですよね。
最期に託した願いは……御坂はもう、あの頃には戻れない。彼女がどこまで生き抜いて、夢をかなえることが出来るのか……。
改めて投下お疲れ様でした。

私も投下します。


230 : 闇に芽吹く黒い花 ◆BEQBTq4Ltk :2016/05/31(火) 23:31:08 iv5qMTXk0


 流れる星は静かに動く。


 永遠の刹那を感じていても、時は流れ続ける。





 足が重い。
 何かに掴まれているように、進む足を後方へ引き止めるように。
 それはまるで、死者のしがらみが生者に纏わり付いているようだ。勿論、そんな事実は無い。

 科学的な根拠では説明出来ないような、カテゴリに分類としたらオカルトの話になる。
 そこに加わるのが心象的な――生物特有の感情だ。言葉や記号では割り切れないものが彼の足を重くさせていた。
 けれど歩幅は大きく、目的地に辿り着くまでの所要時間は普段と差異は無い。


 一歩、一歩と確実にカジノへ進み――。


『禁止エリアに接触しています。エリアに滞在する場合は三十秒後に首輪が爆発します』


 機械的な音声が首輪から響き、定まっていなかった意識が現実へと形を形成し始める。
 カジノを目指していたものの、とうに禁止エリアとなっていたことを失念――していたのだろうか。
 本当は気付いていたかもしれないし、そもそもとして最初から知らなかったのかもしれない。

 このまま進めば死ぬ。

 確かなことは一つであり、彼は足を止めた。

 退かなければ首輪が爆発し、死ぬ。契約者と云えどその身体は生身である。最も彼は――さて。
 幾分か歩いた中で、彼の心は溝川に落ちたような、暗く何事も考えていない穢れたものだ。
 思考を張り巡らせた所で、収束は一点に纏わらずに全てが空中で飛散している。まともな判断は下せない。

 このまま黙っていれば死ねる。


231 : 名無しさん :2016/05/31(火) 23:32:39 iv5qMTXk0


 空洞の心境の中で、それだけははっきりと認識していた。
 人間は状況を追い込まれ時、楽な方に逃げる習性が少なからず意識の中に確立されている。
 ここで死ねば、この絶望と無力から開放される可能性だってあるのだ。
 
 カジノに酒を求めたものの、辿り着く前に首輪が爆発し、生命は消える。
 目的を失った今――楽になるのも悪くはない。彼の瞳は既に死んでいるのだ。


 光を見続けた故に瞳が焼き切れ、闇のみが映る訳ではない。


 暗闇の中で光を追い続け、それでも光が消えてしまったが故に、闇の中に溺れてしまった。


 残り十秒といった所で彼の背中で眠っている女性の身体が、横に崩れそうになる。
 彼はすかさず体勢を立て直し――彼女の顔を見る形となった。


「イ――――――――ッ」


 決して交わることのない視線だが、この瞬間だけは瞳が吸い込まれていた。
 背負っている彼女は人形のように動かず、喋らず、息もしていない。
 それでも、視線を合わせれば生きていたあの頃を思い出す。そして彼は我に帰ることとなった。

 禁止エリアから脱するべく小走りとなり、領域から離脱に成功。首輪が爆発する気配はない。
 気付けば身体には汗の感覚が纏わり付いている。彼は気付いていなかったが、相当の量を流していたようだ。
 無気力に襲われていようと死に対する意識や警戒が消える訳ではない。
 頭の回転が鈍くなろうと、染み付いた戦場の記憶は簡単に色褪せることはないのだ。

 感覚や意識が蘇る。腹部等から走る痛みと心にある空洞。
 けれど、放送は記憶に残っている。

 十人の死者が出れば五人まで蘇生が許される。

 殺し合いを通した中で広川の声を聞くのは六時間毎に発生する僅かな時でしかない。
 それだけの時間でしか彼の存在を認識することは不可能であり、黒の死神は彼を掴み切れていない。

 真意が全く見えてこないのだ。
 殺し合いを円滑に進めるためのパフォーマンスが五人蘇生と仮定しても、それは真だろうか。
 彼が蘇生技術を持っているかさえ怪しい。信じた所で必ず見返りがあるとは断定不可能である。


232 : 名無しさん :2016/05/31(火) 23:34:10 iv5qMTXk0

 五人を蘇生させる。何のために、誰の思惑が交錯し、どの存在が得をするのか。
 広川の発言も、最初と比べれば大きくかけ離れている。
 殺し合いの宣言を行った男が簡単に、それも蘇生などと言う曖昧な餌で参加者を釣るだろうか。

 合理的に考えたとして、やはり殺し合いを円滑に進ませるためだろうか。
 しかし現在も多くの死者が出ている中で、進行速度を気にする必要は感じられない。
 発言の不具合さはまるで、操られているかのような、自己の無い人形で、未だに目的が見えてこない。

 少なくとも始まりの場において上条当麻なる少年を殺した男の発言とは思えない。

「――学院」

 カジノは禁止エリアで立ち入ることは出来ない。
 背負う彼女――銀を埋葬するにしても、誘爆の可能性がある此処ら一帯は心情的にも避けたいのが本音である。
 北の方角では戦闘があったのか継続しているのか。何にせよ轟音が響き、雷光のような灯りが何度も視界に映る。
 故に安全な場所はカジノから南下するしかない。学院に寄るのはその後になる。

 最も彼が学院に寄るかどうかはその時次第であろう。

 カジノが禁止エリアだろうと銀を埋葬し、酒を欲していることに変わりはない。

 背負う彼女からは温もりを全く感じない。
 それは人形のように、生命の息吹が完全に抜けていた。

 黒の死神はただ一人、空となった心を以って再び歩み始めた。


【G-5/二日目/深夜】


【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)、腹部に刺し傷(処置済み)、戸塚とイリヤと銀に対して罪悪感(超極大)、銀を喪ったショック(超極大)、飲酒欲求(超極大)
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、首輪×1(美遊・エーデルフェルト)、傷の付いた仮面@ DARKER THAN BLACK 流星の双子
[道具]:基本支給品、ディパック×1、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation 、銀の遺体
[思考]
基本:……酒。
0:銀を埋葬する。
1:カジノで酒を探す。
2:酒を飲む。
3:学院へ向かうかとうかは――。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。
※黒がジュネスへ訪れたのは、エンヴィーが去ってから魏志軍が戻ってくるまでの間です。
※足立の捏造も入っていますが、情報交換はしています。


233 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/05/31(火) 23:34:47 iv5qMTXk0
投下を終了します


234 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/06/01(水) 00:58:52 1DjonCA20
カジノの入り口をH-6と認識していましたがH-7でした。
明日少し修正したものをしたらばの方に投下します


235 : 名無しさん :2016/06/01(水) 01:32:58 MO3oKetE0
投下乙です
黒さんに再起の時は訪れるのだろうか…


236 : 名無しさん :2016/06/01(水) 19:00:10 h64LAHa20
御坂が死にゆく黒子に優しい嘘をついた描写がすごく印象的
修羅の道を歩むことに変わりはないんだけど、それでも自分に最後まで手を伸ばし続けた黒子を「お姉様」として安らかに眠らせてあげたいっていう気持ちが感じられた

そしてもう、こうなっては誰にも御坂は救えないんだね
黒子を殺したと知ったエドは、どう思い行動するのか気になるところ

大作お疲れ様でした


237 : 名無しさん :2016/06/02(木) 23:00:17 kaMGJrBg0
投下乙です
黒さんはまあ、こうなっちゃうよね
アンバーの存命がどう影響するか気になる


238 : ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:44:18 gqyOT86U0
本投下します


239 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:45:37 gqyOT86U0
『どうだ?』
「駄目だ。ここにも見つからない」

コンサートホールも探索し終えた一行は、病院へと訪れていた。
しかし、何者か―――タスクの情報では、エドワード・エルリックという少年と佐倉杏子という少女―――が使用していた痕跡はあるものの、それだけだ。
特殊な機器など姿形もない。

『少し休憩しよう。みんな、だいぶ疲れも溜まっているだろう』
「なに言ってるんだよ。一刻も早くロックを見つけ出さないと」
『だが、この疲弊しきった状態で敵に見つかればどうなる?最悪全滅は免れないぞ』
「でも、こうしてる間にもヒルダやマスタングさん達は...!」
『落ち着け。闇雲に探しても見つかるわけじゃない。それに、一旦情報の整理もしたい』
「...クソッ」

タスクは、歯を噛みしめ、渋々と言った様子でミギーの指示に従う。
別にミギーに怒っているわけではない。
だが、アンジュや狡噛の件を未だ引きずり、必要以上に責任を感じている所為で半ばヤケクソ状態になっているのだ。

「......」

その様子を見兼ねたアカメは、突如タスクの服の裾をまくり上げ、服を脱がしにかかる。

「ちょっ」
「雪乃、新一、タスクを押さえてくれ」

アカメの突然の行動に疑問の色を示しながらも、二人はタスクを取り押さえる。

「なに?なんなのこの展開!?」

そして、あっという間にパンツ一丁のあられもない姿になってしまうタスク。

「や、やめてくれ!」

どうにかして雪乃と新一を振り払い、まるで乙女のように両手で胸板を隠す。

「お、俺はアンジュの騎士だ!初めて...はもう捧げたけど、じゃなくて!」


240 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:46:44 gqyOT86U0
顔を赤らめてまくし立てるタスクに、アカメは思わず疑問符を浮かべて小首を傾げる。

「その、俺の身体はアンジュ専用というか、戦いが終わるまでエロスはご法度というか、えっと、えっと...!」
「...お前、そんなこと考えてたんだな」
「違う、誤解だ!」

新一の冷ややかな視線に対して、あたふたと弁明するタスク。
そんな中、まじまじとタスクの身体を見つめていたアカメは。

「よかった」

タスクが思わず見惚れてしまうほど、無垢に微笑んでいた。

「だいぶ気を張っているように見えたから、大けがを隠しているんじゃないかと思ってた。ダメージはないようでなによりだ」
「あっ...」

ようやく、アカメの行動の真意に気が付いたタスクは、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
自分の態度が、言動が、どれだけ周囲を心配させていたか、自覚したのだ。

「...ごめん。俺、焦ってたみたいだ。心配してくれてありがとう」

顔を綻ばせたタスクに、アカメも微笑みと共に頷き返す。

「新一、お前も脱いでみろ」
「俺も?」
「お前は私の手当はしてくれたが、お前自身は応急処置しかしていなかったからな」

第三回目の放送が流れる前は、新一がアカメの治療を終えたところで放送が響き、方針を定めたところで流れるように狡噛と槙島の戦いに遭遇してしまった。
コンサートホールでも腹部の応急手当はしたが、万が一のこともある。
そのためにアカメは身体の確認を申し出たのだが...

「その...俺はいいよ」

新一は、目線を逸らしつつやんわりとそれを断る。

「やはり、なにか隠しているのか?」
「そういう訳じゃ...」
『見て貰え、シンイチ』
「ミギー?」
『アカメやタスクはもっと苛酷な世界で生きてきたんだ。今さらきみの傷を見たくらいでどうも思わないだろう』


241 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:47:54 gqyOT86U0

普段なら警戒するか口出しをしないであろうミギーを、新一は意外に思う。
アカメたちを信頼しているのか、それともこんな状況とはいえ、気兼ねなく人間と接することができるこの時間を彼なりに楽しんでいるのか。
ただ、ミギーの言う事は尤もである。
今さら隠すことでもないだろう。
新一は服を脱ぎ、身体をアカメに看てもらうことにした。

「...凄い傷ね」

思わず雪乃が呟いてしまったのは、彼の胸に走る大きな傷。
まるで、巨大な刃にでも刺されたかのような傷だ。
このような怪我とは縁のない彼女が驚くのも無理はないだろう。

「だが、随分前のもののようだ。それに、綺麗に縫い合わせて...いや、繋ぎ合わせられている。帝具でも使ったのか?」
『私がやったんだ。刺された心臓を修復するために、シンイチの身体と同化してな。シンイチが常人よりも優れた身体能力を発揮できるのはそのためだ』
「すごいな、ミギー。そんなこともできるのか」
『だが、リスクはある。私の一部を身体に同化させているのだから、あまりシンイチの身体に同化しすぎると私の自我が消えてしまうんだ。
後藤が解りやすい例だ。身体を自在に変化させることが出来た奴だが、いまは身体能力が向上した代わりに手足が変形できなくなっていただろう』
「自らの命と引き換えに...って奴か。そうそう都合よくはいかないな」
「えっと、そろそろ服着ていいかな」

ミギーの解説に夢中だったアカメとタスクが、新一の言葉で本来の目的を思い出す。
新一も新一で、女子の前でいつまでも上半身裸でいるのはどこか気恥ずかしさも感じてしまっていた。

「すまない、早速治療をしよう。雪乃、お前も服を脱いで準備をしておいてくれ」
「ここで脱ぐのはちょっと...」

タスクから徐々に距離をとりつつ、自分の身体を抱える防御態勢に入る雪乃。
その目は、新一と同種の、いやそれ以上にどこか冷ややかなものを含んでいた。
その意味を察したタスクは慌てて弁明しようとするが

「だからさっき言ってたのは誤解だっ...わあっ!」

数歩歩み寄ったところで、僅かに凹んでいた床に足を引っかけてしまい、前のめりに倒れるタスク。
その際に雪乃も巻き込み、タスクの視界は暗転し―――

「もがっ...!」
「ッ...!」

雪乃の股間に、顔を突っ込んだ。

「ご、ゴメン!わざとじゃないんだ!」

慌てて雪乃の股間から離れるタスクだが、当然彼女の蔑みの視線を避けることはできない。
誤解を解かなければならない。そのために、タスクは誠心誠意思いのたけをぶちまけた。

「本当に下心はないんだ!そもそも俺はアンジュ以外は愛したくないし、きみの慎ましすぎる胸とか股間とかはあまり好きじゃな」


242 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:48:28 gqyOT86U0


病院の一室の長方形型のテーブル。

そこで、簡素的な治療を終えた一同は、おにぎりや乾パンといった簡素な食事を取りつつこれからの方針を話し合っていた。

「どうする?予定通りに北方司令部に向かうか?」
『...いや、止めておこう。ヒースクリフの推測が正しいなら、中央に近い北方司令部にはなにもないかもしれない。
焦るなとは言ったが、時間は有限だ。可能性のある方から調べた方がいいかもしれない』
「なら、次の目的地は時計塔か?」
『四方、という割りにはあまり釈然としないがな』

ミギーの言葉に、アカメ、新一、右頬を赤く染めたタスクが同意する。
現状、目ぼしい施設は時計塔か北方司令部くらいしかないのだ。
ならば時計塔を探し、なければ南下する他あるまい。
そう、結論を出しかけていた。

(...なにか引っかかるわね)

彼女、雪ノ下雪乃を除いては。

(確かに目ぼしい施設は時計塔くらいしかないけれど...本当にそれでいいのかしら)

もう一度地図全体を眺めると、彼女の中で違和感の塊が燻りはじめる。

(どこかおかしいのよ。この地図...というよりは、一部ね)

雪乃の目に留まったのは、A-1。
北西端のなにもないエリアである。

(どうして、こんな形をしているのかしら)

他の四隅のエリアには、それぞれなにがしかの施設があり、道路も通っている。
つまり通行自体に不便はなく、それ故に多少の地形の歪みを作ってもおかしくはない。
だが、このA-1は違う。
森を突っ切るか回り込まなければ辿りつけないうえに、なんの施設も記されていない。
そんなエリアの一部だけが、なぜ『一施設の分』だけ飛び出しているのだろうか。


243 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:49:49 gqyOT86U0

新たに湧き出てきた疑問に、雪乃は既視感を覚える。
周囲に比べて、明らかに浮いているのに、誰もなにも気づかない。
なぜか。
そもそも、解除されていたロックはどこにあったのか。
ヒースクリフやここにいる者たちの考察では、音乃木坂学院だろうと考えていた。
実際、地獄門のロックについて知っているのはヒースクリフと黒だけであり、どこかに留まりでもしない限りはロックを解除するなどという発想は思いつかない。
だから、解除されたロックは音乃木阪学院にあると疑わず、目ぼしい施設を探すことにしか目が向いていなかった。
だが、一度気が付いてしまえばそれまでだ。
存在感が他の施設よりも遙かに増し、嫌でも目に留まってしまう。
この既視感は―――


―――ならばどうする!勝つしかあるまい!目覚めるときは今なのだ!立てよ県民!

(...誰だったかしら)

違う。近い気がするけどこれじゃない。

―――た、たとえ義輝死すとも勝利は死なず!我が人生に一片の悔いなし...

だから違う。これじゃなくて、そう、その後ろに...

「あっ」

雪乃の脳裏に、意味不明なことを喚き散らして悪目立ちする眼鏡をかけ肥えた青年―――の脇を悠々と通り過ぎる比企谷の姿がよぎる。
そうだ。確かあの時彼は―――


244 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:50:28 gqyOT86U0

「...ちょっと待って。もう少し考える時間が欲しいの」

『私はここが気になるわ』

雪乃は突如声をあげ、地図の一部を指し示す。
それと同時に、筆談で会話をするように皆に促す。
彼女が指示したのは、北西端。つまり、A-1エリアだった。


『...?なにもないじゃんか』
『ええ。なにもないわ。けれど、それが却って気になるのよ』

雪乃は、地図の四隅をなぞりながら新一たちに理由を説明する。

『見てわかる通り、地図の四隅にはそれぞれ地獄門、カジノ、発電所といった施設があるわ。...厳密に言えば発電所は違うかもしれないけれど
そして、それぞれの施設は曲がりなりにも道路が設けられていて、普通に足を運ぶ分には大した障害はないように思える』
『けれど、このA-1エリアには何もない。わざわざ森を抜けていかなければいけない場所に、なにも記されてないのよ』
『ただの偶然じゃないか?』
『そうかしら...もう一度見てみて』

雪乃はA-1の更に北西端の部分を指差す。

『妙じゃない?目だった施設もなく、通行も不便な誰も気にかけないような場所を、一施設ぶんだけ不自然に残しているなんて』
『...確かに不自然だ。けど、そのヒースクリフって人は、ロックはどこかの施設にあるかもしれないって言ってたんだろ?』
『いや。北西にもなにかあるかもしれないと言っていただけで、施設とは言っていないな』
『じゃあ、まさか』
『可能性は高いわね』

新一は思わず息を呑む。
ロックの一つが施設から見つかれば、残りの二つもまた施設のどこかにあるはずだと思い込む。
その逆もまた然り。
ロックの一つが施設以外の場所で見つかれば、おそらく残値二つも施設以外の場所で見つかるはずだと思い込む。
その心理誘導に、皆は見事に引っかかっていた。
もしも、雪乃の予想通りにA-1にロックの解除があるとしたら、彼女が気が付かなければおそらく解除にはかなり時間がかかっただろう。
だが気にかかることがある。


245 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:50:58 gqyOT86U0

『しかし、なんだって広川はこんな手がかりを遺したんだろうな』

もしも、A-1にロックを置くのが必須だったとして。
わざわざ一部だけを残して島を歪な形にしたり、道路をA-1だけひいていなかったりと、違和感を遺している。
まるで、気が付く者は気が付けるように取り計らったようだ。

『...もしかしたら、主催は三人以上いるのかもしれないな』

タスクの言葉に、新一は思わずぎょっとしてしまう。
広川一人ではここまで大がかりなことはできないため、何者かが糸を引いているだろうことは薄々勘付いていた。
だが、それが更にもう一人までいるとなると...

『大丈夫。広川についてはわからないけど、たぶん主催の中でも対立が起きてると思う。でなけりゃ、もっと痕跡を残さずにロックの場所を決めるだろう』

もしも、主催陣が一枚岩の固い結束で結ばれていれば、こんな意図的な痕跡を残すはずもない。
恐らく主催は、何らかの思惑で敵対若しくは分裂している。
片方がこちらの味方ではないにせよ、真の黒幕への敵対の意思があるならばそれだけでもマシに思う。
その事実は、幾らか一同を安堵させた。

「アヌビス、お前はなにか心当たりはないのか?」
『いやー、俺も気が付いたらデイバックの中に詰め込まれてたもんで』
「...そうか」

支給品であるアヌビスならば、もしかしたら主催の顔を少しでも見たかもしれないと淡い期待を抱いたアカメだが、当然それは崩されてしまう。
とはいえ、大して期待もしていなかったため、それはそれとして置いておく。

「...よし。とりあえず目指すのはそこでいいんだな」
『私もそれがいいと思う。闇雲に動き回るよりはそちらの方が可能性が高い...しかし、よく気が付いたな』
「他者を目立たせ、その陰で自分は甘い汁を吸おうとする。そういう卑屈な精神の人がやっていたことを思い出しただけよ」


こうして、四人は進路を変更。
ロックがあると思われるA-1へと進むことにした。

そして、病院をあとにしようと正面玄関から出た時だった。


246 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:51:30 gqyOT86U0


―――ゾ ワ リ



突如、四人の背筋が凍るような感覚に襲われる。

アカメ、タスク、新一の三人は反射的に戦闘態勢をとり、雪乃もまた周囲を何度も何度も見渡してその正体を探る。
四人が感じたのは、殺気。特に、雪乃以外は殺し合いに巻き込まれる以前の世界でも幾度もぶつけてこられたものだ。

だが、これはその中でも一際異常。
殺気を放つ本人が見当たらないというのに、全身の細胞から震えあがっているような危機感を抱かせている。

(な、なんだってんだよ、こいつはよぉ...!)

この中で唯一自由に動けないアヌビス神は、血の気がひくような思いを感じ取っていた。
底の見えない、純粋な殺意。
今まで感じたことのない、根源たる恐怖。

やがて、その殺意の持ち主は姿を現す。
決して速くはないその歩みを止めるものはいない。
アカメも、タスクも、新一も、雪乃も。
誰もが、威風堂々とした彼が目前にまで迫るまで、なんの抵抗もできなかった。―――いや、許されなかった。



「最初の相手はきみたちか」

老人の声と共に、カツンと軍靴の音が鳴り響いた。


アカメも雪乃も新一もタスクも、その存在から目を離すことができなかった。
身体の至るところに傷を負いながら、それでも尚衰えないその男。

キング・ブラッドレイ。
彼の登場に、先程までのどこか和やかな空気など瞬く間に吹きとばされてしまった。


247 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:52:45 gqyOT86U0



(エドワード・エルリックはいない、か)

ブラッドレイは、エスデスたちとの戦いの後、御坂美琴と戦うため、一度イェーガーズ本部へと立ち寄っていた。
しかし、御坂はおらずもぬけの殻。
ならば先にエドワードと決着を付けようと、再び北上を始めた。
イェーガーズ本部より北にあるのは市庁舎・コンサートホール・病院・時計塔・北方司令部。
彼なら傷ついた仲間をどこへ連れて行くか。
誰よりも関係者が傷つくのを嫌う男だ。
おそらく、病院で仲間の治療をするはずだ。
その考えのもと、ブラッドレイは病院まで一直線に北上することにした。
この時、ブラッドレイは不運にもエドワードが奈落を渡るために錬成した橋を見逃していたのだが、それを知る由はない。

そして、病院に辿りついた結果、エドワードこそはいなかったが、一度は敗北した者たちがいた。
結構だ。相手にとって、不足は無い。

「キング・ブラッドレイ...!」
「久しぶりだな、タスクくん―――どうかね、調子は」

タスクの背にどっと冷や汗が流れる。
マスタングやアカメ達の話から、彼は殺し合いに乗りつつあると聞いている上に、狡噛からは彼の本性は戦闘狂だという推測も聞いている。
そんな彼が、首輪に関してまだほとんど進んでいないと聞けばどうなるか―――想像に難くない。
だが、だからと言って適当な嘘で誤魔化せる相手だろうか。―――否。その時点でタスクに首輪解除の可能性はないと見なされ、事態は悪化するだけだ。
ならば、素直に話し、交渉するしかない。

「...まだ、首輪のサンプルを手に入れたばかりなんだ」
「そうか」

言うが早いか、ブラッドレイは二刀の剣を構える。

「ま、待ってくれ!いま、俺たちは脱出できる可能性を―――」
「タスクくん」

ヒースクリフ及び先程の雪乃の考察を交渉の種にしようとするタスクを遮り、ブラッドレイは言葉を紡ぐ。

「私は、ここに来てから多くの者と戦ってきた。美遊・エーデルフェルト、エンブリヲ、渋谷凛、御坂美琴、セリュー・ユビキタス、ウェイブ、ロイ・マスタング、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、エスデス、ヒースクリフ。そして...きみの後ろにいる三人だ」
「それに加えて、私が連れて帰るべき者...プライドとマスタングくんが死んだ時、気付いてしまったんだよ。なににも縛られず、ただ闘うことの心地よさ...楽しさに」
「きみのせいではない。ただ、一度それを味わってしまえば、もう戻れんのだ。...戻るつもりもないがね」

デスガンの剣の切っ先をタスクに向け、告げる。

「生きて帰りたくば、私と戦いたまえ。できなければ、君たちに待つのは"死"のみだ」

(くそっ...!)

タスクは思わず唇をかみしめる。

マスタングが死んだという思いがけない情報。
同行者である未央の安否も気がかりだ。

だが、それ以上に。

狡噛の予測は当たっており、ブラッドレイもまた一切退く気はない。
全ては遅いのだ。
最早、ブラッドレイとの共闘は不可能。
ならば、戦うしか―――殺すしかない。


248 : 寄り添い生きる(前編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:53:38 gqyOT86U0
「さて...私はご覧の有り様だが」

「討ち取って名をあげるのは誰だ?」

「未知なる技術者か」

「右手の異形か」

「口達者な女子(おなご)か」

「殺し屋か」

「それとも...全員でかかってくるか?」


キング・ブラッドレイの鋭い眼光が、四人を射抜く。


(なんだこれ...ぼろぼろのオッサン一人に勝てる気がしない...)

ごくり、と誰かの唾を呑む音が聞こえた気がした。
いまのブラッドレイはこの場の誰よりも満身創痍だ。
致命傷が無くとも、まともに動くのは困難な筈。
だというのに、その威圧感は増すばかりだ。

「...新一、タスク、雪乃。奴にのまれるな」

動けずにいる三人の前に、アカメは進み出る。
すれ違いざまに、新一は気が付いた。
アカメの手が...微かに震えていることに。
彼女も解っているのだ。キング・ブラッドレイとの圧倒的な実力差を。
だが、それでも彼女は真っ先に先頭へと立った。
そんな彼女の姿を見れば、三人の闘志も自然と駆り立てられるというものだ。


「キング・ブラッドレイ」

―――いいか、アカメ。生きて妹に会いたいなら、お前はもっと非情にならなくちゃいけねえ。

かつて、父と呼んでいた指導者の言葉を思い出す。

―――自分の中でスイッチを切り替えるんだ。...そうだな、なにか『言葉』がいい

それは、刷り込まれてからは常にやり続けていたことだ。

―――任務をこなす時、それを実際口に出すか、心の中で呟くか...どっちでもいいからやっておきな。おまじないみたいなもんだ

闘うために。生き残るために。弱い己を隠すために。
アカメは、アヌビス神を構え、言い放つ。


「お前が私たちの前に立ちはだかるのなら、"葬る"」


それは、全ての引き金だった。

新一が、雪乃が、タスクが覚悟を決めた。

アカメの震えがおさまった。

ブラッドレイは駆けだした。

そして。

アカメとブラッドレイの刀が重なり。



全ての終わりは始まった。


249 : 獣を斬る ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:55:05 gqyOT86U0



重い。
ブラッドレイの一太刀目を受け止めたアカメは思った。
以前に打ち合った時よりも、鋭く、重たい斬撃だった。
次いで、振るわれる斬撃。
それを受け止めるアカメ。
反撃になど移れるはずもない。
その一撃一撃が、アカメの耐えられる限界を超えているのだから。

このまま打ち合い続ければ、数分ともたないことは明白だ。

「アカメッ!」

だが、この場にはアカメの味方がいる。

数々の戦いを経て、信頼を築き上げてきた新一。

「おおおおっ!」

そして、執行官から牙を受け継いだタスク。
両者がブラッドレイの剣に割り込み、アカメへの負担を減らす。

(後藤と戦えたのはラッキーだったな...!)

新一とミギーは、単純な体術ではアカメやタスクには劣る。
だが、身体能力だけならば別だ。
ブラッドレイに後藤、両者のハイスピードな攻防にも、慣れることができれば多少は食らいつける。
また、アカメとの連携の経験を積むことができたのも大きい。
完璧なコンビネーションと言うにはまだ足りないかもしれないが、最初期に比べれば互いの行動を感覚で掴めるようになっていた。

そして、タスク。
彼は、先刻までアカメと共に戦っていたウェイブのような剣術を持ち合わせているわけではない。
しかし、その軽業師の如くトリッキーな動きはさしものブラッドレイも、他の二人を掻い潜った上で容易にとらえることはできない。
また、アカメとは一度共闘していることもあってか、難なく彼女との連携をこなしていた。



だが、それでも。

三対一のこの状況でも、決して優位にはなれない。
大きく見積もっても互角―――否、間違いなくアカメ達が圧されている。

幾分か打ち合った時だ。

「ぐっ!?」

新一の上体がぐらりと揺らぐ。
ブラッドレイの回し蹴りが、内腿を捉えていた。
続けざまに新一へと振るわれる剣を、アカメが割り込み防ぐ。
その隙をつき背後から斬りかかるタスクだが、ブラッドレイはそれをカゲミツで防ぐ。

膠着する一瞬。
ブラッドレイはそのまま力任せに剣を振るい、三人を弾き飛ばす。

タスクは雪乃の近くに着地し、アカメと新一もまたどうにか体勢を立て直す。


250 : 獣を斬る ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:55:36 gqyOT86U0

(な...なんなんだよ、このおっさん)

その身でブラッドレイの剣捌きを受けていたアヌビス神は思う。
今まで、数多くの強者と戦ってきた。
その度に彼は力を増し、逆に敵を屠ってきた。
唯一例外だったのは、DIOだけだった。
戦った者よりも強くなる。それすら及ばぬ圧倒的な力を持つ男。

ブラッドレイから感じていたのは、まさにそれだった。
否、正確には違う。
スタンドのような特殊な能力を用いず、ただただ純粋に圧倒的な力。
仮にアヌビスがアカメの身体を操り、本来の力を発揮しようとも、憶える前に殺されてしまう。
その嫌な像がこびりついて離れない。

そして、なによりDIOと違うのは。

(ちくしょう、なんだってこんなに恐ええと思っちまうんだよ...!)

DIOに屈した時、アヌビスは忠誠を誓った。圧倒的な力に対する恐怖もあったが、同時に、この人になら従ってもいいと思わせられるカリスマがあった。
だが、ブラッドレイは違う。
彼から感じるのは、ただただ恐怖のみ。
例えば、血に飢えたライオンを目の前にした時。そいつに媚びへつらっても生き延びたいと思う者はどれだけいるだろうか。
多くの者はこう思うはずだ。『叶うならば、このまま関わらずにどこかへ行ってくれ』と。
ブラッドレイは、まさにそれだ。
ヒトの形をしていながら、ヒトではない。
血に、戦いに飢えた一匹の獣。
カリスマなど欠片もない。まさに『恐怖』のみの塊だった。


(マズイな...)

ミギーは、冷静に現状を分析する。
ブラッドレイは確かに満身創痍だ。
だが、なにか吹っ切れたのかはわからないが、明らかに自分達では届かない領域へと達している。
且つ、気のせいでなければ状況が拮抗しそうになる度に剣のキレが増している。
このまままともに戦い続けても、勝算はゼロ。針の先ほどにも勝機は見えない。

(どうする...どうすれば奴を倒せる...!?)

考える暇さえ与えないつもりか、ブラッドレイは再びアカメと新一へ肉迫し、再び斬り合いが行われる。
ミギーの刃は一本。普段のように枝分かれさせていては、硬度が薄まり、ブラッドレイの剣に耐えることができないからだ。
だが、それでもまともに受け続ければその身は削れていく。
それを知っているアカメは、なるべく多くの攻撃を代わりに引き受ける。
その度にアカメの身には傷が増え続けるのは言うまでも無い。

(このままじゃ、足手まといになるだけだ!)

新一は、後退し一旦距離を空ける。
だが。そのタイミングを狙ってか。
ブラッドレイはアカメの腹部を蹴り飛ばし、新一へとぶつける。
咄嗟にアカメを受け止める新一だが、ブラッドレイの狙いに気が付いた時にはもう遅い。

「しまっ...!」

身動きのとれなくなった二人。
狙いを澄ましたブラッドレイの剣先が、二人を穿たんと光る。

咄嗟にアカメを庇うように新一は左腕で彼女を抱きしめ、ミギーには盾を張らせる。

だが、おそらく無駄だ。
あの剣は、このままアカメ諸共この命を奪うだろう。


251 : 獣を斬る ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:57:32 gqyOT86U0
―――パァン


銃声が鳴り響いたかと思えば、ブラッドレイが跳躍し、新一の視野外へと消える。
アカメと新一は地面に倒れるなり、すぐに体勢を立て直し、状況の確認を急ぐ。

「...今度は上手くいったようね」

見れば、雪乃の手に握り絞められたショットガンからは煙が出ており、ブラッドレイの足元へと銃口が向けられていた。

「雪ノ下、お前...!」
「私だって、護られるばかりじゃないのよ」
「雪ノ下雪乃、か」

ブラッドレイは剣を構えて雪乃を睨みつける。

「きみには感謝しておるよ。きみの言葉通りだ。私は中途半端だった。お蔭で私のやりたいことを見つけられた」
「礼を言うのなら、それに免じて逃がすべきじゃないかしら。礼儀知らずもここまでくると清々しいわね」
「好きなだけ言うがいい。...あの時は、きみを見誤った。だが、改めて認めよう。きみもまた私の倒すべき敵であると」
「そう。嬉しくない言葉ね」

雪乃が両手を引き金に添え、銃口を固定する。

―――さて。これから四k「悪いけれど、私もただでやられるつもりはないの」

流れ出す放送を聞く間もなく、雪乃はナイフを投擲する。

ナイフはブラッドレイ目掛けて真っ直ぐに飛んでいくが、しかし、先程までの四人の攻防の後では、最早止まって見える。
相手がキング・ブラッドレイでなくとも躱すのは容易だろう。
迫るナイフを難なく回避したブラッドレイは、次に来るであろう弾丸に備えつつ駆け出す。
アカメと新一を置き去りにし、あっという間に雪乃との距離を詰めてしまうブラッドレイ。
たまらずショットガンを放ってしまう雪乃だが、勿論ブラッドレイに当たることはない。
更に、拳銃の訓練すらない雪乃はその反動に耐え切れずのけ反り、再装填すら間に合わない。
それ故に―――雪乃に、ブラッドレイの剣を躱す術は無い。


「雪ノ下ァァァァ―――!!」

新一の悲痛な叫びが響き渡るのと同時。
雪乃の身体が綺麗に二分され、上半身とデイバックが宙を舞う。
雪ノ下雪乃はただの人間だ。
再生能力が無ければ、身体に寄生生物を宿しているわけでもない。
誰が見ても、雪乃は即死である。


252 : 獣を斬る ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:58:12 gqyOT86U0
「ッ!?」

ただし、それが雪乃であれば、だ。
切裂かれた雪乃の身体が丸太に変わる。

「うおおおおお!」

叫びと共に、舞っていたデイバックからタスクが飛び出す。

変わり身の術。
雪乃のデイバックに隠れていたタスクは、雪乃が切り裂かれる瞬間を狙い、変わり身を発動。
デイバックの中の丸太と雪乃を入れ替えたのだ。


カチリ、という音と共に、刃が発射され、ブラッドレイへと迫る。
だが、そのナイフの構造は一度見ている。
迫りくる刃をブラッドレイは叩き落とし。

「ぐっ!?」

マスタング制の刃が爆発する。
その予想外の衝撃に、ブラッドレイのデスガンの刺剣が宙を舞う。
威力自体は高くはないが、しかしその余波は容赦なく宙へと投げ出されていたタスクをも襲う。

「うああッ!」

雪乃の入ったデイバックを庇い、タスクは背中に余波を受け地面へと投げ出される。
倒れたタスク目掛けて、ブラッドレイはカゲミツG4を振り下ろそうとする。

それを止めるのは、駆けつけた新一。
気配を感じ取ったブラッドレイは、カゲミツを振るい迎え撃つ。

(一度だけなら...!)

以前にも、新一は一度だけは彼の斬撃を避けている。
その経験を活かし、迫る剣をギリギリのところで避け、懐に入り込む。
直後、頭部に走る、気が飛びかけるほどの衝撃。
ブラッドレイの肘鉄が入ったのだ。

(でかしたぞ、雪乃、タスク、新一!)

その隙を突かれ切り裂かれるのを、ミギーがブラッドレイの腕に絡みつくことで防ぐ。
この絡みついた瞬間だけは、完全なる隙となり、ブラッドレイは丸腰となる。
これで武器はなくなった。
こちらには、まだあと一手がある。


253 : 獣を斬る ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:58:56 gqyOT86U0

―――ではk「葬る」


新一に続き間合いに入るアカメが狙うのは、ブラッドレイの心臓部。
タスクと雪乃が、新一とミギーが身を挺して作ってくれた勝機。
決して逃すわけにはいかない。
全ての想いを乗せ、アカメはアヌビスを突き出した。


ゴキリ、と鈍い音がするのと同時、アヌビス神が宙へと舞う。
ブラッドレイの蹴りあげが、アカメからアヌビスを弾きあげたのだ。

カゲミツを一旦離して空いた両腕で、カゲミツごと新一を投げ飛ばし、アカメ諸共後方へと吹き飛ばされる。
そして、落ちてくるアヌビスを捉え、アカメたちへの距離を詰める。

様々な武器が立て続けに飛び交うこの攻防―――制したのは、キング・ブラッドレイ。

打つ手も無くなり、体勢を立て直すこともできないアカメたちに、最早どうすることもできない。



―――続いて脱落者の発表だ。...未だにここまで戦いの火種が燻っていたことには私自身驚いているよ


(万事休すか...!)

全ての終わりを告げる刃が振り上げられ。

『いまだァァァアアアア!!』
「!?」

謎の声が、ブラッドレイの頭を木霊する。
タスクでも、雪乃でも、アカメでも、新一でもない。
ならば、この声は!?

その答えを知るため、ブラッドレイの動きが一瞬だけ止まる。

針の穴を通すほどの。
しかし、最後の勝機を得たアカメは。

体勢をすぐに立て直し、先程雪乃が投擲したナイフを握り絞める。


―――DIO セリム・ブラッドレイ

(―――葬る)

これが最後のチャンス。そんなことも考えるな。



―――ロイ・マスタング 槙島聖護 狡噛慎也


(―――葬る)

余計な情報を耳に入れるな。いまは、ただ目の前の敵を斬るだけだ。



(―――葬る)

振り切れ。これで全てを終わらせろ!


―――タツミ

「―――葬る!」





ド ス リ


254 : 獣を斬る ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 10:59:35 gqyOT86U0



ぱたぱたと、地面に血が落ちる。

アカメの胴体から生えた刃は、血に濡れていた。

「アカメ...?」

誰が呟いたか。
デイバックから抜け出したばかりの雪乃か。
助太刀に間に合わなかったタスクか。
限りなく近くにいたのに、なにもできなかった新一か。
―――それとも、透過能力を使う間もなく、アカメを貫いてしまったアヌビス神か。

その誰もの信じられない、と言った顔を体現するかのように、呆気なく。ナイフを携えた右腕ごと、アカメの心臓は貫かれた。

元より分の悪い賭けであった。それでも、針の穴を通すかのような勝機は確かにあった。
だが、アカメは聞いてしまった。聞き逃すことなどできなかった。
仲間の、タツミの名を。
そして、僅かに生じた揺らぎは。

微かな勝機を零にしてしまった。


『ボサッとするな!』

ミギーの喝に、新一は慌てて我を取り戻す。
迫りくるブラッドレイに対して、慌てて水平に腕を振る。
ブラッドレイはそれを難なく躱すと、次いで迫るミギーの刃へと目を向ける。
刃の数は、5。
先程までは、ブラッドレイが剣を持っていたため、一つの刃に凝縮するしかなかった。
しかし、いまのブラッドレイは丸腰。アカメが最後の力でアヌビスを抱きかかえ、ブラッドレイから武器を奪ったからだ。
丸腰ならば、凝縮させる必要もなく、質よりも数で攻撃ができる。この攻撃が外れたとしても、奴が躱して時間が作れるならばそれでもいい。
一瞬でもいい。策を立てる時間がほしかった。
だが、ブラッドレイは。

『ッ!』

ミギーの刃が肩に突き刺さるのも厭わず、新一の胴体へと殴打を浴びせる。
肺から空気を絞り出されるような苦しさにも耐え、手にしたカゲミツだけは握り絞める。

(あいつに武器を持たせちゃダメだ!せめて、これだけでも)

ブラッドレイはそれを許さない。
跳躍からの踵落としの追撃は、容赦なく新一の肩へと襲い掛かり、ゴキリという音と共に、肩の関節が外れる。
力を失った左手からカゲミツは離れ、ブラッドレイの手元に渡り。
そして。

ザンッ。

咄嗟に新一を庇おうとしたミギーごと、新一の肩口から袈裟懸けにカゲミツは振り下ろされた。

―――以上14名だ。

広川が死者を告げ終るのと同時に、力を失くした新一の身体が、どさりと倒れ込んだ。


255 : 獣を斬る ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:00:15 gqyOT86U0


「―――――――!!!」

一瞬の出来事だった。
アカメが刺され、流れるように新一とミギーが斬り捨てられ。
ブラッドレイは、瞬く間に三つの命を断ってしまった。

「ブラッドレイィィィ――――!!!」

タスクは叫ぶ。

彼を突き動かすのは、怒り。そして、今度こそ守ると決めた者たちを奪われた憎しみ。
未来も、勝機も考えない、純粋な殺意のみ。
最早、広川の放送など耳に届きはしない。

(殺す。殺してやる!)

因縁の宿敵・エンブリヲに対するものと同等か、それ以上の怒りを持って、タスクはデスガンの刺剣で斬りかかる。
それを迎え撃つキング・ブラッドレイ。

この戦いの決着に、時間はさほどかからないだろう。


256 : 獣を斬る ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:02:48 gqyOT86U0



苛む激痛の中、新一は必死に意識を保っていた。
いま意識を失えば、死ぬ。
それがわかっているからこそ、こうして地獄のような痛みと戦っている。

視界の端で、右腕ごと切断されたミギーがもぞもぞと蠢く。

『シンイチ、待っていろ。前のように私が傷を塞ぐ』

できるのか、と新一は目で問いかける。

『一か八かだ。...可能性はかなり低い』

自然と、ミギーの声のトーンが下がったような気がした。
当然だろう。
失敗すれば、ミギーの命も潰えるのだから。

(だけど...ミギーに傷を塞いでもらって、どうする?)

視界の端に映るのは、一人奮闘するタスク。
ショットガンを構えつつも、割り込む隙など見当たらず、立ち尽くす雪乃。
胸を貫かれ、倒れ伏すアカメ。
現状、新一の傷が塞がったところで、どうしようもない。

(でも、俺は...)

例え可能性は低くとも、それでも助かる道があるのなら。
生きたい。諦めたくない。
どんなに不様な姿を晒しても、死にたくない。
新一の胸中はその想いで一杯だ。

かつて後藤に心底恐怖した時。
あの時も、ミギーが眠ってしまった途端、どこから後藤が現れるか分からない恐怖にかられ、パニックに陥りみっともないくらいに逃げ回っていた。
いくら周囲の人間からは優しいと言われていても、死に瀕してまで追い詰められれば本性が出てしまう。
結局のところ、泉新一という人間もまた自分の為に生きているのだ。


(―――ごめん)

その言葉は、誰に向けてのものだったのか。

「ミギー」

新一は、ひどく掠れた声で呼びかけた。


257 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:03:40 gqyOT86U0


ひゅうひゅうと、かぜを切るような音がする。
タスクの掠れた呼吸だ。
全身をなます切りにされ、とめどなく血を流している。
その手のデスガンの刺剣は、更に切っ先を短くされている。
だが、それでも。
執行官から受け継いだ牙は、仲間を護るための殺意の牙は、未だ折れていない。

ブラッドレイは剣を構え、改めてタスクと向き合う。

実力差があろうとも、決して退かず喰らいつく執念。
絶望的な状況に陥ろうとも、諦めなどとは程遠いその眼光。
見事なり。
改めて認めよう。
きみを、強敵だと。
だからこそ。
全力を持って、きみを殺そう。

ブラッドレイが駆ける。
タスクを屠るために振るわれるカゲミツを受け止めたデスガンの刺剣は、しかしタスクごと弾かれ、その衝撃により落としてしまう。
もはやなすすべもない。
タスクには、ブラッドレイの追撃を躱す力はなく、ブラッドレイもまた、彼を見逃すつもりはない。

(ここまでか...)

振るわれるカゲミツG4。その脇で、タスクの右腕は自然と動いていた。
無意識の内に、ポケットにある物を握りしめていた右手は、盾のようにかざされた。
だが、それも先程の新一のように、諸共斬り捨てられる

「!?」

はずだった。
カゲミツの刃が、タスクの手に触れる寸前に消えたのだ。

タスクが右手にかざしていたのは、首輪。
首輪に備えられている異能の弱体化機能が、カゲミツを異能だと判断し、消し去ったのだ。
無論、タスクはまだ首輪のその機能について知っていたわけではない。
ただ、気が付けば首輪をかざしていたのだ。

――――食らいつけ。

彼の声が聞こえる。
首を落とした時と、同じ声が。


――――お前の執念で、奴らの喉笛を引き裂いてやれ。

例え幻聴でも。
その言葉が、限界を迎えつつあるタスクの身体に力を与える。

「うおおおおおお!!」

吼える。
ただ、己を鼓舞するためだけに。

狡噛の首輪ごと握りしめた拳が、ブラッドレイの左ほほを―――

「―――見事」

捉えることはなかった。


258 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:04:42 gqyOT86U0
その言葉と同時に、タスクの身体は宙を舞い、遙か遠くに投げ捨てられた。
全ての力を使い果たしたタスクに、受け身をとる余裕などあるはずもなく、木にぶつかると同時に意識は途絶えてしまう。

執行官の託した牙がブラッドレイに届くことは―――なかった。

「さて。残るはきみだけだが」

倒れたタスクを庇うように立つ雪乃を睨みつける。
その鋭い眼光に脚が震えるが、しかし無理矢理奮い立たせるようにショットガンを構え、睨み返す。

なにもできなかった。
ただ、アカメが、新一が、タスクが傷つき倒れていくのを見ていることしかできなかった。
自分は無力だ。どうしようもないほどに弱者だ。
だが、それでも一矢報いるくらいはやってやる。
弱者には弱者の意地があるのだ。


「そういえば、由比ヶ浜くんもそうやってそれを構えていたな」

ふと呟かれたブラッドレイの言葉。
それは、雪乃の友、由比ヶ浜結衣がこの銃を使っていたという事実だった。
もしかして、比企谷の時と違い、今まで狙いを外していないのは彼女が見守ってくれているお蔭か―――
非科学的だと思いつつも、何故だかそれを否定する気にはなれなかった。
むしろ、震えていた身体が収まった気すらする。

「そう。わざわざ教えてくれるなんて随分余裕があるのね。ナメてるのかしら」
「...フフッ。言いよるわ」

薄く笑みを零しつつ、ブラッドレイは走りだし、雪乃は引き金を握り絞める。

(まだ...まだ、ダメ...!)

このまま撃ったところで、ただ躱されるだけなのは既に証明済だ。
狙うのは、躱す暇のないゼロ距離射撃。
それしかない。

そして、その時はすぐに来た。

(いまだ!)

目の前にまでブラッドレイが迫ったその時、引き金にかける指に力を込め。

スッ。

微かに空気が揺れたかと思えば、ショットガンの銃身が綺麗に裂け、雪乃の胸元から血が滲み出る。
彼女の傷は大したことはない。薄皮が一枚斬られた程度だ。
だが、もうどうすることもできない。


259 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:05:50 gqyOT86U0

「なにか残す言葉はあるかね」

ブラッドレイの剣先が、雪乃の心臓部へと向けられる。
仲間も武器も、全て奪われてしまった。
言葉を発した数秒後、雪ノ下雪乃は死ぬ。
それは覆しようのない未来だ。



「...お笑いね、キング・ブラッドレイ」

それでも、雪ノ下雪乃の辞書に屈服という文字はない。

「そうやって大物ぶったところでみっともないだけ。考え無しに戦うことを選んだ時点であなたの敗北は決まってるのよ」

転んでもただでは起きない。やられてなくてもやり返す。それが彼女のやり方だ。

「知らないのかしら。古今東西、怪物とされる者は決まって人間に淘汰されるのが運命なのよ。いえ、あなたを怪物と定義するのは怪物に失礼ね」

正々堂々、真正面から、尊大に、直球に。

「楽しみに待ってるわ、あなたが敗れ去るその姿を見るのをね。その時が来るのを、精々怯えて待っていることね、猛禽類さん」

ここで命が尽きるというのなら、最後まで彼女らしくあるだけだ。


―――あんたたちなんかに、絶対に負けないから。

ふと、渋谷凛の言葉を思いだす。
怯えるだけの存在だった彼女が、最期に放った煌めきを。

雪乃の言葉を待ったのも、油断からくるものなどではない。
雪乃もまた強敵だと認めているからこそ、最期の言葉を聞いておきたかったのだ。


(まったく、人間というやつは...)

いつまでも成長しない哀れな生き物かと思えば、彼女のように僅かな時間で恐怖を乗り越え成長してみせる者もいる。
いや、彼女だけではない。
エドワード・エルリックやロイ・マスタング。アカメや新一、タスク。そして雪乃。この会場で出会った多くの者がそうだ。
ちっぽけな存在でも、ホムンクルスを脅かしうる強さを持っている。
だからこそ

(思い通りにならなくて腹が立つ)

嫌いにはなれない。








「まだ終わっちゃいねえんだよ!!!」


260 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:07:20 gqyOT86U0


―――時は僅かに遡る。


『オイ、しっかりしろ!』

倒れ伏すアカメにアヌビスは呼びかける。
アカメが死ねば、アヌビスはこのまま放置されてしまう。
せっかくコンサートホールから脱出できたというのにこの結末は勘弁したい。

(だからってあのおっさんに使われるのも嫌だしよぉ...)

キング・ブラッドレイは怪物である。
そんな彼とこの殺し合いに臨めば、その先に待つのは破滅だけ。
そもそも、彼がアヌビスを持ち去ってくれる可能性も高くは無い。

アヌビスが望む最高の形は、アカメが目を覚まし、この場から無事に逃げおおせることだ。

『チックショウ、このままじゃあ...!』
『アヌビス』

かけられた声に、意識を向ける。
声の主は、いつの間にかアヌビスに触れていたミギーだった。

『生き残りたいのなら、落ち着いて私のいう事を聞け』
『な、なんだよ。何か策があるのか?』
『まずはお前の透過能力でアカメの身体から出てくれ』
『待てよ、そんなことしたら』
『いいから』

アヌビスがこのままアカメの身体から抜ければ、多量出血でたちまちに死に至る。
それがわからないミギーではない。
だが、そのミギーがそうしろというのなら、なにか考えがあるはずだ。
この場はミギーの言葉を信じ、アヌビスは透過能力を発動。
ミギーが袈裟掛けにアヌビスを動かすと、アカメの身体にこれ以上の傷が増えることなくアヌビスが抜けた。

『おい、どうすんだよこの後は!?』
『アカメの心臓へと移動し、傷を塞ぐ。そのためにはきみが邪魔だった』
『な、なんだ。そういうことか』

ミギーの言葉に、ホッとするアヌビス。
どうやるかはわからないが、ミギーはアカメを治療してくれるらしい。
あとはタスクたちが時間を稼いでいる間に、アカメをどうにか起こし説得してこの場から退散するだけだ。
いや、なんならミギーの宿主である新一でもいい。
とにかくいまは―――

(あれっ)

アヌビスが新一の方へと意識を向けるが、彼の傷はそのままで倒れ伏している。ピクリとも動かない。
彼はミギーの宿主だ。
何故ミギーはこちらに来ている。

『お前、新一は―――』
『アヌビス』

その答えをアヌビスが知る前に。

『後は頼んだぞ』

ミギーは、アカメの手にアヌビスを握らせ、彼女の傷口へと入っていった。


261 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:09:20 gqyOT86U0



ミギーの背中が遠ざかっていく。


(これで、いいんだよな)

傷が酷いのは、アカメよりも俺。
俺たちの中で一番戦えるのは、アカメ。
だったら、どちらが生き残るべきかは考えるまでもない。

(...ミギー)

ミギー。
あいつは、自分の自我が無くなってしまうリスクを捨ててでも、俺を助けようとしてくれた。
「俺はいい、アカメを頼む」って言ったら、珍しく動揺したみたいに「馬鹿を言うな」って叱ってくれた。
でも、ミギーもわかっていたはずだ。
俺よりもアカメを治した方がみんなの生存率があがるって。
それでも助けようとしてくれたのは嬉しかった。
けど、俺は言った。掠れた、けれどあいつに届くくらいの声で言った。
このままだと全員共倒れになるから。話す時間も惜しいから。
「なにやってんだ、このまぬけ!はやくいけ!」...って。

それから少しの間だけ見つめ合って、ミギーはアカメのもとへ向かうために背を向けた。

遠ざかっていく背中を見つめていると、どこか救われたような、寂しくなるような、申し訳なくなるような。
そんな奇妙な気持ちになった。
...比企谷や巴たちも、こんな気持ちだったのかな。

そして。

ミギーがアカメの身体へ入っていくのを見届けると、走馬灯のように、色々な思い出が瞬く間に流れていく。

母さんが、俺のドジで落ちてきた鉄鍋から庇ってくれたこと。
それを呆然と見ていた俺を父さんが静かに叱ってくれたこと。
俺が恋した村野里美のこと。
学校の友達のこと。
俺と同じ境遇になった宇田さんと出会ったこと。


死んだはずの田村怜子が、俺たちの味方として生き返っていたこと。
アカメや雪乃、タスク達と出会えたこと。

不思議と、俺にとって辛いことはほとんど出てこなかった。

それから。
加奈の、比企谷の、巴の、園田の、サリアの、狡噛の、槙島の最期の姿がよぎると。
ああ、俺ももうすぐそうなるんだなとぼんやりと思った。

そして。
最後に頭をよぎるのは、俺の友達で、本当のヒーローのことだった。

(さようならミギー、これでお別れだ)

ミギー。
お前に出会えてよかったよ。

おかげで友達として...いろいろな楽しい...思い出を...

......



意識が薄れてきた...

妙に眠い...

それなのに孤独感だけがくっきりと大きく...


そうか...



これが...死か...


262 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:10:29 gqyOT86U0




もう二度とやることはないと思っていた。
何故ならこれは私の意思が無くなる、即ち私という個が消滅してしまうリスクの高い行為だからだ。
だが、それでも私はシンイチを、この場の誰かを治せるのならそれでも構わないと思っていた。
これが自己犠牲というやつなのだろう。
...以前はとんと理解できなかったが、いまならなんとなく理解できる。
すべての終わりが告げられても、「ああ、そうか」と思うだけだ。

今まで、生きるためにはどんな手段でも考えたが、不思議と私はこの最期に不満はない。


『なにやってんだ、このまぬけ!はやくいけ!』


それでも。
シンイチ、そうするしかなかったとしても、正しい答えだったとしても。
きみに拒否されたことだけは辛かったぞ。

もし逆の立場だった時、きみもそうだったら...少し嬉しいな。

......

...意識が朦朧としてきた。
傷は塞げたが...それだけだ。
とても...彼女の意識が戻るまでに...完治は...

あとは...彼女に...賭けるしか...

......


263 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:11:56 gqyOT86U0







―――改めて約束する。俺は死なねえから!!お前を悲しませたりしねぇから!!

声が聞こえる。

いつかの約束の声が。

「ごめんな...約束、護れなかった」



振り返ると、そこは真っ白の景色だった。

そこには、色んな人たちがいた。

帝都の見習い時代での仲間たち。

シェーレやブラート、ナイトレイドの仲間たち。

私の最愛の妹、クロメ。

そして―――タツミ。

私の大好きな人たちは、私へと微笑みかけながら、迷わずまっすぐに進んでいた。
なぁんだ、こんなに近くにいたんだ。
私は、彼らに触れようと手を伸ばして。


『...アカメ』

また声が聞こえた。
今度はタツミじゃない。
誰だろう。

わからない。
だけど、いかなくちゃいけない。
でも、みんなとも一緒にいたい。
そんな想いの板挟みになった私は。

「まだこっちにはくるなよ、アカメ」

タツミのその言葉で、全てを思い出す。
そうだ。私は、まだ彼らと会うわけにはいかない。
大好きなみんなに背を向け、血なまぐさい道へと突き進む。

だって

「おまえは」

私は


一人じゃ、ないから。



ひたすらに道を進んでいると、掌に収まりそうなほど小さな光がふわふわと舞い降りてきた。
私は、それをそっと掌で受け止め―――


『後は頼んだぞ、アカメ』


264 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:13:23 gqyOT86U0



『気が付いたか!』

アヌビス神のやかましい声が、アカメのみに響き渡る。
意識を取り戻したアカメは真っ先に行ったのは、状況の確認。

血だまりに沈む新一。
ショットガンを構えつつ、援護のタイミングを見測る雪乃。
そして、いまもなお、一人で奮闘するタスク。

ならば、為すべきことはただ一つ。

アヌビスを地面に突き立て、杖代わりに立ち上がろうと力を込める。

『た、戦うつもりかよ』
「当然だ。そのために、私は...」
『無茶だ!まだ傷が塞がっただけだ、治ったわけじゃねえ!』

アヌビスの言葉に、アカメは貫かれたはずの胸に触れてみる。
まだ痛みは残っているが、傷は確かに塞がっていた。
なぜ?誰が?
この状況で動ける者は誰もいない。―――『彼』を除いて。
その『彼』は、どこにもいない。

(まさか―――)

どうやって傷を塞いだか、なんてことは知らない。
わかることは一つ。
『彼』は、その身を賭してアカメの命を救ったのだ。

『あ、あいつらには悪いけどよ、いまはチャンスだ。タスク達に気をとられている内に、どうにかして逃げ...』
「アヌビス」

言葉にして確認する。
アカメを救ってくれた友を。その喪失を。

「私を救ってくれたのは、新一とミギーなんだな」
『あ、ああ...』

死んだ。
護ると決めた心優しい少年たちは、自分のために命を落とした。

辛い。苦しい。逃げたい。泣きたい。
何度経験しても慣れないこの現実から目を背けられればどれほど楽だろうか。


265 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:14:13 gqyOT86U0

「だったら、尚更退くわけにはいかない」

だが、それでも。
アカメの剣は護るためにある。
そのために己の手を汚す。
友が命を繋いでくれたなら、その命をもって友を救う。
タスクと雪乃が命を賭けて時間を稼いでくれたから、ミギーがアカメを治療する時間が作れた。
新一とミギーが生かしてくれたから、こうしてアカメは息を吹き返している。
皆が与えてくれた命は、決して無駄にはしない。
だからこそ、退くわけにはいかない。


(なんだってんだよ...)

アヌビスは思う。
どうしてこいつらはこうも諦めずにいられるのか。
どうしてここまでして他者のために戦えるのか。

わかっていることはひとつ。

(情けねえじゃねえかよ、ちくしょう...!)

このままでは、アヌビスはただの負け犬だということだけだ。


ブラッドレイと戦って、自分はなにができた。一度声を挙げただけだ。
その圧倒的な力に屈服するどころか、目を逸らして逃げたいとまでビビリあがった。
幾多の猛者に、肥大する力の恐怖を植え付けてきたこのアヌビス神がだ。
いざ敵わない敵に出会えば、己の与えてきた力に身を晒されれば、こうまでちっぽけなものになってしまうのか。

負け犬の称号すら惜しい。
いまここにいるのは喋るだけのガラクタだ。
この場の誰よりも劣る鉄クズだ。

そんな事実―――認めてなるものか。

俺を誰だと思っている。
五百年の時を生きてきたアヌビス神様だ!
その俺がDIO様ほどの力も持たない青臭いガキ共以下だと!?
そんなこと、絶対に、絶対に、ぜっ〜〜〜〜〜〜対に!許さなああああぁぁぁいィ!


『...俺に身体を渡せ』
「アヌビス?」
『てめえが闘るっつったんだからな!内臓飛び出ようが力尽きてなます切りにされようがコキ使ってやるって言ってんだ!』

その言葉に思わずアカメはキョトンとしてしまう。
先程までの怯えきった態度はどこへ行ってしまったのか。
だが、力を貸してくれるというのなら。
もう一度チャンスを与えてくれるというのなら、喜んで身を捧げよう。

「...頼んだぞ、アヌビス」

その言葉と共に、アカメの目の色が変わる。

死にかけの身体などと感じさせないほどに力強く、彼女の足は地面を蹴った。


266 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:15:19 gqyOT86U0


―――そして、現在。



「ウッシャアアアアァァァ!!」

雄叫びと共に振るわれる剣を、ブラッドレイは振り向き様に捌く。
舌打ちを交えつつ放たれる蹴りは、咄嗟に飛び退いたアカメの腹部を軽く押すだけに留まり、充分な威力を持たせられない。

「いまの攻撃...覚えたぞ」

アカメは僅かに空いた距離を即座に詰め、ブラッドレイとの鍔競り合いに臨む。

「むうっ...!?」

死人同然のはずのアカメの剣の重さに、鋭さに思わず困惑の色を浮かべる。
この瞬間、一瞬だけだがブラッドレイは純粋に力で押されてしまう。

ブラッドレイは上体をのけ反らし、バク転の用量でアカメの腹部へと蹴りをいれる。
アカメは咄嗟に右腕を挟み込むことでダメージを軽減。
吹きとばされる勢いのまま、雪乃のもとへと着地する。

「アカメさん...?」
「...雪ノ下。てめえはそこの死にぞこない連れてとっとと逃げろ」

普段のアカメとは似ても似つかない口調により、雪乃は理解した。
妖刀アヌビス神、彼がアカメの身体を操っているのだと。
イマイチ信用はおけなかった彼だが、いまは味方として戦ってくれるらしい。
だが。

「あなたを置いて逃げられないわ。それに泉くんは」
「死んだよ。こいつを生かすためにな」

アヌビスの告白に、雪乃は息をのむ。
そして、嫌でも思い出してしまう。
比企谷を、由比ヶ浜を、戸塚を喪ってしまった時のあの感覚を。
まただ。また、頭の中が―――

「何遍も言わせんな!さっさと逃げろって言ってんのがわからねーのか、このトンチキが!」

再び思考が停止しそうになった雪乃へ、自身の持つ支給品一式を投げ渡すと共にアヌビスは一喝する。

その言葉が、雪乃の思考を、視界を全てクリアにしていく。
そうだ。どんなに苦しくても、現実から逃げ出したくても。
足を止めることは決して許されないのだ。


「...アカメさん」

タスクをデイバックに詰めながら、雪乃は告げる。
悲しみも、己の無力さも、全てを詰め込んで。
けれど。
この別れを最後にしないために、ただ一言だけ。

「また会いましょう」

そして、雪ノ下雪乃は走りだす。
もう彼女は振り返らない。
一秒でも早く友を救うために、ただ走りだす。

―――当然だ。

その背中にかけられた声は、彼女たちのどちらのものだったのだろうか。


267 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:16:10 gqyOT86U0


「逃がさんよ」

ブラッドレイにとっては、雪乃もまた強敵の一人である。
だが、この会場は未だに強者犇めく孤独の壺。
いつ果てるともしれぬこの身で、ここで彼女を逃がせば再び会えるやもわからない。
故に、逃がしたくはない。


「てめえの相手はこのアヌビス様だ!」

アヌビスがブラッドレイに斬りかかり追跡を防ぐ。
またもや鍔迫り合いになり、次いで刀同士の打ち合いへと変わる。
その最中に覚えた奇妙な感覚と違和感。

(パワーが増している...!)

この死にぞこないの身体のどこにそんな力が隠されているというのか。
いや、違う。
あの刀に触れていた時、一瞬だけ響いた声。
イリヤや美遊が使っていたステッキのように、あの刀も意思をもっているのではないか?

そしてなにより、いまのアカメの斬撃は、ブラッドレイの力に比例して強さを増している...!

ギィン、と甲高い音が鳴り、ブラッドレイとアカメ、両者の距離が離れる。

「...立ち塞がるのは私の剣ということか」

間違いない。
いまのアカメ―――いや、あの刀は、ブラッドレイの攻撃の強さを、太刀筋を全て学習し成長している。
先程の攻防でそれを確信していた。

「面白い。受けてたとう」

だが、それが彼の心を折ることなどない。
むしろ逆だ。
己の剣を相手にするという、シンプル且つこれ以上ない壁に、彼の闘争心には火が点いていた。


268 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:16:57 gqyOT86U0

「...このアヌビス神は、戦えば戦うほど強くなる」

アヌビス神の勝機は零である。
本来の力を発揮できればまだわからなかったかもしれない。
だが、いまのアヌビス神が、アカメの身体を操れるのは、十分。
ブラッドレイの攻撃を学習できる時間は最大で五分。
いや、それ以上に、アカメ自身の身体がそこまでもたない可能性も充分に高い。

加えて、ブラッドレイもまた窮地に陥れば陥る程その剣の鋭さが増す男である。
生身である以上、限度はあるかもしれない。
だが、未だ彼の底は見えていない。

互いに喰い合えば、先に果てるのはアヌビス神であるのは明白だ。

「だから、俺に負けはない」
『そうだ。私は、決して負けるわけにはいかない』


だが、それはアヌビス一人の場合だ。
アカメとアヌビス。
二人が協力すれば、勝機は必ず生まれる。

「そう!俺たちは、絶対に、絶対に」

だからこそ、吼える。
これは予言だ。
キング・ブラッドレイの死は絶対だという、覆しようのない未来だ。

「ぜぇ〜〜〜〜〜〜〜ったいに、負けなぁぁぁあぁああぁぁい!!」


月夜が照らす中、咆哮と共に白刃が煌めく。

最早名もなき一人の老兵か。
友から想いを託された少女と魔性の刀か。

果たして勝者は―――――





【泉新一@寄生獣 セイの格率 死亡】
【ミギー@寄生獣 セイの格率 アカメの身体に同化】


269 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:19:30 gqyOT86U0


【C-1/病院付近/二日目/深夜】

※デスガンの刺剣(先端数センチ欠損)が付近に落ちています。
※泉新一の死体が付近に放置されています。


【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、出血(中)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷(処置済)、腹部より出血(中)、左目にダメージ(中)
[装備]:カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』(全て図書館で調達)
[思考]
基本:とにかく楽しめる戦いをしたい。
0:何者にも縛られず、己のためだけに戦い続ける。なんとも心地よいものか。
1:アカメと戦う。
2:最後の枷(エドワード)に決着を着ける。
3:御坂との休戦を破棄する。一刻も早く強者と戦いたい。
4:弱者に興味はない。


[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※超能力に興味をいだきました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。
※これまでの戦いを経て、「純粋に戦いたい」「強い者と戦いたい」という感情がむき出しています。
※糸(クローステール)が賢者の石で出来ていることを確認しました。
※放送をほとんど聞けていません



【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、頭部出血(中、止血済)、頬に掠り傷、全身にかすり傷、奥歯一本紛失、顔面に打撲痕、仲間を失った精神的ダメージ(極大) 、胸の傷が塞がった跡
[装備]:アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:サリアのナイフ
[思考]
基本:悪を斬る。
0:ブラッドレイを葬る。
1:新一...ミギー...タツミ...!
2:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
3:村雨を取り戻したい。
4:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂と足立は次こそ必ず葬る。

[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていません
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。
※ミギーがアカメの身体に同化し、心臓の傷が塞がりました。
※現在、アヌビス神が身体を操っていますが、意識ははっきりとしています

【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
0:やってやる、やってやるよチクショウ!


※500年前この剣を作った刀鍛冶のスタンドが剣に憑りついたもの。
主な能力は以下の三つになります。
・物質を透過して、斬りたいと思った対象だけを斬ることができる
・一度受けた攻撃を憶え、その度に力と速さが強化されていく
・精神を乗っ取る

※アヌビス神の制約は以下の通りです
・アヌビスが精神を乗っ取れるのは、対象の合意があるか、気絶している時だけ。
・アヌビスの精神が表面化している時の記憶は対象者の精神が戻ったときも引き継がれる。
・精神を乗っ取れる時間は10分。また、連続して乗っ取ることはできない。その10分間は身体の所有者はアヌビス神の精神を押しのけることはできない。ただし、アヌビスの意思で使用者の精神を戻すことは可能。
・通り抜ける力は使用可。
・最初の学習から一定時間(約5分)を過ぎると、それまで覚えたパワーを忘れ、最初の強さに戻ってしまう。
・首輪が鍔の部分についており、無理に外そうとすると爆発する。首輪ランクは3。
・折れた刀身にはアヌビスは宿らない。
・覚える能力のON/OFFは可能。OFFにした場合、最初の強さに戻ってしまう。

※参戦時期はチャカが手にする前です


270 : 寄り添い生きる(後編) ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:20:11 gqyOT86U0

【C-1/二日目/深夜】




【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)、胸に一筋の切り傷・出血(小)
[装備]:MPS AA‐12(破損、使用不可)(残弾1/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:基本支給品×2、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0〜1 、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣、ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:この場から離れ、アカメの助っ人の探索及びタスクの治療をする。
2:泉くん、アカメさん...!

[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていません
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。


【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(超極大)、ダメージ(超極大) 、出血(絶大)、アンジュと狡噛の死のショック(超絶大)、狡噛の死に対する自責の念(超絶大)、後悔(超絶大)、気絶
[装備]:刃の予備@マスタング製×1
[道具]:基本支給品、前川みくの首輪 、狡噛の首輪
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:......
1:アンジュを探し、弔いたい。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:御坂美琴、DIOを警戒。
5:エドワードから預かった首輪を解析したい。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。
※エドワード、杏子、ジョセフ、猫(マオ)、サファイアと軽く情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていません
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。

※変わり身の術は連続しては使えません。また、体力を大幅に消耗します。


271 : ◆dKv6nbYMB. :2016/06/05(日) 11:20:47 gqyOT86U0
本投下終了です


272 : 名無しさん :2016/06/05(日) 12:03:46 Y97I19LsO
投下乙です

これで2人
あと8人


273 : 名無しさん :2016/06/05(日) 12:31:21 UE.PBv.w0
???


274 : 名無しさん :2016/06/06(月) 10:03:00 szBLztak0
投下乙です
対主催チームの中でも安定感を見せていたアカメチームを単騎でここまでガタガタにする大総統はやはりヤバい(確信)


275 : 名無しさん :2016/06/06(月) 10:28:32 WUVe5RvI0
投下乙です

新一ィィィ!!
お疲れ様だった。よく頑張ったよ
寄り添う事を止めて、独りいってしまったのは悲しいけど彼が成した選択が実を結ぶ事を祈る


276 : 名無しさん :2016/06/07(火) 03:30:03 TsO2PRv20
投下乙です

吹っ切れた大総統はヤバいですねぇ…
新一はお疲れ様。ミギーとの別れはグっときたよ
そしてまさかアヌビスがこんな熱い奴になるとは…


277 : 名無しさん :2016/06/08(水) 04:51:23 A4HhaMHY0
投下乙です。
アカメ達と大総統はこれが3戦目だけど受けたダメージと反比例して大総統の威圧感が増してってるよねw
新一とミギーは最後までまさにコンビというか相棒という言葉がぴったりだったな
チームも分解しちゃったけどどアカメ(+アヌビス)ゆきのんタスクは2人の遺志を継いで何とか切り抜けて欲しいところ


278 : 名無しさん :2016/06/08(水) 23:02:09 HOVIoSFE0
物質透過はやりすぎじゃない?
出来るならブラッドレイもう死んでると思う


279 : 名無しさん :2016/06/08(水) 23:58:28 6rilsc9U0
>>278
今更になって指摘とかバカか?


280 : 名無しさん :2016/06/09(木) 00:03:50 U7JeyJC.0
>>279
一言余計だろ


281 : 名無しさん :2016/06/09(木) 00:06:01 s61T0EgY0
>>279
今読み終わったの。
物質透過が可能ならブラッドレイと切りあってるのが矛盾しない?
そのまま切れば終わりじゃん


282 : ◆dKv6nbYMB. :2016/06/09(木) 00:28:05 VWKZcz9Q0
>>278
ご指摘ありがとうございます。
物質透過を禁止にして修正しますので、しばしお待ちください。
修正したものはしたらばの方に載せます


283 : ◆dKv6nbYMB. :2016/06/09(木) 00:42:25 VWKZcz9Q0
修正してきました。詳しくはしたらばの修正スレでお願いします


284 : 名無しさん :2016/06/09(木) 00:53:51 ZQzmjpQU0
お疲れ様です
いつもお手数お掛けします


285 : 名無しさん :2016/06/11(土) 07:23:03 kyK/tWB60
今週のジョジョとか丈太郎が走ってレッチリ倒せば終わりなのに誰も修正要求とかしないだろ?
矛盾とか考えるのがそもそも漫画の読み方を分かっていないんだよ


286 : <削除> :<削除>
<削除>


287 : <削除> :<削除>
<削除>


288 : ◆dKv6nbYMB. :2016/06/18(土) 01:16:10 cDmjazmk0
したらばの仮投下スレに仮投下してきました。
なにかあればお願いします。


289 : ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:07:53 y2Sr6SEw0
本投下します。


290 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:09:13 y2Sr6SEw0
放送は終わりを告げる。

(とんだ茶番だな)

ヒースクリフとエンブリヲ。
放送を聞いた二人の科学者は素直にそう思った。

広川が新たに示した新ルール。
彼曰く、レクリエーションのようなものらしいが、そんなことはどうでもいい。

(この期に及んで実質願いを二つに増やす。どう考えても、現状ではゲームの進行が憚られつつあるということを表しているのに他ならない)

(それに、本来の力が戻れば五人どころか何人でも蘇生が出来る私にはなんのメリットもない。いや、私だけではない。ゲームに乗った大半の人間にメリットが無いだろう)


言葉には出していないが、二人の結論は一致している。

『この放送で語られた特典は広川若しくは主催側の苦肉の策である』

裏を返せば、この現状は殺し合いが停滞する可能性を大きく孕んでいるということだ。

例えば、殺し合いに乗った者が極端に減っている場合。
例えば、既に何者かが脱出の手がかりを手に入れている場合。

現状がどれに当てはまるかはわからない。が、それさえわかっていれば、こんな特典を気にする必要などない。
10人に達さずともリスクが無いとなれば尚更だ。
守るべきものが無い二人は、これまで通り着々と脱出の準備を整えるだけだ。

しかし。

『厄介なのは、その苦肉の策が彼らには大きく影響を与えるかもしれない点だ』

その危惧も、これまた一致していた。


291 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:10:25 y2Sr6SEw0

黒。
別れる前、彼はひどく憔悴していた。
戸塚との約束を破り、イリヤに銀を殺され、そのイリヤも死んだ。
全てを目の当たりにしていた黒の生気を失ったその目は、世捨て人のそれになりつつあった。
そして、奇しくも、黒が求めるであろう人数も五人。
仲間である銀、約束を護れなかった戸塚、そして、手遅れになったイリヤとその仲間たち、クロエと美遊。
もしも、彼の牙が完全に折れていれば、罪滅ぼしとして彼らを生き返らせようとしてもなんらおかしくはない。



―――ここから先は、エンブリヲのみの危惧である。


鳴上悠。
彼についてはエンブリヲだけは知っているのだが、悠が喪った仲間は三人。
天城雪子、里中千枝、クマ。それに加え、共に行動していたであろうタツミとさやか。
やはりこれも生き返らせることのできる範疇だ。
己の無力さを嘆き、逆上して殺し合いに乗る可能性も―――なくはない、といったところだろうか。


高坂穂乃果。
彼女の仲間は五人。
南ことり、園田海未、星空凛、西木野真姫、小泉花陽。
最後の仲間であった花陽の死を目前にしてしまったことは、かなりのダメージだったのだろう。
初春と共にいた時までは感じられた意志の強さは影を潜め、悲しみにくれ疲弊しきったただ一人のか弱い少女にしか見えなくなってしまった。
あの様子では、ロクに放送を聞けたかも怪しいが―――広川の言葉を信じてしまう可能性は、この中では一番高いだろう。


島村卯月と本田未央に関しては保留しておく。
彼女のことは未央の主観でしか知らないが、見た限りでは互いに支えあっているせいか、ショックも他の面子よりも少ないように見える。
あの放送を信じて殺し合いに乗る可能性は、一番少ないだろう―――どちらかが死ぬまではだが。



これらのリスクを踏まえ、どうしようかと悩む科学者二人。
最初に口を開いたのは、ヒースクリフだった。

「さて、放送も終わったことだ。ひとまず音ノ木阪学院へ向かうとしよう。なに、目的地はすぐそこだ。腰を据えるのは着いてからでも遅くはない」

側に落ちていたデイバックと、疲れ果てている鳴上を背負い先陣をきって歩き出す彼に、卯月と未央、膝を抱えて座り込んでいた穂乃果までもゆっくりと立ち上がる。
みなが疲弊しきっているからこそ、目的地を明確にし、余計な慰めの言葉をかけず進みだすことで皆の悲しみを紛らわす。
その慣れた様から、普段から集団の頭に立つ男なのだろうかと、エンブリヲはなんとなく思った。


292 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:11:06 y2Sr6SEw0
一行は、鬱々とした空気(エンブリヲとヒースクリフは意にも介していないが)で、一言も発さず学院へとその歩を進める。


「......」

卯月と未央は思う。
彼女たちを逃がしてくれた男、ロイ・マスタングのことを。

彼は、ずっと卯月と未央を護ってくれた。
どれだけ傷ついても、その最期まで未央と卯月を助けてくれた。『生きろ』と言ってくれた。
そんな彼の死に、涙は流れるが、いつまでも動かないままではいられない。
彼の託してくれたこの命、決して無駄にするわけにはいかないから。

そして。

(狡噛さん...)

図書館で皆を護るために戦い、別れ際まで未央の身を案じてくれた男。
彼にも助けてもらってばかりだった。一緒にいたタスクは無事なのだろうか。
気になることも、言いたかった言葉も山ほどあるが、それももはや叶わぬ夢だ。




「......」

俯き歩きながら、穂乃果は思う。
放送で呼ばれた多くの者たちのことを。

ロイ・マスタング...エンヴィーに嵌められ、彼の無念の感情にも後悔の念にも目を向けず、必要以上に糾弾し、傷つけてしまった。
助けてもらったのに、ロクにお礼も謝ることもできなかった。

狡噛慎也。黒子と共に逃げていた時、刑事として助けてくれた。殺し合いに乗ってしまったことりのことも、ただ糾弾するのではなく、"悪じゃない"と断言してくれた。別れてからも、穂乃果の頼み通りに花陽たちを守ってくれていたらしい。
だというのに、もう一度会うことはできなかった。お礼を言うことができなかった。

槙島聖護。彼の話す言葉は少し難しく、黒子が警戒するほどの危険人物だった。けれど、彼の言葉を聞いて、強くならなくてはいけないと思うことができた。
心のどこかで、もう一度会いたいと思っていたかもしれないけれど、それはもはや叶わぬ夢だ。

初春飾利。真姫の力になり、エンブリヲと残ると言った穂乃果に付き合ってもくれた。
そして、最後まで穂乃果の身を案じてくれた本当に優しい人。

ヒルダ。言葉づかいこそは乱暴だったけれど、花陽を護り、穂乃果が単身エンブリヲのもとに向かう時は付き添ってくれた心優しい人。
どこか頼りがいのあるお姉さん―――そんな風に思っていたかもしれない。

銀。彼女については、黒の大切な人としか知らない。けれど、胸を貫かれても尚、みんなを守るために戦ってくれた。支えてくれた。
せっかく黒と再会できたのに...その命は、儚く消えてしまった。

そして。

(花陽ちゃん...)

この場に連れてこられた、μ'sの最後の仲間。
彼女が最初の学園ライブに来てくれたから、いまのμ'sがあった。
少し弱気なところもあったけれど、アイドルにかける情熱は誰にもひけをとらなくて。
いつも、いつも熱心だった。


(もう...いやだよ...!)

穂乃果が直接知っている人間は、この場にいる者たちと黒を除けば、ウェイブと黒子のみ。
強くなると決めた決意も最早崩れ去る寸前だ。
いまの彼女にできることは、多くを失った悲しみに暮れることだけだった。


293 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:11:45 y2Sr6SEw0
「......」

背負われたままの鳴上は思う。
放送で呼ばれた彼ら、美樹さやかとタツミのことを。

『お前の目をきっと覚まさせて見せる!晴れない霧なんかないんだ!』

救いたかった。

一人で全てを抱え込み、己を壊してしまった彼女を。
里中が命を賭けて遺した彼女を。


タツミだってそうだ。
あの時は、激情に駆られて一方的に非難するようなことを言ってしまった。
だが、それでも。
彼は鳴上を救おうとしてくれた。力になろうとしてくれた。
それもまた紛れもない事実だ。

二人のすれ違いを、過ちをやり直すことはできたはずだ。
"仲直り"
その単純で何よりも困難なものも掴めたはずだ。
なのに自分は。

(さやか...タツミ...すまない...!)

...なにもできなかった。
二人がどうして死んだのかすら知らない。
二人が苦しんでいる時も、自分はのうのうと鞄の中で眠っていたのだ。


そして、銀。
さやかの時も、イリヤの時も。
鳴上を、里中を支えてくれた少女の死を、ただ見送ることしかできなかった。

『弱くなんかない。絆は強さの証なんだよ。鳴上くんは空っぽなんかじゃない』

そう言ってくれた仲間の言葉も、いまの彼には空しいだけ。

クマが死に。
雪子が死に
千枝が死に。
真実を問いただすべき男が死に。
さやかが死に。
タツミが死に。
銀が死に。
イリヤが死んだ。


失って、失って、失い続けて。
彼になにが掴めたか。
なにもない。

あるのは、絆を力にする少年の不様な負け犬姿だけだ。

(俺はもう、何も失いたくない...!)

涙で頬を濡らし、その一方で拳を握り絞めて誓う。
やり直す選択肢は選ばない。
散っていった者たちとの絆を信じる限り、その選択肢はありえない。
けれど。
もうこんな悲しみを味わいたくない。誰にもこんな悲しみを味わせたくない。
もう、これ以上なにも失くさない。失くしてたまるものか。

ここにいる未央達や穂乃果、ヒースクリフ。
ここにはいない黒やタスク。
そして

(無事でいてくれ、足立さん...!)

足立透。元の世界から連れてこられた最後の一人。
タツミとの情報交換で、足立が稲羽市で起きた連続殺人事件の犯人である可能性は出ている。
だが、それでも。
その勝手な憶測で彼を見殺しになどしたくはない。
もし彼が死ねば、自分の父同然の堂島遼太郎は部下の死に間違いなく悲しむし、彼の娘の奈々子だってそうかもしれない。
二人の悲しむ顔など、決して見たくはない。勿論、彼の死で悲しむのは悠自身にも当てはまっている。
仮に足立が殺人事件の真犯人だったとしても―――ここで斬り捨てるようなことはしたくない。
こんな殺し合いの中ではなく、元の世界でしっかりと罪を償ってほしい。


294 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:12:22 y2Sr6SEw0


陰鬱とした空気でただ黙々と歩いて行くと、やがて、荒れ果てた穂乃果の学校、音ノ木坂学院に辿りついた。

彼らが真っ先に執りかかったのは、死者の埋葬だった。

「...美遊ちゃんたちのお墓はあそこです」

穂乃果が示した付近に、イリヤの、花陽の遺体を並べる。

(...花陽ちゃん)

穂乃果の脳裏には、彼女の最期がいまでも目に焼き付いている。
片腕を斬られ、幾多もの剣でズタズタにされて、それでも尚最後まで他者を想い続けた彼女の最期が。

その隣に並べられる、殺した張本人であるイリヤ。
花陽や銀を殺したことは、決して許せることではない。
けれど、彼女の傷つきすぎた身体を見ていれば、怒りよりも憐みの感情が湧いてくる。
まだ幼い身でありながら、これほどまでに傷ついて、手を汚して、死にもの狂いであがいて、それでも掴みたかったものがあった。
その執念を、ひたむきさの全てを否定することはできない。

少なくとも、妙な思い込みで笑いながら人を殺すよりは、だいぶマシだ。


「鳴上くん、きみは消耗しきっているから...」
「...いや、大丈夫だ」

墓を作るには穴を掘る必要がある。
その役割を一身に受けようとしたヒースクリフの気遣いをやんわりと断り、ペルソナを発動。
現れたイザナギは、先住者をこれ以上傷付けぬよう、剣ではなく手で土を掘っていく。
次いで、鳴上、穂乃果もまた美遊の眠る墓を手で掘っていく。

卯月もそれに続こうとするが、穂乃果は睨みつけて卯月と未央の二人を牽制する。

その様子に、事情を知らない悠とヒースクリフはなにかあったのかと疑問に思うが、いまはそれを聞きだせる雰囲気ではない。
特に、いまの悠にそこまでの精神的余裕はない。
いまはすぐにでもイリヤと花陽を埋葬してやりたい。
その想いでいっぱいだった。

墓穴を掘る時間はさほどかからず、美遊の遺体はすぐにその姿を現した。
次いで、海未の墓の付近にも花陽のぶんの穴を掘る。


295 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:13:26 y2Sr6SEw0


「...さて。イリヤたちを埋葬する前にだが」
「首輪の回収だろう?私がやろう」

我先にとでもいいたげに名をあげ遺体に歩み寄るエンブリヲだが、悠が割って入ることでそれを拒否する。

「...なぜ私では駄目なんだい?」
「...お前は信用できない」
「ずいぶん嫌われてしまったようだね。...まあ、きみには酷いことをしてしまったと自覚している。そのきみにそこまで言われれば仕方ないか」

あっさりと身を引いたエンブリヲに、悠は思わず拍子抜けしてしまう。
多少の口論、果てはあの感度50倍を受けることも覚悟していたが...

(イリヤの身体と首輪は確かに気になる。...が、無理に調べようとして信頼を損なうのは避けたい)

エンブリヲは、首輪を回収するついでにイリヤの身体に眠る『何か』を調べたかった。
だが、いまそれを行使すべきではない。信頼を失えば、せっかく手に入れた悠の『イザナギ』共々手放すことになりかねない。
それに、首輪はともかく身体の方は隙を見て墓を暴けばいい。焦って手に入れる必要はないのだ。
故に彼は普段からは考えられないほどあっさりと引き下がったのだ。

だが。

「...では、私が首輪の回収及び解析をする、ということで構わないかな?」
「きみは機械に詳しいのか?」
「キリトくんのお墨付き、とだけは言っておくよ」

ヒースクリフの言葉に、エンブリヲは内心驚愕と共に舌打ちをする。
キリト。
以前の自分の持ち駒であり、電脳化された身体を持つ少年だ。
まさかいまになって彼の名を聞くとは思わなかったが、そんなことはどうでもいい。

彼が技術者であるということは、今までただ一人の技術者であったエンブリヲの首輪の独占権が失われたということ。
即ちそれは、エンブリヲの手にイリヤの首輪が渡らないかもしれないということだ。

「それは心強いな。私も機械にはそれなりに詳しくてね。まあ、わからないことがあれば互いに協力し合おうじゃないか。このゲームを脱出するためにね」
「勿論さ。仲間を見捨てることはできないからね」

互いに腹の内を隠していることはわかっている。
しかし、表向きだけでも友好的に。
微笑みを交わし合いながら、いつ切られるともしれない握手を交わす。

「では、回収しようか」

言うが早いか、ヒースクリフの剣がイリヤの首元に宛がわれる。

(...首)

このまま剣を振り下ろせば、容易く首輪を回収できるだろう。

(くびを、斬って...)



『あっ...私としたことが、民の方に見苦しい工程を見せてしまいましたね』

セリューさんみたいに

『ここを繋ぎ合わせれば……うーん裁縫よりも難しいです』

わたしみたいに

死んじゃった人の、首を。

己の犯した『罪』のノイズが卯月の脳裏を支配する。
たちまちに罪悪感が、己への嫌悪感が、言い表せない負の感情が湧き上がり、そして。


296 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:15:18 y2Sr6SEw0


「どうしたのかな?」

呼びかけられる声に、ハッと我に返る。

「あ、あの...わたし...?」

気が付けば、自分の首に爪を立てかけていた。
掻き毟ろうとしていたのか―――なぜかは、自分でもわからない。

「...まあ、確かに見ていて気分がいいものではないかもしれない。きみは目でも瞑って―――」
「あ、あの」
「大丈夫です」

卯月の代わりに、ヒースクリフをしっかりと見据えて答えたのは未央。
卯月の手を、そっと握り絞め、耳元で囁く。

「大丈夫。私が隣にいるから」

卯月のトラウマは未だ消えていない。
ならば、それに耐えられるまで支える。
そのために、命を賭けて託してくれた人もいる。
なにより、卯月は大切な仲間だ。
だから、未央は卯月を見捨てない。

卯月は、握られた手を握り返し、意志を強く保つ。

(...大丈夫)

支えてくれる人がいれば、自分の弱さとも、犯した罪とも向き合える。
自分を護るためじゃなくて、誰かを護るために戦える。

イリヤに宛がわれた剣が振り下ろされても、今度はノイズは走らなかった。

その傍らで。
穂乃果の濁った眼が、一瞬だけ彼女たちを見つめていたことには―――この場の誰もが気が付かなかった。


滞りなく首輪を回収し、ヒースクリフはルビーの残骸と『アーチャー』のカードを、美遊の傍に並べられたイリヤの遺体に供える。

「待ってください」

イリヤたちの遺体に土を被せようとしたヒースクリフを、穂乃果は呼び止めた。

「その、初春さんの埋葬もしたいんですけど...」
「初春?そういえば、名前が呼ばれていたが」
「はい。...私を庇って、エンヴィーに...」

穂乃果の沈んでいた表情が、更に陰を帯びる。
もしも初春がいなければ、いまごろ...


297 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:16:31 y2Sr6SEw0

「その初春はどこに?」
「教室の中です。...私が運びます」
「わ、わたしも手伝います」

名乗りをあげた卯月の声に、穂乃果の足が止まる。
卯月がとっさに名乗り出たのは純粋な善意だ。穂乃果への償いの気持ちも多分に含んでいる。
それは穂乃果もわかっている。
なのに。

「...初春さんも殺そうとしたくせに」
「ッ...!」

未だ、彼女に対する怒りや憎しみは消えていない。
そのせいで、どうしても彼女に強く当たってしまう。

「あなたなんかに、初春さんは触れさせない」
「高坂!なにを言ってるんだ!」

穂乃果の言いぐさに悠は激昂しかける。
穂乃果と卯月の間になにがあったかはわからない。
しかし、彼女の暴言は許し難いものがある。
なにより、卯月もまた身体を張って戦った仲間だ。
そんな仲間を傷付けるような言動、彼が許せるはずもなかった。

そんな彼を諌めるのは、意外にもエンブリヲだった。

「悠。これには事情があるんだ。穂乃果を責めないでやってくれ」
「事情?」
「初春の遺体を運ぶのは私が手伝おう。彼女にはそれなりに協力もしてもらったしね」
「......」

穂乃果は、エンブリヲを一瞥すると、視線を学院へと戻し歩みを進めていく。
好きにすればいい、とエンブリヲは受け取った。

「では、私は」
「ヒースクリフ、きみもおいでよ。二人だと人手が足りないかもしれない」

黒を迎えに行く、と繋げようとした言葉はエンブリヲに遮られてしまう。

「私たちが離れた隙に、この学院の中に誰かが潜入しているかもしれない。もしゲームに乗った者がいれば、私だけでは心許ないからね」

ヒースクリフは湧いてきた苦い思いを内心で留める。
『放送後に闘技場の首輪交換所へ』というUB001から伝えられたメッセージ。
黒と合流する前に立ち寄るつもりだったが、先手を打たれてしまった。
もしここで断ればそれだけで疑念の眼差しを向けられることになる。
この場を離れるなどと言い出せば尚更だ。

「わかった。悠、きみは周囲の見張りついでに未央と卯月を守っていてくれ」

悠も、ヒースクリフの言葉に頷く。
穂乃果が卯月を敵視している以上、同行させるわけにはいかない。
かといって、卯月たちを置いて学院へと入る訳にもいかない。
それに、事情を聞き出すのなら、ある程度人数が別れていたほうがいい。
敵対している者同士を同じ場所に居合わせれば、諍いが起きやすいからだ。

こうして、学院内には初春の遺体を回収するために、穂乃果・エンブリヲ・ヒースクリフの三人が。
学院付近には悠・卯月・未央も三人が一時的に残される形になった。


298 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:17:17 y2Sr6SEw0




カツン、カツンと廊下を叩く靴の音が空しく響く。

「......」

巨大化したエンヴィーの暴れた痕は、学院中に広がっていた。

南ことり
園田海未

幼馴染であり、親友である彼女達と


西木野真姫。
小泉花陽。
星空凛


愛すべき後輩たちと。

彼女たちと共に過ごしてきたあの学び舎は、彼女たちの喪失を表すかのように荒れ果てていた。
お前の居場所はもう戻らない。
あの頃へ戻ることはできない。
そう、言外に訴えかけていた。

「...ッ」

泣きそうになるのを、唇を噛んで堪える。
泣いちゃ駄目だ。
止まっちゃだめだ。
私はまだ生きているから。
でなければ、散っていったみんなに申し訳が立たない。

再び、コツコツと響く音だけが廊下を木霊する。

「さっきのはらしくなかったね、穂乃果」

不意のエンブリヲの問いかけに、穂乃果の足はピタリと止まり、つられてエンブリヲたちの足も止まる。

「きみが卯月を憎むのは無理もない。だが...」
「わかってるの」

今まで通りの、エンブリヲに警戒を抱いた敬語ではなく。
ありのままの高坂穂乃果として言葉を紡ぐ。

「みんな一生懸命生きてる。過ちだって、みんな犯してる。だから、いまは我慢しなくちゃいけないんだって」

言葉ではどうとでも言える。
頭の中ではなにが正しいかもわかっている。

「でも...どうしても、抑えきれない。いまならサリアの気持ちが少し解るの」

親友であり幼馴染の海未を殺したサリア。
彼女の嫉妬は、酷く自分勝手で一方的なものだった。
そんなもので人を殺せる気持ちなど理解したくも無かった。けれど...

「私は、あの子が憎い...!どうして私から奪ったあの子はあんなにもピンピンしてて、支えてくれる人がいるの?どうして私の周りからはみんないなくなっちゃうの?」

いまになってわかってしまう。
サリアはアンジュが憎かった。自分から色んなものを持って行ってしまう癖に、自分が持っていない多くのものを手に入れるアンジュが。
穂乃果もそうだ。
穂乃果は、セリューに、卯月に大切な人たちを奪われた。事故や謀略などではなく、自らの殺意でだ。なのに、卯月は自分にないものを持っている。なのに、穂乃果はずっと失っていく。
その事実を容易に認めることなどできるはずも無かった。


「最低だよ...私...」

わかっている。卯月が反省し、償いもしようとしていることくらい。
殺された真姫も、穂乃果が卯月を憎み続けることを望んでいないことくらい。
それでも、いまは駄目だ。
どうしても彼女を否定する気持ちが溢れだしてしまう。
そんな自分が、どうしようもなく汚く見えてしまっていた。


299 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:18:52 y2Sr6SEw0

数秒の沈黙が一同を包み、エンブリヲが口を開いた。

「確かに、いまのきみは美しくないな」

俯き背を向けたままの穂乃果に、ピシャリと言い放つ。

「優れた者、自分より恵まれた者を疎む気持ち...嫉妬、というべきだね。それは手放しで褒められることじゃない」

まるで、親が子を叱るように。教師が道徳の授業で語るように。
エンブリヲは厳しさを含んだ声で言い聞かせた。

「だが、きみは決して愚者ではない」

途端に、優しい声音に変わる。
まるで、一通りの説教を終えた学園ドラマの教師のように。
罪を許し、優しく受け止めるかのように。

「私はいままで大勢の愚者を見てきた。種類は様々だったが、共通して言えるのは『誰もかれも自分が醜いことに気が付いていない』ということだった」
「きみは違う。自分の感情を露わにしても、それを正しいことだと決めつけない。いまの自分が美しくないと自覚している」
「その欠点を認め、克服しようとするのはとても素敵なことだと思うよ」

エンブリヲの言葉に、穂乃果は身体を震わせる。
エンブリヲは危険な男だ。
言葉巧みに心に付け込み人心を操る男だ。
わかっている。わかっているのに。

「初春が待っている。泣くのはそれからだ」
「はいッ...!」

優しく頭に置かれる手が、糾弾するだけではなく優しく受け入れてくれる彼の言葉が、いまの穂乃果にはどうしようもなく心地よかった。


(彼女の切り捨て時も考えなくてはいけないかな)


だが、そんな彼女とは対照的に、優しい言葉をかけるエンブリヲの思考は、実に冷え切っていた。

もともと、穂乃果を生かしておいたのは、ロックの解除と他参加者との交渉役にするためだ。
だが、ロックの解除が全て歌に関連すると考えるのは早計である上に、もしかしたら最後の一つは全く関係の無いというオチですらあるかもしれない。
参加者との交渉も、運に恵まれず出番が巡ってくるこなかったし、その交渉役もいまの不安定な穂乃果には難しい。
いまはまだ特典を狙う訳でもなく、己を顧みることが出来ているため様子見だが、場合によっては始末してしまう方がいいかもしれない。



やがて、三人が初春の遺体が放置されている部屋に辿りついた時だった

―――ガタン。

物音がした。
机を動かしたような、人がいることを示す物音が。

穂乃果の身体に緊張が奔る。
残る参加者は自分を除いて20人。
その内、先程まで共に行動していた5人と、カジノへ行ったはずの黒を除けば14人。
その中で、自分が直接知る味方は黒子とウェイブのみ。
彼らのどちらかであればいい―――が、もしも危険人物であれば...

そんな穂乃果の危惧を察したかのように、ヒースクリフが先頭に立つ。
話し合わずとも、防具を身にまとうヒースクリフが先頭に立つのは当然であり自然なことだ。
いつ襲撃が来てもいいように盾を構えながらじりじりと教室への距離を詰めていく。
そのまま扉の前に立つが、反応はなにもない。
ドアに手をかけつつ、ヒースクリフは背後の穂乃果とエンブリヲへと目配せをし、頷き合うことで意思疎通をする。
バァン、と勢いよくドアを開けると共にデバイスのライトで部屋中を照らす。

「うわっ、まぶしっ!」

そのライトに当てられ、ヒースクリフの聞き覚えのある声が響く。
声のもとへ焦点を合わせると、一人の影が浮かび上がる。

「や、やあ...久しぶり」

そこにいたのは、苦笑いを浮かべる足立透だった。


300 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:19:31 y2Sr6SEw0


穂乃果たちが音ノ木坂学院へ辿りつく前のこと。


(へーえ、随分と死んだねぇ)

首輪交換所から南下してきた足立は、14人の脱落者に素直にそんな感想を抱いた。

中でも印象深かったのは、DIO、槙島聖護、エスデス、エンヴィーの四人だ。

DIO。吸血鬼でスタンド使いのチート野郎。
結局出逢うことはなかったが、死んでくれてなによりだ。

槙島聖護。突然現れ、雪乃への憂さ晴らしを邪魔された挙句相当な赤っ恥をかかされた。
できればこの手で殺したかったが、心の隙間に忍び込んでくるようなあの気に入らない話し方をもう一度聞くよりはマシだったかもしれない。

エスデス。魏から聞いていたが、死亡が確定されるとやはりほっとしてしまう。
魏の話通り、奈落に落ちて死んだか、それとも生きててまた暴れて死んだのか。
まあ、いまとなってはどうでもいい。

エンヴィー。クソみたいな言いがかりをつけて殺しにかかってきた変幻自在のモンスター。
あんなもんどうやって殺すんだよと思ったが、まあ再び会う事もなくてよかったよかったという奴だ。


これで残りは21人。全参加者の3分の一を切っている。
これならゲーム自体の終了もそう遠くはないだろう。
だが、新たに追加された「5人の蘇生」については舌打ちをせずにはいられなかった。

(広川の奴、ゲームを進めたいならもっとマシな提案をしろってんだよ)

ゲームに乗っている参加者を数えると、自分の知る限りでは後藤、キング・ブラッドレイ、魏志軍、そして自分のみ。
4人で、しかも魏以外は協力の宛てがないとなれば不安を抱くのも仕方ないのかもしれない。
5人の蘇生は、それを解消するために仲間割れを狙ったレクリエーションなのだろう。
リスクもないというのも、まあ悪くない。失敗すればそれまでというだけなのだから。

(でもさあ、やっぱり俺みたいな奴には何の得もないわけでしょ?もっと単純なのでいいじゃない、誰かを殺したら怪我を治せるとかさぁ)

殺し合いを推奨したいならもっと直接的な方がいいに決まっている。
でなければ、「5人まで蘇生」なんて限定するよりも願いを二つに増やすとかのほうが効率がいい。
このレクリエーション、自分の為に戦う者にはなんの利益もないのだから。

(...まあ、いいか。急いだって俺には得がねえんだ。だったら焦らず自分のペースで殺っていくとしよ)

どうせ大局は変わりはしない。
もしかしたら、放っておけば勝手に仲間割れをして自滅してくれるかもしれない。
そう考えれば少しは気持ちも軽くなる。


301 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:21:02 y2Sr6SEw0
(さーて、ひとまずはジュネスに向かって...)

カランッ

突如、足元を跳ねる石つぶて。

「私ですよ」

まるで猫のように道脇にとびのいた足立の様子を見て、若干呆れ顔の魏はため息交じりに思った。
果たしてこの男で役割が務まるのか、と。

足立と別れた後、魏は結局彼のあとを追うことにした。
一度は黒と出会った足立のあとを追った方がいいという判断、それに加えて東の方面で起きた巨大な光の激突。
特に後者に関しては嫌な予感がしていた。
なにかは分からないが、自分の目的を害するなにかが起きていると。
その予感が当たっていたのだろうか。

先程の放送では、黒の仲間、銀の名前が呼ばれた。

彼女を失えば、黒にも影響が出るかもしれない。
そう危惧し、一度は見逃した彼女が死んだ。
やはり進路をこちらに決めて正解だった。
できれば彼女が死ぬ前に確保したかったが...

「な、なんだきみか。驚かさないでよ」
「失礼、このままあなたとは別れて行動するつもりでしたが...少々事情が変わったので」

先程の放送で告げられた特典。
本来ならば目もくれずに無視を決め込んだだろうが...今は違う。


「私は、奴の語った特典を手に入れたい」

思わず、足立は「は?」と声を漏らしてしまう。
当然だろう。なんせ、自分と同じく私欲で乗っているであろう男が、他者の蘇生権などという偽善者染みたものを望むというのだから。

「まあ、あくまでも保険ですがね。奴が腑抜けていなければそれに越したことはない、が万が一のこともある」
「へー、よくわからないけど大変そうだね。じゃあ頑張って。僕は生き返らせたい人とかいないからさ」

わざわざ追いついてきて言い出したのだ。
一気に数を減らすのに協力しろと言いだすに決まってる。
そんな面倒ごとは御免だ。やるなら勝手にやってくれ。
足立は適当な激励の言葉をかけてそそくさと立ち去ろうとする。

「そうはいきません」

引き留めるよりも早く魏は腕を振り、鮮血が舞う。
もちろん、至近距離であるためペルソナを使う暇もなく足立の身体には血がへばりつく。
指を鳴らそうとする魏に、足立は慌てて要請を受け入れる。

「わ、わかった、わかったよ!手伝うよ!」

その答えに満足したのか、魏は腕をおろし、これからの方針を話し合うことにした。


302 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:22:49 y2Sr6SEw0
「それで、僕になにをしろっていうの?」
「あなたもわかっていると思うが、現状ゲームに乗った者の方が数が少ない。このまま二人で襲撃したところで、望んだ成果は得られないでしょう」
「えー...じゃあどうしろっていうのさ」
「あなたにはステルスをやってもらいたい」

魏は、口角をつり上げながら答えた。

「それって、集団の中に入ってかき乱せってこと?」
「そんなところです」
「いやぁ、ちょっと難しいんじゃないかな...ほら、僕まどかちゃん達を殺したってことで警戒されてるし」

魏の狙いは、内部と外部による挟み撃ちで一網打尽にするといったところだろう。
なるほど、確かにそちらの方が殺害人数は増やしやすいかもしれない。
そして、内部に入り込むのが適任なのは、最初から殺し合いに乗っていた魏よりも足立の方だろう。
しかし、足立は主にエスデスの所為で大勢の参加者から、『鹿目まどかとモハメド・アヴドゥルを殺した男』として警戒されている。
流石にそんな男を受け入れるほどお人好しばかりではないだろう。

「その点は問題ありませんよ」
「へ?」
「死人に口なし。簡単なことです」

魏の語った潜入計画はこうだ。
まず、まどかと繋げられた少女、暁美ほむら殺害の件をエスデスに押し付ける。
実際、あの死体を見れば足立が殺したとは思えないし、そもそもあんな惨状をつくりあげる道具を足立は持っていない。
やろうとしてもできないのだ。
幸い、その証拠となる死体はヒースクリフが持っている。本人曰く、丁重に埋葬したい(魏は信じていないが)とのことらしい。
そして、彼が向かったのは南部方面。もし集団にいるとしたら、合流できる可能性は高いだろう。

雪ノ下雪乃を連れて逃亡した件も、エスデスがまどかとアヴドゥル殺害の件をなすりつけてきたからああするしかなかった。ペルソナを隠していたのも、戦うのが怖かったからとでも言っておけばいい。
実際、雪乃も彼女を追ってきた新一とアカメも放送で呼ばれていない。、
行動だけなら矛盾は無いだろう。

「問題は鹿目まどかの件ですが...」
「あ、そっちは大丈夫。それっぽい理由は考えてあるから」

錯乱したまどかが花京院を殺し、それに怒った承太郎がまどかを殺害、それに怒ったほむらが承太郎と戦い、自分は止めようとしたがその煽りを受け現在に至る。
足立は、エンヴィーに語ったそんな旨の筋書きをそのまま魏に伝えた。

「でもほむらの時はセリューに見られちゃったからなぁ。多分、直接知ってるのは一緒にいた女の子だけだけどさ」
「...その辺りは運としか言いようがありませんね。その少女の名前は?」
「知らないけど...ねえ、本当に大丈夫なのこの計画?結構ガバガバな気がするんだけど」
「そこはあなたの手腕次第...といったところですか。なに、失敗した時は一旦体勢を立て直せばいい。逃走手段も渡しておきますよ」

魏がデイバックから取り出したのは、スタングレネード。
既に二度撤退に成功していることから、その効果には信頼を置いている。
だが、いまの魏には瞬間移動ができる帝具シャンバラがある。
わざわざスタングレネードに頼る必要もあまりないため、丸腰の足立に貸したのだ。

「...わかったよ。僕も楽に殺せればそれが一番いいし」

スタングレネードを受け取りつつも、足立は唇を尖らせる。
内心では納得していないが、断れば殺されるので仕方ない。
運よくまどかとアヴドゥル殺害の容疑を晴らせ、ほむら殺害をエスデスに押し付けられればそれに越したことはないし、もし脱出派が集団で行動していれば―――あの少年、鳴上悠もいるかもしれない。
無論殺すが、いまの彼がどんなツラをしているか、見てみたい気持ちもある。
そして、うまく集団に入り込めた時、改心したと思っている足立が裏切ればどんな顔をするのかも。
そう思えば―――案外、悪くないかもしれない。


(さて、うまく行くといいですが...)

立案者である魏もまた、自分の立てた計画が成功率が低いことはわかっている。運任せもいいところだ。
しかし、彼は一刻も早く黒の死神を見つけ出したかった。
彼と戦えなくなることだけは、どうしても避けたかった。足立を送り込むのもそのためだ。
そして、彼を見つけ出した時。
未だ戦意を失っていなければ、戦って殺し、後は特典を気にせず確実に優勝を狙っていく。
もしも見る影もなく腑抜けているようであれば、優勝の特典を使用し、銀と黒の二人を生き返らせ、今度こそ邪魔が入らないように決着を着けるつもりだ。

そんな非合理的な考えを抱きつつ、魏は足立を引き連れ近くの施設、音ノ木坂学院へと向かった。


303 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:23:25 y2Sr6SEw0

やがて二人は荒れ果てた音ノ木阪学院へと到着。
人の気配はないが、なにかあったことは明白。
逆に言えば、何者かが関与していたということであり、一時的に離れているだけで、もしかしたら戻ってくるかもしれない。
そんな期待を込めつつ、待ち伏せついでに二手に分かれて学院内の探索をすることにした。


足立が請け負わされたのは、上階だった。
かなりの荒れようであり、ここでなにかしらの戦闘があったのだろうことを察する。

(しかし暗いな...電気もほとんど点いてないし...)

棟内はかなり薄暗く、電気も足元の非常用の蛍光板がぼんやりと光っているのみだ。
かといって電気をつけて存在を明るみにし、妙なの(後藤やキング・ブラッドレイ)に絡まれたくもない。


(アカメの奴、デバイスまで持っていきやがって)

奪われたデバイスの存在価値が今になってわかってくる。
せめてライトがあればもう少しマシだったろうに。

(なんだこれ)

足立がとある部屋に辿りつき、真っ先に気が付いたのは、鼻孔をつく異臭だった、
何度嗅いでも、慣れないこの臭い。これはまさか...

(ここで誰か死んだってことなのかねえ。ご愁傷様...っと)

人が死んだ部屋だ。できれば早々に立ち去りたいところだが、支給品のことを思いだし留まる。
いまの足立の手元にあるのはスタングレネード、警察手帳、殺人者名簿、ポケットティッシュのみ。
その内三つはクソの役にも立たないものだ。当然、もっとマシなものが欲しいと思うのが成り行きである。
せめてデイバックだけでもないものか。そんな淡い期待を込めて、足立は暗闇の中ほとんど手探りで部屋中を探索する。

そして、ようやく見つけたのはなにやら棒状のもの。
それを手にしたときは、一度は手にしていたフォトンソードの類かと思った。
だが、ゆっくりと指を先端までなぞらせてみると、その感触から紛れも無く円形。
フライパンかと思ったが、中央には網状の空洞が空いている。
それがテニスラケットだと気づいた時には、ため息をつかずにはいられなかった。

それからしばらく探し回り、結局見つかったのはデイバック、テニスラケット二本、音楽プレイヤーらしきもののみ。
こんなもので立ち回れというのは死ねと言っているのと同意義だ。
きみも随分運が悪かったみたいだね、と亡くなった者に同情の念を憶えずにはいられなかった。
ちなみにこの音楽プレイヤー、幻想御手(レベルアッパー)という能力者のレベルを引き上げるものだが、足立に効果があるかもわからないし、彼がそれを知る由もない。
殺し合いの場で音楽を聞こうなどと思う者はそういないため、それもまた仕方のないことだが。

ある程度の探索が終わったため、この部屋を引き上げようとしたその時だ。

バァン、という派手な音と共に扉が開けられ、眩しい光が足立の視界を奪う。

「うわっ、まぶしっ!」

咄嗟に腕で目を覆い隠し、光に慣れてきたところでそろそろと腕を下ろす。
ライトを照らしていたのは、足立の知り合い、ヒースクリフだった。

「や、やあ...久しぶり」

どう接するべきか悩んだ結果、出たのは苦笑いだった。


304 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:24:36 y2Sr6SEw0



「...よく無事だったね、足立」
「まあ、うん。色々あったよ」
(足立...!?)

ヒースクリフが口にした足立という名に、穂乃果は花陽たちが語った人物像を思いだす。

足立透。
一見ただのヘタレである彼は、突如妙な能力を使い、雪乃を人質に逃亡した。
更に言えば、既に鹿目まどかとモハメド・アヴドゥルという人間を殺しているらしい。
つまりは、足立透は危険人物ということだ。

「ヒースクリフさん、気をつけて!その人は...!」
「ま、待ってよ!言いたいことはわかるけどさ、それには事情があるんだよ!」

慌てて弁明しようとする足立に、穂乃果は眉根を寄せる。

「きみが言いたいのはあれでしょ?雪乃ちゃんを連れ去ったっていうアレ。僕だってあんなことするつもりはなかったんだよ」
「じゃあ、なんで」
「仕方ないでしょ。あのままじゃまどかちゃん達を殺した罪を擦り付けられたし、違うって言い張ってもエスデスの奴が聞く耳もたないし!」
「そんな適当なことを言って...!」
「待ちたまえよ、穂乃果」

エンブリヲが、穂乃果の肩に手を置き足立へと視線を移す。

「ひとまずは彼の言い分を聞こうじゃないか。仮に殺し合いに乗っているとしても、この場で殺し合うつもりはないように見えるよ」
「で、でも...」
「目先の事実が全てじゃないよ。そうだろう、ヒースクリフ」
「...まあ、私としても、彼が凶行に走った理由は気になるかな」

二人に言われてしまえば、穂乃果も引き下がるしかない。
その様子を見て、どうやら話し合いには持ち込めそうだと足立は安堵する。
もう一人の名前も知らない男はともかく、やはりヒースクリフはまだまともな部類だ。
彼がこの場にいたのは本当に幸いだった。

「僕があの場から逃げ出したのはね...」

足立は改めて語った。
雪乃を人質に逃げ出してしまった理由、能力を隠していた理由、そして『まどかが花京院を殺し、承太郎がまどかを殺した』という作り変えた自分好みの『事実』を。

「...そういう訳で、僕はこうして身の潔癖を証明しに来たわけだよ」
「まあ、矛盾はしていないな」

エンブリヲの言葉の通りだ。
確かに足立は胡散臭い。
しかし、そもそも足立が鹿目まどかとモハメド・アヴドゥルを殺した場面を直接見た者は誰もいない。
全て、エスデスの言いだしたことである。
情報源が狡噛のような信頼できる者ならまだしも、イェーガーズの長であり戦闘狂の彼女ではハッキリ言って信用できない。

また、足立の語ったコンサートホールでの顛末はヒースクリフも予想していたことだ。
そのため、彼もまた足立の語った出来事を嘘だと断言することはできなかった。

それでも足立を全面的に信用できるかといえばそうでもない、むしろ胡散臭さが増した訳だが...


305 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:25:12 y2Sr6SEw0
「それに、僕がまどかちゃんを殺してないのはヒースクリフが知ってるよ」
「?」
「耳の尖った人から聞いたよ、まどかちゃんとほむらちゃんの遺体を持ってるって。それ見ればわかるでしょ」

いけしゃあしゃあと言い放つ足立。
その一言で、空気が一変し殺伐としたものに変わる。

「ヒースクリフさん...え?」
「どういうことか説明してもらおうかな」

信じられない、と言った目でヒースクリフを見つめる穂乃果。
その穂乃果を庇うように一歩下がらせ、ヒースクリフに詰め寄るエンブリヲ。
穂乃果からは見えないその表情には、弱みを握れるのなら握ってしまおうという邪な気持ちが浮かび上がっていた。

余計なことを、とヒースクリフは舌打ちしそうになる。
ソウルジェムについての個人的な興味で持ち出したまどかとほむらの遺体。
それがこんな形で足を引っ張ることになるとは思わなかった。
だが、切り抜けられないわけではない。
不利になることもない。

「...実は、私はここに来る前にキング・ブラッドレイとエスデスと戦ってね。彼の言う耳の尖った男にはその時力を貸してもらった。この時、私はエスデスが持っていたまどかとほむらの遺体を譲り受けてね。良い場所で彼女たちを埋葬しようとしただけさ。特にまどかは同志だったからね」
「それなら、なぜイリヤたちを埋葬する時に出さなかったんだい?既に別の場所に埋葬したというのなら荷物を検めさせてもらうが」
「...あまり言いたくないが、彼女たちの遺体はかなり凄惨なものでね。できれば皆に怖がられるような真似はしたくなかった」
「ならば見せてくれないか。なに、私も穂乃果もそれで被害者たちを軽蔑するようなことはないよ」

「......」

ヒースクリフは考える。
このまま隠していては、まどかたち殺害の証拠隠滅を謀ろうとしているとエンブリヲに言い広められる可能性がある。
正確には、言い広めることをダシにした脅迫、か。
最悪一人でゲームに臨んでもいいが、そのタイミングにはまだ早い。
ならばここで見せて疑いを晴らした方がいいだろう。
どの道、自分が彼女たちをこうすることは決してできないのだから。

そう結論を出し、ヒースクリフは彼女たちの遺体を取り出し床に寝かせた。

その、半分程で繋げられた少女たちの虚ろな目を、悪意の象徴を見て。


エンブリヲの顔からは笑みが消え。
足立透は予想以上の凄惨さに顔色を変え。

「いやああああああぁぁぁぁぁ―――――!!」

高坂穂乃果の悲鳴が響き渡った。


306 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:26:19 y2Sr6SEw0

「ね、ねえ...これ、玩具かなんかじゃないの?」
「本物さ。刑事なら人の死体を見たことはあるだろう?」
「いや、そうだけどさ、流石にこれは...」

足立は思わず口元を抑えてしまう。
憎き怨敵がこんな様になったのを喜んでいるのではない。
純粋に吐き気を催しているのだ。
魏からエスデスが死体を繋げていたとは聞いていたが、想像以上だ。
てっきりお互いの手足を入れ替える(この時点でどうかしてると思うが)程度のものだと思っていたが、どうすればこんなものができるというのか...想像もしたくない。

「も、もういいよ。見てるだけで気持ち悪くなってくるよ!」

彼女達を殺した張本人ではあるが、半ば本心の言葉である。
目の前のモノを見ても、悪趣味を通り越して嫌悪しか湧いてこない。
まどかはともかく、ほむらに対しての憎しみも殺した時点でだいぶ薄まっている。
その少女たちのこんな様を見せつけられたところでスカッとせず、胸糞悪くなるだけだ。

「...少し見せてもらうよ」

エンブリヲは、足立や穂乃果とは違い全く動じずに死体を検める。

(全く、悪趣味なものだね)

エンブリヲは、紳士的な態度の一方で、サディスティックな一面を持っている。
例えば、私情を挟んだ部下に対して、お仕置きと称したスパンキングをしてみたり。
例えば、全く言う事を聞かないじゃじゃ馬姫の感度や痛覚を暴走させてみたり。
しかし、そんな彼でも猟奇的な趣味がある訳ではない。
このようなものを見せられればそれなりに胸を悪くするのだ。

まどかとほむらの繋ぎ目に指を奔らせてみる。

「...これはエスデスという女がやったのかな?」
「ぜ、絶対そうだって!ほむらちゃん殺したのもあいつだよ!」
「私が見た時にはエスデスの足元にあったのでね。おそらくそうだろう」
「彼女はなにか糸のような物を持っていたかな?」
「確か持っていなかったはずだが...氷で繋ぎ合わせたのでは?」
「いいや、違う。いくら強力な氷使いとはいえ、一日も経たずに皮膚を結合させるのは不可能だ。これはね、縫い合わせているんだ」

―――ドクン、と心臓が跳ねた。

「よく見たまえ、この身体に残っている糸を。随分強力な糸のようだが...おそらくこれを抜けばバラバラになってしまうだろう」
「や、止めてよ!?そんなの見たくないからね!?」
「...つまり、彼女たちをこうした犯人はエスデスではなく」
「今も尚この会場にいるかもしれないということさ」

今も尚生きている糸使い。

足立もヒースクリフもエンブリヲも、真っ先に脳裏に浮かんだのは黒の死神の姿。
糸というよりは、正確に言えばワイヤーだが、なるほど彼ほど巧みにワイヤーを操れるのならばできるかもしれない。
だが、彼がこんなことをするだろうか?
本性を表す前の足立には食糧を与え、ヒースクリフには積極的に協力し、戸塚との約束を忘れなかったようなお人好しであった男が。
喪った時にあそこまで腑抜けてしまうほど銀に執着していた男が、わざわざここまで手間のかかる上に意味の無いことをするだろうか。

そこまで三人が思い当たった時だ。

ドォン、と大きな音が窓を揺らしたのは。


307 : 足立刑事の自白録-二度殺された少女たち- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:27:20 y2Sr6SEw0


「なにいまの音?」
「...外で何かがあったようだ。私たちも向かうとしよう」

(チッ、悠...早まったか!)

先程の轟音は明らかに戦闘音だ。
エンブリヲとしては、イザナギの名を持つペルソナ使い、鳴上悠を失いたくない。
イリヤとの戦いであれほどの力を見せた悠が易々と死ぬはずがないとは思うが、万が一のこともある。

「いや、私だけで充分だ。ヒースクリフ、きみは足立の尋問を続けていてくれ」

返答を待つこともなく、エンブリヲは瞬間移動で姿を消す。
下の階にいる分身に悠の助太刀をさせた方が手っ取り早いが、なるべく分身のことは隠しておきたい。
そのため、本体自らが出向くことにしたのだ。

「...という訳だ。悪いね、足立。もう少しだけ話を聞かせてもらうよ」
「...言っておくけど、アヴドゥルさんに関しては本当に何も知らないからね」

ヒースクリフは、足立へと剣での牽制をしつつ、まどかたちの死体を部屋の方隅―――ピアノの後ろに寄せる。

コンサートホールで集まった集団の最後の二人。
両者の腹の探り合いは未だ続く。

そんな中。

穂乃果はただ呆然と立ち尽くしていた。
誰も、彼女の虚ろな目に気が付く者はいなかった。


308 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:28:53 y2Sr6SEw0


穂乃果達が初春の遺体のもとへと移動している一方で。

「そう...だったのか」

イリヤたちの墓場から正門へと移動した三人。
卯月は鳴上に、真姫を殺してしまった経緯を正直に嘘偽りなく語った。


「わたしが全部悪いんです。穂乃果ちゃんも、真姫ちゃんも、セリューさんも、誰も悪くないんです。悪いのは...わたし」

真姫を殺したのは卯月のただの身勝手な思い込みだ。
例えセリューが高坂勢力というものを提示していても、彼女が卯月のように真姫を殺したとは限らない。
真姫を手遅れの悪だと勝手に思い込んで。
真姫を殺せばセリューの力になれると勝手に思い込んで。
そんな自己満足に浸って起こした事件である。
だから、穂乃果が卯月を責めるのを咎めることはできない。
全ての原因は、卯月のしでかしたことなのだから。

「...俺も、きみの行いは許せない」

鳴上の目には、怒りの色が浮かんでいた。
身勝手に人を殺した犯罪者に対する怒りが。

当然だ。
例え、未央やマスタングが許しても、それが全ての人間に当てはまるはずもないし、当てはめてはいけない。
マスタングと未央が救ってくれたこの命だが―――もしも、断罪される時がくればこの命を差し出す他ない。

「だけど、きみに償うという意思があるのなら、俺はこれ以上きみを責めるつもりはない」

そして、卯月の肩に手を置き、目を見据えて強く言い放つ。

「絶対に生きてくれ。犯した罪を償うために」

その言葉には全てが込められていた。
罪の意識を苦に命を投げ出すな。自殺もするな。
償うことを諦めるな、と。

「...ぃ」

卯月の眼尻に涙が溜まる。
穂乃果の怒りをその身に受けた時、殺されても仕方ないと思った。
仲間であった未央とマスタング以外の人間からは疎まれ続けるだけだと思っていた。
でも。
鳴上は、そんな卯月に生きろと言ってくれた。
ただ慰めるだけではなく。
正面から向き合って、心の底から償うために生きろと言ってくれた。

「はい...!」

卯月の頬を涙が伝う。
その実直で純粋な言葉に、卯月の心は救われたのだ。

「鳴上くん」

卯月の肩に置いていた鳴上の手を、未央は握り絞める。

「ありがとう」


309 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:29:53 y2Sr6SEw0
その手に額が着くほど頭をさげた未央の感謝の言葉に、鳴上の心は少しだけ軽くなった。

今までなにも護れず、喪うばかりだった。
自分の無力さに打ちのめされてばかりだった。
それでも、そんな自分でも一人の少女の心を救えたのだと思うと―――少しだけ、前を向けそうだった。

「どういたしまして」

鳴上が微笑むと、未央もつられて微笑み返す。
思い返せば、この殺し合いに最初に出会った者同士だ。
その二人がこうして再会できたのは、幸運としか言いようがないだろう。

「...色々、あったんだな」
「うん...でも、タスクくんとか、狡噛さんとか、マスタングさんとか、護ってくれる人が一杯いてくれたから...」
「マスタング!?」
「え?」
「...そのマスタングって人のこと、詳しく教えてくれないか。特に、雪子となにか関係があれば...!」


ロイ・マスタング本人は既に死んでいる。
今さら彼を責めることなどはしない。
しかし、鳴上には真実を知る権利がある。
彼が殺したと思しき天城雪子の仲間として。友人として。

「...私は直接見たわけじゃないけど...」

未央は語った。
マスタングが、怒りに身を任せたためにエンヴィーの策に嵌められ雪子を誤って殺してしまったこと。
それからは、そのことをずっと悔やみ、ただただ他者を、未央たちを護るために傷つき、戦い続けたことを。

「...そう、か。...教えてくれてありがとう」

雪子の真相を聞き終え、鳴上を襲ったのはどうしようもないやりきれなさだった。
マスタングは、決して故意に雪子を殺したわけじゃなかった。
真に憎むべきはエンヴィーというホムンクルスである。しかしそのホムンクルスも死んだ。
しかし、マスタングをそう易々と許せるかといえばそうでもない。
もっと他に方法はなかったのかと何時間でも問い詰めたくなる。
ただ、唯一の救いだったのは、マスタングがちゃんと後悔できる人間であり、償うために生きてきたという点だろうか。
そこで自暴自棄にならず、自分の犯した罪と向き合ったことで、雪子も少しは報われただろうか。
...そう思わずにはいられなかった。


(鳴上くん...)

目元を抑え、静かに涙を流す鳴上を見て思う。
友人の死の真相を聞かされたのだ。辛いに決まっている。
けれど、未央の周りにいた人達はいつも我慢していた。
辛くても、苦しくても、ひたむきに前を向いていた。
だから―――いまだけは、そっとしておきたかった。
慰めの言葉も励ましの言葉もいらない。
ただ、泣きたい時には傍に居てあげたい。
弱音を吐いてもいいんだよと受け止めてあげたい。
いつこの時が終わってしまうかなんて、誰にもわからないから。


そして、その時はすぐに訪れた。


310 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:30:52 y2Sr6SEw0

コツ、コツと正面玄関から何者かの靴の音がした。
初春という少女を運び終わったのかと三人は振り返る。

だが。

「お前は...!」

現れたのは、鳴上も、未央も決して会いたくなかった男。

「おや、あなたでしたか」

「ジュネスの時の...!」
「プロデューサーを殺したやつ...!」

薄ら笑いを浮かべる魏志軍だった。

「―――ペルソナッ!」

魏の姿を確認した瞬間、鳴上はイザナギを呼び出し、戦闘態勢に入る。

「お前...どうしてここに」
「この狭い会場内です。再会しても不思議ではないでしょう」

「あの人は...?」
「プロデューサーを殺した奴だよ...!」
「...!」

未央の声に自然と憎しみの念が籠る。
第一回目の放送が終わったあの図書館で、みんなを襲い傷つけ、そしてプロデューサーを殺した男。
今も尚殺戮を行っているこの男を―――許せるはずも無かった。

「あなたには仕留めそこなった遺恨がある...が、いまはあなたの相手をしている場合ではない。大人しくそれを収めれば―――おっと」

飛来する羽根を、魏はしゃがみ込むことで回避。
マスティマを構えた未央は、荒い息遣いで魏を睨みつける。


311 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:31:33 y2Sr6SEw0
「あんたのせいでプロデューサーは!」

乱射される羽根を避け続ける魏。
その隙をつき、卯月はクローステールを振るう。
この暗闇の中を舞う糸だ。
何の前知識もなく避けるのは不可能に近い。
魏がその存在に気が付いたのは、脚に絡みついた後のことだった。

「これは...!?」
(プロデューサーさんの、仇...!)

卯月の夢を、みんなの夢を支え続けてくれたプロデューサー。
不器用ながらも、いつも皆に気を配ってくれた優しいあの人を、この男は殺したんだ。
そんな彼を殺したこの男は、今も尚殺し合いに乗るこの男は―――悪だ。

―――正義、執行。

その言葉が、セリューから受け継いだ正義の台詞が脳裏を過る。
このクローステールで締め上げ、脚を切断する。そうすれば

―――貴女達の気に入らないことをすれば悪、気に入る事をすれば正義なんだ。

穂乃果の言葉と共に、正義の言葉があの時の光景へと塗りつぶされる。
致命傷を与え、苦しむ真姫の顔が。
虚ろな目でこちらを見てくる彼女たちの顔が。
憎しみの念で見下ろすマスタングと穂乃果の顔が。

猛烈な眩暈と共に、クローステールに込められる力が緩む。

「なるほど。貴女もワイヤーを使うのですか」

突如、絡め取っていたはずの魏の姿が消える。
同時に、バチリという音と共に卯月の頬に走る強い衝撃。
吹きとばされながら自分のいた場所を見やると、そこには腕を振りかぶっていた魏の姿があった。

「潜入する前にあらかじめマーキングしておいて正解でしたよ」

「クソッ...イザナギ!」

魏の血が飛び散らないよう、鳴上はイザナギに峰うちで剣を振るわせる。
だが、当たらない。
身軽さではやはりあちらの方が上か―――



『――――――――――!!』

声が聞こえた。
微かにだが、校舎から少女の悲鳴のような声が。


312 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:32:08 y2Sr6SEw0
「高坂!?」
「どうやら中でもなにか起きているようですね」

魏の薄ら笑いを見て、鳴上に嫌な予感が浮かび上がる。
まさか、魏の仲間が他にもいたのか―――

「本田、島村。お前達は高坂たちのところに向かってくれ!」
「で、でも」

穂乃果たちの身を案じているのもそうだが、現状を切り抜けるためにも合流は必須だ。
だが、魏に背を向ければ、確実にこの男は襲い掛かってくるだろう。

「俺がコイツを食い止める。だからエンブリヲたちを呼んできてくれ!」

いま目の前にいるのは、千枝やタツミと二人がかりでも苦戦した相手だ。
この三人で戦ったとしても勝算は薄く、あの水流を使われれば、一人で守りきるのは難しい。
それなりの実力者であろうヒースクリフ、あまり頼りたくはないがエンブリヲの力が必要だ。

「行こう、しまむー!」

鳴上の言葉で、未央は早急に判断を下す。
いまここにいても足手まといだ。ならば、穂乃果たちのもとへ向かい、5人で中にいるかもしれない敵から離脱。
その後、鳴上と協力した方がいい。
さほど距離もないのだ。時間もそうかからない。
イリヤとの戦いであれほどの力を見せた鳴上が、そう易々と負けるはずがない。

事実、鳴上も今回ばかりは大丈夫だという保証があった。
いまの鳴上は、手に入れていたペルソナを全て使用できる。
確かに倒そうとすれば苦戦するが、時間稼ぎのために防御に専念すれば幾らでも手をうつことができる。
学院内の彼らを連れてこられる時間は、多く見積もっても10分もかからない。
その程度ならば―――既に、ジュネスで千枝が来るまで稼げていた。

「ジャックランタン!」

イザナギに代わり呼び出されたジャックランタンは、魏の足元付近に強力な火炎を放ち地面を穿つ。
ドォンと激しい音が響き渡り、土煙が魏の視界を遮る。
その隙に鳴上は正面玄関へと陣取り、魏が姿を現すのを待つ。

ひゅんっ、と土煙を裂きナイフが投擲される。
ジャックランタンは、その手に持つ灯篭で迫りくるそれを弾き落とした。

(次はどうくる...?)

やがて土煙は晴れる―――が、そこには魏の姿は無い。
顔を左右に振り確認してみるが、気配すら感じない。

「...?」

逃げたのだろうか。
なんにせよ、いなくなってくれたのは好都合だ。
このまま穂乃果たちと合流する...いや、念のためもう少し様子を見ておくべきだろう。


313 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:33:01 y2Sr6SEw0




正面玄関から入った未央と卯月は、壁に展示されていた音乃木坂学院の見取り図を確認する。
初春の遺体のある部屋は3階とだけ聞いている。
ならば、目の前にある階段を昇り、片っ端から調べるしかない。
学校の校舎の広さなどたかが知れている。
だが、警戒もしなければならない以上、どたどたと足音を立てる訳にはいかない。
そこで、未央はマスティマを使用し、天井スレスレまで上昇し、卯月を抱きかかえつつ、一気に階段を昇っていく。

三階に辿りつき最初に見つけた部屋の戸を開けてみるが―――いない。
すぐにその部屋を後にし、次の部屋を開ける。やはりいない。


その直後。
ドォン、と棟外で轟音が響いた。

それは、鳴上が戦っている証拠に他ならない。
改めてそれを認識した時、未央は声を張り上げていた。

「穂乃果ちゃん、ヒースクリフさん...エンブリヲ!みんなどこにいるの!?」

もしも穂乃果たちが敵に襲われていた場合、こちらが存在感をアピールすることで気を逸らせるかもしれない。
仮に彼女たちに何事もなくとも、この声に気が付けば合流しやすい。
卯月も、未央に続き声を張り上げる。
だが、答える者はいない。
それどころか、襲撃すらあったのかと疑いたくなるほど静かだ。


(まさか、みんな...)

未央の脳裏に嫌な像がよぎる。
学院の中に潜んでいた何者かに皆殺されてしまったという最悪のシナリオ像が。

が、しかし。

「―――――だ、未央、卯月!」

ようやく返事が来た。
聞こえてきたのは、未央たちが昇ってきた階段とは正反対に位置する部屋だった。


314 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:35:09 y2Sr6SEw0

『―――』
『―――』

扉越しに話し声が聞こえた。
先程返事をしてくれた声に似ている方はおそらくヒ―スクリフ。もう片方は聞き覚えの無い声だ。

なにもなかったのか。
安堵する一方で、先程の叫び声が気になってしまう。
が、それどころではない。
いまは一刻も早く鳴上への救助を頼まなければならない。

未央も卯月も、躊躇うことなく扉を開けた。

「みんな!鳴上くんを助けて!」

入るなり一通り部屋を見渡す未央。
全てを見渡せたわけではないが、一見ではなにも異常はない。強いて言えば、ところどころが破損しているのと、僅かに異臭がする程度だ。
室内にいるのは―――
こちらに顔だけを向けている穂乃果。
窓際に背を預ける見知らぬ男と、その傍に立つヒースクリフ。
エンブリヲの姿はない。

「あ、足立透ッ!」

未央の傍らから卯月の声が響く。
足立透―――その名前は、未央も知っている。
空条承太郎に重傷を負わせ、ほむらを殺した凶悪な男。
あの男が―――!

「ヒースクリフさん、離れて下さい!その人はほむらちゃんを殺した人です!」

部屋に転がりこむなり、足立から決して目を逸らさぬよう睨みつつ、卯月と未央は一番距離の近い穂乃果を保護する。


(や、やっぱりこうなったじゃねえかクソがっ!)

卯月の姿を認識した足立の背にドッと冷や汗が流れる。

この状況でどうやって逃げだせって言うんだよあのエルフ耳野郎クソみたいなガバガバ計画立てやがってだから止めとけって言ったんだ今度会ったらぶち殺してやるぞチクショウ!
魏への支離滅裂な罵詈雑言が流星のように脳裏を過っていく。
ペルソナを使うか―――いや、承太郎たちの時は、能力を使えることを奴らが知らなかった上に俺自身もただガムシャラだった。
同じ状況でもう一度やれと言われても出来る気がしない。
云わば奇跡のようなものだ。
それに対してヒースクリフは俺が能力を使えることを知っている上にこの距離だ。妙な真似をすれば流石に斬られてしまう。
こうなれば、一か八か貰ったスタングレネードで逃走するしか...





「そうやって、全部人に押し付けるんだ」


315 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:36:15 y2Sr6SEw0



私は知っている。

あの人たちが嗤って人を殺せることを。

私は知っている。

あの人が糸を巧みに使っていたことを。

だから、あの子たちの遺体を見た瞬間にわかった。
あれをやったのは、あの人だって。

そして、怖くなった。
もしも花陽ちゃんや凛ちゃん、海未ちゃんがあの人と一緒にいたら。
もしもことりちゃんと真姫ちゃんがあの人に捕まったままだったら。

きっとあの子たちみたいにされていたのだろう。
無慈悲で、容赦なく、最大限の悪意を込められて。
笑いながらもう一度殺したんだろう。

そうだ。一歩間違えば真姫ちゃんがああなってたんだ。

許せない。

それでもあのひとたちはきっと許し合うんだ。
『正義は私たちにある、正義だからなにをやってもいい』って

許せない。

マスタングさんみたいに騙されたわけじゃない。
イリヤちゃんみたいに願いを叶えるためじゃない。
自分の意志でこんなことをしたあの人が。

許せない。

正義のためならなにをやっても許されるの?
反省していればなにをやっていても許されるの?

私は、あの人を許さない。


やがてあの人は現れた。
部屋に入ってくるなり、足立さんはほむらちゃんを殺した男だと言って、私を護るように背中を許した。


...他人の心配が出来る癖に。
反省する気持ちがある癖に。


ド ウ シ テ コ ン ナ コ ト ガ デ キ ル ノ ?


「そうやって、全部人に押し付けるんだ」


漏れた言葉は、自分でも思った以上に冷たかった。
本当に足立さんがまどかちゃん達を殺したのか―――そんなことは二の次だった。
あの人はまどかちゃん達を壊したんだ。
身勝手に、意味も無く、自分が正義であると信じて。

そうだ。
きっとあの人は死んでしまったあの子達を『悪』と見立ててもう一度殺したんだ。
真姫ちゃんたちも、ああするつもりだったんだ。

カチリ、と音がした。

『あなたに、人の命は背負えないのよ』

今まで、何度もアンジュさんの言葉に止められた。
アンジュさんは、モモカさんを殺してしまったキリトさんに言っていた。
恨んではいるが、それを除けば殺す理由が見つからない、殺したところで後味が悪いだけだって。
私は違う。
恨んでいることを除いても、殺す理由しかない。これだけのことをしてきたあの人がのうのうと生きていることだけでも黒い感情が溢れだしてしまう。

だからだろうか。

引き金は、思ったよりも軽かった。


316 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:40:21 y2Sr6SEw0


銃声が響く。


穂乃果の持つ銃から硝煙が立ち昇る。
背中から撃たれた卯月の身体が、前のめりに倒れた。
未央も、ヒースクリフも、足立ですらも予想外の事態に動けずにいた。

「ゲホッ...ぇホッ...」

撃たれた衝撃により激しく咳き込んでしまうが、卯月の身体からは血は流れていない。
着弾した場所は、幸運にもクローステールが巻かれていた部位だったのだ。
もしも卯月がクローステールを巻いていなければ―――言うまでもない。


「なん、で」
「私が聞きたいよ―――真姫ちゃんだけじゃ飽き足らず、どうしてあなたたちはまどかちゃんたちを殺したの」
「ぇ...まどかちゃんたちを殺したのは、足立で」
「とぼけないでよ。あんなことが出来るのは、あの人だけでしょ」

未央は思い出す。
まどかとほむら、文字通り繋げ合せられた彼女たちを。
見せられた瞬間、自分も吐き気を催してしまった、悪意の結晶を。

「あ、あれ、は...」
「やっぱり、あなたも知ってたんだ」

あくまでも穂乃果の視点で見て、あれを知った上で共に隠蔽しようとした時点で、彼女の未央に対する信頼は落ちている。
目的のためでもなく、誰かの為でもなく。
あんな残虐な行為をしても尚平気でいられる人を、どうして仲間だと受け入れられるのか。
その思い込みに、穂乃果の敵意の矛先は卯月のみならず未央にも向けられた。

「どんなに酷いことも『悪』に押し付けて済ませちゃうんだ。やっぱり、あなたたちは正義の味方なんかじゃない。ただの身勝手な殺人者だよ」

数刻前にも言い放たれた言葉だ。
あの時は、穂乃果には何の非もなかったため堪えてみせた。
だが、いまは違う。
穂乃果は被害者でもあるのと同時に、卯月を撃った加害者でもある。
先刻のヘルメットではなく、確実に人を殺せる武器を用いて、だ。
その状況が影響して―――未央の枷はあっさりと外れてしまう。


「何にも知らない癖に勝手なこと言わないでよ!」

元来、本田未央は思い込みが激しい癖がある。
かつて、集客数が前回のライブに比較するまでも無く届かなかった時。
責任を感じていた未央に対し、「この結果は当然だ」と言ったプロデューサーの真意を読み取れず、それを「自分にはアイドルの資格がない」と捉えて思いこみ自棄になったこともある。
この会場でもそうだ。
セリューに救われ続けた卯月に対して、セリューが卯月を変貌させた原因だと信じて疑わず、彼女を非難する言葉を浴びせてしまった。

穂乃果は、未央たちの間になにがあったかなど知らない。もう少し落ち着けていれば未央もそのことに気付けたはずだ。
だが、いまの穂乃果の言葉は、曲りなりにも他者を護って命を散らしたセリュー、ひいてはマスタングをも侮辱しているようにしか未央には聞こえなかった。

「確かにセリューさんは酷いことをたくさんしてきた!それは私も許せない!でも、それでもあの人だってみんなを護ろうとしてくれたんだよ!だからマスタングさんだって...!」
「そのみんなの中には真姫ちゃんは、まどかちゃんたちは入ってなかったの?それとも、セリューを無視してあの人が勝手にやったのかな。だったら尚更許せないよ」
「それは...でも、しまむーだってずっと後悔してきた。償うために、必死に頑張ってるんだよ!」
「反省してますって言えば全部許されるんだ。そうだよね、それがあなたたちの言う正義ってやつなんだよね!」
「言わせておけば...ッ!」


317 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:41:41 y2Sr6SEw0

もう我慢の限界だった。

セリューの覚悟も。
マスタングの託した希望も。
ようやく取り戻せた卯月の心も。

その全てを否定してくる穂乃果は、償うべき相手から怒りを向ける対象へと切り替わっていた。


我慢の限界なのは穂乃果も同じだ。
散々好き勝手に人の命を、死を侮辱しておいて、自分だけは安全な場所に身を置き許されようとしている。
文字通り己の身を削りきるまで傷つき、それでも願いを叶えようとしたイリヤとは違う。
単純に、嫌悪の感情しか湧いてこない。

こんな奴ら、許す価値も無い。

未央の手が振り上げられる。
もしも、この手が振り下ろされれ、穂乃果の頬をはたけば。
その先に待つのは泥沼だ。
二度と戻れない底なしの軋轢だ。

だが、いまの彼女たちにそんなことを考える余裕はない。
未央の平手は振り下ろされ

「そこまでだ」

それを防いだのは、ヒースクリフの盾だった。
しかし、その用途は未央の平手を防ぐのではなく。

「―――」
「―――」

未央と穂乃果、二人の腹部に衝撃が走る。
とっさの出来事に、二人は為す術もなく弾き飛ばされた。

「手荒な真似をしてしまってすまないが、少し大人しくしてもらうよ」

しばらくは二人の諍いを静観していたが、互いの感情をぶつけ合うばかりで、最早会話のキャッチボールならぬドッヂボールと化していたため、これ以上は不可能だと判断。
そこで、彼は穂乃果と未央、どちらに味方をするでもなく、武力行使で無理矢理沈静化させる選択をした。
決して死なない、ただし一般人ならしばらくは動けない程度の強さでの盾での殴打だ。
だが、これはあくまでも問題を先延ばしにしただけだ。
決して解決した訳ではない。


そして、問題は彼女たちだけではない。
ヒースクリフが未央たちに割って入ったということは、即ち

「―――マガツイザナギ!」
(鳴上くんと同じ能力―――!?)

この男が自由の身になるということだ。


318 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:42:55 y2Sr6SEw0




結局、魏はあれから姿を現すこともなかった。
だが、いつまた仕掛けてくるかはわかったものではない。
そのため、いち早くしんがりを切り上げ、ヒースクリフたちとの合流を優先することにした。

初春という少女の遺体があるのは3階。
そのため、付近の階段を昇ろうとする。

「無事でなによりだ、悠」
「エンブリヲ!」

突如かけられた声に、思わず跳び退き警戒を露わにする。

「そんなに邪険にしないでおくれよ。いまは仲間だろう?」
「...さっき悲鳴が聞こえたが、高坂たちは無事なのか」
「傷一つ負わせていないよ。あの悲鳴もちょっと嫌な物をみてしまっただけさ」
「嫌な物?」
「悪趣味の極み、とだけ言っておこうか」

妙に引っかかる言い回しが気になる悠だが、いまは置いておく。
いまは現状の確認が最優先だ。

「ところで、未央たちはどうしたんだい?」
「耳の尖った男に襲われたから、俺があいつを引き受けて先にそっちに向かわせたけど...」
「どうやらすれ違いしてしまったようだね。まあ、穂乃果たちとの合流も時間の問題だろう」
「...そういえば、なんでお前だけがここに?」
「ネズミが一匹紛れ込んでいてね。穂乃果たちには彼を見張ってもらっている。足立透、この男の名に覚えはないかい?」
「足立さんだって!?」

思わぬ名前に、悠は驚く。
無事でいてほしいとは思っていたが、まさかこんなところで合流できるとは。

「きみの知り合いか」
「ああ。足立さんは俺たちの街の刑事なんだ」
「そうか。...その様子では、彼についての情報は聞いていないようだね」
「えっ?」
「彼はいま―――」

―――パァン

銃声が響いた。
発生源は、おそらく上階だ。

「いまの音は...!?」
「...どうやらなにかあったようだ。詳しい話は後にしよう」

情報交換を切り上げ、二人は急いで階段を駆け上がる。
次いで響く争う声や何かがぶつかるような音が、鳴上を更に焦らせる。

やがて、二人は部屋に辿りついた。

飛びこんできた光景は

倒れている穂乃果と未央。
前のめりに倒れる卯月。
剣と盾を構え、牽制をかけているヒースクリフ。
そして―――

「やぁ、悠くん」

鳴上と同じ形状のペルソナを操る、足立透だった。


319 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:44:39 y2Sr6SEw0



(やっぱりいたか)

鳴上の姿を確認をした足立だが、決して動揺も先刻までの憤りも湧き上がってはこなかった。
なぜか。
感じ取っていたからだ。
鳴上の操るペルソナ、イザナギの存在を。
共鳴にも似た、奇妙な胸騒ぎを。

「足立、さん...」
「どうしたの。そんな顔をして」

信じたくはないが半ば予想していたかのような微妙な表情を浮かべる鳴上を見て、足立は確信する。

―――そうか。こいつは、俺のことを知らないのか

花京院と承太郎の認識がズレていたように。
里中千枝が、ヒルダに足立のことを話していなかったように。

理由はわからないが、いまの鳴上は足立がペルソナ使いであるのと同時に連続殺人犯であるのを知らないらしい。
それがどうした。
いま目の前にいるのは鳴上悠。綺麗事の正論ばかり吐いて、絆なんてものを力に変え、真実を追い求め続ける。イラついて、ウザったいクソガキだ。

けれど、そんな怨敵を目の前にして怒りがほとんど沸いてこないのはなぜか?
それは―――

「悠くん。きみ、美樹さやかって子知ってるよね。僕とヒースクリフはさ、その子の友達のまどかちゃんって子としばらく同行してたんだ」
「!さやか、の...」
「その子、ちょっとしたアクシデントって奴に巻き込まれて死んじゃってね。可哀想だけど、あれはしょうがないよ」
「なにが、アクシデントですか。彼女はあなたが殺して...!」

息を切らしながら、犯人は足立であると言葉に出す卯月。
しかし、足立は今までのように激昂するどころか、軽く肩を竦めてみせる。


320 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:45:57 y2Sr6SEw0
「とまあ、この子はそう言う訳だ。勿論、僕と彼女、どちらを信じるかはきみに任せるよ。...それで、ここからが本題なんだけど」

足立は、じりじりと後退し、ピアノの後ろに置いてあったなにかを引きずり出す。

「そのまどかちゃんの友達に、ほむらちゃんって女の子がいるんだけどさ。その子も、随分と惨たらしく殺されちゃって―――こんな風にね!」

足立の掴み上げたソレが、ライトに照らされ正体を現した。

ソレは、虚ろな目で鳴上を見つめていた。
半分は桃色の髪の半裸の少女で。もう半分は長い黒髪の少女だった。
『二人』が『一人』に縫い合わされた、悪意の結晶を見た時、鳴上は―――


「う、うわあああああああぁぁぁぁぁぁ―――――ッ!!」


絶叫を抑えることができなかった。


「どうして...こんな...!」

ジュネスでのさやかを思い出す。
彼女もまた、生命活動を維持するのも困難なほどに身体をズタズタに貫かれた。
だが、『彼女たち』はそれ以上だ。
あれは、生き残るためだとか、復讐だとか、そんなものの範疇を越えている。
救いたかった少女の友達が、これ以上なく死者の尊厳を穢され、弄ばれたのだ。
鳴上の拳が怒りでわなわなと震え、固く、固く握り絞められる。

「まどかちゃんはごくごく普通の優しい女の子でね。大好きな先輩が死んだって聞かされた時はそりゃあもう泣いてたよ。
ほむらちゃんも友達想いの子だった。まどかちゃんが死んだ時なんか、絶対に仇を討ってやる!って息巻いてたもの。
ああ、こんな目に遭わされて可哀想だなぁ」

足立は、『彼女たち』を掴む手とは逆の掌で顔を覆い隠し、さも残念かのように声のトーンを落とす。
その掌で隠された道化師の笑みに、鳴上は気づくことができない。

「で、話を戻すけど。彼女達を繋いでるこの部分、どうやら糸で繋がれてるみたいでねぇ。きみさ、糸を武器に使うやつを知らないかな?」
「糸を、武器に...」

鳴上は知っている。
先刻のイリヤとの戦いで、彼女は確かに糸を操っていた。
巧みに、自由自在に。
鳴上の視線が、まどかたちから徐々に逸れていく。
その先にいるのは―――

「お前なのか、しまむら」

卯月はなにも答えない。
ただ、己の犯した罪に怯え、がちがちと身体を震わせるだけだ。


321 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:46:28 y2Sr6SEw0

「なあ、悠くん。まどかちゃん達を殺したのは僕か、それとも彼女か...どっちだと思う?」

足立が憤らなかった理由。
簡単なことだ。足立を否定した鳴上を否定できるこの状況を愉しんでいたのだ。

(もしもきみが俺を彼女達を殺した悪党だって決めつけて全てを片付けるなら、それはそれでいいよ。その時は素直に認めてやってもいい)

足立透は鹿目まどかと暁美ほむらを殺した。確かに事実だ。
だが、その死を侮辱し弄んだのは誰だ?その事実には目を背け、心を入れ替えたからいいんだよで済ませるか?

(けど、そいつは美樹さやかに対する裏切りだよ。きみの絆が本物なら、そんなことできないよねぇ)

鳴上は、さやかを救いたがっていた。その彼女の友達があんな目に遭わされて、それでも容易く受け入れられるというのなら。
結局彼の言う絆は口だけの薄っぺらいものであり、美樹さやかの存在など彼にとってそんな程度のものだったということだ。

『犯した罪の分だけ償って生きればいい』なんてクソのような綺麗ごとを言おうものなら、足立は全力で嗤うだろう。
あんな目に遭わされている彼女たちがそれで許すと思っているのか、結局お前も真実から逃げているだけだ、都合のいい部分を見ているだけだと。
それは即ち、一度は否定した足立を肯定することになる。
そうなれば、正しかったのは足立であり、鳴上の信念はハリボテの嘘っぱちであることが証明される。

(きみは言ったよね。見たくもないものと向き合ってきたって。だったら見せて見ろよ。お前の絆を、真実ってやつをさぁ!)



鳴上悠は、いつだって真実と向き合ってきた。
今までも、そして本来辿るべき未来でもそうだ。
例え目を逸らしたくなる事実であっても、逃避したくなる現実であっても。
幾万の真言を、その先にある希望を信じて、真実を追い求めてきた。

けれど。
もしもその真実に希望などなかったとしたら。
真実を受け入れることが、散っていった者たちへの裏切りとなるとしたら。
彼の源である『絆』を否定することになるとしたら。

それでも彼は―――己の信じるものを貫けるのだろうか


322 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:48:37 y2Sr6SEw0

【G-6/音ノ木阪学院/二日目/深夜】

※7人がいる部屋にはまどかとほむらの縫い合わされた死体と初春の死体があります。


【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、悲しみ(極大)、卯月に対する憎しみ(絶大)、嘔吐感 、腹部打撲 気絶
[装備]:デイパック、基本支給品、音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(2/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:練習着、カマクラ@俺ガイル
[思考・行動]
基本方針:どうすればいいか、もうわからない(優勝は目指さない)
0:...島村卯月は、許せない
1:ウェイブさんが気がかり
2:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
3:花陽ちゃん...みんな...

[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。
※花陽と情報交換しました。
※足立から聞かされた情報は半信半疑です。



【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、セリューに対する複雑な思い、喉頭外傷及び右耳欠損(治癒済み) 腹部打撲 気絶
[装備]:
[道具]:デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪
[思考・行動]
基本方針:生きてみんなと一緒に帰る。
0:あいつが、足立...!
1:どうして、こんな...
2:エドワードとの合流。
3:島村卯月を守る。
4:鳴上くんが無事でよかった
5:かよちん……。
6:エンブリヲからはしぶりんの事を聞きだす。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。



【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い、穂乃果に対する罪悪感
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0〜2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:誰かを守る正義を胸に秘め、みんなで元の世界へ帰る。セリューとエスデスのことは忘れない。
0:足立透...ッ!
1:ほ、ほむらちゃん...!
2:エドワードとの合流。
3:結局セリューは生きて……?
4:花陽さん……。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※高坂勢力関係は考えを改めました
※花陽と情報交換しました。




【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(極大)、ダメージ(大)、胸に切り傷(治療済み)、イリヤに負けた事・さやか達を救えなかった事への後悔、困惑
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:真実を...?
1:まどかたちを殺したのは、足立さんなのか、それとも卯月なのか...?
2:未央に渋谷凛のことを伝える。エンブリヲが殺した訳じゃない……?
3:エンブリヲには警戒する。
4:里中...さやか...タツミ...。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
※スラオシャを会得しました。一度の使用で6時間使用不可。
回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。


323 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:49:05 y2Sr6SEw0

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)、爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血、若干の落ち着き、満腹
[装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品、
[道具]:初春のデイバック、テニスラケット二本、まどかとほむらの縫い合わされた死体、幻想御手@とある科学の超電磁砲、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み)、スタングレネード×1@現実、警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする) 皆殺し。
0:鳴上悠を否定する
1:ほむら殺害の件を卯月に押し付ける。
2:鳴上悠は殺すが、いまはこの状況を楽しむ。
3:落ち着いたので少し冷静に動く。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
※黒と情報交換しました。


【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中:瞬間移動の分)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望 、穂乃果への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0〜2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
0:主催の裏切り者を見つけ出しコンタクトを取る。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:一般人たち(未央、卯月、穂乃果)の利用価値を見極める。
6:真姫の首輪を回収した後、北部の研究施設に向かう。
7:ヒースクリフを警戒、情報を引き出したい。
8:魏志軍に黒の始末を任せる。
9:鳴上と足立のペルソナ(イザナギとマガツイザナギ)に興味。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。
※首輪の警告を聞きました。
※モールス信号を首輪に盗聴させました。
※足立の語った情報はほとんど信用していません


324 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:49:39 y2Sr6SEw0



【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:HP45%、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限切れ)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation、キリトの首輪
クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、イリヤの首輪
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:首輪交換所へと向かいたいが...
2:黒に魏からの伝言『地獄門にて貴様を待つ』を伝える。
3:チャットの件を他の参加者に伝えるかどうか様子を見る。
4:主催者との接触。
5:ロックを解除した可能性のある田村玲子とは接触したい。
6:北西の探索を新一達に任せ、自分は南の方から探索を始める。
7: 鳴上と足立のペルソナ(イザナギとマガツイザナギ)に興味
8:キリトの首輪も後で調べる。
9:余裕ができ次第ほむらのソウルジェムについて調べる。
10:鳴上と足立のペルソナ(イザナギとマガツイザナギ)に興味。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。
※足立から聞かされたコンサートホールでの顛末はほとんど信用していません。


325 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:50:29 y2Sr6SEw0



足立が穂乃果たちに自分好みの事実を語っていたころ。

「これは...?」

足立と別れて学院内を探索していた魏は、奇妙なものを見つけた。
ひとつだけ電源の点いたディスプレイ。
モニターには、暗証番号を入力する画面が表示されていた。

(この画面にはロックが掛けられている。幅からして四文字分...)

魏は、適当に思いついた数字を入力してみる。

『0531』

Enterキーを押してみる。
勿論、そう都合よくは外れない。
再び入力画面へと戻る。

(どうやら、ロックは簡易的なもののようだ)

どのパソコンにも備わっているパスワード機能。
恐らく、解除キーとなる数字を入力してしまえばロックは外れるだろう。
だが、機械に精通していない上にヒントも無ければ魏にロックを外す手段は無い。

少々気になるが、この場は後回しにして―――

ヒュッ

魏が投擲したナイフが風を切る。
ナイフは魏の背後の扉に刺さり、虚しく音を響かせる。

(気のせいか?)

魏がナイフを投擲したのは、背後に気配を感じ取ったため。
だが、結果はご覧の通り。
人どころか猫すらいない。
扉に刺さったナイフを回収し

(―――うしろっ!)

先程までディスプレイがあった方角へと回転を加えたひじ打ちを放つ。
バシッ、という音と共に、手応えを感じる。

―――が、しかし。

「ッ!?」
「成る程、中々の反応だ」

いつの間にか背後にいた男が魏の腕に触れたかと思えば、魏の身体に甘い感覚が奔る。

「ッ...くぅっ...!」
「感度を30倍にした。少し動き辛いが、耐えられる程度だろう?」

嬌声をあげそうになるのをどうにか抑え、眼前の男を睨みつける。
男の言葉通り、我慢すれば耐えられる程度ではある。

「そんな目で睨まないでおくれよ。私はここで余計な争いを起こしたくなくてね。きみのことは噂で聞いているよ、魏志軍」
「...ほう」
「いまここで他の者を呼んできみを殺すのは容易い。この状況で多勢に無勢ではきみに勝ち目はないだろう?」

男の言葉通りだ。
この動きづらい身体で大勢に襲い掛かられればいくら魏でもひとたまりもない。

「だが、それをしない理由はわかるだろう」
「手を組め...ということですか」
「少し頼みを聞いて貰いたいだけさ。とても単純な、ね」

男が魏に託す依頼。それは―――


326 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:51:47 y2Sr6SEw0


そして現在。

(念のために、簡易パスワードをかけておいてよかったよ。他の参加者に易々と見られては困るからね)

一同が介している部屋とは別室で、パソコンを操作しているのはエンブリヲ。
彼が、魏に感度30倍をかけて見逃した男の正体である。
今現在、本体は鳴上たちと共にいる。即ち、このエンブリヲは分身である。
足立と遭遇する前、ヒースクリフが部屋に入るのと同時。
エンブリヲはデイバックに忍ばせていた分身をこの部屋に瞬間移動させていたのだ。


そんな彼がなぜ魏を見逃したか。それは、いまこの場にはいない黒を始末させるためである。
いまは腑抜けているとはいえ、エンブリヲの直接知る参加者の中ではブラッドレイ・後藤・タスクらに次ぐ厄介な男には違いない。
そのうえ、ゲームに乗りエンブリヲの妨害をする危険性もあるのだ。排除しておくに越したことはないだろう。
そのため、彼を見逃す代わりの条件として出したのだが...

(まさか、あそこまで快く引き受けてくれるとはね。予想外だったが、余計な手間が省けてよかったよ)

念のため、ガイアファンデーションで黒猫に変身し、鳴上たちを殺そうとしようものならいつでも感度若しくは痛覚50倍をかけられるように姿を潜めていたが、それすらも杞憂だった。
あの男がそこまで黒に執着していたのは意外でしかなかったが、結果としてそれはエンブリヲの益となった。

(さて。少々面倒なことになっているが、まあ構わない。私は私で解析を続けよう)

エンブリヲの分身は、本体と思考を共有している。
そのため、上階で起きている出来事を分身も把握できるのだ。

(...しかし、きみには失望させられたよ、穂乃果)

本体のエンブリヲがあの部屋へ辿りつき見つけたのは、銃を握ったまま倒れている穂乃果。
それを見て、『ああ、そういうことか』と粗方の事情を悟った。
彼女は、引き金を引いてしまった。己の嫉妬に負けてしまったのだと。

(結局、きみはアンジュの精神を継ぐことはできなかったか)

アンジュならば、嫉妬に負けて引き金を引くような愚かな真似はしない。
殺さないと決めたら殺さないし、殺すと決めたらもっと早い段階で容赦なく殺していた。
いまの穂乃果には、アンジュの影など微塵も感じない。
もしも、あのまま成長しアンジュの精神に近いものを抱ければ、自分の次くらいまでは長生きさせてもよかったが...


327 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:52:36 y2Sr6SEw0

(そろそろ、駒の切り捨ても考えるべきかな)

いまの手元にある駒は6つ。

ヒースクリフはまだ使い道はある。
首輪の独占権が失われたのは痛いが、解析要員はいるにこしたことはない。
ちと癪だが、あの自信から考えれば初春の代わり程度にはなるはずだ。

悠と足立のペルソナは非常に興味を惹かれる。
イザナミとイザナギ、そしてイザナギに非常に酷似した形状...果たしてこれはただの偶然なのか、それとも...?
できれば二人共確保しておきたいが、せめてどちらか一方だけでも手元に置いておきたい。

残り三人は保留だ。
残る参加者は21人。
現状、他参加者との交渉役はそこまで人数はいらないし、最悪悠でも務まるものだ。
それに、未央はともかく穂乃果も卯月も不安要素は拭い去れない。
もう少し様子を見てから、始末の決断を下すのも悪くは無いだろう。

(まあ、あちらは本体の方に任せよう)

人間たちの愚かな諍い自体にはさほど興味はない。
こちらはこちらで進めるだけだ。
一人ディスプレイと向き合い、分身のエンブリヲは脱出への糸口を探り始めた。


【G-6/音ノ木阪学院/二日目/深夜】


【エンブリヲ(分身)@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(絶大:瞬間移動とガイアファンデーションを使用した分)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望 、穂乃果への失望
[装備]:
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、小泉花陽の首輪
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
0:主催の裏切り者を見つけ出しコンタクトを取る。
1:本体とは別行動で首輪の解析及びこのパソコンを使って主催の裏切り者とコンタクトをとる。

※ディスプレイにかけられていたパスワードは、エンブリヲが離れた際にかけたものです。
パスコードは数字四文字です。


328 : 鳴上少年の事件簿-誰が女神を殺したか?- ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:53:08 y2Sr6SEw0




「黒...BK201を始末しろ、か」

あのディスプレイがあった部屋で、エンブリヲと名乗る男が持ちかけてきた依頼は、この学院付近にいる者には手出しをせず、カジノにいる黒を始末しろとのことであった。
思いがけない収穫に、魏の心は躍った。
わざわざ頼まれるまでもない。奴はこの手で殺す。
あれほど追い求めた男の正確な居場所がわかったのだ。他の有象無象など相手にはしていられない。
更に言えば、いまの彼は一人。
他の参加者と合流でもしていなければ魏の望み通り一対一で戦うことが出来るだろう。

(ようやく...ようやく、この雪辱を晴らすことができる...!)

だが、不安要素であった銀の死は確かに彼に影響を齎しているようだ。
それでも。
それでも、追い求めずにはいられない。
腑抜けているなら次の放送までに10人の犠牲をもって特典を手に入れ優勝し、銀共々蘇らせて戦う。
奴がなんらかの拍子で生気を取り戻し、本来の力を発揮できるのなら戦って殺す。

全ては奴に会ってからだ。

合理的とは程遠い思考を抱きつつ、魏は怨敵のもとへと足をすすめた。



【G-6/橋/二日目/深夜】

【魏志軍@DAKER THAN BLACK‐黒の契約者-】
[状態]:強い決意、疲労(絶大)、黒への屈辱、背中・腹部に一箇所の打撃(処置済み)、右肩に裂傷(処置済み)、右腕に傷(止血済み)、顔に火傷の痕、左肩に裂傷、銀に対する危機感
[装備]:DIOのナイフ×7@ジョジョの奇妙な冒険SC(魏志軍の支給品)、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る(魏志軍の支給品)、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る(セリム・ブラッドレイの支給品)、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲(星空凛の支給品)
[道具]:基本支給品×3(魏志軍・比企谷八幡・プロデューサー・一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲(比企谷八幡の支給品)、暗視双眼鏡@現実(比企谷八幡の支給品)、アーミーナイフ×1@現実(武器庫の武器) 流星核のペンダント@DAKER THAN BLACK(蘇芳・パブリチェンコの支給品)、参加者の何れかの携帯電話(蘇芳・パブリチェンコの支給品・改良型)、医療品@現実(カジノの備品)、鎮痛剤の錠剤@現実(カジノの備品)×4、ビタミン剤の錠剤@現実×11(カジノの備品)、ビリヤードのキュー@現実×6(カジノの備品)、ダーツの矢@現実×15(カジノの備品)、懐中電灯×1@現実(カジノの備品) ビリヤードの球(細工済み)×7
[思考・行動]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する。できれば広川の言った特典も狙いたい。
0:カジノへ向かい黒と会う。全てはそれからだ。
1:BK201(黒)の捜索。
2:強力な武器の確保。最悪、他のゲーム賛同者と協力する事も視野に入れる。
3:合理的な判断を怠らず、可能な限り消耗の激しい戦闘は避ける。
4:あのドールは……。
5:あの男(ブラッドレイ)は危険。もっと準備をしなければ。
6:足立は可能な限り利用する。できることなら鳴上と潰し合わせたい。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、ヘミソフィアの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能の無いごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドの存在を参加者だと思っています
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
※ブラックマリン・シャンバラ共に適正を持ち合わせており、特に後者については出典元であるアカメが斬る!での所持者・シュラと同等の高い適正を誇っています。
※シャンバラの大まかな使用用途を理解しました(長距離制限には気付いてない)。
※あらかじめ水源付近(H7北部の河川)にシャンバラでマーキングを行っています。
※ペルソナとスタンドの区別がついていません。
※銀の変貌に勘付いていますが、黒との決着を優先しています。


329 : ◆dKv6nbYMB. :2016/06/19(日) 01:53:56 y2Sr6SEw0
本投下終了です


330 : 名無しさん :2016/06/19(日) 12:50:08 Zjj90KRY0
投下乙です
ボスぶちギレの巻
そらしまむーの凶行を目にしたらそうなりますわな
ちゃんみおも怒ってしまったのは逆効果なのにどんどん泥沼になっていく
頼みの番長もメンタルボロボロで足立さんに果たして勝てるのか
終盤なのにまだ内輪揉めしてる対主催達も珍しい
そしてエルフ耳は念願の黒さんの元へ
黒さん酒飲んでる場合じゃないぞ


331 : 名無しさん :2016/06/19(日) 20:49:14 LidpJjZAO
投下乙です

周りが静観決め込んでる以上、卯月が自分から動くしかないな


332 : 名無しさん :2016/06/19(日) 21:00:11 AF9tTTh60
投下乙です
穂乃果ちゃん激おこぷんぷんファンタスティックドリーム、ちゃんみおも悪癖が最悪のタイミングで出ちゃった感じだなぁ
ブリヲも不穏な動きを初め皆の心がバラバラでちょっと心配になりますね…どいつもこいつもしっかりしろ!!
足立さんは黒さんやゆきのんがいないから付け入る隙がありまくりなのは面白い、果たしてどうなるのか
全ては鳴上悠の双肩にかかっていますね


333 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/06/20(月) 00:58:11 ouqcyJSg0
投下お疲れ様です。
一方の視点だけでは絶対に解決しないアイドル達の因縁がここにきて爆発しましたね。
穂乃果の等身大の叫びが響いており、しまむーが弁解する中、オブジェの不気味さが一層際立っていると想います。
足立と鳴上くんもどうなるか。今の足立に対して暴ける人間がいないのが心配です。

され、私も投下します


334 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:00:01 ouqcyJSg0

 一閃。
 闇夜を斬り裂く刀身が月灯りを反射し蛍のように空間を彩る。
 鋭利な金属音が激しい楽曲を奏でる中、ふと聞こえるのは彼女らしからぬ声だ。

「オラ……オラオラァ!」

 アヌビス神。
 刀身のスタンドであり一時的ではあるが伝説級の殺し屋の身体を掌握し、迫る悪鬼を狩り殺す。
 まずは横に刀を払い首を刎ねようとするも、ラースは剣を縦にすることで防ぎ間合いを詰めた。


「人が変わったような口振りだな」

「変わってるから当然だろうよぉ〜」

「精神を覚醒させた……いや、全くの別人に乗っ取られたか」

「察しがいいじゃねぇか――へぶぅ!?」


 アヌビス神の言葉を止めたのはラースの裏拳だ。
 顔面に直撃しアカメの鼻が折れる音が響き渡る。だがラースは止まらず裏拳の回転を利用し遠心力を上乗せた蹴りを放つ。
 アヌビス神は柄で蹴りを防ぐものの威力を全て押し殺すことは不可能である。
 
 持ち手が痺れる。衝撃により動きが止まった隙。
 これらをラースが見逃す筈もなく再度、迫る剣の一撃を――こちらも刀で弾き返す。


「調子に乗るなよ老いぼれ……」
(痛ってぇ〜〜〜〜骨折れてるぞアカメ)
『……』


「着いて来るか。ならば更に加速しても問題は無いな」


「は……はぁぁぁぁ!?」


 ラースはアヌビス神に接近していた。
 接近するでは無く――既に行動を終えていたのだ。
 この期に及んで、傷をお負いながらも縦横無尽に暴れる彼を見てアヌビス神はただただ驚愕するばかりであった。

 明らかに成長している自分に追い付いているではないか。

 無論、そんなことは事実では無い。

 ラースはアカメの口調の変化やサファイア、ルビーと言った存在を目撃したが故に一種の仮説を打ち立てた。
 彼女が握る刀身――アヌビス神もまた意思を持っているではないのかと。

 そしてそれは確信に変わる。
 小手先を調べる必要は無くなった。今は死合を果たすだけ。

 ただ剣を振るうのみ。


335 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:00:40 ouqcyJSg0

◆――


このまま東へ向かえば禁止エリアとなる。

ならば一度、北上し東へ向かうべきだ。

東には強者が――蔓延っている


――◆


336 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:01:37 ouqcyJSg0

 死者の読み上げは生者に精神的な負荷を容赦なく積み重ね、諦めの言葉さえ無視して無情に現実を叩き付ける。
 一通り情報交換を終えた彼らに対し、言葉の落雷が轟いた。 

 生者――ウェイブからしてみれば何人の知り合いが生命を落としたのか。
 面識のあるタツミを含め、数え返したくない人数が読み上げられてしまった。
 隊長だったエスデスは死んだ。別れた狡噛慎也も死んだ――小泉花陽も、ロイ・マスタングも死んでしまった。

 己の無力を嘆く――けれどその嘆きさえ今は虚しさしか生産しない無の行いだ。
 涙を流すのか、違う。
 喚くのか、違う。
 ならば、ならば、だ。お前はどうするのか。このまま腐り果てるなど死者が許さない。

 拳を握り壁へ叩きつけると、市役所内に鈍い音が響いた。


「仇は――取ってやる」


 一人の男が静かに、されど内に眠る烈火の闘志を燃やしながら天に誓う。



 生者――佐倉杏子からしてみれば一番呼ばれたくない名前が会場に轟いた。
 放送により彼女の知っていた人間は全員、この世界から消え去った。
 巴マミも、鹿目まどかも、暁美ほむらも、そして、美樹さやかも死んでしまった。魔法少女は佐倉杏子しか生きていない。
 何故だ、何故周りの人間は自分を残し死んでいくのか。どうして自分は生き残っているのか。

 弱い。殺し合いが始まってから一日が経った今、自分は何をしてきたのか。
 何も出来ていない。胸を張って言えることなど何一つとして存在しないのが現実である。
 
 放送を聞き、孤独となった少女は独り、呟く。


「またあたしから――離れていった」


 生者――田村玲子はどうだろうか。
 放送を耳にし感情が動かなかった/動いたの話では無い。
 面識のある泉新一と後藤はまだ生きている。だが、初春飾利の名前が、タツミの名前が呼ばれた。
 ジョセフの時も、西木野真姫の名前も過去に呼ばれている。

 寄生生物は人間とは異なる種族だ。言うまでもない。
 しかし、傍から見れば人間に寄生している彼女達を見抜けるだろうか。 
 挙動不審だったり特徴的な行動はあるだろう。だが、初見で見抜くことなど一般人には不可能である。

 その彼女が、まだ生きている。
 人に触れ、人の心を知り、生命の往来を耳にし、他者の交流を育んだ彼女はまだ生きている。

 心に僅かながら生まれる空洞。
 円が切れかかり、一つの図形が不完全のように。
 あるものが存在しなく、かと云って答えが出るはずもない。

 己の感情の波に何色を示しながら、一つの疑問を口にした。


「広川は――――――奴らはどうやって我々の生死を確認しているのか。やはり――――――」


 それは、初春飾利を連想させる言葉だった。


337 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:02:04 ouqcyJSg0

◆――



どうやらロックはあと一つで解除されるようだ。

必要かどうかは、まだ解らない。

だが、きっと君達にとって有益になるだろう。



――◆


338 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:03:32 ouqcyJSg0

 市庁舎には本来ならば働いている職員がいる。言うまでもないが殺し合いに置かれているのはある種の箱庭である。
 例えばウェイブが所属していた帝都の組織であるイェーガーズ。
 彼らの本部は何故か地図上に記載されており、実際に存在していた。
 無論、中には誰も存在せず、名簿に乗っている所謂参加者以外の人間は会場にいない。

 けれど、施設の再現度は本物級でありウェイブも会場にある本部に対し違和感は抱かなかった。

 市庁舎の会議室に移動した彼らはホワイトボードの前に集まり、田村玲子が書いた文字を見る。


『首輪に盗聴器が埋め込まれている可能性がある』


「なるほど……そりゃ納得だね」


 情報交換の場では持ち出さなかった案件をホワイトボードに示す。
 仮に盗聴器の可能性があるならば、堂々と声に出しては意味が無い。
 田村玲子は元々、初春飾利達と以前に捜索した情報を改めてウェイブ達に示した。


『じゃあ何で死者の名前がわかるんだ?
 死んだら通信ってのが途絶えるってことでいいのか』


『そうだろう。
 バイタルサインが途絶え、データを管理しているシステムに信号が届かなければ死者とみなされるかもしれない』


『よく分かんないけど面倒だな。あたしならカメラでも隠して映像で見るけどな』


 文字を書き終えた佐倉杏子は自分の筆跡で状況を判断し、魔法少女へと変身した。
 ウェイブに言葉を掛けられるがそれを無視して、会議室に備え付けられたカメラを槍で貫き、溜息を零す。


『危なかった』


『そんな単純なのか? 破壊したことはありがとうな』


『当たり前が当たり前じゃないと思え。
 少なくとも私のような寄生生物やお前のような帝具使い、そして魔法少女は当たり前じゃない』


 それもそうだな。
 と、呟きながらウェイブは溜まった文字をクリーナーで消し始めた。
 腕を払う際に佐倉杏子が破壊したカメラに視線を送る。若干だが電流が迸っており、苦笑いが溢れる。
 消し終えた所で、インクの匂いが鼻に残り気分を害ししため、窓に近寄り少しだけ開けた。


339 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:04:25 ouqcyJSg0


 大きく開けてしまえば、自分達の居場所を誰かに知らせることになってしまう。
 市庁舎の電気も全て消しており、会議室の中は備え付けのスタンドライトと基本支給品で済ましている。
 その上で窓を開け、声を漏らしてしまえば隠れている意味が無い。
 見の隠しで滞在している訳ではないが、無用な戦闘は極力避けたいのが全員の総意だ。

 外の空気を吸い終わると窓を閉め、ホワイトボードへ身体を向けた。
「結局のところさ、分かっても何も出来ないじゃん」
 椅子に凭れ掛かりだるそうに頭の後ろで手を組んだ佐倉杏子が声を出した。
 灯りのない天井を見上げながら零した本音は誰もが思っていることだ。盗聴器の存在に気付き、何をするのか。
 対処法も特に無いのならば、普段と変わらない。

『外す方法もない』
「だろ?」
 と呟くと、跳ねるように立ち上がり、スカートを払う。
 背筋を伸ばし座っていた力を抜いた後に、ウェイブ達の方へ振り返り――話題を振り返す。

「じゃあさ、あたしは行くから」
 彼らの返答を待たずに扉へ向かい、彼女は会議室を後にしようとする。けれどウェイブは彼女を止める。
「行くってお前は何処に行くんだよ。さっきは認めてただろ」
「あいつのために十人殺して生き返らせる」
「は……?
 あんなのを真剣に、信じるって言うのかよ」
「んなわけないよ。とにかく言ったろ?
 あたしに関わった奴らから死んでいくんだ、あたしは疫病神なんだよ」
 彼女は言った。意識を取り戻しバッグの中から脱出し、光を浴びた所で。
 近くに居たのはDIOとの戦いで肩を並べたウェイブと田村玲子だった。初顔合わせとなる。
 自分を助けてくれたようだが、過去に関わった参加者を思い出す。いや、忘れてなどいない。
 佐倉杏子だけを残して死んでいく。光が闇に飲み込まれ、彼女から離れていく。

 きっとウェイブ達も同じだ。
 佐倉杏子という魔女に関われば、みんな死んでしまう。
 なら殺さないためにも、彼女は別行動を取ろうとするが生憎だ。本当に。
 彼はそれを許さない男である。
「理由になってない。周りが死んでいくなら俺も田村だってきっと同じだ。
 現に放送で呼ばれた中には俺の仲間が、大切な仲間や師が呼ばれた。けど俺は生きている」
「……」
 佐倉杏子は何も言わない。いや、言わない。
 ウェイブの言葉を聞いた所で、それは他人の意見である。
 言ってしまえば「それがどうした」で済んでしまうのだ。彼の言葉は響かない。
 故に佐倉杏子は扉に手を掛ける。けれど、動かない。止まってしまう。


340 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:05:52 ouqcyJSg0

 足を止めている。
 甘えだな、と彼女の心で悲しき感想が渦巻く。
 この期に及んで、止めてくれる存在がいることに何処か嬉しく思っている。
「あー、もう! あたしに関わるなって――」
「そうか。ならば別行動だ」
 空気が変わったようだ。進展しない空間を動かしたのは口を閉ざしていた田村玲子である。

 その言葉は彼らの意識を奪う。
 ウェイブも佐倉杏子も、思考が停止してしまい口も動きも連動だ。
「おい……田村、お前は佐倉を止めないのかよ」
 降ろしていた手が拳を握り、力が混み始めたのか震え始める。
 救えなかった――己の知らぬ間に死んでしまった仲間の姿が脳裏に浮かぶ。
 俺はまた救えなかった。佐倉杏子を――そんな未来が離れないのだ。
 今此処で彼女を見逃せば――と、思った矢先に田村玲子の発言である。水をかけられた気分だ。

「そうは言っていない。
 集合場所をこの市庁舎にし、二時間後に再集合だ」



◆――



方角は北。

到達後、東へ向かう。

その際に獲物と遭遇すれば――殺す。



――◆


341 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:06:25 ouqcyJSg0

 迫る刃を屈んで回避したアヌビス神は間髪入れずに己もまた刃を振るう。
 ラースは後方に跳ぶことで一撃を避けると、着地と同時に大地を蹴り上げた。
 交錯する視線はどちらも確実に相手を殺す殺意の表れだ。空中で衝突し、今にも爆発しそうなまでに膨れ上がる。

 互いが距離を詰めた所で、アヌビス神は足を止め豪快に刃を振り下ろす。
 対するラースは剣を両腕に握り込み、横に構えることでその一撃を防いだ。

「とっとと死ねば楽になるのによぉ〜〜!!」
「ならば殺してみせろ――出来るならば、な」

 剣をかち上げアヌビス神の上半身が衝撃により開いてしまい、両腕もまた天へ伸ばす形となった。
「ヤバいッ!!」
 迫る袈裟斬りを回避するために、その身体を大地に擦り付けるように落とし、転がる。
 アカメの身体に泥が付着するも、そんなことはどうでもいい。生きることを、殺すことを、勝つことを考えろ。

 立ち上がったアヌビス神目掛けラースの飛び膝蹴りが迫る。
 右掌で受け流し、背後に移動した彼に対し刃を放つも剣に阻まれた。
 
 阻まれようと諦める訳にはいかない。剣の上を滑らせるように刃を移動させ――振り切る。

「――ぬッ!?」

 ラースの表情が曇り掛かり、それは左肩に刃が届いた証拠である。
 如何なる強者であろうと、生命体ならば傷を負えば死ぬのは当たり前だ、と思いたい。
 掠り傷程度であるが、アヌビス神の刃は確実にホムンクルスと拮抗しているのだ。
 いや、成長を続けるスタンド故に――あのキング・ブラッドレイを追い越す可能性を秘めている。

 手を休めるな。この一撃はまぐれかもしれない。けれど、連続で成功すれば必然へ昇華する。
 払った刃を引き戻しラースの喉元を――首を捻られ失敗に終わる。
 左拳で腹を狙うも膝を宛行われ、拳から骨が軋む音が響いてしまう。
 拳を引くと同時に迫る剣を刃で上方へ逸らすと、身を低くし肉薄し、再度左拳を握る。

 今度こそ腹に叩きこむも、ラースは肘を首筋へ叩き込みアヌビス神の動きを止めた。
 戦場で停止すればそれは格好の的であり、突き落とされる剣は左肩を無常にも貫いた。
 ラースが剣を引き抜くと鮮血が吹き出し、アヌビス神は痛みに対し文句も言わずにその場から離れる。
 
 肩はまだ動く。
 戦える。
 俺は絶対に負けない。


342 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:07:15 ouqcyJSg0


◆――



佐倉杏子は放送を聞いてから意見を変えた。

仲間が呼ばれ悲観的になったのかもしれない。

……仲間か。



――◆


343 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:08:09 ouqcyJSg0

 佐倉杏子は意地でも意見を変えないだろう。
 放送前にはウェイブ達と行動を共にすると認め、優しさに涙まで流した彼女に何があったのか。
 再度疫病神を自称し、寂しい笑顔を浮かべた彼女の心情は誰にも汲み取れない。

 十人殺して生き返す。
 当然、嘘の発言ではあるが、完全に否定出来ないような、どこか奇跡に思いを馳せているようにも感じられた。
 何にせよ一度決めた結論を後から捻じ曲げた事実は本物であり、数時間程度しか関係のない仲だが佐倉杏子が優柔不断とは思えない。
 やはり放送がきっかけであり、親しい存在が呼ばれたに違いない。

 故に他者との接触を拒み、独り強がりただ死ぬ運命を選んだのだろう。
 それはウェイブも感じ取っていた。強めな口調とは裏腹に黄昏の丘で独り明日を見ている少女の心境を。
 決して言葉には出さない。放送がきっかけなのは明白であるが、土足で禁制に踏み込むほど鈍感な男ではないのだ。
 引き止めの行いは本心だ。この状況で単独行動は見殺しにするのと同義である。
 そして佐倉杏子は精神状態が不安定なことも含めると、今の彼女を独りにするのは誰が見ても危険だった。

 言葉を投げても彼女は返さない。彼の下に届くのは強情な独りよがりだけ。
 それを見兼ねた田村玲子が提案――個別行動後に再集合を促すものである。

 佐倉杏子は意見を変えない。
 ウェイブは彼女を心配する気持ちから己の意見を変えない。

 ならば、視点を変えて、ある程度の落とし所を作るしか平和的解決策は無いのだ。

 佐倉杏子とて放送前には心を許していた。いや、余裕がまだ存在していた。
 一度、頭を冷やせば意見を聞いてくれるだろう――と、田村玲子なりに人間の心を分析した結果である。

 佐倉杏子は北への捜索へ向かわせる。
 東に行けばエドワードと遭遇する可能性があるが、今の精神状態で会わせては暴走しかねない。

 ウェイブは南への捜索へ向かわせる。
 田村玲子が最後にマスタングと遭遇したのが現在地より南の座標だ。
 彼の仲間であったウェイブならば仇を取る――そう宣言していた戦士への計らいである。

 残る田村玲子は東へ向かう。
 消去法だ。北と南は塞がっており西は探索の余地が無い――ならば東だ。

 市庁舎の正面で三人の意思が一度の別れを告げる。


344 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:08:48 ouqcyJSg0

◆――



誰か武器持ってたら譲ってくれないか。

――これはどうだ。

これは――まさか。

――げっ、たしかDIOの野郎が持ってたな……たしかイン。



いや、大丈夫だ。


悪いけどよ、田村。その帝具を俺に譲ってくれ。



――◆


345 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:09:35 ouqcyJSg0

 やれることはやった――などど言い切れればどれだけ気持ちが楽になっただろうか。
 瀕死の状態に追い込まれたタスクを何とか病院に運んだまではよかった。そう思いたい。と、雪ノ下雪乃は額に浮かぶ汗を拭った。

 背負うにしても雪ノ下雪乃には限界がある。途中に引き摺ってしまったこともあった。
 流れ出る血を止めるために上着を脱いで押し当てたりもした。気休め程度になればいいと思っての行動だ。
 けれど、タスクの顔色は回復せずに、意識が戻ることも無かった。

 病院に辿り着いて真っ先に見つけたのがキャスター付きの担架である。
 タスクの身体を急いで、且つ丁寧に寝かすものの身体の節々が衝突してしまった。
 べったりと赤く染まった自分の腕を見て気分が悪くなるも、この状況でタスクを救えるのは自分しかいない。

 担架を押し運び、身体は無意識に手術室を目指していた。
 無論、手術など出来る訳が無い。
 
 息を切らしながら扉を引き開けると、ドラマで見慣れた空間が視界に飛び込んだ。
 本来の手術室ならば灯りを消し照明で照らすだろうが、今は関係ない。スイッチを押し部屋の灯りを灯す。

 担架を中央にあるベッド近くまで運ぶと、雪ノ下雪乃は周囲の薬やマニュアルと思われる冊子に目を通した。
 専門的な用語が並んでおり、焦っている思考回路では処理しきれない情報が視界を飛び回る。
 
 深呼吸。
 落ち着け――無理ならば姿でも取り繕えと。
 形から入る人間がいるように、雰囲気だけでも掴めれば状況は進展する。
 何せタスクを救えるのは雪ノ下雪乃しかいない――やるしかない。


346 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:10:25 ouqcyJSg0

 結果として、出来ることなど殆ど無いのが現実である。
 やったことと云えば血液を拭きとった事。簡単な消毒を済ませた事。栄養補給のために点滴を差し込んだ事ぐらいだろう。
 
 溢れ出る血液の止血も試みたが――実際に止まっているか定かでは無い。
 表面上は止まっているが、内部の状況までは把握出来ず、レントゲンを取る時間も余裕も無い。
 
 輸血パックを使いたいが、タスクの血液型など知っている訳が無かった。
 彼の身体に適応しない血液を注ぎ込んでは却ってその生命を削ることになってしまう。

 願うならば。
 タスクが目を覚ますか、医療に長けている参加者の救援が現れることを。
 心の底から、思うだけであった。








 タスクの生還を願う少女が居る病院から遥か南にて。
 逆手に握った刃を振り下ろし、回避されたことで蹌踉めくアヌビス神の姿があった。
 そして、体勢を崩すこと無く再度刃を振るい、ラースの左頬を掠め斬る姿もそこにあった。

(行動が更に速くなったか)

 戦闘の中で成長するアヌビス神。
 何時までもラースに遅れを取ることなど、ありえず、許されず、あってはならない状況だ。

 刃を構える金属音が響いたと思えば彼は既にラースの目の前まで距離を詰めている。
 首を撥ねんと一閃するも剣に阻まれ、追い打ちは危険と判断したのか距離を取った。

「人間じゃ……ねえぞジジイ……とっとと斬られろよぉ」

「人間では無い、と言ったらどうするかね」

「頭ン中がハッピー過ぎて吐きそうになるぜ……っと!」


347 : アカメが斬る(前編) :2016/06/20(月) 01:11:12 ouqcyJSg0

 大地を蹴り上げ――ラースも同じように駆け出した。
 互いが交差する前に刃と剣が重なり――両者、弾け飛ぶ。

「もらった――もらったァ!!」

 動きが速かったのはアヌビス神だ。
 右上に弾き返された刃を、渾身の力を込めて振り下ろす。
 対するラースは防御のために剣を戻すものの、速さが足りていない。
 戻った頃にはアヌビス神に斬られている――勝った、とアヌビス神は確信していた。


 これが本当の戦ならば、アヌビス神は勝っていただろう。


 
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」



 制限。
 例えば神と称されるエンブリヲの能力に一定の限界が生まれていたように。
 白井黒子の瞬間移動に普段よりも絶大な浪費が加えられたように。

 アヌビス神の乗っ取りにも時間の制限が課せられていた。そして。

「時間切れ――残念だったな」

 アカメに意識が戻ったその時、彼女の動きは止まってしまった。
 戸惑いもあっただろう。そしてラースは反撃の構えを取り――アヌビス神を彼女の後方へ弾き飛ばした。

『チクショ〜〜〜〜〜〜!! あと少し、あと少しで俺が……俺がァ!!』

 宙を舞い虚しくも大地に突き刺さったアヌビス神の悲痛な叫び。けれどアカメは振り返らない。
 足払いを行いラースの体勢を崩そうとするも、読まれていたのかバックステップに回避されてしまう。
 迫る剣戟を紙一重で躱し続け――絶望から一筋の希望を掴み取った。

「――葬る」

「む――ッ!」

 アヌビス神と同じように大地へ突き刺さっていた棘剣を引き抜くと、それが反撃の合図となった。
 ラースを真っ二つにする勢いで振り上げるも、上体を後ろに移動することで躱された。そこに追撃を掛ける。
 言葉なと要らない。神速で繰り出した蹴りが彼の腹に直撃し、身体が折り曲がっていた。
 アヌビス神に身体を任せていたことで精神的に余裕が生まれ、状況を判断する能力が、視野が広くなった。

 剣を振り、防がれても手を休めること無く、何度も、何度も。
「葬る」
 修羅となれ。
「葬る」
 己を切り替えろ。
「葬る」
 もう。
「葬る」
 誰も死なせないために、遅れを取らないために。
「葬る」
 この男を、殺せ。




「――――――葬るッ!!」





 払った一撃は仇敵の首を刈り取るべく行われた死の瞬きである。
 疲労した身体で放でる全てを込めた謂わば全開の一撃だ。
 惜しくもラースによって防がれるが、真髄はその先だ。まだ攻撃は終わっていない。

 剣に乗せた血液が――ラースの瞳に付着した。
 視界を奪え。
 どんなに相手の瞳が凶暴でも、閉ざせばその脅威は無と成り果てる。

 肘打ちをかまし、ラースを後方へ飛ばすとそこは――奈落の果て。

「見事」

 足場を失ったラースはただ、奈落へ落ちるしか無い。
 零れた言葉は対する戦士――殺し屋に送る賛辞である。

 しかし。

「どうだ……一緒に地獄へ落ちるつもりはないか」

 彼は何一つ、諦めておらず、落ちる寸前にも牙を光らせていたのだ。
 伸ばされた腕はアカメの髪を掴み取る。勝利を確信していたアカメは対応出来ていない。
 そしてラースが髪を引っ張ると同時に、アカメの身体もまた、奈落へ落ちることとなる。


『う、嘘だろ……ッ! アカメ、アカメ〜〜〜〜!?』


 誰も居なくなった闇の大地にて。
 無残に突き刺さるアヌビス神の声だけが響いていた。


348 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:12:16 ouqcyJSg0

 一人になったところで、佐倉杏子は何をするかというと、実のところは何も決まっていない。
 自分は疫病神だ。何処かの書籍でありそうなタイトル風だと若干笑いが込み上げてくる。
 勿論、笑える状況でも無ければ、心情的にもあり得ない。

 ノーベンバー11を始めとした参加者が自分から離れていく中、追い打ちを掛けたのが美樹さやかの死である。
 彼女とは殺し合いで遭遇していないものの、生き残った最後の知り合いとして気に掛けていた。
 あわよくば再会――淡い気持ちを抱いていたが、そんなことも叶わず、無情にも放送で名前を告げられてしまった。

 整理が着きかかった心がまたぐちゃぐちゃにされた気分である。お世辞にも整理されたとは言い難いが。
 ウェイブ達は疫病神たる佐倉杏子と共に行動する選択肢を選んだ。大馬鹿野郎だと彼女は思っていた。
 けれど、それは嬉しかった。心の奥底では自分は死んだ方がいいのではないか。そんなことさえチラついていた。

 流れた涙は間違いなく本物であった。優しい言葉に心が動いてしまった自分がいた。
 誰かに必要とされ、生きる意味を、言ってしまえば見捨てられない自分がいることに涙を流した。
 一緒に居ていいんだ。あたしはここにいる、いさせてもらえる。そんな感情が生まれた瞬間に美樹さやかの名前が呼ばれたのだ。

 カウンターなんて優しいものじゃない。
 全体重を掛けられ顔面にジョルトカウンターを喰らった気分だ。
 先程までの落ち着いた心には闇が生まれ灰黒い空が何処までも広がってしまう。

 考えたくもない。
 気づけば、また一人にしろだの、疫病神だの言ってしまう始末である。
 恥ずかしい。もう子供じゃないのに。
 まだ中学生ではあるが、魔法少女として生命の遣り取りを行っている以上、大人になっているつもりだった。 
 それがどうだろうか。
 実際に現実と直面すれば駄々を捏ねる幼い少女がいるだけであった。


349 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:13:01 ouqcyJSg0

 現実に耐えられくなり、構って欲しいが故の強がりを見せ付けて、手伸ばしたウェイブを邪険に扱う。
 何ともガキらしい行動だろうか。
 そのくせ、飛び出す度胸も無いと来た。巴マミが存命ならば優しくしてくれただろうか。
 折角のウェイブをだったが、彼と口論にまで発展した。
 もう合わせる顔も無い――と、田村玲子の提案は佐倉杏子にとって本当に有り難いものだった。

 一人になれる口実だった。
 独りにならないで、一人になれる。今の佐倉杏子が最も欲しがっている状況である。
 田村玲子には見抜かれていたのだろう。きっとウェイブもそうだと振り返る。
 自分の馬鹿な独りよがりが見抜かれていた。本当に恥ずかしい話だ。

「あー……次はどんな顔して戻ればいいんだよ」

 つま先で地面を穿り両腕を頭の後ろで組ませながら一人で恥ずかしむ。
 穴があったら入りたいとは正にこの事である……と、思っても意味は無い。
 しかし、こんなことを考える余裕があるのかと聞かれれば、それはNOである。

 殺し合いは確実に進行している。
 自分は生き残り、周りだけか死んでいく。
 まるで自分だけが箱庭に囚われていて実際は自分だけが蚊帳の外にいるような感覚である。
 
 しかし。

 流れる血の香りと貯まる血の池。北に続いていく血痕を追って行く間に緊張が張り詰める。
 交戦があったのは確実である。エドワードやウェイブ、田村玲子と共にDIOと交戦した時とは違う。
 真新しい血痕を追っていると、気付けば視界の先に灯り――病院が見え始める。

「病院か……また来ちゃったよ」

 一度だけ来たことがある。
 思い出したくもないDIOの洗脳を受け、解除出来たもののそれはエスデスに完全敗北を喫した中の出来事だ。
 不幸中の幸いに分類されるものであり、佐倉杏子からしてみれば悪夢でしかない。

 瞳を凝らして病院を見ると、何やら一室だけ光が灯っている。 
 あれでは参加者がいることを堂々と宣伝していることと同義である。佐倉杏子は溜息を零す。
 血痕も続いているため――負傷している参加者が居るのだろう。

「世話がかかるな……ってあたしは他人のこと言えないんだけどさ」


350 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:13:24 ouqcyJSg0

◆――



この感覚は――後藤、か



――◆


351 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:14:00 ouqcyJSg0

 南へ向かうウェイブだが、やはりマスタングの動向は気になっていた。
 気になっていた。と言うよりも田村玲子が彼と遭遇した地点が近かったことと放送で名前を呼ばれたこと。
 それらを結びつけると彼はその近くで死んだと嫌でも連想してしまう。

 聞いてしまえば後は行動するだけだった。
 小泉花陽の死も気になる。狡噛慎也もだ。隊長であるエスデスが死んだこともにわかには信じ難い。
 忌まわしく記憶を植え付けられたエンヴィーも……キリがない。

 ウェイブの身体は一つだ。
 行動するにも分裂出来ない人間となれば、一つの方角へしか進めない。
 判断材料は田村玲子の情報のみ。言い換えればロイ・マスタングの目撃情報しかない。

 ならば。

 行くのは必然的に南へとなった。
 確認――することがあるかと聞かれれば、特段は無いだろう。
 死体の埋葬ぐらいか。何はともあれ情報が手に入ればいい。
 マスタングとは殺し合いで出会った仲間である。殺されたと聞けば、黙ってはおけない。
 クロメを殺害したキンブリーは死んでいる。しかし、マスタングを殺した犯人は生きているかもしれないのだ。

 犯人は現場に戻ってくる。なんて説もあるぐらいだ。もしかしたら出会えるかもしれない。
 その時は――心臓が跳ね上がる。

 何かが迫っている。
 暗闇だろうと感じる。それは殺気と呼ばれる波動だ。
 確実に、獣が迫っている。そしてこの感覚は知っている、そうだ、彼は知っている。
 
 会いたくない。
 この手で殺せると思えば幾分かは気が晴れるだろう。とてもそんな気分になれるつもりはないが。
 さて。バッグから剣を取り出すと、ウェイブは一呼吸置いた。
 借りはある――いや、マスタングが世話になったと言うべきか。

 もしかしたらこの男がマスタングを殺したのかもしれない。そんな結末さえ思えてくる。
 無論、彼が負けるなど信じ難いことであり実際に手を下したのはエスデス――ではなく、彼自身であるのだが。
 

「こっから先は行かせねえぞ……後藤ッ!」


 迫る獣に対し天高く剣を掲げたウェイブは叫ぶ。
 悪名高きナイトレイドの実質単体戦闘能力ならばあの村正を操るアカメと対をなすブラートが所有する帝具を握り締め。
 
 悪名高き――そんなものはどうでもいい。現にアカメとの交流でナイトレイドが真の犯罪組織という考えは消えかかっている。
 無論、犯罪組織に変わりは無いのだがそこに義は存在していた。

 今宵だけは悪鬼を纏う修羅と成り果てよう。
 情けない話だが敵対する獣は強い。油断など出来ず、殺すならば悪魔に魂を売る覚悟無ければ勝てない。
 地獄に片足を突っ込んででも倒す相手だ。そうもしなければ更に死者は増えるだろう。

 叫べ、勝利を掴むために。

 インクルシオの名前を。


352 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:15:00 ouqcyJSg0


◆――



ご丁寧に病院内にも血の跡がありゃあ……。


手術室に誰かが居るってことか。



――◆


353 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:16:50 ouqcyJSg0

 偶然が何重にも重なればそれは奇跡となり得る。
 後藤は東の騒動――放送前に起きた御坂美琴を始めとした混戦の波動を感じ取っていた。
 あれだけ爆音が響き、何度も発光していれば遠く離れていても、嫌ほど目立つ。
 暗闇が余計に光の奇妙さを演出していた。無論、明るくては空を翔けるイリヤの姿が目に止まっただろう。

 戦闘が発生した時点で、後藤は誘われていた。
 駆ける足は東へ向かう。けれど、禁止エリアの存在が獣の動向を制限してしまった。
 仕方なく北上を選んだ所で――男が、一人の男と遭遇してしまう。見たことのある顔だ。

 殺し合いとはその名の通り生命を賭けに暴れまわる生存本能の競い合いである。
 目の前に現れてしまえば――例外なく敵となり、獲物だ。餌だ。糧だ。

 
「何度やってもお前は俺に……やってみろ」


 ウェイブの印象が残っているかと聞かれれば、特段の個性は無かった。
 ロイ・マスタングのような錬金術。御坂美琴のような超能力。DIOのようなスタンド。
 持ち主を鏡として写す異能を持っていないウェイブは後藤にとって単なる障害物程度の存在である。

 生き残っている点を考えれば充分強者の分類に入るだろうが、そんなことは関係ない。
 敵に大小の優劣は無い。楽しませてくれるのか、それが問題であり、生物としての本能だ。

 そんな男が、今、一つの力を持って立ち塞がる。
 面白い、そうでなくてはつまらない。と、言葉が溢れる。

 人間離れした脚力を以って大地を跳ぶと、前方のウェイブへ向かい拳を振り下ろす。
 迎撃の構えが取られており、拳が衝突すると彼ら周囲の砂塵が衝撃によって舞い上がる。
 浮いていた後藤は着地すると更に拳を繰り出し、相手も拳で対抗しその場で打ち合いの応酬が始まった。


354 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:18:12 ouqcyJSg0

 一発一発が必殺級の威力、重さを兼ね備えている。
 油断すれば互いの身体に甚大な衝撃が走る。寄生生物と云えどあくまで寄生に過ぎないのだ。

(身体が人間だって言うのなら不可能なんてあり得ねえ)

 田村玲子から聞いた寄生生物の話。
 泉新一と後藤。彼らは人間であり、人間では無い。けれどその身体は紛れも無く人間である。

「行かせねえ……こっから先へは絶対に!」
「誰が居るのかは知らんが、邪魔をするのならお前が死ね」

 悪鬼と獣の争い。
 互いに背負っている物があるのだろう。
 それは誇りなのか、夢なのか、他者の想いか。

「その鎧を装着し守りを得たようだが、足りん」

 嵐のような応酬が崩れた。
 後藤が上体を屈ませ一瞬の隙を狙いウェイブの懐に入り込むと、起き上がりと同時に腹へ膝蹴りを放つ。
 速度を乗せた一撃を受けウェイブの身体は折り曲がるが、インクルシオは砕けない。

「捕まえたぜ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 逃がすものか。
 足を掴んだウェイブは全身に力を込めると、その場で回転し後藤を放り投げた。
 まだだ、手を緩めない。

 投げ飛ばした後藤を追い掛けるように自分も走りだすと、跳躍し後藤の顔面に拳を叩き降ろす。
 決まれば獣の顔面は砕け散り、決して無視することの出来ない衝撃が身体の中を駆け巡るだろう。
 それは決まればの話であり、決まらなければ意味は無かった。

「調子に乗るな」

 既に後藤の頭部は刃物のような形状へ変化していた。
 ウェイブが拳を叩き降ろすよりも速く彼の肩に刃物が突き刺さっていた。

 突き刺した刃物を起点に体勢を立て直すと、ウェイブ毎持ち上げ――彼の身体を大地へ叩き付けた。

 刃物が抜け球体のように地面を跳ねるウェイブ。
 インクルシオを纏っているためその表情を伺うことは出来ない。
 しかし肩の装甲は一部剥がれ落ちており、その箇所から覗く赤い鮮血が彼の損傷を表していた。

「負けてらんねえ……お前を生かせば誰かが死ぬ。許せねえ、もう、誰も死なせねえ!!」

 数度目のバウンドでやっと受け身を取ると、すかさず後藤を視界に収める。
 前方には刃物の触手が迫っており、対抗するべくバッグから剣を取り出し弾き返す。
 何度も迫る刃物を、こちらも何度も何度も何度も。

 埒が明かないのは解っている。
 だが、手を緩めれば刃物がインクルシオを貫いてしまう。
 守ったら勝てないが、守りを捨てれば負ける。
 
 ならば、守りながら攻めればいい。


355 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:18:40 ouqcyJSg0

 刃物を捌きつつ走るウェイブ。
 何度弾き返しても攻められるならば、その嵐を突っ切るしかない。
 金属音が闇夜に響く中、悪鬼は目の前の敵を倒すために全力を尽くし、走る。
 
 やれ。
 この場で後藤を仕留めなければ近隣に居るであろう佐倉杏子と田村玲子が危ない。
 その先に居るであろうエドワード・エルリックや泉新一達、本田未央達にも危険が及ぶかもしれない。

「ラァ!!」

 両腕で握り締めた剣で刃物を弾き返すと、後藤は頭部を元の状態へ戻しウェイブ目掛けて走り出した。
 本来ならば数本の触手で嬲り殺すところだが、生憎、今は一本しか生み出せない。
 手数で負けるならば、より近接に特化した人間の状態で対応するのが最も最良の策だ。

 腕を組み槌のように振り下ろす。
 その一撃を剣で受け止めるも、全身に衝撃が響き大地へ軽くウェイブの足がめり込んだ。
 後藤は右腕を鞭のように撓らせるとウェイブの顔面を捉え彼を吹き飛ばした。

「期待はずれだったな」

 既に後藤は跳躍しウェイブの上空へ移動していた。
 追い打ちを掛けるように、殺意を込めて彼の身体へ着地する。

 大地には月面クレーターのような凹みが出来上がり、インクルシオの装甲は腹の箇所だけ剥がれ落ちていた。

 紫へと変色した腹が深刻さを演出する。
 臓器が潰されたか、骨が折れたか。
 それは解らない。けれど一つ解ることと云えば、ウェイブが敗北したことである。


356 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:20:10 ouqcyJSg0

◆――


強い。

いや、俺が弱いのか。

情けねえ。

はは……さて。

悪いな、クロメにセリュー、マスタングと花陽。それにみんな。

俺はまだそっちへ行けない。

せめて――後藤一人ぐらい、倒してからな


――◆


357 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:20:41 ouqcyJSg0

 万が一の自体だって有り得る状況だ。
 手術室の前に辿り着いた佐倉杏子は念の為に魔法少女へ変身し、槍を構えた。

 血の跡から察するに怪我人がこの中に居るのだろう。
 普通に考えれば正しい。何も可怪しいことはない。
 けれど、殺し合いの中で正しいと信じれる事象は存在しない。
 全てが最悪の未来を超えて結末に繋がると考えなければ、簡単に死んでしまう。

 罠の可能性を考えた彼女は、手術室の扉を蹴破り突入した。

 扉が適当な壁に衝突すると、その後に続いて彼女も部屋に侵入――すると、一人の少女が震えていた。
 無論、少女と云えど佐倉杏子よりは年上だ。綺麗な黒髪、そんな印象を受けた。

「心配すんなあんたの敵じゃ――ってそいつ重症じゃねえか!?」

 明らかに警戒されているため、緊張を解こうと軽口を叩くものの、視線は担架に集まってしまう。
 眠る男性の周辺には血が溜まっている。ある程度は消毒され、応急処置を施されているのは見れば解る。
 しかし、絶体絶命の状況と云うことも見れば解る。

「なあ、此処に運んだってことは手術出来るのか?」
「出来るならとっくにやっているわ……っ」
「だろうな……ぅ、どうする……?」

 残念ながら佐倉杏子に医療的な知識は皆無である。
 聖職者の家系らしく祈って神に男性の生命を――そんなことで救われるならば殺し合いなどとうに破綻している。
 黒髪の少女がここまで男性の延命を図ろうと必死に助けたのだろう。
 その行いは確実に男性を救っている。しかし、最後の一押しが足りていない。

 何をすれば彼は助かる。
 手術など不可能だ。一瞬で傷を無くせる技術も設備も無い。
 
「……はぁ、やるしかないか」

 どうせ放っておけばこの男性は死ぬ。
 ならば、何も行動しないで見殺しにするよりも全力を尽くした上で、その最後を見届けたい。

「何をする気なの……まさか、助け――」
「れるかどうかはわからない。
 ほら、教わるよりも見て盗めって言うじゃん? もし失敗したらあたしじゃなくて師匠を恨めよ」

 奇跡や魔法。
 それらは確実に存在する。
 例えその先が暗い絶望だったとしても、その瞬間だけは眩しい程の希望である。

「力を貸してくれ――マミさん」


358 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:21:15 ouqcyJSg0

◆――



可怪しい。


何故、下から血の到達音が聞こえる……?



――◆


359 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:23:06 ouqcyJSg0

 倒れたウェイブを見下す後藤の瞳はこれから焼却されるゴミを見るかのような、欠片一つの興味さえ抱いていない濁ったものだ。
 朽ち果てる生命に何も惹かれず、黙ってゴミを処理するだけだ。言葉すら必要無い。

 インクルシオを纏った状態ならば少しは楽しめるかと思ったか、期待はずれ極まりない。
 この男に割いた時間を活用すれば更なる強者との出会いがあったかもしれない。
 好機を潰したウェイブに対し、後藤が思うことは何もなかった。

 強いて言うならば、期待はずれだの時間の無駄なの。
 それらの感情を持つぐらいには人間に近付いているのかもしれない。と、自我が告げていた。
 人間に寄生してからどれだけの時間が経過したのだろうか。
 認めたくは無いが、その思考はもしかすると人間寄りに若干は傾いたのかもしれない。

 無論、空想上の哀れな末端論であり、証拠も事実も存在しない。

「多くの人間を見てきた。その中には明らかに人間を超える異能を持った奴らもいた。
 だがお前は……人間だった。武を少し囓った程度の脆い人間だった。人間の限界だ、死ね」

 再び頭部を刃物へ形状変化させると、その生命を刈り取るために首へと差し向けた。
 インクルシオの装甲だろうが、強い衝撃を与えれば砕ける。剥がれ落ちている腹と肩が物語っている。

 少量の休憩を取ったところで、ウェイブの力は、体力は万全に回復した訳では無い。
 比較的激戦に関わらず、巻き込まれたとしてもそこまで大きな戦闘は個人的に行っていなかった。
 だが、積み重なった疲労は確実に彼の身体を蝕んでいる。

 もし。

 体力が万全だったならば。
 グランシャリオが健在だったならば。
 精神的にも万全だったならば。

 結果は変わっていただろう。


360 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:24:56 ouqcyJSg0

 しかし、それは残念ながらもしもの話だ。
 現実を見ろ。ウェイブは敗北し、後藤に殺される寸前だ。
 正義の物語は何も全てが英雄の勝利とは限らない。
 死ぬのが現実であり、人間としての逃げられない義務であり、運命である。

 ――このまま、死ねるか。俺はまだ終わっちゃいねえ。

 苦し紛れだ。
 後藤の刃物が首へ到達する寸前に剣を割り込ませ、死の瞬間を弾く。
 首は健在だ。けれど衝撃によってウェイブの身体は大地を転がるように飛ばされた。

「まだ息があったか……しぶとい人間だ」

 後藤が歩む。
 一歩一歩と次こそウェイブを殺すために。
 
「しぶとい、か。お前に褒められても嬉しくないね」

 剣を杖代わりに立ち上がる悪鬼は、声を振り絞る。
 まだ死ねない。勿論、死ねる程の一撃をもらってはいない。
 彼の中の心が、魂が疲れた身体を奮い立たせる。

「やられろよ――化物」

 何だこの男は。後藤が率直に思った感想である。
 強がりな啖呵を切ったところで、何が出来ると言うのか。
 くだらん。所詮はパーフォマンスに過ぎない。と、まるで興味を示さない。


「力を貸してくれ――俺に!!」


 バッグに剣を仕舞い込み、新たな武器を取り出し左腕に装着する。
 その帝具はかの将軍が、殺し合いでは◆◆◆が使用していたあの帝具だ。
 殆どが崩壊した武具を用い、ウェイブは吠える。


「帝具の二重使用だろうが――やってやる」


 帝具とは本来、相性が良くなければ扱える代物では無い。
 無理に扱えば使用者は死ぬ。故に限られた者達しか持つことすら許されないのだ。
 更に追い打ちを掛けるのが体力の消耗――単体使用でも難しい帝具を二重に使用したとしたら。


 それは限界を超えた者だけに許された奇跡の降臨である。


 彼の叫びに応えたインクルシオが成長を促し、


 魂の呼応に反応した雷神が今此処に混じり合い――雷鬼が現界する。


361 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:25:27 ouqcyJSg0

 左腕に雷光を纏った雷鬼が獣へ駆け出した。
 対する後藤は触手を向かわせるものの、篭手に防がれてしまい金属音が響く。
 その直後にバチバチと雷光が弾け飛び、獣が怯んだ一瞬の隙を突いてウェイブは懐に潜り込む。

「もう――離さねえから覚悟しろ」

 空気を斬り裂くように突き出した左腕は後藤の首を掴んだ。
 雷光を走らせ、獣は発声どころか呼吸さえままならない状況に追い込まれる。
 動く手足や触手で雷鬼に攻撃を加えるものの、彼は止まらない。

「■■■■■■――!!」

 声にならない叫びだ。
 後藤が目にしたのは瞳の装甲が剥がれ落ちた雷鬼。
 その瞳は死んでおらず、未だに明日を見つめる光の潤いを得た覚悟が宿っている。
 そしてそれは――幾度なく立ち向かって来た参加者達と同一のものでもある。

「まだまだああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 攻撃の手を止めるな。相手に反撃の隙を与えるな。
 後藤を掴んだ腕に一段と力を込め、一歩、一歩と確実に足を進める。
 やがてそれは加速し徒歩から走りへ――雷光のように闇夜を照らす閃光となる。
 開放しろ、己の中に眠る野生を、鎖を解き放て。

 元々ウェイブと後藤が遭遇したのは市庁舎から南の地点だ。
 更に獣を遠ざけるべく雷鬼は南へと誘導を行い、他者を巻き込まないように戦闘を展開していた。
 そして今は獣を更に南へ押し込まんと走り続け、誰にも被害が及ばないようにしていた。

 奇跡である。

 現に会場の南西には参加者が一人して滞在していない。
 彼らの戦闘に割って入るとすれば一部始終を見ていた参加者に限られる。

『禁止エリアに接触しています。エリアに滞在する場合は三十秒後に首輪が爆発します』

 首輪の警告が響き、後藤の瞳に一段と危険の灯りが見える。
 幾多に攻撃を加えようと雷鬼は止まらず、鬼神の如き勢いで走り続けているのだ。
 しかし首輪の爆発となれば――見過ごせるものでは無い。

 数々の異能や会場に瞬間移動した主催者の技術を考えると、首輪の爆発は死を意味する。
 決して抗うことの出来ない現象だ。それは獣と云えど例外では無い。

 触手をウェイブの首に纏わり付け、息を止めようとするが雷鬼はこれでも止まらない。
 そして――後藤が開放される時が訪れる。無論、無傷では済まない。


「ソリッド……吹き飛べえええええええええええええええええええええええ!!!!」


 足と止め、大地に突き刺すように踏ん張り、現界にまで溜め込んだ雷光を放出する。
 吹き飛ばせ、全てを。
 吹き飛ばせ、獣を。
 吹き飛ばせ――悪を。

 その瞬間は時が止まったように全ての音が消えた。
 辺りを飲み込む雷光が全てを照らし、気付けば轟音が響き渡る。


362 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:26:14 ouqcyJSg0

 DIOの館を突き破り、奥側の壁に衝突したところで後藤の動きは停止した。
 身体は黒く焦げ、内部が焼き切れたのか煙が発生している。
 ガラガラと瓦礫と共に崩れ、獣が雄叫びを挙げることは無かった。

「やったぜ……っと、た、おれたら首輪が爆発しち、ま、、う」

 後藤を吹き飛ばした雷鬼の左腕は粉々に崩れ落ちた。
 雷神憤怒アドラメレク――帝都が誇るブドー将軍の帝具が今此処に眠る。
 インクルシオは砕けていないものの、ウェイブの体力が現界に近いために解除となっている。

「ありがとうございました」

 それは誰に向けられた言葉なのか。
 此処まで自分を鍛えてくれた将軍か、雷神を操る将軍か。

「俺は……ちょっとは、がん、ば、れたよな」

 それは誰に向けられた言葉なのか。
 友か、仲間か、戦友か。
 ウェイブのみにしか解らない言葉であり、聞いているのは寄生生物だけである。

 後は、このエリアを去ればウェイブの完全勝利だ。
 まだ死ぬ訳にはいかない。まだ、会場には悪が蔓延っており、怯える参加者がいる。
 全てを終わらすまで、その生命を燃やし尽くす訳にはいかないのだ。

 一歩、一歩と歩み続ける。
 爆発の時を刻む首輪が残り十の針を動かす寸前に、エリアから離脱する一歩を踏み出せない。


「足がうごか――ッ!?」


 信じられなかった。
 気付かぬ間に左足には蔦が絡まっており、一歩も踏み出せない。
 一刻と爆発の足音が近づく中、ウェイブの心臓が急激に速度を上げ危険の信号を鳴らす。



「ご……ッくそ!!」



 馬鹿だ。
 何時から後藤が死んだと思い込んでいたのか。
 全ての可能性を潰すまで――首を取るまで安心してはいけなかった。

 声帯を潰されても、全身を雷で焼かれても、その瞳は死んでいない。
 ハーミット・パープルのスタンドを用いてウェイブを足止めし一緒に――いや、彼を殺し、自分は脱出する魂胆だ。

 口を開き明け、ウェイブの肩に喰い付く構えを取る。
 殺す。こいつだけは絶対に殺すと獣から覚悟が迫るのだ。

 首輪が爆発する前よりも速く飛び付き――獣が目にしたのは同じ獣だった。


「滑稽な姿だな、後藤」


363 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:27:04 ouqcyJSg0

◆――



この女は何を気にしている。


後は死ぬだけだと……そうか。


奈落にも底があるのだな。



――◆


364 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:27:50 ouqcyJSg0

 人間に寄生しただけだ。
 それは身体が人間であり、感情や心もまた、素体は人間である。

 独特な感情を持ち、情に揺らぐ人間とは謎な生命体であった。
 しかし寄生し、生きていく間に。
 本当に気付かない間だったが、どうも影響されている節がある。
 
 それは徐々に明るみを帯びて表へ進出し始める。
 初春飾利の名前が放送で呼ばれた時――今までに無い感情を抱いた。
 西木野真姫が呼ばれた際にも抱いた感情だが、たった一つの生命が失われただけだと云うのに。
 何故だか、説明は出来ないものの、少しの間だけ口を開かず言葉を詰まらせていた。

 人間で表すところの悲しみだろう。
 けれど、寄生生物である田村玲子がその感情を抱いただろうか。
 一概にYESとは言えない。

 己の精神に答えが出せないまま、佐倉杏子が市庁舎を出て行こうとした時に、閃きが生まれる。
 彼女は大切な存在が放送で呼ばれたのだろう。故に精神が不安定状態になっている。
 言葉は刺々しく、強がってはいるが瞳は悲しみのブルーを帯びたままだ。
 助けを求めているが、素直になれない。

 そう――素直になれない。

 誰か助け舟を出さなければ、何れ佐倉杏子は壊れてしまう。
 再集合の提案をし、落とし所を作り、振り返る。

 寄生生物は人間が理解出来ない。
 それは歩み寄ろうとしていないだけである。
 観察対象にしようと、それは上から見下した発言だ。

 自分達は人間と違う。
 寄生し、コントロールを奪い、所有権を獲得した。この時点で自分達が上の立場だと認識していた。
 しかし、寄生生物と云えど寄生対象が無ければ終わりだ。犬にでも寄生してしまえば――終焉は簡単に訪れる。

 寄生生物は決して人間より格段と上の存在では無い。

 彼らと同じで独りでは生きていけず、寄り添い合い生きていく。


 ――そうか。

 
 一つの答えが弾き出される。


 ――素直になれていないのは……。


 そして、彼女は後藤の波動を感じる。
 地点は此処から近い――ウェイブが居る南だ。
 距離も何とか視認出来る。今ならば間に合う――間に合う。


 ――死者が出るのは、決して嬉しくは無い。


365 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:28:46 ouqcyJSg0

◆――



我々は、生きている。



――◆


366 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:29:23 ouqcyJSg0

 刃物と化した触手でハーミット・パープルを斬り裂くと、ウェイブを少々乱暴に押し飛ばす。
 彼を安全な――禁止エリアから脱出させつつ、己は後藤に接近し獣の動きを止める。

『禁止エリアに接触しています。エリアに滞在する場合は三十秒後に首輪が爆発します』

 構うな。

「お、おい! 田村、何してんだよ!?」

 構うな。

「■■■■■■■■■■■ッ!!」

 構うな。

 後藤の動きを触手で絡め封じ、最後の言葉を告げる。

「お前は生きろ。
 生きて、生き延びろ」

「だから何言って、俺も――ッ!?」

 現界だ。
 腕を伸ばそうと、走り出そうと。
 脳が指令を送っているのに、身体が反応しない。

「お前が死ねば悲しむ者がいる。私はいない」


367 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:30:28 ouqcyJSg0

 ウェイブは膝を崩す。
 立っているだけでも現界だ。元より禁止エリアから脱出するのも地力では瀬戸際だった。
 最早、彼に田村玲子を救う力は残っておらず、後藤を追い込んだところで役目を果たし終えた。

「何言ってんだよ……ふざけんな!!」

 叫ぶ。
 それしか出来ない。
 何と無力だろうか、男はただ、叫ぶことしか出来ない。


「俺や佐倉杏子が……泉新一、それにお前が話してくれた西木野真姫や初春飾利だって悲しむに決まってるだろうが!!」


 

 ――そうか。



 と、言葉は風に流された。
 口元が緩み、人間で表す笑顔とやらが田村玲子に浮かんでいた。

「哀れだな」

 目の前で暴れ狂う獣が一匹。

「お前の首輪はもう直爆発するだろう」

 現実を受けいることの出来ない獣が暴れ狂う。

「解らないのか、後藤」


 首輪の針が止まる。
 田村玲子の首輪は動き続けるが、後藤に残された時間は無い。
 声帯を破壊され、肉体も再起不能に追い込まれた獣が最後に目にしたのは奇しくも同じ寄生生物だ。
 しかし、最後の表情は対照的であった。

 もがき続ける獣と、答えを得た獣。

 同じ寄生生物と云えど、歩んだ道と出会いが異なれば。

 独りを選ぶか、寄り添うか。

 生物として――違いが生まれる。



「お前は人間に負けた」




 そして――DIOの館が爆発に包まれる瞬間を、ウェイブは黙って見るしか、選択肢は存在しなかった。




【後藤@寄生獣 セイの格率 死亡】
【田村玲子@寄生獣 セイの格率 死亡】


368 : 可能性の獣 :2016/06/20(月) 01:32:01 ouqcyJSg0

【B-5/二日目/黎明】





※会場南西に後藤及び田村玲子のデイバッグが飛ばされました。





【ウェイブ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(超絶大)、ダメージ(絶大)、精神的疲労(大)、左肩に裂傷、左腕に裂傷、全身に切り傷、腹に打撲
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0〜3(セリューが確認済み)、南ことりの首輪、浦上の首輪
タツミの写真詰め合わせ@アカメが斬る!
[思考・状況]
基本行動方針:ヒロカワの思惑通りには動かない。一度自分達の在り方について話し合い、考え直す。
0:……生命を無駄にしない。
1:市庁舎に戻る。
2:地図に書かれた施設を回って情報収集。脱出の手がかりになるものもチェックしておきたい。
3:工具は移動の過程で手に入れておく。
4:盗聴には注意。大事なことは筆談で情報を共有。
5:みんな……。
[備考]
※参戦時期はセリュー死亡前のどこかです。
※クロメの状態に気付きました。
※ホムンクルスの存在を知りました。
※自分の甘さを受け入れつつあります。


369 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:32:56 ouqcyJSg0

 落下する。
 それまでの間に今までの記憶が蘇る。
 なる程、これが走馬灯か。と、一人で納得するアカメであったが、異常事態が訪れる。

 聞こえる。
 遥か彼方の奥底で血液が付着する音が、耳に聞こえるのだ。
 下は奈落――そう思っていたが、違うようだ。

 そうなれば、動くまで。
 キング・ブラッドレイと共に死を覚悟し受け入れたアカメであったが、どうやらまだ生きる道が残されている。
 壁に剣を差し込むと落下にブレーキを掛け、延命措置を図る。

 まだ、生き残れるのなら。
 最後まで生き残り、死んでいた者達の意思を受け継ぎ、この殺し合いを葬るまで。




 その光景を見ていたキング・ブラッドレイも異常事態に気づく。
 彼とて最早全てを出し尽くし後は死ぬだけだと悟っていた。

 落下する最中、今までの人間として生きていた生を振り返っていたが――彼も剣を壁に突き刺す。
 
 
「止まれ」


 アカメの声が暗い空間に響く。
 対するブラッドレイは黙ったままだ。

「止まれ」

 剣が悲鳴を上げている。
 折れさえしないものの、誤った使い方であることに違いは無い。

「止まれ」

 気付けば目視で床が見え始めた。
 もしかすれば他の参加者がいるのかもしれない――狡噛慎也も生きていれば――それはあり得ないが。


「止まれ……止まれえええええええええええええええええ!!」


370 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:33:44 ouqcyJSg0

 ギリギリまで速度を落としたところで両者は剣を引き抜き、受け身を取る。
 無論、衝撃は身体を駆け巡り、先の戦闘の傷が癒えない彼女達の身体はとうに限界である。
 立ち上がり――両者、再び相見える。


「第二ラウンドか……まさかこんなところで殺し合うとはな」

「関係ない。キング・ブラッドレイ、お前を――葬る」


 アヌビス神が、アカメが、泉新一が、ミギーが勝ち取った勝利。
 しかし奈落へ落ちるブラッドレイは最後の最後まで壁として立ち塞がり、アカメごと落下した。

 既に死者の覚悟を決め、半ば冥府の門へ身体を染み込ませた彼女達が――最後の剣戟を誰も見ない奈落で演じる。
 全てが達人の動きだ――観客がいるならば、しかと刮目し眼球に焼き付かせ。

 始まりは同じだった。
 一斉に駆けると交差する寸前に剣を振るう。
 他者の存在しない空間には剣と剣が衝突し合う音が遥か彼方、何処までも響く。
 
 足を止めその場で剣戟が始まる。
 左に動かせば右から追い掛け、上から振り下ろせば下から斬り上げる。
 何度も、何度も。
 互いに剣を生業に生きて来た者だ、簡単にどちらも負ける訳にはいかない。

 両腕で握り締めた剣が拮抗し鍔迫り合いが生まれる。
 汗がどちらも床へ落下し、必死は変わらない。


「此処まで剣を極めた者と戦えるとはな。
 前も思ったがよくぞ此処まで極めたな、アカメ」

「――葬る」

 
 拮抗が崩れ流れるように反対方向へ動く者達は、足を踏ん張り無理やり振り返った瞬間に剣を振るう。
 互いに首を狙ったが空中でぶつかり合い、刀身から全身へ衝撃が駆け巡り苦痛の表情が浮かぶ。


371 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:34:50 ouqcyJSg0

「辛そうだが、限界かね」

「――葬る」

 一度剣を戻したブラッドレイは瞬速の突きを繰り出しアカメの瞳を狙う。
 しかしアカメは寸前に首を振るうことで回避し、ブラッドレイの突きは彼女の髪を射止めるだけとなった。

 懐に飛び込んだアカメは肘打ちを行うもブラッドレイの膝に防がれる。
 激痛が走り、肘から骨の折れる事が聞こえるも無視してその場から離脱。
 紫色に膨れ上がる肘などお構い無しに剣を構え直し、葬ると呟き走り出す。

 剣に血液を乘せ振るうも――既にその技はブラッドレイに試している。
 同じ技はあの目には通用せず、剣を上にかち上げたブラッドレイは距離を詰め左拳を突き出す。

 アカメは空いた左腕で防ぐも、ブラッドレイは打撃と剣撃を織り交ぜ、彼女を後退させゆく。
 やがて壁際まで追い込み、終わりだと謂わんばかりに剣を振り下ろす。

「――む」

 しかし、その場所にアカメは立っていない。
 ならば何処へ逃げたのか。考えるまでもなく――上だ。


「――葬る」


 壁を蹴り上がったアカメの奇襲はブラッドレイに防がれるもの、その勢いを殺すこと無く猛攻を仕掛ける。
 着地と同時に身体を下げ足払いを行う。後退され失敗。
 起き上がり様に剣を振り上げるも、元より空振りの距離だ。

 両腕で握り直し振り下ろすも防がれる。
 鍔迫り合いを強引に流し切り、右へ駆ける。
 すれ違い様に斬り付けるもブラッドレイは剣を縦に構えることで防ぐ。


372 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:35:51 ouqcyJSg0

 再び向かい合った瞬間に剣戟が始まるも、刃は両者に届かない。
 けれど、傷口が開き血は流れ続ける。二人に残された時間など分単位であるかも怪しい。
 いや――ブラッドレイが優勢だ。体力も、失った血の量も少ない。
 もしこれが地上での戦闘で彼が勝利していれば、他の参加者に襲い掛かる余裕はあっただろう。

 防がれたアカメの剣はブラッドレイの刀身を滑り、上へ開放されると手放し肩で突進を行う。
 不意打ちにより口から血反吐を吐くブラッドレイ。更にアカメは休むことなく踵を振り下ろす。
 その一撃を剣で防がれ、刀身に触れたことにより足の裏側に一筋の傷が生まれるも、手を休めるな。

 落ちて来た剣を掴むとブラッドレイの剣に衝突させ、その反動を利用し敵の範囲から離脱。
 ――と見せ掛け、上体は動いているものの、下半身は一切動いていない。
 奇襲だ。上体を重力に逆らい無理やり動かしたところで右腕を振り払う。


「そうか、類まれなる戦闘技術と発想……完成された能力か」


 ブラッドレイが防いだアカメの一撃に剣は握られていない。
 彼の目の前に浮かんでいる剣が物語っている――アカメは右腕から剣を手放していた。
 残る左腕で掴み――ある種の美しさすら感じさせる流れはそのままキング・ブラッドレイの左肩を斬り裂く。
 
 だが、踏み込みが足りない。
 浅い、致命傷には程遠い。けれど、確かにその一撃は届いた。
 
 しかし。

「限界か」

「くっ……まだだ、まだ戦え、る」

 胸に手を当てる。
 ミギーに塞いでもらったとは云え、傷が完全に癒えた訳ではない。
 絶え間なく動き続ける身体と開き続ける傷口。
 消耗は間違いなくアカメの方が深刻であり、剣戟も長くは続かない。


「次で――葬る」


 ――みんなの力を、貸してくれ。


「迎え撃とう――来い」


 剣を構える音がよく響く。
 互いの呼吸音すら耳を澄まさなくても透き通る。


373 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:36:23 ouqcyJSg0

 最早互いに肩で息をしている。次の剣戟が終演となるだろう。
 
 最初に動いたのは――アカメだ。
 瞬速で距離を詰め、全力を込めて剣を斬り上げる。

 ブラッドレイがその一撃を防ぐが――アカメの剣撃に圧され彼の握る剣が宙を舞う。
「――葬る!」
「させん!」
 追撃を掛けるアカメより速く動いたブラッドレイは彼女の腕を蹴り上げ、自分と同じように剣を宙へ蹴り上げる。
 徒手空拳の応酬となり手数で攻めるアカメと軍隊で鍛え抜かれたブラッドレイの力がぶつかり合う。
 互いに構えや素材は違えど極めた実力に変わりは無く、どちたも決め手を与えられない。

 懐に忍ばせたナイフを用いるもブラッドレイの目に勘付かれ、手刀で叩き落とされる。
 顔を歪めるも、怯んでは負ける。
 拳を突き出し、回避され、追撃を行い、防がれても、拳を更に突き出す。

 空中で互いの拳が衝突し――剣が落ちて来る。


 アカメが握ったのはブラッドレイの剣。
 ブラッドレイが掴んだのはアカメの剣だ。

 


「――葬るッ!」



 アカメが剣を振り下ろし、ブラッドレイが防いだ時。
 彼の握る剣は既に限界を迎えており、その刀身は砕け散った。
 無理もない――先端が欠けている中、よくぞ此処まで保っただろう。

 運命とは皮肉なものである。
 先にアカメが使用していたその剣――手を離れなければアカメの刀身が砕けていただろう。

 武器を失い、裸となったホムンクルスに今、天に上がったアカメの刃が振り下ろされた。
 ブラッドレイの身体に裂傷を刻み、溢れ出た鮮血が全てを物語っていた。



「見事」



 一言。
 その一言だけを呟き、前のめりに倒れるブラッドレイ。
 全力を使い果たしたアカメは勝利を確信し気が緩んだのか、笑顔のまま、彼女も倒れそうになる。


374 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:37:03 ouqcyJSg0

 最後まで勝利を信じていた。
 その視界は既にキング・ブラッドレイを捉えていない。
 勝った――役目を果たし全開を出し切った彼女は最後まで己の勝利を疑わなかった。


 故に砕け散り宙に浮いた刃を、キング・ブラッドレイが咥えていたことに気付けなかった。


 倒れこむブラッドレイはアカメの首を斬り付け――声も出さず、死を認識しないまま、彼女は倒れた。
 致命傷――助かる術は無い。


 ――やったよ、みんな。
 最後に唇が、そう動いていたのかもしれない。


 少女の一撃は確かにキング・ブラッドレイを斬り裂いた。
 そしてキング・ブラッドレイが少女を殺したのも事実である。

 最早立つ力すら残っていない彼は床に倒れこむ。
 傷は深い――が、まだ死ねる段階には至っていない。
 これぐらいならば適当に止血させ済ませば、自然治癒でどうにかなるだろう。
 無論、それは絶対安静の状態が前提であり、動き周り、ましてや戦闘など行うのは論外である。

 死に場所を見失った。
 このまま黙って死ぬのも、一興ではあるが、それでは――そんなことを考えていると足音が聞こえる。
 この場に居る参加者など他に居るのだろうか。
 早い段階で落下し、生き延びている可能性もあるが此処はやはり――主催者の存在が頭を過る。

「やはり絡んでいましたか――父上」

 その来訪に驚きはしなかった。
 寧ろ、今までよく表舞台に現れなかったとも思う。
 さて、言いたいことがラースには山程残っている。
 何故殺し合いを開催したのか。プライドやエンヴィーはどうするのか。
 死者の蘇生は人体錬成を用いたのか。ロイ・マスタングは死んだがどうするのか。

 何から聞こうか――考えている間に主催者が口を開いた。


375 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:38:30 ouqcyJSg0

「お前にはまだ動いてもらう。
 参加者がまだ残っている――減らせ」


 下された命令に従うのか。
 既にラースは勝手に行動しており、人柱も消えた今では計画は破綻しているのではないか。
 キング・ブラッドレイとして動いている彼に今更、フラスコの中の小人の命令を聞く通りは無い。


「――! これは……まさか」


 倒れているブラッドレイを囲むように円状の光が浮かび上がる。 
 包まれる最中、彼は何処か既視感を覚え――先に父上が口を動かした。


「お前も見たことがあるだろう。錬金術とは異なる力だ――これは魔法」


 これから何が起こるかなど、フラスコの中の小人しか理解出来ないだろう。
 キング・ブラッドレイは現状に身を委ね、口を動かすことを諦めた。
 魔法の光に包まれる中――彼が最後に聞いた言葉は、不思議と耳に残っていた。


「聞きたいこともあるだろうが――知りたければ後二人の参加者を殺せ。
 他の参加者は東へ固まっている――二人殺したら使いを向かわせ、全てを話そうではないか」

 









 気付けばブラッドレイは再び地上へ上がっていた。
 現在地点を確かめようとする――左を向けば図書館がある。
 つまり、だ。

 父上によって転移させられたと考えるのが妥当である。
 殺し合いの開幕と同じように、知覚させない移動方法の秘密を体験したようだ。

 さて――これからどう動くか。

 命令通りに動くか、自由に動くか。
 どちらにせよ、共通するのは戦う事であり、やる事は変わり無い。
 
 丁寧に剣まで一緒に転移させられている。傷は癒えていない。
 

「東――そうか」


 動くのみ。
 元より行動に変更は無い。
 既に身体は限界を迎えている――後は果たして死ぬだけである。

 その中で殺し合いの真意を知れたのならば、それはその時である。
 
 ホムンクルス唯一の生き残りであるラース。

 短い生命を使い果たし、今、戦場となる東へ駆ける。





【アカメ@アカメが斬る! 死亡】


376 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:38:56 ouqcyJSg0

【E-5/図書館・右/二日目/黎明】




【キング・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(極大)、出血(中)、腕に刺傷(処置済)、両腕に火傷(処置済)、腹部より出血(中)、左目にダメージ(中) 、上半身に裂傷
[装備]:カゲミツG4@ソードアート・オンライン
[道具]:新聞、ニュージェネレーションズ写真集、茅場明彦著『バーチャルリアリティシステム理論』(全て図書館で調達)
[思考]
基本:とにかく楽しめる戦いをしたい。
0:何者にも縛られず、己のためだけに戦い続ける。なんとも心地よいものか。
1:東へ向かうのは確定。
2:最後の枷(エドワード)に決着を着ける。
3:御坂との休戦を破棄する。一刻も早く強者と戦いたい。
4:弱者に興味はない。
[備考]
※未央、タスク、黒子、狡噛、穂乃果と情報を交換しました。
※超能力に興味をいだきました。
※マスタングが人体錬成を行っていることを知りました。
※これまでの戦いを経て、「純粋に戦いたい」「強い者と戦いたい」という感情がむき出しています。
※糸(クローステール)が賢者の石で出来ていることを確認しました。
※放送をほとんど聞けていません
※二人参加者を殺せば父上と面会出来る権利を得たようです。


377 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:39:51 ouqcyJSg0

 ソウルジェムの濁りをグリーフシードで回収している佐倉杏子の表情は一仕事終えたように、やりきっていた。
 師の見様見真似で回復魔法に挑戦してみたが――失敗である。

 癒やしの魔法とは程遠く、タスクの出血を止めただけだ。
 元々応急処置で止血されていたが、傷口を塞げただけであり、足りない血液を補えていない。
 しかし、後は彼の目覚めを待つだけであり、起き上がった後に血液型を聞き出し輸血すれば、無事となる。

 此処までかかった魔力と時間、手間を考えると最初で最後の大仕事だ。
 周りに敵がいないことが絶対の条件であり、そんな奇跡的な状況はもう訪れないだろう。

 何にせよ、無理矢理に不器用ながら奇跡を手繰り寄せたことによって、タスクは一命を取り留めた。
 無論、まだ完全に安心出来るとは限らない。医療の知識が無い故に、何か見落としているかもしれない。

「震えは止まったかい? ゆ……雪……あんたは」

「雪ノ下雪乃。ついさっき自己紹介したばかりだけど」

「あー……悪い」

 椅子により掛かる雪ノ下雪乃は窓から外を見つめている。
 佐倉杏子の進言により安全確保のために灯りを消しているため、月光が一段と眩しく感じた。
 震えとは今になってキング・ブラッドレイへ発砲した際の衝撃と、死んでいたかもしれない未来を思い描いてしまったため。
 それを聞いた佐倉杏子は苦笑いを浮かべるしか無かった。
 あの化物爺に力を持たず立ち向かう年上の一般人に対し、尊敬と若干の引きを見せていた。

 しかし、その覚悟は本物であり魔法がありながら燻っていた自分とは大違いである。
 そのこともあり、自分を省みた佐倉杏子は――手術室を後にしようとする。

「じゃあ行ってくるよ。タスク……だっけか。目が覚めたら血液型聞いて輸血しな。それでとりあえずは安心だ」

「……本当に行くの? 救出を頼んだのは私だけれど、一人で行かせるのも……」

「これであたしが死んだら勝手に死んだって思いなよ。あんたが気負うこと何て一つも無いからさ」

 泉新一の死と一人でキング・ブラッドレイと交戦するアカメ。
 先まで田村玲子とウェイブと共に行動していた佐倉杏子からすれば、とんでもない情報だ。

 まずはアカメの救出へ向かう。
 キング・ブラッドレイの強さは佐倉杏子も知っており、一人で相手をするには骨が折れる。
 病院へ向かう間に彼女達を見かけなかったことから、戦場を変えたのだろう。

「それにさ」

 手術室を出る前に一度振り向く。
 これが雪ノ下雪乃との最後の会話になるかもしれない――なんてことは思わない。
 色々と気負い精神が不安定な彼女の傍に居られない佐倉杏子の精一杯の優しさだ。

「独りぼっちは寂しいからな、あたしが行ってやんなきゃ!」

 迷いを乗り越えた魔法少女の笑顔がそこにはあった。


378 : アカメが斬る(後編) :2016/06/20(月) 01:40:43 ouqcyJSg0

【C-1/病院・手術室/二日目/黎明】


※C-2にアヌビス神が突き刺さっています。


【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)、胸に一筋の切り傷・出血(小)
[装備]:MPS AA‐12(破損、使用不可)(残弾1/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率
[道具]:基本支給品×2、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0〜1 、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣
    ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:タスクを看病する。
2:泉くん、アカメさん……。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていません
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。


【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大) 、アンジュと狡噛の死のショック(超絶大)、狡噛の死に対する自責の念(超絶大)、後悔(超絶大)、気絶 、失血
[装備]:刃の予備@マスタング製×1
[道具]:基本支給品、前川みくの首輪 、狡噛の首輪
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:……。
1:アンジュを探し、弔いたい。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:御坂美琴、DIOを警戒。
5:エドワードから預かった首輪を解析したい。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。
※エドワード、杏子、ジョセフ、猫(マオ)、サファイアと軽く情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていません
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。
※魔法治療により、傷口だけは塞がりました。
※変わり身の術は連続しては使えません。また、体力を大幅に消耗します。


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(大)、顔面打撲 、精神不安定(中)
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、使用不可のグリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ
    クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:アカメを捜索し救出する。
1:その後、市庁舎へ戻る。
2:さやかも死んじまったか……。
3:御坂美琴はまだ――生きているのか。
[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※DIOのスタンド能力を知りました。
※シャドウと遭遇中に田村にデイバックから引きずり出されたため、デイバック内での記憶はほとんど忘れています。


379 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/06/20(月) 01:41:14 ouqcyJSg0
投下を終了します


380 : 名無しさん :2016/06/20(月) 02:05:55 /ZjG7aBY0
投下乙!
二つの激戦でアカメ勢と寄生獣勢が最後まで誰が死ぬかわからない展開でした
二つの帝具で雷鬼になったウェイブがかっこいいのはもちろんだけど寄生獣がよかったなあ
初春達に寄り添った田村さんと一人で戦い続けた後藤の対比がおおもう……
アヌビス及ばずでブラッドレイの強さを再認識しました
このお爺ちゃんは瀕死なのにここまで粘るとは……
アカメは最後まで勝利を信じたことで救われたのかな
杏子がマミさんを信じてタスクを救ったのも熱い展開でした
これで残りは16人かあもうすぐ完結の目処がつきそうなのでしょうか?
学院にブラッドレイも加わると一気に終わりへ近づきそう……

投下乙でした!完結まで頑張って下さい!


381 : 名無しさん :2016/06/20(月) 13:27:03 ic2R1OvQO
投下乙です

既に5人
あと5人


382 : 名無しさん :2016/06/20(月) 14:55:37 CJZMWUY20
投下乙です

>鳴上少年の事件簿
ここに来て決して埋められない溝が表面化した二人のアイドル
贖罪と言う行為も翻って見れば罪の意識から逃れたい加害者の自己満足でしかないという事なのか
そしてその致命的な亀裂に漬け込むは道化師、足立透。心の準備をしていれば本当に狡猾でラスボスの風格を感じます
この状況だと都合のいいエスパーでもしない限り足立が黒だと見抜くのは無理臭いが番長たちは果たして真実へと辿り着けるか

>アカメが斬る
先程の胃がキリキリするような心理戦とは打って変わって此方は二か所での死闘
アヌビスとアカメは一歩及ばなかったか、大総統は本当にしぶとい
しかし必死に食らいついたアカメの意思は鮮烈なものがありました
そして寄生獣完結編。人と関わる事で答えを見いだした寄生生物とただたった一人で戦い続けた寄生生物
過程や最後の心情は違えど、その最期は一緒なのは因果なものを感じました


383 : 名無しさん :2016/06/21(火) 00:28:00 HbHqQbLQ0
>>381
つまんねーし鬱陶しいんだよその無駄なカウントダウン


384 : ◆dKv6nbYMB. :2016/06/25(土) 00:05:02 GkbxwinI0
投下乙です。

激戦&激戦!
アカメ勢&寄生獣勢の集大成ともいえる今作、とても熱いものでした。
アカメも後藤さんも田村さんもそれぞれがこれしかないという生き様で感激しました。
新たな力を見せつけたウェイブ、まだまだ暴れそうなブラッドレイ、ゆきのんとタスク、杏子もまだまだ頑張ってもらいたいです。
最後に、常に最前線で戦い続けた後藤さんは本当にお疲れ様でした(21話中15話が戦闘話)。


投下します。


385 : 振り返ればいつだって ◆dKv6nbYMB. :2016/06/25(土) 00:05:56 GkbxwinI0
『...静かだ』

誰もいなくなった大地で、アヌビス神は独りぼやく。
恐怖の対象でしかなかったブラッドレイも、一時の主だったアカメももういない。
残されたのは、一振りの刀でしかない己と傷ついた戦場跡のみだ。

『もう少しだったんだよなァ...』

最後の交差、ブラッドレイを上回ったあの瞬間を思い出す。
初見ではあれだけ恐怖に怯えあがった彼を、あの瞬間だけはついに超えたのだ。

本当に、本当にあと少しだったのだ。
あと少しの差が縮まれば、アヌビスはあの怪物に勝利していたのだ。

『けど、当分戦いたくねえな』

しかし、アヌビスは戦いに負けた悔しさよりも、別の感情が勝っていた。
燃え尽き症候群というものをご存じだろうか。
部活動を引退する高校3年生や、オリンピックや世界大会を終えた日本代表選手などがそれまでの人生最大の目標を終え、打ち込む物が何もなくなったという虚脱感に襲われるアレだ。
DIOとは別ベクトルで突き抜けた怪物であるブラッドレイをあそこまで追い詰めたのだ。
今まであれほどの怪物に挑んだことのないアヌビスが、どこか達成感を憶えてしまうのも仕方のないことだろう。

『...タスクの奴はどうなったかな』

ブラッドレイと一人で奮闘し、致命傷を負った青年の安否に想いを馳せる。
雪乃に任せて逃がしたが、あの重傷―――放っておけば死ぬだろう。

タスク。彼がいなければ、アカメがブラッドレイに勝利することはなかった。
彼が命を賭けて繋いだ時間があればこそ、新一が選択し、ミギーがアカメの傷を塞ぐ暇が作れたのだ。
アヌビス自身にとっても恩人といえよう。できれば無事でいてほしいが...

『もしもDIO様に会えたら、あいつらだけは見逃して...って、なに言ってんだ、俺は』

漏れた言葉に対し、バカバカしいと自分でも思う。
アカメたちに協力していたのは、あくまでも保身のためであるはずだ。
確かにコンサートホールから救い出してくれた恩義はあるが、DIOへの忠誠心が消えたわけではない。
彼女達は、コンサートホールでの一件でDIOに対して怒りを燃やしていたが、自分は違う。
もしも、やってきたのがブラッドレイではなくDIOだったら、優先するのはアカメたちよりもDIOへの忠誠のはずだ。
たかが会って数時間の人間たちに移る情などないはずだ。

そう。

他者のために己の命を捧げた新一とミギーを。
絶対的な力の差にも、決して絶望しなかったタスクを。
なんの力も無い癖にブラッドレイに啖呵を切って見せた雪乃を。
託された想いと執念でキング・ブラッドレイに勝利したアカメを。

彼らを目の当りにしたところで、自分はなにも変わっていないはずだ。


『...静かだ』

もう一度呟く。

いまのアヌビスは独りきりだ。
コンサートホールで置いて行かれた時と同じ、誰もいない孤独である。
ただ、違うのは、あの時は壁や瓦礫に覆われていたが、いまは綺麗な夜空が見えること。
そして。

『本当に、静かだ』

ポッカリと胸に穴が空いたような、妙な気持ちになってしまうこと。


386 : 振り返ればいつだって ◆dKv6nbYMB. :2016/06/25(土) 00:06:51 GkbxwinI0



「ひどいな、これ」

杏子は戦場であろう場所へ辿りつくなり、そう言葉を漏らした。
草木はもちろんのこと、建物すらも傷つき、地面は抉れている。
至る所に走る傷、傷、傷。
ここが戦場であったことは明白であり、何も音がしないことから既に戦いが終わっていることも察せる。

「結局、間に合わなかったのか」

勝ったのはアカメか、ブラッドレイか、それとも相討ちか。
この目で確かめる以外に知る方法などないため、杏子は恐れず足を進める。

(ま、今さらビビったところでな)

もしも勝者がブラッドレイであり、彼が襲い掛かってくれば、杏子に勝ち目などないだろう。
しかし、雪乃にも言ったように、死んだら死んだでそれだけのことだ。
むしろ、好き勝手やってきたワリにはよくもまあ長生きできているものだと素直に感心する。

(...この辺りか)

デバイスのライトで足元を照らし、血の跡を追う杏子。
彼女が辿りついた先は、エリアの端。つまりは崖だった。

「なるほどね」

血はここでパッタリと途切れている。
一瞬で勝負がつくほどの実力差であれば、すぐに勝者は雪乃のもとへと舞い戻るはずだ。
杏子が病院に着くまで雪乃たち以外に誰もいなかったことから、実力は大差がなかったはず。
そして、どちらが勝ったにせよ、立ち去った勝者の血の跡が残っていないのは不自然極まりない。
つまり、考えられる答えは相討ち。
それも、この奈落に落ちての、だ。

「...なんて言えばいいのかな」

別れ際の彼女の眼を思い出す。心底アカメの心配をしていた雪乃の目を。

「素直に伝えるしかないよな」

杏子が辿りついた時には全てが終わっていた。
わかったのは、アカメもブラッドレイも奈落に落ちたという結果だけ。
収穫などなにもない。
関与すらしていないのだから当然だ。

そのことを伝えるとなると、やはり気が滅入ってしまう。


387 : 振り返ればいつだって ◆dKv6nbYMB. :2016/06/25(土) 00:07:46 GkbxwinI0

とりあえずは雪乃たちの待つ病院へと踵を返した時だった。

「っ」

足元を照らしたライトの光が、なにかに反射し杏子の目を眩ます。

(なんだこりゃ)

光を反射したのは、地面に突き刺さる一振りの刀。
その刀の刃渡りは、妖艶とも思えるほどに美しいものだった。

(ところどころに血が付いてるってことは...アカメかあのオッサンの武器だろうな)

どちらのものにせよ、これを回収しておくにこしたことはない。
もちろん、自前の槍を持つ自分が使う訳ではなく、病院にいる雪乃たちに渡すためである。

(あいつらロクな武器持ってなかったからな。ないよりはマシだろ)

杏子が、刀を引き抜くために柄に手をかけたその時だ。

『誰だおまえ?』

突如響く声に、杏子は思わず臨戦態勢をとる。
が、誰もいない。
集中して耳を澄ますが、気配もない。

『おっと、俺を放すなよ!落ち着いて俺の話を聞いてくれ。慌てて奈落にでも捨てられちゃたまらねえからな』
(放す?放すって...)

杏子が握り絞めていたのは、刀の柄。
そこで彼女は理解した。

(...ああ、そういうことか)

喋る猫に動くステッキがいるんだ。
別に、今さら喋る刀がいても驚きはしない。

ただ。

「ほんと、妙なのに縁があるな、あたし」


388 : 振り返ればいつだって ◆dKv6nbYMB. :2016/06/25(土) 00:09:21 GkbxwinI0



暗い夜道の中、杏子は雪乃たちの待つ病院へと引き返していた。

『DIO様が死んだって!?』
「あたしの目の前でな。それに放送で呼ばれてただろ」
『あのオッサンのせいで聞きそびれちまってたんだよ。それより、なんであの御方が』
「あたしだってよくわからねえよ。気が付けば後藤に食われてたんだ。...ってか、あんたDIO『様』ってことは...」
『ギクッ!あ、いや、それはだな...』
「...いや、いいよ。あんたがDIOの仲間だろうがなんだろうが、残ってる奴らを殺してまわるつもりはないんだろ?」
『...まあな(ホントは俺一人じゃなにもできないからだけど)』
「なら、あたしがなにか言える立場じゃねえ」

そこで、会話は途切れ、少女と刀は病院への道を歩く。
やがて、沈黙を打ち破るように、アヌビスが話しかける。

『なあ、雪ノ下の奴と会ったんだよな』
「会ったよ」
『あいつと一緒にいたタスクって奴は無事なのか?』
「なんとかな。あの様子なら放っておいて死ぬことはないよ」
『そ、そうか』

そこで会話は途切れ、再び沈黙が空気を支配する。時折、鼻をすするような音がするだけだ。
杏子は、立ち止まることなく病院へとその歩を進めていく。


『...なあ』
「なんだよ」
『泣いてるのか?』
「さあね」

否定はしなかった。
けれど、視界が滲んでいるのはそういうことなのだろう。

(嫌になるよ、ホント)

アヌビスから聞き出した、まどかや承太郎たちのコンサートホールでの顛末。
まどかを殺したのは足立という男らしいが、いまはそれは置いておく。
重要なのは、承太郎が『魔法少女』を敵だと認識しつつあったのは、自分が一因であることだ。
最初に承太郎を襲ったから、彼は『魔法少女』を警戒してしまった。
もしも、承太郎に襲いかからず一緒に行動していれば、こんなことにはならなかった。
―――尤も、コンサートホールでの事態はそう単純ではないのだが、杏子はそう思わざるをえなかった。

(...また、謝らなきゃいけない奴らが増えちまった)

杏子のとった行動が、巡りに巡って鹿目まどかを、空条承太郎を、暁美ほむらを殺してしまった。
そう思えば思うほど、絶え間ない後悔が押し寄せてくる。

ようやく迷いを振り切れた矢先にコレだ。
きっと、これは杏子に対する罰なのだろう。

(罪ってのは、巡りにめぐって罰となる...ってやつか。よく身に染みたよ)


両親に妹、ノーベンバー11、アヴドゥル、ジョセフ、承太郎、サファイア、セリム、マミ、まどか、ほむら、さやか...
謝りたい者たちは数あれど、それで杏子が足を止めることは許されない―――彼女自身が許さない。

まだ何も終わっていないのだ。
この殺し合いも。エドワードとの約束も。御坂との決着も。
全て―――は不可能でも、どれか一つはやり遂げなければ死にきれない。

(だから、あんたらに謝りに行くのはもう少し後だ。その時が来たら、煮るなり焼くなり好きにしてくれ)

この過ちだらけの人生に祝杯は求めない。彼女が求めるのは、贖罪の果てにある答えのみ。
それが希望か絶望かは、彼女自身にもわからない。

だからいまは―――ただ進むだけだ。


389 : 振り返ればいつだって ◆dKv6nbYMB. :2016/06/25(土) 00:10:33 GkbxwinI0

【C-1/二日目/黎明】



【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(大)、顔面打撲 、精神不安定(中)
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、使用不可のグリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ
    クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:とりあえずアヌビスを雪乃に渡す。
1:その後、市庁舎へ戻る。
2:さやかも死んじまったか……。
3:御坂美琴はまだ――生きているのか。

[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※DIOのスタンド能力を知りました。
※シャドウと遭遇中に田村にデイバックから引きずり出されたため、デイバック内での記憶はほとんど忘れています。
※アヌビス神と情報交換をしました。

【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態] アカメ・新一・タスク・雪乃への好意(?)
[思考・行動]
基本方針:がんばってできるかぎり生き残る。
0:しばらくは雪乃たちのもとにいる。
1;DIO様が死んだってマジかよ。

※キング・ブラッドレイとの戦いで覚えた強さはリセットされています。
※杏子と情報交換をしました。


390 : ◆dKv6nbYMB. :2016/06/25(土) 00:11:20 GkbxwinI0
投下終了です


391 : 名無しさん :2016/06/25(土) 17:59:34 AdurK.KEO
投下乙です

罰というのは、罪を自覚した者にこそ意味がある


392 : 名無しさん :2016/06/27(月) 00:13:54 0kNdOOb60
遅くなりましたが投下乙です

アイドル組の地雷がここで爆発か、このタイミングはかなりきつい
そして、足立はいつも生き生きしてるな

物語も佳境、ついにアカメも落ちたか。ウェイブは果たして一矢報いることはできるのか
寄生獣組の対比もよかったです

お、アヌビスはまだ生きていたか。意外と悪運強いんじゃなかろうか
杏子はそろそろ吹っ切れそうかな


393 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/07/06(水) 01:17:42 l0iRJflA0
数時間の遅刻、申し訳ありません。

投下します。


394 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:19:17 l0iRJflA0

☆☆★――――――――――――――――


UB001:ねえヒースクリフ。あなたにいいことを教えてあげる。


――◆



 視点とは自分の価値観を前提に展開する、謂わば己の押し付け合いである。
 何せ相手との意見が違うのだから、勝つか負けるか引くか諦めるかに絞られるのは当然だ。

 勿論、勝敗や優劣で物事を語るとは限らないのだが、基本的に衝突は避けられない。

 説得ならば、元から相手は自分と異なる価値観を持っているが故に言い争いとなるだろう。
 情を含んでも、現実を並べても。相手の心が揺れ動かなければ失敗だ。己の土俵に引き込めないこととなる。
 言葉で上手く相手の心へ訴えろ。
 己が不利ならばなりふり構わず沈黙を発生させぬために口を動かせ。
 嘘を嘘で塗り潰し相手がそれを信じたならば――それは偽り無き真へと昇華する。



◆――


KoB:これは驚いた。期待しても構わんかね?


――◆


395 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:20:47 l0iRJflA0



『なあ、悠くん。まどかちゃん達を殺したのは僕か、それとも彼女か...どっちだと思う?』



 足立透の発言から一室の音は静かに停止しており、心拍が震える鼓動と口から漏れる荒い息だけが響いていた。
 鹿目まどかと暁美ほむらを殺し、彼女達を【いっしょ】にしたのは一体誰なのか。

 容疑者候補は今更説明する必要もなく足立透か島村卯月の二択だ。
 彼と彼女の供述から――真実はさておき、島村卯月を犯人と見立てるのが一番筋が通っている。

 筋。

 糸の帝具クローステールを所有している島村卯月ならば鹿目まどかと暁美ほむらを繋げることが出来る。
 簡単だ。じゃあ犯人は彼女じゃないか……と、割り切れるならばこの世に裁判など必要ない。
 彼女の言い分では足立透が鹿目まどかと暁美ほむらの殺害犯らしい。そしてこれは【事実】である。

 現に島村卯月は暁美ほむら殺害の場を正義の味方と共に目撃しているのだ。嘘じゃあない。
 しかし、それを証明出来そうな参加者は生存者で云えば本田未央ぐらいだろう。そして彼女は気を失っている。
 そのため、島村卯月の潔白及び足立透への不信感を確定させる証拠は第三者から助けを出すことは出来ない。

 勿論、足立透も十分怪しいのは重々承知である。
 島村卯月の特異性を抜かせば、確実に彼が黒と断定出来る程度には怪しい。
 
 彼と行動を共にした参加者はヒースクリフである。最初の出会い同士であり、思入は――あるのかもしれない。

 さて、しかしながらヒースクリフと足立透が別れた後に鹿目まどかが死んでしまった。
 コンサートホールに残ったのが鹿目まどか、空条承太郎、足立透。
 散策に足を動かしたのがエスデス、モハメド・アヴドゥル、ヒースクリフである。
 組み分けはエスデスが行い、彼女なりに配慮した人選だ。少々人間性に問題を感じられた彼女であったが、上官としての才能は光るモノがあった。
 
 精神が不安定な鹿目まどかに対し一番行動期間の長い空条承太郎を傍に置かせた。
 そして一般人であり一番感性が近いであろう足立透を残したのも、精神的支えになってもらいたいが故だ。
 しかしそれが裏目となり、足立透は覚悟を決め殺し合いの出来事を見渡しても目立つだろう演劇を引き起こした。

 その結果、鹿目まどかは死亡。コンサートホールは崩壞。後に空条承太郎も死んでしまった。
 エスデスは既に足立透が隠していたナニカ――ペルソナについても勘付いていたようだが、何も悲劇を起こしたかった訳ではない。
 
 残念ながらこの真実を知る人間はもう足立透しか生きていない。
 島村卯月と本田未央が知っているのはコンサートホール崩壞後の、暁美ほむらが死亡した出来事からしかその目で見ていない。
 いや、目で見ているとは語弊が生まれる。何かしらの情報でソレを知っている。
 
 そして彼女達は言葉を失っている。一人は恐怖、一人は意識を失っている。
 鳴上悠に真実を発言する人間は事実上、今の時間じゃ使い物にならない。


396 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:23:17 l0iRJflA0


 さあ、この状況で鳴上悠は何を判断するのか。

 まず、島村卯月が殺人を行ったことは彼女の口から聞いている。
 その罪を受け入れ、生きて償うことも聞いている。その心を馬鹿になどせず、本気で応援或いは支えようとも思っている。
 だが、鹿目まどか殺人とは話が変わってしまう。美樹さやかと云う共通人物が彼の頭に幻影となり付き纏う。

 足立透が黒と発言し、島村卯月を守るか。
 判断材料を全て精査するならば、彼の発言にそれらしい嘘は無い。そして、彼女についても同様である。
 しかし、糸の存在と以前の島村卯月の行動を結びつけた場合――彼女が犯人と考えるのが普通だ。


「何で黙ってんだよ、何か悩んでるのかい」


 誰も言葉を発しない中、足立透だけがこの場でほくそ笑んでいた。
 どう転ぼうが、結果がどうであれ彼の勝利は既に確定へ傾いている。
 
 島村卯月と死体のオブジェが揃った時点で、そのインパクトを超える出来事など何もない。

 加えて足立透の行いを知っている人間はそう、多くない。
 この場に雪ノ下雪乃はいない。本田未央は意識を失い、島村卯月はあのざまである。

「僕は言ったよね。こんなことをしでかしたのは僕か……それともそこに居る島村卯月か、ってね」

 優位に立てる。
 嘘を並べても、その偽りを看破出来る人間はこの場にいない。
 なあ鳴上悠、お前は何を選ぶ。

 島村卯月を庇うか。
 だが、罪を認めて、償っても、それで許されるのか。
 多くの人間が死んでいる。明日を望んだ。鹿目まどか達もそうだろう。
 島村卯月だけを庇い、これまで散った生命を否定するのか、そうなのか。 

「なーんで言えないのかな……ぁ?」

 足立透が犯人だと言うのなら。
 のうのうと生きればいい。償えるものなら償ってみせろ。
 けれど、誰もが許すなどあり得ない。それまでに島村卯月は汚れている。
 今は関係ない。過去の行いが彼女自身を苦しめているのだから、自暴自棄である。

 島村卯月を犯人だと言うのなら。
 よくも言えたものだ。仲間を見捨てるのか、と、散々笑ってやればいい。
 実際に鹿目まどかと暁美ほむらを殺したのは仇も足立透自身なのだが。

「……それは――」

 鳴上悠の口が動く。皆の視線が集まり島村卯月以外は彼を見ている。
 ヒースクリフとエンブリヲ、それに足立透が紡がれる言葉を待つ。何が飛び出すか。



 犯人は足立透だ。



 犯人は島村卯月だ。




「とんだ茶番だな」




 言葉を発した人間は意外にも――エンブリヲだった。
 鳴上悠が話すよりも先に声を上げ、彼と足立透の間に割って入る。

 ――似ているな。

 彼らの背後に具現化しているイザナギとマガツイザナギをそれぞれ見つめながら、鳴上悠の方へ振り返る。
 
「相手のペースに乗せられすぎた」

 額に浮かぶ汗。整わない顔色。肩で呼吸する焦り。
 これでは冷静な判断と不可能である。現在の鳴上悠はあまりにも不安定だ。
 傍から見れば足立透が調子に乗り、鳴上悠を甚振っているようにしか見えないのが現実である。


397 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:24:35 l0iRJflA0

「ちょっと……今は悠くんに聞いてるんだけど」

「私は今その『悠くん』に話しかけているんだ、邪魔をするな」

「こいつ……ッ」

「何か言ったか」

「な、何にも……」

 足立透の言葉が詰まる。
 この男は突然口を挟み、何を邪魔するのかと思えば武器を構えているではないか。
 マガツイザナギを発動している今、些細な攻撃を気にする必要は無いが生憎この空間は室内だ。
 狭い部屋ではどうしてもペルソナの行動が制限されてしまう。加えて相手は斧だ。

 それに今の今まで生きている参加者だ、修羅場を潜り勝ち抜いてきたのだろう。
 油断は出来ない。下手に刺激し一斉に攻撃を加えられては一溜りもない。

 鳴上悠、エンブリヲ、ヒースクリフ。

 流石にこの三人を一度に相手するのは避けたいのが足立透の本音である。
 島村卯月や気絶している本田未央、高坂穂乃果を人質に取れば上手く立ち回れるかもしれないが、今は分の悪い賭けを行う場面ではない。

 冷や汗を浮かべつつ、相手の出方を伺う。

「簡単な話だろう。足立透を一方的に喋らせるな。もう一人証言出来る奴がいるだろう」

「それは……卯月に話させるのか……っ」

「埒が明かん。このまま足立透に喋らせれば奴がこの場を――お前を支配するだけだ」

 懐に忍ばせた銃をわざと見えるように振る舞いながらエンブリヲは鳴上悠へ忠告を行う。
 彼の言っていることは正しく、足立透が言葉を流し、鳴上悠が迷いを抱くならばそれを見抜く証言が必要となる。
 その役目を担うのは島村卯月しかいない。簡単な話だ。

「だけど卯月は今……そんな状況じゃない」

「ならばお前が彼女を助けてやれ。
 出来ていないから足立透をつけあがらせることに繋がるんだ」

「っ――俺は卯月を信じ――」

「へぇ、庇うんだ。
 糸を持っているのはその女の子なのにねえ。誰が見ても黒だと思うけどなあ」

「……っ」

「ま、それが君の選択ならしょうがないよねえ。
 あーあ、鹿目まどかと暁美ほむらの知り合いは可哀想だなあ」

「黙っていろ」

 割り込む足立透の言葉を一蹴しエンブリヲは島村卯月へ近寄る。
 彼女は精神的不安からか震えており、状況は認識しているだろうが発言を拒むだろう。
 何せ殺したのは偽りだとしても、魔法少女を繋ぎ合わせたのは紛れも無くシンデレラだ。
 
 自分の口から死体を繋ぎ合わせた。などと発言出来る女子高生がいるだろうか。


398 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:26:07 l0iRJflA0


 現実とは残酷である。
 本来の彼女であればこんなことは一切行わない。
 行動もしなければ思考もしない。そもそもこんな状況に追い込まれることも無かっただろうに。
 殺し合いが産んだ悲劇である。けれど、悲劇の一言で片付けられる程、状況は甘くない。
 少なくとも、気絶している高坂穂乃果は島村卯月を許すつもりは無いだろう。

 普通の少女が友達を殺されて何も感じない訳が無い。意識を失っているのが不幸中の幸いだろう。
 鳴上悠にとって、高坂穂乃果が目覚めればどんな結末になろうと島村卯月が責められる展開になってしまう。
 ここまで生き残った参加者同士、いがみ合うのを止めたいのだが正論だけで物事は解決出来ない。
 衝突も必要である。しかし、タイミングが悪すぎる。

 足立透の作戦――立ち回りは完璧に近い。
 何せ鳴上悠がどんな選択をしようが、どうにでもなるのだ。
 この集団の崩壞は免れない。逃げることなど造作も無かったのだが、止められてしまった。

「意外だな。助け舟を出すのがまさか……何かあったのか」

「ふん。時間の無駄と判断したまでた……時間の無駄」

 エンブリヲが鳴上悠を庇ったのは誰もが驚いていた。
 彼のことをあまり把握していない足立透でさえだ。少なくとも第一印象で他者を助けるイメージが沸かない。
 確執――争ったこともある謂わば敵関係の彼らであり、特に両者互いに相手のことをよく思ってないのは周知の事実である。

「――そこを退け」

 ヒースクリフは島村卯月の前に立ちエンブリヲの正面に立ち塞がっている。
 盾と剣を装備し鎧も纏っている。いつでも戦闘が出来る体勢だ。ゆっくりと剣先をエンブリヲへ示す。

「彼女から無理矢理吐かせるのは流石に酷だ」

「だが彼女の証言で全てが決まるかもしれん――私には興味が無いことだが、このままでは釈然としない」

「それはそうだが……彼女のことも考えろ。血も硝煙とも無縁の少女だぞ」

「渋谷凛と同じように強い女性だと踏んでいる。そうでなければ人の一人や二人殺せんだろうに」

「……エンブリヲ、そこまでにしておけ」


「渋谷凛――しぶり……ん……りんちゃん?」


 声だ。
 今まで震えていた島村卯月は渋谷凛の名前を聞き、やっと口を開いた。
 何も考えていない。ぐちゃぐちゃの思考の中でたった一筋だけ光った煌めきを無意識に呟いただけだ。
 だが、そのお陰で少なくとも数秒前よりは会話が出来る状態になった。エンブリヲが返答を行う。


399 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:27:50 l0iRJflA0

「そうだ。君も彼女の友ならば、怯えていないで教えてくれないか――君がこの会場で何をして来たか」

 優しく。傷付いた少女の心へ入り込むように柔らかい声色でエンブリヲは語り掛ける。
 触れれば更に効果は高まるのだが、ヒースクリフが間に入るため近寄ると怪しこまれるだろう。
 それに鳴上悠がエンブリヲを険しい表情で睨んでいる――そうか、と呟きながらエンブリヲは振り返る。

「渋谷凛を殺したのは私じゃない。少なくとも私が彼女の前から消えた後――キング・ブラッドレイしか近くにいなかったがな」

「じゃあ彼女を殺したのはキング……ブラッドレイ」

「エンブリヲさんは違う……セリューさんが言ってましたから」

「……そうか。あの男は今も生きている。警戒しなければな」

「凛ちゃんを殺したのはキング・ブラッドレイ……私じゃ勝てない」

「当たり前だ。君は戦う力を持たない少女だからな」

「ましてやキング・ブラッドレイだ、生半可な実力じゃ勝てないだろう」

「卯月が戦う必要は無いんだ。俺が、仲間達が君を守って仇も取る」







(勝手に話を進められてるけど、完全に腰を折られたねこりゃあ)






 話を仕切られた段階で主導権を握れなくなった足立透の表情は険しい。鳴上悠に回復の時間を与えるのは好ましくない。
 考える時間は変わらない。しかし、心に余裕を持たれては何かしらの手がかりから状況を逆転させられる可能性が生まれる。
 足立透は嘘を吐いている。何処かで綻びが見えるのは確実であり、それをどこまで隠せるかが彼の今後を決定付けるのだ。
 鳴上悠が気付くか。島村卯月が信じられるか。ヒースクリフとエンブリヲが邪魔をするか。気絶している本田未央と高坂穂乃果が目を覚ますのか。

(まずい……俺の居場所なんて最初から無い。けど、適当な所で逃げるか……?)

 思い返せば数分前のことだが我ながら調子に乗っていたと振り返ってしまう。
 鳴上悠と対面し、島村卯月の業が重なった先に窮地の状況に対する活路を見出したものの、話を適当に切り上げるべきだった。
 彼ら二人に強気に出れたとしても、ヒースクリフとエンブリヲに同じ手は通じず、言葉で上手く捲し立てるのは不可能に近い。

 精神が不安定になっていても怪しいだろう。彼らは大人として一定の経験や修羅場を潜っている。
 ヒースクリフに学があることは知っている。エンブリヲもここまで生き残っているのだから頭が回るなり武力なり……何かを持っているのだろう。

 さて、自信に満ち溢れていたが、撤退時を考えるべきだ。
 逃走――出来るのだろうか。ペルソナは既に発動しており警戒されているのは確実である。
 隠し通せていれば切り札になっていた。何せ正体を知っているのはヒースクリフだけだった。
 
「私が最初に会ったのはセリューさんでした……足立さんもよく知っている」

「あ?」

 島村卯月の言葉に反射的ではあるが足立透の声が響いていた。
 どうやら彼女はこれまでの軌跡――会場での出来事を供述するらしい。
 最初に飛び出した名前はあの正義狂、セリュー・ユビキタスだ。思い出したくもないと、不快感が汗となって頬から落ちる。

「いたね、俺の頭には強烈に残ってるよ。あれ、やばかったね。
 放送で名前を呼ばれたのは残念だったね。でも、死ぬのはしょうがないと思うよ」

 心の篭っていない言葉だ。
 あまりにも薄っぺらく、自分で笑いを堪えるのがやっとである。
 気付けば一人称が俺になっている……焦っているのかもしれない。

 さて――島村卯月の供述と足立透の嘘。


 鳴上悠は何を信じ、判断し、貫き、その道を進むのか。


400 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:29:09 l0iRJflA0

◆――


UB001:そうだね。じゃあ最初は――真実を教えてあげる。


――◆


401 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:29:56 l0iRJflA0

 意外でした。
 まさかエンブリヲさんが私と鳴上さんを助けてくれるなんて。
 セリューさんの仲間だったサリアさんが尊敬している人だから、不思議じゃない。

 でも、ちょっと意外でした。
 少し冷たい感じがして、何処か近寄りがたい雰囲気があったから。
 
 あの人が足立さんの言葉を遮ってくれたお陰で少しだけ考える時間が生まれました。
 そのきっかけが凛ちゃんだった……ありがとう、凛ちゃん。
 キング・ブラッドレイが凛ちゃんを殺した……やっぱり。でも、私じゃ勝てない。

 何で戦えると思っていたのか。図書館で襲った自分が本当に怖くなる。まるで、私じゃないみたい。
 でも――それは紛れも無く島村卯月だった。


「卯月、無理はしなくていい。後は俺達に任せるんだ」


 鳴上君が私を心配してくれている。
 その気持ちはとても嬉しくて、不安定だった私の心に入り込むお日様みたい。

 さっきまで何一つ考えることの出来なかった頭が、少しずつ回復しているのが解ります。
 画用紙にボールペンでグリグリ書いていたような脳内から、真っ白に――なるまで。


「私が言わないと……まどかちゃんとほむらちゃんのこと」


 逃げちゃだめ。
 死んだ人は逃げることも出来ない。だけど、私は逃げることが出来る。


 でも――それじゃだめなんだ。


「これから私が話すことは全部真実です――彼女達を繋ぎ合わせたことも」


 逃げちゃだめなんだ。


 穂乃果ちゃんが起きている時に話したかった。


 ごめんね。


 先に――少しだけ先にいるから。


402 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:30:37 l0iRJflA0

◆――


KoB:真実か。可能ならそのまま先の放送についても聞きたいのだが、どうだろうか。


――◆


403 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:31:53 l0iRJflA0


「まどかちゃんを殺したのはそこの――足立さんです。
 それはほむらちゃんが言っていたのを私とセリューさんが聞いたから。それに空条さんも現場を見ていました」


「……さっきの俺の話聞いてたかなあ、まどかちゃん?
 まどかちゃんは錯乱してて、花京院っていう承太郎君の友達を殺しちゃったんだよ。
 それに激昂した承太郎君はそのまままどかちゃんを殺した……俺の力が及ばなくて彼女を助けることが出来なかった」


 島村卯月が語るコンサートホール後の展開と足立透が紡ぐ数分前の真実は齟齬が生まれていた。
 彼が語る真実は【鹿目まどかが花京院典明を殺害した】ことまでしかあっていないのだが。

 しかし、現場にいた人間は全て死んでいる。

 足立透が鹿目まどかに毒を飲ませたのも。暁美ほむらがマスティマを発動し彼を殺そうとしたのも。
 限界を超越しマガツイザナギを発動したことも。空条承太郎に深い傷を負わせたことも。彼が止まらなかったことも。


(助けることが出来なかった――殺したのは俺なんだけど)


 真実は闇の中である。
 確かめる術は死者に聞くしか無いのが正しい。出来るものならやってみろと謂わんばかりの心持ちで足立透は島村卯月を見つめる。
 空条承太郎がどれだけの情報を残したかは不明である。残念なことに大方は暁美ほむらから聞いているらしいが。


「あの場所で――私とセリューさんとほむらちゃんは仲間だった。それを引き裂いたのが貴方です」


「だから知らないって……セリューさんって誰かな?
 暁美ほむらだって空条承太郎が殺したって言ったばかりでしょ」


「嘘……証拠もないのに」


「証拠……あぁ、証拠ね。
 ごめんねまどかちゃん。本当にごめんまどかちゃん……俺は君を助けることも出来なかったのに、本当にごめん」


「な、なんで謝るんですか」


「証拠――そこで繋がってるまどかちゃんとほむらちゃん。
 俺が殺すなら無理っしょ。だってそんな糸は持っていないよ、けどさあ。君は持っているよね」


 一同の視線が鹿目まどかと暁美ほむらだった存在に注がれる。
 哀れなものだ。永遠に離れられないように繋がれた人形は感覚も、心も持ち合わせていない。
 死んでいる。生きていることさえ感じることの出来ない――無機物だ。

 彼女達を。

 彼女達を。

 彼女達を。


「俺が殺したとしてもそんな真似は出来ないよ……どうして嘘を」










「彼女達を繋げた、の、は、、、……、、、、……わ、…っ……、、…――私、です」



 




 ニヤリ、と上がりかけた口角を手で覆い隠す足立透の心は勝利に包まれた。


404 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:32:36 l0iRJflA0

◆――


UB001:そうだね。じゃあ何が聞きたい?


KoB:答えてくれるのか。では彼は本当に願いを叶える力を持っているのか。それも蘇生人数を増やすことも含めて。


UB001:可能だよ。人数は問題じゃないの。なんだろうね、奇跡とか魔法とか。そんな次元の話を信じてくれるかな?


――◆


405 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:33:41 l0iRJflA0

 言った。

 まどかちゃんとほむらちゃんを繋げたのは私だって。

「卯月……」

「ごめんなさい鳴上君。
 信じてくれてありがとう……でも、嘘は憑いちゃいけないから」

 そうですよね、セリューさん。
 正義の味方は、いつだって正しい。なら、私が嘘なんて絶対にだめですよね。

 私が真実を話すことによって鳴上君が救われるなら、構いません。
 どれだけ周りの視線が厳しくなっても、辛い目に遭ってももう逃げません。

 未央ちゃんは私のことを信じてくれた。
 あんなに酷いことをしたのに、こんな私を受け入れてくれた。
 まだ、私を信じてくれる人がいるんだから――もう、逃げない。


「糸……クローステールの練習のために彼女達の死体を繋げ合わせました」


 あの時は気が狂っていた。なんて言い訳はしない。
 手を動かしたのは島村卯月。絶対に変わらない事実だから。


「っぉ……ね、悠くん? もう分かったでしょ、その女のヤバさが」


「だけど殺したのは私じゃありません」


 だめだ。
 足立透に鳴上君を責めさせる時間を作っちゃだめ。
 私が守るんだ――必ず鳴上君は足立透の嘘を暴いてくれる。
 それまでの時間を稼がなきゃ……ううん。私は真実を話しているだけ。

 気負う必要も無いかもしれない。

 ただ、真実を話すだけ。

「まどかちゃんは足立さんが殺したと聞いています。ほむらちゃんを殺したのも貴方。
 私は彼女達の死体を繋ぎ合わせただけです。

 だけ――軽い言葉で片付けたくはありません。でも、真実です」


406 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:35:05 l0iRJflA0

 辛い。
 真実を話すことがこんなに辛いだなんて。
 きっとニュージェネレーションの最初のライブでのプロデューサーも一緒だったんだろう。
 未央ちゃんに真実を言うことが辛くて、それでも私達のために本当のことを言ってくれた。
 
 今なら解ります。
 プロデューサーさんが本当に私達のために頑張ってくれたことを。

「お願いです……信じてください」

「頭下げれば信じてもらえるならさあ……はぁ、世の中に警察なんて要らないよ?」

 その通りだと思います。
 頭を下げるだけで信じてくれるなんて思わない。
 けど、少しでも思いが届くならなんだって、私はなんだって――え?


「顔を上げなさい。君は頑張ったよ、無論全てが許される訳ではない。
 だが私は君を信じる――残念だよ足立透。少しは一緒に行動した仲だったがね」


 頭の上に乗せられたヒースクリフさんの手がとても大きく感じまず。
 そのまま通り過ぎ去り、教室から出て行くのか扉の前まで移動していました。

「何処に行くんだよ、それに残念って何さ」

「君は鹿目まどかと暁美ほむらを殺したのは島村卯月だと言ったね」

「うん、まぁ、そうだよ」

「私がその前より……君と再会した時には『承太郎がまどかを』『エスデスがほむらを』殺したと言ったはずだが」

「――ッ!?




 って、ま、まあそうだけど?

 嫌だなあ引っ掛けようとしてる? たしかに俺はそう言ってた。でもエスデスは仮定さ仮定。
 あんな繋ぎ合わされた彼女達を見れば誰だって考えるのはわかるよね? あれを見た後だと島村卯月が犯人だと思うでしょ」



「その前は鳴上君に『足立透と島村卯月のどちらかが彼女達を殺した』と言っていたが――『達』か。
 直前には『承太郎がまどかを殺した』と言っていたな。言い間違いかもしれないが言葉が雑になっている。
 どちらを信用するかなんて――おっと、勝手に結論を決めては君に失礼だね。少しの間席を外させてもらうよ。なに、トイレさ」



『なあ、悠くん。まどかちゃん達を殺したのは僕か、それとも彼女か...どっちだと思う?』



 ことの始まりはたしかにこんなことを足立透が言っていた。


407 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:35:47 l0iRJflA0

◆――

 

……騒がしいわね。


――◆


408 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:36:59 l0iRJflA0

 ヒースクリフの奴が残した言葉は最悪だ。
 んだよあいつまじはーまじ……まじかよ。置き土産ってレベルを越してるね。

 言葉の綾だぞ、そんなの。単なる言い間違えで済ませばいいじゃん。
 それをネチネチネチネチ……そこまでして俺を悪者にしたいか? ま、嘘は憑いてるんだけど。

 でもさあ、普通はスルーするだろ。
 マスコミと一緒だよ。重要じゃなくてどうでもいいことを揚げ足取ってさ。
 そもそもあのエルフ耳がいけないんだよ。あいつが言ったんだからな、もうあいつを呼べ。

 だいたい嘘じゃ限界があるのは当然だよなあ!? ……はぁ、なにしてんだろうな俺。

「まさかとは思うけどさ。
 今のアレを嘘とカウントしてさ、もう俺のこと信じられない感じになってる?」

 だけどこのまま黙ってたら『はいそうです。僕がまどかちゃんとほむらちゃんを殺しました』って肯定することになる。
 ふざけんな。そんなの俺が負けるじゃん。やってらんねえ。負けたくねえ、死にたくねえ。

 もう少しで鳴上悠を追い詰めれたのに……クソ。
 エンブリヲとかいう奴が割ってこなければ確実に追い込めた。

「当然だ。それにお前は『セリューを知らない』と言ったが、その前には『セリューを正義狂』と言っていたな」

 ……そうだっけか。


 あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!


 どいつもこいつも邪魔ばっかしやがって!
 俺が何をしたんだ、なお、おい!! 巻き込まれて、死にたくないだけで……クソ!

 島村卯月がいなけりゃ、エンブリヲがいなけりゃ、ヒースクリフが余計なことを言わなければ……っと、まずい。

「……悪い。俺も追い詰められて可怪しいことを言っていたかも」

 押して駄目なら引いてみな。って訳でもないけど、これは苦しい言い訳だ。
 俺が相手の立場だとしても信じられないからね。ここは素直に認めるしか無い。

 それでも俺が有利には立てないなあ……逃げるか?
 警戒するのは鳴上悠のペルソナだけでいいだろう。島村卯月の糸も怖いけど。
 エンブリヲは銃と斧を持っている。まあこいつはペルソナで焦がせばいい。

 スタングレネードを投げて逃げるか?
 ヒースクリフが居ない今がある意味チャンスかもね。
 それに倒れてる女達を人質に取れば充分生き残れる確率は上がるさ。
 そんなことをすればもう信用もクソも無いけどね。エルフ耳に文句言って何とかしてもらうしかない。

 ……そう言えばあいつ、なんか広川の放送案に乗ったとか言ったような……結局、俺は袋小路じゃん。


「足立さんもきっと心が不安定になっていたんだ」


 どうした鳴上少年、君の声を久々に聞いたような気がするけど初手煽りとかナメた真似してくれるね。
 お前の方が不安定でガタガタで全然喋れて無かっただろ。
 でも……話を逸らしてくれるのは有り難い。ナイスだ。

「悠君……信じてくれるのかい?」

「足立さんに一つ聞きたいことがあります」

「……え?」

 前言撤回。お前も裁判か。そうだよな、チャンスだもんな、攻めるよな。クソ。
 
「足立さんはペルソナが使えたんですね」














 こいつ。













 とんでもねえ発言しやがって。


409 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:38:17 l0iRJflA0


◆――


私に出来ることはなにがあるんでしょう――セリューさん。


――◆


410 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:39:35 l0iRJflA0
 
 手詰まりだ。
 ディスプレイを見つめキーボードに手を置くエンブリヲ――分身は何も情報を掴めなかった。
 幾ら情報を探ろうと初春飾利が解析した段階までの欠片しか電子の海には浮かんでいない。
 苛立ちすら生まれてくる。時間の無駄だと鳴上悠を庇う形で足立透へ八つ当たりする程度には。

 つまり、死んだ参加者の情報しか手に入っていない。
 放送の後に白井黒子、泉新一、後藤、田村玲子、アカメの五名が死亡したことを確認出来たのは大きい情報だろう。
 逆に言えばその程度でもある。時間が経過すればいずれは解る情報だ。
 広川が提案した人数まで残り半分の五名――そこまでして願いを叶えたい参加者がいるのか。

「空条承太郎……スタンド能力か」

 本体は現在、島村卯月の供述が行われている真っ最中である。
 足立透と彼女の意見が食い違う要因の一つが空条承太郎であり、自然とマウスのカーソルは彼のフォルダを開いていた。
 スタープラチナと呼ばれるスタンドを操り、どうやらかなりの実力者らしいが……興味は無い。

 結局の所、主催者の情報や殺し合いの真実は何一つ見えて来なかった。
 わざわざパソコンを置いてあるのだから、何かしらの手掛かりが掴めると踏んでいた。
 実際に初春飾利がある程度まで解析出来たように。しかし成果は零であった。
 彼女の能力は本物だったかもしれない。エンヴィーの襲撃により生命を落としていなければ更に謎を解明出来ていたかもしれない。

 このまま時間を浪費するぐらいなら探索をするべきか。
 ディスプレイの前に座り込みどれぐらいの時間が経過しただろうか。
 そろそろ動く時かもしれない。そう思い席を立った所でエンブリヲの背中から心臓へ刃が刺さり込む。


「ヒ、ヒースクリフ……ぅ!?」


 痛みが後から追い掛ける如くの一撃に対し、エンブリヲは為す術もなく相手の名前を呟いた。
 首を動かすと瞳には見下すような視線を浴びさせるヒースクリフの姿があった。

「まさかそんな能力まであるとは……な」

 言葉の終わりと同時に剣を引き抜くとエンブリヲの穴から鮮血が吹き出す。
 心臓にまで届いた刃だ。人間の身体に風穴を空けるなど造作も無いだろう。

「裏で嗅ぎまわっているようだが……私に変わってもらおうか」

 峰でエンブリヲだった存在を吹き飛ばすと、椅子に座り込みディスプレイを見つめる。
 意外と簡単に殺せたものだとも思う。分身能力とはまた厄介だとも思ってしまう。
 油断していたのかどうか不明であるが、奇襲は成功だ。そして――。

 
【UB001:ねえヒースクリフ。あなたにいいことを教えてあげる。】


 こちらも成功したようだ。


411 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:39:58 l0iRJflA0

◆――


KoB:奇跡に魔法か。信じるしかないようだな。


UB001:賢明。それと足立透の発言は嘘が含まれてるのは知ってるよね。


KoB:勿論。と言っても興味は薄れているがね。


――◆


412 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:40:53 l0iRJflA0


「それは――空条承太郎と暁美ほむらのいざこざに巻き込まれた時に覚醒したんだ」


 このタイミングでペルソナのことを聞くなんてこいつは馬鹿か?
 考えて発言しているなら相当な鬼畜だ。これじゃあこの場を切り抜けても例の殺人犯は俺だと宣言するようなもんじゃないか。
 勿論、嘘を憑くけどね。正直に言ってしまえば鳴上悠は――って、こいつはどこまで知ってるんだろうな。

「どうして話してくれなかったんですか。そうすればまだ、足立さんのことを信用出来たのに」

「必要は無いと思ったんだよ悠君。実際周りもスルー気味だったしね」

「――もう一つ、聞いていいですか」

 答えねえ。もう面倒になってきたよ。手頃な所で逃げるしかないねこりゃあ。
 ヒースクリフの一言で最悪だ。もう誰も俺のことを信用しないな。孤独よ孤独。
 この場を切り抜けてもマジで孤立してんな……エルフ耳ぐらいか? でもあいつのせいで俺は今追い込まれてんだよな。

 エンブリヲって奴も邪魔だった。
 こいつが最初に割り込まなければ鳴上悠と島村卯月を追い詰めれたのに。
 クソ、どいつもこいつも邪魔ばっかしやがって。
 そのくせ、エンブリヲは勝手に苛立っているじゃないか。何があったんだか。
 ブツブツと呟いてるけど……ヒースクリフ? 分身? なんであいつの名前が出てくるんだか。

 そういや鳴上悠が質問するって言ってたな。早くしろよ。






「足立さんは嘘を――俺は、信じたい」






 本当におめでたい奴だなあ。
 この状況なら絶対に俺が嘘を憑いてるって解ってるだろ。
 確信犯かな――いや、違うな。本当にお人好しだ。
 今でさえ俺を見捨てないで、救ってやろうと腕を伸ばしてきやがる。







 嫌いだね。







 俺の手からスタングレネードが零れ落ちた。


413 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:42:56 l0iRJflA0

◆――


KoB:まさかそれを伝えるためにわざわざ接触を?


UB001:ううん。貴方にお願いがあったの。


KoB:私で解決出来れば聞くが……タダとは言わんが。


UB001:それは理解しているよ。お願いは――黒を助けてほしいの。


KoB:個人的な頼みか?


UB001:そう。贔屓に近いけど、主催者が似たようなことをしたからね。
    贔屓とは違うけど、参加者と接触したの。


KoB:まずはその参加者と黒幕を教えてもらおうか。


UB001:参加者はキング・ブラッドレイ。黒幕は彼らホムンクルスの親玉って言えばいいかな。
    接触したのは条件提示。二人殺せば真実を教える――ってね。


KoB:キング・ブラッドレイ……なるほどな。全く油断為らない老人だ。


UB001:本当にそう思うよね。それで私の頼みを聞いてくれる?


KoB:構わんが助けたとして私に何の得がある。


UB001:貴方の首輪を外してあげる。


KoB:仮に私が辿り着く前に黒君が死んだらどうする。


UB001:その時も貴方の首輪を外してあげる――どう、悪くないよね。


KoB:手を打とう。


――◆


414 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:44:11 l0iRJflA0

 足立透に誰もが集中していた。
 彼の小さな動きすら凝視しており、警戒態勢の中に放たれたスタングレネードに対しても全員が行動をしていた。


 鳴上悠は気絶している高坂穂乃果を庇うべく彼女の上に覆い重なった。


 エンブリヲは閃光から倒れている本田未央を庇うために上着を彼女の頭部へ被せる。


 そして島村卯月はただ一人、足立透へ反逆を行う。


「だめ……だめッ!」


 腕を払いクローステールを飛ばすとスタングレネードを粉々に斬り刻んだ。
 説明するだけならば簡単ではあるが、不意打ちに対し完全に対処したのは流石と云うべきか。
 本来ならば殺し合いとは無縁の彼女が何故ここまで帝具を扱えるのか。
 奇跡の物語であるがその影には実験台となった彼女達の存在がある。

 今もなお永遠に繋がれた魔法少女は部屋の片隅で全てを見守っていた。

「足立さんッ!!」

 教室を飛び出した足立透を追うべく立ち上がった鳴上悠も走りだす。
 その後に続くように島村卯月が教室を飛び出し残るエンブリヲもまた、ゆっくりと移動し始める。
 誰よりも先に飛び出した足立透は既にペルソナを解除している状態であり、全速力で廊下を走っていた。
 灯りが消えた学院であるが窓から差し込む月灯りがあるため、真夜中の学校という言葉の響きから連想する印象よりも視界は良好である。

 鳴上悠も教室を飛び出した際にペルソナを解除しており、純粋な逃走劇となっている。
 狭い廊下での展開。他の参加者。足立透の出方。全ての要素が重なり迂闊な行動が出来ない。
 学院を飛び出すのが彼の目的である。しかし外に出てしまえば、それが戦闘の合図となるだろう。

「ク……ソ、こんな所で詰んでたまるかよッ!」


415 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:46:04 l0iRJflA0

 階段に差し掛かった足立透は片足で力強く床を蹴り上げると、跳躍で一気に下の踊り場へ落下。
 着地の硬直により身体に痺れが走るも、この程度の痛みは我慢しなければ逃走は無理だ。
 己の身体へ鞭を打ち込み、更に廊下を走り込む。

「っと……げっ、まだ追って来るかよ」

 躓き転倒しそうになるも壁に腕を張り伸ばし体勢を整え、足を止めずに前へ進み続ける。
 後ろを振り返ると鳴上悠が階段を降りていた。しつこい奴だ、と足立透の舌打ちが廊下に響いた。
 
「ふざけんな……俺は、俺は……死んでたまるか……ッ!!」

 走り抜ける際に踵でゴミ箱を蹴り飛ばし廊下に中身をぶち撒けることにより追手を妨害。
 空き缶も捨てられていたため、確実に鳴上悠の足止めは成功しただろう。

「おまけだァ!」

 振り向き様にテニスラケットを投擲し鳴上悠の頭を狙う。
「ペルソナ!」
 しかしその一撃はイザナギによって阻まれるも、それは足立透の作戦である。
 少しでも時間を稼げればいい。足を止めれればいい。逃げるだけだ、と再度正面を見つめ直し駆け出した。



「――止めてください!!」



 追い付いた島村卯月の声が響く。
『とめてください』――誰に対して言った言葉なのだろうか。
 興味を示さない足立透であったが、何やら先が輝いていることに気付く。
 どうやら他の参加者らしい。光はライトだった。

 子供だ。中学生程度と思われる少女がバチバチと雷光を走らせながら立っていた。




「止めるか――終わらせてあげる」





 足立透はこの感覚を前にも味わった。
 あれはコンサートホールでの出来事だ。鹿目まどかを殺した直後の記憶が蘇る。
 空条承太郎に看破され、暁美ほむらに追い込まれたあの時だ。

 まるで時が止まったようだった。
 気付けば目の前には大量の羽が自分に襲い掛かる直前。理解が追い付かない。
 そして今も――目の前で輝く雷光の存在を信じることなど、認めたくなかった。

 その遠くで鳴上悠は足立透が足を止めたことに違和感を感じていた。
 捕まってしまう――そう考えていると予想出来るが動きを止めることに、疑問を抱く。

 それもその筈だ。
 足立透の姿と重なり鳴上悠に御坂美琴は見えていない。


「ペ――ペルソナアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 死ぬ。
 悟った足立透は何も考えずに直感でマガツイザナギを展開させた。


416 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:46:37 l0iRJflA0

◆――


広川が提示した人数まで残り――五人


――◆


417 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:47:31 l0iRJflA0

 あれだけ騒がしければ誰だって近付くだろう。
 銃声その他諸々の音を聴きつけた御坂美琴は音ノ木坂学院へ立ち寄っていた。

 音の数や特徴からして複数の参加者が滞在しているのは明らかである。
 願いのためにも止まれない。そうでなければ此処まで来た意味が無い――殺せ。

「上から随分と……馬鹿みたい」

 生存人数が大幅に減っている中でよくも自分達の居場所を報せられるのだ、と関心すら彼女はしていた。
 当然、学院内で修羅場を繰り広げている彼らはそんなことを気にしてはいなのだが。
 そこまでして死にたいのなら殺してあげる。死ねばいい。楽にしてやろうか。

 最早、御坂美琴を止めることなど誰にも出来ない。
 最後の砦であった白井黒子は――死んでしまったのだから。

「距離はそう遠くない。上から降りて来た……男が二人か」

 逃走劇真っ最中の足立透と鳴上悠が現れたのは御坂美琴が学院に訪れてからそれ程時間が経過していなかった。
 最初に出てきたスーツの男――足立透はゴミ箱を転がしたりテニスラケットを投げたりと必死に逃げている。
 しかし、見た限りでは彼が正義とは判断出来ない。むしろ追い掛けている少年――と云っても御坂美琴よりは年上の鳴上悠の方が正義に見えていた。

 さて、どうするべきかと雷光を腕に纏った時に見慣れた姿が廊下の奥へ現れた。
 あれはたしか――図書館だ。と誰にも拾えない声を零す。
 キング・ブラッドレイと共に行動をしていた時に襲って来た糸の少女が息を切らしながらスーツの男を追っているようだ。

 また会うとは思いもしなかった。そして生きているとも想定していなかった。
 出会わなければもう少しは長生き出来ただろうに。


「――止めてください!!」


「とめてってあたしに言ってるの?」


 一度は殺そうと襲い掛かった相手にそんなことを頼むとはどうかしている。
 気持ちは分かるが理解が追い付かない御坂美琴は若干怠そうに腕を突き出す。
 わざわざ超電磁砲を使う必要も無い。生身の人間ならば電流を走らせるだけで十分である。
 前川みくや美樹さやかを殺害した時と同じように。


「止めるか。まぁ、いいよ――終わらせてあげる」


418 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:49:09 l0iRJflA0

 これで参加者がまた一人減った。そう確信していた所にペルソナが現れれば流石の超能力者も面を喰らい固まってしまう。
 咄嗟の対応として彼女は物陰に身を隠す。反撃を受けてはひとたまりもない。
 DIOが使役するような人間体よりも大きい存在は手に取った刀のようなものに雷撃を帯びさせると、それを振るい御坂美琴の電流を相殺させた。
 狭い廊下内に風が吹き荒れ、足立透以外の人間が足を止め、彼はその隙を見逃さずに外へ飛び出した。

 後を追い掛けるように鳴上悠も外へ身を放り投げた。
 不幸か幸運か。

 鳴上悠から見ると、御坂美琴の姿は足立透とマガツイザナギに重なっており見えていなかった。
 彼の視点からすれば足立透がマガツイザナギを展開しマハジオダインのような技を振る舞ったようにしか見えていない。
 それよりも遠く離れていた島村卯月には御坂美琴の姿が認識できたが、足立透に接近していた鳴上悠には雷光の少女を認識する術は無かったのだ。

 残された二人の少女は何も語らない。
 御坂美琴が着実に一歩ずつ距離を詰めるだけである。

「久し振り」

 一歩。

「生きていたんだね、あんた」

 ゴミを蹴り飛ばしながら。

「ありがとうございました」
「何がよ」
「止めようとしてくれて」
「そんなんじゃないわよ。あたしはただ、あんた達を殺そうとしただけ」

 お礼を言われると予想していなかったためか、御坂美琴の声は少々荒げていた。
 この状況でよくそんな言葉が飛び出るものだと感心すらしてしまう。

「……あんた、ちょっと顔が変わったね。うん……良い事でもあったの」

 自分は何を聞いているのか。
 そんなことを把握したところでこの女を殺すと云うのに。


「そうですか……? そうですね――鳴上悠君が最後まで私を信じてくれたから、かな」


 これから死ぬ運命である島村卯月の顔に絶望の雲は掛かっていない。
 不思議だ。御坂美琴は目の前にシンデレラに対し純粋な疑問を抱いていた。
 死ぬのが怖くないのか。たしかに自分とキング・ブラッドレイに襲い掛かる命知らずの少女だ。
 だが、誰だって死に対する恐怖はあるはず。御坂美琴とて、いざその時に直面すればどうなるかは解らない。


419 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:50:20 l0iRJflA0


「鳴上悠って――あぁ、今行った奴のことね」

 スーツの男を追い掛けた青年がその鳴上悠なのだろう。
 此方の存在に気づいていなかったことから、きっと見えていなかったのだろうと御坂美琴は一人納得していた。
 巡るめく動き続ける戦場だ。相手の姿を見失うこともあれば、伏兵に気付かない時だってある。
 DIOとの戦闘では多くの参加者が入り乱れていた。寄生生物の襲来も唐突だった。何が起きるかは解らない。

「それでさ。これからあんたはあたしに殺されるってのは解ってる?」

 言う必要も無い言葉が廊下に流れる。
 御坂美琴は優勝を狙っている。目の前には自分よりも弱い島村卯月がいた。
 ならばやることは一つで最初から決まっており、彼女達の運命も変動のしようがない。

 わざとバチバチと雷音を鳴らし、人が悪いように威嚇を行ってみる。何をやっているんだかと御坂美琴の口から溜息が溢れた。
 パフォーマンスに近い。自分の趣味はこんなに悪かったのかと頭痛がしてくる。
 掌を額に運んだ所で、急に意識が遠のくような感覚に襲われる。一度睡眠を挟んだとは云え体力は確実に削られている。
 白井黒子との別れが体力的にも、精神的にも響いているのは間違いない。
 
 参加者も残り少ないこの状況で、おそらくだが生き残りの参加者は殆どが実力者だろう。
 守られている弱者もいるだろうが、全員が生き残れる程、殺し合いは甘くない。
 この手で殺した前川みくのように――無害な人間だって死んでしまうのだから。

「……何も言い返さないのね」

 休みたい本音とノルマを稼ぐ建前があるため、出来ることならば速く終わらせたい。
 なのに目の前に立つ島村卯月はこれから死ぬと云うのに――全く怯えていない。
 あのアイドルのように、意識が確率していない状態で殺すのとは訳が違う。
 倒れ果て奇跡を乗り越えた青髪の少女を殺すのとも、訳が違う。

「怖くないとか言う?」

 震えていない。
 涙を流さない。
 命乞いもしない。

 なんだ、この女は何者なんだ。

「怖い……です。死ぬのは怖いです」

 信じられない。
 弱々しい言葉に対し御坂美琴は共感を抱けなかった。
 ならば何故そんなにも真っ直ぐな瞳でいられるのだろうか。

「私じゃ貴方に勝つのは不可能だって……図書館の時に気付きました」

「だろうね。それが当然よ……それで、諦めて、黙って殺されるのねあんたは」

 そうだろうか。
 自分で言った言葉だが、言い切れない。
 本当に島村卯月は生きることを諦めているのか。


420 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:52:22 l0iRJflA0


「正義の味方にはなれませんでした。元々、私が戦うなんて無理があったんです」

 島村卯月憧れていた場所をただ、遠くから見ていただけだった。
 それがいつの間にか自分も同じ場所に立っていると、勘違いをしていた。

「あたしとキング・ブラッドレイに挑んどいてよくそんなことが言えるわね。
 自分で言うと気持ち悪いけど、あたし達は生き残りの中でもかなり強いわよ?
 そんな連中に喧嘩を売ったあんたがそんな弱気なんて信じられないけど――魔法でも解けたのかしら」

 一種の興奮状態にでも陥っていたのだろうか。
 人間は極限まで追い込まれれば、時に信じられない力を発揮する。
 所謂火事場のクソ力や覚醒と云ったご都合主義に分類されるような奇跡だ。

「魔法ですか……セリューさんが私にくれた勇気を使い切ってしまいました」

 そうか。そのセリューに出会ったから島村卯月は此処まで生き残れたのだろうと思い込む。
 遭遇したことは無いが、放送で名前を呼ばれていたことは把握している。死して尚、証を残したのか。

 物語ならばどれだけ美しい友情だろうか。

 だが、殺し合いには必要がない。

 友情。魂。絆。
 そんな綺麗事は焼却炉に放り込め。
 泥を被る気の無い人間が、生命の奪い合いに介入などするな。

 綺麗な意思で全てが解決するなら――多くの人間が死なずに済んだだろうに。

「じゃあそのまま……さようなら」

 御坂美琴が伸ばした腕は島村卯月の頭を掴んだ。
 力は篭っていない。優しく包み込むように掌が置かれている。

「最後に一つだけいいですか」

「……なによ」

 この期に及んで命乞いをするとは思えない。
 自らの死を悟っている島村卯月が何を言うか、全く想像出来ず、予測不能である。

 


「穂乃果ちゃんと未央ちゃんにありがとう、それとごめんなさいって伝えて下さい」




 ――自分の口で言いなさいよ。大切な人なら尚更、自分の言葉で伝えなさい。



 
 その表情は輝いていた。
 どんな絶望も明るく照らす希望の太陽のように。
 流れる涙が反射して、幾多にも煌めきが夜空を彩っているようだった。

 どうしてそんな顔が出来るのだろうか。

 どうしてそんなに強いのか。

 ただの、普通の少女にしか見えない彼女がどうして此処まで覚悟を固めているのか。

 分からない。

 解らない。

 最後に願うは他者への感謝と謝罪だ。
 役者が語る台本によって創られた言葉ではなく、本心から紡がれる真実。

 理解が出来ない。



 解るとすれば――雷光が島村卯月の頭から全身を駆け巡り、その生命を散らしたことだけである。


421 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:53:08 l0iRJflA0

◆――


UB001:ありがとう。それにもう一つだけ。


KoB:言ってくれ。


UB001:学院にキング・ブラッドレイが接近してるから逃げることを勧めるわ。


KoB:これはいいことを聞いた。今の状況で彼と一戦交えるのは避けたいな。


――◆


422 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:53:57 l0iRJflA0


「はぁ……はぁ、くっそ……!」


 どれだけ走っただろうか。
 学院を飛び出し西へ足を動かし続けた足立透の体力は大きく疲弊していた。
 肩で呼吸を行い、今にも転倒しそうな足取りだ。気力だけで、止まらないように前へ進んでいる。

 止まれば自分が追い込まれるのは解っている。
 既に絶体絶命だが相手は鳴上悠、ヒースクリフ、エンブリヲの三人だ。
 負けるビジョンなど見たくは無い。流石に三人相手では分が悪いことも解っている。
 イレギュラーである電撃少女と島村卯月も敵になる可能性がある。学院に留まれば負けは確実だ。

 此処で動きを止め、学院に戻されるなり全員に追い付かれでもすれば、それこそ生き残る道は無い。
 鳴上悠以外は――足立透を殺すことに、覚悟を持って取り組むだろう。


「っ……ちっ、何時まで追い掛けりゃ気が済むんだよ……ぉ!」


 膝に手を着き大きく呼吸を行った足立透はそのまま視線を背後へ移す。
 そこにはただ一人として自分を追い掛ける鳴上悠の姿だ。
 足立透にとって気に食わない煌めきを灯した瞳を相変わらず――憎い奴だ、と唾と言葉を吐き捨てる。

 もう走るのは止めだ。
 マガツイザナギを展開した足立透はペルソナを鳴上悠の方向へ向かわせる。

 握られた獲物が彼の生命を潰さんと振るわれるも――当然のように防がれることになる。

「――イザナギ!」

 空間に出現したペルソナ同士の獲物が打つかると、互いに何度も振るい剣戟が行われる。

「お前らはいっつもそうやって邪魔しやがって……エンブリヲとヒースクリフがいなけりゃ今頃はァ!!」

 マガツイザナギが振るうスイングを防いだことによってイザナギの体勢が揺らぐ。
 その隙を狙うべく足立透は攻撃を加速させ連撃を叩き込む。
 対するイザナギは直撃しないように、防ぎ、回避し、捌き続ける。


423 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:55:05 l0iRJflA0


「俺が何をしたって言うんだよ!? こんなクソみたいな殺し合いに巻き込まれりゃあ誰だって保身に走るだろ!!
 冗談じゃない……正義の味方だとか、友情ごっこだとかさぁ!! それが当然って顔を平気でしてるお前らが俺は信じられないんだよ!!」

 鍔迫り合いにより金属音に似た音が響き、衝撃が大地を揺らす。
 舞い散る火花はまるで衝突する彼らの意思と言葉を表現しているようにも見える。

「足立さん――どうして貴方は!」

 
「知るか……俺はただ死にたくないんだよォ!!」


 イザナギが強く押し込みマガツイザナギを後方へ下がらせるも、返しの力がソレを上回る。
「俺は信じていた……足立さんが例え嘘を憑いていても何か事情があって――ッ」
「お人好しが……偽善者ぶってんじゃねえよ!! イライラするなあ……ガキが」
 ペルソナ同士が飛び退き――再び近接戦闘の応酬が繰り広げられる。
「綺麗事だけを並べる奴が嫌いだ。お前らは人生に困ったことが無いんだろ、満たされて来たんだろ。
 頭が可怪しいよな。こんな状況でも他人のために動ける? 冗談じゃない、本当に信じられないんだよ」
「諦めない――俺達は絶対に諦めない。これまで救えない生命もあった……だけど、生きているなら諦めちゃ駄目なんだ」




「うぜえ……うぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえ!!


 そんなに現実が見れないなら此処でぶっ殺してやる、どうせ遅かれ早かれ死ぬんだからな。殺してやるよ――鳴上悠ゥゥ!!」




「まだ足立さんは生きている――貴方は生きて罪を償うことがまだ残っている。


 これ以上、誰も殺させない。悲しませない。そのために足立さん――貴方を此処で俺が止めます!!」




 己の心に仮面を装着し生きてきた男。



 他者との絆を信じ生きてきた男。



 互いの信念が――暗闇の中で火花を散らす。


424 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:56:34 l0iRJflA0

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)
    爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血
[装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品、
[道具]:初春のデイバック、テニスラケット、幻想御手@とある科学の超電磁砲、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み)、警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:優勝する。(自分の存在価値を認めない全人類をシャドウにする) 皆殺し。
0:鳴上悠を殺す。
1:鳴上悠を殺す。
2:鳴上悠を殺す。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
※黒と情報交換しました。 



【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(極大)、ダメージ(大)、胸に切り傷(治療済み)、イリヤに負けた事・さやか達を救えなかった事への後悔、困惑
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:足立透を止める。
1:その後に学院へ戻り仲間との合流。
2:死者の分も生き残り殺し合いを止める。
3:エンブリヲへはまだ警戒を続ける。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
※スラオシャを会得しました。一度の使用で6時間使用不可。
回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。


425 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:57:34 l0iRJflA0


 しまった。
 御坂美琴は己の行動に後悔を抱いており、身動きが取れないでいた。
 倒れた島村卯月の死体を見つめている最中、廊下の奥から歩いてくる参加者に警戒していた所に――別の参加者に背後を取られてしまった。

「まさか瞬間移動の能力者が混じっているとはね」

「ふん――さぁ、殺される前に知っている情報を全て吐き出してもらおうか」

 エンブリヲが一階へ駆け付けた時には既に島村卯月が死んでいた。
 悲しみを抱いた訳では無いのだが、足立透に対し最後まで信念を貫き通し鳴上悠を守った姿は印象に残る。

 エンブリヲを世界の定義で表すならば【悪】の存在である。
 自分を中心に全てを考え、世界の神を気取るその姿は屑と云っても過言ではない。
 けれど、彼にも感情はある。揺れ動く時も存在しているのだ。

 少なくとも御坂美琴の後頭部に突き付けた拳銃の覚悟は本物である。

「手短に頼む。この場所にはキング・ブラッドレイが接近しているらしいからな」



「――なんだって、ヒースクリフ」


「キング・ブラッドレイ――それは本当なの?」



 ヒースクリフの口から飛び出した人物の名前には心当たりがあった。
 エンブリヲからすれば憎い存在であり、この手で殺したい人物である。
 御坂美琴からすれば、一度は別れた利害の一致――だが、今遭遇すればどうなるかは解らない。

「ヒースクリフ……お前は何処でその情報を手に入れた?
 まさか今まで黙っていた訳では無いだろう。私の分身を殺した後に何をした」

(瞬間移動の他に分身も……こいつ、気を付けないと)


426 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 01:59:01 l0iRJflA0


 エンブリヲの分身がヒースクリフに消されたことは当然のように知っている。
 パソコンから情報を探っていた――その後にあの部屋で何かがあったのだろう。
 少なくともエンブリヲは相手がこのタイミングで嘘を憑かない人間だと思っている。おそらく高い確率で情報は本物だろう。

 しかし電子の海から何を引き上げたのか。
 エンブリヲが時間を費やしてもお宝どころかガラクタも掴むことが出来なかった。
 ヒースクリフが優秀な学者であることは認識していたのだが、どうやら彼はまだ利用価値があるらしい。

 キング・ブラッドレイの襲来。
 此処で迎え撃つことも可能だが――出来るならば万全を期したいところである。

 一度の敗北を経験した相手だ。もう失態を晒すことはしない。
 けれど、彼が強者なのも事実である。あの障害を排除するには――全てを利用する。


(電撃の女とヒースクリフ……それに私の三人なら……そう上手くいく訳が無いな)


 数の理で攻めれば幾らあのキング・ブラッドレイと云えど苦戦は免れないだろう。
 しかし電撃の女――御坂美琴が協力する前提である。交渉すらしていない。
 背後を取っている中、彼女は一切取り乱さず安定状態である。相当な自信があるのだろう。


 一時的な戦力の確保が出来ればいいのだが、さて。


 黒の救出を依頼されたヒースクリフ。


 優勝のために全てを殺害する覚悟を決めた御坂美琴。


 そして力を取り戻しアンジュの蘇生を願うエンブリヲ。


 三者の思惑が交差する月灯り差し込む廊下の中で。


 彼らの選択がこの一瞬の宴を――大きく左右する。


427 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 02:00:42 l0iRJflA0


【G-6/音ノ木阪学院/二日目/黎明】


【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(中:瞬間移動の分)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望 、穂乃果への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ
     各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0〜2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
0:キング・ブラッドレイに対し戦闘を選択するか、それともこの場から離れるか。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:一般人たち(未央、穂乃果)の利用価値を見極める。
6:真姫の首輪を回収した後、北部の研究施設に向かう。
7:ヒースクリフを警戒、情報を引き出したい。
8:魏志軍に黒の始末を任せる。
9:鳴上と足立のペルソナ(イザナギとマガツイザナギ)に興味。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。
※首輪の警告を聞きました。
※モールス信号を首輪に盗聴させました。
※足立の語った情報はほとんど信用していません


428 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 02:01:12 l0iRJflA0


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:HP45%、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード(有効期限切れ)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
    クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation、キリトの首輪、クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、イリヤの首輪
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:キング・ブラッドレイとの戦闘は避ける。
1:黒救出のためにカジノへ向かう。
2:黒に魏からの伝言『地獄門にて貴様を待つ』を伝える。
3:チャットの件を他の参加者に伝えるかどうか様子を見る。
4:主催者との接触。
5:ロックを解除した可能性のある田村玲子とは接触したい。
6:北西の探索を新一達に任せ、自分は南の方から探索を始める。
7: 鳴上と足立のペルソナ(イザナギとマガツイザナギ)に興味
8:キリトの首輪も後で調べる。
9:余裕ができ次第ほむらのソウルジェムについて調べる。
10:鳴上と足立のペルソナ(イザナギとマガツイザナギ)に興味。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。
※足立から聞かされたコンサートホールでの顛末はほとんど信用していません。



【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)全身に刺し傷、右耳欠損、深い悲しみ 、人殺しと進み続ける決意 力への渇望
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×1、回復結晶@ソードアート・オンライン、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、黒子の首輪、ヒルダの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:黒子も上条も、皆を取り戻す為に優勝する。
0:へぇ、キング・ブラッドレイが来るんだ。
1:次の放送までに十人殺しを達成し、死者を五人生き返らせる権利を取り付ける。
2:可能な限り、徹底的に殺す。
3:ブラッドレイとは会ってから休戦の皆を確認次第、殺すかどうか判断。
4:首輪も少し調べてみる。
5:万が一優勝しても願いが叶えられない場合に備え、異世界の技術も調べたい。
6:全てを取り戻す為に、より強い力を手に入れる。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました


429 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 02:01:55 l0iRJflA0


◆――


島村卯月が反省していることはわかっている。
でも、そんな簡単に割り切ることなんて出来る訳が無いよ。

あの人がいなければことりちゃんは生きていたかもしれない。
真姫ちゃんも殺されることは無かった。

許さない。許せない。許すつもりもない。

今まで出会って来たみんなは強い人達ばっかりだった。
最初に会ったワンちゃんは私を救ってくれた。ウェイブさんは大切な人が死んでも戦い続けた。
マスタングさんだって罪を償いながらも戦っていた。白井さんも花陽ちゃんも頑張っていた。

私は――どうだろう。

何をしたかと聞かれたら……何も答えれない。

偉そうなことを言える立場じゃないのは解っている。でも、私はやっぱり島村卯月だけは許せない。

強くないから。大切な人が殺されて立ち直れる程……私は強くないから。
生きることに諦めた訳じゃない。ことりちゃん、凛ちゃん、海未ちゃん、真姫ちゃん、花陽ちゃんの分も生きる。
屈しない。このままで終わりたくない。みんなとの思い出を終わらせたくない。

でも。

もうみんなとは会えない。
全部の責任が島村卯月にある訳じゃない。
それでも真姫ちゃんを殺したのはあの人だ。あの人が私の前で真姫ちゃんを殺した。

反省していることも、後悔していることも解っている。
それが嘘じゃなくて、本心であることも伝わってくる。
償う覚悟も感じ取れて、島村卯月は罪を乗り越えて前へ進もうとしている。

それは尊敬出来ることだと思う。
とても眩しくて、折れない姿には憧れを抱くことももしかしたらあったかも。

それはもしもの話で、IFのお話。

今の私は島村卯月を信じられない。憎んでいる。


でも……私だって前へ進まなくちゃいけないのは解っている。


納得するまで、私は彼女と話したい。


――◆


430 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 02:02:34 l0iRJflA0


◆――


島村卯月が反省していることはわかっている。
でも、そんな簡単に割り切ることなんて出来る訳が無いよ。

あの人がいなければことりちゃんは生きていたかもしれない。
真姫ちゃんも殺されることは無かった。

許さない。許せない。許すつもりもない。

今まで出会って来たみんなは強い人達ばっかりだった。
最初に会ったワンちゃんは私を救ってくれた。ウェイブさんは大切な人が死んでも戦い続けた。
マスタングさんだって罪を償いながらも戦っていた。白井さんも花陽ちゃんも頑張っていた。

私は――どうだろう。

何をしたかと聞かれたら……何も答えれない。

偉そうなことを言える立場じゃないのは解っている。でも、私はやっぱり島村卯月だけは許せない。

強くないから。大切な人が殺されて立ち直れる程……私は強くないから。
生きることに諦めた訳じゃない。ことりちゃん、凛ちゃん、海未ちゃん、真姫ちゃん、花陽ちゃんの分も生きる。
屈しない。このままで終わりたくない。みんなとの思い出を終わらせたくない。

でも。

もうみんなとは会えない。
全部の責任が島村卯月にある訳じゃない。
それでも真姫ちゃんを殺したのはあの人だ。あの人が私の前で真姫ちゃんを殺した。

反省していることも、後悔していることも解っている。
それが嘘じゃなくて、本心であることも伝わってくる。
償う覚悟も感じ取れて、島村卯月は罪を乗り越えて前へ進もうとしている。

それは尊敬出来ることだと思う。
とても眩しくて、折れない姿には憧れを抱くことももしかしたらあったかも。

それはもしもの話で、IFのお話。

今の私は島村卯月を信じられない。憎んでいる。


でも……私だって前へ進まなくちゃいけないのは解っている。


納得するまで、私は彼女と話したい。


――◆


431 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 02:03:08 l0iRJflA0

 信じられない。
 まるでこの世の終わりを体験しているかのような表情を浮かべるシンデレラ。

 教室で意識を取り戻した本田未央と高坂穂乃果は他の参加者がいないことに気付く。 
 廊下へ飛び出し、会話の声を頼りに一階へ降りた先に居たのはヒースクリフ、エンブリヲ、そして見慣れない少女が一人。

 鳴上悠と足立透、それに島村卯月がいないことに対して即座に気付くものの、床に転がる一人の少女に視線が集まった。
 見間違うこともあるまい。島村卯月本人が此方に背を向ける形で転がっていた。


「し、しまむー……?」


 本田未央は今すぐにでも走り出したい衝動に駆られている。
 けれどそれを抑制するような――先に居合わせた三人の瞳は何処か悲しみのブルーを帯びていた。

 嫌だ。

 心臓が跳ね上がると同時に、そんな感情が胸の中で台風を形成したように暴れ狂う。

 信じたくない。

 ヒースクリフは顔を落とした。

 御坂美琴は何一つ灯りを帯びない瞳で本田未央達を見つめている。

 その背後にいるエンブリヲの表情もまた、何かを諦めているかのように無機質なものだった。


「嘘……う、そだよね……?」


 誰もその問に答えない。
 無言は肯定と同意義であるが、本田未央はそれを否定し続ける。
 彼女の後ろに立つ高坂穂乃果は口元を手で抑えている。彼女もまた現実を受け入れられていない。


「しまむー……こっちを向いてよ」


「いつものように笑顔で頑張りますって言ってさ……ねえ、しまむー?」


「頑張るって……罪を償うって、生きるって……何か答えてよ……っ」







「お願いだからしまむー……また、笑ってよぉ………………」






 二人の少女が流した涙。
 本田未央と高坂穂乃果、その涙の意味はそれぞれ違うだろう。


 だが一つだけ共通していることがある。



 流れる涙は島村卯月に捧げられたものだ。



 シンデレラの幕が降りる。



 今宵の宴は終演。カーテンコールも無く、アンコールの拍手にも応えられない。



 正義を信じた一人の少女は――遥か高き天へと続く階段を駆け上がってしまった。



【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ 死亡】


432 : 純黒の悪夢/小さなShining Star :2016/07/06(水) 02:03:52 l0iRJflA0


【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、悲しみ(極大)、卯月に対する憎しみ(絶大)、嘔吐感
[装備]:デイパック、基本支給品、音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(2/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3
     サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:練習着、カマクラ@俺ガイル
[思考・行動]
基本方針:どうすればいいか、もうわからない(優勝は目指さない)
0:………………………え?
1:ウェイブさんが気がかり
2:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――
3:花陽ちゃん...みんな...
[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。
※花陽と情報交換しました。
※足立から聞かされた情報は半信半疑です。



【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、セリューに対する複雑な思い、喉頭外傷及び右耳欠損(治癒済み)、精神的疲労(極大)
[装備]:
[道具]:デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪
[思考・行動]
基本方針:生きてみんなと一緒に帰る。
0:しまむー……?
1:どうしたの……?
2:嘘だよね、そうだよね……?
3:みんなで私のことを騙そうとしているんだよね……?
4:しぶりんもみくにゃんもプロデューサーもしまむーも……?
5:――――――――――――――――――――――――――――私だけ残して、みんな行っちゃった。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。


433 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/07/06(水) 02:04:25 l0iRJflA0
投下を終了します


434 : 名無しさん :2016/07/06(水) 02:09:24 dTHL1d7E0



435 : 名無しさん :2016/07/06(水) 02:10:00 l2L73T660



436 : 名無しさん :2016/07/06(水) 02:38:42 dTHL1d7E0
途中送信でした。投下乙でした。

足立さんは番長とタイメンなら嘘を貫き通せただろうけどエンブリヲとヒースクリフには通じなかったか
あと一歩で共犯ルートだったけどこれでよかったね番長
しまむーを最初に助けたのがエンブリヲなのは意外だったけど基本は優しいキャラなことを思い出した
気に入った人間には表面上だけでも優しく振る舞うししまむーの一生懸命な姿が心を動かしたんだろうなあ
ヒースクリフは一番首輪解除に近い参加者だなあ。黒のところへ行けば確実に外せるし
御坂も揃ってマーダー集結だけど更にラースも来るとは……w
作品で言われてたとおりこの三人の動きが大きく今後を左右しそう

動きといえば遂にペルソナ一騎討ちですね
他者を拒む足立と仲間を信じる番長の戦いが楽しみです
互いに言葉をぶつけ合うのがかっこいい

今回の主役はしまむーかな!
最後まで頑張ってよく喋ったと思う。取り返しのつかないことをしてきたけど
彼女なりに正義を貫いて番長を守れたのは誇っていいぞ
御坂相手に心を折ることなくちゃんみお達のことを考える優しい子なんだよねシンデレラの幕引きお疲れ様
笑顔でよく頑張った

残されたちゃんみおとホノカもどうするんだろう
特にホノカは意見をぶつける相手がいなくなったし……


437 : 名無しさん :2016/07/07(木) 20:51:14 T690CTSQ0
投下乙!
しまむーほんとお疲れ様
あまり美化するつもりはないけどセリューが死んでからよく頑張ったよ
残ったちゃんみおは彼女の分も生きてほしい
ボスは色々もやもやが残るから心配だ
その悲しみを他人にぶつけないでほしいけど無理だろうなあ
エンブリヲが地味にかっこいい
ヒースクリフに分身消されたりパソコンから情報が得られないから足立に八つ当たりしたけどそれが結果的に番長救うとは
そのままペルソナ対決……どっちが勝つやら
御坂は止まれないなあどこまで闇に染まるんだろう


438 : 名無しさん :2016/07/08(金) 00:43:53 /vQ9P41U0
投下乙です
しまむーに逝かれたボスは果たして


439 : 名無しさん :2016/07/08(金) 22:20:59 H3BzlsEk0
佳境だなあ
エンブリヲが大総統を相手にするかしないかが重要だな
逃げれば休憩出来るしヒースクリフの首輪が外れるけど御坂美琴がいる
戦えば確実に誰かが死ぬ


440 : ◆dKv6nbYMB. :2016/07/27(水) 23:50:48 QkrMjZ.c0
投下します


441 : ◆dKv6nbYMB. :2016/07/27(水) 23:53:30 QkrMjZ.c0


『現時刻をもって、このエリアは禁止エリアに指定されました。エリアに滞在する場合は三十秒後に首輪が爆発します』
「いっ!?」

高坂穂乃果がいるという音乃木坂学院へと走っていたエドワードは、突如鳴り響くアラーム音に慌てて足を止める。
確かに先の放送ではG-5が真っ先に禁止エリアに指定されると言っていたが、しかしこのタイミングでタイムアップを迎えるとは思ってもいなかった。
不幸中の幸いか、G-5エリアに侵入してからはさほど時間が経過していなかったため、全力で北上すればかろうじて抜け出すことに成功した。

「やれやれ、肝を冷やしたが無事でなによりだ」
「けど、音ノ木坂学院は遠くなっちまった」

エドワード達が北上を選んだのは、なにも運任せなどではない。
迫る時間の中、先程までいたアインクラッドからここまでの道のりと地図を脳内で照らし合わせ、生き延びる最善の手が北上することだった。
だが、それは音ノ木坂学院から遠のく選択肢である。
つまりは、黒子から託された穂乃果から遠ざかるのと同意義だ。
そんな選択肢を仕方なかったで受け入れられるほど彼は大人ではなかった。

(...だからって、このまま止まるわけにはいかねえ)

ここで止まっていれば、穂乃果だけでなく他の生存者も危険に晒される可能性がある。
ならば、今すぐにでも足を動かすべきだ。

(今の位置はG-4...音乃木阪学院に向かうには、G-3から周らないと行けない)

向かい側のF-4との間には川が流れているため、北上してから南下するという非常に遠回りな行程を進むことになる。
だが、たたでさえ黒子に御坂の全てを任せている現状だ。
いまは一秒一刻さえ惜しい。
とはいえ、川幅は目算では泳ぎきれない距離ではないが、かといって泳いで渡ればそれだけ体力を消耗し、且つ狙い撃ちにでもされればどうしようもなくなる。

(なら、これしかないよな)

両手を合わせ、地面を急繕いの橋を錬成する。
奈落を渡った時にも使用した方法だ。
あの時よりも川幅は狭いため、どうにか対岸まで橋を繋ぐことには成功。
これを渡れば時間はだいぶ短縮されるはずだ。


442 : 英雄なんかじゃないから ◆dKv6nbYMB. :2016/07/27(水) 23:54:48 QkrMjZ.c0

「とはいえ、早く渡らねえとな」

さほど長くない橋とはいえ、急繕いな以上耐久は酷く脆い。
崩れてしまうにはさほど時間を要さないだろう。
早速、エドワードは猫を肩に乗せ渡りはじめる。

「なあ、エドワード」

おもむろに猫が呼びかける。

「お前、このまま高坂って嬢ちゃんのところに行くつもりか?」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ。このまま行ってなんになる」

猫の言葉に、エドワードは思わず足を止める。

「早く渡らないと橋が崩れちまうぞ」
「......」

促す猫の言葉にひとまず従い、再び足を進める。

「仮に高坂って嬢ちゃんとこのまま合流できたとする。お前は嬢ちゃんをどうするつもりだ」
「死なせないに決まってるだろ」
「黒子との約束か」
「それもある...けど、それ以上に誰も死なせたくねえんだよ」
「これ以上誰も傷付けないでか」

やがて橋がボロボロと崩れ落ちていく。

「なんだよ、さっきから文句つけるようなこといいやがって」
「文句をつけてるんだ。幻想(ゆめ)を見すぎたんだよ、俺たちは」


443 : 英雄なんかじゃないから ◆dKv6nbYMB. :2016/07/27(水) 23:55:52 QkrMjZ.c0

唐突な言葉にもエドワードは足を止めない。
真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに進んでいく。
それでも、橋はやはり崩れてしまう。

「エドワード、お前の言う殺さない覚悟ってのは、お前一人で出来ることなのか?」
「......」
「敵意を持った人間の殺し方は簡単だ。致死量の電撃流したり急所に刃物をぶち込んだりすればそれで終わりだ。だが、敵意を持った人間を殺さない方法は難しい。
だってそうだろ?いくらこっちが説得しても相手は常に殺る気でくるんだ。御坂なら、武器を奪おうが能力を奪おうが関係ない。上条って奴を生き返らせるまでお前を殺しに来るぞ。
いや、御坂だけじゃない。お前の殺さない相手ってのは、後藤やキング・ブラッドレイも入ってるんだろう?お前は少なくともその三人を敵に回して、それでも誰も傷付けず殺さないで済ませられると思っていたのか?」
「それは...」

『何度も言わせないでよ、効かないって。それがアンタの“殺さない覚悟(じゃくてん)”、だからあのみくって娘も誰もかもアンタの生き方(つよさ)に着いて来れず死ぬのよ!!』

脳裏に、先刻の御坂の言葉がよぎる。

そうだ。
死地に身を置く者ならば、死なない攻撃など気に留める必要は無い。
その攻撃を受け止めれば、エドワードを殺すチャンスが訪れるのだから。
そして、御坂に効かなかったものが、殺戮マシーンである後藤に、ホムンクルスであり戦闘狂でもあるラースに効くはずもない。
たった一人相手にも勝てないというのに、そんな強者三人に勝てるか―――不可能である。
勝機は針の穴、なんて生易しいものではない。
零だ。零でしかないのだ。

「現実を見ろ。お前は少し妙な力を使えるガキで、いまの俺はただの喋る猫。そんな奴らが、なんのリスクも無しにあいつらを抑え込むのは無理だ」

彼らが渡り終えた橋が崩れ落ちる。
彼らの理想を掲げる時間は、ここに終わりを告げたのだ。


444 : 英雄なんかじゃないから ◆dKv6nbYMB. :2016/07/27(水) 23:57:55 QkrMjZ.c0


「じゃあ...どうしろって言うんだよ」

エドワードの拳が握り絞められる。
答えなどもうわかっている。
御坂との戦いの最中、脳裏を過った様々なIFと彼が殺さなかったために多くの悲劇を生み出してしまったこの現実。

殺さない覚悟が枷となっているなら、その信念を曲げるしかない。
そう。つまり。
エドワード・エルリックが殺す覚悟を持つしか―――

「いや、お前は不殺(それ)を変えるな。生半可な覚悟よりは、馬鹿みたいに貫いた方がマシだ」

今まで築いてきた信念を変えるのは難しい。
よしんぼ変えられたとしても、黒子のような絶対の意思が無ければ、先程の橋のように急繕いの不良品だ。
そんなものより、不器用でも真っ直ぐな意思を貫いた方が道は開ける。

「けど、俺じゃ敵わないんだろ」
「お前一人じゃな。一人でやれることには限界があるんだよ。お前に限らず...な」

猫はエドワードの肩から降り、地に足をつける。

「俺が言いたかったのはそれだけだ。というわけでしばらく別行動だ」
「どこに行くんだ」
「ここのところ俺はなにもやってないからな。せめて、あいつらを呼んでくるんだよ」
「あいつら?」
「佐倉杏子たちだ」

佐倉杏子―――武器庫近辺での戦いの後に別れた"仲間"の一人。
彼女や一緒にいたウェイブや田村玲子も合流できれば心強い。
だが...

「...けど、あいつらを巻き込むわけにはいかねえ」
「はぁ?」
「あいつらはまだ怪我人だ。それに―――御坂がもし黒子を殺したら、俺が止めなきゃいけねえんだ」
「関係ない奴らは巻き込みたくない、か...エドワード、少し俺に顔を寄せろ」
「?」

猫の指示通り、しゃがみ込み猫との距離を縮める。

瞬間

猫は跳びあがり、鋭く尖る爪が振り上げられ

ザッ

―――エドワードの頬に、三本の赤い線が走った。


445 : 英雄なんかじゃないから ◆dKv6nbYMB. :2016/07/27(水) 23:58:30 QkrMjZ.c0

「〜〜〜〜ってぇな!なにしやがる!」
「お前の物わかりが悪すぎるからだ」

地面に降り立つ猫は、エドワードを睨みながら言葉を紡ぐ。

「この際だから言っておくぞ。誰かを巻き込みたくないだとか、責任を果たさなくちゃいけないだとか、もうそんな次元の話じゃなくなったんだ」
「もとをただせば、俺たちがロクな戦力も持たずに御坂とブラッドレイを探しに行った時点で失敗だったんだ。
考えてもみろ。エスデスが現れて状況を混乱に陥れた時、俺たちは戦力不足で撤退を余儀なくされた。その結果、敵も味方も大勢死んじまった。だが、あの場に杏子たち3人の内1人でもいればどうなる」

敵である御坂を除けば、あの場での生還者はエドワードと黒子のみ。
しかし、あの3人の内1人でもいればどうなったか。
花陽の逃走の手助けをし、犠牲者を減らすことができたかもしれない。
気絶してしまったさやかを連れてくることもできたかもしれない。
タツミが決死の特攻をすることもなくエスデスを止めることが出来たかもしれない。

そう。
修羅場を経験してきたあの3人の内1人でも一緒に連れて来ていれば、少なくとも犠牲者はもっと減らせたはずだ。

だがエドワードは事を急いて戦力を手放してしまった。
その結果がこれだ。

「所詮は結果論だがな。だが、一人でできなければ数を増やすってのは合理的に考えなくても1番効率のいい手段だろう」
「......」
「お前はもう少し俺たちを信じろ。仲間と思ってるなら尚更だ―――っと、あんまり話し込んでる場合じゃないな」

猫は、そのままエドワードに背を向け闇に姿を消そうとする。

「待て」

そんな猫をエドワードは呼び止める。

「なんだよ。これ以上引き留めると時間が―――」
「わかってる。けどもう少し時間をくれ」

訝しげに振り返った猫にエドは地図を突き付ける。

「いいか、俺たちは奈落に錬金術で橋をかけて渡ってきたからだいぶ短縮できた。けど、俺とお前が別れたらその手は使えない。そのぶんお前は杏子達を連れてくるのに遅れちまう」
「まあ、そうだな。俺は猫だ。普通の人間よりも遅いしスタミナもない。時間はかかっちまうだろうな」
「もしも黒子が負けて、御坂が俺や穂乃果たちを殺しに来たら間に合うか?」
「時間によっちゃ厳しいだろうな」
「だろうな。だから、合流は音ノ木坂学院じゃなくて図書館にする」

図書館のある場所は、D-5。ちょうど市庁舎と音ノ木坂学院の中間付近だ。

「時間は次の放送後...あと4時間もないけど、順調にいけば難しくはないと思う」
「わかった。もう話し合うことはないか?」
「ああ。...気を付けろよ、猫」
「お前もな、エドワード」


再会の約束を交わし、猫は市庁舎へ、エドワードは音ノ木坂学院へと向かって走りだす。


446 : 英雄なんかじゃないから ◆dKv6nbYMB. :2016/07/28(木) 00:01:58 Dfd3vhUs0


(俺は、視野が狭くなっていた)

御坂にみくを殺させてしまったあの時から思い込んでいた。
全ては俺の責任だ、あいつは俺が止めなければいけない、自分が決着を着けなければいけないと。
そして、これ以上誰も巻き込むわけにはいかないと。

(違うだろ。俺はいつからなんでも解決できる正義のヒーローになったんだ)

今まではどうだった。
1人でなにかを為せたか。
違う。
自分の力で救えたものなんて、掴めたものなんて一握りだった。


(そうさ。俺は一人でなんでもできる英雄なんかじゃない)

エドワード・エルリックという少年は、万能ではあれど決して"最強"ではない。

錬金術に幅はあれど、御坂美琴を打ち破るのに必要な"火力"という一点においてはロイ・マスタングの方が上だ。
錬金術師には珍しい格闘術においては、ホムンクルス達やスカー、佐倉杏子にはやはり遅れをとる。
戦闘経験も、ウェイブやリン達の方が積んでいることは疑いようもないだろう。


だからこそ。

自分一人では届かないものがあれば、信念を貫くためには、敵であった者でも同盟を持ち掛けた。利用できるものはなんだって利用してきた。
それを見失ってしまえば、勝てるものも勝てなくなってしまう。


―――もしも信念を貫きたいならば。

手段を選ぶな。活かせるものは全て活かせ。
これ以上負けてたまるものか!


少年は決意を新たに、闇夜をひたすらに駆けだした。


【F-4/二日目/黎明】


【エドワード・エルリック@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、精神的疲労(大)、全身に打撲、右の額のいつもの傷、黒子に全て任せた事への罪悪感と後悔
[装備]:無し
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ゼラニウムの花×3(現地調達)@現実、不明支給品0〜2、ガラスの靴@アイドルマスターシンデレラガールズ、パイプ爆弾×2(ディパック内)@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本:主催の広川をぶっ飛ばす。
0:黒子から託された、高坂穂乃果を探す(とりあえず音ノ木坂学院へ向かう)。 放送までに彼女たちを連れて図書館で猫と合流する
1:大佐……。
2:前川みくの知り合いを探したい。
3:エンブリヲ、御坂、ホムンクルスを警戒。ただし、ホムンクルスとは一度話し合ってみる。
4:一段落ついたらみくを埋葬する。
5:首輪交換制度は後回し。
6:魔術を解析したい。発見した血の練成陣に、魔術的な意味が含まれていると推測。
[備考]
※登場時期はプライド戦後、セントラル突入前。
※前川みくの知り合いについての知識を得ました。
※ホムンクルス達がこの殺し合いに関与しているのではと疑っています。関与していない可能性も考えています。
※仕組みさえわかれば首輪を外すこと自体は死に直結しないと考えています。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※エスデスに嫌悪感を抱いていますが、彼女の言葉は認めつつあります。
※仮説を立てました。




【マオ@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[思考]
基本:帰る。
0:杏子たちを探すためにひとまず市庁舎付近へ向かう。次の放送までに図書館でエドワードと合流する。
1:黒の奴、飲んでないといいが。
2:銀……。


447 : ◆dKv6nbYMB. :2016/07/28(木) 00:02:35 Dfd3vhUs0
投下終了です


448 : 名無しさん :2016/08/01(月) 19:48:33 J0N1nZUY0
遅くなりましたが投下乙です
最終決戦の形がだんだん見えてきたか、猫がよい保護者役になっているな

これは自分の趣味なんですが、
猫は普通の人間よりも遅いよりは、猫は走り続けるスタミナがない
の方がよい気がします、短距離だと人より速いので


449 : ◆dKv6nbYMB. :2016/08/01(月) 23:08:08 nOUMZJA20
感想&ご指摘ありがとうございます。

>猫は普通の人間よりも遅いよりは、猫は走り続けるスタミナがない
の方がよい気がします、短距離だと人より速いので


修正します。


450 : ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:46:51 mQwrnRxk0
お疲れ様です、投下します


451 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:48:10 mQwrnRxk0

 彼は男を救いたい。男は彼を殺したい。
 決して合致することのない二つの意思が、己を彩る影となりて姿を現し信念を振るう。
 彼が操る様々な心を持った仮面の自分と男が使役する禍津の影。時に雷光が、火炎が戦場を蹂躙する。
 重なる刃達は引く意思を示さず、両者は歯を食い縛り耐え抜いていた。負けてたまるか、死んでたまるか。
 救ってみせる。殺してやる。

 殺し合いの幕が開かれてから日数にして一日が経過している今、生存者は大幅に減少している。
 此処まで彼らが生き残ったのは何かの示し合わせか。こうして対面している現状は因縁なのか、偶然か。
 絡みあった運命を紐解く瞬間が迫っているのだ。そう、この時こそが大極を左右する一世一代の大勝負であり、運命分岐点だ。
 何にせよ終わりが近づいている。それは個人のしがらみを含めて、事象の終結も含めて全てが終焉へ向かっている。
 乗り遅れたものから涙を流し、選択を誤った者から死んで行く。
 可能性が僅かでも残っているならば、生命を賭けて叶えろとは言わん。しかし拾わなければ明日への道は見えないだろう。

「イザナギッ!」

 ペルソナを変化させ新たにイザナギを展開した鳴上悠は手に握られたソレを振るうと同時に己の右腕をも開いた。
 力強く、自分に絡み付く重たい鎖を引き千切るように。その動きに呼応するようにイザナギの獲物がマガツイザナギへ迫る。
 対する足立透はいつまで経っても倒れない鳴上悠の生命力と諦めの悪さに舌打ちをしていた。
 元の世界に居た時から知っていたのだが、改めて対峙すると認めたくないが、この男は強いのは事実だ。

「しつこいんだよォ!!」

 宙で火花を散らすペルソナの刃。
 衝撃が地上を揺らしそれぞれの学生服とスーツが風に揺れていた。
 地力で考えれば鳴上悠の勝利だ。けれど外因や精神的要素、これまでの積み重ねを考えればどちらに勝利の女神が微笑むかは解らない。
 足立透が守るものは己だけだ。捨てるものも、背負うものも自分だけである。 
 鳴上悠は全てを背負っている。倒れていった仲間と共に道を歩む友、未来を託す希望の全てを背負っている。
 けれど彼は戦闘による消耗の蓄積と仲間との別れを経験し、立っているのが流石と賞賛する段階だ。
 それでも倒れず、諦めずに前を向いているのが彼の強さである。しかし足立透が情けを掛ける訳ではない。

 鳴上悠と比べればまだ体力は残っている。無論、今まで楽をしてきた訳ではない。
 一人だけペルソナが使えない状態で始まり、スタンド使いや魔法少女、ホムンクルスや様々な異能と対峙して来た。
 それでも先程の学院では比較的身体を休めることが出来たのは大きかっただろう。精神面も鳴上悠よりはマシな部類である。
「友情努力勝利が本当に好きだよなあ!?もう立たなくていいんだよ!」
 攻撃と共に声を上げる。少しでも勝利へ近づけるために出来ることはなんだってやってやる。
 振られた刃から放たれる疾風の如き圧を正面から受けたイザナギは後方へ飛ばされるものの、いち早く体勢を立て直す。

「まだだ、足立さん……俺は諦めない!」

「そうかい……馬鹿だよねえ」

 まただ。この男は何度だって立ち上がって来る。
 鳴上悠は初めて足立透と一戦交えることとなっているが、後者は既に経験済みである。
 それも敗北と云う振り返りたくない記憶であり、結局は駄目だった世界に対する灰に染まった絶望でしか無い。
 殺し合いに巻き込まれたのがその瞬間であり、鳴上悠はどうやら何の因果が働いたかは不明だが、ソレ以前の記憶しか持ち合わせていない。


452 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:50:10 mQwrnRxk0

 繰り返しで何度も、見飽きた顔だ。
 どんなに傷付こうが鳴上悠は立ち上がる。鬱陶しい程までに、この男は向かってくる。
 死なない。この男の瞳はどんなことがあっても光を失わず、希望に満ちていた。

「マガツイザナギィィィィイイイ!!」

 ペルソナが獲物を天高く掲げると周囲を照らす雷光が溢れんばかりの収束を果たす。
 鳴上悠はこれから起こるであろう攻撃を知っているため、流れる汗も拭わずに距離を取るために走り出した。
「あの光は……まずいッ!」
 石に躓こうと倒れないよう必死に体勢を整えながら、遥か向こうの彼方まで体力のある限り。
 周囲を取り巻く風の変化で解ってしまう。マガツイザナギのソレが振り下ろされたことを。
 マハジオダイン。
 鳴上悠が数秒前に居た地点に降り注ぐ雷光の輝き。直撃を避けても衝撃が彼に襲い掛かる。
 風圧により身体が浮くと、空中で身動きが取れる筈も無く、大地を転がる
 しかし受け身を取り素早く立ち上がると後方から駆け付けたイザナギが禍津へと迫り、追撃を防ぐ。

「何で君と似てるかなあ……嫌になるよ」

 足立透は己の影であるマガツイザナギと鳴上悠の心であるイザナギの姿が瓜二つなことに言葉を漏らす。
 彼の発言から名前まで似ていると判明し、しかも己には禍津が付加されているのだ。
 お似合いだと笑えばいい。けれど、元が鳴上悠のイザナギだと考えると虫唾が走ってしまう。
 仇も足立透にイザナギが元だの禍津だの意味合いの真意は解らない。
 ただ、目の前の憎い存在が自分と似たようなペルソナを持っていることが、ただそれだけが気に食わない。

「どうしてこんなことを続けるんですか!
 今はそれどころじゃない……俺達は生きているんだ」

「生きてるよ? で、それがなにか問題でも?」

 足立透は煽るように調子の高い声で、それも両腕でやれやれと謂わんばかりの振る舞いだ。

「足立さんが許されるなんて甘えたことは言わない、でもまだ生きているんだ……罪を償える」

「誰が罰をくれたのかなあ?」

「俺達は生きている……まだ、やれることがあるんだ」

「そりゃあ全員殺して元の世界に帰ってさ、ついでに願い叶えるって話? それならねぇ悠くん……一人だけだよ?」

「みんなで協力すれば……希望はまだ残っている!」

 青臭いねえ。それが足立透の抱いた最初の感想であり、受け入れたくない感情でもある。
 こんな状況で、残りの人数が二十にも満たない佳境の中で何を協力するというのか。
 エルフ耳と呼ばれた魏志軍、エンブリヲ、キング・ブラッドレイ、後藤、足立透自身に学院で遭遇した電撃女。
 少なくとも六人は殺し合いの中で最後の一人になろうとしている存在がいるのだ。みんなで協力?笑いが止まらない。
 大げさに腹を抱えて笑う足立透を鳴上悠は軽蔑すること無く、揺るぎない瞳を持って目視していた。


453 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:53:50 mQwrnRxk0

 足立透が人を殺していようと。彼が足立透であることに変わりは無い。
 殺人を犯したことも変わらなく、例え転生しようとその罪は残るだろう。そして、彼は生きている。
 まだ償える、やり直せる、もう一度、前を向いて、踏み外した道を歩める可能性が残っているのだ。
 諦めてなるものか、少しでも可能性があるのならば泥に塗れてでも掴み取ってやる――鳴上悠の魂に呼応するようにペルソナが吠える。

「目を覚ませ……足立透ッ!!」

 地獄へ片足を突っ込んでいようと。
 取り戻してみせる、帰ってみせる。
 例えそこにクマが、天城雪子が、里中千枝が消えていようと。
 それでも、生きているならば――もう一度、みんなで笑い合える日を、足立透も一緒に笑える日を。

「取り戻してみせる!」

「さっきからなに言ってるかわかんねえ……わかんねえんだよォ!!」

 禍津に染まりし災厄が灰色の心を握り締める男の声に応えるように、獲物を振り廻す。
「取り戻す?目を覚ます?協力する?勝手にやってろよバーカ!!絆って意味も無い言葉に一人で憑ってろォ!!」
「違う!俺は、俺達はまだやれることがあるんだ!足立さんだって心では解っている筈だ、間違ったことをしているって!」
「はあああああ!?…………あぁ、お前のために声を張り上げるのもめんどくせえ」
 言葉の弾丸が地上で、空中では刃が火花を散らし何度も交差している。
 どちらの物も届かない。ぶつかっては地に落ち、相手に届くまで何度も想いは放たれる。
「間違ったことをしている?誰がそんなこと決めたんだよ、人の生き方に文句をつけないでくれる?」

「足立さんは間違っている……貴方が間違っている道を進んでいるなら、俺は何度だって貴方を否定して、目を覚まさせる」

 イザナギの振るった一撃がマガツイザナギの体勢を崩す。
 想いと共に繰り出された一撃は均衡を破壊し、好機を逃さまいと連続で刃を振るう。
 防戦一方となる禍津は直撃を受けないように、迫る連撃を必死で捌く他の行動が取れない状況となっていた。

「んだよ……なんだよ……!
 俺の中に入ってる来るな……心ン中にずけずけと近づいて来んじゃねえ!!」

「目の前で困っている人がいるなら俺は助けます」

「お前のせいで困ってんだよなあ!?」

 両腕で力を込めて握り締め、隙が生まれようと関係なく大振りで禍津はイザナギに反撃を行う。

「さっきもそうだよ、学院でよォ! お前やエンブリヲ、それにヒースクリフのせいで台無しになった……ッ!」

「足立さん、貴方はやっぱりまどかとほむらを――殺したんですね」

「へっ……へへ、どうせここで悠君も死ぬんだからね。
 いいよ、そうだよ。俺があの二人を殺した……ははっ、騙されたぁ?」

「――ッ、どうしてそんなことを」

 風が変わる。
 マガツイザナギの一撃がイザナギを刃ごと吹き飛ばし、足立透は叫ぶ。

「どうして……?
 そんなの生きるために決まってんだろ……最後の一人しか生きられないなら殺すしかないよなあ!?」

 形勢逆転だ。
 禍津は距離を詰めると猛攻を仕掛け、イザナギを追い込んでゆく。

「何を言って……そんなこと、正しい筈が無いッ!」
「そうだよ正しい訳無いだろ! 正論ばっか言っても解決しねんだよ!」


454 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:54:44 mQwrnRxk0

 自分がさぞ英雄のように振る舞うその姿が気に入らないと足立透は一蹴した。
 誰が救いの手を求めたのか。勝手に差し出す鬱陶しい存在へ苛立ちを募らせながら、まがつは攻める。
「殻に閉じこもって、何でも自分一人で抱え込むから周りが見れなくなる。そして自分は違う存在と言い聞かせるんだ」
「知ったような口で適当ぶっこいってんじゃねえよォ!!」
「足立さんだってまだやり直せるんだ、俺は貴方を救って――」
「だーかーら……いい加減にしろよ鳴上悠ゥゥ!!」
 心を閉ざした男は纏わり付く言霊を拒絶するように叫び、全てを無に帰すかのように怒りの表情を浮かべている。
 それでも鳴上悠は何度でも手を伸ばし、声を掛け、足立透を引き寄せようとしている。踏み外した道を正すために。

「貴方は学院へ戻って卯月に謝ってもらう、だから此処は!」

 応酬を崩したのはまたもイザナギの一撃だった。
 渾身の力で振るわれた刃はマガツイザナギの体制を崩し、間を置かず接近し更に追撃を行う。

「ごめん、だね。誰が謝るもんか。俺が謝る必要なんてどこにも無いんだよ」

「貴方が嘘を憑いて自分を守ったせいで、卯月は傷付いたんだ……けじめはつけてもらいます」

 己の犯した罪から逃げずに、全てを背負って向き合う彼女がいた。

「俺には関係ないね。どっちにしろあのキチガイは遅かれ早かれ死ぬでしょ」

 決して許される事では無い。彼女が犯した大罪が消える事も無い。

「死体と死体をがっちゃんこ……イカレテルとしか思えないでしょ」

 殺人を犯している足立だが、何も死んだ後にまで嫌がらせや奇行を加えている訳ではない。
 マヨナカテレビの中へ無理矢理に入れ込んだ時も、魔法少女を殺めた時も。
 それに比べ一介のアイドルである島村卯月の所業はどうだろうか。狂人の凶悪犯と何一つ変わらないでは無いか。

「例えあの女が殺してないとしても、どうせどっかで裁かれる。
 自分の犯した罪に耐えられないでしょ。それに自分で言ってたじゃん――他にも殺してるって」

 数時間前の出来事を振り返るように空を見つめる足立透は何かを思い出すように呟いた。
 あれは島村卯月が殺し合いの中で自分の行いを供述し始めたところだ。
 ヒースクリフとエンブリヲに妨害された忌々しい記憶が蘇るのだが、葬る対象はこの場にいない。
 
「まどかちゃん達を繋げる前に……マキだっけ? 一人殺してるでしょ。
 学院で聞いた時は驚いたよ。まさか罪を擦り付けようとした彼女が本当に殺人鬼なんだもん」

 けたけたと笑い声が木霊する。
 足立透が偉そうに発言する義理も、資格も無いが追い詰められた男は止まらない。
 失う物が無い故に、目の前の鳴上悠にいくら嫌われようが、心は痛まないのだから。

「酷いよね悠くぅん。どうして教えてくれなかったのさ、君が教えてくれれば俺はもっと楽になれたのに。
 本当に酷いよねえ。付き合いはこっちの方が長いのに君は島村卯月を庇ったんだ。ショックだよ……嵌めようとしてたのか」

 どの口が言えるのか。
 足立透にとって重要な事は二つ。一つは鳴上悠に反論する隙を与えずに言葉を流し続けること。
 出鱈目だろうが相手の精神を少なからず削る言霊の連発だ。自分が悪かったなどと僅かにでも覚えさせれば勝利に繋がる。
 お人好しの人間にとって、自分が行動すれば救われていたであろう他人の不幸は後悔を抱く。
 勝手な自己満足に近い罪悪感だが、鳴上悠は特に自分を責めるだろう。ならばその人間性を利用し、追い込め。


455 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:55:24 mQwrnRxk0

 もう一つは彼の選択肢を潰すこと。
 一つの疑問に対し、回答は無限に存在する。
 選択によっては光を浴びることとなり、逆に闇に染まることもあり得る。
 逃げ道を失くせ、起死回生の好機も与えるな。正論を振り翳そうとその上から塗り潰せ。

「結局のところ、君は俺を見捨てようと思ってたんだ。それなのに今は救うだのなんなの……矛盾してて恥ずかしくないの?」

 相手を潰すことだけを考えろ。
 嘘をどれだけ並べようと、信じられればそれが真実となる。
 学院で鳴上悠を追い詰めた時と同じように。どの道、この場を切り抜ける事が出来なければ足立透に明日は無い。
 
 皮肉にも同じだった。
 殺し合いに巻き込まれようが、元の世界のままだろうが立ち塞がるのは鳴上悠だ。認めたくは無いが因縁すら感じてしまう。
 だが、今回で大きく異なる点は彼の周りに仲間がいないことである。

 鳴上悠はあの特捜隊の中では口数が少ない印象があった。それは彼自身が口下手な訳では無い。
 周囲を取り巻く仲間が必要以上に口を開き、数の暴力で圧倒するような正論攻撃だった。
 その中で鳴上悠は比較的口数が少ない中で、重要な発言――物語を取り巻く真意を撃ち抜いてくる。
 彼の言葉が全てを左右し、幾多なる運命の螺旋を紐解き答えに繋がる舵取り役だ。

 だからこそ、彼が発言出来ぬよう捲し立て、全力で責める。
 足立透とて己の人生を賭けた大一番であるのだ。簡単に負けを認めるなどあり得ない。
 元より最初に出会い、他の参加者の中で一番の好印象だったヒースクリフに見限られた現状では仲間はこの会場にいないのだから。

「君は僕を助けたい。でもあの時は島村卯月を庇って僕を陥れようとした。
 それでいざ対面になったら救いたい……周りの目を気にして真実を黙ってた君の言葉なんて僕に届かないよ。
 はぁ……付き合いの長い僕を見捨てて、君はあんなキチガイ女を守ってたって訳。嫌だねえ……人間不信になりそうだよ全く」

「――そんな事はない」

「……は?」

 例え自分自身が潰れる重圧の中でも。
 この男は諦めずに、全てを背負って困難を撃ち破ってきた。

「卯月は貴方が思っているほど腐っちゃいない」
 
 瞳が死ぬ事なんて無かった。
 多重の外因で心を蝕んでも、全てを乗り越えてくる。

「嫌なことから、自分の醜い部分から目を反らさずに全部を話してくれた。
 辛さから逃げ出さなかったんだ。足立さんと違って、卯月は心を開いてくれた」


456 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:56:16 mQwrnRxk0

 信じている。
 絶望の中にいようと、心が折れぬ限りは明日へ辿り着けることを。

「足立さんの言うとおり卯月は人を殺してしまった……償っても罪が消えることは無い」

「そうだよなあ、償えば全部許される話になるなら僕達警察は必要ないからね」

「――それでも卯月は」

「ん?」


 一度は下を向いた鳴上悠が顔を上げ、迷いなき瞳を持って答える。


「貴方みたいな臆病者じゃなくて、真剣に自分と向き合っている」


 そしてこの一言が、長きに渡る彼らを終焉へと誘う汽笛代わりの音を響かせた。


「お……お前はどうしてそんなにも……鳴上悠ゥゥゥゥウウウウウウウウウ!!」


 顔をぐちゃぐちゃに歪ませまるでこの世全てが憎いが如く、負の感情を顕にした足立透。
 怒り混じりに大地へ足を落とすと、それを合図にマガツイザナギが両腕で刃を握り振り下ろす。

「正論ばっか並べてるだけじゃ何にも解決出来ねんだよ! ガキが調子に乗ってドヤ顔してんじゃねえ……ッラァ!!」

 反吐が出る。綺麗事だけを言っていれば成功すると想っている青臭いガキに足立透の怒りは最高潮を迎える。
 怒号と共に暴れるペルソナの挙動を鳴上悠は臆すこと無く、全てを捌き己の声を相手に届けていた。

「正論で、綺麗事で何が悪い!
 我儘ばかりで自分を正当化させて、逃げているだけのお前よりもずっとマシだ!」

「テメエェエエエエエエエエエ!!」

 幾多に交差する刃が一方を押し飛ばし、反逆するように己を奮い立たせ立ち向かう。
 二つの影が空中で火花を散らすと共に、地上では二人の人間が誇りを、魂を、生命を燃やし意思を示す。

「罪から逃げるな、言い訳ばっか並べても、都合の良い記号で自分を整えても――お前の罪は消えない!」

 イザナギはその場で旋回しマガツイザナギの頭部へ上段回し蹴りをお見舞いし、後方へ弾き飛ばす。
 間を置かずに刃を天へと掲げ、空気を斬り裂くように具現化した雷光を一身に纏い始めた。

「テメェみたいなガキが空想妄想理想ベラベラ喋り尽くしやがって……何も解っちゃいねえ!
 またこうやって俺の前に立ち塞がって、また追い込みやがって、お前は、テメェは……いい加減にしやがれええええええ!!」

 同じだ。マヨナカテレビの世界で追い詰められた時と何が違うのか。
 ただの高校生にやられ、拳銃で自殺を図ろうとしたあの時と何が違うと言うのか。
 明確に異なるのは周りの存在であり、あの時と違って鳴上悠一人に足立透は負けている。
 その事実が彼のプライドを傷付け、トラウマのように蘇る過去の記憶が心を必要以上に煽り立て、焦りを生んだ。

「つまんねえ……つまんねえよ。
 やっぱお前だけは殺さないと駄目なんだよ……俺がさ、悠くん」

「夢から覚めろ、現実から目を逸らすな……自分と向き合え!」

「テメェをぶっ殺す……ウゥ……俺が負けてたまるかよ……ッ!!」

 禍津に染まりしイザナギもまた天へ刃を突き立て、空間を引き裂くような雷光が周囲を照らし始めた。
 今にでも全てに怒りの鉄槌を下す勢いであり、足立透の感情も相まって降り注ぐ雷撃は鳴上悠のソレを超えていた。


457 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:56:44 mQwrnRxk0

 一斉に空間を駆ける二心は向かい風など気にせず、目の前にある対象を救う/殺すために。
 天翔ける雷光を刃に秘め、振るうと同時に全てを開放し、衝撃と共に辺りを轟かす。
 大地が揺れ、空間が揺れ、まるで会場全体に響いたようだった。それでも彼らは倒れずに前を見ている。


「鳴上悠ゥゥウウウウウウウウウウ!!」


「足立さん……これでええええええええええ!!」


 雷光が降り注ごうと、大地が焼かれようと彼らは立っていた。
 それは救うため、殺すため――そんな大義名分の名の下では無い。
 最終的にはそうだろうが、違う。意地だ、目の前の男に負けたくない思いで彼らは立っている。

 絶対に負けるものか。
 仲間を信じた鳴上悠も、仲間を作らなかった足立透も最後は己の意思で動いている。
 先に倒れた方が負であり、目の前に立つ男に対し敗北を認めるなど、神が許しても己が許さない。
 
 時が幾多に流れた殺し合いは彼らに様々な出会いと別れを齎した。
 神の所業により身体を弄られた男。狂気を秘めた氷の女王に振り回された男。
 一人の少女を救えずに後悔した男。気に食わぬ瞳を持ったスタンド使いと戦った男。
 何もかもが手遅れで己の弱さを実感した男。最後には独りとなり誰にも信じてもらえなかった男。
 それでも前を見続け倒れた仲間の思いも背負う男。最初から最後まで己のために現実から逃げ続けた男。

 雷光の果てに心の仮面は同時に消え去った。
 これまでの消耗と浪費が重なり、彼らの肉体と精神にも限界が近付いていた。
 大地の焼けた匂いが刺激する中で、崩れそうな膝に渾身の力を込めて、彼らは立っていた。

 そして先に崩れたのが――それもそうだろう。
 何せこれまでに積み重ねた疲労の蓄積が違うのだ。幾ら精神が鋼だろうと限界は存在する。
 方や電車の爆発に巻き込まれ、スタンドに拳の嵐を受け、氷の女王を始めとする多くの騒動に巻き込まれた男。
 それでも身体を休める時間は少しばかりは存在しており、何より全力で戦う機会が彼よりも圧倒的に少なかったのだ。

 対照的に神に身体を少しばかり変動させられたことから始まった男は、休む暇も無かった。
 その後は気を失いバッグの中で多くの時間を過ごし、その間に救えなかった仲間がいた。
 神と称された下衆から解放された後に出来た仲間との休息は襲来した契約者により斬り裂かれた。
 ジュネスを取り巻く乱戦により、魔法少女は魔女へと成り果て、殺し屋は心に匿っていた闇を増幅させてしまった。
 合流出来た唯一の友達も、魔女との戦闘により生命を落としてしまい、またもや彼は仲間を救えなかった。
 それも今回は自分の手が届く範囲での失態であり、無力を感じるには十分過ぎる程の喪失だった。
 戦いの中で気絶した結果、目を覚ました時には魔女が死んでいた。元に戻すために全力を尽くしていたが、幕切れはただの気絶。
 無力だ。自分は何一つ救えていない。共に肩を並べた殺し屋も生命を落としていた。自分が意識を失っている間に、多くの生命が消えてしまった。
 そして極附にはたった独りの少女を救えずに、過程で更に仲間を失い、挙げ句の果てには本人の知る由も無いのだが、学院でも一人の少女が死んでしまった。

 度重なる戦闘と別れは鳴上悠の身体に憑物として纏わり付き、それは彼の限界値を知らずの間に削ぎ落としていたのだ。

 マハジオダインを刃に乗せた彼らの衝突によって――限界を迎えてしまった彼は膝を崩し、意識を手放してしまった。

「はは……ざまぁ、みろ……ざまぁみろ!
 結局はガキの強がりだったんだよ……脅かせやがって」

 宿敵が倒れる瞬間を見届けた足立透であったが、彼とて無事では済んでいない。
 足は震えており、左手で頭を抑えこみ、今にも消えそうな意識を必死に身体全体で繋いでいるのだ。
 限界だ。気を抜けば彼も気絶するだろう。鳴上悠が倒れたことにより浮ついている心だが、此処で油断しては全てが無駄になる。

「…………………………救えねんだよ、クソ」

 勝利はしたが表情は喜んでいない。
 その場に座り込んだ足立透は唾を吐き捨てながら、倒れる宿敵を見つめ殺し方を考えていた。

 これで終わりだ。
 マヨナカテレビから続く戦いが、因果を超え時間軸をも超越した殺し合いの中で、直に完結を迎えることになる。


458 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:57:49 mQwrnRxk0


































 まず感じたことは身体に力が入らず、痛みはおろか風を受けている感覚すら無かった。
 無。一言で表すなら無だ。何も感じない。自分が生きていることさえも認識出来ずにいる。
 夢のような、それでも自分の存在だけは保っており、己が鳴上悠であることはしっかりと理解していた。

 負けた。雷光が消え去り足立透の姿が視界に映ると同時に限界を迎えた身体は倒れてしまった。
 糸が切れたように抗いようの無い疲れに逆らうことなど当然不可能であり、倒れること以外に選択肢は無かった。
 足立透に自分の言葉は届かなかったのか。救いの手を伸ばしても、歩み寄っても心を開いてくれる瞬間は訪れないでいた。

 彼が殺人を犯した事は何があっても覆す事の出来ない事実であり、それを受け入れなくては為らなかった。
 けれど、自分を守るために嘘を何度も並べ、真実を塗り潰し己の罪を因果地平の彼方へ投げ出そうとしていた彼を止めることは出来なかった。
 鳴上悠の力が及ばずに彼はまた他人を救うことが出来なかった。足立透はこのまま生き続けるだろう。
 それは己の生き方を何一つ変えずに、更に嘘で事実を塗り潰し我儘でこの世界に反発しながら、誰とも心を通わせずに時を歩み続ける。

 それで良い筈が無い。
 人間は何処まで歩み寄っても最終的には独りになってしまう。
 だからこそ他人を求め、心を温めあい、出会いと別れを繰り返し成長していくのだ。
 足立透は己の殻に籠もり、自分以外の世界はつまらない曇り空のようだと見つめているだろう。
 浮きもせずに沈み続ける毎日を過ごし、誰にも心を開かずにただ、この世界はクソだと言い続けて一生を終える。

 駄目だ。
 それは己を崩壊させる時計の針である。時間が進む限り、心は壊れ続けるだろう。
 罪を犯そうが、それが死ぬ理由にはならない。
 生命を失ってしまえば償う事すら不可能であり、現実から逃げる事と同義である。

 自分を偽る仮面を付けたまま死ぬ人生。それこそつまらない鉛色の空である。
 燕が飛んでいようと、所詮は日常に紛れ込んだほんの少しの外部要素であり、心は揺るがない。
 罪を認めずに罰から逃げる。本当の自分がやるべきことに対し仮面を付け、偽ることで無理矢理にやりたいことを付加させる。
 本心に背いた生き方は精神を摩耗さえ、行末など語る必要も無いだろう。


459 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 00:58:22 mQwrnRxk0

 現状で止められる可能性があったのは鳴上悠だけである。
 彼が倒れてしまった今、誰も仮面の道化師を救うことが出来ない。
 しかし、肝心の鳴上悠は立てない。限界にまで振り絞った力が途切れたのだ。
 足立透を止めなければ仮に彼が殺し合いを生き抜いたとしても、元の世界に戻ればいずれは自滅の運命を辿るだろう。
 抗いもせずに流れに身を任せる姿は簡単に想像出来てしまう。人間らしく生き抜くことですら放棄した男だ。待っているのはそれこそ無である。

 そんな人生、誰にも送ってもらいたくない。
 とうに青春を謳歌する時代は終えているだろう。
 だが、このまま世界に明るさを見出だせずに生きるのは狂気の沙汰である。
 足立透自身は認識していないだろうが、存命し永遠に楽しみの無い人生は罰といえよう。

 させるものか。
 この手で止めてやる。止めようとした。けれど、倒れてしまった。
 鳴上悠に出来る事は消えてしまった。立ち上がれない身体は、意識を闇の中から引き摺り上げることも不可能である。
  
 出来る事はこのまま死を迎えるだけである。
 何もなし得ぬ手ぶらの王様で死んで行く。誰も救えなかった。
 友一人を、仲間一人を、少女一人を、孤独な彼女一人を。

 絆を信じていた鳴上悠は、糸を切らして物語から退場する。
 築いた信頼の先にある力も活かせないまま、伸ばした腕で何も掴めずに。

 もし、もう一度。
 神が運命を歪ませる冒涜を許してくれるのならば。
 例え己の身体を焦がし、磨り減らしてでも、多くの人間を救うために走り続けるだろう。


460 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:00:04 mQwrnRxk0

 けれど、それはもしもの話でありIFである。
 人生は一度きりだからこそ、感動があり、出会いと別れを伴った冒険譚だ。
 二度目の生を授かる事など、奇跡や魔法を会得しない限り永遠に訪れることは無い。

 鳴上悠の舞台に幕が降りる。
 彼を主人公と捉えた物語は多くの人間が救えぬままこの世を去ってしまった。
 観客は下衆な三文芝居と罵るか。現実に抗えない無力を描いた名作を褒め称えるのか。
 受け取り側によって色が変わるのも物語の特徴であり、価値観の差異があるからこそ創作の世界は奥が深いのだ。

 彼の生き様を創作と捉えるかも、個人の自由である。
 この舞台に最低の烙印を押し込み、世界中に駄作だと広めてしまう人間が現れるかもしれない。
 それも自由である。
 しかし、その中に一人でもこの物語を体験し、好意的な感想を述べたとしたら。

 鳴上悠は救われるかもしれない。













「おいおい……ずっと寝てるつもりかよ、相棒」











 透明よりも質が悪く、曇り掛かった灰色の無において聞き間違えだろうか。鳴上悠の耳には聞き慣れた声が届いていた。
 本来ならばあり得ぬ話である。殺し合いに巻き込まれた特捜隊の中に彼は含まれていない。
 まさか……幻聴か。極限状態に追い詰められた自分には冗談だと言い切れなかった。








「反応してくれないと困るぜ、悠」

「陽介……本当に陽介なのか……?」

 鎖で何重にも絡み取られたように重たい瞼を開けると、やはりというべきか。
 声の持ち主は花村陽介だった。転校した鳴上悠にとって最初の友達であり、相棒と呼べる存在が立っていた。

「ほら、手貸してやっから立とうぜ」


461 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:00:56 mQwrnRxk0

 差し出された腕に対し警戒しつつも握ると、人間の感触が、暖かさが鳴上悠を包み込んだ。
 本物だ。本物なのか。少なくとも彼の記憶と齟齬の無い花村陽介が居ることは確かである。

「悪い……けど、本当に陽介……なんでこんな所に」

「こんな所にって……こっちの台詞だってーの。
 お前にクマ、それに里中と天城まで急に消えてビビったっつーの」

「――答えになってないぞ、陽介」

「お! いいねその返し。それでこそ相棒って感じがするわ」

 慣れたやり取りを繰り返すと、やはり目の前に居るのはあの花村陽介である。
 お調子者で、目立ちたがり屋で、臆病な一面も持っているが、困難を乗り越えた仲間が居る。

「その調子でよ、頑張って来い」

「………………………………………」

 その気持はある。
 鳴上悠とて、このまま終わるつもりは無い。
 けれど、限界だ。万策が尽きた所の話では無く、人間としての活動限界が目の前にまで押し寄せているのだ。

「なにつまんねー面してんすか先輩」

「完二……!」

 背後に振り返れば後輩である巽完二が腕を組み、此方を見つめて立っていた。
 また本物だ。この感じと振る舞いは花村陽介と同じく、彼もまた真実の巽完二である。

「アンタはどんな時でも諦めない男だった。
 無理だったとしても、泥に塗れてでも、神様に土下座してでも運命を切り開く男だった……違うか?」

「運命を切り開く……巽君はやっぱりロマンチストとしての一面を秘めていますよね」

「お、おう……ありがとな」

 巽完二の横には探偵王子の異名を司る白鐘直斗が笑みを浮かべていた。
 巽完二が発言した内容に感心しており、それを受けて彼は頬を赤らめ照れていた。

「夢じゃない……のか?」

 意識を失った鳴上悠に待っていたのは地獄や天国、黄泉への案内を仕る受付会場では無かった。
 特捜隊の仲間があの頃と同じように、もう二度と訪れないであろう日常の風景が目の前に広がっているのだ。
 まるでこれから死ぬ自分に見せられた現世への未練を表したかのような光景に、安心と悲しみを覚えてしまう。

「夢じゃありませんよ先輩。
 でも、現実でもありません……どちらかと言えば夢ですかね」

「……すまん、わからない」

 白鐘直斗の発言は鳴上悠の頭を余計に混乱させるだけであった。
 夢ならば納得出来る。現実ならば納得出来る説明を求めた。その両方とも違うとなれば、全く見当がつかない。

「せーんぱいっ!」

「うぉ!?」

「もう会えないかと思ってた……でも、お楽しみは帰って来た時にとっておくね!」


462 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:01:41 mQwrnRxk0


 疑問に対し新たな疑問が生まれ悩んでいるところに、突然抱き着いてくる女性がいた。
 鳴上悠は悟る。出てくる人物は皆、特捜隊の仲間達であり、共通点は殺し合いに巻き込まれていないこと。
 裏を返せば……生きている仲間だけがこの無とも呼べる空間に現れていた。
 久慈川りせも同じである。身体の暖かさは人間と同じであり……それでも、夢なのであろう。

「俺を……励ましに来たのか?」

「流石ですね、その通りです」
「心配したんだから……絶対に負けないで、先輩!」
「足立の野郎に一発かましてやってくださいよ、それが出来るのはアンタだけだ」

「全部終わらせて帰って来いよ、相棒。
 俺達に出来ることは何も無いけど……一緒に里中と天城、それにクマを弔ってやりたいんだ」

「――ッ、知って……いるんだな」

 自分は恵まれている。
 例え幻想だろうと、自分が勝手に創り上げた幻だろうと、こうして仲間と出会えている。
 幸せだ。過ごした青春の煌めきの証が時空を超えてでも具現化されている。
 それ故に全員揃わない事実が胸を苦しめる。助けられずに死んでしまった、仲間の面影が。

「先輩が責任を感じる事なんてないよ……仕方なかっただなんて言いたくないけど……それでも」

「そうですね。会場の広さや位置を考えれば仕方ありません。何より貴方も被害者の一人です」

「……それでも俺は近くに居たのに、里中を……」

「……なあ、悠。あの里中がお前の事を恨んでいると思うか?」

「そこんところどうなんすか、先輩」

「全然だよ、鳴上くんに責任あったら寧ろ私が困っちゃうよ」


「…………………………………………………………………………里中!?」


 目を疑った。色素は確認出来ている。
 耳を疑った。鼓膜は破れていない。
 己を疑った。狂って――いないと信じている。

「ねえ鳴上くん。もしあたしが死んだことに責任を感じているならそれは無いからね?
 なんならあの場所に居たタツミ?」

「あ?」

「違う!!
 それにあの魔女だった――美樹さやかちゃん。彼女達の責任でも無いから」

「俺は傍に居たのに救えなかったんだ……俺がしっかりしていれば里中は」

「そんなことは無いクマよ、先生」

「そうだよ鳴上くん。私の事もみんなの事も責任を感じる必要なんて無いよ」

「おっ、これで全員揃ったじゃん」

 奇跡だった。
 夢の世界だろうが関係ない。二度と交差することの無い意思が、人間が、仲間が揃った。
 笑い合って、青春を共に謳歌し、大切な時間を過ごした仲間とこうしてまた出会うことが出来た。

「せ、先生!? 泣いてるクマか!?」

 瞳を擦る鳴上悠の姿にクマが気付き、焦りを感じたのが急にあたふたし始める。
 きっとハンカチでも探しているのか周りを歩いているものの、何も無い空間でナニカに躓いたかのように体勢を崩す。

「あーれークマー……」

 ごろごろと置物のように転がるクマを見ると、特捜隊の仲間は一斉に笑い始めた。
 その中で鳴上悠ただ一人は、やはりもう揃うことが無いと受け入れてた現実が一瞬でも覆ったことに涙を流していた。

「もう鳴上くんったら……まだ、泣いちゃだめだよ」

 天城雪子の一声に鳴上悠は我を取り戻し、少々粗めに袖で涙を拭うと彼女と向き合った。

「天城……最期は聞いた。ごめん……助けられなくて」

「いいの。別に私は恨んでいない……あの人――マスタングさんだって悪気は無かった。 
 本当の犯人は仕組んだエンヴィーだったけど、もう仇は取ってもらったから大丈夫。あの人は私のことなんて知らなかったと思うけど」

 天城雪子の最期は他人越しに聞いていた。
 焔の錬金術師に死ぬまで何度も焼かれ、その最期は消し炭のように風で消え去ったと。
 初めて耳にした時は悪い冗談かと思っていた。そして、想像すればするほど、助けられなかった自分に腹が立っていた。


463 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:02:34 mQwrnRxk0

「ちなみにクマは変なトリにやられたクマー……むー!
 今度は絶対に負けないクマ! トリよりもクマが強いことを証明してやるクマ!!」

「お前はなんか受け取り方間違ってないか……ったく。
 その、アレだよ悠。誰もお前を責めるつもりは無いし、お前自身が責任を感じる必要も無い。
 だからウジウジしてないでよ。足立を一発ぶん殴って止めてよ、生きているみんなのために頑張ってくれ」


「みんな……!」


 自惚れていた。
 心の奥底の何処かでは独りで戦っていると思っていた。
 それはとんだ間違いであり、仲間との絆はどんなに離れようと繋がっている。
 帰りを待ってくれている仲間が、死して尚、自分に期待してくれている仲間がいる。
 寝ていられない。鳴上悠はこのまま黙って、死ぬ訳にはいかない。

「あたし達がどうこう言える義理なんて全く無いし迷惑を掛けてごめんなさい……だから、頑張ってね」

「さやか……俺は大事な時に傍に居てやれなくてすまなかった」

「全然! 寧ろあたしって本当に馬鹿だからこっちがごめんなさいなんですよー……はは、ごめんなさい」

 身を焦がし魂を黒く穢した人魚姫の魔法少女が頭を掻きながら、鳴上悠に謝罪していた。
 美樹さやかと鳴上悠は彼女が魔女へと変貌する数時間前から行動を共にし、悲劇を防げなかった。
 募る不安と絶望。希望を感じることが出来ずに肥大した憎悪の感情は正を負へと変動させてしまった。
 彼とタツミがアクションを起こした時には手遅れだった。
 周囲は哀しみの旋律が遥か地平まで余韻を残す閉ざされた舞台へ昇華し、閉鎖された隔絶空間までもが発生してしまった。

「でもね、あの後は色々あってあたしは元に戻れました」

「……本当か?」

「奇跡も魔法もやっぱあるんだなって思いましたよ。
 ……えへっ、偉そうな事を言ってるけどタツミを始めとした沢山の人達がいなかったら、そのまま死んでいたけど」

「元を正せば俺がジュネスでグリーフシードを使っていればこんな事にはならなかったからな。
 さやか、それに悠……改めて本当にすまなかった。もう少し柔軟に行動出来ていれば結果は変わっていたと思う」

「タツミ……いや、あの時はみんなが生きる事に必死で、誰も悪くないんだ」

 これまでに培った経験と紡がれた物語。それに積み重ねた信頼は輝きを失う事無く、生者を照らす心の太陽となる。
 この世から消えてしまえば物語からも退場することとなる。そして主人公は舞台から身を引く。
 だが、思い出までもが消える事は無い。
 
「あたし達はすっごい迷惑を掛けました。だから口が裂けてもこんな事は言えないんだけど――」

「――勝ってくれ、悠。お前がみんなを導いてやるんだ」

 ああ!
 短く。その中で絶対的な崩れない意思を表明した鳴上悠は彼らに背中を向ける。
 勇気を貰った。元気を貰った。力を貰った。輝きを貰った。何よりももう一度、前を向ける希望を貰った。


464 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:03:18 mQwrnRxk0

 これ以上、彼らから受け取る希望は何も無い。
 逆に決断が鈍ってしまう。此処はもう二度と訪れる事の無い理想郷である。
 遥か遠くに存在し、運命を強制的に歪めなければ出会えない死者との邂逅を実現する魔の空間だ。

 後は足立透を止めて、生存者と協力し殺し合いを打倒して脱出するだけである。
 問題は山積みであるが、やってやる。鳴上悠の瞳には光が灯っている。
 どんなに辛いことがあろうと、見上げる程に高い壁があろうとも乗り越える確固たるを決意を宿して。

『頑張ってください――私は、貴方に出会えてよかったです。
 こんな私を最後まで信じてくれて、見捨てないでくれて、本当にありがとう』

 風に流されるように消えた声。
 聞き間違えてたまるものか。この声を、己の罪と向かい合い罰を受け入れた彼女のことを。
 そして言葉から察するに彼女はもう――これ以上、誰も死なせない。

 鳴上悠が足立透と向かい合っている間にシンデレラの魔法は解けていた。
 階段に転がっているガラスの靴。誰も動かさないカボチャの馬車。それでも彼女を待ち続けるように照らされているダンスホール。
 精一杯の頑張りを見せた等身大の少女。彼女のためにも、負けられない。

『頼んだぞ悠……足立を止めてくれ。
 戻ったら俺が叩き直してやる……それが見抜けなかった俺の役目だ」』

「おじさん……はい、必ず」

『お前に頼むのは情けないんだが、頼む。
 あいつの心に声を届けることが出来るのはお前だけなんだ。
 必ず二人で帰って来い。家では菜々子と一緒に待っている……お前も大事な、家族なんだからな』

 解けないパズルのピースは全て揃ったようだ。
 後ろを振り返りはしないが、沢山の絆と暖かさを感じる。
 独りじゃない――自分は決して孤独に戦っている訳では無い。
 支えてくれる仲間が、信頼している仲間が、帰りを待ってくれている存在がいる。
 
 特捜隊の仲間や美樹さやか達だけではない。
 小泉花陽を始めとする出会いと別れを繰り返した仲間達の存在を後ろから感じる。
 彼女達は生きていた。物語は終わってしまったが、意思を引き継いだ自分はまだ生きている。
 思い出までもが消える訳ではない。消してなるものか。永劫に紡いで見せる。

 ただ、独り戦っていた少女の姿は無かった。
 救えなかった孤独の魔法少女は、今も――もう、同じことは繰り返せない。
 
 拳を強く握り締めた鳴上悠はただ一言だけ告げ、光の中へと消えて行った。


 ――行って来る、と。





465 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:04:26 mQwrnRxk0

 君は本当に馬鹿だ。
 最後まで自分を犠牲にして、死ぬんだ。
 今時はそんなの流行らないよ、もっと合理的に生きなきゃ人生を損するよ?

 現にこのまま俺に殺されるんだから、お前は本当に馬鹿だ。
 途中で俺を見捨てて、殺す気で挑んでいれば未来は違っていたかもしれないのに。
 少しでも救おうとするからだ。犯罪者全員に救いの腕を伸ばすなんて神話時代の王様かってーの。


 ま、最後までソレを貫き通したのは尊敬するよ。狂ってるね、教科書に載るんじゃないかな。
 

 罪を認めろだとか、罰を受け入れろ、償え……はぁ。
 そんなの嫌に決まってるじゃん。怖いもん、痛いもん、辛いもん。
 世の中全員がお前みたいに青臭くて、前だけを見ている訳じゃないんだよ。ガキが、社会を知れ。

 ……俺もそんな風になってたら苦労しねえんだよ、クソが。

 知り合いのアレコレって訳で楽にしてやりたいけど、恨むなよ。
 凶器はテニスラケットなんだから、一発で殺せるとは俺も思っちゃいない。
 意識を取り戻したら痛いだろうけど、少し我慢すれば死ぬんだから――泣くなよ、ガキ。


 さようならだ。
 二度と会いたくないね。その方が俺もお前も幸せだ――――――――ッ!!













「帰りましょう――足立さん」













「黙って寝ていれば楽に死ねたのにさぁ……本当にお前って馬鹿だよ」










 立ち上がるなよ、クソが。














466 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:05:13 mQwrnRxk0

 立ち上がった鳴上悠に対し足立透は多くを語らない。
 無言でマガツイザナギを展開すると一目散に飛ばし始め、刃を構え彼の生命を刈り取らんとする。


『馬鹿はお前だって―の! 自分を受け入れろ!』


「――マダ!」


 仲間との絆を掌に収め、魔術師の名前を詠ずることにより新たな力を具現化させる。鳴上悠はもう、独りで戦っていない。
 情熱の業火と蒼き肉体を持つペルソナが放つマハラギダインは全てを抹消する地獄の焔だ。
 マガツイザナギは急停止後に刃から放つ疾風で掻き消そうとするも、熱い魂の炎が楽に消えるはずなど無い。
 包み込まれ必死に離脱したものの半身が焼かれ、損傷は誰が見ても一目で解る段階だった。


『逃げてばかりで責任を世界に押し付けるなんて……間違っている!』


「――スカアハ!」


 女教皇の異名の名において現世に召喚された影の国の女王は不敵な笑みを浮かべる。
 実体が掴めぬような不規則な動きを見せると禍津を追い払うべく放たれるは鋭利なる疾風マハガルダイン。
 焔による火傷の傷に当てられる疾風は確実に身体を蝕み、明らかに禍津の速度が低下していた。


「くだらねえ……仲良しこよしのペルソナごっごなんてよォ!」


『仲良しこよしで何が悪いのよ! みんなとの思い出があったからこそ、今がある!』


「――イシュタル!」


 見せつけられる自分が一生を捧げても得ることが不可能だった絆の力を目の前に、限界突破など軽々しい足立透の怒りは更に限度を引き上げる。
 もう二度と感じられないようにと悪意を込めて放たれた風の斬撃に対し現れるはイシュタルだ。鳴上悠を守るように目の前へ躍り出た。
 全てを受け入れるように風を我が身に受け、その表情は安らかな微笑みだった。
 対照的に攻撃が不発に終わった足立透の表情は修羅の如く、目の前に立つ男を恨んでいた。


「絆とか信頼とか目に見えない不確かなモンを語りやがって……ンなモンはクソの役にも立たねえんだよ!」


『自分に都合の悪い現実から目を背け続けた貴方なんかに、僕達の真実が見えるはず無いでしょう』


「――ノルン!」


 二極の疾風怒濤――マハガルダインが空中で衝突し、大気を斬り刻み会場に衝撃が走る。
 復讐に燃え上がる禍津はたった一つ純粋な感情である憎悪によって、鳴上悠の絆に抵抗している。
 嘗て足立透は鳴上悠に敗れた。運命は再度、試練を与えるのだろうか。
 絶望を味わった男は、這い上がるために手段や思想は問わず、目的を達成するのみだ。鳴上悠の殺害を。


「倒れろよ……消えろよォ! さっき限界で倒れていた奴が元気に、偉そうに立ってんじゃねえ!!」


『先生は倒れないクマ! お前が思ってるより何倍も強くて、絶対にお前を倒すクマ!!』


「――ルシフェル!」


467 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:06:31 mQwrnRxk0

 天使を連想させる三対の翼は民衆の瞳を奪うかの如く美しさで羽ばたくと、裁きの業火が吹き荒れる。
 衝突する疾風怒濤の最中に放たれたマハラギダイン――風を炎を吹き上げその存在を遥か高みに引き上げる。
 灼熱旋風は禍津へ迫り、傷を負ったその容物を更に追い込み、足立透の表情には不安からか汗が吹き出ていた。


「ッ……ナメてんじゃねえ……ナメてんじゃねえぞ!」


『それはこっちの台詞! 自分は他と違うって勝手に気取ってるから誰からも相手にされないくせに!』


「――フツヌシ!」


 灼熱旋風を通過した禍津と剣戟を演じるは無限の剣製を駆る刀神である。
 禍津が放つ空間を超越する斬撃全てを受け流し、防戦一方になること無く、刀身は確実に刻みこむ。
 一瞬の剣戟ではあったが、禍津の容物には数本の刀身が刺さり込んでいた。


「クソ……クソ! ふざけんな、認めるかよ――倒れろよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


『倒れるのはテメェだ! 本当の自分すら見つめられない奴に先輩が負ける訳ねえだろ!!』


「――オーディン!」


 離脱するように天へ翔ぶ禍津は己を旋回させることによって、体内に刺さり込む刀身を吹き飛ばす。
 掲げた刃に収束するは全てを滅する怒りの雷光だ。忌々しい存在をこの世から焼き殺すために。
 呼応するように具現化した神オーディンもまた、天へ槍を捧げ雷光を纏い、裁きの時を待っていた。
 振るわれた刃から放たれる怒りの雷撃と槍から放出された裁きの迅雷は数多の物質を巻き込み――爆発を引き起こす。


「俺は倒れない、貴方を救って――堂島さんの元へ送り届けるまで!」

「ど、うじ、ま……調子に乗るんじゃ――ねえええええええええええええええええええ!!」

『あたしの力も使って! タツミや鋼の人に助けられた――もう一人のあたしを』

「……ああ!」

「笑ってんじゃねえぞクソがあああああああああ!!」

「――オクタヴィア!」


 爆風を吹き飛ばし、全てを貫く速度で翔ける禍津に対し鳴上悠が具現化させるは新なる一枚。
 殺し合いの中でもう一人の自分と向き合い、全てを受け入れた魔法少女が操る真なる影だ。
 人魚姫――オクタヴィアは握る剣をタクトのように振るうと数多の車輪が禍津へ放出された。
 四肢を押さえ込み速度を低下させ、役目を果たしたかのように消え去ると鳴上悠は最期のペルソナを――己の仮面を召喚する。


「――イザナギ!」


「そうやって何回も何回も……背負ってる数だけ強くなるってか? 冗談じゃねえ!
 俺は最初から何も背負わないで独りで生きて来たんだ……負けて、死んでたまるかよォ!」


468 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:07:34 mQwrnRxk0

 車輪に拘束され暴れる禍津へイザナギは距離を詰めると刃を振り上げる。
「や、やめろ……」
 禍津が全ての車輪を弾き飛ばし臨戦態勢へ移行するが、時間は戻らない。
 手遅れだと悟る。既に刃は振り下ろされている最中であり、待っている未来は斬られるのみ。
「クソ……クソ、また……俺は……クソォ!」
 その瞬間は刹那である。けれど体感の時は悠久のようで、永遠の刹那と呼べる程に遅く感じた。
「これで――終わりだッ!」

 禍津の身体を斬り裂いた。
 イザナギの刃が駆け抜けた後には血液――と呼べる代物かは不明だが、何かがマガツイザナギから吹き出ている。
 やがて形を保つことすら放棄した道化師の仮面は消え去り、足立透はこの世の終わりが来たと錯覚するような絶望的表情を浮かべていた。

「……は?」

 終わってはいない。
 大地を駆け抜け迫る鳴上悠の姿が瞳に映る。
 嗚呼――俺は殺されるんだと思い込んだ足立透の顔面を鳴上悠の拳が捉えた。

 衝撃により身体が空中へ浮いてしまった足立は数度転がってしまう。
 終わりだ。生きる気力も、最期の戦いにも敗北した彼はもう、人生を諦めていた。
 マヨナカテレビの真実を暴かれてしまい、全てが終わったと絶望していた。
 自殺を図った瞬間に気付けば殺し合いに巻き込まれ、ヒースクリフと出会っていた。
 自分に訪れた魔法とも呼べる奇跡に賭けていたのだが、皮肉にもまた、鳴上悠に敗北してしまった。


「さぁ――帰りましょう、足立さん」


 ――理解出来ないね、本当に。
  まさかこの期に及んで俺を救おうと手を伸ばしている。
  あれだけ傷めつけたのにね。勝者の余裕だってんなら殺したいね。

「どこにさ」

「まずは学院に戻って今後の対策を練りましょう」

 ――笑っちゃうよね。
  どの面下げて戻れって言うのさ。
  罪を擦り付けようとした島村卯月。見捨てられちまったヒースクリフ。気に食わないエンブリオ。
  俺が戻ったところで居場所なんてあるわけないだろ。寝てた女二人も一緒さ一緒。
  しかも今後の対策だよ。俺を『仲間』として扱っている。本当に信じられないね。何回も『本当に』って言ってるけど、本当に理解に苦しむ。


469 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:08:08 mQwrnRxk0


「俺が戻ってもエンブリヲに殺されるだけでしょ」

「そんなことは俺がさせません」

「……根拠はあるのかい。自信でもいいよ」

「俺がエンブリヲを止めます。足立さんには一緒に元の世界へ帰って罪を償ってもらう必要がある」

 ――帰っても刑務所かあ。そりゃあそうだよな。
  しかし学院に戻っても俺は死ぬ。死なないにしても居場所は無いし発言力も最低だろう。
  ……あれ、なんで学院に戻ること前提で考えてんだろ。

「俺が足立さんを守ります。貴方は俺が絶対に死なせません」

「はは……きみ、本当に面白いよねえ――どうなっても知らないよ?」

「――! こっちの台詞です。脱出のために足立さんには働いてもらいますよ」

「年上で怪我人なんだから少しは遠慮してね?」

「それはみんな同じです」

「違いない」

 ――クソ、何を言っているんだ俺は。
  あの瞳だ。どんな絶望があろうと諦めない希望に満ちてやがる。
  吸い込まれんだよ、俺も賭けたくなっちまうじゃねえか……クソ、クソ。
  このまま生きていても俺に未来は無い。だったら騙してでもこいつらの輪の中に入って足掻いてやる。
  ついでに主催もぶん殴ってやる。俺の人生を滅茶苦茶にしやがって、殺すぞ。

「手、必要ですか?」

「……悪いね」

 無視していた鳴上悠の掌を足立透が掴むと陸上に引き上げられる魚のように。
 立ち上がったものの、殴られた衝撃が抜けきっておらず、覚束ない足取りで転倒しそうになるが鳴上悠が肩を貸すことにより免れた。
 足立透の顔は終始驚いていた。本当にお人好しだ。数分前まで殺そうとしていた自分を助けるのだ、馬鹿かとも思ってしまう。

「いいのかい――このままなら誰かに見られると君と俺は共犯者って思われるかもしれない」

「ある意味共犯者ですよ。これから一緒に戦う仲間なんですから」

「……一本取られたよ」

 本当に馬鹿だ。
 そんな馬鹿に説得されて簡単に改心する自分も相当な馬鹿だ。
 足立透が自身を嘲笑っていたことに、鳴上悠は気付くことなく、二人は学院を目指し始めた。


470 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:12:27 mQwrnRxk0

【F-5/二日目/黎明】



【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、精神的疲労(極大)、ダメージ(大)、胸に切り傷(治療済み)、イリヤに負けた事・さやか達を救えなかった事への後悔、困惑
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:足立透を止める。
1:その後に学院へ戻り仲間との合流。
2:死者の分も生き残り殺し合いを止める。
3:エンブリヲへはまだ警戒を続ける。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
※スラオシャを会得しました。一度の使用で6時間使用不可。
回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。
※特捜隊のコミュペルソナ及び美樹さやかのペルソナ(オクタヴィア)が使用可能となりました。

 

【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)
    爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血 、顔面に殴られ跡
[装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品、
[道具]:初春のデイバック、テニスラケット、幻想御手@とある科学の超電磁砲、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み)、警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:――。
0:どうすっかなあ。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
馬鹿だよね
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
こいつ本当に馬鹿だよ
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
俺を完全に信頼している
※ペルソナが発動可能となりました。
普通ならあり得ないよ、やっぱり理想だけで、こいつは現実を見れていない。
※黒と情報交換しました。 

















 






 油断し過ぎなんだよ。数分前までお前を殺そうとしていたんだぞ。


 そんな男に肩を貸して接近させるなんて俺には出来ないね。


 そもそも――俺は改心なんてしてないからな。




 ――人間の目玉って気持ち悪い感触……う………………。


471 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:13:45 mQwrnRxk0

「ああ……あああああああああああああああああ」

 己の左目があったであろう箇所を押さえ込み、鳴上悠の叫びが闇夜に響く。
 指の隙間から鮮血が垂れ落ち、呼吸も乱れ痛みに耐えてはいるが生きている右目には涙が浮かんでいる。
 何が起きたかは解る。けれど理解に苦しむ状況だ。
 犯人は一人しかいない。何故、犯行に及んだのか。心は――未だに仮面を付けたままだったのか。

「はは……ははは!
 馬鹿だねえ、うげぇきもっ……俺が改心したって本気で思ってたのかなあ!?」

 右手に掴んでいた鳴上悠の左眼球を投げ捨てた足立透はティッシュで鮮血を拭き取りながら、鳴上悠を嘲笑う。
 身体を折り曲げまるでこの世最後の日かと謂わんばかりの高笑いだ。端から見れば狂っているようにも見えてしまうだろう。
 
「数分でころっと心入れ替えるとかヤバいでしょ。俺ならドン引きしてるね。
 君も馬鹿だよねえ悠くぅん……俺を仲間に引き込むとかどんな思考回路してんのって」

 ティッシュを投げ捨て勝利を確信した憎たらしい表情で足立透は鳴上悠へ近付く。
 意識が遠のく中で彼は必死に感覚を繋ぎ止め、迫る道化師を見つめ、言葉を紡いだ。

「ど、うして……足立さ、ん」

「どうしてもなにも俺は! お前を――殺すんだよ」

「くっ……させな――ッ」

「左目が無いから無理しない方がいいよ?
 テニスラケットすら見えてないんだからねえ、立てる? 手を貸すかい?」

 鳴上悠が手を差し伸べたように足立透も手を伸ばす。
 死角からテニスラケットで頭部を強撃し転倒させた所に手を伸ばす。状況が同じでも過程は雲泥の差である。
 足立透は腕をそのまま鳴上悠の首輪に添えると、金属の上から圧力を掛け、締める。
 身体に跨がり鳴上悠を拘束した上で確実に殺すために、憎悪を込めて締め上げる。

「ぐ……あだ、ち……」

「死ねよ……俺はお前が憎かった。
 青臭いガキが……俺の居場所さえも……死ねよ」


472 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:14:21 mQwrnRxk0

 締め上げる。
 足立透も鳴上悠も力は残っていない。
 出し切れる全てを乗せ、一人は殺しに、一人は明日へと手を伸ばす。

「な……ん、で」

「あ?」

「ない、てい、る……?」

 圧倒的酸素不足により意識が闇の中へ消え行く鳴上悠の右目に映ったのは、嗤いながらも涙を流す足立透の姿だった。
 悲しんでいるのだろうか。辛いのだろうか。後悔しているのだろうか。
 彼の心理を確かめる術は持っておらず、時間も足りない。そして何よりも自身の生命が消えかけている。

 もしも足立透が後悔しているのなら。
 助けられなかった。鳴上悠はこれまでどうように、また救えなかった。
 手を差し伸ばしても、一度倒れて這い上がっても、仲間から背中を押してもらっても。
 その腕は何も掴めなかった。画用紙に好き勝手描いた理想郷すら、己の腕に収めることが出来ない。

 後悔の念が胸を埋め尽くす中で、限界が来てしまう。
 左眼球を抉られた衝撃と足立透に身体の上を抑えられてしまった手前、抗う術が無い。
 仲間との約束も果たせず、目の前にいる一人すら救えずに、彼の生命は終わることとなる。

 しかし、その行いは決して無駄ではない。
 想いは道化師の仮面を剥がすことは出来なかった。けれど、確実に亀裂が生じた。
 戦闘における拘束により学院に対する負担も軽減している。
 そして何よりも、彼が居なければ多くの人間が死んでいたかもしれない。

 この物語は幕を閉じる。
 仮に道化師の仮面を剥がせていれば。
 仮に他の仲間が駆け付けてくれれば。
 仮に学院で決着が決まっていれば。
 仮にイザナギが更なる境地へ至っていたならば。
 仮に時間軸の差異が発生していなかったならば。
 結末は変わっていたかもしれない。しかし、幕引き――道化師に次の公演が決まってしまっただけである。


「救えなくて――すま、な……い」


 腕が落ちる。
 足立透の頬に触れていた右腕は力が抜けたように大地へ落ちた。
 それは彼の生命が散ったことを示しており、確認のために脈を確認する足立透だが、鳴上悠は死んでいた。
「ざまぁみろ……へへ、ざまぁ……ざまぁ……」
 立ち上がった足立透は月灯りだけが主役の空を見上げる。
 宿敵を、仇敵を、最も殺害したい存在を排除することが出来た。
 今まで最高の気分だろう。それは間違いない。今にでも嗤いたいぐらいだ。
 それなのに、頬に流れる涙は一体、理解が追い付いていなかった。


「ざけんなよ……なんで、こんなことになってんだよ……クソがぁ!!」


 苛立ち混じりの唾を吐き、怒号と共に大地を蹴り上げる。
 何だこの感情は。素直に喜べないのだ。心の中でナニカが邪魔をする。
 正体は恐らく涙――哀しみだろう。
 これまでに人を殺した事はある。会場に巻き込まれた後にも二人の魔法少女を殺害しているのだ。
 それなのに、芽生えた感情に足立透は自分自身の事でありながら戸惑いを見せ、怒りに繋がっている。

 
 ――何故、鳴上悠の殺害に後悔している自分がいるのか。


【鳴上悠@PERSONA4 the Animation 死亡】


【足立透@PERSONA4】
[状態]:鳴上悠ら自称特別捜査隊への屈辱・殺意 広川への不満感(極大)、全身にダメージ(絶大)、右頬骨折、精神的疲労(大)、疲労(大)
    爆風に煽られたダメージ、マガツイザナギを介して受けた電車の破片によるダメージ、右腕うっ血 、顔面に殴られ跡、苛立ち、後悔、怒り
[装備]:ただのポケットティッシュ@首輪交換品、
[道具]:初春のデイバック、テニスラケット、幻想御手@とある科学の超電磁砲、ロワ参加以前に人間の殺害歴がある人物の顔写真付き名簿 (足立のページ除去済み)、警察手帳@元からの所持品
[思考]
基本:――。
0:もう――全員殺すしかねえ。
[備考]
※参戦時期はTVアニメ1期25話終盤の鳴上悠に敗れて拳銃自殺を図った直後。
※支給品の鉄の棒は寄生獣23話で新一が後藤を刺した物です。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼であると知りました。
※ペルソナが発動可能となりました。
※黒と情報交換しました。


473 : 心の仮面は罪と罰 ◆BEQBTq4Ltk :2016/08/07(日) 01:15:28 mQwrnRxk0
超過申し訳ありませんでした。投下を終了します


474 : 名無しさん :2016/08/07(日) 01:34:50 0Cowt0eY0
投下乙です。
ば、番長...!
今までの絆から力を産む熱いP4的展開、そして最期まで希望を信じて戦ったが、彼には届かなかったか
序盤こそは不遇だったかもしれないけど中盤からのあんたはまさに主人公だった。
あんたに救われた奴は一杯いるよ。お疲れ様番長。
そして最後の最後に裏切り勝利した足立さんも空しい...頑張れ足立さん。ホント頑張れ


475 : 名無しさん :2016/08/07(日) 11:25:47 nORf3S.I0



476 : 名無しさん :2016/08/07(日) 12:11:38 Se5mCw7MO
投下乙です

これで足立もバッドエンド確定か
救いは現れるんだろうか


477 : 名無しさん :2016/08/07(日) 14:08:03 lgNMZtUQ0
投下乙です

激闘の果てに、救いを裏切り勝利した足立さん
原作では番長の影の様なポジションの彼でしたが、光を失ってしまった影は一体どうなるんでしょうね


478 : 名無しさん :2016/08/07(日) 23:40:42 TAMQbqnU0
投下乙


479 : 名無しさん :2016/08/07(日) 23:47:03 TAMQbqnU0
自分の罪を認めないで罰から逃げ続けた足立はあとがないもんな。番長に勝たないと積む
番長はさやかイリヤしまむー達を救えなかったから目の前の足立を救おうと全力尽くすのがいいね
足立の言うことも正論なんだけど現実を諦めてるから説得力がない
全体的に足立のノリが原作と同じで好きなことが伝わってきた
番長のピンチに最初に駆け付けるのはやっぱ陽介だよね!さすが相棒ですよ
仲間から励ましてもらってさやかタツミしまむーにも背中を押してもらって最後は堂島さんなら負ける気がしなかった
熱いペルソナラッシュにさやかも加わって脳内には主題歌が流れていました
足立に心が通じたと思ったけど状態表トラップは久々に見たような
道化師は最後まで自分を偽って仮面を外さなかったけどこれからどうなるんだろうか


480 : 名無しさん :2016/08/08(月) 09:19:24 6KgTtqtc0
氏の作品からは足立が好きなんだなってとても伝わってくるw
台詞回しや番長達のような正義の味方に対する暴言が正に足立だった
序盤で足立だけがペルソナを使えなくてどうしようもない説きに覚醒したのが懐かしい
でも今回の主役は番長でしたお疲れ様だ
氏の番長は他の書き手と比べると口数は少ないけどビシっと決めてくれる印象がある
ゲーム寄りなのかな?ここぞの場面で重要な選択肢を手繰り寄せるのはゲームを連想します
他の感想で言われてますが陽介達が来るのは熱くて卑怯w
そうだよな!出てこないとおかしいもんな!
雪子達も久し振りに出て来て大佐も救われたんじゃないかな……イリヤはさすがにいなかったけど
最後のペルソナバトルはさやかちゃんのオクタヴィアも出て来て熱かった
番長がこれまで育んできた仲間との絆は無駄じゃなかったんですよ
生き残ったのは足立だけど、番長の思いは届いてると信じたい
投下乙!


481 : 名無しさん :2016/08/08(月) 10:12:52 H/5rMKo.0
めっちゃ早口で言ってそう


482 : 名無しさん :2016/08/08(月) 11:16:04 .h0j266w0
はい


483 : 名無しさん :2016/08/08(月) 19:05:42 kmL68P060
投下乙
アダッチー、ここまで来たら優勝まで行ったれ!


484 : 名無しさん :2016/08/08(月) 21:08:00 RWOlTI0U0
やったれキャベツ刑事


485 : 名無しさん :2016/08/08(月) 21:17:50 3xKLo4HA0
番長……戦果は残念だったかもしれないけどお前がいなかったらもっと悲惨だったからよく頑張った
これからの対主催は今より厳しい展開が待っているけど天から見守ってくれ
足立はこうなったらヤケクソで皆殺しじゃないと精神が壊れそうで辛い
でも相手にはニーサン、ブラッドレイ、エンブリヲ、ヒースクリフ、黒、エルフ耳、御坂、ウェイブ、杏子と強敵揃いだからなあ

対主催エド、ヒースクリフ、黒、ウェイブ、杏子
マーダーブラッドレイ、エンブリヲ、エルフ耳、御坂、足立
一般人ゆきのん、ちゃんみお、ボス
ロボがあればなんとかのタスクで残り14人かあ……ここまで来ましたね

次で黒かエルフ耳のどっちかは死にそうだから恐ろしい
学院ではハガレン組がかち合うしなんなら御坂とエンブリヲがいる可能性もあるのか


486 : 名無しさん :2016/08/09(火) 16:00:24 Yjm/Ytok0
足立優勝いけるか……?
黒さんと御坂とエンブリヲに勝てる未来が見えない
最後の後悔してるけど止まれない感じが最高でした


487 : ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:43:44 NBoSh9d.0
本投下します


488 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:44:19 NBoSh9d.0


夢を見ていた。

悲しい、悲しい夢だった。




489 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:44:43 NBoSh9d.0



プロデューサーと呼ばれ慕われていた人が、捨身でエルフ耳の男から皆を庇った。

俺は、護れなかった。

アンジュが何者かに殺された。

大切な人を。

狡噛さんの決闘の邪魔をし、あまつさえあの人を傷付けた。

支えてくれた人を。

アカメが貫かれ、シンイチもまたブラッドレイに斬り捨てられた。

今度こそ護ると決めた人達を。



なにがアンジュの騎士だ。
俺は無力だ。

俺は、なにも―――


――――。

なんだ...?

―――ク。

誰かの声が聞こえる...

――スク。

スク?ひょっとして、俺の名前を呼んでるのか?
俺の名前を呼ぶきみはいったい...


「タスク!!」

「う、うわああああぁぁああぁあああ!?」


490 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:45:14 NBoSh9d.0

鼓膜をつんざき頭痛を醸し出すほどの大声に、俺は慌ててとびあがる。
キョロキョロと見渡すと、そこは綺麗な青空が見える原っぱに切り替わっていて。
ああ、天国なんてものがあればこんな感じだろうなとなんとなく思った。

「やっと起きた。このまま起きなかったら耳が千切れるくらい引っ張りながら叫んでやろうかと思ったわ」

聞きなれた声に、思わず振り返る。
立っていたのは、忘れもしない金色の髪が特徴的の愛おしい彼女―――アンジュ。

「あ、アンジュ...?どうしてきみが...」

疑問を口にしつつも、俺はふらふらと目の前のアンジュに手を伸ばす。
嬉しい。
もう二度と会えないと思っていた愛する女性に会えたのだから当然だ。
理由や理屈などどうでもいい。
いまは、ただ彼女の温もりを―――

「こんの...ケダモノがァァァ!!」

返ってきたのは、再会を祝す涙ではなく、全力の怒りの込められたビンタだった。
温もりは求めていたが、これは熱すぎる。

「な、なにを...」
「なにをもクソもないわよ!私がいないのをいいことに年下の女の子の股に顔をツッコんだ挙句、今は呑気にお休みタイム!?随分とまあ満喫してるじゃない!」

『あ、アンタ……何やって……!』
『ッ...!』

股間に顔をツッコんでしまった御坂と雪乃の顔がフラッシュバックされる。
しかしアレは偶然だ。
そう、ただの事故。彼女達にやましい気持ちはこれっぽちもないのだ。

「違うんだ!あれは不可抗力というか、悪魔のイタズラというか...!」
「言い訳無用よこの万年発情期!」

間髪いれずに彼女が仕掛けてくるのはコブラツイスト。
相変わらずパワフルで容赦ない。
さりげなく当たる胸が気持ちいいなんて言ったら、おそらくもっと痛くされるだろう。

「い、イタタタタ!!ギブ、ギブ...あふぅ」

何度目かのタッチでようやく痛みから解放され、身体はドサリと倒れ込む。
アンジュも少し疲れたのか、息を荒げつつちょこんと座り込む。
...こんなバカげたことでさえ、もう味わえなかったはずだと思ったら、やっぱり涙が滲んできた。


491 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:45:40 NBoSh9d.0

そうだ。アンジュはもう...

「...アンジュ」
「...なに?」
「...側にいれなくて、ごめん」

あまりの悔しさに、自然と肉に爪が食い込むほど拳を握りしめられる。
アンジュを護るのは俺のたった一つの使命だった。
なのに、苦しい時に一緒にいてやれなかった。
その果てに何も成し遂げられずにこの様だ。

「俺は誰も助けられなかった。きみも、狡噛さんも、新一も、アカメも、雪乃も...ここまで生き延びておいて、誰も助けられないまま、なにもできないままやられたんだ」
「......」
「なにがアンジュの騎士だ。俺は、俺は...!」

「タスク」

アンジュが、俺の頬に両手を添える。

「私を見なさい。その目で、しっかりと」

そのまま彼女の正面に顔を固定させたかと思えば、俺の双眸をジッと見据えてくる。

「ねえ、タスク。あなたは私のどこに惚れてくれたの?」
「え...?」
「あなたは、私の外面が気に入ったの?それとも、身体が気持ちよかっただけ?」
「そんな訳ないだろ。きみは乱暴で気まぐれだけど、そんなところもひっくるめて、俺はきみの全てが好きだ」
「相変わらず歯が浮くような台詞を恥ずかしげもなく言うわね、あなた...まあ、私が言いたいこともそんな感じだけど」

険しい顔をしていたアンジュの眉間から皺が消え、穏やかな笑みへと変わる。

「私もあなたが好きよ。ドジでスケベだけど、イイところばかりじゃなくてそういうダメなところも全部ひっくるめて好き」

だから、と言葉を切り、彼女は俺の胸を軽く叩いた。

「今さらカッコイイところばかり見せようとしなくていいじゃない。結果が追いつかなかったからなに?だからって諦めきれるほど、あなたは物わかりがよかった?...違うでしょ」
「醜態さらそうが泥にまみれようが、最後まで投げ出さずに抗い抜く。それが私たちでしょ」

「......」

「...なんだか柄にもなく説教臭くなっちゃったわね。要するに、私の言いたかったのは、気がすむまで頑張りなさいってことよ」

「アンジュ...」

「それでも迷うなら...耳を澄ませなさい」


492 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:46:05 NBoSh9d.0

『キング・ブラッドレイ、お前を――葬る』

――――!聞こえた。いま、確かに、アカメの声が。


『なあ、此処に運んだってことは手術出来るのか?』
『出来るならとっくにやっているわ……っ』
『だろうな……ぅ、どうする……?』

今度は雪乃と杏子の声だ。

アカメも雪乃も生き延びたのか?けれど、あの状況でどうやって―――


「タスク。あなたが助けようとした子達はまだ頑張ってるけど、どうするの?」

アンジュは意地悪な笑みで俺に問いかける。
答えなんて言うまでもない。

「決まってるだろ。俺は、大切な人達を奪ったあの殺し合いを壊して広川やエンブリヲも倒す。それまで絶対に諦めてやるもんか!」

そうだ。俺は諦めたくない。

これまで関わった者たちへの弔いを。
狡噛さんに誓った約束を。
俺たちの命を弄んだ奴らに一泡吹かせてやることを。

なにもかもが中途半端で終われるか!

「少しはイイ顔になったじゃない。これなら安心して見てられそうだわ」

アンジュが右手を挙げたのを見て、俺も合わせて右手を挙げる。

パァン、と甲高い音で交わすハイタッチは、とても心地よく思えてしまった。

「いってらっしゃい」
「行ってきます」

そんな、本来なら毎日交わしていたであろう挨拶を背に、俺はあの戦場へと走りだした。



俺が見たのは、そんな自己満足の悲しい夢だった。
けれど。



もしも本当に彼女が見守ってくれているなら―――俺は、もうなにがあっても挫けない。


493 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:46:30 NBoSh9d.0



杏子を待つ雪乃の心情は、微塵も穏やかではなかった。

アカメの安否
タスクの容態。
杏子が間に合うか。
待つことしかできないもどかしさ。

それらの要因が積み重なり、苛立ちや焦りは募るばかりだ。
そういった想いは、柄にもなく親指を噛んだり、貧乏ゆすりなどをしてしまうなど行動に出てしまう。
元来の彼女を知る者なら、その様子を異常に思っても仕方のないほどにだ。

そんな雪乃を見るに堪えかねたかのか。

微かな呻き声と共に、タスクの目蓋がゆっくりと開く。

「タスクさん!」

雪乃は彼の無事に心から安堵し涙ぐむが、しかし努めて冷静に意思疎通を図る。
意識ははっきりしているか、目は見えているか、気分が悪くはないか。
最低限のことを聞き終え、最後に杏子の助言通りに血液型を質問し聞き出す。

それと合致した輸血パックを取り出し、輸血の手順に従い血液を注ぎ込む。

「...よく、無事だったね」

タスクは己が気を失う前のことを顧みて口にする。
あの状況は絶望的以外のなにものでもなかった。
ブラッドレイにアカメが、新一が斬られ、最後の最後にタスクも瀕死にされた。
あの状況で雪乃が生き残る像は想像できなかった。

「...みんなが、助けてくれたのよ」

雪乃は語った。
タスクとブラッドレイが戦っている間に、新一とミギーがアカメの命を救ったこと。
そのアカメはアヌビスと共に雪乃たちをその身を張って逃がしてくれたこと。
佐倉杏子が、タスクの治療に協力してくれたこと。
皆の助力があって、こうして無事でいられたことを。

「...そうか。なら、俺もやれることをやらなくちゃな」
「無理しては駄目よ。...いまのあなたでは、正直に言って...」
「わかってる。こんな身体でアカメの役に立てるとは思えない。だから」

タスクは、震える手で傍らのデイバックを探る。
取り出すのは、この殺し合いの破壊のカギを握るであろう首輪。

「俺は、俺のやり方で戦わなくちゃ」


494 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:46:59 NBoSh9d.0


『あっ...おい、止まれ』

杏子に持ち運ばれていたアヌビス神が、静止の声を呼びかける。
それに従い、杏子は足を止めキョロキョロと周囲を見渡す。

「なんだよ。なにかあったのか?」
『確かこの辺りに新一の奴が転がってんだ。探してくれねえか?』

新一。その名は、田村玲子や雪ノ下から聞いている。
雪ノ下からは既に死んでしまったと聞かされていたが、そうか、この辺りがそうなのか。
純粋に埋葬してやりたいという思いもあるが、首輪のこともある。
死者とはいえ、雪乃たちの仲間から回収するのは気が引けるが、だからといって放置しておくことはできない。
アヌビスの頼みに従い、杏子は周囲を探すことにした。

意外にも、新一は程なくして見つかった。

(...こいつが、そうなのか)

右腕が無く、それなりに整った顔立ちの青年。
血だまりに沈む彼は、もう動くことは無い。

(...マミさん。あんたの護った奴は、こうなるまであんたの意思を継いでくれたみたいだよ)

新一の遺体を背負い、杏子は病院へと再び歩みを進める。

「...なあ、シンイチ。あんた、マミさんに助けられたんだよな」

呼びかけるが、返事はない。当然だ。彼は死んでいるのだから。

「あんたから見てさ、あいつはどうだったよ?変にカッコつけようとしてなかったか?」

やはり、返事は無い。繰り返すが、彼は死んでいる。返事など悪魔に魂を売らなければ聞ける筈もない。
けれどありありと思い浮かぶ。
内心怯えながらもキレイな魔法少女として戦い続けた、馬鹿で優しいあの人の姿が。

『オイ、杏子?』
「いや、あたしは大丈夫だよ。現実逃避しているわけじゃない」

言葉の通り、杏子は決して現実から逃げているわけではない。
泉新一が既に死んでいるのは認識しているし、彼の死に涙を流せるほど深い繋がりがあるわけでもない。

「ただの独り言さ」

ただ―――尊敬する師が救った命から、彼女の勇姿を聞けなかったことが心残りだっただけだ。

"あいつはカッコよかったか?""当然だろ"。そんな答えが欲しかった―――ただ、それだけだ。


やがて、杏子の視界に病院の影が映り込む。
タスクが唐突に完全に回復でもしない限り、雪乃たちが離れることは無いだろう。

アカメのことはどう伝えるべきか。
伝えなければならない現実に足が重くなり、杏子は溜め息と共に病院へと足を踏み入れた。


495 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:47:36 NBoSh9d.0



首輪を一なぞりしてみる。
やはり、継ぎ目などはなく、完全な円形だ。
中には何かが詰まっているのか―――うっかり爆発させないように軽く叩いてみる。
当然ながら、なにかが入っているようで、場所によっては返ってくる音が違う。
それほど複雑な構造なのだろうか。

「どうかしら?」

雪乃の問いに、タスクは首を横に振る。
現状では、いくら外観から覗こうがこれ以上の成果は望めそうにない。
やはり、解体してみないことにはわからない。

彼の返答に雪乃は目を伏せるが、しかしそれでタスクを責める気持ちは微塵も無い。
なにせ、この首輪は未知なる技術の結晶だ。
そう易々と解る筈もない。
だが、首輪の解析が進まなければ、脱出への道は閉ざされたままだ。

二人の面持ちは自然と暗くなる。

そんな空気に耐えかね、再びタスクが首輪を調べようとした時だ。



コンコン。


扉をノックする音に、タスクは咄嗟にナイフを、雪乃は慌てて鉄の棒を構える。
ショットガンが破損しているため、これが唯一の武器なのは心細いが、もしも来訪者が敵ならばこれで戦うしかない。


「無事だったか、あんたら」


来訪者は杏子だった。
両者とも面識があり、敵対もしていないことから胸を撫で下ろす。

「雪ノ下...だったよな。コイツはあんたに渡しておくよ」
「え...これって」
『...よう』

手渡されたのは、一振りの刀剣―――アヌビス神。
その持ち主は、未だ姿を見せない。


496 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:48:08 NBoSh9d.0

「アカメさんは...」

雪乃の鼓動が早くなる。
この時点で、既に答えは察している。
けれど、認めたくない。

『...死んじまったよ、あのジジイを道連れにな』

「....!」

言い放たれた事実に、また身体が拒絶反応を起こしてしまう。

―――また会いましょう。

約束、したのに。

―――当然だ。

約束、してくれたのに。


結局、彼女とはあれが最期の会話になってしまうのか。

「アカメさん...」

今度は、頭が真っ白になることはなかった。

けれど。

「アカメ...さん...!」

零れる涙は、どうしても止まってはくれなかった。

その涙を止めることは、誰にもできなかった。


497 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:48:33 NBoSh9d.0



雪乃がアカメの死を知った数分後。
病み上がりのタスクを除いた二人の姿は、病院の外にあった。

膝を抱え座る雪乃の隣に杏子も座り込む。
雪乃へとかけられる言葉などない。

下手な慰めが逆効果であることは身を持って知っているし、なにより納得させられる言葉が思いつかない。

"お前のせいじゃない"
"お前は頑張った"
"あいつもお前が無事で喜んでいる"

全て戯言だ。
相手をなだめるための甘言だ。

そんなもので割り切れれば人間はこうも厄介な生き物ではない。
実際に自分もそうだったのだから。

「...やっぱり、私は無力なのね」

学校一の秀才美少女。
そんな肩書きは最早路傍の石だ。
奪われるしかない現実を突き付けられて、改めて思い知らされる。
お前に護れるものなどなにもない、と。

「...そーかもな」

杏子には、そんな彼女を否定できなかった。
自分も人のことは言えない。
自分は魔法少女だ。なのに、なにも出来ていない。
どころか、周りの奴らはみんなおっ死んだ。
護れたものなど、なにもなかった。

「...けどさ。このまま不貞腐れてても仕方ないじゃん」

―――たとえ過程の段階で何も掴めなくても、最後に何かもぎ取って、自分の足で立って笑ってる奴がいたとしたら、そりゃそいつの勝ちだろ

半日ほど前にエドワードから向けられた言葉を思い出す。
いまの雪ノ下は自分と同じだ。
大切な者がいるのに、誰も、何も救えなくて。
自分はどうしようもない奴だと自責して。

...それで、立ち上がるキッカケを無くしている。


498 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:49:00 NBoSh9d.0

「そうやって自分を責めてれば楽だよな。なんでもかんでも自分のせいにしちゃえば、誰とも関わらなくて済む。あたしもそうだった」

かつて、巴マミと袂を別った時。
家族が死んだ責任は自分にある、自分の為に生きると言い張り、彼女を突き放してしまった。
もう一度失うのが怖かったから。もう一度失敗するのを見られるのが怖かったから。
その結果が、彼女の死だった。

「でもさ。そういうのってやっぱり後悔しちゃうんだよ。どうしてあの場にいてやれなかった。どうして関わることができなかった...ってさ」

例え自分が害にしかならないと思っていようとも、やはり関われずに失ってしまえば、悲しみ以上に後悔が押し寄せてくる。
だったら、例え無力感に苛まれても関わればいい。
やらずに後悔するよりは、やって後悔した方がまだマシだ。

尤も、それが出来なかったからこそ、いまの杏子の現状がある訳だが勿論それは自覚している。

「...なんて、あたしも偉そうなことは言えないんだけどな。ただ、あんたにはあたしみたいになってほしくなくてさ」

そこで一旦言葉を切り、雪乃の反応を窺う。
彼女は、未だに俯いたままで反応を示さない。
自分の言いたいことは伝わっただろうか。いや、そもそも自分は彼女にどうしてほしいのか。

やがて、雪乃は立ち上がり杏子を見下ろすように視線を向ける。

「...佐倉さん」

こんな自分の言葉でもなにか見つけることができたのだろうか。
だったらなによりだが。

「少し、付き合って貰えるかしら」

そう言う傍らでアヌビス神を握る雪乃。

「は?」

そんな彼女を見て、杏子は思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。


499 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:49:34 NBoSh9d.0


雪乃と杏子が去った後の病室。タスクは一人首輪について調べていた。

アカメがブラッドレイを道連れに死んだ。
その事実はやはり重い。

無力さや苦痛が絶え間なくタスクの心臓を抉ってくる。

(それでも、絶対に諦めない...俺は、そう約束したんだ)

それでも彼が前を向けるのは、最愛の婚約者と仲間たちとの誓いのおかげだ。
その誓いへの執念は、もはや何者にも止めることは不可能だろう。


タスクは、首輪についての己の考察を一枚の紙に書き連ねる。


まずは首輪の機能についてだ。

①この首輪は、爆発すれば如何なる者でも死に至らしめる。
この首輪は参加者の証明であると同時に枷だ。
広川の意のままに起爆させられ、爆発すれば自分のような人間は勿論、限りなく不死に近いホムンクルスという怪物でも死に至らしめる。
故に、これがある限り参加者はゲームから逃れることはできない。


②爆発する条件
この首輪の主な爆発条件は、禁止エリアへの侵入・首輪をつけたままの会場からの脱出・首輪の破損・広川の自在な起爆だ。
どうやって爆発させるか。
おそらくは、禁止エリアに侵入した時はそうなるように電気信号でも送っているのだろう。



③この首輪には、異能力の無効化及び弱体化機能がついている。
信じがたいことに、このちっぽけな首輪は異能力に対しての絶対的な盾になるらしい。
実際に、タスク自身も偶然にもブラッドレイのカゲミツG4の刀身を消したのを確認している。
また、雪乃の証言では後藤という怪物はこの首輪でサリアの使用した雷の帝具から逃れたという。
...なぜ、そこまで異能力に対して強固にしたのかはいまは置いておく。
そして、参加者の多くが各々の異能力を使用できていることから、首輪の外面は異能の無効化、首への接合部は弱体化といった様に分けられている筈だ。


④盗聴機能"のみ"が備わっている
これはこれで奇妙だ。
カメラの一つや二つを仕込めばいいものを、監視機能は盗聴機能のみ。
これだけ超常的な首輪でありながらなんとも不自然だ。


大まかな機能はこれくらいか。


500 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:50:11 NBoSh9d.0
改めて見ても非常に奇妙な首輪だ。
特に『何者も死に至る爆発』と『異能力の無効化』だ。

(...どんな奴でも絶対に死ぬ爆弾。そんなものはありえるのか?)

マスタングから伝えられた情報の中に出たエンヴィーというホムンクルス。
彼は、あの焔の錬金術を幾度受けても尚生存していたらしい。
そんな不死身ともいえる怪物が死ぬ爆弾だ。こんな小型の首輪にそんな威力のものを仕込めるのだろうか。

(...多分無理だな)

マナの力を応用してもそんなことは不可能だろう。
では、多少の爆弾でも死ぬよう首輪で弱体化させているのか?

(だったら、マスタングさんの攻撃でとっくに死んでるよな)

ジョセフは自分の『スタンド』という能力に制限が掛けられていると言っていた。
そのことから、多少なりとも異能力と見なされるものには弱体化の制限が掛けられているのだろう。
しかし、ホムンクルスですら爆弾で死ぬほどに弱体化させたなら、焔の錬金術に耐えられる道理はない。
そのまま焼き殺されているのがオチだろう。

(と、なると、やっぱり爆発の威力が強い方が可能性は高いか)

だが、それではどうやって仕込むかが壁になる。

(クソッ、これじゃあずっと堂々巡りだ)

タスクはもう一度首輪を眺めながら焦りで頭を掻き毟る。

(せめて爆発物の種類だけでもわかればどうにかなるかもしれないのに...!)

首輪の解除の一番の障害は、この爆発だ。
この爆発さえどうにか抑えてしまえば解除できる可能性は高くなる。
だが、種類が解らなければ対策のうちようがない。

(そもそも、どんな生き物でも絶対に死ぬなんて有り得ない)

首輪を装着した参加者が、それも身体の構造まで違う者たちが等しく死に至る超小型兵器など都合がよすぎる。
それこそ現代兵器ではなく超常染みたものだろう。
例えば、斬れば絶対に死ぬ剣だとか、魂を破壊する攻撃だとか、そんな空想の世界にしか存在しないものだろう。

(...待てよ)

空想の世界。
思えば、この殺し合いには、怪物を除いてもそんな能力を持つ者たちが大勢いる。
殺傷能力を兼ね備えた電気体質を持つ超能力者。精神を具現化させた『スタンド』という能力。
原理はわからないが、両掌を合わせることによって任意のものを生み出せるマスタングのような錬金術。
帝具という構造がわからない兵器。
サファイアのような、魔法少女に変身することが出来るステッキ。

どれも空想の世界でしか存在しえないものだ。

そう考えれば、威力そのものこそはないが、タスクの世界のマナもその類だろう。

(視点を変えれば、いくらでも可能性は広がる...か)

この首輪は、どう見ても金属であり超能力染みたものではない。
ならば爆発物の方はどうだ。

もしも、これが科学的な爆発物でなければ、だ。

(この首輪は、『誰でも死ぬ爆発』の異能力を持った首輪...なのか?)


501 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:50:42 NBoSh9d.0


―――キィン

金属同士が打ち合わせられる音が響く。
雪乃の持つアヌビス神が、杏子の槍と打ち合う音だ。

鍔迫り合いの中、杏子が軽く一押しすると雪乃は呆気なく倒されてしまう。

「もういいか?」
「...もう少し」

雪乃は立ち上がり、再び杏子へとアヌビス神を振るう。

杏子はそれを受け止め、なんとなく在りし日の師との日々を思い出しつつも、常に後藤や御坂のような危険人物の気配が無いかを警戒を怠らない。

なぜ彼女たちがこんなことをしているか―――全ては、雪乃の『立ち合いをしたい』という言葉から始まった。

雪乃は無力だ。だが、ショットガンも失ってしまったいま、杏子やタスクに頼り切りというわけにはいかない。
足手まといにならない、などということは不可能だが、いざという時に自衛もできないでは話にならない。
せっかくアヌビス神という心強い味方がいるのだ。せめて、剣の振り方くらいは覚えておかなければならない。

(...そんなもの、言い訳ね)

こんなものは、ただのアカメとミギーの物まねだ。
本当に"アヌビス神"ではなく、"雪ノ下雪乃"が少しでも戦力の足しになるなどとは思っていない。
それでも。
何もせずにいるよりはマシだと言い聞かせては、剣を振るい続ける。
まるで、彼女の喪失を埋めるように、ただただ剣を振るい続ける。

―――奉仕部、といったかな。君は友人たちの死を受け入れ、立ち直ろうとしている。それは、悲しみへの対処をストレスケアに依存したシビュラの下では、決してありえないことだ

ふと、槙島聖護の言葉を思い出す。

依存。
口では拒絶しつつも、どこか姉の跡を追っていた自分。
いま思い返してみれば、自分にはどこか依存癖があったかもしれない。

友人たちの死を受け入れ立ち直ろうとしているという槙島の言葉が本当ならば、雪乃は少しは変わったのだろう。
けれど、根本に根付くものはそうそう変わらないみたいで。
その結果がこれだ。

(...泉くん、アカメさん)

逆に言えば。少しでも変わったのなら、それは前に進むことが出来る証拠だ。
もう充分に彼らに頼ってきた。
だから、言わなければならない。
彼らとの別れを認めるあの言葉を。

アヌビス神に想いを乗せて、口にする。

「今まで、ありがとう――――さようなら」

キィン、と一際甲高い音が鳴り、アヌビス神が宙を舞う。
その衝撃で、雪乃は数歩下がるが、今度は倒れない。
落ちてくるアヌビス神の柄を杏子が掴む。

「...もう、いいみたいだな」
「ええ。手間をかけさせたわね」

顔をあげる雪乃。
その目には、疲労は在れど、もう迷いはなかった。


502 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:51:13 NBoSh9d.0


(―――やっぱりだめだ)

首輪の爆発が異能だと断定しても、だ。
そうなると、首輪の異能の無効化が枷になる。
これがあるせいで、その異能もまた消されてしまうだろう。

結局行き詰まりだ。
確信の無い机上の理論だけが紙を埋めていく。


(そもそも、なんで首輪に異能の無効化なんて付けたんだ?)

もしも、これが参加者に平等に優勝を勝ち取らせることができる措置だとしたら。
それこそ首輪にランクを振り分けたり参加者の異能の弱体化などというまどろっこしい要素ではなく、全面的に異能力を使用できない措置を取る筈だ。
つまり、主催は参加者間の平等な殺し合いなど求めてはいないといことだ。

この首輪を道具として使用したとして、敵を殺すことが出来るか。
出来る、かもしれない。
しかし、それを行使すれば、まず間違いなく使用者も死ぬだろう。
よくて道ずれにしか使えないようなもの、ましてや優勝を目指さない者専用ともいえるような武器を配るだろうか?


では、防具に使えるかというとそうでもない。
タスクがブラッドレイのカゲミツを防げたのは、あれがあくまでも剣であったため、攻撃範囲が狭かったからだ。
だが、異能力者の多くはもっと大規模なものだ。
御坂美琴の電撃やロイ・マスタングの錬金術がいい例だ。
あれらを首輪で防げるのは、不死の身体を持つホムンクルスや、身体の構造を変えることが出来る後藤くらいで、多くの参加者には恩恵などない。

よってこれも違う。


もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。
何から手をつければいいかすら分からなくなってしまう。


コンコン


そんなタスクの苦悩を察したかのようにノックが鳴り、杏子と雪乃が部屋に足を踏み入れる。

「タスク。これからのことを話しあいたいんだが...って、どうしたそんな顔して」
「い、いや...なんでもない」
「...?まあいいや」
「...二人共、これは俺なりに首輪について考えたことだけど」

タスクは、首輪についてのメモ用紙を二人に見せ、考えを募る。
そのメモを眺める二人は、顎に手をやりながら考え込む。

「『絶対に死ぬ爆発』ね。馬鹿げてる。馬鹿げてるが...そんなもの今さらだな」
「...悪いけど、私も思いつくことはないわ。ごめんなさい」

三人寄れば文殊の知恵、という諺があるが、現実はそう易々と先に進むはずもない。
あれこれと話し合ったが、依然進展はない。


503 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:51:59 NBoSh9d.0

(こんなところで躓いてたまるか...なにか、なにか手がかりは...!)

もう一度情報を探るため、タスクは首輪を弄りだす。
外面をなぞり、叩き、内面をなぞり、叩き―――

『これ以上の過度な干渉を続けた場合、三十秒後に首輪を爆破します』
「ッ!?」

突然の首輪からの警告に、タスクは慌てて首輪を手放し床に落としてしまう。

警告。
即ち、もう一度行えば爆発するという宣告だ。

なんてこった、と内心苦い思いで項垂れる。

現在手持ちにある首輪のサンプルは、三つ。
狡噛、みく、そしてまだ回収していない新一のぶんだ。
その内の一つを失ってしまった。
落ち込まない方がどうかしているだろう。

「...ま、まあ、あまり気を落とすなよ」

慰めるように、杏子がタスクの肩に手を置き、雪乃もまた頷く。
だが、やはり貴重なサンプルを一つ失ってしまったショックは大きい。
未だ項垂れるタスクだが、一つの疑問を抱く。

(...なんで急に警告が?)

先刻までは確かになにも鳴らなかった。
だが、大して変わったことをしていないにも関わらず、首輪は警告を告げた。
警告する、ということは、知らず知らずの内になにかキッカケを掴んでしまったのだろうか。
それこそ、首輪を解除できてしまうような、重大なタネが。

(落ち着いて考えろ。俺は、さっきなにをした...?)

最初に調べた時は、慎重に慎重を重ねて、最新の注意を払っていた。
だが、さっきはどうだった。
焦りと若干の苛立ちを交えて首輪を調べていた。
それこそ、強めの力で叩いたり。
それに反応したというのなら、なんと内側が脆い構造であろうか。

「しっかしわかんないもんだな、コレ。頑丈なのか脆いのか...」
「ちょっと、そんなに雑に触ったら...」

無遠慮に首輪を拾い上げる杏子に、雪乃は思わず止めかける。
既に警告されているのだから当然だ。
しかし、杏子は事も無しといった表情で首輪の外面を軽く小突く。


504 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:52:31 NBoSh9d.0
「こんくらい大丈夫だろ。だってさ、アヌビスの奴なんかずっと炎に炙られてたんだぞ?なのに爆発なんてしてないじゃん」
『や、ヤメロ!思い出したくないからあの時の話をするな!』
「つまり、外側からなら大抵のことは大丈夫な仕組みなんだろ」

(あれ...?)

タスクの中で、杏子の言葉が引っかかる。

「そんなに頑丈に作れるなら内側ももっとしっかり作ればいいのによ」
「なにかできなかった理由でもあるんじゃないかしら」

できなかったではない。する必要がないのだ。
首輪が爆発すれば、如何に強靭な身体を持っていたとしても死に至る。
ということは、一般人では勝ち目のない者達、ホムンクルスのような者達を殺害する手段に成り得る。
そうでなくても首輪の破壊は有効な殺害手段だ。
事故に見せかけて、一発逆転を狙って、確実に殺すため...理由はそれぞれだが、それを奪う理由はどこにもない。
首輪をここまで頑丈にする理由など一切ないのだ。

(ゲームに賛同し得る者への優遇か?でも...)

如何に超常的な肉体を持つ者といえども、彼らが必ずしもゲームに賛同するとは限らない。
例えばエンブリヲなどはそうだ。確かに彼は自分を含めた多くの参加者にとっては危険人物だが、主催の言いなりになってそれでよしと済ませられる男ではない。
何れは必ず主催へと歯向かうタイプだ。主催からしてみれば、道中で死んでくれた方が助かると思える男だろう。
また、セリムにしてもそうだ。彼は図書館では参加者たちを襲ったそうだが、武器庫の戦いでは杏子たちの味方をしていた。
つまり、主催者へ反抗する可能性も孕んでいたということだ。
そう考えると、彼らへの有効打である首輪の破壊による爆発を選択肢から除外する理由はないと言える。

(じゃあ、なんでだ?なんで―――)


「...タスクさん。首輪のことはまた後で考えて、ひとまずロックを外しに向かいましょう」
「ロック...?」

聞きなれない単語に杏子が首輪傾げる。

「そういえばあなたにはまだ話してなかったわね」

雪乃は、ヒースクリフが語った『三つのロック』の存在を杏子にも伝えた。

「なるほど。それで、あんたらはこの変な形をしてるところが妖しいと睨んだわけか」
「そうよ」
「わかった。まあ、外しても気にすることはないからさ、気楽にいきなよ。とりあえずあたしはウェイブと田村にもこのことを伝えとく」
「助かるわ」


505 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:52:56 NBoSh9d.0

杏子としては、一般人である雪乃と怪我人のタスクを置いて行きたくはないと思う。
しかし、自分の我儘でウェイブと田村には気を遣わせてしまったのだ。
少なくとも、彼らにはちゃんと連絡するべきだろう。
そのため、杏子は再び別行動をとることにしたのだ。

「気をつけろよ。ヤバそうだったら、あたし達が来るまでここで待機しててもいいんだからな」
「お気遣いありがとう。でも、私はただジッとしていられる性分じゃないの」
「ハッ、そうかい。んで、タスク。あんたも向かうのか?」
「ああ。この通り、どうにか身体も動くしね」
「ならいいや、頑張れよ。...んじゃ、また後でな」

杏子は、部屋を出る間際にライトのスイッチを切り替えて灯りを消した。

「わっ!」
「な、なんだ?」
「い、いや、ゴメン。急に暗くなったから驚いたんだ」
「なんだよ、大げさな...」
「佐倉さん。なぜ電気を?」
「使った跡は残さないようにって癖が...いや、なんでもないぞ、うん」
「...?まあ、いいわ。もう少し整理してからここを起ちたいからライトを点けてもらえるかしら」
「ん、わかった」

雪乃の頼み通り、再びスイッチを切り替え灯りをつける杏子。

(あれ...?)

スイッチを押して、電気を点ける。
その行程が引き金となり、幾つもの疑問を押し流す河がタスクの脳裏を流れ出す。

(まさか...いや、そんな...)

馬鹿げている。
辿りついた結論はそう揶揄してもいいだろう。
しかし、これなら一応の理屈は通る。

(そういうことなのか?だとしたら―――)

「待ってくれ」

部屋を後にしようとする杏子を呼び止め、タスクは紙を取り出し書き綴る。

(最後に必要なのは実験だ。それさえ成功すれば―――)

『首輪の全貌がわかるかもしれない』


506 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:53:48 NBoSh9d.0




病院の一室。その窓際。
顔を覗かせれば、深淵の奈落が見える。
窓際の床に置かれる首輪、その直線状に立つのは杏子ら三人。
乱雑に置かれていた医療器具は、人一人分の隙間を残して並べられ、壁のようにそびえ立っていた。

「通路はこれで確保した」
「ありがとう...じゃあ、始めよう」

タスクと雪乃は、最悪の場合―――首輪の爆発による被害に備えて、杏子のデイバックの中に身を潜める。

これで準備は完了だ。
万が一首輪が爆発しても、杏子の防御結界や医療器具が多少のバリケードの役目を果たしてくれる筈だ。
もしそうなった場合は、杏子の判断が運命を握るだろう。

杏子の槍の先端に雪乃の持つ壊れたショットガンを、更にこれにアカメが足立から奪った鉄の棒をカーテンで括りつけ、少しでもリーチを長くする。
杏子の槍は異能として弾かれてしまうが、これならば距離を置きつつ首輪に触れることが出来る。

「...いくぞ」

杏子の後ろにいるタスクと雪乃が頷き、杏子は握る槍に力を込める。
首輪の内面に狙いを定め、ゆっくりと槍を引き、そして強めの力で突く。

突き出された槍は首輪を突き、壁にぶつけ激しい衝撃を与える。
その余波で首輪は宙に浮くが、杏子が槍を消すのに僅かに遅れて床に落ちる。

一呼吸置き、静寂に包まれる。

数秒後。

杏子は窓際まで駆けだし、首輪を拾い上げて耳を当てる。

『十五...十四...』

カウントダウン。
警告を無視し、禁忌を犯した者へ与えられる罰だ。
爆発を受ければ死に至るモノに対しても、しかし彼女は一切慌てない。

手にした首輪を奈落へと向けて放り投げる。

数秒後。

地図の位置にしてC-1の端の端。

病院には被害が被らない奈落の上で、首輪は爆発した。

杏子は、デイバックから二人を引きずり出し、見たままの結果を話した。

「...これで決まりだ」

『この首輪は、すぐに爆発させることが出来ない仕組みになっている』


507 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:54:37 NBoSh9d.0



『...こんなもんがあたしたちを縛ってたモノの正体だっていうのか?』

杏子は信じがたいような、呆れたような複雑な表情を浮かべる。
当然だ。
いま現在己の命を握っているこの首輪だ。どれほど大層なモノかと思えば、こんなわかりやすい弱点があったのだから。

『...俺が気になったのは、この首輪の頑丈さだった』

先述した通り、首輪の爆発は、如何なる参加者でも全ての参加者の殺害が可能な手段だ。
一般人が殺し合いに乗ったとして、支給品を除けば超能力者やホムンクルス達を殺害できる唯一の手段と言ってもいいだろう。
そんな手段をなぜ奪うのか。
それは、首輪の弱点を隠すためだった。

この首輪の弱点。
それは、即座に爆発することが出来ないことだ。

なぜ爆発できないか。

おそらく、それはこの『如何なる生物でも死に至る爆発』という異能が原因だろう。

例えば、ロイ・マスタングの錬金術。
彼の錬金術は、両手を合わせる、錬成陣の書かれた手袋を使うなど、焔を放つ時は必ずワンアクションを置いていた。
御坂美琴の電撃もそうだ。
彼女は、電撃を放つ際、必ず己の身体に電気を流す一動作を入れてから能力を発動していた。
また、杏子の槍にしてもそうだ。
彼女の槍は何の代償も無しに出てくるものではなく、魔力を消費することで槍を構築している。


このことから、大多数の異能力は発動する際に必ず一つの動作を入れるという誓約があるのだろうとタスクは考えた。

と、なればだ。
如何なる者をも殺す爆発。その異能を発動させるには、かなりの時間を要する必要があってもおかしくない。

『じゃあ、いますぐあたしたちの首輪もぶった切れば』
『いや、それは不可能だ。首輪の固さはもちろん、自分の首を斬らずに脆い内側へと干渉する手立てがない。糸の一本も通らないくらいピタリと首についているからね』
『爆発までの時間を補うための首輪の異常な強度、という訳ね。なにかの衝撃で首輪が外れてしまうのを防ぐ役割も兼ねているといったことかしら』
『そうだ。けど、このまま爆発させても異能を無効化・弱体化する能力があるせいで、爆発の効果が薄まってしまう』

万が一にも効果の薄くなった爆発で生き延びれば主催側としては厄介なことになる。
そのため、爆発の際には異能無効化を取り除かなければならない。
そこで、その役割を為すのがスイッチだ。

首輪に仕込まれている異能を無効化する装置に直接衝撃を与えられた時。
おそらくこの時に特定の信号パターンを主催側に送ることで、警告が鳴るように首輪に仕込まれている。禁止エリアに侵入した時も同様の信号パターンを送るのだろう。
そして、二度目の装置への干渉を持って、警告は処罰へと変わり、主催側から送られる信号をもって異能の無効化機能はスイッチを切り替えられる。
その時間がおよそ三十秒。そして、爆発の異能が発動するのも三十秒程度ということだろう。


508 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:55:34 NBoSh9d.0

『でも、最初の上条って奴の首輪はすぐに爆発してなかったか?』
『おそらく、彼だけは違う首輪を付けられていたんだと思う』

上条当麻。
最初に見せしめとして首輪の爆発で殺された少年は、参加者名簿に載っておらず、身体も拘束されていなかった。
このことから、上条当麻はあらかじめ見せしめとして殺されるだけに呼ばれた存在であることがわかる。
首輪も他の参加者のものと形だけ揃えて、致死量の爆薬が仕込まれただけの首輪を付けておけばいいだけだ。


『けれど、こんな仕掛けだと、ゲームを進める内にすぐにバレてしまうんじゃないかしら』
『それはない。自分の命が懸っている状況で、これから爆発しますって爆弾に導火線を点ける奴はいないだろう?』

一度警告音を鳴らされてしまえば、それだけで警戒心を抱き極力首輪に触れないのが普通の心理だ。
如何に自分の身体に自信があれど、無計画に警告を無視して外そうとする者はいないだろう。
タスクのように解析をしている最中に鳴った場合もそうだ。
警告音を出されれば、同じ失敗を重ねてサンプルを失わないように同じ行動はなるべく避けるはずだ。
それを無視して解析を易々と進められる参加者はまずいない。
一人で解析を進めるのは無理に等しくなる心理のトリックだ。


これらのことから結論を述べると。

『この首輪は電波のみで全てを操られている首輪ということさ』



『...ということは、その電波を妨害するなにかがあれば』
『解除も難しくないだろう』
「じゃあ、いまできることはなにもなくないか?」
「それは否定できない。ロックを解除した時になにか起こればいいんだけど...」


ガクリ、と杏子は肩を落とす。
完全にこの場で解除ができる雰囲気だったというのに、結局は電波とやらを防ぐ手段がなければどうにもならない。
これには落胆するしかなかった。

「...でも、首輪についてわかったことがあるだけマシか」

とはいえ、この枷を外す手がかりが掴めただけでもよしとしておくべきだろう。
ゴールがあるのとないのとではまるで違うのだから。


509 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:56:28 NBoSh9d.0

気をとりなおし、杏子は己のデイバックを肩にかけ直す。

「んじゃ、この紙は貰ってくよ」
「ああ。他の参加者にも伝えておいてくれ」

そうして、部屋を後にする杏子を見送り、タスクと雪乃も病院を後にする準備にとりかかる。

『けどよぉ、なんか釈然としねえなぁ』

突如、アヌビス神が一人ごちる。

「どういうことかしら」
『確かにお前達の考えは間違ってねえんだろうけどよ、ちょっと都合よすぎやしねえか?』

アヌビス神の言葉に、雪乃の腕がピタリと止まる。

「雪乃?」
「いえ、アヌビス神が...ごめんなさい、続けてくれるかしら」
『いや、大したことじゃあないんだがよ。首輪の仕組みなんざ、こんな不安定なものにしなくてももう少し他にやりようはあったんじゃねえかって思っただけだ』
「...だそうよ」

雪乃はアヌビス神の言葉をほとんどそのままタスクに伝えた。

「......」

タスクは、顎に手をやり改めて考え直す。
確かにそうだ。
どうにも、この首輪の仕組みは参加者にとって都合がよすぎる。
そもそもだ。
『対象が必ず死ぬ異能』など、ホムンクルスのような身体を持たない者には必要ない。
首を吹き飛ばされれば人間は死ぬのだ。特に一般人相手では少量の爆薬でも事足りるだろう。
故に、参加者全員の首輪に同様の機能を仕込む必要性は無い。
だが、首輪はどれも同様の機能を有している。
参加者個別の首輪を作る暇がなかったとしてもだ。
死亡者の首輪の機能を停止してしまえば、タスクたちは手がかりすら見つけることはできなかった。
それでも、解析できるように首輪の機能を停止させなかった理由は限られてくる。

(俺たちに首輪を外させるためなのか...?)

そんな筈はない。
主催側の人間が枷である首輪を外させる理由は無い。
仮に主催陣の中で対立が起きているとしてもだ。
参加者の枷を外してしまえばその牙は主催陣全てに向くことは容易に考えられるからだ。

(それとも、首輪を外させることでなにかを狙っているのか...?)

参加者の首輪の解除の成否は問わず、その過程に求めるなにかがあるとしたら。
だとしたら、これまでの分析はなにもかもが"誰か"の掌の上での茶番だったということになる。

(...考えすぎだ。狡噛さんも言ってただろ。どんな犯罪者でも、ちょっとしたことで計画が崩れてしまうことはよくあるって)

ただ偶然に偶然が重なった結果が今回の分析に繋がったのかもしれない。
しかし。
もしも、誰かが自分達を誘導しているのなら―――


そんな得体のしれない不安を胸に抱きながら、タスクは雪乃と共に病室を後にした。


510 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:57:55 NBoSh9d.0




【C-1/病院付近/二日目/黎明】

※前川みくの首輪は爆発して奈落に落ちました。

※タスク、雪乃、杏子、アヌビス神の首輪についての共通認識
①首輪の爆発は異能力の類だと思っています。
②首輪の爆発条件は、全て電波で判断しており、その操作でのみ爆発すると考えています。
③爆発までには必ずタイムラグがあると考えています。
④A-1に地獄門のロックを解除する手がかりがあると思っています。



【アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
[状態] アカメ・新一・タスク・雪乃への好意(?)
[思考・行動]
基本方針:がんばってできるかぎり生き残る。
0:しばらくは雪乃たちのもとにいる。
1;DIO様が死んだってマジかよ。


※キング・ブラッドレイとの戦いで覚えた強さはリセットされています。
※杏子と情報交換をしました。



【雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(極大)、友人たちを失ったショック(極大) 、腹部に切り傷(中、処置済み)、胸に一筋の切り傷・出血(小)
[装備]:MPS AA‐12(破損、使用不可)(残弾1/8、予備弾倉 5/5)@寄生獣 セイの格率、アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:基本支給品×2、医療品(包帯、痛み止め)、ランダム品0〜1 、水鉄砲(水道水入り)@現実、鉄の棒@寄生獣
    ビタミン剤or青酸カリのカプセル×7、毒入りペットボトル(少量)
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:A-1へ向かう。
2:もう、立ち止まらない。
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
※槙島と情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていませんでしたが、杏子から大雑把に聞きました。
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。
※首輪の大まかな構造について理解しました。


511 : 不安の種 ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:58:30 NBoSh9d.0

【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大) 、アンジュと狡噛の死のショック(中)、狡噛の死に対する自責の念(中)、不安
[装備]:刃の予備@マスタング製×1
[道具]:基本支給品、狡噛の首輪、新一の死体
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:本当にこれでよかったのか...?
1:A-1へ向かう。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:御坂美琴、DIOを警戒。

[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
※マスタングと情報交換しました。
※不調で股間ダイブをアンジュ以外にするかもしれません。
※エドワード、杏子、ジョセフ、猫(マオ)、サファイアと軽く情報交換しました。
※コンサートホールの一件、足立の持っていたペットボトルが毒入りであることを知りました。
※第四回放送をほとんど聞けていませんでしたが、杏子から大雑把に聞きました。
※A-1にロック解除の手がかりがあると考えています。
※魔法治療により、傷口だけは塞がりました。
※変わり身の術は連続しては使えません。また、体力を大幅に消耗します。
※首輪の大まかな構造について理解しました。



【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(大)、顔面打撲 、精神不安定(中)
[装備]:自前の槍@魔法少女まどか☆マギカ アヌビス神@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:基本支給品一式、医療品@現実、大量のりんご@現実、グリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ、使用不可のグリーフシード×2@魔法少女まどか☆マギカ
    クラスカード・ライダー&アサシン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0〜1 、タスクの首輪の考察が書かれた紙
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを壊す。
0:市庁舎でウェイブと田村と合流する。
1:その後はまた話し合って考える。
2:さやかも死んじまったか……。
3:御坂美琴はまだ――生きているのか。


[備考]
※参戦時期は第7話終了直後からです。
※DARKER THAN BLACKの世界ついてある程度知りました。
※首輪に何かしらの仕掛けがあると睨んでいます。
※封印状態だった幻惑魔法(ロッソ・ファンタズマ)等が再び使用可能になりましたが、本人は気付いていません。
※狡噛慎也、タスクと軽く情報交換しました。
※DIOのスタンド能力を知りました。
※シャドウと遭遇中に田村にデイバックから引きずり出されたため、デイバック内での記憶はほとんど忘れています。
※アヌビス神と情報交換をしました。
※首輪の大まかな構造について聞きました。


512 : ◆dKv6nbYMB. :2016/08/22(月) 23:59:08 NBoSh9d.0
本投下終了です


513 : 名無しさん :2016/08/23(火) 22:53:20 j3.sntg.0
投下乙です
初期からずっと一緒だっただけに、アカメの死を嘆くゆきのんが悲しい
そして首輪の考察が一気に進んだか。でも簡単に外して終わり、とはいきそうにないなぁ


514 : 名無しさん :2016/08/24(水) 23:40:35 PQgE4i0A0
投下乙です。
久し振りに誰も死んでないなあ。
残された参加者が向かう先はもうラストスパート。
妨害する首輪をなんとかして主催戦に移りたいところですが……。

読んでいて数点気になったところがありました。



①タスクが夢の中でアンジュと出会っていますがなぜでしょうか。
一つ前に投下された鳴上悠の場合は原作の展開を加味し自分とは心の仮面でありもう一人の自分であるペルソナを使用しているため、精神体となって仲間が駆けつけるのは納得できます。
タスクは魔法少女のようなファンタジー能力すら持っていないのにアンシュと都合よく出会えるのはおかしいと思います。
理由をつければ大丈夫だとは思いますが彼にエスパーの能力はありません。

②タスクが元気すぎます。
前作では杏子の魔法と雪乃の応急処置によりやっと一命を取り留めた状態でした。
輸血を行っただけでこれほど動けるようになるとは思えません。もう少し前の作品をお読みになられては。
仮に回復したとしてもここまで頭が回る状態になるとは到底考えられません。

③首輪についてです。
「誰でも殺せる爆発」は幼稚すぎる気がします。他の書き手と打ち合わせをした結果なのでしょうか?

④雪乃が杏子と立ち会いをしていますが原作からは想像が出来ません。
なぜ雪乃がこんなことをしているのか現状の描写では結論に繋がっていません。

⑤首輪は電波で操られているということですが、氏の作品を読んでもそれまでに至った経緯がわかりません。
タスクの考察や地の文の解説で電波による操作に繋がったことはわかりますが都合よくここまで発想できるでしょうか。
事情はお察しできかねますが焦りが感じられます。

⑥そもそも異能の無効化と推測を立てるのには無理があると思います。

少々きつい言い方となってしまいごめんなさい。


515 : 名無しさん :2016/08/25(木) 01:31:17 mrPR.O0g0
長い指摘で驚いた…w
便乗ですが異能の無効だ!と結論するのは無理だと思います。まあ言ってしまえばタスクが動けてることに驚きというか1話前の瀕死はどこにいったのやら。
読み飛ばしをしたかと焦りましたが…タスクが使えないとなるとこの話の修正は厳しくなるとは思いますが頑張ってください!


516 : ◆dKv6nbYMB. :2016/08/25(木) 01:34:17 Qvf29kGQ0
>>514

ご指摘ありがとうございます。

①タスクが夢の中でアンジュと出会っていますがなぜでしょうか。
あの夢のアンジュが本物のアンジュであるとは限りません。
身も蓋もない言い方をすれば、諦めきれないタスクが自分を奮起させるために創りだした都合の良いアンジュかもしれません。
自分の夢に知り合いが出てくることくらいなら他のキャラでもありますし。

※『82話 あこがれ 愛』参照

前話の鳴上悠のように現実世界や己の能力に影響を与えたわけではないので、修正する必要はないと思います。

②タスクが元気すぎます。輸血を行っただけでこれほど動けるようになるとは思えません。ここまで頭が回る状態になるとは到底考えられません。
そうでしょうか。
タスクはほとんど動いていません。ベッドの上で首輪を素手で触ってただけです。筆談もできない状態でないとおかしければ、雪乃が代筆するように修正します。
あと頭もあまり回っていません。いま持っている情報と自分が今までに考えたことをまとめたくらいで、一人ではロクに進んでいません。
焦りで首輪に過干渉してしまうくらいには冷静さを保ってはいませんでしたし。
なので、修正するにしても時間くらいでいいかと思います。

③首輪についてです。
詳細は話せませんが、大まかには話し合いました。

※首輪の爆発がそれ単体でホムンクルスも一撃で殺すほどの超規模の威力をもっていないのは、182話の『魂の拠り所』でのエンヴィーを参照しました。


④雪乃が杏子と立ち会いをしていますが原作からは想像が出来ません。
いま現在、雪乃の手持ちにあるのは鉄の棒とアヌビス神だけです。
使うとしたらどっちの方がマシか。妖刀であるアヌビス神です。
しかし、雪乃は剣道部ではなく、剣の振り方なんて知りません。
だからといって、雪乃はアヌビス神に操られればそれでよしで済ませられる人間ではなく、最低限振り方は練習し、それを理由に気を紛らわしてしまうこともするキャラだと思いました。
思い違いであればあのパートは修正します。


⑤首輪は電波で操られているということですが、氏の作品を読んでもそれまでに至った経緯がわかりません。
『禁止エリアに入った時・広川が自分の意志で爆破させる時はどうやって爆破しているのか』
これを電波で操っているのだろうと技術士のタスクが判断するのは普通だと思います。
加えて、警告後も首輪への干渉を続けた場合どうなるかという実験の結果、どんなに過干渉しても爆発までに時間がかかるのが判明しました。

※過干渉で爆発までに時間がかかるのは、182話の『魂の拠り所』でのエンヴィーを参照しました。

このことから、電波で操っているのではと考えるのは不自然でしょうか。
首輪の仕組みが都合がいいことについては、>>509に言及してあります。


⑥そもそも異能の無効化と推測を立てるのには無理があると思います。
首輪に異能の無効化・弱体化機能がついていることは認識済みです。

※マスタングの錬金術でも爆発しなかったエンヴィーの首輪『69話、消せない罪』、後藤がサリアのソリッドシューターから身を護るために使用したアンジュの首輪『152話、Before the Moment』、キングブラッドレイのカゲミツを消した狡噛の首輪『191話、獣を斬る』参照

以上です。


517 : 名無しさん :2016/08/27(土) 07:02:02 mwpJQr.20
>>514
>>515
ここまで執拗に指摘とかそんなにこの話を破棄にしたいのかな?
それとも書き手個人を叩きたいのか?


518 : 名無しさん :2016/08/27(土) 07:15:48 O2zZIU9I0
適当に建前の感想つけるくらいなら最初から文句だけ言っとけばいいのに
まあ深く考えもしなかったいちゃもんだから修正になるわけないけど


519 : ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 11:57:05 b2BGwzsA0
投下します


520 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 11:58:21 b2BGwzsA0
「ここでブラッドレイを迎え撃つのなら、私は黒君が来てから話を進めたい」

ヒースクリフとしては戦闘は避けるべきだと話したが、万が一にそなえて黒を先ず回収したいと意見した。
実際はアンバーの依頼を果たしたいだけなのだが、この際理由は何でも良い。

「黒、か。だが彼は戦力になるのかな? 仮にブラッドレイと戦うにしても、今の彼は」
「その懸念も分かる。しかし後藤と三度戦い生き延び、“きみに苦戦を強いらせた男”をみすみす放っておくほど我々が有利だとでも?」
「……少し含みがあるな」
「いや、だがきみと黒君が“誤解”から交戦したのは事実だろう?」

エンブリヲとしては、黒にはエルフ耳をけしかけた上に基本抹殺しておきたい相手だ。
一時的とはいえ共闘は避けたいところだが、ヒースクリフの考えにも一理ある。
現状、確かに余裕はないのだ。かといって撤退もまた難しい。
ここで逃げることは簡単だが、その鬼ごっこをいつまで繰り返せばいいのか? この先これ以上の戦力を集めることは可能なのか?
既に人数は20人を切り、放送で呼ばれていないであろう死者も含めれば、既に15人前後にまで減っているだろう。
その内、三人は穂乃果、未央、そして会ったことはないが雪乃という力のない少女たちだ。
なら単純に考えて戦えるのは12人、かつ殺し合いに乗らない側の参加者で、エンブリヲに力を貸す者となると更に減少していく。

(何にせよ、やはりここで迎え撃つ方が戦力は確実だ)

「早くしてくれない? もしやるってのなら私はその間だけ協力してあげる」

「……」

急かすのは御坂だった。
当初は彼女が協力するか分からなかったが、話せばあっさりと御坂は協力を受け入れた。
恐らくは10人殺しの報酬狙いだろうか、ブラッドレイと戦えば自ずと人死にも出る。
仮に戦わなくとも、御坂がここで暴れ時間を食えば死人が出る可能性が高まり、そのままブラッドレイと戦う羽目になる。
極端な話が御坂はどっちでもいいのだ。何にせよ、戦いの火種があればそれに乗るだけで目的に近づくのだから。

(背後を取っているから無駄な真似はしないと思うが、面倒だな)

ブラッドレイと戦う意志を示さなければ、御坂は容赦なくあの電撃を振るうだろう。
ならば、ここで協力を取る方が賢い選択だ。
そうなれば、必然とヒースクリフの意見も通さざるを得なくなる。
ブラッドレイとの戦いで出し惜しみは出来ない。使えるものは何であれ使う。
しかし、問題はエルフ耳のことだ。黒の抹殺、それが漏れれば面倒なことになるだろう。

(ヒースクリフがその事実を利用して他の乗っていない側の参加者を煽る可能性もある。
 そのまま孤立させられるとなると、流石に私でも生存が難しい。
 可能な限り、知られないに越したことはないが……こんな事ならばエルフ耳をさっさと殺しておけばよかったか)

死人に口なし。
何にせよ、願うは黒がエルフ耳を殺害してくれることだ。
調律者とはいえ、全ての未来を見通せるわけでもない。このような事態では幾分の賭けに出るのも仕方のないことだろう。

「しまむー」

だがその前に、この少女達のフォローが先か。
目の前の現実に絶句し、言葉も禄に出ない少女達にエンブリヲは視線を向けた。

「嘘でしょ、しまむー……そんな嘘だよ!!」

面倒だが、まだ穂乃果と未央には使い道がある。
鳴上を繋ぎとめておくには彼女達は実に最適な鎖なのだ。
ブラッドレイ戦の戦力としても、一つの実験体としても鳴上はエンブリヲにとって価値のある重要な存在。
足立との戦いが気になるが、恐らく勝つのは鳴上だ。まだ生かしておいて損はない。

(悠、君は私のモノだからね。フフフ……)

「いやァ、いやあああああああああ!!!」

黙れと言いたくなる衝動を押さえ、エンブリヲは口を開いた。


521 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 11:58:52 b2BGwzsA0

「ありがとう、それとごめんなさい」

その前に言葉を紡いだのは御坂だった。

「え?」

「穂乃果と未央。アンタとその横の茶髪の娘、よね?
 言ってたわよ。そう伝えろって」

「ああ、島村卯月―――彼女は最期のその時まで君達を想い、戦っていたよ」

御坂の真意こそ分からないが、ヒースクリフはエンブリヲと同じ腹積もりだろう。
さっさと面倒ごとを解消し、鳴上を戦力に引き入れやすくしたい。その為に綺麗事を、似合いもしない仏頂面から吐き出しているのだ。
エンブリヲも負けじと口を開く。

「彼女は間違いを犯したが、それと向き合えた強く賢い女性だった。
 未央、きみはこれからどうするべきか、もう答えは分かってるんじゃないか?」

「エンブリヲ……。
 しまむー……私、……ごめん……支えて上げられなくて、本当にゴメンね……。
 こんな時、最期まで戦ってたのに……私ずっと寝てた……」

「違う。止むを得なかったとはいえ君が寝ていたのは私のせいだ」
「だけど……!」

「恨むなら私を恨みなさいよ。その娘を殺したのは私だから」

未央の手に力が入り、マスティマに意識が向かう。
それは殺意だ。あの女こそが卯月を殺めた仇、許せるわけがない。
脳裏を過ぎるのは、翼を叩きつけ全身を血に染めた御坂の肉塊の姿。

(……でも、無理……!)

けれどもそれは理想であり、幻想だ。
現実は黒焦げた肉がもう一つ増えるだけ、未央の力では御坂には勝てない。

「……絶対に殺す……絶対に……だけど今は……」

それに未央は聞いてしまった。
ブラッドレイが来てエンブリヲ達がそれを迎え撃つ為に協力すると。
図書館での激戦を目にした為、ブラッドレイの強さは嫌でも分かる。ここで諍いを起こせば、それはきっと皆の破滅を意味するだろう。
だから、そうならない為にも今だけは御坂を利用する。

「ごめんね、しまむー……ごめん。だけど、全部終わったら敵は必ず討つから!」
「ふん、いいわ。そこまで生きていたのなら相手してあげる」

「なにそれ……勝手だよ」

涙を拭い、穂乃果が未央の肩を叩いた。

「穂乃果ちゃん?」

「だって、この人なんなの?
 意味が分からないよ。何にも謝らないで、何で死んでるの?」
「……ねえ、止めてよ。しみむーは最期に―――」
「穂乃果、そこまでにしておこう。
 気持ちは分からなくはないが、死者を侮辱するものではない」

憤る穂乃果をエンブリヲが宥める。
本当なら、今にも未央に飛びかかりたいところだったが、ヒースクリフに気絶させられた過去を思い出し、穂乃果は渋々口を閉ざした。
それから簡素ながらに卯月を埋葬し、5人は主に戦力になりそうな人物を中心に情報を交換した。
主に戦力になりそうな人物は現状、ウェイブ、黒子、エドワード、黒、鳴上。
しかし黒子の殺害を御坂は明かし、残ったのは四人だがエドワードは何処で道草を食っているのか行方知らず、かつ御坂ともう一度組むことを承諾するかは分からない。
そもそもウェイブは距離が離れすぎている。結果として、やはり現実的なのは黒と鳴上を引き入れることだった。

「場所の分かる黒君を先に回収したほうがいい。
 悠くんもそう遠くにはいないだろうが、如何せん時間がない。しかも交戦後の疲労も考えれば、黒がもっとも戦力になる」

ヒースクリフの案に反対するものは一人としていなかった。
エンブリヲも不確定要素があるものの、それが最善であると判断し茶々は挟まない。
可能であるなら鳴上の回収もしたかったのだが、それは全て片付いてからでもいいし、鳴上なら必ず学院に戻ってくるだろう。

「ッ! ……噂をすればか」

ヒースクリフのが来訪者の気配を感じ取る。
一つの人影が足音を立て近づいてきた。






522 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 11:59:20 b2BGwzsA0




飲み口から赤い水滴が滴る。
口から離し、下へ向けて直角に傾けてから数秒経つ。
それから苛立たしくワインの瓶を投げつけた。
ルーレットやカードなど、ギャンブルで使われる道具が巻き込まれガラスが飛び散る。
重い腰を上げ、新たな酒を求めカジノ内を散策する。

その際、目に付いたスロットを殴り、蹴り飛ばした。
スロットは陽気な音を立て、ジャックポットを繰り出す。大当たりだ。黒を褒め称えるように更に音楽が鳴り喚いた。
舌打ちと共に黒はスロットに触れ、最大出力で電撃を流す。
黒い煙があがり、内部が弾け焼き焦げたような音を立て悪臭が黒の鼻を刺激した。
爆発のような轟音がスロットの中から響き、内部に貯蔵してあったメダルが飛び出す。
それらを腕で薙ぎ払い、メダルは全て床へぶちまけられる。
更に横にあったもう一台のスロットマシンに、拳を叩きつけディスプレイを叩き割った。
ガラスの破片が黒の手を切り裂き、赤く滲ませる。

「……」

痛みのお陰か、破壊衝動を満たしたお陰か。
僅かばかりの理性を取り戻し、黒は己が為すべきことを思い起こす。
酒だ。
今はただ酔い続けていたい。
酒気を帯びながら、カウンターの奥へと侵入し酒の貯蔵室へと忍び込む。
今度はウィスキーを持ち出した。
水で薄めもせず、ストレートで喉を潤す。
つまみすらなく、休みもせずに瓶を咥えたまま傾ける。

一気に瓶の四分の一ほど飲んでから、瓶を口から離し黒の視線は下へと向いた。
ソファーへ寝かせた銀へと。
既に瞼は閉ざしておいた。黒がその手で冷たくなった銀に触れた感触は未だに残っている。
けれども、視線を感じた気がしたのだ。堕落していく自分を銀が起き上がって止めてくれる。
そんな期待がないといえば嘘になる。

「……銀」

銀は微動だにしない。
当たり前だ。死んだ人間がどう生者を止められよう。
どんなに人の形を保っていたとしても、銀は死んでいるのだ。このまま徐々に腐り果て、最後は骨と髪しか残らない。
その前に埋葬することこそが、死者へ生者がしてやれる唯一の手向けだ。
友切包丁を抜き、銀の首元に宛がう。埋葬の前に彼女の首輪を回収しヒースクリフか、気は進まないが最悪エンブリヲにでも解析させれば脱出へと近づく。
黒ほどの達人ならば、人の首を落とすことも造作もない。少し力を加えてやれば良い。
人の首が落ちる光景など幾度も見てきた。それに恐れを為すような感傷は黒にはない。


首を落とす。

銀は死んだ。

戻らない。

脱出の為に首輪がいる。

だから、銀の首輪を回収する。

でも、もしかしたら、銀は一人にしないで欲しいと言っていた。
銀は戻ってきてくれるんじゃないのか? 


―――俺を一人にしないでくれ。


「俺には……出来ない……」


『僕の首は落としたのに』

響いたのは、この殺し合いの場で一番最初に出会った戸塚彩加の声だった。

「戸塚……?」

だが胸に風穴が空き、そこからドロドロと赤黒い血が流れ出す。
何より印象的なのは首より先の頭がなく、声がしたのはその足元からだったこと。
頭のない身体はよろめきながら、躓き転んだ。それを見ながら生首はケタケタと笑い、地べたを這いずりながら黒へと向かっていく。

『約束、何も守ってくれなかったね』

「俺は……」

『ねえ、生き返らせてよ』

腹部に何かが巻きついた。
まるで万力のように締め付け、黒を圧迫する。

「く、ろ……?」

背中から血を流し、生気のない瞳でクロエは黒を更に強く締め続ける。

『私とクロと美遊を生き返らせてよ……戸塚さんと約束したんでしょ? 助けてくれるって』
「――ッ!」

黒の左腕へ牙が付き立てられる。
口が裂けるような笑顔でイリヤは黒に喰らい着いていた。
片手は皮一枚でぶら下がり、もう片方の手は切り傷から絶え間なく血があふれ出す。


523 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 11:59:45 b2BGwzsA0

『痛かったぁ……全部、黒さんが助けてくれなかったから……ねえ……』

「くっ……」

逃げるようにして、足に力を込める。
しかし、予想に反して足は重い。

『ずっと一緒にいるって、言ったのに……』

それは最早、人とは呼べない何かだった。
辛うじて赤い髪と残った肉片から人間だった何かだと分かる。
肉や皮など殆ど残っていない、白い手で黒の足首を握り締め、ソレは黒へと追い縋った。

「俺は……お前なんて知らない……!」

『……嘘つき』

置かれた異様な状況下に堪らず、もう片方の足でソレを蹴り飛ばそうとする。
だがそちらの足も動かない。

『私、まだ死にたく……ありませんわ……』

光子の血で濡れた赤い手が黒の足を掴み固定していたからだ。

「みつ―――」

『俺、とォ……戦、えェ……ヘ、イィィィ……』

後ろから首を絞められ、怪力に引き寄せられる。
それは後藤だった。しかしその首周りは焼き焦げ、その頭は跡形もなく消し飛んでいる。

「ガッ、ァァ、カハッ」

息が吸えず、もがき続ける黒を死者達は押さえ込む。

『ククク……言ったな、かつてお前は俺に未来は歩めんと』

「……ハー……ヴェ、スト……?」

『しかし、お前の繋がりは全て断たれた。 
 逆に問おう。お前こそ、未来を歩む価値などあるのか』

かつて出会った者達が、それだけではない。かつて殺し続けてきた者達が黒の身体に縋りつき引き込もうとしている。
もがくことすら許されない。
全身が解け、死者達と交わっていく。痛みすらない、あるのは喪失感と恐怖。

「やめ……」

『黒』

死者が消える。
そして黒に不敵な笑みを浮かべた銀が抱きついた。

『もう、ずっと一緒。貴方と私は』

「……違う、お前は銀じゃない……お前は……!!」

「―――どうしてそういうこと言うの?」

「銀―――」

黒が払いのけた銀の胸は赤く染まっていた。



「――――ハッ」



夢、だったらしい。
ウィスキーが手から離れ、床を塗らしていた。
気付かないうちに、ソファーに腰掛け眠ってしまったのだろう。
銀の横に友切包丁が刺さっていた事から、首輪の回収を断念したところまでは現実なのかもしれない。


524 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:00:07 b2BGwzsA0

「ハーヴェスト、か……今更どうして……」

契約者と人間の共存を選んだ黒の前に立ちふさがった最強の契約者。
漆黒の鼻を巡った戦いは熾烈を極めたが、最後は黒の手により葬り去られた。
あの時の戦いは銀がいなければ、きっと黒が負けていただろう。

「銀……俺はお前を……」

5人の蘇生。
銀を蘇らせ、戸塚とイリヤ達の友達を含めた三人を蘇らせれば約束は果たせる。
だが、それは穂乃果や黒子といった、殺し合いに抗う者達も殺すことになってしまう。
この場に居るのがエンブリヲや後藤だけならば、最悪黒は殺し合いに乗っても構わなかった。
優勝できればそれでいい、死んだとしても未練もない。

「お前は、強かったんだな……イリヤ」

本来であるなら、銀を殺した仇であるイリヤだが不思議と怒りは覚えない。
ただ、虚しさと一緒に己が如何に脆く弱い存在だったのか、思い知らされる。
現実を直視し、それでも尚抗おうとしたイリヤと何も出来ず、腐っていくだけの黒では大違いだ。
いっそ、あの場でイリヤに殺されてやった方が良かったのかもしれない。

黒にはもう何の繋がりもない。
生の世界に止まる理由も意義もない。
全ての繋がりが絶たれた黒は、この殺し合いに呼ばれた誰よりも劣る。

それでもまだ自ら命を落とさないのは、何故だろうか。
銀はいない、妹とも二度と会えない。アンバーも消えた。黒にとって生きる意味は何も残っていない。

友切包丁を抜き、喉仏に突き立てる。
あとは軽く押してやれば、この業物は豆腐でも捌くように黒の命を断ってくれるだろう。
柄を強く握り、ゆっくりと押し込む。だが数ミリほどの切っ先が僅かに喉に沈んだ時、不意に力が抜けていく。
まだ生き恥を晒そうとする自分を侮蔑しながら、黒は友切包丁を喉から離し放り投げた。

「……誰でも良い。教えてくれ、俺はどうしたらいい?」

応えはない。元より誰にも応えられるはずがない。
黒は支えた者達は誰もいない。黒を促し導いてくれた仲間も誰一人残っていない。
結局、いつも最後に残るのは黒だけだ。
この場に呼ばれる前も黄が死に、アンバーが消え、殺し合いのなかでは銀を喪い、戸塚を死なせ、イリヤを救えなかった。
もっと他に生き延びるべき者がいたはずだったのに。

「……」

縋るようにウィスキーを呷る。度数が高く、ストレートであるにも関わらず黒は酔えない。

「―――BK201」

ふと黒の耳に響く、懐かしい声。

契約者とは思えない、歪んだ笑みを浮かべその男は黒を見下ろしていた。






525 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:00:26 b2BGwzsA0



この胸に抱くのは狂気か歓喜か怒りか。
契約者が抱くには非合理すぎる激情は魏の足を更に早め、カジノへと向かわせていた。
最早、脳裏には学院のことなど微塵もない。あるのはただ一つ、己が唯一殺せなかった男の姿のみ。
今度こそ、確実に仕留め、その息の根を止める。あの敗北から受けた雪辱を今こそ果たす時だ。

カジノが見えた。はやる気持ちのまま、魏は扉に血を飛ばし指を鳴らす。
扉は一瞬にして消え、中の見晴らしが途端に良くなる。
そのまま歩を進ませ、内部を見渡す。
明らかに人が居る気配がある。
割れた酒瓶に、荒されたスロットマシーンにルーレット、これらは魏の予感をより裏付けていく。
あの男が銀の死んだショックで弱体化、もとい戦いに関しその意欲をなくしていると。

「馬鹿な。契約者がドールの死如きで……」

口に出したのは認めたくなかったからか。
独り言というにはあまりにも大きな声で、まるで自分に語りかけるように魏は呟く。
しかし、契約者は他人の死で涙することなどまずない。それが原因で、戦闘に支障をきたすこともだ。
だというのに、先ほどから魏はその悪寒を拭うことができない。
万が一にもそれで黒が腑抜けていたのなら、その場で殺し再び銀諸共復活させれば良いだけの話だ。

(何故だ……私は何かを怖れているのか? 怖れる? 何をだ……。
 この感情を私は知っている。いや、思い出したというべきなのか……)

ガラスが割れる音が奥から響いてきた。
奴はあそこに居る。

「……」

奴は座っていた。
横に銀を寝かせ、そこに佇んでいる。
その衣装は確かに魏を倒した黒の死神のものだ。以前のようなマヌケな勘違いは二度としない。
戦いに心得を持つ者が放つ、独特の雰囲気が魏を刺激する。

「―――BK201」

それでもだ。魏を蝕む悪寒は増して行くばかりだ。

「……」

酒気を纏った空気は魏に鈍器で殴りつけられたような衝撃を与えた。
見上げた顔は、敗北よりも深く、暗い闇の底へ引き摺り下ろされたような失望を感じた。

「お前を……殺しに来た」

ああ、そうか……。

「それで?」

この男はもう。

「私と戦え」

腐っている。


血を飛ばし、指を鳴らす。
黒は避けたが、肩に傷を負い血を流した。
決して本気ではなかった。むしろ、外れることを望んでいた節すらある。
でも、奴はこの程度すら避けきれずにいた。

念願の勝利へと近づいてきている。それは何処の誰が見ても間違いようのない事実だ。
だが満たされない。

「何故だ……教えろ、BK201」

帝具も契約能力もない、ただの蹴りは黒の鳩尾へと減り込んだ。
醜悪な呻きと共に黒は簡単に吹き飛ぶ。
カジノの内装が黒のぶつかった衝撃で破損し、破片がばら撒かれる。
苛立ちと共に魏はそれらの破片を容赦なく踏みつけ、黒へと歩む。


526 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:00:56 b2BGwzsA0

「……」

包丁が飛んできた。
人差し指と中指で刃を挟み、眼前で止める。
ワイヤーが投擲される。掴んだ包丁で切断する。
その隙に黒が接近し、手を翳す。身体が青く光り電撃を纏わせていた。

(なんだ、これは……)

椅子を掴み、黒に殴りつける。
電撃で焼かれたのか、悪臭が椅子から漏れた。
黒は力なく横へ殴り飛ばされる。

(弱い)

床に倒れた黒を魏は足で蹴り上げる。
ピクピク呻きながら、もがく様はあまりにも哀れだ。

(弱すぎる……これが……こんなものが……)

椅子を振り上げ、振り下ろした。
ガツンと軽い音が鳴り、黒は動かなくなる。

(黒の死神だとでも、いうのか……。本当に私を倒した男なのか?)

この時、魏の中はただ冷めていくだけだった。萎えるというのはこういうことを言うのだと、身を持って体感する。
動かなくなった黒の生死すら確認せず、魏はカウンターの奥へ行き酒を持ち出す。

(何をやっている。まだ戦いは続いている、酒など……)

魏も酔いつぶれるような柔な体質ではないが、殺し合いも終盤だ。
生き残った参加者は強者揃い。
あのブラッドレイという男もまだ存命であり、それと同格のエスデスすら何者かに屠られている。
酒を飲めば、その強者達との戦闘で何らかの判断ミスを犯す可能性も高まってしまう。
けれども魏の手は止まらない。酒を物色し、瓶をこじ開け口に注ぐ。

最早、魏にも分からないのだ。
己が為すべきことが。
少なくともこの戦いに勝利はした……した筈だ。
遺恨が残らないといえば嘘になるが、それも優勝したとき黒と銀を蘇らせもう一度雪辱を果たせばいいだけだ。

「見ているのでしょう、アンバー……貴方の予知した未来は外れましたよ……」

何処からか見ているであろうアンバーに語りかけるが、返事はない。

「アンバー!!」

壁に血をなすり付け、指を鳴らす。
崩壊し瓦礫となって魏の前に崩れ落ちる。
それから持っていた酒瓶を床に叩きつけた。酒瓶の中身が魏の靴とズボンを汚し、ひんやりとした冷たさが足を撫でる。

『カクテルはいかがでしょう?』

苛立つ魏に語りかける、機械音声が耳についた。
見れば、レトロな風貌の自動販売機が声を発していた。
魏も黒もカジノ内の散策などろくにしていなかった為に、気付くのが遅れたのだろう。
一瞬、それも破壊してしまおうかと考えたが、魏は思いとどまる。


527 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:01:15 b2BGwzsA0

「……モヒートでいい」

機械を操作し、取り出し口にグラスを置く。
数秒後には出来上がったモヒートを口に含んだ。
これまで無造作に飲み干した酒とは違い、爽やかなミントとライムの風味がかえって酔いを醒ましてくれた。

「もう一杯貰おう」

空になったグラスに再度モヒートを注ぎ、口に流し込む。
ラム酒の甘みが骨身に染み渡るようだ。
二杯目も飲み干し、口元を拭う。
それからグラスを数本用意し、魏は機械に設置する。
カクテルが完成しグラスが満たされるとそれを回収しディパックに放り込んだ。
この中ならば蓋のない器に入った液体も零れる心配もなく、適温でカクテルを保存してくれる。
それを数回繰り返し、ディパックのなかに多数のカクテルを収納すると、意を決したように魏は黒の元へ向かう。

「起きていますか?」

返事はない。期待もしていない。
黒の首根っこを掴み、引き摺りながら魏は歩み出す。
荒れたカジノ内を進み、自らが破壊したドアを越え、外へ出る。
目指すは禁止エリア、カジノの真後ろにある。
大の男を引き摺っても三分も経たずに着くだろう。

「……起きろ」

一度手を離し、黒の顔が地べたに打ち付けられる。
何の反応もない。

「これから私は貴方を禁止エリアに放置します。
 死にたくなければ、抵抗しろ」

頭を踏みつけ、冷酷に言い放つ。
指一本、動かす素振りも見せない。

下らない問答だと思う。
奴はもう動かないのだ。肉体の生死以前に黒という男は……少なくとも魏を倒した男はもういない。

(こんな事をして、何になる? 無駄な浪費を重ねるだけだ)

頭から足を退け、もう一度黒を引き摺る。
戦闘に比べれば微々たる物だが、それでも着実に体力は減らされているのだ。
後の戦闘を考え、身体を休めた方が時間は有意義に使えるだろう。
何より、さっさとここで黒を殺して生き返らせたほうが、己の悲願を叶える近道のはずだ。

(合理的判断とは……あるいは、その契約者が何を最優先とするかによって決まるのだろうか……。
 しかし、だとすれば私の最優先目的とは何だ……?)

当初は己の生存を考え、殺し合いに乗った。
そこで出会ったのが、泉新一達だ。
彼らと交戦し一人を削り撤退、戦果としてはそう悪くもない。
合理的判断の元、動いていた。

そして近場の施設を調べ、まどか達との交戦に入る。
思い出せばあれは苦々しい戦果だが、後に控えた連中を考えれば合理的判断で逃走が一番だった。

図書館での交戦。
あれこそ、恐らく最も愚かな行為だ。
感情に任せ、戦闘に入ってしまった。
もしも、あの場に居たのが黒だとしたら、魏はここまで生きてはいなかった。

(私の目的は黒と戦う事と、何より己の生存……そのはずだ……)

『禁止エリアに接触しています。エリアに滞在する場合は三十秒後に首輪が爆発します』

首輪から音声が鳴る。
禁止エリアに足を踏み入れたということだろう。
そこで魏は黒を手放した。
ドサリと小さく土煙をあげて、黒は倒れ付す。
瞼は閉じ、一向に開く様子もない。
魏は背を向け、禁止エリアの外へ退避する。
生ある人間ならば、誰もがそうする当然の行為、合理的判断すら挟まない本能だ。


528 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:01:31 b2BGwzsA0

『二十五秒』

カウントが刻まれていく。

『二十秒』

魏のものではなく、黒の首輪からだ。

『十五秒』

これから、殺すべき参加者達。
先ずは学院の連中から、すべからく抹殺する。
ヒースクリフに関しては、また交渉次第で組むのも悪くはないが、あのエンブリヲという男はきな臭い。
殺せるのなら、殺しておくべきだろう。

そして気になるのが、泉新一、雪乃下雪乃、アカメ。彼女達三人だ。
最初の遭遇で見かけた、サリアとかいう女は死んだようだが、まだ新一と雪乃は生きている。
あの時、狩り損ねた因縁を晴らすのも悪くない。特にアカメという女に投げかけられた台詞は未だに忘れられない。
よもや、二度も速さで遅れを取るなど。
そういえば、図書館に居た風を操る女と茶髪の男。女の名は放送で呼ばれていたが、茶髪は生きているのかもしれない。
だとすればこの手で殺したいものだ。

『十秒』

まだ、殺すべき対象はいる。
新一達もブラッドレイも足立も、まだ殺したりない。全てを殺害し、もう一度あの男を蘇らせ勝利し殺す。
だが、何かが気に入らない。

『五秒』

答えを得ぬまま、魏は振り返る。

『起爆します』

起爆の宣告とほぼ同時に黒は禁止エリアから滑り出た。
その眼は死んだままだが、少なくとも自殺を選ぶほどまだ落ちぶれてはいない。

「……良いでしょう。どうせなら、私が止めを刺す」

魏が指輪をかざし、水流が繰り出される。
巨大な一本のランスとなった水は黒目掛け振り下ろされた。
ほんの紙一重、最早避ける気があるのかも分からない僅かな移動で黒はそれをよけた。
しかし余波に煽られ、黒は宙に投げ打たれる。
力のない紙のように舞っていく姿に魏は苛立ちを隠せない。

「死ね。もうお前に用などない」

今までに拘っていた存在は何だったのか。
呆れ、萎え、怒り。契約者にあってはならない不合理性が魏の心中を占める。
いや元々、契約者に心と呼ばれるものすらないはずなのだ。
血を操り黒に向かわせる。
一秒と経たず、黒の身体にこびり付き指を鳴らせば全てが終わるだろう。
その後に願いを叶えて、復活した奴ともう一度戦えばいい。

(もっとも、こんな男と戦う価値などあるのか?)

深く刻まれた失望は魏の中で黒という存在の価値を大幅に下げた。
激情に飲まれつつあった理性は心中の濁流の中から、一気に引き上げられ浮かび上がっていく。
何をこれまで拘っていたのか、奴は所詮ただの敵であり排除すべき障害でしかない。

(そうだ……私は狂っていた。
 下らない拘りを持つなど不合理)

病のようなものだったのだ。
黒に対する執着、あれは初めての敗北が生んだ癌だ。
ここで全てを清算し、魏に救った物は完治する。
より契約者として冷酷で合理的に、より強さに磨きかけ更なる高見へと上り詰める。

指を弾く。
乾いた音と共に血が光った。


死んだ全ての亡者が黒に纏わりつき、死の底へと引き摺り降ろしていく。
振り払う力もなく、その気もない。黒は死を受け入れていた。
自分よりも、まだ魏の方が生きる価値もあるだろうと、彼なりに合理的に判断したのだ。

死がより一層、濃く強まる。
もうすぐ、そちらにいけるのか。
銀の傍へ……。


529 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:01:57 b2BGwzsA0


「俺も……そっちに―――」


―――へい、さん、おねが、い
―――みんなを、いりやちゃん、を

―――良かった。黒とみんなを、傷つけなくて

「ッ!!」

「?」

血が触れる寸前、ワイヤーの伸縮音が響き空中で黒が体勢を捻る。
目を見開き、魏はその光景を凝視した。
今までの動きとはまるで違う。別次元の身のこなし。

「……まだ、戦う意志はあるということですか」

少なくとも自殺するほど落ちぶれてはいない、ということか。
虚ろな目で魏を見る黒は僅かながらではあるが戦意を見て取れた。
黒が包丁を抜くのを合図に二人は駆け出す。
顔面に向けられた包丁の突きをいなし、肘で黒の顔を打つ。
横転しながら左手を地に着け、バネにしながら足を振り上げ蹴りを放つ。魏は上体を逸らし蹴りを避けてから、水流を巻き上げ黒へと叩きつける。
直撃は回避したものの、黒はそのまま余波に煽られ吹き飛んでいく。

「ガッ……」

短い悲鳴が魏の耳をつく。

「帝具を使うのはフェアではありませんか? いや以前の貴方ならこの程度、物の数には入らないはずですがね」

「……死ね!」

投擲されたワイヤー。
これを巻き付け電撃を流す魂胆だろうが、その技は拙い。
歴戦を潜り抜けた魏からすれば目を瞑っても避けられる。
最小限の動きでワイヤーを避けた魏は遊び心が沸いたのか、わざわざブラックマリンの操作を止めシャンバラを握り手で弄びだした。
一瞬で消え、黒の後ろへと転移する。
そのまま背中を蹴られ、バランスを崩した黒に魏は血を塗りつけた。
魏が指を鳴らし、黒の身体から血が流れる。

「グ、ゥ……ハァ、ハァ……」

「直撃は避けましたか。
 ですが、本当にあれが黒の死神の戦いなのでしょうかね」

「黙れ、お前には……関係ない」

「私を死の免罪符にするつもりですか?」

「何?」

「余程堪えたようですね。あのドールの死が」

「黙れ!」

衝動に任せたその拳は魏に簡単に払われる。
挙句、足を絡ませれら黒は無様に地べたに叩き付けられた。
黒の腹部目掛け、魏は爪先を勢いよく蹴りこむ。黒が咳き込むみ唾液を吐く、そして衝撃に流されるままボールのように転がされていく。

「貴方はあのドールに依存している。
 実に愚かですよ。……むしろ私からすれば、貴方こそ人形のようだ。
 哀れな糸の切れた操り人形、それが今の貴方です」

頭を足で踏みつけられる。
ジリジリと圧迫され、頭蓋が悲鳴をあげていく。
その中であったのは、今まで死なせてきた者達の事だった。


530 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:02:25 b2BGwzsA0

「人、形……?」

魏の言うとおり、黒は人形のようなものだったのかもしれない。
銀という糸に縋りつく、壊れかけの人形。
何かの繋がりを求め、それでいて必ず切れて朽ち果てていくだけの抜け殻だ。

「……楽にしてくれ、頼む……」

それを誰よりも理解していたのは他ならない黒自身だ。
だから、糸をなくし無様に崩れた人形はその醜態を晒してしまう。
誇りも矜持もなく、ただ逃れようとする。

「なんだと?」

己を唯一倒した男の姿は見るに耐えないものだった。
この瞬間、魏の屈辱は人間であった頃を含め最大にまで膨張していた。
黒の襟を掴み、魏は力の限りを尽くしてカジノのへと投げつける。
背中が壁に打たれ、黒はそのまま崩れ落ちた。

「貴様……そこまで……!」

黒は立ち上がれない。この虚無と悲しみと戦えない。

どうすれば、銀を守れたのだろうか。
どうすれば、戸塚との約束を守り、イリヤを救えたのか。
どうすればどうすればどうすれば。

魏の血によって抉られた痛みが、全身を殴打された鈍痛が黒を締め上げ意識もおぼつかない。
それでも頭にあるのは、後悔と己への自問だけだ。

「教えてくれ……。
 なんで戦わなきゃいけない……もう俺は誰も殺したくない」

まるで許しを請うように両手を地に着け、黒は酒瓶へと手を伸ばした。

「もう、いいだろ……。俺は何の為に戦ってきた? こんなことの為にか? 
 銀が死んで、仲間もみんな死んだ……。どうして俺だけが……」

妹を守る為に、銀を守る為に、自分が選んだ選択の責任を取る為に、戸塚との約束の為に、イリヤを救う為に。
ずっと戦い続けた。そこに黒の夢見た明日があるのだと信じた。
例え儚い幻想であったとしても、それでも歩む先には未来があるのだと。

何もない。
黒達を先に進ませる為に黄が死に、アンバーが黒の未来を選ばせ消滅し、戸塚が鳴上を庇い、イリヤが友の為に命を張り、銀が黒とこの場にいた者達を守る為に戦っても、何も残らない。
ただ無情に屍を築き上げ、一人残されていくだけだ。


531 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:02:45 b2BGwzsA0

「……無意味な感情ですよ。
 そんなモノを抱いてしまうから、貴方は非合理的な存在なのです。
 あのドールも貴方の言うみんなとやらも、全て無意味に勝手に死んだだけだ。そう割り切ればいい。
 合理的に切り捨ててしまえば、貴方は最強の契約者として思うがままに力を振るえるではありませんか」

魏は冷たく言い放つ。
黒の悔いなどどうでもいいことだ。重要なのは、屈辱を晴らすことに他ならない。

「下らない」

もう終わりだ。このあまりにも無駄で無意味な戦いに幕を降ろそう。
初めて味わった敗北から、魏は常に黒の事だけを考えていた。この屈辱を晴らす為だけに合理的に考え、行動し続けてきた。
例えそれが死を招くのだと分かっていても、戦わずにはいられない。
非合理と分かりながらも、しかし戦意は一向に曇らない。そしてついに己が宿願を果たす時がきた。
だがようやく出会えた宿敵は変わっていた。

「つまらない幕切れです」

水流が槍状になり切っ先が螺旋を描く。
黒を穿たんとする水の槍が前進する。
魏の目には、最早黒などろくに写っていない、目の前の光景など何の意味も為さないものだから。
ただ一人、契約者が死ぬだけだ。魏が葬ってきた者達と変わらない。
そう、魏が敗北した黒の死神はもういない

「……もう、終われるのか―――」

かわしきれないと、思った。
今までの水流とは規模が違う。到底避け得ないだろう。
だからもう死ぬしかない。それが何処となく、嬉しく思える。
辛うじて、まだ生きてきていた。生存の為の反射か分からないが、死の淵に立たされた時身体が勝手に動き出した。
それが黒にとっては、耐え難い苦痛でもあった。
自殺もできない、殺されにいくこともできない。だが、ようやく殺してくれる。
終われるのだ。これで全てから開放される。
肉体を蝕む激痛も、心を蝕む傷も、何もかもが消えて行く。

(俺なんかより……アイツらが生きていれば良かったんだ)

黒と違い、光差す未来を歩む者達ばかりだった。
そんな彼らから、託されたものもあった。
なのに何も為せず、ズルズルと引き摺るように生きてしまったのは、空っぽで闇にしか進めない黒だけだ。
黒と関わり死んだ者達の全ての死がが無意味だ。そこに結果が伴わなければ、意味のないただの終末に過ぎない。
とんだ皮肉だろう。もし命を譲渡できるのなら、どれだけ良かったことか。


532 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:02:58 b2BGwzsA0



無意味なのか。
アイツらの死は。

銀の死は。




「……い、ん? ―――ッ!!」



体はまた勝手に動き出していた。










533 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:03:25 b2BGwzsA0






水の槍に穿たれたカジノは完全に倒壊した。
瓦礫が崩落し轟音を響かせ、みるみるうちに豪華な改装が砕け灰へと還っていく。
契約者といえど本質は人間。生身で受けて耐えられるものではない。
残ったのは赤黒い肉片ぐらいだろう。

「呆気ないものですよ……」

喜びはない。
ただ晴れることのない屈辱だけが、魏の中を占めていた。
優勝し黒を蘇らせる。だが、それでも屈辱が本当に晴れるかも分からない。
銀を蘇らせれば奴は再び、本当の意味で舞い戻るのか? それともこの場で死んだ連中を全て蘇らせばいいのか?

「いや、それ以前に……願いを叶える保証がない、か」

我ながら呆れ自嘲した。
それから、瓦礫の上を無造作に歩き踏みしめる。
意味はない。単に何か動きたかっただけだ。
何度か往復し、やっと訳の分からない衝動が収まる。
その時、一本の刃が魏の頬を掠った。

(包丁?)

咄嗟に感じた悪寒に従い魏は後退する。
それを追う様に瓦礫の隙間から黒い影が飛び出す。
例えるならそれは死だ。
魏の最期を運ぶかのように、ゆらりと闇を背景に歩む。そこには死人ではなく死神の姿があった。
しかし死を前にして、魏は喜びに震えていた。
魏が戦いたいと願い、屈辱を晴らすべき男が再び目の前に現れたのだ。
あの一瞬にして、何が起こり何が黒を促したのか。

「ッッ!! ……そうか……まだ、まだお前は……!」

力強い歩みと共に黒は担ぎ上げた銀の遺体を下ろした。
銀を寝かし、静かに黒は立ち上がる。
傷だらけの全身が赤く染まり、今にも消え入りそうな瞳だがその姿は以前のモノとは違う。
もう喋らない銀の頬に手を当て黒は呟く。

「―――」

そして黒は目を閉じ、二度と銀を見なかった。
完全な決別であり、それは生者と死者の境界を示す。
二人のミチシルベは終わってしまったのだと、他の誰でもない黒自身が受け入れなければならない。
本当の死の淵へ追いやられた時、黒は本能を超えた強い何かで生きようとしていた。
生きる意味などないと悟った自分を否定し、生き続けろと吼える己の声を聞いたのだ。
いや自分の声だけではない。そこには、きっと銀の声もあったはずだ。


534 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:03:46 b2BGwzsA0

「……」
「……」

まるで隙がない。
灰と砂を乗せた風が二人を煽り、コートを靡かせ髪を揺らす。
肌を砂が叩き、視界を灰が狭める。
両目を擦ろうとする生理現象を拳を握り、魏は押し殺した。
一時も目を離せるはすがない。その瞬間に己が二度目の敗北が決定するのだから。
瞬時に黒が振り返り、ディバックを投擲する。
水流が迸りディバックを粉砕した。収納されていた荷物が宙を舞い、雨のように降り注ぐ。
デバイス、飲料水、食料、そしてランダム支給品。
その中に見覚えのあるものがある。
先が割れ、黒色の刃を持つナイフ。それを認めた時、距離を詰めた黒が間近に迫った。

(速い!)

迷いなくナイフを掴み、魏の急所へと薙ぐ。
魏は後転しながら足を伸ばし黒の顎元へと蹴り上げる。
手を翳し爪先を掴み、黒の身体が青く発光した。舌打ちと共に魏は身体を捻り、黒の手を振りほどく。
体勢を立て直し、シャンバラを掴み転移する。
黒の死角にまで回り込んだ魏は血を振るう。
だが、先を読んだ黒が投げたナイフが魏の手にあるシャンバラを打ち砕いた。

―――黒と戦ったら貴方死ぬよ。

ブラックマリンの操作を受けた血を避け、黒は駆け抜ける。
魏がナイフを抜く。
二本の刃が触れあい火花を散らす。

―――だって、黒が勝つから。

かつて、あった筈の未来で告げられた終末宣言。
確かにそれは間違いではない。
アンバーの予言は絶対だ。外れることなどありえない。

(ならば、変えるまで……俺の未来は俺が決める)

魏のナイフが砕け散る。
折れたナイフを放り出し、ブラックマリンに意識を戻す。
黒が迫る。僅か一秒も経たぬ間だが、魏にとってはそれが数時間にも感じるほどの長さに思える。
その時、理解したのがこれが走馬灯であるということだ。

黒をアンバーの元へ案内し、ゲートの中での最後の対決。
魏は黒に勝利したと確信して指を鳴らした。だが崩れた柱からは、ナイフを携えた黒の姿が飛び込んだ。

『この能力(ちから)を手に入れてから、他人に負けることなどありえなかった。その屈辱、貴方に分かりますか?』

そして、この胸にあのナイフを付き立て―――魏は自ら自爆することで黒に道を開いた。

『いや』
『でしょうね……!』

ブラックマリンの支配下に置かれた水が黒を迎え撃つ。
だが捉えきれない。水が砕くのは影だけだ。
死が近づいてくる。
この胸に墓標を打ちたてようと、黒の死神が―――

完全に間合いを詰められる。
血に濡れた魏の腕が振るわれ、ナイフを構えた黒の腕が突き出される。


『―――やはり……こうなるか、俺がお前を殺してしまうようでは、道案内などさせるはずがない……』


二者の最後の一撃が交差し―――――







『行け、BK201』


535 : 暗闇でラブソングを歌う ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:04:03 b2BGwzsA0
魏の胸に触れる寸前、黒の腕が先に堕ちた。

血が黒の胸を汚し、光りだす。

当然の光景を目にした魏は、目の前の光景が嘘の様に見えた。
黒は魏と本格的な戦闘に入る前から、痛めつけられていた。
いかに強かろうと黒は人間だ。一定のダメージを食らえば動きは鈍り、それが限度まで達してしまえば―――。

「い……ん……すまな―――」

何に対しての謝罪か。断末魔と共に、乾いた音が響いた。
力なく崩れていく黒を水流が飲み込み、その全身を砕いていく。あとに残ったのは、赤い血が入れ混じった水溜りと黒い布切れだけだった。
いとも容易く、いとも簡単に。これまで何を以ってしても殺してやりたいと願った男を、たったいま魏は殺したのだ。

どうしてかは分からない。

ただ、この目で見るまで起き得る筈の現実を受け入れられなかった。

もしも、黒がもっと早く戦う意志を取り戻していれば、こんな結末にはならなかった。
もしも、早期に黒と戦えていれば最初から、全力の黒を殺せていたはずだ。
もしも、あの時銀を確保していれば、黒が腐ることもなかったかもしれない。

意味のない問答を胸内で繰り返す。
これから先、どう戦い生き残るべきか、壊されたシャンバラに次ぐ装備の調達、黒の首輪を回収しなければならないだとか、そういった合理的思考は全て排他される。
そうして思い起こされる。これが、人間の後悔という感情だと。
恨み、憎しみ、屈辱、後悔。
あらゆる感情が混在し、魏に何かを訴えかけようとしている無意味な機能。契約者として捨て去ったモノが魏の中を渦巻いていく。

「……」

バックからグラスを取り出す。そして手に持ったグラスに力を込め、手の握力だけで割ってしまう。
アルコールの匂いが鼻に纏わりつく、手を流れる液体の感触が癇に障る。
ガラスの破片ごと掌を握り締め、滲み出た血を辺り構わず振るう。
指を鳴らし、血の付いた箇所が幾つも消し飛ぶ。
それだけに飽き足らず、ブラックマリンを使用し水流で地面を穿ち続ける。
体力の消耗や、この轟音から参加者に居場所を感知されるといったおそれなど微塵も気にしない。
ただ破壊のみに魏の思考は費やされる。

「……」

何秒、何分、何時間。
正確なところは分からない。魏が冷静さを取り戻した時、その周囲には人の巨大な破壊痕とカジノの残骸のみが残されていた。
血の止血もせず、魏は新たにグラスを取り出し、口にする。


「フフフ……フハハハ……アッハハハハハハハハハ!!!」

勝利した。
契約者が感じることのない、喜びというものが魏を笑いへと誘う。
これほど待ち望み、そして手に入れた未来を、魏は噛み締めた。
アンバーの死の未来すら捻じ伏せた己に屈託のない賞賛を送り続ける。




「フフ……ハハ……―――――」




だが、笑い声は長くは続かなかった。










536 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:05:14 b2BGwzsA0





「な、に……」

「鳴、上くんが……」

「そう、ビックリしたぁ? ハハッ」


エンブリヲ達の前に現れた男は、足立透は簡潔に全てを話した。
鳴上悠との戦闘の末、彼を殺害したことを。
何の偽りもなく、ただあるがままの事実を淡々と述べていく。

「……そうなんだ」
「……」

穂乃果は驚いた顔をしていたが、特段衝撃を受けた様子は見られない。
まあ大した付き合いもなかった為か、悲しむというほどではないのだろうか。
ヒースクリフもその点は同じだが、事態が好転しているとはいえない為、顔色は優れない。

(まさか、こうなるとはね)

「信じない……鳴上くんがアンタなんかに殺されるわけがない!!」

悠の死にもっとも動じたのは未央とエンブリヲだった。
よもや、鳴上悠が殺害されるとは思いもよらない。

「バッカなガキだねぇ! じゃあこれ見てごらんよ」

まるでゴミを放るように、何かが未央の目の前に投げつけられた。
それは丸い玉のようで、白色の物体。
中心にある、灰色の瞳孔が虚ろな視線を未央に送る。

「あ……あ、ぁ……」

「もう分かるよねぇ? それアイツの目玉なんだ」

違うと叫びたかった。だが見れば見るほど、この目は鳴上悠のものだと確信してしまう。
悲しみを帯びながらも、芯を持ち、強い光を宿しながら未央の前に立ち戦った鳴上悠のものだと。
けれども、その目は未央の知っていたモノとは違い何も写さない。
ただ虚しく、鳴上悠だった物体として地べたを転がり、未央の足元へと行き着いた。

「クククッ……ハッハハハハハハ!! 本ッ当にィ……バッカだよねええ、こいつ!!
 俺を救うとか言って、今頃蛆にでもたかられてんじゃないの!」

未央は絶句し、膝から崩れ落ちた。
島村卯月が死んだ。そして自分達に親身になり、卯月を許してくれた鳴上悠が死んだ。
自分が寝ている間に、何も出来ないまま。
仲間が次々と死んでいく。


537 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:05:50 b2BGwzsA0

「理解できないな。
 足立、何故戻ってきたんだ」

淡々とヒースクリフが口を開いた。

「まさか、私達に勝てるとでも思っていたのか?」

数はこちらが3人、足手纏いを含めて考えても到底勝てる数ではない。
決して頭の切れる男は言い難いが、足立がそれを分からないはずがない。
何か勝利への策を練ってきたのか、しかし連戦で挑みに来るほど余裕があるわけでもないだろう。

「舐めてんじゃねえよ……俺がお前らなんかに負ける筈がねえんだよ」

予想に反し返って来たのは、幼稚染みた強がりだった。
これも演技か、何か策を隠す為のカモフラージュなのか。

「……どうせ逃げても、お前らを殺さなきゃならねえんだ。
 なら、今やってるよ。てめえらみたいなクソどもさえいなきゃ、全部上手くいったんだよォ!!」

決して演技の造詣が深いわけでもないが、ヒースクリフから見て足立は演技をしているとは思えない。
言ってしまうのなら、ヤケクソというのが一番相応しい言葉だろうか。

「せっかく俺が人殺しクソ女を問い詰めてやったのに、くだらねえ茶々挟みやがって!」
「違う……しまむーはクソ女なんかじゃない!!」
「ハッ! こりゃ傑作だ。
 美しいねぇ、友を友を想う友情ってのは……」

待っていたとばかりに足立はケラケラと笑う。

「はっきり言って、アイツはクソの中で更にクソな屑女だろ?
 人を殺すだけじゃ飽き足らず、訳分かんない死体人形作ってんだよ?
 俺なんかよりも、ずーと性質が悪いとは思わない? そういやあのクソ女は……あぁ、やっぱ死んだのかな。俺が逃げた後、また雷みたいな音してたし」 

「でも、しまむーは罪を償おうとした。アンタなんかとは違う!」

「プーックスクス! ……出たよ、君達お得意の罪を償うー、君はやり直せるんだーが。おんなじこと言うねぇ、アイツも君も」

「何がおかしいの? 逃げようとしたアンタは罪と向き合うことも出来ないくせに!」

「あのさあ。
 卯月が、本当に罪を償おうと思ってたわけないだろ?」

「え?」

笑っていた足立は急に声を静め、冷めた声でそう言い放つ。
声の下がり方に気を取られた未央はつい、口を閉ざしてしまう。

「えーと……マキって娘の殺害と死体人形と……。
 まあ他にもやってるんだろうけど、僕が知ってるのはこれくらいかな。
 で、本題なんだけど。あの女、一日で考えが行ったり来たりしすぎだと思わない?」

「そんなこと……こんな状況なんだよ!!」

「確かに、そういった止むを得ないって極限下だと矛盾した行動も取るかもってくらいは、分からなくもない。
 実際、そういった理由で犯罪を犯した人も少なくはないさ。
 けど……実はこいつ矛盾してないんだよ」

「矛盾? 何が言いたいの!!」

「だってこいつ、自分が助かる方法だけを取ってるじゃない」

一瞬、言葉の意味が分からなかった。
言語の意味は分かるが、それが一体卯月にどう結びつくのか。
考えが纏まらず、反論しようにも言葉も浮かばない。

「茶番は良い。これ以上奴に話に耳を――「黙ってろ長髪ナルシスト!! ニヤニヤ気色悪いんだよ!」

エンブリヲの声を遮り、大声で叫ぶ足立。
ヒースクリフが口を開く前に勢いに乗ったまま足立は更に続ける。

「本当に罪を償うのなら、そもそも、こんな趣味の悪い創作品、何で黙ってた? 言わなきゃ気付かれないと思ったんだろ」
「違う。しまむーはちゃんと……」
「言わなきゃ、ばれないと思ってたんだろ?」

「足立、君は何を言いたい? これ以上は時間の無駄だ。今回だけは去るのなら追わないが、邪魔をするなら排除する」

「うっぜえな……黙って聞いてろよ、ヒースクリフ。
 お前もナルシストも面倒だから、全部奇麗事で片付けたいだけなんだろ?
 未央ちゃん、だっけ確か? ねえ、こいつら二人はあのクソ女が死んだ時、何て言ってた? え?
 どうせ大方、卯月は罪を償ったって話だろ? でもね、こいつらはそれが一番手っ取り速いから、そう口を揃えただけさ」


538 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:06:13 b2BGwzsA0

黙らせた方がいい。
ヒースクリフとエンブリヲの意見は奇遇にも一致し、二人は揃って武器を抜く。
だが足立の背後からマガツイザナギが現れ、剣を横薙ぎに振り払う。
剣圧が二人を抑えこんだ。

「邪魔すんなって言ってんだろうが……」

狭い室内であったなら小回りで劣るものの、野外であればマガツイザナギも本領を発揮する。
何より、エルフ耳に強制的に学院に送り込まれ、追い詰められていると精神的に余裕のなかった足立と今の足立とでは、臨機応変さも段違いだ。

「ほら見たことか、臭いものには蓋をする。
 君たちは良いよねぇ、それで万事解決するんだから。けど、やられた側は納得しないね。
 まどかとほむらは絶対にあのクソ女を許さないよ」

「それでも……それでもしまむーは―――!!」

「罪を償ったってか? そうだねえ、罪の告白とやらを一部を伏せて話して、それでお仲間を増やしてから数であのクソ女を咎める奴らを叩き潰す。
 実に素晴らしい。こうして島村卯月は罪を償い、幸せになりました。めでたしめでたし……。ただし、二つに結ばれた女の子はずっとそのままで。
 可哀想だねぇ、あの娘達は何も言えないし責められない。
 仮にそうなったとしても、君は怒り狂ってそれを封殺しようとする。そこの穂乃果ちゃんにしたようにね。 
 言えるわけないよね。マキ殺しならまだ言い方を工夫すれば、止むを得ない殺人にという風に印象付けられる。
 けど死体人形は違う。はっきり言って異常者以外のなんでもない。言ったら、君たちを誰一人信頼なんかしないからだ。
 罪を償う気なんて、君達にはハナっからないのさ」

「やめて……もう……」

「卯月はただ楽な方に逃れようとしただけ。
 最初はセリューの馬鹿に従って媚びてポイント稼ぎ、それがいなくなりゃ今度は君に取り入って隠れ蓑に。
 なあ? 全部自分の為さ、その為なら人殺しだろうと死体で図工しようがなんだっていいんだよ!」

「だけど、貴方と戦って……命を張ってまで……しまむーは……」

「そうだね。奇麗に死んだみたいだね。
 なーんにも向き合わずに、まるで英雄みたいに。
 あのクソ女は好きなだけ暴れて童話の蝙蝠みたいに立ち場を変えて、生きてきただけ。
 罪を償うって割にはずるいよね。結局、誰かあの娘を裁けたのかい? 何の責任も負わず、悲劇のヒロインって風に酔いしれて死んでいった。
 そして死んでからも、勝手に満足しきって、美談のように語られる。
 良いねぇ……最高の英雄譚だねえ、未央ちゃん?」

「うるさい……うるさい!!」

未央の限界だった。
様々な感情が込み上げ、それらが起爆剤となって未央は飛び出す。
マスティマを掲げた未央は、常人には捕らえきれないスピードで足立へと振るわれる。

「君も君さ」

翼がマガツイザナギに掴まれる。

「君は、全て自分を肯定するべきだと考えてるんだ。だからすぐに熱くなる。経験、あるんじゃない?
 いやなことがあればすぐに声を荒げて、衝動的になる。
 君は自分の都合さえ通ればそれでいい。人の想いなんかどうでもいい。
 だから、穂乃果ちゃんにも怒れた。卯月の被害者であり、責める権利を持つ彼女さえいなければ万事解決だからね。それを捻じ伏せてしまえばいいのさ」

遠心力から発生した衝撃が未央の体を駆け巡り、鈍い音を立て地べたに叩き付けられる。
翼が折れ、未央の体も打ち身になったのか鈍痛が発生した。

「類は類を呼ぶ。クソはクソを呼んだね
 君たちは自分さえ良ければ、後はどうだっていい。誰かが泣こうが喚こうが、自分達に都合がよければそれをハッピーエンドと呼ぶ。
 ……堪らないねぇ。そんな三文芝居にこっちを巻き込むなよ。どうせ君達の死んだ仲間も全員屑の集まり、これは当然の報いなんじゃないのか?」

「ァ、……ッ……チ、ガ……」

痛みだけではなかった。
張り裂けそうなのは心、自分の全てを否定され打ちひしがれる。
涙が溢れ、開いた口は言葉を上手く発さない。
醜い蛙のように鳴き声のようなうめきが喉を鳴らし、全身が小刻みに痙攣して息もろくに吸えない。


539 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:06:34 b2BGwzsA0

「アイツも同情しちゃうねえ。
 こんなクソの為に、命まで落としたんだから」

翼が折れたシンデレラを足立は愉快に見下し、悦に浸った。

「もういいかしら?」

欠伸をしながら、御坂美琴は退屈そうに声を発する。

「あァ?」
「いや、なんか有益な情報でもくれるかと思って黙ってたけど、つまんない話聞かしてくれたわね」
「君、確かあれだろ? 御坂とかいう男狂い。
 黒くんが色々教えてくれてね、きみには気を付けろって。上条とか言うツンツン頭の為に殺し合いに乗った馬鹿女だろ?
 何人殺したのかな? 今更正義の味方ぶる気かい?」
「それはアンタの方でしょ?」
「は?」
「アンタはここに仇討ちの為に戻ってきたのよ」

壊れたラジオのように声を出し続けた足立が初めて、黙った。

「鳴上って奴を殺したのをアンタは後悔してる……。そして巡り巡って、鳴上と戦うハメに追い込んだここの連中をアンタは逆恨みしたのよ。
 でなきゃ、わざわざ数の不利を承知でここに戻るわけがない」
「……ククク、それ良いね。凄く面白い話だよ。小説家になったらどうかな」
「そんな泣きそうな顔で言われても、説得力がないわよ。大の大人が」

足立の表情から笑顔が消えていく。
そして湧き上がるのは怒りだった。せっかく上機嫌にクソどもを追い詰めているというのに、この女は肝心な場所で邪魔をする。
さっさと殺す。殺意が行動に移るのを見越しながら、御坂も電撃を発し言葉を紡ぐ。

「島村卯月にも嫉妬してる。
 あっちは救われたのに自分は救われなかったから」
「……そろそろ、つまんなくなってきたな。君の話も」
「アンタは助けて欲しかった、あの鳴上って奴に。でも、鳴上は救えなかった。
 だからアンタは、救い救われた二人に嫉妬して、ここで関わった連中全部が恨めしく見えるのよ!!」
「……」

御坂の指が鉄を弾き、音速の数倍の速度で奔る。
マガツイザナギが主を庇う為、剣を立てレールガンを受け止めた。
迸る雷光、撃ち合う二対の金属。
僅かな拮抗の末、マガツイザナギが圧される。後退しながら力任せの反撃を諦め、刀を斜めに傾けた。
刀を滑るようにいなされたレールガンは明後日の方向を走り、地面に亀裂を刻み消滅した。


540 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:07:08 b2BGwzsA0

「くだらねぇ妄想で、知った口聞いてんじゃねえぞ! このクソガキが!!」
「気に入らないのよアンタ、見てて腸が煮え繰り返る!!」

二者の怒気はピークへと達する。
電撃は雷神の如く滾り、禍津はより災厄を深める。
怒声を上げ、足立は高らかに己が仮面の名を呼ぶ







パチン






「――――マガツイザナg―――ごっ!? グエエエエェェェェ!!!」







水流が二人を巻き込み押し流す。
完全に相対者にのみ気を取られていた。

「力の強い能力者は過信しすぎて脇が甘くなりがちです」

足立には聞き覚えのありすぎる声だった。
そもそもが、コイツさえ居なければあんな事にはならなかった。
あんなアホのような作戦を押し付けたコイツさえ居なければ。

「さて、どうやら時間はあまりなさそうだ。貴方方の首輪、揃えて頂くとしましょう」

「て、め……この……クソエルフ耳ィ!!!」

指が鳴らされ、足立の腹部が光った。
凄まじい痛みと共に意識が飛びかける。
傷口を手で抑えるが、出血がそれで止まるわけもない。応急処置にすらならない気休めだが、辛うじて足立は意識を繋ぎとめた。

「中々のご高説お疲れ様でした。
 その舌も疲れたでしょう。休ませて上げますよ、永遠に」

血が足立のスーツを汚した。
この動作は何度も見た光景だ。指が鳴った次の瞬間、足立の上半身と下半身は別れを告げるだろう。


541 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:07:44 b2BGwzsA0

「脇が甘いのは、アンタもよ!!」

刹那、電撃が迸る。
魏は後方へ飛びのき、駆け出す。
御坂の放つ電撃の槍を避けながら、魏は御坂の死角へと回りこんだ。
魏を目で追う御坂の視界が暗転する。そこへ風を切る音と共に御坂の腹部を鋭い痛みが貫いた。
視界を覆ったのは魏の上着、そして御坂の腹部に刺さったのは一本のナイフ。
指の鳴る音共にナイフが光り、腹部が大きく抉れた。

「……ッこ、んな……!」

血を塗ったナイフは人体を抉る爆弾としては中々効果が高い。
とはいえ、場所が急所から外れた上に直接血が触れなければ、殺傷力は落ちてしまう。
しかし、本来能力以外がただの中学生の御坂からすれば、その痛みは怯みに直結し後手に回るのは道理でもある。
御坂へ肉薄しナイフを振りかぶる。直後、己が飛来し魏は身を屈めやり過ごす。
そしてナイフを斜め後ろへと投擲し、足をバネに御坂から飛躍し肘を先端にエンブリヲの鳩尾へと打ち込む。

「グフッ……! きさ―――」

「一度は不覚を取りましたが、タネが知れていれば怖れるほどでもない」

咳き込み膝を付くエンブリヲは瞬間移動で退く。
しかし、転移先に現れたその瞬間、宙を舞ったビリヤードに追尾され、そのまま破裂した。
破片が右腕に突き刺さし、眼球を抉る。エンブリヲは悲鳴をあげながら、爆風に流され地べたを転がっていく。

「ガッ、アアアアアア!!」

「生憎、転移能力の運用にはある程度予測がついてしまうのですよ」

魏は激痛にもがき苦しむエンブリヲを見下ろした。

(ここに来て、よく痛感するわ……。レベル5なんて肩書きが大したことないってこと)

血が滲む腹部を抑えながら、御坂は魏を睨み返す。
身体能力は優れているが、御坂の戦闘の大本はその能力に依存している。
例えばブラッドレイや後藤、DIOのような直接的な戦闘を得手とする者達との戦闘では、御坂は殆ど劣勢だった。
それこそ今の御坂では信じられないが、あの頃はまだいた仲間との連携がなければそのまま殺されていたかもしれない。
魏も彼らに並ばないにしろ、己が肉体を武器として修羅場を潜った猛者だ。
能力だけでは、地力の差で戦況はいかようにもひっくり返される。

「馬鹿が……! こんな真似をして、ブラッドレイにまとめて殺されるだけだぞ!」
「数があれば勝てるとでも? 無理ですよ、貴方方では」

止めを刺す瞬間、ヒースクリフが割り込み盾を振るう。

「どうやらブラッドレイの事も知っているようだ」
「足立の高説同様、全て聞かせていただきましたよ」
「尚更ここでの争いに意味がないと思わないか?」

「いえ、貴方方と組むよりもここで首輪を手に入れ、装備を一新した方がまだマシですよ」

ヒースクリフが暗に手を組もうと示唆しても魏はそれを一喝した。
舌打ちしながら、ヒースクリフは駆け出す。
可能なら魏を引き込みブラッドレイ戦に備えたかったが、そうもいかないらしい。
血が乱れ飛び、ヒースクリフの行き場をなくすように覆い尽くす。
軽やかな足取りでヒースクリフは血を避け、肉薄し盾の先で突きを放った。
足技でいなしながら、盾を避け魏は血を投げ返す。
ヒースクリフは後方へ飛び退きながら退避し、魏も息を整える為に距離を取る。


542 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:08:09 b2BGwzsA0

「……君の望む情報を渡そう」

地面を踏み抜き、魏に迫ったヒースクリフはすれ違い様にそう囁く。
現状、魏を相手にするのは得策ではない。
勝ち負け以前に、ブラッドレイの到着にまで縺れ込む可能性がある。アレと相対しながら魏の相手をするのは避けたい。
かといって手も組めない。
ならば、先ずは魏を誘導しこの場を納める。そして魏より先回りし、黒を回収してから学院を離脱する。
このまま、ブラッドレイ戦に突入するのは好ましくない。それよりも、アカメや新一達と合流してから挑んだ方が勝率が上がるはずだ。

「ほう?」

戦いを続けるフリを続けながら、魏もまたそれに応える。
乗ってきた。ヒースクリフは攻撃を避けながら、器用に接近し魏の影に隠れこの会話を悟られないよう口を動かす。

「君が探している「黒のことですか?」

話が早い。
無駄な前置きも必要ないだろうと本題に入ろうとし。

「―――彼はもう死にましたよ」

「なッ―――」

黒が死んだ。
それはつまり、アンバーに有効な交渉材料が絶たれたということに他ならない。
彼女は首輪を外す代わりに黒の救出を依頼した。仮に失敗しても、外すという約束とともに。
しかし黒が死んだ今、アンバーがそれを守る義理はない。しかも、ヒースクリフは銀との接触にも失敗している。
果たしてアンバーが、そんなヒースクリフに価値を見出すか否か。

「グッ……!」

僅かな驚嘆だった。しかし、刹那の間にヒースクリフは思考の鎖に絡まれる。
戦闘に意識を向けなおした時には既に遅い。水の槍がヒースクリフを穿っていた。
間一髪で盾を割り込ませたが、水流は分裂しヒースクリフを抉っていく。HPゲージが急激に減少し、ヒースクリフの画面が赤く染まる。

(馬鹿な……いつのまに奴は黒と?)

『一度は不覚を取りましたが』

(まさか……!?)

吹き飛ばされながら、ヒースクリフはエンブリヲに視線を向ける。
間違いない。魏の台詞を考慮すれば、一度二人は出会っているのだ。
そこでエンブリヲが黒の場所を明かしたと考えれば、あとは自然と予想が付く。
あの惨状の黒が魏に勝てる訳がない。魏の言った通り、黒は殺されたのだ。

「分かりましたか? 貴方方の協定は脆い、私一人で崩せるほどにね。
 これなら泉君達の方が遥かに手強かった」

指が鳴りヒースクリフの足の関節が光る。
戦いの最中、悟られぬよう魏は血を付着させていたのだろう。


543 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:08:30 b2BGwzsA0

「――ッッ」

「貴方に痛みはないようですからね。
 ですが、関節を壊せば貴方は身動きできない。いくら痛みを感じぬ体であろうと、壊し続ければいずれは死ぬでしょう?
 足が治るか、私が貴方を殺しつくすかが早いか」

魏が同盟を蹴った理由をヒースクリフは遅れて理解した。
ヒースクリフたちには連携がまるでなっていないこと。
エンブリヲは独断で動き、結果としてヒースクリフの首を絞めている。
何より戦闘で彼らは一度として団結したことがない。数の利を生かすでもなく、互いの能力の利点、欠点を補う訳でもなく。ただ個々に戦っていただけだ。
このチームでブラッドレイと戦ったところで、勝ち目などあるはずがない。

「……では、ゲームセットです」

急所に血が投げつけられる。
体の関節は壊れ再生も間に合わない。
現在のHPを考えれば、確実にヒースクリフは死ぬだろう。

「もう、やめて……お願い!」

地面を這い飛び出した未央に血が降りかかる。
顔面、胸、腹を血が赤く染め上げた。

「ほう……足立の言っていたことも、あながち間違いではないのかもしれませんね」

「え?」

辛うじて保たれていた未央の心の亀裂が更に深まっていく。
もうやめろと叫びたい。あんな男の話も聞きたくない。
それでも耳は鮮明に、魏の声を聞き取っていく。

「自らの歪さに気付いているからこそ、目を背けようとする。
 しかし、それにも限界がきた。だから、ここで仲間を守るという大義名分のもと死の(にげよう)うとしている」
「なん、で……いや……」
「楽にしてあげましょう。もう、これで悩む必要など何処にもありませんよ」

指を摺り合わせられる。
あれが音を立てた時、本田未央の人生は幕を降ろす。


544 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:10:18 b2BGwzsA0




『あなたに何がわかるんですか?
 あなたに何ができるんですか?
 あなたはいつもそうです
 いつも自分勝手で、皆がそれに構ってくれると思ってる
 こっちの迷惑なんて気にもしないで』


―――あの時は本当に辛かった。
全部、セリューさんのせいにした私もいけなかったけど。でも、言っていたことはしまむーの本心なんだと思う。


『ありがとうしまむー。私を助けようとしてくれたんだね』
『今まで本当にごめんねしまむー……そして、お帰りなさい』

けどしまむーは戻ってきてくれた。
セリューさんの正義も私達を守る為に受け継がれたのだと思った。
これから、辛いことも多いと思うけど、けどきっと一緒に乗り越えてこれると思った。


『穂乃果ちゃんと未央ちゃんにありがとう、それとごめんなさいって伝えて下さい』


しまむーは死んでしまった。
凄く悲しくて、でもしまむーやセリューさんの正義を途絶えさせちゃいけないと思って、しまむーの守ろうとしたものの為に戦おうとして。
でもそれは結局、間違いだったのかな。
私は……“私達”は―――



「セリュー、さん……しまむー……」



未央の意識は暗闇へと染まった。





「何――」




魏の体は宙を舞っていた。
頬から遅れて伝わる痛みから“蹴られた”のだと推測する。
しかし、誰に? 何処から? 

「きさ……」

答えを得たと同時に全身を地面に打ちつける。
魏は反撃の為、水流を巻き上げた。だが、それよりも遥かに素早くワイヤーが撓る。
首に巻きつき、息苦しさを感じた途端、青の紫電がワイヤーを伝い魏の全身を貫く。

「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

目を見開き、裂けんばかりの開口で魏はその激痛に悶え叫ぶ。
かつて喰らったものと同じ、あの忌々しい電撃を。膨れ上がる屈辱と共に黒を睨み付けた。

「……ば、かな……何故……」

「お前の血を別の無害な液体に変換した。
 白(オレ)の能力は電撃だけじゃない」

「まさ……か……私の血を……だが、間に合うはず」

魏の血が触れたあの瞬間、黒は能力を発動させ別の物質に変えていたのだとしたら。
水流に飲まれたと見せかけて、黒は離脱することも不可能ではないだろう。
否、仮にそうであったとしても、それだけの能力の発動には極度の集中と時間が掛かるはず。

「スピードは俺が上だったな」

あの時と同じようにで黒は仮面の下から言い放ち、魏は力尽きた。


545 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:10:44 b2BGwzsA0








「無事か、ヒースクリフ……それと本田、だったか?」

「ああ、何とかね」

「……はい」

魏を始末し黒は周囲を見渡す。
事態を全て飲み込めはしないが、殺し合いに乗る側である御坂と足立は魏を相手に随分消耗させられたらしい。
もう一度ヒースクリフに視線を移し、足を見る。本来なら身動きが出来ない致命傷になるが、まるでゲームのプログラムのように再生しているところを見ると残り数分もすれば回復しそうだ。
助力は必要ないだろうと判断し、友切包丁を握り御坂達へと向き直る。
ここで二人を仕留めれば、殺し合いに乗った人物は大幅に減る。黒の知る中で殺戮を続ける者で残りは後藤くらいだ。
大きく脱出に繋がることは間違いない。

(クソクソクソ!! ちくしょう! どいつもこいつも!!)

間違いなくここで殺されるのだと足立も直感する。
元々、エンブリヲとヒースクリフは互いを勘ぐっているのだと見て取れた。レスバトルでは遅れを取ったが、実戦では逆に連携のなさが致命的な隙になるかもしれない。
実際信頼してもいない奴に、あの慎重を期しそうなヒースクリフが背中を預けるだろうか。ましてや、あの胡散臭そうなエンブリヲ相手では尚更だ。
だから案外、そこを突けばこの集団を潰せる。その予測は間違いではなかった。
御坂もまさか奴らと組もうとしていたのは予想外だが、むしろ明確に殺し合いに乗った奴が集団に混じっていれば連携はさらに歪になるだろうと好都合だった。

(それが全部、またアイツのせいでよ!!)

エルフ耳が全部邪魔をしなければ、御坂を煽りつつあの二人を潰せたはずだ。
それをアイツは全て美味い所を掻っ攫った挙句、黒もまともに始末できないという体たらくだ。
生きていれば文句の一つでも言いたいが、奴はそのまま勝手におっ死んだ。ざまあみろと叫びたくなるが、まだこの状況なら生きてこの場を荒らしてくれたほうがマシだ。

(どうしてこんなことに……やっぱ学院なんかに戻んなきゃ……あァ、クソクソクソクソクソクソクソクソ!!!!!)

鳴上悠を殺したことで調子に乗っていたのか?
考えれば、学院に戻るのはリスキーだったかもしれない。数時間前、決断した自分を責めてしまうがそうしたところで打開策がある訳でもない。
せめて御坂と組めれば、しかしそれも難しい。あの女は足立に嫌悪感を抱いている。

「ハハッ……黒くんさァ、あんま無理しない方がいいんじゃない?
 だって、君のガールフレンド死んだんだよね? イリヤちゃんも君が殺したのかな。
 大丈夫? 実は君は立ってるのも辛いんだろ。ていうか、戦いたくないんじゃないの本当は?
 それを無理やりさ、戦って何の意味があるんだい。えぇ?」

「俺は黒の死神だ」

足立の言を一喝し黒は肉薄する。

(速、ちょっ……!)

ペルソナを繰り出す間もない。
あと一秒もしないうちに黒の包丁が足立の首を切り裂くだろう。

(嘘だろオイ……こんなの反則だろうが)

体が麻痺したように動かない反面、脳は異様なほど早く回転する。
それが逆に恐怖を駆り立て、足立の心を圧迫した。

(やめろやめろ……どうしてだよ……俺はアイツだって殺したんだ……やめろよオイ……何でも良い! 何とかしろよ!!)


546 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:11:12 b2BGwzsA0




パン



それは非常にあっさりとした乾いた音だった。
黒の動きが驚嘆により止まり、その場にいた全員が意識を奪われた。



「ま、マ……マガツイザナギィィィ!!!!」


たった一人、自らが生き延びることだけを考え続けていたこの男だけを除いて。
足立が雄叫びを上げペルソナの名を叫ぶ。
残った全てを振り絞った電撃は大地を抉り、轟音を木霊させ土煙を巻き起こした。
逃走用の煙幕のつもりだろう。皆が、呆気に取られている内に足立は走り出していた。

「何の……真似だ」

その音は黒にとっては、聞き慣れた人殺しの音だ。
引き金を引くだけで命を奪える。
例え、使い手が実戦経験のないスクールアイドルだとしても、いとも簡単に―――
足立のことすらもう頭の片隅に追いやり、黒は土煙から目を庇いながら、穂乃果へと視線を移した。






547 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:11:39 b2BGwzsA0


島村卯月が死んだ時、私は泣いた。
どうして泣いたのか、自分でもよく分からない。
ただ一つ言えるのは、もう卯月とは二度と話せないこと。そう思った時、不思議と私は泣いた。
悲しい訳じゃない、じゃあ嬉しいの? ううん、それも違う。
分からなかった。どうしてだろう。島村卯月と話せない事実が、何よりも許せなかった。

『しまむー……こっちを向いてよ』

『いつものように笑顔で頑張りますって言ってさ……ねえ、しまむー?』

『頑張るって……罪を償うって、生きるって……何か答えてよ……っ』

『お願いだからしまむー……また、笑ってよぉ………………』

本田未央が泣いてた。
私と違って、凄く悲しんでる。言葉が止まらず、ずっと語りかけてる。
もう二度と口を開かないのに。


それから土を掘って、島村卯月の遺体をそこへ安置して、今度は被せていく。
異臭がきつくて、何度も吐きそうになった。電撃で焼かれた死体はやっぱりこういう風になるんだ。
でも、顔だけは凄く奇麗で生き生きしてた。

「生者の過ちは正さねばならないが、死者の過ちは逸話となる。君が真に故人を想うのなら、悲しみ涙を流すのではなく、彼女らの足跡をしっかりと見た上で自分の道を選ばなければならない」

槙島さんの言ってたことを思い出した。
難しい言葉だと思う。何を言っているのか半分も分からない。
でも、考えなきゃいけないことだけはハッキリと分かった

ことりちゃんは誤ったまま死んでしまった。もうずっと離れ離れで、やり直させることも何も出来ない。
島村卯月は違った。生きているからこそ、正しやり直すことが出来る。

槙島さんはそう言いたかったのかな。
ううん、多分そうじゃない。これをどう取るかは私の勝手だから。
きっと正解はないんだ。

大事なのは、どう受け取って私が進むか選ばなきゃいけないこと。

けれど、それが私にはどうしても分からなかった。

いつもなら悩んで苦しくても辛くても、答えは出た。
殺し合いのなかでも、こんなものに呼ばれる前も私は……。でも、今回だけは分からない。
私はどうすればいいのかな。教えて欲しい、誰か私に。そう思っても横には誰もいなかった。
ことりちゃんがいて、海未ちゃんがいて。μ'sのみんながいてくれたのに。

私の隣にはもうだれもいない。
白井さんもアンジュさんもヒルダさんも狡噛さんも―――

「だからこそ、君自身が考えなければならない」
 
そっとまた槙島さんが囁いた。


548 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:12:00 b2BGwzsA0

ううん、そこに槙島さんはいない。あの人は死んでしまった。
きっと狡噛さんと共に。
だからもう私は一人なんだ。一人で考えなきゃいけないんだ。
諦めが人の足を止めるって槙島さんは言ってた。
私はきっともう諦めてるんだ。だって、もうみんな死んじゃったんだよ。
みんなもここで会った人たちも全員、私は何の為にすすめばいの?

帰りを待ってる家族と絵里ちゃん達の為に? 待っててくれてる……分かってる。でもだからって割り切れないよ。
もうμ'sで踊ることも歌うことも出来ない。ラブライブにだって全員で出場できないんだ。
海未ちゃんの詩も真姫ちゃんの作曲も、ことりちゃんの衣装も着れない。凜ちゃんも花陽ちゃんも私達と一生歌えない。
いずれこういう日が来るのは分かってた。μ'sは私達は永遠なんかじゃないって。けど、こんな別れ方―――。

頭の中がグチャグチャ。
考えても、なんの答えも出ない。私は足を止めてしまってた。

そんな時に聞こえた足立って人の声は、聞き心地がよかった。

誰も言わなかったことを、あの人は正しく言い放ってた。
私の代わりに言ってくれるみたいに。
偶然だろうけど。

島村卯月と本田未央を否定して、セリューの正義を真っ向から否定してるようで。

私が言わなくちゃいけないことを、言いたかったことを全部言ってくれるみたいだった。

気付いてたら笑ってた。
だって、私こんなことずっと考えてたんだって分かったから。
ほんとうに気持ち悪い。
島村卯月の後悔や反省も、償う覚悟も分かったフリをして、私はほんとうはずっとこんな醜い自分から目を逸らしてたんだって。

分かると、意外と楽だった。
すーと受け入れられる。自分でももっと嫌がると思ってたのに、私は私を見ても何も驚かない。

私がしたいことは、結局一つだったんだ。

銃は軽かった。
サリアに向けたときは凄く重くて、泣き出しそうだったのに。

『撃てないのなら止めておきなさい。
 あなたには、人の命は背負えないのよ』

アンジュさんに、いまならハッキリと違うっていえる。
人の命なんて背負える物だって。
引き金の重さは、殺した命の重さなんかじゃない。背負っていたモノの重さだって。
それがなかったら、なんだってできる。

「――――――――」

槙島さんの言葉は最後まで聞き取れなかった。
それから、ただずっとほくそ笑んでる。
天使みたいだって私は思った。
もしかしたら、槙島さんはこのことも全部予想してたのかもしれない。


アンジュさんも白井さんも狡噛さんも海未ちゃんもことりちゃんも、みんなが何か言ってるけど何も聞こえない。
私はごめんって言いながら、引き金を引いた。

本田未央は胸を撃ち抜かれて、凄く苦しそうだった。

黒さんが私を見た。
仮面の下でどんな顔をしてるんだろう。


549 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:12:27 b2BGwzsA0





もし自由というものがなにがしかを意味するのであれば、それは人の聞きたがらないことを言う権利を意味する。


白い悪魔の微笑は女神を勾引かす。





550 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:12:47 b2BGwzsA0



逃げる足立に目もくれず、全ての視線は穂乃果に集中していた。
当然だろう。何の前触れもなく、あっさりと穂乃果は一線を超えたのだから。
誤射と思いたかったが、それは即座に否定される。
穂乃果目には迷いがない。殺すつもりで、未央を撃ってしまったのだ。

「どうしても、許せなかった」

黒の問いにゆっくりと口を開き、穂乃果は虚ろな目で倒れた未央を見下ろした。

「私達は散々貶められてきたのに……どうしてこんな人だけ」

「ほ……のか……ちゃん?」

未央を見ている瞳が、その実写しているのが別のものだと未央はすぐに分かった。
島村卯月を見て、セリュー・ユビキタスをその目は見ているのだと。

「足立って人の言うとおりだよ……。みんな奇麗ごとばかり言って……。こんな奴らただの人殺しなのに!」
「穂乃果……銃を降ろせ。お前が撃っていいものじゃない」

「私、ちゃんと島村卯月と話したかった」

刺激しないよう穏便に穂乃果へと黒は語りかける。
だが、穂乃果は会話を成立させようともしない。

「どうしてあんな顔で死ねるの?
 何にも償ってないし、それなのにみんなはあんな奴のこと……」

「こ……と、りちゃんだって……」

エンブリヲに治癒されながら、未央は必死で声を絞り出す。
また彼女も許せなかった。卯月を侮辱する穂乃果の存在が。
なにより、全ての因縁が始まったのはことりが原因だ。それをどうして、こうも一方的に言われなくてはならないのか。
卯月の射殺未遂と、未央本人への射撃から未央も言ってはならない地雷を踏み抜いた。

「ことりちゃんが、殺し合いに乗った証拠なんて何処にあるの?」

「……?」

「ことりちゃんが襲って来たって言ったのはセリューと卯月だけ。
 二人ともただの人殺しの癖に、そんな人たちのこと信じられない」

誰も言及こそしないが、ことりが殺し合いに乗ったと証言するのはこの二名のみしかいない。
これが例えば狡噛などの参加者ならば信憑性は高いが、セリューと卯月をそれほど信頼できるのか。
否だ。
過激なセリューのことだ。ことりを何らかの拍子で誤殺したのを、気付かないでいた可能性は低くない。
卯月に関してはもはや論外だろう。穂乃果からしてみれば、後藤と同じモンスターでしかない。
何も話さず、勝手に死んだ彼女はもう穂乃果にとって人ではなかった。
憎悪の対象であり、全ての憎しみをぶつける存在に過ぎない。


551 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:13:05 b2BGwzsA0

「死んじゃえばいいんだ。
 セリューも卯月もいないなら、代わりに未央ちゃんのなかの二人を殺せばいい。
 だれも裁いてくれないなら、私が―――」

「よせ、穂乃果!」

止めを刺そうとする穂乃果を黒が飛びかかって、取り押さえる。
二人は取っ組み合いになり、非力な穂乃果が組み負けた。
その次の瞬間、背後の砂鉄に気付き止むなく黒は穂乃果を突き飛ばし、黒も横方に転がる。

「チッ、まとめて殺ろうと思ったのに」

体力を回復させた御坂は舌打ちしながら黒を睨みつける。

「……さよなら」

その横で穂乃果は駆け出していた。
スクールアイドルで鍛えられた脚力は確かに素早いが、追い付けないほどではない。
黒も俊敏に動き、穂乃果を捕らえようと手を伸ばす。しかし、寸前で砂鉄が行く手を塞いだ。

「悪いけどブラッドレイと戦う気がないんなら、同盟は破棄。
 ここでアンタ達を殺すわ」

御坂は言い放つ。

「待て、こんな有様で奴と戦う気か? ここは撤退して―――」
「エンブリヲって言ったけ? 私は大勢死ねばそれで良いのよ。
 だったら、そんなボロボロのアンタらをブラッドレイとぶつけた方が得じゃない?」

ブラッドレイが来るまで粘り、戦闘が始まれば離脱するかまとめて殺す腹積もりだろう。
御坂は余程10人殺しを達成したいらしい。
面倒なルールをつけたものだと、エンブリヲは舌打ちをした。

「ヒースクリフ、エンブリヲ……本田を連れて先に行け」
「ああ、そうさせて貰おう。未央の治療は私にしかできないからね」

悩む素振りも見せず即答し、エンブリヲは身動きの取れないヒースクリフと未央を担ぐ。
傷が痛むが、そんなことは後回しだ。未央に治癒を掛けながら、エンブリヲは黒と御坂の動きに注視する。

「すぐに終わらせてあげる」

御坂の体から紫電が音を立て、撓りだす。
周囲の地面から、竜巻のような巨大な砂鉄の集合体を幾つも巻き上げる。
これら全てが、たった一人の人間に向けられれば跡形もなく消し飛ぶことだろう。

「お前はここで死ね」

友切包丁が怪しく光り、黒の顔を写す。
事態は切羽詰っている。ここで御坂に時間を取られれば、銀の時の様な悲劇を招きかねない。

迫る砂鉄を捌きながら、黒は一気に駆け出す。
近接戦ならば黒が有利だ。御坂の懐にもぐりこみ、友切包丁を振るう。


552 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:13:40 b2BGwzsA0

「……やはり……爪が甘い!」

二者の攻防に介入するかのように、水の槍が放たれる。
御坂は後方に飛び退き、黒も身を逸らし避けた。

「何……?」

「まだ、決着は付いていないということですよ!」

体は痛むが、まだ動く。物質変換とやらの影響か、恐らく極度の集中から負担も大きいのだろう。
その為、電撃は致死量ギリギリを辛うじて超えなかった。
ゆっくりと腕を上げ、それから立ち上がっていく。
痺れを覚えるが、そんなものでは魏は止められない。
執念だった。
目の前の男との決着だけを望み、前のめりに歩み出す。

今度こそ、黒は間違いなく魏の知るあの死神だと確信できる。
これを殺すことで、本当の勝利を得ることが出来るのだ。、

(お前から浴びせられた電撃を忘れたことはない。ああ、だがようやくその屈辱も果たすことができる)

黒が驚嘆に染まるなか、魏は走り出していた。
ブラックマリンが光る。使用するは奥の手、血刀殺。
以前の使い手であるリヴァのものとは違う。魏はその全身の血を刃へと変えていた。
全身を切り裂きながら、血の刃が噴出す。
縦横無尽に埋め尽くされた刃は凄まじさを増し、黒を切り刻む。

(物質変換とやらを使わせる間も与えない)

能力発動は間に合わず、避けれる量を超えた圧倒的物量。
掠っただけでも魏の能力で触れた箇所は消し飛ぶ。
まさしく防御不可回避不可の最初にして最期の奥の手。

これを放った魏がどうなるかは予想に難くない。
血を流しすぎた魏はそのまま失血死するか、よしんば生き残ったとしてこの場に誰かに疲弊したところを殺されるか。
だが、そんなことはどうでもいい。あの男にさえ勝利できるのであれば。

黒に着弾するまであと10cm。
魏は勝利を確信した。
滅びの笑みと共に目を見開き、黒の死神の最期の姿を焼き付けようとする。
だが、血は黒に触れる寸前で止まった。

「なっ―――」

黒の投げた包丁が魏の右腕を切断していたのだ。
魏の身に着けていたブラックマリンが腕と共に宙を舞う。
ブラックマリンの力が消え、血は全て重力に従い、落下していく。
腕の斬れた痛みと全身から抜け、血が魏の命を蝕み、その寿命を貪る。

「グ、ガアアアアアアァァァァ!!!」

折れそうになる膝を意地で抑え込み、倒れるように前のめりへと駆け出す。
先の消えた右腕をがむしゃらに振るう。
血は大粒の砲弾のように飛び散る。
削れていく体とは逆に、その闘志だけは消えず燃え続ける。その瞳だけは憎き怨敵だけを捉え続ける。


553 : 時計仕掛けの女神 ◆ENH3iGRX0Y :2016/08/27(土) 12:14:03 b2BGwzsA0

「―――」

胸に走る鋭い激痛。
まるで墓標のように突き刺さった黒いナイフが全てを物語っていた。
血を避け、ワイヤーを用いて上空を飛翔する黒い影。
それが魏に飛び込み、全てを終わらせたあの光景は忘れようにも忘れられない。

「……クッ、ククク……」

そうだ。分かっていた。
ここで黒を殺せるような男に、アンバーがあんな夢など見せるはずがない。
だとしても、それでも定められた未来を振り払うように手を伸ばし続ける。
届くはずのない太陽へ上り詰めるように。

「クハハハハ……やはり、こうなったか」

堪らず笑みが零れる。
そう、思ったとおりに事が進んでしまったのだから。
こうなることは知っていた。黒を殺そうとすれば、まさしく死神の名の通り自分が死ぬのだろうと。
しかし、それ以外の道を選べなかった。否、それ以外を許せなかったのだ。

「全部、アンバーの掌というわけですか」
「アンバーだと? あいつは―――くっ」

黒の声は最後まで紡がれることはなかった。
背後から音速を以って放たれたコインが迫り、黒は一気に跳躍して避ける。
御坂は舌打ちをしながら、更に鉄塊を放つ。
しかも、その数は優に八を超える。コイン以上の質量を持った物体が砲弾のように飛び交えば、生身の人間では簡単に肉の塊へと変貌するだろう。
一撃目を上体を逸らして避け、二撃目を屈んで避けながら、次撃を予測して回避体勢に移りながらナイフを投げる。
だが御坂の周囲の磁力がナイフを誘導し、あらぬ方向へと飛んでいく。
向かいくる三撃目を避け―――

「目に頼りすぎよ!」

鉄塊が過ぎた、その影に砂鉄の剣が黒目掛け迸る。
あえて巨大な鉄塊を使ったのは本命を隠す為、回避体勢に移るが既に遅い。

「ッ!」

御坂の肩が抉れる。
咄嗟の激痛に砂鉄の操作を手放してしまう。
指を鳴らす、不快な音。
血が触れた場所を消し飛ばす能力。
生きているのが不思議なほどの出血のなか、魏は御坂に視線を向けていた。

「とんだ茶番だ……私が、こうする……ことまで、彼女は……見越していた……のでしょうね……」

「何?」

「こういうこと、ですよ」

血まみれの体で無理やり、歩を進めながら魏は御坂の前に立つ。
肩を抑えながら、御坂も魏を