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生存権争奪ロワイアル
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名簿
【金田一少年の事件簿】○金田一一○七瀬美雪○高遠遙一○遠野英治○六星竜一○濱秋子○多間木匠 7/7
【ケンガンアシュラ】○室淵剛三○若槻武士○阿古谷清秋○目黒正樹○関林ジュン○呉雷庵 6/6
【めだかボックス】○黒神めだか○人吉善吉○阿久根高貴○球磨川禊○江迎怒江○与次郎次葉 6/6
【魔法少女まどか☆マギカ】○鹿目まどか○美樹さやか○暁美ほむら○巴マミ○佐倉杏子○志筑仁美 6/6
【TOLOVEる】○結城梨斗○西連寺春菜○ララ・サタリン・デビルーク○金色の闇○モモ・ベリア・デビルーク 5/5
【ドラゴンクエストV】○リュカ(主人公)○パパス○ビアンカ○ジャミ○ピエール(スライムナイト) 5/5
【名探偵コナン】○江戸川コナン○ジン○京極真○毛利蘭○灰原哀 5/5
【寄生獣】○泉新一○後藤○浦上○田村玲子○村野里美 5/5
【ジョジョの奇妙な冒険】○空条承太郎○DIO○ジョセフ・ジョースター○リサリサ 4/4
【魔人探偵脳噛ネウロ】○桂木弥子○葛西善二郎○シックス○アヤ・エイジア 4/4
【HELLSING】○アーカード○セラス・ヴィクトリア○アレクサンド・アンデルセン○インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング 3/3
書き手枠 6/6
○/○/○/○/○/○ ※書き手枠は名簿キャラが全て出そろった時点で打ち切り。
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※基本ルール
閉鎖された空間での殺し合い。
優勝者は如何なる願いも叶えることができる。(「死者蘇生」「巨万の富」など)
参加者のやり取りに反則はない。
【スタート時の持ち物】
※各キャラ所持のアイテムは没収され代わりに支給品が配布される。
1.ディバック どんな大きさ・物量も収納できる。以下の道具類を収納した状態で渡される
2.参加者名簿、地図、ルールブック、コンパス、時計、ライト
3.ランダム支給品 何らかのアイテム1〜3個。ランダム支給品は参加作品、現実、当企画オリジナルのものから支給可能。
4.水と食料「一般的な成人男性」で2日分の量。
ゲームを終わらせる手段は三つ。
①生存者が一名となる。
ただし、制限時間は三日間であり、それを超えると全員の首輪が爆発し死亡する。
②首輪を計6点分手に入れ、所定の場所へと納めればその人物はゲームから途中離脱することができる。
その場合は優勝の報酬は貰えない。
また、『怪物』と指定された参加者は『怪物』・『超人』の首輪を手に入れても1点にしかならない。
『超人』は『怪物』の首輪が2点、『超人』の首輪は1点となる。
人間...1点 22人
○金田一一○七瀬美雪○高遠遙一○遠野英治○濱秋子○多間木匠○人吉善吉○球磨川禊○江迎怒江○与次郎次葉
○鹿目まどか○志筑仁美○結城梨斗○西連寺春菜○江戸川コナン○ジン○灰原哀
○浦上○村野里美○桂木弥子○葛西善二郎○インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング
超人...2点 17人
○六星竜一○室淵剛三○阿古谷清秋○目黒正樹○関林ジュン○阿久根高貴○京極真○毛利蘭
○パパス○リュカ○ビアンカ○アヤ・エイジア○泉新一
○空条承太郎○ジョセフ・ジョースター○リサリサ○アレクサンド・アンデルセン
怪物...3点 18人
○若槻武士○呉雷庵○黒神めだか○暁美ほむら○巴マミ○佐倉杏子○美樹さやか
○ララ・サタリン・デビルーク○金色の闇○モモ・ベリア・デビルーク○ジャミ○ピエール(スライムナイト)
○田村玲子○後藤○シックス○DIO○アーカード○セラス・ヴィクトリア
③『怪物』が全員会場から消えた時、優勝者は生存者全員となる。褒美も全員が手にすることができる。
※ただし、名簿には『人間』・『超人』・『怪物』の欄は記載されていない。自分がどの陣営かは、参加者の脳内に刷り込まれる。
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【侵入禁止エリアについて】
・放送で主催者が指定したエリアが侵入禁止エリアとなる。
・禁止エリアに入ったものは首輪を爆発させられる。
・禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。
【放送について】
6時間ごとに主催者から侵入禁止エリア・死者・残り人数の発表を行う。
また、首輪納品所がランダムで指定される(放送ごとに入れ替わる)
【状態表】
キャラクターがそのSS内で最終的にどんな状態になったかあらわす表。
〜生存時〜
【現在地/時刻】
【参加者名@作品名】
[状態]:
[首輪ランク]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本方針:
1:
2:
※その他
〜死亡時〜
【参加者名@作品名】死亡
残り○○名
【作中での時間表記】(0時スタート)
深夜:00:00〜02:00
黎明:02:00〜04:00
早朝:04:00〜06:00
朝 :06:00〜08:00
午前:08:00〜10:00
昼 :10:00〜12:00
日中:12:00〜14:00
午後:14:00〜16:00
夕方:16:00〜18:00
夜 :18:00〜20:00
夜中:20:00〜22:00
真夜中:22:00〜24:00
【予約について】
トリップを付けた状態で、本スレに予約キャラを明記し宣言してください。
期間は5日間。延長は+2日間。
投下期限を超過した時点で破棄宣言を待たずして当該キャラクターの再予約が可能となりますのでご注意ください。
【投下について】
本スレにて、トリップを付けた状態で投下宣言を行ったのち投下してください。
投下中にトリップを付けるかはどちらでも構いません。なお投下後は必ず終了宣言をしてください。
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※能力の制限
再生能力、人智を超えた異能力などは制限がかかる。
【めだかボックス】
・スキル(異常、過負荷共に)の能力制限。
【魔法少女まどか☆マギカ】
・魔女状態での参加は禁止。魔女化は可。
・ソウルジェムは本人支給
【ドラゴンクエストV】
・ザキ・ザオリク系の呪文は禁止
【TOLOVEる】
・万能ツールは支給禁止。
・変身能力の制限
【寄生獣】
・寄生生物の支給禁止
【ジョジョの奇妙な冒険】
・スタンドは可視で物理干渉を受ける
・スタンドDISCは支給不可
【魔人探偵脳噛ネウロ】
・シックスの金属生成の弱体化
【HELLSING】
・吸血鬼、再生者共に再生能力の制限
その他
・強力すぎる能力は全体的に制限
・吸血鬼化は、対象が死亡していなければ可能。ただし、主の下僕にはならず、自分の意思で行動する。また、全快するのではなくあまりにも酷い損傷であればある程度のダメージは残る。
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☆
化け物を倒すのはいつだって人間だ。
ならば。
人間を倒すのはいったい誰だ。
そう。それは―――
...えっ、答え?
そんなの僕が知るわけないじゃないか。
でも、強いて言うならそうかな。
『人間』も『超人』も『化け物』も。
おしなべて普通に平等だと僕は思うよ。
☆
"
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☆
薄暗い部屋の中、彼等は目を覚ました。
彼等の中の誰一人として、このような場所に連れてこられた覚えはなかった。
故に、彼等の大半はたちまち混乱に陥り、部屋中がざわめきに包まれる。
混乱は人の口を軽くする。
しかし、それもすぐに収まった。
否、一人の男の発した声により収められた。
「『跪け。』そして『黙れ。』」
まさに、男の声のとおりに、全員がその場に跪き、黙らせられた。
文字通り、言葉が重みになったかの様に。
突如、部屋が明るくなり、一段上がったステージに、先程の声の主と思われる男が姿を現した。
「俺の名は都城王土。貴様らの上に立つ者の名だ。脳裏に焼き付けるがいい」
逆立てた金髪の長身の男は、制服を着ているため、学生だと思われる。
が、彼から感じられる威圧感だけで、彼が唯の学生で無いことは誰もが感じ取っていた。
「偉大なる俺が、わざわざ貴様らを呼び寄せたのは他でもない。なぁに、単なる余興だよ」
誰も動くことも許されない、声も出せない空間の中で、一瞬のタメの後、彼はハッキリと口に出した。
「これから貴様らには、最後の一人になるまで、殺し合いをしてもらう」
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その言葉に、部屋中の空気が一気に変貌した。
声が出せないのでざわつくような事は無かったが、しかし、それぞれの思いを各々の表情により表した。
分けがわからない、と混乱する者。
その意味を理解し、恐怖を浮かべる者。
その意味を理解し、憤慨の色を見せる者。
その意味を知ってか知らずか、笑みを浮かべる者。
または、特に何の反応も無い者。
そんな彼等を一通り見回してから、彼は言葉を再開する。
「では、偉大なる俺が、基本で重要で絶対のルールを解説してやろう。一つ、先程言った通り、これは殺し合いだ。
この後、貴様らをある場所へと送り、その範囲内で殺し合ってもらう。
二つ、支給品の配布。開始と同時に配布するデイバックの中に、約2日分の食料と何かが入っている。
それは、幼い子供でも大の大人も簡単に殺せるような武器かもしれないし、場合によってでしか使えない物かもしれない。
まぁ、なにが入っているかはお楽しみというやつだよ。
三つ、貴様ら参加者の中には、大勢の『怪物』が紛れている。その『怪物』が全て淘汰されれば、その時点でこの殺し合いは終了だ。
最後の一人を待たずして、生存者はみな優勝となる。ただし、その『怪物』を知る術はないため、全ては伝聞での判断になるな。
もっとも、偉大なる俺ならばいざ知らず、自ら化け物ですなどという輩はいないだろうがな。
で、四つ目...これが一番の肝でな。お前達、『自分の首を触ってみろ』」
彼の言葉通り、皆が己の首に触れる。
彼等の指先には、共通して、冷たい金属の感触。
そして、ステージの中央が開き、何かがせり上がってきた。
それは、眠っているかのようにうなだれている、椅子に縛られた金髪の少女だった。
「貴様ら全員の首には、コイツと同様の首輪が巻き付いている。この首輪にはそれぞれ位が定めてあってな。
『人間』・『超人』・『怪物』と、それぞれにポイントが振り分けられている。その首輪を6ポイント分集め、所定の場所に持ち込めば、この殺し合いを途中で離脱することができる。
ポイントの配分や所定の場所は、また後ほど配る説明書や放送で指定するので、いまは考える必要はない。
そうそう、この首輪には面白い仕掛けがあってな。
コイツに強い衝撃を与えたり、六時間毎に行う死亡者放送と共に発表する禁止エリアに踏み込んだりすると......」
ピピピピピピピ
彼が言葉を切ると同時に、首輪から古い目覚まし時計のような音が鳴り始めた。
ピピピピピ―――ッ
そして、音が鳴り止むと同時に
ボンッ
首輪が、爆発した。
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椅子に縛られた少女の首から上が吹き飛び、辺りには血と肉片が飛び散った。
「と、まあ、こうなるわけだ。ああ、ちなみに、肉体に自信があるからといって、無理に外すのは勧めない。
この首輪はどんな者でも死に至らしめるからな。さて、それでは...おや?」
彼は何かに気づいたかのように、一人の少年に視線を向けた。
「何か言いたそうだな、ええっと、そう、ヒトキチ。よかろう、知らぬ仲でもない。貴様は特別に口を開くことを許そう」
ヒトキチと呼ばれた少年は、先程の光景を見たためか、いくらか嘔吐物を撒き散らした後、勢いよく男に掴みかかった。
「都城先輩...あんた、何かんがえてんだよ!こんなことして何になるんだよ!?」
「言ったろう?これは単なる余興だと」
「―――てめぇっ!」
少年は右手の拳を固め、男の横っ面を思い切り殴った。
しかし、男は、そんな事を意にも介さないような、不適な笑みを浮かべた。
「...ふはっ、相も変わらず意気旺盛な男だな、ヒトキチ。だが、そこまで考え無しでは、このゲームでは長くもたんぞ?偉大なる俺が寛大だから助かったが...もう少し冷静に行動すべきだ」
「ッ!...ホントにどうしちまったんだよ。あんたは、本気でこんなバカげたことをするつもりなのか?」
「王(おれ)に撤回はない。お前の見た通りだよ、ヒトキチ」
その言葉に、少年が怒りの表情のままに左足での前蹴りを繰り出す。
が、しかし、男にその足先が触れる寸前で、少年はその場に崩れ落ちてしまった。
「さて。ある程度時間も潰せたことだし、そろそろ始めるとしよう」
男がパチンと指を鳴らすと同時に、皆の足元に白いもやがかかり始めた。
「これから、お前達を会場へと移動させるわけだが...俺としたことが、大事なことを忘れていたな」
白いもやが、皆の身体の隅々までまとわりつく。
「この殺し合いで生き抜き、優勝した者には、どんな願いでも叶えさせてやろう。大金・権力・死者蘇生・因果律を覆す内容...どんな願いでも、だ。尤も、途中で離脱した者には与えられんがね」
白いもやが、皆の全身を包み終わる。
そして、部屋からは、男―――都城王土を除く全てのものが消え失せた。
跪いていた者も、彼に掴みかかった後輩も、爆死した少女の遺体も、なにもかもが消え失せた。
【ゲーム開始】
【主催 都城王土@めだかボックス】
※爆死したのは、タバサ(主人公の娘)@ドラゴンクエストVです。
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OP終了です。
続いて第一話を投下します。
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七瀬美雪は、空き教室の一室で目を覚ました。
先の惨劇への恐怖も確かにあったが、不運にも多くの事件に巻き込まれた経験が活き、どうにか状況を整理できる程度には落ち着くことができた。
まず彼女が行ったのは、支給品の確認だった。
取り出すのは名簿。手元が暗いため、ライトを使い照らして詳細を確認する。
(あ...!)
名簿で記載されていた中で、知っているのは5人。
幼馴染の金田一一、事象犯罪芸術家、通称『地獄の傀儡子』高遠遙一、獄門塾での事件の犯人『スパロウ』こと濱秋子。
そして―――共に不動高校の関係者であり、犯罪を犯してしまった二人、遠野英治と六星竜一。
知り合いが巻き込まれていたのは不運であり心が痛む。
が、しかし同時に、幼馴染である一がいたことはどこか安心さえできる。
一は、いつだって解決不可能だと思われた難事件でも解決してみせた。
だから、この事件だってきっと―――。
けれど。
本当は優しい人だった濱はともかく、あの幾度も一を追いこんできた犯罪者、高遠遙一は油断ならない存在だ。
彼は、芯からの犯罪者であり、他者を欺き殺すことになんら躊躇いがない。
とはいえプライドは人一倍高い彼である。この殺し合いでどう動くのかは想像もできない。
そしてなにより気にかかるのは、残りの二人だ。
(遠野先輩も小田切先生...六星さんも、確かに亡くなっていたはず)
遠野英治は悲恋湖で自爆し、六星も父親に撃たれて死んだはずだ。
いや、遠野に関しては、深山日影という彼に瓜二つの記憶喪失の青年が彼であれば本当に生きていたということになるが、それでも六星は確かに死んでいたはずだ。
ただの同姓同名だろうか―――いや、そう考えるのは早計だ。
しかし、生き返ったという事実を易々と認めることもできない。
とにかく、まずは一や死んだはずの彼らに会わなければ始まらないだろう。
美雪は、できる限り足音を抑え、周囲に警戒しつつ校内への探索へと踏み切った。
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(そういえば...ここって)
なんとなく周囲を見渡してみると、どこか既視感を憶えてしまう。
彼女の通う不動高校に似ているのだ。
ライトで小さく光を灯し、手元の地図を確認してみる。
(え...!?)
なんと、地図には不動高校が記載されているではないか。
だとすれば、ここは本物の不動高校?それとも、不動高校に似せて作られた偽者?
どちらにせよ、一との合流場所として解りやすい場所としては最適だ。
(もしもはじめちゃんがここに来てたら...)
もしも彼がここにいたら、おそらく馴染みのある教室か屋上に向かうはず。
そんな期待を込めつつ、美雪が再び歩をすすめた時だ。
カツン カツン
足音が聞こえた。
誰かいる―――そう確信した美雪だが、同時に期待を抱いてしまう。
(もしかして、はじめちゃん?)
足音が聞こえてくるのは、屋上へと繋がる階段からだ。
先の推測と重ねれば、そう思うのも仕方のないことだろう。
美雪は、思わず足音へとライトを向けその正体を確認する。
「あ...」
照らし出されたのは、一とは似ても似つかない坊主頭の男だった。
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「へーえ、随分いい女宛がってくれるじゃん」
へらへらと笑みを浮かべる男の目を見て、美雪は思う。
駄目だ。この人とは―――関わってはいけない。
美雪はすぐに踵を返し、男から距離をとろうとする。
「おっと」
だが、不幸にも身体能力は男の方が上だった。
あっという間に距離を詰められ、美雪は床に押し倒されてしまう。
「あうっ!」
「いい声で鳴いてくれるじゃん。壊しがいがある」
落としたライトの光に浮かび上がる男の目に、美雪の背筋は凍りついた。
そうだ。なんでこの人と関わってはいけないと思ったのかがわかった。
今まで出逢ってきた犯罪者は、みんな心に闇を抱えている人ばかりだった。
復讐のため、大切な人のため、自分を護るため...
あの高遠でさえ、最初の殺人には理由があった。
けれど、この人は違う。
この男は―――意味も無く殺人を繰り返すことができる。そんな目をしていた。
「へへっ、精々楽しませてくれよ」
言うが早いか、男のナイフが振りかぶられ、美雪の腹部に突き立てられる。
「あぐっ、ぅあああああぁあああ!!」
美雪は苦痛の声をあげるが、しかし男は意にも介さない。
いや、意にも介さないというのは語弊があるか。
その悲鳴に昂っている。
美雪の腹部から溢れだす血に、悲鳴に、股倉をいきり立たせて歓喜しているのだ。
だから―――美雪の悲鳴は抑えないし、一切容赦もしないのだ。
腹部からナイフを引き抜くと、次いで両手足に突き立て動きを制限する。
更にダメ押しとでもいわんばかりに、脇腹、喉元へと突き立てる。
美雪を襲う激痛激痛激痛―――
これほどの刺し傷から流れる多量出血だ。専門医がすぐにでも治療しなければ失血死してしまうだろう。
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「つっても、死ぬにはまだ時間があるからな。もう少し楽しませてもらうぜ」
男は美雪の服を、下着を引き裂き、その豊満な胸を露わにさせる。
これから自分がなにをされるのか―――もう、そんなことへの羞恥心や嫌悪さえ美雪には湧き上がってこない。
(はじめちゃん...ごめんね...)
あるのは、絶え間なく全身を苛む激痛と生への諦めからの虚脱感だけ。
視界は涙で滲み、聴覚も朧になり、もはや男に些細な抵抗すらできない。
「ん〜、そうだな。たまにはこっちの穴を使うか」
男が自身のイキり立った性器を露出させるが、美雪にそれを拒むことはできない。
腹部の傷口に性器が宛がわれ―――
「やめろおおおおおおおお!!!」
声が響く。
美雪でも、男のものでもなく。
しかし美雪には聞き覚えのある第三者の叫びが。
美雪の傷口に触れる寸前にまで性器を宛がっていた男は、慌てて上体を起こしナイフを引き抜き叫びの主へと向かい合う。
走ってくる乱入者へと男はナイフを振るう―――が、しかし、ナイフは振るわれたデイバックに突き刺さるのみで、乱入者へと届かない。
チッ、と舌打ちをする間もなく、乱入者の拳が男の顔面を捉え、男の悲鳴と共に後方へと吹き飛ばす。
乱入者は、殴り飛ばした男へ見向きもせずに美雪を抱きかかえ必死に声をかける。
(はじめ...ちゃん...?)
その必死に助けようとしてくれる『彼』の姿に、幼馴染であり想い人である金田一一の姿が重なる。
もうすぐ自分は死んでしまうけれど―――最期に、こうして彼と会えたなら、多少は救われた気持ちになる。
だが。
『彼』から滴る水滴が美雪の涙を流し、一瞬だけ視界を良好にし、『彼』の姿を認識したその時。
(とおの...センパイ...?)
彼女の淡い幻想は―――打ち砕かれた。
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☆
(クソッ...どうなってるんだよ!)
遠野は、苛立ちに任せてガシガシと髪を掻き毟った。
彼は、愛する螢子を殺した犯人の唯一の手がかりである"オリエンタル号に乗っていたS・Kのイニシャルの人間"を一纏めに集め全員を殺すという合理的な発想に至ったまさにその時に、この殺し合いに巻き込まれた。
名簿を確認して見ても、彼がピックアップした者たちはおろか、そもそも『S・K』のイニシャルの者も誰一人としていなかった。
つまり、遠野にとってこの殺し合いは全く無意味なものとなる。
(俺は螢子を殺した奴を殺さなきゃいけないんだ。こんなことに時間をとられてる場合じゃない!)
故に、遠野の行動指針は自然と決まっていた。
さっさと6点分の首輪を集め、この殺し合いを脱出する。そして、一刻も早く螢子を殺した者を殺す。
そのためにはなによりもまず他の参加者と出会うことだが...
「ん...」
遠野が、地図上の不動高校へと足を踏み入れた時だった。
ふと、視界の端の教室に、ぼんやりと灯る光を発見した。
それを眺めていると、やがて光は消えた。
誰かがあそこにいる。
そう確信した遠野は、躊躇うことなく校舎へと足を踏み入れた。
念のため警戒しながら校内を探索していた遠野の耳に、上階からなにかが倒れるような音が、少し遅れて悲鳴のようなものが届く。
(参加者が二人いるのか?)
おそらくそうだろう。でなければあんな悲鳴が上がる筈もない。
好都合だ。
様子を窺い、隙を突いてその二人を殺せば首輪は最低でも2点。両方とも『怪物』であれば6点であり、脱出への道は一気に縮まる。
早速遠野は慎重に階段を昇り、物陰から身を潜めて様子を窺うつもりだった。
そう、つもりだったのだ。
「えっ」
階段を昇った先に飛びこんできたのは、男が少女を突き刺し、今まさに犯そうとしている場面だった。
そして、その少女は
「螢...子...?」
螢子が、見知らぬ男に傷付けられ犯されそうになっている。
それを認識した瞬間、遠野の理性は吹き飛び
「やめろおおおおおおおお!!!」
気が付けば―――叫び声と共に、男を殴り飛ばしていた。
「螢子!螢子!」
ほとんど裸に剥かれ、全身から出血し、力なく項垂れる少女を抱きかかえ、遠野は必死に呼びかける。
なぜ死んだ筈の螢子がここにいるのか、名簿には螢子の名は無かった筈では。
そんな疑問すら浮かばない程、いまの遠野には命の灯が消えつつある"螢子"しか映っていなかった。
(駄目だ、このままじゃ...!)
全身からの出血が酷い。
このままでは、素人目に見ても彼女の命は潰えてしまう。
だが医術をかじったことのない遠野では彼女を救うことはできない。
彼にできるのは彼女にこのまま呼びかけることだけなのか―――
(螢子にようやく会えたんだ...それを、こんなことで...!)
「諦めてたまるか!」
遠野は、"螢子"を抱きかかえ、殴り飛ばした男のことなど目もくれずに走りだす。
彼が目指すのは保健室。
ここで応急手当ができれば―――螢子の命も助かるかもしれない。
-
☆
美雪を保健室のベッドに寝かしつけた遠野は、目の色を変えて棚という棚を漁り、包帯や消毒液といった医療器具をかき集める。
「ほら、螢子!こんなに包帯が見つかったんだ!早く怪我を治して、一緒に帰ろう!そうしたらお前の好きなところに連れて行くよ。遊園地でもレストランでも旅行でも!」
「だから元気を出してくれ!螢子...頼む...!」
(...やっぱり、優しいね)
薄れゆく意識の中、自分の為に必死になって呼びかけてくれる彼を美雪は見つめる。
遠野英治。
悲恋湖で多くの人間を殺した殺人者―――しかし、それには妹の復讐という宛てもなく悲しい動機からだった。
もしも、彼の妹―――螢子が生きていれば、決してそんな事件を起こすような人じゃない。
それを表すかのように、いまの遠野は必死になって美雪を―――例え、それが彼女に向けられていなくても―――救おうとしてくれている。
(だけど、伝えなくちゃ...!)
美雪に残された時間は少ない。
おそらく、あと数十秒で意識はなくなるだろう。
だから、その前に伝えなくてはならない。
自分が、"螢子"が死んだ時―――彼が再び罪を犯さないために。
「待ってろ、すぐに止血を...!」
「とおの...センパ...」
包帯を巻こうとする遠野の手を掴み、治療を止めさせる。
「螢子?」
掠れた、いまにも尽きそうな弱弱しい声で、美雪は言葉を紡いだ。
「はじめちゃん...金田一...はじめを...助けて...!」
「金田一?お前の友達か?わかった、必ず助ける!だから早く止血を...!」
その言葉と共に、美雪の目蓋が力なく降りてくる。
大丈夫。きっと、はじめちゃんなら遠野センパイを救ってくれる。
やさしい遠野センパイなら、きっと"螢子"の頼みを聞いてくれる。
だから。
(さようなら、はじめちゃん、遠野センパイ)
「螢子?螢子!?」
目を閉じてしまった"螢子"に必死に呼びかける。
「駄目だ、いま眠ったら...!目を覚ましてくれ...!」
ピクリとも動かなくなった"螢子"の手を握りしめ、必死に縋り付く。
だが、もう"螢子"は彼に微笑むことはない。
遠野がそのことに気が付くのは、それから程なくしてのことだった。
【七瀬美雪@金田一少年の事件簿 死亡】 残り56(仮)人
-
☆
「あー、イテぇ...ったく、あのあんちゃん、見た目に似合わず思いっきりがいいんだからよ」
殴り飛ばされた顔面を撫でつつ、浦上は夜道を歩く。
(殺し合い、か。わかってねえな、あの王土ってやつも)
浦上は、この催し自体にはなんの不満も抱いていなかった。
強いて不満を挙げるなら首輪を付けられていることだが、どうせ放っておいても死刑になっていた身だ。そこまで気にすることでもない。
ただ、彼が言っていた『参加者に怪物が紛れている』という言葉だけは引っかかった。
恐らく、怪物というのは、市庁舎に巣食っていた寄生生物とかいう奴らのことだろう。
(わざわざ化け物を集めたんだろうが、ご苦労なこった。そんなもんなくても人間は共食いするってのによ)
怪物など必要ない。例え怪物がいなくとも、この会場に何人かの人間を放置しておけば勝手に食らい合う。
気分であったり食糧問題であったり、理由は様々だがなんにせよだ。
(まあいいさ。この機に俺は楽しませてもらうぜ。殺しも余生も、な)
この殺し合いに巻き込まれたのは彼にとって幸運でしかない。
ここでは殺しが絶対のルールであり、こんなことに警察が絡んでいる訳がない。ならば浦上の足跡をこれ以上辿るのは不可能なはず。
おまけに、浦上は長年の経験(さつじん)から『人間』と『化け物』の区別をつけることができる。
王土の言った『怪物』を避けつつ、6点分の首輪を手に入れられれば無事生還できるわけだ。
殺しも楽しめて、上手くいけば警察の追手からも逃げられる。
メリットしかないこの殺し合い、浦上が乗らない理由などなかった。
(できればあの嬢ちゃんの首輪を回収したかったが、まあ深入りすんのはよしておこうや)
浦上のお楽しみを邪魔したあの青年。彼の存在が、浦上の撤退を促した。
不覚を取りはしたが、頑張れば勝てない相手ではなかったとは思う。
(けど、あいつからは俺と同じ臭いを感じたんだよなぁ。欲望に正直で正常な人間のよ)
あの青年が何者かはわからないが、そういった人間は得てして手強いものだ。
無闇に相手にして消耗するのは勘弁したい。
「尤も、次に会ったら殺すけどな。さて、とりあえず向かうのは...」
【G-6/一日目/深夜】
【浦上@寄生獣】
[状態]:顔面にダメージ(中)
[首輪ランク]:人間
[装備]:コンバットナイフ@現実
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:殺しを愉しむ。
0:満足するまで殺したら、首輪を納めて脱出する。
1:遠野(名前知らない)は次に会ったら殺す。
[備考]
※参戦時期は最終話直前です。
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どれほど泣いただろうか。どれほど喚いただろうか。どれほど物にあたっただろうか。
いくら保険室を荒らそうとも、"螢子"が目を覚ますことは二度とない。
「螢子」
名前を呼ぶ。返事は無い。
「螢子」
もう一度名前を呼ぶ。返事は、ない。
「俺は...また...!」
また護れなかった。しかも、今度は目と鼻の先にいて、だ。
遠野にとって、螢子は全てである。
例え報われない恋だとしても構わなかった。ただ、彼女の傍に居たかった。彼女が幸せに生きてくれれば、それでよかったのだ。
けれど、螢子は再び死んだ。
遠野英治の不甲斐なさが、彼女を殺したのだ。
「金田一...はじめ...」
ふと、"螢子"の遺した名前を呟く。
彼女は、今際の期に『金田一一を助けて』と言い遺した。
改めて名簿を見れば、確かにその名前が載っていた。
「螢子、お前との約束は必ず果たすよ」
金田一一を助ける。
それが"螢子"の望みならば、兄として、一人の男として断れる筈もない。
「その金田一って奴は、俺が必ず助ける」
もう動かない螢子の手を、虚ろな目で握り絞める。
最早、"螢子"との約束は遠野の人生の全てと言っても過言ではない。
それを叶えるためならば―――手段を択ばない。
「待ってろよ、螢子。金田一って奴を逃がしたら...お前を生き返らせてやるからな」
"螢子"の手をそっと離し、立ち上がる。
保健室の窓から差し込む月光に照らされた彼の顔は、激しい怒りと憎悪に包まれていた。
かくして、近い未来に殺人鬼"ジェイソン"の仮面を被る筈だった青年は、一つの約束を抱え―――本来の歴史通り、怪人"ジェイソン"へと成り果てた。
【G-6/一日目/不動高校/深夜】
【遠野英治@金田一少年の事件簿】
[状態]:精神不安定 激しい怒りと憎悪
[首輪ランク]:人間
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2 ジェイソンの仮面@金田一少年の事件簿
基本方針: 金田一一以外の人間を殺す。優勝し、螢子を生き返らせる。
0:螢子(美雪)を殺したあの男を殺す。絶対に殺す。
[備考]
※参戦時期は悲恋湖殺人事件以前です。
※美雪を螢子と勘違いしています
※まだジェイソンの仮面は被っていません。
-
投下終了です。
続いて、鹿目まどか、与次郎次葉を投下します。
-
☆
「はぁっ、はぁっ...」
少女―――鹿目まどかは、一心不乱に走っていた。
ここがどこか、などはわからない。
ただ、どこかの屋上で目を覚ました彼女は、外に出るために我武者羅に階段を降りているだけだった。
(どうして...!)
目が覚めた時のことを思いだす。
彼女ははじめに、恐怖に震える身体をどうにか落ち着かせ、支給品を検め、名簿に目を通した。
その中には、信じられない名前が載っていた。
まどかの名前のすぐ側。
そこには、美樹さやか、暁美ほむら、巴マミ、佐倉杏子、志筑仁美の名が連ねられていた。
暁美ほむら―――、一見は冷徹で謎めいている魔法少女だが、何度もまどかに忠告してくれたり、なにかと世話を焼いてくれる彼女だ。決して悪人などではないと断言でき、むしろ信用できるとも思える。
志筑仁美、まどかの友達で、少しお嬢様なだけのごく普通の少女だ。ほむらも仁美も、こんなものに巻き込まれていい人ではなく、絶対に死なせたくないとも彼女は思う
けれど、それ以上に衝撃的だったのは、『美樹さやか』『巴マミ』『佐倉杏子』の三人だ。
親友のさやか、寂しがり屋の先輩のマミ、さやかを救うために協力してくれた杏子、みんな死んでしまったはずなのに。
なぜ、この殺し合いに巻き込まれているのか―――それよりも、この目で彼女達が生きていることを確かめたかった。
そして、皆で生きてこの殺し合いを脱出して、マミさんもさやかちゃんも杏子ちゃんもほむらちゃんも、魔法少女みんな仲良くできれば―――
そこまで思い至った時だった。
「!」
まどかは急ぐあまり、階段を踏み外し落下。
幸い踊り場まではあと数段であったため、後頭部にたんこぶと全身を軽く打つ程度の軽傷で済んだ。
が、しかし。
ただの一般人である彼女の動きを止めるにはそれでも充分で。
-
「大丈夫?」
そして、偶然下の階にいた者にまどかの存在を知らしめるには十分すぎる音が響いていた。
「ッ...!」
差し出された手を見て、まどかはビクリと身体を震わせる。
当然だ。
ここは殺し合い―――まどか自身に殺し合うつもりがなくとも、彼女を殺そうとする者はどこにだっているかもしれない、どころか、この手の持ち主がそうかもしれないのだから。
ただ、まどかから見ても確かなのは。
「心の原石ブリリアンカット!あなたの近くの魔法少女...間近でマジカル☆ワンダーツギハ!あなたの助けを呼ぶ声を聞きつけここに参上!」
この人はそういったのとは無縁であるということだ。
-
☆
少女―――与次郎次葉は、不可解な惨劇に身を震わせていた。
突然動けなくなったかと思えば、都城王土という人(どこかで聞いたことがあるようなないような)に突如殺し合いをしろと言われ、少女が爆弾で殺された。
奇人変人の祭典であり近年では常に流血沙汰が付きまとう箱庭学園でも、少女が爆発四散する光景など決してお目にかかることなどなかった。
死ぬ度にその死を『なかった』ことにする先輩が一名いるだけで、その例外を除けば人死になどに縁がない彼女がこの状況に怯えるのは仕方のないことだった。
(けど、人吉先輩がいたってことはまさか)
名簿を取り出し確認してみる。
その中にはよく見知った名前が四つも記載されていた。
黒神先輩、阿久根先輩、裸エプロン(球磨川)先輩、そして王土に掴みかかった人吉先輩。
皆、心強い人ばかりだ。
ああも啖呵を切ってみせた人吉先輩なら絶対に殺し合いに乗らないだろう。
全ての能力に優れた阿久根先輩なら少し時間が経てば打開策を立ててくれるかもしれない。
そんな阿久根先輩よりも特別(スペシャル)で異常(アブノーマル)で過負荷(マイナス)な黒神先輩ならあっさりと解決して殺し合いを人材育成に変えてしまうかもしれない。
そんな中で一番不安、というか動きが読めないのは裸エプロン先輩だけれど、あの人はあの人でこの殺し合いをひっちゃかめっちゃかにしてくれる...はず。多分。もの凄く自信ないけど。
いやでもあの人なら『全人類裸エプロン計画のために優勝を目指そう』なんて言いだしてもおかしくは...
まあ、とにもかくにもいまは自分の周りからだ。
彼らに比べれば微力にも程があるが、とりあえず困っている人がいれば力を貸すし、もしもゲームに乗ってしまった人と出会ったらすぐに逃げなければいけない。
そのためには道具が必要だ。
見たところ、アイアンステッキ(鉄パイプ)もサンダーボルト(スタンガン)もウォーターボトル(濃硫酸)も全て没収されてしまっている。
これでは魔法が使えないではないか。
慌ててデイバックを漁り、なにかないかと探し出す。
そして、彼女は見つけた。見つけてしまった。
「こ、これは...!」
-
それは魔法少女には欠かせない必須アイテムだった。
これなくしてどうして魔法少女を名乗れようか。
それを手にした次葉のテンションは上がった。それはもう有頂天を通り越して発作を起こしてしまう程にだ。
早速それを手にし、人目もはばからず服を脱ぎ捨て変身。
与次郎次葉―――その仮の名を文字通り脱ぎ捨て、ここに真の姿を表す。
説明しよう!彼女の真の名はツギハギスタ・SS(ダブルエス)・ルビーサファイア5世。「間近でマジカル☆ワンダーツギハでお馴染みの魔法少女である。
右肩に乗せているのは一般人には見えないパートナーである親友のダイヤン。彼女たちは人間界を狙っている魔界の大帝王ワルゴールドに対抗するために天界で選ばれた戦士であるが、覚醒が遅かったため本来の力が発揮できず、修行のために箱庭学園へ体験入学を志望したのだ!
要約すると、いまの彼女は与次郎次葉ではなく、魔法少女ワンダーツギハである。
変身を終えたいま、どこからどう見ても魔法少女である。
例え、ただのコスプレ少女にしか見えなくても。魔力なんてものがなくても。彼女が類稀なる妄想癖の持ち主だとしても。
彼女が魔法少女だと信じていれば魔法少女なのである。
少々サイズがキツかったのを我慢しつつ、変身を終えた時だった。
そう遠くない距離からSOS(階段から落ちた音)を聞きつけ、ワンダーツギハは救助へと向かう。
駆け付けた先に蹲っていたのは、幼気な桃色の髪の少女。
勿論、ワンダーツギハは躊躇いなく手を差し出し、高らかに名乗りをあげた。
「心の原石ブリリアンカット!あなたの近くの魔法少女...間近でマジカル☆ワンダーツギハ!あなたの助けを呼ぶ声を聞きつけここに参上!」
こうして、魔法少女(仮)二人は邂逅する。
ワンダーツギハは知らない。自分以外にも魔法少女がこの殺し合いに巻き込まれており、その魔法少女たちはワンダーツギハ以上に血みどろの修羅場を潜ってきた猛者たちであることを。
そして―――彼女が変身に使った衣装は、目の前の少女、鹿目まどかが考案していた衣装であることを。
-
【B-2/一日目/時計台/深夜】
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:後頭部にたんこぶ
[首輪ランク]:人間
[装備]:見滝原中学の制服
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
基本方針: 友達と合流する。
0:ワンダーツギハさんの服って、わたしが考えてたやつじゃ...
1:ツギハさんと情報交換をする。
[備考]
※参戦時期は本編杏子死亡後です。
【与次郎次葉@めだかボックス】
[状態]:健康、魔法少女(妄想)状態
[首輪ランク]:人間
[装備]:まどかの魔法少女服@当企画オリジナル
[道具]:基本支給品一式、缶詰中学の制服、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針: ワンダーツギハは殺し合いなんて許さない!愛と勇気と魔法の力で速攻解決!まだまだ見習いだけど頑張ります!
0:目の前の女の子を手助けする。
1:裸エプロン(球磨川)先輩たちと合流する。
[備考]
※参戦時期は、悪平等編(単行本16巻)以降です。
※江迎怒江については選挙の時に人吉先輩の味方だった人程度の認識です。
※まどかの魔法少女服にはなんの力も宿っていません。つまりただのコスプレです。
-
投下終了です。
続いて、室淵剛三、アーカードを投下します。
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☆
十種競技(デカスロン)―――二日間に渡り、十種目の合計得点を競う陸上競技。
デカスリートにはパワー、スピード、テクニック...その全てが求められる。十種競技を制した者には、惜しみない賞賛と「キング オブ アスリート」という称号が与えられる。
そんな苛酷な競技で、伝説と呼ばれたデカスリート...室淵剛三。
ハンマー投げ選手の父とやり投げ選手との母との間に生まれたサラブレッド。
生後十日目にして立ち上がり、家族を驚かせた。
本格的に陸上競技に取り組みだしたのは中学生の時。あらゆる競技の記録を塗り替え、「神童」と呼ばれる。
16歳の時、十種競技日本代表に初選出。
以降、25年もの間、第一線で活躍し、数多の勝利を積み上げた。
国際大会での敗北はわずかに5回。その能力は時に専門競技者をも上回った。
国民的英雄となった室淵剛三。もはやその活躍は一競技者の域を超えていた。
だが―――、二年前、四一歳の時、突然の引退発表。
室淵剛三は、表舞台から姿を消した。
-
☆
「殺し合い、か」
月光が男を照らし、その屈強な身体が闇夜に浮かび上がる。
常に不敵な笑みを絶やさない彼こそが、室淵剛三。身体能力だけで多くの猛者と渡り合ってきたアスリートである。
(まったく、酷いことをする)
室淵は、先程見せつけられた惨劇に怒っていた。
当然だ。
今でこそ彼は闘技者―――裏社会における格闘代理人―――に属しているが、だからといってその手で死を生み出してきたわけではない。
拳願仕合自体には死者が出ることもあるが、少なくとも彼は違う。
彼は、殺人者ではなく格闘者なのだから。
だが、同時に。
彼は昂っていた。
あの王土という青年は言った。
『参加者の中には【怪物】がいる』と。
多くの者はこう思うだろう。『そんなものはおおげさな言いがかりだろう』と。
だが、室淵剛三は知っている。
比喩でもなんでもなく、およそ人間の及ばない強さを持つ『怪物』を。
そして、その怪物は―――
-
「いい夜だ。こんな夜にはあの美しい月を眺めたくもなる。そう思わないか人間(ヒューマン)」
突如、声をかけられた。
声をかけてきたのは、赤いコートに身を包んだ大男だった。
「そうだな。あんな月を見て飲む酒はきっと美味いだろう。君の名は?」
「アーカード。貴様の名も聞かせて貰おうか」
「室淵剛三だ。よろしく頼むよ」
気持ちこそは昂れど、殺し合い自体には反対する室淵は、友好の証として右手を差し出す...が、しかし。
「?」
アーカードは、差し出された手を見つめるだけで、なにも答えない。
そのことを不審に思った室淵が、どうしたのかと聞きだそうとした時だ。
「私は、化け物だ」
アーカードは、口角を吊り上げ言葉を幕したてる。
「私は地上に蔓延るありとあらゆる闘争が好きだ。肉弾戦も銃撃戦も蹂躙戦も、立場も事情も老若男女も関係なく、遍くすべての闘争が大好きだ」
「なにを」
「さて、室淵剛三。私はこの狂宴を甘受し存分に愉しもうとする怪物だが―――その怪物を目の当たりにして貴様はどうする?その身を削り戦うか?尻尾を巻いて逃げ出すか?」
アーカードの問いかけに、室淵は思わず笑みを零す。
馬鹿馬鹿しい、だとか言葉を理解できないなどという野暮ったい理由ではない。
眼前の男は怪物と名乗った。そう、室淵の宿敵と同位である『怪物』であると。
「おもしろい」
室淵が昂る理由はそれだ。
この会場には、人智を超えた者たちがいる。
主催の青年も言っていた所謂、『怪物』という強者たちが。
その『怪物』に挑戦し続けることこそが室淵の生き甲斐にして原点。
そんな男が、昂らずにいられるはずもなかった。
-
「憶せずに立ち向かうか。嬉しいぞ、室淵剛三!貴様が化け物(わたし)を倒しうる人間だというのなら、その全てを私に、化け物に見せつけてみろ!」
アーカードは吸血鬼だ。
何百、何千、何万の戦いをその身に刻んできた怪物である。
戦ってきた人間の中には、化け物に恐れを抱き逃げ出す者がいれば、化け物を打ち倒さんと決死の覚悟で挑んでくる者もいる。
アーカードが望むのは後者だ。
化け物を倒すのはいつだって人間でなければならない。
命惜しさに逃げ回る走狗ではなく、如何なる状況においても「諦め」ない人間こそが、この身を滅ぼすのに相応しい。
故に、アーカードは品定めをする。
化け物を前にして拳を握りしめるこの男は、果たして化け物を屠るに足る人間かを。
「勘違いしてはいけない、アーカードくん」
だが、アーカードの尊大な物言いにも怯まず、どころか彼の考えは間違いだと室淵は否定する。
「私は本物の怪物は知っている。彼の存在が、私を更なる高みへと昇りつめさせてくれた」
室淵の脳裏によぎるは、あの猛虎の姿。
室淵に敗北を教え、『挑戦』という甘美な飴を与え室淵を成長させてくれたあの天然の怪物、若槻武士。
この会場に来ているらしい彼と、彼に及ばずとも怪物と呼ばれるにふさわしい猛者共への挑戦をもってして、室淵剛三は更なる飛躍を目指す。
故に。
「怪物を名乗るのなら、『彼』のように私を湧き立たせてくれること―――期待しているよ、アーカードくん」
「化け物に期待する...期待するだと?成る程、力を測るのは私ではなく貴様と言うことか。面白い男だ、室淵剛三」
室淵が右肩をアーカードへと向け、体勢を低くする。
対するアーカードは、室淵の攻撃をいつでも受け入れることを示すかのように、両手を掲げて笑みを浮かべる。
これより、現代のヘラクレスと吸血鬼の戦いの幕が切って落とされようとしている。
そして―――室淵の目が見開かれると共に、戦いは始まった。
―――さあ、挑戦だ!
【Eー5/一日目/深夜】
【室淵剛三@ケンガンアシュラ】
[状態]:健康 高揚感
[首輪ランク]:超人
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
基本方針: 挑戦する。
0:アーカードと戦う
1:若槻を探して挑戦する。
【アーカード@HELLSING】
[状態]:健康 高揚感
[首輪ランク]:怪物
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針: 闘争を愉しむ。
0:室淵剛三と戦う
1:アンデルセンとは是非戦いたい
2:セラスは放っておく。インテグラは...
※再生能力は制限が掛かっています。
-
投下終了です。
モモ・ベリア・デビルークを予約します。
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あと書き忘れていましたが
参戦キャラ及び参戦時期は
【魔法少女まどか☆マギカ】は、本編と叛逆の物語は可(おりこ☆マギカや巴マミの平凡な日常等のその他スピンオフ系からは不可)
【TOLOVEる】は無印、ダークネスどちらでも可
【ジョジョの奇妙な冒険】は、1〜6部まで可
【ドラゴンクエストV】は、ゲーム版、小説版は可
でお願いします。
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DIO、志筑仁美を予約
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投下します
-
「......」
少女―――モモ・ベリア・デビルークは独り夜空を見上げ黄昏ていた。
(ここには、リトさんだけではなく、ヤミさんに春菜さん...お姉様まで連れてこられている)
リトとララは勿論のこと、後の二人もリトのハーレム候補というだけでなく、大切な友達だ。
故に、彼らと殺し合う結論はありえない。
(けれど、お姉様や私を参加させたということは、あの男はそれだけの自信があるということ)
ララとモモ、特にララは機械の開発において宇宙でも有数の腕前だ。
当然、地球の機器などあっさりと分解してしまうだろう。
けれど、そんな彼女をこの殺し合いに巻き込むということは、この首輪を解除されない絶対の自信があるということだ。
あの主催の男が自分達の素性を知らなかったと知らずに殺し合いに巻き込んだとは考えにくい。
だとしたら―――あくまでも普通の人間の姿をしている自分が、『怪物』とランク付けされるはずがないのだから。
(このことから、彼は少なくとも私たちの素性は知っている)
自分達が宇宙人と知った上で殺し合いに巻き込んだとすれば、逃げ道は非常に限定される。
ならばどうするか。
考えるまでもない。
(まずはリトさんたちを全員脱出させる―――そのために、首輪を集める)
首輪を集める。その意味は彼女も当然解っている。
だが、手段を選んでいては手遅れになりかねないのだ。
あの優しいリトさんやお姉様は、絶対に殺し合いに乗りはしない―――それどころか、他者に気をかけて命すら落としてしまうかもしれない。
春菜さんも、なんだかんだで非常時に強い人だ。殺し合いに乗ることはないだろう。
ヤミさんは、もしかしたら殺し屋時代のことを思いだして、殺し合いに乗ってしまうかもしれない。
けれど、彼女が手にしつつある温もりを失わせたくはない。これ以上、血に汚れさせたくない。
みんな、キレイなままで、あの騒がしい街で平和に暮らしてほしい。
故に、モモは決意した。
己の手を汚すことを厭わない。必ず、大切な彼らを生還させてみせると。
(私が『怪物』ということはお姉様はもちろん、おそらくヤミさんもそうでしょう)
ランクが怪物ということは、どの首輪を手に入れても点数は1点にしかならないということだ。
つまり、必要な首輪の数は最低でも6個。
4人全員を合わせれば、最低16個も集めなければならない。
「...急がないと」
例え、大好きな者たちから、想い人から侮蔑されようとも忌み嫌われようとも構わない。
ただ、彼らが生きていてくれればそれでいい。
デビルーク星第三王女、モモ・ベリア・デビルーク―――これより、孤独の戦いに赴く。
【H-3/一日目/深夜】
【モモ・ベリア・デビルーク@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:健康
[首輪ランク]:怪物
[装備]:ヴァイジャヤの猛毒薬品セット@魔人探偵脳噛ネウロ
[道具]:基本支給品一式、 不明支給品0〜2
基本方針:他の4人(リト、春菜、ララ、闇)の脱出優先
0:首輪を集める。手段は択ばない。
1:それに平行して首輪の解析も進める。
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投下終了です
多間木匠を予約します
-
リトと書き手枠でA(寄生獣)を予約
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なんか面白いルールの企画が
ケンガンアシュラは読んでないけどアーカードへの返しがかっこいいな
この二人の戦いがどうなるか期待
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書き手枠でドラクエ5の仲間モンスター出すのはありですか
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>>37
ありです。ただし、スライムやドラキーレベル1でも首輪ランクは『怪物』になりますのでご了承ください。
禁止キャラの目安を指定させていただきます。
【金田一少年の事件簿】特になし
【ケンガンアシュラ】特になし
【めだかボックス】獅子目言彦、安心院なじみ、なにが出来るのかよくわからないキャラ(平戸ロイヤル、糸島軍規、変態0〜5号)など
【魔法少女まどか☆マギカ】外伝・日常系スピンオフのキャラ(小ネタとして名前を出すくらいならあり)
【TOLOVEる】ギド
【ドラゴンクエストV】ミルドラース
【名探偵コナン】あのお方
【寄生獣】特になし
【ジョジョの奇妙な冒険】1〜6部なら特に制限なし
【魔人探偵脳噛ネウロ】ネウロ、電人HAL(春川英輔は可)
【HELLSING】シュレティンガー准将
-
こちらがまとめWIKIになります
ttp://www65.atwiki.jp/8531/pages/1.html
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投下します
-
「やべぇよ、やべぇよ...」
顔立ちの整った青年―――多間木匠は、酷く狼狽していた。
当然だ。
なにせ、意味も解らないで巻き込まれ、少女の死と共に始まったこの殺し合い、恐れを抱かない人間は少なくないはずだ。
「クソッ、なんでこんな時に居やがらねぇんだよ、毒島ァ...!」
名簿を握り潰し、怒りに手を震わせる。
多間木という男は、親の立場を利用して、幼少からの付き合いである毒島陸に全ての面倒事を押し付けてきた。
例えば、自分の喧嘩を代わりに毒島に押し付けたり。
例えば、問題を起こしてしまった時は毒島がやったことにしたり。
例えば、遊び半分で拉致監禁した少女を死なせてしまった時には無関係だった毒島を主犯に仕立て上げたり。
だから、この殺し合いでも、毒島に多間木の分まで首輪を回収させて乗り切るつもりだった。
だが、その毒島はいない。
他にも、両親や今まで手を出してきた女のような、味方になってくれそうな知り合いは誰一人としていない。
つまり、この殺し合いを一人で乗り切らなければならないのだ。
(ふざけんな、なんでこの俺がこんな...!)
自分が巻き込まれている理由はなにか。心当たりは一つしかない。
毒島の知り合いである十神まりなを、もう一人の幼馴染である魚崎と共にアパートで監禁し、衰弱死させた事件だ。
(アレは主犯は俺じゃねえ筈だ。なのに、なんで俺だけ...!)
あのアパートでの事件は、多間木が毒島のアパートを強引に借りたことを利用して毒島を主犯に仕立て上げたことで完結したはずだ。
だが、出所後になぜかその事件を掘り返すように魚崎が何者かに殺されたかと思えばこれだ。
どう考えてもあの事件が絡んでいるとしか思えない。
「いや、待てよ」
ふと、もう一度名簿を見返してみる。
その中には、顔見知りといえる知り合い―――には程遠いが、クラスメイトである『金田一一』『七瀬美雪』の名も連ねられていた。
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「なんであいつらも巻き込まれてるんだ?」
彼らはあの事件には無関係だ。
どころか、多間木への忠告を除けば、一言二言話した程度だ。
(俺と関わった奴を集めてる...わけじゃなさそうだな)
おかしい。
よくよく考えてみれば、これが多間木への制裁を目的とするのなら、もっと多間木の知る名を載せるはずだ。
だが、この名簿の9割以上は、名前も知らない者たちばかり。
そんな彼らが死のうが、彼は屁とも思わない。そんなことは彼をここに入れた者も解っているはずだ。
つまり、これは彼への制裁が目的ではなく、本当にただの殺し合いである可能性が高い。
ならば。
「こいつはチャンスなんじゃねえか?」
もしも魚崎を殺した奴とあの都城とかいう主催がなんの関係性もないとしたら。
多間木はたまたま選ばれただけだとしたら。
「俺が優勝すれば...これまでの罪もなんもかんもチャラにできるってわけだ」
あの男は、優勝すれば死者蘇生でもなんでもすると言っていた。
ならば、多間木の罪を無くすことなど容易い筈だ。
そうすればもう姿の見えない復讐者を気にする必要もない。
「いや、いっそのこと俺がなにをやっても罰を受けない世界にしてもらおうか」
思い返せば、ついさっきまで自分が狼狽えていたのは事件の報復を恐れていたためだ。
もしも、自分の犯罪を全人類が容認し、報復の可能性すら消すことが出来れば。
わざわざ毒島に頼ることも、父の立場を傘に使う必要もなくなる。
腹が空けば適当に店に入って金を払わなければいい。
どうしても金が必要ならそこらの雑魚から巻き上げればいい。
ちょっとした遊びをしたいなら、十神まりなのように連れ込んで好き放題やればいい。
考えるだけで、多間木の欲望は増していくばかりだ。
最悪、優勝が出来なくても途中で逃げ出せば何の問題もない。
今まで通りにカネで解決するだけだ。
メリットしかないこの殺し合い、彼が乗ると決めるのに時間はさしてかからなかった。
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「さぁて、道具は...」
がさごそとデイバックを漁り、取り出すのは一振りの剣。
中々それらしいものじゃん、と内心感心しつつ説明書を読めば、『二回攻撃ができます』とだけ記されていた。
「へぇ、面白そうじゃん」
二回攻撃というのはよくわからないが、物は試しだ。
偶然側にあった岩を斬りつけてみる。
ガキン、と音が二重に響き、岩を両断―――などはもちろんできないが、傷を残すことには成功。
傷は、一振りに対して二つの線が刻まれていた。
「一振りで二回分の攻撃ができるってことか...悪くねェ」
これが"当たり"の部類だと実感した多間木は、笑みを浮かべながら剣を何度か素振りし手に感覚を馴染ませた。
(当面気をつけなきゃならねえのは、どういうわけかあの事件を知ってる金田一の奴か)
なぜ彼があの事件を知ってるのか、そんなことはもう些細な問題だ。
もしも金田一が、あの事件のことを周囲の人間に教え広めれば、多間木の立場はかなり悪くなる。
そうなる前にどうにかして始末をつけたいものだ。
「この際だ。存分に楽しませてもらうぜ。初めてのこの手での殺しってやつをよぉ」
多間木の顔が、新しい玩具を手に入れた時のように、かつて十神まりなを見つけた時のように邪悪に歪む。
月明かりが彼を照らす中、ひゃひゃひゃ、と悪魔のような笑い声が静かに響いていた。
【A-4/一日目/深夜】
【多間木匠@金田一少年の事件簿 剣持警部の殺人】
[状態]:健康
[首輪ランク]:人間
[装備]:はやぶさの剣@ドラゴンクエストV
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
基本方針:優勝できそうなら優勝し、できなさそうなら6点分の首輪を集めて脱出する。
0:殺しをやってみたい。なるべく弱そうな奴を探す。
1:金田一には要注意
※参戦時期は魚崎死亡後です。
※はやぶさの剣は一振りで二振り分の斬撃が放てる仕様です。
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投下終了です
-
>>31
予約期限が過ぎていますので、本日中に連絡が無ければ予約破棄となりますので、ご了承ください
-
泉新一、ジン、高遠遙一を予約します。
>>31
予約期限が過ぎましたので、DIOと志筑仁美の予約解禁となります。
>>35
予約期限が過ぎていますので、本日中に連絡が無ければ予約破棄となりますので、ご了承ください
-
>>35
予約期限が過ぎましたので、リトと書き手枠の予約解禁となります。
-
六星竜一、毛利蘭、佐倉杏子、書き手枠で予約します
-
高遠遙一を予約から外します
>>48
書き手枠のキャラも明記お願いします。
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小嶋元太で予約します
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>>50
書き手枠です
度々申し訳ないです
-
投下します
-
生まれた瞬間から地獄であった。
戸籍上俺がこの世に誕生していた時には既に死亡扱いとなっている母から育てられた人生は碌なことがなかった。
全身の火傷の跡を俺の目に焼き付けながら『復讐』という呪いを焼き付ける。
俺の存在価値は六角村の屑連中を惨たらしく殺して芸術的な最後を遂げさせる。
それだけの人生、――その為ならなんでもする。
その為の準備を終え、予定は早まったが明日その六角村へ向かおうとしていた矢先俺はこのわけのわからない殺し合いに参加させられた。
『人間』、『超人』、『怪物』、そんなことはどうでもいい。
だがあの都城とかいう偉そうな奴はほざきやがったんだ。
『この殺し合いで生き抜き、優勝した者には、どんな願いでも叶えさせてやろう。大金・権力・死者蘇生・因果律を覆す内容...どんな願いでも、だ。』
魅力的だ、因果律を覆す内容。
いくらでも想い浮かぶ。
若葉があの六角村の娘では無かったら、いや母親の復讐の憎悪のあの忌まわしき過去が起こらなかったとしたら。
――でもそれではダメなんだ。
俺があの連中をこの手でバラバラに抉るまで、俺の存在価値は無いも同然だ。
それを成し遂げて初めて俺は六星竜一としてこの世に生を受けた意味が生まれる。
首輪を何個でも集めてやろうではないか。
俺はこの場さえ抜け出して不動山市へ戻らねばならない。
―――――
「ゴボボボボボ……」
白いもやに飲み込まれた直後、温泉の中に強制的にワープさせられた男の子がいた。
とてもお腹が膨らんでおり、それ相応に体重もあり水に沈む沈む。
数分前までの出来事が悪夢であり、うなされて起きる。
そんなシチュエーションならどれだけ良かったか。
「あー、ぢくしょう……」
喉に入ったお湯を吐きながら温泉の中から出る。
早速私服がびしょびしょに濡れてしまう。
「あーあー……不快だなこの服の感触……」
とりあえず脱ぐ。
このロワ初のサービスシーンは少年探偵団の一人、児嶋元太から始まる。
-
「へっくしゅ」
パンツ一丁で全身ずぶ濡れの元太が大きなくしゃみをした直後の視界に地面に落ちたデイバックを発見する。
そういえばバッグがどうたらと言っていたのを思い出しとりあえず毛布とかタオルとか布がないか確かめた。
「おお、ちょうど良かった」
獄問塾の合宿に扱う男用のジャージが何枚も入っていた。
だが、名札が貼っており『金田一一』、『村上草太』、『中屋敷学』、『鯨木大介』、『近衛元彦』、『霧沢透』の計6名のジャージが入っていた。
だがどれも背丈は高いがお腹がピッチピチというありさまであった。
「なんで中古のジャージしかねーんだよ……」
いちばんマシなサイズだったのが鯨木という者のジャージであり、袖とかの余分な部分は折って扱うことにする。
「どうしてこうなっちまったんだ」
コナン、歩、光彦、灰原というクラスメートの顔が思い浮かんだ。
コナン、灰原は会おうと思えばこの島で会えるのだが全身のことと殺し合いというショックが抜け出せないでいた。
「お、俺もあんな風に……」
いままで何回亡くなった人を見てきただろう。
襲われたこともあったがコナンやアガサ博士などに助けられたから無事だったものの現在は協力者なし。
目暮警部や高木刑事ら警察らも不在。
これから先のことを考えて真っ青になっていた時。
――ザン。
お腹が真っ赤の鮮血で染まる。
そこで元太の意識は途絶えなかったのが不幸の1つ。
ガリガリ、ガリガリと切れ味のよい物が切り刻まれていく感触が痛みというにはあまりにも痛々しく生きている者には例えようのない感触が走る。
だってそうであろう。
彼はもう死へ歩みだした『者』――否『物』――否『肉(モノ)』。
-
彼の大好物であるお肉も元は動物。
そんな家畜もこの痛みを受け続けたのか。
尚、意識は途絶えない。
殺人マシーンはギリギリ意識を失わせない強さ(よわさ)で実験していたのだ。
どうすればあの連中に最悪のフィナーレを飾ることが出来るのか。
罪の無い元太に傷を付けることにも何も感じない。
既にこの男は赤の他人から名前を奪い、最愛の母すら手に掛けたのであるのだから。
無表情で解体していく男が首に手を掛けてからようやく元太は意識を手放すことが出来た。
―――――
「1つ鈍らになっちまったか……」
剣を1つ投げ捨てる。
切れ味の良かった刃物をゲーム開始30分で1つダメにした。
だがまだ4つ同じ刃物がある。
わざと強度を測ったことを加味しても6人を斬るにはちょうど良い強度かもしれないと彼は武器を褒めた。
「いや、もう5つか」
元太の首輪をバックに仕舞い込む。
当然彼のデイバックも回収しておく。
「ん?」
そこで彼は1つの殺気を肌で感じ取る。
―――――
-
「う、嘘……」
毛利蘭は目撃してしまったのだ。
一部始終ではなく、ほんの終わりの一部分。
だがそれだけでもわかる殺人という工藤新一が最も嫌う人間としてのタブー。
その被害者はコナンの友達の児嶋元太だ。
「あ……、ああ……」
首輪を男がバックに仕舞うのを目撃する。
彼はもうこんな短時間でゲームに乗る決意をしてしまっていることを理解する。
逃げる、それは正しい。
でもそしたら次はコナンらに襲いかかるのでは……。
させない、そんなこと。
自分は空手部主将だ。
力なら誰にも負けない自信もある。
それこそあんな安男を投げることだって、その経験もある。
気絶させて拘束するッ――後ろの後頭部目掛けて蹴りを放つ。
「――え?」
絶対に悟られない自信があった。
しかし目の前の男は蘭と視線を合わせてきた。
気付いたのか気付いていたのか予測していたのか最初から存在に気付いていたのか。
これは本当に偶然ではあるが、六星は2つの影を捉えていた。
襲ってくる女とその向こうにまた別の女の姿があることが。
それに目を付けた六星は蘭には想像もしなかった行動に出た。
「う、うわああああああああ!!!!この人殺しぃぃぃぃ」
腕だった物を蘭に投げつけながら、一目散にデイバックを持って逃走したのだ。
まるで無表情だった殺人マシーンとはかけ離れた顔で。
不動高校で冴えない教師、小田切進の演技をしながら。
でも演技は完璧だった。
だって、それが毎日この顔でこの男は生活していたからだ。
下手な劇団の演技以上の俳優であったのだ。
残されたのはバラバラになった元太の死体とポカンと口を開け間抜け顔になった腕だった物に当たった蘭。
そして六星の捉えた第3者、佐倉杏子。
―――――
-
「まったく殺し合いなんて馬鹿げてるっての!そんな奴いたらぶっ飛ばしてやるぜ」
殺し合いには乗るつもりはなくとりあえず走りながら探索をしていた杏子。
「さやかとまどかは乗らないだろうけど……ああっ!」
目の上のタンコブになっていたのは暁美ほむらだ。
まどかの為ならなんだってしそうだ、いやするだろう。
「絶対あいつに殺し合いなんかさせるか」
地図で見た感じ北の方に自分は存在しているらしい。
武器として現れたのは宗像形の暗器の二丁拳銃、槍ではないことに不満はあるが魔法少女である彼女は引き金を引く力は十分にあるので満足はしていた。
「あの金髪やっつけてやる」
当面自分からは殺しはしない考えだ。
だが、もし相手が既に人を殺した奴であったなら。
もし相手が都城のような怪物であったなら。
この引き金で敵を殺さなくてはならない状況になったら。
「あたしは……」
そこで思考と足をストップさせる。
本当はそこで決断をしなくてはならなかったがゲーム開始から初のロワイアル参加者だ。
しかも一気に2人。
が、様子がおかしい。
女が男に蹴りつけている、それを男が必至になって避けている場面だ。
「ちぃ、早速かよ!」
拳銃を握る。
あの女を危険人物と判断する。
女を拘束、男を保護しようと動くがそれより早く動いた者がいた。
『う、うわああああああああ!!!!この人殺しぃぃぃぃ』
大きな悲鳴を上げながら男は逃げ出した。
腕だった物を投げつけたのだが思いっきり蘭の背中が邪魔になり本当にただ逃げ出しただけの男にしか視えなかったのだ。
杏子は当然、『被害者に見える加害者』よりも『加害者に見える被害者』に詰め寄った。
-
「おい、動くな」
「え?」
腕を杏子にロックされ身動きが出来なくなって倒れこむ蘭。
ただの人間には振り払えない魔法少女の力。
杏子自身自覚はないが、これが『超人』と『怪物』の差なのだ。
「なんで早速殺し合いに乗ってやがる!しかもっ、んっだよこれ!?」
バラバラ死体になった元太の死体。
蘭は現在六星によって血の付けられた状況。
襲っただけでなく人殺しの経験者に見える。
しかも男が情けなく放った人殺しという非難の声。
「ち、違うの私じゃ……」
「加害者ってのは皆そう言うよな?」
ギギギ、と力を強める。
苦痛に顔が歪みながらも声を捻り出す。
「だ、だって……そこにいる元太君は知り合い、だよ。わ、私がころ、すわけな……い」
「なに……」
元太と呼ばれた少年に目を見やる杏子。
本当に彼女ではないのかと思っていたところに杏子は見つけてしまったのだ。
――悪魔の偶然を。
『鯨木大介』という名札が胸の辺りに付いていた。
ゲームが開始して結構経った後なら誰かから借りたとかで名前が違うのはあるだろう。
だがいまはどうだ?
ゲーム開始してすぐに着替えるという様な出来事があるというのか?
実際にはあったのだが死人に口無し。
本人しか知らなく、襲った六星ですらそんなことまで把握していない。
彼女の下した結論は黒。
そしてまた悪魔の偶然が1つ転がっていた。
(しかもこのボロボロになっている剣は……)
見間違えるわけがない、美樹さやかが愛用しているサーベルだ。
さやかの武器で人をバラバラにし、あまつさえ嘘を付きこの場から逃れようとするこの女に激しく憎悪が沸き起こる。
グリフシードが薄く濁る。
-
ああ、生きている価値のない人間だ。
杏子はS&Wマグナムの引き金を蘭の頭に当てつけて発砲した。
弾は貫通し、呆気なくバラバラにした狂喜の殺人犯は散った。
「ああ、殺しってのは虚しいな……」
他にも彼女を止める手段があったのかもしれない。
だがそれも状況が状況だ。
殺さなければ殺されるのだ。
「こんなこと絶対さやかや他の奴らにはさせられないよな」
手を汚すのは自分のみでいい。
他の参加者にもこんな体験させられない。
自分だけ背負えばいいのだ。
「こんなゲームぶっ壊して都城を倒してやる!待っていやがれ」
そしてこのゲームに乗った人物も始末してやる!
杏子は引き金を引く決意を強く抱くのであった。
【児嶋元太@名探偵コナン 死亡】
【毛利蘭@名探偵コナン 死亡】
【A-5/一日目/深夜】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:精神的ダメージ、グリフシード1割濁り
[首輪ランク]:怪物
[装備]:宗像形のS&Wマグナム44@めだかボックス
[道具]:基本支給品一式、宗像形のデザートイーグル@めだかボックス 不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:殺し合いを止めて脱出する。
1:殺し合いに乗った人物でもなるべく殺さないが、手遅れの人物は……
[備考]
※参戦時期は不明です。少なくとも最終回以降。
※毛利蘭のデイバック(中身不明)がA-5に転がっていますが杏子が拾ったかどうかは後の書き手さんにお任せします。
-
その後大きな惨劇が起きたことを彼は知らない。
というか既に興味が無くなっていた。
彼を突き動かすのは復讐心。
「とりあえず映画館にでも寄って首輪でも集めて脱出をしようか」
地図上の主要な場所に赴き首輪を奪い脱出。
シンプルな行動思考を簡潔にまとめていた。
殺人マシーンであり、演技派であり、行動力もあり、教師に成りすましても全くボロが出ない母親に作られた天才のドス黒い心と深夜の暗さがリンクしていた……。
【A-5/一日目/深夜】
【六星竜一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[首輪ランク]:超人
[装備]:さやかのブレード×4@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:弱き者を演じながら島から脱出して六角村の連中に復讐する。
0:首輪を集めて脱出。
1:地図上の主要な施設(今回は映画館)を巡り参加者を殺す。
2:殺せそうにない人物とは交戦しない。あくまで生存優先。
[備考]
※六角村に行く前日からの参戦。
-
六星のデイバックに元太のぶん表記するの忘れてました。
下に修正。
【A-5/一日目/深夜】
【六星竜一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[首輪ランク]:超人
[装備]:さやかのブレード×4@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式×2、極問塾男子生徒5人分のジャージ@金田一少年の事件簿 不明支給品0〜4
[思考・行動]
基本方針:弱き者を演じながら島から脱出して六角村の連中に復讐する。
0:首輪を集めて脱出。
1:地図上の主要な施設(今回は映画館)を巡り参加者を殺す。
2:殺せそうにない人物とは交戦しない。あくまで生存優先。
[備考]
※六角村に行く前日からの参戦。
投下終了です
-
何度も申し訳ない
これで修正終了です…
【A-5/一日目/深夜】
【六星竜一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康
[首輪ランク]:超人
[装備]:さやかのブレード×4@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品一式×2、小嶋元太の首輪、極問塾男子生徒5人分のジャージ@金田一少年の事件簿 不明支給品0〜4
[思考・行動]
基本方針:弱き者を演じながら島から脱出して六角村の連中に復讐する。
0:首輪を集めて脱出。
1:地図上の主要な施設(今回は映画館)を巡り参加者を殺す。
2:殺せそうにない人物とは交戦しない。あくまで生存優先。
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結城梨斗、黒神めだか、濱秋子で予約します
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投下乙です
元太と蘭ネーチャンは相手が悪かった...
杏子も杏子で中々に過激なスタンスを取りそうで後先不安ですね。
そして六星、不測の事態も機転を利かせてモノにしてしまう...恐ろしい子!
投下します。
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「くそっ...なんだってんだよ」
薄暗い教会の中、一人の少年―――泉新一が狼狽えていた。
建物入り乱れるコンクリートジャングルで目を覚ました彼は、ひとまず身を隠すために近くの廃教会に避難したものの、やはりこの理不尽な催しには混乱する他なかった。
「なんなんだよ、あの王土ってやつ!村野に田村玲子で連れてくるなんてよ!」
『落ち着けシンイチ』
「これが落ち着いていられるか!」
教会にいるのは泉新一一人である。
しかし、彼の言葉に返事をする声は確かにある。なぜか。それは
『いいから落ち着け。きみが冷静さを失えば、私の身も危ないんだぞ』
「...悪い」
文字通り、彼の右手が喋っているからだ。
泉新一。
彼の右腕は寄生生物に食われ、「ミギー」と名付けた寄生生物が住んでいる。
ミギーと新一は、文字通り共生しているのだ。
『状況を整理しよう。まず、我々はあの【5体のパラサイト】から戦いながら逃げていたところ、気が付けばあの部屋に連れてこられていた』
「あ、ああ。俺も、そこまでは覚えている」
『そして、タネはわからないが身体が動かなくなり、この殺し合いに放り込まれていた』
「わけわからないよな...」
殊更に溜め息をつく新一。
当然だ。
寄生生物との戦いだけでも混乱続きであったのに、極めつけにそれ以上のイレギュラーに巻き込まれてしまったのだから。
『わかることはまだあるぞ』
「なに?」
『あの5体の寄生生物もここにきているということだ』
「はあああぁぁぁぁ!?」
『当然だろう。私たちと戦っている最中だったんだぞ?奴が連れてこられていないと考える方が難しい』
「で、でも名簿には...って、俺たちはあいつの名前は知らなかったか」
『たぶん、きみの名前の近くにあるこの後藤という奴だろう。五頭―――後藤と言ったところか。この名簿はおそらく知り合い同士で固められているからな』
「ああもう、なんでこうも次から次へと」
思わず新一は頭を抱えてしまう。
村野里美。殺し合い。『怪物』。都城王土。田村玲子。後藤。
悩みの種が多すぎる。
おそらく、これからの人生でもここまで不幸な目に遭うことはもうないだろう。
-
『...それで、どうする』
「どうするって...」
『殺し合いに乗るか、乗らないかだよ』
「うっ...」
新一は思わず戸惑いの表情を浮かべる。
普段ならば、絶対に乗らないと言い張ることが出来るだろう。
だが、この殺し合いには村野里美が巻き込まれており、且つ『途中離脱』が出来るという点が僅かな躊躇いを生んでしまう。
が、しかし。
「...乗らないよ。やっぱり、他の人を殺すわけにはいかない」
『そうか』
泉新一という人間は、根本的には優しい人間である。
寄生生物が混ざったことにより合理的な思考ができるようにはなったが、それでも、追い詰められても他者を盾にする戦法は終始使うことはなかった。
故に、この場でも―――他者の命を奪い生き延びるのは、やはり躊躇われた。
『ならば、まずは脱出の協力者を探すべきだろう』
「協力者か...あの王土に掴みかかってたヒトキチって奴はどうかな?」
『あの少年か。そうだな、主催の王土という男と知り合いらしいのも気になる。当面は彼と村野里美との合流でいいな?』
「りょーかい」
とりあえずの方針を定めた彼らは、ひとまずは廃教会を後にしようと腰をあげる。
『しかし、私たちの首輪ランクとやらが【超人】なのは厄介だな』
「なんで...って、そうか。後藤と田村が怪物だとして、あいつらを倒して首輪を手に入れても、あと2点足りないのか」
『そうだ。それに、【人間】からしてみれば私たちの首輪は2点分。私たちの首輪のランクを知られれば、寝首をかかれる可能性は高いだろう』
もしも、自分の首輪の価値を知られ、周囲の人間が敵となったとしたら。
パラサイトですら抗う事の出来ない現代銃火器を向けられたら。
今まで味方だと思っていた人間に、獲物だという目を向けられたら。
その想像が、新一の心臓の動悸を活発にさせる。
(で、でも...大丈夫、だよな)
そうだ。俺は人間じゃないとしても、ただの超人だ。そんな俺よりも、殺して得する怪物は一杯いる。
狙うべき怪物は後藤達の方だ。
けど...
もし、あいつらと出会った奴らがいたとして、そいつが俺を見た時。
右腕があいつらのように変化する俺を見た時。
そいつは、俺を人間として見てくれるだろうか。
いくら人間、首輪のことを【超人】だと訴えても―――怪物としてしかみなされないのではないだろうか。
そんな一抹の不安を抱きつつ、新一は廃教会の扉を開けた。
-
―――パシュッ
そんな渇いた音と共に、新一の左肩に灼熱が奔る。
「―――!?」
激痛に戸惑い動きを止める。
「な、なんだ!?」
「動くなよ、ガキ」
物陰から、銃を構えた黒コート・黒い帽子の全身黒ずくめの長身の男が姿を現す。
「お前に聞きたいことがある。その眉間に風穴を空けられたくなければ、素直に答えるんだな」
ギロリ、と新一を見下すような視線に、思わず背筋に怖気が奔る。
(なんだ、コイツの凍りつくような眼は...平気で何人も殺してきたような眼だ)
この男は寄生生物ではない。ミギーがなんの反応もしなかったことからそれは確かだ。
だが、ただの人間がここまで冷たい眼になれるのか?
この男にとって、他人などただの虫けら同然なのか?
「十秒くれてやる。それまでに、お前の仲間の名前と特徴を全て吐け」
「な、仲間って...」
―――パシュッ
再び渇いた音が鳴り、新一の頬にかすり傷をつける。
「とぼけるな。女がいるんだろう?それもよほどご執心な...」
「なっ!?」
「十...九...」
なんでそれを、と問いただす前に、黒ずくめの男はカウントダウンを始める。
(こいつはなんで村野のことを聞き出そうと...いや、その答えはわかっている)
新一から彼女のことを聞き出す理由。その解は考えるまでもない。
あの男は村野里美を殺すつもりだ。
だが、話さなければ新一は殺される。
新一が生き残るためには村野のことを白状するしかないのか―――
-
(いや、選択肢はまだある)
新一が生き残るための道。
それは、この場であの黒ずくめの男を倒すことだ。
(パラサイトに比べれば、あんな奴大したことはない...!)
カウントダウンは既に半分を切っている。
距離はさほど遠くない。
弾丸が放たれた後に詰めるには問題はない。
最大の難関は、この暗闇の中、如何にして弾丸を避けるかだ。
「二...一...ゼロ。時間切れだ」
男は、笑みを浮かべつつ徐々に引き金に力を込めていく。
「どんな教会にも神は宿ってるもんだ。その廃れた教会にはお似合いの朱色の柘榴を捧げてやろうじゃねえか...なぁ、小僧」
「わけのわからねえこと言いやがって。お前なんかに殺られてたまるか」
「減らず口だけは立派なガキだ」
新一は、男の引き金を凝視する。
まだだ。先に動けば、確実に弾丸を受けてしまう。
限界まで堪えろ。
弾丸が発射されるその時まで―――
「ぐっ!」
突如、黒ずくめの男が苦悶の声を漏らす。
男はたまらず引き金を引き弾丸を放つが、狙いがそれ新一の足元に被弾する。
『いまだ、シンイチ!』
驚き思考が止まりかけていた新一だが、ミギーの喝に我を取り戻し、黒ずくめの男へのもとへと走る。
黒ずくめの男は発砲するが、しかし新一はそれを跳躍で回避。
次の弾丸が発射されるその前に新一のとび蹴りが男の腹部に叩きこまれる。
新一の身体能力は常人のそれを遙かに上回る。
そんな彼のとび蹴りを受ければ、たまったものではない。
男の身体はサッカーボールのように吹き飛ばされる。
「チッ」
状況の不利を悟ったのか、男は舌打ちをしつつ建物へと身を隠す。
「あのヤロ...!」
『退け、新一。奴は拳銃を持っている。この複雑な建物構造では奴が有利だ』
咄嗟に男を追おうとした新一だったが、ミギーの指示通り、この入り組んだコンクリートジャングルから逃れるため走りだす。
「ミギー、さっきあいつになにかやったのか?」
『隠し持っていたアイスピックを投げつけてやっただけだ。奴はなぜかお前の頭にばかり集中していたからな』
「頭...?なんだってそんなところを」
『さっき、柘榴がどうとか言っていただろう。おそらくあれは、きみの脳髄の比喩だったんじゃないか?』
「そういうことね...」
なぜあの場面でそんな比喩を持ち出したのか。気にはなるがひとまず置いておく。
今は、この痛む左肩に耐えながらあの男から離れるだけだ。
【F-3/一日目/深夜】
【泉新一@寄生獣】
[状態]:左肩にダメージ(中)、右頬にかすり傷
[首輪ランク]:超人
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、アイスピック@5本セット(4/5)、不明支給品0〜2
基本方針:
0:とりあえずこの建物群から抜け出す。
1:村野里美を探し出す。
2:協力者の確保(人吉善吉が有力候補)
3:田村玲子と後藤、黒ずくめの男には要警戒。
※参戦時期は、後藤と初遭遇からです。
-
廃教会の中。
目覚めた際に盗聴器代わりに置いておいた『探偵バッジ』という小道具を回収し、左肩に刺さった鋭利なモノを引き抜き、彼―――ジンは一息をつく。
(あのガキの右腕...妙だ)
ジンがミギーへの対処が遅れたのは、決して油断などではない。
ジンは、新一が妙な素振りを見せれば即座に撃つ心構えでいた。
だが、全く身動きを取らなかった新一に反し、あの右腕は、まるで意思を持つかのように素早く動きアイスピックを投げたのだ。
(なにかを投げる時は、必ず腰や身体を使わなければ投げられねえ。だが、あの右腕は違う。振りかぶることなく、腕力だけで俺の肩にコイツを刺しやがった)
ロクに振りかぶらず、こんな粗末なものを人体に突き刺せる。
そんな腕力、人間に有り得るのだろうか―――否。おそらく、そんなことはあの赤井秀一ですら不可能だ。
(ということは、だ。あのガキはまず人間じゃねえ―――いや、あの右手になにか仕込んでいやがったのか...なんにせよ、だ)
新一の身体能力や右腕を見て人間だと判断する者はそういないだろう。
そのため、ジンは新一を【怪物】もしくは【超人】であると判断。
彼を殺せば、ジンの脱出への行程は楽になるだろう。
(それに...こいつはやりかけの仕事でもある)
探偵バッジから拾えた情報は、お世辞にも鮮明とは言い難く、ひどく断片的な物だった。
聞こえてきた『青年の声』と『女性らしき声』、そして『シンイチ』という名だ。
青年の声は、先程まで対峙していた彼のもので間違いないが、『女性らしき声』の持ち主は終ぞその姿は見当たらなかった。
この非常時に腹話術などやっていたわけでもあるまいに。おそらく、彼もなにか通信機器を持っていたのだろう。
それに、『シンイチ』という名も気になった。
(たしか、ウォッカの奴が慌ててやがったな。ナントカ新一という、俺がバラしたはずのガキがどうとか...)
殺した相手の名前などイチイチ覚えてはいられない。
死んだ人間などただの肉塊であり、覚えているだけ脳のメモリの無駄遣いだからだ。
(あのガキが俺が殺したはずの『新一』なら、あの試作品を飲んでも生きてたのは納得できる)
最早、ウォッカの言った『新一』の顔も覚えていないが、なるほど。あれほどの怪物染みた男なら、例え猛毒を飲まされても生き残れる可能性はある。
(なんにせよ...奴をこのまま野放しにするわけにはいかねえなぁ)
このまま直接追って殺すか、それとも装備を充実させてから確実に殺しにかかるか。
なんにせよ、ジンはあの青年を殺すつもりでいる。
そして―――彼がそれを達成すれば、『新一』のことなど綺麗さっぱり忘れてしまうだろう。
【F-3/一日目/廃教会/深夜】
【ジン@名探偵コナン】
[状態]:左肩にダメージ、腹部にダメージ
[首輪ランク]:人間
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、探偵バッジセット@名探偵コナン、45口径@現実 不明支給品0〜1 アイスピック×1@現実
[思考・行動]
基本方針: 首輪を集めて脱出する
0:あのガキ(新一)を追うか、先にもっといい装備を集めてからにするか。
※参戦時期は満月の夜の二元ミステリーでウォッカから工藤新一の名を聞いたところからです。
※泉新一を工藤新一と勘違いしています。
※廃教会内での新一とミギーの盗聴をしましたが、電波が悪くほとんど聞けていません。また、盗聴したミギーの声を他の参加者と勘違いしています。
-
投下終了です
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やはりジンニキは無能(確信)
-
>>63
予約期限が過ぎているので、本日中に連絡が無ければ破棄となりますのでご了承ください。
あと、書き手枠は単独で出してもOKです。
-
大幅に遅れてしまいましたが、志筑仁美とDIOを投下します。
-
───悪の帝王は一抹の不安を覚えていた。
確かに自分は、あの忌々しいジョジョの血統のジョセフ・ジョースターと花京院典明を追撃していた筈だった。
あの頃から僅かながらも不安はあったのかもしれない。何せ悪の帝王と言えど切羽詰っていたのだ。
ジョースター一行に差し向けたスタンド使いは全て返り討ちにされ、あろう事かエジプト九栄神までもが全滅してしまった。
〝天国〟に至る為に必要不可欠な魂を操作するダービー兄弟までもが再起不能になった今、計画は振り出しに戻ったも同然。
忠臣ヴァニラ・アイスが、魔術師の赤のモハメド・アブドゥルと愚者のイギーを始末したとの報告を受けたが慢心は出来ない。
最悪のパターン───自分が残るジョースター一行によって殺害されるという最悪の結果も鑑みて、アメリカに居るエンリコ・プッチの元にマンハッタン・トランスファーのジョンガリ・Aを派遣した。彼はタロットには該当しないスタンド使いだ。
たとえスピードワゴン財団の後ろ盾を持つジョースター一行とて、そう容易くは見つけられない。
これで自分が死のうがプッチが計画を引き継いでくれるだろう。
───そう、これで完璧なのだ。
◆
悪の帝王は状況が読み込めずにいた。
気付けば自分は薄暗い部屋の一室で半ば拘束されており、〝ミヤコノジョウオウド〟を名乗る金髪の男から支離滅裂な殺し合いの説明を受けていたのだから。
スタンドビジョンこそ確認出来なかったが間違いない。あの男はスタンド使いだ。
奴が『跪け』、そして『黙れ』と口にしたと同時に、自分の意思に反して身体が『その通りの行動』を行っていた。
察するにミヤコノジョウは精神操作系のスタンド使いなのだろう。
となれば、この状況にも2、3説明が着く。
これは〝幻覚〟なのだ。
ミヤコノジョウ、もしくは彼に協力する別のスタンド使いが見せている幻覚。
だが何故だ。何故自分が選ばれたのだ?
最強のスタンド〝世界(ザ・ワールド)〟を体得、何よりジョースター一行を追撃していた自分を拘束する事など困難極まりない。
いや、あの車内なら。あの高級車の後部座席に座っていた男がスタンド使いだったのなら。
そうか、あそこで自分は────。
だがしかし、その仮説が正しかったとしても疑問は残る。それもミヤコノジョウ一派の計算の内なのかもしれないが、如何せん集められた人間は〝無作為抽出〟のように思えてならない。
ミヤコノジョウを否定したヒトキチという男。少なくとも見覚えのない青年。
ミヤコノジョウが首輪の存在を誇示する為に殺害した少女。彼女にも等しく見覚えはない。
考えれば考えるほどに謎ばかりが深まっていく。
◆
-
悪の帝王は驚愕した。
そうせざるを得なかったのだ。何を隠そう要因は2つである。
まず第一に〝世界〟だ。世界は間違いなく最強のスタンドと言える。何せその能力は〝時間停止〟。無限とは行かないものの5秒は止める事が可能になっていた。
それ故に悪の帝王は驚愕した。
まさかとは思っていたが不安は的中。世界の停止可能時間が大幅に短縮していたのだ。
止められる時間は1秒にも満たない。コンマ数秒程度。それどころか解除する度に訪れる過剰な疲労感。
これもまた〝幻覚〟なのか?その真偽を早急に見出す必要がありそうだ。
そして第二。
ミヤコノジョウの言葉通りなら支給された布包の中には何らかのアイテムが入っている筈だ。
だが見つかったのは、食料とは別の、謂わば1個のランダム支給品と思しき『食パン×6』。ただそれだけ。
何より驚愕したのは全参加者の名前をまとめたと思われる参加者名簿だ。
そこに刻まれた2人の名前。世界で最も忌避すべきジョジョの血統を受け継ぐ2人───〝ジョセフ・ジョースター〟と〝空条承太郎〟の名前があったのだ。
どうやらジョジョ───ジョナサン・ジョースターの血統からは逃れられない運命らしい。
ならば今度こそ────今後こそ1人残らず根絶やしにしてやる。
◆
悪の帝王は誰よりも狡猾だった。
まず彼が探したのは〝施設〟。
今が夜更けだった事は不幸中の幸いである。何せ悪の帝王は吸血鬼なのだ。人の生き血を吸う『怪物』───それこそがディオ・ブランドー、悪の帝王DIOの本質。
だが吸血鬼とて万能ではない。人間を超越したが故に彼らには〝太陽のエネルギー〟という唯一無二の弱点を抱えてしまっている。
その弱点を突かれてDIOはジョジョに敗北した。
結果的に彼の肉体を乗っ取る事には成功したのだから〝勝ち〟と言えなくもない。しかしDIOは確かに敗北したのだ。
仮に〝幻覚〟だとしても、その行動は生きる為には当たり前の行動。太陽が昇ってしまっては吸血鬼のDIOは一切の行動が出来なくなってしまう。
それ以前に彼は日光を遮断する施設を発見する必要性があった。
◇
-
この一体はどうやら森林地帯らしい。広葉樹に覆われたこの樹林ならば、わざわざ遮蔽物を探さずとも日光を凌げるかもしれない。
だが油断は禁物だ。自分は何度もその〝油断〟によって足下を掬われてきた。
ジョセフと承太郎らジョースター一行も最初から九栄神、ヴァニラ・アイス、最悪このDIOが相対していれば、あそこまでの犠牲は払わずとも済んだかもしれない。
磐石───せめて磐石な拠点を築きたい。
悪の帝王は歩みを辞めようしない。寧ろ歩調は速まっていく。
その時だった。
DIOの前に揺らめく幽かな白光。それは太陽光ではない。その光が当たっている素肌が何の拒絶反応も示していないのが確固たる証拠だ。
全員に支給された懐中電灯の光と見るべきだろうか。ならばその先に明かりを灯している参加者が居るという事だ。
発現するザ・ワールドのスタンドビジョン。
たとえ時間停止が使い物にならずとも、ザ・ワールドは10mもの射程距離を誇る近距離パワー型スタンドだ。並のスタンドなら恐るるに足らない。
どうやら光の主もDIOの存在に気付いたらしい。徐々にこちらに近付いて来ている。
邂逅まで残り1分といったところだろうか。
もし相手がジョセフか承太郎だったとしたなら即座に抹殺し、その血を一滴残らず搾り取ってやろう。
ジョースターの血で首から下のジョジョの身体がより一層自分に馴染むかもしれない。そうならば時間停止可能時間も少なからず延長されるかもしれない。
そんな事を思いながらDIOも一歩また一歩と光の主の元に歩み寄って行った。
◆
悪の帝王は困惑した。
懐中電灯の主はジョセフ・ジョースターでも空条承太郎でもない。奇抜な服装に身を包んだ緑髪の少女だったのだ。
だが、この少女もスタンド使いだ。ザ・ワールドのスタンドビジョンを潜めるその瞬間、確かに少女はそちらを見ていた。スタンドを目視出来るのは同じスタンド使いだけ。
さて、この少女をどう始末したものか。
「あれ?先程の黄色い殿方は何処へ?」
キョトンとする緑髪の少女。
何を巫山戯ているのだ此奴は。いや、わざとこのような態度を取って、このDIOを油断させるつもりなのかもしれない。舐めた真似をしおって。
次の言葉を最期の言葉にさせてやる。
それよりも前にスタンドビジョンが見えたなら、その瞬間にザ・ワールドのラッシュを叩き込んでやろう。仮にスタンドビジョンを見せずともラッシュを叩き込む。
喜べ少女。このDIOは腹が減っている。肉片一つ残さず喰らってやろう。
悪の帝王は性にも合わず微笑みを見せる。
「申し遅れました。私の名前は仁美。志筑仁美。市立見滝原中学校の二年生ですわ。
皆さんと一緒に〝素晴らしい世界〟に旅立とうとしていた筈なのですが、ここが何処なのかご存知なくて?」
「ホウ、その〝素晴らしい世界〟とは何なんだい?」
気が変わった。少女の言葉にDIOは興味を抱いた。
DIOもまた〝素晴らしい世界〟を求めていた。
その〝天国〟に至りたいが為に5年に近い日々を策謀し、ジョースター一行と対峙、そして今現在に至るのだ。
「ここよりもずっといい場所ですわ。言うならば幸福に満ちた世界。
私は掛け替えのない親友の長年の想い人に恋心を抱いてしまったはしたない女です。そんな私をも受け入れてくれる唯一無二の安息。
ああ、そうだ。あなたも是非ご一緒に」
想像に反して返って来たのは抽象的な説明。だが彼女の目には何処か自分と似た何かがあった。
少なくとも彼女が嘘を憑いてるようには思えなかった。そしてこの少女、志筑仁美はDIOを前にして汗もかいていないし呼吸も乱れていない。一切の恐れが見られないのだ。
気に入った。
この少女、我が従僕にするに足り得る。
DIOにとってその行動はただの余興だったのかもしれない。だが確かに悪の帝王はこう言った。
「────仁美ちゃん。まずは私と友達になろう」
◇
-
そこからの流れは実に淡白だった。
DIOは自らの名を名乗った上で施設探しを手伝うように仁美に強要した。
断ったなら断ったで肉の芽を植え付ける。
攻撃して来たならばザ・ワールドのラッシュを叩き込む。尤も、この少女のスタンドが強いとは到底思えない。仮に自分と同じ近距離パワー型スタンドだったとしても一撃くらいならば吸血鬼の生命力で耐え切れるだろう。あとは貧弱な本体を狙えばいい。
「ええ、分かりましたわ」
様子でも伺っているのだろうか。随分と物分かりが良い。
だがそれはそれで不自然だ。施設を発見したなら、そこで彼女に肉の芽を植え付けよう。
愛想笑いを浮かべたDIOはそのまま施設探しに興じようとした。
ここで彼は致命的なミスを犯していた。
最大のミスはザ・ワールドを発現したままでなかったという事。一撃くらいなら耐えられる。そんな甘い考えが命取りになった。
自分自身の過大評価と同時に犯した第二のミスは、志筑仁美という少女を過小評価してしまった事にある。
警戒こそしていたが、DIOは内心で彼女を『なまっちょろい貧弱な少女』としてしか認識していなかったのだ。しかし、志筑仁美はハコ魔女のくちづけによって精神汚染を受けている狂った少女。
真面な感性を失っている彼女を前にして背後を取らせてしまったのが運の尽きだった。
「───ザ・ワ───」
振り下ろされるは志筑仁美の支給品・肉切り包丁。
咄嗟に背後からの殺気に気付き、時間停止を行おうとするが遅過ぎた。
肉切り包丁の刃は首輪を掠めてDIOの首元を抉る。
一瞬の豪圧によって吹き飛ぶ悪の帝王の生首。
その刹那、DIOは目にした。
異様としか言いようがない筋肉隆々とした『化物』の姿を────。
◆
-
志筑仁美は感激した。
私の手でディオさんを〝素晴らしい世界〟へと導けた。
即座に膨張して破裂した制服。顕になった女子中学生とは到底思えない屈強な四肢。身長は既に3メートルを上回っている。
肉切り包丁に付着したディオの血を振り払い、少女は悪魔のように微笑んだ。
彼女の支給は3つ。
今握り締めている『肉切り包丁』。
そして『注射器』。
最後の1つは『〝とある液体〟の入った容器』だった。
その〝とある液体〟───『ドーピングコンソメスープ』は優れ物だった。
容器の裏底に刻まれていたQRコードを読み込むと表示される説明文。
あらゆる薬物の数倍の効力を持つ一切証拠の残らないドーピングスープ。更に血管から取り込む事で効果はその数倍にも跳ね上がると言う。
予め注射器にドーピングコンソメスープを注入していた仁美が、DIOが背後を見せた一瞬の隙に血管から摂取する事など容易かった。
ディオの首は何処かへ飛んで行ってしまったが、遺された胴体部分は依然として痙攣を続けている。
「行きましょう、〝素晴らしい世界〟へ」
何の躊躇もなく、遺された胴体をまるでキャベツか何かのように千切りにしていく仁美。
アスリート越えした体格の持ち主だったDIO。
そんな肉厚な亡骸だろうと今の仁美の上腕二頭筋にかかれば千切りなど造作もなかった。
数分足らずで切り刻まれたDIO基いジョナサン・ジョースターの遺体。吸血鬼の回復能力を持ってしても、ここまで細切れにされてしまっては再生のしようがない。
仁美は依然として屈強なアーマー改め乳房に付着した返り血を拭き取りながら、辺りをキョロキョロと見渡した。
一瞬だけ見えた黄色い殿方は見当たらない。
志筑仁美には、〝とある願望〟が芽生えていた。
DIOの首を刎ねた瞬間に覚えた達成感。
自分は神から使命を与えられたんだッ!!
皮肉にも悪魔に魅せられた少女は直感的にそう悟っていた。
大木に見えなくもない強固な首で煌めく魔女の口づけ。
使命に目覚めた志筑仁美は立ち上がる。極地的に地響きが轟く。
『怪物』は次なる標的を求めて歩み始めた。
【F-5/一日目/草むら/深夜】
【志筑仁美@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:〝魔女の口づけ〟による精神汚染、ドーピングコンソメスープ摂取による屈強な肉体、全裸
[首輪ランク]:人間
[装備]:肉切り包丁@現実
[道具]:デイパック×2、基本支給品×2、ドーピングコンソメスープ(残り270ml)@魔人探偵脳噛ネウロ、至郎田正影の注射器@魔人探偵脳噛ネウロ、食パン×6@現実
[思考・行動]
基本方針: 皆殺し (全ての参加者と共に〝素晴らしい世界〟に向かう)
0:一刻も早く参加者を発見して、1人でも多く〝素晴らしい世界〟に導く。
1:友人(鹿目まどか、美樹さやか)を重点的に探す
[備考]
※参戦時期はハコの魔女(エリー/キルステン)に魔女の口づけで洗脳された直後です。
※魔女の口づけによる精神汚染によって自分を含めた他者を1人でも多く〝素晴らしい世界〟に導こう(=殺害しよう)という思想に至っています。尚、この精神汚染は本人が死亡するまで解除される事はありません。
※ドーピングコンソメスープは30mlを静脈から体内に摂取する事で効果を発揮します。原作における至郎田正影の使用時と同様、摂取によって強化される部位はその都度異なります。効果は摂取から30分程度持続します。
-
◆
悪の帝王は恐怖していた。
恐怖を克服する事が生きる事。だが今となってはどうしようもない。
志筑仁美に首を刎ねられ、DIOの生首は10メートル以上吹き飛んだ。
彼女の刃が抉ったそこはディオとジョナサンを結ぶ接合部分だったのは何かの運命だったのだろうか。
子孫───ジョセフと承太郎と戦いたくないというジョジョの願いが通じてしまったのだろうか。
DIOの生首が地に堕ちる以前にザ・ワールドはそれをキャッチした。
まさか本体と連動してスタンドも首だけになっているのではないかという不安は、どうやら外れたようだった。五体満足のザ・ワールド。今迎撃すれば志筑仁美を返り討ちに出来るんじゃないだろうか。
駄目だ。リスクが高過ぎる。
徐々に混濁し始めるDIOの意識。
いくら二度目───吸血鬼の生命力で存命しているとは言え、出血多量という事実に変わりはない。
早急に次なる肉体を探さねば─────。
首だけの悪の帝王はザ・ワールドに抱えられ、迫り来る死へのリミットに恐怖しながら歩み始めるのだった。
【F-6/一日目/草むら/深夜】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:頭部、出血多量、意識混濁、ザ・ワールド発現、絶望
[首輪ランク]:怪物
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針: ジョジョの血統を根絶やしにした上で、主催者(都城王土)を抹殺して生還する
0:首より下の部分を得る。不可能ならば協力者(従僕)を確保する。
1:緑髪の少女(志筑仁美)を厳重警戒。可能ならば殺害。
2:自分が置かれた現状を把握する。
3:ジョセフ・ジョースターと空条承太郎を搜索し、発見し次第抹殺する。もう油断はしない。
[備考]
※参戦時期はエジプトにてジョセフ・ジョースターと花京院典明を追撃している途中から。少なくともウィルソン・フィリップス上院議員の高級車に乗車して以降からの参戦です。
※スタンド〝世界〟の時間停止は1秒未満しか止められず、使用後に身体的負荷が課せられます(過剰な疲労感など)。
※首(正確には首輪)より下の部分を失いました。その影響でザ・パッション(ジョナサンのスタンド)は発現不可となりましたが、頭部は健在の為、ザ・ワールドは発現可能です。
※吸血鬼の生命力で何とか生存していますが、このまま輸血、もしくは新たな首以下の部分を得られない場合は第2回放送を迎えた時点で死亡します。
※一定状態まで回復しない限りは肉の芽の生成は不可能です(五体満足までの回復が最低条件)。
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投下終了です
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タイトルは「クライマーズ・ハイ」でお願いします
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投下乙です
遂に出たDCS(ドーピングコンソメスープ)
いつかは出るだろうなと思ってたけど、まさか精神状態がヤバイ仁美ちゃんが引くとは
そしてDIO様...そりゃか弱い女の子が上半身が異常発達した怪物になるなんて予想外だしいくら帝王と言ってもビビるよね
どうか彼にいい身体が見つかりますように
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リサリサ、リュカ、ジャミで予約します
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暁美ほむら、巴マミ、あと書き手枠で霧島純平(金田一)を予約します
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投下します
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いつだって世界は残酷だ。
暁美ほむらという少女───いいや『怪物』が行き着く末路は、決まって救いようのない“終焉”だった。
始まりは唐突。見滝原に転校した少女は〝魔女〟に魅せられ決して出られない奈落──結界へと誘われた。
ようやく正気を取り戻した少女は助けを求めた。しかし誰一人として彼女を助けに来ない。響くのは悲痛の残響、ただそれだけ。
絶望絶望絶望絶望絶望────。
目の前に迫る異形の塊。少女は死を覚悟した。
その瞬間、ほむらの頭上を掠める桃色の残光。今思えば“それ”が彼女───鹿目まどかとの出会いだった。
彼女ともう一人の少女は意図も容易く魔女を撃破した。そして2人と1匹の口から語られる〝魔法少女〟の存在。
それから程なくして、鹿目まどかと金色の髪をたなびかせる大人びた少女───巴マミらの手引きを受け、暁美ほむらは魔法少女という存在に憧れを抱いていった。
しかしそんな日々にも結末(ピリオド)は訪れる。
見滝原に襲来した最強の魔女・ワルプルギスの夜。遥か太古より〝災禍〟を齎して来た圧倒的な力を前に巴マミが命を落とした。
彼女の死を嘆いている暇など無かった。多くの見滝原市民の集まる指定避難所に刻一刻と迫り来るワルプルギスの夜。
まどかは戦う事を決意した。熟練のマミですら敵わなかった最強の魔女にまどかが勝てる筈が無い。
ほむらは必死にまどかを止めた。だが彼女の決心は決して歪む事は無かった。当然、彼女は死んだ。
暁美ほむらという少女は、そんな“残酷な結末”を望まなかった。
その想いこそが決定打。彼女は願ってしまった。宇宙の維持の為に人間を家畜に仕立て上げた白い悪魔に祈ってしまった。
かくして少女は『人間』である事を捨て、晴れて『怪物』───『魔法少女』の仲間入りを果たした。
◆
“今回”で一体何度目なんだろう。
少女にはもはや数える気力すら無かった。数百数千と繰り返した1ヶ月。鹿目まどかを救いたいが為に戦った幾千の日々。
幾度となくやり直そうと“結末”が変わる事は無かった。
───“また”だ。
ワルプルギスの夜を一撃で撃破し、その反動でそれをも超える最強の魔女となった鹿目まどかの姿を前にして、暁美ほむらはいつもように溜息を吐いた。インキュベーターが何か騒いでいるが、それさえも耳に入らない。
空を覆う無数の災厄。この世界が滅びるのも秒読み状態か。
少女はいつものように腕の盾───砂時計に手を掛けた。
───きっと“この次”も。
虚構の魔法少女は、毎度のように顔を強ばらせながら時の流れを遡った。
◆
“異変”は唐突に訪れた。
いつもなら目覚める筈の自室のベッド。その当たり前となってしまった空間が其処には無かったのだ。
代わりに広がっていたのは不気味な雰囲気の漂う一種独特な空間。
最悪の事態だった。時間を止めようにも戻そうにも、彼女の腕にある筈の盾が無いのだから。
やがて現れた見るからに自意識過剰な青年・都城王土。
彼の口から語られた狂気の数々を受けて疑惑は確信へと変わった。
盗まれた。いや没収されたのだ。
都城王土の言葉が正しいのならば、ほむらは何らかの形で自由を奪われ、反逆しようのない首輪を着けられた上でここに呼び寄せられた。そして殺し合い(バトルロイヤル)という凶行を強制されている。
そんな状況で時間操作が可能なあの砂時計があってはゲームすら成立しない。だから主催者・都城によって没収された。
そう考えるのが妥当だった。
遠のく意識。殺し合いが始まった。
◆
-
目を覚ますと其処は草木に覆われていた。
どうやら時刻は夜更けらしい。視界が悪い中、少女は足元に置かれていた都城から支給されたと思しきデイパックに手を伸ばした。
“それ”を見つけた瞬間、暁美ほむらの顔が僅かながら強ばった。
それは見覚えのあるマスケット銃。幾度となく共闘した戦友の主力武装。
間違いなく、それの正体は〝巴マミのマスケット銃〟だった。
マミの銃があるという事は、まさかとは思うが主催者に彼女が加担しているという事なのか?
その後もデイパックを漁って行くほむら。次に見つかったのは〝参加者名簿〟。
そこに書かれていた彼女を含めた72人の参加者の名前。
無数の文字羅列の中には『巴マミ』、『佐倉杏子』、『志筑仁美』、『美樹さやか』の名前があった。そして一瞬で青ざめる少女。
───『鹿目まどか』の名前もそこには記されていた。
こんな事が有り得ていいのか?
神様、もしかして私を虐めてます?何処でほくそ笑む都城の顔が目に浮かぶ。
暁美ほむらは決意した。こんな狂ったゲーム、絶対に乗らない。
早急にまどかの身柄を確保して脱出する。そしてこんな事が繰り返されないように都城を抹殺する。
そうと決まればモタモタしてはいられない。
必ず、きっと必ずゲームに賛同する参加者が現れる。そうでなければゲームが成立しないのだから間違いなく主催者が参加者の中に紛れ込ませている筈だ。
まどかは十中八九契約していない。今までの自分がそれを阻止して来たのだから。
そうならばまどかは格好の餌も同然。所詮は女子中学生。大人の男にでも迫られたら確実に逃げ切れない。
手遅れになる前に見つけ出す。
暁美ほむらは発見した二丁のマスケット銃を両手に構え、決して視界の良くない夜道をがむしゃらに駆け抜けた。
◆
走り始めて十分強。流石に疲労を感じ始めたほむらは、そっと切り株に腰を下ろした。
魔力を使えば疲労を押し消す事など容易い。だがこの環境に魔女が生息しているとは考えにくい。
グリーフシードが手に入らない以上は使い所を考えた上で行動しなければ本末転倒。
しかし、ここまで本命のまどかはおろか71人は居る筈の参加者の誰とも遭遇しないというのは何処か不自然に思えた。
都城が用意したゲーム会場。支給された地図を見る限りはそこまで大きくないように感じられたがそうでもないらしい。
ともかく余計な事を考えている場合では無い。
ここで休憩している間にもまどかが────。そう考えただけでも震えが止まらない。
一刻も早くまどかを探さなきゃ。ほむらは息を荒らげながら重い腰を上げる。
その時だった。パッと輝く眩い光が少女の身体を照らし出した。
咄嗟に魔法少女に変身する少女。やがて光の向こう側から朧気ながら人影が見え隠れし始める。
巴マミのマスケット銃を構え、戦闘に備える。なに、たとえ攻撃を受けようがソウルジェムさえ健在ならば再生出来る。
「あのー、もしかしてキミも参加者の人だったりする?」
声の主は黒の学ランに身を包んだ青年だった。
見たところ、自分と然程年齢も変わらぬ、高校生といった所だろうか。
呆れた表情でマスケット銃を下ろすほむだったが決して警戒は解かなかった。魔法少女は女性だけ。そんな常識が通用する段階には無い。現に都城王土はそれ違わぬ超常的な能力を持っていた。
このおちゃらけた青年でさえ、魔法少女を死に至らしめる能力を持っているやもしれない。
まずは相手の手の内を探る。ポーカーフェイスだ。
ただし失敗は許されない。何せ、もう時間を巻き戻す事は出来ないのだから。
「ええ、そうみたいね。
私の名前は暁美ほむら。アナタの名前は?」
「ああ俺?霧島。霧島純平。
宜しく頼むぜ、暁美」
差し伸べられる霧島の手。妙に人懐っこい奴のようだ。
マスケット銃はおそらく見られた。それでも手を差し伸べてくる辺りは、単なる警戒心の無い馬鹿なのか?はたまた狡猾な知能犯なのか。
まあ何にせよ接触は重要。もしかしたら霧島が既にまどかを遭遇していたなんて事も有り得なくはない。
止むおえず彼の手を握る暁美ほむら。握手。これが真の友好の証足るゆるかそれ否か。
しかし少女は知らない。この男───霧島純平が後に〝死神マジシャン〟と畏怖される連続殺人犯へ変貌を遂げる事を。
その瞬間、確実に運命の歯車は狂い始めた。
行き着く先は“活路”か、はたまた“終焉”か────。
◆
-
夜道を霧島と共に歩み始めて早5分。
霧島純平について分かった事と言えば『私立秀央高校の1年生であること』と『マジック部に所属していること』くらい。
自分もそれほど手の内を明かしていないのだから当然の結果とも言える。
だが、これ以上腹の探り合いをしていても無駄に時間が過ぎて行くだけ。その間にもまどかが危険に晒されているのだ。
もう十分。ここで本題を切り出そう。
「霧島、ここに来る道中で私と同じくらいの背丈をした桃色の髪の少女を見かけなかったかしら?」
「その子もキミみたいにコスプレしてるの?」
「いいえ。見滝原中の制服を着ている筈。おそらくはね」
他愛ない些細な会話。しかし霧島の反応を見るあたりは知らないのだろう。
砂時計があれば時間を止めて、さっさと彼の元から立ち去っている。
「知らないなぁ」
よし決まりだ。あとは口実を作って上手くこの場から離れられればいい。
いや一層の事、不信感を抱かれないように本当の事を言って離れよう。彼が着いてくると言うならそれまでの事。
「暁美、お前も人探しか?」
お前も?霧島もまた参加者の誰かを探しているのだろうか。なら話は早い。
「ええ、そうだけどアナタの力にはなれそうもないわ。
私はアナタと遭遇するまで誰とも会っていない。悪いわね。
私も私で一刻も早くまどk───親友を探さなきゃ行けないの。ここらで別れましょう?」
いけないいけない。危うく口が滑り掛けた。これで後は霧島の反応次第。
「いいぜ。そういう事情があるんだったら止めはしねえ」
霧島は何処か寂しそうな───何か意味ありげな表情を浮かべながら言った。
物分りが良くて助かる。ここで「一人じゃ心配だから着いて行く」みたく言われたらどうしようかと思っていた。
「だけどさ───」
続く霧島の言葉。そして────。
事はほんの一瞬だった。しかし少女にはすぐには何が起きたのか理解出来なかった。
それは何の変哲もないシルクハットの中から鳩が出て来るような奇跡じみた芸当(マジック)。
暁美ほむらの喉元にはナイフの刃が深く突き刺さっていた。
その光景を見て悪魔のように歪む霧島の口元。その顔はまるで〝死神〟そのもの。
「───折角見つけた〝獲物〟をみすみす逃がすワケないじゃん?」
◆
苦しい。苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
痛い。何より息が出来ない。口を開けば溢れ出る鮮血。
暁美ほむらは死の危機に瀕していた。ソウルジェムは無事であっても苦しい事に代わりはない。
過去に幾度となく繰り返したワルプルギスの夜との戦いであっても、これ程までの痛みを感じた事は無かった。
「あ……ァァ……ァあ……」
まるで魚のように口を荒らげながら、ほむらはすぐ目の前にあるマスケット銃に手を伸ばした。
霧島純平はゲラゲラと高笑いを上げている。やるなら今しかない。
あと少し───もう少し────。マスケット銃さえ手に入ればあとは引き金を引くだけ。
顔に血が上る。色白だった少女の顔は鬼のように朱に染まり、瞳孔はカッと開いて両眼共に充血している。
取れる。もう指が当たっている。
しかし世界は不条理に満ちていた。
マスケット銃を手にするよりも前に少女の華奢な腕をナイフが貫いた。
「……ッ……アア……ァガッ……」
悶え苦しむほむら。そんな姿を嘲笑うかのように霧島はほむらの腕に突き刺さったナイフに足で体重を掛けていく。
やがてナイフは腕を貫通し、その刃は地面にまで達していた。
「暁美ィ〜動いちゃダメじゃ〜ん!」
ほむらに動ける体力などもはや無いに等しかった。口からの吐血が止まらない。意識ももう朦朧とし始めた。
そんな中、霧島はおもむろに片目を閉じてナイフを構える。不気味な構え。それはまるでダーツのような何かを〝的〟に向けて投擲しようとするモーション。
「1回やってみたかったんだよね!こういうのをさ!」
霧島の手から放たれたナイフ。その刀身は確実にほむらの頭部を捉えていた。
その刹那、暁美ほむらの脳天に1本のナイフが突き刺さった。
◆
-
霧島純平は激しく高揚していた。
人間ダーツがこんなにも面白かっただなんて!
その後も動かなくなったほむらの亡骸に向けて霧島は所持していた10本のナイフを全て投擲してしまった。
「ははははッ!最高だぜここは!」
霧島純平は長らく求めていた。生まれ付き彼に備わっていた異質────〝殺人衝動〟
いくら再教育さえようとも、それだけは絶対に失われる事は無いだろう。
しかし霧島を囲む環境はあまりに平凡───退屈過ぎたのだ。
当たり前の学校生活。仲間の集うマジック部。何もかもがつまらなかった。
誰でもいいから殺してやりたい。頭の先までどっぷりと退屈に浸って生きてるくだらない連中を一人残らず恐怖のどん底に叩き込んでやりたい。
願望だけが日に日に蓄積される毎日。だが、ある時“救世主”が訪れた。
彼の名前は『高遠遙一』と言った。
一目見た瞬間から霧島純平は直感した。こいつは自分の“同類”だ、と。
その日から霧島は高遠遙一に夢中になった。彼はこんな次元に生きていてはならない。もっと夜の闇に染まるべきだ。
そんな一心で青年は高遠に近付き、彼をマジック部に引き入れた。だがマジック部と言えど障害は多かった。
高遠に言い寄る醜い女ども。その憎悪が霧島純平という青年を〝死神マジシャン〟へと仕立て上げていく。
しかしながら状況は好転した。
これは好機だ。報われなかった自分に神様が与えてくれた最高の狩場。
デイパックの中にあった参加者名簿の中には確かに彼の名前が刻まれていた。
霧島純平は暁美ほむらを殺害した瞬間に決意した。
────高遠遙一を優勝させよう。俺はその為に呼び出された。そうに違いない。
狂った手品師は高笑いする。暁美ほむらのデイパックを回収し、新たに手に入れたマスケット銃を片手に享楽に浸った。
本物の銃を手にするのは初めてだ。自分の支給品は死体から抜き取ったナイフ12本とトランプセット、そして軍手のみ。
銃が手に入っただけでも充分僥倖と言えた。
だが気掛かりなのは首輪の存在。いくら切り刻んでも暁美ほむらの首から首輪が外れる事は無かった。
それは当然。彼女はまだ生存しているのだから。
その事実を知らない霧島は残念そうに立ち上がり、次の順路に向けて歩み始めた。
長居は不要。それに今すぐにでも高遠と合流したい。彼と組んでもっとたくさんの参加者を殺したい。
殺人という“ショー”は最高だ。度し難くもこれ程面白いモノは無い。
〝死神マジシャン〟は次なる餌を求めて淡々と歩み行くのだった。
-
【F-6/一日目/草むら/深夜】
【霧島純平@金田一少年の事件簿(高遠少年の事件簿)】
[状態]:激しい高揚
[首輪ランク]:人間
[装備]:DIOのナイフ×12@ジョジョの奇妙な冒険、巴マミのマスケット銃×2@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品×2、トバルカイン・アルハンブラのトランプセット@HELLSING、軍手@現実
[思考・行動]
基本方針: 奉仕 (高遠遙一を優勝させる。彼がそれを望まないのならば自分が優勝する)
0:高遠遙一を見つけてタッグを組む。
1:戦闘になった際、自分が不利にならない参加者(女など)を見つけた場合は殺害する。
2:高遠遙一に言い寄る女が居たなら即刻殺害する。
3:もっと強力な武器が欲しい。
[備考]
※参戦時期は高遠遙一を同類と見なした以降からの参戦です。
※死神マジシャンとして連続殺人事件を引き起こす以前からの参戦ですが、殺人に対する忌避感を一切覚えていません。
-
【F-6/一日目/草むら/深夜】
【霧島純平@金田一少年の事件簿(高遠少年の事件簿)】
[状態]:激しい高揚
[首輪ランク]:人間
[装備]:DIOのナイフ×12@ジョジョの奇妙な冒険、巴マミのマスケット銃×2@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品×2、トバルカイン・アルハンブラのトランプセット@HELLSING、軍手@現実
[思考・行動]
基本方針: 奉仕 (高遠遙一を優勝させる。彼がそれを望まないのならば自分が優勝する)
0:高遠遙一を見つけてタッグを組む。
1:戦闘になった際、自分が不利にならない参加者(女など)を見つけた場合は殺害する。
2:高遠遙一に言い寄る女が居たなら即刻殺害する。
3:もっと強力な武器が欲しい。
[備考]
※参戦時期は高遠遙一を同類と見なした以降からの参戦です。
※死神マジシャンとして連続殺人事件を引き起こす以前からの参戦ですが、殺人に対する忌避感を一切覚えていません。
-
◆
いつだって世界は残酷だ。
霧島純平がその場を去って数分が経過した頃、暁美ほむらの亡骸───その手の甲に埋め込まれた紫の宝石・ソウルジェムが妖艶な輝きを見せていた。
徐々に薄れていく生々しい刺傷。少なくとも首元を数十回メッタ刺しにされた為、完全治癒までにはそれ相応の時間経過が伴うだろう。こうなってしまった以上は魔力の消費もやむ無し。
暁美ほむらは『魔法少女』であり、『正義の味方』であり、そして『怪物』だった。
本体であるソウルジェムさえ無事ならば身体など幾らでも再生出来る。
だがこの魔力消費は非常に痛い物だった。グリーフシードを何処かしらで確保しなければ些か不味いかもしれない。
名簿にあった3人の魔法少女の名前。最悪、美樹さやかが魔法少女で無かったとしても、実利主義の佐倉杏子にでも当たれば何かの条件と引き換えにグリーフシードを得る事は容易い。巴マミも交渉次第では可能と見るべきか。
まずは治癒だ。二足歩行に支障をきたさないレベルまで回復したらまどかの捜索を続行する。
◆
────何が近付いている。
ほむらがその事実に気付いたのは破れた鼓膜を回復させた直後の事だった。
辺り一面は草むら。これだけ草に覆われていれば音を聞き取る事など造作も無かった。
参加者の足音。それも真っ直ぐ自分の元を目指している。
おそらくその参加者は死体を見慣れている人物なのだろう。一切の余韻が無い。
となれば霧島同様ゲームに賛同した参加者と見るべきか。折角ここまで治癒したのにまた切り刻まれるのか。
致し方ない。まどかを助けられずに死ぬよりかはマシだ。
足音はすぐ近くまで迫っている。首輪目当てなのは間違いない。
またやり過ごせばきっと凌げる。
そんな祈りは一瞬で水泡に期した。
カツンという音を立ててソウルジェムに当たる〝何か〟。ほむらは即座にそれが何か理解した。
〝銃口〟だ。何度も繰り返したあの1ヶ月で幾度も無く触れた事があるのだから間違いない。
────この参加者はソウルジェムを撃とうとしている。
魔法少女の弱点を知る存在。そんなのは自分が知る限り1つしか候補が存在しない。
〝魔法少女〟だ。今銃口を───この妙に重い拳銃の銃口を突き付けているのは参加者の中にいた3人の魔法少女のいずれか。
死にたくない。こんな所で死んでたまるか。まどかを救うまでは絶対に死ねない。
「……た……すけ……ッて……」
喉に治癒を集中させ、辛うじて掠れた声を上げるほむら。
その瞬間、少女はその音に気付いた。────“泣き声”。
「……暁美さん、ごめん」
無慈悲にも引かれてしまった対化物戦闘用13mm拳銃「ジャッカル」の引き金。
響き渡る轟音。穿たれた13mm炸裂徹鋼弾は、暁美ほむらのソウルジェムを打ち砕いた。
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】
◆
巴マミは錯乱していた。
暁美さんが言ったように美樹さんは絶望の果てに魔女化し、断末魔の叫びと共に消滅した。
解除される美樹さやかだった魔女の結界。しかし其処に広がっていたのは見滝原では無く黒い闇。
巴マミにはもはや意味が分からなかった。唐突に殺し合いを強要されて、一人の少女が死亡した。
それよりも過酷な自らの運命。
───自分は遅かれ早かれ魔女化するという避けられない残酷な運命だけが彼女を突き動かした。
失意の果て。銃の重さだけで16kgにも達するジャッカルの一撃。いくら魔力でカバーしているとは言え、その一撃の反動で巴マミの右腕の骨は砕けていた。
だがそんな痛みももう苦にならない。彼女を支配するのは避けようのない絶望。徐々に黒みを帯びていくソウルジェム。
「ソウルジェムが魔女が生むなら……みんな死ぬしかないじゃない……」
絶望に歪んだ魔法少女は救済を求めて、行き場の無い闇へと足を踏み入れて行った。
-
【F-6/一日目/草むら/深夜】
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:錯乱、激しい絶望、ソウルジェムの穢れ(大)、右腕複雑骨折(魔力による治癒中)
[首輪ランク]:怪物
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃「ジャッカル」@HELLSING
[道具]:基本支給品、巴マミのソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:皆殺し
0:遅かれ早かれ魔女化するのなら、それよりも前に全ての参加者を皆殺しにする。
1:愛弟子(佐倉杏子)でも後輩(鹿目まどか、美樹さやか)であっても情け容赦はしない。
2:もっと扱いやすい武器が欲しい。
[備考]
※美樹さやかの魔女化と消滅を目の当たりにし、錯乱してからの参戦です(佐倉杏子のソウルジェムを狙撃する直前)。
※正常な思考回路を失っています(ただし殺人に対する忌避感は覚えており、その影響でソウルジェムの穢れが悪化しています)。
※魔力によるマスケット銃の精製は不可能ですが、治癒促進は可能です。
※暁美ほむらの首輪は回収されずに放置されています。
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投下終了です
>>91はミスなので無視してくれて構いません。
タイトルは「マジシャンズ・セレクト」でお願いします
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投下乙です
まさかの霧島くん参戦&ジャイアントキリング(殺してないけど)とは。
大好きな高遠に会えるといいですが、なにぶんこのロワには生粋の犯罪者が多いからなぁ。
そんな彼らと出会った時、霧島くんは浮気しないでいられるのだろうか。
そしてほむらちゃん...バカな...簡単すぎる...呆気なさすぎる...!
というか杏子といい仁美といいマミさんといいまどマギ勢の精神が不安定すぎる
そんな彼女たちですがさて、どうなるか
投下します
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☆
寂れた村の中、美女―――リサリサは、佇んでいた。
(まさか...こんな...)
突如巻き込まれたこの殺し合い、不可解な点は幾つもあったが、名簿を確認した瞬間、それらはどこかへ吹き飛んだ。
DIO。
エリナやスピードワゴンから聞かされていた、悪の化身。
自分の命の恩人であり義父でもあるジョナサンと共に爆発に巻き込まれ、海に散ったと聞かされていたが...
もしも、このDIOが彼らから聞かされていた吸血鬼"ディオ"であるならば、波紋戦士として倒すべきだろう。
だが、そんなことよりも。
(ジョジョ...)
名簿に記載されている『ジョセフ・ジョースター』。
間違いない、カーズとの戦いの果てに死んだはずの息子だ。
なぜ、彼の名があるのか。
実は生きていたのか。それとも、あの都城とかいう男が蘇らせたのか。
そんなことよりも。
そう、義父の代からの因縁の吸血鬼なんかよりも。ジョセフの生死の真偽なんかよりも。
(生きているのなら―――会いたい)
ジョセフには、未だ母親であることを名乗ったことはない。
彼との関係は親子ではなく、波紋の師弟というだけだった。
...彼と親子として普通に接したいと思ったことが、何度あっただろうか。
にも関わらず、彼は逝ってしまった。
最期まで憎まれ口を叩いて、真相をなにも知らぬままその命は潰えてしまった。
そう思っていた彼がここにいるのだ。
だから。いまは―――ただ、会いたい。
もしも彼女を知る者がいまの彼女を見れば、一様に驚愕するだろう。
これほどまでに弱弱しい目をした彼女が、本当にあのリサリサなのだろうか、と。
奇妙な因縁に翻弄された息子の生存は、それほどまでに彼女の精神を骨抜きにしていたのだ。
「―――バギクロス」
だからだろう。
放たれる竜巻に、寸前まで気が付くことができなかったのは。
-
☆
「中々思い切りがいいではないか」
「......」
二足歩行の馬面の怪人―――というより、筋骨隆々の馬が、傍らに立つ紫ターバンの青年に意地汚い笑みを向ける。
「ウィヒヒヒ...そう睨むな。いまは同志だろう」
青年、リュカの殺気を伴う眼孔を向けられた馬の魔物・ジャミはそれを軽く受け流す。
「さて。儂は南へ向かうが...お前はどうする?」
「...僕は、この辺りを探し回るよ」
二人は、それだけを確認すると、すぐにそれぞれの道へと歩き出した。
ここで、リュカという青年について語るとしよう。
彼は、最初に見せしめとして殺された少女の父親である。
彼は、決して薄情な親ではない。どころか、彼は八年間も石にされていたために、ようやく再会できた子供への愛情はこの会場内でもとりわけ深いだろう。
だが、そんな彼でも、妻であるビアンカや仲間のピエールがいるこの殺し合いで優勝して娘を蘇生させようとすぐには思わないはずだ。
ましてや、殺し合いに乗ることを決めたとしても、彼の父を殺し、ビアンカを攫った憎き魔物であるジャミと手を組むなど考えることは決してない。
さて。
そんな彼だが、ご覧の通り、リュカはリサリサを殺すために奇襲をかけ、更には怨敵であるジャミとも手を組んでいる。
なぜか。
勿論、それには理由がある。
時間はほんの数分前にまで遡る―――
-
☆
「ん...」
激しい眩暈と共に、意識は覚醒する。
「ここは...」
きょろきょろと辺りを見回し、状況を確認する。
真っ暗だ。
ただ夜だから暗い、といった様子ではなく、本当に暗いのだ。
だが、そんな中でも自分の手足はくっきりと見える。実に奇妙な空間だ。
どこだここは。
なぜ自分はこんなところにいる。
「ようやく目が覚めたか」
声が聞こえた。
どこかで聞いたような、それでいて思い出したくないなにかを思い出させるような声が。
振り向いた先にいたのは見る者全てに自意識過剰な印象を植え付ける金髪の男だった。
「貴様だけをここに呼んだのは他でもない。実は、見せしめのことで少々詫びをしたくてな」
見せしめ...?詫び...?なんのことだろう。
思わず首を傾げそうになるリュカに構わず男は続ける。
「見せしめに貴様の娘が選ばれたのは本当に偶然だったのだ。だから―――」
見せしめに、タバサが選ばれた?いったいなんの―――
-
『そうそう、この首輪には面白い仕掛けがあってな。コイツに強い衝撃を与えたり、六時間毎に行う死亡者放送と共に発表する禁止エリアに踏み込んだりすると...』
「―――――ぁっ」
思い出す。思い出してしまう。
首輪の見せしめ。タバサが殺された。
彼女の血が、肉が飛び散った。
ぼくとビアンカの大切な娘が―――この男に―――
「あああああぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
絶叫。
思い出した。
オモいだした
おもいだした。
タバサがころされた。勇敢なあの子は、あまりに呆気なくころされた。
この男にこのおとこ二コノオトコに!
殺す。
絶対に、こいつだけは!
「落ち着け―――と言っても聞かんだろうな。では、とりあえず『ひれ伏せ。』」
男―――王土の言葉と共に、グシャリ、とリュカは頭を自ら地面に叩きつけ、身動きがとれなくなる。
「ぐ...がぁ...!」
「えぇっと、どこまで話したか...そう、見せしめの詫びをしたいというところだったかな」
潰されそうな重圧に晒されるリュカを余所に、王土は彼へと視線すら移さず指を鳴らす。
「貴様の娘の不運はこの俺も少々不憫に思ったのでな。これから俺の余興に従ってもらう貴様に対してのせめてもの褒美だ」
王土の背後の空間から現れたのは、筋骨隆々の馬面の怪人。
リュカは、そいつの名を忘れない。
憎きこの魔物―――ジャミの名を!
-
「き、さま...!」
「ブルルル...睨むな睨むな。お前にとっておきのものを連れてきてやったというのに」
ジャミは、いやらしい笑みを浮かべ、背後の空間を弄り引っ張り出す。
それの正体は、金髪の子供であり、リュカのよく知る者。
即ち
「タバサ...?」
「お、おとうさん!」
タバサは、ひれ伏す父に駆け寄り、何度もおとうさんと呼びかける。
「タバサ...本当に、きみなのか?」
「うん...うん...!」
突如消えた身体の重みになんの疑問も抱かず、涙を流しながら抱き着いてくるタバサをリュカは抱きしめる。
温かい。
偽者なんかじゃなく。いまここにいるタバサは本物の、生きているタバサだ。
「タバサ...!」
これは幻想なのか。
それともタバサが死んだことこそが幻想なのか。
どっちでもいい。叶うならば、どうかこのまま目が覚めないで―――
「これでわかっただろう?死者は確かに生き返ると」
王土の言葉で、リュカは我を取り戻す。
そうだ。なにを思ってタバサを連れてきたかは知らないが、リュカが殺し合いに巻き込まれたという事実に変わりはないのだ。
「褒美の存在も確かにしたのだ。それでは、俺の余興に付き合ってもらおうか」
「...なにを言っている。僕には、お前なんかに従う理由はない。ここでお前達を倒して全て終わらせる!バギクロ―――」
「まぁ待て。ヒトキチにも言ったが、冷静さを失えば長生きはできんぞ。『娘の首を見てみろ』」
王土に言われた通り、リュカは呪文の詠唱を遮られ、タバサの首を見ることになる。
彼女の首には―――やはり首輪が巻き付いていた。
あの、一度は娘の命を奪った忌々しき首輪が。
「理解したか?娘を見捨てて俺に歯向かうというならそれでもいい。その時は、娘だけでなくお前の息子もこうなるだろうがな」
「―――――――!!」
絶望の二文字がリュカの胸中に渦巻く。
一度は喪った娘も。伝説の勇者である以上にかけがえのない息子も。
王土の命令に従わねば、全てを失うのだ。
リュカは、すでに逃げ場のないフラスコに閉じ込められていた。
「なぜ...こんなことを...!」
「言っただろう?これは単なる余興だと―――では、俺の命(めい)に従ってもらおうか」
-
☆
(まったく、『あのお方』はこういった催しに目がないのだから)
王土のリュカへの依頼。
それは、殺し合いに乗り、他の参加者を殺害してまわること。
娘のみならず、息子までも人質にとられたのだ。
彼が従う他ないのは一目瞭然だった。
(儂も首輪をつけられているのは少々不満だが...まあ、ハンデとでも思っておくとするか)
ジャミもまた、殺し合いを混沌に陥れるために主催から派遣された、所謂ジョーカーである。
そのため、リュカは仇敵であるジャミを殺せないし、ジャミもまたリュカを殺しはしない。
一方のリュカはというと。
(ビアンカやピエール...それに父さんまでいるなんて)
ビアンカ。リュカの幼馴染であり大切な妻。
ピエール。旅の道中で仲間にした、頼れるスライムナイト。
そしてパパス。
リュカの尊敬し敬愛する屈強な父。だが、彼は死んだはず...なのに。
(父さんがここにいるのも、死者を蘇らせることができることの強調だろうか...)
王土は言っていた。
殺し合いを進める過程で、他の参加者を脱出させることは禁じないと。
始めは意味がわからなかったが、名簿を見てようやく納得できた。
彼らの首輪のランクはわからないが―――できれば、脱出させるその時まで会いたくはないものだ。
そしてもうひとつ。
もしも第三回放送までにジャミとリュカが生き残っていた場合、褒美としてジャミを殺しても不問に問うと。
これにはリュカも疑問に思う。
(ジャミはあの王土の手先のはず。なのに、なぜ殺すことが許されるんだ...?)
ジャミはリュカと同じジョーカーである。しかし、しばらく経てば殺してもいい。
確かにジャミは憎むべき敵であるが、殺すのを許可されるとは?
(―――いや、考えるのはよそう。僕は、僕のやるべきことをやるだけだ)
もしそれも王土の余興とやらなら考えるだけ無駄だ。
殺し合いを進め、ビアンカ、パパス、ピエールの三者を生還させる。
第三回放送までジャミが生き残っていれば、奴を殺す。
いまはただそれだけでいい。
それだけで、いいんだ。
-
【D-7/一日目/カボチ村/深夜】
【ジャミ@ドラゴンクエストV】
[状態]:健康
[首輪ランク]:怪物
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、 不明支給品1〜3
基本方針:ジョーカーとして殺し合いを円滑に進めつつ愉しむ。
0:基本的に殺してまわる。ただしリュカとは共に行動しない予定。
1:南から見てまわろうか。
※参戦時期は死亡寸前
※一人称は小説版の「儂」でお願いします。
【リュカ(主人公)@ドラゴンクエストV】
[状態]:疲労、精神的疲労
[首輪ランク]:超人
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、 不明支給品1〜3
基本方針:ジョーカーとしての仕事を果たし、ビアンカとパパスとピエールを優先的に脱出させる。
0:ビアンカ≧パパス>ピエールを脱出させるために他の参加者を殺してまわる。彼らとはできれば脱出させる時までは会いたくない。ジャミは第三回放送後に殺す。
1:この付近から狩ろうか。
※参戦時期はプサンと出会う前(トロッコの洞窟あたり)
※主催に人質としてタバサとレックス(息子)をとられています
-
さて。
冒頭でバギクロスを受けたリサリサであるが、結果だけを述べると彼女は生存していた。
バギクロスは風の呪文である。
当てやすくはあるが、炎の呪文であるメラや爆発のイオの系統よりは直接的な殺傷力は低い。
とはいえ、そこはバギ系の最高位の呪文である。
如何に波紋戦士であるといえど流石に無傷では済まない。
身を切り刻まれ、身体が引きちぎられそうになるほどの風圧に晒されるが―――運よく耐えた。
彼女の華奢でありながら鍛え上げられた戦士としての身体は、数少ない勝機を勝ち取っていたのである。
だが、運が良かったのはここまでだ。
竜巻によって巻き上げられた彼女の身体は、遙か上空に晒されていたのである。
(このままでは...!)
この高さから落下すれば、間違いなく死に至るだろう。
地面への激突まであと30秒程度か。
その刹那、リサリサの脳裏に様々な生存策が駆け巡る。
足から地面に着地し波紋で衝撃を和らげる―――不可能だ。それでも耐えられるとは到底思えない。
どうにかして水辺まで移動―――できるはずもない。この空中では身動きはとれないし、例え水に落ちようがその衝撃はやはり甚大だ。
万事休す―――諦めかけたその時、ふとデイバックの存在を思い出す。
リサリサはすぐにデイバックを漁った。
なにか道具がないか。なにか―――
落下まで残り5秒。
もうなにかを考えている暇などない。
彼女は無我夢中で中にあったものを握りしめた。
ぶつかる―――!!
死を覚悟したその時!
『ドレスフォーム!!』
リサリサの服が一瞬で溶解し、一糸纏わぬあられもない姿が晒された!
彼女の美しき肢体を包むように、白を基調としたコスプレ染みた衣類が彼女のボディラインを際立させる!
その間、わずか1秒!
そして、地面に激突する寸前、彼女の身体は―――浮いていた!
超能力の類を持たないはずの彼女が、まるでマジックのように宙に浮かんでいたのだ!
「これは...?」
自らが包まれた衣装を目を白黒とさせて見つめ直す。
鏡が無いため全貌はよくわからないが、どうやら衣装が変わっているようだ。
苦し紛れに掴んだモノのせいだろうか。
...もしも、鏡で己の姿を確認できればおそらくこう思うだろう。
「なんて恥ずかしい恰好だ」と。
いや、あの伝説のテキーラ娘(ジョセフ)の母なのだ。『これはこれでアリ』と思うかもしれないが今はおいておこう。
とにもかくにも、こうして無事に生き残ったリサリサは、先程の竜巻を放った青年に警戒しつつ、息子の安否を望むのだった。
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【D-8/一日目/深夜】
【リサリサ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:全身にダメージ(中)、出血(小)、精神的疲労
[首輪ランク]:超人
[装備]:ペケ@TOLOVEる
[道具]:基本支給品一式、 不明支給品0〜2
基本方針:ジョセフと会う
0:ジョセフを探し出し、脱出する。
1:DIO(ディオ?)、ターバンの青年には要警戒する。
※参戦時期はジョセフのカーズ撃破後〜ジョセフの墓参り前です。
※ペケは自立行動が出来ず、常にバッジ型の状態です(ただし、意思は持っています)。
※現在、ララのコスチュームを装備しています。
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投下終了です。
余談ですが、書き手枠で追加されたキャラクターは名簿に載っておらず、第一回放送で追加された旨を伝えられるという設定になっておりますのでご了承ください。
阿古谷清秋、江戸川コナン、美樹さやか、巴マミ、球磨川禊を予約します
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後藤、アレクサンド・アンデルセン、書き手枠でエンリコ・マクスウェル(HELLSING)を予約します
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申し訳ありません。今更ながら訂正を。
>>87で『71人の参加者』という表記がありましたが、正確には『57人の参加者』です。
Wiki収録後にそちらでも訂正させて頂きます。
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『72人』という表記もありましたね。そここ正確には『58人』です。
折角なので感想も投下しておきます。
このタイミングでジョーカーの登場か。いきなり波乱万丈の予感。
リサリサが50代ってのはどう考えても信じられない。ララのコスチューム着てるリサリサが結構簡単にイメージ出来るのが笑える。
警戒してるDIOはあの有様ですが、その他にも厄介そうな参加者(特に金田一勢)が居るので今後の活躍に期待しています。
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>>106の予約から後藤とアンデルセンを外し、インテグラを追加予約します。
再三申し訳ないです。
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投下します
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インテグラは驚愕した。
一体何が起きたのか理解出来ていなかった。
もしかして自分はボケたか?いくらなんでも52歳でそのザマじゃ酷すぎる。
ただ如何せん納得出来ない。
インテグラはただいつもと同じようにセラスと他愛のない会話を楽しみ、ペンウッド卿の息子に勇敢に散った父の英雄譚を語り継ぎ、そしてまたいつものように30年前に消滅した従僕(アーカード)の帰りを待がながら眠りについた。
それで騒がしいなと思って起きてみたらこの有様。
訳の分からん東洋人に跪かされ、少女の首が飛び、挙句の果てには『殺し合え』と来た。
夢としか考えられない現実離れした現状。しかし頬をいくら引っ張っても一向に目は覚めなかった。
もしも目の前の状況が現実なのだとしたらなんと胸糞が悪い事やら。インテグラは溜息を尽きながら辺りを散策し始める。
特に目に付くような物のない風景。強いて言うなら足元に落ちていたデイパックくらいか。
こんな馬鹿げた催しに乗るつもりは毛頭無い。さっさと脱出の糸口を見つけて、あの『ミヤコノジョウ』とかいう東洋人をブッ殺す。それこそ〝見敵必殺(サーチアンドデストロイ)〟だ。
まあ、まずは現状を把握しようか。
年老いても彼女は王立国教騎士団・HELLSINGの局長。伊達に修羅場を潜っていない強者だ。
そんな自分を誘拐し、いけ好かない犬の首輪を付けるような主催者。吸血鬼セラス・ヴィクトリアの警護を突破しゆる存在。
インテグラの脳裏に浮かぶ1人の男の存在。30年前、ロンドンを血の海に染め上げ、HELLSING最高戦力のアーカードを消滅まで追いやった〝最後の大隊(ミレニアム)〟の指揮官───少佐。
奴は確かに死んだ。インテグラ自身がトドメを刺したのだから間違いない。
まさか最後の大隊の残党か。30年間、第二次世界大戦における枢軸国・日本で息を潜め、時を伺って活動を再開した。そう考えれば何ら不自然は無い。
ならば尚更早く脱出しなければならない。一刻も早くセラスと合流せねば。
◆
インテグラはデイパックの中にあった一枚の紙を目にして驚愕した。
それは〝参加者名簿〟。自分を含めた52人の参加者の名前がズラリと刻まれた羊皮紙。
セラス・ヴィクトリアの名前もそこに刻まれていた。
いや、それ以上に驚いたのは別の2人の男の名前。
『アレクサンド・アンデルセン』
バチカンが誇った最強戦力にして、第十三課〝イスカリオテ〟のリーダーだった男。
30年前のあの日、無謀にもアーカードに挑んで一度は彼に勝利した再生者(リジェネーター)。
だが彼は死亡した。アーカードの手で討たれた筈だ。
そんな男の名が何故ここに載っている。
何よりも驚いたのはもう1人の男。
その名は〝死なずの君(ノーライフ・キング)〟───『アーカード』。
インテグラがまだ12歳の頃に従えた父の遺産にして世界最強の吸血鬼。
彼もまた30年前のあの日、消滅した筈なのだ。
自然とインテグラの頬を伝う一筋の涙。
アーカードが生きている。それだけで十二分に嬉しかった。
ただこの名簿が必ずしも絶対と過信出来ない。アーカードが生きているという確証は無いのだ。
彼を探そう。話はそれからだ。
年甲斐もなく恋に焦がれる少女のように燥ぐHELLSING局長インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング。
その時だった。
「────インテグラか?」
背後から響く聞き馴染みのある男の声。だが違う。アーカードでも無ければアンデルセンの声でも無い。ましてやペンウッド卿でも無い。
発作的にデイパックにあった唯一の武器・グロック17を対象に向ける。
其処に佇む男の名はエンリコ・マクスウェル。
30年前、少佐と共にロンドンを──罪の無い一般市民の虐殺を指揮したイスカリオテの長。
そしてアーカードらと同じく、あの日死亡した筈の人間だった。
◆
-
「……何故、キサマがここに居るマクスウェル!」
インテグラの心中に浮かぶ猜疑心。さっき見た参加者名簿の中に『エンリコ・マクスウェル』の名前は無かった。
それどころかマクスウェルは一切年を取っていない。まるで30年前からそのままここにやって来たかのように。
だがこれでアーカードが生存している可能性も上昇した。
「口を慎め、プロテスタントの雌豚風情がッ!私はもう司教ではない!〝大司教〟なのだぞ!」
不遜。間違いない。こいつはエンリコ・マクスウェルその人だ。
確かにマクスウェルの最終経歴は大司教だ。だが第九次十字軍遠征で彼は死んだ。
「問おうマクスウェル。キサマは何故生きている?」
「恥を知れ雌豚!私がいつ死んだと言うのだ!
逆に私からも問おうプロテスタントの虫けらよ。何故オマエは老けている?」
その言葉を受けてインテグラの脳裏に浮かぶ一つの仮説。
この男は軽々しく冗談を言うような奴ではない。本当に自分が死んだ事を認知していないのだ。
それどころかこいつは30年前。あの日と何も変わっちゃいない。
吸血鬼───マクスウェルはミヤコノジョウオウドの手で〝人工吸血鬼化〟されたのだ。
あの日、突如全盛期まで若返ったウォルターと同じように。
だがマクスウェルはその事実にすら気付いていない。
おそらく奴はミヤコノジョウが送り込んだ刺客。さしずめ余興と言ったつもりなんだろう。
そう考えればエンリコ・マクスウェルの名が名簿に無かった事も納得が行く。
確信は無い。だが彼は確かに死んだのだ。
ならばせめて安らかに───痛みを残さずに一瞬で殺してやる。
「30年前───少佐率いる〝ミレニアム〟によるロンドン急襲。洗練された吸血鬼の部隊は瞬く間にロンドンの主要部を制圧して行った。
それを口実に始まったバチカンの第九次十字軍遠征。マクスウェル、キサマはその指揮官として前線に繰り出した。我々HELLSINGも前線に出たさ。目を覆いたくなるような地獄絵図が其処にはあった。歩けども歩けども広がるのは死体の山。
そしてキサマも────」
「……何を言っている?」
「第九次十字軍遠征は失敗したんだよ。二千近い軍勢は全滅し、あのアンデルセンも───アーカードも命を落とした。キサマもあの戦いで死んだ!死んだんだよ!」
◇
エンリコ・マクスウェルは動揺していた。
第九次十字軍遠征が失敗に終わった?アンデルセンが死んだ?そしてこの私も死んだだと?
笑わせるな。プロテスタントの口から出た冗談など聞きたくもない。
だがインテグラがここまで老けているのは何故だ?あの雌豚が30年後の人間だとすれば辻褄は合わなくは無い。
落ち着けマクスウェル。奴はプロテスタント。有りもしない虚言を吐き、自分を邪道へと引き込もうとする悪魔なのだ。信じるな。絶対に信じるなよマクスウェル。
あのアンデルセンが死ぬ訳ないじゃないか。
深呼吸だマクスウェル。そもそも大司教である私がわざわざプロテスタントの雌豚の前に出て行ったのは〝誘き出す〟為だったじゃないか。
自分には『これ』がある。ただ回すだけでいいんだ。
距離は充分。運の良い事に奴はどんどん近付いてくる。
〝ポイント〟に奴が足を踏み入れるまで残り三十秒と言ったところか。
やれる。殺れるぞ。
だから今は震えるなマクスウェル。あの異教徒が何を言おうが自分は生きている。
───生きているんだから。
◇
-
インテグラの疑念は確信に変わった。
この表情、マクスウェルが自分が死んだ事を知らされていない。
ミヤコノジョウめ。人の命を安く見るな。
「だから安らかに逝けマクスウェル。
私もあと20〜30年すればそっちに行ってやる。安心して冥土で待て」
距離を詰めていくインテグラ。決して近い距離に居なかった分、接近しなければ頭部は狙えない。
それに反撃される恐れもある。相手は人工吸血鬼。その気になれば弾丸を躱す事など造作もないだろう。
だがエンリコ・マクスウェルは気付いていない。殺すなら今しかない。
安全装置はもう外れている。あとは引き金を引くだけ。見敵必殺(サーチアンドデストロイ)!見敵必殺(サーチアンドデストロイ)!
距離はもう充分。脳天を撃ち抜く。引き金に手を掛けるインテグラ。
だが勝負とは常に何が起こるか分からない。
何かを見計らったように悪魔的な笑顔を見せるマクスウェル。月明かりに照らされてギラリと光る眼光。そして彼の右手に握られた〝携帯端末〟。
「死刑……執行ッ!!」
携帯端末に表示された赤い球体のようなマーク。エンリコ・マクスウェルは何の躊躇いも無く、まるでハエを叩くかのように球体マークを回し、画面をタップした。
刹那、一秒の狂いもなくインテグラの足元に埋められていた〝地雷〟は起爆した。
◆
夜の孤島に立ち上る砂煙。そして爆音の後の静寂。
エンリコ・マクスウェルの支給品は〝地雷〟と〝地雷の操作端末〟の2つだった。
だからこそ事前に地雷の位置を端末で把握し、意図的に誘導する事でインテグラをポイントに誘き出したのだ。
いくら距離を取っていたとは言え、起爆者のマクスウェルもマクスウェルで彼の耳には残響が残っていた。だがそれもびびたるもの。
エンリコ・マクスウェルは勝ち誇った表情で、砂煙の向こう側に転がっているであろうプロテスタントの女の死骸に叫ぶ。
「死ね死ね死ね死ね 死ね!!いいぞッ 皆殺しだ!!これが我々の力だ!!
目で見よ!!これがヴァチカンの力だ!!虫けらめ!!
ははははッ!!死んだプロテスタントだけが良いプロテスタントだ!!」
だがマクスウェルは油断していた。砂煙の中から響く1発の銃声。
弾丸は慢心しきった彼の右脚の太股を貫通していた。
「……アガアアアアアアアアアアアアアッ!」
表情が一変し、悲痛の叫びを上げながら悶え苦しむマクスウェル。
「……わ……たしを……甘く見る……なよ……」
ようやく晴れた砂煙の先では、下半身が吹き飛び上半身を残すだけになりながらも死に物狂いでグロック17を握るインテグラの姿があった。
それも束の間。インテグラは吐血しながらとうとう動かなくなった。
彼女の脳裏を過ぎるは走馬灯。HELLSINGの局長として戦った日々。
(アーカード、最期にお前に会いたかったよ)
インテグラはアーカードに看取られる幻想を抱きながら52年に渡る壮絶な人生に幕を下ろした。
【インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング@HELLSING 死亡】
◆
-
マクスウェルが辿り着いた時には、インテグラはもう既に死んでいた。
彼女のデイパックは地雷の起爆による衝撃で吹き飛んだらしい。
太股を撃たれた激痛よりも激しい憎悪がエンリコ・マクスウェルという狂信者の体内を駆け巡る。
気付けば男は死した処女の手から拳銃を奪い取り、その死体に向けて銃を乱射していた。
ただでさえ地雷によって損傷が激しかったインテグラの死体は、その銃撃を受けてもはや本人が判別出来ない程までに崩れてしまっている。首輪に至っては首を切り落とすまでもなく自然と取れてしまっている。
全弾撃ち尽くしてようやく冷静になったマクスウェルは叫んだ。
「殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!ブッ殺してやるッ!!
震えろ!!恐怖しろ異教徒ども!!1匹残らず───肉片残さずブッ殺す!!」
【H-3/一日目/深夜】
【エンリコ・マクスウェル@HELLSING】
[状態]:激しい興奮状態、動揺、発汗、右脚太股に銃創(ダメージ中/止血済み)、異教徒(特にプロテスタント)に対する憎悪・殺意(極大)
[首輪ランク]:人間
[装備]:グロック17(残弾数0)@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングの首輪、地雷@オリジナル、地雷の操作端末@オリジナル
[思考・行動]
基本方針:異教徒(カトリック以外の宗教信仰者もしくは無神論者)を皆殺しにする
0:名簿にある王立国教騎士団のメンバー(アーカード、セラス・ヴィクトリア)は必ず殺す。
1:戦力増強の為、出来るだけ早くアレクサンド・アンデルセン(もしくは名簿に載っていないイスカリオテ所属メンバー)と合流する。
2:最悪のケース(アンデルセンの死亡など)も想定して首輪を回収して脱出する事も視野に入れる。
3:名簿の大半を占める黄色人種(イエローモンキー)は状況次第では利用。だが最終的には殺す。
4:都城王土は脱出後に必ず殺す。
[備考]
※参戦時期は大司教への昇進後。
※正史では第九次十字軍遠征が全滅という形で失敗に終わり、指揮官である自分も死亡した事を知りました。
※インテグラが異様に老け込んでいた事から半信半疑ながらも自分が未来に飛んでしまった事を悟りました。
※参加者名簿に名前が載っていない参加者が居る事を知りました。
【地雷@現実/地雷の操作端末@オリジナル】
それぞれエンリコ・マクスウェルに支給。
地雷は各エリアに1つずつ設置されている。起爆出来るのは一度のみで、地雷の操作端末でしか起爆出来ない。
地雷の操作端末はタブレット型。地雷の設置ポイントの半径100m圏内に入る事で画面上に丸型のチェックポイントマークが表示され、それを回す事で起爆認証が成される。取り消しは不可能。
謂わば『パロロワ版ポケモンGO』と呼べる代物。
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投下終了です。
タイトルは『リライト』でお願いします。
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続いて
空条承太郎、ジン、葛西善次郎を予約します
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灰原哀、書き手枠ではぐりん(はぐれメタル)予約します
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すみません、時間が取れるか怪しくなったので破棄します
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投下します
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「……やれやれだぜ」
困惑する男・空条承太郎の第一声はそれだった。
自分は天国───いや地獄に落ちたのだろうか。承太郎は確かに死んだ。
ケープカナベラルの死闘。愛娘・空条徐倫らと共にDIOの親友である邪悪プッチ神父を撃破し、訪れた筈の平穏。
しかしプッチは死んでいなかった。それどころかあのC-MOONを更に覚醒させ、時間を加速させるスタンド『メイド・イン・ヘブン』を発現させていたのだ。
次々と殺されていく仲間達。承太郎はプッチと同じく時間を───超加速によって擬似的な時間停止を可能とさせる最強のスタンド『スタープラチナ・ザ・ワールド』で応戦した。
接戦。実戦経験では圧倒的に承太郎が勝る。
とうとうプッチを追い詰めた承太郎。だが彼は気付く。徐倫のすぐ真上で十数本のナイフが静止している事に。それが残り一秒足らずで最愛の娘の全身を貫くという事実に。
あと一撃でプッチを倒せる。だが徐倫は死ぬ。
承太郎は苦渋の決断に出た。プッチを倒せる唯一無二のチャンスを捨て、空条承太郎は父親として娘を助けたのだ。
刹那、承太郎の頭部を無数の刃が貫いた。
◆
男が目覚めると其処には、どす黒い闇が広がっていた。
地獄と言うには陳腐な空間。やがて現れる金髪の青年───空条承太郎は彼にDIOの面影を見た。
青年・都城王土の口から語られたのは悪魔じみた狂気の言葉。
承太郎は跪く。おそらくはヤツのスタンドによって空条承太郎は体の自由を奪われ、終いにはスタープラチナさえ発現出来ない状況に置かれていた。
そして都城王土は全ての参加者に装着した首輪の実演の為に1人の少女を殺害した。
鈍い音を立て、無慈悲にも吹き飛ぶ頭部。
その光景は承太郎の不安を煽った。空条徐倫───彼の娘はどうなったのだ。
まさかプッチに殺られた。いやあの徐倫に限ってそんな事は有り得ない。だが奴は……。
徐々に承太郎の心中を抉っていく不安。考えれば考える程それは増していくばかり。
空条承太郎の耳には、もはや都城王土の説明など入って来ていなかった。
何よりも重要なのは徐倫。たった1人の最愛の娘の安否だ。
やがて都城王土の説明も終わりを迎える。同時に暗転する承太郎の視界。
かくして1人の父親の、壮絶且つ孤独な戦いの幕が切って落とされた。
◆
-
───そして時は動き出す。
空条承太郎が目覚めた先に有ったのは〝祭壇〟だった。
辺りを見回すと壁一面を覆うは細工の成されたガラスの数々。その模様から察するにここは〝教会〟なのだろうか。それも、ところどころガラスが割れていたり、埃が蔓延している所を見る限りは相当使われていなかった〝廃教会〟。
割れたガラスの隙間から吹き込む潮風。となればここは沿海部。
祭壇に置かれていた自分に支給された物と思しきデイパックを手に取った承太郎は、無言のままその中身を漁った。
有るだろうとは思ったが、やはりデイパックの中に入っていた会場地図。
〝廃教会〟は左下───F-3に位置していた。
だがこの尺度、このゲーム会場はそれ相応には大面積。海洋学者という職業柄この手の孤島には詳しいのだが、こんな形状の島を承太郎は見た事が無かった。
無人島。それなら何故使い古された教会がある。謎は深まっていくばかり。
ひとまず承太郎は他のアイテムを探すべくデイパックの中に手を入れた。
その中から出て来た不気味な仮面。『それ』に見覚えのある承太郎は驚愕せざるを得なかった。
『それ』の名前は『石仮面』と言った。実物を目にした事は無かったが、祖父ジョセフ・ジョースターから写真を見せてもらった事がある。
何より『石仮面』で吸血鬼となり、一世紀以上にも渡ってジョースターの血統を苦しめた男ディオ・ブランドー───〝DIO〟の存在を承太郎は知っていたのだ。忘れもしないエジプトでの決戦。偶然発現した『スタープラチナ・ザ・ワールド』の不意討ちという形で勝利を得たが、そのせいあってか承太郎は誰よりも吸血鬼の恐ろしさを理解していた。
『石仮面』は被る事で脳を刺激し、その者を吸血鬼へと変貌させる。
その危険性が故にジョセフやスピードワゴン財団らが『石仮面』の回収を行っていた筈なのだ。
何故そんな物が自分のデイパックの中に入っている。
更にデイパックの中から見つかった〝参加者名簿〟。
ただでさえ精神的に疲弊している空条承太郎の顔はどんどん青ざめて行った。
『ジョセフ・ジョースター』
承太郎の祖父にして歴戦の波紋戦士。エジプトでも共闘した強者。
だが彼は死んだ。死因は老衰。直接看取った訳では無いが葬儀には参加している。
確かにジョセフ・ジョースターは死んだのだ。だが自分もこうやって生きている以上は彼が生きていても何ら不思議では無い。
『リサリサ』
本名はエリザベス・ジョースター。ジョセフの母親にして承太郎の曾祖母に当たる。
ジョセフの口からその存在を聞いた事はあったが、彼女に至っては生きている方が不自然だ。
生きていたなら120、いや130歳は超えている計算になる。
そして最も在って欲しくない名前が其処には刻まれていた。
『DIO』
本名はディオ・ブランドー。時間を停止させるスタンド『ザ・ワールド』を持つ最強最悪の吸血鬼。
確かに奴は死んだ。エジプトでの決戦の果てに、この手で葬った筈なのだ。
承太郎の脳裏を過ぎる1つの仮説。彼が遺した日記。そこに記されていた狂気───〝天国〟への至り方。
プッチはそれを実現するべく先の一件を引き起こした。徐倫を意図的に収監させ自分を誘き寄せ、日記の内容を知ろうとした。
もしやこの世界はプッチが創造した〝天国〟なのではないだろうか。生者の居ない死の世界を彼は作り上げた。
都城王土のバックボーンにはエンリコ・プッチ神父の存在があったのだ。
そう考えれば死んだ筈のジョセフ、リサリサ、DIO、そして承太郎自身が生きている事も辻褄が合う。
しかしそれが事実なら徐倫はもう────。
空条承太郎は思考を�洲徊させるだけだった。
その時の事である。バンという銃声が教会に響き渡る。それもそう遠くない距離───まるで同じ教会の中で発砲されたかのよう。
無意識に顕現するスタープラチナ。何にせよまずは現状把握。承太郎は銃声の鳴った方向へ足を運んで行く。
◆
-
銃声の先に居たのは黒ずくめの男だった。
黒いコートに身を包んだ灰色の挑発をたなびかせる不気味な男。見るからに怪しい。
どうやら彼はまだ自分が接近している事に気付いていないらしい。
「……オイ」
承太郎は男に声を掛けた。男もようやく承太郎の存在に気付く。
そして承太郎に向けられる飢えたハイエナのような眼光────どす黒い〝殺意〟。
黒ずくめの男は無言のまま承太郎に45口径の銃口を向け、まるで悪魔のように口元を歪ませた。
「悪いな。オレは今、行き場の無い苛立ちを覚えている。
テメエにこれと言った憎しみだの恨みだのは抱いちゃいねえが、今のオレは誰でもいいから殺してやりたい気分なんだ。
それに素敵だろ?教会で───神の御前で殺されるってのはよォ!」
何の躊躇も無く引かれる45口径の引き金。
承太郎は確信する。こいつは手練の暗殺者なのだと。
漆黒の弾丸は承太郎の眉間を的確に捉えていた。だが───それは恐るるに足らない。
スタープラチナの圧倒的な精密性。承太郎は即座にスタープラチナを顕現させ、弾丸を受け止めてみせた。
「オイオイ、そこの青いヤツは何なんだよッ」
徐々に焦りを見せ始める漆黒の暗殺者。次々と穿たれる弾丸。
どうやらこの男、無自覚のスタンド使いらしい。彼の口から出た〝青いヤツ〟とは十中八九スタープラチナの事だ。スタンドを目視出来るのは同じスタンド使いだけ。
ならばここらで決める。
「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!」
静止する時間。「オラァ!」という掛け声と共に弾道で止まった緋弾を全て叩き落とし、承太郎は黒ずくめの男の両足をスタープラチナで殴った。鈍い音と共に男の足は在らぬ方向へ曲がる。全治三ヶ月と言った所だろうか。
颯爽と男に手に握られていた45口径を投げ捨てた承太郎。
「そして時は動き出す」
動き出す時間。黒ずくめの男はただただ表情を歪め、その場に倒れ込んだ。
無理もない。男の両足の骨はあの一撃で粉砕されている。これで平然としていたなら全身にラッシュを食らわせていた。
唸り声を上げながら悶える男。その姿を見下す承太郎の目。
「て……テメエ……何者だ……ッ!?」
苦しみながらも暗殺者は承太郎に問い掛ける。この反応から察するに男はプッチが差し向けた刺客では無い。いや演技の可能性もある。
「質問するのはてめーからじゃねえ、このオレからだ。
都城王土とてめーの関係。DIO───エンリコ・プッチとてめーの関係。
そしててめーは何故ここに居る。洗いざらい吐いてもらおうか」
「一体誰の事だ?
何故?オレが知っているワケがねえだろ。寧ろテメエから聞き出そうとして……」
男が喋っている最中だろうと関係ない。娘の命が賭かっているのだ。
この男の態度。明らかに何かを隠している。なら拷問してでも全てを吐かせるまでの話。
承太郎は再び彼の足をスタープラチナで殴った。
しかし承太郎は無意識に黒ずくめの男───ジンを過小評価していた。
まるで承太郎がジンに近付くその瞬間を待っていたかのように彼は飛び掛って来た。その手には血で汚れたアイスピックが握られている。
「オラァ!」
何とかスタープラチナでジンを牽制した承太郎。アイスピックが握られていた右手も粉砕した。
危なかった。あと1歩遅ければアイスピックは承太郎の胸部を突き刺していただろう。
そうなれば承太郎とてタダでは済まなかった。
「チッ!」
舌打ちしながら匍匐前進。黒ずくめの男は投げ捨てられた45口径を掴もうとしている。
バキィという鈍い音を立てて、黒ずくめの男の目の前の床にビビが入った。
「勝負あったな」
尽かさず45口径を蹴り飛ばし、顔を歪ませたジンの前に立つ承太郎。
こうなった以上は念の為、残った左手も砕いておくか。構えを取るスタープラチナ。
その時だった。バリンという音と共にガラスが割られ、一瞬で教会の内部に広がる火の手。
外部からの攻撃。まさかスタンド攻撃か!?
承太郎の脳裏を過ぎるは、かつて戦った戦友モハメド・アブドゥルとそのスタンド『マジシャンズレッド』の存在。
彼に限ってそんな事は有り得ないとは思うが過信は出来ない。プッチに洗脳されている可能性だって有りゆるのだ。
「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!」
再び静止する時間。ジンはもう動けないと判断した承太郎は地面を蹴り上げ、割られたガラスの向こう側に居ると思しき放火魔の捜索に向かった。
◆
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葛西善二郎は驚愕した。
何を隠そう廃教会に〝火炎瓶〟を放ったのは葛西善二郎その人である。
彼の支給品は『アルコールランプ』と『パイカル』とかいう酒の2つだった。
男は1000回以上の放火事件を引き起こした火の専門家(ファンタジスタ)。
それだけ揃っていれば改良して火炎瓶を作り出す事など造作もなかった。
作り出した火炎瓶は計2個。だが所詮は即興品。
その効果が絶対かどうかの性能テストに使われたのが廃教会だった。
結果は大成功。可燃性の強いパイカルを燃料代わりに使ったのが成功の秘訣と言えよう。ものの数分で廃教会は火の海と化した。
だがそれよりも葛西が驚愕したのは燃え盛る火の海から出て来た2人の男の存在。
1人は壮年の日本人。もう1人は人間とは思えない青い肌の男。男達は確実に葛西を捜索していた。
あと少し逃げ遂せるのが遅ければ自分はあの2人に捕らえられていただろう。そうならば少なくとも彼の夢は叶わない。
───絶対悪(シックス)よりも長く生きるという葛西の夢は一度は叶ったように見えど、結果的には志半ば潰えてしまうのだ。
「火火火(ヒヒヒ)、久しぶりに火ヤ火ヤさせてもらったぜ……」
息を荒らげる葛西。ここまで来れば安全だろう。
そして爆音───バックドラフト。これで廃教会は完全に焼き尽くされただろう。
葛西善二郎は叫ぶ。ネウロはここには居ない。
しかしここが〝それ〟に相応しい場所だという事は葛西善二郎にも理解出来ていた。
伝説の放火魔は次なる放火対象を求めてゆっくりと歩み始めた。
「ただいま。そしてようこそ。
〝犯罪者のワンダーランド〟へ!!」
【G-3/一日目/早朝】
【葛西善二郎@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]:火に対する執着心(大)
[首輪ランク]:人間
[装備]:アルコールランプ@現実
[道具]:基本支給品一式、パイカル@名探偵コナン、火炎瓶@現実
[思考・行動]
基本方針:ゲーム会場を火の海にする
0:シックスに警戒。可能ならば彼よりも長生きする。
1:主催者の意に従うつもりは無い。まずは会場内の施設を全て焼き尽くす。
2:タバコが欲しい。
3:帽子の男(空条承太郎)ともう1人の男(スタープラチナ)に警戒。
※参戦時期は最終回以降。
※アルコールランプと可燃性の強いパイカルを改良して2つの火炎瓶を作りました。
※廃教会を火炎瓶で焼き尽くしました。
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空条承太郎は途方に暮れた。
放火魔の追撃に向かったものの結局発見出来ず、気付けば廃教会は瞬く間に火の海に飲み込まれていた。
この有様では黒ずくめの男は生きていないだろう。片腕と両足の骨を粉々に砕かれているのだ。これで脱出出来ていたなら逆に凄いというレベルである。
だがこの一件で空条承太郎は決意した。自分がそうであるように、ここにはゲームに賛同するつもりの無い参加者が送り込まれている。そしてジンや放火魔と言ったゲームに賛同する参加者も多い筈だ。
ならば後者を狩ろう。DIOのような巨悪───『怪物』を出来るだけ優先的に殺し、首輪を集めて脱出しよう。
今、何よりも重要なのは〝徐倫の安否確認〟だ。その為ならいくらでも自分の手を汚そう。
苦悩する父親は燃え盛る炎が完全に鎮火するのを待つ事にした。その向こう側には必ずジンの焼死体がある筈。
それを手にした瞬間、自分は晴れてゲーム賛同者の仲間入りだ。
しかし男は茨の道であろうと突き進む覚悟を決めたのだった。
【F-3/一日目/早朝】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:激しい焦り
[首輪ランク]:超人
[装備]:なし(スタープラチナ)
[道具]:基本支給品一式、石仮面@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・行動]
基本方針:ゲームに賛同した参加者を殺して首輪を集め、一刻も早く現実世界に帰還する(空条徐倫の安否を確かめる)
0:出来る限りゲームに賛同した怪物を狙う。
1:廃教会が完全に焼き尽くされる頃合を見計らって黒ずくめの男(ジン)の首輪を回収する。
2:DIOに警戒。ゲームに賛同していようがいまいが彼だけは確実にブチのめす。
3:確実に自分に障害になりゆるジジイ(ジョセフ・ジョースター)は見つけ次第、殺さない程度に再起不能にする。
4:放火魔(葛西善二郎)に警戒。
5:都城王土は事が終わり次第ブチのめし、その時点で生存している参加者を救出する。
※参戦時期は死亡後。
※何よりも空条徐倫の安否確認を優先しています(その為ならば殺人をも厭わない)。
※スタープラチナ・ザ・ワールドは使用可能ですが止められる時間は1秒が限度です。
※黒ずくめの男(ジン)が廃教会の火災で焼死したと思い込んでいます。
◆
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ジンは困惑していた。
こんな事が有り得ていいのか?確かに自分は願ったが酷すぎる。こんなのあんまりだ。
あの忌々しい帽子の男が去った後、自分のすぐ目の前まで広がった火の手。必死の思いで45口径を手にしたが時既に遅し。
青い男の攻撃で両足と片腕の自由を奪われていたジンにそれを回避する術は無かった。
死を覚悟するジン。そんな彼の前で悪魔は囁いた。
「きゅっぷい。1つだけ何でも願いを聞いてあげるから、ボクと契約して魔法──になってよ」
目の前に現れた白い小動物はそう言った。廃教会の資材が崩れる音で一部聞き取れなかったが確かにヤツは喋った。
とうとう幻覚まで見えるようになっちまったか。ジンは自分を嘲笑う。
「ならさっさと此処から出してくれ」
冗談のつもりだった。もう助からないと悟った男の最期の言葉のつもりだった。
今となっては後悔してもしきれない。あの時死んだ方がマシだったかもしれない。
次に目を覚ますとジンは草むらに寝そべっていた。
これが天国か?神様は随分と寛容的なヤツなんだな。あれだけ殺しておいて自分を天国に送るとは太っ腹にも程がある。
だが明らかな違和感。何かがおかしい。
待てよ。無い。何故?え?ちょっと待ってくれ。ナニコレイミワカンナイ。
かつてジンはこんな噂を聞いた事があった。組織が開発している〝とあるクスリ〟の存在。
服用する事で対象を若返らせるという悪魔のようなクスリの存在。ウォッカからその噂を聞いたジンは到底そんな話を信じていなかった。
だが今なら信じられる気がする。
ジンの身体は小さくなるどころか性転換していた。
着た覚えの無い黒を貴重としたフリフリ。そして胸の違和感。
ジンの今の姿は、見るからに可愛らしい思春期真っ只中のゴスロリそのもの。
なあ神様───頼むから元の姿に戻しちゃくれねえか。
黒ずくめの魔法少女・ジンは柄にも合わず顔を赤らめながら何処か遠く───誰も居ない空間を求めて走り去っていった。
【A-8/一日目/早朝】
【ジン@名探偵コナン】
[状態]:困惑、女体化(第二次性徴期の少女)、魔法少女、羞恥心、空条承太郎に対する殺意(極大)
[首輪ランク]:人間
[装備]:キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ、45口径(残弾数2)@現実
[道具]:基本支給品一式、探偵バッジセット@名探偵コナン
[思考・行動]
基本方針:首輪を集めて脱出する
0:あの男(空条承太郎)は何としてでもぶっ殺す。
1:一刻も早く元の姿に戻りたい。戻れないのならば優勝して元に戻してもらう。
2:あのガキ(泉新一)には一応警戒しておくが、今はそれどころではない。
※参戦時期は満月の夜の二元ミステリーでウォッカから工藤新一の名を聞いたところからです。
※泉新一を工藤新一と勘違いしています。
※廃教会内での新一とミギーの盗聴をしましたが、電波が悪くほとんど聞けていません。また、盗聴したミギーの声を他の参加者と勘違いしています。
※スタープラチナが空条承太郎の意思で動く支給品だと誤認しました。
※キュゥべえと魔法少女契約を交わしました(ソウルジェムの色は灰色で位置は左乳首)。
※魔法少女化した影響で、それ以前に負っていたダメージは全て回復しました。
※『この場から脱したい』という願いが成就し、キュゥべえ諸共F-3(廃協会)からA-8にワープしました。
※魔法少女化の解除方法を知りません。
【キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ】
ジンに支給。
「魔法の使者」を名乗るマスコットのような外見の四足歩行動物であり、その正体はインキュベーターと呼ばれる地球外生命体の端末。当ロワでは端末の操作者が存在せず、一体の自律した存在として送り込まれている。
ソウルジェム(魔法少女)の索敵、自分が目視可能な距離に居ない他の魔法少女へのテレパシーによる意思疎通、瞬間移動などは不可能。
しかし例外として、1人限りだが参戦者との魔法少女契約は可能となっている(なお男女問わず契約は可能。ただし魔法少女形態時に契約者は必ず『第2次性徴期の少女』になる)。
ただし契約によって出来る事は、本体の移行(肉体からソウルジェムへ)、魔力による治癒の促進、事前に所持していた武器の強化(ジンの場合は45口径@現実)と言った物が限度で、暁美ほむらの『時間操作』といった特殊能力は一切発現しない為、他の魔法少女と比較すると能力は数段劣っている。
キュゥべえが死亡した場合、本編のように即座に別のキュゥべえが送り込まれる事は有りません。
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投下終了します。
タイトルは『ピュエラ・マギ・ホーリー・クインテット』でお願いします。
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続いて高遠遙一、桂木弥子を予約します。
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投下乙です。
大司教降臨!大司教降臨!大司教降臨!!なハッチャケ具合のステキなマクスウェルはやればできる子
調子こいて噛みつかれるのも彼らしいというかなんというか...w
そしてインテグラは年老いても尚その気高さは喪わず。これには最愛の下僕であるアーカードの旦那もニッコリでしょう。
葛西さんは相変わらず火っこいいおじさん。シックス以外にも跋扈する怪物たちにどう立ち向かうのか。
承太郎はまさかの危険対主催。親の愛情とはこうも人を焦らせるのか。
そしてあ、アニキ!?なんてこった、これじゃあベルモットとマティーニが作れないじゃねえですかい!
でもきっとウォッカならその姿も似合いますぜとか言って持ち上げてなんだかんだ受け入れてくれると思います。
投下します。
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(蘭に京極さんに灰原...それに、ジンだって!?)
木陰に身を寄せつつ名簿を確認したコナンは、息が詰まるような想いでクシャリと名簿を握りつぶした。
この会場に連れてこられた中でコナンが知る名は四人。
蘭はあの空手があればそう易々と死ぬことはないだろうし、京極さんに至っては心配するだけ無駄だろう。
だが、灰原は頭脳は大人でも身体は子供でしかない。なんとか早めに合流したいところだ。
そしてジン。あの危険な男は間違いなく殺し合いに乗るだろう。どうにかして止めなければならないが―――
(落ち着け...まずはこの殺し合いのルールだ)
この殺し合いを正式に生還するには三つ。
①最後の一人になるまで生き残る
②六点分の首輪を集める
③『怪物』が会場からいなくなる
まずは①だが、これは論外だ。
これでは蘭も灰原も京極さんも死ぬことになる。
次に②。一番現実的なのは、これかもしれない。
だが、やはりこれにも死者が伴う。
ましてや、身内の分だけでも最低8個だ。やはりこれも論外。
そして③。これも優勝よりは現実的だろう。
しかし、そもそも『怪物』とはなにを基準にして怪物なのか。
身体能力。経歴。もしくは基準などはなく無造作に選ばれるのか。
いや、それ以前に『怪物』だから殺すと言うのか。つまり、これも論外だ。
結局。
人を殺すのをよしとしないコナンにとっては、全てが論外だった。
ならばどうするか。
どうにかして首輪を外し、あの都城王土という男を逮捕する。
現状、選べる選択肢はそれしかなかった。
「えーと、ちょっといいかな」
突如、背後よりかけられる声。
慌てて振り返ると、そこには青い髪の制服少女と胴着を着たガタイのイイ男が立っていた。
「あたしの名前は美樹さやか。さっき会ったこっちの人は阿古谷清秋さんっていうの」
「ぼ、僕は江戸川コナンです。急にこんなことに巻き込まれて、その...」
「オーケーオーケー。あたしたちもこんなのには反対派だからさ。安心してよ」
さやかは、子供をなだめる時のようにコナンの頭にポンポンと手を置く。
実際、下手に警戒されないよう子供扱いされるために猫を被っているのだが、元来は高校生であるため、明らかに自分より年下の少女に子ども扱いされればやはり少々の不満が漏れてしまう。
そう。ほんのわずかな、常人では気づきえない程度の不満だ。
「なにか言いたいことがありそうだな、江戸川コナン」
だがしかし、男―――阿古谷清秋はそれを見逃さなかった。
「あ、いや...」
阿古谷の鋭い視線に思わずたじろいでしまう。
なんだこの男の目は。
この冷たい目は、まるで―――
「阿古谷さん?」
「...いや、いい。先に情報交換を済ませよう」
阿古谷は、あぐらをかき地面に座り込み、次いでさやかとコナンも座り込む。
そして、それぞれが互いに知り得る情報を提供し合う時間が設けられた。
コナンは、阿古谷のジンと同じ"人殺し"の眼に恐怖を抱きながら―――
-
☆
三人は、まずは互いに簡単な自己紹介から交わし合った。
コナンは小学生、さやかは中学生、阿古谷は警官といった程度にだ。
次いで、知り合いやその人柄について交わし合う。
「えーっと、纏めると...」
まだ幼い子供であるコナンと一般的な女子中学生であるさやか、そして非情に寡黙な阿古谷。
この面子では、自然な流れでさやかが引率することになっていた。
「まず合流するべきなのは、コナンくんの知り合いの毛利さん、京極さん、灰原ちゃん。そんであたしの知り合い5人。
それから、あまり危険じゃなさそうなのが室淵剛三さんと若槻武士さん、関林さん。で、危なさそうなのが目黒正樹と呉雷庵、か」
「目黒正樹は父親の殺人容疑で指名手配されていた。その当時は13歳。少年法で公開捜査には踏み切れなかったが、それから20年間未だに捕まっていない。
呉雷庵は強力な殺し屋だ。二人共まず間違いなく殺し合いを肯定するだろう」
「殺人犯に殺し屋か...なんだか恐そうだね」
顎に手をやりつつ、さやかは考え込む素振りを見せる。
その様子を見て、コナンは若干の疑問を抱く。
(なんだこの子...やけに落ち着いてるな)
普通、こんな殺し合いなど怯えて当然だ。
事実、事件に慣れているコナンでさえもさきほどまでは混乱しつつあったのだから。
だが、さやかは違う。
彼女は探偵や警官でもないのに、こうして平然と情報交換を纏めていたのだ。
それが、コナンにはどうしても気にかかった。
「お姉ちゃん、すごいね」
だからコナンは探りをいれることにした。
「へ?」
「僕はずーっと恐がってるのに、お姉ちゃんは全然怖く無さそうだもん」
「い、いやーそんなことはないよ?あたしもちょっと強がってるだけだしね」
さやかは、目を僅かに泳がせながら引きつった笑みを見せる。
コナンはそれを見逃さなかった―――が、追求はしない。
普段の事件なら「あれれ〜?おっかしいぞ〜?」などとスットボけてカマをかけるところだが、この事件はそういった類のものではない。
これは全員が容疑者や加害者に成り得る殺し合いだ。
ゲームに歯向かうならば集団でいることが強制されるこの催し、下手に刺激し信頼を損ねるのは避けねばならない。
さやかはなにか隠しているのだろうが、いまはそれを追求するべきではないだろう。
実際、コナンも黒の組織であるジンについては隠している。二人が黒の組織の関係者である、又は巻き込まれてしまう可能性も否定できないからだ。
なにやら隠し事のあるさやか。警察の肩書きを掲げながら人殺しの眼を持つ阿古谷。
信用しきれない両者だが、焦らず徐々に本質を見抜き適宜対応していくべきだろう。
-
(はー、危ない危ない...ひょっとしてこの子、なにか勘付いてるのかな)
コナンの危惧通り、美樹さやかには隠し事がある。
それは、己の正体。
魔法少女であり、魔法少女の希望である円環の理の鞄持ちであるということだ。
別に、これ自体にさやかを不利に陥れる要素は無い。また、殺し合いに乗らないつもりでいるため追い立てられることはないだろう。
ただ、厄介なのはこの首輪のランクについてである。
さやかの首輪ランクは『怪物』。
点数が高い上に、ルール上さやかが最後まで生き残るには優勝か首輪による脱出しかない。
判明してしまえば、いらぬ敵を増やしてしまうのは目に見えている。
(それに、コナンくんはともかくこの阿古谷って人は得体がしれないし...できれば弱点は晒したくないよね)
コナンに話しかける前に遭遇した阿古谷だが、勿論彼の雰囲気や眼孔がただの警官ではないことはさやかもわかっている。
ただ、円環の理に導かれ、幾多の絶望について知ったさやかは、それだけで排除しようなどとは到底思えなかった。
だから、この殺し合いでは可能な限り犠牲者を減らしたいと思っている。
そのためには、とにかく皆が争わないように努め、協力し合うように呼びかける。そして
(まずはほむらに会わなくちゃね)
そもそも円環の理の鞄持ちであるさやかがこうして現世に干渉しているのは、ほむらのためだった。
彼女は、インキュベーター―――通称キュゥべぇの実験装置に囚われ、魔女になりかけていた。
ほむらを救うために、さやかと円環の理であるまどか、もう一人の鞄持ち・百江なぎさは、ほむらの作り上げる魔女空間に潜入した。
そこでしばらく生活していたところ、この殺し合いに巻き込まれたのだ。
そして魔女結界とは主の都合の良い空間―――つまりは、ほむらにとって都合のいい空間である。この殺し合いに巻き込まれたのはそんな折だ。
加えて、支給品に紛れていた『グリーフシード』にもこれなら説明が付く。
『グリーフシード』とは魔女の卵であり、魔獣からとれるのは『グリーフキューブ』である。
そして、魔女の存在を知る魔法少女はほむらだけ。
となればだ。原因は都城王土という男ではなく、ほむらである可能性が高い。
もしも、これがほむらの仕業であれば。
会って、真意を聞きだしたい。
もしそうでなければ。
おそらくインキュベーターのなんらかの実験である可能性は高い。
とにもかくにも、ほむらに会わなければ先に進まないのだ。
「とりあえず行先を決めよっか。二人はどこか向かいたい場所とかはある?」
「僕はないよ。おじさんは?」
「希望はない」
「えー、あたしが決めるのか...じゃあ、とりあえず参加者にDIOって人がいるみたいだから、このDIOの館ってところで...」
相当にアバウトな決め方だが、仕方ない。
この三人の内、誰にも関係する施設など思い当たらないからだ。
三人が目的地へ向かうため、腰をあげた時だ。
バ ァ ン
轟音が鳴り響く。
銃声―――にしてはやけに大きい音だ。
さやかは咄嗟に身構え、コナンもまた身体に走る緊張と共に周囲を見渡す。
その中で―――真っ先に動いたのは阿古谷清秋。
彼は、二人の同意を得ることなく、すぐに銃声のもとへと走りだす。
止める間もなく離れていく男を残された二人は追いかける。
早い。
あの屈強な体つきからして身体能力の凄まじさは窺えるが、それにしても早い。
魔法少女でも追いつけないとはどういうことだ。
やがて、阿古谷は立ち止まり、そのまま何かを見下ろすように立ち尽くす。
かと思えば、さやか達のほうへと視線を向け、また元に戻す。
彼が見下ろしているものは、草むらに隠れていて見えない。
「阿古谷さん?」
その様子が気にかかり、さやかは呼びかける―――が、阿古谷は答えない。
なんなのだ。なにがあるというのだ。
草むらをかき分け、阿古谷がライトを照らせば、さやかとコナンは彼の見つめるものの正体を知る。
「え...?」
それは、つい先ほどさやかが探すと決めた暁美ほむらであったものだった。
-
☆
巴マミは、ほむらを殺した位置からさほど遠くない場所で腰を下ろした。
ジャッカルによる反動もそうだが、それ以上に体が重い。
あれほどに傷ついたほむらを殺した責が、マミのソウルジェムを一層濁らせる。
(殺さなくちゃ...)
だが、ほむらを殺してしまった以上、もう後には引けないのだ。
なぜか―――自分でもよくわからない。
とにかく、魔女になる前に殺して、殺して、殺して...
気持ちを落ち着かせる為に改めて息を深く吐いた時だった。
ガサガサと草をかき分けるような音を立て、何者かが近寄ってくる。
おそらく先程の銃声を聞きつけたのだろう。
消耗しきったいま戦うのは避けたい。
マミは慌てて木陰に身を隠す。
幸い、来訪者はマミに気が付かなかったようで、マミの隠れる付近を通り過ぎ、ほむらの殺害現場へと一直線に進んでいく。
撒いたか、と胸を撫で下ろしかけるが、しかし後から遅れてくる足音に気を引き締め直す。
それもやり過ごすと、マミは音を立てぬようゆっくりと殺害現場へ向かう。
ここで戦わないにせよ、来訪者の姿を確認するためだ。
(でも、この暗い中だと確認できない...)
月明かりがあるとはいえ、それで精々わかるのはぼんやりとした身長と体格くらいだ。
その顔を判別することはできやしない。
そんなマミの願いが通じたのか。
男らしき人影が足元をライトで照らし、その周辺もまた灯りに浮かび上がる。
(え...)
マミは信じがたいものを見た。
共にいる屈強な男と少年など目にも入らなかった。
だって、そこに居たのは居てはならない人だったから。
(美樹...さん...?)
そう。
魔女と化したはずの美樹さやかだったから。
-
☆
「この制服...お前の知り合いか」
阿古谷はさやかに問う。
―――が、さやかはなにも答えない。
ふらふらと覚束ない足取りでほむらへと歩み寄る。
「じょ...冗談でしょ。ってか、あんたジョークなんてできるタマじゃないでしょ。なにこんなとこで寝てんのよ」
引き笑いのような笑みを浮かべながら、傷つきすぎた彼女の頬を叩く。
「ほら、起きなよ。早く起きないとナイトメアがでちゃうぞ〜...なんて」
ナイトメア。その単語に、コナンの眉根がピクリと動く―――が、いまのさやかに聞くのは憚れる。
先程までは、どこか頼りがいがあるとすら思えていたのに、いまはその影も見当たらない。
「...ッ!いい加減にしなよ!まどかを悲しませたいの!?あんたは、こんなところで寝てる場合じゃ」
「美樹さやか」
阿古谷がなだめるようにさやかの肩に手を置く。
「全身の切り傷と四肢の損傷部、頭部からの多量出血、加えて左手の完全破損...なにより、呼吸音は既に聞こえない」
「...だから、なによ」
「認めろ。彼女は、既に死んでいると」
「―――勝手なこと言わないでよ!」
コナンと阿古谷の鼓膜を揺らすほどの大声でさやかは叫ぶ。
激昂の感情のまま、阿古谷の胴着の胸倉を掴む。
「こいつはね、ずっとまどかを護るために頑張ってきた!諦めてもしょうがないくらい追い込まれても、他の色んなものを諦めても、絶対にまどかを諦めることだけはしなかった!」
「それに、こいつはなにも知らなかったあたしたちを見捨てなかった!魔女の結界に引きずり込むくらい大切に想ってくれた!」
「こいつは、こんなところで死んでいい奴じゃないのよ!こいつは、こいつ、は...!」
やがて、胸倉を掴む力は弱まり、さやかの頬を涙が伝う。
彼女、暁美ほむらに思うことは幾多もあれど、彼女が死んだという事実は覆しようがない。
決してそんな事実は認めたくないけれど、暁美ほむらは死んでしまった。
彼女に対して、間に合わなかった美樹さやかにできることはなにもない。
いま現在、この場にいない親友の変わりに涙を流してやることだけだ。
-
(もう死人が出ちまったのかよ...!)
一方、コナンは既に死者が出ているこの現実に怒りを覚えた。
許せない。
如何に生き延びるためとはいえ、こうまであっさりと人を殺せるというのか。
そして、同時に周囲を見渡し下手人を探す。
阿古谷があれほど音を立てて走ってきたのだ。こちらの存在は知られていると見て間違いないだろう。
あの銃声からさほど時間も経っていないため、おそらくこの辺りに潜伏しこちらを狙っているはず。
コナンは牽制の意味も込めて、ライトで辺りを照らしまわる。
同行者の知人から死人が出ていてこの冷静さ。
見ようによっては冷酷に思えるかもしれない。
それというのも、コナンは探偵として多くの人間の死と遭遇している。
何の関係の無い者から、つい先程まで喋っていた者、推理の果てに追い詰めてしまった者―――
とにかく、多くの死者に対面してきた。
そんな彼だ。
殺人自体に忌避や怒りは覚えても、さやかほど悲しめというのも無理な話だろう。
だが、ここではそんな冷酷な彼の冷静な判断が、美樹さやかの命を救うこととなる。
偶然だった。
コナンがライトで照らした先には、金髪の女が巨大な銃を構えていた。
その狙いは―――コナンではなく、さやか。
「さやか!あぶな―――」
パァン
甲高い音が鳴り、さやかが地面に転がる。
「っつ...な、なにすんのよ...」
だが、それは銃声ではなく、裏拳によるものだった。
コナンが呼びかけるのとほぼ同時に、阿古谷が裏拳でさやかの頬を殴り、射線から外したのだ。
(は、はえぇ...)
たったいま襲撃されそうになった事実すら忘れかけるほど、阿古谷の反応は凄まじかった。
コナンがさやかの名を呼び、『あぶない』の『あ』を口にしたその瞬間には、阿古谷の裏拳はさやかの眼前にまで迫っていたのだ。
「なるほど。奴が下手人か」
阿古谷はコナンに変わりライトを当て、下手人の姿を露わにする。
『下手人』―――彼女は動かない。
となれば、当然さやかもその姿を見ることができるわけで。
その姿を。銃を構えた彼女を認識したさやかは思わず息を呑んだ。
「マミ...さん...?」
信じられなかった。
あの優しいマミさんが。正義の味方であるはずのあのマミさんが。
「どうしてあなたが生きているの...美樹さん」
さやかに向けて銃を突き付けていたのだから。
-
☆
"どうして生きているのか"。
美樹さやかがこの問いに答えるには、少々複雑怪奇な答えが要るだろう。
厳密に言えば、美樹さやかは導かれたのであり、死んではおらず、かといって現世に手軽に干渉できる存在でもなくなった。
所謂概念の一つになったわけだが、そんなことをマミが知る筈もない。
円環の理は、導かれて初めてその意味を知るのだから。
「え、えっと...なんて言えばいいんですかね...」
マミとさやかは、ほむらの魔女結界に紛れ込んだ後は確かに共に行動していた。
その時はなんの疑問も抱いていなかった彼女が、自分に対してこうも不信感を抱くのは、ほむらが死んで魔女結界の"都合の良い幻想"から覚めたからだろうか。
とにかく、いまは信頼を得なければ...
どうにかマミを納得させようとさやかは口を開きかけるが
「どうして、もっと早く姿を見せてくれなかったの!?」
突如、大粒の涙と共に子供のように怒鳴るマミに驚き、思わず憚れてしまう。
マミが寂しがりでもあるのはさやかも知っている。
しかし、それでもここまでの反応をするのは予想外だ。
「ま、マミさん?」
「魔女から戻れると分かっていたら、私は...私は...!」
マミの口走る単語に、更に混乱に陥ってしまう。
(魔女?なんでマミさんは魔女のことを知ってるの?)
魔女―――それは、魔法少女の絶望の成れの果てである。
魔法少女は希望を望み、その代償として呪いを産む存在へと成り果てる。
それが彼女達魔法少女の運命だった。
鹿目まどかはその運命を変えるために願い、円環の理となって魔女の存在を、過去や未来遍く全ての時間軸から『なかった』ことにした。
それ故に、絶望に飲まれかけた魔法少女は魔女となる前に現世から姿を消すことになり、その埋め合わせとして生まれたのが魔獣。
そのため、マミが知っているのは『魔女』ではなく『魔獣』であるはずなのだ。
だが、マミはいま確かに『魔女』と言った。
これはいったいどういうことだろうか。
疑問に思うさやかだが、彼女がこの場でその答えを知ることはなかった。
「私は...暁美さんを...!」
―――え?
いま、彼女はなんと言った。
『私は、暁美さんを』
その先の言葉は紡がれていない。
しかし。
暁美ほむらは、いまここで息絶えている。
ならば。
余計な推理などいらない。
そう。その答えは―――
「これより、正義を執行する」
-
さやかとマミ。
互いの問答の時間を即座に断ち切り、阿古谷は突然マミのもとへと駆けだす。
「ッ!」
マミは迫りくる阿古谷に驚き、咄嗟にジャッカルを構え、思わず引き金を引いてしまう。
でたらめな一撃だが、そこは腐っても射撃を得意とする魔法少女。
射線は見事に胴体に合わせられ、躱されてもどこかへ着弾する。
そんな部位を狙い放ったが―――
えっ、とそんな声を漏らす暇もなく、瞬く間に眼前にまで距離を縮められる。
再びダメージを受けた肩の骨の痛みも気にならないほどに慌てたマミは、思わず左腕を振るう。
曲がりなりにも魔力で強化してあるため、ただの一般人相手ならば有効な一撃だが、この男には当てはまらない。
あっさりとその腕を掴まれ、強靭な力で捩じられる。
ビキリ、とマミの関節が悲鳴を上げるが、阿古谷は意にも介さない。
そのまま仰向けに押し倒され、阿古谷は馬乗りになりマミの逃げ場を無くす。
(すげぇ...)
阿古谷の一連の動きを見たコナンは、素直にそう思った。
なにも、阿古谷は銃弾より早く動き、躱したわけではない。
かつて、空手家・京極真は言っていた。銃口の向きと引き金の動きに集中していれば弾は避けられると。
阿古谷がやったのも同様の理屈だが、それでも京極の理論と違うのは、彼は動きながらそれをやってのけたという点だ。
先程の狙われたさやかへの対処速度といい今といい、その正体はおそらく反射速度であるとコナンは推理する。
反射速度が異常に優れているからこそ、見てからの動作が常人とは比べものにならないほどに早く動ける。
その結果、一切の無駄もなくああもあっさりとマミを制圧してしまったのだ。
(それにしても、さっき言ってた魔女ってなんだ?それに、さやかがまるで生き返ったかのような言葉も気になる)
さやかがほむらの亡骸に漏らした"ナイトメア"という単語といい、魔女といい、ただの妄言で片付けるには腑に落ちないものがある。
どうやらこの謎、一筋縄ではいかなさそうだ。
(まあ、とにかくいまはあのマミって奴から色々と聞き出して...)
コナンが、動けなくなったマミへ問い詰めようかと考えた時だった。
-
「―――――!?」
コナンの背に怖気が奔る。
まだ敵が潜んでいるのか―――見渡すが、気配はない。
さやかもまた、異常を感じ取っているようで、妙に落ち着きがなくなっている。
ならば、これは。この正体は―――
「教えてやろう。正義とはなにか」
「ひっ、まっ」
ゾ ブ ッ
それはあまりにも唐突だった。
阿古谷はなにを思ったか、己の左腕をマミに噛ませたではないか。
「〜〜〜〜〜〜!!」
「喋るな。舌を噛むぞ」
そのまま、右腕の握りこぶしから親指を突出し掲げ、そして―――
ズ ブ ッ
振り下ろされた親指は、マミの胸郭にねじ込まれた。
肋間神経を圧迫され、マミの脳内に走る激痛。
耐えがたいそれに、マミの足がバタバタと必死に逃れんとするが、しかし阿古谷はそれを許さない。
いくらマミの足が地面を叩こうとも。涙を垂れ流そうとも。股倉から液体が流れようとも。
そんなものでは、阿古谷清秋という正義は止まらない。
「わかるか...これが、『善なる者達』の苦しみだ」
ねじ込まれた阿古谷の指は未だ引き抜かれず、ぐりぐりと神経を直接動かされる度にマミの激痛は増していくばかりだ。
全身を駆け巡るただひたすらの激痛、激痛、激痛!
しかし、マミは口に嵌められた阿古谷の腕の所為で、彼女には叫ぶことすら許されない。
「いつの世も、虐げられるのは善良なる者。悪徳は栄え、世は荒廃する」
指は、更に奥深くまでねじ込まれ、再び神経をかきまぜられる。
そして。
「...度し難し。度し難しッ!!」
ボ キ ッ
マミの肋骨がへし折れ、脳の許容量を超えた痛みでマミの意識は途切れた。
-
「な、なに、やってんのよ...」
さやかとコナンの両者は、青ざめた表情で一部始終を見届けてしまった。
始めのうちは、コナンもさやかも、マミがなにかしらの抵抗を試みたのかと思っていた。
だが、ここに至るまでのマミは、どう考えても痛みに対する常套な反応しか示していない。
即ち、阿古谷のやっていたことは正当防衛ではなく、一方的な処刑(リンチ)である。
そんな彼の行いに、二人は恐怖を憶えざるをえなかった。
だが、そんな彼らにはお構いなしに阿古谷は処刑を続ける。
指を引き抜き、今度は拳を握りしめる。
そして、そのまま拳を腹部へと降りおろし、その痛みを伴うショックで無理矢理マミの意識を覚醒させる。
「気を失うことは許さん。肋骨は12対、即ちあと23本ある」
マミの視界は涙で滲んでいるが、しかし阿古谷の鬼のような形相は、恐怖の塊はしっかりと焼き付いている。
「徐々に...徐々に理解していけ、正義の在り方を。苦痛の死をもってお前の罪は浄化され、善なる魂へと昇華されるのだ」
「ッ...なに言ってんだよ阿古谷さん!あんた、自分が何してるのかわかってるのか!?」
警官にあるまじき行為を平然とやってのける阿古谷に、ついにコナンが口を挟む。
例え人殺しであろうとも、その死を黙って見過ごせるほどコナンは割り切った性格はしていない。
だが、まるで聞こえないとでも言わんばかりに阿古谷は反応を示さない。
(い、嫌...)
一方、阿古谷の処刑を受けるマミはもはや戦意など喪失していた。
嫌だ。痛い。
またあの痛みを味わわされるのか。
痛い。嫌だ。痛い。
何れ自分は魔女に為るから―――そんなことすら、もはやどうでもいい。
痛い嫌だ痛い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌痛痛痛痛痛痛痛痛嫌痛痛痛痛嫌痛痛痛痛痛痛痛嫌嫌嫌嫌
拒絶の二文字のみが、今の彼女の全てを支配してた。
だが、無常にも阿古谷の腕は振り下ろされ―――
-
「...なんのつもりだ、美樹さやか」
それは、凄まじい速さで接近したさやかに抑えられることで止められた。
「どうもこうもないよ...やりすぎだよ、阿古谷さん」
いつのまにかさやかの服装が変わっているのに阿古谷は気が付く―――が、そんなことはどうでもいい。
いまはいち早く正義を執行するだけだ。
そう思いマミへと拳を振り下ろそうとするが―――さやかの腕力は見た目以上に強く、振り下ろすまでに至らない。
「その人、あたしの先輩なの」
さやかは、阿古谷の腕を抑えつつ思う。
おそらく阿古谷は、マミがほむらを殺したことに対して怒っているのだろう。
その点に関しては、少なからず嬉しいとは思う。理由はどうあれ、さやかも怒りを抱いているのだから。
だが、それを考慮してもこれはやり過ぎだ。懲らしめる、だなんて生易しいものをとうに超えている。
だから止める。例え人を殺そうとも、いま危険に晒されているのは尊敬する先輩であり大切な友人でもある巴マミなのだから。
「だから、あたしに話をつけさせて...お願い、阿古谷さん」
「...そうか」
阿古谷の右腕から力が抜ける。
よかった。わかってくれたみたいだ。
内心で胸を撫で下ろし、掴んでいた阿古谷の腕からつい力を抜いてしまう。
「―――だが」
瞬間。
裏拳がさやかの顔面を捉える。
先程の射線から退かすためだけのものではない。明らかな敵意を孕んだ拳だ。
思わぬ衝撃を受けたさやかは思わず吹きとばされ、阿古谷の腕から手を離してしまう。
「俺の正義の邪魔をするな」
自由になった阿古谷は、再びマミへの処刑を執行する。
先程と同じ手順で再び肋骨を折られたマミはやはり気絶する。
-
「っの...いい加減にしろ!」
さやかの堪忍袋の緒が切れた。
迷わず剣を精製し、阿古谷へと斬りかかる。
「そうか。どうしても俺の正義を邪魔をするつもりか。ならば」
が、それは刀身ごとあっさりと受け止められる。
そう。刀身ごとである。
なぜ―――それを知る間もなく、阿古谷は腹部に回し蹴りを叩き込む。
「貴様にも、俺の正義を執行するだけだ」
その一撃を正面から受けたさやかの身体は、サッカーボールのように吹きとばされた。
「ゲホッ...」
激痛と共に引きだされる嘔吐感に耐えつつ、さやかは己の創りだしたサーベルを見る。
それは、お世辞にも刃物とはいえない棒だった。
硬度も大したことが無い。たぶんそこらの鉄板の方が役に立つだろう。
(そういや、さっきマミさんもいつものマスケット銃じゃなくてあの大きな銃だったけど...)
あの都城王土という男になにか妙な施しをされたのだろうか。
棒とはいえ、無いよりはマシだがこれではあの男には歯が立たない。
その棒を構え、迫りくる阿古谷へと向き合う。
勝ち目のない戦いだが、どうにかマミから引き離さなければ―――
-
「いい加減にしやがれバーロー!!」
唐突な叫び声に、阿古谷は足を止める。
身勝手な正義を振りかざし、正義と称した殺戮を行おうとする阿古谷。
その彼に、江戸川コナンはついに怒りを爆発させた。
「あんたが人殺しを許せないってのはよくわかるよ。けど、よく見てみろ、彼女のあの有り様を!」
コナンは瀕死体のマミを指差し、激昂を飛ばす。
「どんな理由があろうとも、あんたは彼女を殺そうとしたんだぞ!?それじゃあ、あんたがそれほどまでに憎む悪と同じじゃねえか!」
「そうさ、殺人は絶対に踏み越えちゃいけない境界線なんだ。目を覚ませ!殺人に正義なんてないんだ!」
江戸川コナン―――もとい、工藤新一は、探偵として謎を解くのをなによりも好んでいる。
しかし、それでも人の生死に関わる事件はご法度であるし、起きてほしくなどないとも思っている。
如何なる理由があろうとも殺人は禁忌(タブー)。決して踏み越えてはならない境界線。
それが、工藤新一が掲げる理念であり絶対の信念だ。
コナンの渾身の叫びの後に訪れる静寂。
「...その通りだ」
やがて、口を開いたのは阿古谷。
「正義の為とはいえ、俺が殺人者であることには変わりない」
阿古谷の肯定に、コナンは意外に思う。
あれほどまでに正義を掲げる人間なのだ。てっきり、自分を正当化し反論してくるかと思ったが...
少々過激なだけで、話し合えばわかってくれる人間なのだろうか。
そんな一抹の期待を抱きかける。
「故に」
だが。
「全ての悪を断罪した後、俺は俺自身に正義を執行する」
この時、コナンは、さやかは理解した。
「その時初めて、俺の正義が完成する。この世界は新たな段階へと進むのだ」
彼は、自らが正義であると同時に悪の要素も含んでいる事実を解っている。
解った上で、彼は正義という名の殺戮を繰り返しているのだ。
つまり。
この男とは、決して解りあえない。
何者も、彼の正義と共存することはないのだと。
-
(だからって、これ以上人が死ぬのを見過ごせるかよ!)
巴マミは、おそらく暁美ほむらを殺したのだろう。
だが、命を奪ってそれで終わり、なんて結末は認められる筈が無い。
殺人の罪は己の人生をかけて償うべきである。
その信念を譲るつもりは、毛頭ない。
コナンは、阿古谷の額へ向けてダーツを投擲する。
ヤケクソ気味に投げたダーツを、重量のあるレプリカを天井から吊るしてあるそれなりに強度もあるであろう糸に正確に当てるコントロールを有する彼の強肩だ。
如何に阿古谷といえど、まともに受ければただでは済まない。
無論、正確無比且つ強力な投擲でも、それは対象が動かなければの話だ。
阿古谷はレプリカではなく驚異的な反射速度を持ち合わせている人間だ。
そんなダーツ如き、躱すのは容易い。
「逃げよう、さやか姉ちゃん!」
コナンはさやかの手を引き、この場から撤退するよう促す。
「で、でもマミさんが...!」
「僕を信じて!」
力強く訴えかけるコナンの眼は本気だった。
きっと、マミさんを救える方法があるのだろう。
信頼してもいい。そう思えるほど、彼の眼は真っ直ぐだった。
「......」
離れていく二人の背中を、阿古谷はただ見つめる。
阿古谷が処刑するのは、『悪』と『正義の執行を邪魔をする者』だ。
邪魔をしないというのなら、執行対象からは外れるため追う必要もない。
振り返り、巴マミの処刑を続行しようとするが―――
ヒュン
風を切り、なにかが阿古谷の頬を掠める。
地に落ちたダーツを見て、それは先程コナンが投擲したものだと判断する。
「...なるほど。そういうことか」
振り返れば、依然目視できる距離にコナンを背負ったさやかの姿が見える。
どうやら彼らは、逃げながらにして阿古谷の処刑を妨害するつもりらしい。
このまま遠距離での攻撃を続けられれば、それだけ巴マミが逃げ出す機会が増える。時間をかければかけるほど、阿古谷の目的は遠ざかってしまう。
いいだろう。
そうまでして邪魔をしたいというのなら、まず断罪すべきは貴様らだ。
「これより、正義を執行する」
-
☆
(釣れた...!)
コナンの提案通り、阿古谷がマミからこちらに標的を変えた。
これからさやかはコナンを背負い、着かず離れずの距離を保ちつつ戦うことになる。
ハッキリ言って、いまのコンディションで阿古谷に勝つのは難しい。
そのため、出来る限り時間を稼ぎつつ、彼を抑えるのに有利な環境か、拘束できるような味方を探したい。
それが不可能ならば、最悪途中で阿古谷を撒くべきだろう。
(マミさん...)
巴マミ。傷ついた彼女を置いていくのは心苦しいし、彼女には聞きたいことも山ほどある。
だが、さやかがいまの彼女にできることは精々―――
「コナンくん、これをダーツにつけてマミさんのとこまで投げてくれないかな」
「これは...?」
「ごめん、説明してる暇はないの」
手渡された2つのアクセサリーのようなものに疑問を抱きつつも、コナンはさやかの頼みに従いそれをガムテープでダーツに括り付け、マミの付近を目掛けて投擲する。
...これからも殺し合いに乗るかもしれない彼女にあれを渡すのは不本意ではあるが、あのままでは彼女が死にかねない。
だから、いまは彼女を信頼することしかできない。
「それで、あいつを止められそうな奴に心当たりはあるの?」
「蘭か京極さん...いや、京極さんならきっと...!」
「オッケー、わかった。あたしも杏子って奴なら頼りになると思うからさ、その二人に会えるのを祈ろう!」
かくして、魔法少女と名探偵の戦いは、正義の使者からの逃走劇という形で幕を開けた。
-
【F-6/一日目/深夜】
【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 新編 叛逆の物語】
[状態]:困惑、腹部にダメージ
[首輪ランク]:怪物
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード×3、ガムテープ@現実 不明支給品0〜1
基本方針: この殺し合いをどうにかする。
0:まどか、仁美、杏子との合流。
1:阿古谷の注意を引きつつマミから引き離す。ある程度離したら阿古谷を撒く。
2:マミさん、どうして...!
3:ほむら...まどかに、なんて言えばいいのよ
4:目黒正樹、呉雷庵には警戒
※参戦時期は叛逆の物語でほむらが自分の正体に気付く前
※オクタヴィアは水があるところでしか発動できません。
※この会場にほむらの魔女化が関係あると考えていましたが、その考えに疑問を抱いています。
※サーベルは精製できるものの、切れ味を再現するにはかなりの魔力を消費します。基本的に作れるのはただの棒程度の代物です。
【江戸川コナン@名探偵コナン】
[状態]:健康
[首輪ランク]:人間
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ダーツ×15@名探偵コナン、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針: 殺し合いを止める
0:蘭、京極、灰原との合流、ジンには要警戒。
1:阿古谷の注意を引きつつマミから引き離す。ある程度離したら阿古谷を撒く。
2:目黒正樹、呉雷庵には警戒
※参戦時期は少なくとも安室透と出会った後。
【阿古谷清秋@ケンガンアシュラ】
[状態]:健康
[首輪ランク]:超人
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
基本方針:正義を執行する(悪を滅ぼす)。
0:巴マミを断罪する。が、いま断罪すべき(最低限気絶若しくは再起不能、殺すことも辞さない)は邪魔をする美樹さやかたちだ。
1:正義の執行を邪魔をする者も正義執行する(最低限気絶若しくは再起不能、殺すことも辞さない)
2:都城王土は必ずや断罪する。
※参戦時期は拳願絶命トーナメントで河野春男に勝利した後。
※基本的には犯罪を犯した人間を悪と見なしますが、時々自分の意思に反した行いをした人間も悪と見なします。
要は、全ての判断は阿古谷次第ということです。
※拳願試合ではないこの環境により、殺人衝動に飲まれかけています。
※さやか達を追いかけていますが、見失う可能性もあるので、さやかとコナンと別れて予約することは可能です。
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どれほど経っただろうか。
『うーん、間に合わなかったみたいだね』
気絶している巴マミ以外は誰も居なくなったはずの処刑場跡に、訪れた少年が一人。
とりあえず愛読書である少年ジャンプを読んでいたところ、響いた銃声を聞きつけてやってきたのだが、いかんせん彼の身体能力では辿りつくまでに時間がかかり、この様である。
『やれやれ。やはり僕はこんなことでも勝てないらしい』
溜め息をつきつつ、彼は残されたものの探索をすることにした。
彼は、死体の傍にある首輪と、これまた落ちていた奇妙なものを拾いあげ、まじまじと見つめる。
『なんだろうね、これ。僕と同じ匂いがするよ』
一見すれば、それはただのアクセサリーだ。
だが、彼にはわかる。
この中に渦巻く人の負の感情―――過負荷(マイナス)の存在が。
そして、それはマミの髪飾りにも同様だ。
いや、こちらの方がより強く過負荷を感じる。
『いいね。このドス黒さ―――嫌いじゃあないぜ』
だが、彼はあえてその過負荷を心から歓迎して受け入れる。
当然だ。
彼は混沌よりも這いよる過負荷。
他の誰よりも過負荷の体現者ともいえる男なのだから。
彼の名は球磨川禊。過負荷の最底辺(ちょうてん)に立つ男である。
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【F-6/一日目/草むら/深夜】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]:健康
[首輪ランク]:人間
[装備]:螺子@めだかボックス
[道具]:基本支給品一式、少年ジャンプ@現実、ほむらの首輪、ダーツ×1@名探偵コナン、グリーフシード×2
基本方針:『過負荷(マイナス)を探して過負荷みんなで脱出、王土ちゃんを僕のディナーに招くよ』
0:『この子が起きたら友達になれるか誘ってみよう』
1:『怒江ちゃんを探そう』
2:『めだかちゃんたち?どうでもいいかな。別に戦いたくないし』
3:『人殺しとかは別に興味ないよ。僕らは過負荷であって悪じゃないからね』
※参戦時期は生徒会戦挙書記戦〜会計戦終了までのどこか
※大嘘憑きの制限は以下になります。
0:他者の死は『なかった』ことにできない。
1:自分の死を『なかった』ことにできるのは3回 残り3/3
2:それ以外のものを『なかった』ことにできるのは5回 残り5/5
3:首輪を『なかった』ことにはできない
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:錯乱、激しい絶望、阿古谷に対する恐怖及び戦意喪失(絶大)、ソウルジェムの穢れ(大)、右腕複雑骨折、失禁、肋骨二本骨折、気絶
[首輪ランク]:怪物
[装備]:対化物戦闘用13mm拳銃「ジャッカル」@HELLSING
[道具]:基本支給品、巴マミのソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0〜2
[思考・行動]
基本方針:皆殺し?
0:......
1:どうすればいいかわからない
[備考]
※美樹さやかの魔女化と消滅を目の当たりにし、錯乱してからの参戦です(佐倉杏子のソウルジェムを狙撃する直前)。
※正常な思考回路を失っています(ただし殺人に対する忌避感は覚えており、その影響でソウルジェムの穢れが悪化しています)。
※魔力によるマスケット銃の精製は不可能ですが、治癒促進は可能です。
※たぶん頑張ればティロ・フィナーレは撃つことが出来ますが、普段より大幅に魔力が減ります。
※さやかが魔女化から復活したと思い込んでいるため、魔女化への絶望自体がぶれ始め、同時にほむら殺害の責が湧き上がってきています。
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投下終了です。
続けて、阿久根高貴、呉雷庵、書き手枠でモハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険を予約します。
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投下します
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〝地獄の傀儡師〟は憤慨した。
彼の名前は高遠遙一と言った。
何を隠そう、男は他人の弱みに付け込んで煽動する事で自分の筋書き通りの殺人事件を引き起こさせる稀代の演出家。言うならば〝犯罪コーディネーター〟である。
高遠は犯罪に独自の美学を見出した狂人。〝芸術犯罪〟をモットーとする天性の犯罪者。
そんな高遠にも忌み嫌う犯罪が存在している。〝動機の無い殺人〟だ。
少なくとも今の地獄の傀儡師は、そんな〝動機の無い殺人〟が蔓延る地獄の中に居た。
彼をこんな下劣で面白味の無い地獄に叩き落としたのは『都城王土』という男だった。
いつものように高遠は次なる犯罪───本心を言うなら〝宿敵〟を誘う為だけに下準備を行っていた。
次なる舞台は軍がかつて使用した収容施設〝蟻地獄壕〟。そこで行われるは大学教授の心理実験。
最高の芸術的舞台だ。フフフ、この謎が解けるかな金田い────。
突如として遠のく意識。薬でも盛られたか。だが何故────。
◆
高遠遙一は激怒した。
何だ蓋を開けてみればこんな物か。男は都城王土を心底嘲笑った。
ただでさえ興醒め。芸術的センスの欠片も無いこのゲーム。
殺されなければ殺される。そんな猜疑心。まるで動機無しの無差別殺人を行えと言わんがばかりの都城王土のルール説明。
嘗めている。ヤツは犯罪の何たるかを理解出来ていない。
こんなゲーム、猿にやらせても成立してしまうじゃないか。
人間とは万物の霊長。地球上で唯一感情を持つ生物なのだ。
このゲームを考案した人間は自分が何たるかを理解出来ていない。自分が主催者だったならもっとマシなルールを作っていた。
さしずめ大富豪の余興と言った所だろうか?
だがそう思っていても何も変わらない。
都城王土が提示した脱出条件。どれも論外だな。だが必ず脱出してみせる。
鋭い眼光が淡々と説明を続ける都城王土を睨み付ける。
刹那、再び暗転する男の視界。
かくして〝地獄の傀儡師〟の戦いは始まったのだった。
◆
-
『金田一 一』『七瀬美雪』
その2人の名を高遠遙一が目にしたのはゲーム会場に飛ばされた数分後の事だった。
彼らも巻き込まれているのか。それどころかその他にも知っている名前がそこそこ有る。
『濱秋子』
獄門塾連続殺人事件の犯人〝スパロウ〟。
彼女も高遠の手引きに従って殺人を行った犯罪者だ。
もう1人の〝スパロウ〟───氏家は始末したが彼女は生存しており、現在も服役中の筈だった。
『多間木匠』
〝死刑執行人〟毒島陸の復讐対象の1人だった男。
火炙りに見立てて毒島が焼死させた筈。俄にも信じ難いが生き残っていたのか。
『六星竜一、遠野英治』
かつて金田一が関わった事件をリサーチしていた際に見掛けた名前。
しかし両者共に死亡したというのが高遠の至った結論だった。
参加者名簿の中にあった見知った名前は以上の6人。
多間木は良いにせよ、六星竜一と遠野英治、そして濱秋子には警戒しておこう。
状況が状況な以上は金田一や七瀬との合流もやむ無しか。
地獄の傀儡師はその後もデイパックを調べ上げた。そして遂に〝それ〟を発見した。
ランダム支給品。参加者名簿や食料と言った全参加者に共通支給される品とは異なる固有の支給品。最大で3つ。最低でも1つは支給される生き延びる為のキーアイテム。
高遠遙一に支給されたそれは〝詳細地図〟だった。
地図の裏側に記された説明文によれば、
【詳細地図】
共通支給される会場地図と様式は同様だが、参加者の初期配置が記されている。
なお、初期配置は参加者が会場内で目覚めた時点で首輪のセンサーが位置情報を送信する仕様になっている為、目覚めていない参加者の初期配置は表示されない。
との事。
この詳細地図の情報が正しいならば、今自分が居るエリアはC-2。
念の為に6人の位置も確認したが、本命の金田一の表示は成されておらず、七瀬美雪と遠野英治がG-6(不動高校)。六星竜一がA-5。多間木匠がA-4と言った配置になっていた。
七瀬美雪と遠野英治が同じエリアに居るのは不自然だった。あの金田一の事だ。おそらく遠野英治が引き起こした事件───悲恋湖連続殺人事件の解決時にも七瀬美雪を引き連れていた筈。
そうともなれば遠野が報復と称して七瀬美雪を殺害している可能性だって有りゆる。
良くても金田一を誘き出す為の人質にでも使われているというのが定石。
つまりは七瀬美雪との合流というのは不可能に等しいか。
金田一くんの配置表示まで待機。だが高遠遙一は気付いた。
さっきまで無かった表示が1つ増えた事。しかも反応が追加されたのが今居るC-6エリアだという事に。
表示名は『桂木弥子』。
期しくも彼女は、地獄の傀儡師・高遠遙一の宿敵『金田一一』と同じ高校生探偵だった。
◆
-
桂木弥子は動揺していた。
数日前、少女の父親は死んだ。殺されたのだ。それも〝密室〟で。
現場の状況が状況だ。警察の捜査は難航しているらしい。
葬儀を済ませ、颯爽と自室に帰った弥子は途方に暮れた。自然と頬を伝う涙。
帰る途中に家事手伝いの美和子さんから貰った王美屋のフルーツケーキ。大好物でさえ喉に通らない。食欲が無いのだ。
眠ろうにも眠れない。頭が混乱し過ぎている。
だけど今は寝よう。目を閉じているだけでいい。
目を覚ませば何事も無かったかのように父が待っているかもしれない。そうだ。こんなのきっと夢なんだ。
桂木弥子は当たり前の日常を願い、そっと目を閉じた。
気付くと弥子は闇の中のいた。自分も相当疲れているんだな。遂に幻覚まで見えるようになった。
そんな事を内心思いながら始まった都城王土の説明。タチの悪い幻覚だ。
しかし唐突に現実はやって来る。都城の言葉と共に吹き飛んだ少女の首。その返り血がべったりと弥子に飛び付いたのだ。
冗談。これはきっと悪い夢だ。
だがそこにあるのは凄惨な現実(リアル)。
弥子の目から溢れる涙。恐怖。圧倒的な恐怖が彼女を縛り上げた。
◆
目を覚ますと桂木弥子は森の中に居た。
少女の首が吹き飛ぶ様子がフラッシュバックして嗚咽する弥子。もしかしたら父もあんな風に……。
口に着いた吐瀉物を拭った弥子は足元に置かれていたデイパックに手を掛ける。
そして震える手でその中身を漁り始めた。
弥子のランダム支給品は〝詳細名簿〟という代物だった。
様式自体は共通支給される参加者名簿と何ら変わりはないが、その名簿に3行から5行程度、参加者の経歴が加筆されている。更に首輪のランクまで事細かに記載が成されていた。
桂木弥子は驚愕した。何よりも『怪物』と記された参加者が多い事に。
しかも加筆文によらば数百、数千、一番多いのだと数百万もの人間を殺害したという記載があった。
弥子は名簿だと『人間』表記。自分よりも高位の存在───『超人』と『怪物』が複数存在している。それどころか中には〝吸血鬼〟や〝地球外生命体〟と言った現実離れした表記が成された存在もちらほら居た。
彼女は更に驚愕した。
それら以上に弥子の注意を引いた存在───それは『人間』だった。
明らかに異質な経歴を持つ人間が名簿の中に居たのだ。
犯罪芸術家。怪人名〝地獄の傀儡師〟
自らの手による殺害人数…8人
彼の殺人教唆を受けた犯人の人数・・・8人
その殺人教唆によって殺害された人数・・・20人
拘置所から脱走した回数・・・3回
超人や怪物に匹敵しゆる殺害人数の多さ。何より殺人教唆による間接殺人の人数が破格に多い。
弥子は直感的に確信した。この男にだけは警戒しなければ、と。
男の名前は『高遠遙一』。
彼がもう既に弥子のすぐ近くまで迫って来ている事を、今の彼女は知る由もなかった。
◆
-
「あの〜すいませ〜ん」
第一声を発したのは高遠の方だった。
『桂木弥子』と思しき少女を発見した高遠は、彼女が〝殺人犯〟でない事と判断して歩み寄ったのだ。
遠くからでも分かる吐瀉物の臭い。おそらく彼女は何を口にしていなかったのだろう。強烈な胃酸の臭いが高遠の嗅覚を刺激していた。
彼女が嘔吐した理由。都城王土が首輪を爆破した少女の死にざまを目の当たりにしたショック。
高遠のように常に死を接して来た者なら、あんな光景をいくら見せられようが嘔吐する事は無い。
つまりは桂木弥子は死を見慣れていない。彼女が制服を身に着けているを見る限りは単なる一般的な女学生と捉えるべきだろう。
「……ッ!?」
怯える弥子。しかし彼女の心中には何処か余裕があった。
自分は全ての参加者の大まかな経歴を把握している。見たところ彼は『超人』、ましてや『怪物』とは到底思えない『人間』だ。
名前さえ聞き出せれば男の脅威判定だって出来る。だがこの男が『高遠遙一』だったなら……。
「あなたも巻き込まれた人ですか?
良かった〜。最初に遭遇出来た人があなたみたいな『人間』で。
『超人』とか『怪物』だったらどうしようかと思ってましたよ〜」
まずは警戒を解く。桂木弥子をいきなり『人間』と断定したのは痛手だっただろうか。
いやこちらのペースに引き込めれば問題ない。少なくともここから脱出する為には単独行動は不利。金田一と合流しようにも『怪物』らと遭遇したら一環の終わり。
この少女を〝弾除け〟として使う。それが高遠遙一の魂胆だった。
「……名前」
「え?」
「私の名前はヤコ。桂木弥子。あなたの名前は?」
弥子は一世一大の賭けに出た。もし相手が詳細名簿にあった殺人犯だとしたら速攻で逃げる。
足の速さに自信は無いが黙って殺されるよりかは幾分もマシだ。
交差する思惑。高遠遙一はとある狂気を見出した。
やがてそれは実行に移される。地獄の傀儡師はあろう事か〝その名前〟を口にした。
彼にとってこれはゲーム。因縁の〝宿敵〟と紡ぐゲームなのだ。
「───そうですねぇ。
『金田一』、『金田一一』とでも名乗っておきましょうか」
【C-2/一日目/深夜】
【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
[状態]:健康、主催者に対する激しい怒り
[首輪ランク]:人間
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、詳細地図@オリジナル
[思考・行動]
基本方針:主催者に死を与えて脱出する
0:状況が状況な以上は、早急に金田一もしくは七瀬美雪と合流しておく。
1:濱秋子に関しては殺しはしないが何らかの制裁を与えておきたい。
2:金田一の推理によって逮捕に至った犯罪者(六星竜一、遠野英治、多間木匠)に警戒。
3:いざとなったら同行する少女(桂木弥子)を切り捨てる。
※参戦時期は蟻地獄壕殺人事件の数日前。
※都城王土のバックに何らかの勢力が加担していると推理しました。
※金田一一の名前を騙っています。
【詳細地図@オリジナル】
高遠遙一に支給。
共通支給される会場地図と様式は同様だが、書き手枠を除く全ての参加者の初期配置が記されている。
なお、初期配置は参加者が会場内で目覚めた時点で首輪のセンサーが位置情報を送信する仕様になっている為、目覚めていない参加者の初期配置は表示されない。
【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]:健康、猜疑心
[首輪ランク]:人間
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、詳細名簿@オリジナル
[思考・行動]
基本方針:殺し合いから脱出する
0:名簿に高校生探偵と記載されていた金田一(高遠)を信頼。彼と同行する。
1:大量に書かれていた殺人犯達(特に高遠遙一)には警戒。
※参戦時期は両親の葬儀を終わらせた前後(ネウロとは遭遇していない)。
※高遠遙一を金田一一だと誤認しています。
【詳細名簿@オリジナル】
桂木弥子に支給。
参加者名簿にプラスして全参加者の経歴が3行程度追加されている特殊名簿。
首輪のランクも記されている反面、顔写真や容姿の情報と言ったデータは載っていない。
書き手枠の参加者の情報も例外なく記されている。
-
投下終了します。
タイトルは『ゴールデンタイムラバー』でお願いします。
-
続いて
ジョセフ・ジョースター、灰原哀、京極真、セラス・ヴィクトリア、濱秋子
を予約します
-
あと今更ながら訂正を。
>>123,124,125の状態表で時間が『早朝』になっていますが『黎明』に訂正します
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投下乙です
犯罪芸術家として王土に怒りと呆れを浮かべる高遠がらしくていいですねぇ。
危険思想だけど対主催の要に成り得るのが面白い
頼りになるけど厄介な刃物に出会っちまった弥子ちゃんはどうなるか。
ひとつ質問ですが、高遠の詳細地図は示されるのは初期位置だけで、それからの動向は表示されないのでしょうか?
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>>156
初期位置のみでそれ以降の動向は表示されません。
死亡者に関しても生存者同様の表示が成されます(七瀬美雪が例)
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>>154の予約から灰原哀を外し、書き手枠でサンタナ(書き手枠)を追加。
それをゲリラ投下します。
-
濱秋子は絶望していた。
果てしない後悔の念。少女は1人の青年を殺した。
獄門塾。秋子が通う塾の生徒。少女は虐められていた。家に帰れば家族の崩壊。
彼女の精神は限界を迎えていた。だがそんな時に秋子は彼───藍野修治と出会った。
藍野と交流を交わす内に芽生えていく恋心。生きる気力を取り戻した少女だったが現実はそう甘くはなかった。
ある日、海堂瞳を主格とした虐めグループに呼び出された彼女は藍野が覚醒剤に手を染めていると密告される。事実、彼は毎日にように注射を打っていた。
藍野を助けたいが為に彼女は虐めグループの言うがまま、覚醒剤の入ったアンプルと市販のビタミン剤が入ったアンプルとをすり替えた。
翌日、藍野修治はこの世を去った。死因は病死だった。
その時、少女はようやく事実に気が付いた。藍野は覚醒剤なんてやっていない。あの注射は持病を抑制する為の物。
すぐさま虐めグループを糾弾しようとする秋子だったが実行犯が自分である事に変わりはない。
弱みを握られてしまった秋子に現実を変える力なんて無かった。
そんな彼女に悪魔は囁いた。悪魔の名前は〝地獄の傀儡師〟高遠遙一。
『赤尾一葉』という偽名で秋子に近付いた彼は綿密に計画された殺人計画を提示した。
塾の主任講師・氏家貴之をも交えた連続殺人。高遠の提示した計画は完璧だった。
〝スパロウ〟───2人の殺人鬼は己が復讐の為に修羅の道を往くと決めたのである。
◆
計画実行を前にして濱秋子の前に次なる転機が訪れた。
気付けば強要される殺人劇。少女の首が吹き飛ぼうが濱秋子には関係の無い話だ。
精神的に追い詰められている彼女の注意はたった1点。優勝のオプションだ。
都城王土は確かに『優勝すればどんな願いも聞き入れ、例外なく成就させる』と豪語した。
秋子には彼の言葉が嘘だとは到底思えなかった。
現に彼は『跪け』と口にしただけで彼女を含む全ての参加者を跪かせてみせた。濱秋子の意思とは関係無しに身体を操ってみせたのだ。
そんな超常現象を引き起こせる都城なら───あの男ならきっと藍野くんを生き返らせてくれる。
少女の目から溢れる涙。ようやくこの自責の念から解放される。
濱秋子はゲームに優勝してみせると心に誓った。
◆
-
暗転した意識。濱秋子が目を覚ました場所は草原だった。
月明かりで懐中電灯は不要と言えるくらい視界が良い。
秋子は早速自分宛に支給されたデイパックを開封し、勝ち残る為の必須アイテム───〝ランダム支給品〟の捜索に取り掛かった。
所詮自分は『人間』だ。それもおそらくは最低ランク。非力な女子高生にしか過ぎない。
人間の上位。更にその上に立つ『超人』と『怪物』との差を埋め合わせる為には、それ相応の武装が必要不可欠になって来る。
濱秋子は絶望した。
彼女に支給されたのは〝鉄球〟ただ一つ。何の変哲もない鋼の球体。
秋子は見つけた当初は、それが爆弾の類いだと思ったがいくら探しても特殊なギミックは見当たらない。言うならばただ投げつける為の武器のようだった。
いかにも強靱な腕力を持っていそうな『怪物』『超人』ならまだしも、濱秋子は生粋の『人間』であり一介の女子高生に過ぎないのだ。鉄球自体にそれなりの重量がある。これをコントロールして動く対象にふつけるのはまず不可能。
しかし少女は諦めなかった。『人間』なら───同じ『人間』に対象を絞れば行けるんじゃないだろうか。
人間を集中的に狙って怪物に対抗しゆる武装を手に入れる。
行ける。これなら優勝出来る。
そう確信した丁度その時。濱秋子の左耳が消し飛んだ。正確には耳の半分近い部分が銃撃によって吹き飛ばされたのだ。
鋭い痛みが少女の全身を駆け巡る。
「いやああああああああああああああああああ」
倒れ込んだ濱秋子は見た。狙撃手の正体を。全身が異様に膨張した軍服の女性の姿を。
そして彼女は耳にした。右耳で聞き取れる幽かな声。狙撃手の心からの叫び。
「……殺して……ちょ……うだい……」
◆
-
セラス・ヴィクトリアは油断していた。
チェダース村での血で血を争う凄惨な惨劇。そこを唯一生き残った婦警の彼女は、不死身の怪物アーカードの眷属としてイギリス最強の戦力・王立国教騎士団〝ヘルシング機関〟の主力構成員となっていた。
その初任務。北アイルランドの地方都市ベイドリック。
大量の吸血鬼を前にセラスは覚醒した。吸血鬼となった事で圧倒的に向上した動体視力。
彼女は支給された大型ライフルを使用して次々と敵を薙ぎ払って行った。
しかし次の瞬間から始まる絶望。全身を銃剣で貫かれたセラス。
現れた第三勢力〝イスカリオテ〟所属の再生者アレクサンド・アンデルセン。
アンデルセン神父の圧倒的な戦闘力を前に、遂にアーカードまでもが敗北した。
ここでセラス・ヴィクトリアの記憶は途切れる。次に目を開けると広がっていたのは狂気。
始まったのは都城王土によるルール説明だった。
セラスは考える。
支給された参加者名簿。そこには『アーカード』はおろか、直属の上司にしてヘルシング機関局長の『インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング』、終いには『アレクサンド・アンデルセン』の名前までもが刻まれていた。
まさかとは思うがベイドリックでの戦闘。あれは私達を誘き寄せる為の囮(デコイ)だったんじゃないだろうか。まんまと罠に引っかかった我々は外部勢力のアンデルセン共々都城王土一派に捕まり、こんな狂気の沙汰を強いられている。そう考えれば辻褄は合った。
ならば主催者を倒してこの糞以下のゲームを脱出しよう。まずは戦力。マスター(アーカード)とインテグラを探そう。
セラス・ヴィクトリアは自分宛に支給されたライフル銃を片手に歩みだそうと決めたのである。
その矢先、〝ヤツ〟は現れた。
パンイチ。何よりも筋肉質な屈強な肉体。そしてもっこり。
セラスは直感的に悟った。吸血鬼特有の第六感なのだろうか。本来ならばロンドンで行った第二次ゼーレヴェ作戦。そこに居た誰もがアーカードに対して感じた本能的な恐怖。それと全く同じ感覚がセラス・ヴィクトリアの脳裏を駆け巡った。
こいつだけは殺さねばならない、と。
すぐさまライフルを構えるセラス。
距離は800メートル。殺れる。吸血鬼の動体視力を以てすれば容易い。
だが強いて言うならばライフルの威力が心持たないが、それだけ数を当てればいいのだ。
スコープを除くセラス・ヴィクトリア。どうやら相手も自分の存在に気付いたらしく、神妙な顔付きでこちらを睨んでいた。
突進。吸血鬼顔負けの勢いでセラスの元へ突進する巨躯。距離750、700。
「先手必勝ッ!」
迫り来る男の心臓部を撃ち抜く。一瞬動きを止める男だったが、何事も無かったかのような勢いで再び突進を始めた。
第2射。第3射。命中。命中。だが男は何食わぬ顔で突進を続ける。学習して行ったのか第4射に至っては完全に封殺された。
徐々に焦りを見せるセラス。心臓が無理なら脳を破壊する。
第5射の狙いを定めようとスコープを覗くセラス・ヴィクトリア。
〝手遅れ〟だった。スコープの先に男は居ない。必死に探すセラス。隙だらけの吸血鬼。
男は目にも止まらぬ速さでセラスの右碗部を切断した。
数秒後、傷口からセラス・ヴィクトリアの体内に侵入した〝柱の男〟は彼女の身体を乗っ取って次なる標的探しを開始した。
◆
-
ジョセフ・ジョースターは動かない。
動けなかった。一体何が起きたと言うんだ。まさか目の前に広がる光景までもがダービーのスタンド攻撃なのか?
自分の記憶が正しいならジョセフ・ジョースターはエジプトに居た筈だ。愛娘のホリィがジョースター家の因縁の宿敵DIOの覚醒の影響で生死の境を彷徨っている。救う為には元凶のDIOを倒すしか他無かった。
DIOがエジプトに潜伏していると知ったジョセフは、焔のスタンド使いモハメド・アヴドゥル、ホリィの一人息子にしてスタンド使いの空条承太郎、そして彼を襲撃して返り討ちに遭い洗脳を解かれた花京院典明らを引き連れてエジプトに向かった。
道中で花京院と同じく肉の芽の洗脳を受けていたジャン・ピエール・ポルナレフを仲間とし、次々と迫り来る刺客を撃破して行くジョセフ一行。
やがてエジプトに辿り着くが〝DIOの館〟を発見出来ず、一行は途方に暮れていた。
そんな彼らに近付いて来たのが〝オリシス神〟のスタンド使いダニエル・J・ダービーだった。
彼のスタンドは簡単に言うなら『博打』───ゲームに勝てばいいのだが、負けた場合には魂を抜き取られるという凶悪なスタンドだった。
何よりダービーは生粋の勝負師。まんまと彼に出し抜かれて魂を抜き取られたポルナレフ。
事は一刻を争う。ホリィはいつ死んでもおかしくない状況に立たされているのだ。
焦りはジョセフ・ジョースターを突き動かした。
ダービーに勝負を持ち掛けるジョセフ。大丈夫。ジョセフは駆け引きに長けた策士だ。そう簡単に負けたりはしない。ましてや自分からゲーム内容を提示すればダービーであってもイカサマは出来ない。
それこそがジョセフ最大の失策。ダービーをあと1歩まで追い詰めたが、それまでもが彼の計算──『演出』だったのだ。
溢れるコップの水。ジョセフはダニエル・J・ダービーに敗れ、魂を抜き取られた。
間違いなくその筈だった。
しかし現実とはどう転ぶか分からない物である。今、ジョセフは殺し合いを強いられているのだから。
参加者名簿。それを見たジョセフは驚愕した。
『空条承太郎』だけは飽き足らず『DIO』、あろう事か青年時代に共闘した波紋の師にして実母『リサリサ』の名前までもがそこには刻まれていた。
ジョセフは困惑する。ここはダービーのスタンド空間では無いのか?ダニエル・J・ダービーはDIOの配下の筈。そんな男がこんなトチ狂った催しに主を送り込むだろうか。
更に問題なのは『リサリサ』だ。彼女は死んだ。死んだのだ。
50歳であの美貌。あれだけの若さを保っていたリサリサだが、流石に今現在まで存命しているとは到底思えない。母の死にこそ立ち会えなかったがジョセフには彼女の訃報が届いていた。
いくら頭を悩ませども説明の行く結論を見い出せないジョセフ・ジョースター。
「あの〜」
そんな壮年の強者の背後で響く青年の声。ジョセフは警戒心を強めながらそっと振り返る。
そこに佇むは褐色肌の青年。見るからに筋肉質。この年齢でここまで鍛え込むのは相当な努力が伴っただろう。
「失礼ですけど貴方も巻き込まれた方ですか?」
青年からの質問。ジョセフとしては意外だった。
彼はてっきり青年はDIO、もしくはダービーが差し向けた刺客なのだと考えていた。ならばこそ真っ先に、不意討ちで攻めた方が効率は断然良い。
それをこうも回りくどい手段で。ジョセフには青年は信頼を勝ち取ろうと必死に演技しているようには見えなかった。寧ろ真意。この青年は本当に全く関係の無い第三者なのだ。
「あー。What is ────」
「大丈夫だ。通じているよ。いかにもワシは巻き込まれた人間じゃ。
その口調から察するに君もそうなのだね?」
「ええ。確かに州大会を終えて帰宅途中だったんですが、そこであの男に拉致されたようです。
あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。ボクの名前はキョウゴク。京極真と申します。
杯戸高校の方で空手部主将を務めている者です。どうか宜しく」
「ワシはジョセフ・ジョ────」
草原に轟く銃声。続いて女の悲鳴。不味い。もう殺し合いが始まっているのか。
止めなければ。すぐさま現場に向かおうとするジョセフ。だが老人は気付く。京極も全く同じ事を考えているのだと。その若者、中々に骨が有るヤツらしい。
「行くぞキョウゴク!」
「はい!」
2人の勇者は駆けていく。陰惨な悲劇しかない夜道をただただ駆けていく。
その先で何が起こっているかなど当の2人は知る由もなかった。
◆
-
ジョセフ・ジョースターはその光景に驚愕した。
月明かりに照らされ、遠くからでも其処で起こっている異常な光景は嫌な程に良く見えた。
何処か見覚えのある惨劇。
そうだ、あの基地だ。柱の男『サンタナ』に身体を乗っ取られたドイツ軍将校。
ジョセフの眼前で銃を乱射する軍服の女性の姿はまさにそれだった。身体は異様に膨張、背中から不自然に突起する何か。何より彼女の悲痛な叫び。
「私……を……殺し……て……ッ」
出来ない。出来る訳が無い。いや中にいる〝そいつ〟さえ引き摺り出せれば。
ハーミットパープルと波紋を融合させればやれなくも無い。いいや不可能だ。
あの頃の───全盛期のジョセフが今と同じ状況に立たされたなら、女の体内に中にいる〝敵〟を引き摺り出す事など造作もなかっただろう。だがジョセフは衰えてしまった。
「あ、あれ!」
ジョセフの肩を叩く京極。彼の指さす先には、もう一人の少女の姿があった。
恐怖で腰を抜かし、その場で失禁、気絶してしまっている。無理もない。彼女は至近距離でライフルによる射撃を受けている。乗っ取られた女性にまだ意識があるのか辛うじて外しているようだったが、それももう長くは持ちそうもなかった。
ハーミットパープルで一気に引き摺り込むか。駄目だ。相手は十中八九〝柱の男〟だ。
ドイツ軍は4体しか存在しないと言っていたが別個体が存在していた。
かつて対峙したサンタナのような柱の男ならまだしも、残る3体──エシディシ、ワムウ、カーズのような独自の流法(モード)を持つ柱の男だったなら厄介。容赦なく軍服の女性と少女を殺し、その延長線上に居る京極と自分をも抹殺しに来るだろう。
全員が生き残らなければ意味が無い。せめてあの少女だけでも救出出来れば……。
その時だった。深呼吸する京極。間違いなく彼は2人の間に割り込むつもりだ。
所詮は空手。彼にスタンドが無い事は明白。勝算はほぼ無いに等しい。
「……やめるんじゃ!」
軍服の女性の体内に潜む柱の男に気付かれないように小声で京極を宥めるジョセフ。
「でも今行かなきゃッ!今行かなきゃ2人とも死んでしまうんですよ?
ボクは行きます。敵わなくたっていい。ボクは何としてでも彼女達を助け出します」
ジョセフの静止を振り切り、一気に2人との距離を詰めていく京極。
柱の男も急速に迫り来る京極の存在に気付いたのか、ライフルの銃口を濱秋子ではなく京極に向けて乱射し始めた。
(クソッ!このままでは!)
京極真を助けるべくジョセフも駆けた。だが弾丸の速度はジョセフをも上回る。
次々と撃たれる凶弾。しかし1発足りとも当たらない。京極真は避け続けたのだ。
有り得ない。もはや人間の域を超越した反射神経。どんどん距離を詰めていく京極。彼は遂に秋子を抱きかかえ、無傷のまま救出を成功させた。
「ジョセフさんッ!」
ジョセフがやって来たのを確認したのか、彼に向けて華奢な秋子を投げる京極。
その隙を狙って撃たれる弾丸。セラスの弾丸はようやく京極真の頬を掠めるに至った。
「ハーミットパープルッ!」
銃撃の影響で秋子の軌道は大きく縒れたがジョセフは自身のスタンド・ハーミットパープルの茨で彼女をキャッチし、全盛期にも劣らぬ手際の良さで彼女を引き寄せた。
これで障害は消えた。あとは如何に軍服の女性の体内から引き摺り出すか。
そんな事を考えている間にも膨張していく肉体。京極真は拳を構える。
ジーザス。京極は女性を殴る事で中にいる〝それ〟を叩き出すつもりでいる。
だがジョセフには奇妙な安心感が芽生えていた。彼ならやってくれる、成し遂げてくれるという安心感。
だが現実とは無常。危機を察知したのか一瞬で膨れ上がるセラスの頭部。
そして〝捕食〟が始まった。飲み込まれていくセラス・ヴィクトリアの身体。
目から溢れ出るは血涙。徐々にセラスの身体の中から〝別の生物〟の身体が浮き彫りになっていく。
京極真は殴る。渾身の力で〝それ〟を殴った。しかしビクともしない。
理由は単純。その生物にとって京極の打撃はダメージにすらならないから。
ジョセフもハーミットパープルに波紋を伝導させて攻撃に移るも捕食は止まらない。
ただ鞭として使用されるハーミットパープルの打撃部分は焼け焦げている。波紋自体は効いている。だが決定打には至らない。
やがて頭部を残すのみとなった女性の死骸。
セラス・ヴィクトリアには断末魔の叫びの余力すら無かった。掠れた声の最期の言葉。
それは「助けて」という悲痛の叫びだった。
【セラス・ヴィクトリア@HELLSING 死亡】
◆
-
とうとう肉片残さず全て呑み込まれたセラス・ヴィクトリアの身体。
そして顕になる〝捕食者〟の姿。
ジョセフ・ジョースターはその顔に見覚えがあった。忘れられる筈の無い。
別の個体?そんなモノ居る訳がない。最初から分かってた。認めたくなかっただけだ。
〝そいつ〟の名前は『サンタナ』。食物連鎖の頂点に位置する最強の生物『柱の男』の一体でジョセフ・ジョースターが初めて対峙した個体。そしてジョセフが唯一倒し切れなかった存在でもある。
しかし何故だ。石化したヤツの肉体は今も尚、スピードワゴン財団が保管している筈だ。
まさか財団が裏切ったのか?ジョースターを裏切って都城王土らに協力しているのか?
オウマイゴッド!つまりホリィも主催者側の手の内なのか!
数ヶ月にも及ぶエジプトへの航路。それもスピードワゴン財団のトラップ。時間稼ぎだったのだ。
着実に用意を重ねた上でヤツらは反旗を翻した。巧妙な手口だ。敵ながらに天晴れ。
今のジョセフの実力ではサンタナを倒す事は不可能。当然、京極真にも不可能だろう。
こいつから逃げる事もまた不可能。殺される。どう足掻こうとも絶望が3人を蝕む。
「ジョ……ジョセフ…ジョースター」
口を開けばジョセフの名を呼ぶサンタナ。彼奴め。遂に知性まで獲得しおったか。
詰みだ。チェックメイト。王手。せめて承太郎やリサリサ──シーザー・A・ツェペリがこの場に居たなら何かが変わったかもしれない。
膠着する戦況。サンタナに勝てないと悟った絶望のオーラがその場に蔓延する。
そんな中での第一声。それは京極真の一言だった。
「……ジョセフさん、その子を連れて逃げて下さい」
「やめろキョウゴク。ワシが殿を務めよう。老いぼれの言葉に免じて此処は逃げろ」
「……そう言うと思ってましたッ!」
突如として繰り出される京極の渾身の蹴り。彼に対して一切の警戒を行っていなかったジョセフはその一撃をモロに食らって吹き飛ばされた。
やがて延長線上にあった大木に激突するジョセフ。彼はようやく気付いた。すぐ目の前に気絶した濱秋子の姿がある事に。そして京極がわざとダメージを調節した蹴りを繰り出したという事に。
「逃げて下さいッ!
いくらボクでもこいつをそう長くは足止め出来ませんッ!だから早くッ!」
京極真の覚悟の叫び。彼を止める事などジョセフに出来る訳が無かった。
「……その思い、然と受け取ったッ!」
濱秋子を抱きかかえ、全速力で走り去るジョセフ・ジョースター。彼の目には自然と涙が浮かんでいた。
(必ず助けを呼んでくるからの!それまでは生きろよキョウゴク!)
【C-2/一日目/深夜】
【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[首輪ランク]:超人
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、聖書@現実
[思考・行動]
基本方針:主催者を撃破して殺し合いから脱出する
0:サンタナを倒しゆる戦力(空条承太郎、リサリサ)を見つけて京極を助ける。
1:DIOに警戒。ヤツだけは倒して脱出したい。
2:空条承太郎、リサリサと合流したい。
※参戦時期はダニエル・J・ダービーとの勝負に負けて魂を抜き取られた直後です。
※サンタナが野放しにされている事からSPW財団が都城王土らゲーム主催陣に加担したのだと判断しています。
【濱秋子@金田一少年の事件簿】
[状態]:気絶、失禁、錯乱、激しい動揺
[首輪ランク]:人間
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ウェカピポの鉄球@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・行動]
基本方針:優勝して藍野修治を生き返らせる
0:扱いやすい強力な支給品を奪い取る。
1:最初は『人間』を中心に狙う。
※海堂らに唆されて藍野修治を間接殺害して以降からの参戦です。
※赤尾一葉(高遠遙一)から殺人計画を提示されましたが実行に移していません(獄門塾連続殺人事件以前からの参戦)。なお高遠遙一の顔は目視していますが彼を赤尾一葉と認識している為、彼の本名は知っていません。
※藍野修治が死ぬ最大要因を作ってしまった事から激しい自責の念を抱いており、彼を生き返らせる為ならば殺人さえも躊躇無く行います。
◆
-
京極の目からは見えなくなるジョセフと秋子の姿。そこまで逃げればもう十分だ。
不気味に首を鳴らすサンタナ。こいつもそろそろ限界のようだ。
公式戦400戦無敗の武人にして『蹴撃の貴公子』の異名を取る京極真からしても目の前の化物・サンタナに勝てる見込みはほぼ無いと言ってしまって過言ではない。
たとえそうだとしても京極は引かない。必ずこいつを倒して生還する。そしたら園子さんを思いっきり抱き締めてやろう。
京極の顔に浮かぶ笑み。それを不思議そうに見つめるサンタナ。
「さあ、いつでもどこからでもかかって来い化物ッ!」
京極の叫びに触発されるかのように突進するサンタナ。それを受けるは孤高の拳聖。
最弱の柱の男と人類最強の格闘家の対決の火蓋が切って落とされた。
◆
京極真は攻めきれずにいた。
サンタナとの交戦が始まって10分が経過。事は完全な持久戦に切り替わっている。
序盤こそ京極とサンタナは互角以上の一進一退の攻防戦を繰り広げたが、サンタナの方が数段上手だった。京極真が不利過ぎたのだ。
京極真の左腕はもう無かった。正確には関節から下に部分は喰い千切られていた。
サンタナからすれば、あの攻防戦も全て余興。肩慣らしにしか過ぎない。
柱の男の圧倒的な防御耐性。それがある以上、京極真はサンタナに一切のダメージを与える事が出来ない。
それに自他言わぬ回復力。ジョセフによって着けられた火傷の痕も大部分は消失していた。
いくら京極真が強いと言えど敵は段違い。到底勝てる相手では無かった。
それどころか肉弾戦に特化した京極にとってサンタナはまさに天敵。
されど京極真は決して悲観しなかった。それどころか彼は最高に滾っていた。
彼は生まれて此の方負け知らずだった。空手においても彼と互角の相手は存在しない。それ故に京極真はずっと退屈だった。彼は心の底から好敵手を欲していた。
サンタナの腹に拳がクリーンヒット。そして腕を喰い千切られた瞬間の敗北感。
度し難いスリルに京極真は滾った。しかし負ける訳には行かない。
自分には帰りを待ってくれている人が居る。鈴木園子の為にも京極真は負けられない。
だが攻撃のしようがない。サンタナは触れるだけで相手の身体を捕食する。
つまり攻撃を与えた瞬間には、その接触部分が喰われているのだ。
京極真はこの戦闘に自らの支給品を隠し持って来ていた。それは棒型の手榴弾。おそらく威力は強大なのだろうが、サンタナ相手に有効打になるとは思えない。
なら捨て身で1発決めてやるか。
ひたすら避けに徹していた京極。一秒のタメも無く攻撃を繰り出し続けるサンタナ。
サンタナが京極真の体力切れを狙っているのは明白。
それを逆手に取るように避けずにサンタナに急速接近する京極。その肩にサンタナの手刀が突き刺さる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
完全に油断していたサンタナ。懐に入り込んだ京極真が繰り出す渾身の一閃。
その一撃はサンタナの顔面にクリーンヒット。今までに無い確かな手応えが男には有った。
衝撃で吹き飛ぶサンタナ。当の京極もただでは済まず、右拳の骨は完全に砕けていた。
「勝ったッ!勝ったよ園子さん!」
己が勝利に確信した満身創痍の京極。しかしサンタナは生きていた。
隙を突かれ、左腕部から京極の体内に侵入するサンタナ。自分の中に何かが入り込む。そんな奇妙な感覚と共に京極真の身体は乗っ取られた。
「しょう…ぶあったぞ…化物ッ!!」
混濁する意識の中、京極は隠し持っていた手榴弾のピンを引いて胸に押し付ける。
サンタナ諸共自爆する。期しくも、かつてサンタナに身体を乗っ取られたドイツ軍将校・シュトロハイムと同じ決断を京極は決断した。こいつだけは野放しにする訳には行かない。自分の命と引き換えにしてでもこいつだけは殺す。
そんな思いが京極真という未来ある青年を突き動かしたのだ。
爆発まであと5秒。本能的に危機を察知したのか京極の身体を食い破ろうとするサンタナ。
しかしそれを京極真は許さない。強引に身体を押え付けてサンタナを拘束する。
残り3秒。走馬灯。楽しかった思い出が半壊した京極真の脳裏を駆け巡る。
(父さん、母さん。先立つ不幸をお許し下さい)
残り1秒。最期に京極真が見たのは鈴木園子の笑顔だった。
(園子さん、愛してる────)
轟音と共に京極とサンタナ───2人の強者を巻き込んで炸裂する手榴弾。
2人の死闘は結局、勝者無しと言う呆気ない結末でその幕を下ろした。
【京極真@名探偵コナン 死亡】
◆
-
柱の男。
まずは人間が生まれる遙か以前に地球に出現した『闇の一族』について説明せねばなるまい。
闇の一族は他の動植物のエネルギーを奪う事で長い年月を生きる生物である。
彼らは夜しか生きる事ができず、太陽の光に当たると消滅してしまうため地下に生きた。
最期はカーズという1人の男によって滅ぼされ、最終的にはカーズ本人を含めて4体しか残らなかった。
だが第二次世界大戦。軍部らの錯綜によって目覚めた4体の柱の男は、自らを究極生命体へと進化させるべく『エイジャの赤石』を巡って波紋使い達と壮絶な死闘を繰り広げた。
その果てに2人死に、カーズは究極生命体へと進化したが宇宙へと押し上げられ、結局は地球に変えれぬデブリとなってしまった。だが1体だけは生き延びていた。
それが『サンタナ』と呼称される個体である。
京極真の自爆に巻き込まれたサンタナだったが、彼は何食わぬ顔で生存していた。
手榴弾の爆発など彼にとっては荒いマッサージにしか過ぎない。
しかし彼はそれ以前に致命的なダメージを負ってしまっていた。京極真の顔面への一撃。
あの一撃でサンタナは視覚と嗅覚・味覚を失った。彼が今頼りにしているのは聴覚と触覚。
サンタナの心中に湧き上がる感情───『憎悪』。
その感情を埋め合わせるかのように咆哮を上げるサンタナ。
殺す。逃亡者──ジョセフ・ジョースターともう1人の女を抹殺する。
怒り狂う怪物は逃げた獲物を負って夜道を駆け抜けていった。
【C-2/一日目/深夜】
【サンタナ@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:激しい憎悪、渇望、視覚及び嗅覚・味覚喪失(ダメージ:大)、全身に火傷(ダメージ:小)、満腹感(中)
[首輪ランク]:怪物
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:皆殺し
0:逃亡者(ジョセフ・ジョースターと濱秋子)を追撃。殺害する。
1:主催者もいずれかは殺す。
※ジョセフ・ジョースターの奇策によって石化して以降からの参戦です。
※登場時の段階では知性を失っていましたが、セラス・ヴィクトリアの脳を捕食した事で新たな知性を獲得しました。
※日光に対する耐性は原作以上に有りません。
-
投下終了します。
タイトルは『輪墓辺獄』でお願いします。
-
続いて
シックス、灰原哀、最後の書き手枠で円谷光彦(コナン)を予約します
-
>>164,166の位置をC-2からE-7に変更します。
-
投下乙です
柱の男の中ではサンタナは軽視されがちだがやはり強し
流石にドラキュリーナ一人では勝てなかったか。
そんな中、最期の意地でサンタナの視覚や味覚を潰した京極さんはやはり人間最強の男だった。
濱さんという爆弾を抱えてしまったジョセフも気になります。
ていうか、今さらだけどこのロワ、危険対主催やらマーダーやらがめちゃくちゃ多いですねぇ・・・
-
投下
-
失礼、投下乙です。
セラスは運が悪かった...
京極さんは自分が死にかけても滾ってるあたり、やはり別漫画の人間である。脱落は惜しかったけど、お疲れ様でした。
そしてサンタナオソロシス
ジョセフもDIOとサンタナだけでなく濱さんや再起不能を狙ってくる承太郎も相手にしなくちゃいけないのでこれからの気苦労を察します。
投下します。
-
殺し合いだ?人間だ?超人だ?怪物だ?
ハッ、くだらねえ。
んなもんどうでもいいんだよ。
俺がやることはただひとつ。
てめえら全員、皆殺しだ。
-
☆
(ここに呼ばれているのは、俺以外にはめだかさんに怒江さんに球磨川さんに与次郎さん、それに人吉くんか)
商店街の片隅。
箱庭学園生徒会書記であり柔道部の元プリンス、阿久根高貴は名簿を見て現状の整理をする。
まずは、主催の都城王土。
彼は、箱庭学園で秘密裏に行われていたフラスコ計画の被験者『十三組の十三人(サーティーンパーティ)』の一人であり、中枢を担っていた三年生だ。
...そう。担って『いた』。彼は黒神めだかとの実験(たたかい)を通じてフラスコ計画からは足を洗い、箱庭学園も退学している。
そんな彼がなぜ再び生徒会の前に姿を現しこんな殺し合いを開いたのか。
(めだかさんとの戦いで改心したかのように思わせておいて―――いや、違うな)
彼がフラスコ計画に未だ執着し復讐の機会を狙っていたのか、その可能性はかなり低いとみる。
そもそもだ。
フラスコ計画とは実験方法は様々であったが、最適解といえるのは『他者の異常性(アブノーマル)を完成させることができる黒神めだかにより多くの異常をぶつけ完全な人間にする』という計画だ。
参加者を殺し合わせ、その中で強者が生き残る。
この殺し合いにも通じる点があるが、しかし腑に落ちないものがある。
根拠の一つとして、この名簿だ。
自分たちの―――いや、黒神めだかの知り合いは全部で5人。
50名以上の参加者の中で、約1割だ。
これを多いと見るか少ないと見るかは個人の感性によるが、フラスコ計画としては『少なすぎる』と阿久根は思う。
箱庭学園に通う生徒は多く、その中には『異常性(アブノーマル)』や『過負荷(マイナス)』を有した生徒も少なくない。
だが、この名簿にいる異常性と過負荷は、『黒神めだか』『球磨川禊』『江迎怒江』の3人のみ。
自分が知らないだけで参加者が全員異常性か過負荷である可能性はなくもないが、それは自分も知る強力な異常や過負荷たちを差し置いて選ぶほどのものなのだろうか。
例えば、日之影空洞前生徒会長の異常性、如何なる者からも認識されなくなる『知られざる英雄(ミスターアンノウン)』。
志布志飛沫の、肉体から精神まであらゆる古傷を開くことのできる過負荷『致死武器(スカーデッド)』。
蝶ヶ崎蛾々丸の、全てのダメージを別のモノに押し付けることが出来る過負荷『不慮の事故(エンカウンター)』。
何れもめだかさんが体得していないスキルだが、その彼らがこの名簿におらず、言っちゃ悪いが今まで噂すら聞いたことのない異常や過負荷をぶつける意味はあるのか。
また、これが都城先輩の個人的な復讐だとしてもだ。
自分と人吉くん、更に球磨川さんも巻き込んでおいて、めだかさんの数少ない友人である、生徒会会計の喜界島さんがいないのも可笑しな話だ。
いや、彼女だけでなく、鍋島さんや家族であるくじらさんなど、喪えばもっとダメージを与えられる人間は他にもいる。
そんな彼らがおらず、有象無象ともいえるこの人選だ。
これがフラスコ計画や都城先輩の復讐と考える方が難しい。
そんな状況下で、阿久根高貴がとるべき行動は、自分の手を汚してでも黒神めだかを優勝若しくは首輪を集めて脱出させること。
-
(―――なんて、今までの俺なら考えてただろうな)
もしも、オリエンテーションで候補生鰐塚処理を、他人に依存しきった人間(じぶん)の姿を見ていなければ、躊躇うことなくその選択をしただろう。
しかし、あのオリエンテーションで自分は学んだ。
他人に完全に依存し自己を放棄して全てを委ねる人間の不愉快さ、そして自分に依存したために駄目になってしまう人間を見ることへの嫌悪感を。
そしてなにより、彼女に、黒神めだかに認められたのだ。
ならば、彼女を信奉する阿久根高貴としてではなく、一人の男として彼女の期待を裏切ろうとは思わなかった。
とはいえ、現状は今まで経験した中でも最悪の部類だ。
おいそれと打破できるようなものではないだろう。
(この殺し合い、みんなはどうするかな)
人吉善吉。彼は、あの場でも正面切って都城先輩に歯向かったのだ。まず間違いなく乗らないだろう。
与次郎さんは、まあ、魔法少女妄想の発作を起こしても人を殺すことはないはずだ。どのみち一番非力な彼女は優先的に保護してやるべきだろうが。
江迎怒江―――彼女についてはよく知らないが、過負荷といえども人殺しではないし、人吉くんとの戦いを通じ改心したのだ。乗る確率は低いだろう。
球磨川さんも、流石に人は殺さないだろう。...いや、どうだろう。あの人なら気が変わって優勝を目指す可能性もなくはない、かもしれない。わからない。やっぱり不安だ。
(...でも、そう考えると一番不安なのはめだかさんか)
普段の彼女ならば、確実に乗らないといえるだろう。
だが、気がかりなのはあの説明の場で彼女が動かなかったことだ。
都城先輩の異常性、『言葉の重み』の本質は電磁波を発し駆動系に干渉することにある。
そのため、人間は勿論、機械も異常も過負荷も、彼の異常には逆らえない。
ただ一人、彼の異常性を完成させた黒神めだかを除いてだ。
(めだかさんなら、都城先輩の異常性を相殺し、見せしめにされた子を救うこともできたはずだ。―――だが、彼女は一切手を出さなかった)
めだかさんが動けなくなった理由として考えられるのは三つ。
①彼女だけは都城先輩の言葉の重み以外の方法で捕えられていた。
②彼女だけは言葉の重みで動きを制限できないため、別室に移されていた。
③彼女は敢えて手出しをしなかった。
①と②ならなにも問題は無い。『言葉の重み』が通じない相手には最適の方法だというだけだからだ。
だが、③だった場合。これが一番厄介だ。
めだかさんは、行動の節々に『自分と対等に競える相手』を求めている癖がある。
そのため、王土の殺し合いの説明にどこか期待し観察していて出遅れた、果てはこの殺し合い自体を欲求を満たすために受け入れた可能性すらある。
万が一でもあり得てほしくはないが、もしそうであれば彼女を止めるべきだろう。
他でもない、今まで彼女に依存してしまっていたこの阿久根高貴がだ。
(とにかく、いまはみんなと合流すべきだな)
地図を見て、集まりやすそう場所を探す。
カボチ村や不動高校など固有的な名称の施設がいくつかあるが、その中で自分達が目安として集まりやすい場所は―――
-
「よう兄ちゃん!こんなところで突っ立ってどうしたよ!?」
!?
突如背後より肩を組まれた阿久根は、慌てて振り向き相手を見る。
その正体は、筋骨隆々で黒い強膜が特徴的な青年だった。
阿久根は慌てて手を払い跳び退く。
(なんだこいつ...いま、全く気配が無かったぞ)
「クカカッ、随分神妙なツラしてんじゃねえか」
ヘラヘラと笑う青年だが、しかし油断はできないと阿久根は警戒心をより高める。
この男はなにも危害を加えていない。
そう、音もなく忍び寄っておいて、尋問も奇襲もしなかったのだ。
どういうつもりかはわからないが、腕に自信があるのだろう。
「...そりゃあそうだろう。状況が状況だからね」
「肝のちいせぇ野郎だ」
ニタニタと笑う青年だが、やはりその真意は読めない。
このまま彼のペースに乗せられるのは好ましくない。
そのため、さっさと狙いを聞き出そうと阿久根は直球な質問をぶつける。
「それで、きみはこの殺し合いに乗っているのか?」
それが全ての引き金だった。
「決まってんだろ」
瞬間。
「ッ!!」
阿久根の全身に怖気が走る。
殺気。
常人では放ちえない青年の殺気が阿久根の生存本能を刺激したのだ。
「理由なんざ必要ねえ。俺は、全員ブチ殺すだけだ」
ボコボコと音を立て、青年の筋肉が蠢く。
「覚えときな。俺の名は呉雷庵。てめえらを蹂躙する『怪物』だ」
その言葉を合図に、禁忌の末裔・呉雷庵の蹂躙は始まった。
-
☆
文字通り高速で飛びかかる雷庵の左拳を、しかし阿久根は寸でのところで躱す。
が。
「...ッ!」
雷庵の拳の風圧により、阿久根の頬は裂け、血が流れる。
次いで振るわれる右ひじ打ちを、今度はしゃがんで避ける。
阿久根は反撃に移ろうとするが、しかしそれを防ぐように放たれる雷庵の蹴りあげ。
その強力な一撃を、両腕を交差させることで阿久根は防御。直撃こそは免れたものの、その衝撃により数メートル先にまで身体ごと吹き飛ばされてしまう。
追い打ちをかけるため、雷庵は地を蹴り間合いを詰め、拳のラッシュをかける。
避けきれない。即座に判断した阿久根は、両腕を盾にした防御の体勢をとる。
雷庵の拳の雨の速さを、破壊力を受け、かつて戦った古賀いたみを思い出す。
この男の身体能力は、少なくとも彼女と同等のものだ。
決定的な違いは、彼女と違い明確な殺意を持っていることか。
古賀との戦いは、抑え込み技をかけスタミナを削ることにより勝利を収めることができた。
だが、この男にその手段が通じるのか。
そもそも、古賀の時とは違いこの男はこちらに合わせようなどというつもりは一切ない。
ただ、己の力で敵を圧倒したいだけだ。
「ちったぁやるようだが、受けてばっかじゃ俺には勝てねえぞ!」
(反撃はしたいんだけどね...!)
阿久根高貴の戦闘スタイルは柔道である。
器物を使っての破壊や徒手格闘もできなくはないが、やはり『投げ』『締め』『極め』の三要素でなければ本領は発揮できない。
この古賀並みの怪物相手に生半可な攻撃は命取りだろう。
故に、防御の上から襲いくるダメージにひたすらに耐える。
いつかは必ず訪れる好機を待ちながら―――
防御を掻い潜り阿久根の胸部に拳が叩き込まれ、激しい痛みが走る。
阿久根は踏ん張り体幹を保ちつつも、大きく後方へと吹き飛ばされてしまう。
「そんなもんかよテメェはよ!」
雷庵は、トドメを刺すべく地を蹴り蹴撃を浴びせるために地を蹴り跳びあがり―――
(来たっ!!)
とび蹴り。
脚力のみならず体重や速度も兼ねるため、威力こそは高いが空中に跳びあがるため隙もある技の一つだ。
突き出された右足を掴み、柔道技をかける体勢へと持ち込む。
『破壊臣』阿久根高貴の関節技。
現代柔道において禁じ手中の禁じ手。膝十字固めを。
ギッ
「ッ!?」
関節が鳴り、笑みを浮かべていた雷庵の顔が苦痛に歪む。
跳び蹴りの最中だった彼は阿久根共々地に背をつけてしまう。
さしもの怪物も、身体を覆う筋肉ほど関節を鍛えることはできない。
-
「なるほど。てめえは柔道家か」
―――が。
(う、嘘だろ...!)
この技は、改造人間古賀いたみの骨すら折ってみせた技だ。
だが、確かに手応えこそは感じたが、ダメージを与えるには至らない。
その理由は至ってシンプル。
一度ダメージを与えた程度では雷庵の骨は折れないほどに強靭だっただけのことだ。
逆立ちの要領で阿久根を持ち上げ地に叩き付ける。
そう易々と阿久根は離さない―――が、雷庵は愉快気に同じ動作で阿久根を何度も叩きつけ続ける。
「グッ!」
これ以上されてはたまらないと、阿久根は手を離して体勢を立て直し、雷庵と距離をとる。
(ここまでの怪物とは...!)
「クカカッ、絶望的なツラ浮かべやがって」
阿久根はここにきて改めて実感した。
この男は、直接戦闘に限るならば敬愛する黒神めだかにも匹敵しうることを。
「理解しちまったみてぇだな。てめえは俺に手も足も出せずに死ぬっつう未来をよ!」
雷庵が駆けだし、再び間合いが詰められる。
身体能力―――雷庵が上。
強靭さ―――雷庵が上。
技術(テクニック)―――阿久根が上かもしれないが、肝心の柔道技は効き目が薄い。
つまり。
これから待つのは雷庵による一方的な屠殺であり、阿久根に為す術は無い。
再び雷庵の拳の雨が阿久根の身体を痛めつけていく。
(万事休すか―――!)
諦めはしない。
だが、現状を打破できる手はない。
とうとう防御に回していた両腕も弾かれ、決定的な隙を晒してしまう。
そして。
雷庵の拳は阿久根の息の根を止めんと心臓へ振るわれ―――
「!?」
突如、雷庵の全身を奇妙なものが絡みつく。
それに動きを制限された雷庵の拳は静止し、阿久根はこの隙に雷庵から距離をとる。
「未来を理解した、か。この私を前にしてよくもまあそんな予言が言えたものだ」
「誰だテメェは!?」
新たに現れたのは、分厚い唇に凛々しい眉のがっしりとした男。
彼の傍らに立つのは、鳥の頭をした怪人の『像(ヴィジョン)』。
「私の名はモハメド・アヴドゥル―――ただのしがない占い師だ」
彼の名は、モハメド・アヴドゥル。
全ての始まりを司る炎を操る守護霊『マジシャンズ・レッド』を操るスタンド使いである。
-
☆
ここはどこだ。
自分が覚えているのは、DIOの館に突入し、『このラクガキを見てうしろをふり向いた時、おまえらは死ぬ』という柱に書かれたラクガキを見たところまでだ。
振り返れば、そこには音も匂いもなく現れたスタンド使いがこちらに迫っており、咄嗟にポルナレフを突き飛ばし―――気が付けば都城王土なる男に拘束され殺し合いの説明を聞かされていた。
わけがわからなかった。超スピードだとかそんなものでは断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった。
だが、如何に恐怖を見せつけられようと、殺し合えと言われてはいそうですかと物分りのいい男ではない。
ひとまずは状況を確認しよう。
そんな考えで名簿を確認した時、アヴドゥルは己の目を疑った。
名簿に連ねられた中で、自分の知る名が三つ。
空条承太郎、ジョセフ・ジョースター、そしてDIO。
まさか承太郎とジョセフ、あまつさえDIOすらも巻き込まれていたとは。
この殺し合いにはDIOが関与している。そう思いつつあったがしかしこれでその可能性はかなり低くなった。
DIOは、極力自分の手を下さないよう、常に部下を自分達のもとへ送り込み排除しようとしていた。
言い換えればあまり自分から動かないタイプである。
そんな男が、わざわざ参加者としてこの殺し合いに参加するはずもなく、自分や承太郎たちを拘束しおいてこんな回りくどい殺し方をするはずもない。
つまり。
この殺し合いは奴にとっても完全なイレギュラーである可能性が高い。
となればだ。
モハメド・アヴドゥルはどうするべきか。決まっている。
「都城王土...奴も倒さなければならない悪ということか」
殺し合いなどというこのバカげた催しを破壊し、DIOと都城王土を倒す。
花京院にポルナレフ、イギーはどうなったか―――彼らは取り残されているのか、それとも自分と同じく名簿には連ねられていないが呼ばれているのか、気にはなるがそれどころではない。
彼の怒りの炎は、あの巨悪を断罪するために燃え上がっていた。
(とはいえ、これだけの人数を制圧してみせた男だ。私一人では心もとない。ジョースターさんたちは勿論、より協力者を募らねば)
この名簿の中で何人が殺し合いに反旗を翻すかはわからない。
それを見極めるには直接人となりを知らなければならないが―――
(...そういえば、あのヒトキチとか呼ばれていた少年)
あの状況で王土に掴みかかり、あまつさえ拳を浴びせてみせた少年。
あの勇敢な少年ならまず殺し合いには乗らないだろう。
(彼とも是非合流しておきたいな)
当面の目的を承太郎、ジョセフ、『ヒトキチ』少年との合流と決め、市街を探索するアヴドゥル。
数分程が経過しただろうか。
東の方角―――ひとつ家を挟んだ場所から音が聞こえた。
それは、拳で肉をうつような、これまでの旅で何度も承太郎から聞かされてきたような何かを殴りつける音だ。
さっそく何者かが争っている。
そう直感したアヴドゥルは、すぐに屋内に入ることで回り込む手間を省き、窓から状況を確認。
確認できたのは、半裸の男が金髪の青年をほぼ一方的に殴りつけている様相だった。
(あの服...)
金髪の青年の着る服。間違いない。あれはヒトキチ少年と同じものだ。
そして、窓越しにも聞こえる半裸の男の挑発するような荒々しい言動。
間違いない。
あの半裸の男が殺し合いに乗っており、金髪の青年が襲われているのだ。
ならば迷うことはない。
「赤い荒縄(レッド・バインド)!!」
アヴドゥルは、己のスタンド『マジシャンズ・レッド』の炎の縄で半裸の男を縛り上げ、堂々と名乗りをあげた。
「私の名はモハメド・アヴドゥル―――ただのしがない占い師だ」
-
☆
「その様では動けまい...しばらく反省していることだな」
雷庵を拘束しつつ、アヴドゥルは阿久根にこちらに来るよう促す。
阿久根は頷き、雷庵の傍を素通りしアヴドゥルの傍へと走り寄る。
「助かりました。ところで、その...」
「うむ。なにが起きているかはわからんだろうが、このまま奴を大人しくさせて...」
「やはり、その鳥みたいな人はあなたが?」
阿久根の言葉を受け、アヴドゥルは思わず顔を向ける。
馬鹿な、彼はスタンドが見えているのか?しかし、スタンド使いならば先程のあの猛攻を受けている際に出す素振りすら見せないとは考えにくいが...
「...なにやら奇妙な事態のようだが、いまは!」
赤い荒縄の締め付ける力が増し、雷庵の身体もまた強く締め付けられる。
更に、炎の縄は雷庵の口や鼻も覆い、呼吸すらも困難にする。
「命まではとるつもりはない...だが、しばらく気絶でもして頭を冷やすのだな」
「ぅがあああぁぁぁぁあああ―――――!!」
雷庵のくぐもった叫びが響く。
当然だ。
赤い荒縄は正真正銘の炎の縄。炎に包まれ苦しくない者など―――
「...ふぁあんふぇな(なぁんてな)♪」
いない、はずだった。
雷庵は、ニタリと笑みを浮かべると、赤い荒縄に噛みつき全身に力を込める。
「ふんっ!」
気合一徹。
雷庵の筋力により、赤い荒縄は一気にはじけ飛んだ。
「バカな!?」
アヴドゥルは目を疑った。
殺す気ではなかったため加減していたとはいえ、並みのスタンドではロクに動けない技だ。
それをあの男は、筋力だけで解いてみせたのだ。
「クカカッ、完全に封じたと思ったかい?俺を倒せると思ったか?」
その軽口を体現するかの如く、雷庵の身体にはほとんど火傷の痕は見当たらない。
どころか、阿久根が与えた関節へのダメージすらも既に見受けられなかった。
「いい夢見れたかバーーカ♪」
雷庵は、口角を更に吊り上げアヴドゥル達を嘲笑う。
この男、ただのビッグマウスではない。
これまで戦ってきたどのスタンド使いにも勝るとも劣らない―――いや、純粋に強いがゆえに"厄介"な相手だ。
「アヴドゥルさん...でしたっけ。俺は阿久根高貴といいます。たぶん、あいつは俺たちを易々とは逃がしてくれないでしょう」
「ああ、わかっている。きみにも聞きたいことは山ほどあるが、いまはあいつをどうにかしなければな」
「なら話が早い。まだ策は思いついていませんが、よろしくお願いします」
阿久根はアヴドゥルの隣に並び立ち、雷庵を睨みつける。
流石に一人では勝ち目などなかっただろうが、いまは、不思議な能力を使うモハメド・アヴドゥルも一緒だ。
勝てる、とまでは断言できずとも何かしらの立ち回りはできるはず。
その思いはアヴドゥルも同じだ。
あの勇敢なヒトキチ少年の仲間らしき男。そして、いまもなおあの男を相手に物怖じせず戦おうとしている。
そんな彼が力を貸してくれるのならとても心強い。
睨み合う『怪物』と二人の『超人』。
舞台はここ、商店街。
原始の炎を司る『魔術師の赤』と、呉一族最高傑作『禁忌の末裔』の拳が交わり、第二ラウンドのゴングは鳴らされた。
-
【D-3/商店街/一日目/深夜】
【呉雷庵@ケンガンアシュラ】
[状態]:健康、火傷の痕(小)
[首輪ランク]:怪物
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
基本方針: 全部殺して優勝した後、都城王土とかいうのも殺す。
0:好き放題暴れる。
1:柔道家とブ男(阿久根とアヴドゥル)を蹂躙する。
※参戦時期は茂吉・ロビンソンに勝利した後
【阿久根高貴@めだかボックス】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ
[首輪ランク]:超人
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針: 殺し合いを『破壊』する
0:めだか、善吉、球磨川、江迎、与次郎との合流。
1:アヴドゥルと共に呉雷庵をどうにかする。
※参戦時期はめだかとのPK対決以降
【モハメド・アヴドゥル@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康
[首輪ランク]:超人
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊し都城王土を倒す。
0:承太郎、ジョセフと合流する。また、ヒトキチという少年も探す
1:阿久根と共に呉雷庵をどうにかする。
2:DIOには要警戒
※参戦時期はヴァニラアイスに飲みこまれる前。
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投下終了です。
続いて金色の闇、後藤を予約します
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ビアンカを追加します
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投下します
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円谷光彦は後悔していた。
後悔してもし切れない。
自分がもう少し冷静に物事を判断出来たなら灰原さんは死なずに済んだかもしれない。
彼女は痛みを感じずに逝く事が出来たかもしれない。
だが今となっては後の祭り。刻々と迫る不条理──〝死〟に光彦は恐怖した。
最初はあれだけ痛かった右腕も引き裂かれた腹の傷ももう痛みすら感じない。神経が死んで往く。
下半身の感覚が消える。開く瞳孔。必死に暴れるでなんとか取り戻した〝痛み〟。
口から溢れ出る血反吐。全身が硬直して行く。
死にたくない。ボクはまだ死にたくない。
許さない。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
あの男だけは許してたまるものか。必ず、どんな手段を使ってでも殺してやる。
悪魔さん。もし居るなら取引でも何でもします。魂を差し出す事になっても構いません。
だからボクに、あの男に果てしない絶望と痛み、〝死〟を与えられる力を下さい。
差し迫る死。あの男に殺されるくらいなら自分で死を選んだ方がマシだ。
光彦は辛うじて動く左手で、男が笑いながら投げ捨てた《それ》に手を伸ばした。
これを心臓に刺せば死ねるだろうか。痛くてもいい。痛みは自分が生きた証明になる。
(灰原さん……今逝きます……)
光彦は自分に遺された渾身の力で《それ》を心臓に突き刺した。
その瞬間、光彦は死に、そして〝生まれ変わった〟。
◆
-
1時間ほど前に遡る。
円谷光彦はニヤニヤと笑っていた。
無理もない。彼は今、自身の想い人である灰原哀と二人きりなのだから。
少年探偵団のみんなとサッカーを楽しんでいた光彦。江戸川コナンが繰り出す小学生とは思えぬテクニックに光彦は翻弄され続けた。おそらくコナンも遊び半分でやっているんだろう。
だが負けられない。何せ歩美ちゃんと灰原さんがボクの活躍を期待してくれているのだから。
自意識過剰な少年はコナンからボールを奪おうと必死。だが次の瞬間、サッカーボールは光彦の顔面に命中した。不運にも誤作動によって起動したコナンのキック力増強シューズ。大人の男をも一蹴で薙ぎ払う圧倒的な脚力によって穿たれるサッカーボール。
そんな物を真正面から食らった光彦がタダで済む筈も無かった。
目を覚ますと其処は病院では無く暗闇だった。
あれ?痛くないですね。光彦は顔を抑える。特に腫れてもいないし痛みも感じない。
だが次の瞬間、地面と正面衝突する光彦。自分の意思とは関係無しに跪く事となった光彦は、それまでの体勢が不自然だった為に凄まじい勢いで地面と激突したのだった。
そして現れる犯人───都城王土。
淡々と進められるルール説明。いつの間にか着けられていた首輪。鈍い音を立てて破裂する少女の頭部。
光彦は意外にも冷静だった。彼は異常者。小学一年生でありながら幾十もの死体を見て来た異常者である。何故か出掛ける先々で発生する連続殺人事件。最初こそ驚いていたが正直な話、光彦は死体慣れしていた。別に目の前で誰かが殺されようが表面上は驚くだけで内心は無心。
都城の説明が終わったらしく暗転する意識。感触的にポケットの中に入れた携帯電話は入ったまま。次に目が覚めたら速攻で110。もしくは博士の家に電話しよう。
しかし次に意識を取り戻した光彦のポケットの中に携帯電話は無かった。代わりに有ったのは無造作に投げられたデイパックだけ。主催者はボクに何か恨みでもあるんだろうか。
デイパックを拾って手を突っ込む光彦。もしかしたらこの中に携帯電話があるかもしれない。
「痛っ!」
光彦の指先に轟く痛み。何だこれ。光彦は指先に当たった突起物を掴んで取り上げる。
日本刀───それも鞘の無い日本刀。ダラダラと光彦の手から流れ出る鮮血。日本刀の刃先を素手で掴んだのだから当然の結果と言える。
もしかして本当に主催者はボクを虐めてるんじゃないだろうか。
激痛に耐えながら血を止めようとする光彦。だが包帯はおろか携帯電話すらデイパックの中からは見つからなかった。そもそもこの日本刀はどうやってこのデイパックの中に収まっていたんだ?
そんな疑問を抱きながら光彦はデイパックの中にあった紙───参加者名簿で止血を行った。所詮死体慣れしていても光彦は小学一年生。平仮名・片仮名は読めても漢字はほぼ読めない。ましてや初見で漢字に埋め尽くされた参加者名簿に対して良い印象を覚えなかった光彦にとって名簿は単なる紙でしか無い。
痛いけど我慢。携帯電話も探偵バッジも無い以上は助けを待つしかない。
溜息を尽きながら散乱したデイパックの品を整理する光彦。
「円谷くん?」
背後から響く少女の声。ものの数秒で光彦の目は輝きを取り戻す。
聞き間違える筈が無い。声の主は彼女だ。そうだ、どさくさに紛れて抱き着いてやろう。
「……は、灰原さぁ��ん!」
少女に飛び付く小学一年生・円谷光彦。ふわふわしてる。とても可愛い。
すぐに突き飛ばされたが数分ほど光彦の顔から万年の笑みは消える事が無かった。
「江戸川くん達は?一緒じゃないの?」
ハッ。まず聞く事がそれなんですか灰原さん!
まあそうですね。光彦も彼らの安否は気になっていた。
きっとコナンくん達ならサッカーで意識を失った自分に付き添ってくれる筈。そうなれば彼らも巻き込まれた可能性が高い。
「ボクは見掛けてません。そういう灰原さんもですか?」
「そうじゃなきゃわざわざ聞かないわよ」
可愛い。ムスッとしている。さっき抱き着いた事に彼女は怒りを感じているらしい。
自然と会話の流れは江戸川コナンらの捜索に切り替わった。歩み出す小学一年生達。
そして膠着。無言。空気的に謝るべきなのだろうか。しかし光彦はニヤける。
そんな時にヤツは現れた。
夜道の片隅に灯る明かり。火だ。そいつは焚き火をしていた。
光彦と灰原は警戒する。光彦には分からなかったが灰原には彼に見覚えがあった。しかし思い出せない。
2人の存在に気付いたのか二ィっと微笑む黒髪の男───〝絶対悪〟。
「坊や達、迷子かい?」
───悪魔はそっと優しげに囁いた。
◆
-
男の名前は『アレクサンド・アンデルセン』と言うらしい。
確かに男は外国人だった。幸いにも日本語が話せるらしい。
そして参加者名簿にもアンデルセンの名前はある。
だが灰原哀は決して警戒を解かなかった。灰原の脳裏を駆け巡るは謎の既視感。
何処かで見た記憶があるのだ。まさか組織関係者かと思ったがそうとも思えない。
灰原哀に支給されたランダム支給品は『回転式の拳銃』と『古びた大きめの鉄釘』だった。
最悪、拳銃さえあればこの男から逃げる事は用意ではない。しかし問題はアンデルセンが『怪物』そして『超人』だった場合だ。そんな相手に拳銃如きで立ち向かえるだろうか。アポトキシン4869の服用によって小学一年生にまで若返ってしまった灰原にそれは不可能。たとえ実年齢の姿であっても厳しいだろう。
あと一歩で思い出せる。だが出て来ない。
ここは相手の手の内を伺って様子見と行こう。
「読むかい?そろそろ程良く温まっている筈だよ」
先に動いたのはアンデルセン。彼曰く自分の支給品は『10本の缶ココア』と『鉄鍋』であり、鉄鍋に共通支給された飲料水を注ぎ沸騰させた上で缶ココアを温めていたらしい。貴重な飲料水を丸々一本使って温めていたと言うのだから驚きだ。
確かに其処にあるのは何の変哲もない缶ココア。立ち上る湯気。
「じゃあお言葉に甘えさせて!」
「待ちなさい」
光彦を止める灰原。彼を信用しゆるだけの条件は揃っていない。もし缶ココアの中に毒物でも入っていたらデッドエンド。
灰原哀はいつも以上に慎重だった。それは当然。何せ参加者名簿にあの男の名前があったのだ。
『ジン』───黒の組織の逃亡者・宮野志保を追う幹部格の男。漆黒の追跡者。
彼と鉢合わせしては不味い。幸いにも名簿には『宮野志保』では無く偽名の『灰原哀』の名が刻まれていたが鉢合わせしてしまっては発覚するのも時間の問題。
その恐怖こそが灰原哀を及び腰にする最大要因足りえたのだ。
「まずはアナタが飲んでくれないかしら?」
灰原は揺れる鉄鍋の中の1本を指差し、アンデルセンに試飲を要求する。
こちらが指定した上で毒見させる。これなら仮に毒が混入していたなら一瞬で判断が付く。
「ああ、いいとも」
男は不気味なまでに妖艶な笑みを浮かべて、少女が指さした缶ココアの蓋を開ける。そして一口。ゴクンという豪快な音を立てて動くアンデルセンの喉。
「日本のココアって美味しいんですね」
変化は見られなかった。遅効性の毒薬だったとしても、それを支給された当人が口にする事自体支離滅裂。まずアンデルセンには躊躇いが無かった。
「ちょうど喉乾いてたんですよ��」
ココアに手を伸ばす光彦。どうしてこうも能天気で居られるのだ。
呆れながらも灰原もココアを手に取った。
「では乾杯、と行きますか。日本でもやりますよね?」
「はい!」
陽気な光彦。これが彼なりのアピール。
江戸川コナンに勝てる要素が1つも無い円谷光彦が出来る最大限のアプローチ。自己主張。
「かんぱぁ��い!」
滑稽。光彦の掛け声の元、乾杯が成され、全員が全員ココアを口に含む。
今思えば、これが最大の失態。アンデルセンを名乗るあの男が『ココアを飲んだ』と誤認した事こそが灰原哀の傲りだった。
灰原哀は知らない。彼の名はアレクサンド・アンデルセンでは無く『ゾディア・キューブリック』───『シックス』だと言う事を。
彼が悪意の権化、先祖代々〝悪意〟だけを増長させて行き、遂に人間を超越した第六の存在となった正真正銘の『怪物』である事を。
缶ココアに混ざっていた即効性の睡眠薬。倒れ行く灰原はようやく既視感の正体に気付く。彼は組織の取引相手の1人───世界的兵器メーカー〝ヘキサクス〟の会長その人だったという事に。
遠のく意識。口に含んだ〝2回分の〟液体を吐き捨てるシックス。
灰原哀は見た。無邪気に微笑む男の笑顔を。
次の瞬間、少女の意識は暗転した。
◆
-
激痛で円谷光彦は目を覚ました。
右脚から流れ出る鮮血。その先に居たのはアンデルセンさん。彼の手には血に汚れた日本刀が握られている。
手は後ろで何かが雁字搦めになっているせいで動かす事も出来ず、叫ぼうにも口に猿轡を咥えさせられ、まともに声すら上げられない。
自分のすぐ横には同じように猿轡を付けられ、拘束される灰原の姿もあった。彼女の脚にも�碾い切傷が遺されている。
「お目覚めのようかな?」
絶対悪は日本刀の血を振り払いながら笑いかける。
彼の服からは袖の部分が無くなっている。光彦は気付く。自分の手に巻き付けられているそれの正体はヤツの袖だ。生地は薄い。思いっきり�燧けば破けるんじゃないか?
灰原にもそれが巻き付いている事を確認して光彦は、何とか引きちぎろうと�燧くが一向に外れる気配は無かった。
「無理だよ。絶対に解けないように結んでおいた。
だって逃げられたら面白くないだろう?
だからキミ達2人の片脚の腱を切っておいたんだ。
これでもうキミ達は逃げられない」
�燧けば�燧くほど溢れ出る血液。駄目だ。殺される。
過剰分泌されるアドレナリン。その恐怖が彼の血行をより活発なモノとして行く。
「キミ達に1つちょっとしたゲームをやって欲しいんだ。
無事勝てれば解放してあげる。約束するよ。
負けた場合は……。キミ達にでも分かるよね?」
殺される。ゲーム?嫌だ。ボクは死にたくない。
端から負ける事を前提に考える光彦。
そんな彼に悪魔は建設的且つ残忍なルールを呟いた。
「すぐ其処に拳銃がある。キミ達のデイパックから失敬させてもらった支給品だね。
弾丸は1発だけ込められている。
───先に片方を撃ち殺せた方が〝勝ち〟だ」
光彦には突き付けられた現実が理解出来なかった。
灰原さんを殺す?そんなの無理だ。嫌。絶対に嫌。
「あくまでも〝片方〟だからね。
別に最初に拳銃を取って自殺してくれても大いに結構。と言うか拳銃なんか使わなくてもいい。
まあその拳銃を私に突き付けるという選択も歓迎するがタダでは済むと思うなよ?」
死にたくない。灰原さんも殺したくない。
誰も殺したくなんかない。この男───アレクサンド・アンデルセンは狂っている。今まで出会った数多の犯人の中でもトップクラス。そうとしか言いようがない。
「まずはゲーム前の所信表明と行こうか!
最初は威勢のいいキミからだ」
猿轡を外される光彦。その頃には出血もだいぶ収まり、少年には冷静な思考が戻りつつあった。
「…ど、どうして!どうしてこんな事するんですか!?」
「決まってるだろう?単なる〝暇潰し〟だよ」
人間とは思えない。常軌を逸している。
「だ、誰か助け────」
決死の思いで叫ぼうとする光彦。しかしその声は痛みによって書き消された。
振り下ろされた日本刀。その刃は光彦の左脚の親指を切断していた。
「次から喋る度に1本ずつ指を切り落とす」
「あああああああああああああああ」
悲鳴。それはアキレス腱を斬られる痛みとは雲泥の差。到底、小学一年生に耐えられる痛みでは無かった。
「1本目」
切断される人差し指。
堪える。真っ赤に充血する眼球。光彦は耐えた。
失禁。痛みから溢れ出る汚水。
しかし斬られる3本目・中指。
「あぁ、手が滑った!」
露骨なオーバーリアクションと共に切り落とされる薬指。とうとう残るは小指だけとなってしまった左脚。
しかし光彦は耐えた。殺されたくないというその執念が光彦に声を上げさせなかったのだ。
跳ね上がる脈拍。一度は止まりかけた右脚から再出血。荒がる呼吸。微かに上がる唸り声。
「偉い偉い。大した根性の持ち主だねキミ。
じゃあ次はお嬢ちゃんの番だね」
続いて外される灰原哀の猿轡。
「───ふざんじゃないわよ」
「え?なんて?」
「ふざけんじゃないわよッ!
アナタ何様のつもり?人の命は尊いモノなの!
決してアナタのような悪党が弄んでいいようなモノじゃない!
必ずアナタは罰を受けるわ!近い将来必ずね!
せいぜい覚悟しておく事ね、小悪魔さん!」
灰原哀の熱弁。どの道助からないと悟ったからこそ口にした科学者として、人間としての真言。
彼女もまた生命の循環から外れた存在───アポトキシン4869の服用で若返ってしまった『怪物』である事に相違なかった。
◆
-
「……気が変わったよ」
何処か暗そうな表情を見せる絶対悪。男は日本刀で光彦の両手に巻き付いていた布を斬る。
拘束が解かれた!助かった!
押し寄せる痛みの中、何処かで安堵する光彦。
次の瞬間、灰原の首筋が斬られた。
◆
「別のゲームをしよう」
悶え苦しむ灰原の姿を尻目に絶対悪は口を開いた。
一瞬で光彦の足元にまで達する灰原の鮮血。出血量が尋常でない。自分の傷とは比になっていない。
「あそこに拳銃が置かれている。さっきも言った通りだが弾丸は1発のみ。
キミはそれを〝自由〟に使うといいさ」
「え……」
「ただこれだけは言わせてくれ。
そこにいる彼女。私は極限まで苦痛を味わってから死ねるように調整して斬っておいた。
確実に助かる事は無いだろうし、彼女に〝安らかな死〟を与えるというのも選択肢にはある。
尤も、ここで私を撃ち殺すというのも手だがね。
その場合、彼女は苦しみ抜いた果てに死ぬ事になるけど」
悪魔。この男は悪魔だ。
そうじゃなきゃ、こんな惨たらしい事は出来ない。
きっと反論は許されないんだろう。光彦は小指しか無い左脚を懸命に動かし、匍匐前進で灰原哀の支給品『ニューナンブ回転式拳銃』を手に取った。
銃口を向けるは悪魔だ。この男だけは生かしておいてはならない。コナンくん達が同じ憂き目に遭ってしまうかもしれない。
震える光彦の手。今の極限状態にある彼なら人殺しをも厭わないだろう。
しかし苦痛の声が光彦を困惑させた。鬼の形相で首を抑える灰原。その手からは抑えきれなかった血液が噴水のように溢れ出ている。
「……こ……ろし……て」
引き裂かれた喉で必死に叫ぶ擦れた灰原の声。
震える銃口は男から灰原へと向けられる。
「ああああああああああああああ」
光彦にはどうする事も出来なかった。
殺せない。灰原さんを殺せるワケが無い。
痙攣。灰原は今も尚苦しんでいる。その生き地獄から救えるのは自分しか居ない。
引き金に手を掛ける光彦。
「出来ません……。ボクには出来ない……」
半狂乱。泣きながら拳銃共々肩を落とす光彦。
そして灰原は動かなくなった。その死に顔は光彦を恨めしそうに睨んでいた。
【灰原哀@名探偵コナン 死亡】
「あーあ、時間切れだ」
拳銃諸共斬り捨てられる光彦の右腕。悲鳴が暗い森の中に轟く。
「彼女の蛮勇──勇気に称して、キミだけは解放してあげるよ。
でもその傷、その出血量ならもう長くは持たないだろうがね」
ようやく終わった絶望の時。だが光彦の心に淀むは自責の念だった。灰原の死に顔。彼女はきっとボクを怨みながら逝った。
「あ!そうだ、特別にキミに〝サイン〟をプレゼントしよう!」
瀕死の光彦を蹴り倒し、彼の腹部に日本刀を突き立てる絶対悪。光彦は�燧くが顔面を踏み付けられて声が出せない。
「そう言えば私の名前を伝えていなかったね。
実は『アレクサンド・アンデルセン』は偽名なんだ。名簿に有った名前をただ騙っただけ。
本当の名はね……」
日本刀で抉られる光彦の腹部。そこには〝6〟という数字が深々と彫り込まれていた。
「───『シックス』って言うんだ」
◆
-
「大丈夫。心臓(キュウショ)は外しておいたから。
あと10分、いや5分くらいは持つと思うよ」
日本刀の血を振り払うシックス。シハシハという不気味な笑い声を上げながら右腕だった肉塊から拳銃を取り上げた。
そして男は灰原のデイパックの中にあった《それ》を投げ捨てる。
「《釘》、かな?
頑張れば自決に使えるかもしれないよ?」
光彦の目には生者の輝きが無かった。
新たな余興が見れるかもしれないと期待していたシックスは残念そうに光彦の死体を蹴り上げ、反応が無い事を確認してから、その場から立ち去っていった。
【B-3/一日目/深夜】
【シックス@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]:愉悦、更なる渇望
[首輪ランク]:超人
[装備]:日本刀@現実
[道具]:基本支給品一式×3(飲料水1人分使用)、睡眠薬入り缶ココア×7@現実(オリジナル)、鉄鍋@現実、猿轡×2@ジョジョの奇妙な冒険、ニューナンブとその弾丸×4@現実
[思考・行動]
基本方針:今ある環境(殺し合い)を最大限楽しみ、飽きたら主催者を抹殺して生還する
0:愉しめそうな壊し甲斐のある玩具(参加者)を見つける。
1:一応は信頼を置く葛西善二郎と合流する。
2:ネウロの相方(桂木弥子)は最大限まで嬲ってから殺す。彼女によって罪を暴かれ投獄中の筈のアヤ・エイジアも同様に殺害する。
※参戦時期は来日直後(アンドリュー・シクソンに成り済まして日本警察に潜り込んだ直後)。
※桂木弥子と面識はありませんが顔自体は把握しています。
※名簿にあったアレクサンド・アンデルセンの名前を騙っています。
※灰原哀の首輪を回収していない為、首輪はそのまま放置されています。
※円谷光彦の首輪共々回収するつもりはありません。
◆
-
円谷光彦は生きていた。
〝それ〟を『円谷光彦』と定義する事自体間違っているのかもしれないが、彼は確実に生きていた。
傷痕からは茨が飛び出て、右手に至っては完全に再生している。
光彦が心臓に突き刺した釘の正体は『エレナの聖釘』と呼ばれる先人が遺した聖遺物だった。
ヴァチカンが所有する最大の切り札。それは第二次ゼーレヴェ作戦で使用され、シックスが騙ったヴァチカン最高戦力アレクサンド・アンデルセンが心臓に突き刺す事で怪物化し、王立国教騎士団ヘルシング機関が誇る最強の吸血鬼アーカードを死の直前にまで追いやった代物。
だが光彦の身体はアンデルセン神父ほど強固なモノでは無かった。所詮、円谷光彦は小学一年生なのだ。
彼は聖遺物に呑み込まれた。光彦だったその怪物の脳裏を渦巻くのは果てしない〝破壊衝動〟だった。
シックスを殺したいという純粋無垢な憎悪がその衝動に拍車を掛ける。
〝茨の怪物〟に成り果てた『円谷光彦』だったその生物は、咆哮を上げながら絶望の道を走り去って行った。
【B-3/一日目/深夜】
【円谷光彦@名探偵コナン】
[状態]:暴走、エレナの聖釘による肉体強化(全身から茨)、シックスに対する殺意(極大)、果てしない破壊衝動
[首輪ランク]:人間
[装備]:エレナの聖釘(心臓と融合)@HELLSING
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:皆殺し (暴走)
0:如何なる犠牲を払ってでもシックスだけは殺害する。
※エレナの聖釘を心臓に突き刺した事で原作におけるアレクサンド・アンデルセン同様に茨の怪物に成り果てました(それまでに負った傷も全て完治している)。
※アンデルセンとは異なり身体が怪物化に着いて行けておらず、破壊衝動に呑み込まれて暴走してしまっています(灰原哀を救えなかったショックも要因の一つ)。
※シックスを認識する器官が機能停止状態にある事や上記の破壊衝動が影響で、自分の真意とは関係無しに人を殺す皆殺し目的の殺戮マシーンに成り果てました(たとえ相手が江戸川コナンでも、それを認識する器官が無い以上は破壊衝撃に呑まれて彼をシックスと誤認して殺しに掛かる)。
※ダメージこそ蓄積されますが再生能力が大幅に向上しており、心臓を破壊されない限りは死にません。
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投下終了します。
文字化けに関してはwiki収録後に修正します。
タイトルは『ごうもん!』でお願いします。
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前作『輪墓辺獄』について一部修正します。
ジョセフの道具の中にある『聖書@現実』を『不明支給品1〜3(全て武器では無い)』に変更。
サンタナの状態表の下部に
『デイパックはそもそも拾っておらず、E-7の何処かしらに放置されています』という表記を追加。
サンタナに捕食されたセラス・ヴィクトリアの首輪に関してはwikiの方で加筆修正を行います。
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続いて
佐倉杏子、田村玲子、村野里美、多間木匠を予約します。
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投下おつー
光彦、何でお前はそう可哀想なことになるんや……
シックスえげつねえ
しかもこれ、釘に関しては本人は意図してなかったっぽいのが更にひでええ
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そう言えば書き手枠出揃ってたので確定名簿を。
8/8【金田一少年の事件簿】��
○金田一一/○七瀬美雪/○高遠遙一/○遠野英治/○六星竜一/○濱秋子/○多間木匠/○霧島純平
7/7【名探偵コナン】��
○江戸川コナン/○ジン/○京極真/○毛利蘭/○灰原哀/○小嶋元太/○円谷光彦
6/6【ジョジョの奇妙な冒険】��
○空条承太郎/○DIO/○ジョセフ・ジョースター/○リサリサ/○サンタナ/○モハメド・アヴドゥル
6/6【ケンガンアシュラ】��
○室淵剛三/○若槻武士/○阿古谷清秋/○目黒正樹/○関林ジュン/○呉雷庵
6/6【めだかボックス】��
○黒神めだか/○人吉善吉/○阿久根高貴/○球磨川禊/○江迎怒江/○与次郎次葉
6/6【魔法少女まどか☆マギカ】��
○鹿目まどか/○美樹さやか/○暁美ほむら/○巴マミ/○佐倉杏子/○志筑仁美
5/5【TOLOVEる】��
○結城梨斗/○西連寺春菜/○ララ・サタリン・デビルーク/○金色の闇/○モモ・ベリア・デビルーク
5/5【ドラゴンクエストV】��
○リュカ(主人公)/○パパス/○ビアンカ/○ジャミ/○ピエール(スライムナイト)
5/5【寄生獣】��
○泉新一/○後藤/○浦上/○田村玲子/○村野里美
5/5【HELLSING】��
○アーカード/○セラス・ヴィクトリア/○アレクサンド・アンデルセン/○インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング/○エンリコ・マクスウェル
4/4【魔人探偵脳噛ネウロ】��
○桂木弥子/○葛西善二郎/○シックス/○アヤ・エイジア
[58/58]
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>>194の予約を破棄して
パパス、アレクサンド・アンデルセンを予約致します
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感想はまた後ほど書きます
投下します
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☆
ここは映画館。
殺し屋―――通称、金色の闇は困惑していた。
いつも通り、結城美柑と遊んでその帰り道。
気が付けばあの場に呼び出され、殺し合いに巻き込まれていた。
殺し合い。そう、殺し屋である彼女にはふさわしく汚れた催しだ。
けれど。
(あのひと達が呼ばれていいものじゃない)
もう一度名簿を確認する。
その中で知る名は、結城梨斗、ララ・サタリン・デビルーク、西連寺春菜、モモ・ベリア・デビルークの四人。
リトとモモはともかく、あの二人は友達であり、リトたちに関しても...認めたくはないが、大切な存在だ。
ただ、彼らは宇宙人絡みで災難にこそ見舞われど、決してこんなふざけたゲームに巻き込まれていいような人たちではない。
...そんなものに巻き込まれるのは自分だけで充分だ。
「ヤッホー、こんにちわお嬢さん」
かけられた気さくな声に、ヤミ(闇だと紛らわしいので、これからはヤミと表記します)はジロリと視線を向ける。
声の主は、満面の笑顔で茶髪の男だった。
「いやぁ、参ったよねぇ。あの王土ってやつ、急に人を集めて殺し合いとかさぁ」
ヤミは、男の笑顔を見て思う。
胡散臭い。まるで無理矢理作っているようだと。
「ねー、そこんとこきみはどう思う?」
「......」
「あっ、もしかして警戒してる?ナハハ、安心してよ。おれ、殺し合いなんてするつもりないからさぁ」
ヤミは、警戒しつつも男の動きを注視する。
歩み寄ってくる男からは不自然な点は―――
-
「ッ!?」
突如、男の左腕が変形し、刃となってヤミに襲い掛かる。
ヤミは咄嗟に己の右腕を刃に変え、鞭のようなそれを受け止める。
(変身『トランス』能力...!?)
「およっ?おれと同じ?っかしいなー、きみからは反応がないんだけど」
男は笑顔のまま、右腕を同じように刃物に変化させて振るう。
ヤミもまた左腕を刃に変え受け止める。
「そういえば、右手の彼も弱まってた反応が急に強くなったっけ。じゃあきみも彼とお仲間ってわけだ、アハハハ」
右手の彼が誰のことかはわからない。
そうなると、もしもこの男が『変身』能力を持ち、且つ彼のいう『右手の彼』も『変身』能力を持っているとしたら、4人も変身兵器が作られていることになる。
だが、自分と妹のメア以外にも変身兵器がいるなど聞いたことが無い。
それに、変身兵器を研究していた組織は既に殺し屋・クロに壊滅させられており、新たに産み出すのは実質不可能なはず。
だとしたら、目の前のこの男は―――
(...いいえ。そんなことはどうでもいい)
この殺し合いの目的など知ったことではない。
けれど。
もしも自分に関わった所為で巻き込まれてしまったのなら。もしも自分がいなければ巻き込まれることがなかったのなら。
...彼らを生かすためには、手段は択ばない。選んでいる暇などない。
この男が、彼らに害を為す可能性があるというのなら―――今さら、手を汚すことを躊躇うな。
「ねーねー、きみはどういう戦い方するの?やっぱり彼みたいに頭と両手は別なわけ?」
奴のペースに飲まれてはいけない。
変身兵器相手には、まともな対抗策など練れはしない。
ただ、あの男はどうやら両腕を変身させての戦闘はまだ慣れていないようだ。
時折、自分の手同士が空中で接触しているのがその証拠だ。
ならば...
-
「ぬっ」
ヤミは、迫りくる男の両腕を同時に弾き、その隙をついて力強く地を蹴る。
「やっぱそうくるか」
しかし、男は全く動じない。どころか、未だに笑みを零さない。
「悪いけど、それ二度目なんだよね!」
男の頭部が変形し、一本の刃と化す。
タイミングは完璧。
彼女の両腕の刃が届くまでに、この頭部は彼女の腹部を貫くだろう。
ただひとつ、男に誤算があるとすれば。
ヤミの武器は両腕だけではない。
髪の毛が変身し、二振りの刃が模られる。
全身これ兵器―――それが変身能力の真髄である。
ヤミの髪の毛の刃が、男の頭部を弾き落とす。
「うおっ!?」
無理矢理地へと傾けられた頭に伴い、根元である首ががら空きになる。
最早男に為す術は無い。
ザンッ
刃は振り下ろされ、男の頭部が床に落ちる。
湧き出る血は飛び散り、ヤミの身体に付着する。
「......」
血。
久しぶりにこの身に浴びる、血だ。
肉を断つあの感覚も。
身を斬られそうになるあの感覚も。
長らく離れていた戦場の記憶だ。
相変わらず不快感は拭えないけれど―――だからといって躊躇うことはできない。
自分は所詮は殺し屋で兵器だ。
彼らの手を汚させるくらいなら、いくらでも汚れてみせる。
ヤミは振り返り、殺害した男の首輪を―――
-
『選手交代だな』
えっ、と思わず言葉が漏れてしまう。
信じられない。
あの男の右腕が、奇妙な形に変わりひとりでに動いて―――いや、胴体の切断部に癒着したではないか。
液体型の宇宙人―――違う。
確かに切り裂いた感触はあった。肉を斬り、骨を断ったあの感覚は幻ではない。
『三木!戻って来い!』
新たな頭部からの指示を受け、『三木』と呼ばれた一部は胴体のもとへと跳び寄る。
『またやられたのか。進歩のないやつだ』
『いやー、面目ない。わたしなりに反省して戦ったんですがね。どうにも右手の彼とは勝手が違って。まさかあんなに変化するとは思わなかったんで。あの子、なんなんでしょうねぇ』
『...パラサイトの反応はしない。しかしあの両腕...なるほど、確かに奇妙な存在だが、やりようはいくらでもある。お前はしばらく右手で眠っていろ』
『三木』が右手に癒着し完全な右手になると、今度は頭部が変形し、強面の男に変化する。
「ふー...少し血を流し過ぎたが...まあいい。お前で補わせてもらうぞ」
第二戦目。男は、天井まで跳びあがり足をつける。
そして天井を蹴り高速でヤミへ向かって落下。
その速度からこれは受け止められないと判断。
ヤミは飛び退き躱し、反撃を試みる―――が、間髪入れずに体当たりの第二弾がヤミに襲いくる。
「ッ!」
回避手段を測り損ねた。翼を出す暇すらない。
「変身(トランス!)」
咄嗟に両手を盾にして受け止める―――が、やはり受けきれずヤミの身体は弾き飛ばされシアターのドアを突き破り、廊下にまで追い出される。
凄まじい衝撃にくらくらと眩暈を憶えつつも、体勢を立て直し男と向き合う。
「...あなたは、いったいなんなんですか」
「後藤。名簿にはそう載っている」
-
男―――後藤は、再び跳躍し、その脚力を生かした体当たりを放つ。
ヤミはそれを寸でで躱し、手の刃で反撃のするが、空振り。
後藤は既に天井にまで跳びあがっていた。
再び放たれる体当たり。今度は躱しきれず、髪飾りがはじけ飛び、額から血が流れる。
片目が血で塞がり視界が遮られるが、拭う暇すら与えず次々に繰り出される後藤の攻撃。
シアターでの攻撃よりなぜ反応が遅れるか。
数度の攻防でようやく気が付く。
今自分がいるのは廊下だ。
この廊下はシアターより天井が低く壁も狭いため、後藤は間髪入れずに跳弾攻撃ができるのだと。
だが、それに気が付いた時にはもう遅い。
反応が遅れたヤミの身体に、ついに後藤の体当たりが減り込む。
「カハッ!」
あまりの衝撃で内臓を痛め吐血する。
胸部に激痛が走るがそれを我慢し、追撃を避けるためどうにか立ち上がる。
まだ動ける程度のダメージではあるが、機動力はだいぶ落ちてしまっただろう。
(やはり、身体が鈍っている...!)
長らく戦場から離れあの街で比較的平和な生活を送っていたツケがまわってきた。
どうしても意識と行動に若干のズレが生じ、この有り様だ。
まったくもって情けない。
「俺とよく似た能力...なるほど、これが"珍しい"というやつか」
後藤は無表情ながらも感嘆の言葉を漏らすが、しかしその殺意は留まらない。
殺戮マシーンである彼に、獲物への情け容赦などありえない。
「だがお前を見逃すつもりはない。俺と戦ってここで死ね」
再び跳びあがり、跳弾での攻撃を仕掛けようとする後藤。
(マズイ、もう一度あれをやられたら―――!)
危惧はすれど後藤を止める術はない。
万事休す。
焦燥と絶望感がヤミの胸中を渦巻き―――
「ベギラマ!」
視界は、炎に包まれた。
-
☆
叫びと共に放たれた炎が後藤を襲う。
向かいくる炎に気が付いた後藤は天井を蹴り寸でのところで回避。
だが、第二波、三波と押し寄せる炎は後藤をシアター内にまで追い立てる。
唖然とするヤミ。
なにが起こったのか?
突如放たれた炎は、しかしヤミには向けられていない。
助けられたのだろうか。
しかし、炎を司る人物といえば、マジカルキョーコくらいのものだが、彼女は名簿に載っていなかったはず。
ならばこの炎は?
「大丈夫!?」
駆け寄ってくるのは、金髪のグラマラスな女性。
彼女の容姿にどこか既視感を覚えるが、その正体はわからない。
「こっちよ!」
女性は、ヤミの手を引き廊下を駆け入口へと導いていく。
抵抗しようとするヤミだが、助けられているのだろうと判断し、ひとまずは彼女に従う。
やがて映画館から脱出し、それからもしばらく走り続けると、女性は走りつかれたのか、息を切らしながら膝に手をつき一息をつく。
「...助かりました。礼を言わせていただきます」
「......」
ヤミは一応の礼を述べるが、しかし女性は息を切らしたまま言葉を返さない。
それほどに疲れたのだろうか。
女性を気遣い手を差し伸べるが―――
ガバッ
女性は、突如ヤミを力強く抱きしめる。
「ちょ」
「タバサ...タバサぁぁぁ!!」
タバサという名を呼びながら、女性は涙を流し始める。
タバサ―――誰かの名前だろうか。だが、やはり身に覚えがない。
そのタバサという人と間違えているのだろうか。
「ごめんね...助けてあげられなくて...ごめんね...!」
どうやら、その"タバサ"と間違えているわけではないらしい。
しかし、その"助けられなかった"という言葉が気にかかる。
この悲しみようからして、そう遠くない時期に失ったのだとは推測がつくが...
(そういえば...)
見せしめに殺された少女。
彼女もこの女性や自分と同じように金髪だった。
よく見て見れば、この女性にも彼女の面影がある。
...つまりは、そういうことなのだろう。
事情を全て察したヤミは、そっと女性を抱きしめ返す。
(美柑や彼らなら...きっと、こうするでしょうね)
あの後藤への警戒は忘れずに。
ヤミは、女性の涙が止まるまでそっと寄り添った。
彼女から、幼いころに"イヴ"と呼んでくれた母の温もりを感じながら―――
-
☆
サイレンと共に映画館中に水が撒き散らされる。
この映画館にスプリンクラーが備えられていたのは幸運だった。
多少のダメージ覚悟で炎を突っ切る手間が省けた。
後藤は一旦の休息も兼ねて先程の戦いを思い返す。
(この殺し合い...少し厄介だな)
三木が首を斬られ、後藤が頭部へと変わった時。
彼は、ついでに首輪を外そうと試みた。
しかし、首輪から彼にしか聞こえない程度のアラームが鳴ったために思いとどまった。
いつの間にか後藤をこの殺し合いに連れてきて、且つ"後藤"から"三木"に変えていたのだ。
彼特有の体質には気が付いており、それに対する対策も立ててあるのも当然だろう。
(それに、何の仕掛けもなしに他者の行動を操れる男、俺と同じような体質を持つ女、炎を放つ女か...)
いずれも、気まぐれに読んだファンタジー物の書籍でしかお目にかかれない、所謂超能力染みたものだ。
あの都城とかいう男の口ぶりからして、彼女達のような超能力者は他にもいるはずだ。
この殺し合い、想像以上に手強い。彼らを相手にするには、今までの観念を捨ててよほど工夫を凝らさねばならないだろう。
「まあいい。何事も慣れだ」
どう工夫を凝らしてあの超能力者たちを仕留めようか。
最強の寄生生物は、未知なる領域へのある種の期待を抱きつつ、映画館を後にした。
【A-7/映画館付近/一日目/深夜】
※ところどころに焼け跡がありますが、既に火は沈下し、且つ映画館が倒壊する恐れもありません。
【後藤@寄生獣】
[状態]:疲労(小)、貧血(中)、軽度の火傷
[首輪ランク]:怪物
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
基本方針:ただ闘う。
0:戦い抜き生き残る。
1:あの少女たち(ヤミとビアンカ)とはもう一度戦いたい
2:泉新一は仕留めておきたい。
3:優勝以外にも脱出できる方法はあるようなので、一応の同志である田村玲子は保留。
※参戦時期は新一と戦っている最中(新一と同じ)
※ヤミをパラサイトとよく似た何かだと認識しています。
-
☆
「落ち着きましたか?」
「え、ええ...ごめんなさい、取り乱しちゃって」
ヤミは、女性が落ち着くのを見計らい声をかける。
「本当にごめんなさいね。その...あなたの髪を見たら、あの子を思い出しちゃって...」
「...いいんです。そのおかげで助かりましたから」
「私はビアンカ。あなたは?」
「...この名簿では、金色の闇と記されています」
「名簿...そんなものがあるのね」
さりげなく距離をとりつつ、ヤミは会話を続ける。
彼女から母の温もりを感じ取ったのも、助けられたことに感謝しているのも本当だ。
しかし、落ち着いたからこそ危険なこともある。
それは即ち、彼女の娘を生き返らせるかどうか―――言い換えれば、優勝を目指すかどうか、だ。
いまはまだ半信半疑だろうが、彼女の娘が生き返らせられると結論に至った時、彼女がどう動くかはわからない。
故に、決して隙を見せることはできない。
だが、彼女は不幸にもその不安が半ば的中していたことに気が付けなかった。
(え...?)
名簿を確認したビアンカの顔色が変わる。
「どうしました?」
「わ、私の家族と仲間が...!」
「...やはり、ですか。私も、知り合いが何人か巻き込まれています」
それを皮切りに、二人は互いの知る情報を交わし合う。
そんな中、ビアンカにはある疑問が渦巻いていた。
幼馴染であり夫であるリュカ、仲間のスライムナイト・ピエール、ビアンカを攫った怨敵ジャミ。
そして、リュカの前でゲマに殺されたはずの彼の父、パパス。
ジャミは、もしかしたら虫の息のところを救われたのかもしれない。
だが、パパスは骨の欠片も残さず焼き尽くされてしまったと聞かされている。
万が一にも生き延びていたということはないだろう。
死者がこの殺し合いに招かれている。
この事実に、ビアンカは困惑の念を抱いてしまう。
今すぐに、タバサを生き返らせるために殺し合いに乗ることはないだろう。
だが、もしも彼女の仲間が全ていなくなってしまえばどうなるかはわからない。
その分岐点の一つとして、目の前の少女に死者が参加していることを伝えるかだが、さて彼女の選択は―――。
【A-7/一日目/深夜】
【ビアンカ@ドラゴンクエストV】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労、タバサを失った悲しみ、困惑
[首輪ランク]:超人
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
基本方針:タバサの仇を討つ
0:リュカ、ピエールとの合流
1:ヤミと情報交換をする。
2:パパスお義父さん...なぜ?
3:ジャミと先程の男(後藤)には要警戒。
※参戦時期は石化から解放後
【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、内臓にダメージ(中)
[首輪ランク]:怪物
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1〜3
基本方針:他の4人(リト、春菜、ララ、モモ)の脱出優先
0:極力首輪を集められるように立ち回る。
1:ビアンカに警戒しつつ情報交換をする。
2:後藤には要警戒。
※参戦時期はダークネス発現前
※後藤を宇宙人だと考えています。
-
自分も投下します
-
パパスは立ち尽くしていた。
一体何が起きたと言うのだ。自分は誘拐されたヘンリー王子を助けるべく古代の遺跡に向かったはずだ。
そうだ!思い出したぞ!
敵の足止めを行いながら、先にヘンリー王子をお連れして脱出した息子と合流しようとしたのだ。
しかし出口で現れた一連の事件の元凶・ゲマによって息子達は人質にされていた。
そして攻撃するにも手が出せず、ゲマが呼び出したジャミとゴンズの攻撃を受け続けて……。
パパスの記憶はそこを境に途切れていた。
瀕死の傷を負わされてゲマに誘拐された自分は彼の手下『ミヤコノジョウオウド』が主催する殺し合いに巻き込まれしまった。
きっとこの首輪もその時に着けられたのだろう。
許さんぞゲマ。汚らしいヤツめ。
パパスは当然、ゲームに乗るつもりなど無かった。
ミヤコノジョウ諸共ゲマを倒して生還する。ヘンリー王子、どうか無事で居て下さい。
そして息子よ、お前だけは生きていてくれ。
◆
パパスは驚愕した。
ミヤコノジョウがパパスに流した革袋。現代で言うデイパック。
その中に入っていた羊皮紙に書かれていたのは息子の名前だった。
『リュカ』
まさか息子までもがこんなトチ狂った催しに巻き込まれているとは。
だが探す手間は省けた。すぐにでも合流しよう。
『ビアンカ』
ダンカン夫妻の養子。リュカの幼馴染み。
一体ゲマは何を考えているんだ?彼女には一切の罪が無い。完全なる第三者。巻き込まれる道理は無い。
『スライムナイト』
マーサから聞いた事のある名だ。一応は彼も合流候補に加えておこう。
『ジャミ』
コイツに至っては何故巻き込まれているんだ?
ゲマの怒りを買ってしまったのだろうか。だがヤツは倒さねばならぬ。それに上手く利用してやれば脱出の糸口を掴めそうだ。
その他の名は見覚えの無いモノばかり。
読める名前もあれば読めない名前もあった。
おそらく彼らもゲマによって集められた罪無き人々だろう。
パパスは革袋の中にあったクレイモアを掴む。
自身の剣と形状自体は然程変わらない。何ら訓練せずとも使いこなせる。
何度も試してみたが習得呪文『ベホイミ』が使えない。おそらくは首輪が何らかの妨害をしているんだろう。
首輪を外そうと何度もクレイモアを突き立てるが決して外れる事は無く、決まっていつも『警告。微弱な衝撃を感知しました』という耳障りな女の無機質な声が響くだけだった。
回復魔法が宛にならん以上は無闇に消耗は出来ない。戦うべき場は戦い、逃げべき場は逃げる。
その見極めが何よりも重要だ。それを違えれば待っているのは死。
リュカに真実を。母が生きているかもしれないという事実を伝えるまでは死んでも死にきれん。
パパスは急く急くと夜道を歩み行く。
◆
-
アレクサンド・アンデルセンは状況を整理していた。
男はヴァチカンが誇る最強の対化物戦のプロフェッショナル集団『バチカン法王庁特務局第13課』──通称〝イスカリオテ〟のリーダー格だった。トップクラスの実力を持つアンデルセン。
その武功からか、畏敬の念を込めて人は彼を『首斬判事』や『天使の塵(エンジェル・ダスト)』。挙句の果てには『再生者(リジェネーター)』と呼んだ。
しかし自分は死んだ。あの吸血鬼を殺せる唯一のチャンス。ヤツが零号を解放しているその隙を突いて急襲したアンデルセン。
だがヤツ──『アーカード』を前にして立ちはだかる無双の軍勢・ワラキア公国軍を前にアンデルセンは苦戦を強いられた。
多勢に無勢。単身で乗り込んだアンデルセンに続いたイスカリオテの救援によって数の差を縮めた狂信者は一気にアーカードの元に接近。
彼との壮絶な一騎討ちを繰り広げた。
しかし相手は怪物だ。最先端の生物工学と回復法術の恩恵を受けていたとしてもアンデルセンは人間の域を出ない。
だからこそ彼は《禁断の果実》に手を付けた。
〝エレナの聖釘〟──ヴァチカンが保有する稀少な聖遺物の1つにしてアンデルセンの切り札。
男はそれを心臓に突き刺す事で人間を超越し、晴れて化物としてアーカードと同じ土台に立った。
死闘。圧倒的な死闘。
アーカードを討ち取ったのはアンデルセン。だがヤツは死ぬどころか吹っ切れやがった。
長きに渡る刹那の死闘は、アンデルセンの心臓を抉られるという拍子抜けした結末で幕を下ろした。
だがどうだい。アンデルセンは生きていた。
都城王土と名乗る男から長々と説明を受け、殺し合いを強いられていた。
アンデルセンに支給された固有の品は運が良い事に自身の武器。祝福儀礼の成された銃剣(バヨネット)10本だった。
これらの事実からアンデルセンは考える。
自分が生き返らせたもうたその意味を。
その果てに狂信者は1つの結論を見出した。
◆
パパスが丸眼鏡の男──アレクサンド・アンデルセンと出会ったのは数分後の事だった。
それに奇抜な服装をしている。彼もまたゲマの手に掛かった被害者なのだろうか。
「汝は何者なるや?」
「パパスだ。そういうお前さんの名前は?」
「アンデルセン。アレクサンド・アンデルセンだ」
ファーストコンタクト。意外と淡白な自己紹介。
見るからに屈強な肉体。彼は良い戦力になる。
ならば直球勝負だ。いつだって押しが肝心。
「お前さんもゲマに誘拐されたのか?」
「一体何の話をしている?」
「まぁいい。今必要なのは人手。
アンデルセン、一緒に主催者達を倒して脱出しないか?」
会話を交わす度に徐々に湧き出す疑念。
この男からは何も感じられない。虚無。広がるのは膨大な虚無だ。ミヤコノジョウオウドからも全く同じオーラが感じられた。
アンデルセンに気付かれないように、いつでもクレイモアも手に取れるようセッティングするパパス。
そんな彼に目もくれず、アンデルセンは続けた。
「パパスよ。キサマは〝神〟を信じるか?」
突拍子も無い質問。パパスは困惑する。
「私は信じる。〝神〟は必ず存在している。
我は神罰の代行者。神に仕える為の力である」
「……何が言いたい」
「私は確かに死んだ。一度は道を違えたが、無限に連なる生命の循環に導かれた。
だが生きている。私は神に罰せられたのだ。
全く皮肉な話だ。しかし私は贖罪を済まさねばならぬ」
パパスにはアンデルセンが言っている事が理解出来なかった。
だが彼の言葉で生まれる1つの疑問。自分はジャミとゴンズの攻撃で死んだんじゃないかという疑念。
アンデルセンも自分は死んだと語った。
つまりパパス自身も死んでここに導かれた可能性がある。然すればここは地獄なのだろうか。
となればリュカは。まさか息子も殺されて……。
「贖罪とは何だ?」
パパスは問うた。
「こういう事、だよ」
アンデルセンは応えた。
空中に吹き飛ぶパパスの右腕。それは一秒にも満たぬ即斬劇だった。
◆
-
アンデルセンは気付く。
生きる意味。それは〝償い〟だ。
ヒトとしての生命の理を逸脱してミディアンにまで零落した自分への贖罪。
都城王土は神の使徒なのだ。神は彼を通じて愚かな自分にチャンスを与えてくれた。
「我は神の代理人。神罰の地上代行者。我が使命は、我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること」
交差する銃剣。その刀身は月夜に照らされギラギラと輝いていた。
「ううう……。
アンデルセン!謀ったな!」
腕を抑えながらクレイモアを手にするパパス。
やはりベホイミは使えない。逃げるにも逃げられない。こうなったら、なんとかここを乗り切るしか。
アンデルセンは自分を殺すつもりだ。
パパスは不馴れな左手でクレイモアを構え、アンデルセンの攻撃に備えた。
「AMEN(エ゛ェェイ゛ィメン゛ッッ)!」
先に動くは狂信者アレクサンド・アンデルセン。
神罰の代行者は神の意に反して反旗を翻すつもりでいる愚か者を引き裂いた。
「────ッ!」
それを受けるは歴戦の勇者パパス。
たとえ片腕を失おうが彼の強さは揺るがない。
握り締められたクレイモアはアンデルセンの身体を貫いた。
◆
「ぬわーーっっ!!」
勝負は一瞬だった。アンデルセンの銃剣はパパスの頭部を四つに分割させていた。後に残るは残響と言う名の悲鳴。
だが勝者であるアンデルセンもタダでは済まされない。パパスのクレイモアは男の右腕を貫通していた。ヤツは相当の手練だったらしい。
もし男が片腕を失う事が無かったなら自分でも負けていたかもしれない。
異変。アンデルセンは三度気付く。
傷が再生しない。まるで再生者としての能力を失ってしまったかのように。
これもまた自分に課せられた贖罪なのだ。アンデルセンは容易に割り切った。
だが険悪な表情。右腕が思い通りに動かない。
また振り出しなのか。片腕が使えぬまま私はあの吸血鬼に挑まなければならないのですか。
勝算が低くともアンデルセンは動くしかなかった。
クレイモアを抜き取り、首から下だけとなった肉塊に剣を捧げるアンデルセン。それが彼なりの敬意だった。
手早に首輪を回収したアンデルセンは足を進める。
目の前に広がるは闇。希望と絶望が渦巻く贖罪への道。
後戻り出来ぬ禁忌の道をアレクサンド・アンデルセンは行くのだった。
【D-4/一日目/深夜】
【アレクサンド・アンデルセン@HELLSING】
[状態]:冷静、右腕に裂傷(ダメージ:大)
[首輪ランク]:超人
[装備]:銃剣(祝福儀礼済み)×10@HELLSING
[道具]:基本支給品一式×2、パパスの首輪
基本方針:神の意(主催者の思惑)に反する参加者達を抹殺する。
0:神に仕える者として出来るだけ多くの参加者を殺害する。
1:アーカードに警戒。インテグラとセラスは警戒するに及ばない。
2:確保した首輪を利用して参加者を誘き出す。
※参戦時期は死亡後。
※生と死を司る主催者(都城王土)が神であると認識し、このバトルロワイアルを神々の遊戯だと判断しました(同時に心の何処かで主催者に対する嫌悪感を感じている)。
※ゲームに賛同しない参加者が存在する事を知りました。
※再生者としての能力は完全に失われています。
※パパスの一撃で右腕が使い物にならなくなりました。
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投下終了します。
タイトルは『狂信者のバラッド』でお願いします。
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パパスの死亡表記を入れ忘れたのでwiki収録時に加筆致します。
改めて>>194を予約します。
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投下終了です。
>>196
投下&確定名簿乙です
>『ごうもん!』
マジキチドSおじさん絶好調の巻。
おそらく彼はこのロワ屈指のロワ充でしょう。あのニヤニヤ笑顔が脳内再生余裕でした。
そして灰原は無念&光彦怪物化というえげつない展開である。
相変わらず女性とコナン勢に厳しいロワですな。
数点だけ指摘を失礼します。
①シックスの首輪ランクが「超人」になっていますが、彼は「怪物」です。
②状態表が
参戦時期は来日直後(アンドリュー・シクソンに成り済まして日本警察に潜り込んだ直後)。
2:ネウロの相方(桂木弥子)は最大限まで嬲ってから殺す
となっていますが、彼がネウロを意識し始めたのは、アイを殺して怪盗Xを捕まえてからのため、弱冠の齟齬が生じていると思います。
なので、弥子を殺すつもりなら、参戦時期はドSサミット以降の方がいいかと
③このロワのシックスが、黒の組織の取引相手本人のような描写がありますが、このロワは所謂スパロボ時空ではないので
灰原が既視感を感じたのは、平行世界のシックスっぽい人という感じでお願いできないでしょうか
以上三点、細かい点になりますが、ご検討お願いします。
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って、もう一つ投下きてた
すいません、まだ読めてないので感想はまた後ほど。
ついでに若槻武士、室淵、アーカード、DIOを予約します
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>>213
では『ごうもん!』のシックスの状態表を以下のように修正します(①と③)。
②に関しては『輪墓辺獄』同様、wiki収録後に灰原哀が感じた既視感そのものを無かったように修正致します。
【B-3/一日目/深夜】
【シックス@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]:愉悦、更なる渇望
[首輪ランク]:怪物
[装備]:日本刀@現実
[道具]:基本支給品一式×3(飲料水1人分使用)、睡眠薬入り缶ココア×7@現実(オリジナル)、鉄鍋@現実、猿轡×2@ジョジョの奇妙な冒険5部、ニューナンブ回転式拳銃とその弾丸×4@現実
[思考・行動]
基本方針:今ある環境(殺し合い)を最大限楽しみ、飽きたら主催者を抹殺して生還する
0:愉しめそうな壊し甲斐のある玩具(参加者)を見つける。
1:一応は信頼を置く葛西善二郎と合流する。
2:ネウロの相方(桂木弥子)は最大限まで嬲ってから殺す。彼女によって罪を暴かれ投獄中の筈のアヤ・エイジアも同様に殺害する。
※参戦時期は脳噛ネウロとの対談以降。
※名簿にあったアレクサンド・アンデルセンの名前を騙っています。
※灰原哀の首輪を回収していない為、首輪はそのまま放置されています。
※円谷光彦の首輪共々回収するつもりはありません。
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>>211
投下乙&返答ありがとうございました。
『狂信者のバラッド』
「ぬわーーっっ!!」
やはり断末魔はそれなのか、パパス。しかしあのアンデルセンに一矢報いたのは流石です。
そしてアンデルセンも神の意思と判断して乗ってしまわれた。これは手強いぞ。
参戦時期からしてマクスウェルと遭遇した時どうなるのだろうか...気になります
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投下します
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村野里美は困惑した。
夢?いや夢を見れるような状況じゃなかった。
何を隠そう里美は泉新一に抱かれていた。あの時の新一の表情、彼は死の危機に瀕していたんだと思う。死を間近にすると性欲が高まるという話を聞いた事があったが、まさにそれだったのかもしれない。
生物として当然の行為。だけど何だこれは。
私は性行為の最中に拉致されたの?そんな間抜けな話があっていいのか。
無防備と言えば無防備だった。というか何も身に付けていなかったし、その時は新一だけを見ていた。
(つまりは新一くんも一緒に……)
里美の脳裏を過ぎる不安。首輪が破裂して死亡したあの少女の死に様がフラッシュバックする。
その感情は制服姿の里美を突き動かす。漁られる主催者が支給したデイパック。
そこには拳銃があった。〝David・Race〟と刻まれているが、これは本来の所有者の名前なんだろうか。はたまた製造番号のようなモノなのだろうか。
「村野、里美さん?」
何処かから聞こえる女の声。それも聞き覚えのある声。
一瞬で里美は理解した。その声は里美と泉新一が通う高校の数学教師。不貞の妊娠をきっかけに退職した女教師『田宮良子』の声だった。
「田宮先生!?」
拳銃を急いで仕舞い、声の方向へと振り返る里美。
確かに田宮良子の姿はあった。だが何かおかしい。
昔とはまるで雰囲気が違う。シングルマザーとしての生活が彼女を変えてしまったのだろうか。
「本当にアナタまで巻き込まれていたのね。
泉新一くんは一緒じゃないのかしら?」
「はい……。気付いたらここに居て、彼を探そうとしているところです」
「そうなの…。という事はアナタは私と出会うまで誰とも遭遇していない、って事で間違っていない?」
何でこんな事を聞くんだろう。不審に思いながらも村野里美は首を縦に振った。
油断。彼女は元教員だ。そんな彼女がゲームに乗っているとは思えない。その過信こそが仇となった。
「───なら良かった」
首元に突き付けられる刃。それはナイフと言った支給品で無い。田宮良子の〝頭部〟だった。
数秒で変形した女の頭部。そして形成された鋭利な刃が其処にはあった。
「あ…ぁッ…きゃあああ────」
「あまり騒がない方が身の為よ?」
首元に滅り込む刃。今は擦り傷。首から多少血が流れる程度だ。
だが田宮が本気とならば首輪を掠めて一刀両断、という事になりかねない。
咄嗟に口を抑えて地面にしゃがみ込む里美。スカートから滲み出る黄色い液体。
「私の思考は単純明快。アナタも泉新一という生物を助けたいのだろう?恋愛感情か?知人としてか?
私は探求者として〝あれ〟を保護したい」
言葉は動転する里美の耳を素通りして行く。
「〝あれ〟は私の自信作なんだ。か弱い私の同胞。
『後藤』を保護する為なら私はいくらでも首輪を集めよう。
都城王土は〝6点〟で脱出出来ると言ったか。
そして『人間』『超人』『怪物』の区分分け。
見立てでは、配点はそれぞれ『人間』が各1点。『超人』が各2点。『怪物』が各3点と言ったところでしょう。私が『怪物』である以上は後藤もきっと『怪物』なんでしょうね。
『人間』であるアナタの価値は1点。それでも6人分の首輪を集められば後藤を脱出させる事が叶う」
「ぃ…いやアアアァァァッ!」
奇声。村野里美は彼女がのうのうと話している隙にデイビット・ライスの拳銃を取り出して乱射する。
幸いにも安全装置は着いておらず、引き金を引くだけで弾はいくらでも出た。
しかしながら弾丸は1発たりとも田宮良子───『田村玲子』に命中する事は無かった。
全てが全て一定の範囲まで行くと玲子の触手によって叩き落とされた。デイビット・ライスの弾丸に想定された弾丸を撃ち尽くす里美。
「こういうのを〝チェックメイト〟って言うんだったかしら?」
銃口が刃によって切り落とされ、とうとう銃としての機能をも失った拳銃。半狂乱になりながら里美は引き金を引くが響くのはカチカチという音だけ。
「悪く思わないでね。私は命令を受けているのよ。
『この種を食い殺せ』ってね」
容赦無く振り下ろされる刃。
-
だが止まった。
止めざるを得なかった。銃声。そして弾丸。
田村玲子にとって見れば銃撃など恐るるにも足らない。しかしその銃撃は違った。
玲子が最も不得意とする方向から穿たれた弾丸。狙撃手は先程の村野里美の当てずっぽうな乱射からそれを見抜いたのだ。
咄嗟に刃を戻す事で銃撃を打ち払う玲子。
「誰だ?」
寄生獣の冷酷な眼光が狙撃手の姿を捉える。
背後で銃を構えていたのは華奢な少女だった。それも村野里美よりも一回りほど幼く見える。
「アンタ如きの小悪党に名乗る名前なんか無いね。
食えるもんならアタシを食ってみなよ〝化物〟」
赤の魔法少女は相も変わらず自信に満ちた表情でS&Wマグナムを構えた。
◆
田村玲子は柄にも合わず動揺した。
現れた赤の少女。さっきの的確な射撃。
少女は外見から察するに14〜15歳。そんな年も行かぬ少女にあんな物が繰り出せたというのか?僅かあれだけの要因で最も不得意とする方向を見抜けたというのか?
だとすれば少女は相当な手練れだ。油断は出来ない。
しかし彼女の武器はあの銃だけと見える。
それならリーチを詰められなければ勝てる。いくら狙撃手の腕が良くとも弾丸は弾丸。即座に打ち払えばいい。
バラララララという耳障りな音を立てながら穿たれる弾丸。
佐倉杏子もまた動揺していた。
彼女は既に1人殺している。相手の名前は『モウリ ラン』と言った。回収した女の首輪の裏側───死んで始めて確認出来るその部分には『モウリ ラン-超人』との表記があった。
ランもまた人を殺した。罪無き小学生。杏子にとっては自分の妹と年も変わらぬ少年をランは殺害したのだ。あの女は殺されて当然の事をした。
だが殺してしまって良かったのか?彼女にだって更生の余地は有った筈だ。
胸の中に広がるモヤモヤとした感情。これが〝罪悪感〟ってヤツか。確かに神に縋りたくなるわな。
杏子は無意識に急所を外していた。
相手が変形出来るのは頭部だけ。ここまで撃ちまくればそれくらいの事実は見える。無防備な首より下──心臓を狙えば1発で勝負は着く。なのに自然とそれを避けていた。
あの女の化物にだって更生の可能性が無い訳じゃない。徐々に銃口は足に向けられていく。
その隙を田村玲子は見逃さなかった。
相手は躊躇っている。そうか、この少女は実戦経験こそあるが人を殺した事は無いのだ。
ならば耐えれよう。あの拳銃だって無限に弾がある訳じゃない。必ず尽きる。村野里美と同様に撃ち尽くす。
その瞬間、即座に頭部を刎ねてやる。人を殺す事に忌避感を覚えている。そうと分かれば造作もない。
一気に攻めれば少女とて対応しきれないだろう。
佐倉杏子もまた焦りを感じていた。
狙うは足。だが足ばかり狙っても意味が無い。女の反応速度は遠に人間の領域を逸脱している。
もう相当数撃ち込んだ筈の弾丸。それでもなお女は一切のダメージを受けていない。というよりも1発も当たっていない。
胸部はガラ空きだ。狙い撃てば殺せる。
駄目だ。
何を言っている?もう自分は1人殺しているじゃないか。なら何故モウリランを射殺した?その気になれば殺さずとも身動きくらいは封じられただろ?
自問自答。こんな時、さやかだったら何と言っただろうか。きっとこんな事を彼女は望まない。
(───さやか、でもアタシは決めたんだ)
底を尽きる弾倉。残り5、4、3、2───弾が尽きる。
弾倉を掴め換えるタイミングから田村玲子は残弾数を計算していた。
残り1発。僅かコンマ1秒の反射。田村玲子は突進する。引き金を引いても弾は出ない。
貰った!佐倉杏子の首へと伸びる刃。
ガキン。響いたのは金属音だった。
-
田村玲子は驚愕する。
佐倉杏子の手に握られているは〝槍〟だった。
意味が分からない。残弾数に注意を置き過ぎたせいで別の武器を取り出されたか。
いやおかしい。ヤツのデイパックは村野里美の足元に投げ捨てられている。
一体何故、少女は何処から槍を取り出した?
答えは単純明白。黒い穢れを見せる佐倉杏子のソウルジェム。
彼女はマグナムの残弾が尽きると同時に自前の多節棍の槍を精製したのだ。尤も、一から精製するのに相当の魔力を消費してしまったようだが。
グリーフシードの確保が見込めない以上は必要以上のソウルジェムの穢れは禁物。しかし充分。
「オイ、アンタ!」
佐倉杏子は背後でポカンとした表情を浮かべている被害者の少女に声を掛けた。
「今すぐどっか行きな。邪魔でしょうがない。
コイツの相手はこの佐倉杏子が引き受けた」
放心状態だった村野里美も、自分より年下ながらも圧倒的な気迫を放つ杏子の声で我を取りどした。
里美が逃げたのを確認する田村玲子。後から負えば如何様にもなる。まずはこの槍の少女から食らってやろう。
「大した余裕ね」
田村玲子は口にする。彼女もまた自分と同じ『怪物』なのだろうか。
「当然。でも褒めておいてはやるよ。
アンタはこのアタシを本気にさせたんだ。
これからアタシは全力でアンタをブッ潰す」
「あら、今まで手加減してくれていたの?
気付かなかった。てっきり私は貴女が弱いだけだと勘違いしていたわ。
でもあまり粋がらない方が良いわよ〝人間〟さん。
貴女が全力を語るなら私はそれ以上の力でねじ伏せるだけの話」
互いに一歩を引こうとしない両者。それぞれの目に移る相手の姿は『敵』でしかないのだから。
刹那、2人の女達による戦いの火蓋が切って落とされた。
◆
村野里美は暗黒の道を賭けた。
争いは良くない。それが村野里美の自論。
しかしながら、あの2人の間に割って入れるほど自分は強くない。ちっぽけな存在に過ぎないのだ。
誰でもいいから止められそうな人を見つける。それが里美の願いだった。
「ねぇキミ!」
そんな彼女に悪魔は囁く。
男の名前は『多間木 匠』と言った。大病院の経営一族の跡取り息子。確約された輝かしい未来。
だが多間木は狂っていた。彼の心の奥底に蠢くドス黒い悪意。
気付けば多間木は1人の少女──毒島陸の想い人を拷問していた。彼女が悶え苦しむ姿は最高だった。
もっと見たい。もっともっと苦しめ。
そんな狂った願望が少女を自殺に追いやった。
やがて事件は発覚したが多間木は親の金で弁護士らを買収。たった1ヶ月で鑑別所を出所し、アメリカに旅立った。
しかし事はまだ終わっていなかった。
主犯者に仕立てあげた毒島の出所。それから程なくして魚崎が殺された。
多間木には薄々分かっていた。犯人は毒島だ。あいつの親の企業を実質潰したも同然な多間木。企業の借金を全てチャラにする事を前提に毒島は主犯者になる事を了承した。しかし多間木はそんな彼の約束など果たそうともせず、さっさとアメリカに高飛びしたのだ。
金田一。クラスメートでありながら警察の捜査に協力する名探偵。ヤツにこの事実を話すべきだろうか。
必要ない。親に頼もう。もっと警備を厳重にする。
そうすれば流石の毒島──『死刑執行人』も俺に手出しは出来まい。
その結果がこの惨状である。
拉致された多間木は『都城王土』から殺人ゲームへの参加を強要されていた。
いい加減に改心したかと聞けば彼は『改心した』と言うだろう。しかし多間木は一切改心していなかった。
彼はゲームに乗っていた。
男の目的は『優勝』のただ一点。『死刑執行人』の復讐を止める完全な手段。多間木はそれを欲した。
蠢くそれ以上の渇望。多間木は殺したかった。誰でもいいから殺したかった。
ここは無法地帯だ。人を殺しても咎められる事は無い。〝1人殺せば殺人鬼、100万人殺せば英雄〟とはよく言ったものである。
暇を持て余すかのように支給された刀剣・1度振れば2回分の攻撃が出来るという曰く付き『はやぶさの剣』を無造作に振り回す多間木。
そこを通り過ぎてしまった村野里美。
多間木にとって村野里美は『標的』でしか無かった。
◆
-
多間木は振り返った制服の少女を剣の柄で殴った。
後頭部にも命中し、その場に倒れる少女。
「結構良いカラダしてんじゃん!」
もがかれようと強引にねじ伏せる多間木。所詮は女の力だ。高が知れている。
犯ろう。その後で剣で全身切り裂いてから殺る。
ビリビリ。制服が破られる。見えてくる下着。
多間木は少女の口を抑えながら下着をも強引に外してみせた。
警戒が途切れた。多間木の頭部に向けられる『何か』。シルエットだけでもそれが何かは容易に理解出来た。
『拳銃』だ。この女の支給品は拳銃だったのか。
一瞬、手が止まる多間木。しかし月明かりに照らされ、拳銃の銃口が切断──その銃が使い物にならないと分かると激昂した。
「焦らせやがってッ!舐めた真似してんじゃねえよ!」
村野里美の身体に馬乗りになりながら彼女の顔を何発も何発も殴る多間木。
「たすけ……」
「黙れ!それ以上喋ったら殺すぞッ!」
少女の首元に突き付けられるはやぶさの剣。
それに触発されてか涙を浮かべる少女。これでこいつはもう抵抗しないだろう。
「分かればいいんだよ、分かれば」
多間木は、そのまま慣れた手付きで彼女の乳房を揉み乳頭を舐め回す。同時に女の声が響く。
なんやかんやでこの女も満更じゃないのか。
「い……ずみ……くん……」
あ?何だこいつ。まさか俺の事を自分の想い人と照らし合わせて──書き換えて発情してやがんのか?
「俺の名前はタマキだッ!」
再び殴られる里美の顔。この女、狂ってやがる。
なら一気に壊してやる。方向を入れ替え、彼女のスカートに手を伸ばす多間木。
濡れている。放尿でもしたのか?臭い豚め。
パンティを脱がせた男は自分もズボンを脱いだ。
あんまり興奮しねえや。でも殺せば。殺人は性行為の3倍の快感があるって聞いた事があったな。
しかし多間木匠は油断していた。彼の心の中で『少女の支給品は壊れた拳銃だけ』と過信していた。
だが彼女が握るはデイパック。そして取り出されるは彼女の第2の支給品───スタンガン。
「……ッ!!」
村野里美はスタンガンを露出した多間木の男性器に当てた。何の躊躇いも無い無慈悲な一撃。
「あがッ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
この世のモノとは思えない断末魔。多間木は白目を向きながら倒れた。
◆
村野里美は動揺した。
脈が無い。男は死んでいる。
口から溢れ出る白い泡。さっきまで続いていた痙攣も止まってしまった。
いくら心臓マッサージをしても鼓動は戻らない。
死んだ。殺してしまった。私が彼を殺したんだ。
村野里美の心を埋め尽くす罪悪感。
絶望、絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望。
(新一くん。私、どうしたらいいの?)
泣きじゃくる里美。少女は耐え切れぬ絶望の中、壊れながら夜道に消えていった。
【A-4/一日目/黎明】
【村野里美@寄生獣】
[状態]:精神不安定、罪悪感(極大)
[首輪ランク]:人間
[装備]:スタンガン@現実
[道具]:基本支給品一式
基本方針:泉新一と合流する
0:正当防衛とは言え、強姦魔の男(多間木匠)を殺してしまった……。その罪を償いたい。
1:田宮良子から逃げる。可能なら赤い少女(佐倉杏子)を助けたい。
※泉新一との性行為中からの参戦です。
※泉新一が以前より田村玲子のようなパラサイト絡みの事件に巻き込まれていたのだと判断しました。
※多間木匠を殺してしまったと判断しています。
◆
-
佐倉杏子も、田村玲子もまた決めきれずにいた。
一進一退。互いに攻防に撤した命の駆け引き。
佐倉杏子は田村玲子の首から下───変形しない部分を攻撃しようとするも全て弾かれる。
田村玲子は佐倉杏子の槍───多節棍の連結部分の鎖を斬ろうとするも尽く躱され続けた。
疲弊。両者は確実に疲弊して行く。もはやそれは消耗戦だった。
「貴女、一体何者なの?」
先に口を開いたのが田村玲子。
佐倉杏子が『怪物』なのは明白の事実。しかし違う。この少女からは信号が出ていない。間違いなく『人間』なのだ。
だがこの力は何だ。そう年も行かぬ少女とは思えない戦闘能力。田村玲子は困惑していた。
「あえて言うなら〝正義の味方〟ってヤツ?
一般市民を守る『魔法少女』サマサマさ!」
最初こそ余裕な表情を見せていたが、杏子にも笑っていられる余裕は無くなりつつあった。
魔力によるブースト。それで何とか先の死闘を戦い抜いて来たのだがソウルジェムの消耗が激しい。
タダでさえ槍の精製で穢れているソウルジェム。その淀みは既に7割方を超えている。
だが相手はどうだ。どう考えてもアイツは魔法少女じゃない。ソウルジェムもクソもないのだ。
このまま魔力の消費が嵩めば勝ち目は無い。
再び無言。膠着。
勝負に動いたのは杏子だった。
一気に増すソウルジェムの穢れ。魔力をありったけ注ぎ込んだ渾身の一撃。
加速する杏子。流石の田村玲子もその一撃には遅れを取った。
速い。とにかく速過ぎたのだ。音速とまでは行かないがそれに匹敵しゆる亜音速。人間の身体がそんな衝撃に耐えられるだろうか。答えは否だ。
佐倉杏子は加速する度に臓器に致命的なダメージを負い、それを即座に魔力で治癒していた。エンドレスな痛みが杏子の全身を刺激する。
必死に対応する田村玲子。シュパンという音を立てて刃諸共切り落とされる触手。
気付けば玲子の脳天には佐倉杏子の赤い槍が突き付けられていた。
「勝負あったな」
佐倉杏子は作り笑いをした。魔力の消費が尋常でない。その上、腹部からの激痛。さやかのような回復型では無いが故に臓器の再生が間に合っていない。
だがしかし、田村玲子が変形させられるのは頭部のみ。その頭部を抑える事は心臓を掴むのと同義。玲子が不穏な動きを見せたら即座に頭部を貫く。
勝負は完全に決した。
「……休戦、と行きましょう?」
田村玲子は顔色1つ変えずに言った。
切断された触手は再生されない。手段としては、これが上策と言える。
「ここで私と貴女が争う事に意味は無いの。
協力───いいえ、捕虜でも構わないわ。
それにここで私を殺すのは勿体無いでしょう?
私の強さは身を持って分かってくれたはずよね?」
「……うるせえよ。
アタシは〝全力でブッ潰す〟って言っただろ?その言葉に二言は無いね」
槍に力を込める杏子。あとは頭部に突き刺すだけ。
「潔く死にn────ッ!?」
バランスを崩す佐倉杏子。足。足に何かがある。
少女は見た。足を抑える地中からの手の存在を。
それの正体は『手掘りの土竜(イビル・ガントレット)』と言った。かつて魔人・脳噛ネウロが使用した魔界777ツ道具の1つ。このバトルロワイアルにおける田村玲子の支給品。
田村玲子はその瞬間を待っていたのだ。
相手が出来る限り接近する瞬間を。そして防御が不可能になる僅か一瞬の隙を。
槍を握っていた華奢な腕を切り落とす玲子の刃。
杏子は即座に槍を持ち替えようとしたがそんな隙は与えない。切り落とされた両腕。
「て、てめえ……ッ!」
「あえて貴女の言葉を引用させてもらうわ。
〝勝負あったな〟佐倉杏子。〝潔く死になさい〟」
その言葉が言い終わると同時に佐倉杏子の生首が宙を舞った。
◆
-
田村玲子は笑った。
そうか、この感情が〝喜び〟か。
いつしかのマンションを思い出す。出産した赤子を前に玲子はゲラゲラと笑った事があった。
佐倉杏子の首輪。刎ねた頭部を更に切断して回収した首輪。その裏側に『怪物』の表記があった。
確かにあの少女は強敵だったと言える。仮に野放しにしていたなら後藤でさえ苦戦を強いられたかもしれない。
安堵と共に田村玲子の心中に蠢く渇望───『この種を食い殺せ』という天からの命令。
村野里美が逃亡してから然程時間は立っていない。
今から追い掛ければ追い付く事など容易。
泉新一はどうするか。あの少年の行き着く先には興味がある。ただ刃向かうようなら殺害も已む無し。
佐倉杏子の首輪は3点。しかし怪物のアドバンテージから察するにある程度は点数が擦り合わされていると捉えるべきか。1点。たとえ同族殺しであっても1点が関の山。
なら効率的に点が稼げる『人間』───村野里美をまずは殺そう。
手掘りの土竜と杏子の死体の傍らに置かれていた彼女のデイパックを回収し、次の獲物を食らうべく、その場を後にする田村玲子。
しかし彼女は根本的な間違いを犯していた。
〝魔法少女〟───外宇宙による干渉によって圧倒的な力を得たヒトならざる者。
彼女達の本体は肉体では無く、『ソウルジェム』と呼ばれる宝石なのだ。両腕を切り裂こうが首を刎ねようが彼女達は死なない。
グサリ。肉を突く鈍い音が森に響く。
田村玲子の心臓は背後から抉られていた。貫通する槍。見えてくる先端部分。間違いない。それは佐倉杏子の多節棍の槍の先端部分だ。
寄生生物とは言え、生命維持に必要不可欠な宿主の心臓部を刺される事は致命傷。玲子は困惑する。何故?あの少女は確かに殺した筈。
呻き声を上げながら振り返る怪物。
佐倉杏子の死骸。食い荒らされた死体の胸元から伸びる槍。
(あの宝石か……ッ!)
即座に変形した刃で恭子の胸元にあった紅い宝石を破壊する田村玲子。
だが手遅れ。槍は消滅したが傷は塞がれない。
「あぁぁァああァァァァ……ッ!」
悲痛の声。身体を乗り移ろうにも佐倉杏子の身体はあの有様。己の細胞を分裂させて心臓の治癒を行うか?不可能だ。そんな事をしている内に自分も死んでしまう。
田村玲子は苦しむ。徐々に干からびていく頭部。
死ぬ。残り数秒で意識が途切れる。
しかし死んだらどうなるんだ?田村玲子が抱く疑問。
(確か人間は死後の世界が存在していると信じて止まないんだったな)
今なら良く分かる。死に対する恐怖。感覚が消えて行く絶望。存在する筈なくとも死後の世界の存在に縋らなければやっていけたもんじゃない。
だが自然と恐れは感じなかった。寧ろ広がるのは無限の興味。
「は…は…はははははははッ……!!」
田村玲子は笑いながら死んだ。死の間際───発声器官が機能しなくなるその瞬間まで笑い続けた。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】
【田村玲子@寄生獣 死亡】
◆
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多間木匠は憤慨した。
血眼になって探すは『あの女(村野里美)』の存在。
許さない。絶対に許さない。殺してやる。あの女だけは確実に殺す。
目を覚ますと多間木は股間の感覚が無い事に気付いた。記憶が混濁している。いや待てよ、俺はあの女を犯そうとしてスタンガンを……。
彼にとって臨死体験の記憶など無い。多間木の股間は完全に機能を失ってしまっていた。
激昂する多間木匠。
その手に握り締められるは〝はやぶさの剣〟。あの女を殺す。生きたまま解剖してやろう。それくらいしなきゃ気が収まらない。
そして多間木匠は探し当てた。
見つかったのは2人の女の死体。はやぶさの剣で何度も斬った。反応が無い。確実に死んでいる。
「うおおおおおおおッ!?」
頭部が干からびた女。彼女が持っていた首輪に多間木は狂喜した。
『サクラキョウコ - 怪物』
やった!いきなり2点だ!おもわず跳ね上がる多間木。しかし死体はもう1つある。
『タムラレイコ -怪物』
多間木は叫んだ。豪運。圧倒的豪運。
怪物同士で潰し合って、運がいい事に両者相討ちという形で決着が着いたのだ。その首輪は4点分。
これは天の思し召しとか思えない。
ここまで来たらデイパックも見てみよう。
多間木はタムラレイコの腕からデイパックを抜き取った。
しめた!デイパックは3つある。つまりは1人分余剰がある。誰かから奪い取った。すなわち───。
『モウリラン - 超人』
ああ、神よ。アナタの祝福に感謝致します。
5点。何もせずに5点を手に入れた。まあ睾丸を失った事を考えたなら等価交換とも言えなくはない。
あと1点である。たった1人───あと1人『超人』か『怪物』を殺せば脱出出来る。
最悪、睾丸も現代医学で治せはするだろう。
だが許さない。あの女は許さない。
あいつは見るからに『人間』だろう。殺しても点にはならない。でも構わない。
女が口にした『イズミくん』という野郎───名簿にあった『泉新一』とかいうヤツの事だろうか。
まあ何だって構わない。そいつも殺す。
多間木は拾ったデイパックから手に入れたデザートイーグルを手にし、果てしない殺意と共に夜道に消えて行った。
【A-4/一日目/黎明】
【多間木匠@金田一少年の事件簿】
[状態]:激しい怒り、肛門に激痛(ダメージ:大)
[首輪ランク]:人間
[装備]:宗像形のデザートイーグル@めだかボックス
[道具]:基本支給品一式×3、不明支給品0〜6、はやぶさの剣@ドラゴンクエストV、手掘りの土竜@魔人探偵脳噛ネウロ、佐倉杏子の首輪、田村玲子の首輪、毛利蘭の首輪
基本方針:優勝できそうなら優勝し、できなさそうなら6点分の首輪を集めて脱出する。
0:あの女(村野里美)は絶対に殺す。イズミとかいうヤツも許さない。
1:殺しをやってみたい。なるべく弱そうな奴を探す。
2:超人を1人倒して6点を稼ぐ。
3:金田一には要注意。
※首輪から佐倉杏子・田村玲子の両者が『怪物』・佐倉杏子が所持していた首輪(毛利蘭の首輪)が『超人』のモノだと知りました。
※首輪の配点を知らない為、怪物=2点・超人=1点・人間=点数無しと計算しています。
※一時的に仮死状態に陥りましたが、何とか生き返りました。
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投下終了です。
タイトルは『犯人のいない殺人の夜』でお願いします。
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>>224
状態表の『肛門に激痛(ダメージ:大)』を『睾丸クラッシュ(ダメージ:大)』に訂正します。
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投下乙です
まさかの奉仕マーダー田村さん
杏子も杏子で相手が悪かったと思うけど善戦できたようで何より
多間木はやっぱりゲスだった
ちゃっかり8点分の首輪持ってるのは笑えてきます
それにしても、このロワはマーダーと1話退場者が多いですね
マーダー同士の潰し合いに期待してます
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田村のキャラ違いすぎ
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指摘するならどこがどう違うのか具体的に言って、どうぞ
それができなきゃおじさん消えちくり〜
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>>229
ふざけんな
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少なくとも後藤の為に命を賭けたりするような要素は原作にはないですよ
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遅れましたが、投下乙です。
また女性キャラが落ちたか...もう女性キャラも半分くらいになってしまってだいぶむさ苦しくなってきました。
指摘を少しだけ。
改めて読み直して思ったのですが、田村さんが後藤を保護するためになんでもしようといった描写に違和感を覚えました。
自信作とはいえ、後藤よりも自分の安全を優先すると思います。
できれば修正の検討をお願いします。
結果については特に指摘はないです。ロワなので。
ついでに、若槻、室淵、アーカード、DIOの予約を破棄します
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最新話が破棄されなかった場合は
多間木匠、後藤を予約します
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>>233
予約してくれるのは嬉しいですが、脅迫染みた言い方は控えましょうね。
とはいえ何の反応も無しではそれはそれで困るので、なにかしらの反応がなければこのまま通して8/11の0:00から多間木と村野の予約を解禁します。
なにかしらの反応があれば8/13の0:00まで修正期間を設けたいと思います。
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>>234
指摘への反応がないのに通すのもなんか変な話になりますね。
何の反応もなければ、申し訳ありませんが『犯人のいない殺人の夜』は破棄とさせていただき8/11の0/00から田村、杏子、多間木、村野の予約を解禁します。
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<削除>
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<削除>
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申し訳ない。今の今まで気付きませんでした。
◆ZbV3TMNKJw氏が指定してくださった日時までに修正版を投下致します。
結果についても大幅に書き換える予定です。
どうか御了承を。
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>>239
了解です
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8/13の0:00を過ぎましたので、杏子、村野、田村、多間木の予約を解禁します
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本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。
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