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バーチャルリアリティバトルロワイヤル
1名無しさん:2013/01/08(火) 23:51:04 ID:RmBCqRjA0
ここは仮想空間を舞台した各種メディア作品キャラが共演する
バトルロワイアルのリレーSS企画スレッドです。

この企画は性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
苦手な人は注意してください。


したらば避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15830/

まとめwiki
ttp://

前スレ(企画スレ)
バーチャルワールドバトルロワイヤル(仮) - 新パロロワテスト板
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13744/1353421131/l50

2名無しさん:2013/01/08(火) 23:52:00 ID:RmBCqRjA0
■暫定名簿

7/7【Fate/EXTRA】
 ○岸波白野/○ありす/○遠坂凛/○間桐慎二/○ダン・ブラックモア/○ラニ=VIII/○ランルーくん
6/6【ソードアート・オンライン】
 ○キリト/○アスナ/○ヒースクリフ/○リーファ/○クライン/○ユイ
4/4【.hack//】
 ○カイト/○ブラックローズ/○ミア/○スケィス
6/6【.hack//G.U.】
 ○ハセヲ/○蒼炎のカイト/○エンデュランス/○オーヴァン/○志乃/○揺光
6/6【アクセル・ワールド】
 ○シルバー・クロウ/○ブラック・ロータス/○ダスク・テイカー/○クリムゾン・キングボルト/○スカーレット・レイン/○アッシュ・ローラー
6/6【ロックマンエグゼ3】
 ○ロックマン/○フォルテ/○ロール/○ブルース/○フレイムマン/○ガッツマン
4/4【マトリックスシリーズ】
 ○ネオ/○エージェント・スミス/○モーフィアス/○トリニティ
6/6【パワプロクンポケット12】
 ○主人公/○ミーナ/○レン/○ウズキ/○ピンク/○カオル


 投票枠45人+書き手枠10人が参加者である。
 なお、1作品の参加者上限は7人までとする。

3名無しさん:2013/01/08(火) 23:53:03 ID:RmBCqRjA0
当企画ではこれからOP及び地図の投票を行います

<

4名無しさん:2013/01/10(木) 01:09:24 ID:oSTfZWdE0
OP及び地図の投票に関して

<日時>1/11(金)0:00〜23:59分
<場所>このスレ
<候補作品>
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/15830/1356709263/
OPは上記のスレに投下された作品

【OP案1】プログラム起動 ◆nOp6QQ0GG6氏
【OP案2】Tutorial ◆NZZhM9gmig氏 

【地図案1】ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0184.jpg
【地図案2】ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0176.gif

<投票例>
【OP案1】
【地図案1】

という具合で

5名無しさん:2013/01/10(木) 14:23:20 ID:.T1ZlhuE0
おお、やっとこの類いのロワが来たか
実を言うと俺もこういう作品同士でロワ出来るんじゃないかと妄想を膨らませてたんだよなー
頑張ってくれよ!

6名無しさん:2013/01/10(木) 18:44:17 ID:lfLmhyngO
こんな作品達に混ざれるとは『ジャンル:パワポケ』は流石というかw

期待です

7名無しさん:2013/01/10(木) 22:53:48 ID:W77WtrZM0
期待ついでに二つ質問
一部のキャラはメディアミックスとかで設定変わってたり新設定ついてたりするが、使うのは原作設定だけってことでいいのか?


.hack//登場メンバー(ゲーム「プロジェクトクロスゾーン」が原作終了から地続きの話であると明言)
ハセヲ(OVA版で新フォーム登場・Xthフォームがアトリの協力で使用可能になる)
ブルース(漫画版でセレナードからムラマサを受け取り、ムラマサスタイルを習得)

あと、参戦作品には出てるけどロクに喋らず、キャラ掴むには別作品見なきゃいけないキャラで書き手枠使いたいって場合はどうなるんだ?
具体的には.hack//SIGNと.hack//Rootsのキャラ(どちらも原作ゲームクリア後に仲間になる)なんだが

8名無しさん:2013/01/10(木) 23:23:03 ID:oSTfZWdE0
投票時に.hack/rootsはG.U.と同作品扱いだったからrootsキャラはありかな、話もゲームと地続きだし、既に志乃居ますし
SIGNは別作品扱いだったからアウト
あとマトリックスがシリーズ参戦だからアニメ版やゲーム版のキャラもアリか

メディアミックスでの新設定とかは面倒だから基本はなしが良さそう
原作と矛盾しなければ展開次第で盛り込むってのは有りかもしれないけど
PXZは……カイトがロックマンを知っててもおかしくなくなるのか? まあ時期によるけど……

9名無しさん:2013/01/11(金) 02:03:36 ID:wUALa4a20
ところで投票ってもう始まってるの?

10名無しさん:2013/01/11(金) 02:08:21 ID:Wlgg5TLY0
始まってるね

11名無しさん:2013/01/11(金) 15:33:07 ID:HCiLuA9I0
投票

【OP案1】
【地図案1】

12名無しさん:2013/01/11(金) 17:16:10 ID:Eeyagd9M0
>>8
おk、把握した
じゃあ投票

【OP案2】
【地図案1】

13名無しさん:2013/01/11(金) 17:35:42 ID:N.nPCMhM0
【OP案1】
【地図案2】

14名無しさん:2013/01/11(金) 18:55:22 ID:Hd.hRakw0
【OP案1】
【地図案2】

15名無しさん:2013/01/11(金) 19:47:23 ID:C9OesafA0
【OP案1】
【地図案2】

16名無しさん:2013/01/11(金) 20:05:45 ID:Zs2EnvjM0
【OP案1】
【地図案1

17名無しさん:2013/01/11(金) 21:00:55 ID:qZIL0g/w0
【OP案1】
【地図案2】

18名無しさん:2013/01/11(金) 21:22:46 ID:QnK7eMyk0
【OP案1】
【地図案1】

19名無しさん:2013/01/11(金) 22:06:54 ID:hPhwi4m20
【OP案1】
【地図案1】

20名無しさん:2013/01/11(金) 22:14:52 ID:wMSKZ6Q60
【OP案1】
【地図案2】

21名無しさん:2013/01/11(金) 22:46:19 ID:8EvFBwHc0
【OP案1】
【地図案1】

22名無しさん:2013/01/11(金) 23:47:22 ID:VLpexr/QO
【OP案1】
【地図案2】

23名無しさん:2013/01/12(土) 00:06:27 ID:O85/EXzA0
OP案1 11票
OP案2 1票

地図案1 6票
地図案2 6票

かな?
OPは決定として地図はどうしようか

24名無しさん:2013/01/12(土) 00:29:13 ID:SMTuJ73s0
元々候補二つで決選投票というのも何だから
安価で決めちゃう?

25名無しさん:2013/01/12(土) 00:30:31 ID:a1UariuM0
>>24
じゃあ下>>26-30で多数決とか
同一IDは無しで

26名無しさん:2013/01/12(土) 00:31:56 ID:eV.Onp9w0
地図案1

27名無しさん:2013/01/12(土) 00:36:14 ID:DFqfH2mk0
地図案1

28名無しさん:2013/01/12(土) 00:36:38 ID:d9xkLhHUO
【地図案2】

29名無しさん:2013/01/12(土) 00:38:25 ID:a1UariuM0
地図案2

30名無しさん:2013/01/12(土) 01:00:26 ID:XvRC7Y6k0
地図案1

31名無しさん:2013/01/12(土) 01:16:40 ID:WM77a2pc0
地図案1で決定だな
正直言ってまた並んだ時はどうしようかと思ったわwwww

32名無しさん:2013/01/12(土) 01:23:45 ID:a1UariuM0
投票乙でしたー

33名無しさん:2013/01/12(土) 01:24:34 ID:SMTuJ73s0
OP案1、地図案1で決定と
ルール試案を

<ロワの基本ルール>
・最後の一人になるまで参加者は殺し合い、最後に残った者を優勝とする。
・優勝者には【元の場への帰還】【ログアウト】【あらゆるネットワークを掌握する権利】が与えられる。
・仮想現実内の五感は基本的に全て再現する。
・参加者はみなウイルスに感染しており、通常24時間で発動し死亡する。誰か一人殺すごとにウイルスの進行が止まり、発動までの猶予が6時間伸びる。
・参加者は【ステータス】【装備】【アイテム】【設定】で構成されたメニューを表示できる。また時刻も閲覧可。
・死亡表記は【キャラ名@作品名 Delete】

<支給品について>
・「水」「食糧」などは支給されない。
・参加者には地図とルールの記されたテキストデータが配布されている他、ランダム支給品が3個まで与えられる。
・アイテム欄の道具は【使う】のコマンドを使うことで発動。外の物をアイテム欄に入れるには、物を手に持った状態で【拾う】のコマンドを使う必要がある。
・死んだ者の所持アイテムは実体化して、その場に散らばる。また死体は残らず消滅する。

<武器防具の装備の扱い>
・自分のジョブ以外のものも手に持つことは可能。
 ただし扱いに関しては全くの素人状態(杖なら魔法は使えない)
・防具の場合は触れることはできても着ることはできない(指定ジョブ以外の防具は防具として役に立たない)
・レベル、習得スキルの扱い→アバウトでいい。
・ゲームを越えての装備品も似た武器ならば自分のジョブに近い形で運用できる。
・武器防具のパッシブスキルは他ゲームのものでも発動する。

<禁止エリア>
・現時点では不明。今後追加される可能性はある。

<作中での時間表記>(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

<各作品に関するルール・制限>
Fate/EXTRA
・マスターは基本的にサーヴァントを伴って参戦。
・主人公(岸波白野)の性別とサーヴァントは書き手任せ。
・サーヴァントは現界させ続けるのにも微量な魔力が必要。戦闘や宝具は更に多く消費する。

.hackシリーズ
・八相はプロテクトブレイクするとHP∞は解除)
・憑神は一般PCにも見え、プロテクトブレイクされると強制的に一般空間へ。
・パロディモードからの参戦はなし。

アクセルワールド
・参加キャラたちは最初からデュエルアバターだが、任意でローカルネットのアバターも取れる。
・必殺技、飛行、略奪スキルは要ゲージであとは特に制限なし。

パワプロクンポケット12
・主人公の名前は書き手に任せ。

ロックマンエグゼ
・バトルチップは他作品キャラも使用可、チップ単位て支給。
・一度使ったチップは一定時間使用不可。
・フォルテの「ゲットアビリティプログラム」は深刻なダメージを与えなければ発動しない

マトリックスシリーズ
・スミスの分身能力は、心身に深刻なダメージを与えないと発動しない。
・ネオの身体能力(飛行、治療、第六感的な知覚)はある程度制限。

34名無しさん:2013/01/12(土) 01:27:35 ID:bQcQ1s.I0
あと予約か
3日+延長2日でいいのかな?

35名無しさん:2013/01/12(土) 01:48:19 ID:e8OjqHpEO
Fate/EXTRAのサーヴァントに関してはここで詳しく決めるか、書き手任せにするか、どうしようか。
実体化にマスターの魔力を消費するのは当然としても、本編だとサーヴァントのHP・MPと、マスターのMPは別扱いだったし、
サーヴァントの装備はそのままなのか、それとも没収して別途支給で装備する必要があるのかとか、気になる点が少々。

36名無しさん:2013/01/12(土) 03:07:34 ID:td3n/9ZI0
>>35
緑茶から弓取り上げたら、弓の撃てないアーチャーという誰得サーヴァントが出来上がる
他キャラとくらべてEXTRAのマスターは戦闘能力ほぼないし(支援向きの能力備えているけど)、鯖は装備そのままでいいでしょう
実体化させるだけで魔力食うのも他キャラとの掛け合いや会話がしずらくなってイヤなので、戦闘すればMP消費でいいのでは?

37名無しさん:2013/01/12(土) 03:31:12 ID:bQcQ1s.I0
緑茶は数少ない弓を使うアーチャーだからなw
確かに鯖実体化はMP無消費でいいかもね、原作でもずっと出してた訳じゃないし
マスターがやられたら鯖も即死亡(逆はセーフ)ってことにすればマスターがメインって形は維持できるだろうし

38名無しさん:2013/01/12(土) 03:35:39 ID:xkygs0jw0
だがアーチャーには単独行動スキルがあるんだぜ

39名無しさん:2013/01/12(土) 12:23:03 ID:/xgVaLa.0
ネトゲ系は支給品の他に初期装備は付けてる状態でスタートかな
まぁ誤魔化しが聞きそうだけど

40名無しさん:2013/01/12(土) 12:51:20 ID:SMTuJ73s0
あとSAOはまだ文庫化されてないweb版からの参戦なし、て明記した方がいいか

41名無しさん:2013/01/12(土) 13:17:45 ID:e8OjqHpEO
>>39
どの時点での初期装備かな?
ゲーム開始時点か、仲間になった時点か。
作品によっては装備品の名称が不明なものもあるけど。

42名無しさん:2013/01/12(土) 13:22:27 ID:J5iCcZvw0
いや最弱装備って意味で
ゲームによっては無装備状態が不可能ってのもあるから
まあ無視してもいい要素かもしれないけど

43名無しさん:2013/01/12(土) 16:42:15 ID:tSzQLhb20
他話すことある?
なかったら予約のスタートはいつから?

44名無しさん:2013/01/12(土) 17:16:01 ID:SMTuJ73s0
Fate/EXTRA
・マスターは基本的にサーヴァントを伴って参戦。
・マスターが死ねば、サーヴァントも同時に脱落する。
・サーヴァントの宝具、武装は没収されない。
・主人公(岸波白野)の性別とサーヴァントは登場話書き手任せ。
・サーヴァントは戦闘する際に、マスター側の魔力も消費する。

ソードアートオンライン
・まだ文庫化されていないweb版からのキャラ、アイテムの参加は不可。

でいいのかな?
予約開始は今日の日付変わったら、というのはちょっと急だし
日曜の夜あたりで良さそう
予約はしたらばにスレ立ててそっちでやるとして
3日+延長2日でいいのかな

45名無しさん:2013/01/12(土) 17:45:59 ID:4N8Vcf2g0
SAOは作品内でSAOとかGGOとかゲームの種類が色々出てるみたいだけど、全部一緒くたにしていいものなの?
たしかSAOの次のゲームは空飛べたり魔法使えたりでかなりシステム違ったと思うんだが

46名無しさん:2013/01/12(土) 17:49:15 ID:tSzQLhb20
インフィニティモーメントでなぜかSAOにリーファがいるし
まっ、多少はね?

47名無しさん:2013/01/12(土) 18:09:36 ID:J5iCcZvw0
まぁ基本は別ゲーム扱いじゃないか

48名無しさん:2013/01/12(土) 18:31:23 ID:WM77a2pc0
>>44
個人的には5日+延長2日でやっていきたい

49名無しさん:2013/01/12(土) 18:45:15 ID:g1K2REEQO
結局は参戦時期任せか?

50名無しさん:2013/01/12(土) 23:12:48 ID:CqyiZK8E0
まあそんなに急ぐことないし予約は5+2てのもありか

51名無しさん:2013/01/12(土) 23:50:03 ID:ZWE8FA2.0
状態票をメニューに合わせて
【キャラ名@作品名】
[ステータス]:
[装備]:
[アイテム]:
[思考・状況]
基本行動方針:
1:

みたいな形にしてみるとか

52名無しさん:2013/01/13(日) 00:20:38 ID:xCxEMtDQ0
忙しい時期ですし予約は5日+延長2日で行きますか
解禁は14日00:00からで
予約に関することだと、あとは書き手枠は一回の投下で一キャラまでしか使えないことにしておくくらいかな

53名無しさん:2013/01/13(日) 11:57:14 ID:wK8KCy0g0
いよいよ今日の夜からスタートか

54名無しさん:2013/01/13(日) 13:38:10 ID:u7nsohrk0
あとなんか決めることあったっけ?

55 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/13(日) 16:44:47 ID:xCxEMtDQ0
OP採用ありがとうございます
もうすぐ開始なのでこちらに改めてOPを投下します

56プログラム起動 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/13(日) 16:46:29 ID:xCxEMtDQ0
***ROYALE-system Ver2.0***

set up........

dimension chr.# (12)
{Matrix}
{the Wolrd}
{the World R:2}
{Brain Burst}
{SE.RA.PH}
{Dream Baseball}
{Swrod Art Online}
{ALfheim Online}
and....
:
:
loading......

#1,2:
atttribute=BATLLE ROYALE


succeed
:
:
:
:
:
:
私、速水晶良がふと目を覚ました時、そこには白しかなかった。
白。
前も、後ろも、全方位どこを見渡してもただ白い空間があるだけで、解放感もなければ閉塞感もない。
まるで何も設定されていない世界に私の身体を放り込んだかのようで……

57名無しさん:2013/01/13(日) 16:47:30 ID:xCxEMtDQ0
「ブ、ブラックローズ……」
私はその身体の名前を口にした。
それは私の持つもう一つの名前。
ネットゲーム「the Wolrd」において、弟が勝手に作ってしまったPCであり、そしてカイトと共に激戦を繰り広げたPCだ。
精巧なポリゴンで形作られた身体に触れ、それが確かに自分であることを認識する。

「どういうことよ、もう」
悪態を吐きながら、私は「床」と思われる場所に足を付けた。何も見えはしなかったが足を付けることはできるようだ。
ここは……the Worldの中?
周りを見渡しても、手がかりになりそうなものはおろか、他の存在すら見えそうにもなかった。

「ここって……」
何も見えなかったが、私はここに見覚えがあった。
何のグラフィックも設定されていない真っさらな空間。
前にリョースに――システム管理者によってカイトと共に捕えられた場所に、良く似ている。
ということはここはやはりthe Worldの中なのだろうか?

「あれ?」
ふとそこで、とある疑問が私の胸に生じた。
「ここ」がthe worldの中であるのなら――
「私」は一体どこに居るというのだ。
ディスプレイの前……に私は今居ない。
存在する筈のリアルの自分を動かそうとしても、それがどこにあるのか見当も付かなかった。

「えーと。ここは一体……」
愕然としていると、不意に声が聞こえた。
何もなかった筈の場所に、一人の男が現れていたのだ。野球帽を被った男であり、自分と同じく生身の人間ではなくゲーム上のアバターのようだった。
だが、その姿は自分のものとはかけ離れている。
可能な限り現実の質感を再現したブラックローズの身体とは異なり、デフォルメされ頭身の下がったそのキャラクターはよりゲームらしいといえる。
勿論the Wolrdにこんなキャラは存在しない。

「あの」
私はその男に声を掛けてみた。
が、彼には全く聞こえていないようで、私の方を見向きもせずおろおろとしている。

唐突に爆音が響いた。
耳をつんざくような音がして、私は思わず耳をふさいだ。

「しぶといな」
音のした方向を見ると、ボロボロのローブを纏った奇妙なPCが居た。
黒と黄を基調にしたボディを持ち、鋭く尖った耳のような突起が特徴的だ。
爆音の元凶はどうやらそいつのようで、その手から硝煙を立ち上らせている。

「全く、周りのことも少しは省みてくれ。私まで被害を受けそうになった
 君の攻撃力は中々のものだが、この空間はそんなことでは抜け出せそうにないぞ」
そのロボットようなPCの近くに、もう一人別の者がいた。
綺麗なPCだった。黒いドレスを纏った美少女に、漆黒の蝶の羽が生えている。
その言葉に対し、ロボットの方は彼女に目もくれず「ふん」と苛立たしげに唸っただけだ。
彼女の声が聞こえていないのか、はたまたただ無視しているだけなのかは私には判別できなかった。

「おいおい、何だ? もう始めているのかい?」
また新たな声がした。
振り返ると、そこには見たこともない制服に身を包んだ男子生徒がいた。
彼は「馬鹿だね」と言って、やれやれという風に手を上げた。
周りを見下した、神経を逆なでるような口調に私は反感を覚える。
何よ、コイツ。ワカメみたいな髪をして。

「せっかちなことだ。ま、それで聖杯戦争のライバルが減るなら、こっちとしてはありがたいけどね」
私の反感をよそに、彼はぺらぺらと喋り出す。
聖杯戦争? 見慣れぬ言葉を彼は口にした。
自信満々に語る彼は、何かこの状況を知っているのだろうか。

58プログラム起動 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/13(日) 16:48:24 ID:xCxEMtDQ0
と、そこまで来てまた新たな存在が現れた。
これまでとは全く異質な登場の仕方だった。
真っ白な空間にノイズが走り、歪んだ空間から、その男は私たちの遥か上に見下ろすようにして現れた。

それは一見して侍のような恰好をしていた。
和服を着ていて、ちょんまげのように結ってある長髪。
だが、ただそれだけのPCでないことは明らかだ。
そのPCは黒い何かに浸食され、ポリゴンの形が崩れてしまっているのだ。

「諸君、これから私がルールを説明しよう」
私たちを見下ろし尊大な口調でその男は言った。

「ふむ、流石にこれだけの人数を一斉に起動させることはサーバー負荷が強かったようだな。
 スムーズに同期が取れていない者も居るようだが、まあいい。私の姿と声は聞こえるだろう?」
と、そこで私はその場に人が更に増えているのに気付いた。
それもかなり多い。多種多様な格好をした人間たちが白い空間に現れていた。
彼は急に現れたのではないのだろう。男の言葉によれば「同期が取れていなかった」だけで、最初からそこに居たのだ。
そのこと自体はそこまで驚くべきことではないのかもしれない。が、私はその統一感のなさに面食らっていた。
私と同じくファンタジー小説から抜け出してきたかのような者、ロボットのようなメタリックな姿の者、かなりデフォルメされた者、不気味な黒コートの者などなど。
全く違うジャンルのネットゲームからアバターをひっこぬいてきたみたい……、そんな印象を抱いた。

「私の名は榊。このVRバトルロワイアルの進行役を務めさせてもらう。
 今、諸君らには既に基本のルールが記されたテキストデータが配布されている。先ずはメニューウインドウを展開し、アイテム欄からそれを開いて貰いたい
 取り出し方は分かるかね? アイテム欄に触れると【使う】のコマンドが出るからそれを押して貰いたい。また外にあるものをアイテム欄に入れる場合には【拾う】のコマンドを推す必要がある」
そいつ――榊と名乗った男の言う通り私はメニューを開こうとする。
と、すぐに目の前にウインドウが開かれた。勿論ボタンなんて押していない。ただ「開く」と思っただけで開いたのだ。
そのことに戸惑いつつ、開かれたメニューを見るとそれは見慣れたthe Worldのもの――ではなく、無機質なグレーカラーのメニューだった。

【ステータス】
【装備】
【アイテム】
【設定】
 
その四つで構成されたシンプルなメニューだった。その上には小さな文字で時刻0:00:00と記されている。
慣れないメニューに困惑しつつも、【アイテム】の文字に触れ、展開されたアイテム欄の中から「rule.txt」を見つけて選んでみた。
そして、私を更なる衝撃が襲った。

『VRバトルロワイアル
 ・これから貴方たちには殺し合いをしてもらいます。
 ・生き残った一人のみが優勝となります。』

出てきたテキストの冒頭がこれだった。
その文面に私は「なっ……」と思わず声を漏らす。

「フハハ! 驚きかね。そう、諸君らにはこれから殺し合いをしてもらう。
 会場内で参加者PCを全てkillすることが優勝条件だ」
榊の不快な声が響く。

「詳しいことはそのテキストに書かれているので省くが、先ず覚えて貰わえねばならないことを説明しよう。
 一つはこのVRバトルロワイアルの優勝者へ贈られる賞品だ。
【元の場への帰還】と【ログアウト】そして【あらゆるネットワークを掌握する権利】これが進呈される。
 望むなら現実で使える金銭や地位も加えて与えよう!」
賞品がログアウト?
榊の言葉に不安を覚えた私は急いで他のメニューも確認してみる。
【ステータス】……ブラックローズのパラメータが載っているいる他「状態:健康」なんて記されているだけだ。
【装備】……何もない。恐らくアイテム欄で武器を選択すると変化するのだろう。
【設定】……ウインドウの形式だとか、日本語英語の翻訳システムの設定だとかくらいしかない。
ない。どこにも見当たらない。【ログアウト】の文字がどこにもないのだ。
その事実を目の当たりにして、私の背中に背筋に冷たいものが走る。

59プログラム起動 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/13(日) 16:49:07 ID:xCxEMtDQ0
「さて、やる気が出たかね、諸君。特に『死の恐怖』のハセヲ君。君には期待しているぞ。
 好きだろう? 得意だろうPKは? PK100人斬りを成し遂げた君ならバトルロワイアルでもいい結果を残せるだろう」
榊の言葉に私は顔を上げた。
『死の恐怖』
それは、私たちが最初に倒した「禍々しき波」である「スケィス」が冠していた名だ。
それと同じ二つ名を持ったプレイヤーが居る?

私はそのハセヲとやらの姿を探してみたが、見当たらなかった。
どうやらまだうまく同期できていないらしい。全ての参加者が見えている訳ではないようだ。

「お前の言う賞品とやらが確実に渡される保証はどこにある」
別のところから声がした。見ると、それは黒いコートに身を包んだ強面の黒人だった。

「たとえ優勝しお前の下に辿りついたとしても、帰還できる保障など一切ない」
「ふむ、確かにそれは君の言う通りだな。私を信じてくれ、としか言いようがない。
 が、諸君らがどうしても戦わなければならない理由、ということなら今示すことができる。
 覚えて貰わなければならないこと、その二つ目だ!
 今、諸君らのPCはウイルスに感染している! 致死性のものに、だ」
榊の言葉に、男は言葉を失った。
致死性のウイルス。その言葉が意味することはつまり……

「今、一人のPCのものが特別早く発動することになっている。そろそろの筈だ」
榊の言葉が終わるのを丁度見計らったかのように、その悲鳴は響いた。

「う、うわぁぁぁぁ! 何でや! 何でワイが……!」
ファンタジー風の装備の男性PCが赤い何かに浸食されている。
毒や麻痺のようなバッドステータス状態とは明らかに違う。PCのポリゴンが醜く崩れ、霧散していく。
彼は、痛切な悲鳴を挙げ続け、そして全身が赤く浸食されると同時に消え去った。
余りのできごとに、私は何も言うことができず、周りの人間もただ呆然とそれを見ていた。

【キバオウ@ソードアートオンライン Delete】

後には何も残らない。ただ白い空間だけがあった。

「さて、これで分かっただろう? たとえ私が信じられずとも、諸君らは戦わなくてはならないことを。
 だが、安心して欲しい。諸君らに仕込まれたウイルスはすぐには障害を表さない。
 ウイルスは遅行性だ。時間と共に進行していき、通常では24時間程度で先の彼のように死亡する。
 これを遅らせる方法はただ一つ。他の参加者PCをkillすることだ。一人PKするごとに原則6時間の猶予が与えられる」
榊の言葉は止まらなかった。
厭味ったらしく間を置き、更なる言葉を口にした。

「そして、最後に諸君らに知って貰いたいことを言おう。
 この場でPKされること――それは即ち真の死を意味する。
 バックアップデータでの修復などあり得ない。永遠にそのデータはロストされることとなるのだ」
真の死。
それが何を意味するかは、私にもすぐ分かった。
意識不明に陥ったカズの――弟の姿が脳裏を過る。

「では、諸君。【VRバトルロワイアル】の開幕だ。次に会う時は6時間後の放送の時になる
 無論、それまで生きていればの話だがね」

その声が響くのと同時に
私は、ここから居なくなった。

「カイト……私は――」
:
:
:
:
program.start
:
:
:
:

60 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/13(日) 16:50:21 ID:xCxEMtDQ0
【進行役:榊@.hack//G.U.】

投下終了です

61名無しさん:2013/01/13(日) 18:58:24 ID:InaS0sIU0
予想はしてたけど
キバオウさんwwwww

62名無しさん:2013/01/13(日) 21:17:33 ID:u7nsohrk0
OP投下乙です
やはりあんたが見せしめかキバオウさんwww
それにブラックローズやワカメ達と一緒にいるパワポケ主人公(デフォ姿)想像したら吹いたwww

それと指摘ですが
>>56>>57の間にOP募集時にあった文が抜けていたので収録時には気を付けてください

63名無しさん:2013/01/13(日) 21:57:33 ID:xCxEMtDQ0
>>62
あ、本当だ
コピペミスですね、ありがとうございます

あとこれがルール(確定)になると思います

<ロワの基本ルール>
・最後の一人になるまで参加者は殺し合い、最後に残った者を優勝とする。
・優勝者には【元の場への帰還】【ログアウト】【あらゆるネットワークを掌握する権利】が与えられる。
・仮想現実内の五感は基本的に全て再現する。
・参加者はみなウイルスに感染しており、通常24時間で発動し死亡する。誰か一人殺すごとにウイルスの進行が止まり、発動までの猶予が6時間伸びる。
・参加者は【ステータス】【装備】【アイテム】【設定】で構成されたメニューを表示できる。また時刻も閲覧可。
・死亡表記は【キャラ名@作品名 Delete】

<支給品について>
・「水」「食糧」などは支給されない。
・参加者には地図とルールの記されたテキストデータが配布されている他、ランダム支給品が3個まで与えられる。
・アイテム欄の道具は【使う】のコマンドを使うことで発動。外の物をアイテム欄に入れるには、物を手に持った状態で【拾う】のコマンドを使う必要がある。
・死んだ者の所持アイテムは実体化して、その場に散らばる。また死体は残らず消滅する。

<武器防具の装備の扱い>
・自分のジョブ以外のものも手に持つことは可能。
 ただし扱いに関しては全くの素人状態(杖なら魔法は使えない)
・防具の場合は触れることはできても着ることはできない(指定ジョブ以外の防具は防具として役に立たない)
・レベル、習得スキルの扱い→アバウトでいい。
・ゲームを越えての装備品も似た武器ならば自分のジョブに近い形で運用できる。
・武器防具のパッシブスキルは他ゲームのものでも発動する。

<禁止エリア>
・現時点では不明。今後追加される可能性はある。

<作中での時間表記>(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

<各作品に関するルール・制限>
Fate/EXTRA
・マスターは基本的にサーヴァントを伴って参戦。
・マスターが死ねば、サーヴァントも同時に脱落する。
・サーヴァントの宝具、武装は没収されない。
・主人公(岸波白野)の性別とサーヴァントは登場話書き手任せ。
・サーヴァントは戦闘する際に、マスター側の魔力も消費する。

ソードアートオンライン
・まだ文庫化されていないweb版からのキャラ、アイテムの参加は不可。

.hackシリーズ
・八相はプロテクトブレイクするとHP∞は解除)
・憑神は一般PCにも見え、プロテクトブレイクされると強制的に一般空間へ。
・パロディモードからの参戦はなし。

アクセルワールド
・参加キャラたちは最初からデュエルアバターだが、任意でローカルネットのアバターも取れる。
・必殺技、飛行、略奪スキルは要ゲージであとは特に制限なし。

パワプロクンポケット12
・主人公の名前は書き手に任せ。

ロックマンエグゼ
・バトルチップは他作品キャラも使用可、チップ単位て支給。
・一度使ったチップは一定時間使用不可。
・フォルテの「ゲットアビリティプログラム」は深刻なダメージを与えなければ発動しない

マトリックスシリーズ
・スミスの分身能力は、心身に深刻なダメージを与えないと発動しない。
・ネオの身体能力(飛行、治療、第六感的な知覚)はある程度制限。

64名無しさん:2013/01/13(日) 22:01:37 ID:xCxEMtDQ0
<状態票>
【エリア(A-1など)/地名/○○日目・時間(深夜・早朝・昼間など)】

【キャラ名@作品名】
[ステータス]:
[装備]:
[アイテム]:
[思考・状況]
基本行動方針:
1:

<予約>
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/15830/1358005934/l50
上記のスレでお願いします
解禁は本日の日付変更と同時

・予約期間は5日+延長2日です
・延長は一回まで可能です
・予約の際には必ずトリップを付けて下さい
・書き手枠によるキャラ予約は、一回の投下につき一キャラまでとなります

65名無しさん:2013/01/14(月) 10:29:57 ID:D2jOt14M0
個人的にヤバイ人一覧

・アクセルワールド
説明不要の能美くん。スキル強奪とかそれだけでヤバイ。
ハルユキ、黒雪姫もお互い好き過ぎて奉仕マーダー化しそうでヤバイ

・ソードアートオンライン
キリトくんスキスキでアスナさんがヤバイ。

・FATE/EXTRA
ほぼ全員が世界の命運を掛けて戦っているため覚悟完了状態。
元軍人とか狂人とかゲームチャンプとかテロリストとかロリとかがヤバイ。
鋼メンタルで前向きに殺し合う主人公が多分一番ヤバイ。

66名無しさん:2013/01/14(月) 10:57:10 ID:odVwWhz20
時期によってはエンデュランスもヤバイと思う
AIDA感染状態でマハ使われることになりかねないし、何よりミアがいるし

…確かエンデュランスって.hackのエルクと同一人物だったよな?

67名無しさん:2013/01/14(月) 11:22:58 ID:qlbpyK5U0
スケィスとエージェント・スミスは問答無用というレベルじゃないかとw

68名無しさん:2013/01/14(月) 11:40:49 ID:daJ9dawQ0
>>66
エルクとエンデュランスは同一人物
可愛いショタはホモイケメンになってしまったのだ……
ハセヲと楚良が同一人物ってのもあるが面子的にそれに気付ける奴は居ないだろうな、本人含めて

69名無しさん:2013/01/14(月) 11:58:09 ID:Nzas9XwY0
>>68
書き手枠を使えば可能性が上がるぜ

つーか名簿見ると強マーダー候補がたくさんいるし主人公側は参戦時期次第じゃあ危ない奴もいるから何気に対主催ヤバくね?

70名無しさん:2013/01/14(月) 13:01:42 ID:4bQ.VFv20
原作知らないから誰がどうヤバいのか判らん

71名無しさん:2013/01/14(月) 13:21:47 ID:qlbpyK5U0
現実世界のプレイヤーを意識不明にしたり巨大化したり際限なく自身をコピーしたり、とか?w

72名無しさん:2013/01/14(月) 14:42:33 ID:CVElnVoY0
投下します

73 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/14(月) 14:42:58 ID:CVElnVoY0
おっと、酉忘れ

74NEO ◆7ediZa7/Ag:2013/01/14(月) 14:44:44 ID:CVElnVoY0
街の外観自体はは発展した都市のそれであったが、人の姿は全く見えなかった。
自動車の類も一切走ってはいなかった。所々駐車違反のキップが切られた車があったが、無論中には誰も居ない。
ゴーストタウンという言葉が似合う場所だった。あるいはホラー映画のように人類が死滅した世界だろうか。

パチパチと明滅する街灯の下、一人の男が街を歩いていた。
黒のコートに、サングラスという出で立ちの男は夜の闇に包まれた街の中に、まるで溶け込むようであった。
コツコツという足音が響き渡る。普段ならかき消される筈のその音も、ここでは不気味なまでに良く聞こえた。

(この街……やはりここはマトリックスの中か)

彼――ネオは周りを見渡す。
それは1990年代のアメリカの街並みに酷似しているように見えた。
歩道のコンクリートに触れてみる。ひんやりとした感覚が手から脳へと伝えられた。
確かにそれはここにある――ように感じられる。が、ネオはその感覚が疑似的なものでしかないことを知っていた。
それだけじゃない。目に見える全てのものも、肌に触れる空気も、己の身体でさえも実体を伴ったものではない。
そして、街自体は20世紀末のものに見えるが、それもまたまやかしだ。

「ここ」ではない現実。
そこでは既に百年以上の時が経っている。
そして人類は延々と戦争をしている。自ら作った機械を相手にして、だ。
戦争の結果、世界は荒廃している。このような街が現実内にあるとは思えないし、機械がわざわざこしらえるとも思えない。
マトリックスの中で簡単に作ってしまうことができるのだから。

人間と戦争を始めた機械たちは、その最中人間たちにより当初の動力源を奪われていた。
空を塞ぎ、陽光を遮ってしまうことで、当時太陽エネルギーで駆動していた機械たちを沈黙させることができる。そう人間たちは考えたのだ。
だが、機械たちは自らのエネルギーを確保する更に効率的な動力源を見つけていた。
その動力源とは即ち――人間だ。
人間が体内に持つ莫大な電力を取り出し、動力源とする。
その為に人間は機械に「栽培」され、搾取され続けながら一生を終えさせる。そんなシステムが構築された。
だが、栽培される人間がそのことに気付くことはない。彼らは終わらない「夢」を見せられているのだから。
その夢の舞台こそがマトリックス。そう呼ばれる仮想現実空間だ。
ネオもまたその中で生まれ、20世紀の平和な世界を生きるアメリカ人として過ごしてきた。
不意に訪れる「起きているのに夢を見ている」感覚を抱えつつも、目の前の生活が全てだと錯覚させられたまま。

だが、ある日その価値観は一変する。
モーフィアス、そしてトリニティ。
彼らと出会い、自分は本当の現実を訪れた。
以来、支配から逃れた僅かな人間たちと共に、機械に対して戦いを続けている。
そして彼らは言う。自分は、ネオのことを救世主、だと。

75NEO ◆7ediZa7/Ag:2013/01/14(月) 14:45:41 ID:CVElnVoY0

「…………」

僅かに顔を俯かせ、ネオは立ち止まった。
そしてメニューを操作し、アイテム欄の中から一つを選択する。
次の瞬間、彼の手の中には一本の剣が握られていた。

漆黒の剣だ。肉厚の刃が夜の闇の中で不気味に光る。
アイテム欄にあった名前は【エリュシデータ】。どうやらこれが自分に与えられた武器らしい。
現在のところ、自分の有する唯一の武器である。出来れば銃器が欲しいところだったが、それでも何かしら武器があるのはありがたかった。

彼は試しにそれを振ってみる。
ひゅんひゅん、と空を裂く音が鋭く響く。
マトリックスで戦い初めて以来、彼は多くの技を覚えた。正確にいえば覚えさせられた。
カンフー、柔術、空手……、様々な武道をプログラムの形で頭の中に「ダウンロード」する。
そうして覚えた技の中には勿論剣術もあった。

重い剣だ。上手く扱うには少し慣れが必要だろう。
だが、それが実戦に耐えうるものであることを確認すると、剣をメニューへ戻した。
自分の武器を確認すると、次に彼は膝を曲げ、空高くジャンプした。
ジャンプ、といってもその高さは常人の比ではない。ビルの屋上まで一気に飛び上がり、すた、と音を立てて着地する。
マトリックス内での物理法則は現実世界のものと同じだ。
だが、仮想である以上、無視して破ることも可能だ。
まるでコミックに登場するヒーローのような行いを軽々と行ったネオだったが、その表情は曇っていた。
闇に包まれた街は屋上から見てもはっきりとは見渡せなかった。また人の居ない異常さが浮き彫りになり、より不気味さが増しているかのようにも見えた。

モーフィアス。
彼に、告げなければならないことがある。

マトリックスには預言者が居た。
オラクルと呼ばれるプログラムは、未来を見通す力を持っていたのだ。
彼女にネオは救世主であると予言され、モーフィアスはそれを信じて戦ってきた。
時には自分を犠牲にしても、ネオを助けようともした。

だが、それは罠だった。真実ではあるが、それ故にどこまでも狡猾な罠だった。
救世主。
それは機械たちが考案した「人間を効率良く管理するシステム」の一部だった。
一定周期で生まれる異常な力を持った人間。それが救世主として活躍し、機械への反乱、滅亡、そして勢力の再建まで導く。
そうして定期的に勢力は滅亡と復活を繰り返し、管理を容易にさせる。
RELOADを引き起こすトリガー、それこそが救世主だったのだ。

だが、モーフィアスはその事実を知らない。
開幕の場で彼の姿は確認している。
この「VRバトルロワイアル」という舞台が一体何なのかは分からない。あるいはこれもアーキテクトら機械たちの思惑の一部なのかもしれない。

どんな行動を取るにせよ、先ずは彼に伝えねばならない。
例えそれが残酷な真実であろうと。
そう決めると、彼は再び跳んだ。
夜の街へ、その胸に複雑な感情を抱えながらも。



【G-8/アメリカエリア/1日目・深夜】

【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2個(武器ではない)
[思考・状況]
1:モーフィアスに救世主の真実を伝える
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後

支給品解説
【エリュシデータ@ソードアートオンライン】
キリトが使う黒い剣。鍛冶屋で作られたものではなく、モンスターからのレアドロップアイテム。
カテゴリーは《ロングソード/ワンハンド》

76 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/14(月) 14:46:39 ID:CVElnVoY0
短いですが投下終了です

77名無しさん:2013/01/14(月) 18:07:59 ID:NYa6ZvI60
投下早すぎィ!
ネオは救世主でないことに気づいた時からの参戦か
モーフィアスってデカイし黒いしOPでも目立ってたから他参加者からも注目されてそうだよな

78名無しさん:2013/01/14(月) 19:19:46 ID:g6gazyAoO
投下乙です。

モーフィアスが奉仕マーダーになってるかもしれないのか。

79名無しさん:2013/01/14(月) 19:40:52 ID:qlbpyK5U0
投下乙
アンダーソン君はこのタイミングからの参加か…

80名無しさん:2013/01/14(月) 20:12:59 ID:D2jOt14M0
何気にこのロワの大人ってマトリックスの面子と軍人のブラックモア卿
会社員のクラインと人妻のランルーくんだけ?

81名無しさん:2013/01/14(月) 20:19:19 ID:4bQ.VFv20
投下乙です

映画は知っているが確かに自分が救世主でないと知る時期があったなあ
でも多元世界とか問題はそれだけじゃないぞ

82名無しさん:2013/01/14(月) 20:24:26 ID:0QYN1TR.0
投下乙

>>80
ヒースクリフにオーヴァン、パワポケキャラのだいだいも大人
あとは知らない

83名無しさん:2013/01/14(月) 20:37:35 ID:NYa6ZvI60
パワポケ12動画で確認したけど主人公社会人なんだな
いきなり会社倒産して無職になって野球ゲーなのに野球やってないのには吹いたが

84名無しさん:2013/01/14(月) 20:39:09 ID:daJ9dawQ0
逆に中の人がロリショタなのは……ワカメ、ニコ、ありす、あと主催の榊もか

85 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/15(火) 00:26:07 ID:W3g9lHDg0
投下します

86terror of death ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/15(火) 00:27:49 ID:W3g9lHDg0
ハロルド・ヒューイックは天才的なコンピュータ研究者であった。
インターネットが爆発的な発展を遂げていた時代において、彼はある種のブレイクスルーを齎したといえる人物だ。
ある時、彼は論文を発表した。人間とコンピュータの未来の姿を提示したものだった。
それを発表して以来、一躍脚光を浴びることとなった彼は自分の仮説を実証すべくある物の開発に取り組むこととなる。
究極AI。
自律性を持ち、自ら進化することのできるそれを追い求めた彼は、知性の根幹は何であるかの探究を始める。
そして次第に人智学・神智学の分野に興味を示し、中でもシュタイナーのものに強く興味を惹かれた。

そんな最中、ハロルドは一人の女性と出会う。
きっかけは人智学のセミナーだった。そこで会った女性に彼は恋をした。
エマ・ウィーラント。
詩人であった彼女に恋い焦がれた彼であったが、その結末は決して幸福なものではなかった。
2004年。交通事故でエマはその命を散らせることとなる。28歳での出来事だった。

そこでハロルドが何を思い、何故そうしたかは定かではない。
だが、彼の行動に影響を与えたのは確かだった。
2006年。彼はエマの遺したネット叙事詩『黄昏の碑文』をベースにしたネットゲーム『fragment』を開発。それを当時設立されたばかりのCC社に売り込んだ。

彼の目的はただ一つ。
自分とエマの子を設けることだった。
究極AI『アウラ』
それを生み出す為に、fragment上に管理プログラムを創造した。
アウラを生み出す為の、ある種母とも言える存在に、彼はこう名付けた。
『モルガナ』と。




87terror of death ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/15(火) 00:28:44 ID:W3g9lHDg0

彼女は生き残った筈だった。
SE.RA.PHで行われた聖杯戦争から抜け出し、たった一人現実に帰還することを許されたのだ。
128人の魔術師<ウィザード>たちが命を賭して戦った結果、それが許されたのは彼女だけだ。

「ま、私が優勝した訳じゃないんだけど」
彼女――遠坂凛は呟いた。
綺麗に結われた黒髪を触りつつ、彼女は眉を顰めて言った。
聖杯戦争を勝ち抜いたのも、その先に待っていたトワイスを倒したのも、みんな自分がやったことではない。
どれも皆、岸波白野とそのサーヴァントがやったことだ。自分はただそのおこぼれを授かったに過ぎない。
だが、その岸波はもう――

「これからアイツの元となった身体を探してやる筈だったのに」
結局はまた殺し合いだ。
しかも、どうやらここもまた現実ではないらしい。
SE.RA.PHと同じく仮想現実の中のようだ。

(VRバトルロワイアル……聖杯戦争ではないみたいね)
今しがた榊なる侍風の男が言った言葉を思い出し、凛は溜息を吐く。
折角、殺し合いの場から抜け出せたと思ったらこの結果だ。
確認の為、メニューを呼び出し、ルールの書かれたテキストに目をやるが、そこに書かれていたのは紛れもなく殺し合いのルールだった。

(ここでも魔術師<ウィザード>として生き残りを目指すべきかしら)
彼女は魔術師だった。
とは言っても実際に魔法が使えたりする訳ではない。
魔術師<ウィザード>はある種ハッカーの別名である。
自らの魂を霊子へと変換し、霊子虚構世界を管理するシステムへとアクセス・介入することで世界の理を捩じ曲げる「新しい魔術」を使う者。
端的に言えば、ネット上でかつて存在したと言われる魔術を再現する者たちのことだ。

月で発見されたムーンセル。その中に在った零子虚構世界SE.RA.PHにて魔術師たちは戦った。
手に入れれば万能の願望機にもなるという聖杯を求めて、皆が各々の願いを胸に秘めて殺し合ったのだ。
彼女もまた戦った。世界を管理する「西欧財閥」に対抗すべく。

(いや……ここはSE.RA.PHとは違う。無闇に「乗る」というのも危険ね)
聖杯戦争は確かに殺し合いではあったが、あれはしかし強制されたものではなかった。
電脳死そのものを信じていない者も居たが、それでもただ一人の例外を除けば、皆自分の意志であの場に来ていた。
少なくともあれはフェアだったし、全否定するようなものでもなかったのだ。
だが、今回のこれは違う。自分を含め、恐らく皆この場には強制的に連れてこられた。
それにあの場の黒人も言っていたが、榊とかいう男が約束を守る保障などどこにもない。
と、そこまで考えて凛は苦笑した。
自分は先ず「優勝することができる」という前提で考えている。
他の参加者がどんな者たちなのかは知らないが、自分はサーヴァントを失っている。仮想世界内での戦闘力は皆無に近い。

「ランサー……」
失った自分のサーヴァントの名を呟く。
無論、返事などある訳が――

88terror of death ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/15(火) 00:29:45 ID:W3g9lHDg0

『おう、呼んだか?』

予想に反し、言葉が返ってきた。
凛は驚き「ええ!」と思わず声を上げてしまう。

そして次の瞬間、目の前に槍兵が現れた。
逆立つ髪、鍛えられた肉体、そして青い鎧。
それは紛れもなく、自分のサーヴァント――ランサーであった。

「何でアンタが居るのよ」
彼はラニとの戦いの最中、確かに消滅した筈だ。岸波の乱入により状況は混乱していたが、あの場を生き残ることができる訳がない。
それに最後に見た彼の姿は、バーサーカーに半身をえぐられていた。
だが、今の彼は五体満足。となると、今の彼はあれから再召喚されたのだろうか。

「何でって言われてもな。気付いたら居たんだよ、オレも」
実体化したランサーは、そう言って不思議そうに首を振った。
どうやら彼もどうしてこうなったのかは知らないらしい。

凛はそこでふぅと息を吐いた。
どんな理由にせよ、とにかく彼はここに居る。それだけは確かのようだ。
もうランサーとの予期せぬ再開は、思いのほか彼女を安堵させた。

「まぁいいわ。とにかくアンタが居てくれたのはありがたいし、助かった」
「お、マスター。えらく素直だな」
凛はその飄々とした言い回しにどこか懐かしく思う。
そして同時に冷静に考えてもいた。これで自分も戦うことができる、と。

「で、これからどうすんだ。どうやら聖杯戦争とは違うみてえだが」
「そうね」
凛はメニューを呼び出し、アイテム欄からマップを表示した。
そして、自分の周りの風景と照らし合わせてみる。
草原が広がり、遠くに巨大な山が見える。
どうやらここはファンタジーエリアという場所の一角らしい。
月から方角を予想するにC-2あたりか。

次に凛はアイテム欄をスクロールし、他のものも確認してみる。
地図とルールテキストの他に幾つか名前があった。これはランダムで得られるのだろうか。

「【セグメント1】……なにコレ?」
「さあな。確か部分とか断片って意味だろそりゃ」
見つけたアイテムの中によく分からないものがあった。
展開された説明文にも『アウラのデータの破片』としか書かれておらず、その『アウラ』とやらが何か分からないのだから全く意味不明の品だった。
それにしてもわざわざ1と記してあるということは2以降もあるのだろうか。
他のアイテムも確かめ、自分の戦力状態を確認する。

「とにかく動くしかないようね」
戦力の確認を終えた後、凛はぼそりと呟いた。
どういう行動を取るにしろ、ぐずぐずしている暇はなかった。
時間は限られている。榊の言うことを信じるのなら、残された時間は最悪24時間しかないのだから。

「どこに行くんだ?」
「とりあえず町ね。たぶん近くに日本エリアってのがあるからそこで人を探すわ」
「了解――っと、その前にやることがあるみたいだぜ」
その場から離れようとその時、ランサーが声色を変え言った。
それが何を意味するのかを察し、凛は臨戦態勢を取る。

89terror of death ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/15(火) 00:30:42 ID:W3g9lHDg0
音が、聞こえた。

ハ長調ラ音。

そして、それは来た。

「何だありゃ、アリーナの戦闘プログラムか?」
それは人間ではなかった。
一見して白い石像のようだった。それは人型ではあったが、どこまでも無機質で超然としていた。
人間というよりは天使の類に近そうだ。そんな印象を凛は受けた。

「あの手に持っているもの、あのケルト十字ね」
石像は巨大な杖を持っていた。ケルト十字を模した形をしたそれは、赤く光り、夜の闇の中で不気味に光っている。
自分のランサーであるクーフーリンもまたケルトに由来した英霊だ。
そのことに奇妙な因縁を感じつつ、凛はその姿から警戒を怠らなかった。

「どうやらやる気みたいだな。あちらさんは」
石像は杖を構え、こちらに向き合う。
それは明らかにこちらを認識し、そして狙っていた。
それが纏う雰囲気から石像が如何に危険な存在か、凛は感じ取る。
アリーナに出現する敵データとは一線を画す存在感をそれは持っている。

石像が動いた。
凛に向かい真直ぐと突っ込み、十字の杖を振るおうとする。
が、それをランサーが阻む。
甲高い金属音が響き、武器が弾かれたと気付くや否や石像は機敏に後ろに下がった。

「行くぜ」
それをランサーは追う。その手に在るのは赤い槍だ。
槍と杖が交差し、弾かれ、一進一退の攻防を繰り広げる。
無造作に放たれる杖は、石像の大きさも伴ってかなり強力なものがあった。
だが、ランサーはそれを難なく防いでいく。
石像が一たび隙を見せれば、そこに切り込み、突き刺す。不意のカウンターも織り交ぜる。

互角以上の戦いを見せるランサーを、凛は後方で見ていた。
何時もならここでコードキャストやアイテムを使い、ランサーを補助するのだが生憎と今はそういったものは持ち合わせていない。
だが、何もできない訳ではない。
戦いを逐次見極め、必要な時にはサーヴァントに指示を与える。
また第三者の介入にも気を配る必要があった。これは一対一の聖杯戦争ではない。乱入も当然あり得る。

戦況はランサーに優勢に見えた。
石像の攻撃は強力だが、動き自体は単調なものだ。ランサーの繰り出す槍と比べれば、その差は歴然としていた。
が、戦闘が長引くにつれ、敵の異常さが分かってきた。

「チッ、しぶてえな、コイツ!」
ランサーの声が響く。先ほどから何度も攻撃を叩き込んでいるのだが、石像は一向に倒れる様子がない。
ただ黙々と攻撃をし続けているだけだ。その姿に疲れはおろか、攻撃によるダメージは一切感じられないのだ。
そのことを不審に思いつつ、ランサーは槍を振るい続ける。
が、そこで石像は新たな動きを取った。
それまで単調な攻撃が続いていたが故、いきなりの変則的な動きに、ランサーは一瞬隙を作ってしまう。

「危ない、ランサー!」
凛が叫んだ。が、遅かった。
石像は十字杖を宙に放ち、そしてランサーはそれに吸い込まれるかのように磔にされた。

90terror of death ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/15(火) 00:31:49 ID:W3g9lHDg0

「おい、何だこりゃ――」
突然の事態に戸惑うランサー。
彼に対し、石像は無慈悲にその手を掲げ上げた。。
浮かび上がった線上のポリゴンが、手の周りに腕輪のように展開される。
空間に歪みが生まれ、ノイズが走り、そして放たれた。

――データドレイン

無論、凛はその現象を知らない。
だが、響いたランサーの悲鳴から、事態が急を要するものであることは明白だった。

「ぐああぁぁぁぁぁ!」
崩れ落ちるランサーの身体。そして、それを見下ろす白の石像。
それを呆然と凛は見た。

(そんなランサーが……)
見たところランサーは優位に戦闘を進めているようだった。
こちらが受けたダメージより相手が受けたダメージの方が確実に多い筈だ。
にも関わらず、石像は全く消耗しているようには見えない。
石像は身体を凛へ向けた。
こちらに来る。凛は自分の身体が強張るのを感じた。
恐怖だろうか。改めて向き合う、死の恐怖だ。

「おい、逃げろ。マスター!」
力強い言葉が響いた。
ランサーだ。再び立ち上がった彼は、石像に向かい再び槍を繰り出す。

「俺が戦ってる内に、さっさとこの場から離れやがれ!」
その叫びを聞き、凛は一瞬の逡巡を経て、その場から逃げることを決める。
この場に居ても、自分はただ死ぬだけだ。
が、その前に一つだけやっておくことがあった。

凛は己の手を見た。
そこには聖杯戦争のマスターの証である令呪が刻まれている。
聖杯戦争から脱落した自分には無用の長物となっていたそれだが、ここに来て再び役に立つ時が来た。

「ランサー、勝ちなさない!」
そう命じると同時に、令呪が消失する。
自らサーヴァントを強化する、今凛のできる最大級の補助だった。
それを聞き遂げたランサーは「おうよ!」と高らかに返事をした。
そして、凛は駆けだした。令呪で強化されたとはいえ、これ以上ここに居るのは危険過ぎた。
振り向くことはしない。戦っている彼の為にも、自分は生き延びなくてはならないのだ。
だが、一度失い、そして再び巡り合うことになった自らのサーヴァントを捨て置くことは、決して楽な心持ではなかった。


「行ったみてえだな。折角再会できたってのにもうお別れとは、正直オレも早過ぎると思うが」
自重気味に呟くと、ランサーは己の敵に向き直った。
そして襲い掛かる。雄叫びを挙げ、未だ過ぎ去った凛の方角を見ていた石像を切りつける。
相変らず手ごたえはない。本当にダメージが行っているかも怪しい。
令呪によって強化されたとはいえ、ランサーは己の消耗の激しさを知っていた。
先ほどの磔からの、異質な攻撃。単純なダメージでない何かを、あの攻撃は齎したのだ。

91terror of death ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/15(火) 00:33:19 ID:W3g9lHDg0

「へっ」
実際のところ、勝てる可能性は少ないだろう。
自分の受けたダメージはそれほど深刻だ。一方相手は未だ無傷。
だが、それがどうした。
かつて自分は予言を受けた。英雄となるがその生涯は短いものになると。
以来自分は戦ってきた。そうして一度死に、二度死んだ。
今更三度目の死を迎えようと、そこに恐れなどない。

「行くぜ」
故に彼は立ち上がる。死の恐怖はない。なら、ただ進むだけだ。
己の持てる全ての力を振り絞り、喉を震わせる。

「刺し穿つ死棘の槍<ゲイ・ボルグ>」
放たれた宝具は因果逆転の必殺の槍。
その赤い穂先が石像に突き刺さるのと時同じくして、石像の十字杖がランサーを弾き飛ばす。

石像にprotect breakという文字が浮かび上がった瞬間、
ランサーはその身体を構成するデータを再び霧散させた。

【ランサー(クーフーリン)@Fate/EXTRA Delete】



ランサーは石像が無傷だと思っていたが、実際のところ勝敗は紙一重だった。
それはシステムの枠から外れたイリーガルなモンスター。設定されたHPは決して減ることがない。
しかし、それでも一定以上のダメージを与えればプロテクトブレイクを引き起こす。
データドレインによるデータの改竄が可能になり、またそれなしでもこの舞台ではダメージが通る。
その後に宝具を発動することができていれば、この勝敗は覆っていたかもしれない。

だが、結果として彼は敗れた。その事実はもはや覆らない。

それは再び動き出す。
モルガナの意志に従い、アウラの欠片を追う為に。




生み出されたモルガナ・モード・ゴンはアウラの母となるべき存在だった。
だが、fragment――後のthe Worldとなる場の管理プログラムである彼女は考えた。
自分はアウラを生み出す為に生まれた存在だ。
故に自分がアウラを生み出すという役目を果たした時、自分の存在意義は失われることになる。
プログラムにとってそれは消滅を意味するのではないだろうか?

彼女は恐れた。
そしてハロルドの目的は歪められることになる。

先ず始めにモルガナはアウラの覚醒そのものを歪めてしまおうとした。
ネガティブな思考を持つプレイヤーと彼女をリンクさせることで、歪んだアウラを目覚めさせようとしたのだ。
だが、その謀略は阻まれる。
一人の少女を巡る物語が起こり、そして成長した少女は正しくアウラを目覚めさせた。

そこでモルガナはより実質的な手段に訴えることにした。
八相と呼ばれるプログラムを追撃に差し向け、アウラを追い込む。
エマ・ウィーラントの叙事詩に現れる『禍々しき波』を模した存在の一つに彼女はこう名付けた。
『スケィス』死の恐怖、と。



【C-2/1日目・深夜】

【スケィス@.hack//】
[ステータス]:プロテクトブレイク(一定時間で回復)
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:アウラ(セグメント)のデータの破壊
2:腕輪の力を持つPC(カイト)の破壊
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊
4:自分の目的を邪魔する者は排除

【遠坂凛@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、サーヴァント消失
[装備]なし
[アイテム]セグメント1@.hack//、不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝を狙うかは一先ず保留
1:逃げる
[備考]
※凛ルート終了後より参戦。

92 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/15(火) 00:34:09 ID:W3g9lHDg0
投下終了です

93名無しさん:2013/01/15(火) 01:01:35 ID:9UdveC6M0

バ…バカな…
あ…兄貴…

あっけなさすぎる………


そして凛ちゃんまた単独行かよ!
サーヴァントと再会して即効お別れだよ!
涙流す暇もないよ!

94名無しさん:2013/01/15(火) 01:11:38 ID:fvXoaObo0
投下乙

ランサーが死んだ!

95名無しさん:2013/01/15(火) 01:36:35 ID:rVQMOlCgO
投下乙

この人でなし!

96名無しさん:2013/01/15(火) 12:06:10 ID:8HdSF00AO
投下乙です

やはり彼は生き残れないのね

97名無しさん:2013/01/15(火) 13:52:25 ID:EQoeUvHw0
投下乙です

ランサーはなんで死んでしまうん?
凛ちゃん、あっさりと鯖を失ったがどうするんだろう…

98名無しさん:2013/01/15(火) 16:54:52 ID:7e0WvYmYO
投下乙です。

ランサーが…。わかっていたけど死の恐怖強すぎやん。

99 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/15(火) 19:02:23 ID:W3g9lHDg0
ttp://www50.atwiki.jp/virtualrowa/
wiki作って見ました、まだほとんど何もないですが
OPですが、収録の際、表示の都合で一部記号を変えています

100名無しさん:2013/01/15(火) 19:43:37 ID:uIPqEcc60
wiki作り乙!
これは…いいものだ…

101名無しさん:2013/01/15(火) 20:58:07 ID:.D6hiEGk0
Q.兄貴は死んだ!何故だ!
A.ランサーだからさ

プロテクトブレイクできたとはいえ、放っておいたら回復するしなー
流石に、ゲームではプレイヤーにトラウマを刻み込んだボスだけはあるのか?
凛は生き残ったとはいえ…セグメントがあるせいでまだまだ追っかけられそうですね

乙でしたー

>>99
wiki作成乙です

じゃあ、ちょっとパロロワ総合wikiにページ作ってくる!
タイトルは バーチャルリアリティバトルロワイ「ア」ル で

102名無しさん:2013/01/15(火) 21:46:45 ID:.D6hiEGk0
ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/377.html

総合wikiにページ作ってきました
これが足りない、とかあれば編集宜しくです

103名無しさん:2013/01/15(火) 23:02:35 ID:.D6hiEGk0
>>99
&nowiki(){  文字  }といったようにすると、ウィキ構文を適用しない状態にできます
OPを編集・修正した際に一行目に入れてみましたので、試してみてください

104名無しさん:2013/01/15(火) 23:11:48 ID:W3g9lHDg0
>>103
おお、ありがとうございます
ちょっといじってみますね

105名無しさん:2013/01/16(水) 04:58:26 ID:iiTQ5T.s0
せっかくなんだからwikiもっとサイバーっぽい感じにしてくれよな〜頼むよ〜

106名無しさん:2013/01/16(水) 14:43:26 ID:suFAHW2Q0
サイバーっぽい感じ……数字が全部二進数とかw
うーん、どういうのがいいんだろう

107名無しさん:2013/01/16(水) 20:52:43 ID:AcgT3MhA0
背景黒字、フォントや枠線は全部蛍光緑系統の色とか?

108 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:37:05 ID:JOCuZC7Q0
投下します

109クロスレンゲキを決めろ/穿たれし翼 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:39:23 ID:JOCuZC7Q0
初めは夢だと思った。
バーストリンカ―になって以来、よく見る悪夢だ。その類なんだと。
だが、次第にその認識が間違っていることが分かってきた。
途端に、ハルユキは震えあがった。

「先輩……」

か細い声を漏らす。が、無論返事などない。期待していた訳ではないがそれでも少し寂しかった。
先輩――黒雪姫先輩のアバターも最初の場所で見かけた。たぶん先輩もこの場に来ている。恐ろしいこの「ゲーム」に。
そうゲームだ。VRバトルロワイアルというらしいコレは、きっとゲームのようなものなんだろう。
ルールとしては戦争ゲームの類に似ている。バトルロイヤルという形式もそう珍しいものではない。
ハルユキ自身、これまでもその手のオンラインゲームに参加したこともある。
違っているのは、これが命を賭けたデスゲームであるということ。
ゲームであっても、遊びではない。ハルユキはそのことを強く認識した。

「でも、これ」

ハルユキは己の姿を見た。豚だ。
学内ローカルネットで使っている、真ん丸としたピンク色の豚。
ひどくデフォルメされ、頭身の低いこの姿はどう見ても戦闘向きではない。これで戦えというのだろうか。
ハルユキはメニューを呼び出し、色々探してみた。そして【設定】の中に【使用アバターの変更】という項目を見つけた。

「やっぱりか……」

その項目で設定を変えると、彼の姿は変容していた。
つるりとした顔、細身の体躯、銀色に輝くボディ。
シルバー・クロウ。
ハルユキの持つもう一つのアバター。デュエルアバターの名だ。
この形態をとれるということは、ここは加速世界の中なのだろうか。

「そこに居るのは誰だ」

不意に背後から声を掛けられた。
突然のことにハルユキは「ひぃ!」と情けない悲鳴を上げてしまう。
恐る恐る振り向くと、そこには構えられた剣先が見えた。そこでもう一度声を上げてしまった。

「……悪意を持ったプレイヤーではないようだな」

ハルユキの所作からそう判断したらしい声の主は、少々毒気を抜かれたかのようにそう言った。
その言葉にハルユキは頭を掻き「あははは……」と乾いた笑いを漏らす。
剣先が降ろされ、そしてハルユキはようやく相手の顔を見た。
暗がりの中から見えたその顔はとても端正なものだった。西洋風の鎧を着込み、背中には綺麗な白い翼が生えている。
凄いイケメンキャラにエディットしたんだな……。ハルユキはそんな感想を抱いた。
ネットゲームでの容姿は自由に変えられるものが多いが、あまりにイケメンのものはプレイしていて少々気恥ずかしくなるものだ。
ハルユキ自身もかつてそのような経験があるだけに、彼の堂々とした立ち振る舞いに少し感心した。

110クロスレンゲキを決めろ/穿たれし翼 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:40:27 ID:JOCuZC7Q0
「この場で会ったのは俺が初めてか?」
「あ、はい。そうです」
「そうか。俺もここに来て初めて会ったプレイヤーはお前だ。
 ――バルムンクだ。よろしく頼む」

本物の騎士のような喋り(勿論ロールなのだろうが)に少し気後れしながら、ハルユキも「よろしくお願いします」と頭を下げた。
そしてこちらも名乗ろうとして、少し言葉に詰まった。
今の自分はシルバー・クロウだ。有田春雪ではなくそう名乗るのが正確だろう。
だが、目の前の彼、バルムンクはどう見てもデュエルアバターではない。彼にそう名乗るのは少し危険があるのだ。

「ところで一つ尋ねたいことがあるのだが
 お前のそのPC……the Worldのものではないな?」
「え? ええ、まぁ……」

the World、というのが何なのかは今一つよく分からなかったが、バルムンクがやっているネットゲームの名だと当たりを付けて、とりあえず頷いておいた。
やはり彼は知らないのだ。ブレインバーストのことを。

ブレインバースト。
それはハルユキが今現在プレイしているゲームの名である。
ゲーム、といってもただのゲームではない。現実世界にも影響を及ぼす、特異なものだ。
首回りに装着するニューロリンカーと呼ばれる量子接続通信端末を使うVRゲームであり、起動することで人間の思考を「加速」する。
ゲームの外では数秒でしかない時の中で、バーストリンカーたちは日夜戦い続けているのだ。

このゲームの特異性として、その応用性と秘匿性の高さがある。
思考の「加速」。それは何もゲームにだけ使われている訳ではない。常人とは全く違う時間を過ごすことを様々なことに応用――悪用する者も居る。
「加速」することでスポーツで優秀な成績を残すもの、カンニングを行う者……ハルユキは認めたくはないが、そのような使い方をする者も確かに居た。

またこのゲームをインストールするには幾つか条件が存在する。
その条件の一つとして「生誕後まもなくからニューロリンカーを使用していること」というものがある。
ニューロリンカーの登場が今から16年前である以上、バーストリンカーは最年長でも16歳ということになる。
2039年に正体不明の製作者にこのゲームが配布されて以来、ブレインバーストは子供たちの間でのみ知られるものとなった。
大人に対してはこのゲームは秘匿されているのだ。このゲームの有用性を独占しようと、僅か1000人程度のプレイヤーの間でしかプレイされていない。

ハルユキにしても、このゲームの中ではまだ新参者だ。まだまだ知らないことも多いだろう。
だが、それでもバーストリンカーとしての常識などはもう身に付けている。
何も知らない人間にその存在を簡単に喋る訳にはいかないのだ。

「シルバー・クロウです。これはゲームのアバターで、その……」

(えーと、どう説明すればいいだろう。バーストリンカ―のことを喋る訳にも行かないし……
 ていうか何で普通のアバターがここに居るんだよ。加速世界じゃなかったのか、ここ)

ハルユキがしどろもどろになっていたが、バルムンクは「そうか」と短く答えるのみだった。
どうやら深く聞くつもりはないらしい。説明する手間が省けて、ハルユキは内心安堵に胸を撫で下ろした。

「あの場――最初の場には他にも多くの種類のPCがあった。これは予想だが、榊は様々なネットゲームから参加者を集めているのだろう」
「様々な種類の……」
「そうだ。それも一つや二つではないな。最低でも5種類以上のゲームから呼ばれている」

そこまで言って、バルムンクは周りを見渡した。ハルユキも釣られて首を回す。
そこには暗く、迷路のような空間が広がっており、ところどころ幾何学的な模様何かが見えた。
おどろおどろしい雰囲気だ。ハルユキは息を呑む。
ここに送り込まれた当初は混乱でそれどころではなかったが、改めて見渡してみると異様な空間だった。

111クロスレンゲキを決めろ/穿たれし翼 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:41:49 ID:JOCuZC7Q0

「何処なんでしょう、ここ」
「ふむ、そうだな」

バルムンクは考える素振りをして、右手で何かを操作し始めた。
メニューを開いているんだ。それに気付いたハルユキもメニューを開き、マップを呼び出した。

「日本やアメリカには見えないし、ファンタジーエリア……という訳でもないですよね」

空間の外観はファンタジーというよりSFに近いように思われた。

「と、なるとここはこのウラインターネットという場か」

ウラインターネット。聞いたことのない名前だ。
裏のインターネットという意味なのだろうが、えらく直球のネーミングである。
ハルユキの知らないネットの暗部なのか、それともそういう名前のダンジョンがどこかのゲームにあるのだろうか。

「近くにネットスラムがあるな」
「知ってるんですか?」
「……ああ、何度か訪れたことがある。とあるハッカーが造った違法サーバーだ」

表情を僅かに陰らせながらバルムンクは答えた。
その「とあるハッカー」とやらのことが気に入らないのかもしれない。

「それがここにあるってことは、そのハッカーがこのデスゲームに関わっている、ということでしょうか?」
「いや……それはどうだろうな。奴は犯罪者であったが、このような悪趣味な催しに加担するとも思えない。
 似た場所を作ったのか、構成データをそのままコピーしたのか――後者だとしたらこの状況を打開する手段が見つかるかもしれないな」
「ほ、本当ですか?」

バルムンクの言葉に、ハルユキは喜びの声を上げた。
どうしようもないと思われていた状況に、可能性とはいえ希望が見えたのだ。

「ああ、あそこはヘルバ……そのハッカーがthe World上の興味のあるデータを収集する為に作った場所だ。
 その膨大なデータの全貌を把握している者はヘルバだけだろう。
 管理者でさえも把握できないようなイリーガルなデータもその中にはあった。それを解析すれば、ここからの脱出に役立つようなデータも見つかる……かもしれない」
「じゃ、じゃあ早く行きましょうよ。そのネットスラムに」
「それは良いのだが……」

バルムンクは困ったように辺りを見渡して、

「これではどちらにいけばいいのか分からんな」
「あ」

配布されたマップには、自分の現在地を知らせるようなマーカーはなかった。
それでも他のエリアなら施設の位置関係で大体の位置は割り出せるのだろうが、このウラインターネットではそうも行かない。
何しろ全体的に薄暗く、迷宮のように道が入り組んでいるのだ。これではネットスラムの所在地はおろか、自分たちがどこにいるかでさえ分からないだろう。

「仕方ない。自分でマッピングしていくしかないな」

バルムンクは言う。確かにそれしかないだろう。
しかし、今時オートマッピングではなく、自力でマッピングするゲームも珍しく思える。
まあハルユキもその手のRPGに経験がない訳ではなかったし、バルムンクも結構なゲーマーに見えるのでそう混乱することはないだろうが。
と、そこまで考えてこんな状況でもゲーム攻略となると、ワクワクしてしまっている自分が居るのに気づきハルユキは苦笑した。

112クロスレンゲキを決めろ/穿たれし翼 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:42:54 ID:JOCuZC7Q0

「ところでシルバー・クロウ。自分の装備は確認したのか?」
「あっ、忘れてました」

この場に来て混乱していたせいで、自分のアイテムを確認するのを失念していた。
メニューのアイテム欄からものを確認すると、

「【マグナム2 B】【バリアブルソード B】【ムラマサブレード M】……?」

そこには見慣れぬアイテム名が並んでいた。
説明文を確認してみたが、バトルチップがどうのこうの、よく分からない単語で説明されていた。
が、その説明からして恐らくは武器だろう。これは自分にも使えるのだろうか。

「どうだ。何があった?」
「えーと……よく分からないんですが、たぶん武器ですね。これ使えるのかな……てあっ!」

ハルユキが試しに【マグナム2】を選び、【使う】のコマンドを押した瞬間、彼の身体は空高く飛び上がった。
無論、彼の意志ではなく、勝手に身体が跳び上がったのである。

「う、うわぁぁぁぁ!」

そして更に動作は続き、ハルユキは何時の間にか手にしていたそれを放り投げた。
爆弾だ。ハルユキがそう判断するのと、それが地面に着弾するのはほぼ同時のことだった。
その着弾点にはバルムンクが居て、爆発が彼のもとに――

「何を!」
「ご、ごめんなさーい!」

十分後、何とか爆発を避けたバルムンクに対し、平謝りするハルユキの姿があった。

「ごめんなさい。本当に……」
「……今後は気を付けることだな」

とにもかくにも、バトルチップとやらの使用方法は分かったのは収穫だった。
また先程使ったチップを再び確認したところ【使う】のコマンドが押せなくなっていた。しばらく時間を置かないと再使用できないのだろう。

「とにかく、行くぞ、シルバー・クロウ」
「はい……」

肩を落としつつも、ハルユキはバルムンクに着いていく。
しかし思わぬ失敗があったとはいえ、こうして会話していると、少しは暗澹とした気分も晴れてきた――気がする。
一応の打開策もある上、自分は一人ではない。そう考えることでハルユキは大分落ち着いていたのだ。
安堵と、そして油断が彼の胸に訪れていた。

「む……」
しばらく歩いているとバルムンクがふと足を止めた。
眉を顰め、警戒するかのように辺りを見渡す。
マッピング自体は上手く行っていた。配布されていたテキストデータは適当に編集することで疑似的なメモ帳代わりになった。
二人で同時に行い、時たま互いに確認することでズレを修正する。
その繰り返しで進んで来たのだが……

「どうしたんですか?」
「妙だ。何か音がする」
「音……モンスターとかは居ないみたいだし、もしかして他の参加者かもしれないですね」

言われてハルユキも耳を澄ませると、僅かに音が聴こえてきた。
徐々に大きくなっていくその音は、まるでビームのチャージ音みたいであり――

「逃げろ! シルバー・クロウ。これは攻撃だ」
「え?」

その声が響くのと、巨大な閃光がその場を襲うのはほぼ同時のことだった。


+

113クロスレンゲキを決めろ/穿たれし翼 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:44:01 ID:JOCuZC7Q0

ソイツはまるで死神のようだった。
ローブを羽織い、手から硝煙を立ち上らせ、凶悪な眼光でこちらを睨んでいる。
突如として現れた死神が、何の警告もなくハルユキたちを攻撃したのだ。

「外したか」

死神――フォルテは不機嫌そうに言う。
その姿には並々ならぬ憎しみが感じられ、ハルユキは背筋が凍りつく。

「痛……」

ハルユキは何とか身を起こす。
バルムンクの声にかろうじて反応することはできたが、それでもかわし切ることはできなかった。
被弾した脚部を撫でながら、自分のステータスを見て驚いた。
先の一撃でHPゲージが大きく削れていた。三割は確実に削られているだろう。もし直撃していたら……。ハルユキはぞっとする。

「大丈夫か? シルバー・クロウ」

バルムンクの声が聞こえた。
少し離れたところで、彼も立っていた。彼も完全には回避できていなかったのか、つらそうに胸を押さえている。

「だ、大丈夫です。それよりアイツは……」
「ああ、無警告での攻撃……交渉の余地はないな」

バルムンクの言葉に、ごくりとハルユキは息を呑む。
戦うしかないのか。あの強大な敵に、勝てるのか。負けたらポイント全損どころじゃなく本当に死――

(いや……!)

頭に過るネガティブな感情を振り払い、ハルユキは敵に向かい合った。
フォルテの姿が見える。怖い。その感情はどうしても拭い去れない。
だけど、ここで逃げたら駄目なんだ。
かつての自分なら足がすくんでいただろう。だけど、今の自分は違う。虐めに屈し、卑屈に笑っていた頃の自分とは違うんだ。
そう強く思い、ハルユキは口を開いた。

「戦います。アイツを……倒す為に」
「ああ、行くぞ!」

そして、二人は立ち向かう。バルムンクは剣を構え、ハルユキもまた臨戦態勢を取る。
それを見たフォルテはと「ふん」と短く呟き、再びエネルギーをチャージし出す。

114クロスレンゲキを決めろ/穿たれし翼 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:44:46 ID:JOCuZC7Q0

先に駆けたのはバルムンクだった。
翼を展開し、上空から剣を一閃。鋭い刃がフォルテを捉え――なかった。

「何?」

あと少しでフォルテに刃が届く。そう思った瞬間、何かが剣の動きを阻んだのだ。
攻撃を防がれたバルムンクは急いでフォルテから離れようとする。が、その前にフォルテが動いた。
閃光が走る。手だ。フォルテの手がバスターに変化し、バルムンクを撃ったのだ。

「バルムンクさん!」

空中で直撃を受けたバルムンクを救うべく、ハルユキも動いた。
飛行スキルを展開。先に受けたダメージ(とマグナムによる施設破壊)によりゲージは溜まっていた。
銀翼を纏い、ハルユキもまた空の戦場へと駆けつける。
バランスを崩したバルムンクをキャッチし、フォルテから少し距離を取る。

「大丈夫ですか?」
「ああ、あの銃撃の威力は大したことない。さっきのエネルギー波に比べたらな。
 ――しかし、シルバー・クロウ。お前、飛べたのか」
「え? あ、はい」

ハルユキのデュエルアバターであるシルバー・クロウの固有スキル。それは奇しくもバルムンクと同じ飛行能力だった。
この翼は僕の力だ。そうハルユキは強く思う。

「そうか。なら上手く連携を取りたいところだ。
 そしてシルバー・クロウ。さっきの一撃は見たか?」
「……はい。アイツ、剣を防いでいました。そんな素振りなんか全く見せてなかったのに」
「剣を走らせた瞬間、何かに弾かれた。あの感覚はまるで――」

と、そこで会話は途切れた。フォルテが飛び上がってきたのだ。
二人は散開する。フォルテもまた飛行能力を有するようだ。
だが――ハルユキやバルムンクほど速くはない。
そこにハルユキは勝機を見出す。

フォルテの攻撃を紙一重で躱し、ハルユキはフォルテに接近する。
やはりだ。圧倒的に見えたコイツも、空でなら僕の方がずっと速く――加速することができる。
そう確信したハルユキはすれ違いざまに銀の拳を叩き込む。

だが、弾かれた。
何故だ。今の攻撃にフォルテは全く反応できなかった筈――

と、そこまで考えてハルユキは気付いた。
フォルテを周りに球状の何かが展開されていることに。

(バリアだ……コイツ、バリアを張ってる。それも全方位の)

気付いたときには、フォルテはもう動いていた。
獰猛な表情が垣間見えた。ハルユキと同じくロボットに近い姿だが、それでも纏う感情は伝わってくる。

「こっちだ!」

バルムンクが来た。
再びまた剣を振るい、弾かれる。
だが、それはもはや承知のこと。フォルテの注意を逸らすことで、ハルユキを逃すのだ。

「小賢しい」

フォルテは忌々しそうに言う。
それを見ながら再び距離を取る。速さではこっちが勝っている為、ヒット&アウェイをしかけることは容易だ。
とはいえ逃げることも得策とはいえないだろう。
感情的に嫌だということもあるが、最初の一撃のような広範囲攻撃を叩き込まれればひとたまりもない。

115クロスレンゲキを決めろ/穿たれし翼 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:46:07 ID:JOCuZC7Q0
「バルムンクさん!」

ハルユキは少し離れたところにいるバルムンクに声を掛けた。

「分かりました。アイツのスキル……全方向からの攻撃を防ぐバリアです」
「……やはりか。となると、どうアレを剥がすかだが」

バリアスキル。
それをどうにかして無効化しない限りはこちらに勝機はない。
どのような類なのだろうか。
HP型。バリア自体にもHPが設定してあり、攻撃を当て続ければ消滅するタイプ。
ダメージ軽減型。どんな攻撃も一定数値の威力を殺されるタイプ。
無効化型。一定ダメージ以下の攻撃は全て無効化されるタイプ。

幾つかの可能性が脳裏に過るが、判断を下すことはできない。
情報が少なすぎるのだ。数回の攻防でそれを探ることは困難に思えた。

「シルバー・クロウ。俺とタイミングを合わせられるか?」
「え? それは……」
「俺と同時に攻撃を当ててほしい。全く同じタイミングであることが望ましい」

バルムンクの言葉に、ハルユキはハッとした。
そうだ。バリアがどのタイプであれ、通用する攻略方法はある。一撃で大きなダメージを与えることだ。
その為には二人で同時に―― 一つのダメージとして計算されるように攻撃を与えることが有効だ。
単純だが、それ故にそれしかないとも思えた。

ハルユキはバルムンクを見た。こんな短時間で敵の攻略法を考案する。混乱することなく常に冷静に。
そんな彼を頼もしく思った。きっと元のゲームでは名のあるプレイヤーだったのだろう。

「では、行くぞ!」
「分かりました!」

言うまでもなく、不安はあった。
作戦は単純明快とはいえ、ハルユキとバルムンクは出会ったばかり。そして、互いのことも良く知らない。
そんな関係で全くの同時攻撃などできるだろうか。それもあの死神相手に。

(難しいかもしれない……だけど!
 やる。やるしかないんだ。僕は、負ける訳にはいかない。先輩の隣に立って戦い続ける為にも!)

バルムンクと並んで飛び、そして散開する。
示し合わせた訳ではない。だが、分かった。呼吸が、彼と自分が合せるべき呼吸が、言葉など介さずとも掴むことができた。
それを見て、フォルテは笑った。憎悪に満ちた獰猛で凶悪な笑みだ。
それに対する怖さは否定しない。だけど、ハルユキはそれを克服しようとする。
その意志が、加速の原動力となる。

「いっけぇぇぇぇぇ!」

ハルユキは叫び、そして攻撃を放つ。
【キック】
何の変哲もない、高く飛び上がり、上空から蹴りつけるだけの技。
だが、それがハルユキの、シルバー・クロウの飛行能力と組み合わさることで強力な技となりえる。
チンケな技だと思う。だけど、高く高く飛び上がることで、その威力はどこまでも上げることができる。ハルユキはそう信じている。

銀の一撃がフォルテに直撃する――それと寸分たがわぬタイミングで、バルムンクの翼も舞った。
キックがバリアを貫き、剣が一閃される。
そして――

「届いた!」

ハルユキは叫ぶ。バリアが弾け飛び、一瞬の明滅を経て消滅する。
これでフォルテを守るものは何もない。

(倒せる。コイツを、僕が……!)

そうハルユキが考えた時だった。
フォルテの顔に、憎悪の炎が宿った。

「舐めるな。人間」

閃光が走った。

116クロスレンゲキを決めろ/穿たれし翼 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:47:15 ID:JOCuZC7Q0




「ナビの方はどこかへ飛んでいったか……まぁいい」

戦いは終わった。
そこにあるもの全てが破壊され、破損したデータが宙を漂っている。
その中心には二つの影があった。

一つはフォルテだ。オーラを失いつつも、その闘気は一切衰えていない。
もう一つはバルムンクであり、フォルテの前で頭を力なく下げている。

「くっ……」

その胸をフォルテの腕が貫通し、バルムンクは苦悶の声を漏らしていた。
先の攻防。フォルテは更なるエネルギーの解放を行い、自分をも巻き込むような一撃を周りに放ったのだ。
結果、ハルユキはどこか吹き飛び、バルムンクは補足され、さらなる一撃を叩き込まれた。

「用があるのは人間、お前だ」

フォルテは言った。
その口調は抑えてはいたが、それでも滲みでる憎悪が感じられた。

「人間風情が、のこのこと電脳世界にやってくるとはな」

フォルテは人間を許さない。
かつて自分を創り出した身でありながら、疎み、恐れ、蔑み、そして裏切った彼らのことを。
どこまでも憎んでいた。
身体に刻まれた傷がうずく。それは人間の裏切りの証だ。

「お前は……」

バルムンクが口を開いた。構成データが破壊されていく痛みは如何なるものなのだろうか。

「人を、人間を殺すことに何の躊躇もないのか」
「ふん」

零れ出た愚問に、フォルテは答えることなく、手に力を込めた。
再び悲鳴が響き渡り、そして蒼天の騎士はその命を散らした。

【バルムンク@.hack// Delete】

「躊躇? 躊躇だと」

そんなものがある筈がない。
自分は、人間なしでもどこまでも強いのだから。
バルムンクを破壊したフォルテは、そのデータの残骸に手を伸ばす。

「ゲットアビリティプログラム!」

倒したナビの能力を吸収し、より強くなる。
フォルテに与えられた、彼が最強たる所以の能力である。

ハルユキとバルムンクの敗因は、一重のフォルテの戦闘能力の高さを見誤ってしまったことだった。
初撃こそがフォルテの最強の攻撃であり、それ以上の攻撃は存在しないと思ってしまった。
あるいはそれは願望もあったのかもしれない。そうであってくれ、という。

バルムンクのデータを吸収し、更なる強さを得たフォルテはゆっくりと動き出した。
暗い迷宮に、憎悪に満ちた破壊をもたらす為に。



【???/ウラインターネットの何処か/1日目・深夜】
※どこかにバルムンクのアイテムが転がっています。
 不明支給品2個のほか、付近をマッピングしたメモ、剣(出展不明)があります。

【シルバー・クロウ@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP???%、気絶
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、付近をマッピングしたメモ、マグナム2B@ロックマンエグゼ3、バリアブルソードB@ロックマンエグゼ3、ムラマサブレードM@ロックマンエグゼ3
[思考・状況]
1:気絶中

【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:ダメージ(小)、オーラ消失
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3個
[思考・状況]
基本:全てを破壊する
1:生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※オーラはしばらくすると復活します。

支給品解説
【マグナム2@ロックマンエグゼ3】
上空から相手の横3パネルを爆撃し、パネル破壊を起こす。
隠しボスであるセレナード戦で重宝するチップ。
スタンダードクラス。支給されたもののコードはB。

【バリアブルソード@ロックマンエグゼ3】
高威力を誇るソード系チップ。
発動が若干遅く通常の攻撃範囲は1マスしかないが、コマンド入力で範囲が大きく変化する。
その為、使いこなすには格ゲーのようなテクニックが要求される。
スタンダードクラス。支給されたもののコードはB。

【ムラマサブレード@ロックマンエグゼ3】
目の前2パネルを切り裂くソード系チップ。
相手に与えるダメージ=それまでに自分が受けたダメージ、というのが特徴。
その為、ノーダメージ状態で振るっても効果がなかったりする。
メガクラス。支給されたもののコードはM。

117 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/17(木) 00:47:37 ID:JOCuZC7Q0
投下終了です。

118名無しさん:2013/01/17(木) 01:42:31 ID:jo4X3CYU0
投下乙です

フォルテつええぇ

119名無しさん:2013/01/17(木) 09:45:49 ID:e.6KuSXc0
投下乙
そうか、デュエルアバターもエグゼ系と同じロボット型だからバトルチップ使えるのか!
そしてバルムンクェ……

120名無しさん:2013/01/17(木) 11:48:56 ID:9D83RXt2O
投下乙です。シナリオ中のフォルテだから100ダメージ当てればいいとはいえ、オーラ剥がしても終わりじゃないからなぁ…

121名無しさん:2013/01/17(木) 13:22:48 ID:eTTKrFSMO
投下乙です。

早速フォルテが強化されてしまった。

122名無しさん:2013/01/17(木) 14:50:47 ID:Li3BQQ6c0
投下乙です

123名無しさん:2013/01/17(木) 19:45:08 ID:zlTyF18M0
バルムンク逝ったーーー!!!???
決して弱いプレイヤーではなかったんだが、今回は相手が悪かったのかなー

吹っ飛ばされたマンマルカワユスもどーなるか
参戦時期も気になるんだよなハルユキは

投下乙でした

124 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:20:15 ID:jXDKGyQQ0
エージェントスミスとシノン、書き上がりました。
投下いたします

125守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:23:25 ID:jXDKGyQQ0


(……一体、どうなってるの?)


朝田詩乃/シノンは、己が置かれているこの摩訶不思議な状況に、ただ困惑を隠せずにいた。
つい先程まで自分は、馴染みのカフェでキリトやアスナ達と共に第五回BoBへの対策を講じながら一時を過ごし、
そして自宅への帰路へと着いた筈だった。

しかし……どういうことか、そこからの記憶が定かではない。
ただ、気がつけばあの異常な広場……ゲームのスタート地点に立たされていた。
まるで頭の中に靄がかかったかのように、何も思い出せない。
そこに至るまでの過程が、すっぽりと抜け落ちているのだ。


(……分かっているのは、ここが仮想世界だって事ぐらいか……)


唯一、シノンが現状について分かっているのは、
自身が何かしらの手段で強制的に仮想空間へとログインさせられている事だろう。
その証拠が、今の自分の姿―――慣れ親しんできた、GGOのアバターだ。
だが、ここは断じてGGOではない。
何故なら彼女が立つこの街―――マク・アヌは、GGOが持つ荒廃した世界観とはまるで異なる場所だからだ。
近いものがあるとすれば、彼女が同じくプレイしているALOだろう。

ならばここはALOか、或いはそれに近いファンタジー系VRMMOの中なのか?
そう問われれば、答えはまた否である可能性が限りなく高い。
GGOのアバターそのままで他のVRMMOに立つという事が、まずありえないのだ。
コンバートでアバターデータを移されたにしても、容姿はその世界観に合わせたモノへと少なからずの変化がある筈。
それがこうして、全くそのままの姿で立っているというのは、通常のVRMMOの中ならありえない事なのだ。

つまりここは、ALOでもGGOでもないどころか……VRMMOであるかですらも怪しい、全く異質な仮想空間。
おもちゃ箱をひっくり返したかのような、多くの世界観をごちゃ混ぜにしたような舞台ではないだろうか。
殺し合いをする為だけに生み出された、継ぎ接ぎだらけの世界ではないのだろうか。

126守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:23:54 ID:jXDKGyQQ0

(……殺し合い……)

頭の中で呟くと共に、己の背筋が急に冷たくなるのを感じた。
あの広場での恐怖的な光景が、鮮明に思い出されたからだ。
正直、あの光景は仮想空間のそれだとはまるで感じる事ができなかった。
現実と変わらないかのような、妙なリアルさがあったが故に。

そして、あの時……広場に立っていた榊という男は、己にこう告げた。

「この世界での死は、真の死である」と。

それが意味するのはつまり……


(……まさか……ここで死んだら、本当に……?)


そんな馬鹿な話など、ある訳が無い。
そう否定できれば、楽な話なのだろうが……しかし、シノンにはそれが出来なかった。
まず先述したように、あの光景が妙に現実味のある代物であったから。
そして……彼女は、これと同じ事例を二つも知っているからだ。


(……ソードアート・オンライン……)


その一つめは、言わずと知れた『ソードアート・オンライン事件』……通称、SAO事件。
世界初のVRMMOということであらゆるメディアから脚光を浴びていたそのゲームは、開発者の茅場晶彦によって、発売日当日に突如としてデスゲームへと変貌を遂げた。
彼は、全プレイヤーに対してこの様な仕様を述べたのだ。


―――ゲーム内でHPがゼロになった瞬間、プレイヤーが装着しているゲーム機『ナーヴギア』より高出力マイクロウェーブが照射され、脳を破壊する。


それが、茅場晶彦が仕掛けたデスゲームの仕掛けであり……今の状況は、まさに同じではないだろうか。
ログアウト不可能という状況もまた完全に一致しているだけに、可能性は高い。
つまり、今自身が着けさせられているものは、ナーヴギアか。
或いはそれに類するものではないだろうか。

127守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:24:21 ID:jXDKGyQQ0

(……でも、まだ分からない。
もしかしたら、死銃と同じ仕掛けかもしれないし……)

しかし、まだ他にも可能性がある以上、断定はしなかった。
シノン自身も大きく関わった、二つ目の可能性―――死銃事件の例があるからだ。
かつてGGO内で起きたその忌むべき事件は、まだ彼女にとっても記憶に新しい。


―――死銃<デス・ガン>と名乗るアバターに銃殺されたプレイヤーは、リアルでも死を遂げる。


それが死銃事件の概要なのだが……その真相は、単純明快且つ恐ろしいモノだった。
ゲーム内で死銃がプレイヤーキルを行うと同時に、もう一人の仲間が『リアルで』そのプレイヤーを殺害する。
そうする事で、あたかもアバターが超人的な殺人を行っていたと錯覚させていたのである。

閑話休題。
シノンが今考えている可能性は、まさにそれだった。
態々ナーヴギアの様な道具を使うことなく、HPがゼロになったプレイヤーに、榊かその仲間かが直接手を下す。
こういう形でも、真の死を与える事は可能だ。


(……どちらにせよ……私達の命は、あの男の手の中……)


よく小説などでは『心臓を鷲掴みにされる』という例えを見る事があるが、それはこういう感覚を言うのだろうか。
榊はいつでも自分を殺せる……その事実に、シノンは吐き気すら覚える程の圧迫感を受けていた。


(……嫌……!)


死にたくない、生きていたい。
いつの間にか酷く震えていた右手首を左手で強く掴み、シノンは目に見えぬその恐怖に強く耐えていた。
しかし、このゲームで生き残るには……他の誰かを殺す必要がある。
そうしなければ、自らの身がウィルスに蝕まれてしまうからだ。

勿論、シノンは人殺しなんてしたくなかた。
だが、それ以外には生存する為の方法が無い……やるしかないというのか。
結局は、あの榊の思い通りに動くしか道は無いというのか。

128守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:24:43 ID:jXDKGyQQ0

(……ふざけないでよ。
そんなの……誰が思い通りになるものか……!)


答えは否。
シノンの選んだ道は、ずばり反逆……榊の打倒であった。
このまま、あの男の思い通りになんかなってたまるか。
何を企んでいるかはしらないが、本当の命を賭けた殺し合いなんて、絶対に間違っている。
止めなければならない、いや、止めてみせる。
そんな強い想いを胸に、彼女は対主催のスタンスを決めたのだった。

しかし相手は、言わばゲームマスター……この仮想空間の主だ。
果たして、抗ったところでプレイヤーに過ぎない自分達に、勝ち目があるのだろうか?


(……普通に考えれば、システムに抗う事は出来ないかもしれない。
でも、私は知ってる……そのシステムを裏切って、奇跡を起こした二人を……!)


だが、彼女は希望を知っている。
それこそが、ソードアートオンラインをクリアした証……キリトとアスナが起こした奇跡だ。


アスナは、ゲームマスターである茅場晶彦が施した絶対麻痺を、キリトを守りたいという一心で解除した。
それは茅場にとって完全に想定外の事態であり、決定的だったキリトの死を覆した。


キリトは、HPがゼロになりながらも消滅せず、茅場晶彦の予想を超える最後の一撃を放った。
それもまた茅場にとって完全に想定外の事態であり、成す術も無く彼は刃に倒れる事となった。


二人は、絶対的な存在でもあるゲームマスターの思惑すらも超えた奇跡を起こし、無事にSAOをクリアに導いたのだ。
それこそが、絶望を打ち消すシノンの希望だった。
あの二人の様に、如何に辛い状況であろうとも、諦めなければ道はきっと見える。
奇跡を知るが故に、彼女はそう強く信じる事が出来た。
そして何より、あの二人は勿論、リーファやクライン、リズベットやシリカ、エギルといった面々がもしこの場にいたなら―――まさか内数名が、本当にいるとは思っても見なかったが―――、
この殺し合いを絶対に止めようとするに違いない。
ならばここで、自分が弱気になってどうする。
大切な仲間達の為、親友達の為に、この殺し合いを止めてみせよう。
相手が強大な存在であったとしても、所詮は同じ人であり、人が作ったシステムに過ぎない。
ならば、必ず倒せる筈だ……いや、倒してみせよう。

129守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:25:21 ID:jXDKGyQQ0

(そうと決まったら……ひとまずは、装備を確認しないとね)


そこまで考えて、シノンは己の支給品を確認する事にした。
殺し合いに乗るつもりは一切無いが、自衛の為に最低限の武器は必要だ。
出来る事なら狙撃銃の類、それも愛銃のヘカートⅡを引き当てられれば理想的と言える。
しかし、そう都合よくいけるとも限らない……この妙な世界観の舞台ならば、ALOで扱っていた弓矢が来るなんて展開もありえるだろう。
だが、この際それでもまだ当たりの方だ。
もしもここで刀剣の類でも引けば、シノンには到底扱いきれる代物じゃない。
せめて、何かしら使い慣れた装備が着てほしい。
そう願いつつ、ウィンドウを開いてみて……


(……よかった、一応外れは引かずにすんだみたい)


安堵のため息をついた。
幸いな事に彼女に支給された道具の一つは、GGOにおいて尤もポピュラーな武器―――ハンドガンだったのだ。
すぐにオブジェクト化させ、その手で握り締める。


(けどまぁ、私がこれを持つのも不思議な気分ね)


FN・ファイブセブン。
ベルギーのFN社が開発した実在する拳銃であり、GGOにおいてキリトが手にしたサブウェポン。
死銃との闘いで決定打となる一撃を与える事に成功した、シリカにとっては少々縁のある武器だ。
これは、GGOにはじめてログインした彼の為に自身が選んだ武器なのだが、今度は自分の手にそれがある。
グリップ越しに、頼もしさにも似た何かが伝わってくる……何とも不思議な気分だ。

130守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:25:44 ID:jXDKGyQQ0

(他には、何があるだろう)


ファイブセブン以外には何が支給されたのか。
その手の銃からウィンドウへと再び視線を戻し、リストを確認する。
するとそこには、彼女にとって全く見慣れぬあるアイテムが存在していた。


(バトルチップ……?
GGOでは見たことがないアイテムだけど……)


それは、バトルチップという名のアイテムだった。
近代的・近未来的な名称だが、少なくともGGOでは見かけない代物だ。
ALOでも勿論無いし、何か別のVRMMOで取り扱われているアイテムだろうか。
だとすれば、この世界はやはり無茶苦茶なごちゃ混ぜ空間という事になりそうだが……



――――――コツッ。




「っ!?」


不意に背後から聞こえてきたその音に、シノンは考えを中断させられた。
石畳の上を歩く、明らかな足音。
それも大きさからして、位置はそう離れてはいない。
何者かが近くにいる……接近しつつあるという事だ。
すかさずシノンは背後へと振り返り、同時に銃口を向けた。
もしもこれで、相手が殺し合いに乗っていない人物だったなら申し訳ないが、そうでないなら十分な牽制になる。
一体、近づいてきているのは誰か。
最大限の警戒心を発揮しつつ、前方に視界をやり……


「……え……?」


シノンは、我が目を疑った。

131守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:26:08 ID:jXDKGyQQ0
彼女の目の前に立っているのは、黒に近い深緑のスーツを身に纏い、同じく黒のサングラスで顔を隠す長身の男だった。
完全に黒尽くめというどこか不気味な服装ではあるが、そこはシノンも然程驚きはしなかった。
ブラッキーの異名まで持つ程に黒好きのキリトという、身近すぎる例があるからだろう。

では、彼女が何に驚かされたかと言うと、それはその男の表情にあった。
考えてもみてほしい。
殺し合いという非常識の舞台にいきなり呼び出された人間が、開始後間もなく銃口を突きつけられれば、どんな反応を見せるか。
普通は驚くなり慌てるなり、何かしらネガティブなそれを返す筈だ。

しかし、目の前の男は違った。
銃口を突きつけられた、この状況で……唇の端を上へと持ち上げている。


獲物を見つけた肉食獣かの様に、男―――エージェント・スミスは、シノンに対して笑みを浮かべていたのだ。




◇◆◇



(ここは……マトリックスの中なのか?)


エージェント・スミスとシノンの遭遇より、時計の針を少しばかり戻した頃。
それまで自身がマトリックス内で見てきたどの風景とも違う異質な街並みに、スミスは違和感を覚えていた。
己がこうしてこの姿で立っている以上、ここは間違いなくマトリックスの中の筈だ。
だが、この光景はどうだ?
まるでファンタジー映画の中からそのまま引っ張り出してきたかのような、どこか中世的な街並みは。
人間達に見させる「夢」はあくまで、平凡かつ平和な現実世界である筈……
ならばこんなものがマトリックスの中にあるとは到底思えないし、作る意味が無い。

だが、現実として自分は今、そこにいるのだ。

132守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:26:32 ID:jXDKGyQQ0

(……エグザイルどもの仕業か。
ならば、あの榊とかいう男も……)


考えられる可能性があるとすれば、エグザイル―――役目を終えてソースに戻り削除される事を拒んだ、マトリックスに留まり続ける不法プログラムによる、意図的な改変か。
実際、データ改竄する力を持つメロビンジアンや、モービル・アヴェニュー内でのみならば限定的に神に等しい力を発揮できるトレインマンという例がある。
つまり榊は、それに似た能力を発揮できるエグザイルか。
或いはその力を持った配下を持っているという事になる。


(……忌々しい真似をしてくれる……!)


スミスの苛立ちは、この上ないものだった。
後一歩で預言者―――オラクルを取り込み、無欠の存在として君臨する筈だった。
ネオを、アンダーソンを消し去れるだけの力を手に入れ、彼に奪われた全て―――即ち世界そのものを手に入れる筈だった。
だというのに、この現状は何だ?
気がつけばこの様な茶番劇の舞台に立たされ、一個の配役にされている。
あの榊という男は、あろう事か自身を駒として扱っているのだ。
当然、許せる筈が無い……許すつもりなど毛頭無い。


(いいだろう……殺し合いが望みなら、その通りにしてやる。
ただし殺すのは、貴様も含めた全てだ……!!)


故に、スミスの目的は唯一つ。
この殺し合いに勝ち残り、そして己の行く道を拒んだ榊すらも消しさる事だ。
どんな有象無象が参加しているかはしらないが、所詮敵では……

133守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:27:00 ID:jXDKGyQQ0
(……待て……)


そこまで考えて、スミスは思い出した。
榊が説明を行ったあの広場で、とある一人の男を目撃した事を。
それは彼にとって、決して他人とは言い難い相手……モーフィアスだった。


「ッ…………!!」


直後、彼はすぐさまある可能性に気付いた。
自分だけではなく、あのモーフィアスまでこの場に呼び出されていた。
ならば……当然あの男がいてもおかしくはない。
あの目覚めの時以来、モーフィアスの傍らには常に彼がいたのだから。
絶対に……彼もまた、存在している筈だ。


「……フハハハハッ!
 そうか……榊だったな。
 貴様の事は気に喰わんが、一つだけ感謝してやるぞ!
 よくぞ、彼を……アンダーソン君を招いてくれた!!」


忌むべき救世主―――ネオもまた、この世界にいる。
スミスは高らかに笑みを浮かべると同時に、榊へと感謝の意を述べた。
それは確たる証拠がない、スミスの推論でしかない。
しかし彼には、不思議と確証があった。
ネオは自身と同じく、この殺し合いに参加していると。
己がこうして立っているならば、ネオもまたいて当然であると。


「フッ……面白いじゃないか……」


こうなると、話は別だ。
確かに榊は気にくわないし、未だその身を八つ裂きにしてやりたい程に憎悪はある。
だが、ネオと殺し合う舞台を用意してくれた事だけは、感謝している。
それが己にとって、何よりもの望みに他ならないからだ。

やがてスミスは、獰猛な笑みを浮かべたまま歩みを始める。
ネオを探しだし、この手で復讐を遂げる為に。
もしもそれまでの間に、他の参加者に出会ったならば、その時は速やかに撃退。

134守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:27:25 ID:jXDKGyQQ0


そして……目的を果たす為に、新たな『己自身』に変えるだけだ。

全ては、忌まわしき救世主を殺す為に。



◇◆◇




かくして今、両者は出会った。
シノンにとっては、最悪といってもいい強敵として。
スミスにとっては、都合のいい獲物として。

二人は、互いに真正面の相手へと鋭い視線を向けあっていた。


「……はじめまして、お嬢さん。
 顔色がすぐれない様だが、私の顔に何かついているかね?」


先に均衡を破ったのはスミス。
彼は、銃口を突き付けられているにも関わらず笑っている自身に驚愕する目の前の少女へと、わざとらしく問い掛けた。
それが相手の恐怖心を煽る行動だと、分かっているからだ。


「……ええ、そうね。
 『私はこの殺し合いに喜んで参加します』って、書かれているわよ?」


対するシノンは、その意図を読んだのだろうか、すぐに表情を切り替えクールに返答をした。
尤もそれは表面だけで、内心ではとてもじゃないが穏やかな気分ではいられなかった。
何故なら、彼女には予感があった……直感していたからだ。

135守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:28:00 ID:jXDKGyQQ0

(こいつ……かなり、やばい……!!)


そうでなければ、銃口を突き付けられてあんなにも余裕を保てる訳が無い。
シノンは、かつて死銃と対峙した時と同じ……否、それ以上のプレッシャーを全身で感じていた。
目の前の男は、とてつもなく危険な存在だ。
一瞬でも気を抜けば……命が危ない。


「それはそれは……御忠告ありがとう。
 貴重な意見だ、今後の参考にさせてもらうよ」

「……今後、ね……それは何の今後なのかしら?」


銃口は男の脳天へと正確に向けられ、トリガ―は発射寸前まで引き絞られている。
本当に僅かな力が加わるだけで、銃弾は即座に発射される状態だ。
しかし尚も、スミスの表情は崩れず。

そして……遂に彼の口から、この硬直状態を打ち破る一言が放たれた。


「決まっているとも……君を殺した後の事、だよ」



――――――バァンッ!!



その一言が発せられると同時に、マズルフラッシュが深夜のマク・アヌを照らした。

136守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:28:28 ID:jXDKGyQQ0
同時に放たれた弾丸は、寸分の狂いも無くスミスの脳天目掛けて突き進む。
二人の距離は、僅か十数メートル程度しか離れていない。
如何に武器がハンドガンとはいえど、スナイパーとして数キロメートル先の相手を幾度となく討ち抜いてきたシノンにとって、外す事などありえない距離だった。


「え……!?」


しかし……弾丸が撃ち抜いたのは、虚空だった。
つい一秒前までそこにいた筈の標的の姿が、突如として消え失せていたのだ。


「成る程、腕は悪くない様だが……私には当たらんよ」


だが、シノンが真に驚愕したのはその後だった。
消え失せたスミスの声が、いきなり至近距離……自らの足元より聞こえてきたのだ。
咄嗟に彼女は目線を下に落とすと、そこには案の定、消えた標的がいた。
そして同時に、その姿が彼女へと全てを悟らせた。
スミスが余裕の表情を取っていた理由が、はっきりと分かってしまった。


(そんな……弾丸を避けて、一瞬の内にここまで……!?)


スミスは、弾丸が放たれると同時に前傾姿勢を取って弾丸を回避。
そのまま、とてつもないスピードでシノンに急接近したのだ。
実にシンプルで分かりやすい、そしてありえない回避法だ。
幾らAGI極振りのステータスにしたとしても……ここまで視認出来ない程のスピードが出せるなんて、普通じゃありえない。

137守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:29:01 ID:jXDKGyQQ0



――――――ドゴッ。



「カハッ……!?」


直後、シノンの腹部に強烈な衝撃が加えられた。
スミスの正拳が、彼女を捉えたのだ。
そしてそれは、到底拳とは思えぬほどの威力だった。
まるで、大型の車にでも追突されたんじゃないかと思える程に重々しいのだ。



――――――バゴォンッ!!



そして実際に交通事故にあったかの如く、シノンの体は派手に吹っ飛ばされていた。
四十メートルは離れているだろう民家の壁に激突し、その身は半ば埋もれる形になっている。
全身を襲う痛みもまた、半端な代物ではない。



(……ペイン・アブソーバが……効いてない……)


その痛みは、通常のVRMMOじゃありえないものだった。
痛覚が、現実世界とまるで変わらない……ペイン・アブソーバが効いていないという事だ。
おかげで今、シノンの体には相当の激痛が走っている。

138守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:29:30 ID:jXDKGyQQ0

(……いや、それよりも……!)


しかし、今はその痛みすらもどうでもよくなる程に、恐ろしい事があった。
それはスミスの攻撃力だ。
自身のHPバーに視線を移してみると、既に五割近くが奪われているではないか。
ただの拳一つで、ここまでのダメージを与えられたのだ。


「ふむ……一撃で仕留めるつもりだったのだがね。
 人間風情にしては、大したものだ」


それでも、スミスにとっては納得のいく一撃ではなかった。
彼はこの一撃だけで、シノンを絶命させるつもりだったのだ。
それが出来なかったのは、一重に彼女のステータスの高さが理由だった。
如何にAGI型で防御力が低いとは言え、シノンはGGOじゃトップクラスの実力を誇るプレイヤーだ。
当然アバターのレベルも相応に高く、おかげでスミスの一撃でも即死には至らないぐらいの耐久力はあった。


「……化け物……」


尤もそんなシノンにとっても、スミスは遥かに規格外の存在だった。
圧倒的な攻撃力とスピード、判断能力を兼ね揃えた魔人。
プレイヤーは勿論ボスモンスターでも、ここまで出鱈目な相手はまずいない。
化け物と称する他に、上手い呼び方が思いつかないぐらいだ。


(兎に角、接近されるわけにはいかない……!!)


シノンは痛みに耐えて腕を動かし、再びトリガーを引いた。
放たれた弾丸の総数は、実に十発。
回避行動を取られてもカバーが出来る様、広範囲にばらまく形での乱射だ。

139守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:29:51 ID:jXDKGyQQ0

「甘いよ、お嬢さん」


だが、スミスはまたしても驚くべき行動でそれを回避してきた。
彼は石畳に拳を叩きつけ、空へと派手にまき散らしながら粉砕したのだ。
銃弾はその粉塵の防壁に阻まれ、同じく空へと放り出される。
ただの一発も、彼の身に届く事は無かった。


(……攻撃が、まるで通じない……)


少なくとも、ファイブセブンではこの相手は倒せない。
非常に残酷な事実だが、そう認識する他なかった。
もしこの場にへカートがあれば、まだ十分に闘えるかもしれないのだが……
せめてそこまではいかずとも、何か、現状を打開できる武器が欲しい。
目の前の相手に通ずる武器が……そうでなければ、このままだと成すすべなく殺されるだけだ。


(……待って。
 そういえば、さっき……!)


そこまで考えて、シノンはあるアイテムの事を思い出した。
つい先程、名称だけを確認した謎の支給品……バトルチップ。
あれがどんな代物かは分からないが、少なくとも『バトル』という単語を用いられている以上、戦闘用という事だけは確かだ。
ならばここは、賭けるしかない。
何もしないでやられるぐらいなら、一か八か……この未知のアイテムを使ってみる他ない。


(奴が近づいてくる前に……早く……!!)


すぐさまウィンドウを出現させ、アイテムの項目へと指を動かす。

140守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:30:35 ID:jXDKGyQQ0
同時に、スミスが動いた。
シノンが何かをすると察して、早急に片を着けるべく接近してきたのだ。
凄まじい勢いで、両者の距離が迫る。


(アイテム……バトルチップ……!)


項目に触れると同時に、アイテムを使用するか否かのウィンドウが出現する。
目の前には、既にスミスがそこまで迫って来ている。
コンマ一秒でも遅れれば、死は免れない。
兎に角、僅かでもいいから早く。
シノンはこれ以上無いというスピードで、アイテム使用の項目に指を伸ばし……力強く、押した。

その、直後。


「む……!?」


シノンからやや離れた前方。
スミスのまさに目の前に、鈍い銀の光沢を放つ巨大な多面体が出現したのだ。
自身の突進を防ぐ為の、苦し紛れの防壁といったところか。


「……フッ……ささやかな抵抗というところか。
 少々、驚かされはしたが……!」


こんな金属の塊など、己の前では障害にすらならない。
この程度で自身を止めようとは、舐められたものだ。
そう嘲笑すると、スミスは勢いを一切落とす事無く、目の前の多面体目掛けて拳を突き出し……

141守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:31:10 ID:jXDKGyQQ0





直後。
その肉体は、凄まじい衝撃と共に遥か後方へと吹っ飛ばされた。





◇◆◇


「……何とか、なったみたいね……」


シノンは賭けに成功した事に、安堵のため息をついた。
彼女に支給されたバトルチップの名は、プリズム。
その効果は、使用者の前方へと巨大な一つの多面体―――プリズムを召喚するというもの。
そして、召喚されたプリズムの特性は……与えられたダメージを、全方位へと『反射』する事である。
そんな物を全力でぶん殴れば、どうなるかは説明するまでもない。
スミスは、自身の拳の威力をそのまま跳ね返される形になったのだ。


(……あれで……あの男が、死んだかもしれない……)


しかし安堵も束の間、シノンは急激に胸を締め付けられる感覚を覚えた。
無我夢中だったが故に、考える余裕が無かったが……あの男を倒したかもしれないという事は。
言いかえれば、人を殺したかもしれないという事なのだ。

142守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:31:44 ID:jXDKGyQQ0
そう……かつて、母親を守る為に強盗を射殺してしまった、あの時の様に。
それは未だにシノンの心を苦しめる、消える事が無い一生の傷跡だ。
あの時と同じ罪を、またも犯してしまったのではないか。


(……それでも……それでも、後悔はしない……!)


それでも、シノンは己の行動を後悔しなかった。
かつての自身ならば、罪悪感に押し潰されどうしようもなくなっていただろう。
だが……今の彼女は違う。


――――――おねえさん、おかあさんをたすけてくれて、ありがとう。


あの日、自身は確かに罪を犯したが……それを許してくれた、自身のおかげで救われたと言ってくれた、優しい親子と出会えた。
その親子と引き合わせてくれ、自らの罪を知った上でなお、友達になってくれた者達がいる。
自身を救ってくれた……大切な者達がいるのだ。
もしもあの男を放っておいたなら、そんな優しい心の持ち主達でさえ淘汰されかねなかった。
命を奪ったというその罪は、当然一生のものとして背負わなければならない。
それが分かっている上で……シノンは、選択したのだ。
守る為に、戦う事を。



「……ひとまず、ここから離れないとね」


とりあえずは、この場から離脱する事が最優先だ。
あの男を殺したかもしれない、とは思ったものの……あれだけ規格外の相手だけに、生きている可能性は十分ある。
ならば、今の装備で勝つ事はどう足掻いても不可能だ。
ファイブセブンでは火力も弾速も、あの男を相手どるには役者不足。
プリズムはどうやら一定時間が立たなければ再使用は出来ないようだし、そもそも使えたところでもう一度同じ手が通用するとは思えない。
あの男は絶対に倒さなければならない相手だが、勝ち目も無しに挑むのは論外だ。

よってここは、今の内に引くしかない。


(……装備を整えて、仲間を集めないと。
あの男を倒す為……そして、この殺し合いを止める為には……)

143守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:32:11 ID:jXDKGyQQ0

【E−3/マク・アヌ/1日目・深夜】
※シノンとスミスとの戦闘により、街の一部が大きく破壊されています。

【シノン@ソードアートオンライン】
[ステータス]:HP50%弱、疲労(大)
[装備]:FN・ファイブセブン(弾数9/20)@ソードアートオンライン、5.7mm弾×100@現実
[アイテム]:基本支給品一式、プリズム@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:この殺し合いを止める。
1:男が復活する前に、この場から一度離れる。
2:殺し合いを止める為に、仲間と装備を集める。
[備考]
※参戦時期は原作9巻、ダイニー・カフェでキリトとアスナの二人と会話をした直後です。
※このゲームには、ペイン・アブソーバが効いていない事を身を以て知りました。
※エージェントスミスと交戦しましたが、名前は知りません。
 彼の事を、規格外の化け物みたいな存在として認識しています。
※プリズムのバトルチップは、一定時間使用不可能です。
 いつ使用可能になるかは、次の書き手さんにお任せします。


【FN・ファイブセブン@ソードアートオンライン】
ベルギーのFN社が開発した、実在する自動拳銃。
その名称は5.7mm弾を使用することに由来しており、拳銃としては破格の二十という装填弾数を誇っている。
優れた貫通力を持ち、人体に対しては高い破壊力を持っている。
GGOにおいてはキリトのサイドアームとして扱われていた。

【プリズム@ロックマンエグゼ3】
自分の前方3マス前に、巨大なプリズムを召喚する。
このプリズムに攻撃が当たると、周囲八方向に反射され、ダメージを与える。
特定のチップと組み合わせて使用した場合、とてつもない破壊力を生みだす事も可能となっている。

144守る為に戦う者、奪う為に戦う者 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:32:30 ID:jXDKGyQQ0




◇◆◇



「……チッ……人間如きに、してやられるとは……!」


激突の衝撃により、壁が崩壊した民家の中。
横たわっていたエージェントスミスは、立ち上がると同時に、忌々しげにシノンに対する苦言を吐いた。
彼女の予想通り、スミスは生きていた。
無論ダメージは受けているものの、そこはやはり規格外のエージェント。
彼自身の全力を与えてもなお、倒しきるには至らなかった様だ。


(私に手傷を負わせた代償は大きいぞ……覚悟は、出来ているんだろうな……?)


ネオを打ち倒す。
スミスは、そのドス黒い執念だけでシステムに抗い、エグザイルとしてマトリックスに留まり続けた存在だ。
言わば負の感情こそが、彼の原動力……エネルギーと言っても過言ではないだろう。
そして、今……彼の胸中には、それまでよりも更に強大な負の感情が渦巻いている。


全ては、復讐という目的を果たす……その為に。



【F−2/マク・アヌ/1日目・深夜】

【エージェント・スミス@マトリックス】
[ステータス]:ダメージ(中)
[装備]:無し
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜3
[思考]
基本:ネオをこの手で殺す。
1:殺し合いに優勝し、榊をも殺す。
2:シノンは出来れば、ネオに次いで優先して始末したい。
[備考]
※参戦時期はレボリューションの、セラスとサティーを吸収する直前になります。
※ネオがこの殺し合いに参加していると、直感で感じています。
※榊は、エグザイルの一人ではないかと考えています。
※このゲームの舞台が、榊か或いはその配下のエグザイルによって、マトリックス内に作られたものであると推測しています。

145 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/18(金) 02:33:29 ID:jXDKGyQQ0
以上、投下終了です。

シノンさん、インフィニティモーメントへの参加決定、おめでとうございます。

146名無しさん:2013/01/18(金) 02:38:54 ID:JypN5L8M0
投下乙だ、アンダーソン君

147名無しさん:2013/01/18(金) 08:15:43 ID:sdiWkZn.0
投下乙です
スミスの独特の台詞回しはやっぱ面白い
しかも参戦時期が戦闘力的にピークかもしれないとは
それとプリズム……3だから伝説のプリズムバグは再現できない……よね?

148名無しさん:2013/01/18(金) 13:16:38 ID:/NTK1HokO
投下乙です。

3じゃプリコンは仕様段階で不可能になっているけど、高威力の攻撃を連射すれば擬似的な再現は?

149名無しさん:2013/01/18(金) 13:46:13 ID:pDV4ZTg6O
投下乙です。

スミスの乗っ取り分身は、フォルテのGAPみたいに相手を倒すと可能ですか?

150名無しさん:2013/01/18(金) 14:17:43 ID:DkemBKbM0
乙です

スミス、わかっちゃいたがかなりやばい強さだなぁ……
銃弾は避けるわ、民家は派手に破壊するわw
シノンもSAO組じゃ上位に入る実力者なんだが、これは相手が悪すぎる。
ネオとスミスはある意味、飛び道具使いの天敵みたいなもんだしな。

あと同じく、インフィニティモーメント参戦決定おめでとうございます、シノンさん

>>149
乗っ取りは、相手が瀕死の場合しか使えないって制限になってたはず。

151名無しさん:2013/01/18(金) 15:47:43 ID:hs.dAXmo0
やっぱ銃弾回避したりコンクリもぶち抜くパンチかましたりスミスはかっこいいね
マトリックス勢は徒手空拳での戦闘力ならトップクラスじゃない?

152名無しさん:2013/01/18(金) 20:34:53 ID:Xs/FjAikO
軍勢スミスの悪夢は取り敢えずはないか。
でも倒したと思ったらコピーも十分過ぎるチートだよな。

153名無しさん:2013/01/18(金) 20:44:21 ID:B0zQIz2.0
スミスさん、アンダーソン君好きすぎるだろwww
相対したシノンも、何とか生き残れてよかった
マトリックスの住人の強キャラって、どいつもこいつも銃弾をものともしないから、
相性の上では最悪だったというのに…

あ、シノンさんインフィニティモーメントへの参加、おめでとうございます

154名無しさん:2013/01/18(金) 21:11:45 ID:wa5/SW5E0
投下乙です

マトリックスとか懐かしいなあw
スミスさんの言い回しもらしい
シノンさんは何とか生き残れたけどスミスさんはしつこいぞ

155 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/18(金) 21:33:04 ID:mXgecyro0
投下乙でした
相も変わらずスミスさんつええw
…しかしプリズムとは…3にはフォレストボムが無いからあのコンボは発動される心配はない、かな?

あ、予約スレでピンク予約したんですが、一つ質問
ピンクはリアルで特殊能力(感覚強化。これを利用した未来予測も可能)持ってますが、これは本ロワ中では使えますか?
「ずっと未来予測して生活してる」と本編で発言してるので、ゲームでも能力を使ってると思うんですが…

156名無しさん:2013/01/18(金) 21:35:20 ID:hs.dAXmo0
モンハンやってた時も使ってた臭いしいいんじゃね?

157名無しさん:2013/01/18(金) 22:41:21 ID:/NTK1HokO
>>155
お約束として制限は入るだろうけど能力自体はキャラの個性だし残るんじゃないかな?

158 ◆QAmDWCgreg:2013/01/19(土) 02:54:57 ID:HR/5CkqI0
投下します。

159負けない愛がきっとある ◆QAmDWCgreg:2013/01/19(土) 02:55:52 ID:HR/5CkqI0
俺は確かに「死の恐怖」だった。
三爪痕(トライエッジ)に、志乃を意識不明にしたPKに復讐する為、力を追い求め、仲間を拒絶して、たった一人で戦い続けた。
何も考えずひたすらPKKとして死を振りまいた結果、何時の間にか二つ名が付いていた。
それが「死の恐怖」
それは俺が得た力の証であり、そして同時に俺が何も見ていなかった証拠でもあった。

『さて、やる気が出たかね、諸君。特に『死の恐怖』のハセヲ君。君には期待しているぞ。
 好きだろう? 得意だろうPKは? PK100人斬りを成し遂げた君ならバトルロワイアルでもいい結果を残せるだろう』

今しがた榊が言った言葉が蘇る。
榊。何故アイツがここに居やがる。
アイツとはもう二度戦い、そして決着を付けた筈だ。
一度目はギルド「月の樹」のクーデター。その首謀者だった榊と、操られ憑神を暴走させたアトリを相手に戦うことになった。
二度目はPKトーナメント。AIDAに感染し、その力を利用して知識の蛇を乗っ取った榊が再び仕掛けてきた。
アイツはそこで倒れた筈だった。
にも関わらず、榊はああして生きながらえ、そして再びこんなイベントの進行役となっている。
VRバトルロワイアル、と榊は言った。そのルールはPKトーナメントを更に危険にしたもののようだ。
単独でこんなことを為しえるとは思えない。裏に誰か――オーヴァンのような黒幕が居る可能性が高い。

「…………」
そして、もう一つ気になる点があった。
俺は己の身体を見下ろした。黒い、刺々しい鎧が目に入る。
錬装士(マルチウェポン)3rdフォーム。The World R:2、その仮想世界において俺の分身であるPCだ。
身体に触れてみると、確かに感触があった。それだけじゃない。剥き出しの肌に触れ軽く抓ってみる。痛みもあった。
まるで本物の肉体のように。
いくらM2Dを介そうが触覚までは再現できない。それは考えるまでもなく当たり前のことの筈だ。その常識が破られている。
そして一方、存在する筈のリアルの肉体は「どこ」にいるのか分からない。その感覚には覚えがあった。

「AIDAサーバー……あそこに囚われた時と一緒だ」
The Worldのシステム上存在しないはずのバグシステム、AIDA。
アレは明らかに人間に興味をもっていて、時には異常な力を発生させ人間を観察するような真似をした。
その一つがAIDAサーバー。AIDAが疑似に作ったThe Worldのミラーサーバーであり、その時ログインしていた全てのプレイヤーが囚われたことがあった。
俺もその一人であり、実時間にして数分でしかなかったとはいえ、驚異的な体験だった。
それと似た感覚がある場所。この場もまたAIDAサーバーなのか?
だとすれば危険だ。AIDAサーバーは人の感情を増幅する。碑文使いでない一般PCはより攻撃的になり、争いは加速するだろう。

「……考えても答えは出ないな」
とにかく行動をしなくてはならない。
俺はメニューを開き、幾つかの項目をチェックする。

「ん?」
アイテム欄の中に奇妙なものがあった。
【ハセヲ君へ】と記されたテキストデータだ。
開いてみると、そこには

『to ハセヲ from 榊

 親愛なるハセヲ君へ。
 開幕の場でも言ったが、君には私も期待している。
 そんな君のモチベーションを上げるべく、特別にある事実を教えよう。
 【揺光】【志乃】
 君と縁が深いこの二人は今この場に来ている』

160負けない愛がきっとある ◆QAmDWCgreg:2013/01/19(土) 02:56:37 ID:HR/5CkqI0

「なっ……!?」
その文面に俺は声を失った。
揺光。最初は嫌われていたが、打ち解けて以来はアリーナで共に戦い、時には二人でレベル上げなんかもやった赤い髪の双剣士。
志乃。The Worldにログインしたてだった俺に色々なことを教えてくれ、黄昏の旅団を切り盛りしていたギルドのサブリーダー。
だが二人とも――意識不明者になってしまった。AIDAの力によりPKされ、現実世界での意識を失った。
俺は守れなかった。近くまで駆けつけていながら、俺ができたのはアイツらが消える瞬間を見ることだけだ。

「アイツらが……ここにいる?」
俄かには信じられなかった。俺は急いで文面の続きをスクロールする。

『フハハ、君の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
 早く彼女たちに会いたいだろう? 
 そこでハセヲ君。君に私からご褒美を用意してあげよう。
 五人だ。
 この場で五人PKすることができたら彼女らの居場所を教えてあげよう。
 何、君なら簡単なことだろう? 伝説のPKK「死の恐怖」である君なら。
 五人くらいあっという間にPKできるだろう』

榊の悪趣味な言葉が目に入る。
クソッ、と俺は思わず悪態を吐く。
この言葉を嘘だと切り捨てるのは簡単だ。奴を信じるなんてどうかしてやがる。
それでも、自分が僅かながらに希望を感じてしまったことに気付き、俺は苛立った。

「俺は……」
かつての俺ならもしかしたら飛びついていたかもしれない。
誰も言うことも聞かず、がむしゃらに失ったものを取り戻そうと奔走していた頃の自分なら、あるいは榊の甘言に乗せられていたかもしれない。
荒んだ心の苦しみと欠落を、目につくもの全てを壊すことで埋めようとして。
でも、それじゃあ駄目なんだ。もう俺は気付いた。
フィロが遺した言葉、タビ―の決意、シラバスやガスパーとの絆、G.U.のメンバーと肩を並べて戦った記憶。
それらに触れて気付いた。かつての俺は、死の恐怖だった俺は、ただ向こう見ずで自暴自棄になっていただけだと。

「俺は、もう戻らない。『死の恐怖』には」
だから榊。お前の思い通りにはさせない。
それが、俺の決意だった。

俺がそう表明し、榊のメールを消去したときだった。
不意に、それはやってきた。

「お兄ちゃぁぁぁん!」

遠くから声が掛けられた。それも舌足らずの甘ったるい感じの声色だ。
振り向くと、そこに居たのは、

「怖いの。助けて! お兄ちゃん」
「……は?」

目を潤ませこちらを見つめる、年端もいかない少女の姿だった。





161負けない愛がきっとある ◆QAmDWCgreg:2013/01/19(土) 02:57:18 ID:HR/5CkqI0



その少女はサイトウトモコです、と名乗った。
ハセヲは彼女と共に近くのベンチに腰掛け、何ともいえない困った表情で話を聞いている。

「私、突然こんなことに巻き込まれてしまって、ネットにもそんなに強くないし……もうどうしたらいいか」
「ああ、そう……」
「怖くて怖くて、そんなときにお兄ちゃんに会ったんです。
 ハセヲお兄ちゃん、お願いします。私を守ってくれませんか?」

ハセヲは少女の恰好を見た。
王子様のような格好に包んだ幼い少女。赤みを帯びた髪はツインテイルになっており、上目使いにこちらを見るその姿は確かに可愛らしい。
それに子供らしい言動が合わさり、こちらの庇護欲をかき立てるような風体にはなっている。
話を聞くに確かに哀れだし、守るべきなのはハセヲも理解できる。
だがハセヲはどうにも本気になれなかった。

(何というか……あざとい)

そんな印象をどうしても持ってしまうのだった。
彼女の言動が、容姿が、表情が、どうにも本物だと信じることができない。
我ながらスレていると思うが、殺伐とした雰囲気のThe World R:2を廃プレイしてきた身としては、彼女の話を額面通りに受け取ることはできなかった。
下手したらコイツのリアルは40代のおっさんなんじゃないかとさえ勘ぐってしまう。

(そもそも俺に助けを求める時点でな……)

現在の自分の姿――3rdフォームの黒く刺々しい姿は結構威圧感がある。
あり大抵にいえば、悪役っぽい。
それを見て子供が助けを求めようとするだろうか。寧ろ怖がるのが自然ではないか。

「いけませんか……?」
「いや、いけなくはないんだが」

が、目を潤ませる彼女を見ていると、無下にするのも罪悪感が沸く。
それにこんな状況で助けを求める他人を置いていく訳にはいかないだろう。

(まぁ、朔望みたいな奴も居たしな。本当に子供がプレイしてる可能性もあるか)

「あー、分かった。一緒に来い」
「本当ですか! ありがとうございます、ハセヲお兄ちゃん!」
「…………」

従順に頭を下げる少女を見て、ハセヲは思った。

(この場を志乃や揺光に見られたらロリコンだと思われそうだ……)

と。
実際、前にクーンが似たような目に遭ったことがあったので、あまり笑えない話だった。





162負けない愛がきっとある ◆QAmDWCgreg:2013/01/19(土) 02:58:14 ID:HR/5CkqI0

(ふぅ……、何とか取り入ることに成功したか)

ハセヲにニコニコと笑みを向けながら、サイトウトモコことスカーレット・レインは胸中で呟いた。
言うまでもなく、サイトウトモコは偽名である。ハルユキに《ソーシャル・エンジニアリング》を仕掛けた時に使ったものをそのまま流用させてもらった。
彼女の本名は上月由仁子。バーストリンカーであり、7大レギオンの一つであり《赤》を司る《プロミネンス》のレギオンマスター。
人呼んで赤の王、である。

(少し危険な賭けだったが、その分見返りは大きそうだな)

ユニコはハセヲを見かけた時、どう行動するべきか悩んだ。
何やら悩む素振りを見せる凶悪な外見をしたアバター。外見だけで判断するなら間違いなく危険人物だ。
しかもどうやら開幕の場で主催者に因縁を付けられていた相手。その言葉を信じるなら「PK百人斬りを為しえた有名プレイヤー」らしい。
先制攻撃を仕掛け撃滅するというのも考えたが、流石にそれはアグレッシブ過ぎると思い直し、結局ある作戦を仕掛けることにした。

(ハニートラップ……には流石にならねえだろうけど、ま、とにかく情報を絞り取らせてもらおうか)

無力な子供として接触し、彼のスタンスを確かめた後、可能なら行動を共にする。
そうすることの理由としては、やはり主催者に因縁を付けられていたというのが大きい。
あのやり取りから推し量るに、ハセヲはあの侍とは敵対関係にあるらしい。ならば開幕の場での煽り文句も信用できるとは思えない。
また彼の素性は分からないにしても、とにかく主催者の情報を持っていることは確かだ。
今後どう行動するかは分からないが、そういった類の情報を持っていて損はない。そう判断したが故だった。

とはいえ危険な賭けであったのも事実だ。
ハセヲが本当に危険人物であるという可能性は勿論、バーストリンカーである彼女にとってはまた別の危険もあったのだ。
ユニコは今デュエルアバターではない通常アバターを使用していた。
その外見は生身の人間に近いもので、更にいえばリアルの外見に酷似している。
今後デュエルアバターを使うようなことがあれば、その時はリアル割れのリスクが出てくるのだ。
それはバーストリンカーとしてかなり危険なことだ。こんな状況下でもそれは避けたかった。

しかし結果として、計画はどうやら成功したようだ。

(完全には信用されてないみたいだけどな。まぁあのシルバー・クロウでさえ気付いたんだから当然といえば当然か)

自分が演じたキャラを思い出し、ユニコは内心苦笑する。
あざとすぎる言動。「妹」を意識したそれは流石に露骨だったのか、ハセヲもいぶかしげな表情でこちらを見ていた。

(しっかし、ここはどんな空間なのかね。デュエルアバターは普通に使えるみてえだし、そこら辺も調べる必要がありそうだな)

ユニコはそんな胸中を億尾にも出さず、ハセヲと共に歩く。
彼女はスカーレット・レイン。王として長く加速世界に身を置いた結果、既にその精神は身体の年齢を遥かに追い越してしまっている。

「そういえば……えーとトモコ」
「何ですか? ハセヲお兄ちゃん」
「お前、何か武器持ってないか。双剣か大剣、鎌でもいい」
「武器ですかー?」

そういえば何かあったな。そう思いユニコはメニューを開き、アイテム欄からその武器を取り出した。
種類は双剣とあった。ハセヲのいう条件にも合致する。どうせ自分には無用の長物なので渡すことに何ら未練はない。

「これは……」

そうして渡した武器を見ると、ハセヲは何やら言葉を失った。

「要らないものでしたか……?」
「いや、そうじゃない」

そういって彼は何やら感慨深い様子でその双剣を見つめた。
事情は分からないが、彼にとって何か曰くあるものだということはユニコにも分かった。

それを装備したハセヲは、二三度それを振るう。
ひゅんひゅん。空を切る音が響いた。
使い勝手を確かめた彼は、それを終えるとユニコに向かって言った。

163負けない愛がきっとある ◆QAmDWCgreg:2013/01/19(土) 02:58:49 ID:HR/5CkqI0
「その、ありがとな」

その双剣の名は【光式・忍冬】
志乃、そして揺光と共に冒険した結果、彼が都合二度手にすることになった双剣である。
忍冬(すいかずら)。
その花言葉は「愛の絆」


【A-2/日本エリア/1日目・深夜】

【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康/3rdフォーム
[装備]:光式・忍冬@.hack//G.U.
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない
1:この場にいるらしい志乃と揺光を探す
2:トモコとかいう少女? を守る
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前


【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド】
[ステータス]:健康/通常アバター
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:情報収集
1:一先ず猫被ってハセヲに着いていく。
[備考]
※通常アバターの外見はアニメ版のもの
(昔話の王子様に似た格好をしたリアルの上月由仁子)

164 ◆QAmDWCgreg:2013/01/19(土) 02:59:25 ID:HR/5CkqI0
投下終了です

165名無しさん:2013/01/19(土) 16:06:53 ID:ZwIWfwv.0
投下乙
何気にロワ初の対主催コンビか

166名無しさん:2013/01/19(土) 16:33:21 ID:mMpIZa4Y0
投下乙

赤の王あざとい。マジであざといw
顔芸タイムお待ちしております

ハセヲ、vol3のPKトーナメント戦後、オーヴァン戦前ということは、八咫撃破前なのか後なのか
それによっては再誕フラグもあるしなー
武器で忍冬が来るのはうまいなぁ

167名無しさん:2013/01/19(土) 16:58:48 ID:5MXhX6zU0
>忍冬(すいかずら)。
>その花言葉は「愛の絆」

ハセヲ「まったく小学生は最高だぜ!」
になる可能性が微レ存…?

168名無しさん:2013/01/19(土) 23:50:11 ID:pryNKgdk0
ハセヲさんは原作の時点でショタだろうとおっさんだろうとホモだろうとAIだろうと結婚の申し込みしちゃう人だから……

169名無しさん:2013/01/20(日) 00:09:54 ID:5Kurwv0cO
>>168
なんだ、普通に守備範囲じゃないかw

170 ◆iuymQhjKvg:2013/01/20(日) 00:17:18 ID:8e/7J7o.0
投下します

171 ◆iuymQhjKvg:2013/01/20(日) 00:18:38 ID:8e/7J7o.0


ジローさん……ごめんなさい。
私、いろいろうまくいかなくってちょっと弱気になってたんです。

『……うん。俺だって、小学生の頃から去年までずっと野球をやってたし、全力で頑張ってた。
だけど結局は甲子園に行けなかったし、プロになる実力もなかった。
やっとのことで就職した会社も倒産しちゃうしね。』

……。

『でも、後悔はしてない。確かに結果が出ないと意味が無い。
でも、頑張らない限り、絶対に良い結果は得られないよ。
だからレン、これからも俺と一緒に頑張っていこう』

ジローさん……ジローさんだって私と同じ気持ちを抱えてたんですね……。
やっぱりジローさんには叶わないです。
いつもこうやって助けてもらってばっかりで……。
私はなんの助けにもなってなくて……

『いや、俺だっていつもレンに助けてもらってるよ』

えっ、本当にですか?

『レンがこうやって側にいてくれるだけで俺は頑張れる。
もう俺には、レンがいない生活なんて、考えられないよ』

……。

『それに野球ゲームでだって、レンは主力で活躍してくれてるしね』

ジローさん……。
わかりました、私も頑張ります。
だからこれからも、ずっとずっと一緒にいて下さいね?

『もちろんだよ!』


(レンがチームに復帰しました!)


不眠症が治った!
やる気が1上がった!
レンの好感度が2上がった!
こころが5上がった!
信用度が1上がった!
体力が1上がった!
『剛球』が身に付いた!

172それいけレンちゃんカガクの子 ◆iuymQhjKvg:2013/01/20(日) 00:20:44 ID:8e/7J7o.0





気付いた時には彼女――浅井レンは一人だった。

気が付くと奇妙な、広い空間に立っていた。
空に月や雲はなく、代わりに灰色のノイズが走り、大地のあるべき場所も赤と黒の、不気味なパネルに埋め尽くされている。
これを奇妙と言わずどう表現し得ようか?

「ジローさん……」

アイテム画面を開き、MAPから現在位置を確認すると、ここは『ウラインターネット』というエリアだということが分かる。
犯罪者や無法者が集まり、強力なウィルスが出現する危険エリア。
その異様な雰囲気と、突然ワケの分からない殺し合いに放り込まれた恐怖。
なによりあの人が……自分と一緒に頑張ると言ってくれた恋人が傍にいない心細さ。

ぽたりと、黒いパネルの上に涙が落ちる。心細い。ジローさんに会いたい。
一人では気がおかしくなってしまう。
…だが誰もいない。今、自分の傍にジローさんはいない。

パネルの上にへたり込むと、その冷たさに不安が増す。
どうすればいいのか……、このまま殺されるのを待つか。
いやだ、死にたくない。あの人(キバオウ)のようにプログラムを犯され、消滅なんてしたくない。
……が、ここは空すらもノイズに覆われた異常空間。
とてもじゃないが、一人でここから動く勇気なんてない。

「会いたい……会いたいよ、ジローさん……!」

ジローさんに会いたい会いたいと、レンはパネルの上にへたり込んで泣いてばかりいた。
───どれくらいこうしていただろう?

ふと気がつく。
……熱い。パネルが発熱している。このまま座っていたらヤケドしてしまいそうだ。

「…なに? どういうこと…?」

周囲を見渡し、ようやくその変化に気がつく。
このエリアの至る所で火の手が上がっているのだ。
……このままではいけない、早く逃げなくては。
炎はまだここまで来てはいないが、この熱さだ。
すぐに火は回るだろう。
レンが涙を拭き、なんとか立ち上がろうとした時───それは現れた。

173それいけレンちゃんカガクの子 ◆iuymQhjKvg:2013/01/20(日) 00:22:08 ID:8e/7J7o.0



全身から激しい炎を噴出させた四足獣。いや、機械獣と形容すべきか。
正面についた丸い顔部分からは僅かながら愛嬌も感じ取れるが、全身の炎とは対称的にその眼だけが冷たくレンを見ている。

「ヴォオオオオ……」

その獣と同様の唸りから、この炎のアバターが見た目通りの知性しか有していないことが読み取れる。
───つまり、説得など通じない。
このアバターはレンのように思考などせず、ただ本能のままに行動している。

「いや、いや……! ジローさん、ジローさん!」

機械獣が静かな唸りを上げながら、口部に取り付けられた『砲』を展開する。
『ファイアブレス』───ネットナビ3体を一撃で灰燼に帰すフレイムマンの基本装備。
オペレーター・火野ケンイチが手塩にかけカスタマイズした、所有ナビ中最大火力を誇る炎。
全てを燃やし尽くすべく、ただ目の前の存在をデリートするため、パネルをも焼き払う火力が炸裂する。








───その直前、黒い閃光が疾走った。

174それいけレンちゃんカガクの子 ◆iuymQhjKvg:2013/01/20(日) 00:24:49 ID:8e/7J7o.0









黒い閃光───彼を表す渾名は数多い。
《攻略組》、《黒の剣士》、《鍍金の勇者》、《ビーター》

「……お前だな、この辺りに火を点けて周っているのは」

ソードアート・オンライン最強プレイヤー、桐ヶ谷和人。
プレイヤーネーム、『キリト』
彼はこのゲームに招かれてすぐに現在位置、ゲームルール、アイテムの確認に加え、
自身の動きがこれまでと遜色のないものかをチェックしていた。
その結果、このゲームがSAOと違い、レベル概念の無いプレイヤースキル重視のゲームであることをすぐに把握していた。


「えっ? あ、あなたは……」
「安心して。もう大丈夫だから。君を、助けに来たんだ」


結果的に襲われていた女の子───レンの救出はギリギリになってしまったが、自身のスピードなら確実に間に合うという自信があった。
それに加え、レンを抱え離脱する際キリトは、フレイムマンに対しすれ違い様、片手剣による一撃を与えていた。
自身の最高速度からの斬撃。かの『閃光のアスナ』には劣るものの、確実に手応えがあった。
……だと言うのに。

「ヴォ……オオオオ……?」

レンを抱え、片手剣を構える少年をフレイムマンは尚悠然と捕捉する。
突如現れた黒い剣士のスピードを脅威とは感じているようだが、ダメージを意にも介していない。

「効かない……か。 ただ耐久力が高いってだけじゃないようだな。
だとするなら、やっぱり原因はこれか」

【火剣・ガカク】
火の力を纏った剣であり、平凡な威力と平凡な重さを備える。
それゆえに決定打は無い物の、トリッキーな戦い方を可能とする。
カテゴリーは片手剣。使用可能職業はKnight
登場ゲーム:『The world』

予想はしていた。
属性による不利有利はMMORPGに置いても珍しくない設定だ。
キリトの装備する火剣・ガカクと同じく、あの炎を纏った四足獣は見た目通りの火属性なのだろう。
同じ属性ゆえに攻撃は半減、ないしは無効化されてしまっている。

「お前……何者だ」
「ヴォヴォ……フ゛レ゛イ゛ム゛マ゛ン゛……!」

火炎を噴出させる四足獣型ネットナビ・フレイムマン。
エネミーとしても、敵PCとしてもキリトが相対したことのない相手だ。
恐らく自身の知らない、まったく別のMMOに登場するPCの可能性が高い。
ならばキリトと同じように、フレイムマンを操作しているプレイヤーがいるはずだが───。

175それいけレンちゃんカガクの子 ◆iuymQhjKvg:2013/01/20(日) 00:26:46 ID:8e/7J7o.0



「まずいな……」

キリトは舌打ちする。
戦えない相手ではない。先ほど確認したが、ヤツの放つ炎は直線上に放射される。
ならば対角線状に動き続ければ封殺も可能だ。

だが状況が悪い。

キリトに支給された火剣・ガカクでは何度攻撃を加えようが致命打になることはないし、
救出した彼女、レンを抱え戦い続けるなど当然できない。
あの炎の獣を倒すには他の武器、可能ならば水属性の武器を用いるべきだ。
水が炎に対し相性が良いのは、どのゲームにおいても凡そ共通なのだから。

「ごめん、しっかり捕まってて」
「はぇっ?!」

即断即決。
生存を最優先し、レンを抱えたまま即座にその場を離脱する。
……追ってくる気配はない。
着いてこれるだけのスピードがないのか、もしくは最初から追う気はないのか。

「ち、違います!そっちじゃないです!北西に行ってください!」
「えっ、だけど向こうにはアイツが……」
「ジローさんが、ジローさんが球場にいるはずなんです!」

このゲームのMAPはいくつかに別れたエリアと、それを繋ぐ転移門により構成されている。
野球場はアメリカエリアに存在し、そこに繋がる転移門はすぐ近くだ。
だがその付近はフレイムマンが占拠しており、現状ヤツを排除する手段をキリトたちは持たない。

「無理だよ……諦め…」
「ジローさんがそこにいるんです!ジローさん、会いたいよジローさん……」

レンとジローが出会ったのは、彼がツナミネット内の野球チーム、『デンノーズ』のメンバーを確保するため、スカウトされたのがキッカケだった。
(現実世界での出会いはまた異なるが)

この会場内に、レンとジローを繋ぐものは野球場しかない。
無職でありながら野球を愛する彼ならば、必ず野球場に来てくれるはずだ。
そうレンは信じる。

「ぜったいに……ぜったいにいるんです──ジローさん……」

レンのアバターは、可能な限り現実の質感を再現したキリトとは異なり、SDクラスにまで頭身が下がっている。
現実の人間とは違う、まさにゲームキャラと言えるアバター。
だがキリトの腕の中で泣くレンは、真実恋人のことを想う一人の女の子だ。

「───わかった。必ず俺が、君をジローさんの所へ連れて行く」

そしてそんな女の子の泣いている姿に何も思わないほど、キリトは冷血ではない。
きっとこの子にとって、ジローという人はとても大事な人なのだろう。
ちょうど自分にとってのアスナが、そうであるように。



【B-10/ウラインターネットエリア/1日目・深夜】

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:火剣・ガカク@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2個(水系武器なし)
[思考・状況]
1:ひとまずこの場から離脱する。
2:フレイムマンのいるB-10を迂回し、A-9もしくはB-9のワープゲートからエリア移動する。
[備考]
※参戦時期は不明です。

支給品解説
【火剣・ガカク@.hack//】
火の力を纏った剣であり、平凡な威力と平凡な重さを備える。
それゆえに決定打は無い物の、トリッキーな戦い方を可能とする。
種別は片手剣。使用可能職業はKnight
登場ゲーム:『The World』

176それいけレンちゃんカガクの子 ◆iuymQhjKvg:2013/01/20(日) 00:28:18 ID:8e/7J7o.0


浅井蓮という女がいた───。
優秀なエンジニアの卵であり、人と同じような心を持つAIを作ることが夢だった彼女はある『ゲーム』に関わった。

世界的大企業、ツナミグループが運営する『ツナミネット』
そしてそこで開催される呪いの野球大会『ハッピースタジアム』

敗者は消えてしまうというこの呪いのゲームを解析した結果、独力で彼女はあるプログラムを開発した。

正式名称『レンちゃんver.1.00』

詳細な原理は不明だが、浅井蓮の髪の毛から取った遺伝情報をオカルトテクノロジーに組み込み、作り上げた自律型AI。
AIとしての反応はツナミネットのものに劣るものの、浅井蓮の意思をトレースしたかのようにこのAIは動き出した。


『ジローさんと一緒にいたい』


このただひとつの欲求を満たすため。
自身がAIという、仮想存在であることに気づかぬまま……。



【B-10/ウラインターネットエリア/1日目・深夜】

【レン@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康
[装備]:
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜3個
[思考・状況]
1:ジローさんに会いたい。

[備考]
※『レン』でも、『浅井蓮』でもなく、自立型AI『レンちゃんver.1.00』です。
※参戦時期はレン恋人ルート、『レンちゃんver.1.00』開発後
※ネット世界だけでなく、現実世界で主人公と過ごした思い出も記憶されているようです。


【フレイムマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康
[装備]: 
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜3個
[思考・状況]
1:オレ、スベテ、モやす
2:いろんなところに、ヒ、ツケてモやす
3:そしたら、ヒノケンさま、よろこぶ
[備考]
※現在B-10にて火災が発生しています。

177それいけレンちゃんカガクの子 ◆iuymQhjKvg:2013/01/20(日) 00:29:24 ID:8e/7J7o.0
投下終了です。

パワポケ主人公の名前は把握に使用した下記の動画の主人公名から取っています。
(主人公がHNを本名と同じ名前にしてしまったようなのですが、本名でも違和感なかったので)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm18491954

主人公名はwiki収録後修正も可能なので、後の書き手さんに合わせます。

178名無しさん:2013/01/20(日) 00:45:04 ID:SycAAdZ20
投下乙です
流石キリトさん、ロワでも適応が速い
レンも色々不安定だなぁ

179名無しさん:2013/01/20(日) 00:48:12 ID:UHixs82M0
投下乙です。キリトさんかっこいー!
というかいつも通り適応早いwww

今回出てきた支給品「火剣・ガカク」について確認です。
「使用可能職業はKnight」とありますが、.hackではナイト(騎士)と称されるジョブは存在しません。
おそらく「剣士(ブレイドユーザー)」の間違いではないかと思うのですが…。

180名無しさん:2013/01/20(日) 00:50:02 ID:5Kurwv0cO
投下乙です。助けた相手はジャンル:パワポケ…流石は攻略組のキリトさんや!

181 ◆iuymQhjKvg:2013/01/20(日) 00:55:43 ID:8e/7J7o.0
>>179
ググって確認したらそうでした。
wiki収録後修正しておきます。

182179:2013/01/20(日) 00:56:36 ID:UHixs82M0
武器名で検索かけたら、.hackの武器名やスキル名等を元ネタにしたゲーム?のwikiが出て、
そこで「使用可能職業 Knight」とありますね…ここの情報を取り違えたのでしょうか?

183179:2013/01/20(日) 00:57:16 ID:UHixs82M0
>>181
失礼、レス見逃してました。
修正宜しくお願いします。

184名無しさん:2013/01/20(日) 00:57:25 ID:OBQt6vvI0
ウラインターネットがどんどん危険な場になっていくなw
近くにフォルテが彷徨いてるかもしれないんだよなー

185名無しさん:2013/01/20(日) 01:29:15 ID:DEAdQv.MO
投下乙です
複数のゲームを渡り歩いたキリトさんのアバターは、具体的にはどういう状態なんだろ

.hack//の武器は、通常攻撃には属性は付かないよ
属性が付くのはスキルを使った時だけ

186名無しさん:2013/01/20(日) 02:26:19 ID:5Kurwv0cO
>>185
『どスキル制』なALOから来たにしてはレベル云々言ってるし、正妻と結婚してからSAOクリアまでの間くらいかねぇ?

187名無しさん:2013/01/20(日) 02:45:43 ID:7HCZLTdk0
>>186
ただ、鍍金の勇者って呼び名があるのは、少なくともオベイロン戦後なんだよなぁ……
GGO編からの参加なら、一応あれもレベル制だし違和感はないけど。

……そういえば、もしかしたらキリトとシルバークロウってお互い知ってる可能性があるのか。
アクセル10巻のバーサス編で、一回タイマンはったわけだし

188名無しさん:2013/01/20(日) 03:30:43 ID:XHn4mxys0
>>187
あれはドクタースランプに悟空が出てたようなもんだと考えたい

189名無しさん:2013/01/20(日) 04:21:27 ID:bfdlURYs0
投下乙です
さすがキリトさん、頼りになるぜ
適応も早いなあw

190 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/20(日) 13:23:14 ID:SycAAdZ20
議論スレで指摘があったので、凛がコードキャストを使う描写を追加しました
>>89の半ばごろからの差し替えになります

互角以上の戦いを見せるランサーを、凛は後方で見ていた。
見ているといってもただ呆と眺めているだけではない。
戦いを逐次見極め、必要な時にはコードキャストやアイテムで補助する。それがマスターの役割だ。
また今回はより広い視点でサーヴァントに指示を与えなくてはならなかった。
これは一対一の聖杯戦争ではない。乱入も当然あり得る以上、第三者の介入にも気を配る必要がある。

戦況はランサーに優勢に見えた。
石像の攻撃は強力だが、動き自体は単調なものだ。ランサーの繰り出す槍と比べれば、その差は歴然としていた。
が、戦闘が長引くにつれ、敵の異常さが分かってきた。

「チッ、しぶてえな、コイツ!」
ランサーの声が響く。先ほどから何度も攻撃を叩き込んでいるのだが、石像は一向に倒れる様子がない。
ただ黙々と攻撃をし続けているだけだ。その姿に疲れはおろか、攻撃によるダメージは一切感じられないのだ。
そのことを不審に思いつつ、ランサーは槍を振るい続ける。
が、そこで石像は新たな動きを取った。
それまで単調な攻撃が続いていたが故、いきなりの変則的な動きに、ランサーは一瞬隙を作ってしまう。

「危ない、ランサー!」
凛が叫ぶ。そして自らも彼を補助すべくコードキャストを放つ。
call-gandor、凛が魔術師として持つコードキャストだ。指の間から放たれたそれは真直ぐに石像へと向かっていった。
効果は麻痺。スタンを相手に与え、動きを止めるもの――の筈だったのだが

「嘘……効いていない」

石像は何事もなかったかのように動きを続ける。
十字杖を宙に放ち、そしてランサーはそれに吸い込まれるかのように磔にされた。

(中略)


【遠坂凛@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康/サーヴァント消失
[装備]なし
[アイテム]セグメント1@.hack//、不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝を狙うかは一先ず保留
1:逃げる
[備考]
※凛ルート終了後より参戦。
※コードキャスト「call-gandor」は礼装なしでも使えます。
 他のものも使えるかは後の書き手にお任せします。

191名無しさん:2013/01/20(日) 13:50:27 ID:UHixs82M0
修正乙です。
ガンドのコードキャストかー。礼装無しでもありだと思います。

仮投下スレに投下が来てますので、一応報告。
個人的には、こういう面白展開もありだとは思いますが…。

192名無しさん:2013/01/20(日) 14:13:06 ID:qgo3aEWk0
仮投下……この発想はなかったな
個人的にはアリだと思います

193 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/20(日) 22:09:55 ID:4yvTL7fw0
仮投下スレに投下してきました
本作品に気になる点があったので、通すかどうか回答願います

194名無しさん:2013/01/20(日) 22:24:31 ID:7R9i6OFs0
仮投下乙です
自分が見た感じ特に問題はないとおもいますが、
パワポケは現在進行形でプレイ中の身なので詳しく知っている方の意見が欲しいですね

195 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:51:30 ID:stYX0WqQ0
投下します。

196このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:52:46 ID:stYX0WqQ0
「あーもう、やっぱ意味わかんないっちゅーの!」

ビルが立ち並ぶ街の中を、一人の少女の苛立たしげな声が響き渡った。
彼女の名はブラックローズ。かつてThe Worldを救ったドットハッカーズの一員である。
一部プレイヤーの間では英雄とされている彼女だが、今この場では困り果てる1プレイヤーに過ぎなかった。

「考えるの止め! 行動あるのみ」

この場に呼ばれたことが、この前まで戦っていた八相と何か関係があるのか結びつけて考察してみようと思ったのだが
考えても考えても良い答えが出そうになく、結局彼女は先ず自分の足を使ってみることにした。
この前の事件にしてもそうだ。八相と黄昏の碑文の考察だって、浅岡先輩や萩谷先輩の助けがあったからこそであり、一人で考えていても名案というものは思い浮かばないものだ。
ごちゃごちゃと悩むより先ずは行動。そう決めた彼女は剣を引きずって歩きはじめる。

(それにしても、ここ……本物の街みたい。ニューヨーク? とかそこら辺の大都会みたいな)

道を歩きながら、ブラックローズは思った。
The WolrdにもΛサーバー・カルミナガデリカのような都会はあった。
だが、それにしたってファンタジー世界のものだ。このような現実の街に則した作りではなかった。

「誰かーいませんかー?」

ブラックローズは呼びかける。声がいやに響いて不気味だった。
誰も居ない夜の街が、まるでダンジョンのように感じられた。
正直足が震えそうになった。こんなときカイトが隣にいてくれれば……、と思わずにはいられなかった。

「そこに誰かいるのか?」

と、不意に何処からか返事が返ってきた。
周りを探すと、道の向こう側に一人の少女が佇んでいた。
綺麗な羽の生えた、そして黒いPCだった。
羽と言ってもバルムンクのような白い翼ではなく、漆黒の蝶の羽だ。
その姿には見覚えがあった。開幕の場でロボットに声を掛けていたPCに違いない。

「こっちです。今、行きます」

ブラックローズはそう声を掛けると、車道を通って彼女の下に急いだ。
こんな状況でも車道を見る時に、周りを気にしてしまって少しおかしかった。
彼女の近くに辿り着いたブラックローズは向き合って口を開いた。

197このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:53:47 ID:stYX0WqQ0

「えーと、こんにちは?」

色々迷ったが、結局出てきたのはそんな言葉だった。
ネットゲームでパーティ組む時じゃないんだから、と自分に対し少し呆れてしまう。

「ふっ」

案の定、相手に笑われてしまった。
私が少々気恥ずかしさを感じていると、彼女は「いやすまないすまない」と言って口元を抑えながら言った。

「呼びかけてくる相手が危険人物だったらどうしようかと結構警戒しながら返事したのでね。
 きちんと挨拶されるとは思っていなかった。
 いや実にすばらしいことだと思うよ――こんにちは」

そう言って彼女は軽く会釈した。その動作も中々決まっていて、優雅さといったものを感じさせる。
何となく寺島良子のことが思い浮かんだ。まぁ彼女とは違い目の前の女性はしっかりしていそうだが。
ブラックローズは気を取り直し、再び口を開いた。

「私はブラックローズ。よろしく」
「私は黒雪姫だ。こちらこそよろしく頼む」

黒雪姫。名は体を表すというか、彼女の容貌に合致した名であるように思えた。
それにしても綺麗なPCだと思う。単純なエディットの上手さだけでなく、彼女の纏う雰囲気のようなものがそう思わせているのかもしれない。
最もだからといって現実の彼女までそうである保障はない。
ネット上のアバターである以上、容姿は勿論、性別でさえ偽ることができるのだから。

「ふむ、奇しくもキミもまた《黒》を冠する名なのだな」

それは彼女にとって何かしら縁深いものを感じさせたのか、彼女は微笑んだ。
そうして軽く自己紹介を済ませた後、黒雪姫はブラックローズの持つを剣を見て、

「それはキミの武器か?」
「え? ああ、そうだけど。何か配られてたみたいだから」

ブラックローズの手にはずっしりと重い剣が握られていた。
赤い大剣だ。重剣士である彼女に装備可能な武器が支給されていたのは幸運だった。
【紅蓮剣・赤鉄】聞いたことがない武器だが、装備するには問題ないようだ。

「そうか……私は何も装備できそうなものがなくてね」
「そうなの? えーと何か私が持ってるもので貴女の職業に合う物があれば」
「ああ、いやいやそうじゃない。私はそもそも戦えないんだ。これはそういったゲームのアバターではないからね」

話によるとそれは学内で使うローカルネットのアバターらしい。
そんな設備がある学校もあるんだな、と少し驚くと同時に自分が状況を見誤っていたことに気付いた。
開幕の場で雑多なアバターを見た時、勝手にみなゲームから来たものだと勘違いしていたが、どうやら彼女のようにゲーム以外の戦闘能力のないアバターも居るようだ。

198このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:54:42 ID:stYX0WqQ0

(戦えない状態のキャラでわざわざ呼びつけるなんて、なんつー悪趣味な奴)

榊の高慢な表情を思い出し、ブラックローズは不快な気分になった。
彼女は戦えないといったが、それでも大多数の参加者は戦えそうな印象を受けた。
となると、彼女のような例外的に非力なの役割は、生贄のようなものではないか。
あるいは美少女型アバターが途方に暮れる姿でも見たいのだろうか。

「あー分かった。じゃあ私と一緒にパーティ組まない?」
「パーティ?」
「そ、まあこの場じゃ別にそんなシステムないけどさ、一緒に行動しようってこと」
「それは……私にはありがたいが、いいのか? ただ足手まといになるだけだぞ」

伏し目がちに言う黒雪姫に対し、彼女は「大丈夫大丈夫」と言い、そして精一杯見栄を張って

「わ、私が守ってあげるから」

などと自信ありげに言ってみた。
実のところ、ブラックローズは不安でいっぱいだった。
ログアウト不可の殺し合い、見知らぬ場、見知らぬシステム、仕掛けられたウイルス、そのどれもが彼女の肩に重圧を乗せている。

(これがアイツ……カイトだったら、こんな状況でも強くいられるんだろうけど)

共に戦った自分の相棒のことを考える。
カイトはアウラから腕輪の力を貰ったPCだ。本来エディットできない筈の赤い双剣士となった彼は、仕様外の力を使って事件を解決へ導いた。
だが、ブラックローズは知ってる。カイトが本当に強いのは、腕輪のせいだけじゃなくその心の強さゆえだと言うことを。
バラバラだったThe Wplrdのみんなを纏め上げ、ウイルスバグや八相と戦っていった。
そしてクビアとの戦いで腕輪を失った後も、諦めずに第八相『再誕』の『コルベニク』に挑み、見事討ち果たした。
それができたのは一重に彼の真摯な思いがあったからこそである。親友を助けたいと言う。

(でも、アイツにばかり頼っていたら駄目)

同時に、ブラックローズは知っている。
彼は強い。だが、それでも一人の少年に過ぎないということも。
彼女は一度だけカイトが弱音を吐いたときのことを覚えている。
第三相『増殖』の『メイガス』を倒した結果、The Worldが深刻な不具合に陥ってしまったときのことだ。
『Δ隠されし 禁断の 聖域』全ての始まりであるあの場で、彼は彼女に漏らした。自分のやっていることは本当に正しいのだろうか、と。

(だから、私も頑張らなきゃ。アイツとその……相棒で居続ける為にも)

そう思い、せめて言葉の上だけでもしっかりしていようと思った。
黒雪姫はブラックローズのそんな決意をどう受け取ったのか、それは分からなかったが、再び微笑み、

「そうか。ではお願いしようかな、黒薔薇さん」
「うんうん、任せておきなさいって」

実際、話し相手ができるだけでも大分不安が和らぐというものだ。
それだけでも一緒に行動する理由にはなった。

そうして二人は行動を開始した。
ブラックローズが前を行き、時折黒雪姫と会話などを交わす。
が、リアル事情には可能な限り踏み込まないようにしていた。ハンドルネームのまま呼び合い、本名も聞かないでおく。
それはまだ会ったばかりということもあるが、やはりこの場がネット上であるということが大きかった。

(そういうのは、ある程度親しくならないとね。やっぱり)

今ではリアルでも交流があるミストラルらにしたって、初めは微妙な距離感があったものだ。
ネット上で受けるイメージとリアルが乖離していることもままある。そちらを話題にするのはすぐにはできない。こんな場所でもマナーというものがある。
ミストラルにしたって子供っぽい喋りとハイテンションからは想像できないが(性格はあれで素のようだったが)自分よりずっと年上で、更に妊婦だったのだから。
黒雪姫の言葉の端々から学生であり、自分と同年代ということは伝わってくるが、そこに踏み込むのはもっと後からにしよう。
具体的にはもっと仲良くなってから。そう決めていた。

そうブラックローズが思った矢先、彼女らは危機に巻き込まれることになる。
それを成し遂げるには、先ずそれを打開する必要があった。
その攻撃は唐突に上から来たのだった。

「くっ!」

黒雪姫の悲鳴が響き渡った。
ブラックローズが急いで振り返ると、そこには胸に矢が突き刺さった黒雪姫の姿があった。

199このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:55:39 ID:stYX0WqQ0





「さっそく一人命中っと」

摩天楼の上から彼女らを見下ろす一人の青年が居た。
髪は橙、痩躯を緑のマントに包み、その手には小ぶりな弓が備え付けられている。
彼こそがアーチャー、黒雪姫を狙撃した本人である。

「ま、ダンナが戻ってこない内にパパッと終わらせちゃいましょうってね」

アーチャーはシニカルな笑みを浮かべ、次の攻撃の準備をする。
彼は予めこの一帯にトラップを仕掛け待ち伏せをしていたのだ。ここを街の構造を見て回り、通る者が多いであろう場と予想してのことである。

(結果はずばり的中。二人ほど可愛い御嬢さんがやってきた、と)

やってきたのは二人の女。褐色の剣士と黒いドレスを着た蝶々だ。
剣士の方は明らかに近接向きと見て、先ずは遠距離攻撃を持っているかもしれない蝶の方に矢を放った。胸部に当たったし致命傷だろう。
この調子でじゃんじゃん獲物を……、と思ったところ下で妙な動きがあった。

褐色の方が蝶に近づき、何やら声を掛けている。そこまではいい。
驚いたのは蝶の方が再び何事もなかったように動き出したことだ。
痛そうに胸を押さえてはいるが、命に別状はなさそうだ。胸を矢が貫通したというのに。

(何だアリャ、そういう類の能力を持ったサーヴァントか? いやそれともまさかアリーナのエネミーみたいにHPとか設定してあんのか)

そう思っていると、立ち直った蝶に褐色が呼びかけている。
すると蝶は踵を返し元来た道に戻っていく。その走りからして作戦などではなく、ただの逃走に見えた。
一方褐色の方は剣を構え、周りを見渡している。どうやら一人で戦う気らしい。

「おうおう、偉いこった。弱者を守る騎士道精神って奴? はー褐色の女騎士様とは格好いいね」

軽口をたたきながら、アーチャーは次の攻撃を準備する。狙いは褐色だ。どうやら蝶の方にロクな戦闘能力はないらしいし、追うのはあとからでも遅くはないだろう。
第二射。
肩に命中。褐色は警戒していたが反応はできなかったようだ。
が、やはり致命傷にはならなかった。褐色はそのまま動いている。普通の人間ならばあれで十分の筈なのだが。

(つまり、普通の人間じゃあないってことか)

だが褐色の顔は苦痛に歪んでいる。蝶もそうだったが、痛みは感じているようだし無敵はないだろう。なら攻撃を当て続けるだけだ。
第三射。
失敗。矢に反応した褐色は地面を転がり回避に成功する。

「お、もう避けるか。やるねえ、さっすが騎士様。だが、その先には――」

その後も何射かしてみるが、どれも避けられた。向こうも慣れてきてるらしい。
だが、それも計算の内。
褐色は転がり逃げていった先で、不意に足を止めた。
身体を震わせ、剣を落とし、ゆっくりと崩れ落ちる。
その近くには、簡単には見えないよう建物の陰に巧妙に隠された異形の木が生えていた。
イチイの木。
アーチャー仕掛けたトラップであり、近づくものを問答無用で毒とする宝具だ。
動きを止めた褐色に狙いを定め、アーチャーを弓を引く。

200このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:56:36 ID:stYX0WqQ0

「狙撃に毒……我ながら汚い手だとは思うがね。ダンナが見たら何ていうか、考えたくもねえや。
 曲がりなりにも英霊なら顔ぐらい見せろってか、ま、残念ながら俺はこういう英霊なんで。
 悪くは思うなよっと。じゃあな騎士様――」

少し時間を掛けてしまったが、まあこれで一人は脱落だ。
蝶の方を探すのが面倒そうだが、どうせそこまで遠くに行っていないだろう。
と、そこで

「その前に私を相手にしてもらおうか」

不意に声が聞こえ、アーチャーは驚いて振り返った。

(場所がバレた? 誰だ、もしかして蝶の方か――)

が、そこに居たのは予想に反し、蝶でも何でもない、異形の機械だった。
ゴテゴテとした漆黒の装甲が人型の肢体を包み込み、細身ながらもそれは威圧感がある。
そして何より、その手足にアーチャーは目が行った。驚くほど細長いそれは刃のように尖り、月光を受け妖しく光っている。
見るからにインファイター。そんな奴に自分は近づかれてしまったのだ。

「はぁーしまったな。全く別の乱入者ってのは予想してなかった。
 あーそうだよな、これは聖杯戦争じゃあないもんな。そういう展開もあるか
 なあ黒の……何だ、姐さん? ものは相談と言う奴なんだが、ここは一つ共同戦線とかないか? キルスコアが欲しいってんなら、あの褐色はアンタに……」
「黙った方が良い。その首を刎ねるぞ」
「あーやっぱり?」
「私の獲物はお前だよ、弓兵」

苦し紛れにそんなに提案しては見たものの、どうやら失敗のようだ。
相手は威圧感を振りまきこちらを威嚇している。心なしかその目(だよな?)の部分には恨みが籠っているかのように思えた。
俺がアンタに何したってんだ。そう思わないでもなかったが、とにかくアーチャーは臨戦態勢を取る。
狙撃で決めてしまう筈が、何故かこうなってしまった。しかしもはやしょうがない。顔突き合わせて戦闘など全く性分ではない。が、だからといってできない訳ではない。

「あーあ、アンタも変な奴だ。声なんかかけずバサッとやっちまえば俺は反応できなかったのに。
 アンタもあれか、騎士道精神とやらの持ち主か? 我こそは――とか名乗ったりはしないのか」
「良く舌の回る奴だな、お前は」
「そーですよ。どうせ俺はぺらぺら喋る頭の軽そうなハンサムですよ。悪いねえそんな奴にわざわざ決闘を申し込んでもらってっと」

言いながらアーチャーは弓を放った。不意打ちだ。その硬そうな装甲に矢が通用するかは思えないが、矢と言っても普通の矢ではない。
サーヴァントの――英霊の矢なのだ。
が、それを機械は剣と化した手を薙ぐことで弾き返した。
やはり見てくれだけでなく、実力も伴っているか。そう判断するアーチャーだが、もう既に次の行動に移っていた。

「じゃあな」

そう言ってビルから身を躍らせたのだ。ゆっくりと落ちていくアーチャー。
普通なら自殺でしかないが、サーヴァントの自分ならこの高さから落ちても大丈夫だ。

(そして恐らくは奴も――)

来た。一拍遅れて機械もその身を躍らせる。ここからの落下は大丈夫ということか。
それでいい。向こうはこっちを逃げ出したと思って追ってくるはずだ。
そしてそのままトラップへ誘導する。イチイの木はこの周辺に幾つも仕掛けてある。

「まさか追ってきやがるとはな」

心にもないことを口走りながら、アーチャーは地面に着地する。
そして同じように地面に立った機械はこちらを見て、言った。

「その先にある罠なら既に破壊しておいたぞ。お前の下に向かう途中で見つけたからな」
「は?」
「私を誘導しようというのだろう。無駄だからやめておけということだ」

マジかよ。読まれてやがった。ハッタリだったのかもしれないが、どっちにしろ自分の反応で確信しただろう。
アーチャーはやれやれと肩を竦め、

201このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:57:07 ID:stYX0WqQ0

「はぁ厭になるね。しょっぱなからこれでは幸先悪い」
「お前にこの先はない。ここで私が倒す」
「おうおう怖い怖い。全くおっかねえ奴に目を付けられたもんだ。
 全く、俺の前世の行いが悪かったのかね」

サーヴァントである彼にとっては皮肉でしかない言葉を吐きながら、彼は弓を構える。
策は尽きた。ならしょうがない。今度こそ正真正銘の一騎打ちと行くか。
精神を集中する。向こうもその気配を掴んだのか、剣を構え、こちらに相対する。
一瞬の静寂が起きる。そして戦いの火蓋切って落とされ――

「【顔のないお――ん? こりゃ」
「行くぞ!」
「いや、待て。待て」

――なかった。
アーチャーはいきなり手で機械を制止し、何やら焦り始めた。
その唐突な行いに機械は一瞬きょとんと手を止めてしまう。

「やっべ、忘れてた。こんなことしてる場合じゃねえ!」

そう言って、アーチャーは踵を返し、そして去っていった。
あまりの速足と唐突さに残された機械はそれを黙って見送ってしまった。







機械――ブラック・ロータスはその場に立ちつくしていた。
先ほどまでの軽い感じと違い、アーチャーは本気でこちらに向かってくるようだった。
故に自分も精神を集中し、来たる激突に備えていたのだが、それからいきなりの遁走。
その行いに少し面を食らい、結果として見逃してしまったのだ。
追うべきだろうか。そう遠くへは行ってない筈だし、すぐに追いかければ補足できるかもしれない。

「いや、やめておこう。その前にやらねばならないことがある」

ブラック・ロータスはそう思い直し、踵を返す。その足の向こうにはアーチャーが残したイチイの木と――

「ありがとう。会ったばかりの私のために身を呈してまで頑張ってくれて」

痛みと毒で気を失ったブラックローズの姿があった。
それをブラック・ロータス=黒雪姫は親愛の籠った瞳で見る。そしてそのままイチイの木へと近づいていく。
毒の波動の最中へと足を踏み入れると、強烈な不快感が身を貫いた。こんな中で彼女は戦っていたのか、そう思うとより一層感謝の念を捧げたくなった。
同時に、そんな彼女に自分を偽らなくてはならない罪悪感も。

「すまないな。本当に」

ポツリと漏らした後、ブラック・ロータスはその手を一閃した。
イチイの木に亀裂が入り、粉々に砕け散る。それをブラック・ロータスは冷めた目で見ていた。

ブラックローズの声を聞いた時、彼女は迷った。接触すべきかどうか。
声の主が危険人物である可能性は勿論、ブラック・ロータスの状態であえば、下手するとこちらのことを誤解されるかもしれないという懸念もあった。
いや、誤解ではないかもしれない。自分は多くの恨みを買っているのだから。
ブラック・ロータス。《黒の王》。彼女は多くのレギオンで裏切り者として指名手配されている身分だ。
それ故に彼女は黒雪姫として行動を開始した。リアル割れのリスクもあり、可能な限り自分がブラック・ロータスであるということは隠したかったのだ。
ブラックローズと出会った後も戦えないと嘘を吐き、デュエルアバターの存在を伏せた。
結果、ブラックローズを矢面に立たせ、危険な目に遭わせてしまった。自分の保身の為に。どんな理由であれ、それは事実だ。

「…………」

ブラックローズの顔を見つめながら、今しがたの戦闘で彼女が言った言葉を思い出す。
急の襲撃に対し、彼女は言った。「貴方は逃げなさい! 私が、私が戦うから」と。

「その時のキミは足も震えていた。それなのに私を逃がす為に戦う決意をしたのだ」

その勇気に比べて自分の臆病さは何だろうか。目の前の者に自分の名と力を隠し、おめおめと逃げた。
すぐにデュエルアバターとなり、矢の放たれた角度から予想した狙撃手の下へ急いだが、その間彼女は一人で戦っていたのだ。
せめてハルユキ――シルバー・クロウが居てくれれば飛行能力を使い一瞬で辿り着くことができたのだが。

「あ……ううん」

ブラックローズが軽く声を漏らしたのを見て、ブラック・ロータスはゆっくりとその場を後にした。
この姿を見られる訳にはいかない。何だかんだ言って、結局明かすつもりはないのだ。
そのことにまた後ろめたさを感じるが、何も言わず彼女はその場から去った。





202このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:57:45 ID:stYX0WqQ0


「ううん……?」
「気が付いたか?」

ブラックローズが目を覚ますと、そこには立派な白髭を湛えた初老の男性がいた。
ぼんやりとした意識で彼を見つめていると、男性は優しくその肩を叩いてくれた。
そうしてしばらくして頭の靄が晴れてくると、ブラックローズは跳ね起き、周りを見渡した。

「黒雪姫は!?」
「彼女ならここにいる」

見ると彼の言う通り、すぐ傍で心配そうにこちらを見つめている黒雪姫の姿があった。

「大丈夫か? ブラックローズ」
「え? ああ私なら大丈夫だから。貴方こそ問題なかった?」

何しろいきなり矢で射られたのだ。戦闘のできない彼女にはショックだったことだろう。
だが幸いにして大丈夫だったようで、彼女は微笑み頷いた。それを見てブラックローズはふぅと溜息を吐く。

「でも、じゃあさっきの敵は誰が……?」
「それは私にも分からない。戻ってきたらもう居なくなっていて、代わりに彼がいた」

そう言って、黒雪姫は隣に立つ男性を示した。
すると男は丁寧に礼をした後「ダン・ブラックモアだ」と名乗った。
自分より遥かに年上の(少なくとも見た目は)男性にそんなことをされて、ブラックローズは若干恐縮してしまう。

「道を歩いていたら女性の悲鳴が聞こえたものでな。何事かと駆けつけたら倒れる君を見つけたのだ」
「はぁ」

と、なると彼も狙撃手を退けた相手のことは分からないようだ。
まぁ何はともあれ上手く行ったようで良かった。そう考えることにした。

その後、ダンと軽く情報を交換する。彼もこの殺し合いに乗る気はないようだった。
ただ気になるのは狙撃手が矢を使っていた、ということを話したときのことだ。
それまで落ち着いた物腰だった彼がふと眉を顰めたのだ。
それが何を意味するのかは分からなかったが。

そうして話し合った後、彼らは三人で行動することにした。
またダンは仲間が後で合流することになっているらしい。

(それにしても……)

ブラックローズは考えた。先の戦闘で意識を失う直前、かすかに記憶に残っているものの姿を。
上手く説明できる自信がなく、また夢だった可能性もあるので、混乱を避ける為にまだ二人には話していないが、やはり後々きちんと話すべきだろう。

(黒い……何だか怖い感じのロボット型PC)

それが何をやっていたのかは分からない。だが、それをどこかで見た気がするのだ。
あれは自分を救ってくれた味方だったのだろうか、それとも狙撃を仕掛けてきた敵だっただろうか。
判別はできない。
もし味方だったのだとしても名乗り出ないのは何故だろうか。

(何にせよ、ちょっと警戒しといた方が良さそう)





203このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:58:23 ID:stYX0WqQ0



「あーやっちまったな。こりゃダンナにバレたかも」

気だるげな声が街に響く。
声の主はアーチャー。ブラック・ロータスとの戦いであることに気付き、急いでその場から離れたのだが、少し遅かったかもしれない。
あること、とは即ち自分のマスターであるダンの接近である。

「初っ端からコレとは全くどうしたもんかね」

あーあ、と彼は頭を抱えた。
結局誰も殺せなかったわ、変な奴に因縁付けられるわ、散々な目にあった。

アーチャーの目的、それはダンの優勝に他ならない。
この場は聖杯戦争ではないようだが、それにしても本質は似たようなものだ。
殺し合い、最後まで生き残ったものが褒賞を総取りする。そんなシステム。
なら優勝を目指すのは当たり前、と思っていたのだが。

「サーのダンナが騎士道に反するとかいうからねえ。
 いやそんなん俺に求められても困るっていうか、お門違いっていうか」

ダンはそう思わなかったらしく、アーチャーの得意とする暗殺や毒殺を禁じるばかりか、そもそも優勝を目指さないなどと言い出したのだ。
これは軍務ではなく、また女王陛下の命令でもない。騎士らしく弱者を助けていく。そう彼は言ったのだ。

「はぁ……」

アーチャーは溜息を吐く。マスターの言うことは無理難題にもほどがある。
この殺し合いを覆す? 誰も殺さない? 主催者はこちらの命を完全に握っているのに?
リアリストである彼にはとてもではないが同意できなかった。
だから、彼は選んだ。ダンにバレないように行動し、参加者を減らしておこう、と。
単独行動スキルを活かして辺りを偵察してこいと言われた時、はいはいと頷いておきながら内心ではそう決めていた。
ダンは弱者を見つけたら保護しろと言ったが、そんなことはせずさっさと殺してしまおう。
それも姿を見せず狙撃や毒殺で。ダンには誰も見つかりませんでしたすいませんでいい。そんな風に考えて。

その結果がこれなんだから笑えない。
ダンは戦闘の音を聞き、自分が襲った相手と合流してしまった。姿を見せてはいないとはいえ、敵が矢を使っていたことを知れば疑われることは必至だ。
合流した時、何を言われるか考えたくもない。どこかに罪を被せられる弓使いとかいないものだろうか。

全く変なマスターを持つと苦労するものだ。

「まぁ……気持ちは分かるさ、ダンナ。俺だって本当は――」

言いかけて、彼は口を噤んだ。
とにもかくにも彼に真実を伝えないで参加者を減らして回りたい。
色々言いたいことはあるが、アーチャーのマスターへの忠誠心は本物だった。







そうして三人の《黒》の名を持つものたちは肩を並べ、同じ道を行く。
同じ速さで歩いているような彼らであったが、それぞれ互いに隠していることがあった。

ブラックローズは怪しい黒いロボットを見かけたことを。
黒雪姫は己のもう一つの姿と名前を。
ダン・ブラックモアは自らのサーヴァントへの疑念を。

三者三様に秘めた胸の内。
それは彼らの微妙な距離感が生んだことだったのかもしれない。

204このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 01:59:06 ID:stYX0WqQ0



【F-10/アメリカエリア/1日目・深夜】

【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP50%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:黒雪姫、ダンと共に行動する。
2:あの黒いロボットは一体……?
[備考]
※参戦時期は本編終了後

【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/ローカルネットのアバター
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ブラックローズ、ダンと共に行動する。
2:自分がブラック・ロータスであるということは隠す

【ダン・ブラックモア@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康
[装備]:不明
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:軍人ではなく騎士として行動する
1:黒雪姫、ブラックローズと共に行動する
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:健康
[思考]
基本:ダンを優勝させる。その為には手段は選ばない。
1:ダンにバレないように他の参加者を殺す。
2:黒い機械(ブラック・ロータス)を警戒。
[備考]
※参戦時期は未定。少なくとも令呪によってアーチャーの毒や奇襲を禁じる前。
 岸波のことを知っているかは後の書き手にお任せします。

支給品解説
【紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.】
「月の樹」の松がPK時代にメインウェポンとして使っていた大剣。
 アリーナでのハセヲ戦で使用。敗れた後にハセヲに渡した。

205 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 02:00:44 ID:stYX0WqQ0
投下終了です。

206名無しさん:2013/01/21(月) 02:48:45 ID:2VeBqaqk0
投下乙!

ダメージ形式とか、このロワだとシステムチックに一律判定なのかな?
別に急所に当たろうが指先に当たろうが、ダメージ量が変化する訳じゃなく、攻撃力と防御力で差し引き同判定?
だとしたらゲーム的な感じで面白い感じだなw
即死攻撃か高攻撃力攻撃でもない限り、不意打ちのメリットが少ないってことだし。緑茶がマジ修羅の道。

207 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/21(月) 03:00:37 ID:stYX0WqQ0
>>206
アバターの出展元がゲームで部位破損とかのシステムがないキャラはそんな仕様かなーと解釈してました

208名無しさん:2013/01/21(月) 03:26:30 ID:CSlJkMZw0
投下乙
緑茶は修羅の道と言われるが、ロワ形式だと毒矢当て逃げしてるだけで相当強いぞ
ただそれやると一発で緑茶の仕業だとダンさんにバレるが

しかし黒雪姫、ローズ、ダンさんの黒黒黒パーティか。
女子二人は精神的に脆い部分もあるけど、紳士なダンさんならいい感じにフォローしてくれそう

209名無しさん:2013/01/21(月) 11:37:39 ID:hjlKaUlI0
あれ、サーヴァントは単独で動き回れるのか
てっきりスタンドみたいにあんまり本体から離れられないもんだとばかり

210名無しさん:2013/01/21(月) 11:47:46 ID:pLDtf1g20
アーチャーは単独行動スキル持ちだからかな

211名無しさん:2013/01/21(月) 11:57:08 ID:hjlKaUlI0
いや、それは知ってるんだが
実質参加人数が一人プラスされるようなもんじゃないのかなーと

212名無しさん:2013/01/21(月) 13:28:27 ID:oBYLPjTE0
そこまでフリーでもない気もするが
マスターに隠し事しながら行動
マスターが死亡したらアウトに近いとか

213名無しさん:2013/01/21(月) 16:11:57 ID:i79TYzk.O
現在仮投下されてる作品も考えれば、単独行動できるのは七時間だけだしね

214 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/21(月) 18:27:19 ID:ZihvYurs0
仮投下スレを見る限り問題ないようなので、こちらに本投下します

215デスゲームの大会が始まったようです ◆YHOZlJfLqE:2013/01/21(月) 18:27:50 ID:ZihvYurs0
 会場のどこかの森の中。
 ヘルメットを被り、サングラスをかけた二頭身のアバターがそこにいた。

「どうなってんのよ、これ?」

 アバターこと、野球チーム『デンノーズ』の遊撃手、ピンクが辺りを見回す。
 自分の体がオンラインゲームのアバターになっている事や、周りが全く見覚えのない森の中である事に戸惑いを隠せないようだ。
 あのゲームはパソコンのモニターを見ながらアバターを操作するものだったはずだ。こうやって自分がアバターの中に入るというものではありえない。
 おまけに周りからピンク自身が持つ常人の数倍もの感覚が絶えず情報を拾っている。どうやら今の状態でもリアルでの超感覚は健在のようだ。

(ひょっとして、これがハッピースタジアムの本選? 野球ゲームのはずじゃなかったの?)

 最初に思い浮かんだ可能性は、先日予選を突破したオンラインの野球ゲーム『ハッピースタジアム』の本選というもの。
 ツナミの技術力なら、このようにアバターの中にプレイヤーが入るというような状態もできるかもしれない。
 最初に出て来たあの侍みたいな格好のアバターも、デウエスと同じようなものと思えば納得できなくはない。
 だが、ハッピースタジアムは野球ゲームだ。間違ってもこういう殺し合いなどではないし、何より本選開始はまだ先だ。

(でもこういう事ができそうなのってツナミぐらいしかいないし……ダメね、分かんない)

 少しだけ考えるが結局ツナミが怪しいという事くらいしか思いつかず、考えを早々に放棄する。
 ダークスピアからの警告の穴を見つけた時といい、自分の弱点を見抜いた時といい、こういう頭脳労働はジローの領分であって自分は実際に動く方が向いている。
 ……しかし、もし本当にツナミが関わっているのなら妨害はまずいんじゃないだろうか。
 ダークスピアから散々釘を刺されている状態で、その上こんな大きな行動を邪魔したら今度こそどんな目に遭わせられるか分かったものじゃない。
 だが、それでもヒーローがこんな殺し合いを見逃していいとも思えない。一体どうするべきなのか。

(そういえば、この体はあたしの体なのよね)

 ふと、ピンクの脳裏にある考えが浮かぶ。
 今の自分の体はツナミネット用のアバターだが、リアルの自分はヒーローの一人、桃井百花ことピンクなのだ。
 そしてピンクとしての能力である超感覚は今の体でも使えた。ならばもしかしたら。

「変・身!」

 もしかしたら、変身できるのではないか。
 そう思って、リアルと同じように変身しようとするピンク……が、数秒経っても何も変わらない。

216デスゲームの大会が始まったようです ◆YHOZlJfLqE:2013/01/21(月) 18:28:25 ID:ZihvYurs0
「って、やっぱりできるわけないか」

 どうやらここでは、超感覚は使えてもヒーローへの変身は不可能らしい。
 考えてみれば超感覚は常日頃、それこそゲームでも使っていたし、変身していなくても使えるから今の体で使えてもおかしくはない。
 が、体が違う以上変身できないのは当然と言えば当然である。この分では透視能力の方も使えないと見ていいだろう。
 それに超感覚だって人間の脳の許容範囲を軽く超える情報量を一気に取り扱う以上、今の体ではリアル同様に使えるとは思わない方がいいかもしれない。

「――――あな――――ビじゃ――――」
「――――ゲーム――――ツナミ――――」

「話し声、ってことは近くに誰かいるみたいね」

 そうしていると、北の方から話し声が聞こえた。
 普段の感覚から考えると、少し遠いが視認は可能な程度の距離にいる。
 片方は聞き覚えのない女の声だったが、もう一人は少し前に試合をしたチームのリーダー……確かアドミラルとか言ったか。
 マナーは褒められたものではなかったが、ゲーマーとしての腕は確かだった。
 話の内容から察するにアドミラルは乗っていないようだし、女の方も同様に乗ってはいなさそうだ。
 ここが森の中である以上、こっちは向こうの二人には見つかっていないはず。乗ってないならもしかしたら協力できるかもしれない。
 そう考えて二人に接触するために声の方を見て――――

「――――え?」


     ◆


 時間はほんの少しだけさかのぼる。

「え? あなたはネットナビじゃないの?」
「これはゲーム用のアバターで、ちゃんと操作してる人間はいるんだ。
 それに、ネットナビなんて物は聞いた事も無いぞ。ツナミの新製品か何かか?」

 森の中、ピンク色のネットナビ・ロールと、眼鏡をかけ、大斧(おそらく支給品だろう)を持った二頭身のアバター・アドミラルが話をしている。
 この会場で初めて出会った人物だが、殺し合いには乗っていないとの事なので行動を共にしているのだ。
 今の話題はネットナビについて。名前からして何かのオンラインゲームのキャラとは思えないし、ツナミの新製品か何かだろうか。

217デスゲームの大会が始まったようです ◆YHOZlJfLqE:2013/01/21(月) 18:28:53 ID:ZihvYurs0
「信じられない、今の世の中でネットナビがいない人がいるなんて……
 それにツナミなんて会社も聞いた事ないし、一体どういうこと?」

 そう言うロールも、ネットナビの存在を知らないアドミラルを不思議に思う。
 何しろ何十年も前に開発され、今なおネットワーク社会を構成する重要な要素だ。知らない方がおかしい。
 それに、ツナミという企業の存在も、今聞かされるまで知らなかった。
 真っ先に名前が出るという事は、少なくともネットワーク分野ではかなり大きい会社なのだろうが、それならN1グランプリのスポンサーもやっているI・P・C社の名前が出るだろう。
 全く知らない情報を知っていたり、知っていて当然のことを知らないアドミラルは一体何者なのか。

「ところで、あんたにはどんなアイテムが配られたんだ?」

 そう考えていると、アドミラルが急に話題を変えてきた。
 あまりにも急な話題転換だったが、よく考えてみればまだロールは支給品を見ていない。
 少しおかしいと思うが、道具の確認は確かにした方がよさそうだ。

「え、アイテム? そういえば、まだ見てなかったわね。
 ちょっと待ってて、今見てみるから」

 そう考えたロールは、そう言って視界からアドミラルを外し、メニューを操作してアイテム欄を開く。
 支給されたのは最初の話に出ていたテキストデータ以外だと、一挺の銃とマガジンが5つ。他にも何かあるようだ。
 説明を見ると、『SG550』と呼ばれる現実に存在するアサルトライフルらしい。マガジンはこの銃に対応したものらしい。
 ネットナビである自分は見た事が無いが、アドミラルが言ったようなどこかのゲームの中から持ってきたものなのだろう。
 そうしてSG550の説明画面を閉じ、別の支給品の説明を見ようとして――――

218デスゲームの大会が始まったようです ◆YHOZlJfLqE:2013/01/21(月) 18:29:16 ID:ZihvYurs0





















 ざしゅ。

219デスゲームの大会が始まったようです ◆YHOZlJfLqE:2013/01/21(月) 18:29:44 ID:ZihvYurs0
「――――え?」

 音とともに感じたのは痛み。
 より正確に言えば、肩口から何か重く鋭いもので叩き斬られたような痛みだ。
 予想もしなかった攻撃に思わず膝をつき、その場に倒れ込むロール。
 痛みでふらつく視界を何とか前に向けると、アドミラルが手に持っていた大斧をロールの体から引き抜いている。
 何故アドミラルが斧を? まさか今のはアドミラルがやったのか? 何故? どうして?
 苦痛と疑問が頭を駆け巡る中、アドミラルが口を開く。

「チッ、一回斬った程度じゃ死なないか」

 ……つまりは、そういう事。「殺し合いに乗っていない」というのは嘘だった。
 アドミラルは殺し合いに乗っていて、ロールを殺す為に今まで乗っていないフリをしていただけ。
 それが真相だった。

「アドミラル、どうして……どうしてこんな事……!」

 ざしゅ。
 ロールが問い質そうとするも、アドミラルはそれを無視して再び一撃。
 大斧がロールの体を叩き潰し、引き裂き、痛みを与えながら、HPをガリガリと削っていく。
 戦闘タイプではないロールにとって、受けたこともないような痛みが身を裂き、抵抗を封じる。

「痛い……痛いよ……」

 ざしゅ。
 苦しむ声にも耳を傾けず、一撃。
 幸か不幸か、この斧は元々存在していたゲームでは強力な部類に入る武器だ。苦しむ時間はそう長くはならないだろう。
 ……もっとも、これが弱い武器ならブルースをも上回る持ち前のスピードを使って逃げるくらいは出来たのかもしれないが。
 あるいは、もう少しだけ未来のロールならメットールを召喚して抵抗するという手も使えただろう。
 が、何を言おうがもう遅い。もはや自力で動くことすらかなわないロールには、今やどちらも不可能になってしまったのだから。
 HPはもう残り僅か。あと一撃受けたらそのままHPが尽き、デリートされるのは間違いない。
 そうして、アドミラルが再び斧を振り上げ――――

「い、いや……助けて、ロ――――」

 ――――ざしゅ。


【ロール@ロックマンエグゼ3 Delete】

220デスゲームの大会が始まったようです ◆YHOZlJfLqE:2013/01/21(月) 18:30:36 ID:ZihvYurs0
     ◆


「まずは一人ってとこか」

 そう呟きながら、アドミラルがロールの支給品を回収する。
 真っ先にSG550とマガジンを回収し、装備を自分に支給された両手斧『人でなし』からSG550へと変更。
 FPSやRTSが本業であり、斧以外の武器が支給されなかった彼にとって、こうも早く銃を入手できたのは僥倖だと言うべきだろうか。

 彼がリーダーを務めるチーム・ジコーンズ。
 かつて栄光を誇った強豪チームだったが、近年は大会優勝も出来ずスポンサーからも見放される落ち目のプロゲーマーチームである。
 後がない今、彼らは再起を賭け『呪いのゲーム』と噂されるハッピースタジアムの大会へと参加し……決勝で敗退して消えたはずだった。
 それが今、アドミラルだけがこうやって別のゲームに参加している。
 決勝の相手であるデンノーズが『顔のない女』との試合に勝ったのか、それとも何の関係もない第三者によるものか。
 いずれにせよ、こうして別のゲームに参加している。それが現状だった。

 ドロップアイテムを全て回収し、次に行く場所を考える。
 周りを見ると、すぐ近くに平原が見える。森の中と言っても端の辺りだったという事なのだろう。
 平原に出て少し右を見ると、遠くからでも分かる程の巨大な建物が見えた。
 平原があり、すぐ後ろに森があり、巨大な建物が見える場所となるとD-6くらいしか無い。ならばあの建物は大聖堂か。
 森の中を歩き回るのも非効率的だし、人が集まるであろう建物を目指すのもいいかもしれない。
 考えをまとめると、さっきまでロールのデータ残骸があった場所を振り返り、もう聞く相手がいない答えを告げる。

「さっき『どうして』って聞いたよな? せっかくだから答えてやるよ。
 俺はプロのゲーマーだ。だからどんなゲームだって、誰よりも上手くできるんだ。
 その俺が、ゲームで負けるわけにはいかないだろ?」

 アドミラルには、一つ信じているものがある。
 それは、『プロである以上、どんなゲームでも誰より上手くプレイできる』という矜持だ。
 遊びでゲームをやってる連中とは違う。来る日も来る日も練習し、頭の中をゲームだらけにしている自分達にとって、ゲームとは人生そのもの。
 だからこそ敗北は許されない。人生全てをかけている以上、誰よりも上手くて当然なのだ。
 大会で優勝できずにくすぶっていても、それこそ専門外の野球ゲームとはいえデンノーズに二度敗れた今ですら、この矜持は捨てないし捨てる気もない。
 だからこそ彼はこの殺し合いに乗った。デス『ゲーム』を誰より上手くプレイし、クリアするために。
 敗北が死に直結すると言っても、このゲームに参加する前までやっていたゲームだって似たようなものだ。今更躊躇など無い。
 ツナミの存在を知らない相手がいたり、ネットナビという未知の存在がいるようだが、そんな事は関係ない。ゲームである以上、この手でクリアするのみだ。

「……そう言えば、最初のルール説明の時にあいつがいたな」

 足を進めようとした時に、最初のルール説明の場を思い出す。
 アドミラルにとっての宿敵であるデンノーズのキャプテン、ジロー。
 最初のルール説明の時、彼がそこにいたのが見えた。
 本業ではない野球ゲームとはいえ、二度もジコーンズを、自分を破った……ライバルと認めた男。
 あの男がここにいるのなら、このゲームはリベンジの場にちょうどいい。

「待ってろよ、今度のゲームは絶対に俺が勝ってやる!」

 ――――今度こそ、勝つ。
 目にライバルへの闘志を漲らせ、大聖堂の方へと歩き出した。

221デスゲームの大会が始まったようです ◆YHOZlJfLqE:2013/01/21(月) 18:31:01 ID:ZihvYurs0
【D-6/森/1日目・深夜】

【アドミラル@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康
[装備]:SG550(残弾30/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×5@現実
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品1〜2、人でなし@.hack//
[思考]
基本:この『ゲーム』をクリアする
0:とりあえず大聖堂に向かう
1:ゲームクリアのため、最後の一人になるまで生き残る
2:ジローへのリベンジを果たす
[備考]
※参戦時期はデウエスに消された直後です
※ネットナビの存在を知りました
※ツナミの存在を知らない相手がいることを疑問視しています


     ◆


 全てが終わった後、惨劇の現場からすぐ南のE-6エリア。
 そこではピンクが必死になって走っていた。
 その顔は恐怖に歪んでおり、知らない人物が見たら到底ヒーローには見えないだろう。

(逃げなきゃ、あいつから離れなきゃ!)

 さっきは接触しようかとも考えていたが、あんな惨劇が起こった後ではそんな気など完全に消え失せた。
 何せ見知らぬアバターが惨殺される様を、斧でズタズタに切り刻まれる音を、常人より遥かに鋭い五感でしっかりと捉えてしまっていたのだから。
 人間態の時でも銃撃を痛い程度で済み、ヒーローの姿ならロケット弾にも耐え切り、戦闘用サイボーグすら倒せるリアルの肉体ならまだここまで恐れずに済んだだろう。むしろ退治することもできた。
 だが、この体は野球ゲーム用のアバターだ。RPGの戦闘程度ならこなせるが、それでもリアルの肉体よりずっと弱い。
 もう少し後の……例えばダークスピアとの決闘が終わった頃ならまだしも、今のピンクにこんな状態で戦えるほどの根性は無い。
 とにかく逃げなければ。ピンクの思考はその一言だけで埋め尽くされていた。


【E-6/森/1日目・深夜】
【ピンク@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:恐怖、半泣き
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:死にたくない
1:アドミラルから逃げる
[備考]
※予選三回戦後〜本選開始までの間からの参加です。また、リアル側は合体習得〜ダークスピア戦直前までの間です
※この殺し合いの裏にツナミがいるのではと考えています
※超感覚及び未来予測は使用可能ですが、何らかの制限がかかっていると思われます
※ヒーローへの変身及び透視はできません
※ロールとアドミラルの会話を聞きました

222デスゲームの大会が始まったようです ◆YHOZlJfLqE:2013/01/21(月) 18:32:29 ID:ZihvYurs0
支給品解説
【SG550@ソードアート・オンライン】
スイス・シグ社のアサルトライフル。
300m先の的に連射した場合、7㎝×7㎝以内に集弾できると言われる程の高い命中精度を誇る。
劇中ではGGOでダインが使用していた。

【人でなし@.hack//】
.hack//絶対包囲に登場する両手斧。攻撃力30。
装備すると以下のスキルが使用可能になる。
アクセルペイン:両手斧スキル。物理範囲攻撃。
アントルネード:両手斧スキル。闇属性の物理範囲攻撃。
ギアニランページ:両手斧スキル。闇属性の物理範囲攻撃。アントルネードより攻撃力が高い



投下終了。ロールちゃんごめんorz

え?ピンクがヘタレすぎる?
公式で根性なし扱いされてるし、ダークスピア戦以前ならこんなものかと

223名無しさん:2013/01/21(月) 18:58:14 ID:tsRQpds20
投下乙です
ロールちゃん脱落、人が良過ぎたなー
ピンクも落ち着かないと色々ヤバそう
待ってる娘が色々いるんだからジローさん早く来ないと

224名無しさん:2013/01/21(月) 19:09:38 ID:tKBXTaRgO
緑茶が合流したら、黒雪姫に既にバレてる上にダンまで乗ってると疑われるな。

225名無しさん:2013/01/21(月) 21:20:16 ID:oBYLPjTE0
投下乙です

ロールちゃんは他人の悪意を受けてしまったなあ
ピンクは時期が違ったらここまで恐慌する事はなかったかもしれないがこれは危うい
ああ、誰か来てくれ

226 ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:32:18 ID:98ZRpiHk0
投下乙です。

緑茶はEXTRAで数少ない、マスターと不和だったサーヴァントでしたからねぇ。
決して相性が悪いわけではないんですが、志が合わなかったというかなんというか。

ロールちゃんは………まあ運がなかったということで。
ピンクの方はこれからどうなるんでしょう。


それでは私の方も大丈夫そうなので、これより本投下させていただきます。

227AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:33:09 ID:98ZRpiHk0

     0

 ――――深い、茫洋とした海の中を漂っていた。
 光に照らされた明るい水面と、光の届かぬ暗い水底の狭間で。
 浮かぶ事も、沈む事もなく、まるで自身が海の一部であるかのように。

 その感覚は、あながち間違いではない。
 事実この体は、末端から色彩を失い、海へと溶け出している。
 ゆっくり、少しずつ、けれど一瞬で、この広大な海の一部へと変わっているのだ。
 ……それは外側だけではなく、内側も同様に。

 ここに至るまでに刻んだ決意も、
 後を託した彼女への願いも、
 共に戦ってきた相棒との記憶も、
                    全て。


 永遠にも感じる刹那の一瞬。「私」は己の最期を知覚する。


 不正なデータとして分解され、ただの情報として削除される。
 後に残るのは、かつてそういう存在がいたという残滓(ログ)だけだ。
 その結末は変えられない。変え様などないし、そもそも望んで至った結末だ。
 ……だからだろう。不思議と恐れは懐かなかった。

 母の胎内で眠る赤子のように、電子の海に擁かれている。
 それが人の原初の記憶だからか。そんな経験など無いのに、なぜかそう思った。
 ―――ああ、そうか。
 『死ぬ』のではなく、『消える』のでもなく、母なる海に『帰る』のだ。

 そう思い、僅かながらの安堵を覚えた。
 それでも解れていく記憶を掻き集め、
 決して手放さないように握り締め、
 落としてしまわぬ様に抱き締め、
 胎児のように膝を抱え込んだ。

 それでも記憶は解れていく。それでも体は解けていく。
 そうして遂に、魂ともいえる何かが消え始め、

 沈むでもなく。浮かぶでもなく。
 「私」は唐突に、電子の海とは違う暗闇へと落ちていった――――

     1◆

 ―――それが、ここに来る直前の記憶だった。

 そんな回想をついしてしまう程に、事態は混迷を迎えていた。
 唐突にVRバトルロワイアルとやらに強制参加させられたから、ではない。
 もちろんそれは思案すべきではあるし、第一に対処すべき事だ。
 だがそれを後回しにしてしまう程に厄介な事態が、同時に三つほど発生したのだ。

 一つ目の事態は、現在目の前に居る人物。
 ツギハギだらけの橙色の服を着た、まるでゾンビかフランケンの様な少年。
 最初はエネミーかとも思ったが、襲いかかって来る様子はなく、また敵意も感じ取れなかった。


 彼と遭遇したのは、バトルロワイアルが始まってそう間もなくだった。
 残る二つの事態に困惑していた時に、まるで幽鬼のように彼がふらりと現れたのだ。
 そうして突然現れた人物に警戒を見せていたこちらへと近寄り、何かを訴える様にジッと見詰めて、

「アァァァァアアァァァ……」

 と、唸る様な、言葉になっていない声を口にした。
 襲ってくる様子もなかったのでしばらく待ってみたが、彼から出るのはそんな唸り声ばかり。
 彼が何かを訴えているのはわかる。だが肝心な、何を訴えているのかが、一向に把握できなかった。
 かと言って諦めて立ち去る様子もないので、どうにも対処に困っていた。

 ―――そんな彼を後目に言い争う、背後から聞こえる三つの声。
 それが二つ目の事態。自身の相棒であるサーヴァント“達”の事だ。

『余こそが奏者のサーヴァントにして唯一のパートナーなのだ! 貴様ら二人は疾く何処へと立ち去るが良い!』
 と宣言するのは赤いドレスの様な(本人曰く)男装をした少女、セイバー。

『何をおっしゃりますかこの泥棒猫は! ご主人様のサーヴァントは私ただ一人に決まっているんです! 貴女の方こそ今すぐに消えてくれませんか!?』
 そう返すのは狐の耳と尻尾を生やした青い着物の女性、キャスター。

『少し落ちつきたまえ二人とも。今は言い争うよりも、事態の解明を優先すべきだろう。
 もっとも、私もマスターのサーヴァントである事を譲るつもりはないがね』
 比較的まともな事を言っているのは赤い外套の男性、アーチャー。

228AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:34:08 ID:98ZRpiHk0

 彼女達は霊体化している為、目の前の少年には姿も見えず、声も聞こえていないだろう。
 だが傍目にも怪しい人物である彼をほったらかして言い争っているのは、自身への信頼の表れだと思いたい。

 彼女達が三人とも己のサーヴァントである事は間違いない。
 セイバーとも、アーチャーとも、キャスターとも、最後まで共にいた記憶はある。
 だが同時に、己のサーヴァントは一人だけだった筈なのも確かなのだ。
 この矛盾。記憶の齟齬を解明するには、三つ目の問題が大きな障害となっていた。
 そしてその三つ目の事態とは――――

「                」

 と思考を巡らせたその時、どこからか少女の悲鳴が聞こえてきた。
 同時に、現在の状況を正しく思い出す。
 今はバトルロワイアル――聖杯戦争と同じ、正真正銘の殺し合いの最中だと言う事を。

「――――――――」
 直後、唸り声を上げるだけだった少年が、弾かれるように声の聞こえた方へと駆け出した。
 聞こえた声の感じから判断すると、そう遠くには居ないだろうが、同時に急いだ方がいい事も判る。
 すぐに己がサーヴァント達へと声をかけ、自分も少年を追って走り出す。

『了解したマスター。二人とも、言い争いは後だ。今は奴を追うぞ』
『むう、致し方あるまい。だが余は貴様等の言い分を認めた訳ではないからな!』
『それはこっちの台詞です! 貴女こそこれで終わったとは思わないでくださいね』
 アーチャーの言葉に従いながらも、セイバーとキャスターはまだ睨み合っている。
 どうやらこの問題の解決には、相当な時間がかかりそうだった。

 先を行く少年を追いかけながら、自身の戦力を再確認する。
 悲鳴があった、という事は、誰かが襲われているという事だ。つまり戦闘になる可能性が高い。
 とはいっても、セイバー達の戦闘能力はちゃんと覚えている。三人いれば、余程の相手でない限り負けないはずだ。
 ただ問題は―――

 そう湧き上がる不安を一先ず仕舞い込み、悲鳴の元へと駆けつける。
 このデスゲームで自分はどうすべきなのか、その覚悟を決める為に。

     2◆◆

 ―――一人の少女が、息を切らして走っている。
 その必死さは、まるで立ち止まれば死ぬと信じているかのように。
 そしてその考えは、紛れもない事実だった。

「ハァ……ハァ……ハァ―――」
 取得したマップデータを頼りに、高いビルの立ち並ぶフィールドを駆け抜ける。
 今は視認できないが、追跡者は迷うことなく私を追って来ている。
 それは迫り来る反応からも間違いない。

「ハァ……ハァ、ッ……ハ―――」
 「息が切れる」という体験を、初めてしている。
 これは苦しい。運動を嫌う人の気持ちが、少しだけ理解出来た。
 でもそれ以上に、私には疲れるという機能は無いはずなのに、こうして息が切れているのが不思議だった。

 ……いや、それを言うのなら、今感じている感覚全てが初めてで、この上なく鮮烈だ。
 今まで私が感じていたものが0と1(データ)で再現(つく)られた偽物なのだと、否応なく思い知らされる。
 風を受ける感触。駆け抜ける地面の硬さ。肌から伝わる温度。そして―――受けた傷の『痛み』。

「ハッ……、ハッ……、――ッハ」
 そうだ、勘違いしてはいけない。
 今私が息を切らしているのは、『疲労』からではなく『恐怖』からだと言う事を。
 追跡者は今も追って来ている。その恐怖が、こうして私を喘がしている。

     †

 それはデスゲームが始まってそう間もなくの事だった。
 初めは突然の事態に混乱したが、私はすぐに両親か、せめて他のプレイヤーを見つけようと判断した。
 ALOでそうしてきたように広域マップデータへとアクセスし、プレイヤーの反応をサーチして、一番近くの反応へと向かう事にした
 そして取得できた一エリア分のマップデータを頼りに、フィールドの一角を曲がった時、
 ――その『存在』と遭遇した。

 赤い、人型をした異形の巨人。
 顔に人間の様な目、鼻、口はなく、代わりに白いラインが顔を画く様に入っている。
 両腕は筋肉によってか異様に膨れ上がり、背中からは羽の様なものが生えている。
 そして何より、その巨人から放たれる“何か”によって、自分のみならずフィールドまで震えているような気さえする。

 ―――モンスター。
 そんな単語が浮かび上がった。目の前の赤い巨人は、どう見たってモンスターだ。
 だが、どうしてここにモンスターがいるのか。
 初めにサーチをした時、近くには幾人かのプレイヤーの以外には、“何の反応も無かった”のだ。
 まるで唐突に出現したとしか思えなかった。

229AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:35:06 ID:98ZRpiHk0

 幸いにして、巨人はまだこちらに気づいていないらしく、何をするでもなく佇んでいる。
 その湯巣に、今すぐここを離れるべきだと判断し、慎重に、一歩ずつ後退りした。
 ……その、直後だった。


「ふふふ……。さあ、鬼ごっこを始めましょう」
「フフフ――。一生懸命、その子から逃げてね」


 不意に聞こえてきた、誰かの声。
 と同時に、巨人が唐突に振り向き、その視線が私を捉えた。
 何故、と考える間もなく、巨人が接近し、拳を振り下ろしてきた。
 私は咄嗟に後ろへと飛び退いて、その一撃を回避する。
 標的を外した巨大な拳は、地面を打ち砕いて破片を撒き散らす。

 巨人の攻撃を躱せたのは、様々な戦いを見ていた事と、巨人の攻撃が大振りだったからに過ぎない。
 けれど戦闘経験の私には急な回避モーションは難しかったようで、バランスを崩して尻餅をついた。
 それと同時に、地面に打ち付けた臀部と、右の二の腕から『痛み』を感じた。
 思わず二の腕を押さえてそこを見れば、小さく刻まれた、赤いダメージエフェクト。
 どうやら、砕かれた地面の破片で切ったらしい、と私の冷静な部分が判断を下す。

 大丈夫。傷は浅い。けれど―――“痛い”。
 私は、生まれで初めて感じた痛みに思考を停止させた。

 私が過ごしてきた世界――SAOとALO。そのどちらにおいても、『痛み』は存在しなかった。
 正確に言えば、ペイン・アブソーバによって遮断されていたのだが、それでも現実の肉体を持たない私には無縁の感覚だった。
 そう。精神的な『痛み』は知っていても、肉体的な『痛み』に対する経験は皆無だったのだ。
 だがそれ故に私は、全く未知の感覚に、この上ないほどに混乱したのだ。

 けどそんな私の様子など関係ないように、再び拳を振り上げる。
 その光景を見て私が感じたのは、紛れもない『恐怖』だった。
 私は生まれて初めて、死ぬ事に恐怖を感じたのだ。

 ―――死ぬ。
 巨人の一撃を受ければ、左腕の傷とは比べものにならないくらいの『痛み』を受けて死ぬ。

 そんな確信に満ちた予感が、私の心を埋め尽くした。
 私は堪らず悲鳴を上げて、巨人から背を向けて逃げ出したのだ。

     †

 そして今、私は懸命に逃げ続け、巨人は変わらず私を捕捉している。
 移動速度は私よりも巨人の方が早い。
 それでも私が逃げ続けられているのは、私がマップデータを取得していた事と、巨人の反応をキャッチ出来ているからだ。
 けれど、少しでも逃げ道を間違えたるか、躓いてこけてしまえば、すぐに巨人に追い付かれてしまうだろう。

「パパ………ママ―――」
 誰よりも大好きな二人を呼ぶ。けれど、二人はここには現れない。
 もし彼らが近くに居るのならば、最初にサーチした時点ですぐに向かっている。
 けれど二人の反応はなかった。つまり、すぐに駆けつけられる距離には居ないという事だ。
 その事実が、かつて私が観察し続けた『絶望』という感情を湧き上がらせ、肥大化させていく。

「パパ、ママ……助けて―――!」
 助けを求めて、懸命に二人を呼ぶ。
 無意味な行為と解っていても、その言葉が止まらない。
 だって二人は、パパとママは、私達が出会ったデスゲームを終わらせた英雄だ。
 特にパパは、ゲームマスターのヒースクリフを倒し、妖精王オベイロンを倒し、ママを助け出した勇者だ。
 二人が来てくれればきっと、どんな怪物だって、あの巨人だって倒せるはずなんだから――――

「、あっ――――」
 躓いた。
 余計な事を考えたから、足元がおろそかになったのだ。
 余裕が無いのにリソースを割けば、ラグが生じるのは当然だ。
 その一瞬の動作の遅延に足を取られ、僅かに体が浮いて、地面に打ちつけられた。
 同時に痛みと、それ以上の恐怖が襲って来る。

 すぐさま体を起こし、起き上がる。
 巨人が来る前に、早く逃げなくては。
 そう思い、走り出そうとして、

 突如としてすぐ側の壁面が粉砕され、その瓦礫が、左脚を強く打ち据えた。

「        、あぁああぁああぁぁぁあッッ………!!!」

 先ほどとは桁違いの痛みに、絞り出すような悲鳴を上げる。
 同時に走り出そうとした慣性が制御を離れ、私の体は再び地面に打ち付けられた。

「あ―――ぁああ………ッ!」
 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。
 欠損した訳ではない。ダメージはあるが、動作に問題はない。
 それでも『痛み』が、足を動かす事を妨げる。
 動けない。動きたくない。これ以上痛い思いをしたくない。……死にたくない。
 これが恐怖……『死の恐怖』。アインクラッドにおいて、多くの人を始まりの街へと縛りつけた感情。

230AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:35:29 ID:98ZRpiHk0

「ぁ……う、うう……ッ」
 痛みに阻害されて、左足がうまく動かない。
 それでも地面を掴んで這うように前へと進む。
 少しでも遠くへと逃げる為に、恐怖に強張る体を必死に動かす。
 砕かれた壁を見れば、そこから赤い巨人が、瓦礫を踏み砕いて姿を現した。

「ぁ……、ぁあ………」
 『死の恐怖』が、私を飲み込んでいく。
 あまりの恐怖からか、悲鳴さえもう掠れるようにしか出ない。
 そんな私を追い詰める様に、巨人が更に一歩踏み出した――その瞬間。

 突如私の背後から飛来した蒼い炎が巨人を急襲した。
 その攻撃に巨人は歩みを止め、襲い来る蒼炎を巨腕で振り払う。

「えっ……?」
 思わず炎が飛んで来た背後へと振り返る。
 そこにはいつの間にか、ツギハギだらけの橙色の服を着た少年がいた。
 まるでモンスターの様な外見だが、反応から彼もプレイヤーだとすぐに気付く。
 少年は私の横を通り過ぎると、禍々しい双剣を具現化して逆手に構え、巨人と相対した。
 ――まるで巨人に対して、自分が相手だと言わんばかりに。

「……あなたは?」
「……………………」
 応えはない。少年は巨人へと集中している。
 巨人もまた、私よりも少年の方を脅威と判断してか、警戒らしき動作を見せている。

  ―――君、大丈夫?

 突然現れた少年に気を取られていると、背後から唐突に声をかけられた。
 びっくりして振り返ると、そこには学生服を着た女の人が、心配そうな顔をしていた。
 そしてその背後には、二人の女性と一人の男性が、女の人に従うように傍にいる。
 その姿に私は、助かった、と危機が去った訳でもないのに安堵した。

     3◆◆◆

 ツギハギの少年――カイトがこのバトルロワイアルに呼ばれた時、彼は人間で言う混乱した状態にあった。
 何しろいきなり『The World』から全く未知の世界へと転送されたのだ。
 プレイヤーの形をとって『The World』を修正するプログラムである彼は、その事態に対応できなかった。
 現在の事態も把握できず、修正プログラムとしての権限も使えない状況で、目的と取るべき行動を見失ったのだ。

 だがその時、一人のプレイヤーと思われる人物と遭遇した。
 そこで彼は、そのプレイヤーに同行する事で、当面の方針を得ようとした。
 『The World』で言えば、そのプレイヤーのパーティーに入り、リーダーを任せようとしたのだ。

 しかし彼には、相手に上手く自分の意思を伝える事が出来なかった。
 彼の未熟なプログラムには、意思疎通という点において大きな問題があったのだ。
 そして当然のように、コンタクトは失敗。彼に出来たことは、その人物へと訴えるように唸り声を上げるだけだった。

 だがそんな時、少女の悲鳴と、見知った反応を感じ取った。
 行動の優先順位を変えるのは早かった。
 カイトは一目散に反応を感じる場所へと向かった。
 そしてそこに居たのは、一人のAIと、赤い異形の巨人。

 赤い巨人の方は、全く見覚えがない。『The World』には存在しないモンスターだ。
 だが少女の方からは、覚えのある反応を感じ取ることが出来た。

 即ち、自らの主――女神AURAの反応だ。

 そう理解した時、カイトの目的は定まった。
 何故少女から女神AURAの反応があるのかは解らない。
 だがその反応が己が主の物であることは間違いない。
 ならば女神AURAの守護者として少女を護り、眼前の敵を打ち倒すのだと。

「ア゛アアァァァア!!」

 そうしてカイトは声を上げ、ある種の使命感を胸に、双剣を構えてスケィスへと突撃した。

231AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:36:25 ID:98ZRpiHk0

     †

 先を走る少年の背中を追いかける。
 おおよその位置は把握しているのか、彼の走りには迷いが見られない。
 一体どこを目指しているのかと思いつつも、幾つかの角を曲がったところで、

「あぁああぁああぁぁぁあッッ………!!!」

 車が家屋にぶつかったかの様な音と、その直後に絞り出す様な悲鳴が聞こえた。
 聞こえた悲鳴に、焦燥感が強くなるが、同時に安堵もした。
 たとえ悲鳴だったとしても、声を出せたという事はつまり、声の主はまだ生きているという事だ。
 そうして聞こえた悲鳴を頼りに、一層強く地面を蹴って最後の角を曲がり、
 視界に入った赤い異形の巨人に、思わず足を止めて目を見開く。

「馬鹿な。なぜ彼奴がここに居る!」
「ヤバイ……めっちゃヤバイですよこれ! 尻尾にビンビン来てますって!」
「出来れば、二度と相手にしたくなかったのだがな」
 驚きを口にしながらセイバー達も実体化し、すぐに周囲を警戒する。

 ――ジャバウォック!
 その巨体から放たれる凶悪な魔力を見間違えるはずがない。
 あれは間違いなく、ありす達の“お友達”のジャバウォックだ。
 何故ここに、と思わず叫びそうになるのをどうにか飲み込んで、周囲を見渡し警戒する。

 ジャバウォックの近くには一人の少女がいる。おそらく悲鳴の主は、その少女だろう。
 だがその少女を護る様に、少年が双剣を逆手に構えてジャバウォックと相対していた。
 ならば自分は、と少女へと駆け寄り、大丈夫かと声をかける。
 いきなり声をかけられた少女は驚いた顔をした後、安堵したように緊張を解いた。

 少女に手を貸し、立ち上がらせる。
 その際に少女に残る傷に思わず顔をしかめる。
 だが彼女が無事だったことを喜ぶべきだと、すぐに表情を和らげる。

「私は大丈夫です。……あ、あの」
 そう躊躇いがちに聞いてきた少女の問いを、話は後で、と遮る。
 危機はまだ去った訳ではない。まずはジャバウォックをどうにかしなければならない。
 それにまだ、あの少年の正体も判明していないのだ。

 少女を背に庇いながら、少年とジャバウォックを観察する。
 少年は……少なくとも、今は敵ではない。
 最初にすぐに襲ってこなかった事と、少女を助けたことからそう判断できる。
 対してジャバウォックからは、初めて遭遇した時ほどの凶悪な魔力は感じられない。
 だがその力がなおも驚異であることは容易に想像できる。

 ちらりと、アーチャーへと視線を送る。
 それを受け取ったアーチャーは、僅かに首を振って答える。
 ――不可能、か。
 アーチャーの能力ならば、“ヴォーパルの剣”を作り出せるのでは?と思ったのだが、どうやら出来ないようだ。
 単に作り出せないのか、それともそれ程の効力を持たせられないのか、あるいは“制限”からか……。
 いずれにせよ、ジャバウォックの弱体化は望めないらしい。

「ア゛アアァァァア!!」
 その、僅かな目配せの隙に、少年がジャバウォックへと突撃した。
 止める間もない。
 少年は一瞬でジャバウォックの懐に潜り込むと、双剣を振るってその胴体を切り刻む。
 そのあまりにも超高速の連続攻撃に、まるで少年が三人に分身したかのようにさえ見える。
 そして少年がジャバウォックの横合いを過ぎ去った時、その胴体には、三角を描くように傷痕が刻まれていた。

 目を見張るほど強烈な連続攻撃。
 例えサーヴァントであっても、無防備に食らえばただでは済まないだろう。
 ――――しかし。

「        ッ!!」
「……………………ッ!?」
 名状しがたい叫び声とともに、少年の身体が弾き飛ばされ、フィールドの壁に激突した。
 少年を弾き飛ばした者の正体は、ジャバウォックの巨大な剛腕。
 ジャバウォックは少年の攻撃を意に介さず、技後硬直の隙をついて少年を薙ぎ払ったのだ。

 そしてさらに、ダメージの反動で動けない少年に止めを刺そうと、ジャバウォックが右腕を振りかぶる。
 流石にそれを見過ごすわけにもいかず、即座にセイバー達へと指示を出す。

232AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:37:05 ID:98ZRpiHk0

「了解した!」
「余に任せよ!」
「無茶言いますね!」
 それに従ってセイバー達はジャバウォックの元へと駈け出す。
 そんな間もあればこそ、ジャバウォックは少年へと、その大きな拳を勢いよく振り下ろした。
 その一撃を先行したキャスターが、玉藻鎮石(たまもしずいし)と呼ばれる鏡を翳して防ぐ。
 ドゴン、と尋常ではない衝突音が響き、キャスターが苦悶の表情を浮かべるが、完全に守りきる。
 だがその隙に、セイバーが渾身の魔力を込めた一撃でジャバウォックの左腕を切り落とす。
 更にアーチャーがガラ空きとなった懐に潜り込み、飛来した双剣と共に三連撃を叩き込み、その巨体を弾き飛ばす。

 ――直後。唐突に襲ってきた立ち眩みに、ガクンと膝を落とした。

「だ、大丈夫ですか!?」
 背後の少女が、慌てて声をかけて来る。
 急速に力が抜けていく。
 どういう事かと考え、すぐにその理由に思い至る。

 ――そういうことか。
 この異常は単純に、急激な魔力消費によって、肉体が異常をきたしたのだ。
 おそらくだが、サーヴァントを実体化させると、その維持にマスターの魔力が消費されるのだ。
 それがマスターである自分に掛けられた制限。
 そして自分は今、サーヴァント三騎分の魔力を一気に消費している。この立ち眩みは、それが原因だろう。
 そうと分かればどうという事はない。これが彼女達を従える対価なら、安いものだと自分に言い聞かせる。

 ――大丈夫だ。心配ない。
 心配少女にそう言って、どうにか自力で立ち上がる。
 それでも少女は心配そうな表情を見せるが、その視線を振りきってジャバウォックへと向き直る。
 弾き飛ばされたジャバウォックは地面に横たわっている。

 〈呪層・黒天洞〉でジャバウォックの一撃を防ぎ、〈花散る天幕〉で防御手段を一つ減らし、〈鶴翼三連〉で大ダメージを与える、加減無しの三連携。
 即興にしては上手くいった。並大抵の相手ならば、これで終わっているだろう。
 だが、ジャバウォックを相手にしては、これでも安心する事は出来ない。

「そんな……!」
 その様子に、少女が驚きの声を上げる。
 ジャバウォックが何事も無かったかのように立ち上がったのだ。
 そして肘から先を失った左腕を不思議そうに見つめた後、ゆっくりセイバー達へと向き直る。
 その次の瞬間にはもう、切り落とされた左腕も、胴体に受けた傷も完全に修復されていた。

 ……やはり、“ヴォーパルの剣”がなければ倒せないか。
 泰然とした様子のジャバウォックを見て、内心でそう嘆息する。

「アァァァ…………」
 とそこで、ジャバウォックの一撃から持ち直したのか、少年が立ち上がる。
 戦意はまだあるらしく、その眼はしっかりとジャバウォックを捉えている。そしてその右腕を掲げ、ジャバウォックへと突き付ける。
 するとその腕に、半透明のポリゴンを何枚も重ね合わせた、腕輪の様なものが      。

 ――――――――。
 あれは、『危険』だ。
 あの腕輪は、“自分達”にとってこの上なく危険な『力』だ。
 決して何があろうと、あの腕輪の『力』だけは受けてはいけないと。
 さもなくば、『自分』が『自分』でなくなるのだと、理性より先に本能が理解した。

 腕輪は回転する三枚の赤いポリゴンを出現させながら、まるで何かの準備を整えるかのように、より大きく展開していく。
 そして最大限に展開したのか、三枚の赤いポリゴンの回転が止まり、直後、少年の腕輪から極彩色の光が放たれ、ジャバウォックの身体を貫いた。

 光に貫かれたジャバウォックは突然苦しみ出し、その凶悪な気配を急速に萎ませていく。
 それを好機と見たセイバー達が、渾身の攻撃をジャバウォックに叩きこむ。
 無防備に攻撃を受けたジャバウォックは、ズン、と音を立てて倒れ、その体を崩壊させていく。
 まるで“ヴォーパルの剣”を使われたかのようなあっけなさ。
 謎のスキルで怪物を弱体化させた少年を、その場に居る全員が強く警戒する。
 だがその中で一人――いや、二人だけが、少年の腕輪の力を正しく理解し、恐怖していた。

「ああ! お姉ちゃんみーつけた!」
「よかったねあたし(ありす)。また遊んでもらえるわ」

 ――――――ッ!
 背後から唐突に聞こえた声。咄嗟に振り返り見た光景に、思わず自分の目を疑う。
 手を握った少女と同じくらいの年齢。双子のようにそっくりな姿。白と黒の砂糖菓子。
 いるはずのない二人の少女――ありすとそのサーヴァント、アリス/キャスターがそこにいた。

233AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:38:54 ID:98ZRpiHk0

「……あれ? あれれ? 確か、お兄ちゃんじゃなかったっけ? でもお姉ちゃんだったような気も……。どっちだっけ?」
「うーん……どっちでもいいんじゃない? 今はお姉ちゃんなんだし、お姉ちゃんという事にしたら?」
「いいのかな? それで」
「いいのよ。それで」

 ……ここで、ジャバウォックを見た時からの疑問が浮かび上がる。
 記憶の断片から、一つの確かな事実を掬い上げる。
 彼女たちは聖杯戦争の第三回戦にて敗北し、ムーンセルによって消去された――つまり“死んで”いるはずなのだ。
 だが現に、目の前には二人のありすが存在している。
 これは一体、どういうことなのか……?

「ご主人様、考えるのは後です! 今はこの場を切り抜ける方法を!」
 キャスターの言葉で我に返る。
 そうだ。今は考えるよりも先に、目前の脅威に対処すべきだ。
 彼女達が何故ここに居るのか疑問が尽きないが、相手にしている余裕はない。

「それにしても、“ヴォーパルの剣”を使わずにあの子を倒すなんて、お姉ちゃんたち凄いね」
「籠めた魔力が甘かったのかしら。そこのお兄ちゃんのスキルの効果なのかな?」
「わからないわ。けど、お姉ちゃんと遊べるのは楽しみね、あたし(アリス)」
「そうね、楽しみ。今度は何して遊びましょうか、あたし(ありす)」

 二人のありすは、相変わらず自分達だけの世界でおしゃべりしている。
 対して少年の方を見れば、ジャバウォックの時と違って戦意を感じられない。
 元々目的も、敵か味方かも分からないのだ。戦力としては期待できないだろう。

 ――この少女を、ジャバウォックに襲わせたのは、なぜ?
 碌な答えは期待できないが、念のために問いかける。
 場合によっては、行動を改めなければならない。

「だってその子、ジャバウォックを見て逃げようとしたんだもの」
「逃げるのを見たら、追いかけたくなっちゃうよね。兎とか」
「だからその子で、鬼ごっこをして遊ぼうって思ったの」
「鬼はあの子。その子は兎。捕まえたら首をちょん切っちゃうの」
「ふふふ………。ちょん切って、どうするの? あたし(アリス)」
「フフフ―――。そうね、どうしましょうか。あたし(ありす)」

 子供特有の残酷さに、思わず渋面を浮かべる。
 心配になって横目に見てみれば、少女は顔を青ざめて震えていた。
 視線を戻せば、話は終ったとばかりに、ありす達はまたおしゃべりに興じている。

 ……行動するなら、彼女達がおしゃべりに夢中になっている今の内だ。
 アリス/キャスターのステータスはオールE。サーヴァントとして最低限といった程度。
 その能力・宝具こそ脅威だが、セイバー達が三人で掛かれば問題なく倒せるだろう。
 だが彼女達のいる場所は、セイバー達からは少し遠い。少しでも間を与えれば、一瞬で逃げられる。
 そして魔力の消費速度から予測すると、セイバー達を維持できるのは、保って残り二分強程度。
 ここは―――

    A.ここで倒す
   >B.今は逃げる

 アリスの宝具は、一度発動してしまえばある種の無限ループに陥ってしまう。
 セイバー達の維持に時間制限がある以上、彼女たちに逃げに徹せられてしまえばこちらが不利となる。
 ましてや今は、守るべき少女がすぐ側にいる。彼女を戦いに巻き込む訳にはいかない。
 ――今は逃げて、大勢を整えるべきだ。
 そう判断し、少女の手を取って後退りをする。

「お姉ちゃん、逃げちゃうの? それじゃつまらないわ」
「そうね、つまらないわ。……そうだ。また“鬼ごっこ”なんてどうかしら」
「“鬼ごっこ”をもう一度するの? おんなじ遊びなんて、あきないかしら」
「大丈夫よ。さっきは私達が鬼だったけど、今度はお姉ちゃんに鬼になってもらうの」
「まあ、それなら大丈夫ね」
「ええ、きっと大丈夫よ」

 その途端、それを見咎めたありす達が、次の“遊び”を決定する。
 ――“鬼ごっこ”。
 ありす達が告げるその遊びに、背筋が凍るような悪寒が奔る。
 マズイ。何の対策もしていない今、“あれ”を発動されたら全滅する!
 逃げる余裕はない。即座にセイバー達へと、ありすを止める為に指示を出す。

234AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:41:24 ID:98ZRpiHk0

「蹴散らす!」
 セイバーが先行し、ありす達へと大剣を一閃する。
「危ないわ」
 その一撃を、アリスが手刀に魔力を込め弾き返す。
 速さだけを優先させた一撃では、アリスの防御を破れない。

「これは躱せるか!」
 だがアリスが反撃するより早く、アーチャーが〈“赤原猟犬(フルンディング)”〉を放つ。
 赤光を纏った魔弾は、直線状に居るセイバーを迂回するようにアリスへと襲いかかる。
「簡単ね」
 それをアリスは、ありすの手を引いきながら大きく飛びのいて回避する。

「気密よ、集え!」
 そこへ、キャスターが〈呪相・密天〉を発動する。
 その魔力に導かれ、風が集束してありす達を閉じ込め押し潰す。
「ふふふ」
「フフフ―――」
 その大気の壁による圧縮から、ありす達は転移する事で脱出した。

「お姉ちゃん、もう終りなの?」
「じゃあ鬼ごっこをはじめよう?」
 楽しげに笑う二人の少女。
 彼女達は近づくには遠く、離れるには近い微妙な距離に居る。
 今攻撃したところで、すぐにまた逃げ回られるだけだろう。

 まさしく楽しげに遊ぶ子供。
 周囲の人間を翻弄して、徒労させる小悪魔。
 逃げに徹した彼女達は、やはり簡単には捕らえられない。
 しかし―――布石はすでに打ってある。

「ッ!」
「?」
 その一手に、ありすはまだ気づいていない。
 気付いたアリスが、咄嗟に振り返る。
 ……だがもう遅い。
 もはや転移での回避は間に合わない。
 二人の少女へと、回避したはずの赤い魔弾が襲いかかった。

 “赤原猟犬”は、射手が健在かつ狙い続ける限り標的を襲い続ける魔剣だ。
 たとえありす達がどこへ逃げようと、アーチャーの視界に居る限り、その魔弾から逃れる事は出来ない。

 ありすを庇い、アリスは渾身の魔力を四肢に込める。
 しかし彼女の防御力では、魔弾は防ぎきれない。
 例え倒すには至らなくても、大ダメージは免れないだろう。

 そうして、大気を震わす衝撃を伴って、赤光が弾けた。
 その瞬間、赤光の魔弾が二人の少女を貫く光景を、誰もが光景を幻視し、
 ――しかし、その光景は訪れなかった。

 光に眩んだ眼が視力を取り戻し、驚きに目を見開いた。
 目の前には魔弾に貫かれたはずの二人の少女が、なおも健在。
 そして彼女達のすぐ側には、紫の毛並みをした猫のような獣人がいた。

「――――大丈夫かい? 二人とも」
 猫の獣人が、ありす達に声をかける。
 その手には異風な形状をした、紫色の刀剣が握られている。
 緋の猟犬は、彼女の持つ魔剣によって防がれ、弾き飛ばされたのだ。

 そして“赤原猟犬”での追撃は、もう望めない。
 十分な魔力を籠められなかった魔弾では、標的へと翻るのは一度が限界だった。

「………マ$………」

 不意に少年が、何かの言葉を口にする。
 だが彼から初めて聞いた意味を持った単語は、なぜかノイズが奔った様によく聞き取れなかった。

235AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:42:47 ID:98ZRpiHk0

「遅いわチェシャ猫さん。もう少しでケガするところだったわ」
「遅刻はダメだよ。首をちょん切っちゃうんだから」
「コメンゴメン。首は切られたくないから、今度はちゃんと気を付けるよ。
 でもありす達だって悪いと思うな。僕を置いて先々行っちゃったんだから」

 ありす達と猫の獣人は、親しげに会話をしている。
 だが隙だらけという事はなく、彼女達は警戒を全く解いてない。
 例え今仕掛けても、“名無しの森”を出現させるだけの時間は稼がれてしまうだろう。
 ともすれば、ジャバウォックさえも再び呼び出されてしまうかもしれない。

「まあいいわ。今回だけは許してあげる。
 それじゃああたし(ありす)。今度こそお茶会を開きましょう」
「うん、そうしようあたし(アリス)。
 みんなで一緒に、ごっこ遊びをはじめましょう」

 二人のありすから、膨大な魔力が放たれる。
 規格外の『力』の具現。その予兆で、フィールドが軋み始める。
 現れるのは“名無しの森”か、“ジャバウォック”か、あるいは両方か。
 何が現れるにせよ、まず無事では済まないだろう。

 脳裏に一抹の不安が過る。
 果して自分は、生き残る事が出来るのか、と。
 ……いや、なんとしても生き残るのだ。
 今この手には、守るべき命が握られているのだから。
 繋いだ少女の手を強く握り、そう覚悟を決めた、その時だった。

「二人とも、ちょっと待ってくれるかな」
 一体どういうつもりなのか、猫の獣人がありす達に制止の声をかけた。

「チェシャ猫さん?」
「どうして邪魔をするの?」
「いやほら、彼らだってジャバウォックと遊んで疲れてるだろうしさ、少しは休ませてあげたらと思ってね。
 それにあの子も鬼ごっこで逃げ切ったんだし、ご褒美を上げなきゃ」
 その言葉にありすは少し考えた後、納得したように頷いた。

「うん、そうだね。疲れてたら、思いっきり遊べないよね。
 ねぇあたし(アリス)、お茶会はまた今度にしてあげましょう」
「もう、しょうがないわね、あたし(ありす)は。
 いいわ、今日のところは見逃してあげるね」
 その言葉と同時に、密度を増していた魔力が霧散する。言葉通り、見逃してくれるという事だろう。
 獣人の方を見てみれば、彼女はありす達に見えないようにウィンクをしてきた。
 助けてくれた……のだろうか。
 だとすれば彼女は、一応ありす達の仲間ではあるが、完全な仲間という訳ではないのかもしれない。

「それじゃあバイバイ、お姉ちゃん」
「また新しい遊び、考えておくね。
 行きましょう、チェシャ猫さん」
「二人とも、また置いてかないでよ。
 あ、そうだ。僕の名前はミアって言うんだ。お互い、生きてたらまた会おう」
 そう言って二人のありすと猫の獣人――ミアは、どこかへと走り去って行った。
 そしてその姿が見えなくなると同時に、ようやく危機を脱したのだと理解した。
 そのことに安堵すると同時に、今更ながらに心臓の鼓動が激しくなっている事を自覚する。

236AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:43:20 ID:98ZRpiHk0

 ――だが、これで全てが終わった訳ではない。
 深呼吸して、改めて継ぎ接ぎだらけの少年と相対する。
 彼は双剣を納めながら、こちらへと近づいてきている。
 最初にあった時、少年は唸るばかりで何もしてこなかった。
 だが少年の見せたあの『腕輪の力』を思い出し身構える。

 ジャバウォックを一瞬で弱体化させたあの力。
 もし自分があれを食らってしまえば、『自分』の全てが消えてなくなる。
 そんな、絶対的な確信に満ちた予感があった。

 そして少年は会話をするのに十分な距離で立ち止まると、

「アァァァァアアァァァ……」

 そう、最初と同じように様に、唸り声を上げたのだった。
 張り詰めた緊張の糸が緩み、警戒心が薄れた。
 密かに警戒していたセイバー達も、思わず警戒を解く。
 まるでふりだしに戻る。
 一体どうしろというのかと、頭を抱える。
 するとその時、思わぬところから、神の啓示の如き一声が届いた。

「あの……この人、あなたに何かお願いしたい事があるそうですよ?」

 思わず弾かれる様に振り向き、声の出所である少女をまじまじと見つめて、訊いてみた。
 ――彼の言ってる事、わかるの?

「はい。何となくではありますけど」
 その言葉に、おお、と感嘆の声を漏らす。
 何となくだとしても、混迷する事態を解決できるのなら、それに越したことはない。
 両手で少女の手を握り、迷わず少女へと助けを求める。

「いいですよ。これくらい、お安いご用です。
 私も助けてもらった恩を返したいですし」
 そう言って少女は快く引き受けてくれた。
 これでようやく、現状を先に進められそうだ。
 その安堵とともに、少女へとありがとうとお礼を言う。

「あ、そうだ。先に自己紹介をしておきますね」
 少女のその言葉に、大切な事を思い出した。
 そうだ。自分達はまだ、お互いの名前も知らないのだ。

「私はユイと申します」
「……カ#ト」
「えっと……彼はカイトって名前だそうです」

 ユイに、カイト。
 おそらく、これから共に闘うであろう仲間の名前を、大切にかみしめる。
 カイトの言葉は、先ほどと同様によく聞き取れない。
 だがユイの助けがあれば、一応の意思疎通は出来るだろう。
 少女達へと向き直り、自分の名前を告げる。
 自分の名前は―――

    A.フランシスコ…ザビエル!
   >B.岸波 白野。

 ――岸波 白野だ、よろしく。
 二人へと向けて、精一杯の信頼を込めてそう口にする。
 ………なぜか一瞬、脳裏に妙な名前が浮かんだが、その名前だけは間違いなく、致命的に間違っている。
 誰が何と言おうと、自分の名前は岸波 白野だ。決してフランシスコな単語ではない。

「ハクノさんですね。これからよろしくお願いします」

 ユイの呼び掛けに何となく安心しつつ、それじゃあ、と気持ちを切り替える様にマップデータを開く。
 カイトの頼みを聞くにしても、こんな場所ではまた襲撃されかねない。
 まずは安全な場所に向かった方がいいだろう。
 するとユイがまた、自分達を助ける一言を口にした。

「あ、周囲のマップデータでしたら、既に取得してあります。
 ですので、道案内は私に任せてください」

 ……ホントにこの子は、天使か何かなのだろうか。
 そんな風に思いつつも、ユイの道案内で安全な場所へと移動を始めた。

237AI's ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:45:04 ID:98ZRpiHk0

     4◆◆◆◆

 二人の少女の後をついて、猫の獣人――ミアは歩いていた。
 自分の事をチェシャ猫と呼ぶ彼女達は、二人で楽しげに談笑しながらどこかへと向かっている。
 その場所を、ミアは知らない。
 少女達の仲間という立場に居ながらも、ミアは仲間の輪の中にはいなかった。

 それも当然だろう。
 二人の少女にとって、ミアは“新しいおもちゃ”という認識でしかない。
 毛色の変わった、物珍しいおもちゃ。飽きたら当然、捨てられる。
 事実ミアは、一度少女達に殺されかけていた。

 ユイが遭遇し、彼女を追いかけたジャバウォックは、その際に召喚されたものだ。
 ミアはジャバウォックの攻撃を辛うじて掻い潜り、逆に一撃を加えた事で生き延びた。
 もちろんただ一撃を与えただけではない。攻撃した際に、武器のアビリティが発生したおかげだ。
 発生した効果は、バッドステータス・魅了。
 効果は一瞬しか発生しなかったが、それでも一瞬、ジャバウォックは少女達の敵になったのだ。
 そのおかげで、ミアは少女達に興味を持たれ、結果生き延びる事が出来たのだ。

 【誘惑スル薔薇ノ雫】――それが二度も彼女を救った武器の銘だ。
 この剣はどういう訳か、今までのどんな剣よりも彼女の手に良く馴染んだ。
 まるでこの剣が、元から自分の一部であったかのように感じるほどに。
 そしてそれほどまでに馴染む剣だからこそ、二回も窮地を切り抜けられたのだ。

 この剣が彼女を救った、二回目の出来事。
 それは少女達を狙った赤光の魔弾を弾き飛ばした事だ。
 あの魔弾を受ければ、生半可な剣では砕かれ、合わない武器だったならば逆に弾き飛ばされていただろう。
 その証拠に、魔弾を弾き返した際の衝撃がまだ抜けず、腕には痺れたような感触が残り、上手く力が入らない。
 この剣だからこそ、ミアの思い描いた通りの結果を齎す事が出来たのだ。


 ここで一つの疑問が残る。
 ミアはなぜ、少女達を救ったのかという事だ。
 おもちゃ扱いされ、飽きて殺されてもおかしくない状況で、元凶である少女を救った理由。
 それは………実を言えば、ミア自身にもわからなかった。

 ミアの“生きて”きた『The World』はネットゲーム。つまり他人と共に楽しむゲームだ。
 その世界でミアは、あるプレイヤーと一緒に様々な楽しみや喜びを見出してきた。
 だからだろうか。たった二人で完結している少女達に、他者と繋がる楽しみを知って欲しいと思ったのだ。

 強いて言えば、ミアは少女達を助けた理由はそれだけだ。
 それがどうして命を掛ける理由になったのかは、ミア自身にも解らなかった。
 だが彼女にはそれが、とても大切な事だと思ったのだ。

「ねぇあたし(アリス)、このご本面白いわ」
「そうねあたし(ありす)、すごく面白いわ」
「書いてあることは難しくて読めないけど、空飛ぶご本なんて初めて」
「それに二つに分かれたわ。あたし(ありす)とあたし(アリス)でお揃いね」

 少女達は今、支給されたアイテムを装備した際に発生した現象にはしゃいでいる。
 アイテム名は【途切レヌ螺旋ノ縁】。ミアの持つ魔剣と起源を同じくする魔典だ。
 月と太陽の意匠がなされたその武器は、白い少女が装備すると同時に二つに分かれ、もう一人の黒い少女にも装備されたのだ。
 それが当然の事だと、ミアは理由もなく納得していた…………いや、理由ならある。
 あの魔典の本体。碑文の第五相。『策謀家』の異名を冠した双子の名は――――――

「ねぇチェシャ猫さん。チェシャ猫さんは、次はどんな遊びがしてみたい?」
「―――そうだね。宝探し、なんてどうかな?
 別に形のある物じゃなくても、綺麗な風景とか、そういう形のないものでもいいんだ。
 自分が『これはいいモノだ。大切にしたい』って思えるモノを探すんだ」
「まあ。それは素敵ね、あたし(アリス)」
「ええ、素敵だわ、あたし(ありす)。でも疲れないかしら」
「疲れたら、お休みしなきゃ。そしたらもう遊べないわ」
「遊べないのはイヤね。もっともっと遊びたいわ」
「そうね。もっとずっと遊んでいたいわ」
「ずっとずっと、ずーっと―――」

 ミアに話を振られたのは一瞬。それ以降はまた、少女達は二人だけの輪に戻っていった。
 その光景に、ミアは思わず苦笑を浮かべた。

「まずは、名前を呼んでもらう事から頑張らないとな」

238CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:46:33 ID:98ZRpiHk0

 少女達の呼ぶチェシャ猫は、少女達がつけた“おもちゃ”としての名前だ。
 いわば、子供が自分のお人形に名前を付けるようなもの。そこに人形自身の意思は関係ない。
 だからもし、少女達がちゃんと名前を呼んでくれたのならば、それは“個人”として認められたという事。
 少女達の輪に干渉する権利を得たという事だ。

 そう言う意味では、岸波白野という人物は近いところに居る。
 少女達は最初から、彼女だけは個人として見ているように感じられた。
 だとすれば、彼女の協力が得られれば、少女達の心を動かせるかもしれない。

「ここに君がいたら、もう少し楽しかったんだろうけどなぁ」
 ついぼやいて、そう言えば、と思いだす。
 あの場に居た、カイトと非常によく似たプレイヤー。
 彼はあの時、間違いなく自分を見てある名前を口にした。

「……マハ……か」
 そう呼ばれるのは二度目だが、その名前を聞くとどうも胸がざわつく。
 もしかしたら彼は、何かを知っているのかもしれない。
 今度会えたら、訊いてみる事にしよう。

「ま、死なないように頑張らないとね」

 岸波白野と協力するにしても、カイト似のプレイヤーに話を聞くにしても、まずは自分が生き残らないといけない。
 そしてこれがかなりの難題でる事は、想像に難くない。
 今一つ『死』というモノが実感できないが、嫌な感じがするのは確かだ。

「ねえエルク、見守っていてくれるかい?」

 アイテム欄から【エノコロ草】を取り出して問いかける。
 当然答えはないが、【エノコロ草】から香る匂いに、何となく勇気付けられる。
 そうしてミアは【エノコロ草】をアイテム欄に戻すと、談笑する双子の様な少女達に追従していった。

【F-8/アメリカエリア/1日目・深夜】

【ありす@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(微小)
[サーヴァント]:健康、魔力消費(小)
[装備]:途切レヌ螺旋ノ縁(青)@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:アリスと一緒に“お茶会”を楽しむ。
1:新しい“遊び”を考える。
2:しばらくチェシャ猫さん(ミア)と一緒に遊ぶ。
3:またお姉ちゃん/お兄ちゃん(岸波白野)と出会ったら、今度こそ遊んでもらう。
[備考]
※ありすのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※ありすとキャスターは共生関係にあります。どちらか一方が死亡した場合、もう一方も死亡します。
※ありすの転移は、距離に比例して魔力を消費します。
※ジャバウォックの能力は、キャスターの籠めた魔力量に比例して変動します。
※キャスターと途切レヌ螺旋ノ縁の特性により、キャスターにも途切レヌ螺旋ノ縁(赤)が装備されています。

【ミア@.hack//】
[ステータス]:腕力低下
[装備]:誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.
[アイテム]:エノコロ草@.hack//、基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]
基本:死なない程度に、ありす達に“楽しみ”を教える。
1:まずはアリス達に自分の名前を呼んでもらう。
2:岸波白野の協力を得たい。
3:カイト似の少年(蒼炎のカイト)から“マハ”についての話を聞きたい。
4:エルクに会いたい。
[備考]
※原作終了後からの参戦です。
※ミア(マハ)が装備する事により、誘惑スル薔薇ノ滴に何かしらの影響があるかもしれません。

【途切レヌ螺旋ノ縁@.hack//G.U.】
赤い太陽を模したタイプと青い月を模したタイプの、二つの姿を持つ魔典。
第五相の碑文使いのロストウェポン。
条件を満たせば、パワーアップする(条件の詳細は不明)。
・無尽ノ機略:攻撃スペルのエレメンタルヒット発生確率25%アップ。及び攻撃スペルの威力が25%アップする

【誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.】
紫色の刀身にバラの意匠をした、異風な形状の刀剣。
第六相の碑文使いのロストウェポン。
条件を満たせば、パワーアップする(条件の詳細は不明)。
・魅惑ノ微笑:通常攻撃ヒット時に、バッドステータス・魅了を与え、かつレンゲキが起きやすくなる

【エノコロ草@.hack//】
別名猫じゃらし。いい匂いがする。

239CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:47:15 ID:98ZRpiHk0

     5◆◆◆◆◆

「―――と、いう事らしいです」
 ユイの通訳を聞いて、なるほど、と納得する。
 彼女のおかげで、カイトが何を訴えていたのか、ようやく理解できた。
 簡単に言えば、自分にマスターの代理をやってほしい、という事なのだろう。

「アァァ…………」
 短い唸り声と共に、カイトが首肯する。
 ふむ、と唇に指を当てて考えるが、結論はすぐに出た。
 このバトルロワイアルを生き残るには、間違いなく多くの協力が必要だ。
 腕輪の事もあって苦手意識があるが、彼の助けが頼もしい事に変わりはない。
 カイトへと向き直り、握手を求めて右手を差し出す。
 ――これからよろしく頼む。

「……ヨ%*ク」
 カイトは差し出された右手と、自分の右手をジッと見た後、戸惑いながらも手を繋いでそう言った。
 彼が戸惑ったのはおそらく、握手というものを知らなかったからだろう。

「ハクノさん、私も握手していいですか?」
 カイトとの握手を終えて手を離すと、ユイがそう訊いてきた。
 断る理由もないので、その要望に応じて手を繋ぐ。
 先程は意識しなかったが、彼女の手からは少女らしい柔らかさと温もりを感じた。

「ほら、カイトさんも」
「…………」
 そう言ってユイは、今度はカイトと握手としている。
 その繋いだ手を見て、ユイは嬉しそうに微笑んでいた。
 その光景を微笑ましく思いながら、窓の外へと視線を向ける。
 高いビルが多く見える景観は、ともすれば、いつか夢で見た光景に似ている気がした。


 ユイを通じてカイトから事情を聴く際に、一緒に大凡の情報交換も済ましておいた。
 二人から得た情報は、SAOにALO、そして『The World』。そして彼女達自身の正体の事。
 自分も月の聖杯戦争と、そして自分の正体の事を、既に彼女達に話してある。
 そしてそれらの情報から分かった事は、どうやら事態は、思っていた以上に厄介なものらしいという事だ。

 情報を纏めたところ、どうもそれぞれが知る技術や情報に矛盾があるのだ。
 自分にはSE.RA.PH.での記憶しかないが、聞いた限りでは2030年代になっても、表立った技術は2000年代から変わっていない。
 しかし少女の話では2025年には完全なフルダイブ技術が確立され、魔術師(ウィザード)の真似事が可能となっているらしい。
 ところが2017年に存在したはずの、少年の語った『The World』というMMOを、少女は聞いた事がないと言う。

「おそらく、並行世界(パラレル・ワールド)の類いだろうな」
 と、話を聞いたアーチャーはそう言った。
 並行世界。在り得たかも知れない、ifという可能性の世界。
 だがそれを証明する術がない今、深く考える意味はないだろう。
 しかし同時に、今の自分に大きく関わりのある事でもあった。

「そう言えばハクノさん。一つ、訊いてもいいですか?」
 ふと思い至ったように、ユイが質問をしてきた。
 断る理由も無いので、質問を受け付ける。

「今気付いたんですが、ハクノさんの話ではマスター一人に対し、サーヴァントも一人ですよね。
 ならどうしてハクノさんには、セイバーさん、アーチャーさん、キャスターさんと三人もいるんですか?」

 ……痛いところを突いてくる。
 そう思うと同時に、マイサーヴァントが約二名ほど実体化する。

「その通りだ少女よ! 奏者のサーヴァントは余、ただ一人で良い! なぜなら奏者は余の物なのだからな!」
「何をおっしゃいますか! ご主人様は貴女の物じゃなくて私のモノです! ていうか、私がご主人様のモノです!」
「な! 貴様こそ何を言うこのピンクなINRAN狐め! ええい、そこに直れ! 叩き斬ってくれるわ!」
 ………………はぁ。と、すぐに喧嘩を始めた二人を見てため息をつく。
 セイバー達が実体化すると――戦闘中程ではないとはいえ――魔力を消費する。
 なので、喧嘩をするために実体化するのは止めて欲しいのだが………この願いは聞き届けられそうになかった。

「それで、実際のところどうなのかね?
 誰が君本来のサーヴァントなのか判るか?
 あるいは、この三重契約に心当たりは?」
 実体化したアーチャーの問いに、首を横に振って答える。
 実のところこのバトルロワイアルに呼ばれてからというもの、どうにも記憶があやふやなのだ。

 己がサーヴァントは一人だったと記憶しているのに、三人それぞれと共に闘い続けた記憶がある。
 他にも、凛と協力し、ラニと戦った記憶があるのに、その逆に、ラニと協力し、凛と戦った記憶もある。
 まるで複数のパズルのピースの様に、整合しない断片的な記憶が入り混じっているのだ。
 ただ、心当たりと言えば―――

240CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:48:38 ID:98ZRpiHk0

 と、メニューを呼び出して、“ある装備”を変更する。
 その瞬間、一瞬のエフェクトに包まれる。
 直後、先程まで“女性”だった自分の身体が、一瞬で“男性”に変わっていた。

「ほう、これはまた」
「どういう事でしょうか」
 二人は驚き、不思議そうに呟く。
 アーチャーまで驚いているのは、最初に装備変更をしてみた時は、セイバー達の喧嘩に掛かりきりだったからだろう。
 ただ、変わった後の姿でいたのに気付かなかったというのには、少し引っ掛かりを覚えるが。

「ハクノさん。それは任意で出来るのですか?」
 ユイの言葉に頷く。
 どうやら支給されていた二つの礼装、月海原学園の【男子学生服】と【女子学生服】を切り替える事で身体も変わる様だ。
 つまり現在は、【男子学生服】を装備している事になる。
 ちなみに身体の性別を決めるためか、同時装備や両方外すといった事は出来なかった。
 強制だからか装備制限からは免除されているようだが、おかしな状態なのには変わりない。
 ついでに言えば、サーヴァントを三騎も従える代償か、自分のアイテムはこの二着の学生服だけだった。

 ――まったく、あの榊という男は何を考えてこんな状態にしたのだろう。
 確かに以前、慎二のイタズラで性別が変わった記憶はあるが、それにしたってこれはヒドイと思う。

「何を言うか奏者よ! そなたが今の姿であろうと、余は一向に構わんぞ?
 先程までの愛らしい少女の姿も良かったが、その男子の姿もなかなかに悪くない……いやむしろ良い!
 男と女、二つの姿を纏めて楽しめてお得ではないか!」
「そうですよご主人様。どんな姿であっても、ご主人様がご主人様である事に変わりはありません。
 まあもっとも、ご主人様は魂的には男性なので、男性の姿の方が好ましいというかぁ、私も妻として嬉しいというかぁ。
 キャッ、言っちゃった(はぁと)」

 ――君達、仲いいね。
 先程まで喧嘩していた二人が意気投合するのを見て、思わずそう口にする。

「良くなどないわ! まぁ余とて、愛人の一人や二人なら広い心を持って認めよう。
 だが、本妻だけはダメだ! 奏者の一番は、余、ただ一人で良い!」
「そうです! 一夫多妻(ハーレム)なんて今どき流行りません!
 ご主人様の愛を受けるのは、良妻賢狐なこの私ただ一人で十分です!」
「むむむ……!」
「ぐぬぬ……!」

 ……いわゆる同族嫌悪というものだろうか。
 どこか似た者同士な彼女達は、だからこそお互いに譲れないのかもしれない。
 そんな風に思いながらも、無言で礼装を交換して女性に戻る。
 なぜかと言うと、セイバーの嫉妬やキャスターのオシオキが怖いとか、そんな理由ではない。

「えっと……ハクノさんは確か、ムーンセルに削除されている最中に巻き込まれんたんですよね」
 ユイの質問に頷くと、彼女はすこし考えるように俯いた。
 そしてすぐに、何かに思い至った様に手を伸ばして額に触れてきた。

「ちょっと、調べさせていただきますね」
 彼女がそう言って目を閉じると、身体にこそばゆい感覚が奔った。
 そのまま数秒ほど待つと、ユイが顔をしかめた。

「これは……酷いですね。中途半端に削除されたせいでしょうか。
 アバターやメモリーを含めた、色んなデータが破損しています。
 ここまで来ると、エラーを起こしていない事の方が不思議ですね」

 それは……またなんとも……。
 自分の事ながら、よく無事に動けているな。

「はい。アバターは所詮データで出来た体ですから、その学生服の礼装で一時的に再構成しているのでしょう。
 ただメモリーの方は、恐らくですが、ハクノさんを知る他の方のメモリーを参照しているのだと思われます。
 セイバーさん達三人との同時契約も、多分その為の処置でしょうか」

 つまり、今自分が覚えている記憶は自分の物ではなく、セイバー達から借りた物。という事だろうか。

「半分はそんな感じですね。正確には、セイバーさん達の記憶をもとに修復されている最中なのでしょう。
 ただその影響は、セイバーさん達も受けていると思われます。ハクノさんの性別が変わった事に、特に疑問や違和感を覚えなかった事がそうかと」

241CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:49:17 ID:98ZRpiHk0

 なるほど。と納得する。
 そう言えばありす達も、自分が男性だったか女性だったかで、一瞬迷っていた。
 おそらく、記憶の矛盾を減らすために、相手側にも参照させているのだろう。

 だが同時に、どれが本当の自分の記憶なのかと疑念が浮かび上がる。
 他者の記憶をもとに修復された記憶は、本当に自分が辿った道筋の記憶なのか、と。

「そう心配するなマスター。もとより記憶というのは曖昧なモノだ。
 例え記憶の全てが偽物だったとしても、その中で見つけた、自分が正しいと思う事を成せばいい。
 それに、ムーンセルの性質を考えれば、記憶の真贋に意味はない。アレは起こりえる可能性の全てを計測し記録するモノだ。
 ならば、今ある君の記憶は、君が成し得た可能性の集まりとも言えるのだからな」

 ………ああ、そうか……そうだった。
 元より自分自身が偽物だったのだ。そしてそんな自分を、彼女達はマスターと認めてくれたのだ。
 悩む必要なんてなかった。自分はただ、自分の思うままに行動すればいいのだ。
 ――ありがとう、アーチャー。

「なに、礼を言う必要はない。私は、自分が思った事を口にしたまでだよ」
 アーチャーはそう言って謙遜する。
 だが彼のおかげで、覚悟――自分が何を目的にするかが定まった。

 ――このバトルロワイアルを、止める。

 月の聖杯戦争も、たった一人しか生き残れないバトルロワイアルだった。
 だがあの戦争には皆、自らの意思で、それぞれの覚悟を懐いて参加したのだ。

 けれど、このバトルロワイアルは違う。
 ユイも、カイトも、もしかしたら他の参加者達も。
 多くの人が自らの意思とは関係なく参加させられているのだ。
 そんな覚悟も何もない戦いを、認める訳にはいかない。

 ――力を、貸してくれるか?
 答えのわかりきった質問を、己が相棒達に投げかける。

「奏者よ。それは答える必要のある問いか? だが、敢えて答えて欲しいのなら答えよう。
 余はそなたが命じるのであれば、そなたの剣となって如何なる敵も討ち倒してみせよう」
「そうですよご主人様。そこの赤い人が剣なら、私は鎧になります。ご主人様には毛一筋分の怪我もさせませんから、ご安心ください。
 あと、私の方がこんな無駄に赤いのより何倍も役立ちますから、是非ご命令は私に下さいね」
「な、何を言うか! 余の方が貴様の何十倍も奏者の役に立つわ!」
「あら。でしたら私はその何百倍も役立って見せます」
「おのれ雌狐め、言わせておけば!」
「まったく、君達には協力するという考えはないのかね?
 だがマスター、彼女達の言う通りでもある。君はただ、君が思う事を、思うままに命ずればいい」

 セイバー達の言葉に、改めて勇気付けられる。
 彼女達がいれば、どんな困難でも乗り越えられる様な、そんな気がしてくる。

「あの、微力ながら私もご協力します。
 出来る事は少ないですけど、少しでも恩を返したので」
「アアァァァアァァ……」
「えっと……カイトさんも協力してくれるそうです」

 ――二人とも、ありがとう。
 そう協力を申し出てくれた二人にお礼を言う。
 ただ、出来ればユイには、安全な場所に隠れていて欲しいのだが。

「でしたら、普段は《ナビゲーション・ピクシー》の姿になっておきますね。
 そうすれば、ハクノさんの制服の胸ポケットに入る事が出来ますし」
 ユイはそう言うと、一瞬光に包まれた後、小さな妖精の姿に変身した。
 なるほど。その姿ならどこにでも隠れる事ができるだろう。
 ……しかし、ならばなぜその姿でジャバウォックから逃げなかったのだろうか?

「この姿になるには、他のプレイヤーの五メートル以内に居ることが条件のようです。
 それ以上離れると、強制的に通常アバターに戻ってしまうみたいでして。
 それにあのジャバウォックは、プレイヤーではありませんでしたし」

 確かにポケットに入るほど小さく、空も飛べるとあっては、狙い辛いことこの上ない。
 だが五メートル以内ならば、いずれは追いつめられるという事か。

 だがとにかくこれで、ユイの安全は確保された訳だ。
 自分の傍に居れば、一緒にセイバー達が護ってくれるだろうし。

242CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:50:04 ID:98ZRpiHk0

「――さて奏者よ。目的も決まり、少女の安全も確保できた。
 となれば次は道程だが、これからどうするかは決めてあるのか?」
 セイバーの質問に、月海原学園を目指すと答える。
 ユイが取得したマップ情報によると、現在位置は【F-9】のホテルだ。
 月海原は【B-3】に在るので、そこへ向かえば自然とマップを横断する事になる。
 そうすれば様々な人物と遭遇できるだろうし、結果として多くの情報を得られるだろう。

「道中で戦闘になった場合の事も考えておかねばな。
 マスターの最大魔力量では、サーヴァント一人が全力で戦えるのは十分。全員揃ってならば三分程度だろう。
 私は単独行動スキルのおかげで、一時間程度ならば魔力供給なしでも行動できるが、どうするつもりかね?」

 セイバー達の事は信頼しているし、大概の相手は倒せると思うが、可能な限り切り札はとっておきたい。
 魔力も可能な限り回復、温存したいので、道中の戦闘は基本カイトに任せたい。
 そう言うと、カイトは頷いて承諾してくれた。
 そんな彼にお礼を言い、指示は任せてくれと胸を張る。
 これでも毛色の違う三騎ものサーヴァントと共に闘ってきたのだ。多少の自信はある。

「ではご主人様。手早く準備を整え、学園へと向かいましょう。
 あの榊という男の言葉が真実であれば、時間はほとんど残されていません。
 まったく。結果としてご主人様が助かった事には感謝しますが、そのお体にウイルスを仕込むだなんて!
 ………あのクソガキ、マジ許しません!」

 バトルロワイアルの参加者達に感染しているという、24時間で発動するというウイルス。
 これがある限り、参加者は必ず誰かを殺さなくてはならない。
 だが同時に、これこそがバトルロワイアルを止めるカギでもあるのだ。

 第一に、一人殺すごとに6時間の猶予が与えられるのなら、その猶予を作り出す“何か”があるはずなのだ。
 その“何か”を突き止め、効果を永続的に出来れば、ウイルスは発動せず、誰かを殺す必要はなくなる。

 第二に、仮に報酬が真実だとし、優勝したとしても、ウイルス自体をどうにかできなければ意味がない。
 なぜなら自分やユイ、カイトのような“現実の肉体を持たない存在”は、どうしたってログアウトが出来ない。
 つまり、ウイルスに感染したアバターを破棄し、現実に帰って生還するという手段は使えないからだ。
 こうして自分達にも優勝する権利が与えられている以上、ウイルスを駆除するワクチンがなくてはならない。
 ならば、ワクチンを獲得し、複製する事ができれば、このバトルロワイアルは完全に止められるはずだ。

「さすがご主人様。すでにそこまで考えついていたとは。
 最弱の身で聖杯戦争を勝ち残っただけあります。情報戦なら誰にも負けませんね」

 だがそれも、みんなの協力があったからだ。
 もし自分一人だったなら、とっくに敗退していただろう。
 それはこの殺し合いでも同じだ。みんなと協力しなければ、バトルロワイアルは止められない。

 ユイへと向き直り、改めて協力を申し込む。
 ワクチンはおそらく、榊が持っているだろうから、現状では入手は望み薄だ。
 なら当面の目標は、猶予を作り出す“何か”の解明と、榊の元へ辿り着く経路の捜索だろう。
 つまり、PCボディやマップのデータを詳細に取得できるユイの協力が必要だ。

「はい。任せてください!」
 ユイが小さい胸を張ってそう応える。
 凛やラニがいればより確実だが、彼女達がバトルロワイアルに参加しているかは判らない。
 それに出来れば参加していて欲しくないという思いもある。期待はしないでおこう。

     †

 行動方針が決まり、白野達はそれぞれの支給品を確認して移動の準備を始めた。
 とは言っても、白野の支給品は二着の学生服だけで、カイトの支給品は彼の固定装備で占められていた為、実質ユイに支給されたアイテムを確認して分配しただけなのだが。

 ユイに支給されたアイテムは【五四式・黒星】【空気撃ち/三の太刀】【セグメント3】の三つ。
 一つ目の【五四式・黒星】は念のためにと白野が装備する事になった。
 彼はこの拳銃を持った時、重いな、と呟いたが、ユイにはなぜか、その言葉の方が重く感じられた。
 二つ目の【空気撃ち/三の太刀】はそのままユイが、護身用として装備する事になった。
 この礼装のスキル〈魔力放出〉ならばピクシーのままでも使えるし、彼女が逃げる程度の時間も稼げると判断しての事だ。
 三つ目の【セグメント3】はどうやらカイトに関わる物らしかった。
 しかしカイトは自分が所有するよりも、ユイに持っていて欲しいとの事なので、これもユイが所有する事になった。

243CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:50:28 ID:98ZRpiHk0


 そうして全ての準備が整った後、ユイは一人、窓の外を眺めていた。
 この世界に来てから、彼女が経験した事は全てが鮮烈だった。
 見える世界も。聞こえる音も。香る匂いも。触れる温もりも。
 もっともっと見てみたいと思えるほどに、美しく思えた。

 とりわけ、握手をした時の感触はよかった。
 握った手の柔らかさや温度、微かに感じる血液の鼓動。
 相手と“繋がっている”という感覚が、確かな形でそこにあった。

 けどアレは……『痛み』という感覚だけは、駄目だった。
 痛い思いは、二度としたくない。
 だから怖い思いも、二度としたくない。
 あの『痛み』を思い出すだけで、今にも壊れてしまいそうだった。
 このままこの部屋に閉じこもって、全てが過ぎ去るのを待っていたかった。

 そう思いながらもユイが白野に協力すると決めたのは、『痛み(ソレ)』こそが“生きる”という事だと、知っていたからだ。
 彼女の父――キリトは、『痛み』を耐え抜いて立ち上がり、オベイロンを倒した。
 彼女の母――アスナは、『恐怖』を踏み越えて始まりの街を飛び出した。
 二人は現実で――『痛み』に満ちた世界で、ずっと生きてきたのだ。
 だから自分も、そうありたいと思った。父と母の娘だと、胸を張っていたかった。

「ん……?」
「…………」
 不意にユイの頭が、ぎこちなく撫でられた。
 顔を上げてみると、カイトがジッとユイを見ていた。
 心配してくれたのだろうかと、何となくユイは思った。

 彼の言葉が解るのは、私と彼が同じAIだからだろうか。
 同じNPCでも、白野には彼の言葉がノイズのように聞こえるらしい。
 私やカイトは、既存のコンピュータで作られた“トップダウン型”のAIだ。
 だが白野はいわば、人工《フラクトライト》と同じような、人間を基にした“ボトムアップ型”のAIだと思われる。
 つまり“人間”か“コンピュータ”、そのどちらに近いかが、彼の言葉が理解できるかどうかの境界線なのだろう。

 セグメントを預けられた際に訊いたところ、カイトの目的はアウラのセグメントを護り、主の元へ帰る事らしい。
 ならばセグメントは彼が持っていたらいいのでは? と思ったのだが、彼曰く力不足だからだそうだ。
 というのも、彼は本来の世界――つまりバックアップの完璧な状態で、既に何度も敗北した経験があった。
 そうなると、何のバックアップも受けられないこの世界では、自身の独力だけでは確実性に欠ける。
 そこで代わりに、白野に護られる私にセグメントを託し、彼のサポートを受けながら一緒に護ろうという事らしい。

 なんともNPCらしい合理性というか、らしからぬ自主性というか。
 彼のプログラムが不完全でなければ、私なんかよりもっと人間らしくなっていたかもしれない。
 そうなると、彼を生み出した、究極AIと呼ばれるらしいアウラは、一体どれほどの存在なのだろうか。


  ――ユイ、カイト。そろそろ行こう。

 白野がそう言って出発を促す。
 既に霊体化しているのか、彼女のサーヴァント達は見えない。

「はい、今行きます」
「……………………」

 白野の制服の胸ポケットへと入りこんで、頭だけを出す。
 父とは違う居心地だが、悪くはない。
 カイトも白野の傍に立ち、いつでも追従できる。
 それを確認すると、白野は一つ頷いてホテルを後にした。


 ――『痛み』に対する恐怖は、未だ拭えていない。
 けれど、だからこそ、その『恐怖』に立ち向かうのだ。
 かつて父と母がそうしたように。自分もそう在れるように。
 ……そう。この街が自分にとっての“始まりの街”なのだ――――

244CCC ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:50:54 ID:98ZRpiHk0


【F-9/アメリカエリア ホテル周辺/1日目・深夜】

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(中)、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖
[サーヴァント(Sa)]:健康、魔力消費(小)
[サーヴァント(Ar)]:健康、魔力消費(小)
[サーヴァント(Ca)]:ダメージ(小)、魔力消費(小)
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、女子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:男子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:ありす達に気を付ける。
5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと三分程度です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。

【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:ダメージ(小)、MP70/70、『痛み』に対する恐怖/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。

【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:ダメージ(中)、SP消費(微小)
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。

[全体の備考]
・〈データドレイン〉について
データドレインは対象となったプレイヤーのデータを改竄し、初期化または弱体化させます(制限によりロストはしません)。
また対象が何かしらのアイテムを所有していた場合、その中からランダムに一つ、強制的に奪取する事が出来ます。
ただし、対象が腕輪の加護を受けたプレイヤーだった場合、複数のバッドステータスを与えるだけに留まります。
発生する状態異常>毒、呪い、麻痺、眠り、混乱、魅了、減速

【男子/女子学生服@Fate/EXTRA】
月海原学園指定の標準学生服。
このロワで岸波白野が装備した場合、男子用か女子用かでアバターの性別が決定される。
・boost_mp(10); :装備者のMPが10上昇する。

【空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA】
フィールドスキル・魔力放出Aが使用可能となる礼装。
長距離に魔力の弾丸を放ち、命中した相手を一手分スタンさせられる。
・boost_mp(70); :MPが70上昇
・release_mgi(a); :魔力攻撃でスタン+長射程/消費MP15

【五四式・黒星@ソードアート・オンライン】
正式名称トカレフTT-33。装弾数は8発。
《死銃》がGGOのプレイヤーを、現実においても殺害する際に使用した拳銃。
実際にはこの銃に現実のプレイヤーを殺害する力はなく、《死銃》の協力者が現実で銃撃に合わせて直接殺害していた。

【虚空ノ双牙@.hack//G.U.】
蒼炎のカイトが使用する、陽炎のように揺らいだ三股の刃を持つ双剣。
その禍々しい形状から、ハセヲが彼を三爪痕(トライエッジ)だと誤解する要因となった。
・タイイング:通常攻撃ヒット時に、(15%の確率で)対象のHPを強制的に半減させる。

【虚空ノ修羅鎧@.hack//G.U.】
三蒼騎士専用の軽鎧。
・物理攻撃のダメージを25%軽減する。
・魔法攻撃のダメージを10%軽減する。

【虚空ノ凶眼@.hack//G.U.】
三蒼騎士専用の装飾品。
・武芸ノ妙技:アーツの消費SPが25%軽減される。

【セグメント3@.hack//】
分裂したアウラの構造体の一部。
三つ全部集めると……?

245 ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 00:52:08 ID:98ZRpiHk0
以上で投下を終了します。
何か意見や、修正した方がいい点などがありましたら、お願いします。

246名無しさん:2013/01/22(火) 01:03:20 ID:oNbe81MQ0
投下乙!
まさかの三重契約&性転換主人公、この展開は予想できなかった
赤セイバーとキャス狐の掛け合いが楽しい、通訳ができたカイト(三爪痕)といい今後が気になるチームですね
そして、ありす組にゴレのロストウェポンとは……これ以上ないほど似合ってますね

247名無しさん:2013/01/22(火) 02:17:53 ID:EI82qUPgO
投下乙です。帰る現実の無い者達か…ってか鯖×3で燃費ががががw

248名無しさん:2013/01/22(火) 02:38:19 ID:6sce8wQI0
>鯖3で燃費が
これは魔力供給が捗りますねぇ…(ゲス顔)

249名無しさん:2013/01/22(火) 10:38:25 ID:Z7FgjdKg0
乙です。
ありすとミアが探す何かに”キーオブザトワイライトの探索”がダブって見えたり、
AIつながりのユイとカイト、フランシスコ(ryな主人公と楽しい話でした。

250名無しさん:2013/01/22(火) 13:17:22 ID:qrv5udVY0
投下乙です

これは濃い良作ですなあ
このチームの先が凄く気になるぞ

251名無しさん:2013/01/22(火) 13:38:59 ID:qrv5udVY0
G-8/アメリカエリア ネオ(トーマス・A・アンダーソン)
C-2 スケィス 遠坂凛
???/ウラインターネットの何処か シルバー・クロウ フォルテ
E−3/マク・アヌ シノン
F−2/マク・アヌ エージェント・スミス
A-2/日本エリア ハセヲ スカーレット・レイン
B-10/ウラインターネットエリア キリト レン フレイムマン
F-10/アメリカエリア ブラックローズ ブラック・ロータス ダン・ブラックモア
D-6/森 アドミラル
E-6/森 ピンク
F-8/アメリカエリア ありす ミア
F-9/アメリカエリア 岸波白野 ユイ 蒼炎のカイト

252名無しさん:2013/01/22(火) 18:29:54 ID:jOaQ/b6g0
現在地乙です
MAP総合スレのツールで現在地表作ってみますかー

253名無しさん:2013/01/22(火) 18:30:23 ID:kmNcQJmw0
投下乙です
やだ、なにこの蒼炎かわいい

254名無しさん:2013/01/22(火) 20:21:53 ID:kvAcAUOM0
投下乙です。人間が一人もいねぇw
ちゃんと考察とかができる対主催チームはこれが初かなー
黒い人達ですか?微妙に不協和音ががが

誤字指摘です

>>230
> そうしてカイトは声を上げ、ある種の使命感を胸に、双剣を構えてスケィスへと突撃した。

255 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/22(火) 21:21:44 ID:oNbe81MQ0
ちょろい

256名無しさん:2013/01/22(火) 21:22:18 ID:oNbe81MQ0
すいません、誤爆です
忘れて下さい

257 ◆NZZhM9gmig:2013/01/22(火) 22:02:20 ID:98ZRpiHk0
現在地乙です。
現行のマップはエリアが歪んでたりしてたので、ちょっと整図してみました。
もしよろしければ現在位置表などにどうぞ。

ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0191.gif

>>254
指摘ありがとうございます。
すぐに修正させていただきます。

258名無しさん:2013/01/22(火) 22:12:34 ID:J2L5ophc0
おお、乙です
マップ作ったものですがとてもありがたいです

259名無しさん:2013/01/23(水) 00:12:54 ID:PtHBSkbM0
投下します

260薔薇色カタストロフ ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/23(水) 00:13:41 ID:PtHBSkbM0
月夜。
ちりぢりになった雲が水面のように波を打ち、ところどころで星々を見え隠れさせる。
天蓋の中心に坐するは丸い丸い月。漆黒の闇がそれを遮ろうとするが、その光は何者にも侵すことができず流麗に燦々と瞬いている。
ときおり雲が覆うことがあろうとも、月は雲越しにも尚美しく、霞もがかった月光は優しげに下界に降り注ぐのだ。
それをこうして森の中から見ていると、自分は何故こうして地面に縛り付けられているのか、疑問に思えてくる。
天に浮かぶ森羅万象の根源は、みなすべて自由に浮かび上がっている。なのに自分はどうだろうか。ただ地面を這いずりまわっているだけではないか。何故なのだ。
僕らと、あの美しいものを隔てているのすべてを憎みたい。ああ、どれだけ恋い焦がれようとそこには決してたどり着けないのだ。

一つの綺麗な星が目に飛び込んで来た。月に寄り添い尚輝きを失わぬそれは、実に強くそして困難に立ち向かう意志を表象しているかのように見えた。

「嗚呼……」

もう一つ、気になる星があった。優しげに地を照らし出し、隣に一つ弱弱しく光る星を伴うそれは、一人では目立てない者への慈愛と母性を感じさせる。

二つの星はまるで対極のものがあった。だがしかし、美しさはどちらも勝るとも劣らない。
美しさ、人の胸を打つ像というものは一本線で表せるような単純なものではないのだ。
自らの心象に投射するときの心の昂ぶりは、共に同じ美しさという言葉で形容するのはいささか無理があるように思えた。

「僕は……どうしたいんだろう」
僕は夜でも尚眩しすぎる空から目を放し、自らの墜とされし大地へと目を伏せた。
邪魔になるほど長い髪が垂れさがり、自分の影を作り出す。決して起き上ることのできない影は、縛り付けられる人間の象徴ではないのか。

「ハセヲ……」
僕は口にした。最愛の人の名。絶望に打ちひしがれ、ただ閉じこもっていた彼を、その力強い腕で引き揚げてくれた人。
誰かから本当に必要とされること。それは今までにない経験だった。
恋情の告白や、羨望の眼差しならいくらでも受けた。自分を慕う人間だっていなかった訳じゃない。
でも、違うんだ。それは。
彼らは結局のところ、自分しか見ていないのだ。自分の中に思い描いた僕という存在を見ているに過ぎない。そうとしか思えなかった。
だから、僕はずっと孤独だった。唯一寄り添うべきものは過去でしかなく、それもまた幻影に過ぎなかったと気付いた時、ただ崩れ落ちるしかなかったのだ。
そんなときに僕は、ハセヲは言った。俺にはお前が必要だと。
どこまでもシンプルな言葉。でも、僕が欲しかったのはたったそれだけのものなんだ。

この殺し合いに呼ばれた時、どうしようかと僕は思い悩んだ。
榊とかいう男にも見覚えがあった。が、あんなやつのことは心底どうでもいい。
僕の心を動かすのは――この場にハセヲが居たことだ。
彼がここにいる。僕に彼と殺しあえ……? そう言っているのか。
無理だ。そんなことできる訳がない。もし彼が僕に刃を向けてこようと、僕はありのままの姿でその刃を受け止めよう。
そう決意した矢先、開幕の場で僕は見つけてしまったのだ。
彼女を。

261薔薇色カタストロフ ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/23(水) 00:14:29 ID:PtHBSkbM0

「ミア……」
間違いない。僕が彼女を見間違えるはずがない。あそこに居たのは確実にミアだった。
二本足で立ち、周りに好奇の視線を向ける猫。それを見つけてしまった。
彼女は死んだ筈なのに!

「嗚呼」
かつて僕が愛し、そして喪ってしまった彼女。それがあの場に居たのだ。
まやかしだろうか。そうであると理性は告げる。あのAIDA猫のように、ただ僕を惑わそうとしているのだと。

でも、駄目なんだ。
僕の、僕の何か奥の方にあるものは確信するんだ。あれは間違いなくミアだと。
ミア。ミア。ミア。今すぐ駆け寄って頬ずりをしたい。泣き腫らし、まだ僕がエルクだった頃のように二人で何処かへ冒険したい。
ミアを殺す? もう一度彼女を死なせる。そんなことはできない。できる訳がないじゃないか!

でも、ハセヲも居る。僕のハセヲへの想いだって本物だ。
この場で生き残れるのは一人だという。
僕に選べというのか。ミアとハセヲを残酷な天秤にかけろというのか。

僕は何もできなかった。
ただそこにうずくまることしか……







「全く意味の分からない催しですねぇ」
悪態を吐きながら彼は道を歩いていた。
その声はまだ声変わりも迎えて居ない少年のものだったが、容姿は打って変わって禍々しいものだ。
宵闇色の身体に、不気味に光る単眼、そして触手状の腕。統一感がなくどこかチグハグな姿をしている。
彼の名は能美征二。またの名をダスク・テイカ―といった。

「殺し合い? 馬鹿馬鹿しい。そんなものに僕を巻き込まないで下さいよ」
そう言って肩を竦めながらも、彼は開始直後から歩き回っていた。
その目的は他の参加者の発見、そして殺害である。

「はぁ、でもまあこうなっては仕方がありませんね。ウイルスとかいうのもありますし、とりあえず2、3人狩っておきますか」
彼にしてみれば煩雑極まりない作業であったが、別にそうすることに躊躇いはない。
他者などただの踏み台に過ぎないのだ。生き残るのに彼らの命が必要だというなら刈り取るまでだ。
そう思い適当に歩き回っていると、さっそく最初の獲物を見つけた。

262薔薇色カタストロフ ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/23(水) 00:15:17 ID:PtHBSkbM0
それは青年だった。デュエルアバターなどではなく、一見して普通の人間に見えた。ファンタジー風の装いを除けば、だが。
耽美系の整った顔をしたそいつは、うずくまり何やらぶつぶつと呟いている。
目の前の非日常に適応できず、ショックを受けているのだろうか。

「とにかく貴方が最初の犠牲者ですね」
能美はそう言って、触手状の腕で青年を殴り飛ばした。
苦痛の声を上がる。そいつは吹っ飛っとんで、ごろごろと地面を転がった。

「さっさとやられてくださいよ」
その後も能美は彼を殴りつける。胴を、胸を、頭を、顔を、無慈悲に連打する。
奇妙なことに青年は全く抵抗しなかった。殴っている能美のことすら眼中にないのか、ただ茫洋とした顔をして為すがままにやられていた。
時々ぶつぶつと「ハセヲ」だの「ミア」だの言っていて、気持ち悪い。正気があるのかも怪しい。

「一体何を考えてるんだが、ま、その方が楽でいいんですけど」
一しきりダメージを与えた後、能美はトドメを刺すべく青年に近づいた。
その間も青年は一切動く気配がない。
そんな青年に対し、能美は手を振りかぶり――



「ああ、そうか。キミみたいなのも居るんだね、ここには。じゃあ、守らないと……僕の愛する人を」



いきなり青年が口を開いた。
続けて言う。「マハ」と。
次の瞬間、能美を包み込む世界が劇変した。
光がうねり、ポーンという奇妙な音がしたかと思うと、世界が作り変えられていく。
月も星も闇も、全てが消え去り新たな空間が上書きされる。

「な、なんだここは!?」
能美は目を見開き周りを見渡す。
それまで広がっていた筈の森は何処かへ消え去り、代わりあったのは能美の常識を超越した異空間だった。
全てが透き通り、水のようなデータがねじり狂う、この世のものとは思えない光景。
それが、地平線の向こうまでどこまでも続いているのだ。

「守らないと……守らないと……もう喪わない為に」
そして青年の姿もまた変わっていた。
青年は――エンデュランスはもはや人間の姿をしていなかったのだ。
その姿は巨大な猫に似ていた。女性を思わせるしなやか肉体をしたそれは、両手を己の身体を優しげに撫でまわしながら、異形の瞳を能美へと注いでいる。

憑神《アバター》
それはかつてThe Worldに存在したモルガナ八相のデータをサルベージし、PCに組み込む形で作り上げたシステム上は存在しない筈のシステム。
エンデュランスのそれは第六相:誘惑の恋人『マハ』。
一般PCでは本来認識することさえできず、場合によってはプレイヤーの意識さえも奪う力
その姿へとPCを変換し、今まさにその力を振るおうとしていた。

263薔薇色カタストロフ ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/23(水) 00:16:09 ID:PtHBSkbM0

「くっ、くそっ!」
事態についていけない。何だこの空間は。何だあのモンスターは。アイツのスキルなのか?
だがとにかく身の危機が迫っていることを認識する。
能美は触手で攻撃を仕掛ける。だが、弾かれた。マハの放った薔薇のような何かに攻撃を遮られたのだ。

「愛だ……そう愛のために」
エンデュランスの声が響き渡る。何を言いたいのか、全く要領を得ない。
苛立った能美はスキルを発動し、火炎放射≪パイロディーラー≫を行使する。
放たれた炎が薔薇を燃え尽くし、憑神本体へ炎が到達した。マハが身を捩り痛みを示す。
その様子を見て能美は笑い声をあげる。何だ見てくれだけじゃないか。少々面食らったが、ただの《エネミー》と大差ない。
そう、思った時だった。

「【誘惑の甘き歌声】」
マハから何かが放たれて、ダスク・テイカーのボディを拘束した。
動けない。速度低下系のスキルか。能美は屈辱の声を上げる。

「【妖艶なる紅旋風】」
続けざまに更なる一撃が放たれる。
マハがその身に再び薔薇を纏い、能美に向かって突進してきたのだ。
低速状態のダスク・テイカ―ではそれに反応できない。一撃をまともにくらい、吹き飛ばされる。

「【データドレイン】」
マハの身体が展開され、その身の奥から何かが出てきた。
幾何学的な模様をタイル状に張り付けた場の中心に、エネルギーが集束していく。
ヤバイ。能美は本能的にその危険性を認識する。あれを食らえばお仕舞だと。

「さようなら……名も知らぬ敵。僕の愛する人の為に死んでほしい。
 最愛の――最愛の?」
と、急にマハが動きを止めた。何かに苦悩するかのように頭を抱え出し、集まったエネルギーが霧散していく。
今度は一体何だ。能美は目の前の敵が全く理解できなかった。

「僕は愛する人のために戦っていた筈だ。でも……それは誰? ハセヲ? ミア?
 僕が愛しているのは……一体どっちなんだ」
マハはそこで悲鳴を上げた。能美を無視して暴れ出し、その身体を自ら傷つける。

「僕は……僕は……」
そうして力尽きるまで暴れていると、何時の間にか憑神は解除され、一般空間へと回帰していた。
能美の姿も消えていた。逃がしてしまったようだ。
だが、そんなことはどうでもよかった。エンデュランスは頭を抱え、その森の中にうずくまった。
愛。自分は愛の為に戦っている筈だ。なのに分からなかった。
海よりも深い愛を向けるべき相手が、一体誰なのかが。


【E-5/森/1日目・深夜】

【エンデュランス@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、憑神暴走
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:「愛する人」のために戦う
1:???
[備考]
※憑神を上手く制御できていません。感情が昂ぶると勝手に発現します。

264薔薇色カタストロフ ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/23(水) 00:16:41 ID:PtHBSkbM0



「はぁはぁ……何ですか、あの狂人は」
何とか逃げ延びた能美は未だ収まらぬ動悸を無理やり抑えようとする。
あの男の情緒不安定な振る舞い。まるで意味が分からなかった。
だがあのスキル――変身スキルに分類されるのだろうか――はとにかく強大だった。

「あれを奪うことができれば……」
能美は思う。あれを自分のものにできればとてつもなく強大な力となる。
自分ならば、あんな狂人などよりよほど上手く扱うことができるだろう。

能美のデュエルアバター「ダスク・テイカ―」
その唯一の必殺技、それが魔王徴発令《デモニックコマンディア》である。
その能力は敵の必殺技、強化外装、アビリティ一つ奪い、を永続的に我が物とする強力な略奪スキルだ。
それをあれに使うことができれば、あの強大な力を自分のものにすることもできるかもしれない。

「フフフ……今に見ていてくださいよ。貴方の大切なモノを奪い、その顔を屈辱に歪ませてあげますから」
自分を敗走させた狂人の顔を思い浮かべ、能美は酷薄な笑みを浮かべた。
こんな催しに本気に挑む気など毛頭なかったが、少し事情が変った。手段は選ばない。
先ほどは動転した故に無様な姿を晒してしまった。しかし次はこうはいかない。全てを奪い、確実に息の根を止める。
愛を語る人間などに、自分が負けて良い筈がないのだから。



【E-4/森/1日目・深夜】

【ダスク・テイカ―@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP50%
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す
1:憑神そのもの、あるいはそれに対抗できるスキルを奪う。
[備考]
※参戦時期は未定。飛行スキルが使えるかは後の書き手さんにお任せします。

265 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/23(水) 00:17:39 ID:PtHBSkbM0
投下終了です。
それとwikiの修正ありがとうございました。

266名無しさん:2013/01/23(水) 00:30:28 ID:2P8/QfCQ0
投下乙です

片方はヤバい、もう片方も油断を無くしてマジになった
共倒れしてくれたらよかったんだがw

267名無しさん:2013/01/23(水) 00:35:22 ID:5wIsJLkQO
投下乙です。ダメだこいつらw(褒め言葉)

268名無しさん:2013/01/23(水) 01:52:36 ID:d3BhBxwYO
投下乙です
文字通りの狂おしい愛、か
この件はエルク/エンデュランスのトラウマにダイレクトだからなぁ

能美の方は、本気になったのはいいけど、憑神は奪えるか微妙だな、キャパシティ的に
仮に奪えても、相性無視だから暴走は必至だし

ただ、E-4に森は(ほぼ)ないので、そこが修正点かな

269名無しさん:2013/01/23(水) 12:42:41 ID:Z7tXH/ccO
>自分ならば、あんな狂人などよりよほど上手く扱えるだろう。

なんという典型的な暴走&死亡フラグ
憑神は適正が無いと発動すらできないんじゃなかったっけ?
そこを強奪となるともう暴走する未来しか見えないな

270 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/23(水) 19:22:38 ID:PtHBSkbM0
>>268
あ、本当ですね
【E-4/森/1日目・深夜】を【E-5/森/1日目・深夜】に変更します

271名無しさん:2013/01/23(水) 19:41:02 ID:9OAxJdncO
憑神は適正ないと宿らない。
適正あっても強烈な精神的な負荷ないと開眼しない。(志乃は第二相持ってたが開眼せずにアトリに移った)
開眼しても憑神を御せず暴走しやすい。
さらに憑神自体に自我があるからな。
滅茶苦茶扱いずらい能力だよなあ。

272名無しさん:2013/01/23(水) 19:55:52 ID:TSDErANU0
AIDA(ニッコリ

273名無しさん:2013/01/23(水) 22:39:43 ID:oyYBsRY.0
乙でした
エンデュランスがミアに気付いたか
この展開は待ち望んでいただけに、続きが気になる

能美昇天ならず。残念www
漫画の.hack//G.U.+では、ハセヲはモルガナ因子奪われたりもしてるから、
魔王徴発令の成否もどーなることか


>>264
アビリティ一つ奪い、を永続的に

アビリティを一つ奪い、永続的に

274 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/23(水) 23:00:06 ID:PtHBSkbM0
>>273
指摘ありがとうございます、wiki収録時に直させてももらいます

275名無しさん:2013/01/24(木) 17:13:17 ID:hZ.lT5XM0
投下します

276時の階段 ◆QAmDWCgreg:2013/01/24(木) 17:14:12 ID:hZ.lT5XM0
荘厳な聖堂に足を踏み入れる一人の若者が居た。
赤い、黄昏色の衣装に身を包んだ彼は、ゆっくりとその中に入っていく。
コツコツ、と靴音が聖堂内を反響し、高い高い天井まで広がっていった。

「やっぱり、ここは……」

中を見渡し、彼は口を開いた。
外観から予想してはいたが、この聖堂はやはり彼の知っているものだった。
光を受け爛々と浮かび上がるステンドグラス。二列に並んだ参列席には誰も居ない。鉄柵は奥に進むものを拒むかのように打ち立てられている。
Δ『隠されし』『禁断の』『聖域』
3つのエリアワードでダンジョンを生成するThe Worldにおいて、その組み合わせをゲートに打ち込むことでこのエリアは生成される。

ここは他のダンジョンと明らかに異質なダンジョンだった。いやダンジョンといえるかも怪しい。
この場には敵はおろか設定されたイベントも一切存在しない。怪しげな都市伝説だけがプレイヤーの間だけで交わされるだけで、その存在理由は謎に包まれている。
またこの場のポリゴンモデルは、これほど精巧に作られていながら、この大聖堂以外では一切使われていないのだ。
一説にはfragment時代の没データであるなどと言われている。が、実際のところこのエリアの存在理由は多くの開発者でさえ分かっていなかった。

「何で、ここが……」

彼――カイトがその大聖堂を見つけたのは、この場に転送されてすぐのことだった。
周りには巨大な空洞が――かつては湖があったとされている――あり、石造りの橋が架けられた光景は、The Worldで確かに見たものだ。。
違うのは一点、空だ。この大聖堂は何時も黄昏の中に生成される筈だった。
だが、この場においては、夜の月光を受けてそれは存在していた。

思えば、ここが一つの始まりだったのかもしれない。

オルカが意識不明者になり、何とか謎を探ろうと再びThe Worldにログインして、ブラックローズに出会い初めて訪れたエリア。
この場で彼は腕輪の力に覚醒し、力を手に入れた。データを改変してしまうイリーガルな力――データドレイン。
その力は彼を想像だにしなかった大きな流れへと導いていった。

カイトは困惑と緊張を胸に抱きながらも、聖堂の奥へと向かっていった。
この場でも、このデスゲームの場でも何かがあるかもしれない。そんな淡い思いもあったのだろうか。

277時の階段 ◆QAmDWCgreg:2013/01/24(木) 17:14:46 ID:hZ.lT5XM0

「これは……」

聖堂の最奥まで辿り着くと、カイトは言葉を失った。
そこにある筈のものがなかった。
カイトの知る聖堂ではそこに、八つの鎖で繋がれた一人の少女の像がある筈だった。
アウラ。
カイトを導き、The Wolrdと共に進化していた彼女の像が、そこにはあったのだ。あった筈だった。
しかし、今この聖堂からは姿を消していた。そして代わりにあったのは、誰も乗っていない台座と、そこに生々しく刻まれた傷跡だ。
その傷跡は異様だった。傷などつく筈のないThe Worldのグラフィックを抉り取り、まるで爪痕のように三つの跡が残されている。
それは、時節橙色に光ることで、まるで生きているかのような印象さえ受けた。


ギィ


不意に、背後から扉を開く音がした。
像の消失に気を取られていた彼は、そこで我に返り、振り向いた。
そこに居たのは、黒い服に身を包んだ一人の少女だった。
彼女は先客がいたことに驚いたのか、カイトを見て目を丸くしている。黒い帽子に包まれた桃色の髪が揺れた。

「あ……」

口から零れ出た呟きは短いものだった。
そこにあった感情の色は、この場で他人見たことによる驚きだけではない。もっと何か別のものも孕んでいるようにに聞こえた。
二人の間に一瞬だけ沈黙が舞い降り、静謐な大聖堂の中視線が絡み合った。

「僕はカイト」

カイトはゆっくりと口を開いた。
殺し合いの場で巡り合った最初の他人。だが、声を掛けるのに格別緊張も不安もなかった。
こんな時だからこそ落ち着かないと。寧ろカイトはそんな風に思うことができた。

「よろしく。ちょっと驚かせちゃったかな?」

そう語り掛けると、少女は微笑みを浮かべ「ううん、違うの」と穏やかに言った。

「ちょっと……既視感を覚えただけ。知ってる人に似てたから」

そう彼女は言った。そして靴音を響かせ落ち着いた足取りで近づいてくる。
そしてカイトと向き合いその目をしっかりと見据えながら「私は志乃」と名乗った。
自己紹介を終えると、志乃は今一度聖堂の中を見渡した。

「グリーマ・レーヴ大聖堂……ここにもあったんだね」
「え? このエリアってそんな名前が付いてたんだ」
「うん。『Δ隠されし 禁断の 絶対障壁』や『Θ隠されし 禁断の 古戦場』みたいなThe Wolrdの仕様には本来存在しないエリア。
 そこをみんなロストグラウンドと呼んでてね、各々に名前が付いているの。掲示板にも専門スレがあったかな」
「へぇ。ここ以外にもThe Wolrdにはこういうところがあったんだね」

八相と戦っていた時期にはBBSを欠かさずチェックしていたカイトだったが、ここしばらくはしっかりと見ることもなくなっていた。
オルカが勝手に広めた.hackersの噂のように、誰かがそういう名前を付けているのだろう。

278時の階段 ◆QAmDWCgreg:2013/01/24(木) 17:15:27 ID:hZ.lT5XM0

「貴方もThe Wolrdのプレイヤーなの?」
「うん。職業は双剣士。何だかよく分かんないことに巻き込まれちゃったね」
「そう……私も、正直よく分からないし混乱してる。呪癒士(ハーヴェスト)だから一人で戦うのも難しいし」
「ハーヴェスト? 呪紋使い(ウェイブマスター)じゃないくて?」

そう聞き返すと、志乃は何やらいぶかしげな顔をした。
何か変なことを言っただろうか。不審に思ったカイトが、ハーヴェストなんて職業は聞いたことがないと言うと、彼女は更に困惑した表情を見せた。
先程の言葉を聞くに、彼女がThe Worldのプレイヤーなのは確実な筈なのだが。

「……カイト君。少し詳しく話を聞かせてくれないかな? 貴方のプレイしていたThe WolrdはどんなThe Wolrd?」

何かを察したのか、志乃がそう問いかけてきた。
カイトは何故そんなことを問うのか不思議に思いながらも語った。
三つの単語からなるダンジョン生成システム。6種類の職業。三人一組のパーティシステム。サーバーの名前。
そういったことを説明していく内に、志乃は合点を得たらしく「なるほどね」と短く頷いた。

「たぶん、貴方が言っているThe Wolrdは私の知っているものより古い、リビジョンが変わる前のものだと思う」
「えっ……?」
「私がやっているThe WolrdはR:2……ゲームシステムが刷新された新しいThe Wolrd」

志乃の言葉は俄かには信じがたいものだった。けれど、その目は真直ぐとカイトを見据えていて、嘘や冗談を言っているようには見えなかった。
カイトはある可能性を予期し、少し緊張しながら、尋ねた。

「志乃さん。今、何年? 僕の記憶では2010年なんだ」

問われた志乃は躊躇いと戸惑いを見せた後、

「……2017年」

そう、答えた。
カイトは思わず言葉を呑んだ。
まさかと思っていた可能性が現実味を帯びてきたのだ。
カイトも志乃もしばらくの間沈黙していた。この事態が一体どういうことなのかに考えを巡らしているのだ。

「おかしいのは時間かな……それとも、僕の記憶?」
「……分からない」

志乃との齟齬。それから考えられる可能性は二つ。
一つはSFのように時間自体がおかしくなっているもの。
もう一つはカイトの記憶が弄られていて、最低でも七年の期間を忘れてしまっているということ。
後者の可能性はカイトを不安にさせた。記憶がないかもしれない。それは主体である自分自身そのものを疑うことに等しい。
自分が行ったかもしれない行動に一切責任が持てないのだ。堅強だと思っていた足場がふと消えてしまったかのような感覚がカイトを蝕んだ。

「カイト君」

その不安を感じ取ったのか、志乃は優しく声を発した。

「貴方が感じてる不安は……分かるし、それを私は完全に否定することはできない。
 でも、これだけは言える。人間の記憶はただのデータなんかじゃないって」
「それは……」
「空白の時間があったとしても、たとえずっと寝ていたとしても、人はその中で何かを感じ取るの。
 ゲームのセーブデータみたいに簡単に消したりできるものじゃない」

279時の階段 ◆QAmDWCgreg:2013/01/24(木) 17:16:14 ID:hZ.lT5XM0

志乃の語る言葉は重かった。慰めの言葉ではあったが、決して他人行儀ではなく、自分自身に語り掛けている感じさえあった。

「うん。そう……だよね」
「そ、だから大丈夫。貴方は貴方」

そう言って志乃は微笑み、釣られてカイトも笑った。
とにかく状況を変える為には行動しなくてはならない。カイトはそう決意する。
話合った結果、とりあえず地図に記されたマク・アヌに赴くことにした。
プレイヤーが初めて訪れる街、マク・アヌ。多くのものが刷新されたR:2でもそれは変わっていないらしく、悠久の都という名を冠しているそうだ。
とはいえ、リビジョンが変ったThe Wolrdではマク・アヌも様変わりしているらしい。
このマク・アヌはR:1とR:2、一体どちらの仕様のものなのだろうか。

志乃はその後、聖堂の奥へと目をやった。
アウラの居なくなり、爪痕だけが残る台座に。
カイトもまたそれを見て、言った。

「志乃の居るThe Wolrdではアウラの像はもうないの?」
「そっか……カイト君は知ってるんだね。まだアウラが居た頃のThe Wolrdを」

その言葉は何処か寂しさが籠っているように聞こえた。

「うん。R:2はR:1よりプレイヤーのマナーが悪くなっちゃってね。あんまり過ごしやすい場所じゃなくなっちゃんだ。
 だから、愛想尽かしちゃったのかもね。The Wolrdの女神も」
「それは違うと思うな」

カイトはきっぱりと言った。

「アウラは……世界を、The Wolrdを見捨てたりなんかしないよ。
 だから、志乃のThe Wolrdでも、きっと何処かで見守ってる」

カイトの言葉に、志乃は何も言わなかった。ただカイトの目を見た。
時を越えても信じられることはある。確かにそう思うことができたのだ。



【D-6/大聖堂/1日目・深夜】
※大聖堂はG.U.のグリーマ・レーヴ大聖堂でした。

【カイト@.hack//】
[ステータス]:HP100%
[装備]:不明
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:自分の身に起こったことを知りたい(記憶操作?)
2:マク・アヌに向かう
[備考]
※参戦時期は本編終了後、アウラから再び腕輪を貰った後


【志乃@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%
[装備]:不明
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める
1:ハセヲと合流(オーヴァンの存在に気付いているかは不明)
2:マク・アヌに向かう
[備考]
※参戦時期はG.U.本編終了後、意識を取り戻した後

280 ◆QAmDWCgreg:2013/01/24(木) 17:16:47 ID:hZ.lT5XM0
投下終了です

281 ◆QAmDWCgreg:2013/01/24(木) 17:24:21 ID:hZ.lT5XM0
て、アレ? 後半、WorldがWolrdになってる
wikiで直します、すいません

282 ◆iuymQhjKvg:2013/01/24(木) 17:46:29 ID:wDgc3lgw0
投下します。

283妖精少女/人形少女 ◆iuymQhjKvg:2013/01/24(木) 17:48:14 ID:wDgc3lgw0
あ……ありのまま、今、起こった事を話すぜ!
いつものようにナーブギアを装着し、ALOにログインしたかと思ったら、
見たこともない場所に飛ばされ、そこに居た変な侍風のおっさんに殺し合いをしろと言われた。
な……何を言ってるのか分からないと思うが、私も何をされたのかわからなかった……。

どこかで聞いた事があるような状況に、桐ヶ谷直葉―――リーファは思わず溜息を漏らす。

『ソードアート・オンライン事件』

開発者、茅場晶彦によりプレイヤー約1万人がSAOの世界に二年以上拘束され、うち約4000人が死亡した歴史的大事件。
ゲーム内での死=現実世界での死という最悪のデスゲーム。
ログアウト不可能、PKを推奨するために仕掛けられた遅効性のウィルス。
異なる点はいくつかあるが、今の状況はSAO事件と酷似としている。
そして榊という男は確かに言ったのだ。
この場でPKされること――それは即ち真の死を意味する、と……。

「いやいやいやいや……ないって、常識的に考えて」

SAO事件を踏まえ、製造メーカーの品質検査や、行政の監査もかなり厳しくなっているのだ。
数十名のプレイヤーを捕らえ、デスゲームを行わせるなど、できるわけがない。
大方、新稼動するVRMMOのテスターとして召集されたというところだろうか。
もしかしたらALOの秘密イベントかもしれない。

「どっちにしたって、参加者に事前連絡がないって不躾にも程があるっての!
 ……いや、私が連絡のメール見逃してただけだよね」

長く伸びたリノリウムの冷たい床。規則正しく並んだ見慣れた形の扉。そしてそれを皓々と照らす蛍光灯群。
恐らくここは学校なのだろう。シルフというファンタジーの住人(という設定)のリーファには些か不似合いな場所だ。
ひとまずはここを探索してみることにしてみよう。
それに現代を舞台にしたMMOがどういったものか、興味がないと言えば嘘になる。

「えーっと、校舎は三階建てで地下一階に食堂と購買部が併設……校庭の横に弓道場があって……」

一階の掲示板に校舎見取り図があったので、MAPをバージョンアップしておいた。
視聴覚室や保健室などの他にも、敷地内には噴水、教会なども設置してあるらしい。

(教会があるってことは、ミッション系の学校なのかな……?)

などと少しの推測を交えつつ、とりあえず目に付いた『図書室』と書かれたプレートが付く扉を開けてみる。

284妖精少女/人形少女 ◆iuymQhjKvg:2013/01/24(木) 17:50:58 ID:wDgc3lgw0


――――いた。一人いる。

受付に座った、黒い学生服を着た女生徒。
年齢はリアルの自分より一つか二つ上くらいだろうか?

「あっ、いらっしゃい!
 あなたもこのゲームのプレイヤーさんだね。
 ようこそ、VRバトルロワイアルへ!
 私はプレイヤーさんたちをサポートをする生徒会NPC、図書委員の間目 智識(まめ ちしき)だよ。
 これから何度か会うことになると思うからよろしくね」

図書室のカウンターに座る女生徒がにこやかに話しかけてくる。
間目 智識……ちょっとあんまりにも安直なNPC名を不憫と思わざるを得ない。

「いいの、分かってるから……。
 私も制作者に文句のひとつやふたつ言ってやりたいと常々思ってて…!」
「あははは……それで、ここでは何ができるの?」
「よくぞ聞いてくれました!
 ここではプレイヤーさんたちの必要に応じて、データベースから様々な情報を閲覧できるようになってるの。
 他プレイヤーの正体や秘密を探る際一つでもキーワードを得られれば、ここにある書物から有益な情報が得られる事もあるから」

と言っても、情報や手掛かりになるようなワードがなきゃデータが膨大すぎて検索できないんだけどね〜。
「あはは〜」と困り顔をしつつ間目 智識さんが付け加える。

「ふ〜ん……。じゃ、ためしに『リーファ』で検索してみてくれない?」
「はいはい只今〜」

間目 智識さんがPCに向かい、軽くキーボードを叩くとすぐにディスプレイに文字列が表示される。

《リーファ/Leafa》
登場ゲーム:アルヴヘイム・オンライン(ALfheim Online)
種族はシルフ族。鍛えられた剣の腕と反射神経で種族内五指に入る実力者。
飛ぶことに魅せられており、「スピードホリック」とも呼ばれる。
プレイスタイルは長刀を使った戦闘の他に、補助として風系の攻撃魔法や回復系も使いこなす魔法剣士型。

「ちなみにより詳細な情報さえあれば、さらなるデータ開示も可能になるよ!」

なるほど、単純なバトルロイヤルというわけではなく、情報の探りあいの要素も含まれるということか。
間目 智識さんによると類似した施設はここ以外にも何箇所かあるらしい。

285妖精少女/人形少女 ◆iuymQhjKvg:2013/01/24(木) 17:53:13 ID:wDgc3lgw0

「それと気づいてるとは思うけど、あと5時間ほどでこのエリアは《交戦禁止エリア》になるから。
 交戦禁止中は私たちNPCが見張ってるから、くれぐれも注意してね!」

えっ、なにそれ聞いてない。

《交戦禁止エリア》
6:00〜18:00までの時間中、校舎内は交戦禁止エリアとなっています。
期間中、交戦禁止エリア内で攻撃を行っているプレイヤーをNPCが発見した場合、ペナルティが課せられます。

「……一応掲示板と、プレイヤーさん方に配った【rule.txt】にもその旨を記載しておいたんだけど。
 MAP画面からでも交戦禁止エリアか否か、残り何時間で交戦可能か、禁止か分かるようにしておいたというのに。
 まったくこの子って子は……!」

ごめんなさい、見てませんでした。
そういえばアイテムの確認もよくしてなかった……。
間目 智識さんの小言を聞き流し、改めて【rule.txt】を確認すべく目の前にウィンドウを開く。
開かれたメニューの【ステータス】【装備】【アイテム】【設定】から【アイテム】の文字にタッチしようとして……。
ガラリと、図書室の扉が新たな来客を告げた。





「……こ、こんばんわ……」
「ごきげんよう」

エキゾチックな衣装に身を包んだ、褐色肌の眼鏡っ娘だった。
考えてみれば、このゲームは問答無用のバトルロイヤルルールであり今の自分は丸腰。
相手も武器らしきものはもっていないが、それはこちらも同じ。
剣がなくとも魔法を駆使し戦えはするが、リーファが習得しているのは主に防衛と回復に関する魔法だ。
この眼鏡っ娘が手練のメイジならば敗北は必至。

286妖精少女/人形少女 ◆iuymQhjKvg:2013/01/24(木) 17:54:45 ID:wDgc3lgw0


「ちょちょ、ちょっと待って! 今戦うのなし!開始早々いきなりってないでしょ普通!?
 私まだアイテムや詳しいルールの確認もしてないしっ!
 な、なにも最初に出会った相手と戦うってワケでもないでしょ!?
 だ、だから今は……」
「……?」

PK推奨のゲームでなにを言っているのか。
あぁ、この子も首傾げちゃってるよ……。

「つ、つまり、ねっ? まだ貴女もここに慣れたってワケじゃないんでしょ。
 なら仲良くした方がいいと私は思うのよ。うんっ」
「つまり―――同盟を結びたいと?」
「そっ、そう!それが言いたかったのよ!」

あぁ―――我ながら、なんて都合のいい。
こんな妄言、誰が信じて……。

「計算通り……ですね」

ボソリと、インド風の女の子が眼鏡を持ち上げ呟く。
えっ。 この子いまなんて……?

「私はラニ。あなたと同様、聖杯を手に入れる使命を負った者。
 あなたがここにおり、そして私に盟を持ちかけてくることは、全て分かっていました。
 あなたを照らす星を、見ていましたから。
 ―――星が語るのです、あなたの事を。私は、ただそれを伝えただけ。
 我が師が言った者が誰なのか。私は新たに誕生れる鳥を探している。その為に、多くの星を詠むのです。
 あなたが、その鳥なのかは分かりませんが……」

Oh...

  ア ト ラ ス                パ ラ ダ イ マ イ ザ ー
「《蔵書の巨人》の最後の端末として、《最後の平行変革機》が存在したことの意味を証明するため、
 私は自身の価値を示す必要がある。私はあなたを利用し、貴女は私を使用する。この盟はそういったもので構いません。
 ……貴女がそうなのかはわからない。ですが、貴女の星の傍には少し、他のマスターとは違う星が観測できる。
 貴女がその星ではないにせよ、それに近しい貴女を観測することは有益だと判断します」

こいつぁヤベェ……!
いくらなんでもこの子、『設定』盛り過ぎ―――!
《蔵書の巨人》って……《最後の平行変革機》って……。
正直言ってることの半分、いや大半の意味が分からなかったし
もうこれ傍から聞くとただの電波じゃ(ry



【B-3/月海原学園・図書室/1日目・深夜】

287妖精少女/人形少女 ◆iuymQhjKvg:2013/01/24(木) 17:55:50 ID:wDgc3lgw0


【リーファ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
1:この子ダメだ…早くなんとかしないと。
2:SAO事件の再来なんて……ないよね?
[備考]
※参戦時期は不明です。

【ラニ=Ⅷ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康/令呪三画
[装備]:
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
1:師の命令通り、聖杯を手に入れる。
 そして同様に、自己の中で新たに誕生れる鳥を探す。
2:リーファを利用し、使用してもらう。
[備考]
※参戦時期は不明です。

※交戦禁止エリアについて
6:00〜18:00までの時間中、校舎内は交戦禁止エリアとなっています。
期間中、交戦禁止エリア内で攻撃を行っているプレイヤーをNPCが発見した場合、ペナルティが課せられます。
ペナルティ内容は秘密。またNPCに見つかりさえしなければ良いので交戦禁止中にもPKは可能なムーンセル使用。

288 ◆iuymQhjKvg:2013/01/24(木) 17:57:19 ID:wDgc3lgw0
投下終了です。

289名無しさん:2013/01/24(木) 19:50:07 ID:i9E8wiX.0
投下乙

>薔薇色カタストロフ
ハセヲとミアが一緒に参加してた時点でこうなる予感はしていたが…アレ?近くにピンクいなかったか?

>時の階段
考えてみれば大聖堂って、無印とG.U.のどっちにとっても始まりの場所だったんだよなあ…

>妖精少女/人形少女
ラニが重症中二病患者扱いww

290名無しさん:2013/01/24(木) 23:18:15 ID:/ZA/r/Pc0
投下乙です

俺は原作に詳しくは無いんだが大聖堂ってそれほど重要な場所だったのか
そこで出会う同じ世界だが時間がずれた者同士が出会ったか
対主催の二人が出会った。ここから二人がどうなるか期待

重症中二病患者扱いはワロタw
確かに状況が状況だけに情報の誤解はあると思ってたからこれは仕方ないかw
それでもこれは両方ともヤバいなあ
片方はまだ完全に殺し合いだと認識していない。もう片方は相手が中二病と見られていると気が付いていない
バランスが崩れたら何処までも崩れそう
そして交戦禁止エリアかあ

291 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:14:42 ID:EbKIU7bw0
投下乙です。

>時の階段
大聖堂でこの二人が出会うとは……
.hackにとってははじまりの地だけに、色々と思う所があるなぁ。
アウラに対する二人の考えも、感慨深いものが。

>妖精少女/人形少女
リーファ、色々な意味でやばいw
確かにこの状況じゃそう考えるのも仕方ないが、早めに事実を認識しないとマジで死ぬぞ。
ラニも本人は至って真面目なだけに、性質が悪いというか……w


さて、自分も予約分が出来ました。
アスナ、トリニティ、投下いたします。

292monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:16:22 ID:EbKIU7bw0

(……ALOの中……じゃ、ないわよね……)


結城明日奈/アスナは、自身が置かれた状況を冷静に考察していた。
つい先程まで自身は、キリトと共にダイシーカフェからの帰路についていた筈だった。
そしてそこで、留学についてきてほしいという彼からの告白を受け、喜んで返答し……
妙な事に、記憶はそこで途切れている。



――――――俺と、一緒に来てほしいんだ、アスナ。



(キリト君……)


最も記憶に新しい愛する者の言葉を思い出し、己の鼓動が自然と早くなっているのを、アスナは実感していた。
彼はSAOで結婚を申し込んだ時と同じく、つっかえながらも精一杯、まっすぐに気持ちを伝えてきてくれた。
誰よりも大切な者からの、ずっと傍に居たいという愛の言葉。
それが如何に喜ばしいものであったか、如何に嬉しいものであったかは、最早言うまでもない。


(……うん、大丈夫だよ。
絶対、私はキミのところに帰るから……こんな殺し合いなんかに、絶対負けたりしないからね)


故にアスナは、この殺し合いから絶対に脱出する……殺し合いを止める事を決めていた。
どんな時でもずっと一緒にいると、そうキリトと約束したのだ。
ならばこんなところで、負けてなるものか。
殺し合いを止め、そして無事に笑顔で彼の元へ帰るのだ。

293monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:16:50 ID:EbKIU7bw0

(そうと決まったら、まずは状況を確認しないとね)


その覚悟を固めた後、アスナは再び状況の把握に戻る。
まず自分が立っている場所だが、一言でいえば極めて近代的な都市だ。
マップデータを確認したところ、それに当てはまりそうな場所として、日本エリアとアメリカエリアという二つの区画が存在している。
目の前に、大きな高速道路が見えるところからして、恐らくここは後者に違いあるまい。
一方アスナは、その町並みからあまりにも浮きすぎている状況にあった。


(私、今はALOのアバターなのよね……でも、ALOにこんな場所あるはずがないし……)


彼女は今、ALOのアバターそのままの姿でこのアメリカエリアに立っていた。
近代都市の街の中に、ファンタジー世界の妖精が一人。
世界観からかけ離れすぎた、何ともミスマッチな組み合わせだ。
当たり前だが、ALOにこんなアメリカを再現したマップなど存在していない。


(でも、ALOのキャラデータそのままでログインしてるって事は、全くの無関係とも言えないのよね。
コンバートなら、多少はアバターの見た目が変わってるはずだし……)


その奇妙な事実が、アスナの中で妙に引っかかっていた。
僅かな違いすらなくALOそのままの状態でログインしているという事は、この殺し合いのサーバーにはALOのデータがあるという事になる。
無ければ、こうして存在する事は絶対に出来ないのだ。
つまり……この殺し合いを開いた榊という男は、ALOの持つ莫大なデータをそのまま手中に収めているという事ではないか。
しかし、そんな事が本当に出来るのだろうか?


(……まさか……須郷が?)


それが出来る人物に、アスナは一人だけ心当たりがあった。
ALOを開発し、その王座に君臨していた盗人の王―――妖精王オベイロンこと須郷伸之だ。
あの男はかつて、SAOサーバーのルータに改造を施し、自身を含めた三百人のプレイヤーをALO内に幽閉した。
そして人間の記憶や感情・意識のコントロールを研究する為の実験台に用いる、最低最悪の凶行に及んだ。
考えてみれば、自身が全く気がつかぬ間に見知らぬ仮想世界に拉致されるというこの状況は、あの時と似通っている。
目的が見えぬこの殺し合いも、実験や研究の一種と考えれば説明が一応はつく……が。

294monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:17:31 ID:EbKIU7bw0

(……ううん、須郷じゃない)


しかし、須郷が黒幕だという考えを、アスナはすぐに否定した。
理由は簡単だ……須郷は今、先述した拉致監禁及び人体実験の罪を問われ、服役中なのだ。
そんな人物が、一体どうやってこんな殺し合いを開けるというのか。
まさか留置所の中からVRMMOに接続するなんて、そんな馬鹿げた話があるわけない。


(ふぅ……分からないなぁ。
こんな時、キリト君やユイちゃんがいたら何か気付くのかもしれないけど……)


結局分かったのは、この殺し合いを開いた者が、少なくともALOのデータは確実に掌握しているという事のみ。
もしかしたら、自分が今手にしている武器―――死銃のレイピアの事を考えると、GGOにもその手は及んでいるかもしれない。
或いはそれ以上のVRMMOジャンルも関わっているかもしれないが、残念ながら、アスナにはそれ以上の考えは浮かばなかった。
もしもこの場にキリトやユイがいれば、自身では気付かない何かに気付いてくれたかもしれないが……
小さくため息をつき、空を仰ぐ。


(……待って、ALOのアバターってことは……)


その時、アスナにある考えが浮かんだ。
今の自分はALOのウンディーネである……という事はだ。
ヒールをはじめとするスキルは勿論、あれも使えるのではないだろうか。
ALOの妖精は、誰もが持ち得る羽根……飛行能力を。


(……手は打たれてるだろうけど、それでもやってみる価値はあるかも)


もしも飛行が可能なら、この会場の外まで飛べるのではないか。
無論、そんな方法で殺し合いから脱出できるなんて馬鹿な事はあり得ないだろうが、やってみる価値はある。
少なくとも、会場全体の様子を眺められると同時に、何処から何処までが会場なのかを知る事が出来る。
背より羽根を出現させ、アスナは漆黒の夜空を見上げ……

295monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:17:52 ID:EbKIU7bw0

「よいしょ!」


強く床を蹴り、天へと飛翔した。
やはり予想通り、ALO同様に飛行する事が出来た。
後はこのまま、どこまで空へと行けるかだ。
羽根により一層の力が込められる。
アスナは出来る限り高く、漂う雲を突き抜けるかの様な勢いで飛翔を続け……



――――――ゴツン



「痛っ!」


数秒後、見えない壁に頭をぶつけた。
うぅ、と痛みに小さく声を漏らし、ぶつけた箇所を押さえながら前に視線を戻す。
これもやはり、予想通りの展開だった。
これ以上先に参加者が進めない様にする為か、そもそもその先のデータが存在していない為か。
進入を防ぐよう、透明な障壁が張られていたのである。
どうやら飛行して会場の外に出るという策は、やはり不可能の様だ。


(まあ、普通はそうだよね……)


ふと、アインクラッドの外側をよじ登って上層を目指そうとしたキリトの姿が、脳裏に浮かんだ。
今でこそ笑い話で済ませているが、一歩間違えれば転落死していたという事実に、当時は心の底から心配したものだ。
こうして外を目指している自分も、あの時の彼と同じという事か。
考える事が似ているものだと思うと、不思議と笑みが零れてしまう。


(なら、多分『横』も同じ筈かな?)


続けて視線を、上から横―――アメリカエリアの外側へと移す。
マップ上ではこのエリアは、縦四マスに横三マスで区切られていた形になっている。
では、その外……マップ外はどうなっているのかというと、一応はエリア内と同じ街並が広がっている様に見える。
果たしてそれが地続きの街なのか、或いは雰囲気作りだけにただ乱雑に張られたテクスチャーなのかは分からない。
唯一分かっているのは、そこがエリアの外である以上侵入する事は出来ないだろう事……同じく障壁があるだろう事だ。

296monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:18:33 ID:EbKIU7bw0

(これ以上は分からないなぁ……考えても仕方ないし、一回下におりよっか)


一応、隈なく周囲を見渡してはみたが、それ以上の事は分からなかった。
小さく溜め息を着くと同時に、空からの探索には限界があるとみて、アスナは降下をはじめる。
ここからは、地上を歩いてみるしかない。
羽を休め、ショッピングモールの入り口へと徐々に接近し……


「……驚いたわね……本当に、妖精みたい」


地に足を着けようとした、その時だった。
不意に横側より、誰からか―――聞く感じ、自分より少々年上の女性のようだ―――声を掛けられた。
直後、反射的にアスナは腰に下げていた細剣の柄を握り、声を発した人物へと視線を向ける。


「……安心して。
 私はこの殺し合いには、乗っていないわ」


その先に居たのは、漆黒のライダースーツに身を包み、サングラスをかけた細身の女性だった。
よくスパイ映画などで見る感じに近い、如何にもといった感じの格好だ。
全身黒づくめ……その様子に、思わずキリトの事を重ねずにはいられない。
そして自分同様に、警戒してか武器をその手に収めている。
尤も、その武器は服装に似合った銃器やナイフの類でも無く、かといって剣とか槍といったファンタジーの武器でも無い。
極めて現実的で、かつダイレクトにそのやばさが伝わって来る鈍器。


(あれって……鉄バット、だよね……?)


その名を鉄バット。
野球には必須な道具であると同時に、リアルでもよく殺人事件の凶器などに用いられている代物だ。
棍やメイスの類ならば何度もSAOやALOで対峙した事はあるが、流石に鉄バットを相手にしたのは今回が初めてである。
その為だろうか、アスナはつい息を呑んだが……少なくとも目の前の相手は、それで今すぐ殴りかかって来るつもりは無いらしい。
ならばと、自分も柄から手を離した。


「……ごめんなさい。
 つい、危ない人かなって思って……」

「いえ、気にしないで。
 この状況じゃ、警戒するのは当たり前だものね」


そう言って、スーツの女性はサングラスを取り素顔を曝した。
二十代後半から三十代前半、といったところだろうか。

297monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:19:01 ID:EbKIU7bw0
整った顔をした、外国人―――恐らくは、アスナが知るエギルと同じアメリカ系―――の女性だ。
彼女はサングラスをスーツの胸ポケットにしまうと、自身の名をアスナに告げた。


「私はトリニティよ、よろしく。
 それで、あなたは一体何者なのかしら……妖精さん?」



◇◆◇



二人の出会いより、少しばかり時計の針を巻き戻した時。
トリニティは、自らに支給された道具を確認すると共に、この説明をし難い状況に頭を悩めていた。
彼女はつい先程、モーフィアスと共にマトリックスの中でオラクルに出会い、現実へと戻らぬネオの意識はメロビンジアンに囚われている事を知った。
そして、オラクルの護衛役であるセラフを加えた三人で、まさにメロビンジアンの元へ殴りこみを掛けている真っ最中だったのだ。
だが……激しい銃撃の嵐を潜り抜け、彼が待つダンスホールへと足を踏み入れたその直後には、気がつけばここにいた。
その身を、殺し合いの舞台に囚われてしまっていたのだ。


(メロビンジアンの罠……とは思えないわね。
それにしては、状況がおかしすぎるもの)


最初は、自らを撃退すべくメロビンジアンが仕掛けた罠ではないかとも考えた。
実際、あの広場には同じくモーフィアスの姿もあったからだ。
だが……その可能性は、はっきり言えば低い。
メロビンジアンは、今日に自分達が殴りこみを掛けてくるとは予想していなかった筈だ。
出入り口で出会った案内係のエグザイルが酷く驚愕していたのが、その証拠だ。
ならば、こんな周到に殺し合いなんて舞台を用意できるとは思えない。
つまりこれは、完全なイレギュラー……自分達もメロビンジアンも予想していなかった、何者かによる介入だ。


(……ネオ……)


愛する男の名を頭の中で呟き、そっと夜空を仰いだ。
トリニティは、誰よりも大切な者を救う為に、その命すらも惜しまずにマトリックスの中に飛び込んだ。
メロビンジアンの元には、想像を絶するほどのエグザイルがいると分かっていても、微塵の迷いも見せぬほどに……その愛は本物だった。
だからこそ、今のこの状況から受けた衝撃は中々に大きい。
後少し、後一歩でネオを救い出せたというのに。
無残にも、その願いは踏みにじられてしまったのだ。

298monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:19:29 ID:EbKIU7bw0

(……待っていて、ネオ。
私は絶対、あなたを助けてみせる……モーフィアス達と一緒に、無事に戻ってみせるから)


しかし、トリニティの心は全く折れていない。
愛する者を救う為ならば、こんな罠ぐらい乗り越えてみせる。
一緒に囚われたモーフィアスや、恐らくは同様に会場内にいるであろうセラフと共に、この殺し合いを止め、再び戻るのだ。
もう一度、ネオに会う……その為に。


(……え?)


その時だった。
夜空を見上げるトリニティの視界に、信じられないものが映った。
青白い閃光が、天目掛けて上昇をしている。
人だ。
背中に羽根を生やした少女が、空を羽ばたいているのだ。


(……何なの、あれ?)


羽根を生やした人間が、空を飛ぶ。
予想を超えたその光景に、トリニティは目を丸くして呆然としていた。
確かに空を飛ぶという行為なら、マトリックス内に限ってではあるが、ネオも披露はしている。
しかし彼の場合、背中からあんな羽根を生やしたりはしていない。
いや……そもそも飛行する事自体、普通はありえない。
救世主であるネオだからこそ、あれは可能な真似の筈だ。
ならば、目の前を飛んでいるあの少女は何だというのか。
よく目を凝らしてみると、その服装もどこか浮世離れしている。
まるで、ファンタジー物の映画に出てくるかの様な……


(妖精……?)


そう、妖精だ。
剣と魔法が飛び交うファンタジー世界にはつき物の、人ではない存在。
目の前を飛翔する少女は、まさにそれではないか。

299monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:19:55 ID:EbKIU7bw0

(……あ)


呆然としてその様子を見ていると。
少女が急に、空中で静止をした……いや、静止させられたというべきかも知れない。
頭を押さえて、どこか痛がっている様子を見せているからだ。
もしかして……頭をぶつけたのではないだろうか。
だとすれば、この会場には目に見えない天井がある……つまり、透明なドーム状の何かに覆われているのではないか。


(空を飛んで、ここから脱出できるか試したってところかしら?
見る限り、対策済みの様だけど……)


寧ろ対策をしていなければ、どれだけこの殺し合いの管理が杜撰なのかという話になる。
とは言うものの、こうして実際に目に出来たのが収穫なのも事実である。
目に見えぬ壁でこの会場は覆われており、恐らくはその強度も脱出を警戒してかなりのものにされている筈だ。
だが逆に言えば、何らかの手段で障壁を突破できたならば、会場からの脱出が出来るという事ではないだろうか。
そう……例えば、マトリックスのシステムを無視・破壊する力。
ネオが持つ、救世主の力などがあれば。


(……とりあえず、まずはあの子に一度接触してみた方がいいわね。
あの様子なら、少なくとも殺し合いに乗っているようには見えないし……)


そこでトリニティは一度思考を切り替え、まずは目の前を飛ぶ謎の妖精との接触を図る事にした。
一体彼女がどの様な存在なのかは分からないが、少なくとも殺し合いに乗る様な人間には見えない。
ならば、モーフィアスやセラフもいない今、ここは協力を仰ぐべきだ。
自分一人では、やれる事に限界がある……仲間が必要だ。


(一応、武器だけは出しておこうかしらね)


接触にあたり、一応武器だけは用意しておく事にした。
殺し合いに乗っている様子は無いとは言っても、万が一というのもありえる。
よってトリニティは、榊が言った様にウィンドウを呼び出し自らの支給品を確かめた。

300monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:20:19 ID:EbKIU7bw0

(……本当に、ウィンドウが出てきた。
道具を持ち運ぶ手間が省けるのは、便利な機能だけど……)


このウィンドウを呼び出すという行為も、空を飛ぶ少女同様、今までのマトリックスの中ではありえなかったものの一つになる。
ある意味、ネオやエージェント達以上に現実離れした機能かもしれない。
それをこうして、参加者全員が扱えるようにしているという事は……あの榊という男は、マトリックスのシステムに大きく干渉できる能力の持ち主なのだろうか。

閑話休題。
トリニティは自らに支給されているアイテム一覧に目を通すと、その中からある一つの道具を実体化させた。
武器と呼ぶには少々心もとないが、素手よりかは遥かにいい鈍器―――鉄バットである。
他にも気になる品は幾つかあったが、今はこれで十分だ。
彼女は強くその手でそれを握り締めると、下降をし始めている少女の元へ歩み寄っていった。



◇◆◇



そして今。
二人の女戦士は、モールの入り口で正面より向き合っていた。
お互い殺し合いに乗るつもりが無いと分かったからか、警戒心は既に殆ど無い。


「はじめまして、トリニティさん。
 私はアスナといいます、よろしくお願いします」

「ええ、よろしくね。
 それで、アスナ……その、貴女は一体何者なの?
 背中から羽根を生やして、空も飛んで……まるでファンタジーの妖精みたいだけど」


トリニティは、単刀直入に自らの疑問をアスナにぶつけた。
この未知に満ちている状況では、僅かな情報でも貴重となる。
そして彼女が殺し合いに乗らない側であるとはっきり告げられた以上、ここは遠慮せずに質問をすべきと判断したからだ。


「あ、このアバターの事ですね。
 これはALO……私がプレイしているVRMMOのアバターなんです。
 どうして、このままの姿でここにログインしているのかは分からないんですけど……」


この質問にアスナは、何でもないかの様にあっさりと答えた。
トリニティの事を単に、ALOを知らないプレイヤーか、或いはVR従事者と思ったからだ。

301monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:20:51 ID:EbKIU7bw0

「……VRMMO……?」


だが、その簡単すぎる返答は、逆にトリニティを混乱させた。
それも当然である……アスナは然も当たり前の様に口にしているが、トリニティはVRMMOという単語などまるで知らないのだ。
辛うじて分かるのは、それが何かの用語という事だけだ。


「あの、アスナ。
 答えてもらったところに悪いんだけど……VRMMOって何なのかしら?」


故にトリニティは、その意味を知るべく更なる問いをかけた。
すると今度は、先程とは逆にアスナの方が困惑の表情を浮かべた。
信じられない。
そう言わんばかりの、そんな表情だった。


「え……トリニティさん。
 失礼ですけど、VRMMOを知らないんですか?
 あのSAO事件で、世界中に取り上げられる程のニュースになった筈ですよ?」


アスナにとって、VRMMOを知らない人がいるという事実は信じられないものだった。
確かにそれは、数年前までは自分も全く知らないジャンルの一つだった。
しかし、かのSAO事件が起きてからは、良くも悪くもその概念は世界中に広まったのだ。
今や社会現象と呼ぶに相応しい規模になっているのに……言葉そのものを全く知らないなんて、ありえない。


「SAO事件?
 それも聞き覚えが無いわ……それに、世界中って……」


しかしトリニティにとっては、それも当然だ。
彼女がいた世界では、VRMMOなんてジャンルは存在していない。
あるのは、機械が人間に見せている『夢』の世界……仮想現実世界ことマトリックスだけである。
また、彼女にはアスナがいう『世界中』という言葉も引っかかっていた。
人類と機械との激しい戦争が行われた結果、人類はその大半を殺害された。
そして生き残った唯一の人類達は、ザイオンと呼ばれる地下都市に暮らしているのだ。
つまり人類は、ザイオンにしか存在していないのである。
それにも関わらず、世界中などという言い方をしたという事は……

302monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:21:24 ID:EbKIU7bw0

「……アスナ。
 もしかして貴女……マトリックスから目覚めていないの?」


アスナがまだ、マトリックスから目覚めていない存在ではないかという事だ。
彼女はザイオンという現実を知らない……かつてのネオ同様、マトリックスこそ世界と認識しているのかもしれない。
そう考えれば、筋は通る。
尤もその場合、彼女が持つ謎の力が何なのかという疑問が残るが……それ以外に考えられる可能性もない。


「マトリックス……?
 一体それって、何なんですか?」


「……そうね、それは説明させてもらうわ。
 ただ、アスナ……今から話すことは、貴女にとって信じられない事かもしれない。
 それでも、理解してほしいの……それが、現実だって」



◇◆◇



「……嘘……」


トリニティより全てを聞かされ、アスナは呆然とした表情で彼女を見つめていた。

曰く、この世界は本物ではなく、機械が見せている仮想世界―――マトリックスである事。

曰く、現実では人類と機械との戦争が行われ、人類側が敗北したとの事。

曰く、トリニティは人類を救うべくマトリックスの中に潜り戦っているとの事。

その全てが、アスナには到底信じられないものだった。
理解してほしいと言われたが、そんな事は出来ない……出来る筈がない。
この世界が、キリトと出会い過ごしてきた全てが、まやかしであるというのか。


「だって……そんな!
 だったら私は、どうなるんですか?
 仮想空間の中で更に、仮想空間にログインしているなんて……」


たまらずアスナは、トリニティに反論した。
自分は仮想空間の中で、更に仮想空間へ潜っているのか。
そんな無茶苦茶な話があるのかと。

303monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:21:59 ID:EbKIU7bw0

「……何ですって?」


しかし、その反論はトリニティにも予想外のものだった。
仮想空間の中で、更に仮想空間へログインする。
そんな話は、聞いた事がない。
マトリックスの住人が、マトリックス内に仮想空間を築いているなど……そんな技術があるならば、幾らなんでも自分の耳に入っている筈だ。
いや、そもそも機械達がそんなものをマトリックス内に作るとは思えない……作る意味がないのだから。


「……アスナ、一つ確認させて。
 もしかしてさっき貴女が言った、VRMMOやALOっていうのは……仮想空間の事なの?」

「え……あ、はい。
 VRMMOが仮想空間を用いたゲームの事で、ALOはそのソフトの一つなんですけど……」


確認を取り、トリニティは更に頭を悩ませた。
つまり彼女の今の姿は、現実のものではなく、そのALOのゲームで用いていたキャラのそれだという事だ。
それが何故か、このマトリックスの中で顕在している。


「マトリックス内に、別のデータが介入している……?
 でも、マトリックス以外の仮想空間が存在しているなんて……」


それこそ信じられない話だった。
先程も考えた様に、機械達にはマトリックス以外の仮想空間を作る意味がない。
ならば誰が、アスナのいう仮想世界を作ったというのか。
自分達が知らないだけで、実は人類の生き残りがまだいたというのか。
いや、それならば確実にザイオンの船長達が見つけている筈だ。
訳がわからない。
この不可思議な状況は、一体どう説明すればいいのか……

304monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:22:37 ID:EbKIU7bw0

「……異世界……」


その時、不意にアスナが口を開いた。
異世界。
その言葉を聴いて、トリニティはとっさに意味を聞き返す。


「異世界……?
 アスナ、それってどういう事?」

「……トリニティさんの話を聞いて思ったんですけど、私達の常識は根本から違っているみたいなんです。
 VRMMOにマトリックス……お互いにとって当たり前の仮想空間を知らないし、現実世界の事もそうです。
 私がいたのはあくまでも平和な日本だけど、トリニティさんがいたのは人類と機械が戦争を行っている世界……」

「まさか……あなたは、私達が異世界から来たっていうの?」


説明を聞き、トリニティは我が耳を疑った。
自分達が異なる世界からやってきたなんて、あまりにも突拍子のない話だ。
しかし……この状況を片付けるには、一番説得力のある説かもしれない。
だが、アスナはどうやってその発想にいたったというのか。


「私にも、確証がある訳じゃないんです。
 ただ……以前、このVRMMOってジャンルを生み出した人から聞いた事があるんです。
 その人が仮想空間を作り出した理由は……現実とは違う『異世界』に行ってみたいからだって」


それはかつて、SAOクリア時に茅場晶彦から告げられた事実だった。
何を思い彼がSAOをデスゲームとしたのか、何故SAOを作り出したのか。
その理由は、彼が異世界の存在を信じていたから。
現実とは違う、少年の頃に夢見た異世界に行ってみたかったからだという物だった。


「だから……もしかしてここは、団長が話していた異世界なのかもしれないって、そう思ったんです」

305monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:23:16 ID:EbKIU7bw0

「……成る程ね」


異世界の存在を信じた人間がいる。
そう聞いて、トリニティは小さくため息をついた。
何とも夢のある、俄かには信じられない話だ。
しかし、妖精の姿をしたアスナの事といい、お互いの常識が食い違っている事といい、状況的には最早そう判断せざるをえないだろう。


「でも……もしそうだとしたら、あの榊という男は私達の常識をはるかに超えた存在よ。
 異なる世界同士に干渉できる……言ってしまえば、神に等しい力を持っているわ」

「ええ、そうでしょうね。
 けど……どんな相手でも、負けるつもりはありません」


このバトルロワイアルの裏に潜むのは、自分達の理解を遥かに超えている恐るべき存在だ。
その様な相手に喧嘩を売って、勝てる見込みは限りなくゼロに近いだろう。
しかし……アスナはそれでも、負けるつもりはないと断言した。
何故なら彼女には、負けられない理由があるのだから。


「キリト君が……待っている人がいますから」


愛する者がいる。
その者ともう一度会う為ならば、例え神にだって喧嘩を売ってやる。
はっきりと迷いなく、アスナはそう口にしたのだ。
すると、それを聞いたトリニティは一瞬だけ表情を硬直させ……そしてすぐに、笑みを浮かべた。

306monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:23:41 ID:EbKIU7bw0
「ええ……そうね。
 私にも、ネオが……大切な人がいるの。
 彼にもう一度会う為なら、こんなところで挫けるつもりはないわ」

「トリニティさん……」


トリニティもまた、アスナと同じだった。
愛する者がいるのだから、負けてなんかいられない。
殺し合いがどうした、異世界がどうした。
もう一度、その腕に抱きしめられるその時が来るまで……誰が相手であろうと、乗り越えてみせようじゃないか。


「……トリニティさん。
 一応聞きますけど、殺し合いに優勝してその人のところに帰るって選択肢はなかったんですか?」

「無いわ。
 あなたも同じ理由でしょう?」

「勿論ですよ」


また、二人ともにこの殺し合いに優勝するという選択肢は論外だった。
確かにそうすれば、愛する者の元へと帰る事は可能だ。
だが、それでは意味が無い。
誰かの命を奪った上での再会など……その相手が、喜ぶ筈がないのだから。


「……ふふっ。
 私、貴女とは何だか上手くやれそうな気がしてきたわ」

「ええ。
 私もですよ、トリニティさん?」


気づけば二人は、互いに友情を感じていた。
愛する者を守ると誓った者同士、互いに近しいモノを感じたのだ。


年齢や住む世界の差こそあれど、この相手とならばきっと上手くやっていけるに違いないと。

307monochrome lovers ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:24:21 ID:EbKIU7bw0

【G-9/ショッピングモール入口/1日目・深夜】

【アスナ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:死銃のレイピア@ソードアート・オンライン
[アイテム]:不明支給品0〜2(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いを止め、無事にキリトと再会する
1:トリニティと共に行動する。
2:殺し合いに乗っていない人物を探し出し、一緒に行動する。
[備考]
※参戦時期は9巻、キリトから留学についてきてほしいという誘いを受けた直後です。
※榊は何らかの方法で、ALOのデータを丸侭手に入れていると考えています。
※会場の上空が、透明な障壁で覆われている事に気づきました。
 横についても同様であると考えています。
※トリニティと互いの世界について情報を交換しました。
その結果、自分達が異世界から来たのではないかと考えています。

【死銃のレイピア@ソードアート・オンライン】
GGOにおいて死銃が手にしていた、漆黒のレイピア。
死銃曰くGGO内で一番硬い金属を加工して作った物との事で、データには存在しないシステム外の武器になる。
見た目こそ無骨で歪だが、コンバートしたキリトに対して通用した事から、攻撃力は高い事が伺える。


【トリニティ@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:鉄バット
[アイテム]:不明支給品0〜2(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いを止め、無事にネオと再会する
1:アスナと共に行動する。
2:殺し合いに乗っていない人物を探し出し、一緒に行動する。
3:モーフィアスとセラフを探し、合流する。
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションの、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後です。
※会場の上空が、透明な障壁で覆われている事に気づきました。
 横についても同様であると考えています。
※アスナと互いの世界について情報を交換しました。
その結果、自分達が異世界から来たのではないかと考えています。
※自分やモーフィアスと同じく、セラフもまたこの舞台に囚われていると考えています。

308 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/25(金) 00:25:00 ID:EbKIU7bw0
投下終了です。

ネオもキリトも、リア充爆発しろと言いたい。

309名無しさん:2013/01/25(金) 00:39:58 ID:oIy.KMqAO
投下乙です。くそっ、なんて時代だ!こんないい女達には既にチートでイケメンないい男がいるなんて…

310名無しさん:2013/01/25(金) 00:49:38 ID:w7k6tX0U0
投下乙です

どっちか、あるいは両方が奉仕マーダーするかなと思ったが平穏に収まってよかったよかった
でもなあ、パロロワで恋人が同時に参加とかどこまでも不吉だけどね…
さて、志を同じくする同士と共に最初の一歩を踏んだが道は険しいぞ…

311名無しさん:2013/01/25(金) 00:55:49 ID:igKVGkpE0
投下乙です

よかった…ヤンデレなアスナさんなんていなかったんだ…

312名無しさん:2013/01/25(金) 02:11:05 ID:OJr8yyPU0
【対主催】
○岸波白野/○遠坂凛
○キリト/○アスナ/○ユイ/○シノン
○カイト/○ブラックローズ
○ハセヲ/○蒼炎のカイト/○志乃
○シルバー・クロウ/○ブラック・ロータス
○トリニティ

【マーダー】
○ありす/○ラニ=VIII
○ダスク・テイカー
○フォルテ/○フレイムマン
○スケィス
○エージェント・スミス
○アドミラル

【不明・その他】
○ダン・ブラックモア
○リーファ
○スカーレット・レイン
○エンデュランス/○ミア
○ネオ
○レン/○ピンク

対主催14にマーダー8か
ちょっと少ないかな

313名無しさん:2013/01/25(金) 02:19:38 ID:j31vmHyQ0
いや、マーダーは確かに数は少ないが質がやばいぞ。

特にスケィス、フォルテ、スミスの三人は規格外もいいとこ過ぎる化け物だし

314 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/25(金) 02:49:32 ID:6wp/vB0w0
揺光、クライン分を投下します

315赤いの黒いの合わせて二組 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/25(金) 02:50:24 ID:6wp/vB0w0
 冷たい夜風が、やけにリアルに、彼女の脇をすり抜ける。
 ビル風が吹き抜ける町並みを、1人の少女が歩いている。
「………」
 燃えるような赤毛の少女は、PC名を、揺光といった。
 かつてはThe World R:2において、アリーナのチャンピオンだったこともある凄腕だ。
 俊敏かつ苛烈な剣捌きを前に、数多のチャレンジャー達が、敗北の苦渋を舐めさせられていた。
「……ハッタリじゃ、ないだろうね」
 そのチャンピオンである揺光が、今は思案にふけっている。
 いつもの快活さはなりを潜め、その身に降りかかった現状に、静かに思考を巡らせている。
 何もかもが異常だったが、概ね、既知の体験ではあった。
 まるで自らのPCボディに、魂が直接乗り移ったような感覚は、かのAIDAサーバー事件の際にも経験している。
 殺人ウィルスの存在も、未帰還者になった時の、延長線上のようなものとして捉えられる。
 だがだからこそ、この状況を、軽く見るわけにはいかなくなった。
 それが本当だと信じられるからこそ、慎重に考えざるを得なくなったのだ。
(らしくないね、こういうのは)
 ぽりぽりと頭を掻きながらも、似合わない己の姿を自嘲する。
 文学少女を自任してはいるが、大雑把なのが地の性分だ。
 うだうだ悩んで立ち止まるよりも、直感に従って動いた方が、自分には合っているということは自覚している。
 それでも、どうしても進めない。
 明確に感じられる死の恐怖が、彼女の足を掴んで離さない。
「――おい、ちょっと、ちょっと」
 と、その時だ。
 不意に横合いの方から、低い男の声が聞こえてきた。
 呼び声にふと我に返り、音の聞こえる方を向く。
 路地裏から顔を出していたのは、20代そこそこといった様子の男だ。
 ネットゲームの世界において、年齢を引き合いに出すというのも、少々妙な話かもしれないが。
(こっち、こっち、ってか?)
 男は籠手を嵌めた右手を出して、こちらに手招きをしている。
 目立たないところで話そうということか?
 あるいは、閉所で奇襲を仕掛けるつもりか?
 どちらにしても、近寄ってみなければ真意は読めない。
 仮に騙し討ちが目当てだとしても、こちらはスピード重視の双剣士だ。大通りに戻ってこられる自信はある。
(乗ってやろうじゃないか)
 結局、どこまで考えてみても、揺光は揺光に違いない。
 揺光は男の誘いに応じ、ビルの谷間へと歩いていった。



「……だぁっ、分かんね。どうなってんだこりゃ?」
 ゴミ箱の並ぶ路地裏で、壁にもたれかかった男が、情けない声を上げて顔を押さえる。
 赤い和装に黒鎧の男は、名を、クラインと名乗っていた。
 いわく、SAO(ソードアート・オンライン)――The Worldとは違うゲームで、「風林火山」というギルドを率いているリーダーらしい。
 そしてそのクラインが、頭を悩ませている原因が、その2つのゲームに対する認識にあった。

316赤いの黒いの合わせて二組 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/25(金) 02:50:51 ID:6wp/vB0w0
「なぁ揺光。ホントにリアルの世界では、俺達の事件は誰にも知られてねぇのか?」
「さっぱりだよ。あたしとしちゃ、今時The Worldを知らない奴がいることの方が驚きだけどね」
 ポリバケツの上に座りながら、揺光がクラインの問いかけに答えた。
 要するに、それぞれの語る常識が、見事に食い違っているのだ。
 揺光の知る限りでは、The World R:2は、ユーザー数1200万人を超える、業界最大手のMMOである。
 AIDAによる未帰還者事件もさることながら、かつてのドットハッカーズ事件もあり、その知名度は絶大だ。
 今やネットゲームをやらない層にすら、名前を知られているほどのタイトルが、彼女にとってのそれなのだ。
「んー、The Worldなぁ……そんなに息が長いんなら、名前を聞いたことくらいあっても、おかしくはねぇと思うんだが」
 ところが、目の前にいるクラインは、その一連の事件を知らなかった。
 むしろ彼の事件では、SAOの絡んだ、全く別の事件が起こっていたのだ。
 いわく、彼の認識の中では、茅場晶彦とかいう技術者がそのゲームを作り、1年前ほどにサイバーテロを起こしたらしい。
 ネットに意識をダイブさせるという、全く新しいMMOの世界に、プレイヤーの意識を閉じ込めてしまったのだそうだ。
 もちろん、揺光はそんなことなど知らない。
 現実にそんな事件が起きたなら、大騒ぎになっているのが当然だろうに、欠片もそんな話は聞いていない。
「あー、もう! わけ分かんねぇよチクショウ!」
「うっさいよ! 目立たないようにって呼びつけたのは、そっちじゃんか!」
「っと、悪い悪い」
 いよいよ唸りだしたクラインを、一喝して黙らせる。
 見たところ人当たりのいい印象は受けるが、どうにもいちいち締まらない男だ。
 恐らくは自分と同じで、頭の回転は、あまり早い方ではないのかもしれない。
 赤髪同士ニワトリ頭、ってか。ほっとけ。脳内で一人ノリツッコミをした。
「まぁ、そこんとこは今はどうだっていいんだよ。とりあえず、これからどうするかってのを考えなきゃ」
「だよな。普通に生き残るためなら、やっぱり乗るしかないんだろうが……」
 揺光の振りに応えるも、クラインは腕を組み、黙り込んでしまう。
 そりゃそうだ。こんな会話をしている時点で、お互い答えなど決まりきっているのだ。
 殺し合いに乗れるようなタマならば、わざわざこんなところで顔を合わせて、三流コントなどしていない。
「無理だよねぇ、やっぱり」
 ポリバケツをゆらゆらと揺らしながら、揺光が言った。
「無理なんだよなぁ」
 結局、クラインから返ってきたのも、予想通りの答えだった。
「となると話は、こっからどうやって脱出するかっつうことになるな」
「それこそこんなとこでクダ巻いてたって、答えなんか出やしないよ」
 言いながら、ひょいっとポリバケツから飛び降りる。
 そのまま着地して姿勢を正すと、揺光は手元のメニューを手繰り、フィールドの地図を呼び出した。
 クラインもまたそれにならい、自分の地図を表示させる。
「とりあえずは怪しいと思うところを、手当たり次第調べるっきゃないね」
「怪しいとこっつうと、どこだ?」
「んなもん1つっきゃないだろ?」
「まぁ……そうだよなぁ」
 意外とこのクラインという男とは、波長が合うのかもしれない。
 2人が真っ先に注目したのは、地図の右上にあるエリアだ。
 ウラインターネット――名前からして、どう考えても怪しい場所である。
 反対に言えば、ここ以外には、特に怪しいと思う場所が、見当たらなかったということにもなるのだが。
「ものは試しだ。行ってみようよ。ホントに何かあるかもしれないしさ」
 大通りを指差す揺光に、クラインが頷いて応じる。
 特に断る理由もない。他にヒントらしきものもない。であれば、前に進むしかない。
 2人は路地裏を出ると、一路ワープゲートを目指すことにした。

317赤いの黒いの合わせて二組 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/25(金) 02:51:26 ID:6wp/vB0w0
(ハセヲ……)
 かつかつとアスファルトを歩きながら、揺光が想うのは、1人の男だ。
 かつて死の恐怖と呼ばれた男、ハセヲ。
 生意気な態度でつっかかり、チート技で自分を負かし、アリーナの座を穢したと思っていた憎らしい男。
 出会いの印象は最悪だった。
 それでも、言葉を交わしていくうち、彼の本当の姿が見えてきた。
 何だかんだ言って優しくて、度胸も根性もある彼のことを、次第に、恋しいと思うようになった。
(あたしだって女だからな。悔しいけど、心細い時だってあるんだ)
 彼は今、The Worldを襲う脅威と、必死に戦っているのだという。
 自分のPCに届いていたメールからは、彼の切迫した状況を、ありありと感じ取ることができた。
 そんな彼に対して、こう願うのは、無神経な話かもしれない。
 それでも、生憎と今の自分は、意外にもどうしようもないくらいに、追い詰められているらしい。
(だから、ちょっとだけ勇気を貸してくれよな)
 だからこそ、敢えて彼に願った。
 違う場所で戦う彼に、背中を押してほしいと願った。
 自分も今は、この場所で、生きるために精一杯戦う。そしてThe Worldで戦う彼の勝利を、心の中で祈り続ける。
 だから、そこにいるハセヲにも、同じように祈ってほしいと。
 彼方へ想いを馳せながら、揺光はその一歩を踏み出した。



(あれ、キリトだったよな……)
 コンクリートジャングルを歩きながら、クラインは静かに思考する。
 このゲームが始まった時に飛ばされた、あの真っ白な部屋を回想する。
 言葉こそ交わすことはできなかったが、あの時あの場所には、キリトがいた。
 自分がSAOにログインして、初めて出会った少年がいたのだ。
(……大丈夫なんだろうな、あいつ)
 事実、キリトの実力は折り紙つきだ。
 彼はSAOのゲームシステムにも素早く順応し、背教者ニコラスのクエストからも、単独で報酬をもぎ取っている。
 実力だけを見るのなら、生存の可能性は、恐らく自分以上だろう。
 問題は、そのクエストに挑む彼の様子が、尋常な状態ではなかったことだ。
 何があったかは知らないが、どうやら彼は何者かの死に、相当なショックを受けているらしい。
 気にするな、とは到底言えない。それでも、そんな不安定な精神状態では、どんなミスを犯すかも知れない。
(もうちっと俺を頼ってくれたって、バチは当たらねぇってのによ……!)
 籠手を嵌めた拳に、力がこもった。
 何か悩みがあるのなら、素直に頼ってほしかった。
 力を貸すよう言え、とまでは言わない。せめて何があったのか、打ち明けるだけでもしてほしかった。
 それほどに、自分を避けているのか。
 ログアウト不可能となったあの日、自分を見捨てて行ったことを、負い目に感じているということか。
(……悪ぃがキリト、俺はそんなに物覚えはよくねぇんだ)
 そんなことは恨んでいない。恨んでいたとしても、とっくに忘れた。
 第一、気にするなという一言は、あの時あの黄昏の下で、はっきりと言ったことではないか。
(無理やりにでも、世話を焼かせてもらうぜ)
 今度顔を合わせたら、今度こそきっちりと彼を助ける。
 同じ時を過ごした友人として、傷ついた彼を支えてやる。
 胸に固い決意を込めて、クラインは揺光の後に続いた。

318赤いの黒いの合わせて二組 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/25(金) 02:51:53 ID:6wp/vB0w0
【E-8/道路/1日目・深夜】

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3(未確認)、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:クラインと共に行動する
2:ウラインターネットに行ってみる
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。情報の祖語については、未だ結論を出せていません
※ハセヲが参加していることに気付いていません

【クライン@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:健康
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3(未確認)、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:クラインと共に行動する
2:ウラインターネットに行ってみる
3:キリトと合流したい。未だ迷っているようなら、彼を支えたい
[備考]
※第2巻にて、キリトから「還魂の聖晶石」を受け取り、別れた後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。情報の祖語については、未だ結論を出せていません
※キリトが参加していることに気付いています

319 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/25(金) 02:52:14 ID:6wp/vB0w0
投下は以上です
問題などありましたら、指摘お願いします

320名無しさん:2013/01/25(金) 22:48:37 ID:3pc4EhOc0
投下乙です、何という速筆
揺光とクライン、割とお気楽な二人だがフレイムマンが行く先に
アメリカ人多いなー

321名無しさん:2013/01/25(金) 23:03:24 ID:c7gBpQSY0
投下どばっと来てる…


>時の階段
始まりと終わりの場所、大聖堂。
そんな場所にこの二人が立つというのも、なんというか因縁を感じるなぁ
あ、カイトは他のプレイヤーに「さん」「くん」等の敬称を付けたことは無かったような
GM管理者とかハッカー相手でも物怖じせず呼び捨てだったはず
……「志乃恐怖」の威厳かw


>妖精少女/人形少女
リーファが「お、おう…」と汗かいてる姿が目に浮かんでしまうw
ラニさんは平常運転だなぁ
お互いが現状に気付けば、対主催チームとしては有望そうなんだけど

>>285こちら、脱字でしょうか?
>この子って子は……!


>monochrome lovers
鉄バットを持って佇むトリニティの姿を想像していたら、吹いた
複数の仮想空間の存在により、彼女等も別の世界の事に気付いたけど…
お互いに想う相手がいるだけに、後が怖いなぁ


>赤いの黒いの合わせて二組
揺光さん、そのメール、欅様が書いたやつですよ!
クラインさん、黒いのはとっくにSAO終わらせてますよ!
ということで、微妙に残念なタイミングの二人だなおいw
でも似たもの同士でよさげなコンビだ

322名無しさん:2013/01/25(金) 23:07:57 ID:c7gBpQSY0
昨日の話ですが、議論スレで以下のことが決まったようです

・書き手枠は一月までで、二月突入で参加者確定
・作品ごとの登場人数制限解除

書き手の方は、目を通し、必要なら書き込みした方がよいかと

323名無しさん:2013/01/25(金) 23:10:06 ID:EbKIU7bw0
乙です。
クライン、やっぱり良い奴だなぁ。
アスナとはまた違う意味で、キリトのいい理解者だと思うわ。
揺光さんとも相性は色々な意味で良さそうだし、これはいいコンビになりそう。


でもね、クライン。
参戦時期がその時期ってことはさ……

キリト:アスナを恋人と認識している→少なくとも二刀流スキル保持の段階から参戦。
アスナ:ALOより参戦→SAOクリア後のデータを引き継いでいる。
ヒースクリフ:未登場、しかし言わずと知れたSAO最強プレイヤー。
リーファ:参戦時期不明、ただし初登場の時点でシルフのトッププレイヤー扱い。
シノン:GGOトッププレイヤーであり、弓矢を使った遠距離攻撃ではALO最強説あり。

戦闘能力が無いユイは仕方ないにしても、SAO勢の中じゃものすっごい実力差つけられてるぞw

324 ◆NZZhM9gmig:2013/01/26(土) 00:23:24 ID:wDo5mkIQ0
>時の階段
カイトと志乃の二人は、落ち着いたいい感じですね。
大聖堂がRe;1verだった場合の志乃の反応も見てみたいです。
ただそこには、現在アドミラルが近づいてきてるんですよねぇ……。

>妖精少女/人形少女
っていうか、魔術を知らない人から見たら、魔術師なんてみんな(ry
リーファは現状をちゃんと認識しないと、ちょっと危なそうだなぁ……。
ラニのバサカがいれば、大概の相手は蹴散らせるだろうけど、近くにはスケさんがいるし……。

>monochrome lovers
アスナの参加が九巻からってことは、〈マザーズ・ロザリオ〉は継承済みですか。
原作でアスナが使っているところはまだ見たことないから、一度は見てみたいですね。
トリニティの方は、スーツの女性が鉄バットを持っている姿を想像したら、なんかシュールでしたw

>赤いの黒いの合わせて二組
入口にフレイムマン。切り抜けてもフォルテ。現在ネットスラムは超危険地帯ですよ二人ともw
まあ黒の剣士に銀の鴉もいますので、どうにか彼らと協力ができれば何とかなるかもしれませんけど。
ちょっと今後の道行が心配な二人組です……。


それではこれより、予約したレオを投下します。

325太陽の王 ◆NZZhM9gmig:2013/01/26(土) 00:25:07 ID:wDo5mkIQ0

     0

 殺し合いの舞台となった一角。
 【G-1】に位置する、アリーナと呼ばれる場所に、一人の少年がいた。
 ……否、ここに居るのは少年だけではない。

「これは……驚きましたね。ガウェイン」
「ここに」

 少年がその名を呼ぶと同時に、その後ろに白銀の甲冑を身に付けた一人の騎士が現れる。
 騎士の名は、ガウェイン。かの有名な円卓の騎士が一席、“太陽の騎士”であり、今は一人の少年に臣下として仕えるサーヴァントである。
 そして、その主である少年の名は、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。月の聖杯戦争において決勝まで勝ち残り、そして敗れ去った“王”である。

「ガウェイン、貴方にはこの状況が解りますか?」
「いいえ。私は魔術師ではありませんので、このような事態に対する見識は、残念ながら」
「そうですか………」

 そう、敗北したのだ。
 月の聖杯戦争において、敗北とはそのまま“死”を意味する。
 一部例外はあれど、正式な決闘が正式な形で決着した以上、彼等は死んだはずなのだ。
 事実、レオは敗北を認め、受け入れ、その肉体はムーンセルによって削除された―――はずだった。

「しかし、僕達はここに、こうして生きている。その事実は、認めなければなりません」
「はっ」
「であれば、現状においてまず決めるべき事は一つ。このバトルロワイアルに乗るか否かですが……」

 レオは少し間を置き、天高く昇る月を見据えると、太陽の如き威厳を以って宣言した。

「ガウェイン。僕はこのバトルロワイアルを―――潰します」
「! 理由を、御聞きしても?」
「いいでしょう」
 そう言うとレオは、ガウェインへと向き直る。
 このゲームが始まってから初めて見た瞳は今、激しい怒りを秘めているように、ガウェインには見て取れた。

「僕がバトルロワイアルを潰すことを決意した理由。
 それは、あの戦いを……誇りを汚された様に感じたからです」
「汚された?」
「はい。僕はあの時、敗北を知り、絶望を知り、心から思いました。
 ―――もし次が……この先があるならば、と。
 しかし、本来それはあり得ない事です。その覚悟を持って、僕達は戦った」
「――――――――」

 主の言葉に、騎士はその心中を黙して語らない。
 ガウェインは無言で、レオに先を促している。

「確かに“次”という機会を得られたことは喜ばしい。
 ですが、僕はそれ以上に、あの榊という男に対して怒りを覚えています。
 今のこの状況は、あの戦いを無価値なものにしてしまう。それが僕には許せない」
「それで、この催しを潰す――つまり、あの榊という男と戦うと」

 ガウェインの言葉にレオは肯き、再び月を見上げる。
 だがその瞳は月を見ず、どこか別の場所を睨みつけている。

「その通りです、ガウェイン。ですが、一つ訂正を。
 これは闘争ではなく、誅罰です。あの奢り高ぶった逆徒に、王を怒らせた意味を思い知らせてやりましょう」
「御意。全て貴方の思うままに、我が王よ」

 それを聞いてレオは満足そうに頷き、再びガウェインへと向き直る。
 そしてメニューを開き、何かしらの操作を始めた。

「それでは、準備を整えましょう。
 敵は死んだはずの僕達を蘇生させるほどの力を持っています。
 一切の油断、慢心も許されません。その為にまず、貴方を可能な限り強化します」
「と仰いますと?」
「貴方に、これを装備してもらいます」
 そう言ってレオが提示したアイテムは【神龍帝の覇紋鎧】。
 アビリティ〈王の威厳〉により、最大HPを50%アップ、物理攻撃のダメージを25%軽減する効果を持つ重鎧だ。

「本来はサーヴァントがアイテムを装備する事は出来ないようですが、その程度の改竄なら今の僕でも出来ます。
 後は貴方がこの鎧の装備条件を満たしていればいい」

326太陽の王 ◆NZZhM9gmig:2013/01/26(土) 00:25:59 ID:wDo5mkIQ0

 データの改竄を終えたレオは、ガウェインが鎧を装備した状態になるようメニューを操作し、
 果たして鎧は―――問題なく装備された。

 それも当然か。彼等騎士は全身に重い甲冑を身に付け、幾つもの戦場を駆け回り戦ってきたのだから。
 もっとも、流石に国中を駆け回る様な事になれば、騎馬や、あるいは彼の泉の騎士の様に荷車を必要とするだろうが。

 真に驚くべきは、バトルロワイアルが始まったばかりの状況で、早くもシステムに介入して見せたレオの手腕だろう。
 だがその手腕を持ってしても、感染させられたというウイルスを駆除する事はおろか、発見すらできなかったのだが。

「流石です、レオ。この分であれば、目的の達成も難しくありませんね」
 ガウェインはレオへの賛辞を口にする。
 それを当然のものとして受け止め、レオはアイテム欄から一振りの剣を取り出した。
 白く氷雪のような刀身の片手剣。銘を【ダークリパルサー】――『闇を祓うもの』という意味を持つ名剣だ。
 レオはダークリパルサーを装備し、両手で握って一振りする。

「重い……しかし、とても良い剣です。気に入りました」
「同感です。この剣の本来の持ち主に会ってみたいですね」
「そうですね。ではこの状況を打破する同志を探すついでに、この剣の持ち主か、それを知る人物も探してみましょうか」

 そう言いながら、レオの脳裏には一人の人物が浮かんでいた。
 ―――自らを下した聖杯戦争の勝者、岸波白野。
 もし会えるのなら、もう一度白野さん会ってみたいと思った。
 白野さんならば、きっと力になってくれるだろう。
 そして同時に、今度こそ良き友人に―――

 レオは僅かに目を閉じてその思いを仕舞い込むと、剣を鞘に納めて背中に背負う。
 準備は整った。当面の目的も定まった。後はただ前へと進むだけだ。

「では行きましょうか、ガウェイン」
「御意」

 そう言って二人は、アリーナの内部へと足を進めた。
 まずはこの施設を調査し、可能な限りの情報を得るのだ。


 ―――そうして完璧なる少年王と太陽の騎士は、天へと向けて刃を向けた。
 その刃の先に何があろうと、彼等は己が王道を進むだけだ。


【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、令呪:三画
[装備]:ダークリパルサー@ソードアート・オンライン、
[アイテム]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを潰す。
1:まずはアリーナを調査し、可能な限りの情報を得る。
2:バトルロワイアルを潰す為の同志を探す。
3:2のついでに、ダークリパルサーの持ち主を探す。
4:もう一度岸波白野に会ってみたい。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP150%、健康
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。

※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。

【ダークリパルサー@ソードアート・オンライン】
キリトが使う、白く氷雪のような刀身の片手剣。
鍛冶屋リズベットの最高傑作。SAOがクリアされるまで、これ以上の剣は作れていない。

【神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.】
レア度5。高い防御力と強力なアビリティを持つ重鎧。
しかし入手時期が遅くなりがちな事と、ステータス異常を防げない事から、あまり活用されない。
・王の威厳:最大HPを50%アップ、物理攻撃のダメージを25%軽減する。

327 ◆NZZhM9gmig:2013/01/26(土) 00:27:17 ID:wDo5mkIQ0
ちょっと装備の改竄辺りが心配ですが、以上で投下を終了します。
何か意見や、修正した方がいいところがあったらお願いします。

328名無しさん:2013/01/26(土) 00:34:40 ID:uu.nnBvo0
乙でした
書き手枠制限解除後の予約からすぐの投下、だと…?早いw

ユリウスが来ると思ってたら敗北後のレオが来たか
しかもいきなり酷い強化をw
強力な対主催というか、強力すぎる故に他と足並みが揃うかどうか

329名無しさん:2013/01/26(土) 01:10:19 ID:9d9ptgc.0
投下乙です

確かに最初から組めても周りのマーダーが…
おいおい、これは酷いぞw

敗北後の彼かあ
対主催で強力アイテムでの強化は嫌なフラグ立ったなあw
でもここからどう転ぶか注目

330 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 14:56:55 ID:guQcI3As0
投下します

331 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 14:59:57 ID:guQcI3As0
おっとその前に投下乙です、速筆です
EXTRAは死ぬ間際の会話も印象的でしたので、死亡後というのは面白いですね
ただ調子の良すぎる対主催は……

では、改めて投下します

332凍てついた空は時には鏡で ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:01:14 ID:guQcI3As0
「全く困ったものですね」

不満気な言葉を漏らしながら石造りの街を行く一人の男の姿があった。
茶色く染めた髪に眼鏡を掛けた彼は、名をウズキと言う。

現実世界の彼は刑事であった。警視庁刑事部捜査第一課特殊捜査第一係、渦木淳二その人である。
人が謎の失踪を遂げる怪奇事件を探っていた彼は、捜査の途中で呪いの野球ゲームの存在を知る。
試合に負ければ画面の中に吸い込まれ消えてしまうという、冗談のような話であったが、次第にそれが真実であることが分かってきたのだ。
以来、仲間を募ってデンノーズとして呪いの野球ゲーム『ハッピースタジアム』に挑戦してきたのだが。

(その途中でこれなんですから、本当に困ったものですよもう)

眉をひそめながらウズキは言う。
大企業“ツナミ”の陰謀の一端をようやく掴んだところだというのに。
いきなり殺し合いに巻き込まれてしまったのではどうしようもない。
それともこれにも裏でツナミが糸を引いているのだろうか。

「だとすると、もしかしたらジローさんやミーナさんもこの場に拉致されているかもしれませんね」

デンノーズのチームメイトたちを思い浮かべる。
これが例の呪いの野球ゲームに関係した事件ならば、その可能性は高い。
自分の陰謀が暴かれるのを恐れた者がこんなことを仕組んだのかもしれないのだから。

何にせよ、彼はこんな殺し合いゲームなどに乗る気はなかった。
刑事である以上、それは考えるまでもなく当然のことだった。
まあ自分の妻とかが居るなら話はその限りではないのだが。

(この状況なら誤って殺してしまったと言っても誤魔化せそうだ)

不穏当な思考を抱えつつも、一先ずは情報を集めるべく街を歩く。

「それにしてもここは一体どこなんでしょう」

マップを開いてみて確認する。
仮想現実だというこの場。ツナミネットと同様に幾つかのエリアに分かれているようだ。
煉瓦で組まれた建物、街中に張り巡らされた水路、と中世的な外観を見るにファンタジーエリアという場だろうか。

「弱りましたねーRPGとかはあまりやってなかったんで」

ツナミネットにも似たような場があり、そこではゴブリンを切ったり燃やしてたりできた。
チームメイトの中にもゼットやピンクといった面子はそこで遊んでいた筈だ。
しかし残念ながら自分はこういうことには疎かった。

(まぁこれは別にゴブリンを相手取るゲームではないのですが)

そう、この場で倒すべき相手はゴブリンやスライムなんかではない。
人間なのだ。人間相手の殺し合い。そのルールは寧ろバトルエリアのサバイバルゲームに近そうだ。

とにかく装備を確認しておくべきだろう。そう思い。メニューを開くと――

333凍てついた空は時には鏡で ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:01:46 ID:guQcI3As0

「あのー」
「うわっ」

突然背後から声を掛けられ、ウズキは何事かと振り向く。
と、そこに居たのは白い帽子に緑のスカートを履いた少女だった。
彼女は爛々と目を輝かせ、ウズキに期待の混じった眼差しを注いでいる。

「えーと、何時からそこに?」
「え? さっきからここに居ましたよ」

どうやら自分の死角に立っていたらしい。
刑事である自分の死角を取るとは……、ウズキは目の前の少女が自分に差し向けられた暗殺者である可能性を考えた。
が、そのあどけない表情を見ていると、ただの思い過ごしな気がしてくる。

「私はアトリと言います。よろしくお願いします!」

いきなり快活に名乗って少女は頭を下げた。綺麗に整えられた金髪がさらりと揺れる。
色々と唐突な娘だなと思うが、とりあえずこちらも名乗っておいた。刑事ということは一先ず伏せておく。

「ウズキさんですか。ウズキさん! 一緒にこのバトルロワイアルを打倒しましょう。
 大丈夫です。私たちならできます。あの場にはハセヲさんも居ましたし、きっとどうにかなります。
 だから、希望を捨てちゃダメです」
「え? あ、はい」
「こんな残酷な殺し合いに乗っちゃあ駄目なんです。憎しみは憎しみしか生みません。
 だから、人間は愛を以て人に接しなければならないんです。
 榊さんだって今はああなんですけど……ァ……」

立て板に水のように喋りっていたアトリだったが、不意に言葉を止め、今度は目を伏せた。
そして唇を震わせながら、その手を固く握りしめている。

「ごめんなさい……ウザい、ですよね。
 私、こんな時だから明るく行こうって思っていたのに、すぐまた震えちゃって。
 こんなんじゃ私、ハセヲさんにまた怒られちゃいそうだな……」
「アトリさん、アトリさん。落ち着いてください」

情緒不安定な彼女を宥めるべくウズキは声を掛けた。
刑事としてこのようなケースには慣れている。とにかく落ち着かせなくてはらない。
そしてもう一つ確認しなくてはならないことがあった。

「榊さんと言いましたが、アナタ、あの侍のことを知っているのですか?」
「……はい。知っています」

ウズキは自分の胸が鼓動が速くなるのを感じた。
これは開始早々、重要な参考人に接触できたのかもしれない。

「……ゆっくりでいいですから、あの男のことを教えていただけませんか?」

そう尋ねると、アトリはか細い声で「はい」と答えた。
そして滔々と語り出した。
ネットゲーム「The World」で起こった事件。榊と言う男が何をしたか。そしてアトリが何をされたか。

334凍てついた空は時には鏡で ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:02:34 ID:guQcI3As0

「ふむ、なるほど。榊はギルドでクーデターを起こし、またシステム上の不具合を利用して貴女を洗脳状態に追い込んだ、と」

アトリの話を聞き終え、ウズキはそう結んだ。
色々と信じがたい部分もあったが、呪いの野球ゲームもあるのだから一概に眉唾な話とは言い切れない。
またウズキはアトリが何かを隠している点も気になった。
嘘を吐いているという訳ではない。恐らく彼女は全てを語ってはいないのだ。
ただのバグ、とアトリは表現したが、一般的なゲームのバグでそのようなことが起きるとは思えない。
そこをついてアトリは情報を伏せている節がある。そうウズキは分析した。
また聞く限り、榊にこのようなイベントを執り行うだけの裁量はなさそうだが、後ろに何者か――それこそツナミあたりが控えているのかもしれない。

「お役に立てましたか?」

ある程度落ち着きを取り戻したアトリが聞いてきた。
それに対しウズキは「ええ」とにこやかに返す。
彼女はまだ情緒が安定していない。そんな彼女を深く追求する訳にはいかないだろう。ある程度時間を掛けて聞き出すべきだ。

ウズキの言葉に、アトリは弱々しくだが笑った。
話を聞くに榊という男を大分慕っていたようだし、話に出た事件に巻き来れた矢先にこんな場に連れてこられては取り乱すのも無理はないだろう。
何度か話に出たハセヲなるプレイヤーに会わせることができればまた変わるだろうか。

「ところで、アナタ装備はどうでしたか?」
「え? 私ですか?」

尋ねられたアトリはメニューを操作する仕草をし始めた。
その動作を先ほど中断されたウズキもまた自分のものを確認しておく。
そうしてアイテム欄を開いてみたウズキであったが、一覧を確認して苦い顔をした。

(ふぅむ……銃器の類はありませんねえ)

自分の最も得意とする武器がないと知って、ウズキは落胆を禁じ得なかった。
現実世界での彼は右腕をサイボーグ化し戦闘能力を上げている。またそれなしでも射撃の腕は結構なものであると自負していた。その腕はこの場でも役に立つだろう。
どんな危険人物や、状況に呑まれ錯乱した人間が居るとも知れない場であるだけに、しっかりと身を守れるものが欲しかったのだが。

「アトリさんはどうです。何か使えそうなものはありましたか?」
「そうですねー……うーん、私が装備できそうな武器はなさそうです」

声を落としてアトリは言った。どうやら彼女も武器と言えるものがなかったらしい。
どのような仕組みでアイテムが支給されているのかは分からないが、あまり良い状況とは言い難かった。

「アトリさん。もしかして銃とかありませんでしたか?」

一縷の望みを掛けてウズキはアトリに問いかけた。
しかし大して期待してはいなかった。
彼女にそんなものが支給されていない場合は勿論、持っていても渡してくれない場合もあるだろう。
こんな場で、しかしも会ったばかりの人間に武器を渡してくれることを期待するほどウズキは楽天家ではなかった。
が、予想に反してアトリは「銃ですか?」と答えた後、あっさりと武器を渡してきた。この娘、色々と危ういところがあるかもしれない。

「これは……確かに銃といえば銃ですが……」

渡されたものを見て、ウズキは渋みの混じった表情を浮かべた。
何故なら、銃は銃でもそれには細長い剣が付いていて、いわゆる銃剣の類のものだったからだ。
表示された名前には【銃剣・月虹】とあった。

335凍てついた空は時には鏡で ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:03:10 ID:guQcI3As0

「えーと、駄目でしたか?」
「いや、そうではありません。協力に感謝します」

不安げな表情でこちらを見上げてきたアトリに、ウズキは笑みを作って返した。
それを見て、アトリが少しほっとしたのか、薄く微笑んだ。

(銃剣……まあ銃には間違いないですが、さすがに扱ったことはないですね)

第二次世界大戦の頃ならいざしらず、ウズキは現代に生きる刑事である。
このような武器に触れる機会はなかった。普通の銃としても使えるのだろうか。

「それ、ハーヴェストの私じゃ装備できないんで差し上げます」

アトリの言葉に聞きなれないものがあったので、ウズキは尋ねてみた。
そしてどうやらこの武器はアトリがやっていたThe Worldというゲームに由来する武器らしく、その中で銃戦士《スチームガンナー》という職業が本来装備するものだという。

「で、アトリさんは呪癒士……ハーヴェスト。回復を専門とする職業で武器は杖、と」
「そうです」
「残念ながら私も杖に類するものは持っていませんねえ。すいません、一方的に武器を貰ってしまって」

そう言うと、アトリは「そんなことないですよ」といって首を振った。人の良い娘ではあるのは間違いないようだ。
しかしアトリが何も装備できないとなると、彼女はいよいよ丸腰になってしまう。
使い慣れない武器一丁で、民間人一人を守り切ることが果たしてできるだろうか。

と、ウズキが不安を抱いたときだった。

「ミツケタ」

その声には不気味な優しさがあり、こちらの精神を舐め回すかのような、不快感を抱かせる声色だった。
ウズキの背筋に嫌な汗が走る。アトリの顔も強張るのが分かった。
警戒と覚悟を胸に宿し、銃剣を構え、辺りを見渡す。
不意打ちに備え、かすかな音も聞き洩らさないつもりであったが、しかし彼らはいとも簡単に見つけることができた。

石造りの街――アトリが言うにはマク・アヌというらしいが――の道の中心、そこで彼らは堂々と立っていた。

一つの影は道化であった。不気味なメイクを施され、余った袖をだらしなく垂らしている。どことなくファーストフードのイメージキャラクターに近い意匠を感じる。
その眼光はこちらを捉えていた。暗がりで分かりづらいが、特にアトリの方に向いているように思われた。

「おお、何という幸運、僥倖、奇跡……!
 こうも早く敵に遭い見えることができるとは!
 そうであろう、妻よ! 過食にして拒食のマスター。
 貴女に出会えただけでも、我が槍は滾り狂うというのに、おお……!」

もう一つの影もまた異様であった。鍛えられた肉体を持つ男が、血の付着した鎧に身を包み、訳の分からぬことを喚いているのだ。
その手には刺々しい槍が握られており、闇夜で尚光る紅眼も伴って怪人という言葉が似合う。

336凍てついた空は時には鏡で ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:03:51 ID:guQcI3As0

(見るからに危険人物ですね。そして、ロクに話が通じそうもない)

二人の影を観察し、経験からウズキはそう判断を下す。
彼らの言動はまさしく精神異常者のそれだ。こういった手合いの犯罪者に交渉を求めるのは無理な話だろう。
自然と銃剣を握りしめる手に力が入った。

「すいません、私はウズキというものです。こちらに敵意はありませんよ」

無駄だと分かってはいたが、一応そう声を掛けてみた。
が、彼らはウズキの言葉など耳に入らないようで、勝手に身内で会話を始めている。

「アノコ……キニイッタカナ」
「おお、妻よ! 何という悲劇であろうか!
 そう、かようにも我が信仰は砕かれた! 神の愛を見失い、神の愛を否定され、残されたのは堕ちるばかりの我が名声!
 だが――! 無辜の怪物と創作されながらも、この手は、ついに真実の愛を得た!」
「オイシソウダナ……」
「妻よ! 悲劇の女にして、真の愛の求道者よ!
 生きるために食う獣などとは悲哀が違う。
 生きる余興に愛する人間とは濃度が違う。
 望むままに愛をむさぼるがいい、拒食の君よ。
 愛するものしか口にできぬ女よ!」

聞いているだけで頭が痛くなってきた。あれは会話として成り立っているのだろうか。
とにかく間違いない。あれは正真正銘の精神異常者だ。

「君ヲ見テイルトオ腹ガスイテキチャッタ」

不意に、道化の方がこちらに視線を戻した。
その瞳はウズキを通り越し、後ろのアトリを見ているようだ。
その不気味な視線を感じ取ったアトリは「ひっ!」と小さく悲鳴を上げた。

「アトリさん、合図をしたらこの道を真直ぐ逃げてください」
「え……?」
「私は後で追いつきます。向こうの狙いは貴女のようですし、とにかく一心不乱に走ってください」

ウズキは小声でアトリに呼びかけた。
よく分からないが、向こうはやる気のようだし戦闘は必至だろう。
ならば何もできないアトリは逃がしてしまった方がいい。

「で、でも私も……」
「すいません、アトリさん。私も伝説のスナイパーとかじゃないんで、丸腰の貴女を守りながら戦うなんてことはできそうにない。
 だから、貴女にはこの場を立ち去って貰った方が助かるんです」

多少強い口調でウズキはそう告げた。
不安定な彼女にあまりそんなことは言いたくはなかったが、状況が状況だし仕方がない。
言われたアトリは、しばらく顔を俯かせいたが「分かりました」とか細い声で返事をした。それでいい。

「じゃあ、私が向こうに銃を撃ちますから、その音と同時にお願いします」

道化と怪人は未だに何やら話している。が、無視した。どうせ意味の分からないことだ。
ウズキは先ず槍を持っている怪人の方に狙いを定め、銃剣をぶっ放した。
夜の街に銃声が走り、同時にアトリが立ち去る足音も聞こえた。それを確認し、ウズキもまた動き出す。

337凍てついた空は時には鏡で ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:04:20 ID:guQcI3As0

「たわけ! 己の力量も弁えず向かってくるか」

怪人の声が響いた。弾丸は外れたらしい。普段ならこのようなことはないのだが、やはり慣れない武器が原因か。
諦めずにもう一発。今度は角度を変え、再び怪人を狙う。が、また外れた。

「キャハハハ! 何シテルノ? アノコ逃ゲチャッタ」
「先ずは私を相手にしてもらいますよ」
「よかろう、ならば皆殺しである」

とにかく距離を取ったまま戦うべきだろう。相手はどうやら銃器を所持してはいないようだし、迂闊に近づきさえしなければそうそうやられるものではない。
そう考えつつ、ウズキは建物の影に回り込んだ。アトリの方に行かせないためにも、一定周期で銃弾を放つことも忘れない。
どうやらこの武器、弾丸の補充は必要ないようだ。一定の時間を経れば勝手にリロードされる仕様らしい。
ゲーム染みてる、と考えたところで、これは本当にゲームのものであることを思い出した。

(ゲームでなく、現実の身体ならばもう少し楽に立ち回れたのでしょうが……)

今のウズキの身体は二頭身のアバターだ。現実世界での感覚で立ち振る舞うと痛い目を見ると思った方が良い。
そう思い、戦闘に望んでいたウズキだったが、彼はあることを失念していた。
己の身がアバターであるが故、現実世界の感覚とズレがあるように、
敵の力もまた、現実世界の尺度で考えてはいけないものだということを。

「この不信心者!」

突如として突進してきた怪人が槍を振るい、ウズキの周りの建物を破壊した。
攻撃――BREAK。粉々に砕け散った煉瓦が宙を舞うのが見えた。
その膂力はどう考えても人間のそれではない。ウズキは目を見開いた。

(何ですか……あの怪人は。文字通り化物なのか)

ウズキは戦慄が身に走るのを知覚した。
建物を楽々と破壊してみせる異常なまでの怪力。
恐ろしい形相と相まって、その姿は人の域を超えた怪物であるかのように見えた。

そしてその感覚は一つの観点では正しい。
怪人――ランサーは人間ではないのだから。
更にサーヴァントとしての真名はブラド三世。
後の世に、“吸血鬼ドラキュラ”としてその名を知らしめる、正真正銘の怪物。

(気付かれた……!)

破壊された建物に身を隠していたウズキは、敵に己の位置が掴まれたことに気付く。
怪人は意味の分からない叫びを上げ、こちらに向かってくる。
その光景は、舞台がファンタジー世界のそれであることも相まって出来の悪いホラー映画のようだった。
現実感に乏しい光景――そして実際ここは現実世界ではないのだという。
だが、迫りくる脅威は確かに現実のものだ。仮想現実だろうと、まやかしではない。
ウズキはそのことを認識し、可能な限り冷静さを失わないよう努める。

338凍てついた空は時には鏡で ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:04:59 ID:guQcI3As0

「この距離ならば……!」

そして撃った。
銃剣が火を吹き、近づいてきた怪人へと放たれる。
武器にも少しは慣れができてきた上に、先ほどよりもずっと近い距離。そしてウズキ自身の射撃技術。
それらが噛み合い、銃弾は確かに敵を捉えた。二発三発、続けられる限りウズキは連射する。
銃弾を受け、怪人はうめき声を上げながら、その身を仰け反らせる。
効いている。このまま押していけば、何とかこの敵を退けることができる。ウズキがそう思った時、銃弾が切れた。リロード時間が来たようだ。

焦らずウズキは走りだす。銃を叩き込まれては、如何に怪人といえどそうすぐには動けまい。
距離を取って、次の接近を待てば――

「供物を天高く掲げ飾るべし!」

突如、怪人が叫びを上げた。そして続く光景に、ウズキは更なる戦慄を覚えた。
怪人はその手に持った槍を、己の身体に深々と突き刺したのだ。グサリ、という肉を突き破る音が街に響き渡る。
完全に気が触れたか……、そうウズキが思った時だった。

「これは……ゴホッ」

ウズキは突然の痛みに声を漏らした。
胸の内から、何かがせり出してくるような、全く未知の痛みが走ったのだ。ウズキは痛みのあまり倒れ込む。
見ると、胸――ランサーが槍を突き刺した場所と同じ場のデータが崩れている。

ランサーの放った技は、ウズキの常識を越えたものであった。
その名を【粛清の儀】という。無論、ウズキには知る由もないことであり、またどうでもいいことであった。
重要なのは一点、想定外の一撃を食らい、まともに動けなくなってしまったことだ。

「アレ? モウオワリ?」

道化の声が近づいてくる。徐々に大きくなる足音が恐怖心を煽った。
ウズキはそれを聞き、何とか立ち上がろうとする。今の装備でこの敵を相手にすることはできない。
ならば、ここはまず撤退を、と思うが、それを阻むかのように、更なる一撃が加えられた。

「ぐふっ……!」
「愚かな不信心者よ!」

怪人の槍がウズキの身を捉えたのだ。
閃光のような痛みが走り、ウズキは苦痛の声を零した。
ここまでか。様々な思いが彼の脳裏に思い浮かび、そして消えていく。走馬灯と言う奴らしい。
最後に、一つだけ思った。せめて、デンノーズの一員として役目は全うしたかった、と。

(ジローさん……どうやら私はもうチームには――)

【ウズキ@パワプロクンポケット12 Delete】

貫かれたその身体は透明化し、ゆっくりとデータが消えていく。銃剣がからり、と音を立てて地に落ちた。
しばらくするとウズキというアバターが居た痕跡は完全に消え去った。

339凍てついた空は時には鏡で ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:05:27 ID:guQcI3As0

「アノオイシソウナコ……ドコ行ッチャッタノカナァ」
「我が妻よ! 今宵の晩餐は美味なるであろう!」

後に残ったのは、二人の異形のみ。
道化――ランルーくんは思う。たった今、逃がしてしまった少女、中々美味しそうだった。
もうお腹がぺこぺこだ。早く食べてみたい。どのような味がするだろうか。
きっととても美味しいんだろうな。今まで自分が食べてきたものたちのように、とても美味しんだろうな。
それでもって、きっときっと――哀しいんだろうな。

「クスクス……キャハハハハハハハ! ハヤクハヤクタベタイ!
 ランルークンハ、クイシンボダカラ!」

彼女の声が街に響き渡る。ランサーはそれを呼応し、喚き散らす。
彼らの声はどこまで不気味で、恐ろしく、同時に少し滑稽で、そして痛みを感じさせた。


【E-2/マク・アヌ/1日目・深夜】

【ランルーくん@Fate/EXTRA】
[ステータス]:魔力消費(中)
[サーヴァント]ダメージ(小)
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品2〜5、銃剣・月虹@.hack//G.U.
[思考]
基本:お食事をする。邪魔をするなら殺す。
1:美味しそうな娘(アトリ)を追う

340凍てついた空は時には鏡で ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:05:54 ID:guQcI3As0



走って走って走って、息が切れそうになっても走って(ゲームの中なのに!)、転びそうなってもぶつかりそうになってもわき目も触れず走った。
苦しかった。怖かった。厭だった。しかし、アトリを苛む感情はまた別のものだった。
罪悪感。
それが、痛かった。自分の胸の奥から、何かが突き破られるかのように、せり出してくる。
その痛みに比べれば、肉体的な疲労と恐怖など、ちっぽけなものに過ぎない。
脅かされるのには慣れている。辛く当たられているのにだって慣れている。そこから這い上がる術だって教えられた。

――でも、見捨てたのは初めてだった。

ウズキさん。一緒にバトルロワイアルを打倒しようと誘ったら、快く承諾してくれた人。
間違いなく良い人だった。でも、自分は彼を見捨てて、こうして逃げている。
しょうがなかった。だって戦えなかったんだから。そう自分に言い聞かせようとする。

――嘘! そうじゃないのは私が一番知ってる!

自分は力を持っている。憑神。碑文使いPC。第二相の碑文『惑乱の蜃気楼』『イニス』。
自分は通常のシステムに縛られないPCだ。例え装備できる武器がなくたって、戦える。戦えるはずだった。
ウズキに榊について尋ねられた時、AIDAと憑神に関する情報は伏せた。部外者に伝える訳には行かなかったから。
嘘を吐くのは苦手だし、胸が痛かったけど、仕方がないと思った。これは自分一人の問題じゃないから。

――見捨てる気なんてなかったのに!

だけど、危機が迫ったら、躊躇なく使うつもりだった。秘密なんて関係ない。人の命が掛かっているんだから。
あの変なピエロと槍使いを見た時、本当は使うつもりだった。イニスを呼び出し、彼らを撃退する。それくらいできるって、そう思ってた。
なのにできなかった。いくら精神を集中しようとしても、うまく使えなかった。
あれ? て思った。そうしてまごまごしている内に、ウズキさんが言った。逃げろって。戦えないから邪魔だって。
そんなことない。戦えますって。どうしてあの時言わなかったんだろう。そうしたら、あのまま残って戦えた筈なのに。
憑神はプレイヤーの精神と結びついてる。そう八咫とパイが言っていたのを思い出す。
使えなかったのはきっと自分が落ち着いてなかったせいなのだ。こんな場に呼ばれて、混乱して、戸惑って、そのせいで憑神が呼べなかったのだ。
だから、あの場に残って落ち着けば憑神は使えた筈だった。でも、逃げてしまった。何も言わず、ウズキ一人を残して。

――それは自分が生き残りたかったから。他人を見捨ててでも。

過る思考。アトリは思わず「違う!」と叫ぶ。そんな筈がない。自分はそんな人間じゃないと。
やはりあそこに残って戦うべきだった。ピエロたちは見るからに危険そうだった。ウズキ一人では危ないかもしれない。自分も無理にでも戦うべきだった。
後悔と罪悪感が、切れた堤防のように胸中に流れ込む。こんな自分を、彼は、ハセヲは何というだろうか。考えたくもなかった。
もうこんなネガティブな思考は行けない。理解したはずなのに、歩くような速さで良いから、進んで行かないといけないって。
でも、今の自分は逃げている。全速力で走って、何処か見知れぬ方向へと逃げている。
アトリは空を見た。夜があった。マク・アヌで夜空を見るなんて、変な気分がした。
注ぎ込む月が、まるで逃げている自分にスポットライトを当てているようで、天全てのものから責められているようにすら感じられた。
それでも、アトリは走るのをやめない。どれだけ辛くとも、見えない何かが彼女の背中を後押しする。
とにかくウズキともう一度会うことができたら、謝ろう。そう深く深く誓った。もう遅いかもしれないけど、それだけはしなくてはならない。

――だから、ウズキさん。お願い、生き延びて!



【アトリ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、情緒不安定
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(杖、銃以外)
[思考]
1:逃げる
2:ハセヲに会いたい
[備考]
※参戦時期は少なくとも「月の樹」のクーデター後
※憑神を上手く制御できていません。不発したり暴走したりする可能性があります。

341 ◆7ediZa7/Ag:2013/01/26(土) 15:06:15 ID:guQcI3As0
投下終了です

342名無しさん:2013/01/26(土) 15:17:06 ID:xtz6Qhmk0
乙です
ウズキ……パワプロ勢でも強い方になるとは言っても、相手が悪すぎた……
アトリは能力をうまく使えない状況となると、これはかなり厳しいか。
そして予想通りにノリノリなランサー一行w

……しかし、マク・アヌにはマーダー最強の疑いがあるスミスまでいるときた……
シノンもスミスから逃れたのにすぐランサーと遭遇しかねないのか。
カイト達も向かってる最中だが、これは街が血の惨劇になる未来しかうかばねぇ……

343名無しさん:2013/01/26(土) 19:07:06 ID:GHnUfifUO
投下乙です。

そりゃあんな見るからにヤバそうなコンビに美味しそうだの食べたいだの言われたら、まともな精神を保てって方が無理あるよ。

344名無しさん:2013/01/27(日) 00:31:31 ID:3KI/VLBQ0
投下乙です

ヤバいのと同時予約された時からこうなる可能性は想像してたがやっぱりかあ
アトリは精神的にヤバい。足手まといか最悪、暴走マーダー化するかも
そしてランサー組は確かにノリノリだわw

スミスとシノンもいたなあ…

345 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/27(日) 02:37:10 ID:ICVMEMOg0
オーヴァン、サチ分を投下します

346冷たい鳥籠 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/27(日) 02:38:50 ID:ICVMEMOg0
 生きていくために必要な希望は、すぐ傍にあったはずだった。
 くじけそうになる細い心を、繋ぎ止めてくれる支えを、ようやく見つけたはずだった。
「はぁ、はぁ……はぁ……!」
 走る。走る。
 ひたすらに走る。
 一寸先の光景も見えない、深夜の暗黒の只中を、何かに追われるように走る。
 誰も追いかけてきてなどいない。
 追い詰めているのは己自身だ。
 とにかくも動いていなければ、不安で押し潰されそうだった。
「キリト君……」
 黒い虚空に手を伸ばす。
 握り返してくれる手を、ひたすらに求めて闇夜を彷徨う。
 生きることを諦めようとした時、傍にいて慰めてくれた少年がいた。
 追い詰めるのでも、突き放すのでもなく、ただ傍にいてくれたことが、何よりも心の支えになった。
「キリトくん……」
 それでも、ここに彼はいない。
 ようやく手にしたと思った希望は、瞬く間に取り上げられてしまった。
 少年やギルドの仲間達と引き離され、殺人ウィルスとやらを植え付けられ、気付けばこんなところに、ただ独り。
「キリトくんっ……!」
 これではあの頃に逆戻りだ。
 もうあんな想いをするのはごめんだ。
 どうか、この手を取ってくれ。
 こんなものは悪い夢なのだと、どうかきっぱりと否定してくれ。
 温もりを求めて伸ばされた手は、それでも虚しく空を掴む。
 もがくように指をくねらせ、喘ぐように名前を呼んで、闇の奥へと走っていく。
「きゃっ!」
 そしてその足はいよいよもつれ、宙に浮いた身体が地に伏した。
 転んだ傷跡に夜風が染みる。あるはずのない傷跡をなぞられる錯覚に、心はますます擦り減っていく。
 もう嫌だ。
 何でこんな目にばかり合わねばならないのだ。
 倒れた身体を起こす腕にも、上手く力が入らない。
 生まれたばかりの獣のように、無様に震えてもたつきながら、うつ伏せの身体を持ち上げる。
「……あ……」
 その時、少女は――サチは見た。
 淡い月明を照り返し、静謐な光を放つ湖面を。
 月夜の煌めきを背に受けて、静かに湖畔に佇んでいた、1人の男のシルエットを。
 星の瞬きの下に立つのは、身の丈190センチはあろうかという大男だ。
 逆光に陰る痩身の中で、何故かその左腕だけが、白亜の彫刻を思わせる、静かな光を湛えていた。
「………」
 男の視線がこちらを見る。
 オレンジ色の色眼鏡が、じっと少女を見定める。
 輝くグラスのその奥の、見えないはずのその瞳を、サチは確かに感じていた。
 キリトの隣で感じたような、柔らかな安心感ではない。
 それでも何故か、この男の前では、不安が消えていくような気がした。
 静かに鎮まっていく感情の中、少女は月光の男の姿に、しばしの間、魅入っていた。

347冷たい鳥籠 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/27(日) 02:39:22 ID:ICVMEMOg0


 長身と色眼鏡の男は、自らの名を、オーヴァンと名乗った。
 何でも、サチとは違うネットゲーム――The Worldというゲームをプレイしていた時に、
 この殺し合いに巻き込まれてしまったのだそうだ。
「君のSAOに比べれば、オモチャのようなゲームだがね」
 とは、苦笑交じりのオーヴァンの言である。
 The Worldという名前は、過去に聞いたことはない。
 それでも、自分のプレイしているSAOが、現状世界唯一のVRMMOである以上は、
 通常のMMOに過ぎないであろうThe Worldは、確かに、子供騙しのようなゲームなのだろう。
 それはヴァーチャルリアリティ然り。
 そして、それ以外の意味でも然りだ。
 電脳世界に囚われた身にとっては、死んでもいいゲームなどぬる過ぎる。
「別々のゲームのPCデータを、1つのゲームで動かしているだなんて……」
「根幹の部分は、君の言う、VRMMOのシステムを使っているのだろう。俺も君と同じように、虚構を実像と感じているからね」
 オーヴァンの右手の指先が、水辺に咲く花を摘み取った。
 アイテムでもないオブジェクトを、そんな器用な動作で摘み取ることは、従来のMMOでは不可能だ。
「殺人ウィルスのことも……」
「真実だろうな」
 ごとり、と左腕を鳴らしながら、オーヴァンがすっぱりと言い切った。
 どうやら彼の左腕は、巨大な円筒状のオブジェによって、丸ごと覆われているようだ。
 拘束具にも似たそれに、どのような意味があるのかは分からない。
 そもそも、その程度のことを、いちいち追及しようという気も起きない。
「……不安なんだね」
 びくり、と。
 内心を見透かされたように感じ、思わずサチは、肩を震わせた。
「………」
 沈黙は肯定の証拠だ。
 事実、サチの精神は、限界寸前にまで追い詰められていた。
 元々気の弱い方だった上、血気盛んな男所帯の中で、紅一点として過ごしてきたのだ。
 あの世界に閉じ込められていたことは、確かに恐ろしいと思う。
 いつ死ぬかも分からない状況を、打開したいとは思っている。
 それでも、そのために戦うことですら、サチにとっては苦痛だったのだ。
 あくまでギルドの安定のためとはいえ、進んでモンスター狩りに臨む仲間達を追いかけるのにも、彼女は疲れてしまっていた。
「キリト君、だったか。そう呼んでいた気がしたが……君の恋人の名前かい?」
「恋人、とは、多分違うと思います……それでも、私にとっては、特別な人の名前です」
 上手い表現が見つからず、言葉を選びながら、ゆっくりと話す。
 電脳で生きることに疲弊し、死ぬことさえ選ぼうかとも思ったサチを、キリトは優しく受け入れてくれた。
 この場にも彼がいてくれれば、どれほど心強かったかと、何度も繰り返し思っている。
 それでも、ここにキリトはいない。
 少なくとも彼女の傍らには、会ったばかりのオーヴァンしかいない。

348冷たい鳥籠 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/27(日) 02:39:42 ID:ICVMEMOg0
「……疲れただろう。少し、そこで休むといい」
 オーヴァンが指し示したのは、水辺に生えた1本の木だ。
「君の特別に比べると、いささか頼りないかもしれないが……ここにいる限りは、俺が守ろう」
 だから今は木陰に座って、ゆっくり心を休めるといい、と。
「……ありがとうございます」
 正直、今は色々と限界だ。
 休んで落ち着くものでもないかもしれないが、ここはお言葉に甘えるとしよう。
 素直に感謝の言葉を述べると、サチは木の幹へと歩み寄り、体重を預け、ゆっくりと座った。
 少しでも気が紛れればと思い、月明かりに光る湖面を見やる。
 最新のCG技術を駆使して再現された、自然の幻想的な煌めきは、残酷なまでに壮観だ。
(どうしたらいいのか、分からないけど……)
 問題は山積みだ。
 ゲームの垣根も越えたゲームから、果たして脱出などできるのか。
 この身に植え付けられてしまった、ウィルスのリミットにどう対処するか。
 そもそもこの戦いの中で、生き残ることはできるのか。
 考えれば考えるほど、全身から体温が抜け落ちて、震えが止まらなくなりそうになる。
(……それでも、もしも帰れたら)
 この空間を脱出し、ひとまず、彼の待つSAOまで、生きて帰ることができたなら。
(キリト君は、褒めてくれるかな)
 優しく自分を抱きしめて、よく頑張ったね、と言ってくれるだろうか。
 もう一度彼に会うためになら、少しは、頑張れるかもしれないと思った。
 そこに彼が待っているのなら、あの箱庭の中へでも、帰りたいと思える気がした。



(面倒なことになったな)
 月を仰ぎ、思案する。
 拘束具のオーヴァンの思考は、先ほどの言葉とは裏腹に、冷酷な速度で回転する。
(よもや榊を回収し、利用する者が現れるとは)
 この殺し合いを主導する男――榊は、ハセヲとの戦いに敗北し、間違いなく消滅したはずだった。
 それが彼を焚きつけた、オーヴァンの意思にすら反して、あのように復活を果たすとは。
 殺し合いのゲーム自体は、さして問題視はしていない。
 モルガナ第八碑文・コルベニクの祝福と、異邦神AIDAの獰猛な呪い。
 その両極の狭間に立ち、聖も邪をも統べるオーヴァンは、まさに最強の魔術師だ。
 一般PCはおろか、生半可な碑文使いですら、彼を下すには至らないだろう。
(問題はその先だ)
 故に彼が危惧していたのは、この戦いの糸を引く黒幕だ。
 本当に問題があるとするなら、この殺し合いそのものではなく、殺し合いが終わった後にあった。
 未だ顔も知れぬその何者かは、榊という一点において、確実にオーヴァンを出し抜いたのだ。
 己の意のままにならぬ者など、オーヴァンは数えるほどしか知らない。
 そしてこのようなやり口は、欅やがびのものでは断じてない。

349冷たい鳥籠 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/27(日) 02:40:13 ID:ICVMEMOg0
(君の仕業か? カヤバアキヒコ……)
 可能性があるとするなら、あるいはその男かも知れないと。
 先ほどサチから聞かされた、SAOの開発者――茅場晶彦の名を思い返す。
 人間の意識そのものを、ネットへと直接ダイブさせる、VRMMOの技術。
 純粋に人の制御しうる形での、完全なる仮想現実技術は、オーヴァンの知る範囲では、未だ実現には至っていない。
 成し遂げた者がいるとするなら、電脳の彼岸と此岸を超えた、あのハロルド・ヒューイックくらいのものだ。
(妬かせてくれるな)
 当然、犬童雅人(オーヴァン)にすら、未だ到達し得ぬ領域だった。
 得体の知れぬ天才の影に、オーヴァンは静かに笑みを浮かべる。
(……当面は、探りを入れていくことになるか)
 とはいっても、この殺し合いが、茅場の主導によるものとは決まっていない。
 不確定情報である以上、それ以外の可能性も踏まえて、綿密な調査をする必要がある。
 自分の身を守りつつ、殺し合いの結末に備えること――これが当面の行動指針だ。
 用意された舞台で踊る趣味はないが、状況が状況である。
 殺人ウィルスとやらの効力を打ち消すためにも、殺し合いには、乗る形になるだろう。
 AIDAや碑文の力を使って、駆除できないかと試しもしたが、特に手ごたえは得られなかった。
 であれば、癪に障るやり方ではあるが、素直に敵を屠るしかない。
 サチをどう説得するか、というのが、懸念と言えば懸念ではあるが。
(一応、黙らせるためのものはある)
 アイテム一覧を立ち上げ、持ち物の1つに目を向ける。
 AIDAの種子――オーヴァンも散々使った悪魔の卵だ。
 これをサキのPCボディに打ち込み、AIDA感染者としてしまえば、彼女の問題はクリアーされる。
 好きに暴れさせておけば、殺し合いの参加者達も、適当に間引いてくれるだろう。
(とはいえ、勿体ない使い方ではあるか?)
 もっとも、さほど戦闘に対する意欲がないサチを、わざわざ強化したところで、成果が望めるわけでもない。
 手元に1つしかない以上、これはもっと慎重に、対象とタイミングを吟味する必要があるだろう。
(カヤバアキヒコの話も、もう少し聞いておきたいからな)
 ちら、と眼鏡越しに横目を向けて、木陰で休むサチを見やる。
 その先に茅場の姿を見据え、オーヴァンは薄っすらと微笑んだ。


【C-4/湖のほとり/1日目・深夜】

【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:不安
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3(未確認)、基本支給品一式
[思考]
基本:死にたくない
1:オーヴァンと共に行動する
2:キリト君に会いたい
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになってからの参戦です
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました
※キリトが参加していることに気付いていません

350冷たい鳥籠 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/27(日) 02:40:31 ID:ICVMEMOg0
【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品0〜2、AIDAの種子@.hack//G.U.、基本支給品一式
[思考]
基本:ひとまずは殺し合いを生き残る。そのためには殺人も辞さない
1:この殺し合いの主催者のことが気になる。主催者に関する情報を集める
2:とりあえずサチと共に行動する
3:利用できるものは全て利用する。サチも有用であるようなら使う
4:AIDAの種子はひとまず保留。ここぞという時のために取っておく
5:茅場晶彦の存在に興味
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です
※サチからSAOに関する情報を得ました
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
 また、それが茅場晶彦である可能性も、僅かながらに考えています

【AIDAの種子@.hack//G.U.】
ウィルス知性体・AIDAの塊。PCボディに取りつくことで、プレイヤーの脳を侵食し、感情を暴走させることができる。
AIDA感染したPCは、通常のPCを超える戦闘能力を発揮する。
また、AIDA感染したPCによって倒されたプレイヤーは、ネットに意識を囚われ、未帰還者となってしまう。

351 ◆Vj6e1anjAc:2013/01/27(日) 02:40:53 ID:ICVMEMOg0
投下は以上です

352名無しさん:2013/01/27(日) 04:14:08 ID:3KI/VLBQ0
投下乙です

これはまた不安定な女の子に濃い同行者がヤバそうなアイテム持ちで傍にいるなあw
榊やネットの詳しくて切れ者だから対主催としては頼りにはなるが下手したら…
サチは参戦時期が違ったらもっと頼りになったかもしれないがまた原作の早い時期から来たなあ
嫌な予感しかしねえよw

353名無しさん:2013/01/27(日) 04:33:50 ID:3KI/VLBQ0
G-8/アメリカエリア ネオ(トーマス・A・アンダーソン)
C-2 スケィス 遠坂凛
???/ウラインターネットの何処か シルバー・クロウ フォルテ
E−3/マク・アヌ シノン
F−2/マク・アヌ エージェント・スミス
A-2/日本エリア ハセヲ スカーレット・レイン
B-10/ウラインターネットエリア キリト レン フレイムマン
F-10/アメリカエリア ブラックローズ ブラック・ロータス ダン・ブラックモア
D-6/森 アドミラル
E-6/森 ピンク
F-8/アメリカエリア ありす ミア
F-9/アメリカエリア 岸波白野 ユイ 蒼炎のカイト
E-5/森 エンデュランス
E-4/森 ダスク・テイカ―
D-6/大聖堂 カイト 志乃
B-3/月海原学園・図書室 リーファ ラニ=Ⅷ
G-9/ショッピングモール入口 アスナ トリニティ
E-8/道路 揺光 クライン
G-1/アリーナ レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ
E-2/マク・アヌ ランルーくん アトリ
C-4/湖のほとり サチ オーヴァン

354名無しさん:2013/01/27(日) 05:13:13 ID:4al68lQkO
投下乙です。サチは原作じゃ単なるキリトさんのトラウマ枠だったが果たして…かやえもんは前例があるからどうなんだろうな?

355名無しさん:2013/01/27(日) 15:12:06 ID:INyfbuSU0
投下乙です
相変わらず怪しいオーヴァン、煽動、ステルス、戦闘、何でもこなせるあたり危険
サチも信用しちゃってるみたいだが、果たして

356名無しさん:2013/01/29(火) 21:02:55 ID:07NPenO20
予約とか順調に来ていい感じだね

357 ◆NZZhM9gmig:2013/01/29(火) 21:59:19 ID:QRiEcS3U0
これより、予約分の投下を開始します。

358輝ける森 ◆NZZhM9gmig:2013/01/29(火) 22:01:23 ID:QRiEcS3U0

     0

「いやぁ、こりゃまいったね」
 と、そんなふうにボヤキながら、ユウキは指で頬を軽く掻いた。
 現在彼女を悩ませているのは、バトルロワイアルそのものよりも、彼女自身の状況が原因だった。

「ここで死んだら現実でも死ぬバトルロワイアル、かぁ。
 まあ、別に死ぬっていうのは構わない……って言うか、既に一回死んだんだけど、これじゃあの時の感動が台無しだよ」

 確かに自分はALOの中で、アスナや《スリーピング・ナイツ》のみんな、その他にも多くの人に看取られて死んだはずなのだ。
 その時の感覚――痛みも感じずに、全身の力が抜けていく様は、今もはっきりと思い出す事ができる。
 だというのに今こうして、自分はALOのユウキとしてここに居る。

「もしかしてボク、幽霊にでもなっちゃったのかな?」

 そんな突拍子もない考えが過るが、あながち否定できないところが笑えない。
 何か不思議な力が働いて、奇跡的に助かりました――なんて夢物語が信じられるほど、お子様ではない。
 それにこのバトルロワイアルと言う状況からして、助かったとは決して言えないのだから。

「仮に幽霊になったんだとしても、また死ぬのは、しかも殺されて死ぬのはイヤだなぁ」
 どうせもう一度死ぬのなら、満足して成仏する方向でお願いしたい。
 そう思いながらも、メニューを開いてアイテム欄を確認していく。
 こんな状況にもかかわらずこういう行動が取れるのは、ゲーマーとしての性か、平常心を取り戻そうとするが故か。

 とにかく支給されたアイテムの一つを選択して装備してみる。
 すると腰の周囲を銀色の光が取り巻き、剣帯にぶら下がった銀色の細剣が現れる。
 それを確認すると、おもむろに細剣を鞘から抜き放ち、一振りしてみる。

 握り心地は悪くない……どころか、むしろよく馴染む。
 まるでこの剣が、最初から自身の相棒であったかのようだ。

「【ランベントライト】か。うん、いい剣だね」
 この剣ならば、“絶剣”と謳われた自身の剣技を遺憾なく発揮できるだろう。
 そんなふうに支給された細剣に満足し、鞘に納めて腰に吊るす。

「けど、これからどうしようか。
 誰かを殺してまで生き残りたいとは思わないし、そうまでしてネットワークを掌握したところでする事なんてないし」

 それにログアウトしても、リアルの体はすでに死んでいるはずだし。

 心の中でそう口にする。
 “死者”であるユウキには、現実に対する思い入れはあっても、心残りはない。
 確かに誰かに殺されて消えるのはイヤだが、誰かを殺してまで生き残るのはもっとイヤだった。

「あ、そうだ。幽霊ってことは、またアスナに会えるのかな?」
 だとしたら、また彼女と会いたいと思う。
 彼女に教えたいものもあるし、また会おうと約束もしたのだ。
 問題は、またアスナに会う為には、このバトルロワイアルで生き残らなければならない、という事だ。

「もう死んでいるのに生き残るっていうのも、なんか変な話だけどね。
 ま、ジッとしていても仕方ないし、とりあえずここから出よ」
 そう言ってユウキは、彼女が現在いる場所――洞窟の出口を目指して歩き出した

 現在ユウキがいる洞窟は、深夜という時間帯も相まって相等暗い。
 地底世界の如きそこは、本来であれば壁に手を当てなければ進む事もままならないだろう。
 その洞窟を平然と歩けるのは、彼女が暗視能力を持つインプだからだ。
 そんな事など意識もせず歩き続け、ふいにユウキは洞窟の変化に気がついた。

 光源などないはずなのに妙に洞窟が明るい。
 辺りを良く見渡せば、すぐに光源の正体に気がついた。
 洞窟の中に所々生えている鍾乳石と、宙を漂う小さな光の球。
 それらが輝き、洞窟の中を照らしていたのだ。
 それらに気を取られつつも、数分後、ユウキは洞窟の最奥に辿り着く。
 そして眼前に広がった光景に、堪らず目を見開いた。

359輝ける森 ◆NZZhM9gmig:2013/01/29(火) 22:02:12 ID:QRiEcS3U0

「……………………」
 水底が見えるほどに澄んだ地底湖と、その中心にある、真っ白に輝く大樹。
 この世のものとは思えぬほど幻想的な光景に、感嘆の声も出ない。

 死世所『エルディ・ルー』と真白き大樹『フラドグド』。
 それがこの場所の名であり、それがこの大樹の名である。
 そんな事など知る由もないユウキは、ただただ目の前の光景に魅入っていた。

 そうしてどれくらいの時間が経ったのか。
 数分では済まないが、一時間は経っていないほどの時の後、ユウキは満面の笑みを浮かべて呟いた。

「ああ……綺麗だなぁ………」
 他にもこんな場所があるのなら、もっと見てみたい。
 本当に心から、そう強く思った。

「……そうだね。うん、決めた。そうしよう」
 故にそれが、ユウキの目的となった。
 このバトルロワイアルのマップを見て回り、この地底湖と大樹の様に美しい場所を探すのだ。
 それはきっと、殺すとか殺されるとか、そんな事よりもずっと楽しい事だ。

「そうと決まれば、次に向かう場所を決めないとね。
 ……けど、あともう少しだけ―――」

 ―――この輝ける森を見ていたい。

 そう呟いて、ユウキは死者の国への入口で佇んでいた。

【D-4/洞窟/一日目・深夜】
※洞窟の最奥はG.U.の死世所 エルディ・ルーでした。

【ユウキ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、健康
[装備]:ランベントライト@ソードアート・オンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2個
[思考・状況]
基本:洞窟の地底湖と大樹の様な綺麗な場所を探す。ロワについては保留。
0:もう少しだけ、この大樹を見ていたい。
1:次にどこへ向かうかを決める。
2:専守防衛。誰かを殺すつもりはないが、誰かに殺されるつもりもない。
3:また会えるのなら、アスナに会いたい。
[備考]
※参戦時期は、アスナ達に看取られて死亡した後。

【ランベントライト@ソードアート・オンライン】
アスナの使用する、名剣クラスの細剣/レイピア。
鍛冶屋リズベットのプレイヤーメイド。

360 ◆NZZhM9gmig:2013/01/29(火) 22:03:08 ID:QRiEcS3U0
以上で投下を終了します。

361名無しさん:2013/01/29(火) 22:15:46 ID:tEM1fqjEO
投下乙です

ここにもNPCとは違う意味で帰るリアルの無い者が、そしてアスナの剣か…

362 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/29(火) 22:19:25 ID:olbPy2S.0
投下乙です、投下早いですねー
エルディル―は死者が行く場としては合ってるのかな?
まだ他にも洞窟には何か在ったりして

自分も投下します

363ハートレス・レッド ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/29(火) 22:20:17 ID:olbPy2S.0
ぐしゃ、と砂を踏み鳴らす音がして、赤い影が駆けていく。
速い、洗練された無駄のない動きを持って、彼は山道を登っていた。
その調子である程度の高さまで到達すると、ピタリと足を止め、黒いバイザー越しに周りを見渡す。

「電脳世界とは思えないな」
零れ出た言葉は疑問を呈すものだった。
広がる平原、遠くに見える深い森、そして何より今足を付けている山。
そのどれも彼の知る電脳世界とはかけ離れていた。どう見ても現実世界のそれだ。
電脳世界にも現実世界を模した空間は在ったが、あくまでそれは模しているに過ぎず、こうもリアリティを追求した空間というものは普通の電脳世界では先ずお目に掛かれない。
となると、ここは普通の電脳世界ではない訳だ。彼はそう結論を出した。

(炎山様との接触は現時点では不可能か)
彼――ブルースにとってはそれが最も問題視すべきことだった。
オフィシャルネットバトラー、伊集院炎山。ブルースは彼のネットナビであり、炎山とはパートナーの関係にある。
オフィシャルの仕事での情報収集、処理、戦闘、そういった行動を共にこなす。彼とブルースはまさに一心一体の関係である。
そんな彼と、今では連絡が付かなくなっていた。

「…………」
その事実に複雑な感情を抱かざるを得ないが、何も言わずアイテム欄を開いた。
そこにある幾つかのアイテム。これらを使ってこの場を先ず生き残らねばならない。
何時もならこうしたアイテム、バトルチップの選択は自分のする仕事ではない。オペレーターの炎山が状況に応じて指示を出す。
炎山のオペレーティングは正確無比であり、ブルースも安心してその身を任せることができた。
が、今はそれがない。自分の力だけで状況を切り抜けなければならない。
今後の動向についてもそうだ。全てを自分で判断し、執り行なわなければならない。

ブルースは次にマップを呼び出した。
エリア分けされた区域に目に通し、見える光景から己の位置を割り出す。D-4といったところか。
そして先ず向かうべき場所を考えた。ウラインターネット。知っている名がそこにあった。
これが本当にブルースの知るウラインターネットならば、この部分は少なくとも外部のネットと通じている筈だ。
無論、そう簡単に外部と接触できるとは思えないし、似せただけの場である可能性もあったが、何にせよ調査する必要はありそうだ。
炎山も動いているだろう。ならば、向こうからのアプローチも期待できるかもしれない。

一先ずの方針は決まった。次にブルースはもっと大きな視点での思考を巡らせる。
このイベント――VRバトルロワイアルというらしいこれは一体何者の手によるものか。
WWW(ワールドスリー)、あるいはそれに類するネット犯罪集団によるもの。その可能性が先ず過る。
断定はできないが、その可能性は高いだろう。その中でも、これだけの大きな行動を起こせる組織となると限られてくる。

と、そこまで考えた時だった。

364ハートレス・レッド ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/29(火) 22:21:02 ID:olbPy2S.0

「うおらっ」

ブルースの背後から、褐色の女が叫び声を上げ切りつけてきた。
その手には禍々しい剣が握られている。

が、それをブルースは出現させた盾で難なく受け止めた。
剣を弾かれた女は奇声を上げ、後方へその身を投げる。
その盾はブルースのデフォルト装備であり、バトルチップなしで使用することのできるものだ。
そしてブルースにはもうひとつ、単独使用可能な武装があった。

ブルースは女へ駆けた。その手を変形し、ソードを出現させる。
その速さに女は反応できない。結果、ブルースの青く光る刃が喉元に突き付けられ「うっ」とうめき声を上げた。
ソードこそブルースの最も得意とする装備。ある程度チャージが必要ではあるが、彼はチップなしでソードを使えるよう設定されていた。

「お前は何者だ」
一瞬の攻防の後、敵を拘束したブルースは相手に問いかける。その声色は冷酷なオフィシャルのそれだった。
女は先ほど無警告で襲ってきた。そしてその動きに躊躇いもなかった。となると「乗った」者か。
そうであるならば、容赦はしない。そう考えつつ、ブルースは女に迫った。

「何でお前なんかに言わなきゃならねえんだよ」
「言わなければ――斬る」
ブルースの言葉に威圧感を感じたのか、女は言葉を詰まらせた後「ボルドーだよ、文句あっか」と乱暴な口調で言い捨てた。
ボルドー。その名を覚えたブルースは次に女の恰好に注視した。
褐色の肌に切りそろえられた短髪、その容姿はナビというより現実の人間のそれだ。
何より、女の半身が異様だった。黒い何か(バグか?)に浸食され、データが歪に崩れてしまっている。
その姿を見て、ブルースは直感した。この変質の仕方、開幕の場にいた榊とかいう奴と酷似している。

「お前はあの榊と関係があるのか?」
「あ? あんな『月の樹』野郎と一緒にすんな」
この状況で尚、ボルドーはこちらを威圧するように答えた。典型的な小悪党の行いだ。オフィシャルの仕事で何度も見てきた。
問題にすべきことは、一つ。コイツはあの榊という男を知っているということだ。

「答えろ。奴についてお前は何を知っている」
「知らねえっつってんだろ!」
声を荒げるボルドー。だが、ブルースは無視して更に問い詰める。
と、不意にボルドーが酷薄な笑みを浮かべた。瞬間、何かがブルースの視界を遮った。
煙? 奴のアイテムか。ブルースはそう理解すると、すぐさまソードを振るった。
一閃される刃。だが、手ごたえはない。逃がしたか。

「ぐっ」
そう思った瞬間、肩を殴りつけられた。ボルドーの下卑な声が響く。
煙に紛れ、奴は再度こちらを攻撃してきたのだ。
その攻撃は予想外に威力があり、ブルースの身体は吹き飛ばされる。が、すぐに立ち直す。

365ハートレス・レッド ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/29(火) 22:21:36 ID:olbPy2S.0

しかし、煙が晴れた後にボルドーの姿は既に消えていた。
今度こそ逃した。ブルースは思わず舌打ちをする。

今のは明らかに自分のミスだ。
敵の漏らした重大な情報に気を取られ、その動きに対し反応が遅れた。結果、危険人物を追い詰めておきながら逃がしてしまった。
何時もならば、炎山が居るならば、このようなことはなかった筈だ。この異様な状況と単独任務故に犯したミスだ。

次は容赦しない。そう固くブルースは決意し、行動を開始する。
山を再び赤い影が駆け抜けた。


【D-4/山/1日目・深夜】

【ブルース@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアル打倒、危険人物には容赦しない。
1:ウラインターネットに向かう

366ハートレス・レッド ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/29(火) 22:22:11 ID:olbPy2S.0



ブルースから逃れたボルドーは山道を荒々しい足取りで下っていく。
浸食されポリゴンの歪んだ顔には獰猛な表情が浮かんでいる。理性の色はひどく薄まっているようだった。

「フフフ、これが私の出会った『運命』か……!」
ボルドーは口元を釣り上げ不気味に笑う。
突如として榊にこんな催しに参加させられたのは困惑した。奴の姿が大きく変わっているのも驚いたといえば驚いた。
が、この場が要は自由にPKできる場であること、そしてハセヲが居ることを理解した途端、その困惑も何処かへ吹き飛んだ。
代わりに胸に到来したのは、興奮と殺意。

「待っていろよハセヲちゃん……ゼッタイに、カクジツにその息の根を止めてあげるからさあ」
ハセヲに復讐を遂げる己の姿を夢想し、ボルドーは奇声を上げた。
新たに手に入れた力。これさえあれば復讐できる。何度も苦汁を舐めさせられた憎き「死の恐怖」を血祭りに、八つ裂きにすることができる。
それができるなら、場所がアリーナだろうと何だろうとどうでもいい。ここでPKを繰り返していれば、何時かはハセヲに行き着くのだろう。
ならば、死を振りまくだけだ。あの赤い髪の馬鹿な双剣士のように、幾らでもPKしてやろう。

「フフフハハハッハハが%fklヴぉzl殲sk」
壊れゆくデータの中、ボルドーは笑い続ける。
彼女にしたって、本来ならば全くの躊躇いもなく人を襲おうとはしなかっただろう。
幾らゲーム内で悪役をロールし、現実での憂さ晴らしとしてPKを繰り返そうが、所詮はゲームの中でのことだ。
実際の彼女はただの中学生の少女に過ぎない。ニナ・キルヒアイスという人間関係の軋轢に苦しむ14歳の少女。

それを狂わせたのは、彼女が出会い得た力――AIDA。
感染した彼女は思考までも浸食され、かねてより抱いていたハセヲへの復讐心がより強まった形で顕現することになった。
その結果が、彼女を凶戦士へと変貌させてしまった。

狂人と成り果てたボルドーは笑いながら進む。
殺人への忌避も、死の恐怖も、彼女にはもはやなかった。


【ボルドー@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP90%、AIDA感染
[装備]:邪眼剣@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜1、逃煙玉×4@.hack//G.U.、基本支給品一式
[思考]
基本:他参加者を襲う
1:ハセヲに復讐
[備考]
時期はvol.2にて揺光をPKした後


【邪眼剣@.hack//】
Lv87の剣。ダイイングのスキルを持つ。
使用可能技スキルは
ギアニスラッシュ
ギガノクラック
デクボーブ

【逃煙玉@.hack//G.U.】
自分の姿が短時間見えなくなるアイテム。
モンスターとの戦闘から逃げるのに使えるほか、奇襲の際にも使用できる。
五個セットで支給された。

367 ◆nOp6QQ0GG6:2013/01/29(火) 22:22:41 ID:olbPy2S.0
投下終了です

368 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:16:45 ID:Fb3jVzLw0
>>輝ける森
ユウキ……死後の世界からやってきて、行きついた先がエルディ・ルーとは。
生還しても帰る場所が無い身ではあるけれど、せめてこの場では精一杯生きてほしい。

>>ハートレス・レッド
時期次第じゃ危ないかと思ったが、ブルースは無事に対主催の道を選んでくれたか。
しかし、今のウラインターネットに向かうのは色々と危険だぞ。
そしてボルドーがやばい。
よりによって一番きたらまずい時期からの参戦じゃないのかこれは……
最悪のPKプレイヤーとして、ロワでも暴れ回るのだろうか。


さて、自分も出来上がりましたので投下します。
ヒースクリフ、間桐慎二になります。

369最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:17:36 ID:Fb3jVzLw0



(……さて……これは一体、どう考えればいいものなのかね)


D-5、ファンタジーエリア中心部。
そこで今、真紅の甲冑を身に纏う一人の剣士が、その顎に片手を当てて小さなため息をついた。
その人物の名は、ヒースクリフ。
SAO最強の攻略ギルド血盟騎士団団長にして、ユニークスキル『神聖剣』を持つSAO最強のプレイヤーと称される剣士。
そして……アインクラッド第百層で待ち受けるSAOの最終ボス。

茅場晶彦その人である。


(……今の私を捕らえ、このような形で立たせる存在がいるとは……流石に予想出来なかったよ)


否。
正確には、この場に立つヒースクリフは茅場晶彦であり、そしてそうではない者である。
彼は電子の世界を漂う残滓、茅場晶彦の記憶のエコーともいうべき存在なのだ。

かつてのヒースクリフは、アインクラッド75層でキリトを相手に一対一で闘い、そして倒された。
その後に現実世界の茅場晶彦は、自らの脳を高出力でスキャンし焼き切るという方法で自ら命を絶ったのだった。
しかし、それは単なる自殺ではない。
そうする事で自らの記憶と人格をデジタル信号としてネットワーク内に遺そうという目論見があっての行動だったのだ。
成功率は限りなくゼロに近い、極めて危険な行いだったが……結果、茅場晶彦という存在は確かに電子の海に存在する事となった。
彼が夢見た異世界への旅立ちを……極めて近い形で実現させたのである。


(あの広場には、実に多種多様なアバターがいた。
人間は勿論、ロボット、モンスターの様な者達まで……世界の種子が芽吹いた結果か)


その後、電子の海を彷徨っていた彼は、再びキリトの前に現れた。
ALOの世界で窮地に陥り、オベイロンに屈しようとしていた彼に力を貸し、その代償として世界の種子―――ザ・シードと呼ばれるシステムを託した。
それはオブジェクトとサーバーさえあれば、誰しもがVRMMOを生み出すことが出来るという、まさに世界を創造する種だった。

ヒースクリフは今、あの広場に集まっていた多くのアバター達が、その種より生まれたモノだと考えていた。
人間は勿論、ALOにいた妖精、更にはロボットやモンスターの様な者達までいた事がその理由だ。
統一感がまるでないアバターは、つまりはそれだけ多くの世界観がある中から生み出されたのだと、そう思えたのである。
ザ・シードをキリトに託したのは正解だった。
そう、胸中で彼に感謝をせずにはいられない……しかし。

370最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:18:02 ID:Fb3jVzLw0

(しかし、このような形で活かされるとはね)


まさか、こんな殺し合いという形でそれを利用される羽目になるとは、流石に予想だにしていなかった。
それも自分自身が参加者にされるとあれば、尚更だ。
ただ、その善悪を問うというつもりはない。
自身とて、一つの異世界を生み出したいという望みの元、SAOをデスゲームに変えて一万人のプレイヤーを閉じ込めた身だ。
あの榊という男にもまた、同じ望みがあったのだろう。


(だが……彼の行動を許す事は出来ないな)


しかし、ヒースクリフに殺し合いに乗ろうという考えはなかった。
何故なら彼には、榊を許せない理由があったのだ。



――――――先ず覚えて貰わえねばならないことを説明しよう。


――――――1つはこのVRバトルロワイアルの優勝者へ贈られる賞品だ。


――――――【元の場への帰還】と【ログアウト】そして【あらゆるネットワークを掌握する権利】これが進呈される。


(あらゆるネットワークを掌握する権利……それがもし事実だとするならば、世界の芽を摘む事にもなりかねん)


榊が説明した、このバトルロワイアルの優勝賞品―――ネットワークを掌握する権利こそが、ヒースクリフにとっては許せぬモノであった。
果たして、それが事実であるか否かは分からない。
しかし、相手は電子の海を漂っていた己を手駒として捕らえたほどの相手だ。
真実である可能性は、極めて高いだろう……ならば、この権利は決してあってはならない。
もしもそれが、悪意ある者の手に渡れば、数多のVRMMOを一度に消滅させる事さえも可能になってしまうからだ。
自分も一度はキリトに、望まぬならば種子を捨ててもかまわないと言いはしたが、こうして生まれた以上は手放すという真似はしたくない。
電子の世界に芽吹いた世界は、多くの者達にとってかけがえのない存在なのだ。
自身が夢見た世界と同じ様に……それの破壊は、夢を壊すに等しい行為だ。

371最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:18:43 ID:Fb3jVzLw0

(榊君……すまないが、私はこの殺し合いを止める為に行動をさせてもらうよ)


故にヒースクリフは、榊への反逆を決めた。
かつて自身が夢見た異世界……それに限りなく近い、幾多もの電子の箱庭を守る為に。


(そうと決まれば、まずはアイテムを確認させてもらおう。
何をするにしても、装備がなければ始まらないのが冒険というものだ)


早速、ヒースクリフはシステムウィンドウを開き支給品を確認する。
この剣士のアバターとしてバトルロワイアルに参加させられている以上、使える能力は間違いなくSAOと同じだ。
ならば必要となるのは、スキルを使う為の片手剣と……そして、対となる盾の二つ。
ソードスキルのみならば剣だけで十分だが、神聖剣を使うには盾が必須になる。
ヒースクリフが最強プレイヤーと称されていた所以は、神聖剣にこそある……ならば、ここは何としてでも盾を手にしておきたい所。


(これは……盾、ではあるが……)


結果、ヒースクリフは見事に盾を引き当てた……が。
それは彼が期待した物とは、少々かけ離れた外観をしていた。
まずその形状は半円形型をしており、大きさは凡そ60cm程度。
濃い灰色のカラーリングに、金属特有の鈍い光沢がある。
そして盾の上部には、構えた側からも前方を確認できる、防弾ガラス製の透明な覗き穴が備え付けられている。

その名を、防弾盾。
ニュースやドラマ等でよく警官や軍隊が手にしているところを見るだろう、現代の科学が生み出した金属盾だ。


(……何とも、不釣り合いな格好だな)


広場では確かに、榊に対して反抗の意志を示した大柄な男をはじめ、近代的な姿をした者達は多く見られたし、こういうアイテムが支給されるのは十分ありだろう。
そして性能も、決して低くは無い様に見える。
しかし、ファンタジー世界の剣士が現代の金属盾を装備する様というのは実にシュールだと言わざるを得ない。

372最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:19:24 ID:Fb3jVzLw0

(とはいえ、それでも盾を手に出来たのは大きい。
そして……この剣も)


そして一方。
剣に関しては、ヒースクリフのイメージに一致したものを引く事が出来た。
青白い透き通った刀身を持ち、その鍔元には同じく青い色をした薔薇の装飾が施されている。
名は、青薔薇の剣という。
オブジェクト化させて軽く素振りをしてみたところ、実にしっくりとくる手応えがあった。
どんなVRMMOで使われている剣かは知らないが、間違いなくレアアイテム……それもかなり上級の武器になるだろう。
良い武器を手にする事が出来たと、ヒースクリフはその顔に笑みを浮かべた。



―――余談だが、この剣がそう遠くない未来において、あのキリトの運命を左右するキーパーソンになるとは、この時の彼には知る由もなかった……



「……む?」


その後、他のアイテムや機能を見るべくウィンドウを操作していたところ。
ヒースクリフは、そこから気になる一つの項目を見つけた。

【使用アバターの変更】

【設定】の中にあったその項目に、ヒースクリフはまさかと息を呑んだ。
すぐさま操作を行い、機能を試す……すると。


(……やはり、そういう事か)


瞬時に、ヒースクリフのアバターが姿を変えた。
今まで纏っていた重厚な真紅の甲冑とは正反対の、極めて軽い白衣。
ファンタジーの世界とは対極に位置する、リアルの己自身。
紛れも無く、茅場晶彦本人としての姿だった。


(僕は二度、キリト君の前にこの姿で現れている。
ネットの世界で使った以上、この姿がもう一つのアバターと認識されても、不思議はないか)


戦闘を行うに当たっては、間違いなくヒースクリフとしての方が圧倒的に向いている。
一見、殺し合いには何の役にも立たない機能に思える……が、実際はそうでもない。
茅場晶彦とヒースクリフは、外見は勿論その声色まで、全く別人といっていい程に変化する。
その点を利用すれば、特定の人物から身を隠したい場合などには十分役立つだろう。
尤も、そんな場面があればの話ではあるのだが。


(少なくとも今は、この姿でいるメリットはないな。
しばらくはヒースクリフとして活動した方が……)

373最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:20:00 ID:Fb3jVzLw0
「まったく、やっと他の参加者を見つけられたよ。
 お互いにいきなりのルール変更なんて、勘弁してもらいたいよな?」

その時だった。
不意に、後方より何者かから声を掛けられたのは。
茅場は咄嗟に振りかえり、声の主へと視線を向ける。


「ま、いいさ。
 多少ルールが変わったところで、僕の勝ちは揺るがないんだからさ」


そこに立っていたのは、特徴的―――言ってみればワカメの様な青髪をしている一人の学生だった。
自信満々、大胆不敵、傲慢。
そんな言葉が、これでもかという程に似合う表情をしている。
茅場はそれを一目見て、その学生―――間桐慎二が、殺し合いに乗っている側である事を悟った。
そして、殺し合いを殺し合いとして認識していない……ゲームか何かに過ぎないと思っている事もまた、見抜いていた。


「……ふむ。
 ルールが変わったと言うが、君はどうやらこの殺し合いが自らのゲームの延長線上のものだと考えている様だね。
 参考までに、どんなゲームに参加していたのかを聞かせてはもらえないか?」

「は?
 何言ってんだよ、あんた……僕と同じ、聖杯戦争の参加者なんだろ?
 ああ、もしかして急すぎる内容の変更に、頭がついていけてないのか?」
 

茅場の問いに対して、慎二は呆れた顔をして返事をした。
他の参加者を全て倒し、優勝した者にはどんな願いでも叶えられる賞品が与えられる。
ルールこそ大きく変わっているものの、根本は聖杯戦争そのものではないか。
そんな事も分からないのかと、茅場に対して大げさに両手を上げてリアクションを取る。

374最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:20:40 ID:Fb3jVzLw0

「……聖杯戦争……成る程。
奇跡を起こす聖遺物を求める戦争といったところか……」


しかし茅場は、己を馬鹿にしている慎二の態度など気にも留めず、僅かなキーワードから冷静に推理をしていた。
目の前の学生が一切慌てる様子を見せずに殺し合いに乗っているところからして、恐らく彼がプレイしている聖杯戦争とやらは、このバトルロワイアルに似通ったものなのだろう。
聖杯戦争という名前からして、内容が聖杯を巡る戦いである事というのは丸わかりだ。
確かに古来より聖杯と名がつく物には、奇跡を起こす道具として多くの伝承がある。
この殺し合いの優勝賞品=聖杯と結び付けられても、何らそこに不思議はない。
そして得られる聖杯も、あくまでゲーム内でのちょっとしたレアアイテムとして捉えているのだろう。
ならばここは、話し合いでその誤解を解くべきなのだろうが……残念ながらこの様子では、聞く耳は持ってくれないだろう。
しからば、出方によっては荒っぽい手段を取らざるをえまい。


「すまないな、ありがとう。
 ところで、私はヒースクリフというのだが、君は何というのかな?」

「おいおい、僕を知らないのか?
 これだから凡人は……仕方ないし教えてあげよう。
 僕は間桐慎二、世間じゃ天才って言われてる霊子ハッカーさ」


慎二は、まさか目の前に居る相手がある意味じゃ己以上に優れた頭脳と技術を持つ天才だとは知らず、見下した態度で自己紹介をする。
普通ならば、こんな挨拶の仕方をされようものなら怒りの一つや二つ感じるだろう。
しかし、ヒースクリフはそんな慎二の態度にもそういった感情は然程抱かなかった。
血盟騎士団団長にしてSAOの最強プレイヤーである彼からしてみれば、この手の輩はもう何度も見てきた相手だからだ。
身近な例を挙げてみれば、虚栄心に満ちたストーカー護衛ことクラディールあたりか。


「そしてこいつが、僕の引いたサーヴァントだ。
 出て来いよ、ライダー!」

「やれやれ、やっとかい?
 随分と待たせたもんだねぇ、シンジ」 


次の瞬間。
慎二が何も無い空間に声をかけたかと思うと、そこに何処からともなく光の粒子が沸き立った。
粒子はやがて人の形を成していき、そして全てが収束した時。
そこには、一人の女性が出現していた。
顔には大きな一筋の傷が走っており、胸元の大きく開いた中世的な赤いコートを身に纏うその様は、よくある海賊像を思い浮かばせる。
彼女こそが、慎二が召喚したサーヴァント―――ライダーだ。

375最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:21:18 ID:Fb3jVzLw0

(サーヴァント……直訳すれば、召使い・使い魔か。
成る程、つまり彼女はSAOで言うテイムモンスターの様な存在……彼の戦闘におけるパートナーなのだな)


流石に何も無い空間から人が現れた事には驚いたものの、ヒースクリフはすぐさま冷静にライダーが何者なのかを自分なりに推測した。
今の己も人の事を言えた立場ではないが、武器も持たないただの学生がどの様に戦うつもりだったのかと思ったが、どうやらこういう事らしい。


「さあ、ヒースクリフ。
 あんたのサーヴァントも霊体化を解いて出してくれよ?
 別にこのままあんたを倒して勝ち抜けってのでもいいけど、折角の初戦がそんなしょっぱい勝利じゃ味気ないからさ」


続けて慎二は、ヒースクリフにもサーヴァントを出す様に促す。
聖杯戦争は、マスター同士がサーヴァントを用いて競い合う戦争だ。
ならば、お互いにサーヴァントがいなければ話にならない。
無論このまま叩き潰すという選択肢もあるにはあるが、折角のゲームなのにそれは物足りない。
やる以上は、自身のサーヴァントの実力をたっぷり見せつけて勝利したい。
そんな願望から、慎二はヒースクリフが動くのを敢えて待っていたのだが……


「……すまないね、慎二君。
 生憎ながら、私はサーヴァントを持っていないんだ」

「……何だって?」


ヒースクリフには当然、その期待に応える事は出来なかった。
そもそも彼は、聖杯戦争の参加者ではないのだ。


「私にあるのは……この姿と、そして剣と盾だけだ」


しかし、サーヴァントが無くとも戦う術ならばある。
すぐさまシステムウィンドウを出現させ、ヒースクリフはその姿を変えた。
科学者茅場晶彦としてのアバターから、神聖剣のヒースクリフへと。
その手には既に、剣と盾が握られており、いつでも戦闘に入れる様な状態になっている。
この変化に、慎二は口を開けて呆然としているが……直後。

376最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:21:43 ID:Fb3jVzLw0

「……は、ハハッ!
 こいつは大笑いだ……あんたまさか、サーヴァントを相手に生身で闘うつもりなのか?
 とんだ馬鹿もいたもんだよ!」


彼は、大いにヒースクリフを嘲笑った。
英霊たるサーヴァントを相手に生身で戦いを挑むなんて、無謀なんてレベルを通り越している。
どれだけ腕に自信があろうが、勝てる訳が無い。
初めて会った時から妙な奴だとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
腹を抱え、これでもかというぐらいに大きな声で笑う……しかし。


「やれやれ……そこまでにしときな、シンジ。
 あまり笑ってると、後で辛くなっちまうよ?」


その馬鹿笑いを、ライダーの一声が遮った。
これに慎二はあからさまに不機嫌な顔をして、どういうことだと不満を口にしようとする。
しかし……そこで彼は、気がついた。
ライダーの表情には、己と違い嘲笑は無く……どことなく真剣な目で、ヒースクリフを見ている事に。


「何だよ、ライダー。
 まさかお前、あいつを警戒してんじゃないだろうな?」

「そのまさかさ……分からないかい?
 あの兄さん、言うだけの事はありそうさね」


そう、ライダーの評価は慎二とは逆だった。
その点については、流石は歴史に名を残す英霊というべきだろう。
彼女はヒースクリフを見て、その力量を悟ったのだ。
人の身でありながらも、サーヴァントに喧嘩を売る……そんな馬鹿な真似が、出来るだけの力があると。


「……ふん、分かったよ。
 弱い奴を一方的に甚振るのは気が引けるけど、やりたいって言ったのはあんただからな?
 泣いて謝っても、許さないぞ!」


それでも慎二は、その言葉を認めようとはせず。
あくまで、喧嘩を売ってきた以上は仕方ないし買ってやるという態度を取った。
プライドの高い彼にとって、自らのミスを認めるなんてマネはしたくなかったのだろう。
そんな彼に小さく溜め息をつきながらも、ライダーは微笑を浮かべて、得物であるクラシカルな二丁拳銃を抜いた。
合わせて、ヒースクリフも構えを取る。

377最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:22:10 ID:Fb3jVzLw0


両者は正面から睨みあい、そしてお互いに動かずにいる。
それはさながら、ゴングを待っているボクサーの様でもあった。


しばしの間、場には長い沈黙が流れ……そして。



「やれ、ライダー!!」


開幕のゴング―――慎二の一声が、ついに発せられた。

378最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:22:33 ID:Fb3jVzLw0

「そんじゃあ、おっぱじめようかねぇ!!」


まず先に動いたのはライダー。
彼女は二丁拳銃を素早くヒースクリフに向け、その引き金を引いた。
轟音と共に、二発の弾丸がその身を貫かんと突き進んでいく。



―――ガキィンッ!!


「何っ!?」


しかし、それがヒースクリフに命中する事は無かった。
彼が左手に持つ盾に、阻まれたのだ。
馬鹿な、と慎二は呟きヒースクリフを睨む。
サーヴァントの弾丸を、あんな盾如きで防げる筈が無い。
そう思い、盾に視線を移し……そこで気付く。
彼の持つ盾が、白く光り輝いている事に。


「なんだよ、あれ!?
 ただの防弾盾じゃないのか!?」


神聖剣。
ヒースクリフが持つユニークスキルの一つであり、その効果は、装備した盾に強力な『攻撃判定』が付加されるというもの。
本来ならば防御にのみ用いられる盾を、武器としても扱えるスキルだ。
しかしその真価は、かつて多くのプレイヤー達が口にしたように、やはり防御にある。
盾に威力を纏わせる事で、その堅牢さはより強固なものとなるのだ。
そう……英霊の攻撃相手にも、通じる程に。


「ハッ、面白いじゃないか。
 だったら遠慮せず、派手にばらまくまでだよ!」


堅い防御が自慢なら、火力で無理矢理こじ開けるだけだ。
ヒースクリフが構える盾目掛けて、ライダーは怒涛の勢いで拳銃を乱射する。

379最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:23:05 ID:Fb3jVzLw0

「これしき……!!」


盾越しにビリビリと伝わってくる衝撃に、ヒースクリフは流石に表情を歪めた。
だが、それでも神聖剣は打ち破られていない。
ならば構うものかと、ヒースクリフは前に足を踏み出した。
襲い来る弾丸を一切避けず、ただ一直線に、目前の敵へと最短距離へと突き進んでいく!


「ハァッ!」


そしてライダーが間合いに入ると同時に、右手で剣を突き出す。
それは英霊の目から見ても、実にスピードのある真っ直ぐな一撃だった。
だが、だからといって素直に喰らう訳にはいかない。
ライダーは迫りくる刃を左手の銃で横から叩き、軌道を逸らして回避する。
同時に、すかさず右手の銃をヒースクリフに向けてその引き金を引いた。



―――ガァンッ!!


しかしそれよりも早く、ヒースクリフは盾を彼女に向けていた。
高い金属音を鳴り響かせながら、弾丸はまたしても神聖剣に叩き落とされる。
そして、ヒースクリフはそれだけでは終わらなかった。
そのまま前へと更に踏み込み、光り輝く盾を真正面からライダーにぶつけにかかったのだ。


「チィッ!」


これだけ堅牢な盾によるチャージとなれば、当然威力の程も想像出来る。
それを受けるのはまずいと、ライダーはとっさにバックステップしてヒースクリフから距離を取った。
無論、その最中にも拳銃を乱射して弾幕を張る事は忘れない。


「ハハハッ!
 いいねぇ、ぞくぞくするよ……あたしも色んな海を渡り歩いてきたが、あんたみたいな奴ははじめてみたさ!」


自身の放つ弾丸を、尽く防がれる。
この思わぬ強敵の出現を前にして、しかしライダーは笑っていた。
慎二の意見とはややニュアンスは異なるものの、やはり強い相手と闘ってこその聖杯戦争だ。
これを愉しまずに、どうしていられようか。
あの防御を打ち破るには、どうすればいいか。
あの盾以外には、どんな切り札を隠しているのか。
そんな想像が、次々に沸き立ってくる……心が躍って仕方が無いのだ。

380最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:23:30 ID:Fb3jVzLw0

「じゃあ次は、こんなのはどうだい……砲撃用意!!」


ライダーが高々と声を上げる。
すると、何も無い筈の頭上の空間から、何かが出現した。
それは黄金色に輝く、巨大な大砲―――カルバリン砲だった。
その総数、実に三本。
筒先は全て、ヒースクリフへと向けられている。


「大砲だと……!」

「藻屑と消えなぁ!!」


直後。
驚くヒースクリフに向けて、全ての砲門が火を噴いた。
迫り来るは、拳銃の比ではない爆撃……それでも、ヒースクリフの取る行動は変わらなかった。
神聖剣を発動させ、光の盾でその一撃を受け止めにかかる。


「グゥッ……!!」


神聖剣は、カルバリン砲ですらもその圧倒的防御力で堪え切った。
しかし、それでも全てを抑えきれる訳ではない。
まずは盾越しに伝わる強大な衝撃に、ヒースクリフはその身を吹き飛ばされそうになる。
これには両足に力を込め、強く踏ん張る事で対処を取る。
続けて、肌をピリピリと焼く熱風と黒煙が伝わってきた。
視界は黒で埋まり、爆風による息苦しさが襲いかかってくる。
これらには流石に対処法が無く、どうにかして耐えきるしかない。


「もらったよ、ヒースクリフ!」


その刹那。
側面より、ライダーが声を発した。
彼女は最初から、カルバリン砲でヒースクリフを仕留められるとは思っていなかった。
神聖剣ならば、砲撃ですらも防ぎきるだろうと予想をしていたのだ。
それでも敢えて仕掛けたのは、この展開を見越しての事。
砲撃を防御させる事で、黒煙と爆風でヒースクリフの視界を潰し、防御の外から仕掛ける為だったのだ。

381最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:24:07 ID:Fb3jVzLw0

「いいぞ、ライダー!
 そのまま風穴を開けてやれ!」


引き金が引かれ、銃弾が黒煙を突き破ってヒースクリフへと向かう。
そのおかげで視界は晴れたものの、迫る攻撃に気付くには少々遅すぎた。
カルバリン砲で釘付けにした今、この距離からの防御は流石に間に合わない。
慎二もヒースクリフが蜂の巣になるのを確信し、嬉々とした声を上げる。


だが……その予想は、思わぬ形で裏切られた。



―――カキキィン!!



「えっ!?」


命中寸前。
ヒースクリフの右手から青白い残光が走り、同時に金属音が複数鳴り響いた。
それは、弾丸が叩き落とされた音に他ならなかった。
右手に握る刃……青薔薇の剣によって。


「言った筈だ、慎二君。
 私にあるのは、この盾と……そして剣だと!」


盾が使えないならば、剣を使えばいい。
四連撃ソードスキル―――バーチカル・スクエア。
ヒースクリフは弾丸が放たれた瞬間、動かせる右手ですばやくそれを発動させていたのだ。
迫りくる弾丸を、防ぎきる為に。

382最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:24:36 ID:Fb3jVzLw0

「ハァッ!!」

「うっ……!?」


ヒースクリフは間髪いれずに踏み込み、ライダーとの間合いを詰めて逆袈裟に斬りかかった。
彼女は咄嗟に後ろへ飛ぼうとするが、今度は先程と違い間に合わない。
切っ先が右腕を捉え、一筋の傷をつける。


「……成る程ねぇ。
 あんた、視界が晴れた瞬間に私の目線を見て、弾道を見抜いたね?」

「その通りだ。
 流石にこれは賭けだったが、上手くいってよかったよ」


斬られた右腕を押さえながら、ライダーは笑いかけた。
弾丸を剣で斬り払う。
普通に考えればありえない事なのだろうが、ヒースクリフはそれをやってのけた。
その種だが、彼は発砲と同時に視界が晴れたその瞬間、ライダーの目を見ていたのだ。
そして、彼女が何処を狙い、仕掛けてきたか……目線から、弾道を予測したのである。

ヒースクリフは知らなかっただろうが、それはGGOの世界でキリトが銃撃相手に取った戦法と全く同じものだった。
偶然にも彼は、ライバルと同じ対処法を使っていたのである。


「もっとも……完全に防ぐ事はできなかったようだがね」


しかしながら、流石にライダーの攻撃全てを斬り払う事は、ヒースクリフの腕でも出来なかった様だ。
頬を掠めて一発と、そして脇腹を貫通してもう一発。
合計二発ほど、彼は弾丸をもらってしまっていた。
とは言え、これならまだ、戦闘を続けるには支障はないダメージだ。

383最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:25:00 ID:Fb3jVzLw0

「いいねぇ……二発だけで済んだって言わないその欲張りさ。
 ますます気にいったよ!」

「そういう君も、中々のものだ。
 さっきの一撃は、腕を一本もらうつもりだったというのに」



◇◆◇



(ふざけんなよ、聖杯戦争ってのはサーヴァント同士の戦いだろ!?
こんな話……聞いてないぞ!!)


目の前で繰り広げられる激戦に、慎二は戸惑いと苛立ちを隠せないでいた。
聖杯戦争とは、マスターが召喚したサーヴァントを操り戦うゲームではなかったのか。
どうして英霊たるサーヴァントを、それも天才である自身が操るライダーを相手に、ただの人間が互角に立ちまわれているというのか。

いや、正確には互角じゃない。
状況は僅かながら、ヒースクリフの方が有利だ。
ライダーはヒースクリフの攻撃を回避しつつ仕掛けているのに対し、ヒースクリフは回避と防御の両方を交えながらライダーに仕掛けている。
命中したらまずいライダーと、命中しても防ぐ事が出来れば大丈夫な神聖剣とでは、攻撃を当てる事への意味合いがまるで違うのだ。
このまま体力勝負の持久戦になれば、当然両者の動きに鈍りが出るだろう。
そうなった場合、不利なのはライダーの方だ。
加えて、慎二の魔力がどこまで持つかという問題も、長丁場になれば発生してくる。


(僕の方が負けてる……そんな事、あってたまるか!)


慎二としては、その事態は何が何でも受け入れる訳にはいかなかった。
こんな初戦で天才たる自分が負けるなんて、あってはならない事なのだ。
故に……慎二はここで勝負に出る事にした。

384最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:25:28 ID:Fb3jVzLw0

「ライダー!
 宝具の使用を許可するから、さっさとそいつを消し飛ばしてしまえよ!」


本来ならば、もっと後の試合に取っておくつもりだった切り札―――宝具を使う事を決めたのだ。
その言葉にライダーは、視線はヒースクリフに向けたままで答えた。


「おや、いいのかい?
 こんなとこで使っちまえば、結構人を呼びそうだよ。
 それにこの兄さんは頭も良さそうだし、真名が割れちまいかねないんだけどね」


自身の宝具は目立つものだから、こんな平原で使えば確実に他の参加者を読んでしまうだろう。
加えて、真名が割れる危険性もまたある。
この状況での宝具の使用には、はっきり言って色々とリスクが伴う。
ライダーはそう告げ、それでも尚構わないのかと慎二に確認を取った。


「だったら、来た奴も一緒にふっ飛ばせばいいだろ!
 いいからさっさとやれよ、エル・ドラゴ!!」


その忠告も、慎二はまるで意に介さない。
それどころか、ライダーの真名までばらした上で強行するよう言い放ったのだ。
自ら不利になる状況を作り出してしまうとは、余程頭に血が上っているのだろう。
ライダーもこれには溜め息をつき、呆れざるを得ない。


「やれやれ……でもまあ、あんたの言う事も一理あるね。
 この兄さんは、宝具無しじゃ流石にきつい相手っぽいし……
 何より、チマチマやるよか皆纏めて吹き飛ばす方が、あたしの性にもあってるよ!」


とは言え、慎二の策自体には別に反対する理由も必要も無かった。
彼が言うとおり、他の敵が集まって来るというなら、纏めてふっ飛ばせばいいだけの事だ。
自身の宝具ならば、それが出来るのだから。

385最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:26:09 ID:Fb3jVzLw0


「さあ野郎ども、時間だよ!
 嵐の王、亡霊の群れ、ワイルドハントの始まりだ!!」
 

高らかに、ライダーが天へと号令を上げる。
すると直後……空が歪み、波紋が生じた。
続けてその中より、巨大な何かがせり出し始める。
虚空を突き破り、この空間へと出現しようとしているのだ。


「……これは……大砲が出現した時点で、何となく予想はしていたが……!」


それは、巨大な帆船だった。
本来ならば海を駆ける筈の船が、空に浮かびあがっているではないか。
続けて周囲に、何隻もの小舟が同じく出現する。
その全てが、砲門を取りつけられている……戦闘用の軍船だ。


「ヒースクリフ、あたしの名を覚えて逝きな!
 テメロッソ・エル・ドラゴ、太陽を落とした女ってな!!」


これこそが、彼女が誇る最強宝具。
黄金鹿と嵐の夜―――ゴールデン・ワイルドハント。
生前に彼女が率いた船の全てを召喚し、その圧倒的火力を以て敵を殲滅する切り札だ。


「太陽を落とした女、エル・ドラゴ……フランシス・ドレイクか……!」


ここでヒースクリフは、ライダーの名乗りとその宝具から、彼女の真名を看破した。
フランシス・ドレイク。
人類史上初の世界一周を成し遂げた偉大な航海者にして、当時は沈まぬ太陽の国と称され無敵とされていたスペインの艦隊を、ついに壊滅させた司令官。
弱小国だった英国を一気に世界でも有数の大国に伸し上げた、知る人ぞ知る英雄だ。

386最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:26:46 ID:Fb3jVzLw0

「まさか、そんな英雄を相手に戦っていたとは……しかも女性だったとは、驚いたよ」

「性別に関しちゃ、よく言われるよ……さあ、ヒースクリフ!
 あたし達のこの火力と、あんたのその盾と!
 どっちが上か、はっきりさせようじゃないかい!!」

「お、おわ!?
 おい、ライダー!」


ライダーは慎二を抱えて高く跳躍し、主船の穂先へと飛び乗る。
こうしなければ、艦隊の一斉砲撃で慎二を巻き添えにしかねないからだ。
有無を言わさず首根っこを掴んだ事については、流石に慎二も抗議の声を上げたのだが。


「いいだろう……!」


対するヒースクリフもアイテムウィンドウを開き、最後の支給品を使用した。
バトルチップ、エアシューズ。
使用すれば一定時間の間、空へと身を浮き上がらせる事が出来るアイテムだ。
その効果により、天を飛ぶ無数の船団と同じ高さまで、一気に上昇する。



片や、全サーヴァントの中でも最強クラスの火力・制圧力を誇るライダー。

片や、SAO最強の防御力を誇る神聖剣のヒースクリフ。



言ってみればこれは、最強の矛と盾を持つ者同士の激突である。


ならば勝つのは矛か、それとも盾か……

387最強の矛、最強の盾 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:27:13 ID:Fb3jVzLw0


【D-4/上空/1日目・深夜】

【ヒースクリフ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:ダメージ(小)
[装備]:青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、防護盾
[アイテム]:エアシューズ@ロックマネグゼ3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止め、ネットの中に存在する異世界を守る。
1:慎二とライダーを倒す。
2:バトルロワイアルを止める仲間を探す
[備考]
※原作4巻後、キリトにザ・シードを渡した後からの参戦です。
※広場に集まったアバター達が、様々なVRMMOから集められた者達だと推測しています。
※使用アバターを、ヒースクリフとしての姿と茅場晶彦としての姿との二つに切り替える事が出来ます。
※エアシューズの効果により、一定時間空中を浮遊する事が可能になっています。
※ライダーの真名を看破しました。


【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:魔力消耗(小)
[サーヴァント]:ダメージ(小)      
[装備]:無し
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルに優勝する。
1:ヒースクリフを倒す。
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※バトルロワイアルを、ルールが変更された聖杯戦争だと判断しています。
 また、同じくバトルロワイアルは単なるゲームに過ぎないと思いこんでいます。
※宝具発動により魔力を徐々に消耗しています。
 展開持続時間は最大魔力時で5分程度になります。



【青薔薇の剣@ソードアート・オンライン】
アンダーワールドの洞窟で、キリトとユージオが見つけた剣。
青白い氷の様な刀身を持っており、鍔元には薔薇の装飾が施されている。
とある名のある剣士が使っていたとされる、アンダーワールド屈指の名剣。


【エアシューズ@ロックマンエグゼ3】
使用すると、穴の開いたパネルの上でも移動可能になるバトルチップ。
このロワにおいては、使用すると一定時間飛行能力が付与されるものとして扱われる。

388 ◆uYhrxvcJSE:2013/01/30(水) 02:28:11 ID:Fb3jVzLw0
以上、投下終了になります。

ゲームだからあの仕様だったけど、実際に使うとライダーの宝具はかなりのチートだと思う。

389名無しさん:2013/01/30(水) 07:44:46 ID:QfsEKT4sO

対処法としては船に乗り込むかな。

390名無しさん:2013/01/30(水) 12:19:19 ID:/9LzTPUQ0
投下乙です

流石はヒースクリフ、SAO最強のチートキャラだけのことはあるw
聖杯戦争の内容にライダーの真名まで、すぐ見破るとは……
戦闘でもライダー相手に互角となると、一部の規格外を除いて対主催のトップクラスになりそうだ。


しかし、ここでの宝具発動はかなり危険な気が。
C-4/湖のほとり サチ、オーヴァン
D-4/洞窟 ユウキ
D-4/森 ブルース、ボルドー
D-6/大聖堂 カイト、志乃
D-6/森 アドミラル
E-4/森 ダスク・テイカー
E-5/森 エンデュランス
E-6/森 ピンク

これだけのメンバーが寄ってくる危険性があるぞw

391名無しさん:2013/01/30(水) 12:23:01 ID:zYT6HysI0
ゲームの仕様上「黄金鹿と嵐の夜」はそのターンの勝敗数(攻撃防御成功回数)依存の宝具
防御能力が高いヒースクリフ相手には少し分が悪いかな

392名無しさん:2013/01/30(水) 12:40:10 ID:JwQzmkMsO
投下乙です。そんなタイミングからか、しかし盾のチョイスがw

>>390
やっぱりワカメは迂闊で残念かなって

393名無しさん:2013/01/30(水) 15:03:59 ID:.6Ofqnhc0
このロワはマーダーが全体的に強いな

394名無しさん:2013/01/30(水) 21:34:47 ID:PSMEfa7.0
投下乙です

死後の世界から参戦かあ
嫌な時期というか本人にとっては生き返りとも言えなくもないが嬉しくないぜ
乗っていないがアスナも来てると知ったら

確かにブルースは参戦時期次第で怖い事になっていたがとりあえずは乗らずか
だがもう一人の人はかなり不味いなあ
どうなるやら…

ワカメは相変わらずというか抜けてるというかw
やっぱりなあ…そしてはた迷惑すぎるぞw
ヒースクリフは、なるほど、そういう理由で乗らないのは助かったが状況はカオスになってきたぞ

395名無しさん:2013/01/30(水) 22:56:39 ID:PSMEfa7.0
G-8/アメリカエリア ネオ(トーマス・A・アンダーソン)
C-2 スケィス 遠坂凛
???/ウラインターネットの何処か シルバー・クロウ フォルテ
E−3/マク・アヌ シノン
F−2/マク・アヌ エージェント・スミス
A-2/日本エリア ハセヲ スカーレット・レイン
B-10/ウラインターネットエリア キリト レン フレイムマン
F-10/アメリカエリア ブラックローズ ブラック・ロータス ダン・ブラックモア
D-6/森 アドミラル
E-6/森 ピンク
F-8/アメリカエリア ありす ミア
F-9/アメリカエリア 岸波白野 ユイ 蒼炎のカイト
E-5/森 エンデュランス
E-4/森 ダスク・テイカ―
D-6/大聖堂 カイト 志乃
B-3/月海原学園・図書室 リーファ ラニ=Ⅷ
G-9/ショッピングモール入口 アスナ トリニティ
E-8/道路 揺光 クライン
G-1/アリーナ レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ
E-2/マク・アヌ ランルーくん アトリ
C-4/湖のほとり サチ オーヴァン
D-4/洞窟 ユウキ
D-4/山 ブルース ボルドー
D-4/上空 ヒースクリフ 間桐慎二

396 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:52:37 ID:jaA0fRxw0
投下します

397三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:53:08 ID:jaA0fRxw0
 ここに始まるは三者三様の参加者。
 この殺し合いに呼ばれはしたものの、全員が全員全く関係のないものから呼び出された者達だ。
 彼らがバトルロワイアルの場において、どう動くのか。ご覧頂こう。


 まずご覧頂くのは、一人の賢者の物語。
 The World内外の様々な情報に精通し、散逸した黄昏の碑文を知る呪紋使い。
 賢者の名はワイズマン。またの名を火野拓海。
 伝説のパーティ『.hackers』における参謀格の少年である。


  ◆


「おいら、グランティ! お前、ワイズマン! お前、このバトルロワイアルの参加者ブヒ?」

 どこかの建物の中。今入って来た壮年の男(無論PCの話であり、実際は少年なのだが)……ワイズマンの足元から、何かの声がする。
 下を見ると、二足歩行する小動物がいた。銀の短髪に黒いジャケットと赤マフラーを身に着けている。
 そういえばこんな髪型と服装のPCが最初の説明の場にいたような……。

「プチグソに似ているが、この殺し合いの場に用意されたNPCと言ったところか?」
「おいらはグランティ! グランティ族のデス★ランディだブヒ! プチグソなんかと一緒にするなブヒ!」

 プチグソと一緒にされて怒りをあらわにするグランティ。
 R:2の設定では、プチグソが知性を取り戻したのがグランティだから見間違えるのも無理はないが……。
 まあ、同種族でありながら知性が全く無いものと同類扱いは失礼だったかもしれない。

「ああ、すまないなデス★ランディ」
「まったく、鍵がかかってるのに何で@HOMEに入ってこれたんだブヒ?」

 勝手に入ったことにワイズマンが謝り、そのままメニューを確認する。
 しかし、本来@HOMEにはギルド関係者以外は入れないように鍵がかかっているはずだ。
 例えばこの@HOMEなら、ハセヲなどのギルド『カナード』のメンバー以外は入れない……はずだったのだが、全く無関係なワイズマンが平然と入って来れている。
 これは一体どういう事か?

「これは@HOMEと言うのか……鍵はかかっていなかったが、元は鍵があったのか?」
「あいつめ、何で鍵を外したブヒ」

 ……どうやらこの会場の@HOMEには鍵がないようだ。
 その事実を知ったデス★ランディが主催側への不満をぼやく。本来あった鍵を外されたのが不満だったらしい。

398三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:53:42 ID:jaA0fRxw0
(これは……何かのパーツか?)

 デス★ランディがぼやいている横で、ワイズマンが支給品のチェックを進める。
 まず最初に見つけたのは、何らかのパーツのようなもの。説明書を見ると、ナビカスタマイザー用のプログラムだという。
 名をサイトバッチ。数あるプログラムの中でも、参加者の一人であるロックマンにしか扱えないパーツだ。

(特定の参加者専用の支給品というのもあるのか……渡すかどうかは、実際に会ってから決めるべきだろうな)

 ワイズマンがサイトバッチの性能を見てため息をつく。どうやらこのプログラムを渡すかどうかを決めるのは後回しにしたようだ。
 一部を取ってみてもガード破壊や飛行、スーパーアーマー、シールド。一目見て分かる通り強力な追加機能のオンパレードだ。
 ロックマンが殺し合いに反発するのなら、これを渡せばきっと助けになる。
 ……逆にもし乗ってしまったのならば、その時はサイトバッチを破壊するまでだ。
 サイトバッチから視線を移し、隣にあった一振りの大剣を見るワイズマン。その顔には笑みが浮かんでいた。

「ふむ、懐かしいものが支給されたな」
「知ってるものブヒか?」
「ああ。この剣には少しばかり思い入れがある」

 何せこの剣は、ワイズマンがカイト達と協力するきっかけになった剣。
 黄昏事件に参加するきっかけとなった剣なのだから。
 クラスの都合上、本来装備できない剣『スパークブレイド』を出す。装備は出来ずとも、システム上は手に持って振るう程度なら可能だ。
 他の支給品は参加者全員に配られているルール掲載テキストと地図だけ。どうやらランダム支給品は打ち止めらしい。

「デス★ランディ、この建物がどの辺りにあるのか分かるか?」

 地図を取り出してデス★ランディにここがどこかを聞くワイズマン。
 ここに入る前の風景を考えると、おそらくファンタジーエリア南西のマク・アヌのどこかだろう。
 詳しい場所までは分からないが、NPCのデス★ランディなら分かるはずだ。

「教えてやらなくもないブヒが、人に頼み事をする時に必要な言葉があるブヒ?」
「ぐ……教えてくれ、頼む」
「そこまで頼まれちゃあしょうがないブヒね、この辺だブヒ!」

 ……さすがにワイズマンもイラッときたのだろうか?
 とにかく、デス★ランディから場所を聞くことはできた。
 地図のF-3、橋の近くを指しているから@HOMEはこの辺にあるようだ。
 ならばマク・アヌを探索してみようかと考えるが、ふとある事に気付く。

399三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:54:17 ID:jaA0fRxw0
(小屋か。ただの小屋が地図に書かれるとは思えんな)

 すぐ隣のF-4エリアに、小屋が書かれている。
 その事実にワイズマンがきな臭いものを感じ取った。
 この@HOMEですら地図に載っていなかったのだ。ならば地図に載っている小屋は重要な建物なのでは?
 幸いデス★ランディの言う通りならば、ここは橋のすぐ近くだ。ここを調べてみようか。
 そう考え、@HOMEを出るワイズマン。目的地はF-4の小屋だ

「生き残ってくるブヒよー!」

 デス★ランディの声援が、何故か心強く思えた。


【F-3/マク・アヌ カナードの@HOME/1日目・深夜】

【ワイズマン@.hack】
[ステータス]:健康
[装備]スパークブレイド@.hack
[アイテム]:基本支給品一式、サイトバッチ@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める
1:F-4の小屋に向かう。
2:仲間がいるのならば合流したい。
3:ロックマンが殺し合いに乗らないならサイトバッチを渡す。乗っていたらサイトバッチを破壊する。
[備考]
※原作終了後からの参加です。


  ◆


 続いてご覧頂くのは、一人の記者の物語。
 真実と正義を追求し、どれ程の逆境にいようと決して折れないジャーナリスト。
 記者の名はミーナ。またの名を武内ミーナ。
 野球チーム『デンノーズ』の一員にして、ツナミグループを追う者である。

400三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:54:42 ID:jaA0fRxw0
  ◆


 E-9からF-10まで、4つのエリアにまたがる野球場。ドームではないので天井は無く、上には夜空が見えている。
 その中のE-10側の出入口から、二頭身のアバターが出て来た。
 周囲を見渡すと、野球場の周りには近代的な都市の姿が。
 それを見てアバター……ミーナがため息をついた。

「ツナミネットにこんな街は無かったはずですが……」

 野球場内に戻りながら呟く。先程スタートした時点では自分以外に誰もいなかったので、現時点では外よりは安全だ。
 ここはツナミネットではないのだろうか。ミーナの脳裏にそんな考えがよぎる。
 最初は呪いのゲームことハッピースタジアムの時に使っていたアバターの姿になっていたから、ここはツナミネットなのだろうと思っていた。
 だが、彼女の知るツナミネットには野球場周辺にこんな街は無かったはずだし、知る限りではこんな仕様変更も無かったはずだ。
 それともジオット・セヴェルス新会長の意向でジャジメントに再改名した時にでも仕様変更したのだろうか?

(いえ、もし仕様変更があったのなら、レンさんからそういう話を聞くはずです)

 そんな考えを一蹴する。
 もし仕様変更でもあったのなら、事件終結後もゲーム仲間として交流のあるレン辺りが言うだろう。
 だが、それが無かったという事はおそらく仕様変更の類ではない。
 ならば考えられるのはただ一つ、この会場がツナミネットとは別の仮想世界という事だ。
 殺し合いの為に新しく作ったのか、それともどこかのオンラインゲームのものを流用したのかは知らないが、おそらくそれで間違いはない。

(それに、この体。どうやってツナミネットのアバターに元の体の意識を移したのか……)

 分からない事はまだある。
 先程から二頭身と言っていることからもわかるように、彼女の体は現実での武内ミーナの体ではない。
 そのくせ元の肉体のように体の感覚だけはちゃんと存在しているのだから訳が分からない。
 ……いや、たった一つだけそれを解決できるものがあった。

「……デウエス、でしょうか?」

 かつての呪いのゲームの仕掛け人であり、オカルトテクノロジーと呼ばれる正体不明のテクノロジーから生まれた怪物。
 あの時カオルの犠牲によって完全に消え去ったはずのあの化け物か、もしくはそれに近い何かがまだ存在するとでも言うのか。
 否定したい気持ちは勿論あるが、知る限りでこんな芸当ができる相手は他にいない。

401三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:55:12 ID:jaA0fRxw0
「だとしたら、相当厄介な相手ですね」

 何せかつてのデウエスは、ネットにさえ繋がっていれば。そうでなくても人工衛星で撮れる位置にいれば地球上のあらゆる相手を監視・排除できる存在だ。
 ましてや今回は仮想空間の中。あの化け物のホームグラウンドである以上、むしろ不可能な方がおかしい。
 かなりの難敵には間違いない……が、どうにもならない相手だとは思えない。
 かつてのデウエスだって、最期には倒されたのだ。ならば今回の敵だって倒せない道理は無いはずだ。

「見ていなさい、榊。私は私のやり方で、この殺し合いを破ってみせます」

 おそらくどこからか見ている榊に向け、宣戦布告を行う。
 ミーナの、ジャーナリストのやり方とは、すなわち情報の発信。
 会場中を駆け回り、殺し合いの打破に有用な情報を手に入れ、発信する。
 発信の手段は先程確認した支給品に入っていた拡声器を使えばいい。
 そうと決まれば、どこから調べようか。行き先を決める為に地図を出そうとしたミーナの視界の端に、何かがあった。

「な、何ですかあれは!?」

 距離があるせいでかなり小さく見えるが、人間が背中から羽を生やして空を飛んでいる。
 人間の背中に羽が生え、空を飛ぶというのはミーナは今まで一度も見た事がないのだ。驚愕の叫びを漏らしてもおかしくない。
 厳密に言えば、空を飛ぶ人間自体はダークスピアこと茨木和那の能力で見た事はあるが、背中に羽を生やして飛ぶ人間は見た事がない。
 普通の人間にはそんな芸当は不可能なはずだし、あの少女はそういう超能力があるとでも言うのだろうか?
 ……あ、頭ぶつけて降りてった。この会場には見えない天井があったのか。

(まさかこの殺し合いには、超能力者も呼ばれている?)

 思い返せば、最初の説明の時に自分のようなデフォルメされた姿の参加者は自分達ハッピースタジアムの参加者くらいしかいなかった。
 いや、むしろ普通の人間のような姿をした参加者の方が多かったくらいだ。中にはロボットのような参加者もいたが。
 ならば一部の参加者、最悪の場合参加者全員が仮想空間の外からオカルトテクノロジーでこの世界に引きずり込まれたのではないだろうか?
 今は亡きデウエスとの決戦の時も、元の肉体で試合をしたのだ。前例がある以上ありえない話ではあるまい。
 尤もその場合、なぜ自分達だけゲーム用アバターで呼ばれたのかという疑問は残るが。

(……危険な賭けですが、あの超能力者に会ってみましょう)

 彼女の知る限り、超能力者はジャジメントの人員かその敵しかいない。どちらもヒーローなどのごく一部を除いてかなりの危険人物だ。
 直接会うのはかなり危険だし、そのまま殺される可能性だって十二分にある。
 だが、もし危険人物ではない『ごく一部』に当てはまるのなら。そしてデンノーズの仲間のように協力できれば非常に心強い。リスクを冒す価値もまた十二分にあるのだ。
 F-10側の出口から野球場を出て、先程の少女のいた方向を確認。距離と方向を考えるとモールの方だろうか。
 早く行かないと離れてしまうかもしれない。そう考え、支給品からお守りを一つ取り出す。

「ええと、確か……アプドゥ!」

 そう唱え終えた直後、お守りが消失。ミーナの周囲に時計のようなエフェクトが泡のように浮かんでは消える。
 説明書曰く、そのお守りの名は快速のタリスマン。
 アプドゥと唱える事で使用され、使用すれば足が速くなるとあった。眉唾だったが、効果はあったようだ。
 野球場の外を見る前に行った支給品チェックで拡声器と一緒に見つけていたそれを使い、空を飛ぶ少女が移動する前に会おうとしているのだ。
 ……たった5つしかない消耗品をこうも早く使うのはどうかとも思ったが、どのみち失敗すれば死ぬのだ。問題は無い。

402三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:56:46 ID:jaA0fRxw0
「さて、それでは行きましょうか!」

 そう一言言うと、モールの方へと駆け出した。

【F-10/アメリカエリア 野球場前/1日目・深夜】

【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、アプドゥ
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、快速のタリスマン×4@.hack、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する
0:空を飛ぶ超能力者(アスナ)を探す。
1:殺し合いの打破に使える情報を集める。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。


  ◆


 最後にご覧頂くのは、一人の強者の物語。
 世界を蝕んだ化け物を討ち果たし、親友を助け、そして死んでいった者。
 強者の名はロックマン.exe。またの名を光彩斗。
 三度世界を救い、そして二度目の死を迎えたネットナビである。


  ◆


「どういう事なんだろう? ボクはプロトに取り込まれてデリートされたはずなのに」

 青いネットナビ、ロックマン.exeが辺りを見回しながら呟く。
 周囲はノイズとパネルに覆われた空間。様々な事件のせいで今や見慣れてしまったウラインターネットの風景があった。
 ……それこそが、ロックマンが今感じている『異常』だ。
 あのルール説明の場、そこに来る前の最後の記憶は初期型インターネット『プロト』との死闘。
 脱出の最中に最後の力を振り絞ったプロトに取り込まれ、最後の力でオペレーター兼親友兼実弟の熱斗を逃がし、そのままデリートを待つだけの状態だった。
 それ故に、ロックマンがウラインターネットにいるはずがない。消えずに存在している事など、ある訳がないのだ。
 もし可能性があるとすれば、光祐一郎やワイリーといった最上級の技術者に回収され、データを修復されたという可能性しか無い。

403三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:57:25 ID:jaA0fRxw0
(あの榊ってナビのオペレーターがボクを助けてくれたのかな?)

 そして、可能性があるとすれば榊のオペレーター。
 いや、榊はナビカスタマイザーでバグが出ているような外見だったから、仲間がいるのだろうか。

(……でも、こんな殺し合いなんか絶対許しちゃいけない)

 理由はともかく、デリート寸前の状態から助けてくれた事は感謝しよう。
 再び熱斗の元に帰る機会をくれた事には礼を言おう。
 ……だが、それだけだ。
 殺し合い? 馬鹿馬鹿しい。倒されたら死ぬ? ふざけるな。
 こんな方法で帰ったところで、どんな顔をして熱斗に会えばいいのか。
 光熱斗の親友としても、熱斗の双子の兄『光彩斗』としても。こんな殺し合いに乗るわけにはいかない。
 ……と考えていると、一つの疑問が浮かんだ。

「……って、あれ? 『真の死を意味する』ってどういう事なんだろう?」

 ネットナビならばオペレーターがバックアップデータを取っているはずだし、例えクラッキングしてバックアップデータを消していたとしても、そもそもネットナビが『死ぬ』などという表現は聞いた事がない。
 ならば、真の死とはどういう事なのだろう。まさかネットナビではなく人間が参加しているとでも言うのだろうか? ならばどうやって?
 考えるロックマンの頭に『どうやって』を解決できる物が浮かぶのに、そう時間はかからなかった。

「そうか、パルストランスミッションシステム!」

 パルストランスミッションシステム。それは、人間を電脳世界に送り込むシステム。
 かつて科学省で開発されたが、電脳世界でのダメージが現実の肉体にフィードバックされるという危険性があったために開発が中止された。
 だが、ワイリーがこのシステムを完成させていた。WWWの本拠地に、このシステムの現物が存在していたのをロックマンは知っている。
 ……それが意味する事は、この殺し合いの場に人間がいるという事実。
 パルストランスミッションシステムを量産し、ネットナビも人間も関係なく参加させているという事だ。

(なら、なおさらこの殺し合いを止めないと!)

 殺し合いを止める理由がまた一つできた。
 こんな所で戦って、もし考えた通り人間がいるとしたら何人死ぬか分かったものじゃない。
 ならば死人が出ないうちに一刻も早く殺し合いを止める。脱出できるとしても帰るのはそれからだ。
 そうと決まれば、まずは情報を得る必要がある。
 PETのものとは違う、慣れないメニューからファイルを開き地図を確認。さしずめ『バトルロワイアルの電脳』とでも言ったところか。
 見てみると、地図の右上にはウラインターネットの表記が。ネットワークに繋げるような失敗をするとも思えないし、ウラインターネットを模しただけのエリアなのだろう。
 そうしていると、地図の右上に気になるものを見つけた。

「ネットスラム……ボクの知ってるウラインターネットには、こんなものは無かったけど……」

404三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:57:49 ID:jaA0fRxw0
 A-10からB-10にかけて存在するネットスラムと呼ばれるエリア。
 少なくとも、ロックマンの知るウラインターネットには存在しなかったもの。
 もしかしたら、ここに行けばロックマンの知らない何かがあるかもしれない。メニューを一通り調べたら行ってみようか。
 そう考えてから、支給品の確認を続行。少なくとも今すぐ使うようなものは無い。
 ならば支給品以外の機能は何があるのか、調べてみると、気になるものを見つけた。

(【ロックマン】? この項目、もしかして熱斗くんのPETにあったのと同じ項目なのかな?)

 【設定】の中に【ロックマン】の項目がある。
 これがもし熱斗のPETにあったものと同じものなら、ロックマンにとっては大きな助けになるだろう。
 すぐに機能を試してみると、目の前に新たなウインドウが。熱斗のPET同様、スタイルチェンジとナビカスタマイザーの使用が可能なようだ。
 まずスタイルを見てみると、バブルマンの事件からずっと使い続けてきたスタイルがある。
 すぐにそのスタイルに切り替え、その直後にロックマンが青い忍者のような姿『アクアシャドースタイル』へと変化。

「うん、スタイルチェンジはちゃんとできるみたいだ」

 スタイルについては万全。なら次はナビカスタマイザーの状態を見よう。
 何かプログラムの一つでもあれば、スタイルチェンジ同様助けになるはずだ。
 そう考えてナビカスタマイザーの状態を見ようとした次の瞬間、ロックマンの目に火柱が映る。

「あれは!? まさか、フレイムマンか!」

 火の手が上がった方を見ると、大火事が起こっていた。
 始まってからの短時間でこれ程の炎を出せる相手には心当たりがある。
 かつて二度戦った敵、名はフレイムマン。あのナビの火力なら、これだけの火災を起こす事も難しくはあるまい。
 外見もかなり目立つので、最初の説明の時に姿を見ている。おそらくフレイムマンの仕業で間違いはないだろう。

「フレイムマンだとしたら、放っておいたらどんなひどい事になるか……急ごう!」

 それより、あんな炎を出すという事は近くに誰かがいるという事。
 誰かがフレイムマンの炎に焼かれ、消し炭にされる前に止めなければ。
 何せフレイムマンの並外れた火力と耐久力は実際に戦った自分がよく知っている。
 急いで止めなければいけない。そう考えたロックマンが炎の方へと駆け出した。

 ウラインターネットでの一度目の戦いは、フォルテの乱入で水入りとなった。
 WWWの本拠地での二度目の戦いは、死闘の末にフレイムマンを下した。
 そして……『バトルロワイアルの電脳』での三度目の戦いが、幕を開けようとしていた。

405三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:58:14 ID:jaA0fRxw0
【B-9/ウラインターネット/1日目・深夜】

【ロックマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、熱斗の所に帰る
1:炎の方に向かい、フレイムマンを止める。
2:落ち着いたらネットスラムに行く。
[備考]
※プロトに取り込まれた後からの参加です。
※アクアシャドースタイルです。
※ナビカスタマイザーの状態は後の書き手さんにお任せします。
※榊をネットナビだと思っています。また、榊のオペレーターかその仲間が光祐一郎並みの技術者だと考えています。
※この殺し合いにパルストランスミッションシステムが使われていると考えています。


  ◆


 いかがだっただろうか?
 The Worldの賢者は水の都に降り立ち、一匹のNPCと出会った。
 デンノーズの記者は野球場に現れ、記者のやり方で殺し合いの打破を望んだ。
 強きネットナビはインターネットの闇に蘇り、四度目の戦いに身を投じた。
 三者三様の出自ではあるが、それぞれがこの殺し合いを打破しての脱出を望む。
 果たして目的を果たせるか? それとも志半ばで斃れるか?
 それを知るには、今しばらくの時が要る。最後までお付き合い願いたい。


【全体備考】
※F-3 マク・アヌにカナードの@HOMEがあります。
※@HOMEにはデス☆ランディがいます。また、鍵が無くても出入りは可能です。

406三者三様 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 22:59:24 ID:jaA0fRxw0
【支給品解説】
【拡声器@現実】
またの名を死亡フラグ。広範囲に声を届ける道具。

【スパークブレイド@.hack】
ワイズマンが黄昏の碑文のことを教える情報料としてカイトに要求した両手剣。攻撃力24。
この一件をきっかけに、ワイズマンがカイト達に協力することになった。
ドレインライフとクリティカルの追加効果を持つ。使用可能スキルは以下の通り。
ライスマッシュ:雷属性の単体攻撃
ライドライブ:雷属性の単体攻撃
アプライオ:対象及び周囲の仲間の雷属性強化

【快速のタリスマン@.hack】
使用すると移動力が上がる魔法『アプドゥ』がかかる。使い捨て。
本ロワでは効果時間は30分となっている。

【サイトバッチ@ロックマンエグゼ3】
ロックマン専用のプログラム。3においてはナビカスタマイザー用プログラムとして存在している。
元々ロックマンは光彩斗のDNAと完全に一致するプログラム構造をした、言わば光彩斗の生まれ変わりである。
だが、オペレーターに与える危険性を危惧した光祐一郎の手によって0.001%だけ別のプログラムへと書き換えられた。
このプログラムはその0.001%の差異を埋め、プログラム構造を完全に光彩斗のものと一致させるためのプログラムである。
こうなったロックマンは性能が格段に跳ね上がる。具体的には以下の通り。
・バスター及びチャージショットにガード無効化が付加される。
・ダメージを受けてものけぞらない。
・バトル時の初期チップ+1。
・フォルダ内のメガチップ最大数+1。
・シールドを使用しての防御能力。
・マグマ・氷・砂パネルの影響無効化。
・常時エアシューズ+アンダーシャツ。
ただし、急激なパワーアップに体がついていけないせいか最大HP半減のバグが発生する。
劇中では何故かウラインターネットの奥深く、シークレットエリアのミステリーデータから入手可能。

407 ◆YHOZlJfLqE:2013/01/31(木) 23:01:59 ID:jaA0fRxw0
投下終了。本日のSSは

・ワイズマン「(#^ω^)ビキビキ」
・ミーナ、特大の死亡フラグをブチ立てる
・ウラインターネットの人口密度がヤバイ

の三本でしたw

408名無しさん:2013/02/01(金) 01:12:25 ID:q.efKgaw0
投下乙です

三人が三人とも対主催だが位置がバラバラだがそれぞれ危ういというかなんというか
位置的に同士がいるが危険人物のいるからなあ
原作終了や終わり間際にロワに放り込まれるとかもう…w

409名無しさん:2013/02/01(金) 01:14:35 ID:q.efKgaw0
G-8/アメリカエリア ネオ(トーマス・A・アンダーソン)
C-2 スケィス 遠坂凛
???/ウラインターネットの何処か シルバー・クロウ フォルテ
E−3/マク・アヌ シノン
F−2/マク・アヌ エージェント・スミス
A-2/日本エリア ハセヲ スカーレット・レイン
B-10/ウラインターネットエリア キリト レン フレイムマン
F-10/アメリカエリア ブラックローズ ブラック・ロータス ダン・ブラックモア
D-6/森 アドミラル
E-6/森 ピンク
F-8/アメリカエリア ありす ミア
F-9/アメリカエリア 岸波白野 ユイ 蒼炎のカイト
E-5/森 エンデュランス
E-4/森 ダスク・テイカ―
D-6/大聖堂 カイト 志乃
B-3/月海原学園・図書室 リーファ ラニ=Ⅷ
G-9/ショッピングモール入口 アスナ トリニティ
E-8/道路 揺光 クライン
G-1/アリーナ レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ
E-2/マク・アヌ ランルーくん アトリ
C-4/湖のほとり サチ オーヴァン
D-4/洞窟 ユウキ
D-4/山 ブルース ボルドー
D-4/上空 ヒースクリフ 間桐慎二
F-3/マク・アヌ カナードの@HOME ワイズマン
F-10/アメリカエリア ミーナ
B-9/ウラインターネット ロックマン

410名無しさん:2013/02/01(金) 01:17:30 ID:bMBOcsLs0
投下乙です
サイトバッチはゲーム的には結構使い辛かった印象がありますが、ロワ的には強力な武器になりそうですね
まぁHP半減はそれでも辛そうだけど
カナードの@ホームがあるならレイブンもありそうですねー、時代は違えどギルマスのワイズマンが気付けるか
ミーナは今までのパワポケ勢じゃ一番安定してるけど、拡声器は危険ががが

411名無しさん:2013/02/01(金) 01:27:18 ID:bMBOcsLs0
tp://www48.atpages.jp/chizu/
地図総合スレにあったツールにこのロワのを追加してみました
現在地も編集してあります

412名無しさん:2013/02/01(金) 02:55:06 ID:bMBOcsLs0
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0204.png
画像でも作ってみました

413名無しさん:2013/02/02(土) 00:13:18 ID:1ElOZIi20
ファンタジーエリアが混沌としてるなー
中心のワカメが色々やらかしたw

414 ◆7ediZa7/Ag:2013/02/02(土) 19:45:24 ID:u7DdUSLY0
投下します

415back into my world ◆7ediZa7/Ag:2013/02/02(土) 19:46:49 ID:u7DdUSLY0
入り組んだ道を大柄の黒人がゆっくりと足を進める。黒コートに身を包んだ彼は、周りの闇に溶け込むようであった。
幾何学的なパネルで構成された薄暗い迷宮。上空に広がるのも広がる空とは呼べない歪な空間。
そのいずれもこの世のものとは思えない。およそ現実離れした空間。
だが、彼はこの空間の存在にはさほど驚きも戸惑いも感じていなかった。

(マトリックスの中……それも通常の空間ではないな)

彼――モーフィアスは思考を巡らせる。
突如として拉致され、殺し合いを強制された。この突然の出来事をどう解釈すべきか。
先ずこの異常な空間はマトリックスである。そのことは恐らく疑いようがない。
現実――機械との戦争が日夜繰り広げられる世界――にこのような場があると思えない以上、それは明らかなことだ。
このような異常な空間も、マトリックス内でならばありうる。アーキテクトへの到る道の途中にあった延々とドアの続く空間のように、機械側が限定的にこのような空間を作り上げることは可能だろう。

では、あの榊という男は一体何者だ。
機械側のエージェントに類するものか、あるいはメロビンジアンの手のものか。または全く別のエグザイルか。
サカキ……音から判断するに日系人のようだが、その思惑は図れなかった。

(ネオ)

モーフィアスは仲間の――自分の信じる救世主のことを考えた。
ネオ。彼はマトリックスで目覚め、救世主として覚醒して以来、確かな活躍をしてきた。
オラクルの預言を信じるならば、彼は戦争を終結へと導く真の救世主である。
だが、今の彼は意識を失っている。
アーキテクトへと至った彼が、そこで何を見ているのかは知らない。が、現実での彼はマトリックス内での意識をロストし、眠り続けている。
その彼を救うべく、同じネブカドネザル号の仲間であるトリニティ、オラクルの側近であるセラフと共に行動をしていた。
が、その最中で彼はここに呼ばれた。これらのことは何か関係があるのだろうか。

不意に音した。
そして、白い幻影が躍り出た。

「……!」

突然の攻撃だったが、モーフィアスは落ち着いて対処する。長年マトリックス内で戦ってきた経験が身体に染みつき、もはや呼吸するかのように臨戦態勢に入る。
アイテム欄から既に確認していた武器を取り出し、構え、敵の初撃を受け止める。
甲高い金属音が響いた瞬間、モーフィアスは敵を見た。

416back into my world ◆7ediZa7/Ag:2013/02/02(土) 19:47:28 ID:u7DdUSLY0

「お前は」

白い髪、色白の肌、真っ白なスーツ。見覚えのある姿だった。
記憶を探り、敵がメロビンジアンの配下にいた者であることを思い出す。
この敵は倒した筈だ。となると、何らかの方法でプログラムを修復したか。

初撃に失敗した敵は一度下がり、再び武器――大鎌を構える。白ずくめの彼だったが、それだけは黒かった。
対するモーフィアスも袖から双剣を覗かせ、構える。
剣の名は『最後の裏切り』――あまり縁起のいい名前ではないが、剣自体は中々のものだということは分かっていた。

鎌と双剣が再び交差する。振るわれる鎌を時には避け、時には剣で受け止めることでモーフィアスは防御する。
ナイフの扱いはプログラムで脳にダウンロードしてある。それに自らの経験から独自アレンジを加えることでより巧みな扱いを可能にする。
一方、敵は少々戦いにくそうであった。原因は武器の種類だとモーフィアスは当たりを付ける。
何せ鎌だ。一般的とは言い難く、向こうとしても扱いづらいであろう。
その隙を突き、モーフィアスは敵に迫った。刃を潜り抜け、敵に対し刃を一閃。
避けられた。が。コートの生地が僅かに切れている。相当ギリギリのところだったようだ。

距離を取った敵に対し、モーフィアスは「Hey」と挑発ように呼びかけた。
敵は白い無表情を崩さなかったが、その裏に僅からながら苛立ちが隠れているのをモーフィアスは見抜いた。

今度はこちらから仕掛ける。
剣を構え、敵へ真直ぐに向かっていく。
が、その途中で足を止めた。背後に気配を感じたからだ。

白い拳が迫っていた。剣を交差し、それを受け止め、一先ず二人の敵から距離を取る。
もう一人の敵もまた白かった。コート、髪、肌、そのどれもが白く、先の男の瓜二つの容姿だ。
その隣に、鎌を構えた敵が幽鬼のように移動した。二人並んだその姿は全く同一のものであり、双子という言葉が似合う。

そう、この敵は確かにこのような性質を持っていた。それを知っていたが故にモーフィアスは回避に成功した。
メロビンジアンがどのような思惑を持って近くに置いていたかは知らないが、白い二対の暗殺者というのがこのエグザイルの特徴だった。

「…………」

沈黙がそこに流れる。剣を、鎌を、拳を、それぞれが構え、緊迫した空気が流れた。
勝てるか。モーフィアスは警戒を怠ることなく、冷静に思考を回す。
今の自分は一人だ。以前こいつらと戦った時は、キーメイカーを守る必要があった。しかし今は自由に動くことができる。
それはプラス要因だが、同時に今は味方も居ない。楽な状況とは思えなかった。

が、それは向こうも同じだったようだ。彼らはその身体を影のように薄めていき、その場を離れた。
逃げた。理由としてはモーフィアスの戦闘能力、そして面倒な武器か。何にせよ、ここは退くことを向こうは選んだのだ。
しばらくの間、周りを警戒し、更なる奇襲に備えたが、何もない。
敵の撤退を確認すると、モーフィアスは小さく息を吐いた。いきなり襲われるとは。ここは思った以上に、危険な場らしい。

「そうだな……」

今の交戦でこの場について、モーフィアスにはある仮説も思い浮かんでいた。
先ず、奴らのようなエグザイルが不慣れな武器に苦戦しているところを見るに、この場はメロビンジアンの一派によるものではない。
しかし、機械奴らをわざわざ修復するとも思えない。古くなり用済みとなったにも関わらずソースに還ることを拒否したプログラムがエグザイルだ。
そのような者を機械が修復するとも思えない。粛清の対象にしかならないだろう。
となると、この空間を形成しているのが機械らによる場とも思えない。

ならば、この空間はマトリックスの中でも機械たちも把握できていない部分か。
救世主のようなイレギュラー要素。それがこの空間だという説をモーフィアスは考えた。
無論、仮説に過ぎない。自分が機械の掌の上だという可能性もある。この点についてはまだ情報が足りないだろう。

そこまで考えて、モーフィアスは歩き出した。とにかく情報が足りない。この空間について知らねばならない。
時間がない以上、迅速に動くことが要求される。他の参加者との接触も図りたい。

417back into my world ◆7ediZa7/Ag:2013/02/02(土) 19:48:03 ID:u7DdUSLY0

同時に、ネオのことも考える。
自分の持つ仮説――この空間がマトリックスのイレギュラー部分であることが確かなら、この場にネオがいる可能性があった。
このようなイレギュラー空間に叩き込まれていたのなら、マトリックス内で意識がロストしていたことにも説明が付く。
オラクルが言うにはメロビンジアンの下にネオは囚われているとのことだったが、そのメロビンジアンの一派すら取り込まれているような状況だ。
ネオを捕えていたメロビンジアン本人もこの空間に取り込まれているのかもしれない。

何にせよ、時間がない。ウイルスのこともだが、ザイオンのことも気に掛かる。
人類最後の砦に、センチネルの総攻撃が迫っている最中、ネオは今や最後の希望と言ってもいい。
どうにかして見つけ出し、脱出しなくてはならない。人類の為にも。


【B-9/ウラインターネット/1日目・深夜】

【モーフィアス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式
[思考]
基本:この空間が何であるかを突き止める
1:(いるならば)ネオを探す
2:トリニティ、セラフを探す
3:ネオがいるのなら絶対に脱出させる
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションズ、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後

【ツインズ@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備A]:大鎌・棘裂@.hack//G.U.
[装備B]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
1:生き延びる為、他者を殺す
[備考]
※消滅後より参戦
※二人一組の存在であるが故に、遠く離れて別行動などはできません。

支給品解説
【最後の裏切り@.hack//】
クリア後に参入する楚良が装備している双剣。Lv99。プレイヤーは入手不可だったりする。
パッシブスキルはクリティカル(一定確率でダメージ二倍)
使用可能スキルは以下の通り。
魔双邪哭斬
炎舞紅蓮
雷神独楽

【大鎌・棘裂@.hack//G.U.】
Lv101の大鎌、タメタイプ。
ブレグ・エポナの店で買うことができる。

418 ◆7ediZa7/Ag:2013/02/02(土) 19:48:32 ID:u7DdUSLY0
短いですが投下終了です

419名無しさん:2013/02/02(土) 23:19:58 ID:y7nNJn.k0
投下乙
モーフィアスはネオがいると分かったら危険かもなー時期的にも、ネオトリニティモーフィアスは全員同じ時期といえるのかな?

420名無しさん:2013/02/03(日) 00:02:07 ID:Adpuv/gEO
投下乙。
二人のランダム支給品の状態がミスってるね。
このままだとモーフィアスは最後の裏切りだけになるし、
ツインズは大鎌支給されてるのに更に最低一個、最大三個支給されてることになる。

421 ◆7ediZa7/Ag:2013/02/03(日) 00:11:28 ID:JmD/n7Qc0
>>420
あ、本当だ、指摘ありがとうございます
収録時に直しておきます

422名無しさん:2013/02/03(日) 00:18:28 ID:TmU2LnC20
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0205.png
現在地です、ちょっと仕様変更

423名無しさん:2013/02/03(日) 01:56:25 ID:FecRm0tI0
投下乙です

424名無しさん:2013/02/04(月) 17:28:24 ID:loYLUabs0
>>422
ウラインターネットの人口密度がひでえw

425名無しさん:2013/02/04(月) 17:39:01 ID:RuDniUOY0
やっぱ危険なのはファンタジーエリアかな、マーダー比率がダンチ

426名無しさん:2013/02/04(月) 18:01:43 ID:V1hBeuug0
逆にアメリカエリアみたいに対主催が多いのもヤバい
協調路線が取れるかどうか不安
しかも一人だがステルスもいるぞ

427名無しさん:2013/02/04(月) 19:34:46 ID:TYMK7Slw0
そもそもアスナさんはキリトさんの後追い自殺するレベルのメンタルなんですがそれは…

428名無しさん:2013/02/04(月) 21:46:52 ID:CqoGoU.20
キリト死亡時にアスナがとりそうな行動。

1:やはり公言通りに後追い自殺。
2:娘のユイや一番の親友ユウキがいることから、思いとどまる。
3:ゲームに乗り、優勝狙い
4:ひとまずキリトを殺した相手を殺しにいく、ついでにいえば主催も広義での仇になるから、倒しにいく

意外とありえそうなのが4なんだよなぁ……
Web版の話になるけど、実は今の原作やアニメと違って、クラディールの一件があった時にクラディールを殺したのって、キリトじゃなくてアスナだったりするから。
更に、ある人物のせいで(勿論悪意はないけど)キリトが窮地に立たされた時に、「キリト君になにかあったら、殺すわよ」と胸ぐらつかんで脅したり……

429名無しさん:2013/02/04(月) 22:30:14 ID:Tn55HhaA0
完璧にこれはヤンデレフラグですね

430名無しさん:2013/02/04(月) 22:47:22 ID:.uFW7x420
ついでにリーファもヤンデレにしてあげよう(提案)

431名無しさん:2013/02/04(月) 22:52:12 ID:3JzjkVnU0
ヒロイン唯一の良心がシノンだけかよw

432名無しさん:2013/02/04(月) 23:15:23 ID:pdPfWPc2O
>>431
シノンさんなら仕方ない

433名無しさん:2013/02/04(月) 23:18:59 ID:w1WT0lioO
サチは・・・いやなんでもない

434名無しさん:2013/02/05(火) 07:31:12 ID:.o1CT5iI0
サチは同行者が……

435名無しさん:2013/02/05(火) 08:33:59 ID:nj1OpcSM0
実際クラディールがキリト殺害に成功してたら、アスナさんクラディールのことかなり惨たらしい方法で殺すだろ

436名無しさん:2013/02/05(火) 11:59:58 ID:Yf6hqEDYO
逆にアスナ死亡時にキリトさんはどんな行動するだろう

437名無しさん:2013/02/05(火) 12:05:14 ID:H6M3tc9Y0
ひとしきり泣いて気持ちの整理つけて切り替えるか
サチ死亡後みたく「……殺すか?」と切れたナイフと化す

438名無しさん:2013/02/05(火) 12:26:13 ID:t23jxxY2O
仇を討つのは大前提として、その後は無気力になるかPKKなジェノサイドマシーンと化すか…

439名無しさん:2013/02/05(火) 13:05:00 ID:XTUPkuR20
ろくな連中が居ないんだよなあ

440名無しさん:2013/02/05(火) 13:25:27 ID:RLdRLxG20
ヒースクリフ、クライン、シノン。
この三人がSAOの良心だな。
ユイとリーファは、キリトかアスナになにかあったらきついだろうし……
シノンもショックは受けるだろうけど、何故かアスナやリーファと違って立ち直るイメージがあるし。

441名無しさん:2013/02/05(火) 13:52:06 ID:Yf6hqEDYO
SAO世界における元凶が良心っていうのも変な気がするがなw

442名無しさん:2013/02/05(火) 14:19:51 ID:S8KfJgHs0
ヒースクリフやクラインは社会人だしまだ分かるが
シノンさんのメンタルの強さはなんなんだw

443名無しさん:2013/02/05(火) 14:43:03 ID:wDMYi68.0
すまぬ、ユウキも良心にカウントしてくだされ。
SAOの中じゃ、一番の良い子だったよこの子。
何気に、実力もヒースクリフに並んでSAO組最強クラスだし。
二刀流を使わなかったとはいえ、キリトを二度も負かしたからね……

……案外、アスナはユイとユウキの存在があるからぎりぎり引きとどまるかもしれないか。
7巻を改めて読んでみると、そう思わずにはいられない……

444名無しさん:2013/02/05(火) 15:01:39 ID:CmMxtxj2O
>>442
リアルで実際に人死にを経験したかの差?

445 ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:09:51 ID:e7MFAQSg0
投下します

446Sword or Death―選択― ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:11:01 ID:e7MFAQSg0
夜空の下、レオはアリーナの外周を歩いていた。自分の初期位置であるエリアを調査していたのだ。
エリアの中心には近未来的な造りのドームが据えられ、それを照らし出すライトがところどころに据えられている。
ドームから少し離れたところには球状のゲートが置かれており、そこから別のエリアへと転送できるようだ。
それらを逐一調べ、得たデータを頭の中で纏めていく。

「どうやらここは他のエリアとは少々違う作りみたいですね」
マップと現在集めた情報を照らし合わせながらレオは言った。
アリーナと呼ばれるこのエリアは他のものと比べ格段に狭く、その性質もまた特殊なようだ。
先ずエリア全体が交戦禁止エリアとなっていること。この場に籠っていれば、実質他者に襲われることは心配はない。
最もウイルス発動――24時間の時間制限がある以上、そのような作戦は下策と言わざるを得ないだろうが。
更に言うならば、交戦禁止が何時解除されるかは分からない。ここに籠るような参加者が増えれば、すぐに解除されてしまう可能性がある。

「そしてこのエリアで最も目を引くのが」
言って、レオはエリア中心に鎮座するドームへと注視した。
アリーナ。エリア名にもなっているその建物こそ、このエリアの設置意義なのだろう。

「行きましょうか、ガウェイン」
『はい』
レオの言葉に、霊体化状態のガウェインが応じた。
その答えに迷いはなく、レオもまた泰然とした態度を崩さないままアリーナへ続く階段を上っていった。
電子掲示板が煌びやかに掲げられた受付カウンターへと近づき、そこに居た女性に落ち着いた口調で話掛けた。

「すいません。ここがアリーナの受付ですね?」
「ようこそ、アリーナエリアへ。ここでは様々なルールが設定された戦闘に参加することができます」
機械的な対応から、この人物はNPCであるとレオは当たりを付ける。
聖杯戦争にも進行役の神父を始め、図書委員や購買部店員など様々なNPCが居た。彼女もその類なのだろう。

447Sword or Death―選択― ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:11:42 ID:e7MFAQSg0

「どのような戦闘があるのですか?」
「そうですね。以下の通りです。うち登録可能なのは三つです」

『サヴァイブバトル』:ランダムで選ばれるチームと連戦します。最大三人で参加できます。
『リミットバトル』:対戦チームを選んで戦います。最大三人で参加できます。
『デュエル』:時間制限付きの一対一の戦闘です。対戦相手として他のプレイヤーを選べます。
『???』:???

ウィンドウに示された四つの項目を確認し、レオは「ふむ」と声を漏らした。
口元に手をやり、思考を巡らせる。

「尋ねたいのですが、この戦闘に勝った場合、何が得られるのですか?」
「はい。このアリーナでの戦闘では、褒賞としてレアなアイテム、またはポイントを得ることができます」
「ポイント?」
「ええ、バトルロワイアル内で様々な用途で使うことのできるポイントです」
説明はそれだけだった。
ポイント。話を聞くに、疑似通貨のようなものらしいが、この場で使えるような場所はどこだろうか。
そう考えていると、マップ内に複数表示された項目が思い起こされた。

(ショップ……あそこが一番怪しいですね? 確認してみる必要がありそうだ)

レオは受付に向き直り、

「では、次の質問です。このデュエルというモードでは他のプレイヤーが選べるとありますが、どの範囲までですか? 無制限ではありませんよね?」
デュエル。これは上二つのモードとは多少異質だった。説明からしてこれだけは恐らく対人戦――それもこのバトルロワイアル内での他参加者を相手取ることになる。
だが、全ての参加者を選べるという訳ではないだろう。それではバトルロワイアル形式の意味が薄れる。

「はい。『デュエル』で選べる対戦相手は、このアリーナエリア内に居るプレイヤーに限定されます。
 また、この『デュエル』は相互の了解が必要ありません。一方的な申込みで戦闘が開始されます」
成程、とレオは内心で呟く。
ここに籠っていれば安全という訳ではないようだ。いきなり戦闘を申し込まれる可能性が常にある以上、安全地帯としては全く機能しないのだろう。
それを知らないでこの場に籠れば、後々狩られる運命にある。

レオはウィンドウの最後、『???』という項目に触れてみた。
これは全く意味不明の部分だった。ブーという音がして、選択できません、という文言が表示された。

「それは現在解禁されていないモードです」
「解禁条件は何でしょう?」
「…………」
答えはなかった。
そういった部分は伏せられる。正真正銘のシークレットモードという訳か。
考える解禁条件としては、時間経過による解禁、人数減少に伴う解禁、何かしらのアイテムを入手した結果による解禁、そんなところか。
何にせよ、このモードが榊によって用意されているのなら、どうせロクなものではないのだろう。

レオはそこで息を吐く。
そしてもう一度だけ尋ねてみることにした。

「最後に一つ聞きます」
「はい。なんですか?」
「このアリーナでの戦闘。ここで敗北するとどうなりますか?」
その問いに、受付の女性は、やはり機械的に答えた。

「はい。ここでの敗北はバトルロワイアルでの敗退と同義
 ――即ち死を意味します」

448Sword or Death―選択― ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:12:17 ID:e7MFAQSg0












「良かったのですか?」
霊体化を解除したガウェインがそう尋ねてきた。
それに対し、レオは「ええ」と落ち着いた口調で返す。

「僕はこの程度のリスクも背負えない人間ではありませんよ」
彼は今待合室、と呼ばれる部屋に居た。
アリーナでの戦闘登録――サヴァイブバトルというモードに登録し、そしてこの場に転送された。
ポイント、というものを調べておく必要を感じた上、アリーナエリアの実態を掴んでおきたい。
そう思ったからこその選択だった。
死というリスクも彼にしてみればさして気にもならない。

それは自暴自棄な感情から来るものでは決してない。
元より聖杯戦争という死と隣り合わせの場でさえも彼はその態度を崩さなかった。
彼が彼である所以、王としての天性の気質。
そこに死の恐怖などが入り込む隙などありはしない。

(しかし、それ故に僕は敗北したのです)
聖杯戦争決勝戦。岸波白野との戦いにおいて、彼は敗れ、この場に来た。
王として完璧過ぎたが故、自分は敗北というものを想定できなかった。それを感じる機能を持たなかった。
脱落、敗北、死。その恐怖を持つことがなかった自分と、
弱者故にそれを克服し新たな意思を持つに至った彼との差を、レオは痛感し、同時に悔しさを覚えた。
この成長を、進化を、真に生かす機会を永遠に失ったことに。

(そういう意味では感謝していますよ。この場を与えてくれたことには)
だが、その事実は同時に彼の、そしてSE.RA.PHで戦った全ての人間たちの覚悟を踏みにじることと同義なのだ。
故にレオはこの殺し合いの破壊を望んだ。
その瞳に迷いはない。敗北を見据えた上で、真なる王としての力を振るう。それがレオの選択だった。

「……時間ですね。行きましょう、ガウェイン」
「ええ」
待合室に備えられた掲示板の情報を読み取り、彼らはゲートへと足を進めた。
ここからは先は戦闘。そう思うと、聖杯戦争においてのエレベーターの中の感覚が蘇ってくる。
決戦へ向けて与えられた僅かな猶予。その感覚を、敗北を知ったレオはまた別の心持で受け止めることができた。

ちら、とレオは己の隣に寄りそうサーヴァントを見た。
敗北し永遠の別れとなった筈の彼がここに再び現れ、また共に戦ってくれる。
その威風堂々とした姿は、レオには以前よりずっと頼もしく感じられた。

そして、彼らは一歩踏み出した。



『さぁ始まりました。サヴァイブバトル! 選手の入場です!』

転送されたその場には大歓声が待っていた。
疑似的なものであるであろうそれに、NPCの煽りが喧しく付けられる。

『ランクが低い? 新進気鋭と言ってくれ。颯爽と入場!』

「聖杯戦争と比べると、随分と賑やかですね」
その光景を眺めながら、レオは言った。
アリーナの内部は外円に作られた観客席と、その中心に作られた円状のフィールドに別れていた。
それを上から見下ろせる位置に二つの塔があり、レオとガウェインはその一方に転送されている。
その作りはさながら古代ギリシアのコロッセオといったところか。

「おや、敵が現れるみたいですよ」

もう一方の塔に変化が見えた。
光が現れ、転送の前兆が起こった。

449Sword or Death―選択― ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:13:14 ID:e7MFAQSg0

『卑怯? 最高の褒め言葉だ! 気分は辻斬りパラダイス! 今、入場!』

そんな煽り文句と共に現れたのは二人の男女だった。
マゼンタの特徴的な帽子を被った少女と、銀髪で目元を隠した男性だ。
表示されたチーム名は『初心者大好き』構成員は『アスタ』と『Iyoten』

「彼らが初戦の相手。ガウェイン、行きますよ」
「はっ」
その言葉と共に、二人は中央のフィールドへと転送された。
決戦の場に辿り着き、同様に送られてきた対戦相手と直に向き合う。

「ほほう。お主が拙らの相手で御座るか」
少女の方が特徴的な口調で話しかけてきた。
喋ると言っても彼女もまたNPCに過ぎないのだろう。口調を模しただけの人形だ。

「へっ、コイツら、アリーナ初戦みたいだな。さっくり狩らせてもらおうぜぇ」
男の方がこちらを小馬鹿にするように吐き捨てた。
そして、何処からか剣を抜く。

「行くぜ、アスタ」
「合点招致」
彼は各々の武器を構え、レオを見た。
その視線は獲物を見る獣を思わせた。元となった人間が居るとすれば、彼らはきっと弱者をいたぶることに嗜虐的な快感を得る質だったのだろう。
それらの視線を受け止め、レオは泰然自若とした態度を崩さず、冷静にガウェインに命じた。

「ガウェイン――やりなさい」













勝負は一瞬。
元より自力で勝るガウェイン、そしてその装備も万端。
更にレオのまたこれまで以上に強く、そして柔軟な指揮を執ることができた。
その結果、レオの前に二人の男女が横たわることとなった。

「くそっ」
「お主……こんなに強かったで御座るか」
その言葉を最後に彼らの身体の色が失われ、消えていった。
一方のガウェインは傷一つ付いていない。
勝利。それも完璧な勝利だといえるだろう。

450Sword or Death―選択― ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:13:52 ID:e7MFAQSg0

「ふふ、今の僕なら分かります。これを嬉しい、と思う感情の機微が」
レオは微笑みを浮かべて言った。
かつての自分なら何も感じなかったであろう。勝利を当たり前のものとしか思えなかった自分にとって、戦いなど儀礼的なものに過ぎなかった。
だが、今は違う。敗北を知り、約束された勝利の王でなくなった今、勝利の達成感というものを確かに感じ取ることができた。

「よくやりましたガウェイン」
レオの労いに、ガウェインは恭しく頭を垂れた。
それを見たレオは内心、感謝の意を捧げる。この騎士は、本物の忠誠を自分に誓い続けている。自分もそれに応えなければならない。

不意に、レオの前に新たなウィンドウが現れた。
サヴァイブバトルのルールに則り、戦いを続けるか否かを問う画面だ。
当然のことながら、勝ち抜けた回数が多ければ多いほど得られるポイントは増える。
レオは迷わず戦うことを選択した。恐れを忘れた訳ではない。それをその心中に抱えた上での行動だった。

「続けますよガウェイン」
「はっ」
次に現れたのはロボットのような外観のものだった。
先ほどの相手と違った趣を感じさせるそれは、身体中から電気を放つことで攻撃してきた。
どうやらこのアリーナで現れる敵は、思った以上に多種多様なようだ。
が、それも難なく下す。
多種多様というならば、ムーンセルの聖杯戦争だって負けてはいなかった。
あらゆる種類の英霊を相手取り、難なく対応してきたレオとガウェインにとって、それは不利な要素とはならない。

その調子で二戦三戦と続けていく。
マッチングされる相手も様々に変化し、時には人型でないモンスターも現れた。
その多様に困惑するどころか、寧ろ楽しむ素振りさえ見せながら、レオは戦っていく。
そうして9戦目まで達したところで、レオはガウェインに語り掛けた。

「この次、10戦目を終えたら一度止めましょう」
「私のことならば問題ありませんよ。この程度の戦い、消耗の内にも入りません」
その返しを頼もしく思いつつ、レオは「いいえ」と返した。

「貴方でなく、僕の方ですね。どうやらこの場での戦闘はSE.RA.PHよりもずっと多くマスターに負荷を掛けるようです」
言いながらも、レオは涼しい顔をしている。
彼自身の魔力もまた並の魔術師とは一線を画している。継戦能力に不安があるということはないだろう。
最も、宝具を使うような場面に追い込まれれば、その限りではないだろうが。

「では、行きますよ。これが一先ず最後の戦いです」
その言ってウィンドウを操作し、レオは戦闘継続の意を示した。
すると、新たに対戦相手がマッチングされ、転送される。

そして、光の中から現れたのは――

「あれは……」
レオの口から声が漏れた。
黒のコートに、色の白い肌、そしてその横に伴う若者のサーヴァント。
その姿をレオは知っていた。彼がどのような想いを抱え、そして死んでいったかも。
現れた相手の名はユリウス・ベルキスク・ハーウェイ。レオの異母兄であり、歪んだ運命に翻弄された人間であった。







451Sword or Death―選択― ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:14:32 ID:e7MFAQSg0

ユリウスとレオを結ぶ関係は、兄弟というには少し冷た過ぎた。
ハーウェイの後継者として、傷一つない完璧な存在として生きてきたレオと
ハーウェイの暗部を任され、失敗作の烙印を押され僅かに残った大切なものさえ奪われたユリウス。
 
彼らの間に別段憎しみの感情があったという訳ではない。
レオは後継者となりえなかった兄のことを見下すことも軽蔑することもなく、配下として受け入れ
ユリウスもまたレオに従うことを拒否せず己の役割を迅速にこなしていた、
その間に軋轢はなく、不穏な波風が立つこともなかった。会話も穏やかなものだ。
だが、やはり兄弟だとは思っていなかっただろう。本人たちも、周りの人間も。
例外があるとすれば、ただ一人。レオを生んだ女性、アリシアだ。
失敗作と見捨てられたユリウスの名を呼び、屈託のない愛を注いでいた、彼のもう一人の母。
彼女との間に架かるつながりこそ、ユリウスが唯一執着することができた関係であり、彼がその胸に想い続けた何かだ。
だが、彼女も死んだ。あっけなく。

それをどんな気持ちでユリウスが受け止めたか、レオは知っている。
知った上で、それを受け止め、彼を理解していた。
それが二人の関係。親愛も、憎悪も、執着もない、単純な関係。

「……今の僕ならば、貴方とまた違う関係でいられたかもしれませんね」
レオはぽつりと漏らす。
相対するユリウスの装いはSE.RA.PHでの物と酷似していた。
が、その細部は彼の記憶と違っている。
整えられてたコートが乱れ、ところどころデータ破損の様子が見られた。
隣に立つサーヴァントは更に変貌している。
常に静かな殺気と不敵な笑みを浮かべる青年だった筈の彼は、狂気に歪んだ笑みを浮かべ、ノイズ混じりの呻き声を上げている。
その真名は李書文。20世紀の中国を生きた武人であり、聖杯戦争でのクラスはアサシン。
その筈だった彼だが、今の鬼のような姿はバーサーカーのクラスが似つかわしい。

塔の上に現れた彼らが、再び光に包まれ、レオの待つフィールドへと送り込まれた。
近くで相対し、記憶よりも痩せ細った形相をレオへと向ける。

「さぁ終わらせてくれ」
ユリウスが発した言葉はそれだけだった。
彼とて、別に意識がある訳ではないのだろう。
このアリーナの相手として用意された、オリジナルのデータを模しただけのデッドコピーに過ぎない。
だから、レオのことを認識できる訳もなく、ただマリオネットのように示された動きをするだけだ。

「ですが、僕としては、貴方はそれだけの存在ではありませんね」
ユリウスの姿を見据え、レオは言った。
ただの人形と切り捨てる訳にはいかない。
彼という存在を再考し、自分の中で一つの答えを導き出さねばならない。

452Sword or Death―選択― ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:16:02 ID:e7MFAQSg0

「ガウェイン」
「はっ」
「行きましょう。全力で、対等な立場の相手として」
レオの言葉は効いたガウェインは、笑みを浮かべ、快活に承諾の意を示した。
構えられる剣。ユリウスらもまた、それに応じ臨戦態勢を取る。
Sword or Death “With what in your hand? Flame dancing, Earth splitting, Ocean withering...”
聖杯戦争で決戦に際し表示される文言をその胸に浮かべ、レオは己の白き剣を抜いた。
それを合図として、ガウェインが駆ける。李書文がそれを遮る。拳と剣が交差し、激しい攻防が始まった。

「ユリウス」
サーヴァントが激闘を繰り広げるのを余所に、レオは兄の幻影へと声を掛けた。
ユリウスの視線が揺れる。その瞳に映るのは、先ほどと何ら変わらない虚無だけだ。
恐らくそこには何も映ってはいまい。レオも、己の姿さえ。
だが、レオは違った。その瞳に映る己の姿を垣間見た。

「…………」
ユリウスは無言のまま、レオを見返した。
そして動き、何かを展開しようとする。コードキャストか。
魔術師として彼が、マスターであるレオを狙おうというのだろう。

「貴方に必要なものは、仕打ちへの謝罪でも、忠誠への労いでもありませんね」
レオは言う。そして、駆けた。
剣を構え、ユリウスに対し、迷うことなく走る。
そして、コードキャストが放たれるより速く、レオはその剣をユリウスの胸に突き刺した。
ユリウスの喉から、か細いうめき声が漏れた。

「貴方が死を迎えたのは必然でもなければ、当然でもありません。
 ――僕が貴方を殺したのです」
剣を握りしめたまま、レオは告げた。
自らの意志を、臆することなく威風堂々と、彼はユリウスに示したのだ。

ユリウスの身体が力なく倒れる。
同時にガウェインが書文を下してた。
そして、その場に立っている人間は二人だけとなった。レオとガウェイン。彼らの勝利だった。
レオはそれを決して当たり前のことだと思わない。因果応報の結末だとも思わない。
自分が『選択』した結果だ。そう思うことができた。

「さようなら、ユリウス」
血の付いた剣を引き抜き、レオは最後にそう告げた。
ユリウスの身体が薄くなり、消えていく。
元より死んでいた彼は、その顔に最後まで笑みも憎しみも浮かべないまま、こうして再びデータの海へと沈んでいった。








453Sword or Death―選択― ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:16:36 ID:e7MFAQSg0


連戦を終えたレオは、提示されたウィンドウに戦闘終了の意を示し、アリーナから出た。
褒賞はアイテムかポイントかを選べるようだった。今のところは装備に問題はなかったので、当初の予定通りポイントを選ぶ。
すると、528ポイント支給の旨が伝えられ、ステータス画面を確認すると確かにそう表示されていた。
半端な数字を見るに、対戦相手の強さに応じて入手ポイントが変るらしい。恐らくアリーナの参加回数なども影響している。

「さて」
一通り確認を終えたレオは、先ずそう切り出した。
その隣でガウェインが静かに佇んでいる。

「これからの行動ですが、幾つか選択肢がありますね」
アリーナでの調査はこれで一段落しただろう。
ならば、他のエリアに赴くべきだが、どこに向かうべきだろうか。
マップを開いて確認すると、このエリアから直接行けるエリアは二つ。
一つは日本エリア。ここで目を引くのは月海原学園だ。聖杯戦争の舞台となった場所。知っている通りの作りならば、干渉できる部分も多いだろう。
もう一つはファンタジーエリア。全体で最も広いエリアであり、中央に存在することからも人が集まる可能性が高い。
月海原学園に向かうとしても、ファンタジーエリアを経由していくというのも悪くない。

レオはガウェインを一瞥した。
すると、彼は微笑みを浮かべたまま、鷹揚に頷いた。
どんな選択にせよ、レオに付いていく。そんな意志を、無言のうちに示していた。

「そうですね……僕は――」
エリアの中心に存在するゲートへと視線を戻し、レオは自らの選択を告げた。


【G-1/アリーナ/一日目・黎明】
※エリアの外観はG.U.の闘争都市ルミナ・クロスですが、他にも施設が存在するかもしれません。

【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:消耗(中)、令呪:三画 、528ポイント
[装備]:ダークリパルサー@ソードアート・オンライン、
[アイテム]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを潰す。
1:他エリアへ向かう。
2:バトルロワイアルを潰す為の同志を探す。
3:2のついでに、ダークリパルサーの持ち主を探す。
4:もう一度岸波白野に会ってみたい。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP150%、健康
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。


【アリーナについて】
エリア自体が交戦禁止エリアとなっており、他参加者へ攻撃しても当たりません。
代わりにエリアの受付で選手登録を行うことで、戦闘を行うことができます。
設定されたモードは以下の通り。

『サヴァイブバトル』:ランダムで選ばれるチームと連戦します。最大三人で参加できます。
『リミットバトル』:対戦チームを選んで戦います。最大三人で参加できます。
『デュエル』:時間制限付きの一対一の戦闘です。対戦相手として他のプレイヤーを選べます。
『???』:???(現在未解禁、解禁条件不明)

『デュエル』での戦闘申込みは一方的に可能です。拒否することができません。
戦闘に勝利することでポイント、またはアイテムを得ることができます。
またアリーナでの負けると、参加者は死亡します。


【ポイントについて】
バトルロワイアル内で使われる疑似通貨。
具体的に何に使えるかは不明。

454 ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/05(火) 21:16:59 ID:e7MFAQSg0
投下終了です

455名無しさん:2013/02/06(水) 16:38:20 ID:vpP6ckmk0
投下乙です

アリーナの役割、数種類の対戦方法、疑似通貨、NPC(顔見知り含む)
そしてそこからレオとユリウスに繋げるとは上手い
レオは色々と変わったなあ
さて、彼の行動次第でファンタジーエリアの非マーダーが救われるかもしれないが…

456名無しさん:2013/02/06(水) 22:56:40 ID:8bN2b/Tw0
>>凍てついた空は時には鏡で
もうやだこの主従……原作でもそうだが、なんとかと紙一重だよなぁ
アトリも開眼後とはいえ、今の状況の上、こいつら相手だとそりゃ動揺もするわ
ウズキさん乙

>>冷たい鳥籠
オーヴァンさんカリスマすぎる件。そしてやっぱり持ってたAIDAの種子www
どういう立ち位置にもいれそうなキャラなだけに、今後が見逃せない
サチ……先にご愁傷様と言っておく

>>輝ける森
ALO最強のボクっ子キターーー!
時期が時期だけに、彼女の存在自体が現在どういうものなのか……

>>ハートレス・レッド
ボルドーの予約が入った時点で予想はしてたけど、感染状態か
どれだけ戦火が広がるやら
ブルース達ネットナビって、オペレーターがいない状況だと色々大変そうだね

>>最強の矛、最強の盾
ワカメ最初からクライマックスだな、おい!
そして真っ向からライダーと打ち合える茅場さんパネェ
ライダーの宝具相手にどこまでやれるやら

誤字かな?と思ったのが一点ありました
>―――余談だが、この剣がそう遠くない未来において、あのキリトの運命を左右するキーパーソンになるとは、この時の彼には知る由もなかった……
「キーパーソン」ではなく「キーアイテム」が正しいかと思います

>>三者三様
流石のワイズマンもこれにはイラッとくるだろw
G.U.時代のアバターは使えるのか否か……
ミーナが見つけたのはアスナかな?
ロックマンの方はキリト達との合流フラグか

>>back into my world
モーフィアスは早速同郷の敵と相対か
ツインズさん、慣れない武器は振るうものじゃない、特に鎌とかw
脱字っぽいのありました
>しかし、機械奴らをわざわざ修復するとも思えない。
「機械が奴らを」でしょうか

>Sword or Death―選択―
レオ・ガウェイン主従、黎明へと一抜け
そしてアリーナ戦……切ないなぁ。まさかユリウスとは
原作後からの参戦なだけに、時間・話が進むたびにメンタルが突き抜けていく感じがするなぁ
誤字ありましたので指摘です
>>レオの言葉は効いたガウェインは、笑みを浮かべ、快活に承諾の意を示した。
「レオの言葉を聞いた」かな?

457名無しさん:2013/02/06(水) 23:07:08 ID:8bN2b/Tw0
忘れてた。皆さん投下乙でした!

458 ◆uYhrxvcJSE:2013/02/07(木) 02:43:48 ID:C4DzvZ3Y0
「最強の矛、最強の盾」の状態表ですが、D-4となっていますが正しくはD-5になります。
議論スレにて許可がもらえましたのでwikiの方を修正させていただきました、申し訳ございませんでした。

>>456
誤字指摘、ありがとうございます。
wikiの方はキーアイテムで修正しております。

……ただ、ネタバレになるのであまり詳しくは言えませんが、強ちキーパーソンって言葉も間違ってはいなかったりしてます。
web版を見た方なら、意味が分かっているかもしれませんね。

459名無しさん:2013/02/10(日) 11:51:16 ID:YQf2I2Mw0
予約キテルー
遠坂の災難は尚も続くか
クラインはキリトさんと入れ違いぽいなー

460名無しさん:2013/02/10(日) 15:08:51 ID:iq390h0g0
これ、凛の逃げる方向次第だと、宝具展開中のライダー達がいるあたりにスケィスもくるのか……

ファンタジーエリア、本当に初っぱなから地獄だ

461名無しさん:2013/02/10(日) 19:23:12 ID:BDMuG8VA0
スケィスはプロテクトブレイク中だからまだなんとかなりそう

462 ◆YHOZlJfLqE:2013/02/10(日) 23:10:09 ID:Lwe/QNEM0
投下します

463逃げるげるげる! ◆YHOZlJfLqE:2013/02/10(日) 23:10:34 ID:Lwe/QNEM0
 逃げる。
 ランサーをほとんど完封同前に葬った化け物から逃げる。
 逃げるはアウラのセグメントを持つ魔術師の少女、遠坂凛。
 対して追うはモルガナの生み出した禍々しき波の一相、スケィス。

「ったく、しつこいわね!」

 悪態をつきながらも逃げる凛。後方からはスケィスがかなりのスピードで接近してくる。
 ランサーが足止めをしていたからまだ距離があるとはいえ、このままではいつ追いつかれても不思議ではない。
 彼女が目指している逃げ場は日本エリア。確か地図では近くにあった。
 地図を見る限りでは学校が二軒にショップが一つ。おそらく日本の町のような場所なのだろう。
 それならば、今いるような何もない平原よりはまだ逃げやすいはずだ。

「このっ!」

 追ってくるスケィスへとcall-gandorを放って足止めを試みる。
 先程ランサーと共に戦っていた時に使った時にも全く効いていなかったのだから、ダメージがあるとは思っていない。
 だが、ダメージにはならないにしても多少の足止めにはなるだろう――――と思っていた。
 確かにスケィスは止まった。だがそれも一瞬の事。
 一瞬だけ止まった後、何事も無かったかのように再び動き始めた。これでは足止めになんかなりはしない。

(ダメージが通らないのは分かってたけど、足止めにすらならないって言うの……!?)

 その事実に戦慄する。
 何せダメージは通らない。足止めも無駄。おまけに足も速い。ほぼ詰んだも同然の状態だと再認識したからだ。

 が、事実は違う。
 ほんの僅かではあるが、確かにスケィスにダメージは通っているのだ。
 先程までのスケィスならば、一切のダメージが通らなかった。それは事実だ。
 だが、今のスケィスの状態はプロテクトブレイク。この舞台ならデータドレインを使わずともダメージが通る。
 ランサーが自分の命すら捨ててまで足止めをした、その成果がこの状態だ。
 ……尤も、今凛が持っている攻撃手段ではどの道倒すことなど不可能。ほぼ詰んでいる事に変わりはないのだが。

「痛っ!?」

 そして今、「ほぼ詰んだ」状態から「ほぼ」の字が消えた。
 何もないはずの場所にも関わらず、何かに激突し転倒する凛。
 慌てて正面を見ても、ただの平原以外に何も無い……が、激突した以上何かがあるのは確か。
 おそらくだが、何か壁のようなものがあるのは確実だ。

464逃げるげるげる! ◆YHOZlJfLqE:2013/02/10(日) 23:11:25 ID:Lwe/QNEM0
「嘘、この私がこんなくだらないミスをするなんて……」

 見えない壁があると認識した瞬間、自分のした失敗を悟り愕然とする。
 目の前には平原が広がっているが、その方向には見えない壁。
 こうなっているエリアがあるとすれば、地図に何も表記されていなかったエリアに他ならない。
 つまりは、走る方向を間違えてしまったという事だ。
 長年テロリストとして活動してきた普段の凛ならば決してしないような失敗。
 だが、先程の死の恐怖や、相棒と再会してすぐに失った事。それらの要因が凛を少なからず動揺させた結果がこれだ。

 今すぐ方向を変えて走ったとしても、今のタイムロスのせいで間違いなく追いつかれる。
 絶望と諦めが凛の心身を支配し始め――――

(……まだよ、こんな所で死ねないわ!)

 ――――その絶望を振り払う。
 自分の足で逃げ切れないのなら、支給品を使えばいい。
 それを可能とする道具は、先程の装備確認で既に見付けてある。
 急いでメニューを開き、アイテム欄からその道具を出して使おうとする凛。
 が、それを手に持った瞬間凛の体が宙へと浮かび上がった。

「しまった――――!」

 浮かび上がる瞬間、自分が何をされたかを悟った。
 ランサーに致命傷を与えた、あの攻撃を自分にするつもりなのだと。
 現に凛の後ろには、先程までスケィスが持っていたケルト十字の杖が浮かんでいた。

 ――――宙に浮かぶ凛の体が、杖に磔にされる。

 ――――凛が自分の手を、正確には持った道具を見る。

 ――――スケィスが手を掲げる。

 ――――凛が支給品に魔力を込める。

 ――――スケィスの手の周りに、腕輪のようなポリゴンが展開される。

 ――――凛の手の中にある支給品が光りだす。

 ――――スケィスの手からノイズが走り、放たれる。

 ――――直撃する寸前、凛の姿が掻き消える。

 ――――ノイズが杖しか無い空間を駆け抜ける。

 ――――凛の姿はどこにも無い。

465逃げるげるげる! ◆YHOZlJfLqE:2013/02/10(日) 23:11:58 ID:Lwe/QNEM0
 後に残ったのはスケィス一体。今のデータドレインで倒したはずの凛の姿はどこにも無い。
 今まで追っていたアウラのセグメントを持つ者を見失い、その場で止まる。
 そのうち、見失ったものは仕方ないとでも考えたのだろうか。
 いなくなった凛……いや、見失ったセグメント1を追う事を一時中断し、改めてセグメントの捜索を始めた。


【C-2/ファンタジーエリア/一日目・黎明】

【スケィス@.hack//】
[ステータス]:ダメージ(微)、プロテクトブレイク(一定時間で回復)
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:アウラ(セグメント)のデータの破壊
2:腕輪の力を持つPC(カイト)の破壊
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊
4:自分の目的を邪魔する者は排除


 ◆


 時間は少しだけ戻る。会場のどこかの弓道場に一人のアバターの姿があった。
 その姿は白い野球のユニフォームを着ており、二頭身の体型と場所もあって違和感しか感じない。

「デウエスに勝ったと思ったら殺し合いをやらされて、そして今度はどこかの学校か? 一体どうなってるんだ?」

 青年……アバター名『ジロー』が周囲を見回しながら考える。
 ここに来る前の最後の記憶は、デウエスとの最後の試合に打ち勝った瞬間。
 最初の場所にいたあの侍はサーバーがどうこう言っていたから、多分ここはネットの中なのだろう。
 だとしたら、全部終わったと思った瞬間に連れ去られたという事か。終わったと思ったらまたも命の危機か。

「そうだ、荷物を見ておかないと」

 溢れ出す徒労感を抑え、メニューを開く。
 ツナミの重役と思われる銀髪の女。彼女からの逃走の際に銃が弾切れになった経験から、装備の大切さは身に染みて分かっている。
 調べてみると、支給された荷物の中にDG-0という名の二挺拳銃があった。
 現実でも生身で巨大フナムシや自立移動する無数の蜘蛛型爆弾、果てはレベル4生物兵器すら拳銃(うち二回は実銃ではないが)で相手取った彼なら、少しは扱えるかもしれない。

「……ただのフリーターの俺が、何でこう何度も命の危機を味わう羽目になってるんだ?」

 嫌な考えが脳裏をよぎるが、無視する事にした。
 とにかく、すぐにDG-0を装備し、左手側の銃をポケットにしまう。
 さすがに二挺拳銃は経験がないし、何より人を殺したくはない。

466逃げるげるげる! ◆YHOZlJfLqE:2013/02/10(日) 23:12:36 ID:Lwe/QNEM0
(おいおい、何甘い事言ってんだよ)
「……誰かと思ったらお前か」

 そう考えていると、何者かがジローの考えを茶化す。
 それは、呪いのゲームの事件に巻き込まれた頃からジローに語りかけてきていた正体不明の何か。
 かつてそいつは、「俺は『俺』だ」と名乗っていた。とりあえずは便宜上『俺』と呼称する。

(死にたくないんだろ? だったらどうするかは決まってるよな?)
「どういう意味だ」

 聞き返すジローだが、何を言い出すかなど既に分かっていた。
 こうやって『俺』が話しかけてくる時は、必ず弱い考えや悪い考えを吹き込みに来る。
 例を挙げるとすれば、「この際逃げてしまえ」「どうせ何をやっても無駄」など。
 漫画などに出て来る心の中の悪魔。『俺』の行動を何かに例えるとすればあれだ。
 ならば今回もまた、ろくでもないアドバイスをしに来たのだろう。

(この殺し合い、乗っちまえよ。
 どうせ生きて帰っても無職のままなんだし、優勝してたっぷり賞品貰って帰ろうぜ)
「ふざけるな! 俺は絶対に、殺し合いなんかしないぞ!」

 案の定である。
 ここは殺し合いの場で、殺さなければウイルスや他の参加者の手で殺される事になって、その上豪華な優勝賞品まである。
 故に死にたくないのなら、もしくは賞品が欲しいならどうしても乗る必要があるのは明白だ。
 だが、人殺しをする気などジローには無い。声を荒げて『俺』へと反論するが――――

(おいおい、殺さないとお前が死ぬんだぞ?
 それに、呪いのゲームで何十人も消してきたんだ。今更何人殺しても大して変わらないさ)

 ――――そう言われて言葉に詰まる。
 デウエスを倒せば全て元に戻るとはいえ、それでも呪いのゲームでかなりの数……3チーム分なら30人弱か。それだけの人を消してきたことには変わりない。
 なら、呪いのゲームと同じように参加者を消す……殺す方向で動いてもいいんじゃないか?

467逃げるげるげる! ◆YHOZlJfLqE:2013/02/10(日) 23:13:03 ID:Lwe/QNEM0
「……それでも俺は、殺し合いになんか乗らない。乗ってなんかやるもんか!」

 その考えを一蹴する。
 かつて先輩と友人が消えた時や、渦木に殺人の疑いをかけられていた時ならばもしかしたら乗っていたかもしれない。
 だが、デウエスとの戦いを乗り切った今のジローなら、『俺』の口車に乗るような事はしない。

(ハハハ……人がせっかく親切にアドバイスしてやってるのに。
 ツナミの人間に爆破されかけた時みたいに、また死ぬような目に遭ってから後悔しても遅いぞ)

 そう言って、ジローを嘲笑しながら『俺』が消える。
 消えた『俺』の言葉が頭に残ってはいるが、それでもきっと何とかなるはずだ。

「デウエスだって倒せたんだ、今回だってきっと何とかなる」


 ◆


 空が白み始めた頃、弓道場から一人の青年が出て来た。
 白い野球のユニフォームを着ており、もう2,3年程若ければこの学園の野球部の生徒だと思われるかもしれない。
 ……ただし、右手と左ポケットに一挺ずつの拳銃が無ければの話だが。

「デウエスが関わってる訳でもないのに、ネットの中で現実の体を使う事になるなんてな」

 青年が呟く。その声は確かに先程まで弓道場にいたジローの声だ。
 先程荷物を調べていた時に、【使用アバターの変更】という項目を見つけ、調べてみた結果がこれだ。
 その姿は現実世界の彼と同じもの。ツナミネットのアバター『ジロー』ではなく、それを操作するプレイヤー『十坂二郎』の姿だった。

 ジローは知らない事だが、この殺し合いの会場では実際に使用したアバターが複数存在するのなら、使用するアバターを変更する事が可能になっている。
 そう考えれば、デウエスとの最終決戦には現実世界の姿で試合に臨んでいたのだから「複数のアバターを使った」とも取れる。
 故にジローがアバターを切り替えられるのも当然だ。

 二頭身のアバターのままでいるより、こちらの方が動きやすいのは確かなので、アバターはこのままにしておく。
 辺りを見ると、すぐ近くには学校らしき建物が。どうやら地図にあった日本エリアの学校のどちらからしい。
 ならばさっきまでいた弓道場は、この学校の施設なのだろうか。

(何かあるかもしれないし、あの建物に行ってみるか)

 そう考え、学校へと足を進める。
 幸い、先程の弓道場から学校に入るまでの間に敵襲などという事態にはならずに済んだ。
 昇降口から学校に足を踏み入れ……ようとした瞬間、異変が起きた。
 一瞬前まで無かった光が突如目の前に現れ、ジローの目が眩む。

468逃げるげるげる! ◆YHOZlJfLqE:2013/02/10(日) 23:13:37 ID:Lwe/QNEM0
「なんだ!?」

 そう言い終えるが早いか、目の前に現れた光が消える。
 そうこうしている間に目が慣れ、ゆっくりと前を見ると、先程までいなかった少女……遠坂凛の姿があった。

 何故彼女がここにいるのか。その答えは先程スケィスから逃げる際に使った道具にある。
 それは、彼女にとっても馴染み深い道具。SE.RA.PHで行われた聖杯戦争で使われていたものだった。
 だからこそ、説明も見ずにすぐさま使う事が出来たのだ。
 消耗品の上に一つしか支給されなかったが、使わなければやられていたのだから仕方が無い。
 道具の名はリターンクリスタル。
 月海原学園一階へとワープするためのアイテムである。

【B-3/日本エリア・月海原学園一階/一日目・黎明】

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、現実世界の姿
[装備]:DG-0@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:え、誰?
2:『俺』が鬱陶しい
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
※DG-0は片方のみ装備しており、もう片方は服のポケットにしまっています。

【遠坂凛@Fate/EXTRA】
[ステータス]:疲労(小)、サーヴァント消失
[装備]なし
[アイテム]セグメント1@.hack//、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝を狙うかは一先ず保留
1:助かった……?
[備考]
※凛ルート終了後からの参戦です。
※コードキャスト「call-gandor」は礼装なしでも使えます。他のものも使えるかは後の書き手にお任せします。
※リターンクリスタル@Fate/EXTRAは消費されました。

【全体備考】
※何もないエリアは見えない壁で仕切られています。


支給品紹介
【DG-0@.hack//G.U.】
ハセヲXthフォームの使用する双銃。劇中ではドッペルゲンガー戦のサブイベントをクリアすると手に入る。
ダブルトリガーと復讐の弾丸のアビリティを持つ。

【リターンクリスタル@Fate/EXTRA】
購買部で購入可能なアイテム。消耗品。
使用すると月海原学園一階にワープする。

469 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/10(日) 23:17:00 ID:Lwe/QNEM0
投下終了。せっかくなのでジローさんのフルネームも設定してみた
今回のSSは

・逃げるげるげる!ver.VRロワ
・ま た 『 俺 』 か
・ふたりはトオサカMaxHeart!

この三本でお送りしましたw

それと業務連絡。◆YHOZlJfLqEを検索したら別の人も使っていたトリップだったので、このトリップに変更します

470名無しさん:2013/02/10(日) 23:24:56 ID:YQf2I2Mw0
乙でした
遠坂逃げ切ったー!危ねぇ危ねぇ
月海原学園はラニとリーファがいるが、どうなるか

>・ふたりはトオサカMaxHeart!
おいwww

471名無しさん:2013/02/11(月) 00:09:11 ID:skz62ZRE0
投下乙です
凛何とか逃げ切ったーしかし、そこにはラニが居て安全とは言い難く……
ジローも終了後だからリアル等身アバターも使えるが、それでも色々不安要素が
酉変え了解です

472名無しさん:2013/02/11(月) 00:30:45 ID:aF9EfkMIO
…あれ?ジローさん修羅場フラグ立ってね?

473名無しさん:2013/02/11(月) 01:31:03 ID:lCMeG38wO
そういや植田さんまだキュアってなかったっけか?

474名無しさん:2013/02/11(月) 04:22:48 ID:eWvT0SKg0
>「……ただのフリーターの俺が、何でこう何度も命の危機を味わう羽目になってるんだ?」
ホントだよ!お前原作でも終始無職だったじゃないか!
野球ゲーなのに草野球チームにすら所属してなかったぞ!

475名無しさん:2013/02/11(月) 16:07:41 ID:5ByT7Hq.0
投下乙です。
スケィスから逃げ切ったところで、次なる相手はラニですか。凛の受難はまだまだ終わりませんね。
ただラニは一応リーファに従って(?)ますし、これからどうなるかは彼女と、ついでにジロー次第ですかね。

気になった点はリターンクリスタルとDG-0の二つの扱いですね。

支給品解説によると、リターンクリスタルは購買部で購入可能とのことですが、それだと安易な逃走手段が何度も手に入ることになってしまいます。
この場合は追手側もリターンクリスタルをで購入して追いかければいいだけですが、それだと今度は月海原学園ばかりが戦場になってしまいます。
元々はアリーナから学園へ帰還するためのアイテムですし、逃煙玉のような別のアイテムを支給するか、ロワ用の効果に変更した方がいいと思います。
別のアイテムの例としては逃煙玉の他に、SAOから転移結晶(テレポートクリスタル)や回廊結晶(コリドークリスタル)などがあります。

もう一つのDG-0の方は些細なことなんですが、アレ(というか双銃系)って銃身にブレードが付いてますし、ポケットに入るような形状じゃないと思うんですが。
下記が参考画像になります(DG-XとDG-0は同形状です)。
ttp://dothack.neoseeker.com/w/i/dothack/2/2f/Dual_Gunner_Haseo.jpg

476名無しさん:2013/02/11(月) 16:55:31 ID:skz62ZRE0
(原作で)購買部で購入可能なアイテムであって、ロワ内で買えるとはしてないんじゃないかな
そもそも購買部が機能してるかもまだ分からないですし
DG−0はちょっと触れておいた方がいいかもしれません(ブレードは任意で出せるとしてみるとか)

477 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 17:16:57 ID:PAGB11mY0
>>475
指摘ありがとうございます

まずリターンクリスタルについてですが、購買部で買えるのは原作での話です
効果についても、原作での帰還先が学園だったので「使用すると月海原学園にワープ」という効果にしました
が、確かにロワでの購買部にも売ってると解釈されうる書き方してましたね

DG-0については完全にこちらの見落としです。申し訳ありません
リターンクリスタルの件も合わせて修正版を用意します

478 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/11(月) 20:59:52 ID:PAGB11mY0
拙作「逃げるげるげる!」の修正版が完成しました。
一度仮投下スレに投下し、通った場合改めて本スレに投下します

479 ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:16:08 ID:fG4hKayo0
仮投下乙です、問題はないと思います
自分も投下しますねー

480Link ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:16:59 ID:fG4hKayo0
「サルバトル愛原を知らない?」
「知らねえな。まぁ俺はそういうの詳しくねえし、外ではんなもん流行ってんのか」
赤い髪の双剣士、揺光の問い掛けに対し、クラインは顎を撫でながらそう答えた。
彼女としては好きな芸能人だったのが、彼は知らないという。
サルバトル愛原。最近ではオンラインジャックという番組で問題を起こして、良くも悪くも話題になっている芸能人だ。
最も彼女はつい最近まで未帰還者だったのでその顛末には詳しくないのだが。

それを知らない。正確にはそれも知らないという。
The Worldのことを始め、様々なことを話し合ってみたが、どうにも会話が噛み合わない。
何度目かの情報交換を経て、二人は互いの常識に大きな隔絶があるということに気付いていた。

「ふぅん」
揺光は腕組みをして、考えを纏める。
夜の街を電灯がチカチカと照らしている。歩き、考えつつも周囲に気を配ることを忘れてはならない。
要はダンジョンに居ると思えばいい。PKが何時何処で襲ってくるか分からないのはThe Worldだって同じだ。
違うのは本当の命が関わっていることだけだ。
隣に歩く男、クラインはどうやらこういった状況――デスゲームに慣れているようで、この状況下においてもそう取り乱しているようには見えなかった。

そうデスゲームだ。
クラインの話を聞くに、彼はSAOなるネットゲームに囚われ、命懸けのゲームを強いられている最中だったらしい。
その話が本当ならば、現在自分たちが置かれている状況とも酷似している。その開発者にして事の首謀者らしい人間が趣向を変え、ゲームを拡張してきたのかもしれない。
そして、それはもしかすると例のメール――ハセヲたちが関わっていた何かにも繋がっている、のだろうか。

(全部を繋げてしまうとそうなるんだけどねえ)

一連の事件が全て繋がっている、というミステリのような展開が果たして現実にもあるのだろうか。

「なあ、クライン。アンタ今年が何年だと思ってる?」
ふと疑問に思った揺光はクラインにそう尋ねた。
未来人のような問い掛けだ。今度はSF染みている、と思いはしたものの、その点は確認しておきたかった。
クラインが囚われていたというSAO。彼の主観では既に年単位の時が経っているという。
だが、揺光の知る限り、そのような事件は聞いたことがない.
The World内に閉じ込められるという事件があったが、似たような事件があるのならもっと騒がれている筈だ。
そこから考えられるのは、現実の時間とSAO内の時間がズレている、という可能性だ。

クラインがゲーム内に囚われてからまだ数分しか経っていないのではないか。揺光はそう考えたのだ。
だとするならば、彼と自分の時間は数年のズレがあることになる。
それを確認する為に尋ねたのだが、クラインの返答は全く予想に反したものだった。

481Link ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:17:35 ID:fG4hKayo0

「ん? ああ、閉じ込められたのは2022年で、SAO内の時間じゃ2023年の筈だが……もしかしてズレてんのか?」
問い掛けに含まれたニュアンスを汲み取ったクラインが、恐る恐るという風に尋ね返してきた。
が、その答えは揺光を更なる疑問の渦へと叩き込んだ。
ズレている。
揺光とクラインの認識は確かにズレていた。それも予想外の方向で。

「おい、何だよその顔。今、実際は何年なんだよ。ズレてんのか?」
「あー……ちょっと待って。私もよく分かんないね、コレ」
頭を抱えながら、揺光は「ズレているといえばズレてんだけど……」と歯切れの悪い答えを口にした。
すると、クラインの顔に焦りの色が浮かぶ。彼としてもSAOの外――現実がどうなっているのかが気になっていたのだろう。

「おい、じゃあ何年なんだよ。俺たちが閉じこめられてからどんだけ時間が経ってんだ!?」
「経ってんじゃない。遡ってんだ」
「は?」
「アタシの記憶じゃあ今年は2017年。アンタが閉じ込められたという2022年から5年も前だ」
クラインは絶句した。
彼としても現実とSAO内の時間が隔絶している可能性は考えていたのだろうが、それでもこのような展開は予想もしていなかっただろう。

「おいおい、そりゃあねえだろ。だって俺がSAOに閉じ込められる前の時点で2022年だったのによ」
「分かってるって! そんなこと。だから、混乱してんだ」
二人は互いに声を荒げる。夜の街に声が響き渡り、顔を見合わせ注意し合う。
が、取り乱しても仕方のない事実が明らかになったのも事実だ。
そうして二人は再び頭を捻り合った。

「……確認しておくけど、アンタ、それロールとかじゃないんだろうね? そういう設定を自分で作ってさ」
「当たり前だろ! 言っとくが俺らはマジでこういう状況に陥ってんだぞ。お前こそ嘘言ってんじゃ……」
「アタシも嘘なんか吐いてないさ! ただ……何かこう噛み合わないのは事実だ」
薄々感じていた互いの齟齬だったが、これで決定的なものになった。
文字通り、二人は違う時間を生きているのだ。
常識的に考えるのならば、二人の内どちらかが嘘を吐いているということになるが、こんな状況でそんなことをやる意味がどこにある。
騙すにしても奇妙な方法だ。
目の前の男、クラインがその設定を信じ込んでいる狂人である……という可能性もなくはないが、どうもそうには見えなかった。

「タイムスリップ……いや、パラレルワールド、か」
「ああん? そりゃあ一体」
「分かんないって。ただこの状況が何を意味してんのか考えたら、そんな答えしか出てこなかったんだよ」
SF染みている、だったのが、これでは完全にSFになってしまったな。そうぼんやりと思った。
リアルでは文学少女を自認している揺光にとって、そういう可能性は容易に考え付くことできたが、それに自分が巻き込まれているとなると一気に信憑性が薄れるように思えた。。
無論、こうしてゲームに閉じ込められ殺し合いを強要されている時点で、常識の尺度でも物を考えてはいけないのは分かっている。
だが、それを差し引いても信じがたい可能性だった。

(When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth……て奴、なのか)

そうやって頭を捻っている内に、彼らは目的地に着いた。
ここに至るまで誰にも会わなかったのは幸運といえるのか、それは微妙なところであった。
それよりも、彼らが目を引いたのはそのゲートの形であった。

482Link ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:18:09 ID:fG4hKayo0

「は? 電話ボックス?」
揺光が疑問の声を漏らす。クラインも呆気に取られたような顔をしている。
マップに記された座標近く、そこにあったのは一つの電話ボックスであった。
周りのビル群から少し離れた位置にポツンと離れてそれは置かれていた。
何かの間違いかと思うが、ご丁寧にボックスには「GATE」の表記があり、これがワープゲートであるのは間違いないようだ。

「このエリア、何かのネトゲを基にしてんじゃねえのか。FPSとかに使われている街で、そのネトゲじゃあ電話ボックスが転位門になっている、とかよ」
「うぅん。まぁそうかもね。しかし、電話ボックスとは、ちょいと時代錯誤だね」
言いながら、二人はボックス内を色々と調べていく。
中の張り紙がしてあり、そこに複数の言語で書かれた転位門の使い方が記されていた。
こういったディティールを見るに、この場にいるのはどうやら日本人だけじゃないようだ。

「使えるのは一度に一人まで。電話に出ればその時点で転位する。破壊はペナルティ。か」
クラインが張り紙の使い方を纏めていく。
複雑なものではないが、一度に一人しか使えないというのは留意しておく必要があるだろう。

「さて、と」
電話ボックス――ワープゲートを前にして揺光は呟いた。
とんとん、と地を蹴り、ある種緊張を高めていく。見ると、クラインも首を回し似たような動作をしていた。

「ここからウラインターネットとかいう場所に行くんだけど、この感じ、何かアレだね」
アレ、という曖昧な表現だがクラインには伝わったようで、

「んーまぁ確かにな。何というか……RPGのボス戦前みたいな感じがするな」
別にそうと決まった訳ではないが、二人でこれから「秘密がありそうなところ」に赴くのだ。
敵が襲ってくる可能性がある。設定されたボスなどは居ないだろうが、PKが潜んでいる可能性は十分にあった。
実際、門の近くで待ち伏せというのは有効な方法だろう。一度に一人しか転位できないとなれば猶更だ。

「互いの装備を確認しとこうぜ」
「そうだね」
二人は互いの支給アイテムを未だ確認していなかった。
この状況下、初対面の相手を完全に信用する訳にも行かず、自分の戦力を見せることを警戒していたのだ。
だが、こうして乗込む段になった以上、そうも言っていられないだろう。しばらく会話していたことで、警戒も緩んできたところではあった。
それでも完全に信頼を寄せる訳には行かなかっただろうが。

「俺は剣があるから戦えるがよ。揺光はどうだ」
「んーアタシは……」
言って、巨大な剣を取り出したクラインに対し、揺光は顔を曇らせた。
そして、両手を広げ困ったように、

483Link ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:19:16 ID:fG4hKayo0

「駄目だ。アタシの職業に合うような武器はなかった」
「……そりゃあ運がなかったな。揺光の職業は?」
「双剣士。文字通り双剣カテゴリじゃないと装備できない職だね。で、私のアイテム欄にあったのは」
こちらにロクな武器がないと告げたが、クラインがこちらを襲おうとしないことに内心で安堵しながら、揺光はメニューを操作し、武器を取り出した。

「刀、だ」
長刀。刀身が光り輝き、美しいグラフィックで表現されている。
名前は『あの日見た夢』。デザインもだが、名前も良い。が、残念ながら揺光には装備することができない。
システム上振るうことはできるだろうが、実戦に耐えうるかは微妙なところだった。
それを見せたところ、クラインは目を見開いた。

「刀……そうか、あーうん……」
「ん? どうしたんだい?」
突然唸り出したクラインを揺光は訝しげに問い質した。
すると、クラインは肩を震わせ、コホンと息を吐いた後、

「いや、あーそうだ、物は相談なんだが、お前のその刀とこの大剣。トレードしねぇか?」
「トレード?」
「ああ……俺、このキャラだと主にカタナ使ってたからよ。剣全体なら何でも扱えるんだが、できればそっちの方が良いんだ」
クラインの提案に対し、揺光は赤髪を弄りながら、悩む素振りを見せた。
自分の手元にある刀と、クラインの持つ大剣とを見比べる。実際、揺光にしてみれば、装備できないという点ではどちらも似たようなものだ。
何も考えずに振るうならば、軽い刀の方が扱いやすいだろうが、パーティ全体の戦力で見れば刀を渡してしまった方が良さそうだ。

「ううん。じゃあ分かった。トレードしよう」
「おう!」
そう言って、二人はトレードを開始した。と言っても、互いのアイテムを直接受け渡ししただけなのだが。
大剣は予想外に重かった。出展ゲームはALOと言うらしいが、The Worldの職業で言うならば撃剣士(ブランディッシュ)あたりならば装備できるできるかもしれない。

(あるいは錬装士だね)

揺光は共に戦った黒衣の錬装士の姿を思い浮かべた。
錬装士――マルチウェポンはThe World R:2の職業の枠の中では例外的な存在だ。
選択した武器を複数使い熟すことができることが売りの職業であり、実装当初は大変な反響を呼んだ。
が、現在のところマルチウェポンはゲーム屈指の不人気ジョブだ。理由は単純、器用貧乏なのだ。
複数の武器が扱えるが故に、レベルが上がれば上がるほど専門職と熟練度の差が開いていく。その差はいかんともしがたく、現環境でマルチウェポンを選ぶのは茨の道といえる。
また最初から選択した武器が選べる訳ではなく、《ジョブ・エクステンド》というイベントを終えなければ複数の装備を扱うことができないのも不人気に拍車を掛けている。

(ま、でもアイツ――ハセヲはそれであんなに強くなったんだ)

ハセヲは不人気ジョブのマルチウェポンでありながら、屈指の強プレイヤーとしてThe Worldで名を馳せている。
聞く所には、アリーナで三冠という偉業も成し遂げたらしい。自分は途中でリタイアしてしまったが、彼はアリーナ制覇をやり遂げたのだ。
その強さにはチート疑惑が持ち上がっているが、揺光はハセヲの強さが本物だということを知っている。
何か、普通とは違うことに関わっている素振りはあったが、その強さ自体は本物だ。

「アイツに負けないよう、アタシも頑張んなきゃね」
大剣を振り回しながら、揺光は言った。クラインも隣で刀の素振りをしている。
上手く扱えているとは言い難いが、振り回せば当たるだろう。これだけ重いのだから、それだけでもかなりの威力が出る筈だ。
そうして二人は武器の使い勝手を確かめた後、電話ボックスを並んで見据えた。

484Link ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:20:03 ID:fG4hKayo0

「さぁて、そろそろ行こうか!」
「おう。乗込むとしようぜ」
二人はそう言い合った後、どちらが先に転位するかを話合った。
ゲート前で待ち伏せの可能性を考えると、ここはやはり装備の整った自分が先鋒を務めるべきだろう。
そう言って、クラインは先に行く旨を示した。度胸がある。伊達にデスゲームの中でギルドを率いていた訳ではないようだ。
そう思い、揺光はクラインのことを信用してもいいかもしれないと思い始めていた。

「あのさ」
意気揚々とボックス内に乗込もうとしていたクラインを、揺光は呼び止めた。
彼は手を止め、揺光の方へ顔を向けた。

「アンタさ、三国志って知ってる? 魏呉蜀の」
唐突な質問に、クラインは面を食らったようだが、戸惑いながらも「ん? ああそりゃ知ってはいるが……」と肯定の意を示した。
それを見た揺光は笑って、

「そっか。安心したよ、アンタが実は完全に別世界の人間なんじゃないかって思ってたからさ。
 三国志を知っているなら大丈夫みたいだね――どっかでは繋がってんだよ。アタシとアンタもさ」
色々と噛み合わないことがあったが、それでも繋がりというものを見つけて、揺光はそんなことを言った。
クラインは一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐにニッと口元を釣り上げた。

「そうだな。ネットゲームてのはそういうもんだ。実は知り合いだったり、どっかで繋がってたりすんだよ」
そう言って、クラインは電話ボックスに入っていった。
するとコール音が鳴り出し、受話器を取り上げた瞬間、彼の姿は消えていた。転送されたのだ。

それを見届けた後、揺光も意を決してボックス内に入っていった。
すぐに電話が鳴り出した。一人でこのボックス内に入ると、電話が鳴る仕組みらしい。
そしてこれを手に取れば、転送が始まる。ウラインターネット。何となくで決めた目的地だが、何かがありそうなのは事実だ。

「さて、行こうか」
向こうで何が待ち構えているのかは分からない。
案外何もなくて拍子抜けするのかもしれない。RPGよろしくボスが待ち構えているかもしれない。
何にせよ、進むしかない。ここにセーブポイントはないのだから。

そうして、彼女は受話器を取った。






※アメリカエリアのワープゲートは電話ボックスの形をしています。

485それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:20:54 ID:fG4hKayo0













現れたのは炎と、そしてクラインの怒号だった。
そこは闇に覆われた空間。黒を基調としたパネルで構成された大地に、光源一つない空が掲げられる。
だが、揺光の目の前は暗さとは無縁だった。それとは対極に眩しさがあった。
炸裂する光。そしてそれは炎が迫っていることを意味していた。

「うわぁっと、何、これ!」
転位早々出くわした危険な場面に、揺光は驚きの声を上げ、身をかがめ炎を避けた。
元紅魔宮チャンピオンの名は伊達ではない。ブランクはあるが、アリーナでトッププレイヤーであった彼女だ。鍛え上げた反射神経が功を奏し、回避することに成功した。
そのまま走り、クラインに近づく。

「待ち伏せ、やっぱり居たね」
「ああ……、でも、ありゃあ待ち伏せってより」
クラインは目の前に迫る脅威へと目を向けた。
パネルに置かれた青く光る円状の紋様(このエリアの転位門?)を守るようにそいつは佇んでいた。
そう容姿がまた異様だった。先ず揺光やクラインのように人間の姿をしていない。
メカニカルな意匠をした姿に、バネのような四足でパネルを踏みしめている。その身は赤く燃え盛る炎を身に纏っていた。
たてがみのように炎を揺らす頭部からは、時節「ヴォォォォ」と獣のような唸り声を上がり、そこに理性があるようには見えなかった。

「ボスだな。門を守る為に配置されたボスモンスター」
「全くだね。この調子で、本当にこのエリアに何か隠されてるといいんだけど――っと」
炎の敵は「ヴォォォォォォォォ」と更なる叫びを上げ、再度攻撃をしてきた。
炎を吹き出し、燃え盛る炎がパネルを這うように進む。二人は散開して、それを避ける。決して速い攻撃ではない。不意打ちの初撃と違い、余裕を持って回避することができた。
とはいえ、揺光にはそこから反撃に転じることはできなかった。双剣があれば別だろうが、今の自分の装備はあの大剣。重いのでまだオブジェクト化していない。
だが、クラインは違った。刀を振るい、敵へと真直ぐに突っ込んで行った。

炎の敵に接近し、刀を振り合げ、その身を斬った。
敵は未だ反応できていない。防御などできる筈もなかった。
が、揺光はそこに違和感を覚えた。

486それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:21:31 ID:fG4hKayo0

(今、奴の炎の色が――)

「ん? 何だ、この手応え――」
クラインの声が響き、そして彼の身体が吹き飛ばされた。
斬りつけられた筈の敵は、斬撃を全く意に介さずその手を伸ばすことで、己の身に張り付く剣士を振り払ったのだ。

「クライン!」
揺光は名を叫ぶ。幸い、それ程のダメージはなかったのか。すぐに身を起こし、クラインは再び刀を構える。
殴打を受けたと思しき腹部を抑えつつも、その眼光は衰えていない。

「大丈夫なのか!?」
「ああ、俺は大丈夫だがよ。さっき、たぶん無敵状態だったぜアリャ」
今しがたの攻撃の分析を彼は口にした。
無敵時間。ゲームにおいてダメージが全く通らなくなる状態だ。
だが、ゲームである以上、それが完璧なものである筈がない。何らかの制限、あるいは上限が設定されてある筈だ。

「多分、奴の纏ってる炎の色が関係してる、と思う」
「マジか。じゃあ……」
「さっきは緑だった。きっとあの色が変わると付加される効果も変わるってことじゃないか」
見れば、敵の両脇に立つ蝋燭のオブジェクトがある。
この近辺全体が敵により炎に包まれている為、埋もれてしまっているが、他の炎と違い、そこに立つ炎には奇妙な点があった。
ゆらゆらと立つ緑色の炎を敵越しに睨みながら揺光は口を開いた。

「あの蝋燭の炎と、あの敵が纏っている炎の色が呼応している。アタシはさっき見てたから分かる」
と、その時蝋燭の炎の色が変わった。
片方は緑のままだったが、もう一方の色が変わり、橙の火が灯った。
すると、その場に不気味な人魂が現れた。橙の色の火の玉に、目元の吊り上った人面が浮かんでいる。
その炎が場を徘徊しだしたのだ。それも二つ。一方が揺光とクラインの下に近づいてくる。

「うわっ!」
二人は火の玉を避けた。その瞬間、敵の火炎放射が場を走った。
二つの炎が揺光に迫る。彼女はそれを身を捩りかわそうとする。が、完全にはかわしきれず手元に熱が走る。

487それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:22:12 ID:fG4hKayo0

(熱……本当に炎だ)

The Worldではありえなかった感覚に戸惑いつつも、揺光は敵から距離を取る。
火の玉の方はぐるぐると同じ場を回っている。動き自体は単純なものだ。
敵の火炎放射にしたところで、軌道は一直線だし、発動もそう早いものではない。
が、それらの技が組み合わさることで攻撃パターンが複雑化し、無敵時間も相まって敵を難攻不落のものにしているのだ。

「やっぱり、あの蝋燭を何とかしないとダメなようだね」
揺光は大剣をメニューから取り出し、ぼそりと呟いた。
恐らくあの敵のパターン変化はあの蝋燭がカギを握っている。ならば、それをどうにかすれば敵は大幅に弱体化する。
先ずあの蝋燭を殴ってみればいい。ダメージによって破壊できるものの可能性がある。

「こりゃあ、マジでボス戦染みて来たぜ」
クラインが言葉を漏らす。確かに、こういったタイプの敵は、対人戦と言うより寧ろクエスト内に配置されるボスモンスターに近い。

「なぁ、揺光。お前、あの敵を回り込んで蝋燭を攻撃、できるか?」
どうやらクラインも揺光と同様の分析をしていたようで、そう尋ねてきた。
やはりあの蝋燭をどうにかしなくては話にならない。それは分かっている。

「……微妙」
が、揺光はその提案に頷くことができなかった。自らの獲物を握りしめる。重い。双剣士である彼女にとって、その重さは未知のものだ。
それに、今しがた感じた炎――確かな死。それが彼女の肩に、僅かながらに重しを乗せていた。
揺光とてゲームが現実に影響を及ぼすような事態を体験してこなかった訳ではない。
謎のPKにより未帰還者にされ、目覚めた。そして、それでも危険を承知で再びハセヲの下に駆け付けた。覚悟だってあった。
だがそれでも、明確な死に触れたことで、剣が鈍ってしまうこともあり得る。
そして、自分の失敗は自分だけでなく、パーティ全体を死へと追い込みかねない。故に安易に強がりを見せる訳にも行かないのだ。

「そうだな。現時点の俺らの装備じゃあ、ちょっと厳しそうだ」
クラインも揺光の言葉に含まれた思いを読み取ったのか、そう口にした。
デスゲームを経験してきたというだけあって、その言葉には重みがあった。

「ここは一旦退くか」
そう言って、クラインは後方を顎で示した。
退く。逃走。その選択肢はある。敵はどうもあの場から動きそうにもないし、わざわざ追ってくるようにも見えない。
ウラインターネットへの侵入という目的は既に果たしたし、あの敵は無視して先に進むのが賢明な判断かもしれない。

「1、2、3で後ろにダッシュだ」
「…………」
釈然としない表情を浮かべながらも、揺光は無言で肯定の意を示した。
合図を取り、そして二人は走った。

488それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:22:53 ID:fG4hKayo0

「ヴォォォォォォォ!」
後ろで唸り声が響いた。が、予想通り追ってくる気配はない。
二人は眩い線上から離れ、暗い迷宮へと足を進めていった。

そうして、戦場から十分に距離を取り、周りに敵が居ないことを確認したところで、二人は一度立ち止まり、息を整えた。

「あの炎のロボット、ずっとあの場に居座るみたいだったな」
「……ああ」
揺光の漏らした呟きに、クラインが相槌を打った。

「アメリカエリアからこっちにやってくる奴らが、これからも襲われるかもしれないんだよな」
揺光の大剣を握る手が強まった。
今さっき自分たちが逃げ出した敵が、これからも人を襲うかと思うと、脚が鉛のように重くなる。
これはただのゲームではない。このゲームは、この世界は、真の死と地続きなのだ。
実際に死に触れたことで、そのことがより一層現実味を伴って感じられる。
そんな場で、死を振りまく敵を前におめおめと逃げ出したことも。

ウラインターネットは静かだった。
ところどころに走るノイズ以外は、何もない。
ダンジョンというものにはおどろおどろしいBGMが流れるのが相場だが、それがないことが逆により一層空間の不気味さを助長していた。

「アタシさ、もう一回、あの炎の奴に挑んでみる」
「お前」
揺光は呟き、クラインに向き合った。
そして、大剣を見せつけ、真剣な顔をして彼を見上げた。

「あのボス倒さないと、どうも前に進んだ気がしないんだよね。今、ここで倒しておきたい」
「…………」
「だからさ、頼む。危険だし、あんまり賢明とも言えないだろうけどさ、もう一回あの敵に挑みたい」
これ以上、あの敵を放置しておけば、更なる被害が出る。
特にアメリカエリアからこちら側に転位する場合、無防備なところを不意打ちされる形になる。
二人は何とか回避したが、このままでは犠牲者が出るのは必至だろう。

「頼む、か」
クラインはそう呟き、そして顎を撫で、へっと笑った。

「そうだな。俺も《風林火山》を率いる身としてあんな奴を放置しておけねえ。
 再チャレンジ、すっか」
「だね! じゃあ……」
そう言って、元の場に駆け戻ろうとした揺光を、クラインの声が引きとめた。

「まぁ待てよ。装備を整えてからいこうぜ」
「装備? そうは言ったって、他に何も……」
きょとんとする揺光に向かって、クラインが何かを放り投げた。
板状のそれをキャッチして、揺光は怪訝な顔でそれを眺めた。

「やるぜ。アイテム欄に戻せば、使い道が分かる」
「これは……」
言われた通りにメニューに戻し、その結果アイテム欄に現れた名を見た時、揺光は驚きの声を上げた。

「切り札、だ。これで奴を倒す」










489それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:23:38 ID:fG4hKayo0


「ヴォォォォォォォォ」
B-10/ウラインターネット。
炎の包まれるそのエリアの中心に鎮座する敵――フレイムマン。
今しがた逃げ出したその場に、二人のプレイヤーが戻ってきた。

「行くよ!」
「おう!」
互いに鼓舞し合うように声を掛け、共に剣を握りしめる。
そこに、先ほどの戦闘と違うところがあった。
装備自体は何ら変わりがない。だが、その組み合わせが変っているのだ。

赤髪の少女、揺光は長い刀を握りしめ、
バンダナを巻いた男、クラインは身の丈ほどもあろうかという大剣を構えていた。

「ヴォォォォォォ」
フレイムマンはそれを不審に思うようなことはしない。
元よりそれ程複雑な思考ができるようにはプログラムされていない。
ネットバトル特化のネットナビとしてカスタマイズされた彼だ。
ただ目の前のものを燃やすことにしか興味などない。

その敵に対し、揺光が一歩踏み出した。

(一度やってみたかったんだよね、コレ)

そして、言う。

「《ジョブ・エクステンド》!」

その声と共に、彼らは敵へと向かい駆けた。
二人の動きには無駄も迷いもない。態勢を立て直し、戦略を練った結果だ。
刀を使い、俊敏な動きを持って揺光が蝋燭を破壊し、大剣を持ったクラインが一撃で仕留める。
それを可能にしたのが、クラインの支給品であり切り札『ジョブ・エクステンド(両手剣<The World R:1>)』である.

ジョブ・エクステンド。この場での装備制限を解除し、扱える武器を追加するアイテム。
マルチウェポンのそれのように1コマンドで武器を変更できるようにはならないが、それでも幅の広がった戦略と戦術は、強力な武器となる。

(流石に見た目までは変わらないか。でも、これなら!)

刀の扱いが、自然と頭に浮かぶ。次にどう動けばいいのか、手に取るように分かる。
軽い。刀身も、身体も、心も。どこまでも速くなれる気がした。
フレイムマンがファイア・ブレスを放つ。だが、それを掻い潜り、更なる攻勢へと転じる。
狙いはフレイムマンではない。その奥に坐する二つの蝋燭だ。

「てぇあああああ!」
――スキル・叢雲
日本刀カテゴリの上位スキルにして、強力な範囲攻撃を叩き込む居合技。
頭に浮かんだそれを発動し、蝋燭に刃が走る。
ダメージを受けた蝋燭から炎が消える。予想通り、ダメージを与えることでこの火は消すことができた。

490それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:24:13 ID:fG4hKayo0

「今だよ! クライン」
「ああ!」
そこにクラインが来た。
大剣を振りかぶり、事態に未だ反応できないフレイムマンに迫る。
やはり蝋燭の火と、フレイムマンの炎は呼応していた。
揺光の攻撃と時同じくして、その身体から吹き出ていた炎が消えている。頭部から僅かに漏れ出ているのみだ。

「おおおおおおお!」
叫び上げ、クラインもまたソードスキル《アバランシュ》を発動する。
両手用大剣の上段ダッシュ技。雄叫びを上げ、フレイムマンに突っ込んでいく。

「ヴォォォォォォォォ!」
フレイムマンが叫びを上げる。
その身に大剣を直接受けては、決して無事では居られない。獣のようなうめき声をあげ、その身を捩り苦しみを表す。

「くそっ! しぶてえな、コイツ」
だが、それでもまだ倒れる気配はない。
フレイムマンとてWWW幹部が手塩にかけてカスタマイズした強力なネットナビ。
直撃したとはいえ。剣の一撃で倒れるような柔な敵ではない。

「ならよ! これで」
クラインはそこで更なる技を使おうとする。
一撃で駄目なら、何度でも叩き込めばいいだけだ。そう考えたのだろう。怯むことなく攻撃しようとする。

しかし、それは少し安易だった。
揺光ならばそこで一度退いていたかもしれない。アリーナでの対人戦に慣れた彼女ならば。
対人戦の経験がない訳ではなかったが、モンスターとの戦闘を主としていたクラインは失念していた。
目の前の異形の敵が、決められた動きしかしないモンスターなどではなく、脆弱な思考力ながらも自分で考え自分で動く存在だということを。

「バトルチップ『ホールメテオ』」
フレイムマンもまた、状況を打破すべく、札を切った。
それがどのような性質を持ち、どう使えばいいのかは、フレイムマンとて分かっていた。
発動と同時に、杖が現れ、頭上の空間が歪み、そこから炎を纏った石が現れる。
それも一つや二つではない。無数の隕石があられのように降り注ぐ。

「これは!」
揺光は焦る。その振り続けるメテオを必死に避けようとするが、何しろ突然のことだ。
上手く対応できず、足をもつれさせる。クラインもまた焦りの表情を浮かべている。

491それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:25:06 ID:fG4hKayo0

「ヴォォォォォォォォォォォォ!」
そこにフレイムマンのブレスが無慈悲に放たれる。
メテオと同時にその炎を避けることは揺光にはできなかった。
目の前に迫る熱の壁を感じ、彼女は目を瞑り、死を覚悟する。

そこに青い影が走り抜けた。

「大丈夫?」
「え?」
間一髪、炎を身に受けようとしていた揺光を、その影が救い出していた。
その手に抱えられる形となった揺光は、その影の姿を見た。
顔を覗けば、フレイムマンと同じくロボのような外観であり、水色のスカーフが走る度に揺れる。
彼は揺光を抱えたまま、ある程度フレイムマンから距離を取った後、声を上げた。

「フレイムマン!」
「ヴォォォォォ(コゾウ……お前か)!」
その手から降りた揺光は、その外観とやり取りから、二人が同じゲーム出身であり、敵対関係にあるということを推しはかった。
何時の間にか隕石は止んでいた。だが、フレイムマンの後方に据えられた蝋燭に再び炎が灯っている。橙と赤。
再び人魂が場を徘徊し出す。フレイムマンは赤い炎をその身に纏っている。効果は分からないが、何かしら付加効果を得ていると思って良い。

そして、その下に横たわる剣士の姿があった。

「クライン!」
至近距離で炎を受けたのだろう。顔を苦痛に歪ませながら、胸を押さえている。
フレイムマンがその口を開ける。そのモーションは何度も見た。ブレスの前兆だ。クラインに留めを刺そうとするのだろう。
クラインの下に急ぐべくと、揺光が近づこうとするが、人魂に遮られる。間に合わないのか。
そう思った時、隣を青い人が駆けていく。無駄のない走りでクラインを救うべく地を蹴る。その姿は忍者を思わせる。

間に合うか、そう思った時ブレスが放たれた。
だが、その射線上に居たのはクライン――ではなかった。
青い人だ。敵は最初からクラインではなく、そっちを狙っていたのだ。

「くっ」
青い人が焦りの声を漏らす。クラインを救うことを念頭に置いたが故、上手く回避ができず、その足が一瞬止まる。
フレイムマンからすれば別にフェイントでも何でもなかった。彼としては青い人――ロックマンが現れた時点で、彼しか狙おうとしていなかった。
その時、

「ヴォ!?」
ブレスを吐いていたフレイムマンが、突如唸り声を上げた。
その身に剣が突き刺さっていた。
無視した存在。先ほどまで横たわっていた筈の剣士が起き上がり、剣を突き立てたのだ。

「おおおおおおおお!」
「クライン!」

炎の中で、剣が振るわれる――

492それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:25:59 ID:fG4hKayo0
















クラインこと壺井遼太郎は己の間近に迫る死を感じていた。
直撃こそ免れたものの、炎をその身に受け、更にメテオを追い打ちを食らった。
既にHPバーは赤に突入している。あと一歩でゲームオーバー――死だ。

「おおおおおおお!」
だが、クラインは怯まず、恐れず、戦うことを選んだ。
剣を突き立て、炎の敵を討ち果たさんとする。

「ヴォォォォォ!」
敵、フレイムマンもまたうめき声を上げ、炎を振りまく。
その火がクラインのHPを更に削っていく。それを横目にして尚剣を叩き込んだ。
自らを鼓舞すべく叫びを上げある。熱さも痛みも、もはや気にならなかった。

「クライン!」
揺光の声がした。
揺光。この場で会い、パーティを組むことになった赤髪の少女。
先ほどの接敵から、またこの場に舞い戻るような真似をしなければ、こんな状況には陥らなかっただろう。
だが、自分はこの道を選んだ。そのことに後悔はなかった。
噛み合わないことがあろうとも、何処かで確かに繋がっている。そう彼女は口にした。

(そんな奴が頼むって言ってきたんだぜ。俺によ)
ならば、自分がそれを無下にできる訳がない。
自分とてこの敵を打ち倒す必要性は感じていた。その為に、自分の切り札も揺光にやった。

会ったばかりのプレイヤー。この状況下で、自分のアイテムをそう易々と他人に見せる訳には行かない。
そう思い、互いの装備を確認し合った時も、ジョブエクステンドの存在は伏せた。そのことに後ろめたいものを感じなくもなかったが、仕方がないことだと割り切った。
が、結果的に渡してしまった。頼まれた以上、最善を尽くさない訳には行かないだろう。そう考えて。
結局、そういう性分なのだと思う。

(だからよぉ、キリト)

剣を振るいつつ、思うのは一人のプレイヤーの存在だ。
SAOにログインして以来の縁が続いている一人の剣士。彼はだが、自分に頼ることを良しとしなかった。
クリスマスのイベントでさえ、決して自分からは助けを求めようとはしなかった。
それを立派だと思うものか。腹立たしいとすら思う。何故、ああも一人で行こうとするのか。

人が一人で生きていくことが不可能だという簡単な事実を、何故分かろうとしないのか。

493それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:26:28 ID:fG4hKayo0

(繋がってんだよ。何処かで)

この場にキリトが居ることは知っている。
繋がりは切れてはいない。自分がこうして戦っていることも、自分の知らない形でキリトに繋がっているかもしれない。

「倒れやがれぇぇぇぇ!」
叫びながら、大剣を振るい、ソードスキルを叩き込む。
フレイムマンもまた必死に抵抗をする。烈火を纏い、熱の波を繰り出し、渦巻く炎を吐く。
その身体に、剣を突き立てる。

その剣もまた、繋がりであった。
クラインの握る大剣。それは近い未来、キリトがSAOをクリアした後、ALOでの武器となったものだ。
無論、彼はそのことを知る由もない。だが、そこには確かに繋がりがあった。

そして、その時は訪れた。

「ヴォォォォ……ヴォ!」
「――へっ」
フレイムマンの動きが止まった。
クラインが薄く笑みを浮かべる。フレイムマンは目を見開き、信じられないとでも言わんばかりに己の身体に注視している。
その身からは炎が消え、内部から崩壊していく。ボディがところどころ爆発し始める。

「――クライン!」
揺光の声を聞いた。
次の瞬間、フレイムマンがクラインを巻き込み爆散した。










494それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:27:08 ID:fG4hKayo0
閃光が晴れた時、そこにはもう誰も残っては居なかった。
フレイムマンの炎は全て消え、エリアには再び薄暗い闇が戻ってきた。
そこに赤いバンダナの剣士の姿は、消え去っていた。
彼の振るっていた大剣が、まるで墓標のように地面に突き刺さっていた。

「僕が……もう少し早く来ていれば」
青い人――ロックマンは悔やむように言った。
実際、彼は二人よりもこの場に近い位置に居た。
が、ウラインターネットの複雑な構造を潜り抜けなければならなかったロックマンに対し、真直ぐと一本道を歩いてきた彼ら。その差は大きかった。
結果として、ロックマンは一足遅れてこの場に駆け付けることになる。
フレイムマンと戦う二人の人間を見て、急いで間に入ったのだが、それでも犠牲を出してしまった。

「…………」
生き残った少女は黙って、クラインが居た筈の場を見ていた。
その瞳に宿るのは、自分と同じく無念を感じているのだろう。

「アイツさ……戦ってたんだよな」
ぽつりと少女が声を漏らした。
ロックマンは何も言わなかった。彼女は慰めの言葉など必要としていないことを分かっていた。

「アタシと一緒に、戦っていたんだ」
その独白は、火の消えた戦場に響き、そして消えていった。



【B-10/ウラインターネットエリア/1日目・黎明】
※クラインとフレイムマンの支給品が門付近に落ちています。
※アメリカエリアへ繋がるワープゲートの形状はエグゼのバナー(パネルに張り付いた円)と同じです。

【ロックマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP90%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、熱斗の所に帰る
1:炎の方に向かい、フレイムマンを止める。
2:落ち着いたらネットスラムに行く。
[備考]
※プロトに取り込まれた後からの参加です。
※アクアシャドースタイルです。
※ナビカスタマイザーの状態は後の書き手さんにお任せします。
※榊をネットナビだと思っています。また、榊のオペレーターかその仲間が光祐一郎並みの技術者だと考えています。
※この殺し合いにパルストランスミッションシステムが使われていると考えています。

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、ジョブ・エクステンド(両手剣<The World R:1>)
[装備]:あの日の思い出@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2(武器ではない)、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:クラインと共に行動する
2:ウラインターネットに行ってみる
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。情報の祖語については、未だ結論を出せていません
※ハセヲが参加していることに気付いていません


・支給品解説
【ジョブ・エクステンド(両手剣<The World R:1>)】
The World R:1の両手剣に属する武器が装備可能になるアイテム。使い捨て。
指定のモーションで武器を振れるようになる他、スキルも使用可能になる。

【キリトの大剣(ALO)@ソードアート・オンライン】
ALOにてキリトが使用していた身の丈ほどもある大剣。
重い。

【あの日の思い出@.hack//】
Lv51の両手剣。刀に分類される。
使用スキルは
雷烙
叢雲
メライドーン

【ホールメテオ@ロックマンエグゼ3】
目前に杖を置き、炎属性の隕石を降らせるバトルチップ。
ホールメテオは敵エリア全体に隕石を降らせる
杖を破壊されると攻撃を中断する。





【クライン@ソードアート・オンライン Delete】
【フレイムマン@ロックマンエグゼ3 Delete】

495それはさながら燃えるキリンのように ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:27:36 ID:fG4hKayo0












フレイムマンはこうしてデリートされた。
そのデータは破壊され、二度と修復されないだろう。
が、そこでそれは終わらなかった。

強い意志を持って消去されたネットナビのデータが、稀に一人歩きしてネット上を徘徊することがある。
幽霊ナビと呼ばれる現象であり、実際WWWやゴスペルのナビの多くは、ロックマンに倒された後ネット上を徘徊していた。
この場で消去されたフレイムマンもまた、そのデータの破片が、一つの目的を持って動き出すことになる。

そこに意識はない。
曲りなりにも一つの思考主体であった筈のそれも、今となってはただのモンスターに過ぎない。
Version2.0となり、更なる力を得たそれは、会場内を徘徊する。
ただ力を振るう為に。


【フレイムマンV2@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:幽霊ナビ、V2
[装備]:なし
[アイテム]:なし
[思考・状況]
1:他者を襲う
[備考]
※会場の何処かを徘徊していますが、死亡扱いです。
※倒した後に、V3になるかは不明です。

496 ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/12(火) 00:28:49 ID:fG4hKayo0
投下終了です

497名無しさん:2013/02/12(火) 15:29:49 ID:51z6TYQs0
投下乙です

クライン、脱落してしまったがフレイムマンに負けないぐらい熱い最後だったぜ
ロックマンは少し遅れたがそれでもきっちり正義のヒーローしてたと思うぞ
揺光はこれで更にロワの打破への決意が固まったか。今後に期待
期待といえば最後におま、なんてやっかいな
これもまた電脳世界の大きな特徴かあ…

498名無しさん:2013/02/12(火) 17:46:02 ID:QwtLvcicO
まぁ、V2ナビは地雷みたいなもんだし?つかV3の無限沸き…は流石にないか

499 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/12(火) 20:59:08 ID:0RJUexO60
投下乙です
クライン…死にはしたが、かっこよかったぞ
…ってV2?死亡したキャラがNPC化して行動するのはアリなんですか?

では、一日経って反対が出なかったので、通ったものと考えて修正版を投下します。

500逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/12(火) 21:00:31 ID:0RJUexO60
 逃げる。
 ランサーをほとんど完封同前に葬った化け物から逃げる。
 逃げるはアウラのセグメントを持つ魔術師の少女、遠坂凛。
 対して追うはモルガナの生み出した禍々しき波の一相、スケィス。

「ったく、しつこいわね!」

 悪態をつきながらも逃げる凛。後方からはスケィスがかなりのスピードで接近してくる。
 ランサーが足止めをしていたからまだ距離があるとはいえ、このままではいつ追いつかれても不思議ではない。
 彼女が目指している逃げ場は日本エリア。確か地図では近くにあった。
 地図を見る限りでは学校が二軒にショップが一つ。おそらく日本の町のような場所なのだろう。
 それならば、今いるような何もない平原よりはまだ逃げやすいはずだ。

「このっ!」

 追ってくるスケィスへとcall-gandorを放って足止めを試みる。
 先程ランサーと共に戦っていた時に使った時にも全く効いていなかったのだから、ダメージがあるとは思っていない。
 だが、ダメージにはならないにしても多少の足止めにはなるだろう――――と思っていた。
 確かにスケィスは止まった。だがそれも一瞬の事。
 一瞬だけ止まった後、何事も無かったかのように再び動き始めた。これでは足止めになんかなりはしない。

(ダメージが通らないのは分かってたけど、足止めにすらならないって言うの……!?)

 その事実に戦慄する。
 何せダメージは通らない。足止めも無駄。おまけに足も速い。ほぼ詰んだも同然の状態だと再認識したからだ。

 が、事実は違う。
 ほんの僅かではあるが、確かにスケィスにダメージは通っているのだ。
 先程までのスケィスならば、一切のダメージが通らなかった。それは事実だ。
 だが、今のスケィスの状態はプロテクトブレイク。この舞台ならデータドレインを使わずともダメージが通る。
 ランサーが自分の命すら捨ててまで足止めをした、その成果がこの状態だ。
 ……今凛が持っている攻撃手段ではどの道倒すことなど不可能であり、ほぼ詰んでいる事に変わりはないのだが。

501逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/12(火) 21:01:03 ID:0RJUexO60
「痛っ!?」

 そして今、「ほぼ詰んだ」状態から「ほぼ」の字が消えた。
 何もないはずの場所にも関わらず、何かに激突し転倒する凛。
 慌てて正面を見ても、ただの平原以外に何も無い……が、激突した以上何かがあるのは確か。
 目には見えないが、何か壁のようなものがあるのは確実だ。

「嘘、この私がこんなくだらないミスをするなんて……」

 見えない壁があると認識した瞬間、自分のした失敗を悟り愕然とする。
 目の前には平原が広がっているが、その方向には見えない壁。
 こうなっているエリアがあるとすれば、地図に何も表記されていなかったエリアだけだ。
 つまりは、走る方向を間違えてしまったという事に他ならない。
 長年テロリストとして活動してきた普段の凛ならば決してしないような失敗。
 だが、先程の死の恐怖や、相棒と再会してすぐに失った事。そして何事もなかったかのように追ってくるスケィス。
 それらの要因が凛を少なからず動揺させた結果がこれだ。
 今すぐ方向を変えて走ったとしても、今のタイムロスのせいで間違いなく追いつかれる。
 絶望と諦めが凛の心身を支配し始め――――

(……まだよ、こんな所で死ねないわ!)

 ――――その絶望を振り払う。
 自分の足で逃げ切れないのなら、支給品を使えばいい。
 それを可能とする道具は、先程の装備確認で既に見付けてある。
 急いでメニューを開き、アイテム欄からその道具を出して使おうとする凛。
 が、それを手に持った瞬間凛の体が宙へと浮かび上がった。

「しまった――――!」

 浮かび上がる瞬間、自分が何をされたかを悟った。
 ランサーに致命傷を与えた、あの攻撃を自分にするつもりなのだと。
 現に凛の後ろには、先程までスケィスが持っていたケルト十字の杖が浮かんでいた。

502逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/12(火) 21:01:37 ID:0RJUexO60
 ――――宙に浮かぶ凛の体が、杖に磔にされる。

 ――――凛が自分の手を、正確には持った道具を見る。

 ――――スケィスが手を掲げる。

 ――――凛が支給品に魔力を込める。

 ――――スケィスの手の周りに、腕輪のようなポリゴンが展開される。

 ――――凛の手の中にある支給品が光りだす。

 ――――スケィスの手からノイズが走り、放たれる。

 ――――直撃する寸前、凛の姿が掻き消える。

 ――――ノイズが杖しか無い空間を駆け抜ける。

 ――――凛の姿はどこにも無い。

 後に残ったのはスケィス一体。今のデータドレインで倒したはずの凛の姿はどこにも無い。
 今まで追っていたアウラのセグメントを持つ者を見失い、その場で止まる。
 そのうち、見失ったものは仕方ないとでも考えたのだろうか。
 いなくなった凛……いや、見失ったセグメント1を追う事を一時中断し、改めてセグメントの捜索を始めた。


【C-2/ファンタジーエリア/一日目・黎明】

【スケィス@.hack//】
[ステータス]:ダメージ(微)、プロテクトブレイク(一定時間で回復)
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:アウラ(セグメント)のデータの破壊
2:腕輪の力を持つPC(カイト)の破壊
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊
4:自分の目的を邪魔する者は排除

503逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/12(火) 21:02:12 ID:0RJUexO60
 ◆


 時間は少しだけ戻り、会場のどこかの建物。
 周囲の壁の張り紙やテーブル、カウンターがある所を見るに、どこかの食堂か売店といったところか。
 尤もカウンターには誰もいないため、少なくとも今は利用できないだろうが。

「デウエスに勝ったと思ったら殺し合いをやらされて、そして今度はどこかの食堂か? 一体どうなってるんだ?」

 その食堂にいた二頭身の人物……アバター名『ジロー』が周囲を見回しながら考える。
 確かここに来る前の最後の記憶は、デウエスとの最後の試合に打ち勝った瞬間。
 最初の場所にいたあの侍はサーバーがどうこう言っていたから、多分ここはネットの中なのだろう。
 だとしたら、全部終わったと思った瞬間に連れ去られたという事か。終わったと思ったらまたも命の危機か。

「そうだ、荷物を見ておかないと」

 溢れ出す徒労感を抑え、メニューを開く。
 ツナミの重役と思われる銀髪の女。彼女からの逃走の際に銃弾を使い果たした経験から、装備の大切さは身に染みて分かっている。
 支給された荷物を調べてみると、支給された荷物の中にDG-0という名の二挺拳銃があった。
 ……いや、拳銃と呼ぶにはかなりデザインが奇抜だし、何より銃身の下からエネルギーでできたような刃が出ているから拳銃と呼べないかもしれないが。
 現実でも生身で巨大フナムシや自立移動する無数の蜘蛛型爆弾、果てはレベル4生物兵器すら拳銃一挺(うち二回は実銃ではないが)で相手取ったジローなら、少しは扱えるかもしれない。

「……ただのフリーターの俺が、何でこう何度も命の危機を味わう羽目になってるんだ?」

 嫌な考えが脳裏をよぎるが、無視する事にした。
 とにかく、すぐにDG-0を装備するが、左手側の銃は持て余し気味だ。
 さすがに二挺拳銃は経験がないのもあるし、何より人を殺したくはない。使うとすれば自衛用くらいだろう。

(おいおい、何甘い事言ってんだよ)
「……誰かと思ったらお前か」

 そう考えていると、何者かがジローの考えを茶化す。
 それは、呪いのゲームの事件に巻き込まれた頃からジローに語りかけてきていた正体不明の何か。
 かつてそいつは、「俺は『俺』だ」と名乗っていた。とりあえずは便宜上『俺』と呼称する。

(死にたくないんだろ? だったらどうするかは決まってるよな?)
「どういう意味だ」

 聞き返すジローだが、何を言い出すかなど既に分かっていた。
 こうやって『俺』が話しかけてくる時は、必ず弱い考えや悪い考えを吹き込みに来る。
 例を挙げるとすれば、「この際逃げてしまえ」「どうせ何をやっても無駄」など。
 漫画などに出て来る心の中の悪魔。『俺』の行動を何かに例えるとすればあれだ。
 ならば今回もまた、ろくでもないアドバイスをしに来たのだろう。

504逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/12(火) 21:03:14 ID:0RJUexO60
(この殺し合い、乗っちまえよ。
 どうせ生きて帰っても無職のままなんだし、優勝してたっぷり賞品貰って帰ろうぜ)
「ふざけるな! 俺は絶対に、殺し合いなんかしないぞ!」

 案の定である。
 ここは殺し合いの場で、殺さなければウイルスや他の参加者の手で殺される事になって、その上豪華な優勝賞品まである。
 故に死にたくないのなら、もしくは賞品が欲しいならどうしても乗る必要があるのは明白だ。
 だが、人殺しをする気などジローには無い。声を荒げて『俺』へと反論するが――――

(おいおい、殺さないとお前が死ぬんだぞ?
 それに、呪いのゲームで何十人も消してきたんだ。今更何人殺しても大して変わらないさ)

 ――――そう言われて言葉に詰まる。
 デウエスを倒せば全て元に戻るとはいえ、それでも呪いのゲームでかなりの数……3チーム分なら30人弱か。それだけの人を消してきたことには変わりない。
 なら、呪いのゲームと同じように参加者を消す……殺す方向で動いてもいいんじゃないか?

「……それでも俺は、殺し合いになんか乗らない。乗ってなんかやるもんか!」

 その考えを一蹴する。
 かつて先輩と友人が消えた時や、渦木に殺人の疑いをかけられていた時ならばもしかしたら乗っていたかもしれない。
 だが、デウエスとの戦いを乗り切った今のジローなら、『俺』の口車に乗るような事はしない。

(ハハハ……人がせっかく親切にアドバイスしてやってるのに。
 ツナミの人間に爆破されかけた時みたいに、また死ぬような目に遭ってから後悔しても遅いぞ)

 そう言って、ジローを嘲笑しながら『俺』が消える。
 消えた『俺』の言葉が頭に残ってはいるが、それでもきっと何とかなるはずだ。

「デウエスだって倒せたんだ、今回だってきっと何とかなる」

 そう言ってDG-0をテーブルに置き、荷物の確認を再開した。


 こころが5下がった!
 DG-0を手に入れた!


 ◆


 それからどれだけ経っただろうか。一人の青年が階段を上って来る。
 その姿は野球の白い野球のユニフォームを着ており、部活帰りの生徒にも見えなくはない。
 ……ただし、その両手に持っているブレード付き二挺拳銃が無ければの話だが。

505逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/12(火) 21:03:45 ID:0RJUexO60
「デウエスが関わってる訳でもないのに、ネットの中で現実の体を使う事になるなんてな」

 青年が呟く。その声は確かに先程まで食堂らしき場所にいたジローの声だ。
 先程荷物を調べていた時に、【使用アバターの変更】という項目を見つけ、調べてみた結果がこれだ。
 その姿は現実世界の彼と同じもの。ツナミネットのアバター『ジロー』ではなく、それを操作するプレイヤー『十坂二郎』の姿だった。

 ジローは知らない事だが、この殺し合いの会場では実際に使用したアバターが複数存在するのなら、使用するアバターを変更する事が可能になっている。
 そう考えれば、デウエスとの最終決戦には現実世界の姿で試合に臨んでいたのだから「複数のアバターを使った」とも取れる。
 故にジローがアバターを切り替えられるのも当然だ。

 二頭身のアバターのままでいるより、こちらの方が動きやすいのは確かなので、アバターはこのままにしておく。
 辺りを見ると、目の前には学校によくある昇降口が。どうやら地図にあった日本エリアの学校のどちらからしい。
 ならばさっきまでいた売店兼食堂は、この学校の購買部なのだろう。ついでに昇降口がある以上、ここが一階のようだ。

(ここは学校だったのか。何かあるかもしれないし、調べてみよう)

 そう考え、学校の探索を始める。
 幸か不幸かこの学校、少なくとも足音が聞こえる範囲には乗った人間はいないようだ。
 もし誰かいるのなら、結構大きな声だった『俺』とのやりとりが聞こえているはず。
 それにもかかわらず誰も近付いて来ない以上、聞こえる位置に人がいないか、いるとしても乗ってはいまい。
 とりあえず手近にあった教室に足を踏み入れ……ようとした瞬間、異変が起きた。
 一瞬前まで無かった光が、ジローを後ろから照らしだした。

「なんだ!?」

 そう言い終えるが早いか、後ろに現れた光が消える。
 何が起きたのかと思い後ろを振り向くと、先程までいなかった少女……遠坂凛の姿があった。

 何故彼女がここにいるのか。その答えは先程スケィスから逃げる際に使った道具にある。
 それは、彼女にとっても馴染み深い道具。SE.RA.PHで行われた聖杯戦争で使われていたものだった。
 だからこそ、説明も見ずにすぐさま使う事が出来たのだ。
 消耗品の上に一つしか支給されなかったが、使わなければやられていたのだから仕方が無い。
 道具の名はリターンクリスタル。
 月海原学園一階へと帰還するためのアイテムである。

506逃げるげるげる!(修正版) ◆4vLOXdQ0js:2013/02/12(火) 21:04:25 ID:0RJUexO60
【B-3/日本エリア・月海原学園一階/一日目・黎明】

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、現実世界の姿
[装備]:DG-0@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:え、誰?
2:『俺』が鬱陶しい
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。

【遠坂凛@Fate/EXTRA】
[ステータス]:疲労(小)、サーヴァント消失
[装備]なし
[アイテム]セグメント1@.hack//、不明支給品0〜1、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝を狙うかは一先ず保留
1:助かった……?
[備考]
※凛ルート終了後からの参戦です。
※コードキャスト「call-gandor」は礼装なしでも使えます。他のものも使えるかは後の書き手にお任せします。
※リターンクリスタル@Fate/EXTRAは消費されました。

【全体備考】
※何もないエリアは見えない壁で仕切られています。
※購買部にNPCがいないため、購買部での買い物はできません。


支給品紹介
【DG-0@.hack//G.U.】
ハセヲXthフォームの使用する双銃。銃身の下にあるブレード部分での近接戦闘も可能。
劇中ではドッペルゲンガー戦のサブイベントをクリアすると手に入る。
ダブルトリガーを使用可能にする「ダブルトリガー」と、HPが減る程破壊力を増す「復讐の弾丸」の二つのアビリティを持つ。

【リターンクリスタル@Fate/EXTRA】
使用すると月海原学園一階にワープする。劇中ではアリーナからの脱出に使われていた。消耗品。
劇中では月海原学園購買部で購入可能な他、アリーナで拾う、エネミー戦で手に入れるなどの方法で入手可能。
本ロワでは主な入手経路だった購買部が使えないため、補充は絶望的である。

507 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/12(火) 21:07:10 ID:0RJUexO60
投下終了。修正点については仮投下スレに書いた通りです

>>472
ジロー:ドラコ戦の記憶があるため、パカーディ恋人ルートグッドエンド確定
レン:レン恋人ルート確定
ピンク:合体習得以降からの参加のため、最低でも戦友程度には思われているはず

…うん、会ったら修羅場かもしれないw

508名無しさん:2013/02/12(火) 22:14:23 ID:UtSOW3YA0
後、リーファとラニの参加時期によってキリトとはくのんが気づかぬうちに修羅場フラグを立ててしまう可能性ががが

509名無しさん:2013/02/13(水) 02:08:46 ID:s/Q10IBs0
幽霊ナビはセーフとアウトの中間にある気がする
自分はどちらかと言うとアウトより
倒した意味がなくなるし、マーダーよりのネットナビの生存価値が下がる

510名無しさん:2013/02/13(水) 04:23:43 ID:pQi2Y3fY0
両氏とも投下乙。

>それはさながら燃えるキリンのように
クライン、予想できたこととはいえ、こんなに早く死んでしまうとは。
それによって揺光が決意を固め、ロックマンも合流したとはいえ、そこにはフォルテもいるため安心できませんね。

ただ、私も幽霊ナビはグレーゾーンですね。
EXTRAでのユリウスのような例があるため、完全になしとは言いませんが、作中からは幽霊ナビになるほどの強い感情を読み取れませんでしたし。
あと支給品によるジョブエクステンドもどうかと思います。
戦い方を限定してしまう制限上こちらもなしとは言いませんが、支給品で簡単にエクステンド出来てしまうのでは、制限なしと変わらない気がします。
最後に、ロックマンと揺光の状態表がミスってますよ。

>逃げるげるげる!
修正乙です。
これなら大きな問題はないと思いますよ。
果たしていきなり物騒な銃を二丁も構えた男性に、凛はどういう対応をするのでしょうか。
あと校内に移動したことで、ラニ達と遭遇する可能性がさらにアップしましたね。
購買部に関しては、NPCがいないことにしなくても、ただ売ってない事にすればいいだけの気もしますが、まあこれは後からでもどうにもできますね。

511 ◆nOp6QQ0GG6:2013/02/13(水) 07:22:58 ID:mC9KBcT20
指摘ありがとうございます
幽霊ナビ周りはアウトの声が多いみたいなので、最後のパートはカット
ジョブエクステンドは確かにちょっと効果強過ぎかなと感じたので、使用後10分限定、という制限を追加
こんな感じの修正版を近いうちに投下しようと思います

512名無しさん:2013/02/13(水) 10:55:47 ID:GhiqRMwk0
>>508
そこは次の学校組に期待ということでw
ちょうど凛とラニが学校にいるからエンカウントするかもしれないし

513名無しさん:2013/02/13(水) 18:11:39 ID:e2HOxyhY0
白野さんの性別は……どっちでも修羅場だな!

514名無しさん:2013/02/13(水) 20:19:36 ID:txABzgPM0
一部ナビは、倒したら原作通りにバトルチップに変化……したらまずいな。
フォルテは原作通りのバランスブレイカーだわw

515名無しさん:2013/02/13(水) 20:27:24 ID:Y8e.MXKEO
>>514
あれ、ラーニングできるのがスキルだけと過程してもかなり鬼畜能力だもんなぁ。実際漫画版じゃエライことに…

516名無しさん:2013/02/13(水) 20:29:51 ID:GhiqRMwk0
>>514
後々プロトアーム支給しようとしてたんだが、フォルテでもやばいならプロトアームはもっとまずいか?w

517名無しさん:2013/02/13(水) 21:20:53 ID:l5Ny9fJ60
>>515
サイトスタイルすらパクってたもんな、漫画版
奪うというよりも、戦いの中で覚えるって感じだったから下手すりゃダスク・テイカ―さんの上位互換になりそう
このロワだとデュエルアバタ―になったり、データドレインをパクったりしそうで怖い
ただ、こうなってくるとフォルテ自身のキャパがどの位なのか気になる

518名無しさん:2013/02/13(水) 21:41:43 ID:ccGqcI6E0
投下乙でしたー

>>Link
>>それはさながら燃えるキリンのように
繋がり云々の話は、.hackやってるとしみじみとしてしまう件
クライン乙。いい男や
ジョブ・エクステンドのアイテムについては、使い切りでR:2ジョブ限定なら
アリかなーと思いましたが、幽霊ナビも含め、修正されるそうなのでそちらをお待ちします。

それと「転位」は「転移」かと思います

>>逃げるげるげる!(修正版)
修正乙でした
特に問題ないかと

519名無しさん:2013/02/13(水) 21:45:25 ID:ccGqcI6E0
ご存知の方もいると思いますが一応報告
パロロワ毒吐き別館の「交流雑談所・毒吐きスレ」のロワ語り、
2/14にVRロワのようです

520名無しさん:2013/02/13(水) 21:54:22 ID:HtPBGcJk0
素の能力でも、フォルテは全ナビ中最強クラスだからなぁ……
ロックマンを除いてフォルテに勝ったのはセレナードだけだけど、そのセレナードも昔のフォルテと今のフォルテじゃ力が違うって意味の発言してるし

521名無しさん:2013/02/13(水) 22:14:22 ID:GhiqRMwk0
>>517
そういえばゲーム本編にフォルテGSなんてのがいたなあ…
ゴスペル(2のラスボス。フォルテを模して作ったら巨大な犬型化け物になった)取り込んでたもんなあ…

522名無しさん:2013/02/13(水) 22:27:22 ID:JrcibSEM0
>>517
>上位互換
やめて!能美君いらない子になっちゃう!
まあ別にかまわないけど

523名無しさん:2013/02/14(木) 17:45:47 ID:8kUfBFOAO
>>517
漫画版だと、コピーしても仲間がいないと意味無いソウルユニゾンでやっと勝てたもんな。まあ、無防備なブルースは相手しないというハンデ付きだったけど。
あとは、フォルテクロスロックマンは流石にパワーが強すぎて体が保たなかったみたいだけど。

524名無しさん:2013/02/14(木) 20:03:34 ID:2tR9nKJ2O
>>521
確かフォルテとゴスペルってロボの方のロックマンでも合体してたよな

525名無しさん:2013/02/15(金) 17:24:53 ID:D2MxNm.kO
>>524
スーパーロックマンの設計図を盗んで改造したやつだな。

526名無しさん:2013/02/16(土) 01:44:56 ID:j6YuM4Xs0
しかしここまで話題になると用語集入りしてもいいレベルだな>規格外マーダー達

527名無しさん:2013/02/16(土) 08:17:34 ID:QpG2qzMkO
そしてその中にポツンといる一般人マーダーのアドミラルであった

528名無しさん:2013/02/16(土) 15:49:05 ID:hhlbrmF20
でもアドミラルも野手能力がオールAレベルのプロゲーマーなんだよね

529名無しさん:2013/02/16(土) 19:01:47 ID:U9fuugc.0
投手で野手能力オールAって凄いな
でもその能力値をこのバトロワで活かす機会はあるのだろうか…

530名無しさん:2013/02/16(土) 19:24:10 ID:ozdrxzU60
単純にボールで投げ殺したり、ハイスペ身体能力活かしたりで

531名無しさん:2013/02/16(土) 19:28:17 ID:a4MxqgJgO
関係ないけど喧嘩ものの漫画でサッカー経験者で喧嘩素人の主人公がボール蹴る勢いで相手を蹴れば必殺って教わってたな。

532名無しさん:2013/02/16(土) 19:48:00 ID:zeYz9IPkO
ホームランにする勢いで撲れば。

533名無しさん:2013/02/16(土) 19:51:51 ID:Fhg2jsac0
今装備してるアサルトライフルの弾が無くなったらバットの要領で打撃武器にできるな…
アレ?野球ゲームとはいえオールAの化け物なんだし、装備次第で強マーダーになれるんじゃね?

534名無しさん:2013/02/16(土) 20:38:20 ID:Ziwj3pzUO
あくまでもスポーツだし、他の完全バトル系と比べたら流石に数段落ちるだろう。最大値って言っても元の上限が低いから微妙、みたいな

535名無しさん:2013/02/16(土) 23:19:54 ID:QpG2qzMkO
サーヴァントを三人従えてる白野…
原作最強クラスのサーヴァントを従えてるレオ…
時間軸上憑神を使いこなしてるハセヲ…
真っ向勝負でスミス倒せるネオ…
規格外を除けば対主催最強と名高いヒースクリフ…
サイトバッチが手に入れば上記の面々と肩を並べうるロックマン…

マーダーだけじゃなくて対主催も規格外揃いじゃねえかwwww

536名無しさん:2013/02/17(日) 00:49:40 ID:qvUJfaVM0
全員ある程度戦えるよなーコンセプト的にそういう作品が集まった印象

537名無しさん:2013/02/17(日) 17:50:48 ID:yfQxGqDg0
えっ?
オールAとか能力値への言及ってSS内であったっけ?

538名無しさん:2013/02/17(日) 18:24:59 ID:CS3FMZI60
原作で試合の時に能力見るとオールAになってる

539名無しさん:2013/02/22(金) 17:44:34 ID:HeFTRstA0
予約が来たぞー!

540 ◆7ediZa7/Ag:2013/02/27(水) 01:03:02 ID:CI5IUy9U0
間に合った、投下します

541ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで―― ◆7ediZa7/Ag:2013/02/27(水) 01:04:02 ID:CI5IUy9U0
次第に空が明るくなっていくにつれ、湖の水面も徐々に明度を上げていた。
MAP上のオブジェクトはリアルタイムで変化していくようだ。その完成度は本物の世界と見紛うばかりである。
オーヴァンは地面に軽く触れ土を抉り取る。水を吸った柔らかい感覚が現れ、同時に腐ったような泥臭い臭いがした。
それをしばしの間無言で眺めた後、次は湖へと近づいていく。水際まで辿り着くと、靴がぴちゃりと音を立てた。
土に汚れた手を湖に浸し、土を手のひらから剥離させた後、今度はその手で水を一掬いする。そして水をゆっくりと口元へと運んで行った。
口に含まれた水には味があった。透き通る味とでも言うべきだろうか。塩味は感じられず、この湖が淡水湖として設定されていることが分かった。

(五感の再現は完璧……プレイヤーは完全にこの「世界」に没入し、ディスプレイの前に座る「自分」という存在を認識することはできない)

驚異的といえば驚異的ではあるが、オーヴァンは既に似たようなケースを知っている。
八咫がAIDAと名付けた未知のバグ。奴らがプレイヤーを疑似サーバー内に閉じ込めた事件があった。あの時の感覚は正しく意識が「世界」に囚われているといってもいいものだった。
The Worldの歴史を辿れば、それに類似したケースが幾つか見られる。遡れば2009年の時点で一人のプレイヤーに似た現象が発生していたと聞く。
このVRバトルロワイアルもまたその技術の応用なのであろうか。オーヴァンが考えたのは先ずその可能性だ。
が、その可能性はあり得ないようにも思えた。AIDA、あるいはモルガナといったシステムはThe Worldの持つ自律性が生み出した。その存在は既に人の手から離れたものだ。
オーヴァンの知る限り、それらのシステムを解析し、技術として「応用」できる者など居ない。訳も分からず翻弄されるのがオチだ。
だから、あり得るとすればこの「世界」はAIDAの応用ではなく、そのものであるという可能性。

かつてのAIDAサーバーの一件のようにAIDA自身がこの「世界」をこしらえた。
黒幕たる人間などおらず、システムが意志を持って世界を構築したという説だ。
その説の方が、AIDAを何者か――たとえばが茅場晶彦が解析し技術として応用する域にまで至った、という考えよりはあり得るように思えた。

オーヴァンは己の片腕を見た。
巨大な拘束具により自らを縛っている姿は異様としか言いようがない。このグラフィックは勿論The World正規のものではなく、彼自身がわざわざ用意したものだ。
そうまでしてこの「オーヴァン」というキャラデータを弄った訳は一つ。このキャラに巣食う突然変異プログラム――AIDA<Tri Edge>の存在である。
オーヴァンは不思議なことにこのバグに愛されていた。自分から接触したのではなく、向こうから勝手にやってきて、そのデータを浸食したのである。
それが全ての始まりであった。最初の悲劇が起こり、それまで無害だったAIDAが変異を引き起こした。
同時に醜く変異した左腕のグラフィックを覆い隠すために、自ら拘束具を纏ったのだ。

無論、そんなもので管理者の眼を欺くことはできない。
何しろこの左腕だけエリア一つ分に匹敵するデータ容量がある。それに一目でチートアイテムと分かるグラフィックだ。気付かない方がおかしい。
そんな条件でありながらこのデザインを選んだのはセンチメンタルな部分に依るところが大きい。
AIDAを宿したオーヴァンは何物に者にも縛られない。ゲームシステムの制約も彼を止めることはできず、システム外の行いなども軽々とできるようになっていた。
そんな状態だったからこそ、彼は自らを縛り上げたかもしれない。AIDAの拘束を誰よりも望んでいたのは恐らく彼だった。

542ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで―― ◆7ediZa7/Ag:2013/02/27(水) 01:04:36 ID:CI5IUy9U0

身を以て体感した彼だから分かる。アレを応用したシステムを作り上げることなど不可能だ。
自律思考を可能とした奴らはもはや単純なプログラムではなく、一つの思考主体。
あの榊にしたところで本当に鵜池トオルがプレイしているかは怪しい。その言動をただコピーしたAIに過ぎないのかもしれない。
AIDAは奇妙なことに人間に興味を示していた。それが何を意味しているのかは分からないが、時には大がかりな仕掛けを使ってまで人間の感情を観察しようとしていた。
その点で言えばこのバトルロワイアルという空間はその目的に合致しているように思える。殺し合い。この状況で感情を揺り動かさない人間など居ないだろうし、格好の観察対象になることは確かだ。
まだ結論を下すには情報が足りないが、この場を用意したのがAIDAそのものである可能性は十分に考えられた。

ならば、この場でオーヴァン――犬童雅人が取るべき道は何だ。
目的は今までと変わらない。『再誕』によるAIDAの駆逐である。
ハセヲがこの場に居ることは確認している。既に『死の恐怖』を覚醒させる条件は整えられている。

オーヴァンにはAIDAの他にもう一つ力がある。それが憑神『再誕:コルベニク』である。
その力が完全に解放されることでネットワークは一度死に、そして文字通り再誕する。
AIDAを駆逐するには再誕を行うしかない。そう考え、オーヴァンはこれまで立ち回ってきた。
『再誕』の発動にはにはハセヲの持つ『死の恐怖』の力が不可欠だ。その為にオーヴァンは暗躍しハセヲを徐々に強化していた。
今やハセヲは全ての碑文をデータドレインした。条件は整っている。あとはハセヲと相対するだけとなった。
決戦はネット上のどこでやっても良い。それは勿論ここでも良いということ。
この場で『再誕』を発動し、AIDAを駆逐する。この場がAIDAによるものであれば、同時にバトルロワイアル自体も崩壊するだろう。その際、ここに接続しているプレイヤーがどうなるのかは分からないが。

が、問題が一つある。
『再誕』を行う場は全てのネットに繋がっていなければならない。
もしこの場が外部ネットと隔絶したサーバーであった場合、オーヴァンの目論みは失敗に終わることとなる。それだけは何としても避けねばならないだろう。

「…………」

オーヴァンは無言でMAPを開いた。調査するとしたら先ずどこに手を付ける。
しばらく考えて、一つの答えを出した。

ゲート。
舞台のところどころに設置されたその施設にオーヴァンは興味を持った。
特定のエリアとエリアを結ぶそれはPCを転移させる役目を担っているに違いない。
そこを攻める。ハッキングを仕掛け、プログラムを弄り仕様外の場へ転移をするのだ。
無論、一介の参加者がこの場のシステムに干渉することは先ずできないだろう。
が、オーヴァンには力がある。AIDAだ。このバグを誘発させゲートハッキングを試みる。転移先の変更ができなくとも、舞台と外部との接続状態の確認ができればそれでいい。
この舞台を用意したのが誰であれAIDAの制御が完全にできようもない以上、試してみる価値はある。黒幕がAIDAそのものであるなら更に好都合だ。オーヴァンは彼らに愛されている。向こう側からコンタクトしてくる可能性もある。

543ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで―― ◆7ediZa7/Ag:2013/02/27(水) 01:05:20 ID:CI5IUy9U0

「フッ……」

そこまで考えたところで彼は冷たく笑った。仇敵を滅す為にその仇敵の力を借りている事実にアイロニーを感じたのだ。これまで散々利用してきて今更の話ではある。しかし滑稽であることには変わりない。
何にせよ一つの方針は見えた。
ゲートハッキング。かつての腕輪所有者の真似事をやってみるとしよう。

PCに仕掛けられたというウイルスの存在もある。が、これに関しては本当にコンピュータウイルスの形式になっているかは怪しい。
それは榊らのブラフということではない。何もウイルスなどという形式に頼らずともPCの管理はできるということである。
運営側がネットゲームGMと同等、あるいはそれ以上の権限をこの場で持っているのは想像に難くない。完璧な五感再現により錯覚してしまうが、ここはゲームの中なのだから。
ならばわざわざ時限式のプログラムを仕込まずともPCの削除は可能な筈だ。それをわざわざウイルスなどという形式に拘るだろうか。

考えられるのは、ある種印象操作のためであるという可能性。
敢えてウイルスという言葉を使うことで、身体を浸食しているという生理的嫌悪感を喚起させ、より直観的な死の恐怖からゲームの進行を円滑にさせる。
そういった思惑があったのかもしれない。この場合、ウイルスと呼ばれるべきは榊、引いては運営側の悪意とでも言うべきか。
だとするならばウイルスを解除しよう躍起になって、PCを調べることはあまり意味がないかもしれない。運営側の管理外の領域まで逃れることを第一目標にすべきだ。
これもまた先の方針――ゲートハッキングによる外部への脱出と合致する。

「…………」

そこまで考えた後、オーヴァンはゆっくりと元の場所へと戻っていった。
湖のほとりにぽつんと生えた一本の広葉樹。月光を受け青く寂しく光るその影の下に、一人の少女の姿がある。
サチと名乗ったプレイヤーだ。穏やかな寝息を立て、その胸は僅かに上下している。彼女を見下ろしながら、オーヴァンは無言で考えた。

彼女の生殺与奪の権利は今自分にある。
ウイルスがどういった仕組みになっているにせよ24時間ルール自体は本当だと思っておくべきだ。
今はまだそれほど焦る必要はないだろうが、時間制限は強く意識しておかなくてはならない。場合によってはPKもしなくてはならないことも変わらない。
今から一時間ほど前に空に巨大な閃光が走った。
一体それが何だったのか。山に阻まれたせいで、この地点からは良く見えなかったが、既にゲームは始まっているのだ。
ここで一人殺しておくのも一つの選択肢だ。誰にも見られることもないだろうし、今後動きにくくなるとも思えない。

544ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで―― ◆7ediZa7/Ag:2013/02/27(水) 01:05:51 ID:CI5IUy9U0

「そろそろを起きた方が良い。誰かが来るかもしれない」

そう考えはしたものの、結局オーヴァンは何もせず、代わりにサチを起こすべく声を掛けた。
穏やかで優しげな声色で。

サチはゆっくりと目を開いた。「ん……」という声が漏れる。オーヴァンは薄く笑う。
それを見て彼女もまた弱々しくだが微笑んだ。先ほどよりは幾らか落ち着きを取り戻しているようだった。
オーヴァンはその調子で彼女に今後の方針を話した。
調べたいことがあるからC-7のゲートの向かうこと。近くで大きな戦闘があったようなので注意していきたいということ。
それらの言葉を聞いたサチはこくんとその首を振った。

「じゃあ、もう少ししたら出発しよう。大丈夫かい?」
「……はい」

サチをPKにするのはまだ早い。オーヴァンはそう判断した。
彼女が元いたというSAOというゲーム。NABの職員であった自分が知らない茅場晶彦という人物。それらすべての情報を絞り取っておきたい。
ある程度は自分に気を許しているようではあるし、そう難しいことではないだろう。そして不要と判断した後はPCを実験台にしてしまってもいい。
今自分の手にはAIDAの種子がある。AIDAに感染したPCがバトルロワイアル内のシステムを破ることができるか否かを彼女を使って調べてみるのもいい。

「出発の前に装備を確認しておこう。武器はあるかい?」
「……ありました」

サチはそう言って一本の剣を取り出した。話を聞くに彼女は、剣にカテゴライズされるものならばどの種類でも装備できるらしい。
一方のオーヴァンはというと、残念ながら支給アイテムに銃戦士(スチームガンナー)が装備可能なアイテムはなかった。

「銃剣? もしかしてこれなら……」

すると幸運にもサチが銃剣を持っていた。オーヴァンは礼を言ってそれを譲って貰った。
銃剣・白浪。決して武器のレベルは低いが、とにかく装備できるものはありがたかった。
AIDAと憑神という力があるとはいえ、手札が増えることに越したことはない。

「あとこんなものもあったんですけど」

そう言ってサチは最後のアイテムをオーヴァンに見せた。
小さな結晶の形をしたそれを見たオーヴァンの顔に微笑みが結ばれる。
その笑みはそれまで仮面のようなものとは少々意味合いが違った。

545ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで―― ◆7ediZa7/Ag:2013/02/27(水) 01:06:53 ID:CI5IUy9U0

「知ってるんですか?」
「……ああ、The Worldのアイテムだよ。昔集めていた時期があったんだ。それを巡って他のギルドと争ったりしてね」
「へぇ……じゃあ、レアアイテムなんですか、これ」

オーヴァンの言葉を聞いたサチは物珍しげに結晶を見た。
その結晶の名はウイルスコア。R:1時代に現れたバグがアイテム化したものである。

オーヴァンは思い出す。かつて自分が黄昏の旅団を率いていた頃のことを。
R:2に僅かに残ったウイルスコアを、キーオブザトワイライトへの道を開く鍵と信じて「黄昏の旅団」は探し回った。
巨大ギルド「Tan」もまたコアを手に入れようと躍起になり、幾度かの光線を経て何とか全てのウイルスコアを集めることに成功した。
そして、実際「Θ隠されし 禁断の 古戦場」コシュタ・バウア遺跡の隠しエリアを開く鍵としてそれは機能したのだ。
コアは門を開く鍵だった。かつてのドットハッカーズもまたウイルスコアをそうやって使っていたという。

が、黄昏の旅団が集めたコアは偽りの鍵であった。
コアを使い隠しエリアに突入した旅団を待っていたのは八咫――当時は直毘というキャラを使っていた――が仕組んだオーヴァンを捕える為に張り巡らした罠。
全ては彼を捉えるために用意された茶番劇。それがTaNとのウイルスコア争奪戦の真実だった。

これからゲートに向かうことを思うと、このアイテムはひどく暗示的だ。
門の先にはあるのは果たして何なのだろうか。



【C-4/湖のほとり/1日目・黎明】

【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%
[装備]:剣(出展不明)
[アイテム]:ウイルスコア(T)@.hack//、基本支給品一式
[思考]
基本:死にたくない
1:オーヴァンと共に行動する
2:キリト君に会いたい
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになってからの参戦です
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました
※キリトが参加していることに気付いていません


【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]: HP100%
[装備]:銃剣・白浪
[アイテム]:不明支給品0〜2、AIDAの種子@.hack//G.U.、基本支給品一式
[思考]
基本:ひとまずは殺し合いを生き残る。そのためには殺人も辞さない
1:この殺し合いの主催者のことが気になる。主催者に関する情報を集める
2:C-7のゲートに向かい、AIDAによるゲートハッキングを試みる
3:利用できるものは全て利用する。サチも有用であるようなら使う
4:AIDAの種子はひとまず保留。ここぞという時のために取っておく
5:茅場晶彦の存在に興味
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です
※サチからSAOに関する情報を得ました
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
 また、それが茅場晶彦である可能性も、僅かながらに考えています
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています
※ウイルスの存在そのものを疑っています

支給品解説
【銃剣・白浪@.hack//G.U.】
マク・アヌに売っている銃剣。Lv24

【ウイルスコア(T)@.hack//】
カイトがゲートハッキングの際に使用するアイテム。
これがないとプロテクトが掛かったエリアに侵入することができない。
コードTのものは、vol.1クリア後にバンダイのウチヤマダから届くメールに添付されている。
.hack//Rootsにも登場し、黄昏の旅団とTaNが争奪戦を繰り広げた。

546名無しさん:2013/02/27(水) 01:07:38 ID:CI5IUy9U0
投下終了です

547名無しさん:2013/02/27(水) 22:44:50 ID:/.4Yo.vk0
投下乙
オーヴァン腹黒。マジ腹黒メガネ
目的のためには手段を選ばない辺りはいつも通りかw
サチ逃げろ早く逃げろ

そういえばワイズマンは、R:2時間軸も含めれば、
八咫、直毘、楢と、複数キャラを使い分けてるんだよなぁ
だが今はR:1のアバターだ…が、憑神も含めてどうなるやら

>>545
「幾度かの光線を」→「幾度かの交戦を」かな?

548 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/28(木) 22:35:24 ID:NBMjqA7A0
投下乙です
オーヴァンはやっぱりいつも通り。黒いなあ、黒いなあw
しかしゲートハッキングで仕様外のエリアに、ですか…
ウイルスコアの存在といい、果たして上手くいくのかどうか

では、こちらも投下します
クッソ短いですが、ご了承ください

549し あ わ せ ◆4vLOXdQ0js:2013/02/28(木) 22:36:03 ID:NBMjqA7A0
 長い間忘れていた。

『実は自分、病気で……このままだと、一年ぐらいで死んじゃうんですよ』

 思い出すことも、思い出す必要もないと思っていた。

『私って、まだ人間なんでしょうか?』

 自分はただのアバターでよかったのに。
 そこらにいる、取るに足らないNPCでよかったのに。

『つけたい名前はあったんだけど。もう、思い出せませんね……』

 けれど、思い出してしまった。
 自分が生きた人間だった頃の、寺岡薫としての記憶を。

『ごめんなさい……』


「私は、寺岡薫の一部……だったんですね」

 二頭身の人物――声や喋り方から察するに、おそらく妙齢の女性なのだろう。――がポツリと呟いた。
 会場のどこかの平原で発したその声は、聞く者もなく消える。

 思い返せば、彼女の人生は失うものばかりだった。
 中学生の頃。放射線被曝のせいで死病を患い、人並みの寿命を失った。
 大学で研究員をしていた頃。サイボーグの『彼』に恋をし、自分が身を引き、好きな人を失った。
 ワギリに入社した頃。病に侵された体を脳までサイボーグ化していき、生身の身体のほとんどを失った。
 WG電池と名を付けた新型バッテリーを完成させた頃。サイボーグ化が進み、多くの記憶を失った。
 ワギリの工場が襲われた頃。襲撃事件のせいで致命傷を負い、人間としての命を失った。
 そして今。肉体と記憶を失い、データだけの存在となってここにいる。
 もっとも、記憶は榊のルール説明が始まる直前、ジローの手によって戻っているのだが。

「じゃあ、私はこれから一体どうすればいいの?」

 女性が悲しそうに呟く。
 データだけの存在になってしまった今となっては、もう何もできはしない。
 名前も忘れてしまった『彼』に会う事も、機械化が進んでから出会った友人に会う事も。
 寺岡薫の記憶が戻ったから何だと言うのか。こうも辛いのなら忘れたままの方がまだ良かった。
 こんな状態では、やりたい事も出来ることももう何も――――

550し あ わ せ ◆4vLOXdQ0js:2013/02/28(木) 22:36:32 ID:NBMjqA7A0
「……あ」

 ――――あった。
 正体を知らなかったとはいえ、デンノーズの面々はこんな自分とも仲良くしてくれた。
 人間ではないと分かったらどう反応するかは分からない。だが少なくとも、今の自分にとってはたった一つだけ残ったもの。
 だから、生きて帰ろう。
 生きて帰って、身体のウイルスも駆除して、そしてデンノーズとまた会おう。
 幸い、彼女を構成する記憶や人格は寺岡薫のもの。
 六歳の時点で柱時計を時限爆弾に修理し、『彼』の助けがあったとはいえ自分自身をサイボーグ化し、エネルギー革命を起こした新型動力『ワギリバッテリー』を作り上げた天才科学者なのだ。
 たかがウイルスの一つや二つ、ワクチンを作れる場所とウイルスの構造さえ分かれば何とでもなるはずだ。

「データだけになっても、まだ生きていたいって思える理由があるなら……私は幸せなのかもしれませんね」

 そう言って、彼女……カオルがどこかへと歩き出す。
 彼女の半身である『デウエス』が望んでいた「幸せになりたい」という願いは、既に果たされていたようだ。


【D-7/平原/一日目・深夜】

【カオル@パワプロクンポケット】
[ステータス]:HP100%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:何とかしてウイルスを駆除し、生きて(?)帰る。
1:どこかで体内のウイルスを解析し、ワクチンを作る。
2:デンノーズのみなさんに会いたい。
[備考]
※生前の記憶を取り戻した直後、デウエスと会う直前からの参加です。

551 ◆4vLOXdQ0js:2013/02/28(木) 22:39:38 ID:NBMjqA7A0
投下終了。記憶が復活してからもしデウエスと会わなかったらを想像してたらいつの間にかこうなった
今回のSSは

・記憶は戻ったけどどうしろと?
・カオルに生きる気力が湧いたようです
・頭脳チートが対主催に回りました

以上の3本となります
…アレ?俺ひょっとしてパワポケ勢ばっか書いてる?

552名無しさん:2013/02/28(木) 23:28:30 ID:vg/cSwz20
乙です
パワポケやってないけど、なんつー重いキャラだ…
ウイルス解析できそうなキャラだけど、どうなるかなー

>柱時計を時限爆弾に修理し
改造じゃないんですかー!
でも噂に聞くパワポケならとるにたらないことなのか?www

553名無しさん:2013/02/28(木) 23:47:31 ID:pKkBd/B2O
>>552
寺岡薫本人が3で修理って言ってたから修理なんだろ

554名無しさん:2013/03/01(金) 11:01:41 ID:csT3RHs20
投下乙
電脳世界から現実世界に干渉する能力を少し見ただけでモノにした人だから
ウイルスだって解析しきると信じているぜ
参戦時期的にその能力をカオルは使えないのが残念だが

しかしこのロワ、死後から参戦とは別に現実の肉体は死んでいるキャラ多い気がする

555名無しさん:2013/03/02(土) 00:24:43 ID:ptDMqLb60
更に予約ktr

556 ◆uYhrxvcJSE:2013/03/02(土) 01:51:52 ID:gjNhYTJw0
投下乙です。
オーヴァンは相変わらず黒い……
サチが無事に済むビジョンがまるで見えてこないな。

カオルは対主催に回ったか。
ウィルスを解除出来そうな数少ない頭脳派キャラだけに、これは期待したいところ。
問題は、誰かと合流しなきゃ戦闘能力の面でやや不安があるとこだけど……


そしてこちらも、ガッツマン投下いたします。
短くてすみませんが、お願いいたします。

557男一匹一人旅 ◆uYhrxvcJSE:2013/03/02(土) 01:52:33 ID:gjNhYTJw0

「どうなってんでガスか……?」


H-9、アメリカエリア高速道路。
工事中の看板が置かれ道路の一部が途切れているその道路上で、一人のネットナビが頭を悩ませていた。
黄色と赤を主体としたカラーリングにその太い腕っ節、安全ヘルメットを連想させる頭部の形状は、正に工事現場の作業員を思い起こさせる。
もし誰か他に人がいれば、彼―――ガッツマンをここの工事従事者と勘違いしてもおかしくなかっただろう。


「デカオとも連絡が取れないし、ロックマン達も見当たらないなんて……」


自分はつい今まで、デザートマンに苦戦するロックマンを救うべく、サポートをしていた筈だった。
しかし、気がつけばあの広場にワープさせられており、そして殺し合いへの強制参加と来た。
いきなりすぎて本当に訳が分からない話だ。
WWWの仕掛けた悪質な罠だろうか?
しかも今の状況は、ナビゲーターであるデカオとも連絡が取れず、ロックマンもデザートマンも見当たらないという、完全な孤立無援である。
この様な形で頼れるモノが何一つとしてないというのは、ガッツマンにとっては初めて経験する事態だった。
故に今、何をどうすればいいのか、頭を悩ませているのである。


(兎に角、殺し合いなんて間違ってもしたくないでガッツ。
ここが何かは分からないけど、それだけは絶対でガスよ)


ただ、殺し合いに乗らないという方針だけははっきりと決めていた。
確かにあの榊という男の言うとおり、このまま何もせずにいれば自分はウィルスでデリートされてしまうだろう。
そうなればもう二度とデカオと会う事も、ライバルのロックマンと闘う事も出来なくなる。
それははっきり言って嫌なのだが……それでも。
それでも、他人を犠牲にしてまで生き延びたくはない。
これだけは、例えどんな事態になっても曲げるつもりのない、男としての意地であった。

558男一匹一人旅 ◆uYhrxvcJSE:2013/03/02(土) 01:53:19 ID:gjNhYTJw0

(よし!
とりあえず、誰か他の人を探し出すでガスよ!)


ひとまずガッツマンは、他の参加者を探し出す事にした。
パワーならば誰にも負けない自信はあるが、難しい事を考えるのは何分苦手だ。
それに自分一人だけでこの事態を乗り切れるとも、はっきり言えば思っていない。
だから仲間を探すのだ。
きっと自分のように、このゲームをよく思わない者がいるに違いないのだから、協力すればいい。
そうすれば、今まで遭遇してきた事件の様にきっと乗り切れる。
そんな実に単純な、しかしある意味確信を突いている考えがガッツマンにはあったのだ。


(そういえば、地図があるって言ってたでガスね。
人が集まりそうな場所を探してそこに行けば、誰かいるかもしれないでガッツ)


仲間を集めるにあたり、それに適した場所へ向かう必要がある。
ガッツマンは自分に配布されているという地図を出し、その中身を確認した。
とりあえず今己が立っている場所だが、高速道路の上だということからして、アメリカエリアなのは間違いないだろう。
会場の端になる為、少々移動が面倒になりそうな場所だ。
では他には、どんな場所があるのか。
そう思い視線を彷徨わせてみて……ある、気になる文字を見つけた。


(ウラインターネット……?)


ウラインターネット。
ガッツマンもよく知る、ネットワーク犯罪者や無法者達の溜まり場だ。
危険な為に日常ではまず足を踏み入れる事のない場所だが……こと、この状況ではそうも言えない。
何せ名前からして、あからさまに怪しすぎる。
ここに何かありますよと、手招きして誘っているようなものなのだ。

559男一匹一人旅 ◆uYhrxvcJSE:2013/03/02(土) 01:53:53 ID:gjNhYTJw0

(もしかしたら、皆ここを目指してるかもしれないでガッツ……!
これがWWWの罠なら、尚更……!)


そしてガッツマンは、単純にもその誘いに乗せられていた。
ウラインターネットは、犯罪者をはじめ危険人物の溜まり場となっている。
ならば、あの榊という男ももしかしたらいるかもしれない。
そう短絡的に考えてしまっていたのだ。


……もっとも、その単純な考えを持った参加者は他にもそれなりにいるわけではあるのだが。


(それとアイテムっていうのも、何があるのか見ておいた方がいいでガスね)


目的地を決めたところで、地図のついでにアイテムも確認しておく。
そう簡単に倒されないという自信はあるものの、やはり今は己一人の状況だ。
デカオからの支援がない以上、使えそうなものは素直に使う方がいい。
特に、日頃から扱っているチップの類があるなら嬉しいところだ。
ガッツマンは慣れないウィンドウ操作を進めつつ、期待しながらアイテム項目をクリックしてみる。


(……これって……武器、でガスよね?
でも、バトルチップっていうより寧ろ現実世界のものじゃ……)


そんな彼が真っ先に見たのは、巨大な一本のライフル銃だった。
名を、ウルティマラオライフル・PGMへカートⅡ
フランスのPGM社が開発した、12.7mm口径の大型狙撃銃。
1800m以上離れた相手への狙撃を可能とする長距離射程に加え、その口径に見合った破壊力を持っている化け物ライフルだ。
このゲームに支給されている攻撃用の武器の中でも、威力を見れば間違いなく当たりの部類に入る。
しかし……ガッツマンは、当たりを引いたと喜ぶよりも、寧ろ困惑していた。
何せこのヘカートは、彼が本来なら決して触る事など出来ない、現実世界の重火器なのだ。
何故、電脳世界にこんなものがあるのか……そんな驚きの方が、彼には大きかったのである。


(それに……バスターやキャノン系は苦手ガッツ……)


加えて、ガッツマンはこの手の遠距離武器が不得手だった。
彼はその見た目からも分かるように、徹底したパワー・タフネス重視のナビだ。
本領は至近距離での闘いであり、どうしてもこの手の武器は敬遠しがちである。
それでもここは、無いよりかはマシと考えるべきなのだろう。
いざという時には使う、そう考え、ガッツマンは次の項目に目を滑らせた。


……しかしこのヘカートなのだが、実はガッツマンに支給されたのはまだ運が良い方だったりする。
何故ならこの銃は、そもそも参加者の誰しもが扱えるような易しい代物じゃない。
性能は上述した通りの相当なレベルがあるのだが、それに見合ったデメリットも二つほど存在している。
まず一つ目だが、何せ超大型狙撃銃というだけあってかなり重たいのだ。
これをアイテム欄からオブジェクト化させようものなら、持ち歩くのにはある程度の筋力がないと中々に苦労する。
そして二つ目は、その威力に見合うだけの反動がある事。
もし仮に、何の心得も無い一般人がこのライフルを撃った場合は、肩が外れるぐらいの衝撃に襲われるのだ。

560男一匹一人旅 ◆uYhrxvcJSE:2013/03/02(土) 01:54:22 ID:gjNhYTJw0
よってヘカートを扱うには、まずはこの二つの欠点を克服しなければならない。
その点では、ガッツマンははっきり言ってラッキーだ。
彼の持ち前のパワーなら―――本来の持ち主であるシノンには及ばないかもしれないものの―――少なくともそのデメリットに左右されずにこのヘカートを扱う事はできる。
もっとも、扱う場面が果たしてくるかという話ではあるのだが。


(……これは……?)


続けてガッツマンの興味を引いたのは、またしても彼が見たことないアイテム。
しかし今度はへカートと違い、現実世界にも存在していない、明らかに電脳世界の産物と呼べるものだった。
それは、SAOの世界で数多くのプレイヤー達が愛用してきた、冒険の必需品と呼ぶに相応しいアイテム。
使用する事で、遠く離れたマップへも瞬時に移動する事が出来るクリスタル―――転移結晶である。


(エスケープチップみたいな……いや、これってエスケープより大分いいものじゃないんでガスか……!)


その効果と使用方法について書かれてある説明欄に目を通し、ガッツマンは驚きを隠せなかった。
この転移結晶だが、相当に便利な代物なのだ。
使用方法は簡単で、オブジェクト化されたそれを手に持った状態で『転移』のキーワードと共に、行き先を叫べばいいだけという。
例えば、マップのA-1に行きたいならば、「転移、A-1」と叫べば、そこにテレポート出来るのである。
勿論地図に無い場所を叫んだ所で意味は無いのだが、逆にいえば、マップ内であれば何処へでも行く事が可能となる……
そう、目的地であるウラインターネットにもだ。


(……でもこれ、ここで使っていいもんでガスか……?)


しかし。
ガッツマンは、この転移結晶を使うかどうかに頭を悩ませた。
何故なら……転移結晶は使い捨てのアイテムであり、たった一つしかない貴重品だからだ。
これを使えば、ウラインターネットにはあっという間に到着する事ができる。
だが、それだけの為に果たして使っていいものなのだろうか。
例えば、自分ではどうしようもない強敵と遭遇した時でも、これがあれば一度は完全に逃げ切る事ができる。
窮地に陥った仲間がいれば、これを託して何処か遠くへと逃すこともまた出来る。
はたまた、ウラインターネットよりも実は怪しい目的地が出てくるなんて可能性だってある。
そう考えると、この転移結晶は迂闊にここでは使えないのだ。

561男一匹一人旅 ◆uYhrxvcJSE:2013/03/02(土) 01:54:54 ID:gjNhYTJw0

(……うん、まだこれは様子見でガッツ……)


考えた結果。
出した答えは、アイテムの保留であった。
ここで使ってしまうには、転移結晶は少々高価すぎる代物だ。
後々の事を考え、いざという時の為に取っておくほうが良いだろう。


(ウラインターネットまでは、頑張って歩くでガスよ。
もしかしたら、ロックマン達が見つかるかもしれないでガスし……!)


そうと決まれば、善は急げだ。
ガッツマンはへカートをオブジェクト化させて肩より担ぐと、高速道路を真っ直ぐに下り始める。
向かう先は真北、ウラインターネット。
恐らくは他のネットナビ達も集合しつつあるだろう、ネットワークの暗部だ。
WWWの野望を阻止すべく、力強くガッツマンは歩き始めたのだった。




……もっとも、これがWWWの仕業であるかどうかは、まだ全く分からないのだが。
対主催に向けて強い決心を固めている彼へとツッコミを入れるのも、ここは野暮というモノだろう。

562男一匹一人旅 ◆uYhrxvcJSE:2013/03/02(土) 01:56:02 ID:gjNhYTJw0

【G-8/高速道路/1日目・深夜】


【ロックマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、WWWの野望を阻止する。
1:ウラインターネットに一先ず向かう。
2:ロックマンを探しだして合流する。
3:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いが、WWWの仕掛けた罠だと思っています。


【PGMへカートⅡ@ソードアートオンライン】
フランスのPGM社が開発した、12.7mm口径の大型狙撃銃。
1800m以上離れた相手への狙撃を可能とする長距離射程を持っており、同時に大口径故の破壊力も備えている。
ただしそれに見合っただけの重量と反動もある為、取り扱いには高い筋力を要求される。
また、ボルトアクション式なので連射は出来ないという欠点もある。
GGOにおいてシノンが愛用している武器であり、ゲーム内でも屈指のレアアイテムとされている。

【転移結晶@ソードアートオンライン】
ソードアートオンラインにて使用されている、転移用アイテム。
ゲーム内ではダンジョンからの緊急離脱が主な用途であり、指定した街へと瞬時に転移する事が出来る。
このロワにおいては、指定したマップ上の座標へ転移するという効果に変更されている。
ただし、一度使用すれば消滅してしまう他、SAO同様に転移結晶無効化エリアの中では使用が不可能になる。

563男一匹一人旅 ◆uYhrxvcJSE:2013/03/02(土) 01:56:15 ID:gjNhYTJw0
投下終了です

564名無しさん:2013/03/02(土) 06:19:30 ID:okpoP3Hk0

ヘカートと転移結晶か。良いアイテム引いたなガッツマン

565名無しさん:2013/03/02(土) 12:43:50 ID:FItkz1Dc0
状態表がロックマンになっている…だと?

566名無しさん:2013/03/02(土) 15:05:11 ID:yq3dWsc60
状態表は書き間違えっぽいね。
そして投下乙です

ヘカート引いたかぁ……このロワの銃器じゃ間違いなく最強クラスの一品なんだろうが、ガッツマンには相性悪すぎるw
一応、近くにトリニティがいるから、うまく渡せれば……
そしてきたか、転移結晶。
使い方次第じゃかなり化けるアイテムだが、さてどうなるか

567名無しさん:2013/03/02(土) 18:34:32 ID:SaQ/4w9IO
投下乙です。そういや3だっけ?ロケットパンチ搭載してんのって。4ならガッツマシンガンもあったんだが…

568 ◆uYhrxvcJSE:2013/03/04(月) 00:51:46 ID:7ELxu3Gk0
すみませんでした、状態表については完全にミスです

>>562を以下に差し替えお願いいたします

【G-8/高速道路/1日目・深夜】


【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、WWWの野望を阻止する。
1:ウラインターネットに一先ず向かう。
2:ロックマンを探しだして合流する。
3:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いが、WWWの仕掛けた罠だと思っています。


【PGMへカートⅡ@ソードアートオンライン】
フランスのPGM社が開発した、12.7mm口径の大型狙撃銃。
1800m以上離れた相手への狙撃を可能とする長距離射程を持っており、同時に大口径故の破壊力も備えている。
ただしそれに見合っただけの重量と反動もある為、取り扱いには高い筋力を要求される。
また、ボルトアクション式なので連射は出来ないという欠点もある。
GGOにおいてシノンが愛用している武器であり、ゲーム内でも屈指のレアアイテムとされている。

【転移結晶@ソードアートオンライン】
ソードアートオンラインにて使用されている、転移用アイテム。
ゲーム内ではダンジョンからの緊急離脱が主な用途であり、指定した街へと瞬時に転移する事が出来る。
このロワにおいては、指定したマップ上の座標へ転移するという効果に変更されている。
ただし、一度使用すれば消滅してしまう他、SAO同様に転移結晶無効化エリアの中では使用が不可能になる。

569名無しさん:2013/03/16(土) 22:28:14 ID:beBXY0m.0
火薬庫の投下来るぞー!!!

570 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:40:55 ID:IrN33dVU0
投下します

571黄金鹿と嵐の夜 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:42:00 ID:IrN33dVU0
今の今まで足を付けていた大地が(ほうら見ろ!)こんなに小さくなっている。
張りぼてみたいな山も、地にへばりつく森も、遠くに見えるチンケな街も、何もかも今の自分に遥か彼方から見下ろされているのだ。
夜空に浮かぶは己が率いる艦隊たち。夜空を跳梁跋扈するそれらは、その黄金の輝きで星々の光をも打消し、存在を思う存分誇示している。
何と非現実的で、絢爛豪華な力だろうか。その中心に坐するは誰を隠そう自分自身なのだから笑いが止まらない。
空をも支配する怪物――伝説でしか存在しえなかったものに、今や自分はなっているのだ。

彼女、フランシス・ドレイクは昂揚に酔い、そして己の不可思議な境遇を今一度振り返っていた。
牧師の父を持ち、幼い内から水夫として働いていた彼女。才能を認められ順調に出世していくと、25歳の頃には自分の船を持った船長になっていた。
ホーキンスの船団で航海を続けていた時、忘れもしないあの日がやってきた。
San Juan de Ulua――あの場で自分はスペイン艦隊に襲われ、完膚なきままに敗北し屈辱の敗走を強いられた。10あった筈の船が、帰る頃には2隻にまで減っていたのだ。
思えば、あの時誓ったスペインへの報復の決意が起点だった。
エル・ドラゴ。太陽を沈めた女などと称される英霊は、あの思いから生まれたのだ。

(伝説さ……今のアタシは伝説の英霊)

不思議だ。本当に不思議な感覚だ。
かつてスペインに復讐を誓い、無敵艦隊の撃破という最高の形でそれを成し遂げ、大英帝国の黄金時代を築いた立役者。
それが自分だと認識しておりながら、同時にその「人間」と自分は別の存在だとさえ思えるこの心地。
SE.RA.PHの聖杯戦争において、ライダーのクラスで召喚された自分は英霊であり、人間ではない。
享楽も、財宝も、功名も、屈辱も、辛酸も、栄光も、没落も、かつてフランシス・ドレイクと呼ばれた人間が得たものであり、
自分の今記憶の内にある筈のそれらは、ただの影絵に過ぎない。全ての起点である復讐心でさえ、本当の自分のものではないのだ。

「お、おわ!?  おい、ライダー!」

少年の声が足元で上がる。首元を掴まれ情けない声を上げる彼こそ、今自分の雇い主であるマスター、間桐慎二。愛すべき小悪党だ。
乱暴な扱いに不満があるのだろう。この戦闘の最中にそんなことを気にするなんて、ある意味安定している男だ。
一見して神経質で狭量に見える癖に、情報管理の杜撰さや、魔力の消耗を考えない宝具の使用など、札を切ることに一切躊躇がないのだから恐れ入る。
豪快というか、向こう見ずというか、単なる馬鹿というか。これで基礎的な能力はそれなりに高いのだから面倒なマスターである。
しかし、彼女は別に慎二を批判する気など毛頭なかった。ムーンセルはマスターに対し精神的に相性の良いサーヴァントを割り振る。
間桐慎二に最も相性が良いとされる彼女は、勿論マスターの無謀さだってを理解できる。いや、称賛しているとさえ言ってもいい。

「行こうか! シンジ。ここで全部使い切っちまうってのも悪くないねぇ!」

ドレイクという人間はどうやらひどく享楽的かつ刹那的な人間だったようで、それは彼女の人格の根本を為しているとさえいえる。
海賊として世界各地で財宝を手に入れながらも、それを貯めることを良しとせずとにかく一瞬の快楽だけを追い求めた英霊。
けちけちと後のことを考えて節約など、性に合わないどころの話ではない。刹那に派手に力をまき散らすことこそ、彼女が英霊である証である。

572黄金鹿と嵐の夜 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:42:58 ID:IrN33dVU0

(たとえ嵐が過ぎ去ったあとには何も残らなかったとしてもねぇ!)

彼女は目を見開き、夜空を見た。
今この一瞬、この空を支配しているのは自分だ。10秒後のことなど眼中にない。とにかくこの刹那、自分はこの空の全てを手に入れたのだ。
ただ一点を除いて。

「その盾を……吹き飛ばしてやるよ! ヒースクリフ!」

空を埋め尽くすような艦隊に相対するは、たった一人の人間。
真紅の鎧に身を包み、鋭く美しい剣を携え、輝く盾を掲げる騎士、ヒースクリフ。
全てが自分の支配下に置かれた筈のこの空で、それだけが支配を拒み反抗しようとしていた。
空に立つその姿は毅然としていて、圧倒的な火力を前にして尚、一切の気後れを感じさせなかった。
ヒースクリフは彼女を前にしてただ一言。

「来たまえ」

と。そう口にして盾を構えた。落ち着いた言葉だ。超然としていて、穴がない。
その身のこなしは正しく騎士。勇者。英雄と呼ぶにふさわしい。
サーヴァントではないようだが、人間というよりは英霊に近い印象さえ受ける。
来たまえ、か。何と自信に満ちて力強い言葉だろうか。敵もまたさる筋では伝説となっているのかもしれない。
ならば躊躇する必要はない。元より手を抜くなどあり得ないが、この敵との一線は全てを浪費するに値する瞬間、刹那だ。

「砲撃用意!」

自らの下に集まった艦隊へ声を上げる。己もまた銃を構え敵を見据えた。
全てはこの一瞬のために。ただ敵を粉砕するために。
派手な花火を上げよう。そのあとのことなど知ったことか。

「出し惜しみはしないよ! 湯水のように砲撃を! 嵐のように散財を!」

彼女がそう口にした瞬間。
光の嵐が駆け抜けた。













573黄金鹿と嵐の夜 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:44:02 ID:IrN33dVU0
本来は武骨なだけの砲弾も、空へ放たれた一瞬のあいだだけは流星のような輝きを誇る。
重量18ポンドの砲弾が鳥よりも速く空を駆ける。それも一つや二つではない。流星と化した砲弾が雨あられとばら撒かれる。
カルバリンの名の由来にもなった蛇のように長い砲身がみるみる熱を帯びる。火薬のむせ返るような臭いが充満し、それに伴い彼女のボルテージもせり上がってくる。

それを受け止めるのは一枚の盾だ。ちっぽけな鉄の板。だが、この敵が持てば伝説に生きる力ともなる。
ヒースクリフは鈍く光る盾を構え、発狂したように襲い掛かる砲弾の嵐を受け止めていた。
避けようとか、先のように剣で弾こうとか、そういった姑息な考えは見られなかった。
ただ己の力を真正面から誇示しているのだ。常人ならば足が竦み、腰を抜かすような火力を前にしてなお、退くことをしない。
否、それどころか彼は前進しようとしていた。砲弾の嵐を掻き分け、空翔ける靴の力を用い、一歩一歩進もうとする。
何処へか。ドレイクの愛船、黄金の鹿<ゴールデンハインド>へである。

彼女は何時しか哄笑していた。この馬鹿げた戦を、目の前の理不尽なまでの勇者を。全て笑い飛ばしたい気分だった。
船が空を飛び、騎士が光る盾で砲弾の嵐をかいくぐる。対するは悪魔たる海賊である自分。
こんなもののどこが現実か。ただの伝説ではないのか。
人間と人間の戦は終わった。人々に語り継がれた伝説の中でのみ存在する戦いがこれだ。
そんなものに自分がメインキャストとして躍り出ているのだから、これが笑わずしてどうするというのか。

だが、彼女のその笑いさえ、戦の激烈な爆音がかき消してしまう。
次から次へと現れる砲弾が硝煙のカーテンを残し、そしてその内から更なる砲弾が現れる。
黄金の輝きを伴って、砲弾が炸裂しこの夜空全てを埋め尽くす。
この空に居ながらその業火に耐えられるものなど居る筈もないだろう。太陽でさえ、自分は落とすことができたのだから。

だからヒースクリフ。アンタも墜ちるんだ。そうして伝説は完成されるのだからね。
その叫びが届いた筈もない。もはやこの場で誰も言葉を認識できないだろう。火薬と硝煙が全てを覆い尽くしていたのだから。

それでも尚、その男、ヒースクリフは叫びに呼応して笑みを浮かべた。
ドレイクの嵐のような笑いとは違う。超然的で、完成されて、それでいて尚進むことを止めようとはしない強い意志が、そこにはあった。

574黄金鹿と嵐の夜 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:44:49 ID:IrN33dVU0

砲弾の嵐は終わらない。
実時間にしてどれほど経っているのかなど、その場全ての者にとって関係なかった。
存在するのはこの一瞬だけ。ひたすら苛烈な今この瞬間を、皆が体感していた。
だが、それでも尚この刹那を乗りこえるべく、ヒースクリフは前へ前へと進んでいた。
もはや防護盾はかつての原型を残してはいなかった。焼かれ抉られ貫かれ、形を飛散させられながらも、そこに僅かに残る神聖なる光が嵐を掻き分ける剣となる。

不意に、二人の視線が絡み合った。
ヒースクリフとドレイク。盾と矛。勇者と悪魔。何時しか彼は、彼女の船のフォアマストまで辿り着いていた。
嵐の中、二人そこで今一度笑った。雌雄を決する時が来た。全てを貫く矛と弾く盾は共存できない。二律背反の存在は、どちらかが消え去る他に道はない。

ヒースクリフはついにここまで辿り着いた。
あと少し、ほんの少し踏み出すことができればドレイクを討ち果たすことが可能となる。
剣が振るい、かの悪魔をその神聖なる力で討滅するのだ。

だが、同時にドレイクは一遇千載の好機を得た。
こうまで接近されたのならば、もはや狙いを付ける必要さえない。先ほどまで嵐が一点に集中する。
自慢のカルバリン砲を集中砲火し、その盾を吹き飛ばすことができれば自分の勝ちだ。
たとえ己の船まで焼こうとも、刹那の勝利を得られればそれでいい。今この一瞬のために、全てを投げ打つべく覚悟など当の昔にできている。

あるいは、その覚悟は本当は自分のものではなかったのかもしれない。
一人の人間が誓った復讐心。そこから枝分かれしていった幾つもの感情たち。
それら全ては「人間」のものであり、この自分「英霊」のものではないのかもしれない。

しかし、それは問題ではない。
寧ろ。現実の影絵である伝説であるからこそ、自分はそれに忠実であらねばならないのだ。
自分はフランシス・ドレイク。エル・ドラゴの役を割り振られた以上、こうしなくては存在を否定することになる。

さあ伝説の始まりだ。

この一瞬は、語り継がれた物語そのものだ。












575黄金鹿と嵐の夜 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:45:37 ID:IrN33dVU0
鮮烈なる炎が走り、悪魔が全てを焼き尽くさんとする。
対するは神聖なる光。古の伝説の戦いが、今こうして再現された。
だが、その幕切れはひどく呆気ないものだった。

「フフフ……」

掠れるような笑い声を漏らすのは、ドレイクだ。
彼女は膝をつき、何とも形容できない曖昧な表情を浮かべている。
悔しんでいるようでもあり、諦観に憑りつかれて居るようにも見え、それでいて達成感に浸っている風でもある。

「アタシの、敗けだね」

ただ一つ確かなのは、彼女が敗北したということだ。

周りに浮かんでいた、空を埋め尽くすほどの艦隊も、気付けばどこかへ消えていた。
砲撃は止み、再び静かな夜が返ってきた。ゆっくりと流れる雲海の頭上には、薄く輝く大きな月がある。
あれほど苛烈かつ激烈な嵐も終わってしまえば、そこに何かがあったという証さえ何もないのだ。
まるでうたかたの夢のように、過ぎ去った日々は露と消えてしまう。
黄金の日々の後には、必ず寂寥の風が吹きすさぶ。何度も経験したことだった。

「かの英雄と戦えて光栄だったよ。フランシス・ドレイク」
「フン……良く言うよ。アンタだって、英霊みたいなもんじゃないか」

船に降り立ったヒースクリフの姿は、まさに満身創痍そのものだった。
鎧はあちこち焦げ付き、盾は原形をとどめておらず、その息も荒い。
あと一歩で彼の盾は砕かれ、その身は焼き尽くされたことだろう。
だが、その瞬間は訪れなかった。理由は単純。宝具解放のために必要な慎二の魔力が尽きたのだ。
結果、砲撃は止み、戦線を維持することができなくなりドレイクは敗けた。
驚嘆すべきはヒースクリフの胆力だ。この男は、何時止むとも知れない嵐の中を一人突っ切ってきたのだ。
少しでも背を向けようとしていれば、恐らくこの結末はなかった。火力に押し切られ、盾は砕かれていただろう。
こんな芸当が人間にできるものか。

576黄金鹿と嵐の夜 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:46:25 ID:IrN33dVU0

「全く、どこからその自信が来たんだい。砲撃が何時切れるかなんて、アタシにだって分かんなかったのにさ」
「どうやっても倒せないボスなど在ってはならないからね。その力がそう長く続くものではないのは確信していた」
「ハンッ!」

ヒースクリフの答えに、ドレイクは笑い声を上げた。
絶対に倒せない存在が居ないことを確信していたからこそ、彼は自分に勝ったのだという。
その前提があの一歩も引かない強靭な精神力の源であり、同時に自分の敗因だった。

「シンジ」

そこまで考えて、最期にドレイクは腰を抜かしている己のマスターに声を掛けた。
降り立ったヒースクリフを前にして何も言うことができないのか、彼は先ほどから呆けたような顔をして二人のやり取りを見ている。

「お、おいライダー! 嘘だろ……こんな結末。
 ぼ、僕は認めないぞ。この天才の僕が……! あり得ないだろ。
 そうだ。お前が悪いんだぞ、エル・ドラゴ!」

ドレイクの声に、びくと肩を震わせ、我に返ったかのようにべらべらと喋り始めた。
その言葉の端々には悔しさや恐怖というよりも先ず、目の前の現実に対する拒絶感が表れていた。

「アタシのせい……か。ま、そうかもね。
 この世の戦いに真の意味での偶然なんてありはしない。
 敗けた以上、アタシらが何らかの形で劣っていたのさ」
「何他人事みたいに言ってんだよ! おかしいだろ! サーヴァントが……人間なんかに……!」
「馬鹿だね、シンジ
 人間なんかにじゃない――人間だからこそアタシは敗けたんだ」
 
絶対に倒せない存在は居ない。裏返せば、ヒースクリフさえもそうだということだ。
あれほどの力を持ちながらも、この敵は決して自分を無敵だとは思っていない。誰かが自分を打ち倒すことは可能だと思っている。
その確信を知り、ドレイクは合点が行った。
彼女はサーヴァントとして特殊なスキルを持っている。
星の開拓者[EX]――人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキルであり
あらゆる難航、難行が「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。

しかし、この敵に関していえば、打ち倒すことは「可能」だった訳だ。
故にスキルは発動せず、自分は敗れた。
伝説そのもの「でしかない」ドレイクに対し、ヒースクリフは現実を生きる一人の人間として生きていた、ということだろうか。

577黄金鹿と嵐の夜 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:46:57 ID:IrN33dVU0

「ま、悪党の死に方なんてこんなもんさ、シンジ。
 だからさ、愉しめよ。どうしようもなく惨めな小悪党の末路って奴をさ」

そう言って、ドレイクは静かな笑みを浮かべた。
身体が徐々に透けていく。現界の為の最低限の魔力すら尽きたのだ。
それを見た慎二は「あっ」と声を上げる。自分を守るサーヴァントが消えていくのを、ただ呆と見ることしかできなかった。

ヒースクリフと二人残されてしまった。
顔を上げるとヒースクリフの整った顔と、その手に握られた剣が見えた。
奴はこれからゲームのルールに従い自分を殺すだろう。彼は思わず調子はずれの悲鳴を上げた。

が、それよりも早く、空に浮かんでいた船が消滅していた。
自らの足場もまた、サーヴァント同様魔力により形作られたもの。
それが枯渇した以上、消え去るのは必然のことだ。

全てを失った慎二は、足場を失い、夜空に投げ出された。
彼は頭上に見た。
自らが叩き落されるであろう広大な平原を。











578黄金鹿と嵐の夜 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:47:29 ID:IrN33dVU0
墜ちる慎二が思ったことは何だったのだろうか。
彼は電脳死の存在など信じてはいなかったし、この場もまた単なるゲームに過ぎないと思っていた。
敗北こそ事実を認められないほど屈辱的な事態ではあったが、それにしたって「次」の機会に復讐すればいい。理性ではそう思っていた。

だが、それを超越するほどの現実が、死の恐怖が彼の心中を駆け抜けていた。
空に放り出され、重力に誘われるまま墜落していく。
感覚が告げるのは、墜ちる確かなリアリティ。

走馬灯さえもありはしなかった。
ただ死へ近づいていくという感覚だけが、現実感を伴って現れた。
アバターという仮想の身体を与えられ、成長された身体を持ってはいても、実際には彼は齢8歳の子供に過ぎない。
そんな彼が絶対的な死を垣間見た時、その心中は如何なるものであったか。

「―――」

何かが腕を掴む。


「大丈夫かね」

声がした。落ち着いた口調で紡がれるそれは、今しがた死闘を繰り広げた相手その人だ。
慎二は絶句しつつ、顔をふらりと上へ向けた。
そこには、ボロボロになりながらも、変わらぬ力強さを見せるヒースクリフの姿があった。

「ふぅ、とりあえず間に合ったみたいだね。
 まぁとにかくこれで話を聞いて欲しいものだ」
「あ……ぼ、僕は……」
「これほど派手に戦闘をやらかしたんだ。周りからも参加者が現れるかもしれない。
 とりあえず何処か身を隠せるところ……そうだな、あの森あたりに不時着するとしよう。
 この靴もそう長くは飛べないようだが、平原などに墜ちる訳には行かないからね」

悠々と語るヒースクリフの言葉を、慎二はただ呆然と聞くことしかできない。
時は止まらないのだ。あれほど苛烈だった夜も終わり、何時しか空も明るくなっていた。
そんな中で、今度はゆっくりと迫る大地を見下ろして、慎二は何故だか無性に泣きたい気分になっていた。

579黄金鹿と嵐の夜 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/17(日) 21:47:56 ID:IrN33dVU0


【D-5/森/1日目・黎明】

【ヒースクリフ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP30%
[装備]:青薔薇の剣@ソードアート・オンライン、防護盾(半壊)
[アイテム]:エアシューズ@ロックマネグゼ3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止め、ネットの中に存在する異世界を守る。
1:一先ず身を隠せる場を探す
2:バトルロワイアルを止める仲間を探す
[備考]
※原作4巻後、キリトにザ・シードを渡した後からの参戦です。
※広場に集まったアバター達が、様々なVRMMOから集められた者達だと推測しています。
※使用アバターを、ヒースクリフとしての姿と茅場晶彦としての姿との二つに切り替える事が出来ます。
※エアシューズの効果により、一定時間空中を浮遊する事が可能になっています。
※ライダーの真名を看破しました。


【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:魔力枯渇
[サーヴァント]:現界不可    
[装備]:無し
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:???
1:絶句
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※バトルロワイアルを、ルールが変更された聖杯戦争だと判断しています。
※宝具発動により魔力を徐々に消耗しています。
 展開持続時間は最大魔力時で5分程度になります。
※魔力が枯渇したため、しばらくサーヴァントを呼べません。
 死亡した訳ではないので、回復すれば再び現界させることができます。

580名無しさん:2013/03/17(日) 21:48:17 ID:IrN33dVU0
投下終了です

581名無しさん:2013/03/17(日) 23:00:57 ID:rtx0vNig0
凌ぎ切ったーーー!!!???ライダーさん景気よくばら撒き過ぎw
そしてそれをしっかり凌ぎ切る茅場さんマジパネェ
ごく普通の防護盾でよくもまぁ宝具の放つ砲撃を耐え切ってみせたなー

で、あっという間に魔力切れ起こしたワカメはどうなるか
ライダーが消滅してないから、まだワンチャンありそうだけど

投下乙でした

582名無しさん:2013/03/18(月) 14:05:24 ID:0NZ8dunYO
さすがにサーヴァントは魔力切れで消えたら消滅でいいんじゃね。
今回は慎二が消したわけじゃないし。
これでなんかんやで復活はちょっとなあ。

583名無しさん:2013/03/18(月) 23:04:11 ID:2ola6W0I0
どうなるにしろ、寂しい別れをした後に「よっ!」って出てきたら拍子抜けしそうやねwww

584 ◆7ediZa7/Ag:2013/03/19(火) 00:09:19 ID:.ObY4iyI0
そうですねー、ちょっと慎二の状態表を修正して

【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:魔力枯渇
[サーヴァント]:現界不可    
[装備]:無し
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:???
1:絶句
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※バトルロワイアルを、ルールが変更された聖杯戦争だと判断しています。
※魔力が枯渇したためサーヴァントは呼べません。
※魔力が回復すれば、ライダーを再び現界できるかは後の書き手さんにお任せします。

という形にしようと思います

585名無しさん:2013/03/29(金) 01:06:43 ID:572S38z20
EXTRA CCCのレオが予想外のフランクキャラになってて笑ったw

586 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:50:13 ID:uB/B5FQs0
投下します

587digital divide ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:51:51 ID:uB/B5FQs0
暗い街の片隅でぼんやりと浮かぶ光がある。
水の音が涼やかに響く静かな街の中で、その薄明りは不気味に街から浮かび上がり、まるで誘蛾灯のようでもあった。
が、そんな怪しさも近づいて目を凝らせば霧散してしまうだろう。
石畳の続く西洋風の街並みから乖離した木造の屋台。その屋根には布が掲げられ、ゆらゆらと揺れている。
暖簾と呼ばれるその装飾には大きく文字が記されていた。
おでん、と。

「はぁ……」

暖簾の向こうには、そこは湯気の舞う庶民的な世界があった。
屋台の中心には大きな角型の鍋が据え付けられ、その中を大根、こんにゃく、がんもどきらお馴染みの具材が浸かっている。
薄く濁った湯の中でぐつぐつと煮え立つ彼らは、どこか人間の湯浴みを想起させるではないか。

「はぁ……」

その悠々とした様子を眺めながら、間を置かず二度の溜息を吐いた男が居た。
倦怠感を滲ませた白い息も、煮え立つ湯気にかき消され、すぐに何処かへ消えてしまう。その光景を見て、男はもう一度溜息を吐きたくなった。
水をちびちびと含みながら、男はぼぅっとおでんを見た。幸せそうに煮え立つおでんを見ていると、自分の境遇がひどく馬鹿らしい。

「意味わかんねーしなぁ……」

くたびれた様子で屋台にしなだれかかる男は、もう何度目になるのか分からない台詞を吐いた。
その様子を屋台を挟んで眺める全身金属製のロボットが居た。位置的にそれが店主に当たるのだろう。
「B−SET」と張り紙がしてあり、店主の名前らしい。

何だかシュールな状況だが、男はもう理解を放棄していた。
いきなり拉致され殺し合いを強制された時点で、自分には理解できない力が働いているのだ。今更その程度のシュールさが何だというのだ。
それに、と男は思った。

「シュールさじゃ俺も人のこと言えねぇ」

男は自嘲するように言った。それは己の容姿に対してのことだった。
おでんを前にする男はネジだった。
赤い巨大なネジが、ひどく疲れた様子でおでん屋台に座っている。それを見つめる《ドローン》。暖簾の下からはファンタジックシティが垣間見える。
その光景を思い浮かべ、男は乾いた笑みを浮かべた。

「はぁ……」

しばらくすると、男は笑みを消し再三の溜息を吐く。
この奇妙なネジは、名をクリムゾン・キングボルトと言った。

588digital divide ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:52:57 ID:uB/B5FQs0











先の男との遭遇《エンカウント》からしばらく立ち、シノンは落ち着きを取り戻してきた。
とはいっても足は止めない。石畳の街を、可能な限り迅速かつ静かに駆け抜ける。
逃れられたとはいえ、先の一戦は運に依るところも大きかった。もう一度遭い見えた時は、今度こそ死を覚悟しなくてはならないだろう。

今思い返しても圧倒的な敵だった。黒スーツにサングラスという出で立ちだったPKの強さは、あらゆる面で彼女とは格が違った。
銃弾を軽々と避け、石畳を砕き、目にもとまらぬ速さで動く。
ステータスポイントの振り方の違いなどという話ではない。根本的にポイントの総量――レベルの次元が違うのだ。
先ほどはそのステータスの高さを逆に利用する形で撃退することができたが、同じ手が二度通じるとも思えない。

死んでいるかもしれないが、生きていても何ら驚きはない。
あれほどの強さを誇った敵が、そんな呆気ない終わり方をするとも思えなかった。
走りながらも、街の角からぬっとあのPKが現れるのではないか。
時間を置いたことで幾分冷静になっていた彼女であったが、それでもその可能性に恐怖せざるを得なかった。

だからだろうか。曲がり角から人影が躍り出た時、思わず声を上げてしまった。
が、それは相手も同じだったのか、現れた者も「きゃっ」と小さな悲鳴を漏らした。
現れたのは一人の女性プレイヤーだった。白い帽子を被り、緑を基調とした服に身を包んでいる。シノンと違いファンタジー系のデザインだ。

二人は示し合わせたかのように動きを止め、互いを見つめ合ったまま一言も発することができなかった。
しかし、それもすぐに終わった。
シノンと目を合わせた後、白い帽子の少女は力なくその場にへたり込んでしまったのだ。
彼女ははぁと息を吐きながら自分の胸を押さえている。よほど緊張していたのかもしれない。

「えーと……大丈夫?」

その姿を見たシノンは思わずそんな声を掛けた。
どうやら今度の遭遇は戦わずに済むようだ。そんな、束の間の安堵を胸に抱えながら。








589digital divide ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:53:36 ID:uB/B5FQs0


「出会いってのは不思議だよな……」

おでん屋台に腰かけながら、クリムゾン・キングボルトはぼやいた。
その言葉尻には相変らず倦怠感が滲み出ていたが、それでも完全なる独り言だった先ほどまでよりはマシだった。

「ふむ、そうだな。一期一会という言葉があるが、何気ないところで人間が、意外にもずっと続く縁になったりする」

対するは初老の男だった。黒いローブを羽織った彼は、大剣を傍に置き、クリキンと肩を並べおでん鍋を眺めている。
彼もまた同じようにバトルロワイアルに巻き込まれ、街を歩いていたところ、クリキンと同じようにこのおでん屋を見つけ、こうして同席するようになったのだ。
不思議な出会いもあったものだ。こんなことがなかったら、彼とは絶対に知り合うこともなかっただろう。
しかし……、と思いクリキンは屋台の奇妙な風景を今一度眺めた。
おでん屋に座るネジ。その隣にファンタジー風の男が追加されたことで、心なしかより一層混沌な空間となった気がする。一体この空間は何なのだろうか。
そんな話を振ってみると、ローブの男――ワイズマンは水を煽りながら、

「エントロピーの増大という奴かな」
「は?」
「放っておけば、どんどん物事は無秩序な方向へ進んでいくという話だ。
 どうやらこの場は多種多様なネットゲームをごちゃ混ぜにしているようだからな。こうなるのも必然だ」

少し話してみて分かったが、どうやらこの男は中々理屈屋のようだ。
初老のアバターに違わず、常に落ち着いた様子で、様々な知識や含蓄深い意見を述べる。そんな人間らしい。
沖縄に引っ越して以来、デュエルアバターでは年下のヤンチャな少女とばかり話してきた自分には慣れないタイプの人間であった。

(ルー坊マー坊もコイツの百分の一くらい落ち着きがあればなぁ……、まー齢が違うから比べてもしゃあねーか)

無論、ワイズマンのリアル年齢は分からないが、きっとそれなりの高齢なのだろう。
二十年前ならいざ知らず、現代においてネットゲームはもはや若者だけのものではなくなっている訳だし。
そんなことを考えつつも、ワイズマンと適当に情報交換する。

ワイズマンの言葉通り、この「VRバトルロワイアル」には様々なネットゲームをシャッフルしているようだ。
ワイズマンは「The World」というMMORPGかららしい。クリキンはバーストリンカーのことを適当に誤魔化しながら話した。

「ふむ。ところで君に幾つか聞きたいことがある。同じネットゲームでの有名プレイヤーなどを教えて欲しい」
「有名プレイヤー……うーん、俺は大分一線から離れてるからなぁ」

ワイズマンの不意の問い掛けに、クリキンは頭を捻った。
彼は親の離婚により三年前より東京を離れ、今では沖縄にてひっそりとバーストリンカーを続けている身だ。
三年前と今では面子もまた変わっているだろうし、自分の情報はいささか古いだろう。

「そうだなぁ……王という有名プレイヤーが居て、《剣聖》とか《絶対切断》とか呼ばれていたな。ソイツらがレギオンというギルドを束ねている感じだ。
 しかし、何でそんなこと聞いたんだ?」
「いや、この場にどういう基準で呼ばれたのかが気になってね。全くのランダムなのか、それともある程度有名どころを選んでいたのか。
 今後他のプレイヤーと接触するに当たって、他のゲームのことも調べておきたいんだ。
 私なんかは情報通としてそこそこ名が通っていたと思うが……まぁ《フィアナの末裔》や《鋼の貴公子》などとは比べ物にならないだろうが」
「俺もまーそれなりに名は知られていたと思うが……三年ほど離れてるし、有名とは言い難いな」

590digital divide ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:54:10 ID:uB/B5FQs0

クリキン、クリムゾン・キングボルトもかつてはレギオン《オーロラ・オーバル》に属し、《史上最強の名前を持つ男》の二つ名(※《史上最強》ではない)を持っていたバーストリンカーだ。
名前だけが先行して通っていたきらいはあるが、それでもレベル7のリンカーとしてそこそこ名が知られていた。
が、それも三年前の話だ。
ゲーム運営の思惑は知らないが、仮に各ゲームの有名プレイヤーを選出しようとしていたのなら、自分は選ばれないだろうと思う。
選ばれるとしたら《王》――先日久しぶりに顔を合わせることになった《絶対切断》のブラック・ロータスなどだろう。

「ふむ、そうか……」

一通り適当な情報交換も終わったところで、ワイズマンはそう言って腕組み考える素振りをした。
彼なりに考えを纏める必要があるのだろう。邪魔しないで置くべきか。
クリキンは何も言わず、今一度おでんを見た。何も変わらないおでんがそこにあった。

(これ、食えねーんだもんなぁ……)

どうやらこのおでん屋、おでんを食べるのに特殊通貨が居るらしく、残念ながらはんぺん一つ口にすることもできなかった。
それはワイズマンも同じらしく、こうして水を飲むことで気を紛らわせている。
B−SETなる《ドローン》を睨んだ。どうにか交渉できないかと思ったが、どうみてもそんな複雑な思考ができそうには見えなかった。

しばしの沈黙が訪れた。
ワイズマンは黙って思考を巡らせ、クリキンはだらしなく屋台に突っ伏している。
おでんの湯気が昇って行くのを見て、クリキンはこの妙に弛緩した空気に疑問を覚えた。
突然拉致され、殺し合いを強要される。一日以内に誰か殺さなければ、ウイルスによって自分も死ぬ。
と、状況だけ見れば何処までも絶望的である。にも関わらず、自分はこうして奇妙な落ち着きを払っておでんの屋台に座っている。

危機感、緊張感が足らないのではないか。自分でもそう思うのだが、今一つ身に力が入らないのも事実だ。
それは第一に、自分ではどうしようもないという諦観があるのではないだろうか。この状況を打破する方法など、自分には思いつかない。
そして何より、これが現実であると思えないのだろう。
バーチャルは何処まで行ってもバーチャル。現実を侵食することはない。
無論、それは幻想に過ぎない。バーストリンカーという力は現実にダイレクトに影響を与える力を持っているし、フルダイブ技術の黎明期にはゲームから始まり多くの犠牲者を出した凄惨な事件があったと聞く。
だから、ただ信じたくないだけなのだろうか。自分がデスゲームに巻き込まれたと。
こうして冷静に自己分析できるくらいには落ち着いている訳だし、それはあり得る話だった。
何にせよ、緊張感が足らないのは事実だ。

そうは思ったが、目の前のおでんを見て、何か心が弛緩していくのも事実だった。
クリキンは何度目になるか分からない溜息を吐いた。








591digital divide ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:54:38 ID:uB/B5FQs0


「はぁ……」

ぴんと張りつめていた緊張感が一時的に解け、アトリは思わず安堵の息を吐いた。
角から誰かが出てくるのに気付いた時には身体に電流のような戦慄が走った、現れたのが「あのピエロ」でないことに気付いて、するりと身体から力抜けた。
その際に尻餅を着いてしまったが、出会った相手――シノンというらしい青い髪の少女が親切にも助けてくれた。

礼を言って、アトリはシノンに対し軽く自己紹介をした。
思えば少し軽率だったかもしれない。が、それでも一人で街を走っていた孤独が紛れたことの喜びが先行してしまった。

「うん。えーと、よろしく。アトリ」
「はい、よろしくお願いします! シノンさん」

笑みを浮かべそう挨拶したアトリだったが、そこではっとして表情を凍らせた。
安堵で足を止めてしまっているが、自分は今危険人物から逃走中の身だ。
ウズキとの合流も急ぎたい。故に手短にシノンに状況を伝えねばならない。

「あの」
「あの!」

そう思い、口を切ろうとした結果、シノンと言葉が重なり合ってしまった。
二人は気まずげに互いを見た。沈黙の後、シノンが「先にどうぞ」と促したので、アトリは礼を言って説明を始めた。

「私、今逃げてるんです。その、変なピエロと槍を持った危ない人が……」

説明をしていくと、シノンの顔がみるみる曇っていくのが分かった。アトリも、自分が今どんな顔をしているのか気になった。
一通り説明を終えた後、シノンは神妙な面持ちで口を開いた。

「ごめん、私も似たようなものなんだ。かなりの危険人物からギリギリ逃げてきたところ」

シノンが言うに、彼女もまた逃げている最中のところだった。
黒スーツの危険なPKを何とか退けることには成功したものの、倒したかどうかまでは確認できないという。
アトリとシノンは顔を見合わせた。
二人は今酷似した状況に置かれているのだ。そのことに親近感に近いものを抱かなくなかったが、何よりこのマク・アヌが如何に危険な場所かが分かってきた。
確認されているだけでも三人の危険なPKが居る。話を合わせるに、共に強大な力を持った難敵だ。

「……とにかくこの街からは脱出した方が良さそうだね。アトリはこの街を知っているみたいだったけど、道順分かる?」
「はい。この街はマク・アヌと言ってThe Worldの街の一つです。何かちょっと違うみたいですけど、たぶん分かると思います。
 でもウズキさんが……」
「分かってる。そのウズキって人も探しながら行こう」

二人で話を進めながら、適当な方針を定めた。
街の脱出。無論、街の外に行けば安心だという保証はない。更なる危険人物が居るかもしれない。
とはいえ、危険人物がうろついている場で身を隠す訳にも行かない。ウズキの捜索も必要な以上、一旦別の場に逃げ延びて状況を立て直すべきだろう。
そう結論を出し、二人は夜の街を歩き出した。このまま「黒スーツ」にも「ピエロ」にも遭遇しないことを願いながら。

が、

「クスクス」

歩き出した二人が再び出会った。
狂った愛のピエロと、哀れな無辜の怪物に。
行き合ってしまったのだ。

592digital divide ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:55:00 ID:uB/B5FQs0


「突然の再会ってのは驚くよなぁ」
「そういうものかな」
「ああ、この前思いがけないところで知り合いと会ってなぁ、色々驚きの連続だった。
 ――それに出会いは不思議っつうけど、別れも不思議な感じでやってくることでもあるんだよなぁ」

もう何杯目になるのかは分からないコップを空けながらクリキンは言った。
何でこんな話になったのかは分からない。何でこんな話をしようと思ったのかも分からない。
しかし、ワイズマンと適当に話していく内に何となく身の上話のようなことをしていたのだ。
まさかこの水が実はアルコールだという訳でもあるまい。デュエルアバターは味覚まで再現できるし、アルコールが分からなくなっているなどということもあるまい。
おでん鍋からは相変わらず湯気が立ち上っている。場酔いという奴だろうか。

「三年前までの俺は沖縄に来るなんて思いもしなかったし、色々唐突で突然なこともある」
「そうだな……私も、不意に人脈が切れてしまうことがある。
 リアルで何があったのかまでは知らないが、何の前触れもなくログインしてこなくなるプレイヤーも居たな。
 あんまりに突然だった時は事件の臭いを感じた」

ワイズマンの言葉に耳を傾けながら、クリキンは思った。
もしかしたら自分は、情報屋を名乗るこの男に良いように情報を吸い取られたのだろうか。
だとしたら中々油断ならない男である。デスゲームに乗る兆しはないのはありがたいが。

しかし本当に居るのだろうか、とクリキンは思った。
こんなバカげたゲームにほいほいとPKしてしまうような輩が。
ゲームが始まって数時間が経つが、クリキンが出会ったのはこのワイズマンだけだ。
ワイズマンも似たようなものらしく、未だそんな危険人物とは出会ったことがない。
無論、ネットにはマナーを欠いた人間は大勢いる。どうしようもない程の悪意を持ったバーストリンカーも居た。
だが、だからといってこの場でゲームに乗る人間がそう居るとも思えない。何せ人の命が関わっているのだ。
0ではないにせよ、これを現実と認めPKとなるプレイヤーがどれほどいるのか。
クリキンは疑問だった。









593digital divide ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:55:23 ID:uB/B5FQs0

「クスクス…… マタ アッタネ
 ……君ヲ見テイタラ オ腹ガスイテキタヨ
 スパイス ハ ナニガイイカナー ヤッパリ、キイロイマスタード ヨリ マッカデマッカ ナ ケチャップダヨネ!」

本能が危険を告げている。アトリは再び遭い見えたことに、身の毛がよだつのを感じた。
その狂ったピエロはアトリを見て心底嬉しそうにそう言ったのだ。
その言葉は明らかに食欲を孕んでおり、アトリの理性はその在り方の理解を全力で拒もうとする。

「大丈夫、アトリ?」
「シノンさん……」

アトリの様子を見かねたのか、シノンがそう語り掛けてくれた。
その手には銃が握りしめられている。戦う気なのだ、彼らと。

「勝てるかどうかは正直分からない。でも……!」

シノンの言葉は強かった。
彼女だって怖いだろうに、それでも確かな意思を以て敵に立ち向かおうとしている。

「戦えないなら、アトリは逃げても良い。私が時間を稼ぐから……」

脳裏にウズキの言葉がフラッシュバックした。
瞬間、アトリは全身を刺されるかのような罪悪感を抱いた。
「見捨てた」「のうのうと逃げ延びた」そんな無慈悲な言葉が心の中を駆け巡る。
ウズキはどうなったのか。こうしてピエロたちが現れたということは、まさか彼は――

「じゃあ銃声がしたら……」
「駄目です!」

アトリは思わず大声を張り上げた。
突然のことに、シノンが驚きに目を見開くのが分かった。
アトリは逃げたくはなかった。先ほど感じた公開をもう一度繰り返すなんて真似だけはしたくなかった。
ハセヲに会う前、榊に着き従っていた頃の自分ならここでまた心が折れていたかもしれない。
でも、今の自分は違う。違うと信じている。
歩くような速さでも良い。ゆっくりと、でもしっかりと前に進んで行かなければならない。
そう決めたのだ。

「戦います……ここで逃げていたら、駄目なんです。自分がどこに居るのか、分からなくなってしまいそうで……」
「でも、アトリ……」
「戦えます。戦って、生き残るんです」

アトリの言葉に強い覚悟を感じたのか、シノンはそこで「分かった」と短く返した。
ピエロと槍使いはまたも訳の分からない言葉を交わしている。
理解できない怖さを感じる。足が竦みそうになる。憑神はまた呼べないかもしれない。
問題なのは心だ。自分の心。
碑文の力を解放するためには、力に振り回されない強い意志が必要となる。
アトリは前を見た。二人の狂人から決して目を逸らさぬよう、しっかりと前を見据えた。

「おお! 立ち向かってくるか!
 おぞましく、汚く、弱く、裏切りに塗れた人間共よ!
 我が妻を討たんとするのなら、せめてその力を示すが良い! 戦士よ!」
「ランルーくん ハヤク ハヤク タベタイ!」

「狂人……ここを乗り切らないと朝は迎えられない、か」
「はい、シノンさん。行きましょう」

徐々に明るくなってきているとはいえ、夜明けはまだ遠かった。
それでも戦う意志を折ることなく、生き残ると言う確かな覚悟を持って、彼女たちは戦いの火蓋を切った。

594digital divide ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:55:48 ID:uB/B5FQs0















「じゃあ小屋に?」
「ああそうだ。そこを目指していたんだ。何かあると思ってね。
 しかし、屋台に思いのほか長居してしまったな」

暖簾をくぐりながら、クリキンとワイズマンが言葉を交わしている。
話し合った後、結局二人は共に行動することにした。ワイズマンの予定通り二人で小屋に向かい施設を調査するのだ。

「とにかくよろしく頼むよ。キングボルト」
「その呼び方はちょっと小恥ずかしいが、まぁ俺もよろしく頼むわ。
 そういや移動するってんなら、良いモンがあったわ」

そう言って、クリキンはメニューからあるものを取り出した。
黒光りするフォルム、ゴテゴテとしたボディにはどことなく威圧感がある。
バイク。
The World R:2においてプチグソに代わる移動手段として実装された装備である。

「これは……使えるのか?」
「んーまぁ何とかなるだろ。こっちのが断然速いし」
「それもそうだが……そうだな、とりあえずこれに乗って小屋に向かうとするか。」

慣れない手つきでバイクに跨ったクリキンを見て、一瞬の逡巡の後ワイズマンもまた後部座席に乗り込んだ。
どうにも上手く行く気がしない。そもそもこれは二人乗りができるのだろうか。
そんな疑問も浮かんだが、失敗しても大ダメージを受けることもないらしいし、とりあえず試してみるのも手だろう。
ネジの腰(でいいのだろうか?)に手を回すのは何だか奇妙な心地がしたが致し方ない。

(早く他のプレイヤーと会って情報を集めたいものだ。自分の思考を纏めるのにかまけて長居をしてしまったが……)

ちら、とワイズマンは後にしたおでん屋を見た。
マク・アヌの外観にそぐわぬそれは、勿論ワイズマンの記憶の中にはないものだ。
先ほどのグランティのように、どうやら微妙に仕様が変っているらしい。
かと思えば全く見覚えのあるマク・アヌがあったりするのだからよく分からない。

(中々興味深いな。とにかく情報を集めよう)

そんな胸中を抱えながら、ワイズマンを乗せたバイクは街を行く。

ワイズマンの方針は正しかった。彼は情報を集めるべきだった。できればもっと早くに。
彼らは知らないのだから。この街に潜む危険な者たちを。
クリキンも、ワイズマンも、この場に呼ばれていたのはゲームのプレイヤーだと思っていた。
そこに盲点があった。
情報の扱いに長けていたワイズマンでさえ、ゲームでなく、実際に人類の存亡を賭けた戦争をしている者たちの存在に想像するのは無理だった。

彼らを姿を影から覗く一人の影があった。
黒のスーツにサングラス。表情を読ませない無機質な存在。
彼は人間ではない。機械に創られながら機械に反旗を翻し、人間も機械も、全てを敵に回そうとしたプログラム。

スミス。
そう呼ばれた存在が見ていた。
だが、彼らはそのことを知らない。知らないまま、彼らは行く。

595digital divide ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:56:14 ID:uB/B5FQs0


【E-2/マク・アヌ/1日目・黎明】

【ランルーくん@Fate/EXTRA】
[ステータス]:魔力消費(中)
[サーヴァント]ダメージ(小)
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品2〜5、銃剣・月虹@.hack//G.U.
[思考]
基本:お食事をする。邪魔をするなら殺す。
1:美味しそうな娘(アトリ)を食べる

【シノン@ソードアートオンライン】
[ステータス]:HP50%弱、疲労(大)
[装備]:FN・ファイブセブン(弾数9/20)@ソードアートオンライン、5.7mm弾×100@現実
[アイテム]:基本支給品一式、プリズム@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:この殺し合いを止める。
1:謎のピエロ(ランルーくん)をアトリと共に退ける
2:殺し合いを止める為に、仲間と装備を集める。
[備考]
※参戦時期は原作9巻、ダイニー・カフェでキリトとアスナの二人と会話をした直後です。
※このゲームには、ペイン・アブソーバが効いていない事を身を以て知りました。
※エージェントスミスと交戦しましたが、名前は知りません。
 彼の事を、規格外の化け物みたいな存在として認識しています。
※プリズムのバトルチップは、一定時間使用不可能です。
 いつ使用可能になるかは、次の書き手さんにお任せします。

【アトリ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100%、情緒不安定
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(杖、銃以外)
[思考]
1:戦う
2:ハセヲに会いたい
[備考]
※参戦時期は少なくとも「月の樹」のクーデター後
※憑神を上手く制御できていません。不発したり暴走したりする可能性があります。



【F-3/マク・アヌ/1日目・黎明】

【エージェント・スミス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:ダメージ(中)
[装備]:無し
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜3
[思考]
基本:ネオをこの手で殺す。
1:殺し合いに優勝し、榊をも殺す。
2:シノンは出来れば、ネオに次いで優先して始末したい。
[備考]
※参戦時期はレボリューションズの、セラスとサティーを吸収する直前になります。
※ネオがこの殺し合いに参加していると、直感で感じています。
※榊は、エグザイルの一人ではないかと考えています。
※このゲームの舞台が、榊か或いはその配下のエグザイルによって、マトリックス内に作られたものであると推測しています。

【ワイズマン@.hack//】
[ステータス]:HP100%
[装備]スパークブレイド@.hack バイク(二人乗り)
[アイテム]:基本支給品一式、サイトバッチ@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める
1:F-4の小屋に向かう。
2:仲間がいるのならば合流したい。
3:ロックマンが殺し合いに乗らないならサイトバッチを渡す。乗っていたらサイトバッチを破壊する。
[備考]
※原作終了後からの参加です。

【クリムゾン・キングボルト@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP100%
[装備]バイク@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2個
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める
1:ワイズマンと共にF-4の小屋に向かう。
[備考]
※原作「最果ての潮騒」終了後からの参加です。

【バイク@.hack//G.U.】
ギルドマスターになると乗れるようになる乗り物。
街でもダンジョン内でも乗り回せ、移動時間の短縮になる。また攻撃判定があるので不意打ちにも使える。
ショップでパーツを購入することでカスタマイズすることも可能。

596 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 00:56:53 ID:uB/B5FQs0
投下終了です
何故マク・アヌにおでん屋があるのか……気になる人は「おででん」で検索して欲しい

597 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/09(火) 01:02:32 ID:uB/B5FQs0
あ、少しだけ修正を
>>591>>592の間に◇を忘れていたので、後で追記します

598名無しさん:2013/04/10(水) 00:17:35 ID:fc/nEIz.0
投下乙
色々と対局な二組がどうなるか
危険地帯マク・アヌが色々ヤバイ

599名無しさん:2013/04/11(木) 10:35:10 ID:X2p7kZts0
登場してないのはアッシュさんだけか

600 ◆QAmDWCgreg:2013/04/12(金) 00:13:05 ID:wPpEFQMo0
投下します

601貴方の魂にやすらぎあれ ◆QAmDWCgreg:2013/04/12(金) 00:13:48 ID:wPpEFQMo0
「ここは……」

その場に足を踏み入れた時、モーフィアスは思わずそんな声を漏らした。
その言葉に含まれた感情は、驚きか、当惑か、混迷か、どう呼ぶにせよ訳の分からぬものに相対したときに立ち現れる目眩のような感覚だった。
ウラインターネットの闇の中で、不意に見えた光。それを追っていく内に、彼はその場へ辿り着いた。

先ず、空が在った。

頭上には今の今まで存在していなかった空が据えられており、千切れ雲が黄昏の光を受け鈍く輝いている。
その下をひゅうひゅうと風が吹き、雑然とそびえ立つビルとビルの合間を振りぬける。転がる塵クズが奇妙に明滅している。
足を付ける大地は土でできている。ように見えるがそれにしたは感触が妙だ。ハリボテの大地、とでもいうべきか。

突如出現した空間に、呆気に取られていたモーフィアスだが、近くに動く何かがあるのを見つけた。
何かは人に似た形をしていた。が、人ではなかった。頭部に当たる部分がひどくひらぺったく、首から上だけがまるで紙で出来ているようだった。
ビルの下で体育座りしているそれは、最初は人形かと思ったが、違う。モーフィアスの出現に反応して、薄っぺらい顔をこちらに向けている。

ふむ、とモーフィアスは顎を撫でた。
この状況。これは何を意味している。そう思考を巡らせると、答えは存外すぐに出た。
マップ上にあった見慣れぬ名前。距離的には近かった筈だ。

「ここはネットスラムなのか?」

モーフィアスは薄っぺらい何かに声を掛けた。
返事がないことを覚悟していたが、しかしそれは反応してくれた。

「そう……呼ぶ人も居るわね。
 でも、わたしたちは楽園と呼んでいるわ」

か細い、女性のような声でそれは言った。言った後、モーフィアスから視線を逸らし、また別の方向を見た。
これ以上の会話をする気はないようだ。しかし意志疎通が曲がりなりにも可能なことが分かっただけでも収穫だろう。
モーフィアスはそう考え、それから視線を外した。
それが自分やツインズと同じくバトルロワイアルの参加者である可能性もあったが、それにしてはひどく存在感が薄く、この会場の付属品のような印象を受ける。
何にせよ現時点では特に害はないようだ。とりあえずこの「ネットスラム」とやらの調査に乗り出すとしよう。

602貴方の魂にやすらぎあれ ◆QAmDWCgreg:2013/04/12(金) 00:14:21 ID:wPpEFQMo0

(それにしても、楽園、か)

今しがた告げられた言葉を思い浮かべながら、モーフィアスは街を見た。
楽園。ある者にとってはマトリックスの中こそが楽園だった。何も見ず、何も聞かず、何も知らないまま、幸せな夢だけを見せられる世界。
客観的には機械に搾取され続けるだけの存在であっても、それを認識できなければそんなものはないのと同じだ。
そう考える人間が居るのも事実だ。
真実を告げられて尚、全てを忘れることを選びマトリックスに残る者たちが居た。
どうしようもない現実に耐えきれず、再びマトリックスに繋がれることを望む者たちが居た。
ある者にとっては地獄に見える場所でも、また別のある者にとっては楽園となることもある。
ネットスラム。このどこか退廃的な臭いのする空間は、果たしてどのような楽園、あるいは地獄なのだろうか。

「…………」

モーフィアスは無言で街の奥へと入っていった。
足を踏み入れた途端に広がる乱雑な街の様相は、スラムの名の通り貧民街を思わせる。
地面に転がる柱。崩れるビルディング。チカチカと光るネオン。
彼は試しに塵の一つを拾ってみた。石ころのようなそれは物質としての原型を失い、幾つもの数字データを漏れ出している。

(崩壊したデータ、か)

モーフィアスはこの空間と、先ほど自分が立てた仮説を照らし合わせて考えた。
ここが機械側も把握していないようなマトリックスの裏側、ブラックボックスであるという考え。
それが正しいとするならばこの場は一体何なのか。

(マトリックスに沈殿したジャンクデータが集まった場所、それがこのネットスラムなのか?)

表側で不必要とされたプログラムは時節エグザイルとなって自律行動する。
それはプログラムにも強い自己保存欲求と意志が発生する為だ。
だが、それを得ることもなく、ただ破損したデータはどうだろうか。
何らかの折に破損し、機械からも見捨てられたデータは、誰にも顧みられず忘れられていくだろう。
しかしそれは消えた訳ではないのだ。マトリックスのどこか片隅で引っかかるように存在している。
それが「ここ」なのだろうか。ジャンクデータの漂流先。それがネットスラム。

それならばこの無秩序にも説明が付く。
精巧な現実の写し絵であるマトリックスに比べ、世界をツギハギしたかのようなこの街は、出来の悪いジオラマのようだ。
機械がこのような場所をわざわざ拵えるとも思えない。人間たちに見せる夢はもっと無味乾燥とした世界でなければならないのだ。
こんな、ともすれば死後の世界と思われそうな場所は在ってはならない。

603貴方の魂にやすらぎあれ ◆QAmDWCgreg:2013/04/12(金) 00:14:52 ID:wPpEFQMo0

「ん?」

そこに、少女がいた。
赤いローブを身に纏い、銀に淡く光る髪を揺らす少女。
少女は瓦礫の上に立ち、焦点の合わない目で虚空を眺めている。

「アナタはオワリを探すヒト?」

不意に少女が口を開いた。
それはモーフィアスに向けた訳ではないだろう。きっと誰に向けてでもなく、ただ零れ落ちた言葉だった。

「オワリは、アナタのノゾむカタチではないのかもしれない」
「…………」
「ソレデモ、アナタは『オワリ』を探す?」

少女は虚空に向かって問いかけていた。
壊れたスピーカーのように声を流す彼女の姿は、ところどころノイズが走り、ひどく不安定だ。
しばらく見ていると、少女の姿が薄らぎ、ふっと消えていった。
その姿はまるで幽霊――ゴーストのようだった。

(死後の世界、か)

先ほど自分が抱いた印象を思い出し、モーフィアスは思った。
言い得て妙だ、と。

ここがもし本当に破損したデータの集まる場所であるのなら、ある意味でここは死後の場所だ。
先の少女がどのようなプログラムであったかは知らないが、既にそこに生の臭いはなかった。
プログラムに「死」という言葉が適切であるかは分からないが、終着点の向こう側であるのは間違いない。

もしかしたらマトリックスで死んだ人間の意識データの残滓もあるかもしれない。
そんなオカルトめいた可能性も、モーフィアスは思い浮かべた。

そのまましばらく街を練り歩く。
もう少し調査が必要だろう。この場が何なのかは分からないが、無視できるような場ではなさそうだ。


【B-10/ネットスラム/1日目・黎明】
※ネットスラムの外観はR:1仕様に近いですが、まだ全貌は分かりません。

【モーフィアス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:この空間が何であるかを突き止める
1:(いるならば)ネオを探す
2:トリニティ、セラフを探す
3:ネオがいるのなら絶対に脱出させる
4:とりあえずネットスラムを探索する
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションズ、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後

604 ◆QAmDWCgreg:2013/04/12(金) 00:15:21 ID:wPpEFQMo0
短いですが投下終了です

605 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:14:01 ID:dJ2nKkEg0
投下します

606君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:14:43 ID:dJ2nKkEg0
夜、草原を歩く。
風が舞い、生い茂る草がかさかさと擦れあう。
頭上に輝く星々が地を照らし、地平線までおぼろげながらも導いてくれる。

カイトとしては何度も見た光景だった。
無論現実ではなく、バーチャル上でのことだ。
ゲームの中で仲間で集い、共に足並みを揃えて冒険を始める。その際に似たような草原を歩いたこともあった。

その折に、周りの景色の美しさに感動してしまうこともある。
たとえバーチャルであっても、その時に抱いた感情はリアルなのだろうとも思う。
自分は今までこのアバターで得た思いは、決してまやかしなどではないのだ。
そういう意味で、この場はバーチャルであってもファンタジーではなく、リアルなのだ。

(まぁ今はまた別の意味でリアルなんだけど……)
この場は実際の死が絡む世界だという。
バーチャルにおいてのアバターの価値と、リアルにおいての身体の価値はここでは等しいといえる。
そうなればこの世界はもはや、もう一つの現実といってもいいのではないか。

カイトは既に似たような経験をしたことがある。
データを改変するイリーガルなスキル。八相と呼ばれる仕様を逸脱したモンスター。The Worldの根幹となった黄昏の碑文。そして謎の存在、クビア。
友を取り戻すため、自分はThe Worldで戦った。あの時の戦いにあったのは、敗れれば現実に還れなくなるという確かな緊張感だ。
今の状況はその点であの戦いと酷似している。バーチャルでありながらリアルであるというパラドックス。

(それでも景色が綺麗なのはありがたい……かな?)
八相との戦いにおいて、ダンジョンは多くのバグを発生していた。
グラフィックは崩れ、空間には奇妙なソースコードが浮かび上がり、美しい筈の世界が醜く歪んでいたのだ。
正直あまり見ていて気持ちの良いものではなかった。その点、この世界は美しいままなのは素直にありがたかった。

「マク・アヌまでどれだけ掛かるかな?」
「うーん、そうだね……夜明けまでには着く、かな?」
同行する女性PC、志乃の言葉にカイトは答えた。
マップ的には同じファンタジーエリアに存在する大聖堂とマク・アヌだが、位置的にエリアを横断する必要があり、到着までにはある程度時間が必要そうだった。

「それに……さっきの光も気になるし」
カイトは声色を落として言った。
先ほど、大聖堂を出てしばらくした時に、空を巨大な光が走ったのだ。
空に走る幾つもの光線は空を明るくする様子は、ある種壮大さを感じさせ圧巻とも言えた。
砲撃の類のようだったが、それはつまりこの場で既に争いが始まっていることを意味している。
あれ程の火力を持つことは通常プレイヤーには許されない。少なくともThe Worldには。
あるとしたらモンスターだろうか。それとも全く未知の別のゲームのプレイヤーだろうか。

何にせよこのまま何事もなくマク・アヌに辿り着けるとは限らない。
障害があると思っていいだろう。それがモンスターか、人かは分からないが。

607君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:15:09 ID:dJ2nKkEg0

「こんなゲームに乗ってしまうプレイヤーが……居るんだろうか」
「……たぶん居ると思う。悲しいことだけど」
志乃は目を伏せて言った。

「前に似たような事件……プレイヤーがログアウトできなくなる事件があったの。私は直接その場に居た訳じゃないんだけど……
 その時も、こういう閉鎖的な環境に耐えられなくなった一部のプレイヤーがPKに走っていた。
 それで何か好転する訳もないのに……」
「…………」
PKと志乃は言う。カイトには馴染みのない言葉だった。自分の知るThe Worldでは既にそのシステムは廃止されているのだ。
プレイヤー層が変ったというThe World R:2では、手ひどいPKが問題になっているようだった。
しかしそれもゲーム内でのことだ。こうしてリアルとバーチャルの壁が薄まった状況で、そんなことをできる人間が居るとは思いたくはなかった。

しかし、現にこうして危険がある以上、そうも言っては居られなかった。
カイトと志乃は互いの装備を確認し、最低限自衛ができるよう武器を装備している。
志乃はカイトが持っていた杖【イーヒーヒー】を装備している。
どうやらこの場では、元のジョブと似た武器ならば一応は装備できるらしく、志乃はそれを使って回復魔法が使えるようだった。
が、イーヒーヒーに付与されているスキル等は使えないらしく、あくまで元から習得していたスキルしか使えないようだ。

一方のカイトはというと、残念ながら双剣カテゴリの武器はなかったので、仕方なく二つの武器を代用する形で双剣を再現している。
右手にはダガーとカテゴライズされる短剣を、左手には志乃から譲り受けたナイフを装備した。
不格好だが、一応双剣士のモーションで武器を振るうことはできた。
また、どちらも中々の武装であるようで、ステータス画面を見ると結構な物理攻撃値を示している。
ただし当然スキル等は使うことはできず、通常攻撃のモーションだけで戦うことになる。
一応カイトは支給されていた【雷鼠の紋飾り】が装備できたので、そちらの回復スキルは使用できる。

と武装を固めてはいるが、これをプレイヤーに対して向けることになるのは、カイトとしても厭だった。
八相との戦いで、リアルを賭けた緊張感というものには慣れていた彼であったが、それでも別のPCに武器を向けたことはなかったのだ。

「何でそんなことするのかな。もうここは……この世界はゲームの一線を越えてしまっているのに」
カイトは思わずそんなことを疑問を口にしていた。
別に答えを求めていた訳ではなく独白に近い呟きだったのだが、志乃はそれを拾い神妙な口調で答えた。

608君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:15:43 ID:dJ2nKkEg0
「ゲームじゃないから、かも」
「え?」
「ゲームじゃなく、この場をリアルと何ら変わりない。そう思っているからこそ、怖いんじゃないかな?
 死の恐怖を克服できる人間なんて、きっと居ない。だから、PKに走る。そういうこともあるのかも」
「そう……かもね。でも」
分かり合えると信じたい。カイトはそう言った。

無論それが如何に大変なことかは知っている。ネットには悪意を持った存在が居るし、どうやっても話を聞いてくれない人間も居るだろう。
それでもカイトは仕方ないと切り捨てたくはなかった。八相との一件だって、最初仲間はバラバラだったのだ。
潔白なプレイヤーであるバルムンクは仕様外の力を使うカイトを敵視し、システム管理者であるリョースはまともに話を取り合ってはくれなかった。
協力的だったハッカーのヘルバも、CC社との協働は考えていはいないようだった。
それでもカイトは諦めず、何とか力を合わせようと奔走した。
結果、ブラックローズの助けもあり、一丸となって八相に対抗できるようになったのだ。
オペレーションテトラポッド、オルカ作戦……そうやって纏まったプレイヤーたちは戦った。自分たちの世界を守る為に。

「うん……そうだね、じゃあ頑張ろう」
その言葉に志乃は微笑みを浮かべ、そう言ってくれた。

「最初の場で、私も何人か知り合いを見かけたし……そういう人たちから始めて纏まることができれば、また状況も変わるかもしれない。
 同型PCかもしれないけど……ただ榊が言ってたしハセヲは確実にいると思う」
「ハセオ?」
「ううん、ハセヲ。わをんのヲの方。彼はきっと頼りになると思うから」
志乃と話しながら、カイトは希望の光が見えてきた気がした。
バーチャルでも、いやバーチャルだからこそ、築ける絆もあるのだ。
そんな希望が。













アドミラルは待っていた。
草原に身を伏せ、来るべき獲物をkillする為に。
その手には武骨なアサルトライフルがあった。
月の光を受け冷たく光るそれは、何時でも弾丸を放たれるようその銃口を草原へと向けられている。

609君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:16:13 ID:dJ2nKkEg0

彼が大聖堂を見つけたとき、そこから二人のプレイヤーが出てきたのが見えた。
丁度良い、と彼は思った。アイツらを次の獲物にしよう。二対一になるが、装備も先ほどより整っているし、不意打ちで片を付ければ何とかなるだろう、と。
しかし、そこで予想外の事態が起きた。
空に走った光。そして轟音。その音から察するに砲撃の光らしかった。
その光を見た時、アドミラルは焦った。この場にはあれほどの火力を持った存在が居ることに、驚きと焦燥を感じたのだ。
そもそも彼のアバターはこうしたアクションには向かない。ツナミネットのバトルエリアに対応してはいるし、全く戦闘用ではないという訳ではないのだが
それでも二頭身のそれは、激しい戦闘する際にはディスアドバンテージといえるだろう。

これであの火力に対抗できるかといったら、否だった。
今見つけたプレイヤーがあの火力に匹敵するほどの力を持っていないとも限らない。
ロールのように友好的に近づき、裏切るというのも考えたが、それでも二人相手にkillするのは少し難しいだろう。
怖気づいた訳ではないが、アドミラルとて一流のゲーマーだ。無謀なプレイングはしない。

そこで取った戦法は待ち伏せだ。
遮蔽物に身を隠し、一方的に攻撃する。相手に反撃の隙を与えないまま、一気に肩を付ける。
不意打ちなのは変わりないが、正面から相手にするのは極力控えようという魂胆だった。狙撃というのも考えたが、成功率の観点から止めた。

故にこうして彼は草原と森の境界。ちょうど岩と木々により周りから隠されたポイントで獲物を待っていた。
先ほど大聖堂で見かけた奴らがここを通る可能性は高かった。奴らの進行ルート的にエリア南西の街を目指しているように見えた。ならばこの付近を通る見込みは十分にあった。
待ち伏せ。FPSなどでは嫌われることもある戦法だが、それはプレイヤーが安全地帯に引篭る臆病者であることが多いからだ。
だが、アドミラルは違う。しっかりと実力を持ったゲーマーだ。どんなリスクを抱え、どうすればリターンを得られるかは分かっている。
この場でkillされることが、即ち現実での死に繋がるのだということも踏まえた上で、彼はその行動を選んでいた。

と、不意に音がした。
目を凝らすと、そこには先ほど目を付けた二人の男女が居た。

(ふふん、これだからアマチュアは)

アドミラルは内心で笑みを浮かべ、銃を構え直した。
ターゲットは目論み通りここを通った。となれば後は反撃の隙すら与えさせず一気に攻める。
アバターの形からどうやらMMORPG由来の者たちだろう。どこのゲームかは知らないが、対人戦にそう慣れているとは思わない。

アドミラルは息を殺し、待った。最も狙いやすいレンジにまで引きつけるのだ。
焦ってはいけない。これはタイミングが重要なのだから。

そして数十秒後、アドミラルは撃った。狙いは赤い男の方だ。
SG550が火を吹き、音を響かせ、5.56x45mmの弾がばら撒かれる。
世界でも最高水準の小銃とも言われるSG550は高い命中率を誇り、GGOにおいて再現されたその銃もまた優秀な武器だった。
またアドミラルのゲームで鍛えた高い射撃技術も相まって、弾丸は見事命中した。

「うわぁ!」
赤い剣士が悲鳴を上げる。
着弾した場所には、巨大なハンマーで叩かれたかのような衝撃が襲った筈だ。
「カイト君!」ともう一方の女の声がした。どうやら初撃には成功したようだ。

それを確認したアドミラルはすぐさま次の行動に移った。
一つの待ち伏せポイントに留まっているのは愚策だ。戦場は常に動いているのだから。
そうしてアドミラルは移動し、森の中へ入っていく。少し距離を取った後、彼は再び銃を構えた。
こうした戦術が取れるのも、SG550の高い照準性能のお蔭だ。300m先の的に連射すれば、7㎝平方で着弾できるという性能を活用し、撃つ。

610君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:16:38 ID:dJ2nKkEg0

今度は女の方を狙った。女は杖を構え、光を纏わせている。魔法スキルに属するものを使おうというのだろう。
それが攻撃用のものなのか、はたまた男(カイトといったか?)への回復用のものなのかは分からない。
が、こういったゲームのお約束として、魔法使いは詠唱中は無防備というものがある。
基本的に前衛が居てこそ成り立つジョブなのだ。ならば今が狙うには絶好の機会となる。
狙いをすまし、アドミラルはトリガーを引いた。SG550が再び火を吹き、弾丸を吐き出す。

「よし」
弾丸は女に命中した。アドミラルの予想通り魔法の詠唱中は無防備だったらしく、身体を仰け反らせ身体が吹き飛ぶ。
それを見たアドミラルは己の優勢を確信する。よし、このまま押していく――

「オラリプス」
そう思った時、声がした。カイトの方だ。
見ると、そいつは立ち上がり己に対し魔法を掛けていた。優しげな光が彼の身体を包み、癒していく。
アドミラルは舌打ちをした。どうやらカイトの方も魔法が使えたらしい。
向こうが態勢を立て直す前に一気に攻める。そう思い距離を詰めようとする。

「はぁ!」
が、それよりも速くカイトが動いていた。
左右不揃いの剣を構え、素早い身のこなしでアドミラルの下へ駆け出していた。
先の銃撃で方向がバレたらしく、結果アドミラルとカイトは森と草原の境界線で互いに合い向き合った。

舐めるなよ。そう内心で呟き、SG550をカイトへと向けた。
が、トリガーを引く前にカイトが距離を詰め、その剣をアドミラルへと振り下ろした。
間一髪避けたが、その際に態勢を崩しアドミラルは転倒した。

(コイツ……場数を踏んでやがるな)

先ほど屠ったロールとは違う、慣れた動きにアドミラルは毒づいた。
カイトは突然の襲撃を受けながらも、すぐさま状況を把握し戦闘に備えた。
どうやらこの敵は熟練したプレイヤースキルを持っているらしい。

「どうしてこんなことをするんだ!」
カイトは倒れたアドミラルに刃を向けながら、そう叫ぶように尋ねてきた。逃げようとすればすぐさま剣が襲ってくるだろう。
糞、と小さく漏らし、アドミラルは次の行動を考えた。
こちらも斧を取り出して切り結ぶか。いやそれは無謀だと切り捨てる。
ゲーマーとしてスキルで劣っているとは思わないが、この二頭身のアバターで熟練者相手に接近戦は分が悪いように思えた。

611君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:17:29 ID:dJ2nKkEg0
「どうしてだって? 優勝する為に決まってるだろ」
時間を稼ぐため、アドミラルはカイトの問い掛けに答えた。
駆け引きの会話ではあったが、それは紛れもなく本心であった。それ以外の答えがあるのか、とすら思う。
『どうして』と先ほどのロールも同じことを聞いてきた。何故そんなことがコイツらは気になるのと言うのか。

「その為に人を殺してもいいと、君は本当にそう思っているの?」
カイトは続けて問いかけた。表情は暗がりに隠れて見えないが、その言葉尻には隠せない驚きが滲み出いていた。
アドミラルは哄笑した。どうやらこのプレイヤーもロールと同じようだ。
如何に卓越したプレイヤースキルを持っていても、所詮はアマチュア。ゲームをただの遊びとしか見てない奴らなのだ。

「勿論だよ。俺はプロなんだ。プロのゲーマーである俺が、お前らみたいなアマチュアに負ける訳には行かないだろ?」
「…………!?」
カイトの衝撃が伝わってきた。いいぞ、とアドミラルは冷酷な思考を働かせる。このまま揺さぶりを掛けてやる

「分かるか? お前らとは見てる世界が違うんだよ。
 ゲームをただの遊びとしか見てないようなお前らとは」
「そんなこと……」
「あるんだなぁ、これが!」
その言葉と共に、アドミラルは反撃に転じた。
突如起き上がり、素早く銃を捨て、メニューから取り出した斧を振りかぶる。
起き上ったことで、カイトの表情が見えた。
信じられない――その顔に浮かんだ驚きは、アドミラルに対する感情を端的に示していた。

斧と短剣が切り結ばれる。
カイトは咄嗟にアドミラルの反撃に対応するが、しかし上手く攻撃を裁けず右手のダガーを弾かれる。

(やはりな……コイツ、熟練者なのかもしれないが、対人戦に慣れてないんだ)

これまでの言動からカイトの弱点を見抜いたアドミラルはそのまま攻勢に転じた。
斧を振るい、カイトに迫る。剣を一つ失ったカイトはそれを上手く防ぐことができず、吹き飛ばされ地面に転がった。

「形勢逆転だな」
倒れたカイトに斧を向けながらアドミラルは言った。
武器を向けるアドミラル。倒れるカイト。構図としては先ほどの全く逆となっている。
が、自分はカイトのように躊躇うなんてことはしない。無駄なく、さっくりとkillする。

「おっと、どこかで見てるんだろ、女!
 変な真似すればコイツの命はないと思え」
アドミラルは初撃以来見失っていた女の方にも言葉を向けた。
無論、変な真似などしなくともカイトの命はないのだが、あくまで布石というものだ。

612君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:17:52 ID:dJ2nKkEg0

「じゃあな――素人」
そう言ってトドメを刺そうとした時、カイトが妙な動きをした。
まだナイフを持っている左手ではなく、何も持ってない筈の右手を掲げたのだ。
アドミラルが不審に思っていると、その腕の周りに奇妙なポリゴンが浮かび上がった。
線状に腕に纏わりつくそのグラフィックは、カイトのファンタジー然とした衣装から乖離した奇妙な造形をしており、まるで腕輪のようだった。

その得体の知れなさに、アドミラルはひどく厭な予感がした。
ただのスキルにしては、これはあまりにも――

「使うしか……ないのか」
「何を……!」
呆気に取られたアドミラルの対応が遅れている内に腕輪の光はどんどん高まっていく。
空間にバグを思わせる歪みが走り、不快なノイズがアドミラルの聴覚を刺激する。
そして、それは放たれる。

「駄目だ! やっぱり」
が、その直前カイトが腕を逸らした。
放たれた光はアドミラルの向こう、森の端の木に当たり、その情報を改変した。
光が終わったあと、残されていたのは醜く枯れた一本の木だった。

「ふ……ハハハ!」
その光景を見たアドミラルは、カイトの攻撃が失敗に終わったことを知り、声を上げて笑った。
今のがカイトの奥の手だったらしい。どんなスキルかは知らないが、どうやらコイツは絶好の好機を逃したのだ。

「何だ、今のスキルは? チートか? 最低だな、ハハハ!
 まぁ何にせよ自分で外してちゃ世話ないな」
「くっ……!」
「さて、じゃあ今度こそ終わりだな。二人目と行こうか」
そう言って、アドミラルは斧を向けた。そして力いっぱい振りかぶり――

「二人目、ということは既に一人は手に掛けた訳か」
瞬間、アドミラルの身体は一閃された。
青いソードが身体に刻まれ、激痛がアドミラルの身体を苛んだ。

(第三者の介入だと……!)

HPゲージが大幅に減っていくのを見ながら、彼はうめき声を上げ倒れた。
第三者の介入。謎の介入者はキルカウントを総取りするつもりなのだ。
カイトの腕輪に気を取られ、接近を許してしまった自分のミスだ。


が、その考えはまるで見当違いだった。その介入者は決してそのような意図を持って襲ってきた訳ではない。
ゲームクリアのためでなく、正義の名の下で戦う者。
そんな、まさしく見ている世界が違う者に、アドミラルは斬られたのだった。

613君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:18:18 ID:dJ2nKkEg0















倒れるアドミラルの向こうに、カイトが見たのは一人の赤い剣士だった。
剣士、といってもカイトや志乃のようなファンタジー風の恰好とは違う、メカニカルな外見だ。
彼は、倒れたアドミラルに対しバイザー越しに無慈悲な視線を送っている。

「カイト君!」
志乃の声がしたかと思うと、カイトの身体を優しげな光が包んだ。リプス――回復魔法だ。
カイトは志乃に礼を言って立ち上がった。志乃が近づいてくるのが見えた。
彼女も銃撃を喰らった筈だが、何とか立て直すことができたらしい。

「…………」
そんな二人の様子を無視したまま、介入者はアドミラルに対し青く光る剣を向けている。
剣を向けられたアドミラルは死んだように動かない。

「その、ありがとう。僕はカイト……えーと」
「ブルースだ」
カイトの言葉に反応して、顔を向けないまま剣士は短く名乗った。
それを見た志乃も続いて言葉を掛ける。

「うん。危ないところだった」
「問題ない。オフィシャルとして当然のことをしたまでだ。
 それよりも、お前に聞きたいことがある」
カイトと志乃が見守る中、ブルースはアドミラルに対し尋問を開始した。
アドミラルは「何だよ」と呻くように言った。

「お前が知っていることを全て吐け。このゲームは何だ? あの榊という男は何だ?」
「はぁ? 知るかよ。俺はただのプロゲーマーだ。ゲームに呼ばれたからクリアを目指した。それだけだよ」
「それ以外は何も知らないと?」
「そうだよ。クッソ……何で俺が」
悪態を吐くアドミラルを冷酷に見下ろしながら、ブルースは告げた。

「そうか……何も知らない有象無象だったか。ならば――斬り捨てるのみ」
無慈悲な宣告だったが、アドミラルは大して取り乱さず「勝手にしろよ」というのみだった。
寧ろ大きな反応をしたのは告げられた彼ではなく、見守っていたカイトだった。

「ブルース。彼を殺す気なの?」
「そうだが? コイツは紛れもない犯罪者だ。デリートすることに何の問題がある?」
「……駄目だ」
カイトは顔を俯かせ、しかし強い口調で言った。

614君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:18:48 ID:dJ2nKkEg0

「それじゃ駄目だ、ブルース。ここはバーチャルだけど、同時にリアルなんだ。
 こんな状況だからこそ、振るってはいけない力もあるんだ」
「何を言う。野放しにしろというのか?」
コイツは、と言ってブルースはアドミラルを示した。

「釈明の余地のない犯罪者だ。襲われたのはほかでもないお前だろう。
 カイト、お前は言ったな。こんな状況だからこそ、と。
 そうだ。こんな状況だからこそ、野放しにしておけない悪というものが存在する」
「でも……!」
「私も、カイト君の意見に賛成かな」
それまで黙っていた志乃が、そこで口を開いた。

「確かにこの人は許されないことをしたと思う。こんな状況でのPKは殺人者と何ら変わりない、というのは分かる。
 でも、PKに対しPKKで対抗していっても、きっと何の解決にもならない。寧ろ榊の思い通りにしかならないと思う」
「……お前らの言っていることは理解できないな」
ブルースは冷たく言った。

「悪は斬る――それのどこに問題がある。オフィシャルの仕事に口を挟まないでもらおう」
「でも!」
カイトとブルースは向き合った。
二人の間に険悪な雰囲気が流れる。が、そこにあったのは敵意ではなかった。
理解できない、納得できない、どうしようも主義主張の対立の結果が、これなのだ。

その対立を見ながら、内心ほくそ笑む存在もいた。

アドミラルは待っていた。
彼は決して諦めた訳ではない。HPゲージが0でない以上、逆転の芽は残っている。そう信じて機会を窺っていた。
そして、機会はやってきた。幸運にも向こうから転がり込んできたのだ。

ブルースとカイトが対立し、互いに向き合っている今、自分に対する注意は薄れている。
不貞腐れたかのような態度も功を奏した。既に奴らは自分を完全に無力化したと思っている。
だが、違う。自分にはまだ手が残っている。
バレないよう素早くメニューを操作する。
そして、アイテム欄から目当てのアイテムを見つけ、【使う】のコマンドを押した。

「【ダッシュコンドル】!」
ロールに支給品であったバトルチップを発動。
本来は攻撃判定を持つ突進を繰り出すという戦闘用チップだが、アドミラルはそれを逃走用として発動した。
身体に加速が急激な掛かり、ブルースの剣先から逃れる。

615君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:19:04 ID:dJ2nKkEg0

「ッ!」
「え!?」
ブルースらが困惑と驚きの声を残したのが分かった。
アドミラルは哄笑を上げながら、森の奥へと奥へと入っていく。
今は撤退し、態勢を立て直す。障害物の多い森ならば、撒くことは十分に可能な筈だ。

優勝する。その想いを胸に、アドミラルは逃走した。
 


【D-5/森/1日目・黎明】

【アドミラル@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP30%
[装備]:人でなし@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品0〜1、ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3
      SG550(残弾5/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×5@現実
[思考]
基本:この『ゲーム』をクリアする
0:今は逃げる。
1:ゲームクリアのため、最後の一人になるまで生き残る
2:ジローへのリベンジを果たす
[備考]
※参戦時期はデウエスに消された直後です
※ネットナビの存在を知りました
※ツナミの存在を知らない相手がいることを疑問視しています

616君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:19:31 ID:dJ2nKkEg0




「逃がした……だと、またしても」
ブルースは重々しく呟いた。その口調には一度ならず二度も危険人物を取り逃がしたことへの衝撃があった。
彼は一瞬の沈黙の後、カイトを見た。
カイトもまた悔しそうに顔を俯かせている。

「これで分かったか、やはり悪は斬らねばならない」
ブルースはそう告げた。
彼としては別にカイトを責める気はなかった。
オフィシャルとしての活動に一般人による邪魔が入ることはままある。
かつてエレキマン騒動の際、ロックマンと光熱斗の介入により計画が失敗したこともあった。
一々そのことを一般人に当たり散らしても意味はない。苛立ちを感じるのは事実だが、それを責めるよりもまずやることがある。

「カイト、俺は奴を追う。そして斬る」
「…………」
何も言わないカイトを一瞥した後、ブルースは駆けだした。
今ならまだ間に合う筈だ。一瞬で蹴りを付ける。

彼の信じる正義の下、ブルースはその場を後にした。


【D-5/森/1日目・黎明】

【ブルース@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアル打倒、危険人物には容赦しない。
1:アドミラルを追う
2:ウラインターネットに向かう

617君の目に映る世界 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/14(日) 17:20:07 ID:dJ2nKkEg0


「行っちゃった……」
森へと消えていったブルースを見て、カイトは力なく言った。
結局、分かり合えなかった。そのことに対する無力感が彼を苛んだ。
二人の存在が消え去り、森はひどくしんとしていた。葉がこすれ合う音すら聞こえるようだ。

「さっき、襲ってきた斧の人が言ってた。自分はプロだから、お前らとは違うんだって」
「カイト君……」
「そんな理由で、人を殺せる人が居るんだ。死の恐怖が理由じゃなかった。何も恐れないままこういうことができる人間も、居るんだ」
カイトは顔を俯かせ、自分の右腕を見た。
データドレイン。アウラから得たこの力を、自分はアドミラルに向けようとした。そうしなければ、殺されると思ったから。
しかし、その瞬間オルカの姿がフラッシュバックした。
オルカ――ヤスヒコはかつてスケィスのデータドレインをくらい、意識不明者となった。
この力を人間に向けることが、如何に危険かはカイトは理解していた。

だから直前で狙いを逸らし、アドミラルから外したのだ。
もしブルースが来なければ、あのまま自分はやられていただろう。それは事実だ。

「だけど……駄目だ。PKKしたって、何の解決にもならない」
ブルースの言葉は分かる。自分だって殺人者を許す気にはならない。
だが、分かり合えないと切り捨てていたら、全員が一丸と纏まることなどできる訳がないのだ。

志乃は何も言わなかった。何も言わないまま、カイトの傍に居てくれた。
カイトは振り返り、今まで歩いてきた草原を見た。
そこには変わらず美しいグラフィックで表された世界が広がっている。
同じ世界を見ている筈だった。だが、全く見ているものが違う人間たちも居る。
そのことを痛感した今、その美しさはまた別の意味を持っているように見えた。


【D-5/森/1日目・黎明】

【カイト@.hack//】
[ステータス]:HP90%、SP消費(大)
[装備]:ダガー(ALO)-式のナイフ@Fate/EXTRA
    雷鼠の紋飾り@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:自分の身に起こったことを知りたい(記憶操作?)
2:マク・アヌに向かう
[備考]
※参戦時期は本編終了後、アウラから再び腕輪を貰った後

【志乃@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP100% 、SP消費(中)
[装備]:イーヒーヒー@.hack//
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める
1:ハセヲと合流(オーヴァンの存在に気付いているかは不明)
2:マク・アヌに向かう
[備考]
※参戦時期はG.U.本編終了後、意識を取り戻した後



支給品解説
【ダガー(ALO)@ソードアート・オンライン】
作中でレコンが使っていた短剣。
背丈が低い<シルフ>が良く使う武器。レコンも1年の古参とあって使用ダガーの威力は高い。

【式のナイフ@Fate/EXTRA】
隠しボスである両儀式が使っていたナイフ。

【雷鼠の紋飾り@.hack//】
Lv76の頭部用防具。軽量級装備である為、全ての職業が装備することができる。
スキルは
オラリプス
リプメイン

【イーヒーヒー@.hack//】
変な名前の杖。変な顔が付いている。
スキルは
ファバクドーン
ウルカヌス・クー
ウルカヌス・ルフ

【ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3】
スタンダードチップの一つ。ヘルコンドルを倒すと手に入る。
少し硬直した後、敵を貫通する突進をかける。威力は180。
ダッシュアタックより硬直が長い。

618名無しさん:2013/04/14(日) 17:20:33 ID:dJ2nKkEg0
投下終了です

619名無しさん:2013/04/16(火) 03:07:03 ID:/L9bxhc60
皆さん投下乙です
>digital divide
危険地帯マク・アヌの火種が燃え上がりましたか
果たしてシノンとアトリは、ランルーくん達相手に生き残れるのでしょうか
そしてワイズマンとクリキン……はやく気づかないとエージェントに追い付かれるぞ

>貴方の魂にやすらぎあれ
まさかリコリス(?)が登場するとは
彼女は個人的に気に入てるキャラなので、この展開は嬉しいです

>君の目に映る世界
このバトルロワイアルをゲームとしてみるか、リアルとして見るかの差が出ましたね
その境界に立つカイト達は、これからどんな選択をするのでしょうか

あとちょっとした指摘ですが、雷鼠の紋飾りのスキルはファラリプス(対象と周囲の仲間のHPを全回復)とリプメインです
それと(普通に進めた場合の)ゲームクリア時点のカイトならHP1500/SP250以上になります
なのでファラリプス(消費SP60)とデータドレイン(消費SP10)を合わせても、SP消費(大)にはならないと思います
また志乃も加入時のレベルが121と意外とハイレベルなので、呪文1,2回の失敗とリプス程度ではSP消費(中)にはならないかと

以下データの参考にでも
ttp://www.medias.ne.jp/~kuon/.hack.html
ttp://wiki.livedoor.jp/theworldpurasu/d/%a1%d6%bb%d6%c7%b5%a1%d7%b4%f0%cb%dc%a5%c7%a1%bc%a5%bf%a1%bf%ca%e2%a4%af%a4%e8%a4%a6%a4%ca%c2%ae%a4%b5%a4%c7

620名無しさん:2013/04/16(火) 18:39:23 ID:jJYRLrmk0
どうでもいいようで大切な指摘だな
後々に響くし

621 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/16(火) 23:19:16 ID:K.BiHLA20
>>619
指摘アンドデータありがとうございます
そうですね、途中カイトの使用スキルをファラリプスに、最後の状態表をSP消費(小)に
wiki収録の際に変更しておきます

622 ◆nOp6QQ0GG6:2013/04/16(火) 23:49:38 ID:K.BiHLA20
あ、あと志乃の支給品数のミスにも気が付いたのでそちらも修正しておきます
不明支給品0〜1ですね

623名無しさん:2013/04/17(水) 09:46:59 ID:WDehZAJ.0
まとめて読んだ
投下乙です

危険地帯なのは判っているがここまで大きく燃え上がる寸前な状態にまでなるとはw
ランルーくんらと戦闘になるシノンとアトリ、ワイズマンとクリキンの方もヤバい
次で誰が死んでもおかしくない

これは原作を知る人にはニヤっとさせられたぞw
ネットスラムかあ、リコリス(?)以外にも誰かいるのかも

キャラのロワでのスタンスというか考え方の違いが出てるなあ
マーダーは殺せる時に殺せでいいとは思う反面それではダメと言うのも判るんだが…
こういうのがパロロワの醍醐味の一つだぜw

624名無しさん:2013/04/21(日) 22:31:55 ID:JwGagkDU0
ブルースかっけぇ。
アドミラルとかFPSも相当やりこんでそうだし、何気に万能すぐる。

625 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:14:46 ID:sql0mM8E0
投下します

626ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:15:34 ID:sql0mM8E0


妖精と並んで歩くというのも稀有な経験だ。たとえそれが現実でなかったとしても。

未だ暗い夜の闇に包まれた街を行くトリニティはそんな想いを抱いていた。
アスナと名乗った青い髪の少女の姿は、アメリカの灰色の景色の中から異様なほど浮き上がっている。
それも当然だろう。絵本から飛び出してきたかのようなファンシーな衣装や装備に加え、今は消しているが可愛らしい羽。
TVゲームの延長上にあるというその妖精は、少なくともトリニティの知る「現実」にはそぐわない。
現実感を伴わないものだ。

(現実感……マトリックスの中でもそれは感じられたのかしらね)

マトリックスに繋がれる人間は、基本的に自分が夢を見させられていることに気付かない。
気付きようがない。マトリックスの見せる夢は完璧であり、そこに疑う余地はないのだから。
その完璧さ故、マトリックスから解放されるにはある程度以下の年齢であることが求められる。
生まれて以来長い間繋がれ続けた人間は、仮にマトリックスから解放されたとしても目の前の現実を認めることができず、精神を病むことがある。
ネオの覚醒を急いだ理由でもあり、同時に現実のありようを考えさせられる話でもあった。

マトリックスに対し現実感を抱く人間が居る。彼らを説き伏せることは難しい
仮想であろうとも、彼らにしてみればトリニティの生きる世界こそ非現実なのだ。
人が、何を以てして現実が現実たると認められるかは、答えの出ない問いなのかもしれない。

(怖いのは……私の見る現実が、実は現実でないのではないかという疑念)

トリニティはちら、と横を行くアスナを見た。
出会って以来何度か言葉を交わしたが、彼女との常識の乖離をところどころで感じることができた。
先ず彼女の知る「現実」において、機械との戦争は起こっていない。
彼女の21世紀は穏やかな発展を経た平和なものであり、トリニティの知る荒廃と戦争の歴史はどこにもない。

二人の抱える現実は、どうしたって両立できない。同じ現実としてみるには矛盾に溢れている。
アスナはそれを異世界、並行世界といった概念を使って説明しようとした。
確かにそれは否定できないし、最も無難な解であるようにも思えたが、トリニティはまた別の可能性を考えていた。

627ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:16:02 ID:sql0mM8E0

(もしかしたら、まだ夢から覚めていないのかもしれない)

その可能性を、どうしても否定することができなかった。
アスナの知る現実はもしかしたらマトリックスの亜種による仮想かもしれない。
逆に、トリニティの知る現実はVRMMOとやらで疑似的に作られたものかもしれない。
あるいは、二人の現実は共に現実でない「夢」であり、真の「現実」はまた別の形をしているのかもしれない。

ここまで来ると狂人の思考だ。それは分かっている。
分かっていたが、トリニティはその可能性を考えざるを得なかった。
アスナには告げていない。告げたところで何の意味もないことは分かっていたのだから。

「ん?」

不意にそんな声が漏れた。トリニティではなく、アスナのものだ。
トリニティは思考を打ち切りアスナを見た。彼女は何かを感じたのか、不審そうに顔を見上げている。

「どうしたの、アスナ」
「いや、今、あそこの屋上に誰かが居たような気がしたんです」

あそこ、と言って彼女は一つの高層ビルを指差した。
が、そこには誰も居るようには見えない。ビルの角度の関係で隠れてしまったのかもしれない。

「誰か……他の参加者?」
「分かりません。ただ、何だかこっちを見て笑っていたような? 見間違いかな……」

アスナはそう言って腕を組み不思議そうに考える素振りを見せる

「ちょっと見てきます。私ならすぐ行けますから」

しばしの沈黙の末、アスナはそう言って羽を展開し、飛び上がった
確かに彼女の力ならば軽々とあそこまでたどり着けることはできる。他の参加者との接触は早い内にこなしておきたかった。
無論、それが友好的に接してくるとは限らないのだが。

トリニティはそう思い、すっと息を吸い集中力を高めた。
何にせよ今の「現実」はこの殺し合いだ。ここで生き残らないことには何も得ることはできない。

628ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:16:39 ID:sql0mM8E0







彼女はずっと夢をみていた。
ずっとずっと、痛みすら忘れてしまうほど、長いあいだ。
無邪気に、夢のなかに迷い込んだのだ。








アスナは慎重にその場に降り立った。
とん、という音が屋上に響き、そして淡く消えていく。
周りを見渡すと、ずっと近くなった夜空の下で、冷たいコンクリートの地面が広がっている。
彼女は緊張した面持ちで周りを見渡し、誰かが隠れていないかを確認する。

「…………」

数十秒の沈黙を経ても、何も起こりはしなかった。
からからと吹く風が、摩天楼との擦れあい乾いた音を響かせる。

アスナは「ふぅ」と息を吐き、緊張を解く。どうやら見間違いだったようだ。
少々神経質になっているかもしれない。何しろ久しぶりのデスゲームなのだ。

と、その時、

「ふふふ」
「フフフ」

二つの声が重なり、アスナの周りを反響し始めた。
はっとしたアスナは再び辺りを見渡す。一体どこから――と声を出すよりも早く、彼女たちはやってきた。

「ねぇあたし(アリス)、妖精さんがやってきたわ」
「そうねあたし(ありす)、可愛い可愛い妖精さんがやってきたの」

そんな声を響かせながら、彼女たちは不意に現れた。
僅かな光を伴って、アスナを取り囲むように二人の少女が現れたのだ。
サテンドレスを纏う年端もいかない少女たち。彼女らは瓜二つであり、まるで鏡合わせのような存在だった。
ただドレスの色だけが違う。水色と黒色。奇妙な本を抱えた、色違いの双子。

「これがチェシャ猫さんの言っていた宝物かな、わたし(アリス)」
「そうかもしれないわね、わたし(ありす)」
「だったら捕まえないといけないわね、わたし(アリス)」
「そうねわたし(ありす)、じゃないと妖精さんは逃げちゃうから」
「ふふふ」
「フフフ」

アスナは突然の事態に目を丸くして二人の少女を見ていた。
彼女たちはアスナを挟み、二人だけで仲睦まじく会話を続けている。
中心に居ながら、まるでアスナのことを無視しているかのようだ。

629ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:17:13 ID:sql0mM8E0

(何……この娘たちは一体――?)

一見して敵意は感じられない。
どこまでも無邪気だ。ここがデスゲームであることを理解していないのだろうか。

「捕まえたら遊ばないといけないわね、わたし(アリス)」
「そうねわたし(ありす)、いっぱいいっぱい遊ばないと」

不意に彼女らがアスナを見た。それまで全く無視していたアスナに対し二人の声が重なり合う。

「ちょっと待っててね、妖精さん。今新しい遊び場を作るから!」
「え……?」

瞬間、再び二人の姿が掻き消えた。
そして、また別の場所に寄りそうように現れる。
二人の少女たちが手を絡ませ、互いの顔を見て微笑んだ。

「ここでは鳥はただの鳥」
「ここでは人はただの人」

踊るように彼女たちは謳う。
くるりと身をひるがえし、再び身体を寄り添わせ、そして――

「妖精さん、ようこそ! ありすのお茶会へ」

――世界が塗り替えられていく。

人を心象風景を移し出し、現実を侵食し世界と繋がり自然を変貌させるのだ。
空想具現化(マーブル・ファンタズム)の一種として、世界の法則を捻じ曲げる。
固有結界。
ある世界、ある者たちは、その力をそう呼んだ。

言うまでもなく―――はそんなこと、知る由もない。
ただ、彼女たちの歌が終わった途端、世界が薄いヴェールに包まれたかのような感覚に襲われた。
―――に分かったのは、世界が何かしら変貌してしまったということだけだった。

「ここではみんな平等なの」
「アナタとかオマエとかスズキとかサトウとか一々つけた名前なんて何の意味もないのよ」

少女たちの言葉が続く中、―――は気付いた。
己の名が、己の存在が何なのか、まるで雲掛かったかのように不明瞭になっていることを。

「みーんな自分の名前を忘れてしまうの」
「だんだん自分が誰だか分からなくなっていくのよ」
「妖精さんも、自分が妖精さんだってことも忘れていくの」

声も出せない―――を尻目に少女たちの声が重なる。
―――は頭を押さえ、身体をよろめかせた。
事態が全く把握できない。これは一体何なのだ。
浸食される意識の中、微笑みを浮かべる少女たちの姿だけがくっきりと視界に浮かぶ。

「ふふふ、じゃあここで遊びましょ!」
「ふふふ、きっとすっごく楽しいわ」

少女たちは、無邪気な笑みを浮かべている。

630ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:17:52 ID:sql0mM8E0








「何があったの、アスナ!」

トリニティの叫びが街に響き渡る。
何が起こったのか、彼女の距離からは分からなかった。
固有結界の展開に巻き込まれることは免れた彼女は、中で何が起こっているのかは全くつかめなかった。
ただアスナの居る摩天楼を妙なヴェールが包み込み、何か異様な雰囲気を醸し出しているのだ。

「……罠?」

トリニティは似たような光景を見たことがあった。
マトリックスにおいて事象が書き換える様にそれは酷似している。
機械たちがプログラムを書き換えることにより世界の構成を変えてしまうのと、何処か目の前の事態は似ているのだ。

「近づかない方がいいと思うよ」
「っ!」

焦燥に駆られたトリニティに声が掛けられた。
少年とも少女ともつかぬ中性的なそれは、トリニティの記憶には全く覚えのないものだ。
彼女はすぐすまメニューから鉄バットを取り出し、声の主へ振り向きざまに振り払った。

「おおっと、危ないなぁ」
「……猫?」

そこに居たのは、異様な猫、のようなものだった。
トリニティを超す背丈の猫が二つの足で立ち、中世的な格好をしている。
アスナに負けず劣らずファンタジックな姿をしたそれは、突き付けられたバットを面白そうに眺めながら、口を開いた。

「待ってよ。僕は君を襲うつもりはないんだってば」
「答えて。今あのビルの上で一体何が起こっているのか」
「うーん、正直僕もよく分からないんだけどなぁ」

猫はぽりぽりと困ったように頬を掻き、

「僕はどうもあの娘たちに相手にされていなくてね。置いて行かれてから何とか追いついてみた、そんな感じだよ」
「……貴方も事態は把握していない訳ね」
「そうだね。でも、あれが何か危険なものだってのは、君も分かるだろう?」

トリニティは口を閉ざした。
彼女としてもそれは分かる。それ故に足が止まっているのだ。
罠に囚われた仲間を救い出す為に、自分も罠に飛び込むのは無謀な判断だ。
それしかないというのなら一考に値するが、得体の知れなさだけが先行するでは足を止めざるを得なかった。
代わりに猫にバットを突き付けたまま、詰問を続ける。

631ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:18:15 ID:sql0mM8E0

「あの娘たち、と言ったわね。あそこに居る誰? それは知っているのでしょう」
「え? うーん、まぁそうだね。まぁ僕も襲われた身だからそう多くは知らないんだけど」
「なら教えなさい」
「あ、ミアだよ。よろしく」

どうにもとらえどころのない猫だ、と目の前の存在に若干のやり辛さを感じる。
話を聞くに今のところ敵意はないようだが、どのようなスタンスで居るのか今一つ判断に付かない。
そして何よりその外見だ。アスナのようにこのミアとやらもまたVRMMOとやらのユーザーなのだろうか。

「あの娘たちかぁ。黒と青の服を着た良く似たPCでね」
「何か力を持っているの? プログラムに干渉するような」
「うーんどうだろう。本当によく分からないんだ
 ――まぁ分かるのは」

ミアはそこで瞳をぎょろりとトリニティへと向けて、

「あの娘たちが、夢の世界に居るってことかな」









―――の身体が吹き飛ばされた。再三に渡る衝撃に彼女はうめき声を上げる。
少女の放つ光が嬲るように―――を責め立てる。
それを見た少女たちは愉快そうに笑い声を響かせる。
「うふふ」「ウフフ」そんな声が重なり、エコーして、この空間を支配していた。

(私、は……)

存在そのものを削り立てられながら、―――は何とか意識を保とうとした。
だが、それでも己に起こった異変を把握することはできなかった。
名前は意味をなくなる、と彼女らは言った。―――はその通り己の名前というものを見失っていた。
それどころか、自分には最初から名前などなかったのではないか。自分は何物でもなかったのではないだろうか。そんな感覚さえ覚えていた。

632ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:18:43 ID:sql0mM8E0

(ううん。駄目。考え、なくちゃ)

―――は焦点の合わない思考の狭間で、これが何らかの魔術スキルの類であると考えた。
無論こんなプレイヤーの精神に働きかけるような効果を持つスキルは―――の埒外であったが、魅了や混乱といったバッドステータスを実際に表すとこうなるのではという推測を立てる。
この場でペインアブゾーバが用をなしていないのは既に確認している。
感覚自体もどこまでクリアかつ鮮烈であり、多大な安全基準を掛けられたアミュスフィアでは絶対に体感しえないようなリアリティを、この世界は誇っているのだ。
それこそかつて囚われていたナーブギアと同等か、いやあのSAOの中でさえこんなスキルはありえなかっただろう。
ここは、それ以上の現実を再現した世界なのだ。

(それとも、マトリックス?)

トリニティの言っていた言葉を思い出す。
俄かには信じられない話。仮初の現実を越えたところにある、真の戦乱の現実。
並行世界という概念で説明しようとした、その世界観が、この空間を作り上げるのに一役買っているのだろうか。

「妖精さんと遊ぶの楽しいわ、わたし(アリス)」
「そうね、もっともっと遊びましょ、わたし(ありす)」
「捕まえて」
「羽を千切って」
「首をちょん切って」
「遊びましょ」

―――の思考を妨げるように少女たちの言葉は続く。
その言葉に相変らず敵意も悪意も感じられない。ただただ無邪気で、そして残酷な子供の遊び声だ。
ただの悪意を持ったPKでないことは―――も感じ取っていた。
だが、彼女たちがこの空間を作り上げていることも事実だ。
抵抗、攻撃の意志を緩める訳には行かない。

再び光弾が来た。
黒い方の少女から光が放たれ、笑い声が反響する。

「はぁっ……」

メニューから死銃の刺剣を取り出し、剣を振るって光弾を捉える。
すると光弾は消え去り、―――の身体を傷つけることはなかった。少女の攻撃をパリィに成功したのだ。
所謂《魔法破壊》の真似事だ。光弾自体の速度はそれほど早いものではないし、ALOにおいてのそれほどシビアな判定を要求されるものではないようだ。
無論今の―――がそんな計算を持っていた訳ではなかったが、それでも抵抗の意志として、半ば無意識のうちに行っていた。

633ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:19:21 ID:sql0mM8E0
「あはは、凄いね妖精さん」
「楽しいわ、じゃあもっとやってみて」

攻撃を防がれても、少女たちは変らず無邪気な言葉を交わし合う。
そして散発的に転移を繰り返し、黒い少女は光弾を連続して放つ。
―――はそれを裁いていく。剣を振るい、薄れゆく自我を何とか支えながら少女の姿を探す。
震える視界の中、光を裁いた―――は剣を構え、

「《スター・スプラッシュ》!」

ソードスキルを放った。かつて《閃光》と呼ばれていた頃に―――が最も得意とした上位スキルだ。
基本的に《細剣》カテゴリのスキルだが、斬撃(スラッシュ)の動作が含まれないので今の装備でも使用することができる。
八連撃の斬撃が少女の身体に叩き込まれようと、

「うふふ、残念」

する直前に少女が再び姿を消す。
剣は空を切り、―――はたたらを踏む。そして勢いを殺せずそのまま転倒してしまう。

「鬼さん、こっちよ」
「妖精さんが鬼なんておもしろいわ」

(やっぱり、駄目……)

すぐ近くに転移した少女たちの姿を確認し、―――は力なく倒れ込んだ。
この得体のしれない攻撃は、力押しでは絶対に倒せない。それは分かっても、薄まった自我の中で策を練ることはできそうもない。
諦観の思いが―――の脳裏に明滅する。

(……それでも)

―――は立ち上がった。
何故かは自分でも分からない。溶けていく意識を下、―――は既に自分が何故ここにいるかすら分からなくなっている。
だが、それでも戦意だけは衰えなかった。
誰か、名前も知らないけど、誰かに会わないといけない気がしたのだ。

―――は剣を捨てた。代わりにメニューを開き、また別のものを取り出す。
それは何てことのない杖だ。知らないゲームの物のようだが、この場で装備はできることは確認している。
そして茫洋とした意識の中、スペルワードを唱えていく。ウンディーネはもともと魔術が得意な種族だ。

―――は左手のひらを胸の前で上向ける。
するとそこに翼のような胸鰭を持つ魚があらわれた。《サーチャー》隠蔽魔術を看破するための存在を放つ。
何でもいい。何か、この結界を破る方法を掴めないかという、必死の抵抗だった。
無論、望みは薄かった。この魔術はALOにおいてのものであり、こんな未知の空間を破る力があるとも思えない。
それでもここは様々な世界観が入り混じった世界。何かしら効果があるかもしれない。そう思ってのことだ。

「わぁお魚。妖精さん、今度は何をしてるの?」
「面白いわ。流石は妖精さんね」

どこまでも楽しむような様子の少女たちを尻目に、《サーチャー》はある一点を示していた。
何か意味があったのだろうか、―――はそこに這うように進み、そしてそれを見つけた。
そこにはメモが落とされていた。
ともすれば塵かと思うような、何てことのないそれに―――は飛びつき、そこにある言葉を読んだ。

634ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:19:51 ID:sql0mM8E0

『あなたの名前はなあに?』

短い、たったそれだけの問い掛けだった。
それを見た―――は呆然と自問とする。

(私は)

自分の名前。
そんなもの、在っただろうか。
在ったなら、どこに行った。

「私は」

―――は削られゆく自我の中で、ただ一人立ち続ける。
どこか、どこかにある筈の、自分の名前を探し続ける。
在る筈なのだ。呼んでくれた人が居る。だから、それだけは忘れてはいけない。自分が自分であった証を見失う訳には行かない。

そして、それは在った。開いたままのメニュー。そこに記された意味の分からない文字は――

「アスナ/明日奈」

そう答えた瞬間、世界が砕け散った。
今まで侵入者を拒むような空気が崩れ去り、そして元ある世界の色彩が返ってきた。
そして、その中にに確かにアスナは居た。

「ああ……【名無しの森】が消えてしまったわ」
「【名無しの森】が消えてしまったわね」
「残念だわ。また新しい遊びを考えないと」

名を取り戻したアスナは髪を振り払い、すっと立ち上がる。
そして、目の前の幼気な少女たちを見た。
その正体は分からない。そして悪意も感じない。だが、彼女らが危険な存在であることは分かった。

(放っておく訳には、いかない)

そう思い、杖を仕舞い再び刺剣を構える。
もう既に結界は破った。先の光の威力も大したことはない。ならばもう恐れることはない筈だ。
だが、そんなアスナの戦意をまるで意に介さず、少女たちは再びくるりと回り、笑いあった。

「じゃあ次はどうする、わたし(ありす)」
「どうしましょう、わたし(アリス)」
「また『あの子』を呼ぶのはどう? この妖精さんと遊ぶの楽しいわ」
「さっきはよく分からない内にやられちゃったものね、『あの子』もきっと退屈してるわ」
「うふふ、じゃあ楽しみましょう」

そう言って、青い少女が手を掲げた。
瞬間、規格外の力が満ち溢れた。

「何……!?」

床が鳴動する。視界が歪む。
あまりの出力に一瞬顔をそむけたアスナが、一拍遅れてみたものは――

「凄いでしょ。この子もわたし(ありす)のお友達なんだ」
「ねぇ妖精さん。この子とも遊んであげて」

赤黒い巨大な体躯、奇怪なる翼、そして圧倒的な威圧感。
ジャバウォック。
その怪物が、再びこの世界に呼び出されたのだ。少女の言葉を聞く為に。

「うふふ」
「ウフフ」

少女たちの夢は終わらない――

635ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:20:46 ID:sql0mM8E0









「夢の世界に居る?」
「うん。何ていうか、そんな感じだったかなぁ、あの娘たちは」

ビルの下で、ミアとトリニティは対峙していた。
トリニティは緊張感と警戒を怠らずバットを構え、ミアは相変らずつかみどころのない様子で頭を捻っている。

「この世界を現実として見てるんじゃなくて、夢だと思ってるみたいな、そんな感じだよ。
 自分たちのだけのものだと思ってるみたいなって感じかな」
「夢……」

トリニティはその抽象的な表現にどう反応すればいいのか分からなかった。
夢というのなら、この場はある意味本当に夢なのだ。
マトリックス、またはそれに類似した仮想現実。それはある意味夢と言う表現が似つかわしい。

「……貴方はどう思ってるの?」

アスナとの話以来、そのことに複雑な感情を抱いていたトリニティは、気付けばそんなことを訪ねていた。
この絵本の存在を体現したかのような猫は、一体世界をどう思っているのだろうか。

636ありすと空飛ぶ妖精の夢 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:21:08 ID:sql0mM8E0

「僕?」 
「そう、貴方はこの世界をどう思ってるの? 夢か、それとも現実か」
「うーん、そうだなぁ」

尋ねられたミアは腕を組み考える素振りを見せた後、

「僕はよく分からないなぁ。夢とか現実とか、その差を深く考えない質みたいだから。
 夢を見ている時も、これは現実と変わらないんじゃないかって思ってるし。
 だから、そうだなぁ……強いていうなら」

そこでミアは口元を釣り上げ、

「僕はここに居る――そのことがいちばん大事かな。
 どんな世界でも、僕がここに居ることだけは確かだ」
「…………」
「そういう意味ではあの娘たちと同じなのかもしれないね。
 だから気になって付いていってるんだと思う。同じだからこそ、何も知らない彼女たちに教えたいんだ。
 自分たちの世界だけでしか、自分が居ることを信じられない彼女たちに、それ以外の世界を見せてあげようかなって
 世界の中で、他の人たちと繋がること。その楽しさを知らないのは、ちょっと勿体ないからね」

ミアの言葉を、トリニティは何も言わずに聞いていた。
その言葉はミアの世界観を端的に示しているようだった。

不意に、何かガラスが割れるような音が響いた。
上だ。アスナが囚われている筈の摩天楼が、再び変容していた。

「おや、空間が戻ったのかな」

ミアが顔を上げながら言う。
確かにそうだ。薄く包んでいたヴェールが剥がれ、元の様相を取り戻していく。上で何があったのかは知らないが、状況が変化したことは確かだ。
一方で、代わりに何か強大な威圧感がそこに座しているのを、トリニティは感じていた。

「僕はここに居る、ね」

ぽつりとトリニティは漏らしていた。
ミアの言葉だ。世界の造りが信用できなくとも、自分の認識だけは見失ってはいけない。
そういう意味だと、彼女は解釈していた。

「そうね。確かにそうかもしれないわ。
 世界がどういう作りであれ、私は今目の前に在る現実を生きている。
 ――それだけは確かだわ」

その言葉の後、トリニティは跳び上がった。
地面を蹴り、本来の法則ならばあり得ない高さへと跳んでいく。
世界の法則を無視した行い。マトリックス内で戦う上で身に付けた術だった。

「今行くわ、アスナ」

結界が崩れた以上、自分を阻むものはない。
トリニティは目の前の現実を生きる為、戦いの場へと身を投じた。

637アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:26:10 ID:sql0mM8E0
アスナの全神経がその危険性を声高に伝えてくる。
自分だけでなく、世界その物までが鳴動しているかのような圧倒的な何かを
それは持っていた。

「■■■■■■■■■」

その怪物は咆哮する。
何の意味を持っているのか、全く分からない。分からないが、ただ威圧感があった。
アスナの脳裏に過るのはアインクラッドでの死闘だ。
ゲームでの死が真の死へと繋がる、永遠の一瞬を過ごしたデスゲーム。あの時、強大な力を持つボスに対して抱いた絶望感を思い出した。
時代は変わった筈だった。もうゲームは、楽しむことを第一に考えればいいはずだった。

だが、自分はこうして再び死に向かい合っている。
その現実を、アスナは今再認識していた。

「うふふ、今度はジャバウォックを相手にしてね、妖精さん」
「ウフフ、楽しいお茶会はまだ終わらないわ」

少女たちはその怪物――ジャバウォックを間に挟み、アスナに変わらぬ笑みを浮かべている。
その姿を見ながら、アスナは下唇を噛む。刺剣を握る手にじんわりと汗が滲むのをアスナは感じ取った。
倒せるだろうか。正直なところ苦しいように見えた。

「行くわ」

だが、戦うしかないだろう。ここで倒れる訳には行かないのだから。
その決意を抱え、刺剣を携えて敵と相対する。

「■■■■■■■■■」

ジャバウォックが雄叫びを上げる。拳を振りあげ、その力を解放する。
アスナはその動きを見極め、身をひるがえし回避する。速い。一瞬の攻防ながら、敵は見た目に反し決して鈍重ではないということを知った。
間をおかず、ジャバウォックはそこに更なる一撃を加えようとする。アスナは態勢からして、一瞬の内に回避が不可能だと判断する。
代わりに剣によるパリィを狙い、拳の中心に剣を振るう――途端に衝撃がやってきた。

「あっ……!」

選択、タイミング、共に完璧な筈だった。だが、アスナは拳の威力を殺し切れず吹き飛ばされ地面を転がった。
それはひとえに敵の圧倒的なパワーによる。小手先の技術など吹き飛ばすほどのパワーとスピードを、ジャバウォックは持っていた。
アスナはすぐに立ち上がり、再び剣を構える。手がびりびりと痺れ、持つ手が僅かに震える。
手に残るダメージから、少しでも威力を攻撃を殺せていなかったら死んでいただろうということを、努めて冷静に認識しようとする。

638アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:26:38 ID:sql0mM8E0

アスナは前を向き、ジャバウォックをキッと睨んだ。
強い。桁外れの力をこのモンスターは持っている。これがMMORPGなら単純なレベル不足、あるいはゲームバランスの悪さを指摘しているところかもしれない。
ジャバウォックの向こうで、二人の少女が楽しそうに笑みを浮かべている。彼女たちが何もする様子がないのは幸いだが、何時あの光弾が飛んでくるとも思えない。

どうする。アスナは考える。現状の装備では絶対に倒せそうにない。だが、撤退を許すような敵だろうか。こちらには羽があるが、恐らく逃げようとすれば少女たちも動く。
と、そんな一瞬の逡巡を突いてか、ジャバウォックが再度の突進を放ってきた。アスナは思考を打ち切り、研ぎ澄ました感覚を持ってそれに対抗しようとする。
一手二手、と敵の攻撃をその身のこなしを用いて躱す。ガードが意味をなさないことは先の一撃で学んだ。
では、どうするか。カウンターしかない。

敵の三手目。無慈悲かつ強大な一撃がアスナに迫り、全身が死と対峙することを認識する。
そんな中アスナは今度は躱すのではなく、その一撃に寧ろ突っ込むように地面を蹴った。
Break――その一撃はそれまでに比べると大振りであり、隙も多そうだ。そう判断したアスナはその一瞬を隙を突き、刺剣による刺突を放つ。
決まった。敵は予想外の一撃を喰らい、態勢を崩している。やるならば今だ。
アスナはそこでジャバウォックの巨大な胸板に向かい拳を叩き込む。《拳術》スキルのよる攻撃だ。
専用のアーム装備をしていないので威力はないが――それでもそこにスタン効果が付与される。

「はぁ!」

スタンによる硬直を見せたジャバウォックにアスナはソードスキルを叩き込む。
といっても刺剣で使えるスキルはそれほど多くはない。
先と同じく《スター・スプラッシュ》八連撃だ。
刺して突いて抉って穿つ。システムアシストによる驚異的な速度による連続技を叩き込む。ジャバウォックは苦しそうに身を捩った。

だが、届かない。

「まだ……!」

アスナは息を呑む。スキルを叩き込まれた敵は僅かに態勢を崩したが、だがそれだけだった。
スタン状態が切れたジャバウォックは、アスナに受けた一撃などなかったことのように攻撃を開始した。
これがボスモンスターであるのなら驚きはない。だが、これはあくまで対人戦――PvPではないのか。思わずアスナは少女を見たが、そこには変わらない様子の彼女たちがあるだけだ。

そこにジャバウォックの無慈悲な一撃が――

639アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:27:15 ID:sql0mM8E0

「アスナ!」

来る前に声がして、黒い影がジャバウォックに迫った。
「トリニティさん!」とアスナは叫んでいた。助けにきてくれだのだろう。そのことに対する感謝はあるが、しかし同時にこの敵の危険性を知らせようというニュアンスも叫びには含まれていた。
バットを振りかぶるトリニティにジャバウォックは反応。アスナから攻撃対象を変更し、そのまま拳を放つ。
その神速の一撃がトリニティの拳に吸い込まれる。

「……!」

思わず目を覆いそうになったアスナだが、しかしトリニティはそこで想像外の動きをしてみせた。
ふわり、と空中で浮き上がり、そこで一旦静止したかのように見せた後、ありえない角度からジャバウォックに対し蹴りを放った。
物理法則上不可能な筈の動きからの反撃によりジャバウォックは身を崩す。蹴りを決めたトリニティはぱっと身を後方に放ち、ジャバウォックから距離を取る。
その際にバットがその手から落ち、からんという音が場に響いた。

「新しいお姉ちゃんだわ、わたし(アリス)」
「一緒に遊びたいね、わたし(ありす)」

少女たちの声が響く中、トリニティはアスナの近くにまでやってきた。
無論ジャバウォックへの注意と警戒は怠らず、二人は顔を会わせず言葉を交わす。

「大丈夫? アスナ」
「はい、私は大丈夫です。でも……」

二人の視線の先には少女と巨大な怪物が居る。
今のところぎりぎり凌いではいるが、このままではジリ貧なのは確かだろう。
少女たちとずっと戦い続けているアスナは勿論、トリニティもまた一瞬の攻防の内にそのことを理解していた。

「私が囮になる。だから、アスナ。機を見てあの娘たちを頼むわ」

トリニティが言う。確かに、このままジャバウォックを相手にしていても勝機はないだろう。
そして、恐らくジャバウォックはあの少女たちのテイムモンスターに類似した何かだ。
トリニティも少女たちの様子からそう推測したのか、そうアスナに告げた。

「…………」
「現時点ではそれしかないわ」

アスナは沈黙する。
ジャバウォックに対する有効打を持てない以上、それを操っていると思しき少女たちをどうにかするしかないだろう。
そして強襲に向いているのは飛行能力を持つアスナの方だ。不意を突き、少女たちに一撃を浴びせることができれば撃破まで行かなくとも撃退まではいけるかもしれない。

640アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:27:48 ID:sql0mM8E0

アスナは黙って頷き返した。
元より時間はない。ジャバウォックの力が迫ってくる。
トリニティはジャバロックに向かい駆けだす。壁役(タンク)は危険が多い。それを押し付けた以上、失敗は許されないだろう。

アスナはトリニティがジャバウォックを押さえているのを尻目に、再び杖を取り出しスペルワードを詠唱する。
素早い口調で紡がれたそれが完成すると、アスナの目の前に凝結した氷のナイフが現れる。
と同時に視界に青い交点が四つ現れる。非ホーミング型スペルの照準点だ。

それを少女たちに定め、杖を振るい解き放つ。
二人にそれぞて二本、遅れて二本。薄青い軌跡を残しながら夜の闇を切る。
トリニティとジャバウォックの戦いを眺めていた彼女たちに青の刃が迫り――

「あら妖精さんはジャバウォックと遊んでくれないの?」
「じゃあ、わたしたちと遊びましょ」

だが、それを難なく彼女らは回避する。光を伴い転移し、少し外れたところに出現する。
それが狙い目だ。
アスナは既に飛び上がっている。ナイフの射出と同時に地を蹴り羽を広げ、月を背後に空へと躍り出た。

(転移が終わった瞬間に、空から強襲を仕掛ける……!)

先の結界での一戦で少女たちが自在に転移できることは確認している。ただ攻撃を仕掛けても避けられるだけだろう。
ならば転移直後を狙うしかない。
そうしてアスナの剣が青い少女へ垂直に叩き込まれようとする。

「え……きゃ!」

空からの一撃に少女が悲鳴を上げる。そして、身体が転がる音がした。
当たったのは黒い方の少女だ。青い少女に攻撃が当たる直前、彼女が青い少女を庇ったのだ。
年端の行かない少女に剣を向けることに抵抗がない訳ではなかった。致命傷にはならないことを願いつつも、アスナは正確な攻撃をしてみせた。

このまま少女たちの無力化を狙いたいところだが、と思った瞬間、黒い少女がむっくりと起き上る。

「驚いたわ、妖精さん」
「うふふ、でも楽しいね、わたし(アリス)」
「そうね、じゃあもっともっと遊んであげましょう、わたし(ありす)」

一撃を浴びせることには成功した。
だがそれでもそれほどダメージ受けているようには見えない。アスナはそのことに歯噛みする。
彼女たちの様子から決して直接戦闘が得意には見えず、アスナとしてはダメージさえ通れば撃退まではできるだろうと思ってたのだが、どうやらそうでもないらしい。
悪い方向へ予想が外れた。この少女たちの外見に惑わされてはいけないようだ。

641アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:28:25 ID:sql0mM8E0

実際、アスナの推測はそう外れたものではなかった。
黒の少女――キャスターは決して直接戦闘に向くクラスではないし、単純なステータスならば最低レベルだ。
それでも彼女はサーヴァントである以上、そうすぐに倒れる訳ではない。
これが青の少女、ありすであるのならば話は別だったのだが。

「うふふ、じゃあ行きましょ、わたし(ありす)」
「そうね、わたし(アリス)。折角妖精さんが来てくれたんだもの」

そう言葉を交わした彼女たちは踊り出す。
愛らしい動作でくるりくるりと指をふり、歌を口ずさむ。

「追いかけたくなっちゃうよね」
「兎とか!」
「妖精とか!」

瞬間、アスナの身体に氷が走る。
アスナは悲鳴を上げ吹き飛ばされる。どうやらスペルの類のようだが、先の光弾とは威力が桁違いだった。
【冬野の白き兎】――キャスターのスキルだ。

「アスナ!」

トリニティの声が響く。何とかアスナの救援へ向かおうとするが、彼女とて余裕はない。
対峙するジャバウォックがその隙を突き、無慈悲な一撃を加える。
厭な音が響き、「かはっ……!」という苦悶の声が漏らされた。

「トリニティさん……!」

アスナは思わず悲痛な叫びを上げる。
ジャバウォックにより吹き飛ばされた彼女の身体が転がり、そして摩天楼から落下したのだ。
この高さから落ちればどうなるのか……、アスナの脳裏に最悪の結末が過る。
無邪気な歓声を上げる少女たち。ジャバウォックはそれを無感動に眺めている。

「あとは妖精さんだけだね」

そしてそこに囁かれる少女たちの声。
一人摩天楼に取り残されたアスナの胸中には、死に対する絶望の影が見えていた。

642アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:28:55 ID:sql0mM8E0

(終わり……なの?)

コンクリートの乾燥した冷たさを感じながら、アスナの思考は沈んでいく。
作戦は失敗した。逃げることも叶わないだろう。トリニティだってどうなったか分からない。
自分はもう終わりなのだろうか。

「うふふ」
「ウフフ」

少女たちは笑い続ける。
これまでの戦いの最中、アスナは気付いたことがあった。
口ずさむ詩、ジャバウォックの名を冠する怪物、そして鏡合わせの少女。
それらは全てある物語を想起させる。鏡の国のアリス――アスナも読んだことがある物語だ。
彼女たちはまるでその中から飛び出てきたような姿をしている。

まるで夢の中の光景だ。
いやもしかしたらこれは本当に夢なのかもしれない。
この場に来る直前に聞いたフラクライト。バーチャルだと気付かなかった世界の話。
そうだ。これは夢――ゲームではないだろうか。GGOにおいてのBoBと同じくバトルロワイアル形式を取ったゲーム。
参加者はみなそれを忘れているだけ。トリニティさんとの齟齬もみんなゲームの設定。

――俺と、一緒に来てほしいんだ、アスナ。

そう逃避しかけたアスナを引き戻す声がした。
それは、ここに来る直前で聞いたキリトの――桐ケ谷和人の言葉だ。
それが彼女を現実へと引き戻した。
ただの完結した夢から、確かにそこにある現実へと、アスナは回帰する

(駄目……!)

それでは駄目だ。夢に逃げ込むのだけはやってはいけない。
今ここにある世界を、現実を見なくてはならないのだ。

「だから、最後まで……諦めない!」

たとえ絶望的だとしても、倒れる訳にはいかない。
そう思い、アスナは立ち上がった。
二人のアリスとジャバウォックの姿が見える。
今一度彼女たちに立ち向かうのだ。

643アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:29:36 ID:sql0mM8E0

(ジャバウォック……)

アスナは記憶の中にある『鏡の国のアリス』の物語を思い返す。
名もなき主人公がジャバウォックを打ち倒しすために携えたものがあった筈だ。

(魔剣みたいなので倒されたんだよね……たしかその剣の名前は……)

それを思い出した途端、アスナは弾かれたようにメニューを開いた。
藁にもすがる思いでアイテム欄を開き、そしてそこにある名前を見る。
得体の知れないものとして触っていなかったが、もしやこれが事態を打開する武器となり得るかもしれない。

そう思い、アスナはそれを【装備】した。
巨大な剣がその手に現れる。その鈍く光るその剣は力強く、頼もしく感じられた。
アスナはその魔剣を振りかぶる。狙うはジャバウォック。夢の中の怪物だ。

「この剣でぇぇぇぇぇ!」

剣が光り輝き、その力を解放する。
全ての魔を拒絶する光が生まれ、そしてそれを覆うように黒い影が形作られる。
その魔剣の名は――






644アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:29:57 ID:sql0mM8E0


ミアが少女たちに再会したのはそれからしばらくしてのことだった。
空も僅かに白み始め、長かった夜も終わりが近づいているように見えた。
トリニティと別れたミアは、流石に高層ビルを昇り切る気にはならず、その周辺を歩いていたのだが、途中で偶然ありすとキャスターに出会ったのだ。

「あらチェシャ猫さん、どこ行ってたの?」

少女たちはミアの姿を見ると、変わらない微笑みを浮かべながら近づいてくる。
それにミアは手を振って応対する。

「やあ、どうだい君たち、宝物は見つかった?」
「宝物。ううん、見つからなかったわ」
「妖精さんなら見つけたんだけど、お友達を倒してしまったの」
「でも良いじゃない。また新しい遊び相手が見つかるわ、わたし(ありす)」
「そうね、わたし(アリス)。きっとすぐに見つかるわ」

またしても二人の会話に移ってしまった二人を見て、ミアは思わず苦笑していた。
どうやら世界と繋がる喜びを知るのは、まだ遠そうだ
自分たちだけの夢以外の現実を、彼女たちは未だ認識していない。

(現実と夢、かぁ)

ミアはトリニティとのやり取りを思い出していた。
この世界が夢なのか、現実なのか、そんなことは分からない。
けれど、自分がここに居る。それさえ分かっていれば、世界に居ることはできる。
でも、世界を夢としか思わないのは少し勿体ない。
そんなことをミアは言った筈だった。

(醒めない夢はきっとないんだと思う。何時かは醒めてしまう。
 でも、じゃあ現実は……?)

「うふふ、でも妖精さん。あんな風にジャバウォックを倒してしまうなんてね」
「ウフフ、まさかあんな剣があるなんて」

ミアが考えを巡らす横で、少女たちは会話を続けている。
相変らずの、二人の間だけで完結した、とりとめのない会話だ。

「ヴォ―パルの剣じゃなかったのにね」






645アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:30:49 ID:sql0mM8E0

アスナは一人摩天楼に残っていた。
ジャバウォックを退けた魔剣を握りしめ、生き残ったことへの興奮を認識する。
トリニティのことも気に掛かるし、結局少女の方は逃がしてしまったことも注意しなくてはならない。あの危険な存在はまだ生きているのだ。

だが、それでも今この瞬間は生の喜びと、勝利の昂揚に酔いしれる。
自分にはその権利があるだろう。夢に逃げ出さず、現実で敵を打ち倒したのだから。

「やったよ……キリト君。私、生きてる」

震える声でアスナは漏らした。
そして彼女は魔剣を握りしめる。
間一髪だった。本当に、この剣のことを思い出さなければ自分は死んでいただろう。

最初にメニューで見つけた時、そのデータは壊れているように見えたのだ。
説明文がところどころ文字化けし、一見してそれはバグアイテムのようだった。
故に触らず、武器種的にも使いやすそうな死銃のレイピアを使っていたのだが、ここに来てそれが逆転の切り札になった。

魔剣のスキルは驚異的だった。
「あらゆるスペルを無効化する」というパッシブスキルは、キャスターにしてみれば天敵であり、またその圧倒的な火力によってジャバウォックを撃破したのだ。

「この剣があれば、もうあのアリスたちにも負けない」

アスナは魔剣を見た。その月光を受け薄く光る刀身は、どこまでも力強く、そして頼もしく見える。
文字化けも何てことのないバグだろう。これだけ様々なゲームを同時に運用すれば、どこかに無理が出るのもおかしくない。

その剣の名は【魔剣・マクスウェル】
かつての竜賢宮の覇者であり、The World R:2においてアリーナ戦最強とも呼ばれた男が手にした剣である。
それは、「痛みの森」のクリア報酬。ハロルド・ヒューイックの幻影との対峙を経て男に与えられた魔剣。

アスナには知る由もないことだ。だが、その力を確かな現実として見た以上、その有用性は疑いようもない。
それだけで十分だ。そう彼女は思った。

不意に、剣の周りに黒い斑点があらわれた。。
それは泡のように剣から吹き出し、まるで生きているかのように蠢く。
AIDA。
魔剣に巣食うそのプログラムのことに、アスナはまだ、気付いていない。
少女たちの夢を退け、最後まで世界にしがみ付いた彼女が行き遭ったのは、そんな現実。
きっとそれは辛くも優しくもない。夢と違って。

646アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:31:41 ID:sql0mM8E0


【F-7/アメリカエリア/1日目・黎明】

【アスナ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP60%、MP80%
       AIDA感染
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、死銃のレイピア@ソードアート・オンライン、クソみたいな世界@.hack//
[思考]
基本:この殺し合いを止め、無事にキリトと再会する
1:???
2:殺し合いに乗っていない人物を探し出し、一緒に行動する。
3:アリスを追う。
4:トリニティの身が気になる。
[備考]
※参戦時期は9巻、キリトから留学についてきてほしいという誘いを受けた直後です。
※榊は何らかの方法で、ALOのデータを丸侭手に入れていると考えています。
※会場の上空が、透明な障壁で覆われている事に気づきました。
 横についても同様であると考えています。
※トリニティと互いの世界について情報を交換しました。
その結果、自分達が異世界から来たのではないかと考えています。

【トリニティ@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:???
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品0〜2(確認済み)、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いを止め、無事にネオと再会する
1:アスナと共に行動する。
2:殺し合いに乗っていない人物を探し出し、一緒に行動する。
3:モーフィアスとセラフを探し、合流する。
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションズの、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後です。
※会場の上空が、透明な障壁で覆われている事に気づきました。
 横についても同様であると考えています。
※アスナと互いの世界について情報を交換しました。
その結果、自分達が異世界から来たのではないかと考えていますが……
※自分やモーフィアスと同じく、セラフもまたこの舞台に囚われていると考えています。


【F-8/アメリカエリア/1日目・黎明】

【ありす@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(中)、令呪:三画
[装備]:途切レヌ螺旋ノ縁(青)@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:アリスと一緒に“お茶会”を楽しむ。
1:新しい遊び相手を探して、新しい遊びを考える。
2:しばらくチェシャ猫さん(ミア)と一緒に遊ぶ。
3:またお姉ちゃん/お兄ちゃん(岸波白野)と出会ったら、今度こそ遊んでもらう。
[サーヴァント]:キャスター(アリス/ナーサリーライム)
[ステータス]:ダメージ(小)、魔力消費(大)
[装備]途切レヌ螺旋ノ縁(赤)@.hack//G.U.
[備考]
※ありすのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※ありすとキャスターは共生関係にあります。どちらか一方が死亡した場合、もう一方も死亡します。
※ありすの転移は、距離に比例して魔力を消費します。
※ジャバウォックの能力は、キャスターの籠めた魔力量に比例して変動します。
※キャスターと【途切レヌ螺旋ノ縁】の特性により、キャスターにも途切レヌ螺旋ノ縁(赤)が装備されています。

【ミア@.hack//】
[ステータス]:腕力低下
[装備]:誘惑スル薔薇ノ滴@.hack//G.U.
[アイテム]:エノコロ草@.hack//、基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考]
基本:死なないように気をつけながら、ありす達に“楽しみ”を教える。
1:まずはアリス達に自分の名前を呼んでもらう。
2:岸波白野の協力を得たい。
3:カイト似の少年(蒼炎のカイト)から“マハ”についての話を聞きたい。
4:エルクに会いたい。
[備考]
※原作終了後からの参戦です。
※ミア(マハ)が装備する事により、【誘惑スル薔薇ノ滴】に何かしらの影響があるかもしれません。

647アスナと聖なる魔剣の現実 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/23(火) 03:32:11 ID:sql0mM8E0
支給品解説

【クソみたいな世界@.hack//】
クリア後に参戦する司が装備している杖。プレイヤーでは入手不可。
スキルは
ウルカヌス・ファ
ランセオル・ファ
ライネック・ファ

【魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.】
かつて「イコロ」のギルドマスター・太白が「痛みの森」のイベントのクリア報酬として手にした魔剣。
正式な武器種としては銃剣に分類される。(デザインが類似しているジラードは大剣)
剣を掲げることで「自身を対象にしたあらゆるスペルを無効化する」という効果を得ることが出来る。

太白はハロルドの問い掛けに穏当な答えを返した結果、森の最深部で得たこの装備を持ち帰ることが許された。
だが、太白自身は痛みの森をクリアしたとは思っておらず、クリアしたのはハセヲただ一人であると述べていた。
(「痛みの森」を経て変貌したハセヲの姿を見て「あれが本当のクリア報酬であるのなら、私はクリアしなくてよかった」とも)

しかし、G.U.本編において剣のデータにAIDAが浸食し、太白自身もAIDAに感染してしまう。
その後、PKトーナメントにおいて時節不気味に喋り出すなど、この剣もまた仕様外の動きを見せることになるのだった。
解説本曰く「彼の苦労に見合うものではなかった」一振り。

648名無しさん:2013/04/23(火) 03:32:28 ID:sql0mM8E0
投下終了です

649名無しさん:2013/04/23(火) 16:51:02 ID:T/.q2TKs0
投下乙です
ありす達と一緒に予約された時はどうなるかと思いましたが、アスナはどうにか生き延びられましたね
ただ、まさかの魔剣マクスウェルとは………。アスナの今後と状態不明なトリニティが心配です
ありす達は状態から見てそろそろ小休止といったところでしょうが、これからまだまだ暴れそうですね

指摘する点はアスナ達(とありす達?)の現在位置と魔剣マクスウェルの効果ですね
アスナ達のいる【F-7】はすでにファンタジーエリアの草原で、摩天楼どころか建物一つありません
そして魔剣マクスウェルのアビリティは以下の通りです
1.謎掛け>通常攻撃、アーツ、スペル、攻撃アイテムのダメージが1.5倍になり、魔法攻撃のダメージを無効化する。
2.赤いオーラ>魔剣を掲げ赤いオーラを纏うことで一時的に『無敵状態(?)』になり、さらに全体(自分も含む?)を減速状態にする。
  また、その状態からガード不能の赤い衝撃波を放つことも可能。衝撃波には周囲を攻撃する範囲タイプと、直線上(?)を攻撃する遠距離タイプがある模様。
なお上記のうち、1がマクスウェルに元々備わっているアビリティで、2がAIDAに浸食されたことによるスキルだと思われます
データのソースは以下の三つです
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm1297115
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm16499172
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm16729476

650名無しさん:2013/04/23(火) 16:54:45 ID:T/.q2TKs0
連投失礼します。データのソースに、こちらも追記します
ttp://omoteura.com/hackgu/chart12.htm

651 ◆7ediZa7/Ag:2013/04/24(水) 01:05:10 ID:rn6ETXCA0
>>649-650
そうですね
まずアスナとトリニティの位置を【G-8/アメリカエリア/1日目・黎明】に修正
そしてマクスウェルの説明文を

【魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.】
かつて「イコロ」のギルドマスター・太白が「痛みの森」のイベントのクリア報酬として手にした魔剣。
正式な武器種としては銃剣に分類される。(デザインが類似しているジラードは大剣)
「通常攻撃、アーツ、スペル、攻撃アイテムのダメージが1.5倍になり、魔法攻撃のダメージを無効化する」というスキルを持つ。

太白はハロルドの問い掛けに穏当な答えを返した結果、森の最深部で得たこの装備を持ち帰ることが許された。
だが、太白自身は痛みの森をクリアしたとは思っておらず、クリアしたのはハセヲただ一人であると述べていた。
(「痛みの森」を経て変貌したハセヲの姿を見て「あれが本当のクリア報酬であるのなら、私はクリアしなくてよかった」とも)

しかし、G.U.本編において剣のデータにAIDAが浸食し、太白自身もAIDAに感染してしまう。
その後、PKトーナメントにおいて時節不気味に喋り出すなど、この剣もまた仕様外の動きを見せることになるのだった。
元から備わっていたスキルに加え、剣を掲げ赤いオーラを纏うことで自分に「無敵」、全体に「減速」の効果をもたらすことができるようになる。
更にその状態からガード不能の赤い衝撃波を放つことも可能。

に修正します。
データ乙です。 非常に参考になるのでありがたいです。

652 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:29:21 ID:cHCCp4ww0
投下します

653結成 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:30:39 ID:cHCCp4ww0
「学校――か」
幾つも続く教室を尻目にハセヲは呟いた。
まさかまた学校に来ることになるとは思わなかった。そんなことを思いながら。
彼としては完全に見知らぬ学校である。中学校であるらしいここは、なかなか小奇麗だし設備も整っているようだ。

ハセヲがこのPCを以てして、学校にやってくるのは実は初めてではない。
勿論この学校――梅郷中学校ではなく、あくまで「学校」という場にという意味だが。
かつて「月の樹」のクーデターに際し、暴走したアトリと戦うことになった時のことだ。
あの時、ハセヲらはリアルに再現された学校に訪れた。アトリの記憶から再現されたであろう、冷たく無機質な学校を。

状況的にはあの時と酷似しているのかもしれない。
榊に仕掛けられ、迷い込むようにネット上で再現された学校へとやってくる。形だけみれば同じだ。
もしかしたら同じ技術が使われているのかもしれないと考えたが、

(いや)

ハセヲはその考えを否定した。

(あの時とは違う。あの時はアトリの記憶――心の声が漏れ出していた。
 アイツがリアルで何をされ、どう思っていたかが鮮明に再現されていたんだ。
 だが、ここ静かだ。恐らく誰の記憶のものでもない)

どこまでも続く無人の廊下を眺めながらハセヲは思った。
アトリの時とは違う、とするのならば、わざわざこんなグラフィックを用意したのだろうか。

「ハセヲお兄ちゃん」
不意に呼びかける声がした。
同行者であるサイトウトモコと名乗った少女だ。
見れば彼女は赤いツインテールを揺らしながら、朗らかな笑みを浮かべている。上目づかいでハセヲを見ることも忘れてはいない。
なかなか愛らしい所作だ。あざといまでに。

「何だ?」
「私、ちょっと見て回ってきてもいいですか? 気になるところがあるんで」
そもそもこの学校を訪れたのも彼女の提案だった。
この学校はどうやら彼女の知るものらしい。聞けば中学生の知り合いが通っている学校だとか。
距離的にも直近の施設であるようだったのでハセヲもそれを承諾したのだ。

「気になるところ? 一人でか?」
「はい! 二人で手分けした方が色々分かるでしょう!」
「あー……うん、そりゃそうだが」
ハセヲは言葉尻を曖昧に濁し、口元に手をやり考える素振りをした。
一応彼女に保護を頼まれた身だ。保護者として(どうにも怪しいとはいえ)こんな年端もいかない子供から目を離すのはどうなのだろうか。

654結成 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:31:17 ID:cHCCp4ww0
「……やっぱ駄目だ。一緒に来い。何時何処でPKが出てくるか分からない」
考えた末、ハセヲはそう告げた。
やはり安全を取るべきだろう。そう思ってことだ。

「……あ、はいそうですね」
「分かったらさっさと行くぞ」
言われた少女は一瞬微笑みを固めた後、この場の危険性を改めて認識したのか素直に従った。
そうして再び彼らは歩き出す。こつんこつんという足音が重なり、反響する。

「なぁ、この学校。お前の知る学校をそのまま再現してるのか?」
「え? あ、はい。そうですね。私も生徒ではないんで細かいところまでは知らないんですけど、見たところ変なところはないみたいですね」
「なるほど……わざわざこんな場所を一から作ったってのも何かよく分からねえが」
「学内ローカルネットをそのまま持ってきてるのかもしれません」
「ローカルネット? んなもんにこんな精巧なポリゴンはねえだろ」
「え? あ、いや何でもないです」
会話を続けながら、ハセヲは先ほどからどうにも噛み合わないものがあるのを感じていた。
この少女との会話で、時折妙なズレがある。
少女が嘘を言っているとかそういうものではなく、もっと根本的な常識の時点で何か会話がすれ違っているような、そんな感覚が。
だがその度に少女が言葉を噤み会話を打ち切ってしまうので、ハセヲは未だその違和感の正体を掴めずにいた。

そうして適度に探索を続けていると、廊下の突き当りにまで行きついた。
右の壁に扉があってので、試しに中に入ってみることにする。白いスライドドアを引き開けると、随分と広々とした部屋が現れた。
中央には楕円形の会議用テーブル、奥の窓際には細長い事務机が置かれ、左右の壁には全面格子状のウッドラックが設えられている。
それら調度品は落ち着いたダークブラウンで統一され、そして床にはベージュのカーペットが敷かれている。

「何か、他と違って豪華な部屋だな、ここ」
ハセヲは思わずそうぼやいた。大型のソファセットまである辺り、とても中学校の一室とは思えない。
そういうハセヲもまたリアルでは私立の進学校に通う身であるので、金の掛かった学校設備に見慣れていると言えば見慣れているのだが。

と、その時。不意に音がした。

「どけ!」
ハセヲは後ろに立っていた少女を押しのけ、廊下の外へと躍り出る。
PKかもしれない。ならば先手を打たれる訳には行かない。
そう思ったハセヲは迅速かつ俊敏に行動を起こした。その手に現れた双剣がきらりと光る。

655結成 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:31:37 ID:cHCCp4ww0

「おや、すいません。驚かせる気はなかったのですが」
廊下に飛び出したハセヲが出くわしたのは、一人の少年だった。にこやかな微笑みがその顔に張り付いている。
それを見たハセヲは一歩も動くことができない。別に少年に物怖した訳ではない。

「くっ……」
悔しげに漏らすハセヲの首には、巨大な剣が向けられていた。
赤く光るその大剣は肌の直前で止められている。一歩でも動けば容赦なく振るわれるだろう。

「剣を納め下さい。主に戦闘の意志はありません」
それを振るうのは突如少年の前に現れた精悍な騎士だ。
銀の鎧に包まれた彼は穏やかな笑みを浮かべそう告げる。だが、その剣に全くブレはない。
その所作に確かな力量を見出したハセヲだが、それでも尚ひるまずに口を開いた。

「勝手に覗き見してた癖にその言い草かよ」
「ああ、いえ別にそういう意図があった訳ではないんですよ」
「だったら何だ!」
「その幼い少女と話す貴方が実に楽しそうなんで。邪魔したら悪いかななんて思いまして。
 僕はどうやって話に加わろうか悩んでいたところなんですよ」
「んだと?」
眉を顰め剣呑な顔をするハセヲだったが、少年は「まぁまぁ」とさらりと流し、

「とりあえず剣を納めてくれませんか。でなければ話もできないでしょう」







656結成 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:32:18 ID:cHCCp4ww0
「では改めて。
 ――はじめまして、僕はレオナルド・B・ハーウェイ。レオとでも呼んでください。
 ガウェイン、貴方も自己紹介を」
「はい。サーヴァント、ガウェインです。
 以後お見知りおきを」
会議用の巨大なテーブルを挟んでハセヲは彼らと向き合っていた。
扉側にハセヲと少女が、窓側にレオがそれぞれ座ることになる。ガウェインは腰かけることなく、レオの後ろに寄りそうように立っている。

「…………」
「あのー、ハセヲお兄ちゃん」
「何だ」
「私たちも自己紹介した方がいいんじゃないでしょうか?
 ほら、そのあの人たちがああして挨拶してくれてるんですし」
少女に促されハセヲはむっつりと不機嫌そうな顔をした。
何だかよく分からないうちにペースを握られ、言いなりになるように向き合わされているのだからあまり良い気はしない。
勿論、ハセヲとて無駄に事を構える気はなかったし、話し合いは望むところだが、今一つ割り切れないものがあった。
が、こうして幼い少女にまで言われている以上、無視するのも自分がひどく子供っぽく感じられたので、ハセヲは仕方なく「ハセヲだ」と短く口にした。

「ああ、知ってますよ。『死の恐怖』のハセヲさんでしょう?」
「知ってんのかよ」
「ええ、最初の場であの榊って人に因縁を付けられていた有名人ですから。
 それにしても『死の恐怖』というのは中々格好良い二つ名ですね! 独特のセンスを感じます」
ニコニコと笑うレオに対し、ハセヲは眉は不機嫌そうに顰められたままだ。

「あの、私はサイトウトモコといいます!
 ネットとか不慣れなんですけど、よろしくお願いします! レオお兄ちゃん!」
隣で少女がそう言ってぺこりと頭を下げた。ツインテールもそれに伴い愛らしく揺れる。

「トモコさん……ですか、ふむ」
「ん? 何ですか?」
「いえいえ、何でもありません。とても可愛らしい方だなと思っただけですよ。
 ガウェイン。少し顔が怖いですね。もう少しフレンドリーに。彼らとは友達のように接していきたいんですから」
「はっ、フレンドリーに、ですね」
「そうです。スマイルを絶やさずに行きましょう! 友好的な話し合いのためにはそれが不可欠ですから」
盛り上がっている彼らと反比例するように心のどこかが萎えていくのを感じつつ、ハセヲは口を挟んだ。

「で、何だよ。その友好的なハナシってのは?」
「はい。単純なことですよ。
 このバトルロワイアルからの脱出計画に協力してくれませんか?」
「脱出計画?」
レオは淀みなく言葉を続ける。

657結成 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:32:51 ID:cHCCp4ww0
「ええ。知っての通り僕らは今こうしてバトルロワイアルに囚われています。
 ログアウトは不可。生殺与奪の権利は向こうに握られている。
 更に僕らのアバターにはウイルスが仕掛けられているとされ、誰も殺さなかった場合、24時間で消去される。
 ここまでは良いですね?」
ハセヲは無言で頷いた。少女もふんふんと首を振っている。

「では気付いていますか? この場が様々な種類の仮想空間をリミックスした感じの場だということには」
「それは……」
開幕の場での雑多な参加者の顔ぶれやマップの無秩序さから、ハセヲもそのことには何となく察しがついていた。
既にこのエリアをある程度調査しているが、この日本エリアという場だけも様々な要素がぶち込まれているように思える。
基本的には現代風の街並みでありながら、少し歩くといやに近未来的なシステムがあったり、かと思うといささか古臭い建物があったりと、どうにもチグハグだ。

「例えば僕はここに囚われる前、聖杯戦争という場に居ました。
 ちなみに貴方がたはこの言葉に聞き覚えは? ムーンセル。SE:RA:PHとかもでも良いのですが」
「ねえ」
「ありません」
答えを聞くと、レオは「ふむ」と口元を抑えた後、

「まぁその説明は後に回すとしましょう。
 とにかく、僕たちは互いに違う場所から集められた。
 察するに貴方たち二人も元は違う場所から集められたのでしょう。
 これは驚異的なことです。一口に仮想空間といっても、それに使われている技術やプログラムはまるで別物の筈だ。
 それをこうして一堂に会することができるなど、普通はできません」
確かにその通りではある。
常識離れした事態ではあるのは確かだ。
しかし、ハセヲはそういった常識では測れないプログラムの一例を知っている。AIDAだ。
ハセヲの知る限り、AIDAはThe Worldだけでなく、他の多種多様なネットゲームにまで浸食していた。
それこそソフトウェアの細かい相違など全く無視して、ネットに繋がってさえいればAIDAは拡散するのだ。

故にこの場を構築するのにAIDAが使われている可能性は十分にあった。
榊が居ることもその説の信憑性を助長している。
オーヴァンの話が本当ならば、榊はCC社に「自分はAIDAを制御できる」という名目で自分を売り込んだ筈だ。
ならば、更に大きな視野で見ると真の黒幕はCC社だろうか。
そんな推測も成り立つが、果たしてこのことを告げていいのだろうかという疑問が立ち現れる。
AIDAの存在は秘匿されている。緊急事態であるとはいえ、いや緊急事態であるからこそ情報の取り扱いは気を付けなければならないだろう。

「となると、です。このバトルロワイアルがどのようなシステムで動いているのかは分かりませんが、
 ここから脱出するとなると、最低限どのような仮想空間が共存しているのかは把握しておかねばなりません。
 その為には一人では駄目でしょう。ある程度組織立って動かなくては」
朗々と語るレオは、そこでハセヲに熱い眼差しを向けてきた。

「そんな状況下で僕らがするべきことはなんでしょうか?」
その問い掛けに、ハセヲはしばし黙っていた。その間、レオを睨み返すようにしながら決して視線を逸らしはしない。
レオと協力すれば、必然的にAIDAを始めとするハセヲの持つ情報を共有することになるだろう。
恐らく彼もそれを見越して接触してきた筈だ。何せ自分は唯一GM側と因縁を持つことが露見している身だ。

658結成 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:33:25 ID:cHCCp4ww0
(俺は……)

ハセヲは逡巡する。
元より彼とて他の参加者との協力は望むところだった。
彼らのキャラに少々不安を覚えなくもないが、先の接触で実力は確かなことも分かっていたし、申出としては申し分のないところではある。
情報の開示だって、それが必要とあらば躊躇いはない。別に自分はCC社に義理がある訳ではないのだ。

問題はレオが信用できるか、だ。
目の前に泰然と座る妙にフランクな少年。
彼は果たして信用に値するのだろうか。

彼は、それまでと打って変わって真剣な面持ちでハセヲを向き合っている。
その様子はまるで研ぎ澄まされた剣のようでもあり、同時に何者も受け入れる柔らかな立ち振る舞いでもあった。
ハセヲはトップに立つ人間を何度か間近で見たことがあるが、それに近いものをレオに感じていた。

まぁトップといっても、所詮はゲームのギルドマスター程度の存在ではあるのだが、それでも巨大ギルドのマスターともなると皆、確かなリーダーシップ持っていた。
がびしかり、俵屋しかり、大集団を引っ張っていくのにはそれなりの度量が居るのだろう。
レオはそういう点では信用できそうだ。少なくとも能力はあるだろう。
王としての品格というものが、彼からは滲み出ている。その立ち振る舞いはどこか「月の樹」の欅に似ているかもしれない。

「…………」
だが、ハセヲがより気になったのは、その瞳に宿る揺れ動く感情の色だ。
そこにあるのは決して確信ではない。勝利を確信した瞳ではなく、真に彼は願っている。
彼は王であるかもしれないが、同時に一人の人間としても真摯にハセヲに協力を求めているのだ。
そこにハセヲは懐かしい人の面影を感じた。ギルドを実質的に指揮する立場にありながら、自分と同じ立場で話してくれた、一人の女性のことを。

「あーそうだな……」
しばらくしてハセヲはそう沈黙を破った。
頬をぽりぽりと掻き、僅かに視線を逸らしながら、

659結成 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:33:54 ID:cHCCp4ww0
「……脱出のために力を合わせることだ」
そう、答えた。言葉を選ぶように、ゆっくりと。
するとレオは微笑みを浮かべ「そうです!」と返す。

「その通り。期待以上の返答です」
「まぁ確かに言いたいことは分かった
 協力。してやるよ、俺も」
先ほど剣を納めたことや態度を見るに、少なくともPKでないことは確かなようだし、信用に値する人間ではあるだろう。
それに何よりレオの目だ。
遥かな高みから突き放すようなものでなく、同じ目線で確かに歩み寄ろうとする意志。
それを見たハセヲは、多少なりとも彼を信頼していいかもしれないと思い始めていた。
無論、それを口にする気はさらさらなかったが。

ハセヲの答えを聞いたレオは満足気に頷き、

「ありがとうございます。
 これで共同戦線の開始ですね。
 バトルロワイアルから脱出するまで、僕たちは仲間です」
そう言って、すっと立ち上がった。
そしてどこか虚空をぴしりと指差し、告げた。

「では、レオ・B・ハーウェイの名の下に
 ――ここに対主催生徒会の発足を宣言します!」
と。


強い意志の籠った宣言だった。
この司令官の下ならばどんな困難も乗り越えられる――
そんな希望を抱かせるほどの。








660結成 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:34:18 ID:cHCCp4ww0






「て、いや待て何だそのチーム名は」
と、危うくレオの雰囲気に押され流してしまいそうだったが、ハセヲは滑り込むように突っ込みを入れた。

「おや? 不服でしたか?
 対榊生徒会にしても良かったのですが、それだと今後榊が実はかませ犬だと判明した後に困るかと思いまして」
「そこじゃねえ、生徒会の部分だ」
「知らないのですか? この部屋は生徒会室なんですよ」
それを聞いたハセヲは、だからこんなに設備が良かったのかと納得する一方で、別の意味では全く納得のできない。当たり前だ。

「だから何で生徒会――」
「でも、問題があるんですよね。この場合……」

(聞いちゃいねえ)

ハセヲの言葉を無視し、レオはハァと溜息を吐いた。

「人数が、足りないんです」
「…………、は?」
「会長の僕、じいやのガウェイン。そして、雑用係のハセヲさん。これだけしか居ないではありませんか……」
「待て。何時俺が雑用係になった」
「これだけでは僕が夢見た生徒会とは呼べない。
 いや、呼んでいい筈がない!
 生徒会と言うものはもっと華やかで、
 青春の匂いで満ちていて、
 トラブルが多発するものなのです!」
「その通りです、我が君。
 どのような品種であれ、花が増えるのは良いことかと」
「…………」
どこからどう突っ込めばいいのか分からず、ハセヲはただ閉口した。

「あのー」
と、そこで声を上げたのは意外にもトモコと名乗る少女であった。

「私は何をすればいいのでしょう?」
「あ! そうですね。すいません、貴方にも何かしら役職を与えるべきでしたね」
レオは一瞬悩む素振りを見せた後、

「ではトモコさん。貴方には副会長をやってもらいましょう」
「俺に雑用係を割り振っておいて……」
「はい! 副会長ですね、初めてだから上手にできないかもしれないけど頑張ります!」
「いや、お前もノリノリで返事するなよ」
頭を押さえるハセヲ尻目に、レオたちは盛り上がっている。

「あとはそうですね……書記と会計、それに庶務は最低でも探さないとなりませんね。
 ユリウスが居れば秘書をお願いしたかったのですが……」
「諦めてはなりません、主。会場中をひっくり返せば、きっと逸材を探し出すことができるでしょう」
「副会長かぁ……」

(……何か、シラバスやガスパーに強引にカナードに入れられた時のことを思い出す)

661結成 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:35:05 ID:cHCCp4ww0









そうして結成された対主催生徒会。
とりあえずの役割分担を終え、彼らはとりあえず近くの月海原学園を目指すことにした。
そこはレオに由縁のある場らしく、レオが「知っている通りの場であれば拠点にするのには適している」と述べたことから、そこが一先ずの目的地となった。
というか元々レオはアリーナからこちら日本エリアに来てまずそこに向かうつもりだったらしい。
その最中でハセヲらを見かけたことで、寄り道のような形で接触するに至ったのだという。

下手すればすれ違っていただろうから幸運なのだろうが、それを幸運と認めるのはハセヲは何だか厭だったので、
まぁ奇遇だな、と適当な表現で済ますことにした。

とにもかくにもこうして対主催生徒会は活動を開始した。



【A-1/梅郷中学校 生徒会室/一日目・黎明】

『対主催生徒会』

会長:
【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:消耗(中)、令呪:三画 、528ポイント
[装備]:ダークリパルサー@ソードアート・オンライン、
[アイテム]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
1:月海原学園を目指す。
2:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
3:ダークリパルサーの持ち主さんには会計あたりが似合うかもしれない。
4:もう一度岸波白野に会ってみたい。会えたら庶務にしたい。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP150%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。

副会長:
【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド】
[ステータス]:健康/通常アバター
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:情報収集
1:一先ず猫被ってハセヲやレオに着いていく。
2:???
[備考]
※通常アバターの外見はアニメ版のもの
(昔話の王子様に似た格好をしたリアルの上月由仁子)

会計:空席
書記:空席
庶務:空席

雑用係:
【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康/3rdフォーム
[装備]:光式・忍冬@.hack//G.U.
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない
1:この場にいるらしい志乃と揺光を探す
2:トモコとかいう少女? を守る
3:レオと協力する。生徒会についてはノーコメント
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前

662 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/02(木) 17:35:24 ID:cHCCp4ww0
投下終了です

663名無しさん:2013/05/02(木) 19:14:31 ID:V5cJ2L020
投下乙です。
まぁ解っていたことではあったが、CCC発売前と発売後のレオのキャラが違いすぎてヤバイw
でもシリアスはちゃんとしている辺りハーウェイ侮れんな…

さてこの生徒会は殺し合いから抜け出すことができるのか、先が気になりますね

664名無しさん:2013/05/02(木) 19:52:11 ID:p.zD2nGIO
投下乙です。

なんということでしょう
CCCビフォーアフターでキャラが様変わり!

665名無しさん:2013/05/02(木) 20:06:28 ID:iAD9Jx820
投下乙です。
レオがまさかの(ある意味予想通りの?)CCCクオリティとはw
これから彼がどんなボケをかましてくれるのか、とても楽しみですねw

666名無しさん:2013/05/02(木) 20:55:42 ID:lnskAk.60
投下乙です

本当にCCCビフォーアフターとしか言えないわw

667名無しさん:2013/05/02(木) 21:03:49 ID:NrzGnmK2O
投下乙です

芯はブレてない、ないんだが…w

668名無しさん:2013/05/06(月) 21:44:30 ID:lWfGA0bg0
現在地更新しました
見れない人ように画像版
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0230.png

669 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:20:44 ID:gET9Qrik0
投下します

670時空隔絶〜無印と続編〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:21:47 ID:gET9Qrik0
「正直困っちゃうんですよねー。
 続編で何か知らない設定が追加されたり、既存のキャラを壊すような真似をされると、どっちのノリに合せればいいのか分からなくなっちゃうといいますか。
 それに追加されたスキルとかも使っていいんでしょうか。流石にそれは自重した方がいいのかなー?
 あ、でも私の宝具とかは効果変更に伴って使い勝手が増したのでそっちに合せちゃいましょうか。
 ユーザーが選ぶ使えない宝具ナンバーワンの仕様のままで喜ぶ人なんて誰も居ませんし」
「さっきから何を言っているのだ。余には貴様の言っていることがよく分からん」
「いえいえ、何でもありません。
 ただ新しいヒロインの追加とか御免ですという話をしているんです。
 間違っても、モブキャラか精々スペシャルドラマの主役でしかなかった健康管理AIとの後付けフラグとかは要りません。
 この場は私とご主人様の二人だけの舞台だっつうのに」

夜の街にかしましい声が響き渡る。
赤の男装(?)を纏う金髪の少女と、露出の多い妖艶な和装に身を包んだ妖狐は互いに睨み合い、時には罵り合っていた。
それを横目に女生徒となった自分は無言で進んでいる。少し遅れてカイトが足を引きづるように歩いていた。

「何を言う。この聖杯、いやバトルロワイアルは余と奏者の約束された勝利の舞台なのだ。
 貴様はそれを舞台袖から眺める端役に過ぎんぞ、ん?」
「これだから頭の中までSTR(筋肉)なサーヴァントはまわりが見えていないっていうかぁ。
 筋力極振りステが最強なヒロインなんて今日日流行りませんし」
「む。貴様には言われたくはなかったな、キャスター。
 そちらこそ言動不確か、足元疎か、な脳筋サーヴァントに見えるが」
「失礼ですね。私はいつも頭の中がは花園なだけです。
 ご主人様とハッピーエンドを迎えること以外頭にないといいだけと言って下さいまし。
 私のEDこそトゥルーエンドですから。黒幕との戦いなんて二の次以下です」
「花園だとー!?
 ま、負けるものか、余だって同じだぞっ!
 余のイメージは常に薔薇色だからなっ!」

……可能な限り魔力を節約したいのだが、彼女たちは霊体化をする気はないようだ。
戦闘をしない限り大した量を消費しないとはいえ、サーヴァント三重契約(間違っても三股ではない)という燃費の悪い身である。
少しでも魔力は温存しておきたいとは思うのだが、かといって彼女たちにそれを申し出る気にもなれない。
割って入るとどんな飛ばっちりを受けるか分からないのだから。

「ふふ、セイバーさんとキャスターさん。
 仲が良いですね」

そう口にするのはユイだ。
制服のポケットからちょこんと顔を出す彼女は無邪気な表情で、サーヴァントたちの浅ましい喧嘩を見ている。

……仲が良いのとは違う気もするが。
これはあれではないか。男女関係の拗れというか、修羅場というか、その類の……

「それにしてもアーチャーさんは大丈夫でしょうか?
 もう少しで合流ポイントですよね。」

行動を開始してから既に一時間ほど経っている。
とりあえず月海原学園に向かうべくアメリカエリアからの脱出を目指しているのだが、
その間にアーチャーは単独行動スキルを活かして偵察を兼ねたエリアの調査をやっている。
時間制限がある以上、エリアすべてを回る訳には行かない。かといってこのエリアの施設を無視する訳には行かない。
そういうことでユイが得たマップデータを下に「怪しそうな場所」をアーチャーに探索して貰っているのだ。
当然単独行動中のアーチャーはマスターの援護なしで戦うことになり、そのことをユイは危惧したのかもしれない。

671時空隔絶〜無印と続編〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:22:28 ID:gET9Qrik0
しかし、恐らく大丈夫だろうとも思う。
自分はアーチャーの実力を知っている。共に聖杯戦争を勝ち抜いた身であるのだから。
歴戦の戦士である彼のことだ。自分なんかよりずっと危機管理能力にも優れている。
……後頭部にアイアスを張るくらいには。
何にせよ、彼は上手くやってくれるだろう。そう簡単に倒れるとも思えない。

「信じているですね、自分のサーヴァントを」

>頷く。

色々と分からないことの多い身だが、その問いには躊躇なく肯定することができた。

「全く、あなたは私がどれだけご主人様を慕っているのか知りませんね。
 凛々しい顔立ち、でもちょっと弱々しい表情。
 手足は長く、立ち姿とか超好み!
 何より魂の所作が清らかというか、儚いのです!」
「ふ……貴様こそ余と奏者の絆を知らぬようだな。
 余への奏者の想いはまさに天へ上る火竜のごとく留まるところを知らん。
 対する奏者からの想いもまた格別だ。これこそ至高のミューズ!
 つまるところだな! 余と奏者はイケイケなのだ!」

「愛されているんですね。自分のサーヴァントから」

>…………。

そこを突くとどんな蛇が出てくるか分からないので、敢えて沈黙を選んだ。
拝啓オフクロ様、などというよく分からない現実逃避ワードが脳裏を過った。




「アァァア……」

しばらく歩いていると、不意にカイトが短く唸り声を上げた。

「着いた、だそうです。
 確かにこの辺りが合流ポイントではあるのですが……」

きょろきょろと辺りを見渡す。
正確な座標は【E-8】に当たり、アメリカエリアの丁度切れ目になる場所だ。
見ればなるほど、ビルとビルの向こうに広大な平原が見える。あれがファンタジーエリアなのだろう。

「居ませんね、アーチャーさん」

…………。
メニューウィンドウを呼び出し時刻を確認する。
時間的にはまだ指定時刻には達していない。予定より早めに着いたようだ。
だからアーチャーも別に何かあったわけではないと思いたいが……

「とにかく少し待ちましょう。
 私もここ付近のマップデータを解析してみます」

ユイの言葉に頷き、少しの間そこで待っていることにした。
カイトもまたそれに倣いビルの影の仲、静かに佇んでいる。
一見して凶悪な外見をしている彼だが、こうしてしばらく共に行動していると、その性質はとても穏やかなものだということが分かっていた。

「だから、あなたは謎のヒロインXさんの二番煎じでしかないと言いますか。
 それに対し、私はこの通り混じりっ気なしのオリジナル、オンリーワン。きゃっ、私ってばヒロイン」
「むむむ、貴様こそやはりあくどいIN-RAN狐ではないか!
 隙あらば奏者の貞操を狙っておるなど……む、これは余もか」

サーヴァントたちはサーヴァントたちで楽しそうにしていた。
何だかんだで本気の敵意が迸っていないあたり、彼女たちも互いのことをそれほど嫌ってはいないのかもしれない。
セイバーもキャスターも、共にムーンセルから自分に割り当てられたサーヴァントだ。
自分と上手くやれるとされた者通しもまた相性が良い、と言うのはいささか楽観的推測だろうか。
……結託されて二人で自分を責められる図が浮かび、思わず背筋が凍ったのは内緒だ。

672時空隔絶〜無印と続編〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:22:54 ID:gET9Qrik0

それからしばしの時が経過する。
深夜の闇に包まれていた空模様も僅かに明るくなり始め、時の経過を感じさせた。
その時の流れが、どこかゆっくりと感じられるのは人を待っている間だからだろうか。

「ん、あれは……」

不意にユイが言葉を漏らした。
視線を追うと、そこにはビルの上を行くアーチャーの姿が見えた。
だが、様子が変だった。常に周りを警戒し、あれではまるで戦闘中――

「すまない、マスター!
 どうやらまたよからぬ輩を連れてきてしまったようだ」

自分たちの存在に気付いたアーチャーがそう叫ぶのが聞こえた。
と、同時に彼に向かい何かが放たれた。
あれは……矢だ!

「奴め、相変らず面倒なやり口だ」

アーチャーは放たれた矢を難なく剣で弾き落とし、そしてバックステップでそのままビルから降りてくる。
すと、という音がして彼は自分の目の前に降り立った。守るように、その背を見せながら。

それに対し敵意の滲む声が響いた。

「やれやれ、マスターと合流されちまったか。
 その少ね……、ん? ありゃ女だったか?」

ビルから見下ろし、そう飄々と呟く彼には見覚えがある。
――緑衣のアーチャー。
聖杯戦争二回戦の相手、シャーウッドの森に潜み圧政者との孤独な戦いを続けたサーヴァント。

「む、奴か。余はどうにもあやつと相容れないのだが。出自的にも性格的にも」
「あの中途半端なイケメンさんですかー、あの人も性懲りもなく再生怪人となった訳ですね」

後ろでセイバーとキャスターも武器を構えるのが見えた。
言葉こそどこか緊張感に欠けるものの、そこに一切の油断はない。
一度倒した相手でも、いや一度倒したことのある相手だからこそ、その脅威は身に染みて分かっている。

「あん? しかも何だ何だその大所帯は。
 サーヴァントが、えーと、一、二、三騎?
 まさか過ぎるだろ……反則じゃねえのか? おたく」

……その言葉には同意するが、しかし実際『こう』なのだから仕方がない。
反則級ではあるかもしれないが、これでも決して楽な身ではないのだ。
魔力管理は勿論、戦闘指揮においてもマスターに掛かる負担は三倍になってしまうのだから。

しかし、ありすに続き彼までこの場に居るとは……。
消去寸前だった自分がこうして呼ばれているのだから驚くことではないのかもしれないが、
それでもこの人選には何か意味があるのか考えてしまうところだ。

673時空隔絶〜無印と続編〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:23:20 ID:gET9Qrik0

と、その時、幾つかの影が見えてきた。
ビルの間から現れた三つの影がこちらへと駆けてくる。
三人だ。少女が二人に、初老の男性が一人。

――ブラックモア卿……

その中に見知った顔を見つけた時、思わず声を漏らしていた。
ダン・ブラックモア。
アーチャーのマスターにして女王より遣わされた騎士。
そして、自分に戦う意味を問いかけてくれた男性。
彼とまた、こうして会い見えることになるとは。

彼と目が合い、思わず身に緊張が走る。
高潔な人物であった彼が、このようなバトルロワイアルに乗るとも思えない。
では、これは何かの間違い。行き違いだろうか、と考えた。

「…………」

が、しかし自分を見つめるその瞳に友好的な感情は感じられない。
明確な敵意がある訳ではない。ないが、こちらを値踏みするかのような、そんな表情だ。

……前言を翻す。
彼はこのバトルロワイアルに乗っているのかもしれない。
少なくとも彼には『理由』があった。命を賭して戦うだけの『理由』が。それをこの場で求めていても何らおかしくはない。
それに自分は知らないだけで、彼にも冷酷な軍人であった時があるのだ。

「さて、こっちの陣営も揃ったことだし、ダンナ。
 二回戦の続きと行きましょう!」

「どうする。マスター」

アーチャーが問いかける。
ここは……

先手必勝!
>ここは逃げる。
話しかける。



もし仮に戦闘の意志がないならば、自分を見た時のあの反応はおかしい。
彼が既に戦うことを決めていたのなら、交渉はそれこそ無意味だろう。彼の意志の強さは知っている。
……それに少なくとも緑衣のアーチャーはこちらに対し明確な戦意がある。このまま行けば戦闘は避けられない。
加えて向こうにはアーチャーの他にも二人の見知らぬ少女が居る。
大剣を構えた褐色の少女剣士と、黒い蝶の羽を背負うお姫様のような少女だ

どれほどの戦力かは未知数だが、アーチャーに加え、彼女らとも戦うことになれば苦戦は必至だろう。
こちらもサーヴァント三騎という『反則』級の戦力を従えてはいるが、それにしたって継戦能力を無視した場合のことだ。
月海原学園までの道中は長い。可能な限り戦闘による消耗は避けたかった。

「分かった。君がそういうのならば従おう」

アーチャーが了解の旨を告げる。
見ると、セイバーとキャスター、それにカイトも頷き返していた。

「撤退ですね。
 私が誘導しますので付いてきてください」

胸元がユイの声がした。
それに従い、ダンを警戒しつつもその場を離れる。逃げるならば早い方が良い。まだ結構な距離がある今ならば逃走することも難しくない筈だ。
ユイの誘導に従い、ビルとビルの間の横道に入り、駆けていく。殿はアーチャーが務めてくれた。
幸いにしてダンたちが追ってくる気配はなさそうだが……

674時空隔絶〜無印と続編〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:23:42 ID:gET9Qrik0

「あれ? カイトさんが着いてきていません」

――え?

ユイの言葉に周りを見渡すが確かに彼の姿はなかった。
まさか、あの場に残りアーチャーらを抑えているのか――

「あ。大丈夫です、見つかりました。
 すぐ近くに居るみたいで、私たちを追いかけてきてます」

心配が杞憂に終わったことを知り、思わず胸を撫で下ろした。

そうしてしばらく走ると、ビルの乱立する街から抜け出た。
パッと視界が広がり、灰色のビル群に代わって風に揺れる大草原が現れる。
振り向けば今しがた居た街並みが見える辺り、どうやらここは丁度アメリカエリアとファンタジーエリアの境目のようだ。

「アァアァァア……」
「あ、カイトさん!」

しばらくすると、溜息のような唸り声と共にカイトが現れた。
見る限り特にダメージを受けた様子はなく、はぐれた間にも何もなかったようだ。
一体何があったのか、尋ねてみる。

「アァァァァ……」
「……何て言ってるんです? この方」
「そうですね、ちょっと待ってください」

ユイはカイトと幾度かの情報交換をした後、

「えーと、主が昔お世話になった人が居たので挨拶しておいた、ですか?」
「ウ#n」


【E-8/アメリカエリアとファンタジーエリアの境目/1日目・黎明】

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(中)、令呪:三画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/女性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、女子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:男子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:ありす達に気を付ける。
5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
6:ダンたちにも気を付ける。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、アーチャー(無銘)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:健康、魔力消費(小)
[ステータス(Ar)]:健康、魔力消費(大)
[ステータス(Ca)]:ダメージ(小)、魔力消費(小)
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと三分程度です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。

【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:ダメージ(小)、MP70/70、『痛み』に対する恐怖/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。

【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:ダメージ(中)
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。

675隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:24:21 ID:gET9Qrik0
(さあて、どうしたもんか。
 このままじゃあヤバイよな……流石に)

緑衣のアーチャー――ロビンフッドは一人街を歩いていた。腕組みし、考える素振りを見せながら。
頭を悩ませているのは今しがたの襲撃失敗のことだ。
ダンの命令に背く形で二人の少女を襲ったのにも関わらず、予期せぬ闖入者もあって取り漏らしてしまった。
しかも彼らはダンと合流してしまったと来た。
直接姿は見せては居ないとはいえ、このまま自分が合流すれば疑われることは必至だ。
何せ矢と毒だ。自分が最も得意とする技であり、それはダンも知っている。

(とはいえずっと身を隠してるって訳にもいかなしな。
 心苦しいが、何とか口八丁で誤魔化すしか……ん?)

アーチャーは不意に動く者があるのを視界が捉えた。
さっとビルの陰に身を隠しながら様子を疑う。
見れば赤い外套に身を包んだ白髪の男の姿があった。彼は丁度建物――位置的にF-9のホテルか――から出てきたところだった。

(ありゃ確か二回戦の……)

アーチャーは記憶を探る。
ここに呼ばれる前、まだ聖杯戦争が崩壊していなかった頃のことだ。
自分たちは一回戦を無事突破し、二回戦まで駒を進めていた。
そしてその対戦相手、そのサーヴァントこそあの男ではなかったか。

(いや、あんなんだったか?
 もっとちんまい姫様だったような、ん? 面倒な女狐だったか?)

妙に不明瞭な記憶に違和感を覚えるが、赤い男がその場を去ろうとするのを見て、頭を振り疑念を振り払う。

(よく分からんが、とにかくアイツが二回戦の相手だったのは確かだ。
 ……しかし、これはどうにかしたら利用できるんじゃねえ?)

アーチャーは口元を釣り上げ、迅速に行動を開始する。
緑衣のマントで身体を覆う。するとすぅとその姿がかき消える。
【顔のない王】アーチャーの宝具の一つであり、森に潜む暗殺者の自分を代表する能力だ。

(ま、こんなんばっか上手だから俺は真っ当な英霊とは呼べないんですがね。
 騎士なんてとてもじゃないが名乗れねえよ。
 ――そもそも名乗る気なんて端っからないが)








ブラックローズ、ダン・ブラックモア、そして黒雪姫の三人は合流後特に問題なく道を行っていた。
少なくとも表面上は。

676隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:24:45 ID:gET9Qrik0

「……という訳でカイトたちは最後の八相『再誕・コルベニク』を倒したんです」

歩きつつ、彼らは情報交換をしていた。
互いが知っていること。ここに拉致される前はどんな場に居たのか。
そういった情報を、互いが開示できる範囲で共有しようとしていたのだ。

「ふむ、そうか。君にはそんな事情があったのだな。
 しかしこれはやはり……」
「そうですね、先ず時間がズレています」
「それだけではない。恐らくもっと大きなレベルでの話だ」

結果分かったことがある。
それは彼ら三人の内にある根本的な情報の齟齬だ。
明確にズレていたのは時間で、認識の上ではブラックローズは2010年、ダンは2032年、黒雪姫は2046年、という具合だ。

だがそれだけではすまない齟齬もまたある。
辿った歴史がどう見ても合わないし、運用されている技術の面でもおかしいのは明らかだった。
ダンはそのことを頭に入れつつ、事態の分析に頭を働かせる。
彼は狙撃手であったが、同時に霊子ハッカーとして名を馳せる身だ。そういった観点からこの場について幾つか考えを巡らせる。

「並行世界という奴か」
「えっ……それはどういう」
「単純な話だ。我々は別の世界から来ていて、故に常識は合わないというのも当然だという訳だ」

目を丸くするブラックローズにそう語り掛け、そして同時に薄い微笑みを浮かべた。
その表情は冷徹な軍人ではなく、一人の優しげな老人のそれだった。

「眉唾な話ではあるかもしれん。
 だが、それがこの状況から得られる一つの解であることは確かだ。
 とはいっても、多くの中の一つに過ぎん。今の段階ではただの仮説程度に頭に留めておけばいい」
「な、なるほど……」

並行世界。
概念としてはともかく、実際に体感できる現実として存在するのかと問われればダンとて否と答えただろう。
だが、SE.RA.PHでの経験を加味すれば、これまた一概に否定できる話でもなくなる。
あらゆる生物、あらゆる生態、あらゆる歴史、そして魂さえも記録するムーンセル・オートマトン。
その『ありとあらゆる可能性』とは即ちさまざまに分岐した並行世界さえも含まれるのではないか。
そう考えられた。

同時に、そこから飛躍してまた別の仮説もまた考えられる。
そもそも世界……ブラックローズや黒雪姫のものも含めた並行世界自体がムーンセルの観測によって成り立っているという説だ。
自分たちを取り巻く世界そのものがムーンセルに収められた記録でしかないという可能性を想起し、ダンは複雑な心境になった。
だからどうという話ではないが、それはある意味世界に対する見方が根本からひっくり返る話ではないか。

677隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:25:07 ID:gET9Qrik0

(……何にせよ、今考えるべきことではない)

ダンはそう判断し、そこで一先ず思考を打ち切った。
後々必要になる考察ではあるかもしれないが、今は先ず目の前の現実――殺し合いをどうにかしなくてはならない。
聖杯戦争が中断され、突如として始まったこのバトルロワイアル。
自分はだがそれを否定する立場を表明した。

元より自分は女王陛下の命令で聖杯戦争に乗込んだ身だ。
その聖杯戦争が実質崩壊してしまった以上、戦う必要もない。
無論、自分には別の『理由』があった。戦うべき『理由』が。
だが、その『理由』はしかし、多くの無辜の命を奪ってまで叶えてはならぬものであることは、ダンとて理解していたのだ。

(もう、畜生に堕ちる必要はないのだから……)

軍人として散々冷徹な行いをしてきた自分には、少々虫のよすぎる話かもしれない。
だがそれでも、今の自分は軍人でなく、サー・ブラックモア――騎士としてありたかった。

「それにしてもThe Worldの八相……それに聖杯戦争ですか」

黒雪姫がそう呟くのが分かった。
AR――拡張現実技術が高度に発達した世界から、彼女は学校のアバターを伴ってやってきたという。
この三人の中では唯一戦闘能力がない。守られるべき存在だ。
そう思い、ダンは思わずふっと笑みを漏らした。姫を守る騎士、古典的過ぎる構図だ。
だが、それはきっと悪いものではないのだろう。

「私の常識からは色々と乖離してして……その、中々捉えづらいところがありますね」
「無理しなくても良い。こういう私も少々戸惑っているところがあるからな」

そう語り掛けつつ、彼らはビルの並び立つ都市を行く。
そろそろアーチャーとの合流ポイントの筈だ、とダンはマップを確認しつつ思う。
偵察役として単独行動してもらっている彼だが、少々問い詰めねばならないことがあった。

「ここにダンさんの仲間が来るのね」
「ああ、そうだ。だが……」

そうして、しばらく待つ。
ビルの下、常に周囲に対する警戒は怠らずにダンはアーチャーの到着を待った。

678隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:25:32 ID:gET9Qrik0

と、不意に、

「ダンナ! すまないがちょっと戦闘中だ」

声がした。アーチャーだ。
その言葉を聞き取るや否やダンはすぐさま戦闘態勢に移る。
声のした方を見る。するとそこには言葉通り矢を構え戦うアーチャーと、それに相対する赤い服の男がいた。

「アーチャー! 待っていろすぐに援護に向かう」

ダンは叫びつつ、思考を練る。
あの赤い男は確か二回戦の相手となる筈だったサーヴァントだ。
まだよく素性も知らないままだが、この場でも仕掛けてくるとは。

「ブラックローズ、君はここで黒雪姫を守ってくれるか?」
「え? いや、私も……」
「これは恐らく私の因縁が招いた戦いだ。
 君たちは巻き込みたくはない」

そういうとブラックローズは戸惑ったように瞳を揺らす。
彼女も戦いを経験した立派な戦士であることは知っていたが、それでも今はできる限り前に立たせたくはなかった。

「いや、私たちも行きましょう。
 分断されては危険だ」

不意に黒雪姫が口を開いた。
強い口調で紡がれたその言葉は真直ぐにダンへと向けられている。

「しかし」
「私の心配ならば無用です。それにこの場に留まることが安全ともいえない」

確かにそうかもしれない。
だが、気になるのは黒雪姫の様子だ。何か有無を言わせぬ強い意志がそこには感じられた。
何か彼女にとって気になることがあったのだろうか。

「……分かった。着いてきてくれ。
 だが、決して前には出ないでくれ。君は戦場に出る人間ではないのだ」

とにかく迷っている時間はない。
そう決めた後は迅速に行動する。可能な限りの速度で駆け出し、アーチャーへ追いつかんとする。
そうして夜の街を潜り抜けた先に、彼らは居た。

679隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:25:54 ID:gET9Qrik0

赤い外套のサーヴァントに守られるように居る、月海原学園の制服に身を包んだ少女。
彼女と目が合った。
間違いない。やはり彼女は二回戦の相手だ。確か名前は岸波白野と言ったか。
妙に記憶が曖昧なところがあるが、その情報だけは正しく思えた。

彼らの周りには他にも幾人かの存在があった。
ツギハギだらけの不気味な男に、赤いドレスに身を包んだ少女、それに艶めかしい妖狐。
その存在にダンは疑問を覚える。ツギハギ男はともかく、あとの二人もまた岸波のサーヴァントであったような、そんな記憶が脳裏に過った。

「…………」

岸波と視線が絡み合った。
ダンと彼女の間に冷たく、そしてどこか心地よい緊張感が走る。
初めて会ったときは、まだ若く、何の意志も持たない案山子の以前の存在だと思ったが、
それが中々どうして良い目をしている。まるで別人のようだ。

(何かを掴んだか)

それが何かは分からない。
だが岸波の様子からダンはそう当たりを付ける。
そして、それが何らかの意志――このバトルロワイアルでの戦意となったのならば、ダンはそれを否定する気にはなれなかった。

「さて、こっちの陣営も揃ったことだし、ダンナ。
 二回戦の続きと行きましょう!」

(だが、戦うというのならば……)

ダンは冷静に状況を分析する。
岸波はどういう訳か三騎ものサーヴァントを着き従え、それに加えあのツギハギ男も居る。
対するこちらの戦力はアーチャー一騎と剣士であるブラックローズのみ。
楽な戦いにはならなそうだが、

「分かった。君がそういうのならば従おう」

赤い外套のサーヴァントが不意にそう口にし、そして彼らはその場を立ち去る。
その際に岸波が胸元の何かと会話しているのが見えた。何か支給アイテムの類だろうか。
何にせよサーヴァント三騎を従えていながらも彼女は撤退を選んだ。
その力にも何らかの制限、あるいは使いにくさがあるのだろう。単純に考えて燃費もすこぶる悪そうだ。

「敵さんは逃げるみたいだな。合流されて焦ったか。
 どうします? ダンナ」
「……逃げるというのならば無理に追うことはない。
 単純な戦力差では恐らく向こうが有利だ。それに誘い込みという可能性もある。
 だから、この場は一先ず……む?」

680隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:26:25 ID:gET9Qrik0

立ち去る岸波たちを尻目に、その場に一人残った存在があった。
ツギハギ男だ。燃えるような鮮やかな橙の衣装に身を包んだ彼は、その場に残り喉の奥から怪しげな唸り声を漏らしている。
彼は不気味に光る瞳をぎょろりと動かし、ダンたちを――正確にはブラックローズを見た。

「カイト……なの?」

ブラックローズから困惑の声が漏れた。
見れば彼女は目を見開き、驚きを示している。
カイト――それは先ほどブラックローズが話していた少年の名ではなかったか。

「アアァァァ……」

それが彼、なのだろうか。
不気味に唸る彼には一見して理性が感じられず、その様はまるでバーサーカーのようだが。

「……ヨ%*ク>*+−ズ%n」

彼はそう言い残し、去って行った。
何と言ったかはまるで聞き取れなかった。
ただ、カイトらしき人物に対する不気味な印象だけが、その場に残った。




「っという訳で、俺はあの赤いアーチャーと交戦して、その一環で罠を巻いていた訳ですよ、ダンナ」

岸波との遭遇を終え、ダンたちはアーチャーとの情報交換に至っていた。
彼の話によると、岸波の赤いサーヴァントもまたクラスはアーチャーだったという。
そして自分同様偵察役として出されていた彼と遭遇し、戦闘していたというのが彼の話だ。

「それにお嬢ちゃんたちが引っかかってたみたいですね。
 いや、その、すまんね」
「ちょっとアンタ、それすまんで済むことなの!?」
「いやぁ、俺も関係ない第三者の被害なんざ考えたことがない身でね。
 ちょっとうっかりやっちまったって訳。
 まぁ、何だ、運が悪かったな、お嬢ちゃんも」

相変らず軽い口調で語るアーチャーに対しブラックローズが不平を漏らしている。
黒雪姫はそれを少し離れたところでじっと見つめていた。
そこでダンはアーチャーを呼びつけ、彼女らには「しばらく二人で作戦会議がしたい」と告げる。

「はい、なんですか、ダンナ?」
「つまり彼女たちがイチイの毒に侵されたのは事故であり、お前にその気はなかった。
 そして、狙撃の件は岸波のアーチャーによるものだ。
 ――そうお前は言いたいのだな?」

ダンはやってきたアーチャーに対し、そうゆっくりと問いかけた。
突き放すような冷たい視線を受けながらも、アーチャーはけろりとした顔で「そっすね」と答えた。

「まぁ、そりゃあ俺も狙撃手を見た訳ではないから断言はできないですけど
 状況的に考えてそれしかないっしょ?」
「……お前が手を出した訳ではないのだな?」

かねてよりの疑念をぶつけると、彼は吹き出し、声を上げて笑って見せた。

681隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:26:50 ID:gET9Qrik0

「俺? 俺を疑ってるんですかダンナ?
 そりゃあ狙撃による暗殺とか俺の十八番ですけど。
 俺がやるんだったら、そもそも失敗なんてしませんよ。
 言っちゃあ何だがあんなお嬢ちゃん二人相手に失敗する俺じゃない」
「…………」

それは分かっている。
ダンとて己のサーヴァントの力量は信頼していた。
だが、だ。ダンは信頼しているが故にアーチャーに対する疑念を拭い去れなかった。寧ろある種確信していたといってもいい。
とはいえ狙撃手の姿は結局誰も見ては居ないようだし、使用された矢もまたありふれた構造のものだ。
調べれば由緒も分かるだろうが、そうやって犯人を確定させるよりももっと取るべき行動があるようにダンには思えた。

(そうだな……)

ダンは思考の末、一つの決断を下した。

「アーチャー、汝がマスター、ダン・ブラックモアが令呪を以て命ず」
「は? ダンナ。アンタ何を……」
「『バトルロワイアルにおいて、戦意なき者への攻撃を禁ず』」

そう告げた瞬間、手に刻まれた令呪が光を放ち、鈍い音を立てて掻き消える。
令呪。
三度だけ許されたマスターからサーヴァントへの絶対命令権。
その貴重な一画を、ダンは今この場で使ったのだ。
その行いを前にして、アーチャーは愕然とした様子でダンを見た。

「何考えてんすか、ダンナ。
 幾ら俺が信じられないからって、そりゃ……!」
「信じている。信じているからこその命令だ」

確かにどうかしているかもしれない。
自分でもそうは思うが、必要なことであるとも思っていた。

「いやでもですよ、ダンナ?
 戦意のない者を攻撃しちゃいけないって、そりゃ俺の長所丸潰れっていうか……」
「分かっている。だが、できる筈だ」
「……あー、はいはい騎士道って奴ですかね。正直、そんなものを求められても困るっていうかね、はぁ」

その言葉と共に肩を落としたアーチャーの姿が掻き消える。霊体化したのだ。
何も見えなくなった空間を、ダンはじっと見据える。

(気付け、アーチャー……お前のその理念。
 全てを捨ててでも弱きものを助けようとするその姿勢こそ、何より騎士の在り方を体現していることを……)

682隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:27:11 ID:gET9Qrik0

「パッと見、カイト……みたいだったんだけど、どうみても違うし……
 でも、あのエディットはThe Worldの双剣士のものみたいだったのよね」
「同型のアバターということか?」
「……いや、それもない……のかな?
 カイトのPCは、さっきも言ったけどアウラによって改変されたものだから。
 あの赤い双剣士のPCで被るってことはない筈、なんだけど」

ダンがアーチャーとの話を終え戻ってくると、彼女らの会話が聞こえてきた。
内容は今しがた遭遇したツギハギ男のことのようだ。
あの反応からして向こうもまたブラックローズと何かしら縁があるようだったが、その正体は一体何なのだろうか。

(岸波白野……君のせいか?)

岸波白野。彼女が、カイトの変貌に何かしら噛んでいるのだろうか。

(岸波陣営のおかしな点はそれだけではない)

サーヴァント三騎を従えるという規格外もだが、その全てが最初から彼女のものであり、同時に彼女のものでなかったかのような、妙な記憶がある。
どうにかして思い返そうとするのだが、記憶を確定させようとしても意識の焦点が合わず、代わりに曖昧模糊とした感覚が立ち現れるのだ。
アーチャーの真意もだが、岸波白野の存在とその能力もまた考える必要があるだろう。
サーヴァント三騎に加え、隣に居たカイトらしき人物の様子。どうにも彼女はイレギュラー的な存在のようだった。

(……どうにも考えることが多いな)

決して楽な道のりではなさそうだが、それでもダンは揺るぎない意志を持っていた。











(ダン・ブラックモア……あの男は――)

二人でどこか話に行ったダンたちに彼女はさりげなく視線を送る。
一体何を話しているのか、会話までは聞き取れないのが非常に歯がゆかった。
彼女、黒雪姫は彼らに対する隠しきれない疑念があるのだ。

ダン・ブラックモア。
彼は一見して柔らかな物腰をもった老人であり、同時に確かな力を持った騎士であるようにも見える。
その言葉や理念は確かに信用に値する、ように見えるのだが、

(私たちを謀っているのか?
 あの、アーチャーとかいう男を使って……)

話しによれば、あの緑衣の男はサーヴァント――参加者ではなく彼の武装の一部のような扱いだという。
そして黒雪姫、否、ブラック・ロータスはあの男と面識があるのだ。
実際に刃を交わした敵同士として。

(あの男は先の狙撃手だ。それは間違いない)

言い逃れようと苦しいことを幾つか言ってたが、彼女は実際に彼の姿を見ている。
何よりの証拠であり、アーチャーの危険性を確信するには十分すぎる事実だ。

(問題はダン……あの男もなのか)

話を聞けば、彼が居た聖杯戦争というものはこのバトルロワイアルに非常に酷似した形式のものだ。
そして彼はそこの二回戦の途中で呼ばれたと聞く。即ち、既に一人を殺しているのだ。
その立ち振る舞いは完全に高潔な人間のものだったが、実は彼もまた優勝を目指す身なのだろうか。
完全に自分を信用している相手に近づき、無抵抗な相手の首を狩る。
そんな光景がフラッシュバックした。

683隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:27:35 ID:gET9Qrik0

(……少なくともあのアーチャーという男は危険だ)

ダンについて判断を下すのは早計かもしれない。状況的にはかなり黒に近い灰色とはいえ、その滲み出る人間性は少し接しただけでも分かる。
無論、そこを含めて演技だという可能性もなくはなかったが、それでも可能ならば信じたかった。
だが、あのアーチャーという男は確実に『乗って』いる、PKだ。

(そして奴は恐らく私に見られているということに気付いていない)

アーチャーとはデュエルアバターでしか接触していない。
そして奴はそれを知らない。このアドバンテージをどう使うか。

「ううん……」

と、ふと目の前のブラックローズが頭を捻っているのに気が付いた。
彼女は先ほどからそんな調子だった。それはやはり先の遭遇が原因なのだろう。

「そういえば、ブラックローズ。
 先ほどカイトといっていたが、あれは……」

あのツギハギだらけの橙色の男。
彼は明らかにブラックローズを見て何かを言っていた。
そして彼女もまた衝撃を滲ませ言っていたのだ。カイト、と。

「あー、うん。ごめん、あれは私もよく分からない」

黒雪姫の問い掛けに、ブラックローズは歯切れ悪く答えた。。
その声色はどこか震えており、困惑を露わにしていた。彼女も事態を把握していないようだった。

「パッと見、カイト……みたいだったんだけど、どうみても違うし……
 でも、あのエディットはThe Worldの双剣士のものみたいだったのよね」
「同型のアバターということか?」
「……いや、それもない……のかな?
 カイトのPCは、さっきも言ったけどアウラによって改変されたものだから。
 あの赤い双剣士のPCで被るってことはない筈、なんだけど」

なるほど話にでた『カイト』に姿は酷似しているらしいが、あれはどうみても正常な様子ではなかった。
聞き取れない情報と化していた言葉といい、ツギハギだらけのグラフィックといい、あれではまるで破損したデータではないか。

あの存在は一体何なのか。
それが分からないことが彼女を不安にさせているのだろう。
話を聞けば『カイト』というのはブラックローズにとって大事な存在らしい。
それこそ、自分にとってのハルユキのような。

(……何にせよ、私は君を守らねばならない)

自分を命を賭して守ってくれた彼女。
その勇気に報いる為にも、危険な存在には最大限警戒しなければならない。
不安な表情を浮かべるブラックローズを見ながら、黒雪姫はそう強い意志を持っていた。









アーチャーの思惑としては岸波とダンを一度ぶつけることで、そのサーヴァントに罪を被せるというものだった。
言い訳の効かないイチイの毒のことはこの際認めるとして、狙撃の点のみは否定しようとしたのだ。
岸波のサーヴァントもまたアーチャーであるようだし、誘導自体も上手く行ったのだが、結果としては成功とはいえない結果になってしまった。
元よりそう上手く行くとも思えなかった話ではある。一先ずを凌げればそれでいいとは思っていた。
が、まさかあんな令呪の使い方をするとは。

(はぁ、どうすっかね、こりゃ。
 ま、しばらく様子を見るとすっか。今後の行動如何によってはまだチャンスはある筈だ)

そう考えつつ、霊体化したアーチャーは少し休息を取ることにした。
長い単独行動で、魔力も大分消費していた。どの道しばらくは行動を起こすことはできないのだ。

684隔絶時空〜行先は同じでも〜 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/09(木) 15:27:53 ID:gET9Qrik0

(しっかし、あの蝶々……黒雪姫とか言ったか?
 妙に俺を見る視線がきつかったような、……何か警戒されてるみたいだな)

「えーと、ここに行くの?」

(お、目的地が決まったか)

霊体化したまま、アーチャーは彼ら会話に耳を傍立てる。
ダンが二人の少女相手に告げようとしているところだった。

「そうだ、先ずは拠点を確保したい。
 月海原学園。ここを目指す。
 経路としてはウラインターネットエリアを通る最短ルートを取る」



【E-9/アメリカエリア/1日目・黎明】

【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP50%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:黒雪姫、ダンと共に行動する。
2:あの黒いロボットは一体……?
3:カイト(?)に対する疑念。
[備考]
※参戦時期は本編終了後

【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/ローカルネットのアバター
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ブラックローズ、ダンと共に行動する。
2:自分がブラック・ロータスであるということは隠す
3:緑衣のアーチャーを警戒。ダンは……

【ダン・ブラックモア@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康 、令呪二画
[装備]:不明
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:軍人ではなく騎士として行動する
1:黒雪姫、ブラックローズと共に月海原学園を目指す。
  ウラインターネットを通る最短経路を取りたい。
2:岸波白野陣営を警戒。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:魔力消費(大)
[思考]
基本:ダンを優勝させる。その為には手段は選ばない。
1:ダンにバレないように他の参加者を殺す。
2:黒い機械(ブラック・ロータス)を警戒。
3:今後の方針を練る。
[備考]
※時期としては二回戦開始当初、岸波と出会ったばかりの頃。
※令呪によってアーチャーは『バトルロワイアルおいての戦意なき者への攻撃』を禁じられています。

685名無しさん:2013/05/09(木) 15:28:15 ID:gET9Qrik0
投下終了です

686名無しさん:2013/05/10(金) 08:09:43 ID:bFNf.xa.0
投下乙です
いつも通り平常運転なザビエル陣営と、着々と不和が進むブラック陣営の対比がなんとも……
ザビエル陣営のほうは今のところ安泰ですが、やはりカイトや鯖三騎という異常が問題を残しますね
対してブラック陣営はこのままだと内部分裂に発展しそうで、今後が心配になります

しかしキャス狐よ……君は確かにオリジナルだが、決してオンリーワンではないのですよ
具体的に言うと、どっかの月のお姫様な物語に出てくる、コハッキーな割烹着の悪魔とか。彼女もたまに狐系装備が生えてたりするし
ちなみにこれ、元のキャラが薄いときのこ(原作者)が丸々修正した結果だったりする

687 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/14(火) 00:39:15 ID:j3noZdps0
投下します

688Sword Maiden ◆7ediZa7/Ag:2013/05/14(火) 00:40:29 ID:j3noZdps0
暗く冷たい洞窟を進んでいく。
ごつごつとした岩が乱雑に突き出る地面は決して歩きやすいとはいえないが、それでも彼女は足を止めることはない。
時節不安定に身体を揺らしながらも、ぎらぎらとした眼光だけは決して衰えることなく、ただ前を見て進んでいた。

「フフフ……」

不気味な笑みを漏らす彼女の名はボルドー。
ブルースとの一戦から逃れた後、ふと見つけた洞窟に入り込んだのだ。
それはブルースから身を隠すという意味もあったが、何となく、この向こうに誰かが居るのではないかという気がしたのだ。

――弱い者はよく穴倉に隠れこむ。

彼女はAIDAに侵された頭でそう考えた。
無論、そこに根拠などない。強いて言うのならば、どうしようもない悪党をロールしていた頃の経験、なのだろうが、それを彼女がどこまで意識しているかは不明だった。

もしその向こうに誰も居なかったのならば、彼女は癇癪を起こし、苛立ち任せに周りのオブジェクトを破壊していただろう。
逆にいえばその程度で済んだかもしれなかったのだが、幸運にもというべきか、はたまた残念ながらというべきか
彼女の向かう先には一人の少女が居るのだった。

《絶剣》と称された、一人の剣士が。
ボルドーにとって、それは如何なる運命なのか、それとも死神となのか。
何も分からないまま、彼女は死世所へ進む。






689Sword Maiden ◆7ediZa7/Ag:2013/05/14(火) 00:41:06 ID:j3noZdps0
「さて、そろそろ動くべきかな?」

そう言って、ユウキはうんと伸びをする。
開始以来、ほとんど動いていない彼女であったが、そろそろ次の場所へ向かおうかと思い立っていた。
次の場所、というのは言うまでもなく、このエルディ・ルー同様『綺麗な場所』である。

マップを開き、どこが良さそうかと目を走らせる。
その行為がまるで観光地に着たときのようで、ユウキは思わず苦笑してしまった。

(あの時の京都旅行、楽しかったな)

もう『生前』というべき記憶を思い起こしつつ、次に向かう場所を考える。
位置的にこの場所は洞窟――マップの中心に近いようだ。

(と、なるとここから近い施設は大聖堂か森か。マク・アヌってのもあるな。
 でも、森はかなり広いみたいだし、ちょっと面倒かも)

そう今後の目的地を定めていると、

「…………」

不意に、ユウキの眼が細められた。
しんとした静寂を保っていた地底湖に、何か、不穏な雑音が混じったような、そんな違和を彼女の感覚が捉えた。
鞘からランベントライトを抜く。しゃりんと鞘走りの音がした。

そうして待っていると、輝ける森に人影が紛れ込んできた。
現れたのは――褐色の肌の凶戦士、ボルドーだった。

「フフ、アハハ!」

ボルドーはユウキを見つけた瞬間、何が面白いのかそう哄笑していた。
タガが外れたように笑う彼女に眉を顰めつつ、ユウキは剣を構えた。

(うわ、見るからに危ない人だね、ありゃ)

その行いもさることながら、アバターの外見もまた凶悪だった。
褐色エディットの女性キャラ……が基になっているのだろうが、そのポリゴンが造形は崩れ黒く変色し爛れたようになっている。
テクスチャが剥離しているようでもあり、あれではまるでバグデータだ。
どこのゲームのものかは知らないが、あんな外見変化を伴う装飾品があるのだろうか。

「ボクは戦う気ないから見逃してくれない?」

どうせ意味はないだろうと思いはしたが、ユウキは一応そう呼びかけてみた。
するとボルドーは目を見開き「ハァ?」と馬鹿にしたように言ってきた。
そして、そのまま奇声を発し禍々しいデザインの剣を構える。下品な舌なめずりも添えて。

690Sword Maiden ◆7ediZa7/Ag:2013/05/14(火) 00:41:41 ID:j3noZdps0

(ま、予想通りの展開か)

ユウキは軽く溜息を吐き、疲れたように首を振った。
正直あまり気が乗らない。こういう荒っぽいことではなく、もっと穏やかな世界を見て居たかった。
だが、こうして面と向かって剣を向けられて無抵抗でいる気も、しない。

「しょうがないな。まぁじゃあ、やろうか」

この洞窟の中で羽を展開しても動きにくいだけだろう。ならば地上戦で一対一と行くべきか。
そう思ったユウキは一瞬目蓋を閉じ、意識を集中させる。
そして、次の瞬間、

「テメッ!?」

ランベントライトによる高速の刺突を繰り出す。
ざっ、と地を蹴る音がしたかと思うと、次の瞬間には閃光――ランベントライトが迫る。そう敵には思えた筈だ。
ボルドーが目を見張るのが分かった。ユウキはそのまま速く強く迷いなく一撃を放つ。
ボルドーはだが、ぎりぎりのタイミングで反応し、間一髪その一撃を回避することに成功する。

「ぐふぅ!」

が、その回避は先読みされている。
ユウキはさっと地を蹴り、角度を変え二撃目を放った。
空を切る鋭い音がして、ボルドーの身体は吹き飛ばされていた。

その一連の動作には全くの無駄がなく、美しく洗練された技を感じさせた。
彼女は《絶剣》。ALOに名を知らしめる剣士にして、VRMMOの申し子。
その比類なき反射速度に追いつける人間は居ない。

「ちょっとアスナの真似事をしてみたけど、意外と上手く行ったね。
 で、お姉さん。まだやる?」

一瞬の攻防でボルドーを圧倒して見せたユウキはそう問いかけた。
実力差は火を見るより明らか。常人ならばそこで心が折れてもおかしくない筈だ。

「フフフ、アハハ!」

だが、ボルドーはもはや常人とはいえない。
彼女は奇声を上げ、再び向かってくる。そこに理性の色はなく、力任せの暴力だ。
ユウキは仕方なく対応することにする。
命までは奪いたくはないが、少々痛い目を見て貰うことになるかもしれない。

一瞬の思考を打ち切り、ユウキは剣を構える。
ボルドーの突進に対しカウンターを決めようというのだ。
何の策もない突進への対応など、ユウキにとっては児戯に等しい筈だった。

691Sword Maiden ◆7ediZa7/Ag:2013/05/14(火) 00:42:00 ID:j3noZdps0

「え?」

そこでユウキが初めて困惑の滲んだ声を漏らした。
と同時に今度は彼女の身体が吹き飛ばされる番だった。ボルドーに跳ね飛ばされたのだ。
途中、羽を展開し態勢を整え、とんと地上に着地する。

「ハハハ……良いねえ、その顔」
「痛……ちょっと予想外かも」

ユウキは剣の当たった腹部を抑えつつ、ボルドーを見た。
タイミングとしては完璧だった筈なのに、何故か彼女の攻撃が当たった――と、少なくとも彼女には思えた。
何かミスをしただろうか。今まで経験してきた対人戦ではなかった類の違和感だ。

と、不意にボルドーのアバターに異変が起きた。
けたたましく笑い声を上げる彼女のアバターにノイズが走り、黒い斑点のようなグラフィックが幾つも溢れ出る。
その不気味な様相は、とてもではないが正規のシステムによる演出には思えない。

(まさかチート……? いや、それともバグ?)

何にせよそれは仕様外の現象に見えた。
先の一撃を喰らってしまってのは、恐らくはアレのせいだ。
対人戦においてのいわゆる『呼吸』のようなものが乱れ、想定外の攻撃となって自分を襲ったのだろう。

「……ちょっと油断できない相手みたいだね」

ユウキはそう口にし、再び意識を集中させる。
今度は本気だ。一切の手加減を加えることなく、相手を完封する。
この湖の美しさも、今この瞬間だけは忘れることにする。そう決めたユウキは先以上の速度で死世所を駆ける。
ボルドーには反応すら能わぬスピードに達したユウキは、

「やぁっ!」

凛とした気合を発し、ユウキはボルドーに容赦なく斬撃を浴びせた。
そして、





692Sword Maiden ◆7ediZa7/Ag:2013/05/14(火) 00:42:18 ID:j3noZdps0
「ふぅ、意外に神経削ったなぁ」

数十分後、そうぼやきながら洞窟を後にするユウキの姿があった。
ボルドーとの一戦を彼女は無事勝利を収めていた。
本気を出したユウキに対し、ボルドーは何もできず切り刻まれるのみだった。
あの仕様外の力を警戒してはいたが、それでも実力差をひっくり返されることもなかった。

ボルドーは倒れ、ユウキはこうして生きて次の場所へ向かっている。
とりあえず自衛には成功した訳だ。

(でも、結局逃がしちゃったんだよね)

途中で、流石のボルドーも分が悪いと悟ったのか、アイテムを使い逃走を選んでいた。
元より殺し気はなかったし、自衛、専守防衛という点ではそれでいいのだが、あのような危険人物を逃がしてしまった失敗だ。
せめて武器くらいは奪っておきたかった。

が、今更言っても詮無きことだと思い直し、ユウキは次の場へ向かうことにしたのだ。
一先ずの目的地は大聖堂。その後は遺跡にでも行いくか、そのままアメリカエリアまで足を運んでみるのもいいかもしれない。
そんなことを考え、進路は東に取る。

「でも、何だったんだろ、アレ」

ボルドーの纏っていた黒い斑点のことを思い返し、ユウキは首を捻った。
結局その正体は掴めなかったが、システム外の現象であることは確かに思えた。
幾多のVRMMOを渡り歩いてきた経験がそう告げるのだ。
ボルドーの個人の様子も何かおかしかったし、詳細不明なことも相まって、ひどく不気味な感触だ。

(ああいう感じの人が他にも居るのかなぁ……あんまり会いたくないかも)


【D-5/山/一日目・黎明】

【ユウキ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP90%
[装備]:ランベントライト@ソードアート・オンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2個
[思考・状況]
基本:洞窟の地底湖と大樹の様な綺麗な場所を探す。ロワについては保留。
1:東進して大聖堂や遺跡を見て回る。
2:専守防衛。誰かを殺すつもりはないが、誰かに殺されるつもりもない。
3:また会えるのなら、アスナに会いたい。
4:黒いバグ(?)を警戒。
[備考]
※参戦時期は、アスナ達に看取られて死亡した後。

693Sword Maiden ◆7ediZa7/Ag:2013/05/14(火) 00:42:38 ID:j3noZdps0


「ハァハァ」

ボルドーは身体を引きずるようにして山を降りていた。
痺れるような痛みが断続的に走り、彼女は思わず苦悶の呻き声を漏らす。
惨めな敗走であった。完封され、一方的に剣で負かされたのだ。

「クソッ……」

ボルドーとて決してプレイヤースキルの低いプレイヤーではない。
ハセヲに何度も挑んではその度に返り討ちにされた身ではあるが、それでもケストレルの一員として、それなりに名の通ったPKではあったのだ。
アリーナにおいても決勝トーナメントに選出されるだけの力はあった。にも関わらず、先の一戦では何もできなかった。何もできずに、負けたのだ。
AIDAに浸食されながらも、その事実を屈辱だと感じることはできた。

「何故だ……私には、運命がヴldk;@vvi」

ボルドーは虚空に向かいそう叫び、そして力なく倒れ込む。
興奮状態で動き続けた彼女の身体に蓄積した疲労、そして今しがた受けたダメージ。
それらが重なり、彼女は気絶するように倒れ込んでいた。

黒ずんだ地面は硬く、身体が斜面をずるずると滑り込み、肌が擦れる痛みが走った。
しかし、それも半身だけだ。AIDAに浸食された部位は、痛みすら伝えてはくれなかった。
倒れ込む彼女の瞳は、未だ明けない夜が映る。

「何故だ……何でだよ、何でみんな……私を、」

か細い声が漏れる。
誰に問いかけた訳でもない。ただ自然と声が零れていただけだ。
その言葉は、AIDAによって暴走した意識の叫びでも、ボルドーというキャラのロールの結果でもなく、
ただの心情の発露だった。単なる、孤独な少女の。


【D-4/山/一日目・黎明】

【ボルドー@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP45%、疲労(中)
       AIDA感染
[装備]:邪眼剣@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜1、逃煙球×3@.hack//G.U.、基本支給品一式
[思考]
基本:他参加者を襲う
1:ハセヲに復讐
[備考]
時期はvol.2にて揺光をPKした後

694名無しさん:2013/05/14(火) 00:43:03 ID:j3noZdps0
投下終了です

695 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:04:06 ID:fgufjUgg0
投下乙です。
ユウキはちょっと心配でしたが、何とかなりましたね。
何せボルドーの邪眼剣は発生率わずか3%とはいえダイイング持ち。
しかもR:1のダイイングは現在のHPの75%カットという凶悪さですから。

それでは私も、予約分を投下します。

696Confrontation;衝突 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:05:55 ID:fgufjUgg0

     1◆

 ウラインターネットを駆け抜けつつ、後ろから追って来る気配がない事を確認する。
 やはりフレイムマンには、元々キリト達を追う気がなかったのだろう。
 仮にそれがブラフで、安心したところへの不意打ちが目的だったとしても、フレイムマンの攻撃は炎を使ったものだ。
 そして炎はその性質上、能力を発動する瞬間はどうしても周囲を照らし、目立ってしまう。特にこんなダンジョンの様に薄暗い迷宮なら尚更だ。
 炎以外の能力……特に隠密(ハイド)系の能力を持っているのなら話は別だが、照らす炎と隠れる影は基本的に相性が悪い。その可能性は低いだろう。

 あるいは、あの場所で転移してくるプレイヤーを待ち伏せするつもりなのだろうか。
 だとすれば、逃げている自分達にとっては好都合だ。
 アメリカエリアから転移してくるプレイヤーたちは危険だが、今はその事を気にしている余裕はないし、どうにかする力もない。
 あそこへ誰も転移してこない事を、あるいは転移してしまっても、自身でどうにかしてくれる事を祈るしかない。

「ふう………ここまで来れば、一先ず安心かな?」
 駆け抜けた通路を念のために振り返り、見える範囲に炎の一つも見えない事を確認してから、キリトはそう一息を吐いた。
 同時にずっと抱えていたSDクラスの頭身をした少女を地面に下ろし、安心させるように声を掛ける。

「大丈夫、怪我はしてない?」
「はい……私は大丈夫です」
「そっか、よかった。俺はキリト、君の名前は?」
「レン……浅井レンです」
「レンさん、だね。よろしく」
「………………」
 俯きがちに名乗り返したレンへと、握手を求めて右手を差し出す。
 が、レンは差し出された右手を呆と見つめるだけで、握手は帰ってこなかった。
 いかに窮地を助けたとはいえ、まだ信用されたという訳ではないのだろう。
 そんなふうに納得して、僅かに苦笑いしつつ出したままの右手を下した。

「それじゃあレンさん。出逢っていきなりで何だけど、レンさんの支給品を教えてもらっていいかな?」
「私の、支給品……ですか?」
「ああ。これから迂回して野球場を目指すわけだけど、その途中でまたフレイムマンみたいなヤツに遭遇するかもしれない。
 そうしたら戦いになる可能性は高いし、相手によっては君を守りながら戦うのは難しくなる。
 なるべく戦闘は避けるつもりだけど、その時にはレンさん自身に自衛してもらう必要が出てくる」

 当然、レンを戦線に立たせるつもりはないし、そうなる前に逃げるつもりではある。
 だが口にも出したように、もし今の装備でフレイムマンレベルの相手と戦う事になった場合、彼女を守りながら戦う余裕さすがにはない。
 レンを助け出した時はフレイムマンが追ってこなかった為に余裕ができたが、もし今も追われていたらと思うとゾッとする。
 故に、もし仮に余裕のない戦闘になってしまった時、レンが丸腰のままという事態を避けるためにも、支給品の確認が必要なのだ。

「そうなった場合に備えて、少しでも対策は取っておいた方が良い。……より確実にジローさんと合流するためにも、ね」
「……ジローさんと………はい、わかりました」
 レンはそう言って頷くと、キリトへとアイテムを三つとも実体化させた。
 その迷いないレンの行動に、キリトは少し驚いた。
 予想ではもう少し説得が必要か、開示するにしても支給される最大三個の内の、一個か二個だけだと思ってからだ。
 ……その方が助かるとはいえ、こうもあっさりと応じてくれるとなると、彼女の今後が心配になる。

 まあそれはともかく、レンに支給されたアイテムを一つ一つ確認する。
 彼女に支給されたアイテムは、二丁一対の拳銃、山吹色のプレート、鋲がたくさんついたベルトの三つだった。

 しかし、一つ目の拳銃のアビリティは非常に有効だったが、生憎とこちらは銃器メインのGGOですら光剣を愛用する様な生粋の剣士だ。
 もしこれが片手剣であれば一も二もなく貰いたかったところだが、銃では使いこなす事も難しい。
 二つ目のプレートは防具に該当するアイテムらしいが、残念ながら既に防具を装備している。
 防具のアビリティは現在効果を発揮できないが、その状態でもプレートと大差はなかった。
 三つ目のベルトはアクセサリに該当し、装備すればデバフ系のスキルを使えるようだ。
 だが自身の役割はあくまで前衛。ソロの時ならともかく、パーティーを組んでいるのなら、サポートは仲間に任せた方が効率的だろう。

697Confrontation;衝突 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:06:47 ID:fgufjUgg0

「それじゃあレンさん、これらのアイテムを装備して」
「はい……わかりました」
 そう言ってアイテムを返すと、レンは言われたとおりにメニューを操作してアイテムを装備していく。
 結果として三つともレンに装備させる事になったわけだが、元々レンに支給されたアイテムだ。だからきっと、これでよかったのだろう。
 それに、これで安心という事にはならないが、保険としては十分な装備になっているはずだ。
 あとは、俺がうまく立ち回れるかどうか、といったところだろう。

「レンさん、準備はできた?」
「はい。いつでも動けます」
「よし。それじゃあ行こうか、レンさん」
「はい」
 レンの準備が出来た事を確認すると、ウラインターネットの奥へと足を踏み入れる。
 ウラインターネットは迷路の様な複雑な構造になっている。闇雲に進んでも迷うだけだ。
 故に一先ず、ネットスラムへと向かう。そこからならば、ファンタジーエリアへと続くゲートへも移動しやすくなるだろう。

「………………、?」
 ふと、自分の傍から、遠ざかって行く足音が聞えた。
 レンはちゃんと付いてきているのかと、気になって振り返ってみれば、

 彼女は迷いなく、“目的地”へと向けて歩いていた。
 つまり、自身とは全く逆の方向――“野球場”へと。

「ってちょっと待ってレンさん! そっちじゃないって!」
「え? でも、ジローさんに会いに行くんですよね? だったら、野球場へ行かないと」
 慌てて引き返し、彼女の手を取って引き留めると、レンは不思議そうに答えた。
 彼女の視線は、野球場への最短ルート。つまりフレイムマンの待ち構えるゲートへと向いている。

「だから、あのゲートはフレイムマンがいて危険だから、一度迂回するって言っただろ」
「でも、ジローさんが……」
「っ……。必ず君を、ジローさんの所へ連れて行く。だから俺を、信じてくれ」
「でも、…………わかり……ました」
 レンは俯きがちにそう応える。その様子からは、彼女がまだ納得していないようにさえ感じ取れる
 それほどまでにジローに会いたいのか、それとも現状を理解できていないのか。
 いずれにせよ、このまま自由にさせていると、またフレイムマンのところへ行こうとするかもしれない。

 彼女の様子にそう判断し、勝手にどこかへ行かない様にレンの手を掴む。
 握手の時と違い……あるいは同じように、レンはその事に何の反応も返さない。
 まるで、手を繋ぐという事が解っていないかのようだ。

「行こう、レンさん」
「……はい」
 先程とは違い、躊躇っているかのようにその反応は鈍い。
 これは道中、非常に苦労しそうだと、キリトは思った。

     †

 ―――そうして、あれから数十分が経過した。
 迷路のように複雑に入り組んだウラインターネットを、頭の中でマッピングしながら進んでいく。
 マッピング自体は慣れた作業である為、通路の構造が変動しない限りは何の問題もない。
 だが正しい道を選んでいる自信はなかったし、なにより。

「はやく野球場に行かないと……ジローさんが、待ってるのに………」

 レンという少女の存在が、キリトの進行を遅らせていた。
 無意識の行動なのか、レンは少しでも目を離せば【B-10】のゲートへと向かおうとするのだ。
 しかもその傾向は、野球場から遠ざかるほど徐々に酷くなっていく。
 おかげでほとんど常にレンの手を取って移動せねばならず、必然とキリトの移動速度は彼女に合わせたものとなっていた。

「くそ。ネットスラムに辿り着ければ、現在位置や大まかな距離が割り出せるのに」

 キリトは自分の正確な位置さえ分からない状況に、マッピングを続けながらもそうぼやいた。
 これまでのマッピングから、自分達が地図で見て北側に向かっているのは判っている。
 だがまだ【B-10】に居るのか、それとも既に【A-10】に移っているのかが判別できないでいた。

「一度西側へ向かってみるか? さすがにそろそろネットスラムの近くだろう」
 ネットスラムは【A-10】と【B-10】を跨いでいるため、行き過ぎてさえいなければ辿り着ける。
 背後のレンを見てみれば彼女はいまだに名残惜しそうに南側――つまり野球場の方を見ていた。
 彼女の為にも、一刻も早くウラインターネットから脱出した方がいいだろう。

698Confrontation;衝突 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:07:28 ID:fgufjUgg0

「レンさん。これから進路を変えてみるけど、大丈夫?」
「そっちに行けば、ジローさんに会えるんですか?」
「それは判らないけど……でも、必ず君をジローさんのところへ連れて行くから」
「わかり……ました。ジローさんに会えるなら、がんばります」

 レンの心の中心にはいつもジローがいる。というより、彼以外の事を考えている様に見えない。
 かつてアスナがそうなりかけた様に、こんなデスゲームという極限の状況では、人の心は容易に追い込まれてしまう。
 だとすれば、彼女はジローに縋る事で壊れそうな心を守っているのか、あるいは、もうすでに――――

 いずれにせよ、ジローに会えれば彼女も少しは落ち着いてくれるだろう。
 だが逆に、ジローに依存しているレンの心は、時間が経てば経つほどに追い込まれていく。
 だから彼女が我慢できている今の内に、ジローが居るはずの野球場へ辿り着かなくてはならない。
 キリトはそう考え、レンの手を引きながら早足で先へと進んでいく。

 そんな中、キリトは不意に一人の少女を思い出した。
 ―――結城明日菜。自身の恋人である少女の事を。

「無事でいてくれ……アスナ」

 キリトはアスナの事を思い、思わずそう口にする。
 自分がこうしてここに居る以上、彼女がここに居ないとは限らない。
 仮に同様に巻き込まれていた場合、フレイムマンの様な強敵と彼女が遭遇しないとも限らないのだ。
 それにこの会場に居なかったとしても、こんな事態に巻き込まれた自分を知ったら、ジッとしているとも思えない。

 かつてアスナは、自分のいない世界など、生きている意味はないと言った。
 そう。自分が背負っているのは、決して自分一人だけの命ではない。
 彼女の為にも、こんなところで死ぬわけにはいかないのだと、キリトは決意を新たにした。

     2◆◆

 パネルの上に転がったアイテムの内二つをストレージへと回収し、詳細情報を確認する。
 分類はアーマーとアクセサリ。名称は【ゆらめきの虹鱗鎧】と【ゆらめきの虹鱗】。名前からして同系列のアイテムだろう。
 効果は防具の方が全てのダメージを二十五パーセント軽減し、アクセサリの方が獲得GPとドロップ率を二十五パーセント増加させるというものだ。
 防具の方は非常に有効だが、アクセサリの方はこのデスゲームにおいて意味があるのかと思わずにはいられない。
 しかし、支給された以上は何かしらの意味があるのだろうと判断し、メニューを操作して装備する。

 次いで三つ目のアイテム――先程破壊した人間が使っていた武器を手に取る。
 名称は【虚空ノ幻】。騎士の様な人間が使っていたとは思えない、禍々しい形状の剣だ。
 詳細を見てみれば、この剣には攻撃した相手のHPを吸収する効果があるようだ。これもまた、防具と同様に有効な武器だと言える。
 ただこの効果を発揮するには、この剣で直接、スキルを使わずにダメージを与える必要があるらしい。つまりは接近戦だ。

「………接近戦、か」
 先程の戦いを思い返す。
 騎士の様な格好の人間と、ネットナビと思われるロボットのコンビネーション。
 自身のオーラを破壊する程に息の合った一撃は、人間にしては感心に値するものだった。
 そしてそれにより浮き彫りになった、数少ない自身の欠点が一つ。即ち、近接攻撃手段の乏しさだ。

 無論、接近戦用の技術や能力(アビリティ)がないわけではない。
 だがこれまでに戦った大抵のナビは、シューティングバスターだけで事足りる程度に弱過ぎた。
 そして強敵相手では、小手先の技ではなくアースブレイカーの様な破壊力のある一撃がモノを言った。
 加えて、そもそもオーラを破壊できるナビなどそうおらず、大概において一方的な戦いが可能だった。
 だが今回の様に、他者と協力する事でオーラの破壊を可能とする二人組には出逢った事がなかった。
 なぜなら群れるのは弱者であり、強者とは孤高なる者だからだ。

 近接戦闘の攻撃手段とはようするに、多数を相手にした時の立ち回りだ。
 ザコならばいくら群れたところで物の数ではないが、もしオーラを破壊された状態であの二人と戦えば、常よりは手間取っていたかもしれない。
 ……もっとも、それでも自分が勝利したであろう事には、何の疑いも浮かばなかったが。

「試してみるか」
 メニューを操作して剣を装備し、一振りしてみる。……手応えはわからないが、感覚は悪くない。
 これを機に、現在の自分がどれほど接近戦に対応できるかを試してみるのも良いだろう。
 それにはやはり、それなりに近接戦闘が得意なヤツを相手にするのがいい。
 あるいはそいつを倒し、そのスキルなりアビリティなりを奪ってもいい。やりようはいくらでもある。

699Confrontation;衝突 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:08:36 ID:fgufjUgg0

「あとは相手だが……」
 デスゲームに呼ばれた時の状況から、このネット上には複数の人間がいる事はわかっている。
 だが今いるウラインターネットは複雑な構造をしており、ここで相手を探そうとなると一苦労するだろう。
 となると。

「ネットスラムとやらに行ってみるか」
 己の知るウラインターネットには存在しなかった区域、ネットスラム。
 そこならばきっと、誰かが興味本位に寄ってくるだろう。
 そう考え、四つ目のアイテム、付近をマッピングしたメモを手に取る。
 あまり探索できていなかったのか、マッピングされた領域はそれほど広くない。

「ふん……まあ、場所の予想は付けられるか」
 書かれた内容を記憶し、自身のソレと照らし合わせると、不要となったメモを捨てる。
 ネットスラムの場所のある方向の、大体の予想は付いた。あとはそこへ向かうだけだ。

「………………」
 最後に、足元に散らばるデータの残滓を一瞥する。
 人間のアバターはもう跡形もない。残るデータ片も、そう間もなく消えるだろう。
 浮かぶ感情は、やはり憎悪だけ。それ以外に懐く想いなどありはしない。
 ………ならばなぜ、憎悪という感情を懐くのか。その根源には、瞼を閉じて静かに蓋をした。

 やる事は変わらない。
 ネットの全てを破壊する。
 その為の“力”を手に入れる。
 “より強くなる”。―――それだけだ。

「…………ふん」
 と、苛立たしげに唸り、データの残滓から視線を切る。
 もうこの場所に居る意味はない。銀色のナビが戻ってくるかもしれないが、態々待ち構える理由もない。

 そうしてフォルテは、ネットスラムへと向けて立ち去った。
 ………人間への憎悪を、胸の内に滾らせながら。

     3◆◆◆

「―――ここが、ネットスラムか」
 そうして間もなく。キリト達は朽ち果てた廃墟の街の入口にいた。
 ネットスラムは、荒廃した街の名に相応しい有様で、いつかたった一度だけ見た対戦ステージに、どこか似通った雰囲気があった。
 とは言っても、あのステージのような、いかにも世紀末と言った感じではなく、どちらかと言えばジャンクヤードに近い感じではあるだが。

「ちょっと危なかったな。もう少し気付くのが遅かったら、通り過ぎている所だった」
 目的地に無事に辿り着けた安堵から、キリトはついそう零した。
 ノイズの中に紛れるようにしてあった光。それに気付かなければ、いまだにネットスラムを彷徨っている所だった。

 だが同時に、この会場は“意外に狭い”と言う事がこれで解った。
 およそ二百五十から三百メートル四方。それがキリトの導きだした、一エリアのサイズだ。
 これまでのマッピングから予測したエリアサイズだが、恐らく間違っていないだろう。
 だがバトルロワイアルの参加人数の関係からか、あるいは別の理由からかは分からないが、大人数の対戦フィールドとしては狭すぎる。
 これではまるで、バトルロワイアルが進行するのを急いでいるような印象さえ受ける。
 ただその場合、ゲートの形状の理由と、デスゲームの進行を急ぐ理由が矛盾してしまう。
 とは言っても、単純にウラインターネットだけがその形状、そのサイズなだけかもしれないが。
 加えて言えば、たったそれだけの距離なのにネットスラムを視認できなかったことも疑問だ。
 確かにウラインターネットは複雑であり、視覚を遮る障害物が無いとはいえ、薄暗く視界が悪い。
 だがそれでも、街規模の施設を見失わない程度には上下を確認していたはずなのだ。

 ………もしかしたら、ある一定以上の距離からは遠近エフェクトが通常より強く掛けられているのかもしれない。
 その強化された遠近エフェクトに、ウラインターネットの視界の悪さが相まってスラムの発見に手間取ったのだろうか。
 そんなふうにキリトは考えたが、今は先にすべき事があると頭を振って思考を棚上げした。
 掛けられたシステム制限の調査解析は重要だが、今はそれよりもレンをジローの下へと連れて行くことが先決だと判断したからだ。
 そうしてキリトは周囲を警戒しつつも、レンの手を引いてスラムへと足を踏み入れた。

「『ネットスラム』へようこそ☆」
 背後から唐突に声をかけられたのは、その直後だった。

「っ―――! って、犬……なのか?」
 驚きと共に振り返れば、そこには丸いテレビの様な頭をした、犬の様な何かが居た。
 見たところ、モーションはほとんど犬のものなのに、いや、だからこそテレビの頭部が異様さを醸し出している。

700Confrontation;衝突 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:09:25 ID:fgufjUgg0

「まあ、それはそうと、やっぱりここはネットスラムなのか。
 ……えっと、ここがどういうところなのか、教えてくれないか?」
 その犬(?)へと向けて質問を投げかける。
 彼の正体はわからないが、声を掛けてきたという事は、ある程度の応答する能力があるという事だ。
 今は多少の不明は放っておいて、少しでもネットスラムの情報を得るべきだろう。

「ハッカーと不正規AIの楽園……☆
 いってみれば、『The World』のジャンクデータの寄せ集めです」

 その言葉に周囲を見渡せば、まばらに人影を見かける事ができた。
 だが彼らのアバターは不気味に壊れて(バグって)いたり、まるで顔文字の様な頭をしていたりと、普通のゲームではありえない外見をしている。
 『The World』というのはわからないが、ジャンクデータという事は、普通は廃棄されるデータの集まりなのだろう。
 それをここの住人――ハッカー達がどうやってかサルベージし、あるいは改造して使用しているらしい。

「ハッカー……ってことは、ここにいる連中は、みんな違法プレイヤーなのか?
 というか、あんた達も俺達の様に、無理やりデスゲームに参加させられているのか?」
「そうだとも言えるし、違うとも言える。なにしろここの住人は全員、――――――。
 っと、これは禁則事項に触れる様だね、残念☆」
「禁則事項?」

 それはつまり、彼は何かを知っていて、それを喋る事を制限されているということか。
 彼の口調はどうにも真実味に欠けるが、これは非常に有益な情報だろう。制限を解除する事が出来れば、何かが解るかもしれないのだから。
 その事実に、ゲーマーの本能が若干騒いだ。

「いずれにしても、彼らがチーターである事に変わりはないさ。同じ反則どうし、アンタとは気が合うじゃないかな? 上手くすれば、アンタの望む情報が手に入るかもね☆」
 彼はそう言うと、話は終ったとばかりに体を反転させ、立ち去ろうとする。
 確かに情報が制限されている以上、現状彼から聞ける事はないだろう。特に引き止める理由はなかった。
 彼の去り際の、その言葉がなければ。

「まあ、アンタの場合はチーターって言うより、ビーターって言った方が適当だろうけど☆」

「なッ…………!」
 聞き逃せない言葉に、驚愕に声を上げる。「ビーター」と、彼は間違いなく口にした。
 それは間違いなくキリトを指す蔑称だ。だがそれは、SAOでの話で、そしてここは決してSAOではない。
 彼は一体何を知っているのかと、彼に掛けられた制限の事も忘れて追いかけて、
「あ……」
 繋いでいた手が離れた事で、ようやく彼女の存在を思い出した。

 思わず足を止め、レンへと振り返る。
 彼女は不安そうな表情で、何かを探す様にネットスラムを見回している。
 彼の去って行った方へと視線を戻せば、彼の姿はもう、どこにも見えなかった。

「一体どういう場所なんだ、ここは………」
 先程彼から聞いた情報があってなお、深まった謎に空を見上げる。
 黄昏に照らされたネットスラム空は、街並みとは段違いのクオリティ(美しさ)で鈍く輝いていた。

     †

 ―――あれからキリトは、辺りを見渡しつつもネットスラムを歩き、時には住人へと話しかけて何かしらの情報を得ようと試みた。
 だが、その行動は失敗に終わった。彼らのほとんどが意味不明な言葉を口にするばかりで、碌に会話にならなかったのだ。
 ここはハッカーと不正規AIの楽園との事だが、これまでに話しかけた住人からはプレイヤーの様な感情の揺らぎも感じられなかった
 おそらく彼らのほとんどはNPC――先程の犬(?)曰く、不正規AIなのだろう。本当にこのスラムに、ハッカー(人間)がいるのだろうか。

「はあ。これは……相当に時間がかかりそうだ。今は諦めた方がよさそうだ」
 キリトはそう口にすると、ネットスラムでの情報収集を断念した。
 ここのNPC達が当たり前のゲームのような存在(設定)なら、誰か一人くらいは何か有益な情報を持った人物もいるかもしれない。
 あるいはそうする事で制限が解除され、彼らの話せる内容が増えるのかもしれない。だとすれば、試す価値はあるが………。
 しかし、と繋いだままの手の先を見て、諦めるように首を振る。
 ソロで行動している時ならともかく、精神が不安定なレンを連れたままではそんな余裕はない。

701Confrontation;衝突 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:10:34 ID:fgufjUgg0

「……いつ、ジローさんに会えるんでしょうか?」
「それは……わからない。けど、必ずジローさんに会わせるから。だから今は、外に通じるゲートを探そう」
 ジローに会いたい。ただそれだけを口にするレンを、彼に合わせると言う事で落ち着かせる。
 確証のない約束を口にするたびに、かつての古傷が疼く。だが今はそれを気にしている場合ではない。
 このままジローに会えなければ、彼女はきっと制止の声を振り切ってでも勝手にジローを探しに行くだろう。
 そうなれば、彼女はフレイムマンの様な参加者に殺されてしまうかもしれない。それだけは、何としてでも避けなければいけない。

 ……時間そう残されていない。
 それは彼女だけではなく、自分の事に関してもそうだ。
 あの榊が仕掛けたというウィルスが、このアバターには潜伏しているのだから。

 キリトはそう思いつつも、記憶した地図とマッピングした通路の構造を照らし合わせる。
 スラムの位置が地図の通りであり、自身のマッピングが間違えてなければ、自分達が入ってきた場所はスラムの東側に位置する。
 だから反対側の西か、あるいは南側へと向かって進めば、フレイムマンを迂回して野球場へ辿り着けるはずだ。
 そう考え、レンの手を引きながら、ネットスラムの奥へと更に足を進めた。

 その時だった。
 自分達と同じように、この異質なスラムから浮いている人影を発見した。
「あいつは、確か………」
 ボロボロのローブを纏った、黒と橙を基調にした特徴的なアバター。
 最初の空間で爆音を響かせたプレイヤーに間違いないだろう。

「…………。
 ちょっと質問があるんだけど、いいか?」
 少し迷って、声をかける。
 ネットスラムの住人からは碌な情報を得られなかったため、彼から何か情報を得られないかと思ったのだ。
 だが彼がフレイムマンの様なプレイヤーだった場合の事を考え、少し警戒する。

「また人間か……」
 彼はキリト達を見据えると、つまらなそうに呟いた。
 その様子から推察するに、まず友好的とは考えづらい。最悪の場合、戦闘になる可能性もある。
 可能であれば彼の協力を得たかったところだが、止めておいた方がよさそうだ。
 そう判断したキリトは、念のためにと警戒を続けながら、慎重に質問をする。

「俺はキリト。あんたの名前は?」
「………フォルテだ」
「じゃあフォルテ、ジローさん……っていうか、他のプレイヤーを見なかったか?」
 名前を尋ね、重要な用件だけを聴く。単刀直入に、簡潔に。
 経験上、この手のタイプは馴合いを嫌う傾向がある。用件を済ませてさっさと離れた方が、厄介事を避けやすいのだ。
 加えて現在自分は、レンという厄介の種も抱え込んでいる。そんな自分に付き合わせては、余計な軋轢が生じるだけだ。
 今の状況……デスゲームでは特にそうだ。
 生き残るために協力は不可欠だが、合わない相手と無理に合わせようとしても、無駄な被害が生じ、結果として生存率は下がる。
 それくらいならば、平時は必要最低限の付き合いで済まし、緊急時にのみ協力し合うだけの関係が丁度いい。
 もし例外があるとすれば、それは―――――

「……ふん。人間の事など知らんし、興味もない」
「そうか、ならいいんだ。邪魔したな」
 キリトはそう言うと、即座に踵を返して背を向け、レンの背中へと庇うように腕を回して早急にフォルテから離れる。
 情報を得られないのであれば、長居をする理由はない。さっさとネットスラムから出て、ファンタジーエリアへと通じるゲートへと向かうべきだ。
 そうして数メートルほど移動したところで、

「ッ――――――!」
 じゃり、と土を踏む音が聞こえ、同時に奔った悪寒に背筋が粟立つ。
 思考するより速く、背後へと狙いも定めずに火剣・カガクを抜き放った。

 直後、響き渡る金属が打ち合う音。事態の確認より先にレンを抱え、更に後方へと飛び退く。
 そして着地と同時に振り返り、フォルテへと向き直れば、彼は振り抜いた位置にある右手を感心そうに見ていた。
 その数秒後、フォルテの手から弾き飛ばされた剣が、ネットスラムの地面に突き立った。

「ほう。今の一撃に完璧に対応するとは、お前も人間にしてはやるな。
 しかもこの手応え。接近戦は相当なものと見た」
 ニヤリと、フォルテの貌が凶悪に歪む。その表情はまるで、恰好の獲物を見つけたと言わんばかりだ。
 ………間違いない。フォルテはデスゲームにおける最悪の“例外”――レッドプレイヤーだ。

702Confrontation;衝突 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:11:24 ID:fgufjUgg0

「……一応訊いておくけど、どういうつもりだ」
「ふん。答える必要を感じないな」
 そう口にするフォルテからは、誰かを殺す事に対する覚悟や決意も、追い詰められたような切迫感も感じられない。
 つまりこいつは、デスゲームとは何の関係もなしに、他者を殺す事を良しとしているのだ。

「そうか……」
 小さく呟き、レンから手を離して火剣を構える。
 対するフォルテは、弾き飛ばされた剣を地面から引き抜き、無造作に構えている。
 それがフォルテの戦闘スタイルなのか。一見では型も何もないように感じられる。
 だがその全身から放たれているプレッシャーは、あの最凶のレッドプレイヤーを思い起こさせた。
 ……しかし。

「レンさん、危ないから離れてて」
 背後のレンへとそう指示をする。
「その女を庇いながら戦えるのか?」
「問題ないさ。それに生憎だけど、」
 フォルテが挑発するようにそう訊いて来るが、その心配は無用だろう。
 見たところ、フォルテの装備は禍々しい魔剣が一振りだけ。遠距離武器は見当たらない。
 周囲を慎重に探ってみても、感じ取れる気配は三つだけ。奇襲の可能性は低いと思われる。
 つまりレンを守るために意識を割く必要はなく、恐らくはその余裕もないだろう。それに何より、

「剣で負ける気は―――ないんでね!」
 気合の声と共に地面を強く踏み切り、一足でフォルテへと迫る。
 同時に片手剣ソードスキル〈レイジスパイク〉を、フォルテへと向けて突き放った。

     4◆◆◆◆

 ――――夢を見ている。

 ……あれは、いつの事だったか。
 今思い出しても、そいつは不思議なバーストリンカーだった。
 身につけた黒革のロングコートに、背負った黒と白銀の二本の剣。
 そして黒の王と同じ様な、《底知れなさ》を感じさせるその姿。
 何より妙だったのは、そいつが人間の姿だったという事だ。

 自身がそうであるように、通常のデュエルアバターはロボットめいた外見をしている。唯一つ知っている例外は、出逢ったばかりの頃の黒の王だ。
 彼女は本来のデュエルアバターを封印し、学内アバターを観戦用として登録する事で、生身に近い姿で加速世界へと訪れていた。
 だがその状態で対戦――必殺技が使えるかと聞かれれば……その答えはわからない。
 デュエルアバターに近い装備にすれば使えるのかもしれないが、尋ねた事も、試した事も一度もない。
 だがそいつは確かに、完全な人間の姿で、剣と拳を交え、必殺技を駆使し、限界まで自分と戦ったのだ。


 対戦の結果は、ほとんど互角と言っていい激戦の末の【DISCONNECTION】――回線の切断による、無効試合だった。
 やはり生身のデュエルアバターというのは、本来あり得ない、何かのイレギュラーだったのだろう。
 だがそれでも、負けていたのは自分だったと確信していた。何しろ相手は、こちらの最大の特徴である飛行能力を知らなかった。
 言ってしまえば、完全な不意打ちを決めたのに互角にまで持ち込まれ、更には最後の一撃さえも、おそらくは届かなかったのだから。

『いいデュエルだったぜ。いつかまた――戦ろう』

 回線切断によって消える際、そいつは最後にそう言い残した。
 夢の中で、その言葉に頷きを返す。
 そう。いつかまた、そいつと対戦する事があれば、今度こそ決着をつけたかった。
 あれから何人ものバーストリンカーと出逢い、幾つもの対戦を重ね、レベルも上がり強くなった。
 今ならば半ば不意打ち染みたことをせずとも、互角の対戦をくり広げられるはずだ。
 だから次こそは、お互いの全力を出し切って――――


 ―――ああ、でも。
 なぜ今頃になって、そいつの事を思い出しているのだろう。
 これではまるで、予知夢でも見ているかのよう――――

703Confrontation;衝突 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:12:08 ID:fgufjUgg0

     †

「う、っ――ぐッ。………あれ? ここは?」

 全身に走った痛みに、堪らず目を覚ました。
 とても深く眠っていたらしく、どうにも頭がはっきりしない。
 痛みで目を覚ました、という事は、ベッドからでも落ちたのだろうか。
 寝惚け眼に瞼を擦れば、金属みたいに硬質な感触。見れば、そこにはシルバー・クロウの腕。
 どういう事かと辺りを見渡せば、加速世界でも見たことのない様な風景が広がっていた。
 どうして自分はこんなところに居るのか。ぼんやりとした頭で最後の記憶を辿り、ようやく現状を正しく認識した。

「ッ………そうだ、バルムンクさん!」
 慌ててガバッと身を起こす。
 そうだ。今は謎のデスゲームの最中。そしてここは裏インターネットと呼ばれる場所だ。
 そこで翼を持った騎士――バルムンクと出逢い、そして先ほどまで、二人で黒い死神と戦っていたのだ。
 それから――――。

「……そうか。僕は吹き飛ばされたのか」
 思い出すのは、気を失う直前。
 あの死神のバリアを貫き、勝機を見出したその瞬間、閃光と伴に強烈な衝撃波が全身を打ち据えた。
 おそらくはその際に吹き飛ばされ、気を失ったのだ。見ればHPゲージも、残り五割を切っていた。


 改めて周囲を見渡す。
 迷路の様な空間が広がるばかりで、辺りに人影は全く見えない。
 戦いの音も聞こえないという事は、かなり遠くへと吹き飛ばされたのだろう。

「―――急がなきゃ。バルムンクさんが危ない」
 バルムンクは自分と同時に攻撃していた。まず間違いなく彼もダメージを受けている。
 自分と同じように吹き飛ばされ、あの死神と離れ離れになっていればいいが、そうでない場合、彼一人でアイツと戦わなければならなくなる。
 アイツを相手に、バルムンク一人で戦うのは危険が大き過ぎる。急いで合流する必要がある。

 背中から左右十枚の金属フィンを展開し、ノイズの奔る空へと飛び上がる。
 ウラインターネットは迷路のように複雑な構造をしており、慣れてない人間には詳細な地図でもないと迷いかねない。
 だが天井のない迷路など、空を飛べるシルバー・クロウにとっては平原と変わりない。その為に必要な必殺技ゲージも、ダメージによって十分溜まっている。
 当然空を飛べば、その分多くの人に見つかりやすく、同時に危険人物からも狙われやすくなるが、今はそのリスクよりもバルムンクの方が心配だった。

704バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:13:56 ID:fgufjUgg0

     5◆◆◆◆◆

「ハァア――ッ!」
 キリトの突進と共に、火剣がライトエフェクトに包まれる。
 放たれるソードスキルは単発系突進技〈レイジスパイク〉。
 基本技であるため威力は低いが、同時に硬直時間も短く、小手調べには丁度いい。

「フン………」
 対するフォルテは、魔剣をやはり無造作に振り上げ、力任せに振り下ろしてくる。
 スキルでなければ技ですらない一撃。それを、キリトの一撃を迎撃する為に火剣へと打ち合わせる。

 響き渡る金属音と、剣の柄から伝わる衝撃。
 フォルテの一撃の強さにキリトのソードスキルは中断させられ、
 キリトの一撃の鋭さにフォルテの剣閃は乱されて追撃が遅れる。
 結果、次撃は同時に放たれた。

「シィ――ッ!」
「ハァ……ッ!」
 硬直が解けると同時に放たれた火剣の一閃と、力任せに軌道修正された魔剣の一撃が、再び激突する。
「ツッ………!」
 打ち負けたのは……キリト。
 彼は弾かれた勢いを利用し、フォルテから距離を取る。

「ハ――STR(筋力)には自信があったんだけどな……!」
 剣を握る右手に残る衝撃に、キリトはそう愚痴る。
 SAOでは威力のある重い剣を振るために、STRへとステータスを注ぎ込んでいた。
 このデスゲームでもSAOのアバターが使われている以上、そのステータスは反映されているはずだ。
 だというのに、スキルですらないフォルテの一撃にほとんど完全に打ち負けた。

「けどアンタのソレは、ただの馬鹿力ってわけじゃなさそうだ」
 打ち合った時の感触で言うなら、重くて丈夫な鉄骨か何か。
 単純な攻撃力ではなく、むしろ攻撃を支える為のVIT(支柱)で殴りつけてきた様な、そんな感じがした。
 ……つまりフォルテは、まだ何かしらの“力”を隠し持っているという事だ。

「………御託は終りか? なら、次はこちらの番だな」
 そう告げると同時に、先程とは逆に、フォルテからキリトへと突進する。
 そしてキリトの前に立つと同時に、魔剣が大振りに振り下ろされた。

 勢いよく放たれる、大気を震わす一撃。
 だがキリトはそれに先んじてフォルテの脇を抜け、その攻撃を回避する。
 そして反撃とばかりに、振り返り様に火剣を一閃する。
 しかしそれは、追撃として放たれたフォルテの横薙ぎに弾かれた。
 だがさらなる一撃が放たれるより速く、キリトはフォルテから再び距離を取る。

「AGI(速さ)なら俺の方が上か。なら―――!」
 言うや否や、キリトが再び突進する。だが今度はソードスキルの発動はない。
 純粋な肉体(ステータス)の速さのみで、フォルテへと肉薄する。

「ッォ―――!」
 小さな気合とともに、火剣を一閃する。
 当然その一撃はフォルテの魔剣に防がれるが、反撃されるよりも早く次撃を繰り出す。
 それを三撃、四撃、五撃とテンポを上げて繰り返し、六撃目にソードスキルを織り込み放つ。

「ハァ―――ッ!」
 片手剣ソードスキル〈ホリゾンタル・スクエア〉。
 剣閃の軌跡が正方形を描き、水色の光に輝き拡がりながら消散する。
 高速で放たれる四連続の水平斬りは、しかし。
「クッ、ヅ……ッ!」
 その全てが、フォルテの魔剣によって防がれていた。

「やるな………!」
 フォルテの見せた底力に、キリトはこれが命を掛けた殺し合いという事も忘れて高揚する。
 さすがに反撃する余裕はなかったようだが、ソードスキルを見切り、完全に防ぎ切ったという時点で感嘆に値する。
 ここまで見事に対処されたのは、ヒースクリフを相手にした時以来だ。

「まだまだ行くぞ!」
「舐めるな……人間!」
 今度は同時に突進し、剣を振り被る。
 火剣と魔剣は激しく打ち合い、火花を散らす。
 このままであれば火剣は押し負け、またも弾き飛ばされるだろう。
 故にキリトは、敢えて剣を振るう力を抜き、魔剣の威力を受け流す。
 フォルテの魔剣は、より火花を散らしながら火剣の刀身を滑り抜ける。
 攻撃を受け流されたフォルテは、己自身の力の勢いに引っ張られて体勢を崩す。

705バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:15:05 ID:fgufjUgg0

「そこ!」
「チィ……ッ!」
 キリトは即座に剣閃を返し、フォルテへと一閃する。
 フォルテは舌打ちと共に後退するが、崩れた体勢では躱しきれず、右腕を切り裂かれる。
 だが、浅い。躊躇わずさらに踏み込み、再度フォルテへと火剣を振り抜く。

「クッ……!」
 疾風怒濤と振るわれる火剣にフォルテも魔剣で応戦するが、キリトの剣速に徐々に対応が遅れ始め、遂には一撃、更に一撃と攻撃が掠り始める。
 その一つ一つは傷にもならないような小さなダメージにしかならない。だがそれも積み重なれば致命傷に繋がる。

「いい加減に……しろ!」
 思うままに攻撃できない事に苛立ちを覚えたフォルテは、その苛立ちをぶつける様に魔剣を薙ぎ払った。
 キリトは大きく飛び退く事でその一撃を回避し、フォルテから十分な距離を取る。
 当然フォルテの追撃が間に合うはずもなく、フォルテは発散できなかった苛立ちを抱えたまま、魔剣をだらりと下げてキリトを睨みつける。
 対して後退したキリトの火剣の切っ先はピタリとフォルテを捉え、僅かにもぶれはない。
 その佇まいだけでも、キリトの剣とフォルテの剣の間には明確な開きがある事が理解出来る。

「………………」
 フォルテの一撃は、まともに受ければそれだけで追い込まれそうなほどに強烈だ。
 だがそれほどの威力を、フォルテは全く発揮できていなかった。
 ………それ故に惜しいと、キリトは思った。

「フォルテ………お前、剣を使った事ほとんどないだろ」
 キリトはフォルテへと向けて、その事実を口にする。
 フォルテの攻撃は、その威力に反してあまりにも雑に過ぎた。
 構えだけの話ではない。剣の振り方、力の乗せ方、その他の全てが、全く噛み合っていないのだ。
 これでは素人もいいところ。子供が力任せにこん棒を振っているのと変わりがない。

「――――――」
 否定する気もないのか、フォルテからの応えはない。
 同時に、フォルテには攻撃が当たらない事を悔しがる様子が全くなく、苛立ちだけが見て取れた。
 その様子に、キリトは確信した。元よりフォルテが何かを隠している感はあったが、それが勘違いでない事を。

「………………」
 キリトは地面を強く踏み込み、フォルテへと狙いを定める。
 本気を出せ、とは言わない。これは決闘ではないし、リトライのないデスゲームなのだ。
 相手の全力と戦ってみたいという気持ちはある。だが命を賭けた殺し合いにおいて、その感情は余分でしかない。
 故に、むしろその逆。本気を出される前に――――全力で仕留める!

「ハア――――ッ!」
 気合とともに、一足でフォルテへと肉薄する。
「舐めるなッ……!」
 対するフォルテは、魔剣を叩き付けるように振りかぶる。
 これまでと同じ、雑で大振りな攻撃。それに合わせる様に、キリトは火剣を振り抜く。
 ライトエフェクトを纏って放たれた〈ホリゾンタル〉は、狙い違う事なく魔剣の側面を打ち据えた。
 フォルテの筋力に後押しされた魔剣は弾かれる事はないが、その軌道は僅かに逸らされる。
 キリトは火剣を振り抜いた体勢から更に右半身を後ろへ反らし、軌道の逸れたフォルテの一撃を擦れ擦れで躱す。

「ッ―――!?」
「そこだッ!」
 同時に体勢をソードスキルの発動モーションへと持ち込み、そのまま〈バーチカル・アーク〉を発動させる。
 残光を残しながら放たれる振り下ろしの一撃。それをフォルテは、咄嗟に魔剣を振り上げる事で防ぐ。
 だが〈バーチカル・アーク〉はV字を描く二連撃。続く振り上げの二撃目が魔剣を跳ね上げる。

「捉えた!」
 そして三度発動するソードスキル〈シャープネイル〉。
 高速で繰り出される三連撃が、体勢を崩したフォルテへと放たれる。
 ………しかしフォルテは、またもその連撃を防いで見せた。

 一撃目は体を大きく反らす事で躱し、
 二撃目は魔剣を振り下ろして弾き返し、
 三撃目は上空へと跳躍する事で回避した。

 恐るべきは、崩れた体勢からそれを成し遂げるフォルテの反射神経と身体能力か。
 ―――されど彼は知らなかった。真に完成された技術が、如何なるものかという事を。

706バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:17:11 ID:fgufjUgg0


 頭上を跳び越えるフォルテを、キリトの視線が追う。
 引き戻されるその手の火剣が、新たなライトエフェクトを放ち始める。
 シャープネイルの特徴は硬直時間の短さ。つまり、ソードスキルの連続使用が可能な事にある。
 そして次に発動するソードスキルの名は〈ソニックリープ〉。レイジスパイクより射程は短いが、空中に対して使用可能な突進技だ。
「ォオオ―――ッ!」
 それが強く刀身を輝かせ、キリトの声に導かれるようにフォルテへと狙いを定める。
「なに………ッ!?」
 フォルテが声を上げるが、足場のない空中へと飛び上がった彼に避ける手段はない。

「これで―――!」
 閃く一撃。輝く火剣が、フォルテへと突き出される。
 対するフォルテは、魔剣を盾にキリトの一撃を防ぐ――いや、防ぐしかない。
 そして魔剣へと激突した火剣は、フォルテの体を強く突き上げ、その体制を完全に崩す。
 そして硬直時間が終わると同時に、再び火剣が引き戻され、更なるライトエフェクトに包まれる。

 ――ソードスキル〈ヴォーパルストライク〉。
 威力が高くリーチも長いが、技後の隙が多く対人などでは見切られやすいスキルだ。
 がしかし、完全な初見であればその心配はなく、加えてフォルテは現在、体勢を崩している。
 もはやフォルテには、この一撃を防ぎ切る術はない。

「止めだァ―――ッ!!」
 キリトが声を上げ、フォルテが地に足を付けると同時に発動する単発重攻撃。
 赤い光芒を纏った強烈な一撃が、ジェットエンジンの様な効果音を立てながらフォルテへと繰り出された。

 ガギィン……と、激しい金属音を立てて両者が激突する。
 その威力、衝撃に、フォルテの体が弾き飛ばされ、地面を転がる。
 スキルを放ったキリトは、剣を突き出した姿勢のまま、硬直時間に身を預ける。

 キリトの顔には、苦渋が浮かんでいる。理由は単純。フォルテを仕留めそこなったからだ。
 あの瞬間フォルテは、キリトの一撃をまたも魔剣を盾にして受け止め、そしてわざと力を抜いて激突の勢いに身を任せたのだ。
 戦いの初期で、フォルテの一撃に対してキリト自身がそうしたように。
 無論、技術錬度の差は、その体と、加えて魔剣が弾き飛ばされるという形で現れた。
 だが仕留め損ねたという事実に変わりはなく、それはつまり、フォルテに反撃のチャンスを与えたという事に他ならないのだ。
 そして一秒か、あるいは二秒か。空から落ちてきた魔剣が地面に突き刺さる音で、二人はようやく動き出す。

「ッ――――!」
「ッ…………!」
 二人の行動は迅速に。
 キリトは体を反転させて剣を構え、全速力でフォルテとの距離を詰める。
 フォルテは跳ね起きると同時に飛び退き、素早くキリトから距離を取る。
 前進と後退。その差は速度で勝るキリトへと傾き、両者の距離は縮まっていく。

「逃がすか!」
 キリトはより強く地面を蹴り、フォルテへと迫る。
 フォルテが隠し持つ何かしらの“力”。ただ使わないのか、それとも使えないのか、それは判らない。
 だがこれまでの攻防で感じ取れた力が発揮されてしまえば、高確率でこちらが不利になる。
 しかし魔剣を弾き飛ばされた今ならば、フォルテにこちらの攻撃を防ぐ武器はない。
 故に今の内に致命打を与え、戦況を自身に傾けなければならない。

「オオ―――ッ」
 キリトとフォルテの距離は、数秒と経たず一メートル程度まで詰められる。
 同時に、フォルテを攻撃圏内へと捉えた火剣がライトエフェクトに包まれる。
 戦いを決める一撃が発動する予兆に、キリトの精神が加速していく。

 ――この一撃を外す事は出来ない。
 ――敵は平気で不意打ちを行うレッドプレイヤー。
   ここで逃せば、その殺意は他のプレイヤーへと牙を剥く。
 ――しかしレンという枷を抱えた今の自分に、敵を追いかける事は出来ない。
   一人と大勢、その二つを天秤に掛ける事は間違っていると、頭では理解している。
   だがここで彼女を見捨てれば、きっと自分は、二度と自分を認める事が出来なくなる。
 ――だからこそ、たとえその命を奪う事になろうとも、今ここで決着を付けなければならない。

 ……だというのに。

「ッ―――!?」
 極限まで引き延ばされた意識が、フォルテの顔を、その変化を捉える。
 キリトの一撃を防ぐ術はなく、追い詰められたはずのフォルテの表情は、
 まるで獲物を捉えたかのように凶悪に歪んでいた。

707バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:19:12 ID:fgufjUgg0


 キリトの背筋に、雷撃の如く悪寒が奔る。
 フォルテの左腕が形を変え、バスターとなってキリトを捉える。
 遠距離攻撃――そう理解するより速く、ソードスキルを中断して回避行動に移る。
 直後、フォルテの左腕のバスターから無数の光弾が放たれ、直前までキリトが居た空間を貫いていく。

「ク、ソ……ッ!!」
 敵の奥の手。隠されていた力の発現に、キリトは堪らず悪態を付く。
 バスターから放たれた光弾はコートの裾を掠めただけで、一発も直撃はしていない。
 だが変形したのは左腕だけではない。逆の右腕も同様にバスターとなり、キリトへと狙いを定めていた。
 ―――前進と後退。
 速度で勝るキリトが距離を詰めたとしても、到達までに生じた時間が、天秤をフォルテへと傾けたのだ。

「ハッ、逃がすか!」
 先程のキリトと同じ言葉を、今度はフォルテが口にする。
 キリトへと突き付けた右腕のバスターから、その体を貫かんと無数の光弾が放たれる。
「ッ、ッ………!」
 そのマシンガンの如き銃撃を、キリトは地面を転がるように駆け回り回避する。
 その最中、ふと視界の端に、呆然と佇む一人の少女を捉えた。そう、浅井レンだ。
 彼女はこの状況でなお、逃げるでも隠れるでもなく、戦いが始まった場所で立ち竦んでいた。

「チ、ックソ………ッ!!」
 キリトは即座に方向転換をし、光弾の中をレンへと向けて駆け抜ける。
 突き付けられたバスターの銃口から弾道を予測し、急所に当たる物は火剣で弾くが、完全には防げない。
 弾き損ねた無数の光弾が、キリトの体を掠めHPを削り取る。
 それでも一発も直撃しなかったのは、彼自身の卓越した剣技があっての事だった。

「レンさん!」
 レンへと駆け寄り声をかけ、一歩も立ち止まらずにその体を抱え上げる。
「え? あれ?」
 急に抱き抱えられたレンは、現状をまるで分かってないのか当惑の声を上げる。
 その事にさすがに思うところが生じるが、今は気にしている余裕はない。
 ネットスラムを全速力で駆け抜け、廃ビルの影へと身を隠す。
 ――耳元の壁面を光弾が穿ち、破片を撒き散らした。

     †

「、ッハ……ハ……ハァ――」
 抱き抱えていた少女を地面に下ろし、全力疾走に乱れた息を整える。
 同時に光弾が掠めて出来た傷が、現実世界と同レベルの、確かな痛みを訴え始めた。

 ……その痛みと熱に、このデスゲームがSAO以上に死に近しい事を実感する。
 痛覚のカットされたSAOでは、その現実感の無さから「デスゲーム」を嘘だと考え、結果PKに奔る物も少なからずいた。
 だが「この世界」ではこうして、確かな痛みが存在している。即ち、よりリアルな「死」の感触が、そこにはあるのだ。

「――は。そういえば……」
 前にもゲームで痛みを覚えた事があったな、と、いつかの対戦を思い出した。
 あのゲームにも、これよりはマシだが、十分違法な痛覚フィードバックがあった。
 とはいっても、あれは後腐れのない気持ちのいいデュエルだった。だから、こんなデスゲームではないだろう。

 と、そこまで考え、つい先程――ネットスラムに踏み入った時もあの対戦の思い出した事に思い至る。
 こうして二度も連続で思い出すのは、何かの予感なのだろうかと考え、苦笑しつつも思考から追い出す。
 ――今考えるべきは昔の対戦ではなく、今まさに行っている殺し合いだ。

「………当然、居るよな」
 廃ビルの角から、慎重に顔を覗かせる。
 するとやはり、フォルテがこちらへと近づいてくる様子が窺える。
 一息に距離を詰めてこないのは、何かの時間稼ぎか、それとも余裕からか。
 視線を逆に向ければ、それなりに入り組んでいると予測できる、路地裏の入口が見て取れる。

708バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:19:53 ID:fgufjUgg0

「……………………」
 ――――どうする。
 フォルテの遠距離攻撃は、最大射程はまだ不明だが、その連射性は十分に脅威だ。
 レンを庇いながらでは、まず戦いにはならないだろう。
 一応レンは双銃を装備しているが、あれではフォルテの攻撃には対抗し得ない。一、二発撃ったところで、逆にいい的にされるだけだ。
 結果として自分は彼女を守るために壁にならざるを得なくなり、そうなれば二人揃ってフォルテの光弾にハチの巣にされるだけだ。

 ……ならば逃げる?
 フォルテという危険人物を放置する事に思うところはあるが、今考えるべきは、そもそも逃げられるのかという事だ。
 選択肢は二つ。フォルテと真正面から相対するか、路地裏へと逃げ込むか。
 今外に出れば、即座に遠距離攻撃が跳んで来るだろう。かと言って路地裏はどこに繋がっているか判らない。
 真正面から挑んでも、マシンガンの様な攻撃を防げなければハチの巣にされ、路地裏へ逃げても、袋小路に追い込まれればやはりハチの巣にされる。

「………………やるしか、ないか」
 深呼吸を一つする。フォルテと真正面から戦う覚悟を決める。
 そうだ。生き残りをかける以上、結局いつかは戦うしかないのだ。たまたまそれが、今だったというだけの話。
 加えて言えば、ここで逃げるのはキリトの性に合わない。

 ……それに勝算もある。決して無謀な戦いではない。
 フォルテは基本、遠距離攻撃型とみて間違いはないだろう。これまでの闘いからもそれは明らかだ。
 つまり、接近戦に弱い。あのマシンガンの如き光弾をくぐり抜け、懐にまで潜り込めれば勝てる。

「………レンさんはここでじっとして、身を隠していてくれ。
 すぐにあいつを倒して、戻ってくるから。そしたら、ジローさんを探しに行こう」
「ジローさん…………ジローさんは、どこ…………?」
 ジローの名前を口にする彼女からは、まともな返事はない。だがそれを気にしている余裕も、またない。
 最後にもう一度顔を覗かせ、フォルテとの距離を計る。ヤツの顔からは、余裕の笑みは消えていない。
 このままではどの道追い詰められる。だからそうなる前に、逆に奴を追い込まなければ。
 そうして戦場を確認した後、メニューを呼び出して操作し、設定を変更して決定する。

 ―――これは賭けだ。はっきり言って、そうする事に意味があるかは判らない。
 だが設定として存在している以上、何かしらの意味はあるはずなのだ。
 無論、意味があったとしても、フォルテがそれだけで勝てる相手ではないのは承知している。
 あれがヤツの“全力”とは到底思えないし、最初から手札を晒す様なプレイヤーはいない。
 だが少なくとも、あの遠距離攻撃に対しては、有利に進められるはずだ。

 設定の変更が反映され、アバターをエフェクトが包み込む。
 その瞬間、キリトは火剣を構え、廃ビルの角から飛び出した。


「ジローさん……どこに居るんですか、ジローさん? ……早く会いたいです、ジローさん……。ジローさん………ジローさん――――」


 今にも限界を超えようとする、一人の少女を置き去りにして――――。

     6◆◆◆◆◆◆

 ―――そうして数十分後、その場所は見つかった。
 見覚えのある構造。あちこち罅割れ、穴のあいたパネル。
 そこは間違いなく、バルムンクと共にあの死神と戦った場所だ。
 だが周囲のどこにも、バルムンクも、死神の姿も見当たらなかった。
 ただ置き去りにされた様に、たった一枚のメモだけが、残されていた。

「そんな……まさか、あいつに………?」
 メニューの時計を見れば、闘いが始まってから既に一時間以上は経っている。
 ブレインバーストで考えれば、通常対戦が優に二回以上行われ、終了している計算になる。
 つまりもし、バルムンクがあいつと戦っているのであれば、その生存は絶望的ということだ。

「……いや、対戦でも引き分けはあった。バルムンクさんが無事な可能性だって、まだある」
 もしかしたら、自分と同じように吹き飛ばされている可能性だってある。
 それに、仮にあいつに倒されていたとしても、リアルでも本当に死んでしまうかは判らないのだ。
 だからまだ、諦めるには早い。だから立ち上がれ。立ち上がって、飛び上がれ。と。
 ………そうやって必死に、自分に言い聞かせる。
 そうでもしなければ、このまま膝をついてしまって、二度と立ち上がれそうになかった。

709バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:20:50 ID:fgufjUgg0

 だって、本当はちゃんと、理解していた。この場所に辿り着いて、メモを見つけた時点で、とっくに。
 なぜならそのメモは、バルムンクのストレージにあった物だ。そして戦闘中に、メモを取り出す理由はない。
 戦いが終わり、安全を確認してから取り出した、なんて言い訳も効かない。
 なぜならこの場所は、戦いがあった場所だ。フォルテが倒されたのでもない限り、安全なんてありえない。
 そして、もしバルムンクがフォルテを倒したのだとしても、メモを置いていく理由は、どこにもない。

 つまり、このメモは……バルムンクからドロップし、不要と捨てられた以外に、あり得ないのだ。
 このデスゲームで出会ったばかりの彼との冒険は、こんなにも短時間で、あっさりと終わってしまったのだ。
 まるで………ゲームやマンガ、ラノベでよくある、冒険の始まり/プロローグの様に。

「諦める、もんか………最期まで、絶対に諦めるもんか―――」

 否定する。否定する。バルムンクの死を、否定する。
 バルムンクは生きている。そのアバターは四散しても、リアルでは生きている。
 だって、だってたかがVRで……たかがゲームで人を本当に殺す方法なんて――――

 ……あり得ないと、信じたかったのに。思い出したくなんか、なかったのに。
 かつて一度、実際に起きていた事を、多くのゲームをプレイしてきた自分の記憶は、思い出してしまった。
 ソードアート・オンライン―――二十年以上前に実在した、もはや忘れられた、世界初のフルダイブ対応VRMMORPGの事を。

「ぅ―――ぁ、…………ッ!」
 湧き上がる感情に、堪え切れず嗚咽が零れた。
 どんなに言い聞かせても、自分を騙しきれず涙が滲んだ。

 自分は知っている。
 今身に付けているはずのニューロリンカーには、SAOのナーヴギアのような、人を死に至らしめる程の強電磁パルスは発生させられない。
 つまり、どうプログラムを弄っても、物理的には死に至らしめられないのだ。

 けど……自分は知っている。
 ニューロリンカーには、人の記憶を削除する機能がある事を。
 その機能で、脳の生命維持に関わる記憶を消してしまえば、結果として――――人を、殺せてしまう。


「……ックショウ………チクショウ、チクショウ! どうして………こんな………」
 こんなデスゲームが、始まったのか。あの榊という男は、一体何が目的なのか。
 そんな今さらな疑問が、口を突いて出てきた。

 ……そんな事、解る筈がない。
 ログアウト? 普通のゲームでは当たり前の機能だ。
 元の場所への帰還? ログアウトすれば、自然と現実へと帰れる。
 あらゆるネットワークを掌握する権利? それは、人を殺してまで得る価値のある物なのか?

 確かに今の世の中、ネットを掌握すれば望みのままだろう。
 だがそれは、どう足掻いたところで、ネットで出来る事に限られる。
 そう。たとえ世界を支配したところで、死んだ人間は、生き返らないのだ。
 これならまだ、あらゆる望みが叶うという方が、希望が持てる。
 希望があるのなら、それに縋る人間だっていただろう。
 逆に希望がなければ、立ち上がる事さえ難しい。

 だからわからない。
 こんな希望の無い、個人の欲望しか叶えない報酬を用意した、榊の思惑が。

「…………ちがう。そんなこと、どうだっていい」
 そうだ。今大事なのは、そんなことではない。
 大事なのは、バルムンクが死んだという、その点だけだ。
 その死に対し、自分は……シルバー・クロウは、どう報いればいい。

 ……そんなこと、それこそ解るわけがない。
 バルムンクと一緒に居た時間は、あまりにも短い。
 たったそれだけの時間で、彼を理解出来たなどと言える訳がない。
 自分に解るのはただ一つ。彼がデスゲームを否定していたという事だけ。

「―――ああ、そうだ」
 それだけわかっていれば、十分だった。
 ならば、その意思を引き継げばいい。彼と同じように、脱出を目指せばいい。
 そしてもう二度と、バルムンクの様な人を、出さなければいい。
 そのためにも。

「アイツを……倒す!」
 その決意を、口にする。

710バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:21:55 ID:fgufjUgg0

 あの死神は、とてつもなく強い。
 たったの一撃で、それも直撃した訳でもないのに、HPを三割も吹き飛ばす破壊力。
 更にはこちらの攻撃をほとんど無効化する、全方位対応のバリア。
 そして――誰かを殺すことを厭わない、あの殺意。
 こと殺し合いにおいて、シルバー・クロウが勝っている点はほとんどないだろう。
 だがそれでも、負けられないモノが一つだけある。

 ――――そう、『心』だ。
 ブラック・ロータスと出逢ってから、様々なバーストリンカーと戦い、繋がり、時には傷つき、それでも立ち上がり、共に育んできた『心』。
 その『心』を力に変える、バーストリンカーの隠された力。即ち、《心意技》ならば、あの死神にも対抗しうるだろう。

 あの時は使う前に吹き飛ばされたのもあるが、それ以前に《心意技》を使う覚悟がなかった。
 なぜなら《心意技》には、ブレインバーストを――“加速世界”のバランスを壊しかねない力があるからだ。
 故に《心意技》には、相手が《心意技》を使用してきた時にしか使ってはならないという決まりがある。

 だがあの死神は、それ以前の、人間として最低限のルールを破った。
 もはや《心意技》を使う事に、躊躇う理由はない。

「アイツは絶対に、オレが倒す!」
 その言葉送り返し口にする。
 もう二度と、アイツに誰も殺させない。
 もう二度と、目の前で誰も死なせない。
 だから。

「見ていてください、バルムンクさん。
 必ず、このデスゲームを終わらせて見せます」
 そう決意を口にして、背中から十枚の金属フィンを展開する。

 殺し合いに乗ったプレイヤーは、きっとフォルテだけではないだろう。
 かといってこの殺し合いを完全に止める方法など、見当がつかない。
 それでも、この体が動く限り、この翼で飛べる限り、この手で届くところまで、足掻き続けてやる。

 そうしてシルバー・クロウは銀翼を羽ばたかせ、再び空へと飛び上がった。

     7◆◆◆◆◆◆◆

 ――フォルテは、キリトの隠れた廃ビルへと向かいながら、先程の戦いを反芻していた。
 その戦いにおいて、速さではキリトに後れを取ったが、力では自分の方が確実に上だった。
 少なくとも一撃を直撃させれば、それが決着となり得る程度には差があったはずだ。
 しかしその一撃がキリトに当たる事は、一度もなかった。

 その理由が“技”にあると、フォルテは理解していた。
 プログラムに設定されたモーションに依らない、己の肉体を使った純粋な剣技。
 ただ規定された通りにスキルを使うのではなく、スキルを巧みに使用する技術。
 単純なプログラムにはない、プレイヤースキルとも呼ばれる、いわゆるシステム外スキル。
 こればかりは経験によってのみ獲得できるものであり、ゲットアビリティプログラムでも奪えない。

 そう。こと剣において、己よりもキリトが上であることを、フォルテは認めたのだ。

「ク…………」
 しかしフォルテは、愉快気に口元を歪め、そう声を漏らした。
 確かに技においてはキリトが上だ。だがそんな事は“強さ”の前では些細だ。
 なぜならば、その差を無意味にする程の『絶対的な力』。それを手に入れればいいだけの事なのだから。

 ………だが、してやられたまま終わるというのも、面白くはない。
 そう思い、フォルテはメニューを開いて操作する。何も武器は、騎士を破壊して奪った剣だけではないのだ。
 たとえ剣では及ばなくとも、接近戦で一泡吹かせよう。全力を出すのは、それからでも遅くない。
 そして操作を終えメニューを閉じた時、タイミング良く廃ビルの角から、光に包まれた人影が跳び出した。
 ほぼ反射的にエアバーストを発動する。だが放たれた無数の光弾は、人影へと到達する前に全て弾かれた。

711バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:22:30 ID:fgufjUgg0

「む…………」
 先程とは段違いの迎撃精度。
 フォルテは改めて、自分の攻撃を防いだ人影を見据える。
 風になびく長い黒髪。F型にも思える細い身体付き。その姿は、一見では全くの別人と思えるほどに変容している。
 だが、その手に握られた剣だけは見間違えようがない。そいつは間違いなく、先程まで自分と戦っていた人間、キリトだ。

「ほう……スタイルチェンジか」
 キリトの外見の変化を、フォルテはそう推測する。
 ロックマンと同じ、自己能力の限定特化。それならば先ほどの迎撃精度も説明が付く。
 おそらくあれは、動体視力か反射神経、反応速度といった物を強化した姿なのだろう。
 つまり、こちらのシューティングバスターに対抗してきたという訳か。

「ハッ―――おもしろい!」
 それでこそ、“力”を見せつける価値があるというものだ。
 それに何より相手は戦う力を持った“人間”。実に力の振るいがいがある。
 ここは一つ、ただ力を見せつけて破壊する前に、決定的な敗北という物を刻みつけてやろうではないか。

     †

 エフェクトに包まれたまま廃ビルの角から飛び出すと同時に、体のいたる所が赤いラインにポイントされた。
 その瞬間、ラインの一本目と二本目の軌道を、火剣の刀身で寸分の狂いもなく遮る。
 直後、フォルテの放った光弾が、火剣の刀身に弾き飛ばされる。

 ―――行ける!
 そう確信するより速く右腕を閃かせ、三本目、四本目のラインに火剣を重ね合わせ、再び光弾を弾き飛ばす。
 再度右腕に伝わる、光弾を弾く衝撃。その痺れはむしろ、火剣を握る手に確かな感触を与える。
 そのまま次々と体に当たるラインと火剣を重ね合わせ、光弾を弾き、そうして命中弾の全てを火剣で叩き落す。

 ピタリと、剣の切っ先が止まる。
 いきなりの無茶が功を奏したのか、変化した体に、自分の意識が馴染んだのがよくわかる。
 そう。現在の自分は、先程までとは“体”が違う。それがどのような姿かは、鏡を見て確認するまでもないだろう。

 身長およそ160センチ、体重おそらく40キロそこそこ。
 艶やかな黒髪は肩のラインで鋭く切りそろえられ、肌は透き通るような白。
 唇が血の如く赤い――どう見ても少女としか言えない姿。

 ――GGOアバターM-B19型。
   それが現在の自分の“アバター(肉体)”だ。

「ほう……スタイルチェンジか」
 何か心当たりがあったのか、フォルテがそう口にする。
 だが正しくは、メニューの中に設定された【使用アバターの変更】だ。
 その機能により自分は、《SAOアバター》から《GGOアバター》へと姿を変えたのだ。

「ハッ―――おもしろい!」
 フォルテが愉快気に貌を歪め、両腕のバスターから光弾を乱射してくる。
 いくつもの赤いラインが体をポイントするが、恐れる事なく自分から突進する。
 放たれる無数の光弾、その内自身に当たる物だけを選出し、先んじて弾道に重ねた火剣で弾き飛ばす。
 そして「当たらないはず」の光弾が、唸りを上げて耳元を通り過ぎていく。


 《弾道予測線(バレット・ライン)》――それが、キリトの視界に映る赤いラインの正体だ。
 バスターと化したフォルテの両腕から延びるそれは、光弾の弾道を寸分もずれる事なくキリトへと教えている。
 ならば、あとはそのラインに合わせて回避なり、防御なりをすればいい。それこそが、GGOの最大の特徴なのだから。
 とは言っても、このような迎撃を可能とするのは、キリトの驚異的な反射神経があっての物なのだが。

 キリトが使用アバターをGGOアバターへと変更したのは、このアビリティを得るためだった。
 一、二発程度の単発攻撃ならともかく、マシンガンの如き掃射を相手にしては、さすがのキリトといえど接近は難しかった。
 《弾道予測線》を視認できるGGOアバターならば、その限りではない。フォルテの遠距離攻撃に、一種の印が出来るのだから。

 もっとも、当初はキリトとて、《弾道予測線》を視認できるかは半信半疑だった。
 なぜなら【使用アバターの変更】とはつまるところ、ゲームのプレイ中に違うゲームのデータを持ち込むという事だからだ。
 通常のゲームでそんな事をすれば、使用システムの不一致に当然バグる。最悪の場合、ソードスキルさえ使用できなくなる可能性さえあった。

 しかし、結果はこの通り。
 《弾道予測線》は正常に適応され、フォルテの攻撃の弾道は、キリトの目に見える物となった。
 やはりと言うべきか、当然と言うべきか。HP残量こそ変わらないが、それでも十分な結果だ。
 つまりキリトは、賭けに勝ったのだ。あと確かめる事は、もう一つ。
 そう考えると同時に、キリトはまたも、光弾を全て叩き落とした。

712バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:23:53 ID:fgufjUgg0


「クハッ………!」
 その絶技を目の当たりにしてか、フォルテの貌がさらなる喜悦に歪む。
「――――――!」
 特に気に留める事なく、間合いに入った瞬間に体を小さく右に捻り、直突きの型に火剣を構える。
 即ち片手剣ソードスキル、〈ヴォーパルストライク〉の構えだ。
 しかし、火剣はライトエフェクトに包まれず、システムアシストも発生しない。
 ―――GGOアバターでは、ソードスキルは発動しない。
 その予測通りの結果に立ち止まる事なく、偽りの大地を強く踏み込み、全力の直突きを叩き込む。
 しかし、システムアシストのない一撃では速度が足りず、フォルテは容易にその一撃を回避する。

「遅い……!」
 言うや否や、フォルテは右手にエネルギーを集め、強烈な一撃を放とうとする。
 ……しかし、システムアシストがないという事は同時に、スキル使用による硬直時間がないという事でもある。

「ハァ――ッ!」
 直突きが回避されると同時に体を制動させ、即座に背面へと転進する。
 そして硬直を狙ったフォルテへと、カウンターの一撃を叩き込む。
「ッ………!」
 対するフォルテは、咄嗟に大きく仰け反りその一撃を回避する。
 しかし完全には回避できず、火剣の切っ先が胸部を浅く切り裂いた。

 ―――瞬間。
    フォルテの脳裏に、始まり/終わりの光景が再生された。

「図に、乗るなァ――ッ!」
 激しく燃え上がった激情のまま、フォルテは収束させたエネルギーを地面へと叩き付ける。
 咄嗟に大きく飛び退くも、強烈な一撃によって発生した爆風に、更に大きく吹き飛ばされた。
 ……しかしこれで、二つ目の目的も達成された。

「殺ス……ッ!」
 何が逆鱗に触れたのか、フォルテの表情は先程までの愉快気な表情とはうって変わって、激しい怒りに満ちている。
 見てみれば、先程の一撃を受けたネットスラムの地面は、そのあまりの威力にテクスチャが崩壊していた。
 これがフォルテの“全力”。その身に秘めていた力の正体………。
 これをまともに受ければ、自分のアバターなど跡形も残るまい。

「ッ、ハ―――やってみろよ……!」
 それを承知で、ツバを飲みながらも挑発する。
 条件は整った。確かに今の一撃は脅威だが、当たらなければどうという事はない。
 それを可能とする武器は、既にこの手にあるのだから。

「…………キサマ」
 左手に握られたその武器を見て、フォルテが多少の冷静さを取り戻す。
 出来ればそのまま冷静さを欠いていて欲しかったが、さすがにそれは高望だったか。
 なにしろ俺の左手には現在、先程までフォルテが使っていた魔剣が握られているのだから。
 右手の火剣と、左手の魔剣――この《二刀流》こそが、剣士キリトの真骨頂だ。

「行くぜッ!」
 眼前のフォルテを見据え、気合の声とともに地面を蹴って突進する。
 対するフォルテは、先程と同じように両腕から光弾を乱射してくる。
 当然立ち止まらず、むしろさらに加速して二本の剣を交互に振るう。
 そして光弾全てを叩き落とし、フォルテを剣の間合いへと捉える。

「チィ……ッ!」
 フォルテは舌打ちとともに後退するが、間合いから逃げるにはもう遅い。
 火剣と魔剣を交互に、十字を描く様に一閃する。
「ッ……!?」
 だが二本の剣は、フォルテの左手が変化した光剣によって防がれた。
 やはりフォルテは、まだ手札を残していた。
 この分ではどんな能力を隠し持っているか、分かったものではない。
 故に、その能力を発揮する前に、ここで決める―――!

「オオオ――ッ!」
 火剣と魔剣を間断なく振り抜く。
 フォルテは光剣で防御に徹するが、その守りを崩さんと怒涛の連続攻撃を叩き込む。
 一撃、二撃、三撃、四撃と、剣を受ける度にフォルテの防御は削られ、少しずつ体勢を崩していく。
 そうして放たれる、ソードスキル〈ダブルサーキュラー〉もどき。
 一際大きくフォルテへと踏み込み、渾身の力で右の火剣を振り上げ、コンマ一秒遅れて、今度は左の魔剣で袈裟に振り下ろす。
 右の一撃が阻まれても、その隙に左の追撃が敵内部へ襲いかかる高速の二刀連撃は、しかし。

「ッ………!」
 ――――軽いッ!
 先んじた一撃の手応えに、思わず目を見開く。
 フォルテの光剣は火剣の一撃を受け、体の外側へ大きく弾き飛ばされている。
 一見すれば、追撃の防ぎようがない文句なしの状況。しかしその手応えが、あまりにも軽過ぎた。

713バーサス ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:24:39 ID:fgufjUgg0

 そこに襲いかかる、コンマ一秒遅れの追撃。だがその一撃は、空しく宙を切り裂いて終わった。
 なぜなら防御を崩されたはずのフォルテが、地面に接する程に伏せる事で回避したからだ。
 そう。フォルテは初撃の防御を囮にする事で、続く追撃を回避し、その隙を突く猶予を作り出したのだ。

 マズイ……ッ!
 そんな、確信に満ちた悪寒が背筋を奔り抜ける。
 フォルテの光剣は大きく弾かれたままで、引き戻して反撃に使うには遅すぎる。
 硬直時間もない。回避には十分な余裕がある。むしろ攻め入る隙さえある。
 だというのに、どうしてこんな悪寒が奔るのか。

 その答えは、フォルテの右腕の動作が示していた。
 光弾による攻撃ではない。それならば、多少のダメージを覚悟すれば、逆に大ダメージを与えられる。
 そうではなく、フォルテの右腕は、刀を居合い抜くような位置で左腰に添えられていた。

「まだ武器が!?」
 そう理解すると同時に、渾身の力で飛び退く。
 振り抜いた姿勢からの迎撃と、既に構えられた一閃。そのどちらが速いかなど比べるまでもない。
 フォルテの右腕が武器の具現化エフェクトに包まれて輝き、大振りに振り抜かれる。
 具現化と同時に迫る凶刃は、こちらの後退に合わせる様にその間合いを伸ばしていく。

「ぐっ……!」
 その間合いの広さに回避し切れず、今度はこちらが胸部を浅く切り裂かれる。
 鋭い痛みを堪えつつさらに距離を取り、フォルテが新たに取り出した武器を確認する。

 それは、よくある死神の凶器を連想させる、黒い月魄の大鎌だった。

「クク………」
 一矢報いた事で気を良くしたのか、フォルテが愉快気に笑う。
 その左手は何かを確かめる様に、胸部の傷をゆっくり撫でている。

 ……いや、それは古い傷痕だった。
 こちらの付けた傷は、その傷痕の上に小さく残っているのみだ。
 その傷の浅さと、先程の手応えの差異に、フォルテの持つ大鎌の効果を察する。

 ――HP吸収(ドレイン)。
   相手にダメージを与える度に自らのダメージを回復する、攻撃と回復が一体となったアビリティ。

 その吸収倍率がどれほどかは知らないが、厄介なことこの上ない追加効果だ。
 だが同時に、フォルテがあそこまで激高した理由も察しがついた。
 おそらくあの傷痕は、フォルテのトラウマなのだろう。そこを傷付けた事で、ヤツのトラウマを刺激してしまったのだ。

 ………だが、それが分かったところで、今は何の意味もない。
 なぜなら今は話し合いの時ではなく、またフォルテの事情も、何一つ知らないからだ。
 故に何を言ったところで、戦いを終わらせる事は出来ない。
 もし気付いた事に意味があるとすれば、それは戦いが終わった後の事だろう。

「………………」
 メニューを操作し、使用アバターをSAOアバターへと戻す。
 フォルテが武器を、それも大振りな大鎌を装備したのなら、《弾道予測線》に頼る必要はない。
 ヤツは武器得を手放さない限り片腕からしか光弾を発射できないし、こちらは逆に二刀流となり迎撃の手数が増えているからだ。

「ほう……いいのか、そのスタイルで?」
「いいんだよ。むしろこの姿が、俺の本来のスタイルだからな」
「そうか。ならばその力―――オレに見せてみろ!」
 フォルテが大鎌を振り上げ、声を上げて突進してくる。
 それに応じる様に、こちらも剣を構えて突進する。

 渾身の力で振り抜かれるお互いの武器。
 死を刻む凶刃と、火と幻の双刃が激突し火花を散らす。
 黒き色を持つ二人の戦いは、未だに終わりの兆しを見せなかった。

714バースト、エンド ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:27:12 ID:fgufjUgg0

     8◆◆◆◆◆◆◆◆

 ―――そうしてシルバー・クロウは、廃墟の街に辿り着いた。
 飛行中に不意に見えた光を目指していると、唐突に視界が雲に覆われ、次の瞬間には夕暮の空を飛んでいた。
 その唐突に風景の切り替えは、まさにゲームにおけるマップの変化の様だった。

「ここが、ネットスラム……なのか?」
 山吹色に輝く空の中、その神秘的な風景に圧倒されつつも、そう口にする。
 眼下を見れば、そこには灰色の街が広がっている。人影は、この場所からは見えない。
 必殺技ゲージもそろそろ心許ない。一先ず街に降りる事にした。

「風化ステージと黄昏ステージの中間って感じかな。
 けど、ちょっとクオリティが物足りないかな?」
 灰色に風化した街並みは風化ステージの特徴だが、その灰色の街を夕陽が照らす事で、何とも言えない雰囲気を醸し出している。
 ただ惜しむらくは、どうにもクオリティが一昔の物だということか。
 雲のエフェクトさえ上手く作れば簡単な空と違い、手短な位置にある建物はその粗さが浮き彫りとなっている。
 さすがに加速世界のクオリティと比べるのはアレだが、どうにも自分のデュエルアバターとの落差に違和感を覚える。

「それはそうと、これからどうしようか……」
 一緒に来るはずだったバルムンクは、既にいない。
 ここは『The World』の違法サーバーらしいが、知らないゲームのサーバーではどうにも勝手が分からない。
 なにしろ、本来のネットスラム自体を知らないのだ。判断のしようがない。
 こんなないない尽くしでは、どうにも調べようがない。が。

「それなら地道に、調べて回ればいいだけだ」
 RPGの基本。街のNPCに話しかけて回る、だ。
 そうと決まれば、さっそく。と意気込んだところで、

「コンニチワ」
 トントン、と唐突に背中を叩かれ、そう声を掛けられた。

「うひゃあ!? ……って、お、女の子?」
 それにビックリして声を上げ、慌てて振り返れば、そこには小さな女の子がいた。
 一見すれば、簡素なワンピースを身に付け、その背中には小さな羽根があるだけの、普通の少女だ。
 その様子から、敵という訳ではないだろうと予想する。
 だがそれなら、一体どういう目的で声を掛けてきたのかと考えていると、

「アナタはオワリを探すヒト?」
「……へ?」
 彼女は焦点の合っていない瞳でこっちを見つめ、そう問いかけてきた。
 『終わり』? それは一体、何の終わりを意味しているのだろう。
 それともこれは、何かしらのクエストのフラグなのだろうか。

「オワリってドコ? ドコにアル? オワリってナニ?」
 少女は繰り返し、『終わり』について訊いてくる。
 ただその様子におかしなものを覚え、改めて少女の姿を確かめ、そうして気付いた。
 少女の身体は、テクスチャがあちこち剥がれ、変色している。
 データが、壊れているのだ。

「オワリってドコ? オワリって何?」
 少女は繰り返し、『終わり』について訊いてくる。
 その様は、いっそ憐れにさえ思える。
 このまま放置すれば、恐らく擦り切れて壊れるまで、誰かに同じことを訊き続けるのだろう。
 そう思うと、いてもたってもいられず、つい声をかけた。

「…………君」
「? アナタ、オワリをシッテル?」
「えっと……多分、知らない……かな? けど――って、え?」
 少女の問いに、精一杯一生懸命に答えようとしていると、少女は笑みを浮かべてこっちの手を取った。
 そしてそのまま、どこかへ連れて行こうとするかのように引っ張ってくる。

「コッチ。コッチだよ」
「あ、ちょっと待って」
 少女に手を引かれ、導かれるままに灰色の街を歩く。
 そうしてそう時間が掛かる事もなく、ひときわ茜色に染まった場所へと辿り着いた。
 ふと気が付けば、先程の少女は姿を消していた。役目を終えた、という事だろうか。

「………………」
 それならいいなと思いつつ、周囲に視線を巡らせると、すぐにその姿を見つけた。
 積み上がった瓦礫の上に立ち、焦点の合わない瞳を虚空に向ける一人の少女。
 彼女は赤いローブを身に纏い、銀に淡く光る髪を風に揺らしている
 おそらく彼女が、羽根の少女が会わせたかった人物だろう。

715バースト、エンド ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:28:16 ID:fgufjUgg0

「アナタは終わりを探すヒト?」
 声を掛けようと近づけば、少女はこちらに視線を向けないままに、やはりそう訊いて来た。
 その声は、羽根の少女のものよりも大分しっかりとしていた。おそらく彼女なら、まっとうな答えが返ってくるのだろう。
 そしてこの問いに答える事が、このクエストを始める方法なのだろう。

「オワリは、アナタのノゾむカタチではないかもしれない。
 ソレデモアナタは、《オワリ》を探す?」
「――――――」
 その問いかけに、いつかニコと語り合った時の事を思い出した。
 バーストリンカーがレベル10になった時、ブレイン・バーストは《クリア》され、強制アンインストールされる。
 それを恐れ、『加速世界の存続のため』という理由で現状維持を謳う王たちと、その中で一人、レベル10を目指す黒の王。
 その中で出てきた、エンディングのないゲームの、あまりにも理不尽な《世界の終り》の話を。

「探すさ」
 気が付けば、想いのままにそう答えていた。
 ああ、そうだ。それは、あの時だって思った事だ。
 たとえ望まないカタチであっても、エンディングがあるのなら、それを目指す事の方がずっと正しいことなんだ。
 そして自分の意思でエンディングを目指した以上、
「それがどんな《終わり》でも、僕は受け止めて見せる」

 その答えに初めて、少女がこちらへと視線を向けた。
 焦点がずれたままの少女の瞳は、こちらの姿を確かに捉えて、ふわりと柔らかくほほ笑んだ。

「そう。それなら、【noitnetni.cyl】を探して」
「え? ………あ」
 そう告げると同時に、少女の姿がノイズに揺らぎ、そのまま景色と同化するように薄らいでいく。
 クエストが、始まったのだ。

「アナタのオワリが、アナタに優しいものでありますように」
 そう言い残して、少女は完全に消え去った。
 後には灰色の街には不釣り合いな、赤い彼岸花だけが残されている。

 【noitnetni.cyl】――何かの拡張子の様だが、今それは重要ではない。
 問題は、残された短い時間で、それを見つけられるかどうかの方だ。けど、
「目的が出来たのなら、あとは目指すだけだ。さあ、頑張るぞ!」
 そう口にして気合を入れ、彼岸花に背を向けた。

 その、直後。
 大地を揺るがすような衝撃音が響き渡った。

「な、なんだ!? ……まさか、誰かが戦っているのか!?」
 その事に思い至り、同時にあの死神の事を思い出した。
 最初に不意打ちを受けた時の攻撃。あれならこれほどの衝撃音を出せるかもしれない。
 だとしたら、今死神と戦っているプレイヤーは――――

「ッ――――!」
 その思考が終わるより速く、音の発生源を目指して駆け出す。
 もう誰も殺させないと、目の前で誰も死なせないと誓ったのだ。
 だから間に合えと、心の底から強く念じながら。

     9◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 命を狩り取る大鎌の一撃を、火剣と魔剣を連続して振り抜き迎撃する。
 激突し火花を散す互角の一撃は、お互いに追撃をさせる事なく相殺し合う。
 しかし、連撃の交錯はまだ終らない。力任せに翻された大鎌を、二刀を交差して受け止める。

「グッ………!」
 そのあまりの威力に、体が一メートルほど弾き飛ばされる。
 即座に距離を詰め直し、火剣と魔剣で攻め立てるが、その時には既に大鎌が迫り来る。
 フォルテは手数と速度で勝るこちらの攻撃を、力任せの攻撃を迎撃させる事で相殺している。
 しかも恐るべきことに、それほどの威力を放つ大鎌は、ヤツの右腕一本で振り回されているのだ。
 そして開いた左腕はと言えば、当然―――

716バースト、エンド ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:28:56 ID:fgufjUgg0

「このッ――!」
 二刀で防いだ大鎌を受け流し、そのままフォルテの懐へと潜り込むが、ヤツの左腕が変化した光剣がそれ以上の進行を阻む。
 その直後には再び大鎌が翻り、その一撃に対処せざるを得なくなる。
 そうして距離が開けば、今度はバスターへと形を変え、マシンガンの様に光弾を乱射してくる。

「チィ……ッ!」
 放たれた光弾を、フォルテの周囲を回り込むように回避し、再びフォルテへと向けて突進する。
 そこに大鎌が薙ぎ払われ、こちらも二刀を振り抜いて迎撃し、お互いの武器は焼き直しの様に激突する。

 中距離範囲を薙ぎ払う大鎌と、遠近両方に対応できる左腕。
 大鎌の遠心力に振り回されるため、さすがに同時使用される事はないが、それでも容易には突破させてくれない。

「どうした。キサマの力はそんなものか!」
「まだまだ―――ッ!」
 フォルテの挑発に、より苛烈に攻め立てる事で応える。
 勝算はある。確かにフォルテの攻撃は強烈で、一撃でも直撃すれば一気に追い詰められるだろう。
 だがそれはこちらも同じだ。
 GGOアバターで《弾道予測線》が見えた様に、このSAOアバターならば、ユニークスキル《二刀流》が発動するはずだ。
 そして怒涛の連続攻撃を誇る二刀流ソードスキルを直撃させれば、さすがのフォルテだって立ってはいられまい。
 ならばあとは、その隙を生み出せばいいだけの事――――!

「ハァ―――ッ!」
 気勢の声を上げて放つ、電光石火の如き剣の舞
 フォルテが大鎌で一手放つ間に、二刀で三か四手を叩き込む。
 一撃の威力で敵わないなら、相手に勝る敏捷性でフォルテの守りを攻め崩す。

 目まぐるしい足捌きで位置を変え、二刀を間断なく振り抜く。
 今でも十分すぎるほど速い。だが相手に届かなければ意味はない。
 故に次の一撃。さらに次の一撃と、二本の剣を振る速度を上げていく。

「オオォオ――――!!」

 強く。今のが防がれるのならより強く。
 多く。今のが捌かれるのならより多く。
 速く。もっと速く。今よりも速く。限界を越えて、その先へ――――。

「――――――ッ!!!」
 加速する。周囲の景色は次第に減速し初め、意識が肉体を置き去りに先行する。
 両腕にしかと握られた二刀は、既に開始時の倍近い速度で振るわれている。
 絶え間ない剣の嵐は更に加速を続け、次第にフォルテの守りを崩し始め、

「な――――――んで………ッ!?」

 まるで小石に躓いたかのように、その速度を鈍らせた。

 その姿に気付いたのは、恐らくほぼ同時だった。
 その証拠にフォルテの表情は、追い込まれていたとは思えないほど喜悦に歪んでいた。
 それによって生じた焦りが、まだ早いと解っていながら、勝負の一手を急がせた。
 そしてそれが、この戦いの行方を、決定付けてしまった………。

「ッ、――――ッァ!!」
 なぜ彼女がそこに居るのかとか、
 どうして隠れていなかったのかとか、
 なんで廃ビルの角から出てきたのかとか、
 そんな、レンに対する感情を置き去りにして、
 脳裏に奔った最悪の予感を防ぐために、二刀流ソードスキル〈ダブルサーキュラー〉を繰り出す。

 予想通りに発動した、システムアシストに後押しされた超高速の二刀連撃。
 右の火剣が大鎌を弾き、左の魔剣が光剣を弾き、しかし、フォルテの体勢を崩しきるには至らない。ソードスキルの発動が速すぎたのだ。
 そして発生した硬直時間の間に、フォルテは後退して体勢を立て直す。
 ―――故にその前に、更なる超高速の連続攻撃で以って、ここでフォルテを倒しきる。

「ウオォォオオオ―――!!」
 両手の二刀がライトエフェクトに包まれ、銃弾の如き超高速で連続して振り抜かれる。
 火剣と魔剣は吹き上がる太陽のコロナのごとく、フォルテへと剣尖が全方位から殺到する。
 計27連撃を誇る、二刀流最上位ソードスキル〈ジ・イクリプス〉。
 その疾風怒濤の二刀連撃に対し、フォルテは遂に大鎌を両手で握り、刃だけではなく柄も使って二刀を防いでいく。
 片腕で持っていては、武器が弾かれると察したのだ。

717バースト、エンド ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:29:42 ID:fgufjUgg0

「ハァァアアア――――――ッッ!!!!」

 一撃、二撃、三撃、四撃――――
 二刀の刃が、大鎌の刃に、柄に弾かれ火花を散らし、

 六撃、七撃、八撃、九撃――――
 右の一撃を防いだ瞬間に迫る左の一撃に、鉄壁の守りが崩され始め、

 十一、十二、十三、十四――――
 続く十五撃目で大鎌が弾かれ、フォルテの体勢が完全に崩れた。

「これで―――ッ!!!」
 十六撃目を、無防備となったフォルテの胴体に叩き込む。
 今のフォルテには、この一撃を含め、残る十二連撃を防ぐ術はない。
 ライトエフェクトに包まれた火剣と魔剣は、ヤツの身体を徹底的に切り刻むだろう。
 だというのに―――

「―――惜しかったな。時間切れだ」
 余裕の笑みを浮かべて、フォルテはそう告げた。
 振り抜かれた二刀は、何かに阻まれ、ヤツの体に届く事なく空を切った。
 それが何かしらのバリアだと気付いたところで、もはや剣は止まらず、もうどうする事も出来なかった。

「う、ウオォォオオ………ッ!!」
 せめてもの抵抗として、火剣と魔剣を全力で振るう。
 フォルテが体勢を立て直す前に、バリアの耐久値を削りきる。
 ヤツが力を溜め始める前に、少しでも早くソードスキルを終了させる。

 止まる事なく振われる剣の舞。
 構想で動く二刀は一層の苛烈さを示し、
 ……しかし、一撃たりとも、フォルテへと届く事はなかった。

 ―――それこそが、フォルテの纏う最強の守り。
 一定値未満のダメージを完全に無効化するバリア――オーラの効果だ。
 たとえどれほどの連続攻撃回数を持つ上位スキルであろうと、一撃の威力が届かなければオーラは破れない。
 オーラを破るには手数の多さではなく、一撃の強さこそが必要なのだ。
 それは剣による攻撃のリアリティを追求したソードスキルには数少ない要素であり、

 ―――そしてそれこそが、ソードスキルの最大のデメリットだった。
 一度発動したソードスキルは、たとえ途中で攻撃を受けようと、その動作が終了するまで決して止まる事はない。
 もし止まるとすればそれは、動作の続行が不可能なほどに体勢が崩れるか、HPがゼロになった時だけである。
 そしてさらに、強力な上位スキルであればある程に、スキル終了後の硬直時間は長くなり、結果――――

「ぁ、………………」
 フォルテのオーラを貫く事なく、最後の二十七連撃目がフォルテの眼前で停止する。
 そして訪れる硬直時間。フォルテは既に体勢を立て直し、大鎌を見せつける様に大上段で構える。

「終わりだ………!」
 その宣告とともに振りおろされる、死を刻む凶刃。
 避ける術はない。身を捩る事もできない。もうどうする事も、出来ない。

 ああ………あの時も、そうだった。
 アインクラッド第七十五層での、ヒースクリフとの二度目にして最後の決闘。
 あの時も俺は、ヒースクリフの鉄壁の守りに焦り、防がれると解っていながらソードスキルを発動した。
 そして当然の様にソードスキルは完璧に防がれ、ヒースクリフは余裕の笑みで硬直時間に動けない俺へと剣を振り下ろし、
 それを、麻痺で動けなかった筈のアスナが、俺の身代わりになって剣を受けて――――

「…………お、おお……!」
 ……そうだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
 ついさっき、決意したばかりじゃないか。俺の命は、俺一人のものじゃないって。

 動け。
 アスナとともに生きると誓ったのなら。
 動け―――。
 ヤツの手から、レンを助けたいと願うのなら。
 動け――――――!
 あの決着を、悲しみを、繰り返したくないのなら。

「動けぇぇえええッッッ………!!!!!」
 硬直する体を、全身全霊を以って全力で仰け反らせる。
 出来るはずだ。麻痺の呪縛から、アスナが抜けだしたように。
 出来るはずだ。既に死んだ体で、ヒースクリフを倒したように。
 出来るはずだ。二度起きた奇跡が、三度起きないはずがない……!

「ッ――――――!!!!」
 フォルテの大鎌が、その刃を肩口に喰い込ませる。
 一秒前に奔る痛み、一秒後に迫る死に、走馬灯の様に意識が加速する。
 …………その間延びした一瞬の中で、その感覚を確かに感じた。

718バースト、エンド ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:30:18 ID:fgufjUgg0

 大鎌の刃が、俺の体を両断するために更に食い込んでくる。
 動く。冷えた鉛の様だった体が、ほんの僅かに後退する感覚。
 その感覚を頼りに、全身の力を集め、限界以上に力を込める。

 ………いや、必要なのは力ではない。力ではこの硬直は破れない。
 あの時、ヒースクリフを倒した時、俺は自分の動きなど考えなかった。
 ただ「ヤツを倒す」という一念だけがそこにあり、気が付けば、その体へと剣を突きたてていた。
 だから必要なのは、“筋力”ではなく“意思力”。
 自分の体は動くという確かな確信。自分自身さえ騙しきる強力なイメージ。
 それこそが、ヒースクリフ/茅場晶彦が求めた、システムを超越する“人間の力”――――!

「オ、オオオァアア――――――ッッッ!!!!!」
 悲鳴の様な雄叫びをあげる。
 ザン、と大鎌が振り下ろされ、鮮血のダメージエフェクトが飛び散る。
 身体を抉る激しい痛み。だが痛みがあるという事は、つまりは生きているということであり、生きているという事は、
「そら、次だッ!」
 戦いは、まだ終わっていないという事に他ならない!
 硬直時間に動けた理由も、全身に襲いかかる強烈な疲労感も、何もかも今はどうでもいい。
 今はただ、この次へと繋げるために、この一瞬を生き延びる――――!

「、アア――――ッッ!!」
 フォルテは左腕に、眩しい輝きを放つエネルギーを集束させている。
 だがその光量は、地面のテクスチャを破壊した時程ではない。つまりは防御で防げる程度の威力。
 考えるより先に、二刀を交差してその一撃を受け止める。その威力に両腕が痺れ、数メートル吹き飛ばされる。

 ――――関係ない。
 体勢を崩すことなく地面に踏み止まり、まっすぐにフォルテへと突進する。
 フォルテの左腕が再びバスターへと変化し、無数の光弾が放たれる。
 ――――関係ない。
 重傷に至る光弾だけを二刀で弾き返し、残りは全て無視して突き進む。
 その愚直な突進に光弾は無意味と察し、フォルテは陽炎を纏う大鎌を振りかぶる。
 ――――関係ない。
 振り抜かれる大鎌は間合いのギリギリ。一足で制止しバックステップで回避する。
 同時にソードスキルの体勢へと移行し、バリアを突破する為に単発重攻撃の〈ヴォーパルストライク〉を――――

「、え――――?」
 ソードスキルの発動に今にも飛び出そうとしていた体が、突如強い衝撃を受けて弾き飛ばされた。
 理解が及ばない。何が起きたのかは分かっている。大鎌から放たれた衝撃波が、ソードスキルの発動に隙を晒していた俺を吹き飛ばしたのだ。
 なのに、理解が及ばない。頭が麻痺して働かない。体が麻痺して動かない。何が起きたのか、全く以って理解できなかった。

 そしてそのまま、体勢を立て直す事も出来ずに、俺の体は、地面へと叩きつけられた。

     †


 ――魔力放出/二の太刀。
 それが大鎌と同様フォルテに支給されたアイテムの一つであり、キリトを弾き飛ばしたスキルの名だった。
 正式名称〈release_mgi(b);〉――その効果は中距離に魔力の弾丸を放ち、命中した相手を二手分スタンさせられるというものだ。
 ダメージこそ与えられないが、その効果は十分に強力なものと言えるだろうだ。
 そう。あの瞬間フォルテは、キリトを迎撃するためではなく、このスキルを発動するために大鎌を振るったのだ。
 結果、その大鎌を振るう動作がフェイントとなり、作られた隙にソードスキルを発動しようとしたキリトは、避ける事も防ぐ事も出来ずに魔力斬撃に直撃したのだ。


 その確かな手応えに、フォルテは満足げに笑みを浮かべた。
 これでキリトは、少しの間、完全に動く事が出来ない。
 それこそ、たとえこちらが、一体何をしようとも。

 しかし正直に言って、フォルテにとってこの作戦が成功するかは五分だった。
 キリトの予想以上に高い近接戦闘能力。主装備のシューティングバスターに対応する反応速度。
 それに押されていたのは、紛れもない事実だったからだ。
 あるいは魔力放出を行ったところで、エアバーストを防ぎ切った時と同様に反応され、防がれる可能性があった。

719バースト、エンド ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:31:07 ID:fgufjUgg0

 だがその成功率五分の賭けを成功に導いたのは、あろうことかキリトが守ろうとした少女だった。
 彼女がいかなる理由で廃ビルの角から出てきたのかは、はっきり言ってどうでもいいことだ。
 重要なのは、彼女のおかげでキリトが焦り、結果、オーラが復活するまでの時間を十分に稼げたという事だ。
 もし少女が出てくるのがもう少し遅ければ、加速していくキリトの剣速に押され、最悪大ダメージを受けていただろう。
 だが、これでキリトに決定的な敗北を刻みつけるのに、十分な舞台が整ったという訳だ。

「ククク…………」
 凶悪な笑みを浮かべ、フォルテはキリトへと背を向ける。
 オーラが復活した今、キリトの攻撃のほとんどは無意味となった。
 急ぐ必要はない。一つ一つ確実に、その心を砕いてやればいい。
 その為にまずは、

 ヤツが守ろうとした少女を破壊する。

「ッ――――! や……め、ろ……!」
 それを察したキリトが、必死に声を絞り出す。だがそれに応えてやる理由は、どこにもない。
 むしろその声に笑みを深めながら、フォルテはふらふらと歩く少女の前に立ち塞がった。

「…………?」
 進路上に立ち塞がったフォルテを見て、少女は不思議そうに首を傾げた。
 そのあまりにも呆けた顔に、フォルテは気が少し殺がれた。

「レンさん、逃げて……!」
 逃げきれなくとも、せめて抵抗してくれ、とキリトが必死に声を荒げる
 だが少女は、その声が聞こえていないかのように動かない。
 あれだけの戦いを見ておきながら、彼女は何も分かっていない。
 いや、それどころか。

「あの………ジローさんを知りませんか?」
 目の前に立ち塞がる存在が何者であるかすら、この少女は理解していなかった。

 そう。浅井レンは、初めから何も解っていなかった。
 バトルロワイアルの事も、自分を助けたキリトの事も、今自分を殺そうとするフォルテの事も、何もかも。
 解っているのはジローさんに関する事だけ。
 自分とジローは恋人である。ジローさんは野球好きである。今ジローさんは傍に居ない。殺されたら二度とジローさんに会えない。それだけだ。

 彼女にとって他人とは、ジローさんかそれ以外であり、
 彼女にとって大切なのは、ジローさんの傍に居られるかどうかであり、
 彼女にとって嫌な事は、ジローさんの傍に居られない事である。
 だから、ジローさんに会えるのなら誰にでもついて行くし、ジローさんに会えなくなるから殺される事を恐れる。
 故に、ジローさんのところへ連れて行ってくれないキリトの事は忘れるし、ジローさんに会う為ならフォルテにも平気で話しかける。
 そう。ジローさん以外の人は、キリトもフォルテもそれ以外も、自分とジローさんを阻む明確な脅威とならない限り、みんな同じ他人でしかないのだから。

「………ッ!? れ、レンさん……?」
 信じられない物を見たかのように、キリトは茫然と呟いた。
 そんなにも、ジローに会いたかったのか。
 それほどまでに、恋焦がれていたのか。
 既にそこまで、心が壊れていたのか。
 そんな言葉が、形にならずに溶けて消えた。

「あ、ジローさんは私の恋人で、とっても素敵な人なんです。
 ジローさんは今、野球場にいると思うんです。だから早く、野球場に行かないと―――」
 レンはそう口にして、フォルテの横を通り抜ける。
 その向かう先はやはり、野球場への最短ルート。フレイムマンの待ち構えるゲートがある方向だ。
 彼女にはもう、フォルテの事は見えていない。ただジローと関わりのある野球場に続く道だけが、その眼に映っている。
 だからその背後で、フォルテが彼女を殺そうと左手を振り上げても、決して気付く事はない。

「レンさん……レンさん……ッ! くそぉ………ッッ!!」
 少女を呼ぶ声が空しく響く。
 キリトはかつてアスナがそうしたように、先程スキルの硬直時間中に動いた様に、再び自分が動く姿をイメージする。
 だが湧き上がる焦りがイメージを掻き乱し、再び襲い来る疲労感が動きを妨げる。
 それでも本来の二手分よりも僅かに速く麻痺から動き出し、

720バースト、エンド ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:31:56 ID:fgufjUgg0

「レンさ―――、ぁ………………」
 フォルテの左腕が、背中から胸へと、レンの体を貫く瞬間を目の当たりにした。
 レンの喉からは、僅かな悲鳴さえ零れなかった。
 その光景に、懸命に駈け出した足が、一歩、二歩と、たたらを踏んで動きを止める。

「――ゲットアビリティプログラム!」
 フォルテがレンを対象として、何かのスキルを発動する。
 同時にレンは光に包まれ、次の瞬間には、体のいたる所のデータが崩壊した姿となっていた。
 だが何が不満なのか、フォルテは不快気に顔を歪めた後、腕を引き抜くついでの様にレンを投げ捨てる。
 放り投げられたレンの体は、まるで人形の様に四肢を宙で躍らせ、そのままガラクタの様に地面に打ち捨てられた。

「あ……ああ、うああぁぁああああぁああ…………ッッッ!!!!!」
 湧き上がる感情に、頭が白熱し視界が赤く染まる。
 立ち止まっていた脚が動き出し、フォルテへと向けて駆け出す。
 力なく垂れ下がっていた腕が動き出し、フォルテへと向けて剣を構える。
 今度こそ発動するソードスキル〈ヴォーパルストライク〉は、フォルテの体を確かに捉え、

「ハッ――――」
「…………あ、」
 その動きを完全に見切ったフォルテが、突き出された火剣の剣尖へと、いつの間にか左手に集束させたエネルギーを叩き付けた。
 火剣の刀身が、ライトエフェクトと諸共に粉砕される。その威力にキリトの体が、直撃を受けていないのに弾き飛ばされる。
 宙を舞う体は、麻痺は既に解けているというのにピクリとも動く事なく、キリトは再び地面へと叩きつけられた。

「ク―――ハハハハハハハハ!
 いや中々に楽しめたぞ人間。まさかこのオレが、人間ごときにここまで追い込まれるとはな。人間の力というヤツも、中々に侮れん。
 だが、それもここまでだ。これ以上遊んで逃げられても面倒だ。貴様はここで破壊する」
 フォルテが、止めを刺そうとキリトへと近づく。
 だがキリトは、倒れ伏したままピクリとも動かなかった。
 死んだわけではない。気を失ったわけでもない。
 ただ、キリトに残されていた感情(モノ)が、絶望と諦念だけだったのだ。

「……………………」
 心が刀身諸共に砕かれたかのように、立ち向かう気力が湧き上がらない。
 体が重い鎖で拘束されたかのように、立ち上がる体力が残っていない。
 なにもない。フォルテと戦うための力が、どこにも残っていない。
 ほんの僅かに開いた視界の中で、残された火剣の柄が四散する。

 その舞い散るデータの残滓の向こうに、自分と同じように倒れ伏す少女の姿があった。

「あ………………」
 まだ息があったのか。少女は壊れたその体を、懸命に身動ぎさせていた。
 手を伸ばした。けど届かない。
 思ったよりも近いところに彼女はいるが、それでもまだ少し遠い。
 地面を掴んで、重い体を引き摺った。

「ん……?」
 キリトのその行動に何を思ったのか、フォルテがその歩みを止めた。
 その事には意識も向けず、キリトは少しずつレンとの距離を縮める。
 元よりそれほど離れておらず、キリトは間もなく、少女の下へと辿りついた。


「レン……さん……」
「……………………」
 名前を呼ぶも、応えはない。
 急激な疲労に震える体を懸命に動かし、キリトはどうにか体を起き上がらせる。
 そして目の前に横たわる少女の体を、慎重に抱き起こした。

 近くで見た少女の体は、無惨の一言に尽きた。
 胸部には大きな穴が開き、そこを中心としてあちこちのデータが壊れている。
 左腕は肩から崩れ落ち、両脚は完全にテクスチャを崩していて、顔の半分を黒いノイズが覆っている。
 彼女にまだ息があるのは、HPの設定されたゲームの世界だからに他ならない。
 ……だがそれも、あと少しの事。一切の回復手段を持たないキリトには、少女を助ける術はない。
 少女はもう間もなく、部位欠損による継続ダメージで、HPを全損――死ぬ定めにある。

「レンさん………、俺……俺は―――……ッ!」
 また……守れなかった。君を守る事が、出来なかった。
 守ると誓ったのに。必ず君を、ジローさんに会わせると約束したのに。
 その約束を、果たす事が……出来なかった………。

 その悔恨が、胸を締め付ける。
 堪え切れない嗚咽とともに、涙が零れおちる。
 その滴を受けたレンが、うっすらと瞼を開ける。

721バースト、エンド ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:34:15 ID:fgufjUgg0

「あれ………? ジローさん……ですか……?」
「ッ…………!」
 その言葉に愕然とする。
 少女はもう目が見えないのか、目の前の人間が誰なのか、ちゃんと判別できていない。
 そんな単純な機能さえ、少女にはもう残されていない。
 一体どんなスキルを受けたら、外装だけでなく、内部データまで破壊できるのか。
 ………そんな事、今はどうでもいいことだ。

「ッ…………。ああ、そうだよ」
 死にゆく少女の為に、たった一つの嘘を吐く。
「えへへ………ジローさんだぁ………」
 少女はそう、心の底から嬉しそうに笑った。
 もう痛みも感じていないのか、その笑顔には、何の陰りもない。

「あのね、ジローさん……。私、ジローさんに……言いたい事があるんです……」
「……ああ、何を?」
 少女の最期の言葉に、一言も聞き逃すまいと耳を傾ける。
 この上ない程に幸せそうに笑いながら、少女は最後の言葉を口にした。

「ジローさん………大好きですよ………」

 その体が、幾片のデータの残滓となって四散する。
 後に残ったのは三つのアイテムと、空を掻き抱く己の腕だけ。
 他には何も……彼女が生きた痕跡さえ、残らなかった。

「ッ…………! ッァ…………!」
 あまりの激情に、悲鳴さえまともに出てこない。
 自分の無力感、自分への絶望に、心がより深いところまで沈みこむ。
 ……それを、あまりにも無情な一言が押し止めた。

「……ふん。たかがAIに、どうしてそこまで感情的になる」
 フォルテはキリトへと向けて、実につまらなそうに尋ねる。
 キリトの頭の中で、その言葉が、たった一つの単語が反響する。

「A……I……?」
「何だ、気付いてなかったのか?
 その女は人間ではなく、ナビですらない。何の能力も持たない、ただの屑データだ」
「人間じゃ……ない………」

 言われて不思議と納得した。いや、合点がいったという方が正しいか。
 思い返すまでもなく、彼女の行動はたった一つの事に縛られていた。
 その様が、決まった反応だけを返すAIと一体どう違うというのか。
 けれど、その一言だけは、どうしても聞き逃せなかった――――。

「屑データ……だと………?」
「そうだ。キサマ達人間にとってナビ……AIは、便利な道具でしかないだろう?
 そしてその女は何の機能も持っていない。つまり人間にとって、道具ですらない無価値なデータだ。
 加えてその様子から察するに、どうせこのゲームが始まってから出逢っただけの存在だろう? キサマがそこまで感情的になる理由など無いだろう」
「無価値な……道具だと!?」

 自分へと向かっていた無力感、絶望が、フォルテに対する怒りへと変換される。
 沈み込んでいた眼が、激しい怒りを宿してフォルテへと向けられる。
 残った魔剣を支えに、限界近い体を立ち上がらせる。

「………訂正しろ。
 たとえAIだったとしても、彼女は……レンさんは、確かにここに生きていたんだ。
 たとえ作られた命だったとしても、好きな人に会いたいって、一生懸命だったんだ……!
 彼女は絶対に、屑データでも……無価値な道具なんかでもない! 訂正しろ、フォルテ!!」

 そうだ。レンさんが人間でなくても、AIであっても関係ない。
 彼女は間違いなく、一人の少年に恋焦がれる、一人の普通の女の子だった。
 それを否定する事は、絶対に許さない。彼女は決して、ただのデータなんかじゃない!

「チッ………キサマを見ていると、無性に苛立ってくる」
 ……苛立つ。キリトの言葉が、どうしようもなく腹立たしい。
 胸の傷痕への攻撃といい、今の言葉といい、ヤツの行動は妙に癇に障る。
 ………故に、ヤツを完全に破壊する事で、湧き上がるこの不快な感情も消し飛ばす。

「もういい、ここで消えろ」
 フォルテはキリトへと向け、左手にエネルギーを集束させる。
 どういう理由からか、キリトには見るからに体力が残っていない。
 もはやヤツに、この一撃を防ぐことはもちろん、躱す力もない。
 キリトが助かる術など、どこにもない。

「ッ――――!」
 キリトとて、それは理解している。
 全身に重く圧し掛かる倦怠感。これはおそらく、硬直時間や麻痺といった、システム的拘束に背いた代償だ。
 だから疲れているのはこのアバター(肉体)ではなく、意思力の源――つまり精神、あるいは魂の方なのだ。
 故にこの疲労は、自然治癒でしか回復しない。そしてそんな時間は、残されていない。

 ――だからせめて、心だけは負けないと。
 どうにか剣を構え、フォルテを真っ直ぐに睨みつけた。

722バースト、エンド ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:34:59 ID:fgufjUgg0

「―――アース……ブレイカー」
 フォルテの左手に集束されたエネルギーが、キリトへと向けて解放される。
 何も出来ない以上、これで剣士キリトは、跡形もなく消滅する。
「ウオオオオオ――――ッ!!」
 その死を前に、キリトは声を上げ、フォルテへと真っ直ぐに突進する。
 それが、それこそ無意味な抵抗であろうと、最後まであがき続けた、その証に。


 ――だからそれは、一つの奇跡だった。
   ここに、二つの物語の主役が、再び巡りあった事は――――


「させるかァアア――――ッッ!!!」
 フォルテの左手からエネルギーが解放される、その直前。
 決死の叫び声とともに、銀色の閃光がフォルテの左腕を貫いた。

「グッ………!?」
「なッ………!?」
 攻撃を遮断するオーラを突きぬけた一撃に、フォルテの左腕が弾き飛ばされる。
 結果、解放されたエネルギーはキリトには当たらず、その真横を破壊して終わった。
 二人の間に立ちはだかる様に、十枚の金属フィンを羽ばたかせ、銀色の人影が降り立った。

「………キサマ」
 閃光に貫かれた左腕を庇いながら、フォルテがその人影を睨みつける。
 キリトも同様に人影へと視線を向け、その眼が驚きに見開かれた。

「シルバー……クロウ……」
 その後ろ姿を見つめながら、キリトは茫然とその名を呟いた。
「キリト……なのか……?」
 人影はその声に振り返り、驚いたようにその名を口にした。

 その銀翼を、覚えている。
 あれは確か一ヶ月ほど前の、五月の中頃の事だった。
 比嘉タケルに依頼されたアルバイト、第四世代VRマシンのテストプレイの際に、俺はそいつとデュエルしたのだ。
 ――――暗い夜空を切り裂いて飛翔する、美しい白銀の鴉と。

723エアリアルブラスト ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:36:20 ID:fgufjUgg0

    10◇

 息を切らして、路地裏を駆け回る。
 大地を揺るがす衝撃音から、もう五分以上経過した。
 なのに、いまだに路地裏の出口は見えてこない。どうやら完全に迷っていた。

「クソッ、これ以上は迷っていられないか……!」
 湧き上がる焦りを押さえつけ、足を止めて空を見上げる。

 フォルテと戦闘になる可能性がある以上、可能な限り必殺技ゲージを温存しておきたかったが、これ以上時間が掛かるかもしれないとなれば、もう決断しなければならない。
 そもそもこうやって走っていたのだって、あの一撃を食らえばもう助からないだろうというネガティブさと、あの一撃に対応できるなら少しの間は耐えられるはずというポジティブさを合わせた考えからなのだ。
 だからここがボーダーライン。誰かを見捨てて力を温存するか、誰かを助けて余力を削るかの境界線。
 そしてその答えなど考えるまでもなく、シルバー・クロウは背中から金属フィンを展開した。

 一息で空へと飛び出し、ネットスラムの街並みを見渡す。
 だが廃ビルが遮蔽物となって、完全に見渡す事が出来ない。
 ゆえに今度は、耳を澄ませる。一音も聞き逃すまいと、精神を集中させる。

 そうして、ほんの微かに、誰かの叫び声が聞こえた気がした。

「――――! そっちか!」
 即座にその方角を予測し、一気に加速する。
 ほんの少ししかない必殺技ゲージが一気に減少する。
 残り飛行時間は、五秒となかった。
 だがゲージが完全にゼロとなった瞬間、ようやくその姿を捉えた。

 ボロのローブを纏った黒い影と、見覚えのある剣を持った黒衣の剣士。
 黒い影は左手を男へと突き付け、その手の平にエネルギーを集め、
 剣士はふらつきながらも、剣を手に黒い影へと立ち向かっている。
 それがどういう状況なのか、考えるまでもない。
 ましてや黒い影の方は、見間違えようもなく、あの死神だったのだから。

 必殺技ゲージは既に尽き、今は慣性で飛んでいるのだ。これ以上の加速はできない。
 死神との距離は遠く、“剣”ではもちろん、“槍”槍でも届かない。使うなら“投槍”だ。
 そう一瞬で判断し、左腕を前に構えて右腕を肩の上で引き絞ぼり、死神へと狙いを定める。

 死神の左腕が一層強く輝き、剣士が剣を構えて突撃した。
 しかし剣士は間に合わない。このままでは無残に、消し飛ばされるだけだ。

「させるかァアア――――ッッ!!!」
 肩まで銀光に包まれた右腕を全力で突き出し、即座に引き戻す。
 右腕から放たれた光の槍は一瞬で限界まで伸び、そこから更に伸長する。
 その瞬間、左手の小さな光の剣で槍の根元を切断し、光の槍を射出させた。

 猛烈なスピードで飛翔する光の槍が、僅かに狙いを逸れ死神の左腕を貫く。
 直後解き放たれたエネルギーが、再び大地を震わす衝撃を放った。
 だが黒衣の剣士は……無事だ。その事に一先ず安堵する。
 ダメージを与えた事で溜まった必殺技ゲージを消費し、死神から庇うように、二人の間に立ち塞がる。

「………キサマ」
 フォルテが左腕を庇いながら、こちらを睨んでくる。
 〈光線投槍(レーザー・ジャベリン)〉を受けた左腕は、攻撃が貫通した為か、思ったよりもダメージが少ない。
 それに先程から、妙な疲労感が襲って来ている。一体どういう事かと考えていると、

「シルバー……クロウ……」
 不意に背後から、自分の名前を呼ばれた。
 通常デュエルアバターの名は、同じバーストリンカーしか知りえない。
 そしてこのデスゲームでは、バルムンク以外に名乗った覚えはない。
 その事を不思議に思い振り返って、驚きに目を見開いた。

「キリト……なのか……?」
 その名を口にして、改めて剣士の姿を確かめる。
 髪と瞳の色は漆黒。装いは黒革のロングコートに、指抜きのグローブとブーツを身に付けている。
 彼を象徴した日本の剣こそないが、もう疑い様が無かった。
 そいつは間違いなく、一ヶ月ほど前の春に戦った奇妙なバーストリンカー、キリトだ。

 だが同時に、キリトの持つ剣もしっかりと視認する。
 見覚えのあったその剣は、バルムンクの持っていた剣に間違いがなかった。
 なぜキリトがその剣を持っているのか、という疑問が浮かぶが、大体の予想は付く。
 それを確かめるために、改めて死神へと向き直り、まっすぐに睨みつけた。

724エアリアルブラスト ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:37:28 ID:fgufjUgg0

「お前……バルムンクさんをどうした」
「バルムンク? ああ、あいつか。あいつなら、破壊した」
 死神は、何でもない事の様にそう口にした。
 ギリッ、とヘルメットの下で歯軋りをする。拳を軋むほどに握り締める。
 今にも爆発しそうな怒りを押さえつける。感情的になっては、アイツには勝てない。
 冷静に。……冷静に。頭は冷たく、しかし心は熱く。赤く猛り狂う怒りを、青く燃え盛る闘志に変換する。

「……じゃあやっぱり、彼の剣は」
「ヤツから奪ったものだ。……もっとも、見ての通りそいつに奪われたが」
「そうか」
 よかった。やはりキリトが奪ったわけではなかった。これで背後を心配する必要は完全になくなった。
 その事に安心し、意識を死神にのみ集中させる。キリトとは話したい事が沢山あるが、今はそんな場合ではない。
 両手の指を剣の様に揃え、ピタリと前に構える。

「ほう……オレと戦う気か?」
「………………」
「出来るのか? お前一人で。オレのオーラを破る事が」
「やってみなくちゃわからないだろ」
「なら、やってみろ……!」
 死神の顔が歪み、凶悪な笑みを浮かべる。
 右手に持つ武器を、威嚇する様に振り上げる。
 その黒い月魄の大鎌は、アイツの印象をより死神めかせていた。

「………オレはシルバー・クロウだ。お前は?」
 バーストリンカーとしての、最後の礼義。
 オレ達はお互いの名を知らない。それゆえの名乗り。
 この行為を以って、オレとアイツは、本当の対戦相手となる。

「フォルテ」
 死神が名乗り返す。
 それが、あの死神の名前。
 その名を心に刻み、地面を強く踏み締める。

 ここから先は、いつも通りのデュエルじゃない。
 ……いや、それはこのデスゲームが始まった時からそうだった。
 その覚悟が、今定まっただけ。

 この戦いは………正真正銘、お互いの命を賭けた、殺し合いだ―――!!!

「ハアア―――ッ」
 踏み込む。様子見なんて余分入らない。
 フォルテへと全力で迫り、渾身のストレートパンチを放つ。

「ふん」
 対するフォルテは不動。防御も回避もせず、こちらの右ストレートを待ち構える。
 それも当然。アイツにはオーラという、鉄壁の守りがある。それを破らない限り、こちらの攻撃はなに一つ通らない。
 事実、シルバー・クロウの放った渾身の一撃は、不可視の障壁によって遮られている。
 ……否、すでに不可視ではない。攻撃の衝撃によってか、黄色いエネルギーがフォルテを中心に渦巻いている様子が視認できる。
 最後まで視認できなかった先の戦いと違い、もう隠す必要がなくなった、という事だろう。

「つまらん」
 そう吐き捨て、フォルテは大鎌を振りかぶる。
 ……本当。酷い防御スキルだと思う。
 こっちの攻撃のほとんどが無効化されるのに、あっちは攻撃し放題だなんて。

 ………けれど、これはルール無用の殺し合い。そしてそれを始めたのはアイツが先。
 反則(チート)を躊躇う理由は、とっくの昔になくなっている。

「レーザー・ソード―――!」
 その技名とともに、残った片腕を全力で打ち抜く。
 銀色の光に包まれた左手が、閃光となって放たれる。
 放たれた〈光線剣〉は、フォルテのオーラを容易く貫通した。

「ッ………!」
 フォルテの顔に、驚愕の表情が浮かぶ。
 咄嗟に攻撃を中断し、大きく仰け反って回避する。
 しかし完全には躱せず、光の剣はフォルテの体を浅く切り裂いた。

 ――瞬間、発動する〈エアリアルコンボ〉。
 背中の銀翼が振動し、慣性を無視した動きで高速のハイキックを放つ。
「な……っ!」
 ……が、その不可避の一撃は、またもフォルテのオーラに阻まれた。
 その隙を突いて、フォルテの大鎌が振り抜かれる。
 フィンを振動させ緊急回避するが、今度はこっちが躱し切れずに傷を負う。

725エアリアルブラスト ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:38:41 ID:fgufjUgg0

「キサマ……何をした」
「………………」
 フォルテの問い掛けに、沈黙で答える。
 教える義理はないし、それにこっちだって戸惑っているのだ。答える余裕なんかない。

 ――〈光線剣〉は、間違いなくオーラを貫いた。
 それはアイツの体に残る傷跡が証明している。
 だが、オーラを破壊する事は出来ていない。
 ………それはなぜか。

 その答えにはすぐに思い至った。即ち、“システムの衝突(コンフリクト)”だ。
 先の戦いで予測したオーラの分類。HP型。ダメージ軽減型。無効化型。そのいずれにも共通するのは、ある一定値以下のダメージは通らないという事だ。
 対して、〈光線剣〉は“射程距離拡張系”に分類される心意技だ。
 確かに心意技は“事象を上書き(オーバーライド)”し、相手の防御を無視する。だがその実、“射程距離拡張系”では、“攻撃力自体は変わらない”のだ。
 つまり〈光線剣〉では、フォルテのオーラを貫通する事は出来ても、破壊する条件を満たせなかったという事だ。

 ……これが〈蒼刃剣(シアンブレード)〉のような、“攻撃威力拡張系”の心意技なら、実際のダメージ値に関係なくオーラを破壊出来ていただろう
 だがシルバー・クロウに“攻撃威力拡張系”の心意技は使えず、通常スキルによる高威力の攻撃は、どちらも攻撃時の隙が大き過ぎる。
 つまりフォルテにダメージを与えるには、心意技だけで戦うしかないという事だ。

「いいさ……やってやる!」
 両手に光の剣を作り出す。
 重ねるイメージはブラック・ロータスの姿、その戦い方。
 打撃技や掴み技が使えない以上、〈光線剣〉の二刀流で戦うしかない。

「いくぞ!」
 〈光線剣〉を構え、フォルテへと振りかぶる。
 心意技を使えないアイツには、シルバー・クロウの攻撃を防ぐ術はない。
 故にフォルテの行動は回避か、遠距離攻撃による迎撃に限定されるはずで、
 ――――それ故に、その驚愕は先程以上だった。

「な………ッ!!」
 フォルテの獲った行動は、迎撃。
 ただし、その手に持つ大鎌による近接攻撃だった。
 つまり通常であれば、フォルテの大鎌は切断され、そのままアイツへと攻撃が通る。

 だというのにフォルテの大鎌は、〈光線剣〉の一撃をしっかりと受け止め、あまつさえ弾き返したのだ。

 あり得ない。そんな考えが、脳裏を占める。
 これが心意技によって強化されていた一撃なら解る。
 だがアイツの大鎌には、その証となる過剰光(オーバーレイ)は、ほんの微かにもなかった。

「ハアッ!」
 気合の声とともに、フォルテの大鎌が翻る。
 咄嗟に〈光線剣〉を交差し、その一撃を受け止める。
 心意技と激突しながらも、やはり大鎌は破壊されず、〈光線剣〉と鍔競り合う。
 ……光の剣から伝わるこの感覚は、そう、まるで帝城を守護する四神、朱雀を攻撃した時の様な――――


 ―――そしてその感覚こそが、もっとも正解に近い答えだった。

 【死ヲ刻ム影】――それがフォルテの振るう、ロストウェポンと呼ばれる大鎌の銘だった。
 ロストウェポンとは、『The World』に存在する“イリーガルな力”の一つ、八相と呼ばれる存在の欠片だ。
 そして基盤となるシステムこそ違えど、“システム外の力”という点において、八相の力と心意の力は同じ階梯にある。
 故に、同じ“システム外の力”の断片であるロストウェポンは、心意技による“事象の上書き(オーバーライド)”を受け付けないのだ。
 もしロストウェポンが心意の影響を受けるとしたらそれは、大本である八相の影響も同時に受けた時だけだろう。

 ……だが、二人がその事を知るはずもなく、
 そして今重要なのは、フォルテの【死ヲ刻ム影】、シルバー・クロウの〈光線剣〉を防げるという一点のみだ。

「セアァ……ッ!!」
「グ、ウア……ッ!」
 光の剣が両腕ごと、フォルテの大鎌に弾き飛ばされる。
 即座に背中の銀翼を振動させ、大鎌の攻撃範囲から退避する。
 その直後、大先ほどまでシルバー・クロウが居た空間を大鎌が薙ぎ払った。

 その暴威に恐れず、再びフォルテへと挑みかかる。
 あの大鎌を破壊できない理由はどうでもいい。フォルテの力と合わせて考えれば、心意攻撃と思って大差ない。
 要は、まともに食らえば大ダメージを受ける。その事だけ肝に命じておけばいい。

726エアリアルブラスト ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:39:45 ID:fgufjUgg0

「シッ……!」
 右の〈光線剣〉を振り抜く。
 フォルテはその牽制を、大鎌の柄を盾にして受ける。
 そこに左の〈光線剣〉を突き出すが、同時に大鎌が片腕で薙ぎ払われる。
 大鎌の形状を利用した、刃が背後に回り込む様な一撃。
 このままではまずいと、即座に攻撃を中断し、銀翼を振動させる。

 後退はできない。そちらには既に、大鎌の刃が回り込んでいる。
 故に回避方向はシルバー・クロウから見て左。フォルテを中心とした右旋回。
 大鎌の一撃に沿う様に飛翔回避し、そのまま背後へと回り込む。
 ギシリと、フォルテの大鎌が右腕の稼働領域限界まで振るわれる。
 しかし刃は届かない。
 ガラ空きとなった背中へと向けて、今度こそと手刀の形で右の〈光線剣〉を振り下ろす。

 対してフォルテは体を左回転させる。
 振り切られた大鎌は重心が先端に寄るため、その回転についてこない。
 だがフォルテの左腕が変形し、〈光線剣〉と似た光剣を作り出された。
 そしてそのまま、シルバー・クロウの〈光線剣〉と打ち合う様に、左腕の光剣が振り抜かれる。
 ……しかし、心意技は、心意技でしか防げない。
 ノーマルな機能、システムによって作り出された光剣は、〈光線剣〉に接触すると同時にガラスの様にあっさりと破砕した。

「な……ッ!? ヒートブレードが!」
 驚愕に目を見開きつつ、フォルテは咄嗟に体を仰け反らせる。
 光剣を破砕した〈光線剣〉は、フォルテの頬を浅く切り裂いて空振った。

 そこに遅れて、大鎌が振り抜かれる。
 遠心力を限界まで加えられた大鎌は、先程とは逆に、同じ理由ですぐに止まる事はない。
 しかし緊急回避によってその狙いは乱れ、地面を抉りながら上へと振り上げられる。
 それを右と左の〈光線剣〉を交差して受け止め、〈受け返し(ガードリバーサル)〉による反撃を試みる。
 ………だが。

「グ、ヅッ………!」
 結果は失敗。逆に大鎌の一撃、その衝撃をまともに受け、大きく弾き飛ばされた。
 それはなぜか。――答えは単純。シルバー・クロウが、フォルテの攻撃を“拒絶した”からだ。
 〈受け返し〉の源流となる〈柔法〉、その極意は、相手の攻撃を受け止め、受け入れ、導く事にある。
 しかし今のシルバー・クロウには、その為の心の余裕が欠如していた。
 そう。バルムンクを殺された事による、フォルテへの怒りがその余裕を奪っていたのだ。
 それに加えて――――

「、ッハァ……ハァ……、ハ――ッ」
 息が乱れる。
 フォルテと打ち合えば打ち合う程に、理由のわからない疲労が全身に襲ってくる。
 このままではまずい。今はまだ平気だが、これでは時間が経てば経つほどこっちが不利になる。
 理由は何だ。この疲労感の原因は。それを見つけなければ、アイツには勝てない。

「その光の剣……やはりただのアビリティではないな」
 光剣の破壊された左腕を通常の物に戻しながら、フォルテはそう口にした。
 その言葉にふと何かが思い当たり、両手の〈光線剣〉を見る。
 二本の〈光線剣〉は、乱れた息と連動するように、小さく明滅していた。

 ……そういうことか。
 それで疲労感の原因を理解した。つまりこれは、心意技に掛けられた制限なのだ。
 事象を上書き(オーバーライド)する心意技は、極論すればどんなシステム的制約さえ無視できる。
 無論、そこまでのイメージを持てるのか、という問題はあるが、通常プレイにおいても圧倒的有利な事に変わりはない。

 つまりは、ゲームバランスの問題だ。
 心意使いによるワンサイドゲームにしない為の制限。
 強力な心意技を使用すれば、それだけ大きな、精神的な疲労が発生するのだ。
 ……にしてはフォルテのオーラや、心意技で破壊できない大鎌など、はたしてバランスが取れているのか微妙なところだが。

「だが、この武器で対処できる以上、問題ではないな。
 キサマの二刀流スキルも、そこの人間程ではないしな」
 そう言ってフォルテは、大鎌でキリトを指し示す。
 確かに彼がこうしている以上、キリトはフォルテに負けたという事なのだろう。
 しかもアイツの言葉から察するに、あの卓越した二刀流を使ってだ。
 おそらくはフォルテのオーラに阻まれての敗北だろうが、それでも脅威である事に変わりはない。

「……ふむ、そうだな。キサマに面白い物を見せてやろう」
 そう口にすると同時に、フォルテはローブをはためかせる。
 その下から舞い散る……白い、羽根。その背中から現れる、純白の双翼。

727エアリアルブラスト ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:40:29 ID:fgufjUgg0

「まさか……その翼は!」
 今までとは比べものにならない驚愕が、シルバー・クロウの心中を埋め尽くす。
 見間違えようなどない。フォルテのソレは、紛れもなくバルムンクの双翼だった。

「なんで……なんでお前がそれを!」
「当然、殺して奪った」
「ッ…………! お前ッ……!」
 凶悪な笑みを浮かべるフォルテに、あるデュエルアバターの姿が重なる。
 そいつに翼を奪われた時の感情がぶり返し、頭を更に白熱させる。
 ダスク・テイカー――他者の能力を奪う必殺技を持つアイツと同じ力を、フォルテは持っているというのか。

「さあ……これで最後だ。
 キサマのそのアビリティも、オレが全て奪いつくしてやる」
 純白の双翼を羽ばたかせ、フォルテが空へと舞い上がる。
 一度羽ばたく度に次々と羽根が抜け落ち、その翼が黒く染まり、その形を変えていく。
 フォルテのアバターに、最適化されているのだ。

「ぁ…………」
 そうして間もなく、最適化が終わった。
 あの美しかった白翼は、悪魔の如き黒翼へと変貌した。
 漆黒の双翼を背に空へと舞い上がるフォルテの姿は、もはや死神その物といっても過言ではない。
 ………その様が、あまりにも彼を……バルムンクを貶めているように思えて――――

「ッ………! フォルテェエエ――――ッッ!!!」
 残り四割に迫ったHPも、必殺技ゲージの残量も忘れて、フォルテへと向け、ただ激情のままに空へと飛び上がった。

     †

 その戦いを目の前にして、なに一つ出来ない自分にキリトは歯がみした。
 いかなる理由からか、シルバー・クロウの光剣はフォルテのバリアを貫通できるらしい。
 だが破壊は出来ず、結果、シルバー・クロウは光剣のみによる戦いを強いられている。
 それではフォルテに対して勝ち目は薄い。ヤツはまだ、遠距離攻撃を二つも持っている。
 近接戦闘しかできないシルバー・クロウでは、その二つの攻撃に対処しきれない。

 ……対して、自分はどうか。
 それこそ話にもならない。剣士キリトの技では、ヤツのバリアを突破できない。
 これまでの戦いから鑑みるに、フォルテのバリアは一定値以下の威力の攻撃を無効化するタイプ。
 バリアを突破できる可能性のあるソードスキルがないわけではないが、それに繋げるためのスキルが一切通用しない。

「くそっ! 一体どうすれば……」
 あのバリアを破壊しない限り、フォルテの優位は変わらない。
 どうにかして、ヤツのバリアを破壊する方法を――――

「……そうだ。あれなら」
 背後の地面へと振り返る。
 そこには少女の残した、三つのアイテムがある。
 即座にそれらのアイテムへと駆け寄り、まとめて手に取る。
 そしてメニューを操作して、急いで必要な設定を変えていく。

「間にあってくれよ……」
 戦いは既に、空へと移行している。
 空はシルバー・クロウの領域だが、フォルテ相手ではそれも何処までもつか。
 そうして全ての設定を終え、決定を押すと、再びアバターが光に包まれる。

「行っけええぇぇぇ――――ッッ!!!」
 同時に地面へと屈み込んで力を溜め、空へと向け一気に跳躍する。
 その重力に逆らい体は地面に落ちる事なく、銀翼の鴉の戦う空へと昇って行った。

     †

 シルバー・クロウの光の剣と、フォルテの大鎌がお互いを弾き合う。
 だが両者とも即座に翻り、更なる一撃を放つ。
 しかし大鎌の一撃を相殺できず、大きく弾き飛ばされる。
 力では敵わない。力は必要ない。必要なのは速さだ。光の速さをイメージしろ。

「ハアアアア―――ッ!」
 気合とともに、右の光剣で貫手を放つ。
 フォルテはそれを容易く躱すが、その程度は想定している。
 左の光剣を、フォルテの避けた先へと突き穿つ。
 大鎌で弾かれるが、構わず右の光剣を袈裟掛けに振り下ろす。
 だがフォルテは、軽く旋回するだけでその一撃を回避する。

728エアリアルブラスト ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:42:22 ID:fgufjUgg0

「このっ………!」
 袈裟切りを回避したフォルテは、そのまま上空へと上昇する。
 それを追ってシルバー・クロウも加速しつつ、フォルテの後ろ姿を睨みつける。

「セアア―――ッ!」
 目前に迫ったフォルテへと向け、右の光剣を薙ぎ払う。
 飛行速度はフォルテよりもシルバー・クロウの方が速い。追い付くこと自体は簡単だ。
 だが速さだけでフォルテを倒すことはできない。アイツに勝つには、一撃を確実に叩き込む“技”が必要だ。

「フンッ!」
 背後から振われた光剣を、フォルテは振り向きざまに大鎌で弾き飛ばす。
 同時に振り下ろされたもう一方の光剣を半身になる事で躱し、シルバー・クロウへと大鎌を振り抜く。
 それを一瞬後退する事で回避し、即座にフォルテへと接近する。
 だがフォルテは、体ごと大鎌を一回転させ、もう一撃振り抜いて来た。

「グ……ッ!」
 光剣を交差し受け止めるが、その威力に大きく弾き飛ばされる。
 銀翼を振動させ体勢を立て直し、即座にフォルテへと向け飛翔する。
 だがその瞬間、フォルテの左腕がバスターへと変形し、シルバー・クロウへと向けて無数の光弾を放ってくる。
 だがシルバー・クロウにとって、その程度の遠距離攻撃離れたものだ。
 放たれた光弾をバレルロールで回避し、射線を掻い潜る様にフォルテへと再接近する。
 そして再び、フォルテへと向けて二本の〈光線剣〉を振り抜き、振るわれた大鎌と凌ぎを削る。


“くそっ……! 思う様に、戦えない……!”
 どうにもうまく乗らない調子に、シルバー・クロウは内心で歯噛みする。
 フォルテに空中戦を可能とさせているのは、その背に生えた黒翼……変貌したバルムンクの双翼だ。
 だからこそ、アイツにだけは決して負けるわけにはいかないのに、どうにも攻めきることが出来ないでいた。

 ……その理由は、シルバー・クロウに戦闘経験にあった。

 シルバー・クロウは加速世界唯一の飛行型アバターでありながら、その実、まともな空中戦闘はこれが初めてだった。
 なぜなら彼のこれまでの対戦経歴は、そのほとんどが地対空のデュエルだったからだ。
 加えて数少ない例外である朱雀戦は撤退戦で、もう一つのダスク・テイカー戦も厳密には空中戦とは言い難かった。
 なぜなら飛行アビリティを奪ったダスク・テイカーに対し、シルバー・クロウがとった戦法は、飽く迄もゲイルスラスターによる“跳躍”だ。
 そう。加速世界唯一の飛行能力者であるからこそ、シルバー・クロウは空を自在に跳び回る者同士の戦いを経験できなかったのだ。

 その経験不足が、シルバー・クロウを徐々に追い込んでいく。
 力の緩急のつけどころが分からず、戦いのペース配分が乱れる。
 怒りに白熱した頭ではそれに気付かず、消耗だけが加速していく。

「ッハ―――、ハ―――」
 襲い来る疲労に息が乱れる。
 ―――集中しろ。
 徐々に体が、意識について行かなくなる。
 ―――もっと集中しろ。
 残り一割を切った必殺技ゲージに、だんだんと焦りが募っていく。
 ―――集中するんだ。
 〈光速翼(ライト・スピード)〉は使えない。それを使えば、もう体力の後がなくなる。
 ―――集中………

「ガァ……ッ!」
 大鎌の一撃に、一際強く弾き飛ばされる。
 即座に体勢を立て直すが、フォルテからの追撃はない。
 見ればフォルテは、余裕の表情でシルバー・クロウを睥睨していた。

「どうした、もう終りか? オレを倒すんじゃなかったのか?」
「うるさい……ッ!」
 フォルテの言葉に、怒鳴る様に言い返す。
 集中できない。疲労と怒りに、心が掻き乱される。
 勝算はある。力では敵わなくても、速さではこちらが上だ。
 なのに攻めきれない。シルバー・クロウの力を、最大限に生かせない。
 負けられないのに……勝たなければいけないのに……! それなのに………

「くそっ……!」
 両手の〈光線剣〉が、先ほどよりも激しく明滅している。
 単純なイメージを維持するだけの集中力さえ途切れてきたのだ。
 だから攻撃が単調になって、相手に簡単に対処されるのだ。
 ……それが分かっているのに、冷静さを取り戻せない。

729エアリアルブラスト ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:43:02 ID:fgufjUgg0

 だってアイツは、バルムンクさんを殺した。
 こんなデスゲームに乗って、人を殺したんだ。
 許せない。許しちゃいけない。許せるわけがない。
 だからアイツを、倒さなくちゃいけない、のに……!

「くそぉ………ッ!」
 必殺技ゲージも、もうなくなる。
 高速の〈エアリアルコンボ〉も、相手にダメージを与えられなければ持続できない。
 ……勝てない。どんなに頑張っても、たった一人では、フォルテには勝てない。

「レーザー………ラァァ―――ンスッッ!!!」
 シルバー・クロウは右腕を肩の上で引き絞り、銀色の閃光を伴って突き出す。
 残った気力を込めた心意の槍が、フォルテへと向けて放たれる。
 その、全身全霊の最期の一撃は、

「これで―――、終わりだッ!」
 数秒の拮抗の後に、フォルテの振るった大鎌に打ち消された。
 フォルテはすぐさま自分へと迫り来て、その右手に握る凶刃を振り上げる。
 目前に迫る死を刻む影。それを退ける力はもう、シルバー・クロウには残されていなかった。

“……すみません、バルムンクさん。あなたの仇を、取れませんでした。
 ……ごめんなさい、黒雪姫先輩。僕はここで、死ぬみたいです”

 シルバー・クロウの脳裏を、そんな諦めの言葉が占めていく。
 目前に迫った死に、心が理不尽な敗北を受け入れていく。
 金属が冷えて固まる様に、肩だが重く、冷たくなっていく。
 ―――それを押し留める様に、シルバー・クロウの耳に一つの声が届いた。

「コードキャスト、〈vanish_add(b)〉―――!」

 それは何かのスキル名なのか、その声の直後、フォルテの体をモザイク状のエフェクトが覆った。
 そのエフェクトが何を意味するのか理解するよりも速く、心よりも先に体の方が行動した。
 咄嗟に今にも消えそうな左手の〈光線剣〉を盾にして、右手で左腕を支えて大鎌の一撃を受け止める。
 ――――同時に地上から飛んできた人影が、オーラで守られているはずのフォルテを切り裂いた。

「な―――!」
「に……ッ!」
 予想外の攻撃を受けたフォルテが、これまでにない隙を晒す。
 見れば、フォルテの体を覆っていた黄色いオーラは、きれいさっぱり姿を消していた。
 ………理由を考えている時間はない。即座に残された最後の必殺技ゲージを消費して、渾身の回し蹴りを放つ。
 果たしてその一撃は――フォルテの胴体を、確かな手応え、いや、足応えとともに蹴り穿った。

「グ………ッ!」
 フォルテの体が蹴り飛ばされる。
 同時に必殺技ゲージが、再び一割ほどチャージされる。
 即座にフォルテから距離を取って滞空し、謎のスキルを放った人影を見上げる。

 そいつは、あまりにも見覚えのある剣士だった。
 髪は逆立ち、耳は尖り、衣服の意匠も変わっている。
 何より違うのは、その背中から黒い翅が生えている事だろう。
 だがその手に握られた剣と、その漆黒の双眸だけは見間違えようがない。

「キリト……お前、その姿は……」
「ALOアバター、って言えば分かるか?」
「あ」
 理解した。
 デスゲームの開始時に、自分が学内アバターからデュエルアバターに設定を変更したように、キリトも複数のアバターを持っていた、という事だろう。
 それがその姿の理由。彼は二刀流の剣士キリトから、黒い翅をもつ妖精の剣士キリトへと変わったのだ。
 ……だがもう一つの疑問。フォルテのオーラを消したスキルについては、まだ解明されていない。
 その疑問を、フォルテが怒りと共に問い掛けた。

「人間……キサマ、一体何をした」
「消した。あんたを守ってたバリアは、これでもう無意味だ。
 ……ついでに言うとな。このスキルを持つアイテムは、レンさんが持っていたものだ」
 そう答えたキリトの腰には、鋲の沢山ついたベルトが巻かれていた。
 それが【小悪魔のベルト】という名の、レンの残したアイテムの一つだった。

730エアリアルブラスト ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:44:18 ID:fgufjUgg0

 ――コードキャスト〈vanish_add(b)〉。
 それが【小悪魔のベルト】を装備する事で使用できる、相手に掛かっているバフをランダムに一つ解除する効果のスキルだ。
 キリトはこのスキルによって、フォルテのオーラを消し去ったのだ。
 更にこのベルトには、装備したプレイヤーのMPを上昇させる効果もあり、たとえMPの概念のないアバターでも、問題なくスキルを使用できるという訳だ。
 加えてベルトを装備しALOアバターに変わった瞬間から、自分が元々装備していた防具のアビリティが発揮されていることも、キリトは実感していた。

 キリトの装備していた防具の名は、【蒸気式征闘衣】。この防具は〈SPイーター〉と〈第七感〉の、二つのアビリティを持つ。
 〈SPイーター〉はSPを消費する代わりに全パラメータをアップさせ、〈第七感〉はそれにより消費されたSPを回復させる。
 つまり消費と回復の均衡がとれた、ノーリスクで攻撃力防御力共に上昇させる効果を持つ防具だ。
 ついでに言えば、アビリティがSPではなくMPを消費して発揮されていることから、どうやらこのデスゲームではSPとMPには互換性があるらしい。

「チッ、あのAIか。完全に消し飛ばしておくべきだったな」
「ッ………………!」
 フォルテのその言葉に、シルバー・クロウは自分が間に合っていなかった事を悟った。
 だが、今は後悔に塞ぎ込んでいる場合じゃない。戦いはまだ続いている。ここで自閉すれば、次に死ぬのは自分とキリトだ。
 それが罰だというのなら、自分だけが殺されるのはいい。だがキリトが殺される事を、容認する事は出来ないと、自分を奮起させる。

「なあ、シルバー・クロウ」
 そんなシルバー・クロウへと、キリトが声を掛ける。
「あんた、銃は使えるか?」
 そう言ってキリトが取り出したのは、二つのアイテム。内訳は、銃と鎧。
 それを見たシルバー・クロウは、自身を持ってこう答えた。

「FPSなら得意分野だ」
「ならこいつを使え。今ならフォルテにも通用するだろうし、あんたの方が俺より使いこなせるはずだ」
 手渡されたそれらのアイテムを、迷うことなくストレージに移し、装備する。
 一度シルバー・クロウと対戦したキリトは、ブレインバーストの対戦仕様を知っている。
 そのキリトが、シルバー・クロウの方が使いこなせるといったアイテムだ。疑問を懐く必要はない。

 システムアシストに従い、両手を後ろ手に構えてその武器――【DG-Y】を取り出す。
 具現化した二丁一対の拳銃には、銃身にやや大振りな半月状の刃が備えられていた。
 だが動きを阻害するほどではない。これならば十分、近接格闘も可能だろう。

「――話は終ったか?」
 こちらの準備が整った事を見て取り、フォルテがそう訊いて来る。
 アイツから攻撃してこなかったのは、キリトが警戒していた為か。

「悪いな、待ってもらって」
「ふん」
 その言葉にキリトは、特に気負いしていない口調で応じる。
 フォルテはそれを鼻で笑うが、その表情に今までの様な余裕は見えない。
 分かっているのだろう。ここから先の戦いは、アイツにとっても命を賭けた戦いである事に。

 フォルテの優位を支えていたオーラは無効化された。
 こっちはお互いに大きく消耗しているとはいえ、二人掛かり。
 アイツの攻撃力なら一撃まともに食らっただけでやられる可能性はあるが、それでも十分勝機はある。

「、は――――――」
 そこまで考えて、自分の単純さに笑ってしまった。
 ほんの一瞬前までほとんど完全に諦めてたくせに、たった一つ勝機が、共に闘う仲間が出来ただけでもう立ち直っている。
 けど、その単純さが、今はこの上なく心地いい。
 まだ動ける。まだ戦える。まだやれる。そのことが、ただひたすらに楽しい。

「行くぜ、シルバー・クロウ。タッグデュエルだ」
 キリトが黒い翅を広げ、フォルテへと向け剣を構える。
 残りHPは五割を切っている。全身を襲う疲労も、そろそろ限界だ。
 武器は魔剣が一振りだけ。あのフォルテとやり合うには少々心許ない。しかし―――

「いいぜ、キリト。お前となら、どこまでだってやれる気がする」
 シルバー・クロウもそれに応じて、より大きく金属フィンを展開する。
 残り一割の必殺技ゲージを惜しげもなく消費し、銀翼を激しく振動させる。
 最初から全力。ほんの僅かにでも出し渋れば、フォルテには敵わない。けれど―――

 この黒の剣士と一緒なら、
 この白銀の鴉と一緒なら、
             どんなラスボス相手だって、負ける気がしない―――!

731エアリアルブラスト ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:44:47 ID:fgufjUgg0

「………………」
 そんな二人を見て、フォルテは一層苛立ちをつのらせる。
 友情。信頼。絆。かつて得られず、そして自ら切り捨てたモノ。それを力に、あの二人は挑んでくる。
 ………ならばその力を、胸に燃え盛る復讐の炎で焼き尽くしてやろう。

 今までの様な遊びはない。強者二人の連携の強さは垣間見たばかりだ。
 そしてあの二人を相手に油断すれば、逆に己が倒されるとも理解している。
 故にここで、確実に破壊する。そしてその力を喰らい、さらなる“強さ”の高みへと至る!

「「勝負だ、フォルテ!」」
 キリトとシルバー・クロウが揃って叫ぶ。
 飛翔も同時。二人は並んで、フォルテへと突進する。
「来い……!」
 対するフォルテは黒翼を広げ、待ち構えるように大鎌を振り上げる。
 そうしてついに、黒の剣士と白銀の鴉の二人と、黒き死神との戦いは佳境を迎えた。

732黒の双剣 銀の双翼 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:46:48 ID:fgufjUgg0

    11◇◆

 ―――銀色の双翼が黒衣の妖精を追い越し、復讐の死神へと迫る。
 ことスピードにおいて、シルバー・クロウに勝るものはこの場には存在しない。
 故にシルバー・クロウが先行し、キリトがその後に続く形になるのは当然の結果だ。

 だがそんな事は、実際にシルバー・クロウと戦ったフォルテが一番承知している。
 故にシルバー・クロウの突撃に合わせる様に大鎌を振りかぶり、
「――――ッ!」
 目前で行われた急制動に、行動の選択を誤る。

 シルバー・クロウは大鎌の攻撃範囲に入る直前、ほぼ九十度近い角度で右折した。
 そしてそのままフォルテを中心に旋回し、双銃の引き金を引きく。
 左右四発ずつ、計八発の弾丸は、高速移動の最中でありながら狙い違わずフォルテを捉える。

「チィ……ッ!」
 対するフォルテの行動は、上昇による回避。
 放たれた弾丸を防ぎきれないと判断してのことだ。
 だがそこに、狙いすましたようにキリトが待ち受ける。

「ハァ―――!」
「グゥ………!」
 魔剣の一撃を、大鎌の柄で受け止める。
 完全に制空権を抑えられ、行動を縫われる。
 そこに、
「てやぁぁあああッ!」
 金属装甲の一撃が叩き込まれる。

「ッ………!」
 再度叩き込まれるシルバー・クロウの回し蹴り。
 キリトに行動を制されたフォルテはまたも大きく蹴り飛ばされ、同時にシルバー・クロウの必殺技ゲージがチャージされる。
 それこそが二人の作戦。戦いを繋げるための、最初の一手だった。

 シルバー・クロウが飛行するには、必殺技ゲージを消費する必要がある。
 だがその残りが少なければ、この空中戦でまともに戦う事は出来ない。
 それゆえの一手、その為の一撃だった。

「残りは?」
「二割ほど」
 キリトの簡潔な質問に、シルバー・クロウも短く答える。
 同時に双銃の空薬莢を排出し、弾薬が自動装填されたことを確認したところで、ふとある事に気が付いた。

 先程に今と同じ回し蹴りを喰らわした時、必殺技ゲージの増加量は一割程度だった。
 そしてフォルテに一撃を加える直前、必殺技ゲージの残りは五分を切っていた。
 しかし現在は二割ほど。残り五分、多く必殺技ゲージが増加している。
 ――その理由にはすぐに思い至った。それがこの双銃のもつ効果なのだ。

 【DG-Y】固有アビリティ――〈神速の弾丸〉。
 スキルトリガー再使用時間を短縮する効果を持つアビリティで、これにより【DG-Y】はアーツの高速運用に特化した武器となっている。
 そしてその効果はこのデスゲームにおいて、スキル使用後の硬直時間や必殺技ゲージのチャージ速度さえ短縮させる。
 まさに神速の名に相応しいアビリティなのだ。

“なるほど。僕の方が使いこなせる、ね”
 まさしくその通りだった。
 飛行アビリティを要とするシルバー・クロウにとって、必殺技ゲージの高速チャージは常よりの課題だ。
 それがこの武器を装備するだけで、チャージ量が単純に一.五倍にまで増加するのだ。相性が悪いはずがない。
 加えて双銃という遠隔武器。これはFPSを得意としてきたシルバー・クロウにとって、頼もしいことこの上なかった。

 ギュッ、と双銃のグリップを握り締める。
 シルバー・クロウの向ける視線の先では、フォルテが既に体勢を立て直している。
 アイツの飛行限界はどれくらいか。なんて考えを、頭を振って追い出す。
 飛行限界なんて来ない。それが来る前に、決着を付ける……!

「行くぞ!」
 シルバー・クロウが合図の代わりに声を上げ、銀翼を振動させ急加速する。
 その進路は、最初から横へ。同時に双銃の引き金を引き、フォルテへと向け全弾発射する。
 双銃の装弾数は四×四の計八発。通常で考えれば、容易く打ち尽くせる余裕のある弾数ではない。だが。

 弾丸を撃ち尽くすと同時に、空薬莢を排出。すると同時に、弾薬が自動装填される。
 そう。この双銃には、装填弾数はあっても、弾数制限はない。
 一度に撃てる弾丸が八発というだけの、実質無限の弾丸を持つ銃器なのだ。
 それを意識する間もなく、シルバー・クロウはフォルテへと向けて加速する。

733黒の双剣 銀の双翼 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:47:37 ID:fgufjUgg0


 ―――対するフォルテは先程の経験から、大鎌を旋回させて盾にし、放たれた銃撃を防ぐ。
 弾丸に対応出来る反応速度も、弾道を予測できる眼も持たないフォルテには、弾丸を一発一発弾くことはできない。それゆえの防御法だ。
 だが当然全てを防ぐことは出来ず、弾丸のいくつかが体を掠めていく。
 それを気に留める事なく、フォルテは旋回を止めた大鎌を振り抜く。

「ハァ――ッ!」
「グゥ……ッ!」
 凶刃の先には、シルバー・クロウの銃撃に追従したキリトの魔剣。
 それを持ち主ごと渾身の力で弾き飛ばし、もう一振り。魔力放出を用いて牽制する。
 そこから更にもう一振りし、今度は突進してきたシルバー・クロウを迎撃する。

 大鎌と双銃の刃が、火花を散らして凌ぎを削る。
 だがそれも一瞬。力で勝るフォルテが、キリトと同様にシルバー・クロウを弾き飛ばす。
 そもそも呑気に鍔競り合いを演じている余裕は、フォルテにはない。
 そうしている間に、魔剣の一撃で魔力斬撃を打ち消したキリトが、剣を構えて突撃してくる。

「ッ……!」
 舌打ちをする暇もない。
 シルバー・クロウが上下逆さまになってフォルテの頭上を飛翔し、双銃による銃撃を行ってくる。
 キリトが辿り着くまでの間、フォルテの行動を縫い止めるためにだ。
 それをフォルテは先ほどと同じく大鎌を旋回させて防ぐが、柄から伝わる衝撃に食らうと危険と判断して飛び退く。
 今の銃撃は間違いなく、先程の物よりも威力が高かった。
 その理由を考える間もなく、追い縋ってきたキリトの魔剣を大鎌で迎撃する。


 ――双銃の威力が変わった事は、その衝撃音からシルバー・クロウも察していた。
 フォルテが弾丸を弾いた時、明らかに遠距離の時よりも、近距離の時の方が強く、激しい音を立てていた。
 ……つまりこの武器は、銃器でありながら、距離による威力の減衰が大きいという事なのだ。
 となると、双銃の力を真に発揮するには、近接距離での格闘射撃が有効となる。つまりはガン=カタだ。
 そんなある種矛盾した性能に、親友の事を思い出して内心で苦笑する。

 だがその感傷は後回しだ。
 戦いは続いている。キリトはまだ戦っている。今は先に、眼前の敵を撃破する。
 双銃をリロードし、銀翼を振るわせてフォルテへと向けて飛翔する。

「ウオリャアァァ―――ッッ!!」
 シルバー・クロウは双銃を持ったままの右腕を、フォルテへと向けて振り抜く。
「ハアッ、オオオ―――ッッ!!」
 力任せにキリトを弾き飛ばしたフォルテが、大鎌でシルバー・クロウを迎え撃つ。
 双銃の月刃と大鎌の凶刃が激突し、火花を散らす。
 例え力で及ばなくとも、飛行による加速を受けた一撃は、一瞬だけフォルテの一撃と拮抗する。
 ――その一瞬の間に、シルバー・クロウは大鎌と鍔競り合ったまま、右の双銃の引き金を引いた。

「ッ!」
 銃声とともに放たれた弾丸を、フォルテは咄嗟に首を捻って回避する。
 弾丸がフォルテの頬を掠める。咄嗟の回避により、大鎌を押し込む力が緩む。
 その瞬間を狙ってもう一撃、左の双銃を大鎌へと叩き込む。
 力の抜けた瞬間を打たれた大鎌は容易く弾き飛ばされ、その奥にあるフォルテの体を曝け出す。

 互いの距離は一メートル弱。それを一瞬で詰め、右の双銃で殴りかかる。
 無暗に防げば銃弾の飛来する一撃。それをフォルテは、左腕で内から外へと打ち払う事で防御する。
 同時に銃声が響くが、放たれた弾丸はフォルテに当たることなく、虚空を穿つ。
 そこで止まらず、左の双銃でもう一撃。即座に翻った左手の掌底で弾かれ、銃声が空しく響く。

「オオオオ!!」
「チィィイッ!」
 銀翼で姿勢を制御し、左右の双銃、両の脚を次々にフォルテへと叩き込む。
 クロスレンジにおいて、長得物である槍やフォルテの使う大鎌などは、その長さが災いしほとんど役に立たない。
 その不利の中、フォルテはシルバー・クロウのラッシュを、同じく黒翼で姿勢を制御し、左腕と両脚で辛うじて捌いていく。

734黒の双剣 銀の双翼 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:49:53 ID:fgufjUgg0

 双銃を用いた格闘戦において厄介なのは、拳打と共に放たれる銃弾だ。
 なぜなら下手な防御では、防いだ瞬間に銃弾に打ち抜かれ、無暗に距離を取ればそのまま銃撃に移行されるからだ。
 故にフォルテは至近距離のまま、一先ず攻撃を捨て防御に専念する。

 計四度、銃声が響く。内、フォルテに当たった弾丸は一発もない。
 双銃の刃や蹴撃などが掠めたが、その程度ならダメージの内に入らない。
 だがやはり、左腕と脚のみではシルバー・クロウのラッシュを防ぎ切る事は出来ず、

「そこだッ!」
「グッ……!」
 遂に防御を潜り抜けた左の双銃が、フォルテの脇腹に叩き込まれる。
 同時に響く銃声。放たれた弾丸が、フォルテの体を貫く。
 だがフォルテは痛みを堪え、シューティングバスターを乱射した。
 放たれた光弾を、シルバー・クロウは咄嗟に銀翼を振動させ回避する。

「セア―――ッ!」
 そこに入れ替わる様に、キリトがフォルテの懐へと飛び込んでくる。
 そうはさせまいと、フォルテは渾身の力で大鎌を振り抜き迎撃する。
 キリトはその一撃を受け流して掻い潜り、懐に潜り込んで魔剣を薙ぎ払う。
 だがその一閃をフォルテは上へと飛び上がって回避し、シューティングバスターから光弾を乱射する。
 光弾を回り込むように回避しながら、キリトも上昇してフォルテへと攻め入る。


 シルバー・クロウの銀翼と違い、ALOの妖精の翅は肩甲骨の動きを基にして動かしている。
 故に近接戦闘では剣の動きと翅は干渉し、高速飛行を保ったままの戦闘は出来ない。
 しかし近接戦闘にも例外が一つだけある。即ち、ソードスキルだ。
 ソードスキルは一度発動すれば、システムアシストが強制的にその動きを再現させる。
 それはたとえ高速飛行中だろうと、天地が逆になっていようと変わらない。故に。

「ハアッ――!」
 フォルテへと向け、ライトエフェクトを纏った魔剣を大上段に斬り下ろす。
 その一撃は大鎌で迎撃されるが、そのまま懐へと攻め込み、上下斬りを素早く繰り出す。
 これも引き戻された大鎌の柄で防がれるが、懐に潜り込んだことにより、これ以上大鎌による防御はできない。
 最後に放たれる突き気味の斬り降ろしが、フォルテの胴体を捉える。
 ――ソードスキル〈バーチカル、スクエア〉。
 剣の放つ青白い残光が、正方形を描く垂直切りの四連撃は、しかし。

「舐めるなァ!」
 槍の様に突き出された大鎌によって、止めの一撃が届く事なく終了した。
 大鎌の頭が、鈍い音を立ててキリトの胴体にめり込む。刃の部分ではないため、斬撃ダメージは発生しない。
 しかし、フォルテの強靭な筋力で放たれた打突は、キリトのHPを残り三割半にまで削り飛ばす。
 ―――だが、これこそがキリトの待ち望んだ最大のチャンスだった。

「ッ!」
 息を詰らせながらも笑みを浮かべたキリトに、フォルテの背筋に戦慄が奔った。
 しかし、逃げるには既に遅い。
 大鎌の柄をキリトの左手がしかと掴み、フォルテを強引に引き寄せる。
 同時に右手の剣が空へと投げ放たれ、キリトの体ごとするりとフォルテの懐に潜り込む。
 ―――剣士が剣を投げ捨てる。
 卓越したキリトの剣技を散々味わったが故に、その予想外の行動にフォルテはほんの刹那、対処が遅れる。

 密着する様な超至近距離。
 フォルテは咄嗟に後退しようとするが、それより速くフォルテの胸に触れたキリトの右掌がライトエフェクトを纏う。
 直後、手の平を当てられた胸に巨大な衝撃が襲い、その体を真後ろへ弾き飛ばす。
 直後、大きな前ジャンプの動作で、キリトはフォルテへと追いすがる。
 二人は再び接近する。距離は丁度、剣を振るうに適した間合い。
 そのまま大きく振りかぶられた右手に、先程空へと投げた剣が掴まれる。

「ッ………!」
 放たれる体術・剣術複合ソードスキル〈メテオフォール〉。
 炎の色に包まれた魔剣が、フォルテへと一直線に斬り下ろされる。
 回避は不可能。それほどの機動力はない。
 防御も不可能。大鎌を持つ右腕はその重量に伸ばされたまま。
 迎撃は間に合わない。シューティングバスターを撃つより先に、ヤツの一撃が到達する。

735黒の双剣 銀の双翼 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:55:35 ID:fgufjUgg0

 魔剣がフォルテの体を切り裂く。
 肩から胸へかけて巨大な衝撃が襲い、フォルテは爆発めいたライトエフェクトとともにひとたまりもなく弾き飛ばされた。

 ―――だが“彼ら”の攻撃は、これで終わったわけではない。
 フォルテの弾き飛ばされた先には、既にシルバー・クロウが先行していた。
 お互いの距離は十メートル以上離れているが、その程度は有って無い様な距離だ。

 シルバー・クロウはフォルテへと向かって高速飛翔しながら、両腕を体の前でがしっとクロスさせる。
 直後迫り上がった装甲に首回りが堅固に固定され、金属フィンの付け根から純白の光が放たれ銀翼をより輝かせる。
 みょんみょんみょんというやや冴えない効果音とともに鏡面バイザーも白い輝きを帯び、遂には白銀の閃光となって空を駆ける。

「グッ、ォオオオオ――――ッッ!!!」
 それに気付いたフォルテは黒翼を限界まで開き、急制動を掛け振り返る。その左手には、高密度のエネルギーが集束している。
 それがフォルテの必殺技である事に、シルバー・クロウはすぐに察しがついた。しかし今更止まれないし、この好機を逃すこともできない。

「アース………ブレイカァァァ――――――ッッ!!!」
 お互いの距離が五メートルを切る。
 その瞬間、シルバー・クロウへと向けて破壊の力が放たれる。
 迎撃はできない。自身の肉体を使った技では、エネルギー攻撃を相殺できない。
 ――――そもそも、そんな必要もない。

 エネルギー攻撃が放たれる直前、金属フィンを僅かに振動させ、ほんの一メートル軌道修正する。
 たったそれだけで、放たれたエネルギーはシルバー・クロウの下方を掠め、遥か虚空へと抜けていく。
 そうして互いの距離が一メートルを切った瞬間、上半身を大きく仰け反らせると同時に両腕を一杯に開き、フォルテの顔を睨みながら技名を発声する。

「“フライング………ヘッド・バァァァ――――――ット”!!!」

 彗星の如き光の軌跡を残しながら、光り輝く鏡面バイザーが、光の速度でフォルテへと向けて突進する。
 もはや頭突きというレベルではなく、全身を使った体当たりによる〈急降下重攻撃(ダイブアタック)〉といった方が相応しい一撃。
 フォルテはその一撃を、渾身の力を込め大鎌の柄で防ぐ。――が、彗星の一撃は大鎌による防御を容易く弾き飛ばす。
 フォルテの顔に、驚愕の表情が浮かぶ。コンマ一秒後、その顔面に、白銀の閃光とともに鏡面バイザーが叩きつけられた。

「ッッッ…………、ガッ――――ァ………ッッ!!!!!!」
 激しい衝撃が大気を揺るがし、フォルテの体は再び大きく弾き飛ばされる。
 頭部に強烈な痛打を受けたフォルテは、その瞬間、あらゆる思考を停止させられる。
 だがそれも一瞬。湧き上がる怒りと、その胸の内に宿る復讐の炎が、フォルテの意識を強制的に覚醒させる。

 だがこの時点で、すでに勝敗は決していると言ってよかった。
 キリトの〈メテオフォール〉、シルバー・クロウの〈ヘッド・バット〉。その両方の直撃を受けたフォルテのHPは、まず六割以上は吹き飛ばされているだろう。
 ましてや〈ヘッド・バット〉にいたっては、〈急降下重攻撃〉にも等しい加速を受けた一撃だ。当然その分ダメージも増加している。
 だと言うのに、いまだ全損していないフォルテの耐久値は、それこそ恐るべきものだろう。

 ……だがそこに、システムが更なる追撃を実行する。
 シルバー・クロウの視界に、更なる必殺技の引き金が表示される。
 【DG-Y】の二つ目の、いや、全ての双銃系武器が持つアビリティが発動する。

 ―――ダブルトリガー〈JUDGEMENT〉。
 システムに設定された物理攻撃系スキル使用時にのみ許される、追撃専用アーツ。
 このスキルの利点/欠点は、発動すると武器が双銃へと強制的に換装される事にある。
 双銃のアビリティ効果を常に得られる代わりに、双銃での戦いをほぼ強制させられるのだ。
 されどFPSを得意とし、格闘戦を基本とするシルバー・クロウにとって、その欠点は意味がなく―――

 その二つ目の引き金を、シルバー・クロウは躊躇いなく引き絞る。
 双銃の銃口がフォルテをターゲットする。
 銃声が三度響く。左右二発ずつ、系四発の弾丸が放たれる。
 フォルテは咄嗟に体を捻り回避行動を取るが、受けたダメージに行動が遅れる。
 その結果、体への直撃は避けたが、黒翼の片方へと弾丸が命中した。

「グ…………ッ!」
 翼に穴を穿たれた事で姿勢制御が出来なくなり、フォルテは大きくバランスを崩す。
 ……そこに、最後の一撃が放たれる。遥か上空から、黒衣の剣士が稲妻の如く降下してくる。

736黒の双剣 銀の双翼 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:58:07 ID:fgufjUgg0

 重範囲攻撃系ソードスキル〈ライトニング・フォール〉。
 剣を地面に突き刺せば周囲に電撃を走らせるこのスキルは、単体へと突き立てれば、結果として雷撃の全てをその単体へと浴びせる事が出来る。
 無論。通常なら地上であれ空中であれ、そんな隙を敵が見せてくれるわけがなく、容易く回避される使用方法だ。
 しかし今、翼を傷付けられたこの瞬間に限れば、フォルテにこの一撃を回避する余裕はない――――!

「これで、止めだァァ――――ッ!!」
 雷光の一閃を、フォルテへと向けて突きたてる。
 それをフォルテは、大鎌の一撃で迎撃する。……否、この一撃は時間稼ぎだ。
 フォルテはその左手に、再びエネルギーを集束している。
 そしてその一秒の後に、重力加速を受けた魔剣に大鎌は弾かれ、

「キリトォォォオオ…………ッッ!!」
 フォルテの叫びとともに、破壊の力が解き放たれた。
 狙いは魔剣の切っ先。火剣と同様に、この魔剣も破壊するつもりなのか。
 だが、一体どれほどの耐久値を持つのか。雷光を纏う魔剣はフォルテの一撃と拮抗し、

 直後、爆発したエネルギーの奔流に、空へと吹き飛ばされた。
 即座に体勢を立て直し、フォルテの方へと目を向ける。
 そこには大きな爆煙と、そこから遠くへと吹き飛ばされた、一つの人影。
 人影はネットスラムに立ち並ぶ廃ビルの影へと落ち、姿はもうどこにも見えない。

「やった……のか……?」
 いつの間にか傍に跳んで来たシルバー・クロウが、そう確信を得ない言葉を口にする。
「いや。多分、やれてない……」
 最後の瞬間の手応えを思い出し、キリトはそう推測する。
 あの瞬間、強い衝撃こそ受けたが、フォルテの体を貫いた感触はなかった。
 ………だが、フォルテを探し出して戦いを続ける気力は、さすがに残っていなかった。

「さすがに……限界だな………」
 そう口にして、キリトの体がふらふらと揺れ始める。
 それと同時に、背中の翅から、燐光がだんだんと消え始めていた。
 『対空制限』――かつてALOに存在したシステムが、このデスゲームでも設定されているのだ。
 ………だが、キリトの体がふらついているのは、それだけが理由ではない。
 この戦いで蓄積された疲労が、遂に限界を越えたのだ。

「悪い、シルバー・クロウ………後は頼んだ」
「へ? ちょ、キリト!?」
 言うや否や、その体が地面に落下し始めた。
 シルバー・クロウは慌てて腕を掴み、肩を貸す形でキリトを支える。
 声を掛けるが反応はない。見ればキリトは、完全に気を失っていた。

「えっと……とりあえず、ここを離れよう」
 その様子を見たシルバー・クロウは、そう口にして必殺技ゲージを確かめる。
 残りゲージは一割半といったところだが、ネットスラムを出るには十分だろう。

737黒の双剣 銀の双翼 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:58:32 ID:fgufjUgg0

「………………」
 キリトの横顔を見る。
 彼には訊きたい事や、謝りたい事が幾つもあった。
 キリト自身の事。最初の対戦の時の事。自分が間に合わなかった事。その他にもいろいろ。

 けど今の状況では、そんな余裕はないだろう。
 フォルテとの戦いはこの上なく激しいものだった。もしネットスラムに人がいれば、間違いなく目立っていたはずだ。
 それがデスゲームを打破しようとする人ならいいが、もし乗った人物だった場合、連戦は免れないだろう。

 だが今の自分達に、もう戦う余力は残っていない。
 HPは五割を切り、心意技の行使に精神は疲弊し、キリトは深く眠っている。
 もしこの状態で戦闘になれば、高い確率で大きな犠牲を払う事になるだろう。
 それだけは何としても、避けなければならない。

 それに考える事は、他にもある。
 頭に浮かべるのは、キリトから譲られた強化外装【サフラン・アーマー】の事だ。
 分類としてはボディアーマーになるらしく、防御力が少し上がるだけ。
 ただ呪われたアイテムらしく、同じものがあと四つもあるらしい。
 だがシルバー・クロウにとっては、それらは全く違う意味を持っていた。

 一人のバーストリンカーを思い出す。
 名をサフラン・ブロッサム。“災禍の鎧”の誕生の根幹となった少女だ。
 同じ“サフラン”の名を持つこの強化外装は、彼女と何か関係があるのだろうか。
 だが、いくら考えても答えはでない。頭を振って、一先ず考える事を止めにする。

 今は先に休める場所を探そうと、地図の内容を思い出す。
 ネットスラムの近くには確か、ショップとやらが近かったはずだ。
 まずはそこに寄って、それから梅郷中学に向かう事にする。

 やるべきことは沢山ある。
 今度こそフォルテを倒す事もだが、このデスゲームを脱出する方法も探さなければならない。
 このデスゲームには黒雪姫先輩だって参加させられているのだから、彼女も探さなければいけない。
 少し忘れそうになっていたが、赤いローブの少女から受けた、【noitnetni.cyl】を探すクエストだってある。
 だがとにかく、一歩ずつでも前に進もう。

 シルバー・クロウはそう決意すると、キリトを支え直し、銀翼を羽ばたかせてネットスラムを後にした。


 ――――戦いは終わった。
 その結果は黒の剣士と白銀の鴉の勝利となった。
 だがしかし、理不尽な殺し合いははまだ始まったばかり。
 物語の主人公であった彼らが、これからも生き残れるかは、まだ誰にも分からない――――


【レン@パワプロクンポケット12 Delete】

738黒の双剣 銀の双翼 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 10:59:01 ID:fgufjUgg0

【A-9/ウラインターネット/1日目・黎明】

【シルバー・クロウ@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP40%、Sゲージ10%、疲労(中)/デュエルアバター
[装備]:DG-Y(8/8発)@.hack//G.U.、サフラン・アーマー@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、付近をマッピングしたメモ、{マグナム2[B]、バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M]}@ロックマンエグゼ3
[思考・状況]
基本:デスゲームから脱出する。
1:一先ず近くにあるショップへ向かい、それから梅郷中学校に向かう。
2:キリトが目を覚ましたら、まず間に合わなかったことを謝る。
3:黒雪姫先輩や、デスゲームから脱出する方法を探す。
4:次にフォルテと遭遇したら、今度こそ必ず倒す。
5:上記のついでに、【noitnetni.cyl】を探す。
6:サフラン・アーマーの事が気に掛かる。
[クエスト]
・【noitnetni.cyl】を探して、赤いローブの少女に届ける。
[備考]
※参戦時期は、アクア・カレントのネガ・ネビュラス復帰後です。

【キリト@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP45%、MP95%(+50)、疲労(極大)、気絶/ALOアバター
[装備]:虚空ノ幻@.hack//G.U.、蒸気式征闘衣@.hack//G.U.、小悪魔のベルト@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個(水系武器なし)
[思考・状況]
基本:絶対に生き残る。デスゲームには乗らない。
0:――――――――。
1:ジローを探し、レンの事を伝える。
2:次にフォルテと遭遇したら、今度こそ必ず倒す。
3:レンさん………俺は………………。
[備考]
※参戦時期は、《アンダーワールド》で目覚める直前です。
※使用アバターに応じてスキル・アビリティ等の使用が制限されています。使用するためには該当アバターへ変更してください。
 ・SAOアバター>ソードスキル(無属性)及びユニークスキル《二刀流》が使用可能。
 ・ALOアバター>ソードスキル(有属性)及び魔法スキル、妖精の翅による飛行能力が使用可能。
 ・GGOアバター>《着弾予測円(バレット・サークル)》及び《弾道予測線(バレット・ライン)》が視認可能。
※MPはALOアバターの時のみ表示されます(装備による上昇分を除く)。またMPの消費及び回復効果も、表示されている状態でのみ有効です。

[全体の備考]
※SAO出典の参加者達のALOアバター(妖精)には『対空制限』が掛けられています。
※《心意技》は制限により、使用すると精神力を疲労します
 またシステムに大きく反する心意ほど、疲労度も比例して大きくなります。


【DC-Y@.hack//G.U.】
痛みの森のフェイズボーナスで入手できる、銃身に半月状の刃の備えられた双銃。
距離によるダメージの減衰が大きく、初期装弾数は4×2発だが、無制限にリロードが可能なため実質無限。
双銃の中では最も攻撃力が低いが、あるアビリティを持つ装飾品と併用する事で神速の名に相応しい力を発揮できる。
・ダブルトリガー:アーツ(物理攻撃系スキル)使用時、ダブルトリガーが発動可能になる(このスキルは、双銃を装備していれば具現化していなくても発動する)
 ダブルトリガーを発動すると、メイン武器が双銃へと換装され、双銃系アーツ〈JUDGEMENT〉が発動する
 ※ダブルトリガーの発動は、システムに設定されたスキルに限定されます。
  なおバトルチップはアイテム扱いとし、プログラムアドバンス発動時のみ効果を発揮できます。
・神速の弾丸:スキルトリガー再使用待機時間が短縮される
 このロワではスキル使用後の硬直時間や、スキルゲージ等のチャージ速度なども該当する

【虚空ノ幻@.hack//G.U.】
蒼天のバルムンクが使用する、曲刀の様な形状の禍々しい刀剣。
・通常攻撃ヒット時に、ダメージ値の50%を自分のHPとして吸収する

【蒸気式征闘衣@.hack//G.U.】
物理・魔法防御力だけでなく、物理・魔法攻撃力も上昇させる軽鎧。
固有アビリティの〈第七感〉によりSP消費を相殺している為、実質SP消費無しで〈SPイーター〉の効果を発揮出来ている。
・第七感:SPが徐々に回復する(SPリカバリーよりも若干回復量が大きい)
・SPイーター:SPを徐々に消費する代わりに、全パラメータをアップする

【サフラン・アーマー@アクセル・ワールド】
《ファイブ・スターズ》と呼ばれる、《七の神器(セブン・アークス)》とは別の伝説の強化外装の一つ。ボディアーマーに該当する
呪いのアイテムとされているが、装備しても防御力が少し上がるだけ。ただし、残る四つを集めた際の効果は不明。

【小悪魔のベルト@Fate/EXTRA】
鋲がたくさんついてるちょっとワルなベルト。
・boost_mp(50); :MPが50上昇
・vanish_add(b); :対象の有利な特殊効果を1つ解除/消費MP 10

739黒の双剣 銀の双翼 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 11:00:48 ID:fgufjUgg0

    12◇◆◆

 ネットスラムからウラインターネットへと出る。
 風景はがらりと変わり、夕暮の空からノイズの奔った、自分のよく見知った空間となる。
 そこを歩きながらフォルテは、先程の戦いを思い返していた。

 キリトという名の人間と、シルバー・クロウとの戦い。
 彼らは総合力において、個々では自分には敵わない。
 剣技ではキリトには敵わない。だがヤツにはオーラが破れない。
 シルバー・クロウはオーラを無視できる。だが実力が及ばない。
 しかしこの二人が手を組んだ時、その力はこちらを圧倒するものとなった。
 あのAIが残したアイテムによってオーラは解除されていたが、恐らく、ヤツ等はそれがなくても自分と対等な勝負を繰り広げただろう。

 だとすれば、その力……“絆”の力を超える力を手に入れる事が、今後の課題となるだろう。
 オーラの復活に普段より時間が掛かっている事は疑問だが、早急に解決する事でもないだろう。
 もともと閾値を超える様な威力の攻撃を出す強者との戦いでは、一時的な盾にしかならない。
 それくらいならば、オーラの閾値を強化する方がまだ役に立つ。……そう、例えば、あのダークネスオーラの様に。

 それに、シルバー・クロウのオーラを無視し、ヒートブレードを容易く破壊した攻撃も気になる。
 【死ヲ刻ム影】なら攻撃を受けられるが、逆にいえば、それでしか受けられないと言う事だ。
 つまりは、もしこの大鎌が支給されていなければ、ヤツ一人に破壊されていた可能性もあるのだ。
 ならばその対抗策としての最上は、自身もあのアビリティを習得することか。
 即ち、ヤツの同類を探し、無理矢理にでも情報を聞き出す。あるいはそのデータを吸収する事だ。
 とは言っても、この大鎌のような例もある。あの攻撃に対抗できるアビリティは他にもあるだろう。それを手に入れるのも、また良しだ。
 つまるところ、結局は新たな“力”を手に入れるという結論に集約されるのだ。

 そう。やはりやる事は変わらない。
 ネットの全てを破壊する。その為の力を手に入れる。より強くなる。それだけだ。
 それだけが、『フォルテ』という名を与えられた己の、唯一の存在意義なのだ。


 ならば、こんなところで立ち止まっている余裕はない。
 メニューを開き、己のHPを確認する。
 ……残り五割弱。想定よりは、少し多いか。
 HPがこれだけ残っているのは、おそらく鎧の効果によって、ダメージが軽減されたからだろう。
 これならば、相手にもよるが、オーラがなくてもあと一度は問題なく戦闘可能だ。

 とは言っても、やはり版円を期すために、回復手段は探しておいた方が良いだろう。
 そして回復アイテムを探すのなら、ショップをチェックするのが手っ取り早い。
 現在位置からネットスラムを挟んだ反対側に一件あるのは覚えている
 ……だが、態々ネットスラムへ戻るのは面倒だった。
 少し考えて、アメリカエリア経由で、アリーナに向かう事にする。
 そうすれば道中で、二件のショップに寄れることになるし、闘技場というからには、戦いに関する何かがあるのだろう。

 そうして目的地も定まったところで、ウラインターネットの奥へと進もうとして、
 その時ふと、あの人間の事を思い出した。

 たかがAIに、あれ程までの感情移入をする剣士。
 ヤツの言動は、ある男を思い出させる。
 それがこの上なく苛立つ。
 だから、

「キリト……キサマは必ず、破壊する」

 復讐の炎を滾らせ、そう口にする。
 そうして今度こそ、ウラインターネットの奥へと脚を進めた。



 ――――ここで一つ、ある話をしよう。
     想い叶う事なく凶手に散った、一人の少女の話を。

740黒の双剣 銀の双翼 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 11:02:44 ID:fgufjUgg0

 少女の名前は、レン。より正確には『レンちゃんver.1.00』。
 浅井蓮というエンジニアの卵が作り出した人工知能(artificial intelligence)――AIだ。
 オカルトテクノロジーという超常の技術によって作り出された彼女は、しかし、他のAIと何も変わらなかった。
 それどころかAIとしての反応はツナミネットのものに劣るという、何のためにオカルトテクノロジーを用いたのかわからない様な不出来具合だ。

 それも当然。ver.1.00という数字が示す様に、彼女は一度もアップデートされていない。
 つまりは何の飾り付けもされていない、完全な(原型)アーキタイプなのだ。無垢な赤子、と言い換えてもいいだろう。
 そんな彼女には一つだけ、はっきりしている事があった。
 その制作過程において、浅井蓮の遺伝情報を組み込まれていることだ。

 そう。フォルテの宿命のライバル、ロックマンと同じように。

 ロックマンの最たる能力は、『成長』または『進化の可能性』だ。
 彼は戦いの経験や、オペレーターとの絆だけで限界を超えてどこまでも成長していく。
 それこそ他者の能力を奪うことで無限に強くなっていくフォルテを、幾度も倒してみせる程に。

 そのロックマンと同じ未知を持つ少女を、フォルテは喰らった。
 ゲットアビリティプログラムはその身体(データ)を蹂躙し、少女の持つ可能性を喰らい尽くした。
 少女のアバターがあそこまで崩壊したのは、そのためだ。ほとんど何も持っていなかったが故に、何もかもが奪われたのだ。


 フォルテは少女を、何の能力も持たない、と蔑視した。
 しかし、何も無いのは当然だ。可能性はあくまで可能性、始まりは常に『ゼロ』なのだから。
 自身も気付かぬ内にその『ゼロ』を手に入れたフォルテが、これからどう強くなっていくのか。それは誰にも、わからない――――。


【B-10/ウラインターネット/1日目・黎明】

【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP45%、MP40/70、オーラ消失
[装備]:{死ヲ刻ム影、ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:アメリカエリア経由でアリーナへ向かう。
2:1の道中でショップをチェックし、HPを回復する手段を探す。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
5:キリトに対する強い苛立ち。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※バルムンクのデータを吸収したことにより、以下のアビリティを獲得しました。
 ・剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定 ・『翼』による飛行能力
※レンのデータを吸収したことにより、『成長』または『進化の可能性』を獲得しました。
※オーラはしばらくすると復活します。

【死ヲ刻ム影@.hack//G.U.】
憑神「スケィス2nd」の使用する大鎌とよく似た、黒き月魄の大鎌。
第一相の碑文使いのロストウェポン。条件を満たせば、パワーアップする(条件の詳細は不明)。
・砕魂ノ凶手:通常攻撃ヒット時に、与えたダメージの25%をHPに、5%をSPに吸収する

【ゆらめきの虹鱗鎧@.hack//G.U.】
アビス・クエストの最終ボス「神喰らいのザワン」から入手可能な重鎧。
R:1のザワン・シンは「攻略不可能」とまで評されたモンスターだが、バルムンクとオルカの二人によって討伐された。
しかしR:2のザワン・シンには、一戦目、二戦目共にそれほどの凶悪さはない。
・虹色の加護:全ての攻撃のダメージを25%軽減する

【ゆらめきの虹鱗@.hack//G.U.】
アビス・クエストのボス「ザワン・シン」から入手可能な装飾品。
バルムンクの“蒼天”、オルカの“蒼海”、二人を指す“フィアナの末裔”という称号は、二人がザワン・シンを討伐した事で送られたもの。
なおバルムンクの羽根は、ザワン・シンを討伐した際のMVP報酬。
・虹色の幸運:獲得GPとアイテムドロップ率がそれぞれ25%アップする
 なおドロップ率は、相手を倒した際にドロップするアイテムが、アイテムストレージに直接移動する確率とする

【空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA】
フィールドスキル・魔力放出Bが使用可能となる礼装。
中距離に魔力の弾丸を放ち、命中した相手を二手分スタンさせられる。
•boost_mp(70); :MPが70上昇
•release_mgi(b); :魔力攻撃で2手スタン/消費MP15

741 ◆NZZhM9gmig:2013/05/15(水) 11:05:05 ID:fgufjUgg0
以上で投下を終了します。
何か意見や、修正したほうがいい点があればお願いします。

742名無しさん:2013/05/15(水) 12:51:01 ID:paL1Q/4o0
投下乙です
キリト対フォルテからクロウ合流、そして共闘の流れが非常に読み応えがあって面白かったです
バトルの展開も二転三転して飽きませんでした
フォルテに鎌というのも中々似合ってていいですね
そしてレンの死……彼女のデータが果たしてフォルテにどんな影響を与えるのか

743名無しさん:2013/05/15(水) 14:24:06 ID:paL1Q/4o0
あと月報集計データです
バーチャル 37話(+9) 49/55 (- 1) 89.0 (- 1.9)

744名無しさん:2013/05/15(水) 15:47:44 ID:5wDNhQmwO
投下乙です

熱い、熱すぎる…キリトの各アバターの使い分けにレンの遺品とシルバークロウの連携が合わさっても撃退止まりとは流石は裏ボス代表フォルテか

745名無しさん:2013/05/19(日) 05:24:49 ID:2QHxwgHs0
何このボス戦アツすぎる!
フォルテの胸の傷とかソードスキルにアバター変更、心意技、各種アイテム盛りだくさんでスゲェ!!
最後のレンの、人間の遺伝情報を図らずも手にしたフォルテがどうなるのかとか続きが気になる。
投下乙!!!!

746 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:20:54 ID:bE.Ng0q60
投下します。

747慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:22:09 ID:bE.Ng0q60
別に何か叶えたい願いがあった訳でもない。
誰かに命令された訳でもなければ、崇高な使命があった訳でもない、
ただ――彼は何かしらの記録となりたかった。

西欧財閥から買い取った優良遺伝子を基に、没落貴族の跡取りとして彼は生まれた。
生まれてから様々な学習を施され、期待された能力に違わずそれを順調に身に付けている。
その結果、未だ8歳という年齢に似合わない非凡な学識や思考力、そして性格を形作ることになった。

そんな彼に、同世代の友人などできる訳もない。
少なくとも現実には。
代わりに彼はネットで一つの居場所を見つけることになる。

ゲームチャンプとして類まれなスコアを次々と打ち立てていく。それが彼の娯楽となった。
ネット上では周りとの現実での孤独感はなかった。
だから彼はゲームを続けた。馬鹿にされていると、知りつつも。

そうしてまだ生き始めたばかりの幼い彼には、一つの目的があった。
自分を生み出した両親から要求されたノルマは単純だ。大成すればいい。
何かしらの分野で多大な結果を残し、その家名を再び世に知らしめる。
その為だけに彼は「設計」され「作られた」。

彼は別に境遇に不満があった訳ではない。
自分には名を残すだけの能力があると思っていたし、その目的に沿って生きようと思っていた。
だから、彼はずっと思っていた。自分は何かの記録に残りたい、と。
ゲームでスコア更新に没頭していたのも、きっとその思いが根底にあったからだろう。

そんな最中、彼がふと聞いた噂がある。
万能の願望機。月で行われる魔術師(ウィザード)の戦い。その参加には死のリスクを伴う。

それを聞いたとき、彼は思ったのだ。
これで優勝すれば、きっと世界に消えない名を残すことができるだろう、と。

それが彼、間桐慎二が聖杯戦争に赴いた理由だった。









748慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:22:42 ID:bE.Ng0q60
「死って」
微睡む意識の中、慎二はぽつりと漏らした。

「死ぬって、ああいう……」
そう言ってゆっくりと目を開けると、緑の木々と、その向こうに広がる幾分明るくなった夜空があった。
それをしばし放心したようにぼぅっと眺める。
深い眠りから覚めた後の、身体が鉛に入れ替わったかのような倦怠感が首から下に付いて回る。
どうやら自分は樹にもたれかける形で寝かされていたようだ。背中がチクチクしていて痛い。

「起きたかね?」
聞き覚えのある声が掛けられた。
見ればそこに居たのはヒースクリフだ。
今しがたライダーに相対し、人間でありながらサーヴァントと互角以上の戦いをして見せた男。
――自分を破り、そして何の意図か救って見せた。

「ああ、アンタか……」
「シンジ君、といったか?
 地上に降りた途端に、君は気を失ってしまったのでね。
 休息も兼ねて森の一角で寝かせておいたのだが」
ヒースクリフは悠然と語る。
最後に見た時と同じく彼の鎧はところどころ焦げ付き、一部装甲が吹き飛んでしまっている。
だが、彼自身は既に万全の状態と同じく、息を整え余裕を持った表情で慎二を見下ろしている。

「場所は【E-5】だ。
 あれから多少動いたよ。あれほど派手にやったのだから、他の参加者にも目が付いているだろう。
 あの場に留まっているのは危険だった」
ヒースクリフの言葉に、慎二は「そうか」と億劫そうに答えた。
彼の思惑が何にせよ、もう彼と事を構える気にはなれなかった。
それよりももっと考えなくてはならないことがある。

「……ここって死ぬんだな。
 敗けたら、本当に」
今しがた刻み込まれた死の恐怖。
電脳死などありえないと思っていた。
ネットで流れる無責任でナンセンスな噂に過ぎない。そう決めつけて慎二は聖杯戦争に参加したのだ。
ただのゲームとして。

「ハハッ……何だよ、ソレ」
額を抑え、慎二は乾いた笑い声を漏らした。
その声は、ひどく自嘲的で弱々しい色を含んでいた。

「死なんて、まだ考えたこともなかったし、考えたくもなかったけど……」
実際に死に直面して分かったことがある。
アレは本物だ、と。
何故かは分からない。何の根拠もない単なる直観だ。
あのまま落下してもまた復活していたかもしれない。そう思い込もうとすることもできるが、それは逃避に過ぎないということも慎二は分かっていた。

749慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:23:10 ID:bE.Ng0q60
「……君はこの場をゲームだと思っていたのだな?
 真なる世界ではなく」
そんな慎二の様子を見たヒースクリフが無感動に言った。
そこには嘲りもなければ同情もない。強いて言えばつまらないものを見た、とでも言うような平坦さだ。

「……ああ、そうだよ。聖杯戦争なんて、所詮ゲームだと思っていたさ。
 ゲームチャンプとして、僕が名を残すに相応しい……」
その声は徐々に小さくなり、最後になると彼自身何と言っているのか聞き取れなかった。

「聖杯戦争」
だがヒースクリフはその中の一つの単語にだけ反応し、付け加えるように尋ねていた。

「先ほどから言っていたが、それが君が今まで居た仮想世界か?」
「は? 何言って……」
「私は知らないんだ。君の言う聖杯戦争というものをね」
慎二はヒースクリフを目を丸くして見返した。
彼はこの場を聖杯戦争の延長ではないのか。ならば何故それを知らないプレイヤーが居る。
そんな疑問が湧きあがるが、同時に合点が行くところでもあった。
ヒースクリフの力。人間でありながら、サーヴァントと生身で戦う存在など聖杯戦争にシステム上あり得ない。
――だが、この場が聖杯戦争でないのなら。

「ハハッ……そうか、そういうことか」
「説明を頼みたい」
ヒースクリフの言葉に、慎二は沈黙した。
何も言わず、ちらと右腕を見た。そこには赤く刻まれた三画の令呪がある。
恐らくライダーとの契約は切れていない。先ほどの消滅は魔力枯渇によってのものの筈だ。
ならば魔力さえ回復すれば再び現界させることができるだろう。
それを念頭に置きつつ、慎二は語り始めた。聖杯戦争のシステムや内情を、ゆっくりと。

この場が聖杯戦争でないのだとしても、これが殺し合いであることには変わらない。
もしかしたらヒースクリフは慎二から情報を絞り取った後、自分を殺すかもしれない。
ならばどうにかしてライダー再現界までの時間を稼ぎ、せめて自衛はできるようにしなくては。

とはいえ霊体化状態でもサーヴァントは喋ることはできる筈だ。
にも関わらず彼女は沈黙を保っている。そのことからもしや……、と慎二は僅かに不安を覚える
この場が聖杯戦争でないのならサーヴァントの仕様もまた変更されている可能性があった。

(ハッ……あの女だって僕のサーヴァントなんだ。
 敗けたことが恥ずかしくて顔を見せられないだけさ)

慎二はそう言い聞かせ、何とか不安を忘れようとした。
サーヴァントを失ったマスターの末路。それは想像するにも恐ろしかったのだ。









750慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:23:35 ID:bE.Ng0q60
「ふむ。SE:RA:PHにムーンセル・オートマトン。それに魔術師(ウィザード)か」
一通り慎二の話を聞き終えたヒースクリフは、腕を組みそう呟いた。
そして口を閉ざし、何かを思案するように目を閉じた。彼なりに慎二の言葉を咀嚼し分析しているのだろう。

ヒースクリフとの会話は少々奇異に思えるところがあった。
聖杯戦争のこと以外にも、西欧財閥の支配体制など普通に生きていれば知っているべき情報についてまで語らされたのだ。
時間を稼ぎたい彼からすれば願ってもないことだったが、
そんな子どもでも知っているようなこと(八歳児の彼が言うのだから間違いない)まで尋ねるヒースクリフの意図までは読めなかった。

(お、おいライダー)

そんなヒースクリフを尻目に、慎二はライダーと意思疎通を図ろうと小声で語り掛けた。
休みを取り眠ったことで魔力も多少なりとも回復している筈だ。
どれほどの時間現界できるかは分からないが、それでも現時点では彼女だけが慎二の味方なのだ。

だから、今のうちに話をして起きたかったのだが、ライダーの反応はない。沈黙したままだ。
そのことに胸の内からせり上がるような焦燥が浮かび上がる。
何時ヒースクリフがまた剣を向けてくるかは分からないのに、一体何をやっているのか。
そう怒鳴りたい気分になるが、ヒースクリフの冷徹な瞳が目に入り、慎二は「ひっ」と声を漏らしてしまった。

「そうか……成程、情報提供感謝する。慎二君」
「あっ、ハハッ、別にどうってことないさ……これくらい」
「では、そろそろ――」
「え? ああ、その急ぎ過ぎじゃ……」
「む?」
「いやもう少しここで休んでいてもいいんじゃない――ですかなって?」

曖昧な愛想笑いと身振り手振り使ってヒースクリフを留めようとする。
それを見下ろすヒースクリフの瞳はひどく冷ややかで(少なくとも彼にはそう見えた)慎二は厭な汗が背中を伝うのが分かった。

(ク、クソッ。ライダーの奴さっさと反応しろよ。
 これじゃ僕がヤバイだろ。だから早く……っと!?)

と不意にヒースクリフが剣を抜いた。
青白い氷のような刀身が慎二の目の前で揺れ、思わず彼は後ずさりする。

751慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:24:00 ID:bE.Ng0q60
「あのーヒースクリフさん? そのもう少し」
「少し静かにしていてくれ」
「お、おお!?」
と、次の瞬間、ヒースクリフが剣を振るった。
空を切る鋭い音がして、慎二の奇声が森に響いた。
そして、

「おや、気付きましたか?」
だん、と剣が鈍い音を立てて何か弾き返した。
それに伴いどこからか少年の声がした。

「変な視線を感じたからね。それにあれだけ派手にやったのだから誰一人やってこない方がおかしい。
 ――君のようなレッドプレイヤーがね」
ヒースクリフは慎二を見ず、どこか別の方向を見ている。
その視線を追うと、そこには不気味に佇む黒い異形の影があった。
闇色の装甲にメカニカルな右腕と異様な触手の付いた左腕。頭部のバイザーの向こうには赤紫色の炎が茫洋と浮かんでいる。
そんな、ひょろりとした細身の身体が、夜の森に浮かび上がっていた。

「そうですか。ま、何でもいいですけど」
どうみても人間には見えない姿であったが、響く声自体は子供のそれだ。
その乖離が逆に不気味さを助長しているようにも慎二には思えた。

「さっさとやられて貰いましょうか」
その影はそう言って再び触手を振るった。
鞭のようにしなるそれが遠方より襲う。ヒースクリフはそれを先と同じように剣で弾こうとする。
が、今度はそうもいかなかった。一本は弾くことができたが、遅れるように放たれたもう一本の触手が剣に絡みつく。

「…………」
しかしヒースクリフは焦らない。その膂力を持って触手ごと剣を振り払い、結果影もまた吹き飛ばされる。
少年のうめき声がした。と、同時に今度は肉を切る厭な音がした。

「む」とヒースクリフは漏らす。見れば影は己の左腕を、その右腕に付いたカッターで切り裂き自由になっていた。
自分を傷つけた――と思った途端、その左腕ににょきりともう一本の触手が生えてきた。

752慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:24:21 ID:bE.Ng0q60
「まるでイソギンチャクのような腕だな」
「ヒトデらしいですよ、これ」
そんなやり取りが交わされると同時に、影は再び触手を放つ。
今度はヒースクリフは剣で受けず、代わりに盾でその攻撃を受けた。
ライダーの攻撃を受け切ったその力で触手を弾き返す――と思いきや、防護盾は光ることなく、ヒースクリフの手から弾かれることとなった。

「流石に限界だったようだな」
ヒースクリフはそう漏らし、吹き飛んだ盾には一瞥もくれず、代わりに剣を両の手で握りしめ影と相対する。
影は「ははん」と嘲るように笑い、だらりと触手を地面に垂らした。

彼らの戦いを慎二はヒースクリフの後ろで縮こまるように眺めていた。
サーヴァントが居ない以上、何もできないのだ。もし彼らがこちらに刃を向けた瞬間、全てが終わる。
そう思うと、慎二は気が気でなくなった。

(ライダー、おいライダー!)

必死に呼びかけるが、ライダーからの返答はない。
まさか本当に消えてしまったのか。慎二は多大な喪失感を覚えずにはいられなかった。

(何だよ、僕のサーヴァントだろ!
 そりゃうるさかったし、金払わないと働かないしで正直面倒な奴だったけどさ、
 僕のサーヴァントになった以上は僕を置いて消えるなよ!)

沈黙する虚空に慎二は懸命に訴える。
そうしている間にもヒースクリフと影の戦いは続いていた。
彼らは一進一退の攻防を続けているようだ。否、僅かにヒースクリフが優勢か。

「……ったく、面倒な人ですね」
戦いの最中影がそう言って首を振るのが分かった。
彼も攻めあぐねているのだ。消耗しているとはいえヒースクリフの技の冴えに衰えはない。
盾を失っていても、その技を使い影の触手やカッターを見事にいなしていた。

とはいえヒースクリフも楽ではないだろう。
彼とてライダーとの連戦だ。あの光る盾のスキルも使えなくなったようだし、余裕があるとはとてもではないが思えない。

「続けるかね?」
「続けますよ。貴方方でしょう? さっき空で派手に撃ち合っていたのは」
「だとすれば君はどうする?」
尋ねられた影はそこで再び「ハハッ」と笑い声を上げ、

「奪わせてもらいますよ。
 ――その力、そのスキルをね」
影はそう言って、ヒースクリフから視線を逸らす。その先に居たのは――慎二だった。

「先ずは貴方から行きましょうか!」
ヒースクリフを倒すのは手間がかかるのと見てか、影は攻撃対象を慎二に変え襲い掛かってきた。
触手が放たれ、無力な慎二に迫る。ヒースクリフも動くが、間に合うまい。慎二を守るような配置に居た彼だが、戦闘の最中位置がズラされていた。
そのタイミングを狙われたのだ。

「ひっ……!」
慎二は腰を抜かし、情けない悲鳴を上げる。
思わず目を瞑り、そして先覚えた死の恐怖が脳裏にフラッシュバックする。

753慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:24:52 ID:bE.Ng0q60

(僕は――)

何かを思う前に、慎二は叫んでいた。

「ラ、ライダァァァァァ!」

すると、

「アアン、うるさいねぇシンジ。
 少しくらい休ませて欲しいね、全く」

声がした。ひどく聞き覚えのある、そして求めてやまなかった声が。

「え?」
「副官使いの荒いマスターだね。本当、アンタは。
 ま、それでこそわがマスター、どうしようもない小悪党かい! ハハッ!」
一人の女性が慎二を守るように現れた。同時にその手で触手を弾き返す。
胸元の大きく開いた赤いコートを羽織り、顔に傷の走る彼女は、豪快な笑い声を上げている。
慎二は呆けたようにその姿を見上げた。

彼女こそ慎二のサーヴァントにしてライダー、フランシス・ドレイク。

「何だい、シンジ。バカみたいな顔晒してさ」
「あ、あはは……何だ、お前、居るじゃないか。だったら、返事しろよ」
「そんなこと言われてもねえ、アタシだって休みたい時はあるしね。
 あんな戦いの後だったし回復が必要だってことさ……っと、お、ヒースクリフ! アンタも居るんじゃないか」
慎二との会話を最中、近くに立つその姿を見つけ、ライダーは笑みを浮かべ呼びかけた。

「さっきは中々効いたね。 ありゃラム酒より強烈だった!」
「ふ、また会えるとはね。その言葉、光栄に思っておこう」
「で、何だい? この状況?
 アタシはシンジの叫びで目醒めたところだからよく分かんないだけどね、アンタはまた敵かい?」
ライダーは慎二とヒースクリフと、そして彼女にしてみれば新顔であるだろう影を眺め言った。

「私としては再戦は止めて貰いたいね。今はそこの彼と戦っているところだ」
「ふぅむ、となるとそうか! 今度の敵はアイツでアンタは味方ってことかい。
 いいねぇ、ついさっきまで敵だったのが味方になる――戦場の醍醐味だ」
ライダーは声を立てて豪快に笑い、そして慎二を見て尋ねる。

「それでいいのかい? マスター」
「あ、ああ……」
「そんなに呆けた顔をしなくてもいいじゃないか。折角アタシが助けに来てやったのに」
「って、おい止めろ。頭を撫でるな! ちょっと、おい」
そんなやり取りを見てか、影は呆れるように言った。

754慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:25:21 ID:bE.Ng0q60

「はぁ、何ですか、貴方は?」
「何って、アンタの敵さ。少なくとも今はね」
ライダーは不敵な笑みを浮かべ、影に向き合い、そしてその手に持ったクラシカルな拳銃を向けた。

「じゃあやっちまおうか! シンジ」
「お、おうライダー。行け!」
その言葉を受けライダーは駆けた。多少回復したとはいえ魔力量は相変らず苦しい。スキルの類は使えないと見て良いだろう。
だが、ヒースクリフも居る。互いに消耗しているとはいえ、その技量は共に高い。
加えて二人がかりならば、あの影を相手するには十分だろう。

そして、予想通り二人は優勢だった。。
ライダーが銃で牽制し隙を作ったところで、ヒースクリフのソードスキルが炸裂し、更にダメ押しの弾丸が叩き込まれる。
その流れが何度か繰り返され、影は為すすべもなくやられていくのみだ。

(行ける。行けるじゃないか)

その戦いを見て、慎二は興奮していた。
先ほどまでの恐慌が嘘のように胸が高揚するのが分かる。ライダーが無事だと分かっただけでこうも違うものか。
彼女が登場に、思った以上に自分が喜んでいたことに気付き、慎二は意外な気分になった。

(ふ、ふん。そりゃアイツが居なかったら、僕が聖杯戦争に戻ったときに困るからね。
 当然だよ、当然。マスターとして……)

そして、戦いは終わりを見せた。
影は苦悶の声を漏らし、膝を付いた。
ヒースクリフとライダーの連携に、敗れたのだ。

「ははは、ざまぁないね。襲っておいてそれかよ」
慎二はそう言って影に近づいていく。
今後はこちらが嘲笑を向ける番だ。自分たちの力にこいつは惨敗を喫し、こうして無様な姿を晒しているのだ。
これを笑うのは勝者の当然の権利だ。

「全く、アジア圏NO.2にしてゲームチャンプである僕に喧嘩売るなんて、十年どころか百年早いんだよね。
 これだから素人って奴はさ。実力差ってものを考えないんだよな」
「…………」
「ま、これに懲りたら精々僕のプレイ動画でも参考に――ってなぁっ!?」
と、それまで膝を着いていた影、突如として動き慎二を襲った。
「慎二君!」「シンジ!」と声が響く。ライダーとヒースクリフも動く。
剣と銃が影に向けられ、そのボディを吹き飛ばす――

755慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:25:41 ID:bE.Ng0q60

「もう遅いですよ。
 ――《デモニック・コマンディア》」
――前に、影が吐き捨てるようにそう言った。
瞬間、どす黒い光の柱が慎二を襲う。
その光景がまるで闇に呑まれるようで、慎二は恐怖のあまり叫び悲痛な叫び声を上げていた。

その脳裏に浮かぶ死の恐怖。
今しがた感じたあの猛烈で絶対的で圧倒的な欠落感を、また味合わなくてはならないのか――

だが、慎二には予想したような痛みは来なかった。
闇が引いたあとも、何の痛みもダメージもない。ただ何か吸われるような消失感があっただけだ。
慎二が拍子抜けしていると、影が吹き飛ばされていた。ヒースクリフの剣だ。

「あ、はは。何だ、ビビらせるなよ……」
そう強がるように言って、慎二は立ち上がる。
よく分からないが、窮鼠の一噛みという奴だろう。
少々不用意な行動を取った結果、ヒヤっとさせられたが身体はこの通り何てことのない。
後は満身創痍であろう影を叩きのめすだけ。そう思った彼はライダーを呼びつけた。

「よし、やれ! ライダー。アイツを倒せ!」

だが、ライダーは困ったように肩を竦め、

「あーすまないね、シンジ。アンタとはここまでみたいだ」
「は? お前何言って……」
そこで慎二は気付いた。
己の手から、何か、あるべきものが消え失せていることに。

「え?」
右手の甲に刻まれている筈の令呪が消えていた。
サーヴァントとの契約の証にして、聖杯戦争の参加権である筈のそれが。

「おい、何だよ、何だよ……コレ」
「ふふふ、アハハ!」
幼い無邪気さと大人びた粘着さを共に含んだ厭らしい笑い声が響いた。
あの影だ。吹き飛ばされたあの影が、腹を抑えるようにして笑っている。
そして、ゆっくりと立ち上がり、その左手を見せ、

「こういう事です」
その環節の浮き上がる生物的な造形の奇怪な左腕。
その肘の部分に、赤い光が刻まれていた。その光はどこまでも見覚えのあるもので――









756慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:26:07 ID:bE.Ng0q60
「僕の……令呪。嘘だろ、そんな……」
影――能美征二/ダスク・テイカ―は、アホみたいに呟く慎二を見て笑いをこらえるのが大変だった。
そう、あの声だ。今まで何人ものスキルを奪ってきたが、その度に奪われた者は似たような反応を示す。
嘘だ。信じられない。一様にそう言うのだ。今ある現実というものを認めることができない。かつてのシルバー・クロウのように。
その様子はどこまでも哀れ滑稽で何度も見ても笑える。しかも今回はデュエルアバターでない、生の人間の顔が見えるのだから堪らない。

「ふふふ、嘘じゃない、ほんとなんですよ。これがね。
 これが僕の必殺技、《魔王徴発令》です。効果は単純、対象者のスキル、強化外装を奪います。永続的にね。
 この意味、分かります?」
刻まれた赤い紋章――令呪というらしい――を見せびらかすように撫でつつ言った。

元より能美は慎二やヒースクリフのスキルを狙って近づいたのだ。
エンデュランスから命からがら逃げだした彼は、その途中、空を走る巨大な閃光を目にする。
その様相は遠目に見ても壮絶で、思わず息を呑んだが、同時に冷徹な思考も働かせていた。

あれほどの火力、どのようなスキルかは知らないが十分に奪うに値するものだ。
エンデュランスの変身スキルに対抗する為にもアレは奪いたかった。
そう思い、空での戦いを見ていた能美だったが、流石にあの戦いに介入することはできなかった。

ここに来る直前まで有していた飛行スキルがあれば別だっただろうが、今の能美はそれを失っていた。
シルバー・クロウから奪った飛行スキルだが、ライム・ベルの必殺技により手放すことになってしまったのだ。
その事実に屈辱を感じはするが、だが何の因果か自分はブレインバーストを失うことなく、こうして立っている。
ならば報復の機会はあるだろう。バトルロワイアルなど面倒事以外何事でもないが、その事実だけは感謝しておこう。

何にせよ、そうして空での戦いを見ていた能美だが、戦いが終結し二人の人間が空から墜ちてくるのに気付いていた。
彼らが戦っていたプレイヤーだろう。遠目でよく見えなかったが、どこに堕ちたかは大体分かる。
そう思い、森を探索したところでヒースクリフらと遭遇し、今に至る。
あの火力を持つ力は使ってこなかった。ずっと警戒していたが、予想通り彼らは激しく消耗していたようだ。
自分が旨いこと漁夫の利を得たことを認識し、能美はほくそ笑む。

757慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:26:38 ID:bE.Ng0q60

「返せよ! 僕の、ゲームチャンプの僕のサーヴァントなんだぞ!」
「はぁさっきから貴方ゲームチャンプとか言ってますが、貴方もアレですか? 
 ゲームにやたらのめり込んで、ゲーマーとしてのプライドとか語っちゃう類の人ですか。
 全く、何だってそう馬鹿なんです? ゲームなんて下らない。そんな意識に僕を巻き込まないで下さい。
 僕ならこの力をもっと上手に使うことができますよ。ゲームスコア以外のことにもね」
「なっ……お前ェ!」
ゲームチャンプ。何て下らない響きだ。バーストリンカーとしての資格がどうこう語っていたシルバー・クロウたちと同じくらいに。
そう嘲ってみせたところ慎二は激昂し、能美に掴みかかろうとしてきた。
だが、それを阻む者が居た。

「おっと、それ以上来るなよ、シンジ」
「なっ……ライダー」
能美に近づこうとする慎二に、ライダーはカチャリと銃を向ける。
今しがたまでマスターであった存在であるが、その行いに迷いはなかった。

「アンタのことは結構気に入っていたんだけどね。
 ま、仕方がない。これもまた戦場の常ってね。上官が入れ替わるなんてのもそう珍しい話じゃないさ」
「ラ、ライダー……お前、本当に」
「言っただろう? シンジ。
 ついさっきまで敵だったのが味方になる。それが戦場の醍醐味だ、ってね。
 なら逆だって醍醐味じゃないか! ハハ!」
向けられた銃口を慎二は呆然と眺めていた。
それを能美は再度嘲笑し、ライダーと呼ばれた女性の隣までつかつかと歩く。

「よーし、アンタが新しい上官か。
 アンタも中々の悪党みたいだねぇ、まぁよろしく頼むわ」
背中越しにライダーがそう語り掛けてくる。
能美は己の右肘に刻まれた三画の令呪を見た。
予想通り、このライダーというのはあのワカメみたいな髪をした男のスキルだったらしい。
守るようにして現れたことや先のやり取りから推測したことだが、スキル扱いならば奪えるのではないか。
そう思い決行した強襲であったが、結果はこの通り、しっかりと奪うことができた。

能美は知る由もないことだが、本来サーヴァントのデータ容量は《魔王徴発令》で奪えるキャパシティを優に超える。
ムーンセルで再現された英霊のデータは並の容量でなく、そのスペックを考えればサーヴァントを《魔王徴発令》で奪えるかは否だ。
もし彼がライダーに《魔王徴発令》を発動していた場合、彼女自身はおろか、そのスキルも奪うことはできなかっただろう。それは既に人の域を越えた存在なのだから。
だが、それはあくまでサーヴァントの話だ。
契約と絶対命令権を意味する令呪はその限りでなく、この場において《魔王徴発令》でも奪うことができたのだった。

758慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:27:03 ID:bE.Ng0q60
「で、命令はあるかい? マスター」
「そうですね、フフフ。では、彼らの殲滅を」
「了解っと、じゃあね――シンジ」
能美とライダーのやり取りを慎二は放心したように聞いていた。
呆けた顔をした彼にライダーは容赦なく引金を――

「ここは撤退だ、慎二君」
「はっ、やっぱり来たねぇ! ヒースクリフ」
――引くよりも早くヒースクリフの剣が振るわれた。
その神速の一撃を能美とライダーは散開して避ける。
その間にもヒースクリフは慎二をその手を引き、後ろへ下がっている。
そして、ライダーを一瞥し、

「貴方との戦いは楽しいものだったよ。かの大英雄と対決と共闘の両方ができるとはね。
 だからこそ――この結果は残念だ」
「ま、そういうもんさ。戦場は常に一期一会、過去も未来もありゃしない。
 一瞬一瞬しかないのさ。その時の巡り合わせ次第で如何様にも転ぶ。
 偶然でなく、必然としてね」
そう会話を経てヒースクリフは手元で何かを操作し始めた。
メニューを弄っているようだ。

「……ッ!? 飛行スキル? いや、強化外装の一種か」
慎二の身体を抱えたヒースクリフの身体が浮かび上がり、どこかへ去って行こうとする。何かのアイテムを使ったらしい
能美は思わず驚きの声を漏らす。
考えてみればつい先ほどまで空で戦っていたのだから、この手の技があるのは予想しておくべきだっただろう。
しかしそれでも驚きを禁じ得ないのは、やはり飛行スキルというものが希少という意識があるせいか。

「一度退かせてもらうよ」
「そうかい。じゃあ、また縁があれば会おう。
 ――じゃあね、シンジ! これで契約解除さ」
隣りでライダーがそう言って豪快に笑っている。
その様に僅かに苛立ちながら「アレを打ち落とすことができるのでは?」と問い詰める。

「ん? ああ、そりゃ無理だ。アンタの魔力が足らない」
「魔力……? 成程、そういう仕様ですか」
能美は己のステータスを確認し、必殺技ゲージが徐々に消費されているのを確認する。
どうやらライダーの召喚、スキル使用にはデュエルアバターの必殺技ゲージを使用するようだ。
恐らく魔力というパラメーターの代用となっているのだろう。

759慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:27:24 ID:bE.Ng0q60
そのシステムが分かったのはいいが、これは少し問題かもしれない。
ライダーを運用すれば必殺技ゲージが常に減っていくことになる。
このダスク・テイカ―は略奪スキルこそ驚異的な威力を誇るが、基礎的なスペックはかなり低い。
それ故に奪ったスキルを効率的に使いこなす必要があり、ゲージ管理のことも考えなければならないデュエルアバターだ。
これまでは飛行スキルと火炎放射との組み合わせで、ゲージを自在に回復する戦法を取っていたのだが、今となってはそういう訳には行かない。

(魔力……? ああそういえば)

己に支給されていたアイテムのことを思い出し、メニューよりそれを装備した。
するとステータス画面に新たなパラメーター[MP]が出現した。
見れば必殺技ゲージの消費が止まり、代わりに[MP]のゲージが徐々に減っている。

礼装【福音のオルゴール】。それが能美の支給アイテムの一つだった。
それを装備することによりboost_mp(70)の恩恵を預かることができた。必殺技ゲージよりもこちらが優先して消費されるらしい。
これによりライダーの魔力運用面では一先ず心配要らないだろう。スキルとやらがどれほどの燃費かも調べる必要がありそうだが。

そうして新たに手に入れた力を確認しつつ、能美は遠ざかるヒースクリフらを見た。
彼らを無理に追う必要もないだろう。既に目的は果たした。自分は力を手に入れたのだ。

それにHPも大分減ってしまっている。
能美は【福音のオルゴール】のもう一つの効果、add_regen(16)を発動した。
効果は一定周期でのヒール、回復だ。これを掛けた状態でしばらく休んでいればまた動けるだろう。

(倉嶋先輩の代わり、とまでは行かないでしょうが、まぁ役には立つでしょう)

そう考え、能美はメニューウィンドウを消した。
そして次に隣りに立つ女、ライダーを見た。
敵として相対しただけでも分かるが、この女は非常にうるさそうだ。
気が合うとは全く思えない。しかしその力は利用に値するのは事実だ。

(ま、精々上手く運用しましょう。この新しいスキルをね)


【E-5/上空/1日目・黎明】
※エアシューズで浮遊中。

【ヒースクリフ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP30%
[装備]:青薔薇の剣@ソードアート・オンライン
[アイテム]:エアシューズ@ロックマネグゼ3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止め、ネットの中に存在する異世界を守る。
1:一先ず身を隠せる場を探す
2:バトルロワイアルを止める仲間を探す
3:能美とライダーから一先ず退却する。
[備考]
※原作4巻後、キリトにザ・シードを渡した後からの参戦です。
※広場に集まったアバター達が、様々なVRMMOから集められた者達だと推測しています。
※使用アバターを、ヒースクリフとしての姿と茅場晶彦としての姿との二つに切り替える事が出来ます。
※エアシューズの効果により、一定時間空中を浮遊する事が可能になっています。
※ライダーの真名を看破しました。
※Fate/EXTRAの世界観を一通り知りました。

【間桐慎二@Fate/EXTRA】
[ステータス]:魔力消費(大)、令呪喪失
[装備]:無し
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:???
1:嘘だろ、ライダー……
[備考]
※参戦時期は、白野とのトレジャーハンティング開始前です。
※バトルロワイアルを、ルールが変更された聖杯戦争だと判断しています。
※サーヴァントを奪われました。

760慎二とライダー ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:27:37 ID:bE.Ng0q60


【E-5/森/1日目・黎明】
※どこかに防護盾(半壊)が転がっています。

【ダスク・テイカ―@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP25%(回復中)、魔力消費(小)、令呪三画
[装備]:福音のオルゴール@Fate/EXTRA
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:他の参加者を殺す
1:憑神そのもの、あるいはそれに対抗できるスキルを奪う。
[サーヴァント]:ライダー(フランシス・ドレイク)
[ステータス]:HP70%、魔力消費(大)
[備考]
※参戦時期はポイント全損する直前です。
※サーヴァントを奪いました。現界の為の魔力はデュエルアバターの必殺技ゲージで代用できます。
 ただし礼装のMPがある間はそちらが優先して消費されます。


【福音のオルゴール@Fate/EXTRA】
購買部で買える礼装。
boost_mp(70):マスターMP70上昇
add_regen(16):ターン終了時HP小回復
の効果を得ることができる。

761 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/19(日) 17:28:00 ID:bE.Ng0q60
投下終了です。
指摘、修正点等あればお願いします。

762名無しさん:2013/05/20(月) 17:14:36 ID:l00xz1hUO
乙です
慎二はアジア圏のNo.1ゲームチャンプですよ。
CCCのNo.2はジナコの参加していた西欧でのゲームでの話です。
この辺名言はないんですがサーバーごとに参加者別れているのだと思います。

763 ◆nOp6QQ0GG6:2013/05/20(月) 23:06:17 ID:3vEgEQvA0
>>762
そうでした、wiki収録の際に直しておきます

764名無しさん:2013/05/23(木) 03:31:43 ID:GJFu8C1w0
投下おつ

慎二「ライダー!裏切ったな、ライダー!」
姐御「慎二ぃ、こりゃ裏切りじゃない。策略だ」

765名無しさん:2013/05/26(日) 05:31:12 ID:4D6dsArs0
能見くんワカメと同じで小物だから姐さんと相性良すぎるwww

766名無しさん:2013/05/26(日) 06:08:05 ID:dpbn8Tp2O
手の掛かる子程可愛いわけですなw

767 ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:46:06 ID:sDu9HOC20
投下します

768隠していた感情が悲鳴を上げてる――(前編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:48:29 ID:sDu9HOC20
気まずい沈黙の空気の中、紙のこすれる音だけはやけにはっきりと聞こえた。
幾重にも連なる本棚のどこかにラニは居るのだろう。何かを調査しているらしいが、それが何かまではリーファには分からない。
同盟――PTを疑似的に組んだとはいえ、二人の間に会話は少ない。必要最低限のやり取りしかなかった。
こうして図書室で色々と情報を集めることになったのはいいのだが、同じ部屋にいながらもう二時間近くロクに会話がないままだ。
リーファとしてはもう少し親交を深めたいと思っているだが、何か話しかけてみてもラニは素っ気ない返事を返すのみであった。
ゲームの性質上、いずれは必ず敵対する仲にあるとはいえ、それでも会話が全くないというのは寂しいものだ。

緊張しているのだろうか、とリーファは忖度する。
ああいう感じのプレイヤーは、一見して他者を拒絶しているように見えて、その実上手く話す機会を掴めないでいるだけなこともある。
仮想の身体を通したコミュニケーションというものは少し勝手が違うものだし、仕方ないことなのかもしれない。自分だってそうだった。
VRMMOにわざわざ触れている以上、他者と話をしたくない筈がないのだから。

(……あんな、練りに練った設定があるんだしね)

出会い頭に告げられたラニのルビ溢れる言語群を思い出し、リーファは苦笑した。
あんな噛みそうな台詞をすらすらと言えるなんて、余程入れ込んでいるらしい。
それともそういうロールなのだろうか。人好き合いの悪さも合わせて、ああいった感じのキャラを演じているのかもしれない。
そういう楽しみ方もまたありだろう。だってこれはゲームなのだから。

「……ん」

彼女はそこで一息吐き、目の前にある蔵書を眺めた。
この棚には主に歴史関係の本が入っているらしく、世界史や日本史でやったような名前が乱雑に並んでいる。
その一つの背表紙を軽くなぞってみる。すると、厚紙独特の乾いた感触が指に生まれた。疑似的なものとは思えない。
電子書籍なんかも出回っている現代でもあるが、紙の本だって消えた訳ではない。
だがしかしその場がゲームの中であることを考えると、これもまた電子書籍といえるのだろうか。そう思うと何だかおかしかった。
どのような媒体にせよ、肝要な情報の構成さえ同じであるのならそこに差はないのかもしれない。電子であれ紙であれ。
リーファは指を離した。見れば僅かに埃が付いていた。

「リーファさん」

不意に声を掛けられ、リーファは思わずビク、と肩を震わせてしまった。
振り向けば、そこには涼しい顔をして佇むラニの姿があった。その手には幾つかの蔵書がある。

「えーと、何?」
「そろそろ動きましょう。この場の調査は一通り終わりました」

そう言ってラニはリーファの返事を待たずに、すたすたと歩いていってしまった。
急いで後を追いつつ、横目で大量の蔵書を見た。
先の検索システムと合わせてこういったものが用意されているということは、恐らく何かのイベントフラグとなり得るものがこの中にあるのだろう。
しかし、量が量だ。全部に目を通すのは中々骨が折れそうだった。
ラニは調査が終わった、と言ったがこの短時間で何かを見つけ出したのだろうか。

769隠していた感情が悲鳴を上げてる――(前編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:48:58 ID:sDu9HOC20

「はい。探しものはありました」

そのことを尋ねると、ラニは振り返りそう言った。
リーファは彼女の手に在る本を見る。それが探し物だったらしい。

「その本のこと?」
「そうです。恐らくこれが私が探していたイレギュラー。既に借用契約は済ませてあります」
「見せて貰ってもいい?」

何となく興味を持ってリーファはそう尋ねていた。
彼女は完全に探す情報に当たりを付けていたらしい。どうやってかは気になるが、先ずはその本の方に興味が湧いた。
どうぞ、と言ってラニが差し出してきた本をタイトルを見る。
『ツナミネットの歩き方』『EPITAPH OF THE TWILGIHT』『名人が語る! ネットバトルの極意』……等々ジャンルも言語もまちまちの本が並んでいる。
そんな統一感のないラインナップの中、リーファはふとある物を見つけた。

『SAO事件全記録』

その名を見た時、彼女は思わず本を落としていた。
ばん、と音を立て、本が図書室の床に転がった。

「どうかしましたか?」
「え? ああ、ごめん。何でもない。ちょっと手を滑らしただけ……」

急いで本を拾い上げながら、リーファはそう曖昧に言い繕った。
ラニは訝しげな表情を浮かべていたが、それ以上何も追及はしなてこない。
そのドライさに今この瞬間だけは感謝しつつ、彼女はラニに本を返した。

その本のことは知っていたし、この場にあることもそう驚くことではないのかもしれない。
ただ、忘れていたこと、忘れようとしたていたことを、思わず思い出してしまったのだ。

「ところでラニ。何でその本なの?」
「何で、とは?」
「いや、どういう基準でそのタイトルを選んだのかなって」

話を逸らすべく半ば強引にそう聞いてみた
気になっていたのは本当だった。彼女はさっき探していた、と言っていたが、何を以てしてこれらの本を探そうとしたのだろうか。
尋ねられたラニは、眼鏡を指で軽く上げながら

「簡単です。これらの書物は、以前に来た時はなかったものです。
 それこそこの月海原学園のイレギュラー、そう判断しました」
「え?」
「これまでの調査からこの月海原学園が、前回の聖杯戦争と同一の造りであることは確認してあります。
 しかし、細部にはところどころ改変された形跡がある。それが何を意味するのかを確かめたかった」

770隠していた感情が悲鳴を上げてる――(前編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:49:53 ID:sDu9HOC20

ラニの言葉の聞きつつ、リーファは首を捻った。
以前、とラニは言った。その口ぶりからして彼女はこのゲームを昔プレイしたことがあるらしい。
となるとこのβテストらしきものについても色々聞けるかもしれない。

そう思い、事情を聞かせて貰おうと口を開こうとしたとき、

「音がします」

ラニが図書室の入り口を振り返り、言った。
その横顔には何も感情が浮かんでいない。ただ無機質で無感動なものがそこにはあった。











遠坂凛、とその少女は名乗った。奇しくも自分と同じ読みの名字だ。
突如として現れた彼女の息は荒く、激しい運動をしてきたようにも見えた。
そして聞けば実際、彼女は直前まで逃げていたのだという。強大で正体不明の敵から。

「アレは温存しておきたいアイテムだったんだけど、まぁしょうがないわね。命には代えられない」

彼女が言うには、支給アイテムの一つが幸運にもワープを可能にするものだったらしく、それを使いギリギリのところで逃げ延びたのだとか。
そういった話をジローはふんふんと頷いている。出会ったばかりの少女と、場を教室に移して一先ず情報交換をしているのだ。

今しがたいきなり現れた彼女には面食らったが、危険人物でないようなのは僥倖だった。
寧ろ自分の方が危険な男だと思われ、一悶着あった。まぁそれも仕方ない。逃げ延びた先に銃を持った男が居れば誰だって驚くだろう。
彼女のような少女なら猶更だ。

「で、ジロー。
 その銃余ってるなら私にくれない?」
「え? これ、本物だぞ。玩具みたいだけど……」
「だからいいんじゃない。ほら、渡しなさいって」
「あ、こら。勝手に……」

息を落ち着けた凛はそう言って、ジローの持っていた双銃の片割れをジローの手から取り、その使い心地を確かめるように触り始めた。
その手付きは予想外に手慣れたもので、ジローは目を丸くした。

「えーと、凛。お前、銃使ったことあるのか?」
「ん? あるけど。 私、こう見えてテロリストやってるのよ」
「は?」

驚くジローを尻目に凛はDG-Oの片割れを弄っている。
そしてそのまま構え、夜空の映る窓に向かって銃を連射した。
四つの銃声が炸裂、次いで硝子の音を立てて砕け散った。ジローは思わず「うわっ」と声を立て、飛び退いた。

「四発まで連射可能で、任意リロード可能。弾数は実質無限ってとこかしら。
 スキルの方は……駄目か。二つ揃ってないと発動できないみたい」
(……凄い娘だな)

凛の言動に対し、ジローは何も言えず曖昧な顔をした。
躊躇いなく銃をぶっ放し、手際よく性能を確認する様は熟練の戦士のそれだ。
自分も何度か銃を使ったことがあるとはいえ、あくまで素人が見よう見まねで使ってみたに過ぎない。
とてもではないが彼女のようには使えないだろう。ああいうことは渦木や呉殺手たちの領分だ。

771隠していた感情が悲鳴を上げてる――(前編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:50:51 ID:sDu9HOC20

「うん、中々のものね。これなら自衛くらいはできそう。
 ありがたく貰っておくわ。ジロー」
(上げるとは言っていないぞ……)
「何よ、その顔。不満があるっていうの?」
「いや、まぁ分かった。上げるって」

実際片方は持て余し気味だった訳だし、それを凛に渡すことに異論はない。
銃の扱いも自分より上手いみたいだし、彼女なら誤って暴発させるなんてこともないだろう。

それにしても、とジローは凛の横顔を見ながら思った。
先ほど口走ったテロリストという言葉。それが真実なら自分はまたその手の人間と関わりを持つことになってしまったのだろうか。
呪いの野球ゲームもだが、つい先日まで現実世界でも命のやり取りをしていた身である。ただのフリーターでしかない自分が何故こうも裏社会と繋がりを持つことになるのだろうか。

「なぁテロリストってやっぱりツナ――」
「待って!」
「え?」

ジローの言葉を遮る形で突如として凛が立ち上がり、周りへ鋭い視線を送り始めた。
その様子に彼が対応することができず、おろおろとしていると、

「しまった……うっかりしてた。今回は中でも敵が……」

五枚の刃が緑の軌跡を描き、ガラスを破って教室へと飛び込んで来た。
それは確実に凛とジローの命を狙うものであり――









「えーと、これでよかったの?」
「はい。以前の聖杯戦争では禁止事項でしたが、現時点で学園内での直接攻撃は禁止されていないようですので、この奇襲が最適解です」

頭を傾げ問いかけたリーファに対し、ラニはすらすらと語った。
その様に迷いはなく、彼女が『経験者』だということを滲ませていた。

音がした、という言葉に従い、リーファとラニは一階のとある教室の前までやってきていた。
ついに自分たち以外の参加者との接触である。
そこでラニは奇襲しようと申し出てきた。何かしらの遠距離攻撃を用いての先制である。
使用したのはリーファの遠距離真空攻撃魔法。それを銃声のした教室に向かい発動し、今に至る。
爆発が起き、きらきらと舞うガラスの破片のグラフィックを見ながら思う。これで相手を倒すことができただろうか、と。

772隠していた感情が悲鳴を上げてる――(前編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:51:14 ID:sDu9HOC20

作戦は、確かに納得のいくものであった。
自分とラニのような例外があるとはいえ、基本はこのゲームは皆敵同士だ。遭遇それ即ち相敵である。
ならば発見次第、相手に何もさせないまま撃破、というのがもっとも効率の良い戦術ではあるだろう。

まぁ正直少し汚い手のような感じもしなくはないが、これも立派な戦術であることは事実だ。
少なくともこのゲームにおいては。

(お兄ちゃんがやってたGGOの大会に似てる……のかな)

かつて兄がシノンと共に参加したBoBのことを思い出す。
あれもバトルロワイアル式の大会であった。あの時の二人は協力し上手く連携することで生き残っていた。
自分とラニも同じく連携を取りたいところだが。

(なら、もう少し互いのこと知らないとね)

相変らず素っ気ない態度のラニを視界に入れつつ、教室の方を見やると、

「ったく、危ないわね」
「な、何だったんだ、一体」

壊れた窓越しに二人のプレイヤーの姿が見えた。
二人ともリーファのようなファンタジー然とした装いではなく、ラニに近い現代風のファッションだ。
野球服を着た青年に、赤い服を纏った少女。
彼らが己に降りかかった埃を振り払うのが見える。どうやら一撃で仕留めることができなかったようだ。

「こうなったらもう仕方ない。直接対決よね」
「……待ってください。少々お話がしたい相手です」

と、不意にラニが口を開いた。
その声色はそれまで機械のようの平坦だったそれとは違い、困惑を示すように揺れていた。
そして視線は真直ぐと一人のプレイヤー――たった今攻撃した少女に向けられていた。

「……お久しぶり、なのでしょうか?」

ラニがそう声を掛けるのと、少女の顔が驚愕の表情が浮かぶのは同時のことだった。
その様子は単なる知り合い、という様子ではない。
それはもっとあり得ないものを見た時のような、それこそ幽霊を見た時のような反応に見えた。

773隠していた感情が悲鳴を上げてる――(前編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:51:35 ID:sDu9HOC20

「ラニ……! 何でアンタが」
「おかしいですね。貴方の死を私は既に確認している」
「はぁ? それは私の台詞よ。だってアンタ六回戦で……」

互いが互いについて疑問を投げかける。
リーファは二人の関係がよく分からなかった。
死、とラニは口にしたが、何かしらのゲームで彼女らに因縁があったということだろうか。

「……状況についての結論は出ませんか。
 ならば今は保留とします。どの道この場で取るべき選択は一つです」
「アンタ、まさか……!」

ラニはそこで眼鏡を軽く上げ「リーファさん」と呼びかけてきた。

「彼らにもう一度攻撃を」
「えーと、いいの? 何か知り合いみたいだけど」
「構いません」

そうきっぱりと言い切るラニに戸惑いつつも、リーファはセアー・スリータ・フィム・グロン・ヴィント……、と覚えた呪文を口にする。
このゲームにおいても呪文の発動はALOの方法と変らないようで、定められた単語を口にすることが魔法のトリガーとなる。

そうして完成した魔術をリーファは放った。
真空攻撃魔法――緑の刃が二人のプレイヤーを襲う。
だが、敵も黙ってみた訳ではない。こちらに明確な敵意があると分かるや否や、彼らは窓から外へ出ようとしていた。
爆風が巻き起こる中、ギリギリのタイミングで二人が逃れるのが見えた。右に少女、左に青年だ。

「外れましたか?」
「うーん、どうだろ。ホーミング系の魔法だし何かに遮られない限りは追尾して当たる筈だから、
 全部とはいかなくてもダメージは行ってるかも」
「なるほど」

リーファの言葉にラニは軽く頷き、

「では追撃しましょう。敵は二手に分かれたようです。
 そこでこちらも別れて敵を狙いましょう。私は凛――赤い少女を追います」
「え? あ、分かった、けど」

淀みなく語るラニに対し、リーファは何と言ったものか今一つ掴めなかった。
彼女らの間に何か因縁があるのは分かるが、それは尋ねて良いものなのだろうか。
それ以外にもラニに聞きたいことは山ほどある。
この『ゲーム』について、経験者の観点から色々と助言を貰いたい。
そして何より保障して欲しいのだ。この場について――

「どうかしましたか、リーファさん」
「え、あっ……ちょっと聞きたいんだけど、もしかしてラニって剣とか持ってない?」

だが口から滑り出たのは全く違う問い掛けだった。
装備についてのことだ。リーファは剣に類するアイテムを支給されてはいなかった。
魔法も使うが、リーファは基本的に剣での近接戦闘に重きを置いたビルドである。
なのでできれば剣、それも長刀の類が欲しいのだが。

(って、もっと早く聞くべきだよね)

何でこんな戦闘の最中に聞いているんだ、そう自分でも思ったが、しかしこれまでラニと上手くコミュニケーションが取れていなかったのだから仕方ない。
ラニの無機質な表情が目に入った。その様子がこちらの要領の悪さを非難しているようでもあり、若干物怖じを感じてしまった。

774隠していた感情が悲鳴を上げてる――(前編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:53:02 ID:sDu9HOC20

「あ、別にタダとは言わないからさ。
 えーと何か、トレードに使えそうなものは」

曖昧に笑いつつ、リーファはメニューのアイテム欄を急いで操作する。
そうしてでてきたラインナップを幾つか告げると、ラニは表情を変えた。

「それは……」

一言でいえば、彼女は絶句していた。
先の少女を見かけたときと同じように、否、もっとずっと大きな驚愕の色を滲ませる、沈黙を絞り出した。
目を見開き、信じられないというように口を開け、そして心なしか僅かに頬を染めている。

それに対する思い出は辛い記憶なのかもしれなくて、
でもきっと大切なものに違いなくて、
だから、こうして直面した彼女が浮かべたのは、
切なくて、甘酸っぱい、胸が締め付けられる、
なんて小恥ずかしいセンチメンタルな単語が似合うような表情だった。

(あ……)

その顔を見た時、リーファ/桐ヶ谷直葉は思った。
この少女、ラニを信用してもいいのではないか、と。
だって彼女は――

「分かりました、リーファさん。それと引き換えにこちらの剣を差し上げます」

冷静さを取り戻したラニはそう言ってオブジェクト化した剣を渡してきた。
一拍遅れてリーファも反応し、その剣を受け取り装備する。
[装備]【疾風刀・斬子姫】とステータスが画面に表示されたのを確認した後、約束通りラニにアイテムを渡す。

「ありがとうございます。
 そうですね……やはり、貴方に見えた星は間違いではなかった。
 貴方は、持っていたんですね。あの人との確かな縁を」

深々と礼をしながら言う彼女にリーファは微笑みかけた。
そして確かな友好の意志、親近感を持って「改めてよろしくね」と声を掛ける。
彼女とならやっていける。この『ゲーム』でも。そんな思いを滲ませて。

「分かりました。よろしくお願いします、リーファさん。
 ――では、今度こそ追撃開始です」
「了解。えーと、でも大丈夫なの? ラニ。
 貴方一人で戦えるジョブなの? 見たところ戦士って感じでもないキャラだけど。
 PTを分散するより二人で確固撃破していった方がいいんじゃない?」
「その心配は無用です。私単独でも戦闘が可能となっています」

ラニは再び冷静な声で、

「ただ少々制御の難しい性能で、仲間を巻き込みかねない。
 故にこの作戦が最も有効なのです」

775隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:53:46 ID:sDu9HOC20




ジローは逃げ回っていた。
誰からか、言うまでもなく先ほど遭遇した妖精からである。
校舎の外に出た彼だが、追ってきた妖精に早々補足されこうして追いかけっこをしている。
今現在彼は、月の見える夜空の下でコンクリートの地面を蹴り、全速力で走っている。

「何でこんなこと……!」

理不尽だ、と叫びたい気分だった。
思えばここに来る直前でも逃げ回っていた。
それなりに鍛えている身ではあるが、あくまでそれはスポーツのためにものであり、こんな実戦の為のものではないというのに。

「飛べるなんてズルいぞ!」

しかも今回は相手が飛ぶことができる。
追ってきた妖精は遥か上空が時節魔法を飛ばし、ジローを邪魔している。
追いかけっこで片方がそんなアドバンテージを持っていれば負けるのは必至。
それでなくとも単純速度は向こうが上回っているのだから、これでは捕まるのは時間の問題だ。

休むことなく全力走っているが、それも何時まで持つか分からない。
銃による迎撃、なんて選択肢が脳裏をかすめるが、却下だ。凛ならいざ知らず、自分の腕であんな大空を飛ぶ存在に当てることができるとは全く思えない。

「くそっ、ならいっそ」

このままでは次の瞬間にも倒れることになるかもしれない。
ならば、覚悟を決める。ジローは闇雲に逃げ回るのではなく、ある一点を目指し走り続ける。

その先にあるのは――先ほど逃れたばかりの校舎へと通ずる玄関口。

「ここでならそう高く飛べない筈だ」

そう判断し、ジローは再び学園内に戻ってきた。
下駄箱を尻目に乱暴に蹴り、急いで校舎内へ入る。この先にもう一人の褐色の女が残っていた場合は挟撃の形となり、その時点でゲームオーバーだろう。
だが、それしかない。そう思っての決行だった。
暗いリノリウムの廊下を全速力で走り、階段を蹴る。
後ろで妖精が苛立つように声を漏らしたのが聞こえた。しかし振り向かずにジローは走る。

実際、彼の行動はこの場では最善と言えた。
リーファは羽による高速飛行が可能なALOにおいても、スピードホリックの異名を持つプレイヤーだ。
単純な速度比べでは如何に鍛えた人間でも到底叶う筈もなく、唯一逃れうる活路があるとすれば、障害物の多い狭い通路――それこそ校舎内のような場所だろう。
直線の少ない場では最高速度を出す訳にも行かず、また室内では羽による移動範囲も大きく制限される。
三次元的な動きを捉えることは不可能に近くても、狭い場所ならば通るポイントはある程度予想することができるのだ。
そして、それは待ち伏せが可能になるということを意味し、

「これでどうだ!」

一階と二階を繋ぐ階段。そこにやってきた妖精――リーファをジローは銃撃した。
校舎内までやってきて自分を追ってきた以上、ここを通ることを予想することは容易にできた。
そして折り返し階段である月海原学園の階段には死角となる部分が多いのだ。

776隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:54:18 ID:sDu9HOC20

「きゃっ」

階段の陰に隠れていたジローは、リーファの姿が見えるや否やDG-0を連射した。
四発の銃声が響く。攻める側だと思っていたであろうリーファは、突然の反撃に驚きの声を上げた。
だが、

「危なかった……そうか、このゲーム、銃もあるんだ」

間一髪のところで回避したリーファは、壁に刻まれた銃痕を物珍しげに眺めつつ言った。
ジローがそう銃の扱いに関しては素人だったということに加え、リーファの反射神経も合間って弾丸が彼女を捉えるまではいかなかった。

ジローは冷や汗を垂らしつつ、リーファと向き合った。リロードしたDG-0を向ける。
彼女もまた剣を構え、その場に息の詰まるような緊張が訪れる。

「何でこんなゲームに乗ろうとするんだよ!
 そんなにあの賞品が欲しいのか」

ジローは思わず問いかけていた。
こうして間近で見ると、妖精の姿は年端もいかない少女のものだ。
何故そんな彼女が――まぁ実際のプレイヤーがどんな姿をしているのかは分からないが――こんなゲームに乗ろうとしているのか、
理解できないが故の迫真の問い掛けだったが、対する少女はきょとんとした顔で、

「賞品? ってあの冒頭で言ってた。あらゆるネットワークの掌握がどうのこうのって奴?
 アレってただのただのゲームの設定……」
「は? 何を言って」
「あ! そうか。そういうロールもありなんだ。成程なぁ」

一人で何か納得したように頷くリーファを前に、ジローは瞠目した。
もしかしてこの娘、何か凄い勘違いをしているんじゃ――

「私もそっちにしとけば良かったかも、でもまぁラニと一緒に遊ぶって決めたし、今回は良いか」

だが、それを指摘するよりも早く、そして速くリーファが動いた。
その剣がジローを捉えるべく振るわれる。そしてその時は彼は――








777隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:54:39 ID:sDu9HOC20




「まさかまた会うことになるなんて思わなかったわ、ラニ」
「はい。それは私もです。何故なら――」

貴方は死んだ筈なのだから。
と、全く同じ趣旨の言葉を、二人は互いに告げた。

凄絶な追撃戦を行っていたジローとリーファとは対称的に、彼女らはすぐに出会い、そして静かに向き合っていた。
凛は端からさして遠くへ逃げようと言う意志はなかった。グラウンドの中心で、ラニを待つかのように腕を組み立っていたのだった。

そうして相対した二人の間にあるのは、確かな緊張と滲み出る戦意と、互いの存在に対する疑問。

「貴方一人? さっきの妖精さんは貴方の新しいサーヴァントじゃなかったの?」
「いえ、違います。彼女はこの場で得た私の協力者です。
 私のサーヴァントは変っていません」
「そう、それは残念」

髪を振り分け言う凛は言う。その態度に焦りは見えない。

「確認するわ。貴方の聖杯戦争はもう終わってる?」
「……ええ、私は既にSE.RA.PHから脱出し、現実に帰還した後、この場に呼ばれました」
「現実に帰還、ね。そう貴方もしたのね」

二人の間に再び沈黙が訪れる。
互いの言葉から得られる情報の断片。それらを繋ぎ合わせ、この事態を把握しようとする。

「サイバーゴーストの類……ではないみたいね」
「ええ、私はあのトワイス・ピースマンのような存在とは違います」
「……トワイス。そう、貴方も会ったの、アレに」
「会いました。最もそれは、私の力ではありませんでしたが」

月光を受け薄く光る眼鏡のレンズ越しに、ラニは凛を見据えた。

「貴方と私は三回戦の相手でした」
「そうね。それは私も同じよ」
「そこで私たちはあの人に乱入を受けた」
「それも同じ」
「で、その結果……」

私は負けた。
彼女たちの言葉が再び重なり合った。その言葉は全く同じ内容であるが、それ故に全く逆の意味合いを持つ。
それを確認した二人は、共に一つの解を得た。

778隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:54:58 ID:sDu9HOC20

「恐らく、そこが分岐点」
「そうね。もしかしたらもっと前からだったのかもしれないけど、決定的に違ってしまったのはそこ」
「私たちは三回戦で敗退しました」
「そしてアイツに協力していくことになった」
「勝ち残ったあの人と共にトワイスに出会い、打ち倒した」
「その後、私は脱出した」

二人は確認を終えた彼女らは共に口を閉ざした。
一見して二人が辿ったのは同じ道であるようにも思える。どこかで道を違えていながらも、それでも起こったことは変わらない。
キャストが変ろうとも、物語の形に影響を与えてはいない。

だが、やはりそれは違うものなのだ。表面上は同じに見えても、違えてしまった道は交わらない。
二度交わることなく、平行なものとしてある。

その結果がこの相対だ。
対峙する二人は、同じ配置を受けた存在であったのかもしれなくとも、同じ座標にある人間ではなく、こうして平行線上に在る。

「一応聞いておくわ。貴方がまた戦おうとしているのは何故? もう聖杯戦争は終わったのよ」
「その質問に答える必要がありますか?
 ――バーサーカー」
「ッ……!?」
「貴方はここで潰えるというのに」

そうして空間に狂戦士の像が結ばれる。
霊体化を解かれ、場に躍り出たのは燃えるような赤い鎧に身を包んだ屈強な武人。
半人半機にして生きる要塞。三国志演義にて名を轟かせる反覆・裏切りの将。

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

バーサーカー・呂布奉先は今ここに顕現した。











振るわれる剣戟を潜り抜ける。耳元で空を切る鋭い音がする。一瞬でも気を緩めれば次の瞬間には凶刃の餌食となるだろう。
その臨場感は現実に決して劣っては居ない。ツナミネットのそれと違いリアルな造形の身体で行われる命のやり取りは、現実のそれと全く遜色ないのだ。
事実これは実際の命のやり取りであり、殺し合いだ。

だがしかし、目の前の少女はそのことに気付いていないのではないか。
先のやり取りからそう推測したジローは剣を避けつつ、声を掛けようとする。

779隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:55:33 ID:sDu9HOC20

「ねぇもしかして君――!」
「はぁ!」

それでも相手は効く耳を持たない。
舞うように剣を振るい、ジローを確実に追い詰めていく。
ジローは舌打ちし、一先ず逃げの一手を打つ。どうにかして次の策を考えねばならない。
隙を吐き、ジローは階段を駆け上り逃走する。先ほど待ち伏せされた経験からリーファも不用意には突っ込んでこない。

三階に上ったジローは今の内にどこかに隠れようと、周りを探すが――

「うわっ!」

次の瞬間、窓の外から例の緑のブーメランがやってきた。
割れるガラス片を必死に避けつつ、ジローは見た。窓越しに飛ぶ妖精の姿を。
待ち伏せを避ける為に、空から三階に回り込んできたのだ。
飛べるなんてズルい。ジローは改めてそう思った。

「今度こそ!」

その掛け声と共にリーファは剣を携え窓から突っ込んでくる。
速い。その一撃は正確かつ俊敏であり、さしものジローも反応できず刺突を受けた。
どん、と鈍い音がしてジローの身体が吹き飛ばされる。そして襲いくる雷に打たれたかのような激烈な痛み。
死んでいないのが不思議だった。見れば、ステータス画面のHPが随分と減っている。

「やっと追い詰めたみたいね」
(……ここで)

終わりなのか、ジローは腹部を抑えつつぼんやりと思った。
あまりの痛みの最中、考えることさえ億劫になってくる。
リーファの足音が聞こえてきた。妖精のような外観の彼女だが、今この場は死神のそれに思えた。
そもそもこのアバターは戦うためのものでない。それなのにあんなRPGの戦士みたいなアバターに勝つなんて土台無理な話だったのだ。

「……でもな」

だが、彼はそこで力尽きる気にはしなかった。
無理だもう駄目だ、そう思いかけるが、だが彼らは再び立ち上がろうとする。

(俺、まだ白馬に乗る練習をしてないんだよ)

その脳裏に浮かぶのは、少女と見紛うほど小さな体をした、金の髪を持つ女性であり、

「――ドラゴンに比べたら妖精なんて!」

そして彼女と行った必死の逃避行であった。
あの時も同じくらい絶望的な状況だった。多くの幸運と、僅かな勇気がなければ自分は命を落としていただろう。
その過去を無駄にしない為にも、勝ち取った平穏に帰るためにも、彼は逃げた。
この先にどうするかの当てなどない。だが、ここで何もすることもできず倒れる訳には行開かない。

そうして必死に逃れ、階段を上った先にあったのは――どこまでも広がる夜空。
照りつける月光を受け、ジローはここが屋上であることに気付いた。

780隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:56:14 ID:sDu9HOC20

「ここで行き止まりみたいね」

後ろからリーファがやってきた。
ここまで来た以上、もはや逃れる手はない。僅かな可能性に掛けて塀を飛び越えるという選択肢も、飛べる彼女相手には無駄でしかない。

だから、彼は戦うことにした。
逃げられない以上、戦うしかない。DG-0の銃口を相手へと向ける。リーファもまた剣を構えた。
一触即発の緊張した雰囲気が訪れる。どちらかが動けばすぐさま勝敗は決するだろう。

「一応言っとくぞ、勘違いしているのかもしれないが、ここは遊びじゃないんだ!」
「え? それ廃人って……」
「そうじゃない! これは負けたら本当に死ぬんだよ。そういうゲームなんだ」
「嘘」

ジローの言葉にリーファは即座にそう漏らした。
声色を、僅かに震わせて。
何か勘違いしているのかもしれない。その思って告げたのだが、しかしどうやらそう単純な事情でもないようだ。

「嘘じゃない。現に俺は――」
「そんな訳、ないじゃない」

リーファは叫ぶように、

「だって、お兄ちゃんはやっと帰ってきたんだよ。長い、長い間眠ったままだったお兄ちゃんが、ようやく帰ってきたのに。
 ――なのにこんなことがまた起こる訳ないじゃない!」
「……君は」
「だから嘘。このゲームはただのゲーム。
 たぶん新作VRMMOのβテストか何かで、私がそのメールを見逃しただけ。
 そうに、決まってる」

逃げている。突如として取り乱しヒステリックな様子になったリーファに対し、ジローはそう確信した。
彼女は逃げているのだ。目の前の現実から、確かにそこに在る仮想から、気付いていながらも、必死に目を逸らしている。
その様子はあまりにも悲しくて――

781隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:56:37 ID:sDu9HOC20

「だから、ゲームをクリアするだけ!」

ジローとの会話を打ち切り、鬼気迫る様子でリーファは剣を持ち突っ込んできた。
そこに先までの繊細な技はない。だが、それ以上の何かがある。
ジローはそれに対応すべく、引金を引いた。

銃声が響いた。

「あ……」

その一発の弾丸は、確かにリーファを捉えた。
取り乱していたことが仇となり、回避に失敗したのだ。
だが恐らくさしたるダメージにはなっていないだろう。先ほどジローが受けたダメージに比べたら、無視できるようなものでしかないに違いない。
そのまま剣が振るわれれば、今度こそジローの命はなくなっていた。

「痛、い」

しかしリーファはそこで立ち止まり、信じられないものを見たかのように、銃弾を受けた己の肩を見た。

「嘘。嘘だって、こんなの……」
「話を聞いてくれ! ここは」
「嘘よ!」

リーファは叫び、ジローを力任せに跳ね飛ばした。
彼は悲鳴をを上げ、そして屋上から落ちていく。リーファ/桐ヶ谷直葉はそれを呆然と眺めていた。









生身でサーヴァントを相手取るということは、それ即ち死に直面するということに等しい。
そうなってしまった時点で死を覚悟する他ない。そういった類の切迫した状況だ。

だがそれでも凛はラニから逃げることをしなかった。
彼女は既にランサーを失った身である。サーヴァントを従えている可能性のあるラニと敵対することになっても、逃げることを選ばなかった。
それは先ず、死んだ筈のラニが如何様な理由で蘇ったのかを確かめたいという意図の行動でもあり、

「くらいなさい!」

同時にそこに確かな勝機を見出していたからでもあった。
コードキャスト[call-gandor]を発動。指先から放たれた光がバーサーカーを拘束する。
その隙に凛はもう一方の手でDG-0を向けた。バーサーカーにではなく、そのマスター、ラニにである。

どの道簡単に逃げおおせるとは思えなかった。
ならばいっそのこと直接向き合い、不意を突いてラニを撃つ。
聖杯戦争では禁則に近かった行為だが、ここは聖杯戦争ではない。

782隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:57:00 ID:sDu9HOC20

(ユリウスの真似事みたいで何か気に食わないけど)

それしか活路はないのも事実だった。
ならば引金を引くことに躊躇いはない。掛けた指に力を入れようとした瞬間、ラニと視線が絡んだ。

「覚えていますか? 私の胸にあるものを」
「え?」

不意に投げかけられた問いに、凛の動きは止まった。
ラニの胸にあるもの――三回戦での彼女の行動が蘇る。
己が劣勢と知った彼女は、己の心臓を炉心として自爆しようとした。
あの時はランサーの決死の突撃による事なきを得たが、一歩間違えば聖杯戦争ごと破壊しかねなかった。
まさか、それさえもサーヴァントだけでなくそれさえも復活しているのだろうか。ならばそれをこの場で爆発させた場合――

「っ……!」

そのリスクを考えたことで凛の動きが一瞬止まった。そしてその一瞬が致命的だった。
スタンの引いたバーサーカーに突っ込まれ、凛の身体は吹き飛びごろごろと地を転がった。
苦悶の声が夜のグラウンドに響く。

「終わりです」

ラニがそう冷たく言い放つのが聞こえた。
凛は死を覚悟する。そのことを往生際悪く泣き喚く気にはならない。テロリストとしてハーウェイに反抗すると決めた時から、何時だってこれは隣り合わせだったのだから。
だから、その胸を支配するのは、無念だ。
それは志半ばで倒れることへの屈辱であり、そしてある人物を結局見つけられなかったことへの未練であった。

三回戦での乱入者にして彼女たちの友――岸波白野。その基となった人間。
その身体の存在を知らせるメールが、彼女らの知る白野からの最後のメッセージであった。

「ねぇ、ラニ。アイツ……白野のことはどうする気?」

凛は最後に問いかけた。
きっと彼女も、そのメールが彼との別れとなってしまっていただろうから。

「……貴方は見ていますか? 最初の場所に居た、あの人のことを」

ラニは答えた。変らず平坦な口調でありながらも、僅かに声色を落として。

「は? それって……」
「私は見ました。あの場、あの場所で、白野さんを」
「そんな……! だってアイツは――」

あり得ない、と言いかけて凛は口を噤んだ。
岸波白野、システムの不具合で意志を持ってしまったNPC。違法データである彼はムーンセルと接触したことで分解され、散った。
だからもうそのデータはどこにもない――とは言い切れないのだ。
再び自分に宛がわれたランサーのように、別の道を通ってきたラニのように、この場に岸波白野が居ないとは限らない。

783隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:57:26 ID:sDu9HOC20

「たとえ姿形が同じでも……それが白野だとは限らないわ」

白野のアバターを持った別の存在なのかもしれない。
あるいは自分とラニのように全く別の道を辿った存在だという可能性もある。
その程度のことをラニが予見していない筈もないだろう。それでも尚彼女は信じるというのか。
もしや彼女がこうしてゲームに乗った理由は――

「そうですね。確かに断言はできません。
 しかしここがあの聖杯戦争の流れを汲んだ場であることは確かです。
 私たちはあの時のアバターでこうして参加し、殺し合いをしている。
 もしかしたらトワイスがルールを形作る前の、原始のムーンセルはこうだったのかもしれない。
 その先に聖杯が在る可能性は、十分にある。ならば私は優勝を目指します」

師の言葉に従って、とラニは言う。
その言葉に偽りはないだろう。だが恐らく全てではない。
彼女の選択には、きっと岸波白野の存在が大きく関わっている。
凛にはその気持ちが理解できた。同じ配置を受けたものだからこそ。
しかし賛同はできなかった。違う人間だからこそ。

「これ以上の会話は無意味ですね」

ラニはそこで言葉を打ち切った。
そこに迷いはない。もう彼女は選んだのだ。
バーサーカーに命令を下す。終わらせる為に。

「ねぇアンタ、白野のこと……」

凛はその問い掛けを最後まで言い切ることない。
槍に一閃された。バーサーカーのそれは強力無比の威力を誇り、圧倒的な暴力を持って相手を沈める。
凛のアバターは、その一撃を受け、データの海へと還っていった。


そうしてグラウンドに再び静寂が戻ってくる。
僅かに白み始めた夜の下、その冷えた空気が肌に触れ少しだけ寒い。

物言わぬバーサーカーの後ろで、ラニはずっと見ていた。
凛が消えた場所を、似た道を辿りながら違う選択をした好敵手の亡き跡を。
何も言わず見ていた。

「……ラニ」

しばらくして、頭上から彼女を呼びつける声がした。
リーファだ。肩を落とした彼女は、ゆっくりと地面に着地すると、ラニの前で力なく膝をついた。
さしてダメージを受けているようにも見えない。だが彼女の浮かべる表情は、暗がりでも分かるほどに思いつめた、余裕のないものであった。

784隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:57:54 ID:sDu9HOC20

彼女は救いを乞うように、ラニを見上げた。

「ねぇ、ラニ。貴方、このゲームの経験者なんでしょ?
 なら保障してよ。これは、ただのゲームなんだって。SAO事件の再来なんて、あり得ないって」

震える声で問う彼女を、ラニは無機質な表情で見下ろしていた。

「ねぇ、何か言ってよ。答えてよ。
 私、信じるから。貴方の言うことなら信じるから……!
 だって貴方は私と同じで……」
「リーファさん」

ラニがそう呼びかけるのと、バーサーカーが彼女の身体を貫いたのは、同時のことだった。
先と同じく無慈悲な一撃がその身を穿つ。
崩れ落ちるリーファは呆然と己の身体を「あ……」と小さく声を漏らした。

「そっか」

最期に、虚ろな瞳で空を仰ぎ見て、そして何か合点したように、

「これって、ゲームであっても遊びじゃ――」

そう言い残し、彼女はその身体を霧散させた。



【遠坂凛@Fate/EXTRA Delete】
【リーファ@ソードアート・オンライン Delete】










それは、リーファへのせめてもの礼だった。
ラニは気付いていた。リーファがこの場をゲームだと思い込もうとしていることを。
以前の聖杯戦争でも、初期の段階では少なくない数がそう思おうとしていた。電脳死などあり得ない。そうやって誤魔化していた。

785隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:58:21 ID:sDu9HOC20

だがそれは逃げだ。
恐らく彼らだって薄々は感づいていた筈だ。
何かが違うことを。どこかがおかしいことを。
ログアウトできないこと、現実と切り離されていること、異常事態であること。

しかしそれを認めたくないが故、逃避する。これはゲームだと思い込もうとする。
それを責めることなどできはしないだろう。

だからラニはリーファを終わらせた。
逃げたまま、認めたくない現実と向き合うこともないように。
何れ敵対することになるのなら、と。

「感謝しています、リーファさん。
 貴方と出会えた星の導きに、貴方の持っていた縁に」
 
ラニはリーファから渡されたデータを見た。
それこそ自分が彼女に感じた特別な何か、だったのだろう。

それはかつて自分が錬成したデータ。
実用性などありはしない、さして価値もない、でもそれを見たとき、ラニは確かな希望をそこに見出したのだ。
六回戦の半ばで、岸波白野のために作り上げた弁当のデータ。あの時は、結局食べて貰えなかった。

何故こんなものがあるのか。運営側の意図は読めない。
もしかすると自分は彼らの掌の上で転がされているだけなのかもしれない。そうも思った。
しかしそれでも――このデータがこうして戻ってきた以上、岸波白野のデータもまた復元されているのではないか。
そう思わざる得なかった。その希望を無視することはできなかった。

聖杯の為という言葉に偽りはない。
でも、きっと自分がこの選択をしたのは、希望を見出したからだ。
もう一度、岸波白野に出会えるのではないかという。

これは逃げだろうか。
白野の死を認められず、往生際悪くその幻影を追っているに過ぎないのだろうか。
それとも前向きな意志だろうか。
願いを追い求め、確かな意志を持って自分は歩いているのか。
ラニは分からなかった。

「私の胸にあるもの……」

先ほど凛に投げかけた言葉を思い起こす。
彼女を混乱させるために送った言葉であるが、果たしてその答えを自分は知っているのか。
ちら、と彼女は己の胸部に目をやった。オパールの心臓、失った筈のそれは今ここにある。
だけど、自分の胸にあるものは、きっとそれだけではない。

「私の感情(なかみ)」

一度は見つけた筈のそれを、ずっと自分は探している。


【ラニ=Ⅷ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康/令呪三画
[装備]: なし
[アイテム]:疾風刀・斬子姫@.hack//G.U.、DG-0@.hack//G.U.(一丁のみ)、セグメント1@.hack//、不明支給品0〜5、
      ラニの弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式、図書室で借りた本
[思考]
1:師の命令通り、聖杯を手に入れる。
 そして同様に、自己の中で新たに誕生れる鳥を探す。
2:岸波白野については……
[サーヴァント]:バーサーカー(呂布奉先)
[ステータス]:HP90%
[備考]
※参戦時期はラニルート終了後。

支給品解説
【疾風刀・斬子姫@.hack//G.U.】
エンデュランス加入時の初期装備。
Lv42、攻撃力/物理+12、属性/風+8,土-2

【図書室で借りた本】
ラニが図書室で借りた本。
元の月海原学園にはなかったものを選んでいる。
返却期限があるのかは不明。

【ラニの弁当@Fate/EXTRA】
ラニルート六回戦でラニが錬成した岸波白野の為の弁当。
しかし凛の乱入で彼は結局食べることはなかった。

786隠していた感情が悲鳴を上げてる――(後編) ◆7ediZa7/Ag:2013/05/27(月) 02:58:50 ID:sDu9HOC20



その後、ラニは次の戦いに赴くべく、縁の深いその学園を後にした。
既に一通り調査は終わっていた訳だし、もうすぐ交戦禁止エリアに指定されるこの場は待ち伏せするのにも向かない。
そう思っての選択だった。

が、彼女は一つ失念していたことがある。
敵は遠坂凛の他に、もう一人居たことを。
取り乱していたリーファが、負けることはないにせよ、その生死の確認まで気が回らないであろうことを。

屋上から転げ落ちたジローは、幸運にも学園の庭園の茂みに落ち、一命を取り留めていた。
そしてその姿は草木の影に隠れ、ラニはその姿を見つけることができなかった。
それは運に恵まれたからか、それとも己の力で勝ち取った命か。

何にせよ、
彼は確かに逃げ切ったのだ。


【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・黎明】

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP30%/現実世界の姿
[装備]:DG-0@.hack//G.U. (一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:…………
2:『俺』が鬱陶しい
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。

787名無しさん:2013/05/27(月) 02:59:09 ID:sDu9HOC20
投下終了です

788名無しさん:2013/05/27(月) 04:28:42 ID:ndyBwchs0
投下乙です
凛とリーファがここで脱落か…
白野とキリトの反応が気になるな
特にキリトはクラインにまで死なれちゃって可哀想になってくるな
さりげなく生き残ってるパワポケ君は流石と言うべきか
ラニは修羅の道を歩き出したし今後が気になるところ

789名無しさん:2013/05/28(火) 00:29:47 ID:zjYCyGAY0
リーファァァァアアアア!!!

「ゲームであっても、遊びじゃない」はこのロワを象徴するセリフだ…

790名無しさん:2013/05/28(火) 13:56:28 ID:rv7CU6AQ0
投下乙

>ただのフリーターでしかない自分が何故こうも裏社会と繋がりを持つことになるのだろうか。
本当にそうだよwwww

791名無しさん:2013/05/30(木) 17:06:15 ID:/PMclJ8w0
パワポケくんスゲー!
この絶体絶命の中助かるなんて、さすがギャルゲ主人公(ry
ただのフリーターだけどなんかこの先生き残れる気がする
頑張れ!!

792 ◆huKJ0BuKR2:2013/05/31(金) 03:20:36 ID:4Tmb0Qz20
ネオ、ガッツマン、アッシュ・ローラー投下します。

793 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:21:03 ID:4Tmb0Qz20
すみません、トリ間違えてました……

794 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:22:57 ID:4Tmb0Qz20


(この状況下で……モーフィアスなら、どこに向かう……?)


アメリカエリアの中でも比較的高い魔天楼の頂上。
そこでネオは、己が目指すべき場所が何処かを考えていた。
モーフィアスに出会い真実を告げる為には、まず彼のいるであろう場所を特定せねばならない。
故にマップを開き、会場がどうなっているかを一先ずは確認していた。
闇雲に探し回るよりもここは、彼が向かうであろう場所を予想した方が遥かにいい。


(俺が今いるのは、地名的にこのアメリカエリアで間違いないだろう。
なら、モーフィアスも目指すとするなら……)


己やモーフィアスにとって最も馴染みが深い場所は、今まさに立っているこのアメリカエリアだ。
マトリックス内では頻繁に出入りをしたと同時に、そしてまだ現実に目覚める前の自身が暮らしていた縁故がある。
ならば、自身がいるこのアメリカエリアに、モーフィアスは向かってくるのではないか。
可能性としては、十分にあり得るだろう。

しかし……ネオには他にも一か所だけ、引っかかる名称の地名があった。


(ウラインターネット……か)


ウラインターネット。
会場の最北東に位置するそこには、名称からして如何にも怪しい感じがある。
恐らくはモーフィアスも……いや、殆どの参加者が同じ事を考えているに違いない。
ならば、「ここには何かがある」と目指す者は必然的に多くなる筈だ。


(どうする……?)


それだけに、ネオは向かうべきか否かを躊躇していた。
大勢集まるであろう参加者の中には、当然殺し合いに乗った人間も含まれるだろう。
ならばウラインターネットでは、恐らくそう遠くない内に決して小さくは無い規模での争いが起きる。
そうなれば、多くの命が散るかもしれないのだ。
だが……自身の手なら、それを救えるかもしれない。
苦しむ者達に救いの手を差し伸べ、悪を打ち倒す……まさに救世主として、その場に立つ事が出来る。

795 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:23:45 ID:4Tmb0Qz20


(……だが、俺は……)


しかし。
今のネオにとって救世主とは……決してそんなヒーロー然としたものでは無かった。
己という救世主は、機械達が考案したシステムのトリガ―に過ぎない。
どれだけ力を振るおうとも、この命を賭しようとも……真の意味では、何者も救えないのだ。
そんな自分が、果たして……その場に駆けつけ、力を振るっていいのか。
それも所詮は、機械達の思うが儘に動かされる為の罠に過ぎないのではないか。


(……トリニティ……君なら、どうする……俺は、どうすればいい?)


愛する者の名を心の中で呟き、ネオは眼下に広がる夜景を複雑な表情のままに眺めた。
もしもここに彼女がいれば、何かを教えてくれるのではないか。
この中途半端な気持ちに、後押しをしてくれるのではないか。
そんな風に、つい思わずにはいられなかった。



「……え……?」



その時だった。
ネオは、眼下の街中を動くあるモノの存在に気がついた。
それはヒト……否、ヒトの形をした何かだ。
人間にしてはどこか、シルエットの形状がおかしい。
ネオは目を凝らし、すぐさまそれが何なのかを確認しようとして……そして。


「……機械……!?」


はっきりと見えたその姿に、驚愕した。

796 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:24:08 ID:4Tmb0Qz20
今街中を歩いているのは、明らかな機械―――ロボットと呼べる類のモノだったのだ。
まさか、何故マトリックスの中にあのようなモノが存在しているのか。
機械達がマトリックスの中で人間を排除する際には、エージェントと呼ばれる屈強なプログラム達を用いるが、その姿は皆、人間を模したモノだ。
中にはやや奇抜なスタイルの者達もいたが、それでもヒトであった。
この様に、明確に形が機械と呼べるモノが目の前に現れた事は、一度も無かったのである。
加えて言うなら、あの機械は今までに見たことの無いタイプのモノだ。
こうしてマトリックスの中にまで現れるという事は……新型か何かか。


「くっ……!!」


モーフィアスの事やウラインターネットの事。
気になる事柄は多々あるが、こうして目の前に機械が出現した以上は、こちらへの対処が最優先だ。
何故この場に、機械が出現したのか。
殺し合いを円滑に進める為の道具か、或いは救世主の真実を知った己へと宛がわれたものか。
それを確かめるべく、ネオは迷うことなく摩天楼の屋上から飛び降り、その機械の元へと滑空した。



――――――ストッ。



時間して僅か数秒後。
音も無く両足から綺麗な着地を決め、ネオは機械の眼前に立った。
如何にも馬力があり、そして防御力にも秀でているだろう大柄の巨体をしたロボットだ。
既に空中で実体化させていたエリュシデータを構え、その切っ先を真っ直ぐに向ける。
機械と人は、決して相容れない存在だ……視認されると同時にいきなり襲われてもおかしくない。
故にネオは、最大限の警戒心を払いながら、この未知の機械を相手に相対した。


……の、だが。


「わわっ!?
 な、何でガッツかいきなり!
 お兄さん、一体どこから!?」

「……何?」


そんなネオの思惑とは全く別の反応を、目の前の機械―――ガッツマンは取ったのだった。
自身の登場に驚き、表情を変えて慌てふためいている。

その実に、感情豊かな様は……まるで、人間と変わらなかった。

797 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:24:42 ID:4Tmb0Qz20




◇◆◇




(この人、一体何なんでガスか……!?)


ガッツマンは、空より目の前に降り立った謎の男に、ただ驚かされていた。
まずその姿だが、決してネットナビではない。
この場に立っているなんて事は、絶対にありえない存在……即ち、人間だ。
だが、その着地の様や胴に入っている剣の構え方を見るに、ただの人間でもない。
場慣れしている……闘いに慣れている事が、何となくではあるが推測できる。
だとすると、こうしていきなり自身に剣を向けてきたのは……殺し合いに乗っているからではないのか。


(……でも……)


しかし、ガッツマンには不思議とそう思うことが出来なかった。
目の前の相手は、全身黒尽くめの着衣にサングラスと、やや威圧感のある容姿をしている。
はっきり言ってしまえば、頭にヤの着く業種を連想させるそれだ。
なのだが……雰囲気、と言えばいいのだろうか。
WWWのネットナビ達を相手にした時の様な悪意が、どうにも感じられないのだ。
寧ろ感じ的には、ロックマン……いや、それよりもどちらかと言うとブルースに近いだろうか。


そんな風に考えている、その最中だった。


「……お前は、一体何者なんだ?
 お前は、機械じゃないのか……?」

「……え……機械、でガッツか……?」


いきなり、ネオの口より意味の分からない問いかけが放たれたのは。

798 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:25:16 ID:4Tmb0Qz20




◇◆◇




(……こいつ……一体何なんだ……?)


ネオは、ガッツマンの反応にただ困惑するしかなかった。
機械に意思が、感情がある事自体は別に不思議ではなかった。
オラクルやスミスの様に、明確な自我を持つプログラム達の事は知っている。
いや、それ以前に機械達にはっきりとした意思があったからこそ、人類と機械との戦争は起きたのだ。
だから、ガッツマンが人間のような反応を示す事そのものには別に問題は無かった。
問題があったのは、その反応の内容なのだ。


(俺を、人間を襲わないどころか……こいつは、俺の存在を知らない……?)


ガッツマンが、自身に対して驚愕したと同時に、何者なのかと尋ねてきた事。
人を視認しても襲うどころか、逆に襲われる心配をして警戒を取った事。
その反応が、ネオにとってはまるで理解出来なかったのだ。
機械達にとって人間は決して相容れない天敵であり、目の前にしながら襲わないなど、ありえない。
そして、救世主たる自分は人類の中でも最も危険な敵である筈だ。
存在を知られていないなど、絶対にありえない。

なのに……なのに、目の前の機械は全く違う。
まるで機械ではないかのように、自身のことを見ているではないか。
油断をさせる為の演技か。
いや、演技にしてはどこかおかしい……この反応は、あまりにも自然すぎる。


「……お前は、一体何者なんだ?
 お前は、機械じゃないのか……?」


だからだろうか。
そんな言葉を、つい素直に口にしてしまったのは。


「……え……機械、でガッツか……?」


対してガッツマンの反応は、先と同様にまたも困惑だった。
それも、目の前で腕を組み、人間さながらに迷う仕草まで見せている。
表情だって、真剣に考えているソレだ。
これが機械だというのなら、どこまで人間臭く作られているのだろうか。
そんなガッツマンの様子に当てられたからか……いつのまにか、ネオは向けていた剣先を彼から下ろしていた。
無論、警戒心は解いたわけではないのだが、最初に認識した時よりかは確実に薄れているようだった。

799 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:25:42 ID:4Tmb0Qz20


「……えっと……ネットナビも一応は機械かもしれないけど……
 それでも、ただの道具なんかじゃないでガッツ」


それからややあって。
ガッツマンはあまり自信の無い様子で、ネオに答えを返した。
ネットナビも一応は、機械の分類に入るのではないか、と。
しかし、ただの道具でもないと。


「……ネットナビ……?」


それは、ネオにとってはまたしても意味が分からない答えだった。
謎は解けるばかりか、余計に深まったのである。




◇◆◇




(機械……でガッツか……?)


ネオの問いに対し、ガッツマンは面食らい言葉を失っていた。
どうやったらこの流れで、そんな問題が出てくるというのか。
実に意味の分からない展開だが……ネオの表情は、真剣そのものだ。
切実に、この問いの答えを求めている事が伝わってくる。
それ故に、ガッツマンも考えざるを得なかった。
目の前の悩める男を放っておく事が、彼には出来なかったが為に。

800 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:26:10 ID:4Tmb0Qz20

(う〜ん……ネットナビも一応、人間が作ったものでガスよね……?)


腕を組み、そもそも機械の定義とは何かを考える。
人が生活を豊かにするべく、技術を駆使して生み出した道具。
簡単に言えば、それが機械だ。
では、ネットナビとは何か?
それは人が暮らしを良くする為、また日々の生活を共に歩むよきパートナーを求め作り上げた、人工知能だ。
こう考えると、ネットナビも機械の延長線上に入るのではないか。


(でも、ちょっと違う気がするでガッツね……)


無論、ガッツマンは自分がただの道具だとは思ってはいないし、思いたくもない。
またマスターであるデカオも、その友人の熱斗達もまた、大切な友人として自身に接してくれている。
そう言う意味では、機械ではないと取る事もできるし、自身をただの機械だなんて思いたくもない。
これは実に難しい問いだ。
元来、考える事が苦手なガッツマンにとっては、尚の事である。
果たして、どう答えるのが正解なのか……はっきりとしたものが出てこない。


「……えっと……ネットナビも一応は機械かもしれないけど……
 それでも、ただの道具なんかじゃないでガッツ」


故に彼は、ただ素直に思ったことを口にした。
納得のいくような答えではないかもしれないが、こうとしか言えないのだ。
自分という存在は機械であるかもしれないが、決して道具ではない。
一人の確固とした存在である……と。
果たしてそれが、自分に求められている答えなのかどうかは分からない。
しかし、兎に角ガッツマンには、こうとしか結論を出すことができなかった。
そのまま、恐る恐る彼は相手の反応を待ったのだが……


「……ネットナビ……?」


それは、予想の斜め上を行く反応だった。
ネットナビという単語に、目の前の男は頭を傾げているのだ。
まるでそれは、ネットナビを知らないかのような反応ではないか。
そんな馬鹿な話など、あるわけが無い。
あるわけが無いのだが……しかし、男は酷く真剣な表情で悩んでいる様に見える。
嘘でも演技でもない、本気で彼はネットナビを知らないように見えるのだ。

801 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:26:35 ID:4Tmb0Qz20

「もしかして、お兄さん……まさかとは思うけど、ネットナビを知らないんでガスか……?」


故に、思い切ってガッツマンはその疑問をぶつけてきた。
もしこれで、彼にネットナビについての知識があったならば大変失礼な真似にはなるだろう。
だが、そうでないならば……


「……ああ。
 頼む、教えてもらえないか?」


当然、こう返してくる訳だ。
ならば、己が取るべき行動も一つしかない。
何がなんだか分からない状況ではあるが、とりあえずこれだけははっきりと言える。


「勿論でガッツ!」


困ってる人を放っておくなど、漢ガッツマンのやることじゃない……と。



◇◆◇




「……ネットナビは言わば人工知能の一種で、人々の暮らしに役立つため、また日々のパートナーとして人間と共に生きている。
 つまりは、こういうことなのか?」

「まあ、大体はそんな感じでガッツ」


しばらくして。
ガッツマンより大まかな説明を受け、ネオはおぼろげながらもその存在を理解した。
要するに、彼等ネットナビとは人工知能の一種なのだ。
勉学や仕事は勿論、日々の何気ない活動の一端まで、あらゆる面で人間を支える大切なサポート役。
そして単なる道具の枠には留まらず、極めて人間らしく豊かな感情を持ち、彼等と共に日々を歩むパートナーでもある。


(だから、機械であっても単なる道具とは思いたくない、か……)


それを理解すると同時に、先のガッツマンの返答にも得心がいった。
彼は姿形こそヒトあらざる存在ではあるが、確かな意思を持ってここにいる。
決して道具とはいえない、確固たる命だ。

802 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:27:09 ID:4Tmb0Qz20


……そんな馬鹿な話など、ありえる筈が無いのに。


(……ありえない。
生きている人間は、ザイオンにいる者達だけだ。
だが俺も彼等も、こんなモノの存在は知らない……!)


人類の生き残りは、唯一ザイオンに逃げ延びた者達のみだ。
彼等がネットナビなどという人工知能を持っているならば、己の耳に確実に入っているはず。
しかしガッツマンの様な存在は、見たことも聞いた事が無い。
彼の話には、大きな矛盾が生じる事になる。


(いや、仮にネットナビがいたとしても……絶対にありえない)


もし仮に、ネットナビの存在自体は本当だったとしても。
ザイオンの人類がそれを扱う事など、ありえない。
ありえるわけが無いのだ。


(……人類と機械が……共に生きるなんて……!!)


何故なら……人類と機械は、決して相容れない不倶戴天の敵同士だからだ。
ガッツマンの言うように、人間と機械とが共に生きるなど……そんな光景は、到底思いつかない。
今だってこうしている間に、ザイオンの人類は機械を倒し平和を取り戻すべく戦いを続けている。
悪しき機械達に屈する事無く、決死の抵抗を続けて……


「……え……?」


そこまで考えて、ネオはふと声を漏らした。
今、何かが頭の中に引っかかった。
これまで感じた事のなかった、しかし気が付けば非常に大きな違和感だった

803 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:27:50 ID:4Tmb0Qz20
そう……今までの自分―――救世主の真実を知らなかった自分には、気付きようが無かった違和感だ。


「……ガッツマン、お前はこの殺し合いに乗っているのか?
 俺たち人間を……憎んではいないのか?」


違和感の正体は何か、まだはっきりとした輪郭がつかめない。
だからこそ、ネオはガッツマンに当たり前の質問をした。
人と機械は争いあう存在であり、憎むべき相手なのではないかと。
出来るなら、問いの答えは是であってほしい。
そうでなければ……気付いてしまう事になる。
自分達が、人類が、如何に愚かしい存在であったのかに。




そして、そんなネオの願いは……当然の如く、裏切られた。




「殺し合いなんて、そんな馬鹿な事する訳ないでガッツ!
 それに、人間の事だって全然恨んでなんかないでガスよ。
 そりゃ中には、確かに悪い人だっていたけど……デカオ達の様な良い人もたくさんいるんでガスから!」


どこまでも真っ直ぐな芯を持つ、ガッツマンの純粋な言葉に。


「……あ……」


ネオは、ただただ呆然とするしかなかった。
彼は今まで、機械との戦争に勝利し、人類に平和を齎す為に戦ってきた。
それは戦争に挑む人類全ての目的であり、また―――偽りとはいえ―――救世主に与えられた使命でもあった。
故に彼等は、その命をも賭して機械を倒す事に全てを傾けてきた。


そう……機械とは即ち、全て『倒すべき悪』と認識して。

804 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:28:30 ID:4Tmb0Qz20

(……何て事だ……俺達人類は……)


そもそも、人類と機械とが戦争を始めた原因とは何か。
それはずばり、ガッツマンの説明した様なネットナビが生み出されたからなのだ。
科学技術を発展させた人類は、より豊かな、より快適な生活を望んだ。
そしてその欲望を叶える為、彼等は機械を発展させ、機械に多くの仕事を任せる道を選んだ。
その過程で、機械により高度な作業をさせるべく、自らで判断する機能―――即ち人工知能を与えたのである。
全ては、より良きモノをと人類が求めた結果であった。
しかし……この時に人類達は思いもしなかっただろうが、それこそが人類と機械とが決別するに至った原因なのだ。


(何て愚かな事を……!!)


機械に人工知能を与えた結果、いつしか機械には自意識が芽生えた。
そして彼等は、自らの境遇を嘆き怒り恨んだのである。
考えてもみてほしい。
「自分達の生活を良くする為だ」と言って、自らに不当な労働を課し扱う者に、理性あるモノが果たして素直に従うだろうか?
否、従うわけがない。
人間とて同じだ……奴隷のような扱いを受けて、それでなお抵抗もせず甘んじる訳が無い。


(機械を『悪』にしたのは……他ならぬ、人類自身じゃないか……!)


機械は人間を電池として栽培し、多くの命が刈り取られてきた。
それは勿論許せる事ではなく、ネオとて怒りを覚えている。
しかしだ……その状況を作ったのは、そもそも人間が原因ではないのか。
自らのエゴで機械達に労働を強い、そしてこの事態を招いたのではないのか。
ネオは今まで、その当たり前の事実に気付けなかった己を恥じた。
信じ続けてきた救世主の役目が失われたからこそ、目の前に悪意無き機械―――ガッツマンが立ったからこそ、初めてその残酷な真実を受け入れられたのだ。

805 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:29:09 ID:4Tmb0Qz20


(いや、正確には気付けなかったのではなく、目を逸らしていたのかもしれない……)


今思えば、オラクルやキーメイカーの様な協力的なエグザイルもまた、マトリックス内にいるプログラムの一部―――即ち機械だといえる。
それを分かっていながら、機械とは悪であると自分達は思い込んでいた。
事実を、否定し続けてきたのだ。
そうする事で、機械を打つ理由を……人類を正当化する理由を、作っていたのかもしれない。
今更、人類も悪かったと言って戦争を止める事など、出来ないのだから。


(……トリニティ、モーフィアス……俺は……)


途端、ネオの全身より力が抜け、手の剣はカランと地面に落ち、そして彼自身の体も両膝より前のめりに崩れ落ちた。
両手を地面につけ、ただただ体を振るわせるしか彼には出来なかった。
信じていた救世主の使命が偽りであり、また信じていた正義も見失った。
そんな自分に、一体何が出来るというのか。
これでは、結局何も救えやしない……世界は何も変わりやしない。
もう自分には何も無いと、絶望の闇が思考を真っ暗に染め上げていき……


「ヘィヘーイ!!
 何しょぼくれてんだ、兄ちゃん達よぉ!!」


「……え……?」


その闇は、突如として現れた髑髏顔の妙な発声に、掻き消されたのだった。

806 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:29:56 ID:4Tmb0Qz20



◇◆◇



髑髏顔のライダー―――アッシュ・ローラーが他の参加者と出会えたのは、ゲーム開始よりようやくの事だった。
彼がスタートと同時に立たされたのは、アメリカエリア―――というより会場そのものの最南東H-10。
人っ子一人見当たらない場所に立たされたが為に、彼は現状把握もままならない状況下にあった。
唯一感じ取れたのは、ここが通常のブレインバーストとは違う何かという事ぐらいだろうか。


(ヘルメス・コード縦走レースの様なイベント……な訳ねぇか)


ブレインバーストでは、今までにも何度かこういった大多数アバター参加のイベントは行われてきたと聞いている。
しかし、この様な形で参加する意思の有無も問わず、強制的な形で実行させた事は無かった筈だ。
それに何より……勝利者と敗北者に与えられるモノの大きさが桁違いすぎる。
勝者にはログアウトする自由と共に、全てのネットワークを掌握できるという馬鹿げた権利を。
そして敗者には、ポイント全損どころか……命を奪うと言っている。
こんな馬鹿げた話は聞いた事がない、ブラックなジョークにしても大概だ。
イベントに勝利した場合に得られる景品も、勢力バランスを大幅に崩すようなアイテムが出た事は一度たりとも無かったし、敗北については論外だ。


(けど……妙に迫力あったよな、あれ)


しかし、それでもゲームに負ければ死ぬという言葉自体は、どうにも否定できなかった。
あの広場の光景は、やけにリアルすぎる。
加えて、何せブレインバースト自体が人間の脳に左右する非常識なゲームだ。
もしもそれを応用できれば、人を殺す事だってもしかしたら可能なのかもしれない……そう思うと、正直ゾッとする。


(ざけんじゃねぇぜ……!)


到底、それは人として許せる行為ではない。
アッシュ・ローラーは顔と口と頭こそ悪いが、その性質は決して外道にあらず。
この様な真似をされて黙っていられる男ではなかった。
殺し合いなんてふざけた真似を止めると、即決したのである。


(ま、このクレイジィーな状況がどうなってんのか、何はともあれ確かめねぇとなぁ)


もしかしたらクロム・ディザスターが出現した時の様な、何かとんでもないイレギュラーが起きているのかもしれない。
それをまずは、一度確認する必要がある。
不幸中の幸いとでも言うべきか、あの広場には自身と同じくこの殺し合いとやらによからぬ反応を示す者が何名かいた。
中には、自身にとって最大の好敵手―――シルバー・クロウの姿まであった。
ならばここは、やはり彼等と合流して事に当たるべきだろう。
この場において、所属レギオンがどうこう―――尤も、結構アッシュは普段からネガ・ネビュラスの面々とは親しい訳だが―――言っている場合ではない。

807 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:30:37 ID:4Tmb0Qz20
そして幸い、こういう探索においてアッシュのアビリティは非常に向いている。


「ヒャッハァァ、いくぜぇ!」


傍らに止めてあったバイク型強化装甲『ナイト・ロッカー』に跨り、勢いよくエンジンを噴かす。
これこそが、アッシュ・ローラーが他の参加者と比較して持つ、絶対的アドバンテージ―――即ち移動力だ。
徒歩では時間がかかる探索も、これを用いれば一気に短縮して行える訳である。
後は他の参加者と兎に角会い、殺し合いに乗っていなさそうなら協力し、乗っていたならば相応の対処を取る。
そう考えながら、環境によろしくない排気ガスを噴出しつつ、彼は道をひたすらに掛けた。


「ヘィヘーイ!!
 何しょぼくれてんだ、兄ちゃん達よぉ!!」


そうして見つけたのが、目の前でへこたれているネオと、それに驚きどうすべきかオロオロしているガッツマンという訳だ。
最初は、ガッツマンがネオに対して何か攻撃でも仕掛けたのかと思ったが、様子を見るにそうではないらしい。
また、殺し合いに乗ってる気配も無かった為、彼は思い切って声をかけてみたのである。


「こんなアンラッキィな場所に放り込まれて落ち込む気持ちは、ベリー分かる。
 けど、落ち込んでる場合じゃないってのも分かるだろ、YOU?」

「あ……えっと、そうでガッツよね……」


いきなり現れたアッシュ・ローラーの妙なテンションと喋り方に、やや戸惑っているのだろうか。
しかし言っている事も正論であり、一応は心配をしてくれているらしい。
なのでガッツマンは、一先ず頭を縦に振り、彼の言う事に同意した。
問題は、もう一人……ネオの方である。

808 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:31:07 ID:4Tmb0Qz20

「おう、俺はアッシュ・ローラーだ。
 お前と、そこの……デュエルアバターに見えないクールな兄ちゃんは?」

「俺はガッツマンでガス。
 で、こっちのお兄さんは……」

「……ネオだ」


デュエルアバター。
また訳の分からない単語が出てきたが、それは今やネオにとって二の次だった。
自身がこれから何をすべきなのか、どうしたらいいのかがまるで分からないのだから。
こんな時にオラクルがいてくれたなら、きっと何か良い予言をくれたの違いないのに……


「ネオ、か。
 クールでいい名前だし、よく見りゃルックスも中々イカしてるじゃねぇか……だがよ」

「ッ!!」

「そんなへばりこんでちゃ、折角のそれも台無しだぜ?」


その直後だった。
いきなりアッシュ・ローラーがネオの腕を取り、彼を無理やり引っ張り立たせたのだ。
恐らくは、いつまでもへこたれている姿を見るに見かねたのかもしれない。
尤も、親切心故の行動とはいえおかげで至近距離で厳つい髑髏顔と面する羽目になったのだから、流石に驚きはしたようだ。


「……すまない、ローラー。
 だが……俺にはもう、どうしたらいいかが分からないんだ」


その親切心が一応伝わったからか。
ネオは、己の心情を彼とガッツマンについに吐露した。
これまで救世主として目覚めて以来、誰かに弱音を吐く真似をネオは殆どした事が無かった。
逆に言えば、ここで出会ったばかりの者達に弱音を吐くぐらいに、追い詰められているという事だろう。
事実、そうだった。
ただですら救世主の真実に絶望した最中、追い討ちを掛けるように人類の愚かさを知ってしまったのだ。
受けた精神的ダメージは、計り知れないものがあるに違いない。

809 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:31:53 ID:4Tmb0Qz20

「……お兄さん……」


出会ってすぐは毅然な態度を取られていただけあってか、ガッツマンもこの変化には心底驚き、そして心配していた。
彼に一体何があったのか、出会って間もない自分には到底分からない。
ただ、自分との会話の中で、余程辛い何かに気付いてしまったという事だけは流石に分かる。
しかし、こんな時に一体どう声をかけるべきなのだろうか。
ガッツマンには、そう悩み、口を閉ざすしかなかったのだが……


「……何をしたらいいか、ね。
 ネオさんよぉ、そいつはもうあんた自身アンサーが出てんじゃねぇか?」

「何……?」


そんなネオにすっぱりと、アッシュ・ローラーは一言放ったのである。
既にその答えは、自分自身で出しているのではないか……と。


「前にな、あんたみたいにベリィーナーバスになった奴が……ダチがいたんだよ。
 アイデンティティの何もかもを無くして、もうどうにでもなれって思った奴がな」


それはかつて、シルバー・クロウがダスク・テイカーによって翼を奪われた時の事だった。
彼にとってはその銀翼こそが、飛行アビリティが己の持つ全てであった。
それだけに、奪われた時の絶望はあまりに大きく、そして深いものだった。
そんな彼へとアッシュ・ローラーは一度デュエルを仕掛けた事があったのだが、そこで彼よりこう告げられたのだ。

もう、どうでもいいんだ……と。

810 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:32:30 ID:4Tmb0Qz20

まさに、あの時のシルバー・クロウと今のネオとは同じだ。
己にとっての全てであったものを失い、前が見えなくなっているのだ。
だから……アッシュ・ローラーには分かった。


「でもよ、本当に思ってる事はそうじゃねぇ。
 どうでもいいなんて言いながら、そいつからは明らかに本心が伝わってきたんだよ」

だからあの時、彼はスカイ・レイカーの元にシルバー・クロウを連れて行ったのだ。
シルバー・クロウが、全てを諦めながらも、心の中ではもう一度空を飛びたいと願っているのが分かったから。





「もう一度……ヤりてぇってな」





失ったモノに、もう一度手を伸ばしたいと願っているのが、伝わってきたから。

811 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:33:01 ID:4Tmb0Qz20


「…………!!」


その言葉は、ネオの胸に深く突き刺さった。
自分は救世主の役割に絶望し、そして人類の愚かさに失望した。
それ故に全てが無意味に思えたが……それは、自分が希望を強く信じていたからこそではないか。
絶望とは失望とは、言ってみれば希望の裏返しなのだ。

ならば……本当に自分が望むべきものとは何か。
希望とは、諦めながらもなお望んでいるものとは何なのか。


(……そうだ。
俺は、何の為に救世主になった……)


それがシステムに定められたからか―――確かに、否定はできないだろう。

トリニティやモーフィアスに従い、成り行き上そうなったからか―――最初は確かにそうだった、だが。

それよりも何よりも……望んだからだ。



(俺自身がそうだと……そうでありたいと、望んだからだ……!!)



自分が、救世主になりたいと。

人々を救いたいと……!!

812 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:33:22 ID:4Tmb0Qz20

(……モーフィアス。
俺に求められた救世主としての役割は、決してお前が望んでくれたものじゃなかった。
知ってしまえば、俺と同じで絶望するかもしれない)


自分が本来こなすべきだった救世主としての使命は、人類に平和を齎す為のものではなかった。
それは確かに、どうしようもなくショッキングな事実に他ならなかった。
だが……ならば、この人々を救いたいという想いまでも機械に定められたものだというのか?


(だが、それなら……俺は、運命を切り開く為に戦うまでだ……!)


否、断じて違う。
例えこの殺し合いが、アーキテクトの目論見であり、結果的に乗っかる形になるとしても。
救える命が目の前にあるならば、例え罠だと分かっていようとも、傷つく人々を見捨てる真似がどうして出来ようか。
こうして生きるこの気持ちまでも、機械に定められたものであるわけが無い。


「……ローラー、ありがとう。
 そうだ……お前の言うとおりだ。
 本当に俺が何をしたいのかは……もう、分かっていた事だ」

「へっ、礼にはおよばねぇよ。
 ノーサンキューだ」


平和を取り戻したいというその思いは、他の誰でもない自分自身の意思だ。
戦争を招いたのは人類の愚かさが原因だとしても、人類を見捨てる理由にはならない。
そして、その愚かさがある限り、また人類が同じ過ちを犯そうというのならば……それすらも救ってみせればいい。

813 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:33:47 ID:4Tmb0Qz20

「ガッツマン、ありがとう。
 お前のおかげで、俺が何を目指すべきかが見えた気がする」

「そんな……大した事はしてないでガスよ」


これまでは、機械との戦争に勝利する事こそが平和への道だとばかり考えていた。
だが、決してそうではない。
まだところどころ噛み合わない、違和感だらけの部分も多いが、そんな事がどうでもよくなる事実をガッツマンは説いてくれた。
決して相容れなかった筈の人類と機械とが、共に生きる可能性だ。
悪だとばかり思っていた機械の中にも、ガッツマンの様に人間を良く思う者がいた。
ならば、人類からも歩み寄れば、もしかしたら開かれるのではないだろうか。
戦争に勝つ以外の方法で、戦争を終わらせる……平和を齎す道が。
システムに定められたものでは決して無い、システムの思惑すらも覆す本当の意味での救世主としての役割が。


そう……本来歩むべきだった未来で彼自身が見せてくれた、戦争とは異なる方法で世界に平和を齎した様に。


「オーケェイ、これでこれからどうするかは決まりだな?」
 
「その通りでガッツ!
 こうして三人、仲間が揃ったんでガスからね!」


ガッツマンとアッシュ・ローラーも、ネオと全く同じ思いだった。
三人は互いに頷き合い、意を強く固める。
出会ったばかりの、まるで知らぬ者同士だが、それでも不思議と彼等は信じあう事が出来た。
熱い心を内に秘めた男達だからこそ、同じ目的を持つが故に深く共感しあっているのだろう。
目指す頂は、ただ一つだ。

814 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:34:24 ID:4Tmb0Qz20



「……俺はもう迷わない。
 本当にやるべきことをする……やりたいと望むことをしてみせる。
 その為にも、まずはこのふざけた殺し合いを終わらせてみせる……!」




RELOADEDを定められた運命は潰え、そして新たにREVOLUTIONを告げる。



真の意味で世界に平和を齎さんとする、真の救世主を目指す者が今ここに目覚めたのだ。

815 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:34:48 ID:4Tmb0Qz20

【G-8/アメリカエリア/1日目・黎明】

【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2個(武器ではない)
[思考・状況]
基本:本当の救世主として、この殺し合いを止める。
1:アッシュ・ローラーとガッツマンと共に行動する。
2:モーフィアスに救世主の真実を伝える
3:ウラインターネットの存在が気になる
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後
※ネットナビの存在、人類と機械の共存するエグゼ世界についての情報を大まかに得ました。
 互いの情報の差異には混乱していますが、ガッツマンが嘘を言っているとは決して思っていません。
※機械が倒すべき悪だという認識を捨て、共に歩む道もあるのではないかと考えています。


【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、WWWの野望を阻止する。
1:アッシュ・ローラーとネオと共に行動する。
2:ウラインターネットに一先ず向かいたい。
3:ロックマンを探しだして合流する。
4:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いが、WWWの仕掛けた罠だと思っています。
※ネオにネットナビについての大まかな情報を伝えました。
 彼がネットナビをまるで知らなかった事に違和感を覚えてはいますが、悪い人物では決してないと思っています。

816 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:35:06 ID:4Tmb0Qz20

【アッシュ・ローラー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:健康
[装備]:ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜3(本人確認済み)
[思考]
基本:このクレイジィーな殺し合いをぶっ潰す。
1:ネオとガッツマンと共に行動する。
2:何が原因で殺し合いが起きているのか、情報を集めたい。
3:シルバー・クロウと出来れば合流したい。
[備考]
※参戦時期は、少なくともヘルメス・コード縦走レース終了後、六代目クロム・ディザスター出現以降になります。
※最初の広場で、シルバー・クロウの姿を確認しています。


【ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド】
アッシュ・ローラーが駆る、アメリカンバイク型強化外装。
彼は対戦で稼いだポイントを、アバターではなくこの外装の強化に殆どつぎ込んでいる。
それだけあって性能は折り紙つきのモンスターマシン。
垂直な壁ですら駆けのぼる『壁面走行』アビリティに加え、対空ミサイル『フライング・ナックルヘッド』を搭載している。

817 ◆uYhrxvcJSE:2013/05/31(金) 03:37:35 ID:4Tmb0Qz20
投下終了です。
題名うっかり忘れてましたが、『REVOLUTIONS』でお願いします。
修正点等ありましたら、ご指摘お願いいたします。
特に、アッシュ・ローラーの口調については非常に書くのが難しい為、違和感が何かありましたら申し訳ございません。

818名無しさん:2013/05/31(金) 04:29:13 ID:GWvTR3ew0
投下乙です
ネオがエグゼ世界の在り方から新たな発想を得るかー、原作の世界観の差を上手く活かしていていますね
アッシュさんの励ましを受けて、一つの選択を下す流れも熱い

819名無しさん:2013/05/31(金) 14:06:47 ID:Xy7vD7.Y0
乙です。
そうか、エグゼ世界って一歩間違ったら本当にマトリックスと同じ事になってたんだな。
実際、フォルテの様に人間を恨みまくっているナビだっているんだから全然不思議じゃない……
そしてまさか、ネオを立ち直らせるのがアッシュだとはw
でも確かに、同じ流れでシルバー・クロウの復活を促したのもアッシュだし、説得力でいえば一番適任だわな。

ネオはレボリューションズで人類と機械の戦争をどちらにとっても一応の折り合いがつく形で終わらせたが、このネオは更にその一歩先を目指しそう。
原作以上に救世主らしい救世主になってくれて今後が楽しみだ。

820名無しさん:2013/05/31(金) 19:25:21 ID:m0bmxM/2O
投下乙です。

世界観の差違で常識がぶっ壊れる展開は面白いですね。
ネオは自らの意志で救世主になる事を決め、仲間もできた。がんばってほしい。

821名無しさん:2013/05/31(金) 19:39:25 ID:4EYOb6/Y0
投下乙ですー

世界観の差違はバトロワの醍醐味みたいなものだからなー
良い影響もあれば悪い影響もある
他ロワでのでっていうの人喰い暴走で
霊夢が幻想郷での人喰い妖怪とこれからまともに接していけそうにない
って愚痴ってたのが印象的だったな

822 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:03:03 ID:e/6d9bwQ0
投下します。

823破軍の序曲 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:04:45 ID:e/6d9bwQ0
今しがたドロップしたアイテムを回収する間、揺光は無言であった。
脱落したプレイヤーのアイテムはその場に散らばるらしく、フレイムマンとクラインが遺した物を一つ一つアイテムストレージに移した。
助けに来てくれた青い人――ロックマンというらしい――は自分のことを慮ってか何も言わず、ただ近くに寄り添ったまま周りに注意を払っている。
これはバトルロワイアルだ。何とか敵を退けた直後に、また別のPKがやってくるとも分からない。そのことを思うと、疲弊した心身が更に重くなった気がした。
赤黒いパネルに座り込み、何もない空間を見る。PCもアイテムも消え失せて、そこにあの剣士が居たことを、彼女はもう記憶の中でしか知ることができない。

「終わりじゃないんだよな。これで」

自分に言い聞かせるように彼女は呟いた。
そんなことは確認するまでもないことだ。明白で、疑いようがない。
何とか生き延びることができただけで、現状は何も変わっていないのだ。
これがただのゲームなら、疲れたとPTメンバーに告げてログアウトすればいい。そうすれば自分の部屋だ。
そして好きな時間にまたログインして、また冒険の続きを始めればいい。

「なら、頑張んないとね」

しかし、今はそれができない。その場その場を生き延びればいい訳じゃない。このゲームはずっと続くのだ。根本を破壊するまで、ずっと。
生き延びて生き延びて、GMを叩きのめして、それでやっと生き残ったといえる。
ならばずっと立ち止まってる訳には行かない。

そう思い、立ち上がろうとする。
だが、そうしようとすると、すっと身体から力が抜けてしまった。
膝を吐き、ふぅと息を吐く。

(そうは言っても、やっぱそう簡単に行くもんじゃないね)

これが本当にゲームの中の登場人物なら、また違ったのだろう。
仲間の死を乗り越え、より強い意志を持って巨悪に立ち向かおうとする――なんてことをやってのけるのがRPGの主人公たちだ。
だけど、自分は違う。こうして揺光という剣士のアバターを纏ってはいるけど、結局のところ自分はただの女子高生に過ぎない。
そう簡単に、仲間の死に直面し、それを克服するなんてできはしない。

クライン。このデスゲームで初めて出会い、同行し、共闘し、そして離別することになった剣士。
彼と過ごした時間は、それほど長い訳ではなかった。
しかし、その間に自分は確かに彼の本質に触れることができていたと思う。
フレイムマンに再戦を挑もうという申し出を快く引き受け、自分に貴重なアイテムを委ねてくれた時、自分は彼を本当に信頼することができた。
彼の意志を、彼という人間を、信じることができたのだ。

そんな彼が、こうして死んでしまった。もう二度と会うことはできないのだ。
そのことを思うと、揺光の胸に鋭利な痛みが現れた。

824破軍の序曲 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:05:34 ID:e/6d9bwQ0

(ハセヲも……こんな感じだったのかな)

かつてハセヲが見せた痛切な様子を想起する
揺光が正体不明の力でPKされた時のこと、消えゆく彼女に対しハセヲは力なく呼びかけた。
その時の声はあまりにも悲しそうで、普段の彼からは信じられないほど弱々しくて、きっと彼があの時抱えていた感情は、こういうものだ。
絆を築いた者との別れは、ずっとつらく悲しく、唐突に思える。

「大丈夫?」

座り込む揺光を見かねたのか、ロックマンが気遣うように声を掛けてきた。
揺光は一拍遅れて「大丈夫」と精一杯力を込めて返す。

「ごめん。待たせたね。立ち止まってる時間なんかないのにさ」

そう言って揺光はロックマンに薄く笑って見せた。そして立ち上がる。
その間もロックマンは気遣いの籠った視線を忘れなかった。

「さ、行こう。さっきはありがとね」
「……うん、そうだね」

当初の予定通りウラインターネットを調査しなくてはならない。
暗い暗い迷宮の奥へ、そうして彼らは歩き出した。









「えーと、でここはロックマンが知ってる場所なのか?」
「うん。僕は何度か訪れたことがあるけど、柄の悪いネットナビの溜り場みたいになってる場所なんだ」

ウラインターネットの中を進みつつも、揺光は新たな相棒となったロックマンと言葉を交わしている。
情報交換や今後の方針などを話そうとしていたのだが、早速齟齬が現れていた。

「ふぅん、ネットナビね」

ぽりぽりと頬を掻きながら揺光はそう口にした。
聞きなれない単語だが、ロックマンは言うにはそれは現代社会において至極ありふれた者らしい。
というか彼自身がネットナビだという。

彼女はロックマンの身体を改めて見た。
スカーフの向こうに見える顔こそ人間とそう違わないが、それ以外はロボット的な意匠の鮮やかな青いボディをしている。
出会った直後はそういうゲームのアバターなのだと思ったが、話を聞くにどうやらまた違うらしい。

825破軍の序曲 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:06:12 ID:e/6d9bwQ0

彼らには『リアルの身体』というものがないのだという。
何かしらのマシンを媒介にして仮想の身体を得てネット上に現れているのではなく、最初からネットに生きるものとして創造された、要するにAIという奴らしい。
彼らは人間をサポートし、現代社会に欠かせないパートナーとして存在するAI、それがネットナビだ。
揺光の知る2017年でも似たようなものの開発の話くらいならあった。だが逆にいえば話止まりなわけで、そんな本格的に導入されていたなどという話は聞いたことがない。

だからこれはまた齟齬な訳だ。クラインの時と同じ、否もっと大きな規模でのもの。
クラインの話は時代の不一致という決定的な点があったにせよ、基本的に揺光の知る常識から外れたものではなかった。
ネットゲームに閉じ込められる大事件という話は信じ難かったが、しかしそれでも基幹となる社会にそこまでの差異はなかった。少なくとも途中まで気付かずに話が進む程度には。

しかし、ロックマンとの話はすぐに噛み合わないことが分かった。
根本的に社会の在りようが違うのだから、それも当然のことかもしれない。

(これはいよいよ……さっき浮かんだ考えを信じないと駄目かもね)

ロックマンが出鱈目を言っているとは思わなかった。そんなことをする意味が感じられないというのもあるが、こうして少し話しただけでも彼の誠実な人柄は分かる。
となると、導き出されるのは先ほど考えた『最後まで残ったあり得なさそうな選択肢』な訳だ。

「……別の世界かぁ。まさかそんなことがあるなんて」

その考えをロックマンに告げると、彼はそう曖昧に言葉を漏らした。
その様子は半信半疑、というより困惑しているといった感じだ。自分もそうだ。
信じる信じないではなく、そもそもそんなスケールで物を考えるということ自体、あまりに現実味がない。
とはいえ現実味がないものを、ただそれだけの理由で否定するのはあまりにも狭量のようにも思える。

「まだ分かんないけどね。でも、アンタとアタシの生きてた世界が違うってことは確か、だと思う」
「そうだね。じゃあちょっとお互いの世界について色々教えて合おうよ」

そうして二人は言葉を交わし、それぞれの知ることを伝え合った。
どのような社会が構築され、そこで人がどう生きているのか。
それは知れば知る程興味深い経験であった。自分たちと似ているようで、どこか違う世界の話。
異文化接触どころではない。異世界接触というのだから貴重な経験かもしれない。

一通り話し終えた後は、二人は今後の進路の話に移った。このバトルロワイアルでの一先ずの目的地である。
だが、これは意外とすんなりと決まった。
ウラインターネット上に記された異物、ネットスラムだ。
揺光にしてみればここに呼ばれる直前、向かおうとしていた場所である訳だし、
ロックマンにとっても自分の知る空間に一か所だけ妙なものがあるのだから調べない訳にはいかない。

826破軍の序曲 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:06:34 ID:e/6d9bwQ0

「ネットスラムってどういうところなの?」
「……ごめん。アタシもよくは分からない。さっきも言ったけど、私は最近まで意識を失ってたし、一プレイヤーとして招集されただけなんだ。
 ただ呼び出し先のサーバー名がネットスラムだった筈だから、The Worldの一部であることは確かだと思う。
 でも、そんなサーバー聞いたことないんだよね」
「分かった。とにかく行ってみようよ」

北に進路を取る。
ロックマンはこのウラインターネットという場に縁があるらしく、その足取りに迷いはない。
またその物腰も柔らかく、成程ナビゲーターという言葉がしっかりくる様子だ。

「……待って、揺光ちゃん」
「ちゃんって……まぁいいや、どうしたんだい」

不意に、ロックマンは足を止めた。
その様子にただならぬものを感じ取った揺光もまた立ち止まり、周りに注意を向ける。
緊張の糸がぴんと張りつめた静寂が訪れ、

「そこだ!」

そしてロックマンがバスターを放ち、その静寂を打ち破った。
短い銃声と共に放たれたバスターは、ウラインターネットのある一点を穿つ。
上後方だ。上の階層から自分たちの背中を狙っていたソイツを揺光もまた見ることができた。

ソイツは白かった。
白いスーツ、白い髪、病的なほどに白い肌。かなり特徴的だ。
暗いウラインターネットから浮き上がるほどに白いPCを持ったソイツは、バスターをさっと避ける。
奇襲しようとしていたであろうソイツは、気付かれたことに苛立たしげに舌打ちをした。

「敵、だね」

揺光はぽつりと漏らした。
また新たな戦いだ。ならば戦わなければならない。そう思い、メニューから刀を呼び出して構える。
フレイムマンの支給品にも双剣はなかった。その為またこの刀で戦わなければならない。
クラインが最期に振るっていた、この刀で。

「揺光ちゃん」
「……大丈夫だ。足手まといかもしんないけどさ、自分の身くらいは自分で守るから」

そのことを思うと刀を握りしめる腕が震えそうになった。
だが、決して下を向くことなく、前を、敵を見据えた。

白いソイツは姿をかき消したかと思うと、揺光たちの前にすぅっと現れた。
ソイツは鎌を――揺光にとっては見慣れた武器種だ――を構え、こちらと対峙する。
そして、動いた。

827破軍の序曲 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:06:53 ID:e/6d9bwQ0

敵が鎌を薙ぐ。大振りなそれをロックマンと揺光はさっと避ける。
揺光はそのまま下がるが、ロックマンは違う。攻撃後の隙を突くべく、近づきバスターを連射する。
敵は先と同じくその身をすっとかき消し、少し離れた場に現れる。その様はまるで幽霊のようだ。
そうしてバスターを回避した敵だが、そこにロックマンが追撃を加える。
地を蹴り敵へと迫る。現れたばかりの敵にバスターを放とうとして――

「危ない、ロックマン!」

その瞬間、後ろから迫るもう一つの白を揺光は見た。
一見して全く同じ外見をした白い影がもう一体現れ、ロックマンの背中を狙う。
攻勢から一転、挟撃に晒されることになったロックマンだが、彼はそこで焦りを見せなかった。
背中に迫る攻撃を受けた、と思った瞬間、「ボン」と音がして彼の姿が消えた。
そして再び現れたのは――敵の遥か上空。上空へ現れたロックマンはスカーフを揺らし宙を舞い、そして白い影へ手裏剣を放った。

カワリミマジック。ロックマン・シャドースタイルに組み込まれたプログラムであり、高度なカウンター技でもある。
後ろから奇襲をしようとして逆に背中を取られる形となった敵は、手裏剣を受け地面に転がった。
もう一方の敵が前にでようとするが、そこにロックマンのバスターが放たれる。

「強い……」

揺光は思わず声を漏らしていた。ロックマンは二重の奇襲を難なく躱し、どころか逆に反撃して見せた。
多くの経験を積んでいなければあの動きはできないだろう。これで彼の言っていたオペレーターの力が加わればどうなるのか。

「……っと!」

呆としている場合ではなかった。攻撃を受けた敵が立ち上がり、揺光の方を見たのだ。
自分は観客ではない。ここは戦いの場であり、そして自分もまた戦士としてこの場に立っている。
白い敵は幽霊のような移動を繰り出し、揺光の前に現れる。

「揺光ちゃん!」

ロックマンの声がした。彼は今もう一方の敵を抑えている。敵とて馬鹿ではない。先の奇襲を警戒しつつも、無駄のない動きでロックマンを攻めていた。
自分で何とかしなくては。そう思った揺光は「はぁ!」と声を立て刀を走らせた。
だが白い敵はそれを避けてみせ、そしてがら空きとなった身体に拳を振るう。
うめき声を上げ揺光は吹っ飛ばされた。喉の奥からせり上げるような不快感が彼女を襲う。
それを見た敵の顔には嘲笑が浮かんでいるように見えた。

(所詮、素人の技って訳か)

可能な限り早く立ち上がり、揺光は再び刀を構える。
が、この刀で敵を迎撃などということは考えない方がいいのかもしれない。
ゲームとして定められたモーションが触れるのならまだしも、何のアシストもない状況では自分はこと戦いに関しては素人に過ぎない。
それでもゲームPCだけあって普段よりは丈夫だし筋肉なんかもあるようだが、しかし技を自分は持っていないのだ。
先のジョブエクステンド状態ならまた別だっただろうが、今の自分でこの敵に対抗するのは難しいように思えた。

828破軍の序曲 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:07:14 ID:e/6d9bwQ0

「……っ!」

と、そうこうしている内に二撃目が来た。
白い影が不気味ににじり寄り、そして目にもとまらぬ速さで拳を振るった。
揺光はアリーナ戦で鍛えた反射神経を活かし、それを必死に回避していく。
一撃二撃三撃、と躱していくが、じり貧であることは明白だ。ギリギリで避けてはいるが、カウンターの機会は掴めず、防戦一方だ。
危惧した通り、揺光は再度吹き飛ばされ、地を転がった。

「揺光ちゃん!」

ロックマンの声が響く。
彼も必死にこちらに向かおうとしているのが見て取れたが、しかしもう一方の敵に阻まれできないでいる。
一方が足止めすることに集中し、もう一方が弱者である揺光を先ず落とそうという魂胆らしい。
足を引っ張っている、そう思い揺光は歯噛みした。

「まだ、だ」

揺光は言って、そして身を翻し彼等から距離を取ろうとする。
ロックマンの邪魔だけはしたくなかった。彼が自分を救おうと必死になることで隙が生まれ、そしてこの敵に下される――そんな光景が脳裏を過った。

白い敵から逃げるべく走る。
攻撃は可能な限り避け、時節刀で反撃しようとしては吹き飛ばされ、その度に走る現実と相違ない痛みを噛みしめながら、それでも必死に走り続ける
HPゲージもジリジリと減っている。そしてそれ以上に彼女の精神に限界が来ていた。

がた、と音を立てて息を切らし膝を付く。
それを見つめるのは嘲笑を浮かべる白い敵。
何時しかロックマンたちと離れてしまったようで、彼らの姿は見えない。

その事実に僅かに安堵している自分に気づき、敵を前にして揺光は苦笑を浮かべたい気分になった。

(自分のせいだ――とでもアタシは思ってるのか)

クラインの死に対し、あそこで引き返そうなんて言いださなければ、などという考えを自分は捨てきれないでいる。
だからロックマンから離れられたことに安堵を覚えた。そういうことだ。

(やっぱ、すっぱりと割り切れてなかったんだね)

肩を並べて戦った者が死んでいく。それを見た時の得たあの感情を、自分はどう扱えばいいのか分からないでいる。
そのようなメンタルで戦えばこうなるのも必然だった。

829破軍の序曲 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:07:49 ID:e/6d9bwQ0

「……ふぅ」

揺光は息を吐く。
落ち着け、そう自分に言い聞かせ立ち上がった。
そして再び刀を構える。それを見た白い敵は馬鹿にしたように笑いを漏らした。
これまで一太刀も浴びせられていないのだから当然の反応だろう。自分の剣など恐れるに足りないということだ。
そうだ。元々自分のジョブ以外の装備を無理に使おうとするからいけないのだ。
碌に戦える訳もないのに、自分はそれに固執してしまった。一重に乱れたメンタルのせいだ。

だが今の自分は冷静だ。少なくともそう言い聞かせている。
だから気付くことができた。自分にできる戦い方を、既に見たそれを、思い出すことができた。

「バトルチップ『ホールメテオ』」

フレイムマンが使い、そしてドロップしたアイテムを揺光は使用する。
ロックマンから話は聞いている。バトルチップという名のネットナビが使う戦闘用プログラムだ。
そしてその効果は敵として相対した自分が最もよく知っている。

目の前にシンプルなデザインの杖が出現する。
そして頭上から燃え盛る隕石が降り注ぎ敵を狙う。ごうごうと音を立てて炎が空間を舞った。

「What?」

白い敵がと驚きの声を漏らすのが分かった。彼にしてみれば突然の事態に困惑するしかない筈だ。
それでも何とか隕石を避けている。戦ってみて分かるが敵の技量もかなり高いのだ。
だが、そこに更なる一撃が加えられる。

「はぁ!」

揺光は敵へと突っ込み、刀を一閃する。その扱いは決して巧いとはいえない。
しかし隕石を避けることで精一杯だった敵を捉えるには十分であり、そしてついに彼女の刃は敵を捉えた。
斬られた敵は苦悶の表情を浮かべ、身体を霧散させその場から消え揺光から距離を取る。
その眼光に明確な憎悪が宿っているのが、サングラス越しでも分かった。

「揺光ちゃん!」

と、そこでよく張りのある声が聞こえてきた。
確かな強さの感じられるその響きに、揺光は胸が落ち着いていくのを感じた。

「大丈夫? ごめん、あの敵を追い払うのに少し時間が掛かった」

その声と共に、ロックマンは揺光の前へ駆けてきた。
スカーフはためくその姿に頼もしいものを感じ、揺光は口元を釣り上げた。
白い影は揺光とロックマンをしばし眺めていたが、ここは退くことにしたのか、現れたときと同じくすぅと姿を消し去って行った。
最後まで揺光を睨み付けながら。

「……行ったみたいだね。
 大丈夫だった? 揺光ちゃん」

自分を気遣うロックマンに、揺光は「大丈夫」と言い、そして今一度息を吐いた。
そして胸を落ち着けた後、ロックマンに向かい、

「その、ごめん。勝手に先走ったりして」
「今度からは気を付けてね。一人で勝手に行っちゃうなんて危ないよ」
「うん。それと、ありがと。助けてくれて」

そう礼を言いつつ、揺光は精一杯笑みを浮かべて見せた。
記憶にこびり付いたクラインの死の残滓は、未だに拭い去れたとは
そうすぐに切り替えることのできるものではない。だってこれはゲームではないのだから。
しかし、それを何時までも引きずっていては生き残ることなどできる筈もない。
そして何より、

(アイツは……クラインはそんな奴じゃないよね)

彼は他人のために危険を承知でフレイムマンに挑むような男だ。
一緒に過ごすことができた時間は長くはなかったけれど、その思い、その信念は揺光にも確かに伝わった。
だから、彼の死に対し自分が罪悪感を抱くようなことは、寧ろ彼への冒涜だろう。
それが原因で死にでもしたら、彼はきっと自分を許さない。

だから、せめて今は前を進まなくてはならない。
ゆっくりでも、歩くような速さでも。

830破軍の序曲 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:08:07 ID:e/6d9bwQ0

「じゃ、行こっか、ロックマン。とにかくネットスラムに行かないと――」
「ネットスラムならすぐそこだ」

不意に、背中から声が掛けられた。
揺光は思わず肩を震わせ、緊張をした面持ちを振り返った。
すると、そこには先の敵と対称的な黒いコートに身を包んだ屈強な男が居た。
見覚えのある男だ。確か最初の場で榊に問いかけていたのが彼だ。

「先ほどの奴らとはすれ違いになったようだな。
 俺ももう少し早く出てくるべきだったか――まぁいい」

彼はコツコツと靴音を立てながら近づき、

「問わせてもらう。お前たちは何だ?
 どこから来て、そしてどんな力を持っている」

そう感情の読めない平坦な口調で問いかけてきた。
彼の腹は読めない。どのような思惑で自分に接してきたのかも、敵なのか味方なのかも。
だがしかし、自分たちはこうして出会った。それだけは確かだった。

休んでいる暇などない。次から次へと変化し続ける世界に、対応しなくては生き延びることはできない。
敵を退けても、そこでセーブして電源を切ることなど許されないのだから。


【B-10/ウラインターネット/早朝】

【ロックマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP80%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、熱斗の所に帰る
1:揺光と行動する。
2:ネットスラムに行く。
[備考]
※プロトに取り込まれた後からの参加です。
※アクアシャドースタイルです。
※ナビカスタマイザーの状態は後の書き手さんにお任せします。
※榊をネットナビだと思っています。また、榊のオペレーターかその仲間が光祐一郎並みの技術者だと考えています。
※この殺し合いにパルストランスミッションシステムが使われていると考えています。
※.hack//世界の概要を知りました。

【揺光@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP25%
[装備]:あの日の思い出@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜5、ホールメテオ@ロックマンエグゼ3、基本支給品一式
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する
1:ロックマンと行動する。
[備考]
※Vol.3にて、未帰還者状態から覚醒し、ハセヲのメールを確認した直後からの参戦です
※クラインと互いの情報を交換しました。時代、世界観の決定的なズレを認識しました。
※ハセヲが参加していることに気付いていません
※ロックマンエグゼの世界観を知りました。

【モーフィアス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:最後の裏切り@.hack//
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:この空間が何であるかを突き止める
1:(いるならば)ネオを探す
2:トリニティ、セラフを探す
3:ネオがいるのなら絶対に脱出させる
4:目の前の参加者と接触する。
[備考]
※参戦時期はレヴォリューションズ、メロビンジアンのアジトに殴り込みを掛けた直後

【ツインズ@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:ダメージ(中)
[装備A]:大鎌・棘裂@.hack//G.U.
[装備B]:なし
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
1:生き延びる為、他者を殺す
2:揺光に苛立ち(片割れのみ)
[備考]
※消滅後より参戦
※二人一組の存在であるが故に、遠く離れて別行動などはできません。

831 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/03(月) 02:08:33 ID:e/6d9bwQ0
投下終了です

832名無しさん:2013/06/04(火) 19:55:10 ID:7iFW77hQ0
投下乙
…あれ?ロックマンって異世界の存在知らなかったっけ?
1のリメイク版で流星のロックマンの世界の存在知ってるはずだし…

え?ボクらの太陽とのコラボ?あれは確か4以降のはずだろ?

833名無しさん:2013/06/04(火) 22:37:43 ID:o38C/GxAO
投下乙です

モーフィアスには悪いがこの場で一番怪しいのは露骨に影から見てたっぽいあんただw

>>832
3参戦だしリメイク版とは流れが違った、でいいんじゃない?そもそも元々はなかった話なんだし

834 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 17:55:47 ID:jySoe84g0
投下します

835串刺城塞 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 17:57:35 ID:jySoe84g0
構える銃口はぶれることはなく、真直ぐと敵へと据えられている。
撃つ、と決めれば引金はすぐさま引かれ、銃声を街に響かせるだろう。
そこには迷いもなければ躊躇いもない。引金を引くことの重さは理解している。理解したうえで、躊躇を振り切っている。
逃避ではない覚悟の意志を持ってシノンはその敵に相対しているのだ。

「おお今こそ天罰の時。
 妻よ! 今こそ供物は掲げられるであろう!」
「クスクス ハヤク ハヤク」
が、対する敵はというと、そんなシノンの覚悟を嘲笑うかのように己の世界に興じている。
自己でその世界が完結している。その様はまさしく狂人だ。
今までの人生の内に、様々な殺意を身に受けたことのある彼女であるが、それにしたって目の前のピエロのそれは特殊だった。
死銃の黒く濁った殺意せよ、新川恭二の哀れにも歪んだ殺意にせよ、そして先の黒服の男の嗜虐的な殺意にさえ、外部への志向性、他者への攻撃性というものが感じられたのだ。

しかし、このピエロはというと、そういったものがない。
こうして銃を向けているシノンに対しても敵愾心といったものは感じられない。
排除の意志はあるのだろう、だけどそれは障害物をどけるような感じのようであり、自分は本質的には敵としてすら見られていない、そんな感じすらする。
こんなプレイヤーがVRMMOの世界に居るということ自体に驚きを禁じ得ない。先の黒服のようにこの場には一介のプレイヤーを越えた本物の殺人者というものが居るのだと肌で実感する。

「キニイッタ タベル ランルークン ミンナ タベチャウノ!」
ピエロの漏らした呟きに、隣りで緑服の少女、アトリが身を震わせるのが分かった。
どこまでも自己完結しているピエロ一行が、唯一外部へと興味を示すのが彼女を見る時であった。
だがそこに含まれた欲望が、食欲の類であることが分かるとシノンは戦慄で背中がぞうっと冷たくなった。
横で見ている自分でさえそうなのだから、実際にその対象として見られているアトリの心中は如何なるものであろうか。

「……大丈夫、です」
だがアトリは気丈にもそう口にし、逃げることを良しとしなかった。
その足が震えているのが見えた。きっと怖い筈だ。気持ち悪い筈だ。しかしそれでもこの敵を克服しようとする。
その意志を理解できるからこそ、シノンはアトリを無理に逃がそうとはしなかった。
きっと彼女にとってこの戦いは必要なものなのだ。かつて自分が抱えていた心的外傷――銃への忌避感のように、その克服の為には避けては通れない戦いというものがある。
ただ生きながらえるだけでなく、これから歩き出すためにも、アトリはここで戦うことを選んだ。そう理解できた。
シノンは何かしら声を掛けるべく口を開く。

「アトリ、貴方……」
「行くぞ!」
が、それを遮る形で黒い鎧を纏った大男が突進してきた。
その巨大な体躯は近くで見れば見るほど圧倒的で、身体の底から恐怖が渦巻いて湧き出ててくる。
そこから放たれる槍の一閃をシノンとアトリは地を蹴って避ける。槍を叩きつけられた石畳は轟音を立てて抉られた。
破壊の波及として吹く風圧を身に受けつつ、シノンは男の身体の側面にまで周り込み、精一杯の集中を込め狙いを定めた。
そして、

836串刺城塞 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 17:58:00 ID:jySoe84g0

「…………」
撃つ。くぐもった銃声と共に、銃口は弾丸を吐き出した。
やや無理な態勢からの射撃であったが、その弾道は逸れることなく敵を捉える。
敵の眼がぎょろりと動き、針に刺されるような恐怖心が芽生える。
それに構っている暇はない。無視して連射する。身体に一発、頭部に二発。内一発は外れるのが撃った瞬間に分かった。

銃撃を受けた敵は一瞬だけ顔を顰めるが、しかし止まらず槍を再度突き出してくる。
その槍裁きに痛みによる乱れはない。そこにシノンは敵が既に人間の範疇でないことを再認識する。
驚くことではない。だってこの場はどこまでもリアルではあるが、しかしゲームの中なのだから。現実離れしているのは当然だ。

槍を必死に回避しつつシノンは思考を回転させる。
目の前の男のアバターはファンタジー系の意匠だ。どのようなVRMMOが基になっているのかは知らないが、恐らくはALOに近い世界観で構築されたアバターだろう。
今の自分のGGOアバターが銃撃戦に対応したアバターであるように、この敵は槍での接近戦に特化している。
問題はそれだけか、という点である。
ファンタジックな世界観というものは、単なる剣技だけでない、別の要素も戦闘に組み込まれていることが多い。
現実にはありえない特殊なスキル、魔法や魔術などと呼ばれるそれだ。

「供物を天高く掲げ飾るべし!」
と、そこで男はそう叫びを下げ、あろうことか己の身体に対しその槍を突き立てた。
厭な音がして、身体を貫通した槍が背中から覗いた。
シノンは目を見張るが、同時にはっとして後ろへ下がろうと、

「くっ……!」
する最中、不意にその胸に鋭い痛みが突き刺さった。
外傷ではない。自分の内側からせり上がってくる異質な斬撃、とでも表現すべきか、とにかく異様な痛みであった。

(なるほど……ね)

だが痛みに貫かれつつ納得もしていた。
恐らくあれがあの男の使う「魔法」あるいは「スキル」なのだ。
現実ではありえないがここでならそういったものの存在もあり得る。
自らを突き刺すという、あの常軌を逸した動作は定められたモーションなのだろう。

そう自分なりに解釈できたこともあり、シノンはダメージを受けつつも取り乱すことなく、すぐさま次撃への回避行動に移ることができた。
痛みは引かず続いているが、困惑で身を固めるということはない。この攻防でそのような隙を見せれば、即死に繋がる。
槍による攻撃は続いている。隙を見ては反撃を決めようと窺っているのだが、中々そのタイミングは掴めなかった。

837串刺城塞 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 17:58:21 ID:jySoe84g0

「シノンさん!」
と、そこで自分を呼びかける声がした。

「アトリ? 前に出ちゃ――」
それまで後ろに下がっていたアトリの姿が見えた。彼女は武器も持たず男の前にやってきて、目を瞑り口を開いた。
その細い唇から何か呟きが漏れた。

が、それで何も起こらず、アトリは男の槍を受け吹き飛ばされた。

「ああ……!」
痛ましい叫び声にシノンは思わず顔を背けたくなるが、それをぐっとこらえ急ぎアトリの下へと近づく。
男とピエロへの警戒は勿論怠らない。
「アトリ!」と吹き飛ばされ煉瓦の壁に叩きつけられた彼女へと呼びかける。

「ごめん、なさい。また私……」
その身を案じた言葉であったが、アトリの口から洩れたのは弱々しい謝罪の声であった。
自らの痛みよりも何よりも罪悪感を滲ませている。その様子が何より痛ましくシノンには思えた。

「馬鹿……! 貴女、そんな風に戦っても……」
「すいません。足手まとい、ですよね?」
「私が言いたいのはそういうことじゃ……」
「でも、違うんです。私だって本当は戦えるんです。だから待ってください、早く、早く何とかするんで……」
項垂れるアトリに対し、シノンは歯噛みした。それでは駄目なのだ。
心の壁を乗り越えると言うことは、単純に戦いに勝つということではない。そのことを自分はもう知っている。
だがそれを自分が伝えたところで意味はないだろう。結局のところ、それはアトリが自ら気付かなくてはならないのだから。

「クスクス キャハハハ!」
と、不気味な笑い声がそこに割り込んできた。
あのピエロだ。異形のピエロはタガが外れたように笑い、うねうねと身体をくねらせている。
彼女の立ち位置も不気味であった。戦闘に関しては槍男に一任しているのか、自分からは全く関わろうとはしない。
単純に考えれば槍男が前衛を務め、彼女は後衛、補助に回っているのだろうが、それにしてはあまりにも男任せだ。

そもそも二人の関係がシノンには掴めなかった。
どちらもロールなどでなく真に狂っていることは分かる。常人には全く理解できないものでも、彼らなりに会話が成り立っているのだから。
それ故の連携なのだろう。会って数時間の関係にはとても見えない。
つまり、このバトルロワイアルに呼ばれる前からの知り合いで、偶然早期に合流できた為にこうして共に戦っている、ということだろうか。
しかしルール上、何時かは敵対し合う筈だ。そこを利用して潰し合わせれば、などと一瞬考えはしたが、敵には確かな信頼関係があるのか槍男もピエロも後ろから撃たれることを気にしている素振りは全くない。
せめてまともな会話ができればそこから情報を取り出すことも可能なのだが、この相手にそんなことを試みるだけ無駄であろう。

838串刺城塞 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 17:58:48 ID:jySoe84g0

とにかくピエロは戦闘に介入する様子はなく、またアトリも力を出せない現状、戦闘は実質シノンと槍男の一対一になっていた。
FN・ファイブセブンとSTR-AGI型ビルドの敏捷性の高いアバターを武器に、シノンは何とか槍男の猛攻を凌いでいる。
男の槍は威力こそ高いが大振りであり、集中すれば一つ一つの技を避けることはそう難しくはない。
自分で自分で刺すという異様なスキルも、そのモーション故に発動のタイミングが掴みやすく、またガードを固めさえすれば威力を殺せることも幾度かの攻防を経て掴んでいた。

「くっ……!」
が、だからといって戦況は有利ではない。互角ですらない、何とか攻撃をいなしているとはいえこちらは防戦一方だ。
何度かファイセブンを当ててはいるものの、敵は倒れる素振りを見せない。
戦闘スタイルから鑑みるにこの男はSTR-VIT型のアバターだ。そのタフネスを吹き飛ばすほどの火力が、自分には不足している。
そもそも自分はこうして面と向き合っての接近戦を行うプレイスタイルではないのだ。
これがキリトならば銃弾を剣で見切るほどの反射速度を活かし、また別の立ち回りもできたのだろうが、自分には彼のような芸当は無理だ。

(なら……!)

火力が不足しているのならば、別のところから持ってくるしかない。
この場で最も火力を有する存在といえば即ち、

「バトルチップ『プリズム』」
「ぬ?」
眼前の敵たる槍男に他ならない。
シノンはウィンドウを素早く操作し、そのバトルチップを発動する。
一度既に使ったこともあり、その効果は十全に理解している。攻撃の全方向への反射だ。

槍男の頭上に現れた水晶のような多面体が、ゆっくりと落下していく。
それを槍男はうっとおしそうに払いのけようとする。

「ぬぁに!」
が、その槍の一撃はそっくりそのまま男へと反射し、彼の身体は吹き飛ばされた。
今度は彼が石畳に転がる番であった。

「小癪な……!」
とはいえ致命傷には程遠い。あの黒服と違いずっと遠くに吹き飛ぶということはなかった。
槍男はすぐさま立ち直り、シノンへ向かい再度向かってくる。
その光景に戦慄が走るが、しかし務めて冷静にシノンは次の手を打った。

839串刺城塞 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 17:59:05 ID:jySoe84g0

シノンはファイセブンを構え、素早く引金を引いた。
狙いは男ではない。出現させた多面体、プリズムの方だ。
プリズムは放たれた弾丸の威力を反射し、周りに衝撃を波のように発生させる。
そのタイミングは槍男がプリズムの近くを通る瞬間を狙われており、

「ぬぅ!」
結果、槍男はその衝撃を直にその身に浴びることとなった。
元より大した威力ではないが、予想外であろう方向からの一撃に仰け反るまでは行かないが足を止める。
シノンは間髪入れず銃を連射した。それに呼応して銃のポリゴンモデルが発熱しひりつく感触を脳へと伝える。
プリズムによって弾丸は反射され、その度に槍男が呻き声を漏らす。それは装填された弾丸全てをファイセブンが吐き出すまで攻撃は続いた。

そうして連撃を決めたシノンであったが、槍男はそれでも倒れなかった。
彼は憎悪の籠った眼光でシノンを睨み付け、神だの信仰だの喚き槍を構えている。
それを見てシノンは舌打ちしつつ、冷えた思考を働かせる。
現状で最も火力を出せる戦術であったのだが、これでも無理となると現装備ではこの男を相手取るのは無理ということになる。
ならば取るべき道は撤退、となるのだが、それをこの敵が果たして許すだろうか。否、何かしら不意を突かねば無理だろう。

銃のリロードを終えたシノンは、そこで別の標的を狙うことにした。
槍男の後ろに構えるピエロだ。彼女へ向かい、シノンは引金を引いた。
シノンと距離があった槍男は、それを遮ることができずピエロは弾丸を受け仰け反った。
彼女の方は男と対称的に撃たれ弱いステータスだったのか、弾丸一発で苦しそうにその身を捩っている。

「我が妻よ!」
「ランルークン イタイ イタイ!」
敵が騒ぐのを尻目に、シノンは後ろでへたり込んでいたアトリの下へと駆けより、その手を引っ張り言った。

「逃げるよ!」
「え? でも」
「今の装備じゃあの敵には勝てない、だから――」
と言葉を言い終わるよりも前に、

「おお、何と罪深い……!
 我が妻、哀れな無辜のヒトにして深遠なる信仰の徒に弓引くか!
 これぞ不義不徳! 何故貴様らはかくも不理解と不信心を掲げるのか」
嘆くように叫ぶ黒の槍男は、その真紅のスカーフを揺らし叫びを上げた。

「罪深き奴原どもよ! 無実無根の自覚はあるか!?
 妻よ、これなる生贄の血をもって、その喉を潤したまえ……!」
天を仰ぐように発せられた叫び声は街を震わせる。
禍々しく異様なオーラを立ち上らせるその姿は異形そのものであり紛れもない怪物だと、シノンにはそう見えた。
一体この怪物は何をしようというのか。彼女はその悲嘆の籠った叫びに気圧され思わずアトリの手をぎゅっと握りしめた。

「――串刺城塞《カズィクル・ベイ》」

840串刺城塞 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 17:59:29 ID:jySoe84g0










1462年、オスマン帝国の侵略に対する防衛戦において「串刺し公」ヴラド・ツェペシュはその生涯、そして歴史上最大の「串刺し刑」を行った。

当時のルーマニアの軍勢は1万、対するオスマンの軍勢は15万にも及ぶ。その戦力差は明白であった。
彼は徹底した焦土作戦とゲリラ戦を指示。首都ブカレストを空にし、帝国軍に対しどこまでも残忍かつ合理的な方法で迎え撃つ。

その結果として、ブカレストの周囲に築かれたのが、オスマン兵の2万を越える串刺しの野原。
見渡す限りに備え付けられた槍と、そこに突き刺さり臓腑と鮮血をまき散らす屍の群れ。
地平線の彼方まで続く死体の平原には強烈な異臭が立ち込め、何よりその無残な光景は、対するメフメト二世をして彼を「悪魔」と評するに値するものであった。

以降、彼の名は後世まで続く忌まわしき名を歴史上に刻まれる。
ランサーの宝具もまた、その逸話を基に成り立っており――






841串刺城塞 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 17:59:58 ID:jySoe84g0
闇夜に、血の海が広がっていた。
乱雑に地に突き立てられた数々の槍。どこまでも続く屍の群れ。鼻が捩れるような腐臭。
ああここは地獄だ。アトリは己の身体を突き破る槍を見て茫洋とそう思った。

「うぅ……」
目の前ではシノンが苦悶の声を上げている。彼女も同じく槍にその身を貫かれていた。
胸の締め付けるような罪悪感が滲み出し、そのことが何より身を苛んだ。

(もう……)

命を吸うように脈打つ槍の感触をその身に受けながら、

(終わりなんですね)

そう思わずには居られなかった。

結局、自分は憑神を呼ぶことができなかった。
何度も試した。何度も願った。
けれど、イニスは結局応えてはくれなかった。掴んだ筈の力なのに、今はもう見失っている。

思えば、そもそもこれは自分で手に入れた力ではない。
碑文使いのPCだって偶然手に入れたに過ぎないものだし、憑神の開眼だってハセヲのように戦いの中で掴んだのではなく、榊によって無理やり為された結果に過ぎない。
どこまでも自分は受け身なのだ。自分一人では、立つこともできない。

「シノンさん」
だから、せめて謝ろうとアトリは口を開いた。
ごめんなさい、と。

自分のせいで彼女はこうして死に瀕している。ウズキだってきっと……
その罪悪に押しつぶされそうになりながら、最期にそれだけは言っておきたいと思った

「私のせいで、私が戦えなかったばかりに……」
「アトリ」
その声を遮り、シノンは痛みに顔を歪ませながら、

「それじゃ駄目なのは貴女も分かってるでしょ?」
「え?」
「照準が……観方が根本的にズレてる。
 そこにいるのは貴女。アバターじゃない。そこから、目を背けている。
 強さも、弱さも、本当の自分じゃなく、仮想の身体に切り捨てようとしちゃってる。
 仮想の世界でも、ここに居るのは確かに貴女だって……」
その言葉は最後まで言い終えることなく、彼女は苦しそうに身を捩った。
突き刺さる断続的な痛みの中、しかしシノンはそれでもアトリに対し何かを告げようとする。
その姿が、かつてのハセヲと重なって、アトリは目眩を覚えた。

842串刺城塞 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:00:19 ID:jySoe84g0

(私は……)

その脳裏にこれまでの記憶が乱雑に交錯する。
噛み合わなかった現実での人間関係、そこから逃げるようにやってきたThe World。しかし自分は榊に突き従うのみで、結局本当の意味で自分というものはそこにはなかった。

「どこ?」
それからハセヲに出会い、カナードやG.U.のメンバーと共に戦って、少しずつ光が見えてきた。
でもそれは自分が碑文使いだったから……? それとも志乃に似ていたから……? やっぱり自分はそこには居ない……?
不安が心中を通り抜ける。

「それでも……」
でも、そうじゃない。
シノンは言う。戦っているのはアバターじゃない、と。
壁を乗り越えるべきはアトリではなく、日下千草でなければならない――
そういうことだと、シノンは言うのだ。

本当にそうだろうか。
自分が自分である必要なんてあるのだろうか。
アトリは自問する。それを考えている間は、不思議と槍の痛みは気にならず水面のように静かな心地で己に向き合うことができた。

今、自分を苦しめているのは、暗中模索の自己意識への不安だ。
自分自身の境界線、liminalityがどこにあったのか分からなくなっている。
果たしてイニスの力は自分なのだろうか。碑文使いのPCはただのPCではない、精神とリンクした真の意味での「仮想の現身(アバター)」だ。
ゲーム上の装備のような単純なシステムとは一線を画す。

かつて一度、自分はイニスの碑文をAIDAに奪われたことがある。
あの時には明確な欠落を覚えた。自分の精神が削り取られるような、半身を抉られたような異様な感覚だ。

しかし同時にイニスが全く別の存在であるという感覚もある。
自分と重なってはいるが、しかしそれは他者である。自己の内部にある何かという訳ではなく、外から派生した細長い何かで自分が繋がっているような、そんな思いもある。

843串刺城塞 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:00:36 ID:jySoe84g0

(ああ、そういうことなんですね……)

アトリは一つ合点が行った。
境界線で揺れる自意識。そのファジィな空間の中、それでも自分というものの存在を強く認識するということ、
その意志がハセヲの「俺はここに居る」という叫びの源なのだ。

なら今までの自分がイニスを見つけられた筈もない。
だってどれだけ外を探そうと、あるのはイニスの影だけだ。
見つけた、と思ってもそれは末節の欠片に過ぎない。
その本質は己に寄りかかっているのだから、ただ単に願うだけでは絶対に見つけ出すことはできない。
己を、アトリ/日下千草を見なければ、絶対にそれを認識することはできない。
憑神。それはきっと仮想と現実の狭間の中でふいに現れる波及のようなもの。

「私は、」
それを理解したとき、アトリは呼びかけていた。自分の、紛れもない自分の声で、今ここに居る自分に向けて。

「ここに居ます。そう信じていたい……感じていたい……」
アトリの身体に緑白色の紋様が浮かび上がる。
それは外からやってきたのではない。自分自身の意識の発露だ。

「だから、来て――イニス!」

844Here I Come ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:01:50 ID:jySoe84g0
変ホ長調ラ音と共に、鮮血と屍の世界が上書きされていく。
世界を覆う闇は、ねじり狂う仕様外のデータの海に巻き込まれ、塗り替えられる。
地平を走る槍は空間の変容に抗うかのように、像を歪ませながらも空間にしがみ付いてはいるが、それを吹き飛ばすかのように一つの存在が浮き上がっていた。

陶器のような白いボディ。ステンドグラスを思わせる青と緑混じった紋様。青く光る二対の突起はヒトならば腕と呼ばれるであろう。
背負うように掲げられた黄土色の輪はまるで天使のそれのようでで、翼に似た突起も相まって、それは神聖なる雰囲気を醸し出していた。
それは第二相「惑乱の蜃気楼:イニス」であり、同時にアトリ/日下千草であった。

「何と冒涜的な姿か……ヒトの身でありながら神を模するか!」
その変容を目の当たりにしながら、男、ランサーはそう叫び憤然と槍を向ける。
アトリはそれに怖気づくことなく、かといって怒気に身を任せるでもなく、ある程度落ち着きを取り払った心持で戦いに臨んでいた。

憑神は単なる武器ではない。その名の通り自分自身の現身(アバター)だ。
だから今の彼女はイニスであり、イニスは彼女である。その意識を持った上で、アトリは身体/イニスを「動かす」のではなく「動く」。
その身を空へと躍らし、両腕から光弾を雨のように降らす。

かつてこの身となった時は、正気ではなかった。
榊によりAIDAに感染させられ、半ば無理矢理に憑神の姿を取らされた。
そう思えばこうして自分の意志で、自分の力を持ってイニスとなるのはこれが初めてかもしれない。

(ハセヲさんは……)

捻じれる透明なデータの水平を眺めながら、アトリ/イニスは思った。

(何時も、こんな風に戦っていたんですね)

彼の想いの断片を、それだけ少しは掴めたような気がした。

「神を騙る不信心者よ。
 正義の一撃は下される。断罪の槍は放たれる。
 己の不義、堕落の罪を痛みへと還元するがいい。これぞ呪いと鉄槌の拷問魔城(ドラクリヤ)……!」
ランサーの言葉が空間に響くのと同時に、イニスの周りに無数の槍が出現する。
憑神空間を形成しようと、ランサーの宝具発動までキャンセルされた訳ではない。
この場において同階梯とみなされたその力は、互いが互いを打ち消さんと拮抗した結果、空間自体が一つの戦いの結露となってひずみを生む。
既に上下の感覚がない空間で、アトリ/イニスは全身に槍が突き刺さるのを近くした。

データを抉られたボディに、今まで比較にならないほどの痛みが走る。
だが、アトリ/イニスは憑神のプロテクトを解くことなく、負けじとプログラムを解放する。

845Here I Come ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:02:15 ID:jySoe84g0

「【惑乱の飛翔】」
背負ったブレードを翼のように展開し、イニスは飛翔する。
力を纏った身が加速し、ランサーへと突進する。
対する敵は槍を構え、その突進を膂力を持って弾き返す。

アトリ/イニスは隙を見ては光弾を振らし、敵もまた槍の追撃を止ませない。
一撃一撃が互いの身を削り合う。
プログラムは無残にも散乱し、テクスチャが剥がれたアバターからはソースコードが血液代わりに流出する。
比喩でなく真に己の身体を削る苛烈な攻防に、アトリ/イニスは絶叫する。
だがそれは敵とて同じことだ。敵の苦痛が身を通して伝わってくるのが、彼女には分かった

この場において情報は肉だ。意識はそれ即ち存在だ。
仮想(バーチャル)であるが故にこの場は真に存在と存在のぶつかり合いとなる。
痛みは神経を通してではなく、直接情報として意識に叩き込まれる。
そこには生存本能だとか、肉体の限界だとか、そういったプリミティブなものからは乖離した苦痛があった。

「【反逆の陽炎】……!】」
霧散し行く己の構成データを必死に掻き集め、スキルを発動する。
ランサーの身とアトリ/イニスの身が交錯する。抱きつくようになった敵の身から破損したデータが流出していく。
敵もまた絶叫し至近距離から槍を突き刺す。情報そのものを貫かれつつも、しかしアトリは敵から離れることなく敵の情報を断絶させていく。
その際に彼の情報が、彼の意識が、彼の想いが書き込まれたデータ群が脳裏に出現する。
その大半は自分には読み解くことのできない言語で書かれていたが、しかしその志向性だけはおぼろげながらも復号(デコード)することができた。

その身は深遠かつ敬虔な神への信仰のフレームで出来ており
その心中には合理的かつ広範な視野を持ったソフトウェアが埋め込まれており、
そしてその核にあるのは痛切なる絶望と哀れな怪物としてのメモリーだった。

「……貴方は」
彼のデータ群に触れ、その本質が垣間見えたような気がした、かと思った瞬間、その身は弾き飛ばされ、アトリ/イニスは苦痛の悲鳴を上げた。
同時に敵への共鳴もまたどこかへと消え去る。
ランサーは荒い息を上書きするような咆哮を上げ、ダメージによる不完全な動作を無視し、再び攻撃の意を示す。

データの海に呑みこまれそうになる己のアバターを必死に立て直しながら、アトリ/イニスは敵へと相対する。
この時、アトリは初めて目の前の敵がモンスターでなく一個の人間であることが理解できた。
魂なきNPCではなく、意識宿るPCとしてアトリは敵を認識する。

846Here I Come ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:02:38 ID:jySoe84g0

二進数の海に沈み入りそうになる腕を再度引き上げ、破壊の情報を込めた弾丸を発射する。
ランサーはそれを既に破損データ一歩手前となった槍で弾き返し、同時に前へ前へと空間座標の再設定を図る。
痛ましい姿だ。しかし恐らく自分もまた同じような姿となっているのだろう。
欠損したデータの修復はままならず、軋みを上げる空間にどろどろと溶け出している。

共に崩壊一歩手前だ。アトリ/イニスのプロテクトの意地も限界が来ている。
ならばもう決着をつけるしかない。その意志が滲んだデータが空間を満たす。どこからが自分のもので、どこからが敵のものか、既に境界線は意味を為さない。
ただ、その向こう側に押し入るのみ。

「行きます……!」
アトリ/イニスの身にタイル上のグラフィックに包まれる。己のアバターを全く別のカタチへとコンパートする。
翳した両腕に光が集まり、モルガナ因子と名付けられたデータが明滅する。
ランサーはその槍を振りかぶり、光に包まれるアトリ/イニスへ最後の力を振り絞って投槍する。
その姿は皮肉にも、神殺しの英雄のようでもあった。

「神よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「【データドレイン】」
投げられた槍もろとも、その身を光が包み込む。
その光はまるで浄化の炎のように、ランサーの身を包み込み、そのデータを改竄していく。

彼の身体とダイレクトに連結されるのをアトリ/イニスは感じ取りながら、そこに全く別のデータが流入しているのに気付いた。




「アア ヤッパリ キミ二ハ 愛ガアルンダネ」








847Here I Come ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:03:06 ID:jySoe84g0






そのデータに行きついたのは、果たして必然だったのだろうか。
ドレインの最中、アトリの意識に浮かんできたのは、鮮明な二人の人間の姿であった。

巨大な体躯を黒の鎧に包んだ武人。赤いスカーフがゆらりと揺れる。
それを見上げるのは不気味で、しかしどこか愛嬌のあるメイクをしたピエロだ。
彼らはどこか分からない場所(位置情報が欠損している?)で何時とも分からぬ時間の中で会話していた。

「アナタが我がマスターか。おお、何と醜悪な魂か……!
 あまりにも幼く、あまりにも破綻した……!
 しかし、アナタは、おお……!」
「ランルークン タベタイ オナカヘッタ 
 デモ キミトナラ キット ゴチソウガ タベラレソウ
 ダッテ 愛ガ アルンダモノネ」

(これは……記憶? メモリー……?)

アトリは情報を垣間見る。
それが何を意味しているのかは分からない。
こうして直にリンクして尚、そのコードは常軌を逸した狂人のそれで、理解の及ばないところが多い。

だが、しかしヒトのものではあった。
どこかで道を外したのかもしれない。あるいは最初からズレていたのかもしれない。
それでも、そこにこびり付いた感情データは怪物のそれではなく――

「……ランルークンハ 食イシンボ ダカラ
 目ノ前ノゴチソウ 見テイタラ オ腹ガ空イテ モットモット 美味シイモノ 欲シクナッタ
 ダイ好キナ パパ
 ダイ好キナ ママ
 ダイ好キナ ミンナ
 ゴチソウガ タクサン 嬉シイナァ
 イチバンダイ好キナノハ ランルークンノ ベイビー
 小サクッテ 柔ラカクッテ トッテモカワイイ ベイビー
 ダケド モウ ミンナ イナイ
 ゴチソウ無クナッチャッタ
 オナカガスイタラ 悲シクナルヨ ゴチソウノナイ 世界ナンテ ツマラナイ
 ダカラ ランルークンハ 聖杯ニ 世界中ノミンナノコト 好キニナルヨウニ オ願イスルンダ
 ソウスレバ 食ベキレナイクライゴチソウイッパイ
 キット ステキナ 世界ニナルヨ」
「それがアナタが聖杯に掛ける願いか……!
 おおどこまでおぞましく堕落した咎よ……!
 だが、だが、おお……! これは」

848Here I Come ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:03:28 ID:jySoe84g0

ランサーは天を仰ぎ、そして感謝するかのように、

「――奇跡だ。
 非業に堕ち、誰にも理解されず、怪物と罵られ、血をまき散らすその身は、
 しかし! 愛なのだ。
 愛に溢れ、愛に生き、在る筈のない喪われた愛を体現する。
 結局のところ、それは何よりも得難い信仰の復古ではないか。
 ああ、何と美しい。何という我がミューズ。
 我が生涯を捧げた伴侶には初夜にして裏切られ!
 我が魂を捧げた信仰には、斬首をもって報いられ!
 そう、かようにも我が信仰は砕かれた! 神の愛を見失い、神の愛を否定され、残されたのは堕ちるばかりの我が名声!
 だが――! 無辜の怪物と創作されながらも、この手は、ついに真実の愛を得た!
 生きるために食う獣ではない。生きる余興に愛する人間でもない。
 アナタに虚飾はない。獰猛な欲求。偽りない求愛。
 愛の使徒よ。アナタは、我が妻と呼ぶのに相応しい」

感極まったようにそう漏らした。

「共に行こうぞ。我が妻よ!
 愛するものしか口にできぬ女よ!
 望むままに愛をむさぼるがいい、拒食の君よ!
 全ては奇跡と信仰が、神がアナタの気高き愛を祝福している」
「ウン。食ベタイ、食ベタイ!
 ハヤク ハヤク ゴチソウヲ!」

そう笑うピエロの瞳には一筋の涙が。 

「デモ、ナンカ 涙ガ 止マラナインダ。
 ウレシイノ二 ランルークン 泣キタイ!
 愛ガ アルノニ カナシイ 食べタイ カナシイ 食べタイ」

それを見た瞬間、アトリは理解した。
これは単純なる記憶ではなく、きっと、彼と彼女の関係を指し示すデータの結晶なのだ――
 






849Here I Come ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:03:44 ID:jySoe84g0
――ゆっくりと目を開くと、次の瞬間には見慣れたマク・アヌの街並みがあった。
憑神空間、あるいはあの槍の世界から帰還したのだと理解したとき、アトリは己の身体が人のそれに戻っていることに初めて気が付いた。

そして、目の前には一人の男が居た。
その男の身体は既に満身創痍で、その象徴たる槍は失われ、ところどころテクスチャが剥離している。
泥のようなノイズが纏わりつき、カタチが電子の海へと還っているのだ。

しかし彼はそれでもなおゆっくりとアトリへと歩み寄ってくる。
その身を血に染めんと、最期まで愛に殉じるためにも。

「……おお」
「貴方は……」

それが理解できたからこそ、アトリは動くことができなかった。
かつては怪物にしか見えなかったそれも、今ではもう一人の人間となった。
だから、一突きすれば死ぬであろう彼に何もせず、敢えてその腕が首に絡むのを感じた。

そこで一つの命が失われた。

「駄目」

銃声が響き、ランサーの身を弾丸が貫き、そして彼は崩れ落ちていた。
その身体の向こうから、硝煙を立ち上らせた銃を構える青い髪の少女が見えた。

「――シノン、さん」
「アトリ。貴方が何を見たのかは知らないけど、
 でも命を投げ出すような真似だけはしないで。」
「ァ……」

アトリはそこで膝を付き、そして顔を覆う。
瞳から涙が溢れ出るのが分かった。頬をつたう涙が少しだけ冷たい。
何故だか分からないけれど、無性に悲しかった。

シノンはその様子を、隣りで見守ってくれた。
生きることが苦しくても、伸びる道が険しくても、歩き続けることはできる。そう告げて。








850Here I Come ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:04:06 ID:jySoe84g0
「我が妻よ」
死に瀕した男は、消えゆく身体でその後ろで倒れる女へと声を掛けた。
その顔は見えなかった。しかし、そんなものに何も意味はない。
この世で意味あるものは一つしかない。それが何かは口にしなくとも明白だ。

「キミモ イナクナッチャウノ?
 パパ ママ ミンナ――アノコミタイニ ランルークンノ マエカラ?」
「否」
哀れで、醜悪で、しかしこの世で最も美しい女性に対し、男は最期に言う。

「愛はここに在るのだ。
 アナタがここに居る限り、世界には愛がある。
 それさえあれば、我が妻よ。アナタは決して孤独などではない。
 誰から理解されずとも、怪物と指差されようとも、埋められぬ欠落に苛まれようとも
 しかし、それがある限り、アナタは人間として――」
「ア――」

男の身体はそこで限界を迎え、霧散した。

街には何時しか陽の光が昇っている。長かった夜は何時しか終わり、朝が来た。
ドラキュラの忌み名を冠していた男は、伝説の通り陽を浴びて死んでいき、しかし最期の瞬間まで愛を忘れることなくヒトとして――果てたのだ。






【E-2/マク・アヌ/1日目・早朝】

【シノン@ソードアートオンライン】
[ステータス]:HP25%、疲労(大)
[装備]:FN・ファイブセブン(弾数0/20)@ソードアートオンライン、5.7mm弾×80@現実
[アイテム]:基本支給品一式、プリズム@ロックマンエグゼ3
[思考]
基本:この殺し合いを止める。
1:殺し合いを止める為に、仲間と装備を集める。
[備考]
※参戦時期は原作9巻、ダイニー・カフェでキリトとアスナの二人と会話をした直後です。
※このゲームには、ペイン・アブソーバが効いていない事を身を以て知りました。
※エージェントスミスと交戦しましたが、名前は知りません。
 彼の事を、規格外の化け物みたいな存在として認識しています。
※プリズムのバトルチップは、一定時間使用不可能です。
 いつ使用可能になるかは、次の書き手さんにお任せします。

【アトリ@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP40%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(杖、銃以外) 、???@???
[思考]
1:…………
2:ハセヲに会いたい
[備考]
※参戦時期は少なくとも「月の樹」のクーデター後

【???@???】
ランサーをデータドレインした結果として得たデータ。
詳細不明。


【ランルーくん@Fate/EXTRA】
[ステータス]:魔力消費(大)、ダメージ(大)
[サーヴァント]消滅
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品2〜5、銃剣・月虹@.hack//G.U.
[思考]
基本:お食事をする。邪魔をするなら殺す。
1:アトリ タベタイ デモ ナキタイ



【ランサー(ヴラド三世)@Fate/EXTRA Delete】

851 ◆nOp6QQ0GG6:2013/06/10(月) 18:04:28 ID:jySoe84g0
投下終了です

852名無しさん:2013/06/12(水) 14:44:56 ID:xY4Yi3DU0
乙です。
シノンさん、マジかっけぇ。
ランサー相手に善戦して、宝具開帳まで追い込むとは。
メンタル面の強さも半端じゃないし、やはり頼りになる。
そしてアトリも覚悟完了、イニスをモノにできてよかった。
GGOでトラウマに向き合い続けただけに、シノンの言葉には説得力ありすぎだ……w

ただ、ランルーくんの境遇を考えると素直には喜べないんだろうなぁ……
この三人は果たしてこれからどうなるか。

853名無しさん:2013/06/13(木) 13:18:35 ID:X56pifTs0
投下乙です

確かにシノンさんかっけいいわあw
半端なく頼りがいがあるよ
ただまだまだロワは始まったばかり
この三人の行く先は…

854名無しさん:2013/06/18(火) 14:47:57 ID:VBy4SBVQ0


あの黒ランサーの口調とランルーくんの悲しい狂気の描写がすげぇ

855名無しさん:2013/06/19(水) 23:39:35 ID:BA8WMR2IO
これを書くタイミングを忘れていた…ランサーが死んだ!

……いや、本来の青タイツはとっくにお亡くなりになってるけどさwつかどっちもデータドレイン食らってから落ちてるなと今更ながらw

856 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/27(木) 04:55:19 ID:3XFaHhyI0
投下します

857走るような激しさで ◆7ediZa7/Ag:2013/06/27(木) 04:56:01 ID:3XFaHhyI0
一秒ごとに日差しが増しているようだ。
空から夜の色が抜けて朝が来る。僅かに湿り気を含んだ爽やかな空気が頬を撫でる。
ああ、何だか妙に気分が良い。デスゲームの中であるというのにアスナは胸躍る心地であった。

摩天楼の屋上で、アスナは座り込みその身を抱いた。ひどく身体が熱い。アスファルトの無機質な材質が火照った身体には冷たく感じられる。
あのアリスたちを退けることができた。そのことに対する昂揚の熱がまだ胸中に居座っているのであろう。
ダンジョン深奥に待ち構えるボスに辛くも勝利した直後というのはこういうものだ。今までも何度か経験したことがある。

「ふぅ」

とはいえ、何時までもそんなテンションでいる訳にもいかない。彼女はゆっくりと息を吸って、吐いた。
この熱にうなされ続ければ思考にも支障が出る。徐々にクールダウンさせていかなくては。
それはこのバトルロワイアル独特のルールであるとは思う。同じデスゲーム――あのSAOであっても、ボス戦を勝ち抜きさえすれば安全な拠点に戻ることができた。
そこで休息を取りアイテムを買い直し、ゲームのパラメーター的にもプレイヤーのメンタル的にもコンディションを整えることができたのだ。
が、ここではそうはいかない。このゲームに安全な場というものは存在しないのだから。次の瞬間にはまた襲撃されるかもしれない。
シビアだ。本当に。そう思わずには居られなかった。

「……でも、逃げたら駄目だよね」

ある程度胸を落ち着かせ、しかし戦意を萎えさせることなく彼女は言った。
ここで心を折る訳には行かない。いくら辛くシビアな場であろうと立ち止まる訳には行かないのだから。
もう一度デスゲームを終わらせ自分の知る現実へと帰る為にも、この悪夢を終わらせる。
出来る筈だ。戦力もあるし、何より決意が固まったのだ。もう恐れるものなど何もないではないか。
そう思うと笑みがこぼれた。何だか気分がいい。心地よい高揚感を胸に彼女は立ち上がった。
メニューの時刻を確かめるとアリスとの遭遇から既に三十分近く経っていた。少し長すぎる休息だったかもしれない。急がなくては。

立ち上がり、今度は空ではなく下に視野を向けた。アメリカのビルディングが街並みが朝陽に照らされている。
明るくなったことで不明瞭だったエリアの姿も見渡せた。闇の中では少しおどろおどろしく見えたそこも、そのヴェールを脱げばただの街だ。
何だこんなものなのか、と思わなくもなかった。

「……っと」

アスナは羽を展開すると、そこから一歩踏み出しその身をゆっくりと落としていった。
移動するに当たって、先ずはトリニティを探し出さなくてはならない。次にあの危険なアリスを追撃だ。
そう思いある程度の高度を保ちながら乱立するビルの谷間を探してみる。
が、トリニティの姿は見当たらない。
危険を承知で呼びかけて見るが、ひゅうひゅうと風が通り過ぎるのみで返事はなかった。

858走るような激しさで ◆7ediZa7/Ag:2013/06/27(木) 04:56:25 ID:3XFaHhyI0

しばらく捜索を続け、そしてそれが空振りに終わったのを知ると、アスナは滞空制限もあり一先ず地面に降り立った。
空を刺すように乱立するビルの影の下、腕を組んで状況を考える。
これだけ探しても居ないということは、恐らくこの近くにトリニティはいまい。
建物の外でなくビルの中に居る為分からないという可能性もあるが、それにしたって彼女の方からも自分を探しくれているだろうし、こうして飛んでいる自分に気付かないのは不自然だ。
そう思考を働かせている内にアスナは脳裏にぞっとする像が過った。
昂揚の熱が冷め、みるみる内に凍るような戦慄が胸を支配する。恐慌が意識を鋭く抉りアスナは思わず額を抑えた。

死、だ。
今思い浮かべたのは、トリニティの死。
何故彼女が返事をしないのか。もしや彼女はもう死んでしまっているのではないか。だって死人は何も語らない。語れない。
ジャバウォックから受けた一撃がそのまま致命的なものとなり命を落とした。
あるいは高高度からの転落によるダメージが原因か。
もしかしたら自分があの屋上で座り込んでいる間にあのアリスに再度遭遇し殺されたか。

様々な可能性が思い浮かび、そしてその度に氷のナイフで疲れたかのような痛みが彼女を襲う。
あのアインクラッドで何度も目の当たりにした仲間の死。あの時抱いた痛切な想いがフラッシュバックした。
もっと早く気付いてもよさそうなことの筈なのに、何故自分は今の今まで思い至らなかったのか。
自分の安寧の為に厭なことを意識内から締め出していたか。もう大丈夫だと思い込む為に。
それは逃げではないか。

「……違う!」

思わず叫んでいた。冷たいビル群の中、一人彼女はその身を震わせた。

「……逃げてなんて、いない」

喉奥から言葉を絞り出し、彼女はきっと街を睨み付けた。
灰色のビルの森。どこにも見えないトリニティの姿。この場で取るべき行動は何か。
とりあえずもう少しトリニティの捜索範囲を広げてみるべきだろう。飛ぶことができるALOアバターの機動力ならばエリア中を探し回ることだってそう難しくはない。
そしてそれと並行してやらねばならないことがある。

「危険なプレイヤー……あのアリスみたいなのを探し出して――」

殺す。そう、彼女は呟いた。
これからはトリニティが既に命を落とした可能性も視野に入れて行動しなくてはならない。
そして危険なプレイヤーは躊躇いなく排除する。その重さからも逃げるつもりはない。
それでも、それが必要であるのならば。

アスナは決意を固めると、魔剣をオブジェクト化させ強く握りしめた。
これは力だ。この剣を振るいもう一度現実へと帰還する。

「だから、行くわ」

彼女はその言葉と共に空へと飛び立った。
黒く蠢く魔剣を携えて。


【G-8/アメリカエリア/1日目・早朝】


【アスナ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP60%、MP80%
      AIDA感染
[装備]:魔剣・マクスウェル@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、死銃のレイピア@ソードアート・オンライン、クソみたいな世界@.hack//
[思考]
基本:この殺し合いを止め、無事にキリトと再会する
1:殺し合いに乗っていない人物を探し出し、一緒に行動する。
2:アリスを初めとする危険人物は排除。
3:トリニティの捜索。
[備考]
※参戦時期は9巻、キリトから留学についてきてほしいという誘いを受けた直後です。
※榊は何らかの方法で、ALOのデータを丸侭手に入れていると考えています。
※会場の上空が、透明な障壁で覆われている事に気づきました。
横についても同様であると考えています。
※トリニティと互いの世界について情報を交換しました。
その結果、自分達が異世界から来たのではないかと考えています。
※トリニティが既に死んでいる可能性も考慮しています。

859TRINITY ◆7ediZa7/Ag:2013/06/27(木) 04:57:25 ID:3XFaHhyI0

僅かに光明が見えだしたとはいえ空は未だ薄暗い。
肌寒い空の下、ネオは新たに得た二人の仲間と共に足を進めていた。
話し合った結果一先ずはこのエリアを探索することにした。その後ウラインターネットなどの他のエリアに足を運ぶかをもう一度協議する。

そうして進み始めた矢先、彼は彼女に出会った。
それは果たして偶然だったのか。

「あ……」

薄暗いビルの下で、力なく横たわる一人の女性の姿があった。
ダークスーツに身を包んだ彼女の口元には赤い線が走っている。それが鮮血の跡だと一拍遅れて気が付いた。

何も、言えなかった。
ただ呆然と立ちすくみ、周り全ての世界のことを忘れた。
これまでの過去が目眩のように脳裏に立ち現れ消えてゆく。身体から力が抜けどこかへ飛んで行ってしまいそうな心地になった。

「――トリニティ」

ようやく零れ出た言葉はすぐに消え去り口の中に空疎な響きだけが残る。
よろよろと彼女の身体の前へ膝を付きその身体を抱き上げた。
触れ合った身体からは弱々しい熱が伝わってくる。そこからこの身体がもう死へと向かっているのだということを、ネオは愕然と受け止めた。

「……ネ……オ? そこに居るのね……」
「ああ、トリニティ。ここだ。ここに……」
「ごめんなさい。もう見えない……何も……」

か細く漏らす彼女は瞳を虚空に向け、抱き合うネオの顔を見ていなかった。
ネオは必死に告げた。「ここだ」と。

「分かってる……貴方はそこに……」
「トリニティ。ようやく見つけたんだ。救世主の、真の光の在り方を。
 だから君にも見て貰わなければ……」
「光なら」

もう十分に見せて貰ったわ。彼女はそう、彼の耳元で囁いた。
どこか安らかな響きを声に滲ませて。
同時に彼女の身体がすっと軽くなったようにネオには思え焦燥がせり上がる。
これではまるで――

860TRINITY ◆7ediZa7/Ag:2013/06/27(木) 04:57:48 ID:3XFaHhyI0

「もう一緒に行けない。私は……ここまでが精一杯」
「そんな……駄目だ、トリニティ。君が居なくては……」

ネオは必死に彼女を救う手だてを求めた。
彼女の身に何があったのかは知らない。とにかくその身に重傷を負い、そして死に瀕している。
どうにかしてそこから這い上がらせる手はないか。ネオは振り返り同行者――ガッツマンとアッシュ・ローラーに救いを乞うような視線を向けた。
だが、彼らは何も言わずただ頭を垂れるだけだった。ネオは虚空に投げ出されたかのような無力感を得た。
どうにかしてトリニティを救うことはできないか。乱れた意識を掻き集め考え抜き再度彼女へと顔を向けた。
救世主としての力を行使しその身を癒す。それしかない。あの時のようにもう一度彼女を救うべく手をかざす。が、しかし当の彼女はネオの焦燥とは対称的に、

「いいのよ――時が来たの」

と、落ち着きを払った声で、そう告げた。
まるで、自分が今まさに向かうべき場所を知っているかのように。

「光を見つけた……そう言ったわね。なら、もう大丈夫。
 私の役目は……終わった。貴方は救世主として……」
「トリニティ、違うんだ。真の意味で救世主など居なかったんだ。今まで、ずっと。
 だからようやく見つけた光を……君と……!」
「大丈夫よ。どんな光であれ、貴方が選ぶことができたのならのなら……もう、大丈夫。
 マトリックスを……ザイオンを……夢も現実も救える」

彼女はそこで悲痛そうにその顔を歪めた。その口元からはつぅと血が流れ落ちた。
死が、すぐそこにあった。

「一度は助けて貰った……でも、今度は……」
「トリニティ……!」

呼びかけるネオは必死にその身を癒そうとするが、しかし彼女の身体から熱が徐々に消え去ってゆく。
その事実に彼は戦慄を禁じ得ない。もう一度奇跡を起こすことはできないのか。

「ねぇ覚えている? 助けて貰ったとき、屋上で私が言ったこと」
「……ごめんね、と」
「あれは……失敗だった。もっと……もっと大切に思えたことが、最期に思い浮かんだのに。
 私がどれだけ幸せだったか、私がどれだけ愛を感じることが出来たか……
 言葉にするのには、遅すぎた」

彼女はそこで潤んだ瞳をどこでもない空へと向けて、

「でも、貴方に一度救われて、今度は言うことが出来る」
 
消えゆく意識の中、彼女が最期に求めたのは――

「キスをして――もう一度、キスを」






861TRINITY ◆7ediZa7/Ag:2013/06/27(木) 04:59:06 ID:3XFaHhyI0
「彼女は、導き手だったんだ」

全てが終わった後、ネオはそうぽつりと漏らした。
その瞳はサングラスに覆われどんな顔をしているのかまでは見えない。ただ、その頬を流れる雫が全てだった。

「どこまでプログラムされていたのかは分からない。
 もしかしたら最初から……出会いからして機械によって定められていたことなのかもしれない」

アーキテクトとの会話を思い出す。
全てを定められ生み出されてきた救世主。
自分の前任者たる救世主にも、きっと彼女のような導き手が居たのだろう。
皆が皆、知らない間に踊らされてきた。

「でもそれだけじゃない。彼女は何時だって導いてくれた。プログラムなどでなく、選択を与える者として」

アーキテクトは言った。自分は今までの救世主の中で唯一個人を――特定の女性を愛した者であったと。
それが何を意味するのか。ネオはたった今理解した。

「ネオ……」

ゆっくりと語るネオをガッツマンが気遣わしげに呼びかけた。
その後ろではバイクに乗りかかったアッシュ・ローラーが無言でネオに視線を送っている。
彼らは共にネオの身を案じているようであった。
遭遇した時既に手遅れだった女性。彼女とネオがどのような関係であったのか、何も言わずとも察してくれたのだろう。

「行こう」

その温かい視線を受け止めたネオはそう口にした。
ガッツマンが「でも」と声を掛けようしたが、それをアッシュ・ローラーが引きとめた。

「何も言うんじゃねぇよ。
 ネオはきっとすげぇツレェ別れを今やって、それでも前に進もうとしてんだ。
 その決意に、事情も知らねえオレらが口挟んだって余計なお世話にしかならねえ。
 何も言わず一緒に隣りを歩いてやるってのが流儀ってもんだ」
「そう……でガスね」

ネオは彼らに礼を言い、そして共に歩き始めた。
夜空は少しずつ明るくなってきている。そう遠くない内に空高く光が昇るだろう。
だが、今しばらくは静かな夜の名残が続きそうだった。




【トリニティ@マトリックスシリーズ Delete】



【G-8/アメリカエリア/1日目・早朝】

【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2個(武器ではない)
[思考・状況]
基本:本当の救世主として、この殺し合いを止める。
1:アッシュ・ローラーとガッツマンと共に行動する。
2:一先ずはアメリカエリアの調査、後にウラインターネットへ
3:モーフィアスに救世主の真実を伝える
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後
※ネットナビの存在、人類と機械の共存するエグゼ世界についての情報を大まかに得ました。
互いの情報の差異には混乱していますが、ガッツマンが嘘を言っているとは決して思っていません。
※機械が倒すべき悪だという認識を捨て、共に歩む道もあるのではないかと考えています。

【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、WWWの野望を阻止する。
1:アッシュ・ローラーとネオと共に行動する。
2:一先ずはアメリカエリアの調査、後にウラインターネットへ
3:ロックマンを探しだして合流する。
4:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いが、WWWの仕掛けた罠だと思っています。

【アッシュ・ローラー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP100%
[装備]:ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜3(本人確認済み)
[思考]
基本:このクレイジィーな殺し合いをぶっ潰す。
1:ネオとガッツマンと共に行動する。
2:何が原因で殺し合いが起きているのか、情報を集めたい。
3:シルバー・クロウと出来れば合流したい。
4:一先ずはアメリカエリアの調査、後にウラインターネットへ
[備考]
※参戦時期は、少なくともヘルメス・コード縦走レース終了後、六代目クロム・ディザスター出現以降になります。
※最初の広場で、シルバー・クロウの姿を確認しています。

862 ◆7ediZa7/Ag:2013/06/27(木) 05:00:46 ID:3XFaHhyI0
投下終了です
今回は分割でなく短い投下が二つという形でお願いします

863名無しさん:2013/07/01(月) 22:00:43 ID:tkvp69IY0
マクスウェルによるAIDA感染とスタンスが相まって、アスナさんの明日が見えねぇ…
トリニティ散る。ネオが今際に立ち会ったのだけが救いだなぁ
にしてもチーム・アメリカは安定度が半端ない

乙でした

864名無しさん:2013/07/03(水) 00:33:46 ID:lIS4DLqo0
乙です

トリニティさんはお疲れ様。ネロは間際にいてくれたのがせめてもの救いだなあ
アスナは…w

865名無しさん:2013/07/05(金) 22:44:47 ID:Lf95y2lM0
CCCクリアしたんでネタバレ気にしないでよくなってたまってる分読みに来たら案の定レオが生徒会結成していたw
楽しそうで何よりですw
CCCじゃ出番なかったランルーくんと黒ランが掘り下げられてて嬉しかったなー

866名無しさん:2013/07/07(日) 00:34:53 ID:T627QkiY0
まさにどうしてこうなった>レオ
ロワ開始時にはまさかあそこまではっちゃけると誰が思ったかw

867 ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:28:40 ID:.kOjWuE20
投下します

868デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:29:16 ID:.kOjWuE20
エリアの最果て、C-7に片隅にまで辿り着いた時、そのゲートは不意にその姿を現した。
延々と続く草原のテクスチャの先にそれは何時の間にか鎮座していた。
恐らくはある程度距離が近づかないと出現しない仕様になっているのだろう。

「しかし、まさかこのゲートとはな」
オーヴァンはそうぽつりと漏らした。その口元は僅かに釣り上がっている。
その視線の先にあるゲートは、彼にとって縁が深いものであり、同時にもはや存在しない筈のものだった。

呟きに含むものを感じたのか、隣を行くサチはオーヴァンを見上げ問うた。

「知っているものですか?」
「ああ……このPCの、The Worldにあった筈のものだよ」
それも一つ前のバージョンのね。そうオーヴァンは付け加えた。
C-7の転移門。それはカオスゲートの形をしていたのだ。
The Worldの象徴ともいえる三つの単語によるエリア生成。それを為す門こそカオスゲートであった。

金縁に嵌った薄い円状の結晶は透き込まれるような青さを湛えている。
その薄板隔てた先に見える平原は、どこか別の空間へと通じていると錯覚してしまいそうだ。
R:2に比べればポリゴンの質は劣るが、それでもこのゲートは世界において独特の雰囲気を持っていた。
オーヴァンもまたR:1を知っている。失われた筈のその形状に懐かしいものを感じずには居られなかった。
あの頃と今の自分は何もかも違う。八咫――当時はワイズマンか――ともまだ決裂する前であった。

「前のバージョン……何でそんなものがここに」
「さぁ……それは分からないな。しかし、調べてみる価値はありそうだ。
 だがその前に」
オーヴァンはゲートに触れる前に、その向こう側の草原の示した。

「エリアの端がどうなっているのかを確かめなければな。ある程度予想は付くが、それでも必要なことだ」
その言葉にサチはこくんと頷き、二人はエリアの端を目指した。

それは存外早くあった。
音もなく、前触れもなく、不意に彼らの前に不可視の壁が現れたのだ。
草原は依然として続いているが、残念ながらその壁の向こうには行けそうもない。
3Dポリゴンのゲームに付き物の“見えない壁”という奴だ。この壁は絶対に壊せないだろう。そもそもこの先のデータが存在しないのだから。
会場はループ構造ではないということが分かっただけで、一先ずは良い。

869デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:29:43 ID:.kOjWuE20

「こんなところだろう。さあゲートに戻ろうか」
そうして二人はゲートへ戻ってきた。宙に浮く円のゲート見上げ、オーヴァンはふっと笑って見せた。

「どうするんですか?」
「ああ、ちょっとそこで待っててくれ。少し試してみたいことがある」
言ってオーヴァンは一人ゲートへ近付いた。
すると転送するかを訪ねるウィンドウが表示された。その画面表示やフォントはR:1時代のThe Worldを彷彿とさせる。
オーヴァンはその画面を表示したまま、AIDA現象によるハッキングを試みた。サチはそれを隣で無言で見つめている。
幾つか手段を試してみた後、彼は別の画面を表示させることに成功した。

「ふむ……」
ファンタジー然とした画面構成はどこかへ行き、代わりに薄い緑のフォントで書かれた味気ないメニューが表示された。
開発者用のデバッグ画面に酷似しているが、果たして。

ソースコードは見たことのあるものであった。どうやらThe World R:1のものを流用しているようだ。それはハロルドの構築したプログラムを不用意に弄れなかったということかもしれない。
驚くべきはそれを動かしつつ、他のゲームのプログラムも全く違和感なく動作させているこの空間だ。生半可な技術力ではありえない。
ではこれをどう弄るべきだろうか。

(どうやらこのカオスゲートは入力されるワードが固定されているようだな。
 それ故、実質的に移動できるエリアも固定される。このゲートの場合はB-9へ繋がっているようだが……)

3ワードの組み合わせで実質的に無限のエリアを生成できるカオスゲートだが、この場では既に3ワードが固定されている為、既定外のエリアに行くことはできなくなっていた。
デバッグ画面を見るにΔ『隠されし』『禁断の』『プログラム』で固定されている。これがウラインターネットへ転送するエリアワードという訳だ。
この3rdワードは見たことがなかった。恐らくはこの場に合せGM側が新たに用意したものだろう。
別のワードを入力できれば他エリアを生成できる可能性はあったが、しかしそんなものはこの場にはない。
元のThe Worldでのワードストックが使えれば別だが、今のオーヴァンにはそのデータを開くことができなかった。

(ないのならば作成するしかあるまい)

オーヴァンはそこでAIDAを画面上に走らせた。
黒い斑点が画面にあふれ出し、プログラムを浸食する。
その動きは誰にも制御できない。無論、オーヴァン自身にも。
プログラムを食い散らかした結果、画面は歪なものになっていた。

870デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:30:02 ID:.kOjWuE20

『隠されし』『禁断の』『逕溘@縺セ』
 転・しますか

文字化けしたウィンドウ。意図的にバグを起こすには成功した訳だ。
この先に何があるのかは分からない。鬼が出るか蛇が出るか。下手すれば命を落とすことになるかもしれない。
ここで下がるのも一つの手ではあるだろう。だが、

「ふっ……」
一瞬の逡巡を終えた後、オーヴァンは転送コマンドを押した。
たちまちエラーやプロテクトを告げるウィンドウが滝のように現れるがそれは彼を縛る鎖にはなりえない。
そしてそのまま仕様外へ――……




01010010100001011101010101010101011110110101010101001101010101001100101010110010
1101001011110010101111000010111001101010101101001011111110011100001
110100101111110101001100001011100110101010110100101111111001
0101010101001101010101001100101010110010101010110010
01010101010011010101010011001010101100
01010110010010101100100101111011
1101001011111111
01001011111
010010
010

0







出来損ないの空間であった。
先ず、空というものがない。グラフィックが用意されていないのだ。天蓋は暗く閉ざされており、光が全く見えない。にも関わらず視認に何ら障害はないのだから不思議なものだ。
幸い地面はあった。青いワイヤーで作られた単純極まりないものが。

オーヴァンが現れたのは、そんなエリアであった。

(認知外迷宮に酷似しているが……)

周りを見渡しながらオーヴァンは思考を巡らせた。
認知外迷宮(アウターダンジョン)。The Worldに存在する仕様外のダンジョンにして通常のプレイヤーでは目にすることさえできない“世界の裏側”。
オーヴァンが何度も行き来したあの場に、この空間は酷似しているようだ、だがしかし、ここはThe Worldではない。

(認知外変異体……あのバグモンスターはここには居ないようだな)

そう思いオーヴァンは拘束具を引きずり、ゆっくりと歩き始めた。
一見して完全に仕様外の空間だが、その実ここがウラインターネットという可能性はある。何せ自分はその場を知らないのだし、如何にも裏という言葉が似合う空間であるのだから。
そうして歩いた先に、彼は声を聞いた。

871デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:30:28 ID:.kOjWuE20

「おや?」
不意に、オーヴァンはその男に行き遭ったのだ。
その男は空間の果てに一人ぽつんと佇んでいた。積まれたジャンクデータの破片に、そのひょろりと痩せた白衣の男は腰かけている。
眼鏡の先に見える視線は底の読めない深淵を湛えていた。

「ここに来るとはね……君も私と同類かな?」
「…………」
「いや……、少しだけ違うか」
彼はそう言って薄く笑って見せた。

「とにかくようこそ、とでもいうべきかな? 私はここでデバッグをやっていたのだがね。どうやら特大のバグがやってきてくれたようだ」
「…………」
その言葉にオーヴァンは身を硬くする。
この謎の男。ここに最初からいたことやその言葉から突き合わせて考えれば、得られる結論は一つ。
即ち、GMである。

「デバッグ……となるとこの場はやはり仕様外のエリアか」
「ああそうだよ。運営用のデバッグモードだ。参加者では先ず来ることはできない」
「ほう、それは良かった」
オーヴァンは謎の男に向き合い、視線を絡ませた。
この男、威圧感がある訳ではない。敵意がある訳でもない。ゴーストという言葉がしっくりとくる存在感の薄さだ。
しかし、それでも何か壮大な壁のような圧倒的な何か、彼を取り巻いていた。

「で、そのバグとやらをどうするつもりなのかな?」
「ふむ、そうだな……そこは私の裁量を越えるんだけどね」
男が腕を組み考える素振りを見せた時だった。「それは私が答えよう、トワイス」

近くの空間が歪み、一瞬の明滅を伴って彼がやってきた。
侍然の姿に黒く歪んだポリゴンモデル。それは紛れもなく榊<Zenith>のPCであった。

「ほう、君が来るか」
「ああ、この男とは少し因縁があってな」
白衣の男とそう言葉を交わし、榊はオーヴァンを舐めるように睨み付けた。

872デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:30:49 ID:.kOjWuE20

「久しぶりとでも言うべきかね」
「……さて、な」
高慢な笑みを浮かべるそのPCはかつての榊そのものだが、しかしそのプレイヤーまでそうであるとは限らない。
榊は蒼炎のカイト――The Worldが生み出した自律修正プログラム――に確かに消去された筈だ。他ならぬオーヴァンの目の前で。
AIDAの力を失ったばかりかその記憶まで失った彼がこうして再起することなど、あるのだろうか。
それよりは姿を象った同型アバターという可能性の方が高く感じられた。

「アンタには散々お世話になったからな。こうしてわざわざ出向いてきたという訳だ」
そう大仰に語る榊をじっと見つめながら、オーヴァンは自分からは何も語らなかった。
尋ねたところで奴らが何かを漏らすとも思えない。今は冷静に事態の推移を眺めるしかない。

「で、彼をどうするんだい? 参加者でありながらこの空間に現れてしまった訳だが」
「無論、修正せねばなるまいさ。バグの迅速な対応こそ、良い運営に求められるものだからな」
「修正、か」
白衣の男――トワイスと言ったか――と榊はそう二三言交わした後、オーヴァンを見てニヤリを口元を釣り上げた。

「死刑。ルールを破ったプレイヤーにはそれが妥当だろう?」
オーヴァンは表情一つ変えず、沈黙を貫いた。
しばしそこに緊張した空気が張りつめる。

「と、言いたいところだが、そうそう簡単に事を進めてしまってはつまらないのも事実だ。
 この榊がプロデュースする以上、ある程度のイレギュラーもイベントに変えてみせよう」
が、榊はさらりと前言を撤回してみせた。

「先にハセヲ君にちょっかいを駆けてみたのだがね、残念なことに振られてしまった。
 どうやら私は人を騙くらかして弄ぶのには向いていないようだ。全く私も正直な性分で困るよ」
ボルドーやアトリを利用し“月の樹”を掌握して見せた男が良く言ったものだ。
そう思いはしたが、オーヴァンは何も言わず冷めた心地で榊の言葉を聞き流した。まともに相手にする気にはなれない。

しかし、どうやらこの男、ハセヲに何かしたらしい。AIDA感染後の榊が見せた異様なハセヲへの執着を思えば何ら不自然ではない。
そういった稚気混じったメンタリティはかつての榊――鵜池トオルを思い起こさせる。
さて、目下正体不明の榊だが、彼はニヤリを笑み浮かべ口を開いた。

「そこでだ。アンタには色々とゲームを引っ掻き回して貰いたいのだよ。
 人を謀り、誤解とすれ違いを生み、仲違いさせ、権謀術数を駆使して争いを加速させる。
 そういったことに協力して貰いたい。理解ある優良プレイヤーとしてな」
「……ほう」
「アンタはそういうのが得意だろう。暗躍や工作なんてものを誰よりも上手くやっていたじゃあないか」
榊はそこで声を上げて笑って見せた。

「まさかは私の温情を断りはしまい? このままデリートでは如何にも味気ないからな。アンタにもとっても、私にもとっても」
どの道似たような立ち位置で居ようとは思っていたのだ。榊もそれを分かっての提案だろう。
交換条件にもなりはしない。実質お咎めなしという訳だ。

873デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:31:10 ID:.kOjWuE20

「ああ、その話受けよう」
そう思ったが故、オーヴァンはそう鷹揚に返答した。
向こうがどんな役割を自分に期待しているか。それが明白になった訳だ。
奴らはどんな理由化は知らないが、とにかくゲームを加速させようとしている。させなければならない、とでもいうべきか。

「分かっているとは思うがこのエリアに二度と足を踏み入れることは許されないぞ?
 私は寛容だが、悪質なプレイヤーをのさばらせておく訳にはいかんからな」
オーヴァンは無言で頷いた。
それを見た榊は満足げに腕を組み、

「だが、私の言葉に通りに動くのならば、褒美を与えなくもない。
 何が欲しい? 武器か? アイテムか? 情報か? 何でも言うが良い」
そう語る榊を尻目に、オーヴァンはその肩の向こう、そこに佇む白衣の男を見た。
トワイスは無表情に虚空を見つめている。二人のやり取りに何ら興味はないようだ。
榊と違い彼に関して自分が持っている情報は一切ない。ただ彼が纏う底知れない雰囲気が目を引いた。

「真実」
オーヴァンはぽつりと呟いた。

「は?」
「報酬があるのだろう。ならばそれを頂きたい」
榊は一瞬呆けたような顔をしていたが、次第に笑みを浮かべ了解の意を示した。あの不快な笑い声を添えて。

「真実……いいだろう! アンタが十分な働きをした暁には伝えようではないか! この榊が約束する」
「ああ、頼むよ」
「ふむ、それではこのエリアからご退場願おうか。トワイス、頼む」
促されたトワイスは億劫そうに空を操作すると、オーヴァンの身体が光に包まれた。
転送の予兆だ。これ以上はゲームの外に居ることは許されない、という訳だ。
まぁ仕方がない。この空間の全容を知るまでは行かなかったが、元よりそう簡単に脱出できるとは思っていなかった。
それでも今回の接触は大きい。先ず予想通りAIDAによりゲームのシステムを部分的にとはいえ超越できること確認できた。
またエリアにわざわざ榊が出向いてきたということは、このエリアが運営側に取って重要なものであることを意味している。
調査する価値は十分あるということだ。その為にはあのトワイスとかいう男が邪魔になるが。
そして何よりGMとの繋がりができた。これは大きい。細い糸のようなものに過ぎないが、単なる一介のプレイヤーではなくなった訳だ。
しばらくはこの線を追っていくべきだろう。同時にシステム干渉できる場も随時探していきたい。

複雑な思考を抱えながらオーヴァンは転送され、そしてエリアから消失した。

874デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:31:32 ID:.kOjWuE20







「あの処置で良かったのかい?」
「構わんよ。それともこの榊のプロデュースに不満があるのかね?」
「いや……別にどうでもいいさ。事象の収縮は既に確約されている。私はただ待つのみ……おや?」
「何か問題が?」
「いや、ちょっとしたバグがあってね。まぁ何てことのないバグだ。もう修正したよ」
「ならいいが……ふむ、アンタのその物言い、思えばあの男とそっくりだな。PCの造形も似ている。これは中々興味深い」
「そうか――私はそうは思わないな」



[???/仕様外エリア/早朝?]

運営側

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康

【トワイス・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康



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身体が妙に軽い。アプドゥの効果だ。
その軽さは筋肉の増強などによるものではなく、機械的というか、ゲーム的というか、ただ単にモーションを早送りにされているような不思議な感覚があった。
正直言ってあまり気持ちの良いものではないが仕方ない。現時点で有用なものであることは間違いないのだから。
武内ミーナはそんな感想を抱きつつモールへと目指していた。

875デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:31:53 ID:.kOjWuE20

空は未だ暗く、街の蛍光灯の明かりも心もとない。なまじ速度が上がっている分、衝突などには気を付けなければならないだろう。
これがこの二頭身のアバターでなく普段の身体だったら、と少し思わずにはいられなかった。

実の所、メニュー画面の【設定】の項目を開けばアバターを変更することは可能なのだが、しかし彼女はその存在に気づいてはいなかった。
敏腕なジャーナリストである彼女だが、ネット常識には少々疎い一面がある。こういったシステム的なお約束というものを把握していなかったのだ。
という訳で少なくとも今の彼女は褐色肌の妙齢の女性……ではなく二頭身の女性アバターなのだった。

「ええと……これがマップですね」
慣れない動作でメニューを操作し、表示されたウィンドウと顔を突き合わせる。
先ほどあの“空飛ぶ妖精”を見かけた場に急いではいるが、たどり着くにはもう少しかかるだろう。
それまでにあの妖精が遠くに行ってなければいいのだが。

(しかし他の人は見当たりませんね……)
ゲーム開始数時間、彼女は未だあの妖精以外の参加者を見かけていなかった。
それが不運なことなのか、はたまた幸運なことなのかは分からない。自分では手に負えないような危険人物と出会ってないだけマシと見るべきかもしれない。
彼女としては多少の危険を冒してでもこの場に関する情報を集めておきたかった。
このままあの妖精を見失ってしまうのは痛い。そして時間のロスは死に繋がりかねない。

(まぁ急ぐとしましょう)
と、走り続けるミーナだったが、不意にアプドゥの効果時間が切れた。
急激にブレーキが掛かる己の身体に違和を覚えながらも、アプドゥを掛けなおすべく再度メニューを開く。
貴重なものであるが、変に温存していても仕方がない。使う必要がある時には使わなければ。

そう思いメニューを開いた時、

「おや? あれは……」
彼女はその“バグ”に遭遇した。

ビルの自動ドア。その表面のテクスチャが剥がれ落ち、フレームが剥き出しになっている。
これまでゲームの中と感じさせないリアルなフィールドであった為、その光景は異様であった。
興味を惹かれたミーナは危険を感じつつも、そのバグへと近づいて行った。
そして、意を決してその“バグ”に触れた瞬間、

876デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:32:13 ID:.kOjWuE20

「これは……!」

ミーナの視界に嵐のようなノイズが走った。
思わず額を抑えようとするが、身体が言うことを聞かない。
まるで己の身体(アバター)と意識が切り離れてしまったかのようだ。

意識そのものに電流が走るような、そんな壮絶な痛みの中、ミーナは見た。
榊――自分たちをこうして閉じ込めた元凶が、誰かと話しているのを。
相手に見覚えはなかった。腕に何か大きなもの装着されているようだが……、ノイズが激しくてその細部までは分からなかった。
その後ろに居るのは……白衣の男。こちらも見覚えがない。同様によく見え――



「――は」

気づけば、ミーナの意識は覚醒していた。
手を触れた自動ドアは何の変哲のないガラスに変化しており、ミーナの存在を感知してゆっくりと開き始めた。
場はしんとしている。まるで何もなかったかのような静寂が帰ってきた。
だが、何もなかった筈がない。自分は確かに“アレ”に接続した。

「…………」
空を見上げれば、既に明るくなっている。メニュー画面で時刻を確認すると大分時間が経っていた。
この時間ではもう先の場所にあの妖精はいまい。今から向かったところで会えるかは怪しい。
これ以上時間を掛けて誰とも接触できなければ拡声器を使った方がいいかもしれない。

「あの映像は……」
しかし自分は代わりにとても大きな情報を拾った。
榊。あの男に直接繋がりかねない情報を。

(……あれは恐らくあちら側にとっても不測の事態だった筈。完全にこの場を管理できてる訳ではないと言うことですか……)

ミーナは幸運にも得た情報を噛みしめながら、街を一歩踏み出す。
そして同時にアレは“波及”だとも考える。敵がそう簡単にボロを出すとも思えない。どこかで何かトラブルが発生し、その波及がこういった形で現れたのだ。
水面下で何が動いているのか。その究明のためにも急がなくてはならない。

877デバッグモード ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:32:27 ID:.kOjWuE20


[G-9/アメリカエリア/早朝]

【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、アプドゥ
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1(本人確認済み)、快速のタリスマン×4@.hack、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する
0:空を飛ぶ超能力者(アスナ)を探す。
1:殺し合いの打破に使える情報を集める。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)を警戒。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。


[C-7/カオスゲート/1日目・早朝]
※カオスゲートはR:1のものです。

【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%
[装備]:剣(出展不明)
[アイテム]:ウイルスコア(T)@.hack//、基本支給品一式
[思考]
基本:死にたくない
1:オーヴァンと共に行動する
2:キリト君に会いたい
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになってからの参戦です
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました
※キリトが参加していることに気付いていません

【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]: HP100%
[装備]:銃剣・白浪
[アイテム]:不明支給品0〜2、AIDAの種子@.hack//G.U.、基本支給品一式
[思考]
基本:ひとまずはGMの移行に従いゲームを加速させる。並行して空間についての情報を集める。
1:利用できるものは全て利用する。サチも有用であるようなら使う
2:AIDAの種子はひとまず保留。ここぞという時のために取っておく
3:茅場晶彦の存在に興味。
4:トワイスを警戒。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です
※サチからSAOに関する情報を得ました
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
また、それが茅場晶彦である可能性も、僅かながらに考えています
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています
※ウイルスの存在そのものを疑っています

878 ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/12(金) 02:32:48 ID:.kOjWuE20
投下終了です

879名無しさん:2013/07/12(金) 15:36:19 ID:nP/rz0bY0
投下乙です
認知外迷宮というか、デバックルームはまあ予想内でしたが、
そこへさらに欠片男登場ですかw しかもデバックやらされてるとかw
どうやらすでに何かを知っているようですが、果たして……

疑問点としては、ミーナがなぜデバックルーム(?)での出来事を観測できたか、という点ですね。
舞台が電脳空間という性質上、バグの存在自体は気にならない(というかむしろ歓迎?)なんですが、『なぜそういうバグが発生したのか』が不明、というのは問題だと思います。
というのも、理由のわからないバグがアリになってしまうと、何かしらの無理がある展開も「そういうバグが起きたから」で済まされてしまうかもしれないからです。
ですので、何かしらのバグによる事象が発生する場合は、それ相応の理由があった方がいいと思います。

あと、欠片男のフルネームは、【トワイス・H・ピースマン】です。
些細な点ですが、一応ということで。

880 ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/13(土) 00:59:08 ID:HsSO.QzQ0
>>879
そうですねー、では最後に付け加える形で加筆しておきます


彼女がたった今垣間見たもの。それは確かに波及であった。
かつてG.U.のメンバーは認知外迷宮に赴く際には、フィールド上に生じるデータの歪みを通してアクセスしていた。
システム外の存在である碑文使いPCでさえ、そういったバグを利用しなければ認知外迷宮へ至ることはできなかったのだ。
このバトルロワイアルにおいてのデバッグエリアもまた、それと同じく通常の手段では決してアクセスできないように設計されていた。
故にプレイヤーに過ぎない彼女では、たとえ不完全でもアクセスできなかった筈だった。本来ならば。

だが、その歪みが拡大するような出来事があった。それは言うまでもなく、オーヴァンの不法アクセスである。
ゲートにAIDAを走らせた彼だが、その行動が遠く離れたアメリカエリアにまで影響を及ぼしたのだった。

その理由としてはこの空間の構造にあった。
この場は一見してリアルと変わりない、完全にシームレスな世界となっているが、それでもこの世界に全く継ぎ目ないという訳ではない。
最も大きな継ぎ目はゲートだ。一部エリア間移動に必ず通らなくてはならない。これはワープゲートという形で誤魔化しているが、その際に僅かとはいえ暗転時間がある。
それは何もエリア間だけのことではない。会場内に設置された一部建物内に入る際にも似たような工程を踏んでいる場合があった。
例えば学校などの地図に名が記されている施設は、他と比べより細かな設計が為されており、それ故データ容量が膨大なものになってしまっている。それ故、その空間だけ独立して存在させるという手段を取っている。
つまり、空間と空間は繋がっているように見せかけて、その実断絶しているのだ。

ミーナがバグと接触した場所。それはG-9のモール。その扉であった。丁度彼女がアスナを見かけた反対側の入り口に当たる。
その扉は先に言っていたような設計となっており、エリアとエリアを繋ぐ役割を担っている。

オーヴァンはその繋がりを強引に改変している。C-7のゲートを、仕様外エリアへと繋がるように。
だが、AIDAはオーヴァン自身制御することができない。一度拡散された間は無尽蔵に広がる。
そしてゲート間接続に干渉するように放たれたAIDAが、一つの接続を食い荒らしただけで飽きたらず、オーヴァンの意志を越えた部分までも改変していたのだ。
結果、G-9のモールへと繋がる筈の扉が仕様外エリアと繋がりかけ、しかし本来エリア間移動のための扉でないそれが完全に機能する筈もなく、結果としてミーナは不完全な形で仕様外エリアへ訪れることになる。
即ち、その意識だけがエリアの外に“飛んでいた”訳だ。

既にこのバグはトワイスにより修正(デバッグ)され、跡形もなくなっている。
ただと扉へと戻ったその自動ドアは沈黙を保っている。
その向こう側にあるのは、何てことのない世界だ。

[G-9/アメリカエリア/早朝]


こんな感じでどうでしょう?
トワイスの方はwiki収録する段になったら修正しておきます

881名無しさん:2013/07/13(土) 03:59:15 ID:5J/zur420
それでほぼ問題ないと思います。
ただ他の場所でも同じように意識だけが飛ばされたり、繋がるはずのない場所が繋がったりといったことがありそうですね。
それはそれで楽しみですがw

882 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/15(月) 01:14:40 ID:KYXszNIk0
投下します

883縦横無尽のエージェント・スミス ◆7ediZa7/Ag:2013/07/15(月) 01:16:02 ID:KYXszNIk0
軽快な排気音が響いていた。
マク・アヌの石畳の上をバイクがずんずんと進んでいく。その車体は不規則に揺れており、時節大きくふらつきを見せる。
ワイズマンはその運転に内心冷や汗をかきながら、目の前のネジ――クリムゾン・キングボルトの腰らしき部分に手を回していた。

「うおっと……おお、こりゃ中々ムズいな」

クリキンも運転に四苦八苦しているのが見て取れた。彼も運転に慣れている訳ではないらしい。
その光景は正直心臓に悪い。何時振り落とされるか分からないと思うとあまり良い心地はしなかった。
ワイズマンは意図的に運転の様子を見ないようにしながら、周り――マク・アヌを見渡した。

赤褐色の石畳で統一された欧風の街並みが広がり、随所に水が流れ落ちる涼やかな音が響く。
その様は確かにワイズマンの記憶にあるマク・アヌに酷似していたが、しかしどこか違う。そんな気がした。
街の構造もだが、そもそも街が纏う雰囲気もどことなく変っている。
具体的にいえば、どことなく近代風になっているのだ。ワイズマンの知るThe Worldはなかった機械的なものが時節見える。
それに加え先のグランティや屋台など、確実に『なかった』といえるものもあった。
しかし見覚えのある場所があるのも事実だ。確かに自分がプレイしていた街である場である。
このマク・アヌは複数のゲームが混ざった結果であるということだろうか。
それとも自分が知らないバージョンや、fragment時代のものという可能性もある。

「うぉおとっとととと! 危ねえ危ねえ」

クリキンの叫びでワイズマンは身を硬くし、若干引きつった苦笑を浮かべた。
色々と身の危険は感じるがこれはこれでスリリング……とまでは流石にいかないが、それでもこうしてマク・アヌをバイクで走るのは中々気持ちがいい。
感覚としてはプチグソの騎乗を発展させたものに近く感じられた。あれより少し荒っぽいが。

「大丈夫か? キングボルト」
「お、おう。大分慣れて来たぜ。たぶん何とかなるだろう」

少し強がりが混じっているようにも思えるが、しかしこの分なら夜明け頃には目的地のF-4に辿りつけるだろう。
時間が限られている以上、この短縮は大きい。
あとはこれでイレギュラーが起きなければいいのだが。

「む?」

その時、ワイズマンは視界に何か妙なものが混じったことに気が付いた。
夜の街の中、高速に動く何かがあったような
運転に集中しているクリキンを尻目に、周りを注意深く見渡してみると――

884縦横無尽のエージェント・スミス ◆7ediZa7/Ag:2013/07/15(月) 01:16:51 ID:KYXszNIk0

「あれは……!」

ターボばあちゃん、という都市伝説がある。
ある夜高速で飛ばしていた車が、ふと隣を見るとそこに並走して走る老婆の姿がある。そんな現代妖怪である。
その絵面がどこか奇妙かつシュールであり、聞いたもの何ともの居ないインパクトを残す。それ故に人々の間に囁かれるようになったのだろう。
これには様々な亜種が存在しバスケしながら並走する老婆、棺桶をかついで走る老婆、ホッピングに乗った老婆、等々多岐にわたる。老婆でなく老爺や少女の場合も存在する。
現代妖怪においてはポピュラーな存在であるそれだが、共通しているものは『高速で走る車』と『並走する人間』である。

ワイズマンが思い出したのは、その都市伝説であった。

「どうした? ワイズマン」
「いや……あれは!」

バイクと並走する黒服の男が居た。
ソイツは奇怪に高速化されたモーションで腕を振り、バイクと並んで走っている。
黒いサングラスが夜の中不気味に光り、その異様な印象を強めている。

視線に気付いたのか、黒服は首だけをゆっくりと動かし、そしてワイズマンを見てニィと口元を釣り上げた。そのシャカシャカしたランニングフォームを崩すことなく。
奇妙な間があった。
ワイズマンは何も言えず、ただあんぐりと口を空けたままであった。

(いや……)

だがしかしすぐさま冷静さを取り戻したワイズマンは、素早く思考を回転させる。
目の前のターボ黒服。これは恐らくその手のスキルなのだろう。アプドゥのような移動速度を上げるスキルはそう珍しいものではない。
だからそう驚くことではないのだ。あまりに唐突だったが故に思考を固めてしまったが。そう驚くことでは。

問題はそこではない。そこではなく――

「キングボルト!」
「何だ?」

――この黒服が明らかに危険な、獰猛な笑みを浮かべていることなのだ。

「敵だ! バイクの横に高速で走る男が――」

言い終わる前に、ワイズマンとクリキンは吹き飛ばされていた。
下から突き上げられるような衝撃が走り、世界が反転する。ワイズマンは上下逆さまになったマク・アヌの中に、大きな破壊の跡を見つけた。
それはあの黒服が素手で石畳を砕いた結果なのだ。その威力は二人のプレイヤーをバイクごと吹き飛ばす程であり、明確な攻撃である。

ワイズマンがそのことに気付くのと、視界が暗転するのは同時のことだった。







885縦横無尽のエージェント・スミス ◆7ediZa7/Ag:2013/07/15(月) 01:17:18 ID:KYXszNIk0
「ふうむ……こんなものか」

言ってエージェント・スミスは顎元を撫でた。
目の前には大きく罅割れた石畳と横たわるバイクがある。これほどの規模の破壊をただの人間では為せる筈はなかったが、彼は人間などではない。
様々なプログラムを吸収した今のスミスにしてみれば、この程度の破壊は赤子の手を捻るようなものだ。

「まぁさっさと終わらせてしまうとしようか」

自分は限りなく万能に近い存在となった筈だが、しかし今しがた襲撃した存在に該当するデータを自分は持っていなかった。

一方の老人の姿をした者はいささか奇怪な格好をしていた。ファンタジー映画にでも出てくるような魔法使い然とした格好だ。
まさか映画撮影最中の役者ということもあるまい。この街といい、本来ならマトリックス中にはあり得ない『現実離れした』存在だ。
更に奇妙なのが運転していたネジに似た何かだ。こちらに関しては全く謎であった。
マトリックス内では勿論、現実の戦争においてもあのような馬鹿げた姿の機械があった筈もない。

では一体何なのか。
彼らを見かけたスミスは一瞬の思案の末、結論を出した。
分からないのならば取り込めばいい、と。
誰にも縛られない唯一の存在として、自分は多くのプログラム――果てには人間まで――喰らってきた。
それと同じことを為せばいいだけだ。

「では奴らは……」

靴音を響かせスミスは周りを見渡すと、襲撃を受けた老人とネジがスミスから背を向け走り去ろうとしているのが分かった。
否、走り落ちようとしていた。

「ほう」

水が弾ける音がした。どうやら彼らが水の流れに身を任せ自分から逃げようとしているらしい。
成程、戦闘力や速度では自分には決して敵わない以上、その選択は賢明だ。
この街に張り巡らされてた水路は入り組んでおり、一度見失えば暗がりも相まって発見には中々手が掛かるだろう。
もしかすると逃げおおせる可能性も0ではないかもしれない。

そういう意味では最善の手ではあるだろう。だが所詮はその場しのぎでしかない。
スミスは口元を釣り上げ空を見た。そこにはあと少しで明けそうな、しかし未だ夜の闇に包まれた空があった。









886縦横無尽のエージェント・スミス ◆7ediZa7/Ag:2013/07/15(月) 01:17:41 ID:KYXszNIk0
必死に息を潜め流れに身を任せる。緊張と恐怖がないまぜになった胸の奥では、PCにはない筈の心臓が早鐘を打っている。
少しでも水面に顔出せば死に至るのではないか。死の恐怖が巨大な圧迫感となって頭上から降ってくる。
見ればクリキンもまた目を見開き恐怖を示している。その瞳はデフォルメされていながら、その戦慄を確かに示していた。

たった今遭遇した圧倒的な何か。あれと相対してはいけない。そうワイズマンは直感的に判断していた。
あれは同じステージに居ない者だ。レベル差が付きすぎているとか、そういった次元ではなく、あれは完全に違うシステムの俎上にあるもの――かつてThe World蔓延っていたウイルスバグやモルガナの使いたる八相の類だと思われた。
それらを倒すには同じく仕様外の力を持ってしてでなければならず、ワイズマンのような通常プレイヤーでは戦うことすら不可能であった。
そんな存在をこうして参加者として同じ舞台に立たせてしまえば、もはやゲームとして成立しないではないか。

ギリギリの判断で即死は免れたが、何時またアレに襲撃されるかは分からない。
そうなれば専用装備を持っていない自分では何もできずにやられる他ない。

(……ぐっ)

甘かった、とワイズマンは歯噛みする。
危険人物との接触は覚悟していたし、想定の範疇だった。
だが、それがあんな規格外だとは全く想像していなかった。

ワイズマンは水に呑まれつつも必死に思考を回転させようとする。
だがそれよりも早く息が詰まる苦しみが胸の奥からせり上がってきた。
現実の身体でない以上、それはあくまで仮想的な苦しみに過ぎないのだが、しかし今はこれが現実である。
ワイズマンは耐えきれず、自ら顔を出し必死に息を吸った。水が口元に入り込む感覚が走る。

(これは……)

そうして息を落ち着かせると、徐々に思考も回り始めた。
混乱から冷め、ある程度周りを見渡す冷静さが返ってくる。
前にあったのは広大な草原だった。巨大な水路を隔てマク・アヌの街の向かいにそれは広がっている。少し横を見れば、港に船が泊まっており、その向こうには大きな橋が架かっていた。
見たところ街の外に出たらしい。水路に流れていった結果、ここまで辿り着いた訳だ。正確な位置までは分からないが、とにかくあの男に見つかることなくここまでやってこれたようだ。

「ま、撒けたのか……?」

隣でクリキンも水上まで浮かんできていた。その声は震え、事態を呑みこみ切れていないことが伝わってきた。
しかしネジにも呼吸が必要なのだろうか。

887縦横無尽のエージェント・スミス ◆7ediZa7/Ag:2013/07/15(月) 01:18:02 ID:KYXszNIk0

「とりあえずあの黒服の姿は見当らないが……」

慎重に周りを見渡しワイズマンは言う。周りにあの黒服はいない。少なくとも今は。
二人は一先ず近くに泊まっていた船に上ることにした。
一刻も早くマク・アヌから脱出した方がしたい心持でもあるが、しかし草原に出てしまえば発見される可能性が高まる。
そういった観点からも今後方針を練りたかった。休息の意味合いもある。

(この船もどうやら私の知るマク・アヌのものではないようだ)

船に上がったワイズマンは鉄でできた甲板を踏み鳴らし、クリキンと向かい合った。
彼は常に周りを警戒するように視線を送っている。ワイズマンも少しは落ち着いたとはいえ、あの時の恐怖は未だ拭い去れなかった。

「……とりあえず近くには誰もいねえな」

あくまで船から見える範囲ではあるが、マク・アヌの街に人影は見えなかった。
ワイズマンもそのことを確認すると、ふぅっと息を吐いた。この分では本当に撒けたかもしれない。
空を見上げると、大分明るくなっていた。夜明けも近い。できれば夜の内に活動したいところだ。

「む?」

その時、ワイズマンは見た。
黎明の空にぽん、と浮かぶ黒点を。
それは白み始めた夜空に置いて不可思議に浮かび上がり、そして徐々に大きくなっているようでもあり――

「あれは……!」

――サングラスを掛けた白人でもあった。
空から降ってきた白人は真直ぐと船目掛け墜落し、轟音と共に船を破壊した。その様はまるで宇宙から飛来する隕石のごとく。
ワイズマンは物理的な衝撃を受け、海へとその身を投げ出した。












複雑に入り組んだマク・アヌの水路を追うのは難しい。
しかしそれは一面的に見た場合のことだ。
ある程度行き着く場所は予想できるのだから、それをより大きな視点で眺めてやればいい。
具体的には、空中から。

そう判断したスミスは地を蹴り、空彼方まで跳び上がり、そして船に辿り着いたワイズマンとクリキンを発見したのだった。

無論、そんな手段があろうとは、クリキンもワイズマンも想像できる筈もなく、よしんば想像できていたとしても、もはや手の打ちようがなかった。
それほどまでにスミスの存在は規格外なのであった。

888縦横無尽のエージェント・スミス ◆7ediZa7/Ag:2013/07/15(月) 01:18:30 ID:KYXszNIk0


だがしかしこの場にはそのスミスにも全く知らない、未知の力というものがある。
そういう点でいえば彼もまた一参加者に過ぎないのだ。他のプレイヤーと違い特権的なものを得ている訳ではない。
他の仮想現実で為されていた情報は持っておらず、その中には当然全く想定外のものも存在する。
たとえばそれは《史上最強の名前を持つ男》の……









足場が破壊され、ワイズマンとクリキンは再び水の中へと叩き込まれた。
吹き飛ばされた衝撃が痛みを身体に伝え、同時に視界に浮かぶ黒服が死の恐怖を煽った。
声にならない悲鳴が漏れた。何とか冷静に打開策を考えようとするが、しかし思考が散乱しまともな形を取ることはない。

「チャンスだな!」

そんな中、ワイズマンはクリキンがそう叫ぶのを聞いた。
何がチャンスなのだ、と問いかけたくなるが、言葉が出ない。
しかし、彼は自信を滲ませた声で、

「見てろ。敵は墓穴を掘った」

そう高らかに叫びクリキンは船の残骸へと這い上がった。
そしてぴょーんと高く高く跳躍し、

「敵がご丁寧にも用意してくれるとはな!
 いくぞ金属ども、俺色に染まれ! 《メガマシーン・アウェイクニング》ウゥゥゥゥゥゥ!」

声高に己の必殺技を宣言した。
途端、彼の身体に煌びやかな光が集束し、オーラとなってその身を包む。
呆気に取られるワイズマンを尻目に、クリキンは己の真の力を解放する。

《ストロンゲスト・ネーム》 クリムゾン・キングボルト。
遠距離からの高火力攻撃を得意とする《赤》のデュエルアバターの中にあって、一時期は彼こそが最大にして最強の火力を持つとされていた。
それも《赤の王》であるスカーレット・レインの出現するまでの話であったが、しかしそれでもレベル7にして彼は最強レベルの火力を有していたのだ。
無論、それは極々厳しい条件を満たさねば発動できない。しかしその条件さえ満たせばまず自陣の勝利は確実という、実に極端な性能を持つデェエルアバターである。

そしてその条件とは『大量の金属オブジェクト集めること』であり、今しがたスミスが船を破壊した結果、海域には相当数の金属片が浮かんでいる。
ワイズマンの知らない、R:2時代になってから導入された蒸気文明の技術で作られた(という設定を持つ)船の残骸とクリキンは

889縦横無尽のエージェント・スミス ◆7ediZa7/Ag:2013/07/15(月) 01:19:07 ID:KYXszNIk0

「これが巨人――あまんちゅって奴だ!」

合体した。
まるで磁石に吸い寄せられるがごとく、金属片が浮かび上がり、その身体を包み込んでいく。
そうしてネジを巨大な足が生え、逞しい腕が生え、燃えるような赤さを湛えたメタリックボディを形成、最後に本来のクリキンに似た頭部がこしらえられる。
その様はまるで――というか完全に巨大ロボットの合体シーンであった。
ワイズマンはそのロボットを呆気に取られながら見上げた。

「ほぅ」

対するスミスはうろたえることなく、どこか楽しみさえ滲ませそう漏らした。
彼は今、船の残骸の上に乗り、巨大ロボと化したクリキンを見上げている。そのサイズ差はまさに巨人とただの人である。

クリキンは両眼に鋭い光を灯すと、両手をスミスへと向け、その十本の指から機関砲を掃射した。
同時に両肩からは三連装ミサイルを放ち、更に胸部から現れた大口径カノンが火を吹く。
クリキンは全弾発射をスミスに叩き込まんと、その力を解放し続ける。
周り一体は文字通り火の海と化し、ワイズマンは必死にその火花から逃れようと水中内でもがいていた。
味方さえ巻き込みかねない攻撃だが、しかし彼は期待を込めた表情でクリキンの攻撃を眺めた。
絶望的だと思っていた局面で彼が見せたこの力。あの黒服でも、これをまともに受ければただでは済むまい。

「やったか!?」

煙幕に包まれた海を見て、クリキンが漏らした。辺りには火薬の強烈な臭いが漂い、その攻撃の凄絶さを示した。
並大抵の耐久力ではこの一撃を受け切ることはできないだろう。
元よりクリキンのデュエルアバターとしての強さはこの形態に全て注ぎ込まれているといっても過言ではない。
極端な性能を持つが故に、限定的には最強。そういった強みを持つデュエルアバター。
その筈だった。

「なるほど、実に興味深いプログラムだ」

瞬間、煙幕の向こうより黒服が飛び出してきた。
服は煤に汚れてはいるものの、その身に傷はない。
空高く跳躍してみせた彼は勢いに任せ、巨大ロボの頭部へ痛烈な上段蹴りを放って見せた。

轟音を立てクリキンの巨体が沈んでいく。蹴りつけただけで、いとも、簡単に。
同時にロボの中心部からクリキンが排出された。その両目が危険を指し示すように明滅している。
ワイズマンは目を見張る。まさかあの銃撃を全て避けきったとでもいうのか。

「はっ」

そう吐き捨てるように言って、黒服はネジへ戻ったクリキンの身体を掴みあげた。
頭部を失ったロボの上で、黒服は彼にトドメとばかりに殴りつけた。厭な金属音が響く。
そして、哀れそのネジは霧散していった。
それを見た黒服は幾分つまらなさそうに、

890縦横無尽のエージェント・スミス ◆7ediZa7/Ag:2013/07/15(月) 01:19:28 ID:KYXszNIk0

「少しやり過ぎてしまったようだな。完璧に殺してしまうと消えてしまうようだ。
 全く面倒な空間だよ、ここは。だがまぁ――」

黒服がそこで言葉を切り、不気味な笑みを浮かべマク・アヌの海を見た。
そこには呆然とするワイズマンの姿があり、

「まだ一人いるようだな」

彼はそう言って笑って見せた。
その笑みを見た瞬間、ワイズマンの中で何かが折れるのが分かった。













「ふむ……このデータは」

夜が明けたマク・アヌをスミスは靴音を響かせ歩いていた。
今しがたの戦闘で得たデータ。それは中々に興味深いものだった。

ワイズマン/火野拓海という少年のデータ。
それに付随して見られるスミスが知らない全く未知の情報群。
こんなものが存在することに、スミスは驚きを禁じ得ないでいた。
マトリックス内のプログラムは、ほぼすべてを取り込んだ筈だ。にも関わらずこんなデータがあることは全く匂わされておらず、全く以て不可解だ。
それともこれもまたアーキテクトの掌の内とでもいうことか。

「少し考える必要がありそうだな」

スミスの隣で声がした。
見ればそこには全く同じ黒服を纏った男、スミスが居る。
彼に対しスミスは「ああ」と絶妙にタイミングで相槌を打つ。

「しかし何にせよ、目的は変わらない」
「確かにそうだ。しばらくは他のプログラムを取り込んで行けばいい」

そう二人のスミスは言葉を交わす。
際限なく、あらゆるもの全てを取り込む為に。

夜明けの街に、二つの靴音が不気味に響いていた。


【クリムゾン・キングボルト@アクセル・ワールド Delete】
【ワイズマン@.hack 上書き】



【F-3/マク・アヌ/1日目・早朝】


【エージェント・スミス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:ダメージ(中)、二つの身体。
[装備]:無し
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜3
[思考]
基本:ネオをこの手で殺す。
1:殺し合いに優勝し、榊をも殺す。
2:シノンは出来れば、ネオに次いで優先して始末したい。
[備考]
※参戦時期はレボリューションズの、セラスとサティーを吸収する直前になります。
※ネオがこの殺し合いに参加していると、直感で感じています。
※榊は、エグザイルの一人ではないかと考えています。
※このゲームの舞台が、榊か或いはその配下のエグザイルによって、マトリックス内に作られたものであると推測しています。
※ワイズマンのPCを上書きしました。

891名無しさん:2013/07/15(月) 01:19:50 ID:KYXszNIk0
投下終了です

892名無しさん:2013/07/17(水) 20:58:57 ID:3.FRK8hM0
投下乙です

もしかしたら何とかなると思ったら二人とも駄目だったか
スミスつえええええっ!
そして上書きでの増殖とかおまw
これはヤバすぎるw

893名無しさん:2013/07/17(水) 23:13:21 ID:FHFehf/I0
クリキンーーーッ!!!???
ワイズマンは…まだこれワンチャンあってほしいなぁ
スミス氏マジ災厄。シノンもよく逃げれたよなー

投下乙でした

894 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/19(金) 02:11:12 ID:rjtzS5zI0
投下します

895霞む記憶の中に見上げた横顔―― ◆7ediZa7/Ag:2013/07/19(金) 02:13:28 ID:rjtzS5zI0
「ああ……どうもありがとう」

森の中で出会ったその男は死に瀕しているように見えた。
暗がりにうずくまり、苦しそうに何かを漏らしていた。艶のある長い銀髪が地面に垂れその身に合せ細かく震えていた。
行き合ったその様子があまりに儚く、そして危うかったのだ。


…………。
ダン卿との一件からしばらく経った頃。
新たに訪れたこのエリアを進んでいる最中に彼を見つけ、こうして話している。
この広大な森の中で彼を見つけられたのは、一重にサチのナビゲーション能力によるものだ。

聞くにエンデュランスという名であるらしい彼は、第一印象通り危うい人間のようだった。
端正な顔立ちを感極まった表情に歪め、彼はカイトへ告げた。

「ああ……、本当にありがとう。君と会えてよかった。カイト――に似た人。
 君が何なのかは良く知らないけど、でもいいんだ。マハ――ミアが居たんだろう?
 なら、それでいい。それで……」
「ド#%」
「どうも、だそうです」

偶然出会った彼はなんとカイトの知り合いであったらしい。
カイトが居た元の世界では長らく敵対関係にあったという彼だが、二人の間に特にわだかまりは見えなかった。
本来ならばこうして摩擦なしにコミュニケーションが取れたことを喜ぶべきことなのだろうが、しかしどうもエンデュランスが持つ「危うさ」に目がいってしまう。

(うむ、何とひょろっちい優男だ。余が少し力を出せば誤って手折ってしまいそうな柔さではないか)

耳元でセイバーの声がした。
当初は実体化していた彼らだが、流石に動く度に音がする森では霊体化してもらっている。基本可能な限り戦闘は避けていく方針な訳であるし。

(さっすが脳筋ヒロイン、言うことが違います。か弱い乙女であるところの私じゃあり得ない発言です)

次いでキャスターの声も響いた。
……聖杯戦争の合間を縫って日夜拳のトレーニングを積んでいた貴方が言いますか。
思わずそう返したくなるが、ここはぐっと我慢である。この場で去勢拳なぞ食らう訳にはいかない。
今後男性アバターに戻るようなことがあれば十分に気を付けよう。

896霞む記憶の中に見上げた横顔―― ◆7ediZa7/Ag:2013/07/19(金) 02:14:03 ID:rjtzS5zI0

(まぁでも確かにこのビジュアル系イケメンさん。なーんか危ういんですよねー。危ういっていうか、危ない?
 そこはかとないヤンデレ臭がします。私のメル友とちょっと似てますねー)

キャスターの印象も何となく分かる気がした。
このエンデュランスという男は、どことなくあのピエロ――ランルーくんに似たものを感じるのだ。
無論、碌なコミュニケーションが取れなかった彼女とは違い、彼は常人の域には十分あるとは思う。
だがしかし、その思いの方向性には似たものを感じるのだ。

「ありがとう」

エンデュランスは今、自分たちにひざまずきひたすら礼を述べている。
それは彼を保護したからではない。彼は何も命の危険に瀕して倒れていたのではないのだ。

「本当にありがとう。これでミアに会える」

そう。
死んだように倒れていた彼だったが、しかしカイトがミアーーありすと共に居たあの猫のことを告げた途端、弾けるように身体を起こし、目を輝かせて礼を始めたのだ。
その情緒不安定さが危うくもあり、そして危ないと思わせる原因だ。

その後、情報交換を始めたが、聞くにエンデュランスは自分たちの他にはまだ一人しか出会っていないらしい。
黒いロボットのようなアバターに襲われたと聞く。撃退には成功したらしいが、しかし倒すまでにはいかなかったのだという。
まだ近くに居るかもしれないその危険人物のことは頭に留めておくとして、こちらからもエンデュランスにアメリカエリアの情報を告げておく。またこれからエリアを横断し、馴染みのある月海原学園に向かうことも。
それをエンデュランスは茫洋とした表情で聞いていた。どうにも興味なさそうだった。ミア、のこと以外には非常に淡泊な反応だ。

「ああ、あともう一つ……カイトのような人、ハセヲは見なかったかい?
 彼は、彼がどこに居るのか分かるかい?」

不意にエンデュランスがそう言ってカイトへ詰め寄った。その様子には鬼気迫るものが感じられる。
カイトは黙って首を振り、それを見たエンデュランスは俯き「そうか……」と弱々しく漏らした。
どうやら彼にとってハセヲ、という参加者もミアと同様に重要なようだ。

(ハセヲ、か。最初の場であの男が言っていた名だな。
 確かPK100人斬りを成し遂げた伝説のPKKということだが)

アーチャーの落ち着いた声が響いた。
ハセヲ。最初の空間、開幕を告げる場所で確かに聞いた名だ。どうやらあの榊という男と因縁があるらしいPKK。
PKというのは慎二から聞いた記憶がある。ネットゲームに他のプレイヤーを襲うプレイヤーだという。
となればPKKというのは、そのPKを襲うプレイヤー、という訳か。

897霞む記憶の中に見上げた横顔―― ◆7ediZa7/Ag:2013/07/19(金) 02:14:25 ID:rjtzS5zI0

話だけ聞くならば完全に危険人物であるが、カイトやエンデュランスの知り合いということを考えると、あながちそういう訳ではないのかもしれない。
同じようにエンデュランスが入れ込んでいるミアにしたって、謎めいた存在ではあったが、自分たちを助けてくれたのだ。
詳しく話を聞くべく口を開こうとしたが、

「……じゃあ、僕は行くよ」

しかし、エンデュランスはもう用は終わったとばかりに去ろうとしていた。
その足取りはふらふらとしたものであったが、同時に妙な迷いのなさも感じさせた。

「もう行ってしまうんですか?」

サチが呼びかけると、エンデュランスは首だけをこちらに向けて、

「ああ、急がないと、ミアがまた遠くへ行ってしまうからね。立ち止まっている時間はないんだ」

そう告げて、再び歩を進め始めた。
その背中は儚げではあったが、しかし有無を言わせぬ拒絶の意志も感じられた。

……引き留めるのは無理か。
そう思い、あとで月海原学園で合流しよう、とその背中に告げた。エンデュランスは振り向かず手を上げて了解の意を示した。
これで運が良ければまたあとで会える筈だが……

「アアァァァ……」
「マハの碑文を持っている彼は強いから大丈夫、とカイトさんは言っています」

正直危険人物が居ると分かっているエリアに、彼を単独で向かわせることに躊躇はあった。彼の探し人が危険人物――ありすと同行している可能性が高いとなれば猶更だ。
とはいえ彼自身も結構な実力者であるらしい。
マハ、というのは先ほどのカイトはミアに対しても言っていた単語だ。
その碑文をエンデュランスは持つと言うが、二人の関係性にもあとでカイトに聞いておきたい。ハセヲという参加者のことも併せて。

(不安か、マスター? 何なら、私が張り付いて監視するというのも手だが)

思考を読んだのか、アーチャーがそう提案してきた。
少し思案した末、首を横に振る。彼は先ほどまでほぼ限界まで単独行動していた身だ。またすぐに単独行動するのは魔力面でリスクがある。
またここで下手に別れて合流できなくなるのは避けたい。ここはエンデュランスの幸運を祈る他にないだろう。

そう思ってエンデュランスを見送ったが、しかし、彼の姿はやはり見ているこちらが不安にほど儚げであった。
何がそう思わせるのか、その言動所作全てが死に惹かれているかのような、そんな危うさを彼は湛えているのだった。

898霞む記憶の中に見上げた横顔―― ◆7ediZa7/Ag:2013/07/19(金) 02:14:54 ID:rjtzS5zI0











「ミア……ミア……」

森の中を出るべく、エンデュランスは一人歩を進めていた。
夜は何時の間にか開けていた。夜明けが来たのだ。トワイライトに秘められたもう一つの意味。夜明け。

「また、会えるんだね。本当に……」

憑りつかれたかのように彼はぶつぶつと呟きを漏らしている。
その脳裏に過るのは、かつての思い出だ。
彼がエンデュランスでなく、エルクとしてThe Worldを旅していた頃の思い出。

何も取り柄がなかったエルクと、ミアは優しく遊んでくれた。
一緒に冒険して、一緒にエノコロ草を集め、一緒にお話しして、ずっと一緒だった。
カイトが来てからは様子がおかしくなったりもしたけど、でもミアはエルクを一人にしないでくれた。

「ああ……」

エンデュランスは一人身悶えた。流れゆく思い出の誘惑は、あまりにも蠱惑的で彼を離さなかった。
エルクは既に二度ミアを喪っている。
第六相『誘惑の恋人:マハ』として覚醒した彼女は、カイトによって討たれた。
それが初めの喪失。しかしその後、ミアは真っ新な状態で復活した。彼女は全てを忘れてしまっていたが、帰ってきた。それだけでエルクにとっては十分だった。
しかし、二度目の喪失がやってきた。
かつてのThe Worldが崩壊することになったあの事件。そこでミアはThe World諸共死んでしまった。
それがエルクを、一ノ瀬薫をどん底に突き落とした。

そこを、エンデュランスとなった彼はAIDA猫に付け込まれた。
それを救ったのがハセヲであり、彼は過去と決別した筈だった。
しかし何の因果か彼と彼女は再び会おうとしている。
その結果、何が起こるのか、そもそも何がしたいのか、彼自身分かってはいない。
でも、ひたすらに歩いた。この森を抜ければ彼女に会える。そんな気がして。

899霞む記憶の中に見上げた横顔―― ◆7ediZa7/Ag:2013/07/19(金) 02:15:15 ID:rjtzS5zI0


【E-7/森/1日目・早朝】

【エンデュランス@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、憑神暴走
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:「愛する人」のために戦う
1:???
2:アメリカエリアに居るというミアに会いに行く。
[備考]
※憑神を上手く制御できていません。感情が昂ぶると勝手に発現します。

【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康、魔力消費(中)、令呪:三画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/女性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、女子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:男子学生服@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:月海原学園に向かい、道中で遭遇した参加者から情報を得る。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:ありす達に気を付ける。
5:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
6:ダンたちにも気を付ける。
7:エンデュランスが色んな意味で心配。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、アーチャー(無銘)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:健康
[ステータス(Ar)]:健康、魔力消費(中)
[ステータス(Ca)]:ダメージ(小)
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
 学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと三分程度です。
※アーチャーは単独行動[C]スキルの効果で、マスターの魔力供給がなくても(またはマスターを失っても)一時間の間、顕界可能です。
※アーチャーの能力は原作(Fate/stay night)基準です。


【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:ダメージ(小)、MP70/70、『痛み』に対する恐怖/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:セグメント3@.hack//、基本支給品一式
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
1:ハクノさんに協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。


【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:ダメージ(中)
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。

900 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/19(金) 02:16:48 ID:rjtzS5zI0
投下終了です

901名無しさん:2013/07/19(金) 23:25:56 ID:hpUdhKAs0
投下乙です

とりあえずは混乱は起こらなかったがエンデュランスの危うさは感じ取れたか
次に出会う相手次第かもなあ

902 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/20(土) 01:30:45 ID:JjuaeW1c0
ん? すいません、何故か地の文でユイがサチになってますね
wikiで直しておきます、

903 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/26(金) 22:38:25 ID:fFdmmOzo0
投下します

904夜明けの生徒会 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/26(金) 22:40:29 ID:fFdmmOzo0
辿り着いたのは丁度夜が明ける頃であった。
この空間は朝特有のこざっぱりした空気まできっちりと再現しているようで、校舎を見上げるハセヲの頬を幾分湿り気を含んだ風が撫でる。
うん、と伸びでもしたくなるような爽やかさだ。まるで現実に居る時と遜色がない。
だがそれ故にこうしてゲームのPCでいることへの違和が際立っているともいえる。
そんな複雑な心地を抱えながら彼が目の前に建つ校舎――月海原学園を見上げると、

「着きましたね! では今日も元気に登校しましょう」

前を行くレオがそう朗らかに言ってビシリと指を立てているのが見えた。
橙の制服に身を包んだ彼の顔には楽しげな微笑みが浮かんでいる。妙に楽しそうだ。
その後ろではガウェインが「はっ」と慇懃に答え、サイトウトモコは大きく頷いて赤いツインテールを揺らしてみせている。

「おや、ハセヲさん、返事がないですね。体調でも悪いのですか?」
「……あー、いや何でもない」

もしかして自分のノリの方がおかしいのではないかと一瞬疑ってしまったハセヲであったが、しかしそんな訳もないと思い直し、さっさと学園へと足を踏み入れることにした。
特段特徴もない校門を抜けた先にあったのは、やはり特に見るべき点のない学校風景であった。
そこそこ程度に広いグラウンドに、三階建ての校舎、奥に見える体育館らしき建物、と見覚えのある施設が並んでいる。
先の梅郷中学校のどこか近未来的なものと違い、その造りはハセヲの知るものと遜色ない。時間も相まって、本当に登校してきたと錯覚しそうである。

「ここがお前の知ってるっていう月海原学園なんだな?」
「ええ、僕の知る月海原学園に間違いないようです。ここで僕らは戦っていました」

そう語るレオの横顔には微笑みが浮かんでいる。その中に含まれた感情までは読めなかった。

(戦っていた、か)

学園へ到る道中、彼らは己の持つ情報を交換し合っていた。
この空間に呼ばれる前のことも含め、自分たちの置かれた状況を確認しなくてはならない。
レオの提案で行われた一連の情報交換であったが、その結果ハセヲの想像を越える事態が浮かび上がってきた。

(未来人……いや異世界人。マジかよ、それ)

話を始めた矢先、すぐに各人の持つ常識や知識に大幅な齟齬があることが分かったのだ。
ハセヲはレオの言う西欧財閥の存在など知らなかったし、トモコの言うニューロリンカーなどという技術は未だ実用化されていない筈だった。
語れば語る程、その齟齬は大きくなっていた。何より決定的なのは時代が違ったことだ。
ハセヲには理解ができない事態ではあったが、レオはしかし何か得心が行ったように結論を下した。
自分たちは別の世界から呼ばれている、と。

905夜明けの生徒会 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/26(金) 22:41:12 ID:fFdmmOzo0
「まさかまたここにこうやってやってくることができるとは。
 いやぁ、登校の喜びというものには青春を感じますね、青春」

レオは楽しげな様子で学校内を見渡しているが、彼にしてみればこの学園もまたバトルロワイアルと変わりない、殺し合いの場であった筈だ。
聖杯戦争の名を冠された128人のハッカーによる命を賭けたトーナメント。その決勝で敗れてこの場に呼ばれたというレオの話を、ハセヲは何と受け止めればいいのか分からなかった。
信じ難い、と思いはするが、それでも彼が嘘を言っているようにも見えないのも事実だ。それにその仮説ならば梅郷中学校の施設周りの妙な先進性にも納得がいく。

「ハセヲお兄ちゃん、行きましょう?」

下からトモコの声がした。
ハセヲは「ああ」と適当に返事をした後、レオとガウェインに着いていく。

その梅郷中学校に縁があるというトモコは、異世界だという話を聞いても一見して取り乱した様子はなかった。
そもそも理解が行っていないのかもしれないが、特に疑問を呈するということなくレオの話を呑みこんでいるようであった。
その落ち着きには三人の中で最も未来の時間軸であるということも関係しているのだろうか。各人の言う西暦が同じ西暦であるならば、という話ではあるが。

何にせよ、現時点ではどうしようもない話ではある。
後々重要になってくるだろうにせよ、今は深く考えることではないだろうとハセヲは思考を打ち切った。
今は分かること、できることから順次やっていくべきだろう。

「随分と荒れてんな。この中」
「そのようですね。どうやらここで既に一悶着あったみたいです」

校舎内に入ると、床にちらばった瓦礫やガラスの山が目に入った。
入り口近くの教室の窓は何かに爆撃されたかのように吹き飛び、その破壊の跡を晒している。
ハセヲは辺りを警戒し見渡した。事情は分からないが、とにかくここで戦闘があったことは確かなようだ。危険なPKがまだ近くに潜んでいるかもしれない。
レオやトモコもそれを察したのか、しばし緊張した沈黙が場に流れる。

「……どうやら近くにはいないようですね」

何も起こらなかったことを確認し、レオがそう漏らす。ハセヲもまたふぅと息を吐いた。
幸いにして自分たちは未だ危険人物と遭遇していないがこの場の危険性は理解しているつもりだった。
レオは破壊された教室の窓に近づき、跡を調べ始める。

「まだ僅かに熱が残っています。この破壊はどうやら少し前のもののようだ。
 となると既に攻撃者が学園を去っている可能性もありますね」

一通り分析を終えたらしいレオは腕を組み考える素振りを見せた後、

「そうですね。とりあえず二階の図書室に行きましょう。施設機能的にも見ておきたい場所でありますし。
 ――破壊されていなければ、ですが」

レオの言葉通り図書室に向かったところ、幸いにして特に荒らされた痕跡はなかった。
本棚が理路整然と並び、柔らかな絨毯が敷かれている。受付にはNPCだという生徒の姿があった。
置かれた本のオブジェクトは、内容データまでしっかりと用意されているらしく開けば現実と同じく読むことが出来た。
それらの山を横目に再び彼らは机を挟んで向かい合う。ガウェインは相変わらずレオの後ろに寄り添って立っていた。

906夜明けの生徒会 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/26(金) 22:41:48 ID:fFdmmOzo0

「さて、とりあえずこの学園を当面の拠点としていく方針です。
 配布されていたテキストによればもうすぐここは戦闘禁止エリアに指定されるようですし、突然襲われる心配もありません。
 何より僕にとっては慣れた場所だ。状況が整い次第あれこれ弄ってみるつもりです」

そのことに異論はなかった。
条件的には確かにこの場が拠点として最良といえるだろう。
とはいえずっと閉じこもっている訳にもいかない。こちらから能動的にアクションを起こしていかなければ事態は解決しないだろう。

「で、俺は何をすりゃいいんだよ」
「流石ハセヲさん。雑用係の鏡です。仕事がしたくてウズウズしている顔をしていますね!
 安心してください。まずはこの学園内の探索ですが、それが終わり次第貴方にはきびきびと働いて貰うつもりですから」
「…………」

もはや何も言う気にはなれなかった。慣れとは恐ろしい。
思えばG.U.でも八咫の無愛想な態度に何時の間にか慣れていた。あれはあれで大いに不満であったが、こうフランクに命令されるのも何だか厭なものだ。
脱力するハセヲを尻目にレオは話を続ける。

「ではまずこちらを見てください」

言って彼は手元に画像を出現させた。現れたのはハセヲにも配布されていた地図データだ。

「……そんな風に出力できたのか」
「ええ、【設定】で仕様を変えてやればできるみたいですよ。
 そしてここからが見どころです」

そう言ってレオが何やらウィンドウを操作すると、地図上に奇妙なアイコンが現れた。
銀髪に黒い鎧、そしてこの世の何がそんなに憎らしいんだと言いたくなるようなキツイ目付き。
上手いんだか下手なんだか分からないタッチで描かれたそのアイコンは、どうみても二頭身にデフォルメされたハセヲであった。

「……何だコレ」
「はい、ちょっとデータを弄るのの練習台として試しに作ってみました。
 どうです? 一作目にしては結構上手くできているでしょう! ワクテカアイコンです!」
「ええ、レオ。これは中々彼の特徴を捉えています。特にこの目元が素晴らしい」

言葉を交わす二人を前に、ハセヲは無言で机に突っ伏した。
隣りでトモコが噴出しているのが見えた。

「で、ハセヲさんには生徒会の雑用係として少し遠出してもらいます。
 現在生徒会が出すことのできる唯一の戦力ですので、しばらくは忙しくなると思って下さい」
「お前は出ねえのかよ」
「ええ、僕は一先ず学園内にいるつもりです。ここでのシステム的な調査は僕が適任でしょう」
「それに力に劣る者が尖兵となるのは当然です」

ガウェインがさらりと厭味のようなことを言った。
悪気は別にないのだろうが、その爽やかな顔立ちから言われるとカチンと来るものがある。
レオもそのことを察したのか、ガウェインを軽く窘めた。かつての自分ならもしかしたら激昂していたかもしれないな、などと思った。
しかし実際の力量ではどうなのだろうか。先ほど一瞬だけ刃を交えたが、成程確かにその俊敏さ、剣の技には確かなものがあった。
それもその筈だろう。レオの言葉が事実ならば、彼はあのアーサー王の側近である。ゲームの設定などではなく、本物の。

907夜明けの生徒会 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/26(金) 22:42:19 ID:fFdmmOzo0

「あー分かったよ。俺が出向きゃいいんだろ」
「はい。ハセヲさんには他エリアの探索と、生徒会役員の勧誘をやって貰います。
 その際にルートとして考えられるのは2パターンあります。
 まずは南下してファンタジーエリアを調査してもらうルート」

そう言ってレオが手元を動かすと、地図上に赤い矢印が出現し、マク・アヌ、F-4の小屋、を弧を描いて通り月海原学園へと戻ってくる軌跡を描いた。
示されたルートを目付きの悪いハセヲアイコンが辿って行く。その際にご丁寧にも滑らかな歩行モーションまで用意してあり、無駄なところで労力を感じさせた。

「このエリアは人が多いと思われるので、他の参加者との接触が必然的に増えるでしょう。それが友好的であれ敵対的であれ、ですが。
 そしてもう一つはこちら」

次に表示されたのは月海原学園近くのゲートを通りウラインターネットへと赴く矢印であった。
一通りエリアを回った後、同じゲートから学園へ戻ってくるようになっている。先と同様にハセヲアイコンがその道を辿る。

「ウラインターネット、と呼ばれるエリアを調査してもらうルートです。
 ここは名前もですが他エリアと比べ位置的にも切り離され、少々特殊な立ち位置にあるようです。
 その為、エリアの詳細な探索をお願いしたい。
 ――とまぁ二つのルートを提示した訳ですが、ハセヲさん、貴方はどちらを先に行きますか?」
「そうだな……」

ハセヲは腕を組み、示された二つのルートについて考えた。
危険があるのはどちらも同じだし、そんなことは百も承知だ。
問題は、この選択が揺光や志乃と出会えるか否かに大きく関わってくるかもしれないことだ。
そう思うと判断が一瞬鈍らざるを得ない。選ばなかった方に彼女らが、という考えが脳裏を過る。

(落ち着け、これじゃ榊の思う壺だ)

どうしても彼女らのことに意識が行く自分に気づき、ハセヲは内心毒づいた。
どうせ自分に知りようがないことだ。闇雲に動いても意味はないと振り払い、口を開いた。

「……一つ目の南下するルートで行く」
「ではファンタジーエリアに行くと?」
「ああ、マク・アヌもあるしな。色々と見てみたいところでもある」

そう言うとレオは鷹揚に頷き、

「分かりました。では準備が整い次第ミッションスタートです。
 とりあえずの目安としては6時間程度でここに戻れるようにお願いします」
「分かった」
「あ、そうそう。途中、できればショップの調査もお願いします」
「ショップ?」
「ええ。マップ上に幾つか載っているアレですよ。あそこで何が売っているのかちょっと確かめて貰いたいんです」

そういえばそんなものもあったな、とハセヲは思い出し「了解」とぞんざいに答えた。

908夜明けの生徒会 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/26(金) 22:43:01 ID:fFdmmOzo0

「もしそこで何か欲しいものがあれば言って下さいね」
「金持ってんのかよ」
「ええ、ちょっとここに来る前に稼ぎまして。
 言って下さればハーウェイトイチシステムでお貸ししますよ」

レオはにっこりと笑みを浮かべた。
くれはしないのかと思ったが、その柔らかな微笑みの裏に何かただならぬものを感じたハセヲは曖昧に相槌を打つに留めた。大体なんだトイチシステムって。
とにかく安易にコイツに金を借りるのは止めておこう、と胸に誓っておく。

そうして一通り今後の方針を定めた後、レオはすっと立ち上がり、

「では生徒会活動を開始しましょう! まずは学校内の探索と掃除です」

そう宣言した。
その姿は先と変わらず溌剌とした、力強いものであった。









909夜明けの生徒会 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/26(金) 22:43:29 ID:fFdmmOzo0
その後の調べを経て、学園内には危険はないことが分かり、
あとのことはレオに任せハセヲは満を持して出撃することになった。
先ずは近くのショップに向かい、次にファンタジーエリアのマク・アヌを目指すことになる。

早々に後にすることになった月海原学園の門を背に、彼は目の前に広がるエリアを眺めた。
他の参加者と同盟は組み、拠点を構えることには成功した。これで効率よく動くことが出来る筈だ。
あとはこの場にいるという志乃と揺光を見つけ出し、榊を倒す。
そう強く心に決め、ハセヲは一歩外へ踏み出した。

「今度こそ」

歩み始めた先には光が昇り始めた空が在る。このデスゲームにも朝は来た。
夜明けの眩い日差しの下、ハセヲは拳を握りしめ言った。

「今度こそ、取り戻すんだ――全てを!」


  Mission Start
――Go to Dungeon――



【B-3/日本エリア・月海原学園前/一日目・早朝】

【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康/3rdフォーム
[装備]:光式・忍冬@.hack//G.U.
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない
1:この場にいるらしい志乃と揺光を探す
2:レオたちと協力する。生徒会についてはノーコメント
3:エリアを南下してマク・アヌ、小屋を通り仲間を集めつつ学園へ帰還する。
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前

910夜明けの生徒会 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/26(金) 22:43:49 ID:fFdmmOzo0







ハセヲが去った後、レオは二階のとある教室に居た。生徒会室(予定地)である。
先ずはこの部屋をしかるべき形に作り変えねばならない。ネームプレートを変えるのは勿論、誰がどう見ても生徒会室に見えるように室内を改竄する。
図書室を代用するのはもってのほかだ。生徒会室は生徒会室でなければならない。
その為にはレオが今まで培ってきた霊子ハッカーとしての全技術をつぎ込むことも厭わない。
どのようなレイアウトが最も生徒会室的だろうか。先ほど訪れた梅郷中学校の生徒会室を参考にするのも悪くないかもしれない。

「いやぁ、悩みますね」

そう笑みを浮かべていると、不意に教室の扉が開いた。
そこに居たのは赤いツインテールの幼い少女――サイトウトモコと名乗る人物である。

「レオお兄ちゃん」
「どうかしましたか?」

レオが微笑を張り付かせて尋ねると彼女は困ったように、

「人が落ちてるんです」
「人が……ですか?」

話を聞くに、今しがた校内に別の参加者が見つかったというのだ。
その男は学園内の庭園に横たわっていたのだとか。位置的に木に引っかかっていたらしく、先ほどの探索では見つからなかったという訳だ。
ダメージを受けた結果か彼は気絶しており、とりあえず教室に寝かせてガウェインが監視しているところだという。

「そうですね」

レオは少しだけ思案した後、

「保健室に運びましょうか。あそこなら施設が揃っていますしね。色々と」



【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・早朝】

【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP30%/現実世界の姿/気絶
[装備]:DG-0@.hack//G.U. (一丁のみ)
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:…………
2:『俺』が鬱陶しい
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。


『対主催生徒会』


会長:
【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:消耗(中)、令呪:三画 、528ポイント
[装備]:ダークリパルサー@ソードアート・オンライン、
[アイテム]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
1:理想の生徒会室を作り上げる。
2:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
3:ダークリパルサーの持ち主さんには会計あたりが似合うかもしれない。
4:もう一度岸波白野に会ってみたい。会えたら庶務にしたい。
5:当面は学園から離れるつもりはない。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP150%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。


副会長:
【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド】
[ステータス]:健康/通常アバター
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品0〜2、基本支給品一式
[思考]
基本:情報収集
1:一先ず猫被ってハセヲやレオに着いていく。
2:???
[備考]
※通常アバターの外見はアニメ版のもの
(昔話の王子様に似た格好をしたリアルの上月由仁子)


会計:空席
書記:空席
庶務:空席


雑用係: 【ハセヲ@.hack//G.U.】
※外出中

911 ◆7ediZa7/Ag:2013/07/26(金) 22:44:26 ID:fFdmmOzo0
投下終了です

912名無しさん:2013/07/27(土) 11:44:43 ID:aP5IR3uA0
投下乙です

この集団の掛け合いは面白いなあw
とりあえずは平穏ではあるがそこにジローが
そうか、ハセヲと分れて見つけたのはレオとレインかあ
一波乱あるかな?

913名無しさん:2013/07/27(土) 20:26:33 ID:pBf2Akj.0
この生徒会はかなり強力な対主催になりそう
そしてジローさん会計フラグ!?
頑張れ!

どうでもいけど、ジローさんシリーズの動画見たけどジローさん凄くイケメンだった
投下乙です

914 ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/29(月) 19:50:05 ID:XPKJY46o0
投下します

915死者たちのネットゲーム ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/29(月) 19:50:51 ID:XPKJY46o0
今しがた見てきた大聖堂は中々に楽しく、回った価値があったように思う。
月明かりの下に浮かぶ聖堂は不思議と神秘的でただならぬ雰囲気があり、外観を見ているだけ荘厳な観光地を見てきたかのような気分になれた。
まぁ中に入ってみると、生々しくテクスチャが剥がれた部分があり、ここがゲームだということを強調しておりいささか興ざめだったが、それでも面白い場所ではあったのだ。
そしてそれを堪能し、ユウキは次の場所へと向かっていた。

「さて、と。次はC-7の遺跡だけど、そろそろ見えてくるかな?」
開かれたマップと目の前に広がるフィールドを交互に眺めながらユウキは草原を飛んでいた。
妖精の羽を展開し、空を滑るように飛ぶ。風を切る柔らかな感触が心地よく彼女は笑みを浮かべた。
他の参加者に見つかることを危惧して高度はそこまでなく、感覚としては自転車に乗っているときとそう変わりはしなかった。
最も、そんなありふれたことでさえ、現実の自分には難しくなっていたのだが。

「うーん、位置的にはそろそろの筈なんだけど……」
そうぼやきながら飛んでいた矢先、それは不意にフィールドに浮かび上がってきた。

それは地上からまっすぐ伸びた巨大な塔であった。
根元には青白く光る水晶が乱立しその姿を浮かび上がらせており、逆に入り口付近は黒々とした闇で包まれていた。
そのどれもが、ユウキにとって見覚えのある造形であった。

「これだったかぁ……遺跡っていうよりは迷宮って感じな気もするけど」
ユウキの眼前にそびえ立つそれは紛れもなくかつて訪れたダンジョン――ALO27層迷宮区であった。
かつて《スリーピング・ナイツ》がその名を刻むために、たった七人でボス攻略に挑み、そして勝利した場所。
アスナと出会う切っ掛けにもなったこの迷宮を、ユウキは複雑な心境で見上げた。

「うーんでもここ知ってる場所だしなぁ」
観光目的。物見遊山の心地でいる自分としては、あまり見どころのある場所とは思えない。
いっそスルーしてしまおうかと迷ったが、

(まぁあの時のこと思い出すだけでも楽しいか)

そう思い直したユウキは一度中に入ってみることにした。
どの道そろそろ設定された滞空制限に引っかかる筈なので、一度降りなければならない訳だし。
更に考えてみれば、こうして再びALOのダンジョンに足を踏み入れることができるだけで、十分貴重でおかしなことではある。
何故なら自分はもう死んでしまっているのだから。

「……さてと」
ダンジョン入り口の闇へと身を潜らせつつ、ユウキは剣の柄を握りしめた。
この場に先の女剣士のようなPKが潜んでいないとは限らない。それにないとは思うが、かつてと同じくモンスターが配置されている可能性もある。
別にそれほど生には執着していないが、だからといって黙ってやられる気はしなかった。

そう思いある程度の緊張を持って中に入ったユウキであったが、その心配は杞憂に終わった。
中にはモンスターは愚か、人の気配は全くなかった。少なくともこの入り口付近には他のプレイヤーはいないようであり、静かなものだ。
それを確認したユウキはふっと息を吐き、中を進んでいくことにした。テカテカと光る天然の回廊のを足音を立て歩いていく。
そうしていると、意外に新鮮な心地になれることに気付いた。
何度も訪れた場所であるが、それには必ずモンスターとの戦いが付き物であり(RPGなのだから当然だ)こうして完全に景色を楽しむという目的を持ってダンジョンを進むのは初めてかもしれない。
自然界の洞窟を模したダンジョンはひゅうひゅうと風が通り気持ちが良い。気づいていなかっただけでここも結構綺麗な場所であった。

916死者たちのネットゲーム ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/29(月) 19:51:16 ID:XPKJY46o0

(死んでからその素晴らしさに気付く、なんてちょっとセンチメンタルかな)

ユウキはふふっと笑みを浮かべ洞窟を歩いて行った。
そしてしばらく続いた天然の洞窟が終わり、代わりに人工的な石畳に変り始めた頃、

「ん?」
彼女はふと何かを感じ取り、足を止めた。
それが何かは分からなかった。しかし、長年VR世界に身を置き続けた彼女は些細な違和感も拾い取ることができる。
どこから発せられるものか確かめる為、ユウキは目を閉じて耳をすませてみる。

「近くに誰かいる」
はっと目を開きユウキはそう呟いた。
そして慎重に足を進めながら、音がした方向へと近づいていく。
石造りの壁から、そっと顔を出してみると、そこには一人の女性が居た。

青い髪をした、眼鏡の女性であった。
アバターの外見設定はユウキより少し上だろうか。断言できないのは彼女のアバターがユウキのようなリアル等身でなく、所謂SD(スーパーデフォルメ)サイズのものだったからだ。
その少女はダンジョンの壁に立ち、何かをしている。指元の動きを見るにウィンドウを操作しているようであった。
彼女はその作業に集中しているようでユウキの気配に気づく様子はない。

(そうだなぁ……)

少し悩んだ末、ユウキは青髪の少女に声を掛けてみた。背中越しに「こんにちは」などと挨拶してみる。

「え? あ、うわわっ!」
すると彼女は肩をびくりと震わせ、驚きのあまりか前のめりに転倒してしまっていた。
どーん、と鈍い音がダンジョン内に響き渡る。

「あのー大丈夫?」
どうやら驚かせてしまったようだ。ユウキは苦笑を浮かべながら、少女に手を差し伸べた。
対する少女もまた、口元を曖昧に釣り上げていた。








917死者たちのネットゲーム ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/29(月) 19:51:40 ID:XPKJY46o0
「へえ……なるほど野球ゲームかぁ。デンノーズ、ね」
聞き出した話を咀嚼して、ユウキは不敵な笑みを浮かべ言った。
カオル、というらしい彼女がこれまでどんなゲームに身を置いて来たのか。そしてどんな人たちと共に居たのか。
そのことに関する好奇心は尽きず、互いに敵意がないことを確信した後、彼女はゆっくりと語り合ったのだった。

「はい……でも、私はチームの一員という訳じゃなかったんですけどね。ただ応援してただけですだから」
「いやそれも立派なチーム活動だよ。だってさ、要は野球部のマネージャーって奴でしょ?」
「そんな……私は大したことはしていませんよ。寧ろ迷惑さえかけてましたから」

そう語る彼女の顔にうら寂しい色が浮かんでいた。
まるで遠い過去のことを思い起こしているような、淡い切なさを感じさせる微笑みを彼女はふっと浮かべた。
どんな事情があったのか知らない。けれど、それは既に彼女の中では決着が付いた話なのだろう。

「それよりもユウキさん。貴方、ツナミを知らないんですか?」
「ツナミ……うーん、そんな企業は知らないなぁ」
頭を捻るユウキにカオルは目を丸くする。彼女が言うには「ツナミ」という超巨大企業があり、そのネットのアバターを伴ってこの場に呼ばれているのだとか。
だがしかしユウキはそんな企業は聞いたことがなかったし、その前身だという「オオガミ」や「ジャジメント」という名も覚えがなかった。
そう告げるとカオルはますます訝しげな顔を見せ、

「これはちょっと考える必要がありますね」
「そんなに大きなことなのかな? ねぇところでカオルはここで何をしていたの?
 隠れたって感じじゃなかったけど」
「え? ああ、私はこの空間のデータの解析をしていたんです」
聞くにカオルは工学的な方面に造詣が深いらしく、この場から脱出するためのデータを集めていたのだとか。
その為に、初期配置から最も近い施設であるところのこの遺跡を訪れ、アバター及びエリアデータの解析を進めていたのだという。

「凄いじゃん! それができればここから脱出できるってこと?」
「ええ上手くいけば、ですが。でもまだデータが不足していて解析には時間が掛かりそうですね」
「うーん……そうかぁ」
ユウキは考えた。一瞬だけ思考を回転させた後、快活な笑みを浮かべカオルに告げた。

「じゃあさ。ボクと一緒に来ようよ」
「え?」
「カオルは解析したい場所にボクが連れていってあげるからさ。歩くより飛んだ方がずっと速いよ。
 それに危ない奴が居ても大丈夫――ボクが守ってあげるから!」
そう言ってユウキはカオルの手を取った。
困惑する表情を浮かべるカオルに対し、朗らかな笑みを浮かべる。

「いいでしょ?」
「え、あ、はい。それはとても助かります。遺跡の解析もあと少しですし……」
「じゃあ決まりだね。それが終わったら一緒に外に行こう!
 次はどこに行くつもりだったの?」
「そうですね。そんなに考えていた訳じゃないですけど……」
カオルは曖昧に言葉尻を濁らせた後、石で出来た天井を仰ぎ「野球場に行ってみたいです」と答えた。

918死者たちのネットゲーム ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/29(月) 19:52:12 ID:XPKJY46o0

「分かった野球場だね。じゃあアメリカエリアか。ここからならひとっ飛び……はちょっと難しいか。
 まぁでもそんなに時間はかからないと思うよ。ボクが抱えていってあげる」
「あの……お気持ちは大変嬉しいんですが、その、大丈夫ですか?」
うんうんと頷くユウキに対し、カオルは不安げに尋ねた。

「さっきはちょっとボカしちゃいましたけど……私は死んでるんです」
「え?」
「信じられないかもしれません。けど、本当なんです。現実の私は居なくて、ここに居るのはただのデータの残滓なんです。
 ――もう完全に人じゃなくなっちゃったんです、私」
カオルはユウキを見て、か細い声でそう言った。
対するユウキはカオルをまっすぐに見据えた。眼鏡越しに揺れ動く瞳の向こうに自分の顔が見える。
迷宮の奥に訪れた不思議な静寂の下、二人の視線が絡み合った。

「なあんだ。やっぱりそうか」
その沈黙を破るように、ユウキはニッと口元を釣り上げ、よく通る声でカオルに告げた。

「何となくそんな気がしてたんだ。同じだよ――カオルとボクは」
「え?」
「ボクも死んでるってこと。やっぱりボク一人じゃなかったかぁ」
困ったように目をぱちくりとさせるカオルを尻目に、ユウキは一人納得したように頷いた。
死者だってネットゲームくらいする。そういうこともあるのかもしれない。















数十分後、データ解析が終わり、ユウキとカオルは揃って迷宮を出た。
ユウキはその手にカオルを抱き、羽を広げ東へと飛び去った。
二人の死者が目指すはアメリカエリア、野球場。



【C-7/上空/一日目・早朝】
※遺跡は27層迷宮区@ALOでした。

【ユウキ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP90%
[装備]:ランベントライト@ソードアート・オンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2個
[思考・状況]
基本:洞窟の地底湖と大樹の様な綺麗な場所を探す。ロワについては保留。
1:次はアメリカエリアの野球場に行こう。カオルも一緒にね。
2:専守防衛。誰かを殺すつもりはないが、誰かに殺されるつもりもない。
3:また会えるのなら、アスナに会いたい。
4:黒いバグ(?)を警戒。
[備考]
※参戦時期は、アスナ達に看取られて死亡した後。

【カオル@パワプロクンポケット】
[ステータス]:HP100%
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:何とかしてウイルスを駆除し、生きて(?)帰る。
1:どこかで体内のウイルスを解析し、ワクチンを作る。
2:デンノーズのみなさんに会いたい。
3:ユウキさんと一緒に行動。
[備考]
※生前の記憶を取り戻した直後、デウエスと会う直前からの参加です。
※C-7遺跡のエリアデータを解析しました。

919 ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/29(月) 19:52:31 ID:XPKJY46o0
投下終了です

920名無しさん:2013/07/31(水) 10:38:52 ID:1jNQhPx6O
投下乙です
ロワ打破の鍵になりそうなカオルは、ユウキという強力な味方を得ましたか
お互いの目的も合致してますし、いいコンビになりそうですね
ただ、残っているまたは集まっている参加者的に、アメリカはマク・アヌに次ぐ危険地帯になりそうな……

気になった点は、大聖堂でテクスチャーが剥がれた、とありましたが、
祭壇のサインのことを指しているのなら、あれはほとんど傷痕ですし、
カイトのデータドレインの影響なら、外の森付近での事ですよ

921 ◆nOp6QQ0GG6:2013/07/31(水) 14:04:30 ID:Sq94e0cg0
>>920
聖堂のサインのつもりでしたが、そうですね、ちょっと表現を変えて
>生々しくテクスチャが剥がれた部分があり

バグのせいか傷跡のようなグラフィック異常があり
に変えておきます

922名無しさん:2013/07/31(水) 18:59:08 ID:h4XMuAWQ0
投下乙
ユウキも仲間に加わったし、この調子で進めば、カオルが会場のデータを解析し尽くすのも早そうだね
そしてALOの迷宮ってことは、上階か下階に続く扉か通路がありそう。まあ封鎖されてるだろうけど

ちなみに、大聖堂のサインはこんな感じ
ttp://www.anbient.net/sites/default/files/imagecache/completa/imagens/screenshots/Hack-GU_Trilogy-www.osninjas.info_CODADO%5B10-28-46%5D.JPG
確かにテクスチャが剥がれてるって感じじゃないね

923名無しさん:2013/08/01(木) 19:10:43 ID:uqfTKQ7Y0
投下乙です

怖いほど順調だねえ
そしてここで迷宮かあ
何があるやら

924 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/03(土) 13:29:34 ID:9CP8rIw.0
投下します

925ヒロイックピンク インフィニティ ◆7ediZa7/Ag:2013/08/03(土) 13:30:21 ID:9CP8rIw.0
森の中には追う者と追われる者がいた。
二人の距離は時には狭まり、時には広がり、薄暗い森の中を歪な軌跡を描きながらその逃走は続いている。
直接的な戦闘こそ起きていなかったが、しかしそれは紛れもなく戦いであった。

追う者、ブルースは中々敵を追い詰めることができない事態に歯噛みしていた。
カイトとの一件からもう一時間以上経過している。だが未だに彼は逃げた男を捉え切れてはいなかった。
実質的な戦闘力ならば恐らくは自分の方が数段上である。
先は半ば奇襲のような形で一閃に伏さしめたが、たとえ面と向かっての戦闘であっても負ける気は全くしなかった。それを敵も理解しているからこその逃げの一手であろう。

だからこそ今の状況が歯がゆかった。
あの程度の小物に手間取っている余裕はないというのに。迅速な行動を要求される局面でありながら、自分は下手を打ちつづけている。
炎山のオペレーティングがあればこのようなことはなかっただろう。そう思うと、より一層自分が不甲斐なく感じられた。

だからせめて一秒でも早く言を為す為、ブルースは森を駆けた。
赤い影が敵を追う。
オフィシャルとして、正義を掲げる者として。


一方、追われる者であるアドミラルもまた苦境に立たされていた。
不意を打つ形でブルースの拘束から抜け出した彼であったが、それでも追い詰められていることには変わりない。

森という障害物の多いエリアや夜分という状況を上手く利用することでブルースからハイドしているが、それでも時間稼ぎにしかならない。
近くにいることが向こうに分かっている以上、虱潰しに探されてはすぐに見つかってしまう。
罠を仕掛けることも考えたが、ブルースの追跡には抜け目がなく、生半可なものではすぐに看破されてしまうであろうことが分かった。
しかし何時までも隠れていることなどできないだろう。もうすぐ夜が明けるようだし、そうなればブルースの眼を欺くのはより難しくなる。

この場を乗り切るためには何とかしてブルースを倒さねばならない。
その難易度は生半可なものではないだろう。あの熟練した技に、容赦ない心持。カイトやロールたちとは一線を画する存在だ。
だがやらねばゲームクリアに到達することは絶対にないだろう。

その為にも乗り越えて見せる。アドミラルはそう強く誓って見せた。
彼のプロゲーマーとしての矜持が、その思いを強固なものとしていたのだった。

926ヒロイックピンク インフィニティ ◆7ediZa7/Ag:2013/08/03(土) 13:30:54 ID:9CP8rIw.0


そうして二人は共に確かな覚悟を持って戦いに臨んでいた。
抱いたものはまるで正反対で相容れない信念を持つ二人であったが、しかし共に戦いに望む確かな意思は備えていたのだ。
そんな二人の戦いの渦中に、一人の少女が巻き込まれることになる。
かつてはヒーローでありながら今は覚悟や戦意を全く備えていない、かといって悪を憎む心を忘れた訳でもない、そんな、実に中途半端な少女が。














(うう……こっちに来ないでよぉ)

森の中、サングラスを掛けたカジュアルなアバターが隠れるようにして地に伏していた。
彼女――ピンクは顔上げることなく縮こまる。何も見ようとしていない彼女であったが、森の中に走る揺らぎを「感知」することは忘れなかった。
アドミラルの殺人を目撃して数時間。当初は反射的にどこか遠くへ逃げようとしていたピンクは、しかしその歩みをすぐに止めてしまっていた。

ピンクにはヒーローとして生来備わっていた能力がある。
五感に頼らない感覚で空間を見通し、目的の物を見つけ出す力。抜群の精度を誇る感知能力である。
生身の肉体でなく、ネット上のアバターで呼ばれたこの空間においても、その能力は減衰してはいるものの使用可能であり、
咄嗟に逃げ出そうしたピンクが危険人物を避けるためにその能力を行使したのは至極当然のことであった。

その力を利用しアドミラルのような危険な人間たちからも簡単に逃げることができる――筈であったが、ピンクはまた別のものまで見つけてしまった。
森に潜む影は決してアドミラル一つではなかった。幾つものの存在が動き回っていた。
普段より不鮮明な感知故その会話までは拾えなかったが、幾つもの存在たちをピンクは視た。
動き回る影たちは時には重なり、時には離れ、時には消えゆく。彼らが何をしているかは容易に想像がついた。

殺し合っているのだ。

それがこのゲームのルールである。それは彼女とて知っていた。そのルールに乗るような輩がこの場には居ることも。
だから、驚くようなことではなかった。森のあちこちで殺し合う人間たちがいても、ピンクの能力ならば彼らを避けて逃げ出すことはできた筈なのだ。
しかし冷静さを欠いていたピンクはそこで尻込みしてしまった。
この暗い森には多くの殺し合いが起きている。その事実だけで足が竦み、立てなくなった。
極めつけに空に走った巨大な閃光だ。
あの光が何だったのか、詳細までは精度の落ちた感知能力で読み取ることができなかったが、その強大さ、危険さは十分に理解できた。

あんなものに立ち向かうことができる訳もない。そう確信したピンクはもはや逃げ出す意志すら失せ、森の中で一人隠れていた。
その間にも幾つもの殺し合いを感知した。
剣士や銃、ロボット、様々な力が森の中で入り乱れる中、ピンクは何もせずただ縮こまっている。
それでゲームから開始五時間程度を凌いでいた彼女であったが、ここに来て二つの影が自分のいる方へ向かっていることに気付いた。
その二つの影はどうやら追跡戦を行っているようであり、まさに殺し合っている最中であることが見て取れた。
しかもその一方はアドミラル――ゲーム開始当初にロールを惨殺せしめた男である。

何とか自分を見つけずに去って行ってくれ、そう願いつつピンクは木の陰に縮こまっている。
今更逃げ出す勇気はなかった。アドミラルたちは互いのことにしか考えが行っていないようだし、感知能力を使えば逃げることはできたかもしれないが、
それよりも殺人者が近くにいながら動く、ということへの恐怖が優った。

(お願いだから、あたしのことは無視していって……)

そう痛切なまでに願いながら、ピンクは己の手元にある剣を握りしめた。
かちゃ、と金属音が響く。彼女に支給されたアイテムであり、現時点で自衛手段となるものだ。
この剣とピンクの未来予測を使うことができれば、あるいは殺人者を撃退することができるかもしれないが、そもそも今のピンクには戦うという選択肢がなかった。

そうして木の陰に身を潜めつつ、ピンクは殺し合いの様子を伺った。
本心はそんなものから見たくない、目を背けたいと思っていたが、しかし眼前に迫る脅威を無視することなどできなかった。

927ヒロイックピンク インフィニティ ◆7ediZa7/Ag:2013/08/03(土) 13:31:48 ID:9CP8rIw.0

アドミラルともう一人の存在はピンクから少し離れた位置で戦っている。
その声はかすれかすれにしか聞こえないが、とにかく彼らが敵対関係にあることだけは分かった。
自分を巻き込まないでくれ……、そう強く念じていたピンクだが、彼らは徐々に彼女の元に近づいてくるようであった。

少しずつ迫ってくる彼らにピンクは、あたふたと身を震わせ始める。アバターが木や土と擦れあい乾いた音を立てた。
そして銃を構えるアドミラルの姿が見えた途端、ピンクは「ひっ」と声を上げたしまった。

落ち着いていれば、彼女も見つからなかったかもしれない。
そこからでも全力で走れば逃げ出すことができたかもしれない。
だが今のピンクではどちらもままならず、

「何だ、お前? 確かデンノーズの……」
「あ、あ……」

誰かと交戦していたアドミラルにその身を発見されることとなった。
途端、ピンクは腰を抜かしたようにその場に座り込み、ぶるぶると肩を震わせた。
その震えに恐怖が滲んでいることを見抜いたアドミラルは、そこでニヤリと笑みを浮かべた。
そしてピンクへと銃を向け。誰かへと向けて叫びを上げる。

「おい、ブルース! コイツがどうなってもいいのか!」

ピンクはアドミラルの行いに何もすることができなかった。
人質扱い――その事実を知ってなお、何も動くことはできなかったのだ。
ただただ目の前に迫る鉄色の無慈悲な銃口に目が釘付けとなった。目を背けたいのに、逸らせない。

「……っ!」

どこかで誰かが息を呑むのが分かった。
位置的にアドミラルと戦っていた敵だろう。暗がりで良く見えないが、人質となったピンクに対し注視するのが分かった。
その誰かは立ち止まり、アドミラルと対峙する。
ぴん、と張りつめた緊迫とした空気が場を支配する。

「動くなよ。俺を見逃さなきゃコイツの頭に風穴があくぜ」
「……外道が」
「何とでも言え! でもな、こういうプレイイングだって別にルールで禁止されている訳じゃないんだ。
 これもまた立派な戦術の一つなんだよ」
「そういう心づもりで、この場で凶行に走った訳か」

どうしようもない悪党だな、と誰かは冷たく言い放った。

「別に許してもらうつもりはないな。さっきも言ったが、これだって立派な戦術だ。
 不利な状況を咄嗟の機転でこうしてひっくり返してみせた。
 これがプロの技って訳だよ。お前らみたいなアマチュアには勝利へのダーティーさってのが足りないんだ。
 寝ても覚めてもゲームのことばかり考えた俺との差だよ。変なモラルに縛られて思い切ったプレイイングできないんだよな、さっきのカイトとかロールみたいな奴はさ」
「……ロールだと?」
「ん? 知り合いか。そういえば似た感じのアバターだな。
 ロールってのは俺がこのゲームで一番最初にPKしたピンクのアバターだよ。所詮アマチュアだったな。ころっと騙された」

アドミラルの哄笑が森の中に響く。
二人のやり取りが頭上で交わされている間、ピンクは一言も発することができず、ただただ恐怖に身を震わせていた。
彼らの言葉は聞こえているのに、上手く認識できない。
とにかくこのアドミラルという男が危険だということは、身に染みて分かっている。

「……そうか」
「ほう、どうした? 何か言いたいのか?」
「何でもない。ただ改めて分かっただけだ。
 お前のような悪を斬ること――それがオフィシャルとしての正義だということをな」

928ヒロイックピンク インフィニティ ◆7ediZa7/Ag:2013/08/03(土) 13:32:23 ID:9CP8rIw.0

告げられたその言葉はぞっとするほど冷たく、ピンクは思わず顔を上げ、その顔を見た。
そして息を呑んだ。
赤いスマートなスーツ、黒のバイザー、鋭角的なシルエット。
森の影の中に浮かび上がったその姿は、かつてピンクらヒーローたちを率いていたある人物に酷似していたのだ。

だが、その錯覚も一瞬のこと。すぐにただの見間違いだということが分かった。
それでもピンクはその姿に目が釘付けになった。手元の剣をぎゅっと握りしめる。

「正義だの何だの言ってるから、お前らは上に行けないんだ。
 そういうプレイが楽しいってのなら自由だけどな、お前らアマチュアと違って俺たちプロゲーマーは負けられないんだ。
 勝てないものに縋るようなことは言ってられない」

アドミラルがせせら笑う。
正義は必ず勝つ――現実がそうでないことをピンクは知っていた。
しかし、そんな無情な言葉を赤いアバターは斬り捨てる。

「幼稚で浅はかな考えとしか言いようがないな。
 オフィシャルが勝つ為に正義を名乗っているとでも?」

ピンクの震えが止まった。
正義の味方――自分は果たして何のためにそんなものをやっていたのだろうか。
ダークスピアがブラックを倒して以来、自分はヒーローとしての活動を止めていた。
それは怖かったからだ。自分よりずっと強い者たちに狙われてしまうことだ。
恐怖に駆られゲームに逃げ、その中で好き勝手に暴れてきた。

(なんで悪い奴らを倒しちゃいけないのよ)

だがこうして目の前で非道が行われているのを見ると、むくむくと苛立ちが募ってくる。
ダークスピアのうんこたれ、と声には出さずピンクは毒づく。

(そうよ、そもそも私は――)

ずっと抑圧されていた感情が急速に高まっていく。
押し潰されるような恐怖が焼き尽くすような昂ぶりへと転じていく。
ピンクは剣を握りしめた。自分には力がある。あるのにこうして地を這いつくばっている。
それは何故か。何故こんな立場に甘んじていなければならないのか。

「はん、オフィシャルとか名乗っていてもその様じゃアマチュアと変らないな。
 こんな弱者にかまけて負けるんだよ、お前は」

アドミラルの言葉に、ピンクの中の何かが弾けた。
ずっと縮こまっていた彼女は激昂し、アドミラルへ剣を引き抜く。
鞘から引き抜かれた刀身が、何時の間にか上っていた陽光を受け煌めいた。













その時、アドミラルはピンクのことなど見てはいなかった。
当初見つけた瞬間は思わぬ遭遇に面食らったが、彼女がどうやら状況に対応できない愚図だと分かったことで利用することを即断した。
結果として彼はブルースに対して優位に立っている。
とはいえそれが何時まで持つかは分からない。単純な戦闘では向こうの方が有利ではあるし、何時ブルースがピンクのことを切り捨てるとも分からないのだ。

929ヒロイックピンク インフィニティ ◆7ediZa7/Ag:2013/08/03(土) 13:32:57 ID:9CP8rIw.0

その為、細心の注意と警戒をブルースにぶつけつつ、過剰なまでの挑発を行った。
こういった対人戦では冷静さを失った方が負ける。
頭に血が上った状態での闇雲な突進というものは、一見して恐ろしいように思えるが、その実対処しやすい。
戦力差をひっくり返すことができるとしたら、そうした相手の自滅を誘発するしかない。
それ故にアドミラルはブルースを挑発し、この場を切り抜けようとしていたのだが、

「ん?」

ここでそれまで地に伏していたピンクに動きがあった。
キッとサングラス越しにアドミラルを睨み付け、その手に持った剣を強く握りしめている。
何をしているのかを気付く前に、ピンクは奇声を発し、ピンクに飛びかかってきた。

「クソッ」

アドミラルは一拍遅れたが、しかし抜け目なく反応してみせ、ピンクに対し引金を引いた。
破裂音を響かせSG550が火を吹く「見えた!」
が、それを何とピンクは目前で避けてみせ、アドミラルに迫る。

脳天へと放たれようとしている刀身をアドミラルは目の当たりにした。
直撃を覚悟したアドミラルであったが、未だ諦めた訳ではなかった。
残りHPは四割程度。ただの剣一撃程度なら耐えられるかもしれない。そこから瞬時にカウンターを放てば逆転できる。
プロゲーマーとして務めて冷静に考えていたアドミラルを――

「これで!」

無限の刃が斬り裂いた。


【アドミラル@パワプロクンポケット12 Delete】

930ヒロイックピンク インフィニティ ◆7ediZa7/Ag:2013/08/03(土) 13:33:26 ID:9CP8rIw.0












「はぁはぁ……」

肩で息をしながらピンクは己の為した攻撃の跡を見ていた。
迸る閃光を伴って共に放たれた剣はアドミラルの身体を吹き飛ばし、一瞬でその身を吹き飛ばしていた。
その威力は彼を破壊するだけにとどまらず、幾多ものの木を巻き込んでなぎ倒し、地面には人がすっぽりと入ってしまうほどのクレーターが残っている。

それは明らかなまでのオーバーキルであった。

「……これは」

それを端から見ていた赤いアバター――ブルースはその威力を見てか言葉を失っていた。
予想外の展開に驚いているのだろう。正直、彼女自身まさかここまでだとは思っていなかった。

実際、ギリギリのところだったのだ。
アドミラルの弾丸を彼女が間一髪未来予測で避けることができていなければ今頃どうなっていたか分からない。
現実世界、それもジローとの合体中であったのならもう少し上手く動けただろう。そう思うと少し歯がゆかった。

だが今の自分には別の力がある。ピンクは一瞥をくれた後、鞘に剣を戻していった。
ちゃりん、と音をした。納刀が終えたを確認したことで彼女はほっと息を吐いた。
剣――というよりは刀か。これからはこれで戦うことができる。
無論、今までだってできた筈だった。ただ覚悟が足りなかっただけだった。

それがピンクに支給されていたアイテムであった。
説明文によれば「七星外装」と呼ばれる加速世界の中において七つ存在する最強クラスの強化外装の一つだという。
加速世界だとか、強化外装だとか、よく分からない言葉が多かったがとにかく自分はこうして力は得た。それに伴う意志も得た。

「悪い奴は倒さないと。この――ジ・インフィニティがあればできるんだから」

ピンクは震える声で呟く。
その立ち姿は力強く、悪を糾弾する意志も感じられたが、しかしどこか危ういものがあった。
つい先ほどまで恐怖に縮こまっていた情動と急速に手に入れた力の強大さ、そこに不均衡が存在した。。
自分が再起することができたのは、インフィニティという力を手に入れたからか、はたまたブルースの言葉に何かを思い出すことができたからか、彼女はまだ分かっていないのだ。。
そういう意味では、彼女は未だ中途半端なままなのかもしれない。

隣にジローが、彼女をヒーローとして再起させようとしていた彼が居ればまた違っただろう。
しかし彼はこの森には居ない。
それどころか、この空間に居るのはまた別の……




【E-6/森/1日目・早朝】

【ピンク@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP100%
[装備]:ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
1:悪い奴は倒す。
[備考]
※予選三回戦後〜本選開始までの間からの参加です。また、リアル側は合体習得〜ダークスピア戦直前までの間です
※この殺し合いの裏にツナミがいるのではと考えています
※超感覚及び未来予測は使用可能ですが、何らかの制限がかかっていると思われます
※ヒーローへの変身及び透視はできません
※ロールとアドミラルの会話を聞きました

【ブルース@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式 、アドミラルの不明支給品0〜2(武器以外)、ロールの不明支給品0〜1、ダッシュコンドル@ロックマンエグゼ3
      SG550(残弾5/30)@ソードアート・オンライン、マガジン×5@現実
[思考]
基本:バトルロワイアル打倒、危険人物には容赦しない。
1:悪を討つ。
2:ウラインターネットに向かう
3:ピンクは……



【ジ・インフィニティ@アクセル・ワールド】
「七星外装」とも呼ばれる、加速世界に七つ存在する最強クラスの強化外装の一つ。
“無限”の名を冠する北斗七星の五番星「玉衝」の長刀であり、原作ではアズール・エアーが所有していた。
「鞘に収めたままでいればいるほど、抜刀直後の一撃の威力が無限に増加する」という特殊能力を持つ。
他の能力も存在するが、そちらは制限されている可能性あり。

931 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/03(土) 13:33:47 ID:9CP8rIw.0
投下終了です

932 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/03(土) 19:47:45 ID:9CP8rIw.0
すいません、SG550の残弾が間違っていますね、あとで直します

933名無しさん:2013/08/04(日) 17:19:43 ID:4H6jbpToO
投下乙です。プロ(笑)は流石に身の程知らずが過ぎたな

934名無しさん:2013/08/04(日) 22:46:25 ID:rV1wmOgc0
乙でした。プロ(笑)
ピンクさんは危ういなぁ武器もよりによって「ジ・インフィニティ」だし
ブルースがカバーできればいけど、ブルースもうまいこといってないし

935名無しさん:2013/08/05(月) 14:05:34 ID:FpFKQO020
用語集に乗りそうだな、プロ(笑)

936名無しさん:2013/08/06(火) 02:35:28 ID:QcDdrnPM0
このロワにも謎の飛影ページが……
しかし50話到達したなー

937 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/07(水) 00:54:37 ID:f5jWDkfs0
投下します

938Fragmentation;分裂 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/07(水) 00:55:25 ID:f5jWDkfs0
エリアの最北まで到着すると、ブラックローズは思わず安堵に胸を撫で下ろす。
途中襲われないかと神経を張り巡らせてはいたものの、結論から言えばそれは杞憂に終わったようだ。
後ろにはたった今抜けてきたビル群がくっきりと見えている。夜が明けたこともありがたかった。やはり明るいと安心するものだ。

「中々幸先良いっすね、ダンナ。このまま何ともなしに行って欲しいもんだ」
しんがりを務めていたアーチャーが軽薄な口調で言った。
参加者でなくダンのスキル――サーヴァントというらしい存在だというが、ブラックローズは彼に対しどういう態度で接すればいいのか分からなかった。
まず先の罠の一件だ。毒の中で必死にもがいたことは記憶に新しい。
あの苦しみが彼によるものだということを考えると、それがたとえ彼の意図したところでないとしても、複雑な感情を抱かざるを得なかった。

また彼がサーヴァント、人間でないということもどう捉えればいいのか分からない。
ムーンセル(というスーパーコンピュータのようなもの)が集積したデータにより作り上げた英雄の再現……だというが、正直ブラックローズの理解を越えるところがある。
話してみたところ、その反応は生身の人間と何ら変わりなく、彼がデータだけの存在だとは全く思えなかった。
しかし、アウラの件もあった。ブラックローズ自身は彼女と直接対話する機会はそれほどなかったのだが、それでも彼女がただのAIでないことは分かった。
要するにアーチャーもまたアウラのような究極AIの一種……なのだろうか。それにしてはアウラと比べ神聖さというか、超常的なものを感じなかったが。

それにもう一つ。彼の人間性――彼が人間でないと分かったうえでの表現だ――があまり信用できないということだ。
先ほどの弓使いとの一戦。あれを仕掛けてきたのがアーチャーでないかという疑念は拭えなかった。
一応取り繕ってはいたものの、状況的には彼が最も怪しい。決定的な証拠がない以上何ともいえないが。
こんなことなら矢を回収しておけばよかったと思うが、今言っても後の祭りだ。今更戻る訳にも行かない。

(まぁ……ダンさんは信用できそうだし、大丈夫……だよね)

ちら、とブラックローズは同行者である老人、ダン・ブラックモアを見た。
彼は周りに警戒を配りつつも、ブラックローズや黒雪姫に威圧感を与えてはいない。
かつては軍人だったという彼は常に冷静沈着で、何というか大人という感じがする。
デスゲームにおいてその落ち着いた物腰や性格はかなり頼りになった。
その能力的にもだが、やはりこういう場で一人しっかりした大人がいるというのはありがたい。
黒雪姫の手前ああは言ったものの、ブラックローズもこの場で戦えるのは一人というのは心細かった。
八相との戦いにおいて、こうしたデスゲームに近いものを潜り抜けてきたブラックローズであるが、結局のところ彼女はただの女子高生、速水晶良に過ぎないのだから。
そういう意味でダンが同行してくれて本当に良かったと思う。

「これがゲートのようだな」
ダンがそう言って目の前の電話ボックスを見上げた。
最初は面食らったが、どうやらこれがこのエリアのワープゲートらしいのだ。
一体どんな思惑でこんなデザインを採用したのかは全く分からないが、まぁ考えるだけ無駄と言う気もしたのでそれ以上は考えないで置く。

「どうやら一度に一人しか転移できないようだな」
電話ボックスの中を検分したダンが言った。
どうやら英語の説明文を読んでいるらしかった。考えてみれば当たり前なので驚くことではないが、今まで意思疎通に全く問題がなかっただけに少し意外に思えた。
今更だが、このPCに搭載された翻訳システムの高性能さに舌を巻く。外人でありながら流暢に日本語を話す砂嵐三十郎だって、時たま変な表現を使ってしまうというのに。
いや自分が気付いていないだけで、ダンからすると変な表現に翻訳されている可能性もあるか。
それとももしかしたらこのくらいのシステムも、未来では何てことのないものだったりするのだろうか。
ダンと黒雪姫は自分からしたら数十年先の人間だ。彼らの技術水準と自分の常識は違うのかもしれない。

939Fragmentation;分裂 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/07(水) 00:55:54 ID:f5jWDkfs0

「ブラックローズ」
と、そこでダンより声が掛けられた。
安堵故か呆としていたブラックローズは、そこではっとして顔を上げた。
そこには少しだけ厳格な顔を浮かべたダンの姿があった。

「私とアーチャーが先に行く。軽くエリアを調査して危険がないか確認したい。
 しばらくしたら報告に帰ってくるつもりだが、その間黒雪姫の護衛を頼みたい」
そう落ち着いた口調で言われ、ブラックローズはゆっくりと頷いた。
ここでダンと離れるのは少し不安になったが、しかし自分もまた戦うことができる以上、守られてばかりではいられない。
黒雪姫が微笑を浮かべているのが見えた。そこに不安は見られない。その信頼に自分は答えて見せなければならないのだ。
大丈夫だ。周りに人影はないし、たとえ敵が来ても自分なら持ちこたえることくらいはできる筈。

「分かった。では任せたぞ」
その首肯が信用に足ると思ってくれたのか、ダンはそう言い残して電話ボックスに入っていった。
扉が閉まった後、がちゃ、と受話器を取る音がして、次の瞬間にはダンの姿が消えていた。そのお付であるアーチャーもまた消えている。

「……行ってしまったな」
それを見届けた黒雪姫がぽつりと漏らした。
そして少しだけ間があった。ひゅう、と風がビルの方から吹いてきたのが分かる。

「大丈夫、私が守るから」
ブラックローズは声を震わせないよう精一杯気を張りつつ、そう口にした。

「分かってる。信用しているよ、黒薔薇さん」
すると黒雪姫はそう優雅に言ってのけた。
その艶やかな濡羽色の長髪が風に吹かれ、さわさわと揺れる。背中越しには蝶の羽がふんわりと浮いているのが見えた。
落ち着いている、ブラックローズはその事実に感嘆とした。

「あの」
ブラックローズは思わず尋ねていた。
何故そんなに落ち着いて居られるのか、と。

「ふむ。何故、か」
尋ねられた黒雪姫はふっと柔和な笑みを浮かべ、

「なに、簡単なことだよ。君を信じているからだ。
 君は命を呈してまで私の為に戦ってくれた。見ず知らずの私の為にだ。
 こんなデスゲームの中でも、君のような人が居てくれる。それだけで希望を持つには十分だろう」
凛とそう答えて見せた。

「私は寧ろ君に尋ねたい。
 何故――どうして私の為に戦ってくれたのだ? こんな場所で出会った、見ず知らずのプレイヤーを守る為に」
黒雪姫はすっとブラックローズを見据えた。
その眼差しはあまりにも真直ぐで、ブラックローズは思わずたじろいでしまった。
肩に、何か重く冷たいものがのしかかる。
自分は彼女のような人間にそうまで信じられるような人間ではない。そのことは自分が一番知っていた。
それが後ろめたい。本物じゃない、虚像の自分を無理に被って見せてるみたいで。
カイトに対して弱みを見せることができなかった。何とかしてお姉さんぶろうとしていた、あの時と何も変わっていない。

「……ごめん。私は、貴方にそう言われるほど良い人じゃないと思う」
ぽつりと、ブラックローズは言葉を漏らしていた。
黒雪姫の足元が見える。汚れた乳白色のコンクリートと漆黒のドレスがいささかミスマッチだった。

940Fragmentation;分裂 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/07(水) 00:56:35 ID:f5jWDkfs0

「私は……多分、強がってみせただけ。
 誰かを守る力強いお姉さん、みたいなキャラクターを演じたかったのかも。
 私、弟が居てさ。きっとだから、こういう場所でもそういう風に振る舞えたら、少しは気分が楽になるかなって……」
上手く言葉が繋がらず、要領の得ないことを言っていると思う。
けれど、それがきっと本心だった。別に自分は博愛主義とか、正義感に燃えて黒雪姫の為に戦ったんじゃない。
速水晶良が弱い自分から目を逸らす為に、ブラックローズという強くて格好良い重剣士を演じたかった。それだけなのだ。
これがカイトだったらまた違ったのかもしれない。でも、自分はそうでもしなくては戦えなかった。
要するに自分は、黒雪姫を利用したのだ。自分の為に、体の良い弱者である彼女を。

「ごめんね。だから、どうしてかと問われると、きっと自分の為としか言いようがないと思う」
ブラックローズは今度は空を仰いだ。空から夜の黒が脱色されていくのが見える。
黒雪姫を見るのが少し怖かったのかもしれない。これがただのゲームなら、コマンドを入力しないだけで誤魔化せるのに。

「……そうか。君は向き合っているのだな」
黒雪姫の呟きは、エリアの果てに吹く風に紛れ、誰にも拾われることなく霧散していった。




それから少しのだけあった静寂を経て、ダンとアーチャーが帰ってきた。
幸いにして敵襲はないままに終わった。ダンの方も特に向こうのエリアに異常はなかったらしい。

「ま、入り口周りをちょろっと探索しただけだけどな。
 妙に入り組んだ構造してやがるし、手がかかりそうですぜ、ありゃ」
そう語るアーチャーの口調は相変わらず飄々としていて軽い。

「とはいえルート変更の必要性は感じられなかった。
 入り組んではいるが、こちらには人数が居る。手分けして探索していけば他エリアを経由するより早く目的地に着けるだろう」
ダンは冷静にそう分析し、そしてそのままブラックローズたちはウラインターネットに突入することになった。
ダン、黒雪姫、ブラックローズの順で転移する。そう決めた後は迅速に行動することになり、早速ダンたちが再度転移した。
黒雪姫が転移する際、ブラックローズに柔らかな微笑みを残した。
先ほど少し恥ずかしい独白をしてしまった手前どうなるかと思ったが、彼女の所作に特に変ったところは見られない。少なくとも外見的には。

そのことに一応安堵しつつ、最後にブラックローズが電話ボックスに入った。
転移する前にちらりと後ろを振り返る。そこにはゲーム開始からずっと歩いてきたアメリカエリアのビル群が広がっている。
徐々に陽が昇り始めてきたこともあり、ようやく見通せるようになったエリアだが、しかし自分はもうこのエリアを後にするのだ。
向かう先のウラインターネットは暗い空間だと言う。そう思うと、この夜明けの光景が何だかとても貴重なものに思えた。

(また……見れるよね、陽の光。勿論、黒雪姫やダンさんも一緒に)

そう思い、ブラックローズは受話器を取り転移した。
先に待っているのは、仄暗い迷宮、ウラインターネット。








941Fragmentation;分裂 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/07(水) 00:57:13 ID:f5jWDkfs0
ウラインターネットに転移し、手分けしてエリアの探索に乗り出すことになった訳だが、そこで彼らは少し揉めることとなった。
二手に分かれて探索することはすっと決まったのだが、その組み合わせで少々議論が起きた。
アーチャーを勘定に入れれば四人の集団であるので、二人ずつで別れるのが自然ではあるが、そこで黒雪姫が自分がアーチャーと同行するのはどうかと提案したのだ。

「……ふむ、それは何故だ?」
ダンが尋ねると、黒雪姫は戦力バランスの為だと答えた。
これから未知のエリアを探索するに当たって、ブラックローズと黒雪姫はこと戦闘に関しては素人である。
それ故、同じチームに固まらせるのは得策ではなく、実戦経験のあるダンとアーチャーがそれぞれ付いた方がいい。
またブラックローズは実際の経験はなくとも少なくともこの仮想空間内では戦力となる。
対してダンは経験はあるが、この場での戦闘能力は高いとはいえない。これがライフルの一丁でもあれが別だっただろうが。
そこで分かれるとしたらダンとブラックローズ、アーチャーと自分――その組み合わせがいい。そう告げたのだ。

確かに理には適っていた。
とはいえ急にきっぱりとした主張を述べた黒雪姫に対し、ダンは困惑を覚えているようだった。
それを見たアーチャーは相変らず軽薄な口調で、

「いいじゃないですか、ダンナ。このお姫様の言うことも一理ありますぜ」
「しかしお前が単独で動くという手もある」
「そりゃちょっとそっちのお嬢ちゃんに負担掛け過ぎってもんですよ。
 大丈夫ですって、俺なら姫様の一人や二人守って見せますから」
そうした話し合いを経て、結局組み合わせは黒雪姫の提案通りとなった。
ダンは納得しきっていないようだったが、しかしあまり時間を掛けてもいられなかった。
二人ずつのチームに分かれ、先ずはエリアを探索する。ある程度付近をマッピングした後、転移ゲートで再度で合流する。
そう手筈を定め、彼らは分かれることとなった。


ウラインターネットは暗く入り組んでいた。
全体的に幾何学的な意匠の空間は、不気味であるが近未来的で、なるほど確かにインターネットの裏側だという雰囲気でもある。
そんな中で黒雪姫とアーチャーは無言で歩き出していた。

「……で?」
ダンたちの姿が見えなくなった後、アーチャーが不意に口を開いた。
出会った当初から自分に対し警戒心を抱いているようであった黒雪姫の突然の誘い。その真意を確かめる為に、アーチャーは敢えて彼女の意見に賛成したのだ。

「何の用だ、姫様?
 アンタはあの褐色のお嬢ちゃんと仲好さ気に見えたんだがな。
 俺とわざわざ二人っきりになってどうするつもりだ。
 まさかこのハンサム顔に釣られたとか言わないよな」

顔を向けず、背中越しに語るその口調は変らず軽いものではあったが、同時に突き離すような冷徹さも含まれていた。
問い掛けに対し沈黙が帰ってきた。
言いようもない緊張を孕んだ静寂の中、妙な気配を感じたアーチャーがちら、と背後を振り向くと、

942Fragmentation;分裂 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/07(水) 00:57:37 ID:f5jWDkfs0

「はっ! そういうことか」
そこに居たのは漆黒の刃を備えた異形。
光沢を湛え彫刻のような美しさを持つその姿に、アーチャーは見覚えがあった。
アメリカエリアで襲われたあのマシン。唐突そのものにしか思えなかったあの襲撃にも、ちゃんと裏があった訳だ。

「成程ね。こりゃ納得だわ。はぁまた面倒なもの連れてきちまったなぁ、俺も」
異形――ブラック・ロータスはもはや彼にとって正体不明の何かではない。明確な敵だ。
無害な姫様だと思っていたが、とんだ猫被りであった。いや、蝶被りとでもいうべきか。

「分かっているなら早いな。お前は私が討つ」
「やれやれ、やる気満々ってか。
 ならしゃーないな。まっどうみても『敵意のない者』じゃないのは助かるが」
言いながらアーチャーは弓を構える。緑のマントがエリアの闇の下、ゆらりと舞った。
ロータスはその手と一体になった鋭い刃をアーチャーへと向け、対峙する。

「正直迷っていた。並行世界の概念を聞かされた時、正体を明かすべきかな。
 色々理由はあれど、つまるところ私は怖かったのだ。騙していたことが知れるのがな。
 結局保留にしてしまった訳だが……これで私は――」
「あん? 何の話だ」
「何でもないさ、お前にとってはな。ただの気付けだ。
 ただ――私なりのケジメを付けたいということだ。お前を討ち、彼女を守る。
 そうすることであの凛とした黒薔薇さんに向き合いたい」
対等に、同じ立場でな、とロータスは最後に添えた。

「はぁ、よく分からんが、あのお嬢ちゃんを守る為に俺を討つってか? 自分の誇り為に?
 はいはい格好いいことを言いなさる。騎士道だとか友愛だとか誇りだとか、凄いもん引っさげて戦ってますね。
 俺には眩しすぎてとてもじゃねえが直視できねえよ。
 まぁ、でも……俺にだって負けられねえ理由くらいはある」
アーチャーは口元を釣り上げ言った。
相も変わらず、軽薄でいい加減で、同時に妙に醒めている、そんな笑みであった。

「弓兵……お前を倒し、私は彼女を守る」
「じゃ、やるとしますか。さっさと倒してダンナの下に戻らねえと。
 面と向かってヨーイドン、てのは性に合わないけどな」
そうして二人は一歩を踏み出した。
守るべきものを、守る為に。









943Fragmentation;分裂 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/07(水) 00:58:08 ID:f5jWDkfs0

「私、避けられたのかも……しれません」
同時刻、ブラックローズとダンは探索を進めつつ会話を交わしていた。

「ふむ」
「さっきちょっと恥ずかしい所を見せてしまって、それで黒雪姫も私と一緒に居たくなかったのかも……」
そう語るブラックローズには、不安の色が滲んでいた。
無理もない、とダンはその機微を理解した。
この状況に適応し切れてはいないのだろう。剣を持ち勇ましく戦っては見せても、彼女は一般人だ。
自分やアーチャーのように実際の戦場を生きた訳ではない。

それにカイトのこともある。先ほど遭遇したあの不気味なツギハギだらけのアバター。
ブラックローズがカイトという人物をとても頼りにしているのはその言葉で分かった。
そこであんなものを見せられては不安にもなるだろう。

「大丈夫だ。黒雪姫は君のことをそんな風に思ってなどいない」
ダンはそう穏やかに語り掛けた。
正直な話、軍人時代には自分がこのような立場になるとは思っていなかった。
心を凍りつかせていた人間が、少女の心情を慮り励ます立場になるなど。

しかし言葉自体は本心から出たものであった。
黒雪姫の提案の裏にあるものは、恐らくブラックローズへの不信などではない。
去り際に見せた黒雪姫の視線。あの中に宿っていたのはそんな柔なものではなく、寧ろ確固たる戦意であった。

「そう……ですか」
「ああ、自信を持つといい」
少し気弱になっていたブラックローズだが、それでも歩みを止めることはなかった。泣き言も漏らしはしなかった。
恐ろしいだろうに、それでも剣を持てる以上は戦おうとしている。
強かだ。彼女は戦士でもあるのだ。彼女だって一つの戦を潜り抜けたのだから。
とはいえ同時にただの少女でもある。それ故に、自分のような人間が助けていかなくてはならない。

「大丈夫だ。アーチャーも信用できないかもしれないが、あれで物事を深く考えている。
 腕も立つ。思慮もある。何よりその意志がある。
 ただそれを決して誇ろうとはしない……そういう英霊なのだ、アレは」




そうして二人はエリアの奥へと進んで行く。
早くはないが、落ち着いた足取りではあった。迷う様子もない。
だが、

「またしても人間……、それも二人」
彼らは遭遇する。
憎悪に満ちた破壊を振りまく死神に。
不運にも、同じくウラインターネットを彷徨っていた死神と行き遭ってしまう。

死神――フォルテは恐るべき脅威として二人に迫っていた。

944Fragmentation;分裂 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/07(水) 00:58:25 ID:f5jWDkfs0

【B-10/ウラインターネット/1日目・早朝】

【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/デュエルアバター
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ブラックローズ、ダンと共に行動する。
2:緑衣のアーチャーを討つ。

【ダン・ブラックモア@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康 、令呪二画
[装備]:不明
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:軍人ではなく騎士として行動する
1:黒雪姫、ブラックローズと共に月海原学園を目指す。
2:ウラインターネットを探索する。
3:岸波白野陣営を警戒。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:単独行動中。
[思考]
基本:ダンを優勝させる。その為には手段は選ばない。
1:ダンにバレないように他の参加者を殺す。
2:黒い機械(ブラック・ロータス)を倒す
[備考]
※時期としては二回戦開始当初、岸波と出会ったばかりの頃。
※令呪によってアーチャーは『バトルロワイアルおいての戦意なき者への攻撃』を禁じられています。

【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP50%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:黒雪姫、ダンと共に行動する。
2:あの黒いロボットは一体……?
3:カイト(?)に対する疑念。
[備考]
※参戦時期は本編終了後

【フォルテ@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:HP45%、MP40/70、オーラ(※)
[装備]:{死ヲ刻ム影、ゆらめきの虹鱗鎧、ゆらめきの虹鱗}@.hack//G.U.、空気撃ち/二の太刀@Fate/EXTRA
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:全てを破壊する。生身の人間がいるならそちらを優先して破壊する。
1:アメリカエリア経由でアリーナへ向かう。
2:1の道中でショップをチェックし、HPを回復する手段を探す。
3:このデスゲームで新たな“力”を手に入れる。
4:シルバー・クロウの使ったアビリティ(心意技)に強い興味。
5:キリトに対する強い苛立ち。
[備考]
※参戦時期はプロトに取り込まれる前。
※バルムンクのデータを吸収したことにより、以下のアビリティを獲得しました。
 ・剣士(ブレイドユーザー)のジョブ設定 ・『翼』による飛行能力
※レンのデータを吸収したことにより、『成長』または『進化の可能性』を獲得しました。
※オーラが復活しているかは後の書き手さんに任せます。

945 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/07(水) 00:58:44 ID:f5jWDkfs0
投下終了です

946名無しさん:2013/08/07(水) 07:27:38 ID:HBtzYifo0
投下乙
黒雪姫さん、潰し合ってる場合じゃねえよ!緑茶め…

947名無しさん:2013/08/08(木) 19:20:37 ID:XHxv5uKI0
投下乙です

ま、まだ慌てる様な時間じゃない
……多分
黒雪姫さんはしっかりしてる様で迂闊な部分もあるからなあ
嫌な予感しかしねえw

948名無しさん:2013/08/08(木) 21:06:57 ID:CIH96eGo0
お、予約スレの書き込みを見るに、そろそろ放送近し、かな?

949名無しさん:2013/08/08(木) 23:51:48 ID:f9IHFUZsO
投下乙です。

四人でフォルテに遭遇した場合、黒雪姫がいつアバター変えるかっていう葛藤が起きた可能性もあるからなあ。
背中見せた状態で緑茶に正体バレるし。

950名無しさん:2013/08/11(日) 06:34:09 ID:6bC35no.0
今仮投下スレで放送案の募集やってます
という告知

951名無しさん:2013/08/12(月) 00:06:50 ID:VHZ6wSBY0
放送案の投票について

<日時> 8/12(月)0:00〜23:59分
<場所>ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/15830/1376226020/l50
<候補作品>
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/15830/1358006515/l50
に投下された作品

【案1】第一放送 悪魔の呼び声  ◆uYhrxvcJSE氏
【案2】convert vol.1 to vol.2  ◆7ediZa7/Ag氏

<投票例>
【案1】

でお願いします

952名無しさん:2013/08/12(月) 11:41:22 ID:1dKs0Zmk0
告知のためにあげておきますね

953 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/13(火) 01:13:13 ID:XoM1mHO.0
採用ありがとうございます
それでは投下します

954convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/13(火) 01:14:11 ID:XoM1mHO.0

|件名:定時メンテナンスのお知らせ|
|from:GM|
|to:player|

○本メールは【1日目・6:00時】段階で生存されている全てのプレイヤーの方に送信しています。
当バトルロワイアルでは6時間ごとに定時メンテナンスを行います。
メンテナンス自体は10分程度で終了しますが、それに伴いその前後でゲートが繋がりにくくなる他、幾つかの施設が使用できなくなる可能性があります。
円滑なバトルロワイアル進行の為、ご理解と協力をお願いします。

○現時点での脱落者をお知らせ致します。
|プレイヤー名|
|バルムンク|
|ロール|
|ウズキ|
|クライン|
|フレイムマン|
|レン|
|遠坂凛|
|リーファ|
|トリニティ|
|クリムゾン・キングボルト|
|ワイズマン|
|アドミラル|

上記12名が脱落しました。
現時点での生存者は【43名】となります。
なお他参加者をPKされたプレイヤーには1killあたり【300ポイント】が支給されます。
ポイントの使用方法及び用途につきましては、既に配布したルールテキストを参照下さい。

955convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/13(火) 01:14:49 ID:XoM1mHO.0


○【1日目・6:00時】より開始するイベントについてお知らせ致します。

【モラトリアム】
場所:日本エリア/月海原学園。
6:00〜18:00までの時間中、校舎内は交戦禁止エリアとなります。
期間中、交戦禁止エリア内で攻撃を行っているプレイヤーをNPCが発見した場合、ペナルティが課せられます。

【痛みの森】
場所:ファンタジーエリア/森
6:00〜12:00までの時間中、該当エリア内でのダメージ倍率が二倍になります。
その際、被ダメージの痛覚も併せて増幅されて再現されます。
加えてエリア内でPKした場合の獲得ポイントが二倍になります。

【幸運の街】
場所:アメリカエリア全域
6:00〜12:00までの時間中、該当エリア内でPKを行った場合、ドロップするアイテムが一定確率でレアリティの高い物に変化します。
なお変化したアイテムを元に戻すことはできません。

【1日目・6:00時】より開始するイベントは以上になります。

では、今後とも『VRバトルロワイアル』を心行くまでお楽しみ下さい。


==================

本メールに対するメールでのご返信・お問い合わせは受け付けておりません
万一、このメールにお心当たりの無い場合は、
お手数ですが、下記アドレスまでご連絡ください。
xxxx-xxxx-xxxxx@royale.co.jp

956convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/13(火) 01:15:06 ID:XoM1mHO.0


01001010101101010100010101101011010101000
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0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010
01001010101101010100010101101011010101000
10101010101010001010101010101010010101010101010110010
0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010
10101010101010001010101010101010010101010101010110010010101010101010110010011010101010101010100101010101010101
1010101
0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010


――vol.1――記録――セーブデータ――情報――断片――フラグメント――軌跡――
――救世主――ネオ――理由――RELOADED――ガッツマン――男――アッシュ・ローラー
――REVOLUTIONS――トリテニィ――死別――凛――死の恐怖――スケィス――データドレイン――蒼炎――
――ユイ――岸波白野――三重契約――ゴースト――ユウキ――カオル――死者――
ラニ――出会い――リーファ――SAO――ゲーム――慎二――ヒースクリフ――勝利――ライダー――
略奪――ダスク・テイカー――デュエル・アバター――シルバー・クロウ――蒼天――翼――バルムンク
――死神――フォルテ――強者――GAP――レン――悲哀――剣士――キリト――
人間――ランルーくん――化物――ヴラド3世――愛――エンデュランス――
コンフリクト――揺光――クライン――フレイムマン――エクステンド――切り札――
――ロックマン――ウラインターネット――ツインズ――モーフィアス――死者――リコリス――
――碑文――アトリ――ウズキ――惑乱の蜃気楼――シノン――遭遇――マク・アヌ――恐怖――
――スミス――エージェント――ワイズマン――おでん――
クリムゾン・キングボルト――上書き――カイト――齟齬――志乃――疑問――答え
――プロ――アドミラル――ロール――PK――ボルドー――ブルース――正義――
ピンク――ジ・インフィニティ――逃避――ジロー――選択――レオ――ユリウス――
――生徒会――ハセヲ――決意――表と裏――スカーレット・レイン――リアル割れ――
ブラック・ロータス――黒雪姫――嘘――アーチャー――ブラックローズ――騎士――ダン・ブラックモア――
黒――キャスター――鏡の国――ありす――猫――ミア――現実――アスナ――AIDA
――サチ――信頼――オーヴァン――榊――トワイス――真実――……――vol.2――



0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010
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10101010010101010101010110010010101010101010110010011010101010101010100101010101010101
0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010
01001010101101010100010101101011010101000
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0110101010101010101001010101010101011001001101010101010101010010101010101010110010
1010101010101000101010101010101001010101010101011001001010101010101011001001101010101010101010010101010

957convert vol.1 to vol.2 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/13(火) 01:15:26 ID:XoM1mHO.0
集積されていくデータの断片を私は無感動に見上げていた。
最初の六時間。このゲームはこれで最初の区切りを迎えたことになる。
その間に観測されたデータはこうして集められ、二進数に還元され、それぞれがカタチを得ていく。
そのカタチは未だ欠片に過ぎないが、それ故に意味がある。
不確定性は時に他の何物より価値を持つことがあるのだ。

同時に、私はつい先ほど出会った一人のプレイヤーを思い出していた。
榊が私に似ていると表現したバグに取り憑かれた男。
成程確かに容姿は似ているかもしれない。だがやはり私と彼は決定的に違う人間だ。少なくとも私はそう思う。

「真実」

オーヴァンという名の彼は、それを求めた。
榊に対しまともに応対する気がなかったが故の言葉なのだろうが、しかし恐らくそんなものはここにはない。
今は、まだ。

世界はカオス系だ。
ハイゼンベルクやゲーデルがラプラスの魔を殺して以来、ニュートンが描いた過去と未来の区別のない世界は既に崩壊した。
何がどう作用するのか分からない。何が何を生むのか分からない。それが今のこの世界だ。
そんな世界で真実を求める。それがどういう意味を持つのか、彼は果たして分かっているのだろうか。

「何にせよ」

今は観測するのみ。
私はそう呟いた。

不確定な世界を確定させること。事象の収縮。そうすることで世界は形作られる。
ゲーム開始当初は不確定であった世界も、観測することによってこうして確定され、データとして記録された。
この断片が、最終的にどんな絵となるかはカオス系の海に沈んでいる。
それを確定させる唯一の手段が観測である。重なり合わせの猫とて観測されればひとたまりもない。

データの集積が終了すると、私はそのデータをファイルへと移した。
そのファイルにvol.1と適当に名づけ、指定の場へと保存する。
観測の記録を以て、始まりの六時間の世界は確定されたのだ。

私は次なる欠片を観測する。
世界を、確定させる為に。





***ROYALE-system Ver2.1***



now loading.......

958 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/13(火) 01:15:53 ID:XoM1mHO.0
投下終了です

959名無しさん:2013/08/14(水) 19:19:51 ID:PohQ1/PA0
投下乙です

このロワらしい放送だわなあ

960 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/15(木) 12:58:23 ID:IsYu2dHc0
投下します

961now reading ◆7ediZa7/Ag:2013/08/15(木) 12:59:03 ID:IsYu2dHc0
『……【アタック+】系のチップはただ闇雲に使うだけでは効果薄い。
 やはり使うべきは【バルカン】などの多段ヒット系のチップだ。
 特に【ダブルヒーロー】などは元の攻撃値の高さ、ヒット数の多さもあり、
 これに【アタック+30】を組み合わせることで何と1000ダメージも叩き出すことができるんだ。
 非常に有効なコンボだが、しかしネットバトラー足る者自分が使う場合だけでなく、敵に使われる場合も常に想定しなくてはならない。
 たとえば多段ヒット系は単純な攻撃値は低い為、【オーラ】系の……』

眼鏡越しに字面を追っていく。
その内容の多くが専門的な用語で語られているせいか、その進みはあまり早くはない。
ただ黙々とラニは目を通していき、時節ページをぱらりとめくる。
静寂に包まれた民家の中で紙のこすれる音だけが響いていた。
そうしてしばらく読み通した後、

「なるほど」

そう呟いた。
平坦な口調で紡がれたその言葉は実に無感動で、その裏は読めない。
ただラニは一先ずは読み終えた本『名人が語る! ネットバトルの極意』を置き、次の本へと取り掛かった。
その近くには凛がドロップした拳銃が置いてある。二対であるらしいそれは単体ではウィンドウにしまえないようなので出しっぱなしにしている。護身用にはちょうどいい。

銃を横目にしつつ、次に開いた一冊は叙事詩であった。EPITAPH OF THE TWILGIHT。黄昏の碑文。それをラニは静かに読み進める。
その本は借りてきた本の中でも異色の一冊であった。唯一完全にフィクションとして書かれたものであると明記されていたものだ。
最初は無視しようかと思ったのだが、しかしこれがある一つの「仮説」と密接に関係したものであることが分かってきた為、こうして持ってきた。

『夕暮竜を求めて旅立ちし影持つ者、未だ帰らず
 ダックの竈鳴動し
 闇の女王ヘルバ、ついに挙兵す……』

学校を離れて以来、彼女は適当な日本エリアの民家に腰を据え、借りてきた書物に目を通していた。
その全てが元の月海原学園にはなかったものであり、この空間で何が起こっているのかを掴む鍵であるとラニは考えていた。

この空間が聖杯戦争の原始の姿でないかと考えていたラニであるが、どうやらそれだけないことは今までの経験で分かっていた。
先ず数時間前に自分が手を下したリーファだ。
彼女の言動は明らかに自分の知る世界、時代とはそぐわないものであった。
ムーンセルが用意したNPCのような存在ではないかと当初は疑っていたが、だとすれば参加者としてカウントされていることに違和を感じる。
ではどういうことなのだろうか。それを考えるに当たって、図書館で見つけたこれらの書籍は実に興味深いものであった。

962now reading ◆7ediZa7/Ag:2013/08/15(木) 12:59:30 ID:IsYu2dHc0

『行く手を疾駆するはスケィス
 死の影をもちて、阻みしものを掃討す』

見つけ出した書籍はどれもラニからすれば齟齬を感じるものばかりであった。
ネットバトラー、ツナミ、ナーヴギア、ニューロリンカー、ハロルド・ヒューイック……未知の単語が各書籍に当たり前のように書かれていたのだ。
最初はフィクションの類かと思ったが、それにしては書かれ方が妙だった。

『惑乱の蜃気楼たるイニス
 偽りの光景にて見るものを欺き、波を助く』

そこでラニは一つの仮説を立てた。
リーファや書籍から垣間見える齟齬。そこから見える可能性は一つ。
ここまで根本的なズレがあるということは、世界――各人が観測し得る宇宙にそも差があるのだ。
少々唯我論的側面が強い考え方だが、それでもラニは空論と切り捨てる気にはなれなかった。

『天を摩す波、その頭にて砕け、滴り新たなる波の現出す
 こはメイガスの力なり』

何故ならラニは知っている。
最古よりあらゆるものを観測し、記録し、演算する究極の量子コンピューター・ムーンセルオートマトンを。
不確定性理論が殺した筈のラプラスの悪魔。その本当の居場所である。
それは常に「仮説」を演算している。世界が変容し得るあらゆるパターンをその中で作り上げている。

ならばリーファやこの書籍が語る世界もまたその「仮説」の一部ではないなのではないだろうか。。
ムーンセルが観測しえた異世界。そんな世界の住人もまたこのバトルロワイアルに参加させられている。
そういうことではないだろうか。

『波の訪なう所
 希望の光失せ、憂いと諦観の支配す
 暗き未来を語りし者フィドヘルの技なるかな』

そんあ突飛な発想に対し、ラニが強く信憑性を感じたのは先の学校での一戦――その中での凛との再会だ。
死んだ筈の彼女とこうして見え、そして彼女と自分がパラレルな関係であることを知った時、ラニは己の考えに確信に近いものを抱いた。
典型的な並行世界の発露。それが自分と凛の関係であるとするならば、リーファの語る世界もまたずっと前により大きく分岐した「仮説」なのだろう。

ならば、あの「岸波白野」もまた別の「仮説」の中の存在なのだろう。
開幕の場で見かけたとはいえ、半信半疑であった彼の存在にも同様に確信が持てた。
無論、自分の知る「岸波白野」ではないかもしれないが、それでも彼である。

963now reading ◆7ediZa7/Ag:2013/08/15(木) 13:00:04 ID:IsYu2dHc0

『禍々しき波に呑まれしとき策をめぐらすはゴレ』

「仮説」が「仮説」でなく「現実」として交わっている――それがこの空間の現状である。それがラニの下した結論であった。
その「仮説」には勿論、己の知る世界さえも含まれている。自分がこれまで歩んできた人生、触れてきた森羅万象全てさえも「仮説」。
一部の人間には受け入れがたい考えであるかもしれないが「現実」の成り立ちの一形態としては十分にあり得るだろう。
全ての宇宙はムーンセルの観測が起点となっている。だとすればムーンセルとは正しく「創造主」「神」「毘紐天」その地位に当たるものではないか。

無論それ自体はまた思弁的な「仮説」に過ぎないが、状況に説明は付く。
肝要な点としてはこの場がムーンセルの内部である可能性が非常に高いということである。
実利的な意味ではそのことが最も見るべき点であるかもしれない。それより先のことはまだ頭の片隅に留めておけばいい。

『甘き罠にて懐柔せしはマハ
 波、猖獗を極め、
 逃れうるものなし』

先ず考えるべきはこのバトルロワイアルの迅速な遂行である。
時刻は既に七時に届こうかとしている。一通り書物に目を通している内に結構な時間が経ってしまった。
その間に届いたメールも、ラニにとってさして新しい情報はなかった。
脱落者リストの中に凛とリーファ以外に知る名はなかったし、イベント関連も月海原学園以外は位置的に遠くさして影響がありそうもない。
学園に戻る気がない以上、特に気にする必要もないだろう。装備は整っている訳だし。見るべき点としてはポイント支給くらいであった。

そしてこれからの行動方針だが、そこまで焦る必要もない、というのが先ずあった。
既に自分は二人の参加者を倒している。これで猶予期間が12時間伸びている上、ゲーム内通貨であるポイントにも余裕ができた。
状況は優位であるといえるだろう。現時点で考え得る限り最良の状況であるともいえる。

『仮令逃れたに思えどもタルヴォス在りき
 いやまさる過酷さにてその者を滅す
 そは返報の激烈さなり』

なら、このままこの場に一日目終了まで籠城するというのも考えたが、しかしそれは却下した。
それまで発見されないとは限らないし、情報戦で遅れを取るのは痛かった。
やはりある程度能動的に動いて参加者を減らしていくべきだろう。

次に目指すとすれば、やはりウラインターネットというエリアだ。
このエリアは他と比べても特別扱いされてるきらいがある。先のメールで一つのイベントが設定されていなかったことも妙だ。
もしや隠しイベントのようなものが存在するのかもしれない。調査の必要があるだろう。位置的にも近く行動に無駄がない。

焦る必要はないが、動いていく。他の参加者を殺していく。迅速かつ無駄のない動きで。
その指針には単なる合理的な展望の他にも、ラニ自身の性分として無駄が嫌いということも関係していた。

964now reading ◆7ediZa7/Ag:2013/08/15(木) 13:00:57 ID:IsYu2dHc0

『かくて、波の背に残るは虚無のみ 
 虚ろなる闇の奥よりコルペニク来るとなむ
 されば波とても、そが先駆けなるか』

と、そこで本が終わっていた。時間も時間だし、そろそろ動くべきだろう。
そう思ったラニはそこですっと立ち上がった。
そして傍らに置いた本たちをウインドウ内にしまいながら、呟いた。

「なるほど」

と。
その眼にはアイテムストレージに映る【セグメント1】の文字が映っていた。



【A-3/日本エリア・民家/1日目・朝】

【ラニ=Ⅷ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康/令呪三画 600ポイント
[装備]: DG-0@.hack//G.U.(一丁のみ)
[アイテム]:疾風刀・斬子姫@.hack//G.U.、セグメント1@.hack//、不明支給品0〜5、
     ラニの弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式、図書室で借りた本
[思考]
1:師の命令通り、聖杯を手に入れる。
そして同様に、自己の中で新たに誕生れる鳥を探す。
2:岸波白野については……
3:ウラインターネットを調査する。
[サーヴァント]:バーサーカー(呂布奉先)
[ステータス]:HP90%
[備考]
※参戦時期はラニルート終了後。
※他作品の世界観を大まかに把握しました。
※DG-0@.hack//G.U.は二つ揃わないと【拾う】ことができません。

965 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/15(木) 13:01:17 ID:IsYu2dHc0
投下終了です

966 ◆7ediZa7/Ag:2013/08/15(木) 13:03:27 ID:IsYu2dHc0
すいません、最後の文を修正します
>その眼にはアイテムストレージに映る【セグメント1】の文字が映っていた。

その瞳にはアイテムストレージに収められた【セグメント1】の文字が映っていた。


967名無しさん:2013/08/15(木) 15:34:05 ID:6WV416uQ0
投下乙です
ラニの冷静な性格がうかがえる話でした
ただウラインターネットはちょっと危険な場所ですね…大丈夫かな?

ところでそろそろ次スレ立てますか?

968名無しさん:2013/08/15(木) 18:19:40 ID:4HgLvYq20
投下乙です

冷静なのが頼もしい場合もあるが場所が場所だけに…
こうくるかあ

969名無しさん:2013/08/15(木) 20:30:37 ID:E95t5Il20
乙です
おお、碑文だ碑文だ
ウラインターネットも結構あれだが、今セグメント1持ってるから怖いのが
…いや、怖いのは怖いので、次の予約が入ってるしなー

>>967
次の投下が来る前か来た後くらいにはスレ建てできそうだなー
ちょっとテンプレ作ってくる

970名無しさん:2013/08/15(木) 21:03:08 ID:E95t5Il20
タイトルの「ヤ」を「ア」に修正。ナンバリングは適当なんで、建てる人が決めてくださいw

----
スレッドタイトル:バーチャルリアリティバトルロワイアル Log.02



ここは仮想空間を舞台した各種メディア作品キャラが共演する
バトルロワイアルのリレーSS企画スレッドです。

この企画は性質上、版権キャラの残酷描写や死亡描写が登場する可能性があります。
苦手な人は注意してください。


■したらば避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15830/

■まとめwiki
ttp://www50.atwiki.jp/virtualrowa/

■過去スレ
企画スレ ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13744/1353421131/l50
 Log.01 ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1357656664/l50 <前スレ

971名無しさん:2013/08/15(木) 21:03:59 ID:E95t5Il20
■参加作品/キャラクター

7/9【ソードアート・オンライン】
 ○キリト / ○アスナ / ○ヒースクリフ / ● リーファ / ● クライン / ○ユイ / ○シノン / ○サチ / ○ユウキ

7/8【Fate/EXTRA】
 ○岸波白野 / ○ありす / ● 遠坂凛 / ○間桐慎二 / ○ダン・ブラックモア / ○ラニ=VIII / ○ランルーくん / ○レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ

8/8【.hack//G.U.】
 ○ハセヲ / ○蒼炎のカイト / ○エンデュランス / ○オーヴァン / ○志乃 / ○揺光 / ○アトリ / ○ボルドー

4/7【パワプロクンポケット12】
 ○ジロー / ○ミーナ / ● レン / ● ウズキ / ○ピンク / ○カオル / ● アドミラル

5/6【アクセル・ワールド】
 ○シルバー・クロウ / ○ブラック・ロータス / ○ダスク・テイカー / ● クリムゾン・キングボルト / ○スカーレット・レイン / ○アッシュ・ローラー

4/6【ロックマンエグゼ3】
 ○ロックマン / ○フォルテ / ● ロール / ○ブルース / ● フレイムマン / ○ガッツマン

4/6【.hack//】
 ○カイト / ○ブラックローズ / ○ミア / ○スケィス / ● バルムンク / ● ワイズマン

4/5【マトリックスシリーズ】
 ○ネオ / ○エージェント・スミス / ○モーフィアス / ● トリニティ/ ○ツインズ

43/55


■地図
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0176.gif

972名無しさん:2013/08/15(木) 21:04:46 ID:E95t5Il20
■ルール

<ロワの基本ルール>
・最後の一人になるまで参加者は殺し合い、最後に残った者を優勝とする。
・優勝者には【元の場への帰還】【ログアウト】【あらゆるネットワークを掌握する権利】が与えられる。
・仮想現実内の五感は基本的に全て再現する。
・参加者はみなウイルスに感染しており、通常24時間で発動し死亡する。誰か一人殺すごとにウイルスの進行が止まり、発動までの猶予が6時間伸びる。
・参加者は【ステータス】【装備】【アイテム】【設定】で構成されたメニューを表示できる。また時刻も閲覧可。
・死亡表記は【キャラ名@作品名 Delete】


<支給品について>
・「水」「食糧」などは支給されない。
・参加者には地図とルールの記されたテキストデータが配布されている他、ランダム支給品が3個まで与えられる。
・アイテム欄の道具は【使う】のコマンドを使うことで発動。外の物をアイテム欄に入れるには、物を手に持った状態で【拾う】のコマンドを使う必要がある。
・死んだ者の所持アイテムは実体化して、その場に散らばる。また死体は残らず消滅する。


<武器防具の装備の扱い>
・自分のジョブ以外のものも手に持つことは可能。ただし扱いに関しては全くの素人状態(杖なら魔法は使えない)
・防具の場合は触れることはできても着ることはできない(指定ジョブ以外の防具は防具として役に立たない)
・レベル、習得スキルの扱い→アバウトでいい。
・ゲームを越えての装備品も似た武器ならば自分のジョブに近い形で運用できる。
・武器防具のパッシブスキルは他ゲームのものでも発動する。


<イベント>
《1日目 6:00〜18:00》
【モラトリアム】日本エリア/月海原学園
校舎内は交戦禁止エリアとなる。
期間中に交戦禁止エリア内で攻撃を行っているプレイヤーをNPCが発見した場合、ペナルティが課せられる。

《1日目 6:00〜12:00》
【痛みの森】ファンタジーエリア/森
 該当エリア内でのダメージ倍率が二倍になり、被ダメージの痛覚も増幅される。
 加えてエリア内でPKした場合の獲得ポイントが二倍になる。

《1日目 6:00〜12:00》
【幸運の街】アメリカエリア全域
 該当エリア内でPKを行った場合、ドロップするアイテムが一定確率でレアリティの高い物に変化する。
 なお変化したアイテムを元に戻すことはできない。


<作中での時間表記>(0時スタート)
 深夜:0〜2  朝:6〜8.     日中:12〜14  夜:18〜20
 黎明:2〜4  午前:8〜10  午後:14〜16  夜中:20〜22
 早朝:4〜6  昼:10〜12.   夕方:16〜18  真夜中:22〜24


<各作品に関するルール・制限>
【Fate/EXTRA】
・マスターは基本的にサーヴァントを伴って参戦。
・マスターが死ねば、サーヴァントも同時に脱落する。
・サーヴァントの宝具、武装は没収されない。
・主人公(岸波白野)の性別とサーヴァントは登場話書き手任せ。
・サーヴァントは戦闘する際に、マスター側の魔力も消費する。

【ソードアートオンライン】
・まだ文庫化されていないweb版からのキャラ、アイテムの参加は不可。

【.hackシリーズ】
・八相はプロテクトブレイクするとHP∞は解除。
・憑神は一般PCにも見え、プロテクトブレイクされると強制的に一般空間へ。
・パロディモードからの参戦はなし。

【アクセルワールド】
・参加キャラたちは最初からデュエルアバターだが、任意でローカルネットのアバターも取れる。
・必殺技、飛行、略奪スキルは要ゲージで、あとは特に制限なし。

【パワプロクンポケット12】
・主人公の名前は書き手に任せ。→「ジロー」に決定しました。

【ロックマンエグゼ】
・バトルチップは他作品キャラも使用可、チップ単位て支給。
・一度使ったチップは一定時間使用不可。
・フォルテの「ゲットアビリティプログラム」は深刻なダメージを与えなければ発動しない。

【マトリックスシリーズ】
・スミスの分身能力は、心身に深刻なダメージを与えないと発動しない。
・ネオの身体能力(飛行、治療、第六感的な知覚)はある程度制限。

973名無しさん:2013/08/15(木) 21:07:30 ID:E95t5Il20
>>971名簿はwikiからコピペ
そのせいで●の後に半角スペース付いてるな…
建てる人、覚えてたら修正お願いします

>>972ルールは>>33の流れとwikiのルールをコピペ
禁止エリアの項目を、放送のイベントに差し替えてます
文面これでいいかな?

974名無しさん:2013/08/16(金) 06:43:21 ID:j3UlxC3M0
テンプレ乙です、文面は問題ないと思いますよ
ただ地図が没案のになっているのにそこは立てる際に直した方がいいですね

975名無しさん:2013/08/17(土) 09:22:25 ID:SECNz7Uk0
>>974
すみません気付きませんでした

>>257の地図が正しいんですよね
念のためwikiの地図ページとも見比べました
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0191.gif

976名無しさん:2013/08/17(土) 14:10:01 ID:MrBT8uHc0
SAO最新刊みて、ふと思った。

青薔薇の剣、ヒースクリフが持ってるが……
もし何かのきっかけでリリース・リコレクションが可能になったら、このロワでも最強クラスの攻撃ができるんだよな。

ヒースクリフなら出来かねないと思えるからマジで怖い…

977 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/21(水) 12:52:41 ID:miHSImsw0
投下します

978『死の恐怖』は知っていますか? ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/21(水) 12:54:49 ID:miHSImsw0



【参加者名簿】   
【カレーパン】  
【エーテルの欠片】
【賢者のモノクル】 
【HPメモリ】   
【リカバリー10】  
【リカバリー30】 
【ソード】      
【ワイドソード】   
【セブンローズ】  





「こんなん見たってな……」
ハセヲは提示されたアイテム一覧をスクロールしながら眺めていた。空に浮かぶウィンドウに指を走らせることで画面もスライドしていく。
レオに言われた通り、ショップにやってきたはいいが一文無しの身ではこれ以上何もすることができない。
表示されたアイテム名も知らないものばかりである。少なくともThe World出典のものは見当らなかった。一応効果説明で内容を確認することもできるので、レオに報告する為に幾つかメモしておく。
内訳のほとんどは武器か回復アイテムであり、ランダムアイテムと特に変わりはなかった。
武器装備制限を解除できるようなものもあったが、今のところ特に必要とは思えない。まぁ買おうにもポイントとやらがないのだが。

値段の傾向としては回復アイテムは総じて高く、逆に武器は安価に設定してあるように思えた。これもバトルロワイアルを加速させるための策だろう。
また目を引くのは【参加者名簿】だろうか。これだけは入手しておいた方がいいかもしれない。
あとで報告してくべきだろう。既に自分は揺光と志乃がこの場にいることを知っているが、他の知り合いが居ないとも限らない。

と、一先ず賞品の調査を終えたハセヲはその場を後にすることにした。時間にそう余裕はない。
ヒグレヤ、という看板が掛かったショップから出ると、ハセヲは駆け出した。
立ち並ぶどこか近未来的な日本家屋を横目に南へと向かう。
移動短縮手段が何もない以上走っていくしかない。アリーナのゲートを使うというのも考えたが、それよりも道中での情報収集を優先したかった。

PCのままということもあり、長時間走ることに対する肉体的な疲れは少なかった。
だがそれ故に退屈に近いものを感じ、ハセヲは歯噛みした。早く他のエリアに辿り着かねばならないというのに。

979『死の恐怖』は知っていますか? ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/21(水) 12:55:22 ID:miHSImsw0

「……落ち着け」
自分自身に対し、ハセヲはそう語り掛けた。
ただ闇雲に急ぐばかりじゃ駄目だ。そのことを、彼は既に学んでいる。
時間があるのなら、また別のことに目を向けるべきだろう。例えばシステム的な面だ。The Worldとは違ったシステムが動くこの場では、先のレオがやってみせた画像の外部出力のように自分の把握していない機能がある。
それが盲点となって足元をすくわれかねない。今の内に把握しておくべきだろう。

ハセヲは走りながらも、メニューウィンドウを開き【設定】の項目をざっと確認してみた。
色々と開いていると、途中【使用アバターの変更】という項目に行き着いた。
そこでは【ハセヲ/1stフォーム】【ハセヲ/2ndフォーム】【ハセヲ/3rdフォーム】という表示されている。
現在の設定は言うまでもなく3rdフォームになっている。任意変更可であるらしく、ハセヲは試しに【ハセヲ/1stフォーム】に切り替えてみる。

「っと、なるほどな……」
すると3rdフォームの黒く刺々しい鎧は消え去り、代わりに肌の露出の多い1stフォームが現れた。ベルト状の装飾具がガチャガチャと腕に絡まる。
ログインしたばかり、まだ旅団に居た頃の姿だ。あるいは蒼炎のPCに初期化された直後か。
確認すると装備画面から[大剣]と[鎌]の項目が消えていた。ご丁寧にもその当時の性能を再現しているらしい。これは2ndフォームでも同様だった。

(こんな機能もあるのか……まぁ俺には意味はないけどな)

現状ただ武器の選択肢が減るだけで、1stフォームや2ndフォームを使う意味は全くない。
恐らく八咫のように複数アカウントを持っているのならば意味がある機能なのだろうと当たりを付ける。
そうしてこの項目の確認を終えようとしたのだが、

「ん、まだあるのか?」
そこでハセヲは【使用アバターの選択】にまだ選択肢があることに気付いた。
初期に表示された【ハセヲ】の選択肢の「上」にまだ何かあったのだ。スクロールさせると、そこには

【楚良】

そうあった。

「何だこれ……?」
見たことのないPC名だった。この欄にあるということは自分が使ったことがあるということなのだろうが、身に覚えがない。少なくともThe Worldでは使ったことはない筈だ。
何か他のゲームで自分が使ったのを忘れただけだろうか。

980『死の恐怖』は知っていますか? ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/21(水) 12:55:45 ID:miHSImsw0

(楚良……ソラって読むのかこれ? 多分これ曾良のことだよな)

河合曾良という松尾芭蕉の弟子が居たことを思い出す。
彼自身、松尾芭蕉は好きだった。【ハセヲ】というこのPC名も元は芭蕉の名から取ったものだ。
そういう意味では自分が付けそうな名ではあるのだが、しかし全く思い出せなかった。

不思議に思いつつも【楚良】を選択してみると、<This avatar is protected>と表示され何も怒なかった。
変に思ったハセヲが色々と弄ってみるも、何も変わりはしない。

(榊の仕掛けか? だとしても俺じゃどうしようもねえが……)

あとでレオに報告すべきかもしれない。そう考え、彼は一先ず項目を閉じた。
しかし自分の身体に、素性のしれない名が重なっていると思うと、何だか気味が悪く思えた。

と、そうこうしている内に日本エリアの端まで付いたことに気が付いた。
日本系の家屋が途切れ、向こう側には風そよぐ草原が広がっている。
エリアの境目はすぐそこだ。さっさとエリアの外に出ようとした彼であったが、

その前に、一通のメールが彼の下に届いた。

アイテム欄が強制的に開かれ、着信を告げるメッセージが表示されている。ハセヲは足を止め、そのメッセージにしばし注視した。
既に榊の悪意の混じったメールを貰った身であるハセヲは、それを見た瞬間思わず顔を顰めた。
碌でもないことが書かれていることは見るまでもなく明らかであった。しかし無視する訳にもいかず、悪態を吐きながらメニューから着信したメールを開いた。

案の定そこには見たくもないことが書かれていた。
GMからのメールを模した悪趣味な文体で脱落者や幾つかのルールの追加が書かれており、一つ一つが彼を不愉快にさせる。
中でも12人の脱落者が出たことに、ハセヲは何も言うことが出来なかった。彼はこれまでまだ危険なPKと遭遇していない。
レオたちと思いのほか円滑に交渉できたことでどこか気が緩んでいたが、こうして数字を見せつけられるとこの状況の危険さが分かってくる。
自分がかつて失ったものを想起し、彼は拳を力強く握りしめた。
そして見たくないと思ってはいても脱落者のリストだけは何度も読み直し、自分の探す者がないことを確認すると少しだけ息を吐いた。

「しかしバルムンク、か」
心当たりがあるのはその名前だけだった。あの謎の羽男の名前がそれだった筈だ。
かつてはハセヲが三爪痕と誤認した蒼炎のPK、そしてその同系列と思しき不気味なPCたち。未だ正体不明の彼等もこの場に居るのだろうか。
最も同名のPCであるだけ可能性は十分にあるが。何か元ネタがあった筈だし、別のゲームでそんな名前のPCが居たとしてもおかしくはない。
自分の知る名はそれだけだ。あとはどれも見たことがない。


かといってそれがPC名である以上、知り合いでないという保証はどこにもないのだ。
事実ハセヲは知らない。リストにあった【ワイズマン】の名が、彼の知る誰であるかを。
自分が知らないからといって、本当に関わりがないとは言えない。

981『死の恐怖』は知っていますか? ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/21(水) 12:56:06 ID:miHSImsw0












ハセヲが立ち止まっていた時間はそう長くはない。
思う所はあったが、それでも歩むことを止める訳にはいかない。そのことを彼自身知っていた。
身を苛む焦燥を抑えつつ、彼は迷うことなく駆け出した。

(マク・アヌ……見えてきた)

ファンタジーエリアにハセヲは遠くに見慣れた煉瓦造りの街を見て、奇妙な心地になった。
見慣れているが故に、草原と地続きという妙な構造に違和を覚えるのだろう。この感覚はしばらく付いて回りそうだ。
だが街に入ればより迅速に動けるだろう。危険者との接触も有り得る中で、集中して動かなくては。
そうして街へ向かっていたハセヲだが、ふとそこである音を聞く。


ハ長調ラ音。


ぽーん、という音が場に響いた。
その音は彼にしてみれば非常に馴染み深く、そして危険な音である。
憑神、蒼炎のPC、AIDA……The Worldで発生するイリーガルな現象の前触れとして、必ずその音が流れるのだ。
何故かは知らない。だが、その音を間近で聞いたハセヲは半ば反射的に目を見開き音へと振り返る。

「な……!」
そこで彼が見たものは、彼が良く知り、しかし知っているからこそあり得ない筈の存在だった。

「スケィス……だと?」
草原を駆ける巨大な存在にハセヲは愕然とした。
ぬっぺりと白い彫刻のような外観のそれは、細部こそ違えどハセヲの憑神である筈の『第一相・死の恐怖:スケィス』だった。
しかし勿論今の自分は憑神を発動などしていない。発動したとしてもこうして対峙することなどあり得ないというのに。

草原を駆ける白いスケィスは、ハセヲの存在に気付くとぴたりと動きを止め、ゆっくりと首だけをハセヲに向けた。
その姿にモンスター特有の生気のない無機質さと同時に底知れない不気味さがあった。

(……榊がスケィスに似たモンスターを作って参加者をPKさせてるのか? とにかく人間が動かしてるアバターじゃないな)

佇む白いスケィスから視線を逸らすことなく、ハセヲは後ろ手で双剣を取り出した。
光式・忍冬を構え戦闘に備える。この白いスケィスが本物かどうかは分からないが、友好的な交流ができるとも思えなかった。
一瞬の静寂を経て、ハセヲは雄叫びを上げ白いスケィスに切りかかった。
対する白いスケィスは薄く光る赤いケルト十字を使い、その剣戟を受けていく。一撃二撃三撃、と攻撃を繰り返し、一通り双剣コンボが終了すると、ハセヲは一歩退き次なる展開に備えた。
攻撃に手ごたえはなかった。初撃なので何ともいえないが、やはりこの白いスケィスも他の憑神と同じ――こちらもスケィスとなって戦うべきだろうか。

982『死の恐怖』は知っていますか? ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/21(水) 12:56:26 ID:miHSImsw0

白いスケィスは物言わず空中に佇んでいる。
ハセヲはそれを見上げながら、ふと妙な既視感に囚われた。
こうしてこの白いスケィスと対峙することは初めてでないような、そんな感覚が立ち現れた。
ハセヲとしてログインするずっと前、何時だったかこのスケィスに立ち向かい、そして――

(何だこれ……?)

断片の記憶が彼を苛み、掴もうとするとふっと消えてしまう。
ハセヲはこの奇妙な事態を呑み込めずにいた。

それを尻目に、白いスケィスは既に動き出していた。
身を翻し、まっすぐと草原を駆ける。ハセヲには一瞥もくれず。

「な……」
その姿に、ハセヲは再び声を失った。
無視された。戦っていた自分を放置し、どこかへ向かっていったのだ。
まるでより優先すべきものがあるかのように。

その事実にハセヲは困惑するしかなかった。
あの白いスケィスはただの似たモンスターでなく、明確な目的を持って動いている。
ではそれは何だ。自分でないもう一体の白いスケィスは、一体何をしようとしているのだ。

ハセヲは己の身体を見た。3Dポリゴンで描かれたこの身体には様々なものが宿っている。
碑文、楚良、スケィス……それらが実際何なのか、自分は実の所何も知らないのではないか。
そう思うと、心の底にひりつくような不安感が引っかかった。



[C-2/ファンタジーエリア・草原/1日目・朝]

【ハセヲ@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康/3rdフォーム
[装備]:光式・忍冬@.hack//G.U.
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない
1:この場にいるらしい志乃と揺光を探す
2:レオたちと協力する。生徒会についてはノーコメント
3:マク・アヌに向かう。
4:あの白いスケィスは……
[備考]
※時期はvol.3、オーヴァン戦(二回目)より前
※設定画面【使用アバターの変更】には【楚良】もありますが、
 現在プロテクトされており選択することができません。

【スケィス@.hack//】
[ステータス]:ダメージ(微)
[装備]:ケルト十字の杖@.hack//
[アイテム]:不明支給品1〜3、基本支給品一式
[思考]
基本:モルガナの意志に従い、アウラの力を持つ者を追う。
1:アウラ(セグメント)のデータの破壊
2:腕輪の力を持つPC(カイト)の破壊
3:腕輪の影響を受けたPC(ブラックローズなど)の破壊
4:自分の目的を邪魔する者は排除
※プロテクトブレイクは回復しました。
※どこに向かっているかは不明。

983名無しさん:2013/08/21(水) 12:56:55 ID:miHSImsw0
投下終了です

984名無しさん:2013/08/22(木) 00:00:31 ID:W7CQrqH20
投下乙です

ほうほう、すれ違ったか
ハセヲがここからどう行動するで大きく変わるかも…

985名無しさん:2013/08/22(木) 03:37:47 ID:.r3Quyr.O
投下乙です
二人(?)の死の恐怖の遭遇は特に何事もなく終わりましたか

それにしても、楚良アバターとは……
プロテクトされてるとはいえ、もし使用できようになればハセヲに影響を与えそうです
……まあステータス的には、1stと大して変わらないですけどね
ただ、1st、2nd共に、本当に無意味ですねw せいぜい外見が凶悪じゃなくなって、誤解されにくくなるくらいですかね?
ショップのアイテムは、いろいろ曖昧過ぎてちょっと疑問
チップのアルファベットや、非売品の【聖者のモノクル】と【セブンローズ】とかの価格設定どうするんだろ
特に【セブンローズ】は、AW出展なら、ショップで販売できる(していい?)アイテムじゃないと、個人的には思うけど

986 ◆nOp6QQ0GG6:2013/08/22(木) 21:02:44 ID:rgX9HvNI0
>>985
あまり内容を確定させたくなかったのですが、うーん確かにそうですね、収録時は冒頭を削っておきます

987名無しさん:2013/09/09(月) 06:31:34 ID:YZqrcAEw0
予約来てるけど、そろそろ次スレ建てたほうがいいのかな?

988名無しさん:2013/09/09(月) 18:15:51 ID:p9Xc4a4.0
その方が良さそうだね

989名無しさん:2013/09/09(月) 19:37:21 ID:dSRM.0g.0
ID変わったかもしれんけど987です
では建ててきますね

990名無しさん:2013/09/09(月) 19:48:17 ID:dSRM.0g.0
スレ建て完了しました
……共用の掲示板だから、名前欄で遊ぶのは止めた方がよかったかな(汗

次スレです
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1378723509/l50

991名無しさん:2013/09/10(火) 01:49:51 ID:wXsX7k2Q0
>>990
スレ立て乙です!むしろVRロワらしかったと思いますよ

後は埋めるだけかな?

992名無しさん:2013/10/20(日) 00:41:21 ID:rHw8SB0o0
埋め

993名無しさん:2013/10/20(日) 01:24:51 ID:sjGiSaYM0
埋めますか

994名無しさん:2013/10/20(日) 21:21:36 ID:sjGiSaYM0


995名無しさん:2013/10/20(日) 21:23:32 ID:CguTtJmg0
まだ埋まってなかったのか

996名無しさん:2013/10/20(日) 21:36:52 ID:tHDwIk.60
AAで埋めしようかと思ったけど、AA無い作品も幾つかあるからなぁ
埋め

997名無しさん:2013/10/20(日) 21:40:55 ID:tHDwIk.60
誘導がてら、>>1000だけAA使おうか
埋め

998名無しさん:2013/10/20(日) 21:41:37 ID:tHDwIk.60
埋め

999名無しさん:2013/10/20(日) 21:42:21 ID:tHDwIk.60
埋め
次で>>1000

1000名無しさん:2013/10/20(日) 21:43:29 ID:tHDwIk.60
                     __
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                    ,,-‐…- ミ、:::,,-‐…‐- ミ
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ニ=…‐- ミ     {/ |:::::ヽハ/}/ ノ八/ノ}ハ::/::::}
二二二二ニ≫ 、   ( 八::::{x笊示    x笊示 }:!:::::ハ      「もっ先へ――《加速》したくはないか、少年」
二二ニニ〃,_⌒ \ ノハハ::::. 辷ソ     辷ソ ハ{:: 仁}
二二ニニ{{ {ニニニ>'゙::::/::::i:圦    _ _     /: /:: {ノ
二二ニニ乂 `=ァ:::: /::::::::::|:::::::>  ___   イ:::/::::::::,
二二二ニニニ7:://::::::/::: |:/^^ヽ〈⌒ヽ f^Y{j /:::::::::::::,
マ二二ニニニ7 / /::::::/::::::〃⌒>,  Vニl_jニ{ノ \::::::::|:::::,      バーチャルリアリティバトルロワイアル Log.02
  `マニニニ7:/、_ { :: /:::::::::{::::::〈 }   マi「jニ{`Y:::::〉 :::| :::::,      ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1378723509/l50
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