■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■

第二次二次キャラ聖杯戦争

1 : 名無しさん :2014/07/30(水) 23:22:31 FibH5T360

ここは様々な作品のキャラクターをマスター及びサーヴァントとして聖杯戦争に参加させるリレー小説企画です。
キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。

まとめwiki
ttp://www63.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/pages/1.html

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16771/

参加者名簿

No.01:言峰綺礼@Fate/zero&セイバー:オルステッド@LIVE A LIVE
No.02:真玉橋孝一@健全ロボ ダイミダラー&セイバー:神裂火織@とある魔術の禁書目録
No.03:聖白蓮@東方Project&セイバー:勇者ロト@DRAGON QUESTⅢ〜そして伝説へ〜
No.04:シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア&アーチャー:雷@艦これ〜艦隊これくしょん
No.05:東風谷早苗@東方Project&アーチャー:アシタカ@もののけ姫
No.06:シオン・エルトナム・アトラシア@MELTY BLOOD&アーチャー:ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
No.07:ジョンス・リー@エアマスター&アーチャー:アーカード@HELLSING
No.08:衛宮切嗣@Fate/zero&アーチャー:エミヤシロウ@Fate/stay night
No.09:アレクサンド・アンデルセン@HELLSING&ランサー:ヴラド三世@Fate/apocrypha
No.10:岸波白野@Fate/extra CCC&ランサー:エリザベート・バートリー@Fate/extra CCC
No.11:遠坂凛@Fate/zero&ランサー:クー・フーリン@Fate/stay night
No.12:ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人&ランサー:セルベリア・ブレス@戦場のヴァルキュリア
No.13:寒河江春紀@悪魔のリドル&ランサー:佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ
No.14:ホシノ・ルリ@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-&ライダー:キリコ・キュービィー@装甲騎兵ボトムズ
No.15:本多・正純@境界線上のホライゾン&ライダー:少佐@HELLSING
No.16:狭間偉出夫@真・女神転生if...&ライダー:鏡子@戦闘破壊学園ダンゲロス
No.17:暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ&キャスター:暁美ほむら(叛逆の物語)@漫画版魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語-
No.18:間桐桜@Fate/stay night&キャスター:シアン・シンジョーネ@パワプロクンポケット12
No.19:ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/zero&キャスター:ヴォルデモート@ハリーポッターシリーズ
No.20:足立透@ペルソナ4&キャスター:大魔王バーン@ダイの大冒険
No.21:野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん&アサシン:ニンジャスレイヤー@ニンジャスレイヤー
No.22:宮内れんげ@のんのんびより&アサシン:ベルク・カッツェ@ガッチャマンクラウズ
No.23:ジナコ・カリギリ@Fate/extra CCC&アサシン:ゴルゴ13@ゴルゴ13
No.24:電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ&アサシン:甲賀弦之介@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
No.25:武智乙哉@悪魔のリドル&アサシン:吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険
No.26:美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ&バーサーカー:黒崎一護@BLEACH
No.27:ウェイバー・ベルベット@Fate/zero&バーサーカー:デッドプール@X-MEN
No.28:テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-&バーサーカー:ガッツ@ベルセルク


2 : 名無しさん :2014/07/30(水) 23:23:23 FibH5T360
ゲームルール

舞台はムーンセル・オートマトン@Fate/EXTRAに寄り添う『方舟』内部に再現された空間です。
方舟はムーンセルを外部演算装置とすることで稼働しているため、基本的なルールは月の聖杯戦争に準じます。
『方舟』が外部においてどういう風に観測されたかは世界ごとに変ります。
ある世界では聖遺物として観測・解釈されていますし、ある世界ではムーンセルの子機のような扱いです。
内部がある種仮想空間になっていることは共通しています。
参加者は自発的に参加する場合もあれば、勝手に呼ばれる場合もあります。
方舟の遺物『ゴフェルの木片』を入手していることが条件ですが、入手の方法、またその他の条件は問いません。
キャラクターの所持品が実は木片が加工されたものだったとして設定しても構いません。書き手の想像力の可能性に委ねます。
またある世界では木片はデジタルデータで、しかも名前が違っているかもしれません。
その為、何が『ゴフェルの木片』であったかを登場話で明示する必要はないでしょう。
ある解釈では舞台は方舟ですが、マスターとサーヴァントが男女のつがいとなる組み合わせである必要はありません。
性別を問わず、生き残りが二人になった時点で聖杯戦争は終了します。
マスターの所持品や武器・礼装の持ち込みは可能です。
全てのマスターは最初記憶を封印されており、その違和感に気付き記憶を取り戻すまでが予選になります。(Fate/EXTRA準拠)
記憶を取り戻すと同時に令呪を入手、サーヴァントの契約に移ります。
取り戻す記憶には聖杯戦争のルール等も含まれます。
用意された土地は様々な作品世界の混成です。少なくとも型月世界観の土地(久遠寺邸@魔法使いの夜 等)は含まれています。
またNPC(モブキャラ)が存在しており日常生活を送っています。
具体的には、現代の市街を中心として参加マスターの原作の土地が混ざり合った状態となります。
令呪に関して、三画全て失ったとしてもサーヴァントとの契約が維持できる場合は消去されることもありません。
逆にサーヴァントとの契約を失った時点で消去がはじまります。
監督役のルーラーは原作通り各サーヴァントへ命令可能な令呪を持っており、二回ずつ使用することができます。
基本的に彼らは中立ですが「無差別に一般NPCを大量に襲う」「ルーラー自身を狙う」等を行った主従にはペナルティを課します。


書き手ルール

時間の区切りは4時間単位。

■時間表記
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜(20〜24)

開幕後の一話目は未明(0〜4時)〜早朝(4〜8時)の好きな時間帯で各書き手が決める。

所持金はNPC時代の金銭引き継ぎ、通貨単位はpt、価値は日本円と同等。
一話目書き手が状態表におおまかな感じで書く(いっぱい、とか極貧など)

一日一回昼12時にルーラーから各マスターへ残人数を告知する。
検索施設はMAP内に三か所、情報の絞り込みができればパラメータとスキル、生前の伝承が分かる(宝具は分からない)

予約についてはしたらばの予約スレにて行う。
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16771/1406639857/

●予約期限は一週間です。ただし五話以上書いている方は予約期限を三日間延長できます。

●予約ができるようになるタイミングは以下の通りです。
・投下完了宣言から24時間後以降の翌日0時に予約解禁
(7/27 03:00に投下完了→24時間後の7/28 03:00の翌0時→7/29 0:00予約解禁)

・予約破棄宣言後の再予約は24時間後以降の翌日0時に予約解禁
(7/27 20:00に予約破棄→24時間後の7/28 20:00の翌0時→7/29 0:00に予約解禁)

・予約破棄宣言の無い予約期限切れの場合、24時間後以降の翌日0時に予約解禁
(7/27 23:00に予約→1週間後の8/3 23:00に締切時間、連絡なし→24時間後の8/4 23:00の翌0時→8/5 0:00に予約解禁)

開幕後初回の予約のみ、開始地点の重複を避けるため、初期位置の場所も予約に含めてください。


3 : 名無しさん :2014/07/30(水) 23:23:48 FibH5T360
状態票テンプレ

【X-0/場所名/○日目 時間帯】

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]


4 : 名無しさん :2014/07/31(木) 20:47:34 PyV8Ta9E0
本編開始も近づいてまいりましたね。
テスト板をご覧になってない方への配慮も兼ね、OP前後編を転載いたします。


5 : 【OP前編】聖杯戦争序幕 〜 宙船、来たる 〜 ◇eBE8HIR9fs :2014/07/31(木) 20:50:11 PyV8Ta9E0



 ――地球には、もうひとつの月があるという。



 複数の月が登場する神話を持つ文明は多い。
 古代中国の射日神話と同様に、英雄が多すぎる月を射落とす伝承は各地の文化に散見される。
 また伝承の研究ではなく科学として、実際に19世紀末には第二の月の実証を研究する学者も現れた。
 例えばフランスの天文学者プチはクラインヒェンなる衛星の存在を主張し、同様の説を掲げた別の研究者も存在する。
 サイエンスフィクションの祖と賞されるジュール=ヴェルヌもかの代表作「月世界旅行」にて同様の天体を登場させている。
 しかし、その実証への道程は果てしなく遠く、そして限りなく不可能に近かった。
 あるものは計算式に誤りを見つけられ、またあるものは理論に見合う結果を見出だせなかった。
 また観測技術の向上により、光学的に捕捉できない衛星という最後の逃げ道も消失した。
 ゆえに地球の衛星は今なお、月ただひとつとされている。
 そういうこととされている。


 ただ、それは物理世界の側面から見た話にすぎない。


 遥か以前から魔術師達やそのルーツのひとつたる占星術師達は、地球の衛星軌道を周回する存在を感知していた。
 地球を中心として遠大な楕円軌道を描く謎の物体が数十年おきに接近するという事実は、ごく限られた人間しか知らない。
 しかし、それはその物体の持つ秘密の一端に過ぎない。真実を知る者は、更に限られる。


 曰く、自然物ではなく被造物。あれは、『星』ではなく、『船』だ――と。


 何らかの魔力的な撹乱により今まであらゆる物質世界の学者に捕捉されなかったその『船』の謎を、魔術師達は追い求めた。
 失われた神代の『古代遺物(アーティファクト)』。星の海を巡り地球を廻る『宙船(そらふね)』。
 その存在を知る者はそれが地球に接近するたびにあらゆる手段を用いてその謎へと近付くべく挑み、
 やがては親が子に魔術刻印を受け継がせるがごとく、その蓄積された研究成果を知識として次の世代へと託した。

 そして永い時を経て観測値(データ)は集約され、それが真実であれば魔術世界を揺るがすであろう結論が導き出された。
 あまりに壮大過ぎる結論を、多くの者は幼稚で荒唐無稽な与太話(パルプフィクション)だと一笑に付した。
 しかし全ての魔術師がその『船』を追うことを諦めたわけではない。
 かつて人間が月を目指したように、第二の月たる『船』を目指す者は尽きはしなかった。


 そして、現代。


 『宙船』は遙かなる星海の旅を終えて地球圏に帰還し、じきに最接近の時を迎えようとしている――!





   ▼  ▼  ▼


6 : 【OP前編】聖杯戦争序幕 〜 宙船、来たる 〜 ◇eBE8HIR9fs :2014/07/31(木) 20:51:26 PyV8Ta9E0


「……何故このような話をしているのか分からない、という顔だな、綺礼」
「は……」


 当惑を見透かされた言峰綺礼は、卓を挟んで向かい合う父、言峰璃正に対して曖昧な返事を返した。
 綺礼は曖昧な物言いをする類いの人間ではないが、父はそれ以上に意味のない冗談を好む人間ではない。
 その父がこうして改まって話をする以上は、この突拍子もない話にも何らかの理由があるに違いない。
 そう思ったからこそ綺礼はそれ以上の言葉を返さず、思案した。

 冬木の第四次聖杯戦争に備え、綺礼が父の歳の離れた友人、遠坂時臣に師事してもうすぐ三年になる。

 本来は異端者を討滅することを生業とする聖堂教会の執行者である綺礼がこうして魔術を学んでいるのは、偏に父と師との盟約にある。
 万能の願望機たる冬木の聖杯を、もっとも相応しき主たる遠坂時臣の元にもたらせ。その為に陰から時臣の戦いを支えよ。
 それが来るべき聖杯戦争における言峰綺礼の役目であり、それは自分自身も納得済みである。

 それがどうして、このような天文ショーの紛い物の話を聞かされているのだろうか。
 もうじき遠坂・間桐・アインツベルンの御三家だけでなく、外来のマスター達も戦いの準備を整えてくるだろう。
 専念すべきは聖杯戦争の備えであって、このような話はそれこそ占星術師にでも任せるべきではないか。
 綺礼はまずそう考え、次にこの状況であえて「自分に話さねばならない理由」へと思いを巡らせた。


「……父上。それは、魔術協会だけでなく聖堂教会にとって見過ごせぬものである……と、そういうことでしょうか」
「聡いな、綺礼よ。だがそれは真実であっても全てではない。お前の今の立場にも関係のある話だ」
「私の、今の、立場ですか」


 噛み砕くように繰り返して口にする。
 聖堂教会の代行者、という意味ではあるまい。それでは教会の問題であることに変わりはない。
 そうでないならば。魔術師としての……あるいは聖杯戦争のマスターとしての?
 無意識に口元に手をやった綺礼を見、璃正は先回りするかのごとく口を開いた。


「――綺礼よ。聞いたことがあるかね、月こそはこの世界最古の古代遺物(アーティファクト)であると」


 今度ばかりは綺礼は本当に父の言葉の意味を測りかねた。
 しかし父の目は真剣そのものであり、その視線には理性の光が確かに灯っている。
 これまでの話と同様に冗談を言ったわけではなく、ましてや耄碌して妄言を吐いたとは思えない。
 綺礼は努めて冷静に、否定の言葉を口にした。

「――いいえ。父上は、あの月が人工物であると?」
「人の手によるものではない。神の御業だよ。月はあらゆる時の流れの中で、この地球を観測し続けているという。
 これはこの老骨の与太話ではない。知る者は限られているが、魔術協会では既に封印指定の取り決めが成されたと聞く」

 封印指定といえば、魔術協会が触れ得ざる遺産足りうると指定した魔術を術者ごと永久保存する措置のことだ。
 だが魔術師ではなく遺物が封印されるなどという事態は耳にしたことがない。


7 : 【OP前編】聖杯戦争序幕 〜 宙船、来たる 〜 ◇eBE8HIR9fs :2014/07/31(木) 20:52:15 PyV8Ta9E0

「封印の必要があるほどまでに魔術師が手を出すには大それた遺物、ということですか」
「それどころではない。月……『ムーンセル』はあらゆる事象を演算し、記録し、その結果として現実すら改変しうるという。
 この世の理を根本から打ち崩しかねん、人の子には過ぎたるもの……真なる万能の願望機よ」
「万能の願望機……それではまるで、」


 聖杯だ。


 綺礼はそう言いかけ、そこでようやく父が謎の天体の話を持ちかけた理由に思い当たった。
 月が願望機であるというという話は俄には信じがたいものではあるが、それが事実だという前提に立てば。
 聖杯戦争のマスターである綺礼にとって、天体は聖杯と同じかそれ以上の重みを持つのだとすれば。


「このたび地球に接近するというその『船』が『月の聖杯』と関係があるものだと、父上や教会の者達はお考えなのですね?」

 綺礼の言葉に年老いた父は僅かに驚きの表情を見せ、それから皺の刻まれた顔に満足気な笑みを浮かべた。

「その通りだ。月を手にすることは叶わなくとも、あれを手にすることは出来る、とな」
「少なくとも、それが願望機に準ずるものであると仰るように聞こえますが」
「正確には、月へと干渉しうる装置といったところか。願望機そのものではなく、月の願望機への道しるべよ」


 装置、という言葉に引っかかりを覚える。まるで『船』が何かの働きを為すための物であるかのような。
 その思考をそのまま父が引き継ぐ。息子の虚無こそ知らぬ父だが、こういう阿吽の呼吸は親子である。


「あれの本質は演算装置なのだ。もっとも、月――『ムーンセル』同様、本当に人の手で作られたとは限らんがな」
「既に観測がなされているのですか」
「前回の接近時に、魔術師達が血眼で調査した結果だ。ムーンセルの間に魔術的な交信が行われているという事実も明らかになっている」

 魔術師達も無駄に手をこまねいていたわけではないらしい。綺礼は他人事のように感心した。

「そしてその理由も既に推測が付いている。『船』はそれ自体が演算装置であると同時に、いわば月の子機とも言うべき存在なのだ」
「と、いうと」
「あの『船』はそれの存在目的を果たすため、月に蓄積された観測結果と演算能力を使用しておるのだ――ときに綺礼、あれは何で出来ていると思う?」

 脈絡のない唐突な質問に、綺礼は思案する。

「素材ですか。被造物であれ天体ならば、鉱物と考えるのが自然では」

 無難な回答を返した綺礼に、父は自分自身も信じ切れていないかのような表情で応えた。
 まるで自分のこれから告げる真実が綺礼の想像を凌駕していることを象徴するように。 


「――木材だよ。あれはこの地上に存在しない種類の木で出来ているという。
 この事実を知る魔術師達は、最終的にこの結論へと辿り着いた――すなわち、あれこそが『ゴフェルの木』だと」
「――『ゴフェルの木』?」


8 : 【OP前編】聖杯戦争序幕 〜 宙船、来たる 〜 ◇eBE8HIR9fs :2014/07/31(木) 20:52:51 PyV8Ta9E0

 初め、綺礼は聞き間違いかと思った。
 この星の歴史において、『ゴフェルの木』で作られた構造物はただのひとつしかない。
 父も教会の神父である以上それを知らないはずはなく――そして、知っていながら訂正しようとしない。


「うむ。魔術的なノイズにより正確な大きさは測定出来ずにいるが、その長さは三百、幅は五十、高さは三十の比を持つ箱形であると判明している。
 いいかね、三百、五十、三十の箱形だ。それも未知の木材で覆われた、な……聡明なお前ならここまで言えば分かるだろう、綺礼」


 それは聖書の一節。幾度となく目を通した数字。
 三百キュビト、五十キュビト、三十キュビト。
 滅多に動揺を見せない綺礼の頬を、一筋の汗が伝った。


「――――馬鹿な」


 続いて声に出せたのはそれだけだった。
 しかし父の視線が、表情が、これが冒涜的な類いの冗句ではないと語っていた。
 呆然とする綺礼の意識へと沁み入るように、璃正の沈着かつ毅然とした声が響く。


「聖堂教会は判断した。このたび地球圏に帰還した被造物が、聖遺物『ノアの方舟』である可能性は否定できんと。
 聖遺物回収は我ら『第八秘蹟会』の責務。言峰綺礼よ、汝の任はこの『方舟』の確保にある」


 ――軌道上に存在する古代遺物(アーティファクト)は旧約聖書に謳われる『方舟』であり、月の願望機の鍵であると、そう言うのか。



 綺礼は息を吸って、吐いた。


「――確保。方策は、あるのですか」


 荒唐無稽の極みだ。聖者ノアの聖遺物が、今も星の海を航海しているなどと。
 しかし、教会にとってそれの真偽がどちらであれ確保の必要性に変わりはないのだろう。
 後世の遺物であろうと放置する理由にはならないし、それが願望機としての性質を備えているのならば尚更だ。
 綺礼は既に任務遂行の手段へと思考を巡らせていた。それを見、璃正は頷く。


「ある。『方舟』の存在意義とは種の記録の保存……かつて『方舟』に乗った生命のうち、人間だけが一対でなかったのは知っているだろう。
 故に『方舟』は地球に接近するたびにムーンセルから記録を受け取り、同時に地上の人間を内部の世界に召喚しておるようだ」


 伝承によれば、方舟に乗り込んだのはノアとその妻、三人の息子とそれぞれの妻。
 人間だけが一対の存在ではなかったために、方舟は使命を遂行するために今も自動的に稼働しているということか。
 ならば男女のつがいが必要なのか、という綺礼の問いに璃正は首を振った。


9 : 【OP前編】聖杯戦争序幕 〜 宙船、来たる 〜 ◇eBE8HIR9fs :2014/07/31(木) 20:53:36 PyV8Ta9E0

「そうではない。男女のつがいではなく、いわば過去と現在、あるいは未来。時代、更には世界を繋ぐ一対のつがいだ。
 地上の人間と月に保存された英霊の記憶とを組み合わせ、生き残りを賭けて戦わせ、真に記録すべき一対を選別する――『方舟』はその為にある」


 そうして情報として残すべき一対の魂の選別を、方舟は地球圏に帰還するたびに行っているという。
 綺礼は眩暈を覚えた。冬木の御三家達はあらかじめこの事実を知っていたのだろうか。
 偶然一致したのか御三家の最初の誰かがこの事実を参考にしたのか。どちらにせよ、


「……まるで聖杯戦争ですね」
「そう、聖杯戦争だ。これは紛れもなく、万能の願望機に連なる聖杯戦争に違いないのだ、綺礼よ。
 そして最後まで勝ち残ることが出来たならば、方舟から願望機たるムーンセルへの道が示されると推測される。
 お前が為すべきは、方舟のマスターとしてこの聖杯戦争に参戦し、万能の願いをもって方舟を手にすることだ」


 綺礼は深呼吸した。
 未だに信じがたい話ではある。しかし、そこまで分かれば十分だった。
 冬木の聖杯戦争の前哨戦にしてはあまりにも壮大ではあるが、与えられた役目ならば果たすだけのこと。
 そして元より、言峰綺礼に意志など無いのだ。


「――了解いたしました。この言峰綺礼、父上と聖堂教会に、必ずや勝利を」


 綺礼の答えに、老いた父は改めて満足した顔で頷いた。



   ▼  ▼  ▼



 ――ひと月の後。


 綺礼は万全の準備を整え、ひとり夜空を見上げていた。


 師である時臣には、この試練のことはせいぜい数日ほど師の元を離れるとしか話していない。
 時臣は純粋に、この離脱を冬木の聖杯戦争に備えるための戦支度として受け止めているだろう。
 無論綺礼も冬木での戦争を放棄したわけではない以上、師の認識は決して間違いというわけではない。
 しかしこれはあくまで第八秘蹟会の代行者としての任務であり、時臣には無関係と判断しただけのことだ。

 表向き魔術協会とは敵対関係にある聖堂教会にとって、信頼できる魔術師の戦力は極めて少ない。
 ゆえに綺礼に白羽の矢が立ったのはある意味では自然だが、それ以外に教会よりの傭兵魔術師が参加する可能性があると父は言った。
 教会も一枚岩ではない。いくら方舟が『ノアの聖遺物』であるという確証はないとはいえ、動く者は動く。
 また方舟そのものに価値を見出す者が、教会同様に傭兵を雇う可能性もある。あるいはカネ目当ての者も。

 加えて単純に、己が願いを叶えるために参戦する魔術師もいるだろう。冬木における外来のマスターのように。
 いくら緘口令のようなものが敷かれているとは言っても、そもそも璃正の情報の出処は魔術協会の側である。
 魔術師の中にはとっくの昔にその情報を入手している者がいると見て間違いないだろう。
 すでに綺礼の周りは既に敵だらけと言ってよかった。


10 : 【OP前編】聖杯戦争序幕 〜 宙船、来たる 〜 ◇eBE8HIR9fs :2014/07/31(木) 20:54:13 PyV8Ta9E0


 今、綺礼の掌の中には、小さな古ぼけた木片が握られている。


 一見何の変哲もない木片だが、これが方舟の構成材と同じ『ゴフェルの木片』であると聞かされている。
 この地上には存在しない樹木では無かったのかと問うた綺礼に、父は「最初に脱皮した蛇の抜け殻」よりは容易に手に入ると答えた。
 要は、あるところにはある、ということだ。もしも世界中に散逸しているのだとしたら、それは厄介だが。
 偶然ひょんなことからこの木片を手に入れてしまう人間がいなければいいと、そう祈る他ない。


 方舟の媒介たるこの『ゴフェルの木片』に願いを通わせる。聖杯戦争への鍵は、ただそれだけだ。
 その願いを感知した方舟が、その内部……『アーク・セル』とでも呼ぶべき演算世界へと魔術師を召喚する。
 そして、それぞれに相応しい使い魔たる英霊……『サーヴァント』を、月の記憶を介して降臨させるのだ。

 過去アーク・セルに召喚されたとされる魔術師は全て同じ日同じ時間に姿を消したわけではないという。
 方舟の力が時空を越えるものであるとするならばそれこそ魔法の域だが、それを証明するのは困難だろう。



 綺礼は木片を握りしめた。 


 言峰綺礼には意志がない。
 正確には、熱意が、渇望が、目的意識というものがない。
 今まで幾多の巡礼でこの身を焼き、幾多の異端を屠り続けて、しかし何一つ得ることなくここまで来た。
 冬木の聖杯戦争へと至る前に転がり込んできたこの試練は、綺礼に答えを与えてくれるのだろうか。
 そうであればいいと思う。その思いは、願いと呼ぶにはあまりに熱を持たないものではあったが。

 夜空を見上げる。この遥か彼方に、目指す神代の遺物がある。
 心中で幾度となく繰り返した呪文を唱える。この聖杯戦争には必要のないものとは分かっていても、だ。


(――告げる。汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ)

 手中の木片へと思念を集中させる。空っぽの願いを使命で上書きした瞬間、木片が熱を持つのを感じた。

(誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者)

 大気に満ちる魔力(マナ)が、綺礼を中心として渦巻く。方舟の秘蹟が、今顕現しようとしていた。

(汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!)

 綺礼は遥か星空に浮かぶであろう方舟を睨み、そしてこの地上から忽然と姿を消した。




 ――この日。『方舟』は、地球圏へと真の意味で帰還した。


11 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 20:55:36 PyV8Ta9E0

……月が綺麗な夜だった。

彼がその坂を登るのは何度目だっただろうか。
僅かに息荒くしながら彼はたった一人で歩き続ける。
その途中風が吹く。道沿いに生い茂る木々がざわざわと生き物のように揺れた。
こんなにも涼しくて気持ちの良い夜だというのに、彼の身体はじっとりと汗ばんでいる。

この山のせいかな。
彼は学生服の襟元を正しながら思った。
その視線の先には延々と続く坂道だ。艶のないアスファルトの道が月に照らされぬっぺりと浮かび上がっている。
ゆるやなに蛇行しているため坂の上に何があるかまでは見えなかった。

こんなにも長い坂道では帰るのも一苦労だ。
この山の上には幽霊が出ると噂の屋敷があるが、幽霊だってこんな山の上には住みたくないに違いない。
と、そこまで考えたとき、あんな坂は山とは認めない、といっていたクラスメイトを彼は思い出した。純朴だが、変な奴だった。

実際、山というのには少し無理があった。それなりに長く、それなりに急な坂であるが、それでも一時間もあれば登り切れてしまう。
だから疲れはするが、別に登れない訳ではない。特に今日は月が綺麗だ。

彼は空を見上げた。都会の雑踏から逃れくっきりとその存在を示す星々の中心、漆黒の夜を背景に真ん丸と光る大きな月がある。
あれはきっと満月だろう。彼は理由もなく決めつけた。
あれがあるから今日は楽だ。実際、深夜にこの坂を上るのに道沿いに備えた電灯では少々心もとない。足下が見えるだけ楽なのだろう。

空を見上げる彼の頬をと不意に風が撫でた。熱がすう、と引いていくのが分かった。
寒いとまではいかなかったが、汗ばんだ体に冷えた風は少し堪えた。

早く帰った方がいい。
冬はまだ遠いとはいえ、こんな夜<じかん>なのだから。
そう思い彼が足を進めようとしたとき、

「……あら」

――美しく響く銀色の声を聞いた。

そこには一人の少女がいた。
金色に光る瞳は夜の中浮かび上がる。その肌はぞっとするほど白い。
そして、おかしなくらい美しい月に照らされ、その銀色の髪は艶やかにきらめいた。

声は出なかった。
その美しさに見蕩れたか、少女の持つ妖しげな雰囲気に気圧されたか、彼は呆けたように彼女を見ていた。
その美しさに見蕩れたか、少女の持つ妖しげな雰囲気に気圧されたか、彼は呆けたように彼女を見ていた。

「こんなところで“マスター”に出会うなんて、少し意外でした」

が、対する少女は素っ気ない。自分との邂逅を、意外と言いつつも何でもないことのように語った。
吹きつける風に真っ黒な服が音を立ててたなびく。そこでようやく彼は少女が法衣服を纏っていることに気付いた。
シスターなのだろうか。そんな、あまりにもぼんやりとした印象を、彼は抱いた。

ひゅうう、と風が吹いた。
少女の髪が舞った。銀色が月光に溶け込むようだった。


12 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 20:56:23 PyV8Ta9E0

吹きつける風に彼は身体を震わせる。
……今度ははっきりと寒気を覚えた。

早く、早く帰らなくてはならない。

「…………」

だが彼は足は止まっていた。歩くどころか、指先一つ動かせない。
だって、少女が見ているから。
金色の瞳はまっすぐに自分を射ぬいている。その無機質な視線は、あたかも自分の価値<バリュー>を測ろうとしているかのよう。
見竦められた彼は不思議な息苦しさを覚えた。ここにあるだけで、何か罪を覚えているかのような、奇妙な居心地の悪さがそこにはあった。
少女がシスター服を着ているから、なのだろうか。

彼は手に持った学生鞄を手放さないようぐっと手を握りしめた。
教科書やら新聞部の資料やらの、ずっしりとした重みが少しだけ心地よかった。

「いえ。どうやら貴方は“まだ”のようですね」

……しばらくして、少女は興味を失ったように彼から視線を外した。
そしてふぅ、と息を吐く。そこには僅かに失望の響きがあった。

「“マスター”でないのなら、私に会ったところで何も意味がありません。
 少し早かったですね、私に会うのが」

少女はそう言ったきり、彼の方を見なかった。
その言葉の意味は分からない。
自分が何か失敗したのだろうか。

……そう思いはしたが、それ以上に視線から逃れられた安堵が大きかった。
彼はほっと胸をなでおろす。降りかかっていた圧迫感から逃れられたようだった。

彼は迷いつつも、再び歩き始めた。
何かを探すように坂を見つめる少女を無視して、彼は帰ろうとする。
もうこれ以上、彼女の前にはいたくなかった。

「ああ、それと一応」

すれ違いざま、少女がぽつりと漏らした。

「名乗っておきます。今の貴方には無用の情報でしょうが、近いうちに必要になると思われますので」


彼はもう少女を見ていない。恐らく少女も彼を見ていないだろう。
淡々と仕事をこなす、事務的な素っ気なさで彼女は言った。

“――――――カレン”

機械を思わせる冷淡な口調でありながら、しかしその名は、人を思いやる上質な音楽のように胸に響いた。

「カレン・オルテンシア。私の名前です」


13 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 20:56:54 PyV8Ta9E0

そう彼女は名乗り、そして去って行った。
夜道はくれぐれもお気をつけを、と最後に付け加えて。

そうして彼は歩き続ける。
凍てつくよう月の光を受け、彼は一人歩いていた。

結局彼は、少女に対し一言も喋ることができなかった。







そうして坂を上り切ると、そこには大きな門があった。
例の幽霊屋敷のものだろう。その門は、来訪者を拒むようにそびえ立っている。
錠前はついていないようだった。入ることだけなら、誰でもできるだろう。

本当に人が住んでいるのだろうか。
門の向こうに続く薄暗い林道を眺めながら、彼は少し疑問に思った。

幽霊だって住みたくないだろう、と先程は思ったが、
それこそ幽霊でもなければこんなところ、住めないのではないだろうか。

彼は何となしに門に触れた。ぎぃと錆びついた鉄の音がする。
硬く、冷たく、来る者を拒絶するような門。しかしこの門はいま開いている。
迷い込む者を口を開けて待っているのだろう。人をおかしな世界にぱっくりと呑み込むことを、この門は待っている。
この先にいけば、きっと――

風が吹き続けていた。
夜の林はいまや歌っている。あちらでも、こちらでも、揺れ動く木々が奇妙な音を立てていた。
彼は森全体がバケモノになった気がした。
バケモノはこうささやいている。

カエレ
カエレ
カエレ

と。

「帰ら、なくちゃ」

ようやく彼は口を開いた。
その声は変に上ずっていた。自分の声だと言うのに、初めて聞いたようなおかしな乖離がそこにはあった。
それでも、自分がするべきことを確かめ、彼は門から離れ自分の道を行こうとする。
意を決して一歩を踏み出そうとした。


14 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 20:57:33 PyV8Ta9E0

しかし、彼は幽霊を見た。

「え」

見て、しまった。

幽霊は森に現れた。
静まり返った夜の中、白い顔がぬうっと浮かび上がってきたのだ。
そのヒトガタは人と呼ぶには小柄過ぎた。膝までの丈しかないような小人が、闇に溶け込むような黒いローブを羽織っている。
――真っ白な髑髏が夜の中浮かび上がった。

声は出なかった。悲鳴すら上げられない。
こんなにも近くにいるのに、今の今まで気配すら感じることができなかった。
その事実に彼はぞっ、と総毛立つ。

一秒もなかったと思う。
彼は一目散に駆け出していた。
学校<にちじょう>のものが詰まった鞄を放り投げ、去ろうとしていた異界への門を通り抜けた。
そして、とにかく走る。

走る。走る。走る。汗が吹き出て、視界が歪み、足が悲鳴を上げようと彼は走り続けた。

は、は、は、と彼は必死に息をする。
苦しかった。辛かった。しかし止まる訳にはいかなった。
止まればアレがする。アレは駄目だ。追いつかれれば、自分はただ死ぬしかない。
何故だか知らないが彼はそう確信していた。乱れぼやけ曖昧な意識の中にあって、その事実だけははっきりとしていた。

――だってあれはサ雎ァ縺トじゃないか。サ雎ァ縺トに人は勝てない。それが聖h縺戦¥譁というものだろう、

彼は叫びたかった。助けて、と。
だが声は出なかった。言葉が見つからない。あるべきはずの言葉を、自分は知らないのだ。


――メモリーを、預けた記憶を返してもらわなくては。

でも、帰らないと。カエラナイと。
その思いが意識を探る彼の手を邪魔する。
もう指先はかすっている。あとほんの少し、少しだけ手を伸ばせば、届くと言うのに……!

逃げ続けながら彼は必死に手を伸ばす。
あった筈の記憶へ、持っていた筈の想いへ、秘めていた筈の悲願へ、魔術師<ウィザード>としての力へ、
ただ生き残る為に。

だが、届きはしなかった。
だって、それよりも速く暗殺者<アサシン>が追いついてきたのだから。
そもそも勝負にすらなっていなかっただろう。
小柄な体を生かした俊敏な動きを長所とするサ雎ァ縺トに、ただの人間が逃げようなどというのは。

あれ、と彼は思った。身体が急に動かなくなっていた。
変な音がした。すると何故だか力が抜けて、気付けば鈍い音を立て地面に突っ伏していた。
ぎこちなく彼は首を動かした。すると大きな大きなお屋敷が見えた。ああこれが幽霊屋敷か、と納得する。古い造りをしたそれは、いかにもな外観をしていた。
事実幽霊が立っている。突っ伏した彼を見下ろし、手に持った刃をてらてらと赤く光らせながら。


15 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 20:58:18 PyV8Ta9E0

「他愛ない。目覚める前のマスターなどこんなものか」

不意に、幽霊はそんなようなことを言った気がした。
笑っているような、泣いているような、奇妙な表情をした面が彼を無慈悲に見下ろしていた。

「本来はルールに抵触しているそうだが、これも主人の命令だ」

幽霊の言葉は遠い。目の前にいるはずなのに、ずっと向こうの方から聞こえているような心地がした。
どういうことだろう、と疑問に思ったが、すぐに答えが出た。
ああ、遠のいているのは自分の意識の方か。

幽霊が近づいてくる。その手には刃がある。
確実にトドメを刺すつもりなのだろう。万が一生き延びることがないように。

そうして死が彼に触れようとしたとき、

「そこまでです、アサシン」

凛とした声が響いた。

「一般NPCの大量殺戮は禁じられています」

遠のく意識を何とかつなぎ留める。少しでも気を抜けば持っていかれそうだ。
それでも彼は何とか顔を上げた。ここでオイテイカレる訳にはいかない。
そして、一人の聖女を見た。

「貴方は既に再三の警告を受けているので分かっているでしょう。
 これはメモリー復帰前のマスターにも適用される条項です」

凛然と語るその姿は気品に満ち溢れており、その青い双眸には一切の迷いがない。
銀の飾りに収められた金色の髪、輝く甲冑とたなびく藍色。
何よりその手にあるものが異様だった。
それは旗だった。大きな大きな、背丈ほどもある旗を聖女は堂々と握りしめている。

「アサシン、ハサン・サッバーハ。今すぐに攻撃を止めなさい」

その警告には差し迫ったものがあった。
最後通告。聖女が決して悪を告発する際の、有無を言わせぬ戒めがあった。
それを前にして、幽霊は僅かにたじろいだようだ。トドメを指さんとしていた刃はぴたりと止まり、幽霊は聖女を見た。

対峙する二騎のサ雎ァ縺ト。
聖女と幽霊。それはまるで生と死を象徴しているかのようであった。
一対の狭間で、彼は必死に意識を繋ぐ。

――ああ思い出してきた。

――ここで僕がやるべきこと、やりたかったことは。


16 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 20:58:46 PyV8Ta9E0

つう、と右腕に痛みが走った。
それまでのぞっとするほど冷たい刃の痛みとは違う、熱く煮えたぎる力を感じさせる痛み……!
強引に痛みを振り払い、彼は右手を掲げた。
そこには三画の光が灯っていた。見覚えのない奇妙な紋章。しかしそれが力であり印であり、何よりこの場にいる証明であることを彼はもう思い出していた。

「令呪……! いままさに“マスター”としての目覚めが始まっているのですか」

聖女が僅かに驚きを滲ませ、動きを止める。
その瞬間を見計らってのことだろう、幽霊の黒衣が静かに待った。
刃がきらめく。白の髑髏が目覚めつつある彼へ猛然と迫る。


「令呪を以て命じます――止まりなさい、アサシン」

が、それを聖女が制した。彼女がその腕に灯した光をかかげると途端に幽霊は動きを止め、ぬぅ、と唸り声をあげた。

「何故止める、ルーラー! その男はもはや一般NPCなどではない。この聖杯戦争の参加者たるマスターだぞ!」
「その判断は“裁定者”のサーヴァントである私が下します。
 完全に記憶が覚醒しない間、彼はNPCであり保護対象になります。そして――」

不平を叫ぶ幽霊に対し、聖女はそこで一度言葉を切る。
一瞬の間が空く。その間に彼女は持ち合わせた溢れんばかりの容赦をすっぽりと置いてきたかのように、

「――アサシン。再三に渡る警告の無視した貴方は処罰の対象になります。
 ステータス低下、令呪の剥奪等のペナルティを課します。貴方のマスターに伝えてください」

そう突き離すように告げた。
その言葉に幽霊は一瞬動きを止める。だが、一瞬だった。幽霊は何かに突き動かされるように再び地を蹴った。
その標的は地に伏せる彼ではなく、聖女。

「【空想電――」

聖女の下へと飛び込んだ幽霊はその左腕を解放せんとする。
空間がぐにゃりと歪み、そこから秘められた神秘が溢れ出る。そして聖女の命を奪わんと異形の腕が迫る。

「愚かな」

しかし、幽霊の神秘が届く前に、聖女は告げていた。

「令呪を以て命じます――アサシン、自害しなさい」

と。
聖女の掲げる光が迸ったとき、事は全て終わっていた。
幽霊は己の胸を自ら突き、末期の言葉一つも漏らすことなく静かに倒れた。


17 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 20:59:19 PyV8Ta9E0
そうして再び森は静かになった。幽霊の身体は光に包まれ、その存在感を薄めていき、最後には跡形もなく消え去っていた。
騒いでいた木々も、耳障りなほどうるさかった風も、幽霊のように何時の間にか過ぎ去っていた。
月はたださんさんと輝いていた。そびえ立つ古屋敷の前で倒れ伏したまま、彼は手に届きそうなほど大きな月浮かぶ夜空を眺めた。

――ああ、月が綺麗な夜だ。

そう思った時、またあの声が聞こえた。

「終わりましたか、ルーラー」

月と同じ色をした、凍てつくほど美しい声が。
揺れる銀の髪、人形のように美しい肌、映すものの罪を表すかのような澄んだ瞳。

カレン・オルテンシア。
闇の中より歩いてきたのは、会ったばかりのあの少女だった。
今度は法衣服ではなく奇妙なほど扇情的な漆黒の衣装を身に纏っている。
また、一枚の長い布が彼女を守るようにその身に絡んでいる。
紅い紅い、布だった。

「はい。結果としてアサシンを脱落させることになりましたが、まずかったですか?」
「いえ問題ありません。あれほどの警告を無視した以上、当然の処置です。
 最後の攻撃はマスターの令呪でしょうね。あのアサシンも愚かなマスターを持ってしまったものです。
 もっとも、そのマスターも今頃解体が始まっているでしょうが」

淡々と語るカレンらの声を、彼は現実味の薄い、どこか遠くのことのように聞いていた。
が、しかしもはや彼はそれを無視することができない。先ほどまでは全く意味の分からなかった言葉が、今や自分の身に迫った情報として頭に入ってくるからだった。

「……それで、彼ですが」

聖女――ルーラーと呼ばれていた少女が倒れ伏す彼を一瞥した。
その視線には傷つく者に手を差し伸べる慈しみが感じられたが、同時に聖女として確かな規範を重んじているような色があった。

「“マスター”として目覚めているようですね。令呪が刻まれ、記憶も取戻しつつある」

カレンが平坦な口調で言った。ルーラーのそれと違い、非常に事務的な響きだった。

「で、あなたはもう今の状況が分かるでしょう?」

頭上から問い掛けが降ってくる。
カレンのの声色は先ほどの、何も知らなかった頃に会ったときと何ら変ってはいない。

「……聖hィ戦争」

彼は声を絞り出した。その単語をひねり出すだけで、じん、と頭が痛んだ。
消された筈の、空白に上書きされた筈の言葉を思い出す。そんな矛盾が痛みを読んでいるのかもしれない。

「まだ記憶の封印が完全には解けていないようですね」

その様子を見てカレンがふぅと息を吐いた。


18 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 20:59:52 PyV8Ta9E0
「まぁこうして覚醒の瞬間に居合わせたのも縁です。少し手伝ってあげましょう。
 貴方が持っている筈の記憶をたどる形で状況を説明していけば、おのずと記憶の回復もできるでしょうし。
 では、説明いたしましょう。この聖杯戦争――月を望む聖杯戦争について」

セイハイ、センソウ。
聖杯戦争。
その単語がようやく意識に浮かび上がってきた。
そう、それがずっと思い出せなかった。
届かなかった。

「聖杯戦争とは万物の願いをかなえる“聖杯”を奪い合う争い。
 魔術師たちが己が望みを物にすべく七騎の“サーヴァント”を統べ競いあう。
 あり大抵に言ってしまえば、万能の願望機を求め殺し合う。
 そんなシステムのことです」

聖杯、サーヴァント、願望機……その単語が聞こえる度、脳みそをかきまぜられているような痛みが走る。
同時に、ああ、あの幽霊はサーヴァントだったんだな、と納得もしていた。

「サーヴァントとは聖杯がこれまでに観測し記録してきた膨大なデータから再現される、過去の英霊たち。
 人類が生み出してきた情報の結晶。それを七つのクラスに当てはめる形で再現する。
 セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカー……彼らサーヴァントを参加者たるマスターは令呪によって従えるのです。
 このシステムは当初、それぞれ一騎づつ選出された、七騎のサーヴァントで行われていました」

ですがこの“月を望む聖杯戦争”は違います。カレンはそう淡々と告げた。

「この“月を望む聖杯戦争”で呼ばれるサーヴァントはその何倍にも多い。
 二十……いえ三十に近いサーヴァントが呼ばれることでしょう。
 それはひとえにあの月に依るもの。
 地球をその誕生から観察し続け、地球上のあらゆる生物、あらゆる生態、あらゆる歴史、そして魂さえも記録してきた――月の聖杯。
 ある者はそれをこう呼びました。
 量子コンピュータが魔術的概念により実現されている自動書記装置。
“ムーンセル・オートマトン”と」

そして、とカレンは月を背に言った。

「ここは月を手にしようとする者が集う箱庭。月に停泊せし放浪者。存在しない筈の二番目の月。その観測のされ方は様々です。
 月は観測者次第でいかようにも姿を変え得る。貴方方がここをムーンセルの付随物としてみたように、ある者はそれを方舟<アーク・セル>として見た。
 しかし何にせよ意味は同じです。それは……月に到る階段<スパイラル・ラダー>」

月の聖杯、ムーンセル、方舟……理解が追いつかない。何しろ思い出しながら、だ。
それでも、彼は一つ分かっていた。
そうか、自分はいまあの月を目指しているのか。妖しくも美しいあの月に、手を伸ばしている。

「ここはムーンセルが観測した過去。月より降りそそぐ情報を受け船が造り出したユメ。
 例えばこの屋敷。ここはかつて一人の魔法と使いと、一人の魔女、そして一人の孤独な青年が住んでいました。地名自体は白犬塚というそうです。
 少なくともそんな可能性を持った並行世界があり、月は観測した。それを再現した場所。
 ここでは月が識る、土地や歴史、木々、水、空、そして人間が再現されている。
 どこでもあって、どこでもない、過去であり、未来であり、現在である」


19 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 21:00:21 PyV8Ta9E0

そう、それが今回の聖杯戦争の舞台。
彼はようやく思いだしてきた。自分が何者であったかを。

「貴方がたは様々な方法でこの方舟にアクセスしてきました。
 量子ハッカー、魔術師<ウィザード>として月を見つけた者、古来より伝わる魔術師<メイガス>として月に到った者、全く異なる並行世界の力より月を探し当てた者、はたまた月のきまぐれか何の能力もないのに呼びこまれた者……その手段は様々です。
 鍵は様々なカタチで観測されました。それはある時はデータ上に浮かび上がるコードとして、ある時は聖遺物の欠片として現れ“ゴフェルの木片”として。
 ただそれを手にし。参加者としてマスターとなった以上、何かしら願いを持っているはずです。
 月を望み、月に到る。万能の願望機を願った貴方がたには先ほど告げたように殺し合ってもらいます。
 ――最後の一人となるまで」

殺し合う。その言葉もまた、カレンは淡々と言った。

「そして、私たちはその監督役。聖杯戦争が滞りなく行われるかを裁定する者。
 私とルーラーは参加者ではなく、運営に携わるものということです」

よろしくお願いします。
言ってカレンはぺこりと頭を下げた。
隣りに佇むルーラーも軽く礼をした。彼も挨拶をしようとしたが、それよりも早くカレンが口を開いていた。


「監督役として、助けを請われれば出来る範囲で応えましょう。円滑かつ平等に活動が行える取り計らいましょう。
 ですが場合によっては警告と、そして制裁を下します。先ほどのアサシンのように」

今しがたルーラーにより脱落させられた幽霊――アサシンの姿が脳裏を過る。
ルールを破れば、ああなる。彼女らにはそうする力がある。

「もっとも、余程のことがない限り私たちは手を出しませんが。現状、一般NPCへの度を過ぎた無差別殺戮は禁じられていますが、それ以外で大きく動くことはないでしょう。
 NPCの殺人も、よほどひどくない限りは何も言いません。サーヴァントの魔力源として魂喰いを行うこと自体は何らありません。
 その他追加ルールがあれば随時お伝えします。ただしルーラーにはその権現、各サーヴァントへ二回まで使用可能な令呪があることを覚えていてください」

令呪。
その単語を聞いた彼は右手の甲に刻まれた三画の紋様を眺めた。
先ほどはぼんやりとしていた光も、今やくっきりと確かな輪郭を持ってその手に定着していた。

「令呪とは本来マスターとしての証、たった三回だけのサーヴァントへの絶対命令権。
 それがあるからこそ、貴方たちはマスターでいられる。
 逆にいえば、失われた時点でマスターとしての資格を失います。令呪なくともサーヴァントを従えることができるのなら別ですが、そうでないのならば強制的にSE.RA.PHより消去<デリート>されます。
 それを手に入れるまでが“予選”でした」

“予選”
思わず彼は聞き返していた。

「“予選”です。全てのマスターはSE.RA.PHにアクセスした際、そのメモリーデータを封印された状態でアバターが生成されます。
 聖杯戦争のことは勿論、魔術のことも、自分が秘めた願いのことも、全て忘れた状態でこの街で過ごしてもらいます。
 その状態に違和感を抱き、記憶の封印を解き、自らマスターであることを思いだす。そのとき初めて令呪が浮かび上がるのです」


20 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 21:01:07 PyV8Ta9E0
そうか、だから忘れていたのか。
自分自身のことを、こうまでも。
彼は不思議と腑に落ちた心地になった。

「それが“予選”。中には自分がマスターであったことを思い出すことすらできず、NPCとして埋もれていく者もいます。
 そんな中、貴方は思い出しました。マスターとして、月に認められたのです」

おめでとうございます。カレンは平坦な口調で祝福の言葉を漏らした。
彼はそれを呆然と受け止める。
まずカレンの顔を見つめ、次にくっきりと浮かぶ令呪を見つめ、最後に蘇りつつある自身の願いを見つめた。

――ああそうか、僕は……月を望んでいたんだな。

「記憶封印の解除と同時に、月よりサーヴァントが宛がわれます。
 日常の違和感に気付き、心に刻んだ願いを思い出し、サーヴァントと契約する。
 それが参加者に与えられた最初の試練」

胸が昂揚するのが分かった。自分はいま、喜んでいる。
最初の試練を、辛くも自分は突破したのだ。

「サーヴァントを手に入れれば、あとは残りのマスターを全て倒すだけです。
 それだけで、貴方は月に到れる」

そんなこと簡単だろう、と彼は奇妙な自信に支配された。
先ほどの状況を突破できたのだから、あとはもう大丈夫、と。
根拠もなく思っていた。

カレンは顔色一つ変えず口を開く。

「ですが」

そこで、それまでカレンの隣で無言を保っていたルーラーが、どういう訳か顔を背けた。

「貴方にもうその資格はありません」

――え?

「だって、貴方もう死んでいるもの」

……その口調は相変らず平坦で、事務的で、淡々としていて、それでいで優しさやいたわりといったものを感じさせた。

彼はそこでようやく己の胸を窺った。
アサシンに一突きされた胸からは血がだくだくと流れ、心臓部はぽっかりと穴が開いていた。
身体<アバター>は既に解体が始まっている。情報が剥がれ落ち傷口は泥のように黒ずんでいた。

「あの時点で一般NPCだった貴方は保護対象でありましたが、だからといってその際に受けたダメージの回復まではできません。
 貴方が助かる見込みはもうないでしょうね。目覚めるのが、あと少しだけ遅かったですね。
 帰ろうなんて、思っているから。帰る場所もないのに」


ああ、そうか。
そういえば、さっき
自分はどこに帰ろうとしていたのだろうか?

そもそも、僕の名前は。


21 : 【OP後編】月を望む聖杯戦争 ◇Ee.E0P6Y2U :2014/07/31(木) 21:01:58 PyV8Ta9E0
「貴方の脱落は傷を見た瞬間分かっていました。
 それでもわざわざ丁寧に説明したのは、半分マスターとして覚醒していた貴方のデータが、変な形で残らないようにするため。
 死んだことにすら気づかず、サイバーゴーストになんてなられても監督役として困るもの。
 だから、納得して死んでもらいます」

カレンはそう言って目を閉じた。
それはまるで冥福を祈るよう――

せめて名前を教えて欲しい。
僕の名前を、僕が何というカタチをしていたかを。そしてできることなら呼んで欲しい。
でも、無理だろうな。

そう思ったからこそ彼はただ陶然と月を見ていた。
綺麗な綺麗な、月。
空に浮かぶ月は依然変わらず手が届きそうで――

「では、聖杯戦争を始めます」

――絶対に届きはしない。









そうして、月海原学園の一学生を演じていた筈の彼は、消滅した。
彼がいかな願いを持った、どんな魔術師であったのか、カレンは知らない。
ただ、もう彼にまつわる全ての情報が解体されてしまったことは確かだった。

それを見届けたカレンは一言呟いた。

「では、聖杯戦争を始めます」

と。

「始まるん……でしょうか」

その呟きをルーラーはどこか自信なさげに反芻した。

「まだ、あとから目覚める人も居るんじゃないですか。
 さっきのあの人のように」
「かもしれませんね。でも、恐らくないでしょうね。
 記憶の封印を解けるとしたら、大体今ぐらいがリミットでしょう」

封印された記憶と、長く付き合えば付き合うほど元の記憶は埋もれていく。
だから、この辺りが限界だとカレンは当たりをつける。

恐らく各マスターが目覚めた時間にそれほど差はない。あって数時間程度の差だろう。
だから実質聖杯戦争が動き出すのは今ぐらいからだ。

「一体、どんなサーヴァントが呼ばれているのでしょうね」

ルーラーがぽつりと漏らした。
これから始まるであろう戦いに、思いを馳せるように。

カレンは視線を上げた。
その視線の先には、この丘から見下ろした街の光がある。
錆びれたマンションがある。昔ながらの商店街がある。できたばかりのレジャープールがある。奇妙な噂の絶えない名家の屋敷がある。人を導く教会がある。
月が用意した此度の聖杯戦争の舞台。
今頃街では多くのマスターがサーヴァントと出会っている頃だろう。

いかなる英霊、あるいは反英霊がこの地に呼ばれたのか。
それはまだ分からなかった。

――ただひとつ分かることがあるとすれば、

カレンは無言で空を見上げた。
月が、ある。
美しく輝く、月が。
こんなにも近しくあの光を拝めるのは、きっとここだけだろう。

――みなあの月を望んでいる、ということでしょう。


【アサシン(ハサン・サッバーハ)@Fate/hollow ataraxia 脱落】
【プロローグの青年 @Fate/EXTRA 脱落】

【二次二次聖杯戦争 開幕】


主催
【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】


22 : 名無しさん :2014/07/31(木) 21:03:34 PyV8Ta9E0
僭越ながら転載完了いたしました。
加えて本編のマップも転載させていただきます。

ttp://download1.getuploader.com/g/spark/158/22mapb.jpg

8/1(金)0:00:00 上記したらば掲示板の予約スレにて予約開始です。
予約時はキャラクターだけでなく下記マップから場所も予約してください。


23 : ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:03:56 /l7CRZDY0
投下します。


24 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:04:27 /l7CRZDY0

―――いいかい、こういうのは作戦が大事なんだ。最初はあたしに任せときな。


…………ああ。


まず春紀が先行して突入。
敵にアンタの存在を誇示、そしてゆっくりと反時計まわりに動いてくれ。


…………ああ。


焦らずに動いて敵の目を引き付けるんだよ。
要は囮ってやつだ。
敵がアンタに釘付けになったタイミングを見計らってあたしも出る。


…………ああ。


なんだオイ、緊張してんのかい?
ま、初陣なら仕方ねーか。
大丈夫、いざとなったらあたしが抱えて逃げ切ってやるさ。


…………ああ。


ほらほら、女は度胸だよ。
いっちょ派手にいこうじゃない。


…………いや派手にいったら駄目だろうが。





25 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:05:16 /l7CRZDY0


―――月が照らす深夜の街を、二人の少女が歩いている。


「いや〜大漁大漁。春紀、初陣の成果としては上出来だよ」

どこに納めていたのか、赤い髪の少女、佐倉杏子がお菓子やおにぎりなどを次々取り出し、
一見すると彼女の姉のような姿の女性、寒河江春紀が溜息をついた。

「あーあ。盗みだけはやらずにこれまで生きてきたんだけどなあ………ほい、これも」

ペットボトルを投げて渡す。
これが唯一正式にお金を払って購入したもの―――それを春紀が購入している間に、杏子がスタコラと逃走したのだ。

「さんきゅ。ま、勉強代さ。
 客が来ない場所だからって、夜勤なんかを一人でやらせるからこうなるんだよ」

ピッとフィルムを破り、おにぎりにパクつく。
その様子を見て苦笑する春紀。

「ったく、ウチのアパートに着くまで待てないんかね」
「ひはたないはろ……んぐ。
 いつ戦闘になるかもわからないし、そもそも春紀がびんぼーじゃなければ、わざわざこんな遠出せず買いまくれたのに」
「びんぼーで悪うございましたね……」

喋りながらでも、ぱくぱくとおにぎりをすぐに平らげ。
ぱんぱん、と手を払った。

「ま、ないもんは仕方ないさ。いくらでもやりようはあるし……ほい、食うかい」

戦利品のうんまい棒を春紀へ差し出す。

「あんがと、杏子」
「ランサーだっての。外じゃ気を付けろよ」
「おっと、ごめんごめん」


―――なんでもサーヴァントというのは。
生前の名前を他者に知られると弱点が露呈する危険性があるため、常に名前を隠して行動するんだそうな。
例えば杏子の場合、ソウルジェム―――家で見せてもらった赤い宝石―――を破壊されると、死んでしまうらしい。

こうして万引き――というかこの量だと強奪じゃないか――して食糧を手に入れたのも、
杏子は食べることで魔力回復できるからと、足がつきにくいようにわざわざ遠出して実行したんだ。


「……まあ。名前呼ばれんのは別に嫌じゃねーけどさ」

ぽりぽりと頬をかきながら杏子は言う。

「なんだよー意外と可愛いとこあるじゃんか」
「ばっ、やめろっつーの」

春紀は杏子の後ろにまわって首に手をまわし、うりうりとほっぺを突っつく。
姉妹のようにじゃれあいながら、家路へとのんびりと歩く。





26 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:06:05 /l7CRZDY0


街を歩く銀色の髪の少女と、青い髪の屈強なる男。

「さて。調査と言っても何から手をつけましょうか」
「……」

頬に手を当て、しばし思考する少女、ホシノ・ルリ。
キリコ・キュービィーは腕を組み、ルリを無言で見守っていた。

「まずは土地自体を把握しないと。地図……とか売っているんでしょうか。
 そもそも、これで買えるんでしょうか?」

手には最初から持っていたペイカード。
しばらく歩いていると、深夜でも明るい光を放っている店が見えてきた。

「あのお店に入って確認してみましょうか」

キリコは霊体化し、ルリはコンビニエンスストアに入り、地図を取ってレジへと向かった。
カードを出して店員に尋ねてみる。

「……これで購入できるでしょうか?」
「ああはい、カードですね。少々お待ちください」

じっと若い男性風の店員をみつめる。
(……参加者以外はNPCという話でしたが、よく出来ていますね)

「あっ、えと、大丈夫みたいですよ」
「ありがとうございます。ちなみに、この地図で言うと現在地はどこになるでしょうか」
「えっと……この辺りですね」

店員が開いた地図を指し示す。

「ありがとうございます」
「いえいえ。ありがとうございました」

ルリは店員にぺこりとお辞儀して、店を後にする。

「買い物はこのカードを使えば大丈夫なようですね」
「そのようだな」

店から出た後、霊体化を解くキリコ。


「後は……やはり詳しい方に聞くのが一番ですね」

購入した地図を開き、教会のある地点を指差す。
流れてきた知識では、そこに聖杯戦争を運営している人達がいるらしい。

「ここに直接行くのが手っ取り早いですが……。
 もし『狩り』を行うタイプのマスターがいるのなら、
 教会の周辺で待ち伏せを行っている可能性がありますよね」
「そうだな」

んー。と指で軽く頬をつく。

「行けないのなら、呼んじゃうまでですね」
「……ほう」


27 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:07:02 /l7CRZDY0

ルリは辺りを見回し。

「ライダーさん、この辺りの民間人の存在とか、分かっちゃったりします?」
「俺はエスパーじゃない」
「んー……。ライダーさんが宝具に乗れば、熱源感知とかできますか?」
「可能だ」

腕組みを解き、ルリを見下ろすキリコ。

「だが俺の宝具を出撃させるためには魔力を使う。こんな時期に使って大丈夫なのか」
「あ。そちらは御心配なく」

心配ご無用と手の平を出す。


―――ホシノ・ルリは方舟へ、星一つを電子的に制圧できる『ナデシコC』と『オモイカネ』を使いハッキングしてきたのである。

元々『電子の妖精』と呼ばれる程の電子戦での驚異的な能力に加え、極大とも言える電子戦武装。
この方舟の地におけるホシノ・ルリは、魔力の塊と言える程に、力が溢れだしていた。

そうか、とキリコは頷くと、自身の宝具を現出させる。


全高3.8メートル。
全身を緑色で塗装した人型の兵器。左肩だけが赤く塗られている。

形式番号:ATM-09-ST 『スコープドッグ』

他者を守るのではなく、他者を殺すためだけに特化した戦争の消耗品。
そこにアーマード・トルーパーが存在するだけで、平和な街は最低な戦場へと姿を変える。


スコープドッグの脚を変形させ、胴体を地に降ろし。
頭部を前から開き、狭いコックピットへと搭乗するキリコ。

『搭乗完了だ』
『では辺りに、熱源のない大きな建物とかはありませんか?』

念話で通信を行い始める二人。
キリコはレーダーを見て、港付近の倉庫群らしき場所に熱源反応がないことを確認し、報告する。

『ではそちらへ移動お願いできますか』
『了解した。……乗れ』

ルリにスコープドッグの手を差し出し、乗らせるように促した。
手の平の上に乗り、指にしっかり掴まっていることを確認し。

『行くぞ』

スコープドッグの足の裏にあるギアが、キュイイインと音を立て回転しはじめ、
ローラーダッシュによって、倉庫群への移動を開始した。





28 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:07:47 /l7CRZDY0


「……っ! なんだ……?」

帰宅の途中、春紀の左手に宿った令呪が反応する。
そして同時に、ドォン!ドォン!と爆発する音が響く。
海の方角から聴こえるようだ。

「なんだあ?いきなりおっぱじめてる奴らがいるのか?」
「どうする、きょ…ランサー」
「アンタが決めることさ、マスター。
 素通りしてあたしの魔力を温存するもよし。
 戦ってる奴らがいないか偵察するもよし。挨拶代わりに戦いに介入するもよしだよ」
「む。よし………じゃあ、偵察。
 聖杯戦争の実戦を見ておきたいし、もし隙がありそうなら―――殺ろう」

春紀の目つきが鋭くなり、雰囲気が暗殺者のそれに変わる。

「ハッ、いいね!そうこなくっちゃ!」

杏子は魔法少女装束に身を包む。
春紀もバッグからガントレットを取り出し装着する。

「って、マスターもついて来る気か?」
「……は?」
「んー。
 春紀も人間としてはなかなか動ける方だとは思うけど。
 サーヴァントの戦いってのは次元の違う人外の戦いだ。
 マスターは身を隠して、戦いはサーヴァントに任せる、ってのがセオリーさ」

杏子は腰に手を当てて説明する。

「あのな、あたしはあたしの願いのために戦うんだ。
 杏子に全部任せて寝て待ってるってのは違うだろ」

春紀は少し怒ったように、同じく腰に手を当てて言う。

「んー……」
(今回の戦いは七騎による戦いじゃない。
 一人で置いておいても、他の奴らに襲われる可能性も高いか……)

杏子は少し腕組みした後。

「分かった。でも相手のサーヴァントと戦闘になったら、まず隠れてろよ。
 アンタはおかしな連中との戦いは素人なんだろ」
「ああ、分かった。ここまで来たら焦ったりしないさ。……最後のチャンスなんだからな」

春紀は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

「さ、行こうか、ランサー!」
「ったく。オーケー、マスター」





29 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:08:26 /l7CRZDY0


>ルリちゃん、こーゆーときはね、どーんとやっちゃえばいいんだよ!
>そうそう。男には派手に目を惹かせておびき寄せちゃえばいいの。

待ち人は女性でしょうけどね、とひとりごち。


―――あの人達なら、この状況でどう対応したでしょう、
と前任のナデシコクルーのことを考えていたホシノ・ルリ。

『バカばっか』と言っていた自分。言わなくなったのは、いつからか。


『マスター。接近する熱源2。片方は恐らくサーヴァントだ』
『……残念。ですが、別口の情報を得るチャンスでもありますね』

お目当ての対象であれば恐らく一人。
今向かってきているのは、騒ぎを聞きつけた参加者だろう。

スコープドッグでの破壊を止め、キリコがルリの待機している場所へと戻ってきた。
ルリの手の甲の違和感が強くなる。

「なるほど。この令呪が他のマスターの存在を感知させてくれるのですね」

IFS―イメージ・フィードバック・システム―の処理によって施された手の甲の紋様の上に、
更に印された三画の紋様。その手を眺め、頷く。

『マスター。ここは戦場になる。隠れていろ』
『いえ、少しでも情報を引き出したいので。守ってくださいますか?』
『了解』

倉庫が四方にある十字路。
スコープドッグに乗ったキリコを他者が来る方角に配置させ、ルリがその後方に下がった。


―――そしてやってくる、槍を持った赤い装束の少女と、学生服を着た背の高い少女。


「なんだァ? 戦闘やってんじゃないのかい」

赤装束の方が口を開く。

「ええ、事情がありまして。
 こちらに戦闘の意思はありません」
「……あのなあ。
 聖杯戦争に呼ばれて、戦闘の意思ありません。はいそうですか、なんて言うワケないだろ。
 だいたい、そんなデカブツに銃を構えさせておいてよく言うな」

スコープドッグは、油断なく【GAT-22 ヘビィマシンガン】を赤装束に向けている。


30 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:09:13 /l7CRZDY0

ルリが赤装束の少女を見つめると、相手の情報が流れてくる。
少女がランサーのクラスのサーヴァントであること、敏捷の高い速戦型のパラメータであることが把握できる。

(こちらが分かる、ということは。相手のマスターにも、こちらのサーヴァントの情報が伝わる、ということですね)
相手ランサーの情報を念話でキリコへと伝える。

『了解した』

キリコの返事に頷くと、赤いランサーとの会話を続ける。

「全く貴女の言う通りですが、私達が情報交換を求めているのも事実です」
「……だとさ。どうする」

赤いランサーは油断なくスコープドッグと向き合ったまま、後ろの少女に振り返らずに問いかけた。


―――あちらも念話をしていたのであろう、しばらく経った後。


「悪いね。情報の交換なら、コイツで交換し合おうってことになった」

槍を手で回転させた後、両手で構える赤いランサー。

「そうですか。残念です」

ルリは相手のマスターと目を合わせる。
制服を着た少女も、殺気を漲らせている。

「私はホシノ・ルリです。貴女は?」
「……答える必要はないね」
「そうですか」

ルリは残念そうな表情もせず、後方へと歩いて行き。

『ランサーさん。兵器使用自由、出来るだけ派手にやっちゃってください』
『了解』

キリコに指示を告げ、後方の物影へと退避する。





『……お、おい。あれロボットだろ!? 流石に色々おかしいだろ、本当に大丈夫なのか?』
『ハン。別にデカブツの機械型魔女とも…………銃を使った相手とも、戦ったことあるさ。
 一々相手のタイプに驚いてたら戦いなんてできねーよ。
 それより隠れてな、ここでいきなり死んだりするんじゃねえぞ春紀』

ランサーは念話でそう言い放つと、ライダーの乗ったロボットと対峙する。

『分かった、杏子も気を付けてな』

敵ライダーの情報を分かる限りランサーに伝え、春紀も物影に隠れ戦況を見守る。





31 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:10:00 /l7CRZDY0


「ようライダー。いきなり宝具の御開帳とは景気がいいじゃないか」


槍を構え話しかけるランサー。
キリコは答えず。
無言のまま、ランサーに照準を合わせて【ヘビィマシンガン】を連射する。


「ハッ、問答無用ってワケかい!」


ランサーが居た場所のアスファルトを銃弾が削り。
地面を跳躍したランサーは両側の倉庫の壁を使って三角飛びで俊敏に避けていく。
かわされたマシンガンの銃撃が倉庫を蜂の巣へと変えていく。


「今度はこっちからいくよ!」


倉庫の屋根を伝い、スコープドッグの背後へと回るランサー。
壁を蹴って、槍を片手に死角からの攻撃を仕掛ける。

―――が、キュイイイイイ!!とけたたましく音を鳴らしたスコープドッグは、
ローラーダッシュで前へ加速し、倉庫の道路を抜け大きく旋回する。


「チッ、でかい図体のくせになかなか速いじゃないか」


ランサーは再び屋根へと登り、倉庫と倉庫の屋根の間を跳躍して、
スコープドックよりも高い位置をキープし、距離を詰めてくる。


『―――ならば足場を無くすだけだ』


胴体の脇から【SMM2連装ミサイル】を発射し、キリコから向かって左右の倉庫へと放った。

2発のミサイルが一直線に倉庫へと向かっていき。
ドォォン!ドォォン!と大きな音を立て。
―――穿たれた倉庫は崩れ、そして赤く燃えていく。


「げっ! どんだけ火力たけーんだよ!」

ミサイルの発射を見た瞬間、ランサーは屋根から跳躍しており、そのまま倉庫間の道路へと着地した。

『丸見えだな』
「ハッ!」

ヘビィマシンガンをランサーの周辺にばら撒くスコープドッグ。
ランサーは再び跳躍した後、空中で槍を多節棍状にし、
一つ先の倉庫の煙突へ投げて絡ませて自身を引き上げる。


『……』


キリコは表情を動かさず、
スコープドッグのターボをふかし、ギアの回転を上げ、音を立てて再びランサーを追う。





32 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:10:36 /l7CRZDY0


「けほっけほっ……無茶苦茶だろアイツら」

隠れていた倉庫から出てくる春紀。


―――むせかえるような硝煙と炎の匂い。
抉れているアスファルト。
破壊されていく倉庫。


「これが……聖杯戦争、か。……ガチで戦争じゃないか」


ふるふると春紀は首を振り、パシンと頬を打って気合を入れ直した。

物影に隠れながら、相手のマスター―ホシノ・ルリと言ったか――が、
当初居た辺りへと移動するが、既に人影はなく。


―――そこへ。


キュイイイイン!!とローラーを回転する音が聴こえてくる。

振り返ると、迫りくる鋼鉄の巨人。

杏子が、跳んでそれを追っていた。


『目標確認。殲滅する』
「くそっ!マスター!!」


鋼のロボットは春紀の姿を確認すると、躊躇なくマシンガンを構え、撃ち放つ。


「くっ…………!!」
「チィ!!」


無駄と分かりつつ、春紀は横っ跳びに飛ぶ。

―――その前方。

赤い鎖のようなものが三重に展開され。
鋼鉄の銃弾を弾いていく。

ランサーが己のマスターを守るため、縛鎖結界を現出させたのだった。


33 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:11:39 /l7CRZDY0


『……なるほど、魔術というものか』
「―――取った!!」


ランサーの槍が、春紀に向いていたスコープドッグの頭と胴体の間を後ろから貫いた。
想像した以上に、装甲は薄く。

槍を引き抜き、赤い肩を踏み台にして跳躍し、マスターの元へと戻る。


「ありがとう。助かったよ。
 ……だけどあのロボをやったのか、ランサー。凄いな」
「ハッ、まーな」


鋼の巨人は音を立てて爆発をし始め。

自身が発生させた紅蓮の炎に焼かれていった。

辺りの倉庫群がその炎で赤色に照らされていく。


―――そして。炎の中から、無傷の男が姿を現した。


『マスター』
『許可します』

そして間髪いれず、ライダーは二体目のスコープドッグを現出させる。


「「な……」」

杏子と春紀は茫然と、悠々とロボットに乗り込む男を見る。


『やべえ、退くぞ春紀。相手も不死身系だ。
 このまま消耗戦に突入すんのはまずい。
 最後まで生き抜く気なら、ここで魔力を大量に使っちまったら持たないぞ』
『くっ、分かった』

二人は撤退を即断し。
ランサーは逃走経路上に縛鎖結界を展開して、春紀を抱えて跳躍を開始する。

ライダーは二台目のスコープドッグが肩に担いだ【ソリッドシューター】を連続で撃ち込み、強引に縛鎖結界を破壊する。


―――爆発による煙が流れる頃には、ランサー主従の姿は消えていた。





34 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:12:39 /l7CRZDY0


『……撤退したか』
『追撃は無用です。ライダーさん、おつかれさまでした』
『了解』

辺りに包まれる炎の中。

スコープドッグを降着姿勢に変形させ、コックピットから降りるキリコ。
―――それと同時に、スコープドッグは霧のように姿を消した。

隠れていたルリも姿を現す。

「あの機動兵器を丸ごと呼び出すとか。ライダーさんの宝具凄いですね」
「二体出撃させて眉ひとつ動かさないマスターの方が異常だがな……む」

キリコは空を見上げ、もう一体接近している存在を感知する。

「どうしました?」
「どうやら俺はエスパーだったらしい。……待ち人が来たようだ」

キリコが見上げる先―――貨物運搬用大型クレーンの上。

大きな旗を持った金色の髪の女性が、凛として佇んでいる。
その女性は跳躍し、ルリとキリコの前へと優雅に降り立つ。


気品のある顔立ち、意志の強そうな瞳。
でも何故だろう―――アオイ中佐や、ハーリー君と同じ雰囲気を纏っている感じがする。


「NPCの被害は……出ていないようですね」

辺りを見て、ルーラーはため息を吐いた。

「……サーヴァント同士の戦闘は、どうしても被害が大きくなります。
 一般NPCを殺せばペナルティとなりますので、『注意』してください。
 もし再度自発的に建物を壊し、NPCに被害が出た場合は、『警告』させて頂きますので」
「はい。以降気をつけます」

ぺこりとルリはルーラーに頭を下げる。

「……貴女のように聞きわけのよいマスターばかりだと良いのですが。
 ―――それでは、失礼します」
「あ。ちょっと待ってください」

踵を返そうとしたルーラーを引きとめるルリ。

「なんでしょう?」
「少しだけ、お話聞かせてもらってもいいでしょうか?
 あ、少し早いですが、朝食を御馳走しますよ」
「……はい?」


35 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:13:01 /l7CRZDY0

【A-8/港の倉庫群/一日目 未明】

【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ〜The prince of darkness】
[状態]:健康、魔力消費:微
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:ペイカード、地図
[所持金]:富豪レベル(カード払いのみ)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟』の調査。
1.ルーラーから情報を引き出す。
[備考]
・ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。

【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】
[状態]:健康
[装備]:アーマーマグナム
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。
1.ホシノ・ルリの護衛。
[備考]
無し。


【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:旗
[道具]:?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1.???
[備考]






36 : 初陣  ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:13:48 /l7CRZDY0


―――春紀を抱え、夜空を駆けるランサー。

「…………何も」
「あん?」
「……何も、できなかった」

抱えられながら、春紀はぽつり、と言う。

「ハ。ただの人間が、聖杯戦争やろうってのがそもそも間違ってるのさ。
 どうする?
 願いを捨てて戦いをやめて、生きてみる気になったかい」
「……ッ! 辞めねーよ!!」
「ったく、頑固だねえ」

杏子は苦笑しながら、民家の屋根と屋根の間を大きく跳躍する。

春紀を抱えながら、器用にサンドイッチのビニールを破き。
ひょいと口へ放り込んで、魔力の回復を行う。

「おい、跳びながら食うな!あたしにパンクズがかかるだろ」
「はは、ごめんごめん」
「それはあたしの口癖だ!」
「ま、そんだけ元気なら、まだまだ大丈夫さ」

空中で笑いながら、二人で家路へと向かう。



【B-9/市街地/一日目 未明】

【寒河江春紀@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:ガントレット&ナックルガード、仕込みワイヤー付きシュシュ
[道具]:携帯電話(木片ストラップ付き)、マニキュア、Rocky、うんまい棒
[所持金]:貧困レベル
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く。一人ずつ着実に落としていく。
1.住居であるアパートに戻り、杏子に魔力貯蓄のため飯を食わせる。
[備考]
・ライダー(キリコ・キュービィー)のパラメーター及び宝具『棺たる鉄騎兵(スコープドッグ)』を確認済。

【ランサー(佐倉杏子)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、魔力消費:微
[装備]:多節槍
[道具]:Rocky、おにぎり、パン、ポテチ、チョコビ、ペットボトル
[思考・状況]
基本行動方針:寒河江春紀を守りつつ、色々たべものを食う。
1.春紀の護衛。
[備考]
無し。


37 : ◆MQZCGutBfo :2014/08/01(金) 00:14:06 /l7CRZDY0
以上で、投下終了です。


38 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:22:20 cGAsmZxE0
投下乙です
一話目からレベルの高い戦闘描写に驚かされました
..二人の所持金の差が何ともww


39 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:22:54 1WgdWnR20
投下乙
スコープドッグと対峙する杏子。
違和感ありそうでない感じがいいですね。
最初からバトル展開とはいい感じのスタートになりそうだ。


40 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:23:21 pG/PBzOY0
《予約まとめ》

◆IbPU6nWySo 08/01(金) 00:00:00 【C-10】 アーカード&ジョンス・リー、れんげ&カッツェ
◆HOMU.DM5Ns 08/01(金) 00:00:00 【C-9】 シオン・エルトナム・アトラシア&ジョセフ・ジョースター
◆S8pgx99zVs 08/01(金) 00:00:01 【C-5】 狭間偉出夫&鏡子、遠坂凛&クー・フーリン
◆ggowmuNyP2 08/01(金) 00:00:02 【C-3】 本多・正純&少佐
◆OSPfO9RMfA 08/01(金) 00:00:24 【B-8】 言峰綺礼&オルステッド、テンカワ・アキト&ガッツ
◆A23CJmo9LE 08/01(金) 00:00:35 【D-3】 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト&ヴォルデモート
◆F61PQYZbCw 08/01(金) 00:07:44 【?】 暁美ほむら&暁美ほむら(叛逆)
◆QyqHxdxfPY 08/01(金) 00:11:15 【B-6】 武智乙哉&吉良吉影
◆DpgFZhamPE 08/01(金) 00:19:13 【B-7】 岸波白野&エリザベート

 ※投下済み ◆MQZCGutBfo 08/01(金) 00:00:00 【A-8】 寒河江春紀&佐倉杏子、ホシノ・ルリ&キリコ・キュービィー、ルーラー(ジャンヌ・ダルク)

 間違えがあれば修正お願いします。


41 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:26:02 /X6eu1Oo0
投下乙
地形を利用する杏子、そしてそれを容赦なく破壊してくキリコ
敏捷性やキリコの世界にない魔術で翻弄し低装甲のスコープドッグを破壊
しかし炎の中から立ち上がり再びスコープドッグを展開するキリコ む せ る

あと春紀ちゃんと杏子ちゃんが姉妹みたいで可愛い


42 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:26:49 AEeL.Ob60
登場話で壊れて乗り捨てられ変わりが届くスコタコ
なんか清々しいほどにスコタコだなぁ


43 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:30:05 1Vh5n0iIO
そしてこの無傷である
宝具展開無しで無傷ってことは幸運のみの結果か


44 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:31:30 /X6eu1Oo0
倒すのは簡単だけど
殺すってなると途端に難易度上がるんだよなキリコ


45 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:33:21 Or4Z1tsw0
まさに聖杯戦争開戦という感じ
先陣切っての投下乙でした


46 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:38:56 AEeL.Ob60
>「これが……聖杯戦争、か。……ガチで戦争じゃないか」

ここまでガチな鉄臭い戦争やるのなんてキリコ入れても数名なんだよなぁ……
この後マジカルバトル勢にあったらちょっと苦戦しそうだな


47 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:41:14 s.XlHh3U0
所持金吹いたw
確かに月の聖杯戦争だとるりるりつええよなーw
どいつもこいつもらしい上にいきなりロボVS人、なのに片方は動く棺桶、もう片方は巨大な相手との戦い経験有りでバランスとれてて面白かったw


48 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:41:28 pG/PBzOY0
投下乙です。
それぞれの土地やルールへの反応、マスターとサーヴァント同士の邂逅と、聖杯戦争独特のやり取りに加え、文字通りな派手な戦闘。
そしてルーラーの存在と……、まさしく1話にしてよくわかる聖杯戦争を書ききったという感じですね。これが真っ先に投下されたのは色いろと企画の助けになると思います。

加えて、それぞれのキャラも個性が発揮されていて、次への面白いフリ。……改めて投下乙です! GJでした。


49 : 名無しさん :2014/08/01(金) 00:46:42 sD/o73LM0
投下乙です。
オカルトの極地たる魔法少女と科学の極地たるATの死闘。
互いに手の内を隠しつつも人外たるサーヴァント同士の息をもつかせぬ激戦がとてもよかったです。。

聖杯戦争の開幕を飾る素晴らしい前哨戦でした。


50 : 名無しさん :2014/08/01(金) 01:02:10 4mEogFZMO
投下乙です

まどマギがボトムズ系魔法少女言われてるだけに違和感なんてあるわけなかった。いやまあ倒してもキリがないロボとかかなり怖いけどもw


51 : 名無しさん :2014/08/01(金) 01:48:13 q36kQe/6O
投下乙です。
聖杯戦争の第一話に相応しい導入作だったと思います。
春紀さんとあんこちゃんのコンビが可愛くてすっごくいい。
ルリルリのマスター適正度もなるほどだし、スコタコキリコがまさにむせる感出ててグッドでした。
あとやっぱり貧富の差がひどいw


52 : ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:12:49 BjpP5pfw0
投下乙です!
1話目から激しい戦闘……むせる
お互いが明確に戦闘への意欲を見せて、激しいぶつかり合い
しかし、すでに言われているけど財力の圧倒的な差がwwwww

私も投下させていただきます!


53 : ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:14:37 BjpP5pfw0

「ふぁぁーふぁ……」

間の抜けた顔で大あくびをして、足立透は朝の道路をゆっくりと歩いていた。
ノリの薄いくたびれたシャツと安物のスーツ。
手には開店の早いスーパーで手に入れた食料。
乱れた髪は寝ぐせが立ち、お世辞にも立派とは言いづらい容姿。
見るからに、情けない姿だった。

「んもー、だらしないなぁ」

突然懸けられた声に、足立はキョロキョロと周囲を見渡す。
誰も居ない。
足立は首をかしげ、不意にズボンに奇妙な圧がかかった。
視線を落とす。
そこには一人の幼児が居た。
髪を綺麗に丸め、じゃがいものような頭部が明確にわかる幼児。
野原しんのすけだ。

「あれー、しんちゃん。おはよう、今から幼稚園かい?」
「そうだゾ」

思えば、ここは野原家の門前であった。
ここは自宅から職場の最短ルートの一部だ。
故に、目の前の幼児とは何度か顔を遭わせていた。
しんのすけはだらしない姿の足立を見て、やれやれだゾ、と大げさに肩を落としてみせた。

「お巡りさんがそんなんじゃ日本の未来は暗いゾ」
「しんちゃん、僕は刑事。お巡りさんじゃないよ」

どうでも良い所にツッコミを入れる足立。
しんのすけは「また屁理屈言うー」と頬をふくらませた。
足立は乱れた髪に手を当て、やはり、頼りなさ気に笑う。

「仕事したくないよねぇ、最近物騒だしさぁ。怖いよねぇ」
「おまわりさんがそんな弱虫さんじゃオラ心配で夜も眠れないゾ」
「いやいや、しんちゃん。弱虫なぐらいでちょうどいいんだよ。
 勇気勇気とか言って突っ走ったら僕達簡単に死んじゃうから。
 なにせ、相手は猟奇的な殺人犯だからね」

足立はようやく自宅へと戻れるところだった。
無駄なリアリティだと足立は吐き捨てていたが、ここでも朝帰りになるほどに仕事をしなければいけなかった。
所詮は一組の主従の暴走なのだから、警察も仕事なんてする必要がないというのに。
そう、今から幼稚園へと向かうしんのすけと違い、足立は今から自宅へと帰っていたのだ。
刑事としての仕事をいきなり辞めてしまえば怪しまれる。
先手を取ることの重要性は理解しているだけに、相手に先手を奪われるような真似は避けたかったからだ。

「困ったときはかすかべ防衛隊にお任せだゾ!
 いつでもお兄さんの力になってあげるから、どんと任せとけい!」
「春日部〜? おいおい、しんちゃん。ここは春日部なんかじゃないよ」

ヘラヘラと笑いながら、しんのすけの相手をする足立。
表向きは人の良い成人男性が知り合いの幼児を相手にしているようにしか見えないだろう。


54 : ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:16:30 BjpP5pfw0

しかし、足立の心中では唇を三日月のように大きく歪めていた。

『かすかべ防衛隊』

あまりにも限定的なワード。
怪しい。
怪しすぎる。
奇妙でなくとも、警戒をするには十分なワード。

「こらっ、しんのすけ!さっさと自転車に乗りな――――あっ、刑事さん」
「あっ、どうも奥さん」

しんのすけの母親、野原みさえ。
そう『設定』されたNPCが顔を出す。
みさえともまた足立は顔見知りだ。
頼りない刑事と思われているかもしれないが、しかし、刑事としての社会的信用は勝ち取っている。
用意された『刑事』という設定をどこまで利用するかは定めていない。
だが、やはり便利な肩書であることに間違いはなかった。

「最近物騒ですから、なるべく集団で登園できるようにしてくださいね」
「す、すいませ〜ん……」
「全く、困ったもんだぞ」
「アンタが寝坊するからいけないんでしょうが!」

そう怒鳴って自転車をこぐみさえを見送って、足立は自宅へと戻った。
背後に、不気味な存在を抱え。
遠くから、赤黒の目に見つめられながら。





マンションの入口をくぐり、面倒くさそうに近隣の人々へと挨拶を交わす。
このような近所付き合いもまた命懸けだ。
先ほど頭を下げた相手がマスターである可能性も0ではない。
つまり、おかしな行動を取れば疑いが生まれる。
なるべく、平時のように。
昼行灯の如きダメ刑事のように。
怪しまれないように振る舞わなければいけない。
足立はゆっくりと自部屋の扉を開き、後ろ手に鍵を閉めた。
そして、ふぅっと息を吐く。

「ふぅ、キャスター。マスター見つけちゃったね。
 馬鹿な糞ガキだよねー、あいつ利用しちゃおうよ、ちょうど良いよ」

スーパーで買った特売キャベツをドサリとテーブルの上に置き、背後へと振り返る。
自らの僕、同時に強大な王。
老いてなお恐怖を示す大魔王の存在を確認しようとする。
『安心』を得たいのだ。
強いものが自らの手中にあるという、安心を。
しかし、キャスターは霊体化を解きはしなかった。


55 : ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:17:04 BjpP5pfw0

「あれ、キャスター? どこ行っちゃったんだよー。
 ひょっとしてお出かけ?
 困るなー、ほうれんそうって知ってる?」

足立は軽薄な、しかし、下劣な笑みを浮かべながら自室を歩きまわる。
キャスターは、ある理由で動き回っていた。
撒き餌と言っても良い。
足立の背後にキャスターが立ち、油断なく周囲を警戒する。

「……間抜けめ」

老いたキャスターは霊体化を解き、足立の背後へと立った。
そして、背後から訪れる投擲物を自身の杖で振り払う。
牽制の、しかし、足立に直撃すれば即死へと導く死の投擲。
足立は一瞬呆け、すぐに理解する。
ベランダに、太陽の光に隠れるようにニンジャが立っていた。


「ドーモ、キャスター=サン。アサシンです」


そこには赤黒の衣装を纏ったニンジャ。
顔の下半分を覆う鉄のメンポには威圧的な「忍」「殺」の文字。
肥大した右目からセンコめいた炎が光っていた。
殺戮者のエントリーである。

「忍者のサーヴァント!?」
「尾けられおったさ、まあ、良い。
 望んでおったことだからな」
「オヌシら自身の死をか、さすがに老人は聖杯などに未練がないと見える」

アサシンとて確信を持てなかったが故の追跡だったのであろう。
NPCへの殺害は原則として禁止。
足立にしても明確な根拠があったがための追跡ではなかった。
『かすがべ防衛隊』という言葉に反応を示した際の、言語化できない違和感。
その違和感のためにアサシンは足立への尾行を行った。
結果が、足立は黒であった。
それだけのことである。

「オヌシらがマスターを殺すことは出来ぬ、その前にオヌシらが死ぬからだ。
 選べ。どちらが先に死に、どちらが後に死ぬか。
 その順通りに殺してやろう」

赤黒のアサシンの威圧的な声。
殺戮者だけが持ち得る暗黒の色をした殺意。
老いたキャスターは値踏みするように見るだけだ。
足立は気圧されながらも、口を開いた。

「なーんかあの馬鹿なガキに入れ込んでるじゃん、亡霊のくせに」
「オヌシはその馬鹿なガキへと安易に近づいた愚鈍さによってその生命を失うのだ。
 そこの死に損ないにカビの生えたハイクでも読んでもらうが良い」

赤黒のアサシンは歪つに肥大した右目を光らせる。
奥に眠るものは憎悪と狂気、アサシンの異常性そのもの。
そして、そのさらに奥に眠る測定不能のソウルを覗きこんだ。


56 : 名無しさん :2014/08/01(金) 03:19:30 AEeL.Ob60
ドーモ、アサシン=サン
シエン=ドクシャデス


57 : ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:19:41 BjpP5pfw0

足立は恐怖に侵されたために尿道が緩み僅かに失禁、下着を濡らした。
人々の深層心理へと親しい『もうひとりの自分』、仮面の名を冠する『ペルソナ』を持ったからこその反応。
赤黒のアサシンの内なるソウルの恐ろしさを通関したのだ。
安物のスーツの股間が濡れ、老いたキャスターの居城の床に尿の一滴が落ちる。
キャスターは僅かに眉を上げた。
それはアサシンの威圧行動による反応ではなく、足立の粗相を咎める動きだった。

「何度でも言おう、キャスター=サンよ。
 聖杯戦争の作法に乗っ取りオヌシを殺しに来た。
 そして、殺すのはそこの愚鈍なマスターでも私は構わん。
 いずれにせよ、オヌシは死ぬのだ」

言うが早いか手が早いか。
赤黒のアサシンは宣戦布告とも呼べぬ言葉と同時に魔力によって生成したスリケンを投げつける。
何のこともないように、バーンは右手の人差し指と中指で挟みこむようにスリケンを掴んだ。
スリケンは空中で霧散する。
アサシンの魔力で作られたスリケンにキャスターの魔力を流しこむことでスリケンという物質を分解してみせたのだ。
魔力というものへの、この世の理というものへの理解では老いたキャスターが圧倒的に上回っている。

「……」
「なかなかに悪くない腕前だ。しかも、恐らくは単独行動スキル持ち、理想的と言えよう」
「オヌシの殺害相手にか」
「殺せると思うのか、余を?
 そのようなアワレな魔力で」
「一考の余地もなし、ニンジャ殺すべし」

アサシンの鋭いカラテが走る。
一撃が必殺のカラテは、しかし、キャスターの愛杖によって防がれる。
膨大な魔力を消耗するキャスターの宝具『光魔の杖』。
魔力を光へと変換し、光刃として杖を剣へと変える宝具。
キャスターの測定すら不能である莫大な魔力を持って行われたその剣は並のセイバーの宝具すらも勝る。

「イヤーッ!」

アサシンがカラテシャウトともに放った右ストレート。
キャスターは光魔の杖をアサシンの右手首へと忍ばせ、力を込めることで右ストレートの軌道をずらす。
そして、隙間の生じた腹部へと光魔の杖による打撃を行った。

「ムゥー!」

カラテの交錯によって、アサシンはキャスターのカラテのワザマエを痛感する。
ただの巨大な刃ではない、キャスター自身のカラテも相当なものだ。
アサシンの内なるソウルが叫ぶ。
上物という興奮と、現在のマスターの魔力供給の元では戦いにすらならぬ敵であると。

『フジキドよ、此奴の太刀筋、既視感がある』
「……」

内なるソウル――――ナラク・ニンジャ。
幾多の存在を殺し続けてきたナラク・ニンジャはその莫大な記憶から類似する存在を導き出す。

『持久戦に持ち込むべし、恐らくあれは異常なまでにカラテを必要とする。
 放っておけば勝手に自滅する代物よ。
 しかし、今の途方も無い弱さのオヌシではその持久戦すら無理であろう。
 ゆえに!ワシに変われ!
 ……と、言いたいところじゃが、それもまた困難。
 カラテのカの字も持たぬマスターに入れ込むオヌシの目を覆う惰弱な人間性を呪わざるを得ん』
「何が言いたい、ナラク」
『離脱すべし、もしくは宝具を使用すべし。
 使用すれば、ワシが全てをスレイしてやろう』


58 : ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:20:24 BjpP5pfw0

ナラクの言葉に従う、もちろん前者の言葉にだ。
ナラク・ニンジャの解放、つまり宝具の真名解放は諸刃の剣。
いずれニンジャスレイヤーの意識を乗っ取る悪意の敵。
ナラクは恐らくマスターである野原しんのすけを殺す。
そして、現界を可能としている間に
アサシンの持つ高い単独行動スキルが裏目に出ている。
現状、アサシンの撃つべし理想的な手が存在しない。
牽制は済ました、簡単には近づいて来ないだろう。
アサシンは撤退を瞬時に決定。
前方へと警戒したまま背後のベランダから飛び降りようとする、まさにその時であった。

「赤黒のアサシンよ」
「おっ、言っちゃう、キャスター」
「……」

キャスターの重々しい言葉と、恐怖から逃れるために取り繕うような軽い言葉を放つ足立。
アサシンは無言を貫いていた。
意識を逸らせば、目の前のキャスターの光刃が襲いかかる。
ナラクはこの刃はカラテで生まれていると言った。
この莫大なカラテ量から放たれる、宝具に依存しないユニーク・ジツはいかなるものか。
警戒を緩めれば死が待つ。
油断なくジュー・ジツの構えを撮り続ける。

「手を組まんか、正式には休戦協定よ」
「……」
「目をやろう、監視の目だ。
 キャスターでもなく魔術師でもないアサシンでは持ち得ぬものだろう。
 マスターを守るためにも、そして、他のものを殺すためにも。
 今、喉から手が出るほどに欲しいものではないか?」
「……」

キャスターの言葉に、しかし、アサシンは構えを解かない。
策謀を張り巡らせることこそがキャスターの本領。
気を抜けば、死が待つのは確かなのだ。
それこそが常識外に居るサーヴァント同士のイクサなのだから。

「その代わり僕達に近づくなってこと、そして、僕達の代わりに他の奴らを殺せってこと。
 わかるでしょ? 消耗したくないんだよ、僕達」

キャスターの言葉を引き継ぎ、足立が猫なで声で語りかける。
苛立ちを募らせる声だが、単調な狙いだけに乗ることのメリットを明確に示す。
情報収集の手段を持たないアサシンには、確かに入手しておきたいものなのだ。


どうする、アサシン。

どうする。


59 : ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:20:57 BjpP5pfw0





「結局さ」

足立透は買い占めを行った日用雑貨を広げながら呟いた。
キャスターは悠然とした、威厳のある姿で椅子へと腰掛けている。
それだけで放つ威圧感に多少気圧されながら、足立は言葉を続けた。

「一番人が寄らないところってのは、他人の家なのさ。
 皆、人と関わり合いたくないんだよ。面倒だし、怖いから」

キャスターは無言、興味を抱いていないように見える。
スキルの魔物作成によって生み出したスライムが足立のマンションの中を所狭しと歩きまわる。
魔法陣を描いていた。
高層マンションの中にある足立の自室を軸に、

「表向きは友好的に装っておきながら、裏じゃ疑心の塊さ。
 それでいて嫌われていることを認めたくもないのさ。
 醜いもんだよ、くだらない」
「……」

キャスターは僅かに眉を釣り上げた。
その『くだらない人間』のために神によって太陽を奪われたのだから、当然とも言えよう。
どれだけ万能の願望器が足立とキャスターを引き合わせようとも、足立が人間である限りキャスターは足立へと好感を持つことは薄い。
奥底では、太陽を奪った相手なのだから。
よほど足立がキャスターの琴線に触れる行動を取らぬ限り、成り行きで行動を共にしている道具の域からは出ない。
しかし、足立は気付かずにネクタイを外してみせる。
そして、『悪魔の目玉』が映し出す光景を見つめた。
そこには、赤黒のニンジャと。
一人の幼稚園児が居た。

「ハハッ、こいつらどうなるのかな」

不健康なジャンクフードを噛みちぎり、一瞬、キャスターへと視線を向けた。
固い表情、相手に恐怖を与える魔王の威圧。
足立はゴクリと息を飲む。
間違いなく、『当たり』だ。

「キャスターはどう思う?
 こいつら、どんなふうになると思う?」
「所詮は自滅よ」

バーンは重い口を開き、アサシンのことを思う。
鋭い打ち込みを行い、地獄の炎のような歪な殺意を向けてくる英霊。
力を持ちつつも、しかし、力を持たぬ者を求めた。
そんなものの末路は何か。
力こそが全てである老いたキャスターにとって、答えは一つだ。
力の行き場を失った自滅だ。

「そうだね、こいつらは何も出来ない。
 所詮はおままごとさ。
 ブザマに死ぬ前に僕らの役に立てばいい」

足立は笑った。
釣られるように、キャスター――――大魔王バーンも笑う。
暗い自室で主のためにスライムが無表情に蠢いていた。


60 : ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:21:37 BjpP5pfw0





「おっ、忍者のおじさん!」

物陰からアサシンは手招きをするように、無言でしんのすけを呼ぶ。
そのアサシンの姿を見たアサシンは入りかけた幼稚園のクラスの扉の前から離れ、すぐさま幼稚園舎の裏へと向かった。
しんのすけは気づいていないが、背後には不気味な目玉が浮かんでいた。
さながら、アサシンの歪な右目のごとく。
そのことを考え、アサシンの重苦しい空気がさらにどんよりと濁った。

「とーちゃんもかーちゃんもおじさんのこと全然気づかないし、忍者ってやっぱり凄いゾ!」
「マスター」
「おじさん、オラはしんのすけだぞ」
「……しんのすけ」

赤黒のアサシンは膝をつき、しんのすけと目線の高さを合わせた。
肥大した瞳と通常の優しげな瞳がしんのすけの瞳と交錯する。
アサシンの怒りは、しんのすけへと向かわない。
アサシンの怒りは常に略奪者へと向けられる。
聖杯戦争というものを理解すらしていないしんのすけがこの場に存在するという理不尽への怒り。
全てを奪うものに対する、激しい怒りだ。

それは正義感によるものではない。
狂った精神が見せる、呪いのようなものだ。
略奪者の横暴は、全てを失った自身のジゴクを執拗に連想させるからだ。
それ以上の理由はない。
少なくとも、アサシン自身はそう考えている。

「私は普段は姿を見せぬ、他のものにも見えぬ」
「ニンジャだから?」
「そうだ、ニンジャだからだ。
 ニンジャは目には見えぬものだ、それで良いのだ。
 しかし、危険になれば呼べ。すぐに、ニンジャは現れる。
 ニンジャは目には見えぬがそばにいるものだ、備えるべし」

アサシンはしんのすけの腹部を、浮かび上がった令呪を指さす。
撫ではしなかった。
異常なまでに、赤黒のアサシンはモータル(一般人)との接触を拒む。
アサシンにしかわからぬ、復讐者の微妙な機微が生むものであった。

「呼ぶのだ、ニンジャを。ヘソに力を込めてな」
「わかったゾ!」
「そして、これはニンジャとの約束だ。ニンジャのことを誰にも喋ってはいかん。
 たとえ、親にもだ。しんのすけとニンジャの、二人だけの約束だ」
「約束ぅ?」
「破ればアノヨへ行く、カロン・ニンジャがオヌシのソウルを迎えに訪れるであろう」
「おお、こわいゾ……」

しんのすけが身震いをすると、アサシンは無言で姿を消した。
おぉ!と感嘆の言葉を上げるしんのすけ。
アサシンは隠れながらしんのすけが園舎に入るのを見届け、次に手に持った悪魔の目玉へと目を移した。
それはリアルタイムで映る全ての光景。
キャスター主従が渡した交換条件。
アサシンがこの『悪魔の目玉』の情報を必要とする限り、キャスターを襲わないという契約。
この情報を元に、しんのすけを監視しつつ全てのプレイヤーとサーヴァントを殺す。
場合によってはしんのすけから遠く離れることも考慮に入れる。
そうだ、これはイクサだ。
アサシンが幾度と無く行った、全てを殺すイクサなのだ。

午前八時。
赤黒のアサシン――――ニンジャスレイヤーvs全英霊のイクサが、確かに始まっていた。


61 : ザ・ムーン・イズ・ア・ハーシュ・エンペラー ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:22:11 BjpP5pfw0

【B-4/マンション個室・足立の部屋/一日目 早朝】

【名前@ペルソナ4 THE ANIMATION】
[状態]健康、微小に失禁
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]刑事としての給金(総額は不明)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1.アサシンを利用しつつ、自分たちは陣地を作成する。
[備考]
※ニンジャスレイヤーとのみ手を結びました。
※野原しんのすけをマスターと認識しました、また、自宅を把握しています。

【キャスター(大魔王バーン)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]魔力消耗(小)
[装備]光魔の杖
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1.ニンジャスレイヤーを利用しつつ、陣地を作成する。
[備考]
※ニンジャスレイヤーとのみ手を結びました。
※足立の自室を中心に高層マンションに陣地を作成しています。



【B-4/幼稚園/一日目 早朝】

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]健康
[令呪]残り三画(腹部に刻まれている)
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]無一文、NPCの親に養われている
[思考・状況]
基本行動方針:普通の生活を送る。
1.ニンジャは呼べば来る……
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。

【アサシン(ニンジャスレイヤー)@ニンジャスレイヤー】
[状態]魔力消耗(微)
[装備]なし
[道具]悪魔の目玉
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを生存させる。
1.キャスターと手を組む。
2.全サーヴァントをスレイする。
[備考]
※足立透&大魔王バーンと休戦協定を結びました。
 と言っても、ニンジャスレイヤーが『悪魔の目玉』を必要ないと判断すれば解除されるほどの口約束です。


62 : ◆FFa.GfzI16 :2014/08/01(金) 03:22:26 BjpP5pfw0
投下終了です


63 : 名無しさん :2014/08/01(金) 03:27:34 AEeL.Ob60
(※作中大言を吐いていますが足立は失禁しています)

ニンジャスレイヤー=サンとバーン=サンのカラテ・ジツによるスレイバトルは実際見事なウデマエと言う他ないが状態表で名前が名前になっていることで痛恨のミスだ


64 : 名無しさん :2014/08/01(金) 03:28:16 s.XlHh3U0
投下おつでした!
序盤の描写と言い全体の短編風味といい、日常描写できるこのロワならではで面白かったです
遺伝子的にアイエエはないと思ってたけどそれでも失禁させるとはさすがニンジャ
ペルソナ使いだからこそ内側のナラク見抜いてたり思わぬ決着になったり、着々と工房が作られてたりと楽しかったです


65 : 名無しさん :2014/08/01(金) 03:33:39 1WgdWnR20
ドーモ、書き手=サン。読み手です。
奥ゆかしさ満天のSS投下アリガトドスエ!
バーン様の最初の同盟はニンジャとなったか。
同盟っていうより不可侵条約に近いけど


66 : 名無しさん :2014/08/01(金) 03:58:27 cGAsmZxE0
投下乙です
聖杯戦争である事すら気づかず生活してるしんのすけという(このロワならではの)平和な光景と
他の三人とのギャップがスゴい話でした...w
着々と工房を作るバーン様怖いなぁ


67 : 名無しさん :2014/08/01(金) 04:19:54 Or4Z1tsw0
ドーモ、書き手さんトーカ乙デス!
歴戦のニンジャと底知れない大魔王
渋い、いぶし銀なバトルでした
あと足立、足下掬われないようにな


68 : 名無しさん :2014/08/01(金) 04:31:08 4mEogFZMO
投下乙=デス

マスターの認識が足りないのはお互い様なんだよなぁ。どう考えてもこの鯖=サン二人を出し抜けやしないだろw


69 : 名無しさん :2014/08/01(金) 06:24:22 BBLCK8CM0
投下乙です!
やっぱりフジキド魔力が足りないか……
バーンさまも着々と陣地を作ってるし、これからの動向が怖いなあ


70 : 名無しさん :2014/08/01(金) 06:26:26 Jc6tASCE0
投下ご苦労様=デス

鯖=サンとマスター=サンの交流がよく描かれててスゴイ級だと思いました


71 : 名無しさん :2014/08/01(金) 06:37:04 1Vh5n0iIO
日常生活を送りつつもマスターを無事に守らなきゃいけないなんて
難易度高いぜニンジャ=サン


72 : 名無しさん :2014/08/01(金) 08:28:39 /l7CRZDY0
投下乙です。

バーン様組とニンジャ=サンの不可侵条約がどうなっていくのか楽しみ。
陣地作成で引きこもり、ニンジャ動きまわらせて情報収集。正しくキャスター戦術なバーン様が好みです。
足立の小物感を出しつつも、マスターの魔力量という点でのサーヴァントの優位性は大きいですよね。
そして、ちゃんとしんちゃんの目線に合わせる忍殺さんがかっこ良かったです。


73 : 名無しさん :2014/08/01(金) 08:35:48 G.aOcbbwO
投下乙!
安定のバトウ・ジツを堪能させて頂きました。だがやっぱり魔力が追い付かんか。
そして何も知らぬしんのすけにも聖杯戦争は忍び寄る…
しんのすけはもちろんNPCみさえの無事を祈りたい。

しかし誤字に関してはミラーシェード=サンのケジメ案件では?


74 : 名無しさん :2014/08/01(金) 08:44:53 XWGjvBx20
投下乙
ちょっとだらしないお巡りさんって設定だし、クレしん画の足立が容易に想像できるw
実際クレしんに出てきそうだもん
だけどクレしんには決して出てこない、邪悪な人間なんだよね足立


75 : 名無しさん :2014/08/01(金) 12:20:46 s./sl8sQO
投下乙です。

「教会が危ないなら、ルーラーを誘き出せばいいじゃない」
審判をパシらせるとか、ルリルリの発想恐い。
乗ってるロボが燃えたくらいなら、宝具を使う必要も無いとか、キリコは本当に悪運強いな。

力こそ正義なバーンにとって足立は、電池くらいにしか思ってないんだろうな。
もっと魔力の高い奴見つけたら、あっさり乗り換えそう。


76 : 名無しさん :2014/08/01(金) 13:11:55 XWGjvBx20
長期戦が予想されるこの戦いで、ニンジャさんはバーン相手に消耗せずにすむ
バーン様も神殿作る時間を稼げる
悪魔の目玉も貰えるから互いに
winwinな関係だね


77 : 名無しさん :2014/08/01(金) 14:48:44 j3iv.r4Y0
投下おつかれさまドスエ!
当面は協定かー今後どう変化していくのか楽しみだ
全員媒体が違うのに脳内再生余裕な台詞回しにリアクションだった
フジキドのしんちゃんに接する時の態度と内に抱く感情が良かったです
かつて子の父親だった優しげな部分と復讐者としての影の部分が同時に出ていて


78 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:02:08 T0R0YygY0
投下乙です!
こんなすごい作品の後に自分が出るのが申し訳ないです…
投下します。


79 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:03:27 T0R0YygY0
れんげとアサシンが駆けている夜の街は田舎にはない異常な静けさを醸し出していた。
しかし、れんげは気に止めない。
彼女は周囲の建物ばかりに気を取られていた。
彼女の住む、のんびりのどなか村には決してないものに。

「夜なのにとっても明るいん……高いビルがみんな仲良く並んでるん」

チャンカチャンカと愉快そうなアサシンはそんなビルが並ぶ道をただ走るだけ。
ライオンの上にいるネズミのように、れんげはあるものに注目した。
それは崩壊したであろうビルだった。
今さっき崩壊したとは分からないだろうが、れんげは素通りしながら呟く。

「あのビルだけ可哀想なん。どうして倒れているのん?」
「れんちょんwwwwwここも誰もいないっすよーwwwww」
「都会は眠らない町じゃないんですか!?」
「眠らないwwwwwwwwそうっすねwwwwwww
 明るいだけで取り得ないけどwwwwwwwwwwwwwwwwww」

そうしてしばらくまだ移動すると、れんげの視線の先に明るい建物があった。
れんげがハッと息を飲む。

「かっちゃん!あれ!!」
「アレってなんすかーwwwwwwwwwww」
「あれはまさか!ファミリーチェーンってやつですか!?」
「うはwwwwwwれんちょんwwwお子様ランチ初体験ワロスwwwwwwwww」
「お子様ランチにピーマン入っていますか!!!」
「はいwwww入ってません!!www大体wwwwwwwww」
「…あったら、かっちゃん。食べてくれるん?」
「モチのロンですよーwwwwwいつもそうして来たじゃなーいですかーwwwww」

発見したのは24時間営業のチェーン店である。
愉快な会話を終えて二人が足を運ぼうした時、足を止めたのはれんげを肩車していたアサシンだった。
二人の前に男が一人。
不敵に笑いながら姿を現した。

黒い髪、赤い瞳、人並より褐色のない白い肌、派手な赤いコート。
なにもかもが特徴的で視線を奪う。
カッツェ並に大男の姿をした化物――アーチャーことアーカードが言う。

「生憎、我が主は食事中だ。私が相手をしよう」


80 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:05:16 T0R0YygY0
アーチャーは意気揚々と戦闘体勢であった。
一方のれんげというのは、まったくの警戒なしである。
そもそも、聖杯戦争というものを理解していない。
だからこそ彼女はアサシンに呼びかける。

「かっちゃん!降りるん!!」
「ん〜?いいっすけど、どうするんすかー?」
「話聞くん!!」
「そうでしたねーwwwwwww
 第一村人発見wwwww突撃インタビューwwwwワクテカですね!wwwwwww」

れんげがトコトコとやって来るがアーチャーは動かなかった。
というのもこれが彼のやり方だったし、クセのようなものだ。
化物であるアーチャーはたやすく化物を殺し、人間を殺すが、案外積極的ではない。
殺されたら殺すし、宣戦布告されれば戦争をする、命令されれば殺す。
それだけなのだ。

れんげは右手をゆっくりとかがげてから

「にゃんぱすー」

続けてアサシンも

「あwwwwどもwwwwにゃんぱすーwwwwwwwwwww」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「にゃん…ぱす…?」

どうにも魔術のような呪文でもないし、一見すればそれが挨拶だと分からないだろう。
アーチャーもトキョンとしていた。
れんげがアーチャーを見上げた瞬間、ただならぬ電流が走った。

「ハッ!この人!!」
「れんちょん?」




















よく見たら!
……………すんごい、カッコイイ人だのん…………


81 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:07:26 T0R0YygY0
「れんちょん?」
「……」
「れんちょーん」
「……あ!う、うち!宮内れんげ、です!!好きな食べ物はカレーと梅昆布茶で、嫌いな食べ物は…
 嫌いな食べ物ないん、です!!ないんです!!!何でも良く噛んで食べます!!!!」

顔を真っ赤にしながら熱烈な自己紹介をしたれんげにアーチャーは沈黙していたが
水を差すようにアサシンが

「嘘でーすwwwwwwれんちょん、ピーマン嫌いでーすwwwwwwww」
「う、嘘じゃないのん!」
「嘘乙wwwwwwれんちょんのピーマン、ミィが食べてあげてまーすwwwwwww」
「嘘じゃないのん!う、嘘じゃないのん!!うう、かっちゃんのイジワルん!!!」
「嘘乙www嘘乙wwwwwwワロスワロスwwwwwwwwwww」

やかましい言い争いにアーチャーは続けていた沈黙を断ち切るかのように息を吐く。
凍てつく息の後から言葉を発した。

「闘争の空気ではないな」
「?」
「そこのお前は私と同じサーヴァントのはずだが」

ニィと口をつり上げてアサシンは聞かれてもいないのにこう答えた。

「イエース!アサシンのカッツェさん!ベルク・カッツェさん!!」

本来、真名を明かす事はサーヴァントにとっては致命的なことになりかねない。
だがあっさりと、アサシンはアーチャーの前で名乗った。
それは慢心か油断か故意か。バレても問題はなく、真名は大した意味を成さないのか。
アサシンの意図などアーチャーにとってはどうでもいい事である。
そして、アーチャーにとっても真名などどうでもよかった。

「ベルク・カッツェ。なるほど、私も例に倣おう。アーチャーのアーカードだ」

間接丁寧にアーチャーが返答すると、れんげがポカンとして。

「あ……あっちゃんって呼んでいいですか?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ところでれんげと言ったか」
「!!!!!!!!!」

再びれんげに衝撃走る!
アーチャーの発した「れんげ」というキーワードが謎のエコーを続け、れんげの中に響き渡ったのであった。
それはある意味でれんげに精神的ダメージ(?)を与えている。
高鳴る胸を抑えつつ、れんげは慌てて返事をした。

「れれれれれ、れんちょんって、よ、呼んで欲しいのん!!」


82 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:09:20 T0R0YygY0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「れんげ、聖杯戦争をしにきたのだろう?私と戦争をしにきた」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

梅干しのように赤面しながられんげは胸を押さえていた。

(人生の中で一番の強敵だのん!勝てないん!!胸が爆発しそうなん!!!)

逆にお前の人生はたかが数年程度だろう、という突っ込みをしてくれる者は残念ながらこの場に居合わせておらず。
れんげの状況は全く改善されていない。
無論、アーチャーの後半の言葉は馬の耳に念仏であった。
さすがのアーチャーも理解したのか、改めて問う。

「聖杯戦争をしにきたのだろう」
「!………せーはいせんそー……?」
「れんちょんれんちょんwwwwwそれ、ふぇすてぃばるんの正式名称ねwwwwwwwwwww」
「あっちゃんもふぇすてぃばるん参加してるん?」

アーチャーは何も語らない。
語らずともアサシンとはまた違う不敵な笑みを浮かべ、れんげは気づいていないが
すでにジリジリと『影』を揺れ動かしている。
するとアサシンが言う。

「はいwwwwここでれんちょんに問題です!!デデンwwwwwwwwwwwwww
 このふぇすてぃばるんは、どういうふぇすてぃばるんでしょーかー?wwwwwwwww
 チッチッチッチッチッチッwwwwwwwwwww」
「………ハイ!ハイ!!」
「れんちょん、答えをどうぞ!」
「かっちゃんも得意な変装を競うのん!変装ふぇすてぃばるん!!!」

これにはアーチャーだけではなくアサシンも言葉を失った。
間を開けてからのちに

「オウフwwwwwwwwwwwwwれんちょんwwwwwwwwwwwww
 ちょおまwwwwww予想外っすよーwwwwwwwwwwwwwww」
「え、違うん?」
「んーwwwwwwwwwwwwwwwwww
 ま、いっか。面白そうなのでカッツェさん変装ふぇすてぃばるんしまーすwwwwwwwwwww」

宣言した瞬間、アサシンはアーチャーの目前で『宮内れんげ』に変身したのである。
まさに瓜二つ。
双子どころではなく、髪のクセから骨格の位置、細胞の一つ一つ、指紋や声帯まで『宮内れんげ』そのものだ。
アーチャーはアサシンの能力に関心をした。
吸血鬼の目を以てしても本当に区別がつかない。
思わず溜息を漏らした。


83 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:11:37 T0R0YygY0
「ほう、素晴らしいな」

近くにいた本物の『宮内れんげ』と合流するとごちゃごちゃに入れ違う。
一見した人間であればまったく区別がつかないだろう。
この状態で

「はい!本物のれんちょんはどっちで「左」……早いんーーーーーーーーーーー!!!!」
「どうして分かったん!?なっつんもほたるんも皆かっちゃんの変装見破れなかったのん!!」
「目で追っていたからな」

バレてしまったのでアサシンは元に戻ったが子供らしい意地を持ったれんげが言う。

「次は見えないところでかっちゃん変装するん!そうすれば絶対分からないん!!」
「れんちょん、同じパターンじゃつまんなーいのでちょっと変えません?wwwwwww」
「どうするん?」
「そうっすねーwwww……たとえば」

刹那、アサシンの雰囲気が一変したのをアーチャーは見逃さなかった。
同時にアーチャーはアサシンと似たものを感じた事があると確証を得る。
しかし、それが『何か』はまるで見当がつかない。
あまりに遠く、薄れた感傷だからこそすぐに理解する事ができなかった。
ただ攻撃がくると理解する。
アーチャーが攻撃を受けようといつものように構えていた。
アサシンに体を掴まれる、否――不思議なくらいに甘い抱擁。

それからキスされるなどアーチャーには予想外だった。








ありのまま起こった事を話す……

『腹が減ったんで食事をしていたらアーカードが二人に増えていた』

何を言っているかわからねーと思うが、俺にも分からねぇ。
頭がどうにかなりそうだ。
催眠術だとか八極拳だとか、そんなんじゃなく聖杯戦争のせいだろうが。
なんというか、気味が悪い。


「だからどういうことだ…」

ジョンス・リーはこの奇怪な光景に戦慄を通り越して呆れていた。
前述の通りアーチャーが二人いる。
服装から顔立ちまで瓜二つの双子のような存在がジョンスの前にいたのだ。
夜遅い時間に何故かいる子供――れんげがジョンスに気づくと声をかける。

「そこの人!どっちが本物だと思いますかっ」
「……」


84 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:13:34 T0R0YygY0
そうだろうと思ったが本当にそういう奴…なのか……面倒だ…
面倒だしアーチャーの事なんてそんなに分からねぇし…はァ……

ジョンスにとって深く考える事は難儀である。
手っ取り早く分かる方法があれば、と自然にある事を思い出す。


――そういえば我が主、基本的にサーヴァントに物理攻撃は通用しない。私は特別だ


「なるほどな。要するにぶっ飛ばせって事か」
「え!?な、なにするん!?」
「子供のお前にも分かりやすく教えてやるよ。八極拳を」
「は……八極拳…?」

ジョンスは臨戦態勢をとった。
腰を低く落とし、右手は軽く前に出して左手は引く。
独特なフォームと威圧感に子供のれんげにも何か起こることは一目瞭然であった。

さて、次はどっちを狙うかだが……

右のアーチャーは不敵に笑う。
まるで攻撃されるのを望むかのような瞳でこちらを見つめている。
左のアーチャーも不敵に笑う。
それから――

















「キラリンッ☆」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


攻撃するまでもなかった。

「右だろ」
「すごいん!どうして分かったん!?今度は入れ替わるところ見せてないん!!」
「いや、明らかにおかしいだろが。左」
「れんちょん分かりませんでした…」

一方で偽物のアーチャーがジョンスの前で変身を解いていた。
その姿はアーチャー並の長身、モジャモジャのクセが強そうな長い赤髪、耳まで裂けそうなニタリと笑う口。
まるで不思議な国にいる猫を思わせる派手な容姿に、ジョンスは少しだけ顔をしかめる。
本物のアーチャーは悠々とジョンスのところへ戻り。

「我が主、サーヴァントだがどうする?」
「…まさか」

あの子供…


85 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:15:49 T0R0YygY0
ジョンスは溜息をついた。
聖杯戦争なんて名ばかりでまさか子供がいるだなんて。
いや、子供にしても戦える子供ではなく、いかにも貧弱そうな少女なのだから希望も持てない。
しかもサーヴァントの方はヘンテコリンなものだ。

「戦うつもりあるのか…?」
「あるん!かっちゃんの変装すごいん!!かっちゃんよりすごい変装できないん!」

しかも話が斜め上に飛んでいる。
ジョンスに対してアーチャーはいたって真面目に「フム」と呟いてから

「変装というのは――これでもいいのかね」

一瞬にしてアーチャーが変貌したのは以前ジョンスにも見せた無精ひげの生やした歴戦の王の姿だ。
突然の変化にれんげは理解に時間がかかった。
我に返ってから驚く。

「お、おじいちゃんになったん!?」
「まじっすかー?wwwwwwwwwwww
 あれれーwwwwwアーチャーですよねー?wwwwwwwww
 クラス詐欺してません?wwwwwwwwwwwwwww」
「でも、かっちゃん女の子にもなれるん!!!」
「女の子というのはこうかね?お嬢ちゃん」

次にはジョンスも目を疑った。
アーチャーの姿は白い衣服を纏い、白いロシアン帽をかぶる、ロングヘアーの少女に変貌したのだから。
先ほどの男よりも全くアーチャーを思わせない姿に脱帽するしかない。
れんげも呆気に取られている。

「女の子になったんー!!!!!!」
「ははは!要するに引き分けってところさ、お嬢ちゃん。気がすんだかい?」
「ぐぬぬ」
「……おい、アーカード。お前」
「おっと我が主。この姿がお気に召したなら、この姿でいてやっても私は一方的に構わ――」
「気が狂うから早く戻れ」
「なんだつれないな」

むしろその気があったのか、とジョンスはしぶしぶ青年の姿に戻るアーチャーを見届けた。
それからアーチャーに聞く。

「ガキの遊びに付き合ってるのはなんだ」
「あちらが戦う気配を見せない」

ジョンスも思ったし、仕方ないとしてもまさか本当に戦意がないと言えるのだろうか?
たとえばサーヴァント・アサシンの方は。
アサシンは聖杯戦争を理解しているはずだ。
生と死のやり取りと、血で争う聖戦であることは知っているはずだ。
もしかしたらジョンスたちの隙を伺っているのかもしれない。
だとしたらアーチャーが何もされていないのは…少々妙な気もする。
あの時のように、あえて攻撃を受けるアーチャーのままであれば可笑しさが加速する。

シラを切らしたジョンスはキャイキャイと騒いでいるれんげたちに声をかけた。

「おい、お前ら…本気で戦うつもりはねぇのか」


86 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:17:41 T0R0YygY0
れんげは首を傾げたが、アサシン・カッツェの方はピタリと動きを止め、振り向いた。
目を覆う前髪の隙間から、不気味な瞳がジョンスを捉えている。
攻撃するのかとジョンスは体勢を取れる状態を保つ。
ニィっとアーチャーとは種類の違う笑みを浮かべてからアサシンはれんげに告げた。

「れんちょん、カッツェさん真面目なお話するけどいいっすかー?wwwwwwwwww」
「真面目なお話なん?」
「はーいwwwwwwwwww」
「…分かったん!」

れんげが落ち着きを見せたのを確認してから、アサシンは至って真面目に話しだす。

「ご無礼をお詫びします。改めて自己紹介いたしましょう。アーチャーのマスター。
 アサシンのベルク・カッツェでございます」
「…戦うつもりなのか答えろ」
「いいえございません。ミィとしては我がマスターを保護したい所存です。
 ミィにとっては我がマスターは大切な友人ですから」
「友人ねェ…」
「ですから、ミィはあなた方に協力いたします。その代わりミィのマスターを守って欲しいのです」
「……なんだと」

要するに同盟を組め、という事だ。
一応ヘラヘラとした先ほどの態度とは一変してなるべく生真面目に語っている事から
この同盟要求は本気なのだろうとジョンスにも分かる。
分かる、のだが。

なんっつーんだ、この……胸糞悪い感じは…

ジョンスが誰かと協力する事が主義ではない、のではない。
このただならぬ感覚が『何』なのか、ジョンスには分からなかった。
しかし、マスターと呼べるのは子供だ。
アサシンの言葉を疑う理由はない。
それでも……

ジョンスが思い悩んでいるとアーチャーがくくっと笑いを零した。

「お世辞はいらん。つまるところどうするつもりだ?」

静寂が訪れた。
ジョンスが反応した時には遅い。
いつの間にかアサシンはアーチャーの眼前まで来ていたのだ。
しかし攻撃することはなく、れんげには聞こえない程度の音量で面白おかしくアーチャーに囁きかけてきた。

「ミィはあなた方の望みを叶えてあげたいだけですよぉ
 闘いたぁい、殺したぁい、弄って、刺されて、轢かれて、縛られて、傷つけあって。
 血がみぁたい。真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!!…そぉでしょぉ?」


87 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:20:06 T0R0YygY0
くっくっとアーチャーはまだ笑う。
それから童謡を語るかのように話を始めた。

「ようやく思い出した。私はお前のような男を知っている。

 昔々あるところに狂った親衛隊(SS)の少佐がいた
 『不死者たちの軍隊を作ろう 不死身の軍隊を作ろう』
 膨大な血と狂気の果てにその無謀を成就しつつあった

 だが 私とある『死神』がその計画を台無しにしてやった。
 それでもなお 連中は心底あきらめなかった

 誰も彼もが彼らを忘れ去り忘れ去ろうとした
 だが連中は暗闇の底で執念深く
 確実に存在してきた
 ゆっくりとゆっくりとその枝葉を伸ばしながら」

吸血鬼の戦闘集団
不死身の人でなしの軍隊
シークフリートの再来
神話の軍勢

第三帝国 最後の敗残兵 『最後の大隊』

「あの少佐によく似ている」
「ミィをどこかの誰かと一緒にされるとちょっぴり心外ですねー
 だが断るってことっすかぁー?」
「いいや、むしろ受けて立とう。戦争は好きだ、何度だってお前のようなものは滅ぼしてやろう。
 私も楽しみだ。実に楽しみだ。…我が主はそうは思わないかもしれんが」

アーチャーはジョンスをチラリと見た。
ジョンスの表情は見えない。
が、ゆっくりと呼吸をしてから静かに口を開いた。

「なぁ…お前。お前みたいな奴が世間体でなんて言われるか……知ってるか?









 反吐の出るクズ野郎だ」





「………あ?」

アサシンはらしくない威圧の籠った声を漏らすがジョンスは止まらない。

「お前みたいなのはよォ…大概、高見の見物して人を馬鹿にして、自分は悪くねェだの余裕ぶっこいてやがる。
 つまりただの野次馬だ。本ッ当、胸糞悪い。お前みたいな典型的な奴がいるとは夢みたいだな。
 お前はあの主催者の野郎と大差ねェ」
「あのぉー!話聞いてますぅー?ミィはお前らと手を組みたいって言ってるんすけどぉー!!
 争いに来た訳じゃないんすけどぉー!!人の話聞いてますかぁー!?」
「お前こそ、俺の話聞いてたかクズ野郎」

ビキッと何かが切れる音がした。
両者の間に独特の雰囲気が流れる。
ジョンスはハッと音を発しながら身構えを取る。

「ようやく本性が出たか。いいぜ、来いよ」
「やめるん!!!」

ここで割り込んで来たのがれんげだった。
れんげはいつになく厳しい顔つきでジョンスの前に立ちはだかる。

「かっちゃん、いじめるの駄目なん!かっちゃんの悪口はうち許さないん!!」
「…」
「かっちゃんに謝るん!!」


88 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:22:44 T0R0YygY0
ゴッ

幼い少女の頭に銃口がつきつけられた。
白い銃の持ち主は言うまでもなくアーチャー・アーカード。
ジョンスもアーチャーの行動に姿勢を緩める。
アーチャーは表情一つ変えずに淡々と語りかけた。

「我が主、殺すか?」
「………」
「私は微塵の躊躇もなく 一片の後悔もなく鏖殺できる
 この私が化物だからだ
 ではお前は ジョンス・リー」
「か…かっちゃんに謝るん」

大の男が二人ともれんげの言葉にピクリともしなかった。
れんげはまるで異国に放り込まれ様な孤独感と絶望感を味わう。
アーカードの言葉はまだ続く。

「銃は私が構えよう 照準も私が定めよう
 弾を断層に入れ 遊底を引き 安全装置も私が外そう
 だが 殺すのはお前の殺意だ
 さあ どうする 命令を!!
 八極拳士、ジョンス・リー!!!」
「か…かっちゃんに……」

自分の思い通りにならなくて、れんげの瞳に涙が現れた。
だからといってアーチャーが銃を下げる事はない。
本当ならば怖くて逃げ出したい。
泣き喚きたい。
友人たちともう一度会いたい。
のんびりのどかだったあの村に帰りたい。

それでもれんげはカッツェの『友達』として必死に立ちふさがった。

「か、かっちゃんに謝るん!かっちゃんはうちの友達だのん!!」

















「止めろ」







「……」

アーチャーは信じられずに呆けていた。
ジョンスはもう一度言う。

「さっさとその物騒なものをしまえ」
「…本気でか」
「俺はいつでも本気だ」


89 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:24:54 T0R0YygY0
信じられずにアーチャーはしばらくその状態であったが、しぶしぶ銃を降ろした。
れんげは涙を浮かべたままハッとする。

「かっちゃんに謝るん!」
「あぁ、悪かった」
「あっちゃんも謝るん!」
「…そうだな」

うん!と頷いてから、れんげはアサシンに振り向いた。

「かっちゃんも謝るん!」
「えー」
「謝るん!!」

釈然としない風にアサシンはわざとらしく頭を下げた。

「あーはいはいどうもすいやせんでしたーサーセンでしたー」
「これで皆仲良しなん!!」
「…さっすがマイマスター!れんちょんカッコヨスでしたよぉwwwwwwwwwwww
 ますます好きになっちゃいましたよぉーwwwwwwwwwwwwww
 ミィたち大親友ですねぇーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「照れるんっ」

キャイキャイと騒ぎ合う二人を眺めながらジョンスは溜息をつく。

友達?親友?何がだ

ジョンスはあれほど命の危機にあったれんげを助けようともしないアサシンを見過ごしてはいなかった。

ジョンスは待っていた。
試していた。
アサシンがれんげを庇うか助けるか、何かするかどうかを。
しかし希望は砕かれた。
必死であったれんげを見下していたアサシンの姿をはっきりと捉えていた。

あのクズ野郎

「我が主、聖杯はどうする?アレを殺さないのか?」
「あの子供を殺したところで…あの野郎に勝った気にはならねェ」
「ならばサーヴァントを殺すか?」

ジョンスはもう一度溜息のような大きな息を吐くと。

「最初はそのつもりだったんだが…あの野郎……あいつは俺がブッ飛ばす……
 お前は手を出すな。俺がこの『手』で奴を倒す」
「我が主…サーヴァントは――」
「分かってる。だが、方法がねェことはねェだろ」

アーチャーは大きく目を見開いた。
ジョンスに迷いはない。

「戦争だろうがなんだろうが、奴は俺が倒す。いいな」

その姿にアーチャーは感動を覚え、やはりこの男がマスターとして選ばれた理由に確信を得た。

「そうか。やはり人間は素晴らしいな」

化物を殺すのはいつだって人間なのだ。


90 : せんそうびより ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:27:10 T0R0YygY0
【C-10/ファミリーチェーンレストラン前/一日目 黎明】

【ジョンス・リー@エアマスター】
[状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち
[令呪]残り1角
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:闘える奴とは戦う
1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す
2.れんげを殺しても意味はないので、一応保護する

【アーチャー(アーカード)@HELLSING】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う
1.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある
 しかし、ジョンス・リーの命令を優先する



「…おい、ちょっと待て」
「どうしたん?八極拳」

いきなり、れんげのネーミングセンスにジョンスはつまずいたが、あえてスルーした。

「お前、家は」
「うちの家は村にあります!」
「ここには」
「ここはうちの村じゃないん……あっ!ここってどこですか!?東京ですか!?」
「…俺も知らないが……」

ジョンスに戦慄走る。
まさかこいつ家がないんじゃ!?
もしかして一文なしでは!?
ジョンスは家こそないが、金はチンピラたちから散々貰い受けたものがあるのでいい。
しかし、まさかまさか、れんげに家がないというのは――

「何か持ってねェのか!」
「あ!あります!!」
「何が――」

「十円!!!!!!!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ちょwwwwwwえwwwwwww何?wwwwwwwwwwwwwwwww
 もしかしてミィたち家無し子ですかwwwwwwwwwwww
 まじっすかぁ?wwwwwwwwwww
 なんでミィたちだけサヴァイバル生活しているんですか?wwwwwwwwww
 ねぇ、馬鹿なの?ねぇ馬鹿なのぉー?wwwwwwwwwwwwwwwwwww」



【C-10/ファミリーチェーンレストラン前/一日目 黎明】

【ジョンス・リー@エアマスター】
[状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち
[令呪]残り1角
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:闘える奴(主にマスターの方)と戦う
1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す
2.れんげを殺しても意味はないので、一応保護する

【アーチャー(アーカード)@HELLSING】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う
1.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある
 しかし、ジョンス・リーの命令を優先する


【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]健康
[令呪]残り3角
[装備]ないん!
[道具]ないん!
[所持金]十円!!
[思考・状況]
基本行動方針:ふぇすてぃばるん!
1.あっちゃん(アーカード)と八極拳(ジョンス・リー)と友達なん!
2.変装ふぇすてぃばるん!
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。

【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!聖杯はその次。
1.ジョンス・リーたちを利用してメシウマする
[備考]
※他者への成りすましにアーカード(青年ver)が追加しました。


91 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/01(金) 15:30:09 T0R0YygY0
投下終了です。
誤字脱字等の指摘があればお願いします。


92 : 名無しさん :2014/08/01(金) 15:32:46 JoM97PMg0
投下乙です
キスシーンと女装と10円ワロタ
ギャグからのシリアスが急転直下過ぎて息切れするw
れんちょん保護してもらえて良かったな


93 : 名無しさん :2014/08/01(金) 15:48:17 rcmiKSz20
投下乙なのん!
とりあえずカッツェさんもロリカードも自重しろw
でもそこからくるシリアスシーンは見事でした、れんちょん、頼れる人と同盟組めてよかったね
そしてオチの所持金十円&ホームレスれんちょんwww


94 : 名無しさん :2014/08/01(金) 16:14:46 wD94MGFw0
かっちゃん←分かる
あっちゃん←分かる
八極拳←!?

れんちょん最悪の事態は免れたっぽいけど、同行者に旦那とジョンスが加わるとは
火薬庫かな?(すっとぼけ)


95 : 名無しさん :2014/08/01(金) 16:26:24 1WgdWnR20
投下乙
カッツェさんがいちいち面白すぎっすパないwwww
果たして八極拳さんはカッツェさんという悪意を乗り越えられるのか
やっぱ普通のロワと違って聖杯狙いが多いせいか
利用しあう同盟になる傾向になる感じだなー


96 : 名無しさん :2014/08/01(金) 17:44:37 s./sl8sQO
投下乙です。

「これは聖杯戦争ですか?」
「いいえ。変装合戦です」
「「「な、なんだってー!?」」」
かーらーのー、吐き気を催すカッツェ!

頑張れ八極拳。
中国拳法は型月において最強!


97 : 名無しさん :2014/08/01(金) 17:46:26 BBLCK8CM0
投下乙です!
おお、れんちょん保護してもらってよかった
ただ、まだまだカッツェが引っ掻き回しそうだww


98 : 名無しさん :2014/08/01(金) 19:23:57 s.XlHh3U0
投下おつ!
そうか、確かに案外HELLSINGでもヒラコーシュールギャグ多いからカッツェさんに対抗できるぞ!
ノリノリなカッツェやギャグ漫画なのんのんに普通に混ざれるアーカードぱねえw
色んな意味でジョンスはお疲れ様w


99 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:43:25 wbWb.j760
投下します


100 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:44:45 wbWb.j760

 月と街灯の弱い光が照らす夜道を、言峰綺礼は歩いていた。
 ただ夜風に当たりたかっただけではない。
 聖杯戦争が開始された。最後の一組になるまで行われるバトルロワイヤルだ。隠れ続けるのも一つの作戦だろう。
 しかし、今は身体、魔力、令呪、サーヴァント、全て万全の状態だ。今の内に情報収集を行い、敵となるマスターやサーヴァントの情報を得られれば、後々役に立つだろう。
 その為、野外に出て散策を行っているのだ。

「キレイ、一ついいだろうか」

 霊体化して同行しているセイバー、オルステッドから声を掛けられる。
 いちいち確認を取る辺り、オルステッドの律儀さや几帳面さ、あるいは融通の効かなさが垣間見れる。

「何だ?」
「ここから南西に300mの位置、公園の入り口に強い『憎悪』を感じる」
「宝具の力か」

 『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』
 オルステッドを、魔王オディオと化すセイバーの最終宝具。その完全解放は綺礼とオルステッドの全魔力、令呪三画を持ち得ても使用不可能だと言うことも聞かされている。
 そして、その宝具の一部の力を使い、負の感情や記憶に反応する能力は使用していることも。
 だが。

「それで、それがどうしたと言うのだ? それがマスターやサーヴァントとは限るまい」
「確かに、誰もが『憎しみ』と呼ばれる感情を持つ。だが、この聖杯戦争においてNPCは平凡な日常生活を行わさせられている。ここまで強い『憎悪』はマスターかサーヴァントでしかたり得ないと判断した」
「なるほど……」

 この街は聖杯戦争の為に『方舟』が用意したものだ。唐突にNPC同士が殺し合いを始め、その流れ弾でマスターが死んでしまう……等という展開は余り好ましくないはず。
 ならば、NPCが戦いの火ダネとなる強い『憎しみ』を抱いているはずはない、と言うのがオルステッドの推論である。

「一理あるな。では、そちらに向かってみよう」

 仮に推論が外れたとしても、大きなリスクはない。オルステッドの助言を聞き入れ、足を公園へと向ける。


101 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:45:43 wbWb.j760

「ところで、セイバー。その宝具でどこまで探知できる?」
「魔力のある限り、としか言えない。だが、私の魔力はそう強くない。時を超えることは無理だ。この街全てを把握しようとすれば、令呪一画分の補助は必要だと思われる」
「ふむ」

 オルステッドは生前、太古の昔からはるかなる未来まで、時代や場所の垣根を越えて『憎悪』を探り当て、力を与えたと言われる。底知れぬが、逆に大食らいな宝具とも言える。
 そして、負担にならない程度の魔力消費量で常時稼働させたときの探知範囲が300m程なのだろう。相手がアーチャーの場合、その範囲外から攻撃を仕掛けてくることも可能であるし、相手が強い『憎悪』を持ち得ているとは限らない。
 センサーとしては頼り過ぎるには、やや不安が残る。しかし、この感知能力はアドバンテージに成りうる。

「悪くはないな」

 綺礼は今後の戦略を練りながら、歩を進めた。







 『方舟』が用意した公園。それはジャングルジムや滑り台などの遊具、木製のベンチに街灯……日本の公園らしすぎる、特に意匠も無い公園だった。
 それでも日中は子供達が遊びに来るであろうそこに居たのは、黒いバイザーとマントを身につけた男だった。オルステッドが指摘するまでもなくわかる。この男が強い『憎悪』の持ち主だと。
 男は綺礼が視界に入るや否や、拳銃を突きつけた。互いの距離は公園の端と端で50mほど。一足飛びに駆けるには、やや遠い。

「マスターか?」
「……そうだ」

 男の問いに正直に答えるかどうか一瞬迷ったが、正直に答えた。その問いをすると言うことは、男は紛うことなくNPCに非ず。故に、否定したとしてもすぐにばれる薄っぺらい嘘にしかならない。


102 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:46:35 wbWb.j760
「そうか」

 独り言のように呟くと、男は躊躇いもなく拳銃の引き金を引いた。月と街灯の弱い光の下ではマズルフラッシュがよく見えた。
 オルステッドは即座に実体化すると、綺礼の前に立ち、剣を用いて銃弾を弾く。

「それがお前の英霊か」

 男は先に英霊を出させた優越感か、唇を釣り上げる。そして左手を掲げ、声高らかに宣言する。

「こい、バーサーカー!!」
「■■■――――!!」

 男の前に、咆吼をあげながらバーサーカー、ガッツが実体化する。
 鉄塊と表現する方が正しい大剣を携え、禍々しい黒の鎧を身に纏った隻腕隻眼の英霊。理性無き隻眼が、綺礼とオルステッドを睨み付ける。

「(まずい……セイバーにバーサーカーは相性が悪い)」

 懐から黒鍵を三本取り出し、刀身を具現化させながら心の中で舌打ちをする。
 即時撤退を視野に入れるが、それを指示するよりも早く、ガッツが動く。

「■■■――――!!」
「キレイ!」

 大剣を振り上げながら、猪突猛進に綺礼達に襲いかかる。綺礼達との間に障害物は無く、例えあったとしても何の障害にもならず突き進んでくるだろう。
 オルステッドが応戦するために前に出て駆ける。相性が悪いとは言え、撤退のタイミングを逃した以上、サーヴァントにはサーヴァントが応戦するしかない。
 二騎のサーヴァントは剣を交えながら、少しずつ戦場をずらしていく。

「そこだ」

 そして二人のマスターの射線が通ると、再び男は綺礼に向けて拳銃の引き金を引いた――






103 : 名無しさん :2014/08/01(金) 20:46:44 s.XlHh3U0
支援


104 : 名無しさん :2014/08/01(金) 20:47:24 QBHqIsiE0
支援


105 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:47:25 wbWb.j760



 オルステッドとガッツの相性は極めて悪い。致命的だと言っても良い。
 ひとつ、『対英雄』
 オルステッドの持つ保有スキルで、英雄的な英霊と戦う際、相手の英霊のパラメーターを1ランク下げる。これがオルステッドの持つ最大のアドバンテージの一つである。しかし、反英雄的な英霊や、狂人、悪人には効果がない。そして、ガッツは狂人だ。
 ふたつ、宝具の差。
 オルステッドは宝具として魔剣を持っている。だが、ランクがCであり、その能力も解錠、結界破壊に傾倒し、攻撃的な宝具ではない。対するガッツの『狂戦士の甲冑』 はランクBであり、攻撃を通すのも容易くない。さらに、オルステッドには防具となる宝具は無い。
 最後に、パラメーターの差。
 バーサーカーとして現界し、さらに狂化のスキルで強化されたガッツのスペックに、オルステッドは圧倒的に負けている。
 故に。

「■■■――――!!」

 オルステッドが地を這うのは、戦う前から明白であった。

「ぐっ」

 身体を起こそうとして、脱臼した左肩の痛みに顔をしかめる。鉄塊の暴風と表現すべき攻撃は全てブライオンで受けて直撃は無いものの、遊具や地面に身体を何度も叩きつけられた。身体はきしみ、金色の髪の一房が赤く染まっていく。
 対するガッツは無傷。何度か直撃を入れたが、甲冑にヒビ一つ付かない。それどころか、攻撃を通らないことを察したのか防御を捨て、全力で攻撃に費やしてきた。
 令呪でオルステッドをブーストしたところで、勝機があるかどうかも分からない。

「人の心は弱く脆い……」

 それはオルステッドが身をもって知ったこと。
 だから、折れた心の刃は脆い。
 故に。

「だが、私は信じると決めたのだ! マスターを!!」


106 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:48:00 wbWb.j760
 だからこそ、折れぬ心の刃は強いのだと。
 勝機無き相手に対しても、戦え抜けると。
 オルステッドは地を踏みしめ、剣を構えた。

「■■■――――!!」

 狂戦士は立ち上がり、戦意を見せる勇者に何も思うことなく、鉄塊を掲げるように振り上げ――

「バーサーカー!!」

 ――背を向け、駆けだした。







 黒衣の男、テンカワ・アキトは23歳だ。
 彼は妻との新婚旅行出発の際に妻と共に「火星の後継者」に拉致された。そして救出された後、彼は妻を取り返すために体術等の訓練を積んだ。厳しい訓練を血が滲むような努力を復讐心で成し遂げ、一級として使えるまでに成長した。

 しかし、それでもわずか数年。
 十年以上、聖堂教会の代行者として数々の死徒や悪魔憑き、魔術師を葬り去ってきた綺礼にとっては、付け焼き刃でしかない。

 アキトは綺礼との射線が通ると、拳銃の引き金を引いた。
 綺礼は弾丸を避けた。

「なに……?」

 その余りにも容易く行われる行為に、アキトは動揺を覚える。
 綺礼は黒鍵を手に構え、駆け出す。
 再び鳴る銃声。二発、三発。
 それをかわし、または黒鍵で受け流す。銃弾に恐れることなく、真っ直ぐアキトに向けて走る。
 綺礼の右手から黒鍵が投擲される。
 動揺が身体を支配し、避けられないと悟ったアキトはとっさに左腕で顔を庇う。
 熱さと痛みがアキトの左腕と左腿を襲う。それから即座に、綺礼の右足刀蹴りがアキトの胸に突き刺さる。突き刺さった三本の黒鍵を抜く暇も無かった。突風に煽られた枯れ葉のように吹き飛ばされていく。


107 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:48:38 wbWb.j760
「バーサーカー!!」
「■■■――――!!」

 一人では勝ち目はないと、アキトはサーヴァントを呼ぶ。
 マスターの声を受けたガッツは、オルステッドに背を向け綺礼を目指し駆けた。

「キレイ!!」

 オルステッドの声が公園の闇を切り裂く。
 意図は伝わっている。
 綺礼は後ろに下がりながら、懐から取り出した黒鍵を投擲する――足を負傷し動けぬアキトに向けて。

「■■■――――!!」

 マスターを失うとサーヴァントは現界出来ない。
 狂化を受けても主従の関係を理解しているのだろう、ガッツは自身の腕で黒鍵を防いだ。
 宝具である甲冑には黒鍵は刺さりもせず、金属音を鳴らして弾かれた。

「■■■――――!!」

 そしてガッツが来た方向から飛んできた真空波も、大剣で防いだ。
 オルステッドが放った真空の刃も、アキトを狙っている。ガッツはその方向に連装式ボウガンを放つが、当たった気配はない。
 綺礼とオルステッドは射線がちょうどVの字になるように遠距離攻撃をしつつ、距離を取って闇へと消えていく。ガッツはアキトの目の前で防衛に徹するしか無かった。
 公園には、狂戦士と黒衣の男だけが取り残された。







 綺礼は路地裏に逃げ込むと、背を壁に委ねた。まだ緊張は解かない。
 およそ数分後。霊体化したオルステッドが綺礼の元まで辿り着くと、実体化する。


108 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:49:12 wbWb.j760
「キレイ、先ほどと同じ憎悪の反応は無い。少なくとも、300m以上は離れたはずだ。もう少し魔力をつぎ込めばさらに捜索範囲を拡大できるが」
「いや、周囲に居ないと言うだけで十分だ」

 黒鍵を服に収納し、一息付く。綺礼にとって、このぐらいの戦闘は準備運動でしかない。故に、呼吸が乱れた訳ではない。
 実体化したオルステッドを目視する。
 額には裂傷、血が流れて金色の髪が一部赤く染まっている。先ほどから左の二の腕を右手で押さえている。痛むほどの傷を負ったのだろう。左肩も脱臼している。

「危ないところだった。一番会ってはいけない相手に一番最初に遭遇するとはな」
「すまない、キレイ」
「謝る必要はない。令呪の損失も無く切り抜けたのは申し分無い成果だ。それに、セイバーの感知能力を使えば、同じ相手に正面から当たることも無くなるだろう。悪くはない」

 申し訳なさそうに項垂れるオルステッドにそう言って宥める。事実、オルステッドにとっての天敵をマーク出来たのは、十分な成果である。
 もし、オルステッドが負傷した時に出会っていたら、もっと酷い損害になっていただろう。万全の時に会えたのは、不幸中の幸いだ。

「セイバーがバーサーカーをマスターから遠ざけて、時間稼ぎをしてくれたからこそだ。感謝する」

 感謝の言葉を述べると、オルステッドは澄んだ瞳で綺礼を見つめ返す。

「私はキレイ、あなたを信じると決めた。だから、その為に全力を尽くす。それだけだ」

 オルステッドのその瞳を見て、その言葉を聞いた綺礼は――



 ――私が裏切ることによってその瞳が濁ったら、どれだけ美しいことだろうか――



「……セイバー。霊体化し、身体を癒すことに専念してくれ。この状態で敵と遭遇した場合、令呪による治癒も考える」

 沸き立った感情を良識で握りつぶし、苦虫を噛みしめたような声で呟いた。
 オルステッドが霊体化したのを確認すると、歯を食いしばり、壁を殴りつけた。


109 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:50:08 wbWb.j760



【B-8/公園北の住宅街/1日目 未明】

【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]健康、魔力消費(微)
[令呪]残り三画
[装備]黒鍵
[道具]特に無し。
[所持金]質素
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.オルステッドが治癒するまで身を潜める。
2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。
[備考]
・バーサーカー(ガッツ)のパラメーター及び宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を確認済み。

【セイバー(オルステッド)@LIVE A LIVE】
[状態]額裂傷、左腕二の腕の骨にヒビ、左肩脱臼、全身打撲、魔力消費(微)
[装備]『魔王、山を往く(ブライオン)』
[道具]特になし。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:綺礼の指示に従い、綺礼が己の中の魔王に打ち勝てるか見届ける。
1.霊体化し、治癒に専念する。
[備考]
・半径300m以内に存在する『憎悪』を宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』にて感知している。
・アキトの『憎悪』を特定済み。






110 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:51:03 wbWb.j760
 公園から少し離れた草むらの中で、アキトは身を潜めていた。
 左腕と左腿に刺さった黒鍵を抜くと、予めコンビニから手に入れたガーゼを当て、包帯を巻く。
 ガッツは手伝ってくれない。一人で行った。

「……」

 無言で地面を殴りつける。
 アキトは怒りを覚えていた。
 綺礼とオルステッドにではない。
 自分にだ。

 先の戦闘は勝てた戦いだった。
 『慢心』と『出し惜しみ』。その二つで痛み分けという結果になった。

 一つ、己より強いマスターが居ないと過信してたこと。拳銃と体術、そのアドバンテージがあるからと慢心していた。
 二つ、道具の出し惜しみしていたこと。
 拳銃はNPC時代に手に入れたCZ75B。アキトからすれば骨董品だが、使用には問題がない。しかし、替えのマガジンが無く、現在装弾されている10発しか無い。コンビニでは売ってないので、どこかで手に入れなくてはやや不安が残る。
 そしてもう一つ、温存していた物がある。ズボンのポケットに手を入れて、中に入れてあったものを取り出す。


 ――チューリップクリスタル。


 テンカワ・アキトはA級ジャンパーである。
 A級ジャンパーとは、生身でボソンジャンプが行える人間のことである。
 ボソンジャンプとは一種の瞬間移動、正確には時空間移動のことで、その為には演算ユニットとチューリップクリスタルが必要である。
 演算ユニットは手元になくても、『方舟』の外であっても、『どこか』に存在すればいい。そして、演算ユニットが『どこか』にあることは確認済みである。
 チューリップクリスタルはボソンジャンプをするための消耗品である。

 平たく言うと、テンカワ・アキトは瞬間移動をすることが出来、その為に必要なチューリップクリスタルを手にしている。

 2つ。

 そう、『2つ』だけなのだ。
 こちらは銃弾のようにコンビニどころか、『方舟』の中をひっくり返しても存在するかどうか分からない。
 令呪と同等の、それ以上の切り札となりうる存在。


111 : 凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:51:35 wbWb.j760

 だが、先の戦闘で、この切り札を切れば――ボソンジャンプしてアキトが安全な所に移動し、ガッツに戦闘を任せれば、痛み分けなどという結果ではなく、勝利をもぎ取れたはずだ。
 それを『まだ序盤だから』『2つしか無いから』等と言う躊躇いと、『銃弾を避ける常人ならざるマスター』に動揺したせいで、このような結果を招いてしまったのだ。

 それがもの凄く、憎い。
 己が憎い。
 ユリカをむざむざと拉致させた自分の非力さは、今もなんら変わってはいない。
 己の中の『憎しみ』が、どす黒く、強くなっていくのを感じる。

「――」

いつの間に実体化したのか、無傷のガッツがアキトを見下ろしていた。

「大丈夫だ。今度はしくじらないさ……」

 アキトは自戒を独り言のように呟きながら、拳を強く握りしめた。





【B-8/公園/1日目 未明】

【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、疲労(小)、魔力消費(小)、強い憎しみ
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.次こそは勝利のために躊躇わない。
[備考]
・セイバー(オルステッド)のパラメーター及び宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を確認済み。
・演算ユニットの存在を確認済み。

【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]健康
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
・特になし。


112 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 20:54:15 wbWb.j760
投下終了です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。


113 : 名無しさん :2014/08/01(金) 20:54:44 s.XlHh3U0
投下おつでした
やはり狂化したまっとうな英雄は正面対決だと強いな……
綺礼は原作にオルステッドの不候補生も加わって愉悦方面に傾いていってるし
アキトはSF世界の住民だからな、そりゃ銃弾避けたりされたら溜まったものじゃないだろ
逆にバリアとかは認識してそうだけど


114 : 名無しさん :2014/08/01(金) 21:10:05 QBHqIsiE0

SF世界のアキトさんなむなむ
まだまだ戦場には魔法使いや魔法少女、神父さんとかたくさんいるんやで


115 : 名無しさん :2014/08/01(金) 21:33:20 1Vh5n0iIO
投下乙です
まさに死闘と言わざるを得ないバーサーカーこわい
言峰は銃弾効かないんだよなあw
タイマンで相手しちゃいけないマスターだわ


116 : 名無しさん :2014/08/01(金) 21:38:39 1WgdWnR20
投下乙
バーサーカーガッツ強いな。
サーヴァントとマスターのバトルどちらも楽しめた!
やはりここでも綺礼の心を動かすのはサーヴァントか
不穏なフラグも立ってこの後の展開も面白くなりそうな感じ!これが愉悦!


117 : 名無しさん :2014/08/01(金) 21:45:04 BBLCK8CM0
投下乙です!
そうか、言峰は愉悦部になる前からの参戦なんですよね
これからこの主従がどうなるのか目が離せませんね、ああ、オルステッドさん薄幸だ……

そして、ガッツ強ええ!
マスターも今回は相手が悪かったとはいえアベレージは超えてるから中々強力な主従だぜ


118 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/01(金) 22:10:05 wbWb.j760
指摘を受けたので、マスターの状態表を少し修正します。
変更点は備考の一行のみです。


【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]健康、魔力消費(微)
[令呪]残り三画
[装備]黒鍵
[道具]特に無し。
[所持金]質素
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.オルステッドが治癒するまで身を潜める。
2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。
[備考]
・バーサーカー(ガッツ)のパラメーターを確認済み。宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を目視済み。



【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、疲労(小)、魔力消費(小)、強い憎しみ
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.次こそは勝利のために躊躇わない。
[備考]
・セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
・演算ユニットの存在を確認済み。


119 : 名無しさん :2014/08/01(金) 23:17:36 cGAsmZxE0
お留守さんと展開次第じゃ綺麗な綺礼が見られる可能性も...?


120 : 名無しさん :2014/08/02(土) 00:08:30 svLkA1VEO
投下乙です。

未来の愉悦は己の悪意に打ち勝てるのか、それとも、やはり人間はオディオには勝てないのか。


121 : ◆QyqHxdxfPY :2014/08/02(土) 02:05:23 VjNFtwbE0
皆様投下乙です。
自分も投下させて頂きます


122 : 新しい朝が来た、戦争の朝だ ◆QyqHxdxfPY :2014/08/02(土) 02:06:56 VjNFtwbE0

ピピピピピピピピ。

「…んん…ん〜〜〜〜……………」

カーテンの隙間から射す日差しが顔に掛かる。
煩わしさと共に耳に入ったのは目覚ましのアラーム音。
マスターであることを感付かれない為にも学園には通わなくてはならない。
故に彼女は目覚ましと共に朝を迎える。

「…もうちょっと………もちょっとだけ……」

ピピピピピピピピ。

鳴り響くアラーム音を無視して枕に顔を埋める。
人間の三大欲求の一つを担うのは睡眠欲と言われる。
己の欲望に忠実な彼女は目覚ましを無視する。
まだ眠い。二度寝がしたい。

「んーーーーー……………」

ピピピピピピピピ。

だが、目覚ましはそんな彼女の意思など知らない。
少女を起こさんとする無慈悲なアラームが鳴り響く。

五月蝿い。
鬱陶しい。
喧しい。
寝れる筈が無い。

ピピピピピピピピ。

「……うるさー、いっ!!」

流石にイラッときた。
だらしなく振り下ろした拳が目覚ましのスイッチを叩く。
腹を括った少女は一日の始まりを受け入れたのだ。


123 : 新しい朝が来た、戦争の朝だ ◆QyqHxdxfPY :2014/08/02(土) 02:08:55 VjNFtwbE0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


―――――『7時になりました。朝のニュースです』


「…あれ?」

武智乙哉がマスターになってから初めて迎える朝。
彼女は眠気と戦いながら月海原の制服に着替え、髪を纏め、リビングへと顔を出した。
その時に彼女は気付く。リビングのテレビの電源が既に付いているのだ。
交通事故だの、殺人事件だの、ありきたりなニュースが流れている。
方舟の中でも日々の事件は現実と代わり映えがしない。
というより、誰がテレビを付けたのだろうか。
彼女はアルバイトと親からの仕送りによってこの小さなマンションで暮らしている身だ。
他に誰かが住んでいる筈は―――

いや、もう一人いた。
久しいまともな朝食の香りが乙哉の嗅覚を刺激する。

「おはよー、アサシンー」
「ああ、おはようマスター」

武智乙哉のサーヴァント、アサシンこと吉良吉影。
彼は実体化し、リビングに隣接したキッチンに向かっていた。
スーツの上からエプロンを身に着け、小慣れた手つきで朝食を作っていたのである。

「あれ、アサシンが朝ご飯作ってくれたの?」
「暇だったからな。それに、サーヴァントとて食事を楽しむことは出来る。
 不要と言えば不要だけどね。…あぁ、目玉焼きは完熟のが良かったかい?」
「いやいや、あたし半熟で大丈夫だよー♪」

さっとテーブルの上に朝食が並べられる。
よく焼き上げられたパンに野菜やハム、チーズ等を挟んだサンドイッチ。
付け合わせに半熟の目玉焼きとウインナー。
所謂パン食である。
おぉ、と感心したような表情と共に乙哉が食卓の椅子に腰掛ける。
それに続いて吉良もまた乙哉と向かい合う形で椅子に座ったが。

「…………」
「どうかしたか?」

ふと、乙哉にじっと顔を見つめられていることに気付く。
吉良は少し疑問に抱いた様子で自らのマスターに問いかける。
少しの沈黙の後、ニコッと乙哉の顔に笑みが浮かぶ。

「アサシン、なんだかお父さんみたいだねー」
「…止してくれ」

乙哉からの一言を耳にし、吉良はやや不愉快そうに言う。
なりたくもない父親になった時のことを一瞬だけ思い出した。
尤も、確かにやっていることは主夫同然ではあるが。

両手を合わせ、食事の前の挨拶を済ませた乙哉が真っ先にサンドイッチを齧る。
一口の味を楽しみ、その表情をうっとりと綻ばせる。
咀嚼と共に口の中に広がったのは紛れもない美味。
普段の適当な軽食とは違う確かな食事の味わいが彼女の味覚を満たしていた。

「………」

サンドイッチに手をつける乙哉を眺めつつ、吉良もまた朝食を取っていた。
いつも通りの食事。出勤前、毎日自分で作っていた手料理。
思えば、こういった食の楽しみは久しぶりだ。
食事を楽しめる。自分の趣味に興じれる。社会人として普通に生きられる。
そんな『当たり前の日常』こそが人間にとって最大の幸福だ。少なくとも吉良はそう考えている。
この戦争は、それを取り戻す為の闘い――――少しだけ眼を閉じた後、吉良は乙哉に声をかけた。

「さて、マスター」


124 : 新しい朝が来た、戦争の朝だ ◆QyqHxdxfPY :2014/08/02(土) 02:09:41 VjNFtwbE0

「出かける前に一つ言っておきたい。
 日中から仕掛けられる可能性は低いとは思うが…もしも出先で敵マスターと遭遇した際には、」
「んっ…『敵対は避けろ』でしょ?…ごくっ。
 そりゃあこっちが一人の時にサーヴァントでも呼ばれたらたまったものじゃないしね。
 マスターが魔術師か何かだったらもっとヤバいし。それにさ、アサシンのクラスって正面対決や護衛は苦手なんだよね?」

もぐもぐと食事を咀嚼し飲み込みながら乙哉が喋り出す。
先程までの暢気な歓談とは違う、聖杯戦争に参加するマスターとサーヴァントとしての会話だ。

「その通りだ…私の能力はマスターの守護には向いていないし、英雄と正面から渡り合える程の武勇もない。
 特にセイバー、ランサー、アーチャーの三騎士と真っ正面から戦うのは可能な限り避けたいものだ。
 …最悪のパターンは、マスター殺しに最適なアサシンに目を付けられる場合だがね」

吉良が警戒するのは外出中にマスターが狙われる場合。
NPCの被害が考慮され、敵マスターに情報が割り当てられる可能性が高い日中に仕掛けられるチームは早々いない筈だ。
しかし万が一の場合もある。何らかの策を講じている連中か、あるいは戦略も秘匿もへったくれもない連中か。
あるいはマスター自ら襲撃しに来る可能性。『日中は戦闘が起こらない』というセオリーを破る参加者がいるかもしれない。
神経質とも言える吉良の心理はそれらを少なからず危惧していた。

「ま、どっちにせよあたしはサーヴァントは専門外。マスター相手も魔術師だったら厳しそうだねー。
 もし襲われた時は令呪でも使ってアサシン呼ぶかも」
「…有事の際には可能な限り念話で連絡を頼みたいが、判断は君に任せる」
「りょーかいりょーかい、任せといて。あたしも令呪無駄遣いしないように頑張るからさ」

最悪の場合は自らが赴くことも視野に入れよう―――吉良はそう考える。
尤も、乙哉も無能ではないことは理解している。
念話によるサポートも行うつもりではあるが、単身の彼女が上手く立ち回ってくれることも信じていた。
そうして他愛の無い日常会話の様に、二人は最低限の方針について語り合う。

暫しの時間の後に朝食を平らげ、一通りの身支度も終えた乙哉は玄関の前へと立つ。
そのまま懐から取り出した手の甲の令呪を隠す為の指ぬきグローブを着用。
何故指ぬきなのかと言うと「手袋よりハサミや携帯が扱いやすいから」とのことだ。
グローブを嵌めた後に足下の通学鞄を拾って肩にかけ、革靴を履き始める。

「詳しい会議は君が帰宅してからだ。登下校の際や学園でも警戒は怠らない様にしてくれ」
「言われなくても解って…あ、もうすぐバスの時間」

乙哉は自らの携帯を開き、現在の時刻を確認。
もうすぐ通学の為のバスが停車する時間であることに気付いたのだ。
そのせいか、少しばかり急ぐ様子を見せた。
そんな乙哉の姿を吉良は眺めていたが、不意に彼女がくるりと振り返る。
その直後、何の変哲もない『普通の学生』のようににこりと笑顔を浮かべた。


「じゃ、いってきまーすっ!」


125 : 新しい朝が来た、戦争の朝だ ◆QyqHxdxfPY :2014/08/02(土) 02:10:13 VjNFtwbE0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「………」

外出したマスターを見送った吉良は、一息吐いて宙を眺める。

(さて…)

彼が追憶するのはほんの数時間前の出来事。
昨夜―――――吉良が召還された夜、*彼はマスターと共に数名のNPCを『魂喰い』した。
己のマスターは魔術師としての能力を持たない。故に宝具の安定した運用の為には魂喰いが不可欠。
無作為に狙ったため『手』は収穫出来ていないが、後々好みの手を探し出せばいいと考えている。

(如何にルーラーの眼を盗み、魂喰いを行い続けるか…。
 私の保有スキルがあれば誤摩化すことは出来ると思うが、やはり限界もあるだろう)

魂喰いに関しての大きな問題、それはルーラーの監視だ。
少なくとも数名程の魂喰いは行えたが度を超えた殺戮はペナルティとなる。
最悪、大きな処罰も有り得るかもしれない。
如何に裁定者の監視を交い潜り、魂喰いを続けるか。
あるいは別の手段を探すか。

(それに、一体どれほどのチームが参加しているのか…どのようなサーヴァントが召還されているのか…そこも気になる所だな。
 私達は連中が潰し合っている隙に漁父の利や闇討ちを狙えばいいが、問題はその戦術がどこまで通用するかだ。
 こちらも背後から突かれる可能性はあるし、敵には歴戦の勇士や百戦錬磨の猛者も存在しているだろう。警戒しなければ…)

爪を噛みながら吉良は思考を続ける。
生前ならば『戦った所で負ける気はしない』という自負があった。
しかし此処での自分の実力は下位に位置するだろう。
これは歴戦の猛者が集う聖杯戦争。吉良は生前より異能力を持つとは言え、あくまで常人に過ぎないのだ。
故に敵への警戒は緩められない。敵の情報は自らの脚で動かぬ限り手に入らないだろう。
最低でも、現状で何人参加者がいるのか―――それは確実に知りたい。

故にルーラーによる12時の通達には必ず耳を傾けるつもりだ。
今後の行動や詳しい方針に関してもマスターが戻って以降話し合うつもりである。
積極的に動くか、消極的に潜むか、様子見か。ある程度互いに方針は固めておきたい。
それまではこの家で待機。少なくとも、偵察に赴くのは通達以降だ。

「………」

さて、暫くは少々暇になる。
これからどうしたものか――――思考を中断した吉良の視界に入ったのはテーブルの上の食器。
朝食を終え、汚れた食器が放置されている。
少しの凝視の後、吉良は己がやるべきことを決めた。

(…食器でも洗うか)

暫く適当に暇を潰していよう。
そういえば洗濯物もあっただろうか。


126 : 新しい朝が来た、戦争の朝だ ◆QyqHxdxfPY :2014/08/02(土) 02:11:41 VjNFtwbE0

【B-6(南西)/市街地/1日目 早朝】

【武智乙哉@悪魔のリドル】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]月海原学園の制服、通学鞄、指ぬきグローブ
[道具]勉強道具、ハサミ一本(いずれも通学鞄に収納)、携帯電話
[所持金]普通の学生程度(少なくとも通学には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取って「シリアルキラー保険」を獲得する。
1.他のマスターに怪しまれるのを避ける為、いつも通り月海原学園に通う。
2.有事の際にはアサシンと念話で連絡を取る。
3.可憐な女性を切り刻みたい。
[備考]
B-6南西の小さなマンションの1階で一人暮らしをしています。ハサミ用の腰ポーチは家に置いています。
バイトと仕送りによって生計を立てています。
月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。


【B-6(南西)/マンション(1F 武智乙哉の住居)/1日目 早朝】

【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。
1.暫くは家の中で適当に暇を潰す。
2.ルーラーによる12時の通達の後、今後の方針や行動を考えておく。
3.女性の美しい手を切り取りたい。
[備考]
魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。
保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。


127 : ◆QyqHxdxfPY :2014/08/02(土) 02:12:21 VjNFtwbE0
投下終了です。
誤字脱字や矛盾があれば指摘お願いします。


128 : 名無しさん :2014/08/02(土) 02:22:54 3gL//FqA0
投下乙です
あれ…………ただの…………父子家庭の団欒…………?
なんでこんなにほのぼのしてんのこの殺人鬼コンビは……w


129 : 名無しさん :2014/08/02(土) 02:23:29 JYc0bGac0
投下乙です
しんのすけもだけどパッと見平和な日常送ってるように見えるのは
このロワ特有の雰囲気ですねw
...皆裏じゃ色々考えてるけど


130 : 名無しさん :2014/08/02(土) 02:39:14 riQYns820
投下乙。日常的なパートもあるのも聖杯戦争の醍醐味だねー
エプロンスーツ姿の吉良……少しシュールw
サーヴァントになっても自分のきっちりした生活は乱れることは無いかw


131 : 名無しさん :2014/08/02(土) 02:55:48 iFI0Wgcc0
お互い、原作にはいなかった性癖晒しても引かれない同類がパートナーだもんなぁ
そら和やかな雰囲気にもなるわ


132 : 名無しさん :2014/08/02(土) 04:08:49 JPTjsl7Y0
普通に過ごす、というのが吉良の吉良の願いなのは確かだからなーw
殺人鬼の平凡な朝というすごい矛盾した光景が様になりすぎて吹いたw


133 : 名無しさん :2014/08/02(土) 05:00:48 ey/VsVCc0
投下乙です
殺人鬼二人のほのぼのいいなあww
吉良が家庭的なおとうさんに見えるぞww


134 : 名無しさん :2014/08/02(土) 05:52:05 cj0fxGLMO
完全に主夫やないかーい
殺人鬼の家庭的には普通(錯乱)


135 : 名無しさん :2014/08/02(土) 07:30:43 B7QnuFJM0
殺人鬼にだって、幸せになる権利はあるんだよ!


136 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/02(土) 23:10:32 HhXw2DBQ0
皆様投下乙です。
名作ばかりで自作の投下にかなり緊張します。
岸波白野&ランサー
衛宮切嗣&アーチャー
投下します


137 : 既視の剣 ◆DpgFZhamPE :2014/08/02(土) 23:13:13 HhXw2DBQ0
───海浜公園。
ここが、この広場の名前。
海を望む冬木市最大の公園。
水族館にバッティングセンターにと色々な施設が集まった人気のデートスポット・・・らしい。
全て通行人のNPCに聞いた情報なので、色々と不確かだが、周りの景色を見る限り間違ってはいないだろう。

「お待たせしましたー、こちら珈琲とサンドイッチになります」

こと、と音を立てて品が目の前に置かれていく。
丁寧に店員の手から置かれたのは珈琲二つに、サンドイッチ二つ。
そう、現在はカフェテラスにて朝飯の調達中なのだ。
昔は売店で簡単に麻婆豆腐を調達できたのだけど、ここではそうもいかないらしい。

「・・・なんかこれ、赤が足りないわね」

ツンツン、とサンドイッチを指先で突つくエリザベート。
本来サーヴァントは食事を必要としない筈なのだが───カフェテラスを物珍しそうに見つめる彼女を見ると、サーヴァントと食べる食事も悪くないのではないかと思えた。
何処か拠点を探し、そこで何か作って食べるという選択肢も無かった訳ではない。
凛やラニがいたのならそれも可能であっただろうが───今隣にいるのはランサー。
不用意に自炊でもしようものなら、此方が死にかけない。
誰とも会うことなくテロい飯を最期の晩餐に消えるなんて、さすがに御免だった。

「子ブタ、これからどうするの?
私の歌に聴き惚れておびき寄せたブタを叩くもよし、私の美声でリスを誘い出して叩くもよしよ!」

結果的にどちらも同じような気もするが、ランサーに急かされてとりあえず次の方針を考える。
既に一回の聖杯戦争───そしてその『裏側』の騒動───に巻き込まれたことはある。
しかし、このような形式の聖杯戦争は初めてだった。
一番最初にするべきなのは、相手・敵の情報から集めることなのかもしれない。
これは、月の聖杯戦争においても『月の裏側』においても、そしてこの場でも変わらないことだった。
ならば───

>学校に行こう
うん、サボろう

学生ならば、学校に行くべきだ。
NPCも多い学校なら襲われる可能性もグッと減るだろう。
尚且つ学校にマスターがいた場合、同盟を組めるようなマスターもいるかもしれない。
凛かラニのような人物がいれば、だが。
そこで聞いた本人のランサーは───

「え・・・ということはこれが私の記念すべき子ブタとの復活初ライブ・・・?
観客は盛大に集めないといけないわ・・・!
あ、でもスカウトされたらどうしよう、ダメよ、私には子ブタというプロデューサーが!
夢と子ブタの間で戸惑う私・・・これが、ロマンス・・・?」

───さっそく自分の世界にダイブしていたらしく、既にこちらの話など聞いてはいなかった。
・・・こんな感じで、これから大丈夫なのだろうか。


138 : 既視の剣 ◆DpgFZhamPE :2014/08/02(土) 23:14:27 HhXw2DBQ0
◆ ◆ ◆

『───マスター。
マスターとサーヴァントを発見した』

切嗣が身を隠している屋上にて辺りを見張っている弓兵からの念話。
はっきり言って、その報告は衛宮切嗣にとって意外と言う他なかった。
聖杯戦争においては情報も大切な戦力の一つになる。
真っ当な魔術師ならばまずは拠点を構え工房を作り、連日起こるであろう戦闘と攻め入られることを予想しての対処を行うはずなのだ。
それも行わずにこんな早く敵マスターを発見できるとは、思っても見なかった。
ただの間抜けか。それとも罠か。

「アーチャー。敵マスターとサーヴァントの様子、場所は」
『海浜公園のカフェテラス、どうやら朝食を摂っているようだ』
「・・・何?」
『サーヴァントも一緒に摂っているらしい。食事から魔力を得ている可能性がある。
警戒心など欠片もないようだがな』

切嗣は部屋の窓から海浜公園を覗くが、如何せん遠すぎる。
人間の視力ではとてもではないが、多くの人間の中からマスターかNPCかなどの区別はつかない。

「狙撃できそうか」
『この身は弓兵のクラス、アーチャーのサーヴァントだ。
この程度の距離は造作も無いが・・・日中堂々と戦闘を始めるのは如何なものか、マスター。
NPCや建物に多く被害を与えるとルーラーから制裁が与えられる、という話だが』

切嗣は思案する。
普段なら己の腕で狙撃も考えるのだが───突然ここに呼ばれたための、準備不足が災いする。
手元にあるのはキャリコとコンテンダー。
普段狙撃に使用しているワルサーWA2000が無い今、遠距離において切嗣ができることは何もない。
ならば。

「・・・最小の威力でマスターだけを撃ち抜け。
周りのNPCを巻き込まない様にだ、ルーラーに目をつけられても困る」
『了解した』
「・・・いや、これだけの距離と地の利があるなら、サーヴァントの出方を見るのもいいかもしれないな。
サーヴァントには牽制程度でやってくれ」

情報が少ない今───此方から動くしかない。
舞弥によるサポートもなく、用意した情報が全て無駄になった。
幸運なことにアーチャーと敵マスターの距離は随分と開いている。
成功したら成功したで、マスターを一人減らすことができる。
失敗したなら失敗したで、サーヴァントが何か動きを見せるだろう。
その動きだけでも、此方としては得るものが沢山あるのだ。
そして。
カフェテラスのような開けた場所で寛いでいるようなヤツだ、アサシンとキャスターのクラスはあり得ない。
寛いでいるところを見ると、実体化しているだけで多くの魔力を喰うバーサーカーでもないだろう。
ならばセイバー、ランサー、アーチャー、ライダーのどれか。
マスターの狙撃を防がれた場合、この4クラスのどれかだとしたら自分の得物で狙撃を防ぐ可能性が高い。
セイバーなら剣、ランサーなら槍と言った具合に。
ライダーなら逃走に自身の宝具、または調達した移動手段を使うだろう。
アーチャーなら狙撃で反撃を行う可能性もあるが───狙撃に集中した場合、マスターの安全が疎かになる。
その瞬間を狙うのみ。
成功したとしても、失敗したとしても───こちらに損害はない。
利害を見定め、有利な時のみ仕掛ける。
これが、魔術師殺し。
これが、衛宮切嗣。
長年培った判断能力は、この戦場でも大いに役に立っていた。


139 : 既視の剣 ◆DpgFZhamPE :2014/08/02(土) 23:16:01 HhXw2DBQ0
◆ ◆ ◆

───ギリギリ、と弦を引き絞る。
弓に番えたそれは、矢ではない。
無銘の剣。本来、飛ばすものですらない。
取るに足らない無銘の剣。
しかし。
錬鉄の英雄にかかれば、それは百中百発、あらゆるものにその刀身を直撃させる鏃となる。

(───さて)

衛宮切嗣が下した命令は、とても合理的なものだった。
だからこそアーチャーも余計な口は挟まない。
その判断に不備がないのなら、アーチャーもそれに従うまで。
直前まで抱えていた思考を放棄する。
聖杯のことも、切嗣のことも───今は全て後回し。
弓と剣と、そして標的だけを意識する。
イメージするのは、標的の頭蓋を寸分違わず貫く矢の軌道。

「行け───!」

ザンッ!と音を経て、明るみを増してきた空を剣が飛ぶ。
その速度は常人には捉えることはほぼ不可能。
風を切り裂き、閃光と化し、飛んで行ったその先は───





◆ ◆ ◆

「・・・」

サンドイッチを完食した後のランサーは、ずっと黙ったままだった。
顎に手を当て、何か考えるような仕草でうんうんと唸っている。
どうしたのか、と声を掛けたいが、邪魔になっては逆効果なので黙っておく。
するとハッ!と、何か思いついたような表情を浮かべるとランサーは身を乗り出すように立ち上がり、

「決めたわ」

と、真面目な顔で言い放った。
何を、と問う。

「───ええ、私に足りなかったもの・・・それは刺激よ。
他の存在の知識をあえて柔軟に取り入れることをしなかったから、ああなってしまったのよ。
そうよ、いくらブタとリスが作った低級料理とはいえ、その発想は悪くないわ。
その発想を私のアイデアに組み込めば、もっと良くなるはずなのよ」

嫌な予感がする。
脳内に赤で染まり皿に盛られた、悪魔のような物質が浮かび上がる。

「そうよ、そうと決まったら立ち止まってなんかいられないわ!
子ブタ、早速拠点探しと行くわよ!
キッチン付きの!」

ああ、視界が赤く染まる。
あの味と衝撃と、体力を9割近く持っていかれた魔の料理が復活を遂げようとしている。
失意の底に沈もうとした自分にランサーは満面の笑みで振り返り───

「今日のランチ、私が作ってあげるわ!」

───死刑宣告を言い渡された。
ああ、ごめん、名も知らぬサーヴァントよ。
君たちと生きた記憶を取り返すのは、無理かもしれない───

「子ブタ!?
え、ナニ、口から魂抜けてる!?
どどど、どうやって戻すのよこれ!?
そんなに嫌がらなくてもいいじゃない、次よ、次のは自信作なのよ!
き、きっと美味しいわ!」

ランサーの尻尾の一撃で魂が身体に戻ってくる。
ああ、死ぬかと思った。
思い返すだけであの料理は人を殺せる───それだけのテロさなのだ。
でも。
それでも。
まごころと思いだけは、確かに詰まっているランサーの料理。
だからこそ、無下にはできないのだ。
彼女の、美味しく料理を食べてほしい───その思いだけは、本当で素晴らしいものなのだから。
ならば、ここで自分が告げる言葉は・・・


もう勘弁してくれ、ランサー
>次は美味しいのをお願いす───















「───子ブタッ!伏せなさい!」

告げようとした言葉を断ち切ったのは、眼前に迫る剣の鋒だった。


140 : 既視の剣 ◆DpgFZhamPE :2014/08/02(土) 23:17:24 HhXw2DBQ0
───ガァンッ!と。
金属と金属がぶつかるような、凄まじい音が鳴り響く。
今のは、一体───?
刹那の内に出現させた槍を振り切ったランサーの周りに、カランカランと砕けた刃の破片が舞い散る。

「遠距離射撃・・・ッ!」

悔しそうに顔を顰めたランサーが呟く。
その手に持った巨大な槍は、傷一つついていない。
その姿を見て、やっと理解する。
敵襲───!!

「子ブタ!敵サーヴァントよ、多分クラスはアーチャー!
この距離じゃ、手出しが───!!」

ランサーがそう言い放った瞬間、風を切る音と共に、何かが閃光の様な曲線を描いて迫ってくる。
第、二射。

・・・いや、それだけじゃない。
閃光は一つでは終わらない。
第三射、四射、五射。
その合計四発に及ぶ閃光は、ランサーだけを狙っているものではない
まず、自分を助けるために動くランサーの足止めに三発。
そしてマスター───岸波白野を仕留めるのに一発。
完全に、こちらの動きが読まれていた。
マズい。
ランサーは己に向かってくる閃光の対処で、身動きがとれない状況だ。
人間の自分では、ランサーの守りを失った自分ではサーヴァントの射撃からは逃れられない。
ランサー、と呼びかける。
異変に気づいたランサーはなんとか戻ろうとするが───己に迫る三本の閃光に対処に精一杯だった。
一秒でも判断を誤れば、その身はあの閃光に撃ち抜かれ爆ぜるであろう、絶対絶命の危機。
一度でも判断を謝れば、ランサーと共にこの体と記憶は藻屑となり、消え去るだけ。
ああ、でも。


───この程度のことならば、何度だって切り抜けてきたはずなのだ。
「」と一緒に。
名前も姿も思い出せないけれど、確かに存在していた相棒。
今目の前にいるのは、そんな「」の前に何度も立ちはだかった強敵なのだ。
この程度の危機───力技で切り抜ける。




「───無敵モード!オン!」

次の瞬間。
全ての閃光が、ランサーの槍に叩き落とされる。
───これが、ランサーの能力の一つ。
恋愛夢想の現実逃避(セレレム・アルモディック)。
多量の魔力を使うことで、三手のみ、確実に相手の攻撃の軌道を読む技である。
宝具や相手の渾身の一撃などは読めないこともあるが───通常の攻撃ならば完全に読んでみせる。
四射中、三射の軌道さえ読めれば後はこちらのもの。
ランサーの怪力ならば、ある程度の攻撃なら薙ぎ払える。
ブンッ!とランサーの槍が線を描き、己に迫る閃光を全て砕き、叩き落とし、塵へと変える。
そのままの勢いで槍を思い切り振り回し、勢いをつけて───

「邪魔ッ!」

最後に、自分の身を貫こうとした閃光を貫き、砕く。
カランカラン、と音を経てて落ちる砕かれた刃の欠片。
───何故か。
その刃から、目が離せなかった。

「子ブタ、次の指示!」

ランサーの言葉で我に帰る。
とりあえず、次は───

>逃げよう、ランサー!
このまま戦おう、ランサー!

逃走の意思をランサーに伝える。
攻撃を耐え抜き、射撃が止んだ今こそが逃走のチャンス。
これを逃せば、次はいつになるかわからない。
引くのがそこまで不愉快なのだろうか、ランサーは苦渋に顔を歪ませながら指示に従うように後を着いてくる。
とりあえず射撃が来た方向とは逆の方向へ。
できるだけ、今の内に距離を離さなければ───!











一刻も早く、この場から離れなければならない。
───なのに、何故かこの頭は。
───あの砕けた刀身のことで一杯だった。


◆ ◆ ◆


141 : 既視の剣 ◆DpgFZhamPE :2014/08/02(土) 23:19:16 HhXw2DBQ0
『───終わったぞ、マスター」
「ご苦労、アーチャー」

狙撃を終えたアーチャーから、念話が届く。
その声に疲労はない。

「敵の情報は」
『仕留めることはできなかったが、反撃に槍を使用したのを見ると、ランサーのクラスだろう。
ドレスを着込み、角と尻尾があったが───竜の血でも入っていたのかもしれないな。
マスターの方は、見たところ普通の学生のようだ。
だが相当に場馴れしているらしい。
急な緊急事態に襲われて尚、即座に攻撃された方向を確認、逆方向に逃走するなんてのは巻き込まれた一般人にはできない行動だ』

アーチャーから渡された情報は少ないが、有益なことばかり。
こちらの姿を視認させずに、相手の姿とサーヴァントを確認できたのは中々の得だった。
アーチャーの攻撃をいともたやすく打ち落とした辺り、パワーも中々のものらしい。

「そうか。
早々に一組の情報を手に入れられたのは大きいな。
よくやったアーチャー」
『───』

アーチャーから言葉は返ってこない。
何か思うところがあるのかは知らないが───気にしている暇はない。

「行くぞ、アーチャー。
場所を移動する」
『───あ、ああ。
しかし、何処へだね?』
「不用意に動くとアサシンの格好の的になる。
早めに新しい拠点を探そう」

高い場所に拠点を作っても下から爆破されては逃げる場所すらない。
自ら逃げ道を封じる程、愚かなつもりはない。
そして『アーチャーのクラスなら狙撃を仕掛けてくるはずだ、なら見通しのいい場所に陣取るに違いない』───誰もが考えるその単純な思考そのままに動く程、切嗣は考えなしではない。

「今の狙撃を誰かに見られていた可能性もあるし、一つの場所に長く留まっては襲撃される原因にもなる。
できれば目立たないような、一軒家を拠点にしたい。
アーチャーの狙撃には不便だろうけど、まずは潜んで流れを見ないとな」
『───了解した、マスター』

アーチャーの念話が途絶える。
霊体化してこちらに向かっているのだろうか。
さて、と思考を切り替える。
目的が決まったのならグズグズしている暇はない。
フゥー、と息を吐くと共に、口に咥えた煙草の煙が宙を舞う。

「───やってみせるさ」

彼の歩む道は、ここにいる全員の血と魂を犠牲にするだろう。
───でもこれで、最後だ。
恒久的な平和の実現。
彼はこれから数十人の命を犠牲にし、全人類を救う。

鋼の意思を胸に、衛宮切嗣は歩き出す。
弱い心を押し込めるように、煙草の煙をその身に纏いながら───

◆ ◆ ◆

(───爺さん)

霊体化したアーチャーは、歩き出した切嗣の後を追っていた。
その切嗣の顔は酷く冷酷で。
彼の知る、おっちょこちょいで優しい彼とは全くの別人で。
その差が、彼の背負っている重みを如実に表している。
正義の味方。その呪い。
誰もが幸せで、笑っている世界。
そんな世界を聖杯に願うこの男。
そのためならば、衛宮切嗣はどんな非道なことでもやってのけるだろう。
切嗣の顔を確認する。
その顔は、とてもじゃないが気分の良さそうなものではなかった。

「・・・マスター」

その姿に耐えられなくて、実体化して声をかけた。

「・・・何だ」
「朝の栄養はきちんと採っておいた方がいい。
あの主従の真似事ではないが、朝飯は一日の始まりの栄養だ。
摂るものも摂らなければ、いざという時にヘマをするぞ」

まさかこんなことを言われるとは思っていなかったのか、切嗣は呆気に取られたような顔をしていた。

「気に障ったのならすまない。
どうやら小言が多いタイプらしいな、私は。
良い気持ちはしないだろうが、運が悪かったと諦めてくれ」

この男は、切嗣はいつもこうだった。
きちんとした料理よりハンバーグのようなジャンクフードが好きな人間なのだ。
気を抜いていたら、いつ不健康な食事に浸るかわかったものではない。
切嗣はアーチャーを不審がるような目で見ていたが───アーチャーとしては、心は穏やかだった。

「さて、行こうマスター。
早めに拠点を見つけて、食事は採れる時に採っておかなければな」

───ああ。
───こうして爺さんに小言を言うのも、何年振りだろうか。


142 : 既視の剣 ◆DpgFZhamPE :2014/08/02(土) 23:21:08 HhXw2DBQ0

【B-6(南西)/ビル/1日目 早朝】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]健康
[令呪]残り三角
[装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾
[道具]
[所持金]並
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を
1.新しい拠点を探す
2.出来れば移動手段(自動車など)を確保したい。
3.アーチャーに不信感
[備考]
アーチャーから岸波白野とランサー(エリザ)の外見的特徴を聞きました。
何処に移動するかは後続の方に任せます。

【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Stay night】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を
1.周囲を警戒しつつ、情報収集を。
2.爺さん───
[備考]
岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。
エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しましたが確証はありません。


143 : 既視の剣 ◆DpgFZhamPE :2014/08/02(土) 23:23:06 HhXw2DBQ0
ハッ、ハッ、ハッ───
リズム良く息を吐きながら公園の中を掛ける。
襲撃は止んだ。
遠距離射撃が飛んでくる気配もない。
ああ、危なかった。
少し何かが間違っていたら、自分は今ここにはいないだろう。
ランサーが遠距離狙撃に反応できたのも、偶然自分を注視していたからだろう。
物陰に隠れ、息を整える。
今日は学校遅刻かな、とどうでもいいことを考えてしまう。
ランサーは既に霊体化している。
戦闘の後のため、魔力を温存しようという彼女なりの気遣いなのかもしれない。
ランサーによれば、相手のクラスはおそらくアーチャー。
遠距離からの、剣を矢とした狙撃。
あんな戦法を取る者は、おそらく自分の知る中にはいない。
ああ、なのに。










───何故この心は。
───あの剣を、あの戦法を知っていると騒ぎたてるのだろうか。


【B-6(北東)/海浜公園/1日目 早朝】

【岸波白野@Fate/EXTRA CCC】
[状態]健康、疲労(小)、魔力消費(小)
[令呪]残り三角
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]普通の学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:「 」(CCC本編での自分のサーヴァント)の記憶を取り戻したい。
1.狙撃を警戒。
2.登校するつもりだったが、学校は遅刻しそうだ。
3.拠点を確保したい。
4.自分は、あのアーチャーを知っている───?
[備考]
アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による攻撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。
アーチャー(エミヤ)が行った「剣を矢として放つ攻撃」にどこか既視感を感じています。
しかしこれにより「 」がアーチャー(無銘)だと決まったわけではありません。


【ランサー(エリザベート・バートリー)@Fate/EXTRA CCC】
[状態]健康、霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:岸波白野に協力し、少しでも贖罪を。
1.撤退に屈辱感
2.拠点を確保
3.ランチを作るわ!
[備考]
アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による襲撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。
カフェテラスのサンドイッチを食したことにより、インスピレーションが湧きました。
彼女の手料理に何か変化がある・・・かもしれません。


144 : 既視の剣 ◆DpgFZhamPE :2014/08/02(土) 23:24:10 HhXw2DBQ0
投下終了です。
誤字脱字等あれば、指摘お願いします


145 : 名無しさん :2014/08/02(土) 23:28:42 cj0fxGLMO
爺さん息子に不信感抱くの早いよw
白野の元鯖はエミヤなんか
エミヤの胃が痛くなる展開ですな


146 : 名無しさん :2014/08/02(土) 23:36:54 Ifjg.guY0
投下乙です。
エミヤの家庭スキルが発動しているのか(困惑)
そして加速する不信感・・・www


147 : 名無しさん :2014/08/02(土) 23:57:41 cWCl2gyY0
投下乙です。

エミヤの狙撃きたきた。
連射してそれを防ぎ切るエリザベートも流石すぎる。
切嗣も白野もなまじ聖杯戦争の知識があるせいか、環境の差異に慣れるのが大変そうです。


148 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/03(日) 00:08:46 4HZvP3UA0
失礼します。
白野の場所を
【B-6(北東)/海浜公園/1日目 早朝】
から
【B-7(北東)/海浜公園/1日目 早朝】
そして切嗣の場所を
【B-6(南西)/ビル/1日目 早朝】
から
【B-7(南西)/ビル/1日目 早朝】
に修正します


149 : 名無しさん :2014/08/03(日) 00:20:02 1YkWcOic0
投下乙です
無銘=シロウなのかそれとも似てるだけで別鯖扱いなのか...
Extraやってないからよく分からんな


150 : 名無しさん :2014/08/03(日) 00:48:47 UAIRt8nk0
投下乙
エミヤ胃が痛くなりそうだなぁ

>>149
無銘は元のなった個人(エミヤ)は居るけどあくまで正義の味方としての概念存在らしい
だから細かい所がパワーアップしてる
エミヤは個人としてだからどっちかというとこちらがイレギュラーな方とか


151 : 名無しさん :2014/08/03(日) 00:51:27 1YkWcOic0
>>150
なるほど有難う


152 : 名無しさん :2014/08/03(日) 01:09:47 fHyG.mP60
投下乙
fate原作キャラの邂逅いいね!
両者とも原作の雰囲気出てとてもグッドでした


153 : ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:21:55 RUEvJpOc0
投下します。


154 : トモダチヒャクニンデキルカナ ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:23:45 RUEvJpOc0
朝日が照らす中、一人の男が墓標の前にたたずんでいる。墓に刻まれた名は、【トム・リドル】。男は天を仰ぎ、墓石に手をかざすと……

「コンフリンゴ〈爆発せよ〉」

杖が現れ、周囲の墓もろとも墓石を木端微塵に吹き飛ばした!そして砕けた墓石の欠片は……

「エバネスコ〈消えよ〉」

一切の痕跡も残さずに、全て世界から消失した。

(まさか、俺様のルーツがこんな形で方舟に再現されているとは。真名秘匿と生き残りに長けたこの身の弱点を突く可能性、というわけか?ルーラーめ)

通常の捜査では我が正体に気づくのは極めて難しいはずだが。キャスターのサーヴァント、ヴォルデモートは心中毒づくも

(だが、もしそうなら俺様ばかりが不利になることは調停者のサーヴァントとして行わんはず。墓だけでなく中身まで再現されているならば俺様にとっても武器になり得るものが眠っているかもしれん)

再び杖を構えるキャスター。先人への敬意?死者への冒涜?魔術師という人種が、そのなかでもとびっきり邪悪な男がそんなものに囚われることがあるだろうか。

「ディフォデ――〈堀おこ――〉」
『我が君、出立の支度が整いましてございます。……我が君?』

その瞬間に割り込んでくるマスターの念話。動かねばならん時間のようだ。
思えば時間をとられ過ぎた。
霊地を求め、放った使い魔が妙に惹かれた地点……今思えば血のつながりゆえか……再現された憎きわが父の館と、その裏手にある墓地。決して優れた霊地ではなかったが、俺様のことが他者に知られるのは何としても避けねばならんゆえ、真っ先に向かった。
町はずれの丘の上にあったため辿りつくのにも手間取った。管理していた老人を片付け、後始末をし、最低限の防備を巡らせ、俺様に辿りつく可能性を排除する。魔術的なものならば即座に探し出せるが、マグルの家系図だの名の刻まれた食器だの探知にかからぬ物ばかり。おかげで収穫など何もないに等しい。魔力供給のことを考えケイネスはさっさと寝かせたため、眠らぬサーヴァントの身でなければとても手が回らなかった。


155 : トモダチヒャクニンデキルカナ ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:24:57 RUEvJpOc0

『今いく。しばし待て』
『イエス、マイロード』

霊体化し、丘の上の館に舞い戻るキャスター。玄関前でマスター、ケイネスと合流すると

「おはようございます、我が君。朝早くからご苦労様です」
「ああ、きさまは休めたか?俺様に供給する魔力が不十分ではこの先の活動に支障をきたす」
「お心遣い感謝いたします」

実態はどうあれ、互いを気遣う言葉を交わす主従。

「出立だが少し待て」

たかだか一晩で守りが緩むわけもないが、昨晩は館中で様々な術を行使した。しばし戻らぬ可能性もある以上重ねて用心するに越したことはない。

「ブロテゴ・トタラム〈万全の守り〉、カーベ・イニミカム〈敵を警戒せよ〉、レペロ・マグルタム〈マグルを避けよ〉、レペロ・イニミカム〈敵を避けよ〉、サルビオ・ヘクシア〈呪いを避けよ〉、マフリアート〈耳塞ぎ〉、インパ―ビアス〈防火、防水せよ〉」

こんなものか。機械への対策呪文は影響するようなことをしていないから重ね掛けする必要はあるまい。最後にもう一つ……
杖を扉にあて、ぶつぶつと文言を唱える。離すと、そこから銀色の糸のようなものが伸び、その糸はキャスターの胸に吸い込まれていった。

「今のは一体……?」
「〈忠誠の術〉というものだ。秘密を守人の中に封じ込め、守人から教えられたもの以外には決してそれを知ることはできない。今この館の中にいるきさまを除くすべての者は俺様からこの館の所在を聞かない限りは、たとえ窓ガラスに鼻先を押し付けたとてこの館を認識することはできん」
「さすがです、我が君!」

賞賛の声を上げるケイネスだが、キャスターは満足、とはいかない。

(現状、確かにこの館の感知は難しいが、それだけだ。見つけてしまえば上位のサーヴァントなら容易く侵入、破壊できる。迎撃の仕掛けも何か考えねばならんな)

情報。そこに重きを置き、またこれからもそうするつもりである以上、攻勢が甘くなるのは仕方のないことだ。そのために霊地としての利便性より秘匿性を重視し、今も急いで出立しようとしているのではないか。

「それとこれをつけろ、ケイネス」

言葉と共に銀の指輪を投げて渡す。

「〈盾の指輪〉だ。昨晩作っておいた防御礼装よ」

感激に打ち震えるケイネスだが、それを無視して

「いくぞ。腕をとれ」
「はっ、失礼します」

言葉を受け左腕をとるケイネス。キャスターが杖を構え、身をひるがえすとバシッ、という音を立て二人は館から〈姿くらまし〉した。


156 : トモダチヒャクニンデキルカナ ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:25:59 RUEvJpOc0





ところ変わって、月海原学園そばの民家。そのリビングに魔術師の主従は〈姿現し〉した。

「ワームテール、食事の支度は整っているだろうな?」
「も――もちろんです、ご主人様」

ここはケイネスが方舟に与えられた仮初の家。何の変哲もない一軒家だ。霊地としても戦術的拠点としても優れているとは言えないため、別拠点の確保は必至であった。しいて利点を挙げるなら勤務地である学園に近い事か。
その台所で、頭頂部の禿げた小男――昨日、移動のついでに〈服従〉させ、召使いとしておいた――が食事の支度をしていた。卓に付き、用意された料理を眺めるケイネス。

「我が君は召し上がらないので?」
「サーヴァントに食事は不要なのは知っていよう。お前が食べた方が効率がいい」
「では、いただきます」

食事をするケイネスをよそに小男と話し始めるキャスター。

「ワームテール、何かそれらしい報は入っているか?」
「さ、昨晩港近くの商店から大量の食糧が盗まれたそうです。その近くで倉庫が火災とか。ガ、ガス爆発とかネット上では言われていますけど……」

ふむ。

「それだけか?」
「わたくしめの知る限りでは……」

序盤から積極的に動いていくのはそう多くないだろうし、この男程度ではそんなものか。昨晩聞いたら地図も持っていないというし使えん男だ。

(NPCが犯罪を働くとは考えにくい。となると、マスターか?地図を確保しだい、使い魔を放つか。建物を壊し得る敵となると工房が粉微塵にされかねん)

思索にふけるうちにケイネスが食事を終え、立ち上がる。

「我が君、そろそろ時間になります」
「うむ、いくぞ。片付けておけ、ワームテール」

歩き出すとともに自身に無言で〈目くらまし術〉をかけ、さらに霊体化して家を出るケイネスに続く。

『しかし、このようなこと必要でしょうか?聖杯戦争に集中した方がよいのでは……』

道中、問いを投げかけるケイネス。〈服従の呪文〉にかかっているにもかかわらず意見を述べるのは優れた魔術師であるゆえか、プライドの高い気性ゆえか。

『騎士ならばそれもよかろう。だが俺様は魔術師だ。戦いに準備が必要である以上先手を取られるのは何としても避けねばならん。敵が我らの情報を掴む前に、こちらが敵の情報を得ねば。そのためにも役に立たぬあの家で生活を続けているようにみせるのだ。感知されないよう一切の守りも家に施さずに』

先日の決定に反する意見であるが、丁寧に意図を述べるキャスター。

『教師はいい。俺様もかつて教師を志したが、生徒に対する影響力と権力、学校という場所とそこに集まる人から得る情報は大きな武器となる。我が軍団を組織するのにも役立つだろう』

不満げではあるが、ケイネスからそれ以上の反論はなかった。


157 : トモダチヒャクニンデキルカナ ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:27:51 RUEvJpOc0

『もう学園につきますが、我が君はどうされます?』
『基本は霊体化してお前の側にいる。襲撃がないとも限らんからな。そして隙のある者に〈開心術〉をかけ、マスターを探すことにする。だがその前に……』

霊体化を解くキャスター。それでも〈目くらまし術〉により姿は見えず、宝具により得た気配遮断スキルで気配もない。

「ホメナム・レベリオ〈人、現れよ〉」

周囲を探知する呪文を唱えると

『誰か登校してきたな、魔力は感じんが職員か?』
『確認しておきましょう』

朝早いこの時間に来ているのは一体何者か。確認のためケイネスが向かい、念のため後ろに姿を消したキャスターも続く。
見えたのは制服を着た坊主頭の男子生徒だった。

「おはよう、朝早くから感心だね?」
「ゲ、ケイネス先生……おはようございます」

相手が魔術師でないからか、どこか軽蔑を込めた言葉で話すケイネス。高飛車な教師とそれを嫌悪する生徒……ときおり見られる光景だろう。

「こんな時間から来るとはどうしたのかな?」

まだ授業開始まではかなりあるというのに、登校してきている生徒に疑念を込めた視線を送る。もしや我らのように情報を求め、人の少ない隙に学園を監視しようとしたマスターではないか。

「部活ですよ、弓道部の朝練です」

話すのも嫌だ、というように投げやりな対応をする生徒。なぜそんな目で見られているのかもわからないようだ。

「ほう、部活動。弓道部というのは盛んなのかな?」
「ええ、それなりに部員もいますし、大きい方だと……」

「インぺリオ〈服従せよ〉」

瞬間、割り込む残虐なる文言……意思を捻じ曲げ、思うままにする〈許されざる呪文〉。
周りに他に誰もいない今、蛇の如き魔術師が獲物を逃すはずはない。

「真摯に尽くす必要は無い。お前はいつも通りの生活を送っていればいいのだ。ただ周りにいつも通りになっていない人や事件はないか?それがいたらケイネス教授に相談するのだぞ」

命令を下すキャスター。それを聞いた生徒は一瞬呆けたような表情をしたが、携帯を取り出すと確認し

「TLで流れて来たんで詳細は解らないですけど、どっかの廃ビルがぶっ壊れたらしいです。あとうちの兄貴の様子がこの前大学行ってから変なんです。人の手とか露出しているところの写真送れとか変なこと言ってくるし」

他者の体の確認……おそらくは令呪の確認だろうと当たりをつけその相手への警戒心を増す。さらに、ビルの倒壊……工房が破壊されるのを恐れたか顔をしかめるケイネス。

「君の兄というのは?」

マスターの可能性のある情報をまずは聞き出そうとするが

「あれ、先生覚えてません?一昨年先生が担当した中で錯刃大学行ったのって兄貴だけですよ?」
「あ、ああ彼か」

分かるはずもない情報を提示され、不自然な、NPCでないと思われないよう頷くしかない。しかたなくもう一つの方を問う。

「ビルの倒壊というのは?」
「いや、そっちはさっきも言いましたがよく分かんないです。見てみます?」

と、手にしたスマホを渡そうとするが

「私はそういう俗なものは好かなくてね」

不機嫌にあしらう。誇り高き魔術師である身で凡百の者が扱う機器など使うつもりはないと。
親切を無碍にされた生徒もやはり不機嫌に

「ちぇっ、便利なんですよこれ。こいつがいなけりゃ俺は受験会場に辿りつけずに終わった、いわば青春の恩人ですよ」
「まて、ひょっとして地図が見れるのか?」

と、態度を180度変え、引っ手繰って見てみるも

「…む、むぅ」

彼の生きる時代の機械ですらほとんど分からないのに、未来の機械である最新のスマートフォンなど扱えるはずがない。さっぱり使い方がわからず、いつの間にやら霊体化している己がサーヴァントにちらりと視線を送るも彼もまた首を横に振る。


158 : トモダチヒャクニンデキルカナ ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:28:31 RUEvJpOc0

「あーもー、どこの地図見たいんですか?廃ビルの件じゃなくて?」

呆れながらも取り返して操作を始める生徒。対してケイネスは恐縮してみせることすらなく注文してのける。

「この町のだ。そしてその廃ビルの位置は、何となくでもいいから示せんのか?」
「だから分かりませんって……はい、この街の地図ですよ」

画質は悪いが、確かに地図を表示してみせる。ビルについて詳細が分からないと聞き、失望を露わにするが別のソースから得た情報を深化しようと試みる。

「そういえば昨晩港近くで盗みや火災があったそうだが、その場所はどこか分からんか?」
「え、なんですそれ。そんなニュース知りませんけど……港なら海辺のどっかじゃないすか?この辺?」

アバウトに海岸地帯を指し示すが、地名など分かりにくいためどこに港があるかなどは分からない。
情報の伝達に差異があるのに疑念を抱くが、監督役の規制、その隙間をつくウワサという媒体を考え思考を保留する。

「ふむ、ちなみにこの月海原学園と君の兄が通う大学はどこだ?画面が小さくて見にくい」

最後に、おそらくもっとも重要な情報を求める。

「こっちが学園で、こっちが錯刃大学っすね。あの、そろそろ部活行っていいっすか?俺、〈いつも通りの生活しなきゃいけない〉気がするんで」
「ああ、行ってよし」

情報さえ手に入れれば凡愚に用はないとばかりにおざなりな応答。
スマホをいじりながら歩き去っていく生徒「オ、アニキカラメール」が見えなくなったのを確かめると霊体化を解くキャスター。そして

「サーペンソーティア〈蛇よ、出でよ〉」

呪文を唱え蛇を杖から召還する。そしてそれに向かって奇妙なシューシューという音のような声を放つと、蛇は校外に這いずっていった。

「ひとまず我が使い魔を向かわせる」
「警戒しておくと?」
「まだわからん。マスターかもしれんし、我らのように誰かの命で動かされているかもしれんし、ただの変質者かもしれん」

確信の置けない情報にわざわざチカラの一部を割く……それを聞くと主君を気遣うように

「でしたら向かわせるまでもないのでは?すでに何体か使い魔を放たれています。余計な消耗は……」
「ケイネス、きさまこの程度の術で俺様がへばるとでも思ったか?」
「滅相もありません!」

慌てて前言を撤回する。万に一つも己が主君を疑うなどありえない、私は忠実なしもべだと示す。

「ならいい。いくぞ、遅れては話にならん」
「はっ」


159 : トモダチヒャクニンデキルカナ ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:29:32 RUEvJpOc0

校内に入り教職員室に入ると、疲れの目立つ壮年の男性教師が先に来ていた。他には……誰もいないようだ。

「おや、おはようございます、ケイネス先せ――」
「インぺリオ〈服従せよ〉」

すかさず術を掛けるキャスター。

「かわらぬ日常を送れ。ただしケイネスの協力を拒むな」

命令を受けた男がはっきりと自意識を取り戻したのを確認すると、続けて〈協力〉を求める。

「ここ数日遅刻、早退及び欠席した生徒、教職員の情報がほしい。あとこの街の地図を用意してもらいたい」

それを聞いて、朗らかに答える男。

「地図なら資料室の棚に避難訓練などのための物があるはずですよ。欠席者などは……わかりました。放課後には伝えられるでしょう」

では、と出席簿などの確認に向かう。
ケイネス達は言を受けたとおりに資料室に向かい、地図を確保。持ち帰っていいものでもないのだろうが……

「ジェミニオ〈そっくり〉」

双子の呪文でコピーを用意し置いておけばごまかせる。
そして教職員室に戻って授業の準備を整えているうちに予冷が鳴る。教職員室を出て担当する教室に向かう。そして扉を開けたそのときに

「おはよう、諸君」

HRの時間を示す始業のベルが鳴った。

【C-3/月海原学園の教室/1日目 早朝】

【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero】
[状態]健康、ただし〈服従の呪文〉にかかっている、魔力消費(微小)
[令呪]残り3画
[装備] 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)、盾の指輪
[道具]地図
[所持金]教師としての収入、クラス担任のため他の教師よりは気持ち多め?
[思考・状況]
基本行動方針:我が君の御心のままに
1.他のマスターに疑われるのを防ぐため、引き続き教師として振る舞う
2.教師としての立場を利用し、多くの生徒や教師と接触、情報収集や〈服従の呪文〉による支配を行う
[備考]
〈服従の呪文〉による洗脳が解ける様子はまだありません。
C-3、月海原学園に歩いて5分ほどの一軒家に住んでいることになっていますが、拠点はD-3の館にするつもりです。変化がないように見せるため登下校先はこの家にするつもりです。
担当する科目や学年、クラスについては後続の方にお任せします。


160 : トモダチヒャクニンデキルカナ ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:30:49 RUEvJpOc0
【キャスター(ヴォルデモート)@ハリーポッターシリーズ】
[状態]健康、魔力消費(小)
[装備] イチイの木に不死鳥の尾羽の芯の杖
[道具]盾の指輪
[所持金]ケイネスの所持金に準拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯をとる
1. 〈服従の呪文〉により手駒を増やし勝利を狙う
2. ケイネスの近くにつき、状況に応じて〈服従の呪文〉や〈開心術〉を行使する
3. ただし積極的な戦闘をするつもりはなくいざとなったら〈姿くらまし〉で主従共々館に逃げ込む
4.戦況が進んできたら工房に手を加え、もっと排他的なものにしたい

[備考]
D-3にリドルの館@ハリーポッターシリーズがあり、そこを工房(未完成)にしました。一晩かけて捜査した結果魔術的なアイテムは一切ないことが分かっています。
錯刃大学、教会、図書館、学園の周囲に使い魔の蛇を向かわせました。他にもいるかもしれません

[服従の呪文リスト]
① ケイネス
キャスターに忠誠を誓っている。上記。
② ワームテール
ケイネス及びキャスターの生活の補助、情報収集を命じている。ケイネスの近所に住んでいたNPCで、ワームテール本人ではない。肝っ玉と図体の小ささなどが似ていたためワームテールと呼んでいるだけ。洗脳して生活の補助をさせても騒ぎにならなそうなら誰でもよかった。
③ 男子生徒
いつも通りの生活を送り、何か変わったことがあったらケイネスに相談するよう命じている。弓道部所属の坊主頭の生徒。錯刃大学に通う兄の様子がおかしいことを気にかけている。
④ 壮年の教師
変わらぬ日常を送り、ケイネスの協力を拒まないことを命じている。1日目の放課後にここ数日遅刻、早退、欠席した生徒や職員についてケイネスに報告することになっている。

他にもいるかもしれません。

[使用した呪文など一部解説]

『盾の指輪』
原作においては双子のウィーズリーが盾の帽子やマントを作っていた。
軽い呪詛や銃弾くらいなら弾き返せる結界が装備車の周りに張られるが、フィンの一撃やライフル弾クラスになると破られる。サーヴァントに対しては気休めにもならない。一度破られた場合ただの指輪に戻る。
リドルの館にあった銀の食器を加工して作った。


161 : トモダチヒャクニンデキルカナ ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:31:17 RUEvJpOc0
『ブロテゴ・トタラム〈万全の守り〉』
強力な結界を張る。並の魔術師が十数人集まっても破ることはできないが、逆を言えば卓越した魔術師や強力な戦術兵器ならば突破は容易。サーヴァントなら言わずもがな。

『カーベ・イニミカム〈敵を警戒せよ〉』
敵意を持つ者が接近した場合、術者にそれを知らせる。ただし具体的な戦力、人数、位置などは分からない。

『レペロ・マグルタム〈マグルを避けよ〉』
魔力を持たない者がこの呪文をかけた物に近づくと、急用を思い出し、対象物から遠ざかるようになる。魔力以外の力をもつマスターや、なんの力もないマスターに作用するかは不明。

『レペロ・イニミカム〈敵を避けよ〉』
敵意を持つ者の侵入を防ぐ結界。また他の防衛呪文の効果を僅かながら向上させる。
侵入を防ぐものであり、攻撃を防ぐものではない。やはり強力な魔術師やサーヴァントなら侵入は可能。

『サルビオ・ヘクシア〈呪いを避けよ〉』
呪詛による攻撃を防ぐ結界。物理攻撃には一切効果はなく、また強力な呪詛ならば突破は可能。

『マフリアート〈耳塞ぎ〉』
接近すると雑音が聞こえ、中の様子を聞き取ることが出来なくなる。伸び耳や盗聴器でも同様。

『インパ―ビアス〈防火、防水せよ〉』
火、および水に耐性を得る。あくまで耐性であり無力化はできない。

『機械封じの術』
原作において呪文不明。この呪文を掛けたものはあらゆる機械に感知されなくなり、また内部で機械の使用が出来なくなる。
原作においては衛星写真やレーダーによる感知も出来なくなり、また魔術をかけたカメラでなければ範囲内では故障した。恐らく電気機器の使用が完全にできなくなるものと思われる。

『忠誠の術』
原作において呪文不明。詳細は作中のキャスターのセリフ参照。
秘密を伝えるのは直接でなくとも手紙でも可能。電子機器などを通じた伝聞で可能かは不明。
邸宅の所在地を「秘密」にする場合のみその家の住人自身が守人になることも可能。また内部の人間は、外部との境界内では〈姿くらまし〉することはできない。
守人が死亡した場合、忠誠の術は解けないが、秘密を明かされた人が全員「秘密の守人」になり、秘密漏洩の危険性が増す。

『目くらまし術』
原作において呪文不明。対象を周囲の質感・色彩に同化させ、保護色と同様の効果が得られる呪文。自身はもちろん他者や物にかけることも可能。

『サーペンソーティア〈蛇よ、出でよ〉』
蛇を召喚する呪文。視覚及び聴覚の共有ができる使い魔としての利用はもちろん、キャスターは蛇語使いのため意思疎通も可能。


162 : ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 01:33:08 RUEvJpOc0
投下完了です。
不肖の身に付き誤字脱字、および指摘などあればお願いします。


163 : 名無しさん :2014/08/03(日) 01:57:03 LNyZ00gY0
正統派キャスターらしい駆け引きや行動、そして学校の教師にケイネスを配置するなど、このロワ独特の展開に脱帽しました。
地味に機械封じの術がいやらしく、初見では機械関係に得意なマスターでは対策するのに手こずる姿が目に浮かびます。


164 : 名無しさん :2014/08/03(日) 02:02:40 sli6lOZg0
投下乙です。
お辞儀さんかなり多彩だなぁ。
対魔力持ちの三騎士に滅法弱いけど、その分上手く立ち回れば普通に強いタイプ
教師や生徒が洗脳喰らってるし、先生の監視も考えると学生マスターにとってはかなりの脅威になりそうだ


165 : 名無しさん :2014/08/03(日) 02:42:25 fHyG.mP60
投下乙
どんどんひろがるあの御方との服従の輪!
この聖杯戦争の参加者はだいたいが学生だし、
出くわしたら結構ヤバイかも


166 : 名無しさん :2014/08/03(日) 02:45:32 DfSzx2WQ0
虫女にぼっちに殺し屋に殺人鬼とかろくでもないやつばっかりなんだよなぁ……>生徒


167 : 名無しさん :2014/08/03(日) 03:19:42 R3jdPkaY0
投下乙です。
早速あの手この手と色々下準備してますね。
しっかり学校に行った乙哉と会ったりするのかな。
そう言えば吉良、同行してないな……。


168 : 名無しさん :2014/08/03(日) 03:49:55 hYp2mEDk0
投下乙〜!
多様な呪文を惜しみなく導入しまくってというのが実にキャスターしてるなーw
しかし名前をryって一人称俺様だったんだなw


169 : 名無しさん :2014/08/03(日) 03:59:35 /3R2Ulk60
原作だと老若男女問わず「I」で一人称統一されてるんだけど吾輩と共に翻訳者の犠牲になったのだ……


170 : ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/03(日) 04:21:32 6nBSSGDs0
投下乙です。
最近原作でも珍しい感じすらするキャスターらしい動きで逆に新鮮でした
学園も錯綜してきて登校時間になるとどうなるやら

自分も投下します


171 : 働け ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/03(日) 04:22:25 6nBSSGDs0
ニートの朝は遅い。

午前中、彼女はただの死体だった。物は言わないが肉だけはついている。


ニートの朝は遅い。

ん……、とかすかに吐息が漏れた。
まどろむ意識が浮上する。ねばつくような眠りから逃れ目蓋を明ける。
裸眼の、薄ぼんやりしたした世界をぼけーと彼女は眺めた。塵と本が散乱した、ぐちゃぐちゃで、適当な部屋。
窓から差し込む光はカーテン越しにもなお強く、滲む火照りが夜が当に終わっていることを告げていた。

億劫そうに手を伸ばし、彼女は枕元にある時計を引き寄せた。
丸くベルの付いたクラシックな造形の目覚まし時計。彼女にとっては時代物の映像作品にしか出てこないような骨董品だ。一回り回ってアンティークのような趣がなくもない。
が、ガワが何であろうと刻まれる時間は一緒である。時を示す短針と長針が仲良くくっついている。時計版の1の上で彼等は仲睦まじい逢瀬を繰り広げていた。
1時5分。言うまでもなく昼である。

彼女はそれを焦点の定まらない瞳で見下ろしたのち、再び布団を被った。なんだまだこんな時間じゃん。何時もよりちょっと早起きだと思った。
ニートは時に縛られない。だるんだるんの肉を縛るものはない。
そう思い彼女は温もりに埋もれた。泥のような睡魔に身を沈めた。布団に喰われて死んだ。

長針×短針とかありッスね、とか思い彼女は眠った。そうして彼女の一日は始まらなかった。


ニートの朝は遅い。

窓が赤い。夕日の存在感が膨張している。その圧迫感を彼女は無性に厭だと思った。
寝続けた結果、逆に身体が重い。そうでなくとも彼女は重いのだが、とりあえず今感じる倦怠感は睡眠のせいだと決めつける。
あーとかうーとか意味のない呻きを上げつつ、彼女は自らの贅肉を引きずった。重さに耐えかねた朗かがぎしぎしと悲鳴を上げた。嘘だ。自分はそんなに重くない。重くない。
洗面台まで行きつくとばしゃばしゃと顔を洗った。ちょっとだけさっぱりした。
顔を上げると鏡があった。ぼっさぼっさの髪はろくに手入れしていないし、たるんだ頬は肌荒れしている。何より瞳が闇に沈んでいる。汚い。こんな生活をしているからだ。
もう若くないんだから、とか思ったが、そんなことはない。まだ二十五歳(よりちょっと後ろ)だ。若い若い。

面倒なのでシャワーは浴びず、適当に着替え、そのままぼおっとすること一時間。
やりたいことがない訳ではないが、動くのも面倒だった。睡魔という奴は中々に貪欲らしく、あれだけ寝たのにまだ足りないのか駄々をこねている。
気づいたら日が沈んでいた。やば、と思うが別に何か不都合がある訳ではない。

ようやく意識が動き出したところで彼女はパソコンの前に居直った。
彼女が起きたことでそれもまた目覚める。箱がスリープモードから唸りを上げ立ち上がった。
一応この街で手に入るものとしてはハイエンド機だが、彼女からすれば旧世代のマシンもいいところだ。その動作性能に苛つくこともあるが、しかし同時に何か歴史資料めいたものを感じる。威厳だ。パソコンの威厳だ。
眼鏡をかけなおしたので視界は開けていた。でも部屋がぐちゃぐちゃで適当なのは変らなかった。

ネトゲで暴れまわり、掲示板で適当に煽り煽られ、密林サイトで散財し、お気に入りの個人サイトを巡回していると腹が減った。
が、動くのも厭だなと自分の従者を呼ぼうとしたが、そこではたと気が付いた。部屋の隅になにかある。
依頼人へ、と張り紙されたそれは菓子パンやらおにぎりやら食糧だった。おお、と彼女は歓喜の叫びをあげる。流石に気が効いている。
組んで数日だが彼女が何を欲するのか大体分かってきたのだろう。有能。実に有能。

ただ不満を上げるならば、これが明らかにコンビニフーズであること。
買い物を面倒がる彼女自身こうしたジャンクでチープなものはよくお世話になっているのだが、他人をパシらせるなら話は別である。
金はあるのだから今度はもっと良いものを買わせよう。むしゃむしゃとおにぎりをほおばりながらそう思った。


何かまた眠くなったのでまたちょっと寝る。外は真っ暗だが一応昼寝に当たるだろう。


172 : 働け ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/03(日) 04:23:43 6nBSSGDs0

そうして深夜。テレビをつけ、アニメだの何だのを実況してみる。
ディスプレイには笑を示す大量の草/wが並んでいる。が、彼女は真顔だった。真顔でAAと煽りレスを駆使して掲示板を盛り上げている。
無論片手には携帯電話がある。自演上等。これも一種のマルチタスク。何だか自分が出来る奴になった気分だった。

その後はネトゲに再ログイン。NPC時代から作ってあるアカウントである。。
みるみる強くなりドラゴンを狩っていく己のアバターを眺め、彼女はニヤリ、と不敵な笑みを浮かべた。
適当に楽しかった。展望だとか、状況だとか、そんな名のついたアレを流せるくらいには。

……NPC時代と何も変わらない日常だった。本当に何も、何も変わらない日常。

「依頼人/マスター」

――だというのにそいつは、

突然響いてきた声に彼女、ジナコ・カリギリは一瞬身をこわばらせた。心臓が跳ねるかと思った。ぞくっとした。電流は走ったが別に恋じゃない。

「お、驚かせないでくださいッスよ」

そんな胸中を取り繕い半端な笑みを浮かべながらジナコは顔を上げた。
その男は影からぬっ、と現れた。染み一つない白いコート、野太い眉、感情の読めない無表情。
サーヴァント、アサシンの威圧感にジナコは息を呑む。己の従者であることを理解していても、こうして対面すると未だに気圧されてしまう。

そもそも彼女には大人と接する機会がなかった。そうなる前に引きこもってしまった。

「な、何スか。何かあったんッスカ?」
「報告だ。深山町でいくつか動きがあった。そろそろ動き出した主従が多いらしいな」

アサシンは簡潔に述べる。その言葉に淀みも迷いも感じられない。
ジナコはあはは、と訳もなく空疎に笑った。

「べ、別にいいッスよ。そんなこと一々ジナコさんに報告しなくても……」
「目覚めてから数日、今までは動きもなく平穏と言えば平穏だったが、そろそろ本格的に始まるようだ」

何が、とは尋ねることができなかった。思い出したくもなかったし、考えるのなんて絶対に厭だった。

「忠告をしておこうと思ってな。前にも言ったがおいそれと出歩くな。特に夜の外出は控えろ。
 食糧やその他雑貨は俺が調達しよう」

淡々と降りそそぐアサシンの言葉にジナコは耳を塞ぎたい気分だった。
ネットで煽り合っていたかった。早く布団を被りたかった。
そういう具体的で実利的なことを考えるのを、ここ数年彼女は常に忌避していた。

だが、アサシンに逆らって黙れと言う気概もない。
だからジナコは「自分からパシリ申し出てくれるんスか! 流石は出来るサーヴァントっス」なんて精一杯茶化して見せた。

「この有能さ、鋭い眼光、見るからにカタギでない雰囲気。
 やっぱりゴルゴさんはアサシンなんて地味なクラスじゃないッス!
 ……というかこんなオーラのあるアサシンとかあり得ないっていうか」
「………」
「ボクのサーヴァントはそう、特別製。極道の英霊、“ヤクザ”ッス!」
「………」
「い、いやぁ……流石はヤクザ。義理硬いッス」

しかし、アサシンは眉一つ動かさない。
無言のまま彼は佇んでいる。彼にとってこれは“仕事”なのだろう。ジナコにはついぞ縁のなかった言葉だった。

しん、と部屋が静まり返る。同人誌やゲームの山の中、ジナコはアサシンに見下ろされていた。
会話はない。何と言えばいいのか分からなかった。本音を言えば、さっさと出て行って欲しかった。
刺しっぱなしになっていたイヤホンから雑音が漏れてきた。そのかすれた音は、何だか泣き声みたいだった。

「じゃ、じゃあボク寝るっすね!」
「また寝るのか」
「いやジナコさん今日ネットで激闘繰り広げたばっかりッスから、疲れたんス」

半ば突っ込みを期待して言った言葉だったが、アサシンは、しかし、無表情のまま「そうか」と漏らしただけだった。
また沈黙が訪れそうになった。焦ったジナコは曖昧に笑いつつベッドに転がり布団を被った。
がば、と顔まで被る。視界が真っ暗になった。
何も見えなかったが、見えるよりよっぽど良いとも思った


173 : 働け ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/03(日) 04:24:09 6nBSSGDs0









依頼人への報告を済ませると、ゴルゴは外へ出た。
紙巻煙草をくゆらせながら今後の方針について考えを巡らせる。空では月が沈み込もうとしていた。
鳥のさえずりも聞こえた。そろそろ夜が明けるだろう。
今日までの数日、夜は静かだった。少なくとも朝を迎えられるくらいには。

(……だが、次はどうだろうな)

ジナコと契約してから数日、情報収集に専念していたゴルゴだが、事態が遂に動き出したことを感じていた。
これまで戦いの痕跡はあれどどれも小競り合いの域を出なかった。それも散発な物に過ぎない。そういう意味で聖杯戦争はまだ始まっていなかったといえる。
だが、今晩――状況に変化があった。

(倉庫の火災に、商店街の盗難事件……)

深山町であった出来事を思い起こす。これまでの平穏な夜が嘘のように街が騒ぎ出した。ゴルゴはそれらの情報を抜け目なく手に入れている。
ゴルゴは目覚めてより数日諜報活動に徹していた。今晩いち早く情報を手にすることができたのも街を探索していた結果だ。
そして確信する。ついに聖杯戦争が“一日目”を迎えた、ということを。

「…………」

さっ、と日が差してきた。夜の色が引いていく。新たな一日の始まりだ。
ゴルゴはそれを無言で見上げていた。煙草から立ち上る煙に変りはない。
ただ少し、風が変った。揺れる煙が湿り気を含んだ風に吹かれ、どこかへと連れ去られていった。

恐らくジナコは目覚めるのが比較的早かった。その結果、陣営に少しだけアドバンテージを得ることができたのだろう。
街の動きに加えて、人が集まる場所、狙撃に適したポイント、もしもの時の逃走経路……動くに当たって最低限必要な情報も既に入手している。
それが可能だったのも“暗殺者”のクラス特性故だ。こちらから仕掛けない限り、発見されることはまずない。

とはいえそれで有利になるかと言えば、そんなことはない。
自分たちはそれでもなお最弱に近いだろう。これだけ揃ってようやく戦えるかというレベルだ。

とにかくここからが本番だ。
とはいえ方針に特に変更はない。諜報を第一にし、情報を集める。
まずは敵を見定めることだ。面と向かっての戦闘で勝ち目がない以上、先手を取らなければ話にならない。

(幸い依頼人は動こうとしない)

ちら、と拠点となる一軒家を見上げた。目覚めてからずっとジナコは家から出ていない。
下手に出歩かれればそれだけリスクは高める。その点でいえば彼女の取った“引きこもり”という選択はそう悪いものではなかった。
無論彼女はそこまで考えてなどいないだろう。もしかするとムーンセルはその気質まで考慮した上で、マイナスにならないゴルゴを宛がったのかもしれない。
引きこもりの依頼人というのは、状況を鑑みれば相性は悪くない。


174 : 働け ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/03(日) 04:24:36 6nBSSGDs0

(ただ……)

一点問題があるとすれば、仕事だ。ジナコは月海原学園の補欠教員――臨時的採用教員である。
予選の際に割り振られた仮初の役割であるが、何の意味も持たない訳ではない。生活から逸脱した行動を取ることが即リスクに繋がる。
今は良い。臨時教員である以上、教員に欠員が出ない限りは引きこもっていても怪しまれることはないだろう。
しかしこの先聖杯戦争が激化すればNPCの教員に欠員が出る可能性もある。そうなれば引きこもってもいられなくなる。

働いてもらわねばなくなるのだ。
できるか。

「…………」

無理と判断したゴルゴは教員の欠員を今後の注意事項とした。
その場合は即この家を放棄。新たな拠点へと移ることになる。新たな拠点の目星、逃走ルートも今の内に付けておかなくてはならない。
迅速に行動する為には、月海原学園の情報も必要だ。

『あ、ちょっといいッスか?』

今後の方針を練っていると、ジナコから念話が飛んできた。
ゴルゴは無言で霊体化し、部屋に向かった。便利なものだ。

「なんだ」
「あっ来たッス」

汚い部屋の中心、布団を被りながらジナコはゴルゴを見上げた。
先程は半ば追い払われる形になった彼女に呼びつけられるとは、一体何があったのだろうか。

「用件を言え」
「あー、ゴルゴさん、ボクの飯とか買ってきてくれたじゃないッスか。
 ありがたいッスけど、今度はこっちもお願いしたいッス!」

そう言って彼女はチラシを突き出してきた。
そこには煌びやかでファンシーなケーキがデカデカと映っている。値段は高く、カロリーは言うまでもない。明らかに必要以上の栄養を摂ることになるだろう。

「あとしばらくしたら密林からゲームが届くッス!
 このザマァwwwww とかになってなければ明日の昼あたりに届くんで、ボクが寝てたらゴルゴさん受け取っといて欲しいッス」

ジナコはニヒヒ、と笑っている。
ゴルゴはしばし無言だった。が、何一つ反論することなくチラシを受け取り「分かった」と告げた。
下手なことはできるだけするべきではないが、この程度ならばさして問題にもならないだろう。どのみち食糧の調達は任務の遂行に必要だった。
ケーキ購入も気配遮断を使えば怪しまれることなく買える筈だ。

それで用件は済んだらしく、ジナコは再び布団を被ってしまった。
本当にそれだけの為だったらしい。

とにかく、勝手に出歩かれる心配だけはなさそうだ。
ケーキ屋の位置を確認しつつ、ゴルゴはニートの部屋を後にした。



【B-10/街外れの一軒屋/1日目 未明】

【ジナコ・カリギリ@Fate/EXTRA CCC】
[状態]健康、昼夜逆転
[令呪]残り3画
[装備]黒い銃身<ブラックバレル>-魔剣アヴェンジャー-聖葬砲典
[道具]PC現行ハイエンド機
[所持金]ニートの癖して金はある
[思考・状況]
0.現実<聖杯戦争>なんて考えたくもない
1.引きこもる。欲しい物があったらゴルゴをパシらせる。
[備考]
※装備欄のものはいずれもネトゲ内のものです。
※密林サイトで新作ゲームを注文しました。明日(二日目)の昼には着く予定ですが……

【ヤクザ(ゴルゴ13)@ゴルゴ13】
[状態]健康
[装備]通常装備一式
[道具]ケーキ屋のチラシ
[思考・状況]
1.一先ずはクラススキルを利用し情報収集。
2.ジナコが働く必要が出た場合は即撤退。
[備考]
※一日目・未明の出来事で騒ぎになったことは大体知ってます。
※町全体の地理を大体把握しています。


175 : ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/03(日) 04:24:54 6nBSSGDs0
投下終了です


176 : 名無しさん :2014/08/03(日) 04:38:58 DfSzx2WQ0
「また寝るのか」

働いてもらわねばなくなるのだ。
できるか。

無理だな。


冷静につっこんでたり働くのはムリと即断するゴルゴで草生えた
とにかく投下乙


177 : 名無しさん :2014/08/03(日) 05:46:05 vSZ.xWJIO
投下乙
状態票の働く必要が出た場合は即撤退で吹いた
合ってるけどさあ…w


178 : ◆Dr9yg1AKQE :2014/08/03(日) 06:31:54 m3k9i1rA0
投下乙。
ゴルゴさんカルナと違う方面でボケ殺し過ぎる……


では自分も投下します。
またこのトリップは単に間違えて出したトリップなので、これ以降は本来のトリップ使います。
wiki収録の際も本来のトリップでお願いします。


179 : 冬木市学生諜報記録 ◆holyBRftF6 :2014/08/03(日) 06:34:36 m3k9i1rA0
 深夜。未だ日の登らぬ月海原学園の校内には、生徒どころか教師の姿すら無い。
 学園が教育機関である以上この時間帯に生徒がいるはずがない……というのはもちろんだが、そもそも生徒や教師のほとんどはAIで動くNPC。
 ルーチンワークで動く彼らが、深夜に学園を訪れるという「らしくない」行動を取るはずがないのだ。

「誰もいないみたいですね」
「意外だな」

 訪れるとすれば、NPCではない存在。即ち、マスターとサーヴァントのみ。
 間桐桜とシアン・シンジョーネ――キャスターは、校門の前から学園を見つめていた。生徒に偽装するためか、キャスターは桜と同じ制服を着ている。桜の服を借りているので、微妙にサイズが合っていなかった。
 とはいえ、この行動は「キャスター」としてもイレギュラーなものと言える。彼女達はまだ工房を作成していない。仮にも魔術師のサーヴァントが工房を作らず外出するのはリスクが伴う。
 だが、それだけの価値はあるとキャスターは判断していた。

「これほどのNPCが集まる場所だ。『悪さ』をしようとする輩は他にもいると思ったが」

 もっとも私がするのは「悪さ」というより「ズル」だな、とキャスターは付け足した。
 その言葉に引き寄せられるように、校舎内から戻ってきた虫達が書類の束を運んできた。写真が貼ってあるものもいくつかある。
 学生や教師はいないとは言え、警備員や警報の存在は予期できる。少しの手間でリスクを避けられるなら避けておくべきだった。

「さて、桜。先の世間話でなかなか興味深いことを聞かせてもらった。
 まず、戦争の舞台となるこの空間は冬木市とやらをベースにしているらしいが」
「はい。多少は違うみたいですけど」
「多少ならいい。地理や文化が極めて近いだけで十分だ」

 キャスターは虫と書類を回収すると――虫から書類を、ではない――そのうちの半分を桜に手渡した。
 書類にはぎっしりと人名や住所が並んでいる。名簿だ。

「仕事を頼もうか。冬木の学生、もしくは教師らしくない名前に目星を付けてくれ。
 名前を見られただけで現地人から疑われる、というのはよっぽどだろう?」
「……マスター探しですか?
 たくさんの人が集まる場所は学校以外にもありますけど」
「お前達が通っていた学校だからこそ、だ。
 穂群原学園……だったか? そこに桜を含めて最低でも三人の魔術師がいた、という点が重要になる」

 思わず桜は身構えた。受け取ったばかりの書類が腕から落ちかける。
 衛宮士郎。遠坂凛。二人の詳しい素性について桜は話していない。奥底を見せるほどキャスターに親近感を抱いてはいない。
 冬木市に御三家がある、監視に行かされている魔術師の家がある、どちらも学生だ……話したことはそんな程度のことだ。
 仮にその魔術師について詳細を教えろと言われたら、桜は拒否するつもりだった。

「年齢層が限定されるはずの教育機関に三人もの魔術師が在籍するのが、冬木市の年齢分布であり地理関係。
 それをベースにしているのなら、この月海原学園にも複数のマスターが配置される可能性は低くない」

 しかし、その心配は杞憂に終わる。キャスターが着目したのは、冬木市の学園に魔術師がいたという事実そのもの。
 穂郡原学園に通い、衛宮士郎の監視を任されていたマスターを引いたからこその推理。
 もっとも、桜だけではこういう発想には至らなかっただろう。キャスターの思考は良くも悪くも枠組みというものに囚われていない。

「ずるいですね」
「ああ、ズルだ。
 しかし地理や文化に詳しいマスターというのはアドバンテージだ。だから、こういう戦い方もできる。
 桜は冬木市の学生らしい戦い方をしてくれ。私は私で別の調べ物をする」
「キャスターも?」
「それはそうだろう。蟲を飛ばして私の仕事は終わり、で済むならこんな服を用意しない」


180 : 冬木市学生諜報記録 ◆holyBRftF6 :2014/08/03(日) 06:35:46 m3k9i1rA0
 そう言って自分の手で書類をめくっていくキャスターを見て、魔術師のサーヴァントなのに手作業なのかと桜は心中で呟いた。
 能力も発想も常人離れしている彼女が、学生の格好で普通の作業をする様子は違和感がある。
 その辺りに気付いたらしい、キャスターは肩を竦めた。

「変か?」
「えっと……変です」
「ふん、着たくてこんな服を着ているわけじゃない。だいたい私は着飾る事そのものが苦手なんだ。
 コンビニとやらに行って記録を複製する案も考えていたんだぞ? これなら桜に任せて私は霊体化するだけでいい。
 だが真夜中に女子学生が一人で書類の束を持ち歩くのも変だろうし、何より人目に付く可能性が圧倒的に高い」

 顔を逸らしている様子を見る限り、微妙に恥ずかしがっているらしい。意外な一面だった。
 桜にしてみればそういうつもりではなかったので慌ててフォローする。

「いえ、制服は似合ってますけど。
 場所がどうこうじゃなくて、魔術で読み取ったりとかは……」
「私の場合、蟲達が整列して紙の上を這いずることになるな。
 だが分散した虫の眼では文字が読み取りにくくなる。だいたい、人間の姿で読むよりまともな光景だと思えるか?」
「……もっと変ですね」

 確かにシュール極まりない光景だ。
 話を打ち切って作業に集中するキャスターの様子を見て、桜もそれに倣った。

 まだ日付が変わったばかりの頃に、校門の前で制服を着た二人の少女が懐中電灯の明かりを頼りに紙をめくっていく。
 なんとも言いがたい光景だが、少なくとも争いとは縁遠い光景である。これが戦争の準備だと思うNPCはまずいないだろう。役割によっては、夜更けに出歩くのは危ないぞ……と逆に二人を心配するかもしれない。
 もっとも、それを狙ってキャスターは制服を着てきたのだが。

「シオン・エルトナム・アトラシア」

 やがて、桜が一つの名前を呟いた。反応したキャスターが眉を顰める。

「まるで貴族のような名前だな。地上ではその手の輩はいたのか?」
「いいえ」
「あからさまにマスターか、その候補。
 もっとも生真面目に学校に来ているのは記憶を取り戻していないからか、それとも別の要因か」

 キャスターは自分が調べている紙に目を戻し、その名を見つけ出した。
 その書類には「出席簿」とある。キャスターの調べ物は出欠の確認だ。

「どうも補欠教員に怪しい者がいるな」
「怪しい、ですか。どんな風に?」
「ここ数日、全く仕事に来ていない。
 ただ……補欠教員とやらが全く来ないのは不自然な事かどうか私には分からん。
 ムーンセルが与えた知識の範囲外だ」
「名前は?」
「ジナコ=カリギリ。風習に合わせて言えばカリギリジナコか」

 名前を聞いた桜は考えこむ。
 冬木市には外国人が多く住んでいるが、かと言って穂群原学園に外国人が当然のようにいるわけではない。
 つまり学園にいる外国人というだけで、危険性は一気に高まる。もちろんしっかりと再現していればという前提だが。
 ただ、この名前の場合はもうひとつ問題がある。本当に外国人の名前かという事だ。

「補欠教員の先生が数日間来ない時はあると思います。
 ジナコ、って日本の名前のようにも見えますし……でもカリギリなんて名字はあるんでしょうか。
 名前は漢字で書かれてますか?」
「いや、カタカナだな」
「カタカナ……NPCじゃなさそうだけど、でもハーフの先生という設定なのかも……」
「冬木市民に分からないのであれば私にはどうしようもないな。
 とりあえずメモはしておく」

 目を細めながらキャスターは指先を動かした。


181 : 冬木市学生諜報記録 ◆holyBRftF6 :2014/08/03(日) 06:36:54 m3k9i1rA0
 二人は相談しながら予め用意したメモ用紙に名前と住所、連絡先を記録していく。顔写真は念入りに見つめ、今のうちに記憶する。
 最終的に、作業は一時間ほどで終わった。何人かに目星をつけて。
 キャスターが蟲達を操って書類を戻し、桜はメモ用紙をしまい込む。心の中ではずいぶんアナログな戦い方だと感じていた。自分達はデジタルな仮想空間にいるはずなのに。

「これからどうするんですか、キャスター」
「どうもしない。せいぜい試してみるだけだ」

 その答えと共に、二匹の虫が校門に張り付いた。
 片方は校門の凹みに隠れているだけの、目を凝らせば気付くような位置に。
 もう片方は完全に校門と同化し、隠れる様子を見ていた桜ですらどこへ行ったか分からない。
 別の虫が新たに校舎へ飛んでいった様子を見ると、職員用入り口にも同じものを潜ませるらしい。

「えっと……?」
「どちらも監視用の虫だが、片方は撒き餌だ。
 もしマスターらしき人物が登校してきた場合、この虫達への対応で資質を計る」

 首を傾げる桜に、キャスターは説明を開始した。
 その口調から威圧的にも見える彼女だが、相手に伝わりやすいように説明するのは得意だった――生前にも、経験がある。

「どちらにも気付かずに通り過ぎるなら下の下。交渉もできるし利用もできる。
 片方に気付いて過剰な対応をするなら下。交渉は難しいが利用はできる。
 片方に気付いたがその場は無視するなら中。利用は難しいが交渉はできる。
 両方に気付くなら上、対策が必要だな」
「両方に気付いた事を私達に気付かせない時は?」
「上の上、難敵。こちらが気付けないのだから諦めるしかない」

 持ちだされた仮定に対し、さらっと負けを認める。
 もともと「キャスター」は正面から戦うクラスではないのだ。謀略で遅れを取るならどうしようもない、そういうことだった。

「マスターが誰も来ないなら」
「それならそれでいい。ルーラーに露見しない程度にこの学園を『餌場』として利用させてもらうだけだ」

 キャスターの方策に対して桜が嫌悪感を抱くことはなかった。
 人の形をしたものが蟲に喰われていく様は鮮明に想像できたが、特に思うことはない。一言で言えばどうでもよかった。
 NPC相手なら殺人ではないのだし、思い浮かぶグロテスクな光景に対して拒否感もない――慣れているから。ある意味では、魔術師らしい割り切り方と言える。
 故に、キャスターもそのまま話を続けていく。

「最良の手は住所に監視を付けることだが、蟲の飛距離を補うには陣地が不可欠だ。
 陣地で魔力を集めれば蟲の飛距離は伸ばせる。マナラインを確保すればそれを通して遠くの蟲に魔力供給できる。
 しかし工房すら作成していない現状では無理な話だし、そもそも工房のみによるマナラインの誘導には限度がある。
 膨大な魔力の貯蓄、マナラインの完全な観測……どちらにせよ浮遊城の完成が必要になるな」
「結局のところ『待ち』なんですね」
「そういうことだ。情報も物資も戦争には欠かせない。
 私達のように住所を移す主従がいる可能性を考えると、少しばかり急ぎたくはなるがな」

 ここで、話が一旦区切られた。空気は静寂に包まれ、蛙や蟲が鳴く声すら響かない。
 促すようなキャスターの視線を受けること数秒、今後の予定に関する質問を促されているのだと桜は気付いた。それも、冬木市の地理が関係するような質問を。


182 : 冬木市学生諜報記録 ◆holyBRftF6 :2014/08/03(日) 06:38:00 m3k9i1rA0
「工房はどこに作るんですか?」
「場所は決まっていないが、範囲は決まっている。監視を置いた以上はこの学園の近くにしか作れん。
 問題は、この周辺が水田や畑ばかりという点だが――」
「えっと、建物に関しては同じかどうか断言できませんけど……ちょっと離れるだけで住宅街や森に行けるのは確かです」

 桜は周辺の地形をイメージする。月海原学園は穂群原学園と同じ位置、つまり通い慣れた位置にあるのだから想像するのは簡単だ。
 もっとも、魔術師として見た場合は問題がある答えである。単なる地理に関する情報しかない。彼女には霊地や霊脈の知識がほとんど無く、この答えにもそういった視点が欠けていた。
 しかしキャスターは頷いた。彼女にとっては何の問題もない答えだった。
 マナラインを操作する能力がある以上、地脈に恵まれていなくともある程度は補える。重要なのは隠密性と動きやすさだ。
 
「十分だ。森にせよ住宅街にせよ蟲の活動に問題はない……障害物は多い方がいい。
 木々や建物が乱立し凹凸がある地形なら、私の体が活かせる」

 そうして、キャスターは桜から視線を外し校舎を見つめた。
 桜がまだ学校へ行くつもりかどうかは聞いていないが、行くにせよ行かないにせよリスクはある。
 何より学校を情報源か餌場として使う以上、蟲を遠くまで飛ばせないキャスター達は学校に注意せざるを得ない。
 蟲の射程距離の限界。
 これは一定の距離を離れた途端にいきなり命令が効かなくなるのではなく、距離が離れれば離れるほど複雑な命令ができなくなり、最終的に何の命令も通じなくなる。
 わざわざ実体化して校門まで来たのは、遠くから名簿などを持ってくる事ができなかったからだ。丁寧に紙を運ばせ、元通りに戻す……蟲の身では相当に精密な動作が必要になる。
 かつてシアン・シンジョーネは森の外から百万単位の蟲を呼び寄せ、軍隊じみた統率で以って村一帯を荒らし回った。
 だがサーヴァントである以上魔力の軛からは逃れられず、それは彼女を構成する蟲の一匹一匹もまた同じこと。
 今回は校門前から操ったために、何の失敗もなく入手し何の痕跡も無く戻した。それは距離という問題を物理的に解決したからこそ。
 統一された意志の力を都市全域で発揮するには、膨大な魔力かマナラインの掌握が必要だ。しかし、今の段階ではどちらも得られない。

「マナラインを完全に掌握するには浮遊城の顕現が必要、そして浮遊城の顕現のためにはマナラインを誘導して工房を作り……
 やれやれ、我ながら遠回りなサーヴァントだな」

 キャスターが自嘲するのはもっともだった。目的のためには宝具の完成が必要で、その宝具の完成も手間が掛かる。これほど面倒なこともない。
 少し不安になったのか、桜が小さな声で問いかけてきた。

「もし強いサーヴァントに襲われたりして、『待て』ない時はどうするんですか?」
「その時は令呪を使って突貫で浮遊城を完成させてくれ。極端な話、マナラインを把握する機能さえあれば問題ない。
 浮遊城は攻撃を防げそうになければ早々に使い捨てるつもりだから、万全でなくてもいい」
「宝具なのに使い捨てるんですね」
「生前も使い捨てたからな。最悪の場合、魔王城を単なる神殿の一種として使う手もある。
 ……個人的には気に食わない手だが」

 そう吐き捨てる表情は、明らかに自ら述べた「最悪の場合」を嫌がっているようだった。
 例え「魔王」の使役ができなかろうと、その存在に対する強い執着が見て取れる。
 桜はその辺りについてとやかく言うつもりはないし、言える身分でもない。キャスターの策に従うだけだ。
 桜自身の奥底に触れることでない限り。

「行くぞ。
 森に潜むにせよNPCの家を乗っ取るにせよ、日が昇る前には拠点を確保したい」

 その言葉を最後にキャスターが霊体化する。
 桜は表情の無い顔で無言のまま頷き、夜闇の中へと姿を消していった。


183 : 冬木市学生諜報記録 ◆holyBRftF6 :2014/08/03(日) 06:38:55 m3k9i1rA0


【C−3/学園校門前/1日目 未明】
【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]健康
[令呪]残り三角
[装備]学生服
[道具]懐中電灯、筆記用具、メモ用紙など各種小物
[所持金]持ち出せる範囲内での全財産(現金、カード問わず)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.キャスターに任せる。NPCの魂食いに抵抗はない。
2.直接的な戦いでないのならばキャスターを手伝う。
[備考]
・間桐家の財産が彼女の所持金として再現されているかは不明です。


【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]健康
[装備]学生服
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
1.工房の作成。
2.学園に関する情報収集。
[備考]
・工房は桜の案内の元で、B−2、B−3、C−1、C−4、D−2、D−3にいずれかの場所に作成します。
・学園の入り口にはシアンの蟲が監視として隠れています。距離の関係から精密な動作はさせられません。


184 : ◆holyBRftF6 :2014/08/03(日) 06:39:56 m3k9i1rA0
投下終了です。


185 : 名無しさん :2014/08/03(日) 06:49:04 LNyZ00gY0
乙です。さっそく学校を舞台に一波乱ありそうな展開になりました。この先、戦闘もしくは交渉など見所満載になりそうです。


186 : 名無しさん :2014/08/03(日) 07:36:51 Mxzx08IQO
投下乙です
学校が火薬庫になってきた
どうなるか楽しみ


187 : 名無しさん :2014/08/03(日) 07:54:10 zWoVVs.s0
投下乙
これ、もしかしなくともケイネス先生先手打たれて素性がバレてね?


188 : 名無しさん :2014/08/03(日) 10:15:07 7a1daQck0
投下乙です
引きこもりに蛇と蟲の脅威が迫ってますね
キャスター二人が陣取って一気に魔境感が出てきたなぁ


189 : ◆A23CJmo9LE :2014/08/03(日) 11:44:00 X4V7BGII0
>>159ですが、HRの時間は8時を回るのが普通ではないか?との指摘を受けましたので微修正します。
地図を確保したあたりから修正です。


「ジェミニオ〈そっくり〉」

双子の呪文でコピーを用意し置いておけばごまかせる。
そして教職員室に戻って授業の準備を整え、あとは教師として待機するのみ。
もうすぐHRの時間だ。


に文章を差し替えます。

また『盾の指輪』説明文の装備車という誤字を、装備者にお詫びして訂正いたします。
他にも何かあればお願いします。


あとみなさん投下乙です。
学園に二人目のキャスターが来てワックワクのドッキドキです。
そしてジナコさんは働こうw


190 : 名無しさん :2014/08/03(日) 11:59:38 R3jdPkaY0
投下乙です。
学園にどんどんマスターが集結して、スリル溢れる空間になってきますね。
よく見たら、ジナコさんの登場話のタイトルが「働け」www


191 : ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:03:13 C/VQsJKU0
皆さま投下乙です。

学校がキャスター組の仕掛けで既に積み重なりまくって今後がとても楽しみ。
怠惰な依頼人のジナコでゴルゴさん受難の予感。

こちらも投下します。


192 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:03:59 C/VQsJKU0

===============================================


―――見知らぬ海。


経験したことのない、夜戦を含んだ46時間にも及ぶ長期戦。

イギリス、オランダ、アメリカ……会ったことのない国の子達を『敵』と見定め。

那智が、羽黒が、主砲を全弾撃ち尽くし。
挟撃にまわった妙高と足柄が、『敵』に砲撃を叩きこんでいく。

私にも攻撃命令が発せられて。

俊敏さを活かして敵艦―――「エクセター」という子―――に向かって間近に接近。
魚雷を発射して真横に命中、煙を上げてその子は沈没していく。


これが、戦争。
他者の命を奪い合うモノ―――


沈没していく船。溺れていく『敵』の兵達。
勝利に沸く軍の人達。


―――私は。


例え偽善だとしても。
助けたい、と思った。


そして、独断でも艦長は言ってくれたの。乗組員を救助せよ、って。


妹の電と一緒に、溺れている人達にロープを差し出して。
誰もが先に助かりたいはずなのに、イギリス人の士官さんが号令をかけるとパニックにはならなくて。

先に動ける人から上がって、と私の乗組員の人達が言うのだけれど、
彼らは首を横に振って、怪我をした人から順番に。みんなで一斉にロープを引いて艦に上げていったの。
助かった人達はサンキュウって。笑顔で敬礼していた。


人間って凄いと、心から思った。
殺し合いの中での偽善かもしれない。


でも。


確かに、光を。


心の暖かさを、感じたの―――


===============================================





193 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:04:59 C/VQsJKU0


―――まだ日も昇らぬ時間。
私はベッドで目を覚ました。


夢。


一年戦争で大切なモノを失った『あの時』の夢。
私はそればかりを見せられていた。
そして毎夜、うなされていたのだ。


だが、今日は違う。
胸にあるのは、暖かさ。


あれは、雷の夢。
―――いや、過去そのものだったのか。


機械が魂に共感する。ナンセンスだ、などと言うつもりはない。

『月』で生まれたサイコフレーム。
あれは人の意識を拡大させ、共感させることさえ可能だろう。
そして、カミーユ・ビダンが見せたという光。あれも機械が共感していたと言っていい。


なにより、ここに紛うことなく存在している。
彼女に溺れるのではなく、まさしく揺蕩うような、包まれるような感覚。


―――だが、傍らで共に眠ったはずの、彼女の姿がない。


まさか、あの存在こそが夢だったのかと。
ベッドから飛び起き、リビングへと向かった。


194 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:05:49 C/VQsJKU0


―――とんとんとん。


鼻歌交じりに、包丁がまな板を叩く音が聴こえる。
可愛らしい外見と、母のような慈愛の心を持った女性―――雷が、リビングから見えるキッチンで料理をしていた。

不覚にも、安堵の溜息を吐く。
彼女はこちらに気づき。

「あっ!ごめんなさい、マスター。起こしちゃった?」

火を止め、エプロンで手を拭いてから、スリッパでぱたぱたと音を立ててこちらへやってくる。

「………いや」
「そう、良かった〜。
 おはよう、マスター。昨日はよく眠れ……てないわよね」

心配そうにこちらの顔を覗き込む。

「おはよう、雷。いや……ここ数年で、一番良い寝覚めだ」
「そう……? ふふ、じゃあ良かった」


私の責任ではあるが。
昨日までの、心配をかけさせていた時の表情とは違う、
生来の明るさであろう笑顔を、雷は取り戻し始めていた。

そして何より、彼女との『繋がり』を確かに感じる。

「今から寝直すのもちょっとあれよね……。
 んー。じゃあぱぱっと作っちゃうから、シャワーでも浴びておいたらどうかしら」
「……そうさせてもらおう」

雷は私を見て笑顔で頷くと、再びぱたぱたとキッチンへと戻っていく。





195 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:06:59 C/VQsJKU0


眠ることも、勝ち抜くための作業の一つだった。

サーヴァントは眠る必要はないが、眠ることで魔力をほんの少しだけ回復できるという。

だが、セルベリアには直感に類するスキルは存在しなかった。
本当ならずっと眠ってもらって、少しでも魔力を得たいところだが、
私が街をまわる最中、いつ敵にマークされるか分からない。
居場所が他者に押さえられていない確証は何もないのだ。
だから、街では常に霊体化して傍にいてもらっていた。

夜については交代で睡眠を取っていた。
彼女を労わっているわけではない。そうでないことは、伝えてある。
魔力がほとんどない私自身が眠るよりも、ランサー本人が眠る方がわずかに回復量が上なのだ。
巨人の襲撃に怯え、いつでも戦闘態勢に移れるよう準備していた頃と何ら変わらない。

ランサーが眠っている間。
背中に自由の翼が刺繍されている、調査兵団の服装で立体起動装置を装着し、いつでも襲撃に対応できるよう備えていた。
これを着ていると、戦いのスイッチが入りやすいのだ。

セルベリアから託されたヴァルキュリアの槍であれば、
ラグナイトエネルギーを照射させるためだけでなく、私が直接防御するための防具として使用できる。
ランサーの見立てでは、私の反応速度は並のサーヴァントの攻撃ならば反応しうる可能性がある、と判断されていた。
彼女が目を覚ますまでの一瞬を、自分自身で稼ぐことができるのだ。

それでも、仮にアサシンにマークされていたのなら―――私では絶対に対処は無理だという。
そろそろ明日……もう今日か、以降はランサーに常夜番を行って貰う必要があるだろう。


「……マスター」

ランサーが申し訳なさそうに起きてくる。
私はこくり、と頷く。

「私を物として扱えと」
「分かってる。……明日からは寝ずの番をお願い」
「心得た」

ホッとしたようにセルベリアが頷く。

彼女にとって、主人に番をさせるというのは、寝心地が悪かったのだろう。
勝ち抜くため、魔力のためだと無理やり眠らせていたのだ。


196 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:08:17 C/VQsJKU0


「今日も日課か、マスター」

再びこくり、と頷く。

日課として、早朝はジョギングを行っていた。

毎日の行動であれば、不審がられることはないだろう。
足を使い、直接現地を見ておくのだ。
どこが戦場になるかは分からないからだ。

調査兵団の服装から、全身を隠せるジャージに着替える。
兵団で鍛え抜いた身体を見せてしまうと、他者に違和感を感じさせてしまうかもしれないから。

ジャージに着替え終わり、マフラーを巻き。

「行こう、ランサー」
「了解だ」

ランサーはその恵まれた体型で揺らしながら頷くと、霊体化し、私についてくる。

仮初の親は、まだ眠っている。
毎日ジョギングすることは伝えてあるので、朝起きて私がいなくても不審がることはない。

「……行ってきます」

小さな声で、仮の親に伝える。
二組の両親に言っていた言葉を。

―――感情を、抑える。


今日は、『海』を見てみるつもりだった。
図書館で知った海という存在。
もしその付近で戦闘になった場合、私が途惑わないよう、先にこの目で見ておく必要があった。





197 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:09:50 C/VQsJKU0


「……ごちそうさま」
「ふふ、お粗末様でした。こんなに早い時間に食べて大丈夫だった?」
「ああ、問題ない。……美味しかったよ、雷」

雷はパァァと花が開くかのように笑顔になる。

ごはんに味噌汁、卵焼きに鮭に漬物。日本の朝食だと言う。


母、アストライアが料理を作ってくれた記憶はない。
だが、確かにこの料理からは『母』を感じることができた。
なんと満たされる感情だろうか。


>地球では空に星が見えるの。
>一番大きくてまあるいのが『お月様』。
>そのお月様が半分になって、細くなって、また丸くなる回数を数えて。
>その回数が百回になるころには必ず行くわ。
>だから……待っていて。

母が、涙を流しながら、私とアルテイシアを見送っていた。
―――その『月』に呼ばれ、こうして雷と出会ったことは、何の因果であろうか。


「今日はお仕事の予定、あるんでしたっけ?」

二人で食器を流し場へ運び、雷が洗いものを始めながら問う。

私が記憶を取り戻す前にやっていた仕事。
それは政治家、正しくはその候補者だった。

総理を勤めていた父が不慮の死を遂げ。
父の意志を継ぎ、地方都市から政界に立候補する息子、という地位だった。
父は日本人のハーフ、母は英国人という設定、らしい。

その仮初の父が残した莫大な財産があり、
このマンションの部屋も既に全額支払い済である。

「ふむ、今日は午後に後援会との会合があるくらいだな」

記憶を取り戻した今。
後援会の人間との会合は、また違った意味を持ってくる。


何故、ルーラーは作り物であるはずのNPCの殺害を禁じるのか。
何故、作り物であり、がらんどうであるはずのNPCから、『魂』食いを出来るのか。


単純に考えれば―――彼らもまた、以前の私のような。
目を覚まさない人間達が数多くいる、ということだろう。

愚民どもに叡智を授けることは出来なかった。
だが、各々が元々目的を持ってきた人間であるのならば―――何かを感じることができるかもしれない。


198 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:10:23 C/VQsJKU0


「そ、じゃあ午前中はのんびりできるわね」
「……雷。今日は海を見ておきたい気分だ。ついてきてくれるか?」
「あら。ええ、まっかせてよ。マスターはしっかり守るわ」


今朝の夢のことを伝えようか迷ったが、
雷の顔を見ていたら些細なことか、と伝えずにいた。

だが、あの海の光景。
雷が過ごしたという母なる海を、見てみたくなったのだ。


スーツに着替え、サングラスをかける。
雷は制服……ではなく、秘書のようなスーツを着てもらった。

「ふふ、普段は霊体化しておくのに」
「ああ。だが、会合には一緒に出てほしい。何か君も感じ取れるかもしれない」
「ふうん? 分かったわ。それじゃ、行きましょうか」

二人でマンションの部屋を出て、地下駐車場まで下りる。


―――真っ赤な専用の車。

無意識化で購入した車もまた、赤だった。

キーをまわし、エンジンを噴かす。
直列4気筒DOHCエンジンが唸りを上げる。

傍らには、雷がいる。
アクセルを踏み込み、海岸まで車を飛ばしていく。





199 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:11:42 C/VQsJKU0


貫くような、一面の蒼。
先を見通しても、どこまでもどこまでも蒼が続いている。


「――――――これが」


海。
原初の海。


ビデオで見た映像そのものだが、ここに現実感を伴って、圧倒してくる。

そして、心地のよい、波の音。
いつまでもいつまでも、ここに居たいと思わせる。


「エレンにも―――」


見せてあげたい。
きっと、喜ぶだろう。

すっげえええええええ!!!!!
と大声をあげて両手を上げて叫ぶかもしれない。

その様子を見て、私は微笑むのだ。


『マスター』

ハッとして、ランサーが念話で呼び掛けるのと同時に、気配を感じ後ろを向く。


「おや。びっくりさせてしまったかな」

両手を小さく上げて話しかけてくる、金髪にサングラス、スーツの怪しい男。
心の警戒レベルを最大まで引き上げる。

「……なんでしょう」
「すまないね、お嬢さん。
 海を見て涙を流せるほどのシャープな感性が、少し、気になってしまってね」

気がつけば、また涙が流れている。
慌てて涙を拭おうとしたところに、ハンカチが差し出される。

「……ありがとう、ございます」

警戒したまま、ハンカチを受け取る。
魔術的な何かがかかった物かもしれない。

『問題ない……ように感じる』

霊体化したままハンカチを確認したランサーが告げる。
肌触りが滑らかな、高級そうなハンカチを使い、涙を拭く。


200 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:13:10 C/VQsJKU0


―――と、サングラス男は『ランサーがいるはずの位置』を見ている。


霊体化した状態では感知できない……はずだ。
相手がマスターで、もしも近くにそのサーヴァントがいたとしても、霊体化していれば反応はないはずだ。
現に、自分の令呪に反応はない。


「あの……何か」
「いやすまない。……私は、シャア・アズナブル。この選挙区で立候補しようと思っている者だ」

男はサングラスを外し、自分の名を告げる。

こちらの名前を言うべきか、偽名を使うべきか、誤魔化して言わないべきか。瞬時に判断する。
相手が情報を握りやすい立場なら、偽名を使った場合、後々苦しくなる。

「―――ミカサ、です」
「ミカサか。いい名前だ。海に合っている名だと感じる」
「……」

じっと見つめてくるこの男に、どう反応していいか分からず、途惑う。

このシャアという人間の目、やはり冷たい目だ。
人に絶望したような目。
だが、やはり、奥底に温かみを持っている種の人間。


『マスター』


引き込まれそうになっている自分を、ランサーが注意を促す。
魔術か何かをかけられそうになっていたのか。

「あの……そろそろ時間なので、帰ります」
「そうか……それはすまない。
 また、会えるといいな」
「はい、それでは」

話を打ち切り、逃げるようにその場を離れる。





201 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:15:20 C/VQsJKU0


―――あの少女。

ニュータイプとしての感覚ではない。
士官学校に入ってからもう20年近く。
数多くの軍人を見てきた経験から分かる。

彼女の一挙一動は、訓練された軍人のそれだ。

ほぼ間違いなく、マスターだろう。
何より、傍に雷のような存在を間違いなく感じた。
恐らく、サーヴァントが霊体化していたのであろう。

『ふぅ〜……緊張した〜』

霊体化を解いて、その雷が姿を現す。

「……良かったの? マスター」
「ああ。また出会う機会もあるだろう」
「ふーん」

そう言う雷は、何故か少し機嫌が悪かった。


「それよりも雷。海を見ようか」

手を繋ぎ、雷を誘導する。

「もう……ふふ」


海。
―――母なる海。


>地球はきれいないいところなのよ。
>空がどこまでも青くて、山や森があって。
>大きな大きな、広い海があるの。


私が汚染させようとした地球。
アクシズを落とせば、この『海』にも、当然被害が出るだろう。

ぎゅっと、握られる手が強くなる。

「私はここにいるわ、マスター。大丈夫よ」
「……ああ」


【A-3/海岸/一日目 早朝】

【シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:シャア専用オーリスカスタム(防弾加工)
[所持金]:父の莫大な遺産あり。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争によって人類の行方を見極める。
1.午前中は各マスターを探して会ってみる。
2.午後に後援会の人間との会合に行き、NPCから何か感じられないか調べる。
3.ミカサが気になる。
[備考]
ミカサをマスターであると認識しました。

【アーチャー(雷)@艦隊これくしょん】
[状態]:健康、魔力充実
[装備]:12.7cm連装砲
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる。
1.シャア・アズナブルを守る。
[備考]
無し。





202 : 母なる海  ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:18:29 C/VQsJKU0


駆け足で、逃げるように自宅へと戻る。


『……マスター』
『うん』
『あの男、只者ではないな。霊体状態の私を感知していた』


手元には立体起動装置も、ブレードもない。
そして何より―――セルベリアの魔力は限られている。

令呪であれば魔力を満たせることができると、セルベリアの見解とも一致している。
使用できる二画は、魔力供給に使う他ないだろう。
他の不慮の事態で使うことにならないような立ち回りをしなければならない。

戦える回数は限られている。
私達にとって、剣を抜く時は『必殺』でなければならないのだ。


シャアという男のサーヴァントが分からない以上、
こちらから無調査で仕掛けることはあり得ない。

だが……。


『あの男の目。魔性の類ではない。
 ―――殿下と同じく、人として人を惹きつけるモノだ』
『……そう』


張り詰めた糸が、海の存在で一瞬緩んでしまったためか。
初めて、敵のマスターに存在を知覚されてしまったためか。


―――動揺してしまったのだ。


【A-3/海岸付近/一日目 早朝】

【ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:シャアのハンカチ
    (以降自宅)ヴァルキュリアの槍、立体起動装置、スナップブレード、予備のガスボンベ(複数)
[所持金]:普通の学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:いかなる方法を使っても願いを叶える。
1.家に戻り、着替えて月海原学園へ学生として行く。
2.シャアに対する動揺。調査をしたい。
[備考]
シャア・アズナブルをマスターであると認識しました。

【ランサー(セルベリア・ブレス)@戦場のヴァルキュリア】
[状態]:健康
[装備]:Ruhm
[道具]:ヴァルキュリアの盾
[思考・状況]
基本行動方針:『物』としてマスターに扱われる。
1.ミカサ・アッカーマンの護衛。
[備考]
無し。


203 : ◆MQZCGutBfo :2014/08/03(日) 12:18:51 C/VQsJKU0
以上で、投下終了です。


204 : 名無しさん :2014/08/03(日) 12:22:21 iN/BQKiI0
投下おつ

>傍らで共に眠ったはずの

いったいなにいってんですかねこの赤い人は・・・


205 : 名無しさん :2014/08/03(日) 12:27:40 UGoREYsY0
投下乙です。いやあ実に微笑ましい朝の、

>魔力充実

おい
おい


206 : 名無しさん :2014/08/03(日) 12:32:29 TNsC1/QoO
投下乙

これはエルメスとキュベレイのパイロットに通報しないと(使命感)


207 : 名無しさん :2014/08/03(日) 12:32:54 HFHBRbfo0
>手を繋ぎ、雷を誘導する

当然のようにロリ鯖といちゃつくなwwwww


208 : 名無しさん :2014/08/03(日) 12:57:30 Mxzx08IQO
いやあ微笑ましい光景ですね
相手がロリってこと以外は…w


209 : 名無しさん :2014/08/03(日) 13:00:33 p1OLlPD.0
ロリコンは置いといて、ミカサまで学園に行くとなりと大乱戦の予感?
しかし、全部で何人のマスターが学園関係者になるんでしょう?


210 : 名無しさん :2014/08/03(日) 13:01:54 wQLU8N7o0
大佐マジ犯罪者ww


211 : 名無しさん :2014/08/03(日) 13:09:56 hYp2mEDk0
>>]黒い銃身<ブラックバレル>-魔剣アヴェンジャー-聖葬砲典

ジナコさんの装備が某27祖になってるんだけどなんか説明あったっけ?


212 : 名無しさん :2014/08/03(日) 13:13:30 sli6lOZg0
>>211
ネトゲでの装備って明記されてますよ


213 : 名無しさん :2014/08/03(日) 13:26:07 iN/BQKiI0
シャアが異様に面白いのはミカサが堅実に聖杯戦争してたり
はじめて見る海に感動してたり、シャアが亡き母親や人類のこと考えてたりと話自体は至極まじめなせい


214 : 名無しさん :2014/08/03(日) 13:38:40 hYp2mEDk0
>>212
ありがとう〜。こっちの見落としだね。

投下乙でした
ジナコさんの地の文で書かれまくる駄肉にわろたw
まさにニートの1日
咬み合ってないようで噛み合ってるような淡々としたゴルゴの反応は結構ジナコさんにはきついかもなー
ゴルゴのマスターを理解しまくってる即断にも吹いたw

桜シアンも派手さはないが地の利も活かして地道に捜査を積み上げてってるな
蟲による試しは結構有効そうだし、同じく学校狙いのヴォルデモートたちとの駆け引きにも期待
浮遊城は浮遊城でヘタしたらバーンプレスとかち合うことになるしこの組は競争相手多いな

シャアはすごいシリアスだし、そのカリスマ性も遺憾なく発揮してるのに何故か拭えないロリコン臭
雷ちゃん可愛いです
海を見て涙するミカサのシーンはぱっとイメージ浮かんでやばかった


215 : 名無しさん :2014/08/03(日) 13:39:19 hYp2mEDk0
>>213
ちょこちょこジ・オリジンの母の言葉が挿入されてたのも良かった


216 : 名無しさん :2014/08/03(日) 15:51:14 3MRH5VuMO
真面目にやってんのにどことなくシュールなのはやっぱり情けない奴ってことなのか…とりあえずビットに気を付けなよ?


217 : 名無しさん :2014/08/03(日) 18:06:43 vKuixO4kO
投下乙です。

ニュータイプの強い共感力なら、感覚を研ぎ澄ませれば目の前のマスターの念話を傍受したりできるんだろか。


218 : ◆F61PQYZbCw :2014/08/03(日) 19:57:55 G5xjqU7A0
皆様投下お疲れ様です。

このビッグウエーブに乗ります。

予約していた暁美ほむら&キャスターで投下します。


219 : ウーマン・イン・ザ・ミラー ◆F61PQYZbCw :2014/08/03(日) 19:58:58 G5xjqU7A0


 白いキャンパスに黒を一滴落としたように。
 世界に一つの闇――愛を求めた少女は今宵キャスターの座として聖杯に望む。
 若干空に明るさが増し始めている中、彼女はとある廃墟ビルにポツリ一人。
 マスターは睡眠中ではあるが、キャスターは何故か独りで行動をしていたのだ。
 

 方舟の中に形成された架空の世界に愛着もなければ未練も存在しない。
 彼女は自前の武器である銃火器を一部設置する、此処に彼女の【戦場】を形成している最中。
 魔術的な物とは呼べないかもしれないが彼女の力を存分に発揮出来る場には変わらない。
 その構成は銃火器、彼女の得意とする獲物であり英霊に効果が薄いとしても生身の人間には圧倒出来るだろう。
 極力魔力を最小限に抑えて銃火器を設置、景色に溶けこませるように見え難い闇の中へ。


 原始的な。英霊に何処まで通用するかは不明であるが彼女はキャスターの座だ。
 その射撃も魔力を帯びさせれば或いは強力な一撃に――なるかもしれない希望も少なからず。
 規格外の存在である敵に対向するには此方の力を全開に出し切らなければ勝てない相手も存在するだろう。
 必ずしも正面から挑む必要も無い訳だが。


 銃火器の設置を終えると彼女はワイヤーを空間に張り巡らせる。
 線に触れれば対象目掛けて銃火器が一斉掃射、対象を蜂の巣に追い込む罠だ。
 銃火器その物は直接引き金を引けば弾丸が射出されるが魔力を帯びさせた物ならば一度に多くの弾丸を放つ事が出来る。


 もっともこの場に相手を誘い込む事が出来た場合のみ、誘い込まなければ意味を成さないのだが。


220 : ウーマン・イン・ザ・ミラー ◆F61PQYZbCw :2014/08/03(日) 19:59:47 G5xjqU7A0


 この廃墟ビルには懐かしさを感じる、彼女の知っている空間に似ている。
 似ている、そう、似ているだけである。
 この空間が彼女の知っている、体験していた世界とは異なるのだ、勿論彼女も理解している。


 鹿■■ど■、契約、魔法少女、インキュベーター、悪夢。
 美樹さやか、消火器、発見、出会い、別れ、誤解。
 巴マミ、使い魔、真理、不安、幾度なく見渡した世界線……。


 キャスターの真名、暁美ほむら。
 彼女が生前見てきた空間にこの廃墟ビルは――似ていた。


 陣地改め銃火器とワイヤーを仕込んだならばこの廃墟ビルに用事はない。
 そもそも偶然立ち寄っただけ、通り掛かった時にナニカ惹かれる事象があったから入った、それだけである。
 故に最初から用事も無ければ居座る予定も存在しなく、彼女はマスターの元へ帰還する。


 立ち去るキャスターの背中に漂う負と希の素質、生前彼女は一体何を――。





 人通りの少ない町並みを彼女は静かに歩いている。
 空に明るさが出て来始めた、しかし眠っている人々の方が数は多い時間帯。
 方舟に構成された世界にも人は存在する、それがNPCだ。
 

 これは聖杯戦争だ。限られた人間で行われる物に変わりはないが閉鎖的では無い。
 多種多様に集められた人間達だけで閉鎖された空間内にて争う殺し合いでは無いのだ。
 生活を行っている一般人との関わりも重要になるだろう。
 学校もあればコンビニ等の施設もある、この世界に溶け込む事も戦いの一つだ。


「……?」


 自動販売機に手を伸ばす少女が一人、見た目的な年齢では小学校にも通っていないだろう。
 背が足りなく困っているのか、必死に上部に腕を伸ばしている姿が印象的であった。


221 : ウーマン・イン・ザ・ミラー ◆F61PQYZbCw :2014/08/03(日) 20:00:41 G5xjqU7A0

 無視しても問題ないが特に予定も現段階では無い。
 聖杯戦争を行う中で計画も予定も建てることは不可能に近いのだが。


「……どうしたのかしら?」


「きょーはえんそくなの! それであさはいつもよりはやくおきて、えーと……ジュースを買いに来たの!」


 彼女は少女に優しい声色で語りかけると少女は元気に返答する。
 遠足、NPCの設定は想像よりも深く設定されているようだ、それも子ども一人一人に異なるプログラムを設定。
 子供が遠足や修学旅行を楽しみにして寝不足や早起きをする事は多い、それを設定されているのだ。


「届かないならお姉さんが押してあげるけど?」


「ほんとっ!? じゃああたしはオレンジがほしい!」


 まるで姉妹のような会話をしながら彼女は缶ジュースを一つ、そのボタンを押す。
 ガコン、取り出し口に落ちた音が響くと彼女はそれを取り出し少女に差し出す。
 奢ってあげればいいのだが先に少女がお金を入れていたため諦めた。
 差し出された缶ジュースを笑顔で貰う少女。


「あいがと! おねーちゃん!」


 礼を言うと少女はカシュッ。蓋を開けジュースを喉へ通す。
 飲み込む音を大きく慣らし勢い良く飲み干していく。


「ぷっはー……あいがとねっ」


 少女の再度なる礼に「いいのよ」一言返すと彼女は去ろうとする。
 元々ただの散歩ついでの人助け、長居する必要も道理も無い。
 慌てて少女は彼女の跡を着いて行く、どうやら懐かれたらしい。
 小走り気味で走る少女、家に帰らなければいけないのだが――。




「まだだめよ」




「あれ……おねーちゃん?」




 其処に暁美ほむらの姿など存在しない。
 最初から彼女は居たのか居なかったのかも分からない。


 唯一つ、新しい缶ジュースが置かれていた。


222 : ウーマン・イン・ザ・ミラー ◆F61PQYZbCw :2014/08/03(日) 20:01:35 G5xjqU7A0


 此処は暁美ほむらの自宅となっている部屋。
 早めに起床した彼女は歯を磨こうと洗面台へ歩く。
 寝起きのため若干足元が覚束ないが目を擦りながら辿り着いた。


 歯ブラシを手に取り水を出す。
 コップに水を含み歯ブラシを濡らし歯磨き粉を取り出し、そして。


「あ、あれ?」


「それは私の歯ブラシ……右が貴方ので左が私のよ」


「ふへ!?」


 突然掴まれる腕、鏡に映るのは自分に似ている姿のキャスター『暁美ほむら』だ。
 とある世界線の自分をサーヴァントとして召喚したマスターも『暁美ほむら』である。
 そのため彼女達が用意した歯ブラシを始めとする生活用品も種類が重なってしまうのだ。
 もっとも英霊に歯磨きが必要かどうかは不明であるが。


「ご、ごめんなさい……明美……さん?」


「貴女の好きなように呼ぶといいわマスター」


 マスターとサーヴァントの関係ではあるが自分自身と会話する事には馴れない。
 呼び方にも困れば接し方にも苦労がある。しかし仲を育まないと生き残れない。
 彼女達は運命共同体だ、他人ではない。片方が足を引っ張れば道連れである。
 少なくても契約を結んでいる間、暁美ほむらは対の存在となり聖杯に望むには互いが強い意志で生き残らなければならない。
 

「それよりも登校まで時間があるわ、一つ伝えたいことがあるの」


「なんでしょうか……?」


223 : ウーマン・イン・ザ・ミラー ◆F61PQYZbCw :2014/08/03(日) 20:03:42 G5xjqU7A0


 キャスターは廃墟ビルに陣地を作成、銃火器を設置してきたがこれは計画の一部ではない。
 ビルに相手を誘い込まなければ意味が無いため使われない可能性もある。
 陣地を作るならば自分の戦場に相応しい、扱い易い場所に作成したほうが有用だろう。
 最もキャスターは廃墟ビルに陣地を作成したことをマスターに告げるつもりは無いのだが。


「これから貴方は登校する……学園内にマスターが居る可能性があるわ。
 だから貴方は極力怪しまれないように心掛けて、転校生である以上、時間が経っているとはいえ注目を浴びる。
 令呪は魔力で隠すよりもファンデーションか何かで隠したほうが良さそうね、貴方は相手の令呪を出来れば見つけてほしい。
 それと相手の魔力や魔術、魔法を感じたら逃げなさい。特に既に術を施されているなら。」


「お、同じクラスにもマスターが居る……私、大丈夫かなぁ」
(それに一つじゃないような……)


 この空間に招かれた人間の詳細は分からない、故に学園だろうと警戒心を高めなかればならない。
 特に令呪を見られればどんな馬鹿でもマスターと一目で分かってしまうため細心の注意が必要である。
 暁美ほむらの令呪は掌にある。油断すれば簡単に見れてしまう位置にあるのだ。


「今日はそれだけでいいわ。後は学園生活を過ごすために友達を作りなさい。
 ……出来れば」


 この世界に■目まど■は存在しない。
 最高の友達は手の届かない場所に居るのだ、座についている。
 だからキャスターは不思議な夢を追い求める、世界の理を超えるために。
 このマスターも仮の主、使えなかれば乗り換えも視野にいれている。
 最もマスターは過去の自分、その力、その甘さは理解しているつもりであるが。
 故に仮に敵が魔術や結界、幻術の類を仕掛けているならば、マスターは簡単に掛かってしまうだろう。
 だからキャスターは彼女を補助する、まだ死ねない、まだ諦めれない、だめ、まだだめよ。


(私は必ず辿り着く――だから)


 キャスター暁美ほむらは己の頭部に着けているリボンに触れる。


 永遠の愛を確かめるように――。




【Bー6(北西)/暁美ほむら・自室(マンション)/一日目 未明】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:パジャマ
[道具]:無し
[所持金]:数ヶ月マンションで一人暮らしが可能な財産
[思考・状況]
基本行動方針:マスターだとバレないように過ごす。
1.学園でマスターを探してみる。
2.学園でマスターだと気付かれないようにする。
3.学園で友だちをつくる。
[備考]
※令呪は掌に宿っています。
※寝起きのため装備は付けていません。


【キャスター(暁美ほむら(叛逆の物語))@漫画版魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語-】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:まどかに辿り着くためならば全てを捨て駒にする。
1.マスターをサポートする。
2.マスターが使えないならば切り捨てる
3.他の敵の情報収集
4.新たな陣地作成を行いたい。
[備考]
※Bー6廃墟ビルに陣地作成を行いました(マスターは知らない)。
※拠点にいるため装備を解除しています。


224 : ウーマン・イン・ザ・ミラー ◆F61PQYZbCw :2014/08/03(日) 20:05:17 G5xjqU7A0
以上で投下終了します。


225 : 名無しさん :2014/08/03(日) 20:26:35 sli6lOZg0
投下乙です。
何気に子供に優しいキャスほむが印象的だったけど
NPCにも性格や行動に個体差がある(=必ずしもルーチンワーク通りに動く訳じゃない)ってのは地味に影響ありそう
あと早起きメガほむとキャスほむの絡みが何かかわいい…w
気になった点を言うと、メガほむがこれから登校するとなれば時間帯は早朝が正しい気がするかな…?


226 : ◆F61PQYZbCw :2014/08/03(日) 21:00:21 G5xjqU7A0
感想ありがとうございます!
>>225
早朝の方が正しいです、ご指摘ありがとございました。


227 : 名無しさん :2014/08/03(日) 21:04:04 hYp2mEDk0
投下乙〜
影絵の街をゆくというか、キャスターの陣地作成場面がなんだか劇場版の序盤ぐらいの雰囲気で脳内再生された
主従の行く末という点じゃこのチームもかなり楽しみだ


228 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/03(日) 21:47:48 HLGhR2KE0
赤い人はナニをしてらっしゃるんでしょうかね(困惑)
自分の投下をします。


229 : 故郷とおっぱいは遠くにありて思うもの ◆IbPU6nWySo :2014/08/03(日) 21:48:48 HLGhR2KE0
ウェイバーはただならぬ疲労を感じていた。
否、明らかに魔力が減っている事に気づいていた。
もしかしなくても、もしかしなくてだろう。
問答無用に彼は怒声をあげる。

「おい!バーサーカー!!何やってたんだよ!朝っぱらから最悪だぞ!?」

まさかこんな気分の悪い目覚めになるとは予想外であった。
しかもマスターであるウェイバーに返答や現界することもない。
ギャーギャーと文句を垂れるウェイバーの姿はマンションの一室であるからこそいいものの。
ハタから見れば痛い光景である。

はぁと疲労の溜息をつきながら嫌々朝食を放り込みながら、ウェイバーは考えた。
NPC時代からの設定を引き継ぐと、彼はここからバスを乗り継いだ先にある英会話教室でアルバイトしている事になっている。
だがしかし。
聖杯戦争が本格的化すれば、平凡に日常を送ることなど望めないだろう。
さらにはサーヴァントがバーサーカーだ。

「大体っ…アイツが引っ込むのにも時間かかったっていうのに……
 それにしても魔力が減っているって事は、他のサーヴァントと戦ったのか?
 なぁ!いい加減に答えろよ!!」

返答なし。
ある程度の意思疎通は出来るといった稀に見るバーサーカーだったものの。
狂人であるのには変わらない。
やはり交流は望めないということか。

「あれ?あれれ??もしかしてウェイバーたん、俺ちゃんに関しての好感度上がり出した?
 ついにR-18のFate始まり出した?よっしゃ!ようやく本番だぜ!!頑張れ、男の娘!!
 ジャンヌちゃんたちに負けず劣らずのヒロインっぷりを見せつけてくれよ!!」
「………」
「いやー俺ちゃんの聖杯戦争始まるの遅すぎんよー!!半分寝てたわ。
 あ、ごめん寝る必要なしだったわ〜。そうだ帰りゲーム屋寄らね?
 ホラzeroでも買ってた(ry
「いいか!?ぜっっっっっっっったい!!!バイト先で出現するなよ!?」
「もしかして選択肢間違えた?おい、そろそろウェイバーたんに関する選択肢表示してくれね?」
「一回消えろっ!!」
「やっぱり最初はツンツンか〜しっかたないなぁ〜もー」

相も変わらず、訳の分からない単語や変な方向に話しかけるバーサーカーをウェイバーは追いやった。

やっぱり最悪だ!
魔力回復させる為に今日は休もうかなぁ……

ウェイバーは慌てて思いとどまる。
ここで急に休むのは怪しまれる。周囲にマスターがいるかもしれない。
せめて早めに仕事を切り上げるのが最善だろうか。

取りあえず、周囲にマスターがいなければいいけど…
少なくとも周辺住民を巻き込むマンションにいるのはまだ安全、か?

身仕度を終え、鍵を閉めたところでウェイバーは考える。

拠点はいいとして……他の参加者ってどうなっているんだ?
普通の聖杯戦争とは違うみたいだし、共同戦線を組む連中もいるかもしれない。
だとしたらあの突っ込んでいく馬鹿(デッドプール)は……うう、考えただけで頭が痛い。

「おっ!何か今日は顔色悪いな、大丈夫かよ!エロ本貸してやるか?」

気前よく話しかけてきたのは同じ階に住む真玉橋孝一だった。
朝っぱらからのはしたない会話にウェイバーが赤面しつつ答える。

「いらないって!あとこの間の奴は捨てたからな!!勝手にポストに入れるなっ!」
「な、なんだとぉー!?アレを捨てた!まさか今日の燃えるゴミに!?
 くそっ!!!回収しなければっ!!!」
「まったく……元気でいいよなぁ…」
「今日の俺は最高のコンディションだからな!(いいおっぱいを堪能した的な意味合いで)」
「あ…そう……」

ウェイバーにとって孝一は近所付き合いのいい学生で、そもそも彼のバイト先が孝一の通う学園の近くだ。
午前中は暇な主婦たちが来るとは言え、学生も通えるようにと想像すれば妥当な立地だろう。
それもあって顔見知りで、何故かエロ本等を貸しあう(決してウェイバーは同意していない)関係にもあった。

「朝から疲れるなぁ、もう……いや!何とかしてみせる!!」

なるべく彼は前向きに捉えた。
その裏であんな事があったとは知らずに――


230 : 故郷とおっぱいは遠くにありて思うもの ◆IbPU6nWySo :2014/08/03(日) 21:50:18 HLGhR2KE0
時は夜に遡る――

「よっしゃああぁぁあぁ!まじか!まじかよ!!
 ねーちんと予約されたぜ!ヒャッホーーーーーーーーーーーー!!!!
 こうなったら自称18歳の豊潤な胸をおがめに行くしかねぇだろ!!
 俺ちゃん!突撃、深夜の自宅訪問の時間がやって参りましたぁーーーーーーーー!!!
 これからねーちんの胸にダイブしてこよぉ〜と思いまぁーす!!!」

ウェイバーが気にしていたバーサーカーことデッドプールは厭きれるくらいの愚かな行為に走ろうとしていた。
というのも彼の宝具の能力――
否、以前に真玉橋孝一がHi-ERo粒子を発生させていたのをいくらバーサーカーとはいえ見過ごしてはいない。
そして魔力に近いHi-ERo粒子を感じたのはバーサーカーたちのいる部屋と同じ階……

「真面目な話だけど、これがねーちんじゃなくって男とかだったらスルーしてたからな。
 もろスルー。お前らも俺がビーム出すところスルーしろよ?
 つーか、俺ちゃんのビームが宝具になるか実は冷や冷やしてたんだよ!!
 別に欲しくないけど。つーか俺ちゃんの宝具とかこれだけで十分だけどな!
 読者が俺ちゃんを応援してくれるだけで俺ちゃん元気出るから!
 あれだよ!主人公が仲間の応援で復活するって奴!!
 俺ちゃんの宝具ってそれ考慮しただけでめっちゃチートだって!
 いやぁ…この宝具が除外されるかも冷や冷やしてた」

なんて大それた独り言をかましながら部屋から廊下へ出現すると

「一体何をなさろうとしているのでしょうか」

セイバーこと神裂火織がすでに待ちかまえていた。
ピタリと止まる空間。
覆面の下でバーサーカーが苦笑いする。

「ドーモ、ネーチン=サン。デッドプールです―――なんちゃって☆」

小規模の衝撃が入った。
直ぐ様にセイバーはバーサーカーを刀で投げ飛ばす。
被害を及ぼさないためマンションから放り投げ、セイバーはそれに続いた。

セイバーもバーサーカー同じく気づいていた。
バーサーカーの存在ではなく、考一の強力なHi-ERo粒子を感じたサーヴァントがいるのではないか、という可能性に。
呆気なく出現した為、予想通りとはいえ逆に予想通り過ぎて不気味さを覚えた。

落下したバーサーカーは真剣な面持ちのセイバーに対してベラベラと語る。

「あぁんもう酷い!あたしに乱暴はやめて、ねーちん!!
 業界違ったらご褒美かもしれないけど、いきなりハードとかきっついってばよ!
 悪い。この際だからハッキリ言わせて貰う。
 自称18歳!俺ちゃんに胸揉ませろ!!以上!!」
「はっ!?」





おっぱい

セイバーはついさっきまで真玉橋孝一におっぱいだの、胸揉ませろだの、ノーブラだの。
色々(セクハラまがい…セクハラ)言われた矢先にこの発言。
困惑を通り越して一種の苛立ちを覚えた。


231 : 故郷とおっぱいは遠くにありて思うもの ◆IbPU6nWySo :2014/08/03(日) 21:52:14 HLGhR2KE0
「え!?馬鹿なの?アホなの?死ぬの!?
 ねーちん、これからどんだけおっぱい揉まれるか分からねぇよ!?マジ!
 もしかしなくても令呪を以って胸を揉ませろって命令されたり、
 胸を揉むことは問題ないって言われたかもしんねぇけど!
 駄目だぜ!全然駄目だぜっ!!そんなの合意じゃねーだろ!弁護士呼ぼうぜ!弁護士!
 そういうことで俺ちゃんに胸揉ませて下さい。お願いしまーす」
「なっ……なん…何なんですか………」

バーサーカーのマシンガントークに圧倒されていたセイバーだが。
冷静になって聞いて見ると、ねーちんという名称…それは彼女の知り合いが呼ぶ渾名。
何故それを知っている?
さらには考一に胸を揉まれたというセクハラの事実まで把握しているようだ。

「どうやらこちら側の情報を把握されていますから……アサシンのようですね」
「あっ、ねーちんもそう思う?
 俺ちゃんとしてはねーちんと同じセイバーが良かったなぁーって思うし
 せいぜいアサシンだと思うじゃん?でもでもでも!
 何とまさかのバーサーカー!燃費最悪!優勝間違いなく無し!!
 フラグが大乱立のバーサーカーなんだよォー!!
 まぁ幸運Aクラスのウェイバーたんと居れば何とかなるっしょ!
 そういやねーちんって幸運EX?それくせぇー!運が良すぎて他の人間が不幸になる匂いがプンプンする!!」
「バッ…バーサーカー!?」

バーサーカーなのに意思の疎通が可能だし、パラメーターの話までしてくるし
もう何が何だか訳が分からない。
しかし、バーサーカーが事実ならばセイバーの彼女は不利と言わざる負えない。

「さすがに禁書は俺ちゃんも把握してっから!ねーちん、あんま出番ないけどな!
 作者がねーちんやばいってあんまり出さないけど俺ちゃんは好きだぜ!!
 愛してる!でも惚れるなよー?浮気乙wwwって読者に叩かれそうだし」
「…どのような手段があるか存じませんが、把握されているようでは仕方がありません」

彼女は七天七刀を構えた。
運のいいことにHi-ERo粒子の効力はまだ残っている。
多少の宝具の解放も大事には至らないはずだ。

「ちょ、おま、これなんで戦うパターンになってんの?
 何で俺ちゃんに胸揉ませて貰えないの!?なんで!アイイイエ、ナンデ!!
 ずるい!先生!!主人公ってずるいと思います!ラッキースケベ、俺ちゃんもしたーい!!!」
「むしろ、そちらは何の目的で来たつもりです?」
「え?ねーちんの胸目的だけど何か?」
「……?」
「………あー…ごめん、なんか俺ちゃん痛い子になってる。
 よし分かった。ねーちん、バトろうぜ!普通に聖杯戦争やろうぜ!!
 七閃ぶっぱしていいから!!な?」


232 : 故郷とおっぱいは遠くにありて思うもの ◆IbPU6nWySo :2014/08/03(日) 21:55:22 HLGhR2KE0
風の吹き回しが急でセイバーも気乗りではないが、どうやらバーサーカーは戦闘体勢に入ったようだ。

それにしても七閃のことまで?
……いえ、ここは試しに

セイバーはあえて七閃での攻撃を展開させた。
攻撃は把握されているが、それをどのように対応するのか見極める為である。
閑静な住宅街に七閃による風圧が吹き抜ける。
バーサーカーの体は風圧により身動きができず、体に傷が生じ、血が噴き出す。
だが、バーサーカーは銃を一つ構えたまま前進するのだ。
耐久力があるのかとセイバーは眉をひそめたが、傷は着実に増えていくし、効いていない訳ではなさそうだ。

やはり駄目ですね。ならば――

セイバーは刀を降ろすとバーサーカーに接近し、銃を持つ右腕に刀の鞘を抉りつけた。
通常ならばコンクリート壁を破壊する程度のセイバーの握力が叩きこまれるとさすがのバーサーカーの腕が曲がる。
が、同時にセイバーの体にも衝撃が走った。

「はーい、残念でしたぁー」
「!?」

セイバーが見過ごしていたのはバーサーカーの左側である。
左側にはまったく武器や攻撃の仕草が見られなかったからこそ、銃のある右に集中してしまった。
しかし、いつの間にかバーサーカーの左手には板状のものが握られ、それがセイバーの体に叩きこまれている。

あれは!?いつの間に!?!?

さらにはバーサーカーが手を離すと、板状のものは消失している。

「俺ちゃん意外に耐久力あんのよー?回復するとウェイバーたんの魔力がマッハでヤバイけどさぁー」

しまったとセイバーが体勢を取り戻そうとした時。
バーサーカーはセイバーに突撃し、そのまま押し倒される。

「え?」

何も起こらなかった。
むしろセイバーの上でバーサーカーがまったく身動きしない。
ここでバーサーカーの燃費の悪さ、魔力切れだろうか…?
恐る恐るセイバーが動こうとした瞬間、バーサーカーはガバッと体を起こし、そして

「ノーブラやべぇ……」
「……ちょっと…まさか………」
「ノーブラの弾力やべぇぇえぇぇええぇぇ!!!ほんっっっっとう、けしからん胸だな!
 ある意味通報するべきレベルの胸だな!世界遺産だなオイ!!
 うっしゃああぁぁあぁぁ!!!第二次二次キャラ聖杯戦争 完!!!
 こっからねーちんと俺ちゃんによる第三次二次キャラ聖杯戦争始まりまーす!!
 マスターはねーちんで俺ちゃんがアサシンで召喚される!!
 よし!これで問題ない!!あ、証拠の為に服の下確認していいですか?」

とんでもない馬鹿がいたものだ。
宣言通りにバーサーカーはただセイバーの胸にダイブして、それを堪能していただけなのだ。
それを理解した途端セイバーはさすがに――

「ふざけるんじゃねぇーーーーーーーー!!!!!!!!」

バーサーカーの鳩尾に拳を叩きこむ。
彼の体は笑えるくらいに高く飛びあがって行くが、セイバーは必死に息を切らして知ったことではない。


233 : 故郷とおっぱいは遠くにありて思うもの ◆IbPU6nWySo :2014/08/03(日) 21:57:18 HLGhR2KE0
私の胸がっ…胸がなんなんだーーー!!
金輪際!胸を触って良いのはマスターだけ!!!

「はぁ…やっぱり主人公補正強すぎィ!!俺ちゃん嫉妬していい?」
「まだ生きていらしたようですね……」
「あれ?なんか怒らせちゃった感?」

セイバーからの威圧にバーサーカーもさすがにたじろいだ。
いつの間にか戻った彼だが、セイバーの攻撃もあってか色んな意味でのボロボロ状態。
セイバーも冷静を保っていたつもりだが、口を開く。

「さっきから戦うつもりはあるのですかっ!
 私の胸がどうとかっ…!本当に胸目的じゃないですよね?!」
「……ねーちん、ごめん。俺ちゃん胸のことしか考えてなかった」

言葉にならない。

「でもでも!胸のお礼に今度ピンチになったら助けてあげっから!!
 液晶画面にいる読者とのお約束!!デッドプールたん助けてー!
 デッドプールたん大好きー!デッドプールたん愛してるー!!のどれかを叫ぶと
 一回だけ俺ちゃんが召喚されます。大丈夫!ストーカーとかじゃないから!!!」
「あなたも聖杯を望んでいるのでは――」
「んー……ねーちんは?」
「私は……その…みんなを幸せにすることです…」
「…マジ?」
「聞いておいて疑うのですかっ」
「…良かったなねーちん。愉悦部とか聖杯問答とかなくって!第四次だったらフルボッコだぜ!
 はぁー!マジか!何なん?菩薩?菩薩ですか?
 そうだ、ねーちん聖人だったわ!モノホンの天使で女神だぜ!よし、わかった結婚しよ」
「!?」
「違った、俺ちゃんの専属おっぱい枕になって下さい」
「い い 加 減 に し や が れ !」
「マジレスするとウェイバーたんが俺ちゃんに望薄だから協力してくれるかもよー!!
 俺ちゃんが嫌いになってもウェイバーたんのファンは止めないで下さい!!!
 それじゃっ!」

霊体化したバーサーカーの後に取り残されたセイバー。
はぁーと長い息をつくと頭を冷やした。
何気なく協定を持ちかけられたがどうするべきだろうか…と。
といえ精神がまともでないバーサーカーの妄言だ。
せいぜい頭の片隅に置いておく程度にして、ここを拠点にする事を避けるべきか
傷を癒した後、マスターである考一と話合うことだけをセイバーは思考した。

以上が深夜の出来事である。


234 : 故郷とおっぱいは遠くにありて思うもの ◆IbPU6nWySo :2014/08/03(日) 22:01:07 HLGhR2KE0
「確かに許せないぜ…セイバーの胸を揉むなんて……」

案の定、翌朝。
セイバーがこの事実を告げると考一は突っ込みどころ満載の怒りをあらわにしていた。
食事をとりながら冷静にセイバーは言う。

「マスター…そうではなく……」
「わかっている!皆まで言うな!!
 おっぱいは誰に対しても平等にある!バーサーカーがセイバーの胸に魅了されるのは当然だ!!
 だがな!俺の許可なしにセイバーの胸を拝めるのはっ!!!」
「……マスター。はっきりと申し上げます。
 ここを拠点に置くのは危険ではないでしょうか。あのバーサーカーの実体も掴めません」

『第四の壁の破壊』を把握できるサーヴァントは早々いないだろう。
むしろ把握という問題ではなく、理解の問題かもしれないが……
あの訳のわからない言動等からしてバーサーカーであることはセイバーも認めた。
しかし、訳のわからない彼がすでにセイバーの真名を把握していると
彼女も警戒を抱いたのである。

実際、バーサーカーの能力を目の当たりにしていない考一には漠然としたイメージだが
セイバーの警戒を親身になって受け止めた。

「確かに俺の知る限りのウェイバーはいい奴だし、話し合うのも悪くないかもな」
「本気、ですか?」
「あぁ!まさに胸を語りあうって奴だぜ!」


……胸…




【B-5/賃貸マンション/一日目 早朝】

【真玉橋孝一@健全ロボ ダイミダラー】
[状態]健康
[令呪]残り2画
[装備]学生服(月海原学園の制服に手を加えたもの)
[道具]学生鞄、エロ本等のエロ目的のもの
[所持金]通学に困らない程度(仕送りによる生計)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝狙い
1.今のところは普通に通学する。
2.ウェイバーたちと話し合ってみる。
[備考]
・バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。

【セイバー(神裂火織)@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康 
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝狙い
0.胸……
1.マスター(考一)の指示に従い行動する
2.バーサーカー(デッドプール)に関してはあまり信用しない
[備考]
・バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。
・Hi-ERo粒子により補充された魔力は消費しました。


【ウェイバー・ベルベット@Fate/zero】
[状態]魔力消費(中)
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]仕事道具
[所持金]通勤に困らない程度
[思考・状況]
基本行動方針:現状把握を優先したい
1.バーサーカーの対応をどうにかしたい
 最悪、令呪を使用する?
[備考]
・勤務先の英会話教室は月海原学園の近くにあります。

【バーサーカー(デッドプール)@X-MEN】
[状態]霊体化 魔力消費(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:一応優勝狙いなんだけどウェイバーたんがなぁー
1.ねーちんにはお礼返すよ?大丈夫!
[備考]
・セイバー(神裂火織)とそのマスター・真玉橋孝一を把握しました。


235 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/03(日) 22:03:18 HLGhR2KE0
投下終了です。誤字脱字等の指摘があればお願いします。


236 : 名無しさん :2014/08/03(日) 22:08:04 fHyG.mP60
投下乙
デップーうぜえwwww
さすがおしゃべり傭兵だけあるw
マスターもバラしちゃうしこいつを制御するのは至難の業だなw

これはまだんばしくんとの同盟ってこと・・・なんすかねw


237 : 名無しさん :2014/08/03(日) 22:16:14 sli6lOZg0
投下乙です。
デップーかなりメタネタ喋るなぁ。
やっぱりここだとマブカプのテンションに近いか
しかしマスターバラすわ勝手に胸揉みに行くわで扱いづらいにも程があるな…w


238 : 名無しさん :2014/08/03(日) 23:09:32 iN/BQKiI0

ねーちんは泣いていい


239 : 名無しさん :2014/08/04(月) 02:54:59 tfS9i0HU0
投下乙です
ウェイバーちゃんとねーちんは災難すぎるwww
孝一と話し合いのチャンス持てたのは不幸中の幸いだけど...?


240 : 名無しさん :2014/08/04(月) 03:21:21 6iq8kb.Q0
ねーちんストレスで胃潰瘍になりそう


241 : 名無しさん :2014/08/04(月) 04:34:57 82AhebJo0
投下乙!
ねーちん二話連続で災難すぎるwww
孝一やデップーの気持ちもそりゃ分かるけど!w
楽しそうだな、デップーw
こいつに有利なのは把握しにくそうなマイナー作か把握が難しい鈍器や攻略に手間かかるRPG系か!?


242 : 名無しさん :2014/08/04(月) 11:33:42 WauIqPLEO
投下乙です。

バーサーカーに遭遇したのにほぼ無傷。
お人好し魔術師のウェイバーと同盟フラグ。

流石は幸運Ex


243 : ◆holyBRftF6 :2014/08/05(火) 22:17:03 k6ywqUfQ0
議論スレの指摘を受けて加筆、修正を行いました。

>>181
 二人は相談しながら予め用意したメモ用紙に名前と住所、連絡先を記録していく。顔写真は念入りに見つめ、今のうちに記憶する。
 先の二人以外にも桜から見て怪しい名前はあった。前提に誤りがあるのか、それとも学園にはよほどの数のマスターがいるのか、キャスターは少しだけ悩んだ。
 最終的に、作業は一時間ほどで終わった。何人かに目星をつけて。
 キャスターが蟲達を操って書類を戻す様子を見やりながら、桜はメモ用紙をしまい込む。心の中ではずいぶんアナログな戦い方だと感じていた。自分達はデジタルな仮想空間にいるはずなのに。

「これからどうするんですか、キャスター」
「どうもしない。せいぜい試してみるだけだ」

 その答えと共に、二匹の虫が校門に張り付いた。
 片方は校門の凹みに隠れているだけの、目を凝らせば気付くような位置に。
 もう片方は完全に校門と同化し、隠れる様子を見ていた桜ですらどこへ行ったか分からない。
 別の虫が新たに校舎へ飛んでいった様子を見ると、職員用入り口にも同じものを潜ませるらしい。

「えっと……?」
「どちらも監視用の虫だが、片方は撒き餌だ。
 名簿で目をつけた人物が登校してきた場合、この虫達への対応で資質を計る」

 首を傾げる桜に、キャスターは説明を開始した。
 その口調から威圧的にも見える彼女だが、相手に伝わりやすいように説明するのは得意だった――生前にも、経験がある。

「どちらにも気付かずに通り過ぎるなら下の下。交渉もできるし利用もできる。
 片方に気付いて過剰な対応をするなら下。交渉は難しいが利用はできる。
 片方に気付いたがその場は無視するなら中。利用は難しいが交渉はできる。
 両方に気付くなら上、対策が必要だな」
「両方に気付いた事を私達に気付かせない時は?」
「上の上、難敵。こちらが気付けないのだから諦めるしかない」

 持ちだされた仮定に対し、さらっと負けを認める。
 もともと「キャスター」は正面から戦うクラスではないのだ。謀略で遅れを取るならどうしようもない、そういうことだった。

「とはいえ、逆に名前だけでは気付けなかった相手が勝手にボロを出してくれる可能性もある。分の悪い賭けではないだろう」
「マスターが誰も来ないなら」
「それならそれでいい。ルーラーに露見しない程度にこの学園を『餌場』として利用させてもらうだけだ」

 キャスターの方策に対して桜が嫌悪感を抱くことはなかった。
 人の形をしたものが蟲に喰われていく様は鮮明に想像できたが、特に思うことはない。一言で言えばどうでもよかった。
 NPC相手なら殺人ではないのだし、思い浮かぶグロテスクな光景に対して拒否感もない――慣れているから。ある意味では、魔術師らしい割り切り方と言える。
 故に、キャスターもそのまま話を続けていく。

「最良の手は住所に監視を付けることだが、蟲の飛距離を補うには陣地が不可欠だ。
 陣地で魔力を集めれば蟲の飛距離は伸ばせる。マナラインを確保すればそれを通して遠くの蟲に魔力供給できる。
 しかし工房すら作成していない現状では無理な話だし、そもそも工房のみによるマナラインの誘導には限度がある。
 膨大な魔力の貯蓄、マナラインの完全な観測……どちらにせよ浮遊城の完成が必要になるな」
「結局のところ『待ち』なんですね」
「そういうことだ。情報も物資も戦争には欠かせない。
 私達のように住所を移す主従がいる可能性を考えると、少しばかり急ぎたくはなるがな」

 ここで、話が一旦区切られた。空気は静寂に包まれ、蛙や蟲が鳴く声すら響かない。
 促すようなキャスターの視線を受けること数秒、今後の予定に関する質問を促されているのだと桜は気付いた。それも、冬木市の地理が関係するような質問を。


244 : ◆holyBRftF6 :2014/08/05(火) 22:17:50 k6ywqUfQ0
>>183


【C−3/学園校門前/1日目 未明】
【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]健康
[令呪]残り三角
[装備]学生服
[道具]懐中電灯、筆記用具、メモ用紙など各種小物
[所持金]持ち出せる範囲内での全財産(現金、カード問わず)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.キャスターに任せる。NPCの魂食いに抵抗はない。
2.直接的な戦いでないのならばキャスターを手伝う。
[備考]
・間桐家としての財産が再現されているかは不明です。


【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]健康
[装備]学生服
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
1.工房の作成。
2.学園に関する情報収集。
[備考]
・工房は桜の案内の元で、B−2、B−3、C−1、C−4、D−2、D−3のいずれかの場所に作成します。
・学園の入り口にはシアンの蟲が隠れており、名簿を見てマスターの可能性があると判断した人物の動向を監視しています。
 日本人らしくない名前の人物に対しては特に注意しています。
 ただし距離の関係から虫に精密な動作はさせる事はできません。


245 : ◆holyBRftF6 :2014/08/05(火) 22:18:03 k6ywqUfQ0
以上です。


246 : 名無しさん :2014/08/06(水) 15:14:55 M.sClUFU0
避難所に投下されてた作品の代理投下をします。


247 : 破戒すべき全ての電人(ルールブレイカー) ◇ZTnr6IpaKg(代理) :2014/08/06(水) 15:16:18 M.sClUFU0
錯刃大学、春川研究室。電人HALはそこにいた。
パソコンを使い、朝早くから仕事を片づけている…
という体裁を整え、洗脳した人間から逐一送られてくる情報を処理する。
電人が実体があるキーボードを一々叩くというのも妙ではあるが、
現在のHALは『春川英輔』としてここにいることになっている。
一応、外面だけでも人間として取り繕っておくのは、情報秘匿の観点からも無駄ではないだろうという考えだ。
当然ながら、キーを叩きながらも電人としての能力を駆使してパソコンを通じて処理を行っているため、
実際の作業量としては見かけ以上に膨大なものとなっている。

アサシンは既に周囲の見回りを済ませ、HALの背後に待機している。
流石に畑違いであるためか、画面に映る情報からでは有効な考えを引き出せないようだ。
この仮想空間という場での専門家であるHALが基本的な戦術戦略全般を担当し、
戦闘に関わる領域ではアサシンが主導するというのがこの二人のスタイルである。
つまり、今現在は電人HALが仕事をする場面だということである。
得られた情報から、今後の立ち回りを考えなくてはならない。

「ふむ…ネットワークにはある程度網を張ったが、どうしても手を出しにくい領域が幾つかある。
 私以外のハッキングによる侵入者…。特に、極めて高度な外部演算装置の補助を得ているモノがいる。
 ……私以上に電脳世界で力を持つなど、私が元いた時代では有り得ぬことだ。
 未来か、より技術が進んだ世界からの参加者といったところか」

「"ますたぁ"は、本来その"ねっとわぁく"や電脳世界とやらに生きる存在だと聞いたが、
 それでも手が出せぬ、と?」
 
「コンピューター…私の力の源でもある、この絡繰の性能が違いすぎるようだ。
 私以上の処理能力を持つ、というのは非常に興味深いがな。
 それでも、外部から侵入して行われる補助と、内部から直接電人としての力を使える私では、
 私の方が力を行使しやすいという優位がある。それ故にどうにか直接対峙せずに済んでいる。
 ハック能力を持つ数人の参加者は、私の存在を察しているかもしれないが、こちらの所在が割れることはない。
 ……迅速に始末する必要はあるがな」
 
この拮抗がいつまで続くかはわからない。
彼がアドバンテージを保つためには、この仮想世界で彼に対抗できるマスターとは、
可能な限り早めに決着をつける必要がある。無論、サーヴァントの力を以て。
ネットワークから自由に情報を得られるのは、その後の話である。
 
「それよりはわしの任となるな。
 …しかし、やはり、わしが直に探るのではなく、お主の手下が絞り込んでからになるか」

「情報源としては、洗脳した人間の方が優位であるからな。現状は。数が必要だ。
 ……ままならぬものだ。ここはあくまで仮想空間だというのに」

現実世界での限界を"0"と"1"の世界で越えるための存在が、
仮想世界において人間のふりをして実体を保ち、人間を第一の情報源として当てにするとは中々の皮肉だ。
HALは、そう自嘲した。
もしも街中のパソコンや監視カメラ等のデバイスを掌握できれば、マスター探しも楽に済む。
その能力もあるのだが、そこまで派手にやらかすと、逆に位置がばれる可能性が高い。
故に、情報収集は洗脳した人間を使い、地道に行うこととした。 

地道だが、これが一番確実ではある。
攻撃されないNPCという、安全を保障された目を町中にばら撒いておけるのは大きな優位である。
殆どの手駒が大学の人間といっても、一日中大学にいるわけではない。
日中からそれなりの人数が外に出ていても、決して不自然ではない。
情報の受け渡しはメールなどによるものが主となるが、
彼の元へと送られるものだけであれば盗聴されないように回線を保護するのは容易い。

それに、病院に洗脳済みの人間を入れることができたのも大きい。
大学病院だからこそ、医学部の人間を送り込んでも不自然ではなかった。
多くの人間が集まり、また令呪の有無をごく自然に調べることができる場所だ。
怪我をしたマスターが来ることもあるかもしれない。
……流石にそれは話が旨過ぎるか。

ともかく、現時点では順調であり、情報もそれなりに集まっている。
殆どは戦闘の痕跡を見つけた程度のものであり、マスターを直接捉えたような決定的なものは無いが。
ある程度マスターとサーヴァントの居場所を絞り込めることは可能である。
手下に、目星を付けた地点へ行き、自然にうろついて監視を行うように指示を飛ばす。
今は、こちら側で網を張る時。



 ◆ □ ■ ◇ ◆ □ ■ ◇ ◆ □ ■ ◇


248 : 破戒すべき全ての電人(ルールブレイカー) ◇ZTnr6IpaKg(代理) :2014/08/06(水) 15:18:20 M.sClUFU0



……しかし。

「この『方舟』とやらは、聖杯戦争をまともに管理する気など無いらしいな」

腑に落ちないのは、この聖杯戦争のルールのあまりの杜撰さである。
自分が電人だからこそ、仮想世界で行われるこの戦争に対する違和感をどうしても無視できない。

"0"と"1"による演算を支配する電人である自分は、自らが構築した電子世界内で無敵と言ってもいい力を振るえる。
ここが『方舟』が構築した仮想世界というならば、『方舟』もまた同様、いやそれ以上の力を持つはずだ。
ならば、『方舟』がルーラーなる監督役を用意し、それに一切の仕切りを任せているのはなぜだ?
『方舟』自身が参加者を監視し、違反者を消せばよいだけではないか。
もし自分がこの戦争を管理するなら、そうするだろう。仮想空間内ならその方が確実だ。

そのルーラーにしても、監督役として十分な力を持っているとは言い難い。
相応の実力や特権はあるのだろうが、ルーラーはあくまでサーヴァントに過ぎず、
つまり参加者の手によって打倒され得る存在でしかない。
ルーラーは各サーヴァントに対する二画の令呪を持つ?
確かにそれは脅威だ。だがマスターが持つ令呪は三画だ。
極端な話、ルーラーの令呪による命令をこちらの令呪で相殺するように使用すれば、
マスターとサーヴァントは令呪一画を確保したままルーラーの支配から抜け出せるのだ。
つまり、ルーラーは本気で反抗しようとするマスターとサーヴァントに対し、
独力でそれを押さえきることができる力を持っていない。

そして、この冬木市もまた戦争の舞台として適しているとは言い難い。
メモリーデータを思い出す予選に必要であるから用意したというならば理解できなくもない。
しかし、そのままここで戦い続ける必要は無いはずだ。NPCの殺害にペナルティがあるからである。
なぜNPCへの被害が出る危険性を放置するのだ。
適当なバトルフィールドを構築してそこにマスターとサーヴァントを跳ばせばよいはず。

あるいは、NPCの殺害に対するペナルティそのものが不合理というべきか。
仮想データに過ぎないそれらを監督役が保護するなど必要あるまい。
たとえ未覚醒のマスター候補が混じっているのだとしても、だ。予選落ちした以上、考慮に値する存在ではない。
NPCを保護するルールがわざわざ存在するからこそ、冬木で戦争をすることに不都合が生じている。
何らかの必要性を以て保護しているというなら、「過度に殺害するとペナルティ」といったように
ある程度の被害を許容するようなルールを敷く理由も無い。殺した時点で厳罰に処せばよいだけのはず。
管理者側にとって、NPCを守る意味も、その重要性も、非常に曖昧過ぎる。





総じて、ルール違反となる行為を定めておきながら同時に許容し、その抑止力も甘過ぎるということだ。
このような矛盾に満ちたルールを『方舟』があえて採用した理由があるとすれば、それは……。

(本気でルールの網を掻い潜り、破れるならば、やっても構わない、ということか…?)

聖杯戦争のルールは、破られることを想定されている。
NPCは、もともと魔力源として消費される役割も想定されている。
それを咎めるルーラーもまた、排除されることをも役目として想定されている。

『方舟』が、『聖杯』が、それを想定している。

その、可能性。


249 : 破戒すべき全ての電人(ルールブレイカー) ◇ZTnr6IpaKg(代理) :2014/08/06(水) 15:19:02 M.sClUFU0
ルールを守って戦争するのも、リスク覚悟で破るのも任意。
戦争が公平円滑に進行するように、一定の縛りが設けられていることは確かである。
しかし、それを逸脱してまで自分の戦術戦略を通そうとする主従がいるなら、それはそれで構わず。
それができる能力があるか、また実行するか否かということもまた、戦いの要素として組み込まれているのではないか。
ルール違反のペナルティなど、『ルーラー』というプログラムの一つに与えられた役割以上の意味はないのではないか。

そうであると、するならば。

他の連中がルールに縛られている中、逆にルールを打破することで圧倒的な有利に立つこともできるはず。
ならば、破る方を目指すのも手の一つ。
自分の持つ『コードキャスト:電子ドラッグ』が、その理由となる。
この街のNPC全てを洗脳することができれば、それは戦争の舞台そのものの掌握に等しい。
全ての参加者に対し、圧倒的な優位を持てる。
それを阻むのがルーラーだというならば、排除を狙う価値はある。

(仮説の裏付けと、ルーラーにどの程度の能力があるのか、詳しく知る必要があるな。
 こちらの違反行為をどのように感知するのか、状況をどのように把握しているのか。そして実力。
 出し抜くことは不可能ではない。意外と穴は多そうだ)
 
自分は、既に一度ルーラーがその権限を振るった場面を捕捉していた。
無論、正確には、自分が電子ドラッグで洗脳したNPCが、である。
そのNPCは、既に洗脳した大学の人間を通じて電子ドラッグで洗脳したチンピラであった。
大学の教員や学生が大勢で夜中まで外をうろうろしていることは不自然であるため、
隠蔽の為にそういった時間帯でも行動していて不思議ではない人種を少数だが確保していたのだ。
それが早速役に立った。

そのNPCは、新都の廃ビルが倒壊する現場にたまたま居合わせた。
ビルから溢れ出た赤黒い液体と、そこからはい出た人間の様なものに襲われたところ、
旗を持った少女が現れ、走り寄り、ビルの壁面を駆け上がり、
その直後、こちらに襲いかかろうとした液体と人間たちは消え去った。

この報告だけでもルーラーの能力の限界が一部推測できる。
『ルーラーは、直接現場を押さえるか、証拠が無い限り、その権限を振るえない』
わざわざ走って現場まで来たということは、少なくとも通常の戦闘行為に関しては、
監督役の権限として遠隔視や参加者の現状把握を行い、遠距離から警告する能力は無いのだろう。
ルーラーが現れたタイミングが良すぎることから、何らかの感知能力があるのかもしれないが、
NPCへの被害を感知できるというならば、大学の人間を数百人単位で洗脳した自分の所へ来ない理由は無く、
目の前にいた洗脳済のNPCを見過ごすことも無いはずだ。
つまり、感知能力があったとしても、サーヴァントの位置や戦闘の現場がどこなのか知る程度。

(あくまで仮説ではあるが、そこまで大きく外れているとも思えない。
 そう考えると、市一つをカバーするには能力が不足していると言わざるを得ないが…。
 もしそこまでザルだとすると、逆に本命の監視がいて、ルーラーはその囮という可能性もある、か?
 …たとえそうだとしても、令呪を二画持ち、戦闘を強制中断できる力があることは軽視できることではないが。
 こちらを放置しているのも、とりあえず現段階でNPCに直接的な被害が無いから見逃しているだけかもしれん)

だが、現在の情報からでも、ルーラーの排除が不可能ではないことは間違いあるまい。
ならば、それを目標の一つとして考えておく必要はある。

(少しでも情報を、というならば、もうすぐのルーラーからの通達以降だな。
 ルーラーが電子ドラッグの事をどれだけ把握しているのか、何かアクションがあるかもしれん。
 そこからでも、わかることはあるか)
 
無論、他の主従のことに関しても。
通達を機に、行動を開始する主従は多いだろう。
つまり、ルーラーも含め参加者の情報を得る最大のチャンスだということだ。
通達後もひとまず研究室に留まり、自分の尖兵から上がってくる情報を解析し、
より重要度の高い組に対してはアサシンによる偵察を、可能ならば暗殺を試みる。

「アサシン。当面の方針が決まった」



 ◆ □ ■ ◇ ◆ □ ■ ◇ ◆ □ ■ ◇


250 : 破戒すべき全ての電人(ルールブレイカー) ◇ZTnr6IpaKg(代理) :2014/08/06(水) 15:19:41 M.sClUFU0



("るぅらぁ"を仕留めるか…。
 大将首どころではないな。恐ろしいことを考えるものよ)

再び周囲の偵察に戻ったアサシンは、HALから伝えられ、相談し合った戦略を反芻する。

この戦における約定、それを司るルーラーの排除による優位の確立。
採用する可能性がある戦略の一つだというが、その有効性には疑い様が無い。
他者を意のままの傀儡とする、甲賀や伊賀にも存在しなかった魔性の術。
その枷を全て解き放つ、それはこの戦の趨勢を決めるものとなろう。

その戦略に否やは無い。元より、基本的な方針を定めるのはHALに任せてある。
自身の業を上回る輩が跋扈するであろうこの戦、闇討ちだけで全て片が付くとも思えず、
ならば虎穴に入ってでも敵に先んじる必要もあろう。
そのためにルーラーを倒す必要があるのであれば、全力を以てそれを成す覚悟はある。

しかし、アサシンは一つの懸念をHALに伝えていた。

("るぅらぁ"を討ち取ったとて、枷が解けるのは、我らだけではない。
 他の"さぁばんと"もまた、己が意のままに暴れ回ることとなろう。
 不戦の誓いを破られるやいなや、憎しみのまま殺し合った伊賀と甲賀の様に。
 ……その時、我ら以上の力を振るう者共がおらぬとは限らぬ)

抑止力の排除、それによる戦況の変化は、HALにもアサシンにも完全には予測できない。
アサシンと想い人の運命を狂わせた、あの混沌とした殺し合いを、この『方舟』で再現しかねない一手である。
悪い様に考えれば、ルーラーの排除によりNPCへの保護が無くなるということは、
事実上無尽蔵の魔力補給の機会を敵に与え、強大な宝具の使用を許すに等しい。
そのことが、NPCの掌握による優位を覆す可能性もまた存在する。
無差別の広域破壊の様な攻撃を解禁してしまうと、アサシンに対しては極めて不利なのも問題である。
故に。

(事を起こす前に、"彼奴(きゃつ)"の力が通じている間に、
 我らを凌駕し得る者共を、探し、討つ。それが、まずわしが成さねばならぬこと。
 そして機を見て事を成し、"ますたぁ"の術で戦場を手中に収める)
 
忍の業を活かしての暗殺を行うならば、ルーラーの存在はむしろ有難いものだ。
アサシンが持ちえない、敵の火力を抑制してくれる。
ならば、それを利用することもまた必要。
ルールの庇護の下で潜在的な脅威を消し、その後にNPCの洗脳で一気に王手をかける。

鍵は、まずどれだけ他の組の秘密を暴き、始末するべき相手を選び、処理できるか。
そして、戦略を転換する時期を間違わぬこと。
そしてやはり、最重要目標であるルーラーの能力の見極め。

容易いことなど何一つ無い苦難、どれだけ続くかもわからぬ茨の道。
だが、伊賀との、朧との戦を強いられたことに比べれば何だというのか。
その全てを踏み越えてみせよう。彼女の元へ辿り着くまで。

朝日が昇り、目覚め始める街に眼を向ける。
その向こうにいる敵を見定める様に。


251 : 破戒すべき全ての電人(ルールブレイカー) ◇ZTnr6IpaKg(代理) :2014/08/06(水) 15:20:34 M.sClUFU0
【C-6/錯刃大学・春川研究室/1日目 早朝】
※【C-6】に錯刃大学を配置しました。
 病院と同エリア内であり、更に病院を錯刃大学付属の大学病院としました。

【電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]『コードキャスト:電子ドラッグ』
[道具] 研究室のパソコン、洗脳済みの人間が多数(主に大学の人間)
[所持金] 豊富
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。
1. ルーラーを含む、他の参加者の情報の収集。
2. ルーラーによる12時の通達の後に、得られた情報をもとに行動方針を是正する。
3. 通達の後、特に注意すべき参加者の情報が得られた場合、アサシンによる偵察や暗殺も考える。
 『ハッキングできるマスター』はなるべく早く把握し、排除したい。
[備考]
○『ルーラーの能力』『聖杯戦争のルール』に関して情報を集め、
 ルーラーを排除することを選択肢の一つとして考えています。
 ルーラーは、囮や欺瞞の可能性を考慮しつつも、監視役としては能力不足だと分析しています。
○大学の人間の他に、一部外部の人間も洗脳しています。
○洗脳した大学の人間を、不自然で無い程度の数、外部に出して偵察させています。
○C-6の病院には、洗脳済みの人間が多数入り込んでいます。
○ビルが崩壊するほどの戦闘があり、それにルーラーが介入したことを知っています。
 ルーラー以外の戦闘の当事者が誰なのかは把握していません。
○他の、以前の時間帯に行われた戦闘に関しても、戦闘があった地点はおおよそ把握しています。
 誰が戦ったのかは特定していません。

【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態] 健康
[装備] 忍者刀
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。
1. HALの戦略に従う。
2. 自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。


252 : 名無しさん :2014/08/06(水) 15:21:40 M.sClUFU0
◆ZTnr6IpaKg氏作「破戒すべき全ての電人(ルールブレイカー)」の転載終了です。


253 : 名無しさん :2014/08/06(水) 15:52:00 NIZ1/fXA0
投下乙です!
ついにHALがルーラー殺しを視野に入れだしましたか
バジリスク好きな自分としては、弦之介を応援したいなあ


254 : 名無しさん :2014/08/06(水) 16:22:39 rx8K.63AO
投下乙です
HALとルリルリの対立軸が生まれましたね
そしてルーラー討伐も視野に・・・
既に翻弄されはじめてるジャンヌちゃんの明日はどっちだ


255 : 名無しさん :2014/08/06(水) 16:51:17 3xraznaU0

ルーラーいなくなったらシアンとかバーン様が城出しちゃうな


256 : 名無しさん :2014/08/06(水) 17:35:46 5jIOPgd.O
投下乙です。

かつて電脳世界を支配してただけあって、運営側の思考を推理するHAL。
ルーラーが討伐されてNPCを保護する者がいなくなると、NPCを大量洗脳してるHALは、かえって不利になるかもしれないんだな。


257 : 名無しさん :2014/08/06(水) 18:46:45 AQHia0mo0
投下乙〜
電人だからこそのセラフへの着眼点や自身の対抗馬への警戒がなんかいいな
そのHALの戦略にただ従うだけじゃなくてちゃんと弦之介もアサシンらしい戦術働かせて動きにかかってるし
このコンビは中々に頭よくて手強い


258 : 名無しさん :2014/08/06(水) 20:35:20 IMRpKwA60
投下乙
前回の二次キャラ聖杯戦争みたいに「黒幕」の存在もなきにしもあらずだしな
ルーラーをも攻略対象の1つってのはなかなか面白そうだ


259 : 名無しさん :2014/08/06(水) 22:18:06 s.PK15KcO
弦之介の懸念どおりHAL組は火力不足なんだよなあ。
原作の洗脳者の人海戦術もネウロが魔力不足と洗脳者を殺す気がなかったから有効なわけで。
グレーな参加者にとっては餌が大量にくるのとかわらん。


260 : 名無しさん :2014/08/06(水) 23:46:25 xs4ZxvDw0
キャスター2組を始めとして色々と広い規模での動きしてるキャラが目立つロワだなぁ
周りがNPCとは言え日常生活の中でこういうのがあるのはなんか新鮮だww


261 : ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:29:45 Z9zMTei60
投下します。


262 : 鋏とおさげ  ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:30:48 Z9zMTei60


紫色のポニーテールをなびかせて、軽快に朝の街を駆ける。
いつものバス停が見え。振り返るとバスもこっちに向かってきている。
バス停には、よりにもよって待ち人はいない。

「っとヤバい!」

更にダッシュをかける。
加速して通り過ぎるような運転手ではなく、バスは緩やかにバス停へと停車してくれた。

「乙哉ちゃん、セーフ!」

ノンステップバスの前入口から軽やかに乗り、定期券を運転手に見せて席を見回す。

「らっきー♪」

一人掛けの席が空いており、特にお年寄りがいないことを確認してささっと座った。

武智乙哉のマンションから、近いバス停は二つあるのだが。
一つは今乗っている、新都駅から橋を経由して北回りに月海原学園へ向かうバスの停留所。
もう一つは同じく橋を経由して南回りに向かうバスの停留所だ。

乙哉はいつもこの北回りのバスを使っていた。
南回りの方が到着時間は早いのだが……その分、駅から乗る学生が多く、混んでいたのだ。

指抜きグローブを締め直し、座席からまわりの乗客を観察するが、特に目立った客はいないようだ。

(まあ、流石にいきなり変な行動は取らないよねー)

などと考えていると、バスは次の停留所で停車した。


乙哉と同じく走ってきたのか、はぁはぁと言いながら制服を着た少女が乗りこんできた。
その少女はよろよろと乙哉の席の横まで歩いてくると、そのまま手すりに掴まった。

「ふぅ……ふぅ……」

乙哉はその少女を観察する。

―――長く黒い髪を結ってふたつのおさげにしている。
赤い眼鏡に黒のカチューシャ。
あまり大きくない胸を片手で押さえて、ふぅふぅと息に合わせて手も上下に動いている。
気弱で病弱な文学少女、って設定だろうか。

しばらく観察していると、その少女なんだかさっきより更にフラフラしている。
もしかして……貧血?


263 : 鋏とおさげ  ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:32:04 Z9zMTei60


乙哉はスッと立ち上がると、席を勧める。

「大丈夫ー? 座っていいよ」
「えっ!? あっ!? ええ!?」
「はいはい、座った座った」

少女は促されるままに席にストン、と座らされた。

「あ……あの……。ありがとう、ございます……」
「どーいたしましてー♪」

消え入りそうな声でお礼を言う少女。
笑顔で応える乙哉。

しばらく少女は目を閉じて、胸を押さえて深呼吸をしている。
制服の前に垂れたおさげが、その呼吸に合わせて上下に動く。


(ヤッバ。可愛い……!!)


―――おさげ。

ああ麗しのおさげ。
こう、チョキン、と切ったらばさりと落ちるあの重量感。
可愛い。
おさげって最高にチョン切りたくなる。

ルームメイトのしえなちゃんはおさげ切らせてくれなかったけど。
そういえばこの子もおさげに眼鏡だ。

思い出したら益々切りたくなってきた。

切りたい。
切りたい。切りたい。
切りたい切りたい切りたい。
切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい。

目の前の綺麗なおさげを切りたい。
ちょっとだけ。
おさげだけでいいの。

右手を鞄にいれようと手を伸ばす。

―――ハッ!

ダメダメ。耐えるの乙哉。
我慢我慢。あたしは我慢も出来る子だから。


「あの……」
「なにかなー?」

内面の葛藤はおくびにも出さず、朗らかに答える乙哉。


264 : 鋏とおさげ  ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:33:25 Z9zMTei60


「ありがとうございました。もう、落ち着きましたから。
 席、替わりますね」
「あーいいよいいよ。そのまま座ってて」
「でも……」

申し訳なさそうに目を伏せる少女。

可愛い。

この子、きっとアノ時凄く反応してくれそう。

「あ。そういえばその制服。中等部の子かな?」
「あ、えっと……」


>だから貴方は極力怪しまれないように心掛けて
>貴方は相手の令呪を出来れば見つけてほしい。
>それと相手の魔力や魔術、魔法を感じたら逃げなさい。
>今日はそれだけでいいわ。
>後は学園生活を過ごすために友達を作りなさい。


(とも……だち……)

うん、と決意新たに少女は頷くと。


「……はい。少し前に転校してきた、暁美ほむらって言います」
「ふーん、ほむらちゃんだねー。あたしは武智乙哉。よろしくね」
「ほ、ほむらちゃん? え、えっと……」

呼ばれ慣れない下の名前で呼ばれ、どきまぎするほむら。

「よ、よろしくお願いします、武智先輩」
「お・と・や。乙哉って呼んでね」
「は、はい。乙哉先輩」





265 : 鋏とおさげ  ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:36:15 Z9zMTei60


日中ならば襲撃の可能性は少ないだろうと。
私は暁美ほむらよりも一本早いバスに霊体で乗り、先に学校を調べることにした。

念の為、霊体化を解除しても良いように、暁美ほむらと同じ月海原学園中等部の制服を着てきていた。

学校前のバス停で生徒達が多数降りていくが、
このバスには不審な人物は存在しなかった。

バス停から学校までの道。
何か罠を張るのならば、人が通りやすいこの辺りの場所か。

停留所、通学路、フェンス、カーブミラー。
一見して不審な個所は見当たらない。

霊体化を解けば、より魔術的な反応が分かりやすいのだが、
当然こちらの存在が感知されてしまう危険性がある。

校門までの間におかしな個所は感じられず、校門前まで来た。
校門前の広場、学校名の表札。そちらも問題ない。

だが、校門を調べると。

――その窪みに、見たこともない虫が存在していた。
そしてその虫から微小ながら魔力を感じる。

使い魔的なものだろうか……?
攻撃用? 監視用?
霊体化を解いていない以上、深くは調べられない。


どうすべきか―――


先に暁美ほむらへ念話で伝え注意を促す方法はどうか。

―――ダメだ。あの子では、知らせた後に校門を通る際、
きっと右手と右足を同時に出すくらい不自然に意識してしまうだろう。

現時点の暁美ほむらは、魔法少女成り立てだ。
巴マミに教わった、魔女や使い魔の探索法――つまりは、魔力探知の方法――は習得前である。
『重糸する因果線(マギア)』で技術や能力を伝えていくと言っても、現時点で彼女がどこまで成長しているかは分からない。
つまり、逆に何も感知せず通り抜けられる可能性はある。
だがもし気がついてしまったら……やはりその場で何らかの特異な動きをしてしまうだろう。

裏口から入らせるか―――だが探している時間はないし、あの子が既に知っているとも思えない。
また、そちらにも同じ仕掛けを使っているかも分からない。

ではどうする。

いっそ時間を止めて虫ごと校門を爆破してしまうか。
いや。この学校の関係者に別のマスターがいると認めてしまうようなものだ。

そもそも数百名もの学生がこの校門を通るのだ。
魔力なり動作なりで『何らかの反応』を校門で行った者でなければ、仕掛けた者も選別しきれないだろう。

どうする―――

思案していると、暁美ほむらが、背の高い少女と会話して歩いてくる姿が視界に入ってきた。





266 : 鋏とおさげ  ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:37:34 Z9zMTei60


「あ、あれ……?」
「どうかした? ほむらっちー」

ほむらはきょろきょろと辺りを見回す。
いつの間にか、校門の内側を歩いていた。

「今、校門の前を歩いていたような……」
「そー? 気のせいなんじゃない?」
「そう……かな?」

ほむらは首を傾げ、乙哉は何事もなかったかのように歩き始める。


―――結局ほむらは、隠れて実体化し。

暁美ほむらが校門に入る前に時を止め、何故か一緒に会話していた少女と共に、
校門の内側へと移動させる方法を取ったのだった。


「じゃ、あたしはこっちの校舎だからー」
「あっ、ありがとうございました、乙哉先輩!」
「どういたしましてー♪」

手を振り、高等部の校舎へと入っていく乙哉。


>後は学園生活を過ごすために友達を作りなさい。


「……あ、あの!」
「んー?」

決死の思いで呼び掛けるほむらに、乙哉は振り返る。

「えっと……あの。お、お昼とか、御一緒できませんか……?」
「うん、いいよー♪」

真っ赤な顔で言うほむらに、朗らかに承諾する乙哉。

「それじゃまた後で学食でねー」
「は、はい! また、です」

達成感と共に、小さく手を振るほむら。


(あの子……何をしているのかしら)

校門を突破し一息ついた暁美ほむらは霊体化したまま首を傾げる。
とは言え―――校門に仕掛ける何らかの存在がいる。

この学校の関係者か。
あるいは外部の人間が、人の集まるこの場所をターゲットにして設置したのか。

だが少なくとも、この学校の人間をターゲットにしている者が存在しているのは間違いない。
やはり、油断などはできないのだ。

この後、どう動くべきか―――


267 : 鋏とおさげ  ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:38:18 Z9zMTei60

【C-3/月海原学園 中等部校舎/一日目 午前】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:月海原学園中等部の制服、通学鞄
[道具]:勉強道具、携帯電話
[所持金]:数ヶ月マンションで一人暮らしが可能な財産
[思考・状況]
基本行動方針:マスターだとバレないように過ごす。
1.学園でマスターを探してみる。
2.学園でマスターだと気付かれないようにする。
3.学園で友だちをつくる。
4.武智乙哉と学食で昼食を取る。
[備考]
令呪は掌に宿っています。
月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
武智乙哉をマスターだとは気がついていません。


【C-3/月海原学園 校舎前/一日目 午前】

【キャスター(暁美ほむら(叛逆の物語))@漫画版魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語-】
[状態]:健康、魔力消費(微)
[装備]:月海原学園中等部の制服
[道具]:各種銃火器、爆弾など
[思考・状況]
基本行動方針:まどかに辿り着くためならば全てを捨て駒にする。
1.マスターをサポートする。
2.マスターが使えないならば切り捨てる。
3.学園を狙った敵がいることを想定して動く。
4.他の敵の情報収集。
5.新たな陣地作成を行いたい。
[備考]
Bー6廃墟ビルに陣地作成を行いました(マスターは知らない)。





268 : 鋏とおさげ  ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:39:53 Z9zMTei60


流れてくるラジオを聴きながら、食器を洗う。
朝に相応しい日常だ。

生きていた頃なら出勤という時間だが、今の仕事は専業主夫。

マスターの少女はとても美味しそうに食事を取っていた。
成程、自分のためだけに作る食事とは、また違った楽しみがあるというものだ。

フライパンなどの料理器具も、お皿やフォークなどの食器も、隅々まで綺麗に洗い流す。


―――だが。洗うという行為はまだ終わっていない。


洗うために使ったスポンジ。
このスポンジには汚れが付きやすく、乾燥しにくいので菌が住みやすいのだ。

まず、スポンジに直接ついた汚れを丁寧に落とす。
そして両手で絞り、水気をよく切る。
更に、そのスポンジに除菌洗剤をかけ、揉みながら全体に行き渡らせる。
そして熱いお湯を出し、スポンジの洗剤を洗い流していく。
再び水気を切り、乾燥させやすい場所に置けば、洗い物は完了となる。


「さて次は……洗濯か」

洗濯機が置いてある洗面所へ行こうとしたところ。
マスターから念話が届いた。

『おとーさん』
『……やめてくれと言ったはずだが』
『あーごめんねー。ついさっきのことなんだけど。
 瞬間移動、みたいなのさせられたよ』
『瞬間移動?』

わたしはエプロンをたたみながらマスターに尋ねる。

『うん。だって歩いてる途中でいきなり別の景色になるんだもん。流石に気がつくよー』

―――この子の観察力が優れているためだろうか。

『被害はないな?』
『うん、大丈夫だよー』
『調査を行うにしても、放課後合流してからだ。それまでは』
『うごかないよーに』
『分かっているなら問題ない。何かあれば今のように、すぐ連絡してくれ』
『はーい!』

既に学園で動きだしている者がいるようだ。
ならば―――先に洗濯物は片付けておかねばなるまい。


269 : 鋏とおさげ  ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:40:57 Z9zMTei60

【C-3/月海原学園 高等部校舎/一日目 午前】

【武智乙哉@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:月海原学園の制服、通学鞄、指ぬきグローブ
[道具]:勉強道具、ハサミ一本(いずれも通学鞄に収納)、携帯電話
[所持金]:普通の学生程度(少なくとも通学には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取って「シリアルキラー保険」を獲得する。
1.他のマスターに怪しまれるのを避ける為、いつも通り月海原学園に通う。
2.有事の際にはアサシンと念話で連絡を取る。
3.暁美ほむらと学食で昼食を取る。
4.可憐な女性を切り刻みたい。
5.暁美ほむらのおさげをチョン切りたい。
[備考]
B-6南西の小さなマンションの1階で一人暮らしをしています。ハサミ用の腰ポーチは家に置いています。
バイトと仕送りによって生計を立てています。
月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
暁美ほむらをマスターだとは気がついていません。
学園内で瞬間移動させられたことを認識しています。暁美ほむら(反逆)の仕業とは気がついていません。


【B-6(南西)/マンション(1F 武智乙哉の住居)/一日目 午前】

【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。
1.学園内に敵がいる可能性を警戒。調査は放課後マスターとの合流後に動く予定。
2.暫くは家の中で適当に暇を潰す。次は洗濯の予定。
3.ルーラーによる12時の通達の後、今後の方針や行動を考えておく。
4.女性の美しい手を切り取りたい。
[備考]
魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。
保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。
瞬間移動を使う敵がいると想定しています。


270 : ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 02:41:21 Z9zMTei60
以上で、投下終了です。


271 : 名無しさん :2014/08/07(木) 02:52:17 /5zvbcfE0
投下乙です。
なんかメガほむと乙哉かわいいなww
よりによって殺人鬼マスターと仲良くなってるメガほむの明日はどっちだ
何だかんだで乙哉も吉良からかうの楽しんでそうw

ちょっと気になった所を言うと、鯖ほむはどうやってメガほむ達を移動させたんでしょうか?
ほむらの時間停止は接触してる相手には効果を発揮しなかった記憶が…


272 : 名無しさん :2014/08/07(木) 02:59:11 j3xs5K.w0
はえーんだよぉ!(歓喜)

同級生が殺人鬼、学校に仕掛けられた謎の罠
これはやっぱり王道を往く……少年漫画系ですかね
ポジション的にはメガほむが主人公で、叛逆ほむが非日常へと導くヒロインポジっぽい
もちろん乙哉は最初の敵みたいな


273 : 名無しさん :2014/08/07(木) 03:07:58 rOE0wnx20
投下乙です
二人ともそれほど珍しい名前には見えないし虫には気付かないのが正解っぽいね
まぁ乙哉は女子としては珍しい名前の気もするが
>>271
ほむらが時止めていた時にメガほむと乙哉が手を握っていたからそのまま二人で時間停止に気づかずに歩いていったのかと解釈した


274 : ◆MQZCGutBfo :2014/08/07(木) 07:47:39 Z9zMTei60
>>271,273
おはようございます。

申し訳ありません、御指摘ありがとうございます。
ほむら(反逆)が触った時点でアウトですね。

書きたかったのは前半部分なので、後半ザクっと変える修正を考えてみます。
申し訳ありませんが、少しお時間くださいませ。


275 : ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/07(木) 15:20:28 PFPVw5Jc0
ほむらちゃほむほむ。
こちらも投下致します


276 : アンダーナイトインヴァース ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/07(木) 15:22:19 PFPVw5Jc0



見据えた道の先は、果てが見えないほど長い黒に覆われている。
文明の明かりも、星々の煌めきも届かない、暗闇の茂み。
鳥の囀りも聞こえず、野を駆る獣も見えない、夜のしじま。
見ているのは、宙に浮かぶ月の眼だけ。

まるで、巨大な怪物が大顎を開いて待ち構えているようだ。
飛び込めば二度と這い上がれない無間に繋がっている錯覚に陥り、怖気が走る。
しかしそれは、ただの錯覚でしかない。
たとえ果てのない空間としても、怪物とは別の理由によるものだ。
その検証の為に、シオン・エルトナムはこうして調査をしに来ている。



方舟―――アークセルの調査の一環として、この仮想空間そのものを調べることにした際のことだ。
書店で地図を購入してここが冬木市という地方都市であると確認して、「ここ」より外はどうなっているのかが気になった。
アークセルによって構成されている以上方舟の内部であるのは疑いないが、土地をそっくりそのまま置いてあるということではあるまい。
あくまで方舟、ないし月が記録した何処かの世界にあった街の再現データ。現実世界でのここは手に収まるぐらいなのかもしれない。

聖杯戦争の舞台として設定されたこの都市は、中央の川を繋ぐ橋を中心にしてふたつの街に区分されている。
東は高層ビルが立ち並び近代都市として発展した新都方面で、西は歴史を感じさせる昔の町並みを残した、深山町と呼ばれる地区だ。
今いる場所は新都の最南端に位置する。近代建築の波もここには届いておらず、深山町以上に文明に取り残された片田舎だ。
家もまばらで、人の姿もほとんど見られない。都心から数キロ離れただけで時代は逆行する。この場合、時間が停滞しているとしたほうが正しいか。

西は森と山に覆われており踏破は困難。北は海で船舶でも使用しなければ進みようがない。
東には多くのマスターが入り乱れるであろう新都を通過しなければならない。
そこで目を付けたのが、河口に隣接した川の流れている南部の方角だった。
水の流れは土地の調査においても有意義となるし、人口密度的に他のマスターに補足される可能性も抑えられる。
スケジュールを割いて時間を作り、川に沿って上流を辿っていたところで、ある地点から唐突に足が止まるようになってしまった。
痛みや攻撃の感触はない。ただ違和感と焦燥のみが身を焦がす。
「これ以上この先を進む」という選択、思考自体に対しての、言いようのない圧迫感。
それでも精神を保ち前を歩いていくが、とうとう足は完全に動かなくなった。

『ここには来るな』。漠然として予感は明確な警告となって思考を侵していく。
人間(マスター)ではここより先の領域には踏み込めない。次なる手は、即ちサーヴァントでしかない。
乗り気のしないアーチャーをどうにか説き伏せて向かわせ、今に至る。


277 : アンダーナイトインヴァース ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/07(木) 15:23:54 PFPVw5Jc0


時間は数分経ったかくらいか。
景色に変化がないせいか、何倍にも引き伸ばされて感じる。
繋がれたエーテライトに、微かな振動。隣に誰も聞く者のない声は電子線を伝って確かに届く。
数秒も経たない内にアークセルから宛がわれたサーヴァント、アーチャーが隣に実体化した。
口を噤んでさえいれば端正に映る顔も、今は憔悴と疲労に塗れた表情になっている。

「二分三十四秒、といったところですか。
 どうでしたか、この先の様子は?」

「ハァーッゼェーッ、ど、どうでしたかァー?じゃ、ねーよ!どんだけおれが汗水垂らしてきたと思ってんだ……!」

膝をついて肩で息をしながら、アーチャーはいつもの悪態をついてきた。
サーヴァントに本来肉体的な疲労の概念はない筈だが、現にアーチャーは疲労している。
おそらくは精神面でだ。英霊の精神を削るだけのモノが、この先を阻む壁となっているのか。

「労いは後で。それより、報告を先にお願いします」

「……走ってる間にガンガンと声が響いてきたんだよ。『帰れ』『去れ』『来るな』なんて単語が直に頭に詰まってくる感じでよ。
 あれ以上進んだら頭が電子レンジに入れた生卵みたいに弾けてたかもしんねーぜ」

「成る程。やはり、街から一定以上離れようとすると、マスターとサーヴァントに関わらず精神に訴えかける重圧がかかるようですね。
 遠ざかるほど拒否感は強くなる。アークセルからの警告、刷り込みに近いものか。
 地形についてはどうですか。ここと違う変化が表れたりは」

「そっちもてんでダメだね。いつまでも道は終らねーわ周りの景色は変わらねーわでストレスが溜まってしょうがねえ。
 『進んでる感覚はあるのにゴールに着く気は全くしない』っつーのか?何言ってるかわからねーと思うがとにかくそんな感じだ。
 まるで滑車の間を駆け回るハムスターの気分だったぜ……うぷ、気持ちワリィ」

「地形がループしている……いえ違う。無限の境界線に引き伸ばされているのか。
 外には何もない。あるのは永遠に続く荒野だけ。
 壊そうにもカタチにない以上崩すことも出来ない。隔離と防護を兼ねた、単純でありながら最も不落な隔壁か」


278 : アンダーナイトインヴァース ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/07(木) 15:24:29 PFPVw5Jc0


今いる地点がギリギリの領域。聖杯戦争を運営するに足ると判断された広さなのだろう。
物資の搬入も、発注されたデータをアークセルが受理し、直接内部に送り込んでいるものに過ぎない。
ここより先はつまり圏外。存在しないアドレス。Not Found(発見不可能)だ。

「……もちっとわかりやすく解説してくれないかなー、シオンちゃん?」

「要するに、どれだけ時間をかけても「この先」にはたどり着けないということです。
 光の速さで書けようが、幾億幾兆費やそうが、無限の概念で括られた防壁は突破できない」

範囲を狭めるのは、戦場からマスターを遠ざけさせ過ぎないため。
侵入を拒むのは、最後の一組になる前に中枢に干渉されるのを防ぐため。
森を選ばなかったのはやはり正解だった。位置を見失ったまま永遠に出口のない迷路を彷徨っていただろう。
そうなれば戦争を放棄したとしてマスター権を失い脱落する運びになるのだと予想できた。
管理の怪物、無感情の観測機であるムーンセルの恩恵を受けているだけのことはある。感嘆を抱かずにはいられない無駄のなさだ。

「……オイオイ。そんなアブネー綱渡りを俺にさせてたわけか?
 そういう大事なコトはキチンと話しておくのがマスターとサーヴァントってもんじゃねえのかなあ〜?」

「前もって概要を受けていたらどうしていましたか?」

「逃げてたね。全力で後ろを振り向いてッ!」

「ええ。ですので説明は止めておきました。実に計算通りです」

それにしても。期待は始めからしていなかったが、これで自力での脱出は不可能という結論が出た。
仮に全マスターとサーヴァントが協力したとしても、成功率は一割を切る。強固などと呼ぶには生ぬるいセキュリティだ。
優勝する以外に生き残る手段はない。熾烈な生存戦の名に偽りなしだ。

だが、抜け道もないことはないのだろう。
そもそもこの聖杯戦争の目的は「種の保存」。残った一対の人間のデータを方舟内に収め、その機能を完遂するところにある。
ムーンセルへのアクセス権も、その実副次的な褒賞に過ぎない。多くのマスターが狙うのは、こちらの方だが。
当然、この霊子虚構世界と外部―――方舟の中枢システム、種族のデータをプールするバンク、ムーンセルとの交信器―――との接続を保っていなければおかしい。
手間と防護の点からして、直接通れる道は予め空けてあるはずだ。
それが聖杯戦争の優勝者にのみ権限のある、中枢への入り口だ。
知っているとすれば、監督役のサーヴァントに上級AIだろう。しかし直に聞いて答える筈もなし。
むしろ藪をつつく真似となりペナルティを課せられないとも限らない。あのシスターは、なかなかにあくどい。
方舟本体との接触は、別の経路を模索していくことになるだろう。


279 : アンダーナイトインヴァース ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/07(木) 15:25:15 PFPVw5Jc0



「く、くぉんのアマ〜〜〜、人が謙虚に振る舞ってるからってイイ気になりやがって……!
 やっぱ最初の日のこと根に持ってるんじゃねーかぁ?」

「毎夜街に繰り出している人の言う台詞ではありませんね。
 それと訂正を。あの時のことなど私は気にしていません。ええ特に。まるで。すっぱりと」

溜息をつく。実際、それほど気にしてはいないのだ。直前の自分の行為に頭を抱えたくなるだけで。
頭を悩ませるといえば、アーチャーの放浪癖もそうだ。
本選開始までの猶予期間、アーチャーは実体化したまま夜の街へ散策を続けている。
本人は偵察という体で繕ってるものの、その言葉通りで済ますわけないのは重々承知だ。

アーチャークラスに付与されるクラス別スキルが「単独行動」なのも悩みの種だった。
マスターとパスを切ったままでも自立活動が可能なこのスキルのせいで、元々奔放なアーチャーを更に制御困難なものとしてしまっている。
絶対遵守を強制するほど窮屈な関係を維持するつもりもないとはいえ、こうも自由に動き回れれば不安も募るもの。
もっとも、エーテライトを繋ぐことでこちらの問題は解消できているのだが。

「ちゃ、ちゃんと報告はしてるだろう?
 マスターが夜間は引きこもったままだから、仕方なくおれが代わりに斥候しているんじゃねーか」

「だからといって実体化したまま遊び呆けていい道理にはならないでしょう。
 ……いえ、道理はあるのですが、あそこまでやるのは些か以上に突っ込みすぎては……」

ある意味最も頭を抱えたくなるのは、これで仕事はきっちりとこなしていることだ。
それもNPC達と対話し仲を深めて情報を得るという、サーヴァントにあるまじき交渉(コミュニケーション)で。
近代での英霊であるアーチャーは衣装を変えればひとまず現代人として映るぐらいには見せられる。
マスターかサーヴァントに直接補足されない限りは、正体を見破られる心配はない。
そこに持ち前の話術を織り込むことで信頼を勝ち取り、見事に町の住人に溶け込んでしまっていた。

「いやいや、闇にコソコソ紛れて探るよりコッチの方が断然お得だぜ?町の住人ってのは意外と『見てる』もんだからな。
 口コミで耳よりな話はけっこう聞けるし、酒を飲んでれば口が滑るヤツも出てくる。
 楽しみつつ情報もゲットできるんだからこれほどウマイ話はねーぜ。まさにメシウマ!
 だいたい、マスターだって同じようなのやってたんだろ?」

同じではない。
私のやっていたのは他者からの搾取。
露呈もしないが触れ合うこともない、一方通行の干渉でしかない。
彼は話術のみで、それと同等の結果をもたらしてみせた。
計算機としてではない、人間の魅力のみで多くの人の口を割らせた。
ある意味、それは魔術のようなもの。人を魅せる力のこもった言葉はそれだけで意味を持つ。

かつての私はどう思っただろうか。嫌悪?軽蔑?憤慨?嫉妬?
ただそんな黒い感情は今は湧いてこない。今の私が思うのは―――。


「……人生を楽しむ、それがあなたの願いですか?
 受肉を望むのでもなく、ただこの時を楽しむと」

召喚されたサーヴァントには、マスターと同様願いを持っている。
一口に言っても種別は様々。生前に果たせなかった無念を清算したい者、純粋に戦いを望む者、
現世で第二の生を求める者も少なからずいる。
しかし、このサーヴァントの願いはそのどれでもないという。そもそも、自分が叶えたい願いは無いとまで言うのだ。

「願いだなんて切実なものでもねーよ。単に生きてるうちは楽しまなきゃソンって言ってるだけだぜ。
 ……生前は十分長生きしたしな。いい思い出もわるい思い出も味わいつくしたから、後悔なんぜねえ。
 第二の人生ってのも悪くはねえが……そういうののために暴走したやつも見てきたしな。
 人生キリがいいうちが一番なのさ。不老不死とか永遠なんざ、叶えるもんでもねー」

その時ばかりは、平時の気の抜けた態度は鳴りを潜め、英霊としての面を覗かせていた。
アーチャーのサーヴァント、ジョセフ・ジョースター。
彼の半生、まつわる出来事―――吸血鬼とその創造者との戦いの記憶は聞き及んでいる。
吸血鬼化の治療法を探す私にとっては大いに興味ある話ばかり。それだけでも彼を呼び出した価値はあったと言える。
だがもう、それだけじゃない。それのみには留まらない関心を、この英霊に抱いている。


280 : アンダーナイトインヴァース ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/07(木) 15:26:58 PFPVw5Jc0


「では、何故聖杯戦争に―――?」

「ん?そりゃあ、おまえに呼ばれたからだろ。
 縁もゆかりもないやつを助けるお人よしでもねえが、聞いた声を見捨てるほど人でなしになったつもりもねえ。
 実際、縁はあったみたいだしな。
 吸血鬼や柱の男をブッ飛ばしまくった後で、今度は吸血鬼の手助けをすることになるなんざ、つくづく奇妙な運命だぜウチの家系はよ」

歯を見せた笑い顔で、あっさりと、そんなことを言い放った。


「……私が吸血鬼であると知っても、手を貸すというのですか?」

「まー最初に『波紋』を流した時の反応でもしかとは思ってチョビっとだけ警戒はしたけどな。
 人間の心を持ったままの吸血鬼に会ったのは初めてだったからよ。しかも人間に戻りたいなんて逆に驚いたぜ。
 でもおまえの言葉を聞いて、そこに「嘘」はないってのを信じられた。吸血衝動ってのももう殆どないんだろ?
 だったら「手伝ってやってもいいかな」って思ったんだ。
 なにより美人ちゃんだしな。イタズラして泣かせるのはともかく殴るのはノーセンキューだぜ。
 あともーちょい笑顔くれるようになればポイントアップなんだがなーハハッ」

敵として戦った種族であろうと、信頼に値するなら蟠りなく手を取ろう。
軽薄な言葉遣いの中にも、そこには確たる芯がある。見失わない自分を持っている。
かつての私に欠けていたものを全て備えたその男(ひと)は、闇夜にも関わらず、太陽のように輝いて見えた。


「最後の一文は余計ですね。……ですが、ありがとう。おかげで気も楽になりました。
 先の分も含めて感謝を。それと、今後とも協力をお願いします、アーチャー」

初めはどうなるものかと不安だったが、今なら確信をもって言える。
私は良いサーヴァントに恵まれた。彼との出会いは、決して無意味にも無駄にもならないものだ。

「…………………」

差し出された手を、アーチャーは何故か硬直したまま見つめている。
なにか失礼な真似だっただろうか。英国人には一般的なマナーである筈だが……。
感謝の表現方法はこれぐらいしか知らない。ボキャブラリーの乏しさが今は恨めしい。

「……こ、これが……噂に聞く『ツンデレ』ってやつか……。クッな、成る程……効いたぜ。
 知るのと味わうのとじゃ破壊力が違いすぎるな……いい笑顔(グッドスマイル)!」



………………………………。
伸ばした手首を、返す。アーチャーの反応は素早かった。

「ッヤバッ!
 オーケーオーケー任せとけ!このアーチャー様にまかしときなさーいコンゴトモヨロシクネー」


281 : アンダーナイトインヴァース ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/07(木) 15:28:54 PFPVw5Jc0


勢いよく手を掴みブンブンと振り回される。
エーテライトでの侵入はよほど堪えるらしい。……今後の交渉に利用できるかもしれない
その気になれば、始めにやったように逆に波紋を流して抵抗もできるだろうに。
本人はああ言ってるが、「彼」同様本質的にはお人よしなのだろう。


「……はあ。では帰還するとしましょう。
 私は自宅で今日の情報の統括をします。アーチャーはいつも通り、新都での巡回をお願いしますね。
 今夜になれば全てのマスターとサーヴァントも出揃うでしょう。本当の戦いはこれからです」

学園内ではマスターの割り出し。帰宅後は情報収集、夜は集めた情報の整理とコードキャストの開発。
これらが本選前で採用した一日のスケジュールだ。聖杯戦争は情報戦の意味合いも強く含んでる。
研究室へのハッキングも幾度か確認されている。準備期間とはいえ、だからこそ入念にしなければならない。

「お、おう。……けどさあ、たまにはシオンも一緒に来てみないか?気分転換ってのも必要だぜ?」

「行動ルーチンはなるべく崩したくはありません。それなりに優等生で通っていますので。他マスターに気取られてしまう。
 それに今日中には開発中の礼装(コードキャスト)が完成する。アレがあればあなたのスキルを最大活用できます
 夜に臨むのはそれからですね」

エジプトからの交換留学生の才女。それが月見原学園における私の役割(ロール)だ。
特殊な立場故、どうしても周囲の視線を集めてしまう。マスター候補に目を付けられてるのは覚悟しておくべきだ。
逆に立場を利用して普通の生徒では入れない部屋を出入りできる優位を見れば、イーブンか。
既にある程度の目星は着いている。特定は慎重に行いたい。

「あーあの大量に仕入れてたヤツかー。サポ、アポロディア……なんだっけ?
 でもアレそんな簡単に作れるものか?」

「サポロジアビートル。東南アジア原産の昆虫。その腸を乾燥させたものは人体よりも遥かに波紋の伝導率が高い。
 ……あなたの記憶から引き出したのですから、忘れてもらっては困ります。
 ここは情報が真となる仮想世界ですから、資材さえあれば熟成時間を短縮して設計することは可能なはずです。
 私の世界には現存しない種族なので特定には苦労しました。三万匹という数にもやはり時間はかかる。
 研究の名目でどうにか怪しまれず入荷できましたが、まさかあれほどまで値が張るとは……」

資金と施設にコネクション。アトラス院でのデータを引用したのだろう。
路地裏で生活する真似になるのに比べれば、マスター補足の危険も軽いものだ。
コンクリートで夜を明かすのは、正直堪える。

「もう電車は……止まっていますね。仕方ない、徒歩にしましょう。
 ……アーチャー。帰り道に街での追加報告を聞きたいのですが」

「よーし、それじゃここでのおれの武勇伝を紹介しちゃおうかな〜。
 実は合コンで知り合った錯刃大学のコが中々にカワイくてよ〜……」

人間の楽しみを知ろうと、あの日決めたばかりだ。
戦いの予感を懐きつつも、今は他愛もない話に耳を傾けることにしよう。
……どうか要らぬトラブルの話を持ち込んで来ないでほしいと願いながら


282 : アンダーナイトインヴァース ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/07(木) 15:29:59 PFPVw5Jc0

【D-7/過疎地域/一日目 未明】

【シオン・エルトナム・アトラシア@MELTY BLOOD】
[状態]健康、アーチャーとエーテライトで接続。
[令呪]残り三画
[装備] エーテライト、バレルレプリカ
[道具]
[所持金]豊富(ただし研究費で大分浪費中)
[思考・状況]
基本行動方針:方舟の調査。その可能性/危険性を見極める。並行して吸血鬼化の治療法を模索する。
1.帰宅後、情報の整理。コードキャストの開発を進める。
2.学園内でのマスターの割り出し。
3.方舟の内部調査。中枢系との接触手段を探す。
[備考]
・月見原学園ではエジプトからの留学生という設定。
・アーチャーの単独行動スキルを使用中でも、エーテライトで繋がっていれば情報のやり取りは可能です。
・マップ外は「無限の距離」による概念防壁が敷かれています。通常の手段での脱出はまず不可能でしょう。
 シオンは優勝者にのみ許される中枢に通じる通路があると予測しています。
・「サポロジアビートルの腸三万匹分」を仕入れました。研究目的ということで一応は怪しまれてないようです。

【アーチャー(ジョセフ・ジョースター )@出典ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康、シオンとエーテライトに接続
[装備]現代風の服、シオンからのお小遣い
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:「シオンは守る」「方舟を調査する」、「両方」やらなくっちゃあならないってのが「サーヴァント」のつらいところだぜ。
1.夜の新都で情報収集。でもちょっとぐらいハメ外しちゃってもイイよね?
2.エーテライトは勘弁しちくり〜!
[備考]
予選日から街中を遊び歩いています。NPC達とも直に交流し情報を得ているようです。


283 : ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/07(木) 15:30:44 PFPVw5Jc0
投下終了します。修正点・指摘点があればお願いします。応答は深夜になりそうなのでご了承下さい


284 : 名無しさん :2014/08/07(木) 15:55:30 /5zvbcfE0
投下乙です。
マスターが方舟の調査に徹してる中でジョセフは気ままだなぁ…w
まぁアイツの社交性の高さからすればNPCと仲良くなるのも納得だけどw
やっぱり生前と変わらぬ奔放さでホッとする
しかしタイトルがメルブラと開発元繋がりでニヤリとした


285 : 名無しさん :2014/08/07(木) 16:37:46 gy3hrUzM0

奔放に見えて芯は熱くてカッコイイとはやはりジャンプ主人公
そしてかまって系ツンデレ委員長のシオンが可愛過ぎィ!
これは魔力供給不可避ですね…


286 : 名無しさん :2014/08/07(木) 17:32:05 c9wO7rTIO
投下乙です。

不老不死なんて求めたって、碌な事にはならない。
吸血鬼や究極生物と戦ったジョセフが言うと、重みが違うね。


287 : 名無しさん :2014/08/07(木) 19:12:56 aAsYBoz20
ジョセフの正統派英霊っぽさ好き


288 : 名無しさん :2014/08/07(木) 20:37:20 B3gphS6g0
皆様方、投下乙々です。

ではこちらも予約していた 狭間偉出夫&鏡子、遠坂凛&クー・フーリン の投下をさせていただきます。


289 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:38:50 B3gphS6g0
ひどく静かな夜だった。
草木も眠る丑三つ時とは言うが、それにしても静か過ぎるだろうと少女――遠坂凜は思う。

目の前に写るのはなんら変哲もない風景。いつもの、幾日か過ごしたはずの仮想の生活の中で得た記憶と同じ風景。
尤も、常に優等生であろうとする凜にとって(少なくともこの世界においては)深夜の外出など経験はなく、昼と比べれば印象も変わるのだが、
それにしても変わらないものだなと凜は思うのであった。

昼の内から閉じているのが散見できた商店街のシャッターは全て閉じられており、所々に立つ自販機だけが光を発し自己主張している。
途中、細い路地に入れば途端に明かりは少なくなり恐怖という名の闇色が足元に忍び寄る。ゴミ捨て場のすえた匂いもそれに一助していた。
しかし少女はひるまない。彼女――遠坂家の魔術師である遠坂凜は闇夜の中こそが自分の舞台だと知っているのだから。

“聖杯戦争”は開始された。
ただの一度で何もかもが失われ、栄光と誉れを頂くのはただの一組。いや、聞いた話の上では成功した例などないという無謀無茶な魔術儀式。
分の悪い賭けだと言う者もいるだろう。しかし魔術師らはそうは思わない。科学とて同じだろうと言う。
大いなる成功には夥しい数の挑戦と犠牲という試行の結果が必要なのだ。
四度目の聖杯戦争も誰の目論見も達することなく、更には悲惨な結果となって終結した。しかしそれを嘆くものはいない。少なくとも魔術師としては。

遠坂凜は一介の魔術師として当然の如く、この箱舟の聖杯戦争にも挑む。
その一手目がこの深夜の哨戒だ。此度の聖杯戦争は事前の通告はなく、なんら戦略的な用意をせずに始められてしまった。
故に、他のマスターらよりも抜きん出る為、最後には出しぬく為に凜は幼い身には似つかわしくない夜へと身を躍らせた。
開始の状況が曖昧だっただけに、すでに動き出しているマスターがいるかもと考えればそれは当然の判断だろう。

しかし、もしここに更に遠き日の遠坂凜がいればこのかつての自分を叱責したことだろう。
なにも用意がないのに迂闊が過ぎる。自陣以外が全くの不明のこの仮想の戦場(フィールド)。
ましてやルールすらも自分の知る冬木の聖杯戦闘とは違うのに、どうして自らが先手を打とうと考えるのか。初手は見とするのが定石ではないかと。

実は幼い凜はこれと同じことをすでに己のサーヴァントに忠告されている。
クー・フーリン――今の凜には知る由もないことだが、縁浅からぬ間柄である。遠き日の凜とは対決する立場にあり、刃を交わしたこともある。
彼は本来、好戦的で獰猛な戦士である。好敵手と戦うことが望みであり、サーヴァントとして召喚された時点で願いが叶うような稀有な存在である。
それでも彼は凜に忠告した。
ひとつは彼女が弱いということ。遠坂の血筋であり、すでに才能の片鱗を見せているとはいえまだまだ幼い。能力も技術も経験も足りない。
ひとつに彼女が想いに囚われているということ。今、彼女は父母を奪った聖杯戦争への敵愾心と遠坂家の魔術師であるプライドとがない交ぜになっている。
仮に首尾よく敵へと先制できても、とても勝ちを得られる状態ではないのだ。

それでも、凜は夜の世界へと出た。そこになにか別の勝算があった――わけではない。やはり彼女はただ幼かったのだ。


  Ж Ж Ж


遠坂凜は繁華街を避け深く寝静まった住宅街の中を歩く。繁華街を避けたのはある失敗に起因する無意識的なものか、それは不明だ。
ともかくとして、しばらく夜道を往くと大きな森林公園の入り口が見えてきた。

風に揺られざわざわと笑う木々に凜は息を飲む。
この公園は凜も仮の生活の中で歩いたことがあった。昼間はとても緑が美しくて、休みの日には芝生の上でピクニックする家族連れなんかも見られる。
それが深夜となると全く様相を変えていた。
立ち並んだ木々は鬱蒼として見通しが悪くその懐に深い闇を湛え、足元では生い茂った草が凜をあざけ笑うようにサラサラと音を鳴らしている。
景観の為か街灯は少ない。点々とした乏しい明かりの中、この公園の中はまるで海の底の様に蒼く染まっている。

凜は緑の草木を避け、赤い煉瓦が敷かれた道の上をコツコツと小さな音を鳴らして歩く。
そして、魔術師としての矜持と子供としての素直な気持ちがせめぎあいを始めた頃になって、その二人を発見した。


.


290 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:39:59 B3gphS6g0
道の先、街灯の作り出すスポットライトの下に学生服の男女の姿がある。
どちらも高校生だろうか。男の方は白い学ランを、女の方はブラウスにスカートという姿だった。
更に述べれば、白ランの青年は肌も白く細い身体をして顔は神経質そうで、女の方はというと髪型はふたつのおさげ、顔には眼鏡とかなり地味だ。
所謂、深夜のデート。人目を憚りこんな時間にこんな場所で逢引をする生真面目な学生カップル――というのが第一の印象。

こちらは子供なので万が一にでも警察等に通報されてはまずい。
凜は元の道を引き返そうと踵を返し――しかし踏みとどまる。次の瞬間、凜の目の前には彼女の、ランサーのサーヴァントが顕現していた。

「………………」

無言。しかし確かな気迫と共に青い装束を纏ったランサーは真紅の直槍を白ランの青年へと突きつける。
彼我の距離は大よそ20メートル。しかし彼からすればたった一足の距離でしかない。一度マスターが命じれば、次の瞬間には相手は串刺しになる。

「“そっち”じゃないわランサー!」

まず真っ先に凜の高い声が静寂を破った。その言葉の意味、そっちじゃないとは? ランサーの頭の上に疑問符が浮かぶ。

「女のほうが“サーヴァント”よ。……ライダーのサーヴァント」

続く言葉を聞いてランサーの口から「む……」と声が漏れる。そして改めて相手側の気配を探れば確かにマスターの言っている通りだった。

だがしかし、このランサーの勘違いは致し方ない。
それほどまでに目の前の白ランの青年――『狭間偉出夫』は逸脱した存在なのだ。
正真正銘、生身の高校生でありながら単身魔界へと乗り込み、悪魔を手懐けて創造神の一柱であるズルワーンを下したほどの実力者であり、
神に成り代わることこそは人の身の若さ故に叶ってはいないが、魔神皇として魔界の支配者として君臨するほどの大魔導なのである。
仮に、(彼の性格上、そういう仕組みだとはいえ誰かの下につくなど想像もできないが)キャスターとして召喚されることがあれば英霊の中でも随一だろう。
そして、そうでなくとも彼は英霊すらも下に置くほどの実力の持ち主である。
いざ相対してみればその眼光は禍々しく、ランサーが咄嗟にこちらがサーヴァントだと判断したのは無理もない。

翻って、彼のサーヴァントである女子高生――希望崎学園の鏡子は“弱い”。
恐らく今回呼び出されたサーヴァントの中でも断トツに弱い。今対峙しているランサー相手は勿論、“ただの戦闘”となれば幼い凜にすら負けてしまうだろう。
彼女の身体能力はサーヴァントとして召喚されてなお人間の範疇を超えない程度しかないのだ。故にこちらもランサーが見誤るのも無理はない。

そして、これらを指摘した凜にしても、どうしても狭間の方へと意識を取られてしまう。それほどまでに彼の魔神皇としての存在感は圧倒的だった。

「(ライダーだと……)」

どちらにも対応できるよう赤い穂先を揺らしながらランサーは内心「これはよくないな」と思った。
彼自身は如何なるサーヴァントが相手であろうと互角以上の健闘ができる実力と、それを保証するスキルを持っている。
ではそんな彼の弱点はなにか?
それは脆弱なマスターの存在だ。幼いながらもさすがは遠坂の血。魔力の供給は問題ないが、今現在の凜に戦闘中に己を守る実力はない。

故に、同じ聖杯戦争の参加者を発見すればいくらかはマスターより離れて行動できるランサーのみが敵に当たる――というのが当初の予定であった。
あわよくば密かに相手を尾行し根城を確定できれば上々。
その後はゆっくりと観察した上で万全を期してから殲滅に当たる。これこそが魔術師の戦争の理想である。

もし戦闘になることがあっても、適当なところで逃げ出せばよいし、万が一マスター諸共に接敵することとなればマスターを抱いて逃げればよい。
そう段取りは打ち合わせていたのだが……、

「(見た目はこの時代の女となんら変わりがねぇ。なら正体を隠すスキルを持っているのか……いや、その気配すらない。ということは――)」

『ライダー』とはつまり、文字通り何かに乗る者だ。そして目の前の害のなさそうな女学生のサーヴァントは一見戦闘ができるようには見えない。
それはつまり、このサーヴァントの真価は『騎乗』のスキルの中にあると見るべきだという話。必ずなんらかの英霊となり得る宝具を備えているはずなのだ。
これこそがランサーの懸念だ。
この場合、『凜を抱いて逃げれば何か乗った二人に追われる可能性がある』。そして、そんな状態での戦闘は不利になるに違いない。
ならば、事前の打ち合わせにはないがここでマスターの姿を曝したままで勝負をするという選択肢も浮かび上がってくる。


291 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:40:36 B3gphS6g0
「おい、マスター。どうする?」

言外にやれと命じられればやるぞと含みを持たせてランサーは凜に問う。だが返ってきたのは、

「ぁ……、あ…………」

ただの子供が戦慄く吐息、それだけであった。


  Ж Ж Ж


僅かに風が吹き木々がざわめく。風が止めばまたぴたりとした静寂が戻ってくる。
相対した4人に動きはない。白ランの男も女学生も仕掛けてくる様子はない。では会話できるかというとそれは剣呑な雰囲気が拒否していた。
そして凜はというと、明らかに格上の魔術師に相対したからか完全に“呑まれて”いる。もうこの場面では役に立たないだろう。

全ては自らの一手か。覚悟を決めるとランサーは僅かに腰を落とした。
油断なき構え。こうなればこの男に隙は存在しない。
飛び道具であればいかなるものであろうと避けてみせるし、接近し一撃を喰らわせようとしても彼の槍捌きを縫って肉薄することは至極至難。
なにやら魔術を使おうとも、一瞬でも抵抗できれば次の瞬間にはその魔術の圏内から逃げおおせてみせる。
ランサーは強いのだ。遠坂凜の呼び出したクー・フーリンは最強の内の一人と数えていいほどの実力を持ったサーヴァントなのだ。

それから数瞬。先に動きを見せたのは相手側の方だった。
ランサーの覚悟を察した故か、マスターをその場に留めてライダーが、ただの制服の女学生にしか見えない女がゆっくりと歩いてくる。
そして彼我の中心。ランサーからして10メートルほどのところで止まると、片手を上げて――

「こんばんは」

と微笑んだ。にっこりと、朗らかに、なんら害がないのだと示すように。



この態度にランサーの理性はこの相手とは話し合えるかもしれないと判断する。
なにも他の聖杯戦争参加者と遭遇したからといって、必ずそこで決着をつけなくてはならないというルールはないのだ。
聖杯戦争の決着までに無数の戦闘を超えなければならないのが想定されているなら、まずは手ごろな相手と同盟を組み共闘関係を得るのが定石。
初っ端より戦闘に明け暮れただいたずらに損害を積み上げていくことは愚の骨頂とも言える。それはどのマスターとサーヴァントでも同じはずだ。

だが、ランサーの本能は違う判断をした。

ランサーの本能はライダーの害のない笑みに得体の知れないなにかを感じ取っていた。
いや、感じ取るなどというものではない。
その笑みを見た途端、つま先から頭の頂点までにおぞましいものが走り、闘いに浸りきった後のような熱が頭の中に沸き上がっていたのだ。
その正体を思考が判ずるよりも前にランサーはそれを危険だと感じた。それは間違ってなかった。だが、完全に正解でもなかった。故に次の判断を誤った。

「しぃ…………ッ!?」

ランサーは逃げるべきだと、なにはともあれ距離を取るべきだと反射的に飛び退った。これが間違いだった。
仮に、最早ランサーが飛び退っている以上言っても詮無きことだが、
ランサーが別の判断をし破れかぶれで女に一突きを食らわせていれば、女はその一撃で絶命し彼は初戦による勝利を得ていただろう。
だが、現実には彼は10メートルほど飛び退り、女から離れてしまったが故に――。


292 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:41:30 B3gphS6g0
「んふっぐおぅわあああぁぁぁぁぁああんんんんんん!?!?」

絶叫。悲鳴とも雄たけびとも判別できない声を静寂な森林公園に響き渡らせる。
その手から槍を零し、両膝を折って地面に突っ伏すと叫びながらになにかを地面に撒き散らした。溶けた泥の塊が落ちるような音が続けて鳴り響く。
次の瞬間、ランサーは「何が?」と思考する。しかし思考が続いたのはそこまでで、次の瞬間にはまた

「ぅんぐぅおぉおおおおおぉぉおおおおんんんんんふううううううううぅぅぅ!?!?!?」

犬の様に四つん這いになり、足を突っ張って尻を突き上げビクビクと痙攣しながらランサーは腹の下から、よく観察すれば股間から液体を撒き散らす。
彼のマスターである凜はこの突然の状況に唖然としていた。まさに理解が及ばない場面だ。急にランサーがおかしくなった様にしか見えない。

もし僅かでも冷静に思考できていればこれは魔術による呪いの一種ではないか、であれば自分がディスペルしなくては等と考えもできただろうが、
しかし目の前の異常な光景――自らのサーヴァント、彼の股間の“逸物”、その逸物から液体が吐き出されるとなれば冷静な思考は一切に不可能でしかなく、
ただただそれを見れば見るほど、彼の嬌声を聞けば聞くほど、凜の頭の中は彼と同じく茹で上がりまだ小さく未発達な身体は奇妙な熱を帯びるだけなのだ。

そしてそこから目を離せない凜は、ランサーの股間から垂れ下がる逸物にそれを握る『手』がついていることに気づく。
乳液に浸したようにぬらぬらと照るその手がまるで牛の乳を搾るように動けば、同様に先端から白い液体が噴き出し、地面に大きな白濁の水溜りを作るのだ。
この行為の意味を幼い凜はよく理解していない。ただ、ただただ理解はなくともその光景は凜の中に眠る本能を激しく徒に打ち鳴らしていた。


  Ж Ж Ж


「……立派な“槍”ね♪」

手鏡の中に潜らせた右手が得る剛直の感触に鏡子はうっとりとそう漏らした。

この手鏡こそが彼女の宝具。ランサーが懸念し、実際その通りであった彼女にとって唯一の手段であり切り札でもある『ぴちぴちビッチ』である。
手鏡の中に半径2キロメートル以内の光景を自由に写し、“猥褻な目的に限ってのみ”その鏡面を通して干渉できるという能力。

そう、至極簡単に言ってしまえば、鏡子は鏡越しにランサーの陰茎を握り、扱くことで射精させているのである。
しかもただの射精ではない。幾多の並行世界、あらゆる時間軸において並ぶものなしとされる鏡子の手技を持って“擦れば”、
通常の生理ではありえない連続した、しかも大量の射精をそれに見合った快感と共にさせることが可能であるし、
その悦楽によって相手の思考や動作を奪うことなど、例え相手が英霊であろうが、神であろうが“造作もない”ことなのである。

「んふぅおおぉんんんんんはぁあああぁぁぁぁんんんんん!!!!」

未だ悦叫を上げ続けるランサーにくすりと笑みを浮かべると鏡子は悠々と彼へと歩み寄る。
ちらりとその傍にいる彼の幼いマスターを見るが、彼女はこの光景に気圧され真っ赤に顔を染めて震えているだけだ。
仮に彼女がなにかをしようとすれば後ろに控えている狭間が瞬時に彼女を射抜いてしまうだろうが――そうなる前にと、鏡子は行動を開始することにした。

「はい、おちんちん♪」

鏡子が鏡の中でそれをシフトレバーの様にくくっと動かすと、途端、ランサーの身体が跳ねたかの様に裏返る。
この様に、鏡子ほどの性技の持ち主となれば愛撫による反射動作でもって相手を操ることすら容易い。その気になればフラメンコを踊らせることも可能だろう。


293 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:41:58 B3gphS6g0
「あ、あぉが……テ、メェ……んんんっぐぅ……ッ!!」

“敵”を視界に捉えたことで僅かに理性が戻ったのだろう。快楽に蕩けていたランサーの顔が険しいものに変化する。
脳内のシナプスが全てセックスで上書きされかねないこの快感の中でそれだけでも抵抗できたというのはさすが英霊だと賞賛すべきだ。
だが、彼の抵抗もそこまでである。そして、彼は鏡子の次の行動を見て“ゾッとしながら身体を喜びの期待に震わせた”。


鏡子が“パンツを脱ぎ捨てた”のである。


校則通りの膝丈のスカートの中に手を入れてそこから出てきたのは、彼女の地味な外見からは想像もできないほど扇情的な下着であった。
なんでもないことのように普通に脱いでみせると彼女はそれを地面に落とす。びちゃと、まるでよく水を吸った雑巾が落ちたような音がランサーの耳に届いた。
これが何を意味するのか、例えればそれは『武士が鞘から刀を抜く』、あるいは『ボクサーがグローブ』を外す等ということに相当する。

「ンヒィ……や、…………やめ、は……ひゃあぁぁあああああ!!!」

圧倒的性的暴力の予感に険しさを見せたランサーの顔は、気づけば泣き笑いのようなものへと変じていた。


  Ж Ж Ж


「おぎょおおおおんほおおおんおんおんんんんんんんうぅんひぃいいいいいぃぃぃっっ!!!!」

最早この世のどんな生き物の鳴き声にも聞こえない悦叫が夜の中に木霊する。
自らが吐き出した精液の水溜りの中で仰向けにチンチンのポーズを取らされていたランサーは只今絶賛逆レイプの真っ最中。
パンツを脱ぎ捨てた鏡子に『騎乗』され、ただただ彼の存在そのものを溶かして精液を吐き出し続けていた。

彼の『槍』が“それ”に飲み込まれた時、その瞬間、彼は自らの心象風景の中に“涅槃”を見た。どこまでも透き通った世界。真の常楽我浄。
だが、次の瞬間快楽地獄に落とされる。正常な意識を保てたのは1秒を半分に割ること数十回分ほどで、刹那の間に彼の思考は快楽に溶けた。

「私はね……君にいっぱい気持ちよくなってもらいたいだけなんだよ♪」

ひたすらに精を吐き出す彼の上で鏡子は自らも快感を得ながら『バラタナティヤム(インド舞踊)』の様に彼の上で踊る。
人が快感を得るのは性器からだけだろうか?
いやそうではない。それ以外の場所でも精技が達者なら快感は生まれる。まして、鏡子がとなれば全身に性感を覚えない場所はない。
鏡子の指先が様々に形を変え、擦り、摩って、摘まみ、なぞり、擽り、押して、掻いて、扱けばランサーは応じて精を吐く。
鏡子が舌先に唾液を湛え、舐めて、吸って、噛んで、挟んで、浸して、吹きかければランサーは益々もって精を吐く。

「うぉるげやらはらうわぉおおわらわあぁぁあああががぁぁぁああああああっ!!!」

ランサーの吐き出した精液は鏡子の胎を満たし、溢れかえると彼女の愛液と混じって周囲に撒き散らかされる。
『騎乗』と『槍』の“直接対決”が始まって十数分。すでに周囲は咽返るほどの精の匂いで満たされ、吐き出された精液は数万リットルに達していた。
常人であればとっくの昔に枯れ果てている量だ。その快感だけにしても常人なら百回廃人にしても足りないほどのものが彼には与えられている。
それでも未だ顕現していられるのは英霊という存在の器の大きさか。

翻って、鏡子はというとすればするほどにつやつやと存在に輝きを増してゆく。
サーヴァントとマスターが魔力のパスをつなぎ魔力のやりとりをしているのは、この聖杯戦争に参加している者であれば誰でも知るところだが、
実はこれを性行為をもって行えばより効率よく行えるという事実も一部ながら知られていることである。
そして、鏡子とランサーは互いにサーヴァント同士であるがそれと同じことが今起きているのだ。
ランサーが精を吐き出せば吐き出すほど、鏡子が精を胎に受け止めれば受け止めるほど、彼の魔力が彼女へと移されていくのである。


294 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:42:18 B3gphS6g0
「もう……かな。私の“セックス”にここまで耐えた人なんて、初めてかも……」

腰を振る鏡子の下で、遂にはランサーという存在の希薄化が始まる。彼の中にある顕現に必要な魔力が尽きようとしているのだ。
このままでは後間もなく、1分もしない内にランサーは魔力を絞り取り尽くされこの場から消え去るだろう。
しかしそれでも鏡子は腰を振る手を弱めることはしない。このまま彼を枯死させるつもりであった。



 ここで、諸兄諸姉の中には疑問を持った方がおられるだろう。“鏡子はセックスでは相手を殺さないはず”だと。
 その言葉は正しい。“ある場合”において彼女はセックスで相手を死に至らしめることを忌諱している。
 その“ある場合”が重要だ。逆にそうでなければ彼女はセックスで相手を殺しうるのだ。

 彼女がセックスにより相手を殺すことを忌諱する様になったのはある『転校生』との性的な決闘が原因だ。
 そこで彼女と彼は互いにイかせあい、最終的に『転校生』は死亡した。
 この時、鏡子は死んでしまっては彼はもうこの快感の記憶を反芻することができないと、そんな当たり前のことに気づいたのだ。
 下品に言えば、『彼はもう思い出しオナニーしてくれないのね。すごく悲しい』となる。

 鏡子のアイデンティティは相手が快感を得る姿にある。つまり相手を死に至らしめることは自分を殺すのと同義なのだ。
 故に当然の帰結として鏡子はセックスによる殺害を封印することとなる。

 だが、例外的事態がここで生まれる。この聖杯戦争に限って言えば、鏡子はサーヴァント相手なら絞り殺すことができるのだ。
 端的に述べるとサーヴァントはここで死んでも死なないからである。ここで消滅しても記憶を持って『座』に戻るだけである。
 その証左は今鏡子に搾り取られ存在の危機にあるランサー自身である。
 彼は“前回”参加した聖杯戦争の記憶を保持したまま今回の聖杯戦争に召喚されている。これは英霊が記憶を失わない紛れもない証拠である。

 つまり、ここで鏡子にセックスで殺されても英霊の『座』に戻ればそこで思い出しながらシコり放題だぜ(やったね☆)という話なのだ。

 だから、鏡子はこの聖杯戦争においてはサーヴァント相手に限り、セックスで相手を殺すことができる!


 ……この場合、サーヴァントと一蓮托生なマスターも死んでしまうことに疑問を抱く方もいるかもしれない。
 だが、それに関してはより安心してほしい。彼女は自分が相手を枯死させること以外の死については(自身の命を含め)非常に淡白である。



そして、遂にその時が訪れる。





.


295 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:42:47 B3gphS6g0
  Ж Ж Ж


「ぅぇろ……が、は……………………ぁ…………」

遂にその射精を最後にランサーの身体が一切の力を失った。顔は恐怖に強張った様な形相で白目を剥き、鼻水と涎を垂れ流している。
そんな姿を見て鏡子は少し残念だなと思った。
これは聖杯戦争であり、戦争の中では敵同士は殺し合うのが慣わしなのだから相手を死に至らしめるのは当然の行動だ。
だが、出来うるならこの“性”をもっと楽しみたかった。闘いを忘れて、“犬”同士の様に……。

鏡子が精液塗れの姿でそんな感傷に浸っていると、不意にランサーのマスターである少女がかくっと力を失い地面へと倒れた。
おそらくはサーヴァントを失った結果としてマスターの権利をも失い死に至ったのだろう。
彼女に対しては恨みつらみも思い入れもないが、セックスを経験せずに死んでしまうのだけは可哀相だなと鏡子は思う。

「……あれ?」

何かがおかしい。鏡子がそう思った瞬間、彼女の姿は宙にあった。

「な…………は、……っ!?」

最初に感じたのはドンッという下から突き上げる衝撃だった。
あまりに不意だったので鏡子には一瞬理解できなかったが、同時に身体が絶頂していることでそれが彼の『槍』によるものだと数瞬後に気づけた。
だが、気づけたとして鏡子には為す術ががない。ただ胎に溜め込んでいた精を零しながら宙に放物線を描き、落下するのみである。

「……ぐっ! ……イ、ったぁ…………!」

赤煉瓦の舗装路にしたたかに腰を打ちつけた鏡子が顔を上げた時、もうそこにはランサーも彼のマスターの姿もなかった。(ついでに彼が落としたはずの槍も)
後に残されたのは新しく池を作ったような大量の精液のみである。

つまり、殺しきれてなかったのだ。
ランサーはぎりぎりまで絞られることに耐え、そこで力尽きたと見せ、鏡子が動きを止めたところを見計らい残していた一撃で持って跳ね飛ばしたのだろう。
マスターが倒れたのも、あれは死んだのではなく最後の一撃を振り絞ったサーヴァントに急に魔力を吸われた結果だと推測できる。

「ふふ……ふふふ……ふふふふふふ…………」

精液と愛液とが交じり合った小さな池の中で頭からずぶ濡れの鏡子は心底おかしそうに身体を震わせる。
ランサーは死ななかったのだ。そう、だから――


――またセックスができる。








そんなすごく楽しそうな鏡子の後方、
街灯にもたれかかりながら虚ろな目で彼女を見る狭間偉出夫は、この聖杯戦争における戦略をこれからどう修正しようかそればかりを考えていた。
彼女の能力は実に有用だ。それは今証明された。そして彼女にはこのような実戦に慣れた感もある。ただの女でないというのは悪くはない。

だが、あまりにもその戦い方が卑猥すぎる。精神衛生に悪い。

魔神皇としての威厳や、健全な男子高生としての尊厳。色いろと踏みにじられている感が、彼の小さな心を苛むのだった。






余談。
この後、各サーヴァントがこの公園に撒き散らかした精液と愛液は普通の人間には見えないまま地面へと吸収されていったのだが、
それに当てられたのか、これよりしばらくこの周囲の犬猫が一斉に発情期を迎えたり、この公園で普段より過剰にいちゃつくカップルが頻繁に見られたり、
レス気味だった夫婦がここに家族でピクニックに来た後、急に盛んになって新しい家族が増えたなどということがあったらしい。


296 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:43:38 B3gphS6g0
【C-5/森林公園/1日目 早朝】

【狭間偉出夫@真・女神転生if...】
[状態] げんなり
[令呪] 残り二画
[装備]
[道具]
[所持金] 不明
[思考・状況]
 基本行動方針:聖杯戦争に勝つ。
 1.聖杯戦争に挑むにあたっての戦略をもう一度検討しなおそう。
[備考]
 まだ童貞。

【鏡子@戦闘破壊学園ダンゲロス】
[状態] つやつや
[装備]
[道具] 手鏡
[所持金] 不明
[思考・状況]
 基本行動方針:いっぱいセックスする。
 1.一度お風呂に入らないといけないかな?
[備考]
 クー・フーリンと性交しました。


297 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:44:07 B3gphS6g0
  Ж Ж Ж


「…………ゼェ、ハァ」

屋敷に戻ってきたランサーは凜をソファに横たえると、もう力尽きたとばかりに床へと膝をついた。そして実際に彼は精根尽き果てていた。

「くっそ……なんだあのサーヴァント。どこが、『ライダー』なんだよ……」

魔術と性は近いところにある。英雄色を好むなどという言葉もある。なので“性豪”の英霊がいるというのも考えられなくはない。
時のポルノスター。君主に摂りつき国を傾けさせた美女。そういう者が英霊となれば、『性技』というスキルを持つことがあってもおかしくないだろう。
だが、ランサーの体験したあれは常軌を逸していた。

「あいつ……」

ランサーは実際に体験したからこそ、それを理解していた。あのサーヴァントは――それだけだ。
隠し能力も正体もないもない。ただ、“セックスが上手い”というだけで英霊になってしまった人間(女)だ。
今はもう土気色のランサーの肌色がその事実になお悪くなる。吐いてしまいそうだった。鏡子という存在そのもののおかしさに。

「…………ランサー?」
「気づいたか」

いつの間にか意識を取り戻していた凜がソファからランサーを見上げていた。
その表情は弱々しく感じるが、肌色を見れば命に別状はないことがわかる。おそらく急激に魔力が減少したことで貧血に似た症状を起こしたのだろう。

「悪い。今回は完全に俺の不覚だ。……まさかあんなサーヴァントがいるだなんて想像もしてなかった」

ランサーはそのまま頭を下げる。言葉も一切の偽りなく本心だった。
そして、凜の方も身体を起こすと自分の不明を恥じると頭を下げ、目じりに涙の粒を浮かべた。
やはりまだ幼いのだなと彼女の行く末を知るランサーは感傷を覚え、殊更に明るい表情を浮かべるとすくっと立ち上がって見せる。

「なに、同じ相手に不覚を取る俺じゃねぇ。次はあんなことはないさ」

この言葉も全く嘘というわけでもない。相見えた感触としてあのライダーはセックス以外の武器を持たず、本体の能力は極貧弱だ。
ならば槍の一撃さえ届けばたったそれだけで勝つことが出来る。これを知っていれば、少なくとも同じ状況でならもう不覚を取ることはありえない。
懸念されるのはあの鏡による遠隔攻撃。あれがどの程度の距離まで届くのか、視覚の中でないと発動しないのか等々、ランサーはまだなにも知らない。
一度でも触れられたら終わりなだけに、その点については慎重に探っていくことが求められるだろう。尤も、もう二度と会いたくないというのが本心だが。

「じゃあ、俺はちょっと周りを見てくる。お前はよく休んでおきな。マスターであるお前が回復しないと俺の方も全力を出せないんでな」

くるりと手先で槍を回してランサーは凜に背を向ける。
本当なら彼も休息をとりたい所だったが、あの公園から逃げ出してここまで、尾行や他の参加者らの目を気にする余裕はなかった。
最悪、すでにここに監視がつけられている可能性もある。だとすれば命を賭しマスターの盾となるのがサーヴァントの役割だろう。

「ごめんさい。……それと、気をつけてね。あんたがやられたら私も終わりなんだからさ」

応と背中で返したランサーの姿は次の瞬間には凜の前から消え去っていた。



「……………………」

ランサーの気配が遠ざかったの確認すると凜はのろのろとソファから立ち上がる。向かう先は寝室――ではなく、風呂場だ。
未だ眩暈を覚えながら脱衣場まで行くと、これものろのろともどかしげにゆっくりと服を脱ぎ捨てていく。

「う、うぅ…………」

鏡の中に映る彼女の顔が紅潮し、またしても涙の粒が浮かぶ。
マスターとして参加した聖杯戦争に圧倒されたのだろうか、それとも間近に感じた死に恐怖を抱いたのか、あるいは英霊という存在に畏怖を覚えたのか。

はたまた、濡れた下着を見てもうおもらしなんかする年ではないと恥を感じたのか。

あるいは、それは――しかし、彼女の名誉の為に真相を突き止めることはせず、この話はここで終了する。



窓の外では夜が白み始めていた。そう、聖杯戦争は始まったばかりなのだ。まだ、これはたった一晩にも満たない話でしかない。






.


298 : POINT OF VIEW  ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:44:22 B3gphS6g0
【B-4/遠坂邸/1日目 早朝】

【遠坂凛@Fate/Zero 】
[状態] 魔力ほぼ枯渇、憔悴
[令呪] 残り三画
[装備] アゾット剣
[道具]
[所持金] 不明
[思考・状況]
 基本行動方針:遠坂家の魔術師として聖杯を得る。
 1.今は休息。
 2.学校はどうしようか……?
[備考]
 特になし。

【クー・フーリン@Fate/stay night 】
[状態] 魔力ほぼ枯渇、憔悴
[装備] 槍
[道具]
[所持金] 不明
[思考・状況]
 基本行動方針:遠坂凜のサーヴァントとして聖杯戦争と全うする。
 1.屋敷に近づく者、監視する者がいないか見張る。
 2.出来る限り回復に努めたい。
 3.あのライダー(鏡子)にはもう会いたくない。最大限警戒する。
[備考]
 鏡子とのセックスの記憶が強く刻み込まれました。


299 : ◆S8pgx99zVs :2014/08/07(木) 20:44:50 B3gphS6g0
以上、投下終了です。


300 : 名無しさん :2014/08/07(木) 20:49:45 1F5TD0e60
ランサー……その、なんだ、頑張れよ…?


301 : 名無しさん :2014/08/07(木) 20:57:33 fKG8Ead.0
これサーヴァントって妊娠すんの?


302 : 名無しさん :2014/08/07(木) 21:04:48 qwdbKMlAO
投下乙

ランサーが死んだ!(性的に)


303 : 名無しさん :2014/08/07(木) 21:05:50 /5zvbcfE0
投下乙です。
まぁ…兄貴…涙ふけよ…
狭間も完全に引いてるのが…www


304 : 名無しさん :2014/08/07(木) 21:05:52 8dPJrQ/Y0

流石クトゥルフすら犯す性技。EXランクなだけはある。
とんでも英霊だけど危険度はクッソ高いし。

そしてロ凛は大人の階段を登っていくねんなぁ…


305 : 名無しさん :2014/08/07(木) 21:07:08 7rF2zRdsO
鏡子怖すぎィ!
ランサーがしぶとくなければ危うく死んでいた
思いっきりR-18だが大丈夫か?


306 : 名無しさん :2014/08/07(木) 21:10:32 vB21Xgrw0
投下乙です
冗談じゃなく聖杯戦争が性杯戦争になってしまう…
ランサーはまあ強く生きろ


307 : 名無しさん :2014/08/07(木) 21:16:14 RGjbmiyI0
投下乙
至極緊迫した描写に緊張感がありましたがシュールさも相当、兄貴は頑張れ
ただ一点、凛が鏡子のクラスを看破してますが月(extra)だとステ確認でクラスまで判別できないんですよね、そこだけ少し気になりました


308 : 名無しさん :2014/08/07(木) 21:22:29 /5zvbcfE0
あれ、ルリルリとか杏子を視認してランサーって認識してなかったっけ?


309 : 名無しさん :2014/08/07(木) 21:58:52 6NIqtoIE0
ランサーさすがは往生際の悪い男。間一髪で生き延びおったかw
にしても魔力リソースの確保が重要な二次聖杯で、序盤から魔力ギリギリとはシビアな展開やなー
ロ凛がマスターだとより魔力確保が困難そうだし、どうなることやら。


310 : 名無しさん :2014/08/07(木) 22:23:16 5LQLoJD.0
投下乙!
序盤のまさしく魔術師同士の戦いといった重い空気から、中盤からライダーの恐ろしさとランサーの精神力!
なんてことだ! 聖杯戦争じゃないか!
マスター二人はそれぞれ別々の意味で聖杯戦争の過酷さを噛み締めているが、戦いのなかで成長するしかないのだ……


311 : ◆ggowmuNyP2 :2014/08/07(木) 23:42:15 OcypD6NY0
投下します。


312 : 名無しさん :2014/08/07(木) 23:42:38 aAsYBoz20
ヒャア!新鮮な投下だァ!


313 : 戦中の登校者 ◆ggowmuNyP2 :2014/08/07(木) 23:42:57 OcypD6NY0
戦前
もしくは前線
配点(行ってきます)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

           ●

正純は、フラついていた。

……いかんなー……。

ライダーは弱小の存在ではあるが、サーヴァントである事には変わりはない。
自身も気付かぬ内に拝気を消耗しているのだろう。
「消耗、か」
戦闘系でない自分にはやや実感が伴わないところではあったが、
「葵の、……不可能の力」
それを改めて思い起こす。
しかし、ここにあの馬鹿はいない。
流体燃料や、それに相当するような物も探す必要があるかもしれんな、と正純は思う。しかし、

「無いんだよなー……」
無いのだ。貧しいのだ。極貧なのだ。
金の話だ。胸ではない。
こんなとこまで再現せずとも良いだろう、と言いたくなるがまあ仕方ない。
バイトの給金は最低限の食費を除き、ほぼ全額を草紙の購入に回すという生活はこちらでも続けていたのだ。

……内燃拝気を回復する為の瞑想も必要になるし、夜間のバイトは危険度が高くなるしなあ。
ともかく、現状では金銭取引を行うのは難しい。
それは何も、戦いに関連する事項に限った話ではない。故に、
……空腹だ。

朝食を抜きにしたのが悪かった。
恐らく、今の自分の体調が悪いのは、魔力云々よりもそちらの方が原因だ。
『まー』
ツキノワが、慰めるような鳴き声を発した。
……ツキノワは可愛いなあ!
お前の分の食費はきちんと捻出してやるから安心しろ、と頬ずりする。

「……ここの学園では、こういった事も気軽には出来なくなるな」
だから家でも存分に行ったのだが、それを見ていたライダーが妙な顔をしていたのは何故だろうか。
心なしか輪郭もかなりテキトーになって頭身も縮んでいた気がするが、あれはユニコーンのようなものだろうか。
走狗《マウス》の有用性について語ったところ納得を得たようだったので、それはいいのだが。
しかし『マウスはいいな。ヤークトティーガーもゴリアテも好きだ。ホルニッセの、ナースホルンの88mm《アハトアハト》は心が躍る』とか言っていたが何か脱線してはいなかったろうか。

「――ん」
歩道に設置されたベンチに腰を下ろす。
……行き倒れとか、本気で洒落にならんからな。

正純は、往来の流れを見つめた。
今、正純は徒歩での登校の最中だ。
この街には四輪駆動の自動車を始めとして、見慣れないものもかなりある筈だが、不思議と迷いを感じる事はない。
着用している制服にしても、精神的にはともかく肉体的な違和感はない。気が利いている、と言うべきか。
それについて、思うところはあるが――。

「お」
自分と同じく、徒歩で登校してくる生徒達の姿。その中に、見知った顔があった。
後輩らしい女生徒と何やら語り合っていた彼女はこちらを見ると、女生徒に手を振ってからこちらへと向かってきて、
「おはよ、正純」
Jud.、と正純は頷いた。
「ああ。――おはよう、第四特務」


314 : 戦中の登校者 ◆ggowmuNyP2 :2014/08/07(木) 23:43:33 OcypD6NY0
           ●

は? と、彼女が目を丸くした。

……しまった!

ついいつものノリで普通に挨拶してしまった。
ここにいる彼女は、正純の知る彼女ではないのだろう。
その背にある筈のもの――黒翼が見当たらない以上、それは明らかだ。
彼女は武蔵アリアダスト教導院の第四特務ではなく、月海原学園の一生徒なのだ。
一度呼吸を整えて、改めて挨拶する。

「あー……おはよう、ナルゼ」
「大丈夫? 顔色、変だけど」
「あ、ああ。最近、肥満体型の中年独逸軍人と同棲する事になってな。それでまあ、少し調子が悪いかもしれん」
『軍人と』の辺りから猛スピードでネーム切りを始めたナルゼを見て、この辺は変わらんなー、と少し安心する。
いや、安心するべきではないのかもしれないが。

「そう、調子悪いの。――じゃあアンタが朦朧としてる間にちょっとゴリ押ししたい事があるんだけど、いいかしら?」
「そこはもうちょっと包み隠せよ!!」
まあ、と一応頷く。
「とりあえず言ってみろ。……まともな判断力は残っているつもりだからな」

こちらの瞳を見つめたナルゼは、
「知り合いネタにして同人誌描いてるんだけど、それ今度の祭りで売り物にしていいわよね?」
「いいわけあるかあ――――――!!」
いかんいかん、大声を出しては怪しまれるか。しかしここは抗議しておくべき所だろう、常識的に考えて。

「言っとくけど私とマルゴットだけの話じゃないから。さっきの子、瀬尾って言うんだけど、そこのサークルとの合同。
 ネタとしては、今回は女性方面。まず兎角と晴。それとユミルとクリスタ、黒子と御坂。基本と言えば基本ね。
 で、それに加えて、羽ピンと蒼香、アサリとヤモト、雪子と千枝、カズと朱里、それから――」
「幾ら内容の解説したって決定が覆ると思うなよ……!」
というか知らない名ばかりだがここでは一体どんな交友関係を築いているのか。
そもそもこの外道なノリに巻き込んで大丈夫なのかこれは。いや、今名の上がった人物が全て学園に居るわけではないだろうが、大丈夫じゃないだろう確実に。

ナルゼは舌打ちを一つした後、
「会長のイッセーだと絶対アウトだろうから副会長狙いで行ったんだけど、やっぱダメか」
「何故私なら行けると思ったのか知りたいんだが……」
そのままこちらから背を向けたナルゼは、
「マキはサッキヤマとの組み合わせもアリだと思うのよね……」
などと呟きながら学園へと向かっていった。

……なんだかなー。
その背を見送りながら、ふと、思う事がある。
「副会長、か」
生徒会に所属している、その立場を活用できる事もあるかもしれないとは思う。
ネシンバラ辺りなら『令呪の存在を秘匿するために生徒全員にオリジナルの紋章をその身に刻ませようよ!』とか提案するかもしれん。
だが、今思うのはそうではなく、生徒会の会長を務める人物の事だ。

「やはり、馬鹿はいないのだな」
あの馬鹿と、そしてホライゾンの存在は、武蔵の人間の中では非常に大きい。
だからこそ、先程の会話ではそこに大きな違和感を得た。
勿論この空間でも常時全裸だったり女装だったりワカメだったり餃子だったりされたら本当に違和感どころの話ではないのだが。
いや、いるとしたら即逮捕だろうから結果的に目に入らないだけなのか? そこは置いておこう。
……それに。
外道分も足りていなかった。
何しろナルゼが許可など求める筈がない。というか実際無許可で制作販売されていたしな私の本。

ともあれ、
「やはり手抜きと言うかやる気がないと言うか、そんな印象も受けるが……」


315 : 戦中の登校者 ◆ggowmuNyP2 :2014/08/07(木) 23:44:17 OcypD6NY0
――否、そうではない。

聖杯はこちらの脳内に直接情報を伝えて、更には記憶を操作しているのだ。
そこまでやっておいて、あえて違和感を持たせるような世界の作り方をする。
それには、何らかの意図がある筈だ。まず考えられるのは、
「他のマスターとの兼ね合いか」

正純が存在していた環境は、ありたいていに言ってしまえば、かなり特殊なものだ。
あの狂人共を完全再現した場合、正純はともかくそれ以外の者が大いに困惑する事は疑いない。
……しかし、新しく武蔵に来た連中は、割と馴染んでる事多いんだよなー……。
まあ何人かはあっさり適応してしまうかもしれんが、大抵はダメだろう。多分。

「まず、名前の時点で訝しがられるかもしれんしな」
正純は襲名に失敗した身ではあるが、名前はそのまま名乗っている。
また、先のナルゼのように、歴史上の人物にあやかった名も多い。
ナルゼの場合は、松平の武将である成瀬・正義、ないし次代の成瀬・正成だが、
「私の名は、……どうなのだろうな」

本多・正純という人物は、それほどメジャーとは言えないが、かといってマイナーとも言えない。
その名の持つ意味に気付く者もいるだろう。
無論、そうでない者もいるだろうし、それこそあやかっただけだと思われる可能性もある。
……流石にサーヴァントが学生になってるって発想する奴はいないよな?
いない、と断言できないのが怖いところだ。

何にせよ、
「マスターは、この冬木という土地――二十世紀前後の日本の環境に慣れている者が多いという事か」
こちらは、そういった者達に合わせられたと見るのが自然だ。
そうは言っても、本戦まで進んだ者の大半がこの時代の者だとは限らない。正純のように、違和感を持ったが故に記憶を取り戻した者もいるだろう。

「それに、……ヒントを与えている、という事もあるか」
『元と何ら変わりない環境』を用意された場合、そこから抜け出す事は困難になる。
聖杯戦争は、あくまでも参加者同士の戦いがメインだ。
気付くか気付かぬか、微妙な範疇でヒントを与えてくるというのは考えられる。

だが、腑に落ちない点もある。
「何故、この舞台を継続して使っているのか、だよな」
戦いと、その勝者のみを求めるのなら、予選が終了した時点で新規に専用の舞台を作った方が管理が楽であるのは明らかだ。
過度のNPCの殺害の禁止を始めとする、参加者の行動を抑制するルールを用意してまでこの舞台を引き続き使う必要はない。

NPCの殺傷が咎められない場合は、無差別な大量破壊を可能とする宝具を持つサーヴァントが有利となる可能性はある。
互いに準備を整えた上で一対一で戦う決闘方式の場合は、正面からの戦いを苦手とするサーヴァントが不利となるだろう。
だが、そもそも真に公平なルール、取り決めなどというものは存在しないのだ。
故に武蔵でも正純は自陣営が有利となるように交渉を行ってきて結果的に戦争になったりした。うむ、別に好きで戦争に持ち込んだ訳ではない。

しかし正純と違い、聖杯はあらゆる参加者よりも上の立場にいる、いわば主催者だ。
単に管理を行いやすいようなルールを制定すれば、それでいい。
そもそも、本当にルールを順守させたいと言うなら、もう少し強制力を高めるべきだ。
極端な話、監督役という監視者を置く以前に、予選の段階で記憶を操作したように、最初からルールを破れないように行動を制限してしまえばいいのだから。

逆に言えば、
「それでもこの舞台で、このルールで戦いを行わせる理由がある」

……思い当たる事はある。
それは、
「――再現だ」


316 : 戦中の登校者 ◆ggowmuNyP2 :2014/08/07(木) 23:45:20 OcypD6NY0
聖杯は時代を越えて、人物を、土地を、英霊を、あらゆるものを再現している。
この聖杯戦争そのものも、その再現の一環であったとしたら。
そのルールも、何時か何処かで行われたであろう聖杯戦争のルールを再現しているのだとしたら。

人類が再び天上へと登るため、聖譜に則って歴史再現を行ってきたように、
「聖杯は、聖杯戦争という事象を再現する事で、自らの望むものを観測しようとしている訳か」

また、聖杯による再現は完全なものではなく、ある程度の解釈が含まれている。
例えば、ライダーはかつて自身の部下であった戦鬼の徒をサーヴァントとして召喚するという宝具を持つ。
しかし生前のライダー――少佐は、そのような能力は有していない。あくまでも、最後の大隊の指揮官として彼らを率いていただけだ。

こういった事は、歴史再現を行う襲名者達の間では全く珍しい事ではない。
ごく一部を挙げるだけでも、異端の術式である"地動説"と"天動説"を用いて戦闘を行うK.P.A.Italiaのガリレオや、傭兵王ヴァレンシュタインとの二重襲名で亡霊戦士団"加賀百万G"を使役するP.A.ODAの前田・利家などがいる。
それに二つの球を合わせてチューチューして何度も引っ張って街中を大騒ぎにした"マクデブルクの半球"のゲーリケも直接交渉した事もあって記憶に残っている。そういえば彼も独逸人だったな。
過去の時代にも"兵士同士の結婚"を推奨したバレンタイン司教や、アキレスと亀のパラドクスの実験中にアキレス役が亀に追い付きそうになったのでアキレス腱固めをかけて実力阻止したゼノンが存在していた。
これらと同じものとして見ていいかどうかは、かなり、かなり微妙なところだが、何にせよ聖杯は完全な再現を行っている訳ではない。

つまり――。
「こちらが行う“解釈”もまた通用する。少なくとも、聖杯は解釈を行っている。意思がある」

この推論が正しいとも限らない。聖杯との交渉以前に行うべき事も山とある。それでも、交渉材料は見えてきた。

……しかし、その為に、調べねばならない事があるか。

正純は、学生鞄からノートを取り出し、そのページ上に鳥居型の表示枠《サインフレーム》を展開。
周囲からはノートに書き込みを行っているように見せながら、表示枠にメモを取っていく。
それが終わった後に、新規に画面を表示する。
行うのは実況通神《チャット》だ。
その相手は、

・副会長:『――いいだろうか、少佐』
・戦争狂:『構わないとも、武蔵副会長』

正純が学園にいる時間帯、ライダーとは別行動を取っている。その理由は単純なもので、共に行動するメリットが薄いからだ。
仮に正純がマスターである事が既に把握されていたとしても、諸々のリスクを考えれば、日中の学園内で真正面から堂々とこちらに仕掛けてくる相手はいないだろう。

だが、周囲に人がいない状況など、襲撃者にとっての好条件が整った場合はどうか。
"暗殺者"という、そのものズバリのクラスのサーヴァントが存在している以上、警戒はしておくに越した事はない。
一般的なサーヴァントであれば、そういった事態に備えたり、逆に相手を牽制する為に、霊体となってマスターに同行するのが定石なのだろうが、

……ライダーは、そのどちらも無理だからなあ。
"戦鬼の徒"を常時展開すれば話は別だろうが、それはあまりにも非効率的だ。

幸いと言うべきか、ムーンセルの解釈によるものか、ライダーも単独で表示枠を表示させることができる。
通神帯《ネット》の機能には多少制限があるようだが、冬木市の情報に関しては問題なく検索が可能だ。
それならば、正純は十全に注意を払いつつ学園に向かい、ライダーは自宅に待機し別方面で情報収集を行うというのが落とし所になる。
そして何か発見などした場合は、互いに連絡を取り合う事になっていた。


317 : 戦中の登校者 ◆ggowmuNyP2 :2014/08/07(木) 23:46:38 OcypD6NY0
           ●

・戦争狂:『――再現、か。成程。で?』

それが、
・戦争狂:『それがどうした? 聖杯には意思がある感情がある願望がある、プログラムに沿って動くだけの機械ではない。ああそうだろう、そうだろうとも。
      そうでなければ、私のような君のような者を放置しておくまい。反攻もまた聖杯の望むところなのだろうさ。それを再確認したところで、何を言いたい』

表示枠に映されるのは、挑発的ではあるが、続きを促す言葉だ。
・副会長:『今後、如何なる情報を重点的に集めていくか、……それについて提案をしたい』
息を吸い、身体に冷気を入れつつ、正純は文字をタイピングしていく。

・副会長:『私は、再現元である聖杯戦争についての調査を行いたいと考えている』

いいか?

・副会長:『聖杯が真に万能の願望機であり観測機であるのなら、このような試みを行う必要すらない筈だ。とはいえ、聖杯の演算能力そのものに関しては疑う余地はない』

ならば、

・副会長:『一見しただけでも参加者間の公平性が保たれているとは決して言えず、穴も多いルールで行われるこの聖杯戦争。
      莫大な能力を持つ聖杯が敢えてそのような方法で“観測”を図ろうとするからには、表には出ていない、隠された何かがある筈だ。
      交渉にしろ戦争にしろ、聖杯に挑むに際して、それを知っておくべきだと思う』
・戦争狂:『では、監督役に接触するか? 敗北主義者のように頭を垂れるか、ゲシュタポのように尋問にかけるか、方法は政治家に任せるとしよう』

自身の顔に苦笑が生じた事を、正純は知覚した。
……解った上で言っているな、これは。

・副会長:『方法はともかく、……いずれ対面せねばならぬ相手ではあるだろう。しかし、情報提供は期待できないな。
      特定の陣営に肩入れを行うようでは公平な監督役とは言えないし、現状の我々の戦力では戦闘に持ち込む事すら出来まい。
      ルールに抜け道があるように、監督役にも隙がある可能性は、勿論ある。だが、今の段階で目を付けられるのは回避したい』
・戦争狂:『ならば、どうする。どうするどうするどうする、君ならどうするねお嬢さん《フロイライン》』
・副会長:『――他のマスターとの交渉。それが現時点で有効な一手だろう』

続ける。

・副会長:『それも、私のように巻き込まれた者ではなく、自ら望んで方舟へと乗り込んだマスターとの交渉だ。
      準備を整え、必勝の態勢でこの戦いに挑んだマスターならば、事前に聖杯戦争についての知識も得た上でやって来たと推測できる』

正純は、そこで一旦息を吐いた。
……言葉にしてしまうのは簡単なんだが、な。

・副会長:『無論、交渉に至るまでには様々な障害があるだろう。まずは捜索から行う必要があるし、そのマスターについての調査も必要だ。
      都合良くこちらの望む情報を持っているとも限らないし、更に他のマスターに接触したり、行動によって我々の正当性を高めたりする必要があるかもしれない。
      そういった過程をすっ飛ばして交渉に当たらねばならないような事態も考えられる』

だが、
・副会長:『だが、この方針自体最初から決定されていた事だ。あくまでも優先的に接触すべき相手についての話だと、そう思って頂きたい。
      出会ったマスターが、喪失を望まず、ただ生存を願う相手であるのならば、当然ながら協力を持ちかけていく』
・戦争狂:『ふん、いいだろう。では――ひとつ聞こうか』

――来るか。
幻視する。
表情を読み取らせない眼鏡のその奥にある、狂気を含んだ瞳。
首を傾け、両腕を大きく振り上げ、演説でも行うようにこちらに語りかける、その姿を。

・戦争狂:『自ら戦争に臨んだ、彼の、彼女の、あるいはどちらでもない者の望みを。聖杯などという化物に縋り付かねばならなかった感情を。
      悲嘆を淫蕩を嫌気を強欲を虚栄を傲慢を憤怒を暴食を嫉妬を、君は受け止める事ができるのかな』

「――――」
戦争が始まった今となって、改めて問われている。
他者を喪失させる事でしか叶えられぬような悲願と、その覚悟を持った相手。
その相手と如何にして交渉を行うか、ではなく。
その身をもって相対する事は出来るのか、と。

「……決まっている」

打ち込むのは、ただの一語だ。それは、

・副会長:『Jud.』


318 : 戦中の登校者 ◆ggowmuNyP2 :2014/08/07(木) 23:47:29 OcypD6NY0
           ●

Judgement.――ああ、我ら聖罰を受ける者なり。
・副会長:『何度でも言おう。私は、喪失も、それによってもたらされる救いも、認めない』

可能性を食らいて行く被罰者なり。
・副会長:『聖なる遺物であろうが、それに願いを託す者であろうが、認める事はないだろう』

されど我ら、――悲しみを与えぬ者達なり。
・副会長:『故に私は、この聖杯戦争を“解釈”する。あくまでも聖杯がそれを認めないというのであれば――』

・副会長:『戦争をしよう。一心不乱の大戦争を』

           ●

・戦争狂:『ならそうしよう。今しばらくは政治家に表舞台を任せるとしよう。何、雌伏だって慣れているし、後に待つものを思えば中々楽しいものだ』

……まったく。
本当に、ごく当たり前の事を再確認しただけ、という風だ。
手強い相手だと、改めて思う。

とはいえ、確かに今やった事と言えば、情報収集の方針について伝えただけではある。
もう少しコミュニケーションというものを取ってみるべきかもしれない、とは思うが、
……急がねば、授業が始まるか。

・副会長:『そろそろ、こちらは時間になる。そちらも、何かあったら連絡を寄越してくれ。出来る限りは返答を返すつもりだ』
・戦争狂:『征くがいいさ武蔵副会長。良い戦争が出来るようにな』

その時正純は、こう思った。
……こういう時、最後に何か、言っておくべきだよな。
ネタならある。
ライダーに出会った当初から考えていたものだ。

――よし。


・副会長:『では、最後の大隊の指揮官よ。――だいたい、そんな感じで頼む』


           ●

十数秒の沈黙の後、手刀で表示枠を叩き割ってから正純は立ち上がった。
――よし。
何がよかったのかは解らんが、まあよしだ。

交差点を曲がれば、すぐに校門が見えてくる。
正純は一度伸びをして、
「――行こう」
呟きと共に、一歩を踏み出した。


319 : 戦中の登校者 ◆ggowmuNyP2 :2014/08/07(木) 23:48:31 OcypD6NY0
【C-3/月海原学園付近/一日目 早朝】

【本多・正純@境界線上のホライゾン】
[状態]空腹
[令呪]残り三画
[装備]学生服、ツキノワ
[道具]学生鞄、各種学業用品
[所持金]極貧
[思考・状況]
基本行動方針:他参加者と交渉することで聖杯戦争を解釈し、聖杯とも交渉し、場合によっては聖杯と戦争し、失われようとする命を救う。
1.マスターを捜索し、交渉を行う。その為の情報収集も同時に行う。
2.聖杯戦争についての情報を集める。
3.可能ならば、魔力不足を解決する方法も探したい。

【C-3/正純の自宅/一日目 早朝】

【ライダー(少佐)@HELLSING】
[状態]健康
[装備]拳銃
[道具]不明
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯と戦争する。
1.暫くは待機し、通神帯による情報収集を行う。


320 : ◆ggowmuNyP2 :2014/08/07(木) 23:49:28 OcypD6NY0
投下を終了します。
誤字、展開の不備などありましたら指摘をお願いします。


321 : 名無しさん :2014/08/08(金) 00:02:28 baMdmEhgO
投下乙です
この主従はまさに聖杯と戦争してますね
どこと同盟を結ぶのか楽しみです


322 : 名無しさん :2014/08/08(金) 00:16:50 V.F.qmcI0


>無いのだ。貧しいのだ。極貧なのだ。
>金の話だ。胸ではない。
だが、それがいい。
平面な正純のオパーイが僕は好きです。

そしてナルゼとかクリスタとかこの学校外国人多すぎィ!
だけど冬木市の設定からして外人多いらしいから別に普通なのかもしれない

ムーンセルが英霊を“解釈”し、聖杯戦争を“再現”しようとしてるっていうのは面白い考察です


323 : 名無しさん :2014/08/08(金) 00:21:14 3isCeKCg0
くそうwww
最後の最後で笑ってしまったw
結果的に正純のギャグで笑わされてしまって悔しいw
投下乙でした。境ホラ文体もさることながら、考察の果てに最初になすと決めた内容も面白い
敢えての聖杯戦争に乗っている奴らを狙っての接触と来たか!
要所要所で手強さ見せる少佐も少佐していたし面白かったです!


324 : ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/08(金) 06:16:16 2IvCWwtQ0
投下します


325 : 何万光年先のDream land ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/08(金) 06:17:45 2IvCWwtQ0
朝が来たというのにはちょっと早くて、
でも月は既にどこかに隠れてしまっている。役目を果たしたと言わんばかり。
夜を名乗るにはすこし心もとないような、そんな、空の下。

少女たちは肩を並べて海を眺めている。
砂浜沿いの通り、潮の匂いが流れ込んでくる。腰かけたベンチは少し砂がついていた。
眼前に広がる海はまだ夜の色をしていて、でも、朝の青さが混じるのは止められないだろう。

「貴女と会うのは二度目ですね」

青混じる髪の少女、ルリは穏やかな口調で言った。
親愛の意志を滲ませつつも、一定の調子は崩さないよう呼びかける。
相手は聖女、ルーラー。同じのベンチの端と端に彼女らは座っている。

朝食でも、と言ったは良いが、まだ朝食を食べるには早そうだ。
店もまだ開いていないだろう。牛丼屋くらいなら開いているかもしれないが、目の前の少女を連れていく気にはならない。
なのでひとまずここでお話を。

「そう、ですね。私も貴女のことは覚えています。マスター・ホシノルリ」

ルリの隣に座る彼女、ルーラーもまたゆっくりとそう口にした。相手に語りかける、人に聞かせることを意識した声色。
まだ少女の身でありながら、その面持ちは凛とした強さを感じさせる。
この場においての『裁定者』。サーヴァント・ルーラー。

調査として『方舟』にハッキングをしかけた折、ルリは彼女の姿を垣間見ている。
一瞬のことだったとはいえ、忘れることはない。
その時は彼女の正体なんて知りもしなかった。知り得る筈もなかった。

でも今は違う。
ルリは彼女を名前を知っているし、課せられた役割も知っている。
聖杯戦争。方舟内で行われていた『戦争』だ。
ムーンセル・オートマトンに寄り添いし『方舟』。そこで繰り広げられる苛烈な生存競争。

全くの正体不明だった筈の『方舟』。
でも、ルリにとってはそうではない。知ってしまったから。
そして、それは――この『戦争』が彼女自身のものになったことを意味する。

「…………」

ちら、と後ろに視線を向けた。
そこには何もない。いや、何も見えない。
しかしルリは感じていた。ライダーが、あの硝煙の臭い漂う彼が居ることを。
自身の存在をかき消すその手段は霊体化、というらしい。これも何時の間にか知っていたことだった。

サーヴァントという存在のことをルリは既に知っている。
ムーンセル。全長三千キロメートルに及ぶフォトニック純結晶、月にに浮かぶ神の自動書記。
それが観測しデータを再現してみせた人類の叡智そのもの。
そしてこの身も、この海も、この空も、目に映るもの全てもまた霊子虚構世界――再現された時間の流れ。

その知識を知った上で、ルリはこの世界を『理解』する。
電子の妖精、の異名を持つ彼女は虚構世界に精通している。
規模こそ違えど、この世界はナデシコの中枢コンピュータ・オモイカネの心と同じなのだ。

虚構であるが、流れる情報の欠片は紛れもない真実。
仮想であるが、そこは決して偽物でない確かな現実。

それがこの世界の正体であると、ルリは知っていた。
タイミングは――『方舟』にアクセスした、あの瞬間。

「ちょっと質問させてももらってもいいですか」

ルリは軽く手を上げて問い掛ける。
知識はある。理解もある。しかしそれでは調査にはならない。
この世界が何であるかをまず知ること。それが彼女がまず目的にしたことだった。
そんな折に現れた『裁定者』という存在を逃す訳にはいかない。聞かなければならないことが幾つかある。
何でも説明してくれるあの人も流石にここには居ないだろうし。

「はい、私に答えられる範囲ならば答えますが」
「じゃ、さっそく」

落ち着いた口調でルリは最初の質問を口にした。

「ここはあの『方舟』の中なんですよね?」

最初に尋ねたのは、この場所のこと。
知識としては与えられているが、一応確認しておくべきだろう。


326 : 何万光年先のDream land ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/08(金) 06:18:21 2IvCWwtQ0

「そう、ですね。少なくとも貴方から見れば、紛れもなくここは『方舟』でした」

問い掛けにルーラーは頷いた。
ここは、この世界は確かに『方舟』である。
虚構世界であろうともここはここが『方舟』の中であることには変わりがない、というらしい。
宇宙のどこか飛ばされたのではなく、自分はある意味順当に『方舟』に入っていったことになる。

方舟はまさに『方舟』だった。
正体の見当も付かなかったが、本当にとてつもないものだったのだ。
超古代の聖遺物に人類の手を越えた演算機器、そして中で行われる『戦争』。
これはあの演算ユニットか、下手をすればそれ以上の存在かもしれない。

ルリは事態の大きさを再認識する。
原因は他にもあったにせよ、あの演算ユニットが地球と木連の戦争の契機になった確かだ。
それ自体に罪はないとはいえ、演算ユニットが巨大な力を持つ故に多くの混乱が起こった。
三年前の戦争も、そのあとに続いた悲劇も……

確かにこれは、この『方舟』はとてつもないものだ。
演算ユニットをめぐる騒動がひと段落した、その矢先にこんなものが投下されては混乱は間違いない。
戦争が終結したとはいえ火種がない訳ではない。『方舟』到来が世界に与える影響を考え、ルリは身を引き締めた。

「次の質問、いいですか?」

思案ののち、ルリは次なる問い掛けをすることにした。
『方舟』の影響力は留意しなくてはならないが、それだけに調査を怠る訳にはいかない。

「先程貴方から見れば、といってましたけれど、別の観方があるんですか?
 知識として、あらゆる並行世界とこの方舟が繋がっている、とは聞いていますけど」
「はい。この世界はムーンセルが観測し得たすべての世界と繋がっています。
 だからこそ様々な見方があります。多くの場合船、として観測されていますが、その木片のみが人の手に届いた世界もあります」

そもそもノアの方舟という伝承自体が存在しない世界もあるのだという。
内部は一つの存在として確定していても、その外観、定義、解釈は各世界各人によって異なる。
そういう意味でマスターにはそれぞれ認識のずれが多少あるのかもしれない。

「別の世界、ですか」

並行世界。その言葉はルリも知っている。
が、こうして直面することは初めてだった。 
またも途方もない話だが、これもまた真実だ。

「…………」

見えなくとも背後に存在はしっかりと感じることができる。
ルリはあの硝煙の臭いを覚えていた。
サーヴァント・ライダー。キリコ・キュービィー。彼から垣間見た記憶は、ルリの知る世界から大きく乖離していたけれど、紛れもなく真実の響きを持っていた。

ここに呼ばれているのは全く違う世界の人間。
中には自分から見ると冗談のようなものもあるかもしれない。あのゲキ・ガンガー3のキャラクターのような。

「何か、ちょっとドキドキしますね。別の世界の人たちと会えるなんて」
「…………」

ルリの言葉にルーラーは口を閉ざした。そして、僅かに視線が逸れたのが分かった。
何か思うところがあったのだろうか。不思議に思いつつも、ルリは口を開いた。

「もう一つ、これ、結構私にとって大事なことなんですか?」
「はい。何ですか?」
「出る方法、あります? この方舟から、優勝以外の方法で」

この『戦争』から下りる方法があるのか。
場合によっては、ルーラーと敵対しかねない問い掛けだった。
が、絶対にこれは聞いておかなくてはならないことだった。今後の方針に大きく関わってくる。

問われたルーラーは別段ルリに警告する様子もなく、ただ一拍遅れて答えた。


327 : 何万光年先のDream land ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/08(金) 06:18:39 2IvCWwtQ0

「……ありません」

と。

「この月を望む聖杯戦争から生きて帰るには、優勝以外の方法はありません。
 数多くの世界、数多くのマスター、数多くの願い、その中から勝ち残った一組のつがいだけが、方舟の聖杯を取ることができるのです」
「それ以外にはないんですか? 私のように、勝手に連れてこられてきちゃったマスターでも」
「はい」

ルーラーは頷いた。毅然としているが、その唇が僅かに震えていた。
ルールを司る立場にある彼女は表だって表す訳にはいかないが、その事実に抵抗があるのかもしれない。
彼女がどのような英霊であるかは分からないが、こうして少し話をするだけでその誠実な人柄は伝わってくる。

その態度を見てルリは交渉の余地を考えた。
調査を終え、その情報を持って帰るまでが任務。
この『方舟』の影響力を考えると絶対にここから脱出し、軍に内情を伝えなくてはならない。
調査は続行するつもりだが、最悪今知っている情報だけでも伝える必要がある。

できることならば穏便に脱出したい。聖杯にかける望みを持たず巻き込まれたルリにしてみれば、何も優勝にこだわる必要はない。
方法があれば、とも思ったがルーラーの言葉によれば全くない、とのことだった。
とはいえ彼女自身どこか納得していない部分も感じた。無論そう簡単に立場を翻すことはあり得ないだろうが、それでも全く取り付く島もないという訳ではない。
優勝以外の方法があるのならば、それも模索していきたいところだった。

とはいえ――これはもう彼女の『戦争』だ。
確かに最初は巻き込まれただけだったかもしれない。戦う意志なんてなかったかもしれない。
しかし、だからといって無関係であることなどできない。
戦うことになった以上、それは誰かの『戦争』でなく、私たちの『戦争』となる。
『戦争』とはそういうものだということを、ルリは知っていた。

『方舟』の存在の重さをルリは知っている。
これが場合によっては新たな『戦争』を呼ぶかもしれない。それだけの価値があるものであることは確かだった。
この現実から目を逸らすことはできない。

「そう、ですね。ありがとうございました、忙しい身でしょうに色々教えて頂いて」

ルリはぺこり、と頭を下げた。結われた銀の髪がふわりと揺れる。
状況を確認できた。それだけで彼女と話した甲斐がある。
頭を下げるルリに対し、ルーラーは「いえいえ」と微笑みを浮かべ答えた。

その時さっ、と光が差し込んできた。
空を見上げれば眩く金に輝く太陽がある。きらきらと照り返す水面はまるで宝石のようだった。

「夜明け、ですね」

ルリが短く呟いた。時刻を確認すると既に夜は終わっていた。
額に当たる陽の光が温かい。今度こそ、朝が来た。

「どうしましょう。そろそろ早い店なら開いてきそうな時間ですけど、朝ごはん食べますか?」

すっ、と立ち上がってルリは尋ねた。微笑みを浮かべ、朝食をどうかと誘いの言葉を。
ルーラーから話を聞くという当初の目的は既に果たした。
だからもう別れてしまっても問題ないのだが、それでもルリは彼女を誘った。
約束したから、というのもあるが、それ以上にルリはルーラーと話をしてみたかった。
単なる情報収集としてではなく、一人の人間として。

金と銀の少女たちの視線が絡まる。間を朝の涼やかな風が吹き抜けていった。

「私もこれで忙しい身でもあるんですが」

ルーラーもまた立ち上がって上がって言った。

「だからこそその申し出はありがたいです、ルリさん。
 私も是非同席したいところです。あくまで私は中立ですが、この程度の接触ならば問題ないでしょう」

そうしてルリとルーラーは朝食を摂るべく歩き出した。
気持ちの良い風が吹く。『戦争』の場であっても、別にずっとしかめ面してる訳じゃない。
前だって、あのナデシコでの生活も、そうだった。

あとでキリコさんの好みも聞いておかないと、案外コーヒーとか好きかもしれない。
そんなことを思いながら、ルリは海辺を後にした。


328 : 何万光年先のDream land ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/08(金) 06:18:58 2IvCWwtQ0








「ありがとうございます。美味しかったです」

海沿いのカフェテリアで軽く朝食を摂ったのち、ルーラーはそう別れを告げた。
朗らかな笑みを浮かべる彼女に、ルリもまた笑い返す。

サンドイッチとコーヒーだけの簡易なものだったが、それでも朝の始まりとしては十分だ。
こういった規則的な食事は宇宙生活が長いほど、逆にきっちりしてしまう。そうでもしないと時間の感覚が掴めないからだ。
そういう意味でルリにとってこの朝食は意味があるものだった。

「こちらこそ、時間を取らせてしまってすいません」
「いえ……ずっと走り回っていたもので、こうした安息はありがたかったです」

サーヴァントである彼女に食事は必要ない筈であるが、思いのほか楽しそうに彼女は食事を摂っていた。
英霊であり、ルーラーという特別な立場に立つ彼女であるが、それでも機械ではないということだろう。

「何か分からないことがあったらまた連絡を。
 教会に連絡を取れば、運営として要望にお応えします。
 私が居なくても、誰かしらに取り次いでもらえると思います」
「分かりました。どうも、丁寧にありがとうございます」

綺麗におじぎをするルリを見て、ルーラーはしばしの間無言だった。

「あのルリさん。これはあくまで先程の質問の補足なのですが」
「はい?」

彼女の顔に、そこで、一瞬だけ躊躇の色が浮かんだのち、

「ここには本当に色々な人が居ます。
 様々な世界から、過去未来問わず月が観測した全てが再現されています。
 本当ならありえなかった筈の出来事や……出会いがあると思います」

その言葉には不思議な重さがあった。諭すのでもなく咎めるのでもなく、先行く道を見定めるかのような、不思議な重さが。
ルリははっとしてルーラーを見上げた。そしてその凛とした表情に何かを感じ取った。

「分かっていますよ」

だからこそ、ルリは笑って見せた。
この宇宙には星の数のほど出会いと別れがある。
ならきっと世界を駆ける『方舟』にだってあるのだろう。

「ここって私の記憶からも作られているんですよね?
 なら、懐かしいものとか、ちょっとした同窓会みたいなのも期待してみます」
 
ルーラーは頷いた。
それで何かひと段落したのを感じた。

「じゃあ私は任務に戻ります。ルーラーさん、ご協力ありがとうございます」
「いえ。では、私もここで。
 できれば――また会いましょう」

そう言ってルーラーは背を向けて、去って行った。
揺れる金の髪が朝陽を受け美しくきらめいた。それをルリは手を振って送り返す。

そうして彼女らの朝食の時間は終わった。
これから各々のなすべきことへともどっていくのだ。


329 : 何万光年先のDream land ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/08(金) 06:19:16 2IvCWwtQ0


『……それで、どうする』
「あ、ライダーさん」

不意にライダーの声が響いた。敵に発見されることを考えてか霊体化したままだ。
ルリは彼に対し、決めていた方針を口にした。

「そうですね。仕事に戻ります」
『聖杯戦争の調査のことか?』
「いえそうではなくて、私にもここでの生活が割り振られていたんですよね。
 本日付で配属らしいんで、ちょっと顔出しておこうかなと」

言ってルリは懐から自らの身分を証明するものを取り出した。
それはチョコレート色をした革の手帳だった。二つ折になっており、開くとそこにはルリの写真があった。
写真の下には光沢のあるエンブレムがある。星のようなマークの上に「POLICE」と書かれている。

「どうやら私、刑事みたいです。何でも本庁から配属された捜査官らしくて」

天才美少女捜査官、ホシノルリ。
彼女は齢若くしながらも、その類まれな頭脳から数々の難事件を解決に導いたのだという。
人呼んで警視の妖精。

そんな設定らしかった。


【B-8/町/一日目 早朝】

【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ〜The prince of darkness】
[状態]:健康、魔力消費:微
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:ペイカード、地図
[所持金]:富豪レベル(カード払いのみ)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟』の調査。
1.職場(警察)に顔を出してみる。
[備考]
・ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。
・NPC時代の職は警察官でした。階級は警視。

【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】
[状態]:健康
[装備]:アーマーマグナム
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。
1.ホシノ・ルリの護衛。
[備考]
無し。


【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:旗
[道具]:?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1.???
[備考]



330 : ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/08(金) 06:19:35 2IvCWwtQ0
投下終了です


331 : 名無しさん :2014/08/08(金) 06:32:26 baMdmEhgO
投下乙
脱出は無理なんだな
ルリには迷いがあるが、キリコには願いがあるんだよなあ…
まさか警察官とは
仕事多そうだな


332 : 名無しさん :2014/08/08(金) 07:02:06 EZhYneVI0
投下乙です!
学生じゃなくて捜査官ですか!
ということは足立と出会う可能性が高いなー、ルリの今後が心配だ……
そしてやっぱりジャンヌちゃんは悪い奴じゃないんだよなあ


333 : 名無しさん :2014/08/08(金) 07:02:22 .KdWM8YY0

綺麗な朝の描写と金のジャンヌ、銀のルリルリの対比がグッド
そしてルリルリの職業がまさかの警察……
ルリルリのミニスカポリスとかあぁ^ 〜たまらねぇぜ


334 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/08(金) 07:31:56 KFzVhKJE0
他の皆さん投下乙です
自己リレーになってしまいますが、予約した分を投下します


335 : 形なき悪意 ◆IbPU6nWySo :2014/08/08(金) 07:33:03 KFzVhKJE0
「ああっ!」

折角寝ようとした時にジナコ・カリギリは重要な事に気づいてしまう。
今日は燃えるゴミの日。引きこもりとはいえゴミ屋敷に引きこもりたくない。
今日こそ、今日こそはゴミは出さなくては。
脳裏に浮かぶ黒い影(黒い生物の方が正しいか)
しかし、ヤクザことアサシンはここにはいない。
ジナコは引きこもりとはいえ以前も買い物をする為には外には出るくらいだ。

「うー…折角ケーキ買いに行ってくれたのに呼び戻しちゃうなんて
 もったいないッスよね…このくらいは……」

それが凶だった。





ジョンス・リーはある程度の買い物を済ませた。
テイクアウトの牛丼を二つ。(サーヴァントは食事がいらない)
そして包帯。
近頃のコンビニには何でも揃っている。
ジョンスも本当にあるのかと半ば疑ったくらいだ。
そして、閑静な住宅街にある遊具が二つ程度しかない公園のベンチで待つれんげのところへ戻った。

「ほら買ってきたぞ」
「八極拳、ありがとなん!すごいん!朝から牛丼!!」
「あと飯食う前にだな…」
「手、洗うん!!」

案外、律儀だな…

公園の水道で手を洗うれんげ。
彼女が戻って来ると、右手の甲にあった令呪を少し見つめてから

「これ。落ちないん」
「…」

ジョンスは黙ってれんげが差し出す手に包帯を巻いた。
令呪を見せびらかす事はマスターであると自分から晒しに向かうのようなもの。
れんげは聖杯戦争を理解していないからこそ最低限の事はジョンスもしてやった。
包帯を巻き終えると、れんげは不思議そうにジョンスへ問う。

「病気なん?」
「こうしておけば治る。包帯取んじゃねェぞ」
「わかったん!」

何事もなかったかのように「いただきます」の掛け声をした後、れんげは牛丼を食べ始める。
ジョンスは何故だが溜息を漏らした。
子供の子守りなんて性に合わないものの、カッツェをこの手で倒す術を見つけるまでだ。
その時、ふとした疑問が浮かぶ。
カッツェを倒した時――れんげはどうなるのだろうか、と。

「あのぉ…すいません。そこいいでしょうかぁ……」
「……」

オドオドしくジョンスに話しかけてきたのはいかにもホームレスの容姿をした男。
他にも何人かのホームレスの姿があり、別のベンチでたむろい出していた。
どうやらここはホームレスの格好の場らしい。
確かにここは子供すら近づかないだろう。
ジョンスは食事をしているれんげを確認してから答えた。

「飯食い終わるまで待ってろ」
「はぁ……でも私もたらい回しにされているんですよ…
 ほら、近頃物騒じゃないですか。そのせいで警察の人たちに移動しろ移動しろって……」
「そいつは運が悪かったな。飯食い終わったらどいてやる」

ジョンスが牛丼を口にしようとした時。
前ぶれもなく男がジョンスに掴みかかってきた。
その衝撃はれんげにも及び、彼女が手にしていた牛丼が地面に放り出され、
あっとれんげは全てを理解すると虚しさがこみあげ、涙を浮かべた。
そんなこと露知らず、ホームレスの男は言う。

「こっちの事情も知らないで、何だテメェーーー!!!
 人前で飯なんか食いやがって!こちとらまだ食事にもありつけてねぇってのに!!!」

一瞬、一撃を食らわせようと考えたジョンスだが手を止めた。
NPCへの被害を及ぼさない為にルーラーが出現したこと。
彼女は再度通告があるようならばペナルティを設けるという話を忘れていない。
アーチャーやアサシンが何もアクションを起こさないということは
この男はマスターではなくNPCのはず…もしや、またルーラーが出現するのでは。

「はァ…面倒くせェ……」


336 : 形なき悪意 ◆IbPU6nWySo :2014/08/08(金) 07:35:02 KFzVhKJE0
ジナコが見た光景は向かいにある公園での喧嘩だった。
聖杯戦争の一環なのかと疑ったが、どうやらそうではないらしい。

だが、明らかに異様を感じる。
男が無抵抗なことではなく、周囲の状況だ。
いくら街外れとはいえジナコのように住人はいる。
近所の住人や公園でたむろっていたホームレスもその光景に目を取られて立ち止まっていた。
しかし、警察が駆けつける様子がない。
誰も止めに入ろうとはしない。
それどころか学生などが面白半分に動画や写真撮影をしているのだ。
狐に包まれたような感覚を覚えたジナコは、一際目立つ少女の存在に気づく。

あの子…もしかして、あの人の娘さんか何かッスかね……?

第三者であるジナコは異常を覚えたものの。
決して関わろうとはしなかった。
すると、その喧嘩の間に男が一人割り込む。
赤いコートを着た男はかなりの長身で、ジナコも日本人ではないだろうと推測できた。
ホームレスの男の方が言う。

「なんだテメェ!」
「なにも問題ない」

男の声には妙な説得感があった。
ジナコも男の声に痺れそうになったものの何とか正気を保っている。
周囲の野次馬を見渡してから、男はもう一度

「なにも問題はない」
「……なにも 問題 ない…」

ゾロゾロと人々が立ち去って行く。
折角、拠点を作ろうとしたホームレスたちも虚ろな目をして立ち去って行った。
学生は学校へ、サラリーマンは仕事場へ、主婦は自宅へ。
全員がそれぞれの巣へ戻るかのように散り散りとなった。

この異様な光景にジナコは戦慄を覚える。

なんッスかこれ!?ま、まさか、サーヴァント!?

ジナコがあわあわと眺めていると、例の赤いコートの男が真っ直ぐ自分を捉えているのに気付いた。

「ひぃぃっ!」

ちょっとでもいいや、と慢心したのを後悔しながらジナコは慌ててアサシンを呼ぼうと判断する。
が。
背後から肩を叩かれ、それどころではなくなる。
ビクッ!と反応しながら振り向くと
赤いコートの男よりも長身な存在がニタリと笑みを浮かべてジナコの背後にいたのだ。
突然のことにジナコは叫ぶ暇もない。

「おはにゃんぱすーwwwwwwwww
 あらぁ〜よく見たらかわいい子ぉ。それじゃぁwwwwwwwwww」
「え!?ええっ!?ちょ、んっ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?!??!」

キスされた。
いきなりキスされた。しかも、奇怪な存在に、長身でいかにも不審者で、しかもサーヴァント相手に。
ジナコにとってこれだけで十分。
彼女は気絶した。


337 : 形なき悪意 ◆IbPU6nWySo :2014/08/08(金) 07:37:46 KFzVhKJE0
お祭り騒ぎが終わったかのような静寂感。
誰もいなくなった公園にいるれんげたち。

これ……

この空漠はれんげも以前感じていた。
彼女の村も今は似たような雰囲気を醸し出していた。

「うちの村だけじゃないん…都会もこうなっているのん……」
「普通だろ」

ジョンスは落ちた牛丼に溜息ついて、自分の牛丼をれんげに差し出した。
それを受け取りながられんげは話す。

「…うちの村……みんな仲良かったん。のんびりのどかな村だったのん……
 でも最近なんだか八極拳にしたみたいな喧嘩するん。うち、みんなに仲良くなって欲しいん…」
「……」
「あ!あっちゃん、かっこよかったん!ありがとなん!!
 あっちゃんもかっちゃんみたいな宇宙人さんなんですかっ!」
「私は吸血鬼だが」

ジョンスはアサシン(カッツェ)が宇宙人なのか、という突っ込みをしたかったが。
れんげにとってはアーチャーが吸血鬼だという事実に衝撃を受けていた。
ジョンスも冷静になって思う。
もう太陽が出ている。
日光直下。
しかし、アーチャーは平然と存在していた。

「あっちゃん!早く日影に行くんーーーーーーーーー!!死んじゃうんーーーーーー!!!」
「私は太陽が苦手なだけだ。別に死にはしない」
「で、でも!一応日影に行くん!!大変なのん!!」
「…そうか」
「ニンニクとか嫌いなん?」
「泳ぐのは面倒なくらいだ」
「血とか…その食べるん?」
「…吸って欲しいか?」
「あっ、ま、待って欲しいん……心の準備が…」
「なんで吸われる前提になってんだよ。冗談はやめておけ、アーカード」

ジョンスに言われ、アーチャーはニタニタと笑う。
それから別の話題を口にした。

「我が主、先ほどの奴だが」
「なにかしたんだろ。言われなくとも分かってるぜ」
「いいや違う。私はアレが妙だと感じだ。我が主はどうだ?」
「…」

要するにあの状況。
ジョンスにホームレスが絡んだ状況。
野次馬たちが取り囲んでいた、あの状況。
全てなにもかも。

アーチャーも化物とはいえ気づいていない訳ではなかった。
周囲の雰囲気。
状況。
傍観。
それはまるでアーチャーも以前体験したブラジル・リオでのホテル立てこもりを思わせるものだった。
人間であったが、人間であったからこそアーチャーは感じる。
先ほどのNPCが起こした騒動。
NPCたちの様子。
『何か』がある。


338 : 形なき悪意 ◆IbPU6nWySo :2014/08/08(金) 07:40:23 KFzVhKJE0
妙、だと?

まさかサーヴァントの仕業だというのか?
ジョンスには俄かに信じがたいものであった。
すると、この場に愉快な声と存在が出現した。

「カッツェさん降臨wwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「かっちゃん!」

パッと表情を明るくしたれんげ。
アサシンは周囲を見回して、わざとらしく声をあげた。

「あれれー?wwwwwwジョンスりん〜?wwwwwwwwwww
 なにかあったのぉ〜wwwwwwwwwwwww」
「あっちゃんが助けてくれたん!すごかったん!!」
「マジィ?もーwwwれんちょん、旦那のこと好きすぎぃ!
 ミィとどっちが好きなんですかっwwwwwwwwwwwww」
「っ!?ど、どど、どっちも好きなん…」
「嘘乙wwwwwwはいはいワロスwwwwwwwww」

ジョンスはアーチャーとは違い、助ける前ぶれすらなかったアサシンに対して問う。

「カッツェ。お前は何をしていた」

問いに対して、アサシンはニタリと笑みを浮かべあるものを取り出す。
スマートフォン。
携帯電話機の一種である。
本来、アサシンが所持しているものではない。故にNPCから奪ったものだろう。

「そりゃあもう!ミィと旦那のお・た・の・し・みの準備ですよぉーwwwwwwwwwwwwwww
 これからミィたちで素敵なパーティ開催させまぁすwwwwwww
 一緒に世界アップデートさせちゃいましょぉ?」

ジョンスではなくアーチャーの方にいやらしくすり寄って来るアサシン。
アーチャーは嫌悪感を抱くどころか好感的笑う。

「なるほどそれはとても楽しみだ。ところで、それはなんだ?」

アーチャーが指指すのは気絶してへばっているジナコである。
何気なくアサシンが連れてきたものだった。
れんげがつんつんとジナコをつついてから

「動きません!」
「気絶してるだろ…」

ジョンスが溜息をついてジナコを眺めると、彼女の手の甲に令呪があるのを発見した。

今度は女……しかも少し太った…

ジョンスはまた厭きれながらアサシンに言う。

「どこで拾って来たんだ、まったく…元あった場所に戻して来い」
「っていうかぁwwwwwwこの子、どこ住んでるか分かんないんですけどwwwwwwwwwww」
「…くそ……」

思わず毒吐いた。
気絶している女性を放置するなんてまた事件になりそうなことをジョンスが請け負いたくはない。
ふむと唸ってからアーチャーが

「おおよその見当はつく。近所の人間だろう。鍵の開いた家を探せばいい」
「あっちゃん頭いいん!」

大体、こいつのサーヴァントは何をしているんだ……

ジョンスが疑問を抱くジナコのアサシン(ゴルゴ)についてはまた別の話となる。


339 : 形なき悪意 ◆IbPU6nWySo :2014/08/08(金) 07:42:42 KFzVhKJE0
【B-10/公園/一日目 早朝】

【ジョンス・リー@エアマスター】
[状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち
[令呪]残り1画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:闘える奴(主にマスターの方)と戦う
1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す
2.れんげを殺しても意味はないので、一応保護する
3.ジナコの家を探す。なおジナコと戦うつもりはない
4.アサシン(カッツェ)を殺した場合、れんげがどうなるか疑問

【アーチャー(アーカード)@HELLSING】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う
1.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある
[備考]
※野次馬(NPC)に違和感を感じています。


【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]包帯(右手の甲の令呪隠し)
[道具]牛丼(ジョンスの分)
[所持金]十円
[思考・状況]
基本行動方針:ふぇすてぃばるん!
1.う、うち、かっちゃんもあっちゃんも好きなんっ!
2.変装ふぇすてぃばるん!
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。

【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]携帯電話
[思考・状況]
基本行動方針:真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!聖杯はその次。
1.ジョンスたちを利用してメシウマする
[備考]
※他者への成りすましにアーカード(青年ver)、ジナコ・カリギリが追加しました。


【ジナコ・カリギリ@Fate/EXTRA CCC】
[状態]健康、昼夜逆転、気絶、精神的ショック
[令呪]残り3画
[装備]黒い銃身<ブラックバレル>-魔剣アヴェンジャー-聖葬砲典
[道具]PC現行ハイエンド機
[所持金]ニートの癖して金はある
[思考・状況]
基本行動方針:引きこもる。欲しい物があったらゴルゴをパシらせる。
0.キスされた……
1.寝る
[備考]
※装備欄のものはいずれもネトゲ内のものです。
※密林サイトで新作ゲームを注文しました。明日(二日目)の昼には着く予定ですが……


340 : 形なき悪意 ◆IbPU6nWySo :2014/08/08(金) 07:43:53 KFzVhKJE0
「なんつってwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

ジナコが気絶した後。
アサシンことベルク・カッツェはれんげたちの蚊帳の外でこのような事を口走っていた。

「ワラワラワラワラワラワラ〜wwwww旦那涙目ぇ〜wwwwwwwwwww
 もしかして怒ってるゥ?ルーラーちゃんがおこになっちゃうから自重してるのぉー?
 ブフフwwwwwwwwwwwwクッソキモイんだけどwwwwwwwww」

決して偶然ではない。
この『形のなき悪意』はベルク・カッツェが引き起こしているのだ。
ベルク・カッツェがベルク・カッツェたる能力。
潜在能力。
そこにいるだけの悪。
ジョンスたちに襲いかかった悪意も
れんげの村に広がった悪意も
全てがベルク・カッツェに収束されている。

「ぶっ殺しちゃぇばいいですやーん!何もかもぶっ壊しちゃえばいいですやぁーん!!
 それともぉ?旦那ってルーラーちゃんに怒られちゃいましたぁー?
 自害せよ、アーチャー。って言われちゃうかもしれないですねぇぇwwwwww
 NPCに手を出すのガクブルですね!!!!!!!!!!」

だが、カッツェ――アサシンはピタリと動きを止めて

「ま。ミィもそう思ってたんですけどねぇ……」

アサシンはアーチャーを贔屓にしているようだが、その通りである。
好感を以って自身の暴動を期待してくれる存在など、アサシンにとってはれんげよりも重要なのだ。
アーチャーは歌うように答えた。
何度でも滅ぼしてやろう、と。
その期待に答えずにどうするというのか。
そして、それを妨害するかもしれないルーラーをアサシンが警戒しない訳がなかった。

「もーマジ、ルーラーちゃんにおこだよ!
 どぉーしてミィと旦那の邪魔するんですかぁー!うざぁーい!!
 折角、素敵な旦那見られると思ったのにぃ!!
 予定変更ォーーーーーーー!うざいのでルーラーちゃん泣かせちゃいまーすwwwwwww
 旦那とパーティー出来ないようじゃ意味ないんでwwwwww
 ルーラーちゃん涙目にしてメシウマぁぁああぁあぁーーーーっ!!!!」

アサシンはオペラのように語り始めた。

「親愛なる月海原のみなさぁん
 この世界を憂うあなたたちを素敵なパーティーへご招待致しましょう
 今まで見られなかった不思議と幻想の世界を思う存分ご堪能くださぁい
 人生は一度きりです!後悔のないように!!」




【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]携帯電話
[思考・状況]
基本行動方針:真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!聖杯はその次。
1.ジョンスたちを利用してメシウマする
2.ルーラーがウザイので困らせてみる
[備考]
※他者への成りすましにアーカード(青年ver)、ジナコ・カリギリが追加しました。
※アーチャー(アーカード)にルーラーの介入があったと推測しています。
※具体的に何をしでかすかは不明です。後の書き手さんにお任せします。


341 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/08(金) 07:47:38 KFzVhKJE0
投下終了です。ご指摘等あればお願いします。


342 : 名無しさん :2014/08/08(金) 08:06:31 .KdWM8YY0
投下乙
ジョンスや旦那と絡むれんちょん可愛過ぎィ!
れんちょんがいるだけで殺伐とした空間ものんびり豊かなのんのん村へと変わっていく

そしてカッツェ
こいつは臭ェー! ゲロ以下の臭いがプンプンしやがる!
ルーラーちゃんも死にそうになりそうだしな!


343 : 名無しさん :2014/08/08(金) 08:20:32 JrttjZsY0
ルリルリのミニスカポリスでご飯三倍いけるんだよなぁ
おつ


344 : ◆F3/75Tw8mw :2014/08/08(金) 08:35:08 H.NJF.eQ0
皆さん連投お疲れ様です。
この流れに便乗して、自分も投下させていただきます


345 : 戦争考察 NPC編 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/08(金) 08:36:27 H.NJF.eQ0


「……フゥ」


ひと仕事を終えた後の一服は格別である。
よく喫煙者の間で口にされる一言であり、それはこの魔術師殺しにとっても例外ではなかった。
切嗣は口から煙を燻らせ、予想していたよりも早くに事が片付いた事に少々の安堵を覚えていた。


「まさか……こんなにも早く、上手くいくとは思ってもみなかったな」


それは隣に立つアーチャーも同じことであり、同時に彼は切嗣の手腕に素直に感心を覚えていた。
二人が立っているのは、先の狙撃を行ったビルから少しばかり離れた位置にある民家の庭。
新たに切嗣が選んだ、自分達の拠点である。

そう……アーチャーが仕掛けてからまだ然程時間が経過していないにも関わらず、彼等は既に己が住む家を入手していたのだ。
通常、賃貸にせよ購入にせよ、住居を一つ丸まま手に入れるとなると、数日単位はどうしても必要になる。
地主・家主との契約又は売買、役所への住所登録、その他諸々の必要事項をクリアするには、とてもじゃないが一日では不可能だ。

しかし彼等が要した時間は、驚くべきことにホンの数時間でしかないのだ。
では一体、どの様な真似をすればこんなことができるというのか。
その種は極めて簡単であり……そして、生粋の魔術師では考えつかない方法にあった。


「家主に暗示をかけ、親戚として居候か……工房を構える事を第一とする魔術師には無い発想だ」


それは奇しくも、本来辿るべきだった歴史においてウェイバー・ベルベットが用いた手段であり、そして切嗣自身も高く評価した戦法―――暗示の魔術である。
彼は、この住居に住むNPCに魔術で暗示をかけたのだ。
『自分達は親戚の人間であり、休暇を過ごすためにしばらくの間居候をさせてもらっている』……と。

切嗣自身の魔術の腕は並大抵な部類にはなるだろうが、元々魔術師としては三流どころのウェイバーですら上手くいってたのだ。
補足するならば、切嗣にはホテルマンに自身をケイネス・エルメロイ・アーチボルドと誤認させる程度の暗示を行使出来た実績がある。
この程度の暗示を成功させるぐらいなら、どうという事はない。
そしてこの策が上手くいった事で、切嗣とアーチャーは幾つかの大きなアドバンテージが得られていた。


346 : 戦争考察 NPC編 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/08(金) 08:36:45 H.NJF.eQ0
まず一つ目が、資金面での問題だ。
元々切嗣は、聖杯戦争に必要な準備金を殆どアインツベルンから用意されていただけに、それを持ち込めなかった事が少々痛かった。
弾薬や爆薬といった武器にしても、自動車や二輪といった移動手段にしても、何を用意するにもまずは資金がいるのだから。
しかし、NPCに暗示をかけられた今、その問題はほぼ解決できたと見ていいだろう。
幸いにもこの家の主はそれなりに裕福と言える暮らしを行っている。
あまりにも無茶な浪費をすれば話は別だろうが、多少の金額を搾取する事に問題はないはずだ。

二つ目は、アーチャーが口にしたとおり、この策が魔術師には無い発想の策という点だ。
一般的に魔術師というのは、常日頃より魔術の研究を重ねている。
その為の研究所が工房であり、そこには極めて厳重な封印・防衛機能が備わっているのが当たり前だ。
何せ工房内には、持ち主にとっては非常に貴重な資料や成果が保管されている。
それを持ち出されないように要塞化するのは至極当然であり、疑う余地など何処にもない。
一流の魔術師の工房に攻め込むのは死地に踏み込むに等しいという認識を、魔術師ならば誰もが持っているのだ。
だからこそ……切嗣のこの戦略を、普通の魔術師では思いつくことができない。
まさか何の変哲もなさそうな一般民家に潜むなどとは、考えつかないのだ。
故に身を隠すという点では、厳重な工房よりもかえって優れているのである。


「だが、この聖杯戦争には魔術師ではないマスターも参加している可能性がある。
 それも恐らく、一人や二人ではないだろう」


しかし、切嗣にも懸念材料が無くはなかった。
それは、この聖杯戦争がイレギュラーな代物であるという点……魔術師ではない人間が参加している可能性があるという点だった。
切嗣がその可能性に至った理由は、先の狙撃にある。
アーチャーは狙撃を実行する際、敵の情報についてこう報告していた。


『実体化したサーヴァントを連れたマスターがいる』


『サーヴァントには尻尾や角が生えていた』


魔術師というのは、魔術の秘匿を第一に考える。
しかし、このマスターとサーヴァントはどうだ?
あまりにも堂々と、人にあらざる姿を衆目で晒しているではないか。
まともな魔術師ならば、絶対にありえない行動だ。
ならば……考えられる結論は、一つしかありえない。
このマスターは恐らく、全うな魔術師ではないという事だ。


347 : 戦争考察 NPC編 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/08(金) 08:37:08 H.NJF.eQ0

「その様な相手ならば、この家の存在にも簡単にたどり着く可能性がある……か」


そして一人でもその様な存在が発見できたとなると、他にいないだろうという楽観は決してできない。
それこそ切嗣の様な、魔術師の裏をかく事に長けた参加者が現れるかもしれないのだ。
そうなれば、この拠点を突き止められるという展開は十分ありえるだろうが……


「しかし、その為の保険として……NPCがいるのだろう?」

既に、その時の為の対策は出来ている。
それこそが、この家に住むNPCだ。
この聖杯戦争ではNPCに危害を加える事は強く禁じられており、反すればルーラーからのペナルティが与えられる。
ならば……そんなNPCを盾にすれば、敵は容易に攻撃する事ができなくなる。
もし仮に何者かがこの家を攻めて来た際には、切嗣はNPCを弾除けにするつもりなのだ。
ルールを逆手にとった、この聖杯戦争ならではの妙案。
人道的に見れば、外道としか言い様がない策だ。
それを躊躇わずに実行しようと思える点が、魔術師殺し衛宮切嗣の強さなのかもしれないが……


「……その事だが、アーチャー。
気づいたか?」

「……ああ、無論だとも。
正直に言うと、すぐにでも現れるものだと思い警戒していたのだが……拍子抜けだ」


そして……これらの策を組み立てている間に、二人にはふと気づいた事があった。
繰り返し言うが、彼等はNPCに暗示をかけて操る事でこの拠点を入手している。
またこの聖杯戦争では、NPCに危害を及ぼせばルーラーが現れペナルティを与えられる。


つまり……今の時点でそれが無いという事は。


「NPCに暗示をかけて操る……この行動は、ルーラーには違反と見なされていない」


348 : 戦争考察 NPC編 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/08(金) 08:37:32 H.NJF.eQ0

NPCを操るのは、ルール上まったく問題が無いという事だ。
どうやら暗示の類は、危害を加えるという点から外れたものとして扱われているらしい。
もしくは……この手の戦法は、NPCへの攻撃的干渉の例外として黙認されているかだ。


「だとすると厄介なのは、大多数の人間に暗示をかけても問題が無い程に豊富な魔力を持つマスターと……キャスターのサーヴァントか」

「ああ、既にこの街のNPCの幾らかかは他の参加者の傀儡になっていると考えた方がいい」


ここで問題になってくるのが、暗示及び催眠等ではペナルティにならないと把握した参加者が他にどれだけいるかだ。
この聖杯戦争において他の参加者の情報は、何が何でも欲しい武器になる。
その収集の為に最も効果的と思われる手段こそが、NPCの操作なのだ。
なら、この街に住むNPCのうち何人かは恐らく……いや、確実に他の参加者に操られていると見たほうがいい。
そして今現在も、情報収集のために動き回されているに違いないだろう。


「ならば、こちらの情報を探られるのは勿論だが……
 それ以上に面倒なのは、NPCを盾にする輩が出てきた時だな。
 下手に手をかければ、我々がルーラーに罰される事になりかねん」


更にこの場合、厄介な事柄がもうひとつある。
切嗣同様にNPCを盾にする参加者が確実に出てくるという点だ。
いや、盾扱いならむしろ優しいぐらいだろう。
NPCに攻撃を行わせる事ぐらいは平然とやる外道がいてもおかしくはないのだから。
はっきり言って、この戦術は非常にまずい。
反撃をする際には、ペナルティ覚悟というリスクを背負わされる……対処が極めて難しいのだ。


「……いや、そうとも限らない」


しかし、切嗣の見解はそうではなかった。


「もしその戦法が成り立ち、こちらがNPCを殺害せざるを得ない場面になったとしよう。
勿論、喜々として戦う素振りを見せれば論外だろうが……
 やむを得ない正当防衛という事で、ペナルティが発生しない展開も十分考えられる。
 寧ろ、ペナルティが働くならば……それはNPCを操った側になる」


もし仮に、武装したNPCの大群に襲われたとしよう。
自らの命に危機が迫る状況でNPCを殺害したとして、ペナルティが本当に加算されるのだろうか。
それでルーラーが出っ張るというなら、あまりにも理不尽だ。
寧ろ罰せられるのは、逆の相手……NPCを操った側だ。
故意にNPCの命を危機に晒すのだから、そこで罰則が課せられても何ら不思議はない。


349 : 戦争考察 NPC編 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/08(金) 08:37:57 H.NJF.eQ0

「なるほど……つまりNPCを操り動く者は、あくまで情報収集をメインにしている。
 戦闘にまでNPCを使う事もなくはないだろうが、あまりに目立った真似までは出来ないということか」

「そこまで頭が回っていればだがな……
NPCに情報を集めさせるなら、向かわせる先は必然的に人が密集した施設になる。
そしてこの街で最もそれに適しているのは……あそこしかないだろう」


NPCを効果的に使役するなら、人が集まる場所へ向かわせるのが一番になる。
そして、この街でそれに最も向いている場所とくれば……ご存知月見原学園だ。
教職員から全校生徒まで全てをカウントすれば、その数は数百単位になる。
しかも小さい子供から大人まで、性別も男女問わずときた。
流石にその全員というのはありえないだろうが、この内の一割だけでも掌握出来てしまえば、入手できる情報はかなりのものになるだろう。


「僕の身分では、学園に入るのは残念ながら難しい。
ならここは、こちらも適当なNPCを見繕って送りこむのが正解だろうな」


この聖杯戦争で衛宮切嗣に当てられた役割は、フリーランスの傭兵というものであった。
現在はNPCに暗示をかけたとおり、休暇の真っ只中でこの街に来ている事になっている。
傭兵などという身分の人間が学園に堂々と入るのは、はっきり言って無理だ。
ならばここは、またもNPCを利用するしかないが、切嗣の腕を考えればそう何人も操ることはできないだろう。
二人、或いは三人程度を送り込めれば、それで十分だ。


350 : 戦争考察 NPC編 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/08(金) 08:38:18 H.NJF.eQ0

「アーチャー、少ししたら街へ出るぞ。
 暗示をかけるNPCを選出したい……それと、この家の防御を固める必要もある。
必要な資材を調達しなければならない」


今後の方針がこれで決まった。
他の参加者の情報を集めるため、使えるNPCを街で発見する。
更には、拠点の防御を固めるべく、必要となる資材を調達する。
今成すべきことは、この二点だ。


「了解した、マスター。
だが……少ししたらという事は、今は多少時間があるという事だな?」

「……ああ、そうだが……それがどうした?」


不意に時間があるかと尋ねてきたアーチャーに、切嗣は怪訝な表情をした。
その顔からは、やはり彼に対する不信感が拭いきれない事を容易に察することができる。

しかし、一方のアーチャーはというと……
それとは対照的に、またしても先ほど同様に穏やかな微笑を浮かべていた。
そして、己がマスターに対し……彼が予想してなかったであろう一言を発したのだ。


「何、先程も言っただろう?
食事はとれる時にとるべきだと……幸い、ここはNPCが住んでいる家だ。
食材はそれなりにありそうだ……ひとつ、私が作るとしよう。
これでも生前、料理は得意だったのでな」


351 : 名無しさん :2014/08/08(金) 08:39:02 H.NJF.eQ0

【C-7(北西)/民家/1日目 早朝】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]健康
[令呪]残り三角
[装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾
[道具]
[所持金]豊富
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を
1.街に繰り出し、使えそうなNPCの確保及び必要な資材の調達を行う。
2.出来れば移動手段(自動車など)を確保したい。
3.アーチャーに不信感
[備考]
・アーチャーから岸波白野とランサー(エリザ)の外見的特徴を聞きました。
・C-7にある民家を拠点にしました。
家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。
・この街のNPCの幾人かは既に洗脳済みであり、特に学園には多くいると判断しています。
・NPCを操り戦闘に参加させた場合、逆にNPCを操った側にペナルティが課せられるのではないかと考えています。
・この聖杯戦争での役割は『休暇中のフリーランスの傭兵』となっています。


【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Stay night】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を
1.とりあえず、切嗣の為に食事を作る。
2.周囲を警戒しつつ、情報収集を。
[備考]
・岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。
・エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しましたが確証はありません。
・C-7にある民家を拠点にしました。
家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。


352 : ◆F3/75Tw8mw :2014/08/08(金) 08:39:31 H.NJF.eQ0
投下終了です。
失礼いたしました


353 : ◆F3/75Tw8mw :2014/08/08(金) 08:53:49 JQe1V2o20
すみません、時間帯にミスがありました
早朝から朝に変更でお願いします


354 : ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:10:08 0/Wwn4/Q0
皆さま連続投下お疲れ様です。
こちらも修正版投下します。

>>266 以降を少し変えています。
細々とした修正も行っています。


355 : 鋏とおさげ(修正版)  ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:11:00 0/Wwn4/Q0

紫色のポニーテールをなびかせて、軽快に朝の街を駆ける。
いつものバス停が見え。振り返るとバスもこっちに向かってきている。
バス停には、よりにもよって待ち人はいない。

「っとヤバい!」

更にダッシュをかける。
加速して通り過ぎるような運転手ではなく、バスは緩やかに停留所へと停車してくれた。

「乙哉ちゃん、セーフ!」

ノンステップバスの前のドアからトントンと軽やかに乗り、
運転手にペコリとお辞儀して、定期券を見せて、車内の席を見回す。

「らっきー♪」

運よく一人掛けの席が空いており。
特にお年寄りなどがいないことを確認して、ささっと座った。


武智乙哉のマンションから、近いバス停は二つある。
一つは新都駅から橋を経由して南回りに月海原学園へ向かうバスの停留所。
もう一つは今乗っている、橋を経由して北回りに向かうバスの停留所だ。

乙哉はいつもこの北回りのバスを使っていた。
北回りはやや遠回りの道で、南回りの方が学園への到着時間は早いのだが。
その分、南回りのバスは駅から乗る学生が多く、いつも混んでいたのだ。


座席をゲットした幸運を噛みしめ、深く腰掛ける。
まわりの乗客を観察してみるが、特に違和感を感じるような、目立った客はいないようだ。

(まーいくら参加者でも、いきなり変な行動は流石に取らないよねー)

などと考えていると、バスは緩やかにスピードを落とし、次の停留所で停車した。


そのバス停から、はぁはぁと息を乱して、制服を着た少女が乗りこんできた。
乙哉と同じく走ってきたのか、その少女はよろよろと乙哉の席の横まで歩いてくると、
そのまま手すりに掴まった。

バスが発車すると、その子はよろけながら手すりに掴まり直す。

「ふぅ……ふぅ……」

乙哉はその少女をちらちらと観察した。


―――長く黒い髪を結ってふたつのおさげにしている。
赤い眼鏡に黒のカチューシャ。
あまり大きくない胸を片手で押さえて、ふぅふぅと息に合わせて手も上下に動いている。
気弱で病弱な文学少女、って設定だろうか。

しばらく観察していると、その少女なんだかさっきより更にフラフラしている。
もしかして―――貧血?


356 : 鋏とおさげ(修正版)  ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:11:21 0/Wwn4/Q0


乙哉はスッと立ち上がると、席を勧める。

「大丈夫ー? 座っていいよ」
「えっ!? あっ!? ええ!?」
「はいはい、座った座った」

少女は促されるままに、ストン、と席に座らされた。

「あ……あの……。ありがとう、ございます……」
「どーいたしましてー♪」

消え入りそうな声でお礼を言う少女。
笑顔で応える乙哉。

落ち着かせるためか、しばらく少女は目を閉じて、胸を押さえて深呼吸をしている。
制服の前に垂れたおさげが、その呼吸に合わせて上下に動く。


(ヤッバ。可愛い……!!)


―――おさげ。

ああ麗しのおさげ。
こう、チョキン、と切ったらばさりと落ちるあの重量感。
可愛い。
おさげって最高にチョン切りたくなる。

ルームメイトのしえなちゃんはおさげ切らせてくれなかったけど。
そういえばこの子もおさげに眼鏡だ。

思い出したら益々切りたくなってきちゃった。

切りたい。
切りたい。切りたい。
切りたい切りたい切りたい。
切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい切りたい。

目の前の綺麗なおさげを切りたい。
ちょっとだけ。
おさげだけでいいの。

右手を鞄にいれようと手を伸ばす。

―――ハッ!
ダメダメ。耐えるのよ乙哉。
我慢我慢。あたしは我慢も出来る子だから。


「あの……」
「なにかなー?」

内面の葛藤はおくびにも出さず、朗らかに答える乙哉。


357 : 鋏とおさげ(修正版)  ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:11:42 0/Wwn4/Q0


「ありがとうございました。もう、落ち着きましたから。
 席、替わりますね」
「あーいいよいいよ。そのまま座ってて」
「でも……」

申し訳なさそうに目を伏せる少女。

可愛い。

この子、きっとアノ時に凄く反応してくれそう。

「あ。そういえばその制服。中等部の子かな?」
「あ、えっと……」


>だから貴方は極力怪しまれないように心掛けて
>貴方は相手の令呪を出来れば見つけてほしい。
>それと相手の魔力や魔術、魔法を感じたら逃げなさい。
>今日はそれだけでいいわ。
>後は学園生活を過ごすために友達を作りなさい。


(とも……だち……)

うん、と決意新たに少女は頷くと。

「……はい。少し前に転校してきた、暁美ほむらって言います」
「ふーん、ほむらちゃんだねー。あたしは武智乙哉。よろしくね」
「ほ、ほむらちゃん? え、えっと……」

呼ばれ慣れない下の名前で呼ばれ、どきまぎするほむら。

「よ、よろしくお願いします、武智先輩」
「お・と・や。乙哉って呼んでね」
「は、はい。乙哉先輩」





358 : 鋏とおさげ(修正版)  ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:12:15 0/Wwn4/Q0


日中ならば襲撃の可能性は少ないだろうと。
私は暁美ほむらよりも一本早いバスに霊体で乗り、先に学校を調べることにした。

念の為、霊体化を解除しても良いように、暁美ほむらと同じ月海原学園中等部の制服を着てきていた。


学校前のバス停で生徒達が多数降りていくが、
このバスには不審な人物は存在しなかった。

バス停から学校までの道。
何か罠が張られているとしたら。人が通りやすいこの辺りの場所か。

停留所、通学路、フェンス、カーブミラー。
一見して不審な個所は見当たらない。

霊体化を解けば、より魔術的な反応が分かりやすいのだが、
当然こちらの存在が感知されてしまう危険性がある。


校門までの間におかしな個所は感じられず、校門前まで来た。
校門前の広場、学校名の表札。そちらも問題ない。

だが校門を調べると。

―――その窪みに、見たこともない虫が存在していた。
そしてその虫から、微小ながら魔力を感じる。

使い魔的なものだろうか……?
攻撃用? 監視用?
霊体化を解いていない以上、深くは調べられない。


どうすべきか―――


先に暁美ほむらへ念話で伝え注意を促す方法はどうか。

―――ダメだ。あの子では、知らせた後に校門を通る際、
きっと右手と右足を同時に出すくらい不自然に意識してしまうだろう。

現時点の暁美ほむらは、魔法少女成り立てだ。
巴マミに教わった、魔女や使い魔の探索法――つまりは、魔力探知の方法――は習得前である。
『重糸する因果線(マギア)』で技術や能力を伝えていくと言っても、現時点で彼女がどこまで成長しているかは分からない。
つまり、逆に何も感知せず通り抜けられる可能性はある。
だがもし気がついてしまったら、やはりその場で何らかの特異な動きをしてしまうだろう。

裏口から入らせるか―――だが探している時間はないし、あの子が既に知っているとも思えない。
また、そちらにも同じ仕掛けを使っているかも分からない。

ではどうする。

いっそ時間を止めて虫ごと校門を爆破してしまうか。
いや。この学校の関係者に別のマスターがいると認めてしまうようなものだ。

そもそも数百名もの学生がこの校門を通るのだ。
魔力なり動作なりで『何らかの反応』を校門で行った者でなければ、仕掛けた者も選別しきれないだろう。

どうする―――

思案していると、暁美ほむらが、背の高い高校生と会話して歩いてくる姿が視界に入ってきた。





359 : 鋏とおさげ(修正版)  ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:12:48 0/Wwn4/Q0


「ええ……保健室にはいつもお世話になりっぱなしで」
「ほんとー? 奇遇だね、あたしもちょいちょい保健室にはお世話になってるんだー」
「えっ、ホントですか」

スタイルもよくて健康そうなのに、先輩も病気がちなのかな……。
少しだけ親近感がわいてくる。

「うんうん。 あのベッドで寝ていると、みんな勉強してるのにーって何か居た堪れなくなるよねー」
「そう、そうなんです!」

勢いよく頷く。

「それにあの真っ白なシー」

校門の前に来たところで。
一瞬急に手を引かれる感触。

これは―――

「……ツを見ているとねって、ちょ、大丈夫!?」

盛大に転ぶ私。
慌ててかけつけてくれる先輩。

一瞬見えた姿。
今のは―――私?

『話は後。今は学生生活に集中なさい』
『え……あの……』

混乱している私を、転んだことによるショックと見てくれたのか、
乙哉先輩が立ち上がるのに手を貸してくれる。

「大丈夫?」
「は、はい。大丈夫です。私どんくさくて、いつもこんな感じで……」

パンパンと埃を払ってくれる。

「大丈夫? 保健室ついていこっか」
「あ……ありがとうございます。でも傷もないみたいですし、大丈夫です」

私は大丈夫ですとこくこくと頷き、また歩き始める。

「なるほど、ほむらっちはドジっ娘属性なんだねー」
「ぞ、属性……? え、ええ。私本当にドジで」
「っと、もう着いちゃったね」

中等部と高等部の校舎の入り口は別で。

「それじゃ、あたしはこっちの校舎だからー」
「あっ、ありがとうございました、乙哉先輩!」
「どういたしましてー♪」

手を振り、高等部の校舎へと入っていく乙哉。


>後は学園生活を過ごすために友達を作りなさい。

「……あ、あの!」
「んー?」

決死の思いで呼び掛けるほむらに、乙哉は振り返る。

「えっと……あの。お、お昼とか、御一緒できませんか……?」
「うん、いいよー♪」

真っ赤な顔で言うほむらに、朗らかに承諾する乙哉。

「それじゃまた後で学食でねー」
「は、はい! また、です」

達成感と共に、小さく手を振るほむら。





360 : 鋏とおさげ(修正版)  ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:13:18 0/Wwn4/Q0


―――結局ほむらは、隠れて実体化し。
暁美ほむらが校門に入る前に時を止め、手を引いて転ばせることで、
校門の内側へと移動させる方法を取ったのだった。


ギリギリで校門を突破し、一息つく。
とは言え―――校門に仕掛ける何らかの存在がいる。

この学校の関係者か。
あるいは外部の人間が、人の集まるこの場所をターゲットにして設置したのか。

だが少なくとも、この学校の人間をターゲットにしている者が存在しているのは間違いない。
やはり、油断などはできないのだ。

この後、どう動くべきか―――


【C-3/月海原学園 中等部校舎/一日目 午前】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:月海原学園中等部の制服、通学鞄
[道具]:勉強道具、携帯電話
[所持金]:数ヶ月マンションで一人暮らしが可能な財産
[思考・状況]
基本行動方針:マスターだとバレないように過ごす。
1.学園でマスターを探してみる。
2.学園でマスターだと気付かれないようにする。
3.学園で友だちをつくる。
4.武智乙哉と学食で昼食を取る。
5.暁美ほむら(叛逆の物語)に校門での話を聞く。
[備考]
令呪は掌に宿っています。
月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
武智乙哉をマスターだとは気がついていません。


【C-3/月海原学園 校舎前/一日目 午前】

【キャスター(暁美ほむら(叛逆の物語))@漫画版魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語-】
[状態]:健康、魔力消費(微)
[装備]:月海原学園中等部の制服
[道具]:各種銃火器、爆弾など
[思考・状況]
基本行動方針:まどかに辿り着くためならば全てを捨て駒にする。
1.マスターをサポートする。
2.マスターが使えないならば切り捨てる。
3.学園を狙った敵がいることを想定して動く。
4.他の敵の情報収集。
5.新たな陣地作成を行いたい。
[備考]
Bー6廃墟ビルに陣地作成を行いました(マスターは知らない)。





361 : 鋏とおさげ(修正版)  ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:13:47 0/Wwn4/Q0


流れてくるラジオを聴きながら、食器を洗う。
朝に相応しい日常だ。

生きていた頃なら出勤という時間だが、今の仕事は専業主夫。

マスターの少女はとても美味しそうに食事を取っていた。
成程、自分のためだけに作る食事とは、また違った楽しみがあるというものだ。

フライパンなどの料理器具も、お皿やフォークなどの食器も、隅々まで綺麗に洗い流す。


―――だが。洗うという行為はまだ終わっていない。


洗うために使ったスポンジ。
このスポンジには汚れが付きやすく、乾燥しにくいので菌が住みやすいのだ。

まず、スポンジに直接ついた汚れを丁寧に落とす。
そして両手で絞り、水気をよく切る。
更に、そのスポンジに除菌洗剤をかけ、揉みながら全体に行き渡らせる。
そして熱いお湯を出し、スポンジの洗剤を洗い流していく。
再び水気を切り、乾燥させやすい場所に置けば、洗い物は完了となる。


「さて次は……洗濯か」

洗濯機が置いてある洗面所へ行こうとしたところ。
マスターから念話が届いた。

『おとーさん』
『……やめてくれと言ったはずだが』
『あーごめんねー。
 ついさっきのことなんだけど。
 瞬間移動、みたいなのを見たよ』
『瞬間移動?』

わたしはエプロンをたたみながらマスターに尋ねる。

『うん。校門のところでね、隣で歩いていた子が急にほんの少しだけ前に「移動」させられてた』
『させられていた……?』
『うん。なんかその子も分かってなかったみたい』
『ほう……その者の力か、他者によるものか、あるいは、なんらかのその場の仕掛けか……?』

腕を組み考える。

『マスターに被害はないな?』
『うん、大丈夫だよー』
『調査を行うにしても、放課後合流してからだ。それまでは』
『うごかないよーに』
『分かっているなら問題ない。何かあれば今のように、すぐ連絡してくれ』
『はーい!』

既に学園で動きだしている者がいるようだ。
ならば―――先に洗濯物は片付けておかねばなるまい。


362 : 鋏とおさげ(修正版)  ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:14:03 0/Wwn4/Q0

【C-3/月海原学園 高等部校舎/一日目 午前】

【武智乙哉@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:月海原学園の制服、通学鞄、指ぬきグローブ
[道具]:勉強道具、ハサミ一本(いずれも通学鞄に収納)、携帯電話
[所持金]:普通の学生程度(少なくとも通学には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取って「シリアルキラー保険」を獲得する。
1.他のマスターに怪しまれるのを避ける為、いつも通り月海原学園に通う。
2.有事の際にはアサシンと念話で連絡を取る。
3.暁美ほむらと学食で昼食を取る。
4.暁美ほむらのおさげをチョン切りたい。
5.可憐な女性を切り刻みたい。
[備考]
B-6南西の小さなマンションの1階で一人暮らしをしています。ハサミ用の腰ポーチは家に置いています。
バイトと仕送りによって生計を立てています。
月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
暁美ほむらをマスターだとは気がついていません。
暁美ほむらが瞬間移動させられたことを認識しています。暁美ほむら(反逆)の仕業とは気がついていません。



【B-6(南西)/マンション(1F 武智乙哉の住居)/一日目 午前】

【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。
1.学園内に敵がいる可能性を警戒。調査は基本、放課後マスターとの合流後に動く。
2.暫くは家の中で適当に暇を潰す。次は洗濯の予定。
3.ルーラーによる12時の通達の後、今後の方針や行動を考えておく。
4.女性の美しい手を切り取りたい。
[備考]
魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。
保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。
瞬間移動を使う敵がいると想定しています。


363 : ◆MQZCGutBfo :2014/08/08(金) 09:14:33 0/Wwn4/Q0
以上で、投下終了です。
修正遅くなりまして、申し訳ありませんでした。


364 : 名無しさん :2014/08/08(金) 13:40:32 QImAiLxcO
投下乙です。

リボほむ強引だなあ。
結果的に、乙哉も虫を通過できたし。


365 : 名無しさん :2014/08/08(金) 14:33:55 uY4Cji/g0
修正版投下乙です。
結構ギリギリの策だけど、辛うじて正門突破ほむ
早速乙哉に異変を気づかれてしまったメガほむの明日はどっちだ
しかし乙哉の保健室通い発言はサボりにしか思えない…w


366 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:28:38 72hwo7qs0
投下します。


367 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:29:34 72hwo7qs0

 蒼い槍騎士が姫を抱え、城に戻る。
 その様を、城の屋根に立つ赤黒のアサシンが伺っていた。
 アサシンは悪魔の目玉をその場に置く。

「動くな。一歩でも動いたら殺す」

 悪魔の目玉をジゴクめいた瞳で睨み付ける。
 実際コワイ。
 悪魔の目玉は恐怖のあまり、カナシバリのジツに掛かったかのように微動だにしない。
 それを見たアサシンは、赤黒の風と化して消えた。

 イクサの始まりだ。







 遠坂邸から出たクー・フーリンは実体化し、『探索のゲーナス』のルーンを描き始める。
 魔力がほぼ枯渇している中、ルーンを使うのは余り好ましくはない。だが、ここに来るまでの警戒はほとんど出来ていない。
 五感のみでは把握しきれない、五体が満足でない時だからこそ、ルーンが頼りになる。
 ルーンを描き終えようとした――

 その時である。

「イヤーッ!」
「ちぃっ!」

 投擲されたスリケンを槍でさばき、攻撃が来た方へ構える。
 そこには直立不動でお辞儀をした、赤黒いサーヴァントが立っていた。

「ハジメマシテ、ランサー=サン。アサシンです」
「……へっ、不意打ちしてから挨拶とは、ご丁寧じゃねぇか」

 クー・フーリンは眼前のアサシンから目を逸らさずに、気配のみで辺りを警戒する。
 アサシンと言うことは、近くにマスターが居る可能性も高い。マスターが別行動で屋敷に侵入してくる可能性もあるし、こちらからマスターを狙うという手もある。


368 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:30:25 72hwo7qs0
 だが、それらしき人物はおろか、NPCの気配すらない。
 その様子を見て、アサシンは嘲笑う。

「案ずることはない。オヌシはすぐさまジゴクへと行くのだからな」
「ぬかせよ!!」

 槍を突く。アサシンはバク転して距離を取ると、スリケンを投擲した。

「イヤーッ!」
「この程度!!」

 矢よけの加護をBランク保有しているクー・フーリンにとって、宝具ですらない投擲など当たるはずもない。
 容易く槍で弾く。
 しかし、アサシンはさらにスリケンを投擲する。

「イヤーッ!」
「馬鹿の一つ覚えか!!」

 アサシンはさらにスリケンを投擲する。
 容易く槍で弾く。

「イヤーッ!」
「……ちぃっ!!」

 アサシンはさらにスリケンを投擲する。
 容易く槍で弾く。

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

 アサシンはさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにさらにスリケンを投擲する。
 如何に数で攻めようが、クー・フーリンに当たるはずも無し。その全てを槍によって弾く。
 だが、それ故攻勢にも出れなかった。
 万全の状態なら投擲をかいくぐり攻撃にも出られただろう。魔力の枯渇がそれを許さず、投擲するスリケンを弾く防戦に追われていた。

「(時間稼ぎか、持久戦か……どちらにせよ、不味い……)」


369 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:31:24 72hwo7qs0

 スリケンを槍で弾きながら、ジリジリと後退する。前方に出るどころか、弾き漏らしさえ出してしまいそうだ。

「(宝具……真名解放するか……!)」

 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』。
 因果逆転の呪いにより、“槍が相手の心臓に命中した”という結果の後に“槍を相手に放つ”という原因を導く。
 必殺必中。
 しかし、その為には発動体勢を整えなければならない。
 即ち、アサシンのスリケンを身体に受けながら真名解放することとなる。
 魔力が枯渇している現状では、相打ち覚悟の博打。
 だが、やらなければジリ貧で負ける。

「(……行くぜ!!)」

 覚悟を決め、発動体勢を整える――



 ――その瞬間をアサシンは待ってた。



「Wasshoi!」

 クー・フーリンがスリケンを迎撃するのを止めるのと同時に、アサシンもスリケンの投擲を止め、遠坂邸の壁をぶち破りながら侵入する。

「しまっ――!?」

 アサシンを追おうとしたクー・フーリンの太ももにスリケンが刺さる。
 素早く抜いて追うが、出遅れた隙は大きい。

「間に合ってくれ……」

 念話でマスターの凜に話し掛けるも、応答はない。
 脱衣所。クー・フーリンが駆けた先にあったものは――


370 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:32:16 72hwo7qs0



 一糸纏わぬ裸身の凜。
凜の令呪輝く右手の手首を握りしめるアサシン。
 そして凜の首筋にはスリケンが突きつけられていた。




「……すまねぇ」

 マスターにチェックメイトを突きつけられてしまっては、足掻きの悪いクー・フーリンでもどうしようもない。

「殺すなら俺を殺せ」

 否、マスターの為に、全力で足掻く。
 槍を投げ捨て、胡座をかく。
 カイシャクを受け入れる姿勢だ。

「確かにマスターは消える。だが、痛みは俺が受ける。それでかまわねぇだろ?」

 アサシンの眼光が、鋭く光った。











 赤黒のアサシン、ニンジャスレイヤーは屋根に登る。

「一歩も動いておらぬな」

 もし一歩でも動いていたら、宣言通り殺していただろう。


371 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:33:31 72hwo7qs0
 コワイ。
 『悪魔の目玉』を回収すると、早速その目を使う。
 マスターたる野原しんのすけは、幼稚園にてNPCのお姉さんにナンパしていた。
 元気そうで何よりである。

「Wasshoi!」

 赤黒のニンジャは、掛け声と共に幼稚園へと向かった。











 時は遡る。

「令呪を一画、貰おう」

 マスターの凜を人質に取ったニンジャスレイヤーは、辺りの気配を確認し、邪魔者が居ないことを確認してから言葉を発した。
 首筋にスリケンが当てられ、言葉を発するのも躊躇われる凜は、助けを求めるようにクー・フーリンを見つめる。

「いいぜ。どうせチェックメイトなんだ。『自害しろ』だってかまわねぇよ」

 皮肉混じりに言うが、それで凜にこれ以上の痛みを背負わせないのなら本望だった。
 ニンジャスレイヤーは一拍おいてから、言の葉を紡ぐ。



「高層マンションの足立=サンたる自室にキャスター=サンがいる。奴を殺せ」



 ニンジャスレイヤーはキャスター、大魔王バーンと休戦協定を結んだ。


372 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:34:56 72hwo7qs0
 その見返りに『悪魔の目玉』を手に入れた。
 『悪魔の目玉』はマスターたるしんのすけを監視し、ニンジャスレイヤーはその情報を得られる。

 ――だが。
 大魔王バーンもまた、しんのすけを監視し、ニンジャスレイヤーを監視しているものと見ていいだろう。
 ニンジャスレイヤーに提供されている映像が、現実であるという保証も無い。
 『悪魔の目玉』に攻撃能力が無いとも限らない。
 大魔王バーンはいつでもしんのすけを殺害できる――その可能性は存在する。
 休戦協定も、所詮相手から申し出た口約束に過ぎない。

 故に、無防備なマスターの所在と正体を知られた以上、大魔王バーンとそのマスター、足立透は最も早く抹殺すべき存在である。
 マスターの名はNPCのみさえから確認を取った。
 細かな住所や人相を手早く伝える。

「……わかった」

 クー・フーリンは背後関係を問わず、承諾する。
 質問できる立場に無いのもあるが、キャスター相手に対魔力スキルのあるランサーで当たる方が効率が良く、さらに自身が戦わないことで漁夫の利を得る。それだけで十分に納得するだけの理由になった。

「だがオヌシの無様な姿では即刻やられるが道理。故に六刻待つ。日が変わるまでに討てねばケジメとしてセプクすべし」

 結局自害か。
 クー・フーリンの頭にそんな皮肉が浮かんだが、言葉にはしなかった。
 ニンジャスレイヤーは凜の喉元からスリケンをどかした。

「ランサー……」
「構わん、やってくれ」

 令呪一画とタイムリミット付き自害命令。
 それでも、今この場でリタイアするよりは断然マシだった。
 不安げな表情をする凜に、クー・フーリンは躊躇うことなく答えた。

「……『日が変わるまでに、足立透、もしくはそのキャスターを殺害出来なければ自害せよ』」


373 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:35:46 72hwo7qs0

 凜の右手から令呪が一画消える。ニンジャスレイヤーはそれを確認すると、凜の手首から手を離す。
 ニンジャスレイヤーは静かにクー・フーリンの横を通り過ぎ、背を向ける。

「キャスター=サンを殺した後、オヌシを殺す」

 赤黒いニンジャは、風となって去っていった。




【B-4/幼稚園/一日目 午前】

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]健康
[令呪]残り三画(腹部に刻まれている)
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]無一文、NPCの親に養われている
[思考・状況]
基本行動方針:普通の生活を送る。
1.ニンジャは呼べば来る……
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。

【B-4/遠坂邸屋根/一日目 午前】

【アサシン(ニンジャスレイヤー)@ニンジャスレイヤー】
[状態]魔力消耗(小)
[装備]なし
[道具]悪魔の目玉
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを生存させる。
1.マスターの無事を確認する。
2.キャスター=サン(大魔王バーン)を優先して殺すべし。
3.キャスター=サン(大魔王バーン)は一端ランサー=サン(クー・フーリン)に任せる。
4.全サーヴァントをスレイする。
[備考]
※足立透&大魔王バーンと休戦協定を結びました。


374 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:36:31 72hwo7qs0
 今の所有効な振りを装っています。
※大魔王バーンがしんのすけとニンジャスレイヤーを監視していると思っています。
※クー・フーリンに大魔王バーンを殺すように命じましたが、余り期待はしていません。
 持久戦の為の鉄砲玉でしかなく、場合によっては自らアンブッシュする必要も考えています。
※足立透の名と住所を確認済み。









「畜生、俺のセリフまでとりやがって……」

 惨敗だ。完全な惨敗だ。
 それでいて生きながらえているのは生き恥に等しい。
 だがそれよりも。
 人質に取られたマスターを見る。
 裸身だと言うのに身体を隠さず、茫然自失としている。

「大丈夫か……!?」

 立ち上がろうとしたとき、スイッチが入ったかのごとく、凜はクー・フーリンに抱きついた。
 嗚咽を上げながら泣きじゃくるその姿は、年相応の女の子だった。
 クー・フーリンは優しく抱きしめると、背中を優しく叩いた。

「ランサー……」
「悪い。俺が――」
「悔しい」

 凜がぽつり、と呟く。

「何も出来なかった。負けたのが悔しい」
「……」
「遠坂家の悲願を成し遂げるとか言って、何も出来ずに負けっぱなしなのが悔しい」
「……」


375 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:37:15 72hwo7qs0
「ランサー」

 凜がランサーの瞳を見つめる。

「あぁ」

 その瞳は――

「私は何をすればいい?」

 年相応の女の子なんてもう何処にも居ない、覚悟と決意を秘めた強い瞳。

「苦しいことも痛いことも、何だって我慢する。だから……」

 ならば。

「私に勝利を捧げなさい、ランサー」

 サーヴァントとして、男として、クー・フーリンも覚悟を決めなければならない。

「わかった」




【B-4/遠坂邸/1日目 午前】

【遠坂凛@Fate/Zero 】
[状態] 魔力ほぼ枯渇、強い決意
[令呪] 残り二画
[装備] アゾット剣
[道具]
[所持金] 不明
[思考・状況]
 基本行動方針:遠坂家の魔術師として聖杯を得る。
 1.勝利するために何でもする。
[備考]
※鏡子のパラメーターを確認済み。
※ニンジャスレイヤーのパラメーターを確認済み。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。


376 : シンデレランサー ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:37:55 72hwo7qs0

【クー・フーリン@Fate/stay night 】
[状態] 魔力ほぼ枯渇、右太ももに刺し傷、『日が変わるまでに、足立透、もしくはそのキャスターを殺害出来なければ自害せよ』
[装備] 槍
[道具]
[所持金] 不明
[思考・状況]
 基本行動方針:遠坂凜のサーヴァントとして聖杯戦争と全うする。
 1.凜に勝利を捧げる。
 2.出来る限り回復に努めたい。
 3.足立、もしくはキャスター(大魔王バーン)を殺害する。
 4.あのライダー(鏡子)にはもう会いたくない。最大限警戒する。
 5.アサシン(ニンジャスレイヤー)にリベンジする。
[備考]
※鏡子とのセックスの記憶が強く刻み込まれました。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。
※自害命令は令呪一画を消費することで解除できます。その手段を取るかは次の書き手に任せます。


377 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 16:39:00 72hwo7qs0
投下終了です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。


378 : 名無しさん :2014/08/09(土) 16:56:53 mIuCZ4h6O
投下乙
ランサー=サンの悲壮感が半端じゃない件について
ニンジャ=サンは容赦なしに使える手は全て使うんだなあ


379 : 名無しさん :2014/08/09(土) 16:59:07 vPgxBgI20
これってバーン様に監視されてたら(されてるんだろうけど)速攻マスターたるしんのすけの危機じゃね?


380 : 名無しさん :2014/08/09(土) 17:04:31 RhyCYfXo0
投下乙です
監視の目によるマスターの危険を優先して即座に休戦破棄するニンジャ決断力
まさにフジキドらしい電撃的な戦術
しかしランサー兄貴は不憫な…凛がやる気出すきっかけにはなったが

>>379
確かに危ないかもしれないけど、むしろランサー迎撃を優先しそう
休戦協定破棄でしんのすけ殺したところでランサーは止まらないんだし


381 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 17:06:20 72hwo7qs0
>>379
>マスターの凜を人質に取ったニンジャスレイヤーは、辺りの気配を確認し、邪魔者が居ないことを確認してから言葉を発した。

一応ここで監視が無いか確認しているのと、

>赤黒のニンジャは、掛け声と共に幼稚園へと向かった。

用事が終わったところで速攻でマスターの所に向かっています。

透視とか超聴覚とか、そう言うので密談を監視したのであれば、キャスターが一枚上手と言うことかと。


382 : 名無しさん :2014/08/09(土) 17:32:52 vPgxBgI20
まぁ分の悪い賭けには違いないとは思うな
しんのすけが無力で無知なのは知られてるし、
悪魔の目玉に警告して足止めしたことから密談したこと自体はバレてるだろうし
ランサーが失敗したらアサシンはしんのすけの傍を離れられなくなるわけで


383 : 名無しさん :2014/08/09(土) 17:41:56 wpXUwxFwO
投下乙です。

相手が全裸の幼女でも、容赦なく人質にする忍者汚いな忍者
まあ、その幼女は覚悟してる人だから、何されても文句言える立場にいないけど。
そしてこの流れは……魔力供給ですねわかります

悪魔の目玉はマァムを縛るくらいの力はあるし、しんのすけを殺す戦闘力はあるだろうな。
監視してた場合は、しんのすけを殺すよりは、人質にしてアサシンをランサーにぶつけるだろう。


384 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 20:59:15 zRShJGgs0
皆様投下乙です
私も後で読ませていただきます。
では、投下させていただきます。


385 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 21:00:10 zRShJGgs0
空が白み、星と月が追いやられる。
闇こそまだ残っているが、しばらくしない内に夜は明けて朝になるだろう。

……潮時か。

そうアキトは判断する。
魔術師ならぬ身であり聖杯戦争の定説も知らぬアキトだが、彼としてもこの戦いは夜に行うべきだと踏んでいた。
アキトには五感がない。程度の差こそあるが、度重なる人体実験により彼の五感は奪われていた。
人並みにものを見ることも、音を聞くことも、匂いをかぐことも彼には不可能だ。
ネルガル重工による可能な限りの治療や、補助器具であるところのバイザーで幾らか補ってはいるが、本来なら戦うなどもってのほかの身体だ。
だがその無理を執念と修練で押しのけて必死の思いで火星の後継者に食らいついてきたのがアキトだ。
五感の効かぬ身でまがりなりにも火星の後継者の暗殺部隊とも戦い抜いて来た彼は、音もなく光もない世界での戦いには人一倍長けているとも言える。
夜の闇。視界の狭まる弊所。視覚嗅覚聴覚が弊害される雨中での戦い。
そういった常人からすればやり辛い状況においてはアキトに一日の長がある。
だからこそ自ら戦いを仕掛けるならば陽の光の下でよりも夜の闇の中でと決めていた。
バーサーカーにしても人の往来の少ない夜間の方が暴れさせやすい。
ともすれば手綱を引きちぎりかねない狂戦士では、NPCを巻き込まずに戦えなどと無理な話だ。
コロニーを襲撃し、多くの無関係な人間を巻き込んだ自分がいまさらに命なきNPCの心配などと笑い話でしかないが、ルーラー達からの制裁は避けたい。
いざという時はNPCを犠牲にしてでもことをなさねばならぬ以上、余裕のあるうちは巻き込まないにこしたことはない。

もっとも、余裕が有るかどうかも怪しくなってきたのだが。

先程の戦闘でアキトは自らの慢心と出し惜しみを痛感したばかりであった。
そもそも己は慢心できる身であったか。
今のアキトは万全には程遠い。
単に乗機である黒百合を冠した機動兵器を持ち込めなかったからだけではない。
火星の後継者を追えていたのは一大企業であるネルガル重工によるバックアップあってこそだ。
貴重なはずのチューリップクリスタルもネルガル重工の力があったからこそ出し惜しみなく使用できた。
敵のやり口を知り、木連式の技を知っていた月臣源一郎による教えも大きい。
何より今のアキトは彼の五感のサポートをしてくれていた少女――ラピス・ラズリを欠いている。
火星の後継者を追っていた時よりもありとあらゆる点で戦力は低下しているのだ。

全てはアキトが置いてきたから。
彼に力を貸してくれる人々を、共に戦ってくれる人々を置いてきたから。

……分かっている。分かっているさ。

今に始まったことではない。
火星の後継者から救い出されたあの日、アキトには仲間のもとへ、何よりも置いてきてしまった一人の少女のもとへと帰る選択肢もあった。
だけどアキトはその道を選ばなかった。
彼女たちを危険に晒してしまうとか、ラーメンを作ってあげられないだとか、理由は幾つもあったけど。
何よりもアキトは復讐を選んだから。帰ってもそこにはいないたった一人を取り戻すことを選んだから。
あの日あの時あの場所で。奪われたのではなく自らの意志でテンカワ・アキトは少女に背を向けた。


386 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 21:02:50 zRShJGgs0
だから、今更だ。
また置いてきたというだけだ。
エリナは心配しているかもしれない。アイちゃん泣いているかもしれない。アカツキもあれでいて探してくれているかもしれない。
ラピスは……きっと、一人にされてしまったことに怯え、それでも自分を待っていてくれている。

容易に想像できてしまう彼女たちの姿にすまないとは思う。
しかしそれでも。それでも尚。
アキトは他の全てより、たった一人を選んだ。選んだのだ。

彼女たちのいないことによる不都合は自らへの罰として受け入れよう。
自身の弱さも憎みこそすれ、目を逸らしはしない。
それこそいつものことだ。
今までどおりだ。
ようやく食らいつくだけの力を得たからこそ思い上がってしまっていたが、テンカワ・アキトはずっと泥に塗れ敗北を重ねてそれでもと必死に追いすがってきたのだ。
聖杯戦争でも同じだ。
手に入れるまで、取り戻すまで。
何度負けようとも、何度地に這いつくばろうとも、追い続ける。
その執念こそが今のアキトの最大の武器だ。

とはいえ力不足なのも事実。
さしあたって必要なのは銃弾に限らず武器そのものの調達だが、こちらは一定の目処が立った。
この街には藤村組を始めとしたヤクザの事務所が何件かあり、夜が明けるまでの残された時間を使ってちょうど下見をしてきたところだ。
あの程度の警備なら潜入・破壊工作に慣れたアキトなら容易に盗みに入れるだろう。
注目されるような警察沙汰は避けたいところだが、そうも言ってはいられない。
戦いが激化すれば激化するほど、目の前の敵と戦う以外の余裕はなくなっていく。
事務所への潜入を実行するのなら早いほうがいい。

そしてもう一つ重要なことがある。
チューリップクリスタル――CCだ。
こちらに至っては入手方法どころか、この街に存在しているのかも疑わしい。
聖杯戦争の舞台であるこの街は、どうやら20世紀末から21世紀後半の日本を再現しているようだ。
アキトがかつてはまっていたアニメ、ゲキ・ガンガー3の作中世界に通ずるものがある以上ほぼ確実だ。
対してチューリップクリスタルが開発されたのは23世紀であり、地球どころか月でもない、古代火星文明由来の産物だ。
方舟による再現がどれだけ忠実かは分からないが、時代背景に忠実であれば忠実であるほど、CCは存在しえなくなる。
或いはアキトのサーヴァントがキャスターだったなら、錬金術でも用いてCCも複製できたかもしれないが、たらればの話をしても意味は無い。
CCに関してはあまり期待しないほうがいいだろう。

そうなると一層手元にあるCCの運用を考えなければなだないのだが、出し惜しみが愚の骨頂なのは身に沁みたばかりだ。
ただ、出し惜しみはしまいと決めたからこそ、思い悩まされる疑問もある。


387 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 21:03:29 zRShJGgs0
果たして方舟内で、敵マスターをボソンジャンプに巻き込めばどうなるのだろうか?

本来ならボソンジャンプは、火星生まれの人間か、遺伝子的な調整を受けた人間――ジャンパーでなければ耐えられない。
英霊であるサーヴァントならともかく、生身である敵マスターさえ巻き込んでしまえば条件次第では問答無用で殺せるということになる。
もしそうならば、運用の幅も大きく変わってくるのだが……。
ただ、問題なのはこの世界はいわばオモイカネの記憶世界と同様の電脳世界だということだ。
厳密には今ここにいるアキトも、敵のマスターも生身ではないということになる。
ボソンジャンプに非ジャンパー以外を巻き込んだところで殺せないのではないか。
そもそも非ジャンパーがボソンジャンプに耐えられないのは演算ユニットにイメージを上手く伝達できないからだ。
こうして肉体の枷を逃れ、電脳世界に意志だけが存在しているらしい現状では、もしかしたら遺跡にイメージを届けられるのではないか。
ムーンセルは光そのものを記録媒体や回路として使っていると説明されたが、光とは即ちボソンである以上、ありえない話ではない。
もしそうなら最悪だ。
殺せないどころか下手に巻き込んでしまえば、相手共々ジャンプしてしまうことになり、結局は逃げられなくなる。

ボソンジャンプを出し惜しみしないと決めた以上、事実確認は不可欠なのだが……。

確認するということは実際にボソンジャンプを行うということであり、二つしかないCCの内一つを消費するということに他ならない。
しかも最悪の想像通りなら、巻き込んだところで敵マスターとサーヴァントを引き離すくらいのメリットしか得られない。
そのメリットさえも、令呪でサーヴァントを召喚されれば無意味だ。
キレイと呼ばれたあのマスターのようにアキトを凌駕する力の持ち主相手ならサーヴァントを呼ばれるまでもなくアキトが返り討ちにあってしまう。

おいそれと試すわけには行かず、しかし、使ってみなければ疑問に答えは出ない。

……っ。

苛立ちに反応して浮かび上がるナノマシンを黒衣で隠し帰路を急ぐ。
火星の後継者により身体を弄り回された証であるナノマシンは、アキトに人の営みに混ざることを許さない。
そのまま割り当てられた家へと辿り着いたアキトを、

「あら。思ったよりもお早いおかえりね。もっともその容姿だと怪しすぎて日中は出歩けないでしょうけれど」

予想外の人物が出迎えた。





388 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 21:04:37 zRShJGgs0
家に誰かが潜んでいる事自体は想定内だった。
いかな手段を使ってか、アキトは一方的にキレイなるマスターに発見されていた。
キレイに、或いは他の何者かにアキトがマスターであることやその住居さえも特定されていないとは限らない。
それならそれでこちらから探す手間が省けて好都合だと、罠を警戒はしながらも敢えて仮初の家へと戻ってきたのだが、この相手は想定外だった。

「……お前にだけは言われたくないな」

手にしていた銃を下ろし、バーサーカーを霊体化させて、言い返す。
なるほど、確かにアキトの容姿は怪しいの一言に尽きるだろう。
五感の補助や防刃防弾をも考えた装備とはいえ、顔を覆うほどの黒いバイザーに黒マントと全身黒ずくめの彼は不審なことこの上ない。
しかしながら相手の女もまた、人のことを言えた格好ではなかった。
アキトと同じく黒を基調とした服装だが、全身を隠すかのように覆っているアキトに対し、目の前の女は露出過多だ。
肌を直接晒しているわけではないが、下半身を覆うものが明らかに足りていない。
在りし日のアキトならきっとひどく動揺したことだろう。
だが、ここにいるアキトには、皮肉に対し皮肉を返した以外の意味はなかった。

「私の方も貴方同様この服装には意味があるのですが」
「そんなことはどうでもいい。わざわざ監督役であるお前のほうからこっちへと出向いたんだ、要件を言え、カレン・オルテンシア」

そう言って予期せぬ来訪者――カレン・オルテンシアをアキトは睨みつける。
監督役がわざわざ出向いてくるなど、あまりいい予感はしない。
現状、アキトは一度交戦した以外は大きなアクションを起こしてはいない。
方舟に睨まれるようなことをした覚えはないはずだが。

「せっかちね。まあいいわ。私の方も教会を長く空けておくわけにはいかない以上、手早く終わらせるとしましょう。
 先に一応言っておきますが。月の都合で遣わされた以上、ここに私が居ることもこれからする話も他人に察せられることはありません」
「……そこまでした上での話ということか」
「ええ。聖杯にとっては、そして貴方にとっても重要な話ね、テンカワ・アキト。
 もう気づいているかもしれませんが、ボソンジャンプの話です」

或いはそうかもしれないとは思っていた。
ボソンジャンプのことを考えていたあのタイミングでの来訪だ。
それにアキトに近づいてくるろくでもない人間たちの理由はいつも決まって、この身がA級ジャンパーだからだった。

「嫌な過去でも思い出したのかしら、怖い顔ね」
「何度も言わせるな。余計なことはどうでもいい。それで、どうなんだ。ボソンジャンプで他のマスターを巻き込めばどうなる?」
「そうね。結論から言えば、たとえ相手が非ジャンパーでも死ぬことはないわ。
 正しくは巻き込まれることがない。どれだけ接触してボソンジャンプしようとも、跳ぶのは貴方だけよ」
「そうか……」

予想していたこととはいえ、有用足り得た攻撃手段が一つ潰えたことに歯噛みする。
相手について来られないだけまだましだと冷静になろうとするが、そう簡単には行かなかったらしい。

「文字通り顔に出るのね、貴方。言っておきますが時を遡る力を制限されているのは貴方だけじゃないわ」
「……時を遡るだと?」


389 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 21:05:22 zRShJGgs0
そうだ、ボソンジャンプは瞬間移動のように使われてはいるが正しくは時空間移動だ。
他ならぬアキト自身かつて地球から2週間前の月へと飛ばされたことがあった。
狙ってやったわけではない。
当時はまだ跳躍慣れしていなかったが故のランダムジャンプと呼ばれる事故が起こした偶然の結果だ。
ただこのランダムジャンプもまたイメージ伝達の不備が原因で起きる以上、他人を巻き込めばその可能性が上がるのは事実だ。
聖杯はどうやらその起きるか起きないか分からない事故を警戒しているようだ。

「なるほどな。聖杯からすれば過去を変えうる、いや、聖杯戦争を遅滞させ得る能力は全て規制対象というわけか」

カレンの言い方からすれば、ランダムジャンプのような事故とは違い、この戦いでは本来なら自分の意志で過去へと赴ける者もいるのだろう。
もしもそのような者たちが負けそうになる度に時を逆行し続けたなら延々聖杯戦争は終わらないことになる。

「そういうことです。聖杯が今回望んでいるのは“繰り返される四日間”ではありません。
 私が監督役を任されたのも、万一そのような事態になった時に対処できる実績を買われたのでしょうね」

何かわけの分からぬことに一人で納得しているカレンをよそに、アキトは物思いに耽る。
ボソンジャンプで敵マスターを殺せないのは痛手だが、時間遡行のできる敵に過去改変をされるリスクに比べたらまだマシだ。
あくまでも封じられているのが逆行することだけである以上、時を操る敵と戦わねばならない可能性もあるが、覚悟しておけば幾らかは対処できる。
思わぬ形で手に入れた情報だが、課された制限に見合った分の対価は得たと思い込めない範囲ではない……。
手に入れた情報から推測を巡らし、対策を考えていくアキト。
その無言で考えこむ様を、誤解して受け取ったのだろう、カレンが言葉を付け足す。

「安心してください、テンカワ・アキト。
 あくまでも時間遡行が制限されるのはこの聖杯戦争の最中だけです。
 あなたが最後の一人となり、月の聖杯に時を遡ることを願うのなら、月はその願いを叶えるでしょう」

祈るかのように手を組み、断言するカレン。
ああ、なるほど、確かに時間逆行や歴史改変なら、アキトの願いも叶えられるだろう。
奪われたことを全て“なかったことにする”。
火星の後継者をいなかったことにする。
それは彼のなせる最大の復讐であり、ユリカを助けるこれ以上ない手段の一つだろう。

だけど――

――遺跡を壊せば全てチャラ。でも大切なものも壊してしまうじゃないですか。

「まあもっとも例えそうしたところで、貴方はきっと彼女たちの元を立ち去るのでしょうね」

瑠璃色の少女の言葉を思い出してしまったのは、彼に哀れみを向けるこの少女の瞳もまた、金色だからか。
感情に乏しい声。
肌の色や髪の色、その出で立ちから、出逢ったばかりのあの子を連想させるからか。
捨て去ったはずだ。分かってきて置いてきたはずだ。あの子への裏切りはとっくに済ませた。


390 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 21:08:17 zRShJGgs0
「お前が知ったような口を叩くな……!」
「知ってるわ。娘を置いていく父親のことなら」
「……!」

それでも眼を逸らしてしまったのは覚悟が足りないからか。痛いところを突かれたからか。
思うところがあるのかパス越しに殺気立つガッツを抑えつけながら自嘲する。
少女の言うとおりだった。
ユリカを取り戻すなどと言っておきながら、当のアキトはユリカの元に戻るつもりはなかった。
いつかあの少女にも別れを告げ、彼女たちの元を去るつもりだった。
そのアキトの勝手を、弱さを、心の傷をカレンは容赦なく切り開いていく。

「まあ。その顔は図星ね。ふふ、いいのよ別に目を逸らさなくても。私も貴方と“同じ”ですから」

だからこそ一層たちが悪い。
同じなどと言われるまでもなく、その何も映さぬ瞳を見た時から気付いていた。
この女もまた、目が見えていない。
濁った瞳。輝きを失った金色の目。否が応にも彼が守りたい少女の最悪の未来を連想させるその瞳。
同じだと言うくらいだ、視覚だけでなく聴覚も触覚も嗅覚も――味覚も壊れているのかもしれない。

「笑えない話だ。俺にこんな役を当てつけたのも、バーサーカーを、ガッツをあてがったのもお前の仕業か」
「まさか。貴方の思い出を参照し役割を与えたのも、貴方に相応しい相棒を宛てがったのも全ては聖杯の采配ですわ」

思い返すのは聖杯に充てがわれたNPCとしての自身の設定。
交通事故に会い、リハビリ中のコック、だそうだ。
この家も天河食堂という小さな食堂であり、今でこそ休業中で貧困に喘いでいるがかつてはそこそこ繁盛していたらしい。
どこまでも人をコケにした話だ。
屋台を引いていた身だ。食堂を持つことを夢見たこともあった。
その夢を叶わなくなった身に叶えさせるなどこれが願いを叶えてくれる聖杯でなければ憎しみのままに破壊していたところだ。
従業員のNPCとして妻も娘になってくれたあの子も再現されていなかったのは不幸中の幸いだ。
愚かしくも記憶を失っていた自分は、軽い気持ちで調理場に立ってしまった。
どこかおかしいと思いながらも、身体を動かせるまでに回復したことに喜びながら、久しぶりに料理をしてみようと食材を手にとった。
そして――。

テンカワ・アキトは思い出した。思い知らされた。自分が何者であるのかを。

最悪だ。最高に最悪だった。呼び出したサーヴァントまで味覚を失っていると知った時は暗い笑みが零れたほどだ。
そんなアキトを少女は笑う。あの子と同じ色の瞳で、あの子が浮かべるはずもない嗜虐的な笑みを浮かべる。

「何がおかしい。お前も奪われたんだろ。なのに何故お前は、マスターではなく監督役なんてやっている!」
「……呆れた。貴方まるで私を人間のように扱うのね。この世界のNPCを見たでしょう? 
 監督役である以上私もまた過去の人間を再現したNPCだとは思わないの?」
「あの忘れ得ぬ日々、そのために今を生きている。……たとえお前がNPCだとしても、それだけ無駄口を叩けるんだ。
 何も思わない方が俺から――俺達からすればどうかしている」
「誰のものか知らないですが悪くはない言葉ね。なら私もカレン・オルテンシアとして相手してあげます」


391 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 21:08:49 zRShJGgs0
狂戦士からもまた目の前の女が気に入らないという激情が伝わってくる。
何がどうしてこうも腹立たしいのか、彼女のことが気に喰わないのか。
その答えはすぐに分かった。

「言い方が悪かったせいで誤解させてしまったみたいですね。同じ、と言っても私のこれは半分は生まれつきです。
 いいえ、やっぱり同じなのかしら。私も類稀なる力を持って生まれました。この傷はその代償です」
「……それでモルモット代わりにされたってわけか。何時の世もどんな世界も人間は変わらないな」

反吐が出る。
そう吐き捨てる男に、しかし少女は同意するわけでもなく、訂正する。

「教会から修道院にたらい回しにされ、そこで天職を得た。それだけのことです」

何が嬉しいのか、その言葉を口にした時、ほんの少しだけ少女の頬が緩んだことをアキトは見逃さなかった。
だからこそ余計に理解できない。
天職? モルモットにされることが? 狂っている。

「何に憤っているのかは理解できますが勘違いもいいところです、テンカワ・アキト。
 貴方とは違い私には拒否権がありました。それでも私はこちらの方が意味があるとこの道を選んだのです」
「意味だと? 意味があれば傷ついてもいいというのか。正義なら、大義ある犠牲ならそれもやむなしとそう言うのか……っ!」
「それを他人に強制するつもりはありませんが。私自身はこのように生まれた自らの定めに従うまでです」

何を言っているのだろうか、この少女は。
新たなる秩序だとかそんなくだらないもののためにその身を喜んで捧げるとそう言うのか。
理解できない。認められない。アキトにはこの全てを受け入れる少女を受け入れることができなかった。

「……お前は、お前は憎くないのか。お前にそんな力を与えた神が。お前を道具扱いする奴らが」
「神とは憎むものではありません、祈るものです。他人を憎んだこともありません。
 自分は不幸だと嘆けるだけで充分ですから」
「充分な、ものか!」

アキトには、アキトとガッツには限界だった。
アキトが銃を抜き、実体化したガッツもまたドラゴン殺しを突きつける。
自ら望んで秩序の、神の、魔の生贄になろうとする少女の在り方を到底許すことができなかった。
許してしまえば彼らの怒りは、嘆きは、憎しみは、どうなる。
己が不幸だと嘆けるだけで充分だと? 巫山戯るな! 充分なものか。これが、こんなものが充分であってたまるか!

「同じと言ったな、カレン・オルテンシア。一緒にするな。俺たちはお前とは違う!」
「監督役である私と敵対するつもり? 愚かしい判断ですね」

激怒するこちらに対しカレンの反応は涼やかなものだった。
つまらなそうに令呪を掲げ、どこからか取り出した赤い布を旋回させる。

「そう思うなら出て行ってくれ。俺もこいつも今にもお前を潰したくて仕方がない」
「まあいいでしょう。伝えることは伝えましたし、いささか趣味に走ってしまったのは私に非があるということにしておきましょう。
 それに貴方はともかく、そちらのサーヴァントを前にしては、私も我慢できそうにありませんし」


392 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 21:09:11 zRShJGgs0

臨戦状態を解き、少女が立ち去る。

「さようなら、テンカワ・アキト。憎いから憎み、愛しいから愛する普通の人。もしかしたらまた会う機会もあるかもしれませんが」

最後に言い残して少女は陽の光の中へと消えていく。

「二度と御免だ」

それがアキトの本音だった。
もしまた会うことがあるとすれば、聖杯を手に入れるその時だけでうんざりだ。
実体化を解くことなく、無言でカレンがいた場所を睨み続けるガッツも同じことを思っているに違いない。

「ガッツ。俺たちはカレン・オルテンシア認めない。このくそったれな運命を受け入れない。
 どれだけ正しい願いを持つものが立ち塞がろうと、どれだけ自愛に満ちた願いを持つものが止めようとも、俺たちは抗うぞ」
「■■■■■■■■――――!!!!」

カレンは、アキトのことを普通の人間だと断じた。
聖女様からすればそうなのだろう。だが違うとアキトは否定する。
ここにいるのは人間ではない。
人を憎み、魔を憎み、神をも憎む鬼だ。復讐の――鬼だ。



【B-9/住宅街(天河食堂)/1日目 早朝】

【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、疲労(小)、魔力消費(小)、強い憎しみ、苛立ち
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
1.次はなんとしても勝つために夜に向けて備える。
2.下見したヤクザの事務所などから銃弾や武器を入手しておきたい。
3.五感の以上及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。

[備考]
セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。


【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]健康、強い怒り
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
特になし。

【B-9/住宅街/1日目 早朝】
【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[装備]:聖骸布
[道具]:?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味
1.???
[備考]
聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。
他に理由があるのかは不明。


393 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 21:10:44 zRShJGgs0
以上で投下を終了します。
ボソンジャンプや、やり直しの願い、バイツァダストに関することにも間接的に触れたため、ご指摘や提案があるならよろしくお願いします。


394 : 名無しさん :2014/08/09(土) 21:33:13 mIuCZ4h6O
投下乙です
時間遡行は全面禁止か当然だな
アキト達とカレンは相成れない仲なのかー
境遇は似てるのにな


395 : 名無しさん :2014/08/09(土) 21:39:23 IpPaSdTAO
関係ないけどメガほむ完全終了のお知らせ。いやまあ時止め爆☆殺くらいは鯖ほむから教わってそうだけどw


396 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/09(土) 22:18:19 72hwo7qs0
投下乙です。
時間に関与できそうなのは、後はオルステッドでしょうか。
過去や未来から英雄を連れてきたり、力を与えたりしたら大変な事になるでしょうから、時間遡行禁止は問題ないと思います。

気になることが一点。

>「そうね。結論から言えば、たとえ相手が非ジャンパーでも死ぬことはないわ。
>正しくは巻き込まれることがない。どれだけ接触してボソンジャンプしようとも、跳ぶのは貴方だけよ」

ということは、『サーヴァントのガッツは追従できない(令呪で呼ぶか、ひたすら走って合流)』という認識であってますか?


397 : 主よ、我らを憐れみ給うな  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/09(土) 22:30:55 zRShJGgs0
感想有難うございます。
議論スレではありませんが失礼致します。

>>396
オディオに関しましてはこちらも把握しておりました。
時間遡行及び過去干渉に関する能力は制限されているという形に若干修正しておきます。

自身のサーヴァントに関しましては完全に失念していました。
Fate本編でも実体化している間は主と離ればなれになるサーヴァントもいますので、霊体化している時なら、自身のサーヴァントに限りつれていけるという扱いにします。
霊体状態なら混戦するほどの影響はないでしょうし。
実体化状態では、『サーヴァントのガッツは追従できない(令呪で呼ぶか、ひたすら走ってor霊体化して追いかけて合流)』ということで。


398 : ◆HB/kaleido :2014/08/09(土) 22:44:57 zA5p6kCA0
投下します


399 : 夜の始まり ◆HB/kaleido :2014/08/09(土) 22:46:29 zA5p6kCA0
夜明けまでまだしばらくの猶予を残した薄暗がりの夜。
住宅街を歩くのは、本来であればこのような時間寝ているべき程の年齢だろう少女。

しかしそんな時間に出歩くことを怖いとは思わなかった。
これまで、こんな夜中に外を出歩くことなどよくあったことだ。

だが、今はそれだけではない。
もしかすれば何者かに襲われるのではないか、という思いもあったのだ。

『周囲の探知が終わりました。これといって怪しい者は見受けられません』
「ありがとう、サファイア」

襲う者がチンピラ程度ならばいい。
むしろこの場合はチンピラの方を心配した方がいいだろう。

問題は、それが特定の人間であった場合。

今の自分と同じ。サーヴァントを連れた魔術師、マスターであったならば。

思い起こすのは、先の戦いで襲ってきたあの槍を持った英霊。
ランサーとの戦闘経験がない美遊にも、あれが黒化英霊とは別格の存在であったことはすぐに分かった。

そして、それを倒した、今自分が連れている存在の強さも。

彼はあの戦い以降何も語ろうとはしない。
幾度か話しかけたものの、一向に口を開こうとはしなかった。
それも仕方のないことだろう。彼はただの英霊ではない。

バーサーカー、狂戦士。
強さを得ることと引き換えに理性、知性を奪われる戦士。
かつて戦ったあの大英雄の力がその強大さを表している。

理性を失う。それは言わば黒化英霊達も似たようなものなのかもしれない。いや、彼らは最初からなかった、というべきか。
だが、それでもその黒化英霊と今自分が連れている狂戦士。彼らを比べた時、強さ以外の決定的な違いを美遊は知っている。

たった一つ。自分を守ってくれたあの瞬間、美遊はこの狂戦士から強い意志のようなものがあることを感じていた。


(―――聖杯、戦争…)


サファイアがアンテナのようなものを立てて周囲から受信した情報。
そこには、今何が起こっているのかが明確に記されていた。

英霊をサーヴァント(使い魔)として使役し覇を競わせる魔術師の殺し合い。

大まかに言ってしまえばそうであるが、詳細を聞くまでもなく聖杯戦争が何であるかなど美遊は理解していた。

サファイアはそれがかつてイリヤの母、アイリスフィールから聞いた情報故であるだろうと思ったようだが、実際はそれ以上の情報を知っている。

だって、それまで”聖杯”を奪い合うその戦いを幾度となく見てきたのだから。


400 : 夜の始まり ◆HB/kaleido :2014/08/09(土) 22:48:06 zA5p6kCA0






「ここは…ルヴィアさんの…」

やがてたどり着いた住宅街の中にあった豪邸。
それは自分の義姉であるルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの邸宅。
この一ヶ月ほどの間に、自分の家のようになっている場所だった。いや、実際自分の家と言ってもいいのかもしれないが。

『このようなところまで再現されているとは』
「ルヴィアさん、いるのかな…」

静かに門を開く。
特に門限が決まっているような生活は送っていないためこんな深夜に出歩いたとしてもそんなに厳しい罰が待っていることなどない。少し怒られるかもしれないとは思うが。

だが、それは別として今はルヴィアには会いたくなかった。
この空間がどういう場所なのかもサファイアのおかげで大体は把握できている。
聖杯戦争を争う魔術師が集まっている場所であるが、それ以外にもNPCなる存在がそれぞれ日常生活を送るように再現されている。
そんな日常の中から、誰が魔術師なのか探し出し戦わせるのがこの聖杯戦争なのだろう。
実際、今の自分には海月原学園小等部の生徒という立場が与えられているらしい。


つまりだ。この場所にいるのであればルヴィアもまたNPCである可能性が高く、もしそうでないならばあの人とも戦わなければならない。
NPCであったならば。この聖杯戦争で日常を演じるための存在として作られた存在であるということだ。そんな気遣いなど、不要どころか吐き気がした。
マスターであったならば。確かに彼女ならば自分を殺すことなどない、と思う。だが万が一にでも争わねばならなかった時、あるいはあの人が死ぬようなことがあった場合は―――

ゆっくりと扉を開けるも、ルヴィアも執事のオーギュストも眠っているのか出迎える者はいなかった。
考えてみればそうだろう。この時間、”普通なら”皆眠っている時間だ。

「………」

可能な限り物音を立てぬように、しかしできるだけ急いで歩き。
自室の扉を開き、ベッドの上に身を投げ出す。

いつものベッドだ。何の代わりもない。
ここで眠って目が覚めれば、きっと全ては夢で。
朝になったらイリヤやクロと一緒に学校へ行って授業を受けて。
これまでと何の変わりもない日々に戻れそうな、そんな錯覚すらも感じてくる。

だが、これは夢ではない。
霊体化しているとはいえその気配だけは感じ取れる自分のサーヴァントの存在がそれを証明している。

ならば。

「サファイア、出発する。手伝って」
『出られるのですか?美遊様』
「この家を戦場にしたくはない」

聖杯戦争にかかる時間はどれくらいだろうか。
一週間か?二週間か?それよりももっとかかるか?あるいは早く終わるか?

それ次第では必要なものをどれだけ持ち出すかが変わってくる。しかしそんなことは実際に戦わねば分からない。
幸いなことに、この家でメイドをしていた時にルヴィアさんからもらった給料、お小遣いはほとんど再現されている。小学生に持たせるには過ぎた金額だ。
しばらくここから離れて暮らすとしても生活費としては問題ないだろう。
それに最悪の手段として考えられる野宿にも慣れている。

ふと、服のポケットに入っていたものを取り出す。
海月原学園の学生であることを示す学生証。おそらくは学生の立場を与えられたものには配布されているものなのだろう。

しかし美遊はそれを部屋の隅に投げ捨てた。


401 : 夜の始まり ◆HB/kaleido :2014/08/09(土) 22:49:21 zA5p6kCA0

『美遊様?』
「学校には、行かない」
『…よろしいのですか?もし学校に関わる者にマスターがいた場合は怪しまれることになりますが……』
「分かってる。でも、行きたくない」

もしかすれば学校にいけばイリヤやクロ達に会えるかもしれない。
マスターとしてか、あるいはNPCとしてか。
しかしどっちであったとしても、会いたいものではなかった。
マスターであったならば言わずもがな。NPCであったならばイリヤ達が巻き込まれていないことの証明になるが、ならばその顔を見るのは尚更辛い。

正直なところ、聖杯戦争の片手間に日常を送るなど、そこまで器用なことはできそうになかった。
かつて、自分を求めてクラスカードを用いて争う魔術師達の戦いを、別の聖杯戦争を見てきた自分には。
もし今の状態で学校に行っても平常心でいられるとも思えないし、そうなれば他者にマスターとばれるのも時間の問題だ。

ならば、いっそのこと学校行きを止めて、いずれ始まるだろう戦いに備えるべきだろう。


『それが美遊様の判断であるというのなら、私は止めませんが…。
 美遊様はこの戦いでどうなさるおつもりなのですか?』
「私は……、できれば戦いは避けたい」

いずれ戦わねばならない時は来るだろう。たとえ時間稼ぎをしていたとしてもいつまでももつとは思えない。
聖杯にかけたい願い自体はないわけではない。
だが、――――――果たして自分が聖杯を求めていいのだろうか?

迷う理由は二つ。

もし聖杯を求めて戦い、他者の命を奪った自分がまたイリヤ達の元に戻ってこれまで通りの生活を送ることができるのかというもの。
他者の命を踏み躙った自分が、果たしてイリヤ達の元に戻る資格があるのだろうか?
割りきってしまえばいいことなのだろうが、それができるほど達観した精神など美遊は持っていなかった。


そして、ここで己の望みのために聖杯を求めて進んで戦うということは、かつて自分を救ってくれたあの人の願いに反するものではないかというもの。
多くの人が聖杯を求めて戦う姿を見てきて、そんな世界とは関わらずに暮らしてほしいと願った兄がいて。
なのにこの戦いで聖杯を求めてしまうことは、その願いを冒涜するものではないのか?


「………」

だが、それでも振りかかる火の粉は払わねばならないだろう。
聖杯戦争であるならば、戦いに積極的なマスター、魔術師は確実にいるのだから。
そう、聖杯を求める魔術師は、必ず。


バーサーカーからの反応はない。
ここでじっとしている間も、霊体化を解くことはなく、しかし自分の傍からも離れることはなかった。

本来ならば、己のサーヴァントといえども聖杯を求める者を手放して信用することはできなかっただろう。
聖杯を求めるのであれば、聖杯戦争をせずとも手に入れる手段があるとするなら間違いなく彼らもそっちを選ぶであろうことは当然考えられることなのだから。
だから、バーサーカーが呼ばれたという事実はむしろよかったのかもしれない。

ただ、そういった前提があったとしても、このサーヴァントのことは信じてもいいのではないか、と。そう思ってもいた。


402 : 夜の始まり ◆HB/kaleido :2014/08/09(土) 22:51:01 zA5p6kCA0


クラスカードをチェックしたところ、今手元にあるのはセイバーだけ。果たしてこれでどこまでできるかは分からないが。
サファイアに問いかけてみたところ、夢幻召喚は可能だが宝具の解放までは魔力供給が追いつかないという。もし解放すれば命にも関わるらしい。
カードを使う事自体万が一という時にしておいた方がいいだろう。

部屋の中のものをバッグに詰める美遊。
持ち出すものは衣類や非常食。それも可能な限り量は減らす。足りなくなったら買い足せばいい。

と、ふと取り出したのはヘアピンと度の入っていない伊達メガネ。
ヘアピンはともかくメガネは置いた覚えがないものだが、今は使えるだろう。


『美遊様、何をなさっているのですか?』
「たぶん気休めだけど、念には念を入れて」

メガネをかけ、ヘアピンで髪をまとめあげる。
さらに後ろの髪も結び、特徴的なポニーテール状に。

これは昼間外に出ている間にマスターであることがバレた時の保険。
よく見れば見破られるだろうが、少なくとも通りすがりの外見から一目で判断することは難しくなるだろう。

「あとサファイア、外での会話は念話でお願い」
『分かりました。一応魔力で感付かれない程度には周囲の警戒も続けておきます』

これで大体の準備は整った。
外はだんだんと白み始めている。もう一時間もすれば学校に向かうNPCで道は溢れるだろう。

自分のために用意されたであろうこの家、しかしここにはもう帰ってくることはないだろう。
あくまでも自分の帰るべき家は本当のルヴィアさんやイリヤ達の待っているあの家。決してこの家ではないのだから。


そのまま静かに屋敷の玄関に向かう美遊。

「―――行ってきます」

返事をするものに期待をしていたわけもない。
ただ、これからの戦いに向けて、それだけは言っておかねばならないような気がした。
それはこの家に向かってではなく、おそらくは自分の本当に帰るべき場所に向けて。




【B-3/ルヴィア邸付近/一日目 未明】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]健康、ポニーテール
[令呪]残り三画
[装備]普段着、カレイドサファイア、伊達メガネ他目立たないレベルの変装
[道具]バッグ(衣類、非常食一式) 、クラスカード・セイバー
[所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争から脱する方法を探る。
1.戦闘は可能な限り避けるが振りかかる火の粉は払う 。
2.昼はなるべく人通りの多い場所で戦いに向けての準備を整える。
3.ルヴィア邸、海月原学園には行かない。
4.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。
5.聖杯にかけるような願いならある。が、果たして求めることが正しいことなのだろうか…?


【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】
[状態]健康、霊体化
[装備]斬魄刀
[道具]不明
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:美遊を守る
1.???????


403 : ◆HB/kaleido :2014/08/09(土) 22:51:25 zA5p6kCA0
投下終了です


404 : 名無しさん :2014/08/09(土) 22:57:29 n.2EjF0I0
投下おつです
学校に行かない選択が吉と出るか凶と出るか


405 : 名無しさん :2014/08/09(土) 23:17:38 zRShJGgs0
投下乙です!
身近な世界が再現されているからこその悲壮感
聖杯自身ということも相まってこの子幼いのにある意味一番重いかも
サファイアと一護がいてくれるのがせめてもの救いだが……


406 : 名無しさん :2014/08/09(土) 23:20:25 2h2J6v/k0
投下乙です
ああ、この再現されているのに漂う悲壮感・・・
サファイアと一護は支えて守ってあげてほしい


407 : 名無しさん :2014/08/10(日) 04:52:16 YZwUSSQs0
キャスターによるCCの複製は盲点だった
出来そうなのはお辞儀とかかな


408 : 名無しさん :2014/08/10(日) 07:02:48 LOqX2fEU0
>>407
キャスターではないがそれこそシオンは本家錬金術師だし可能かもしれない


409 : 名無しさん :2014/08/10(日) 10:32:13 ycghHO160
実際存在しない筈の生物種であるサティポロジアビートルの腸糸を仕入れて波紋マフラー作ろうとしているし、
然るべき知識と手段さえ持っているなら、それぞれのキャラ世界の固有アイテムだろうと製作は可能なんじゃね?
未来技術とはいえ、CCとかいうものだって工業製品的に作られるものみたいだし。
何まで作れて誰ができるかとかまでは、まあ今後の匙加減とか検討事項になるんだろうけどね。


410 : ◆ACfa2i33Dc :2014/08/10(日) 20:40:37 XNM6Yte60
申し訳ない。
締め切り時間を勘違いしていて遅刻しました。
今から投下します。


411 : 国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり ◆ACfa2i33Dc :2014/08/10(日) 20:41:08 XNM6Yte60

夜も明けぬ内に、アレクサンド・アンデルセンとそのサーヴァント――或いは、ヴラド三世とその従者はホテルを出た。

夜の闇。
それを駆逐するかのように、ビル街はその灯りを煌々と煌かせている。

中世のルーマニアに生きたヴラドにとっては、サーヴァントとして知識にはあれど見たことは無い光景だった。

――もっとも、現代世界に生きていたアンデルセンにとっても、この街並みが見知らぬ物であるということには変わりはない。

「何故だ」

神父の呟いた言葉は霊体化しているランサーに向けたモノか、或いは独り言か。

「何故方舟は、戦いにこの異教の地を選んだ?」

今回の聖杯戦争――その舞台は、彼等にとって東の極地、日本の街並みを模して作られている。
故にこの地に住まう人間は、そのほとんどがカトリックではない。異教徒だ。

「ブッディスト……あるいはシャーマニズムか、シントーか。
 どれにしろ、この地が主への信仰に拠っているわけではあるまい」

カトリック――あるいは聖地、そうでなくとも(この二人には非常に業腹なことだが)プロテスタントやユダヤの地ならばまだ理解はできる。
納得はせずとも、そうなるだけの理由が存在するとは分かる。
だが、日本。
主と父の御名が届かぬ異教の地を、何故方舟は選んだのか。

『ムーンセル・オートマトン』

その疑問に、霊体化したままヴラドは返答する。

『既に知識としては知っているだろうが――この地は、ムーンセルが再現した仮初の世界に過ぎん。
 この聖杯戦争に参加した者の記憶――そして、過去に聖杯戦争が行われた土地のコピーから作りだされた、な』
「聖杯戦争、か」「『主の血を受けた器』を騙るとは、不敬も過ぎる話だ」

その返答を聞いた神父は溜息を吐くと、目に宿る狂信を隠さずに呟く。

『だが、聖杯はその名に相応しい力を持つ願望機だ。
 それは神父、お前の魂を拾い上げたことからでもわかろう』
「『主は私のたましいを生き返らせ、御名のために、私を義の道に導かれます。』、か?
 ――そのようなことは、俺は信じてはおらぬ。
 俺は救いを受けられず、地獄に堕ちる身。ならば――俺が魂を拾われたのが主の思し召しであるならば、俺にはならねばならぬ義が存在する筈だ」

主の教えの救いとは魂の救済だ。
消滅し、地獄に落ちるのみであったアンデルセンには与えられてはならぬものだ。
故に、アンデルセンはこれが救いとは信じぬ。
聖杯に救いを願うつもりもない。
この戦争がどのような結末に終わろうと、神父は地獄に落ちるのみと決めている。

『聖杯戦争を通して為すべきこと、か。
 ならば神父よ。余とお前がこうして出会ったのも、或いは主の御心故、かもしれんな』

その純粋過ぎる狂信にこそ、ヴラドは好意を抱いた。
それは一種の敬意であり、同族意識でもあった。

「主の御心がまだ向けられているというならそれはお前の方だろう、王よ」

アンデルセンもまた、そんなヴラドに敬意を抱いていた。


故に彼等はマスターとサーヴァントであり、王と従者である。


『……む』
「どうした、王よ」

なにかに気を留めた風な声を挙げたヴラドに、神父は意識をやった。
殺気は感じない――敵の物だけでなく、ヴラドのそれも。
ならば襲撃者に気付いたというわけではないだろう。

『神父よ。コンビニだ』
「……」

霊体化したヴラドが指差した(と思われる)先には、24時間営業のコンビニが建っていた。
店内では、丁度NPCらしき店員が棚の整理をしている。

ヴラドの意を察した神父は、迷わずコンビニに入店した。


412 : 国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり ◆ACfa2i33Dc :2014/08/10(日) 20:41:46 XNM6Yte60


『知識としてはあったが、便利だな。
 どのような時間でも開いている店とは』

十数分後。
パンや飲料水、牛乳を詰めたコンビニ袋を手に提げて道を歩く神父に、ヴラドは上機嫌で喋りかけていた。

「まぁ、助かりはした。
 土地柄コメしか売っていないのかとも思っていたが、そうでなかったのはありがたい話だ」

サーヴァントには食事は必要ない。
アンデルセンにしても既に食事はとっていたが、これからを思えば今買っておくに越したことはなかった。


神父とランサーがホテルを離れたのは、なにも街並みを見物するのが理由ではない。
これからの戦いにおける『領土』を作るためである。

ヴラドのスキル、『護国の鬼将』。
予め地脈を確保することにより領土とし、ヴラドを領主と定めるスキルである。
領土の内で戦う限り、ヴラドは狂戦士のサーヴァントが持つ最強度の狂化スキルと同等の戦闘力強化を手に入れることができるのだ。

故に神父とヴラドは、街の外れに領地を定めるべく行動している。
手っ取り早く領地を街中に定めなかった理由は簡単だ。

『余の宝具は街中で使うには剣呑すぎるからな』

【極刑王(カズィクル・ベイ)】――
己の領土の内に無数の杭を生み出し、敵対者を串刺しにするヴラドの宝具。
その領土の内では攻撃と防御、更に敵対者の退路を塞ぐ効果を兼ねる非常に強力な代物ではあるが、しかしそれ故に街中で使用するのは憚られる。
攻撃範囲は半径1Km、最大補足人数は666人。
領土の外ではその効力を失うため実際に市街地でそこまでの効果を発揮するかは不明瞭だが、NPCを巻き込む可能性は十分にある。
多数のNPCが存在するホテル内で使うなどもっての他だろう。


ついでに言えば、アンデルセンの勤める『役割』にも原因はあった。
孤児院の院長を務める神父――それがアンデルセンがこの聖杯戦争で割り当てられた役割である。
たとえNPCであろうとも、子供達を戦火に巻き込むような思考は神父にもヴラドにもない。

『とはいえ、何度も孤児院と拠点を行き来していれば他のマスターに勘付かれるだろうがな』
「それはこちらとしても望むところだろう? わざわざ死地へと踏み込んでくれるならば」

この場合警戒すべきは遠距離攻撃や範囲攻撃を持ったサーヴァントだろう。
如何に領地の中でのヴラドが強力であろうと、拠点ごと吹き飛ばされたり、圧倒的なアウトレンジから狙撃を受ければ不利は免れない。

その為にも、領地に籠るだけではなく孤児院での生活と街中での活動は必要だった。
こちらの脅威になる組を先んじて把握し、杯を託すに相応しい者を探す。
幸い、こちらは神父だ。マスターはともかく、NPC相手には悪い印象を与えるようなことはあるまい。

『ところで神父よ。聖杯を託すに相応しい者がいたとして、お前はどうするのだ?
 この聖杯戦争、最後に残るのが一組だけなのはわかっているだろう』
「それが絶対的に決まっている訳ではあるまい。他に方法があるならばそれを探す。
 俺を犠牲にしてそれが叶うならばそれでもいいだろう」
『聖杯を託すに足る者が見つかれば、お前はそいつの為に殉教すると?』
「無論だ。他に叶えるべきものがいるならば、俺の願いなど叶えられるべきではない。
 無論、お前をアーカードと戦わせ、吸血鬼の逸話を一掃するというお前の願いは叶ってもらわなければ困るがな」
『ならばその者のサーヴァントが望むなら、その者とお前でサーヴァントを交換するのが一番早いだろう。
 そのようなサーヴァントがいるかは疑わしいがな』
「最悪、俺とお前で勝ち残り、俺の願いと引き換えにそいつの願いを叶える。
 箱舟が運ぶべきなのは、俺などの魂よりもそいつだろうよ」


413 : 国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり ◆ACfa2i33Dc :2014/08/10(日) 20:42:17 XNM6Yte60


数刻の後。
アンデルセンの視野に写るのは、山の近くに建てられた廃教会だった。
元は純白であったろう壁は薄汚れ、蔦が這いずっている。
広大な庭は荒れ果て、元は整えられていたのだろう光景を余計に寂しいものに見せていた。

『――廃れた教会か。
 余とお前の領土としては、皮肉が効いているかもしれんな』

打ち捨てられ、見捨てられた教会。
その姿は、神に仕え、しかし神を信じるままに神より離れた存在となったアンデルセンとヴラドを象徴しているとも言えるかもしれなかった。

「俺とお前が打ち棄てられた教会ならば、あの女は正しい教会か?
 それこそ下らん皮肉だぞ、王よ」

だが、アンデルセンはそれを否定した。
アンデルセンが覚醒した時、現れた管理NPC――カレン・オルテンシア。
教会は彼女の管轄下のゾーンとして扱われている――アンデルセンが『教会の神父』という役割を割り振られなかったのもそのせいだろう。
本人曰く――『司祭代理』。
代理であろうと、女性が教会の司祭を務めるなど、本来有り得ないことだ。
しかしアンデルセンが彼女に思うものがある理由は、それではない。

「奴は神に仕えるのではなく、神に仕える自分に仕えている」
『陶酔していると?』
「違う。奴にとって仕えるに足る存在であるのならば、それが何であってもいいのだ。
 異教であろうと、それこそ聖杯であろうとな。
 奴にとって信仰とは、自らを安定させる手段に過ぎぬ。
 ――神の力に仕えるよりは好感は持てるがな。
 なにより、信仰の元がどうであれ、あの女が俺と同じ狂信者には変わるまい」

そう。“悪魔を狩る信仰者”という点において、カレン・オルテンシアの原型とアレクサンド・アンデルセンには変わりがない。
だからこそ、同じ狂信者であるアンデルセンの目には彼女と自分の違いが明らかなものとして写っている。

『だから気に食わぬ、と?』
「違うさ。同じ神を信仰する以上、同胞ではある。
 根こそ不安定だが、あの女の信仰は純粋だ。だが、主義は合わん」

それだけ言うと、アンデルセンはヴラドを教会の中へ入るように促してこう言った。

「『あなたは、祈るときには自分の奥まった部屋にはいりなさい。
 そして、戸をしめて、隠れた所におられるあなたの父に祈りなさい。』
 『そうすれば、隠れた所で見ておられるあなたの父が、あなたに報いてくださいます。』
 ――祈れ、王よ。俺にはその資格は無いが、お前が祈れば神も答えるかもしれん」


414 : 国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり ◆ACfa2i33Dc :2014/08/10(日) 20:43:56 XNM6Yte60
【D-9/廃教会/1日目 未明】

【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING】
[状態]健康
[令呪]残り二画
[装備]無数の銃剣
[道具]パンや牛乳、飲料水の入ったコンビニ袋
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を託すに足る者を探す。存在しないならば自らが聖杯を手に入れる。
1.ヴラドが領土を構築するのを待つ。
2.昼は孤児院、夜は廃教会(領土)を往復しながら、他の組に関する情報を手に入れる。
3.戦闘の際はできる限り領土へ誘い入れる。
[備考]
箱舟内での役職は『孤児院の院長を務める神父』のようです。
聖杯戦争について『何故この地を選んだか』という疑念を持っています。

【ランサー(ヴラド三世)@Fate/apocrypha】
[状態]健康
[装備]サーヴァントとしての装備
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を手に入れる。
1.廃教会に領土を構築する。
2.アンデルセンと情報収集を行う。アーチャーなどの広域破壊や遠距離狙撃を行えるサーヴァントを警戒。
3.聖杯を託すに足る者をアンデルセンが見出した場合は同盟を考えるが、聖杯を託すに足らぬ者に容赦するつもりはない。
[備考]
D-9に存在する廃教会にスキル『護国の鬼将』による領土を設定しようとしています。


415 : ◆ACfa2i33Dc :2014/08/10(日) 20:44:22 XNM6Yte60
以上、投下終了です。


416 : 名無しさん :2014/08/10(日) 21:05:35 a/7qbzfg0

ここでもやはりアンデルセンの役割は孤児院の神父だったか
そして同じ信仰者でもカレンとは微妙にソリが合わないときた


417 : 名無しさん :2014/08/10(日) 21:29:18 Xfyy.fwsO
投下乙です。

確かに、「聖杯」を騙っておきながらキリスト教がメインじゃない土地を設けるのは、よく分からんよな。
地球の聖杯戦争が冬木で行われてたから、それを再現してるんだろうけど。

しかし、異教徒が串刺しにされてる廃教会って怖ぇw


418 : 名無しさん :2014/08/10(日) 21:33:13 5tZgfQRM0
投下乙
コンビニで購入するアンデルセン神父想像すると
応対した店員さんが威圧感でびびりそうな図がまず思い浮かんだw


419 : 名無しさん :2014/08/11(月) 00:05:29 /GSr15Mk0
日本はクリスマスを祝い正月には神社を詣で葬式はお寺に出すという宗教ごった煮というか、国民のほとんどが無宗教
宗教に大して興味なかったり適当なので
もしかして宗教的空白地帯という意味合いもあったりして


420 : 名無しさん :2014/08/11(月) 00:29:54 P6qU/wIc0
投下乙〜
こうやってキリスト教っぽい雰囲気出せるというかいかにもな知識や言葉を動員できるのはすごいな
おおってなった


421 : ◆ITsbEg9y4Y :2014/08/11(月) 21:16:44 8Ki.9avk0
予約分、投下します。


422 : 落とし穴の底はこんな世界 ◆ITsbEg9y4Y :2014/08/11(月) 21:18:08 8Ki.9avk0
カレン・オルテンシアとの会話から数分後、テンカワ・アキトは自宅である食堂にて傷の手当を再び行っていた。
ふと視界を回すと、閑散とした趣だが、特に気にしたことはない。
月に来る前も、そこまで豪勢な生活を送ってはいなかった為、生きていければそれでいい。
加えて、状況によっては捨てる家なのだ。アキトとしてはその程度の感傷しか持っていない。

(……さてと、とりあえずは傷の手当を入念にしておかないとな)

戦闘後に巻いた包帯を再び取り替え、消毒も怠らない。
こまめな手当こそが戦場では役に立つのだ。
入念な手当のおかげか、痛みもほぼなくなった。
人も、機械も。肝心な時にガタガタでは困るし、十分な実力を発揮しない。
そして、一通りの手当を終え、アキトは脱いだ黒衣をハンガーにかける。
とりあえずの休息にとひいた安布団へといったん横になる。

(キレイ、か。あの神父の体術、予想以上だった)

思い返すのは最初に戦闘を行った言峰綺礼。
狂いのない正確な拳、銃弾を恐れぬ心、一足の間合いを神速で踏み越える脚力。
どれもが自分の経験を上回るものであり、到底は経験し得ないものだった。

(……これからの戦闘では注意しておかなくちゃな。キレイだけじゃない。
 他にも、あんなバケモノ染みた身体能力を持つ奴等がいるかもしれないんだ)

決して、自分の力を過信してはならない。最初の戦いで得た教訓を胸に、アキトは戒めを奥底へと仕舞いこんだ。
焦るな。冷静になれ。勝てる時は躊躇なく行動するが、今はその時ではない。
一歩でも踏み外せば、そこで終わるのだ。
心は憎しみの焔で焦がそうとも、戦技は氷のような冷たさで乗り切る。
その果てに願いを勝ち取るのだ。だから、ユリカを助けることもできず死ぬことだけは何としても避けねばならない。


423 : 落とし穴の底はこんな世界 ◆ITsbEg9y4Y :2014/08/11(月) 21:18:57 8Ki.9avk0

(とは言っても、規格外って言ったら俺もそのカテゴリーに入るのか。
 この能力、弄くり回された身体。はっ、常識なんて俺にもないか)

異常。それは、アキトとしては認めたくないが、自分もそのような言葉で片付けられる部類に入ってしまう。
A級ジャンパー、ブラックサレナのパイロット。
どれもが、普通とはかけ離れた異常だ。
普通であれば、のほほんと日々を過ごすであろう道とは違った血生臭い戦いの道。
そんな道を選んだことを後悔こそしていないが、思う所は多々ある。
決断した選択に対してありきたりな言葉を並べ、うだうだと考えてしまうのは気の迷いなのだろう。
その迷いを振り払い、戦うことを決めた自分には未だ優しさが残留しているのか。
復讐で彩った黒を身に纏い、前へと進むテンカワ・アキトには不要な要素だというのに。

(……考え過ぎだな。それにしても、戦いは速度というが、考えは改める必要がある。
 無用意に戦っていては俺の身体が保たない)

だからといって常に気を張って戦い続けるのは、アキトも限界を感じていた。
一回戦闘を起こしただけでこの身体は傷を負い、敵を取り逃がしてしまった。
無論、相手のサーヴァントにも多大なダメージを与えたのは成果とも言えるが、殺さなければ意味はないのだ。
勝てる戦いを落とすようではこの先の道はない。消耗した身体は容易く破られる。
故に、アキトは考えた。
どのように戦い、どのように生き残っていくか。
そして、幾重の思考を重ねた結果、下した結論は単純明快なものだった。

(同盟、か。少数より多数の方が戦闘は圧倒的に有利になる)

一人で戦うにはどうしても限界があることを、前の戦闘でアキトは悟った。
自分が使役するサーヴァントは確かに強力だ。
セイバーを相手に取り、完封するまでに戦えるのは評価に値する。
だが、それは一対一の場合だ。
複数で寄ってたかって襲われると、その限りではない。
ならば、そのディスアドバンテージを埋める為にも、同盟を組むのは愚策ではないはずだ。
少なくとも、ある程度の不可侵協定を結んでおくのはこちらの利益にもなる。
いつ破るか、破られるかはともかくとして孤独な戦いを続けるよりは効率がいい。
加えて、自分達だけでは殺しきれない相手を殺せるチャンスにも繋がる。
個人的には単独行動に慣れている為、そこまで積極性を持ちたくないが四の五の言っている余裕はなかった。
勝ち残るには、謀略も必要だ。

(できれば、聖杯を取ることを目的にしている奴等と手を組むのが好ましいが、どうするべきか。
 そんな奴が同盟を持ちかけても話を聞いてくれる保証はどこにもないぞ?
 聖杯を取ることを譲ってくれるような甘い奴等がいる訳もないし、厳しいか)

この世界にいる奴等は聖杯に願いを懸ける程、追い詰められている参加者ばかりだろう。
そんな心身共に余裕がない人間が、まともに取り合ってくれるだろうか。
否、先程の自分のように有無も言わずに襲ってくるに違いない。
長期的な戦を考え、理性的に物事を判断できる参加者が多ければいい。
しかし、前の自分のように過信が過ぎて目に映るモノ全てと戦おうとする者も決して少なくはないはずだ。


424 : 落とし穴の底はこんな世界 ◆ITsbEg9y4Y :2014/08/11(月) 21:19:45 8Ki.9avk0

(キレイには感謝しないとな。俺の過信を無くしてくれたんだから)

最初の戦闘が思いの外、自分の冷静さを取り戻していること気付き、アキトは口を釣り上げる。
もしも、あの時勝っていたら――きっと、自分は自滅していただろう。
消耗を厭わず、力押しで攻めることだけを考え、搦め手にひっかかっていた。
勝ちに行く為には、どんな手でも使うと決めたはずだ。
ならば、同盟も一つの手。生き残る手段の一つである。

(まあ、話すだけ話してみる価値はあると思おう。
 もっとも、クリアすべき条件は人間関係だけじゃないんだがな)

そして、もう一つの懸念は自分が連れているサーヴァントにある。
バーサーカー――ガッツ。飛躍的な能力を持つ最狂の英霊だ。
けれど、狂戦士の座にいるだけあって、誰かと協力して戦うには不向きである。
眼前の敵を屠ることに全神経を注いでいる彼と、他のサーヴァントがうまく連携を取れるとは思えない。
如何に能力が高くても、相性がある。相性が合わなければ、高い能力も宝の持ち腐れだ。

(それでも、前衛をこなせる俺達は後衛のサーヴァント――キャスター辺りにとっては同盟を組むには足るはず。
 後は、能力がそこまで高くないサーヴァントを連れているなら、壁役としても適任。
 組むにあたってはまずます。にべもなく断られることはないと考えたいが、希望が入りすぎかもしれないな)

ともかくとして、今は未明の戦闘の疲れと傷を癒やさなくてはならない。
もとより、人混みに混じることを険しいと断ずる体質なのだ、余程のことがない限りは控えるべきだろう。

(立ち止まることは――許さない。俺達は最後まで抗う。そう決めたんだ。この悩みもその一環として受け止めよう)

アキトの中にあった自分達だけで参加者全てを殺せるといった自信は、綺礼との戦闘で打ち砕かれた。
ここからは知恵を振り絞りながら戦っていかなければならない。
銃弾を躱し、規格外の身体能力を持った化物級の奴等としのぎを削るのだ、油断と慢心はもう捨てた。
慎重に、かつ躊躇なく攻めれる所は大胆に。

(外の光でも軽く浴びるか。疲れた頭をリフレッシュさせなくちゃな)

だから、せめて今だけは――何も考えず、外の光を浴びることを許して欲しい。


425 : 落とし穴の底はこんな世界 ◆ITsbEg9y4Y :2014/08/11(月) 21:20:25 8Ki.9avk0
       
            
       



   ■   ■   ■






「やぁ、春紀ちゃん」
「どもっ。はよざいます、アキトさん」

家である安アパートに帰ると、見慣れた顔の青年が隣の食堂前で黄昏れていた。
見た感じはのほほんとした温厚な青年――テンカワ・アキトといった名前だったか。
何でも、前は食堂を営んでいたらしいのだが、現在は交通事故による体の不調もあって休業中らしい。
外に出る時間帯も割と重なっていたが故に、記憶を取り戻す以前から交流があったのだろう。
挨拶を交わして軽く雑談をする程度には仲が深まっていると記憶には残っている。
一応、怪しまれぬよう今も変わらず交流こそ続けてはいるが、こうして普通の会話をしていると、なんとも言い難いものが胸にこみ上げてくる。

「なんだか、慌ただしく朝早く出て行ったけれど……何かあったのかい?」
「や、朝御飯の調達に行ってたんすよ。ほら、あたしってば食べ盛りなんで。朝食からしっかり食べる派ですし」
「羨ましいなあ、朝食をしっかりって結構辛いんだよね」
「駄目ですよ、ちゃんと食べないと。一日の活力は朝食からって言いますし」

Rockyを咥えながらシニカルに笑う春紀にアキトも釣られて薄く笑う。
どうやら、春紀がNPCの時は、昼は不定期にバイトをこなしながら定時制の高校に通っている設定だったらしい。
苦学生とは言っても、春紀は一応女子高校生という身分だ。
一人暮らしのうら若き乙女となれば、アキトに心配されてしまうのは、当然なのだろう。

「アキトさんこそどうしたんすか? 外に出て日光浴でもしてたりとか?」
「ま、正解かな。とりあえず、リハビリの前にちょっと休憩って感じ」
「そうなんですか。日光浴って植物みたいっすね」
「いやいや、これでいて結構大事なんだよ? 陽の光を浴びて気分を落ち着かせるって重要だって」

互いに下らない会話ではあるが、会話のボルテージは中々に盛り上がっていく。
この瞬間だけは、聖杯戦争を考えなくても済む。
そして、アキトは年上だ。これまで年下と接することが殆どだった春紀にとっては新鮮だ。
何と言っても、年上はある程度は頼りにすることができる安心感がある。
そういう意味で、春紀はアキトに感謝していた。


426 : 落とし穴の底はこんな世界 ◆ITsbEg9y4Y :2014/08/11(月) 21:21:24 8Ki.9avk0

「ともかく、身体のケアはしっかりとしなきゃ駄目だよ。春紀ちゃんは女の子なんだから」
「大丈夫っすよ、こう見えても身体の丈夫さにだけは自信があるんで」
「それでもさ。君はまだ若いんだ。休む時はきちんと休んで美味しいものを食べよう。
 そしたら、また頑張ればいいさ」
「ど、どうも」

偽りの隣人とはいえ、帰るべき日常を想起させてくれる彼は、突如この場で戦いが起ころうとも巻き込みたくない。
けれど、この人は電子で作られた人形だ。
ただ役割を与えられているに過ぎないノンプレイヤーキャラクター。
一日を精一杯生きているのに。
笑って、泣いて、怒って。人並みの感情を持ち合わせているのに。
全部が泡沫に消える軽いモノなのだ。
それが、春紀にはたまらなく悲しかった。

「なんだか、アキトさんって兄貴みたいですね。何て言うんでしょう、口煩い心配性の」
「え、ええっ。こう見えても、普通のことしか言ってないんだけどな」
「そういうところがですって。ともかく、ありがとうございます」

この会話も、作られたもの。予め決められたルーチンワーク。
違う、本物だ。例え、他者から偽物と認識されていようとも、心が弾む気持ちに間違いはない。
傍から見れば幸せな日常の一ページだというのに、何て虚しいものなんだと春紀は薄く笑った。

「あ、そうだ。これ、どうっすか?」
「これって、お菓子?」
「そうです。日光浴も大事ですけど、糖分も同じく大事だと思うんですけどね」
「……つまり、俺にくれるって訳?」
「や、どう考えてもそうですって。これでも食べて、リハビリ……頑張って下さいね」

こうして普通の人間と同じく接しているのも、感傷だろう。
Rockyを差し出され、驚いているアキトを見て面白そうに笑う自分も。
それを見て、オロオロとするアキトも。
どうしても、同じ人間にしか見えなかった。
片方は願いを叶える為に、人を殺すことを決めたろくでなしなのにもかかわらず、彼は屈託なく笑うのだ。

「ありがとう、春紀ちゃん」

こんなお礼、言われる資格はないというのに。
曖昧に笑ってごまかすことでしか乗り切れない自分が、嫌になった。






   ■   ■   ■






「――きっと、あたしは頼りになる人が欲しかったんだ」

春紀は部屋に戻った後、霊体化を解除した杏子に対して何気もなく呟いた。
もしゃもしゃとサンドイッチを食べながらも、彼女の口は饒舌だ。

「そういや、言ってったっけ。きょーだいは下のガキだけで、親も病気がち。
 頼れる奴はいねーって」
「まぁな。それでも、可愛いもんだぜ? おねーちゃんおねーちゃんって懐いてくるし」
「…………そーだな」

含む所があるのか、答えにはワンテンポ遅れた杏子だったが、突っ込むのは野暮というものだろう。
誰にでも触れられたくない部分はある。自分の場合は協力を願う為にもバラしたが、相手はバラすメリットがない。
ここで深みに突っ込んでも、関係が悪化するだけだろう。

「そんでさ。あたしって長女じゃん? 弟妹が笑顔でいるのに、あたしが挫けてたら……駄目だろ? 親も病気がちで頼れないし」

早く、社会に出て頑張らなければ。家族を護るのは自分しかいない。
その一心で暗殺業に手を染めていた春紀にとって、家族の前では気を張っていてばかりだった。
下手に悩んだり、苦しんでいる所を見られると、心配させてしまう。
優しい弟妹のことだ、きっと、自分を助けようと碌でもないことに手を出すかもしれない。
腐った外道行為に手を出すのは、春紀だけで十分だ。他の弟妹まで一緒に沈む必要はない。


427 : 落とし穴の底はこんな世界 ◆ITsbEg9y4Y :2014/08/11(月) 21:22:11 8Ki.9avk0

「だから、アキトさんってレアな人なんだよね。年上の男の人ってだけでも、貴重だし。
 家庭の事情とか暗殺業とか全部すっ飛ばして気軽に雑談できるってあたし、なかったから」
「へー、修羅場を潜り抜けてきたとは言っても、普通のジョシコーセーらしいじゃん」
「そうだな……あたしは普通とは違う生き方をしてきたし、しゃーないのかも。そんで、話の続きな。
 もし、あたしに兄貴がいたら……あんな人がよかったなって。考えても意味が無いってわかってるけれど、考えちまうんだ。
 大抵のことは笑って受け入れて、肝心な時はちゃんと助けてくれるような、そんな人がいてくれたらってね」

けれど、心の底では望んでいたのかもしれない。
春紀が思う存分頼れて、自分の事情を全部受け止めてくれる人の存在を。
元いた世界ではルームメイトだった犬飼伊介にも、きっとそれを見出していた。
屈託なく笑う彼女と接していて楽だったように。
自由という言葉を全身で体現している彼女が、羨ましかったのだ。

「伊介さまが姉貴だったり、アキトさんが兄貴だったりしてさ。
 あたしが悩んでる時は、相談乗ってくれんだよ。
 伊介さまはテキトーに聞いてるんだけど、何だかんだでアドバイスくれて。
 アキトさんだったら、あたし以上に真剣になってくれたりさ。
 なんつーか、年上って憧れるんだよ。あたしみてーなガキのやること全部受け止めてくれるだけで……嬉しいんだ」
「よーするに、お前は面倒事を全部投げっぱにして、自由に遊び回りたいだけじゃん」
「…………ノーコメント。これ以上吐き出したら、あたしは進めなくなっちまう」

本当に、人生とはままならない。
春紀は最後に吐き捨てるように呟いて、残ったハムサンドイッチを口へと押し込んだ。



【B-9/アパート(春紀の部屋)/一日目 早朝】

【寒河江春紀@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:ガントレット&ナックルガード、仕込みワイヤー付きシュシュ
[道具]:携帯電話(木片ストラップ付き)、マニキュア、Rocky、うんまい棒
[所持金]:貧困レベル
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く。一人ずつ着実に落としていく。
1.ひとまず、食事!
[備考]
ライダー(キリコ・キュービィー)のパラメーター及び宝具『棺たる鉄騎兵(スコープドッグ)』を確認済。
テンカワ・アキトとはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
春紀の住むアパートは天河食堂の横です。
定時制の高校(月海原に定時制があるかは不明、別の高校かもしれません)に通っています。
昼は不定期にバイトしているようです。バイトの内容は後続にお任せします。

【ランサー(佐倉杏子)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:多節槍
[道具]:Rocky、おにぎり、パン、ポテチ、チョコビ、ペットボトル
[思考・状況]
基本行動方針:寒河江春紀を守りつつ、色々たべものを食う。
1.春紀の護衛。 とりあえず、メシ!
[備考]
無し。


428 : 落とし穴の底はこんな世界 ◆ITsbEg9y4Y :2014/08/11(月) 21:22:42 8Ki.9avk0


【B-9/住宅街(天河食堂)/1日目 早朝】

【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、強い憎しみ
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ 、春紀からもらったRocky
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
1.次はなんとしても勝つために夜に向けて備えるが、慎重に行動。長期戦を考え、不利と判断したら即座に撤退。
2.下見したヤクザの事務所などから銃弾や武器を入手しておきたい。
3.五感の以上及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
4.同盟を組める相手がいるならば、組みたい。自分達だけで、全てを殺せるといった慢心はなくす。

[備考]
セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。
寒河江春紀とはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。

【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]健康
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
特になし。


429 : 落とし穴の底はこんな世界 ◆ITsbEg9y4Y :2014/08/11(月) 21:23:03 8Ki.9avk0
投下終了です。


430 : 名無しさん :2014/08/11(月) 21:31:56 Ky46Z3TY0
投下乙
プレイヤー同士のニアミスってのもいいね!
キャスターで同盟組めそうな相手はWほむ組かシアン桜辺りかなー?


431 : 名無しさん :2014/08/11(月) 21:34:40 kB/pLSaEO
投下乙です
顔見知りのお兄さんと殺し合いしなきゃいけないなんてな
悲しいなあ


432 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/11(月) 21:50:29 wD7FqxIM0
投下します。


433 : 伝説を呼ぶマジカル聖杯戦争! ◆IbPU6nWySo :2014/08/11(月) 21:51:31 wD7FqxIM0
「しんのすけ!こっちこっち」

集まっていた『かすかべ防衛隊』の風間トオル、ネネ、マサオ、ボーちゃん。
トオルがしんのすけに気づき声をかけたことで、残りのネネたちもしんのすけに振り返る。
彼らはしんのすけの知る『かすかべ防衛隊』のメンバーを模したNPCに過ぎない。
しかし、しんのすけは違和感すら覚えず、いつも通りに接している。

「どうしたの?皆、集まってぇ〜」

ボーちゃんが途切れ途切れの口調で話す。

「今日、あった火事。家から見えた」
「カジ?」
「しんのすけはニュース見てないのか?倉庫で原因不明の火災があったって奴!
 ボーちゃんの家の近くだったんだ」
「ほうほう、なるほど?もしかして犯人見たの?」
「犯人……見た!」

ボーちゃんが言うとさすがの全員が「えー!?」と口を揃えて叫ぶ。
が、周囲にいる先生や他の子供たちに怪しまれないように、慌てて固まってヒソヒソと話し合う。
マサオが震え声で

「ど、どんな人だった!?」

続いてネネが

「もしかしてテロリストって人じゃない!?」

割り込んでトオルが

「そっ、そもそも何で警察の人に話してないんだ、ボーちゃん!?」

最後にしんのすけが

「美人のおねいさんですか?」
「「「んな訳あるか!」」」

と、ボーちゃんを除く者が突っ込んだ後。
その当人がゆっくりと話す。

「多分、女の人!」
「おおー!これは『かすかべ防衛隊』の出番ですなー!!おねいさんを捕まえに行くんだゾ!!」
「ちょっ……ちょっと待てよ!ボーちゃん!本当に見たのか?犯人を!」
「見た!でも」
「「「「でも?」」」」

「空、飛んでた!」

空を飛んでいた……?

普通ならばありえないし、子供の迷い事だろうと大人は受け入れないだろう。
だが、しんのすけたち子供は純粋に受け入れる。
もし空を飛んでいる女性が実在するとすれば、きっとそれは――
ネネがパァッと顔を明るくして言う。

「ボーちゃん!それって魔法使いよ!!」
「そう、思う」
「すごーい!魔法使いって本当にいるのね!!」


434 : 名無しさん :2014/08/11(月) 21:52:47 P6qU/wIc0
投下乙!
アキトも春紀も普通の日常を送れれるならそうしたかったろうに、どっちもどうにもならない理由で家族のために殺す道を選んだんだよな……
なんてことのない会話なのに頼りになる人に憧れる春紀も、黒衣纏う前のようなアキトも、どっちも切ないな


435 : 伝説を呼ぶマジカル聖杯戦争! ◆IbPU6nWySo :2014/08/11(月) 21:53:14 wD7FqxIM0
魔法使いと聞いて何故か浮かれ顔するトオルは我に返って反論した。

「何かの見間違いってことは――」

しかし、マサオがそれを遮って

「でも悪い魔法使いって事だよね?火事起こしたんだよ??」
「もう!マサオ君、決めつけないでよ!もしかしたら悪い人と戦ってる魔法使いかもしれないじゃない!!」
「そうかもしれないけどぉ〜〜……」
「オラも魔法使いのおねいさんと会いたいから『かすかべ防衛隊』でおねいさんを探すゾ!」
「気になる、探そう」
「ネネも探す!!」
「あっ、待って、ぼ、ボクも……」
「僕も話に混ぜろよ!!!!」

シラを切らしたトオルが吠えると、全員が戸惑う。
一息ついて改めてトオルは皆に話した。

「火事のこともあるけど。最近、町が変だと思わないか?
 ニュースだと殺人事件や盗難事件…遠くでビルが倒壊したって話も聞いたんだ」

物騒な話を持ち出した為、マサオが顔を青くする。

「さつ、殺人!?本当なの!??」
「静かに!だから最近、先生たちも外に出るなって厳しいだろ?」
「言われてみればそうね…」
「オラはてっきり組長(園長)が裏で権力を広げているかと…」
「……しんのすけは黙ってろっ」
「…あっ、そういえばオラ。近所にいるおまわりさんからその話聞いたかも」
「本当かっ!?」
「聞きたい?」
「もったいぶらず教えてくれっ!」
「じ・つ・はぁ……」

トオルも事件に関心があった事から、こっそりと耳打ちしようとするしんのすけに
耳を傾けて真剣に聞こうと身構えていた。
周囲の『かすかべ防衛隊』も息を飲む。
…が、しんのすけは「フゥー」とトオルに耳を吹きかけただけであった。
耳の弱いトオルはへにゃへにゃになって倒れ込み、しばらく間を開けてからしんのすけに怒る。

「教えろよ!」
「いやぁーそれがあんまりお話してくれなかった」
「しかも情報ないのかよ!!」
「お、落ち着こう?風間君……」

怒り治まらないトオルをマサオが宥める中、ボーちゃんが淡々と言う。

「守秘義務」

そういえばとネネも思い出した。

「ドラマで見た事あるわ。警察の人って事件の事を話しちゃ駄目なんだって」


436 : 伝説を呼ぶマジカル聖杯戦争! ◆IbPU6nWySo :2014/08/11(月) 21:55:21 wD7FqxIM0
マサオも便乗するかのように「ボクも知ってる」と続けた。
守秘義務の意味を理解できないしんのすけは唸るだけ。
近所にいるおわまりさんこと足立にお願いすれば、ボーちゃんが見た魔法使いのおねいさんの情報は手に入るだろうか?
否。
あの頼りなさげな足立は知らないだろうとしんのすけは結論する。

「オラの知ってるおまわりさんは殺人犯こわぁーいってビビってるしぃ…おねいさんのこと知らなそう」
「そんな警察の人いるのか?しんのすけ」
「なんだかマサオ君みたーい」
「な、なんでボクなの!?」

それぞれが口々に言葉を並べ、ボーちゃんが最終的に問う。

「じゃあ、どうする?」

トオルが身を起こして、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。

「そこなんだ!そもそも僕たちが何なのか、忘れた訳じゃないだろ?」
「ボクたち…?」
「『かすかべ防衛隊』?」
「防衛隊だよ!町の平和を守る為の防衛隊じゃないか!!僕たちで出来る限りのことをしよう!」
「そ、そんなの警察の人にまかせようよぉ……」
「でも、あのおまわりさんにまかせてたら町の平和は永遠に訪れませんな」
「怖い事言わないでよ!しんちゃん〜〜〜〜!!!」


そして全員の情報をまとめる作業から始まった。
丁度、幼稚園ではお絵かきの時間となっており、絵を描くついでに
しんのすけたちは町の事件を絵としてまとめたのである。

まずは火事でボーちゃんが目撃した女性の魔法使いの件。
彼の目撃によると彼女は空を飛び、大きな旗を持っていたらしい。
これは火事により目を覚ましたボーちゃんが双眼鏡で周囲を確かめた際、目撃した事実である。
魔法使いならば杖ではないのか?
何故、旗なのか?
もしかしたら魔法使いではないのかもしれない。
そして彼女が火事の首謀者なのか?

次に足立も追っているであろう猟奇殺人事件。
具体的な被害は不明である。
その中には模倣犯もいるかもしれない。
子供であるしんのすけたちが一番関わってはいけない事件だ。
皆、それは承知しているらしく積極的ではなかった。

次は商店街で発生した盗難事件。
あちこちで盗難の被害があったが、現金は盗まれておらず
何故か食品類が大量に盗まれたらしい。
犯人は飢えていたのか?
また現金があれば食品だって買えるのに、現金を盗まなかったのは何故か?

最後はビルの倒壊。
倒壊したのは廃ビルであったことから老朽化による倒壊が一番の可能性だ。
しかし、故意の倒壊だった場合。何を意味するのか?


437 : 伝説を呼ぶマジカル聖杯戦争! ◆IbPU6nWySo :2014/08/11(月) 21:57:20 wD7FqxIM0

「よし!出来たぞ」

それらの情報をトオルが地図にしてまとめた。
彼の記憶の通り、それらの事件が発生した場所がハッキリと分かる。
殺人事件は場所が特定されていないことから印のようなものはないが十分であろう。
完成したそれにしんのすけたちは一種の感動を感じた。

「こうしてみると色々あったんですなぁ」
「感傷にふけるような発言するなっ、今も何か起こってるんだ」
「じゃあ、おねいさん探ししよう!風間君!!」
「僕は今日、塾があるんだ。英会話のね」

えー!?と驚愕と落胆の声をしんのすけたちが上げる。
ネネが続けて

「誘ってきた風間君の方が用事あるってどういうことよー!?」
「仕方ないだろ。それに今日計画立てて、明日、皆で探索しようと思ったんだ」
「ネネ、明日ママと一緒にご飯食べに行くつもりなのよ?」
「ボクも用事が……」
「みんな、明日が、忙しい」
「アラ!それじゃアタシと二人きりねっ♪」
「しんのすけと僕だけじゃ意味ないだろっ!!」
「えー」
「えー。じゃない!」

タイミングが合わないとなった以上、子供たちはやる気が削がれてしまった。
トオルも自分が持ちかけておいて止めようと掌を返したのだった。




その後しんのすけは外で会った女性NPCにナンパをしていた。
幼稚園児ながらのナンパで「何見てるの〜?」と聞いて見たところ、不思議な証言を得た。
映像は女性が撮ったものではなく彼女の友人がくれたものだという。
友人はどういう訳か記憶が曖昧で「いつの間にか映像があった」と言い、送ってきたらしい。

しんのすけが見た映像は
男性が二人喧嘩しているところを赤いコートを着た男性が割り込み制したといった内容だった。
赤いコートの男性がこちらを見た瞬間。映像は終わる。

魔法使いの女性、殺人事件、盗難事件、ビルの倒壊、喧嘩……そして、しんのすけだけが知るニンジャの存在。
あのニンジャは何故やってきたのだろう?
それは事件を関係があるのか?
しかし、しんのすけは子供だ。深くは考えられない。

「よし!決めたゾ!
 オラ、魔法使いのおねいさんが美人かどうか確かめる!!」

こうして、しんのすけの聖杯戦争が始まった。




【B-4/幼稚園/一日目 午前】

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]健康
[令呪]残り三画(腹部に刻まれている)
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]無一文、NPCの親に養われている
[思考・状況]
基本行動方針:普通の生活を送る。
1.ニンジャは呼べば来る……
2.魔法使いのおねいさん(ルーラー)を探す
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
※一日目・未明に発生した事件を把握しました。
※ルーラーについては旗を持った女性と認識しています。
※映像によりアーカードの姿を把握しましたが共にいたジョンス、れんげについては不明です。


438 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/11(月) 22:00:22 wD7FqxIM0
投下終了です。ご指摘等あればお願いします。


439 : 名無しさん :2014/08/11(月) 22:00:53 TB4mmjEg0
投下乙です
NPC視点からでも色々起きてるんだなって思った


440 : 名無しさん :2014/08/11(月) 22:04:11 Ky46Z3TY0
投下乙
しんのすけの周りのNPCは充実してんなw
この5歳児のルーラー探しは嵐を呼びそうだ


441 : 名無しさん :2014/08/11(月) 22:04:32 kB/pLSaEO
投下乙です
果たしてしんのすけはルーラーに会えるのか


442 : 名無しさん :2014/08/11(月) 22:05:48 P6qU/wIc0
投下お疲れ様でした
投下中に別作への感想で割り込んでしまい申し訳ありませんでした
まさかこのような形でしんのすけの聖杯戦争が始まるとは……
タイトルも込でまさに劇場版クレしんの序章という感じでした


443 : 名無しさん :2014/08/11(月) 22:07:53 wFEHtwWI0
投下乙です。
街の事件に関心を持つNPCとの交流を持ってるっていうのは、ささやかに優位な点だよね
しんちゃん知らず知らずのうちに戦争における小さなアドバンテージ抱えてる


444 : 名無しさん :2014/08/11(月) 22:26:03 vyBG.GKw0
投下乙です。
NPC時代の付き合いが聖杯戦争にも絡んできて面白い。
強力かつ無傷のガッツを持ち、慢心を捨てたアキト。
一話毎に強くなっていくのが楽しみです。
逆に大きな道筋を立ててない春紀はどうするのか。
こちらも目が離せませんね。

原作でも情報収集はフジキドの仲間の仕事。
フジキドに出来ない部分を補っていく良いパートナーになりそう。


445 : 名無しさん :2014/08/11(月) 22:56:23 TOp.cND20
>落とし穴の底はこんな世界
あああああ可愛いなぁ春紀ちゃん!!
頼れるお姉さんっぽいのに年上好き、誰かに甘えたいっていうね
ギャルゲなら即攻略対象ですよ

>伝説を呼ぶマジカル聖杯戦争!
臼井絵のアーカードとジャンヌ想像してしまった
クレしん最近見てなかったけどやっぱりかすかべ防衛隊の掛け合い面白いね
久しぶりに見たくなってきた


446 : 名無しさん :2014/08/12(火) 00:06:47 cg.2f5.sO
>落とし穴
春紀さん可愛いなあ
原作で伊介様に甘えた感じ出してたのも、家族を支える辛さから出てたっぽいよね
アキトと同盟組める展開来るといいのだけど

>マジカル
カスカベ防衛隊が動きだしたw
さっそくターゲットになるジャンヌちゃんに笑うw


447 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:27:14 P5bsvOwA0
これより予約分を投下します。


448 : diverging point ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:28:03 P5bsvOwA0


     01/ 予想外の遭遇


 ―――自分なりに、急いで走ってきたつもりだったが、
    どうやら、遅刻は確定したらしい―――。

 時刻は八時半ば……ごく一般的な、SHR(ショートホームルーム)開始時間。
 酸素を求めて喘ぐ息と、激しく跳ねまわる心臓をどうにか宥めながら、岸波白野は現在の状況にそう諦めた。
 なぜなら目の前には、鮮血のように紅い髪を靡かせる少女――ランサーの白い背中があり、
 その向こうには、しなやかに引き締まった肉体を青い戦装束に包んだ男――ランサーの姿があったからだ。


      †


 アーチャーと思われるサーヴァントの狙撃を振り切ってから、岸波白野はそのまま学校への道を急いでいた。
 理由は主に三つ。
 一つ目は、学生ならば学校に行くべきだ、という、NPCだったころの名残から。
 二つ目は、NPCの多い学校ならば、いきなり襲われることは低いだろうという保身から。
 三つ目は、もし学校にマスターがいた場合、同盟を組めるようなマスターがいるかもしれないという打算からだ。

 だが実のところ、自分が学校へと急いでいた理由は、先の光線によって生じた、もう一つの理由からだった。
 そしてその理由とは、

 先ほどからずっと騒ぎ続けているこの心を、どうにか紛らわせるため。

 というものだ。


 既視感(デジャヴ)、とでも言うのだろうか。
 あの戦法を……剣を矢とした狙撃を、自分は知らないはずなのに知っていると感じた。
 その理由、その心当たりが、自分には一つだけあった。

 自分の欠けた記憶。自分が取り戻そうとしている絆。
 月の聖杯戦争において、岸波白野とともに戦い続けてくれた掛け替えのない存在。
 あのサーヴァントが、一向に思い出すことの出来ないその「 (くうはく)」ならば、この既視感は解決されるのだ。

 …………だがしかし、それは同時に、この聖杯戦争において岸波白野は、その掛け替えのない存在と殺し合わなければならない、という事でもあるのだ。

 ――――――――。
 その事実から、堪らず目を背ける。
 背けるために、一心不乱に走り続けている。

 ………なのにこの心は、気が付けば、あのサーヴァントの事を考えている。
 その残酷な事実を、まっすぐに見つめようとしている。
 目を背けるな、と訴え続けている。
 それは何故――――


「――――マスター!」

 ランサーのその声に我に返り、咄嗟に脚を止める。
 乱れた息を整えつつ前を向けば、いつの間にか実体化した彼女が、前方を鋭く睨み付けていた。
 その視線が指す方へと顔を向ければ、そこには青い戦装束の男――サーヴァントだと即座に理解する。

 彼を見て自分が最初に思ったことは、ああ、これは完全に遅刻だな、というものだった。
 次に、そのサーヴァントの事に関して考えを巡らせる。
―――欠けた記憶から、その情報を拾い上げる。

 クラス、ランサー。真名、クー・フーリン。
 月の聖杯戦争において、遠坂凛のサーヴァントだった英霊だ。

 それを思い出すと同時に、一気に精神の糸が引き締まる。
 あのサーヴァントは、間違いなく強敵だ。
 その一撃必殺の宝具、ゲイ・ボルクを使われては、間違いなくランサーは倒される。
 戦うのであれば、その一撃だけは避けなければならない。

 ……だが待て、何か様子がおかしい気がする。
 ふとそう思い、改めて相手のランサーの姿を確認する。


449 : diverging point ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:28:51 P5bsvOwA0

「……………………」
 こちらの様子を窺っているのか、相手のランサーは沈黙している。
 だがその顔からは、どこか憔悴しているような様子が見て取れた。
 それに何より、彼の象徴である赤い槍を、彼はその手に握っていなかった。
 それで気か付いた。おそらく彼は、戦うために姿を現したのではないのだと。
 そんなランサーに対し、自分は―――


   サーヴァントは敵だ。彼にその気がなくても、この場で倒すべきだ。
   罠かもしれない。彼の思惑がわからない以上、ここは警戒して逃げるべきだ。
  >その行動の理由が気になる。敵対する意思がないのなら、話を聞いてみるべきだ。


「え、こ、子ブタ!?」

 ランサーの前へと、一歩足を踏み出す。
 ランサーは驚いた顔をするが、それは相手のランサーも同じだ。
 当然だろう。普通に考えれば、危険に身を晒したも同然なのだから。
 だが、きっと彼は攻撃してこない。
 彼に関する記憶があったからなのか、そんな確信が不思議とあった。

 故に彼をまっすぐに見つめ返し、問いを投げかけた。
 ―――なぜ、武器を構えていないのか、と。

「………へ。和平の使者は、槍を持たないってな」
 それに対し相手のランサーは、張り詰めた空気を解き解す様に小さく笑い、そう返答した。

 和平の使者?
 それは一体、どういう意味なのだろう。

「おいマスター、もう出てきても大丈夫だぜ。こいつ等は信用できる」

 岸波白野がそう首を傾げていると、相手のランサーは背後の物陰へと声をかけた。
 その声に応じて物陰から姿を現す、小さな少女。

「え、うそ!」
 ランサーが驚きに声を上げ、自分も同じように目を見張る。
 それも当然だ。現れた少女の風貌は、初対面でありながらあまりにも見覚えがあった。

 ―――遠坂……凛!?
 と。驚きのあまり、思わずその名を口にする。
 すると当然、今度は少女たちの方が驚いた顔を見せた。

「え? あなた、どうしてわたしの事を知ってるの?」

 疑念が確信に至る。
 この少女は、間違いなく遠坂凛なのだと。

「こりゃあ、厄介な連中を引き当てちまったかもしれねえな」

 相手のランサーの呟きが、緋に照らされた路上に静かに響き渡った。


     02/ 同盟締結


 ―――私に勝利を捧げなさい、と少女は言った。
 そのためなら、苦しいことも痛いことも、何だって我慢する、と。

 覚悟と決意を秘めたその言葉に、ランサーもまた覚悟を決めた。
 そのために己が望み――心ゆく戦いと、戦士としての誇りを封じることを。

 ガキはガキらしくしといた方がいい、と己は言った。
 だが目の前の少女にはもはや子供らしさなど垣間見えなかった。
 そうさせたのは己だ。己の不甲斐なさが、少女を子供でいられなくさせたのだ。

 ならば己も、それ相応のものを差し出さねばならない。
 それが自身の願いと誇り。
 たとえそれがどのような命令であっても、少女がそう命じたのなら、全力を尽くしてそれに従うと誓ったのだ。


「マスター。アンタには今、四つの道がある」

 故に、ランサーは己がマスターへと道を指し示す。
 自分たちがこの状況を打破し、聖杯戦争に勝利するための指針を。

「四つの道?」
「ああ、そうだ。
 まず前提として、オレ達は日が変わるまでに足立透とキャスターを殺さなきゃならねえ。
 令呪で縛られている以上、こいつは基本的に絶対だ」
「……ころ……す………」


450 : diverging point ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:29:24 P5bsvOwA0

 ランサーの言葉に、少女は息を呑む。
 それも当然だろう。覚悟を決めたといっても、少女は人としても魔術師としてもまだまだ未熟。
 親しい者の「死」こそ経験したが、他者を己が手で殺めることなどまず想像に至らない。
 だがランサーは、敢えて少女の様子に構わず言葉を続ける。

「しかし、だ。オレ達はどっちも、最初の戦い……あれを戦いとは言いたくねえが……とにかくあのライダーのせいで、魔力がほぼ枯渇している。
 こんな状態じゃあ、アサシンの時のようにまともな戦闘にはならねぇ。それは理解できるな」
「――――――――」

 一瞬顔を赤く染めた少女は、すぐに頭を振って顔を引き締め、ランサーの言葉に肯く。
 先ほどから体に残る倦怠感は、魔力が足りていない証拠だ。
 いくら聖杯の補助を受け、サーヴァントの維持に問題はないといっても、その回復にはマスターの魔力が必要となる。
 しかし今の自分達は、その肝心な魔力が圧倒的に不足している。こんな状態では魔力の回復など到底覚束ず、現状維持が精一杯だ。

「故に、今のオレ達に残された選択肢は、大きく分けて四つしかない」
 ランサーの言葉に、少女は顔だけでなく心も引き締める。
 それを待って、ランサーは少女へと道を示した。

「一つ。二画目の令呪を使って、令呪による縛りを打ち消す。
 これが最も簡単で安全な手段で、当面の危機も避けられはする。
 だが同時に切り札を一つ失うことになり、加えてあのアサシンが再び襲って来る可能性も高い。
 二つ。NPCを襲い、その魂を喰らう事で魔力を回復する。いわゆる魂喰いだな。
 ただ魔力を回復するだけなら一番手っ取り早い方法だが、同時にルーラーや他のサーヴァントに目を付けられる可能性もある。
 三つ。オレ達がそうされたように、他のサーヴァントのマスターを人質に取る。
 それが出来れば、あのアサシンとは条件を対等に出来る。アサシンのマスターを捕まえられればなお良しだ。
 ただし、残された時間でマスターを見つけ出し、サーヴァントの守りを掻い潜った上で捕まえる必要がある。
 四つ。他のマスターに、協力を願い出る。
 もし運よく協力を得られれば、キャスターを倒すことや、アサシンに一矢報いることが出来るかもしれねえ」

 二つ目、三つ目の選択肢に顔を青ざめさせていた少女は、四つ目の選択肢を聞いて僅かに表情を明るくする。
 覚悟を決めたとは言っても、やはり非道な手段は執りたくないのだろう。
 だがその仄かな期待を、ランサーはザッパリと切って捨てる。

「ただし、協力を得られなかった場合、今のオレ達はいいカモだ。
 良くてその場で殺されて、悪けりゃアサシンの時のようにいいように使われるだけだ。
 そして、聖杯戦争に参加している以上、大半のマスターは聖杯を狙う敵同士だ。
 弱ったオレ達に手を貸してくれるようなお人好しは、そうそういる筈がねえ」

 ランサーが思い出すのは、自分が知る遠坂凛の恋人であり、セイバーのマスターであった少年、衛宮士郎だ。
 もしこの場に彼がいれば、一も似もなく協力してくれたであろうことは、想像に難くない。
 だが彼ほどのお人好しなどそうそういるはずがないし、そもそもそんな人物を探している余裕はない。

「っ………!」
 その無情な言葉を聞いて、少女は再び息を呑む。
 二つ目と三つ目が非道なら、四つ目はもはや道ですらない。
 周り全員が敵という状況で、よく知りもしない他人に自分の命を預ける。
 それが自殺行為であることくらいは、少女にも理解できる。ただその事に思い至ったという明けの事だ。

「さあマスター、道は示したぜ。四つの内、どれを選ぶかはアンタ次第だ。たとえどれを選ぼうと、オレはその選択に従う」
 ランサーとしては四つ目の選択が一番好ましいが、この選択はほぼ一発勝負。最初に遭遇するマスターに賭けるしかない。
 そして何より、どの道を選ぶかはマスターである少女だ。彼女に従うと決めた以上、己はその選択を待つだけだ。

「わ、わたしは……」
 少女は戸惑い、思わずその手に刻まれた令呪を見つめる。

 一つ目の選択肢、令呪の行使。
 残り二画となったそれを使えば、当面の危機は避けられる。
 だがそれは結局、ランサーが言ったように一時凌ぎでしかない。
 どうにかして対策を練らない限りは、再び追いつめられるだけだろう。

 ならば残された選択は、二つ目か三つ目、あるいは四つ目だ。
 無関係な他者を犠牲にする道か、まずあり得ない可能性に賭ける道。
 自分達が勝つためには、そのどちらかを選ぶしかない。

 残された四つの道のどれを選ぶのか。
 僅かな逡巡の後、少女――遠坂凛は令呪から視線を放し、まっすぐにランサーを見つめ、答えた。


451 : diverging point ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:30:03 P5bsvOwA0


      †


 そうして現在、遠坂凛は岸波白野とともに遠坂邸へと戻っていた。

 そう。少女が選んだのは四つ目の選択肢――最も可能性の低いとされた、協力の道だった。
 彼女は遠坂の魔術師として、逃げることも、外道に堕ちることも、アサシンと同じ方法をとることも嫌った。
 故に少女は、残された四つ目の道を選んだ。
 縁(えん)も縁(ゆかり)もない全くの他人に、己が命運を預けることを選んだのだ。
 その結果として、少女は少年と相対するに至った。

 彼らも自分たちの状態を多少は察しているはずだ。その上で彼等はこちらの誘いに応じてくれた。
 なら、後はどうにかして、彼らの協力を得るだけだ。
 そのために少女は、少年を自らの拠点へと招き入れた。



「それで、なんでアンタは私の名前を知ってんの?」
 目の前に座る少年へと向けて、わたしはそう質問する。

 わたしが姿を現した瞬間、彼とそのサーヴァントは驚きに目を見開き、そしてわたしの名前を口にしたのだ。
 もちろん名乗った覚えはないし、わたし達は初対面のはずだ。
 だが少年は、精確にわたしの名前を言い当ててきたのだ。何かあると考えるのが当然だろう。

 それに少年は深く逡巡した後、こう質問を返してきた。
 ―――“月の聖杯戦争”を知っているか? と。

「月の聖杯戦争? それってこの聖杯戦争の事じゃないの?」
「いいや、違うぜマスター。この聖杯戦争は“月を望む聖杯戦争”。坊主の口にした聖杯戦争とは別物だ。そうだろ、坊主」

 ランサーの言葉に、少年が肯く。
 ムーン・セルによって作られた霊子虚構世界――SE.RA.PH.で行われる、128人のマスターによってトーナメント方式で行われる聖杯戦争。それが“月の聖杯戦争”だと。
 そして続けて、そこで自分は、“遠坂凛”と出会ったのだ、と彼は口にした。

「ちょっと待って。それってどういう意味よ。わたしが聖杯戦争に参加したのは、これが初めてのはずよ?
 っていうかそれってつまり、アンタは前にも聖杯戦争を経験してるってことよね?
 いえそもそも、箱舟じゃなくて月の方でも聖杯戦争があったっていうの?」

 少年の言葉に混乱する。
 わたしと出会ったという事もそうだが、月でも聖杯戦争があって、それに彼が参加していたという事実に理解が追い付かない。
 だがランサーは、その混乱を軽く笑い飛ばした。

「それは些細なことだぜ、マスター。
 確かにその“月の聖杯戦争”とやらは気になるが、今重要なのは、坊主が俺たちに協力してくれるかどうか、だ」
「あ。そ、そうよね。確かに後回しにするべきだったわ。ありがとうランサー。
 それじゃあ単刀直入に聞くけど、白野、私たちに協力してくれないかしら?」

 その、あまりにもストレートなわたしの要求に、少年は思わず目を見開く。
 そしてどういう意味か、と警戒を籠めて聞き返してきた。

「簡単な話だ。全く以て情けないことに、オレ達は今、早くも切羽詰ってんだわ。
 その状況をどうにかするために、坊主たちの力を借りてえんだよ」
「そういうこと。私が払える代償なら、何でも払うわ。なんなら残りの令呪を全部あげてもいい。

 その言葉に少年が再び目を見開き、本気か? と聞いてくる。

「ええ、もちろん。この状況を切り抜けられなきゃ、どのみち後がないもの」

 それに即座にそう答える。
 後がないのは本当だ。わたし達は今、どうしようもないほどの窮地にいる。なりふり構っている余裕はないのだ。
 すると少年は思案するように若干俯き、どうする? と自分のサーヴァントへと問いかけた。

「どっちでもいいわよ、私は。マスターが望む通りにしたらいいわ」

 彼女がそう答えると、よし、わかった。協力しよう。と彼は口にした。

「へ? え、ええ? ほ、本当にいいの? そんなに簡単に? 」
 少年があっさりと了承してくれたことに戸惑い、思わずそう聞き返す。
 だが少年は、ああ、もちろん。と、当然のように頷いた。加えて、代償もいらない、とも。

「ちょ、ちょっと! 何の借りもなしに協力してもらうだなんて、流石にそれはだめよ!」
「別にいいんじゃねえの? 相手がそれでいいって言ってんだから」
「それじゃわたしの気が済まないのよ! 魔術の基本は等価交換。これでも遠坂の魔術師なんだから、そんな借りは作りたくないの!」


452 : diverging point ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:31:14 P5bsvOwA0

 そんな風にランサーと言い争っていると、少年がある提案をしてきた。
 それなら、凛たちの事情が終わったらでいいから、協力して欲しいことがある、と。
 その言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。
 お互いに協力し合うのであれば、一応釣り合いは取れるだろう。
 ……現状では、どう考えてもわたし達の方が重いのが難点だが。

 そう思っていると、そうだ、何かを思いついたように少年が声をかけてきた。
 なんと、いっそのこと、同盟を結ばないか? と、提案してきたのだ。

「同盟?」
 そう訊き返すと、少年は頷いた。
 自分たちの目的は聖杯じゃない。なら、最後まで協力することも出来んじゃないか? と。

 聖杯が目的ではない。
 確かにそれなら、“最後”までは協力することもできるだろう。
 だがしかし、この同盟には、その最後のところに問題がある。
 わたし達の目的は聖杯だ。
 つまりわたし達は、他のサーヴァントをすべて倒さなければならない、という事だ。
 そこには当然、彼のサーヴァントの事も含まれている。
 そしてサーヴァントを倒すという事は同時に……あまり深く考えてなかったが、マスターを殺す、という事でもある。

「それでもいいの? 結局、最後には殺し合うのよ? 私たち」

 その言葉に少年は、ああ、と潔く頷いた。
 その時はお互い、全力で戦おう、と。

 そのあまりの潔さに、思わず息を呑んだ。
 そして同時に理解した。彼は本当に、聖杯戦争を経験していたのだと。
 自分の望みのために誰かを殺す。その覚悟の重さを、彼はわたし以上に理解しているのだと。

 そう。彼は聖杯戦争を知っている。
 つまり彼は、今のわたしにとって最高の師になり得るのだ。
 ならば彼の戦いぶりをこの目に焼き付け、その経験を自身の力に変えて見せよう。

「わかったわ。これからよろしくね、白野」

 そんな思いとともに、遠坂凛は右手を差し出し、岸波白野とその手を結んだのだった。


     03/ 凜の決断(致命傷)


 ―――遠坂凛に協力する。
 岸波白野には、その事自体に対する否はなかった。

 あったのは僅かな迷い。
 自分が知る“遠坂凛”と彼女は、おそらくは別人だ。
 だが同時に、どちらも紛れもなく“遠坂凛”なのだとも理解していた。
 だからこそ迷いがあった。

 欠けた記憶から、その情報を拾い上げる。

 遠坂凛とラニ=Ⅷ。
 自分がまだ何も知らないマスターだったころ、この二人の少女が自分を助けてくれた。
 いや、最初だけじゃない。聖杯戦争中も、月の裏側でも、彼女たちはいつも自分を助けてくれた。
 彼女たちがいなければ、間違いなく今の自分は存在しなかっただろう。

 ……だが聖杯戦争は、たった一組の生き残りを決める戦いだ。
 岸波白野がここにこうしているという事は、自分は彼女達を倒した、という事になるのだ。
 ……いや、どちらか一方を助けた記憶はある。だが、彼女たちのどっちを助けたのか。その記憶は自分の中から欠け落ちていた。
 もし自分がラニを助けていたのなら、遠坂凛はおそらく自分が倒したのだろう。

 それが迷いの正体だ。
 一度相手を殺しておきながら、あっさりと手を組もうとする虫の良さ。
 それが岸波白野に若干の迷いを残していた。


 その迷いを踏まえた上で、岸波白野は遠坂凛の手を取った。

 聖杯戦争の初め、利などなにもなかったはずなのに、“遠坂凛”は何度も自分を助けてくれた。
 いずれ殺し合うと解っていながら、自分に力を貸してくれた。
 そんな彼女と同じように。
 表側でも裏側でも、いつも自分を助けてくれた彼女の代わりに、
 今度は自分が、彼女と同じ存在である目の前の少女を助けよう。
 そう思ったのだ。

 ―――たとえその最後で、再び殺し合うことになるのだとしても。


453 : diverging point ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:32:17 P5bsvOwA0



 ―――それじゃあ、状況を説明して欲しい。
 正式に味方となった少女へと向けて、そう質問を投げかける。

 それがどんなに些細なものであれ、情報は重要なものだ。
 ほんの小さな違和感から相手の真名に思い至ることなど、聖杯戦争においては少なくない。
 それを受けて凜は、しっかりと頷いて、自身の状況を説明した。

「私たちは聖杯戦争が始まってすぐ、あるサーヴァント――ライダーと遭遇したの。
 それで、その……えっと……」

 だがすぐに顔を赤らめ、もじもじと言い淀んでしまう。
 それを見た相手のランサーが、頭をガシガシと掻いた後、彼女に変わって説明を始めた。

「とにかく、オレ達は一度、ライダーのサーヴァントと接触した。
 そのライダー自身は決して強くはなかった。むしろマスターの方がサーヴァントレベルで強いとオレは思ったぜ。
 だがそれを補って余り有るほど、アイツのスキルは厄介だった。そのせいでオレ達は二人とも、魔力をほとんど奪われちまった」

 ランサーの説明に、ゴクリと喉を鳴らす。
 魔力枯渇。その恐ろしさは、聖杯戦争中に身に染みて理解している。
 ランサーが憔悴していたのも、それが理由なのだろう。
 しかしこのランサーを、ただのスキルのみでここまで追い込むサーヴァントなど想像も付かない。

「だが、問題はここからだ。
 オレ達はどうにかそのライダーから撤退したんだが、そこをアサシンにつけられちまったみたいでな。
 籠城準備を整える前に、アサシンが襲撃してきやがった。しかも魔力の不足したオレはまともな戦いもできず、一瞬の隙にマスターを人質にとられちまってな。
 その結果、オレは令呪の縛りを受けちまったわけさ。全く、情けねえ話だぜ、ホントによ」

 令呪の縛り?

「ああ、マスターの命と交換条件でな。
 『日が変わるまでに足立透かそのキャスターを殺せ。出来なければ自害しろ』だとよ」

 なるほど。それで凜は協力を申し出て、交換条件に残りの令呪を、と口にしたのか。

 彼女たちは今魔力が枯渇している。まともな戦いなどできるわけがない。
 だが令呪で縛られている以上、彼女たちはキャスターと戦うか、更なる令呪を以てその縛りを破るしかない。
 となると必然、その命令に従うにしても、逆らうにしても、令呪の行使は避けられないだろう。

「そういうこと。
 どちらにしても後がないのなら、出し惜しみをしている余裕はないでしょ?
 もちろん、令呪の受け渡しはキャスターを倒した後のつもりだったけどね」


 ―――一ふむ、と考えを巡らせる。

 聞いた限りでは、彼女たちには本当に余裕がない。
 まず懸念事項が一つある。
 それはランサーに課せられた令呪の内容。その『足立透とそのキャスターを殺せ』という部分だ。
 もし仮に、そのキャスターが他のサーヴァントに殺されてしまえば、凛たちはその命令を果たせなくなり、令呪による解呪が必須となる可能性がある。
 つまり令呪を用いない解呪を試みるのなら、彼女たち自身の手による撃破が必須条件となるのだ。
 しかもこんな消耗しきった状態のまま、ほぼ無傷であろうサーヴァントを相手に、あと約半日以内に、だ。

 いかにランサーが一撃必殺に長けた英霊とはいえ、それは困難を極める。
 加えて相手はキャスター。知略と篭城に長けた、防性のサーヴァントだ。
 唯一の幸いは、聖杯戦争が始まってまだ間もないため、陣地が完成している可能性が低いことぐらいだろう。
 となると必要なのは、相手を陣地から引き出す手段か、陣地そのものを無意味とさせる広域に及ぶ破壊力だ。
 しかし魔力の枯渇した今のランサーに、それは望むべくもない。


 ……だがそれは凜のランサーの場合の話だ。
 岸波白野のランサーの場合、どちらとも問題ではない。
 ランサーの対魔力はAランク。キャスターとはこの上なく相性がいい。
 それに加えて、宝具である“竜鳴雷声(キレンツ・サカーニィ)”を使えば、陣地を破壊、とまではいかなくても、亀裂を入れ歪めることくらいは出来るだろう。
 そうすればキャスターは、まともに機能しない陣地を破棄するか、籠り続けたとしても十分な支援は受けられなくなり、相手の地の利を一つ潰せる。
 可能であればより高威力の“鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)”を使いたいところだが、こちらは城の召喚にランサーの血を多量に必要とする。先制で使うには条件が厳しすぎる。


454 : diverging point ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:35:52 P5bsvOwA0

 それに、仮に周辺に一般市民――NPCがいたとしても問題はない。
 おそらくランサーの魔声なら、通常のNPC程度なら催眠誘導できるだろう。
 ―――そうだよな、エリザ。

「え!? も、もちろんその程度は可能よ。でも今私の事なんて呼んだの? エリザって呼んだのかしら!?」

 ? 確かにランサーをエリザと呼んだが、何か問題があっただろうか。
 凜のサーヴァントも同じランサーだ。同盟を組んだ以上、混乱を避けるためにも呼び分けた方がいいと思ったのだが。
 ……ああ、それとも真名がばれることの心配をしているのだろうか。
 確かにその危険性はあるが、サーヴァントとしてのランサーは生前とは懸け離れている。愛称程度なら問題ないだろうと思ったのだが……。
 ランサーが気にするのなら、やはりクラス名で呼んだ方がいいのだろうと思い、彼女へと謝罪する。
 ―――そうだな。ごめん、迂闊だった、ランサー。

「そそ、そんな! 謝る必要なんてないわよ子ブタ。いえ、むしろ呼んで! 親愛を籠めて、私の名前を高らかに呼んでー!!」

 …………よくわからないが。
 ランサーがそう呼んでほしいと言うのなら、これからも彼女の事はエリザと呼ぶことにしよう。


 とまあそういう訳で、キャスターの陣地に攻める分には問題ない。
 あとは凜たちの魔力問題の解決方法だけど………ってどうしたんだ、二人とも?

「はえ〜………」
「ほう。たったあれだけの情報で、そこまで作戦を練れるとは驚いたぜ。
 こりゃあ見かけによらず、なかなかの強敵になりそうだな、マスター」

 凜は呆けたように岸波白野を見つめ、ランサーは感心したように笑っている。
 そんなに驚くようなことだろうか。自分のような弱いマスターが勝ち残るには、これくらいは出来なければならなかった、というだけの事なのだが。

「だからそれがスゲェんだよ坊主。やるべき事をきっちりやり遂げるってのは、意外と難しいもんなんだぜ?
 ま、それはそれとしてだ。
 オレ達の魔力回復の方法だが、坊主が協力してくれるんなら、方法がない訳じゃねぇ」
「ランサー、それ本当?」
「ああ。坊主とマスターの間にパスを通して、チョイと魔力を拝借すればいいだけの事だからな。
 マスターの魔力が回復するまでは坊主に負担をかけちまうが、ある程度回復すれば、むしろ坊主の助けになるだろうぜ。
 練度はともかく、魔術回路の質だけなら、今のマスターでの十分以上だからな」

 なるほど。岸波白野が知る“遠坂凛”は、確かに凄腕の魔術師(ウィザード)だった。
 ならば同じ存在であるこの遠坂凛が、同レベルの素養を持っていても当然だろう。

「そう。なら早くそのパスっていうのを―――」
「ただし、この方法にはちょっとばかし問題があんだよ」

 凜の言葉を遮って、ランサーはそう言葉を続けた。

「問題? 問題ってどんなのよ」
「いや、なんつうか、そのな。さすがにマスターがガキ過ぎんだよ」
「む。なによ、わたしが子供だと何がいけないのよ」
 ランサーの言葉に、凛は不思議そうに首を傾げる。

 その様子を見て、ふと思い出す。
 ユリウスとの戦いで岸波白野とのラインを絶たれ、「 」が魔力枯渇に陥った時、一体どのようにそれを解決したのかを。

 あの時はたしか、割込回路(バイパス)を使って凜……それともラニだったか? ……と「 」が仮契約を結んだのだ。
 その際彼女は「 」と保健室に籠って、魔力を供給するための儀式をしていた。
 結局何が行われていたのかを確認することは出来なかったが―――
 あの時見えた細い足……それにあの甘い香り……一体、保健室で何をしていたというのだろう。

 そんな疑問が鎌首を上げ、ついランサーに問いかけてしまった。
 ―――ランサー。一体、どうやってラインを結ぶんだ?

「パスの通し方はいくつかあるんだが、即効性があって魔力の融通が可能な方法はそう多くはねえ。
 その内で一番有効なのは、魔術回路をお互いに移植することなんだが、この方法だと現状唯一と言っていいマスターの武器を削ることになっちまう。
 それじゃあ本末転倒だ。他にも手札になるモノがあれば良かったんだが、今のマスターには望むべくもねえからな」


455 : diverging point ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:36:35 P5bsvOwA0

 ランサーの言葉に肯く。
 確かに凛はまだ子供だ。“遠坂凛”のような、卓越した魔術を使うことは出来ないだろう。
 だがそれでも、魔術師としては今の岸波白野よりも優れているだろうことは想像が付く。
 その数少ない取り柄を捨てるなど、現状では自殺行為にも等しい。

「あとはマスターの魔術刻印の一部を移植して、受信装置にするっつう方法もあるが、同じ理由でこれも却下だ」
「そうね。私に受け継がれている遠坂の魔術刻印は、全体の一割だけ。すぐに使えるのは初等呪術の“ガンド”くらいかな?
 けどこれ以上刻印が少なくなると、今の私じゃそれも難しくなると思う」
「となると、オレが知る限りで、即効でパスを通せる確実な方法は一つだけしかない。
 マスターと坊主の精神を同調させて、二人の間に直接霊脈を繋ぐっつう方法だ」

 自分と凜の間に霊脈を繋ぐ? それは一体どうやって。

「まあぶっちゃけ、ヤるんだよ」
「やる?」
「性行為って言えばわかるか?」

 ぶっ…………!!????
「せ、せっ――、せぇ―――ッ!?」
「あわ、あわわ、あわわわわ………!」

 なんと! あの時の保健室ではそんな事が行われていたのか!
 というか凛。ちゃんと意味が解っているのだろうか。だとしたら単なる耳年増なのか、それとも魔術師としての教養の一つなのか、少し気になるところだ。
 それにエリザも。いくら最盛期の姿――処女の頃に呼ばれたといっても、仮にも結婚経験がある筈なのだから、そこまで取り乱すのもどうかと思うぞ。

「せ、せせ、性行為ってあああれよね。アンタがライダーとやってた……」
「あれは不本意だったと切に反論したいところだが、まあそうだ。そしてあのサーヴァントは“そういう系統”の英霊だ。
 加えて性行為ってのは魔力を効率よくやり取りするための手段の一つだ。だからオレは、ほとんどの魔力をヤツに奪われちまったのさ」

 なるほど。ランサーの魔力が枯渇していたのは、そういう理由からだったのか。
 そのライダー……実に恐ろしい……っ! 
 真正面から相対して勝てる男は、あのセイヴァーくらいじゃないだろうか。

「素肌を密着させることでも一応魔力供給は出来るんだが、現状それでは効率が悪すぎる。
 となると、ちゃんと霊脈を繋げてパスを通し、少しでも多くの魔力を融通するしかねえ。
 他には坊主がオレに直接魔力供給するって方法もあるにはあるが」

 それは御免被る!

「だろ? やると言われたら困ったところだ。オレだって男と裸で抱き合うのは勘弁して欲しいからな」

 だったらなぜ口にしたのか。思わず鳥肌が立ってしまったではないか。
 ……しかし、これが魔術師の世界というものか……恐ろしい世界だ。

 まあそれはそうと、凛、やはり他の方法を考えよう。
 こんな方法は倫理的にも、情操教育的にも、精神衛生的にも宜しくはない。

「…………わかった……やるわ」

 そうそう。凜もこう言っていることだし……ってええ!?

「おいおい、本気かマスター?」
「ほ、本気よ! 言ったはずよランサー。私に勝利を捧げなさいって」
「…………ああ、そうだったな。わかった」

 ちょ、ちょっと待って欲しい! いくらなんでも、それはいろいろとマズいのではないだろうか!?
 そ、そうだ。エリザ、君からもなに何か言ってくれ……って。

「あわわわわわわわわわわわわわわわ――――!!??」

 だめだ。エリザは完全に混乱している……!
 彼女のスイーツ&ロマンスな脳内では、一体どんな化学変化が起きているというのか……考えるだに恐ろしい。
 しかしこれは非常にマズい。このままでは岸波白野は、社会的に脱落してしまう……!


456 : diverging point ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:36:59 P5bsvOwA0

「白野」

 ―――は、はい!
 と、凛の声にビクンと反応してしまう。
 恐る恐る彼女の方へと振り返れば、凜は真剣な瞳で岸波白野を見つめていた。

「ねえ白野、私たちは仲間……お互いに助け合う関係よね」

 その言葉に、恐る恐る頷く。
 確かに自分たちは同盟を結び、仲間になった。その事実には間違いない。
 当然、彼女に協力し、その手助けをすることに異論はない。
 だけど、それとこれとは別問題だ。と言おうとして、

「私はね、絶対に聖杯戦争に勝ち残って聖杯を手に入れるって、お父様とお母様に誓ったの。
 そのためなら何でもするって。苦しいことも痛いことも、どんなことでも我慢するって決めたの」

 その声に―――覚悟と決意、強い意志を秘めた瞳に引き込まれる。
 ああ―――何という事だろう。
 未だ幼い少女でありながら、遠坂凛の魂は、こんなにも鮮烈に輝いている。
 己が望みのために、その小さな命の炎を高らかに掲げている。
 その、あまりにも眩い輝きに魅せられて―――

「だから………お願い白野、私に力を貸して」

 ―――わ、わかった。
 と、気が付けば自分は頷いていた。
 ………頷いて……しまっていた…………。

「よし、そうと決まれば善は急げだ。
 おい、そっちの赤いの。アンタも手伝いな」
「へ!? て、手伝うって、な、ななな、何をよ」
「おいおい、話聞いてなかったのか? 俺のマスターとアンタのマスターの間にパスを通すんだよ。
 オレが陣を張るから、アンタは精神の同調・融和を補助してくれ。NPCを操れるってことは、一応は魔術の素養もあるんだろ?」
「けけ、けど、けどけどけど………っ!」
「ん? なんだ? もしかしておまえ、自分のマスターに気があんのか?」
「んなっ!? ななな、なあ――――――――ッッッ!!!???」
「違ったか? けど、もしそうなら丁度いいじゃねぇか。アンタが主導を握って、ついでに一緒にヤっちまえって。
 そうすりゃ、次にヤる時の敷居も低くなってる筈だぜ?
 いやあ、オレもさすがに他人の情事を覗くのは気が引けてよ。アンタが変わってくれるなら願ったりかなったりってわけだ」
「わわ、わわわわ、私が子ブタと私が子ブタと私が子ブタと――――!!!???」
「ま、そういう訳だからよろしく頼んだぜ、嬢ちゃん」
「あうあうあうあう〜〜〜〜っっっ!!!」

 ―――はっ、しまった!
 茫然自失としている間に、事態が引っ込みの付かない所まで来てしまっている!?
 しかも頼みのエリザは、ランサーの度重なるセクハラ発言でショートしてしまい、彼の言い成りになってしまっている。もはや自分の声など届かないだろう。

 恐る恐る、といった風に、正面の凜へと向き直る。
 するとそこには、その幼い相貌を若干赤く染めつつも、まっすぐに岸波白野を睨み付ける少女の姿があった。

「ま……ま、まあそういう訳だから、よろしくお願いするわ」

 ――――――――。
 ああ……さようなら、普通のマスターだった自分。
 そしてこんにちは。変態(ロリコン)マスターの新しい自分。
 君はこれから、社会の底辺で生きていくんだよ。

 と。そんな終わりを告げるテロップが、岸波白野の脳裏を過ぎっていった………。


457 : Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:38:17 P5bsvOwA0


     04/ 二心融解


 ―――それから数分後。
 現在、遠坂邸の居間にいるのは、岸波白野一人だけだった。
 ランサーが準備があると言って、凛とエリザを連れて部屋を出て行ったからだ。

 ……どうにも、落ち着かない。
 これからする事を思えば当然の事ではあるが、今の内に逃げ出そうか、なんて考えが浮かぶ。
 それによって生じる危険性は、今の自分には頭になかった。
 どうにかしてこの状況を脱せないか。そんな考えばかりが浮かんでくる。


 ……うん。やっぱりこんな事はいけない。今からでも他の方法を探すべきだ。
 そう決断し、ガバッと椅子から立ち上がって、

「おい坊主。こっちの準備はできたぜ」

 同時に放たれたランサーの声に、あっさりと出鼻を挫かれた。


 結局流されるまま、ランサーの後に続いてある部屋の前へと辿り着いてしまった。
 その部屋はおそらく、凛の自室なのだろう。それを前にして、つい尻込みしてしまう。

「坊主。女が覚悟を決めたんだ。あんまり恥を掻かせるんじゃねぇぜ」
 するとランサーはそう言ってあっさりとドアを開けると、岸波白野の背中を叩いて部屋の中へと押し込んできだ。

「そんじゃ、あとはおまえらでよろしくやりな。オレはその間に、家の守りを固めておくからよ」

 たたらを踏んで立ち止まり、慌てて出入り口へと振り返るが、無情にもドアをバタンと閉められてしまった。
 ドアノブには何かの魔術の痕跡がある。この分では、儀式が終わるまでは出してはくれないだろう。

「はく……の?」

 戸惑うようなその声に、ゆっくりと後ろへと振り返る。
 そこには無数のルーンの刻まれたベッドと、その上に座り込む凛、そしてすぐ傍に控えるようにエリザの姿があった。
 凜は恥ずかしそうに顔を赤らめ、シーツでその体を隠している。
 エリザの方も顔を赤く染めているが、先程よりは落ち着いた様子を見せている。
 同時に彼女たちの方から、何とも言えない芳香が漂ってきて、岸波白野の鼻腔を刺激してきた。

 ……頭が、ぼんやりとしてくる。
 その香りに釣られるように、彼女たちのいるベッドへとふらりと近づく。

「……!」

 その途端に、凜がビクリと肩を震わせた。
 それを見て、自分の心も少しだけ落ち着いてくれた。
 なので今の内に、言うべき事を言っておこう、とどうにか気合を入れる。
 ―――凜、やっぱり、他の方法を考えよう。

「っ! いやよ、そんな余裕はないわ」

 しかし凛は、キッと目を吊り上げてそう睨み付けてくる。
 だめだ。意固地になっている。岸波白野の言葉では、彼女は考えを改めないだろう。
 ならば、同じ女性であるエリザの言葉であれば、少しは聞き入れてくれるかもしれない。
 ―――エリザ。君からも、凜に止めるように言ってほしい。

「え? そ、そうよね。やっぱりこういうのって、恋人か夫婦でするのがふつうよね。
 私としてはやっぱり、最後まで純潔を守っていたいところだけど」
「恋人か、夫婦?」

 ああ、そうだ。こういう大事な事は、義務だからとか必要だからとか、そんな理由ですることじゃないと思う。
 だから―――

「そう。だったら―――」

 ――――!?
 不意に感じる、仄かな温もり。
 目の前には、真っ赤に染まった凛の顔。
 唇には、いつか感じたものと同じ、柔らかい感触。

「だったら白野。キ、キスした責任を取って、わたしと付き合いなさい。
 ここ、恋人同士なら、こういうことをしてもおかしくはないんでしょう?」


458 : Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:38:41 P5bsvOwA0

 え―――あ、う――――。
 頭が真っ白になって、働かない。
 今彼女に何をされたのか、理解が全く及ばない。
 自分は何の責任を取って、何になれと言われたのか―――。

「えっと……エリザ。今の内に初めてちょうだい」
「え、でも本当にいいの?」
「お願い。私が怖気づく前に、早く」
「わ、わかったわ。でも、ちゃんと私も混ぜなさいよ!」

 真っ白に漂白された頭に、エリザの魔声が響き渡る。
 理性と知性が、その美しい歌声に魅せられて溶かされていく。
 そこに、止めを刺すように、
 シーツを剥がし、その透き通るような、未熟な肢体を晒した遠坂凛の姿が、視界に映った。

「来て、白野」
 グズグズに溶かされた理性では、恥じらうようなその声に逆らうことなど出来るはずもなく。

 岸波白野はその意識を蕩かされながら、禁断の青い果実へと手を触れた――――。


      †


 ――――静かな、碧い海を漂っている。

 ここに、時間の概念はない。
 あるのは情報の蓄積のみで、それだけが、時の流れを把握する唯一の術だ。
 逆に言えば、蓄積が確認できない限りは、どれだけの時を経ようとも、ここで起きた事は、外では一瞬の出来事に過ぎない。


 ―――それは、どちらの心象風景なのか。

 海の中には数匹の稚魚が泳ぎ回り、無数の法則性をカタチ取っている。
 それらは、遠坂凛のイメージする魔術刻印の現れだ。
 ならばこの海は魔術回路そのものか。
 未だ未成熟な、生命が誕生したばかりの浅い海。
 遠坂凛にとってこの小さな世界こそが、魔術師としての力の全てだった。


 ―――それは、月の海にも似た、静かなカタチをした世界だった。

 ただひたすらに、情報だけが積み重なっていく、未来を夢見る未完の海。
 岸波白野が生まれ、そして終わりを迎えた場所。
 だからだろう。
 その心の原風景に、彼等はともに、確かな安らぎを懐いた。


 ―――それはいわば、原初の海。全ての命が、等しく始まりを迎える場所。

 母なる海。母の胎内。卵の殻。
 目覚めの時を静かに待つ、ゆりかごの中。
 その中において彼等は、お互いが等しく、己であった。
 そして己の事であるが故に、お互いの事を誰よりも理解する。


 ―――そうして、目覚めの時は訪れる。

 混ざり合っていた二つの心が、二つに別たれ離れていく。
 彼は彼へと。彼女は彼女へと。
 岸波白野と遠坂凛。それぞれのカタチを取り戻す。
 そうして、彼らが在るべき場所へと還っていく。


 ―――泡沫のように。
                              光の中へ。


459 : Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:39:16 P5bsvOwA0


     05/ 決意の在処


    ……目が覚めた。
  欠けた夢を、見ていたようだ。


 どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
 ぼんやりする頭に何とかスイッチを入れる。
 体には妙な気怠さが残っているが、動かす分に支障はない。
 なら大丈夫だ。と起き上るために四肢に力を籠める。

 が、重い。
 自身の異常ではなく、単純な重量によるものだ。
 重さを感じる両隣を見てみれば、そこには凛とエリザの姿があった。

 彼女たちは静かに寝息を立てている。
 それを確認して、彼女たちを起こさないよう慎重に腕を引き抜く。
 そして静かに起き上り、散らかっていた自分の制服を着直すと、ベッドの淵へと座り込み、部屋の天井を見上げ、思った。

 ――――ああ……終わってしまった、と。

 一体何が終わったのか、出来れば考えたくはなかった。
 だがどうやったところで言い逃れはできないだろう。
 魔声の影響で意識が溶かされていた、だなんて言い訳にもならない。
 とにかく岸波白野は、社会的に終わってしまったのだ……。

 エリザの方とは、最後までは至らなかった。
 その役割がサポートだったこともあるが、彼女の性知識の疎さや、未だ根付いている観念的に彼女が拒否したのが理由だ。
 だが遠坂凛とは、最後まで行ってしまった
 パスを通すために必要だったというのは理解している。だがそれでも、罪悪感のようなものが湧き上がってくる。
 せめてもの救いは、ランサーの陣のおかげか、凜にそれほど負担がかかってなかったことくらいだろうか。
 ……岸波白野の精神的負担はこの上ないが………。



 そんな風に黄昏ていると、静かなノックの後にランサーが部屋へと入ってきた。

「お、目を覚ましたみたいだな。気分はどうだ?
 可能な限り負担が減るように陣を敷いたつもりだが」

 最悪だ。と端的に返す。
 一体なんでこのようなことになったのか。もうお天道様に面と向かって歩ける気がしない。

「まあそう言ってやるな。あいつもあいつなりに覚悟を決めてんだからよ」

 それは理解している。おそらくは、この場にいる誰よりも。
 パスを通した際、岸波白野と遠坂凛の情報は、一度完全に混ざり合った。
 ちゃんとした魔術師なら防げた事態なのだろうが、生憎自分達には、それを防ぐ術はなかった。
 そしてその際に、不意に彼女の記憶を、自分は見てしまったのだ。

 妹が離れ、父が死に、母が狂った。
 遠坂凛の家族の結末。聖杯戦争によって壊された絆。
 その果てに彼女は、聖杯を勝ち取ることを誓い、そしてこの戦いに招かれた。
 岸波白野は“家族”というものを知らない。
 だがしかし、その時に彼女が何を思い、何を感じたのかも、同時に知ってしまっていた。

 だからこそ彼女の覚悟は誰よりも理解しているし、
 だからこそ自分は今最悪の気分になっているのだ。
 ……そして思った。
 この聖杯戦争は、何かを致命的に間違えているのではないかと。
 少なくとも、凛のような小さな子供が殺し合わないといけない戦いが正しいだなんて、自分には到底思えない。

 だがその思いは、凛の誓いとは反するものだ。
 岸波白野には、聖杯に託す願いはない。
 けど遠坂凛には、聖杯を望む理由がある。
 幼いながらも決意を秘めた彼女はきっと、簡単には聖杯を諦めないだろう。
 少なくとも、言葉だけでは止められない。
 ……ならば、今自分に出来ることは一つだけだ。


460 : Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:39:58 P5bsvOwA0

 ―――ランサー。今のあなたの状態と、あなたが知る限りのキャスターの情報を教えてほしい。

「……ほう。いい目をしやがる。覚悟を決めた男の目だ」

 岸波白野の様子を見てか、ランサーが獰猛な笑みを浮かべてくる。
 自分を試すような、そんな威圧感が圧しかかってくる。
 だがそれに気圧されることなく、まっすぐに見つめ返した。
 この程度の重圧なら、月の聖杯戦争で何度も味わってきた。いまさら怖気づく理由はない。

「へ。こりゃあ、本当に強敵になりそうだ」

 ランサーはそう笑って、威圧する気配を消し去る。
 本当に試しただけだったのだろう。

「いいぜ、まずはオレの状態だな。
 マスターとおまえのパスが通ったからな。オレに供給される魔力量も増えて、多少は回復してる。
 つっても、さすがに完全な回復には時間が掛かりそうだけどな。通常戦闘は問題ないが、宝具はそう何度も使えねえって程度だ」

 その言葉に肯く。
 岸波白野の内にある魔力。
 先ほどから自分は、エリザへと供給している分とは別に、“外”へと流れているのを感じていた。
 その流れの先は、言うまでもなく遠坂凛だ。

 彼女の魔術回路は本当に優秀だ。岸波白野のそれとは比較にもならない。
 何の問題もなければ、魔力容量の半分程度なら一日もあれば回復するだろう。
 だが先ほどまでは、ランサーの魔力が枯渇していたため、回復する端から持っていかれていたのだ。
 しかし現在は、自分とパスを通し魔力供給を受けることで、若干の余裕が生まれていた。
 ランサーを維持するための負担が減ったのだ。
 そうなれば後は時間の問題だ。彼女の回路は淀みなく魔力を精製し、その内自分の方が供給される側になるだろう。

「まあそういう訳だ。正直、真正面からキャスターとやり合うには不安が残る。
 で、その肝心のキャスターの情報だが………。
 わりい。顔と拠点の場所以外は知らねぇんだ。あの野郎、それを教えたらさっさと行っちまいやがってな」

 そうなのか。
 けど、拠点が判っているだけでもありがたい。
 キャスターを探す手間が省けるというのは、時間が限られている現状では大分助かるからだ。
 しかしそうなると、執るべき作戦は強襲からの電撃戦か。
 相手の能力が不明である以上、それを発揮される前に倒してしまうのがベストだ。
 自分たちがキャスターを引き受けて、ランサーが背後から不意を突く、という戦術が基本になるだろう。

「ま、そんなところが妥当だろうな」
 ランサーは特に不満も言わず、そんな風に頷く。

 ……いいのか?
 自分が思うに、ランサーはこういう作戦は好きではないと思うのだが。

「ま、本音を言えばな。
 だが、オレ達がこんな状況に陥ったのはオレの責任だ。文句は言えねえさ。
 それに、マスターが覚悟を決めてんだ。ならオレも、相応の覚悟をするのが当然だろ」

 自嘲するような笑い。
 だがそこには、彼のマスターと同じような、強い決意が籠っていた。
 ……そうか。なら、岸波白野から彼に言えることは何も無い。
 仮令何を言ったところで、彼は己が信念のもと凜に従うだろう。

「それはそうと、キャスターを倒した後の事だけどよ。
 オレ達はお前に協力して、一体何をすりぁいいんだ?」

 一つ頷いて、答える。
 岸波白野の望み。取り戻したい記憶の事を。
 そのために、あるサーヴァンに会いたい。会って、確かめたいことがあるのだ。

「なるほどな。そいつの特徴はわかっているのか?」

 風貌はわからないが、クラスはおそらくアーチャー。剣を矢として使用するサーヴァントだ。


461 : Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:40:59 P5bsvOwA0

「剣を矢とする、アーチャー……だと? ………まさか、アイツか?」

 知っているのか?

「ああ。弓兵のくせして双剣や盾を持つ、赤い外套を纏った皮肉屋だよ」

 ―――ドクン、と。
 一際強く、心臓が脈打つ。
 見覚えのない赤い背中が、脳裏に再生される。

 ―――間違いない。「彼」だ。
 それがどちらを指しての事かはわからないが、自分が捜しているのはその人物だと、理由も分からぬまま確信する。

「そうか、なら安心して任せな。そいつとは何度かやり合っている。早々後れを取ることはねえぜ。
 それにオレ自身も、アイツには借りがあるからな。それを返せるかもしれねぇってんなら、否はねえ」

 ―――わかった。任せた。
 と、ランサーの自信に満ちた言葉に、そう信頼を籠めて返答する。
 とは言っても、まずはキャスターを倒してからの話なのだが。

「は、違えねぇ」

 行動開始は、凜が目覚めてからだ。
 キャスターが相手である以上、動くのは早い方がいい。
 それに昼間であれば、NPCもほとんどは街に出ていて拠点攻めがしやすい。
 それまでに、ある程度作戦を煮詰めておこう。

 そう方針を定めた、その時だった。
 ベッドの上にあった岸波白野の手に、不意に触れたものがあった。
 見れば凛が、その小さな手で縋るように握り締めていた。

「………おとう……さま……」
 その微かな声に、胸が締め付けられる。

 ―――岸波白野の言葉では、遠坂凛を止められない。
 出来ることはただ一つ。彼女を守り、支えること。そして―――


 ―――そして。
    最後の敵として、立ち塞がることだけだ。


 かつて“彼女”がそうしてくれたように。
 今度は自分が、彼女を導く星灯りとなるのだ。

 そのためにも、この聖杯戦争を見極めよう。
 勝者に与えられる聖杯が、彼女に相応しいものかどうかを確かめるのだ。

「ホント、子ブタったらいい毛並みになっちゃって」
 じゅるり、なんて音を立てながら、そんな声が聞こえてきた。

 ―――エリザ。目を覚ましたのか。

「その男が入ってきた時点でとっくにね。
 いくら同盟を結んでいるとは言っても、サーヴァンの近くで寝入るほど気は抜けてないわよ」

 エリザはそう言って身を起こす。
 その動きは緩慢ながらも洗礼されており、彼女が貴族令嬢であることを思い出させる。


462 : Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:41:29 P5bsvOwA0

「それで、キシナミ。あなたはどうして、この子を助けようとするの?」

 エリザは眠る凛の頭を優しく撫でながら、岸波白野へとそう問いかけてきた。

 ―――なぜ自分は、遠坂凛を助けようとするのか。
 彼女を助けたところで、岸波白野が得るものは何も無い。
 それどころか、最後に立ち塞がるのであれば、むしろマイナスと言っていい。
 いずれ強敵となる存在を助ける行為など、自殺行為になりかねないからだ。

 それを踏まえた上で、自分は彼女を助けようとしている。
 “遠坂凛”に恩があったから……ではない。
 たとえ同じ存在であろうと、根本的にこの子と彼女は違うものだ。
 今ここにいる遠坂凛を助けたところで、自分を助けてくれた“遠坂凛”に恩を返すことにはならない。

 ―――だから、その理由は簡単だ。
 自分が、彼女を助けたいから。
 遠坂凛を見捨てることを、岸波白野がしたくないから、自分は彼女を助けるのだ。
 言ってしまえば、ただの自己満足。
 そんな浅ましい思いが、岸波白野が遠坂凛を助ける理由なのだ。

「フフ……。いいんじゃないの? 自己満足で。
 『そうしなければならないから』なんて理由よりは、ずっといいと私は思うわよ」

 その言葉は、果たして誰に向けたものなのか。
 眠る少女を撫でる彼女の瞳には、深い悔恨と――僅かな哀れみが宿っていた。

「いいわ。子ブタのついで位でいいのなら、私も凛を守ってあげる。
 私もリンには一応恩があるし、何よりキシナミが、この子を助けたがっているしね」

 ―――エリザ……ありがとう。

「感謝するぜ、二人とも」
「別にいいわよ、そんなの。私はただ、子ブタの手伝いをしたいだけし」

 岸波白野とランサーの言葉に、エリザは照れ隠しをするようにそっぽを向いた。
 彼女のその行動に小さく笑いながら、一時の微睡みに安らぐ少女を見つめる。

 凛。君の懐く覚悟は、痛いほど理解できている。
 けれど、だからと言って、一人ですべてを抱え込む必要はない。
 君の周りには、君を守ろうとしてくれる人たちが、こんなにもいるのだから………。

 そんな思いとともに岸波白野は、遠坂凛の手を優しく握り返した。





「さてと。それじゃあ凛が起きた時のために、何かランチを作っておきましょうか」

 ―――え?

「何を作ろうかしら。サンドイッチをそのまま真似るのもなんだし、そうねぇ……ホットドックなんてどうかしら」

「なに……!?」

 マズい! それは色々とマズい……!
 自分だけならばともかく、それ以外の他人に食べさせるには、エリザの料理は不安要素しかない。
 ここは被害を食い止めるためにも、心を鬼にして諦めさせよう……って!?

「期待していてね、子ブタ。腕によりをかけて作るから。
 大丈夫よ。今度はちゃんと食べられる程度に作れると思うから」

 いつの間にかエリザは部屋を退室し、音程のずれた鼻歌共に台所へと向かっていた。
 咄嗟にランサーと目を合わせる。
 お互いに浮かべるのは戦慄の表情。両者同時に肯きエリザを追って台所へとひた走る。
 このまま彼女を野放しにしては、日が変わるのを待たずして自分たちは全滅する。
 そうなってしまう前に、彼女の料理テロだけは何としてでも止めなければ……!


463 : Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:42:32 P5bsvOwA0


      †


      /ふと、夢を見た。

 バラバラに散らばったパズルのような、あちこちが欠けた虫食いの夢。
 それが何なのかを、わたしはすぐに理解した。
 これは、“彼”の記憶。“彼”が経験した、聖杯戦争の記録なのだ。

      /死に怯える声が聞こえる。

 夢の中の“彼”は、いつも窮地に陥っていた。
 それも当然。その時の“彼”には、自分の記憶がなかった。
 予選を終えて返却されるべき過去が、まるごと全部欠け落ちていたのだ。
 そんな状態でまともに戦えるはずがないことは、わたしにも理解できた。
 何しろ今のわたしでも勝てそうなほどに、“彼”は無力だったのだから。

 そんな彼を支えていたのは、“赤い人影”だった。
  “彼”にとって、その人物のイメージが赤色なのだろう。
 これが夢だからなのか、記憶が欠けている影響なのか。
 年齢も、性別も、“彼”との関係も判らないくせに、その色だけははっきりと見えた。

 そうして“彼”は、その“赤い人物”に助けられながら、
                              ただ死にたくないと、
 理由も分からぬまま懸命に、聖杯戦争を戦っていたのだ――――。


【B-4/遠坂邸/1日目 午前】

【岸波白野@Fate/EXTRA CCC】
[状態] 健康、疲労(中)、精神疲労(小)、魔力消費(小)
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 普通の学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:「 」(CCC本編での自分のサーヴァント)の記憶を取り戻したい。
0. エリザの料理テロを阻止しなければ……!
1. 遠坂凛とランサーを助けるために、足立通りとそのキャスターを倒す。
2. 狙撃を警戒。
3. 今日はもう、学校はサボりだな。
4. 自分は、あのアーチャーを知っている───?
5. 終わった………。
[備考]
※遠坂凛と同盟を結びました。
※遠坂凛と、最後までいたしました。その事に罪悪感に似た感情を懐いています。
※遠坂凛とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、遠坂凛の記憶の一部と同調しました。
※クー・フーリンのパラメーターを確認済み。
※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による攻撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。
※アーチャー(エミヤ)が行った「剣を矢として放つ攻撃」、およびランサーから聞いたアーチャーの特徴に、どこか既視感を感じています。
 しかしこれにより「 」がアーチャー(無銘)だと決まったわけではありません。

【ランサー(エリザベート・バートリー)@Fate/EXTRA CCC】
[状態] 健康
[装備] 監獄城チェイテ
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針:岸波白野に協力し、少しでも贖罪を。
0. ランチを作るわ! ホットドックなんてどうかしら。
1. 岸波白野のついでに、遠坂凛も守る。
2. 撤退に屈辱感。
[備考]
※岸波白野、遠坂凛と、ある程度までいたしました。
※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による襲撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。
※カフェテラスのサンドイッチを食したことにより、インスピレーションが湧きました。彼女の手料理に何か変化がある・・・かもしれません。


464 : Moondive Meltout ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:42:58 P5bsvOwA0

【遠坂凛@Fate/Zero 】
[状態] 睡眠中、疲労(中)、魔力消費(大)、強い決意
[令呪] 残り二画
[装備] アゾット剣
[道具] なし
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:遠坂家の魔術師として聖杯を得る。
0. ………………“彼”の、夢?
1. 勝利するために何でもする。
2. 岸波白野から、聖杯戦争の経験を学ぶ。
[備考]
※岸波白野と同盟を結びました。
※岸波白野と、最後までいたしました。
※岸波白野とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、岸波白野の記憶が流入しています。
 どこまで流入しているかは、後の書き手にお任せします。
※鏡子、ニンジャスレイヤー、エリザベートのパラメーターを確認済み。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。

【クー・フーリン@Fate/stay night 】
[状態] 健康、魔力消費(大)
[令呪] 『日が変わるまでに、足立透、もしくはそのキャスターを殺害。出来なければ自害せよ』
[装備] ゲイ・ボルク
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針:遠坂凜のサーヴァントとして聖杯戦争と全うする。
0. ホットドックはやめてください!
1. 凜に勝利を捧げる。
2. 出来る限り回復に努めたい。
3. 足立、もしくはキャスター(大魔王バーン)を殺害する。
4. あのライダー(鏡子)にはもう会いたくない。最大限警戒する。
5. アサシン(ニンジャスレイヤー)にリベンジする。
[備考]
※鏡子とのセックスの記憶が強く刻み込まれました。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。
※自害命令は令呪一画を消費することで解除できます。その手段を取るかは次の書き手に任せます。

[全体の備考]
※遠坂邸に、ランサー(クー・フーリン)によるルーンの守りが敷かれました。


465 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/12(火) 00:43:34 P5bsvOwA0
以上で投下を終了します。
何か意見や修正すべき点、誤字脱字や加筆すべき場所、CERO査定などお願いします。


466 : 名無しさん :2014/08/12(火) 00:52:38 Xmy.sDX60
投下乙
エクストラとfateのナイスドッキング!(意味深)
これはもはやレ○プを通り越してむしろ原作なのではないだろうか


467 : 名無しさん :2014/08/12(火) 00:58:56 9uPAoBx20
投下乙です。
男ザビ夫、ロリと最後まで致してしまった
しかし切実な問題が絡んでるし、凛が同意の上だけどね…w
対バーン戦線が組まれつつあるな、ランサー二人は中々強力な
そしてやっぱりザビ夫の鯖は無銘が濃厚そうだな…


468 : 名無しさん :2014/08/12(火) 02:30:44 z/cPx4tU0
投下乙です。出会って即シリーズ……いやなんでもない。なぜこのコンビはエロスに見舞われるのか。
けど実際ランサーコンビはかなり強い。明確な共同戦線ってのはこれが初めて?

質問指摘となりますが、遠坂邸は霊脈として機能してるのでしょうか?地上においては聖杯降臨も可能な格で、そこにいれば魔力回復も早くなります。
無論早急な回復が今回の問題なのでまるきりカットとはなりませんが、本文の選択や思考にないのもおかしいと思い指摘させて頂きました。


469 : ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:15:29 GKuiC88E0
投下乙です!
共同戦線、ダブルランサー組は人間関係がどんどん構築されているなぁ
お互いにこれからの展開がどうなっていくか気になる……!


予約していた電人HAL&甲賀弦之介、狭間偉出夫&鏡子を投下します


470 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:16:26 GKuiC88E0

ピチャリ、と奇妙な音が響いた。
早朝、一限目の前に食堂へと向かう予定だった学生は首をひねる。
なにか朝日に光るものがある。
首を捻りながら、空腹を押してその場へと駆け足で向かう。
普段ならば無視していただろうが、今となっては『そちら側』に重要な意味を持つ。
とある教棟の裏。
その近くに迫った瞬間、不可解な悪寒が襲う。
この学生は、その悪寒が無意識と習慣から生まれる、一人の男が向けた警戒の念と気付けるほどの訓練を受けていない。
用務員の怠慢か、生い茂った草の中で一人が壁にもたれるように倒れかかっている。
不審に思った学生は、その男へと近寄ってみせた。

それが始まりだった。

「くぅぅおおぉぉぉんぉぉぁぁああああ!?」

股間から走る激痛にも似た快感。
突然のことで膨大な感情の処理が脳が処理出来ず、それを激痛として最初は受け止めた。
しかし、その正体は激痛とは程遠い感情。
まさしく快感。
この世の全ての快感の根底に存在する、正しく生命の根源へと繋がる最も深い快感。
性的な快感だ。

「ぅぅぅぉぉぉおぉおぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

なんらかの『攻撃』であることを理解した彼は、懸命に足を動かそうとした。
しかし、それは叶わない。
彼を笑ってはいけない。
性そのものとも言える概念的な攻撃に対して。
僅か数秒。
ケダモノのような叫び声を上げて。


――――彼は射精していた。


471 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:18:23 GKuiC88E0





電人HALは『奇跡』そのものの光を想いだしていた。
かつて、電子世界で生きる電子生命体であった頃の、一瞬の記憶。
あの『プログラム』を起動した瞬間、HALは確かに認識したのだ。

――――電子の世界に、0と1のノイズを嵐のように携え、黄金に輝く杯を。

いや、聖杯という万能の願望器を求めているHALにはそれが杯に見えたのだろう。
この聖杯の成り立ちを理解している人物ならば、万能の願望器ではなく滅びから免れる唯一の方舟に見えたはずだ。
奇跡とは得てして不定形であり、観測者によって姿を変えて現れる。
己が魂を収める寺院を求めれば、それが人には黄金に輝く立方体に見えただろう。
0と1の電子ノイズの中で、まるで星天の一番星のように輝く聖杯と思しき物。

恐らく、これも聖杯の一側面に過ぎない。

0と1のノイズに塗れた、しかし、奥に潜む確かな黄金の輝きはHALの目的そのものだった。
完璧なる再現、完璧なる続篇、完璧なる終末。
人が決して生み出すことが出来ない第三の魔法、『失われた魂の完全なる再現』。
神の御業こそをHALは求めていた。

電子世界上で確かに存在する究極の演算装置。
地球を眺め続けた『もう一つの月』に吸い込まれるように、HALは方舟へと誘われた。
圧倒的な存在感。
なるほど、ありとあらゆる多次元世界を記録しているとの話は誇張でもなんでもないようだ。
狂ったように『事実』を記載し、そして、これからも永遠に記録し続ける。
そんなこの世の全てともいうべき情報へとアクセスすれば、恐らく、それだけでHALの目的は達成されていただろう。

しかし、そんなことをすれば自身はアークセルに取り込まれるだろう。
莫大なデータの中で、別のデータに自身を塗りつぶされかねないのだ。
それに、これだけの怪物が無許可のアクセスを許すとは思えない。
故に、現状のHALはその万能の願望器へと想いを馳せるだけにとどめていた。

「……さて、待ちを取ったはいいが」

HALのサーヴァントである魔眼のアサシン。
電子生命体であった存在であり、電子空間では無敵に等しい電人HALが持つ高いハッキング能力。
その事実から生まれる膨大な魔力供給は彼の魔眼を理不尽なほどに再現している。
アサシンへと向けられた殺意・敵意をその神秘の魔眼を通じて反射する。
すなわち、視界に映る限り、魔眼のアサシンは大半の攻撃を受けることはない。

そして、電脳ドラッグで洗脳、書き換えを施した数多のNPCの存在。
この無数のNPCが居る場合、錯刃大学を無差別テロめいた存在からの襲撃を避ける事が出来る可能性は高い。
常に錯刃大学には多数の人間を留めてある。
研究室に徹夜で居残る学生など珍しくもないし、HALが洗脳を施したのは学生だけでなく教授や職員なども含まれている。
HALと魔眼のアサシンへと大規模な攻撃を行うということは、そのNPCへも攻撃を行うということだ。

気配遮断のスキルも持ち、地の利を得た魔眼のアサシンに防衛の面で勝る英霊は少ない。


472 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:19:53 GKuiC88E0

「"ますたあ"よ」
「……どうした、アサシン?」

そんな時だった。
音もなく向かってきた背後に立っていた、古めかしい衣服に身を包んだ、あまりにも奇抜な人物。
丑三つ時を迎えつつある暗闇の中に余りにも見事に溶け込んだ、闇の者。
この者こそHALの目的の具現とも言える。
そう、異次元の自動書機が記録していた偉業をなした英霊。
真名を甲賀弦之介。

愛した女と殺し合う運命に置かれ、愛した女を死なせた男。
取り戻せないものを求めて奇跡に誘われた男。
HALにわかるのはそれだけだ。
アサシンが真に求めているものが女の命か、女の温もりか、女の言葉か。
それは、アサシンにだけがわかるものであり、HALが表面上でしか理解できないものだ。
その願いは、アサシンだけのものだからだ。

HALは神秘そのものである魔眼から威圧感を放つ魔眼のアサシンの報告を受けた。

「襲撃を受けている」
「……何?」

HALに明確な動揺が生まれた。
あまりにも、速すぎる。
電脳世界の存在という異常な過去が故に、異例の速さで記憶を取り戻したHAL。
そのHALが構築してみせた自身の隠蔽における手際は完璧なものだと自認していた。
それが、こうも容易く発見されるとは、さすがにHALにも緊迫感を抱かせた。

「恐らくは"あさしん"、もしくは"きゃすたあ"であろう」

しかし、HALの動揺はそこまでだ。
異常ならば、その異常を解消しなければいけない。
元々、ここがHALの常識とは離れた地であることは十分に承知している。
HALは魔眼のアサシンへと続きを促した。

「根拠は」
「わしらが居を構えた建物へと近づいた人間の動きが、測ったように止まっておる。
 恐らく、動く人間の些細な動作から『当たり』をつけられた。
 わしの存在を知った者は、本能的にわしのことを避けようとしておったからの」
「無理もない、君たちは特別すぎる」

『敵』が行った行動の阻害――――いや、電脳ドラッグへの介入もあり得る。
電子生命体、いや、データそのものであるNPCの書き換えを塗り替えられた可能性も考慮に入れる。
想定は常に『最悪』であり、常に『最多』であるべきだ。
人智を超えた演算速度でHALは敵の攻撃の可能性を上げ続ける。
そのことを理解しているアサシンは、自身が見た様相を語り続けるのみだ。

「そして、敵の気配をその者達が動きを止めた一瞬しか感じぬ。
 時間にすれば数秒と言ったところか。
 高い気配遮断の持ち主か、遠隔からの魔の術の類であろう。
 また、ここからは距離があるために"ますたあ"にはわからぬだろうが――――」

アサシンはそこで一度言葉を止めた。
『現代人』であり、同時に『諜報』や『暗殺』とは程遠い『一般人』であるHALへと伝える言葉を選んでいる。
『それ』は忍であるアサシンにとっては余りにも巨大な力だが、市井の民であるHALがどう捉えるか。
時間にすれば十秒にも満たない時間。
アサシンは、口を開いた。


473 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:22:00 GKuiC88E0

「隠し切ることの出来ない、強烈な、精臭」
「……精臭?」
「襲われた者の全てが性的な絶頂を迎えておる、一人などは腎虚を迎える直前。あえて、殺さなかったであろうな」
「房中術だとでも言うのか?」
「然り……いや、違うな。あれはそんなものではない。
 そこに理論は存在しない、無作為な性戯による余りにも強烈な快感」

そうだ、そこには特殊な『術』呼べるものはなかった。
本能的とまで言えるほどに、的確な快感を与えてくる。
恐らく、人間の本能が求めて突き詰めた英霊自身が生み出した単純なる『性戯』。
魔眼のアサシンすらも理解し得ない独自の理論と技術を持って絶頂という結果へと導く。
その規格外の性戯を、NPCは受けたのだ。

「一瞬、本当に一瞬。
 まさに『触れた』だけと言った気軽さで動きを止めておる」
「……私の電脳ドラッグの大本は『抑えこまれた犯罪への欲望』を刺激することが第一」
「相性が悪い、あまりにも。快感とは常に抑え続けているものだ」
「よく理解している。
 今回のNPCにはデータの書き換えだが、ベースはやはり『電脳ドラッグ』だ。
 単なる痛みなら抗うことも容易いが、本能的な快感となるとまた話が違ってくる」

HALの生成した電脳ドラッグ、それの大本は『秘めた犯罪願望』を引きずり出すことだ。
ようは、恥部として秘めに秘めていた感情をさらけ出させるのだ。
そのさらけ出した感情を元に時間をかけて、精神を弄る。
故に、『秘めた性欲』という人間ならば当然持ちえるものに抗うことは難しい。
性欲も犯罪欲も同じくは欲望であり、性欲は犯罪欲よりも生物の根源的欲望に近しいものだからだ。

「そして、これは恐らく布石」
「……条件付けか」
「然り。一度絶頂の癖を植え付け、二度目の襲撃を円滑に行う。
 恐らく、次の襲撃は半分の時間で兵の動きが乱れるだろう。
 もしくは、それよりも面倒な『仕掛け』が施されている可能性がある」
「具体的には」
「"ますたあ"の洗脳を上書きする洗脳能力。
 もしも、そのような『最悪』があればあまりにも大きな不確定要素――――」

瞬間だった。
アサシンは強烈な意思を感じる。
その種類は、奇妙なものだった。
背筋に走った、アサシンへと向けられた強烈な意思。


――――あまりにも激しい性欲。


474 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:22:43 GKuiC88E0

「――――ッ!」

アサシンはマスターのHALとの会話を瞬時に打ち切り、魔眼のアサシンは宝具を発動させる。
奇襲は背後からと決まっている。
アサシンは後方へと視線を向け、時空の歪みを捉えた。
水面に指を突き刺したように、僅かな波紋が広がっている。
波紋の中から、白い指が伸びている。
奇怪な現象に対し、しかし、アサシンはその瞳を指へと向ける。
虹彩が不気味に輝き、瞳の中に茨のような丸い線が走る。
自身に向けられた敵意を暗示によって相手へと移し替える魔眼。

忍法・瞳術。
悪意と敵意に溢れた罪人が跋扈する生き地獄の如き現実において、正しく無敵を誇る奇跡の瞳。

ピクリと、白い指が痙攣を始める。
魔眼のアサシンは目元に激しい皺を描きながら、腰元の忍者刀に手を取る。
空間の歪みへと駆け出し、白き指へと向かって横薙ぎに切り払う。
しかし、白い指はすぐに時空の歪みへと消えていき、忍者刀は空を斬った。
アサシンは魔眼を徐々に抑えていき、僅かに息を漏らした。
HALがその様子を見て、アサシンへと問いかける。

「……敵か?」
「ひとまずは、撃退した。恐らく、生きているであろうがな」
「……襲撃を受けた兵の様子を見てくれ。
 アサシン、君は否定したが、敵の攻撃に魔術的なものが関わっていた場合は私だけでは判断が出来ない」
「承知した」

アサシンはゆっくりとした動作で、しかし、素早く歩き始めた。
相手の認識を幻惑させ、自らの体力の消費を抑える特殊な歩法だ。
HALは自身が引き当てたサーヴァントもまた尋常ではない英雄であることを感じる。

「おい」

アサシンは倒れこんだ学生を抱え起こし、軽く身体を揺すった。
NPCの学生はゆっくりと目を開き、一瞬だけ、怯えた顔を見せた。
アサシンという超常存在への本能的な恐れだ。

「……あ、あれ」
「気がついたか」

その男子学生はゆっくりと己の頭に手を当てる。
アサシンとHALは瞳から動揺を読み取った。
あの魔としか言いようのない手段で受けた膨大な快楽のためだと、アサシンは判断した。
しかし、HALはそうではなかった。
奇妙だ。
今まで電脳ドラッグによって犯罪欲求を引き出してきた『被験者』は見せなかった色を男の目から感じ取った。
HALはその動作に違和感を覚え、瞬時にその『最悪』のパターンが思い浮かんだ。
すぐさま、HALはアサシンへと命令を下す。


475 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:23:41 GKuiC88E0

「……アサシン!」
「むっ?」
「あれ、俺……なんで、」
「――――!」

状況に気づいた瞬間、アサシンはNPCへと向けて当て身を行う。
最低限の痛みで意識だけを飛ばす技だ。

事実、その男のNPCは意識を失い。
衝撃のあまり。
全身の性感が敏感になっていた男は。


――――射精をしていた。


「……一筋縄ではいかない、とはまさにこのことだな」

電脳ドラッグによる書き換えへの干渉。
性欲を満たした男が過度の快感から生まれる不意に冷静になる瞬間。
襲撃を行ったサーヴァントはその瞬間を的確に呼び起こし、犯罪欲を元にした洗脳から男を乖離させてみせた。
単なる兵への接触は、単純なセックスだけではなかった。
これは、尋常ではない。
アサシンの言葉を信じるのならば、単なる性行為のみでHALの常識を簡単に覆してみせた。
この戦いは異常だ。
HALの中ではすでに戦いと呼べるものでしかない。
しかし、これこそが戦いなのだ。
あらゆる手段を持って、勝利をもぎ取る。
これが戦いでなくて何だというのだ。

「尋常ではない、しかし、それこそこの戦争では通常なのであろう」

HALは巧妙に籠城を続けていた。
管理者からのお咎めもなく、兵士を作り上げ、最適の環境を創りあげた。
そこからは攻勢に映るまでの準備期間だ。
しかし、現実にはこうも容易く発見された。
なぜ、発見されたのか。

いや、不思議ではないのだろう。
何故ならば、相手は英霊。
その全てが『規格外』である存在なのだから。
HALはそれを再確認し、狼狽を見せずに新たな戦略のために演算を開始している。

HALと魔眼のアサシン・甲賀弦之介はこの戦争の異常さを改めて認識した。


476 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:24:22 GKuiC88E0





「んはぁぁはぁふぁぁぁぃいいいぃぃぃふぅ!!!!!」

突然の事だった。
狭間偉出夫は自身のサーヴァント、淫奔のライダーが突然自慰を始めた現状を理解することが出来なかった。
今までは件の淫らな、それだけでハザマの男を屹立させる、笑みを見せていた。
だが、今の『それ』は訳が違う。
左手に持っていた手鏡を地面へと落とし、手鏡を通じて『ここではないどこかへ』と伸ばしていた右手を引っ込める。
そして、両手を持って強烈な自慰を始めたのだ。

「はあぁあぁ……ぁあ!
 ふぅはぁああああぁぉぉぉおおぉおん!」

ライダーの指がライダー自身を絶頂へと導いていく。
恐らく『性行為』という行いに関しては類を見ないほどの大英雄であるライダー。
それはハザマ自身が身を持って体験している。
あのファースト・コンタクトを想い出すたびに、ハザマは屈辱とともにどうしようもない快感を想起させる。
そのライダーが誇る英霊すら恐れる脅威の指戯が、ライダー自身へと向かっていた。

全ての人物を絶頂へと導く指戯。
全ての人物に対して優位に立つ快感への耐性ともいうべき余裕。

「んはあああぁぁぁぁんぉぉおおおおおお!!!!!」

本日は無事、矛盾起こらず矛の勝利。
ライダーは自身を見事に
甘い息を漏らしながら、淫奔のライダーは腰砕けの姿勢のままに背後の机へともたれ掛かった。
三つ編みで固く整えた黒く長い髪が汗に濡れ、激しい性的衝撃によって乱れている。

ここはハザマの自室。
隣から、ドン、と強い音が聞こえたが無視をする。
なんてことはない、素っ気も生活感もないただ眠るだけの一室。
ハザマのかつての生活を体現しているような、人の温もりがない冷たい部屋。

いつもはきつく身体を締め付ける衣服を肌蹴、窓から指す朝日を浴びるライダーはあまりにも艷やかだった。
場所は錯刃大学の南に存在するマンション。
淫奔のライダーとそのマスター狭間偉出夫。

「……ふぅ、イっちゃった♪」
「……ライダー、貴様」

激しい絶頂から戻ったライダーは息を整えると、ハザマへと向かって無邪気に、無為に笑ってみせた。
マスターであるハザマは平静を装いながら、しかし、隠し切れない動揺の元に淫奔のライダーを叱責する。
ここまで、ハザマは大きな行動は取っていない。
ライダーの宝具によって襲撃を仕掛けたのみで、ただ、見ているだけだった。
サーヴァント、即ち僕であるはずのライダーに手綱を握られる鬱憤を晴らすような色もあった。

「何を、している。
 じ、自慰……なんて、唐突な!
 ……敵へと攻撃を仕掛けたのではなかったのか!」

ハザマの叱責。
対し、ライダーは絶頂へと導かれた自分の身体を気怠げに起こしながら、イデオと視線を合わせる。
そして、その右手をぺろりと舐め、左手でハザマの頬を妖艶に撫でてみせた。


477 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:25:44 GKuiC88E0

――――その瞬間、ハザマは射精した。

ハザマを一瞬で絶頂まで導いた淫奔のライダーには媚香は使用していない。
魅了の呪術も持ち得なければ、人の身体の反応・感度を塗り替える術もない。
卓越したという言葉すら生ぬるい性戯とその魂にまで染み込んだ隠し切れない性臭。
たったそれだけで、純然たる『性戯』を『神秘』へと押し上げたビッチ・オブ・ビッチ。
そこに奇跡は存在しない。
ただ、性交を続けたが故に生まれた、現実の延長線上の神秘の性戯。

「反射……単純な性戯で私を撃退したのでなく、私の性戯の対象をそっくり私に……♪」

淫奔のライダーはハザマの反応に気怠げに、しかし、満足したように微笑んだ。
そして、魔眼のアサシンと行った一瞬の攻防について解説する。
一瞬、ハザマの胸に理解の出来ない嫉妬心が芽生える。
しかし、彼女はビッチの中のビッチ。
性行為が済んでしまえば、ベッドをともにしたピロートークの最中にも別の男へと想いを馳せるビッチだ。
そんなハザマが隠してみせた感情の機微には気づかなかった。

「強敵よ、あの瞳は。ふふ、ひょっとしたらまたイッちゃうかも……♪」
「私には敵マスターとそのサーヴァントが見えなかった、どのような敵だ?」
「マスターは確認できなかったわ、私としてもあのサーヴァントとの遭遇は予定外だったし……
 まずは動きを止めようとして、反撃くらちゃった」

魔眼のアサシンの宝具は、殺意と悪意をそのまま敵へと返す。
ならば、性欲に塗れた敵の攻撃はどのような結末を生む?
答えは単純だ。
相手がアサシンへと向けるはずだった性の意思をそっくりそのまま相手へと押し付けるのだ。
事実、魔眼のアサシンへと向けて右腕を伸ばしたはずの淫奔のライダーは気づけば左手で自らを絶頂へと押し上げていた。

「サーヴァントの特徴は」
「日本風の古臭い着物を着た、若い日本人男性。顔立ちは整ってる、体格は上々。腰に刀を持ってたわ。
 侍かな?」

未だ男の体液が染み込んだ右手の指を、ぺろりと舐めてみせる。
その光景だけで、ハザマは自分自身がむくむくと半端な屹立を始めることを感じた。
そんなハザマへと向かってライダーは声をかける。

「とりあえず移動しましょう、マスター。
 敵方のサーヴァントが周辺把握能力にも優れていれば、追撃を行ってくるかもしれない。
 マスターは優秀すぎる魔術師だけど、サーヴァントの異常さには遅れをとる可能性だってあるわ」

そもとして、ハザマと淫奔のライダーが籠城を決め込んでいた電人HALと魔眼のアサシンの所在をどう確定したのか。

蒼いランサーを取り逃がした事実は、この二人にとって大きな意味を持っていた。
すなわち、淫奔のライダーの存在を知らしめたということ。
不意打ちならば間違いなく最強を誇るライダーは、同時に敵からの急襲に問題を残す。
だからこそ、あえて2キロメートル範囲内にライダーの無作為な攻撃を行い、警戒を促す。
初めは、敵への牽制の意味しか込められていなかったその攻撃。
その中でライダーは大学内に走る奇妙な雰囲気を感じ取ったのだ。


478 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:26:46 GKuiC88E0

前述のとおり、HALの籠城は巧妙だった。
彼自身の繊細さを示すような巧妙さを、しかし、ライダーはくぐり抜けた。
その原因は、淫奔のライダーの宝具――――『ぴちぴちビッチ』にあった。
生きとし生けるもの全てを絶頂まで導ける最淫の英霊、魔人・鏡子。
ライダーは自身の索敵能力を持って、『奇妙な統一性』を発見してみせたのだ。
それは性へと理解の深いライダーでなければ理解できなかったであろう共通点。

馬鹿げている、その様子を見たハザマはライダーに侮蔑と混乱の入り混じった声を投げつけた。
しかし、ライダーはいつものように妖艶な笑みを見せるだけだ。
それだけで反射じみて自身の性器が屹立する笑みを見せられると、ハザマは言葉に詰まる。
そんなハザマに対して、淫奔のライダーは簡単に答えてみせた。

『試してみる価値はある』

結論を言うならば、絶頂に導かれた際にNPCは尽くなんらかの動きを取るという『異常』を見せた。
『報告』を行うために、ある建物へと向かおうとしていたのだ。
それが一人や二人でないとなれば、当然なんらかのサーヴァント、もしくはマスターの動きと見るのが当然だ。

『お前に出来るのか。
 あの蒼いランサーを取り逃がしたお前に、そんな陣地を取ったサーヴァントに遅れを取らないのか?』

ハザマが嘲笑うように、ランサーを取り逃がしたライダーを責めてみせる。
相手と自分の能力でしか、いや、自身の能力を誇ることでしか相手と交流できない少年。
根底にあるコンプレックスが生んだ、歪なコミニュケーション能力。
しかし、そんな嫌味な言葉に対してライダーは微笑んでみせた。


『私は最淫のサーヴァント。だから――――生きているのなら、神様とだってセックスをしてみせる』


『それは答えじゃない』。
しかし、ライダーの放つ淫婦の空気に当てられ、ハザマはその言葉が出てこなかった。
ライダーにとっての勝負とはすなわちセックス。
ハザマが問うた『遅れを取らないか』はライダーにとっては『セックスが出来るのか』に受け止めてみせた。

「……相変わらず下衆な英雄だ」

現実の愛液を舐めとってみせる姿と、襲撃前の姿を思い出してハザマはポツリと零した。
ライダーはやはり優しく、しかし、淫奔に笑ってみせる。
娼婦のような、母親のような。
温もりと不快を同時に覚えるその笑みを前にすると、ハザマは言葉が詰まる。
そして、ライダーは代わりに言葉をハザマへと優しく交わす。

「なら、今度は私の『性行為』を禁止にしてみせる?
 私の『ぴちぴちビッチ』で索敵を行って、マスターが敵を倒す。
 愚策だとは思うけど、それも一つの手かもしれないわね」

令呪によってハザマへの淫行を封じられている鏡子。
ならば、次の一角はライダーの性行為そのものを封じ込めるのか。
ハザマは鼻で笑い、その言葉を切り捨てた。


479 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:27:40 GKuiC88E0

「なら、今度は私の『性行為』を禁止にしてみせる?
 私の『ぴちぴちビッチ』で索敵を行って、マスターが敵を倒す。
 愚策だとは思うけど、それも一つの手かもしれないわね」

令呪によってハザマへの淫行を封じられている鏡子。
ならば、次の一角はライダーの性行為そのものを封じ込めるのか。
ハザマは鼻で笑い、その言葉を切り捨てた。

「貴様が令呪の一画程度で淫行を辞めるわけがないだろうか」
「ふふ、そうね。よく理解しているわ、マスター。
 何度も言うけど、私はビッチの英霊。
 ――――その気になれば、神様だって雄に変えてみせるわ」

今度の言葉は、比喩ではなかった。
神霊『ズルワーン』を打ち倒し、その身に神霊の力を得た狭間偉出夫。
その『神』同然のイデオを、確かに『性』が存在する『雄』へと変えてみせると言ったも同然なのだ。

「私が本気を出したらアークセルが観測した『童貞』という概念の類義語にマスターの名前を置くことだって出来るわ。
 直接的な性行為は、そりゃ便利だけど、行わなくても死ぬほどの快感を味わうことは出来るのよ」

手段は幾らでもある。
言葉、匂い、感触、視覚、味覚、状況。
あらゆるものを『性欲』へと置き換え、ハザマの意志力を弱める。
ライダーの強烈な性への渇望と、ハザマの意志力が弱まれば令呪の束縛も弱まる。
ハザマは童貞のままあらゆる快楽を知り得る存在へと成りかねない。
それほどまでに、淫奔のライダーの性戯は異常なのだ。

「……私は、なぜ貴様などを召喚してしまったのだろうな。
 共通点など――――馬鹿らしい。これでは聖杯の奇跡とやらも当てにはならんな」

その挑発とも誘惑とも取れる言葉に対し、ハザマは一瞬だけ怒りを覚えた。
ライダーはまともじゃない。
自身の特殊なまでの優秀性故に、相手の顔色を窺って生きてきたハザマはつかみ所のないライダーが嫌いだった。
少なくとも、そう思い込もうとしていた。

「……ねえ、マスター。そんな嫌わないで」
「今までの行動で、よくそんな言葉を紡げたものだな」
「私はね、マスターのイキ顔みたいの」

ハザマはその言葉に顔をしかめ、しかし、ライダーは笑みを消して応えていた。
その顔は、曖昧なものはなかった。
ただ、ハザマのイキ顔を見せてくれと。
心の底から訴えているものだった。
下品な言葉でありながら、ハザマは嫌悪の念を覚えなかった。

「あんなに苦しそうに喘いだ男は久し振り、快感よりも嫌悪が勝った色。
 その行為自体に傷がある顔……私、あんな顔されるのが本当に辛いの。
 一番好きなのはイキ顔だから、相手に拒絶されると、ね」

相手に拒絶される。
そのワードにハザマの脳が精神的外傷から生じる痛みを覚える。
憧れの女性から拒絶された痛み。
そうだ、ハザマの魂が生む歪さの根本は、結局のところそうなのだ。
過去、母親が自らの元から去った時のことから続く、痛みなのだ。
誰かに拒絶されていたくない、その想いこそが狭間偉出夫という少年の心を歪めているのだ。

淫奔のライダー――――魔人・鏡子が自らの快楽を受け入れる相手の淫姿にこそ己を見出していたように。


480 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:28:29 GKuiC88E0

「……目星はついた、今回は十分な収穫とも言えるだろう」

僅かに湿った下半身とライダーのに強烈な違和感と屈辱を覚えながら、ハザマはライダーへと告げる。
現状、これ以上の交戦は危険だ。
もしも、ライダーの性戯を反射したサーヴァントが神殺しの逸話を持つ英雄ならば、ハザマなどカモそのものだ。
下手をすれば並のサーヴァントをも上回っている可能性のあるハザマイデオ。
しかし、英霊とは尋常ではないエピソードが付き物であり、全てが規格外とも呼べる存在だ。
無作為な接触は神の力を得たとしても危険すぎる。
自身のサーヴァントである淫奔のライダーは余りにも癖が強すぎる。
今はまだ、勝負をかける時ではない。

「…………そう、今はまだ前戯」

ライダーは一度目を閉じた後、ハザマの思考に同意するように、ペロリ、と性臭を発する右手を舐めてみせた。
自動書記が記録した多元宇宙にひしめく英雄を登録した英霊の座の中で、恐らくセックスが一番巧いビッチ。
魔人・鏡子が相手との『楽しい』駆け引きを捨てて本気で絶頂へと導こうと思えばそれこそ一度の愛撫もいらない。
彼女の吐息と愛液の香りだけで絶頂へと導ける。
もちろん、それは強い意志というものを持たない構造が単純なNPCに対してのみ。
マスターにそのような真似をすれば、間違いなくサーヴァントに狙われる。
英霊として強烈な意志力を持ったサーヴァント相手となると、さすがに鏡子も本腰を入れる必要があった。
絶頂へと導く間に宝具の解放を許しかねない。
そもとして、英霊には性豪としてのエピソードが付き物なのだから。

右腕だけの状態ではなく、全身を持って性交へと向かわなければいけない。
性交とは身体の感触だけでなく、視覚や聴覚、嗅覚を持って行うものだ。
『ぴちぴちビッチ』からの遠隔愛撫にしても、姿が見えない状態を向かい合った状態では効果が違う。

「相手の兵隊さんにも嫌がらせしてきたし、ね」
「洗脳か……管理者への報告も考えておくか」
「そこはご自由に」

鏡子の宝具の一つ、『賢者モードver鏡子』。
射精による強烈な快感の反動による脳の情報処理能力とモチベーションのクールダウンを応用する宝具。
この賢者モードver鏡子の力によって、NPCへと電脳ドラッグによる書き換えへの違和感を植えつけた。
ようは、自分の行動を達観して振り返る状態だ。
それを与えた結果、NPC自体の個人差も大きかったが、幾人かの兵隊に違和感を持ち込ませてみせた。
しかし、それは鏡子をして神秘の域に達した性戯を全力で注いでようやくと言ったもの。
第一、これは対雄宝具であって雌には通用しない手段。
全員の洗脳を解くのは非現実的だ。

あくまで、嫌がらせ。
自分はこんなことも出来ると相手に知らせて、過剰な警戒心を抱かせる目的。
そこに本線はないのだ。


481 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:28:50 GKuiC88E0





電脳空間に性の花が咲く。
雄臭と雌臭が交じり合い、誘うように精臭を揺らす性の花。
聖なる杯を、性なる杯へと貶す花。
滅びの方舟に、新たな命を灯す花。

電子の世界に、生なる命の根源たる花が咲く。



【C-6/錯刃大学・春川研究室/1日目 午前】

【電人HAL@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]『コードキャスト:電子ドラッグ』
[道具] 研究室のパソコン、洗脳済みの人間が多数(主に大学の人間)
[所持金] 豊富
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。
1. ルーラーを含む、他の参加者の情報の収集。
2. ルーラーによる12時の通達の後に、得られた情報をもとに行動方針を是正する。
3. 通達の後、特に注意すべき参加者の情報が得られた場合、アサシンによる偵察や暗殺も考える。
 『ハッキングできるマスター』はなるべく早く把握し、排除したい。
4. 性行為を攻撃として行ってくるサーヴァントに対する脅威を感じている。
[備考]
○『ルーラーの能力』『聖杯戦争のルール』に関して情報を集め、
 ルーラーを排除することを選択肢の一つとして考えています。
 ルーラーは、囮や欺瞞の可能性を考慮しつつも、監視役としては能力不足だと分析しています。
○大学の人間の他に、一部外部の人間も洗脳しています。
○洗脳した大学の人間を、不自然で無い程度の数、外部に出して偵察させています。
○C-6の病院には、洗脳済みの人間が多数入り込んでいます。
○ビルが崩壊するほどの戦闘があり、それにルーラーが介入したことを知っています。
 ルーラー以外の戦闘の当事者が誰なのかは把握していません。
○他の、以前の時間帯に行われた戦闘に関しても、戦闘があった地点はおおよそ把握しています。
 誰が戦ったのかは特定していません。
○性行為を攻撃としてくるサーヴァントが存在することを認識しました。

【アサシン(甲賀弦之介)@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態] 健康
[装備] 忍者刀
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を得る。
1. HALの戦略に従う。
2. 自分たちの脅威となる組は、ルーラーによる抑止が機能するうちに討ち取っておきたい。
3. 性行為を行うサーヴァントへの警戒。


482 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:29:07 GKuiC88E0

【C-9/マンションの自室/一日目 午前】

【狭間偉出夫@真・女神転生if...】
[状態] 健康、性的興奮
[令呪] 残り二画
[装備]
[道具]
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝つ。
1.聖杯戦争に挑むにあたっての戦略をもう一度検討しなおそう。
[備考]
○まだ童貞。
○錯刃大学に存在するマスターとサーヴァントの存在を認識しました。
○アサシン(甲賀弦之介)の容姿を把握しました。

○学校をどうするかは決めていません。このまま欠席してもいいし、遅刻してもいいと考えています。

【鏡子@戦闘破壊学園ダンゲロス】
[状態] つやつや
[装備]
[道具] 手鏡
[所持金] 不明
[思考・状況]
 基本行動方針:いっぱいセックスする。
 1.一度お風呂に入らないといけないかな?
[備考]
○クー・フーリンと性交しました。
○甲賀弦之介との性交に失敗しました。
○錯刃大学に存在するマスターとサーヴァントの存在を認識しました。
○アサシン(甲賀弦之介)の容姿を把握しました。


483 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/12(火) 03:29:53 GKuiC88E0
投下終了です


484 : 名無しさん :2014/08/12(火) 03:38:11 Xmy.sDX60
投下乙
電子ドラッグを解消したり、セックス以外でイカせる
鏡子の性パワーマジやべえw
遠距離ではムッチャ強いなやっぱ


485 : 名無しさん :2014/08/12(火) 04:28:50 39lHIwKM0
投下乙!

白野は流石月の聖杯戦争優勝者
命をかけあって戦う意味も分かってるし心強いなと思ったらw
思わぬ形でSNとEXTRAが繋がっちゃいましたなあw
バーン様を倒せたら倒せたでその後が楽しみになる振りもされたんでほんと、勝ち負けが気になるw

ビッチがまともに戦争してるー!?
なるほど、HALとの間にまさかの相性発生か
HALには鏡子強いけど、性欲反射できる上に房中術にも通じてその厄介さ分かってる弦之介は思わぬ強敵だな!
そしてあっさり射精する童貞乙w


486 : 名無しさん :2014/08/12(火) 04:34:48 9uPAoBx20
投下乙です。
次々とNPCが射精するというのはなかなかに凄まじい光景…w
とはいえ電子ドラッグ戦法の撹乱が行えるのは普通に強力だなぁ
鏡子はやはり暴力こそ用いないが恐ろしいサーヴァント
弦之介もきっちりマスターのサポートに徹してて優秀だな
ぴちぴちビッチをも無力化した瞳術はやはり強力な切り札

ひとつ気になったことを挙げると
弦之介殿って情報抹消スキル搭載してるから鏡子は外見や能力を把握できない気が…?
対戦扱いじゃないのかもしれないけど


487 : 名無しさん :2014/08/12(火) 05:25:16 Y/KfGMdE0
>Moondive Meltout
兄貴はキャスタークラスの適正あるほどのルーン使い出し、こういう魔術にも秀で出てやはり頼りになる
そして白野「やっぱり小学生は最高だぜ!」

>電脳淫法帖

>そして、その右手をぺろりと舐め、左手でハザマの頬を妖艶に撫でてみせた。
>――――その瞬間、ハザマは射精した。
流石にここで草を抑えきれなかった。

>――――生きているのなら、神様とだってセックスをしてみせる
そして式の名セリフがこんなところでwwwひどいwww酷すぎるwww(褒め言葉)

※そして色々言ってますが狭間くんのパンツのなかはびしょびしょです


488 : 名無しさん :2014/08/12(火) 07:41:51 tbTsGm420
お二人とも投下乙です!
まさか連続でこんなヤバい展開が投下されるなんて……w
白野とロ凛は大人の階段を登って、エリザは純潔を捧げる……てか、ランサーの兄貴が煽ってるようにしか見えないww
そして白野の記憶が取り戻せるきっかけになれるかな?

ああ、狭間達もヤバい……本当にヤバいよ。もうこのまま大人の階段を登ればいいよ
電脳ドラッグはマジでチート。上手く使えば、他の参加者達も大人に(ry


489 : 名無しさん :2014/08/12(火) 08:18:57 pBrYTlgM0
投下乙です!
やっぱり性杯戦争じゃないか(歓喜)


490 : 名無しさん :2014/08/12(火) 08:59:08 8twEZngU0
ビッチつええええ!?


491 : 名無しさん :2014/08/12(火) 10:15:50 VirHUEVkO
鏡子のせいで性的な方向に向かってるな。
無敵くさいが完全にステ一点全振りだからなあ。


492 : 名無しさん :2014/08/12(火) 10:51:27 ZfN69kFU0
そうか、つまり鏡子さんはハザマの最後の色欲界だったんだよ!(錯乱)


493 : 名無しさん :2014/08/12(火) 16:25:37 z/cPx4tU0
案外的外れでもない気がするのがあまりにも恐ろしい……


494 : 名無しさん :2014/08/12(火) 18:17:18 goQ169/.0
投下乙です。他の方も言っていますがアサシンの情報抹消でライダーはアサシンのことを把握できないのではないのでしょうか?


495 : 名無しさん :2014/08/12(火) 19:46:24 HHyEf3OAO
投下乙です。

ガッツ基準だと、やっぱり魔法少女は人外かな?

ルーラーはよく目撃されるなあ。
ジャンヌダルクが放火魔とか、洒落になんねぇw

僅か三話で、小学生が新古車に。
これが魔術師の業!
これが聖杯戦争!
夢見る少女じゃいられない……

犯罪欲をぶちまける電子ドラッグと、性欲強制解放のビッチは、相性悪いね。
そして、HALの苦手な部分を補完できるアサシンは、マスターと相性いいね。
てか、魔眼チート。相手の攻撃を理解せずとも反射できるって強い。
狭間が愛に飢えてるから、鏡子を呼んじゃったのね。


496 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/12(火) 20:16:06 86ijqpjg0
投下乙です。
>HALの中ではすでに戦いと呼べるものでしかない。
>しかし、これこそが戦いなのだ。
>あらゆる手段を持って、勝利をもぎ取る。
>これが戦いでなくて何だというのだ。

この言葉にゾクリと来ますね。


気になる点が一点。

狭間組の現在の場所はC-9ではなく、C-6かD-6ではないでしょうか?

『ぴちぴちビッチ』の射程や前作からの狭間組の移動距離を考えると、C-9は遠すぎな気がします。

作中にも
>ここはハザマの自室。
>場所は錯刃大学の南に存在するマンション。
と書いてあります。錯刃大学はC-6で、C-9では作中の表現に合いません。

ご確認出来ますでしょうか。


497 : 名無しさん :2014/08/12(火) 20:50:24 c936.SHw0
宝具同士の相性の書き方が面白いな
賢者モードで洗脳に影響を与えたり、一方瞳術で反射されたり(けど殺意はないので外傷は負わせられない)とか

あと鏡子さんはエロ抜きにしても広範囲な索敵能力は頼りになる
すげーエロいけど番長グループのメンバーとして毅然としていたり優しい面も持ってたりしてるよね
狭間の抱える拒絶の痛みを的確に突いてきたりと、気になる組み合わせ

投下乙でしたー


498 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 22:50:46 ojXH5j0Q0
投下乙です。
鏡子、恐ろしい子・・・!!

このような名作たちの中で拙作を投下するのは緊張しますが、
ウェイバー・ベルベット&バーサーカー(デッドプール)
シャア・アズナブル&アーチャー(雷)
投下します


499 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 22:52:52 ojXH5j0Q0
「ウェイバー君、この後授業だけど大丈夫?」
「ああ、はい・・・大丈夫です」

月海原学園から少し歩いた場所にある英会話教室―――そこに魔術師ウェイバー・ベルベットはアルバイトをしている。
拠点からバスを乗り継ぎ、ここまでくるのは少し疲れるが、時給は他のアルバイトに比べてそこそこ良いのだ。
バスの交通費も英会話教室が負担してくれているという。
中々良いバイト先で、資金を稼げるという事実にウェイバーは少しだけ気分が良くなった。
しかし今の彼は、はっきり言って倒れそうなほどに疲れていた。
通勤による肉体的に、ではない。
精神的に、である。
顔も幾分か老けたのではないだろうか。

(・・・ったく、朝から最悪だよ)

ウェイバーの悩みは―――言うまでもなく、バーサーカーである。
手綱を握るどころか、会話すら成り立たない。
意味不明な単語の羅列と誰と話しているのかすら理解できそうにないその反応。
こちらの言葉を理解しているのかすら危うい。
彼のことが全く理解できないのだ。
そして自分の気づかない内に予想外の行動ばかり行う。
今朝のこともそうだ。
まったく持って―――ハズレサーヴァントだ。

(他にセイバーとかランサーとか、ライダーとか色々いるじゃないか。何でよりによってバーサーカーなんだよ・・・)

悩んでも聖杯戦争は終わらない。
これからどう動こうかも考えなければならない。
あのバーサーカーをどう制御するか、令呪の使用も視野に入れてはいるが―――数少ない令呪、こんな序盤で使っていいのかという考えもあるのだ。
いざという時に使えませんでしたでは、洒落にならない。
だからこそ、使用には最大の注意を払わなければいけない。

(あー、クソ。全然答えが見つからない)

まだ午前なのに、精神的疲労が強いのか、眠くなってきている。
先ほどからウトウトしかけているのだ。
それこそ、同じアルバイト先の同僚に心配されるぐらいには。

(でも良かった、いくらバーサーカーでも場は弁えてるらしい)

あれほどバイト先には出現するなと言っておいたのだ。
さすがのバーサーカーも理解してくれたのだろうか。
霊体化させて、待機ぐらいの指令ぐらいは聞いてくれたらしい。

(だってさっきから一言も喋って―――)

―――あれ?
おかしい。
バーサーカーが。





―――いない。

(何を考えてやがりますかあのバカぁぁぁぁぁぁぁあああッッ!!)

ウェイバーは頭をガシガシと掻き回し、心の中で叫んだ。
気を抜いていた。
眠気と聖杯戦争の先の悩みで、心ここに在らずだった。
バーサーカーへの注目を疎かにしていた。
―――だからこそ、気づかなかったのだ。
霊体化したままバーサーカーは、そのまま何処かに消えたのだ。
何処に行ったのかはわからない。
辛うじて分かるのは近くにバーサーカーが存在しないのと、魔力消費からバーサーカーが戦闘を行っていないだろうということ。
今はまだ大丈夫だが、好き勝手やらせた結果何処かで戦闘して真名がバレたなどがあったら最悪だ。
意味不明な存在だがあれでもサーヴァント、そう簡単に負けないとは思っているが―――それでも不安なのだ。

「ごめんなさい、この後の授業お願いしますッ!」
「え、まあいいけど―――」

同じ同僚に後を託し、答えすら聞かないまま英会話教室を駆け出す。
あのバカ、どこに行った―――!


500 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 22:54:45 ojXH5j0Q0
◆ ◆ ◆

真っ赤な車が街を走り抜ける。
過ぎ去る風はとても穏やかで、聖杯戦争なんて存在しないのではないかと思わせるほどだった。

『ふふ・・・』

霊体化しているが―――確かに感じる己のサーヴァントの微笑が、シャアの耳に届く。

「どうした?」
『いえ、こういうドライブもたまにはいいものねと思ったの』
「ああ、では実体化して見るといい。助手席も空いているのだからな」

ポンポン、と片手で助手席を軽く叩く。
そうすると、光の粒子が集まるように―――アーチャー、雷が実体化した。
その姿は黒の秘書服。
その姿はこの上ないくらい―――とても、似合っていた。
窓の外には家や自然の数々が流れている。
珍しくも何ともないであろうその風景。
その一つ一つを注意深く観察しながら、車を走らせる。

「どう?マスターは見つかりそう?」
「いや・・・やはりそう簡単には見つからないらしい」

周りを見ても異常はない。
そろそろ登校中の学生もいなくなった頃故か、人通りも少ない。
NPCに話を聞こうにも、姿が見えないのでは話にならない。

「少し新都の方に行ってみようか」
「ええ、あなたとなら何処までも着いて行くわ」

まるで向日葵のような―――明るい笑顔を向けて笑う。
その姿を見ると、こちらも微笑ましい気持ちになる。

「いつ誰に狙われても私が守るわ。だから、気にしないで行きましょう」

その言葉は、シャアの決断を後押ししてくれている。
ハンドルを握る腕は軽く、アクセルを踏む足も、躊躇うことはない。
しかし。
その時だけは、シャアはブレーキを踏んだ。

「アレは―――サーヴァントか・・・?」

シャアの目線の先には雷が霊体化した時と同じ感覚―――サーヴァントがそこに『いる』という感覚を、シャアは感じた。
シャアとそのサーヴァントの距離は約10メートル。
その周りにマスターは視認できない。
隠れているのか、それともサーヴァントが一人で散歩でもしているのか―――察しはつかないが、接触してみる価値はあるかもしれない。

「マスター、どうするの?」
「・・・少し接触してみよう」
「わかったわ」

車を側に止め、ガチャリとドアを開け車外へと出陣する。
雷もそれに続くように車外から飛び出し、シャアの盾になるように前に立っていた。

「マスター、他のサーヴァントといる時は私のことはアーチャーって呼んでね」
「わかっている」

真名が露見するのはサーヴァントにとって致命的。
そのリスクを減らすためなのだ、真名で呼ぶのは二人きりの時だけでいい。
カツカツと、革靴の音がする。
霊体化しているサーヴァントとの距離が、少しずつ近くなる。
そして―――約五メートルほどの距離になった瞬間。
シャアは、その口を開く。

「私はシャア・アズ「アレェー?もしかして見えてるー?」―――」

出鼻を、挫かれた。
声と同時に実体化したのは、赤と黒の装束を纏った怪人だった。


501 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 22:55:36 ojXH5j0Q0
「さっきから何を見てんだよ、オイ。あれ?もしかして俺ちゃんの美貌に見惚れちゃった?ダメダメ、俺ちゃんには愛すると決めた存在が!」
「―――いや、すまない。このようなところにサーヴァントが一人でいるとは思わなくてな。君のマスターと話が」
「あー、ちょっと待って。そこでガンプラ買ってくるからさ、サインいい?俺ちゃん実は『機動戦士ガンダム』のファンなんだよ!・・・富野さんからオファーこねぇかなぁ。『機動戦士ガンダムデップー』とかどうよ」
「いや、サインなら後でしよう。君のマスターと話が」
「やっぱりさー、赤と言ったらこの俺ちゃんの次くらいにはシャアってなるよな。あ?スパイディ?その話はスパイディがアサシン辺りで参戦した時にしてやるよ。あ、ヤッベ、今俺ちゃん金ないわ。ウェイバーちゃんからちょっとばかし拝借してくりゃよかったかなー、これじゃガンプラも買えねぇわ」

―――会話が、成り立たない。
サーヴァントなのは分かるのだが、まず意思疎通ができていない。
こちらが話かけても一方的に言葉をぶつけ、時折何もない方向を見て観客に話かけるように言葉を放つ。
はっきり言って、理解不能だった。
いつ攻撃されても反応できるように、構えていた雷がシャアに囁く。

「・・・マスター、こいつバーサーカーのサーヴァントよ。どうやら言葉は出せるみたいだけど・・・やっぱり狂っているみたい」
「あら、おたくサーヴァント?え、シャアちゃんまさかロリコンー?知ってたけどな!そんなロリコンマスター・アズナブルな貴方にはァ、この俺ちゃんが土手っ腹に風穴開けちゃいまーす」
「なっ―――!!」

BANG!BANG!!BANG!!!
銃器から放たれた銃弾を、アーチャーはシャアを抱えて飛び上がることで避ける。
ギリギリで銃弾がシャアの顔面の横を掠める。

「な、なんなのよあのバーサーカー、いきなり発砲だなんて・・・!」
「あれ?マスターとサーヴァントどっち殺せばいいんだっけ?あー・・・どっちでもいいか!」

距離を取ったアーチャーを、その手に持った銃をクルクルと回しながらバーサーカーは距離を詰める。
―――近づかれてはならない。
アーチャーとは、弓兵のクラス。
中距離、遠距離で真価を発揮するクラスである。

「あのサーヴァント、昼間だというのに・・・!?」

お構いなしか、とシャアは呟く。
巫山戯たサーヴァントだが―――あのサーヴァント、強敵だ。

「・・・アーチャー、迎撃を頼む」
「・・・マスター、」
「仕方ないさ。私達はここでやられる訳にはいかない」
「―――ええ、わかったわ」

アーチャーの顔が少し曇る。
バーサーカーに振り回されているだけで、マスターは善人の可能性を考えていたのだろう。
カシャリ、と地面に足を開いて構えると同時に、シャアを地面に下ろす。
背部に光が収束し、武装が出現する。
―――12.7cm連装砲。
アーチャーの、基本武器である。

「ってー!!」

アーチャーの掛け声と共に―――銃弾が背部から発射される。
だが。
向かってくるバーサーカーは避けようともしない。
ドスッと、鈍い音を立てながら、銃弾はバーサーカーの肉を削り骨を折り、腹部を貫き体外に飛び出す。

「ぐあーっ!腎臓がぁー!!」

―――しかし、バーサーカーはそれでも止まらない。
攻撃を浴び、奇怪な叫び声をあげてなお、その体を前進させる。

「さすがバーサーカーね、でもこっちもまだまだよッ!」

ドンッ!と、背部の砲門から吐き出される数々の銃弾。
雷とて、戦いたい訳ではない。
しかし、マスターを守るため、そしてマスターの命令ならば―――躊躇はしない。
放たれた銃弾は真っ直ぐに突き進む。
綺麗な線を描きその銃弾は―――バーサーカーの、脳天を貫いた。


502 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 22:58:48 ojXH5j0Q0
「おうっ」

間抜けな叫び声をあげながら、バーサーカーはその場に倒れ伏す。
しかし、それは一瞬。
ガバリ、と即座に身を起こし、その手に持った刀を構える。

「危ないねぇ、今の俺ちゃんじゃなかったら死んでたよ?」

軽い言葉と共に起き上がったバーサーカーの額には―――弾痕など、既に存在していなかった。
腹部の弾痕すらも、既に存在していない。
再生か、と雷は歯噛みする。
バーサーカーとこのような至近距離で争っていること自体が、アーチャーのクラスとしては既に不利なのだ。
その上、相手が再生能力持ちとなると―――長期戦は避けられない。
ばららららら、と12.7cm連装砲が空間に弾をばら撒く。
しかし、その全てはバーサーカーに避けられ、虚しく中を切るのみ。
宝具を解放しての火力で制圧することも考えたが、昼間の上にマスターは一般NPCより更に上級の立場である。
火力のある武装は、それに比例して音や衝撃も大きくなるものだ。
その音でNPCを呼び寄せてしまった場合、不利になるのはこちらだ。
『選挙に立候補する人間が争いの中心部にいた』―――そんな噂が拡がってしまえば、シャア・アズナブルがマスターであるということが他マスターに感づかれてしまうかもしれない。
よって、大火力で大きな音と衝撃を発生させてしまう宝具は、戦略上使えないのだ。
そして聖杯戦争も序盤の序盤。
ここで真名露見の恐れは避けておきたい。
よって。
アーチャーはこの基本武装、12.7cm連装砲で戦うことを強いられていた。
しかし、バーサーカーはそんなことはお構いなしなのだ。
近くにアーチャーがいるなら好都合。
離れられると面倒だし、コイツおっぱい無いしちゃちゃっと解体して何か楽しいこと探そう、程度のことしか考えていない。
そして極めつけはバーサーカーとアーチャーの戦法の違い。
バーサーカーは近・中こなせるオールラウンダーなのに対し、アーチャーは接近戦より遠距離戦、砲撃主体の戦い方を主体としている。
つまり―――そう。
この状況、アーチャーの圧倒的不利なのだ。

「絶好調!絶好調!絶好調ォーーーッ!!俺ちゃん今朝おっぱい堪能したからもー超ノッてるのさ!正にデップーリシャス!」
「何を、意味のわからないことをッ!」

Bang!
BangBangBangBangBang!!
バーサーカーの銃から放たれた鉛玉はアーチャーの顔面すぐ隣、足元、頭上と、直撃スレスレの場所を貫いていく。
―――バーサーカー、デッドプールは狂人だ。
それは間違いない、歴とした事実である。
第三者から見れば常に妄言を垂れ流している異常者にしか見えない。
だが、しかし。
戦闘においては、一流なのだ。
傭兵としての技術、頭脳、直感、身のこなし。
その全てが、通常の傭兵の平均値を文字通り桁違い上回っているのだ。
そして狂っているからこそ、彼の思考を常人は理解できない。
つまり―――思考が読めないということは、次に何をしでかすかわからないということだ。
狂っているからこその、予測不能の攻撃。
狂っているからこその、大胆不敵の行動。
アーチャーは、それを捌き切ることができない。

「次は豪快でクールな刀ちゃんの出番だーよッと!」

手に持った銃を懐に仕舞い、背部の刀を抜く。
右と左の二刀流、鋭い日本刀。
幾つもの腕を斬り落とし。
何本もの脚を削ぎ。
何人もの首を取り。
膨大な数の命を刈ってきた―――その凶刃。
それを操るバーサーカーの身のこなしも『殺す』ことを第一とした、その技術の結晶。
弓兵の苦手な接近戦、それにおいてその小さな首を刈り取ろうと、その凶刃は無慈悲に迫る。


503 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 23:00:29 ojXH5j0Q0
―――しかし。
この程度でやられるならば、アーチャーは英霊になぞになってはいないのだ。

「なんの、ッ!」

ガギン!と、鋼鉄と刃が衝突する音がする。
アーチャーの持つ宝具―――『砲雷撃戦』。
生前、武装として積まれたその兵器を召喚する宝具。
その宝具から―――彼女が駆逐艦として使用していた錨を二つ、引き抜いたのだ。
生前から受け継いだ物は、武装だけではない。
香港攻略戦。メナド攻略戦。
スラバヤ沖海戦。護送任務。
その他にも数々の任務を、戦闘を行った記憶、その経験は―――艦娘となった彼女の体に深く刻まれている。
勝った戦闘の経験も。負けた戦闘の経験も。
助けた命の記憶も。守れなかった命の記憶も。
忘れるはずがない。忘れてたまるものか。
時代は変わり、駆逐艦はその姿を変えて尚―――命を賭して戦った戦友を、覚えている。
ならば、負けるはずがないのだ。
多くの願いと、乗組員だった彼らの思いが、そう簡単に負けるはずがない―――!

「くうっ!」

しかし、鍔迫り合ったのはほんの一瞬。
バーサーカーの強大な筋力よって、雷の体はいとも容易く後方に飛ばされる。

「あーダメダメ、子供ならそんな小さな玩具を振り回しちゃダメだゾ☆
子供ならもっと―――」

ゴソゴソ、とバーサーカーがその腰についたベルトを弄る。
その隙にアーチャーは体制を立て直し、次の攻撃に備えるが―――その瞬間、マスターであるシャア・アズナブルに嫌な感覚が過る。
ニュータイプとしての感覚ではない。
言わば軍人としての、培ってきた危機回避能力。
アーチャーのその判断は間違っていると、その研ぎ澄まされた軍人としての勘が叫ぶ。

「―――アーチャー!止まるな、そのまま下がるんだッ!!」
「え―――?」

シャア・アズナブルの声にアーチャーは反応する。
その命令の意図を読み取る。
しかし、遅かった。
英霊同士の戦いでは、その一手の遅れが致命的となる。

「子供なら―――もっと大きな玩具で遊ばないと!」

まるで、友にボールを投げ渡すように。
バーサーカーが優しく下から、ふわりと『何か』を投げつける。
その『何か』が眼前に迫った瞬間、
アーチャーはそれが何なのかを理解する。

(回避を―――!)
「サンタさんから『爆弾』のお届けものでェーすッ☆」

―――瞬間。
アーチャーの視界を、爆炎と爆風が支配した。



◆ ◆ ◆



一瞬。
意識が飛びかけた。

「また、だ。あのバーサーカーのヤツ・・・!」

ウェイバー・ベルベットは英会話教室から飛び出し―――少し離れた場所で、膝を突いていた。
バーサーカーへの魔力供給で、多くの魔力を吸われたため、目眩により一時的な歩行困難に陥ったのだ。
それもそうだろう。
ウェイバーこそ知らないはずだが―――バーサーカーはここから少し離れた場所で、霊核の修復及び臓器・肉体の修復を行ったのだ。
その魔力消費量は、少なくない。
魔術師にとって、魔力とは生命力。
消費すれば気怠くなり―――魔力が切れれば死ぬのだ。

(こんなとこで、使いたくはなかったけど)

背に腹は変えられない、と。
ウェイバーの右の手の甲が熱を持つ。
令呪の一画が、光を放つ。

「我がサーヴァントよ、ウェイバー・ベルベットが命ずる―――」

マスターが持つ、サーヴァントの絶対命令権の三画。
その一つが、溶けるように空へと消える―――





◆ ◆ ◆


504 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 23:01:40 ojXH5j0Q0
「けほっ、けほっ」
「アーチャー、大丈夫か」

黒い爆煙の中から現れたのは、アーチャーだった。
纏った秘書服はところどころ破け、その柔肌を晒している。
艦隊風に例えるならば―――小破、と言ったところだろうか。

「バーサーカーは・・・いないようだな」
「ええ、あの後いきなり気配が消えたわ。何処かに転移したみたい」
「そうか」

辺りを見回すが―――サーヴァントの気配は、ない。
戦闘を行った後、この疲労した瞬間が一番襲撃されやすいのだ。
軍人としてそれを知っているからこそ、シャア・アズナブルは戦闘後とはいえ気を抜くことはしない。

「・・・ごめんなさい、マスター」
「気にしなくていい。服は今から新調しよう―――君が無事でよかった」
「・・・ええ、ありがとう、マスター」

今は霊体化しておくといい、とシャアは優しく告げる。
その声を聞き、命令に従ったのか―――アーチャーの姿は、光の粒子としてこの場から消える。

(これが、サーヴァント同士の戦闘か)

シャアは、改めてこの聖杯戦争の恐ろしさを痛感していた。
人型の、そして人間と変わらないサイズの存在が行う、強大な力同士の戦闘。
モビルスーツと同等―――いや、それ以上かもしれないその戦闘力。

(考えを改めねばならんかも知れんな)

自身の無警戒な接触が、この結果を招いた。
バーサーカーがこの場から引いたから良かったものの、次はどうなるかはわからない。
生半可な覚悟では人類を見極めるどころか、自分の命も―――そして雷の命も、失ってしまう。
予選として記憶を奪われたその数日間―――その平和な暮らしが、自分を鈍らせていたのかもしれない。
次からは、最大限の警戒を行わなければいけない。
接触するにしても、無力化した後、という手もある。

この聖杯戦争に彼の辿り着く、真なる答えがあるかはわからない。
―――それでも、今更引き返すことは出来ないのだ。
止めておいた車に乗り込む。
真っ赤な色は同じとはいえ、この車はモビルスーツではない。
己ができることは、限られているのだ。

―――赤い車は走り出す。
彼の道は、何処へ続く―――?


505 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 23:03:33 ojXH5j0Q0
【B-3(中心)/道路/一日目 午前】

・B-3にバーサーカー(デッドプール)の爆弾による爆発音が鳴り響きました。
どこまで聞こえたかは後続の書き手さんに任せます。

【シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:シャア専用オーリスカスタム(防弾加工)
[所持金]:父の莫大な遺産あり。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争によって人類の行方を見極める。
1.赤のバーサーカー(デッドプール)を危険視。
2.雷の秘書服を新調し、午後に後援会の人間との会合に行き、NPCから何か感じられないか調べる。
3.サーヴァント同士の戦闘での、力不足を痛感。
4.ミカサが気になる。
[備考]
・ミカサをマスターであると認識しました。
・バーサーカー(デッドプール)の姿を確認しました。

【アーチャー(雷)@艦隊これくしょん】
[状態]:健康、魔力充実(中)、小破
[装備]:12.7cm連装砲
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる。
1.シャア・アズナブルを守る。
2.バーサーカー(デッドプール)を危険視。
[備考]
・小破(少しダメージを負った状態)です。
・バーサーカー(デッドプール)の姿を確認しました。


506 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 23:04:33 ojXH5j0Q0
◆ ◆ ◆

「ばぁぁぁぁさぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁ・・・」
「ウェイバーちゃん、折角いいところだったのにさァー、もうちょっとやる気だせよ!
え、何、魔力不足?栄養ドリンク取ってくるか?市長か、市長なのか!?
二次二次の市長ポジション行っとく?」

またまた英会話教室から少し離れた地点―――そこで、ウェイバーとバーサーカーは口論真っ最中だった。
これ以上戦闘させるのは自分においても、バーサーカーにおいても危険と判断したウェイバーは、令呪の一画を持ってバーサーカーを呼び戻したのだ。
『バーサーカー、今すぐ我が身の元へ戻れ』と。

「お前何処で誰と戦ってたんだよ!」
「誰?誰ってサーヴァントに決まってんじゃん?あーあ、折角俺ちゃんのアニメパワー炸裂☆アーチャーボッコボコ、読者も未読者も大歓喜のデップーコールが鳴り響くところだったのになー!」

そして予想通り、バーサーカーは敵サーヴァントと交戦していたらしい。
意味のわからない言葉の中から把握するに、クラスはアーチャー・・・らしい。

「交戦したからにはちょっとぐらい情報持ってきたんだろうな・・・?」
「ん?情報?ああ、あるよある、超あるよ。何だったっけなー、マスターの名前。ロリコンだったっけ?いや、クワトロだったか?」
「お前なぁぁぁぁぁ!」
「あ、思い出した、シャアよシャア!アズナブルちゃん」
「シャア・・・?」

シャア・アズナブル。
この選挙区にて、立候補しようとしている男―――だった気がする。
政治自体に余り興味がなかったため、ウェイバーの記憶も曖昧なものだった。

「本当だろうな?」
「本当本当、マジよマジ!この俺ちゃんの覆面に誓うって」
「・・・」

バーサーカーの嘘も本当とも取れないその中途半端な態度に、ウェイバーは溜息をつく。
本当に、このサーヴァントとで聖杯戦争を勝ち抜けるのだろうか。
前途多難。
一寸先は闇。
そんな言葉ばかりがウェイバーの頭の中を駆け巡る。
とりあえずは、午後の英会話教室の授業に出よう。
さすがにこれ以上不審な行動をしては、マスターがいた場合、怪しまれてしまう。

「どうすればいいんだよ、こいつ・・・」
「うっわ臭ェ、辛気臭いよウェイバーちゃん!誰か消臭剤持ってこいよ、ほらお前だよお前。そこでケツ据えて画面眺めてるお前だよ、ほら消臭剤!え、ない?なら買ってこいよ!」

もう、やだ・・・。


507 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 23:05:46 ojXH5j0Q0
【C-3(北)/英会話教室から少し離れた地点/一日目 午前】

【ウェイバー・ベルベット@Fate/zero】
[状態]魔力消費(大)、心労(中)
[令呪]残り2画
[装備]なし
[道具]仕事道具
[所持金]通勤に困らない程度
[思考・状況]
基本行動方針:現状把握を優先したい
1.バーサーカーの対応を最優先でどうにかするが、これ以上、令呪を使用するのは・・・。
2.シャア・アズナブルがマスター・・・?
3.とりあえず午後の英会話教室の授業は出る。
4.もうやだ・・・。
[備考]
・勤務先の英会話教室は月海原学園の近くにあります。
・令呪を一画使用しました。
・シャア・アズナブルの名前はTVか新聞のどちらかで知っていたようです。
・バーサーカー(デッドプール)の情報により、シャアがマスターだと聞かされましたが半信半疑です。
・午前の授業を欠勤しました。他のNPCが代わりに授業を行いました。

【バーサーカー(デッドプール)@X-MEN】
[状態]魔力消費(中) 、頭と腹部に銃創(既に完治済み)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:一応優勝狙いなんだけどウェイバーたんがなぁー
1.ウェイバーちゃんを二次二次の市長ポジションにしようぜ!
2.ねーちんにはお礼返すよ?大丈夫!
[備考]
・セイバー(神裂火織)とそのマスター、真玉橋孝一を把握しました。
・アーチャー(雷)とそのマスター、シャア・アズナブルを把握しました。
・『機動戦士ガンダム』のファンらしいですが、真相は不明です。嘘の可能性も。


508 : ◆DpgFZhamPE :2014/08/12(火) 23:06:53 ojXH5j0Q0
投下終了です。
タイトルは
機動戦士ガンダムデップー ”逆襲のウェイバー”
でお願いします


509 : 名無しさん :2014/08/12(火) 23:25:44 9EgheFTQO
投下乙
意味不明なバーサーカーとか怖すぎ
つかデップー、ウェイバーを市長ポジにしたいって事は解ってて鱒の魔力削ってんのか
マジキチ過ぎるwww


510 : 名無しさん :2014/08/12(火) 23:25:49 39lHIwKM0
投下乙!
なんだかんだでデップーつえええ! そして彼は狂っていた
しかしシャアがマスターなのがデップーはともかくウェイバーにもばれたか
さてどうなるやら


511 : 名無しさん :2014/08/12(火) 23:36:36 9uPAoBx20
投下乙です。
ふざけたノリの狂人だけど普通に強者なんだよなデップー…w
魔力消費もセオリーもお構いなし、制御不能のバーサーカーを引いてしまったウェイバーくんの明日はどっちだ
しかし何だかんだで政治家がマスターであることを知ったのは行幸か


512 : 名無しさん :2014/08/12(火) 23:38:35 Xmy.sDX60
投下乙
2戦目で早くも消費(大)って何やってんのデップー!
シャアもシャアで黒スーツの雷ちゃんに最初見とれてたしw

そういえばウェイバーちんアニメでも体力補給のために
栄養ドリンク飲んでたシーンがあった気がする。
やっぱり市長ポジション行っとく?行っとくかー!


513 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/13(水) 00:01:31 mvtk23jo0
投下乙です。
真昼間からいきなり、話も聞かずに(?)戦闘開始とは、デップー大暴走ですねw
ウェイバーの魔力が尽きるのが先か、ルーラーに目を付けられるのが先かになりそうですw


>>468
指摘ありがとうございます。

遠坂邸は仮想空間であることや、地上の遠坂邸とは位置が違うことから、霊脈としてはほぼ機能していません。
その旨を加筆修正させていただきたいと思います。

そこで質問なんですが、したらばには修正用スレがありませんが、修正稿はこのまま本スレに投下するのでしょうか。


514 : 名無しさん :2014/08/13(水) 00:07:56 SLXK491A0
乙です
二次二次の市長ポジ狙うならコレもなきゃな つ うな重


515 : 名無しさん :2014/08/13(水) 00:38:53 P44MiEqcO
投下乙です。

ふざけてる様に見えても、そこは狂戦士。
白昼堂々大暴れだぜー!

立候補してるって事は、顔も名前もジャンジャカ宣伝してるからね。
選挙活動でどこにいても怪しまれないかもしれないけど、マスターだと疑われたら逃げられないな。


516 : 名無しさん :2014/08/13(水) 00:47:08 w1gq88Xg0
投下乙です
戦闘面だけならこんなに頼れるのになぁデップ...w


517 : 電脳淫法帖 ◆FFa.GfzI16 :2014/08/13(水) 00:50:30 tvsrSOrQ0
>>486
>>496
ご指摘ありがとうございます
>>477

>「サーヴァントの特徴は」
>「日本風の古臭い着物を着た、若い日本人男性。顔立ちは整ってる、体格は上々。腰に刀を持ってたわ。
> 侍かな?」

>未だ男の体液が染み込んだ右手の指を、ぺろりと舐めてみせる。
>その光景だけで、ハザマは自分自身がむくむくと半端な屹立を始めることを感じた。
>そんなハザマへと向かってライダーは声をかける。

これを

>「サーヴァントの特徴は」
>「わからない」
>「……何?」

>ハザマは鏡子の言葉に怒気を込めて再び尋ねる
>毎度のごとく、鏡子の嘲りに似た茶化しだと感じたからだ。
>」しかし、鏡子は真顔で言葉を続ける。

>「宝具か、スキルか……とにかく、情報を隠蔽する能力を持っているのね。
> 例えるなら、ピロートークもせずに本番だけで帰っていく謎めいた男……」
>「……」
>「そんな臭い生き方が絵になるタイプの英霊ね」

>ふざけた言葉ではあるが真顔のまま、未だ男の体液が染み込んだ右手の指を、ぺろりと舐めてみせる。
>消えてしまった一晩の男が残した、確かなる残り香を確かめているのだ。

に修正させていただきました。
そして、狭間偉出夫・鏡子の現在地はミスです、大変申し訳ありません
正しくは『C-6』になります、ご迷惑をおかけしました


518 : 名無しさん :2014/08/13(水) 00:57:53 r/puaD3cO
投下乙です

ホント二重の意味でハズレだなウェーバー君。所詮賑やかし担当は道化役が関の山なん…あ、相手も道化(自覚済)だったかw


519 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/13(水) 09:06:54 RKJu0xfM0
皆さん投下乙です。
自分の予約投下します。


520 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/13(水) 09:07:48 RKJu0xfM0
アーチャーことアシタカは早苗が眠りについている間。
彼女の住むマンションの周囲を警戒していた。
単独行動のスキルにより早苗が熟睡してようとも、ある程度の闘いはできるだろう。
実際のところ、アーチャーはここでの戦闘は避けたかった。

そうしていると、上空に一筋の光が見える。
アーチャーがそれを見上げると大旗をなびかせ、空を切る女性のサーヴァントだと分かった。
恐らくあれがルーラー。
ならば、と遠くの方に見える炎。
あれはサーヴァントの闘いによるものであるとアーチャーにも理解できた。

この時刻から闘いを始めるのは最悪の場合と捉えていたが
どうやら中にはそうもいかない者もいるようだ。

アーチャーはよりいっそう警戒を強めたがサーヴァントが現れる事はなかった。
と言ったのとは少し違う。
サーヴァントはいたものの、戦闘に繋がる事はなかった。
と表現するのが正しいだろう。

アーチャーが目視で捉えたサーヴァントは二体。
ファミリーレストランの前で出くわしたらしい二組は、アーチャーに気づく事なく立ち去った。
赤いコートを着た大男のサーヴァントは何とも言えないが
別の赤髪の男?の方は姿が変化したことからアサシンではないかと推測する。
そしてマスターらしき男と少女……
彼らは共にアーチャーの視界から遠ざかっていった。

どういうことなのか?
同盟を組んだということなのか、それとも……

アーチャーは自身のマスター――早苗が方針を悩めていることを思うと
彼らもそうなのかもしれないと判断する。
アーチャーの周囲ではこれ以上のことは何も見当たらなかった。
太陽がのぼる。


521 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/13(水) 09:09:19 RKJu0xfM0
東風谷早苗の朝は人並みより早かった。
彼女のNPCの設定は、独り暮らしの女子高校生。
月海原学園へバス通学している。
両親は健在しており、彼女に仕送りをしてくれるがこの月海原にはいない。
だが、早苗は学生服ではなく私服を着る。
女性らしくある程度髪を整え、手荷物を確認してからマンションを後にした。

立ち寄ったのはコンビニである。
早苗は今日の分の食事と保存食、飲み物を購入する。
店員が商店街で盗難があったと噂しているのとハッキリと耳に入れた。

その後、早苗はバスに乗車したが彼女が向かうのは学園とはまるきり別方向である。
早朝のバスとなれば学生の姿は一人もいない。
それどころか彼女以外、乗客は存在すらしていなかった。
アーチャーは霊体化したまま念話で彼女に問いかける。

――マスター、どこへ?
「……学校には行きません。誰かを巻き込んでしまうかもしれませんから」
――しかし、ルーラーが規定として人を巻き込んだ場合の処罰を設けている。
「それは故意に巻き込んだ場合だと思います。
 偶然とか、ちょっとした拍子とか…事故みたいなものは許されるのではないかと…」

アーチャーもそれは否定できなかった。
実際に戦闘があったらしい場所へルーラーが向かうのを目撃したことから。
ルーラーは現場へ向かい、事実確認をしてから処罰を下すのだろうと推測していた。
もし、ルーラーの確認を見越してサーヴァントが撤退してしまえば
ルーラーが証拠を探し、提示するまでの猶予が生じる。
仮にルーラーがどのサーヴァントが起こしたものか把握できなければ、どうすることもできない……

「終点から降りてしばらく山道を歩いた先に廃墟があるって友達から聞きました。
 きっとそこなら誰もいませんし、山の中ですからホームレスの人たちもいないでしょう。
 誰かが私たちと争いに来ても、そこならば安全なはずです」
――…マスター、一応。夜にあった事を話そう。
「夜?え、もしかして夜中……ずっと見張っててくれたんですか…?」
――案ずるな。眠りは必要としない。
「なんというか…申し訳ありません」

バスに静かに揺られながら早苗はアーチャーからの報告を聞いた。


522 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/13(水) 09:11:17 RKJu0xfM0
火事。
恐らくサーヴァント同士の戦闘。
駆けつけたルーラーの存在。

サーヴァントの目撃。
赤い男、アサシンらしき存在。
マスターと思われる男性と少女。

「……子供」

早苗の中では迷いが続いている。
この聖杯戦争をどうするのか。
願望を叶えるのか、それとも幻想郷に帰るか。
強欲ならば両方叶えたい。

しかし、それは絶対間違っている気がする。
もしマスターかもしれない少女も殺さなくては願いが叶わないならば
聖杯名乗る願望機はきっと穢れており、この世の悪を取り込んだ怖気の走る邪悪の塊でしかない。
早苗はそう思った。

聖杯。
そもそも聖杯とはなにか。
神の聖遺物、というのが一般の見解かもしれないが
血で血を争う戦争の何が神の聖遺物だ。
これではない、こうじゃない。これは違う。
神である訳がない。

それとも――聖杯はタタリ神が産み出した聖遺物なのだろうか…?

――マスター……
「一言では収まり切れません。確かに言える事は、誰かの命を奪いたくありません」
――それでいい。一つ心が定まれば、自ずと道が見えるであろう。
「アシ…じゃなくて、ここではアーチャーの方がいいですよね。
 アーチャーはその女の子がどちらへ向かったかは把握していますか?」
――追跡はしていない。相手も二人、闘いになればこちらが不利となっていた。
「そうですよね……」
――彼らを探すと?
「会ってみたい、よりかは心配です」

確かにあの少女は非常に幼い。戦争などに巻き込まれる年代ではない。
アーチャーも自然と同意していた。
そして

やはり心の美しいマスターである……彼女は守らなくては…
彼女がいればこの戦争に光が差し込むはずだ。

そうも思えた。


523 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/13(水) 09:13:27 RKJu0xfM0
早苗とアシタカ。
彼らが向かう廃墟というのは廃教会であった。
神に纏わる彼らが、廃れた神を崇める場所へ赴くというのは何たる皮肉か。
そしてまた
そこで待ちかまえている者も神を崇める者なのである――……



【C-9/廃教会へ移動中/一日目 早朝】

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか
[所持金]一人暮らしには十分な仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺したくはない
1.聖杯はタタリ神と関係している…?
2.廃教会へ向かう
3.少女(れんげ)が心配
[備考]
※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。
※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが
 あくまで外観的情報です。名前は把握していません。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。

【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】
[状態]健康 霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る
1.廃教会へ向かう
[備考]
※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。


524 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/13(水) 09:15:15 RKJu0xfM0
投下終了です。タイトルは
信仰は儚き人間の為に
でお願いします。


525 : 名無しさん :2014/08/13(水) 12:27:31 RvC0gBZo0
投下乙です。
早苗さん、学園には通わずか。
カトリック組と早速拠点が被りそうな二人の明日はどっちだ


526 : 名無しさん :2014/08/13(水) 13:24:47 Tr8lR4rc0
投下乙〜!
なるほど、アシタカと組んでいる上に諏訪子と関わり深いからこその発想だよな>祟り神産聖杯説
カトリック組ともだけどこのコンビは神方面でどんどん絡んで行きそうで楽しみ


527 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/13(水) 18:26:57 3pRgMMYM0
投下乙です。
聖杯を疑う、対聖杯勢ですね。

私も投下します。


528 : 何処までも暗い闇の中 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/13(水) 18:28:07 3pRgMMYM0

「行くぞ。
 森に潜むにせよNPCの家を乗っ取るにせよ、日が昇る前には拠点を確保したい」







「――などと言ったが、既にこんな時間か」

 キャスター、シアン・シンジョーネは実体化して空を仰いだ。
 夜は明け、日が昇り始めていた。

「すみません……」

 マスターである間桐桜は息を切らしながら言った。
 今、彼女たちが居るのはC-1。山の奥である。
 桜は弓道部に所属し、体力はある方である。
 だが、それなりに標高がある山となれば別だ。
 登山用の装備無しに、夜の山を、休憩も取らずに強行軍。
 魔術的に特異体質である事を除けば、桜は一般人だ。よくやったと褒めても良いだろう。

「別にマスターを責めているわけではない。地脈やマナライン、既に罠や工房が仕掛けられている可能性を考慮して探りながらの行軍だ。どうしてもこの程度の足並みになる」

 シアンが桜を背負って進む、と言う手段が無かったわけでも無い。
 けれども、桜からの進言が無かったため、空気を読んで言わなかった。

「だが、もう少し頑張って欲しい。あの山小屋を拠点としたい」

 桜はシアンの目線を追う。そこには小さな木造の家があった。






529 : 名無しさん :2014/08/13(水) 18:28:24 8CYs8tCM0
アンデルセン神父は巫女も異教徒と捉えて強力わかもとモードになってしまうのか…?!
出会ってしまった後が恐ろしいぜ


530 : 何処までも暗い闇の中 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/13(水) 18:28:57 3pRgMMYM0
 山奥にぽつんとあった小さな山小屋。
 それは避難所のような場所だった。
 扉を開くと、わずか畳の敷かれた六畳一間に、かび臭い毛布が二枚あるだけ。
 乾電池式のランプが用意されており、電気も通ってないらしい。
 それでも雨風しのげる屋根と壁があるだけマシと言ったところか。

「よく頑張ってくれた。あまりゆっくりは出来ないかも知れないが、休んでくれ」
「そうします」

 桜は中に入るとすぐさま座り込んだ。
 今までろくに休んでいなかったのだ、無理もない。
 棒のようになった足を、マッサージするように揉んでほぐす。

「(……筋肉痛にならないと良いけど)」

 そんな場違いな事を思ってしまうのは、聖杯戦争への意識の少なさだろうか。
 桜の口元に自嘲的な小さな笑みが浮んだ。

「ここに工房を作る。少々地脈が離れているが、この程度ならマナラインを少し誘導するだけで事足りる。NPCの気配が全くないのが逆に索敵を容易にする。もしNPCがハイキングでもしてきたら、蜂の大群で追い返すなり、魂食いをしてしまえばいい。立ち向かうのであればマスターかサーヴァントとすぐにわかる」

 辺りを調べてきたシアンも山小屋の中に入り、壁にもたれ掛かりながら言葉を立て続けに紡ぐ。

「後は生活面か。一時間ほど歩いたところに湖に隣接した小さな市街地がある。そこで夜を過ごすなり、そこから食料などを補給したりする必要がありそうだな。最終的には浮遊城に籠城することになるだろう」

 食事のいらないシアンはともかく、桜はまだ昼食どころか、朝食も取っていない。
 また歩かなければならないことを思うとおっくうになるが、行かないことにはご飯はない。
 これはダイエットなのだと自分に言い聞かせることにした。

「あとここから先は進めない。斥候としていくつか蟲を飛ばしたが、行けども行けども風景が変わらない。飛んでいるのにまるで足踏みをしているようだ。簡単に言えば『方舟』が用意した『行き止まり』なんだろう」

 要するに歩いて逃げることは出来ない、と言うことだ。


531 : 何処までも暗い闇の中 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/13(水) 18:29:49 3pRgMMYM0
 閉じこめられ、最後の一組になるまで戦わされる。
 まるで蟲毒のようだと心の中で皮肉る。

「学園の校門に仕掛けた罠の成果は、あまり芳しくない。今の所、露骨な対応を取る者はいない。マスターが居ないのか、上手くかわされたのか……まぁ、こればかりは仕方ない。もう少し様子見するか。居なければいないで、『餌場』にするだけだ」

 学園が『餌場』となっても、桜には感傷も何も無かった。
 ――一点を除いては。
 不意に、シアンが桜の顔を伺う。

「学園の名簿を見て、顔見知りは居たか?」
「……」

 あからさまな動揺と沈黙。もはや答えたも同然だった。

 ――遠坂凜。実の姉の名前。何故か小等部に書かれていた。同姓同名の赤の他人かもしれないが、単なる偶然じゃないかもしれない。
 それに、真夜中の屋外で、懐中電灯の明かりのみで名簿を漁っただけだ。
 優先して探したが、見落とした中に衛宮士郎や藤村大河、美綴綾子たちが居ないとは限らない。学園外に役割を当てられた可能性だってある。
 仮に、マスターでなくNPCだった場合でも、模造だったとしても、衛宮士郎の形をしたものが食われていくのは、いい気分ではない。

 だが、それをシアンに言うのも躊躇われる。
 このサーヴァント、シアンは目的のためにはどんなことでもする。
 桜の大切なものを踏みにじることも、意図も容易く。
 そんな気迫と覚悟が感じられたからだ。

「まぁ、いい。もし、被害を出したくない相手が居るならできるだけ早めに教えてくれ。マスターであれ、NPCであれ、その者に危害は加えない」

 そう思ってた矢先、シアンの言葉に桜は驚きを覚えた。

「いいんですか……?」
「良くない」

 即答で返す。

「良くないが……仕方ない。最終的な決定権はマスターにある」


532 : 何処までも暗い闇の中 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/13(水) 18:30:30 3pRgMMYM0
「――令呪」
「そうだ。桜には私の行動にNOと言う権限が、最大3回ある。その権限は絶対だ。私の意志が介入する余地も、抗う術も無い。もし、桜が私に『自害しろ』と命令したら、その通りにせざるを得ない。自殺装置を握られているようなものだ」

 シアンは大げさに溜息をつく。

「じゃあ、もしマスターだったらどうするんですか?」
「20組以上いるんだ。誰かがそいつを倒してくれるよう、祈るだけだ。桜に隠れてこっそり殺害、なんてこともしない。隠し事はいずれバレるものだ。そうなったら、それこそ令呪で殺されても仕方ない」

 先ほどの状況報告とは違ってしっかりと確認する桜の様子に、シアンはもう一枚札を切る。

「そうだな。相手が私達に危害を加えないなら、助けてもいい。ここまでは譲歩する」

 そこまで言うと、静かに息を吸い――

「だが、最終的には私達が聖杯を手にする。それだけは譲れない」

 強い覚悟を秘めた言葉で、断言する。

「正直に言おう。私と桜では、聖杯に対する熱意が違う。私を余り信用していないのも、わかっている。それでいて私の指示に従い、文句を言わないことに十分感謝している」

 シアンは桜を射抜くような瞳で見つめ――懇願する。

「これからもっと桜に苦難を強いることになるだろう。だが、それでも私は――」
「少しだけ」

 桜の声が遮る。シアンは黙り、桜の次の言葉を待った。

「少しだけ、あなたのことが分かった気がします」

 シアンは地獄を味わっている。何処までも暗い闇の中で一人。
 桜も地獄を味わっている。何処までも暗い闇の中で一人。

 だが、桜は見つけてしまった。闇の中に輝く、小さな光を。
 それがあれば耐えられる。それさえあれば、他に何もいらない。


533 : 何処までも暗い闇の中 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/13(水) 18:31:01 3pRgMMYM0

 けど、シアンは違う。
 まだ、見つけられていないのだ。闇の中でも輝く、光を。
 それを、聖杯の力で手に入れようと藻掻いている。

 諦めて受け入れた地獄で偶然にも光を見つけられた桜には、必至に足掻くシアンの気持ちの全ては分からない。
 だけど、少しだけ分かる気がした。

 同情とか、持つ物の余裕とか、そんな邪な気持ちかもしれないけれど――

「だから、少しだけ、待ってください」

 ――同じ闇の中で生きる身として、力を貸してあげたいと思った。

「……ありがとう」

 シアンは深々と、頭を下げた。






【C-1/山小屋/1日目 午前】
【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]健康、疲労(中)
[令呪]残り三角
[装備]学生服
[道具]懐中電灯、筆記用具、メモ用紙など各種小物
[所持金]持ち出せる範囲内での全財産(現金、カード問わず)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.キャスターに任せる。NPCの魂食いに抵抗はない。
2.直接的な戦いでないのならばキャスターを手伝う。
3.キャスターの誠意には、ある程度答えたいと思っている。
[備考]
※間桐家の財産が彼女の所持金として再現されているかは不明です。
※キャスターから強い聖杯への執着と、目的のために手段を選ばない覚悟を感じています。
 そして、その為に桜に誠意を尽くそうとしていることも理解しました。


534 : 何処までも暗い闇の中 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/13(水) 18:31:40 3pRgMMYM0
 その上で、大切な人について、キャスターにどの程度話すか、もしくは話さないかを検討中です。子細は次の書き手に任せます。


【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]健康
[装備]学生服
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
1.工房の完成。
2.学園に関する情報収集。
3.桜に対して誠意ある行動を取り、優勝の妨げにならないよう信頼関係を築く。
4.食料などの確保を行う。
[備考]
※工房をC-1に作成しています。
※学園の入り口にはシアンの蟲が隠れており、名簿を見てマスターの可能性があると判断した人物の動向を監視しています。
 日本人らしくない名前の人物に対しては特に注意しています。
 ただし距離の関係から虫に精密な動作はさせる事はできません。
※『方舟』の『行き止まり』を確認しました。


535 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/13(水) 18:32:27 3pRgMMYM0
投下終了です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。


536 : 名無しさん :2014/08/13(水) 19:13:41 9WL0uprM0
投下乙です。信用されてないといいつつ誠意を見せるしあーんと少しは距離が縮まった桜。
結果はともあれ仲良くなってくれるのを期待したい……。
ところで学校は行かない予定なんですね桜は?


537 : 名無しさん :2014/08/13(水) 19:51:46 Tr8lR4rc0
投下乙〜!
なるほど、シアンは中々に誠実な人なんだな
その誠実さが桜に伝わってきたようで何よりです


538 : 名無しさん :2014/08/13(水) 20:36:04 9WL0uprM0
>>513
今の所ここでも問題ないでしょう。修正お待ちしてます


539 : 名無しさん :2014/08/13(水) 22:37:20 nEWkVFfQ0
投下乙
早苗さんの向かう先は廃教会!アンデルセンとブラドと
かち合うハメになるのか
シアンと桜ちゃんはなんかいいコンビ
やっぱ拠点は攻めにくいところがセオリーって感じだね


540 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/14(木) 01:50:53 ASFY8cHo0
>>536
学園の事書くの忘れてました。すみません。

>「学園の校門に仕掛けた罠の成果は、あまり芳しくない。今の所、露骨な対応を取る者はいない。マスターが居ないのか、上手くかわされたのか……まぁ、こればかりは仕方ない。もう少し様子見するか。居なければいないで、『餌場』にするだけだ」



「学園は今から行くのは無理だな。今日は休め。それから学園の校門に仕掛けた罠の成果だが、あまり芳しくない。今の所、露骨な対応を取る者はいない。マスターが居ないのか、上手くかわされたのか……まぁ、こればかりは仕方ない。もう少し様子見するか。居なければいないで、『餌場』にするだけだ」

と修正します。


541 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:40:07 QypKatjU0
ジョンス・リー&アーチャー組
宮内れんげ&アサシン組
ジナコ・カリギリ

投下します


542 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:41:10 QypKatjU0


――

―――


  ずいぶん見覚えのある格好だ。
  ながいこと着続けた結果ヨレヨレになったシャツにタイトタイプでもないのにぱつぱつのジーパン。
  全く手入れがされていない、エンジェルリングとはかけ離れたほこりっぽくて荒れ放題な髪の毛。そして野暮ったい黒ぶち眼鏡。
  何も存在しない真っ白な空間に、そんな格好の彼女と私の二人だけ。


「えと……一応聞きますけど……誰、スか?」

『あ、ども。ボク、ジナコさんッス』

「……あ、ども。ボクもジナコさんッス」

『へぇ、奇遇ッスねぇ』

「……ホントに」 

  やはり自分だった。
  そういえばちょっと前、気を失ったような気がする。
  ということはこれは夢か。なるほど、夢なら自分が出てくるくらいあり得るかもしれない。

『あ、そうだ。ねぇジナコさん、ボク少し聞きたいことがあったんスけど』

「はいなんでしょう」

『ジナコさんはこの聖杯戦争、結局どうするんスか?』

  流石自分、痛いところを突いてくる。
  ジナコは聖杯戦争の方針について決めあぐねていた。

『例えばさっき、色の薄い髪をした女の子、あの子たぶんマスターでしょ?
 聖杯戦争で勝ち抜くってことはつまり、あの子を殺すってことッスよね』

「……そうなるよね、やっぱり」

  二人揃ってうんうん唸り、頭をかきむしる。
  いくら人生のやり直しがかかっているからと言って、それが殺人の免罪符になるわけではない。

「今決めなきゃ、駄目かなぁ……」

  彼女の人生を変えた『あの事件』以来、ジナコは常に迫ってくる現実から逃げ続けてきた。
  それはこの場でも変わらない。
  見たくないものは見ない、聞きたくないものは聞かない、考えたくないものは考えない。
  一人ぼっちになってから今までそうやって生きてきた、これからもそれを続けるつもりだった。

『だってもう他の組も動き出してるんでしょ。あの幼女ちゃんみたいに。
 決めるんなら早いに越したことはないと思うッスけど』

  でも、『ジナコ』はそれを許さない。
  少しずつ少しずつ、鼠をいたぶる猫のように、質問を狭めていく。
  現実から逃がさないように。聖杯戦争と向き合わせるために。

『で、どうするんスか? さっさと決めないと殺されちゃうッスよ』

「……あ、アタシ……死にたくない……」

『お、じゃあやっぱり殺しちゃいますかぁ!』

  待っていたかのように、『ジナコ』がその一言を口にする。

『それしかないッスよね、やっぱ。よし、決定! 殺しちゃいましょう!!』

  そう言った『ジナコ』の口は、三日月よりも見事な弧を描いていた。


543 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:41:57 QypKatjU0
「ま、待って、んなこと言ってない!! っていうかできるわけない! だって、それって……」

  しかし『ジナコ』は私の言葉に聞く耳を持たずに続ける。

『大丈夫!! 直接殺すのが嫌ならサーヴァントに頼めばいい。そうすればボクは家に籠ったままでいい、皆みぃんな殺してくれるッスよぉ!!
 さっきの小っちゃな女の子も、どっかの見知らぬ男の子も、自分の世界に帰れば子どもがいるお父さんお母さんなんてのも、皆皆、皆殺しっす!!』

  ずっと外敵から守り続けてきた傷口に、突然刃が突き立てられる。
  聖杯戦争の参加者はNPCじゃない。それぞれに人生があり、帰りを待つ人がいる。
  自分が死なないためには、彼らを殺すしかない。

  でも、死にたくないからといってあの日の自分のような存在をこの手で作るというのか。
  胸が締め付けられるように痛み出す。そんな決断、できるわけがない。


『皆ボクのために死んでくれるっすよね〜? いいっすよね〜?
 やったっス!!! ボクのために皆死んでほしいっス〜!!!』

  狂ったように笑いながら、目の前の『ジナコ』が謳い、踊る。
  目は血走るを通り越して真っ赤、その奥に瞳はなく、菱形のなにかが蠢いている。
  そんな目が、不安を駆り立て、自分の傷口を抉り、折角いびつながら立ちあがれていた私を押し潰していく。


「違う、こ、殺していいわけがない……」

『ハァ――――!? な、な、何言ってるんスか? 迷うことないっすよぉ!!! ブチ殺しちゃえばいいじゃないっすかぁ!
 人間なんてよわっちいから絶対いつか死んじゃうっしょ? それがたまたま今日の今になる、ボクが殺してあげる、ただそれだけじゃないッスかぁ!!
 つか、優しさ? この戦争から救ってあげる救世主的な? うひひひ、さすがジナコさん、マジメシア!』

  どうしてそんなことが言える。
  どうしてそんな顔で笑えるんだ。
  いつか死ぬ、そんなこと知ってる。でも、だからって殺していいわけがない。
  この『ジナコ』は狂っている。
  誰か止めて、それ以上私の顔でそんなことを言わせないで。

『むしろ、死ぬって分かって死ぬんだから超ハッピーかも……? だってそうでしょ?
 何も知らないままお別れも言えずに死ぬのと、ちゃんとお別れ済ませて死ぬのと、どっちが幸せか、考えたことあります?』

  もう嫌だ。
  ヤクザ、早く助けにきて。
  これ以上は耐えられない。
  ヤクザじゃなくてもいい、誰でもいい、誰か。お父さん、お母さん、誰か。
  今すぐこいつを、この場所から―――

  私が言わんとしたことを理解してか。
  突然、『ジナコ』の顔が急にくしゃくしゃに歪む。


『……貴女、私のこと……殺すの?』


  たった一言。
  声も小さく、呟くように言ったその一言が先ほどまでのどの暴言よりも、深く心に突き刺さった。
  私の心が、ミキサーでかきまぜられたようにぐちゃぐちゃにされていく。
  胃が痛み、吐き気がしてくる。これ以上見ていたくない。
  そんなこちらの事情などお構いなしに、大粒の涙をこぼしながら『ジナコ』が嗚咽交じりで続ける。


『やだよ……死にたくないよ……殺すのも嫌だけど、まだ私、死にたくなんてないよぉ……』


  その場にへたり込み、ヒステリックに頭を掻きむしりながら、目の前まで迫った死から逃がしてくれと涙ながらに訴える。


  そこに居たのはいつも変わらず付けてきた『エリートニートのジナコさん』の仮面をはぎ取られ。
  逃げ出したはずの現実世界に無理やり引き戻され、争いの真っただ中に放り出され。
  いつ来るか分からない敵に怯え、弱弱しくて痛みに怯える、卑屈で哀れな『自分の姿』。
  NPCから復帰した私がずっと目を背け続けた、聖杯戦争に直面した『ジナコ=カリギリ』の本当の姿。

  自分の一番醜い一面と期せずして直面した私は、喉元までせりあがってきていた不快感を我慢できず―――


―――

――




544 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:43:00 QypKatjU0
  B-10、公園にて






                宮内れんげの戦いは激化の一途を辿っていた!!!





  宮内れんげは小学生だ。
  しかもぐうたらな姉に似ず、かなり規則正しい生活を送るタイプの。
  朝昼晩とちゃんとご飯を食べ、日中は勉強をし。
  放課後は皆で遊び、夜はゆっくり休む。
  突拍子もない言動や行動も目立つが、爛れたこととは関係のない生活を続けてきた。


  だからこそ、れんげは『それ』を無視できない!


  方舟で目覚めた勢いそのままにカッツェと探索を始め。
  新たな友達であるアーカードとジョンスに出会い。
  三人で仲良く(れんげの主観ではあるが)町の探検をして、一悶着あったがジョンスと一緒に朝ごはんを食べ。
  興奮冷めやらぬ状態で今の今までふぇすてぃばってきた。


  でも、やっぱり『それ』は無視できない!


  先の喧嘩の一件で完全に緊張の糸が切れたのか、体の奥底でなりを潜めていたはずの『悪魔』が顔をのぞかせてきたのだ!


  小さな手が、手近にあったジョンスのズボンを掴む。
  あいている方の手で目をこすりながら、決して声には出さず、悪魔の接近を訴える!


「なんだ」

「んー……」


  その悪魔の名前は、睡魔!!
  宮内れんげは今、どうしようもなく眠かった!

  ようやく始まった今日を終わらせてしまうのはもったいない。
  アーカードやジョンスに出会えた素敵な今日にまだまだ続いてほしいという心がれんげを動かす。
  だが、限界は近い……!!


545 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:44:04 QypKatjU0
  数分後。
  やはりというか、れんげは睡魔に負けた。
  歩く足取りはとうの昔からおぼつかず、立ち止まればその場でこっくりこっくりと船を漕ぎ始める。

  見かねたジョンスが、れんげを背負いあげた。

「……八極拳」

「寝てろ」

「でも、お昼寝したら夜眠れなくなるん……」

「いいから寝てろ」

  その言葉に、れんげからの明確な返事はない。
  返事の代わりにむにゃむにゃという言葉になれなかった声が超至近距離で耳朶を揺らし。
  数十秒後にはその声も静かな寝息に代わった。

「私が背負おうか」

「いや、いい。それよりもだアーチャー、お前はそっちの駄肉を持て」

  別に他意はない。
  特に無理してれんげを渡す理由もないから申し出を断った。
  自分が先にれんげをおぶっていたから、アーカードに女の方を任せた。それだけだ。

  アーカードにもそれは伝わったらしい。今回は特に衝突もなく同意が得られた。
  女を抱えるためアーカードが近づいた、その瞬間。
  眠っていた肉の塊がバネでも効いたかのように跳ね起きる。
  さらにそのまま道の端へと這っていくと。

「おえっ、え、お、えええええええっ」

  女は、なぜか側溝にへたり込んで胃の中身をすべてぶちまけ始めた。
  消化されかけの『何か』が鉄の格子をすり抜けてその奥の水面を揺らす。

「けほっ」

  最後に少し、残った意識を吐き出すような小さな咳をして。
  そのまま舗装道路側に背中から倒れ込み、再び気絶した。

  謎の女の嘔吐の一部始終を見ていたジョンス・リーとアーカードの間に気まずい沈黙が流れる。

  ジョンス・リー。
  安いプライドがあれば化け物とも戦えると豪語する現代最強の八極拳士。
  だが、今し方汚物をブチ撒けた駄肉たっぷりの女を運べるほど、プライドの安売りは行っていない。
  そしてそれは彼の英霊アーカードも一緒のはず。運ぶように言ってもきっと拒否するだろう。
  令呪を使って運ばせるか。
  令呪は残り一画、こんな下らない事で使うのもアホらしいし、できれば温存しておきたい。
  ならばいっそこいつを打ち捨てていくか。
  厄介事に巻き込まれそうだが、この状況で連れていくくらいなら……

  そうこう考えていると、今までなりを潜めていた『もう一人』が意外な打開策を出した。


「んもうwwwwwwwwwww二人ともしょうがねッスねwwwwwwwww
 ここはミィにお任せwwwwwwwwこんな百貫おデブちんもミィにかかればハイこの通りwwwwwwwww」


  いつの間にか消え、またいつの間にか現れたベルク・カッツェ。
  彼の金属質な菱形のしっぽが走り、うねり、転がる女を捕縛し、持ち上げる。
  こうして、カッツェが尻尾を駆使して持ち運ぶことで、たいして労せず場は収まった。
  もっとももジョンスとしては、借りを作ってしまったようで少し癪だったが。


546 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:46:58 QypKatjU0
  もともと郊外で建物が少なかったことも幸いし、程なくしてジョンスたちはジナコの家を見つけられた。
  見つけられた、まではよかったのだが。

  家に乗りこんで、その中身に圧倒された。
  散らばっているゴミと衣服、漂う独特な臭気。
  特に寝室はひどい有様だった。
  部屋の真ん中に布団が置いてあることがかろうじて理解できる程度で、あとはもう足の踏み場がどうとかいう問題ではない。

  さすがにここで寝かせるのは衛生上問題があるのではとも思ったが、布団があるに越したことはない。
  というよりも出会って数時間の赤の他人のためにそこまで考える義理もない。
  ということで、れんげと女はゴミ部屋の中に半ばうち捨てる形で寝かせられることになった。

   *   *   *

「はぁ」

  ジョンスは、家の中でも綺麗な方の(といっても、常識から考えればあり得ないほど散らかっている)居間に腰を下ろし、深く息を吐いた。

  出会ってから何故か一緒に行動することになり。
  金がないというから飯を与え、眠ってしまったら寝場所を与える。
  これではまるで保護者じゃないか。

  気に喰わないサーヴァントを抱え込んでいるからそいつを見張るついで、と言えば聞こえはいいが。

  頭を抱えそうになる。
  自分が(本人は無自覚だろうが)他人のために走り回らされていることに。
  そんなジョンスの苦悩もつゆ知らず、いや、奴の知った上でか。
  アサシンがまたアーチャーに対してすり寄り始めた

「あ、そだwwwwwwww旦那wwwwwちょっとミィとお出かけしませぇん?wwwwwwww
 子どもには見せられないようなあぁぁぁん♪ なことっ、したくありませぇん?wwwwww」

「……だ、そうだが?」

  にやついた顔でアーチャーが尋ねる。
  あのアサシンがアーチャーを連れて『ちょっとお出かけ』で済むわけがない。
  アーチャーもそこについてはしっかり気付いている。
  だからこそ、笑いながら尋ねている。
  遠まわしに『奴の企みに乗るか』とジョンスに尋ねているのだ。

  そんなもの考えるまでもない。
  ジョンスは二つ返事でこう答えた。

「消えろ」

「は? ミィ、ジョンスりんにはなんも言ってねんすけど」

「知るか、消えろ」

  こういう手合いは相手にすればするだけ付け上がる。
  ならば必要に駆られた時以外は相手にしない、それに限る。

  ジョンスの返答を聞いたアサシンは大げさに肩を落とし、ありもしない小石を蹴る真似をして。

「はぁ――――っ……もう、萎える……そういうの……カッツェさん鬱だお……しょぼぼぼぼ―――ん……」

  そう吐き捨てて、いつものように消えた。

  ようやく二つの喧騒が去り、居間には二つの静寂だけが残った。


547 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:48:08 QypKatjU0
――――――


  マスターは夢の中。
  同行者からは追い出され。
  赤の他人は気絶中。
  果たしてベルク・カッツェは、聖杯戦争開始後初めて一人になることになった。


「うち、腕が伸びたん……かっちゃん、見て見て、おそろいなーん……」

「ちょwwwwwwwwwれんちょんなんかすごい夢見とるwwwwwwwww
 見して見して、それ見してwwwwwwミィすっごいそれ気になるーんwwwwwwwwww」

  ケタケタ笑いながら、寝ているれんげが起きない程度に頬をつつきまわし、
  かと思えばいきなりぴたりと止まり、ぜんまい仕掛けのからくりのようにゆっくり首を傾ける。


「つか、ジナコさぁん!!」

  ジナコの肉付きの良い脇腹に踵を叩きこむ。
  潰れた蛙のような呻き声がジナコの口から洩れるのを聞いて、カッツェはますます得意になり脇腹を踏みにじった。

  ジナコの精神に入りこんで『ジナコ』として彼女を追い詰めていたのは、言うまでもなくカッツェだ。
  当初はなにもあそこまで露骨に追い詰めるつもりはなかった。
  テキトーに煽ってテキトーにメシウマしてルーラーちゃんに関する情報を得られればそれでいいかな程度でキスをした。
  ただ、キスを通して彼女の話し方を知ってしまった時点で、カッツェはその衝動を抑えることができなかった。

「ボク〜とか、なになにッス〜wとか、そういうのマジ超ウッゼェんスけどおおおおおお!!!!!
 なになになに? 誰に向かって媚びてんのそれぇwwwwwwwwねぇキモいんスけど〜wwwwwwボクそういうのやめてほしいんスけど〜wwwwwwwwww」

  ジナコの預かり知るところではない上にはた迷惑な話だが、カッツェは『ボク』『ッス』という口調が大嫌いだ。
  特徴的な一人称と語尾のせいで、ジナコの口から放たれる言葉の全てが気に喰わない。

「あー、マジムカツいたッス〜wwwwwwwボク、ムカツいちゃったッス〜wwwwwwwww
 ムカツいちゃったからぁーwwwwwwwww」

  だから追い詰める。
  精神の中まで入りこんで追い詰めるし、それ以上に現実世界でも追い詰める。
  追い詰めて、追い詰めて、追い詰めて、どん底まで追いつめて。
  『あいつ』の代わりにジナコを醜い悪意に晒し、悪意によって身を滅ぼさせることでウサ晴らしをする。

「ミィ、ちょっとお散歩っ☆」

  この場で怒りにまかせてジナコを再起不能になるまでフルボッコにするのはたやすい。
  だがそんなことをすれば折角築きあげたれんげとの信頼関係を崩してしまうことになる。
  隣で自分を倒すための作戦会議でもしているであろう二人にも自分の討伐を切りだすに足る建前を与えてしまう。
  それに。

「つまんねぇっすよそんなのwwwwwwwwwwwもっともっともおっとやり返さないとメシマズっしょwwwwwwwwwwwww
 ジナコさぁん、もう、ホンット、出会ったばっかりでホント申し訳ないんすけどぉ……はじめたんの代わりに、地獄見ちゃってくださぁいwwwwwwwwwwwwwwww」

  寝息すら感じられる距離でそう告げ、ジナコに抱きつく形で眠っているれんげの方に視線を動かす。

「んー……CHU☆」

  そしてそのまま顎を持ちあげて口づけを交わした。
  情愛や親愛とはかけ離れた、半ば業務的なキス。
  魔力の含まれた唾液を貪り、暴れまわれるだけの力を搾り取るためのキス。

  通常、魔力回路の有無すら分からないマスターから体液摂取によって魔力の搾取を行うのはあまり効率が良くない。
  しかし、カッツェに関して言えば状況が違っていた。
  カッツェ自身が燃費もいいしこれまで魔力をほぼ消費しなかったというのもあるが、カッツェは未明から早朝までの約6時間れんげを肩車し続けてきた。
  魔力は手を握っている程度でも少しずつ回復するというが、半そで半ズボンの布越しとはいえ全身接触を6時間続ければどうなるか。
  塵も積もれば山となる。そして極めつけとしてキスでの回復。
  カッツェのもくろみ通り、魔力適正のないマスターのサーヴァントとしては異例の魔力充填がなされた。

「見ててね、れんちょん。ミィ、必ず世界をアップデートしてくるからね!!」

  すやすやと穏やかな寝息をたてる自身のマスターの頭を優しく撫で。
  突如空間に走ったノイズだけをその場に残して、ベルク・カッツェは消えた。


548 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:49:45 QypKatjU0
   *  *  *


  信号機の上で行き交うNPCを興味深そうに見下す。
  たとえ実体化していたとしても、NPCには気配遮断を持つ彼を見ることはできない。
  何気なく尻尾を伸ばしてその辺を歩いていたNPC同士をぶつからせると、案の定二人は喧嘩を始めた。


「マジすかwwwwwwwえっ、やっぱマジなんすかwwwwwwww
 方舟ちゃん、マジで言ってんのそれぇwwwwwwwちょwwwwヤバスwwwwwwww」


  カッツェは当初、NPCは決められた思考ルーチンの元『日常生活』という動作を繰り返す架空の存在だと踏んでいた。
  しかし、公園の一件でカッツェはその考えを改めた。

  確かにNPCは非参加者であり方舟が作り出した架空の存在だがその器の中身は空っぽではない。
  その内側には確かに心が―――正確には『悪意』が存在している。

  嫌いなものは嫌い、憎いものは憎い。
  きっと恨み辛みを募らせるし、不平不満を口に出す。
  本物の人間でもないくせに、恨み節を綴り。
  作り物の人間のくせに、他人に嫉妬する。
  それがカッツェには、たまらなく面白おかしくて仕方がなかった。


「つか、ぽまいら愚かすぎっしょwwwwwwwwNPCになっても醜ぅい汚ぁい心捨てきれないとかwwwwwwwww
 そんなんでよく『世界平和』とか『みんな仲良く』とか言えるよねぇwwwwwwww上っ面分厚すぎィwwwwww」


  敬遠なる信徒はそれに乗って生き残り、愚かな人間どもは天変地異に巻き込まれて全滅したという『方舟』の伝承。
  だというのにこの『方舟』にひしめいている人間を模した者たちの姿は、敬遠な信徒とは程遠い愚かな人類のそれ。
  方舟とムーンセルがそういう『偽りのない人間像』を望んでいるのか。
  それとも実際の方舟は伝承通りの存在だったが、どこかの何かのせいでその性質が変わってしまったのか。
  それは知らないが、言えることは一つ。

「ねえルーラーちゃん、これ、キチンと把握してる? 知ってる? ねぇ。
 つまりこれってさぁ……ここに居るの、全員、ミィのだぁい好きなタイプの原始人ちゃんたちなんだよねぇ……w」

  カッツェが悪意を持って扇動できるのは参加者だけではなく、NPCを含めたこの月海原に存在する全ての人型ユニットということ。
  そしてそれは、この場に存在する全ての人型ユニットが無自覚でルーラーを含めた参加者に牙を剥く可能性があるということ。
  幸先のいいことに 『射程ほぼ無限』 『必要魔力0』 『及ぼす効果も大きく』 『自分との相性も最高』 という素晴らしい武器を手に入れることもできた。
  スマホの液晶に指を滑らせ、中身を確認する。電話帳、メールリスト、各種SNSアプリ、『crowds』程ではないにせよ、悪意を増長させるのに使い勝手がよさそうなものもごろごろある。
  胸の高鳴りそのままに、『ルーラーちゃん顔真っ赤涙目パーティ』の具体的な演目を考えて見るが……

「あ、ムリwwwwwwwあムリムリwwwwwwwカッツェさんそういうのマジムリwwwwwwwwwww」

  すぐに思考放棄した。
  『それ』を考えるにはまだ材料が少し足りない。スマホと、悪意と、それともう少し。そのもう少しがまだ足りない。
  材料を集める必要があるが、しかしただ材料を集めるというのもつまらない。

「カッツェさんにできるのって言ったらやっぱりぃ……こっちっすよねwwwwwwwww」

  NOTEを取り出し、天に掲げる。
  紫色の表紙が妖しく光り、抑え込まれていた力を解き放つ。

「バババババババババアアアアアアアアアドwwwwwwwwwwゴゴゴゴゴゴォォォォウwwwwwwwwwwwww」

  秩序に縛られず、正義にも抑え込まれず。
  自身が広げた戦火を遥か高みから見下し続けた『自由の翼』が今再び羽を広げる。

  狂った翼の羽ばたきを受けて、歩行者用信号機が数秒だけ不規則に点滅をした。


549 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:50:59 QypKatjU0
  *  *  *


  からからからから。
  からからからん、かんからから。
  石畳の歩道を鍵盤代わりに、愉快な音楽を奏ながら悪魔がやってくる。


「あー、マジ太陽ウゼぇッスわぁwwwwwwwなんで昼なんてあるんスかね?wwwww
 通行人ウゼェッスわあwwwwww車とか全部事故ればいいって思いませぇん?wwwwwww」


  へらへらと笑いながらそんなことをのたまう『ジナコ』から、流石のNPCも距離を取る。
  それを気にも留めずに麻薬中毒者のように笑い続ける『ジナコ』。
  そんな『彼女』の歩みが、一つの店の前で止まる。
  それは、開店直前のケーキ屋。
  奇しくも探していた『都合のいい場所』と『ジナコ』の好物が合致した、絶好の場所。
  『ジナコ』は鉄パイプを両手で握り直し、思い切り振りかぶる。

「せぇ、のっ!」

  目の前のきれいに磨かれたショーウィンドウに一撃を叩きこんだ。ガラスが砕け散り、警報ベルが鳴り響く。
  何事かと目を剥く店員と歩行者の視線が気持ちいい。
  ガラスの破片を踏み砕きながらダイレクト入店をきめて、早速一言。

「はぁーい、ジナコさん、参上ッス!」

  店内に並ぶのは、色とりどりの宝石のようなお菓子の山と。
  何処までも広がる海のように、『ジナコ』を取り囲む青々とした顔の数々。

「ども、こんちわっす! ボク、甘い物好きなんスよねえ! だ・か・らぁ……」

  胸の前で両手を合わせて可愛らしくおねだりのポーズ。
  手に刻まれた令呪のアピールを忘れない。

「ここにあるの、全部ちょーだいっ♪」

  どよめきが広がり、店の奥から屈強な若者NPCと初老のNPCが現れた。
  どうやら店員役と店長役らしい。


「お、初エンカウント! ども、ケーキくださいな!! くれないとボク、怒っちゃうッスからね! ぷんぷん!」

「オイアンタ、ふざけたこと言ってんじゃ……」

「やめろ、バイトっちゃん!」


  『ジナコ』は掴みかかってきた店員NPCの即頭部めがけて鉄パイプを振り抜いた。
  店員NPCが吹っ飛び、壁に叩きつけられ、もんどりうつ間もなく昏倒。店長NPCの顔が引きつる。
  さらに大きくなったどよめきを耳触りに感じ、次はケーキを飾っているショーケースを叩き割った。

「ありゃ、ここの分はもう食べられないっスね。じゃあ、まずはあっちからくれます?」

  程なくして現れる警官NPC。『ジナコ』は高笑いしながら鉄パイプを構えなおす。

「あれwwwwwwwwもしかしてキミたちボクと遊んでくれるんスかぁwwwwwwww?
 HEYHEYwwwwwww効いてる効いてるwwwwwwwwかかってこいYOwwwwwwwwシュッシュッシュッwwwwww」

  空いている手でワンツーパンチの真似ごとをしながら警官NPCを煽る。
  勿論、『悪意』が存在するものがそれを受け流せるわけがない。

「貴様ぁ!!!」




――――――


  午前9時52分。
  地図上のB-10地区において、『ジナコ=カリギリ』は警察に『平和の敵』と判断された。


550 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:52:40 QypKatjU0
【B-10/左下・都心部/早朝】
【アサシン(ベルク・カッツェ)@ガッチャマンクラウズ】
[状態]魔力充実、ジナコを煽って久々にメシウマ、ジナコに成りすましている
[装備]拾った鉄パイプ
[道具]携帯電話(スマホタイプ)
[思考・状況]
基本行動方針:真っ赤な真っ赤な血がみたぁい!聖杯はその次。
1.喋り方が気に喰わないので何よりも先にジナコの見た目で悪評をばら撒いてジナコを追い詰める。
 ついでに足りない『材料』を探す。
2.ジョンスたちを利用してメシウマする。
3.『ルーラーちゃん顔真っ赤涙目パーティ』開催決定。参加者・演目、募集中。

[備考]
※他者への成りすましにアーカード(青年ver)、ジナコ・カリギリが追加されました。
※NPCにも悪意が存在することを把握しました。扇動なども行えます
※喋り方が旧知の人物に似ているのでジナコが大嫌いです。可能ならば彼女をどん底まで叩き落としたいと考えています。
※ジナコのフリをして彼女の悪評を広めます。
 一定時間暴れた後、瞬間移動で別の場所に行き暴れるという行動をしばらく続けるつもりです。
 1.ルーラーの介入
 2.参加者と思われる人物の介入
 3.れんげから念話
 4.予想外の魔力消費
 5.魔力中程度消費(出る前に回復したが実体化と成りすましで随時消費中)
 以上のどれかが起こった場合、少し遊んでかられんげの元に帰ります。
 また、スキルや能力があるのでカッツェ自身が警察に捕まることは絶対にありません
※『ルーラーちゃん顔真っ赤涙目パーティ』を計画中です。今のところ、スマホとNPCを使う予定ですが、使わない可能性も十分にあります。
※カッツェがジナコの姿で暴れているケーキ屋がヤクザ(ゴルゴ13)の向かったケーキ屋と一緒かどうかは不明です。


[地域備考]
B-10都心部とその近辺エリアでジナコの姿をしたカッツェによる犯罪が発生しています。
カッツェは『ジナコの令呪』を見せびらかすように犯罪を起こしているので『令呪を持った女性の犯行』が近辺で噂になる可能性があります


551 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:53:47 QypKatjU0
――――――

「気付いているか」

「気付くさ、そりゃあな」

  カッツェが居間から消えてしばらくして、ジョンスに刻まれた令呪が強く反応した。
  令呪が今まで反応したのは四回。
  一回目は、ファミレスでの食事中。
  二回目は、NPCの喧嘩の直前。
  三回目は、駄肉が吐く前。
  四回目が、今。

  全てアサシンが『超常の力』を使ってなにかやらかしてると思わしきタイミングだ。

「つまり、そういうことだろ」

  令呪には『宝具の発動』を察知できる能力が備わっている。
  どれくらいの距離で反応するのかとか、どの宝具にも反応するのかとか、宝具以外にも反応するのかとかは分からない。
  ただ、『サーヴァントの行動に令呪が反応する』という事実を知っているのと知らないのとでは大違いだ。

「で、どうするね。れんげを起こして、アレをこの場に引き摺り出し問いただしてみるか?
 どうせのらくらと逃げ回り、こちらが煙に巻かれるだけだろうが」

「……いや、いい。あいつが隠れて何かするっていうんなら、俺達も何かするだけだ」

  もちろん、あのアサシンがこの『令呪のシステム』を見抜いたうえでテキトーに宝具を発動して、姿を隠しているだけの可能性もある。
  だから用心し、誰にも聞こえないように内容は伏せる。

『それもまぁ、丁度いい。『念話』ってのも試してみたかったところだしな。
 
『……茶飲み話にでも付き合えと?』

  アーチャーの口元が歪む。
  彼の性格からして茶化しているんだろうが、なんとも嫌味な笑い方をする。
  ただ、『態度が気に喰わない』とここで噛みついても意味がない。
  ジョンスは受け流して、続けた。

『いや、これからの方針だ』

  当初ジョンスは強者と戦うことのみを目標としてきた。
  しかし、この数時間で事態の様相は大きく変貌している。

  倒すべき相手ができた。
  いやらしいニヤケ面のアサシン。『ベルク・カッツェ』とか言ったか。あいつを一発ぶちのめしてやらなきゃ気が済まない。
  精神的勝利なんてのは敗者の逃げだと、あの高みの見物を決め込んでいる気味が悪いアサシンに叩きつける。

  そして、そいつを倒すのに面倒な縛りがいくつかあることが分かった。

  まずは『サーヴァントには攻撃が通用しない』という大原則。
  ここを覆さないことには化け物退治はなされない。
  どれだけジョンス・リーの一撃が、岩を砕き、コンクリートを踏み抜き、化け物を沈めたとしても。
  攻撃が通らないのであれば意味がない。

  そして『サーヴァントが死んだ後のマスターがどうなるのか』という枷。
  このまま行けばあいつは、死ぬ瞬間もきっと笑っている。
  『自分が居なくなったことで宮内れんげが絶望しながら死んでいく瞬間』を夢想し、高笑いしながら死んでいく。
  それがジョンスには気に喰わない。

  そのためにも知らなければならない。
  英霊という『化け物』の全てを。
  知り、醒ましてやらなければならない。
  あのいけすかないニヤケ面を。

『これから……昼頃には図書館へ向かう。そのつもりだ』

  あるはずだ。
  ないわけがない。

  だから探す。
  おそらくこの場で一番知識が揃っている『図書館』で。




  あくまで、『ついで』に。




   *   *   *

  アーカードが演技掛かった動作で肩を竦めてみせる。

『結局後手後手か。ああ、悲しいぞ、我が主よ。
 初めて交戦した時は胸が震えたが、幼女に調子を狂わされ、あのアサシンにいいように扱われている姿はまるで……』

『違うな』

  言葉を遮り、告げる。

『勘違いしてるようだから言っておく、今回はこっちが先手だ。
 と言っても……誰に対する先手かは、まだ分からないがな』


552 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:55:06 QypKatjU0
『この聖杯戦争において、図書館ってのはなンだ』

  アーチャーの瞳が妖しく光る。

『サーヴァントが英霊だって言うんなら、必ず伝承がある。そしてその伝承は、ここに集まる』

  笑いを噛み殺すように吐息が漏れ。
  せかすように言葉を重ねる。

『それがどうしたね』

『どうもねぇよ。ンなことは、よほどの馬鹿じゃなきゃ分かることだ。
 ……笑いたいなら、その先を聞いてから笑え』

  アーカードの顔は既に『愉悦』を浮かべていた。

  彼は決して阿呆ではない。むしろこと闘争に関しては類稀なる知恵を持ち、知略にも長けている。
  だからこそ至る。いや、至った。
  いや、もしかしたらとうの昔に至っていたのかもしれない。
  ジョンスの導きだした方針に。

『そんな状況でノコノコ図書館に来るヤツなんて、ただのアホか……
 他のサーヴァントと交戦して、宝具なりなんなりの真名看破する材料を持っていて、再戦する気まんまんな奴か』

  だから、向かう。
  既に闘争を経て。
  冷めやらぬ戦場の熱を持ち。
  さらなる闘争を卑しくも熱烈に望む。
  そんな奴らを待ち伏せて、ぶっ叩くために。

『俺の目指すのは……お前風に言うんであれば、やっぱり、ただの『闘争』だ』

  水を一口口に含み、ついでに付け加えるように言う。

『あのアサシンについて調べるのは、そのついで……まぁ、時間つぶしが必要になったらやるかな』

「素晴らしい」

  念話ではなく、口に出しての賛美。
  それほどまでに感慨深いということだろう。

「『あの毒』は回りきっていなかったか」

「当たり前だ」

「そしてどうやら……その拳も緩めていなかったようだな。先ほどの言葉は撤回しよう」

「いらねぇよ」


  撤回などする必要はない。

  ジョンス・リーの聖杯戦争は今、停滞しきっている。
  彼を現在取り巻いているのんびりしたペースに巻き込まれる形で、喉をかきむしりたくなるほどの『ぬるま湯』に塗れている。
  これ以上そのぬるま湯につかり続ければ、いつか必ずしっぺ返しが来る。
  未だ好戦的な参加者に出会っていないとはいえ、闘争は既に始まっているのだ。

  そのことを再確認するためにも、図書館に向かわなければならない。
  図書館でも好戦的な参加者に出会えなければ、別の場所だ。
  病院でも、学校でも、廃ビルでも、どこでもいい。

  宮内れんげ。
  彼女のもたらした『意外の毒』によって牙を抜かれないために。
  ジョンス・リーはこの街の誰よりも、おそらくは自身のサーヴァントよりも。
  今、純粋な闘争を渇望していた。


「決まりだな」

「まずは図書館に向かう。索敵と……あくまで『ついでに』情報収集だ。
 幸い、ここからならバスも出てる」

  橋の左側の都心区に存在するバス・ターミナル。そこから30分おきに出ている図書館行きバス。
  それに乗れば戦場に行ける。
  あとは―――

                      ヤ
「大きく出遅れ……今さらだが……闘争るぞ、アーチャー」

「ああ、始めようマスター。我らの闘争を」


  ―――ただ闘争へと向かうのみ。


553 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:55:45 QypKatjU0
   *   *   *


「ところで我が主よ、もう一ついいかな?」

「なんだ」

「れんげはどうする」

  そこについてはジョンスも決めあぐねていた。

  『意外の毒』と言ったが、だからといって黙って切り捨てられるほど、彼女は『軽い』存在ではない。
  それどころか彼女の存在の如何は、ジョンスの目標を踏まえて考えるとやや厄介だ。

  もし彼女を放っておいて彼女が誰かに殺されれば、ジョンスはカッツェを倒し損ねることになる。
  しかし彼女を連れていけば、この先に待つ『闘争』に巻き込み、これもまた死ぬ要因になりかねない。
  だからといって奥で寝ている素性も知れない駄肉に任せるわけにもいかない。

  彼女を連れていったとして、利用価値がないかと言えば、そういうわけでもない。
  令呪によって宝具発動が探知できるとすれば、彼女の……正確には彼女のサーヴァントのアサシンが(忌々しい事だが)憑いてくるのは好都合だ。
  アサシンが宝具を発動し、その直後に反応を見せる者を探す。それだけでも、マスター探しはやりやすくなるだろう。
  無論、宝具を発動するだけなら自身の英霊アーカードでもいいのだが、アーカードの宝具は発動条件がかなり特殊だ。
  説明を聞くに燃費も悪く、あのアサシンほどポンポン使えるものでもない。
  ただし、そうすればあのアサシンに『令呪による探知』と他の組の情報を渡し続けることになる。これもまた問題だ。

  きっと彼女については、どれだけ考えても正しい答えなんてのは出てこないだろう。
  だったら丁度いい。聞かれたこの瞬間に決めてしまおう。


「そうだな、あいつは……」




――――――


  午前9時52分。
  図書館が開くまであと8分。
  ジョンスたちの新たな闘争が始まるまで、あと―――


554 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:58:28 QypKatjU0
【B-10/街外れの一軒家・居間/一日目 午前】

【ジョンス・リー@エアマスター】
[状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち
[令呪]残り1画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:闘える奴(主にマスターの方)と戦う
1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す
2.基本行動方針と行動方針1.を叶えるため、図書館へ向かう
3.れんげは……

[備考]
※先のNPCの暴走は十中八九アサシン(カッツェ)が関係していると考えています。
※現在、アサシン(カッツェ)が一人でなにかやっている可能性が高いと考えています。
※宝具の発動と令呪の関係に気付きました。索敵に使えるのではないかと考えています。


【アーチャー(アーカード)@HELLSING】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う
1.新たな闘争のために図書館へ向かう。
2.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある。
3.れんげは……?
[備考]
※野次馬(NPC)に違和感を感じています。
※現在、アサシン(カッツェ)が一人で何かしている可能性が高いと考えています。


[ジョンス組共通備考]
※今後の行動について話し合いました。
  二人の間での確定事項は『図書館へ向かう(索敵・情報収集)』『積極的な参加者と交戦』です。
※れんげも連れていくか、別れるかは後の作者様にお任せします。


[地域備考]
B-10都心部からC-8図書館前行きのバスが30分に1本の頻度で出ています。
経路は 始発B-10 → B-9 → C-9 → C-8 → 終点図書館
バスの場合の図書館までの移動所要時間はC-10から1時間弱となります。
図書館は午前10時に開館します。


555 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 02:59:25 QypKatjU0
――――――


  足の踏み場もない部屋のド真ん中の万年床の上で、彼女は目覚めた。
  胃が痛い、きりきりする。なぜか脇腹もじくじく痛む。
  体中にまとわりつくような嫌な汗と、汗のせいでへばりついた拭く、不快感の残る口の中が気持ち悪い。

  手近にあったフェイスタオルを手に取り、乱雑に口の中を拭く。
  少しだけ楽になったが、まだ不快感はぬぐえない。
  小さな巨体を揺らし、体を起こして。
  いまだもやがかかる頭をフル回転させて、その一言を吐きだす。


「ん……なんか、酷い夢、見てた気がする……」


  夢ともうつつともつかない空間での『ジナコ』との邂逅を終えて。
  結局ジナコが選んだのは、いつものように現実逃避だった。
  ジナコは、気絶していた前後、そして最中の事を全て夢だと思い込むことにした。

  きっといきなり外に出たりしたから海に放り出されてしまった淡水魚のごとく水が合わずに倒れてしまって。
  あのなんだかよく分からないけど不快な出来事は、その時見た白昼夢なんだ。
  嘔吐したのは、たまたま昨日食べたご飯が腐っていただけだ。
  久々に太陽に当たってしまったせいで熱中症になったというのも考えられる。
  胃が痛むのもそのせいだ。脇腹については……まぁ、太るとよくあることだ。
  それから、気絶していたけどなんやかんや色々あって自宅の寝室まで帰ってきて、いつものように眠った。

  細かい部分を省けば、いつも通りゴミ捨てに行って、帰ってきて、そのまま寝た。それだけだ。
  ジナコさんは、『自分』となんて出会ってはいない。
  自分と話してなんかいない。
  そもそもあんなことが起きるわけがない。

  言い聞かせるようにそう呟いて、押し潰されてしまった『エリートニートのジナコさん』を再び作り上げる。
  そうしないと、もう、きっと昔のように、逃げることすらできなくなってしまうから。


「はぁ、運がないなぁ……まさかゴミ捨てに行って……え?」


  なにやらいつもより体が重い気がして、視線を落としてみると。
  丁度胸のあたりに見慣れぬものが埋まっていた。


556 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 03:00:59 QypKatjU0
  それが何なのか、三次元から遠ざかって久しいジナコにしては珍しく、すぐに正解に辿り着いた。

  公園で見かけた幼女だ。
  『サーヴァント』と思わしき赤色の人と一緒に居た髪色の薄いツインテールの幼女が、ジナコに抱きついて眠っている。
  とっさに『殺される』という単語が頭をよぎったが、すぐに頭を振った。
  せっせと頭を使って現実逃避したせいもあってか、ジナコはかなり冷静に彼女について考察できた。

  外で気絶したであろう自分を運んでくれたのは誰だ。きっとこの少女、もっと言えばこの少女と一緒に居た『サーヴァント』っぽいあの赤い男性だ。
  眠っている自分を襲わないのは何故だ。敵意がないからだ。
  それどころか抱きついてのんきに寝ているのは、ジナコに対して少なからず好意を抱いている証拠、かもしれない。
  敵ではないなら、戦う必要なんてない。
  夢の中に置いてきたはずの『聖杯戦争に直面した自分』を思い出してまた少し気分が悪くなるが。

「やりましたー……」

「……はい?」

「うち、ついに空を制覇したーん……うちがエアマスターなんなー……」

  ジナコが聖杯戦争でいつか戦わなければならない敵であるとも知らずに、のんきな寝言を呟く彼女を見ると、そんな痛みも和らいだ。
  自分だけじゃない。少なくとも戦うつもりがないマスターだってこの通り、居る。
  それが分かっただけで、なんとなく救われた気がした。

「ったく、ボク、抱き枕じゃないっすよー」

  彼女のおかげでなんとか、潰れてしまうギリギリのところから『エリートニートのジナコさん』が帰ってきてくれた。

  お礼代わりに、ゆっくりと、眠っている幼女の頭を撫でる。
  あまりの髪の柔らかさとサラサラ感に時の流れの残酷さを再確認してしまったが、ジナコさんの髪のこととこの話は全く関係ない。
  そのまま少女が息苦しくない程度に抱き返し、もう一度目を閉じた。

  両腕の中におさまっている他人の体温が心地いい。
  不安な時に自分以外の誰かが居てくれることがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。
  おかげで少しだけ心に余裕ができて、できてしまった余裕の分だけ少し泣いてしまった。

「少し、こうさせて……えーと……あの赤い人のマスターの……マスター……マスターょぅι゙ょちゃん」

  名前が分からないからと言ってこの呼び名はいかがなものかとも思ったが、まあ仕方ない。
  そういう呼び方でも問題ないスかね、と問いかけると、なんとも生意気なことに自分の腹が返事をした。
  空腹を告げる大きな鳴き声で食べた物を道端で吐いてしまったことを思い出す。どおりでお腹がすいてるわけだ。
  空腹で思い出す。そういえば、ヤクザはケーキを買ってきてくれただろうか。

  そこまでしてようやく思い出す。自身のサーヴァントについて。
  ヤクザが向かったケーキ屋はいつ開くんだっただろうか。
  帰ってくるのはいつごろになるだろう。
  ケーキ、いくつ買ってきてくれるかな。

  そして、気がかりなのは一点。

(勝手に家にあげちゃったの、ヤクザが知ったら怒るかもなぁ)

  ヤクザが帰ってくるまでに、ょぅι゙ょちゃんについて説明する内容を考えなければならない。
  薄目を開けて枕もとの時計を確認する。


――――――


  午前9時52分。
  少し寝て、お昼になったらこの子を起こして昼食にしよう。
  たまには二人で食べる昼食も悪くないかもしれないと考えながら、ジナコは再びまどろみの中に意識を手放した。


557 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 03:02:34 QypKatjU0
【B-10/街外れの一軒家・寝室/一日目午前】

【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]魔力消費(中)、睡眠中(魔力回復中)
[令呪]残り3画
[装備]包帯(右手の甲の令呪隠し)、抱き枕(ジナコ)
[道具]ないん!
[所持金]十円!
[思考・状況]
基本行動方針:ふぇすてぃばるん!
1.うち、手が伸びるーん
2.うち、空も飛べるーん
3.手が伸びるのも空が飛べるのも夢でしたん……折角なのでもう少し寝ます!!

[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
※ジナコに抱きついて寝てます。
※カッツェにキスで魔力を供給しましたが、本人は気付いていません。
※昼寝したので今日の夜は少し眠れないかもしれません。




【ジナコ・カリギリ@Fate/EXTRA CCC】
[状態]脇腹に鈍痛、精神消耗(大)、トラウマ抉られて情緒不安定、ストレス性の体調不良(嘔吐、腹痛)、昼夜逆転、現実逃避、空腹、睡眠中
[令呪]残り3画
[装備]黒い銃身<ブラックバレル>-魔剣アヴェンジャー-聖葬砲典、抱かれ枕(れんげ)
[道具]PC現行ハイエンド機
[所持金]ニートの癖して金はある
[思考・状況]
基本行動方針:引きこもる。欲しい物があったらゴルゴをパシらせる。
0.気分が悪い……
1.……寝る
2.マスターょぅι゙ょちゃん(れんげ)については……起きてから考えよう

[備考]
※装備欄のものは抱かれ枕以外ネトゲ内のものです。
※密林サイトで新作ゲームを注文しました。二日目の昼には着く予定ですが……
※カッツェにトラウマを深く抉られました。ですがトラウマを抉ったのがカッツェだとは知りませんし、忘れようと必死です。
※れんげをマスター、赤い人(アーカード)をれんげのサーヴァントだと考えています。これについては本人の推測でしかありません。
※ヤクザ(ゴルゴ13)にれんげのことをどう話すかについては起きてから考えます。
※れんげに抱きつかれる形で寝ています。やろうと思えば簡単にひきはがせます。


558 : Imitation/午前9時52分  ◆tHX1a.clL. :2014/08/14(木) 03:03:10 QypKatjU0
投下終了です
訂正・設定矛盾他何かあれば指摘お願いします


559 : 名無しさん :2014/08/14(木) 03:09:50 alJBml1.0
投下乙です。
カッツェさんやっぱりおっかないサーヴァントだなぁ…
反英雄的な鯖こそ多いけど、ここまで邪悪なのは彼くらいだな
執拗な精神攻撃に加えて変装や扇動といいとことん厄介な能力が多い
NPCに能力有効なことが明かされた以上存分にかき回してくれそうだし、今後が気になる
そしてはじめたんに口調が似てるせいで最悪の状況に叩き落とされたジナコさんの明日はどっちだ


560 : 名無しさん :2014/08/14(木) 04:10:53 dhXbYBPk0
投下乙です!
ジナコさん寝てる場合じゃないけれど起きても地獄なんでもういっそ寝たままのほうがいいのか!?
でも夢のなかでもカッツェは踏み込んでくるからなあ
なんとも悪質だったけど、NPC考察は興味深い
ジョンスとアーカードは流石の力強さだけどさて、果たして望みどおりの闘争に立ち会えるか
図書館やケーキ屋、加えて絡んできそうな警察が楽しみ


561 : 名無しさん :2014/08/14(木) 08:19:09 L7DNKiZg0
同じ一人称僕で語尾がッスでもはじめたんとジナコさんじゃ胸が大きいくらいしか似てないじゃないっすかカッツェさんww
カッツェさんくやしいのうwwくやしいのうww


562 : 名無しさん :2014/08/14(木) 15:50:31 VL9JpHrcO
原作じゃ宝具に令呪が反応するって設定はなかった気がするけど、二次二次オリジナルかな?

まあそれはそうと、ジナコとは無関係な理由でジナコに被害がw
ひいてはゴルゴの行動にも影響がでてくるだろうし、カッツェさんマジ傍迷惑ッスw
個人的には、ジナコさんとカッツェさんが組んだら、相当厄介な組み合わせになると思うんだけどなあ
ネット的に


563 : 名無しさん :2014/08/14(木) 16:14:36 alJBml1.0
>>562
カッツェが宝具使う→れんちょんが魔力供給→ジョンスの令呪がれんちょんの令呪の魔力に反応する
ってことじゃないかな 以前の話でもキリコが宝具解放した時に春紀の令呪がルリの令呪を感知してたし
宝具そのものは感知出来ないけど、マスターの令呪の反応でカッツェが何かしらの行動で魔力使ってることは解るって感じで


564 : 名無しさん :2014/08/14(木) 16:17:35 alJBml1.0
カッツェが宝具使う→れんちょんが魔力供給→他のマスターの令呪がれんちょんの令呪の魔力に反応する
って方が正しいか、すまん


565 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/14(木) 23:08:11 QyDVKuT60
自作の修正部分を投下します。

---->>450

 一瞬顔を赤く染めた少女は、すぐに頭を振って顔を引き締め、ランサーの言葉に肯く。
 先ほどから体に残る倦怠感は、魔力が足りていない証拠だ。
 いくらサーヴァントの維持に聖杯の補助を受けているといっても、その回復にはマスターの魔力が必要となる。
 しかし今の自分達は、その肝心な魔力が圧倒的に不足していた。魔力は生成する端から消費され、現状維持が精一杯なのだ。
 そんな魔力が枯渇した状況でありながらランサーの実体化が可能なのは、遠坂邸の霊地としての効果によるものでしかないのだ。

「そしてただ戦うだけじゃなく、確実に相手を殺さなきゃならねぇ以上、最低限戦闘が可能な程度には魔力を回復する必要がある。
 だが、このまま自然に回復するのを待っていても、まともに戦えるようになるころには間違いなく日が変わっちまうだろう」

 そう言いつつもランサーは、もしここが“本来の遠坂邸”だったなら、夜までにはある程度の回復が可能だったかもしれないと思っていた。
 それが不可能だったのは、この遠坂邸は仮想世界における再現データに過ぎず、また本来の立地とも大きくズレていたからだ。
 そのため、本来の遠坂邸にはあった霊地としての質は大きく損なわれており、ほとんど機能していなかったのだ。
 地主である遠坂凛へとかかる負担が軽減されることぐらいが、この遠坂邸に残された数少ない優位性だった。

「故に、今のオレ達に残された選択肢は、大きく分けて四つしかない」
 ランサーの言葉に、少女は顔だけでなく心も引き締める。
 それを待って、ランサーは少女へと道を示した。

----


566 : ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 14:34:22 jcn8pLsA0
ジナコさんがやばい感じになってる……カッツェさんマジ吐き気を催す邪悪
ヤクザー!速く来てくれー!

自分も投下します


567 : 戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 14:36:23 jcn8pLsA0
食事を摂ることの必要性は分かっている。機械が定期的な手入れを必要とするように人間もまた栄養補給と休息を挟まなければ活動を停止してしまう。
しかし戦場でそこに時間をとられては後手に回る危険が大きい。特に学園に侵入するNPCの確保はあまりに時間が過ぎると難しい。登校時間は過ぎ生徒は皆無、部外者を入れては怪しすぎる。急いで出なければ人材確保はできないのだからジャンクフードやサプリメントで構わない。
そう主張する切継に対し弓兵のサーヴァントが提案、作成したのが

「さあ、できたぞマスター」

サンドイッチだった。なるほど、これなら作成に手間も時間もかからないし手軽に摂取が可能だ。英雄なんて人種のなかでも、サンドイッチ伯爵には敬意を払ってもいいかもしれない。

「む、聞き捨てならないなマスター。確かにサンドイッチはシンプルな料理だが、だからこそ奥深いものがあるのだ」

そもそも料理、食事というのはだな……などとぶつぶつ語っているのを聞き流し、食事を摂る。これは……

「美味いな」

アインツベルンの食事をしのぐかもしれん。パンを的確にトーストし、食材との歯ごたえのバランスを整えている。他にもいろいろ手を加えているようだが、不慣れな身では分からない。ベーコン、トマト、レタス、一つ一つ違った工夫をしているのにこの短時間で仕上げるとは…
ぽつりと出た言葉を耳聡く拾い、自慢げに笑みを浮かべるアーチャー。

「フ、言っただろう。料理は得意だと。生前それなりの名家で執事をしていたこともある。注文の多いレディたちの舌を満足させた我が腕前は伊達ではないぞ?」

特にあかいあくまや金髪縦ロールのお嬢様はうるさかった……などとぼやきつつもそれを懐かしみ、誇りに思っているのが伝わってくる。英雄の自慢が戦場での人を殺した数ではなく全てこういったものならば……ああ、それはきっと平和ないい世界なのだろう。
だが、今はまだ。殺戮と陰謀の渦巻く戦場なんだ。

「アーチャー、残りは外食可能なようにまとめておいてくれ。出るぞ」
「了解した、マスター」

NPCおよび資材の調達。やらなければならないことはいくらである。
幸い足と土地勘はこの家で拝借できそうだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ピー、ピーと電子音が聞こえる。どうやら回しておいた洗濯機が仕事を終えたようだ。
流し見ていたニュースの音量を上げ、洗濯物の回収に向かう。
しわにならないよう丁寧に洗濯かごに入れベランダに向かう。幸いサーヴァントである自身に衣服は必要なく、彼女も私も洗濯物をため込むタイプではないため往復の必要は無い。
制服の予備、女子高生らしくオシャレな私服、バイト先で使うのかすこしお堅い一式などなど……
種類はあるが数は少ない。これなら量が多くて乾きにくいということもなさそうだ。
縫い目を表にしたり、長袖のものを逆さにしたり生前を思い出して試行錯誤。湿度を下げるため丸めた新聞紙を下に置く。この薄手のシャツは先にアイロンをかけておいた方がいいだろう……
む、タグが切れている。鋏の試し切りにでも巻き込んだか?これではアイロンの適正温度や時間が分からんじゃないか。しかたない、そのまま干そう。いや、それより問題は


568 : 戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 14:38:06 jcn8pLsA0
(下着か)

女性と夜を共にした経験は何度かある。しかし生活を共有する前にみな喋らぬ姿に変えてしまったせいでこういった日常の経験はほぼない。
他の女物の扱いは不慣れとはいえ、男物と根本的に大きく変わることはない。しかしこれを扱った記憶は子供のころに母のものを干して以来だ。あのころは適当にやっても気にはしなかったが……

(派手だな。さすがにこれを私の母のものと同様に扱っていいものか)

母のは特に飾り気も何もない、端的にいえばダサい代物だったがこちらはさすが現役女子高生というべきか。
日陰干しとかタオルで囲んで外から隠すとかした方がいいのだったか?残念ながら聖杯はこういった知識は教えてくれないようだ。
そういえば生前女性の下着を爆弾にして、それを盗ろうとしていた目撃者を排除したこともあったな、やはり外から目につくのはできれば避けたいだろう。

(ふむ、マスターに確認するか?)

いや、おそらく今は授業中。そこに念話でブラジャーの干し方が分からないから教えてほしいなどと言って挙動不審になられても困る。私たちの信頼関係的にも困る。

(とりあえず室内干しにいておくか)

ルーラーからの伝達が入り次第、方針と一緒に下着の干し方も確認するとしよう。
これでひとまずやることは済んだ。あとはニュースでも見ながら……昼食でもとろうか。
サーヴァントに食事は不要だが、僅かながら魔力補給が出来る。何を作るか……
冷蔵庫と棚を確認してメニューを決めようとするが

(な、なにィ〜醤油が切れかかっているだと……いや、落ち着け。別に醤油なしでも作れる料理などいくらでもある)

しかしなぜ今まで気づかなかったのだ……くそ、今朝のサンドイッチに使ったから卵も殆どない。買い物に行くか?いや、明確な方針が定まらず、情報も十分ではない現状で外に出るのは賢明とは言い難い。
しかし、そういえば先ほど丸めた新聞紙と一緒にスーパーのチラシがあったような……

(ええい!やはり気になる。ちゃんと蓄えておこう)

夜になれば本格的に聖杯戦争が始まる。物資を調達するならむしろ今だ。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

原付にまたがり街を駆けるコートの男、衛宮切継。転がり込んだ家の住人から一応足を借りることはできたが

(速度で劣り、さらに手が完全に塞がる。攻撃を防ぐ扉もないし、積載量も少ない。やはり車がほしいところだな)

帰りに荷物を載せるためにサイドカーをつけているせいで機動性はさらに落ちている。

『マスター、資材調達なら先ほど通り過ぎたホームセンターではダメだったのか?』

霊体化してついているアーチャーが念話で問いを投げる。

『いや、向こうのスーパーにまずは向かう。家主に聞いたところ、あそこでは月海原学園の生徒がバイトをしているらしい。搬入業者が学園の購買と一緒で、生徒と親しげに話しているのがしばしば見られているそうだ』
『なるほど。そこでNPCを狙うか』
『授業の選択次第では学生を確保できるかもしれないし、少なくとも昼前後には食品系の業者を確保、送り込むことができるんじゃないかと考えている。と、話しているうちに見えてきたな』

運転する切継の視界に大型のスーパーが見えてくる。駐輪スペースもあるが入ってみると意外と混んでおり、即乗車、出発という流れはできそうにない。
それを確認して少し離れた、人目の少ない駐車場に向かう。非常時の即時脱出を考えるとむしろこちらの方が時間のリスクは少ないと考えてのものだ。それにこれならアーチャーを実体化させる瞬間を目撃される心配もない。外からは見つけにくい、しかし発進はすぐにできる位置を見つけ、バイクを止める。
アーチャーが実体化を終えたとき、ちょうどその目の前を商品搬入のトラックが通り過ぎて行った。

「間がいいな、あとはあれが月海原にも関係があればベストだ。行くぞ、アーチャー」

搬入口に二人で向かっていく。仕事を終えたスタッフに声をかけ、話を聞いてみると……どうやらアーチャー主従のLUCも捨てたものではなかったようだ。


569 : 戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 14:39:10 jcn8pLsA0

「月海原学園で仕事を終えたら、そこで昼食も済ませてくるといい。不審人物や探りを入れている人がいないか確かめてほしい。追って連絡するからその時報告をくれ。僕は……遠坂時臣。トキオミだ、忘れるな」

落ち着きあるはっきりした言葉で運転手を含む3人の搬入スタッフに言葉をかける。

「そうですね。あぁ…はい。そうします」

それを聞いた彼らはぼんやりとした思考でその言葉を受け入れた。
携帯の番号を確認し、こちらから連絡できるようにしたうえで催眠の条件付け。当座の暗示としては上々と言えよう。
それが済むと仕事を終えていたスタッフはトラックに乗り出発する。

『偽名か』
『ああ、生憎僕の魔術の腕は人並みの域を出ない。キャスターはおろかそれなりの魔術師なら破れるような暗示だ。だから、餌をまく』
『遠坂時臣なる魔術師がここにいるのか?』
『先ほど地図を見ながら家主に確認したが、ここは冬木という地方都市をある程度再現した物らしく、いくつか見覚えある施設や地名を確認できた。冬木の管理者たる遠坂の館も再現されていたよ。だから、僕を探る敵にはそちらに向かってもらう。いるともわからぬ遠坂の党首の影を追ってもらうさ』

記憶を直接読み解くのは相当高度な術者でなければできない。それよりも場所や名前をヒントに追うことの方が容易にとられる手段と考えての単純な策だ。魔術師という傲慢な人種はそういう些細な戦術すら読み取れないことが多い。

『もちろんこれで終えるつもりはない。斥候がばれるのを想定するなら複数放つのが定石だ。別口からのアプローチも考えるさ。窓口を増やし、追加のNPCを送る意味でも足の確保が先決かな』

策は、破られるのが前提。その最悪を想定したうえで、上を行くべく駒を進めるのが魔術師殺し衛宮切継。
その策の有用性は数々の戦地を渡り歩いた錬鉄の英雄も認めるところだったが

『申し訳ないがマスター、私の魔術は一点特化でね。単純な暗示すら難しい。家主の服を失敬してまで実体化させる戦術的利点は今はないようだが』

それに自身が加勢できるかは別問題。文句を言うつもりはないが疑念は口をついて出る。

『それはまあ、別口だ。資材確保に資金提供を依頼したのだが、さすがにただせびるわけにはいかない。買い出しをこのスーパーで依頼されたというわけさ。ここの話もその際聞いた。資材だけじゃなくここの買い物も加わるとなると手が足りない』
『……つまり私は荷物持ちに駆り出されたというわけか』

衛宮切継にとってサーヴァントは聖杯戦争を勝ち抜く道具でしかない。実用的に武器として扱うが……まさか小間使いのようにするつもりはなかった。それでもこうなるのはこの赤い英霊の宿命か。






手早く買い物を終え、先ほど見たホームセンターに向かおうと駐車場に戻る。先に食品を買ってしまったのは失敗だったかもしれないと反省しつつ原付のもとへ行くと

「どちら様でしょうか?それはわたしのものですが」

見慣れない男が自身の原付の側にいる。これではアーチャーを霊体化させるのが難しい。そもそも何をしているのかと考え声をかけ、相手が振り向くと

男の背後から獣人が現れ、その拳が切継を貫かんと繰り出された!


570 : 戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 14:40:14 jcn8pLsA0




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

チラシでスーパーの場所を確認し霊体化して向かう。鍵をかけてそのまま出られるからなかなか便利でいい。

(ふーむ、霊というのはもう少し不便なイメージがあったがな。許可なく他人の家に上がるのも、霊体のまますれ違うのも問題なくできそうだ)

幽霊の目線で街を眺めながらゆったりと進むうち、スーパーに着く。歩いて10分弱と言ったところか。
近くの人目につかなそうな駐車場で霊体化を解き、入店する。
レジで会計を済ませているのを確認し

「殺意の女王(キラークイーン)…」

ぼそりと呟き、己が宝具を腕一本だけ発動。通りがけに少量の現金を頂戴する。

(大胆に盗んではニュースになる。しかしいつ盗ったともわからぬようにレジから抜き取れば内部犯、もしくは処理のミスが疑われ大きく報じられる危険は薄い)

仕送りとバイトだけで生活するマスターにさらに私の食費の負担は厳しい。魔力的な面でも経済的な面でも手段を問わず援助していく必要がある。

(さて、醤油と卵と……食料を調達しておこうか)

長いこと一人暮らしをしていたため、食材の選出も迅速に行える。日持ちするものを選び、念のため先ほどと盗んだレジは避けて会計、釣りを受け取る。荷物があるから霊体化できないな、などと帰り道を憂いていると

「おや」

今入ってきた原付、サーヴァントの気配がした。ということはアサシンではないが、敵。
どうやら先ほど自分が霊体化を解いた駐車場に改めて入っていったようだが、ヘルメットで顔は確認できなかった。

(ふむ、どうするか。今すぐ離れれば遭遇の危険はないが……むこうは私に気づいていないはず。顔くらいは確かめておくか……)

こちらはスキルとクラス特性のおかげで発見は難しい。偵察だけならば有利のはず。
手に持った商品を改めて配送依頼し、周囲の目を確かめ霊体化して向かっていくと、ちょうど搬入口でスタッフとやり取りをしているところが目に付いた。そのままやり取りを見守っているとどうやらなにか催眠のようなものを掛けたらしい。

(なるほど、人海戦術というわけか。ああして学園に人を向かわせマスターを探す…トオサカトキオミ、なかなか面倒な手を打ってくれる)

暗示の文言を耳に収め、渋面を作る。学園には自身のマスターもいるのだ。放っておくと面倒になると判断し、二人がスーパー内に入っていったのを確かめると、先ほどの駐車場に向かう。

(リスクのある交戦は避けたいが……私の本質はクラスの通り暗殺。キラークイーンでハンドルを接触爆弾にして離脱すれば問題はない)

しかし一瞬交錯しただけの原付、それも分かりにくいところにあったために発見には思いのほか時間をとられてしまった。ようやく見つけたそれを爆弾にするため

「殺意の女王(キラークイーン)」

宝具を発動させようと真名を開放すると

「どちら様でしょうか?それはわたしのものですが」

背後から話しかけられ振り返ると、トオサカがいた。そしてその背後の実体化したサーヴァントがこちらに殺気を放つのを感じた瞬間

反射的にキラークイーンによる拳を放ってしまった。


571 : 戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 14:43:31 jcn8pLsA0



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

肉を貫く不気味な音ではなく、ガキン!という金属音が響く。

「魔力が感じられないからと言って油断したか、マスター?」

陰陽の双剣を交差させ、獣人の拳を受ける弓兵。同時に皮肉な言葉を己が主君に投げかける。
そして双剣を弾き、敵と距離をとる。

「フ〜、随分と買い物を終えるのが早いじゃあないか。まさかもう戻って来るとは……」

アサシン、吉良吉影の心中を代弁するかのようにしゃべるスタンド……ただ一人、彼の側に立つ伴侶、殺意の女王(キラークイーン)。
必然、敵対する者はそちらを警戒する。

『マスター、あのサーヴァントのクラスやステータスは?』
『……一切見えない。あの獣人サーヴァントはどうやらステータス秘匿やそれに準ずるスキルか宝具を持っているらしい』

それを聞き、眉をひそめるも推論を深めるアーチャー。

『今の一撃から察するに単純な膂力はあちらが上、技量は拳の軌道や殺気への対応を見るにこちらが上。武器を持たず、魔術を使わず、言葉を交わす、アサシンもしくはエクストラクラスの可能性が高い。足を抑えられている以上撤退は難しい、背を向けるわけにもいかないか』
『勝てるか?』
『無論!』

再び双剣を構え切りかかるアーチャー。
対してそれをいなし、反撃の拳をスタンドに振るわせるも、引き際を誤ったことに心中臍をかむアサシン。

(くそっ、よりによって剣を扱うか。だがセイバーにしてはパワー不足、ステータスよりも宝具特化のサーヴァントか?どうにかして撤退しなければ)

「しばッ!」
「はぁっ!」

拳撃と剣戟が交差する。右突き、左受け、右薙ぎ、左払い、左拳、牽制、手刀、刺突、平手、袈裟、握み、裏拳、拳と剣のラッシュの攻防。
金属音を響かせながら、その音よりも速く繰り出される神秘の激突に一時目を奪われた切継も、敵影が自然と目に入り攻撃態勢に移ろうとする。しかし

(人の目につきにくい場所とはいえ街中で銃声は拙いか。それにあの男、なぜサーヴァントとつかず離れずの距離を保っている?確かに僕から攻撃はしにくいがアーチャーにやられかねんぞ……)

獣人サーヴァント……キラークイーンの少し後ろに立ち続けている敵に疑問を持つ切継。援護を防ぐにしても上策とは言い難い、と思っていると

パァァン!という音……アーチャーの振るう黒刀が砕かれた。

「ウリィヤアアッ!」

その隙を突こうとキラークイーンが手刀を振るう。が

「!? 折れた剣が…!?」

再度剣を投影し、手刀を受ける。驚愕の声を上げる敵マスターと一瞬硬直した敵サーヴァントの隙を突こうと即座に構えに入るが

「…!?」

自身の剣に違和感を覚え反射的に投げ捨て、距離をとってしまう。
それを見て取ったアサシンはスタンドと共に身を翻し、背後のブロック塀を破壊し撤退する。


それと同時に打ち捨てた黒刀が大爆発を起こした。


572 : 戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 14:45:32 jcn8pLsA0


「む…!ぬぅ」

切継をかばい爆風から退避するアーチャー。壊れた幻想ほどの規模ではないが、多少はダメージを負う。それでも敵を追撃しようと改めて二刀を投影し崩落した塀を超えると

「……取り逃がしたか」

電信柱に跳び、周囲をサーヴァントとしての感覚と弓兵の鷹の眼で探るも、このさびれた路地から一切敵の気配は感じられなかった。
それを感じ取ったか合流する切継。

「逃げられたか」
「不本意ながら。高速移動か空間転移か、単純に気配遮断や逃走に長けているか。いずれにせよやはりアサシンの可能性が高いな、奴は」
「あの剣に何が起きた?なぜ打ち捨てた?」
「何が起きたかは分からないが……おそらくは奴の宝具。構造把握は得意でね、剣の材質や属性はそのままになぜかあれは爆弾になった。最初は嫌な感じでしかなかったが、打ち捨てて正解だった……いや、敵に投げつけるべきだったか。山の翁、ハサン・サーバッハの一人に敵の脳を爆弾にするという者がいる。触れた剣か、金属か、はたまた別の条件かは分からないが恐らくそれに近似する宝具だろう」
「彼我の戦力差は?」
「先ほど念話で述べたとおりだ。多少のダメージは負ったが、真っ向勝負ならば十中八九勝てる、宝具次第になるが」

戦闘を通じて敵を分析する二人。交戦したアーチャーの言葉と対峙した男の振る舞いから厄介ではあるが、危険ではないと判断する。
しかし一つ疑問は残る。

「アーチャー、なぜあの男はサーヴァントの戦闘から距離をとらなかったか、意見はあるか?」
「分からない。指示なら念話で十分だろうし、マスターとの戦闘を避けるにしてもリスクが高すぎる。宝具かスキルの使用条件でもあるのではないかと推察するが……」

首を捻るも答えは出ない。そして、答えの出ない疑問よりも決めなければならないことがあるのを二人は失念していない。

「マスター、敵がアサシンの可能性が高い以上行動を起こさないのは下策だ。早急に敵を発見し叩くか、こちらが敵から距離をとるか。どう動く?」

敵の宝具、能力の一端は把握した。しかし敵の姿は見失い、アーチャーは消耗している。

「決めたよ、アーチャー。僕らは―――――」

【B-6(南)/スーパー近くの駐車場 /一日目 午前】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]健康 、魔力消費(微小)
[令呪]残り三角
[装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾
[道具] サイドカー付原付(借り物)、地図(借り物)、スーパーで買った食料含む買い出しの品、弁当(アーチャー作のサンドイッチ)
[所持金]豊富、ただし今所持しているのは資材調達に必要な分+α
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を
1.アサシンに対して―――――
2.使えそうなNPC、および資材の確保のため街を探索する
3.出来れば原付より便利な移動手段(自動車など)を確保したい。
4.昼を回ったら暗示をかけたNPCに連絡を取り、報告を受ける
5.アーチャーに不信感
[備考]
アーチャーから岸波白野とランサー(エリザ)の外見的特徴を聞きました。
この街のNPCの幾人かは既に洗脳済みであり、特に学園には多くいると判断しています。
NPCを操り戦闘に参加させた場合、逆にNPCを操った側にペナルティが課せられるのではないかと考えています。
この聖杯戦争での役割は『休暇中のフリーランスの傭兵』となっています。
搬入業者3人に暗示をかけ月海原学園に向かわせました。昼食を学園でとりつつ、情報収集を行うでしょう。暗示を受けた3人は遠坂時臣という名を聞くと催眠状態になり質問に正直に答えます。


【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Stay night】
[状態]右腕負傷(小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を
1.アサシンを追うか、撤退するか、資材やNPCの調達か。切継の指示を仰ぐ。
[備考]
岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。
エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しましたが確証はありません。
『殺意の女王(キラークイーン)』が触れて爆弾化したものを解析すればそうと判別できます。ただしアーチャーが直接触れなければわかりません。
右腕は軽傷であり、霊体化して魔力供給を受けていれば短時間で完治する程度のものです。


573 : 戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 14:46:28 jcn8pLsA0

[共通備考]
C-7にある民家を拠点にしました。
家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。
吉良吉影の姿と宝具『殺意の女王(キラークイーン)』の外観のみ確認しました。宝具は触れたものを爆弾にする効果で、恐らくアサシンだろうと推察していますが、吉良がマスターでキラークイーンがサーヴァントだと勘違い。ただし吉良の振る舞いには強い疑念をもっています。
吉良を探すか、家に戻るか、資材やNPCの調達に動くかは後続の方にお任せします。

[地域備考]
B-6南、スーパー近くの駐車場で戦闘音と爆発音が響き、ブロック塀が倒壊しました。ただし爆発音はスタンド『殺意の女王(キラークイーン)』の能力なため、NPCには聞こえなかった可能性もあります。









(危なかった……)

アサシン、吉良吉影はタクシーに乗っていた。路地に逃げ込み、霊体化して姿と気配を隠して進んでいる先でちょうどタクシーから降りているNPCを発見。霊体化したまま乗り込み、車内で実体化、マンションへと向かわせた。さすがに嫌な顔はされたが、前の客が降りたときにいつの間にか乗り込んだ迷惑な客で済んでいる。

(やはり私はついている)

最後の一手で手刀ではなく拳を繰り出していたらやられていた。こうしてタクシーに乗り込めねばあのサーヴァントに遭遇しないようビクビクしながら帰路についていただろう。
しかし外出、撤退、交戦と反省点は多々ある。

(接触弾では近接戦で私が爆風で負傷しかねないのが難点だな。対魔力のスキルに内部破壊の爆弾が効かない可能性も考えるとやはり三騎士のクラスはなんとしても避けねばならん)

今回も距離が近すぎたため黒刀を接触弾にするのは避けたし、敵の対魔力を警戒して内部破壊にもしなかった。しかし

(奴は本当にセイバーか?ステータスも高くないようだし、壊れたはずの剣がまた出てきたのを考えるとあれが奴の唯一の宝具ではないことになる。それにあれは私の記憶が確かなら干将・莫邪の二振りではないか?)

干将・莫邪。確かに宝具ではあろうが、それに所縁のある英霊は……しいて言うならその夫婦剣を鍛えた鍛冶師や献上された楚王あたりか。名のある剣士の手にはわたってなかったはず。力では優っていたキラークイーンをあしらうほどの技量持ちとは思えん。

(あいつが鍛冶師の干将?スミスのサーヴァントだとでもいうのか?)

そう考えるといくらでも干将・莫邪が出てくるのにも納得がいくが……
いや道具作成スキル、模造品の作成、幻術などいくらでも可能性はある。なんでも想定できるサーヴァントを相手に狭い視野で臨むなど愚の骨頂。考察はルーラーの通達を受けてからだ。
それよりも

「あ、運転手さん、そこ右で」
「はいはい」

それよりもマスターに警告を送らねば。トオサカトキオミがNPCを送り込んだ以上、他の魔術師も同じようなことをしている可能性は高い。

(マスター……)

念話が済むころにはマンションに着く。そうしたら―――――昼食を作り始めよう。醤油や食材もそのうち届くだろう。

【B-6(南西)/マンションそば路上、タクシー内 /一日目 午前】

【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 、魔力消費(小)
[装備]:なし
[道具]:レジから盗んだ金の残り、タクシー代を払ったらほとんど残らない程度
[思考・状況]
基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。
1.学園に敵の刺客が送り込まれたことをマスターに伝える。
2.それ以外にも学園内に敵がいる可能性を警戒。調査は基本、放課後マスターとの合流後に動く。 もう滅多なことでは外出は避ける。
3.暫くは家の中で適当に暇を潰す。次は昼食の予定。
3.ルーラーによる12時の通達の後、今後の方針や行動を考えておく。
4.女性の美しい手を切り取りたい。
[備考]
魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。
保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。
瞬間移動を使う敵がいると想定しています。
B-6のスーパーのレジから少額ですが現金を抜き取りました。
醤油、卵を含む買い物を行いスーパーで配送依頼をしました。遅くとも正午過ぎには届くでしょう。日持ちする食品を選んだようですが、中身はお任せします。
切継がNPCに暗示をかけ月海原学園に向かわせているのを目撃し、暗示の内容を盗み聞きました。そのため切継のことをトオサカトキオミという魔術師だと思っています。
衛宮切継&アーチャーと交戦、干将・莫邪の外観及び投影による複数使用を視認しました。
切継は戦闘に参加しなかったため、ひょっとするとまだ正体秘匿スキルは切継に機能するかもしれません。


574 : 戦場に立つ英雄/台所という名の戦場 ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 14:47:08 jcn8pLsA0
投下完了です。


575 : 名無しさん :2014/08/15(金) 16:17:31 DbCL31Uk0
投下乙です。
吉良のスキルは地味に厄介だなぁ。
条件さえ満たされなければマスターに直接目視されてもサーヴァントだと気付かれないか


576 : 名無しさん :2014/08/15(金) 16:21:51 oVXcmb56O
投下乙
なんという主夫対決
吉良はスキルによってマスターと誤認させられるのか
地味に時臣への風評被害が気になるところ


577 : 名無しさん :2014/08/15(金) 17:05:31 q.ARDzPU0
投下乙です
戦闘の切っかけ:スーパーでお買い物
なんだこの主夫(仰天)

指摘をふたつ。
本文中の「切嗣」表記がすべて「切継」になっています。
それと、エミヤにハサン先生の宝具を知っている根拠はないと思われます。
冬木でのアサシンの英霊はハサンで候補が十八人いる、までが限度でしょう。


578 : 名無しさん :2014/08/15(金) 17:18:11 xtl5MF9YO
投下乙
主夫対決は未決着か
次の対決があるのか、気になりますw

それはそうと、切嗣は遠坂邸の位置が違うことを知ってるのかな?
あとそういえば、凜の家族の役割をもつNPCはいるのかな?


579 : 名無しさん :2014/08/15(金) 17:52:23 74041qncO
投下乙です。

スタンドを出すのって、サーヴァントが霊体化を解くように見えるんだな。
吉良もスキルでサーヴァントだと気付かれないから、吉良とキラークイーンで一組だと思わせられる。

「トオサカトキオミはマスター」って情報が、姉妹の耳に入ったらどうなるか気になる。


580 : 名無しさん :2014/08/15(金) 17:57:31 pjGn7K7UO
>>577
それ言ったら吉良が干将・莫邪知ってるのもおかしいし、サーヴァントはその辺の知識はあるって扱いでもいいんじゃない?


581 : 名無しさん :2014/08/15(金) 18:00:16 ExNK8Iys0
干将は与えられた知識だから宝具知ってんのとは同列に語れない


582 : 名無しさん :2014/08/15(金) 18:06:14 DbCL31Uk0
干将・莫邪は単に知識として知ってたんやろ
他の英霊が一目見れば解るくらい有名なエクスカリバーとかもあるし


583 : 名無しさん :2014/08/15(金) 18:22:25 ovIYHmO.0
夫婦剣なんてそうはないしな

投下乙です!
まさかのきっかけで思わぬバトルがw
なるほど、確かに吉良のスキルとキラークイーンのイメージの掛け合わせもあってマスターとサーヴァントに誤認させれるのか。
意識的に戦略に組み込めれば結構強力かも


584 : ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 18:32:13 Tt9.TzsU0
感想ありがとうございます。
切嗣はマジ申し訳ない…収録時に修正します
干将・莫邪は有名な剣なので、座の知識で判別効くと考えています。吉良なら生前から知ってるかもしれませんけど。

ハサンに関してはApo世界ではハサン対策はされているらしいのでエミヤなら知ってるかと思いましたが、時空が違う以上ちょっと詳しすぎましたね…
該当のセリフを
×「何が起きたかは分からないが……おそらくは奴の宝具。構造把握は得意でね、剣の材質や属性はそのままになぜかあれは爆弾になった。最初は嫌な感じでしかなかったが、打ち捨てて正解だった……いや、敵に投げつけるべきだったか。山の翁、ハサン・サーバッハの一人に敵の脳を爆弾にするという者がいる。触れた剣か、金属か、はたまた別の条件かは分からないが恐らくそれに近似する宝具だろう」
から
○「何が起きたかは分からないが……おそらくは奴の宝具。構造把握は得意でね、剣の材質や属性はそのままになぜかあれは爆弾になった。最初は嫌な感じでしかなかったが、打ち捨てて正解だった……いや、敵に投げつけるべきだったか。ミダス王の手は触れたものを黄金に変え、フィン・マックールは掬った水を癒しの霊薬に変えるという。触れた剣か、金属か、はたまた別の条件かは分からないが恐らくそれに近似する能力だろう」
に変更します。


585 : 名無しさん :2014/08/15(金) 18:35:16 xuCMQOdk0
投下乙です。
吉良をマスターと誤認するのはなかなかに面白い。
そして醤油が切れたのを我慢できないところがまた吉良らしい。

ハサン先生について調べてみましたが、Apocrypha世界では19人のハサン全員の宝具を含めた全能力が知れ渡ってるらしいですね。
でも、このエミヤはStay night出身なので、Stay nightの記憶を受け継いでいると言えども、知っているかは怪しいと思います。

吉良が干将・莫邪を知っていたのは原典からの推理ですし、博識だから、でしょうね。
生前他人の筆跡を真似る努力を惜しまない人ですし、聖杯戦争に当たるに、夜なべして『世界の有名な武器』みたいな本を読み漁ったのかも。
生前から詳しかったかと言えば怪しいので、上記みたいなフォローを入れておくと良いと思います。
あんまりやりすぎると、図書館などの施設を用意した意味が無くなりますが。

時臣は凜が時臣死亡後からの参戦で、遠坂邸にも居ない様子だったし、NPCとしているかも怪しいですね。
居たら居たで、存命中に幼い娘の貞操を奪われたという。


586 : 名無しさん :2014/08/15(金) 18:38:05 OgtL45hM0
>>581-582
いや、その理屈だと原作でアーチャーと戦ったランサーも干将・莫邪を知っていることになるし、
アーチャーもゲイ・ボルクを見ているんだから、わざわざ「獣の如き俊敏さ」でランサーの正体を暗喩する意味がなくなる。
(セイバーは特殊な英霊だから除外)
ttps://www.youtube.com/watch?v=I7dgqQ3_X9A&index=8&list=PLA7FE440D65A73C92

だからエクスカリバーみたいな例は、効果だけじゃなく、その宝具がどれほど有名かに関係しているんだと思う。


587 : 名無しさん :2014/08/15(金) 18:48:36 OgtL45hM0
ちょっと訂正。

エクスカリバーみたいな例は、その宝具の効果だけじゃなく、姿形が伝わるほど有名かに関係しているんだと思う。
>>585が言ったような原典からの推理ならともかく、与えられた知識で宝具が判明するんだったら、クラス名で真名を隠す意味がなくなっちゃう。


588 : 名無しさん :2014/08/15(金) 18:52:55 pjGn7K7UO
少なくとも、吉良に干将・莫邪の知識があるのは不自然じゃなくて、
エミヤに空想電脳の知識が有るのが不自然っていうのはなにか偏ってる気はしないでもないんだがなあ


589 : ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 19:23:59 FqYptedo0
干将・莫邪は見た目でわかる有名なやつ。史実から存在し、歴史書とかで知っててもおかしくない。見た目で名前は分かっても対魔力物理向上、互いに引き合うという効果は吉良は分かってません。
たいして空想電脳はおそらく逸話が昇華したやつ?なので資料には載ってない。そして本文中で具体的な効果が分かってしまっている。これがマズイと考えました。
ケイネス先生は認識阻害の呪符でゲイボウとゲイ・ジャルグを隠し、アルトリアは風王結界でエクスカリバーを隠しています。見た目で宝具および真名がばれることはあるんじゃないでしょうか
ゲイ・ボルクに関してですがボルクに所縁のある英霊はクー・フーリンだけでなく、スカサハ、ボルクの作者、クー・フーリンを槍で刺した兵など複数いるため「獣の如き俊敏さ」という表現でクー・フーリンを指したと考えられます。



まとめると、見た目で有名な宝具の名前が分かるのはよくて、効果(脳の爆弾化とか)が分かるのはダメ、と私は解釈しました


座の知識で分かったというのがどうしてもまずいなら吉良が大学時代にとってた講義の教授の趣味で干将・莫邪については知っていた、みたいな感じに修正しますが


590 : 名無しさん :2014/08/15(金) 20:01:15 xtl5MF9YO
それだと(干将・莫邪より有名だろう)バルムンクを隠してなかったアポのジークフリートは真名もろバレだったことになるし、
ケイネス先生の呪符は槍そのものを隠すためじゃなく、常時発動する効果を封じ、結果として槍の真名を隠すためのものだと思う
(認識阻害とは明言されてないし、真名を秘匿するためというのはあくまで推測。そもそも黒子と二槍の時点である程度絞れるし)


591 : 名無しさん :2014/08/15(金) 20:01:53 0zEVrSPs0
座での知識自体に問題は無いと思うけど、それだと夫婦剣だけじゃなくスタンドの知識をアーチャーが持っててもおかしくないんじゃ……
とは思ったが、別にジョジョ世界でスタンドが有名なわけでもないし、吉良の戦い方がスタンドだってわかるわけでもないか
問題無いな


592 : 名無しさん :2014/08/15(金) 20:14:12 03Y03ZAI0
ぶっちゃけ「知らない」でも話の流れとしては支障がないんじゃないかなぁと思いますね
吉良からすれば「セイバーなのにステータスが低い」「破壊した宝具が即座に出てきた」ってだけでも十分疑念の対象になると思いますし
むしろ一目であっさり宝具の名を見抜かせるよりはそっちの方が自然な気が


593 : ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 20:16:43 WsV0BTF60
真名判定は厳しめの方がよさそうですね、干将・莫邪分からない方向で修正します


594 : ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 20:37:52 djeP/Ivc0
該当の独白を一部カット、変更。

×(奴は本当にセイバーか?ステータスも高くないようだし、壊れたはずの剣がまた出てきたのを考えるとあれが奴の唯一の宝具ではないことになる。それにあれは私の記憶が確かなら干将・莫邪の二振りではないか?)

干将・莫邪。確かに宝具ではあろうが、それに所縁のある英霊は……しいて言うならその夫婦剣を鍛えた鍛冶師や献上された楚王あたりか。名のある剣士の手にはわたってなかったはず。力では優っていたキラークイーンをあしらうほどの技量持ちとは思えん。

(あいつが鍛冶師の干将?スミスのサーヴァントだとでもいうのか?)

そう考えるといくらでも干将・莫邪が出てくるのにも納得がいくが……

から後半をカットし

○(奴は本当にセイバーか?ステータスも高くないようだし、壊れたはずの剣がまた出てきたのを考えるとあれが奴の唯一の宝具ではないことになる)

のみ残します。色々と意見ありがとうございました。


595 : 再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:01:22 xuCMQOdk0
投下乙です。

私も投下します。


596 : 再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:02:12 xuCMQOdk0

 ホシノ・ルリは地図を片手に大きなビルの前に立った。
 大理石で出来た大きな表札には『警察署』と書かれていた。

「では、行きましょうか」

 ひとりごとか、側にいるライダーにか。そう言葉を紡ぐと、ビルの中に入っていった。
 本日付けで配属だが、事務手続きやら荷物の移動などは前日に既に済ませてある。
 通常通り勤務すれば良いだけだ。
 勤務に移る前に、更衣室に向かう。

『あの、ライダーさん』
『なんだ』

 ルリの念話にライダーのサーヴァント、キリコ・キュービーが淡々とした言葉で返す。

『側にいますか?』
『いる。それがどうした?』
『これから女子更衣室に向かうんです』
『……』
『……』
『見回りをしてくる』
『すいません。その辺の空気、読めなくて』







 ルリは制服に着替え、デスクに付くとパソコンを立ち上げる。
 彼女の時代からすると遥かに時代遅れの代物だが、『方舟』に要求するわけにもいかない。
 『方舟』の中の仮想現実世界で、旧世代のパソコンを使用する。
 なんとも不思議な感じではあるが。

『まずはルーラーから得た情報を纏めましょう』
『了解した』

 キリコと念話で会話する。


597 : 再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:02:41 xuCMQOdk0
 とは言え、質問したのは3点、さらに要約すれば2点でしかない。
 メモ帳に箇条書きで打ち込む。

 “ルーラーにした質問と答え”
 ・ここは『方舟』の中か → YES
 ・優勝以外で『方舟』から出る方法は無いか → NO

『正直に言えば、今すぐにでも『方舟』から出たいと思っています。正確には、“『方舟』の情報を私の世界の連合宇宙軍に伝えたい”ですね』

 ルリの任務は『方舟』の調査である。
 だが、調査だけでは片手落ちだ。然るべき所に報告してまで、初めて調査終了となる。
 現状では中間報告となるが、『方舟』から得た聖杯戦争の知識だけでも十分重要な報告内容となるだろう。

 勿論、調査さえすれば自分は死んでも構わない、などとはさらさら思ってはいない。
 自分は『あの人』の帰りを待っているのだから。

『そこで、『方舟』から外へ情報を発する方法が無いかを調査したいと思います。次に優勝以外で脱出する方法の調査ですね』
『ルーラーから優勝以外で脱出する方法は無いと言われたのではないか』
『はい、言われました。言われただけです』

 キリコの問いに、素直に頷いた。キーボードを叩き、メモ帳を更新する。

 “優勝以外に脱出する方法について”
 ・存在するが、ルーラーは嘘をついた
 ・存在するが、ルーラーは知らなかった
 ・存在しない

『他人から言われただけで、“はい、そうですか”と諦めるのは癪ですよね』
『そうだな』

 自らを支配しようとする者は、例え神でも殺す。
 それほどまでの反骨心を持つキリコだ。
 ルリはその言葉にどこか満足そうな感情を感じた。

『ところで、一つ、気になることがあるんです』
『なんだ』
『どうして、『方舟』は聖杯戦争をするんでしょうか?』


598 : 再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:03:10 xuCMQOdk0

 根本的な疑問。
 その疑問に、キリコは『方舟』から与えられた知識で答える。

『一対の人間を選別するため、ではないのか』

 そう。これは『方舟』である。ならばこれが答えだろう。
 しかし――

『私、優勝したら『方舟』の外に出ますよ?』

 ルリの言葉に、キリコは沈黙する。
 そうなのだ。
 優勝したら脱出できる。ならば最後の一組まで殺し合いをさせる理由は一体何なのだろうか。

『それに、優勝者が出たらNPCは消しちゃうんでしょうか』

 選ばれるのが一対だけと言うのなら、大量に存在するNPCは最終的には不要な物となる。
 なのに、わざわざルーラーがNPCの大量殺戮を禁止するように駆け回る。
 予選が終わった時点でNPCを別の場所に避ける、もしくはさっさとNPCを消去してしまえばいい。ルーラーもいらなくなる。
 不自然なほど、非効率だ。

『それには何らかの理由、もしくはエラーがあると思ってます。なので、調査が必要と判断しました』
『わかった』

 ルリの言葉にキリコは快諾する。

『というわけで』

 “TO DO”
 ・『方舟』から外へ情報を発する方法が無いかを調査
 ・優勝以外で脱出する方法の調査
 ・聖杯戦争の調査
 ・聖杯戦争の現状の調査

 メモ帳に書き込むと、それを印刷。紙媒体で手にした後、電子データは抹消した。


599 : 再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:04:09 xuCMQOdk0

『聖杯戦争の現状の調査、とはなんだ』
『具体的に言えば、他のマスターやサーヴァントの動向の調査です。私たちが死んでしまっては元も子もありません。身の安全を確保するための調査です』
『把握した』

 パソコンから警察のデータベースを参照し、メモ帳に最近起きた事件の概要を書き写す。

 “最近起きた事件”
 ・行方不明事件
 ・行方不明事件
 ・行方不明事件
 ・殺人事件
 ・交通事故
 ・行方不明事件
 ・行方不明事件
 ・C-10での廃ビルの倒壊
 ・行方不明事件
 ・A-8での倉庫火災
 ・B-9での商店窃盗

『困りました』
『どうした』
『この『方舟』の中では死体は恒久的には残りません。なので、ほとんどが行方不明として扱われるんです』
『死因はおろか、死亡現場すら不明な場合も多々ある。そもそも死亡者が出たことに気付かない。そう言うことか』
『はい』

 死体の間に見つかって殺人事件として扱われるケースは稀だ。
 誰かに見つかる前に『方舟』に削除されてしまうことが多いのだろう。

 そして行方不明だからといって即座に死亡と結びつけるのは早計だ。
 何らかの理由で、それこそマスターなら、自身の身を隠すこともするだろう。
 正午にあるルーラーからのマスター生存数報告を当てにするしかなさそうだ。

『警察のデータベースからはあまり探れないかもしれませんね』

 そう思った矢先、データベースに新しい情報が入る。


600 : 再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:04:31 xuCMQOdk0
『B-10で暴行事件、ですか』

 犯人と思わしき人物の写真、容姿の特徴などがリアルタイムで記載される。
 ジャージを着たぼさぼさ髪の眼鏡をした女性。そして――

『右手に痣……令呪、ですかね』
『可能性は高いな』

 一端口元に指を当てて考えると、その指をキーボードに落とした。

 “B-10でマスターらしき人物が暴れてる理由”
 ・他のマスター、サーヴァントを誘い出す陽動、もしくは罠
 ・聖杯戦争のルールを無視した粗暴な行動
 ・他のマスターかサーヴァントが行った、なりすまし行為によるマスターへの社会的攻撃
 ・ルーラーを誘い出す

『こんな所でしょうか』
『マスターはどれだと思っている』
『陽動や罠の可能性は低いと思っています。それらはこのような手段でなくても行えますし。なので、他の三つのどれかだと思っています』
『それで、マスターはどうする』
『何もしません』

 きっぱりと答える。
 確かに警察署はB-9であり、現場のB-10と近い。
 だが、いずれの理由を考慮しても、この人物がルリ達に必要な情報を提供してくれる可能性は低いと見た。
 飛び火しないように警戒はするが、その程度の警戒なら常にしている。

『記憶に留めておくだけです。NPCの警察のがんばりに期待しましょう』
『わかった』

 先ほどと同じようにメモ帳を削除すると、ルリは一息付く。
 時計を見ると、正午が近い。

「そろそろお昼にしましょう」


601 : 再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:04:53 xuCMQOdk0




 ビルには備え付けの食堂があったが、周辺地域も確認したい。
 ルリは警察署から出て、付近を散策することにした。

「私の時代から一昔前の風景ですね」

 知識としては知っていたが、実際に見るのは初めてだ。
 ここが仮想現実世界だと言うことも忘れてしまいそうだ。
 散歩がてら、ついつい足を多めに運んでしまう。
 気付けば警察署から少し離れた住宅街まで来てしまっていた。

「ここは住宅街ですか。この辺にはあまり飲食店はなさそう――」
『どうした、マスター』

 辺りを見渡したルリは立ち止まり、絶句する。
 思わず立ち止まり、一点を注視する。



『天河食堂』



 休業中の張り紙が貼られた、ただの飲食店。
 ちょっとは珍しいかもしれないけど、絶対に被らないとは言えない名前。
 そもそもここは『方舟』の中の仮想現実世界でしかない。



 ――ここには本当に色々な人が居ます。
 ――様々な世界から、過去未来問わず月が観測した全てが再現されています。
 ――本当ならありえなかった筈の出来事や……出会いがあると思います



 ルーラーの言葉がリフレインする。


602 : 再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:05:15 xuCMQOdk0
 そう、再現だ。
 あくまで再現に過ぎない。
 だから。
 この食堂の主もきっと。
 だけど。
 だというのに。

「マスター」

 不意に肩を叩かれ、ハッとする。
 気付けばキリコが実体化し、ルリの肩に手を置いていた。
 表情こそ変わらないが、彼なりに心配していることが分かる。

「大丈夫です」
「そうか」

 キリコはそれ以上踏み込まない。
 それが嬉しかった。





【B-9/住宅街(天河食堂前)/一日目 午前】

【ホシノ・ルリ@機動戦艦ナデシコ〜The prince of darkness】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:警官の制服
[道具]:ペイカード、地図
[所持金]:富豪レベル(カード払いのみ)
[思考・状況]
基本行動方針:『方舟』の調査。
0.天河食堂……
1.『方舟』から外へ情報を発する方法が無いかを調査
2.優勝以外で脱出する方法の調査
3.聖杯戦争の調査
4.聖杯戦争の現状の調査
[備考]
※ランサー(佐倉杏子)のパラメーターを確認済。


603 : 再現された仮想現実世界 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:05:35 xuCMQOdk0
※NPC時代の職は警察官でした。階級は警視。
※ジナコ・カリギリ(ベルク・カッツェの変装)の容姿を確認済み。

【ライダー(キリコ・キュービィー)@装甲騎兵ボトムズ】
[状態]:健康
[装備]:アーマーマグナム
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:フィアナと再会したいが、基本的にはホシノ・ルリの命令に従う。
1.ホシノ・ルリの護衛。
[備考]
※無し。


604 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/15(金) 21:06:50 xuCMQOdk0
投下終了です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。


605 : 名無しさん :2014/08/15(金) 21:19:34 oVXcmb56O
投下乙
死体が残らないから全部行方不明扱いっていうのは面白い
ジナコは華麗にスルーされたが助かったのか…?
食堂の存在でアキトの存在にも気付けるかどうか


606 : ◆A23CJmo9LE :2014/08/15(金) 23:02:41 djeP/Ivc0
投下乙です
早速ジナコさんが警察にマーク
方舟やNPCについての考察も進んでるようで頭脳派してますね
そして白野たちに続く知り合い同士の邂逅はなるのか、楽しみです



たびたび申し訳ないのですが、拙作「戦場に立つ英雄/台所という名の戦場」に修正です。
アーチャー(エミヤ)の装備に「実体化した時のための普段着(家主から失敬してきた)」を追加させてください。
本文でふれはしましたが、最後に書き加えるのを忘れてしまいました


607 : 名無しさん :2014/08/16(土) 01:05:23 PVUM9b9.O
投下乙です。

優勝を目指してないルリには、ジナコが本人でも偽物でも、ただ暴れてるだけの奴と接触する利点が無いんだな。

食堂の主は今、どこにいるのだろう。
中で休んでるのか、外出中か。


608 : 名無しさん :2014/08/16(土) 01:38:03 A12TmH.o0

婦警さんコスのルリルリか……あぁ^〜たまらねぇぜ


609 : 名無しさん :2014/08/16(土) 02:16:16 nHxj2qXY0
投下乙!
なるほど、ルリの目的的にはジナコと接触する意味は無いか
そして近場だったこともあり見つけちゃったか天河食堂
ルーラーにも示唆されてたしどうするやら


610 : ◆holyBRftF6 :2014/08/16(土) 10:21:34 t5JE88x.0
これより投下します。


611 : ◆holyBRftF6 :2014/08/16(土) 10:22:51 t5JE88x.0

 ホームルームの時間になった。
 ケイネスが職員室の席を立ち、廊下へ出てからしばらく。
 階段の踊場に足を踏み出したところで声が響いた。耳を震わせる音声ではなく、魔術的にラインを通してだ。

『ケイネスよ、校門のあの虫のことだが』
(ああ、あの虫どもの事ですか。
 全く、我が君を試すような真似をするなど不敬にも程が……)
『そうではない。今朝、貴様が取った対応についてだ』

 誰の視線もない、と判断した上でヴォルデモートは話題を切り出した。
 言うまでもないが二人は校門に仕掛けられた罠について気付いている。潜むというには随分とこれ見よがしだった虫はもちろんのこと、巧妙に潜んでいたもう一匹も把握済みだ。しかも門を通り抜ける片手間に成し遂げたために、NPCが異常に気付く事は無かった。
 この発見はケイネスが単独で成し遂げたものである。彼の魔術属性は「風」と「水」、そして最も得意とするのは流体操作だ。彼は気流を操って探知することで、完全に姿を隠していた虫を瞬時に発見してのけた。効果という点でも魔術の隠匿という点でも、ロード・エルメロイの名に恥じぬものだと言えよう。
 ヴォルデモートから見てもこの腕前は評価に値する。かつて従えていた「死喰い人」達の中でも、これ程の腕前を誇った者は一人か二人。ヴォルデモートは力ある者を忘れぬ……敵と味方とで意味は異なるが。

『なぜ見抜いた事を教えてやるような真似をした?』

 問題はその後なのだ。ケイネスは虫達を粘着質な視線でねめ付けていた。
 明らかにミスではない。虫達に――虫達だけに分かる、「お前達両方に気付いているのだぞ」というアピール。そのまま進めば、あるいは気付いた事を隠し通せていたかもしれぬ。少なくとも情報戦においてどちらが有利かは明らかだ。
 問い詰めるヴォルデモートだったが、内心では薄々と理由が分かっていた。

「無論、不敬者を嘲るためです!
 我が君にとってあの程度の罠はまさに虫ケラ同然だと教えてやらねば――」

 そして、返ってきたのはやはり予想通りの言葉だ。

『俺様に助けはいらぬ、余計な事をするな。特に尻尾を掴まれるような真似は、校門でも今でもな。
 今は教師を演じる事に集中するのだ』

 ヴォルデモートは内心で舌打ちをしつつケイネスを黙らせた。校内では罰を加えるわけにもいかない。
 念話ではなく口から大声を出しかけたケイネスだが、他ならぬ我が君から注意されては口を閉じるしかない。騒がれると面倒なことになりかねないと判断し、踊場に出るまで――人目に付かない場所に来るまでこの話題に触れなかった判断は正しかったようだ。
 学校へ来る前の事といい、ケイネスはヴォルデモートの意に添うように動いているとは言いがたい。元来のプライドの高さと「服従の呪文」による高揚感が悪い方向に絡み合い作用している。彼のプライドの高さは自身だけではなく主の名誉も守らなければならないというものに変化していた。
 元々「戦争」という事柄について考えが甘く、戦いにおいては自らの力を堂々と誇示して相手を屈服させるべきだと考えている節があるケイネスだ。自分達を試されるような罠を見て我慢が効かなくなったらしい。


612 : ◆holyBRftF6 :2014/08/16(土) 10:23:16 t5JE88x.0
 なるほど、自分は特別扱いされるべき存在であり侮辱は許せぬという点についてはヴォルデモートも同意見だ。しかしケイネスと違い、態勢が整っていなければ隠れ整っていれば例え赤子であろうとも排除する。ただ睨むだけでは満足も安心もしない。
 もっともヴォルデモートからすれば、己の存在を誇示したがる者は見慣れた存在でもある。その手の輩は死喰い人の中にも掃いて捨てるほどいた。
 彼の脳裏に浮かぶのはベラトリックス・レストレンジの姿だ。彼女の忠誠はケイネスとは違い本心からの物ではあるが、事あるごとに出しゃばろうとする性分の上に自らの力を誇示したがる悪癖があった。

(……最終的に俺様はあの副官とたった二人になるまで追い込まれ、そして敗れた。
 ケイネスの奴と二人きりというのは、生前の敗北をなぞるようで気に食わん。
 やはり俺様の軍団を復活させねば)

 苦い思い出に歯噛みするヴォルデモートだったが、実際のところ彼が思うほどケイネスはベラトリックスに近しい存在ではない――そこまで邪悪な存在ではない。
 にも関わらず二人を似た存在だと思う理由は単純だ。ヴォルデモートにとっての正悪は、一般的なものとは根本的に異なる。

『ケイネス、貴様はただ俺様に従っていればよい。分かるな』
(も、申し訳ありません我が君!)
『あの虫どもへの対応は後々伝える。貴様はそれまで何もするな。ただ教師として振る舞え』

 ケイネスに続くような形でヴォルデモートは教室に入る。霊体化以外にも宝具など様々な手段で身を隠している以上、仮に同じ教室にサーヴァントがいたとしても感知される可能性は低い。
 とは言え、下手な行動を取れば露見する程度の守りであることもまた事実。ヴォルデモートは教室の生徒を観察し、怪しい者と使えそうなNPCを探す事に専念した。


 ■ ■


613 : ◆holyBRftF6 :2014/08/16(土) 10:24:31 t5JE88x.0

 シオン・エルトナム・アトラシアのスケジュールに乱れはない。
 朝は六時ぴったりに起床し、身支度を整えた後に昨晩集めた情報の再整理を行う。
 その中で学園内で活動する際に関係がありそうな情報を目星をつけた後、朝食を取って外へ。
 昨晩の帰りは遅く睡眠時間はやや短くなったものの、まだまだ体調には差し支えない程度の誤差だ。
 むしろ路地裏で寝ていた時の事を考えれば、しっかりと眠れる今の状態なら寝覚めもよくなるというもの……もっとも、ジョセフは「俺だったら路地裏で寝ていた時の二倍近い時間は寝ちまうけどな!」などとのたまっていたが。

 当然、通学の際も遅刻しかけるなどという醜態は晒さない。
 時刻表を考慮したスケジュールの元で歩を進め、通常の学生よりも一つ早いバスに搭乗。ホームルームが始まる二十分から三十分前には校門がはっきりと見えてくる位置にいる。
 朝の部活動をする生徒よりは遅く、かと言って普通の生徒よりは早い時間……即ち、登校する生徒がまばらな時間だ。

『ちょい待った……いや待たなくていい、歩きながら聞いてくれマスター。どーも嫌な感じがする』
(アーチャー、詳細を)

 ジョセフに言われるまでもなく、シオンの歩調には乱れがない。
 彼女が登校する際のスケジュールは「通学時に何かを発見した際人目が少ないほうがよい」という考えの元で組み立てられている。そして、今回はまさに人目が少ないほうがよい事例だ。

『校門に一匹虫が付けられてやがった。例えじゃなくて本物の虫だ……まぁ、ただの虫じゃなさそうだけどな』
(位置は?)
『ヘコみに隠れているだけの、すげぇヘタクソな置き方だぜ。
 マスターも近くに来れば簡単に見つけられるんじゃねえか』

 シオンはジョセフと議論を続けている……しかし他人から見た場合、彼女がサーヴァントと議論を交わしているとは全く気付けないだろう。その表情も歩き方も全く淀みがない。外見はいつも通りの登校だ。
 念話、校門の観察、いつも通りの登校。この程度のマルチタスクは彼女にとって負担ですらない。むしろ、アトラスの錬金術士なら出来て当然と言える。

『ありゃ「見つけて下さい」ってフリだと思うぜ?
 わざと目立って本命を隠すのは俺もよく使う手だからな。なにか別に潜んでると見た』
(成程。では、本命については)
『……実体化して波紋を使えば一発で分かるが、俺の存在を宣伝するようなもんだな。
 マスターはどーよ?』
(エーテライトで探ることは可能でしょう。校門をなぞって別の反応を探せばいい。
 ですが軽く撫でるだけならまだしも、校門全てを調べるとなると少し時間が掛かる。
 それにエーテライトが視認される可能性も否定出来ない)

 地形利用に長けるジョセフだが感知系スキルはなく、Aランクを誇る波紋法も肉体があってこそのもの。霊体化している状態では発揮できない。
 シオンも分割思考があるとは言えど、肉体や道具が追いつかない場合はどうしようもない。外界に働きかける自然干渉系の魔術も使えない以上、通りすがりに本命を見つけ出す術はない。

(ここは無視するのが無難か。
 アーチャー、このまま通り抜けます)
『いや、その前に一つ教えてくれマスター。
 あのエーテライトって奴、気付かれないように虫に差し込むことは可能か?』
(エーテライトを?)

 こうして議論を重ねている間にもシオンの足は進んでいる。学園の敷地は既に目前だ。


614 : ◆holyBRftF6 :2014/08/16(土) 10:25:55 t5JE88x.0
(……差し込むのは容易です。他の生徒に気付かれないように差し込む事も問題ない。
 ですが、この虫を使っている者には気付かれる可能性が極めて高い。
 差し込まれた虫が何かを感じ取る可能性もありますが、別にいる「本命」に感知される可能性がそれ以上に高い)
『オッケー、次だ。差し込むとどんな情報が手に入る?』
(多くはない。
 感覚や思考、記憶力が人間と異なる以上、得られる情報は限定的です。
 せいぜい、その虫が感じているものが分かる程度だ。繋がっている限りは継続的に読めますが……)
『虫を使っている奴は追えるか?』
(少なくとも、校門に留まっている限りでは探知できない。
 仮にこの虫が主の元へ帰るなら分かるでしょうが……何かされていると分かってむざむざ帰らせる可能性は低い』
『なるほどなるほど、よくわかったぜ。
 こっちはこの虫の主にバレるけどこの虫の主を追うことはできない、そういうワケね』
(えぇ、ですから……)
『なら決まりだ、マスター。
 その虫にエーテライトを差し込んでくれ』
(は?)

 予想だにしない提案に、シオンの分割思考の一つが驚きで止まりかけた。もっとも別処理で動いていた表情や歩調は何ら乱れることは無かったが。
 まるで理に適っていない返答に、慌ててシオンは念話を送る。

(どういう事ですか、アーチャー)
『後で説明するって。もう校門まであと数歩ってとこだろ? 
 他の連中に気付かれないように頼むぜ、マスター』
(……いいでしょう)

 疑問を感じながらもシオンは校門を通り抜ける。その際に僅かに指を動かし、虫に軽く触れながら。
 元々生徒の姿が疎らだった事もあり、彼女が何かしたことに気付いた者は皆無だ――――ただし、虫自身を除いて。
 整った歩調で敷地内に足を踏み入れたシオンは、即座に念話を再開した。

(説明しなさい、アーチャー)
『おっと、最後に聞かないとまずい事がある。その虫の感じているものが分かるんだよな?
 その感覚だけで通り抜ける生徒がマスターかどうか区別できるか教えてくれ』
(本当に最後ですね?)
『ああ。
 ……だから俺にエーテライト向けんなよ?』
(向ける気はありません。真面目な話をする限り、ですが)

 微妙にビクビクしているジョセフに半分フォロー、半分脅しの言葉を投げかけつつシオンは分割思考の一つを虫からの情報に割り当てた。
 一度接着したエーテライトの射程は広い。街の中にいる限りは問題なく対象を把握できる。ましてや校庭からのハッキングなど順調に終わって当然というものだ。
 虫の感覚から数秒ほど生徒たちを観察したシオンは、あっさりと答えを出した。

(不可能と見ていいでしょう)
『よし、これで分かった。
 まずその虫を張り付かせた奴は他の情報源を持ってるか、もしくは欲しがってる』

 その言葉に、シオンは目を少しばかり長くまばたかせた。
 言葉そのものは理に適っているが、予想外の方向への推論だった。

(……虫だけで判別できないのならば、虫はあくまで一手段でしかない。
 理解はできますが、それを把握するためにマスターだと露見する危険を冒したのですか?)
『どっちかというと、わざと俺達に気付かせるためだな。
 仮に他の情報源を欲しがっているなら、俺達を売り込めるだろ』
(売り込む?)
『相手を引っ掛けるような監視を置くような奴が、いきなり襲い掛かってくるとは思えねえ。
 何らかの手段で追っかけてくるか、もしくは連絡を取ろうとするか……
 いろいろと準備をしてから戦い始めるはずだぜ』
(確かに、この虫の性能は戦闘用のそれではない)


615 : ◆holyBRftF6 :2014/08/16(土) 10:29:09 t5JE88x.0
 エーテライトを通して確認した内容を精査しつつ、シオンはジョセフの考えを肯定した。
 彼の言葉はあくまで推論でしか無いものの、推論を補う材料は十分にある。

『そして他の情報源を持っているなら、目立ちやすい身分のマスターが気付かれるのは時間の問題だった。
 だからわざと悪い手を打ってみたのさ。舐めてかかってくれれば対応も楽だからな。
 何より相手が俺達の知らない事を知ってる以上、それを知る機会が欲しい……
 俺達に目をつけて早いうちに接触してくるのは俺達にとっても悪い事じゃあない』

 そこまで言った所で、ジョセフが咳払いをした――念話に咳払いも何もないが、シオンはそんな気配を感じ取った。

『要するに油断を誘っておびき出して、ウマいこと情報をせしめようってワケだ』

 それがジョセフ・ジョースターの戦略。
 彼が生前から得意とする、自らを釣り餌とした騙しのテクニックである。

(仮にこの虫の感覚が、単体でマスターか否かを見抜けるものだった場合――いえ、愚問ですね)
『そんときゃ俺達も通るだけでバレてたからな。
 エーテライトをぶっ刺しても得しかしないだろ?』
(なるほど。
 リスクはありますが、リスクを負うだけの価値はある戦略です)

 僅かではあるがシオンは感嘆の吐息を漏らし……同時にジョセフがはしゃぐ様子を感じ取った。
 夜の探索のことを思い出した彼女がすぐさま釘を刺しにかかったのは、ジョセフ自身の身から出た錆というものだろう。

(……とはいえ、無視できるリスクではありません。警戒は怠らないように)
『ちぇっ』

 先程とは違う溜息を付きながら、シオンは玄関で靴を履き替えた。
 周辺の観察に割り当てる分割思考を通常より増やす。マスターがいる事は確定なのだから、演算する思考は増やしておいた方がいいとの判断だ。
 もっとも、これだけで即座にマスターが断定できるとも思っていない。実際ホームルームが始まるまで不自然にならない程度に校舎を探索したが、やはりこれと言った成果は上がらなかった。
 ホームルームの五分前にはシオンは教室の自席に着席する。その体に令呪らしきものは見えない。令呪の上に束ねたエーテライトを付着させ、その色彩情報を「シオンの肌の色と同じ」だと偽装する事で隠している。
 元々エーテライトは擬似神経であるため、肌と一体化させる事は容易だった。色彩情報の偽装もアバターの改竄の要領で問題なく成功している。むしろハッキングの練習台としては最適だったとすら言えよう。
 もちろん単に表面を覆っているだけである以上、ごまかせるのは視覚とかろうじて触覚くらいなものだ。幸いシオンはアトラスの錬金術士であり、魔力を直接的に発露するような機会は少ない。だがそれでも警戒は必要だとシオンは再確認し。

『お、けっこういい感じのコが校門から走ってきてるぜ!』
(……アーチャー)

 そんな矢先に流れたジョセフの思考に眉を顰めた。彼は教室にいない。学園に他のマスターがいる以上、四六時中共にいては逆に露見しかねないと判断したためだ。
 屋上というとかなり距離が離れているようにも感じるが、霊体化できるサーヴァントにとってはそれほど離れているとは言えない。待機しているのはシオンの教室のちょうど真上であり、天井や床を通り抜けられば済む。
 校舎内からは目に付きにくく、かつすぐに駆けつけられる場所としては屋上はうってつけだ……そう主張するジョセフの意見をシオンは取り入れたのだが、実のところ屋上から色々と眺めたいという理由も多分にあったらしい。
 小さくため息を吐いてから数分後に扉が開いた。生徒は既に揃っている。時計の針はちょうどホームルームの時間。となれば当然、入ってくるのは教師だ。
 シオンはクラスの担任の名前を脳内で反芻した。

(ケイネス・エルメロイ・アーチボルト……でしたか)

 シオンが顔を上げると同時に、担任――ケイネスもまた教壇から生徒たちを見渡す。
 同じく虫に反応した二人のマスターは、期せずして視線を交錯させた。


616 : ◆holyBRftF6 :2014/08/16(土) 10:29:47 t5JE88x.0

【C−3/月海原学園/1日目 午前】
【ケイネス・エルメロイ・アーチボルト@Fate/Zero】
[状態]健康、ただし〈服従の呪文〉にかかっている、魔力消費(微小)
[令呪]残り3画
[装備] 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)、盾の指輪
[道具]地図
[所持金]教師としての収入、クラス担任のため他の教師よりは気持ち多め?
[思考・状況]
基本行動方針:我が君の御心のままに
1.他のマスターに疑われるのを防ぐため、引き続き教師として振る舞う
2.教師としての立場を利用し、多くの生徒や教師と接触、情報収集や〈服従の呪文〉による支配を行う
[備考]
〈服従の呪文〉による洗脳が解ける様子はまだありません。
C-3、月海原学園歩いて5分ほどの一軒家に住んでいることになっていますが、拠点はD-3の館にするつもりです。変化がないように見せるため登下校先はこの家にするつもりです。
シオンとのクラスを担当しています。

【キャスター(ヴォルデモート)@ハリーポッターシリーズ】
[状態]健康、魔力消費(小)
[装備] イチイの木に不死鳥の尾羽の芯の杖
[道具]盾の指輪
[所持金]ケイネスの所持金に準拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯をとる
1. 〈服従の呪文〉により手駒を増やし勝利を狙う
2. ケイネスの近くにつき、状況に応じて〈服従の呪文〉や〈開心術〉を行使する
3. ただし積極的な戦闘をするつもりはなくいざとなったら〈姿くらまし〉で主従共々館に逃げ込む
4.戦況が進んできたら工房に手を加え、もっと排他的なものにしたい

[備考]
D-3にリドルの館@ハリーポッターシリーズがあり、そこを工房(未完成)にしました。一晩かけて捜査した結果魔術的なアイテムは一切ないことが分かっています。
錯刃大学、教会、図書館、学園の周囲に使い魔の蛇を向かわせました。他にもいるかもしれません

【シオン・エルトナム・アトラシア@MELTY BLOOD】
[状態]健康、アーチャーとエーテライトで接続。色替えエーテライトで令呪を隠蔽。
[令呪]残り三画
[装備] エーテライト、バレルレプリカ
[道具]
[所持金]豊富(ただし研究費で大分浪費中)
[思考・状況]
基本行動方針:方舟の調査。その可能性/危険性を見極める。並行して吸血鬼化の治療法を模索する。
1.学園内でのマスターの割り出し、及び警戒。来るだろう接触に備える。
2.帰宅後、情報の整理。コードキャストを完成させる。
3.方舟の内部調査。中枢系との接触手段を探す。
[備考]
・月見原学園ではエジプトからの留学生という設定。
・アーチャーの単独行動スキルを使用中でも、エーテライトで繋がっていれば情報のやり取りは可能です。
・マップ外は「無限の距離」による概念防壁(404光年)が敷かれています。通常の手段での脱出はまず不可能でしょう。
 シオンは優勝者にのみ許される中枢に通じる通路があると予測しています。
・「サポロジアビートルの腸三万匹分」を仕入れました。研究目的ということで一応は怪しまれてないようです。

【アーチャー(ジョセフ・ジョースター )@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康、シオンとエーテライトに接続
[装備]現代風の服、シオンからのお小遣い
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:「シオンは守る」「方舟を調査する」、「両方」やらなくっちゃあならないってのが「サーヴァント」のつらいところだぜ。
1.学校にいるであろう他のマスターに警戒。来るだろう接触に備える。
2.夜の新都で情報収集。でもちょっとぐらいハメ外しちゃってもイイよね?
3.エーテライトはもう勘弁しちくり〜!
[備考]
予選日から街中を遊び歩いています。NPC達とも直に交流し情報を得ているようです。


617 : ◆holyBRftF6 :2014/08/16(土) 10:30:11 t5JE88x.0
投下終了です。


618 : ◆holyBRftF6 :2014/08/16(土) 11:03:00 t5JE88x.0
すみません、タイトル忘れてました。
noticeでお願いします。


619 : 名無しさん :2014/08/16(土) 11:22:18 30Kt63F.0
投下乙でした
ジョセフはさすがの発想


620 : 名無しさん :2014/08/16(土) 12:24:56 nHxj2qXY0
投下乙です!
ケイネス先生が順調に調子に乗っておられる……
調子乗りは調子乗りでもジョセフは流石か
リスクとリターンを天秤にかけわざと察知されるというのはらしいな


621 : 名無しさん :2014/08/16(土) 13:33:47 1ILIGElY0

ジョセフめっちゃ頭キレるなw
3部verでの経験に2部verの全盛期状態が加わって最強に見える


622 : 名無しさん :2014/08/16(土) 13:39:39 KgHKl8Zk0
投下乙です
ケイネスとジョセフ 鯖同士での対応差が何ともくっきりと出ちゃったな!
・・・あれ?


623 : 名無しさん :2014/08/16(土) 13:43:59 PVUM9b9.O
投下乙です。

戦争をよく理解してないケイネスは能力を見せつけ、情報戦を得意とするジョセフはあえて下に見せる。
対照的ね。

校門が見えるなら、ジョセフはチャチなもんじゃねえほむらの瞬間移動を見たのかな?


624 : 名無しさん :2014/08/16(土) 13:55:06 pcomnyHg0
投下乙です。
魔術師としての技能こそ優秀だけどプライドが祟って罠に引っ掛かったケイネス先生、
罠どころか敵の思惑すら見抜いて敢えて利用するジョセフ、対応の差が出たな
クラスで相見えたシオンとケイネス先生はいつか対決なるか


625 : ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:26:31 G8HQ24lk0
遅くなり申し訳ございません
ゴルゴ13、投下致します。


626 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:28:40 G8HQ24lk0


「以上が、昨日から今日にかけてこの街であった噂話です……
 まあ、尾ひれが明らかについてるゴシップばっかりでしょうけどね?」


市街地からやや外れた、一通りが少ない朝の公園。
その一角で、ゴルゴ13は大木に背を預けたまま、隣に立つ男―――新聞記者のNPCの言葉に無言で耳を傾けていた。


ジナコと契約を果たしてから今に至るまでの数日間、ゴルゴは情報収集の為に出来る限りのあらゆる手を尽くしていた。
その内の一つが、こうしたNPCとの接触だ。
ゴルゴはその生前、依頼を果たすに当たって、必要に応じて世界各国にいる情報屋の協力を得る事が多々あった。
如何に狙撃手として優れた能力があっても、彼一人でこなせる事にはやはり限界がある。
己の視点からでは得られない貴重な情報を得られたからこそ、果たせた依頼も決して少なくはなかった。

故に、この場においてもゴルゴは、信頼できると判断したNPCに情報提供を依頼していたのだ。
他の参加者と比較して日時のアドバンテージを得られていた点が、ここで大きく活きていた。
己を裏切らないであろう口が堅い人間を、日数があったおかげで僅かとはいえ見極める事が出来ていたのだ。


「分かった……情報料は後日、振り込ませてもらおう」

「へへっ……すいませんね、旦那。
 では、私はこれで……また何かありましたら、報告しますよ」


また、依頼者であるジナコの資産が豊富である事も大きかった。
当然ではあるが、NPCも無償でゴルゴに情報を提供しているわけではない。
時には危ない橋を渡りかねない役目なのだ。
だからこそ、ゴルゴは惜しむ事無く報酬として高い金銭―――もっとも中には、一夜の情事を求めてきた者もいたが―――をNPCに提示している。
高額な報酬金があるならば、多少の無茶を承知で動くだろうと踏んでいるからである。
実際、そのおかげかそれなりに有力な情報は幾らか得られている。


(……やはり、本格的に動き出している者達が他にも現れ始めたか)


その中でも、ゴルゴが特に興味を引かれた話がひとつあった。


627 : 名無しさん :2014/08/17(日) 02:28:41 sV9NjYIg0
ktkr


628 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:29:16 G8HQ24lk0
橋を越えた先にある、病院の近隣に作られた森林公園。
そこで、妙な臭い―――強い精臭が感じられたという噂が、公園を訪れた一部の者達の間にあるのだ。
加えて……その公園には時々野犬や野良猫の類が徘徊しているというのだが、そういった動物達の交尾姿が明け方にかけてから少々散見されているという。
つまり、常識的に考えればありえない話にはなるが……森林公園を訪れた者は、何かしらの影響を受けて発情・欲情したという事になるのだ。


(房中術、ハニートラップ……その手の類に長けたマスターか、或いはサーヴァントがいるとみるのが妥当だろうな)


もっとも、ゴルゴはそんなありえない話を平然と受け入れていた。
何せ生前、己が性を武器とする相手とは多々対峙してきたのだ。
マスターか或いはサーヴァントの中にも、その分野に長けた敵がいると見てもいいだろう。


しかし……ここで重要なのは『その様な相手がいる』という点ではない。
その様な相手が、『その様な手段を用いた』という点だ。


既に参加者同士で激しいぶつかり合いが生じている事は、倉庫火災の一件から想像は出来ていた。
だが、この公園の事案は少々事情が異なる。
倉庫火災が切った張ったの直接的なぶつかり合いであるだろうのに対し、こちらは言わば知略策略を用いた戦いに近い匂いがある。
房中術にせよハニートラップにせよ、相手を懐に入れなければ発動はさせられない。
それを成したという事は、相手を騙し柔和させるだけの手腕を持つ者がいるという事だ。
もっとも、強制的な強姦という可能性も捨てきれない―――事実、それが正解である―――が、そうでない場合を考えると、やはり厄介だ。
戦争が始まって間もないにも関わらず、その様な策を打てる切れ者がいるとなれば……敵対する際には、強敵となりうるかもしれない。


(……どの様なマスターとサーヴァントが集まっているかを、早急に把握する必要がある)


この聖杯戦争を勝ち抜くには、他の参加者が具体的にどの様な者達であるかをどこまで早く知り得るかが鍵になる。
ただ闇雲に怪しき相手を狙撃するだけでは、到底勝ち目はない戦いだ。
対峙する相手の能力を最低限把握しない限り、返り討ちになる可能性が大なり小なり生じてしまう。
その様なギャンブルに出られる程、ゴルゴは自信の腕を過信していない。
ゴルゴ13が達成不可能と呼ばれた数多くの依頼を達成してこれたのは、外見からは想像がつかないかもしれないが、彼が臆病なくらいに慎重だったからこそなのだ。


629 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:29:57 G8HQ24lk0
故にこの場でも、ゴルゴは極力敵の情報を集めた上で戦いに臨もうとしていた。
その為に、例え些細な情報でも信じがたい嘘の様なゴシップでも、兎に角ありとあらゆる情報を彼は集めようとしていたのである。
敵を撃てという依頼者のオーダーを、確実にこなす為に。


(……時間か)


公園の時計に目を向け、現在時刻を確認する。
ジナコが購入して来いと告げてきたケーキ屋の開店時刻まで、もうそろそろだ。
戦争が本格的に動き出した現状、あまり長い時間彼女を一人にするのは、これまで以上にリスクが伴う。
速やかに要求を果たし、一度帰投するのが良いだろう。

もっとも……彼女の性格上、簡単に家の外に出る事はないだろう。
そう考えれば、そこまでの危険性はないのかもしれないが……




◇◆◇




(……念話が通じない。
何かしらの理由で、受け付けられない状況に陥っているのか……)


厄介な事に、事態は悪い方向へと向かってしまっていた。
ケーキを購入して帰宅したゴルゴを待ち受けていたのは、家主不在となった住宅であった。
あろうことか、ジナコはゴルゴに何も告げる事なく家の外に出てしまっていたのである。
いや、それだけならばまだいい。
問題は、念話による呼びかけが一切通じないことだ。
つまり今、ジナコはゴルゴの声に応答できない状況に陥っている可能性が高い。


630 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:30:16 G8HQ24lk0

(……この拠点に踏み込まれたわけではない。
依頼者が自信の意思で出て行ったのは間違いない)


この家に何者かが侵入し、ジナコを拉致したという可能性は低い。
根拠は、特に家の中に人同士の争った形跡がない事だ。
如何に引き籠もりでろくでなしとはいえど、流石に襲われればジナコとてそれなりに抵抗はする筈。
そうなれば勿論、家屋にはその痕跡が残るわけだが……
見た限り、何者かが暴れた様な荒れ具合はまるでない。

いや……それどころか、寧ろその逆だ。


(…… ゴミの処理を行う為、外に出たのか)


家屋内のゴミの数が、ケーキを購入しに出た時よりも減っている。
そして減少したゴミの内容物は、全て可燃物だ。
ゴルゴは諜報活動を行うにあたり、周辺地帯で行われるイベントや集会等のスケジュールは全て把握しているが、今日は燃えるゴミの日である。
ならば、ジナコがゴミ処理のために出かけたであろうことは容易に推測できる。

そして……その最中に、何かが起きた事も。


(パソコンの底部にまだ、熱が残っている。
排熱の具合からして、恐らく出かけたのは十数分程前か)


電源が切れた依頼者愛用のパソコンに手を当て、その熱の具合から大凡の時間を推測する。
燃えるゴミの捨て場に指定されていたのは、近隣にある公園のすぐ側だった。
時間的にも、然程掛からずに済む距離だ。
ならば……依頼者の身に何かが起きたのは、恐らくホンの数分程前。
つい今しがたという事になるだろう。


631 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:30:45 G8HQ24lk0

(……依頼者の性格上、危険に巻き込まれたならばまず令呪に頼る筈だ。
だが、それがないとなると……)


気がかりなのは、この状況でゴルゴに令呪での呼び出しが無い事だ。
戦闘にはどう考えても向かない、恐らくはこの聖杯戦争でも最弱の部類に入る依頼者が、危機的状況に陥りながらも令呪を使わないというのは解せない。
令呪を使う隙すら与えられず、襲われたのか……否。
それなら、自分がこうして変わらず現界出来ている理由に説明がつかない。
当たり前の話だが、ジナコが死ねばサーヴァントである己もまた消滅するのだ。
それがないという事は……少なくとも、ジナコは命の危機には晒されていない。
明確な敵対意思のある相手と遭遇していない可能性が高い。

では、今のジナコの身には一体何が起きているというのか?
念話が通じない事からして、意識を失っているのは十中八九間違いないだろうが……


(依頼者に利用価値を見出した……故に生かされているという事か)


考えられる可能性はひとつ。
ジナコが遭遇してしまった相手は、彼女に何かしらの利用価値を見出し、わざと生かしているのだ。
だが、一見して魔術師とは程遠く、腕っ節もまるで無さそうな駄目人間である彼女にどんな利用価値があるというのか?
そんなものはない。
ジナコ・カリギリに、他者に誇れる様な利点など何ら見受けられない筈だ。


ただ二点―――彼女が聖杯戦争に参加しているマスターという点を除いて。
サーヴァントという、強力な味方と共にあるという点を除いてだ。


(……俺の存在を感知出来るサーヴァントがいたか。
或いは、どんなサーヴァントのマスターであっても関係無しという考えか……)


そうなると真っ先に考えられるケースが、ジナコを襲い且つ恐らく拉致している相手の目的が『ジナコのサーヴァントを味方に付ける』事だ。
マスターとサーヴァントは一蓮托生、どちらが欠けてもいられなくなる。
ならば、マスターを人質にして強制的にサーヴァントを働かせるという手は決して悪くない妙手なのだ。


632 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:31:11 G8HQ24lk0

(だが、その方法にはリスクがある。
それを考えられない程の相手でない限り……取る方法は別にある)


しかし、この方法には一つ欠点がある。
隙あらば寝首をかかれるという、大きなリスクを背負う事になるのだ。
いくら強力なサーヴァントを手中に収めたとしても、人質を用いての策とあれば、当然ではあるが反感を抱かれる。
もし主従の間に確固とした信頼関係があったならば、なおの事だ。
それに……サーヴァントが聖杯に託す願望次第では、人質を意に介さずという展開すらありうるだろう。

では仮に、ジナコを拉致した相手が、そのリスクを正確に理解しているとしよう。
その場合に取れる、最も効果的な手段とは何か?


(マインドコントロール……催眠の類を使い友好的な関係を違和感なく作れたならば、最善手と言えるだろう)


それは、ジナコを傀儡にする事だ。
そうすれば、人質とは違いマスター自身の意思でサーヴァントを動かす点に変化はない。
サーヴァントがマスターが操られているという点に気づかない限り、何のリスクも生じることがない。
そして魔術師としての能力が皆無であるジナコは、その手の魔術を使われればあっさりと陥落してしまうだろう。

ただし……この場合には、ジナコが引き籠もりニートであるという点が思わぬ方向で活きてくる。
何せ彼女には、現実世界での他者との交流というものは皆無だ。
それがもし唐突に、誰かと協力したいと言ってきたら……いや、それどころか誰か他人と友好的に一緒にいるだけでも、怪しいことこの上ない。
その相手がジナコを陥れた敵、或いはそれに近しい存在である事は、高い確率で間違いないだろう。


(もっとも……それは、聖杯戦争に勝つ事を目的としている相手である事が前提の話にはなる。
愉快犯やサイコパスの類には、また事情が変わってくる)


しかし、相手が必ずしも聖杯を目指す存在であるとは限らない。
それこそ、ジナコが聖杯の入手自体に然程強い望みを抱いていない事が良い例だ。
その場合……ジナコを拉致した相手というのは、俗に言う狂人の可能性とてありえるかもしれない。
英霊の中にも、例えば青髭ことジル・ド・レエの様に、錯乱した精神の持ち主だという伝説が残された者は多くいる。
その様な者の手に落ちた場合……どの様な目に遭うかの想像など、容易にはできない。
ジナコを嬲りものとして陵辱するか、或いはジナコに罪の片棒を強制的に担がせるか……あらゆるケースが考えられてしまう。


633 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:31:38 G8HQ24lk0

そして言えることはひとつ。
どの様な事が彼女に起きたとしても、それは決して彼女の得にはならないであろうという事だ。


(…………)


ならば、ゴルゴが選ぶ道はただ一つ。
早急に依頼者を発見し、且つ依頼者を襲った相手を抹殺することだ。
幸い、大凡ではあるが依頼者が消えた時間と場所には目処が立っている。
その近辺を捜索すれば、何かしらの痕跡を確実に見つけられるだろう。

ゴルゴは足早に家の玄関先に向かうと同時に、携帯電話―――諜報活動に当たる上で事前入手をしておいた―――を取り出す。
連絡先は今朝に出会った者と同様、情報屋として活用しているNPCだ。


「至急、情報を集めて欲しい。
現在より大凡十数分前に、B-10地点の公園近辺にあるゴミ捨て場に一人、メガネをかけた女が向かっている筈だ。
容姿は、着古したTシャツとカーディガン、ジーンズを着込んだ二十代後半の、やや太めの体型をしている。
どんな些細なものでも構わない、急ぎ連絡を頼む」


簡潔に要件を伝え終わり電源を切ると、ゴルゴは再び家屋の外へと足を運ぶ。
情報屋からの情報をただ待つだけでいられる程、状況は悠長ではない。
こちらからも集められる情報を集め、敵を見つけ出し……排除に移らねばならない。

依頼者を襲った相手は……己を、その手で敵に回したのだから。


(どのような理由があれど……この相手には、明確な敵意がある。
ならば、生かしておく理由はない……俺を利用しようという意思があるならば、尚更だ)


634 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:32:10 G8HQ24lk0


ジナコを襲撃した敵―――ベルク・カッツェは、この時、ある一つのミスを犯していた。
それは、彼女のサーヴァントであるゴルゴ13がどの様な人物であるかを、把握出来ていなかった事だ。


彼は己を利用しようとする相手を、決して許しはしない。
どの様な目的があろうとも、どのような相手であったとしても、己を手駒にしようとした相手には必ず死の制裁を与えている。


そして……例え相手がどれだけ逃げようとも、ゴルゴ13は執拗なまでに追いかけ追い詰めている。
遠く離れた異国の地だろうと、脱出不可能な刑務所だろうと、厳重な核シェルターの内部であろうとも。
己のルールに触れ、報復を下すと決めた相手は確実に始末しているのだ。


そんな伝承に基づき考えれば、対象の追跡という点ではゴルゴ13の右に並ぶ英霊は恐らく他にいないだろう。


そんな男を、ベルク・カッツェは敵に回してしまったのだ。


もし、その存在を彼に把握されてしまったならば……果たしてその時、両者の間には如何なる事態が起きるのか。


635 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:32:27 G8HQ24lk0

【B-10/屋外/1日目 早朝】

【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]健康
[装備]通常装備一式
[道具]ケーキ屋のチラシ、購入したケーキ、携帯電話
[思考・状況]
1.ジナコを拉致したであろう相手を早急に発見、依頼者を保護すると同時に敵を抹殺する。
2.ジナコが友好的に接している人物がいた場合、その者は敵の息がかかった者として扱う。
[備考]
※一日目・未明の出来事で騒ぎになったことは大体知ってます。
※町全体の地理を大体把握しています。
※ジナコの資金を使い、NPCの情報屋を数名雇っています。
※C-5の森林公園で、何者かによる異常な性行為があった事を把握しました。
 それを房中術・ハニートラップを得意とする者の仕業ではないかと推測しています。
※ジナコはB-10公園付近のゴミ捨て場で拉致されたと推測しています。
  また彼女を拉致した者は、何かしらの理由でジナコに利用価値を見出したとも考えています。
  その相手を見つけた場合、特に己を利用する考えがあった時は、容赦なく報復を下すつもりでいます。


636 : 報復の追跡 ◆F3/75Tw8mw :2014/08/17(日) 02:32:52 G8HQ24lk0
以上、投下終了です。


637 : 名無しさん :2014/08/17(日) 02:38:18 fqm5jNesO
投下乙です

ゴルゴは渋いなぁ。で、これもう詰んでね?草生やしてばっかのねらー紛い逃げてー(棒)


638 : 名無しさん :2014/08/17(日) 02:45:46 sV9NjYIg0
投下おつ
NPCの情報屋使うってあたり原作っぽくていい!
ゴルゴの無理難題をこなす脇役たちもあの漫画の魅力だからね


639 : 名無しさん :2014/08/17(日) 03:01:15 ZEz1JaLY0
乙です

NPCを買収していたとは、流石はゴルゴ。
確かにこれは、暗示や催眠よりもある意味手っ取り早い方法だ……
ただ、もし情報屋のNPCが操られたりしたら、何気にヤバいか?

そして、カッツェがマークされてしまった。
ジナコに化けてハメようとしたことがバレたら、ゴルゴは最優先で殺しにかかるだろうが、果たして逃げ切れるのか……


640 : 名無しさん :2014/08/17(日) 03:02:54 LPrabVO20
投下乙です。
やっぱりゴルゴ冷徹ながら渋いなぁ。かっこいい
ゴルゴvsカッツェの構図が成り立ちつつある状況


641 : 名無しさん :2014/08/17(日) 03:05:34 EFZJLCtM0
投下乙です
れんちょんがヤバい...


642 : 名無しさん :2014/08/17(日) 04:53:18 X5WGbPJ20
投下乙です
これは面白い対決になりそうですな
果たして星の破壊者を暗殺者は仕留められるのか否か

気になったんですけど、『Imitation/午前9時52分』にてケーキ屋は開店前とあります
この時間帯にケーキ屋を訪れてケーキを購入するのは不可能じゃないでしょうか?


643 : 名無しさん :2014/08/17(日) 06:03:44 LPrabVO20
別に同じケーキ屋とも限らないのでは…?


644 : 名無しさん :2014/08/17(日) 06:41:53 EVH7zCDg0
投下乙です
ゴルゴが家に着いたのはジナコさんが公園で気絶してた辺りかな?
あとちょっと待ってたら帰ってきたのに見事なすれ違い…

>>642
前話のカッツェの備考でも同一のケーキ屋か不明って明記されてたので、別のお店だったのでしょう
調べてみたら早朝に開いてるケーキ屋ってのも結構あるのな


645 : 名無しさん :2014/08/17(日) 09:11:55 Q.2LKonUO
投下乙です。

カッツェの事がバレたら、れんちょん撃たれちゃうな。
ゴルゴは八極拳みたいなプライド無いし、無用な巻き添えは嫌っても、依頼達成の為の犠牲は厭わないし。


646 : 名無しさん :2014/08/17(日) 11:41:17 btiNG5i.0
投下乙です
ゴルゴは理詰めで考えれる高い知恵がある分、逆に常識や利害関係を重視しない相手は相性が悪そうだな


647 : 名無しさん :2014/08/17(日) 11:45:24 TSllk3AM0
投下乙です。

情報屋による情報収集、家主無き部屋を見ての状況把握と心の独白、どれもゴルゴらしい。

2点、細かな点だけど、ジナコがパソコンの電源切るかな(スリープモードにしないのかな)と、一度部屋に戻ったんだからケーキ置いてこよう、と思いました。

午前になったら、魔力パスが繋がらないジナコに変身したカッツェさんが暴れ回ってるところに遭遇かな?
これは楽しみ。


648 : ◆S8pgx99zVs :2014/08/17(日) 14:01:30 28F2/OYU0
皆様方々投下乙です。
支援絵もここでいいのかな?

 ◆ysja5Nyqn6氏の「Moondive Meltout」へ
 ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/46/1d8ed90bbf287f0d0ceb47e671226a14.jpg


649 : 名無しさん :2014/08/17(日) 14:15:48 LPrabVO20
おお支援絵だ
これはけしからんザビエル逮捕待ったなしですね…(確信)


650 : 名無しさん :2014/08/17(日) 14:38:41 NI/j2c4w0
おまわりさん!ザビ男です!


651 : 名無しさん :2014/08/17(日) 15:50:40 Ra34pcbg0
青タイツの兄貴がいい笑顔で見守っています


652 : 名無しさん :2014/08/17(日) 16:15:41 CWLpXii60
やはり二次二次は性杯戦争...


653 : ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:22:41 rM9iIhu20
投下します。


654 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:23:39 rM9iIhu20

足立透は自室にてシャワーを浴びていた。
徹夜明けの疲れと先ほどの不覚の汚れを洗い落とすためだ。

「畜生、畜生ッ なんだよアレ! あれがサーヴァント?
 ふざっけんなって!!」

わしわしと髪をかき乱しながら吐き捨てる。
あの赤黒のアサシンから感じられた根源的な恐怖が彼の心を縛り付けていた。
烏の行水よろしく軽く汗を流すだけでシャワーを終えると乱暴にタオルで全身を拭う。

「クソ、大丈夫……大丈夫さ、僕にはキャスターがいるんだ。あんな糞餓鬼のサーヴァントなんて怖くないさ、ハッ」

そう自分に言い聞かせ、彼はキャスターの元へといく。
安心が欲しかった。
実際自分のサーヴァントであるキャスターはアサシンの攻撃を難なく食い止め、圧倒していた。
サーヴァントの質ではあの老いた魔導士の方が格上だと、そう思いたかった。

足立が着替えを終えリビングに戻るとそこには魔法陣を描いていたスライムたちが全て消えていた。

「あれ、あのチビたちはどうしたのさキャスター?」
「すでに魔物作成のスキルのテストは終わった。余の大神殿への道も作成し終えた。
 もはや必要はない」

スライムたちは役目を終え、再びキャスターの魔力へと還元されたのだという。
そういうとキャスターは自らの影から一つの魔物を喚び出した。

「魔王の影よ、この者へと憑け」
「畏まりましたキャスター様」

影がそのまま浮き出てきたような、そんな形のない魔物が足立の影へと入っていく。


655 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:24:31 rM9iIhu20

「わわっ、これって何さキャスター!?」

「シャドー属のモンスター最上位種、魔王の影だ。こやつに貴様の護衛を任せる」

「余計な真似しないように監視ってわけ? 信用ないねぇボク……シャドウ?」

「貴様の知るシャドウとは別種の存在だ。
 だが負のエネルギーの集合体たるその在り様は似ているともいえる……が、それはどうでもいい」

「さいですか、まぁいいよ。ボクもさっきの赤黒ニンジャや他のアサシンを警戒する必要は感じてた。
 コイツがいれば君が来るまで時間は稼げそうだよ、令呪使わなくても来れるんでしょ?」

キャスターは頷く。

「余のリリルーラの呪文ならば、な。最も、余の神殿を早急に完成させる為にも
 そのような事態は避けたいものであるが、な」

魔王の影は常に足立の影の中へと潜伏し、いざという時に盾となるという。
甘い息を吐いて周囲を夢へいざない、死の呪文を唱えて対象を即死させることもできる。

(ま、サーヴァントや魔術に耐性のあるマスターには通じないだろうねぇ。ホント気休めって感じ)

だがいないよりはずっとマシだろう。それにしんのすけのような無力なマスターには有効だろうし、
もしかしたらNPCを相手に使う必要が出るかもしれない。そう考え足立は魔王の影を受け入れた。

「ハッ、よろしくねぇ、魔王の影さん」

「我が身はキャスター様の御心のままに」

(可愛くない奴)


656 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:26:04 rM9iIhu20
「では行くぞ」

「へぇ?」

キャスターがパチン、と指を鳴らすと突然周囲の光景が一変した。

「うわわわわあっ、何さ、きゃ、キャスター何が起こったのさ!?」

「うろたえるな。ここは余の大神殿『大魔宮(バーンパレス)』の内部だ」

足立の立っているのは真紅の絨毯の上。周囲は石造りに見える白い壁。
そしてキャスターがいるのは豪奢な装飾が施された玉座の上であった。

「お主の部屋と重なり合うように生み出された異空間。今はまだこの玉座の間と城の半分ほどだが
 今宵の月が頂点に達するころには我が主城と天魔の塔の上層ホールくらいは完成するであろう」

「そ、そうなんだ……ハハハ」

今この空間は広がりを続けているらしい。
主城が完成してようやくキャスターの陣地として完全な効果を得られるそうだ。

「じゃ、じゃあ今は役に立たないってこと? 今攻め込まれたらヤバくない、ねぇキャスター?」

「魔力炉はすでに稼働を始めている。完全ではないが効果を得られるだろう」

聞けば魔力炉にはすでに魔力供給がされており、膨大な魔力を貯蔵しているという。
魔力と魔宮を繋げる経路がまだ完成していないため、効果は半減しているがそれも時間の問題で解決する。

「膨大な魔力っていつ供給したってのさ? 僕はそんな負担を感じた覚えないんですけど?」

「魔力炉を生み出す魔力は余自身の魔力で賄える。それなりに消耗はしたが常に貴様から送られる程度の魔力でも
 数時間程で回復可能な量だ。炉への供給は――実際に見た方が早かろう、ゴロアよ」


657 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:26:48 rM9iIhu20

「キャスター様、およびですかム〜〜ン?」

突如背後から聞こえた声に振り向くと、いつの間にかそこには下半身が太鼓で上半身は豚人間のような
四本腕の魔物が傅いていた。その手には下腹部の太鼓を叩くためであろうバチが握られている。
ドラムーンのゴロア。それがその魔物の名だった。キャスターの呼びかけに応えてリリルーラの呪文でやってきたのだろう。

「この者を魔力炉へと案内せよ」

「畏まりましたム〜ン。炉への魔力供給はもう終わるところですが?」

逆に言えばそれはまだ終わっていないということ。
言外に今案内すればそれを見せてしまうことになるという意味を含めゴロアは主へと問う。

「それを見せよ」

「はは〜〜ッ」



魔力炉の管理を任されているというドラムーンのゴロアに連れられて足立は地下へと続く回廊を歩いていた。
どうやら魔力炉はマンションの3層にもなる地下駐車場に当たる最下部の位置に存在しているらしい。

「ど〜〜して、わざわざその魔力炉? なんてもの見なきゃなんないんだろうねぇ?
 面倒くさがらずに説明してくれりゃいいのにさキャスターも。ゴロアだっけ? キミもそう思わない?」

「キャスター様には我らに思いもよらない深淵なお考えがあるム〜ン。
 魔力炉への魔力供給を見せることがお前に必要だとキャスター様は判断されたんだム〜ン。ワシはそれに従うだけム〜ン」

「あっそ、魔王の影もそうだけど本当キミらキャスター至上主義だねぇ。
 そのマスターであるボクはお前呼ばわり……ま、いいけどさ」


658 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:27:26 rM9iIhu20

ぼやく足立を意に介さずゴロアは回廊を進んでいく。
玉座の間が美しく豪奢な造りだったため、回廊も綺麗なものかと思っていたが
未完成の為かそこかしこに丸い大岩がゴロゴロと転がっていて見栄えが悪いにもほどがある。

「キャスターも案外だだくさなのかねぇ、ウヒッ!?」

そう呟いた瞬間、転がっていた岩がギョロリと『眼を開いた』。

「な? ななな――」

「あれは爆弾岩だム〜〜ン。大魔宮、というか天魔の塔か白い庭園(ホワイトガーデン)が完成したら
 通路からはどいてもらうム〜ンが、今は仕方なく回廊に配置されてるム〜ン。」

爆弾岩は攻撃性はほぼない魔物だが攻撃を受けると自爆呪文で大爆発を起こす魔物だという。
通常の魔物では攻撃性の高いサーヴァント相手に足止めにもならないが爆弾岩ならば上手くすれば重傷を与えられる可能性がある。
その為に優先的に配置されているらしい。
大魔宮が大神殿としての効果を過不足なく発揮できるようになれば足止めと魔力を浪費させる為にモンスターを多数配備する予定だが
今はまだそこまでの余裕はないため爆弾岩だけに留まっているようだ。

「キャスター様は景観を大事にする方だム〜ン。仕方ないとはいえ今の回廊の状態にイラついてる空気ム〜ン。
 いらないことを言って怒らせないでほしいムン?」

「はいはい、わかりましたよ」

そんな会話を続けるうちに到着したようだった。
玉座の間よりも一際大きい広間。地下駐車場フロアの半分くらいの広さはあろうか。
高さもかなりあり、足立には少なくとも5mはありそうに見えた。
その中央。巨大な柱があり、その柱と天井との境に奇妙な逆円錐の巨大オブジェがあった。
まるで生物のように蠢いている。

「な、なんだぁありゃあ?」


659 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:28:38 rM9iIhu20

その足立の声に反応したのか、柱の逆円錐の中央部分に切れ目が入り――ギョロリと目が開いた。

「い、生きてる!? 炉って魔物なの?」

「違うム〜〜ン、確かに生物をベースにしてるも半分機械で出来ているム〜〜ン。
 あれがキャスター様の陣地作成能力で生み出された大魔宮の心臓部、魔力炉だム〜〜ン」

(いや、なら半分生き物ってことじゃん!)

そう突っ込むが言葉にならない。

「あ、あんなのに魔力供給だなんてどうやってやるのさ?」

少なくとも足立自身が供給を行おうものなら瞬時に干からびそうなほどの圧力を感じていた。
あの強大な魔力を持つキャスターでもここまでの巨大な炉に対して供給など出来るのだろうか?

「もともとはキャスター様の超魔力を喰らって大魔宮全域に伝える役目をする生きた動力炉だム〜ン。
 でも陣地作成スキルとなったことでその役割に干渉を受けて変質したム〜ン」

「つまりどうなったのさ?」

「キャスター様の魔法力を吸収するのではなく、魔力を外部から供給されることで大魔宮の動力となり
 またキャスター様の魔力の補助も行えるようになったム〜〜ン。そしてその供給方法は……」

ドラムーンのゴロアが意味ありげに視線を移す。
この魔力炉の間の片隅、そこには3人の人間――NPC達が怯え震えていた。
何かの魔力で拘束されているのか、声を出したり逃げ出そうとする様子はない。
熟年夫婦と思われる男女とその子供と思われる10歳くらいの少年。
その家族に足立は見覚えがあった。

「あ、あれ? キミたちぁーボクとおんなじ階に住んでる……アレ?」


660 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:29:39 rM9iIhu20
そう足立のマンションのご近所家族だ。
そして今日、アサシンに尾行されながらも帰宅した時に挨拶もしている。

(あの後に捕まった? いや、でも……)

「ま、さか……ボクは今日ってか、さっき彼らに挨拶をしてるんだけど……」

「ああ、それはキャスター様が魔物作成で生み出したマネマネが擬態してるム〜〜ン。
 あそこに残ってる餌だけじゃなくこのマンションの住民は全部マネマネに置換されてるム〜ン」

「な、なんだってぇ!?」

この高層マンションには確か全戸が100程の筈だ。
家族住まいや足立のような一人暮らしのようなものを考慮に入れても住民は250人程はいる筈。

「その全部……が、モンスターが化けてる?」

「ム〜ン」

「じゃあ……ってことは元々の住民たちは――」

「それが魔力炉への魔力供給方法だム〜〜ン!」

「魂……喰い……」

茫然と呟く足立にゴロアはドヤ顔で頷いた。
そして魔力炉へと命令する。

「さあ魔力炉よ! 残りの餌も全部食べちゃうム〜〜ン!!」

「え? ちょ、待――」


661 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:31:18 rM9iIhu20
言うが早いか、待ての解かれた犬のように俊敏な動きで魔力炉は触手を振るわせると哀れなNPC達へと襲い掛かった。

「うぎゃぁああああああああああああああああああ」
「いやぁあああああああああああああああああああ」
「うわぁああああああああああああああああああん」

その時、拘束されていた魔術が解けたのかNPCたちが口々に叫ぶ。

「あ、足立さん!! 助け――」

NPCの父親は足立へと向かって助けを求め――最後まで言うことが出来ずに無数の触手に纏わりつかれて見えなくなった。
足立は何も言えずただその光景を見ている。
気が付けば母親も子供もどちらも触手が収束して球状になっていた。
その球は時折、何かを飲み込んでいるかのように蠕動し、そして魔力炉が満足したのか触手が解かれた時

そこには何も残っていなかった。

「は、ハハ――ヒハハハ」

足立は笑う。乾いた声を上げて。

「昨夜から魔物の甘い息で眠らせてここの住民全てを生きたまま魔力炉に食わせていたム〜ン。
 今のが最後のNPCだム〜ン。これで魔力の貯蔵は充分、大魔宮が完成するまでまだ時間はあるムンが
 それでも尽きることはおそらくないほどに貯まったム〜〜ン」

NPC約250人分の魂喰い。

確かにそれならば大量の魔力を供給できるだろう。
だがそれはとんでもないことなのではないだろうか?
もしバレればルーラーからの制裁は免れえないだろう。
そう思い至った足立は震える声でゴロアへと尋ねる。

「だ、大丈夫なんだよねマネマネって魔物はさぁ? ルーラーにバレたら……」


662 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:32:03 rM9iIhu20
「マネマネの使うモシャスは対象の記憶もコピーするム〜ン。そうすることで技や魔術を使うムン。
 NPCたちが生前行っていた行動をなぞるくらいなんでもないムン。ルーラーにバレる心配はないム〜〜ン!」

全てはマネマネというモンスターによって隠蔽されている。
そう、全ては順調にキャスターの計画通りに進んでいる。

「いったいマスターは何を恐れているム〜〜ン? それとも良心の呵責にでも苛まれてるムンか?」

「ハ? ボクが!?」

足立は自分が震えていることに気が付いた。
まるで怯えているように。

(違う、違う違う違う違う!! 奴らはただのNPCだ! 人に模して造られたただの人形!!
 NPCに危害を加えないってのはボクたちの暮らす街が機能を失わないようにする為の単なるルールだ!!
 何を怖がる必要がある! いいや、ないね! そもそもボクぁ元の世界で人間だってテレビに突き落としているんだ!!)


「そぅ〜〜さぁ、何をヒいちゃってるんだよねぇボク。大丈夫、NPCをどんだけ殺そうが関係ないよ。
 ま、ルーラーにだけは気をつけなきゃてだけさ」

「そうム〜〜ン! これでキャスター様の勝利は間違いないム〜ン!!」

足立とゴロアは笑う。
ひとしきり腹を抱えて笑い、そして吐き捨てた。

「世の中クソだな」



キャスターは玉座にて悪魔の目玉の映像を観ていた。
手始めに街へと散らした悪魔の目玉たち。その十数体のうち一つがサーヴァントの戦いを見ていたのだ。


663 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:32:39 rM9iIhu20

場所はここから近い森林公園。
そこで行われた10に満たない幼子をマスターとした青いランサーと
白装束の少年をマスターとしたひ弱そうな女性サーヴァントが対峙していた。
女性サーヴァントの方は見ただけではクラスを推測することは困難であった。

そしてキャスターは見た。
そこで行われた死闘の一部始終を。

結果は一方的。女サーヴァントによるランサーの蹂躙だった。

(むぅ……恐るべき奴らよ)

謎の女サーヴァントもそうだがキャスターの興味はむしろ後方で終始動かなかったマスターの方にあった。
映像を見ただけでその少年のポテンシャルがキャスターに警鐘を鳴らす。

(あのサーヴァントも脅威だが、マスターの方も底が知れぬ……
 あるいは奴だけで真の肉体を開放した余に匹敵するやもしれぬ……か)

キャスターの目はけっして表面的な力だけを見ない。
何をしてくるか予想もつかないサーヴァントの方も充分な脅威とみなしていた。
だがそれ以上にキャスターが危険視していたのは全く力を見せない少年の方。

(余のマスターは決して無力ではないが思慮に欠ける。奴らを相手にするは分が悪かろう)

冷静にそう判断する。
足立透が持つペルソナという力。そんじょそこらの魔術師に匹敵、あるいは凌駕する能力ではある。
だがそれをもってしてもあのサーヴァントに対抗、ましてやマスターの方に抗せられるとは到底思えなかった。

(序盤に奴らと当たるのは拙いとみるべきだな。おそらくは余を除いてこの戦争における最強と見た。
 大勢の整う終盤ならばともかく、まずは接触を避けるか同盟を結ぶか……さて)


664 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:33:26 rM9iIhu20
そう思考するうちに戦闘は終わり、互いに退いていく。
謎のサーヴァントとマスターの方はランサーを深追いする気はないようだ。
キャスターは悪魔の目玉をどちらに憑かせるか迷い――ランサーを追わせた。
白装束の少年の方を追わせてもおそらく容易に発見され、滅されてしまうと思われたからだ。
いずれ接触が必要にしても今余計な警戒を与える必要はないと考えたキャスターはランサーに注目する。
彼は既に満身創痍。幼いマスターも少年との格の違いに圧倒され死に体だ。

(今ならばあの赤黒のアサシンをけしかけて消してしまうこともたやすかろう)

そのつもりで彼らの拠点を突き止めようとしたのだ。
そして彼らはある邸宅に辿りついた。ここまでかなりの距離をあけて追わせたため、
使い魔の尾行に気づいている様子はない。
しばらく様子を観て――ふと別の悪魔の目玉の映像に気が付く。
あの赤黒のアサシンへと渡した使い魔だ。
ランサーが潜んだ邸宅とかなり距離が近い位置に居る為に気が付いたのだ。
いや近いどころではなく同じ座標に――居る?
キャスターはアサシンが邸宅に近づく前に使い魔に念じ身を隠させる。
すると邸宅前でアサシンが手持ちの使い魔に命じ、待機させた。
己の行動を隠蔽するつもりなのだ。

(アサシンめ、奴らを消すならばそのような真似は必要ない。さては――)

しばらくすると彼は再び使い魔の元に戻り、その場を去っていく。
向かう先は――おそらく自身のマスターが居る場所。
身を隠させていた悪魔の目玉に慎重に中をうかがわせるとランサーとそのマスターは健在だった。
アサシンの思惑をキャスターは確信する。

(早々に裏切るかアサシンめ。損得の計算できぬ輩よ)

ランサーの元にはそのまま悪魔の目玉を残し、彼はもう一つの目玉の視界へとチャンネルを変える。
そこに映るのはアサシンのマスター――しんのすけ。
その映像はアサシンに伝わっている筈だが、同時にキャスターも見ることができる。


665 : 名無しさん :2014/08/17(日) 22:33:56 DpSKnrS60
お爺ちゃん、鏡子vs兄貴見てたのか……


666 : 喰らう者たち 喰われる者たち ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:34:53 rM9iIhu20
何せ自分の使い魔なのだ。しんのすけの傍で監視する悪魔の目玉はアサシンに支配権を預けてあるが
いつでもその権利は自分へと奪い返すことができる。
もはやアサシンが敵に回ったのは疑いようがない。
おそらくはあのランサーも同じくキャスターへの刺客となるであろうと予測がついた。
ならばキャスターが敵に対して行うことは一つ。

彼は冷酷に命じた。

「悪魔の目玉よ。アサシンのマスターを殺せ」




【B-4/大魔宮・玉座の間&魔力炉の間/一日目 早朝】

【足立透@ペルソナ4 THE ANIMATION】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]刑事としての給金(総額は不明)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1.とりあえず徹夜明けなので眠る。
2.アサシンを利用しつつ、自分たちは陣地を作成する。
[備考]
※ニンジャスレイヤーとのみ手を結びました。 (裏切りはまだ知りません)
※野原しんのすけをマスターと認識しました、また、自宅を把握しています。

【キャスター(大魔王バーン)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]魔力消耗(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1.ニンジャスレイヤーへの制裁のためマスターしんのすけを殺す。
2.迎撃の準備を整える。
[備考]
※ニンジャスレイヤーの反逆を確信しました。
※足立の自室を中心に高層マンションに陣地を作成しています。
 半日が経過した現在、玉座の間と魔力炉の間以外は主城が半分程しか完成していません。
 その為、大神殿の効果は半分ほどしか引き出せません。
 できている部分の広間や回廊には爆弾岩が多数設置されています。
※遠坂凛とランサーを悪魔の目玉で監視しています。
※魔力炉に約250人分のNPCを魂喰いさせました。それにより膨大な魔力が炉に貯蔵されています。
 一日目終了時に主城と中庭園その下の天魔の塔上層ホールが完成し、この時に完全な大神殿の効果が発揮されます。
 二日目終了時に天魔の塔と白い庭園(ホワイトガーデン)含む中央城塞が完成。
 三日目終了時に大魔宮の全体が、四日目終了時に各翼の基地が完成し飛行可能になります。
※足立の高層マンションの住民は全てマネマネが擬態しています。
 彼らは普通に幼稚園、学園、会社へと通うことでしょう。


667 : ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 22:35:12 rM9iIhu20
投下終了です。


668 : 名無しさん :2014/08/17(日) 22:36:54 NI/j2c4w0

兄貴…見られた相手がおじいちゃんのバーン様で助かったな()


669 : 名無しさん :2014/08/17(日) 22:37:59 DpSKnrS60

また地獄が一つ増えてしまうのか……
日付変更前に一戦交えるかと思えばこのままだとフジキド=サンとバーン様はお昼休みにウキウキウォッチングしそうな勢いだな


670 : 名無しさん :2014/08/17(日) 22:48:11 EQodnv/Q0
乙です
まさにしんちゃん絶 体 絶 命


671 : 名無しさん :2014/08/17(日) 22:49:58 EFZJLCtM0
投下乙です
相変わらず小者臭プンプンな足立と容赦ないバーン様の組み合わせは何ともまぁ...
そして大勢のNPCの方々合掌
案の定即バレしてたニンスレとしんちゃんの運命やいかに!


672 : 名無しさん :2014/08/17(日) 23:08:42 Q.2LKonUO
投下乙です。

忍者は単独行動持ってるから、マスター殺しが制裁になるんだな。
「協力すれば、次のマスターを探してやる」とか「ランサー倒して、ランサーのマスターと再契約すれば?」とか言えばいいのか。


673 : ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 23:13:03 rM9iIhu20
魔王の影がついてるのを書き忘れたので修正します。

【B-4/大魔宮・玉座の間&魔力炉の間/一日目 早朝】

【足立透@ペルソナ4 THE ANIMATION】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]刑事としての給金(総額は不明)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1.とりあえず徹夜明けなので眠る。
2.アサシンを利用しつつ、自分たちは陣地を作成する。
[備考]
※ニンジャスレイヤーとのみ手を結びました。 (裏切りはまだ知りません)
※野原しんのすけをマスターと認識しました、また、自宅を把握しています。
※護衛として影の中にモンスター『まおうのかげ』が潜伏しています。


674 : 名無しさん :2014/08/17(日) 23:20:29 TSllk3AM0
投下乙です。

バーン様、人間のことを良く思ってないから魂食いにも容赦ない。
バーン様のカリスマに飲まれている足立はどうなるか。
ニンジャは間に合うのか、ルーラーは気付くのか。今後の展開が楽しみ。

バーン様の状態表に狭間組のことが何も書かれてないのと、時間は早朝でなく午前ですね。


675 : ◆zOP8kJd6Ys :2014/08/17(日) 23:34:18 rM9iIhu20
すみません再び修正です。
あれ〜早朝→午前って書いたと思ったんだけどなぁ?


【B-4/大魔宮・玉座の間&魔力炉の間/一日目 早朝→午前】

【足立透@ペルソナ4 THE ANIMATION】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]刑事としての給金(総額は不明)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1.とりあえず徹夜明けなので眠る。
2.アサシンを利用しつつ、自分たちは陣地を作成する。
[備考]
※ニンジャスレイヤーとのみ手を結びました。 (裏切りはまだ知りません)
※野原しんのすけをマスターと認識しました、また、自宅を把握しています。
※護衛として影の中にモンスター『まおうのかげ』が潜伏しています。

【キャスター(大魔王バーン)@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-】
[状態]魔力消耗(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
1.ニンジャスレイヤーへの制裁のためマスターしんのすけを殺す。
2.迎撃の準備を整える。
3.謎のサーヴァントと白ランの少年マスターをどう扱うか考える。
[備考]
※狭間&鏡子ペアを脅威として認識しました。
※ニンジャスレイヤーの反逆を確信しました。同時にクー・フーリン&遠坂凛組も敵対すると予想しています。
※足立の自室を中心に高層マンションに陣地を作成しています。
 半日が経過した現在、玉座の間と魔力炉の間以外は主城が半分程しか完成していません。
 その為、大神殿の効果は半分ほどしか引き出せません。
 できている部分の広間や回廊には爆弾岩が多数設置されています。
※遠坂凛とランサーを悪魔の目玉で監視しています。
※魔力炉に約250人分のNPCを魂喰いさせました。それにより膨大な魔力が炉に貯蔵されています。
 魔力炉の管理者としてドラムーンのゴロアを配置しています。
 一日目終了時に主城と中庭園その下の天魔の塔上層ホールが完成し、この時に完全な大神殿の効果が発揮されます。
 二日目終了時に天魔の塔と白い庭園(ホワイトガーデン)含む中央城塞が完成。
 三日目終了時に大魔宮の全体が、四日目終了時に各翼の基地が完成し飛行可能になります。
※足立の高層マンションの住民は全てマネマネが擬態しています。
 彼らは普通に幼稚園、学園、会社へと通うことでしょう。


676 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 09:46:17 O9cJyCms0
皆さま投下乙です。
遅れながら予約分を投下します。


677 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 09:47:19 O9cJyCms0
「ジナコや……おきなさい、ジナコや…」
「う、ううーん…?」

謎の声に呼びかけられる。
確か自分はかわいい少女と共にお昼寝していたはず……
まさか再びあの気味の悪い夢を見るのだろうか…

ジナコは恐る恐る目を開けた。
そこには肥満体質な男性がはぁーはぁーと息を荒げながらフワフワと浮いている。
まったくもって信じがたい光景が広がっている。
ジナコは怖い夢ではないと分かると安堵はしたが…
男に対してはギョッとして、嫌な汗を浮かべながら訊ねた。

「だ………誰ッスか……?」
「私はあなたの剣『魔剣アヴェンジャー』の精です(ネットで装備しているでしょ?)」

………

「擬人化したらこんなおっさんになるとか嘘ッス〜!!!!!!」
「あぁっ!逃げないで!!逃げないでっ、っていうか引かないで!!お願い!」

自称:『魔剣アヴェンジャー』の精を名乗る男性は話を続けた。

「今日は毎日使ってくれたお礼に応援をしに参りました。
 さぁ、この精霊様になんでも言ってみなさい」
「ん?今、なんでもって言ったッスね!?なんでも……」

ジナコは夢だと分かっていながらも真剣に問うた。

「ボク…死ぬのが怖いッス……死ぬって分かってても、それでも聖杯戦争を生き残りたいッス…
 あのょぅι゙ょちゃんを殺したくないッス……」
「ふーん?でも君、ショタコンでしょ?」(鼻ホジ)
「今はどうでもいいでしょうがっ!!精霊さん!ボク、あのょぅι゙ょちゃんと一緒なら大丈夫な気がするッス。
 あの子もボクと一緒で死ぬのが怖くて…生き残りたいはずッス……ボク……ょぅι゙ょちゃんと一緒なら不幸にならないッスよね?
 あの子を守り続ければ、元の世界に帰れますよね?」
「……………そうでもないんだけど」

………

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ま。待って!ジナコ!!今のナシ!ノーカン!ノーカン!!
 そんな事によりジナコ!よくお聞き。君、寝ている場合じゃないのよ。
 君には今ゴイスー(※スゴイ)でデンジャーなことが迫っているのだよ」
「……へ?」
「さ、早く起きなさい。アーチャー=サンが待ってるから」
「は……はぁ…」


678 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 09:49:49 O9cJyCms0
「ようやく起きたか、駄肉」

ジナコが目を覚ますと見知らぬ男性がいた。
夢で見た自称:『魔剣アヴェンジャー』の精よりは断然若く、いい顔の方に近いだろうが
果たしてこの状況はどういうことなのか……
ふと体を起こすと、もう一人。
赤いコートの男性…いや、サーヴァントの姿を見た。
ジナコは途端に焦りが沸騰した。

「ああああああぁぁああぁあああぁっ!!!ごめんなさいいぃぃぃいぃいぃぃ!!!
 ロリコンじゃないのぉぉおーー!!ショタコンなのぉおぉおぉっ!!!」
「おい」
「もう駄目だ、あたし終わった、死ぬんだ。殺される。こ、ころ、し、死ぬし、死んじゃ……」
「黙れ」
「……」

はぁと男性――ジョンス・リーが溜息をついて改めて話をする。

「いいか、お前がサーヴァントを呼び出すより先に俺とアーチャーは
 お前にトドメをさせる。分かったな」

ジナコはただ頷くしかなかった。
ちらりとジョンスの手の甲にある令呪を見る。
どうやらすでに二画ほど消費しているようだが、間違いはない。この男はマスター。
状況がうまく飲み込めずジナコはただ話を聞くだけであった。

「この戦争をどうするつもりだ」
「し…死にたくないッス……」
「…聖杯は」
「そんなのどうでもいい!ま、まだやっぱり死にたくないッス…」
「れんげを殺すつもりないってなら、それでいい」

れんげ?
あ、あぁ、…ょぅι゙ょちゃんのこと……?

徐々に落ち着いてきたジナコが整理していく。
どうやらこの男(ジョンス)はれんげを保護しているようだった。
もしかしたら家族か何かかもしれないし、とにかく事情があるのだろう。
口ぶりからして聖杯戦争にも積極的ではないのかもしれない。
もし聖杯を狙っているなら、れんげもジナコも殺しているはず。
ジョンスは続けて言う。

「何もするつもりねェなら、れんげを保護してろ」
「え……っとぉ…このょぅι゙ょちゃん?れんげちゃんを…ッスか?」
「あぁ」
「なんで…?」
「…」
「あっ、すいません!聞きません!!何でもアリマセン!!」
「とにかく、れんげは状況を理解してねェ。かといって状況を教えたら何をしでかすかわからねェ
 適当に遊んでやれ。わかったな」
「わ、わかったッス!それで見逃してくれるならっ……」

沈黙していたサーヴァント・アーカードが口を開いた。

「迷いはないのだな?我が主」
「二度も言わせるな」

ジョンスが下した決断は――れんげを置いて行く事だった。
ジナコに任せる不安要素があるものの。
彼女の態度を見てハッキリと、これならいいと判断した。


679 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 09:51:39 O9cJyCms0
理由としては、やはり二人で闘争を行うとなればれんげを守ることに集中できないからだ。
れんげの存在はそれなりに重要だが、かといってジョンスたちの一番の目的。
闘争そのものを捨てるのならば――彼女はやはり切り捨てなければならない。
戦意のないジナコの意思を確認したところでジョンスの決断は決定されたのだ。

「で、後はだな……」

計画は完璧に通ったものの。
問題はアサシン――カッツェの詳細を掴み、闘争するとなった場合。
奴をすぐに捕捉することであった。
簡単な方法はアサシンをれんげが令呪で呼び出す。
もしくは、あえてれんげを危険に晒す。
これでアサシンがれんげの元へ現れざるおえないだろう。
他には――

「アーチャー」
「?」
「もしカッツェがお前のところに現れたらすぐ知らせろ。いいな」
「了解した。しかし、それはあるだろうか?」
「大いにある。かなり気にいられてるぞ、お前」

お世辞として受け止めているのか、アーチャーはくっくっと笑う。
ジョンスが冷たくあしらっているからこそ、アーチャーの方へアサシンの意識が向かうのは必然であった。
逆にジョンスのことは避けている態度がある。
その程度のことはジョンスにも感じられた。
だからこそ、ジョンスが目を離した隙にアサシンがアーチャーへ接触することは十分ある。

次はアサシンがれんげの元へ向かった場合。

「おい、駄肉」
「あのー…さすがにいいッスか。ボク、ジナコです。ジナコ・カリギリッス」
「電話番号教えろ」
「はい?」
「ここの。携帯でもいい」
「わっ、わかりました……」

これでれんげの所在が掴めればいい。
いっそこのことアサシンのように携帯を盗んでしまうのも手だったが
ルーラーの一件がある以上、ジョンスは目立つ行動を控えようと用心していた。

唯一気になるのはアサシンの行動……
何かしらやっているかもしれないのはジョンスも分かっているものの。
具体的に何をやらかすのかは…ジョンスよりもアーチャーの方が理解しているかもしれない。


680 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 09:53:26 O9cJyCms0

「か、書き終わりましたっ!これでいいッスよね!?」
「あぁ」

それは別にいいか。ジョンスは思考放棄した。

ジナコから電話番号が書かれた紙を受け取ると、ジョンスはそれ以上は何も語らず立ち去る。
同時にアーチャーも霊体化した。
ジナコはポカンとジョンスを見送り、玄関が閉まる音をハッキリと聞いた後
れんげを剥がし、普段は見られない俊敏な動きで鍵をかけた。

「よし!これでよし!!………はぁぁあぁぁあぁ〜〜〜〜……」

壮大な溜息をついたジナコだったが
冷静になればあの赤いサーヴァントはれんげのサーヴァントではないということに気づく。

じゃあ……れんげちゃんのサーヴァントは…?
なんだろう…思い出したくない……

何か忘れている気がするが、彼女は体の痛みと吐き気を催したので思考を止めた。
部屋に戻るとまだれんげはスヤスヤと眠りについている。

「…ま、いっか。れんげちゃんから後で聞けばいいッス
 あの人たちも悪い人じゃなさそうッス!……怖かったケド」

この程度ならアサシン(ゴルゴ)に怒られる事態には陥らないだろうとジナコは慢心する。

「あーあ!完全に目が覚めちゃったし、ネトゲやろーっと」

建前としてはれんげを起こさない為と評して。
カチャカチャとジナコがパソコンを操作し始めた……が。
どうしても気になったのでジナコは交流サイトで月海原の様子を確かめた。

確か、ヤクザさんも調べてたみたいッスけど……どうなっているんだろ…
どっか建物でも壊れたり、物騒な事あるんスかね…

カチッ


「え……なに…ヤダ、これ…………嘘…」






『なんだこりゃ…』

ランサーの呻きは春紀の思いと重なった。
春紀のバイト先であるケーキ屋が野次馬に囲まれていたのである。
そして、警察の姿。
パトカー。
何もかもか無茶苦茶だ。
茫然とする彼女のところにケーキ屋の店長が姿を現した。

「あっ!春紀ちゃん!!」
「店長…これ、何があったんですか?」
「そ、それが…」


681 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 09:55:25 O9cJyCms0
興奮する店長から何とか聞きだしたのは妙な女性が鉄パイプを手に、店内を荒したという。
彼女は駆けつけた警察官にも喧嘩を吹っ掛け
あげく、女性は混乱に乗じて逃亡したらしい。
春紀の隣では、その警察官が刑事らしい男性に叱られていた。

「犯人の挑発に乗るなんて、頭に血が昇りすぎだ。現場では冷静になれ」
「は、はい!申し訳ありませんでした!堂島刑事っ!!」
「ったく…あー、そこの――店長さんか?犯人の特徴を知りたいんだが、詳しく話してくれるか?」
「じゃあ、春紀ちゃん。今日のバイトなしってことで…また後で連絡するよ」
「はい。……店長!ちょっと荷物取って行きたいんで店内に入って良いですか?」

店長は返事を堂島と呼ばれた刑事に頼んだ。
堂島は軽く店内を覗いてから

「現場検証は大体終わった。邪魔にならない程度なら構わない」
「ありがとうございます」

春紀が直接店内を見ると、確かに酷い有様だ。
元の店内を知る春紀だからこそ被害を親身になって受け止められる。
しかし、ここが襲撃されたということは――

(まさか……サーヴァント?)

ランサーは不満げな声で返事をした。

『さぁ、どうだろうね……あたしらを知っているのはせいぜいライダーたちだけだ。
 女性って言うからには可能性としては十分あるけど…こんなことするか?普通』
(他のサーヴァントの可能性もある、か)
『少なくともあのライダーのマスターは、こんな手使う奴には見えなかったけどな』

春紀は調理場へ移動すると、そこには作りかけのケーキや出来たてのものまで放置されているのを発見する。

(どうせ捨てられるんだ。杏子、これも貰っていこう)
『お!ケーキ!!いいところバイトしてんじゃん♪』
(バイトに来たのって、そもそもコレ目的だしな)

ランサーの魔力回復にはもって来いである。
ケーキを回収した後、バイトの時間を何に潰そうか春紀は考える。

春紀は念の為、ケーキ屋を襲撃した犯人の情報収集をした。
移動しながら最低限の情報をと春紀は携帯を開いた。
するとすぐに犯人の顔写真、犯行現場を捉えた写真などが交流サイト、掲示板にある。
しかも本名も割れている。
ジナコ・カリギリ……
ランサーもそれを見て悪態をついた。

『おいおい、いくらなんでも酷ぇな……』
(あぁ)

確かに酷い…
ネットでの誹謗中傷は常識の範囲だが、これは…
死ねだの、デブ女だの、ただの悪口まで書かれている。

だが春紀は画像を確かめて行く内にジナコという女性の手に令呪があるのが分かった。
マスター!?
こんな目立つことして何がしたい訳!?
それとも他のマスターたちをおびき寄せる…為……?
なんだか罠くさい…

「…?」

その時、春紀の令呪が強く反応を示した。
感覚は魔術師の才がない春紀にも感じられるほどだった。

(杏子、今のって――)
『…こっちだ、あたしも魔力を感じた』


682 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 09:58:46 O9cJyCms0
「ああ……ああぁあぁっ……う、あぁ……イヤ…何これ……何これ!」

ジナコはパソコンを叩きつけてしまった。
彼女にとって命より重いかもしれないソレを、思い切り。

何故だが知らないが自分が犯罪を行う写真や動画が出回っている。
よく分からないが、自分が犯罪者だと誹謗中傷されている。
さらには彼女がNPC時代の知り合いの誰かがプライベートな写真が。

どうして?
どうして!?
どうしてっ!!?

このままじゃ無実の罪で警察に捕まる。
そしてそのまま犯罪者のレッテルを永遠に貼られる。
たとえここが方舟だろうが、どこだろうが。
これほどまでに絶望的な状況はない。

「や、ヤクザさん…」

アサシンを呼んだところで何になる?
ジナコは途方に暮れた。
何をどうすればいいのか分からない。

「あたし……アタシ…これ……」

ジナコは死ぬのが恐ろしかった。
なのに
あれほど死を身近に感じていたのに、恐ろしかったのに。


今は、信じられないほど――死にたいと思えた。


「はは……ははは…はははは……」

彼女は全てから裏切られた。
知り合いからも、知らぬ人間からも、社会からも
この世の全てから。

もう、どうでもいいや…こうなったら本当にどうでもいい。
…どうせ皆死ぬ。殺されてもいい。死ぬのは怖い。生きていたい。
でも

「んー……」

れんげが目を覚ました。
混乱しているジナコの前に無垢な少女は周囲を見回した。
カッツェも、アーカードも、ジョンスもいない。
いたのは、カッツェが連れてきたあの女性だけである。

「あの、かっちゃんたちどこですか?」
「…」


683 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 10:00:36 O9cJyCms0
ジナコもれんげに気づくと、冷えた目で彼女を見下した。
露知らず、れんげはのんびりと話す。

「どうしたん?気分悪いん??」
「…まさか……あの赤い人のせいなの…?」
「赤い?あっちゃんのことなん?」
「…アタシをこんな目に合わせたの……」

ジナコはれんげに近付く。
どことなくその雰囲気でれんげは悪寒を感じた。
恐怖が生まれ、彼女から後ずさると、栓が抜かれたかの勢いでジナコがれんげを掴もうとする。
何故、彼女がこのような行為をするのか。
れんげにはまったく理解できない。
襲いかかろうとするのを見て、いよいよれんげは逃げた。
初めて見る家だったが、居間を挟んだ先に玄関があったのが幸運である。
礼儀よく靴を履いている暇はない。
靴を掴んで、靴下だけの状態でれんげは外を飛び出した。

「う……」

同時に呻いた。
恐怖で呻いた。
誰もいない、一人ぼっち。
アーカードもジョンスも、カッツェすらいない孤独の彼女に希望はなかった。

「うぅううぅっ……!!」

れんげは必死に走った。
一方のジナコは放心した状態で、玄関で立ちつくしていた。
れんげの悲痛な叫びを聞いて、ジナコは正気を取り戻している。

「あ…アタシ……」

何を考えていたのか。
あんな少女が自分を陥れる訳がない。
少女を守るよう頼んだあの男がこんなことする訳がない。
なのにどうして信じなかったのか。疑ってしまったのか。
ジナコは涙を流す。

「アタシのこと心配してたじゃない…れんげちゃん……
 れんげちゃんのこと、強引だけど頼まれたじゃない……!
 なのに、なんで…アタシッ……!!こんなことも出来ないの…」

ごめんなさい…





【B-10/街外れの一軒家/一日目 午前】

【ジナコ・カリギリ@Fate/EXTRA CCC】
[状態]脇腹に鈍痛、精神消耗(大)、トラウマ抉られて情緒不安定、ストレス性の体調不良(嘔吐、腹痛)
   昼夜逆転、現実逃避、空腹、悲しみと罪悪感
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]ニートの癖して金はある
[思考・状況]
基本行動方針:???
0.どうしよう…
1.れんげやジョンスに謝りたい、でも外に出るのは怖い
[備考]
※彼女のパソコンは破壊され、ネトゲ内の装備も消失しました。
※密林サイトで新作ゲームを注文しました。二日目の昼には着く予定ですが……
※カッツェにトラウマを深く抉られました。ですがトラウマを抉ったのがカッツェだとは知りませんし、忘れようと必死です。
※ジョンスが赤い人(アーチャー・アーカード)のマスターであることを把握しました。
※ジナコ(カッツェ)の起こした事件を把握しました。


684 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 10:03:41 O9cJyCms0
(杏子、この反応って何を意味しているんだ?)
『ライダーの時と同じだ…サーヴァントの宝具に反応しているはずだよ』

移動しながら春紀とランサーは念話により会話を続ける。

『しっかし、昼間から宝具を解放してるってのは工房作っているかもしんねーキャスターか…
 せいぜいアサシンってところだな。アサシンだったら厄介だよ。気を引き締めな』
(あぁ)

そう会話している矢先に彼女たちの前に何かが飛びだす。
一人の少女である。しかも小学生くらいの幼い少女だ。
そして、こけた。

「あっ」

思わず春紀は足を止めた。
少女はしばらくじっと動かず、テンポを遅らせてから立ち上がると膝から血が滲み出ている。
ボロボロと涙が溢れだす。
だが、少女は大きく泣き喚く事はなく、声を抑え気味に泣いていた。

「ああぁ……」

春紀は非常に戸惑った。
放っておけない。
しかし、この辺りにはサーヴァントがいるかもしれない。
だけども……

「あーもう!」

春紀は優しく少女に話しかける。

「大丈夫?ちょっと痛いかもしれないけど、傷触るよ。いいか?」

(ランサー、水持ってるだろ?)
『はぁ!?……ったくしょうがねぇな…』

ランサーは少し離れ、突然出現したように見せぬように春紀たちに近付いた。
しぶしぶ貴重な食料の一つを渡す。

「ほらよ」
「ごめんごめん、また後で調達しよ」

水で傷口を最低限に消毒してやる。
だが、春紀はハンカチを忘れたことに気づき、代わりになるものを探した。
ふと、少女の手に巻かれてある包帯に目が魅かれた。

手の甲……嘘だ…まさか……

震える声で春紀は言う。

「ちょっとだけ…この包帯、くれる?」

少女は痛みと悲しみを堪えながら頷いた。
恐る恐る春紀が包帯を解くと――その下から特徴的な痣が露わになった。

この子がマスター…!?

するとまた令呪が反応する。警戒したが、やはりサーヴァントの姿はない。
冷や汗を浮かべながらランサーは呟く。

「どういうことだ…?こいつのサーヴァント、何してやがる……」
「取りあえず――」

包帯の半分で傷を覆い、残りで痣を隠してやる春紀。
少し迷ってから春紀は少女に対してしゃがみ込み、背を向けた。

「おんぶしてやるよ。ホラ」
「…ありがとなん」

初めて少女は言葉を発する。
ランサーは思わず「おい!」と声をあげる。

「こいつマスターだろ!?」
「……ごめん、ちょっとだけ…」
「…好きにしな。あたしはマスターの決定には逆らわないからさ」

幼い少女。
二人はこのキーワードにそれなりの思い当たる部分を抱いているのだ。
春紀は妹。
ランサーは死んだ妹。
少女はその影と重なり合う存在である。
ランサーは霊体化して、周囲の警戒に当たる事にした。


685 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 10:05:17 O9cJyCms0
春紀は少女から話を聞きだした。
少女は宮内れんげ。
彼女は怖い女性から逃げてきた。
攻撃してきた事から、その女性はマスターか…あるいはサーヴァントと分かる。

他にも『あっちゃん』と『八極拳』なる人物を知っていた。
二人組なのでそれも聖杯戦争の参加者だろう。
れんげの話によれば、二人はれんげを保護していたらしい。
殺意がないのだろうか……

何より重要な、れんげのサーヴァントについてだが。
そもそも、れんげは聖杯戦争すら理解していなかった。
ルーラーが説明しなかったのか?
いや、もしかしたら彼女には説明を理解できる知力がないのかもしれない。
春紀はあえて聖杯戦争には触れずにサーヴァントらしき存在を聞き出そうと試みた。
するとそれらしい『かっちゃん』と呼ばれる存在がいた。

『かっちゃん』は宇宙人で性別はよく分からない?、れんげの親友。
れんげが楽しそうに話す内容から仲の良さは十分伝わった。

「それじゃあ、れんげの家はどこ?」
「うち、家は村にあります」
「えっと…そうじゃなくってだな。ここで住んでる家みたいなの、あるだろ?」
「……?よく分からないん…それ八極拳も聞かれたん……うちの家は、村にしかないん」
「…家。ないのか?まさか――」
「ここには家ありません!いつの間にかここにいました!」

『おいおい…マジかよ……』

さすがにランサーも驚いていた。
きっと八極拳といった人物も苦労しただろう。
春紀は非常に悩む。
ここは警察に保護を頼むのもありだろうか?
春紀たちが見知らぬ少女を連れているのは、周囲の目がどのように見るか分からない。
れんげは春紀の思考を知らずに訊ねた。

「はるるん……かっちゃんたち、探して欲しいんな。
 かっちゃん、いつも一緒にいてくれたん。だけど、今はどこにもいないん。
 かっちゃん。大丈夫なんな?」
「大丈夫だって。探してやるから」
「会ったら、はるるんもかっちゃんと友達!
 かっちゃん。ほたるんたちと友達になってないん、でもここで友達沢山できるん!」
「…そうだな」
「かっちゃん…ちょっと恥ずかしがり屋みたいなん。うちの村で皆と会おうとしなかったん」
「へーそうなんだ」

何気なく春紀は話を受け流していた。
が、ただ一人。
ランサーはある事に気づく。


こいつ…今、『村』で……そう言ったよな?
サーヴァントは――『ここ』で召喚されるんだ。
だけどこいつ。『自分のいた村』でサーヴァントを呼び出したって、そう話してねぇか……
大体、NPC時代もないし家もないと来たもんだ。色々変だぞ?こいつ……


異端。
イレギュラー。
予想外の存在。
普通には存在しえない存在。
いるはずのない参加者。

…いいや、まさかなとランサーは
れんげの言いまわしのせいかとマスターである春紀には告げないでおいた。


686 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 10:07:57 O9cJyCms0
【B-10/町はずれの住宅地/一日目 午前】

【寒河江春紀@悪魔のリドル】
[状態]健康 れんげをおんぶ
[令呪]残り3画
[装備]ガントレット&ナックルガード、仕込みワイヤー付きシュシュ
[道具]携帯電話(木片ストラップ付き)、マニキュア、Rocky、うんまい棒、ケーキ
[所持金]貧困レベル
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く。一人ずつ着実に落としていく。
1.れんげをどうするか考える。
2.食料調達をする。
[備考]
※ライダー(キリコ・キュービィー)のパラメーター及び宝具『棺たる鉄騎兵(スコープドッグ)』を確認済。
※テンカワ・アキトとはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
※春紀の住むアパートは天河食堂の横です。
※定時制の高校(月海原に定時制があるかは不明、別の高校かもしれません)に通っています。
※昼はB-10のケーキ屋でバイトをしています。アサシン(カッツェ)の襲撃により当分の開業はありません。
※ジナコ(カッツェ)が起こした事件を把握しました。事件は罠と判断し、無視するつもりです。
※ジョンスとアーチャー(アーカード)の情報を入手しました。
 ただし本名は把握していません。二人に戦意がないと判断しています。
※アサシン(カッツェ)の情報を入手しました。
 尻尾や変身能力などれんげの知る限りの能力を把握しています。

【ランサー(佐倉杏子)@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康 魔力補充(おにぎりとパンを消費)
[装備]多節槍
[道具]Rocky、ポテチ、チョコビ、ペットボトル(中身は水、半分ほど消費)、ケーキ
[思考・状況]
基本行動方針:寒河江春紀を守りつつ、色々たべものを食う。
1.春紀の護衛。
[備考]
※ジナコ(カッツェ)が起こした事件を把握しました。
※ジョンスとアーチャー(アーカード)の情報を入手しました。
 ただし本名は把握していません。二人に戦意がないと判断しています。
※アサシン(カッツェ)の情報を入手しました。
 尻尾や変身能力などれんげの知る限りの能力を把握しています。
※れんげの証言から彼女とそのサーヴァントの存在に違和感を覚えています。
 れんげをルーラーがどのように判断しているかは後の書き手様に任せます。


【宮内れんげ@のんのんびより】
[状態]魔力消費(小)(睡眠により回復) ジナコへの恐怖 左膝に擦り傷(治療済み)
[令呪]残り3画
[装備]包帯(右手の甲の令呪隠し) 
[道具]なし
[所持金]十円
[思考・状況]
基本行動方針:かっちゃんたち探すん!
1.はるるんと友達なん!
2.はるるんとかっちゃんを友達にしたいん!
3.怖かったん……
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
※カッツェにキスで魔力を供給しましたが、本人は気付いていません。
※昼寝したので今日の夜は少し眠れないかもしれません。
※ジナコを危険人物と判断しています。




【B-10/図書館へ移動中/一日目 午前】

【ジョンス・リー@エアマスター】
[状態]健康、アサシン(カッツェ)に対する苛立ち
[令呪]残り1画
[装備]なし
[道具]ジナコの自宅の電話番号を書いた紙
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:闘える奴(主にマスターの方)と戦う
1.アサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す
2.基本行動方針と行動方針1.を叶えるため、図書館へ向かう
3.ある程度したらジナコに連絡をする
[備考]
※先のNPCの暴走は十中八九アサシン(カッツェ)が関係していると考えています。
※現在、アサシン(カッツェ)が一人でなにかやっている可能性が高いと考えています。
※宝具の発動と令呪の関係に気付きました。索敵に使えるのではないかと考えています。

【アーチャー(アーカード)@HELLSING】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う
1.新たな闘争のために図書館へ向かう。
2.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある。
3.アサシン(カッツェ)が接触してきた場合、ジョンスに念話で連絡する。
[備考]
※野次馬(NPC)に違和感を感じています。
※現在、アサシン(カッツェ)が一人で何かしている可能性が高いと考えています。


687 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/18(月) 10:09:56 O9cJyCms0
投下終了です。タイトルは
テレビとか新聞とかちゃんと見ないとダメだって
でお願いします。


688 : 名無しさん :2014/08/18(月) 10:22:01 lksGBwrAO
投下乙
ジナコが暴発寸前でヤバい…
れんちょんは春紀たちに保護されたか
イレギュラーな存在と気づいたがどうするか


689 : 名無しさん :2014/08/18(月) 11:49:32 IHL0Ly8E0
乙です


690 : 名無しさん :2014/08/18(月) 11:53:46 a6.0RHwMO
投下乙です
はるあんコンビだと、れんちょんは放っておけないよなあ・・・
れんちょんの顔がどんどん広くなっていくw


691 : 名無しさん :2014/08/18(月) 11:58:05 bBj8M9lgO
投下乙です。

ジナコはあっという間にぼっち。流石ニート!
でも、社会的には有名人!お巡りさん達が血眼で会いに来てくれるよ!やったね!


692 : 名無しさん :2014/08/18(月) 13:22:07 a5V3Lfpk0
投下乙です
何かもう色々お先真っ暗なエリートニートの明日はどっちだ!w
あと然り気無くNPCの堂島さん出てて笑った


693 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/19(火) 00:12:16 1bS7tfhE0
>>648
支援絵ありがとうございます。
しかし、自分が書いた展開とはいえ、実にけしからんですねw

このお礼という訳ではありませんが、もし皆様がよろしければ、さすがにまずいだろうとカットした儀式シーンを、
避難所投下スレか没ネタ投下スレに投下させていただきますが、どうしましょうか。


>喰らう者たち 喰われる者たち
足立は『人間』から外れきれていませんが、バーン様さすがの知略ですね。
しんちゃん早くもピンチ。ニンジャスレイヤーは間に合うんでしょうか。
しかし凛&ランサーを監視していたという事は、白野&赤ランサーとの接触も見られていたんでしょうか……。


>テレビとか新聞とかちゃんと見ないとダメだって
出た。HELLSINGの代表的迷シーンが一つ、武器の精(?)w
それはそうと、ジナコさんは早くもボッチ。精神的にも追いつめられて、これからどうなるんでしょう。
れんちょんが逃げてしまった以上、ジョンスたちが戻ってきたら酷いことになりそうですし。
それにれんちょんのほうも、『村』の謎は一体どうなってるんでしょうね。


694 : 名無しさん :2014/08/19(火) 00:25:11 WYg3Vns.0
そこは別にいらないです


695 : 名無しさん :2014/08/19(火) 00:38:06 peox7HBA0
没ネタ投下スレなら自由に使っていいんじゃないですかな…?


696 : 名無しさん :2014/08/19(火) 00:40:21 UFoEJ0DE0
明らかな18禁描写はしたらば的にも拙いのではないでしょうかね


697 : 名無しさん :2014/08/19(火) 00:49:26 XlEveVHM0
鏡子先輩「アッハイ」


698 : 名無しさん :2014/08/19(火) 00:49:48 ZLDpKozs0
18禁と但し書きつけた上でエロやってるスレもあるけどな
やる夫スレとか


699 : 名無しさん :2014/08/19(火) 01:11:55 peox7HBA0
(鏡子とかいう18禁描写連発の人がいる時点で…)


700 : 名無しさん :2014/08/19(火) 01:30:22 sI9WO5yw0
鏡子はホラ、エロ通り越してギャグの領域だったから(汗


701 : 名無しさん :2014/08/19(火) 01:42:56 7RZnEqZs0
そのギャグの犠牲になった鯖も居るんですよ!!?


702 : 名無しさん :2014/08/19(火) 01:44:20 peox7HBA0
兄貴のゲイ♂ボルクはボロボロや…


703 : 名無しさん :2014/08/19(火) 01:46:49 s6ceP/2g0
誰の事かな
分かランサー


704 : ◆F3/75Tw8mw :2014/08/19(火) 01:57:06 bW46uG6c0
返信が遅くなり、申し訳ございませんでした。
問題点のご指摘、ありがとうございます

>>642
これに関しては、カッツェの状態表にもある「カッツェがジナコの姿で暴れているケーキ屋がヤクザ(ゴルゴ13)の向かったケーキ屋と一緒かどうかは不明です」の一文から、別の店として扱わせていただきました。
喫茶店兼ケーキ屋という様な店ならば、割と早朝から開いているものも調べたところありましたので……

>>647
確かに、ケーキの置き忘れは完全にうっかりしておりました。
また、ジナコの性格を考えればホンの僅かな外出の為にパソコンの電源を落とすのは、言われてみれば不自然だったかもしれません。
なので、状態表及び文章を以下のように修正する形にさせていただければ幸いです。

まず文章は


(パソコンの底部にまだ、熱が残っている。
排熱の具合からして、恐らく出かけたのは十数分程前か)


電源が切れた依頼者愛用のパソコンに手を当て、その熱の具合から大凡の時間を推測する。

これを

(パソコンはスリープモードに移行している。
依頼者の性格上、でかける直前にモードの切り替えを行ったのだろうが……
底部にはまだ、比較的熱が残っている。
排熱具合からして、恐らく出かけたのは十数分程前か)


依頼者愛用のパソコンに手を当て、その熱の具合から大凡の時間を推測する。


このような形で修正を。
また、状態表はこの様にさせていただきます。

【ゴルゴ13@ゴルゴ13】
[状態]健康
[装備]通常装備一式
[道具]ケーキ屋のチラシ、携帯電話
[思考・状況]
1.ジナコを拉致したであろう相手を早急に発見、依頼者を保護すると同時に敵を抹殺する。
2.ジナコが友好的に接している人物がいた場合、その者は敵の息がかかった者として扱う。
[備考]
※一日目・未明の出来事で騒ぎになったことは大体知ってます。
※町全体の地理を大体把握しています。
※ジナコの資金を使い、NPCの情報屋を数名雇っています。
※C-5の森林公園で、何者かによる異常な性行為があった事を把握しました。
 それを房中術・ハニートラップを得意とする者の仕業ではないかと推測しています。
※ジナコはB-10公園付近のゴミ捨て場で拉致されたと推測しています。
  また彼女を拉致した者は、何かしらの理由でジナコに利用価値を見出したとも考えています。
  その相手を見つけた場合、特に己を利用する考えがあった時は、容赦なく報復を下すつもりでいます。
※購入したケーキは、B-10の拠点においております。


705 : ◆F3/75Tw8mw :2014/08/19(火) 01:57:58 bW46uG6c0
以上になります。
ご迷惑をおかけ致しました


706 : 名無しさん :2014/08/19(火) 02:07:17 zX/.Wcig0
修正乙です
ゴルゴさん思考が容赦ないなぁ
多分狙われたら一番怖いサーヴァントなのではないだろうか


707 : 名無しさん :2014/08/19(火) 03:21:04 9X1E9igs0
この手の鯖って何番煎じってぐらい作られてるのによく飽きないなぁ
そしてデモンズ系鯖見るたびに思うのはとろとろ動いてる印象過ぎて鯖レベルの身体能力とは到底思えん事


708 : 名無しさん :2014/08/19(火) 03:22:04 9X1E9igs0
誤爆スマヌスマヌ


709 : 名無しさん :2014/08/19(火) 03:26:47 WYg3Vns.0
「イヤー!」
掛け声と同時に放たれた無数のスリケンが突き刺さり、突き刺さった場所から発生したカトン・ジツが真紅のオブジェを作り上げる!
あわれ>>708は爆発四散!


710 : ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 01:44:34 20iS8OYM0
ギリッギリにて申し訳ないです
聖白蓮&勇者ロト、言峰綺礼&オルステッド、投下を始めます


711 : ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 01:47:10 20iS8OYM0


―――滅び往く、夢を見る。



その国は炎に包まれていた。
戦火ではない。戦の炎はこの国で一度として上がる事はなかった。
そもそれは戦争などではない。国と国、人と人との争いとは違う。
ひとつの国が、たった一人の男によって滅ぼされていく光景を、戦争とは断じて呼べまい。

蹂躙、虐殺、一方的な事の流れに付く単語(ワード)。
これはそれらと同じ、ただの痕跡。
男を支配した昏き憎悪がその土地を通過した「結果」に過ぎない。

故に。戦争ではないソレが滅ぼしたのは国家ではなく、国そのものだった。
利潤、独立、権威、宗教、あらゆるイデオロギーを含まないないソレは。
何も得ず、何も奪うことなく、ただ終わらせに一切を灰塵に変えた。
迫りくる兵隊を斬り伏せ。
命を乞う大臣の首を落とし。
逃げ惑う領民を無慈悲に焼いた。
国家という概念を司る人を残らず殺し、最後には国の置かれた土地すらも時空の彼方へと閉じ込めた。

「魔王を倒す」。
勇者の存在意義とはつまるところその一点に尽きる。
世に害為す者が現れればこれを討ち、「それ以上」の世界の荒廃を防ぐ者。
起きるのは常に魔王の側が先。それに呼応して勇者は目覚め、魔王の台頭を抑止する。
まるで世界に定められた一種のシステムのように、善(勇者)と悪(魔王)は相克する。
彼もまたその為に生まれ、その為に生き、その為に戦い―――――――――肝心の、倒すとこに行き着く前で終わってしまった。
魔王などどこにもいなかった。相対する敵が生まれないまま、先に勇者が作られてしまった。
歯車はそこで狂った。役割は逆転し、欠けた穴を埋め合わせようと因果は渦を巻き、悲劇は起きた。
勇者と呼ばれていただけの男は、この時、誰もが認めざるを得ない魔王へと変生したのだ。
一国を骸が築く死都へと変えた、嘘なき証を代償に。

そして全てが消えた場所で、男は立ち尽くす。
達成の喜びも、勝利の凱歌も、今の彼にはあまりにも遠い。
戦いですらなかったソレに、そもそも勝利などはじめからない。
全てを喪った彼に帰るものなどない。
敗北もなく、勝利しか収めてこなかったにも関わらず、いつの間にか男には何もなかった。
彼はただ、役目を果たしただけだというのに。望まれた行いを為したに過ぎないのに。

今あるのは、その時に新たに生まれた心のみ。
誰に願われた希望でもなく、何に与えられた使命でもない、
己の内から生まれた彼だけの絶望。彼だけの怒り。彼だけの憎悪。



新たな魔王の誕生を、嗤い声の吹き荒ぶ東の山が見下ろしていた。


712 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 01:49:24 20iS8OYM0






   ■          ■



朝靄も晴れぬ早朝、通勤する学生や会社員もまばらなコンクリートの舗装路を言峰綺礼は黙々と進んでいた。
深山町に入るにあたって、服装は普段の僧衣でなく私服に着替えてきた。
早朝の、人通りの少ない道を選んでいるとはいえいつもの黒衣では流石に悪目立ちしてしまう。
防弾繊維・呪札防護仕様の代行者としての戦闘着を脱いだ姿であるが、気の緩み等の邪念とは無縁だ。
町に出たのは気分転換のためなどではなく、れっきとした聖杯戦争に向けての戦術構築の一環なのだから。
袖口やポケットには刀身を霊体化した黒鍵を複数仕込み、慮外の奇襲にも対応できる準備はしてある。
それでいて無闇に殺気を放出しないよう気を静めながら、細心の注意をもって歩いていた。

『セイバー。傷の具合はどうだ?』
『今はもう落ち着いている。キレイの治癒魔術が効いたようだ。これなら通常戦闘にも耐え得るだろう』

黒甲冑のバーサーカーから離脱して帰宅した後、綺礼は早急にセイバーに対しての治療を施していた。
修行期間は三年余りの俄仕立ての魔術師である綺礼だが、こと治療魔術においては際立った適正を発揮し、師である時臣すら超える腕前にまで成長を遂げていた。
時臣曰く、魔術の適性には属性や術毎の特性よりもその人の奥に根ざす『起源』、いわば前世を極限まで遡った果てにある魂の方向性に左右されるという。
治癒に際立った成長を見せたのを時臣は聖職者に相応しい適性だと褒めそやしたが、当の綺礼は相変わらず虚しさを覚えるばかりだった。
才能に奉仕することが人間の悦びならば、いっそ医療部隊にでも転属してみるかなど益体もない考えを持った程度だ。

ともかく、セイバーの傷は見かけほど重傷ではなく、治癒そのものは速やかに完了した。
一方的に打ちのめされながらも、致命傷となるべき一撃は常にかわしきっていた証拠だ。相性で不利な相手にもそこは流石最優のクラスといったところか。
重く見られたのは左肩の脱臼だが、霊体であるサーヴァントなら一度はめなおせば然程支障の出るものではないらしい。
霊体化して休息に努め一夜を越えた時には、通常戦闘なら問題ないレベルにまで回復を遂げていた。

『ならば十分だ。今後も常に最低一撃、サーヴァントの奇襲に即応できるだけの余力は残しておけ』

短く了解したとの声を聞き、綺礼もまた足を進める。
虚構空間で割り振られた「役職」の時間より早めに町に出たのは確認のためだ。
聖杯戦争を行うこの地に抱いていた違和感。電子世界にて構成されたこの土地を。



この場所は、冬木市に酷似し過ぎている。
いや、地図の図面や昨夜から今朝まで実際に見てきた地形からして、ほぼ再現されてると言っていい。


713 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 01:50:51 20iS8OYM0


元々綺礼は地上で執り行われる第四次聖杯戦争に向けて訓練を続けていた身だ。
当然その舞台である冬木市の地形についても、差し障りのない部分まで学んでいる。
遠坂や間桐、アインツベルンが邸を構える深山町、近代オフィス街として開発を推し進められている新都、
その中央を流れる運河を繋ぐ大橋、山に建てられた寺院、教会……。
どれも聖杯戦争にあたって下調べをした冬木の地そのままだったのだ。

無論、多くの差異はある。特に大きなものは時代だろう。
ニュースや新聞を読むに、設定された「今」は二十一世紀の初頭、第四次聖杯戦争から十年以上経過した年代だということが判る。
綺礼にとっての当時には開発途中だった新都のビル群も完了したどころか更なる開発が進んでいっている。
立地も変わっており、綺礼も逗留していた遠坂家の屋敷は別の場所に建てられているらしい。
綺礼の知るのとは別の、異なる歴史を辿った冬木市なのか、方舟内の聖杯戦争用に組み替えたのか、それを知る術は今のところなかった。
だが変わりがあるにしてもその程度の誤差で、地形についての概要は記憶にある限りほぼ同様のものだ。
この世界が、冬木をベースにして作られた土地であるのは疑いようがない。

聖杯戦争とは、決して冬木にのみ限定された儀式ではない。
聖堂教会は聖杯と名付けられる神秘あるもの全てを聖杯の候補として調査・回収にあたる。
地上において聖杯を獲得するための争いは無数に点在し、それらは全て「聖杯戦争」と名付けられる。
極論、オークションに出品された聖杯の競り合いも、定義では聖杯戦争に分類されるのだ。
それだけ聖杯という遺物の伝承は各地に現れ、教会にとってその教義を占める比重はとりわけ多いということだ。

数多ある聖遺物の争奪戦。中には正真の聖杯の断片、あるいは願望器の機能を有したものも実在したのだろう。
それでも冬木の聖杯戦争が随一の特異点とされているのは、聖杯降臨の過程にあるサーヴァントの存在あってこそだ。
遠い過去から遥かな未来、あらゆる伝説神話に名を刻むことでその魂をヒトより高位の階梯へと昇華させた英霊の魂。
それを一部とはいえ現世に呼び戻し、使い魔として使役せしめる奇蹟こそが第七百二十六号聖杯、
アインツベルン、マキリ、遠坂の三家の秘術を結晶して降誕した大儀式―――聖杯戦争の際立った点だ。
英霊の力、宝具を使役できるとなれば、更にそれすらも聖杯の機能の一端でしかないのならば、聖杯の真偽はともあれ規格外の魔術礼装だ。



そう。「サーヴァントの召喚」。これは冬木の聖杯戦争にしか実現していない現象だ。
あの場所以外でサーヴァントの戦いは起こり得ず、従って観測もされ得ない。
並行世界をも見渡すムーンセルならばあるいは別の可能性も観測しているのかもしれないが、
今ある現実としてアークセルの舞台は期せずして冬木を舞台としている。


714 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 01:51:39 20iS8OYM0


聖杯。サーヴァント。そして冬木。
これだけ符号すれば、如何に愚鈍でも意識せずにはいられない。
この「月を望む聖杯戦争」は、「冬木の聖杯戦争」を再現して行われている。
それが今回からなのか、始めから決まっていたのかは綺礼の与り知らぬところだ。
告白すれば、綺礼にとって、月の聖杯戦争が冬木の聖杯戦争の要素を取り入れてる意味自体に正直興味はない。
任務を受ければその意味を問わず、ただ無心、無情、無感動に事を為し神意を示すのが代行者の条件だ。
疑問があるのは、悩みなのは、この聖杯の参加者に自分がまたしても「選ばれた」という点だった

思えばあの時も、詳細を知った際に始めに脳内に浮かんだのは疑問だった。
情熱もなく信念も持ち得ない、ましてや理想や願いなどという強く求める心を生涯一度として感じた試しがない。
そんな自分が、出現の三年も前に聖杯を手に入れる争いの参加権である令呪を宿すのに、いったいどんな理由があったというのか。

そしてその答えが見えるやもしれなかった戦いを前に、今度はこの月の争いに「選ばれた」。
それが木片の入手という、令呪に比べればまだ偶然性を見いだせる手段だとしても、二度も聖杯の招きを受ける者など自分以外にいるとは思えない。
ただの偶然で片づけるにはあまりに数奇な巡り合わせ。
波にさらわれ身動きがとれぬままどことも知れぬ場所に流されているような、浅い混乱が綺礼の中にはあった。

願いを成就させる願望器。宙を見渡す月。招き使わす英霊。想起させられた過去の記憶。見たことのないはずの女。
こうも自分を引き合わせる"聖杯"は、いったい己に何を見せようというのか?
数多のマスターを討ち尽くし、聖杯をその手に収めた瞬間に邂逅するものとはなんなのか?
今の綺礼に強いて願いがあるとするならば、その疑問の答えを得るぐらいだ。
安穏に勝ち抜けるはずもない。道半ばで果てることも十分あり得る。最後の一人になったとて、何も得ない終わりもあろう。
これは願いなどとは程遠い、ただの小さな疑問の払拭だ。何かを置いて優先すべきものでは決してない。
あくまで至上とするのは任務の達成。月であろうと聖杯を回収しあるべき元に帰す。この意識には一片の揺らぎもない。
それは今まで培ってきた言峰綺礼の人生を賭してでも、崩してはならないものなのだから。



『―――キレイ。目指していた場所に着いたようだが』

セイバーからの念話でようやく、目的地に着いたことを確認する。自分らしくもない散漫さだった。
それほど考え込むだけの疑問だったのだろうか。雑念を切り捨て当初の行動に意識をすぐさま切り替える。
町を練り歩いていたのは決して偵察のためだけではない。
土地の霊脈を精確に探り当て把握するだけの腕は綺礼にはない。故に足を使って、再現された冬木市を探り回っていた。
態勢が整った朝になり最初に向かったのが、深山町西側に位置する円蔵山の中腹に建てられた寺院だ。
本物の冬木市では柳洞寺となっているそこは、冬木市最大で聖杯降臨に最も相応しい霊脈の要の土地であるとされている。


715 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 01:53:38 20iS8OYM0

この場所を調べることで、綺礼の思う「再現」の度合いを見るというのもある。
だがそこには歴とした聖杯戦争を戦うにあたっての理由も存在している。
もしここが本物同様、でなくともそれに準じる程度に霊脈として機能しているのなら、マスターにとってこれほど有利な要害の地はない。
魔力の流入に富んだ土地は魔術師に活力を与え、同時にサーヴァントへの魔力供給も存分に行える。
加えて立地的にも正面の門以外からの侵入を拒む設計で、まさに攻めに難く守り易い理想的な陣地だ。

無論それだけの好物件が今も手放しにされてるとは思うほど綺礼も呑気ではない。
もしこの寺をキャスターにでも押さえられているなら、早急に叩きたいというのが綺礼の方針だ。
直接的な戦闘力ではサーヴァント中でも下位のキャスタークラスだが、魔術師の英霊が魔力を充溢に蓄えた時は一気に手の付けられない脅威と化す。
持久戦になるにつれ真価を発揮するキャスターは是が非でも優先して仕留めたい対象だ。
幸いにもこちらは高い近接戦能力と対魔力を併せ持つセイバーだ。開始して間もない今が好機、攻め入るにも不足はない。
誰もいないとしたらここが形ばかりの、霊脈とズレた地点ということ。単にひとつ見当が外れただけで、然程問題はない。

いづれにしても無駄な不利益を被ることはない。そう思う綺礼は参道に何十何百と積み重なった石段を昇り始めた。
平日の早朝に足繁く通う参拝客もいないだろうが、既に起きている僧侶が掃除に精を出しているだろう。
仏院に神父が出向けば当然視線が集まる。そう思ってこその私服だ。派手に存在を誇示するだけの旨みは今の所ないのだから。
僧の反応によっては、ここが魔術師の陣に変容しているかを計る材料にもなるだろう。戦いの駆け引きは既に始まっている。

『セイバー。霊体化のままで可能な範囲で構わん、索敵を―――』

そこまで言いかけて、綺礼は異変に気付いた。先程までひとつだった階段を昇る足跡が、ふたつに増えている。
加えて回路から奪われる魔力の増加。それが意味するものは即ち、己のサーヴァントが顕現しているという事実―――。

「……セイバー?」

金色の鎧を纏う騎士、セイバーは綺礼の声を待たぬまま実体化し、その隣に立っていた。

「問題ないマスター。周囲に無関係の人間はいないし、この先に待つ者も我々に悪意を放ってはいない。
 そこで立つ者も含めて例外なくな」

顔を上げたセイバーの目線に続くその像に、綺礼もまた遅まきに気づいた。
いや、気づかなかったわけではない。寺院内に通じる唯一の入り口である正門に人影は一切なかった。
セイバーが実体化し綺礼がそこに意識を向けた数秒の最中に、霊体と化していた魂は肉ある生前のカタチを取り戻していただけのことだった。


716 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 01:56:11 20iS8OYM0



現れた姿は、綺礼に部屋の中央に飾られた美術品を想起させた。
頭部から爪先までくまなく覆われた、全身甲冑(フルプレート)の騎士。
陽の光も恥じらうとばかりに青く輝く鎧兜には、培った武勲を知らしめる傷跡はどこにも見られない。
一度として戦場を駆けぬまま倉庫に追いやられた、時代の流れに取り残された骨董品かと見紛う清白さ。
そんな旧き遺物の翳りを、しかしこの鎧は些かも持ってはいなかった。
照り返す鎧の光が、あまりにも眩いからだろう。天よりの祝福をあらん限り受け止めた勇壮なる武具。
反射ではなく鎧そのものが発しているかのような蒼穹の煌めき。
一度も言葉を出すことなく、それらが何よりも雄弁にこの英霊が築いた伝説を物語っていると理解してしまったのだ。

だが何よりも奇妙なのは、相対した今でもこの英霊の"顔"を窺えないことだ。
兜が頭部全体を隠しているのだから当然ではあるのだが、名のある英霊となればただ立つだけでも自然とその性質を醸し出す。
勇猛さで知られた英雄では叩きつけるような覇気、冷酷さが有名なら身も凍る殺気というような。
人々の信仰で形作られた彼らは存在そのものが幻想であり、大小善悪を問わずそうして要素は強く表に表れる。
ましてこれだけ清廉かつ豪奢な輝きを発揮する英雄なら、それに相応しいだけの信仰と憧憬を集めたはずだ。
なのに露わとなっているのは積み上げた偉業を示す輝きのみで、その英雄の人格を知らしめる要素は一片たりとも感じないのだ。
それはまるで功績だけを望まれる機械のような、人ではなく社会の機構(システム)の一部を見ている錯誤感を与えた。



内心の疑念をよそにして、綺礼は目前の状況への対処法を思考する。
ともあれこの相手はサーヴァント。ならば自分の敵である事実はまず不変だ。
加えて腰だめにした右手に握られた西洋式の両刃剣、左手の紋章を刻んだ盾。
まさに中世の騎士物語から抜け出てきたような、てらいのない正純極まる立ち姿。
こうまで堂々と「らしい」形を見せられれば、偽装の罠を勘繰るのも馬鹿らしくなる。
己が従えるサーヴァントと同様の『剣士』のクラス―――セイバー。
古今の英雄が並び立つ聖杯戦争で最優の二文字を賜った、聖杯戦争の花形とでもいうべき相手がこのサーヴァントというわけだ。

柳洞寺の侵入を拒むように出現した以上、この寺にマスターが潜んでいるのは確実と見ていいだろう。
つまり当初の目的はほぼ達成したことになる。ならば徒に戦う必要性もない。まだ朝靄も残るとはいえ今は朝だ。
仮想世界では神秘の秘匿に気を遣うこともないようだが、衆目に晒されて得があるわけもない。
その場合、初手の内に高所を取られているのが懸念材料だが、向こうに明確な敵対の行動は見られずマスターの気配もない。
朝に剣を交わすのはあちらも理解しているのか。侵入を拒む門番のように最上段で佇むのみだ。
かといって無防備に背中を見せるほど綺礼も愚鈍ではない。実体化した蒼鎧のセイバーはそれ以降身じろぎもせず殊更出方を予想できない。
膠着し動きあぐねていたところに、淀みなく歩を進めたのは綺礼のセイバー、オルステッドだった。

「マスター。この場は私に任せてもらえないだろうか。
 差し出がましいようだが、事を荒立てるつもりはない。上手く収めてみよう」


717 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 01:57:29 20iS8OYM0


常に己の行動をまず綺礼に委ねるオルステッドらしくもない、積極的な意思表明だった。
問い返す暇も与えず、オルステッドは緩慢かつも歩調を崩さず蒼鎧のセイバーに近付いていく。
蒼のセイバーは依然として動かず、武器を持つ手を掲げることもなく騎士の到来を待っていた。
幾ら人智の及ばぬ超然の英霊といえど、地の利の有無とは決して無視できない要素のはずだ。
むしろ伯仲した実力差であるほど、微細な差が勝負の名案を分けるのも往々にしてある。
戦場で戦ってきた者ならば自然とその差を理解しているだろうに、蒼鎧のセイバーは一向に構えを取ろうともしない。
とうとうオルステッドは最上段を昇り終え、蒼のセイバーと並び立つ正門前にまで肉薄していた。
もはや彼我の距離は十歩に満たない。常人にはまだ遠くとも英霊にとっては十分すぎる間合いの位置だ。

鎧と同じ金色の光がオルステッドの右手に集中する。
瞬きの内に、五指に握られた彼の半身とも言える魔剣が現界を果たす。
そこから発散される膨大な魔力、伝播するエーテルの波に、彫像のように微動だにしなかった蒼鎧のセイバーが遂に動いた。
それは漣と変わりない、武器を握る指に力みが入るだけのごく僅かな変化でしかない。

しかしその瞬間、静謐に沈んでいた鎧を纏う五体は眼前の敵を討ち滅ぼすだけの戦闘機械に変貌しており―――。
オルステッドが片足を地面から離したとまったく同時のタイミングで、疾風の如き俊敏さを伴って前進し―――。







激突、炸裂、そして鮮烈。

示し合わせたわけでもなく十字を重ねた剣と剣の交差点は、一瞬だけ何も存在しない"無"へと引き戻された。
質を異とするふたつの濃密な魔力の正面衝突。初撃でありながら様子見のない、必殺の意志が込められた互いにとって最強の斬閃がぶつかり合う。
宝具とは単なるマジックアイテムに非ず、英霊の誇り、人生、その全てが集約され信仰という研磨で昇華された"貴き幻想"(ノウブル・ファンタズム)。
英霊の一部、半身に等しいそれは英霊の内に住まう小宇宙、世界も同然となる。
その極小の世界の衝突に両端から押し潰された空間は行き場を失い超圧縮された状態に陥る。
結果引き起こされるのは、目に映らない薄さ、アークセルにもコンマ十八桁以下でしか観測されない時間でのみ発生した原初の宇宙。
あらゆる生命の存在を許さない天地開闢の折がここに再現されていた。

真空化した空間の膨張で豪風が巻き起こり、物理の断末魔が激しく火花を散らしていく。
人間の形をしたモノ同士が剣を重ねただけで、世界の震撼が垣間見える。
時代と世界を超えた英霊の対決―――聖杯戦争の意味を、この二剣は燦然と有り示していた。


「        !」
「――――――はッ!」

鳴り止まぬ交錯のスパークを打ち破ったのは、気合の方向と共により深く剣を振り下ろしたオルステッドだった。
均衡の崩れを恐れず足を踏み入れての一閃は、見るからにして重厚な鎧を着込んだセイバーを藁人形も同様にこともなげに弾き飛ばしてみせた。
それにより軌道を変えた旋風は飛ばされた蒼鎧のセイバーを後押しして、飛距離を伸ばす一助として機能した。
蒼鎧のセイバーは尻餅をつく醜態をさらすことなく鮮やかに着地してみせる。だがその位置は正門を越え境内に入っていた。
ここまで遠くにいては、さしものサーヴァントも何の補助手段もなしに一足で届く距離ではない。
それはオルステッドのマスターである綺礼の、撤退のお膳立てが済んだことを意味している。


718 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 01:59:19 20iS8OYM0


綺礼がマスターの透視能力で確認できるサーヴァントの能力値は、全てのパラメーターがBランク以上。
総合力ならばオルステッドを凌ぐ高水準の値、最優の名に恥じぬ力量だ。
目が眩むばかりの清開な威容からしても、相当に名の知れた英雄であるのが見て取れた。
ひとつの伝説における主役級の活躍を見せた人物。その実像が掴めないのは真名秘匿の効果を持つ礼装によるものか。
だがそんな正統な英霊は、綺礼のサーヴァントにとって圧倒的な優位を得られる組し易い相手に過ぎない。
「対英雄」という希少極まるスキル。これによりオルステッドはおよそ正式な英霊に対して高いアドヴァンテージを確保できる。
先程の一合で蒼鎧のセイバーを一方的に押し返せたのもそれが最たる理由だ。
現に対峙している今も、相手は本来のポテンシャルよりワンランク落ちた状態にまで制限を受けている。
むしろこの場合、その状態でなお拮抗してみせた蒼鎧のセイバーの技量を称えるべきか。
反英雄や狂化された英霊でない限り、白兵戦でオルステッドが後れを取ることはまずない。



故に判断を迫られる。あるいはここで、決めにかかるのも手ではないのかと。
対英雄の判定にかかる以上、こちらが勝利に一歩先んじているのは間違いない。
敵マスターによる援護を鑑みても余程の実力者でない限り、このまま戦闘を続行すれば勝つのは自分達だろう。
だがそれはこの先数分のような短い時間ではない。より長く斬り合いを演じた末での競り勝ちだ。
オルステッドの欠点のひとつに宝具の破壊力の乏しさがある。
戦闘で有用な効果ではあるものの、敵を直接殺傷せしめるだけの一撃の攻撃力に欠けているのだ。
つまり、このまま戦い続けるというのは……いつ部外者が気づくかも知れない場所で数十分にかけて英霊の力を行使するということになる。
身を隠しての暗殺ならともかく、白昼堂々剣を振り回すような真似は尋常な目で見ても犯罪だ。
ルーラーからの懲罰を逃れる釈明は通らない。戦いは夜にするものとは地上の聖杯戦争と共通するセオリーだ。

サーヴァント戦でとりわけ重要なのは、真名の看破と露呈の阻止にある。
生前の正体を知ればその戦術や宝具を推し量れるし、死因となった弱点に付け込むことも可能だ。
既にこちらは対英雄という手札を一枚見せてしまっている。希少なスキルということは、それだけ予測される候補を限定させてしまうこと。
このまま尻尾を巻いて逃げれば、敵に真名に至る情報を与えてしまい、次に攻め込むのが困難となる。
二度正攻法が通用するほど容易な相手とは思わない。何かしらの対策を練る隙を与えてしまう。

言峰綺礼は代行者であり現場での戦闘員だ。
戦場での判断の遅滞は死に直結することを身に染みて実感している。
徒に思考に時間をかけてはならない。事態は刻一刻と変動していくものであり、都合よく相手が待っていることは決してない。
求められるのは迅速な行動。危険性を考慮しつつもそれを跳ね除けられる大胆さだ。
自己を廃棄し、任務を果たすという意志のみを残し、必要な行為を選出する。
神に仕える為の研鑽だけは怠らなかった人生だ。余分なものを切り離して初志に立ち返れば自然と為すべき事は見えてくる。
そうして選んだ行動を即座に実行するため前に立つセイバーに指示の念話を送ろうとした矢先、男のものではない声が境内から奏でるように聞こえてきた。

「そこまでですセイバー。剣を収めなさい。
 ここは仏に祈り、己を精進する霊験あらたかな梵刹の内。天道が見えるこの時分は餓鬼も魍魎も見えぬ光の日です。
 英霊といえどみだりに争いの場にしてはいけませんよ?」


719 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 02:02:19 20iS8OYM0


剣を向け合い、命を遣り取りをしていた戦場には似つかわしくない、どこか緊張感のない間の抜けた声だった。
まるで悪戯をして子供を叱る母親のような、窘めつつも愛情のこもった叱責。
だがその音はどこまで柔らかで、全てを受け入れる慈悲の具現のような穏やかさに満ちている。
蒼鎧のセイバーはすぐさま剣を下ろし、後ろを通る女性に僅かに首を下げた。恐らくは謝意の表れだろう。
戦略の一環なのか本人の性質なのか、己のマスターであろう存在にさえこのセイバーは無言を通すらしい。

現れたのは少女とも婦人ともつかぬ妙齢の美女であった。
腰まで届く長髪は頭頂部には紫紺色が差しているが、毛先に行くに従って茶金色に変わる奇妙な配色をしていた。
服装もまた浮世離れした白と黒を基調としたドレスのような意向で、寺から出てきた人物としては一見不釣り合いこの上ない格好だ。
しかしそれが女の纏う雰囲気と一緒にすれば、不思議とまったく違和感のない。それほどこの女性の持つの空気はここと馴染んでいた。

未だ戦闘態勢を解かぬ綺礼とセイバーに、女は恐れもせず前に立ち、さらには柔らかな所作で丁寧にお辞儀まで返してきた。

「お初にお目にかかります。この度は私の同志が至らぬ真似をしてしまったようで。
 互いに譲れぬ願いを持ち闘争に臨む者とはいえ、争いにも守るべき法はあります。どうかここは剣を収めくださらないでしょうか」

謝意を示しつつも不用意にへりくだらない態度で停戦を申し入れる。
隣にセイバーがいるからとはいえ、そのまま首を落とされても言い訳できない無防備さに両者は隙を突く考えさえも浮かばなかった。

「私の名は聖白蓮。この命蓮寺を預かる住職の身として、此度の聖杯戦争に参じましたマスターでございます。
 此の度の不作法の礼もありますし、一度中でお話をしませんか?」

張り詰めた空気を解かす声と共に、尼僧は蓮の花を思わせるたおやかな微笑みを見せた。




   ◆          ◆


720 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 02:05:57 20iS8OYM0




外で起きた一悶着にも、命蓮寺本堂の内部は動じることなく静かな空気を携えたままでいた。
香の匂いが漂うほの暗い本殿で厳かに立つ財を司る神、毘沙門天像の存在感が嫌が応にも大気を引き締めている。
だが並み居る僧侶が委縮する武神の威圧の中にあっても、なお揺るがぬ泰然としているふたつの像がある。

二者ともこの建築には似つかわしくない、異端の装いだった。
鎧姿は威厳を示す武神のそれとは趣を別とし、華やかさを強調する陸を隔てた技師による業だった。
木材が、空気が、寺院を形作るすべてが二人を異物として認識していた。
自らの教えと違った神の教義に従う者であると、望まざる異分子を排斥しようと圧しにかかる。
それでも騎士は揺るがない。本堂に続く扉の前の両端にそれぞれ立つ姿はまるで元からそこにあった彫像のように違和感がない。
時代や土地柄、風習でなく、守護者としての気勢で二人の騎士は寺院に存在を許されていた。

ふたりのマスターはこの先の本堂で対峙している。
戦いの気配は感じられない。同盟か会合か、なんにせよ交わされるのは拳でなく言葉の応酬だろう。
彼らは共にマスターの力量を知っている。一対一なら後れを取ることは早々ないという信頼があってこそ単独を認めた。
同時にサーヴァントはサーヴァント同士で押さえさせれば邪魔も入らない。

なるほど何も出会う相手を全て敵として見境なしに戦いを挑む必要はない。それでは遠からず息切れをする。
二十騎以上のサーヴァントが入り乱れるバトルロワイヤルである聖杯戦争では、他陣営との連携が必要不可欠だ。
戦う相手を限定し、協力してより確実に数を減らしに行く。一騎より二騎の方が効率で勝るのは至極当然の帰結である。
そうして然る後に互いに決着をつける。当然正面から向き合った正々堂々の決闘になるはずもない。だが出し抜くチャンスがあるという点では限りなく平等だ。
情報戦の重要性は時に実戦よりも優先される。仲間(パーティー)を組んで冒険した両者はそのことを良く理解している。
セイバーという最優のサーヴァント同士による共同戦線。実現すればこの上ない最良のパーティーとなるだろう。
その提案を受けるか否かの決定権はマスター達に委ねてる。彼らは今生の主の意志のままに沿うだけだ。

「      」
「――――――」

言葉は交わされず、目線はそもそも片方は見えない。
共に無闇に口を開く性分ではない。ただただ無言で佇み合い互いに無関心でいる様子だ。


しかしルクレチアの勇者であり、魔王として人の憎悪を知り尽くしたオルステッドは、蒼鎧の騎士の苦悩を誰よりも深く理解し。
アリアハンの勇者であり、伝説の始祖として世界に称号を刻んだロトは、金色の騎士の苦悩を誰よりも深く理解していた。


721 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 02:06:43 20iS8OYM0


目にした瞬間に分かっていた。我々は同じものだと。
共に天命を受け、期待を背負い、望まれるままに諸人の望みを叶え続けた勇者という名前の機構(システム)に囚われた者同士なのだと。
あまりに似通った運命を辿った二人は、邂逅した時点からその心象を等しく共有させていた。
違うのはオルステッドは生前の悲劇で心を堕として魔王に変じ。
ロトは死後に永劫に続く輪廻に精神を摩耗させた点だろう。
故に互いは互いの身の上を同情し、憐れみ、そして敬意を表す。
同じ道を歩みながら、片方は役目を全うし、片方は役目に反旗を翻した。
そして対極の位置に置かれることになった二者が、因果の終えた死後に至って顔を合わすことになろうとは。



「……運命とは、こういう時にこそ名づける言葉だろうか」
「             ?」

正面の騎士でなく自分に言い聞かせるように呟かれた言葉を、蒼の勇者は聞きとめ首を傾げる。

「なに。悪として扱われた「我々」が、全き善の担い手であるお前たちと肩を並べている事態に皮肉を感じただけのことだ」
「            。」

オルステッドの言葉に言外の意味を感じ取ったロトは、やはり沈黙で返す。
正義の化身たる彼も気づいていた。この魔道に落ちた勇者の主は、ともすればそれよりなお救いがたい魂を抱える者なのだと。
それならば人妖平等を謳う己が主の説き伏せは、その魂にどのような刺激を与えるのか。
微かな不安を抱いていた最中、重く閉ざされていた本堂の扉が開かれた。
出てきたのはオルステッドが主、言峰綺礼だ。

「……行くぞ、セイバー」

短く、だがそこに僅かな感情の乱れがあるのを感じ取り、そこを指摘することなくオルステッドは付き従った。
ふと扉の奥を見やると、姿勢を崩れが微塵もなく正座した聖白蓮と目線が合った。綺礼共々、荒事に発展することはなかったようだ。
小さく目礼を返すと、向こうも尼公に相応しい微笑みと眼差しで応えた。
最後に、傍らの勇者へは―――今更言葉を送るまでもなく、霊体化して先を行く綺礼を追った。


722 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 02:12:59 20iS8OYM0


『結果はどうだった、キレイ』

綺礼の傍に付き、同盟の締結が成ったかどうかを訊ねてみる。

「どうもしない。とりあえず結んだのは休戦と今までの情報の共有までだ。
 霊地の貸し付けや戦力の提供まで申し出されたが、そこまで甘えた厚意を受ける義理はない」

憮然とした面持ちのままやや口早に結果を語る綺礼。
どうやらあの尼公の説法はよほど気に障るものがあったのだろう。
宗教観でも、傍目で見ても感じられる気質を鑑みても無理からぬことだが。
その詳細に何があったのかまでは問い質すことはしない。それは言峰綺礼が一人と対峙し、向き合わねば解決しない問題だ。
オルステッドはそれを見届け、背を押す程度の手助けをするのみ。
たとえその末路がどのようなものでも、その果てに至るまで付き従うだけだ。

「……まずは割り振られた役職に当たる。細かな戦略はそれからだ」
『そうだな。―――時にキレイ。あなたのこの空間での役職はどのようなものなのだ?』

アークセルでは予選で記憶を失いNPCとしえ過ごす間の役職をそのまま引き継ぐ仕組みになっている。
綺礼の出自からして安直なのは神父だが、教会には裁定者となる上級AIの管轄になっているはずだ。そこと同職ではあるまい

「購買だ」
『―――は?』

それがまったく慮外の答えだった故に、セイバーの声はこれまでにないほど間の抜けたものだった。
自覚はあるのか、不敬を咎めることなく綺礼は詳細を告げる。

「月海原学園内の購買部の店員だ。これから品の搬入へと向かう」

陳列席に商品を並べる代行者。
カウンターで無言で直立不動して客を待つ代行者。
客に品物を「あたためますか」と問い返す代行者。

あまりに、あまりにも、想像の範疇を越えた光景だ。

「そうか。………………………………………………………………それは、難儀だな」
「まったくだ。だが職務放棄するわけにもいかんだろう。今の時期に姿を眩ませては他のマスターに公表しているようなものだ。
 せめて学生からマスターの噂を聞けるのに期待するしかあるまい」

文句は出ているが、サボタージュするという選択肢は彼に始めからないようだ。
例えその性根はどうあろうと、与えられた職務には真摯かつ実直にあたるのが、言峰綺礼という男だった。


723 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 02:17:56 20iS8OYM0




   ✚          ✚




来客が去り元の空気を取り戻した命蓮寺の境内で、蒼鎧のセイバー、ロトは虚空を見上げていた。

「彼が、気になりますか?」

いつの間に居たのか、マスターである聖白蓮はサーヴァントへと問いかける。
彼、とはどちらのことなのかと一考して、マスターの方だろうと結論する。
あの勇者のマスターであるだけあって、その内面の複雑さには注意を抱いたのは確かだ。
しかしそれを言うなら、マスターこそ彼を気に留めているのではないだろうか?

「あ……っ、やはりそう見えますか?
 そうですね。気になる、といえばそうです。私と語らう間も、彼は虚の中にいるようでしたから」

マスターとして方舟に参じた理由。人生において理念として掲げるもの。信仰と宗教への観念。
多くを問いかけた彼女だが、男の方は殆ど答えを返すことはしなかったという。
尼公から語った願いへの反応からして、彼もまた宗教の信徒であるらしいことのみ。

「異教との和合は難しいですね。自らの信仰を崩すものに人は過激に反抗する。
 私の願いも稚児の理想論と一蹴されてしまいました」

人と魔を分かつことなく同じ輪の中に住まわす。
異端を排斥する組織の人間にとって、これほど鼻持ちならない理念もないだろう。
それでも彼女は眉も顰めず、理想を諦める気持ちなど毛頭もないようだ。

「ですが、彼とはまた話をしてみたいですね。
 言峰神父。異なる神を信じる彼のような者とも理解を深めねばなりませんと」

心を新たする尼公を見て、その心得違いの心境に苦々しさを覚える。
彼が彼女の思想に反感を抱いたのは教義のためだけなどではない。
伝説の終焉に討ち滅ぼした闇の魔王の心。
本人すらも自覚のない底の底に淀むモノこそが、その根源だ。

八苦を滅した尼公は果たして、それに気づく日が来るのか。
勇者は語らず、ただ守護の剣として有るのみだった。


724 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 02:23:14 20iS8OYM0






「あ、忘れてました。セイバー。あなたにはこれを」

唐突に、思い出したとばかりに差し出したのは、境内の埃を掃うのに使われる箒だった。
これは、いったいどういうことだろうか。

「私のサーヴァントである以上、あなたもここの一員です。
 それならここの僧侶と同じ勤めを果たさなければね」

微笑む僧侶は相も変らぬ可憐さで、だからこそ何か有無を言わせない迫力を感じさせた。
しかし、鎧も脱げないこの姿で掃除をするのはかなり無理があるのだが。

「裏庭の方にしますのでそれは大丈夫です。普段は他の人も使わない場所ですからね。
 それとまた思い出したのですが、セイバー、あなた最近寺中の棚や壺を探り回っていませんか?」

気づかれてしまった。別に隠してたわけではないのだが。
これはまだ装備に乏しかった頃からの習性のようなもので、何か隠してありそうなタンスや壺を見つけると中身を返したくなって仕様がないのだ
それに意外と貴重なアイテムが手に入ることも、場合によってはそれなりにあるのだから一概に否定できたものではない。
今の所、若い修行僧の隠していた成人雑誌しかないが。性格が変わりそうなほど衝撃的な内容だった。

「駄目です。勇者様ともあろうものが盗みを働いていてはバチが当たってしまいます。
 さあ、お掃除です!早くしないと朝餉に間に合いませんからね?」

その時、英雄として積んだ冒険からの経験則から悟った。
思い出したというが、始めから彼女はこちらの不貞を察知した上であると。
ここで逃れようとすれば更なる思い罰が待つのだと、勇者の直感は結果を弾き出してしまったのだ。
こうなればもう観念する他なく、大人しく微笑む尼僧の手から箒を取った。


725 : 名無しさん :2014/08/20(水) 02:29:07 wgDHLfkI0
お、むっつりスケベ固定かな?(早とちり)


726 : 勇者の邂逅、聖者の会合 ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 02:30:42 20iS8OYM0



【B-1-C-1 /命蓮寺/一日目 早朝】

【聖白蓮@東方Project】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]魔人経巻、独鈷
[道具]
[所持金] 富豪並(ただし本人の生活は質素)
[思考・状況]
基本行動方針:人も妖怪も平等に生きられる世界の実現。
1.さあ、お掃除です!
2.来る者は拒まず。まずは話し合いで相互の理解を。ただし戦う時は>ガンガンいこうぜ。
3.言峰神父とは、また話がしたい。
[備考]
•設定された役割は『命蓮寺の住職』。
•セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。
•言峰陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。

【セイバー(ロト)@DRAGON QUESTⅢ 〜そして伝説へ〜】
[状態]健康
[装備]王者の剣(ソード・オブ・ロト)、箒
[道具]寺院内で物色した品(エッチな本他)
[思考・状況]
基本行動方針:永劫に続く“勇者と魔王”の物語を終結させる。
1.>そうじをする。
2.>白蓮の指示に従う。戦う時は>ガンガンいこうぜ。
3.>「勇者であり魔王である者」のセイバー(オルステッド)に強い興味。
4.>言峰綺礼には若干の警戒。
[備考]
•命蓮寺内の棚や壺をつい物色してなんらかの品を入手しています。
 怪しい場所を見ると衝動的に手が出てしまうようだ。
•全ての勇者の始祖としての出自から、オルステッドの正体をほぼ把握しました。



【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]健康、魔力消費(微)
[令呪]残り三画
[装備]黒鍵
[道具]特に無し。
[所持金]質素
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.学校に行き購買部の店員役に努める。
2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。
3.白蓮には理由の見えない不快感。
4.この聖杯戦争に自分が招かれた意味とは、何か―――?
[備考]
•設定された役割は『月海原学園内の購買部の店員』。
•バーサーカー(ガッツ)のパラメーターを確認済み。宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を目視済み。
•セイバー(ロト)のパラメーターを確認済み。
•『月を望む聖杯戦争』が『冬木の聖杯戦争』を何らかの参考にした可能性を考えています。
•聖陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。
 聖側からは霊地や戦力の提供も提示されてるが突っぱねてます。

【セイバー(オルステッド)@LIVE A LIVE】
[状態]通常戦闘に支障なし
[装備]『魔王、山を往く(ブライオン)』
[道具]特になし。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:綺礼の指示に従い、綺礼が己の中の魔王に打ち勝てるか見届ける。
1.綺礼の指示に従う。
2.「勇者の典型であり極地の者」のセイバー(ロト)に強い興味。
[備考]
•半径300m以内に存在する『憎悪』を宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』にて感知している。
•アキトの『憎悪』を特定済み。
•勇者にして魔王という出自から、ロトの正体をほぼ把握しています。


727 : ◆HOMU.DM5Ns :2014/08/20(水) 02:31:35 20iS8OYM0
以上で投下終了です。


728 : 名無しさん :2014/08/20(水) 02:53:50 tQQHobvU0
投下乙。初代の勇者と魔王となった勇者の邂逅、素晴らしいです
綺礼の役割は購買員かい!CCCネタかーい!
だけど、学園内にマスターが多く存在する点を見ると
悪くない立ち位置かもしれないな


729 : 名無しさん :2014/08/20(水) 06:01:40 7o0AJXLA0
投下乙です
ついに全員登場!蒼のセイバーって表現かっこいいな
綺礼はっちゃける前とはいえ勇者と魔王は水と油みたいなもん、根本では聖ともロトとも相容れないか……


730 : 名無しさん :2014/08/20(水) 08:09:49 ngzTgyYE0
投下乙です!
W勇者邂逅!
やっぱり言峰は購買なのかwwいやでも若言峰なら、そこまで違和感はない、のか?
聖陣営はマスターもサーヴァントも少し相容れないのか……
まあロトは魔物いっぱい殺してるしなあ


731 : 名無しさん :2014/08/20(水) 08:22:17 GRF/bEd.0
投下乙です!
勇者だからこそ、お互いのことが手に取るようにわかるのか
でも在り方としては逆になってしまったというのがなんとも・・・
そして何とも家捜しをしてしまうロトとそれを注意する聖さんがかわいい
なんだこの癒されるペア・・・


732 : 名無しさん :2014/08/20(水) 09:58:05 6RzOaHwk0
投下乙です
二人の勇者とその主 互いに対比された構造がとても印象的でした。
そして購買峰と探索の性等の小ネタ...w 前者は何かと物騒になってきてる高校とも繋がりそうですね。


733 : 名無しさん :2014/08/20(水) 12:40:06 vabPl5gMO
投下乙です。

購買ってことは、「トオサカトキオミ」に暗示をかけられたNPCと接触する可能性があるな。

勇者の始祖、その生前からの性は、不法侵入と窃盗w

霊地であり、更に僧侶達はそこに寝泊まりしてるだろうから、アサシンやアーチャーじゃないと攻めるのは難しそうだな。
セイバーなら引きこもっていい事は無いだろうし、むしろキャスターに奪われるのを防いでくれる分有り難い。


734 : 名無しさん :2014/08/20(水) 17:23:28 6GavKI3w0
投下乙です!
対極であるセイバー同士の無言のぶつかり合いが鮮烈だった
伝説の始まりと伝説の果て、運命を全うしたものと運命に反旗を翻したもの
勇者というものに複雑な感情を抱く両者が互いに敬意と憐憫を相手に抱くというのがすごい深かった
しかしそれだけシリアスしておきながら最後にロトwww 確かにロトを語る上では外せないけどwww


735 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/20(水) 18:23:36 b7X2MA/U0
投下乙です。

勇者の運命を全うした勇者、勇者の運命に反逆した元勇者。
それぞれ「勇者」のシステムが生み出した犠牲者。
その会合は味わい深い物がありました。

私も投下します。


736 : 異邦の地で生きるということ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/20(水) 18:26:10 b7X2MA/U0

 東風谷早苗はバスを下車した。
 終点ではない。
 にも関わらず降りたのは理由があった。







 数分前、アーチャーのアシタカが念話で早苗に話し掛ける。

『マスター、一つ頼みがある』
『……? はい、何でしょう』

 彼が自発的にマスターに頼み込むのは珍しい。というより、初めてではないだろうか。
 早苗は何を要求されるのだろうかと思いながら、念話を返す。

『私に服を用意して貰いたい』
『服、ですか?』

 曰く。アシタカは遠方を目視できる千里眼、周囲の変化を察知できる気配感知のスキルを保有する。
 しかし、それらは霊体化の状態では余り有用に活用できない。
 故に、より事前に敵を察知できるよう、常に実体化していたい。

 だが、アシタカの今の服は古風な和装であり、現代の服を着ている早苗と並ぶと浮いてしまう。
 そこで現代の服を着て、出来るだけ目立たないようにしたいと言うわけだ。
 様々な容姿や風貌のNPCもいるので杞憂かもしれない。けれども、早苗が戦闘を望まない身である以上、少しでも目立つ可能性は低くなった方が良い。

『進言が遅れた。すまぬ』
『いえ、私こそ何も相談せずに飛び出してしまって……』

 早苗はいくつか着替えを持ってきているが、全て女物だ。これを着てはむしろ逆に目立つ。男物の服を買う必要があるだろう。
 これから向かう廃墟は勿論、バスの終点近くも田畑と住宅があるだけで店などは無い。
 早苗達はすぐに下車することにし、歩いて服屋を探すことにした。


737 : 異邦の地で生きるということ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/20(水) 18:27:00 b7X2MA/U0







 30分ほど歩き、街外れの寂れた商店街に辿り着く。
 人気はなく、所々店が閉まっている。だが、幸いにも服屋は営業していた。
 実体化したアシタカと共に、店に入る。店の中も閑散としており、レジに店員が一人座っているだけ。しかもやる気がなさそうだ。早苗達が入ってきても挨拶もしない。
 攻め寄られるように接客されるよりはマシだろう。早苗達は気にせずに買い物をすることにした。

「どんな服が良いですか?」
「運動しやすい物が良いが、私の腕には目立つ痣がある。袖の丈が長いのが良い」
「では、これなんかどうですか?」
「悪くない。伸縮性や通気性も良さそうだ」
「なら、それにしましょう。サイズはMかLでしょうか」
「Lにしよう。多少なら大きくても問題ない」
「着替えも考慮して二着買いましょう」
「頼む」

 アシタカが着る服を、二人と相談しながら決めていく。
 買い物を楽しむほどの余裕は無かったが、日常的なその行為に早苗の表情がどこか軟らかくなっていた。

 30分後、買い物を終えると二人して店を出る。アシタカは青い和装ではなく、白い長袖のシャツに紺の長ズボンに着替えていた。
 早苗と並んでも、そこら辺にいる多くのNPCと変わらない格好だ。

「似合ってますよ、アーチャー」
「選んだのはマスターだ。マスターの感性が良かったのだろう」
「そんなことありませんよ」

 思わず、早苗の顔がほころぶ。
 それを見たアシタカも微笑み返すが、すぐに申し訳なさそうな顔をする。

「だが、少し時間を掛けてしまったようだ」
「いいんですよ。元々急いでたわけではないんですし」


738 : 異邦の地で生きるということ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/20(水) 18:28:35 b7X2MA/U0

 廃墟に行くのは、望まぬ火の粉が降りかかったときに周りに迷惑を掛けないようにするためだ。
 けれども、食事も一日分しか用意していない。
 そこに行くのが目的ではないし、そこで籠城するつもりもない。

 大局を見据えた判断ではなく、とはいえ大局を見据えるだけの目標も無い。

「……バス停に行きましょうか」

 アシタカは頷いて答えた。







 バス停に着くが人気はなく、早苗達しか居なかった。
 時刻表を見ると一時間に二本しか走っておらず、元々人通りが少ないのだろう。
 二人でバスを待ってると、不意に早苗が口を開いた。

「私は幻想郷に辿り着くまでは、外の世界に居たんですよ」

 早苗が語り部のように言葉を紡ぐ。
 アシタカは静かに早苗の言葉を聞く。

「そこでは政府が法で統治していました。人を殺めてはいけない、物を盗んではいけない、罪を犯したら罰せられる。そんなルールがありました。そのルールである程度自由を縛られてましたが、それなりに平和でした」

 人が大勢同じ場所で暮らすには、一定の決まり事があった方が良い。
 生前アシタカが居た集落や、タタラ場にもそれはあった。

 もっとも、早苗が話すのはその比ではない、数千万、数億の人が守るべき決まり事。
 むしろそれだけ多くの人が集まるのだから、もめ事などを円滑に処理するために、一層多くのルールが必要なのだろう。

「ですが、幻想郷には政府も法もありませんでした。皆、やりたいように生きていました。強力な妖怪と結界の巫女が秩序を重んじてましたから、大きな騒動は力ずくでねじ伏せられましたけど、ほとんど自由でした」


739 : 異邦の地で生きるということ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/20(水) 18:29:15 b7X2MA/U0

 人食い妖怪も居たし、逆に早苗も妖怪退治をしていた。
 『幻想郷は全てを受け入れる』。それはとても寛容で、酷く残酷だ。
 人権などの意識は薄く、『生きてるから』という理由だけじゃ誰も助けてくれない。生きる気力を無くせば、『食べても良い人類』として妖怪に食われる。
 そこでは生き抜く強かさが必要不可欠だった。

「私、思ったんです。『幻想郷では常識に囚われてはいけない』と。郷にいれば郷に従え、その郷にはその郷のルールがあるのだと。元居た所に関係なく、その郷のルールに従うべきだと」

 アシタカにもそれは分かる。
 アシタカの生前にも、人の住むタタラ場と、シシ神の森とで諍いがあった。
 タタラ場にはタタラ場の、森には森の掟があるのだ。タタラ場には森の掟は通じず、森の掟もまたタタラ場では通じない。

 生前に一度、人の子だからと森に生きる子を人の集落に戻そうとした。
 その子の母代わりの山犬はアシタカに吠える。

『黙れ小僧! お前にあの娘の不幸が癒せるのか?』

 アシタカはあの時『分からぬ。それでも共に生きることはできる』と言った。
 それは無知で、甘く、傲慢な言葉だった。
 その後、実際に共に生きようとするが、長く苦難の道のりだった。

 『棲み分け』と言う言葉がある。
 相容れぬ文化同士では、同じ地で共存するより、互いに生活する場所を変えた方が良いと言うこともある。

 もし、棲み分けが出来ず――元居た所に帰れず、別の文化圏で生活することが必要ならば、そこの文化に従い順応した方が生活しやすいだろう。

「ここでは……『方舟』では、殺し合いをするのが、ルール。ここは幻想郷でも、外の世界でもない。なら、『方舟』でのルールに従うのが道理……」


 そう、この『方舟』のルールがそうならば――


740 : 異邦の地で生きるということ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/20(水) 18:29:38 b7X2MA/U0
「けど」

 早苗はアシタカを見る。

「――けど、間違ってると思います! こんなこと、おかしいと思います!! こう、うまく言えませんけど……ダメなんです!」

 声を荒げて否定する。
 それを認めてしまったら、『常識』ではなく、自分を構成する『何か』が壊れてしまいそうだった。

 『何か』をうまく説明できないけれど――
 『方舟』が強いた殺し合いのルールは、受け入れられなかった。

「でも、ダメなんです。どうしていいのかわからないんです」

 幻想郷での異変なら、黒幕をぶち倒せばそれで良かった。この聖杯戦争には黒幕は存在するのか。
 聖杯が無くなれば解決するのか。そもそも聖杯とは何なのか。物質的に存在する物なのか。
 『方舟』は何故こんなことをするのか。殺し合うことにどんな意味があるのか。
 もはやタタリ神のタタリではないのか。
 殺し合いを止めさせるにはどうすればいいか。聖杯を求めて殺し合う人達を止める術などあるのだろうか。
 殺し合いをせずに脱出できないだろうか。脱出する方法があるとして、一人で抜け出して良いのか。少女を置いてきていいのか。

 頭の中で考えがグルグルと回る。しかし纏まらない。
 答えが用意されているわけでもなく、誰も答えを教えてくれない。
 誰かが教えてくれたとしても、それが正解とは限らない。
 そもそも、正解などあるのだろうか。

 早苗はまだ少女だ。
 二柱の庇護下にあり、独り立ちするにはまだ早い。
 愛されて育ってきたのだろう。溢れる優しさは、何かを切り捨てる決断を鈍らせる。

 けれども早苗はマスターだ。聖杯戦争が始まった以上、決断しなければならない。
 全てのマスターが、早苗のように優しいとは限らないのだ。

 静かに全てを聞いたアシタカは、優しく早苗の両肩に手を置いた。


741 : 異邦の地で生きるということ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/20(水) 18:30:33 b7X2MA/U0

「答えを急く必要はない。故に悩まれよ。マスター、そなたは私が守る」

 アシタカの言葉に、堰を切ったように涙が溢れ出す。

「……はい、はい」

 バスが来る。戦火から皆を避けるために、終点まで乗り、そこから廃墟に向かう。
 だが、一人ではない。
 早苗には、アシタカがいた。




【C-9/廃教会へ移動中/一日目 午前】

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか
[所持金]一人暮らしには十分な仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺したくはない
1.聖杯はタタリ神と関係している…?
2.廃教会へ向かう
3.少女(れんげ)が心配
[備考]
※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。
※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが
 あくまで外観的情報です。名前は把握していません。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。

【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】
[状態]健康
[装備]現代風の服
[道具]現代風の着替え
[思考・状況]
基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る
1.廃教会へ向かう
[備考]
※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。


742 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/20(水) 18:31:27 b7X2MA/U0
投下終了です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。


743 : 名無しさん :2014/08/20(水) 18:34:10 d2Qla8hw0

早苗さん、高校生か中学生かわからんがまだまだ少女で現代っ子だからな


744 : 名無しさん :2014/08/20(水) 18:41:13 JIugbLfo0
投下乙です。早速ですが一つ指摘を
>>タタラ場にはタタラ場の、森には森の掟があるのだ。タタラ場にはタタラ場の、森には森の掟があるのだ。タタラ場には森の掟は通じず、森の掟もまたタタラ場では通じない。

「タタラ場には森の掟は通じず、森の掟もまたタタラ場では通じない」が言葉がかぶっていますがこれは仕様でしょうか?


745 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/20(水) 18:46:12 b7X2MA/U0
感想ありがとうございます。

>>744
タタラ場には森の掟は通じず、森にもまたタタラ場の掟では通じない。

が正しいですね。纏めるときに修正しておきます。


746 : 名無しさん :2014/08/20(水) 19:49:05 J4mEURwsO
投下乙
アシタカさんぐうイケメン
現代風の衣装が容易に想像できるな


747 : 名無しさん :2014/08/20(水) 20:00:39 vabPl5gMO
投下乙です。

二人とも、移住者なんだな。
所変われば法変わる。
じゃあ、その法に大人しく従いますかって話。


748 : 名無しさん :2014/08/20(水) 20:01:26 3BLD1cRY0
みなさま投下乙です

>勇者の邂逅、聖者の会合
キリスト教vs仏教の布石が来てしまった。
神も仏も人も妖怪もみな平等とか綺礼にとってはぶん殴りたくなる主張なのではないだろうか

>異邦の地で生きるということ
そしてこの主従はなぜイチャイチャしてるんですかねぇ…
一緒にお買い物とかデートではないですか


749 : 名無しさん :2014/08/20(水) 22:41:31 6RzOaHwk0
開始早々自分の鯖に手を出した赤い人に比べたらへーきへーき


750 : ◆2kaleidoSM :2014/08/20(水) 22:52:58 0XW1s07U0
投下します


751 : あなたのお家はどこですか? ◆2kaleidoSM :2014/08/20(水) 22:55:07 0XW1s07U0
日も明ける頃になれば、孤児院の院長は戻らねばならない。
廃教会のことはランサーに一任し、アンデルセンは一旦孤児院へと戻ることにした。
さすがに院長が不在、というのは怪しまれる可能性が高い。

教会自体は荒れ果てたものであり、そうそう近寄るものはいないだろう。
住宅地からも離れたこの場所、せいぜい好奇心に駆られた子供が冒険に寄ってくるくらいのもの、といったところか。
万が一マスターが寄ってきたとしてもアンデルセンの足ならすぐに向かうことができる。

そんなわけで、アンデルセンは教会から離れ孤児院へと足を運んでいた。

元々は孤児院と教会は一つだったが、教会の神父が不在になるにあたって場所を移し街に近づけた、という設定らしい。

「アンデルセンさん!おはようございます!」
「ああ、おはよう」

廊下を歩くアンデルセンの目の前を、子供が通り過ぎて行く。
洗顔所から出てきた子供たちが朝食のためにキッチンに向かっているのだ。

子供が目覚めるにはまだ早い時間帯ではあるが、早起きする子供は目を覚ましている。
まだ数人ではあるが、あと30分もすれば院にいる子供はほとんど揃うことになるだろう。

生前、まだアーカードと出会う前にしていたことと何の変わりもない光景だ。

(憎らしいものだな)

あのような、化け物となり消え去るような最期を遂げた自分に対してこのような役割を与えるなど。
聖杯はよほど皮肉が好きならしい。

まあだからといっても、この役割自体はこなせる限りは手を尽くすつもりではあるが。



「由美子…、またお前というやつは…」
「ご、ごめんなさい……」


ふと、調理室の辺りから何か声が聞こえてきた。
この孤児院で職員をやっているハインケルと由美子のもののようだ。

「どうしたのかね、ハインケル、由美子」
「あ、先生。それが…、昨日由美子が調理を失敗してしまった件で、今日の朝食分の食材が不足してしまってまして。
 それで昨日の夜、由美子に買い足しにいくように言ったのですが…」
「だ、だって、夜に行ったお店、強盗っぽい人がいたみたいだったから、何だか怖くなって……」
「強盗なんかに怯えてどうするんですか…。我々には主の加護がついているというのに…」


752 : あなたのお家はどこですか? ◆2kaleidoSM :2014/08/20(水) 22:55:56 0XW1s07U0

溜め息をつきながらやれやれ、と呟くハインケル。
アンデルセンはそんな彼を宥める。

「いいんだよハインケル。由美子、怪我はなかったかい?」
「あ…、はい…。あの後すぐに帰って来ちゃいましたから…」
「困りましたね…。私は調理をしなければなりませんが、由美子の足では最寄りのコンビニまで向かったとしても朝食までには…」
「では私が行こうか」
「神父様が?!いえ、そんなお手間をかけさせるわけには――」
「子供達に朝食が行き渡らない方が辛いさ。
 何、ちょっと朝の運動に行ってくるついでと思えばいい」

一分後、足りない材料を聞いたアンデルセンは孤児院を出発しコンビニへと軽く早歩きで向かい始めた。



「いやー、昨日の夜見事にやられちゃいましてねー」
「おやおや、それは災難な。そのような罪人には裁きが下るといいのですが」

コンビニについたアンデルセンはそんな愚痴をコンビニ店員から聞いていた。
聞いてみれば実際には強盗などではなくただの万引きのようなものだったらしい。

ただ、やられたことに遅れて気付いた店員の声を、気の弱い由美子は強盗か何かと勘違いしてしまったということだろう。

ともあれ、アンデルセンは由美子に頼まれたものを若干多めに買い揃えた後、来る時と同じく若干の早歩きで帰路についていた。

(それにしても、万引き犯、か)

そのような真似をする者が、自分と同じマスターであることはないだろうと願いたい。
それは自分達を選んだ聖杯という聖遺物に対する冒涜にもなりかねないものだ、とアンデルセンは思っていた。

そういえば、会話ついでにその万引き犯の特徴も念の為に聞いておくべきだったか、などと思考しながら歩いていた時だった。

――――ドン

ふと、アンデルセンの体に、横から何かがぶつかってきた。




(まずい……)

美遊は焦っていた。

これほどの焦燥感に駆られたことは、それこそクラスカード回収の時くらいのものだ。
早く逃げなければまずい、と頭が告げているのに逃げることができない。

サファイア、バーサーカー。
本来アテにするべき味方も助け舟を出すことができない。


753 : あなたのお家はどこですか? ◆2kaleidoSM :2014/08/20(水) 22:56:35 0XW1s07U0

座らされた椅子は針の筵のよう。
頬を伝う汗は暑さ故ではなく、この状況に対する焦燥感だろう。


(迂闊だった…)

こんな時間に一人で歩いていたこと、それ自体が不用心だったのかもしれない。

この状況を打破するには、どうするべきなのか。


「あのねーお嬢ちゃん、そろそろ何か喋ってくれないと」

(まさか、こんなところに交番があったのを見落としていたなんて……!)

そこは交番。
溜め息をつく婦警の前で、椅子の前に座らされた美遊の姿が、そこにはあった。


朝、日が明けるまでには新都まで移動しておこうと考えた美遊は、暗がりの中で真っ直ぐに新都に向かって足を進めていた。
日が昇れば通学する学生達であふれるだろう道、そこに外れて歩く子供など目立つことこの上ないだろうと考えての行動。

道自体はほぼよく通った道そのものであり、迷うこともない。
とりあえず必要そうなものを買い揃えるために開店時間までは待機しようと思い、警戒は怠らずに周囲を散策していた美遊。

しかし、マスターやサーヴァントに意識を割きすぎていた美遊は気づかなかった。
交番の前に立っていた警察官の存在に。

そもそも日が登って間もない時間帯、家出かと思うような荷物を抱えた子供が歩いていれば、市民の安全を守る公務員としては放置しておくわけにはいかないものだろう。
ちょうど近くのコンビニで万引きがあった、という事実も小さいながらに彼らの心に警戒心を持たせていたに違いない。


(どうすればいい…、どうすれば……)

「ねーお嬢ちゃん、名前と住所くらいは言ってくれないと、お家に連絡取れないでしょ」

美遊はずっと沈黙を保ったままだった。
最初は優しく丁寧な口調で話していた婦警も、今はだんだん砕けたしゃべり方になってきている。

心なしか、苛立ちを僅かながらに感じる気もする。

だが、ここで名前や住所を言うわけにはいかない。
家に帰るわけにはいかないし、どこにマスターが潜んでいるか分からない以上個人情報を無闇に話すわけにはいかない、と思っていた。

逃げるのは難しいことではない。
転身すればここから抜け出すなど、容易いことだ。
しかし、それはあまりにも目立ちすぎる。

仮にも一般人相手では、サファイアもバーサーカーも為す術がない。
いや、最悪サファイアに記憶消去を頼むべきか――――

トゥルルルルルルルルルル

そう思ったところで、交番内に設置された電話が鳴り始めた。


「はいはーい。お嬢ちゃん、いい子だからちょっと待っててねー」

当然婦警は電話に出るために席から離れざるを得ない。

(…今だ……!)

席から離れ受話器を取って会話を始めた辺りで、美遊は椅子から立ち上がった。
あとはとにかく全力でここから離れる。もうこの場所には近づかないようにすればいい。


754 : あなたのお家はどこですか? ◆2kaleidoSM :2014/08/20(水) 22:57:04 0XW1s07U0


「あ、待ちなさい!」

後ろから聞こえてくる声を尻目に、美遊は交番から全力で飛び出し―――――


ドン

何かにぶつかった。
全力で走っていた反作用もあり、後ろに倒れこんで尻餅をつく美遊。

「おや、大丈夫かい?」

目の前にいたのは、神父服のようなものを纏ったメガネの外国人。

「ふむ、怪我はないようだね、立てるかい?」

ぶつかったのはこちらであるのに、それを責めることなくこちらの体を案じてくれる。
その心遣いはありがたかったが、今は急いでいた。

差し出された手を受け取ることもなく駈け出そうとした美遊。
しかしその足が前に進むことはなかった。


「こら、待ちなさい!」

追い付いてきた婦警が、立ち上がった自分の手を掴んだのだ。
振り払おうとするも、子供の体では女性とはいえ大の大人の手を振りほどくことはできなかった。

「おや、婦警さん、おはようございます。一体どうしたというのですか?」
「あ、神父さん、どうもおはようございます。いや、この子、こんな朝早くから一人で出歩いていたからちょっと気になって補導してみたら、どうも家出をした子みたいで。
 名前も住所も何も話さなくて手を焼いていたんですよ」
「ふむ、家出とは。まだ小さいというのに…」
「………」

話しかける神父も無視し、美遊はどうやってこの状況を脱するべきか必死で思考していた。
こうなったら、敢えて嘘の情報を伝えることである程度この拘束を緩め、その隙に逃げ出すべきか。

そんなことを考えていると、神父はじっとこちらの様子を見ていた。
何となく、自分の考えていることを見透かされているような感覚を覚えた。

「ふむ、何か家に帰りたくない事情がありそうですな。
 どうでしょうか。私のところの孤児院でしばらく預かり、頃合いを見て送り返してあげる、というのは」
「いえ、それはさすがに悪いような…」
「何、今でもたくさんの子供を預かっている身です。一人増えたからといってどうにかなるものでもないですよ。
 それに、暗くなる前にはちゃんと送り返してあげます」
「うーん、いいのかな……」

何やら、予想外の方向でまとまってしまったらしい。
と、婦警が腕を握りしめていた手を離した瞬間駆け出そうとして。

その進行方向に立ち塞がった神父にポン、と肩を抱き止められた。

「警戒することはありませんよ。主はいつでも見守っておられます。
 いい子にしていれば、必ず幸福は訪れますからね」

その後も幾度か隙を伺って離れようかと思った美遊。
しかし、神父は驚く程に隙を見せてはくれなかった。

逃げることはできない、と判断した美遊はやがて観念して彼についていくことにした。

婦警が交番に戻っていく背の前で、神父は優しく美遊の手を握る。

「ちょうどこれから子供達の朝食の時間でね。一緒に食べて、少し休んでいけばきっと君の考えも何か変わるだろう」


755 : あなたのお家はどこですか? ◆2kaleidoSM :2014/08/20(水) 23:02:06 0XW1s07U0
すみません、NGワードが含まれていると出たのですが原因が分からないため、状態表前の一レス分はしたらばの避難所に投下しておきます


756 : あなたのお家はどこですか? ◆2kaleidoSM :2014/08/20(水) 23:24:18 0XW1s07U0

不本意ではあるが、今は従うしかないだろう。
しぶしぶその手を握り返す。


「そういえば名前を聞いていなかったね。私はアンデルセン。孤児院の院長をやっている」
「………」

ここでずっと黙秘していては逆にいつか不都合が生まれるだろう。
だが、ここで本当の名前を名乗りたくはない。

美遊・エーデルフェルト。
それが今の自分の本当の名前。
しかしこの場を少しでも乗り切るために、美遊は敢えて忌々しき記憶の奥にある名前を引き出し、偽名を名乗った。

「……美遊・エインズワース」



神父、アンデルセンはこの子供に少し疑念を抱いていた。

まだ10歳ほどの子供。これくらいの年頃ならば人見知りもするだろう。
だが、この子供、美遊はそういったものとは違うような気がした。
隙を伺って逃げようとする姿、周囲に対するあまりに大きな不信感と警戒心。

ただの家出にしては少し過ぎているように見える。

よほどのトラウマを持っているのか、あるいは――――

(王よ、一つ聞かせてもらいたい)
(何かを見つけたか、神父よ)

廃教会にいるランサーに念話を図るアンデルセン。

(この聖杯戦争、例えば無垢なる子供自体がマスターに選ばれる、ということは有り得るのか?)
(マスター選出自体は聖杯の意思によるもの、私には図りかねる。だがあり得るのかどうかと言われれば可能性は十分に有り得るものだ)
(…そうか)

まだ可能性の段階、無理にそれを聞き出すつもりもない。

そう、ただ家出をして道に迷った子供を保護した。ただそれだけのこと。

(分かっているとは思うが、今余はここから動くことはできん。神父自身の身に命の危機でも及ばぬ限りは、な)
(問題ない、こちらはこちらでうまくやる)

自分の横で、密かに警戒するかのように沈黙をする少女。

この少女が、自分と同じ聖杯によって選出されたマスターであるのかどうか。

疑念を持ったまま、しかし少女を案じる心は本心にアンデルセンは孤児院へと歩みだした。


757 : あなたのお家はどこですか? ◆2kaleidoSM :2014/08/20(水) 23:24:46 0XW1s07U0

【B-9/市街地/一日目 早朝】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]健康、ポニーテール
[令呪]残り三画
[装備]普段着、カレイドサファイア、伊達メガネ他目立たないレベルの変装
[道具]バッグ(衣類、非常食一式) 、クラスカード・セイバー
[所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争から脱する方法を探る。
1.戦闘は可能な限り避けるが振りかかる火の粉は払う 。
2.しばらくはおとなしくしているが、できればアンデルセンから離れたい
3.ルヴィア邸、海月原学園には行かない。
4.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。
5.聖杯にかけるような願いならある。が、果たして求めることが正しいことなのだろうか…?


【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】
[状態]健康、霊体化
[装備]斬魄刀
[道具]不明
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:美遊を守る
1.???????


【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING】
[状態]健康
[令呪]残り二画
[装備]無数の銃剣
[道具]朝食の材料が入ったコンビニ袋
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を託すに足る者を探す。存在しないならば自らが聖杯を手に入れる。
1.ヴラドが領土を構築するのを待つ。
2.昼は孤児院、夜は廃教会(領土)を往復しながら、他の組に関する情報を手に入れる。
3.戦闘の際はできる限り領土へ誘い入れる。
4:美遊がマスターではないかという疑念はあるが、とりあえず今はあくまでも子供として保護する。
[備考]
箱舟内での役職は『孤児院の院長を務める神父』のようです。
聖杯戦争について『何故この地を選んだか』という疑念を持っています。
孤児院はC-9の丘の上に建っています


【D-9/廃教会/一日目 早朝】

【ランサー(ヴラド三世)@Fate/apocrypha】
[状態]健康
[装備]サーヴァントとしての装備
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を手に入れる。
1.廃教会に領土を構築する。
2.アンデルセンと情報収集を行う。アーチャーなどの広域破壊や遠距離狙撃を行えるサーヴァントを警戒。
3.聖杯を託すに足る者をアンデルセンが見出した場合は同盟を考えるが、聖杯を託すに足らぬ者に容赦するつもりはない。
[備考]
D-9に存在する廃教会にスキル『護国の鬼将』による領土を設定しようとしています。


758 : ◆2kaleidoSM :2014/08/20(水) 23:25:50 0XW1s07U0
投下終了です。時間がかかってしまいすみません
もし問題点などあれば指摘お願いします


759 : 名無しさん :2014/08/20(水) 23:29:02 J4mEURwsO
投下乙
神父のところに保護されたか暫くは安全か
美優は聖杯なんだよなあ
方舟の聖杯とどう関わっていくか…


760 : 名無しさん :2014/08/20(水) 23:30:29 J4mEURwsO
美遊だった


761 : 名無しさん :2014/08/21(木) 11:56:22 uplXbXGYO
投下乙です。

廃教会に向かってるのは、二柱の神を同時に崇め本人も現人神のマスターと、神を宝具に持つアーチャー。
美遊のサーヴァントは、死神。
神父主従は、神に縁有りすぎw

信仰の為に人間を辞めた神父から見て、人間を辞めずに神に成った早苗はどう映るんだろう。


762 : 名無しさん :2014/08/21(木) 12:01:46 Ks8BYCQY0
投下乙です。
先行きが不安だった美遊が神父に保護されましたか。
取りあえずすぐにどうなるという状況ではなくなりましたが未だ不安がぬぐえない展開です。
美遊は原作での設定が設定なので今後それがどう関わってくるのか期待大です。

何気に今廃教会にはランサー一人ですか。そこに向かっている早苗とアシタカの今後にも関わってきてますね。
アシタカが(好戦的ではないとはいえ)ランサーが警戒しているアーチャーなのが不安要素かもしれませんが。


763 : 名無しさん :2014/08/21(木) 16:17:57 qI1lkqlE0
投下乙です!
教会と孤児院にどんどん神関係が集まっていく!?w
万引き犯の片方な杏子が信徒だと知ったらアンデルセンはどうするんだろ……w


764 : 名無しさん :2014/08/22(金) 00:01:35 NhuJZ.L60
杏子は過去の家庭のうんぬんもあるし教会とかには行きがらないだろうなぁ
ヴラドとかと衝突しないのはまあいいのかもしれないけど...?


765 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:18:43 30VZLZBY0
遅くなって申し訳ありません。シャア組、正純組、投下します


766 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:19:10 30VZLZBY0
進めているのか
廻っているだけなのか
繰り返し繰り返し繰り返す
配点(戦争・平和・革命)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

           ●



正純は再現された三年梅組の中で授業を受けながら、正純は学園内で得た情報を纏めていた。
とはいえ今のところ目ぼしい情報はあまりなかった。
仕方のない話ではある。
月海原学園高等部の時間割は、45分7時間授業の形態だ。
一時間目が8:30から始まるため、各10分の休み時間も含めて、ちょうど四時間目が12時に終わり昼休みに突入することとなる。
二十世紀〜二十一世紀の平均的なそれに準じたのかも知れないが、正午にあるというルーラーたちからの告知に合わせているのだとも考えられる。
となるとこの学園内には聖杯戦争の運営から気遣われるくらいマスターがいるとも考えられるのだが。
10分の休み時間で学園内で得られる情報など限られており、そもそも戦闘力皆無の正純は下手に目をつけられる訳にはいかない。
情報欲しさに普通の学生から外れた行為をして目立ってしまい、自身がマスターだと好戦的な相手にバレてしまえば一巻の終わりだ。
自ら望んで方舟へと乗り込んだマスターとの交渉を目論んでいるとはいえ、交渉の場に持ち込めなければ意味が無い。
相手の手札や願望、やり口に当たりをつけ、自分の手札を用意するなど、交渉とは事前準備を整えた上で望むものだ。
不用意な接触は避けたい。
……まあ随分とアドリブにも頼ってる気はするが、そっちはそっちで大事だからな、うん。
だからこそ、現状正純が行ったのはクラス内でのとりとめのない会話と、バイト先との連絡くらいだ。

前者においては情報収集というよりも、“確認”と言うべきだろう。
登校中に会話したナルゼのように、あくまでも級友たちが再現されたNPCかどうか確かめたのだ。
万一にも記憶を取り戻せていない本物の馬鹿たちがいたのなら一大事だからだ。
結果は記憶を封じられた時に感じた違和感通り、この学園に自分の知り合いはいないと断定できた。
元々本物の梅組の生徒たちの大半は異族な上に、人間であったとしても義手義体など生身のものは少なかった。
……ホライゾンの両腕が外れないとか、考えられないものなー。
その為、外見的特徴の差異から殆どのメンバーをNPCだと判別でき、残る元から生身の人間の数名に関しても、会話を交わすことで確認は済んだ。
この辺り相手の身振り手振りや話し方、思想というものに注目する自分の目に狂いはないと言い切れる。
泣きゲーを楽しそうにやっているのを見て会話する手間が省けた馬鹿みたいな例も多かったし。
……なんだかんだであいつらがいてくれたら頼りにはなったのだが。
ともあれ巻き込まれていないこと自体は喜ぶべきことだし、そもそもあいつらがいたら間違いなく自分も巻き込まれて目立ってしまう。
目立つことを避けたい現状としてはいないというのも割りとありかもしれない。


767 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:19:38 30VZLZBY0
自分自身を納得させ思考を切り替える。
少し気になることがあったのは後者だ。
正純はバイト先の一つとして小等部でバイトをしている。
この時代の免許制度などに合わされているため、武蔵でのように直接教鞭はとれていないため有償ボランティアという方が正しいか。
ともあれ、そのバイト先である小等部で女の子が一人、無断欠席しているらしい。
それくらいなら子どもにはよくあることだが、このタイミングだ、少し気にかかる。
……それにあの子、なんだか将来イロモノになりそうな感じだったしなあ……。
うん、色んな意味で心配だから後で家に連絡を入れるくらいはいいかもしれないな。

「はい、今日の授業終了。次は外で実技だから遅れないようにねー」

そんなことを考えているうちに三限目の授業が終わりを告げる。
……この時代は平和だったんだなぁ。
ヤクザの事務所に殴りこむのでもなければ、解答できなかったところで芸人じみた処刑もなければ、壁に大穴が空いたりもしない。
おかげでゆっくり情報の整理に勤しめるのだから悪いことではないのだが、味気なく感じてしまうのはホームシックだろうか。
武蔵の外道にすっかり馴染んでしまったからだとは思わないようにしていると、服内のツキノワが僅かに動いた。
ライダーからの連絡が来たという合図だ。
もぞもぞ動くお前も可愛いぞと頬ずりしたくなる欲求を抑えながら教室を出て手洗いに向かう。
ノートをとっているように偽装しようにも、休み時間のため教室では級友たちに手元を覗かれるかもしれないからだ。


           ●


●副会長:『私だ。待たせてすまない。現状は先の休み時間に資料で送った通りだが、そちらは進展があったということだろうか』
●戦争狂:『こちらはあれから後も幾つか気になることはあったのだがね。まとめて資料を送るから見ておくといい。
     それよりも今は一つ、特に気になる情報が手に入ったのでね。君にも見てもらいたいと思ったのだよ。まずはそのための前振りだ』

どこか楽しげに口にした少佐から送信されてきた資料をサインフレームに表示させる。
それは街中で起きたというちょっとした爆発事故のニュースだ。
いや、正しく言えば事故ではない。
炸裂音を耳にし、煙を目にした付近住民の通報で駆けつけた警察の調べにより経口の異なる弾痕も発見されたらしい。
この街にはヤクザの事務所もあるため、現状ヤクザによる小競り合いとして処理されているようだが……。

●副会長:『サーヴァントの戦いの可能性が高い、か。だが既に送っていてもらった資料には他の例もあったはずだ。
     この件だけをピックアップするということは他には見られなかった何かがある。違うか?』
●戦争狂:『そう急かすな、武蔵副会長。確かにこの件に限って言えば他と違う部分が――目撃者がいる』

目撃者!?

●副会長:『といっても直接ではないのだがね。噂だが、どうにも現場付近を走り去っていく車が目撃されたらしい。
     残念ながら写真が取られたわけでもないがネット上ではその車の色が“赤かったらしい”という話で持ちきりだ』

……成程。
確かに目撃情報といえば目撃情報だ。
しかし赤い車というのは目立つことは目立つがそこまで珍しいものでもなく、目撃されたのも逃走場面そのものではない。
だが――。


768 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:20:07 30VZLZBY0
●副会長:『そういう……ことか』
●戦争狂:『ふん、流石に察しが早いじゃないか。その通りだ、政治家。
     赤い車など掃いて捨てるほどこの世界にはあるだろう。共産主義者共と戦争していた時代でもあるまい。
     なのに走り去った車が“赤い”ということだけがやたらと取り沙汰されている』

それはこの街の誰しもが、“赤い”車に心当たりがあるからだ。
なんてことのない地方都市に住んでいる場違いみたいな大人物。
正純もまた身に沁みた性か、記憶を封じられていた間も政治家を目指していたのだ、もちろんその人物に心当たりがある。
シャア・アズナブル議員候補。
この国の全総理大臣の遺児であり、冬木の街から政界に立候補しようとしている有名人だ。
そのパーソナルカラーが“赤”であり、単なるトレードマークというわけではなく、人の目を引く赤を上手く演説や宣伝で活かしていた覚えがある。

●副会長:『ヤクザの抗争に議員候補の影ともなれば、噂になるのも当然だ。
     しかも相手は候補といえど元総理の遺児。真相はともかく、マスコミや政敵、民衆からしてもいい餌だ』
●戦争狂:『餌か。いい響きだ。文字通り、シャア議員候補は誰かが撒いた餌か。犬が食いつくのを待っている餌か!』

それはつまりシャア議員候補という目立つ存在を使って候補自身か、或いはその周りの誰かが他のマスター達の注目を集めようとしているか、だ。
シャア候補はマスターであるにしろそうでないにしろ相当に目立つ出自なのは間違いない。
そこに目をつけた本人か他人が、他のマスターを炙り出すために彼を撒き餌にして探らせようとしているというのは考えられないことではない。
もしもそうなら、聖杯戦争に勝つつもりだということにになり、こちらが探している自ら望んで方舟へと乗り込んだマスターかもしれない。
そうでなくとも既に交戦済みのマスターともなれば聖杯戦争に積極的な可能性は高い。

●副会長:『そうだな、私はこう考えているよ――危険だが敢えて食いついてみる価値はあると。
     それに少佐。あなたは今、誰か、と言った。それはつまりシャア候補自身よりもあなたが注目している人物は別にいる。違うか?』
●戦争狂:『そうとも。そしてそれこそが本題だ。この画像を見て欲しい』

来るか――!
この少佐が喜々として通神を送ってくるような案件だ。
タダ事であるはずがない。
悟られぬように一度深く息を吐き落ち着いてから送られてきた画像に目を通す。

そこに写っていたのは年端のいかない少女と仲睦まじく手を繋ぐシャア候補の姿だった。
……は?

●戦争狂:『どうだ、君も胸の高鳴りを感じるだろ?』

えーっと、あれか。これはあれなのか。
ネシンバラはいないがあれなのか!?
そういうことなら、自分でやろう。
さん、はい。

●副会長:『ロ、ロリコンだー!?』


769 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:20:53 30VZLZBY0

           ●


「……む?」

誰かに呼ばれた気がしてシャアは店内を進む足を止めて周囲を見渡す。
政治家という立場故、顔が知られてるからか、周囲にはこちらを見てひそひそと会話を交わす住民たちがいるが特に知った顔はない。
ならば敵マスターかと思いきや、サーヴァントの気配は雷のものしかなく、どうやら完全に気のせいだったらしい。
……いかんな、最大限の警戒は必要だが神経を尖らせすぎるのも逆効果か。

「どうしたの、マスター。あ、もしかして魔力もらいすぎちゃった? ごめんね、すぐ手離すから」

その上、雷にも心配される始末だ。

「いや、なんでもない雷。誰かに呼ばれたと思ったのだがね。どうも気のせいだったらしい。
 君の回復のためだ、手は繋いでいてくれたままで構わない。もちろん服の売り場まで辿り着くまでの話だが」
「そう? マスターがいいならこうしていてもらえると助かるけれど。あ、でもなんだか目立っちゃっているみたいだし嫌なら言ってね!」
「なに、職業柄目立つことも、目立つことを利用することにも慣れてはいるさ。それに私が君を嫌がることなどありはしない」
「そ、それなら良かったわ!」

笑みを浮かべる雷に笑みを返す。
あれから急ぎ戦場後を離れ、この街でもちょっとした人気の高級ブティックへと身を寄せた。
流石に新都の店に比べれば品揃えは落ちるが、逆に深山町では数少ないブティックな為集客は悪くない。
そしてその集客――NPCの存在こそが、傷を癒やし、追撃を避ける場としてももってこいだった。

「私のことより君の身体の調子はどうだろうか?」

できれば霊体化したまま休んでいてもらいたかったが、服ともなると身の丈に合う合わないの都合もある。
実際に試着してもらわねばならないため、車を降りる前に実体化してもらったのだ。
その分少しでも魔力を供給しやすいようにと手を繋ぐことで身体的接触を行っているのだが。

「大丈夫よ、マスター。これくらいならそれこそ私だって慣れたものだし」
「そうか。そうだったな」

雷の言葉は何もこちらを気遣っての虚勢でない。
彼女はこう見えても駆逐艦の、それも敗戦国の駆逐艦の英霊だ。
シャアは土地も資源もない国が追い込まれた時どうなるかは嫌なほど知っている。
ジオンが、コロニーがそうだった。
戦争末期のジオン軍では戦艦やモビルスーツもろくに修理されず、安価に大量生産できる急増のモビルポッドが実践投入されたくらいだ。
そんな機体に乗せられたパイロットたちがどうなったかは言うまでもないだろう。
そしてそのパイロットたちの多くは軍に志願した学徒兵だった。
……歴史は繰り返す、か。
雷のことや今朝の夢のことを知ろうと車内で少しばかり調べたかつての戦争でも、子どもたちが最後には戦場に駆り出されたという。
きっと戦争がある限り、それは変わることがないのだろう。
或いは人類全てがニュータイプとなり、真に分かり合える時が来さえすれば戦争もなくなるかもしれないのだが。
ニュータイプ同士で否定し合い今に至るこの身では、そんな理想を夢見ることさえもできなかった。

「ままならぬものだn「ちょ、ちょっとマス、あ、あれ、な、なにあれ!?」」


770 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:21:23 30VZLZBY0
何かあったのか。
物思いにふけっていた頭をすぐに切り替え、何やらやたらと慌てている雷が指差す方へと視線を向け、シャアもまた驚きの声を上げる。

「これは……ハイセンスだな……」

そこにあったのは服だった。
ただの服ではない、近未来的というかむしろ何百世紀も先を行き過ぎている服装だった。

「え、えーっと。マスターたちの時代って私たちの時代よりずーっと先だけど、こんな感じの服が普通だったり……?」

20世紀中期の、しかも戦時中で質素倹約を強いられた時代の雷からすれば目の前の服はもはや服とは思えない程衝撃的だったのかもしれない。

「い、いや、私も相当派手に着飾っていた方だが、流石にこれは私の時代からしても未来的過ぎる……」

敢えて言うならばパイロットスーツに近いとも言えなくもないが、やたらとぴっちりした服装だ。
というかどういう構造の服だ、これは。
雷が頬を赤く染め、手で顔を覆いながらも興味深く見ている女性用のものにいたっては、そのなんというか履いていない。
サイドスカートはあるのに肝心の前面は無防備というか、強いて言うならこの戦いの監督役であるカレン・オルテンシアの服に近いのかもしれない。
ならばこれは彼女の趣味というか替え、なのだろうか。

「あ、マスター。説明が書いてるわ。
 えーっと、人類の宇宙進出に人生を捧げた前総理、ジオン・ズム・ダイクンの出身地であるこの地に因んで、近未来的なデザインの服を用意しました、だって。
 ……ね、ねぇ、マスターが望むなら私これ、着るわよ?」
「……父ジオンの名誉のためにも着ないでいてくれるとありがたい」

父にこんな趣味はなかったはずだ。
思わず頭を抱えたくなってしまうが、ふと気づく。

「雷、この方舟の中にあるものは基本、我々マスターの記憶を読み取って方舟が再現したものだと聞いたが」
「ええ、そうよ。……あ。ならこの服ももしかして」

冬木の街の時代設定から明らかに浮いた服を無理矢理父ジオンと関連付けてまで用意している位だ。
もしかしたら自分たちよりずっと先の未来の人間までもがこの方舟には呼ばれているのかもしれない。

「人類の行く末……。それを直接問える相手がいるというのなら一度会って話をしてみたいものだな」



【B-2/高級ブティック/一日目 午前】
【シャア・アズナブル@機動戦士ガンダム 逆襲のシャア】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:シャア専用オーリスカスタム(防弾加工)
[所持金]:父の莫大な遺産あり。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争によって人類の行方を見極める。参考として自分より未来人のマスターがいるのなら会ってみたい。
1.赤のバーサーカー(デッドプール)を危険視。
2.雷のまっとうな秘書服を新調し、午後に後援会の人間との会合に行き、NPCから何か感じられないか調べる。
3.サーヴァント同士の戦闘での、力不足を痛感。
4.ミカサが気になる。
[備考]
ミカサをマスターであると認識しました。
バーサーカー(デッドプール)の姿を確認しました。
目立つ存在のため色々噂になっているようです。


【アーチャー(雷)@艦隊これくしょん】
[状態]:健康、魔力充実(中)、小破(回復中)
[装備]:12.7cm連装砲
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに全てを捧げる。
1.シャア・アズナブルを守る。
2.バーサーカー(デッドプール)を危険視。
3.未来の服装ってすごい。
[備考]
小破(少しダメージを負った状態)です。
バーサーカー(デッドプール)の姿を確認しました。


771 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:22:00 30VZLZBY0



           ●


●副会長:『はくしゅん!』
●戦争狂:『風邪か、武蔵副会長。大事な戦争を前にそれはいただけないぞ』
●副会長:『あーいや、多分武蔵の馬鹿たちが、消えた私のことでも噂してるんだろ』

変な噂が流れてないならいいけどなー。
まあ今は心配しても仕方がない。それよりもだ。
少佐が示した写真。思わずいつものノリで、というかだいたい御広敷のせいでシャア候補と少佐をロリコン扱いしてしまったがそれはないだろう。
シャア候補は確かに若くても才気に溢れる人材を登用するとは聞くし、新妻がいるとかゴシップで騒がれていたこともあるけど証拠はなかったし。
少佐に関して言えばもっとない。
無垢な生命を愛でる生命礼賛とは程遠い人間だものな。
なんだか知らないが、また輪郭にテキトーになって頭身も縮んだ少佐がエロゲーしてる姿を幻視してしまったが、多分私の脳内馬鹿の仕業だろ、うん。

●副会長:『よし』
●戦争狂:『何がよしかは全然分からないのだが、まあいいとしよう。それよりもだ。本当に君は彼女に何も感じないか?
     私は一目見た時からこれはいいものだと確信した。思わず君にその存在を知らせたくなった程にだ』

そう言われてもなあ。
少佐が送ってきた写真の元をたどれば、やはりあのシャア候補が幼い少女を連れて、しかも何やらいかがわしい服を着せようとしていたという噂の類だった。
この写真は店を訪れていた他の客達がこっそり隠し撮りしたものらしい。
先のことといい選挙前にこの様子で大丈夫なのだろうか、この候補。それとも本当に武蔵側か、こいつ。
だったらこの連れられている少女の未来が本気で心配なのだが。
……ん?
少女を心配するあまり、少女の映っている写真ばかり見続けているうちに何か引っ掛かりを感じる。
あれ、なんだこれ。

●副会長:『……い、いや、ちょっと待て。違うぞ、私は違うぞ。別にあっち側でもロリコンでもないからな!?
     私は普通だ、普通だぞ!』
●戦争狂:『(ニヤリ』
●副会長:『こらそこ! 我が意を得たりとばかりに笑うなあああ!』
●戦争狂:『正直になれ、武蔵副会長。君も彼女に何かを感じたのだろう? それでこそ私のマスターだ』
●副会長:『ちがあああう! 違わないけどそうじゃないんだあああ!』

おかしいとは思った。何か引っ掛かりは感じた。でもそれは胸のときめきなんてものじゃない。断じて違う。
敢えて言うなら写真の中の少女に感じたのは既視感。
自分は彼女を知っている。しかし彼女は知り合いの誰とも違う。ではなんだ。彼女は何だ?
写真越しでさえ既視感を感じる位だ。
相当自身に縁のある誰かや何かに近しい存在に違いない。
いつも自分の周りにいる存在と言えば馬鹿に外道に変態に巫女に巨乳に貧乳にetcつまるところ武蔵だ。
教導院としての武蔵であり、国としての武蔵であり、そして航空都市艦としての武蔵だ。


772 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:22:21 30VZLZBY0

●副会長:『……いかんな。幾ら考えてもこの写真だけでは答えは出せない。
     むしろ写真だけで私や少佐が引っ掛かりを覚えたほどだ。
     この少女――』
●戦争狂:『戦争の匂いがするとそういうわけだな』
●副会長:『違って欲しい! 全力で違って欲しい!』

もし少女に感じた引っ掛かりが戦争によるものなら、私は戦争狂みたいじゃないか!
それは断固として違うと否定しつつ、

●副会長:『ともあれ、シャア候補だけでなくこの少女とも会ってみる必要があるな。
     幼い見た目だがそれこそ彼女がマスターで、NPCであるシャア候補を魔術で籠絡している可能性などもあるかもしれない』

この地で戦争するにあたっては地域の権力者を味方につけるのは有効な策ではある。

●戦争狂:『私としてはむしろ彼女こそが本命だがね。ともあれそういうことならこちらも準備をしよう。
     なに、これでも元親衛隊だ。要人を護ることには通じている』

言外に手口を知っているが故にシャア候補の護衛を抜くことも可能だということか。

●副会長:『シャア候補との遭遇だけに限ればちょうど午後から後援会があるのだが、そこにこの世界の父――NPCだがも参加することになっている。
     もともと父は武蔵で議員をやっていたからな。この世界でもその辺りが反映されて政治家をしているみたいだ。
     その席に私も同行するか、その後で席を設けてもらえるよう父に頼むとしよう。
     ただ準備や配置の方はよろしく頼む。令呪の使用も惜しまない』
●戦争狂:『さあ楽しくなってきたぞ。どう備える。誰を呼ぶ。いいや、敢えて呼ばないのもまたありだが、さて。
     大尉なら戦力としてまず間違いないだろう。
     中尉ならば遠くから狙撃で介入できる上に、敵アーチャーやアサシンの狙撃も防げて目にもなる。
     ドクを呼んでやるのも面白いかもしれない。勘だがこの少女に彼も興味を持ちそうだが……。
     久しぶりの戦争の準備だ、この時間さえも味わうこととしよう』
●副会長:『そうしてくれ。私の方も昼休み中に情報室とかで過去のシャア候補の演説の様子や前総理について調べてみるつもりだ。
     そこから少しでも相手の思想ややり口を理解して交渉の戸口とする。と、チャイムが鳴りそうだから今回はここまでだ』
●戦争狂:『チャイム、か。そうだ、あのルーラーからの定期報告もそろそろ入ると聞く。今回はその一回目だ。
     どんな告知のされ方をするのか分からない以上、予想外の手法に思わず驚きの声を上げて周囲に怪しまれる――などということは避けて欲しいものだ』
●副会長:『こう見えてもアドリブは得意なんだぞ? ほら、さっきのギャグとか』
●戦争狂:『…………』

……あっれ? 切られてしまった。
これがジェネレーションギャップというこの時代の言葉が意味することなのだろうか。
小等部の子たちの受けはいいのだけどなー。
ともあれ教室に戻る前に父にシャア候補との会談のセッティングについて連絡を入れておくことにしよう。
厳格な父を模したNPCだが、政治に関することだ、恐らく大丈夫だろう。


773 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:22:43 30VZLZBY0
【C-3/月海原学園/一日目 午前】

【本多・正純@境界線上のホライゾン】
[状態]空腹
[令呪]残り三画
[装備]学生服、ツキノワ
[道具]学生鞄、各種学業用品
[所持金]極貧
[思考・状況]
基本行動方針:他参加者と交渉することで聖杯戦争を解釈し、聖杯とも交渉し、場合によっては聖杯と戦争し、失われようとする命を救う。
1.シャア候補との交渉に備えて彼の過去の演説に当たるなどして準備する。
2.マスターを捜索し、交渉を行う。その為の情報収集も同時に行う。
3.聖杯戦争についての情報を集める。
4.可能ならば、魔力不足を解決する方法も探したい。
5.小等部を無断欠席中の遠坂凛の家に連絡くらい入れるのもありか。

※少佐から送られてきた資料データである程度の目立つ事件は把握しています。
※武蔵住民かつとして、少女(雷)に朧気ながら武蔵(戦艦及び統括する自動人形)に近いものを感じ取っています。

【C-3/正純の自宅/一日目 午前】

【ライダー(少佐)@HELLSING】
[状態]健康
[装備]拳銃
[道具]不明
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯と戦争する。
1.シャア候補との交渉に備えてマスター及び自分の護衛他の準備を行う。自身としては少女(雷)の方に興味あり。
2.通神帯による情報収集も続ける。


           ●


「コニタン! コニタン! 可愛い正純がシャア候補と会いたいと言ってきたのだがどうしよう!?
奴はロリコンという噂ですぞ!」
「落ち着けノブタン! 高等部の正純君はロリ扱いはされないのでは!?」
「うちの正純をBBA扱いするのかコニタン! だが残念、ロリコンのボーダーラインはU-18だそうだもんねー!」
「むむ、しかしノブタン、御広敷なる者は10歳超えていればババァ説を広めてるとか!」
「よし、そいつの実家にそいつ名義で熟女専門のエロゲを贈ってやれ!
 ついでにシャア候補のマンションにロリものや新妻ものも贈ってやるか……!」


774 : ソラの政治家達  ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 06:23:09 30VZLZBY0
投下終了です


775 : 名無しさん :2014/08/22(金) 10:40:23 pr/fnfCUO
投下乙です。

同じく無断欠席してるのに情報を得てないって事は、正純はNPC時代の美遊とは接点が無いのか。

雷は、戦争の象徴である兵器だからな。
二人には感じるところがあるのか。


776 : ◆TAEv0TJMEI :2014/08/22(金) 11:25:09 30VZLZBY0
>>775
ご指摘ありがとうございます。
美遊のことはすっかり失念していました、申し訳ありません。
一人住まいな凛はともかく、向こうは保護者がいること確定な上に、学生証を投げ捨てていたりといなくなっていることは発覚済みでしょうね。
ただプリヤのルヴィアならその辺り上手く誤魔化しそうですがNPCですし。
美遊が警官から逃げた話の方で現状交番に家で届け自体はなかったようなのでそういうことにして以下のように修正します。

>ともあれ、そのバイト先である小等部で女の子が一人、無断欠席しているらしい。
それくらいなら子どもにはよくあることだがこのタイミングだ、少し気にかかる。

ともあれ、そのバイト先である小等部で女の子が一人、無断欠席しているらしい。
他にも休んでいる子はいるそうだが、こちらは保護者から連絡が入っているという。
無断欠席くらい、子どもにはよくあることだが、このタイミングだ、少し気にかかる。


777 : ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:02:02 P9lWGdoA0
投下乙です。
政治家つながりで正純とシャアに因縁が。何気に色々と情報が洩れてるシャアは大丈夫なんですかね。
そして正純少佐コンビの不思議な収まりの良さ。

自分も投下します。


778 : days/only illusion ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:02:56 P9lWGdoA0
ぬかるみの日常。退屈な繰り返し。何てことのない、何時もの生活。
その中で人は生きている。

しかし、それは本当に盤石なものだろうか。
自分たちが何の上に立っているのか、人は本当に気づいているのだろうか。

自らの足元を覗き込めば。
あるいは、そこに広がっているのは恐ろしい闇かもしれない。

忘れてはならない。
人は日常に生き、日常に死ぬものだということを。


(days/only illusion)






ふわぁ、と欠伸を噛みしめながら真玉橋孝一は学園へとやってきた。
天気は快晴、そよぐ風も気持ちよく、爽やかな登校日和――であるが、孝一は退屈だといわんばかりの顔を浮かべている。
周りでは真面目そうな顔をした学生たちがたくさんいる。彼らはみな吸い込まれるように校門へと向かっている。
彼らを見て孝一は再度欠伸をした。

バーサーカーとの一件こそ孝一を本気にさせたが、こんな学園生活にはかったるいとしか言いようがない。
ペンギン帝国での戦いにあっても、学校というものは枷にしかならなかった。世界の為に戦っていたというのに。
聖杯戦争でもそうだろう。だが、それでも孝一がサボらずに登校したのはそれ以外に目標も指針もなかったことと、そして気まぐれの部分が大きい。
やる気は起きないし意味も感じられないが、それ以外特にやることもない。
そんな状況だったからこそ、孝一は彼としては普通の態度で、しごく模範的な時間に、学生として真面目に登校したのだった。

聖杯戦争のマスターとしては、というとセイバーを連れきてはいるが霊体化させている。
これもマスターとしては普通――セイバーの方から言い出した訳だが――孝一にとって学園にいる時間というのは寝る時間とほぼ同義なので、まぁ、別にどうでもよかったのだろう。

と、いう訳で聖杯戦争一日目、孝一は珍しく――ある意味では幸運なことに――学生としてもマスターとしても別段おかしなことをしていなかった。
少なくとも、彼の中では。

空っぽの鞄を片手で持ちながら孝一は三度欠伸をする。
そして、校門を通った。

――途端、

「待て、真玉橋孝一」

声がした。
実直さを滲ませたその鋭い一声はまっすぐに孝一へと届いていた。
ああん、と孝一が気だるげに唸りそちらを見るとそこには、

「何度言えば分かるのだお前は、校則というものを守れ!」

灰色の制服に身を包んだ眼鏡の少年がいた。
彼は頭を抱えながら孝一へと近づき「喝!」と言ってのけた。

「おいおい何だよ一成、朝っぱらから」

眼鏡の少年のことを孝一は知っていた。
というかこの学園の生徒ならば知らなければおかしい。
柳洞一成。何せ彼は生徒会長である。真面目実直の寺の子であり、敏腕生徒会長。
孝一も予選の頃から知っていたし、何度か話したこともある。


779 : days/only illusion ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:03:41 P9lWGdoA0

「何だではない。何だでは。
 校則違反だ。校則違反。」

そんな彼がどういう訳か自分に青筋を立てている。
孝一は困惑を滲ませながら、

「校則違反? 俺が何したってんだ」
「制服だ。制服。流石に堪忍袋の緒が切れるぞ」
「制服?」

言われて孝一は視線を下げ己の服装を確認した。
別に丈も長くないし、ズボンの裾もおかしくない。黒い生地に金のボタンのコントラストも映える。
この男らしい学ランを、孝一はいたく気に入っていた。

「この制服のどこが違反なんだよ」
「全部だ、馬鹿者」

言って一成は登校していく生徒たちを肩で示した。
そこにいるのは黄土のような赤みを帯びた制服に身に包んだ生徒たち。
孝一の纏うクラシックな学ランは、彼らの現代的な制服とはかけ離れている。

「お前が来ているのは前の世代の制服だ。どこで手に入れたのか知らんがとっと着替えろ」
「はぁ? 硬派な男は黒い学ランと決まってんだろ。あんな軟弱な制服着れるか。
 第一お前だって制服ちげえじゃねえか」

一成の制服もまた一般性ととは違う。デザインは基本同じだが色がダークグレーに変っているのだ。

「これは区別の為だ。別にルールから離れている訳ではない」
「ほいほい、分かったから」
「今日という今日は実力行使に出るぞ、真玉橋孝一」

その言葉になにか凄みを感じた孝一はたじろぐ。
実力行使……その言葉から想像されることはまさか、

「い、一成……」

一部女子生徒の間でまことしやかに語られる噂を思い出す。
孝一はごくりと息を呑んで、

「俺を押し倒す気か。こんな往来で」
「違うわ馬鹿者!」

不用意な一言で更に怒りを加速させてしまった。
一成の隙を見計らい、孝一は走り出した。
こんなところで足止めを喰らう訳にはいかない。説教されるのはごめんだった。

「待て、真玉橋孝一。まだ話は終わってないぞ!」
「じゃあな一成、せいぜい頑張ってくれよ」

孝一は校舎へと向かった。とりあえず教室に入ってしまえばあっちもそこまでは追ってこまい。
と、その最中女子生徒たちの姿が視界に入った。
和やかに談笑する彼女の隣を孝一は風となって駆けていく。

――その刹那、

ふわり、とささやかな布地が舞った。
駆け抜けた風が黄色のスカートをさらい、重力の枷から解き放っていく。
一つ、二つ、三つ……朝の学校に花が咲いた。

青。ピンク。白。

そして、そこに少女たちの声が重なる。

「きゃ、きゃああああ!」
「っ、最低! 今日日スカートめくりなんか小学生でもしないのに」
「ケイネス先生に言いつけてやるんだからー!」
『……はぁ』

少女たちの声を背景に、なははははは、と孝一は哄笑する。心なしか自分のサーヴァントの声も聞こえたが気にしない。
学園生活などたるいとしか言いようがないがこういうことができるは最高だ。
心なしかこの学園、化け物みたいな乳の奴がちらほらいることだし。

そうして孝一は登校した。
ごくごく平和な、退屈でありつつも楽しみがない訳ではない、そんな、日常が。








780 : days/only illusion ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:04:19 P9lWGdoA0


朝。
海に赴いた。青を見た。そして涙した。
それは決して日常ではなかった。そのあとも邂逅も含めて、鋭い刺激を伴った非日常だった。

だからだったのだろうか。

「何時も通り」登校しているのに、彼女の身体から痺れに似た昂揚が引かないのは。
目を閉じれば蘇る。視界を埋め尽くす青色がフラッシュバックし、ざ、ざ、と穏やかな波の音が鳴り響く。
加えて――先ほど出会った男性の存在感もまた、彼女の中で靄のように残っていた。

落ち着かない、のかもしれない。
感動と恐怖と困惑、そして疎外感がないまぜになった心地だった。

地に足付いて歩いている。
目的も、思考も、信念も、願いも、何一つぶれてはいない。
だというのに、一歩一歩に重みが感じられない。
立体起動の鋭い三次元運動とは対極の、ふわふわとした感覚。
雲の上を歩いているよう、とでもいうべきか。

現実味がないのかもしれない。
自分の周りで広がる日常の姿を見渡して、彼女は思った。

照り返すアスファルトは鈍く黒く光っていた。舗装された道を学生たちは当たり前のように歩いている。
彼らはみな足下を見ていない。隣りの友人だったりあるいは空だったりを見て、ある者は笑い、またある者は寝むそうに眼をこすっている。
それでも彼らは迷うことなく歩いて行く。流れに従うまま、堂々と何の恐れもなく。

話し声が聞こえた。そのどれも意味もなく、重みもない、雑多なものだ……

その流れにあって彼女は取り残された心地だった。
目の前を通り過ぎている筈の彼らとの間には、しかし、長い長い空白が隔たっている。そんな気がしてならない。
手を伸ばせば触れることが出来る筈――いや本来ならば自分もまた、彼らと同じ流れの中にいるべきなのだ。
校門へと、学園へと続く一つの支流。
自分もまたその一部の筈だ。
少なくともこの場では、仮初といえども自分はここにいる。
しかし、遠い。
距離がある気がした。

与えられた制服の襟元を正す。
何度も手を通した服装だ。最初は生地や構造に戸惑いはしたが、もう慣れた。
しかし、今日はこの服さえも妙な座りの悪さを感じる。
固さ、だろうか。しかしこれは緊張とはまた違う。

そんな彼女――ミカサを現実へと引き戻したのは、悲鳴だった。
朝の学校、どこからか聞こえてきた悲鳴。重なる声。女性のものだ。
瞬間、ミカサはその身を硬くする。
すっ、と小さく息を吸う。制服に忍ばせたナイフを咄嗟に握りしめ、迅速かつ静かに辺りを警戒した。

しかし、辺りの様子は変っていなかった。
学生たちは何ら変った様子はない。当たり前のように笑い、当たり前のように歩いている。
彼らはミカサを置いていった。
急に立ち止まった彼女に振り返る様子もなく、学校へと流れ込んでいく。
取り残された。
そんな表現が今の状況には似合う気がした。

異変があれば即座に思考を切り替え戦場に適応する。
それはあまりにも当たり前のことだった。その当たり前は、しかしここでは、自分の周り数メートルの間でしか通用していなかった。
それはある意味当然のことだろう。自分にとってここは戦場だが、しかし彼らにとっては違う。

『……危険、ではないようだ』

背後からランサーの声が聞こえた。
確かに別に異変は感じられない。目の前では「平和」な日常が盤石の姿勢で横たわっている。


781 : days/only illusion ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:04:51 P9lWGdoA0

ミカサは無言で悲鳴の聞こえた方を確認する。そこには声を荒げる女子生徒らがいた。
顔に不満を滲ませてはいるものの、そこに切迫したものはない。ただその視線の先には走り去る一人の男が居た。

着ている服が違うな、とミカサは思った。
一般生徒用の黄土色のものとも、一部生徒の灰色のものとも違う、真っ黒な服だ。
学園内にあって一人浮いている。
端的にいえば、怪しい。

とはいえ――ランサーの言う通り別に危険な状況ではなさそうだった。
何があったのかは知らないが、女子生徒たちにも切迫したものは感じられない。
あの男の方も怪しいが、マスターであると決まった訳ではない。マスターであるならば何故あんな目立つ行動を取る意味も分からない。

ミカサは息を吐いた。
何にせよ、今日もまた平穏に「登校」できそうだった。
彼女自身全く学校というものを知らない訳ではない。実戦に耐えうるレベルまで若者を指導する場所、という意味では訓練兵団も学校といえば学校だ。
理解はできている。しかし、この月海原学園の雰囲気には僅かに戸惑いを覚える。
いや、この方舟の中にあって最初当惑しなかったものなどないと言っていいのだが、この学校は特に難しかった。
恐らく人が居るからだろう。全く違う人が、遠く決して交わらない筈のところにいた人が、ここには沢山いる。

『マスター』

ランサー、セルべリアが呼びかけてくる。
分かっている、と目で示す。あまり呆と立ち止まっている訳にはいかない。
序盤戦においてマスターとして露見することは絶対に避けねばならない。その為にもこの場所にも適応する。
難しくはないだろう。知識は与えられているし、目立つ行動さえ避ければ溶け込むことはできる。
月海原学園中等部三年在籍。ドイツからの転校生として、それらしく振舞う。それが昼の課題だった。

とはいえ――それも何時まで続くか分からない。
明日か、明後日か、もしかしたら次の瞬間にもこの学園が戦場と化すかもしれない。
故に警戒は忘れない。
目立つ為そう多く武装は持ちこめないが、それでも制服に幾つかナイフを潜ませている。
そして何よりランサーが居る。可能な限り霊体化させてその存在を秘匿するつもりだが、有事の際は躊躇わない。
一瞬の迷いは絶対の死を招く。そのことを彼女は知っていた。

だから学生たちの流れに紛れながら、ミカサは校門をくぐった。
その先に広がっているのは何時も通りの日常であり、戦場だ。
先の昂揚は既に収まっている。
一度意識を切り替えたことで逆に落ち着きが返ってきた。
この世界は遠いし、戸惑うことばかりで、そして――美しい。
だからこそ、彼女はこの道を歩くのだ。

そうして高まる集中の下、ミカサは見た。
大きく開け放たれた校門。その一角に潜んだ違和感を。

小さな小さな影だった。
ともすれば見逃してしまいそうな小ささで、しかし目を凝らせばはっきりとした存在感を持っている。

それは虫だった。
学園に打ちこまれた――毒蟲。







782 : days/only illusion ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:05:34 P9lWGdoA0

「さて」

その小屋は捨てられたようなものだった。
元より貧相なものでしかなかっただろうが放置されたことで更に寂れ、床は塵が散乱し、立てつけは軋み、ぬめりと湿った空気は黴が生えているよう。
備え付けられた電球は黒澄み時節ばちばち、とか細い悲鳴を上げた。

人々から、そして街から忘れ去られた場所なのだろう。
あとは朽ちていくのみ。そこに滅びの美学などありはしない。ただ薄汚れ腐っていくだけだ。
だが、そんな空気をキャスター、シアン・シンジョーネは拒んではいなかった。
好悪を別にしても自分のような存在には似合っている、と思っていた。

近くで桜は眠りを取っている。
疲れていたのだろう。黴の生えた布団の寝心地など決してよくはないだろうが、すぅ、すぅ、と上下する胸は存外穏やかなものだった。
もしかすると――彼女もまたこの小屋を気に入っているのかもしれない。彼女もまた薄汚い暗闇に浸かって生きてきた。

「私は、私の仕事をしよう」

言いつつシアンを魔力の糸を辿っていた。
地下を走るマナラインに手を加え、この小屋を中心に渦巻くよう操作する。
作業自体はさほど難しいものではない。より代替的な拠点を構えるのならば話は別だが、この程度ならば数時間で終わるだろう。
進捗はまずまずといったところだった。キャスターとしての陣地作成スキルを活用し、この暗闇に魔力の糸をするすると通していく。

作業をしながら、シアンは己が得た情報を精査していく。
情報――それはかねてより「仕込み」をしていた月海原学園に関するものだ。

月海原学園はこの街の西部に位置する巨大な学園である。
規模は非常に大きく、初等部、中等部、高等部まで。知識としてしか学校を知らないシアンであるが、それでも大きな学校であることは分かった。
最も在籍人数が多いのは高等部で、次いで中等部。その在籍人数的にこの街に住む若者の大半はこの学校に通っていると言ってもいいだろう。
学力レベルも並、だがその割には海外からの留学生と思しき人間も多い。
部活動に目立ったものはないが、そこそこ大きな弓道場があるのが特徴か。その辺りは桜の知る穂群原学園と共通する。

桜と共に見聞した学園名簿だが、いわゆる「おかしな名前」探しはあまり効果的でないことが分かってきた。
理由は単純。多過ぎるからだ。転校生や奇妙な名前の生徒や教師は一人や二人ではなかった。学園の規模が大きいこともあって全てをマークするのは困難だった。
この辺りは予選に際して多くの若者をここに割り振った為だろうと予想できる。となると桜と話したジナコ・カリギリの名前もあまり怪しいとはいえなくなってきた。
マスターである可能性は高いが、予選に敗れたものかもしれない。ならば扱いはNPCと同じだ。

やはりそう簡単に「ずる」はできないか。
シアンは特に残念に思うことなく、次に打ち込んだ策について勘案する。

校門に隠した二匹の蟲。
あれによって得られた情報もまた芳しくなかった。
桜にも語ったことだが、露骨な対応をする者は登校する生徒の数と比して少ない。
加えて学園の規模も問題だ。おかしな名前の生徒の数が多いため得られる情報もまた過多といっていい。
蟲による監視はできても判断を下すのは自分だ。デジタルに処理することができない以上、どうしても時間がかからざるを得ない。
故に難航していた。情報を一つ一つ確認するのは、さしもの彼女といえど時間がかかった。
とはいえ――それも終わった。シアンは蟲が送ってきた情報を今しがた見聞し終えていた。
結果、最初に思いのほか成果が得られていた。


783 : days/only illusion ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:06:20 P9lWGdoA0

その中で確認できた反応は――四つ。

一人は眼鏡をした黒い髪の少女。制服からして中等部。
おさげを揺らす気の弱そうな彼女を蟲は捉えていた。
彼女は別に露骨な態度を取った訳ではない。だが結果的に彼女が最も分かりやすく反応してくれた。
校門を通る直前、彼女の身体を中心にして魔力の反応があったのだ。
一瞬、ほんの僅かな間であったが何らかの魔術が彼女の身体に作用し、気が付けば彼女は「転んで」いた。

その一瞬を潜んでいた蟲が感知した。
恐らく一方の、目立つように仕掛けた蟲の方を警戒したのだろう。
蟲が感知用なのか攻撃用なのか看破できなかった為、安全を期す為校門を通る瞬間に何らかの魔術を行使し――もう一方の蟲に察知された。
彼女にしてみれば慎重を期したのだろうが、度を越した慎重さは迂闊な行動に繋がる。
何もしなければシアンは彼女を見逃していただろう。ごくごく普通の少女である彼女は、最初から監視の対象に入っていなかった。
もしあれがサーヴァントがマスターを庇ってのものだとすれば、それはマスターをあまりにも信用していない。

「片方に気付いて過剰な対応――評価は『下』か」

評価を下したシアンは次の反応を思い起こす。
二人目は紫髪の少女。その容姿からこの街において異国の者と思われる。
彼女は校門を通る際、片方の蟲に注視している様子を見せた。
分かりやすく仕掛けた方には気付いたようだった。とはいえそれも一瞬のこと。特に何もせず彼女は校門を通っていった。
その反応には迷いはなく、確かな力量と経験を感じさせた。

そして、恐らくあれは――シオン・エルトナム・アトラシア、だ。
初期に桜が指摘した名前だけあって簡単な特徴などは入手していた。その特徴に彼女はことごとく合致している。
確認は必要だが、まず間違いない。

三人目はまたしても異国の少女。黒い髪をした西欧系の顔立ちをした中等部の女子生徒だ。
目立つよう仕掛けた蟲を見つけ、そして明らかに雰囲気が変った。
例えるならば鋭いナイフのように、すっと集中を高めたのだった。
しかし具体的に動きを見せた訳ではない。見つけたのち、過ぎに無言でその場を去っている。
ただあの反応は明らかに設定された「現代」の少女のそれではない。シアンの知る時代ように世界に危険がまだ溢れ――中でも彼女は戦いに身を置いていた人間であることが推し量れた。

「片方に気付いたがその場は無視――評価は『中』」

彼女らは佇まいには隙はなかった。こうして補足できたのも、彼女らがこの場にあって異国の存在という分かりやすい特徴があったからだろう。

そして、四人目。
最後の一人は教員だった。
額の広い金髪の教師、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト――教師は数が少ないため照合が簡単だ――はある意味最も警戒せねばならないだろう。
彼は全学園関係者中唯一もう一方の「本命」の蟲に気が付いた。
そして気が付いた上で、それらをこちらに喧伝してきた。

「両方に気付く――評価は『上』。だが……」

気付いた上で、それをこちらにわざわざ教えてくる。
それは魔術師としての確かな実力と高い自尊心を感じさせた。
かかってこい、とこちらに言ってきているのだ。それはあまりにも好戦的だが、同時にそれがなせるだけの力もまだ示している。
好戦的かつプライドの高い実力者。力量は底知れない。最も警戒すべき存在だ。

蟲が感知できたのはその四人だった。
やはり多い、とシアンは判断する。この時点で穂群原学園の三人の魔術師を越えている。
加えて何故か違った制服で登校してくる男など、怪しいは他にもいた。恐らくまだマスターが潜んでいる。

情報をまとめ終わったところで、シアンは思考を巡らせる。
手にしたこの情報をどう扱うべきか。この確かなアドバンテージをを生かさない手はない。

「まず警戒だな。『上』の者とは利用はおろか交渉も難しいだろう」

こちらの仕掛けた罠を看破した上で、わざわざそれを突き付けてくるようなマスターだ。
力に自信を持っている。底が見えない以上、不用意な接触は避けるべきだろう。
できれば策を弄し罠にかけるなり徒党を組むなりして叩きたい。


784 : days/only illusion ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:06:52 P9lWGdoA0

「次に『中』と『下』か……」

脳裏に浮かぶ三人の少女。
協力を求めるならば『中』の異国の少女たちに、利用を求めるならば『下』の眼鏡の少女に、それぞれ接触するべきだ。
力量としては恐らく『下』の少女が一番低い。だからこそ協力も不可能ではないだろうが、慎重過ぎる、あるいはマスターにも信用を置かないスタンスは組むに当たって厄介だ。
直接接触するのではなく、間接的に誘導することを狙うか。
『中』の二人はどちらも隙がない。魔術師として、あるいは戦士としての経験を感じた。
中でも紫髪のマスターは侮れない。見せた反応も本当に一瞬だった。
力量では彼女の方が上だろう。だがシアンは黒髪の少女の方に興味を持った。

「あれは、強いな」

力、ではない。
願いが、だ。
ある種正道を行く者の、揺るぎない意志を感じた。
統率された意志は時に最も強き刃となる。シアンはそのことを身を以て知っていた。

「……ともかく、一先ずは桜が目覚めるのを待つか」

シアンは眠りに耽る桜を見下ろし言った。
どんな選択を取るにせよ、勝手な行動をする気はない。
どうせ陣地作成が終わるまでは動けない。それが終わるまでは桜が起こすこともないだろう。

これが不自然な欠席とならないよう、桜はここ数日病弱な生徒を演じていた。
何よりこの人数だ。ちゃんと届け出を出せば一日休んだところで怪しまれはしないだろう。

故にシアンは待つ。
薄暗い闇の中に陣地を据え、次なる展開へ向けて息を潜めて待ち続ける……


【C-1/山小屋/1日目 午前】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]健康、睡眠
[令呪]残り三角
[装備]学生服
[道具]懐中電灯、筆記用具、メモ用紙など各種小物
[所持金]持ち出せる範囲内での全財産(現金、カード問わず)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。
1.キャスターに任せる。NPCの魂食いに抵抗はない。
2.直接的な戦いでないのならばキャスターを手伝う。
3.キャスターの誠意には、ある程度答えたいと思っている。
[備考]
※間桐家の財産が彼女の所持金として再現されているかは不明です。
※キャスターから強い聖杯への執着と、目的のために手段を選ばない覚悟を感じています。
 そして、その為に桜に誠意を尽くそうとしていることも理解しました。
 その上で、大切な人について、キャスターにどの程度話すか、もしくは話さないかを検討中です。子細は次の書き手に任せます。
※学校を休んでいますが、一応学校へ連絡しています。

【キャスター(シアン・シンジョーネ)@パワプロクンポケット12】
[状態]健康
[装備]学生服
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マナラインの掌握及び宝具の完成。
1.工房の完成。
2.学園に関する情報収集。
3.桜に対して誠意ある行動を取り、優勝の妨げにならないよう信頼関係を築く。
4.食料などの確保を行う。
[備考]
※工房をC-1に作成しています。
※学園の入り口にはシアンの蟲が隠れており、名簿を見てマスターの可能性があると判断した人物の動向を監視しています。
 日本人らしくない名前の人物に対しては特に注意しています。
 ただし距離の関係から虫に精密な動作はさせる事はできません。
→結果としてほむら、ミカサ、シオン、ケイネスの情報を得ました。
※『方舟』の『行き止まり』を確認しました。


785 : days/only illusion ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:07:10 P9lWGdoA0

【C-3/月海原学園/一日目 午前】

【ミカサ・アッカーマン@進撃の巨人】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:無し
[道具]:シャアのハンカチ 身体に仕込んだナイフ
    (以降自宅)ヴァルキュリアの槍、立体起動装置、スナップブレード、予備のガスボンベ(複数)
[所持金]:普通の学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:いかなる方法を使っても願いを叶える。
1.月海原学園で日常をこなす。
2.シャアに対する動揺。調査をしたい。
[備考]
※シャア・アズナブルをマスターであると認識しました。
※中等部に在籍しています。
※校門の蟲の一方に気付きました。

【ランサー(セルベリア・ブレス)@戦場のヴァルキュリア】
[状態]:健康
[装備]:Ruhm
[道具]:ヴァルキュリアの盾
[思考・状況]
基本行動方針:『物』としてマスターに扱われる。
1.ミカサ・アッカーマンの護衛。
[備考]
無し。

【真玉橋孝一@健全ロボ ダイミダラー】
[状態]健康
[令呪]残り2画
[装備]学生服(月海原学園の制服に手を加えたもの、旧制服に酷似しているらしい)
[道具]学生鞄、エロ本等のエロ目的のもの
[所持金]通学に困らない程度(仕送りによる生計)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝狙い
1.今のところは普通に通学する。 でもかったるい。
2.ウェイバーたちと話し合ってみる。
[備考]
※バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。

【セイバー(神裂火織)@とある魔術の禁書目録】
[状態]健康 
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:優勝狙い
0.はぁ……
1.マスター(考一)の指示に従い行動する
2.バーサーカー(デッドプール)に関してはあまり信用しない
[備考]
※バーサーカー(デッドプール)とそのマスター・ウェイバーを把握しました。
※Hi-ERo粒子により補充された魔力は消費しました。


786 : days/only illusion ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:07:20 P9lWGdoA0



そして本鈴が鳴り響き、月海原学園は新たな一日を迎えた。
それぞれのクラスで児童や生徒たちが席につく。教師たちや事務員たちも己の職務に従事し始めた。

今日この日、何時ものように学園へとやってきたマスターは七人。

高等部教師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは仮初の主の言葉に従い、ぎこちなくも教師を行っている。
高等部三年生の本多正純は今までにない生活に戸惑いつつも適応し、己のサーヴァントと連絡を取りつつも生活に適応している。
高等部n年生のシオン・エルトナム・アトラシアはキャスターの蟲に気付き、そして担任のケイネスと視線を交わらせた。
高等部二年生の真玉橋孝一は何も考えず、何も偽らず、己が欲望に忠実であろうとした。
高等部一年生の武智乙哉は明るく笑い、辺りに善意を振りまきながら、その鋏を懐に忍ばせている。
中等部三年生のミカサ・アッカーマンは世界への動揺を強い意志で落ち着かせ学園へと赴いた。
中等部二年生の暁美ほむらはもう一人の自分に手を引かれ「友達」を作れと囁かれた。

そして、学園に潜むサーヴァントはセイバー、アーチャー、ランサー、キャスター二騎……の五騎。
真玉橋孝一とシオン、ミカサ、暁美ほむらは自らのサーヴァントを連れ添って登校した。
教師ケイネスのキャスター、ヴォルデモートは生徒たちを洗脳し狡猾な罠を巡らしている。

それだけではない。この学園を取り巻く外部にも、影はある。
間桐桜のキャスター、シアン・シンジョーネは外部に拠点を終え学園を狙っている。
衛宮切嗣は搬入業者に暗示を掛け学園に忍び込ませようとした。
そして、購買部店員言峰綺礼は与えられた役割に従事する為、購買の搬入へと向かっていた。

こうして学園を渦巻く因縁は重なっていく。
表面上は何時もと何も変わらなくとも、そこは既に戦場だった。

それでも鐘はなる。
何時もと変らぬ調子、何時もの変わらぬ音を鈍く響かせる。
始まりの鐘が。


787 : ◆Ee.E0P6Y2U :2014/08/22(金) 12:07:36 P9lWGdoA0
投下終了です。


788 : 名無しさん :2014/08/22(金) 12:29:20 NhuJZ.L60
投下乙です
いよいよ学校が戦場と化すか..!?
そして「購買部店員言峰綺礼」の存在感...w


789 : 名無しさん :2014/08/22(金) 12:35:38 30VZLZBY0
投下乙です!
校門張り付きは一段落か
平和な世界を遠く、それでいて美しく感じるミカサはやっぱいいな
孝一はある意味その平和な世界の申し子というか、ペンギン帝国は迷惑止まりだったからな―w
最後の学校関係者一同まとめもありがたかったです


790 : 名無しさん :2014/08/22(金) 13:44:29 pr/fnfCUO
投下乙です。

こうして見ると、大学の方が平和に見えるから困る。
電子ドラッグと鏡子のせいで、廃人の巣窟と化してるのにw

ほむほむ組は、鱒鯖の相性が悪過ぎるな。
乙哉とシアンの両方に目をつけられてしまった。
鯖ほむが時を止める為の魔力に、鱒ほむの令呪が反応したのに気づかれたのかな?

反対に、エーテライトには気づかずか。
ジョセフの想像より、鈍感だったのかな。


791 : 名無しさん :2014/08/22(金) 15:00:45 s4wDouqYO
投下乙です
学園へ登校したマスターは七人。なら逆に、学園へ来なかったマスターは何人だろう
桜、白野、凜、美遊、あとは……
っていうか、言峰以外のFate出展キャラがみんなサボってるw


792 : 名無しさん :2014/08/22(金) 15:47:12 fhwkbQXs0
投下乙
学園とは学び舎だったはず
なのにこんなにマスターやサーヴァントが多いとか
これからの学園がどうなってしまうのか、私気になります!

>>790
エーテライトに気付かなかったという事で閃いたが
流石にこれらの組の予約は放送後だな


793 : 名無しさん :2014/08/22(金) 16:19:51 OWU8zw4o0
投下乙
ケイネス先生「狭間くんは今日も欠席です」


794 : 名無しさん :2014/08/22(金) 16:27:56 s4wDouqYO
>>793
あ、ケイネス先生忘れてた
なら、学生組がサボってるのか


795 : 名無しさん :2014/08/22(金) 17:07:04 0zLrq1uQ0
まあエーテライトに気付いてたとしても、他に3人もマスター候補いるしな


796 : 名無しさん :2014/08/22(金) 19:38:24 NhuJZ.L60
>>791
その中には早速(事情はあれど)異性間で不純なアレやってる二人もいたりするという...


797 : 名無しさん :2014/08/22(金) 19:41:46 chjWf34I0
学校サボって幼女とみだらな行為してるザビ男さん…


798 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/23(土) 14:30:46 d0rbj6.60
投下乙です。
学園で何か発生するのは放送後くらいでしょうか
自分の予約を投下します。


799 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/23(土) 14:31:38 d0rbj6.60
すっかり掃除が終わった頃には朝と呼ぶには遅い時間帯となっていた。
聖白蓮は寺を僧侶たちにまかせ、デパートへ向かっていた。
これは情報収集の一環でもある。
人々が賑わう交差点、林のようにそびえ立つビルの数。
こうして見ると彼女にとって新鮮なものばかりであった。
これらは自分のいた世界にはないものだから、目を奪われる。

「ところでセイバー。あなたはその姿でよろしいのですか?
 ついでに服を買ってあげましょう」

しかし、霊体化しているセイバーの念話による返事は否。
少し唸ってから白蓮は言う。

「もしここで実体化すれば目立ってしまいますよ?
 装備を外したくない?…ふむ、ルーラーの監視もありますから
 人々を巻き込んだ戦闘はない、と……それならば良いのですが」

白蓮がデパートの中に入る。
ずらりと並ぶ品々。
彼女はまず本屋へ立ち寄った。
小説から雑誌、文献など種類は豊富。
白蓮の足は自然と宗教関連のエリアに向かっている。

「色々あるわね……とくに異国の宗教はどのようなものかしら?」

これは聖杯戦争には無縁であるし、知識を得たところで彼女の価値観に影響することもない。
ただの興味本位なのだ。
彼女が開いた本は『神の子』の歩みが綴られ
やがて人々の手によって処され、復活を遂げる奇跡の物語だった。
彼は最後まで神を信じ、神の元へ誘われた。

『神の子』は最後の晩餐を開いた。
彼ら、弟子たちにパンと聖杯に注がれたワインを与える。

聖杯

ふと白蓮はその単語と聖杯戦争を重ねた。
『聖杯』とはここで語られている代物なのだろうか?
きっと神に纏わる聖遺物であることは確かなはず。
一体、どのような神の聖遺物か。
白蓮はそれに関心を惹かれる。
デパートに11時を知らせる放送が流れたことにより、白蓮は顔をあげた。

「あ、こんなに時間が経っていたなんて。他の場所も立ち寄りましょう」


800 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/23(土) 14:33:21 d0rbj6.60
本をまだ読み終えていない為、それを購入し、本屋を後にした。
白蓮は次の目的地へ足を運んだ。
目につけたのは家電量販売店。
つねにテレビが映し出され、近辺のニュースの話題を取り上げられている。

寺にテレビはない。
そして幻想郷にも見られないものだ。
関心の目を輝かせてそれらを視聴していると、次のようなものが目についた。
廃ビルの倒壊
倉庫の火災
猟奇殺人事件
商店街の盗難事件
何かと物騒な事件の目白押しである。

「なるほど…これらもサーヴァントと関係があると見て良いのかもしれません……」
『速報です。B-10地区において暴行事件が発生したとの情報です』

少し慌てふためいたニュースキャスターが報じた内容は女性による暴行事件。
現在も犯人は捕まっておらず、犯行は場所を変えて続けられているとのこと。
卑劣な争いはどこにでもある。
生中継ということで最新の映像がテレビ画面には映されていた。
目撃者が撮影したそれには、一人の女性が鉄パイプを振り回し暴行を行っている。
撮影に気づいたのか、女性は手の甲にある痣――令呪を見せびらかすかのように手を振った。

『ども!ジナコさんッス!!
 ボク、これからもおぉっと悪いことしちゃいまぁーす!
 どういうこと?色んなこと!知りたい?みぃーんな知ってるッスよぉぉおぉ?
 この辺で起きてる事件ってぇ、みぃ〜んなボクの仕業ッスからぁ!!』
「…」
『うふふふ!あ!そぉだぁ!!
 アーカードの旦那ぁーwwwwww旦那ぁ、見てるぅ?
 素敵でしょぉ?これwwww真っ赤っ赤な血ぃ、もっと見たいでしょぉ???
 あははははーーー!!!もぉお誰も助かることなんてwwでwきwなwいwwwwww
 みぃーんなwwwお前らのせいだよぉおおぉwwwwわっかるかなぁ〜wwwwwwww』

白蓮の周囲にいた通りすがりのNPCたちも茫然としていた。
その一部からは
「警察は何やっているかしら」
「早く捕まえろっての」
「マジあの女いかれてる」
といった誹謗中傷が飛び交う。
白蓮は思わず溜息をついてから、その場を立ち去る。
それから離れた場所でセイバーに語りかけた。


801 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/23(土) 14:34:59 d0rbj6.60
「あのジナコという方はマスターのようですね…彼女にお話を聞きたいものです」
『            』
「危険?ですが彼女にも事情があるはず…このような事を起こす事情が。
 ……あぁ、そういえば誰かを呼んでいましたね。
 えっと…そうそう、アーカードの旦那さん。彼女のサーヴァントかもしれません」
『           』
「話が通じる相手ではないですって?
 決めつけるのは駄目です。どのような者であれ平等にならなくてはなりません。
 たとえ悪き心を持つ者であっても善人と同じように接するべきです」
『……』
「ジナコさんか…アーカードの旦那さんとお話してみるのは悪い事ではありません」

白蓮は何かとマイペースであった。
あっと彼女が思い出す。

「そういえば…確か、みんな自分たちのせいだとか。助かることができないとか……
 どういう意味なのかしら?気になりますね……」
『        』
「挑発?いいえ、違うと思います。アレは私たちに向けたのではなく
 ここにいる全ての方々に向けた発言ではないかと…思い過ごしかしら?」
『          』
「よろしいですよ。あなたが思う事を申しても」
『……』

きっと彼女の決意は揺るぎない。
セイバーもそれを否定するところまでは足を踏み入れなかった。
あの狂気に満ちた女が善であって、悪であっても、たとえ何であっても。

「一先ず、彼女はルーラーが制してくれているはずです。
 セイバー。私たちはお昼にしましょうか」

白蓮は事前に寺で用意した弁当を手に見晴らしの良い適当な場所を探す。
やって来たのは海浜公園(月海原内で最大の公園)である。
海も近いことからか、わずかに潮風のようなものが吹きつけていた。
だが、まだ昼食を取るのは早い時間帯だ。
彼女は本屋で購入した本を開く。先ほど目を通していた聖書だ。


802 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/23(土) 14:36:40 d0rbj6.60



――なぜ、この香油を売って貧しい人々に施さなかったのか

彼がこう言ったのは貧しい人間への同情ではなく
彼は盗人で、帳簿を隠蔽していたからだ。

――あの男をあなたたちに引き渡せば、幾らくれますか

彼は銀貨三十枚と引き換えに命を売った。
彼は『神の子』を捕らえる際、祭司長たちに合図を決めていた。

――わたしが接吻するのが、その人だ。捕まえて、逃がさないように連れて行け



救いには様々な形がある。
白蓮の救いにより、例のジナコが救われるかもしれない。

しかし……
彼女が対話を望む者はかつて神を裏切り
私利私欲に走り、幸災楽禍を望んだ悪魔であった。
きっと彼女の言葉に応じるどころか
銀貨三十枚を神殿へ投げ込まず、荒縄で首を吊る事すらしないだろう。

そのような悪魔にも
聖白蓮は救いを差し伸べるのか――……




【B-7/海浜公園/一日目 午前】

【聖白蓮@東方Project】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]魔人経巻、独鈷
[道具]聖書 手作りの昼食
[所持金] 富豪並(ただし本人の生活は質素)
[思考・状況]
基本行動方針:人も妖怪も平等に生きられる世界の実現。
1.昼食を取る。
2.来る者は拒まず。まずは話し合いで相互の理解を。ただし戦う時は>ガンガンいこうぜ。
3.言峰神父とは、また話がしたい。
4.ジナコ(カッツェ)の言葉が気になる。
5.聖杯にどのような神が関係しているのか興味がある。
[備考]
•設定された役割は『命蓮寺の住職』。
•セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。
•言峰陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。
•一日目・未明に発生した事件を把握しました。
•ジナコがマスター、アーカードはそのサーヴァントであると判断しています。

【セイバー(ロト)@DRAGON QUESTⅢ 〜そして伝説へ〜】
[状態]健康 霊体化
[装備]王者の剣(ソード・オブ・ロト)
[道具]寺院内で物色した品(エッチな本他)
[思考・状況]
基本行動方針:永劫に続く“勇者と魔王”の物語を終結させる。
1.>白蓮の指示に従う。戦う時は>ガンガンいこうぜ。
2.>「勇者であり魔王である者」のセイバー(オルステッド)に強い興味。
3.>言峰綺礼には若干の警戒。
4.>ジナコ(カッツェ)は対話可能な相手ではないと警戒。
[備考]
•命蓮寺内の棚や壺をつい物色してなんらかの品を入手しています。
 怪しい場所を見ると衝動的に手が出てしまうようだ。
•全ての勇者の始祖としての出自から、オルステッドの正体をほぼ把握しました。

[その他の情報]
ジナコ(カッツェ)に関する映像がテレビ、ネット上に出回っています。


803 : ◆IbPU6nWySo :2014/08/23(土) 14:37:54 d0rbj6.60
投下終了です。タイトルは
Devil Flamingo
でお願いします。


804 : 名無しさん :2014/08/23(土) 14:43:41 TwRoqib20

マイペースなひじりんかわいい!
幻想郷って神社も寺もあって吸血鬼や聖人もいるけど
教会とかシスターさんだけはいないんだよね
キリスト教関連とだけは無縁の場所だから、聖書にふれるのも始めてだろうし新鮮に映る


805 : 名無しさん :2014/08/23(土) 14:47:59 ZQiJv3dc0
ジナコさん自分の知らないところでどんどん悪評ばらまかれてるな



806 : 名無しさん :2014/08/23(土) 14:53:01 LuySwzNs0
投下乙です
ドンドン酷い状況になっている偽ジナコさん周辺...
温厚なひじりんはまだいいとしてこれに触発されたマスターやNPCが出てくるとヤバそうだ


807 : 名無しさん :2014/08/23(土) 15:21:51 Tnnk9yvI0
外の世界に目を輝かせるひじりん可愛い
できれば真ジナコさんの方を救ってあげてほしいものだが……


808 : ◆holyBRftF6 :2014/08/23(土) 16:58:56 Uryrwly20
投下乙です。
さりげなく旦那も知らぬところで被害が……

これより自分の分を投下します。


809 : ルーラーのB−4調査報告:衝撃の―――― ◆holyBRftF6 :2014/08/23(土) 16:59:58 Uryrwly20

 穏やかな風が、海水を撫でるように流れていく。
 実体化しているルーラーの衣服――当然ながら、人前で実体化しても問題ないようなもの――もまた、穏やかにはためいていた。

「……正直、食事の申し出があって助かりました。
 あのままうろうろしていても、答えは出そうにありませんでしたし」

 その呟きもまた風と共に消え。
 ただ彼女の頭にある情報が――『啓示』だけが残った。

 ルーラー……ジャンヌ・ダルクは『啓示』のスキルを持つ。これは単純に言えば目的のための方法を理解するものだ。
 令呪を受けたハサンの攻撃に反応できたのもこのスキルに拠る所が大きい。索敵能力と組み合わせれば、数キロ先にいるサーヴァントがルーラーに抱いている殺意を感知する事さえできる。
 そして、このスキルに限らずルーラーの能力についてはムーンセルから厳重な隠蔽が成されている。各サーヴァントやマスターは管理者の存在は知っていても、それがどのような特権を持ち合わせているか初期段階では把握していないのだ。

 当然ながらルーラーの目的は聖杯戦争の正常な運営。故に聖杯戦争のルールを覆すような出来事があれば、それを感知するだろう――例えば、数百人もNPCの殺害を行うような。
 大魔王バーンによるマンション住人250人の魂食い。まさしく度を過ぎた無差別殺戮と呼ぶべき事例に、ルーラーの啓示スキルが反応しないはずはなかった。彼女は即座にマンションへ向かい状況を確認したが、しかし今のところ足立達とは接触もせず明確なペナルティも与えていない。
 これはルーラーの『啓示』が根拠の無い大ざっぱな方法論でしかない事に起因する。
 重大なルール違反がなされている、だからあのマンションへと向かわなくてはならない……それは分かる。だが分かるのはあくまで「方法」だ。因果関係などは完全に省略されており、ルール違反の根拠は知らされない。
 審判を行うにはしっかりと証拠を抑えなくてはならない――少なくともジャンヌとしてはそう思っている――ため、自らの足で現場に赴く必要がある。
 だが今回の場合、NPCが殺された時点ではもう現場にNPCに化けたマネマネが存在するのだ。魂食いを行っているのは異空間に存在するバーンパレスであり、マンションはあくまで誘拐が行われた場所に過ぎない。そして、ルーラーにはモシャスを破るスキルはない。
 結局マンションのある地域を探索していたものの成果はなく、ルリに誘い出される形でその場を離れることとなったのだ。

「今度は住民の方に話を聞いてみるのもいいかもしれません。
 いい気分転換ができましたし、もう一度調査してみましょう」

 ルーラーは霊体化し、『啓示』にあった地域へと戻っていった。

 …………
 ………
 ……

「……さっぱり分かりません」

 数時間後、ベンチで頭を抱えるルーラーの姿が。今回も成果なしである。
 もちろんその悪戦苦闘ぶりは魂食いをしている方も把握済みだ。ゴロアの自信もこの光景を把握しているからというのが大きい。
 もっとも、実のところルーラーは犯人をほぼ特定できている。分からない、というのはあくまで因果関係の話だ。
 あの地域で重大なルール違反が行われている『啓示』がある。そして気配察知スキルと数時間の探索で、周辺に居を構えているサーヴァントが三人いることも分かっている。キャスター・大魔王バーンがよりにもよってマンションに陣取っている事も。
 だが、そこから進めることが出来ない。そもそも、具体的な犯行が分かっていないのだから。

 顔を上げたルーラーははぁ、とため息を吐いた。そのままカレンに念話を送る。
 彼女はルーラーのマスターではないが、同じ管理側として連絡を取り合う事が可能だ。考えても分からないのだから、他の誰かと相談してみるしかない。
 間の悪いことに深山町の方でも何か騒ぎがあったような情報が来ている。どの道一人では対応しきれない状況だった。


810 : ルーラーのB−4調査報告:衝撃の―――― ◆holyBRftF6 :2014/08/23(土) 17:01:30 Uryrwly20
すみません早速ミスに気付いたのでまるごと投下し直します。


 穏やかな風が、海水を撫でるように流れていく。
 実体化しているルーラーの衣服――当然ながら、人前で実体化しても問題ないようなもの――もまた、穏やかにはためいていた。

「……正直、食事の申し出があって助かりました。
 あのままうろうろしていても、答えは出そうにありませんでしたし」

 その呟きもまた風と共に消え。
 ただ彼女の頭にある情報が――『啓示』だけが残った。

 ルーラー……ジャンヌ・ダルクは『啓示』のスキルを持つ。これは単純に言えば目的のための方法を理解するものだ。
 令呪を受けたハサンの攻撃に反応できたのもこのスキルに拠る所が大きい。索敵能力と組み合わせれば、数キロ先にいるサーヴァントがルーラーに抱いている殺意を感知する事さえできる。
 そして、このスキルに限らずルーラーの能力についてはムーンセルから厳重な隠蔽が成されている。各サーヴァントやマスターは管理者の存在は知っていても、それがどのような特権を持ち合わせているか初期段階では把握していないのだ。

 当然ながらルーラーの目的は聖杯戦争の正常な運営。故に聖杯戦争のルールを覆すような出来事があれば、それを感知するだろう――例えば、数百人もNPCの殺害を行うような。
 大魔王バーンによるマンション住人250人の魂食い。まさしく度を過ぎた無差別殺戮と呼ぶべき事例に、ルーラーの啓示スキルが反応しないはずはなかった。彼女は即座にマンションへ向かい状況を確認したが、しかし今のところ足立達とは接触もせず明確なペナルティも与えていない。
 これはルーラーの『啓示』が根拠の無い大ざっぱな方法論でしかない事に起因する。
 重大なルール違反がなされている、だからあのマンションへと向かわなくてはならない……それは分かる。だが分かるのはあくまで「方法」だ。因果関係などは完全に省略されており、ルール違反の根拠は知らされない。
 審判を行うにはしっかりと証拠を抑えなくてはならない――少なくともジャンヌとしてはそう思っている――ため、自らの足で現場に赴く必要がある。
 だが今回の場合、NPCが殺された時点ではもう現場にNPCに化けたマネマネが存在するのだ。魂食いを行っているのは異空間に存在するバーンパレスであり、マンションはあくまで誘拐が行われた場所に過ぎない。そして、ルーラーにはモシャスを破るスキルはない。
 結局マンションのある地域を探索していたものの成果はなく、ルリに誘い出される形でその場を離れることとなったのだ。

「今度は住民の方に話を聞いてみるのもいいかもしれません。
 いい気分転換ができましたし、もう一度調査してみましょう」

 ルーラーは霊体化し、『啓示』にあった地域へと戻っていった。

 …………
 ………
 ……

「……さっぱり分かりません」

 数時間後、ベンチで頭を抱えるルーラーの姿が。今回も成果なしである。
 もちろんその悪戦苦闘ぶりは魂食いをしている方も把握済みだ。ゴロアの自信もこの光景を把握しているからというのが大きい。
 もっとも、実のところルーラーは犯人をほぼ特定できている。分からない、というのはあくまで因果関係の話だ。
 あの地域で重大なルール違反が行われている『啓示』がある。そして気配察知スキルと数時間の探索で、周辺に居を構えているサーヴァントが三人いることも分かっている。キャスター・大魔王バーンがよりにもよってマンションに陣取っている事も。
 だが、そこから進めることが出来ない。そもそも、具体的な犯行が分かっていないのだから。

 顔を上げたルーラーははぁ、とため息を吐いた。そのままカレンに念話を送る。
 彼女はルーラーのマスターではないが、同じ管理側として連絡を取り合う事が可能だ。考えても分からないのだから、他の誰かと相談してみるしかない。
 間の悪いことに新都の方でも何か騒ぎがあったような情報も来ている。どの道一人では対応しきれない状況だった。


811 : ルーラーのB−4調査報告:衝撃の―――― ◆holyBRftF6 :2014/08/23(土) 17:02:16 Uryrwly20

『カレンさん、今どこに?』
『私はバスの中です。
 これからマウント深山の中華飯店へ早めの昼食を食べに行くところですが』
『……日中に出歩いて身体は大丈夫なんですか?』
『? 何か?』
『その……貴女の体質では人が多い所は危ないように感じて』

 ルーラーの言葉は最もだ。
 人心には魔が刺すもの。そしてカレン・オルテンシアの身体は、そんな程度の魔にすら反応する。
 人が出歩く場に足を踏み入れるのは、自分から病気を貰いに行くようなものだ。
 実際、原型となった人物は日中はあまり外を出歩けない身だった。

『普通のNPCが相手なら、私の体は反応しませんから。
 NPCに反応するとすれば、そのNPCは何らかのエラーを起こしている可能性が高い。
 彼らに宿る魔というのは一種のバグでしょう? それが外的な要因にせよ内的な要因にせよ、霊障を受ける価値はあります』
『ですがマスターとサーヴァントは出揃い、活動を始めています』
『ならば尚更出歩くべきでしょう。彼らの動きを把握するに越したことはありません。
 聖杯戦争の管理が私達の役目。そのように再現されたのですから、その定めに従うだけです』

 だが、ルーラーの心配はカレンという存在に対して何の意味もない。
 そも原型となった人物からして、自分から病気を貰いに行くような行動で悪魔祓いを手伝っているのだ。聖杯戦争の円滑な運営というのがカレンの役割ならば、その定めに従うのみ。
 そして余人ならまだしもジャンヌ・ダルクにカレンを止める権利はない。彼女もまた、聖処女という役目に殉じたのだから。

『……愚問でした。
 わざわざ店に向かうということは、そこで何かあったんですか?』
『店に行くのは単なる趣味です。
 外を出歩きにくくなる前に、お気に入りのメニューを店の中で食べておきたいと思ったので』
『………………』

 返ってきた答えにルーラーは盛大にズッコケた。
 何とか立ち直って服の埃を払いつつ、相手に伝わらない呆れ顔で会話を結ぶ。

『ともかく貴女に相談したい事があるので、そちらに向かってもいいでしょうか?』
『えぇ、お構いなく』

 カレンの返答を受けて席を立つ。次の行き先は南……学校近くにある商店街だ。
 マスターに縛られない分、その行動範囲は通常のサーヴァントよりも遥かに広い。広いが、それでも街を何度も往復するのは少し面倒だというのが彼女の本音だった。

「マウント深山の中華飯店、中華飯店……あ、ここですね」

 幸いだったのは、その店を見つけるのは難しくなかったことだ。なにせ、この商店街に中華飯店は一つしかない。
 昼間だというのに窓を締め切っている店の様子に、ルーラーは思わず首を傾げた。「魔窟」という啓示が来たのは気のせいだろうか。

「何の気配も感じませんし、締め切られている以上は盗聴される危険もありませんし……安全、ですよね」

 何故か声が微妙に震えているのを自覚する。
 彼女自身もよく分からないが、なぜか気合を入れた足取りで「紅州宴歳館 泰山」という看板を掲げている店に足を踏み入れて。

 そして、その赤と黒を見た。

「はふ……? 来ましたかルーラー。時間があったので、先に食事を進めていました」

 なんか、カレンがマーボー食ってた。
 彼女が食べている麻婆豆腐を一言で形容するなら、赤と黒だ。ルーラーを焼いた炎すらバカらしくなるような赤だ。その中に混じる黒もまた、まるで大気を焦がした後の煤のようだ。
 仮にも皿に盛られているにも関わらずその麻婆豆腐が沸騰しているかのような様相を幻視する、させられる。見るだけで理解できるほどの辛さを頭が処理できず、熱に置き換えられて表現されているのだ。
 無意識のうちに武装するルーラーの様子を見て、カレンの手が止まる。同時に、二人の視線が交錯する。

「食べますか――――?」
「食べません――――!」


 ■ ■


812 : ルーラーのB−4調査報告:衝撃の―――― ◆holyBRftF6 :2014/08/23(土) 17:03:01 Uryrwly20

「そこまで分かっているのなら、なぜマンションにいるというキャスターにペナルティを加えないのかしら」

 話を聴き終わったカレンは開口一番、そう返答した。言うまでもないが激辛麻婆豆腐は完食済みである。
 私服姿のルーラーは渋い顔だ。

「ですから、はっきりと特定できたわけでは」
「待っていたら大変な事になる場合もあるでしょう。
 それとも主の『啓示』を信じられないということ? 聖女と呼ばれる身なのに」
「私は根拠もなく裁くような真似をしたくないだけです」
「そう言えばそうですね。
 証のない弾劾で汚名を被せられた貴女に言っていい言葉ではありませんでした」
「……謝っているように聞こえません。むしろ、更に挑発されたように聞こえます」

 さしものルーラーも憮然とした表情になる。
 生前について悔いはないが、それでもこういう形で揶揄されていい気はしない。
 失言に気付いたのか、カレンはしばし目を瞬かせて。

「いえ、心に思った感想を素直に言っただけですから。
 謝罪では無かったのは確かですが、挑発したつもりもありません。どうかお気になさらず」

 更に更にとんでもない事を言った。

「……悪意はないから気にしないで欲しい、という意味でしょうか?」
「ええ」
「それはそれで嫌です……」
 
 がっくりとうなだれるルーラー。カレン自身は本当に申し訳なさそうな態度で言っている辺り質が悪い。
 あの程度の罵倒は彼女の中ではデフォルトのようだ。
 このままの調子で続けると泥沼に嵌まりそうなので、ルーラーは話を戻すことにした。

「ともかく! あの周辺に陣取っているのは大魔王バーン、ニンジャスレイヤー、クーフーリンの三名です。
 大魔王バーンは魔物作成のスキルがありますし、ニンジャスレイヤーは邪悪存在であるナラク・ニンジャの魂を宝具として宿しています。
 クーフーリンは清純な英霊ですが、無辜の怪物スキルを持つエリザベート・バートリーと同行しているようでした。
 もしカレンさんがあの地域について調べた場合……その、反応する事で何かが分かるでしょうか?」
「気遣っているのなら、お構いなく。それが私の役目です」

 あんな会話をしても未だに心配そうな様子を見せるルーラーだが、カレンは何でもない事のように澄まし顔だ。
 実際、彼女にとっては何でもない事なのだろう。役目である以上、彼女にとってはただの『労働』である。
 ごく自然に流し、ごく自然に自分を連れて行った場合についての説明を続けていく。

「それにサーヴァント自身にせよ彼らのやっている事にせよ、私の体が反応するとは限りません。
 私の体質は霊媒――周囲に漂う霊質を感知して実体化させるもの。逆に言えば、霊媒で無ければ実体化させられない。
 聞く限りアサシンはそれこそ魔が憑いているようなものだし、反応すると思うけれど……
 キャスターの作る魔物については、どんな物を作っているか次第でしょうね。
 霊ならなんでも反応するというのであれば、そもそも今ここで貴女に反応しています」
「……成程。対サーヴァントや対マスターという点ではバラつきが大きいんですね」
「ええ。私が活躍できるのはむしろ、NPCの心に宿った魔を探ることかしら」

 ふむ、とルーラーは考えこむ。
 NPCを探る、というのは糸口になるかもしれない……そんな閃きが浮かんだ。
 NPCが絡む違反行為ならNPCのエラーを見つければそこから解明できるかもしれない、とルーラーの思考はその閃きについて理屈付ける。
 実際、理由こそ違うがNPCが怪しいというのは正しい着眼点だ。
 なにせバーンが陣取っているマンションの住人は今、まさしく魔が化けた存在とすり替えられているのだから。

 次は新都のケーキ屋で起こった騒ぎについて、知らないか聞いてみよう……
 そう思ったルーラーは口を開き。


813 : ルーラーのB−4調査報告:衝撃の―――― ◆holyBRftF6 :2014/08/23(土) 17:03:50 Uryrwly20
「アイ、マーボードーフおまたせアルー!」

 目の前に現れたちびっ子店長が、ごとんごとんと第二第三の麻婆豆腐を置く様に目を剥いた。

「あら、御代わりが来ました」
「………………」

 やはり澄ました顔でレンゲを取るカレン。
 この様子を見る限り、初めから御代わりを頼み込んでいたのは明白だ。
 ルーラーがなんとも言えない顔で見つめている事に気付いたカレン曰く。

「――――食べるのですか?」
「――――食べません。
 というか、通達は大丈夫なんですか!?」

 ルーラーは全力で拒否しつつ今後の予定について指摘した。
 霊体化して動けるルーラーと違って、カレンはあまりグズグズしていると十二時までに教会へ辿り着けない。
 それでもカレンは動じない。

「通達はそれほど手間が掛からないもの。
 最悪、私達が教会にいなくても問題無かったはずです」
「だからって、一度目から手を抜くというつもりというのはどうなんでしょう……」
「いざとなればリターンクリスタルを使います。大丈夫でしょう」
「…………」

 相変わらずの澄まし顔で言うカレンに、いい加減ルーラーは頭が痛くなってきた。
 確かに教会に何かあった時のため、管理者には専用のリターンクリスタルが特別に支給されてはいる。
 しかし、今はどう考えてもいざという時ではない。職権濫用である。

「――――はむっ、はふっ」

 そしてルーラーが黙り込んだ隙にレンゲが動き始める。
 止まったら死ぬと言わんばかりの様子で手と口を動かす様子はまるで稲光に照らされたマグロのごとし。
 美味しそうにでもなければ不味そうにでもなくただ食べる。
 そんな表現が相応しい様子に、ルーラーはこの麻婆豆腐に対して逆に興味が湧いてきて。

「食べて――――くれるのですか?」
「……むっ」

 それを見て取ったカレンが、皿を見下ろしたまま上目遣いで問う。
 興味が湧いていても、食べるとなるとやはり怖い。なにせ赤い。そして黒い。記憶にある最期の炎すら汚染されそうな威圧感を感じる。
 ためらいがちに指をくるくると回すルーラーに対して、カレンは笑顔で告げた。

「ちょうどいい辛さですが。
 それに、早く食べ終わればそれだけ早く教会に帰れます。リターンクリスタルを使わずに済むかもしれませんね」
「……むぅ……」

 その笑顔は好意に満ちていた。
 ルーラーの指が少しずつ前進する。同じ所を回っていたはずの指が、回転する起点を変えていく。
 カレンが二皿目の麻婆豆腐を半分ほど食べ終わると同時に、ルーラーの手はもう一つのレンゲを掴んでいた。
 そのまま三皿目の麻婆豆腐を見つめつつ、唾をごくりと飲み込む。唾が出てきた理由が食欲に拠るものかどうかは疑問だ。
 それでも義務感と、好奇心に後押しされ。

「――――もぐ」

 ルーラーはそのマーボーを口に入れた。


814 : ルーラーのB−4調査報告:衝撃の―――― ◆holyBRftF6 :2014/08/23(土) 17:04:19 Uryrwly20
 だが彼女は知らなかった。
 カレンの味覚は半ば破壊されており、激辛か激甘しか感じ取れない身だということを。
 カレンにとって、好意は悪意と同じだということを。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????」

 その日。
 ルーラーの口内は、紅蓮の炎に焼かれた。



【C-3北東端/マウント深山商店街/1日目 午前】
【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:衝撃のマーボー
[装備]:旗
[道具]:?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1.啓示で探知した地域の調査。ただ、深山町の騒ぎについても気になる。
2.???
[備考]
カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。

【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[装備]:聖骸布
[道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)
      ?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味
1.???
[備考]
聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。
他に理由があるのかは不明。


815 : ルーラーのB−4調査報告:衝撃の―――― ◆holyBRftF6 :2014/08/23(土) 17:04:44 Uryrwly20
投下終了です。


816 : 名無しさん :2014/08/23(土) 17:43:13 e7OCwMQgO
投下乙です。

廃教会はともかく、孤児院にはテレビやラジオがあるだろうから、神父にはアーカードの名前は伝わりそうだな。

啓示「どこそこで不正がありましたよ」
「誰が何をしたのですか?」
啓示「自分で調べろ」
……使えねえスキルだなおい!
果たして、カレンはマネマネ達に反応するのだろうか。
「NPCに憑いている」のと「NPCに化けている」のじゃ、大分違うだろうし。


817 : 名無しさん :2014/08/23(土) 17:55:45 tPJCg4D60
投下乙です。
「ルール違反が起こっている」のは解るのに
「ルール違反の確証が取れない」から下手に取り締まれないルーラーちゃんが涙を誘う…
違反に関しても自分の足で調べてるし、なんか管理者っていうより捜査官みたいだ…
しかしカレンの能力もどこまで通用するのか


818 : 名無しさん :2014/08/23(土) 18:09:31 ZQiJv3dc0
ルーラーさん達も情報が制限されて大変なんやね…


819 : 名無しさん :2014/08/23(土) 18:44:17 M9TbrzOgO
投下乙
神の啓示なだけあって力関係が 啓示>ルーラーなのか
スキルに振り回されるルーラーちゃんかわいいよ


820 : 名無しさん :2014/08/23(土) 20:08:54 Tnnk9yvI0
投下乙です!
ルーラーwww だめだこいつ、可愛いぞw
なるほど、ルーラーもカレンもそれぞれ異常を察する能力はあるんだけれど結構曖昧なんだよな
それを分かってて方舟は管理者にしたんだろうけれど何が狙いなんだろw


821 : 名無しさん :2014/08/23(土) 20:35:07 AR8vI4WQ0
ルーラーは違反している、というのが解っているだけで
予想はしても魂食いがされている、というのが解っているわけではないってこと、かな?
読解力低くて申し訳ないが


822 : 名無しさん :2014/08/23(土) 20:56:00 tPJCg4D60
>>821
だいたいそんな感じ
ルーラーは啓示スキルのおかげで「ルール違反が起こっていること」は感知出来るけど
具体的に「誰が何をしたのか」は自分で調べないと解らない、って感じだと思う


823 : 名無しさん :2014/08/23(土) 21:18:53 P1pPYHRI0
乙です
麻婆の赤はともかくとして、黒いのは焦がし麻油かなにかだろうか


824 : 名無しさん :2014/08/24(日) 19:37:44 MBhHcBlI0
カレンがはふはふ食ってるから夕飯はマーボーにしました
ただ泰山のはすっげぇ辛いらしいけどすごい美味そうにも見えるんだよね


825 : ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:52:39 4R2/.LS20
予約したメンツを投下します。


826 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:53:18 4R2/.LS20
テンカワ・アキトは春紀との会話の後、少しの休憩を経て外に出た。
聖杯戦争が始まった現状、これから先に余裕が生まれるかはわからない。
否、この一日が最後となり、安寧とした時間はもう訪れない可能性は高い。
故に、時間が空いている今、やるべきことを済ましておく必要があったのだ。
この手を血で染める前に、後戻りを許さぬ状況を作り出す。
聖杯を手にし、恒久の願望を叶える為にも、アキトは進む。

――今はまだ、雌伏の時だ。機が熟すまで、慌てるな。

そして、彼は戦闘時に纏う黒衣ではない普段着を着て、バイクに跨った。
食堂の出前に使っていたのか、駐車場に停められていたものだ。
自分が所有しているものであるので、遠慮なく使うことができる。

……できれば、来たくなかったんだがな。

バイクを飛ばし、寂れた街道を駆け抜け、辿り着いたのは寂れた山合の入り口だった。
近くの空いたスペースに適当にバイクを停め、アキトは土塊の階段をゆっくりと上っていく。
鬱蒼と生い茂った木々の緑が、鳴り響く心音を落ち着かせる。

「それでも。過去への決着を含め、俺は行かなくちゃいけない」

一歩ずつ、噛み締めるように。アキトは目的の場所へと足を踏みしめる。
葉や草が風に吹かれ、ざわめいている。今の自分の心境を表しているのか、鬱陶しい。
木々の隙間から差し込んでくる光と熱に軽く溜息を吐き、アキトは足を動かした。
これが五感を低下する前だったら暑いだの眩しいだの文句の一つや二つ、出ていただろう。
やはり、昔のテンカワ・アキトは死んでしまったという証拠か。
明るく前向きで、いつだって口数だけは一人前な過去の自分。
そんな自分を殺したのは、他でもない『俺』で、大切なモノを守れない無様な姿を晒したのも『俺』だった。
だから、アキトは過去を捨て去ることを選んでしまった。
甘さを伴った強さでは、何も護れないと自覚してひたすらに修練を重ねた。

……俺は、誰なんだろうな。

復讐の炎に焦がれた自分は、皆の知っているテンカワ・アキトではない。
昔の仲間に出逢えば、否定され、止められるだろう。
ホシノ・ルリに出逢えば、悲しそうな顔をされ、やめてくださいと縋られるだろう。
だが、それら全てを置き去りにしたアキトが、過去を省みるのは今更の話だ。
決着を。そして、未来をこの手に。戦おう、理不尽な運命を強いる世界と。
戻れないことを望んだアキトに、幸せはいらない。

「それでも、俺は――ユリカを愛している」

階段を上り詰めた先には、木々もなくなり視界が開けていた。
廃教会に併設された墓地。人が来ることも少ないのか、洒落た趣きがまるでない。
もっとも、墓地にそんな要素を求める方が間違っている。寂れた場所であって当然なのだ。
死者の眠りを妨げる過剰な装飾は、いらない。


827 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:54:17 4R2/.LS20

「愛していたんだ、護らなくちゃいけなかったんだ」

規則正しく靴音を鳴らし、アキトは墓の合間を歩いてく。
幾つもの墓石が立ち並び、中には古びたものもあるが、全体的には割とこざっぱりとしていて綺麗に整えられている。
近くにある孤児院の人が丁寧な管理をしているのだろう、感謝しよう。
死者の弔いに真摯というのは、素晴らしいことだ。
自分のように、命の重みが麻痺してしまった立場からすると――尊くて眩しい。
どうか、この墓地を管理する清浄なる者達が、自分のように壊れた復讐鬼にならないことを願おう。

「ユリカを護れなかったのは俺の咎だ、甘んじて受け入れよう」

ふと見上げると、まっさらな青の空がアキトを見下ろしている。
手を伸ばせばどこまでも。遥か高みに位置する青の海は雄大だ。
方舟の中だというのに、元の世界と変わらない青空が一面に広がっている。
綺麗で儚い空の彼方。その先にある銀河には、生きた証があった。

「だが、『これ』はあんまりだろう…………ッ!」

育んだ想いがあった。無くした絆があった。奪った重みがあった。
辛いこともあったし、楽しいこともあった。
どれも全部掛け替えの無い思い出として、胸に秘めていた。
テンカワ・アキトは、確かにそこにいた。
陽だまりの内側で、笑っていた。

「ムーンセルッ、お前はどこまで……っ! 俺を馬鹿にしているんだっ!」

きっと、信じていた。愛していた。
世界は綺麗な想いの欠片で満たされているのだと。
けれど、違った。幸せが詰まった居場所は炎に焼かれて焦土と化した。
彼女も、自分も。全部、奪い去られてしまった。

「畜生……っ」

その証拠が、方舟の中でも――『正しく』再現されていた。
NPCとしての彼女がここにいない理由を含め、記憶を取り戻したアキトは全て理解してしまった。
アキトの眼前にある墓石。そこに刻まれた名前は『ミスマル・ユリカ』。
交通事故によって、命を落としたという設定で、彼女はこの世界で生きていた。
かつて愛を誓い、未来に生きようと願った最愛の彼女が、此処に眠っていた。


828 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:54:53 4R2/.LS20

「あいつらがいない世界でさえ、ユリカは幸せになれないのか!?
 せめてもの救いすら奪うのか、お前は! 何故だ、答えろっ! 地獄に堕ちるべきは俺だけのはずだ!」

顔に浮かび上がる光の紋様が、輝きを増していく。
感情の昂ぶりに乗じて、アキトの叫びが、墓地に木霊した。






▲ ▲ ▲






廃教会に着いた東風谷早苗は、墓地に一人の男が佇んでいるのを視界に入れた。
その男――アキトを見て、早苗に過った想いは、絶望だった。
底なしの憎しみと、悲嘆。
彼の中にある感情の渦巻はかつてない勢いで回っているだろう。
隣にいるアシタカも思わず口を抑えてしまう憎悪。
一体、どれだけの経験を経たらここまで捩れ曲がるのか。
思わず後ずさってしまう程の感情の奔流が、彼女達に流れ込む。

「マスター」
「ええ、わかります。あそこまで強い感情の発露に顔の紋様。多分」
「……皆まで言わなくてもいい。サーヴァントを顕現したままとは、誘っているのか? 
 此処でなら遠慮無く戦えるってことだろうが、まぁ待て」

末尾の言葉を言うよりも先に、アキトが早苗達の方向へと視線を変えた。
両目は鋭く尖り、その手には拳銃が握られている。
数秒前まで嘆き苦しんでいた一般人から、冷酷に人を屠る復讐鬼への変貌に早苗達は息を呑む。


829 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:55:56 4R2/.LS20

「どいつもこいつも、盗み見が好きらしい。そこの木陰に隠れている奴も、お前達もな。
 出てこい。最初から、見つけて下さいと言ってるようなものだったろうに」

驚きも程々に、数秒後、木々の影から一人の大男が姿を現した。
銃口の先には、黒衣の神父服を纏った笑顔の男、アレクサンド・アンデルセンが悠然と立っていた。
三竦みの緊張状態。各々が警戒心を強め、いつでも戦闘に移れるよう体制を整える。

「つけていたのは謝罪しよう。だが、こちら側も出会い頭に襲われてはたまらないのでな。
 慎重な行動を心がけている身としては、仕方ないことだ、貴様達も理解しているだろう」
「よく回る口だ、さすが神父なだけはある。説法は得意の範疇か?」
「神に仕える者故が口を使えなくては始まるまい。
 ふん、貴様達の望みは闘争か? いいぞ、戦うというのなら容赦はしない。俺の全身全霊を懸けて、貴様達を滅ぼそう」

瞬間、アンデルセンの口元が歪み、獰猛な獣染みた殺気が溢れ出す。
言葉の通りだ。敵対するなら、即座に穿つ。
神の名の下に――不義に鉄槌を。相対する彼らが穢らわしい願いを持つ者ならば、此処で終わらせる。
それが、イスカリオテの切り札としてのアンデルセンのやり方だ。
充満した殺気を前に、早苗達は身をこわばらせる。
これより先は、血で血を洗う死闘。命を懸けた殺し合いだ。
戦いを避けられるのなら、やるしかない。
早苗を護るべく、アシタカは腰に携えた山刀の柄に手を伸ばす。

「遠慮する。死者の眠る場所で……此処で戦闘はしたくない」

そして、もう一人の相対者――アキトは手に掲げた拳銃を下ろし、視線をアンデルセンへと合わせた。
武器を下ろす。それは、殺し合いの放棄にて他ならない。
拍子抜けしたのか、早苗もアンデルセンもきょとん顔で固唾を呑んだ。

「ほう、こちらには貴様達を塵にする用意ができているのだがな。怖気づいたか?」
「そうじゃない。戦うにしても、死者が眠る場所を屍山血河とするのは、お前の立場からして好ましくないだろう」
「…………」
「加えて一つ。この近くに孤児院があることをお前は知っているはずだ。
 神に仕えた神父様だろう、子供達に血塗れの姿を見せる気か?」

沈黙。放った言霊の弾丸がアンデルセンに突き刺さったのか、殺気が霧散する。
殺戮演戯の戦場になりかけていた土地が元の静寂な墓地へと戻っていく。


830 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:56:40 4R2/.LS20

「ハッ、まあいい。襲いかかってこないなら、俺も武器を取る理由はない。
 無論、かかってくるなら別だがな。我が身の全力を持って、塵へと変えてくれよう」
「それは困る。俺はまだ死ねないんだ、地獄に堕ちるのはもう少し先だ」
「違いない。しかし、殺気を撒き散らした所で態度を変えん豪胆さ、是非とも同士として加えたい所だ」
「謹んで遠慮させてもらう。今更神を信じれる程、綺麗な身でもない」
「ふん……少なくとも、先程の慟哭を見る限り、欲に濡れた男ではないと感じてはいるがな。
 墓の前で涙を見せる貴様に、不純な欲望は見受けられなかった」

そして、場は徐々に語らいの交渉席へと変わっていった。
とはいっても、互いに油断は微塵もない。少しでも隙を見せたら喰われると思え。
思考する。同盟を組むにあたっては十全、組むことで生まれるメリットを頭の中で急速計算。
だが、どちらが先に言葉を発するかについて、二人は真剣に悩んでいた。
言わせるか、言わせないか。
つまらない意地のようなものだが、このような小さな要素から格上か格下かが決まるのだ。

「あ、あのっ!!!!」

だが、ここには第三者がいる。今まで沈黙を貫いていた早苗が、声を張り上げてアンデルセン達へと割り込んだ。
両者、顰めた顔で早苗に視線を移す。
それを見たアシタカがわずかに警戒を強めるが、早苗が大丈夫、と小声で囁いた。

……ここでミスったら負けよっ、東風谷早苗ッ!

今まで蚊帳の外に放置されていた早苗は覚悟を決める。
置いてかれる訳にはいかない、自分だって聖杯戦争のマスターなのだ。
彼ら二人に負けない為に。そして、自分を信じて護り通すと誓ってくれたアシタカの為にも。
自分だけが、怖がってはいけない――!


831 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:57:49 4R2/.LS20




「わ、私達っ、協力できると思いましぇんきゃっ!!!!」




……あっれぇ? 私、時間凍結のスペルカードでも使っちゃったのでしょうか?




悲しいかな――意志と行動は伴わなかったようだ。
時間よ止まれと願っても、起きてしまったことは変えられない。
頬を真っ赤に染め、ぶるぶると震えながら俯く早苗に冷たい風が吹く。
やってしまった。やらかしてしまった。
肝心な所で舌を噛んでしまう自分の締まらなさに、恥ずかしさが吹き出そうだ。
だが、ここで更なる追い打ちを思わぬ方向性から受けてしまう。

「先程のマスターが言いたいことは貴方達と共闘の申し出を言葉にしたものだ。
 語尾が変だったが、そうなのだろう? マスター」
「う、うぅぅっ」

二度ネタはやめて下さいとは言えなかった。
彼はあくまで善意で訂正を打ち出したのだ、余計なことを言わないで下さいなんて言えるはずもない。
しかし、ある意味ではあるが、早苗の抜けた発言はアキト達の剣呑な空気を融和させた。
両者、溜息を吐き、仕方がないといった顔つきで言葉を返す。

「……その申し出、受けよう。どちらにせよ、あの神父は俺達が乗り気でなければ提案していただろう。
 語り合いか、もしくは一時の同盟の締結か」
「そこまで頭が回っているなら話は速い。この戦争、個人で乗り切るには些か激しいものがあると判断した。
 貴様達は、特段に下衆な欲望に染まったものではなさそうだからな」

こうして、早苗の勇気ある発言によって、同盟締結は穏やかに進んだ。
各々抱えているものもスタンスも違う。
願いの方向性も信仰しているものすら被らない彼らであったが、手を組むという重要性を一時の情で潰す程冷静さを失ってはいない。
もっとも、早苗が風祝の巫女であるということをバラしたら、アンデルセンは即座に撃滅する可能性は否定できないが。
ともかくの話として、いずれは分解するだろう仮初めの同盟ではあるが、この瞬間だけは平和な時間が過ぎ去っていた。

「アレクサンド・アンデルセン。短い間ではあるが、よろしく頼む」
「……テンカワ・アキトだ。生き残る為にも、肩を並べさせてもらう」
「東風谷早苗です。そんな怖い顔しないで仲良く行きましょうっ」

名乗りも終え、同盟の簡素な内容をさらさらと決めていく。
休戦、情報の共有といったものを主として、あまり突き詰めずに自由度の高いものをはっきりとさせていった。
口約束のようなもので、いつ裏切り裏切られるかはともかくとして、外面上は積極的な同盟の体を見せていた。


832 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:58:38 4R2/.LS20

「あっ、そうです! 仲良くなった所で心配事があるんですけど、聞いてもらえませんか!」

そして、語り合いの終焉は早苗の話すあるフレーズによってやってきた。
『赤いコートを来た大男が小さな少女を連れていた』。
アンデルセンの眉が動き、口が自然と釣り上がって行く。
次いで、その男の外見的特徴をアシタカに聞いていくと、みるみるうちに浮かび上がる。
我が最後の宿敵――アーカードの姿が。
この地でも、世界を不義に染め上げるべく召喚に応じたのか、それとも気紛れに闘争を求める為に月へと誘われたのか。
どちらにせよ、アンデルセンたちのこれからの方針は速やかに決まった。
王である彼の願いも含め、確かめなければならない。
かの大男がアーカードであるか否か。

『話は聞いている。どうやら、滅するべき宿敵は同じくこの方舟に呼ばれている可能性が高いようだ』

脳内に入ってくる従者であり王である彼の声は、冷めていた。
飽和した歓喜と怒りは、一周回って平常の冷静さを与えてくれる。
自分のルーツである『怪物』を殺す。
その機会がこんなにも早くやってくるとは、何たる僥倖。

……王よ、この情報を放置しておく程に腑抜けているわけでもあるまい?
『当然。至急、街へと降りるとしよう。領土構築も大体は済んだ。必要なのは貴様の覚悟だけだ』

問いかけた挑発的な言葉に、ヴラドも同じく挑発的な言葉で返す。
戦意も場所も潤沢、手傷も今は負っていない。
自分が死んでも後のことを託せる可能性を秘めた同盟相手も幸いながら存在する。
ならば、取る選択肢は一つ。

――進むぞ、俺達の手で終わらせよう。
『望む所だ。アーカードの討滅をもって、幕引きを下ろそう』

座して待っていたら、他の参加者に獲物を取られる可能性は段々と増していく。
アレはアンデルセン『達』の獲物だ、他の狩人に横取りされてはたまらない。
夜闇を待つまでもない、今此処で――決める!

「その一件については、俺達が受け持つ。その赤い男は――俺達が殺る。
 邪魔立てするなら、容赦はしない。誰にも横槍などさせんぞ」
「えっ、えぇ……」
「文句は言わせんぞ、殺されたいなら話は別だがな。自殺志願者でもあるまい、いらん首を突っ込むのはやめろ」

スペシャルな笑みを浮かべながら言葉を返すアンデルセンに、早苗は何も言えなかった。
ヤバイ、アンデルセンヤバイ。これは関わってはいけないタイプだ。
幻想郷で言うなれば、風見幽香のような人間だ。
戦闘狂、ヤバイと肌で感じてしまった。

「あっ、後もう一つお願いします! もしも、女の子が囚われていたらっ」
「無論、助ける。あの怪物の横に置いていたらどうなるかわからんからな」

それでも、自分の思っていることを言い出せたのは幻想郷で様々な経験を積んだからか。
アンデルセンのような強面を前にして退かなかったのは十分なことといえよう。


833 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:59:00 4R2/.LS20

「では、俺はこれで失礼する。此処は戦場になるやもしれん、即刻離れた方がいいぞ。
 貴様達は平穏な場所で、語らいを楽しんでいればいい」

神父服を翻し、アンデルセンはその場を離れ姿を消した。
その歩みに迷いはなく、早苗達のことなどもはや頭の中になかった。
アーカード。あるのは同じく月に呼ばれた宿敵の化け物。
ヴラド共々、討つべく吸血鬼にめがけて直進するのみ。
もしも、自分達が消えようとも――構わない。

「ちょ、待って下さいよ!」

そして、アンデルセンに乗じてアキトもその場を離れようとするが、しっかりと掴まれた右手が退散を許さなかった。
ふと振り返ると、早苗がギリギリと歯を鳴らしながら待ったをかけている。
こう言っては何だが、大変に鬱陶しい。
アキトは嫌そうな顔を前面に押し出して、握りしめられた手を離そうと上下に振り回す。

「あの神父さんも言ってたじゃないですか、友好を深めていろって」
「……いらん。大体の情報交換は済んだはずだ」
「はぁ、いいですか。長い戦いになるんです、同盟間でのきちんとした交流は欠かしてはいけません。
 顔を合わせて、言葉を交わす! 幻想郷の皆さんでもできたことですよ! 常識です、常識っ!
 そう思いますよね、アーチャーも!」
「…………」
「そこで、目を逸らさないでくださいよぉ……」

変な女に捕まってしまった。ナデシコ乗務員にいてもおかしくない奇抜さを持った奴だ。
正直、アキト自身はこの少女と深く交流をするつもりはなかった。
優勝するにあたって、最終的にはこの少女達とも争わなければならないのだ。
交友を深めることに意味などない。下手な情を抱くと、後が辛くなるだけなのだから。

「と・に・か・くっ! 会ってすぐさようならとは何ですか全く。温厚な私でも怒りますよ?」

だが、確かに一理はあった。
交友を深めることで、信頼関係を築く。そうなれば、いざという時には逃げ場所も作れるし、壁役にもなってくれる。
メリットは有る。未だ、戦争は始まったばかりだ、落ち着いて地盤を固めるのも愚策ではないはずだ。

「わかったわかった。とにかく、手を離してくれないかな?」
「はいっ! ようやく、私の方を向いてくれましたねっ!」
「…………アンタも大変だな」
「マスターも気を張り詰めていたんだ、この程度の緩みは赦して欲しい」

ここまで来ると頷かざるを得なかった。
仕方がないと、割り切ってしまえ。今必要なのは、復讐鬼であるテンカワ・アキトではなく、お人好しでのほほんとしたテンカワ・アキトだ。
その為にも、一瞬だけ『過去』に戻ってもいいかもしれない。
すぐに打ち消されるものであったとしても、今だけは。


834 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 22:59:57 4R2/.LS20






▲ ▲ ▲






美遊・エーデルフェルトは孤児院に預けられて早々に脱出を果たしていた。
一刻も早く、あの胡散臭い神父から離れる為にも全力でダッシュを敢行し、今は山の麓で荒れた息を整えていた。
心臓の鼓動が鳴り響く。煩い黙れと脳内で叫んでも、滴り落ちる汗はやまないし、寒気は増す一方だ。

……拙い。もう、構わないで欲しいのに。

心中で苦言を吐き捨てながらも、美遊は冷静に考える。
アンデルセンは信用ならない。
あの不気味なまでの笑顔が、どうも受け付かない。
何か、強烈なものを隠しているようで、美遊には恐怖心しか抱かせなかった。
そして、彼が抱く異常ともいえる信仰心。
できれば、二度とお近づきにはなりたくない人物だ。

「とりあえず、ここから離れるよ。今はあの神父から逃げるのが最優先。
 サファイア、もしも周囲にいたら……」
『わかりました。ですが、あのアンデルセンというお方の善意を無駄にしますよ?』
「それでも、嫌だ。私は一人でいい。一人で戦えるもの」

思えば、聖杯戦争が始まってからマスターとは会ってないと美遊は考えた。
昼間は日常を送っているのだろう、夜間でない故か、潜伏していると判断した。
こんな太陽が天高く昇っている間は、大騒ぎは普通起こさないと考えているが、狂気的な参加者はそんな物お構いなしだろう。
常に気を張り詰めて、索敵を怠らないようにしなければならない。

……聖杯戦争に参加するぐらいだもの、信用できる人は皆無。皆、聖杯を取ろうと虎視眈々と刃を潜ませているに決まってる。

だが、傍から見ると、美遊は参加者内では最も情報、地盤固めが遅れていた。
陣地になり得た自宅を捨て、参加者との交流も避け、今もこうして後手に回っている。
彼女の凝り固まった生真面目さが、円滑なコミュニュケーションを阻害していた。
現状、信頼できるのはサファイアとサーヴァントのみ。
それ以外は、敵の可能性が高い。
そう、予測している美遊ではあるが、この聖杯戦争はそんな簡潔な言葉では収まらない。
権謀術策、一時的な同盟に、昨日の敵は今日の味方といっためまぐるしく動く戦争だ。
そんな戦争で、一辺倒な考えをもって乗り切るのは愚策。
過剰な警戒心と生真面目さが、他の参加者との交流を阻害していた。


835 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 23:04:37 4R2/.LS20
NGワードが出たと表示されたのですが、どれがNGかわかりませんでした。
合間の一レスはしたらばに投下させていただきます。
ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。


836 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 23:12:21 4R2/.LS20



【D-9/廃教会/一日目 午前】

【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】
[状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、強い憎しみ
[令呪]残り三画
[装備]CZ75B(銃弾残り10発)
[道具]チューリップクリスタル2つ 、春紀からもらったRocky
[所持金]貧困
[思考・状況]
基本行動方針:誰がなんと言おうとも、優勝する。
0.……打算も含めて、早苗との友好を深める。
1.次はなんとしても勝つために夜に向けて備えるが、慎重に行動。長期戦を考え、不利と判断したら即座に撤退。
2.下見したヤクザの事務所などから銃弾や武器を入手しておきたい。
3.五感の以上及び目立つ全身のナノマシンの発光を隠す黒衣も含め、戦うのはできれば夜にしたいが、キレイなどに居場所を察されることも視野に入れる。
4.同盟を組める相手がいるならば、組みたい。自分達だけで、全てを殺せるといった慢心はなくす。

[備考]
セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。
演算ユニットの存在を確認済み。この聖杯戦争に限り、ボソンジャンプは非ジャンパーを巻き込むことがなく、ランダムジャンプも起きない。
ただし霊体化した自分のサーヴァントだけ同行させることが可能。実体化している時は置いてけぼりになる。
ボソンジャンプの制限に関する話から、時間を操る敵の存在を警戒。
割り当てられた家である小さな食堂はNPC時代から休業中。
寒河江春紀とはNPC時代から会ったら軽く雑談する程度の仲でした。
D-9墓地にミスマル・ユリカの墓があります。
アンデルセン、早苗陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。

【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】
[状態]健康
[装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』
[道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:戦う。
1.戦う。
[備考]
特になし。

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]今日一日の食事、保存食、飲み物、着替えいくつか
[所持金]一人暮らしには十分な仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:誰も殺したくはない
0.とりあえず、友好を深めます!
1.聖杯はタタリ神と関係している…?
2.同盟相手とは友好を深めたいが、冷たくあしらわれてしょんぼり。
3.少女(れんげ)が心配
[備考]
※月海原学園の生徒ですが学校へ行くつもりはありません。
※アシタカからアーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しましたが
 あくまで外観的情報です。名前は把握していません。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。
※アキト、アンデルセン陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。なお、彼らのスタンスについて、詳しくは知りません。

【アーチャー(アシタカ)@もののけ姫】
[状態]健康
[装備]現代風の服
[道具]現代風の着替え
[思考・状況]
基本行動方針:早苗に従い、早苗を守る
0.マスターの猪突猛進ぶりが心配。
1.とりあえず、早苗の意向を尊重する。
[備考]
※アーカード、ジョンス、カッツェ、れんげの存在を把握しました。
※倉庫の火事がサーヴァントの仕業であると把握しました。


837 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 23:13:13 4R2/.LS20



【C-9/一日目 午前】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]健康、ポニーテール 、他者に対しての過剰な不信感
[令呪]残り三画
[装備]普段着、カレイドサファイア、伊達メガネ他目立たないレベルの変装
[道具]バッグ(衣類、非常食一式) 、クラスカード・セイバー
[所持金] 300万円程(現金少々、残りはクレジットカードで)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争から脱する方法を探る。
0.逃げる。アンデルセンは危険。
1.戦闘は可能な限り避けるが振りかかる火の粉は払う 。
2.他者との交流は避けたい。誰とも話したくない。信用できるのは、サーヴァントとサファイアのみ。
3.ルヴィア邸、海月原学園、孤児院には行かない。
4.自身が聖杯であるという事実は何としても隠し通す。
5.聖杯にかけるような願いならある。が、果たして求めることが正しいことなのだろうか…?
[備考]
アンデルセン陣営を危険と判断しました。

【バーサーカー(黒崎一護)@BLEACH】
[状態]健康
[装備]斬魄刀
[道具]不明
[所持金]無し
[思考・状況]
基本行動方針:美遊を守る
1.???????


【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING】
[状態]健康
[令呪]残り二画
[装備]無数の銃剣
[道具]
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を託すに足る者を探す。存在しないならば自らが聖杯を手に入れる。
1.街へ出る。赤のコートを着た大男がアーカードであるなら、即座に滅殺。
2.昼は孤児院、夜は廃教会(領土)を往復しながら、他の組に関する情報を手に入れる。
3.戦闘の際はできる限り領土へ誘い入れる。
[備考]
箱舟内での役職は『孤児院の院長を務める神父』のようです。
聖杯戦争について『何故この地を選んだか』という疑念を持っています。
孤児院はC-9の丘の上に建っています。
アキト、早苗(風祝の巫女――異教徒とは知りません)陣営と同盟を組みました。詳しい内容は後続にお任せします。
赤のコートの大男はアーカードであるとほぼ確信めいた推測をしています。
美遊陣営を敵と判断しました。


【ランサー(ヴラド三世)@Fate/apocrypha】
[状態]健康
[装備]サーヴァントとしての装備
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝利し、聖杯を手に入れる。
1.アンデルセンに付いて行き、街へ出る。赤のコートを着た大男がアーカードであるなら、陣地に引きずり込んで即座に滅殺。
2.アンデルセンと情報収集を行う。アーチャーなどの広域破壊や遠距離狙撃を行えるサーヴァントを警戒。
3.聖杯を託すに足る者をアンデルセンが見出した場合は同盟を考えるが、聖杯を託すに足らぬ者に容赦するつもりはない。
[備考]
D-9に存在する廃教会にスキル『護国の鬼将』による領土を設定しました。
美遊陣営を敵と判断しました。


838 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 23:14:42 4R2/.LS20
投下終了です、と言いたい所なんですが、避難所の方でもNGと出てしまい合間の一レスが投下できないといった事態です。
どれがNGかわからないだけに困っているんですが、一応文章を確認してみようかと考えていますが、どうでしょうか?


839 : 名無しさん :2014/08/24(日) 23:22:49 8bBjXj4w0
投下乙です。

聖杯にかける願いも、戦争における目的も異なるからこその同盟。なるほど面白いです。

避難所スレで数行ずつ分けて投下してみるのはどうでしょうか?
できれば何がNGだったかも教えて貰いたいですし。


840 : 善悪アポトーシス ◆y0PHxpnZqw :2014/08/24(日) 23:27:25 4R2/.LS20
無事、避難所へと投下が終わりました。
NGワードですが、多分『いえでしょうじょ』かと思われます。
その部分を変えたら通ったので。


841 : 名無しさん :2014/08/24(日) 23:28:56 5Q8EsnIQO
投下乙です
同盟を組んだはずなのに胃がキリキリするのは何故…
早苗さん噛んじゃったよw
神父がヤル気満々になってしまわれた
そして安定のムーンセルによるアキト苛めである
美遊はそれでいいのか…


842 : 名無しさん :2014/08/24(日) 23:46:46 FqFH/Z9I0
投下乙です。
早苗:白→異教徒です。
美遊:黒→聖杯です。
……どうしてこうなった?分かるのは早苗さんかわいいとムーンセルがアキト苛めるマシンなことだッ

少し質問。状態表にはないけれど最後の台詞からアンデルセン組が美遊組を今すぐ討つ思考のように読めるのですが、その認識で大丈夫でしょうか。


843 : 名無しさん :2014/08/25(月) 00:26:55 zeKqeHdk0
>>842
アンデルセン組の目的からして、アーカードより優先することは無いんじゃないでしょうか。
備考に「美遊陣営を敵と判断しました。」と書いてありますし、追わずに次会ったら即攻撃、ぐらいの意味合いかと。

しかし、アンデルセン組、アーカードを『方舟』内で倒してしまったら、聖杯への意欲がぐっと減りそうだ…w


844 : 名無しさん :2014/08/25(月) 00:28:45 tASRqLSg0
投下乙です!
oh・・・美遊は早くも孤立してしまったか
美遊の心を理解して、同盟を組むようなマスターは現れるのだろうか
そしてアキトさん超不憫ー!
念願の同盟を手に入れたはずなのにこの悲しさ・・・


845 : 名無しさん :2014/08/25(月) 02:07:22 AHWxBmac0
投下乙です!
ムーンセルのアキトいじめが酷いw
美遊は言われてみれば確かに一番出遅れてるんだよな
しんちゃんやれんちょんでさえサーヴァントがそれぞれよくない繋がり作ってるのに、バーサーカーじゃそれも無理だし


846 : 名無しさん :2014/08/25(月) 06:09:46 Y2.wWNP20
投下乙です
美遊ちゃん立ち回りド下手すぎる...
一方早苗さんは割と良い感じ 何かと可哀想なアキトさんの救いになれたらいいんだけど


847 : 名無しさん :2014/08/25(月) 13:42:15 Fl//uqPAO
投下乙です。

吸血鬼のおかげで宗教戦争は回避されました!

一方、美遊は神父組に黒と誤解されてしまった。
誰も巻き込まない、誰とも関わらない、他の主従はみんな敵。
こんな思考じゃ、孤立待った無し。

アキトはまあ、がんばれ


848 : 名無しさん :2014/08/25(月) 13:49:49 0QIDNlRc0
みゆうちゃん26組が入り乱れるこの戦場で単独行動はまずいんだよなぁ…
何組いるのかわからないから仕方ないけど


849 : 名無しさん :2014/08/25(月) 21:52:22 A4vwClhc0
投下乙です
あれ、きちんとした同盟のはずなのに、メンツのせいだろうか暖かみや安心感があまり感じられない…
美遊は早く安心できる人に会えるといいね

避難所の分も一応こちらに代理投下させていただきますね


850 : 善悪アポトーシス ◇y0PHxpnZqw(代理) :2014/08/25(月) 21:54:11 A4vwClhc0
『来ましたっ! 即座に移動を!』
「……えっ」
「おやおや、貴方は確か。お久しぶり、というには速すぎますか」

そして、最悪は再び訪れた。
振り返ると、そこには獰猛な笑みを浮かべたアンデルセンが立っている。
だが、その笑みの内面は前とは違う。
不信。孤児院に預けたはずなのに、どうしてここにいる。

普通の子供であるならば、ここまで行動的であるはずがない。いくら幼い考えなしの少女とはいえ、少し活発的に過ぎる。
まるで――アンデルセン本人から離れたいと示しているようなものだ。
アンデルセンは、警戒レベルを引き上げ、いつでも銃剣を取り出せるように身構える。
アーカードのように、その身を小さな幼子に変えれる奴もいるのだから油断はできない。

「孤児院はお気に召さなかったのですかねぇ……もてなしがなっていませんでしたか」
「一旦、退却するよ!! お願い、バーサーカーッ!」

限界だった。この均衡した状況でいることも、アンデルセンと相対していることも。
あの強烈な存在感、それにむせ返るような血の臭い。
どう考えても、受け入れられるはずがないし、これ以上相対していたら、頭が狂ってしまいそうだ。
もはや、彼が遭遇したくないマスターであることを、美遊は疑わなかった。
故に退却。風よりも速く、この悪寒がする戦場から離れることを決断してしまった。
瞬間、美遊の前に現れた黒衣の死神が彼女を優しく抱き寄せる。
そのまま、背中を向け勢い良く跳躍。急いで場を離れるべく、大地を駆け抜ける。

「どうする、王。お前の観点からして、あの子供は黒か?」
『さぁな。だが、善意で近づいたお前に不信感を抱いていたんだ。黒の可能性は、高い』
「辛辣だな。気に入らぬ何かを感じ取ったのか?」
『それもある。あのサーヴァント、個人的に見ているだけで不快だ。神への冒涜……いうなれば、死神か。
 まあ、余は既にあの者共を敵と認識している。無論、アーカードが最優先というのは変わらんがな』

そして、場に残されたアンデルセンとヴラドは考える。
彼女は敵か、否か。
もっとも、そのような思考をするまでもなく、アンデルセン達の意見は結論に至っていた。
疚しいものが心の内にあるから逃げている。
後ろめたい感情を抱えていなければ、素直に言うはずだ。
先程の二人のように真正面から出てくるはずだ。

「なれば、討つしかあるまい。敵は討滅するのがイスカリオテの定め」
『心得た。悲鳴を上げる暇もなく――刺し貫いてくれよう』

下した結論は――黒。
互いの判断がすれ違い、捻れ、事態は誰もが思いもしない結末へと導いていく。
運命も絶望もごちゃ混ぜにして、戦局は混迷を極めていった。


851 : 善悪アポトーシス ◇y0PHxpnZqw(代理) :2014/08/25(月) 21:54:59 A4vwClhc0
代理終了


852 : ◆y0PHxpnZqw :2014/08/25(月) 23:42:00 Hn5uj0Xs0
感想、そして代理投下ありがとうございます。

>>842

大体は、843さんが言われたとおりで、次会ったら敵対といった感じで読み取ってくれたら幸いです。


853 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:29:09 29.q81HI0
投下します。


854 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:30:34 29.q81HI0

 尼公聖白蓮との会合により、言峰綺礼の心は揺さぶられていた。
 神父である彼は、神の教えに帰依し、神の教えを信仰している。

 だが、その教えを『素晴らしい』と感じたことはない。

 あの会合で、聖は仏の教えを説いた。

 『人と魔を分かつことなく同じ輪の中に住まわす』

 それは、神父の立場を考えないとすれば、おそらく素晴らしい事なのだろう。

 素晴らしい事なのだろう。
 素晴らしい事に違いない。
 素晴らしい事のはずである。

 なのに、綺礼の心に響かない。

 ――神の教えにも、仏の教えにも、私の感性は同調しないというのか。

 綺礼の感性はよほどの天の邪鬼なのか。頑なに拒絶するその様は、己が異端者であることを強く自覚させる。

『キレイ、300m先に強い憎悪が存在する』

 セイバー、オルステッドの念話に、はたと立ち止まる。
 そうだ、己は学園に向かっている最中では無かったか。
 聖杯戦争は既に始まっているのに、今朝と同様注意散漫だ。
 一呼吸置いて心を落ち着かせ、冷静に状況を把握する。

『ここから300m先か。すると……学園の校門か?』
『そのようだな……む?』
『どうかしたか?』
『300m先にもう一つ、同等、同質の憎悪を感じる』
『ふむ?』

 同等、同質とはどういう事だろうか。双子……なのだろうか?
 今のオルステッドは英霊として現界しているため、本来の力を十全に発揮できない。
 “どこ”に“どの程度”の憎悪が存在するかどうかが分かる程度だ。
 もう少し魔力を使えば、さらに深く調査できるかもしれないが、


855 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:31:00 29.q81HI0

『私だけ霊体化で先行して確認したい。良いだろうか?』
『頼む』

 たかだか300mの距離だ。実際に見に行った方が早いだろう。
 綺礼は近くのコンビニに寄り、少しの時間を潰すことにした。
 すぐにオルステッドから念話が入る。

『キレイ、憎悪の主が分かった。蟲だ』
『……蟲? 使い魔の類か?』
『そうだ。校門の分かりやすいところに一匹、目視では確認しづらい所に一匹いる』

 なるほど。一匹は撒き餌、もう一匹が監視役、か。
 撒き餌の反応を監視役で見て、マスターか否かを探り当てようという魂胆だろう。
 うまく隠れたつもりだろうが、こういう方法で明かされてはどうしようもない。
 しかし、

『蟲が憎悪を持っているのか?』
『恐竜、馬、コンピュータ、液体人間……人で無くとも憎しみは持つ。もっとも……下らぬ理由で憎しみを抱くのは、人間のみだがな』

 吐き捨てるように言うオルステッド。
 そこには明らかに人に対する侮蔑の意思があった。

『だが、これはただの使い魔の蟲ではない。宝具、もしくはサーヴァント本体だ』
『なんだと?』
『先ほども言ったが、この蟲から感じる憎悪は同等、同質……つまり、群を個として存在するものだ。この二匹だけではない、もっと複数の蟲が集まったモノが個として存在しているのだろう。核のようなモノがあるかどうかはわからないが、もし無ければ撃破は困難だろう。一匹一匹、全てが本体ということだ』

 そのようなモノがありえるのか? そう思ったが、己自身もある意味数十兆にも及ぶ細胞の集合体であるとも言える。
 おおよそ理解しがたいが、己が理解できないから存在はしない、などと言っていては聖杯戦争では勝ち残れない。
 英霊や宝具はいつだって規格外なのだ。

『そして私は、これはサーヴァントだと思う』
『何故そう思う?』
『全てを滅ぼしかねない憎悪を、大義のために強力な理性で抑えている。憎しみとは理性で抑えたところでいずれ爆発する感情。この蟲も、そこらかしこから憎悪が溢れ滲み出ている。にも関わらず、己を殺し、自らを内側から傷付けたとしても、大義を果たそうとしている。これは“人間”だ。宝具のような使われるだけの道具ではない。愚かしい“人間”でしかたりえない』


856 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:31:23 29.q81HI0

 普段は無口のオルステッドの舌が、なめらかに滑る。
 まるで憎悪をテイスティングするソムリエのようだ。
 憎悪の魔王として、極上の美酒に酔いしれてしまったのかもしれない。

『そしてこれは、惨めに足掻き、無様に敗北した味だ。さぞや悔しかろう。この聖杯戦争に望んだのも、おそらく生前為しえなかった事を為そうとしてのことだろう。残念だ。もし、私が魔王の時にこの憎しみを見つけていたら、きっと力を貸したであろうに。だが今の私も聖杯戦争を駆る従者なのだ。生憎と力を貸すことはできん。しかし、私が勝利した暁には、貴公の敗北を省みようではないか』

 『勝者が歴史を作り、敗者には明日すらない』。
 それが『憎悪の魔王』であり『敗者の王』でもあるオルステッドの弁だ。

 もっとも、彼は『敗者の王』ではあるが、敗北は最期の一度しかない。
 特に、勇者であった時には、ただ一度の敗北すらない。
 オルステッドは“ただ一度の敗北すらないのにかかわらず、全てを失った者”として、最も強き敗者、『敗者の王』なのだ。

 そして悲しきかな。彼は狂人“ではない”。
 全てから勝利し、全てを失い、憎悪の魔王と化してもなお、“人間”としての理性を保ててしまった。

 浅ましく、我が儘で、他者を蹴落とすことを省みることすらしない、愚かな“人間”。
 オルステッドもまた、同じ“人間”でしかないのだ。

 オルステッドは一見誠実で清廉潔白そうな英霊に見える。
 しかし、奥底に深くどす黒い闇を持ち、それでもなお“人間”でしかなかった魔王でもある。

 なるほど、言峰綺礼のサーヴァントとして呼ばれるに相応しいと思えた。

『それで、私はどうすればいい』
『……すまない、喋りすぎたようだ』

 オルステッドの講義は興味深いが、急がなければ遅刻してしまう。
 彼自身も目的を忘れていたことに気付いたようだ。


857 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:31:45 29.q81HI0

『ただの監視だ。気にせず素通りすればいい。現に大勢のNPCもこの校門を通り過ぎている。目立つ行動さえしなければバレはしない。蟲を二匹潰したところで相手に影響はでないだろうし、その行動でこちらの存在に気付かれてしまう。おそらくマスターが見てもパラメーターは分からないだろう。もし何かがあれば私が実体化して対応しよう』
『わかった』

 コンビニから出ると、普段通りの歩き方で学園に向かう。
 結果。綺礼は蟲に気付かれること無く、校門を通りすぎることが出来た。







『セイバー、学園内はどうだ?』
『先ほどの蟲と同じ憎悪が学生用の校門に。それ以外は目立つものはない』

 学園内でオルステッドに憎悪の探知を求めたが、そう上手くはいかないようだ。
 学園には千を超えるであろう人がいるはずだが、未明に会った黒衣の男や先の蟲の主の憎悪が飛び抜けて強いだけだったか。

 もっとも、強い憎悪の持ち主は居ないといっても、マスターやサーヴァントが忍び込んでいない、という保証にはならない。
 警戒は怠らないつもりだ。

 それはさておき、全身甲冑で鉄塊を振り回すバーサーカー、同じく全身甲冑の蒼のセイバー、クラスは分からないが蟲の集合体と思われるサーヴァント……綺礼の元にも、ある程度サーヴァントの情報も集まってきた。
 できれば学園内の施設を使って詳しく調査をしたいところだが、

「さて、物資の搬入を行わねばな」

 まずは、不本意ではあるが与えられた役割をこなさなければならない。
 制服であるエプロンを着けると、運搬トラックが入っている駐車場へ向かう。
 搬入業者であろう3人の男が積み荷を降ろしていた。

「……む」


858 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:32:08 29.q81HI0

 だが、彼らの様子がやや不自然だ。少なくとも、綺礼にはそのように見えた。遠目からくまなく観察し、一つの結論にいたる。

『あの男達、暗示を掛けられているな』
『暗示?』
『魔術による催眠暗示だ。認識を誤認させるようなものだ。例えば、“私はあなた達の上司だ”という風にだ。見る者が見れば、暗示が掛けられているか否かわかる』
『ならばどうする?』
『そう強力な暗示ではなさそうだ。解けるかどうか、試してみよう』

 遠坂時臣に指南を受けて3年程度の魔術師であるが、それでも十分対応できそうに見える。
 3人の男達に近づくと、師に教わったとおりに暗示の解呪を行う。
 その結果、男達に掛けられた暗示は解け、その隙に逆に綺礼も暗示を掛けた。

「“私はあなた達の上司だ”。一つ質問がある。今日ここに来る最中に、何か変わった出来事は無かったかな?」

 そう言えば、と男達はぽつぽつと語り始める。

 曰く、搬入先のスーパーでとある男に指示をされた、と。
 曰く、学園内で昼食を取り不審人物や探りを入れている人間が居ないか確認して欲しい、と。
 曰く、携帯に連絡が掛かってくるからそれに答えるように、と。
 曰く、その男の名は遠坂時臣、と。

「……なに?」

 思わず声を上げる。
 遠坂時臣。綺礼に取っては魔術の師にも当たる。
 彼がこのような、弟子にも簡単に解ける稚拙な暗示を掛けるとは、到底思えない。

「もう少し、その男について詳しく教えてくれないか」

 男達が覚えている限りの容姿を説明する。
 その言葉を頼りに、頭の中で人相を想像する。

「……ふむ」


859 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:32:26 29.q81HI0
 確信する。トオサカトキオミを騙った人物は、遠坂時臣でないと。
 もしくは、綺礼も知らない若かりし頃の遠坂時臣だが……それもまた、もはや別人と言えよう。

「わかった、ありがとう」

 そして男達3人の暗示を解き、もう一度トオサカトキオミが掛けただろう暗示を掛ける。
 付け焼き刃ではあるが、綺礼が今し方行った尋問を忘れるようにも暗示を掛ける。

『良いのか?』
『私としては遠坂時臣を騙る輩に会いたい。おそらくマスターだろう。しかし、問題がいくつかある』

 一つ、トオサカトキオミへのコンタクトが出来ないこと。
 トオサカトキオミは彼ら3人の電話番号のみを入手し、交換をしていない。
 故に、こちらからトオサカトキオミへ電話を掛けることは出来ない。

 二つ、コンタクトを仕掛けてくる時間が不明であること。
 綺礼も男達3人に常に行動を共にするわけにはいかない。
 綺礼はこれから販売業務をしなければならないのだ。

 三つ、男達3人からのコンタクトを受け取れない。
 彼らはNPCだ。あっさりと暗示に掛かる。そのような相手に身元の知れる情報を渡すのはリスクが高い。電話番号を渡したり、購買へ出向かせるわけにはいかない。

『だから今は泳がしておく。一応、男達の電話番号は入手してある。仕事中に何か名案が浮かべば試し見るのもありだろう。セイバーも何か良い案が無いか考えてくれ』
『わかった。考えてみよう』

 トオサカトキオミの事は気がかりだが、こちらから出来るアクションは少ない。
 それより、物資の搬入で思わぬ時間を使ってしまった。
 急いで支度をしなければ不味いだろう。

 ムーンセルは一体何を根拠に購買部という役職を割り当てたのか。
 全く、理解に苦しむ。






860 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:32:57 29.q81HI0


 学園の購買部の仕事は、緩急が激しい。
 理由は簡単だ。客の大半を占める学生は、授業中に購買部に来ず、休憩中に購買部に来るからだ。
 スケジュールは決まっており、わずか10分しかない休憩中に、大勢の学生が津波のように押し寄せる。
 対して授業中は総じて暇である。接客以外の仕事もあるが、すぐに終えてしまった。

 ――何故休憩をローテーションで行わない。

 購買部の店員の立場からすれば、そのような愚痴が出るのもやむを得ない。

『……商売というのも大変なものだな』

 オルステッドがしみじみと呟く。彼は生前、基本的に売買を行わなかったらしい。物珍しそうに綺礼の姿を見ていた。

『ところで、セイバーは聖杯に望む願いはあるのか?』
『私はキレイ、あなたの助力になりたいと思い、召喚に応じた。為したいことは全て生前に為し、生前の出来事は己の死を含め、全てを受け入れた。聖杯に望む願いは特にない』

 暇つぶしの問いに、オルステッドは淡々と答え――

『いや、そうだな。一つだけ、かなえて欲しい願いではないが、“もしこうだったら”と思うことはある』
『ほう、それは?』
『武術大会の決勝。あの時“もし負けていればどうなっていただろうな”、と』

 オルステッドの略歴を思い出す。


 ルクレチア王国武術会の決勝で、親友である魔術師ストレイボウと戦い、勝利する。
 優勝賞品は“アリシア姫に求婚する権利”。アリシア姫は快諾する。
 『これからは、誰よりもあなたのことを信じます』
 そう言ったアリシア姫は、その夜、魔物に攫われた。
 オルステッドはストレイボウと元勇者らと共に魔王山に行くが、魔王も姫も発見できなかった。
 その後、ストレイボウの策略により、オルステッドは王殺しの罪を被り、国賊として国を追われる身となった。オルステッドを勇者と担ぎ上げた民衆も手の平を翻し、魔王と罵った。
 そして再び魔王山に行き、ストレイボウを討つ。
 アリシア姫が現れるが、オルステッドを拒む。
 『あなたには負ける者の悲しみなんてわからないのよっ!』
 アリシア姫は心変わりしたようにオルステッドを糾弾し、ストレイボウの後を追って自殺する。
 全てを失い、人間に失望したオルステッドは、存在せぬ魔王に替わり、己自身が『憎悪の魔王』となった。


861 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:33:30 29.q81HI0


 以上が、勇者オルステッドが魔王オディオへと化した経緯だ。

 確かに、武術大会の決勝で負けていれば、このような運命を辿ることにはならなかったかもしれない。
 しかし、

『“アリシア姫が魔物に攫われていなければ”ではないのか』

 この仮定でも運命の歯車が食い違うのではないか。
 むしろこの仮定の方が、オルステッドに良いのではないか。
 そう問うと、オルステッドは自嘲気味に答える。

『こんな噂があった。“ストレイボウとアリシア姫は、お忍びの恋仲ではないか”という、な』

 何故、“魔術師”のストレイボウが“武術大会”に出場したか。
 ――アリシア姫に求婚する権利を得るためだ。
 何故、アリシア姫はオルステッドの求婚に快諾したか。
 ――当時は中世。女性の、それも王族の人権は無きに等しい。賞品として出されたアリシア姫に、拒否する権限など無かった。
 何故、アリシア姫はストレイボウの後を追ったか。
 ――アリシア姫が愛していたのは、オルステッドではなくストレイボウだったからだ。

 なるほど、出所不明の噂の割には筋が通っている。

『もっとも、その噂が真実かどうかは定かではない。そもそも、証拠は何もない。“そうであってほしい”と願う、ただの私の妄言に近い』

 それに、私を含めて当事者は全て、あのルクレチアの地で死に絶えた。
 真実がどうであれ、もう誰も傷付くことも、救われることも無い。
 ならば無理矢理掘り起こす必要も無いだろう。

 オルステッドはそう付け足した。


862 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:34:00 29.q81HI0

『過去を変えるつもりは無い。既に死んでいる身だが、今の私はルクレチアの民の骸の上で成り立っている。それを無かったことにはしない』

 それは誠実さか、己の背に背負った十字架か、それともルクレチアの民は滅んで当然と思ってか。
 しかし――

『その噂が正しい場合、セイバーの立場は良くないのではないか?』
『そうだな。私はさしずめ“空気の読めないバカでマヌケな男”ということになるだろうな。だが、それでもかまわない。アリシア姫に“悪女”の汚名を着せるよりは、な』

 さらに紡ぐ言葉の調も、やはり自嘲に満ちている。

 アリシア姫の心変わり。
 何故、アリシア姫は心変わりをしたのか。
 その理由をオルステッドは知らない。

 後の伝承では、オルステッドの主観のみで語られる。
 故に、アリシア姫の心変わりした事実も伝えられるが、その理由までは伝えられていない。
 しかし、彼女が心変わりした表面だけを捕らえ、彼女を“悪女”と呼ぶ者もいる。

 彼女は真に“悪女”なのか。
 それはアリシア姫本人、もしくは直前に会ったストレイボウにしか分からないだろう。

 だが、オルステッドは死者の墓を暴くのを拒んだ。
 聖杯に望むまでもなく、生前、魔王と化したオルステッドは時空を超えて干渉することが出来た。
 にも関わらず、知らないと言うことは、そう言うことなのだろう。

 けれども、伝承は語られる。
 オルステッドの主観で語られる彼女は、“悪女”と呼ばれても仕方ない部分は否定できない。
 そのことに心を痛めてるのは他の誰でもない。
 アリシア姫に裏切られた――オルステッドだった。

『所詮は一方的な想いなのだろう。だが』

 淡々と述べるその言葉は、切なく、

『今でも私はアリシア姫を、愛している』

 それでいて慈愛に満ちていた。



 ――その言葉が綺礼の心に響いたのは、その想いが“異端”なのか、それとも綺礼の感性が揺れ動いたのか――


863 : 『憎悪の魔王』/『敗者の王』 ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:34:23 29.q81HI0
【C-3 /月海原学園購買部/一日目 午前】

【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]黒鍵、エプロン
[道具]特に無し。
[所持金]質素
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.店員役を努める。
2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。
3.学園内の施設を使って、サーヴァントの情報を得たい。
4.トオサカトキオミと接触する手段を考える。
5.この聖杯戦争に自分が招かれた意味とは、何か―――?
[備考]
※設定された役割は『月海原学園内の購買部の店員』。
※バーサーカー(ガッツ)、セイバー(ロト)のパラメーターを確認済み。宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を目視済み。
※『月を望む聖杯戦争』が『冬木の聖杯戦争』を何らかの参考にした可能性を考えています。
※聖陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。
 聖側からは霊地や戦力の提供も提示されてるが突っぱねてます。
※学園の校門に設置された蟲がサーヴァントであるという推論を聞きました。
 彼自身は蟲を目視していません。
※トオサカトキオミが暗示を掛けた男達の携帯電話の番号を入手しています。

【セイバー(オルステッド)@LIVE A LIVE】
[状態]通常戦闘に支障なし
[装備]『魔王、山を往く(ブライオン)』
[道具]特になし。
[所持金]無し。
[思考・状況]
基本行動方針:綺礼の指示に従い、綺礼が己の中の魔王に打ち勝てるか見届ける。
1.綺礼の指示に従う。
2.「勇者の典型であり極地の者」のセイバー(ロト)に強い興味。
3.憎悪を抱く蟲(シアン)に強い興味。
[備考]
※半径300m以内に存在する『憎悪』を宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』にて感知している。
※アキト、シアンの『憎悪』を特定済み。
※勇者にして魔王という出自から、ロトの正体をほぼ把握しています。
※生前に起きた出来事、自身が行った行為は、自身の中で全て決着を付けています。その為、『過去を改修する』『アリシア姫の汚名を雪ぐ』『真実を探求する』『ルクレチアの民を蘇らせる』などの願いを聖杯に望む気はありません。


864 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/26(火) 01:37:49 29.q81HI0
投下終了です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。

また、暗示に関しては特に資料が少なく、暗示看破や解除など、これで良いのかやや不安な点もあります。
ご指摘があれば、よろしく御願いします。


865 : 名無しさん :2014/08/26(火) 01:45:53 6OMG/AG2O
投下乙
こうしてみるとオルステッドも案外綺礼と似た者同士だなと感じる
シアンの蟲のからくりがお見通しだな鯖本体だとバレちゃったな
切嗣との接点がついに出来てwktk


866 : 名無しさん :2014/08/26(火) 02:13:33 u8vmuY3w0
投下乙です。
何気にマスターに対してここまで打ち明けたサーヴァントは今の所彼くらいじゃないだろうか
過去を従順に受け入れつつも裏切られて尚アリシアへの愛を貫く姿が印象的。
やっぱり彼は魔王であって勇者でもあるんだよなぁ…
己の中に魔王を抱える綺礼とのコンビが今後どうなるのか気になる
そして間接的とはいえ切嗣との接点も生まれたな
このことが果たして邂逅のきっかけとなるのか


867 : 名無しさん :2014/08/26(火) 03:13:15 fjoJZ82k0
投下乙。自分の本質の部分になるとやたら饒舌になるのは2人の共通点かw
アリシアは悪女と言われるけど、オルステッド視点なんだよね
やっぱ見えないところでいろいろあったのだろうね
切嗣との因縁もできたし、面白くなりそうだ


868 : 名無しさん :2014/08/26(火) 04:23:45 JzcSKt9o0
投下乙です!
おお、不穏じゃない方向で綺礼とオルステッドの関係性が深まった
オルステッドもオディオであるのも事実だから憎悪に関しては饒舌か
最後のはなるほどって思った
あいつなら真実も知れるけど、姫を好いたのは確かだったから敢えて姫を悪女にしないために封をしたのか……
この辺は確かに敢えて嫁の死を無駄にしないために真実を考えるのをやめた綺礼のサーヴァントだな


869 : 名無しさん :2014/08/26(火) 12:26:03 O.4tc6OgO
投下乙です。

蟲一匹一匹の憎悪を感知できるとは、シアンにとって相性最悪だな。
しかも、両方に気付いた事を気付かせない上の上の反応。

購買部は、生徒や教師が拘束される授業中にフリーでいられるのは強みだね。
休み時間は大忙しだけど、人に囲まれてれば襲われにくいし。


870 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/27(水) 20:21:02 /NQgN/oE0
感想ありがとうございます。

衛宮切継&エミヤシロウ
投下します。


871 : 衛宮とエミヤ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/27(水) 20:21:55 /NQgN/oE0

「決めたよ、アーチャー。僕らは図書館に行こう」

 スーパーの駐車場にて戦闘を終えた衛宮切嗣は、アーチャーにそう宣言する。

「図書館?」
「あぁ、気配を絶ったアサシンを探すのは困難……と言うより、無理だろう?」
「そうだな。相手にもよるが、攻撃を仕掛けてくるならともかく、逃亡に徹するアサシンを見つけるのは、少なくとも私には無理だ」

 アーチャーは千里眼のスキルを持ち、遠方にいる相手でも判別できる。しかし、透視までは出来ない。
 遮蔽物が間に挟まるだけで、視線が遮られてしまう。高所に行き、見下ろしたとしても、地下街に逃げられれば発見することは出来ない。
 そもそも人通りも多く、この中から特定の人物を一人捜し当てるのは困難を極める。

「だから、次の遭遇に備える。その為に、図書館で情報を収集する。生前の伝承などが分かれば、弱点も分かるかもしれない」
「なるほど」

 『触れた物を爆弾に変える』
 宝具かスキルかまでは分からないが、かなり特徴的な能力だ。
 そこから探れば、検索はそこまで難しくないかもしれない。

「もう一騎、早朝にアーチャーが見たというランサーも居たな」
「角と尻尾を生やし、ドレスを着込んだ貴婦人か」
「そうだ。そちらは外見的特徴のみだから、検索は難しいかもしれない。こちらは調べてみないとわからないだろうな」

 推測ではあるが、竜の血が入っている英雄となると、それなりに数は減る。
 そこから槍使いを捜せば、結構な数に候補は絞れるだろう。
 それでも特定まで行けるかどうかは、やや怪しい。

「使えそうなNPC、および資材の確保は後だ。まずはアサシンへの対策をしたい」
「了解した。ところでマスター、検索施設は病院もある。こちらの方が近いのではないか?」
「確かにそうだが、僕は医療関係者ではない。そこで長々と居ると不審に思われるだろう。同様に学園も無理だ」
「図書館しか選択肢がない、と言うことか」

 マスターとしての身分を隠す必要が無くなるような状況にない限り、当分検索は図書館で行うしか無いだろう。


872 : 衛宮とエミヤ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/27(水) 20:22:29 /NQgN/oE0

「それから、すぐ近くにレンタカーを借りれる所を見つけた。そこで車を借りて、図書館に向かうとしよう」
「わかった。しかしマスター、買い出しの品と原付はどうする?」

 原付は転がり込んだ家から借りてきた物だ。放置するわけにも行かない。
 買い出しの品を持ったまま、他のマスターが居るかもしれない図書館に行くのは、手が塞がりやや危険だ。おまけに生ものも入っている。

「そこはアーチャーの単独行動スキルの腕の見せ所だろう」
「……私に原付を運転して荷を持って帰れと? 私に騎乗スキルは無いのだが」
「サイドカーも付いている。何とかならないか?」

 アーチャーは困った顔をする。
 何とかならないのか、と言われても。身体能力の高い英霊だ。まぁ、何とかなってしまう。

「出来るだけ時間のロスは避けたい。まずはレンタカーの店に行く。僕がレンタカーを借りている間、アーチャーが原付で家に荷物を運ぶ。僕がレンタカーを借り次第、家に行きアーチャーを拾う。そしてそのまま図書館に行く。この予定で行こう」
「仕方ない、了解した」

 原付に細工が無いことを確認すると、切嗣達はレンタカーの店に向かった。






873 : 衛宮とエミヤ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/27(水) 20:23:03 /NQgN/oE0



 切嗣はレンタカーの店の椅子に座り、タバコを吸う。既に申請は終わり、車の用意を待つだけだ。
 予定通り、アーチャーは原付で家に向かっている。
 今は一人だ。

「(本当は短時間でも単独行動はリスクが高い。するべきではない――が)」

 どうしても一人になりたい。一人で考えたいことがあった。

「(アーチャーはやはり、何か隠しているな……)」

 図書館での英雄の検索。切嗣はあえて言わなかったことがある。

 ――アーチャーの真名の検索。

 もし『本当に記憶を失っている』のなら、率先して提案してくるだろうと予想した。
 けれども、アーチャーは提案しなかった。
 その為、『何かを隠している』方に考えが揺らぐ。

 ……もっとも、彼ら英霊は聖杯戦争が終われば座に戻る。そして座に戻れば真名は当然思い出せるだろう。
 だから、『真名を思い出せないことを、本人はそんなに気にしていない』と言う可能性が無いわけではない。

「(それに、今の今に至るまで、なんら僕に害を為してない。戦闘行動も率先して協力してくれる)」

 不審には思う。
 だが、不審なだけだ。
 何も問題は無い。
 ……だが、引っかかる。

 アーチャーが側にいないことを良いことに、顔を露骨にしかめる。
 深く溜息をつくと、思い出したかのようにサンドイッチを手にし、頬張る。

「……やはり、美味いな」

 このサンドイッチも、アーチャーがわざわざ作ってくれた料理だ。
 自分を害しようとする奴が、こんな美味しい料理を手作りしてくれるだろうか。

「なんなんだろうな、アイツは……」 



【B-6(南)/レンタカーの店/一日目 午前】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
[状態]健康 、魔力消費(微小)
[令呪]残り三角
[装備]キャリコ、コンテンダー、起源弾
[道具]地図(借り物)、弁当(アーチャー作のサンドイッチ)
[所持金]豊富、ただし今所持しているのは資材調達に必要な分+α
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取り、恒久的な平和の実現を
1.図書館でアサシン(吉良吉影)、ランサー(エリザ)、アーチャー(エミヤ)を調べる。
2.アーチャーに不信感。
3.使えそうなNPC、および資材の確保のため街を探索する。
4.昼を回ったら暗示をかけたNPCに連絡を取り、報告を受ける。
[備考]
※アーチャーから岸波白野とランサー(エリザ)の外見的特徴を聞きました。
※この街のNPCの幾人かは既に洗脳済みであり、特に学園には多くいると判断しています。
※NPCを操り戦闘に参加させた場合、逆にNPCを操った側にペナルティが課せられるのではないかと考えています。
※この聖杯戦争での役割は『休暇中のフリーランスの傭兵』となっています。
※搬入業者3人に暗示をかけ月海原学園に向かわせました。昼食を学園でとりつつ、情報収集を行うでしょう。暗示を受けた3人は遠坂時臣という名を聞くと催眠状態になり質問に正直に答えます。






874 : 衛宮とエミヤ ◆OSPfO9RMfA :2014/08/27(水) 20:23:25 /NQgN/oE0



「(……困ったな)」

 実体化し、原付を運転するアーチャー――エミヤシロウは口に出さず思う。

「(図書館に着いた爺さんは、当然、俺の事も調べるだろうな……)」

 切嗣はそのようなことを言わなかったが、予想は付く。
 自身からは進言しなかったのは、万が一、忘れている可能性を期待してのことだ。
 もっとも、期待はしていない。不審に思われないように進言すべきだったかと、若干の後悔はある。

「(パラメーターやスキル、宝具、戦闘方法……私を特定するのに十分な情報は渡してある。真名に辿り着くのは容易いだろうな)」

 それらはこの聖杯戦争に生き抜くために必要な情報だ。渡さないわけにはいかなかった。

「(検索から私の情報を消去するのは難しい。紙媒体ならまだしも、電子媒体の場合はどうしようもない)」

 それにその行動は極めて不審だ。切嗣からの信頼を大きく損なうだろう。
 取ってはならない手段だ。

「(今のマスターは衛宮士郎と会う前だ。真名が判明しただけでは、ただの名字が同じと言う類似点しかない)」

 検索施設では、パラメーターやスキル、生前の伝承がわかるとルールにある。
 パラメーターやスキルは既に切嗣は知っているし、どうでもいい。
 問題は、生前の伝承だ。

「(俺と爺さんの関係まで書かれてなければ良いんだが――)」

 切嗣と接触していると時折、今がまさにそうだが、自分が衛宮士郎なのか英霊エミヤなのか、分からなくなる時がある。

「(詳しく書かれてないことを、祈るしかないか……まぁ、書かれていても、致命的な問題というわけじゃないんだけどな)」

 養父の遺言を継いだ子が、その夢を叶えようとして叶えられなかった。
 ただそれだけの話だ。大したことではない。


 ――ならば何故、召喚された時に真名を隠した?


「(――言えるわけ、無いだろ)」

 爺さんをガッカリさせたくない。
 ただそれだけの、自己満足でしかない我が儘。
 でも、できるなら、できることなら、我が儘を通したい。

 拠点とした家に着く。
 時間が止まればいいのにと思うが、刻一刻と時は刻まれていく。

 切嗣がエミヤシロウに辿り着くまで、残された時間はあとわずか――



【C-7(北西)/民家/1日目 午前】

【アーチャー(エミヤシロウ)@Fate/Stay night】
[状態]右腕負傷(小)
[装備] 実体化した時のための普段着(家主から失敬してきた)
[道具]サイドカー付原付(借り物)、スーパーで買った食料含む買い出しの品
[思考・状況]
基本行動方針:切嗣の方針に従い、聖杯が汚れていた場合破壊を
1.切嗣と合流する。
2.出来れば切嗣とエミヤシロウの関係を知られたくない。
[備考]
※岸波白野、ランサー(エリザ)を視認しました。
※エリザについては竜の血が入っているのではないか、と推測しましたが確証はありません。
※『殺意の女王(キラークイーン)』が触れて爆弾化したものを解析すればそうと判別できます。ただしアーチャーが直接触れなければわかりません。
※右腕は軽傷であり、霊体化して魔力供給を受けていれば短時間で完治する程度のものです。

[共通備考]
※C-7にある民家を拠点にしました。
※家主であるNPCには、親戚として居候していると暗示をかけています。
※吉良吉影の姿と宝具『殺意の女王(キラークイーン)』の外観のみ確認しました。宝具は触れたものを爆弾にする効果で、恐らくアサシンだろうと推察していますが、吉良がマスターでキラークイーンがサーヴァントだと勘違い。ただし吉良の振る舞いには強い疑念をもっています。


875 : ◆OSPfO9RMfA :2014/08/27(水) 20:25:59 /NQgN/oE0
投下終了です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。


876 : 名無しさん :2014/08/27(水) 20:34:59 5RbHfvUo0
投下乙です
図書館にはジョンス組も向かってるし何やら一波乱起きそうですね...
そしてエミヤはどうなるやら


877 : 名無しさん :2014/08/27(水) 20:46:09 vC1ozCmk0
投下乙です。
アーチャーの真名もそろそろ判明してしまう時か?
図書館はジョンス旦那組も向かってるし、鉢合わせもありそう


878 : 名無しさん :2014/08/27(水) 21:28:03 Z9n2RsoA0
投下乙です!
衛宮士郎かエミヤシロウか分からなくなる、というのがほんとこいつの心情の全てだろうな……


879 : 名無しさん :2014/08/27(水) 23:12:10 uNR0kJ1.O
投下乙です。

召喚された時に何食わぬ顔で真名を名乗って「苗字が同じとは奇遇」と笑うのが、一番無難だったんだろな。
切嗣は英雄の人生なんて興味無いだろうし。


880 : ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:27:49 ggBL6mrE0
遅刻申し訳ございません。
投下させて頂きます。


881 : アサシン・オブ・アンタイ・オバケ・ニンジャ ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:28:29 ggBL6mrE0
野原しんのすけは子供である。

頭は悪い訳ではない。むしろ幼稚園児らしからぬ多くの語彙を持ち、コミュニケーション能力は非常に高い。
しかし思考回路が単純で、それでいてあちこち繋がりも悪いものだから、本人は真面目なつもりでも傍から見れば完全に理解不能な行動に走る事も珍しくなく、実際に無意味な事も多い。
しんのすけの性格を十分に知る相手ならばさておき、そうでない場合は自分の意思を自分で正確に伝達する事は不得手だと言える。

それでもこの聖杯戦争に於いて、しんのすけが全くの無力な存在だとは言えない。
否、単純な身体能力だけを見るならば、マスターの中でも上位に位置している。
至近距離から発射された銃弾を回避した事もある。
竹刀の回転によって突風を起こす程の剣道の達人と互角に戦った事もある。
武装した巨大ロボットに対し、道具も武器も用いずただその身だけで挑み、傷一つ負わず、息を乱す事もなく勝利した事すらある。

とはいえ――その能力は常に発揮される訳ではない。
例えば、母親である野原みさえと対峙した場合は、まず間違いなく、確実に勝てない。
身も蓋も無い言い方をするならば、しんのすけのスペックは本人のテンションとその場のノリに依るところが非常に大きいのである。
少なくとも現段階では、全力を出す事は叶わぬだろう。

人生経験は――その年齢からは不釣り合いなほどに――豊富である。
何物にも変えがたいような、常人ならば決して体験できぬような出来事を何度となく体験している。
それらがしんのすけに与えた影響は、勿論ある。
だが。
家族や友人達と過ごす日常もまた、しんのすけにとっては掛け替えの無い体験なのだ。
面白いし楽しいし、時には辛いし悲しい。
それらは当たり前に存在するものであって特別視するような事ではないし、何が特別なのかという判断も中々できない。

宇宙へ飛び出したり。
平行世界に渡ったり。
強大な悪と戦ったり。
そうした非日常は、家に帰るというプロセスを経て、数多存在する日常の一部へと還元される。

しんのすけは無知である。
世界とは、世間とは如何なるものか、という事と、自らが持つ知識や経験を結びつける事ができない。
それ以前に、そもそもそのような事を考えない。

故に――しんのすけはおバカな子供だ。
しんのすけ本人もそれを自覚しているし、周囲もそう認識している。
近頃は下品な遊びをする事が少なくなってきたり、妹である野原ひまわりの誕生当初は彼女に振り回される事が多くなったりと、
そういった時期による多少の〈ぶれ〉はあっても、そこは揺るがない部分なのである。
それは、この再現された冬木の地でも変わらない。

そして。
長所にも短所にもなり得るそれは、今この時点では――しんのすけの行動を制限する短所として機能していた。


882 : アサシン・オブ・アンタイ・オバケ・ニンジャ ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:29:19 ggBL6mrE0
「ねーねーおねいさーん、タマネギ食べれる〜? 納豆にはネギ入れるタイプ〜?」
「えーっとお……君、迷子?」
「んーん、オラ、人探ししてるの!」
「探されてるのは君の方じゃないのかナ――――――」

幼稚園から抜けだしたしんのすけは、早速調査を始めていた。
とは言っても、明確な方向性も何もなく、手当たり次第に聞き込みを行っているだけで、成果は殆どない。
単なる子供の戯言として無視されるのが大半である。
運良く会話に付き合う人物を見つけても、頻繁に話題が横道に逸れるおかげで、まともに聞き込みが出来ているかは怪しいところである。

先程しんのすけが話しかけた人物――豊満な胸をした金髪の婦警は困惑と苦笑を顔に浮かべながらも根気よく対話を続けている。
先日までの多くの行方不明者に加え、今日になって同時多発的に事件が発生している異様な状況下である。
加えて、しんのすけの与り知らぬところではあるが、早朝にも一人で行動していた少女が発見されている。
既に日が昇り、多くの人々が街中にいるこの時間帯であっても、婦警がしんのすけを保護しようとするのは当然と言えば当然であった。

「君、どこの子? ママは?」
「ママはいないゾ」
「え――?」
「でも母ちゃんなら家でお昼寝してるか、ワイドショー見てるか、ひまの面倒見てるんじゃないかなー」
「あーソウデスカー」

しんのすけは全身を軟体動物のようにくねらせた。

「んもう、どーしてオラの質問に答えないのにおねーさんはオラに質問するの〜?
 アダッチーもやる気がないし、最近のおまわりさんはいけませんなあ」
「はいはい、幼稚園かお家か、近くなら送ってあげるから。分かんないなら――とりあえず交番かなあ」
「えー? オラ、魔法使いのお姉さんを探さなきゃいけないのにぃー!
 ……はっ、もしかしてオラのカラダが目当てなの!?」
「人聞きの悪い事言うなあー!」

本来の目的を半ば見失ったまま、漫才のような会話は続いてゆく。

――虎視眈々と機会を伺う、監視者の存在に気付かぬままに。

       ●

赤黒のアサシンのマスター、野原しんのすけの抹殺。
その指令を受けた悪魔の目玉は、しかし未だその命令を実行できずにいた。
理由は一つ。
周囲に人間が多すぎるのだ。
無論――下級の使い魔と言えども、一般人などに悪魔の目玉の行動を妨害できるはずがない。
だが、この人の群れの中にマスターやサーヴァントが紛れ込んでいた場合は話が別だ。
己が消滅させられる事など問題にはならぬ。
だが、それでアサシンのマスターを警戒させるのは上手くない。

――大魔王の言葉は全てに優先する。

逸る必要はない。既に手は打たれている。

深く、そして静かに。
悪魔の目玉は時を待つ――。


883 : アサシン・オブ・アンタイ・オバケ・ニンジャ ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:30:07 ggBL6mrE0
       ●

「ところてんおねーさーん」
「ところで、でしょーが。ん――」

婦警の表情に、警戒心が浮かぶ。
「お?」
しんのすけが首を傾げた、その時――ぽん、と、頭を優しく叩かれた。

「やあ、見つけましたよ、しんのすけ君。皆さん心配していましたよ」
「おおっ、組長!」
「園長です!」

現れた人物――自らが通う幼稚園の園長にしんのすけは物怖じせず、いつもの様にネタを振る。
外見的特徴を論うようにも聞こえるしんのすけの言動は教育的観点から見ればそれは好ましいとは言えないのだが、悪意は無いのだ。
それを理解している為か、最早諦めきっているのか、園長は深く話そうとせず、婦警に頭を下げた。

「どうも、しんのすけ君がお世話になりました。さ、しんのすけ君、帰りま――」
「あ、あのう」
「はい?」
「いや、あの、ホントのホントに組長じゃないんですか? 藤村組の組長は子供好きって噂も……」
「違います! 大体、私の苗字は高倉ですから!」
「うーん、オラ、それ初めて聞いた気がするー」
「あのねえ、しんのすけ君――」

       ●


「ヒッヒッヒ……!」

――幼稚園のごく近くに存在する個人用倉庫。
その内部の暗がりに、不気味な笑い声を上げる何者かの姿がある。

老人のそれにも似た顔面に、人の手足を生やす異形。
名を鬼面道士。
大魔王のキャスターの魔力によって造られた魔物である。

キャスターが初期に行っていた魔物作成スキルのテスト中に生み出されたこの魔物は、キャスターがアサシンとの不可侵条約を組んだ後に此処に送られていた。
悪魔の目玉によるアサシンのマスターの監視に加えた保険として、である。
そして案の定、アサシンは早々に条約を破棄した。

そこで――悪魔の目玉と同時に、鬼面道士もまた行動を開始した。
錯乱呪文《メダパニ》の重ねがけによって『調教』したNPCによってアサシンのマスターを人気の無い場所へと誘導し――然る後に悪魔の目玉がマスターを抹殺する。
どういう訳かマスターは幼稚園の外へと出て行ったようだが、こちらに気付いた様子は皆無だ。
所詮は子供であり、その行動範囲も知れたもの。
多少遅れは出るだろうが、計画に支障はない。

仮にマスターが令呪を使ってアサシンを呼び寄せたとしても――変身呪文《モシャス》によって化けた偽物ではない、本物のNPCなのだ。
それを攻撃して不都合が出るのはアサシンの方である。
仮にそれが看破されたとしても、マネマネを操られたNPCだと思い込めば今度はそちらを攻撃する事ができなくなるだろう。
更に、操ったと言っても一人だけ。マンションの魂喰いならばともかく、これが暴露されたところでペナルティなど課せられまい。
どう転んだとしても、キャスターが損を被る事はないのだ。

「キャスター様、もう少しだけお待ちくだされ……フィーヒヒヒ!」

最早アサシンのマスター、野原しんのすけに逃れる術は無い。
そう、NPCを操る鬼面道士が発見され、倒されぬ限り――。


884 : アサシン・オブ・アンタイ・オバケ・ニンジャ ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:31:12 ggBL6mrE0




【NINJASLAYER】




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「フィーヒヒヒ! フィーヒヒヒ……!」
ブキミめいた笑い声を上げ続ける鬼面道士。
ナムサン! しんのすけはこのまま悪魔の目玉の餌食となってしまうのであろうか……!?

その時である!

「イヤーッ!」
KRAAAAAAAAASH!
鬼面道士の頭上から突如破壊音! ガラス片が落下!
「アイエエエエエエエ!?」

窓を蹴り破って飛び込んできたのは……ニンジャ! ニンジャの……サーヴァント!
「ドーモ、はじめまして。アサシンです」
地面に降りて即座に行ったオジギからコンマ数秒後、アサシンは鬼面道士へと無慈悲な言葉を浴びせた。
「貴様を殺す」
「ナンデ!?」

「キャスター=サンの手の者か。あるいは、他のマスターの使い魔か。何であれ生かしておく理由はない。ニンジャ殺すべし」
片手に持っていた悪魔の目玉を握り潰す!
「このゴミクズとなった記録機器のように、オヌシもサンズ・リバーという名の廃棄場へと送られるのだ」

……時は数分前に遡る。
幼稚園へと向かう最中、突如として悪魔の目玉から送られる映像が途絶えた。
その瞬間、アサシンは自らの行動をキャスターに察知された事を悟った。

しかし……映像が途切れるその寸前、映像の視界が一瞬しんのすけから外れ、この倉庫へと向いた事を見逃してはいなかったのだ!
生前のアサシンは僅かな手掛かりからニンジャの痕跡を見つけてきた。
その経験とニンジャ感知力を持ってすれば何者かの存在を探知するのは実際容易な事であった。

幼稚園にしんのすけの気配はない。
未だ魔力供給は途絶えておらず、令呪も使用されていない。それでも決して安心はできぬ。
即刻この使い魔をスレイし、再び捜索に向かうべし!
ニンジャ判断力によって決断的に思考を完了させたアサシンの行動は素早かった。

「イヤーッ!」
ポン・パンチ! 鬼面道士の顔面へボディブローだ!
「アバーッ!?」
吹き飛んだ鬼面道士は受け身を取る事も出来ず壁に激突!

「ハイクを詠め。カイシャクしてやる」
ヒクヒクと痙攣する鬼面道士へとアサシンは足を進める。
「フィ、フィーヒヒヒ……!」
だが、鬼面道士はなおも笑いを浮かべている! コワイ!

「ヌゥーッ!」
アサシンがその歩みを止める。臆したか!? いや、そうではない!
彼の足元を見よ! そこには泥で造られた魔物の手、マドハンドがタケノコめいて地面から生えてアサシンの足首を握りしめているではないか!
なんたるズンビー・パニック・ムービーめいた光景か!

「マヌケめ! ここにいるのがワシ一人だと思うたかーっ!」
鬼面道士が杖を振りかざす。
それに呼応するように魔物の群れが暗闇から出現!
魔物はイノシシめいた姿をした獣人で、その手にはヤリを持った……オークである!


885 : アサシン・オブ・アンタイ・オバケ・ニンジャ ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:32:07 ggBL6mrE0
オークの筋力はバイオスモトリに匹敵し、その脚力は常人の三倍にもなるであろう。
まともに攻撃を受ければサーヴァントといえどもネギトロめいた惨殺体となるのは免れぬ!

「やれーっ!」
鬼面道士が号令する!
「ハイヨロコンデー!」
オークの群れはヤリを構えてアサシンに突撃!
マスターだけでなくサーヴァントをも仕留めたとなれば実際キンボシ・オオキイだ!

アサシンは未だマドハンドに拘束されている。
「スゥーッ! ハァーッ!」
チャドー呼吸と共にその場でジュー・ジツを構えるが、おお、それはヤバレカバレではないのか!?
……否!

「イイイイヤアアアアーッ!」
力強いシャウトと共にアサシンが跳躍! 抑え切る事が出来なかったマドハンドはアワレにも全ての指が千切れ飛んで即死!
「なっ、グワーッ!?」
驚愕し停止したオークの額にスリケンが突き刺さり死亡!

高く跳び上がったアサシンは空中でキリモミ回転、そこから全方位にスリケンを投擲したのだ! ヘルタツマキ!

「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」
突進してきたオーク達にスリケンが命中し全員死亡!
「グワーッ!」
硬直していた鬼面道士にも命中し重傷!

怯んだ鬼面道士の眼前にアサシンが降り立ち、そのままの勢いでケリ・キックを放つ!
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
たまらず倒れ伏す鬼面道士。赤黒の処刑人は冷酷にそれを見下ろした。

「バ、バカめ! ワシを倒したところで」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
アサシンが右腕を踏み潰す!

「あ、あの小僧が狙われている事には変わりは」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
アサシンが左腕を踏み潰す!

「キ……キャスター様に勝てると思」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
アサシンが右足を踏み潰す!

「アバッ……」
「イヤーッ!」
「グワーッ!」
アサシンが左足を踏み潰す!

「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!
 イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」

……数分後、倉庫の中に存在しているものはただの屍と化した魔物達だけであった。
時が経てば屍も消滅し、残るのはただ魔力の残滓だけとなろう。
ショッギョ・ムッジョ。アサシンも、そのマスターも、一歩間違えれば同じ道を辿るであろう。
だが、それはこの聖杯戦争ではチャメシ・インシデントでしかないのだ。
おお、ナムアミダブツ! 
ナムアミダブツ……!
……。

--------------


886 : アサシン・オブ・アンタイ・オバケ・ニンジャ ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:33:30 ggBL6mrE0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「さ、しんのすけ君、そろそろいい加減に――」
園長が何事かを言いかけた、その瞬間――園長は突然白目を剥き、ふらりとふらついたかと思うと、その場に倒れ伏した。

「お? どしたの組長、こんなところで死体ごっこなんてしてたら怒られるゾ」
しんのすけが身体を揺すっても、反応はない。
「ねえ〜ん、組長ったらあ〜ん」
言いながら、しんのすけがズボンと下着を脱いで臀部を園長の顔に乗せようとした時――呆然としていた婦警が我に返った。

「って、何してんの! じゃなくって、組長さーん大丈夫ですかー!?
 うわーっ、近くに大学病院はあるけど、動かしていいのかわかんないし……ああ、君もそこで待っててね!?」
「おおー……」

婦警はしんのすけから目を離し、携帯端末を取り出して連絡を始める。
「ワッザ!?」
「一体何が起こったんです?」
「ドシタンス!」
「ちょっとやめないか」
騒々とした声。周囲に徐々に人が集まり出している。

ここに至って漸くしんのすけは当初の目的を思い出した。
それと同時に、これもまた自身の周囲で起こっている事件に関係があるのではないか――という考えが脳裏によぎる。
根拠は無い。
無いのだが、そういった事には意識が及ばない。
その代わりに、好奇心は益々強くなっていく。
園長の事も気にならないでもないのだが、しんのすけに出来る事もない。
出来る事がなくても勝手に救急車に同乗したり、病人の見舞いに行って逆に症状を悪化させた事もあるのだが。

ともあれ――人込みを抜け出し、再び捜索を始めようとした、その時。
(((しんのすけよ)))
「オワーッ!」
突如として聞こえてきた声――ニンジャの声に、慌てて周りを見渡すが、声の主は見当たらない。
ニンジャとはそういうものなのだという今朝の言葉も思い出し、しんのすけは一人納得した。

「ねーねーおじさーん、これニンポー? ニンポーなの〜?」
(((……そうだ、ニンポだ)))
「おお、凄いゾ! オラにもできる?」
(((オヌシの声はニンジャに聞こえている。そう、いつもだ)))

ややあってから――まるで躊躇っていたかのように――ニンジャの声は続いた。

(((しんのすけよ。これから先、オヌシの前にはオバケが現れるかもしれぬ)))
「それは嫌だゾ……フランス人形とかガチャガチャとか、そーいうのはあんまりいい思い出が……」
(((だが、決してニンジャは負けぬ。ニンポによってオバケは滅されるであろう。アブナイを感じた時にはニンジャを呼ぶのだ。『困っている人を助けないのは腰抜け』。ミヤモト・マサシもそう言っている)))
「おお、おじさん、ヒーローみたいでカッコいいゾ! ワーッハッハッハ!」
(((…………私は、ヒーローではない)))
「お?」

それきり、ニンジャの声は途絶えた。
暫くの間しんのすけは首を捻っていたが、自分はこれからお姉さんに会わねばならない、という事を再度思い出し、ひとまずニンジャについて考えるのをやめる。

「よーし、お姉さん探しにレッツらゴー!」

未だ自分の置かれた状況を知らず。
その背には監視者が置かれたまま。
轟々とした嵐を呼ぶ幼稚園児は、ただひたすらに我を貫く。


887 : アサシン・オブ・アンタイ・オバケ・ニンジャ ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:34:35 ggBL6mrE0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ブンブブブンブーン、ブンブブブンブンブーン、ブンブブブンブーン、ブンブブブンブンブーン……。

湿ったベース音が路地裏に響く。
ニンジャが跋扈せず、サイバネ技術もなく、違法薬物の横行もないこの冬木の街。それでも陽の当たらぬ場所はある。
人気のない、廃墟めいたアトモスフィアを感じさせるその場所で、自らのマスターを見守りながらアサシンはスシを食していた。

スシは優れたエネルギー補給食であり、ニンジャの持つニンジャ回復力を最大限に引き出す。
これまでに二体のサーヴァントと戦闘し、更に今回。
激しい消耗ではないと言えども、短期間に戦闘を繰り返してはマスターにもその累が及ぶ可能性はある。
こちらは常に監視を受けている以上、ザゼンを組み、落ち着いて回復力を高める事は実際難しいと見るべきであろう。
そう判断したアサシンは、マスターの元へと向かう最中に発見したスシ専門店から、スシ・パックをハイシャクしていたのだ。

そのスシはアサシンの存在していた時代ではオーガニック・スシと呼ばれる高級スシであったが、アサシンはそれに何ら感ずるものはない。
ただ無表情にスシを補給するアサシンの、その右目がギョロリと蠢いた。

(((グググ……何たるブザマなイクサ。魔力さえ十分ならば、オヌシの実際情けないカラテであってもあのような弱敵など一瞬で爆発四散させていたろうに!)))
自らの内に秘める宝具にして邪悪なるニンジャソウル、ナラク・ニンジャの声がアサシンのニューロン内に響く。

(((フジキドよ、このままではジリー・プアー(徐々に不利)。オヌシが子守りにかまけている間にもあのキャスターは自らのカラテを更に高めていよう。惰弱なマスターなど捨て置け! 殺せ! 殺すのだ!)))
(((故に身体の支配権を渡せという訳か。聞く気はない。黙っているがいい)))
(((バカめが! 幾らあのマスターに入れ込んだとて、オヌシは所詮……)))
(((黙れ)))

アサシンは拳を握り締める。
そう、この身は何があってもあのマスター、野原しんのすけとは相容れまい。
サーヴァントだから? いや違う、アサシンは殺戮者だからだ。
あの、マルノウチ・スゴイタカイビルで妻子を失い、ニンジャとなった時から、フジキド・ケンジは……。

『ニンジャだぞー! ニンジャだぞー!』
『やれやれ、トチノキはニンジャが大好きだな。一体どこで、ニンジャなんて覚えたんだ?』
『あなたが買ってきたヌンチャクじゃない』
『スリケン! スリケン!』
『グワーッ! ヤラレター!』
『あなた、やめてください、恥ずかしい』

……ソーマト・リコールめいた、最早二度と帰らぬ情景。
その上に、自らがスレイした者達の最期が重なってゆく。

『アバッ……こんな事! 俺はニンジャなのに……ニンジャなのに!』

『嫌だ。死にたくない。こんなの間違いだ』

『寂しい秋な……実際安い……インガオホー』

『おれは罪深い亡霊だ。おれのような人間は、こうなるサダメ……カイシャクしてくれるか、ニンジャスレイヤー=サン』

『アイエエエ……助けて、兄ちゃん……』

『ま、今までクソの役にも立たなんだインチキ腐れボンズが、最期に現世利益をもたらして、万々歳ってことだ』

『俺のスシはがらんどうのからッポだ。ヨロシサンのクローンアナゴで恥を晒せてか。勝負ありだ、ワザ・スシ=サン。勝利の美酒に酔いしれるがいい。笑うがいい!』

『お前が俺を助けて、それでこんなにしたのに……お前が放っておいて……』


888 : アサシン・オブ・アンタイ・オバケ・ニンジャ ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:36:14 ggBL6mrE0
……アサシンは、己の在り方を決して変える事はないであろう。
この狂気を、復讐心を、消すことは誰にもできぬ。

英霊としての彼が登場する逸話……エピソードの多様性はスゴイ級である。
サツバツとしたマッポーの世、そこで逞しく生きるモータル達、隠された恐るべきニンジャ真実……。
だが、どうあっても変わらぬものもある。

『ニンジャが出て殺す』。

見よ、そのメンポの禍々しき文字を。より恐ろしく。ニンジャが恐れるように刻まれた、二文字の漢字を。
「忍」「殺」。
ニンジャを。殺す。

ニンジャスレイヤー。
それがこの英霊の真名であり、物語であり、宿命であった。

……おお、だが! だが、しかし!
彼の人間性は完全に失われてしまったのだろうか?
一片の感傷も持ちあわせていないのだろうか?

アサシンは実際防性のサーヴァントではない。
ただ敵を殺し尽くし、それによって自らのマスターを守るしかないのだ。
敵サーヴァントもあのキャスターとランサーだけではない。
いずれはマスターも聖杯戦争の意味を知るであろう。

だが、それまでは。
僅かな時間の間だけは……マスターにとってのアサシンは、オバケを倒す正義のニンジャなのだ。
しかし、果たしてそれが救いと呼べるのだろうか?
彼の右目は、際限なく血の涙を流していた。

……アサシンがスシを食べ終わる。
そして彼は奥ゆかしく霊体化し、しめやかにその場から姿を消した。


【B-4/街中/一日目 午前】

【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]健康
[令呪]残り三画(腹部に刻まれている)
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]無一文、NPCの親に養われている
[思考・状況]
基本行動方針:普通の生活を送る。
1.ニンジャは呼べば来る……
2.魔法使いのおねいさん(ルーラー)を探す
[備考]
※聖杯戦争のシステムを理解していません。
※一日目・未明に発生した事件を把握しました。
※ルーラーについては旗を持った女性と認識しています。
※映像によりアーカードの姿を把握しましたが共にいたジョンス、れんげについては不明です。
※悪魔の目玉による監視、及び殺害命令は継続中です。

【アサシン(ニンジャスレイヤー)@ニンジャスレイヤー】
[状態]魔力消耗(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを生存させる。
1.今はマスターを守る。
2.キャスター=サン(大魔王バーン)を優先して殺すべし。
3.キャスター=サン(大魔王バーン)は一端ランサー=サン(クー・フーリン)に任せる。
4.全サーヴァントをスレイする。
[備考]
※足立透&大魔王バーンとの休戦協定を破棄しました。


889 : ◆ggowmuNyP2 :2014/08/28(木) 01:37:08 ggBL6mrE0
投下を終了します。
誤字、展開の不備などありましたら指摘をお願いします。


890 : 名無しさん :2014/08/28(木) 02:42:13 3OiFJ8iY0
投下乙です。

劇場版しんちゃんのスペック半端ない…。

ニンジャのエントリーにより腹筋が崩壊しました。
恐ろしい固有結界持っているな、フジキド。

しかし、まだまだしんちゃんへの暗殺、監視の手は終わらない。
この持久戦、どちらが勝つか。

ところで、KRAAAAAAAAASH! は忍殺語か、誤字か、悩みます。


891 : 名無しさん :2014/08/28(木) 02:47:47 2PTEYrKQ0
投下乙ユウジョウ!
急にニンジャスレイヤーのノリになって自分の腹筋はしめやかに爆発四散しました
しんのすけのルーラー探しは魔王軍の刺客だらけで険しい道になりそうだ


892 : 名無しさん :2014/08/28(木) 03:12:41 YtOA3ARk0
投下乙
フジキドが鬼面道士に容赦なさ過ぎて草が生えるwww
そして忍殺語で笑わせに来るのに内容がめっちゃシリアスという原作再現ぶりに脱帽しました


893 : 名無しさん :2014/08/28(木) 13:16:58 xrvii7ko0
投下乙〜!
鬼面道士のあまりのフラグの立てっぷりに、あ、って察したら予想以上に忍殺してワロタw
タケノコのように生えるマドハンドがツボってヤバいwww
忍殺文体や雰囲気の再現もいいし、何よりも最後のフジキドいいな〜
正義のヒーローではないとかが


894 : 名無しさん :2014/08/28(木) 13:37:39 rYM8.lYEO
投下乙です

唐突な忍殺時空化に哀れ腹筋は爆発四散!


895 : 名無しさん :2014/08/28(木) 13:57:26 zueYaPLUO
投下乙です。

予想以上にガッツリ狙われてるしんのすけ。
狙い続ければアサシンを足止めできるし、キャスターとしてはこのまま持久戦でもいいのか。


896 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:46:42 yu63YUg.0
これより予約分を投下します。


897 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:47:14 yu63YUg.0


     01/ 目覚め〜昼食?『赤の食卓』


 ――――ふと、目を覚ました。

 海の底から泡が浮かび上がるように、意識が急速に浮かび上がる。
 しかし体に残る倦怠感から、しばらくぼんやりとしたまま、見慣れた天井を見上げていた。


 ―――夢を見ていた。
 決して手の届かない、“彼”の……岸波白野の物語を。
 それはもう変える事の出来ない、すでに終わってしまった出来事だ。

 夢で見た白野の記憶は不鮮明で、参考にできそうなものはほとんどなかった。
 彼と戦った相手のことも、彼を助けていた人物のことも、把握することは出来なかった。
 わかったことはほんの少しだけ。
 その一つが、彼には決して、何か特別な才能があったわけではないということ。
 そしてもう一つが、彼は常に、誰かに支えられていたということだ。

 そう。白野は決して、一人で戦っていた訳ではなかった。
 他者との絆に支えられながら、他者との絆を力に変えて、自分よりも遥かに強いマスター達と戦っていたのだ。
 ならばそれが、大した力もない、今のわたしが求めるべきものなのかもしれない。
 ……そんな風に頭の隅で考えながらも、しかしわたしの意識は、完全にそこには無かった。


 それはおそらく、白野の最後の記憶なのだろう。
 広く深い海の中。
 そこに漂う、彼の姿。
 それから彼がどうなったのか、知ることは出来なかった。
 だが、それが『岸波白野の物語の終わり』だという事は、何となく理解できた。

 岸波白野の物語。
 月の聖杯戦争で、何を失い、何を得たのか。
 それを訊いたとして、果たして彼は答えてくれるだろうか……。

 そう思いながら体を起こし―――

「っ……!」
 下腹部に奔った鈍い痛みに顔を顰めた。
 ぼんやりとした頭で、その痛みの理由を思い返す。

 血液が流れるように、繋がった細い回路から、自分に流れ込んでくる魔力を感じ取る。

「ああ、そうだった。わたし、白野と……」
 その事を思い出し、思わず赤面する。
 同時に下腹部の痛みに交じって、微かな熱が蘇る。


 理性を溶かし、精神を解かす魔性の歌声によって、儀式終盤の事はほとんど覚えていない。
 だがそれでも、刻まれた破瓜の痛みと、蜜のような甘い快楽は、この身体が鮮明に覚えている。
 今ならばランサーがライダーに弄ばれていた時に感じていた奇妙な熱は、彼らの行為に中てられた影響だと理解できる。
 そしてその行為と同じことを、自分は白野と行ったのだ。
 その事を思い返すと、頭に血が上り、下腹部の熱が疼き始めるのを感じた。


 ふと我に返り、今更ながらに周りを見渡すが、部屋には自分しかいない。
 白野もエリザも、とっくに目を覚ましてどこかに移動していたらしい。

「…………。シャワー、浴びてこよう」

 汗も掻いているし、一先ず冷静になろうと、ベッドから降りて一先ずの上着を羽織る。
 未だ残る痛みで少し歩き辛いが、その内この痛みにも慣れるだろう。

 そう思いながら、遠坂凛は着替えを抱えて、自室を後にした。


898 : aeriality ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:48:57 yu63YUg.0


      †


 そうして汗を流し、身体の火照りも引いたところで、私服に着替えて居間へと戻ってみれば。

「………………なに、これ?」

 白野とランサーの二人が、テーブルに突っ伏して痙攣していた。
 一瞬誰かに襲われたのか、とも思ったが、それにしては様子がおかしい。
 というかそもそも、サーヴァントが二人もいるのに、無抵抗でやられるとは思えなかった。

「ちょっと二人とも、一体どうしたのよ」
 起き上がる様子のない二人に声をかけてみる。

 返事はない。まるで屍のようだ。

 よくよく聞いてみれば、魘される様に、まずい、ひどい、くどい、えぐい、と呟いている。
 いったい二人に何があったというのか。
 部屋を見渡してみれば、テーブルの上に、これでもかというくらい赤い料理が乗っていた。

 これは、料理……だろうか。
 おそらくは、サンドイッチ。見た目はそう悪くないが、挟んである具材はおろか、パンそのものまでもが赤く染まっている。

「……もしかして、この赤いサンドイッチのせい?」

 状況から察するに、白野達が魘されているのはこの料理が原因なのだろう。
 ……だが、たかがサンドイッチでここまで魘されるだろうか、と疑問に思い、サンドイッチを一口摘まんで――――

「ッ――――――――!!!???」

 その瞬間。
 意識が一瞬で、遥か彼方へと弾き飛ばされた。


 それは、壮絶な味だった。
 ひたすら甘いとか辛いとか、そんな生易しいものじゃない。
 美味い、不味い、という評価にも収まらない。
 強いてその味を例えるのなら―――混沌(カオス)。
 もはや破壊活動にも等しい、味覚の凌辱行為。つまりはテロい。

 今ならばわかる。
 白野たちが倒れていたのは、間違いなくこのサンドイッチが原因だ。
 しかし、一体どうすればここまで酷い味になるというのか。
 彩りが赤一色と言うだけで、見た目はまだまともだったのに。


 ……赤い料理といえば、以前、お父さまに中華料理を披露したことがあったっけ。
 あの時はうっかり、お鍋に香辛料の中身をまるごと入れてしまったのだ。
 当然そんな料理が食べられたものになる筈もなく、わたし自身も含め、みんなが悶絶する羽目になってしまった。
 しかしお父さまだけは、その料理を眉ひとつ動かさずに食べきってくれたのだ。
 そんなお父さまの姿に、わたしは一層尊敬を深めた事を覚えている。

 “当然だ。常に余裕を持って優雅たれ―――それが遠坂家の家訓だからね”

 ぼんやりとした意識の中で、お父さまが赤ワインを片手に微笑んでいる。

 さすがお父さま。優雅に佇むそのお姿も素敵です。
 わたしもいつか、お父さまのような魔術師になれるだろうか………


「おいマスター! しっかりしろ!」

「――――っ!」
 ランサーの声に、ハッと目を覚ます。
 あまりにも酷いその味に、一瞬意識を失っていたようだ。

 目の前の状況を確認すると、青い顔をしたランサーが心配そうにわたしを見ていた。
 白野の方は、涙目で落ち込むエリザの傍で、悩ましげに頭を抱えていた。
 そしてテーブルをみて見れば、見るもおぞましい新たな赤い料理たちが、所狭しと並んでいるのが目にはいった。
 ある種の拷問のようなその光景に、顔の筋肉が引き攣るのを自覚する。


899 : aeriality ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:49:36 yu63YUg.0

「どうやら、何ともねぇようだな」
 安心したぜ、とランサーはほっと息を吐いて呟いた。
 目を覚ませば自分のマスターが気絶していたのだ。心配もするだろう。

「心配してくれてありがとう、ランサー。
 それで、一体どうしてこんな状況に?」
 事情はだいたい予想が付くが、念のために説明を求める。

「まあ、そんな難しいことじゃねぇんだがよ」
 横目で白野たちを眺めながら、ランサーは説明を始める。
 それによると、どうやらこの惨状は、エリザが昼食を作ろうとした結果らしい。

 なんでも、最初はその料理の腕前を知っている白野を筆頭に、どうにか彼女を止めようとしたのだとか。
 だがエリザのやる気に押されて、一品だけ、という条件で許してしまったのだ。しかしそれが惨劇の引き金になってしまった。
 あとちなみに、エリザはホットドックを作りたかったらしいが、それ用のバンズがなかったためにサンドイッチになったらしい。

 そうして作られたサンドイッチの出来栄えは、わたしが身を以て思い知った通りだ。
 新たな料理が並んでいるのは、その事に意地になったエリザが、更なる料理に挑戦したためらしい。
 それを止めようにも、白野たちはあまりの不味さ(ダメージ)に身動きが出来なかったのだ。
 そしてそこに私がやってきて、サンドイッチを口にして気絶した、という訳だ。

「……………………」
 やはりと言うべきか。あまりにも予想通りなその状況に、すこし頭痛がしてきた。
 ふと台所が気になり、恐る恐る覗いてみれば、やはりそこも赤く染まっている。
 壊れた調理器具がないことが、唯一の救いになるのだろうか。
 しかし冷蔵庫の中には、ロクな食材が残ってなかった。

「うわっちゃあ……。お昼どうしよう」

 さすがにあの赤い料理を食べる気にはなれない。
 いくら食材がもったいなくても、あれはもはや人類が食べるものではない。金星人辺りが口にする、異界の味覚だ。

「ええっと……なんとか一人分は残っているわね。
 となると、これはお母さまの分にして、わたし達は外で食べるのが妥当かしら」

 そう残された食材を確認していると、白野から声をかけられた。
 どうやらエリザへのお説教は終わったらしい。
 冷蔵庫を閉めて白野へと向き直ると、彼は「お母さまって?」と問いかけてくる。

「お母さまはお母さまよ……って、ああそうだった。白野たちにはまだ紹介してなかったわね」

 その事に思い至り、ついて来て、と声をかけて白野たちを案内する。
 その途中で、この箱舟の中における遠坂家の家庭事情(せってい)を説明する。

「この家に住んでいるのは、わたしとお母さまだけよ。お父さまはいないわ。
 けどお金はあるし、普段は親戚のエーデルフェルトって人が援助してくれているから、生活には困ってないわ」

 お父さま――遠坂時臣は、この辺り一帯の地主だったらしく、かなりの租税を稼いでいたらしい。
 そして現在、その権益はお母さまが相続していて、管理はエーデルフェルト家がしているとの話だ。
 その事を話すと、白野は何故、父親がいないのか、と質問してきた。

「だいたい半年ぐらい前かな。交通事故があったのよ。
 結構大きな事故だったみたいでね、重傷者はもちろん、死者も何人か出たらしいわ。
 ……その事故に、お父さまとお母さまも巻き込まれてしまったの」

 所詮は仮初の記憶。実感があるわけではない。
 だが半年前という符号が、その時の感情を思い起こさせる。

「お父さまの方は、即死だったらしいわ。飛んできた破片が、心臓に刺さったそうよ。
 お母さまの方も、身動きが出来なくなっていたところを、発生した火災の煙に巻かれたらしいわ。
 確か、一酸化炭素中毒だったかしら。その後遺症で脳に障害を負ってしまったの。
 お母さまはもう、現実を正しく認識できていないわ」


900 : aeriality ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:50:00 yu63YUg.0

 “現実”と同じ、壊れてしまった自分の家族。
 一人取り残された遠坂の娘という役回りを、わたしは予選で演じていたのだ。

 そうして説明を終えたと同時に、その部屋に辿り着く。
 この半年間そうしてきたように、無意味と分かっていながら、扉を軽くノックする。
 反応は返ってこない。その事を寂しく思いながらも、かまわず扉を開ける。

「お母さま、失礼します」

 部屋を覗けば、車椅子に乗った女性が、窓辺で静かに眠っていた。
 アサシンの襲撃があったのに静かだったのは、そうやって眠っていたからのようだ。

「あの人が私のお母さま、遠坂葵よ。
 とは言っても、実際にはお母さまを再現したNPCなんだけど」
 眠っているのなら、わざわざ起こす必要はない、と部屋に入らず扉を閉める。
 そして努めて気にしていないそぶりを見せながら、白野たちへと声をかけた。

「それじゃあ行きましょう。お母さまの事は、お昼ごろに来るエーデルフェルトの人に任せておけばいいわ。
 わたしたちはわたしたちで、何かちゃんとしたものを食べないと」
「な、なによその言い方! 私の料理がちゃんとしていないっていうの!?」
「いや、答えるまでもねぇだろ、ソレ。つうかテメェ、ちゃんと味見とかしてんのかよ」
「当然、してないわよ。だって太ったりしたら困るじゃない。私という至高の美の損失よ」
 いや、サーヴァントは太らないと思うのだが。と文句を言うエリザに白野が返す。
「そうだぜ赤いの。それによ、坊主は自分の分のサンドイッチを完食したんだから、それで満足しとけって。
 いや、あの料理を食べきるとは、マジですげえとオレは思ったぜ」
 自分も体験したから解るが、確かにそれはすごいと思う。
 白野に言わせれば、エリザの料理に籠めた気持ちだけは、無駄にはしたくなかったから、らしい。
「うぐぐ……。わ、わかったわよ。子ブタに免じて、今回は引き下がってあげる。感謝しなさいよね!」

 白野たちはそんな風に、気にした様子もないように言葉を交わす。
 たぶん、わたしに気を使ってくれているのだろう。
 その事に、少しだけ胸が暖かくなるのを感じた。

「それじゃあ……そうね、商店街辺りにでも食べに行きましょう」
 内心でありがとう、と感謝をしながら、白野たちにそう提案する。
 ……まあ、この家で食べるにしても、食材がないため結局は買い出しに出かけないといけないのだが。

「あ、お金の事なら気にしなくていいわよ。わたし、結構持ってるから」
 先ほども説明したように、地主である遠坂家は相当に稼いでいる。
 わたしはその一端を、お小遣いという形で受け取っているのだ。それも膨大な額で、大体、ゼロが七個くらいあっただろうか。
 その事を告げると、白野は非常に驚いた後、やたらと難しそうな表情を見せた。
 たぶん、わたしのような子供に奢られることに対する煩悶なんだろうけど、マネーイズパワーシステムとか、トイチシステムとか、一体何の事だろうか。

 まあとにかく、他に意見はないらしい。
 なら善は急げと、わたしたちは遠坂邸を後にして、商店街へと出発したのだった。


     02/ イートイン・泰山


 凜達とともに、商店街――マウント深山を練り歩く。
 もうそろそろ昼時だからか。道を行く人の数はまばらで、見通しは悪くない。
 だが先ほどから、自分たちが妙に視線を集めていることは自覚していた。

 その理由は明白だ。
 学生であるはずの岸波白野と遠坂凜が、未だ授業中の時間でありながらこんな場所を歩いているから……ではなく、
 先ほどから実体化して、自分のすぐ後ろを歩いているエリザが目立っているためだろう。
 何しろ元々の美貌に加え、彼女には角や尻尾が生えているのだ。注目を集めないはずがない。

 それでも騒ぎにならないのは、彼らがあくまで日常を演出するNPCだからか。
 朝食の時もそうだったが、明確な騒動を起こさない限りは、別段異常とは取られないのだろう。
 逆に言えば、エリザの姿を見て何かしらの行動を取る人物は、聖杯戦争の関係者である可能性が高い、という事になる。
 ちなみにランサーも、どこからか調達したらしいアロハシャツを着て実体化していた。


901 : aeriality ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:50:50 yu63YUg.0


「それで、白野。どこで昼食を摂るつもり?」
 岸波白野の隣を歩きながら、凛がそう問いかけてくる。

 外で食べるとは言っても、どこで食べるかは決めていない。
 どうせなら、四人そろって座れる場所がいいが、あまり開けた場所も宜しくはない。
 朝食の時のように、時間と場所を考えない襲撃……特に狙撃があるかもしれないからだ。
 となると、そういった遠距離からの攻撃を阻害できる、店外からの目視が難しい場所が望ましい。
 そんな条件に見合う店を探しているのだが………

「なかなか目ぼしいところは見つからねぇな」
 半ば闇雲に歩いている状況に退屈しているのだろう。
 ランサーは欠伸を交えながらそう愚痴を溢した。

 ここのマウント深山は古式ゆかしい商店街の風情を保っているようで、飲食店の類が極端に少ないのだ。
 あるとしても、学生向けの買い食い、お持ち帰りが可能な形式の店が多く、つまりは気軽に出入りがしやすい=外から中の様子が見えやすい間取りがほとんどだった。
 おそらく、レストランなどの奥まった間取りの店は、新都の方に集中しているのだろう。
 このままでは無駄に時間を潰すだけに終わり、昼を過ぎてしまうこともあり得るかもしれない。
 どこか適当な店で妥協するべきだろうか………。

「あら。私はこのままでも構わないわよ。
 だって、この私が食事をする場所だもの。それ相応の場所を選ばなきゃ」
 周囲の注目を浴びてご満悦らしい自称・アイドルは、そう口にしながら岸波白野へと背後からしな垂れかかってくる。

「あ!」
「お」
 凜がしまった、といった風に声を上げ、ランサーの眠たげだった表情に好奇の色が浮かぶ

「ちょっとエリザ! 引っ付き過ぎよ! 少し離れなさい!」
「あらリン、それはなんで? 私が子ブタとどう接しようと、私の勝手じゃない」
「な、なんでって! それは……その……
 白野は、わたしと……つつ、付き合ってるんだもん!」
 顔を真っ赤にしながらそう口にする凜に釣られて、自分の顔も赤くなっていくのを自覚する。

 そうなのである。
 ラインを結ぶ儀式の際、岸波白野は遠坂凛にファーストキス(多分)を奪われている。
 その時の彼女の言葉に従うのであれば、自分は凛と交際していることになるのだ。
 ……実際、恋人じゃなければしないようなことを彼女としてしまったわけだし。

 ああ、もう。
 せっかくエリザのテロい料理のどさくさに、有耶無耶にして考えないようにしていたというのに。
 一度意識してしまえば、凛と顔を会わせ辛くなってしまうじゃないか。
 と。そんな風に羞恥と後ろめたさから、煩悶としていると、

「あら。付き合っているから何? それなら私は、彼の婚約者よ」

 ――――――――は?
 いきなり落とされた爆弾発言に、思わず思考が停止した。

「ちょ、ちょっとそれどういう意味よ!」
「だってハクノったら、私の逆鱗を見ただけじゃなく、触りもしたじゃない。なら、もう結婚するしかないでしょう?」

 曰く、龍には一枚だけ逆さに生えた鱗があり、それに触れるとどんな穏和な龍でも激怒すると伝えられている。
 その逆鱗は竜の血を引く魔人と化したエリザベートにも存在し、それは尾骶骨の辺りに生えているのだ。
 そして彼女は逆鱗を見られると、恥ずかしさのあまり赤面してパニックを起こした後、見た者に「自分に殺される」か「自分と婚姻する」かの二択を迫るという。

 その逆鱗に、岸波白野は触れたのだとエリザは言う。
 儀式中の記憶は曖昧だが、貞操観念の強い彼女が口にしたのだ。おそらく本当の事だろう。
 そしてその理屈に従えば、なるほど、確かに自分はエリザと婚約していることになる。……じゃなければ殺されている。

 ………だが、ちょっと待って欲しい。
 そうなると自分は、婚約者のある身でありながら、他の女性(それも子供)と付き合っていることになるのか?
 つまりは、二股の上に変態(ロリコン)………。
 ……岸波白野の社会的地位は、すでにそこまで堕ち切っていたらしい。人生を踏み外しているのも程があるっ………!


902 : aeriality ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:51:38 yu63YUg.0

「なな、なによそれ! 自分は途中で怖気づいたくせに!」
「お、怖気づいてなんかいないわよ! そう言うのはやっぱり、ちゃんと結婚してからするものでしょう!」
「な! 自分から混ぜてって言っておいて、いざとなったらそういう事を言うわけ!?」
「い、いいじゃない別に! 私は貴族なんだから、貴族の仕来り(ルール)に従うのは当然でしょ!?」

 自分の堕落っぷりに慄いている間に、凛とエリザが岸波白野を取り合いながら言い争いを始めていた。
 倍近い年齢差がある筈の彼女たちが、Z指定な内容で、子供レベルの喧嘩をしている光景に、先程とは違った目眩を覚える。
 そして片や子供の腕力、片や手加減しているとはいえ、両腕を思いっ切り引っ張られるのはとても痛い。
 あとランサー。そんな面白いモノを観るような目でこちらを見るのは止めてほしい。


      †


 ―――とまあそんな風に、どうにかこうにか商店街を歩いていると、

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????????????」

 と。
 商店街の一角から、悶絶するような、声にならない悲鳴が聞こえてきた。
 何事かとその場所をみて見れば、【紅洲宴歳館 泰山】と看板の掲げられた、中華飯店があった。

「げぇ……ッ!」
 その店を見た途端、ランサーが嫌なモノでも見たかのように顔を顰めた。
 その反応をするという事は、ランサーはこの店を知っているのだろうか。

 どこか聞き覚えのある店名のその店は、まだ昼間だというのに窓を締め切っており、店内の様子は窺えない。
 つまり、店外からは襲撃しづらいという条件に合致している。
 加えて中華飯店という事は、麻婆豆腐がある可能性が高い。

  >よし、この店にしよう。

「おい、この店だけは止めておけって。いやマジで! お願いします!」

 何か知っているらしいランサーは他の店にしようと提案するが、このまま探し続けても他に最適な店が見つかるとも限らない。
 これ以上無駄に時間を浪費するよりは、この辺りで妥協しておくべきだろう。
 彼へとそう告げて、おもむろに中華飯店へと向けて足を進める。
 決して先ほどおもしろげにこちらを眺めるだけで、助けてくれなかったランサーへの仕返しに、彼が嫌がったこの店を選んだわけではない。
 そうして凛とエリザ、嫌がるランサーを引き連れて見せの中へと入ってみれば―――


「あら、申し訳ありません、ルーラー。言葉が足りませんでした。
 今のは私にとってちょうどいいという意味で、貴女には少し辛過ぎたようですね」

 なんか、修道女が実に愉悦気な笑みを浮かべていた。

「〜〜〜ッ! 〜〜〜〜〜〜ッ!!」
 向かいの席には一人の女性。
 彼女は口元を抑え、何かを堪えるように涙目で悶えている。
 二人のいるテーブルの上には、ラー油と唐辛子を百年ぐらい煮込んで合体事故させた地獄の釜にも匹敵しそうな料理、麻婆豆腐がある。
 先ほどから女性が悶えているのは、おそらくその麻婆豆腐が理由なのだろう。

「おや、貴方達は。これは丁度いいタイミングですね。相席でもよろしければ、どうぞこちらへ」
 修道女が自分たちに気付くと、そう言って手招きしてきた。
 断る理由もないので、頷いて彼女たちのいるテーブルに向かう。

「〜〜〜〜ッ!」
「…………」
 修道女は未だに悶える女性の隣に座り直し、残り半分となっている自分の分の麻婆豆腐を食べ始めた。
 話を始める前に、食事を終わらせよう、という事なのだろう。
 自分たちは対面に座り、特にすることもないので、彼女たちの様子を観察する。

 ……先ほどのやり取りから推察するに、彼女たちはおそらく裁定者。聖杯戦争の監督役だろう。
 それがなぜこの店にいるのかは分からないが、彼女たちも人間だ。食事くらいはするだろう。
 なので現状、考えるべき点は一つ。
 監督役の片割れ手ある彼女が、どうして自分たちに声をかけたのかだが――――

 と考えを巡らせたとき、不意に修道女の手が止まった。
 彼女の皿の外道マーボーは、残り二口分ほど。


903 : aeriality ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:52:28 yu63YUg.0

「――――――――」
 ――――――――。

 視線が合う。
 修道女は澄ましたような、どこか期待の籠った目で岸波白野を眺めて、

「食べますか――――?」

  >頂こう――――。

「「「「な――――――!?」」」」
 他四名から、何故か驚愕の声が発せられた。


     02.5/ セカンドオーナー


 ――――そうして、二人と二騎が裁定者たちと遭遇して居た頃、
 遠坂邸の前で佇む、一人の女性がいた。

「――――――――。
 ふむ。どうやら、トオサカリンは不在のようですわね」

 女性はインターホンを鳴らした後、少ししてからそう呟く。
 マスター、ではない。そして当然、サーヴァントでもない。彼女は遠坂凛が口にしていた、エーデルフェルト家の人間だ。

「まったく。学園から無断欠席していると連絡があったので心配してみれば。
 Abzug Bedienung Mittelstand―――」
 女性はそう呟くと、家の鍵を取り出して遠坂邸へと踏み入る。
 ルーンの守りは起動しない。この家自体が、彼女を家人であると迎え入れたためだ。


 女性の名は、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。
 遠坂家の遠縁という設定と、美遊・エーデルフェルトの保護者という役割を持った、B-3に居を構えるNPCだ。
 ついでに言えば、彼女は月海原学園に通う生徒の一人でもある。
 そんな彼女がこの時間、この場所にいるのは、家庭事情に問題のある遠坂凛の後見人という役割も担っているためだ。

 ルヴィアは遠坂凛が学園を無断欠席したことにより連絡をうけ、授業を中退して遠坂邸へと訪れたのだ。
 それが許されたのは、遠坂邸へと電話が繋がらなかったことと、最近色々と物騒だからという理由からだ。

 ……そしてもう一つ。
 数多くいるNPCの中でも重要な役割が、彼女には与えられていたからでもあった。


「……状況を見るに、トオサカリンもミユと同様、 “目覚めてしまった”ようですわね。学園を無断欠席したのはそのためでしょうか」
 敷地内の至る所に刻まれたルーン。そして一部崩壊した家の壁から、ルヴィアはそう推察する。
 遠坂邸に電話が繋がらなかったのは、その壊れた箇所にあった電話線が断線していたからのようだ。

 遠坂凛がいない理由は、現状では予測しきれない。
 ただ出払っているだけか、襲撃を受けて拠点を移したのか、あるいは他のマスターが遠坂凛を殺すか傀儡として、この家を奪ったのか。
 霊地としての質こそ大きく損なっているとはいえ、この家が拠点として優れていることに変わりはない。いずれの可能性も考えうる。
 なのでその全てに対処できるよう、最低限の考慮だけはしておく。

「まあもっとも、未だ半人前とはいえ、あのトオサカリンがただでやられるとは思えませんけど」

 彼女の中の記録には、『遠坂凛はルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと同格の魔術師である』、という情報がある。
 ならばそこに至る以前の子供であろうとも、相応の才覚は秘めているはずだ。

「どうやら、それほど激しい戦闘ではなかったようですわね」

 ルヴィアは邸内の状態を見て回り、ついでの様に魔術で建物を修復しながら、遠坂葵の私室へと向かう。
 現実の再現として認識障害を患っている遠坂葵の介護も、ルヴィアの役割の一つだからだ。
 そして彼女の部屋へと入ってみれば、そこにはやはり眠り続ける遠坂葵の姿がある。
 ルヴィアはそれを確認して、今度は台所へと向かった。そうして、台所の惨状に驚きの声を上げた。

「な、なんですのこれは。まるで事件現場ではないですか」

 テーブルの上に置かれた赤い料理の数々と、血が飛び散ったように赤く染まった台所。
 これで血の匂いが漂っていれば、完全に殺人現場と勘違いしていただろう。

「……まったく。一体どうしたらこのような状態になるのかしら。
 まあ、これも保護者としての責務の一つです。マスター就任の労いも兼ねて、後片付けくらいはしてあげましょう。
 もっとも、今度顔を合わせた時には、きっちりと文句を言ってあげますけど」
 そうため息を吐きながら、赤い料理を処分し、手短に台所を洗浄する。
 そして冷蔵庫の食材で手短に一人分の昼食を作り、遠坂葵の私室へと運ぶ。

 いかに認識障害を患っているとはいえ、仮にもNPC。最低限の生活が出来るだけの機能は残されている。
 彼女が認識できる場所に運んでおけば、後は勝手に処理(デリート)してくれる。


904 : aeriality ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:52:58 yu63YUg.0


「―――Anfang Mittelstand」
 そうして全ての作業を終えたルヴィアは、鍵を施錠して遠坂邸を後にした。
 そのまま門の外に待つ黒塗りの洋車へと乗り込むと、運転席に座る執事に帰宅指示を出す。
 ―――その時だった。

「おや? あれは………」
 不意に車の横を通り抜けた通行人に、妙な違和感を覚えた。
 それが気になり、ルヴィアはその人物を注視して―――

「っ! オーギュスト、すぐさまあのNPCの素性を調べてください。
 その後、月海原学園担当のリュード・イッセー他、管理権限を持つ上級AIに連絡を」
「お嬢様?」
「先ほどの通行人……情報(データ)の確認ができませんでした」
「っ………!」

 ルヴィアに与えられた、もう一つの重要な役割。
 それは日常の運営。この街に住むNPC達の管理である。

 いかに聖杯戦争を運営するための権限を持つ裁定者であっても、その力は個人で及ぶ範囲に限定される。
 加えて、ジャンヌ・ダルクはサーヴァントの、カレン・オルテンシアはマスターの監督が主な役割となる。
 当然、街に数多くいるNPC全ての管理にまで手が及ぶわけがない。
 そこでムーン・セルは、NPC自身にNPCを管理させることにしたのだ。
 それがルヴィアを始めとした、上級AIと呼ばれる存在だ。

 一般NPCの役割は『日常』の再現であり、対して上級AIは、それを管理・運営するのが主な役割となる。
 そのための権限として、上級AIにはマスターとNPCを判別し、日常における役割などの情報(データ)を閲覧できる機能が与えられていた。
 とは言っても、聖杯戦争を運営するのはあくまでも監督役。上級AIに可能なのは、NPCの状態を確認し、異常があれば報告することくらいだ。

 ちなみに、上級AIの存在は基本的に秘匿されている。
 何故なら彼らが殺(デリート)されれば、日常の運営に滞りが発生する可能性があるからだ。
 NPCへ危害を加えることが禁止されているのは、彼らを保護する意味合いも含んでいるのだ。

 ―――そして、先程の通行人の情報を、管理権限を持つ上級AIのルヴィアが確認できなかった。
 それはつまり、そのNPCが上級AIの管理下にない、という事になるのだ。
 これは日常を運営する上で、看過できることではなかった。

「事と次第によっては、監督役に連絡をしなければなりませんわね。
 彼女の事は苦手ですが、これもミユと、おまけにトオサカリンのため。
 NPCである私に彼女たちを直接救うことは出来ませんが、せめて彼女たちが不利にならないようにしなくては」

 通常のNPCと違い、上級AIには確固たる人権と人格、魂が与えられている。
 彼等はその役割から外れることが出来ないだけで、人間とほとんど変わりない存在なのだ。
 そしてその人格に当てはめれば、ルヴィアは美遊と遠坂凛の二人に対して好感を懐いていた。
 故にルヴィアは、美遊が屋敷を出ていった時も、その意思を尊重して、学園へと休みの連絡を入れるに止めた。
 彼女達の意思を尊重し、その行動を妨げさせないことが、NPCであるルヴィアに出来る最大限の援助だったからだ。

「余程の理由でもない限り、彼女たちがルールを破る筈ありません。
 ならば私は、他のマスター達にもルールを徹底させて見せましょう。
 聖杯戦争を公正に運営させる。それが私に出来る、彼女達へのせめてもの手向けです」

 たとえ一時の、偽りの関係であっても変わらない。
 家族ために。未来の好敵手のために。
 上級AI、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは己が役割を全うする。

 そうしてまた一つ、誰にも知られることのない聖杯戦争が始まったのだった――――。


905 : 心の在処 ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:54:03 yu63YUg.0


     03/ 裁定者との会合


「―――ルーラーも持ち直したことですし、話し合いを始めるといたしましょう」
 食べ終わった麻婆豆腐の皿を脇へと避けて、カレン・オルテンシアと名乗った修道女はそう口火を切った。

 それを横目にレンゲを手にとり、麻婆豆腐を口に運ぶ。
 この麻婆豆腐は、ルーラーと呼ばれた女性の分を譲り受けたものだ。
 岸波白野たちの分は別に注文をしてあるのだが、それはそれとして食べ物を残すのはよろしくない。

「実は、貴女方が拠点としている地域で、重大なルール違反が行われていることが確認されました。
 そこで貴女方には、裁定者の権限において、自身が知る限りの情報を提示することを要求します」
 いきなり直球で投げられた言葉に、凜達の顔が強張る。

 裁定者としての権限で、とカレンは口にした。
 それは間接的に、虚偽の申告をすれば、裁定者に刃向う、つまりは敵対することに繋がる。
 すなわち、聖杯戦争そのものを敵に回しかねない、という事になるのだ。

 ………麻婆豆腐。
 ただ唐辛子が山のようにぶち込まれた、一見雑な料理にも見えるが、豆腐を口に含んだ瞬間舌を焼く刺激が、堪らない味覚を齎す。
 加えてこの麻婆豆腐には、尋常じゃない量の芥子(スパイス)が入れられているらしい。
 口にする度、腕が震えて、汗が噴き出る。まるで沸騰するような辛さが脳を焼く。

「先に告げておきますが、あの地域にいた四騎のうち、そこのランサーを除いた三騎全てに反英雄的素養があることは理解しています。
 そして、その内の一騎である彼女と行動を共にしている以上、貴方も含む四騎全員が容疑者となります」
 ルーラーは威厳を伴った声で、虚偽申告は無意味だと言外に告げる。

 そのセリフから察するに、彼女には一定範囲内のサーヴァントの数と、その性質を知ることの出来る能力、または権限を有しているらしい。
 それが裁定者のクラス特性なのかはわからないが、こうして目を付けられた以上、逃れることは出来ないだろう。
 ――――だが。

「あら、ずいぶんな言い草じゃない。
 私が反英雄だからってだけで、みんな罪人扱いするわけ?」

 一瞬で空気が凍り付く。
 エリザが放つ鮮烈な殺意に、周囲の空気が圧し潰されていく。
 このような威圧に慣れていない凛などは、血の気の引いた顔で振るえていた。

「そういう訳ではありません。私はただ、貴女方が無実であるのなら、その事を証明してほしいだけです」
「どうだか。どうせ罪人だって判断したのなら、相手の言い分も聞かずに処罰するんでしょう、貴女も?」
「私はそんな事をするつもりはありません。その人物の事情次第では、相応の酌量をするつもりです」

 しかしエリザの殺意に飲まれることなく、ルーラーは言葉を返す。
 この殺意の中武装しないのは、彼女のせめてもの誠意の現れか。
 だがエリザの気は済まないようで、酷薄な瞳でルーラーをねめつけている。

「……どうやら、私の発言は貴方の癇に障ってしまったようですね。その事は謝罪しましょう」
「フン。言葉では何とでも言えるわ。本当に謝罪する気があるのなら、それ相応の態度で示しなさいよ」
「態度で、ですか。つまり、貴女は私にどうしろと」
「そうねぇ……。いいわ、アナタ。すごくおいしそうじゃない」

 エリザが、チロリと舌を覗かせて、舐めるようにルーラーを見据える。
 そこには、彼女が血の伯爵令嬢であることを思い出させるには充分過ぎるほどの残酷さが宿っている。
 そこへ、
 ――――エリザ。
 と。彼女をまっすぐに見つめて、静かに声を投げかけた。

「なんてね。冗談よ、冗談。ルーラーがあまりにも上から目線だったから、ちょっとイジメたくなっただけ」
 途端に張りつめた空気が霧散する。
 エリザの言葉を聞いて、ルーラーはホッと息を吐く。
 それは自分も同じだ。エリザは冗談だ、と言ったが、半分くらいは本気だったに違いない。

 若干の冷や汗を掻きながらも、止まっていたさじを再び進める。
 その途端、マグマのような辛さが全身に染み渡るのを感じる。
 だが、それが良い。
 この血が逆流するような、購買部で売られていた麻婆豆腐には無かった“本物”の辛さが、むしろ良い……!


906 : 心の在処 ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:55:04 yu63YUg.0

「それに生憎だけど、私、もう拷問趣味は止めてるの。今のところ、その辺の家畜達(ブタやリス)を捕殺する気はないわ。
 それに、血の方も極上のものを味わったばかりだもの。後味を濁したくないから、当分はいらないわ
 まあ、貴女がおいしそうって思ったのは否定しないけど」
「……そうですか。一応ですが、安心しました。貴女のマスターは良き方なのですね」
 僅かに肩の力を抜いて、ルーラーはそう口にした。
 どうやらエリザが本心から口にしていると判断したのだろう。どうやら彼女には、相手の虚偽を見破る能力もあるらしい。
 だが少しの間を置いて、おや、とルーラーが首を傾げた。

「極上の血を味わった……とは、一体どういう意味なのですか?」
「あら、知りたいの?」
 その問いにエリザは、嗜虐的な流し目で凜を見ることで答える。

「ッ――――!」
 途端。青ざめていた凛の顔が、一瞬で真っ赤に茹で上がった。
「まあ」
 対して何かを察したらしいカレンが、再び愉悦気な笑みを浮かべていた。
「……いいえ、止めておきましょう」
 そんな二人の様子を見てか、ルーラーは疑問を残しながらもそう答えた。

「しかしなるほど。遠坂凛とエリザベート(“紅”のランサー)との間に仮契約が結ばれていたのは、その辺りが理由ですか」
「仮契約? わたしとエリ……その、“紅”のランサーとの間に?」
「ええ。どうやらそのようです。
 しかし今のところ正規の契約の方が優先されているようで、現状ではただ繋がっているだけ、という状態の様ですね。
 利点といえば、岸波白野またはクー・フーリン(“青”のランサー)が倒されても、貴女達は消去されないことぐらいでしょうか。
 ……もっとも、これはあくまで可能性の話でしかありませんが」

 ルーラーの予測は、つまりこういう事だろう。
 もし仮に、凛のランサーが倒されたとする。その場合、通常であればそのマスターである凛もデリートされる。
 しかしエリザとの間に仮契約が結ばれていたことにより、彼女はサーヴァントと契約している、という状態のままになる。
 この聖杯戦争の敗北条件は、サーヴァントとの契約を失うことだ。ならば契約が存在する限り、凜が敗北したとは見なされないのだろう。
 もっとも、そこは管理の怪物であるムーン・セルが判断するところ。ルーラーの言った通り、可能性の範疇は越えられない。

「しかしこの状態は、一種の二重契約という事になってしまいますが………」
「問題ないでしょう。オリジナルの聖杯戦争においても、一人のマスターが二騎のサーヴァントを使役する、サーヴァント自身がサーヴァントを召喚して使役する、という事態はありました。
 それにそもそも、聖杯を得られるのは、最終的に生き残った一人と一騎だけです。ですので、わざわざ裁定者として審判を下す必要はないかと」
「そう……ですね。確かにこれはマスター間での問題であり、聖杯戦争の妨げになるわけでもありません。
 貴女の言う通り、問題なしと判断して大丈夫でしょう」
 カレンの言葉に、ルーラーは一瞬辛そうな表情を浮かべた後、すぐに裁定者としての顔を浮かべ、そう答えた。

 それを訊いて、内心で安心する。
 つまり凛とエリザに対して、一応の保険がかかったという事なのだから。
 ……しかし、先程ルーラーが一瞬見せた表情は何だったのだろう。カレンの言葉に、何か思う所でもあったのだろうか。
 と、麻婆豆腐をレンゲで掬いながらそう思っていると、不意にカレンが嗜虐的な笑みを浮かべて、

「ああちなみに、血と仮契約の関係ですが―――」
「と、とにかく! あなたたちの言うルール違反に私たちは関係ないわ。
 そんな余裕なんてなかったし、その必要もなくなった。
 それに、そんなこそこそするようなマネ、遠坂の魔術師として相応しくないもの」
 顔を赤く染めた凜が、カレンの言葉を遮ってそう告げる。
 仮契約が結ばれた理由はおそらく、儀式中にエリザが凜の破瓜の血を舐め摂ったからだろう。
 しかしそんな事、人に話せるわけがない。もし知られてしまえば、遠坂凛と、特に岸波白野の身の破滅だ。

 そして凜の言った通り、自分たちはルール違反を犯した覚えはない。
 可能性があるとすれば、仮契約の事がそうだろうが、それもカレンが問題ないと判断し、ルーラーも認めた。
 ならば彼女たちの言うルール違反は岸波白野たちの与り知らぬところにあり、故にこの件に関して答えられることは何も無い。


907 : 心の在処 ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:57:14 yu63YUg.0

「………どうやら、本当の様ですね。
 わかりました。貴女方はこの件に関与していないと、裁定者の名において認めましょう。
 ですが念のために、本日未明から現在に至るまでの、貴女方の動向を報告してください」
「わかったわ」

 ルーラーの言葉に肯いて、凜は自分たちの動向と現在の状況を説明していく。
 岸波白野にとっては既知の情報なので、軽く聞き流しながら食事を続ける。
 その途中、エリザが興味ありそうな目で麻婆豆腐の皿を見ていることに気が付いた。
 ――――――――。
 自分は、

  >食うか――――?
   やらんぞ――――?

 対面の修道女と同じように、エリザにさじを勧めてみた。

「――――そ……そう、ね。ちょっと気になるから、一口だけ頂こうかしら。
 すごく赤いし、それにこの料理、ハクノが好きみたいだし」
 そう口にしながら、エリザは差し出されたレンゲを受け取る。
 そして恐る恐る麻婆豆腐を一掬いして、慎重に己が口内へと運び、

「――――――――!!!!!!」
 舌に突き刺さるあまりの衝撃に、弾き飛ばされるように椅子ごと倒れ伏した。

「かかか、辛っ! 辛いわ! かなり辛いわ! ものすごく辛いわ! とにかく辛いわ! ひたすらに辛いわ! 辛いったら辛過ぎるわ! 
 な、なんなのよこの料理! ヤタラメッタラに辛いじゃないの! いえ、もはや辛いどころか辛(つら)いってレベルよ! 拷問級よ!
 なんてもの勧めてくれるよのアナタ! 私の可憐な唇がタラコみたいに真っ赤に腫れ上がったらどうしてくれるのよ!
 っていうかよくこんなの平気で食べれるわね! アナタ本当に人間!?」
 どうにか持ち直したエリザベートは、悲鳴を上げるように捲し立ててくる。

 こんなものとは失礼な。この辛さだか美味さだかわからない強烈な刺激が堪らなく良いんじゃないか。
 っていうか、テロい金星人料理しか作れないエリザに、味についてとやかく言われたくはないのだが。

「ッ〜〜〜! どっちもどっちよ!
 っていうか白野、アンタも話に参加しなさいよ! 何一人だけ黙々と食べてるのよ!」
 バン、とテーブルを叩いて、凜が声を荒げる。
 それに釣られて視線を上げれば、ランサーは引き攣った表情で、ルーラーは何か恐ろしいモノを見るような目で岸波白野を見ていた。
 その中でただ一人、カレンだけは同士を見つけたような顔をしていた。

 ………ふむ。
 話に加わるのは構わないが、果たしてその意味はあるのだろうか。

「む。それってどういう意味よ」

 どうもこうもない。
 この話はつまるところ、“自分たちと裁定者、それぞれがどうキャスターに対処するか”、というものだ。
 なら、話に加わろうと加わるまいと、岸波白野がするべきことに変わりはないだろう。

「へ?」
「っ!」
「ほう」
 それぞれが疑問、驚愕、関心の声を上げる。

「何故そう思うのか、訊いてもよろしいでしょうか」
 続けてカレンが、見透かしたような眼でそう問いかけてくる。
 彼女とは初対面のはずなのに、それはどこか見覚えのある表情だった。

 簡単な話だ。
 まず前提として、ルーラーはあの地域に四騎のサーヴァントがいたと口にした。
 状況から推測するに、その四騎とは、岸波白野のランサー、遠坂凛のランサー、遠坂邸を襲撃したアサシン、そのアサシンが殺せと命じたキャスターだ。
 加えて、岸波白野たちにルールを違反した覚えがない以上、ルーラーが捜している違反者はアサシンかキャスターのどちらかになる。
 そしてアサシンとキャスター、この二騎を比べて、聖杯戦争のこんな最初期で裁定者が動き出す様なルール違反をする可能性が高いのは、明らかにキャスターの方だ。
 なぜなら、アサシンにはルールを違反する利益がなく、対してキャスターには他のクラスと比べより大きな利益があるからだ。

 アサシンというクラスはその性質上、隠密、暗殺に特化した英霊が多い。
 つまり聖杯戦争を監督する裁定者に目を付けられるような行動は、暗殺者の本分に真っ向から反するのだ。
 あり得るとすれば、裁定者そのものを排除しようとした場合だが、それならわざわざこのような話をする意味はない。
 そしていかにアサシンが隠密に優れていようと、ルーラーもまた感知能力を有している。裁定者の権限も鑑みれば、いずれは追い詰められるだろう。


908 : 心の在処 ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:58:38 yu63YUg.0

 比べてキャスターというクラスは、魔術に優れ、陣地作成を得意とした英霊が多い。
 そしてキャスターとはすなわち魔術師であり、その力である魔術の行使に必要なものは魔力だ。
 これは即ち、魔力を溜め込む、陣地を作るなど、準備に時間をかければかけるほど、強力なサーヴァントになるということを意味している。
 つまりそれなりの準備さえ整っていれば、通常のサーヴァントはもちろん、ルーラーでさえ返り討ちにすることも可能となり得るのだ。

 ここで重要になるのが、時間を掛ける、という点だ。
 時間が経てばそれだけでキャスターが有利になるのは先ほど言った通りだが、当然それは他のマスターやサーヴァントも理解していることだ。
 つまり、魔力が溜まっていない、陣地が整っていない状態で発見されれば、途端にキャスターは不利になる。
 最弱と言われるほど直接戦闘の苦手なキャスターにとって、それは絶対に避けるべき事態のはずだ。

 ならばどうすればいいか。
 簡単だ。より迅速に、効率よく魔力を集め、陣地を完成させればいい。
 その方法も単純だ。“魂喰い”を行なえばいい。キャスターが反英雄だというのなら、その可能性も高まる。
 そして魂食いは、この聖杯戦争において裁定者が動き得る明確なルール違反だ。当然相応の対策もするだろう。
 あとは如何にして裁定者の目を誤魔化し掻い潜るか、という問題でしかない。

 この時点で、違反者は誰かとこの場で論じる意味はなくなっている。
 仮に違反者がキャスターではなくアサシンであろうと関係はない。
 何しろ遠坂凛は、日が変わるまでのキャスターを倒さなければならないからだ。
 そしてキャスターとて、サーヴァントの襲撃を受ければ少なからず手札を晒すことになるだろう。
 ならばあとは、ルール違反の証拠を見つけたい裁定者が、その戦いにどう介入するか、あるいはしないのか、という話でしかないのだ。

 それはもはや、岸波白野の領分ではない。
 なぜなら、キャスターとの戦いは、あくまでも遠坂凛のものだからだ。
 確かに自分たちは同盟を結んだ。協力してキャスターを倒すことに異論はない。
 だがこの戦いの方針を決めるのは、あくまでも遠坂凛でなければならない。
 そうでなければ、いずれ一人で戦わなければならなくなった時、遠坂凛は自らの道を選べなくなってしまうだろう。
 故に、この戦いに裁定者とどう折り合いをつけるかは、遠坂凛が考えなければいけないのだ。
 岸波白野は同盟を結んだ者として、いや仲間として、その判断に従い手を貸すだけだ。
 ―――そう締めくくって、麻婆豆腐の残りを平らげる。

「――――――――」
 凜はポカンと口を開けて、岸波白野を見つめている。
 いかに覚悟を決めていても、彼女はまだ子供でしかない。そこまでの判断力を求めるのは、やはり酷だっただろうか。
 だが聖杯戦争を勝ち残るのであれば、この程度は出来るようにならなければならない。
 ここは心を鬼にして、凜に判断を委ねるとしよう。

「さすがは“月の聖杯戦争”の優勝者。見事な観察力ですね」
 対してカレンは、本当に感心したように、ぱちぱちと拍手をしていた。

「彼を知っているのですか、カレン?」
「ええ。岸波白野(かれ)はこの箱舟ではなく、ムーン・セル本体で行われた聖杯戦争を勝ち抜いたマスターです。
 それを鑑みれば、この程度の状況把握はできて当然でしょう。
 それはそうと、遠坂凛、貴女はどうしますか?」
「え?」
「岸波白野も言っていたでしょう。この戦いは貴女のものだと。
 貴女がどういう選択をするかによって、私達も次の行動を決定します。
 キャスターとの戦いに手を出すな、というのであれば、多少の猶予は与えましょう。
 裁定者とは、あくまでも聖杯戦争を監督し運営する存在。その私たちが、貴女の聖杯戦争を妨げるわけにはいきませんので」
 カレンはそう告げると、祈るように両手を合わせ、静かに目を閉じた。
 凜の答えを待つ、という事だろう。

「……………………」
 それを受けた凛は、深く考えを巡らせると、
「それってつまり、私が協力してって言えば、協力してくれるってこと?」
 そう、ある種の核心を突く問いを導き出した。


909 : 心の在処 ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 22:59:35 yu63YUg.0

「それは私ではなく、ルーラーへと問うべき事ですね。
 私はあくまでマスターに対する抑止力。戦力を期待するのであれば、彼女の方が適任です」
「そう。なら、改めてお願いするわ。
 ルーラー、私たちに力を貸してちょうだい」
「……すみませんが、その要求には応じかねます。
 私は裁定者のサーヴァント。“中立の審判”を下す者として、特定の勢力に加担することは出来ません」
「それなら、一緒に来てくれるだけでもいいわ。
 別にあなたが戦う訳じゃない。ただ私たちの戦いを見届けるだけ。
 この条件なら、裁定者としても問題ないんじゃない?」
「それは……確かにその通りですが、しかし………」
 凜のストレートな要請に、ルーラーは受けるでも断るでもなく、戸惑う様に言い淀む。

 無理もない話だ。
 確かに戦いを見届けるだけならば、ルーラーが遠坂凛に助力した、ということにはならないだろう。
 またルーラーが傍に居るということは、ルールに抵触する様な襲撃を防ぐことにも繋がり、遠坂凛にとってある種の保険にもなる。
 しかしそれは、事情を知る自分たちだけが理解していることだ。
 場合によっては、遠坂凛とルーラーが手を組んだ、と見做される可能性もあるのだ。
 そしてそうなれば、ルーラーの下す“中立の審判”は、その正当性を疑われることになるだろう。

 中立の立場にない審判者など、圧政を敷く暴君と変わりはない。
 ただでさえ裁定者は、その立場から嫌煙されやすいのだ。
 その正当性を失ってしまえば、裁定者として絶対の権限を持つが故に、ほぼ全てのサーヴァントとマスターから敵視されることになるだろう。

 遠坂の魔術師として聖杯を求める凛と、聖杯戦争の恙ない進行を担うルーラー。
 凛がルールから逸脱しない限りにおいて、二人の目的は一致している。
 だが、ルーラーの裁定者としての立場が、彼女達が手を組むことを許さないのだ。

「っ……………………」
 違反者の捜査という裁定者としての役割か、“中立の審判”を下す裁定者としての立場か。
 そのどちらを選ぶのかは、結局のところルーラー自身が決める事だ。
 だが、そのどちらも尊寿しようとするが故に、ルーラーは凜の要求に答えを出せないでいた。

「いずれにせよ、もうすぐ通達の時間です。遠坂凛の要請への返答は、その後にしましょう。
 違反者の捜査も重要ですが、現状はこちらが優先事項ですし」
「そうでしたね。申し訳ありません、遠坂凛。少しだけ、考える時間をください」
「いいわよ、別に。裁定者が大変だっていうことくらい、私もちゃんと解っているから」

 カレンの言葉をきっかけに、二人はそう言葉をかけあった。
 どうやら、遠坂凛と裁定者の話は終わったようだ。
 ……なら次は、岸波白野が彼女たち自身に対しての話だ。
 ―――ルーラーにカレン。二人に少し、訊きたいことがある。

「はい、何でしょう。私に答えられる範囲ならば答えましょう」
「私も質問がありますが、それはどうでもいい事です。貴方からどうぞ」
 ルーラーが落ち着いた様子で応じ、カレンがそれに続いて質問を促してくる。
 自分は、

   聖杯戦争について質問する。
  >参加者について質問する。
   NPCについて質問する。

 聖杯戦争の参加者――マスターについて質問をしよう。

 この聖杯戦争には、多くのマスターが参加していると聞く。
 岸波白野は遠坂凛以外のマスターとまだ遭遇していないが、月の聖杯戦争と同様、それは様々なマスターがいるのだろう。
 だがその中には、凛のようなマスターが他にもいるかもしれないのだ。
 自分が訊きたいのはその事について。
 ――――凜のような、無理矢理招かれたマスターがいることについて、どう思っているかを教えて欲しい。

「っ…………!」
 ルーラーが先ほどと同じような、酷く辛そうな表情を見せる。
 今度もすぐに裁定者としての顔に隠されたが、やはり彼女にも思う所があるのだろう。

「ちょっと白野。それってどういう意味よ。
 私が聖杯戦争に参加していることの、何が問題なわけ?」
 岸波白野の質問に、凜は苛立たしげな声で問い詰めてくる。

 そうではない。
 サーヴァントと契約を交わせたのなら、誰にでも聖杯を手に入れる権利はある。
 そして凛には聖杯を求める確かな理由がある。そこには大人も子供も関係はない。
 ……だが、自分から望んでこの聖杯戦争に参加したわけではない。そうだろう?

「それは……確かにそうだけど」


910 : 心の在処 ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 23:00:05 yu63YUg.0

 月の聖杯戦争では、ムーン・セルへとアクセスした者を、マスター候補として招き入れていた。
 だがこの『方舟(アーク・セル)』は、『ゴルフェの木片』に接触した者をマスター候補として招き入れている。
 そして凛の例から思うに、その人物を招き入れるかどうかは、『方舟』自身が判断しているように思える。
 その事がどうしても、岸波白野の心に引っ掛かっているのだ。

「……そうですね。私としては、特に何も。
 過程がどうであれ、招かれてしまった以上、私達にはどうしようもありません。
 せめてその人の終わりが良い物であるよう、主に祈りを捧げるだけです」

 カレンはそう口にして、言葉通り静かに祈りを捧げている。
 ルーラーのような動揺は微塵も見られない。彼女は本当に、そう思っているのだろう。
 その様子を見て、ふとある情報を思い出す。

 シスター・カレン。
 どこかで聞いた(ような気がする)名前だと思っていたが、たしか、マスターを処罰する権限を持つ上級AIだったか。
 また健康管理上級AI(さくら)の後任なでもあるのだが、そのアルゴリズムに問題があり、マスターの命を優先せず、試練を良しとする性格をしているとかなんとか。
 月の聖杯戦争中では、岸波白野とは遭遇しなかったが、もしかしたら彼女がそうなのだろうか。
 実際に会ったことがない以上判断はつかないが、その様子を見る限り、彼女はたとえ自分自身がマスターとなったとしても、それも試練だと受け入れるのだろう。

 ―――ではルーラー。あなたはどう思っているのか、訊かせて欲しい。
 カレンから視線を移し、まっすぐにルーラーを見つめて、そう問いかける。

「………………私は、ルーラーのサーヴァントとして、聖杯戦争を恙なく進行させるだけです。
 カレンも言ったように、マスターの選定は私達にはどうしようもないこと。なら、感傷を懐くだけ無意味でしょう」
 毅然とした態度でルーラーは答える。
 だがそれは、裁定者としての答えだ。ルーラー個人としての思いではない。
 岸波白野が知りたいのは、ルーラーの思い、彼女自身がどう思っているか、という事なのだ。

 ルーラーが裁定者の仮面を被っているのは、きっとそうしないと立ち行かないからだろう。
 おそらく、彼女の果たすべき役割と、彼女の思いは相反しているのだ。
 そう。
 ―――あなたは、無理矢理に招かれたマスター達がいることに、悲しみを覚えているのではないか?

「っ――――――!」
 ピシリと、亀裂が奔るように、ルーラーが顔を強張らせる。
 仮面の奥。裁定者であるために閉じ込めた、彼女の本心が顔を覗かせる。

「それは………私は――――」
 ルーラーは揺らぎそうになる両目を懸命に絞り込み、岸波白野を見つめる。
 そうして――――


「マーボー定食、お待たせアルー!
 他の御注文も、すぐに持ってくるアルヨー!」


 ―――ごとん、と注文していた麻婆豆腐がテーブルに置かれた。
 ルーラーから視線を外して、さあ、と新たなレンゲへと手を伸ばし、

「――――――――」
 かしゃん、と先にレンゲを手にとったカレンと視線が合った。
 見れば、カレンの前にも新たな麻婆豆腐が置かれている。
 どうやら彼女も、いつの間にか注文していたようだ。

「……岸波白野。貴方の質問の答えも、少し待ってあげてはどうでしょう。
 ルーラーにも裁定者としての在り方がありますし、それに」

 ……ふむ。確かに裁定者としては答え難い質問だったようだ。
 それに聖杯戦争はまだ始まったばかりだ。この質問の答えは、その内聞かせてもらえることを期待しよう。
 今は先に、食事を終わらせよう。なにしろ冷めた中華料理は、おいしくない。

「ええ、その通りです。それでは」
 いただきます、とカレンと二人、両手を合わせて食事を開始した。

「それじゃあ話も終わったみたいだし、私達も頂くわよ」
「……だな。飯は食える時に食っとかねぇと」
「……うん」
 それに合わせて、凜達も食事を開始する。
 ……しかしただ一人。
 ルーラーだけは、僅かに俯いたまま、料理に手を付けないままでいた。

「……………………私は」


911 : 心の在処 ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 23:02:21 yu63YUg.0


     04/ 願い。


 食事を終え、紅洲宴歳館・泰山を後にする。

 カレンたちは時間が押しているからと、リターンクリスタルを使うらしい。
 それは月の聖杯戦争でもよく利用したアイテムだが、今の自分は持っていない。
 自分たちはおとなしく、徒歩で移動することにする。

「それで坊主、これからどうするんだ?」

 ふむ。このまま遠坂邸へと戻ってもいいが、もうすぐ十二時になる。
 ここはどこか近場の休める場所で、カレンたちの連絡を待とう。

 そうランサーへと答えながら、携帯端末機を取り出す。
 これは連絡用にとカレンから渡されたものだ。
 主な機能は月の聖杯戦争で使っていたものと変わらないが、こちらから彼女達へと連絡することは出来ないようだ。

「確かにそいつがあれば、オレ達がどこにいてもあいつらからの連絡は受け取れるか」
 ランサーはそう言うと、興味をなくしたように前へと向き直った。

 エリザは相変わらず注目を集めているが、NPCたちが日常(ルーチン)から外れる様子はない。
 自分に宛がわれた役割の方が、ほんの些細な異常よりも優先順位が高いのだろう。
 ……まあもっとも、彼らがその役割を自覚しているかはわからないが。



 ―――そうして間もなく、商店街から少し離れた場所に、小さな公園を見つけた。
 まだ昼時だからか、公園には自分たち以外誰もいない。
 そんな閑散とした公園のベンチに、凜達と揃って座り込む。
 すると不意に、凛が不安げな表情で問いかけてきた。

「ねぇ白野。カレンが言ってた、白野の戦いが無意味がって、どういう意味?」

 ――――――――。
 その言葉に、思わず口ごもる。
 それは、カレンに去り際に告げられた言葉だ。
 それがたまたま、凜にも聞こえてしまったのだろう。
 だが―――。

 ―――大した意味ではない。
 カレンが言っていたように、岸波白野は月の聖杯戦争を勝ち残った。
 つまり、聖杯に託すような願いは、すでに叶っている、という事なのだ。

「そっか。それなら、別にいいんだけど」
 どこか納得のいっていない表情で、凜はそう口にする。
 その様子からすると、全部が聞こえたわけではないようだ。

 カレンの言葉の何が、凜の気にかかっているのだろう。
 ……考えたところで、答えは出ない。
 今は先に、キャスターの拠点へどう攻め込むかを考えよう。

 そんな風に考えながらも、岸波白野の脳裏には、その時の事が思い返されていた。


      †


 それは、カレンたちとの別れ際、携帯端末を手渡された時の事だ。

「……最後に、一つだけ聞かせてください。
 貴方は何の為に、この聖杯戦争を戦うのです?」

 岸波白野だけに聞こえるようにか、どこか潜めた声で、カレンがそう訊いてきた。

「岸波白野の戦いに意味はない。何故なら、たとえ聖杯戦争を勝ち残ったところで、貴方は何も得られないからです。
 本来の役割通り、ただのNPCとして、全てを忘れたままでいれば、まだ幸福に終われたでしょうに。
 それなのに、何故」

 ―――何故も何もない。
 全てを忘れたままでいるには、欠けたモノが大き過ぎた。
 要は、それだけの事だ。

 確かにNPCのままでいたのなら、何も知らずに済んだだろう。
 何も知らないまま、自身の役割を全うしていたはずだ。
 ……だがその欠けたモノは、岸波白野の半身とも呼べるほどに大切なものだった。


912 : 心の在処 ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 23:02:48 yu63YUg.0

 岸波白野の記憶。
 契約を交わしてからずっと、自分と共に戦い続けてくれた相棒。
 聖杯戦争の最中に出会い、語り合い、別れ、乗り越えていった多くの人達。
 その、自分が岸波白野として生きてきたという証が、自分の中から欠け落ちていた。

 ―――そんな事は、我慢できない。

 得るものが何もない?
 当然だ。それは元より、岸波白野の内にあったもの。
 失われた記憶(モノ)を取り戻すことが望みである以上、新たな何かを得られるはずがない。

 ―――そう。
 何かを得たいのでも、何かを叶えたいのもなく、ただ取り戻したいだけ。
 自らの欠落を埋めるために、岸波白野は戦っているのだ。

「……その結果、“自分がどうなるか”を知っていても?」

 それでも岸波白野は、あの戦いを、「 」の事を忘れたままでいることが我慢できないのだ。

「―――そう。岸波白野(あなた)は、“戦う人”なのですね」

 突き放すような声。
 話はそれで終わりなのか、カレンは祈るように両手を重ねて目を閉じた。

 聖杯戦争を司る裁定者に背を向け、偽りの日常へと歩き出す。
 この語らいが何を齎すかはわからない。
 今はただ、自分の聖杯戦争(たたかい)を続けないと。


      †


 水中から水面を見上げるように、蒼い空を仰ぎ見る。
 凛の問いに触発されて、カレンの言葉が思い起こされる。

 “岸波白野の戦いに意味はない”

 ああ――きちんと理解している。
 この戦いの結末は、月の聖杯戦争と変わらない。
 たとえこの聖杯戦争を勝ち抜いたところで、岸波白野に未来はない。
 ……いや、この聖杯戦争が終わった時にこそ、本来の運命へと帰結するだろう。

 “……その結果、“自分がどうなるか”を知っていても?”

 それでも、自分の決意は変わらない。

 ―――戦うと決めた。

 たとえその果てで、

 ―――取り戻してみせると、誓ったのだ。

 今度こそ完全に、岸波白野が消え去るのだとしても――――。


【?-?/???/1日目・午前】

【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1. 教会にて通達を行う。
2. 遠坂凛の要請をどうするか決める。
3. 啓示で探知した地域の調査。ただ、深山町の騒ぎについても気になる。
4. ……………………私は。
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。

【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[装備]:マグダラの聖骸布
[道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味
1. 教会にて通達を行う。
2. ???
[備考]
※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
※そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。
 他に理由があるのかは不明。


913 : 心の在処 ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 23:03:23 yu63YUg.0


【C-3 /商店街近くの公園/1日目 午前】

【岸波白野@Fate/EXTRA CCC】
[状態]:健康、魔力消費(小)、強い決意
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:携帯端末機
[所持金] 普通の学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:「 」(CCC本編での自分のサーヴァント)の記憶を取り戻したい。
1. ルーラー達からの連絡を待つ。
2. 遠坂凛とランサーを助けるために、足立透とそのキャスターを倒す。
3. 狙撃とライダー(鏡子)を警戒。
4. 聖杯戦争を見極める。
5. 自分は、あのアーチャーを知っている───?
6. ルーラーの答えを待つ。
[備考]
※遠坂凛と同盟を結びました。
※エリザベートとある程度まで、遠坂凛と最後までいたしました。その事に罪悪感に似た感情を懐いています。
※遠坂凛とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、遠坂凛の記憶の一部と同調しました。
※クー・フーリン、ジャンヌ・ダルクのパラメーターを確認済み。
※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による攻撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。
※アーチャー(エミヤ)が行った「剣を矢として放つ攻撃」、およびランサーから聞いたアーチャーの特徴に、どこか既視感を感じています。
 しかしこれにより「 」がアーチャー(無銘)だと決まったわけではありません。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。

【ランサー(エリザベート・バートリー)@Fate/EXTRA CCC】
[状態]:健康
[装備]:監獄城チェイテ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:岸波白野に協力し、少しでも贖罪を。
1. 岸波白野のついでに、遠坂凛も守る。
2. 撤退に屈辱感。
[備考]
※岸波白野、遠坂凛と、ある程度までいたしました。そのため、遠坂凛と仮契約が結ばれました。
※アーチャー(エミヤ)の遠距離狙撃による襲撃を受けましたが、姿は確認できませんでした。
※カフェテラスのサンドイッチを食したことにより、インスピレーションが湧きました。彼女の手料理に何か変化がある……かもしれません。

【遠坂凛@Fate/Zero】
[状態]:睡眠中、魔力消費(大)、強い決意
[令呪]:残り二画
[装備]:アゾット剣
[道具]:なし
[所持金]:地主の娘のお小遣いとして、一千万単位(詳しい額は不明)
[思考・状況]
基本行動方針:遠坂家の魔術師として聖杯を得る。
1. ルーラー達からの連絡を待つ。
2. 岸波白野から、聖杯戦争の経験を学ぶ。
3. 勝利するために何でもする。
4. カレンの言葉が気にかかる。
[備考]
※岸波白野と同盟を結びました。
※エリザベートとある程度まで、岸波白野と最後までいたしました。そのため、エリザベートと仮契約が結ばれました。
※岸波白野とパスを通し、魔力の融通が可能となりました。またそれにより、岸波白野の記憶が流入しています。
 どの記憶が、どこまで流入しているかは、後の書き手にお任せします。
※鏡子、ニンジャスレイヤー、エリザベート、ジャンヌ・ダルクのパラメーターを確認済み。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。

【ランサー(クー・フーリン)@Fate/stay night】
[状態]:健康、魔力消費(大)
[令呪]:『日が変わるまでに、足立透、もしくはそのキャスターを殺害。出来なければ自害せよ』
[装備]:ゲイ・ボルク
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:遠坂凜のサーヴァントとして聖杯戦争と全うする。
1. 凜に勝利を捧げる。
2. 出来る限り回復に努めたい。
3. 足立、もしくはキャスター(大魔王バーン)を殺害する。
4. あのライダー(鏡子)にはもう会いたくない。最大限警戒する。
5. アサシン(ニンジャスレイヤー)にリベンジする。
[備考]
※鏡子とのセックスの記憶が強く刻み込まれました。
※足立透と大魔王バーンの人相と住所を聞きました。
※自害命令は令呪一画を消費することで解除できます。その手段を取るかは次の書き手に任せます。

[全体の備考]
※NPCの中には、上級AIと呼ばれる存在がいます。
 その役割は日常の管理・運営であり、そのための顕現として、マスターおよびNPCの情報の一部が閲覧可能です。


914 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/30(土) 23:04:43 yu63YUg.0
以上で投下を終了します。
何か意見や修正点、誤字脱字がありましたらお願いします。


915 : 名無しさん :2014/08/30(土) 23:11:23 JNziufnA0
投下乙です!
おお、まさかルヴィアまでもがNPCとして存在するとは。ここには凛だけではなく美遊もいますから、出会った時にどうなるのかが楽しみですね!
それにしても麻婆豆腐の脅威は健在ですね……エルザを簡単に打ち破ったのですからw で、そんな麻婆を前にしても動じないカレン達は流石。
そして白野の覚悟はとても切なく、それでいて力強く感じます。読んでいて感情移入してしまいますよ。

それと誤字の指摘を

 だがこの『方舟(アーク・セル)』は、『ゴルフェの木片』に接触した者をマスター候補として招き入れている。
ここはゴフェルの木片だと思います。


916 : 名無しさん :2014/08/30(土) 23:53:08 QvYkyIq.O
投下乙です。

サーヴァント担当がルーラー。
マスター担当がカレン。
そして、NPC担当が上級AI達。
NPCが保護されてるのは、上級AIを保護する為でもある。
でもやっぱり、NPCを守りたいだけなら主従達を他の会場に移したりすればいいんだから、会場を移せない理由、NPCを消去できない理由、NPCがいる会場でなければいけない理由とかがあるんだろうな。

ルヴィアの行動が全く美遊の助けになってないのが笑えるが、美遊は脱出派だからね。仕方ないね。


917 : 名無しさん :2014/08/31(日) 00:07:12 mLgSWzL.0
上級NPCという名目で出典あり・聖杯戦争に対する特殊思考を持っているキャラが出るのはもはや別枠の参加者扱いになるのでは?
もっと言えば「こいつは上位NPCだから」と言えば投票に通ってないキャラを参加させまくることができるわけですよね
聖杯戦争と一部参加者について特殊な思考を抱いているのがいいとすれば「聖杯を狙う参加者をNPCという立場を利用して全員殺害する」とかいう奴が出てくることも許されることになりますが


918 : 名無しさん :2014/08/31(日) 00:34:25 AnDGFtgk0
投下乙です
ここの白野も麻婆大好きなようでなによりw
そして遂に放送…昼が過ぎれば聖杯戦争の時間ですな

さて気になったところ
ルヴィアの思考が特定のプレイヤー贔屓に働いているのが気になりました
ルーラー、カレンといった管理者と違えど、彼女も方舟が用意したNPCであるはず
そのような一部のプレイヤーを間接的に助けようだなんて思考をしている時点で、すでにNPCの枠を外れてしまっていると思います

またそのような存在がいたのならば、マンションを調べた時点でルーラーが上級AIに助けを求めないのが不自然です
流石に上級AIのマネマネといえど、ルーラーの目をごまかす事はできないと思いますし、もしできたなら上級AIすらをも完璧に模倣できるマネマネがチートすぎることになります

気になったところは以上です

個人的な感想ですが、この上級AIの下り自体必要がなかったように思えます
また>>917の言うこともありますので、できればこの部分の削除か差しさわりのない描写への修正が望ましいと思います


919 : 名無しさん :2014/08/31(日) 00:44:01 fEgomvT60
>>917
「聖杯を狙う参加者をNPCという立場を利用して全員殺害する」は流石に極論だけど
「NPCという立場を利用して特定の参加者が有利になるように働く」ってのは起こせそうだよなぁ
実際NPCを監視する上級NPCがいるなら「何故ルーラーがマンション調査の際に協力を要請しなかったのか」って感じでもあるし


920 : ◆holyBRftF6 :2014/08/31(日) 10:34:23 .V6omfa.0
投下乙。
やはり兄貴はアレを経験済みか……
経験してるか知らんけどタイころ時空なんか酷かったもんねうん。
ただ、書き手として意見を出す必要があると感じた程度に引っかかった点があります。長いので面倒くさい場合は最後まで飛ばして下さいね。


ルヴィアのような存在はメタ的に見た場合、面倒な事態になりかねないと思います。
「名有りキャラであり」「特定キャラクターの生活に関わる立場で」「何らかの力を持っている聖杯戦争の関係者」を新規NPCで出すというのは後々困りそう、というのが正直な感想です。

設定上で参加者と共に生活を送っているNPCはお互いの行動がお互いに影響を与える可能性が高いですし、聖杯戦争に関わる方法も理由もあるのならば後々動いていないとおかしいというケースが必ず発生します。
二番目だけならみさえ達のように一部のキャラクターを彩る材料として書きたい時にだけ書けばいいし、三番目だけならルーラーやカレンのように参加者達と切り離して描写をしていけばいい。
しかし両方が揃っていると、一部のキャラクターを書く上で必要な描写をしなくてはならないキャラクターと成り得ます。

例えば今回のルヴィアの場合は凛や美遊と生活が繋がっている上に、聖杯戦争に関わる意志も方法もある身で、固有のキャラとして参加者と同じ舞台に姿を現しているわけです。
今後聖杯戦争が進む中でルヴィアが参加者達と接触しなければおかしい、もしくはルーラーがルヴィアの情報を共有していなければおかしいという場面が今回に限らず発生しうる。
特に近しい立場にいる凛や美遊に関しては描写する上でルヴィアも描かなくてはならなくなる可能性が高いでしょう。
NPCを描いてもいいというのと、NPCを描かなくてはならないというのは違います。
また参加者が意図的に動かしたNPCを描く必要があるというのと、参加者と別の意志を持って動くNPCを描く必要がある、というのもやはり違う感があります。
仮に処分という大鉈を振るうにしてもそれを振るう手間が必要なのは変わりないわけです。

スキルの産物であるゴロア達ですら基本的には陣地に篭っているし、鬼面道士達は登場した話でニンジャが出て殺している。
にも関わらずNPCに今回のルヴィアのような存在を増やしていくのは物語を盛り上げる存在ではなく、単なる負担となりそうです。
この手の管理AIを出したいならば参加者の生活から切り離されているか、もしくは参加者と平等に接する存在であるのが条件じゃないかなと。
それこそ原作のように学園のような施設に配置されるくらいの措置が必要じゃないでしょうか。


おーざっぱに言えばその手の技能がない参加者の話で、今後詳しく書かなきゃいけないキャラを追加されるのはめんどくさいっていう泣き言です。
少なくとも自分はキャスターやルーラー書く時にぐえーってなりそうかな……


921 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/31(日) 15:27:02 AbREz.g.0
ご意見ご感想ありがとうございます。
ルヴィアなど上級AIは、凛や美遊の無断欠席に関する補足などを兼ねたつもりだったんですが、考えが浅かったようで申し訳ありませんでした。
(美遊の場合:子供が朝にはいなくなっていた→普通の保護者なら警察に連絡。そうじゃないなら、美遊がいない理由を察せる能力がある。といった感じで)
修正は、ルヴィアなど上級AIに関する部分は削除、凛の無断欠席の補足は別の形に変更、とさせていただきます。


922 : ◆ysja5Nyqn6 :2014/08/31(日) 22:23:18 AbREz.g.0
お待たせしました。それでは、修正部分の投下を開始します。

---->>900

「お母さま、失礼します」

 部屋を覗けば、車椅子に乗った女性が、窓辺で静かに眠っていた。
 アサシンの襲撃があったのに静かだったのは、そうやって眠っていたからのようだ。

「あの人が私のお母さま、遠坂葵よ。
 とは言っても、実際にはお母さまを再現したNPCなんだけど」
 そう白野たちへと紹介した後、部屋に入らず扉を閉める。
 眠っているのなら、わざわざ起こす必要はない。
 それになにより、何もないところに話しかける母の姿を、彼らにはあまり見せたくなかった。

「それはそうと、わたしたちのお昼ごはんを考えましょう。
 わたしは朝ごはんも抜いちゃってるし、何かちゃんとしたものを食べないと」
 そうして、努めて気にしていないそぶりで、白野たちへと声をかける。

 まあ、お昼を考えるとは言っても、冷蔵庫に食材がない以上、結局は出かけないといけないのだけど。
 この家で食べるにしても、外で食べるにしても、今後のために買い出しは必要だろう。

「な、なによその言い方! 私の料理がちゃんとしていないっていうの!?」
「いや、答えるまでもねぇだろ、ソレ。つうかテメェ、ちゃんと味見とかしてんのかよ」
「当然、してないわよ。だって太ったりしたら困るじゃない。私という至高の美の損失よ」
 いや、サーヴァントは太らないと思うのだが。と文句を言うエリザに白野が返す。
「そうだぜ赤いの。それによ、坊主は自分の分のサンドイッチを完食したんだから、それで満足しとけって。
 いや、あの料理を食べきるとは、マジですげえとオレは思ったぜ」
 自分も体験したから解るが、確かにそれはすごいと思う。
 白野に言わせれば、エリザの料理に籠めた気持ちだけは、無駄にはしたくなかったから、らしい。
「うぐぐ……。わ、わかったわよ。子ブタに免じて、今回は引き下がってあげる。感謝しなさいよね!」

 白野たちはそんな風に、特に気にした様子もないように言葉を交わしている。
 たぶん、わたしに気を使ってくれているのだろう。
 その事に少しだけ胸が暖かくなるのを感じ、ありがとう、と心の中で感謝をした。


「そう言えばマスター。学校の方はどうすんだ?」
「あ――――!」
 ふと思い出したようなランサーの問いに、咄嗟に時計を確認する。
 が、時刻はとっくに十時を過ぎていた。

「どうしよう……完全に忘れてた」
 アサシンの襲撃で失念していたが、たとえ聖杯戦争中だろうと、学校の授業はいつも通りある。
 自分たちが探索を夜に行っていたのも、それが理由だったのだ。

「……うん、しょうがない。今日は学校をサボろう」
 少し悩んでから一人頷く。
「お昼の事だけど、商店街辺りにでも食べに行きましょう。
 お母さまの事は、エーデルフェルトの人に任せておけばいいわ」
 そして白野たちへと向き直り、若干の後ろめたさを誤魔化すようにそう提案する。

 私が無断欠席したことは、エーデルフェルトさんのところに連絡が行っているだろう。
 無用な足止め(おせっきょう)を避けるためにも、キャスターを倒すまでは、家に戻るのを控えた方がいいかもしれない。

「あ、お金の事なら気にしなくていいわよ。わたし、結構持ってるから」

----

そして上級AIに関する削除部分は、
>>903の 02.5/ セカンドオーナー から>>904までのレス全て、それと状態表の[全体の備考]になります。


以上で、修正部分の投下を終了します。
ご迷惑をおかけしました。


923 : 名無しさん :2014/08/31(日) 23:43:44 3nI9HJ3UO
修正乙です。

そっか、ロリンはルヴィアを知らないのか。


924 : ◆holyBRftF6 :2014/09/01(月) 00:04:42 rZznqXXY0
修正乙です。
特に問題はないと思われます。

ほぼ全てのキャラが午前まで辿り着いたため、放送SSを募集することとなりました。
募集方法としてはコンペ形式で行い、複数の作品が来た場合は投票で決定することとなります。
現在決まっている日程・形式は以下の通りです。

・予約方法
 予約スレに【放送】タグを付けて予約すること。

・予約期限
 2014/09/01 00:00:00〜2014/09/07 23:59:59

・SS投下期限
 2014/09/08 23:59:59
 ※この期限までに投稿意思表示をすればギリギリセーフとする。
  ただし、既に投票は開始されていることは留意すること。

・SS投票期間 投票スレにて
 2014/09/09 00:00:00〜22:59:59

・放送以外予約解禁
 2014/09/10 00:00:00〜

既に始まっていますので書きたい方は予約スレへ。
異論のある方は議論スレにどうぞ。


925 : ◆A23CJmo9LE :2014/09/01(月) 00:06:27 CkAs4SY.0
誤爆スレイヤーの仕事の早さに敬意を示しつつ、通達案投下します


926 : ◆A23CJmo9LE :2014/09/01(月) 00:07:24 CkAs4SY.0
『正午になりましたので私、ルーラーのサーヴァントが定時通達を行います。まずは遅くなりましたが、予選を突破したマスターおよびサーヴァントに祝辞を、おめでとうございます。この念話は現在現界している28騎のサーヴァント及びゴフェルの木片を携帯しているマスターに送っています。通達では残りのサーヴァントの数、警告やルールの追加などを発信しますので、今後も通達を受けとりたいと考えるならばマスターは常に木片を携帯しておくことを勧めます』

全てのサーヴァントと一部のマスターの脳内に裁定者の声が響き渡る。

『現在残ったサーヴァントは先ほども述べましたが28騎。全てのサーヴァントが通常の7つのクラスにあてがわれ、全クラスが少なくとも3騎は存在しています。今回は初回であるため少し踏み込んだ情報を発信しますが、次回以降に残存サーヴァントのクラス内訳などを話すとは限りませんのでご了解を。なお今回追加のルールはありません…が捕捉をさせてもらいます』

息をつき、続く言葉を吐き出す。何かを心配するようでもあり、気疲れしたようにも感じられる。

『承知でしょうがNPCの殺害及び魂喰いはよほどのものでなければ違反にはなりません。ですが建造物の破壊及び広範囲にわたる宝具の使用など大きな影響を及ぼすものに関しては場合により警告を発させていただきます。思い当たる方もいるでしょう。もし対城宝具などを使用する場合はNPCへの影響をなるべく避けるよう要請します』

廃ビルの倒壊、倉庫の火災、猟奇殺人、館や小屋の乗っ取り…一部のサーヴァントやマスターは己が所業を思い返し様々な考えを抱く。しかしそれ以上にルーラーの思考を占める事件があった。

『つまり新都の都心部で破壊活動を行う等の行為は警告の対象になります。また深山町、商店街近くのマンションにおいて違反行為を行ったキャスターも含め、この場で警告を発しておきます。今後さらなる違反行為が明らかになれば両名ともに何らかのペナルティを課します』

詳細を掴めてはいないが、伝聞情報によると問題が起きているのは確実。ならば取り上げておくべきと考え、発言するルーラー。

『以上で私からの通達を終了します。この聖杯戦争が恙なく進行することを願っています』
『監督役から特に補足はないわ。個人的に言うなら…アヴェンジャー、あなたのマスターは碌な男じゃない。早々に見切りをつけることを勧めるわ』

締めのカレンの発言に驚き、それを咎めようとするルーラーだが、カレンはまだ他にやらなければならないことがあるとそれを止める。それを受け、仕方なく事前の相談通りに念話の相手を切り替えるルーラー。

『ここからはバーサーカーのマスターにのみ伝えているわ。ルーラーはマスター全員に伝達を送りたかったようだけれど、感知の比較的容易なサーヴァントに比してマスターの捜索は…やれないことはないけど非常に面倒なの。魔術の心得もないもの相手ではなおのこと、パスなしでは念話を送るのも難しい。そこで高位の聖遺物の欠片であるゴフェルの木片を目印に通達を行ったけど、それでは所持していないマスターに届いていないでしょう?サーヴァントには問題なく伝わったから相談できればいいけれど、万一あなた達…バーサーカーのマスターが木片を所持していなかった場合情報が均一ではなくなってしまう。それは不平等だと私が進言したの、感謝してもらいたいわね』

続いて一部のマスターの脳内のみに響き渡るのは慈愛と喜悦に満ちた修道女の声。

『伝える内容は基本的に全体に発したものと同じ。残りのサーヴァントの数と警告、追加ルールの有無、通達を安定して聞きたかったらゴフェルの木片を手放さないこと。今回の残りは28騎、基本のクラス7つが少なくとも3騎存在しているわ。詳細は自分で調べなさい。追加ルールはなし、警告対象は深山町に座するキャスターと新都で騒いでいる誰かさんよ。補足説明が効きたかったら他のマスターか、教会にいるだろう私たちに会いにくるといいわ』

ルーラーの伝達に比べ少々不足はある。聞きたければ教会に来い、というのが加わった情報だが…彼女の発言はそこでは終わらなかった。

『ここからはバーサーカーというサーヴァントを引き当て、パートナーに相談が出来ないマスターに個人的なおせっかい。あなたたちの見知った顔がこの聖杯戦争に参加しているわ。みな優秀なマスターよ。ただし一人は蛇に囚われ、一人は魔法少女と刃を交え、一人はその純潔を花と散らした。会って協力関係を築きたければ警察署、とある名家の館、月海原学園のいずれかに行ってみるといいかもね。心配ならなおさら。私からは以上よ』

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


927 : ◆A23CJmo9LE :2014/09/01(月) 00:09:07 CkAs4SY.0
「何を考えているのですか、あなたは!」

らしくなく声を荒げるルーラー。特定の相手への過ぎた干渉は監督役としての越権行為だ。
これでは恙ない聖杯戦争の進行など言えたものではない。

「あら、パートナーに恵まれなかった隣人への親切よ。私の隣人を愛することの何が罪だというのかしら?」

それに対して美しく微笑んで答えるカレン・オルテンシア。彼女の発言は確かに好意に満ちたものだったかもしれない…それは彼女なりのモノであり、一般的には極めて歪んだものではあったが。

「…それでも!バーサーカーのマスターへの進言も、言峰綺礼に対する発言も人を貶めるものです!それをよりにもよって不特定多数の人物の聞く通達の中で発するなど……!」
「あの男に対する評価を改めるつもりはないわ。それに通達内での失言というならあなたもそう。新都の事件に関してそこにサーヴァントがいると発したのは構わないというのかしら?」

熱くなるルーラーに対して冷たく応じるカレン。その発言を受けて苦い顔をするルーラー。
この話題で二人に重要なのは新都についてではなく、もう一つのことだというのが分かっているようだ。

「キャスターについても同様。よりにもよって魔術師のクラスが不正を働いているとなったらいきり立つ参加者は少なくないはず。遠坂凛たちの動きにも、協力を要請された貴女にも影響は出る」
「……彼女たちの協力要請は、受けられませんから」

それは苦渋の決断だったかもしれない。公正中立なる裁定者か、違反者を裁く裁定者か…幼い魔術師の依頼を断り、彼女は中立であることを選んだ。

「私はルーラー…誰かの側に立つことは許されるものではありません。情報の聴取、収集は行いますが、今後も誰かに協力することは……ないでしょう。通達を聞いた参加者がキャスターを狙うならば、それもまた聖杯戦争」

不正を犯したキャスターも含め、情報は均一に与えた。動きのきっかけにはなるだろうが、その中で戦いに動くか息をひそめるかは各々の自由。
明確なペナルティや討伐例などなくとも通常の聖杯戦争が進むのなら、戦いのなかで不正を行ったサーヴァントが脱落するなら、その動きから不正を感知できるならそれで裁定者の役割は十分、ということだろうか。

「……まあいいわ。バーサーカーのマスターに対して確実に通達を行いたいという私の発言を汲んでくれたのには感謝しています。勤め先の近くにいたウェイバー・ベルベットや先ほど私と接触したテンカワ・アキトはともかく、月海原学園から離れた美遊・エーデルフェルトによく念話が出来たわね?」

議論が続くかと思ったが、予想外のルーラーの反応に毒気を抜かれ労わるような対応をする。さすがにただの愚かな田舎娘ではない、というわけか。

「彼女は聖杯ですから」
「ああ、なるほど。ある意味でゴフェルの木片などよりも探知は簡単と」

ぽつりと返し、再び思考の海に潜るルーラー。それを愉快気に一瞥すると

「それじゃあ通常業務に戻りましょう。遠坂凛たちに連絡を入れたら、新都か大魔王バーンのところに行く?二手に分かれた方がいいかしらね」

問いを投げるも返事を待たず立ち上がりどこかに向かうカレン。
対してルーラーは思考を続ける。


928 : ◆A23CJmo9LE :2014/09/01(月) 00:09:36 CkAs4SY.0

(多くの聖遺物がこの地には集まっている…)

『ゴフェルの木片』……この聖杯戦争への参加条件であり、多くのマスターが今もなお所持している。意図せぬ参加者を集めた一因ともいえる。
『聖杯』……この戦いの果てに手に入るもの、であるにもかかわらず美遊・エーデルフェルトという完成した聖杯が存在している。彼女に望みはあるのだろうか。
『聖釘』……かつてアレクサンドル・アンデルセンがその心臓に打ち込み一つとなった。今は保持していないようだが……最高位の聖遺物がそう容易く消滅するものだろうか?
彼もまた望まぬ参加者の一人のようだ。
『聖骸布』……カレン・オルテンシアが所持し、またエミヤシロウもその身に纏っている。
そして『聖人』……場合によりスキルによる聖骸布の作成を可能とする者。私と、神裂火織。

この場に存在しないのは『聖槍』。しかしランサークラスは最多の5騎が馳せ、多くが神と深い関わりを持っている。
敬虔な信徒たるヴラド三世、おなじく信徒たる佐倉杏子、異教ではあるが神の血を引くクー・フーリン。
彼らの槍が聖人…私や神裂火織の血に染まればそれは『聖槍』たり得るのではないだろうか。もとは一介の兵長に過ぎなかった聖ロンギヌスに、聖人としてはともかく英雄としての格でセルベリア・ブレスやエリザベート・バートリーも含め、彼らが劣るとは思い難い。

(聖杯は意図的に召喚されるものを選んでいる?それに私は……ランサーを恐れている?)

通達による影響でキャスターの敵が集まるのはいい。しかしあの二人のランサーがそうして集まったサーヴァントや、集まった者との諍いが原因でキャスターに敗れれば…
その戦いの中でキャスターの不正の証拠をつかむことが出来れば…

(何を考えているのだ、私は!)

確かに生前は手段を問わず勝利を追及したが、それは故国のためだ。自らの保身のために他者の不幸を願うなど罰せられるべき悪徳だ。
もしこの聖杯戦争で私の血が必要ならば…それが主の思し召しなら私は…

(―――主よ、この身を委ねます―――)




【?-?/教会/1日目・正午】

【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1. 遠坂凛に連絡を取り、要請に断りを入れる。岸波白野に対しては……
2. 大魔王バーンの調査を続けるか、新都の騒ぎに赴くか考える
3. …………………………………………私は。
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。

【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[装備]:マグダラの聖骸布
[道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味
1. ???
[備考]
※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
※そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。
他に理由があるのかは不明。


929 : ◆A23CJmo9LE :2014/09/01(月) 00:10:29 CkAs4SY.0
投下完了です。

あと確認したいんですが、前までの状態表でルーラーが気にしてた「深山町での騒ぎ」ってカッツェのやつですよね?
だとしたら川挟んで東が新都だから「新都での騒ぎ」が正しいと思って改めたんですが、違ってたら指摘お願いします


930 : ◆holyBRftF6 :2014/09/01(月) 00:13:57 rZznqXXY0
>>929
すみません、SSだけ直して状態表の方を直していませんでした。
wikiは自分で修正しておきます。


931 : ◆A23CJmo9LE :2014/09/01(月) 00:50:17 rgHs6dEI0
>>930
返信ありがとうございます、了解しました
あとタイトル付け忘れたので、第一回定時通達/二人の少女の警告と忠告、で


932 : ◆OSPfO9RMfA :2014/09/01(月) 17:31:01 f3MaMKaQ0
投下乙です。

私も放送案投下します。


933 : 裁定する者、裁定しなければならない者 ◆OSPfO9RMfA :2014/09/01(月) 17:32:05 f3MaMKaQ0

「ところでカレン、通達はどのようにするですか?」

 教会に着いたルーラー、ジャンヌ・ダルクは監督役のカレン・オルテンシアに問いかける。
 正午の通達に関しては、ジャンヌに知らされていなかった。

「正午になれば、『方舟』により自動的にマスターは残生存数を知った状態になります」
「知った状態?」
「えぇ、“知った”状態です」

 オウム返しをするジャンヌ・ダルクに、カレンはオウム返しで返す。

「記憶を取り戻したときに聖杯戦争のルールを知っていたのと同じように、正午になった瞬間に、現在の残生存数をマスターが“知った”ことになります。“知る”訳では無いので、その時に気を失っていようが、寝ていようが問題はありません。起きたときに思い出すことが出来ます」
「なるほど」
「ちなみに、残生存数はマスターとサーヴァント別に知ります。“残りマスター○○人、残りサーヴァント○○騎”と言ったように、ですね」

 聞く限り、平等で公平のように思える。しかし、一つだけ疑問が浮かぶ。

「何故マスターのみなんでしょうか?」
「さぁ? 私にはわかりません。マスターに記憶を与えるのが簡単なのか、サーヴァントに記憶を与えるのが難しいのか、もしくは何らかの意図があるのか……ですが、マスターのみでも特に問題はないでしょう。念話で伝えれば良いだけですから」

 確かに、主従間で不和が無い限り問題はないだろう。仮に主従間に不和があったとしても、それは裁定者として出る幕ではない。

 と、そこまで聞いて、ジャンヌの中に再び疑問が沸く。

「『方舟』が自動で行うと言うことなら、私もですが、カレンさんが教会に戻る必要は無かったのでは?」
「ええ、全くありません」

 いけしゃあしゃあ、きっぱりとカレンは肯定する。

「適当な理由を付けて、参加者と一端距離を取りたかったのです。正確に言えば、ルーラー、あなたの頭を冷やす時間を与えるための口実ですね」
「私の……ですか」


934 : 裁定する者、裁定しなければならない者 ◆OSPfO9RMfA :2014/09/01(月) 17:33:04 f3MaMKaQ0

 ジャンヌは言葉に詰まる。そう言われるほどの状況である自覚はある。

「えぇ、何ちんたらやってるんですか? たかだかこんな一件、実際に怪しいキャスターに直接面と向かって問えばいいじゃないですか。ランサー2騎にはやれたんです。キャスターにやれない道理は無いでしょう?」
「ですが……」

 28人28騎。それが今『方舟』内にいるマスターとサーヴァントの数だ。ヴォルデモートの使い魔、大魔王バーンが作る魔物、シアン・シンジョーネ本体である約270万匹の蟲などを考えるとそれどころではない。
 一方、裁定者は1人1騎。圧倒的に数で負けている。カレンの言うとおり、一つ一つの事件を精査していては、いつまで経っても終わらない。
 しかし、その一方で間違いを犯したくないと言う心理も働く。生前、冤罪で紅蓮に焼かれた末路を考えれば分からないでもない。

 だが、彼女らは裁定者なのだ。真実への情報が足りなくても、時間が足りなくとも、裁かなければならない。
 カレンは溜息をつき、呆れた顔でジャンヌを見る。

「ルーラー、この『方舟』の四方は“無限の距離”による概念防壁がなされています。つまり、参加者はこの『方舟』から脱出することは出来ない。それはわかりますね?」
「……? はい」

 何故、唐突にその話をするのだろうとジャンヌは首を傾げるが、そのままカレンの話を聞く。

「一方、参加者はNPCを殺害することは可能ですが、ルールによりNPCの大量殺害を禁じています」
「その通りですが……」
「では、問題です。参加者は『方舟』から脱出することは“出来ない”。参加者はNPCの大量殺害を“してはいけない”。この二つの違いは何でしょうか」

 ジャンヌは一考し、答えを呟く。

「……“不可能”か“可能”か」
「そう。『方舟』からの脱出は“そもそも不可能”。NPCの大量殺害は“可能だけど禁じられている”。では、問題です。何故、両方とも“そもそも不可能”にしなかったのか」


935 : 裁定する者、裁定しなければならない者 ◆OSPfO9RMfA :2014/09/01(月) 17:33:36 f3MaMKaQ0

 ジャンヌは少し考えるが、首を横に振る。
 NPCを無敵にする。NPCを除去する。あるいは参加者を別の区域に移動させる。
 NPCの殺害を“そもそも不可能”にする様々な方法があるはずだ。なのに、“可能だけど禁じる”と言うスタンスを取っている。
 その理由が分からなかった。

「これはあくまで私の推測です」

 カレンはそう前を気をして、指を一本立てる。

「その1。『方舟』としてはNPCの大量殺害についてはそもそも禁止していない」
「それはどういうことですか?」
「『方舟』としては、NPCがいくら殺されようが問題ないというスタンス。しかし、“別の何者か”がNPCの大量殺害を良しとせず、ルールに盛り込みました。ですが、それはルーラーをパシらせ、ペナルティを与えるという事後的な方法でしか禁じられない、苦肉の策と言うことです」

 『方舟』とは異なる“管理人”が存在し、NPCの大量殺害の禁止はその“管理人”による付加ルール。だが、根本的にNPCの殺害を“不可能”には出来ず、“禁じる”ことしか出来なかった。
 それが、推論の1。そしてカレンはさらに指を立てる。

「その2。脱出の“不可能”と同様、NPCの殺害も“不可能”にすることはできる。しかし、あえて“不可能”にせず“禁じる”ことにした」
「それは何故ですか?」
「わかりません。ですが、この聖杯は何らかの“再現”をしようとしている可能性があります。そして、NPCを殺害“不可能”としないのは、その“再現”に必要だから。かもしれません」

 『方舟』はあえてNPCの殺害を“不可能”とせず、しかし“禁じた”。そこには何らかの理由があるはずである。

「とはいえ、全て私の推論。あってるかどうかもわかりません。で、ルーラー、いいですか?」

 ここからが本題です。そう言いたげに、ジッとジャンヌの顔を見つめる。


936 : 裁定する者、裁定しなければならない者 ◆OSPfO9RMfA :2014/09/01(月) 17:34:08 f3MaMKaQ0

「この聖杯戦争で、何故NPCの大量殺害が禁じられているかはわかりません。ですが、NPCの大量殺害をしてはいけないと言うルールは存在します。ならば、私たち裁定者はそのルールに従って裁定をすべきである。違いますか?」
「……」

 ジャンヌは黙る。
 その通りだ。ジャンヌ達裁定者の役割はルールを作ることではない。ルール通りに進行させ、ルールを破った者に注意すること、それが仕事なのだ。
 例えそれが己の納得がいかないことだとしても。

「……」
「まぁ、良いでしょう。B-4には私が行きます。ルーラーは別の地域を頼みます」

 戦力外通告。もしくは適所適材。カレンはそう言うと教会から出て行く。

「……私は」

 ジャンヌは悩む。聖杯は何を望むのか。己に何を望まれているのか。
 その中で、己は何をすればよいのか。

 答えはまだ出そうにない。
 しかし、出さなければならない。
 時は、待ってはくれないのだから。


937 : 裁定する者、裁定しなければならない者 ◆OSPfO9RMfA :2014/09/01(月) 17:34:34 f3MaMKaQ0




【?-?/教会/1日目・正午】

【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1. ……………………私は。
2. 遠坂凛の要請をどうするか決める。
3. 啓示で探知した地域の調査。ただ、深山町の騒ぎについても気になる。
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。

【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[装備]:マグダラの聖骸布
[道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味
1. B-4の調査。
2. ???
[備考]
※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
※そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。
 他に理由があるのかは不明。

[通達について]
※正午になれば、マスターは現時点での残生存数を“知った”状態になります。
※“知った”情報は“残りマスター○○人、残りサーヴァント○○騎”のように、主従別です。


938 : ◆OSPfO9RMfA :2014/09/01(月) 17:35:24 f3MaMKaQ0
投下終了です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。


939 : ◆A23CJmo9LE :2014/09/03(水) 01:00:17 BQMvxAS20
少々考え直す点があったので、修正案を改めて投下します。


940 : 第一回定時通達=二人の少女の警告と忠告〜 ◆A23CJmo9LE :2014/09/03(水) 01:05:46 9xBQEJBo0
『正午になりましたので私、ルーラーのサーヴァントが定時通達を行います。まずは遅くなりましたが、予選を突破したマスターおよびサーヴァントに祝辞を、おめでとうございます。
この念話は現在現界している28騎のサーヴァント及びゴフェルの木片を携帯しているマスターに送っています。
通達では残りのサーヴァントの数、警告やルールの追加などを発信しますので、今後も通達を受けとりたいと考えるならばマスターは常に木片を携帯しておくことを勧めます』

全てのサーヴァントと一部のマスターの脳内に裁定者の声が響き渡る。

『現在残ったサーヴァントは先ほども述べましたが28騎。全てのサーヴァントが通常の7つのクラスにあてがわれ、全クラスが少なくとも3騎は存在しています。
今回は初回であるため少し踏み込んだ情報を発信しますが、次回以降に残存サーヴァントのクラス内訳などを話すとは限りませんのでご了解を。
なお今回追加のルールはありません…が捕捉をさせてもらいます』

息をつき、続く言葉を吐き出す。何かを心配するようでもあり、気疲れしたようにも感じられる。

『承知でしょうがNPCの殺害及び魂喰いはよほどのものでなければ違反にはなりません。
ですが建造物の破壊及び広範囲にわたる宝具の使用など、大きな影響を及ぼすものに関しては場合により警告を発させていただきます。思い当たる方もいるでしょう。
もし対城宝具の使用や建造物の破壊などを行う場合、人払いや夜間の実行などNPCへの影響を考慮することを強く要請します。こちらもよほどひどくないかぎり口出しはしたくはないのですが……』

廃ビルの倒壊、倉庫の火災、猟奇殺人、館や小屋の乗っ取り…一部のサーヴァントやマスターは己が所業を思い返し様々な考えを抱く。
しかしそれ以上にルーラーの思考を占める事件があった。

『つまり公衆の面前で新都の都心部において破壊活動を行う等の行為は警告の対象になります。幸いまださほど大きな被害は出ていないようですが。
この騒ぎの主犯に加え、深山町において重大な違反行為を行ったキャスター。あなたには重点的にこの場で警告を発しておきます。
今後さらなる違反行為が明らかになれば両名ともに何らかのペナルティを課します』

詳細を掴めてはいないが、伝聞情報によると問題が起きているのは確実。ならば取り上げておくべきと考え、発言するルーラー。

『以上で私からの通達を終了します。この聖杯戦争が恙なく進行することを願っています』
『監督役から特に補足はないわ。個人的に言うなら…アヴェンジャー、あなたのマスターは碌な男じゃない。早々に見切りをつけることを勧めるわ』

締めのカレンの発言に驚き、それを咎めようとするルーラーだが、カレンはまだ他にやらなければならないことがあるとそれを止める。それを受け、仕方なく事前の相談通りに念話の相手を切り替えるルーラー。


941 : 第一回定時通達〜二人の少女の警告と忠告〜 ◆A23CJmo9LE :2014/09/03(水) 01:07:37 9xBQEJBo0

『ここからはバーサーカーのマスターにのみ伝えているわ。
ルーラーはマスター全員に伝達を送りたかったようだけれど、感知の比較的容易なサーヴァントに比してマスターの捜索は…やれないことはないけど若干面倒なの。魔術の心得もない相手ではなおのこと、パスなしでは念話を送るのも難しい。
そこで高位の聖遺物の欠片であるゴフェルの木片を目印に通達を行ったけど、それでは所持していないマスターに届いていないでしょう?
サーヴァントには問題なく伝わったから相談できればいいけれど、万一あなた達…バーサーカーのマスターが木片を所持していなかった場合情報が均一ではなくなってしまう。それは不平等だと私が進言したの、感謝してもらいたいわね』

続いて一部のマスターの脳内のみに響き渡るのは慈愛と喜悦に満ちた修道女の声。

『伝える内容は基本的に全体に発したものと同じ。残りのサーヴァントの数と警告、追加ルールの有無、通達を安定して聞きたかったらゴフェルの木片を手放さないこと。
今回の残りは28騎、基本のクラス7つが少なくとも3騎存在しているわ。詳細は自分で調べなさい。追加ルールはなし。
警告対象は新都で騒いでいる問題児と、重大な違反をした深山町のキャスターよ。
補足説明が効きたかったら他のマスターか、教会にいるだろう私たちに会いにくるといいわ』

ルーラーの伝達に比べ少々不足はある。聞きたければ教会に来い、というのが加わった情報だが…彼女の発言はそこでは終わらなかった。

『ここからはバーサーカーというサーヴァントを引き当て、パートナーに相談が出来ないマスターに個人的なおせっかい。
この方舟は現在過去未来の様々な記憶を再現する。覚えのある顔や建物を確認したでしょう?
ひょっとしたら見知った顔が蛇に囚われたり、魔法少女と刃を交えたり、墓標にその名を刻んだり、その純潔を花と散らしてるかもしれないわね。興味があるなら思い当たる節を探してみては?心配ならなおさら。私からは以上よ』



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「何を考えているのですか、あなたは!」

らしくなく声を荒げるルーラー。特定の相手への過ぎた干渉は監督役としての越権行為だ。
これでは恙ない聖杯戦争の進行など言えたものではない。

「あら、パートナーに恵まれなかった隣人への親切よ。私の隣人を愛することの何が罪だというのかしら?」

それに対して美しく微笑んで答えるカレン・オルテンシア。彼女の発言は確かに好意に満ちたものだったかもしれない…それは彼女なりのモノであり、一般的には極めて歪んだものではあったが。

「…それでも!バーサーカーのマスターへの進言も、言峰綺礼に対する発言も人を貶めるものです!それをよりにもよって不特定多数の人物の聞く通達の中で発するなど……!」
「あの男に対する評価を改めるつもりはないわ。それに通達内での失言というならあなたもそう。新都の事件に関してそこにサーヴァントがいると発したのは構わないというのかしら?」

熱くなるルーラーに対して冷たく応じるカレン。その発言を受けて苦い顔をするルーラー。
この話題で二人に重要なのは新都についてではなく、もう一つのことだというのが分かっているようだ。

「キャスターについても同様。よりにもよって魔術師のクラスが不正を働いているとなったらいきり立つ参加者は少なくないはず。遠坂凛たちの動きにも、協力を要請された貴女にも影響は出る。
それともひょっとして、それがキャスターへのペナルティなのかしら?深山町という広範囲でしか示さなかったのは先ほど見せたあなたのこだわり?」
「……キャスターの違反は新都の騒ぎに比べ重大なものだというのは分かっています。現時点では双方警告対象にすぎないとはいえ、同様には扱えません。それに彼女たちの協力要請は、受けられませんから」

それは苦渋の決断だったかもしれない。公正中立なる裁定者か、違反者を裁く裁定者か…幼い魔術師の依頼を断り、彼女は誰にも味方しないことを選んだ。

「私はルーラー…誰かの側に立つことは許されるものではありません。情報の聴取、収集は行いますが、今後も誰かに協力することは……ないでしょう。通達を聞いた参加者がキャスターを狙うならば、それもまた聖杯戦争」

不正を犯したキャスターも含め、情報は均一に与えた。動きのきっかけにはなるだろうが、その中で戦いに動くか息をひそめるかは各々の自由。
明確なペナルティや討伐例などなくとも通常の聖杯戦争が進むのなら、戦いのなかで不正を行ったサーヴァントが脱落するなら、その動きから不正を感知できるならそれで裁定者の役割は十分、ということだろうか。


942 : 第一回定時通達〜二人の少女の警告と忠告〜 ◆A23CJmo9LE :2014/09/03(水) 01:09:03 9xBQEJBo0

「……まあいいわ。バーサーカーのマスターに対して確実に通達を行いたいという私の発言を汲んでくれたのには感謝しています。勤め先の近くにいたウェイバー・ベルベットや先ほど私と接触したテンカワ・アキトはともかく、月海原学園から離れた美遊・エーデルフェルトによく念話が出来たわね?」

議論は続くかと思ったが、予想外に強かなルーラーの反応に毒気を抜かれ労わるような対応をする。さすがにただの愚かな田舎娘ではない、というわけか。

「彼女は聖杯ですから」
「ああ、なるほど。ある意味でゴフェルの木片などよりも探知は簡単と」

ぽつりと返し、再び思考の海に潜るルーラー。それを愉快気に一瞥すると

「それじゃあ通常業務に戻りましょう。遠坂凛たちに連絡を入れたら、新都か大魔王バーンのところに行く?二手に分かれた方がいいかしらね」

問いを投げるも返事を待たず立ち上がりどこかに向かうカレン。
対してルーラーは思考を続ける。

(多くの聖遺物がこの地には集まっている…)

『ゴフェルの木片』……この聖杯戦争への参加条件であり、多くのマスターが今もなお所持している。意図せぬ参加者を集めた一因ともいえる。
『聖杯』……この戦いの果てに手に入るもの、であるにもかかわらず美遊・エーデルフェルトという完成した聖杯が存在している。彼女に望みはあるのだろうか。
『聖釘』……かつてアレクサンドル・アンデルセンがその心臓に打ち込み一つとなった。今は保持していないようだが……最高位の聖遺物がそう容易く消滅するものだろうか?
彼もまた望まぬ参加者の一人のようだ。
『聖骸布』……カレン・オルテンシアが所持し、またエミヤシロウもその身に纏っている。
そして『聖人』……場合によりスキルによる聖骸布の作成を可能とする者。私と、神裂火織。

この場に存在しないのは『聖槍』。しかしランサークラスは最多の5騎が馳せ、多くが神と深い関わりを持っている。
敬虔な信徒たるヴラド三世、おなじく信徒たる佐倉杏子、異教ではあるが神の血を引くクー・フーリン。
彼らの槍が聖人…私や神裂火織の血に染まればそれは『聖槍』たり得るのではないだろうか。もとは一介の兵長に過ぎなかった聖ロンギヌスに、聖人としてはともかく英雄としての格でセルベリア・ブレスやエリザベート・バートリーも含め、彼らが劣るとは思い難い。

(聖杯は意図的に召喚されるものを選んでいる?それに私は……ランサーを恐れている?)

通達による影響でキャスターの敵が集まるのはいい。もしあの二人のランサーがそうして集まったサーヴァントや、集まった者との諍いが原因でキャスターに敗れれば…
その戦いの中でキャスターの不正の証拠をつかむことが出来れば…

(何を考えているのだ、私は!)

確かに生前は手段を問わず勝利を追及したが、それは故国のためだ。自らの保身のために他者の不幸を願うなど罰せられるべき悪徳だ。
もしこの聖杯戦争で私の血が必要ならば…それが主の思し召しなら私は…

(―――主よ、この身を委ねます―――)




【?-?/教会/1日目・正午】

【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1. 遠坂凛に連絡を取り、要請に断りを入れる。岸波白野に対しては……
2. 大魔王バーンの調査を続けるか、新都の騒ぎに赴くか考える
3. …………………………………………私は。
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。

【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[装備]:マグダラの聖骸布
[道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味
1. ???
[備考]
※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
※そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。
他に理由があるのかは不明。


943 : 第一回定時通達〜二人の少女の警告と忠告〜 ◆A23CJmo9LE :2014/09/03(水) 01:10:38 9xBQEJBo0
投下完了です。私の力量不足から二度手間になってしまい、申し訳ありません。


944 : ◆y0PHxpnZqw :2014/09/03(水) 01:51:52 DWS5S1Pc0
放送案、投下します。


945 : 聖杯観測 ◆y0PHxpnZqw :2014/09/03(水) 01:54:33 DWS5S1Pc0

贖う。
君が抱いた願いは誰の為に背負ったものだっただろうか。
願う。
君が焦がれた願いは誰が為に祈ったものだっただろうか。
この小さな箱庭の中で今も戦っている請願者達。
請願者達は、いつだって前を向いてばかりで後ろを振り向かない。
正義、悪、未来、過去。様々な要素が絡み合った彼らは、どうしようもないぐらいに手遅れだ。
生きるか、死ぬか。それ以外に与えられた選択肢はない。

「今も生き残る請願者達さん、こんにちは。定時報告の前にまずは祝福のエールを贈りましょう。
 貴方達は多き請願者の中から勝ち上がった優秀な人種。 “聖杯”は願いを叶える瞬間を待ち望んでいます。
 やるべきことはわかっていますね? 戦って、足掻いて、欺いて、想って、生き残りなさい。全ては己が願いを叶える為に」

頭に響く声は“使い捨ての住民”には聞こえない。
過剰な排除は禁じられていても、所詮は駒なのだ。
駒は掃いて捨てるほど存在する。 そんな哀れな駒達の為に神は言の葉を授けるのだ。
主よ、汝らの来世に恒久なる平穏を。
クスクスと笑い声を上げるシスターが、清涼なる神託を述べていく。

「……祝福の言葉はここまでにしておきましょう。
 定時報告はただ一つ。“マスターとサーヴァントを含めた残存人数”だけよ。
 現時点での生存人数は56人。つまるところ、貴方達以外は全て淘汰されました。
 以上よ、それ以外の情報が知りたいのなら――教会に来なさいな。
 教えるかどうかはともかくとして、抱く疑問を聞く程度のことはしてあげましょう」

奪う。
例え、何が起ころうとも生き残るのは一人だけ。
喪う。
“聖杯”は喪失を望んでいる。 幾多の犠牲により研ぎ澄まされた願いだけを聞き入れる。
願う。
清浄なる聖杯よ、此処にあれ。紅き血をもって、その器を満たせ。
なればこそ、君の願いはきっと叶うだろう。

「最後に一つ。無駄な悪足掻きはおすすめしないわ。
 途中棄権なんて生易しい戦争じゃないって身を持って経験したでしょう?
 残された選択は一つ、闘争だけ。貴方達も、私も。所詮は観測対象に過ぎない」

その果てに、“聖杯”は顕現されるでありましょう。



――――だから、弁えろ。



もっとも、“聖杯”が願いを叶える保証なんて、何処にもないのだけれど。


946 : ◆y0PHxpnZqw :2014/09/03(水) 01:54:59 DWS5S1Pc0
短いですが、投下終了です。


947 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/03(水) 09:45:24 xlyXHVgs0
放送案投下します。


948 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/03(水) 09:46:13 xlyXHVgs0

教会に正午の鐘が鳴り響いた。
同時に『方舟』の中にいる全てのマスターとサーヴァントに念話が聞こえる。
しかし、ただの念話ではなく聖杯戦争の裁定者・ルーラーによる念話である。
彼女の清らかな声が聞こえた。

『改めて自己紹介いたします。
 私はルーラーのサーヴァントです。ただいまより、定時通達を行います。
 一度のみとなりますのでご静粛にお聞きください。
 この念話は現在限界しているサーヴァント及びマスターに対して発信されています』

『さて、現在限界しておりますサーヴァントについての報告です。
 セイバー 3騎
 アーチャー 5騎
 ランサー 5騎
 ライダー 3騎
 キャスター 4騎
 アサシン 5騎
 バーサーカー 3騎
 以上、合計28騎となります』

『再度、ご説明いたします。
 NPCの殺害及び魂喰いは程度のものでなければ違反にはなりません。
 建造物の破壊、NPCが戦闘に巻き込まれた場合などは故意でなければ違反と見なしません。
 広範囲にNPCの影響を及ぼすものに関しては警告がなされます。十分注意をして下さい』

『質問や違反の発見報告など裁定者に用件がある方は
 A-1地区にある教会へお越し下さい。
 また、教会内と教会周辺での戦闘は禁止とさせていただきます。
 もしそれらが発覚した場合、ペナルティがかせられます』

『以上で通達を終了します。聖杯戦争の武運を祈ります』



放送を終えた後でルーラーはすぐにB-4地区へと移動した。
キャスター……大魔王バーンが違反を起こした可能性があるとはいえ
まだ断定はできない。
それに、アサシンことニンジャスレイヤーが違反を起こした可能性も十分ある。
岸波白野の考察も、考察の一端であるに過ぎない。
ルーラーとして中立に。
あらゆる可能性を考慮して――

ルーラーの中では新都の事件も頭の隅に置いているが
カレンは、それに関してはあまり気乗りではない様子ではなく
とにかくB-4地区での違反を優先させろとの指示だった。

何故なら
カレンの言葉をそのまま借りるならば

「それはあなたの『啓示』に従うものですか?」


新都に関しては『啓示』がない。
カレンもある程度事件を把握していた。
多少の器物損壊は発生しているが、NPCの死者は一切発生していないとのこと。
つまり、ギリギリ違反には達成していないのだ。
反論は出来ない。その通りである。

優先するべきはB-4地区の違反、新都の事件など小さな事件でしかない。
規模の差など知った事ではない。ルーラーの本心はそうであったが、彼女はあくまで『中立』
『中立』ということは何事に対しても平等でなくてはらない。
違反と『啓示』されたものではなく、違反ではないかもしれない事件に目を奪われるのは
ルーラーの本分ではないのだ。

(私は…………)

危うく、『中立』ではなくなりかけたのかもしれない。
しかし――もし自身の手に及べないほどの事態へ発展したその時は
岸波白野たちの要請を受けることは良いのではないだろうか?
彼女の中では迷いが生じ続けていた。




【A-1/教会/1日目 正午】

【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1.B-4地区で発生した違反調査を優先させる。
2.遠坂凛の要請をどうするか決める。
3.啓示で探知した地域の調査。
4.新都の事件は一先ず放置。気にならない訳ではない。
5.……………………私は
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。

【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[装備]:マグダラの聖骸布
[道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味
1.???
2.教会へ来る者への対応
[備考]
※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
※そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。
 他に理由があるのかは不明。


[地域情報]
A-1地区に教会があります。
教会周辺での戦闘は原則禁止とされ、戦闘が発生した場合
マスターとサーヴァントに対しペナルティがかせられます。


949 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/03(水) 09:48:21 xlyXHVgs0
短いですが投下終了します


950 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/03(水) 10:19:18 xlyXHVgs0
すみません、タイトルは「第一回定時通達」でお願いします。


951 : ◆5fHSvmGkKQ :2014/09/05(金) 20:42:14 OilVcVYk0
放送案投下します


952 : 第一回定時通達  ◆5fHSvmGkKQ :2014/09/05(金) 20:43:35 OilVcVYk0

『――この『月を望む聖杯戦争』に参加しているマスター並びにサーヴァントの皆さま、こんにちは。
 本来の記憶を取り戻し、令呪を宿し、サーヴァントとの契約を果たしてから幾日か経過している方もいると思います。
 このたび予選期間が終了し“本選”へと進むマスターが確定したため、本日より定時通達を執り行うこととなりました。
 今回の通達は私、カレン・オルテンシアが担当いたします。よろしくお願いします』

『既に聖杯から与えられた知識の中にもあったかと思いますが、通達は毎日正午12時に行われます。
 なおこの通達は念話を用いていますが、遠隔及び多数同時に行っているため、非常に途切れやすいものとなっています。
 しっかりと聞きたければ、せいぜい集中して耳を傾けられる環境を事前に整えておくことです』

『もし聞き漏らしなどがあった場合、可能ならば教会で対応いたしましょう。
 もっとも私もルーラーも出払っているという場合もありますので、その際はあしからず。
 また正午の段階での残存するマスターおよびサーヴァントの数に関するデータについては、検索施設からアクセスすることも可能です。
 そちらではサーヴァントのクラスごとの数についても『方舟』によって公開されていますので、詳しく知りたい方はそちらへどうぞ』


『現時点で生存しているマスターは“28人”です』


『さて、改めて確認しますが、この聖杯戦争において“大量無差別に一般NPCを襲うこと”は禁則事項です。
 全体への通達なので詳細は伏せますが、B-4地域にて重大なルール違反を行った方へ。
 この通達をもって“警告”と致します。改善が見られない場合、次回は即刻ペナルティの付与を行うこともありますので、
 自分の身の振り方を考えることね』

『そしてもう1点。たとえNPCを直接殺害等はしなかったとしても、
 “この冬木の街の日常を著しく脅かすこととなる場合”、処罰の対象となる可能性があることをお伝えしておきます。
 心当たりのある者は、以後それらを念頭に置くように』

『定時通達は以上です。
 それでは明日の正午まできちんと生きていましたら、また』


953 : 第一回定時通達  ◆5fHSvmGkKQ :2014/09/05(金) 20:44:37 OilVcVYk0


◆◆◆


正午。教会の聖堂にて。
今この場にいるのは、監督役たるカレン・オルテンシアとルーラーのサーヴァント――ジャンヌ・ダルクの二人のみである。
あたかも見えない信徒に対して説法を行うかのように、祭壇に立っているカレン。
彼女の「定時通達」が終わったとみてジャンヌは各参加者とのパスを切り、カレンへと声をかけた。

「……ありがとうございました、カレン」

もともと通達はルーラー自身で行う予定であったのだが、カレンの強い勧めがあって、役割を交代していた。
二人での相談の結果、今回の通達ではB-4地域でのルール違反に対しての“警告”を盛り込むこととなったが、
違反の詳細が掴めていない現状で、ジャンヌがカレンほどに堂々と「ハッタリ」をかますことができるかというと若干の懸念があった。
もちろん役目である以上、職務に対して誠実にあたる心持も実力もジャンヌにはあるが、
中華飯店での岸波白野の問いがまだ尾を引いていたこともあって、カレンの申し出はジャンヌにとって正直なところありがたいものであった。

「いえ、お気になさらず。私自身通達をやってみたかったというのもありますので。
 脱落者こそまだいませんが、水面下ではみな動き始めています。私の通達を経て、今後参加者たちはどう動いていくのか、
 この聖杯戦争がどんな混沌とした様相を呈していくのか……想像すると実に楽しみです」

そう、神の信徒たるシスターには似つかわしくない嗜虐的な笑みを浮かべながら、カレンは言った。
ジャンヌは若干反応に困ったが、さほど間を置かずにカレンの表情が真顔に切り替わる。
裁定者の役割は、定時通達のほかにもまだまだたくさんある。そのことはカレン自身も理解しているのだろう。

「さて、通達も終えたところですし、これからどうします?
 『泰山』で話した通り、私も現地へ赴いてみましょうか?」

カレンの反応を通して事件の真相を探る。
が、その条件は特殊でばらつきが激しい。カレン自身が言ったように、今回の件に対してカレンの体が反応するとは限らない。
闇雲に調査に臨んでは、先ほどと同じく徒労に終わる可能性が高い。

「『啓示』にあったマンション周辺で、異常は特に見受けられなかった。
 NPC達の間で騒ぎ(エラー)や停滞(フリーズ)などが起きている様子もない。そうですね、ルーラー?」
「ええ。あくまで私の目で見た限りで、ではありますが」

ほんの一瞬ジャンヌの脳裏をよぎった弱気な考えが、顔に出てしまったのだろうか。
カレンは祭壇からおもむろに移動しながら、再度ルーラーに調査結果を確認した。


954 : 第一回定時通達  ◆5fHSvmGkKQ :2014/09/05(金) 20:45:41 OilVcVYk0

「……人の判断というものにはあいまいな部分があり、ある程度の“異常”は許容できるものです。
 たとえヒトの常識から外れた『神秘』や本物の『魔』を目の当たりにしたとしても、
 “気のせいだ”、“疲れていたのだろう”、“ただの幻覚ではないか”。
 そんな風に考えて、異変も矛盾も看過してそのまま日常へと回帰することができます。
 それは『方舟』によって一般NPCとして再現されたデータであったとしても同様です」
「…………」

かつんかつんと静謐な聖堂に響いていたカレンの足音が、沈黙しているジャンヌの前で止まる。

「しかし閾値というものは存在します。
 “NPC達の常識(ルーチン)で処理できる範疇を超える場合、その行為はこの聖杯戦争における規則違反であると見なされる”。
 NPCの大量殺戮が禁止されているのも、聖杯戦争の舞台を維持する上で必要だからでもありましたね」

この『月を望む聖杯戦争』の参加者の中には、暗示や洗脳、その他の方法でNPCの思考・行動に介入することができる能力を持った者がいる。
しかしこの“幅”があるために、それらの行為自体はルールに抵触することではないとされている。
洗脳とはえてして当人にその意識はなく、またその人物の指向性を変えたり増幅するだけであったりするため、
個人の取りうる行動の範疇だと解釈することも可能であるからだ(もっとも程度や内容によっては充分ルール違反となりうるが)。

一方、“一般NPCへの度を過ぎた無差別殺戮”は明確な禁止事項として規定されている。
この『方舟』内において、NPCに欠員が生じたとしても、新たに補填されることはない。
一度死を迎えたNPCは、その聖杯戦争の進行中に復元されることはなく、以後そのまま死者として扱われることになる。
街を構成しているのは人であり、支えている柱が欠けていくこととなれば――――コミュニティは瓦解する。
それ故の、禁則事項。

「……そういえば。これは是非についてではなく、ただの感想なのですが。
 貴女のNPC被害に関する裁定は、私からすれば若干厳しめのように感じました。
 これからは参加者同士の戦闘も激化するでしょう。建物も破壊されるでしょうし、巻き込まれるNPCの数も当然多くなる。
 すべてに対処しようとしては、その身も令呪もいくつあったとしても足りなくなりますよ?」

急に変わった矛先に、ジャンヌは思わず息を呑むこととなった。
ほんのすぐ目の前で、カレンはジャンヌの紫の瞳をじっと覗き込んでいる。
その声は普段の平坦な調子ではなく“色”が乗っていて、口の端はわずかに上がってさえいる。

「それは貴女の裁定者としての役割への真摯さから来るのかしら。それとも――NPCへの同情心?
 本選に進むマスターが確定した今、いずれ消去(デリート)されることが運命付けられた、ただの人形に過ぎないのに?」
「っ! それは……」

カレンの言葉に、ジャンヌは返答に詰まった。
参加者にルールとして伝えていたのは、“大量”殺戮の禁止。
“NPCに紛れている未覚醒のマスター候補の保護”という目的もあった予選期間中はともかくとして、
聖杯戦争が本格的に動き始めた今夜未明、倉庫群にジャンヌが“注意”に赴いたのは、まだ明確な被害も出ていないうちである。
過剰反応であると、それはルーラーとしての立場ではなく個人的な感傷に因るのではないかと、
そう言われてしまい、ジャンヌは強く言い返すことができなかった。


955 : 第一回定時通達  ◆5fHSvmGkKQ :2014/09/05(金) 20:46:06 OilVcVYk0

「……まあ、話を元に戻しましょう。
 ルール違反がなされているとの『啓示』は出た。しかし街の日常はつつがなく進行している。
 この聖杯戦争において多少の無茶くらいならばルールの範囲内であると認められていて、『方舟』が介入するような事柄はそうそうない。
 であるならば――これは“偽りの日常”。なんらかの方法を用いて表面が取り繕われているだけ……といったところかしら?
 もしくは今はまだ何もないけれど、そう遠くないうちに崩壊しかねないような状況にある。そんな可能性も考えられるかもしれないわね」

カレンはいつもの抑揚のない喋り方に戻って告げる。
二点目の話は、『啓示』が現在の違反というよりは“未来の被害”に対して強く反応したのかもしれないという話である。
そうであるのならば、被害が生じていない現時点ではそもそも証拠を集めることができないのかもしれないと、そんな可能性の話。


「さて、改めて問いましょう。――これからどうしますか、ルーラー? 遠坂凛たちの要請への返答も、おいおいせねばなりません」


『啓示』が出た違反行為について、自信を持ってペナルティを与えられるだけの根拠をルーラーはつかめていない。
さきほどの“警告”によって違反者が行為を改めるのならば、それでいい。
しかし警告が無視された場合。
規則違反が見過ごされ続けるとあっては、なんのためのルールであるか。
聖杯を得ようと必死なマスターは多く、サーヴァントにも反英雄的な性質を持つ者が多い。
あっという間にルールは形骸化し、抑止力としての効果を失うだろう。
ルーラーの令呪で強制的に従わせるにしても、それが可能な回数には限りがある。

間もなく遠坂凛たちとキャスターは交戦する。そうなると中立の立場としての介入は難しくなる。
また、「ボク、これからもおぉっと悪いことしちゃいまぁーす!」と、
さらに被害を拡大させることを宣言していた新都での事件など、懸念する事案は数多い。

ジャンヌはひとつ大きく呼吸し、覚悟を決める。
迷えば迷うだけ、動ける時間が無くなる。
再び顔を上げた彼女の表情は、毅然とした聖処女、ルーラーとしてのものだ。
そこに躊躇は存在しない。少なくとも、表面的には。


「そうですね、では――――」


956 : 第一回定時通達  ◆5fHSvmGkKQ :2014/09/05(金) 20:46:33 OilVcVYk0


【?-?/教会/1日目・正午】

【ルーラー(ジャンヌ・ダルク)@Fate/Apocrypha】
[状態]:健康
[装備]:聖旗
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行。
1. ???
2. 遠坂凛の要請をどうするか決める。
3. …………………………………………私は。
[備考]
※カレンと同様にリターンクリスタルを持っているかは不明。
※Apocryphaと違い誰かの身体に憑依しているわけではないため、霊体化などに関する制約はありません。

【カレン・オルテンシア@Fate/hollow ataraxia】
[状態]:健康
[装備]:マグダラの聖骸布
[道具]:リターンクリスタル(無駄遣いしても問題ない程度の個数、もしくは使用回数)、???
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の恙ない進行時々趣味
1. ???
[備考]
※聖杯が望むのは偽りの聖杯戦争、繰り返す四日間ではないようです。
※そのため、時間遡行に関する能力には制限がかかり、万一に備えてその状況を解決しうるカレンが監督役に選ばれたようです。
他に理由があるのかは不明。



[通達について]
※マスターおよびサーヴァントを対象に、ルーラーを介した念話によって行います。ただし睡眠中の者、集中状態にない者等には通じません。
※正午時点でのマスターおよびクラスごとのサーヴァントの残存人数については、検索施設にて閲覧が可能です。


957 : ◆5fHSvmGkKQ :2014/09/05(金) 20:48:27 OilVcVYk0
以上で投下終了です
何かありましたらお願いします


958 : ◆OSPfO9RMfA :2014/09/06(土) 00:51:01 mHlGOwGk0
投下乙です。

拙作につきまして、誤字修正を致します。

×「ところでカレン、通達はどのようにするですか?」
○「ところでカレン、通達はどのようにするのですか?」

× カレンはそう前を気をして、指を一本立てる。
○ カレンはそう前置きをして、指を一本立てる。

以上です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。


959 : 名無しさん :2014/09/09(火) 01:59:00 z/K.VR6.0
本日22:59:59まで放送案投票です

放送案投票スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/16771/1409920857/


960 : 名無しさん :2014/09/09(火) 23:46:23 53tZaJRM0
放送の投票が無事に終わったため0:00からしたらばの予約スレで予約解禁です


961 : ◆OSPfO9RMfA :2014/09/10(水) 00:21:05 Wbpnh9Ms0
投下します


962 : 名無しさん :2014/09/10(水) 00:22:55 Hx0ZYWsI0
ktkr


963 : 対話(物理) ◆OSPfO9RMfA :2014/09/10(水) 00:23:31 Wbpnh9Ms0

 28人。

 この聖杯戦争における現存するマスターの数だ。
 聖白蓮は通達を聞きながら思う。

 思ったより多い、と。

 おそらく自身と対面することもなく退場するマスターも出るだろう。
 ならば、一期一会、一回一回の出会いを大切にしなければならない。

 いずれは倒す相手だが、ただ無機質に殺し合うつもりはない。
 可能であれば相手と対話し、理解し、その上で倒す。

 だが、対話したマスターはまだ一人、言峰綺礼だけだ。
 聖から動くことが必要だろう。
 お弁当を食べ終わると立ち上がり、街を散策することにした。







 聖は街を歩いていた。
 場所にしてC-7。検索施設の一つである図書館のある区域だ。

 だが、聖には特に検索すべき情報はない。
 休戦同盟をした言峰綺礼のサーヴァントは、自身のサーヴァントがよく知るという。
 強いて調べるのであれば、綺礼達が出会ったという鉄塊を振るうサーヴァントだが、実際に見てもいない相手をその程度の情報で特定するにはさすがに無理だろう。

 では、何故、聖はここを歩いているのか。

 ――わからない。

 聖も何故ここを選んだのか分からないでいた。
 迷子というわけでも、道を間違えたというわけでもない。

 ただ、足がいつの間にか動いていた。
 そう表現するしか無かった。

 ついに図書館の前にまで来てしまう。
 通行人もまばらな通りで、ふと、図書館の前に立つ二人の男と目が合った。

 一人はホスト風のスーツを着た男。
 もう一人は赤いコートを着た長身の男。パラメーターが見える。サーヴァントだ。ならば、おそらく隣の男がマスターであろう。

 マスターと思われる男が口を動かし、不敵な笑みを浮かべる。
 遠くだったので声は聞こえなかった。
 だが、その口の形で何を言ったのかが分かった。


 ――来いよ。


 嗚呼、なるほど。そう言うことか。
 呼ばれたのだ。あの男達に。

「セイバー」

 聖も笑みを浮かべ、一言呟く。蒼い全身甲冑のセイバー、ロトが音もなく隣に現れる。剣と盾を手にし、バイザーの下から男達を見据える。
 対話だ。
 男達は拳による対話を求めていた。
 ならば答えよう。
 拳による対話を。

「ガンガン行きましょう」

 ロトは無言で頷くと、主と同時に男達に向けて駆けだした。






964 : 対話(物理) ◆OSPfO9RMfA :2014/09/10(水) 00:24:07 Wbpnh9Ms0



 聖はマスターと思われる男に向かって、コンクリートで出来た地面を穿つように駆ける。
 魔法――裁定者であるカレンらの世界で言うところの魔術――で強化された脚力は、隣を駆けるロトに遅れを取らない。
 男は構えを取り、その場から動かない。
 聖はそのまま勢いを乗せ、牽制のジャブを放つ。

 男は避けない。

 左の拳が男の頬に抉りこむ。
 こちらも魔法で強化された腕力だ。ジャブとはいえ決して軽い物ではない。
 なのに避けようとも受けようともしない。
 不審に思いつつも連撃の右ストレートを入れようと、左手を引く。


 ――男の鋭い眼光が見えた。


 本能的な恐怖を感じた聖は即座にバク転をして距離を取る。

 刹那、強烈な踏み込みと同時に肘鉄が繰り出された。

 踏み込みはコンクリートの地面を穿ち、穴を作る。
 肘鉄は空振りに終わったが、男は笑みを浮かべる。

「どうした。逃げるのか?」

 男は挑発するように手招きする。

 大魔王バーンの奥義に、天地魔闘の構えというものがある。
 『攻撃の直後は必ず隙が出来る』の理論を前提の元、相手の攻撃を防ぎ、しかるのち反撃を行う必勝の構えだ。
 最適化されたその構えは、如何なる相手であろうと打ち破るのは困難、不可能とさえも言われる。

 だが、この男は違う。
 攻撃の前でも、最中でも、後でも、隙があれば容赦なく攻撃する。
 そしてその攻撃は必殺だ。当てれば確実に“持っていく”。

 聖がこの男を倒す方法は一つ。
 必殺の攻撃を全て避けつつ、相手が倒れるまで出来るだけ隙の少ない攻撃をする。

 それは細い道。とてつもなく細く、長い道だ。
 聖の頬に汗が一筋流れる。
 だが、それでも逃げない。射るような瞳で男を睨み付ける。

「ジョンス・リー」

 男が唐突に単語を紡ぐ。

「ジョンス・リーだ」
「聖。聖白蓮です」

 それが名乗りだと気付いたのは、二言目だった。
 聖も名乗ると、懐から巻物を取り出し、掲げる。魔人経巻と呼ばれるそれは聖の背後上空に浮かび、上から下に流し開く。「転読」と呼ばれるお経の読み方の一種だ。
 さらなる魔法強化。それでもまだ道は険しい。

「もう一度、行きますよ!」

 聖は今一度、地面を蹴り、駆けた。






965 : 対話(物理) ◆OSPfO9RMfA :2014/09/10(水) 00:24:33 Wbpnh9Ms0



「さぁ、闘争の時間だ」

 ロトと対峙するのは、アーチャーのサーヴァント、アーカード。
 この聖杯戦争が始まって、ようやく待ちに待った闘争の時間だ。
 できればより長く、より楽しく味わいたい。
 だが、廃ビルでの主との闘いのように、またルーラーに水を刺されるのも興ざめだ。

 故に。

「拘束制御術式解放、第三号、第二号、第一号。クロムウェルによる承認認識、眼前敵の完全沈黙までの間、能力使用限定解除開始」

 濃厚で濃密で濃縮された闘争を堪能することにした。
 短期決戦。
 人の形が崩れ、不定型な存在へと化していく。腕が狼の顔に、全身に目が生え、液状化した部分もある。それを見たNPCは悲鳴を上げて散り散りに逃げていく。
 アーカードはロトの周りを囲うように身体を広げていく。

「ほう、貴様……人間だな?」

 ロトを囲うアーカードの全身に生えた目が、めざとくその本性を看破する。
 英霊が人間とは限らない。アーカードがまさにそうだ。他にも、神霊との混血により神性がある者、魔族の者、ヴァルキュリア人などもいる。
 だが、アーカードは直感する。
 対峙しているこの英霊は、“人間”であると。

「――」

 ロトは答えない。無言のまま剣を構える。

「よかろう。存分に楽しませてくれ」

 アーカードは吠える。それと同時にロトを殺めんと襲いかかった。


 四肢を持たぬ狼がロトを喰らわんと首を伸ばす。
 ロトは煌めく剣を振るい、その首を跳ね飛ばした。

 ロトの背後に回った部分から腕が生え、拳銃から銃弾を放つ。 
 背中に目があるかのごとく、ロトは眩い盾で直撃を逸らし、拳銃ごと叩き斬った。

 持ち上げた運転手の居ない車を、ロトに向けて叩き落とす。
 ロトのシールドバッシュによって、巨大な質量である車が宙を舞う。

 鋭く尖った手刀で右手首を引き裂かんとする。
 ロトが振るう剣の柄尻で叩き落とされ、翻した刃でバターのように切り裂かれた。

 斬ろうとも、撃とうとも、打とうとも、突こうとも、貫こうとも。
 打ち落とされ、受け流され、打ち返され、切り払われ、打ち砕かれる。


 ――劣勢だった。


 アーカードは劣勢だった。
 アーカードは化物だ。
 彼は脅威の再生能力や腕力、超感覚、不死性を持つ。さらに、拘束制御術式を解放することにより、その身を人の形から逸脱させ、身体の一部を獣と化し、また無機物と融合することもできる。


 だが――


 ロトは勇者だ。
 魔王を討ち滅ぼすことを宿命づけられた勇者なのだ。
 ロトは幾多の種類の魔物と闘ってきた。液状の魔物、獣の魔物、槍を持った魔物、剣を持った魔物、炎を吐く魔物、吹雪を吐く魔物、石で出来た魔物、鎧で出来た魔物、吸血鬼の魔物、不死の魔物……ありとあらゆるその全てに、打ち勝ってきた。


 そして、そして何より――


 ――化物を倒すのはいつだって人間だ
 ――魔王<化物>を討ち滅ぼすことを宿命づけられた勇者<人間>


 二つもお約束が揃っているのだ。
 アーカードがロトに勝てる道理は微塵も有りはしなかった。






966 : 対話(物理) ◆OSPfO9RMfA :2014/09/10(水) 00:25:27 Wbpnh9Ms0



「素晴らしい、素晴らしいぞヒューマン!!! さぁ、殺せ!! 化物である私を殺してみせろ!! 心の臓を抉り取り、切り刻み、叩き潰し、焼き焦がし、塵芥になるまで殺し尽くしてみせろ!!! ハリー! ハリーハリー!! ハリーハリーハリー!!!」
「――ッ!!」

 対する相手が己を殺しうる人間と認識し、興奮しまくし立てるアーカード。
 ロトは無言のまま、全方位から来る攻撃をいなし、反撃を行う。

 未だにロトは無傷、しかしアーカードもまだ再生能力に衰えはない。
 決着には時間が掛かりそうだ。このままではルーラーによる横槍が入ってしまうかもしれない。

 だが、宴は直ぐに終わった。


 ――轟音。


 嫌な予感。
 ロトはその音の正体を確かめるべく、その方向を見る。
 不定型なアーカードの縫い目から視界が通った先に見えた物。
 その予感は当たっていた。


 ひび割れたコンクリートの壁。
 その前で崩れ落ちる聖白蓮。
 そして貼山靠の残心を取るジョンス・リーの姿だった。


 おそらく、数度に渡る近接戦の末、ジョンスの攻撃が聖に当たったのだろう。
 聖に起き上がる様子はない。気絶しているようだ。

 ロトはすぐさま聖の所に行こうとするが、ロトの周囲はアーカードが包囲している。
 駆けつけるため突破口を開こうとした、その時――



「闘争の時間は終わりだ」



 アーカードは身体を人の型に戻し、武器を収める。
 ロトと聖を阻む物は無くなり、さらにアーカードから戦意を感じられなくなった。

 ――何かの罠か。

 ロトがそう不審に思うのも無理はない。
 油断せずにアーカードに対峙する。

「主の所に行くといい。我がマスターの闘争は既に終えている」

 その言葉にロトはジョンスを見る。
 ジョンスは構えを解き、ポケットに手を入れ、満足そうな笑みを浮かべていた。闘う意思はそこにはもはや無かった。
 ロトはもう一度、アーカードの方を見る。

「私の名はアーカード。覚えておくがいい。私を殺すヒューマン」
「――」

 アーカード。聞き覚えがある。確かテレビでジナコが呼びかけていた名前だ。
 だが、それを問う暇は無かった。

 ロトは無言のまま剣を顔の高さまで掲げると、鏡のように刃の平をアーカードに見せる。
 そして、真名解放を行う。
 しかし、竜巻は起こらず、ただ剣に刻まれた文字がくっきりと浮かび上がる。

「なるほど、それが貴様の名か。覚えておこう」

 アーカードは満足げに唇を釣り上げる。
 ロトはジョンスとアーカードを視界に収めながら、聖の所に向かう。
 聖の様態を確認する。出血はしていない。おそらく脳震盪による気絶だろう。しかし、頭を強打しているため楽観視は出来ない。安静に出来る場所で、適切な処置をした方が良い。
 残念ながら、回復魔法などは座に置いてきた。その為、治療するには安全な場所を確保する必要があった。

 ロトは聖を抱きかかえると、人通りの少ない裏道を通って去っていった。


967 : 対話(物理) ◆OSPfO9RMfA :2014/09/10(水) 00:25:55 Wbpnh9Ms0



【C-7/図書館付近/一日目 午後】

【聖白蓮@東方Project】
[状態]全身打撲、気絶中、疲労(中)
[令呪]残り三画
[装備]魔人経巻、独鈷
[道具]聖書
[所持金] 富豪並(ただし本人の生活は質素)
[思考・状況]
基本行動方針:人も妖怪も平等に生きられる世界の実現。
0.気絶中……
[備考]
※設定された役割は『命蓮寺の住職』。
※セイバー(オルステッド)、アーチャー(アーカード)のパラメーターを確認済み。
※言峰陣営と同盟を結びました。内容は今の所、休戦協定と情報の共有のみです。
※一日目・未明に発生した事件を把握しました。
※ジナコがマスター、アーカードはそのサーヴァントであると判断しています。

【セイバー(ロト)@DRAGON QUESTⅢ 〜そして伝説へ〜】
[状態]健康
[装備]王者の剣(ソード・オブ・ロト)
[道具]寺院内で物色した品(エッチな本他)
[思考・状況]
基本行動方針:永劫に続く“勇者と魔王”の物語を終結させる。
0.>白蓮を治療できる場所に移動する。
1.>白蓮の指示に従う。戦う時は>ガンガンいこうぜ。
2.>「勇者であり魔王である者」のセイバー(オルステッド)に強い興味。
3.>言峰綺礼には若干の警戒。
4.>ジナコ(カッツェ)は対話可能な相手ではないと警戒。
5.>アーチャー(アーカード)とはいずれ再戦を行う。
[備考]
※命蓮寺内の棚や壺をつい物色してなんらかの品を入手しています。
 怪しい場所を見ると衝動的に手が出てしまうようだ。
※全ての勇者の始祖としての出自から、オルステッドの正体をほぼ把握しました。
※アーカードの名を知りました。

[その他の情報]
ジナコ(カッツェ)に関する映像がテレビ、ネット上に出回っています。






968 : 対話(物理) ◆OSPfO9RMfA :2014/09/10(水) 00:26:23 Wbpnh9Ms0



「顔も見せず、語りもせず、だが仁義は貫く。ピカピカと目立つ身なりの割に、シャイで実直な人間ではないか」

 アーカードは自身の真名を明かすことに躊躇いはない。弱点を知られようが興味が無いからだ。
 しかし、ロトはおそらく違うだろう。それでも真名をアーカードに明かしたのは、推測ではあるが、聖を見逃した事への感謝の意と、中断した闘争への再戦の意。
 折角図書館が目の前にあるのだ。アーカードを追い詰めたロトの生前の行いを確認するのも楽しいかもしれない。

 アーカードはロト達が視界から消えるのを見送ると、ジョンスに近づいた。

「たっぷりと闘争を堪能したようだな、マスター」
「あぁ、本気になるには物足りないが、たっぷりと食わせて貰ったぜ」

 そう言って笑うジョンスの目元や頬には、痣がくっきりと浮き出ている。
 今回はジョンスの方が有利ではあった。だが、必勝ではない。いくらでも敗北する可能性はあった。
 故に、ジョンスの中には勝利の高揚感があった。

「トドメは刺さないで良かったのか?」
「お前、ドSだな。分かってる癖に、俺の口から言わせたいんだろう?」
「さて、何のことかな?」

 したり顔の笑みでしらを切るアーカード。
 ジョンスはその脇腹を小突きながら、言葉を紡ぐ。

「そりゃ闘いの最中に死ぬかもしれねぇ。けどな、闘いが終わっても生きてたら……また闘えるかも知れないだろう?」

 他の主従に襲われて死亡するかもしれない。
 だが、また出会うかもしれない。

「思いっきり負かせたからな。屈辱だろうな。その屈辱を食って強くなったアイツと、また闘う。その時、アイツが俺より強くなっていたら……“おかわり”はさぞ美味いだろうな」
「素晴らしい。それでこそ我が主と認めた人間だ」

 魔法陣が描かれている白い手袋でパチパチと手を叩く。
 からかいにも見える行為だが、ジョンスは害せずさらに言う。

「それに、お前もそうだろ?」
「さて、何のことかな?」
「とぼけるなよ」

 ジョンスはアーカードに、今度はこちらが弄る番だと言いたげな笑みを向ける。

「マスターを倒したらサーヴァントは消えてしまう。トドメを刺してたら、お前はさしずめ、さっきのサーヴァントに勝ち逃げされるわけだ。それは不味い屈辱だろう?」
「ん、んふ、んふふふふふっ、くははははははっ」

 アーカードは肩を大げさに震わせ、両手を激しく叩きながら笑う。

「良いだろう、マイマスター。今度かのサーヴァントとの再戦の暁には、必ずや勝利を収めてご覧に入れよう」
「おう、零号……だったか? アレも使って良いぞ。折角全力出せる相手なんだ。闘争をおもっきり楽しんでこい」
「了解した、マイマスター」

 あぁ、やはり、人間はいつだって最高だ――



【C-7/図書館/一日目 午後】

【ジョンス・リー@エアマスター】
[状態]顔面に痣、疲労(中)
[令呪]残り一画
[装備]なし
[道具]ジナコの自宅の電話番号を書いた紙
[所持金]そこそこある
[思考・状況]
基本行動方針:闘える奴(主にマスターの方)と戦う。
1.図書館でアサシン(カッツェ)を八極拳で倒す方法を探す。
2.ある程度したらジナコに連絡をする
3.聖と再戦する。
[備考]
※先のNPCの暴走は十中八九アサシン(カッツェ)が関係していると考えています。
※現在、アサシン(カッツェ)が一人でなにかやっている可能性が高いと考えています。
※宝具の発動と令呪の関係に気付きました。索敵に使えるのではないかと考えています。
※聖の名を聞きました。アサシン(カッツェ)の真名を聞きました。
※アサシン(カッツェ)、セイバー(ロト)のパラメーターを確認済み。

【アーチャー(アーカード)@HELLSING】
[状態]魔力消費(中)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:主(ジョンス・リー)に従う。
0.セイバー(ロト)の生前の経歴を戯れに調べる。
1.セイバー(ロト)と再戦し、勝利する。
2.アサシン(カッツェ)が起こそうとしている戦争には興味がある。
3.アサシン(カッツェ)が接触してきた場合、ジョンスに念話で連絡する。
[備考]
※野次馬(NPC)に違和感を感じています。
※現在、アサシン(カッツェ)が一人で何かしている可能性が高いと考えています。
※セイバー(ロト)の真名を見ました。主従共に真名を知ることに余り興味が無いので、ジョンスに伝えるかどうかはその時次第です。


969 : ◆OSPfO9RMfA :2014/09/10(水) 00:27:27 Wbpnh9Ms0
投下終了です。
誤字脱字、不自然な点などあればご指摘ください。


970 : 名無しさん :2014/09/10(水) 00:42:03 B7FFpzu.O
投下乙です。

ジョンス組が楽しそうで何より。
アーカードの持論からすると、勇者は大好物だな。
特にロトは、真人間の勇者だし。


971 : 名無しさん :2014/09/10(水) 00:44:34 Hx0ZYWsI0

闘争を「楽しむ」ことに全てを賭けるジョンスと旦那、
そして原作セイバーのような騎士らしさを見せるロトがかっこいい!
アーカードの性質と、伝承補正もあってロトとの相性は最悪だけど
ガチ近接型のマスター戦で今回はジョンスたちに白星か


972 : 名無しさん :2014/09/10(水) 02:12:41 GOK1NpSg0
投下乙
アーカードの旦那は久しぶりに闘争を楽しめたようで何よりですね
ロトも強い!きゅうけつきの魔物相手じゃ圧倒的か
マスター同士の対決は八極さんに白星か。
実戦の差が勝敗を分けた感じなのかな


973 : 名無しさん :2014/09/11(木) 15:27:22 /BnSSb3c0
投下乙です
周辺が色々やばいので運よく寺に帰れるか不安なひじりん。
このあとケリィが来る事を考えると図書館も激戦の予感。
あと、そろそろ次スレ立てるべきだと思いますがその前に何かあるでしょうか


974 : 名無しさん :2014/09/11(木) 17:31:48 8gbcmP/I0
ロトはどうやってマスター以外と会話するのかと思ったけど
剣の設定の使い方うまいな。かっこよかった


975 : 名無しさん :2014/09/11(木) 22:08:15 8gbcmP/I0
そういえばもう少しで新スレだけど、何かテンプレ変更する部分とかあったっけ?


976 : 名無しさん :2014/09/11(木) 22:29:37 ZW733ig.0
特にないんじゃないかな
「基本的なルールは月の聖杯戦争に準じます」って部分が大分怪しくなってきてるけどw

強いて言うなら、前に雑談スレにあがってた夜→夜間に変更しては?ってのをどうするかとか
検索施設について図書館、病院、学園と描写されたので追記してもいいんじゃないかとか、思いついたのはそんなとこかなあ


977 : 名無しさん :2014/09/11(木) 23:07:15 7s.Wlk0E0
判明してる検索施設の追記だけでいいんじゃないかな


978 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/12(金) 10:36:59 llayk5a20
投下します


979 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/12(金) 10:37:45 llayk5a20
『以上でニュースを終わります』

テレビから以上の言葉が流れいる中。
アサシンこと吉良吉影が何をしているのかと問えば、彼は昼食を作っていた。
まずは簡単なコンソメ風味を加えた、野菜と茹でたウインナーを入れたスープ。
シンプルで質素だが主食と共にいただくには申し分ない。
あまりはマスター・乙哉との夕食に使える。

主食となるのはサンドイッチだ。
様々な具材を入れて、たまごサンドや野菜サンドを作った。
これは生前、アサシンが通い詰めていた人気店にあったサンドイッチを再現したもの。
几帳面なアサシンはソースの味まで事細かに再現している。
本来ならばサンドイッチを片手に公園で食事を取りたかったのだ。
しかし、あのアーチャーの襲撃に警戒してアサシンの計画は崩壊してしまった。
黙々と行っていた作業を終え、アサシンは長い溜息を吐く。

昼食を作り終えたところでアサシンは念話をかける。

『マスター。連絡があるんだが――』
『手短にお願い!!これからお楽しみなんだよね〜♪』
『…』
『それにここ学食で気が散っちゃうしー……ね?』
『あぁ、そうさせて貰うよ』

アサシンは簡潔に説明した。
トオサカトキオミならぬ人物が学園内に刺客を送り込んだ事。
彼とそのサーヴァントとの交戦。
そしてニュースで報道されていた事件について。
これは学園にいた乙哉は知らないはずだ。
以上で挙げられた内容と登場した名前に彼女は唸る。

『トオサカ……ジナコ……アーカード……うーん、どれも聞き覚えないやー』

一応、ジナコは学園の補欠職員であるものの。
さすがの乙哉もそこまで把握してはいなかった。
ただ名前を記憶しておく程度に収まる。

『それにしても昼間だっていうのに皆戦うなー』
『逆に私と出くわしたマスターのように職業の枷に縛られていないマスターがいる証拠だ。
 …さて、マスター。今後の方針だが一番の問題がある』
『魂食いのこと?でもカレンって人の言い分ならセーフだよね??違反の対象はあたしたちじゃないよー』
『いや…違う。今回の人数だ』

そう、参加人数。
マスターが28人。
つまり、サーヴァントが28騎。
アサシンを除けば27騎だ。
通常の聖杯戦争よりも規模が大きく、人数も多い。
真っ向勝負に向いていないアサシンにとって問題はそこである。

『私たちは集団で襲われれば確実に不利になる点だ』
『うーん……それは分かってるよーつまり、乱戦は避けるべきってこと?』
『そうじゃあない。この数を単独で相手にするのは困難……
 それは、どの陣営も考えうるということだ。同盟を組む陣営が少なからず出てくる』

サーヴァントが27騎ならば聞き方は柔らかいが
マスターを含め、合計54人だと表現を変えれば厳しい。
もし一点にアサシンたちへ襲撃の的が向けられれば、最低でも4人を相手しなければならない。
乙哉は殺人鬼とはいえ、やはり魔術を使えぬ人間に過ぎない。
相手のマスターに魔術師がいるだけでその形勢は大きく変化する。
アサシンはそれを警戒していた。

暗殺特化であるアサシンが何故そこまで同盟や集団を警戒するのか。
彼の生前が起因していた。
アサシンを追い詰めたのは絆と友情と信頼で結ばれた仲間、集団そのもの。
たとえ一人を追い詰めたとしても、危機を察知し、ウジ虫のように仲間が現れた。
引きずっていない、と言えば嘘になる。
警戒に越したことはない。
警戒するにしてもそれが一番の警戒になっていることをアサシンは気づいていなかった。


980 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/12(金) 10:38:38 llayk5a20
あのサーヴァントがアサシンを追い詰めるべく仲間を引っ提げ現れるならば……
すぐにでも最悪のシナリオがアサシンの脳裏に繰り返された。

『それじゃあ、同盟組む?
 できればカワイイ子がいいよねぇ〜そうそう!殺しちゃいたいくらいカワイイ子!』
『…マスター』
『わかってるよー!アサシンの好みの人も探すから♪』
『そうじゃあない。私は同盟を組むことは主張していない』
『…え?』
『同盟には警戒するべきだと言っているんだ』
『………ちょっと矛盾してるよ?アサシンが同盟は有利になれるって言ってたじゃん?』

アサシンは少し表情を歪める。

違う、そうじゃあない。
『そういう』のは嫌いなのだ。
彼の性分には合わない。
キャイキャイ騒いだり絡まれたり……『そういう』のが好きじゃない。
出来ない事はない。
しいて願わくば、同盟相手が静かであまり絡んで来ないものであれば何とか…

そんな不満をぶちまける訳にはいかず、アサシンはぐっと堪えながら言う。

『手の内を知られるリスクもある。慎重に考えるべきだ』
『そっかー……じゃあ、あたしも帰りまでには考えておくねー』
『あぁ、そうだ。マスター、ついでに聞いておきたいのだが――』
『なに?』
『下着の干し方についてなんだが……』

…………

『なんでソレ、最後に持って来たの……』


◆ ◆ ◆


『やはり、学園内にマスターがいる可能性があるわ』

キャスターが例の校門にあった虫の一件をマスターの暁美ほむらに告げた。
定時通達も含め、ほむらは真剣に念話での対話を行った。
これから学食で乙哉と待ち合わせしているほむらは移動をしながらである。

『全てを調べてみないと分からない。
 だけど、真っ先に学園を狙ったならばマスターが生徒か…もしくは教師かもしれないわ』
『学園には人が多いし…普通にそれだけが理由かも……』
『だから全てを調べて見る必要があるのよ。学園だけじゃない。人が集中する場所はいくらでもある。
 大学病院、患者も含めて結構な人がいるはず。
 図書館、サーヴァントの詳細を調べる為、確実にマスターが足を運ぶ場所。
 ここにも「虫」が設置されているならば、あなたの考えは納得できる。
 だけど……もしそれがなかったとしたら?』
『……』
『その場合は「確実に」「絶対に」マスターが学園内にいるのよ』

一種の連想だ。

「自分のマスターが月海原学園の関係者だった」
「もしかしたら学園内にもマスターがいるかもしれない」
「ならばマスターの安全を確保する為、学園関係者を警戒しよう」

登校するまでは可能性として考慮していたが『虫』の登場により疑惑は濃厚となったのである。
キャスターは警戒の為、学園に留まり様子見したが
襲撃らしきものは何一つ見られなかった。それでも用心に越した行為ではない。

でも、とほむらはキャスターに問う。

『いつも通りでいいんですよね…?』
『そうね。一先ず「普通」にしているように』


981 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/12(金) 10:40:04 llayk5a20
キャスターはそれ以上、不安を煽るような発言を慎んだ。

彼女の不安とは
学園内に『虫』に関するサーヴァントとそのマスターがいることではなく。
それ以外のマスターたちが存在することだ。
定時通達によればマスターは28人。
ほむらたちを除けば27人。
それほどの規模ならばもう一組か二組、いるかもしれない。
この学園にサーヴァントとマスターが……

何より人数…多いわね……

27人となれば、さすがのキャスターだけでは手に負えない。
無論、他の陣営たちの潰し合いがあるだろうし、全員を相手する訳もなく。
名前も顔も知らないまま脱落する陣営もいるはず。
それでもキャスターは不利を感じた。

なるべく手の内を多く持ちたい…同盟、とか……

しかし、キャスターには同盟や仲間といった単語が忌々しいものであった。
どれも彼女の中では良くない印象なのだから
折角仲良くなっても、仲たがいし
どれだけうまく立ち回ろうとしても、余計に足を引っ張る。
意味がない。
だから誰にも頼らなかった。

私はそんなことしたくはない。だけど…

キャスター以外はどうだろう?
人数の多さに警戒し、手に負えないと判断し、誰かと同盟を組み、勝負を挑んでくるかもしれない。
複数相手にはキャスターもさすがに……

まだ

まだよ。

まだだめよ。


決断するのは『まだ』。
『まだだめ』だ。


◆ ◆ ◆


「あっ、ほむらちゃーん!こっちこっち!!」
「乙哉先輩っ、その…席取っててくれてたんですね。ありがとうございます…!」

ほむらが乙哉の向かいに座る。
揺れるおさげに見とれながら、かわいいなぁと乙哉が耽っていると。
ほむらがあっと声を漏らす。

「先輩、食券買わないで待っててくれたんですか?」

ポンと財布だけテーブルに置いてあり、学食のメニューを購入する際発行される食券らしきものがない。
乙哉は我に返って、あははと笑う。

「うっかりしちゃってたー!あはは!マジ忘れちゃってたよー
 一緒に買いにいこーほむらちゃん♪」
「は、はい」

アサシンとの念話に夢中である意味忘れていたが
ドジを踏んだということでければ納得できる理由はないだろう。
本日のメニューを眺めながら、乙哉は言う。

「ここのカレーうどん、おいしいんだよねー!ほむらちゃんはどうする?」
「あっ、その…制服が汚れるかもしれないので……カレーうどんはちょっと…」
「そんなところ気つかってるの?かわいいー!!」
「えっ!?え、あう、その、かわいくなんかないですよ…ドジふんじゃうのが怖くてっ……」
「気使いも良さには入るってー。あ、そーだ!
 ハンカチで汚れないようにすればいいじゃん!!あたし、てんさーいっ!!」
「…あっ、そ、そうですね!」

ハタから見れば微笑ましい先輩後輩の交流である。
しかし、裏を返せば乙哉は殺人鬼。
ほむらは呪いを背負う魔法少女。
二人は聖杯戦争に参加するマスター。
一体、誰が想像できようか。

二人が再び席につく。
お揃いのカレーうどんが二つ並んでいた。
ネギが少々入っただけであとは麺だけの非常にシンプルな一品である。
いかにも学食にありそうなものなだけあって、ある意味慣れ親しんだ味だ。
好物だと言った乙哉は食事を一口含んだだけで
あとはほむらがうどんに息を吹きかけるのを眺めていた。


982 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/12(金) 10:40:51 llayk5a20
かわいい〜……
そういえばアサシンも戦ったって言ってるから魂食いするのかなぁ?
それだったらほむらちゃんを……
うーん。まだもったいないかなー…

「あっ…おいしいです」
「でしょー!気づいたらあたし、いっつも食べちゃう!」
「毎日ですかっ?」
「大丈夫!家ではバランス取ってるから〜」
「ですよねっ…ちゃんとバランス取らないと、私も体調崩しやすいので……」

ほむらがスープの方をすすると妙な悲鳴が上がる。

「ほむらちゃん?猫舌?
 あたしの水あげるよ。まだ口につけてないから」
「ああぁあぁ、あり、ありがと…」

呂律がうまく回らず、ほむらは必死に水の入ったコップを掴んだ。
その時。
チラリと令呪が見えたのである。
キャスターにも言われファンデーションで隠した令呪だが
コップを掴んだ時に水がこぼれ、かかったせいで消えたのだろう。
ほむらの一つ一つの仕草を眺めていた乙哉は容易に分かった。

その事を露知らず、ほむらは水を飲んで一息つく。

「ありがとうございます、乙哉先輩。はぁ……」
「…あ、ううん。へーきへーき。カレー臭くなっちゃうし、スープはたま〜に食べればいいよ」
「そうですね」


◆ ◆ ◆


学食を後にしたほむらは令呪を見て、慌てて化粧室でファンデーションを塗り直した。
しかし、いつ消えたのか本人は覚えていない。
もしかしたらトイレに入った時に塗るのを忘れたのかもしれないし
何かで拭きとられてしまったのかもと…
乙哉に見られたとは夢にも思わなかった。


乙哉はほむらの令呪に気づいて、それをアサシンに報告しようか戸惑っていた。
というのも、同盟の話が引っ掛かっているからだ。
ほむらと同盟を組むのは悪くないかもしれない。
自分好みだし、手は…アサシン好みではないかもしれないが
サーヴァント次第ではアサシンも同意してくれるかも
だけど、好みだからこそいっそ今の内に殺しておくのも悪くない。


思考の末、結論は――


983 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/12(金) 10:41:50 llayk5a20
【C-3/月海原学園/一日目 午後】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:月海原学園中等部の制服、通学鞄
[道具]:勉強道具、携帯電話
[所持金]:数ヶ月マンションで一人暮らしが可能な財産
[思考・状況]
基本行動方針:マスターだとバレないように過ごす。
1.学園でマスターを探してみる。
2.学園でマスターだと気付かれないようにする。
3.学園で友だちをつくる。
4.武智乙哉と学食で昼食を取る。
[備考]
令呪は掌に宿っています。
月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
武智乙哉をマスターだとは気がついていません。
校門での一件を把握しました。

【キャスター(暁美ほむら(叛逆の物語))@漫画版魔法少女まどか☆マギカ-叛逆の物語-】
[状態]:健康 霊体化
[装備]:月海原学園中等部の制服
[道具]:各種銃火器、爆弾など
[思考・状況]
基本行動方針:まどかに辿り着くためならば全てを捨て駒にする。
1.マスターをサポートする。
2.マスターが使えないならば切り捨てる。
3.学園内に複数マスターがいるのではと警戒。
4.他の敵の情報収集。
5.新たな陣地作成を行いたい。
6.同盟に関しては保留。個人的には嫌。
7.人が集中する場所を重点的に調査したい。
[備考]
Bー6廃墟ビルに陣地作成を行いました(マスターは知らない)。
学園を狙った、もしくは学園内にマスターがいると判断。


【武智乙哉@悪魔のリドル】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:月海原学園の制服、通学鞄、指ぬきグローブ
[道具]:勉強道具、ハサミ一本(いずれも通学鞄に収納)、携帯電話
[所持金]:普通の学生程度(少なくとも通学には困らない)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取って「シリアルキラー保険」を獲得する。
0.ほむらちゃんは――
1.他のマスターに怪しまれるのを避ける為、いつも通り月海原学園に通う。
2.有事の際にはアサシンと念話で連絡を取る。
3.暁美ほむらと学食で昼食を取る。
4.暁美ほむらのおさげをチョン切りたい。
5.同盟に関してどうするか帰宅するまでには答えを出す。
6.可憐な女性を切り刻みたい。
[備考]
B-6南西の小さなマンションの1階で一人暮らしをしています。ハサミ用の腰ポーチは家に置いています。
バイトと仕送りによって生計を立てています。
月海原学園への通学手段としてバスを利用しています。
暁美ほむらをマスターだと把握しました。
暁美ほむらが瞬間移動させられたことを認識しています。暁美ほむら(反逆)の仕業とは気がついていません。
トオサカトキオミ(衛宮切嗣)の刺客を把握。アサシンが交戦したことも把握。
一日目・午前中に発生した事件を把握しました。ジナコについては知りません。


【B-6(南西)/マンション(1F 武智乙哉の住居)/一日目 午前】

【アサシン(吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 、魔力消費(小)
[装備]:なし
[道具]:レジから盗んだ金の残り、タクシー代を払ったらほとんど残らない程度
[思考・状況]
基本行動方針:平穏な生活を取り戻すべく、聖杯を勝ち取る。
1.放課後マスターとの合流後に動く。具体的な方針もそこで決める。
 暫くは家の中で適当に暇を潰す。
2.同盟しているものに警戒。 同盟自体組むのは気乗りではない。
3.女性の美しい手を切り取りたい。
[備考]
魂喰い実行済み(NPC数名)です。無作為に魂喰いした為『手』は収穫していません。
保有スキル「隠蔽」の効果によって実体化中でもNPC程度の魔力しか感知されません。
瞬間移動を使う敵がいると想定しています。
B-6のスーパーのレジから少額ですが現金を抜き取りました。
醤油、卵を含む買い物を行いスーパーで配送依頼をしました。遅くとも正午過ぎには届くでしょう。
日持ちする食品を選んだようですが、中身はお任せします。
切嗣がNPCに暗示をかけ月海原学園に向かわせているのを目撃し、暗示の内容を盗み聞きました。
そのため切嗣のことをトオサカトキオミという魔術師だと思っています。
衛宮切嗣&アーチャーと交戦、干将・莫邪の外観及び投影による複数使用を視認しました。
切嗣は戦闘に参加しなかったため、ひょっとするとまだ正体秘匿スキルは切継に機能するかもしれません。
一日目・午前中に発生した事件を把握しました。


984 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/12(金) 10:44:38 llayk5a20
これで投下終了なのですが、乙哉とほむらの昼食の件残っているミスをしました…
wikiで修正します。すみませんでした
タイトルは そして、もう誰にも頼らないのか? でお願いします。


985 : 名無しさん :2014/09/12(金) 10:53:53 UllhYHNs0

あぁ^〜乙哉ちゃんとほむほむの百合っぷるがたまらないんじゃあ^〜


986 : 名無しさん :2014/09/12(金) 11:14:41 y.VSqRk2O
投下乙です。

吉良「同盟組むなら、静かで絡んでこないのがいい」
切嗣ですねわかります

鯖ほむは、肝腎なときにいないな〜。
ファンデーションが落ちた時に、乙哉が気付く前に時間止めて塗り直さなきゃ。
生前の自分がどんだけドジかは思い知ってるだろうに。


987 : ◆IbPU6nWySo :2014/09/12(金) 21:59:04 llayk5a20
私用でしばらく顔が出せないので修正が遅れます。
報告せずに申し訳ありませんでした。


988 : 名無しさん :2014/09/13(土) 17:43:58 5mbzwZHMO
投下乙です

ぶっちゃけほむほむは眼鏡外してからも元が元だから詰めが甘いのよね、もっと言えばあのマミさんの教え子らしいとも


989 : ◆holyBRftF6 :2014/09/13(土) 22:55:47 VA2GQWQU0
次スレを立てました。
このスレを使い切り次第お移り下さい。
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1410616250/


990 : 名無しさん :2014/09/14(日) 01:51:40 oYhWwm4A0
>>989
建て替え乙です


991 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:04:56 bmHigpcU0
          _____
       ///////////\             / ̄ ̄ ̄\
      //////////\/∧/ ̄ ̄`ヽ       |   は  ド  |
     //////////_r‐ T 7/ /__  ',     |  じ   l  |
  ////////>‐</| | | |i//____l   <  め  モ .|
  //////rイニニ   ヽ l | |i //ム  ̄//     .|   ま     |
. ///////{圦二ニ_ l | | |k |_忍>イ}ヽ  __    |  し    |
////////\_\ニニノih  \ \///// l//>、 |   て     |
///////l ヾ 三彡"ノ八\  \_二彡 ∠/// \____/
///////! \二 へ≦_|_l_\\二彡_ヽ/  \//
//////∧  〃 / =  ==  ̄ ̄ ̄\\ \ >'/_
///////|\{l  |==  ==   == = | |  /´ /ll ヽヽ
:///// r<_ {l  |==  ==   == = | |ー'ヽ_/〃 / |
//////\|ヾ ̄T ̄ ̄ハ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    \/ /
////      |   / ∧             ̄


992 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:06:28 bmHigpcU0
                   __
   .ハ                /ニニニニム
  ./: :∧              l/ニニニニニl
 /: : : : :\       -──.....|ト.ミ三才:|つ::ヽ      / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
./: : : : : : : : :>ー匕:_:_:_:_:彡 rく|ニ忍|殺圦)㍉:ノ    < スレッドスレイヤーです  |
V: : : : >≦>ー ´ ____r:.圦: :`二ニニ才:./Yー - 、   \__________/
 ー ´        く   八: : : : : : :/Y才: :/{    }
          /辷=ー: :圦: ー=ニ: | :|: :./:.乂___人
         .八: / :/: 人:.\:ヽl寸YV: : : : : :V: : : : :ヽ
          Y:/:../: /: : ム彡く:!: Y/ Vx:_:_:_:_}_\:_:_:.ハ
          `寸二ニニ寸イ寸: : |  |二二二二二ニ=ーく
           〈ニニニニ.ハ 辷Y:寸Y二二二二二二二二ニl
            寸ニニ| 人辷7: :人ー--=ニ二二二二二二|
               |:八____7: /: : : : :/}   ー=ニ二二7
              V: : //: : : : :イ: ノ       ` ̄´
               〉ー───┬─匕l
              / `{ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄圦
             .∧: : V: : : : |:.::Y:.|: : : : ム
             ムハ: : V: : : |: : }: |: :..}: : ム
             〈: :.:\: : V: :..!:.::ム八:/:.:/:ハ
            八: :\:\ V: :|::/:/:.:/: :/: : 人
           ム;ハ寸:\:\:..|/:/: /: :/: : /:.ハ
           ム: |: : V\: :寸小':/:/: : : : : : ::.
          小八: 小: : \:.:YY彡' /: :./: : : : |
          l: : :Vム: : :\: :.::.| |:才: : :/: : : : :.ム
          |V: : V:.\: :..\:.| |/: :/: : : : : : :/::|
          |:.\: :V: : \:.小| .V/: : : : : : :.:./: :.|
          |: : : :寸: : : : ∨:.| {' : : : : : : /: :ハ|
          .八: : : : \: : : :V:| |: : : : : : : : : ノ:.ノ
         (: : : ⌒:_:_:_: : : : : :|.八_:_:_:彡´ ̄`)'
          \: :/´  `ヽ: : :.|  | 寸_____/
            `l ',    ∧: /  .|  /   /
            八 ',   /..∧   .V {  ./
             |\___/_:/.ハ    Y|  {


              -=ニ 殺戮者のエントリーだ!! ニ=-


993 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:06:48 bmHigpcU0
 _______
.(OZZZZZZZZZZZ)
 |/| ̄ ̄ ̄ ̄.|/|
 |/| お ア  |/|
 |/| ろ イ  .!/!
 |/| そ サ. │.!
 |/| か ツ...│:!
 |/| に .は.. |/|
 |/| で 決  !/!
 |/| き .し  |/|
 |/| な て.. |/|
 |/| い    .|/|
 |/|        .|/|
 |/|____.|/|
 |///////////:|
 |///////////:|
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 _______
.(OZZZZZZZZZZZ)
 |/| ̄ ̄ ̄ ̄.|/|
 |/| 礼 ニ. |/|
 |/| 儀 ン  !/!
 |/| だ ジ  |/|
 |/|    ャ  |/|
 |/|     の. |/|
 |/|____.|/|
 |///////////:|
 |///////////:|
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 _______
.(OZZZZZZZZZZZ)
 |/| ̄ ̄ ̄ ̄.|/|
 |/| そ 古. |/|
 |/| う. 事  !/!
 |/| 書 記 ...!/!
 |/| か に .|/|
 |/| れ も  |/|
 |/| て     !/!
 |/| い    .|/|
 |/| る     !/!
 |/|        .|/|
 |/|____.|/|
 |///////////:|
 |///////////:|
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 _______
.(OZZZZZZZZZZZ)
 |/| ̄ ̄ ̄ ̄.|/|
 |/| ジ ニ  |/|
 |/|  ュ .ン  |/|
 |/| │ ジ  !/!
 |/|  ・  ャ .|/|
 |/| ジ .ス .|/|
 |/| ツ .レ .|/|
 |/| の イ  |/|
 |/| 構 ヤ .!/!
 |/| え │  !/!
 |/| を は  !/!
 |/| と    |/|
 |/| っ     |/|
 |/| た    .|/|
 |/|        .|/|
 |/|____.|/|
 |///////////:|
 |///////////:|
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


994 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:07:33 bmHigpcU0
           r┐
    /7 /!◇‐′       /{   ┌ 、    イ    /7  _       /  ̄ >          Λ
  }⌒ ー' ーァ‐         / ノ    }__厂 //ー--'∠ __ }  ̄  ┐  ー-−′           / 〉
  {      (  r 、,、   /   `ー-_、   / /|      /´ ー‐┐ / } ̄ ̄ ̄{ r――-―ァ/ /
  7厂7/⌒  | /{ノ/{∠/ー ァ-'′  / /  ̄ 7/ ̄     / /  ー‐ ァ / ∟ -ー ´ //
  j/ //    ` //    //   / /   ‐、 //     } ̄  /  _//         , 、
   V/       /       ∨/     ヽ/     \/       ー‐ ´   \/             ∨
    ´                ´
    、_   _                  jユ          ┌‐-  _               Λ
    |   ̄ {         /⌒ ,   r 、◇rー 、____    j____ノ⌒            / 〉
   ーァ  /  , 、  、   {   /   / /  }     {  ┌-- ――┐ _____   / /
   / <   { | / 〉/{  }_ノ  //    ̄ 7 /  }   _  ノ {     _{⌒ / /
  / イ  \   ー' `// 、_  //    ┌― ' /     ̄ //  ⌒ ̄ ̄    //
∨/ ー‐ ^′   //   ヽV/      j  __ノ    \//           厂!
              ′       ´       ̄           ̄                 ` ′


             -=ニ クローン・ナナシサンたちがヤクザスラングを叩きつけながら ニ=-

         -=ニ それぞれゴフェルの丸太めいた武器を手にスレッドスレイヤーに飛び掛る! ニ=-

                       -=ニ カチコミ! コワイ!! ニ=-


995 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:08:12 bmHigpcU0
             イ                                          ∧
            /|                                          /  〉∧
          //    _                                    /  //  〉
   /[_//    _]〔___                                 /  //  /
    |/ ̄〉|       ̄]〔 ̄ ̄〕/                               | ///  /
      ||       〉|  /  __                 卜           〉/ | //
      ||         ||     `¨ 冖──z___     |/卜       ∠/  〉/
      |/       └|               ̄ ̄ ̄     |/ /|      ∠/
               亅                           //   厂|
                                          /     |/ 厂|
                                                   |/




                  ┏┳┓
┏━━━┓  ┏┓┏┫┃┃                   ┏┓
┗━┳┓┃  ┃┃┃┣┻┛                   ┃┃
    ┃┃┃  ┃┃┃┃              ┏┳┳┓ ┃┃
  ┏┛┏┛┏┛┃┃┗┓┏━━━━┓┗┻┫┃ ┗┛
  ┗━┛  ┗━┛┗━┛┗━━━━┛  ┗━┛ ┏┓
                               ┗┛


 -=ニ スレッドスレイヤーの目にも留まらぬレスがクローン・ナナシ=サンの丹田にあるノーカケガエ・スレッドを埋める! ニ=-

                        -=ニ あわれレス数はマイナス椀! ニ=-


996 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:08:40 bmHigpcU0
             イ
            /|
          //
   /[_//
    |/ ̄〉|       _
      ||    _]〔___
      ||     ̄]〔 ̄ ̄〕/
      |/        〉|  /
                ||
                └|
                  亅      |
                    |
                      И
                        |
                        ||
                          |             ∧
                      И             /  〉∧
                        |             /  //  〉
                        |         /  //  /
                               |///  /
                     卜            〉/ | //
                       |/卜        ∠/  〉/
                         |/ / |       ∠/
                           //   厂|
                         /     |/ 厂|
                                |/

┏┓  ┏┳┓
┃┗━┫┃┃
┃┏┓┣┻┛                   ┏┓
┗┛┃┃┏━━┓               ┃┃
    ┃┃┃┏┓┃            ┏┳┳┓ ┃┃
    ┗┛┗┛┃┃┏━━━━┓┗┻┫┃ ┗┛
          ┏┛┃┗━━━━┛  ┗━┛ ┏┓
          ┗━┛               ┗┛


 -=ニ スレッドスレイヤーの目にも留まらぬレスがクローン・ナナシ=サンの丹田にあるノーカケガエ・スレッドを埋める! ニ=-

                        -=ニ あわれレス数はマイナス椀! ニ=-


997 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:09:37 bmHigpcU0
           <\
 〈 ̄ ̄ ̄\_<> ̄
  \  / ̄| \
     ̄    | /
          | |
 < ̄ ̄ ̄ ̄  {
    ̄ ̄ ̄ ̄二´
      、-、\ 〉
       | 〔 ̄〕´〕
       ー´ //
   /ー- __ /
   \_,──`
  /ー───‐、
  \/ ̄〕 /´
     // _
    ` ´ <_/ ,-、
        _//
     _ \_/
     /  〕 へ◇
  _〕   |_´
   ̄〕 ,-‐,  > _
    / /  | / / __>
   ∟'  〔/ / /
       ,-、ー'
       `′



                        -=ニ なんとマッポーめいた光景であろうか!ニ=-

   -=ニ スレッドスレイヤーの書き込みによって瞬く間にスレッド=サンの命はトモシビ・オブ・フロント・バイ・センプウキ!!ニ=-


998 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:10:50 bmHigpcU0
                    _ - ― ''          \
                _ /                  \
         _ ―  ̄                        \
        ――――――――" ̄ ̄ ̄ ̄`   、           \
                 , - 、           `  ‐ 、ヽ       〉
                //   ヽ             /  ヽ    /
               l l/_、゙.l   ,     _ -‐"       ;   /
               l,lk.ァ-:zl ,l/ ''/>=ニ二        / /
               ,l、,イトーl/// 二─ 、       / -''
              /l、'≦ニ'// ̄   ̄、 \ _ ヽ―"
             / ' lヽ二 - ´/   ' / l ̄  \
             l l//ヽ/// / 、  ヽ l / ̄ ヽ  ゙,
             、ヽ','///      `7,=、、/     l/
       ,,、-、-、-、-、ェ'l゙ /      /,/ l }-、、    /
      〈、// 、, 、、 _/-'、       ,-'- '  ィヽヽ /
         ヽ////〉、 /      _ ヽ_、_ 'ー'lヽ/
          ヽニ//、l´ー、-、 ‐ ニ ‐   ヽ  ヽ ',l
           _ -‐ 'l/ー'ヽ'    、  ゙ヘ  ヽ-'
       _  -―- 、ヽ  l'_ -‐    l  \
     /      _\ヽ', l ィ-   /l   \
  /   _ 、 ̄ ― _ 、/   ´ ' \ _',ヘ
 ,l     ヽ/\\三ニ\ \   l      \\
 .l、   ,-、ヽ  ー _ニニ 、\\l l l /  `‐- \
 ヽ \\     _ -‐      ` ヽ  l/ l       ヽ
  \_ヽ 〉  〈             \ ':; ヽ/'l _ -‐- 、\ヘ
     ヘ     l              \ ' l/    ヽ ヽ
      ',   l                \   / ̄  ` ヽ

    -=ニ 倒れ伏す数々のレス、乱雑に積み上げられた夥しい数のスマキ ニ=-

               -=ニ その向こうに、やつは居た ニ=-

     -=ニ スレッドスレイヤーはジュー・ジツの構えを取り、奴に肉薄する ニ=-

             -=ニ 最後に残ったその敵こそが――― ニ=-


999 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:11:18 bmHigpcU0
                       __
                      ´: . : .\   _
                        / /⌒ヽ: .| /: . : \
          f 「{ r、         {: ./     ': .|/ /⌒\: ヽ
.            | | J│      ∨>―<:∨:/─-   : . }
.         (\} ゙   し´}ト----、/: . : . : . : . : . ⌒丶\|: /
         ヽ   /   八  〃: . : . : . : . : . : . : . : . :\|∧  --、___
               /  \/: . : . : . / . : . : . | : . : . : . : . :∨      ノ
          ゙、  ∧__//イ : . :、/|: ,'|: . : .∧ : . : . : . : Ⅵ ̄  ___/
           〔∨ / ∨__| : . : .∧|/│: . :| ¬、: . : . : . 〈゙ー< . : |
           〕     ∨| : . |/___八 : 八__ヽ: . : . : . :∨    : |
             {/    〈|小: | _,刈 ∨  _,刈`∨: . : . | |   〉 |    うちなーん
.            ∨      マ| :小 Vソ    Vソ ノ: . /: ∧|\_,/ : |
              ∨      '|: .:|⊂⊃ ′   ⊂⊃厶イi∨  V/ : . : |
            ∨     | 从    △       /: ./ノ    V/ : . |
              ∨   |: .:个        イ/: ./´      V : . |
              ∧   人: .:|/ ≫r‐=≦ {{/: ./ニ=-  _   | : . :|
               /: . \   ∧:| /ィ|    /レV__  _ァ=-_ | : . :|
            i : . : .∧  /じ/  l乂__,,/ /, 入//⌒Yハ | : . :|
            | : . :/ ヽ// /  |`'一ァ  // /  マニニ川 | : . :|
            | : .│   | /    V^∨  |_じ|    | __]|| | : . :|
            | : .│  r勺    {___,〕   |  |   |___」| | : . :|
            | : .│  |¨7     |┛│  |  | ,/ |   |||| | : . :|


1000 : 名無しさん :2014/09/14(日) 08:12:30 bmHigpcU0
                    スレッドスレイヤー

              イズ・ザ・ラストエネミー・ノン・ノン・ノン?

                         +

                第二次二次キャラ聖杯戦争スレッド


                                         〈 ̄ヽ
                                   ,、____|  |____,、
                                  〈  _________ ヽ,
                                   | |             | |
                                   ヽ'  〈^ー―――^ 〉   |/
                                      ,、二二二二二_、
                                     〈__  _  __〉
                                        |  |  |  |
                                       / /  |  |    |\
                                   ___/ /  |  |___| ヽ
                                   \__/   ヽ_____)


■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■