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少女性、少女製、少女聖杯戦争 二章

1 : ◆PatdvIjTFg :2015/06/13(土) 18:22:47 8CcOjq0k0






         少女達がいるのは天国にいちばん近い地獄






wiki:ttp://www41.atwiki.jp/girlwithlolipop/
前スレ:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1426526993/


2 : ◆PatdvIjTFg :2015/06/13(土) 18:23:06 8CcOjq0k0
【ルール】
版権キャラによる聖杯戦争を行うリレー小説です。
参加者の内、マスターは必ず少女でなければなりません。

【設定】
舞台はとある架空の街です。
マップの外も街や海が続いていますが、透明な壁に阻まれて脱出することは出来ません。
後述するNPCは壁の存在には気づいていませんし、平然と脱出することが出来ます。
参加者である少女たちは、この街で過ごすことに矛盾がないように偽の記憶を植え付けられて、同日同時間に、皆この街へとやってくる運びとなりました。
一般的なパロロワにおける、気が付くとOP会場にいた感じをイメージしていただければ幸いです。
少女たちは、何らかの切っ掛けで、あるいは何の前触れもなく、自分はこの街の住人ではないという真実の記憶を取り戻します。
そして、身体の何処かに三画の令呪が刻まれ、少女聖杯戦争参加の運びとなります。
同時に、少女は聖杯戦争に関する知識を手に入れます。
少女達が記憶を取り戻すまでの猶予は一週間です、早くに記憶を取り戻せば、キャスターならば陣地を作成しておく等、本番に備えて準備をしているかもしれません。
また、本番までに記憶を取り戻した少女同士で戦いが行われている可能性があります(俗に言う一話死亡【ズガン】枠です)(ズガン枠はオリキャラ且つ少女に限ります)
聖杯から夜の0時にメールによって『通達』が行われます。
携帯電話、あるいはPCを持っていない少女に対しては、手紙、テレビ、ラジオ、モールス信号、ラブレター、ルーラーによる直接的な伝言などを用いて行われます。
架空の街内には記憶を取り戻せなかった少女達と、少女達の家族や知人を模した偽物達がNPCとして存在しています。
NPCは特殊能力やサーヴァント等を持ってはいません。

【サーヴァント】
サーヴァントは記憶を取り戻すと同時に、召喚される英霊です。
マスターは皆少女ですが、サーヴァントが少女である必要はありません。
サーヴァントがマスターを失った場合、サーヴァントは消滅します。
ただし、消滅するまでに令呪を持ったサーヴァントのいないマスターと再契約を行うことで、消滅をまのがれることが出来ます。

【マスター】
サーヴァントを失ったマスターは消滅しませんが、原作における教会のような安全地帯はありません。
それどころか、ルーラー雪華綺晶は積極的にサーヴァントを失ったマスターを殺しに行きます。
マスターが令呪を失ってもサーヴァントは消滅しませんが、サーヴァント次第では裏切っちゃおっかな―チラッチラッとなるかもしれません。

<時刻について>
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜(20〜24)


≪状態票テンプレ≫

【X-0/場所名/○日目 時間帯】

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

【クラス(真名)@出典】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]

【予約期限】
一週間です

【開始時刻】
早朝


3 : 名無しさん :2015/06/13(土) 20:23:47 Ie8W0.Hc0
スレ立て乙です
それから、前スレの投下も乙でした!
二次聖杯で原作のキャラを上手く再現して描くことも当然難しいと思うのですが、今回の話は+αで二次ならではの延長線上を描き切っている感じがして凄いと思いました
原作の台詞がそれぞれ二人にとっての楔みたいなものになってるのも好きです


4 : ◆2lsK9hNTNE :2015/06/13(土) 23:59:28 .ey8ZSeQ0
皆様投下乙です
ためっていた作品感想を書いていきます

『ガール・ミーツ・ジンチョ・ゲーザーズ・ネクロマンス』
投下乙です
少女聖杯の初バトルはバーサーカー同士の対決ですね。武器がチェーンソーとバズソーというのもなんとなく似ていますね
絵理ちゃんは、聖杯戦争のことをろくに知らなそうで心配です。ただでさえサーヴァントがアレですし、結構辛い状況ですよね。
最初にあったマスターが危険人物じゃなかったの幸いですね
しかし忍殺文体上手いですね。私は書くのが精一杯で誰かの文章の真似なんて出来る気がしないです
ちなみ個人的に一番好きシーンは小梅が酒を拾ってるとこです

『開幕/きらりん☆レボリューション』
アイエエエ!? 忍殺!? また忍殺ナンデ!?
メルヘンチックな雰囲気もありながら不気味な夢が印象的です
図書館にヤクザがいるのもあるいみ不気味ですがそれとは違う意味で不気味です
雪華綺晶の独特の話し方も素敵です
しかしきらりは精神的にも状況的にも追い詰められていてこの先大丈夫なのでしょうか

それとスレ立ても乙です
だけど何もしてないフェイトちゃんはあの二人と混ぜられるのは可哀想なので、サーヴァントを使って学生を殺害したきらりに変えましょう

『空と君のあいだに』
最初の「ごちそうさま」が、書いていた話と丸かぶりしていたのでどうしようかと思いました
だけどこの話の「ごちそうさま」は明るいので、むしろ対比っぽくなっていいかなーと思ってそのままにしましたが
なのははやっぱりフェイトを探すんですね。しかしフェイト捜索に乗り出す人はわりといるのに、ルーラーに突き出そうって人は未だにいませんね
『……申し訳ありません、マスター』のセリフは何だか寂しですね
マサキの探す予備のマサキ候補も、ちょうどいい感じに条件に当てはまる人がいてどうなるか。
まあ原作でいえば残したところで結局本人の意思に負けてるんですが
しかし現状はなのはを完全に手のひらの上で動かしていますし、スキルの存在もあって木原マサキ自体が一筋縄ではいかなそうです

『Because,I miss you/逢いたくて』
この話については上手く言えないんですが文章がいいと思いました
話しては飼育小屋と葬儀を繋げたところや、お互いへの理解を深めながら現状に満足にできない二人が素敵でした
こういうキャラの心情を語るための話って地味ですけど好きです
そして四つ書いた感想のうち三つが同じ作者なことに驚くきです。皆様っていったけど二人しかいない


5 : 名無しさん :2015/06/14(日) 07:17:08 PwFfkBTc0
個人的まとめ
なぎさちゃんはD-4って書いてたけど中学校だからD-2ってことで

6月18日くらい
◆PatdvIjTFg 木之本桜&セイバー(沖田総司)、蜂屋あい&キャスター(アリス)、高町なのは、大道寺知世&アサシン(セリム・ブラッドレイ)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)

未登場
中原岬&セイバー(レイ/男勇者)
玲&エンブリオ(ある少女)

登場済

[早朝]
【B-5】桂たま
【B-4-B-5】アサシン(ゾーマ)、偽アサシン(宝具『まおうバラモス』)
【C-2】星輝子&ライダー(ばいきんまん)
【C-3】大井&アーチャー(我望光明)
【C-4】輿水幸子、クリエイター(クリシュナ)
【D-2】江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
【D-3】ララ、アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド/ジャック・ザ・スプリンガルド)
【D-3】双葉杏&ランサー(ジバニャン)
【D-7】シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)

[午前]
【B-1】海野藻屑
【D-1】アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
【D-2】山田なぎさ&アサシン(クロメ)

場所確認用のやつ
ttp://download1.getuploader.com/g/hougakurowa/4/%E5%B0%91%E5%A5%B3%E5%9C%B0%E5%9B%B3.png


6 : 名無しさん :2015/06/14(日) 18:49:41 PwFfkBTc0
【C-2】白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)、雪崎絵理
【C-3】キャスター(木原マサキ)
【D-2】諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)、ルーラー(雪華綺晶)
【????】バーサーカー(チェーンソー男)

抜け分追加


7 : 名無しさん :2015/06/14(日) 21:54:17 o3hpjte20
wikiでミスを見つけたので報告します
マップの学校の裏山の位置が間違ってます。正しくはD-1です


8 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/15(月) 03:25:05 eSsJvZos0
新スレ乙です!
まずはためてた分の感想をこの場を借りて書かせてもらいます!


>開幕/きらりん☆レボリューション
投下乙です!
開幕/なんだこれ。1レス目の衝撃。そして続く2レス目からも衝撃。なんてことだここはネオサイタマだったのか……
そこはかとなく忍殺風味ですが中身は実際重厚。
核心をついているようで煙に巻く、雪華綺晶らしいいかにもな話し口。
そしてこっそり明かされている重要ワードが「マスターがフェイトを気に入れば聖杯戦争は終わる」というもの。
そうか、きらきーが平行世界の娘としか言ってないからアリシアかもしれないと思ってるのか。もし気に入ってもらえれば……(なのは本編とフェイトの登場話を見る限り)駄目みたいですね(落胆)
そしてこの話の主人公でもあるきらり。選択の一つ一つが優しくて、彼女らしい。他人思いないい子です。
メンタルズタボロになりながらも、前を向くことを忘れないきらりんはアイドルの鑑ですね。
こんな他人思いなきらりをいじめないでください。きらりは何も悪いことをしていません。
もう一度、投下お疲れ様でした!


>燃えよ花
投下乙です!
さくらちゃんいい子や……特にキャラクターをよく表してるのが「無視してしまったら、仮に帰れたとしても、きっと前のようにみんなと笑えない」の一文。
まっすぐ前向きないい子。でも本文中でも触れられてるようにクロウカード相手とはワケが違う。
出会ってしまったのがなんと最悪の森の音楽家クラムベリー、そうだよ、そういやこいつ生前GMやってたから魔力の多い人間見つけるの得意なんだよ……こういう細かい設定をうまく使うところには感嘆です。
しかしやっぱクラムベリー強いな……能力の幅がかなり広い上に本人が使い方を熟知してるからやっかいこの上ない。
百戦錬磨のはずの桜セイバーだけど、クラムベリー相手+病弱発動じゃ分が悪いなんてもんじゃない。
結局はアリスの横槍で勝負はおあずけ。不完全燃焼のクラムベリーは更に戦いを求めて流浪の旅続行。
しかし、その結果すごく不穏なことに……
さくらちゃん……おそらく企画内でも最上位クラスの危険人物に気に入られてしまって……
死神様事件の主犯の子に心を許してしまい、友だちになって、それからどうなるかって……こりゃあもう……こりゃあもう……!!
今入ってる大型予約の転がり方次第ではそのまま急転直下もありそうな予感。
もう一度、投下お疲れ様でした!


9 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/15(月) 03:29:51 eSsJvZos0
次に諸修正の報告です

・空と君のあいだに …… 投下後に話したなのは→マサキの口調の修正、なのはの状態表に死神様事件についての記述を追加(不要ならば削除可)、木原マサキの名前修正
・匿名希望のアガパンサス …… スレッドタイトルが間違っていたのを修正
逢いたくてでもスレタイが間違っていますがwikiに繋がらないのでまた折を見て修正しておきます


そして、遅くなりましたが>>1氏がやっていたように把握に関する情報をまとめました
分からないキャラクターなどがあったら参考にしてください!

桂たま …… 天国に涙はいらない(全12巻)の第1巻終盤から参戦。基本1巻だけ読んでればいいです。

ゾーマ・バラモス …… ドラクエ3の各戦闘シーン前後のみ、往年の名作なのでセリフまとめとか戦闘シーンのみの動画とかが出回ってます。
                実機プレイが不可能な場合はこれらを参考にしていただければ問題ないかと。

大井 …… アニメ艦これ全話です。全話見てください。全話です(念押し)。アニメ艦これを! 全話です!!

我望光明 …… 仮面ライダーフォーゼ全話です。本格参戦する41話くらいからでもいいかもしれません。

星輝子 …… わりとふわふわなソシャゲ出典なのでセリフまとめとかでも結構です。

ばいきんまん …… 紹介した二作でわりとOKだと思います。必要に応じて他の作品も見てみてください。

諸星きらり …… こちらはアニメ版です。第二話(紹介)、第十話(凸レーション)、第十二話(合宿)、第十三話(ライブ)とかであらかた抑えられるはずです。

悠久山安慈 …… 単行本9巻、13巻の二冊です。他にも必要なら(おそらく全く役に立たないけど)PSゲームの十勇士陰謀編の隠しエピソードとか裏舞台本とかで。


10 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/15(月) 03:34:15 eSsJvZos0
ついでに


大井&アーチャー(我望光明)
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
星輝子&ライダー(ばいきんまん)
アサシン(クロメ)
諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
輿水幸子&クリエーター(クリシュナ)
ルーラー(雪華綺晶)


自己リレーも含みますが予約します

もし自己リレーに関して何か制限があればご指摘ください
また、もしかしたら途中で捌ききれずに数キャラ破棄することがあるかもしれません、その時はご容赦ください


11 : 名無しさん :2015/06/15(月) 08:52:57 i7w.JPjI0
おお、大型予約がまた…!!すげえ楽しみです


12 : ◆PatdvIjTFg :2015/06/18(木) 16:28:49 X3MxZ.gs0
現予約を一旦破棄させて頂きます、再予約までの間にキャラの予約がなければ予約と同時に投下になります。


13 : ◆ACfa2i33Dc :2015/06/20(土) 17:40:44 kc2Q0l.2O
玲&エンブリオ(ある少女)
アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)
キャスター(木原マサキ)
予約します


14 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/22(月) 03:00:24 sN09Ub7.0
さすがにちょっとメンツ欲張りすぎました
時間が間に合いそうにないので一旦破棄させていただきます


15 : 名無しさん :2015/06/22(月) 19:05:51 /BpCLPfI0
お、玲と春奈にもようやく予約が来たな


16 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/25(木) 22:22:01 WiDp3jVE0
>>10のメンツ再予約です
目算あと2レスくらいなんで早けりゃ明日くらいには投下できると思います


17 : ◆ACfa2i33Dc :2015/06/27(土) 15:12:13 j1wYh6/2O
2時間後には間に合いそうにないので一旦予約を破棄します
遅くても月曜くらいには投下できるとは思います


18 : 名無しさん :2015/06/28(日) 00:12:11 3A0aQUaw0
了解です
待ってます


19 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:36:22 jQoTyjZU0
宣言した時間からは大いに遅刻しましたが

大井&アーチャー(我望光明)
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
星輝子&ライダー(ばいきんまん)
アサシン(クロメ)
諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
輿水幸子&クリエーター(クリシュナ)
ルーラー(雪華綺晶)

投下します


20 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:37:51 jQoTyjZU0
―――二枚の手紙と招待状。
     宛先不明の交換日記。
     無人の家で受け取る電話。
     学生服と地縛霊。
     握った左手に刻まれた呪い。
     食べたお菓子はどこまで響く?
     あなたはいつまで気づかない?
     踊る町並み人の影。
     笑う三つのお人形。

     一人は一人のままだけど、
     一人は二人でいるらしい。

     一人が二人に出会い、
     一人が一人と出会い、
     二人が一人と一人に出会い、
     最後に二人の神様が生まれた時の話。


21 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:38:16 jQoTyjZU0

  ◇◆◆


  商店街を、外ハネが揺れる。
  あっちにゆらゆら。こっちにゆらゆら。ぴょこぴょこぴょんぴょこ、ゆらゆらゆら。
  まるで波間を漂う木切れのように、不規則に揺れる。

  外ハネの主、輿水幸子は途方に暮れていた。
  諸星きらりを探すと啖呵を切ったはいいものの、彼女がどこに居るのか皆目検討がつかない。
  聖杯戦争の舞台は広い。歩き回っていては一週間あっても足りないだろう。
  更に(なぜだか知らないが)きらりの携帯番号もメールアドレスも携帯からすっぽり抜け落ちていた。
  ドコに行けばいいのかわからない。なにから探せばいいのかわからない。
  まったく行く宛なしの打つ手なし。

  ただ、だからといって立ち止まってはいられない。
  こうしている間にも、聖杯戦争は続いていく。
  放っておけば、彼女のサーヴァントであるクリエイターは必ず行動を起こすだろう。
  放っておけば、きらりは誰かの悪意によってひどい状況に追いやられてしまうだろう。
  そんなことさせるもんか。
  こんな聖杯戦争なんて、やらせてたまるもんか。
  そのためにも、幸子は動かなければならなかった。
  何かが起こるより先に、なにか打開策を見つけなければならない。

  幸子はきらりのことをよく知っている。
  身体は人より大きいし、愛情表現が人より過激で、たまに舞台のセットを壊したりもする人だけど、誰かを殺すなんて、そんな悪人なんかじゃない。
  彼女は人のことを思いやれるし、人のことを心配できるし、人を傷つけるのを何より嫌がるような人だ。
  事件なんていうのも誰かがでっち上げたに違いない。

  幸子を突き動かしているのは、なにより、アイドルであり良き友であるきらりへの信頼だった。

  行く先の見えない不安に押しつぶされそうになりながら、それでも自慢の虚勢で胸を張り。
  とりあえず人の多そうな場所から探してみようと思って商店街(C-2)に来たはいいが。

「な、なんですか、これ……」

  あまりの現実離れした状況に、目眩を起こしかける。

  商店街はまるで嵐か何かが通り過ぎたあとのようだった。
  壁面一面に刻まれた無数の傷跡。
  同じくコンクリートにも走っているこれまた無数の傷跡。
  看板が切り落とされ、商店街のゲートに飾られている人形はちょんまげが綺麗に刈り上げられている。
  改装だとしたら思い切った趣旨替えだ。

「……て、んなわけないでしょう!」

  一瞬現実逃避しそうになった自分に喝を入れる。
  現実から逃げたところで何も変わらない。
  これは、間違いなく戦いのあとだ。
  誰かにとっての聖杯戦争が、もう始まっているのだ。


22 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:38:37 jQoTyjZU0

  聖杯戦争。
  殺す力を持った者同士の争い。
  それをそのまま表したような商店街の惨状に身震いする。
  クリエイターの能力はあまりに現実離れしていて恐怖感が薄かった。
  あの世界を見続ければ精神が崩壊する、と言われても、リアリティがなかったから虚勢を張れた。

  だが、この戦場には、この商店街で起こったような生々しい戦いがある。
  引き裂き、斬り捨て、粉々に砕く。周囲の建物すらも破壊する、実際の戦争のように泥臭い戦いが。
  遠く離れた異国の戦場なんかじゃなく、この世界の、幸子のすぐ側で、そんな戦いが起こっている。

  もし、こんな戦闘に巻き込まれてしまったら、カワイイ以外に武器がない幸子なんてそれこそ、蟻ん子を踏みつけるように簡単に殺されてしまうだろう。
  幸子じゃなくたって、普通の人だったら誰だって巻き込まれたら無事じゃすまない。
  無数の傷跡の先に血が通っていなかったのが幸いだ。

  胸を撫で下ろそうとして、はっと気がつく。
  彼女の親友と言っても過言ではない二人、星輝子と白坂小梅。
  彼女たちの家は、この商店街から遠くない場所にある。
  彼女たちがもし巻き込まれていたら……

  そう思うと、居てもたっても居られなくなった。
  小梅に電話をかける。留守電だった。
  輝子に電話をかける。こちらも数回の呼び出し音のあと、留守電に繋がった。
  最悪の状況が頭をよぎるが、ぶんぶんと頭を振ってその考えを吹き飛ばす。
  まわりの店の人が喋るのを聞く限りでは、被害者はゼロだということ。
  単に都合が合わなくて電話に出られないだけ。きっとそのはず。

  三回深呼吸をして、携帯に向き直る。
  もう一度、連絡を取る。
  今度は留守電じゃなくて、開いた瞬間にメッセージが伝わるようにメールで。


23 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:39:40 jQoTyjZU0

  ◇◇◇


「ふ、ふ、ふー……フフフー」

  中学校、三年生の教室。
  机に突っ伏して足をぶらぶらさせる少女が一人。
  少女・星輝子は時間を持て余していた。
  宿題も終わってるし、予習も終わってる。ノートの清書もばっちり。
  聖杯戦争が始まったと聞いたが、それもまだ特に関係ない。

  クラスではあまり交友関係を築いていない彼女にとってホームルームまでの十数分や授業合間の短休憩などは特にやることもないので、いつも通りぐだぐだしながら過ごしていた。
  手持ち無沙汰に携帯を取り出すと、着信を知らせるライトが点滅していた。

「……?」

  何かあったのかと思い携帯を見ると、電話着信と、ついでにメールも来ている。
  どちらも幸子からのものだった。

  慣れない手つきでぽちぽち携帯を操作してまずはメールの方を確認する。



【from:幸子ちゃん
 件名:無題
 本文:ボクは今日は調子が悪いので欠席させてもらいます。
     ところで、商店街が騒がしいのですが大丈夫ですか?
     二人に何もないようならいいのですが。

     追伸
     きらりさんを見かけたら、ボクが話したいことがあって探していたと伝えておいてください。】


24 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:40:40 jQoTyjZU0

  絵文字や顔文字などで飾られていない。
  カワイイ見た目からは想像出来ないほど簡素な文章。
  いつも通りの丁寧な、幸子らしい文章だった。

「そっか……今日は、来ないのか」

  少しだけ寂しくなる。
  輝子はだいたい、友達というものが少ないので、数少ない友人である幸子・小梅と一緒にいる時間がとても大好きだった。
  それがなくなるというのは、とてもつらい。

「ま、まぁ……そんな日も、あるよね……」

  でも、わがままは言えない。
  調子が悪い時は休むべきだ。無理をシてもいいことなんてない。

  そう割り切って、返信の文章を打とうとして、不意に不思議な感覚に陥る。
  今日のこれはそれを差し引いても少しおかしな文章だ、という感覚、
  調子が悪いから欠席するのに、きらりも探している。
  なんとなくおかしな気がする。なにか隠し事でもしているんだろうか。

「……ふ、フフー……フフフー」

  でも、幸子は確かに輝子の友達だけど、友達だからって全部を全部知っているわけじゃない。
  いつか知れればいいなぁと思うけど、今根掘り葉掘り聞こうとも思わない。
  そうして輝子は、特に深く探るようなことは書かないことに決めた。

  ぽちぽちとボタンを操作して幸子に返信メールを打つ。
  そして、少し考えて、ぽち、ぽち、ぽちと追記を打つ。

  送信ボタンを押し、数秒の沈黙の後、席を立った。
  授業開始まではもう少し時間がある。
  今からなら、手短に済ませれば大丈夫だろう。

  ふらふらと風が吹けばこけてしまうんじゃないかというような足取りで女子トイレに入り。
  個室のドアを閉め、鍵も閉め、携帯を取り出して電話帳から目当ての番号を探す。

「おお、あった……」

  開いたアドレス名は『自宅』と書かれていた。


25 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:41:25 jQoTyjZU0

  ◇◇


  マンションの一室に呼び出し音が鳴り響く。
  無人のはずの部屋の奥、きのこの山の向こう側。
  ともすれば『工房』とも呼べそうな、不思議な生物とエンチャント用の機材で埋め尽くされたマンションらしくない空間。
  その中心に座していた、火花避けのゴーグルに白衣という科学者らしい格好をしたミニサイズの使い魔(のようなもの)が声をあげる。

「かび!」

  その使い魔の声に、同じように白衣を着て瓶底眼鏡をかけたチリ毛アフロの英霊が振り向き、電話の方へと近づいて受話器を取った。

「もしもし」

『ライダー? わ、私……』

「うん? ああ、マスターか。なんだ」

『もしかしたら、幸子ちゃんが、そっちに行くかもしれないから……よろしく』

「はぁ? お、おい、いきなりなにを……」

『じゃあ、授業始まるから……ばいばい、頑張って』

  聞くよりも早く、電話が切られてしまう。
  電話を取った英霊―――ばいきんまんは、顔の色が紫から赤に変わるんじゃないかというくらいぷりぷり怒った。

「まったく、あいつってば、また俺様になぁーんも言わずに勝手に決めて!」

  受話器を叩きつけ、更にぷりぷり怒りながら自身の『工房』に戻った。


26 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:42:28 jQoTyjZU0

  ライダーは輝子にはついていかず、自宅にこもって自身の宝具のエンチャントを行っていた。
  ついていったところで戦力になれないのは決まりきっているのだから、まずは二人は別行動。非常時には令呪で呼べばいい、ということで。
  輝子側からも特に苦情はなく、するすると序盤の方針は決まった。

  現状、ライダー自身にこの聖杯戦争における目標のようなものはないので輝子の方針通りにエンチャントを行っている。
  準備期間中に『バイキンUFO』と『もぐらん』搭乗員枠を最大数まで拡張してある。
  現在は『バイキンUFO』に逃走用の加速機能と、地面に居るNPCを拾えるように『掃除機ノズルアーム』を作成中だ。
  さらに午後になれば『もぐらん』を(気配遮断効果が得られる)地中でエンチャントを行うつもりだった。

  だというのに、来客があるとなると、その計画が狂ってしまうじゃないか。
  やれやれと大きく溜息をついて、かけていた瓶底眼鏡をクロスで拭きながら側のかびるんるんの一体に命令を言い渡す。

「写真を取ってきてくれ」

「かび!」

  言われたかびるんるんがタンスの一番上の引き出しから一枚の写真を取り出して運んでくる。
  写真を一人+無数のかびるんるんで覗きこむ。
  その写真に写っていたのは、薄い髪色の少女、淡い金髪の少女、そして彼らのマスターである輝子。
  いつもよりきらきらとした衣装を着たマスターを少し興味深げにしげっと眺めたあと、輝子と仲の良いかびるんるんたちに尋ねた。

「で、サチコってどっちだったっけか。お前ら知ってるか?」

「「「「「かび!」」」」」」

  かびるんるんが一斉に薄い髪色の少女の方を指す。

「こっち? 本当にこっちであってるのか?」

「かび!」「かび? かび〜」「かびかび?」「かび!」「かびかび!!」

「そうか、こっちか」

  輝子とかびるんるんが仲良くしてたのは、こういった自体に備えての部分が大きい。

  ライダー自身がエンチャントにかかりきりであると、どうしても情報交換が疎かになる。
  かびるんるんはこう見えても知能が高い。
  ライダーの宝具である三種のメカのうち、『もぐらん』の操縦をライダー不在時代わりに行うことだって出来る。
  エンチャントに関する指示を出せば従うし、与えられた作業はだいたいそつなくこなす。特殊能力も含めて、実に優秀な使い魔だ。
  さらに、彼らはかびかびとしか喋れないが、彼らの言葉がわかるライダーとは会話が可能だし、逆にライダーの言葉(一般的な人間の言語)を理解できる。
  かびるんるんが輝子の話をすべて聞いていれば、ライダーはエンチャントにかかりきりでもあとあとその情報を聞き返すことが可能となる。
  もちろん、かびるんるんは楽しいことが大好きだし輝子がかびるんるんとライダーを気に入っている、という事のほうが大きな理由だが。

  ライダーとかびるんるんの一部がエンチャント。残りのかびるんるんが原木を腐らせてキノコの育成+魔力供給(微)をしたり輝子と話したりをする。
  ライダーはディフォルメチックな見た目にそぐわず、実に理にかなった使い魔運用を行っていた。


27 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:43:31 jQoTyjZU0

  事前打ち合わせで、マスターが三人で取った写真をもらっておいて正解だった。
  保護対象がはっきりしているのは、ライダーとしてもやりやすい。
  不意な来客の場合も、この写真に写っている人物ならば輝子の知り合いであると判断できる。

「……しかしなぁ……こいつ、信用できるのかぁ?」

「かびぃ?」

「俺様どーもマスターの方針ってやつがよくわかんないんだよなー」

「かびかび」

「なにぃ? 『なにか考えがあるはず』だってぇ? そうは思えないがなぁ。
 単に仲良しだからって……聖杯戦争中なんだぞ、今!」

  白衣を脱ぎ、チリ毛のカツラを外し、タオルで汗を拭きながらつぶやく。
  まぁ、確かにあのマスターの友人なら悪いやつではないのだろうが。
  ライダーは知っている。戦いは何があるかがわからないんだ。
  勝負はなにかのきっかけで逆転されるし。仲間はすぐに裏切るし。どれだけ確率を100%に近づけようと不確定要素は絶対に紛れ込んでくる。
  ライダーの思い通りに行くことなんてせいぜい宝具の向かう先とかびるんるんへの指示くらいしかない。
  輝子はその辺をどうも甘く見てる、とライダーは思う。
  その分ライダーが少し過剰なくらい警戒しておいて損はない。

「信じろって言ってるから多少は信じるが、だからってすぐに入り込ませるもんか!
 もし襲ってきたら、そんときゃ俺様容赦しないかんなぁ!!」

  もしその幸子とかいう少女が輝子の優しさにつけこんでライダーに襲い掛かってくるようなら容赦はしない。
  ぎったんぎったんのめったんめったんに踏み潰してやればいい。
  友人と戦うのは輝子はあまり喜ばないだろうが、生け捕りにすれば怒りもしないだろう。

「だとすると、トリモチバズーカなんかも作っておいたほうがよさそうだな」

  ライダーは広げた設計図にさらさらと図を書き足していく。
  その行為には一切の淀みがない。

「よぉし、かびるんるん! 新しい設計図だ!」

「「「「「かび!!」」」」」

  壁に改定図が貼りだされる。
  そこには数十秒前までは影も形もなかったトリモチバズーカの設計図と組み立て図が書き加えられていた。
  その改定図をしっかり確認して、作業員かびるんるんたちは再び作業に取り掛かった。


28 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:45:01 jQoTyjZU0

  ◇◇◆

  幸子の携帯がメロディを奏でる。
  着うたは当然『To_my_darling…』。カワイイ歌声で着信がすぐわかる。実際便利。
  慌てて中身を確認する。

【from:輝子さん
 件名:Re.無題
 本文:私は特に変わりないぞ
     最近物騒だから、なにかあったら私の家に来るといい。安全だ】

「輝子さんの方はひとまず無事みたいですね……」

  あまりそんな印象は持てないだろうが、輝子と小梅でマメな方は意外にも輝子だ。
  小梅の方はわりとマイペースなので、返信は気が向いた時になるだろう。

「まったく! こっちの気も知らないで!」

  ぷりぷりと怒りながらも輝子の文章を再確認する。
  後半のちぐはぐな気遣いにも、なんとなく輝子らしさを感じる。
  危ない時があったら寄っていいよと書いてあるが、輝子が居ないのに上がるのは無作法じゃないだろうか。
  まあ、輝子はそういうところに無頓着な部分があるから追求してもしょうがない。
  だから、まぁ、本当に危なくなったら。
  絶対にないと思っているが、本当に危なくなったら寄らせてもらおう。

「……小梅さんの返信は、いつ頃になるでしょうね」

  一度溜息をつく。小梅のことだから、確認を忘れていた
  携帯をポケットに仕舞おうとして今朝のやりとりを思い返す。
  携帯で見た通達、そして掲示板。
  そういえば、あの掲示板はどうなっただろう。
  4レス目以降ぱったりと書き込みが途絶えて、画面の向こうの相手になにかあったのかと心配していたが、きらりの事もあってそこで幸子は確認せずに。

  もしかしたら、謝罪の言葉が書き込まれているかもしれないと思い掲示板を開いてみると、スレッドが一つ増えていた。
  タイトルは「きらりさん、見てますか」
  慌てて中身を確認する。
  しかし、中身は今朝のものとは違い、心の底からきらりを心配した文章。
  幸子は心の中に春風が吹いたような心地だった。
  こんな戦争でも、友人のことを心配する優しい人物が居るという事実を認識して、暗い気持ちが少しだけ明るくなる。

「クリシュナさんはああ言ってましたけど、皆が皆やる気なわけじゃないんですね! 安心しました!」

  自身を鼓舞するように口に出す。
  あまりの嬉しさに、掲示板に喜びのレスをしようとして、とある事実に気付き指が止まる。
  この人が、きらりを知っているということは……?

「ひょっとすると、ボクの知り合い……かもしれませんね」

  きらりはそのキャラクター性と大きな体躯とたっぷりな愛嬌で(幸子には少し及ばないがそれでも凄く)カワイイアイドルだ。
  ファンは男女問わず多数存在するだろうから、そんなファンの一人が書き込んだのしれない。
  でも、もしかしたら、仕事仲間のアイドルの誰かが書き込んだのかもしれない。
  幸子ときらりのプロダクションには単なる顔見知りも含めれば、200人近くのアイドルが在籍している。
  共通の知り合いも多い。

「……とりあえず、確認してみないと始まらないですよね!」

  そう決めて、メールアドレスをタップする。
  でも、誰かわからない相手にいきなり『お久しぶりです!カワイイボクですよ!』なんてメールを送るほど無作法ではない。
  幸子は少しだけ考えたあと、文章を打ち込み、メールを送った。
  少し間を置いて、再び『To_my_darling…』が流れる。
  今度の着信は、未登録アドレスから。でも、見覚えはある。先ほど送ったアドレスからだ。

  メールには意外な内容が書かれていた。

【from:SUPER_Kitakami_sama@
 件名:Re.掲示板の件について
 本文:あなたが誰かはわからないので、名前だけ名乗らせていただきます。
     私はエノシマといいます。きらりさんと同じ高校に通っていた者です】

「『エノシマ』……?」

  聞き覚えのない名前を一度口ずさむ。
  その声は、商店街の雑踏の中に消えていった。


29 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:45:49 jQoTyjZU0
【C-2/商店街周辺/1日目 午前】

【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、怒り、恐怖(小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争をカワイイボク達で止めてみせる
1.諸星きらりに会う
2.『エノシマ』とメール。
3.商店街で起こった事件が気になる。
4.何かあったら輝子の家に避難……?
[備考]
※商店街での戦闘痕を確認しました。
※小梅と輝子に電話を入れました。
※大井のスレを確認してメールを送信しました。
 また、小梅と輝子に「安否の確認」「今日は少し体調がすぐれないので学校を休む」「きらりを見かけたら教えて欲しい」というメールを送りました。


【D-2/中学校 三年生の教室/1日目 午前】

【星輝子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]多機能携帯電話
[所持金]一人で暮らせる程度にはある
[思考・状況]
基本行動方針:幸子ちゃんと小梅ちゃんを守る。
1.学校で小梅ちゃんを待つ。
2.フェイト・テスタロッサが気になる。
3.緊急時にはライダーを令呪で呼ぶ。
4.きらりちゃんを探す。
[備考]
※掲示板を確認していません。
※念話は届きませんが何かあったら自宅に電話をかけます。


【C-2/マンション/一日目 午前】

【ライダー(ばいきんまん)@劇場版それいけ!アンパンマン】
[状態]平常、魔力消費(小)、魔力回復(微)
[装備]宝具『俺様の円盤(バイキンUFO)』、『地の底に潜む侵略者(もぐらん)』、『踏み砕くブリキの侵略者(だだんだん)』
[道具]カワイイボクと142'sの写真、白衣+チリ毛カツラ+瓶底眼鏡の発明家コス
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:宝具を改造して、準備を整えてから行動したい。
1.『俺様の円盤』をエンチャント中。午前中には加速機能と掃除機ノズルアーム・トリモチバズーカが完成。
2.午後には人目につかない場所(地下)で『地の底に潜む侵略者』をエンチャント予定。加速機能と索敵レーダーを開発。
3.輝子緊急時には見られることを気にせず宝具で逃亡。
4.幸子が来たらどうするかな……
[備考]
※マンションの一室をエンチャント部屋として使用中(作中表記は『工房』ですが陣地ではありません)。
※原木にかびるんるんをとり付かせることで魔力回復(微)の効果を得ます。星家の原木がキノコパラダイスになれば効果がなくなります。
※現在の宝具エンチャント。
『俺様の円盤』……搭乗員数最大拡張
『地の底に潜む侵略者』……搭乗員数最大拡張
『踏み砕くブリキの侵略者』……搭乗員数最大拡張
※輝子の素質上の問題で念話は届きませんが星家に電話がかかってくると応対を行います。


30 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:46:14 jQoTyjZU0
  ◇◇◆◇


【from:Boku_is_kawaii@
 件名:掲示板の件について
 本文:あなた、誰ですか? きらりさんの知り合いっていうの、本当ですか?】


  学校につく少し前、大井のスマートフォンにこんなメールが届いた。
  掲示板の書き込みを見てのメールだろう。
  今朝以来、再び自身の幸運と神の計らいに感謝する。
  早速効果があったようで、内心ガッツポーズを握る。
  しかし、少し喜んだあとで、考える。
  この送り主はどういった立ち位置からメールを送ってきたのだろう。
  この本文では、送り主の情報がまったくわからない。
  もしかしたらきらり本人かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
  友好的な相手なのか、敵対目的の相手なのか。
  それともただのカマかけなのか。
  どれにしろこちらの情報は渡さないにこしたことはない。


  じゃあどうすればいいか。
  簡単だ。バレてもいい名前を使えばいい。
  大井は丁度、都合のいい名前を知っている。
  聖杯戦争の参加者であり、きらりのことを探っていた人物であり、高校にかよっている人物。
  『エノシマ』。
  彼女にすべての泥を被ってもらえば、大井の払うリスクは最低限で済む。

  大井は特に躊躇せずにその名前を騙って返信を出した。
  相手がそうしてきたように、こちら側の情報も名前以外は一切をひた隠しにして。

  これで、次は彼女のほうが手の内を明かしてくる。
  その情報からまた新たな作戦を立てて、初日最大の目標である『参加者衝突』へと向かわせる。
  もし、メールを送ってきたのが『エノシマ』本人だったとしたら……その時は、『お前のことを知っている』と仄めかしてやればあっちは勝手に混乱してボロを出してくれるだろう。

  大井は左手で器用にスマートフォンをいじりながら他者より優位に立っているという実感を手にしていた。
  今日の大井は、過去一番に冴えていると言っていいかもしれない。
  これなら、あと数日の内に北上を取り戻せるかもしれない。
  いや、取り戻せる。確実に。
  スマートフォンを持っている左手の代わりに、右手で北上の愛情のこもったお守りを握りしめる。
  ほんのり暖かい気がした。

「ねえ、そこの人」

  そんな愛に溺れかけていた時、不意に背後から声がかけられた。

「はい?」

  大井が振り向くと、まるで妖精のように小さな女の子が立っていた。


31 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:47:14 jQoTyjZU0

  ◇◇◆

  朝の日差しが眩しい。というよりも、痛い。
  全体的にさわやかで黄色めいた空気がくすぐったい。
  道行く人々の活気に酔いそうになる。
  ニート特化型のニフラムがあるとすれば、それは朝の通学路だ。

  双葉杏は、そんなことを考えながら頭に叩き込んだ地図を思い出しながら道を歩いていた。

『どこに向かってるんだニャン?』

(学校。高校)

  杏は今朝、あのスレッドを見てから、少しの身支度を整えてすぐにタクシーを呼んだ。
  タクシーに乗って、(そのまま敷地内まで乗り込むのはあまりに目立ちすぎると思ったので)学校の近くまで乗り付け、そこから少しの距離だけ徒歩で移動。
  その道すがら、杏とランサー・ジバニャンは他愛もない話をしていた。

『きらりちゃんって子を探すんじゃなかったニャン?』

(そうだよ)

『でもマスター、オレっち、きらりちゃんって子は高校に居ないと思うニャン』

(知ってるよ。ていうか、居るわけないじゃん)

  一切間を置かずに肯定する。
  その返答を聞き、ランサー・ジバニャンは信じられないと声を(念話だけど)荒げた。

『言ってることとやってることがむちゃくちゃニャン!!』


32 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:48:19 jQoTyjZU0

(ん、そーでもないよ)

  杏の目指す道は常に最短距離だ。
  闇雲とか手探りなんてのは彼女の信条から最も遠い場所にあると言ってもいい。
  だから、真っ先に切り捨てたのは『どこに居るかわからないけどとりあえず探す』だった。

(高校に行くのは、きらりの情報が知りたいから)

  電話番号もわからない。メールアドレスもわからない。住所も別の場所になっている。
  でも、確実にきらりはこの舞台にいる。
  ということはこれまた確実に、きらりの情報がどこかに存在する。
  杏に与えられた情報の中できらりの情報が確実にある場所と言ったら、事件発生まできらりが通っていたという学校しかない。
  だからこそ、ニートは重い腰を上げ、無意識のニフラムが飛び交う通学路を歩くことを決めた。

(できれば、家の場所とかケータイの番号とか聞ければいいんだけど、そう上手くいかないだろうなぁ。
 聞き込みが上手くいかなかったら、忍び込んで盗んできてね)

『万引きかニャン!? 嫌だニャン! そんなことしたら、オレっち可愛いから事務所に呼び出されてなんでも言うこと聞かされちゃうニャン!!』

  霊体化していて見えないが、今きっとランサーはものすごく面白い動作をしていることだろう。
  生意気な奴めぇと叩いてやりたかったが人前で、霊体化したジバニャン相手にそんなことしたら確実に杏のほうが変人扱いを受けてしまう。
  だから話半分で聞きながら、道行く少女たちを物色する。
  きらりの事件はインターネットサイトでニュースとして纏められているくらいには有名だ。
  校内に知っていない人が居ないとまでは言わないが、石を投げればきらりのことを知っている人に出会えるんじゃないだろうか。

  だが、その少女が杏の欲しているきらりの情報を知っている可能性はどれほどか。
  そして、知っているとして、杏に教えてくれる可能性はいかほどか。
  おそらく、かなり低い。
  手っ取り早く盗めば早いが、このおっちょこちょいでマイペースなランサーが完璧に仕事が出来るとは思えない。
  見つかったらきらりを探すどころじゃない。杏のほうが先に刑務所送りになってしまう。

  だからといってここであまり時間を割くわけにもいかない。
  きらりの情報はすでに参加者たちに向けて拡散されてしまっている。事態は急を要するのだ。

「三人駄目だったら盗んできてね」

『……当たれー、当たれー……』

  ランサーの呪詛めいた念話をBGMに、手始めに目についた少女に声をかける。

「ねえ、そこの人」

「はい?」

  亜麻色のロングヘアの少女は、スマートフォンをいじっていた手を止めて振り向いた。
  なかなかの美少女なんじゃないだろうか、というのが杏の彼女に対する第一印象だった。


33 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:50:03 jQoTyjZU0

「諸星、さん?」

「そ。知らない?」

「聞いたことがありませんね。その人に何か御用なんですか?」

「……んん? ……んー……いや、そういうわけじゃないんだけど」

「そうですか……」

  少女が右手に持ち変えたスマートフォンをポケットにしまい、そのままその右手を顎に添えて少し考える素振りをする。
  杏の目が少しだけ細くなる。

「いや、わからないならいいんだけどさ」

「……少し待っててもらえますか? 先生に聞いてきますので」

「……いいの?」

「はい。せっかく来ていただいたのに何もなしで突っぱねるのは気が引けますので」

  礼をして少女が立ち去る。
  それを確認してから、霊体化していたランサーが杏に念話で話しかけてきた。

(いやぁ、最初からいい人に会えてよかったニャン。これでオレっちもワルに手を染めることなく……)

  浮かれるランサー。
  しかし、最初の難関をクリアしたというのに、杏の方はかなり釈然としない顔をしていた。
  そして、たっぷり間をとったあと、ランサーに念話でこう伝えた。

(ランサー。ちょっと動ける準備しといて)

『どうしてニャン?』

  杏はニートだ。
  だが、愚鈍ではない。
  むしろ常人と照らし合わせれば聡明の部類に入るだろう。

  その杏の目から見て、亜麻色の髪の少女は、どうもちぐはぐだった。
  おかしい、と思う部分が幾つもある。
  杏を見たあとで少し霊体化したジバニャンの方に目を向けたとか。
  左手でスマートフォンをいじっていたのに、杏が声をかけてから右手に持ち替えて左手をポケットに入れたとか。
  きらりのことを知りたいと尋ねた杏に即座に協力を申し出たこととか。
  なにより、きらりの事件について一切知らないふうに振舞っていたこととか。


34 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:50:40 jQoTyjZU0

  きらりのことを『知らない』『聞いてくる』というのが、杏にとってはどうも咬み合わない返答だった。
  高校に通っていてあんな凄惨な事件を知らない人物が居るだろうか。
  そのことについて調べようとした人間に対して快く協力を申し出る人間が居るだろうか。
  なんとも腑に落ちない。

  そこまで考えて、杏の脳内にある推理が組み上がった。

  あの詳しく書き込まれていたスレ。
  あのスレには当然立てた人物がいる。
  あそこまで詳しく情報を集められるということは、高校の内部にマスターが居る可能性は高い。
  
  その少女はなぜスレを立てたのか。
  その少女が目指すところはどこなのか。
  それはもしかすると、きらり個人の破滅以外にもあるんじゃないだろうか。

(……これは、とんだ大当たりを引いちゃったかな)

『言ってる意味がさっぱりだニャン! もっとオレっちにもわかるように説明するニャン!!』

  ぽりぽりと頭をかく。
  日光に当たりすぎたせいでいつもより頭が活発に動いたんだろうか。
  こんな立ち回りは杏っぽくないのになぁと思う。
  杏は小さく溜息をついて、こう答えた。

(なんとなくだよ。なんとなく)

  言ってしまえばなんとなく。
  双葉杏は、なんとなく、かの亜麻色の髪の少女―――大井のことをかなり警戒していた。


35 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:51:17 jQoTyjZU0

  ◆◆


「はい。せっかく来ていただいたのに何もなしで突っぱねるのは気が引けますので」

  自分でも気持ち悪くなるくらい朗らかな笑みを浮かべ、頭を下げる。
  そして少女に背を向けたまま、大井は内心ほくそ笑みながら校舎の方に向かって歩いた。
  鴨が葱を背負って来るとはこのことだ。
  まさかサーヴァントを霊体化させた状態でお供に従えて来るとは思っていなかったが、おかげで手間が一気にはぶけた。

  あの金髪の少女の方は隠してるつもりだろうが、大井はすべてお見通しだった。
  彼女は掲示板を見て諸星きらりの情報を探りに来たのだろう。
  なんとも愚かだ。馬鹿なマスターが針の見えてる餌に引っかかって大井の大願成就のためにのこのこやってきたのだ。
  出来ることならばこの場でアーチャーに命じてぶち殺してやりたいところだったが、それはさすがにやめておいた。
  通学時間で人目につきやすいし、この学校には本物の『エノシマ』が居る。
  『エノシマ』に存在を知られてしまうと、大井の立ち回りはそうとう厳しくなる。

(アーチャー、聞こえますか)

『なんだろう』

(校門のところに聖杯戦争の参加者と思わしき少女が居ます。監視していてください。
 もし逃げるようならば連絡をお願いします)

  簡潔なやりとりを終える。
  これでもし、あの少女が逃げるようなことがあってもこちらの優位には変わりない。
  むしろ、人目につかない場所に逃げてくれればこちらとしては非常にやりやすい。

  先ほどのメールを確認する。
  返事はまだ届いていない。
  もしもメールの相手が好戦的な人物なら、人目につかないところにこいつを誘導した後でぶつけてやればいい。
  順序が逆になってしまうが、それでも交戦が引き起こせるならよしだ。  

  どう捌くか。
  どう操るか。
  どう戦局を動かしていくか。
  さあ、ここからは大井の腕の見せどころだ。
  この二人を利用しつくして、一日目で望める最大限の戦果をあげる。
  せっかくの機会だ。あの無能が服を着て歩いているような脳筋長門よりも上手く戦況を動かしてやろう。
  これも北上への土産話になる。
  艦隊に帰った時にあの木偶の坊の鼻をあかすいい経験になる。
  まったく、神様は粋な計らいばっかりしてくれる。

  大井は、今朝以来、再び神の思し召しに感謝した。




  ―――大井自身自覚はないことだが、彼女は割と自信過剰なタチだった。


36 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:52:15 jQoTyjZU0
【D-2/高等学校来客口側/1日目 午前】

【双葉杏@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、焦燥感
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]携帯ゲーム機×2
[所持金]高校生にしては大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:なるべく聖杯戦争とは関わりたくなかったが
0.諸星きらりに会う
1.そのために高校で諸星きらりの住所について調べる
2.少女(大井)を警戒。どうするべきか。
[備考]
※大井と出会いました。大井を危険人物(≒きらりスレの>>1)ではないかと疑っています。

【ランサー(ジバニャン)@妖怪ウォッチ】
[状態]健康
[装備]のろい札
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:なんとなく頑張る
1.双葉杏に付いて行く


【D-2/高等学校来客口側/1日目 午前】

【大井@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]満腹、健康
[令呪]残り三画
[装備]北上の枕の蕎麦殻入りお守り
[道具]通学鞄、勉強道具、スマートフォン
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:北上さんへの愛を胸に戦う。
0.聖杯戦争に北上さんが居る可能性を潰す。
1.諸星きらりとエノシマという女子高生、各種噂を警戒。
2.メールを送ってきた人物をどこかしらに集める。
3.2.の場所に少女(双葉杏)も上手いこと誘導する。
4.メールの件が片付いたらしばらくはNPCとして潜伏する。
[備考]
※双葉杏を確認しました。魔力反応から彼女をマスターではないかと疑っています。
※北上が参加者として参加している可能性も限りなく低いがあり得ると考えています。北上からと判断できるメールが来なければしばらくは払拭されるでしょう。
※『チェーンソー男』『火吹き男』『高校の殺人事件』『小学校の死亡事件』の噂を入手しました。
 また、高校の事件がらみで諸星きらりの人相・性格、『エノシマ』という少女が諸星きらりを探っていたことを教師経由で知りました。
※フェイト・テスタロッサの顔と名前を把握しました。
※輿水幸子からメールが届きました。


37 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:54:03 jQoTyjZU0
  ◆◆

  ぽり。
  ぱりぽりぱり。
  しゃくしゃく。
  ぱき。

  いくら気をつけても、音が鳴るものはしょうがない。
  だからいっそ気をつけないことにした。
  音を鳴らさないように気をつけて、お菓子の量を減らして、いざ戦闘って時に全力が発揮できなければ本末転倒もいいところだ。
  それに、お菓子を食べている自分に気付けるサーヴァントは、お菓子を食べていようがいなかろうが最初から見抜いてくる。
  逆に気づかないサーヴァントは音を聞いていても木々のざわめき程度にしか感じない。
  気配遮断はだいたいがそういうスキルだ。
  アサシン・クロメは楽観でもなく驕りでもなく、冷静に自分の能力を判断してそう結論づけた。


  なぎさから指示があって十数分後。
  中学校の屋上の上でお菓子をいつものペースで食べ続けているが、未だにアサシンが誰かに見つかった様子はない。
  それもNPCだけでなく、至近距離に突然現れた、英霊と思わしき男にも、だ。

  クロメがぽりぽりとお菓子をかじっていると、突然向かいの高等学校の校舎の屋上に男が現れた。
  音もなく、まるで手品のように。『居ない』から『居る』に切り替わるように。
  考えるまでもなく、サーヴァントだ。
  霊体化して屋上まで登ってきて、ここで霊体化を解除した、というところか。

(殺せればいい人形なんだろうけど……そう甘くはいかないよねぇ)

  相手は油断している。
  油断している、が。
  ここで斬りかかることはできない。
  一撃で殺せると確定しているのならまだしも、彼の戦闘能力の一切わからない。
  今こそ近代的な服装の壮年の男性の格好をしているが、装いなんてどうとでもなる。
  武器だってアサシンの八房のように出したり消したりが自由自在なら見てくれなんて一切有益な情報足り得ない。
  更に油断しているのだってアサシンの持つスキル:気配遮断の賜だ。
  不用意に斬りかかってもこちらに利はない。
  案外、この男は最初から『襲ってくる相手の返り討ち』を狙って姿を表しているのかもしれない。


38 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:55:18 jQoTyjZU0

(……分かりづらくて、面倒な戦争)

  ぽり、ともう一口クッキーをかじる。
  相当の自信があるか、規格外の馬鹿か。
  英霊として名を残している以上前者の可能性が遥かに高い。
  そんな自信満々なサーヴァント相手に、非力なアサシンにどれほどの勝機があろうか。

(『これ』が上手く働いてくれるってことが分かっただけでもよし、かなぁ)

  『気配遮断』。
  最初に記したとおり、クロメの存在を隠すスキル。
  かつ、個体によって不確定要素の強いスキル。
  彼女の持つ気配遮断のランクはB、すなわち『気配を絶していれば他者からの発見は免れる』というもの。
  気配を消すというのがどの程度のものかは分からなかったが、男性サーヴァントの反応を見るに息を潜めて目立つ場所に居なければまあよし、ということらしい。
  実際現在、貯水タンクの影に隠れて息を潜めているだけでも見つかっていないのだから。
  直接戦闘で勝ち目がなかろうと、このスキルを上手く使いこなすことができれば格段に『人形』が集めやすくなる。

(汚く、あざとく、みっともなく。今は襲うのはやめ。完璧な隙を見せたら、その時で)

  視界の中に居てくれるならこれ以上のことはない。
  じっと好機を待ち続ける。
  相手が完全に意識を一点に集中した時、他者への攻撃態勢に入るようなことがあれば、その時に斬ってかかる。
  英霊対英霊の華やかさなどみじんもない、根気比べの泥仕合。
  分があるのは、相手の存在を一方的に感知できているアサシンの方だ。
  この有利を消さないためにも、じっと様子を探り続ける。

(今回ばっかりは逃げられるのも仕方ない。手広くいって、楽そうなのから仕留めていこう)

  すでに数人のマスターの目星は付いている。
  現在校門前に居る地面に着くほどに伸びきった金髪の二つ結びの少女。
  先ほど図書館の方からふらふらと遊園地方面へ歩いて行った背丈の高い少女。
  どちらの少女も、魔力による歪みとでも呼ぶべき何かが付かず離れず側に漂っていた。
  あれがきっと『霊体化しているサーヴァント』なんだろう。

  同じく先ほど図書館方面に向かって全速力で走ってきたピンクブロンドの少女。
  その隣に付き従う、絵本の中に出てくる『魔法少女』のような格好をした少女。
  魔法少女の方には、遠目ながらはっきりと魔力反応を感じる。

(幸先いいね。このままさくっと何体か殺れればいいけど)

  少女たちの顔を覚え、だいたいの魔力の強さも(分かる範囲で)覚えておく。
  危険人物は背丈の高い少女と魔法少女を従えた少女だ。この遠目で見てもわかるくらいには魔力の強いサーヴァントを携えている。
  小さい方は、かすかに感じるかどうかくらいだ。
  魔力消費量が少ないのか、それとも魔力の察知を極限まで抑えるスキルを持っているのか。
  どちらにしろ、戦闘になるとするならば先の少女や魔法少女よりも後の少女のほうが狙い目だろうか。

  ぱく。
  今度は音がならない、饅頭のような菓子。
  アサシンはいろいろなお菓子を食べながら、じわじわと動き出した大局を眺めていた。


39 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:56:44 jQoTyjZU0
【D-2/中学校の屋上/1日目 午前】

【アサシン(クロメ)@アカメが斬る!】
[状態]実体化(気配遮断)中
[装備]八房
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取る。
1.現状、マスターに不満はない。
2.アサシンらしく暗殺といった搦手で攻める。その為にも、骸人形が欲しい。
3.とりあえずおとなしく索敵。使えそうな主従を探す。
4.男(我望光明)の隙を伺う。
5.見つけたマスター候補の情報を山田なぎさへ。
[備考]
※諸星きらり、双葉杏、マスター(仮)として記憶しました。諸星きらりはほぼ確定かつ強いサーヴァントを携えていると考えています。
 江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。ランサーはスノーホワイト状態だったため変身前の姿は知りません。
 側にサーヴァントの居なかった大井・星輝子はスルーしています。
※アーチャー(我望光明)を確認しています。戦力が不明なため、こちらから斬りかかることは今はまだありません。
※八房の骸人形のストックは零です。
※気配遮断が相まってかなり見つけられにくいです。同ランクより上の索敵持ちで発見の機会を得られます。


【D-2/高等学校の屋上/1日目 午前】

【アーチャー(我望光明)@仮面ライダーフォーゼ】
[状態]実体化
[装備]サジタリウスのゾディアーツスイッチ
[道具]理事長時代のスーツ姿
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を得る
1.大井との距離を保ちつつ索敵。双葉杏の監視。
2.フェイト・テスタロッサが現れた場合、大井に連絡を入れる。
[備考]
※双葉杏=マスターであるとしています。時間の前後により諸星きらりと江ノ島盾子は見てない可能性が高いです。
※アサシン(クロメ)と近い位置に居ますが存在に気付いていません。(菓子の咀嚼音も距離のこともあり届いていません)
 ただ、アサシンが不用意に近づいたり、臨戦態勢に入ったりすれば気配遮断の効果が切れて気づきます。


40 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:57:04 jQoTyjZU0

  ◇◆◆◇



『どうしよう』



『どうすればいいんだろう』



『バーサーカーを助けたいのに』



『元居た世界に帰りたいのに』



『方法がわからない』



『どうしよう』



『どうすればいいんだろう』



  少女の頭のなかに、招待状が、鳴り止まず届き続けていた。


41 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:57:55 jQoTyjZU0

  ◇◆◆◇


  どうしよう。
  どうすればいいんだろう。
  とろけたような頭。おぼつかない足取り。ふわふわとした、悪夢の続きのような感覚に陥る。

  諸星きらりは図書館を出て、そんな気分の悪い夢心地で道を歩いていた。
  どうすればいいのか、まったく分からない。
  フェイト・テスタロッサを捕まえれば、聖杯戦争が止まるかもしれない。
  でも、それはきらり自身がフェイトを追い回す側にまわるということを意味している。
  苦い思い出が、胃の痛みとともに蘇ってくる。
  何の理由もなく追い回すなんて、そんなことだけは、したくなかった。
  たとえわがままだとしても、きらりはフェイトを捕まえて、ルーラーが言ったように『誰か』に渡すなんてしたくなかった。

「どうしよっか……」

  バーサーカーは何も言わない。
  きらりのわがままに、ただついてきてくれる。
  何も言わずについてきてくれる。
  それはありがたいことでもあったし、少しだけ、心細くもあった。
  行く場所がない。
  帰る場所もない。
  この広い世界で、やっぱりきらりはひとりぼっちなんじゃないか。
  そんな気がして、少しだけ泣きそうになって、それをこらえてを繰り返していた。

  図書館の近くに居るのは嫌だった。
  あの場に居続けると、あの、不気味な世界に飲み込まれてしまいそうな気がした。
  学校も近いから、できれば離れたい。
  そう思って、とりあえず(地図上D-3に位置する)小道を歩いていた。

  おぼつかない足取りで、なんでもない段差に足をつっかけて転んでしまう。
  べたんとみっともない音を立てて少女は道路に倒れこむ。
  足音。
  足音。
  足音。
  すれ違う声と声。
  起こしてくれる人はいなかった。

  じっと見つめたアスファルト。
  きらりの眼前に影が落ちて深い灰色を更に濃く染める。
  地面がきらりからあたたかさを奪っていく。
  まるで、きらりのまわりにだけ雨が降っているみたいに、目の前は薄暗く、心は冷たくなっていくようだった。


42 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 00:59:16 jQoTyjZU0

「諸星、さん?」

  転んだまま立ち上がれず、俯いていたきらりの遥か後方から。
  来た道の道から、名前を呼ぶ声がする。

  声の主に覚えはない。
  この世界に来て、きらりと友好的に接する人なんて数えるほども居なかった。
  じゃあ、悪い人だろうか。
  おっかなびっくり顔をあげると、街路樹が添えられたなんともない道路の奥に、眩しいピンクブロンドの髪を両サイドで纏めた少女とふわふわきらきらした少女が立っていた。

  どちらも、見覚えのない人だった。
  ピンクの方の人はこの聖杯戦争の舞台に来るより前に、カリスマギャルモデルとして紹介されていた城ヶ崎美嘉に似ているような気がしたが、別人だった。
  そもそも、城ヶ崎美嘉ときらりは知り合いじゃないから名前を呼ばれることなんてない。
  ふわふわとした服の人は、言葉じゃ言い表せないくらい、可愛らしい女の子だった。
  ただ、気のせいかもしれないが、文字が重なって見えるような気がした。

「だ、だぁれ……?」

  きらりがおずおずと、尋ねる。
  顔も見えないピンク髪の少女はすこしばかり身を震わせると。

「諸星さん!!」

  叫びながら、きらりの方に走ってきた。
  突然の出来事に、すこしだけ身構える。
  しかし、その少女がもたらしたのは、この舞台に来てからずっときらりを苛み続けた悪意ではなかった。

「よかった、よかったよぉ!!」
「諸星さん、なにかあったんじゃないかって!」
「よかったぁ、諸星さん、諸星さん!」

  へたり込んでいるきらりに、見知らぬ少女が抱きつく。
  抱きすがり、おいおいと泣きながらきらりの名前と、安堵の言葉をこぼし続ける。

  きらりの大きな身体と小さな心が、優しいぬくもりに包まれる。
  久々に感じた誰かの優しさは、じんわりと心まで染み込んでくるようだった。
  泣くまいと決めていたけど、やっぱりきらりには無理だった。
  きらりはその少女を抱きしめて、決して怪我させないように優しく、だけど暖かさを逃がさないように力強く抱きしめて。
  誰かもわからない女の子と声を合わせておいおい泣きじゃくった。


43 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:00:07 jQoTyjZU0

  そうして、少し二人で泣きに泣いて。
  道を行き交う人々が怪訝な瞳で見つめているのに気付いて。
  とりあえず場所を移そうということになった。
  道中、なんとなく気恥ずかしくなって話すきっかけを掴みあぐねていたが、それでもなんとかきらりの方から切り出せた。

「……あの、あなた、だれ? きらりのこと知ってゆの?」

「覚えてない? 私、高校で、諸星さんと同級生で……」

  高校で、と言ったところで少女が慌てて口をつぐむ。
  そして小さく『ごめんなさい』と言った。

「高校のこと、思い出したくないよね……ごめんなさい、私ったら……」

「あ、あっ、いいよ、いいよぅ! 気にしないで!!」

  謝罪する少女にぶんぶん手を振ってみせる。
  確かに、きらりにとって高校でのあれこれはほとんどすべて思い出したくないことだ。
  でも、他の人に気を使わせちゃうのはよくないことだ。きらりもそこはしっかりわかっている。
  
「あの事件、もしかしたら、サーヴァントが関わってるんじゃないかって思って……
 それで、諸星さんが、諸星さんが誰かに襲われちゃったんじゃないかって」

  今にも再び泣き出しそうな少女の口から飛び出した『サーヴァント』という単語に、きらりの心臓が跳ね上がる。
  その単語を知っているのは聖杯戦争の参加者以外に居ないはずだ。
  まさか、目の前の少女は参加者で、きらりと戦いに来たのだろうか。
  どうしようどうしようとぐるぐる頭のなかで問いを回していると、きらりの様子を見て察したのか、少女の方からそのことについて切り出してくれた。

「あ、心配しないで! 私、そんな、戦ったりとかできないし……
 それに、私のサーヴァントはこの子で、なんにも悪いこととかしないから!! そこは大丈夫!! オッケー! 超安心! 絶望的非暴力不服従って奴? うぷぷ」

  紹介されたサーヴァントは、何故か苦虫を噛み潰したような顔をしている。
  ステータスが見える。どうやらランサーのサーヴァントらしい。
  襲ってくるような様子はない。少女の言うように友好的な人なんだろうか。

「あ、あの、諸星きらりです!!」

「……どうも」

  怯えた心を吹き飛ばすようにきらりが力強く会釈をすると、ランサーと呼ばれた少女も会釈を返してきた。

「とにかく、こんなところにいたら目立っちゃうから、とりあえず移動しよう」

  ピンク色の少女がきらりの手を引いて歩き出す。
  つないだ手を通じて、暖かさが胸の内側に流れ込んでくる。
  きらりは、ほんの少しだけ、彼女にばれないように、小粒の涙を流した。


44 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:01:07 jQoTyjZU0

  ◇◆◆◇

  先ほどまで這いつくばっていた道をしばらく急ぎ足で進み。
  大通りから路地に入り込み、メインストリートからは少し離れた、細く狭い道を歩きながら声を掛け合う。

「どこに行こっか。きらりちゃん、どこか行きたい場所、ある?」

「んーとね……きらりはね、この聖杯戦争の舞台よりもね、もっともぉーっと、遠いところに行きたいの」

「それは……今はちょっと無理じゃないかな。ひとまずそれは最後の目標にして、いまからどこかに行きたいとかってない?」

「……あ、じゃあ、きらりのお家、くる? きらりのお家、ここをまーっすぐ行ったところにあるんだにぃ☆」

  和気藹々としたやりとり。
  今が戦争中だということを忘れさせてくれそうな、綺麗なガラス球のような日常。
  光を取り込んでプリズムが輝くように、きらりの心は名も知らぬ少女という光のお陰で輝きを取り戻せていた。
  そこで気付き、足を止める。

「……どうしたの、諸星さん?」

「ねえ、あのね。えっとね」

  おずおずと切り出す。

「もし、もし、もう聞いてるのにきらりが忘れちゃってたんだったら、ごめんね……?
 お名前、なんて言うのかなって、思って……」

  ようやく聞けた。
  いつまでも『あの女の子』『ピンク色の少女』じゃ格好がつかない。
  せっかく友だちになれたのだから、名前はもちろん知っておきたい。
  きらりの問いかけを聞いた少女は、待ってましたとばかりにこう答える。

「私? 私の名前は―――」

  少女が手を払って、くるりと一回、踊るように回ってきらりの方に向き直る。
  そして、満面の笑みで名乗った。

「―――エノシマ。江ノ島盾子ちゃんだよ」

  にいっと、口の端を吊り上げて作り上げられる、今までに見たことないほどの快笑。
  きらりはその笑みを見て、久しぶりに、心の底から暖かくなるような感覚を覚えた。
  たまらず、元気な声で自己紹介を返す。

「そっか! きらりはねーぇ、諸星きらりだよぉ! よろしくね、盾子ちゃん!」

「うん、よろしくね、諸星―――ううん、きらりちゃん!」

  二人で笑い合う。
  涙の跡なんか消し飛ばしてしまえるくらい力強く笑い合う。
  きらりは久しぶりに、笑顔になれた。

  一人ぼっちだと、辛かったけど。
  二人なら、頑張れる気がした。
  きらりの心に少しだけ、希望が湧いてきた。


  ◇◆◆◇


  横並びに道を歩く三人の少女。
  左端の少女の涙のあとに浮かぶ明るい笑顔。
  真ん中の少女の突き抜けたような朗らかな笑顔。
  右端の少女の■■を■■■■■■■■■ような、■愉快そうな表情。

  ■■は砂糖の右側に。

  少女はまだ、気づかない。
  空欄をまだ埋められない。


45 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:02:05 jQoTyjZU0
【D-3/諸星きらりの家への道/1日目 午前】

【諸星きらり@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ版)】
[状態]精神的疲労(軽)、魔力消費(中)、希望(微)
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:バーサーカーを元に戻し、元の世界へと戻りたい
1.盾子ちゃん!
2.いったん家に帰ろうかな……?
[備考]
※D-4に諸星きらりの家があります。
※江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。そして、江ノ島盾子を信用しています。
※三画以上の令呪による命令によって狂化を解除できる可能性を知りました(真実とは限りません)
※フェイト・テスタロッサの捕獲による聖杯戦争中断の可能性を知りました(真実とは限りません)
※ルーラーの姿を確認しました
※掲示板が自分の話題で賑わっていることは未だ知りません


【悠久山安慈@るろうに剣心(旧漫画版)】
[状態]霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
[備考]
※雪華綺晶の存在を確認しました、再会時には再び襲いに行く可能性があります。
※江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。
 スキル『こころやさしいひと』の効果できらりの精神の安定に江ノ島盾子&ランサーが役に立っていると察知しイレギュラーが発生。狂化中ですが敵意を向けられない限りこの二人を襲いません。


46 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:03:47 jQoTyjZU0

  ◆◇


  諸星きらりを発見する数十分前。
  家を出る直前に、江ノ島盾子はランサーに唐突にこう言った。

「その魔法さ、ほんと極悪だけど、無敵じゃないよね」

  言いたいことが分からない、とランサーが言うと江ノ島盾子はそれはもう楽しそうに口を釣り上げて笑った。
  その笑顔と来たら、人助けに尽力してきたランサーが見たこともないほどの満面の笑みだった。

「気になるなら、ついてくれば? ただし、条件が一つ」

  提示された条件は『魔法少女状態で実体化すること』。
  他者に発見されて戦闘に巻き込まれることを期待しているのか。それとも別の狙いがあるのか。
  どちらにせよ、実体化していられるというのはランサーにとっても願っても見ない条件だった。
  ランサーはその魔法によってかなり広範囲の困った人の声が聞こえる。
  江ノ島盾子の知らない情報を手に入れられる、というのはそれだけでこの絶望少女を出し抜けるアドバンテージになる。
  そのことに気取られないよう気のない素振りをしながら、ふいとランサーは問いかけを返した。

「……どこに行くつもりですか?」

「諸星きらりに会いに行くに決まってんじゃん!!! きらりんをきらきらいっとうしょー☆の一番星にしてあげるのが私達の役目でしょー?」

「……諸星きらりの居場所がわかるんですか」

  実体化し、魔法少女に変身して尋ねる。
  江ノ島盾子はどこからか取り出した伊達眼鏡をかけて流れるように説明を始めた。

「いいでしょう説明しましょう。諸星きらりの行動は三つほど予測できます。
 まずいちばん可能性が高いのは籠城の可能性。これは場所が割れない限り他者に襲われないという利点があります。
 諸星きらりの性格を考えた結果、掲示板、それも私様のスレを確認していた場合、。
 そういった条件を鑑みればこれが一番可能性が高いというのは自明の理だとわかるはずです。
 次に可能性が高いのが『図書館に向かう』という行動。これには『ルーラーの所在地が明かされた』+『掲示板の書き込み』という環境の変化が起因しています。
 所在地の明かされたルーラーに掲示板の書き込みの削除を申し込みに行く可能性。所在地の明かされたルーラーに殺人事件の隠蔽を申し込みに行く可能性。
 これもまた、諸星きらりの性格を考えれば同じくらい可能性が高いと言えます。
 そして最後が聖杯戦争が始まったにもかかわらず街をぶらつく可能性。この選択肢を選ぶ時点で諸星きらりは自分の立場を理解できていないと判断できます。
 この場合は学校以外の場所を虱潰しに歩きまわる、ということになるので今後の行動を考える上での優先度は最下位と考えられます」
「以上を踏まえて、私様が考えた行動は一つ。まずは一番近い図書館に行き、不在を確認した後でD-3地区にある諸星きらりの自宅へ向かうというものです!」
「……これなら、二つの可能性を……一気に試行出来るし……一挙両得……ふふふ」

  2秒弱で言い切って、おどおどした言い方をしながらもふんぞり返る。
  少々呆気に取られたランサーを見ながら、更にふんぞりがえって、そりゃもうブリッジの体勢になるんじゃないかというくらいふんぞりがえった。

「あれwwwww聞き込みってもしかして事件について話聞いて回るだけだと思っちゃったの?wwwwマジウケるwwww」
「先生騙くらかして住所聞き出したり、クラスメイトそそのかして連絡網ゲットしたり、そういうのもちゃあああああんと調査済みに決まってんでしょ!!」
「せっかく面白そうなネタなのに、なんで中途半端で終わらせる必要があるんですか。あたりまえだよなぁ?」

  どうやら、そこまで手回しをしていたらしい。
  抜け目のない少女だ。
  廻るのは口だけではない、ということか。

  江ノ島盾子ころころとキャラを変えながら、玄関の戸を開ける。
  定まらないキャラクター性とは裏腹に、その動作には一切のゆらぎも感じない。

  ランサーは多少警戒しながらも、条件通り実体化してついていくことにした。


47 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:04:43 jQoTyjZU0

  ◆◇

  出発から数十分後。
  果たして、江ノ島盾子の読み通り、彼女たちは諸星きらりを発見した。
  きらりに対して屈託のない笑顔をふりまく傍で、江ノ島盾子はランサーに念話で語りかける。

(似てた?)

『……なにが』

(えー? 似てない? 今のキャラ、夢で見た姫河小雪ちゃんをイメージしてやってみたんだけどさぁ!)

  あきらかにこちら側の神経を逆なでするための一言。
  飽き性のくせに、余計なことをやって。
  すぐに化けの皮が剥がれて、醜態を晒すことになるだろうと思ったが思考の先読みでもしたのか、江ノ島盾子は聞いてもいない説明を始めた。

(あー、あっあっあー、そっかそっか! ランサーちゃん知らないんだよねぇ!)

(『うぷぷ、ボクはねぇ、他人の、絶望した顔を見るためだったらさぁ?
   なんとぉ! 一時間でも、一日でも、一ヶ月でも、なんなら一年だって、猫を被っていられる!!! ……気がする!!』)

  新事実。だが、どこまで本当かはわからない。
  もしかしたら口からでまかせかもしれないし、キャラクターに絶望的に飽きやすいという『設定』自体が違うのかもしれない。
  ただ、この少女はどんなことに関しても、おおよそ全ての計画を破綻させ、おおよそ全ての虚言妄言を実行しかねない。
  短いつきあいのランサーでもそれだけははっきりわかっていた。

(『まぁ、途中で飽きることとか、気分が変わって計画を変えちゃうこともあるよ。女心とクマの綿って言うしね。
  それでも、他人の絶望した姿を見るために飽き飽きしてる個性を演じ続けるってさ』)

(絶ッッッ望ぅぅ的にぃぃぃいいい!!! エクスタシーもんでしょおおおぉぉおおおーーーー!!!!)

(なあんちゃって、『クマー』)

  けたたましく喚き散らした後、なんのキャラ付けかクマーとつぶやく。
  ランサーは、表面ではきらりに優しく声をかけ続け、念話ではランサーを煽りまくる。
  器用なものだと皮肉ってやろうかとも思ったが、ランサーはそれどころではなかった。
  なぜなら、江ノ島盾子の言葉の意味と、彼女が仕掛けた爆弾に、遅まきながら気付いてしまったから。


48 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:05:24 jQoTyjZU0

(おやおやおやおや、なんだか何か言いたげだね)
(ちょうどいいや、聞かせてよ。アンタも気付いてるんでしょ? 私の言いたかったこと。
 『極悪な能力だけど無敵ではない』って言葉の、その理由)

  その問いかけに、ランサーは言葉を濁した。

  ランサーが諸星きらりの存在に気付いたのはほぼ必然というべきめぐり合わせだった。
  彼女の持つ『困った人の声が聞こえるよ』というスキル。
  どんな相手の心の声も余さず聞き届ける事のできる魔法少女に与えられた無二の魔法。
  その能力が、現在会場内でトップを争うほどに困っているきらりの声をランサーに届けないはずがなかった。
  聞こえたし、わかった。
  諸星きらりがこの上なく困っていることがわかった。
  そして、諸星きらりが『望んでいる参加者』じゃないことがわかった。

  一度は『クロ』だと言い切った相手。
  だが、その心では自身の英霊であるバーサーカーの救済と、元いた世界に帰ることを望み続けていた。
  小さな子どものように、困ったよう、困ったよう、と今にも泣き出しそうな声で叫び続けていた。
  そして初対面は、並木道の真ん中でこけても立ち上がれない程に打ちのめされた諸星きらりの姿。

  その声を聞いた瞬間に理解した。
  『情報だけを与えられた状態では、心は読めない』。
  当然だ。集められただけの情報に心なんか宿らないのだから。
  心の声が読めていれば相手の思考なんて百発百中で当ててみせるが、そうじゃなければランサーが状況から判断する以外ない。
  無敵じゃない、とはつまりこのことだろう。
  江ノ島盾子はなんらかの推論から『諸星きらりはシロである』と確信しており、ランサーの間違いをわざわざ証明するためにランサーを実体化させた。

  更に言えば、無敵じゃない理由について江ノ島盾子と話していてもう一つ気づいた。
  江ノ島盾子は無意識か、あるいは意識してなのかランサーの読心に対策を打っている。
  対策とはずばり、『包み隠さず話すこと』。
  (こうしたい)→(それを知られては困る)という過程を経て、相手の行動を予測できるランサーに対する
  つまり、思ったこと全部真実を話して本人に後ろ暗いことがなければ心を読まれて困ることなどない。
  『困った人の声が聞こえる』という説明から読心のメカニズムを理解して、最も効率的な対策を打ってきている。

  なんとも嫌味な人間だ、と毒づきたくなるが、ぐっとこらえていると、江ノ島盾子は火が突いたように手を変えキャラを変えまくしたて始めた。

(さて、私様の言う『弱点』が分かったんだったら……その先にある私様の言いたかったことも、ちゃあんとわかってくれてますよね?
 まさか私様がメッチャやさしみを込めて弱点だけ教えてあげたとは思わないでしょう?)
(まぁ、わかってますよね……だってランサーさん……倒れてるきらりちゃんを私が助けた時……)
(貴女、『しまった!!』って顔をしてましたわね!)
(私様を出し抜こうなんて、百万光年早いんだよなああああああああああ!!!!)
(ねえ、姫河小雪ちゃん。教えてよ。この子、どぉんな声、出してたの?)
(困った困ったって泣いてたに違ぇねぇべ! 俺の占いは三割当たるべ!! ……ん、これ違う?)
(……しまった、光年は時間じゃない、距離だ!)

(それで、ランサー)

(困った困ったって泣いてるきらりちゃん、アンタはどうするつもりなの?)

  江ノ島盾子の一言が、ついに核心を突く。


49 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:06:42 jQoTyjZU0

  ◆◇

  ランサーは。
  スノーホワイトは。
  姫河小雪は。
  困っている誰かを助けてあげたいという、同業者にすら甘っちょろいと笑われてしまう理想を胸に英霊の頂まで上り詰めたサーヴァントだ。

  森の音楽家クラムベリーの試験を様々な犠牲のもとに生き抜かされ。
  魔法の国から後ろ指をさされようともおのが信念を貫き。
  『魔法少女狩り』の異名を背負わされてまで『子どもたち』と戦い。
  悪に立ち向かう強い心と心を貫く強い力を手にし。
  優しい魔法少女らしいと誇っていた『困っている人の声が聞こえる』能力を不意打ちや詐術に使えるようになってしまい。
  性格も、ほわほわとした白うさぎのような優しいものからは想像できないほどスれてしまい。

  様々なものを得て、様々なものを失って。
  それでも、今この時もその本質は変わっていない。
  困っている人を助けたい。
  泣いている人にハンカチを渡してあげるような。重い荷物を代わりに背負ってあげるような。落し物をした人に落し物を届けてあげるような。
  幾分ハードにコーティングされてしまったが、そんななんともない優しさが彼女の根本にある。

  ◆◇


  諸星きらりの声を聞いて、ランサーは全てを理解していた。
  諸星きらりがうずくまっている姿を見て、理解が思い込みではなく事実であると確信した。
  諸星きらりは善人だ。どうしようもない善人だ。なにかに巻き込まれ、聖杯戦争に参加させられている『被害者』だ。
  確信し、どう動くべきか迷った。
  江ノ島盾子が令呪で襲わせる可能性がある以上、素早く逃げるように促すべきか。
  彼女が善人であると分かったならば、掲示板の悪行の主が江ノ島盾子のせいだ伝えるべきか。
  それよりも、あの殺人事件の真相を彼女の口から効くべきか。
  何よりもまず彼女の願いに手を差し伸べてあげるべきか。

  どんな悪者にも負けないために鍛え上げた魔法少女の魂も、『心の声』の更に先にある不意打ちには対処できない。
  予想外の出来事で、ランサーの心は一瞬だけ揺らいでしまう。
  その一瞬の動揺が水面下の勝負を決着づけた。

  ランサーの一瞬の虚を突いて、盾子は素早く、そして的確に諸星きらりの懐に入って彼女の信頼を得てしまった。
  呆れるほどに、彼女の言葉を借りるならば『絶望的に』、見事な手口。
  仮に超高校級のアイドルなんてのが居たとしても、裸足で逃げ出す演技力だったろう。
  精も根も尽き果てた諸星きらりの精神の添え木となり、折れかかった彼女の心を支え直した。
  見事、彼女の困った声を一発でやませた。

  だが、ランサーにはその行動のすべてが、ある方向を目指しているとわかっている。
  そしてそれが諸星きらりの目指す方向ではなく、真逆の方向であるのも理解している。
  彼女がそんなことをする理由なんてランサーと諸星きらりに絶望を与えるため以外に考えられない。
  つまり、まんまと出し抜かれたのだ。出会いの一件以来再び、この絶望的に絶望を愛する少女に。


50 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:07:49 jQoTyjZU0

  後はあれよあれよというまに江ノ島盾子のペースだ。
  苛立ちを覚えるが、なにもできない。
  ずしんと鉛のような、ほの暗い感情が、ランサーの心中の奥深くに陣取り、反撃の気力を削いでいる。
  『諸星きらりの無実を証明』し、『その上で諸星きらりの精神的支柱となる』という一手が奇手すぎた。
  この一手は、大きな意味を持っている。


  
  少なくともあの時。
  二人が出会ったあの名前も知らない死体の前での問答を知っているのならば。
  江ノ島盾子のこの行動に隠された意味が理解できる。

(ねえ、小雪ちゃぁん。この状況って、あの時のやつに似てるよねぇ?)

  不意にランサーの方を向き、すべてを見透かしたような声と満面の笑みでそう尋ねる。
  その問は、姫河小雪と江ノ島盾子のパラドクス。
  希望と絶望のコンフリクト。

(ちょうどいい! 聞いてみたかったんだぁー! あの時の質問、ランサーちゃんならどんな答えを出してくれるのかなぁーって?)
(問題!! 例えばこれから、江ノ島盾子ちゃんのことがとっても大好きな諸星きらりちゃんが、なにかに絶望して死んだとして、その時、『彼女を殺したのは誰』?)

  江ノ島盾子の口から放たれた問い。
  それはまさしくあの時の問答の再現。
  ランサーが「殺したのか」と問うた時、盾子は「背中を押しただけだ」という長回しをきっかり三秒で説明してみせた。
  あんなのは詭弁だ。江ノ島盾子だってそのくらい気付いている。
  だから今、江ノ島盾子は試している。
  ランサーに同じ命題を突きつけて、ランサーにその問の答えを導き出させようとしている。

  仮に諸星きらりに対して彼女の心の支えである江ノ島盾子の悪事を伝え警戒を促せば、確実に諸星きらりの心は折れる。
  再起不能になり、あの子供のように(江ノ島盾子と出会った時の子供のように)、自殺してしまうかもしれない。
  その点について理解した上で、ランサー―――『姫河小雪』はこの状況でどう動くのか。
  それを尋ねている。

(さて、私様の行動を察知できず、止められなかった哀れなランサーちゃんにネクストクエスチョン。
 答え次第では一発逆転もあるかもよ? 張り切って行ってみよう!)

(……あなたは、背中を押せない優しい優しい小雪ちゃん? とっても困ってる優しい優しいきらりちゃんのためにアタシという巨悪の跋扈を許す優しい優しい小雪ちゃん?)
(……それとも、背中を押せる優しい優しい小雪ちゃん? 他の参加者のために、優しい優しいきらりちゃんの心をへし折って屋上から突き落としてでもアタシを止められる優しい優しい小雪ちゃん?)

  前者を選べば、一人の善人を救い、不特定多数の他人が死ぬ。
  江ノ島盾子の『殺人』をやはり殺人であるとし、殺人を犯さず諸星きらりを救う代わりに江ノ島盾子の積み重ねる悪行を止める機会を失う。
  後者を選べば、不特定多数の他人を救い、一人の善人を殺す。
  江ノ島盾子の『殺人』を背中を押しただけだとし、江ノ島盾子の悪行を未然に一つ食い止める代わりに結果として諸星きらりが死ぬ。
  どちらを選ぼうと、結果は―――

(あれちょっと待って!? どおっちにしろ、人死んじゃってる気がする! あれあれ、まさかまさかの魔法少女血みどろ計画Restart!?
 ウッソそれってつまり新しい姫河小雪ちゃんの誕生じゃない!!! 今夜はお赤飯だねぇっ!! んキャハぁっ☆ ハッピーバースデー、新しい姫河小雪ちゃあああああああああああん!!!!)

  念話でげらげらと高笑いをする。
  本当に、他人の癪に障るのが生きがいのような人物だ、とランサーは歯噛みしながら思った。

(ねぇ、ランサー)
(気付いてないかもしれないから教えてあげるね。アンタ今、すっごくいい顔してるよ)

  悪魔が笑う。
  ランサーは臍を噛んだ。
  それしかできなかった。


  ◇◆◆◇

  横並びに道を歩く三人の少女。
  左端の少女の涙のあとに浮かぶ明るい笑顔。
  真ん中の少女の突き抜けたような朗らかな笑顔。
  右端の少女の苦渋をしこたま飲まされたような、不愉快そうな表情。

  絶望は砂糖の右側に。


51 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:09:02 jQoTyjZU0
【D-3/諸星きらりへの道の途中/1日目 午前】

【江ノ島盾子@ダンガンロンパシリーズ】
[状態]健康、涙で化粧が流れてる、小雪ちゃん(姫河小雪育成計画以前)の真似中
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大金+5000円分の電子マネー(電子マネーは携帯を取り戻すまで使用できません)
[思考・状況]
基本行動方針:絶望を振りまく
1.諸星きらりをプロデュース!
2.放課後になったら、蜂屋あいと会う
3.ケータイ欲しい……ケータイ欲しくない?
[備考]
※諸星きらりを確認しました。彼女の自宅の位置・電話番号・性格なども事前確認済みです。彼女が掲示板に目を通してないことも考察済みです。
※自身の最後の書き込み以降のスレは確認できません。
※数十分、もしくは数時間、あるいは数日、ひょっとしたら数年は同じキャラを演じ続けられるかもしれませんし、続けられないかもしれません。
※ランサーのスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対して順応しています。順応に気付いているかいないかは不明です。動揺しない限り尻尾を掴まれることはないかもしれません。あるかもしれません。

【ランサー(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]実体化中、健康、絶望(微)
[装備]ルーラ
[道具]四次元袋
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り犠牲を出さずに聖杯戦争を終わらせる。
1.江ノ島盾子と蜂屋あいの再会時に蜂屋あいのサーヴァントを仕留める。
2.出来ることなら、諸星きらりに手を貸してあげたい。

[備考]
※江ノ島盾子がスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対応していることに気づきました。
※諸星きらりの声(『バーサーカーを助けたい』『元いた世界に帰りたい』)を聞きました。
 彼女が善人であることを確信しました。


52 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:09:57 jQoTyjZU0
  ◆?



"When I was a little girl,       (私が小さな頃のこと
 About seven years old,       7つくらいの頃のこと
 I hadn't got a petticoat,       私はペチコートを持ってなくて
 To keep me from the cold."    寒くてしょうがなかったの)

"So I went into Darlington,     (だから私はダーリントンへ
 That pretty little town,       あの小さくてきれいな街へ
 And there I bought a petticoat,  そうして私はペチコートと
 A cloak, and a gown,"        マントとガウンを買ってきた)

"I went into the woods       (わたしは森のなかへ入って
 And built me a kirk,         そこに教会を作ることにした
 And all the birds of the air,     森中の鳥さんたちが
 They helped me to work."     私を手伝ってくれたわ)

"The hawk, with his long claws,  (鷹は長くて鋭い爪で
 Pulled down the stone,       石を次々切っていって
 The dove, with her rough bill,   鳩は逞しいくちばしで
 Brought me them home."     石を次々運んでくれたの

"The parrot was the clergyman,  (オウムは司祭の代わりになって
 The peacock was the clerk,     孔雀は牧師の代わりになって
 The bullfinch played the organ,   ウソがオルガン響かせて
 And we made merry work."     皆で賛美歌を歌ったわ)



「素晴らしい、また新しい神様が二人生まれたわけだ」

「え? なんでそう言えるのかって?」

「君は創造力が貧困なんだろうね。生きてて死にたくならないかい?」


53 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:10:55 jQoTyjZU0
  ◆?


「世界なんて、そんな大したもんじゃないんだ」

  往来を行き来するオークのような生物を眺めながら、少女がつぶやく。
  墓標のようにそびえ立ったビルのガラスがくすくす笑う。

「例えばそこに石ころがあったとして、石ころに蟻が乗ってた。
 不思議なことに石が空中に浮き上がって蟻は石ころから離れられなくなった。
 そうすれば、蟻にとっての八方ふさがりが生まれる。それが世界さ」

  オークの正面に巨大な蟻が現れる。
  突然現れた蟻の体を、街の人々がよってたかって千切り崩していく。
  蟻の体からこぼれた体液がくすくす笑う。

「他に必要な物があるとすれば、観測者かな。
 石ころを浮かせる役。蟻を閉じ込めようと企む奴。そして、蟻以外に蟻の世界を認めてやる者。広義的に言うなら、いわゆる神サマってやつがそれ」

  くすくす笑う。
  くすくす笑う。
  くすくす笑う。

「幸子ちゃんは、石ころの存在に気付いてしまった哀れな蟻ん子さ。
 大地への郷里の慕に駆られ、必死に石ころから飛び出そうとしてる。頑張るなぁ、無駄だって薄々感づいてるだろうに」

『くすくす。それがこの『世界』のお話ですか?』

  少女が指をつい、と動かすと、山が凹んで窪地に変わった。
  とくとくと体液が流れこんでいく。湖が出来上がる。
  湖に映るのは、きれいな色のロリータドレスを身に纏った可愛い可愛いお人形。

「ここの完成はまだまだ時間がかかりそうだよ。別の場所で遊んできたらどうかな」

  少女―――創造主(クリエイター)のサーヴァント・クリシュナは、ルーラー・雪華綺晶にそう告げた。
  彼女にしては珍しい、毒突くでもなく、気遣うでもなく、当然といわんばかりの声色だった。

『クリエイター様のようなことをする方は特殊ですので。見ておく必要があるかと』

  どこまで本音かわからない言葉。
  しかしクリエイターは特に気にせず、さらりと流した。

「へえ、仕事熱心なんだね。マスターじゃなくてわざわざ僕のところに来るなんて」

  湖の縁に人々が集まり、やたらめったらに踊り狂う。
  意味なんてない。そうしたいからそうする。人間らしい動作じゃないか。
  踊り狂う人々をそのまま踊らせ続けながら、クリエイターは鏡のように美しくきらめく水面に、水面の向こう側のルーラーに向き合った。


54 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:12:42 jQoTyjZU0

「で、それは誰が考えたの」

  不意に。
  クリエイターが湖越しのルーラーに問いかける。

『誰が、何を?』

  ルーラーはあどけない顔で問い返す。

「話の続きだ。この世界が石ころで、幸子ちゃんがかわいそうな蟻ん子ちゃんだとしたら、石ころを浮かしてるのは誰だ。
 幸子ちゃんのことを認めてやってるのは誰だ。この世界の神様ってやつはなんのためにこんなことをする?
 ねえ、君……君じゃないよね。君みたいな空っぽの器は、そんな器じゃなさそうだ」

『それを知ってどうするのです?』

「別に、どうも。必要なら神様の先輩として、助言の一つでもあげるけど?」

  ぽ、と花が咲く。
  次から次へと花を咲かせ、右から左への道を作る。
  湖から街へと通じる道が出来上がった。

「ハートの女王に逢いたいのなら、ちゃんとうさぎを追うべきですわ」

  くすくす。取ってつけたような笑い声。

「僕に、兎狩りをしろって?」

『ええそうです。なぜなら貴女様はこの世界の『神様』ではないのですもの』

「それは誰の言葉?」

『私の言葉は私の言葉、ですわ』

  くすくす。世界の中に響き渡る笑い声。

『貴女様は呼び出されてしまったかわいそうなお人形さんの一人。
 お人形さんは、ご主人様の望むとおりに動くのがお仕事。そうでしょう?
 お人形さん、お人形さん。兎狩りの時間です。ハートの女王はお冠。チクタクチクタク兎を追って、不思議な国に向かいましょう』

  ルーラーが小首を傾げる。無垢な少女のように、可愛らしく。
  クリエイターは少しだけ心外そうに、語気を少し強めてまくしたてた。

「はは、言ってくれるじゃないか。自分だって、他人の未完成な部分を見つけてあざ笑いあげつらうばっかりの未完成なお人形さんのくせに」

『かわいそうなお人形さん。こんなおもちゃの世界に閉じこもって、外の世界が怖いから』

  クリエイターが売り言葉を叩きつければ、ルーラーは歌うように答える。
  先ほどまで噛み合っていたのが嘘のように、大きく食い違い始める。

『おもちゃの世界で一等賞。外の世界の貴女はだあれ。望みはなあに、貴女はだあれ、貴女の見ている私はだあれ』

「君は自分が思ってるほど清廉潔癖じゃないよ。被造物ってのは、突き詰めれば『煮詰められた人間のエゴ』だ。
 華奢な器に押し込められて綺麗なフリルでラッピングしたところで腐った中身と漏れだす臭いは消せない。
 今度はもっと声を上げて笑ってみなよ。下品な方がお似合いだよ。お人形さん」

  クリエイターが言葉とともに、水面に花束を投げつける。
  花束が打ち付けられて起こった波紋がルーラーの身体を細かく裁断する。

『くすくす。おもちゃ箱の中の狐。ぶどうが甘いか酸っぱいかは、狐には永遠にわからずじまい。
 さようなら、クリエイター様。また後程お会いしましょう』

  大した意味もないだろうに意味深な言い回しでそう言い残して波紋の奥に消えていく。
  それを確認して、クリエイターは鼻を一度鳴らすと、投げた花束を湖と混ぜてお人形を生み出した。


55 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:14:57 jQoTyjZU0

  ◆

「せっかくもてなしてやったのにあの態度ったら。こんなことならもっと盛大にやるべきだったかな」

  未完成の幻想世界を眺めてつぶやく。
  あれやこれやと悩まず幸子がぶっ倒れるくらいの魔力をつかって世界を作ってやってればあのルーラーに泡を吹かせてやれたかもしれない。
  惜しいことしたなぁ。
  この場でただのお人形さんに戻してあげればよかったかなぁ。

「英霊の枠に閉じ込められた僕程度敵じゃないって? だとしたら心外だ」

  新たに生み出した物言わぬお人形に語りかける。
  その人形は、誰にも愛されない。ただ、空間の中で、そこにあり続けるだけ。
  お人形はくたりと頷くようにその場に倒れこんだ。
  クリエイターが弧を描くように指をすべらせると、お人形の周りに人だかりが出来上がった。
  人だかりは皆、キラキラした衣装を着て空に向かってニコニコ微笑んでいる。
  皆一緒の衣装を着て、誰かに笑顔を振りまく。まるでアイドルのように。

「それとも、そんなことされたっていいと思ってあのお人形を僕のところに送り込んだのかい。それなら少し笑えるね」

  お人形がおもむろに立ち上がり、動き出す。
  お人形を取り囲んでいるアイドルたちが次から次にお人形に食べられていく。
  アイドルたちは逃げることも悲鳴を上げることもしない。
  ただ、観客である誰かに笑顔を振りまきながら、お人形の内側に閉じ込められていく。
  一人、また一人。
  人形の内側に消えていく。
  最後の一人を食べ終えた後、人形はくすくす笑い出した。

「どっちにしろ……お人形遊びで僕をはかろうなんてのは少し虫がよすぎるんじゃないかな」
「君に対して、思うところが出てきたよ。『この世界の神様』」

  ぽん、と手を叩く。
  お人形がくすくす笑いながらその場で高速回転を始める。
  くるくる、くるくる。
  回り続けて、回り続けて。
  バターになるほど回り続けて。
  臨界点を突破したお人形は、創造主の気まぐれで本物の少女に生まれ変わり、街の方へと走っていった。
  そうして、街にたどり着いた少女は、そこで誰かのお人形として暮らすことになった。
  その様子を感慨なさ気に見送ったクリエーターはまた世界創造に戻るのだった。


56 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:15:49 jQoTyjZU0
【クリエイター(クリシュナ)@夜明けの口笛吹き】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:勝つ
1.幸子の言うことは放って、自身の幻想世界を完成させたい
2.『この世界の神様』に会いたいもんだ
[備考]
※ルーラーを確認しました。
※幸子の部屋は現在、クリシュナの幻想世界に作り替えられている途中です
※完成した際、マスターとサーヴァントに対する精神攻撃として作動します
※聖杯戦争の開催に何者かが関与していると考察しています。ルーラーは正統な裁定者ではなく彼女の手先であるとも考えています。
  この空間はその人物が作り上げた世界であり、その人物の意向次第で結末が変わると睨んでいます。


【ルーラー(雪華綺晶)@ローゼンメイデン】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
[備考]
※アイドルの物真似が出来ます
※クリエイター(クリシュナ)の幻想世界(未完成)を確認しました。


57 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:18:22 jQoTyjZU0
以上です

修正箇所、矛盾指摘などありましたらお願いします


58 : 絶望少女育成計画Reflect  ◆EAUCq9p8Q. :2015/06/29(月) 01:19:15 jQoTyjZU0
いい忘れてました
大人数予約で投下が遅れてしまい、他の人にご迷惑をおかけしたかもしれません
申し訳ありません

新スレでもよろしくお願いします
ひとまず以上です


59 : 名無しさん :2015/06/29(月) 05:07:10 0.Bp1uv60
投下乙です!
大人数予約、見事な捌きかたでした
少女聖杯の少女聖杯たる魅力を凝縮したかのような…アイドルたちのそれぞれの、精一杯の戦いが、数多の悪意に巻かれていく感じがあって読んでいて胸がギリギリします
ばいきんまんやジバニャンは癒しだなあ…そして大井さんの気持ち悪さもすごいな…
クリシュナときらきーの邂逅には詩を感じました
歌うように描かれる文章がほんと素晴らしい


60 : 名無しさん :2015/06/29(月) 09:48:11 goyvq2k.O
投下乙
どういう捌かれ方をするのかと思ったが、こう来るかー
きらりはまさに今世界の中心ですね、江ノ島盾子ちゃんのプロデュースの賜物です!


61 : 名無しさん :2015/06/29(月) 17:09:11 adW0qQa60
霊体化したサーヴァントって基本的にはマスターにもサーヴァントにも捕捉できないんじゃなかったっけ


62 : 名無しさん :2015/06/30(火) 01:20:30 WSfKfN2g0
投下乙です
それぞれの少女たちの揺れる心情が細やかに描かれてて良いですね
冒頭のものといい中途のものといい、「歌」を効果的に使ってるのがすごく羨ましいです
お話としては江ノ島さんのえげつなさをねっとりと濃く描いているのが一番きました
おまけにきらりを絡めつつスノーホワイトを蜘蛛の巣にかけていくという厭らしさ
クリシュナと雪華綺晶の飄々とした会話も、この二者の得体の知れなさを綺麗に描写してると感じました


63 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/01(水) 07:28:57 UI9cT9160
たくさんの感想ありがとうございます!
霊体化に関してですが、私側で少し認識を間違っていたようなので本文修正を行います
といっても、話の筋が変わることはなく
・霊体化に関する記述の変更・削除
・クロメがきらりを警戒対象からはずす(杏については記述の変更で対応)
の二点が主な変更箇所になります

本日もしくは明日くらいでwikiの方を直接いじると思いますので確認よろしくお願いします
修正後、他に大きな変更点があった場合のみこのスレに報告させていただきます

報告ついでに
中原岬&セイバー(レイ/男勇者)
偽アサシン(まおうバラモス)
予約します


64 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:18:17 qcdHjUuw0
先に一つ
>>63
>本日もしくは明日くらいでwikiの方を直接いじると思いますので確認よろしくお願いします
>修正後、他に大きな変更点があった場合のみこのスレに報告させていただきます

と書きましたが、まだ修正をしていません。
今日の夜やるので許してください

そしてもう一つ
中原岬&セイバー(レイ/男勇者)
偽アサシン(まおうバラモス)
投下します


65 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:19:48 qcdHjUuw0

◇◇◇


「昔々、とっても偉大な先生がいいました」

  何時のことだっただろうか。
  まだ数日は経っていない、つい最近のこと。
  なんてことはないはずの日常の中の、なんてことはないはずのやりとりの一つ。
  少女は、なにかから聞いたセリフをそらんじる。

「人という字は、人と人とが支えあってできていますって」

  まるでリズムに乗るように。
  まるで風に揺られるように。
  左右に身体を揺らしながら少女は隣に控える勇者にそう言った。

「だったら」

  とん、と響く足音。
  跳ねるように、ベンチから立ち上がる少女。
  満天の夜空、今にも落ちてきそうな大きな月を背負って、少女が勇者に問いかける。

「あたしって、なんなんだろうね?」

  突き抜けるような空に、そんなつぶやきが舞い上がり、消えていく。
  聞き届ける人間は誰も居ない。
  寂しがり屋のひとりごと。
  愛の所在を探って、傷だらけの心が描いた軌道。
  確かにそこにある、確かにそこにいる、なんてことはない少女のなんてことはない閉塞感。
  夜空に登って消えていく、誰にも見えない心の涙。

「誰とも助け合えないあたしは、人間でいいのかな」

  出会って何日目かのやりとり。
  勇者の心に今も残っている、なんてことはないはずのやりとり。
  勇者は、深く心に刻み込んだ。


66 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:20:21 qcdHjUuw0

◇◇◇


  ちちち、ちちちち。
  鳥の声。
  明るい黄緑色の光線が降り注ぐ小道で、囁くような小さなさえずり。
  きっと彼らは、見慣れぬ少女について相談を交わしているのだろう。

  【D-6】に位置する森林公園は豊かな緑と手入れされた自然から、観光スポットとしても評判の高い場所だ。
  だが、今日は平日、時間も朝から昼へと移り変わろうとしている頃。
  休日ほど寄る人はおらず、森林公園の道を歩くのは赤ちゃんを連れてお散歩という主婦や、疲れた顔のサラリーマンが少々と言ったところだった。
  そんな中を、およそ場違いな少女が歩く。

  陽気のいい午前に長袖のシャツを着ている。
  年の頃は17、18歳程、高校に通っていてもおかしくない年齢だ。
  通り過ぎる人々も、少し不思議そうな顔をする。
  その度少女は歩調を速め、より人目につかなさそうな方へと進路を切り替えるのだった。


  少女・中原岬は、セイバーの進言を聞き入れ、外出をしていた。
  といっても、この前のように人の多い劇場に行ったりはしない。
  出かけるのは午前中、しかもお昼より前。
  場所も、人通りの多い市街地などは避けて、人通りの少なそうな場所を目指す。
  そこで彼女が目をつけたのが、彼女の家の近所にある森林公園だった。
  昼間ならば人通りが少なく、適度を少し超えたくらいの広さがあるため人ともあまり出会いにくい。
  さらに、森林浴というのは、なんとなく疲れが癒えるような気がして、大検の勉強の合間の息抜きとしてももってこいだった。
  道を歩けば色々な物がある。
  人は居ないけど、新しいものには出会える。
  疲れたら道沿いに置いてあるベンチの一つに座ればいい。
  歩くのに飽きたら公園にまばらに置いてある遊具で遊んでもいい(これは恥ずかしいのでやらないが)。
  岬にとって森林公園は、なかなかに良い場所と言えた。

「いい場所だね」

『そうだな』

  人を避けて歩いている少女のひとりごとに、彼女の頭のなかにだけ返事が帰ってくる。
  答えたのは彼女の英霊、セイバー・勇者レイだった。

「こういうところを歩いてると、コンクリートって怖いんだなって分かるよ」

  次は返事はない。ただ、苦笑いのような声が聞こえた。
  岬は特に気にせず、森林公園の入り口近くにあったマップを思い出す。
  目の前の大きくて急なカーブを曲がれば、また新しい少し開けた場所に出たはずだ。
  数十メートル置きに、遊具と東屋が置いてある少し開けた場所。
  今度の遊具はなんだったっけ、と思いながら曲がり角を曲がって。
  そして、出会った。


67 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:20:57 qcdHjUuw0

  まるで陳腐な少女漫画のように。
  曲がり角を曲がろうとして、出会う。
  といっても、パンは咥えてないし、ぶつかってすっころぶようなこともない。
  ただ、曲がり角を曲がった岬の目に、不思議な生き物が写った。それは、あまりに奇妙な交錯だが、出会いと呼ぶ他なかった。

  不思議な生き物は、まるで服を着たカバのようにも見えた。
  カバは、進行方向とは90度違った方向を向いて、森林から森林へ、移動をしようとしている最中のようだった。
  どうも、のっそりのっそりと鈍間な動きで森林公園の道を横断するように歩いているところだったらしい。

「えっ、カバ……?」

  岬の口からぽそりとつぶやきが漏れる。
  カバ、と呼ばれた人物(?)は、その声を聞き逃さず、岬の方に振り向いた。
  正面から見ると、ますますおかしな格好だった。
  頭は、カバというよりはトカゲや恐竜のようだ。ただし鱗はないしわりとつるつるしている。頭には一本ツノが生えている。
  服は緑色の、引きずりそうなほど丈の長いローブと紫のマント。わりとダサい。
  胸には毒々しいほどに赤い宝石のついたネックレスをぶらさげている。なかなかに前衛的なファッションだ。
  その姿を見て岬は再び率直な感想を述べようとして、口をつぐんだ。
  カバのようなそうでないような生き物が、ぐんと近づき突然拳を振りかぶったのだ。
  ぐっ、と心臓が鷲掴みにされたような感覚が走る。
  頭の血が一気に引き、遠い昔の恐怖が蘇る。
  条件反射といって良い速度で、岬は両手で頭を庇った。ずっと昔と同じく、振るわれる暴力から逃れるために。

  一秒。
  二秒。
  三秒。
  攻撃は来ない。
  ひょっとして、フェイントだろうか。
  岬の知り合いには佐藤という、それはもう、とんでもなく、筆舌に尽くしがたいほど、救いようのないくらいのダメ人間が居た。
  彼も岬に殴りかかろうというふりをしたことがあった。
  怯える岬を見ながら、二度三度とフェイントを繰り返したものだ。
  もしかして、ひょっとすると、このカバもそういう類の人物だったのだろうか。
  もしそうだったら、文句の一つも言ってやろうと思い、恐る恐る目を開ける。
  岬の眼前に広がっていたのは。

「マスター、離れててくれ」

「……くっ、面倒な……」

  実体化し、清らかな白い盾でカバの拳の一撃を防いでいる、自身のサーヴァントの姿だった。


68 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:22:18 qcdHjUuw0

◇◇◇


  セイバー・勇者レイは考えを巡らせていた。
  あそこまで接近を許してしまうとは、想定外だった。
  岬は魔術の覚えがないし、セイバーも実体化していなければ使えない。
  だが、ポイントポイントでセイバーが実体化していて周辺の魔力反応を探っていたので、用心をしていないわけではなかった。
  だが、敵は何らかの方法でその探知をかいくぐってきた。
  結果として、完全に虚を突かれた形になってしまった。

  目線をずらし、頭をかばっていたマスター・中原岬を確認する。
  間に合った。
  もしもあの拳の一撃を食らっていれば、両腕ごと頭を殴られ、そのまま彼女は死んでいただろう。
  間一髪、カバの動作が遅かったということもあり、実体化して、天空の盾を構えて攻撃を受けきるまで出来た。
  そのままカバの化け物の腕を盾で押し返し、土手っ腹に蹴りを放つ。
  カバは見た目に似合わない軽快な身のこなしでひょいと後ろに飛び退ると、両手で構えを取った。

「お前は、魔族か」

「魔族だと……? わしがただの魔族に見えるか。勇者」

  じり、じり、とお互いに距離を取る。
  セイバーの思考にあるのは一点。
  『一刻も早く、戦力を使わずにこの戦闘を終わらせるにはどうすればいいか』だった。
  長時間の戦闘は避けたい。
  魔力量の少ない岬をマスターに持つ以上、魔力事情には気をつけなければならない。
  戦闘で敵を倒すために『天空の剣』や『ギガデイン』の真名解放を行えば、魔力を大きく消費することになる。
  それに実体化だって魔力消費はただじゃない。実体化し、戦いを続ける間は岬の魔力を消費し続けることになる。
  岬が動けなくなってしまえば、それだけでこの決闘の行方は決まったも同然だ。

  ならばどうするか。
  本来ならば、逃げるべきだろう。
  セイバーは仕切り直しのスキルを持っているので、逃げきれる可能性は高い。
  だが、セイバーの仕切り直しは逸話として失敗することがある。失敗すれば格好の的だ。宝具や魔術を、岬にぶつけられることになる。

  だとすれば、戦って、逃げるチャンスを生み出すか、相手を倒すしかない。
  話し合いで済む相手だとは、初対面の時から思っていない。
  セイバーの血が、逃れられぬ宿命を告げている。目の前の相手の正体を告げている。

「そうか……魔王、だな!」

  カバ―――魔王は何も言わない。
  ただ、息を大きく吸い込み、口から激しい炎を吐いた。


69 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:24:13 qcdHjUuw0

  セイバーは盾を構える。天空の盾はブレス系の攻撃に強い。当然防ぎきる。
  セイバーの後ろで縮こまっている岬も当然無事だ。
  周辺の木の幾つかに火が燃え移るが、それも問題はない。

  白刃が空中を走り、今まさに延焼しようとしていた木々の燃えている部分だけを切り捨てる。
  地面に落ちた火種が、返す刀で両断され、勢いを失って鎮火した。

  そして、剣を振るった勢いをそのままに、「おお!」とも「はあ!」取れぬ掛け声をかけながら魔王に肉薄する。
  セイバーの髪が木漏れ日を浴びて瑠璃色に輝く。
  瑠璃色の閃光に魔王が目を細め、愚鈍な動きで次の動作に備えて動き出す。
  だが、攻撃を放ちきって隙があった魔王よりもセイバーの方が速い。剣を振りかぶり、袈裟に斬り下ろす。

  肉を裂く音。
  血の飛び散る音。
  「ぐふっ」という少々間の抜けた魔王の叫び声。
  一撃が綺麗に入った。会心とまではいかないが、なかなかの太刀筋だ。
  だが、斬られた魔王も黙っていない。すかさず右手を突き出して反撃する。
  その打撃を、今度も左手に装備した天空の盾で防ぎきり、右手に装備した天空の剣の柄で腹を横殴りに殴る。
  真新しい傷口に衝撃を受け、ぎゃあっと悲鳴を上げる魔王。そしてそのままの勢いで後ろに吹っ飛ぶ。
  後ろに吹っ飛び、体勢を立て直し、距離を離し、移動を始める。

  セイバーは再び考える。
  今ここで逃げるべきだろうか。
  しかし、と足元で燻る木切れを見る。
  もし、あの魔王が火を噴けば、森林公園はたちまち火の海になり、逃げている最中も火に炙られることになる。
  英霊であるセイバーはまだしも、岬や、関係のないNPCが火の海の中で無事で済むわけがない。
  ならば、追いかけてここで討つか、追いかけて岬が逃げ切るまで時間を稼ぐか。
  どちらにしろ、追うのが得策だろう。
  そう判断したセイバーは、まず後ろでまだ縮こまっている岬に声をかけた。

「マスター、隠れててくれ。逃げる必要があったら念話を送る」

「えっ?」

  岬からの返答を待たずに、駆け出す。
  幸い、岬一人ならば(魔力が少ないので)他のマスターやサーヴァントが来てもマスターとバレる可能性は極低い。
  それに、魔王側も、勇者の猛攻を掻い潜って岬には到達できない。
  ならば、今だけは、セイバーが近くに居ないほうが安全だろう。


70 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:25:51 qcdHjUuw0

◇◇◇

  どうやら件の魔王の敏捷はかなり低いらしく、セイバーが本気で追いかけていると数秒もせずに追いつけた。
  たどり着いたのはだだっ広い空間。森林公園内で、森の間に作られた休憩用の東屋といくつかの遊具が飾られた場所。
  その東屋の屋根の上で、魔王は天に向かって両手を掲げていた。
  大技が来る。
  理解したセイバーの動作は早かった。
  既に装備していた天空の盾・天空の剣についで天空の鎧も装備。大技に備える。
  魔王が両手を正面に突き出し、同時に呪文を唱える。

「『イオナズン』!!!」

  放たれた光球が四方八方に飛び交い、爆裂する。
  遊具が吹っ飛び、地面がえぐれ、地形を変えていく。
  しかし、セイバーにはかすり傷程度のダメージも入らない。当然だ。この程度の魔術ならば天空装備無しでも受けきれるのだから。
  剣を構え、土埃の向こう側を動いているであろう魔王の気配を探る。
  臨戦態勢の魔王の気配を感じ逃すはずがない。場所は正面右前、一時の方向。

「はぁっ!!」

  振るった剣が再び肉を裂く。手応えが薄い。
  体勢を整えるよりも早く、土埃を振り払って魔王が現れて再び両手をセイバーに向けてかざす。

「『メダパニ』!!!」

  唱えてすぐに拳を振りかぶる魔王。左手でセイバーが剣を持つ右手を狙った手刀の一撃を繰り出した。
  セイバーは一切惑わされることなく、その手刀をいなし、逆に一歩飛び退って飛び込んできた魔王に対してもう一線剣撃を食らわせる。
  魔王がつきだしていた左手が吹き飛ぶ。
  聞くに堪えない恐ろしい悲鳴がこだまする。

  セイバーは確信した。
  この魔王は、『弱い』。
  クラスが適合していないのか、英霊としての格が足りないのか、それとも相性の問題か、セイバーとは天と地ほどの性能差がある。
  追ってきたのは正解だった。下手に逃げていれば戦力で優っているのに相手に主導権を握られることになっていただろう。
  そう考え、踏み込み、仰け反っていた魔王に横薙ぎに一閃斬りかかる。

  ざぐりという鈍い音。音は鈍いがまだ浅い。
  セイバーの背骨ごと真っ二つにする勢いで放った斬撃も、すんでのところでかわされてしまう。
  魔王は、無茶苦茶に身体を捩っていた。捩った分だけ身体がずれ、その分わずかに斬撃から逃れていたようだ。
  だが、存外無傷というわけではない。
  切っ先数センチで切り飛ばされただけに終わったが、その衝撃を殺しきれず、ぐるぐると回転してずべしゃと音を立てて地面に這いつくばる。
  地面が赤く染まる。腹に添えられた魔王の右手から、皮膚の色ともローブの色とも違う、鮮やかな内蔵がまろびでる。

「ぐ、お、お、お……」

  地獄の底から響くような唸り声。人間が聞けば、恐れ慄き泣き叫ぶであろう声。
  勇者セイバーは揺るがない。
  格付けは終わった。
  この『魔王』はもう、どうあがいてもセイバーには勝てない。
  あと数分どころか、数秒もあれば、魔王を倒すことが出来る。その確信があった。

「相手が悪かったな」

  セイバーが語りかけると、魔王は顔を上げ。
  その顔を不敵に引き攣らせて、右手を勇者めがけて突き出しこう唱えた。

「『バシルーラ』!!!!」


71 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:26:54 qcdHjUuw0

  セイバーに呪文は効かない。
  この点については、あれだけ魔法を放った魔王も気付いているはずだ。
  ならばなぜ、悪あがきのように魔法を打つのか。セイバーは少しだけ、
  セイバーの心に引っかかるのがもう一つ。
  『イオナズン』『メダパニ』。
  聞いたことのある呪文が二つ。
  そして『バシルーラ』。これは聞いたことがないが、よく似た名前の『ルーラ』という呪文がある。
  相手に向かって手を掲げて使った、ということは……

「きゃっ! な、なに、なに、これ……」

  不意に挟まる、戦場にはふさわしくない声。
  セイバーが聞き慣れた、この場所では聞くはずがないと思っていた声。
  セイバーは意識をバラモスにも向けたまま振り返る。
  魔王と勇者の延長上、勇者のほぼ真後ろに、浮き上がっているセイバーのマスター・中原岬が居た。

  隠れているようにと言い、置いてきた彼女が、なぜかセイバーたちの戦場の方へ来ていた。
  それをバラモスは目ざとく見つけて、『バシルーラ』をかけた。
  通常の魔法ならばセイバーに無効化されると理解した上で、『対象を一人に限定する呪文』を唱えたということだ。

「マスター!」

  岬は、悲鳴を上げる間もなく吹っ飛んで行く。方角的には、B-5方面。岬の家がある方角へ。
  セイバーの予感は的中していた。
  『ルーラ』が転移魔法ならば、『バシルーラ』は強制転移魔法。相手を何処かへ吹っ飛ばす魔法、ということだろう。

  やってくれたな、と魔王の方を睨むと、魔王は弱々しくも誇らしげに笑っていた。

「そなたのマスターを、ただ送り返してやったと思うか?」
「『バシルーラ』は魔術じゃ。宝具ほどではないにせよ、強い魔力の反応を示す」
「魔術の反応が、目立つ空中を大きく動けば……誰かに見つかる可能性は低くはない」

  セイバーが舌打ちをして剣を向けると、魔王はその傷からは予測ができないほどに機敏な動きで飛び上がり、距離をとった。
  再び腹部を覆っていた右手を外す。内蔵が見当たらない。傷口がふさがっている。

「わしが本気で抵抗したところで、あと数分もあればそなたはわしを殺せるじゃろう」
「だが、その数分で、他のマスターがあの少女を見つけ出し、殺すやもしれぬ」

  確かに、あれだけ強い魔力で飛行しているところを見れば、少しくらい魔術に覚えがあれば場所の特定は容易だろう。
  さらに言えば、岬に戦闘力はなく、交渉が出来るようなタチではない。
  好戦的な主従に見つかってしまえば、それだけでアウトだ。

「さあ、どうする勇者」
「わしは魔王。逃げはせん。死ぬ瞬間まで貴様の絶望のために戦うぞ」

  死にかけの魔王は、にたにたと気色の悪い笑顔で囁く。
  自身の命すら捨て駒にしようというその一種異様な光景。
  その様子を見て、セイバーは―――


72 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:28:07 qcdHjUuw0

◇◇◇

  セイバーは走っていた。
  ただひたすらに走っていた。
  臆病風に吹かれたわけではない。あのまま戦えば絶対に勝てるという自負があった。
  それでも、魔王に背を向けてひたすら走っていた。


『嫌いにならないで下さい』
『裏切らないで下さい』
『側にいて下さい』


  出会ってすぐに執行された三つの絶対命令権。
  そんな大雑把な命令にどれほどの強制力がある。
  魔術の覚えのない岬の令呪が、最高峰の対魔力を持つセイバーに対してどれほどの意味を持つ。
  彼女もそのことになんとなく気付いていたのかもしれない。
  だから最後に、こう付け加えた。


『約束……守ってね』


  どんな魔法よりも強く。
  どんな睦言よりも甘く。
  どんな呪いよりも残酷。
  勇者は、その一言で心を釘付けにされた心地だった。

  なんてことはない一言だ。
  でも、『約束』なんだ。
  彼女にとって、心の底から絞り出した願いだ。

  泣くことも出来ず、誰にも伝えることも出来ず。世界の皆が繋いだ手と手の輪からはじき出されて、俯いていた少女。
  自身の心を伝えることも出来ない、不器用で、儚い、ガラス細工のような少女。
  一人で物語を終わらせようとしている、とても強くてとても弱い少女。

  彼女が、精一杯の勇気を振り絞って告げた『約束』。
  それは、令呪なんて薄っぺらな繋がりではなく、もっと深く、もっと濃い、彼女の『心』だった。
  それを反故にすることは、少なくともセイバーには出来なかった。
  だから、あの時『逃げろ』ではなく『隠れていろ』といった。
  『逃げろ』と言えば、彼女はセイバーとの間に、また隔たりを受け取ってしまうとわかっていたから。
  だから、今全力で走っている。
  少しでも早く、彼女の傍に帰れるように。

  セイバーが魔王を放置して飛ばされた彼女を追う理由は、『約束したから』。それだけで十分だった。


73 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:28:52 qcdHjUuw0

  実体化を解かずに全速力で、風よりも早く街を駆け抜け。
  霊体化して、建物を通り抜けて部屋に飛び込む。
  飛び込んだ先は、岬の部屋。
  そこには、先ほど別れた時と同じ、きょとんとしている岬が居た。

「よくあたしが家に帰ってるってわかったね。すごい。もしかして超能力者?」

「違うよ……似てたんだ。俺の世界の呪文とね」

  あの呪文(バシルーラ)には、セイバーもなんとなく覚えがあった。
  空間転移呪文。ルーラのバリエーションのようなものだろう。
  だとすれば、移動する場所は決まっている。
  この聖杯戦争の地で岬が行ったことがある場所は、家か、図書館か、劇場かくらいだ。
  飛んでいった方向的にも、家に返された可能性が高いと踏んで、当てずっぽうで家に帰ってきただけにすぎない。

  セイバーの説明を聞くと、岬は少しだけふさぎ込み、そして真剣な表情でこう尋ねた。

「倒したの?」

「……いや」

「……そっか」

  沈黙が流れる。
  こち、こちという時計が時間を刻む音だけが、二人の間を行き来する。
  岬はなにも喋ろうとせず、ただ、答えを探っているようにも見えた。
  セイバーには彼女の求めているものは分からなかった。

「……なんで?」

  しばらくの沈黙の後、岬が口を開く。
  どこを指しているのかもわからない問いかけ。

「……レイさんは、勇者なんだよね。 で、あれ、悪いカバだったでしょ?」

  そこまで説明を聞いてようやく得心が行く。
  つまり、魔王討伐ではなく、岬を優先したのはなぜか、という問いかけだったらしい。
  決まりきっている。『約束したから』だ。
  でも、そんなことを言えば、彼女がどう思うだろうか。
  約束がセイバーを追い詰めた、などと勘違いしてしまうかもしれない。
  岬は、自分のことを『最低』だと思っている。だからセイバーは、本当の答えを口に出せなかった。


74 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:31:11 qcdHjUuw0

「マスターは、なんで隠れてなかったんだ」

  そして、苦し紛れのようにそう問いかけ返す。
  あまりにちぐはぐなやりとりだと気付き、セイバーは苦笑しかける。
  だが、岬はとても真剣な表情でセイバーの方を見つめ続けていた。

「約束、したからです」

「……」

「ずっと傍に居てって約束しました。あたしの方から。
 なのに、あたしだけ隠れてるって。うーん、どうなんだろ。間違ってると思ったので」

  岬の答えは、直球だった。
  隔てることもなく、隠すこともなく。
  一人と一人の約束は一人と一人のもの。
  隔てるも隠すもあったことではない。

  嫌いにならないと約束した。
  裏切らないと約束した。
  側にいると約束した。
  それは事実。
  一人と一人の間にある、これからも変わらない、令呪3つ分の――いや、既に令呪3つ分を超えた、さらに大きな真実。

  セイバーはその答えを聞いて、こう答えた。

「俺も、同じさ」

「……」

「約束したから。そばにいるって。だから、走って帰ってきたんだ」

  じっと見つめられて少し気恥ずかしくなって、そう付け加えた。偽りのない真実を。
  その答えを聞いて、岬はよく分からない表情をして。
  そのまますこしだけ満足そうに目を細めて、大きく背伸びをした。

「まだお昼前だね。これからどうしよっか」

「外出、それも少し遠出したほうがいい。さっきの呪文で、人が寄ってくるかもしれない」

「そういえば、呪文って、レイさんも使えるの?」

「どうだろう。使えるんじゃないかな」

「空とか飛べちゃう?」

「……気に入ったのか」

  森林公園から強制的に家に帰され。
  やることを再び失ってしまった一人と一人。
  それでも、一人と一人は、少しだけ、『人』に近づけたのかもしれない。


75 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:32:15 qcdHjUuw0

【D-5/中原岬の家/一日目 午前】

【中原岬@NHKにようこそ!】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]なし
[装備]なし
[道具]カッターナイフ
[所持金]あまり使えないんです。お世話になってるから。
[思考・状況]
基本行動方針:なにを願っていたんだろう
0.寂しい
1.約束したんです
2.もう少しどこかに出かける
3.悪いカバを警戒
[備考]
※悪いカバ(まおうバラモス)を確認しました。魔術については実際に目にしましたが理解が及んでいません。
※バシルーラでD-6→D-5を移動しました。魔力察知に優れた人物に所在地を感付かれた可能性があります。


【セイバー(勇者レイ)@DRAGON QUEST IV 導かれし者たち】
[状態]魔力消費(小) 霊体化中
[装備]天空の剣、天空の鎧、天空の盾
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:岬の傍に居る
1.魔王を倒す必要がある……か?
2.できるだけ宝具の解放や長時間の戦闘は避けたい。
[備考]
※偽アサシン(まおうバラモス)を確認しました。イオナズン・メダパニ・バシルーラも把握しました。呪文系統の合致から、よく似た平行世界の魔王であると認識しています。
※バシルーラの効果で人が集まることを懸念しています。


76 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:33:34 qcdHjUuw0

◆◆◆

「わははは、ははは、はは……」

どすんと音を立てて巨体が地に沈む。
倒れ伏した魔王―――偽アサシンこと宝具『まおうバラモス』は、傷だらけの身体で高らかに笑っていた。

息も絶え絶え。
HPにすればニ桁までは行かないものの三桁前半までは減らされているだろう。
傷は深く、疲労もそれなり、まさに死に体。
しかし、バラモスは勝利の喜悦に酔いしれていた。

「勇者め、魔王相手に逃亡とは、情けない……」

地面に突っ伏したままでぐふ、ぐふと喉を鳴らして笑う。
勇者と出会ってしまい、彼と戦うことになったのは完全に失策だった。
しかもあの強さ、間違いなくセイバーのサーヴァントとして顕現したのだろう。
攻撃を仕掛けようとしても物凄い速さで反応された。
虚を突いて逃走を図ってもすぐさま追いつかれた。
切り結べば力負け。
呪文は一切通らない。
打つ手なしとはまさにこの事、と言わんばかりの戦況で、それでも天は彼を見捨てなかった。

勇者のマスターたる少女が、のこのこと戦場に戻ってきたのだ。
少女に戦闘能力がないというのは、最初の一撃で把握済みだ。
あんな隙だらけの防御ならば、勇者さえ居なければぶち殺せる。
バラモスでぶち殺せるなら、他の英霊ならば消し炭だ。塵に返せる。

だからこそ、彼は大博打に出た。
得意技の一つである『バシルーラ』でマスターをふっ飛ばし、勇者である以前にサーヴァントであるセイバーに揺さぶりをかける。
結果は、大成功だった。
力あるものが力なきものから逃げる。
バラモスが力なきもの扱いというのは少々癪にさわるが、それでも、勇者をやりこめてやったのは気分が良かった。

寝返りをうち、天を仰ぐ。
切り落とされた左手は、そろそろ回復が終わる。


77 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:34:28 qcdHjUuw0

左手がくっついたのを確認して、バラモスは立ち上がり移動を再開した。
イオナズンの爆音を聞いて他の参加者が集まれば、今度こそおしまいだ。
痛む身体を引きずりながら、森林公園の外周、山林部へと身を隠した。
これで、やたらめったらに見つかることはないはずだ。

「しかし、傷をもらいすぎたな……」

樹の根元に座り、身体を眺める。
血こそ流れてないが、かなりの深さの生傷がいくつも走っている。
しばらく時間をおけば問題なく治るだろうが、その『しばらく』の間はあまり動きまわらないほうがいいだろう。
とにかく、まずは身を潜める。
身を潜め、自身のスキルとゾーマ・たまからの魔力によって傷が塞がるのを待つ。
一箇所にとどまるのは危険を伴うので、できるだけ点々としながら全快を待つ。

全快後に動くにしても、今回のようなヘマをしないように、常に遮蔽物を利用するべきだ。

「なにより、休息じゃ。
 その後に、あの少女……フェイト・テスタロッサを探すとしよう」

頭のなかに浮かぶのは、主たるゾーマとの密約。
戦うな、というのは破ってしまったが、生きているのだ、これはセーフ。
図書館に近づくな、というのも守っている。バラモスとて大魔王、死にに行くほど馬鹿じゃない。
市民を襲うな、というのは破っていない。今はまだ。
フェイトという少女についてなにか思うところがあるらしい。ならば、最大限便宜を図るのが臣下としての使命だろう。

「どこに居るか……この周辺ならいいが……」

そこまで考えて、ふ、と。
主たるゾーマに今回の交戦のことを伝えるべきかどうか、という疑問がわいた。
だが、そんなもの、すぐに結論が出た。

「『勇者を見つけたから』なんぞで帰っておっては時間が足りぬわ」

勇者が居るのはバラモスもゾーマも想定内だ。
というよりも、英霊として呼ばれるならば皆が皆勇者レベルのものたちだ。
一体見つけて飛んで帰って大魔王の手をわずらわせるほどのことだろうか。
バラモスは、それを非と判断した。
異世界の勇者がどれだけ居ようが、ただの参加者。
ゾーマを討った『ゆうしゃロト』が居るならば話は別だが、それ以外は須らく平等に『ただの敵』として扱う。
それで十分だ。

「さて、動くか……少しでも、人目のつかぬ場所へ……」

バラモスは再び、山林部の更に奥へと向かって歩き出した。
まだまだ深いが、それでも動けるくらいには快復した身体を引きずって。


78 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:35:21 qcdHjUuw0

【D-6/森林公園/一日目 午前】

【偽アサシン(宝具『まおうバラモス』)@ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ】
[状態]ダメージ(中)、疲労(小)、自動回復中
[思考・状況]
基本行動方針:大魔王城完成まで図書館には近寄らずに情報収集
0.早朝まで生きて残り、参加者の情報を大魔王ゾーマに伝える。
1.しばらく休む。そのためにも山林を移動。
2.参加者を警戒しながら情報収集。全快まで戦いは避ける。
3.フェイト・テスタロッサを捜索。
[備考]
※中原岬&セイバー(レイ)を確認しました。セイバーが勇者であることも気付いています。
※遮蔽物がある場合気配遮断もあって発見しにくいですが、見つかるときは見つかります。
※宝具であるため念話・霊体化は使えません。魔力はアサシン(ゾーマ)のものを使用します。
 また、実際のバラモスとは違って状況によって思考判断を行い、分が悪ければ防御・撤退もします。
※彼の持つ気配遮断:Eは『NPCには見つからない』『参加者には隠れていれば見つからない』程度です。
 参加者に一人で歩いているところを見られれば見つかります。
※『NPCを極力殺さない』というゾーマの命令を守ります。ただし極力なので必要に応じて殺します。
※早朝、もしくは非常時と判断した場合にのみ廃教会に帰ってきます。
※フェイト・テスタロッサを見つけた場合、彼女の危険性を判断します。
 危険ではないと判断した場合、保護を申し出て教会まで連れ帰るつもりです。(ただし生存優先のため、危険であると判断した場合は交戦・逃走もやむなし)

※バシルーラは相手を拠点(おうち)に送り返します。ただし英霊相手には余程のことがない限り効果がありません。
※D-6 一部にイオナズンが撃ち込まれた跡があります。もしかしたら音も聞こえているかもしれません。


79 : 約束/まおゆう 魔王勇者 ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/08(水) 07:35:50 qcdHjUuw0
投下終了です
誤字脱字、修正箇所、矛盾指摘などあればお手数ですがお願いします


80 : 名無しさん :2015/07/08(水) 11:06:33 LjSi1K.c0
投下乙です

開幕3画令呪ブッパの心が効いてるなあ
岬とセイバーのやりとりから暖かみと切なさが伝わってきて好きです
あと小ネタで仕切り直し(まわりこまれる可能性がある)にクスリと来ました
バラモスはうん、確かに相手が悪かった
むしろバシルーラの機転をよく働かせたよ
フェイトちゃん探し陣営に見つかってしまうのか......?


81 : 名無しさん :2015/07/08(水) 19:04:45 Gj6P.4pM0
投下来てた!乙です!
おお、この主従もいいなあ
登場話で描かれていた三つの約束を実にうまく絡めてますね
「深く心に刻み込んだ」といい、仕切り直しのファンブルといい、ドラクエネタの自然な入れ方にもニヤリ
偽アサシンことバラモスとの戦闘はセイバークラスの面目躍如というにふさわしいものでしたが、そこはバラモスも魔王、奸智でもって一矢報いて命を繋ぐかー
一人ごちるバラモスの考えのあれこれも今後を思わせてわくわくさせてくれます
改めて、投下乙でした


82 : 名無しさん :2015/07/09(木) 22:20:33 61J4/Vss0
投下乙です
なぜだろう。呼んでる途中バラモスを応援してしまいました。圧倒的に弱いうえにカバ扱いされて可哀想だからでしょうか
でも対象に魔術の気配を纏わせながら家に飛ばすバシルーラの性能はマスター相手には結構えぐい


83 : 名無しさん :2015/07/16(木) 05:47:37 rpDXTWK20
例のアレ


未登場
玲&エンブリオ(ある少女)
フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)


登場済

[早朝]
【B-5】桂たま
【B-4-B-5】アサシン(ゾーマ)
【C-2】白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)、雪崎絵理
【C-3】高町なのは、キャスター(木原マサキ)
【D-3】ララ、アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド/ジャック・ザ・スプリンガルド)
【D-5】大道寺知世&アサシン(プライド/セリム・ブラッドレイ)
【D-7】シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)
【????】バーサーカー(チェーンソー男)

[午前]
【B-1】海野藻屑
【C-2】輿水幸子
【C-4】クリエーター(クリシュナ)
【D-1】アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
【D-2】山田なぎさ、アサシン(クロメ)
    木之本桜&セイバー(沖田総司)
    蜂谷あい&キャスター(アリス)
    星輝子&ライダー(ばいきんまん)
    大井、アーチャー(我望光明)
    双葉杏&ランサー(ジバニャン)
【D-3】諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
    江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
【D-5】中原岬&セイバー(レイ/男勇者)
【D-6】偽アサシン(宝具『まおうバラモス』)
【????】ルーラー(雪華綺晶)

場所確認用のやつ
ttp://download1.getuploader.com/g/hougakurowa/4/%E5%B0%91%E5%A5%B3%E5%9C%B0%E5%9B%B3.png


84 : 名無しさん :2015/07/16(木) 09:11:32 WQFGaXho0
こうして見るとラスボス多いなw


85 : 名無しさん :2015/07/16(木) 22:14:04 NUmA7umk0
ある少女は扱いが難しそう
さいはてに入れたら結構な数のキャラが入り浸りそうだ…こっちのさいはての規模がどんなもんだかわからんけど


86 : 名無しさん :2015/07/16(木) 23:52:49 WQFGaXho0
候補作の中で『町』と『商店街』について言及されてたから
最低でもまんなか区と夕焼けの商店街はあると思う


87 : ◆ACfa2i33Dc :2015/07/18(土) 05:29:31 Fh001J86O
>>13の面子で再予約します
本当に申し訳ありません


88 : 名無しさん :2015/07/18(土) 08:39:41 vCdlMeng0
>>85
宝具やスキルから見るに友好的かつ即戦力になりそうな昼食会メンバーならばさいはて内限定の独立鯖として召喚できそうではある
具体的にはタグチ、はっしー、ぐりぐら、蒔田あたりか


89 : 名無しさん :2015/07/18(土) 10:45:05 jGervOq20
おお、再予約来た!
お気になさらず、楽しみに待ってますよ


90 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/20(月) 08:06:42 nKKRv/vI0
自己リレーになりますが

白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)

予約します


91 : 名無しさん :2015/07/20(月) 12:07:22 wnLAIzMA0
おお、こちらも…楽しみです


92 : ◆2lsK9hNTNE :2015/07/25(土) 00:15:59 LHCvhp6o0
一人は自己リレーですが

高町なのはと森の音楽家クラムベリー

予約します


93 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/07/27(月) 04:04:44 AXBVLIK60
間に合わないと判断したので現予約を破棄します
申し訳ありません


94 : ◆2lsK9hNTNE :2015/08/01(土) 00:04:59 TQrcbT5.0
遅くなりました
高町なのは
森の音楽家クラムベリー
投下します


95 : ホワイト&ローズ ◆2lsK9hNTNE :2015/08/01(土) 00:07:02 TQrcbT5.0
「この写真の子を見ませんでしたか。フェイト・テスタロッサっていうんです」

男は首を振り、なのはは礼を言ってまた別の男に尋ねる。そんなやりとりをもう何度も繰り返してきた。
家を飛び出してから数時間。ずっとフェイトを探しているが、未だ手掛かりは得られていない。
考えてみれば当然だった。見えない壁で仕切られているとはいえ、聖杯戦争の舞台は狭くない。
フェイトも、自分が追われていることを知って、どこかに隠れているかもしれない。なのは一人が考えなしに探したところで見つかるわけがなかった。

足の裏が痛む。
今からでも念話でキャスターに協力を頼もうかとも思ったが、今も聖杯戦争の解析をしていると思われる彼に、さらに負担を強いるのは躊躇いがあった。
やっぱり一人で探そうと決意したところでお腹が、ぐう、となった。そういえばまだお昼を食べていなかった。
いざというときに空腹で倒れたりしたら元も子もない。辺りと見ると民家ばかりの中に一見だけ小さなラーメン屋があった。

中に入るとお昼時だけあってそこそこ人がいる。なのは適当に開いているカウンター席に座った。
家族や友達を連れずに飲食店に入るのは初めてだったので、少し緊張した。
メニューを見て、一番安い醤油ラーメンを注文する。

「あの、この子しりませんか? フェイト・テスタロッサって名前なんですけど」

店員に聞いてみたが「知らないっすねぇ」と言って厨房に戻っていった。
周りの客にも聞いてみたが、芳しい返事は得られなかった。

「隣り、よろしいでしょうか」

すぐ横から女性の声がしてなのはは「どうぞ」と答えた。遅れて声の方に視線をやり、その姿にぎょっとした。
今は春だというのに、その女性は黒く長いコートで全身を隠し、頭をフードで覆っていた。ハッキリ言って怪しい格好だった。
なのはは相手を注意深く見る。と、ぼんやりと頭の中に画が浮かび上がってきた。
前にも見たことがあるような画だった。あれは初めてキャスターとあった日、聖杯から与えられた記憶を便りにキャスターのステータスを見ようとして……

――サーヴァント!

なのはは心の中で叫んだ。間違いない。これはサーヴァントをステータスを表す画だ。
つまりこの女性はサーヴァント。それもクラスは対魔力を持つアーチャーだ。

隣りに座られて、なのはは慌てて正面を向いた。
魔法で戦うなのはでは高い対魔力を持つ相手には太刀打ちできない。
次元連結システムを使えば別だが、あれはなのはにも制御しきれない。こんなところで使えば大惨事になりかねない。
それ以前に人のいるところで戦闘をすること自体、なのはにとっては論外だ。絶対にマスターであることがバレてはいけない。
だがそんな思いを打ち砕く言葉がアーチャーの口から発せられた。

「フェイト・テスタロッサを探しているようですね」

反射的にレイジングハートに伸びそうになった手をアーチャーが掴んだ。
瞬きよりも速い一瞬だった。なのはは自分の手が締め付けられる感触がして、初めて掴まれていることに気づいた。

「そう構えないでください。戦うつもりなら声をかけたりしませんよ」

そう言ってアーチャーが手を離す。注文を聞く店員に味噌ラーメンを頼むんだ。
なのはは瞳に警戒の色を浮かべて言う。

「それじゃあ……なんのようですか?」
「フェイト・テスタロッサのことを聞いてまわっているそうですね」

ドキリとする。あんな探し方をしていたら、いずれ他の参加者の耳に入ることはわかっていたが、こんな早いとは思っていなかった。


96 : ホワイト&ローズ ◆2lsK9hNTNE :2015/08/01(土) 00:08:26 TQrcbT5.0

「フェイト・テスタロッサを探すのは変なことではありません。
しかし道行くに人にたずねて回るというのは、令呪欲しさにしてはリスクの高いやりかたです。
あなたは個人的にフェイト・テスタロッサのことを知っており、彼女を守るために探している。違いますか?」

心臓の鼓動が速くなっていく。なのはは何も答えられない。沈黙をイエスと受け取ったのかアーチャーが続ける。

「そこで提案なんですが……私と協力しませんか?」
「え?」
「協力と言っても難しい話ではありません。フェイト・テスタロッサを見つけたらお互い連絡しよういうだけです」
「ちょ……ちょっと待ってください! えっと、それはつまりあなたもフェイトちゃんを守りたいってことですか?」
「はい」

本当ならなのはにとっては願ってもない申し出だった。ついさっき一人で見つけるのは難しいと考えたばかりなのだ。
しかしだからといって簡単に信用することはできない。フェイトは今すべてのマスターから狙われてもおかしくない立場なのだ。
このアーチャーもなのはから居場所を聞いたあとで裏切るつもりかもしれない。

「私はかつてこの聖杯戦争と同じくらい……いえ、それよりも悲惨な催しに参加していたことがあります」

そんななのはの思いを察したのかのようにアーチャーが口を開く。

「勝ち残ったところで報酬があるわけでもなく、負ければ死ぬ。
途中で抜けることも許されず、生きるには他の誰かを犠牲にするしかない。地獄のような殺し合いです。
私の目の前でもまだ若い男の子がひとり死にました。そして私自身もその戦いで……
あんな理不尽な出来事は絶対にあっては行けません。
ルーラーがなぜフェイト・テスタロッサを捕まえたいのかはわかりませんが、聖杯戦争など取り仕切る輩がまともとは思えない。
フェイト・テスタロッサの居場所を教えたくないなら、あなたや他の誰かがサーヴァントに襲われたときでも構わない。私を呼んでくれませんか。
私はもう誰かが死ぬのを見たくないのです」

アーチャーから語られる光景の凄惨さは今のなのはではいくら考えても想像できない。
だがアーチャーの声から彼女が戦いの中で感じた悲しみが、そして今の彼女を悲壮な想いが、伝わってくるような気がした。
なのは両手を握りしめ決心した。この人を信じようと。
こんな悲しい声を出す人が嘘をついているはずがない。

「わかりました。一緒にフェイトちゃんを探してください」
「ありがとうございます」

アーチャーはそう言って手を差し出す。なのは一瞬それが何を意味しているのか考え、すぐにその手を握り返した。
キャスターのときとは違う。アーチャーが求めているのは間違いなく握手だった。

「それでは――」
「お待たせっしたぁー、ご注文のしなぁいじょでおそろいでしょかー」

アーチャーの言葉を遮るようにラーメンが置かれる。彼女は肩を竦めた。

「込み入った話はあとにしましょう。そういえばあなたの名前は?」
「高町なのはです」


97 : ホワイト&ローズ ◆2lsK9hNTNE :2015/08/01(土) 00:10:18 TQrcbT5.0

それから二人はラーメンを食べながらいろんなことを話した。好きな食べ物とか趣味とか、そういった他愛もない話だ。
途中でキャスターの忠告を思い出して、こんな話をしていていいのだろうかと思ったが、アーチャーは「できるときに心をリラックスさせるのも大切ですよ」と言った。
会計のときになってアーチャーが手持ちがないことを思い出し、なのはがお金を払った。小学生には痛い出費だった。

外に出たあとアーチャーは「それでは連絡方法を決めましょう」と言った。

「私は生憎、通信に使えるようなものは持っていないので、何かあったときは公衆電話か誰かの携帯を借りて連絡します。あなたは――」
「あ、わたしの方はたぶん大丈夫だと思います。えっと……」
『聞こえますか?』

なのはは念話でアーチャーに話しかけた。僅かに覗いたアーチャーの顔が驚きに染まっていた。

「驚きました。あなたは自分のサーヴァント以外にも念話ができるのですか?」
「はい。サーヴァントとする普通の念話とは原理が違うとちょっと違うんですけど、一応」
「それはそれは……」

一瞬、僅かに覗いたアーチャーの顔が残念そうに見えた。
しかしそんな顔をする理由も思い当たらなかったので、気のせいだろうと思いすぐに忘れた。

「では私はフェイト・テスタロッサの捜索に戻ります。また会いましょう」
「あの、最後に一つだけ聞いてもいいですか?」

立ち去ろうとしたアーチャーが足を止める。振り向かず、背中を向けたまま言った

「なんでしょう」
「どうしてそんな格好をしてるんですか?」
「ああ、これですか」

アーチャーが振り向いた。指でフードを持ち上げ、中を見せる。そこには青い薔薇の花があしらわれていた。

「なにぶん目立つ容姿をしているで隠してるんですよ。まあこれはこれで目立つんですが」

そう言い残し、今度こそアーチャーは立ち去った。
なのははアーチャーが見えなくなったあと、小さく「よし」と言った。改めてフェイトを見つけることを固く決意する。
しかし気がかりが一つだけあった。

「ねえレイジングハート、やっぱりいつもみたいに話さない?」

キャスターは隙を作るからやめろと言ったが、アーチャーはリラックスするのも大事と言った。
それならやっぱりなのははレイジングハートと話したかった。

『いいえ』

レイジングハートは機械的に答える。レイジングハートはキャスターの意見に賛成なのだろうか。


98 : ホワイト&ローズ ◆2lsK9hNTNE :2015/08/01(土) 00:11:35 TQrcbT5.0



アーチャーが高町なのはに接触できたのは、人並み外れた聴覚を持つ魔法少女の中でも並外れた聴覚のおかげだった。
フェイト・テスタロッサの名を何度も口にする少女の声を聞き、十中八九、聖杯戦争の関係者と判断し接近。
セイバーにしたように殺気を飛ばしても、マスターのすぐ側まで近寄っても現れないことから、サーヴァントはいないと判断し協力を持ちかけたのだ。
あとは簡単だった。
呼吸や鼓動、声色などから相手の精神状態を分析し、魔法で感情を揺さぶる声を出して信頼を得る。
魔法少女を一人ひとり、スカウトしていたときにはよく使っていた手だ。特に理屈よりも感情で物事を判断する子供にはよく効く。

もっともフェイト・テスタロッサを守るというのはあながち嘘でもない。
アーチャーはフェイト・テスタロッサを狙って集まってくるサーヴァントとの闘争を求めている。
結果的にだが彼女を守ることにもなるだろう。あくまで彼女を囮として使った上での話だが。

しかし実に惜しい、とアーチャーは思った。
先頃のセイバーのマスターといい、高町なのはといい、素晴らしい素質を持っていた。
魔法少女になり鍛えればどちらも優秀な戦士になれただろう。しかしあの性格で聖杯戦争を生き残れるとは思えない。
本当に惜しい。できるなら生きているうちに会いたかったものだ。

アーチャーはひと気のない路地に辿り着いた。
ビルの壁に足を掛け、反対の足で地面を蹴る。そのまま壁面を垂直に駆け上がり、屋上へと登った。
サーヴァントであり魔法少女でもある彼女は人を探すのに、地道に地上を走り回ったりはしない。その優れた視覚と聴覚を持って高所から探す。

盗んだコートが風にはためいた。これは着たままにしておく。また誰かと接触したくなったときに役に立つかもしれないからだ。
屋上から屋上へ。黒い影が飛び移っていった。



【C-4/ラーメン屋の側/1日目 午後】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】
[状態]決意
[令呪]残り三画
[装備]“天”のレイジングハート
[道具]通学セット
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻る。
1.フェイトを探し、話をする。
2.フェイトを見つけたらアーチャー(森の音楽家クラムベリー)に連絡する
3.もし、フェイトが聖杯を望んでいたら……?
4.キャスターの聖杯戦争解明の手助け。
5.『死神様』事件の解決。小学校へ向かう。

【C-4/ビルの屋上/1日目 午後】

【アーチャー(森の音楽家クラムベリー)@魔法少女育成計画】
[状態] 健康
[装備] 黒い、フード付きコート
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: 強者との闘争を求める
1. 敵を探す。差し当たってはフェイト・テスタロッサを巡る戦乱に乗じる
※フェイト・テスタロッサを見つけてもなのはに連絡するつもりはありません


99 : ◆2lsK9hNTNE :2015/08/01(土) 00:13:43 TQrcbT5.0
投下終了です
何かミスやキャラ描写の違和感があったら言ってください


100 : 名無しさん :2015/08/01(土) 02:29:01 aGj3vgUA0
投下乙です
なのはの周りに着々と嫌なフラグが…クラムベリーはさすがの周到さというか闘争のためなら努力を惜しまないなあ
繋がりができていくのは見ていて非常に面白い


101 : 名無しさん :2015/08/01(土) 20:45:05 NwwSqO/U0
投下乙です。

クラムベリーが不気味で良かったです
しかし、なのはにはキャスターが、あの木原マサキが居ます…………敵も身内も策謀家って酷い状況ですね!
というか、レイハさんも改造されていて、なのはには味方が一人も居ません
果たして、孤独な彼女の行く先に行く先には、何が待ち構えているのでしょうか…………


102 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:36:39 oluq5EWA0
これより>>87の予約内容を投下します
度重なる予約超過本当に申し訳ありません


103 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:37:27 oluq5EWA0

 0:

   かつて町を震撼させた連続殺人鬼

      チェーンソー殺人鬼

          姿を消したかと思われた奴が今

             再びそのチェーンソーを震わせる!


104 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:39:12 oluq5EWA0
 1:


 くしゅん、と英国貴族の伊達男としては似つかわしくないくしゃみを、アサシン――ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドはあげた。
 サーヴァントは体調を損なうことはない。であるならばこのくしゃみはなにかの予兆か、――幸か不幸か、『くしゃみをするのは噂をされている印』というこの国で冗談交じりに話されるジンクスを彼は知らなかったが――、などと益体もなく思う。

(さもありなん。と言ったところかもな)

 街は噂に溢れていた。
 既に知っている『チェーンソー男』や『包帯男』、アサシンがその正体である『火吹き男』に留まらず。
 不審者や怪事件、都市伝説の類いの噂を探そうとすれば、おそらく数日は事欠かない。

(魔都だな、こりゃあ。
 ――『バネ足』の跳び回ってた頃のイギリスに、よく似ているじゃあないか)

 呼び出されたサーヴァント達。傑物、英雄、あるいは怪人。
 好き勝手に暴れまわる彼等によって、街全体が、幾らか暗い雰囲気を帯びている。
 それが、アサシンがここ数日街を見回って直観として得た感想だった。

(だが、それだからこそ、いい話も聞けるってものだ)

 口さがないおしゃべりに夢中になったり、誰かになにかを話したくて仕方がない人間は、どこにだっているものだ。
 それは18世紀の英国だろうと、現代の日本だろうと変わりはない。
 市民劇場の付近の通り。
 歴史ある、――ウォルター流に口さがない言い方をしてしまえば、古びてくたびれた――、建物の多い一角で、話好きな大人や老人たちから、色々と話を聞き出すことができた。
 中でも興味深かったのが、どうやら小学校に通う子供を抱えているらしい女が話した『死神様』の噂。

 生贄を捧げて『死神』を呼び出すと、憎い相手を殺してもらえる。今時珍しいくらいの古臭い形式の黒魔術だ。
 興味深いのは、そんなあまりにも錆び付いた手法が、小学校という子供達の学び舎で噂され、実際に行われているらしいこと。

(――面白いじゃないか)

 十中八九にして、これは聖杯戦争の絡んだ噂だとアサシンは判断した。
 サーヴァントの仕業だとするなら、魂喰いが目的か、あるいはその回りくどさから考えて他の目的があるか。
 どちらにしろ、小学校を調べてみる価値はある。

 そう当面の方針を決定し、市民劇場から西の方角にある小学校へと向かおうとした瞬間。
 不意に感じた気配に、アサシンはその足を止めた。


105 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:40:07 oluq5EWA0
 ◆

(くだらん街だ。聖杯によって作られたと聞いたが、大したモノではない)

 キャスター――木原マサキがこの街を見て回って一番に得た感想とは、それであった。
 無論、これだけの空間を構築し、そこに住む住人を用意する手腕と技術は大したモノではあるが、それとは別に街の様子はキャスターを失望させるに足るモノだった。
 今通っている裏通りも確かに歴史こそあるのだろうが、逆に言えば、キャスターからすれば古臭い寂れた商店や公共の建物が並ぶだけに過ぎない。
 実際、人通りもほとんどなかった。この街の中でも寂れた区画に当たるのだろう。

(元よりマスターのガキどもを欺くための舞台装置に過ぎんか。
 ……まあいい。主題はそこではない)

 キャスターの目的は、己の『冥王計画(プロジェクト)』の条件を満たすマスターを探すこと。
 そのためにも、キャスターに無用な散策に時間を費やしている時間はない。
 自己保存の特性《スキル》により滅ばぬ自らを餌にして、食いついてくる連中から新たな『木原マサキ』の素材を選別する必要がある。

 今とて、無為にキャスターは行動しているわけではない。
 確固とした目的地を持って、キャスターはとある場所を目指している。

 早朝にルーラーからキャスターのマスターである高町なのはへ――そして、おそらくはこの聖杯戦争の参加者である全てのマスターへ――送られてきた電子メール。
 捕縛命令が下されたフェイト・テスタロッサの事に注意を惹かれ、高町なのははその全文をしっかりと確認することはなかった。
 だが、キャスターは違う。

(『みんなのアイドル 諸星きらりだにぃ☆』、
 ――フン、間抜けばかりでもないらしい)

 くくく、とキャスターが嗤う。
 ルーラーが電子メールに記載していた、聖杯戦争参加者のための掲示板のURLアドレス。
 戯れにアクセスしたキャスターの目に入ったのは、露骨なまでの個人攻撃だった。

(中々に趣味がいい奴がいるようだ。――ひとつ利用させてもらうとしよう)

 諸星きらりがクロかシロかなど、キャスターには興味がない。
 ただ、あのスレッドを見た連中の一部は、間違い無くアレに喰いついてくる。
 その連中の前に出ていき、嘲笑い、品定めをするのも悪くはない。

 既にニュースサイトの内容から検索して、キャスターは事件の起きた高校の住所を調べ終わっている。
 マスターである高町なのはの家から、そう遠くもない場所。
 いや。もっと言えば、彼女の通う小学校の近辺だった。

(あのガキに嗅ぎ付かれるのは避けたいが)

 ……当然だが、これはなのはに類が及ぶのを危惧しての考えではない。
 もしも戦いの気配を嗅ぎつけた高町なのはがレイジングハートを使うことがあれば、聖杯戦争の盤面が変わるような事件が高確率で発生する。
 いつかは間違いなく起こる事態とはいえ、準備ができていない状況でキャスター自ら盤面を加速させる理由はない。
 故にサーヴァントやマスターを引っ張り出すとしても、小学校からは引き離すべきだ。

 歩きながらそこまで考えを纏めていたキャスターは、ふと感じた違和に、足を止めた。


106 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:40:37 oluq5EWA0

 †


(この辺りが目的ってわけじゃあ、ないらしいな)

 市民劇場から幾らか離れた裏通り。
 不意に気配を感じ取ったサーヴァントらしき男を尾行しながら、アサシンは内心でそう呟いていた。
 このくたびれた市街に目立った建築物といえば、ララの歌う市民劇場くらいのものだ。
 故に、サーヴァントがこの周囲を訪れるのならば、市民劇場の噂を聞き付けて調べに来たのではないかという危惧をアサシンは抱いていたのだが。

(方角から察するに、ただの通り道ってところか)

 ならば、彼のマスターであるララの存在が嗅ぎ付けられることはまだない。
 余裕を持って尾行を続けよう、とアサシンは判断した。
 『気配遮断』と『阻まれた顔貌』。この二つの特性《スキル》を同時に発動させたアサシンは、サーヴァントとしての気配を完全に消した上で、更に一般人としての気配も殺した状態にある。
 こうなったアサシンを捉えることは、特殊な手段を使わない限り非常に困難だ。
 そしてこの二つの特性《スキル》により、アサシンは情報収集に徹することができる。
 ある時は気配遮断を解いてNPCと会話し、ある時は気配を遮断し会話を盗み聞く。
 そしてまたある時は、今こうしているようにマスターやサーヴァントを尾行することもできた。

(しかし、なんでコイツは霊体化を解いている?)

 一見無防備に背中を晒しているサーヴァントらしき男の後を追いながらも、アサシンの内心には一つの疑問が芽生えた。
 移動するだけならば、障害物をすり抜けられる霊体の方が便利だ。
 先程のアサシンのようにNPCから話を聞き出したりしているのならばわかるが、目の前のサーヴァントらしき男にその様子はない。
 霊体化もせず、実体を持って気配を巻き散らす姿は、同じサーヴァントの目から見れば、明らかに目立ってしまっている。
 ……いや、アサシンの目には、むしろ"意図的に目立とうとしている"としか見えなかった。

(ふん。面白い、いいじゃないか)

 元々アサシンも、品行方正とは程遠い破天荒な人物だ。
 明らかに道理に合わない、一見無意味を通り越して不利益な行動。
 それを堂々と行うこのサーヴァントらしき男に、アサシンはある種の好奇心を抱いていた。

(暴いてやろうじゃないか。お前の企みをな)


107 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:41:11 oluq5EWA0


 キャスターが差し掛かった十字路、その前方の袋小路。
 コンクリートの塀で作られた、灰色の突き当たりに、標識が一本立っている。

 "これを見るものは
  これを進入禁止の標識として反応せよ"

 標識を視覚が認識した瞬間、五感がそう理解"させられる"。――のを、キャスターは自覚した。

(暗示かなにかか?
 ――くだらん仕掛けだ)

 かけられた本人がそうと自覚できる時点で、暗示としてのランクは高くない。
 キャスターのようなサーヴァントのみならず、マスターにすら容易く破られる類のものだ。

(せいぜい木偶除けががいいところか。違和感にさえ気付けば、この程度の暗示を破るのに特別な手段など必要ない)

 袋小路へと入り込んで、キャスターは意識し標識へと目を凝らす。
 その結果として、標識の傍に宙に浮く人形、――童話の妖精のような――、がいるのを、キャスターは発見した。

「なんだ、お前は」
「行き止まりです。行き止まりの世界です。
 見えるでしょう? 進入禁止の標識。だからここは行き止まりなのです。
 行き止まりの世界なのです」
「莫迦なことを言うな。NPCのような木偶人形ならばそれで騙せるのかもしれんが、この俺には通じん。
 もう一度聞く。貴様はなんだ。使い魔か」

 妖精は、キャスターの問いには答えなかった。
 その代わりに、――"道"が、開いた。

「これは"その他の注意"。
 "この先さいはて"の標識です。お気を付けて」

 何処にも続いている筈のない、灰色の袋小路。
 その先に、ぽっかりと、黒い"道"が、開いていた。

 そしてその"道"へ、躊躇無くキャスターは踏み込んだ。

「――さて、鬼が出るか、蛇が出るか……この俺を招き入れるならば、少しは楽しませてみせろ」


108 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:42:04 oluq5EWA0
 2:Positive Unhappy Crimson Edge


 "道"を抜けたキャスターがまずはじめに見たのは、土の地面と、生い茂る木の他には何ひとつない雑木林だった。
 林の向こうには、先程までいた裏通りとは明らかに様変わりした町が見える。

(固有結界、という奴か)

 固有結界。
 術者の心象により、世界を塗り替える大魔術。
 本来木原マサキの世界にはなかった用語だが、サーヴァント、それも魔術師《キャスター》として召喚された彼は、その知識を聖杯から手に入れていた。

 この推測が当たっているならば、今キャスターが立っているここは敵の陣地だ。本来ならば警戒し、一旦離脱を試みるのも手ではある。
 しかし自己保存の特徴《スキル》を以てすれば、余程の例外がない限りどのような状況だろうと自らに危険が及ぶことはない。
 そして、――『木原マサキ』の器を探すという本筋とは逸れるが――、この固有結界はキャスターにとって非常に興味深いモノだった。
 その理由は2つ。科学者としての知的好奇心、と――

(ここならば、"天"の力を発揮したとて表の街には及ぶまい)

 マスターである高町なのはの持つ、"天"のレイジングハート。
 その力をフルに発揮すれば、間違いなく街は壊滅する。
 別に、キャスターに街への被害を慮るような良心などは存在しない。
 だがルーラーから下されるかもしれない罰則と、他の主従から目を付けられるリスクはある。
 そこで上手くこの固有結界を戦場にしてやる事ができれば、キャスターにとっての懸念の一つは軽減される。

(後ろに"道"は……あるか。ならば撤退のルートは一先ず確保できていると見ていいな。
 結界内の様子を探るとしよう)

 雑木林の中を、キャスターが一歩踏み出す。
 そして、


109 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:42:58 oluq5EWA0

 チェーンソーの音が、鈍く響く。
 鉄塊は爆音と共に回転し、紅い光を撒き散らす。
 純粋な殺意。破壊欲求。あるいは機械的な存在意義の遂行。
 原動力がその内のどれかはわからないが――それが引き起こす結果は、ソレと対面した者ならば誰もが理解する。
 死。
 その"死"そのものが――そんな"死"を両手にぶら下げた怪人が。
 いつの間にか、キャスターの目の前をに立ち塞がっていた。

(……なんだ、こいつは。いつ現れた)

 異様な風体の男だ。
 上半身は半裸、下半身にはカーキ色のズボンと靴を身に着けている。
 瞳は空ろ、頭には切れ込みのような傷が走っていた。

 明らかにコレは尋常のモノではない。
 ならばコレがこの結界の主か。
 だが、その瞳に大魔術を扱うだけの理性の光は無い。それにあるのはただ、殺意、あるいは虚無。

(結界の主が配置した門番、あるいは排除役といったところか。関わっている時間は無いな)

 自己保存の特徴《スキル》があるとはいえ、明らかに害意を持っている――そして情報を得る余地もない相手に対して悠長に突っ立っているほどキャスターは間抜けではない。
 踵を返し、即座に逃走準備に入る。
 一歩を踏み出す――いや。それよりも早く、チェーンソーの怪人が動いた。

 両腕を振り上げ、勢いを付けて振り下ろす。
 それだけの単純動作。しかし結果は、やはり明白。
 何の守りもできない男は、鉄塊によって両断される――そう、両断される、筈だった。

 空を切る音。
 ――如何なる偶然の結果か。チェーンソーの回転刃はあらぬ方向へと逸れ、キャスターの身体に触れることもなく地面に突き刺さるのみ。
 いや、キャスターはこれが偶然でないと知っている。
 自己保存の特徴《スキル》によって、マスターである高町なのはが死なぬ間、彼は消滅することはないのだから。
 ――とはいえ、キャスター本人に戦闘能力がない以上、チェーンソーの怪人に対して彼が取れる手段もまた無い。
 故にキャスターは逃げの一手。だが、彼の顔に屈辱の色は無い。

(如何に謀ったつもりだろうと、最後に笑うのはこの俺だ)

 キャスターの勝利とは、元よりその計画の先にあるもの。
 命を奪えもしない短期的な勝利など幾らでもくれてやればよい。その間に、キャスターは己の計画を進めればよいのだから。

(調査はまたの機会で構わん。それこそなのはを連れてきて薙ぎ払わせてもいい)

 そうして背を向けて走るキャスターを、怪人は追わない。ただ、鉄塊を振り上げる。

(……何のつもりだ?)

 自らの肩越しに怪人の様子を確認しながら、キャスターは内心で首を傾げた。
 たとえ自己保存のスキルがなくとも、あの位置からキャスターに刃は届かない。
 なにかの策かフェイント? いや、あの理性の無い瞳から考えればそのような小回りが利くとは考えづらい。

 思考を巡らせながらも走るキャスターの後方、怪人の持つチェーンソーが撒き散らす紅い光が、その存在を誇示するかのように輝きを増す。
 回転刃の延長に紅光が伸び、――まるで剣のように――、像を作る。

 そのまま袈裟斬りの軌道。
 紅い斬撃の軌跡が、空間を突っ走った。

「……何ッ!?」

 半ば反射的にキャスターは飛び込み前転。
 紅刃は彼の身体を逸れ、代わりにと言わんばかりに周囲の木々を薙ぎ払う。
 巻き起こる土埃、紛れて起き上がり低い姿勢で駆けるキャスター。

「成程、大した手品だ」

 少し驚きこそしたが、結局のところはチェーンソーの射程が延びたのみ。
 単なる物理的な攻撃手段ならば今のキャスターを傷付けることは困難だ。

(だが、ああも暴れられると少々面倒だな……、……む?)

 土埃が晴れた先。
 キャスターの眼は、つい先ほどまでは間違いなく誰もいなかった林の中に、突如として人影を捉えていた。
 金髪に碧眼、痩身大躯の一人の男を。


110 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:43:35 oluq5EWA0
 †

 チェーンソー男の放った、――それを知る者には『マ剣』と呼ばれる――、紅の刃による斬撃。
 その余波は、意外なところに現れていた。
 そう――不審な挙動を見せたサーヴァントらしき男を追ってきたアサシン、ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイドであるとか。

(面倒な事になったな)

 気配を遮断しながらサーヴァントを尾行し、見たこともない、――そう、この街の地理は大まかに把握している筈のウォルターが、それこそ『全く見た事もない』――、奇妙な場所に入り込んだまでは良かった。
 瞬きの間に現れた怪人。それが放った周囲を巻き込むような不意の一撃を回避した拍子、アサシンの気配遮断は解けていた。
 つまり――今まで尾行していたサーヴァントの男と、そしてあの怪人に、見つかった。

(ここは何処だ? あのチェーンソーを持った男が街の噂になっている『チェーンソー男』なのか?)

 ――機械式の回転鋸を振り回し、人を襲う異形の巨漢。唐突に現れ、唐突に空を飛んで消える怪物。そして、不思議と顔の印象が記憶に残らないという。噂では、それは「少女」と戦っているのだとも――

 確かにその噂と、目の前の怪人は似通っている。だが。

(……何かが違う。顔の印象が残らないってわけでもないし、戦っている筈の少女とやらの姿も見えねえ)

 違和感があった。
 しかしその違和感を突き詰めるよりも早く、怪人が回転鋸を振り上げる動作を見て、アサシンは舌打ちした。

(どっちにしろ、奴が危険なのは同じか)

 アサシンにとって重要な問題は、チェーンソー怪人の正体よりも、この危機を如何に切り抜けるか。
 長々と考えている時間はない。

(あのサーヴァントは……もういないか。
 逃げられたな……この怪人を押し付けられた形になっちまった)

 アサシンは構えた。手に提げたスーツケースが消えて、『ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド』は『バネ足ジャック』になった。

 チェーンソーの音と馬車の軋むような笑い声が、同時に響いた。


     §


 ――ここまでの顛末を見たのなれば、あるいは疑問を呈する者もいたかもしれない。

 最初に見つけたキャスターよりも、気配遮断が解けているとはいえサーヴァントとしての気配を断ちNPCとして振る舞っていたはずのアサシンを、何故チェーンソー殺人鬼は優先して襲うのか? と。

 その疑問の答えは簡単だ。

 "自己保存"の特徴《スキル》。
 『自らのマスターが無事である限り、殆どの危機から逃れることができる』。
 ならば、その逃れられた危機は何処へ行くのか?
 その被害を――擦り付けられる形で、アサシンは受けたのだ。


111 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:44:14 oluq5EWA0
 3:Chain saw player kill


 カギ爪とバネ足の怪人が、回転鋸の怪人と対峙する。

 ――あきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!

 バネ足が軋み、アサシンが跳ねる。
 一瞬の後に紅の刃がその残像を撫で、更にその後を追って木々が切り倒される。

(……丸太を軽々作っちまうか。あの紅い刃がどういうカラクリかは知らんが、まともに受けるわけにはいかねえ)

 木々の間を跳ね回り、アサシンは回転鋸の怪人の動きを観察する。

(動きは間違いなくこっちの方が速い。だが、力で負けてるのは否めん)

 再び振るわれた紅い軌跡を、アサシンは低空ジャンプ軌道で回避。その間際、上から引っ掛けるようにカギ爪で回転鋸怪人に一撃。
 だが、浅い。回転鋸怪人の瞳はダメージを意に介さないかのように、――あるいは、そのダメージを理解する知能を持たないかのように――、終始虚ろ。
 太い枝の一つに飛び移ったアサシンは、その様子を見て舌を打った。

(埒が開かないな)

 かわしながらのアサシンの攻撃は深い傷を付けられず、有効打を与える為に火を吹くか深く踏み込むかすれば、逆にこちらが捉まり致命的な一撃を受けかねない。
 このままでは徐々に不利。
 ならば。

「"帰ってきて"と、言われてるからな……ッ!」

 乾坤一擲。アサシンはそのバネ足と木の枝を強く撓ませ、今までよりも疾く跳ぶ。
 跳ぶ先には回転鋸怪人――、いや。その頭上を越え、もっと遠くへ、アサシンは跳んだ。
 予期した軌道との違い故か、回転鋸怪人の対応が一瞬遅れる。その遅れの間隙を突いて、アサシンは更なる大跳躍。
 雑木林の頂点を、跳び越した。


112 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:44:34 oluq5EWA0
  ◆

「……撒いたか」

 背後から迫っていた、圧力のような殺気は感じない。それを確認して、キャスターは走っていた足を止めた。既に周囲の風景は、寂れた街の裏通りにへ戻っている。
 人影は無い。キャスター以外には、チェーンソーの怪人も、あれも。

「……都合は良かったが、不愉快だな」

 逃れる際に現れた存在。
 あれにチェーンソーの怪人の注意を擦り付ける事によって都合良く逃がれる事ができた。が、あれが本当にキャスターに都合良く現れてくれただけの存在とは思えない。
 尾行されていた、と見るのが普通だ。出てくるまでキャスターが全く気配を感じ取れなかったことから考えれば、アサシンのサーヴァントか。
 更に言えば、キャスターはしっかりとその姿を見た筈なのに、既にその情報が記憶から消えている。
 明らかに異常。おそらくは、スキルか宝具の効果か。それもまた、キャスターを苛立たせる。

「奴のマスターを探り当て意趣返ししてやれば、少しは愉快かもしれんな……」

 如何にアサシンのサーヴァントであっても、あまりマスターから遠く離れればマスターが襲われた際に危険だ。この近くに、あのサーヴァントのマスターがいる可能性はある。
 が、確実ではない。マスターは何処か遠くに籠っており、キャスターの捜索が徒労に終わる可能性もあるし、そうでなくともあの怪人をあしらってサーヴァントが戻ってくる可能性もある。

 元より、高校に向かうという目的もある。そちらを放棄して上手く行くかもわからない行動を取る必要があるだろうか?
 どちらを選ぶにしろ、早急に選択しなくてはならないが。

【D-3/寂れた市街の裏通り/午前】

【キャスター(木原マサキ)@冥王計画ゼオライマー(OVA版)】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:冥王計画の遂行。その過程で聖杯の奪取。
1.推定アサシン(ウォルター)のマスターを探すか、高校へと向かうかを選択する。
2.予備の『木原マサキ』を制作。そのためにも特殊な参加者の選別が必要。
3.特殊な参加者が居なかった・見つからないまま状況が動いた場合、天のレイジングハートを再エンチャント。『木原マサキ』の触媒とする。
4.ゼオライマー降臨のための準備を整える。
5.余裕があれば、固有結界らしき空間を調査したい。
6.なのはの前では最低限取り繕う。
[備考]
※フェイト・テスタロッサの顔と名前、レイジングハート内の戦闘記録を確認しました。バルディッシュも「レイジングハートと同系統のデバイス」であると確認しています。
※天のレイジングハートはまあまあ満足の行く出来です。呼べば次元連結システムのちょっとした応用で空間をワープして駆けつけます。
  あとは削りカスの人工知能を削除し、ゼオライマーとの連結が確認できれば当面は問題なし、という程度まで来ています。
※『魔力結晶体を存在の核とし、そこに対して次元連結システムの応用で介入が可能である存在』を探しています。
  見つけた場合天のレイジングハートを呼び寄せ、次元連結システムのちょっとした応用で木原マサキの全人格を投影。
  『今の』木原マサキの消滅を確認した際に、彼らが木原マサキとしての人格を取り戻し冥王計画を引き継ぐよう仕掛けます。
※上記参加者が見つからなかった場合はレイジングハートに人工知能とは全く別種の『木原マサキ』を植え付け冥王計画の遂行を図ります。
※ゼオライマーを呼び出すには現状以下の条件のクリアが必要と考えています。
裁定者からの干渉を阻害、もしくは裁定者による存在の容認(強制退場を行えない状況を作り出す)
高町なのはの無力化もしくは理解あるマスターとの再契約
次元連結システムのちょっとした応用による天のレイジングハートへのさらなるエンチャント(機体の召喚)
※街の裏に存在する固有結界(さいはて町)の存在を認知しました。
※アサシン(ウォルター)の外見を確認しました。が、『情報抹消』の効果により非常にぼんやりとしか覚えていません。


113 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:45:06 oluq5EWA0
     †

「……撒いたか?」

 "バネ足"の装備を解き、ウォルターとしての顔に戻りながら、アサシンは大きく息を吐いた。
 周囲の風景は、もはやアサシンの知っている風景ではない。
 雑木林を飛び越え、空き地を抜けて、アサシンは何処とも知れぬ、建物の影もまばらな通りに転がり込んでいた。

(どうにか脱出しないとな……しかし、此処はどこだ)

 夜な夜な街中を跳び回り、周囲の地形の把握に努めていたアサシン。
 それが全く見覚えの無い場所など、この都市に在るとは考えにくい。

(……ならここは、『都市ではない土地』、ってとこか)

 可能性として高いのは、キャスターのサーヴァントが作る陣地。
 あの回転鋸の怪人は、その番人か。

(追ってきたあのサーヴァントに誘い込まれた……いや、様子を見るにそれはないだろう)

 あの目つきのワルい、――ウォルターに言えた義理はないだろうが――、男のサーヴァントにとっても、あれは予想外の状況のハズだ。それを上手く使われたのは、アサシンにとっては業腹だったが。
 無論アサシンとて、やられたまま黙っているようなタマではない。

(だがその前に、この状況をどうにかしなけりゃならん。
 ……あの回転鋸野郎は追いかけてこないみたいだが、どういう事だ?)

 先ほどまでアサシンを追いかけていた、回転鋸の怪人の姿は、今は影すら見えない。
 あれが番人だというのなら、それこそこの陣地にいる限りは地獄の果てまで追いかけてきても不自然ではない。

(不自然……と言っちゃ、この陣地もだ。まるでホンモノの町みたいだ。
 ご丁寧に、町人まで再現されていやがる)

 脱出路を探すアサシンの横を、見知らぬ男性が通り抜ける。
 強い魔術の気配はない。それはつまり、サーヴァントでもなく、使い魔としての属性も持っていないという事。
 ここまで広大な陣地を築き、さらに無駄な町人まで用意するとなれば、消費する魔力はそれこそ莫大なモノとなる筈だ、というのがアサシンの見識なのだが。

(わからねえ事だらけだな)

 目立つ事は承知で通りすがりの幾らかの町人に質問してみたが、出口についての情報は得られなかった。
 わかったのは、ここが『さいはて町』と呼ばれる町のまんなか区と呼ばれる区であるらしい事、『昔はさいはて町にも電車が通っていた』事。

(駄目元で線路の跡とやらに行ってみるか? それとも……)

 今は追っ手もかかっていないが、人目の付かない場所に移動すれば、また襲われる可能性も否定はできない。
 ならばまんなか区の中を探すのも、安全を考える上では悪くない。

 どちらを選択するか? 夜までには、あの人形の少女の下へアサシンは帰らなければならない。


【???/さいはて町・まんなか区/午前】

【アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)@黒博物館スプリンガルド】
[状態] 健康、スキル「阻まれた顔貌」発現中
[装備] バネ足ジャック(バラした状態でトランクに入っていますが、あくまで生前のイメージの具現であって、装着を念ずれば即座にバネ足ジャックに「戻れ」ます)
[道具] なし
[所持金]一般人として動き回るに不自由のない程度の金額
[思考・状況]
基本行動方針:マスター(ララ)のやりたいことに付き合う。
1. この陣地(さいはて町)から脱出する。
2. 街で情報収集をしながら、他の組の出方を見る。
3. 夜までには帰ってきて、ララの歌を聴く。
4. 『チェーンソー男』『包帯男』に興味。
[備考]
※「フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。
※「バーサーカー(チェーンソー男)」及び「バーサーカー(ジェノサイド)」の噂を聴取しました。サーヴァントに関連する何かであろうと見当をつけています。
※街の地理を、おおむね把握しました。
※劇場の関係者には、ララの「伯父」であると言ってあります。
※キャスター(木原マサキ)の外見を確認しました。
※さいはて町の存在を認知しました。
※さいはて町の番人、『チェーンソー殺人鬼』を確認しました。『チェーンソー男』との類似を考えていますが、違う点がある事もわかっています。


114 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:46:04 oluq5EWA0
 4:Loneliness girl and shut-in NEET


 その日の玲は、とても興奮していた。

「火吹き男?」
「火を吹いて飛び跳ねてあきゃきゃきゃきゃきゃって笑ってカギ爪でぶんぶん振り回してカニ道楽!?」
「いやカニ道楽じゃないと思う」

 場所はさいはて町まんなか区、住宅地。
 腕をぶんぶんと振り回しながら主張する玲に、話し相手は諌めるような声色で返す。

「夜になるとバネ足のおばけが街中を飛び回って、火を吹いて、カギ爪で悪戯するんだってさ。
 すごいよね」
「まあ、すごいね。すごい変態だよね」

 話の内容も奇妙だが、その"話し相手"も、奇妙といえば奇妙の極みだった。
 一言で言えば、宝箱。その中から、少女らしき声が響いている。

 奇人四天王、"ひきこもりの桃本"。
 何故彼女がひきこもっているのか、知る者はさいはてにほとんどいない。何故宝箱なのかも。

「あー……でもいたね、さいはてにも。そんなの」
「ほんとに!?」
「チェーンソー殺人鬼ってやつ。何人やったんだっけ、4人? いやもっとだったかな」
「こ、怖いよ!? ホラーだよ!? ダメだよそんなの!」
「火吹き男はホラーとは違うのかね……? まあともかく、そういうのに逢いたくないならひきこもろうぜ!
 外に出ちゃうからそういうのに出会っちゃうんだからさ!」

 桃本は玲に出会うたびに、さいはてにひきこもることを勧めてくる。
 記憶を失った玲が街に一人ぼっちだった時、さいはて町について教えてくれたのも桃本だった。彼女は玲にとても親切にしてくれている。けれど、『ひきこもった方がいい』の勧めだけは聞く気にはなれない。
 どこかに閉じ込められていた記憶だけがある彼女にとって。同じくどこかに閉じこもるなんて、絶対に耐えられないから。

「その……ごめんね、桃本」

 申し訳なさげな。
 しかし、はっきりとした拒絶の意志の言葉。

「……まあ、仕方ないね。でも、夜になる前にはさいはてに帰って来ること。
 あと、変な人に襲われたりしたら助けを呼ぶこと。
 ほら。魔法少女とか、助けに来るかもしれないし」
「うんっ!」

 仕方ない、と溜息を吐いた、――宝箱に入っている以上、玲にはその様子は見えなかったけれど――、桃本が玲に約束を促す。
 向日葵のような笑顔で、玲は頷いた。

 そんな、一見無邪気な会話で、この話はおしまい。


115 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:46:34 oluq5EWA0


   ×××


 ある少女は、一つ目に作る番人を決めた。


   ×××


116 : 機械式呪言遊戯 ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:47:08 oluq5EWA0

 この聖杯戦争のために作られた都市の裏に、貼り付くような形で存在する固有結界、『最果ての殻、最果ての町、最果ての病院』。
 さいはて町とその住民はそれ自体でワンセットで、そしてさいはて町はある少女の一部だ。維持そのものに、現界以上の魔力は必要ない。
 さらに内部の環境の操作も、少量の魔力で行える。

 問題はその権限が落ちている事。
 本来3人いる開拓者、それがある少女1人しかいないのが原因だ。本当ならば開拓者が敗北した時も権限は残った者に委譲されるのだが、"基から存在しない"事にされた影響か、権限は3分の1のままだった。
 あるいは、それが聖杯からある少女に課された制限なのか。

 ともあれ、最大の問題は権限の低下により、さいはて町と外部を完全に遮断しきれていない事だった。
 権限の不完全な主の影響によって、さいはて町にはところどころ穴が開き、外部の街の各所にその入り口を作ってしまっている。
 一応の認識阻害はしてあるが、マスターやサーヴァントにかかれば、すぐに解けてしまってもおかしくはない。

 そして、入って来たサーヴァントやマスターにさいはて町を荒らされたとして、ある少女はそれを修復する権限さえ失っていた。
 不安定なさいはて町は、破壊されれば破壊されただけ傷つき、崩壊の深度を深めていく。
 さいはて町のそうぞう主であり支配者のある少女にとって、明確な弱点がそれだった。そうぞうは、暴力に抗する術を持たない。
 故に、さいはての番人、あるいは守護者が必要だった。

 その最初の番人が、過去にさいはてを荒らした殺人鬼、『チェーンソー殺人鬼』。
 何故彼が選ばれたのかは、単に玲の会話で連想した、強力な存在だったからというだけに過ぎない。
 元々の出現が夜間のみだった事から、"町人のいる場所には出現できない"という弱点こそあるが、破壊力だけならばサーヴァントにも比肩し得る。

 そしてある少女の弱点が、もう一つある。
 玲だ。
 無防備にさいはての外を出歩き、聖杯戦争に勝つ意思のない彼女は、明確にある少女にとってネック。

 しかし、ある少女に彼女を切り捨てるようなつもりはない。
 彼女に課せられた運命を思えば、玲を見捨てるような事はできるはずもない。
 だからある少女は、玲が危険になれば、それが例えさいはて町の外でも駆けつけなければならない。

「……二人でずっと、"聖杯戦争"の中に引きこもれたらいいんだけどねえ」

 けれども。それが単なる願望に過ぎないことを、エンブリオは既にわかっていた。


【???/さいはて町/1日目 午前】

【玲@ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス】
[状態] 健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:街で日常生活を楽しむ。聖杯戦争を終わらせたくない。
1.街に出て散歩する。
[備考]
※聖杯戦争についてはある程度認識していますが、戦うつもりが殆どありません。というか、永遠に聖杯戦争が続いたまま生活が終わらなければいいとすら思っています。

【エンブリオ(ある少女)@さいはてHOSPITAL】
[状態] 魔力消費(小)
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:引きこもりながら玲を見守る。
1.さいはて町の守護者を作り、さいはて町を破壊から守る。
2.玲が緊急事態に陥った場合はさいはて町から出るのもやぶさかではない。
[備考]
※『チェーンソー殺人鬼@さいはてHOSPITAL』を召喚しました。さいはて町内の人気のない場所に現れます。強さは平均的なサーヴァントには劣る程度です。
※現状紳士の昼食会はまだ一人もさいはて町にはいません。召喚できないのか、まだしていないだけなのかは後続にお任せします。


117 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/04(火) 05:47:45 oluq5EWA0
投下終了です。
度重なる期限の超過、ここにもう一度謝罪いたします。


118 : 名無しさん :2015/08/04(火) 07:05:32 AdMsxL360
投下乙です!
チェーンソー男!?と思ったら、なるほどそちらだったか。

マサキの不敵さは相変わらず。そして自己保存はこういう恩恵もあるのか。ララを探るか、騒動の坩堝である高校へ向かうか、いずれにせよ、彼の思惑はまだまだ波紋を呼びそうです。
そしてウォルター、こちらもやはりスキルが有用だなあ。怪人によって交錯する町の噂が面白い。
バネ足ジャックの初戦闘も見物でした。少女らには変態呼ばわりされちゃいましたが、我らが伯父様はきちんとララの歌に間に合うのか。

さいはてHOSPITALはやっぱり面白い宝具ですね。これから先、他のサーヴァントやマスターが招き入れられることも充分ありえそう。
玲のあり方は確かにアキレス腱ではあるのだけれども、殻はいずれ破られるものと暗示されている以上、どう転がっていくかはまだわからないか。


119 : 名無しさん :2015/08/04(火) 08:43:34 o52bGFus0
投下乙
そっか、そういやチェーンソーさんもマ剣使えるんだっけ
なんかタグチとはっしーの童子切りがインパクト強いせいですっかり専売特許みたいな扱いになってるけど


120 : 名無しさん :2015/08/04(火) 21:32:24 GiHtKLEk0
実ははるるーとの薙ぎ払いもマ剣属性だったりする
個人的にインパクトあったのは媒体なしのマ剣かつ剣圧だけでチェーンソーの数倍の威力出す玉藻さんだけど


121 : 名無しさん :2015/08/04(火) 22:05:20 .RyzlAjE0
投下お疲れ様です
バネ足のくしゃみから始まる噂と英雄と幻想の交差、素晴らしいです
サブタイトルがネガティブハッピーチェーンソーエッヂの反転になっているのも面白い
冥王計画を至上に掲げ暗躍どころか明るい場所まで悠々と足を運び自らを餌にする木原マサキが恐ろしい
バネ足ジャックVSチェーンソー殺人鬼の戦いも、様子見の小競り合いに近いものではありましたが、バネ足の代名詞ともいえる大跳躍もあったり面白いです

ウォルターとマサキのどちらも、ここでの択を迫られていますが、どうなるのかな?


122 : ◆PatdvIjTFg :2015/08/09(日) 21:33:30 5rtElcX.0
>>99

投下乙です。
>「私はかつてこの聖杯戦争と同じくらい……いえ、それよりも悲惨な催しに参加していたことがあります」
>「私の目の前でもまだ若い男の子がひとり死にました。そして私自身もその戦いで……」
クラムベリーのスカム協力要請はほんと酷いんですけど、
特にこれらの何一つとして間違ってはいないけれど、どの面下げて言えるんだって台詞は最高にキレッキレだと思います。
残酷で邪悪であると同時に事実を知ってると笑えるぐらいに酷いんですよね。
というわけで、レイジングハートを寝取られた上に、フェイト・テスタロッサが指名手配をくらい、
しかもクラムベリーに目をつけられた形となったなのはさんですが、強く生きていただきたいものです。
投下ありがとうございました。


>>117

投下乙です。
さいはて町を核実験場ぐらいの感覚で捉えている木原マサキが地味に"らしい"ですね、
そして、サイコレズ、超高校級の絶望などが在籍する楽しい高校に冥王が目をつけました。学級崩壊(物理)が起こりそうですね。
ヤバいサーヴァントに目をつけられたマスターに対し、目をつけられたサーヴァントをスキルの結果とは言え、
敵との戦いを押し付けたのは、冥王の面目躍如といったところです。主人公とラスボスの二人に冥王計画を押し付けた男は違います。
そしてウォルター、スキルの効力で情報を忘れさせたとはいえ、木原マサキに目をつけられました、
ウォルターのマスターと木原マサキの相性は悪い意味で最悪、次元連結システムとして呼び戻されそうなマスターランキングでは間違いなく、上位でしょう、質が悪い。
その上、チェーンソー男と戦うこととなりましたが、ここは回避。怪人対決は一旦お預けのようです。
しかし、一瞬の交差とはいえ、やはり怪人の妖しい雰囲気を見せてくれました。
そして玲と桃本さんは平常運行です。
桃本の心情に関して、外観的な軽い部分と内面の重い部分に関して触れているのが業前でしょう。
投下ありがとうございました。

木之本桜&セイバー(沖田総司)、蜂屋あい&キャスター(アリス)、大道寺知世&アサシン(セリム・ブラッドレイ)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)
で予約させていただきます。


123 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:56:27 X8FDan2Y0
お待たせいたしました、投下します


124 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:56:45 X8FDan2Y0


聖杯戦争の舞台となる街――名前の無い街の小学校、3年生教室。
クラス一番の情報通によってもたらされた転校生が来るとの情報の水滴は教室中に波紋のように伝播し、
情報が人から人へと伝播される度にその勢いを増し、今や津波の勢いである。
幼い生徒たちは、転校生の性別を想像する、そして容姿を想像し、性格を想像し、その出身地を想像し、
その果てに、教室は学びの場所ではなく、未だに姿の見えぬ転校生に、己の理想を押し付ける妄想の神殿と化している。
だが、それを誰が咎められようか、転校生とはそれほどまでに(特に、彼らのような小学生にとっては)重大なイベントなのだ。

キィン、コン、カァン、コン。
始業を告げるチャイムの音が響く、それにともなって入ってきた担任の教師が生徒たちに着席を促す。
この街が聖杯戦争のためだけにある場所であっても、チャイムの音だけは日本のそれと何一つ変わらない。
教師に促され椅子に着いたところで、生徒たちの転校生への熱は冷めることはない。
いや、今これから紹介されんとして廊下で待つ転校生の――その扉越しに見えぬ姿のために彼らの熱はこれ以上と無いほどに高まっている。

このような情報は一体どの段階で生徒たちに漏れているのだろうか、
担任教師には自分が小学生だった時も、転校生という存在は何故か、来るとわかってしまう――という記憶があった。
だが、明らかになったのがテストの問題ではなく、転校生が来るという情報ならば別に構わない、
何なら、転校生が来るという紹介が省けてありがたいぐらいである、と考えなおし、担任教師は廊下の転校生に入室を促す。

騒然が死に、静寂が生まれた。
誰かが息を呑む音までもが明らかな程に、生徒たちは転校生に心を奪われた。

誰が見てもそうとわかる異邦人であった。
作られたものではなく、誰がどう見てもわかる天然の――それも、夜空に光る一筋の雷閃のような鮮やかな金色の髪。
それらは二つ結いで、穏やかな流れの滝のように彼女の腰の辺りまで下りている。撫ぜてみれば絹のような手触りがするのではないか。
そして肌。踏み躙られることのなかった新雪に桃の果汁を足したかのような――将来的に化粧を覚えた教室の生徒ですら永遠に持ち得ぬ美しさ。
それと同時に、触れれば突き抜けてしまいそうな危うさをも感じさせる薄い皮膚。

そして、目。
その色は紅玉のような煌きも、炎のような鮮やかさも無い、この教室にあって特筆するほどの美しさの無い赤であったが、その目の中には寂しさがあった。
だから、金の髪よりも、白い肌よりも、何よりも――その目は教室の生徒と共感し得ない。
何故ならば、生徒たちは愛されないことを知らない。
死んだ母親に会えると信じて毎日墓に行く子どものような、今となっては永遠に手に入ることのないものを求め続ける人間のことを理解できない。
だから、転校生はなんだか悲しそうな目をしているで生徒の理解は終わる。深入りはしない。

転校生は教室内の生徒を――特に女子の顔に注目して、一人一人見回した。
自分の顔を見て、動揺する者を、仰天する者を、あるいは無反応を装わんとする者を。だが、特別に気になる生徒はいない。
責務は済んだとばかりに自分の席に着かんとする転校生を慌てて引き止めて、担任教師は自己紹介を促す。
その冷淡な態度にどことなく違和感を感じるも、生徒たちは転校生は緊張していたのだろうと判断する。
転校生は、数秒考えこみ、たった一言。

「フェイト・テスタロッサです」

とだけ言って、自分の席に着いた。
緊張しすぎているようだが仲良くしてくれ等と教室の生徒達に戯けて言ってみせる担任教師の声はフェイト・テスタロッサの耳には入っていなかった。


125 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:56:57 X8FDan2Y0


「……ッ!」
フェイト・テスタロッサが小学校に転校生としてやってくる数時間前、普通の小学生ならばとっくに眠っている深夜。
彼女はその報告を見て、不安を噛み殺したいかのように下唇を噛み締めた。
フェイト・テスタロッサ――つまり、己の捕獲指令。
己の、あるいはサーヴァントの何が原因でそうなったかはわからないし、今考える必要はない。
これから考えるべきは、己の顔が全参加者に知られており、しかも標的として狙われうる状況下にある己の身の振り方だ。

「ランサー」
聖杯戦争の参加者である自分だけの家、少女が暮らすには――いや、人間が暮らすには余りにも無機質な住宅。
金属製のテーブルとパイプ椅子と毛布だけの部屋というよりは監獄に近い場所。
変にかしこまってパイプ椅子に座るランサーにフェイトはテーブル越しに語りかける。
「…………どうすればいい?」
「貴方はどう思うの?」
質問に、そもそもこの状況自体に興味を抱いていないかのようなランサーの質問に対する鸚鵡返し。
自分が聞いているのだと言い返そうにも、ランサーの無表情の前に、フェイトは言葉を詰まらせる。
音を失った空間の静寂を破ったのはやはりランサーだった。

「ごめんなさい……こういうこと考えるの、苦手なの」
聞き返したことに関してランサーに悪意があったわけではない、ただ事実としてそういうことを考えるのが苦手だった。ただ、それだけだ。
だから、謝った。それだけのことだ。

「……そう」
フェイト・テスタロッサとランサーこと綾波レイは似ている。
代用品であることが、道具であることが、無機質なようでいてそれでいて愛されているところが、その生き様が似ている。
そして似ているからといって相性が良いわけではない。
足りないものは積極性、多すぎるものは互いを妨げる心の壁。
フェイト・テスタロッサも綾波レイも優しさを持っている、
だがフェイト・テスタロッサはそれを母親に愛されるために使い魔であるアルフを除けば、それを封じ込める。
綾波レイは、そもそも人との関わりを苦手としていた、そもそも表し方がよくわからない。

長い時間を掛ければ、あるいはもう一人、鎹となる誰かがいれば違ったのだろう。
だが、聖杯戦争に主従同士が理解を深める時間は用意されていないし、
ましてやフェイト・テスタロッサとサーヴァントの仲を取り持つ誰かなどいるはずがない。

母親からの重圧、理解できないサーヴァント、聖杯戦争という殺し合い、己に対する捕獲令。
フェイト・テスタロッサが9歳ながらに戦い続けることが出来たのは、
非凡な才能もそうであるが、アルフやリニスと言った理解者の存在が大きい。
せめて、物にでも当たることが出来ればよかったのだろう。
だが、フェイト・テスタロッサはストレスを解消する方法を知らない。
いつか報われると信じて、ひたむきに頑張ることしか知らない。

故に、この状況下でフェイト・テスタロッサは己の内にストレスを溜め続ける。

ストレスから逃れる方法を、フェイト・テスタロッサの無意識は考える。
現在、置かれている状況をすぐに終わらせることを考える。

過剰なストレスは人を自棄にする。
フェイト・テスタロッサがその幼い頭で考えたのは、単純にして、超攻撃的な方法であった。

「学校に行く」
「……そう」

姿を隠し続けることには限界がある、ならば逆に自分自身を囮として使う。
学校という人が集まる場所ならば、そう簡単に襲われない。
自分の存在が明らかになっているために、派手に活動するという行為に居場所がバレるというデメリットがあるが、
既に明らかであるために自分が参加者であることがバレるというデメリットは無視して構わない。

後はただ、自分の姿を見て過剰な反応を示す人間を探せば良い。

安全な策ではない、だがフェイト・テスタロッサは母親の望みを叶えるためならばどのような行いでもする。
フェイト・テスタロッサに掛けられた重圧は、母親よりもフェイト・テスタロッサ自身を道具として行動させた。

幸いなことに、ルーラーの手によってフェイト・テスタロッサの転入手続きは済んでいる。
彼女なりの冗談だったのだろう、だがこの好機はフェイト・テスタロッサは逃してやらない。

「……大丈夫?」
「大丈夫」
ランサーのあまりにも不器用な優しさに対し、フェイト・テスタロッサは自分に言い含めるようにそう言った。


126 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:57:43 X8FDan2Y0


小学校は三階建てであり、一階層につき、二学年の教室が存在している。
一、二年生は一階、三、四年生は二階、五、六年生は三階である。
が、同階層とはいえ、学年が違えば世界が違う。
フェイト・テスタロッサの転校に、今大道寺知世は気づいていない。

と言うよりも、今現在気を払わなければならないものがある。
(さくらちゃん……)

ホームルームが終わり、一時限目の授業が始まろうとしているというのに、彼女の親友である木之本桜がまだ登校していない。
もちろん、たまたま体調を崩しているだけ――という可能性はある。
だが、この聖杯戦争が行われているという状況下での遅刻は嫌な想像しか知世にもたらさない。
祈る神など知らないが、大道寺知世は桜が何か危険なことに巻き込まれていないことを祈る。

行われている国語の授業など、余りにも桜が気がかりで耳に入らない。
「じゃあ、ここから大道寺読んでくれ」
「……すいません、ぼーっとして聞いていませんでした」
耳に入らないので、当然授業には参加できない。
「風邪か?保健室行くか?」
「お言葉に甘えて、行かせていただきますわ」
「じゃあ、保健委員。大道寺に付き添ってやってくれ……じゃあ、続きは代わりに山崎、頼む」
「服部は言いました『やったれや覚悟』」

保健室のベッドの中、ただ気持ちだけが急いている。
養護教諭が見ている以上、ベッドから抜け出すことは出来ない。
ただ、柔らかいベッドに寝そべって白い天井を見つめるだけだ。
聖杯戦争という非日常的な舞台の中にあるというのに、どこまでも現実は日常的で、自分は常識に囚われている。
カードキャプターとして活躍する桜を彼女は見ていた、それでもやはり彼女も桜も日常の中にいて、戦争も殺し合いもよくわからなかった。
いっそのこと、早退してしまおうか。
そうすれば、少しは自由になれる。

「…………」
目を閉じて考える。
クラスメイトの中には友だちもいれば、全く知らない子供もいる。
知っているクラスメイトは本物なのかもしれないし、家族のように知世のために用意された偽物なのかもしれない。
その線で考えれば知らない子供がマスターである可能性のほうが高いのかもしれない。

殺された女の子のことを思い出す。
誰かが、殺されるかもしれない。
今――さくらちゃんが殺されているのかもしれない。

(……アサシンくん)
念話を通じて、己のサーヴァントであるアサシンに語りかける。
(はい)
霊体化しているために触れることは出来ないし、姿を見ることも出来ない。何となく居るということだけしかわからなかった。
気配遮断はDランクである、姿を完全に消しておくためである。
今、念話によって改めてその存在を確認することが出来た。

(手を握っていただけませんか?)
(実体化しろということですか?)
(いえ、そのままで手を握っていて下さい)
(……わかりませんよ)
(わかりますわ)

霊体化したアサシンの存在はわからない、ただその手にアサシンの温もりが重なっていることを信じる。
握りしめたものを、手のひらから離したくないものの感覚を信じる。

(死神様を調べます)


127 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:57:53 X8FDan2Y0



  Now we dance looby, looby, looby.
  (さあ踊りましょう ルビルビルン)
  Now we dance looby, looby, light.
  (さあ踊りましょう ルビルビルン)
  Now we dance looby, looby, looby,
  (さあ踊りましょう ルビルビルン)
  Now we dance looby, looby, as yesternight.
  (さあ踊りましょう 昨日の晩と同じように)

「異常はアりマせんカ?」
「ハい、いやア、マっタく、困っタ者です……死神様ナどと」
「タマタマ不幸ナ事件ガ重ナっタダけダというのに」
「しカし、コックリサんとハ比べ物にナラナいレベルで倫理上よろしくアりマせんカらナ
「いヤハヤ、しカし、しっカりと見張っておけバ、実際安心というものです」

何故、見張りまで立ち、偶然とはいえ被害者が発生しているというのに、今もなお死神様という儀式は続いているのか。
非常に簡単な事だ、その儀式に大人が見て見ぬふりをする程度の協力をしてやれば良い。
本来のゾンビがブードゥーにおける死にながらにして生きる奴隷であったように、
この小学校に在籍する何人かは、殺されていながら――生きている振りをしている。

そして学校の支配者階級という立場を利用して、本人すら意識せず――死神様という儀式を守っている。
それが死神様――アリスの能力の一つである死体蘇生である。

今、彼女達はおともだちである死人を死神様の儀式を守る以上のことには使ってはいない。
アリスにそれは必要ない。
そして、そのマスター蜂屋あいは知っている。

生きている人間が一番、楽しいことをする。


128 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:58:04 X8FDan2Y0


「これじゃあ遅刻だね」
小学校へと向かいながら、蜂屋あいは愛くるしい微笑を浮かべる。
アーチャーに襲われた後で遅刻も何もないようなものだが、桜は学校へ行くことを強く主張した。
聖杯戦争という環境下で、自分が目を離している間に友だちが襲われているかもしれないのは怖い。
あいも特に反対はしなかった。学校という衆人環視の環境下で襲われる確率は低いという打算もあるが、何よりも桜の友だちを見たかった。
きっと彼女の友だちなのだから、綺麗な火の色をしているのだろうとあいは考える。
今にもそのローラースケートで学校に駆け出したい桜に対し、なるべく疲れているように見せてゆっくりと歩いた。
先程、襲われたこともあるから桜はあいを置いていくようなことをしない。
ただ、実際に襲われたことから、もしかして学校が危ないのではないかと考える桜の気もそぞろになる。
風に吹かれているかのように動きを止めない桜の火の様子は、彼女の善性を象徴するかのようで、見ていてとても心地が良かった。

「ねぇ、さくらちゃん」
「どうしたのあいちゃん?」
「死神様って知ってる?」

桜の火がぶるりと震え、一瞬青色の強く燃える火が混じるのをあいは見た。
この学校にいる者ならば知らないわけがない、あいはそうなるように仕向けた。
表情を見れば、より強く不安の色が差し込む。
彼女は敵対するサーヴァントに実際に会った、そして死神様という今ならばはっきりとサーヴァントの仕業であろうと呼べる脅威を思い出した。

「さっきのサーヴァントを見て、思ったんだ。死神様って……実在するんじゃないかって」
蜂屋あいは知っている、仲良しになる方法を。

「だから、急ごう……さくらちゃん。きっとわたしたちが協力すればなんとかなるよ!」
「う……うん!」

桜の火が明るさを増す、本当に良い色をしている。
桜の不安を強く煽り立てて、そして自分達ならば何とか出来ると希望を示す。
誰かと仲良しになりたければ、救ってあげれば良い。
絶望の中に希望を示して、一緒に行こう、と言えば良い。
何人かはそうやって、より仲良しになった。

落とすときは高ければ高いほど良い。
そっちのほうが痛い。



蜂屋あいのその微笑みを、セイバーはどこか訝しむような様子で見ていた。


129 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:58:14 X8FDan2Y0


木之本桜と蜂屋あいが登校し、職員室で適当な遅刻理由を説明している頃。
長休みに入ったフェイト・テスタロッサはクラスメートに囲まれて質問攻めにあっていた。

「どこから来たの!?」
「英語とか喋れるの!?」
「本当に裏切ったんですか!?」
「あまあまさんちょうだいね!たくさんでいいよ!」
「ともだちになって!」

それらの質問に対し、目を回さんばかりの勢いでフェイト・テスタロッサは混乱していた。
思い出の中の母親、母の使い魔リニス、己の使い魔であるアルフ、そして敵であるはずの高町なのは。彼女に好意を抱く存在はそれだけだった。
だが、今は違う。高町なのはのような戦いの中ではなく、表面的には平和な環境下で、こんなにも好意を抱かれている。
そういう状況を、フェイト・テスタロッサは知らなかった。
だから、ある意味では戦うことよりも危機的な状況にあった。

「……い」
「い?」
「家から来ました」



「使う気ナんダろ?死神様」
長休みに入り、死神様に関する聞き取りを始めた大道寺知世を見知らぬ四人の男子が取り囲んだ。
知世は人気のない階段を背にしているため、逃げようと思えば逃げられるが、重要なのは見つかったということだ。
ここで逃げても、また日をあらためて追われるかもしれない。
わかりきっていたことだ、だがやはり最悪ではないが、決して良くない事態が起きてしまった。

(今マスターと話している男から、微弱ですが魔力の反応を感じます)
(えっ!?)

余りにも早く、確信へと辿り着いてしまったのだろうか。
念話を行いながら、男子への返答を考える。

「正直に言えよ、死神様を調べる奴なんてろくな奴じゃないって決まってるんだよ」
「……使う気はありません、むしろ止めたいと思っていますわ」

自身の正直な気持ちを述べる知世、だがそれを相手が聞き届けるかは別問題である。
事実、男子達の目には猜疑の光が宿っていた。

「使うやつはみんな、そう言うんだ」
「そうだよ」


(……?)
男子達と知世の会話を聞きながら、アサシンは考える。
魔力の反応がある男子、彼が主導して死神様を調べている者を狩っているのだと思っていた。
だが、実際には最初に一言知世に言ったっきり、隅で黙りこくっている。
ただ、男子たちと知世の言い争いを見て、微笑を浮かべているだけだ。

ただの監視者なのか、そもそもこの集団に混ざっていることが偶然なのか、あるいは影の支配者であるのか。
だが、その真実がどうであれアサシンに男子たちを生かしておく理由はない。
出来るならば、実体化し殺しておきたい。
しかし、それは知世が許さないだろうし、
気配遮断能力が高くない以上、小さい危機を払うために、より大きな危機を招きかねない行動を取りたくもない。
逃げの一手だろう。

(ここは逃げ……)

廊下からこちらの階段へ小走りで向かってくる音が聞こえる。
教師の見回りではないだろうが、この状況下で他の生徒が来ることはありがたい。
緊張状態は第三者の介入によってぶち壊しに出来る。
だが、霊体化しているアサシンの目は、その姿ではなく、魔力を捉えた。
己のマスターとは比べ物にならない膨大な魔力。
それと同時に、知世は今まさに向かってきている生徒の顔を見た。
この聖杯戦争の参加者ならば誰もが知る顔。

教室の喧騒から逃げ出したフェイト・テスタロッサ。


130 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:59:17 X8FDan2Y0


(……隅の階段にフェイトちゃんがいるわ)
キャスターは学校内に生徒の屍鬼も散らしている、視界の共有による校内監視の意図もあるが、
その主目的は、生徒を何らかの形で死神様に関わらせることである。
つまりは死神様を利用させるか、あるいは死神様を利用しようとする者を止める正義のグループを作らせるか。
そのような屍鬼の内の一人が、フェイト・テスタロッサの居場所を掴んだ。

自分の教室内で、蜂屋あいはひとり考える。

どうしたら一番楽しいことになるだろう。



自分が教室に入るのと入れ違いに知世がどこかへ行ってしまったと知り、桜は肩を落とした。
だが、それと同時に学校では何も起こっていないことに安心した。

知世が教室に戻ってくるのを待って、桜は一息ついた。

【D-2/小学校・二階目立たない階段/1日目 午前】

【大道寺知世@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 健康
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] たくさん
[思考・状況]
基本行動方針: 街の人達を守る
1.この状況を何とかする
2.死神様について調べる
[備考]
※死神様について調べていますが、あまり成果は出ていません
※小学生男子4人(その内一人は屍鬼)に囲まれています

【アサシン(プライド(セリム・ブラッドレイ))@鋼の錬金術師】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針: とりあえずマスターに合わせる
1.この状況を何とかする
2.死神様について調べる
[備考]
※死神様について調べていますが、あまり成果は出ていません

【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態] 健康、ストレス
[令呪]残り三画
[装備] 『バルディッシュ』
[道具]
[所持金]少額と5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
[備考]
※小学校に通うつもりでいます

【ランサー(綾波レイ)@新世紀エヴァンゲリオン(漫画)】
[状態] 健康
[装備] 『残酷な天使の運命』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う


131 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:59:31 X8FDan2Y0
【D-2/小学校・四年生教室/1日目 午前】

【木之本桜@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 疲労(中)、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備] 封印の杖、
[道具] クロウカード
[所持金] お小遣いと5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針: わからない
1. マスターの友達ができた喜び
[備考]
※ローラースケートは学校の裏に置きっぱなしです

【セイバー(沖田総司)@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚】
[状態] 疲労(中)、ダメージ(小)、スキル『病弱』発動中(ほぼ治りかけ)
[装備] 乞食清光
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: さくらのために
1. 念のために周囲を警戒
2. 余裕があれば鞘を取りに行く
[備考]
※使わない間は刀を消しておけるので、鞘がなくてもさほど困りません

【蜂屋あい@校舎のうらには天使が埋められている】
[状態] 疲労(極小)
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 小学生としてはかなり多めの金額
[思考・状況]
基本行動方針: 色を見る
1.フェイト・テスタロッサをどうしよう
2.さくらの色をもっと見たい
3.江ノ島盾子に強い興味
[備考]
※フェイト・テスタロッサの居場所を知りました。

【キャスター(アリス)@デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(及び、アバドン王の一部)】
[状態] 健康、作っておいたトランプ兵は全滅
[装備] なし
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: オトモダチを探す
1. さくらに興味
2. サーヴァントのオトモダチが欲しい
[備考]
※学校には何人か、彼女と視界を共有できる屍鬼が存在します


132 : ふ・れ・ん・ど・し・た・い ◆PatdvIjTFg :2015/08/16(日) 21:59:45 X8FDan2Y0
投下終了します


133 : 名無しさん :2015/08/17(月) 06:53:03 90mDwI720

小学校を舞台に繰り広げられる子供たちの戦争ですね
ゾンビを使っての情報収集や盤面操作はすごいキャスターらしい戦術です
あと僕は綾波の制服姿が見たいです(迫真)


134 : 名無しさん :2015/08/17(月) 22:26:28 hjm/3fuQ0
投下乙ですー
渦中のフェイトちゃんついに登場、姿態の描写が甘やかで素晴らしいですね
小学校が死に侵されていってる…さくらちゃん逃げて超逃げて
知世ちゃんとセリムに期待するしかねえ


135 : 名無しさん :2015/08/18(火) 08:17:24 VMQzMLJ.0
投下乙です!
密かに忍びよる非日常の気配が凄く良かったです
あと、フェイトちゃんの描写に愛を感じました
しかし、さくらちゃんと知世ちゃんの二人はジワジワと追い詰められていますね
日常に紛れ込むゾンビの存在といい、嫌な予感しかしません
愛を求めるフェイトちゃんに、愛ゆえに動くさくらちゃんと知世ちゃん
そして、歪んだ愛で動くアリスとあい
少女が作る、少女の地獄
それは、歪んだ愛によって出来た蟻地獄なのかもしれませんね

…………それはそれとして、ネタ挟みまくりですね!
特に、知世ちゃんが聞き逃したのが、よりによって熱血共闘の漫画ロワというのが、またすごい取り合わせです
いやあ、ここになのはまで来てなくて良かったですよ
まだ小学生のなのはちゃんにそんなもの読ませた日には、少女聖杯が非殺傷無効な「天」のSLBで吹き飛ばされてしまいかねませんからね
フェイトの頭が冷える前に、頭が無くなってしまいます


136 : 名無しさん :2015/08/18(火) 19:25:19 G1XTLeSA0
乙です
フェイトちゃん転校してくるのか。参加の仕方が他と違うし、てっきり戸籍なしのホームレスだと思ってた。
クラスメートに囲まれて困ってる姿が微笑ましい。
綾波との関係も難しいですね。話し合いさえすれば相性は悪くなさそうなんですがどっちも自分から話せるタイプじゃない。
本編に書かれている通り、間に誰か入れば上手くいきそうなんですが。

知世ちゃんとセリムのやりとりも見ていて癒やされる。
霊体化した状態で手を握ってもらうシーンは知世ちゃんの不安な心境とセリムへの信頼が伝わってきます。
それだけに最後の展開は不穏です。
さくらちゃんの色も良いようにあいに操られてるし、まだ安心するのは早いぞさくらちゃん。


137 : ◆PatdvIjTFg :2015/08/22(土) 22:49:51 .y2AiQDk0
少女聖杯戦争支援(自演)動画(未完成)
ttps://youtu.be/ov1We60Zshc

初投稿です。
なんか雰囲気っぽいものだけ伝わればいいです


138 : ◆2lsK9hNTNE :2015/08/25(火) 00:09:10 LwNg86Zg0
白坂小梅&バーサーカー
雪崎絵理&バーサーカー
予約します


139 : ◆PatdvIjTFg :2015/08/25(火) 18:45:32 j0Rw7T7U0
江ノ島盾子&ランサー
諸星きらり&バーサーカー
予約します


140 : 名無しさん :2015/08/28(金) 00:22:18 RgpW0jSE0
そんな動画が…完成楽しみにしてます(プレッシャー)


141 : ◆2lsK9hNTNE :2015/08/31(月) 23:52:26 CI4Fp7uY0
すいません。間に合いそうにないので一旦予約を破棄します。明日には投下します


142 : 名無しさん :2015/08/31(月) 23:58:12 qosxaIOg0
待ってます!


143 : ◆PatdvIjTFg :2015/09/01(火) 18:53:16 MZWQwNLE0
予約破棄させていただきます。


144 : ◆2lsK9hNTNE :2015/09/01(火) 23:20:24 4FAJfeus0
お待たせしました
投下を始めます


145 : ◆2lsK9hNTNE :2015/09/01(火) 23:20:53 4FAJfeus0
絵里は机の引き出しを開け、隠していたナイフを取り出した。
この家には絵里しか住んでいない。物騒な物を持っていても咎める人は誰もいない。
ヒビや傷がないことを確認してバッグにしまう。もし学校で見つかったら取り上げられるだけじゃ済まないな、と自嘲した。
だが持たないわけにはいかない。いまチェーンソー男はいつ現れるかわからないのだから。

「聖杯戦争か」

絵里は少し前の白坂小梅との会話を思い出した。





自分はそんなおごられたそうな顔をしてるんだろうか。
外装だけに気を使った小汚い喫茶店の中。見るからにやる気のないウェイトレスを尻目に絵里は思った。
チェーンソー男についてこれ以上話せることはないと宣言したのに、小梅の「そんなこと言わずに。飲み物でもおごるから(要約)」というセリフにつられてここまで来てしまった。
山本といい、この間の少女といい、なぜチェーンソー男の話を聞きたがる者は、皆なにかをおごるのだろう。

小梅は対面の席に座って肩身が狭そうにしていた。
近くにあったから入っただけの喫茶店がこんなではしかたがないだろう。値段だけは安いというのも今はマイナスだ。
払う金惜しさにわざとこの店を選んだような印象を与えてしまう。
もちろん絵里は、この少女がそんな理由でこの店を選んだとは思っていない。だからといってそれを口にしたら返って相手に気を使わせるような気もした。
小梅のためを思うならやはりここはとっとと本題に入るべきだろう。
絵里は目の前に置かれたオレンジジュースを一気に飲み干して言った。

「考えてみたけどやっぱりこれ以上は話せないわ。お金はあたしが払うから諦めて」
「ど、どうしても……ですか……」
「どうしてもよ。そもそもどうしてそんなにチェーンソー男のことを知りたいの?」
「それ、は」

小梅はオドオドと袖で口元を隠す。このまま押し切れば自分が答える方向には進まなそうだ。
絵里はさらなる疑問をぶつけた。

「バーサーカーさんが気になってるって言ってたけど、あの人は何者なの?
いつの間にかいなくなっちゃてるし、チェーンソー男との戦いも、その……人間技とは思えなかったけど?」
「えっと……そのことには……あんまり、関わらないほうが……」
「そんなこと言われてももう一度見ちゃったし。
それにバーサーカーさんがまたチェーンソー男に会いたいっていうなら、どのみち関わることになると思うけど」
「え、えっと……」

小梅は助けを求めるように自分の横を見た。そこには誰もいない。席がもう一つあるだけだ。
ひょっとしてそこにバーサーカーがいるのだろうか?
思い返してみれば、この少女は最初見かけたときも何もない空間に微笑んでいた。
バーサーカーが突如現れ、戦いが終わったら消えたことも、小梅の側で姿を消していると考えれば辻褄があう。意識してみるとそこに妙な気配があるような気すらしてきた。
バーサーカーから意見をもらえたのかどうなのか。小梅は観念した様子で「ほ、他の人には……言わないでください」と前置きして語り始めた。


146 : ◆2lsK9hNTNE :2015/09/01(火) 23:21:30 4FAJfeus0

超常の力を持つサーヴァント。そしてそれを使役するマスター。そしてどんな願いも叶える聖杯。
絵里が言うのもなんだが現実味のない話だった。
だが本当なのだろう。小梅が嘘を言ってるようには見えないし、先ほどのバーサーカーの戦いぶりを見たら信じるしかない。
絵里自身、特異な日常を送っているからだろうか。自分でも不自然なくらい抵抗なく受け入れることができた。ただまた別の疑問が湧いた。

「話はわかったけど、だったらなおさらどうしてチェーンソー男のことが知りたいの?
聖杯戦争でも戦わなくちゃいけないのに、チェーンソー男にまで関わってる余裕はないんじゃない?」

いま聞いただけでも聖杯戦争がチェーンソー男との戦いの片手間にやれるものだとは思えない。もちろん逆もまた然りだ。

「チェ、チェーンソー男も……サーヴァントなんです」

一瞬、何を言っているかわからなかった。言っていることを理解しても言葉の意味がわからかった。

「え、チェーンソー男がサーヴァントって、え、でも、あたしは今までもずっとチェーンソー男と戦ってきたのよ!」
「サーヴァントは……昔の英雄とかだけじゃなくて……未来の人がなったり、することも……あるみたい、なんです……
だから、チェーンソー男も、たぶん……」
「つ、つまり未来であたしに倒されたチェーンソー男がサーヴァントとして呼び出されたってこと?」

小梅はコクリと頷いた。
なるほど。それなら納得だ。サーヴァントだったらいつもと違う時間に現れるのもおかしくない。よくわからないが。
しかしだとすると絵里がいつも戦っているチェーンソー男はどこにいったのだろうか。
まさか夜になったら二人出てくるとか?
最悪の想像が頭を過り、ケータイからメールの着信を知らせる音が鳴って絵里は自分の想像を振り払った。

「ちょっとごめんね」

そう言ってポケットからケータイを取り出す。学校のクラスメートからだった。

「友達から。なんで学校に来てないのかって。返信するからちょっと待ってて」
「あ……わ、わたしも友達に……連絡しておきます」

絵里は適当な言い訳を考えながら画面の時計を見た。すでに最初の授業が始まっている時間だった。
つまり送られてきたメールは、授業をちゃんと聞かずに書かれたものということになるが、それについては深く考えない。メールを書き終えて送信した。そのとき。

「きらりさん?」

小梅の呟きが聞こえた。





絵里は家を出てドアの鍵を閉めた。
結局あのあと小梅に用事ができて聖杯戦争のことは話せていない。
聖杯戦争。この言葉を聞くとなにか引っかかるものを感じる。
どこかで聞いたことがあるのに頭にモヤがかかって思い出せないような感覚。
聖杯という言葉は前にもどこかしらで聞いたことはある。同じように聖杯戦争も歴史の授業が何かで聞いただけかもしれないが、どうも違う気がする。

「考えても仕方ないわね」

聖杯戦争がどのようなものだろうと絵里には関係ない。なぜならチェーンソー男を倒せば全て解決するからだ。
この世界で哀しいことや酷いことが起こるのはチェーンソー男のせいだ。
聖杯戦争が良くないものであるなら、チェーンソー男さえ倒せばそれで終わる。
もしも二人いるというなら、どちらも倒してみせる。
そう結論づけて絵里は学校に向かった。




無論、この街にチェーンソー男は一人しか存在しない。絵里がこれまで戦ってきたチェーンソー男も、サーヴァントのチェーンソー男も、完全に同一の存在だ。
チェーンソー男は英霊にも悪霊にもなることなく、自らのままサーヴァントととなったのだ。
その理由はおそらく単純だ。この街で雪崎絵里と戦うにはそうしなければならなかったから。
そのためにチェーンソー男は、あるいは雪崎絵里は、聖杯戦争のルールすらねじ曲げ、記憶すら戻っていない状態でマスターとサーヴァントの関係となった。

故に絵里は自らがマスターであることを知らない異端のマスターだった。
あるいはルーラーすら知らないのかもしれない。
彼女がマスターだと確実に知っているものは一人、チェーンソー男だけだった。


147 : ◆2lsK9hNTNE :2015/09/01(火) 23:22:59 4FAJfeus0





小梅は走っていた。建物の間を駆け抜け、通行人にぶつかりそうになりながらも足を止めずに走った。
同時に視線を動かすが探し人の姿は見えない。
ちょっとした段差に躓き、転びそうになったところを実体化したバーサーカーに支えられた。

「あ、ありがとう」
「足元くらいは注意しとけよ」

それだけ言ってバーサーカーはまたすぐに消えた。幸い周りに今の様子を目撃した人はいないようだった。
小梅は再び辺りに視線をやりながら――そして足元にも注意し――走りだした。

「どこに……いるの?」





絵里がケータイをいじり始めたのを確認して、小梅もケータイを取り出した。
二件の未読メールがあることに気づいたのはこのときが初めてだった。
一つは友達の幸子からのメール。

【from:幸子ちゃん
 件名:無題
 本文:ボクは今日は調子が悪いので欠席させてもらいます。
     ところで、商店街が騒がしいのですが大丈夫ですか?
     二人に何もないようならいいのですが。

     追伸
     きらりさんを見かけたら、ボクが話したいことがあって探していたと伝えておいてください。】

幸子らしい丁寧な文章。ただ少し奇妙な内容。
調子が悪くて欠席するなら、普通に考えれば家で安静にしているはず。なのにきらりを探しているとはどういうことだろうか。
商店街の騒ぎを知っているのもおかしい。幸子の住むマンションから商店街まではそれなりに距離がある。家にいながら知れるとは思えない。
取りあえず心配させるのも悪いので『大丈夫』とだけ書いて返信した。

もう一件のルーラーからのメールは、聖杯戦争に関するお知らせが大部分を占めている。
一度サーヴァント同士の戦闘を見た後だからか、特にその内容に動揺するようなことはなかった。
問題があったのは、掲示板の方。

「きらりさん?」

スレッドタイトル、『みんなのアイドル 諸星きらりだにぃ☆』。
幸子から、きらりを探しているとメールが入ったのと同じ日に立てられたスレッド。
嫌な予感がした。
そもそも考えてみれば小梅はきらりがこの街にいることを今まで知らなかった。
幸子はなぜ知っていたのだろう。単にこの街でも知り合いだったというだけ?
だとしても小梅もきらりのことを知っているとなぜ思ったのだろう。だって小梅にはこの街のきらりに関する記憶は何もないのに。

「きらりって諸星きらり?」

絵里からの予想外の言葉に、小梅は顔をあげた。

「し、知ってるん……ですか?」
「うん。知り合いってわけじゃないけど、高校ではけっこう噂に……」

言いかけて絵里は言葉を詰まらせた。暗い表情からは話すのを躊躇うような話であることが簡単に想像できた。
小梅の不安はさらに募っていく。

「お、教えて……ください。どんな……噂、ですか?」

絵里はやっぱり嫌そうにしていたが、小梅がじっと見つめているとやがて口を開いた。

「……高校のトイレで女子生徒が殺された事件知ってる?」

小梅は頷いた。その事件ならニュースで見たことがある。

「私も詳しくは知らないんだけどね、あの事件の犯人じゃないかって言われてるの」
「ど、どうして?」

小梅ときらりは特別親しいというわけではなかったが、それでも彼女の性格は知っているつもりだった。
優しい人。暖かい人。積極的すぎるところが少し苦手ではあったが、決して嫌いではなかった。
人を殺すなんて、噂の中でもするとは思えない、


148 : ◆2lsK9hNTNE :2015/09/01(火) 23:23:49 4FAJfeus0

「だから詳しくは知らないの。なんかあの事件の日から登校してないって話は聞いたけど……」

嫌な予感がした。
小梅は画面をタッチしてスレッドを開いた。

そこに書かれていたのは諸星きらりが女子生徒を殺した犯人だと面白おかしくはやし立てる悪趣味な文章。
諸星きらりが聖杯戦争参加者と訴える推理。
そして諸星きらりを犯人とする最大の根拠である、被害者の女生徒たちが行っていたいじめの数々。

小梅の知る諸星きらりは優しい人だ。
だが、ここに書かれていることが本当にきらりに行われていたのだとしたら、こんなことにずっと耐えてきたのだとしたら、あるいは。

(バーサーカーさん、ごめんなさい……チェーンソー男のことは、後にして……いい?)

バーサーカーは召喚されてから未だ一人のサーヴァントも食べていない。
本当ならチェーンソー男は後回しにしていい案件ではなかった。

(お前の好きなようにすりゃいい)

バーサーカーの答えは早かった。

(ありが、とう……バーサーカーさん)

小梅は立ち上がる。番号を交換する時間も惜しくて、紙に自分の番号だけ書いて絵里に渡した。

「ごめんなさい……急用ができたので、もう、行きます……何かあったら……ここに電話、してください」
「え、だけど……」

ペコリと頭を下げて、小梅は店を出た。
幸子がマスターだという確かな根拠はない。本当に諸星きらりが犯人なのかもわからない。
だがらといって二人が会うのを黙って見ていることはできなかった。

幸子の家とケータイの両方に電話をかけてみたが、誰も出ない。何か騒音で着信音がかき消されたのか、手を離せないのか、それとも。
小梅は幸子がどこにいそうか考えて、メールに書かれていたことを思い出した。

「商店街……」



そして小梅はいま商店街にいた。
ひと気のなかった商店街は一転、あちこちに立入禁止のテープが張られ、警官や見物人でごった返していた。
バーサーカーにも頼んで探してもらったが、幸子の姿は見当たらない。
もう一度電話をかけようとしてケータイの電池が切れていることに気づいた。
間の抜けている自分が嫌になった。


149 : ◆2lsK9hNTNE :2015/09/01(火) 23:28:41 4FAJfeus0






【C-2/商店街/一日目 午前】

【白坂小梅@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]R絵柄の私服、スマートフォン、おさいふ、ワンカップ酒×2
[所持金]裕福な家庭のお小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:幸子たちと思い出を作りたい。
1.幸子を探す。
2.きらりさんが殺人犯?
3.チェーンソー男を、ジェノサイドに食べさせる……?
[備考]
※霊体化しているサーヴァントが見えるかどうかは不明です。
※雪崎絵理を確認しました。彼女がバーサーカーのマスターとは気づいてません。
 バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。彼に関する簡単なこと(悪の怪人ということ・絵理と戦っていること)も理解しました。


【ジェノサイド@ニンジャスレイヤー】
[状態]霊体化、カラテ消費(小)、腐敗進行(軽微)
[装備]鎖付きバズソー
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:コウメを……
0.俺はジェノサイド……
1.サチコを探すのを手伝う
2.次倒したら、チェーンソー男を食うかどうか。
[備考]
※バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。
 バーサーカーの不死性も理解しましたが、ニューロンが腐敗すれば忘れてしまうでしょう。

【C-3/自宅付近/一日目 午前】

【雪崎絵理@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]魔力消費(?)、身体に痛み
[令呪]残り三画
[装備]宝具『死にたがりの青春』 、ナイフ
[道具]スマートフォン、私服
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:チェーンソー男を倒す。
1.学校に行く
[備考]
※チェーンソー男の出現に関する変化に気づきました。ただし、条件などについては気づいていません。
※『死にたがりの青春』による運動能力向上には気づいていますが装備していることは知りません。また、この装備によって魔力探知能力が向上していることも知りません。
※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)を確認しました。真名も聞いています。
※記憶を取り戻しておらず、自身がマスターであることも気づいていません。
※もしかしたらルーラーも気づいてないかもしれません。
※聖杯戦争のことは簡単に小梅から聞きました。詳しいルールなどは聞いてません


【???/???/一日目 午前】

【チェーンソー男@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]復活までまだ時間が必要
[装備]チェーンソー
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:雪崎絵理の殺害
[備考]
※雪崎絵理がマスターだとかそういうことは関係ありません。
※聖杯戦争中、チェーンソー男は夜以外にも絵理がサーヴァントの気配を感じた場合出現し、当然のように絵理を襲います。
 このことには絵理も気づいていません。
※致命傷を受けての撤退後、復活にはある程度の時間を要します。時間はニュアンスです。
※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)組を確認しました。


150 : ◆2lsK9hNTNE :2015/09/01(火) 23:30:33 4FAJfeus0
投下終了。タイトルは『情報交換』です
期限の超過、申し訳ありませんでした


151 : 名無しさん :2015/09/02(水) 17:15:04 okyyVPzs0
投下乙です

チェーンソー男についてや聖杯戦争についてをお互い深く知ることなく別れちゃったか転用
小梅ちゃんの方はまだしも火薬庫になりそうな学校地区に行く絵理ちゃんは致命的なのでは……?
小梅ちゃんの方もきらりん関係で一悶着ありそうだし怖い

>自分はそんなおごられたそうな顔をしてるんだろうか。

ここなんかワロタ


152 : 名無しさん :2015/09/03(木) 21:07:01 wQdPCiWk0
投下来てたの気づかなかった!乙です
絵理ちゃんの状態もはっきりしましたね。なるほど、聖杯戦争でありながらどこまでもネガチェンだ
小梅ちゃん、いずれわかることとはいえきらりのことを知ってしまったか
そりゃほっとけないわなあ
それにしてもジェノサイド=サンは相変わらずぶっきらぼうながらイケメンである、腐ってるのに


153 : 名無しさん :2015/09/03(木) 22:57:34 OM4mOKOY0
投下乙でした
ネガチェン組は未だ聖杯戦争の外にいる感じだな
これがのちのちどう響いてくるか、どの道時間がたてばチェーンソー男と無関係では通せないだろうし
そして小梅ジェノサイド組もきらり周りに介入するかな?これは
ニンジャ肉ならぬ鯖の肉を後回しにしてるのがこれもどう響くか


154 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/04(金) 07:09:45 RAWmCqsU0
>ホワイト&ローズ
投下乙です!
なのはちゃん、素直に死神様事件を追っていればフェイトちゃんに会えたのに……
前回に引き続き魔法少女鑑識眼で見事大当たりを引いたクラムベリー氏。早速軽やかなステップで接触へ。
>私はもう誰かが死ぬのを見たくないのです
こいつ無知な少女100人集めてこの聖杯戦争以上に凄惨な殺し合い開いてたくせにどの面下げてこんなこと言ってんですかね……?
ただ、その頃の経験もあって少女の籠絡はお手の物。判明してるだけで百数十名の少女を魔法少女にした勧誘のプロですからね。
フェイトちゃんの事もあって焦燥感にかられているなのはちゃんにはドンピシャで効果を発揮してしまいました。
なのはちゃん主体のフェイトちゃん捜索部隊はエンジニア・音楽家と多芸なパーティが構築されて心強いですね(諸々の事実から目を逸らしつつ)
あと地味におお!となったのは念話ですね。
なのは世界では魔術・魔法に適正のある人物同士なら複数回線を繋いでの同時念話も可能かつ距離もかなり広範囲に対応できるので、成程こういう使い方もできるわけです。
しかし肝心の念話相手がやっぱり木原マサキと森の音楽家クラムベリーなの、涙しか出ません。


>機械式呪言遊戯
投下乙です!
不審者のストーキングに気づかず街中を散策してたら不審者に出会ったので全力疾走で逃げ出す。
書き起こしてみると今のところどの少女よりも少女らしい動きをしているので木原マサキは実は少女なのでは?
冗談はさておき。
固有結界(実際は対界宝具)のさいはて町に誘い込まれたのはストレイド卿も実はかなりヤバいのでは?
愉快な番人たちは「サーヴァントには劣る」とされていますがそれでも強力な番人ならアサシンと対等以上の戦力でしょうし、さいはて町ではおそらく宝具解放条件も整わない(というより心象の強さではある少女側に分があるはず)。
さらに言えばどっかの冥王が星を軽くぶっ壊す砲撃を町に向かってぶっ放す危険性もある。
大切な人を守る時の頼もしさには折り紙つきの彼ですが、果たして約束通りに帰れるのかどうか。
にしても玲ちゃん、意外とさいはてのキャラの会話に馴染んでますね。かわいい。
>……路地裏と『町』の狭間で、犬が一匹、死んでいた。
少女たちの聖杯戦争と「ある少女」の描いた世界には辿りつけなかった。かなしいものがたり。



>ふ・れ・ん・ど・し・た・い
投下乙です!
うわぁ……うわぁ……小学校凄いことになっちゃってる……実際被害が最大。
アリスの「堕天使の寵愛」のせいで三校の中でもダントツの危険地域化してますね。
というかあいちゃん組の侵略・暗躍っぷりが。この子は本当に精神的に剥離しているというかなんというか。桜ちゃんのノーフューチャー感が増していく増していく……
セリムが感づいたおかげで一旦は安心かと思った知世ちゃんもフェイトちゃんを見つけてしまったことで状況は一転。
コミュ症ぼっち属性持ちかつ聖杯狙い勢であるフェイトちゃんはわりと頭が硬いので接触次第では大爆発必至。
どっかが爆発すれば確実に延焼・誘爆、近隣の学校・図書館地帯にも余波はありそう。
集まっているメンバーの火力的に、これは事と次第によっちゃ小学校が二日目まで残っていないかも。
もう大爆発が逃れられないならばいっそ小学校ごと天レぶっぱで消滅させれば死神様事件とフェイトちゃん問題も解決する……?



>情報交換
投下乙です!
絵理ちゃん的には大きな心の傷の物語ですからね。そりゃあ詳しくは語れませんよ。
候補作でもラーメン奢られてたし、奢ってあげたくなる顔というのもあながち間違いではないのかも?
しかし絵理ちゃん、マスターの自覚なしだったのか……チェーンソー男もそうだが今んとこ完全に別ゲーと化している。
文中に「チェーンソー男を倒せばとあるけど、原作では確かにそういう存在だったチェーンソー男も今はサーヴァントでしかないからなぁ……悲しいなぁ……
そういうところに気づいてないのも聖杯戦争の知識への精通がないからの誤解だろうけど、そういうズレが以降かなり響きそう。
更に出現条件的に学校に行くと小学校につづいてパニックホラー漫画化不可避。コワイ!
そして小梅ちゃん。絵理ちゃんと比べると安定感があるけど、こっちもこっそりヤバめ。
軽く致命的なのが「携帯の電池が切れた」の一文。142'sとの交流経路も一時的に絶たれるし掲示板も追えない。
幸子が爆釣してる大井っちの罠も確認してないっぽいから、そういった点でも不安ががが。
ついでに言えば、ジェノサイドの餌を新たに探す必要が出てきた点も気がかりですね。まあその辺を散歩してる技術者食えればと思ったけどあいつ自己保存持ちだった。クソが。


155 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/04(金) 07:13:09 RAWmCqsU0
感想ついでに

大井&アーチャー(我望光明)
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
輿水幸子

完全に自己リレーになりますが予約します
もし「書きたい!」という方が居れば喜んでお譲りしますので声をかけてください


156 : 名無しさん :2015/09/04(金) 07:25:09 RAWmCqsU0
ついでに個人的な確認用に例のアレも更新して貼っときます

[早朝]
【B-5】桂たま
【B-4-B-5】アサシン(ゾーマ)
【D-3】ララ
【D-7】シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)

[午前]
【B-1】海野藻屑
【C-2】輿水幸子
    白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)
【C-3】雪崎絵理
【C-4】クリエーター(クリシュナ)
【D-2(小学)】木之本桜&セイバー(沖田総司)
         フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)
         蜂谷あい&キャスター(アリス)
         大道寺知世&アサシン(プライド/セリム・ブラッドレイ)
【D-2(中学)】山田なぎさ、アサシン(クロメ)
         星輝子&ライダー(ばいきんまん)
【D-2(高校)】大井、アーチャー(我望光明)
         双葉杏&ランサー(ジバニャン)
【D-3】諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
    江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
    キャスター(木原マサキ)
【D-5】中原岬&セイバー(レイ/男勇者)
【D-6】偽アサシン(宝具『まおうバラモス』)
【????(完全に不明)】バーサーカー(チェーンソー男)
【????(nのフィールド)】ルーラー(雪華綺晶)
【????(さいはて町)】アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド/ジャック・ザ・スプリンガルド)
             玲&エンブリオ(ある少女)

[午後]
【C-4】高町なのは
    アーチャー(森の音楽家クラムベリー)


場所確認用のやつ
ttp://download1.getuploader.com/g/hougakurowa/4/%E5%B0%91%E5%A5%B3%E5%9C%B0%E5%9B%B3.png


157 : ◆PatdvIjTFg :2015/09/05(土) 20:49:17 HUV75I.Y0
感想遅れます。

時間出来たので
江ノ島盾子&ランサー
諸星きらり&バーサーカー
を再予約させていただきます。


158 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 06:59:38 F0y6wfs60
ちょっと遅刻します


159 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:44:14 F0y6wfs60
一時間半くらい遅刻しました

大井&アーチャー(我望光明)
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
輿水幸子

投下します


160 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:44:54 F0y6wfs60


【from:SUPER_Kitakami_sama@
 件名:Re.掲示板の件について
 本文:あなたが誰かはわからないので、名前だけ名乗らせていただきます。
     私はエノシマといいます。きらりさんと同じ高校に通っていた者です】


  携帯端末の液晶面を覗きながら、輿水幸子はそのカワイイ眉間に皺を寄せた。
  エノシマと名乗る少女のメール。
  きらりと同じ高校に通っている、ということはこの世界でできた知り合いだろうか。
  少しだけ残念に思った心を、頭を振って否定する。

「戦争なんだから、知り合いが居ないに越したことはないじゃないですか!」

  再び星輝子と白坂小梅の顔が脳裏をよぎる。
  小梅は無事だろうか。
  被害者は出ていないんだから無事にきまっているが、連絡の一つでも欲しいものだ。
  あれ以降携帯端末に着信はない。
  焦る心を深呼吸で無理やり落ち着かせようとして、勢い余ってむせてしまう。
  駄目だ。今のは少し間抜けだ。
  こほんこほんと二回咳払いをして、周囲が誰も見てなかったことを確認して、すぐにカワイイ輿水幸子に戻る。
  そして、再び携帯端末に視線を落とす。
  話を聞いておく必要がある。
  幸子は中学生なので、高校で起こった事件の深い事情までは探れない。
  だが、きらりと同じ高校、同じ学年なら深い事情を知っている可能性がある。
  それに、きらりと同じ学校に通っているというのなら、連絡網みたいな形できらりの連絡先を知っているかもしれない。


161 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:45:16 F0y6wfs60

   ☆

  幾つかの情報交換を済ませた。
  相手の名前と学年を聞き、きらりとの関係を尋ねた。
  名前は『エノシマジュンコ』、学年は高等学校の三年生(確かきらりと同学年だ)。
  きらりとは友人とは言えないまでも顔見知りであり、聖杯戦争が始まる前にそれとなく良くしてもらっていたという。
  確かに学校で不審な事件が起きたが、それでもきらりの性格を知る『エノシマ』には到底信じられなかったらしい。
  それで、筆を執ったとのことだ。
  『エノシマ』の語るきらりは、幸子の知っているきらりと相違ない。
  ということは、本当にきらりの知り合いで、きらりの身を心から案じているのだろう。
  やはり、クリエイターの言っていることは間違っている。
  世の中には、聖杯戦争に巻き込まれても友人の安否を気づかえる人間がいる。
  それだけで、幸子はなんだか嬉しくなった。

  相手に一方的に聞いているだけでは悪いと思ったので幸子側の情報も渡した。
  自身の情報全部を渡すのは流石にカワイイ幸子のプライバシーに関わるので、名前や、自身の学年や、きらりを探しているということを伝えた。
  少しでもきらりにたどり着く手がかりになればと思ったが、相手の反応は幸子の予想を超えるものだった。


【from:SUPER_Kitakami_sama@
 件名:Re.Re.Re.Re.掲示板の件について
 本文:私は今から高校できらりさんの自宅について聞いて回るつもりです。
     今すぐに、というわけにはいけませんが、今日の放課後には家の場所を調べて向かおうと思っているんです】


  確かに、高校にいるなら高校に通っていたきらりの情報は格段に手に入れやすい。
  家の場所がわかれば探す手間は確実に省ける。
  すぐに同行を申し出た。出会ってすぐで不躾かもしれないが、なりふりかまってはいられない。
  少しでもはやくきらりの無実の証明をし、カワイイボクが味方なんだと駆け付けなければ。
  返事は了承。
  ほっと胸をなでおろす。
  放課後ということなのでとまだ時間はあるが、それでもこれが実ればほぼ高確率できらりの元に近づける。


【from:SUPER_Kitakami_sama@
 件名:Re.Re.Re.Re.Re.Re.Re.Re.掲示板の件につ
 本文:それでは、放課後1800に待ち合わせということでお願いします。
    集合場所はC-3かD-4にするつもりです。】


  幸子がお礼を述べ、『エノシマ』はそれにお礼を返し。そこで二人のメールのやりとりは終わった。


162 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:47:12 F0y6wfs60

   ☆

  放課後までまだ時間はある。
  だが、その間をなんもなしでぶらぶらと過ごすのは時間の無駄だ。
  出来ることならできるだけ早くきらりに会いたい。
  商店街で起きた事件のことも気になる。
  そしてなにより、幸子の目標は『犠牲のない形での聖杯戦争の終結』なのだ。
  一安心で一拍置いて、気合を入れなおして一歩を踏み出す。
  向かう先は、商店街のずっと向こう。別の区域だ。

  幸子がその情報を手に入れたのは、商店街の事件について聞いて回っている時だった。
  商店街の店の人が、とても重要なことを教えてくれたのだ。

「うーん、その時間は起きてなかったけど……あ、でも。あの人なら知ってるかも」

  狐の面を頭につけた少年NPCが、幸子の質問にそう答えた。

「あの人って?」

「なまえは しんない。いっちゃあ あいつは てーへん さ。ちかよると くさいぞ」

  奥に居たうさ耳の少女NPCが狐面NPCの言葉を補足する。
  二人の話によると、深夜から早朝にかけて商店街を徘徊するNPCがいるとのことだ。
  そしてそのNPCが今朝、しかも戦闘の最中に居たのは確定らしい。

「宇佐美ちゃん、知ってたの?」

「あさはやくから うるさかった。 あいえー! にんじゃー!」

  要約すると、朝方にそのNPCが悲鳴をあげているのを聞いた、ということだ。
  つまり、その人物に聞けば事件のあらましを知ることが可能なのだろう。


163 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:47:41 F0y6wfs60

  二人から事件を見ていたと思われるNPCの容姿を聞く。
  壮年の男性らしい。
  目立つ容姿ではないし、容姿も曖昧な情報しか知らないので会って情報交換ができるかと言われれば、たぶん無理だろう。
  ただ、商店街にきらりが居ないのは歩きまわってほぼ確定しているし、商店街で聞きまわっても事件のことがわからないのはもうさんざん思い知った。
  場所を移すには絶好の機会かもしれない。
  居ないと思われる場所を何度も探すより、別の場所を探したほうがきっと効率は良い。

「……確か、あっちの方って言ってましたよね」

  向かう方向は狐面のNPCが教えてくれた『目撃者NPCがいつも向かっていた』方角。
  『エノシマ』との約束や、輝子の思いやりのこともあるのであまりC-2から離れることはない。
  せいぜいエリアひとつ分くらいだ。
  商店街を抜け、大きな通りを右に曲がる。
  日は高い。
  18時まであと9時間以上ある。
  それまでに、なにか手がかりが見つかればいいのだけれど。

「考えていてもはじまりませんね」

  振り返らずに進んでいく。
  歩調は、いつもの幸子から考えればとても早い。
  ずんずん、ずんずんと進んでいく。
  その間もすれ違うNPCの顔を見るのは怠らない。
  きらり、目撃者NPC。どちらでもいい。偶然でもどちらかに会えれば上出来だ。
  ずんずん進み。NPCの顔をしげしげ眺め。またずんずん進み。
  そうしているうちにすぐに商店街のゲートは見えなくなった。

  歩いていると始業の鐘が遠くから聞こえてくる。
  ふと立ち止まり、音の方を向く。
  学校は今から授業だ。輝子や小梅は学校で勉強に専念することだろう。
  今日の授業のノートは取れないから、今度誰かにノートを貸してもらわなければならない。
  そういえば、仕事以外で学校をサボるのは幸子にとって初めての体験だ。
  まるで不良になったみたいだ、と少し場違いな感想を抱く。
  少しだけドキドキとか、ハラハラとかしながらも、幸子はまた早足で歩き始めた。

  幸子が商店街を去ったのは、ちょうど彼女が身を案じていた白坂小梅が商店街に来るより少し前のことだった。


164 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:48:05 F0y6wfs60

【C-2/商店街周辺/1日目 午前】

【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、怒り、恐怖(微)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争をカワイイボク達で止めてみせる
1.諸星きらりに会う。
2.商店街で起こった事件が気になる。
3.きらりの捜索+事件を見ていたというNPCの捜索を兼ねて別の地区へ。
4.何かあったら輝子の家に避難……?
5.放課後18:00に『エノシマ』と会う。場所はC-3もしくはD-4の予定。
[備考]
※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。
※小梅と輝子に電話を入れました。
※『エノシマ』(大井)とメールで会う約束をしました。
 また、小梅と輝子に「安否の確認」「今日は少し体調がすぐれないので学校を休む」「きらりを見かけたら教えて欲しい」というメールを送りました。


165 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:49:18 F0y6wfs60
   ☆

  『輿水幸子』。
  聞いたことがある名前だと思うが、どこで聞いただろうか。
  大井が集められる人名情報は極端に少ない。
  学校を除けばほとんど他者との交流がないから当然といえば当然だが。
  そんな大井の意識に残っているということは、かなり状況は限定される。
  一応クラス内の学友の名前くらいならそらで言えるようになったが、その中には『輿水幸子』は居ない。
  ならばどこで聞いたものか、と顎に左手を添えて考える。
  そうして思い至った。
  そうだ、そういえば。
  街を歩いていた時か、近所のスーパーで買物をしていた時にそんな名前を耳にしたような気がする。
  有線放送だったか、テレビの試聴用番組だったか。そこは確かじゃない。
  だが、そこで話していた少女が確かそう名乗っていたはずだ、『輿水幸子』と。
  記憶を辿ってみる。独特な名前だから聞き間違いはないだろう。

  そこまで考えて、職員室前から来客口に向かっていた足を止める。
  そういった方面に疎い大井でも名前を知っているということは、『輿水幸子』はこの聖杯戦争の舞台ではかなりの有名人と考えたほうがいい。
  そして、今回のメールの相手も身バレを防ぐために有名人の名前を使った、と考えるのがスマートな考え方だ。
  そもそも本名を会ってもいない相手に普通に明かすなんて危機管理がなっていなさすぎる。
  大井の鉄壁のカモフラージュがあるとはいえすぐに個人情報を晒すのは、今が戦争中という自覚がないか、戦争を舐め腐っているか。
  もしくは『エノシマ』の名を騙った大井のように「バレても問題のない名前」を使っているか、だ。

  成程、一筋縄ではいきそうにない。
  だが、その程度の謀り事、大井の作戦の前では無意味だ。
  偽名を使っていようと、こちらに興味を持って接触を図ってきたというのは事実だ。
  そこが間違いなく事実であるならば、大井としては及第点だ。
  興味があるということは、方針を提示すればなんらかのリアクションを見せるということにほかならない。
  この食いつき具合からすれば、集合場所に対して確実に注意を払う。
  指定の時間に本人が近くにいるかどうかはともかくとして、確実に『参加者が現れるかもしれない』として方針に組み込むだろう。
  集合場所を襲撃してくるにせよ、遠くから観察に徹するにせよ、情報戦で優位に立てている現状ならば大井が更に動きやすくなる。
  もし、彼女が仮に本物の輿水幸子もしくは偽名だが諸星きらりの本当の友人で、のこのこ現れてくれたならそれこそ好都合。
  一人が食いついた。この事実が大切なのだ。
  この一人を逃さないために手を打つ必要がある。有り体に言えば、彼女を釣りだす餌が必要になる。


166 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:49:48 F0y6wfs60

  集合場所に人が居なければ『輿水幸子』は騙されたと思うだろう。そうすれば攻撃にしろ交渉にしろ行動を起こさなくなる。
  それは困る。だから集合場所には誰か、彼女を釣りだす餌として人間が居る必要がある。
  当然、大井自身が餌になるつもりはない。
  しばし少考して、そして天からの啓示のように一つの妙案に思い至った。

(アーチャー)

『なにかな』

(デコイを一人用意して欲しいんです)

『それは……君の代わり件のメールの集合場所に向かう人物、ということか』

(理解が速くて助かります。『エノシマ』が居るなら彼女がいいんでしょうが、推定参加者だから接触は避けるべきだと思うんです。
 だから、まあ適当に、それっぽいのをお願いします。相手に容姿情報は与えてないのでどんな子でも構いません)

  NPCに大井のふりをさせ、集合場所に送り込む。
  集合場所で『輿水幸子』が偽大井を見たら、何か反応を起こす。
  本当に諸星きらりの友人だというなら情報交換を望んで釣り出せる。そこを討つ。
  もしこちらを利用しようとしていたなら、確実に偽大井は殺される。
  だがその攻撃から相手のサーヴァントの位置を特定して、必要に応じて戦闘形態+宝具解放したアーチャーに向かわせればいい。

  素晴らしい作戦じゃないか。
  先の先まで見据えて、未然の事態にまで警戒を怠らず対策を打てている。
  あの脳みそが弾薬か鉄鋼かで出来ている長門に今の大井の半分でも作戦立案能力があれば、北上はおそらく……いや、確実に死にはしなかっただろう。
  この程度の事もできずに威張り散らしていた軍の奴らを鼻で笑う。
  通りすがりの生徒が不審そうにこっちを見たが、この程度ならルーチンの範囲内だ。問題はない。
  鼻で笑い、すぐに思考を切り替える。
  いつまでもあの愚図どものことを考えていても時間の無駄だ。
  来客口にお客様を待たせているんだから、早いうちに対応しなければならない。
  だが、こちらについてももう策は思い浮かんでいる。
  少々不安要素が残るが、相手の容姿はもうばっちり記憶した。仮に今逃がしても問題ない。
  靴を上靴からローファーに履き替え、つま先で地面を打って履き心地を整える。
  『輿水幸子』とやりとりをしながら校内をぐるっと一周。『諸星きらりについて数人に聞いてきた』くらいの時間は経っただろう。
  かつかつというタイルを叩く音が、ことことというアスファルトを叩く音に変わる。
  あの目立つ見た目の少女はちゃんと待っていた。日光から逃げるように木陰で座り込んでいる。
  時間を確認する。予鈴まではもう少しといったところか。
  今度のやりとりは数十秒で十分だ。最新の注意を払いながら手早く済ませよう。


167 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:50:27 F0y6wfs60

   ☆

「申し訳ありません。諸星さんについて、心当たりの先生方に聞いてみたんですが誰に聞いても教えてもらえなくて……」

「そっか」

「ただ、知人に当たってみたら『諸星さんらしき人の帰宅の方向なら分かる』と」

「へえ」

「生憎、私もその子もこれから授業なので案内することはできないんですが……」

「ああ、いいよいいよ。そこまで無理言うつもりはないから」

  金髪の少女はへらへらと笑いながら手を振ってみせる。ぷらぷらと宙を舞う手のひらはまるでもみじの葉のように小さかった。
  そしてそのあとで、少女は少しだけ寂しそうな顔をする。
  本当に『気にしていない』し『情報が手に入らなかったのが残念』という素振りだ。
  こちらに対して一切警戒していない、と捉えていいだろう。
  この様子ならいける、と確信を持って次の手を切り出す。
  このタイミングならば、相手も引っかかってくれるだろう。

「あの、放課後で良ければ……」

「ん?」

「放課後なら、その子も用事がないと思うので、私から案内をお願いすることも出来ると思います。
 といっても家そのものが分かるわけではないので、手助け程度にしかならないと思いますが」

  暗鬱、といった感じだった少女の顔がぱっと輝く。華やかな笑顔だ。嬉しさを満面で表現している。
  食いついた。
  ここまで分かりやすいと思わず笑いそうになってしまう。
  輿水幸子は面と向かえないので探り探りだったが、面と向かったこの少女ならば安全策に出る必要はない。
  ガッツポーズは心の中で。表面は一切変えずに話を続ける。

「どうでしょう」

「そだね。だったらお願いしようかな」


168 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:51:06 F0y6wfs60

「じゃあ、何か、情報を交換できるようにしておいた方がいいかもしれませんね」

「じゃ、番号交換しとこうか」

  そう言うと、少女はおもむろに携帯端末を取り出した。
  番号交換。知識はある。携帯端末同士の固有番号を交換して一対一で通話が出来るというものだ。(実際に試したことはない)
  いざという時のために、番号は手帳にメモしてある。電話番号の探し方が分からず慌てて相手に隙を見せるような真似はしない。
  ページをちぎって渡すと、少女はなれた手つきで携帯端末を操作した。
  ついで、電子音が鳴り響く。液晶画面には11桁の数字の羅列が映っていた。

「なにかあったらさ、ここに電話ちょうだいよ。じゃあ、外も暑いしもう帰るから」

「はい。確かに……あ、それと」

  そのまま立ち去ろうとしていた少女を呼び止め、もう一つ餌を巻いておく。

「方角的には、あっちの方……それに、あまり離れてないって話だったので。どうしても早く会いたいなら」

  指を刺したのは遊園地の方。当然デタラメだ。諸星きらりの家なんて知らないし、知りたくもない。
  場所を指定したのはこの少女を出来るだけアーチャーの監視下においておきたいから+この周囲に足止めさせて作戦に取り込みやすくするためだ。
  近所をうろうろと探しまわってくれていれば、こちらから呼び出しやすい。
  そういった本心は伏せ、ただ『諸星きらりがいるかもしれない』という情報だけを与えておく。

  これはあくまでオマケにすぎない。正直、襲撃を放課後と定めた時点でいらぬ作戦だ。
  本作戦の方に引っかかってくれてるのだからここまでやる必要なんて本当はない。
  だが、念には念を入れて。動かせる駒は手元に残しておく。
  大井はトラック島に戦力の大半を集中させた挙句鎮守府襲撃を受けて壊滅状態に陥った馬鹿どもとは違うのだ。
  少女は朗らかな笑みで手を振って去っていった。
  少女の影が見えなくなるのを確認して、大井も振り返り、校舎に戻る。
  所要時間は二分弱といったところ。
  見立てよりは少し長引いてしまったが、それでも朝礼までは時間がある。
  大井は達成感を胸に、来客口を後にした。


169 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:51:36 F0y6wfs60

【D-2/高等学校/1日目 午前】

【大井@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]満腹、健康
[令呪]残り三画
[装備]北上の枕の蕎麦殻入りお守り
[道具]通学鞄、勉強道具、スマートフォン
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:北上さんへの愛を胸に戦う。
0.聖杯戦争に北上さんが居る可能性を潰す。
1.諸星きらりとエノシマという女子高生、各種噂を警戒。
2.メールを送ってきた人物をC-3もしくはD-4に集める。そのためにアーチャーに集合場所に赴く偽大井を用意させる。
3.作戦開始直前になれば偽大井を使って2.の場所に少女(双葉杏)も上手いこと誘導する。
4.メールの件が片付いたらしばらくはNPCとして潜伏する。
[備考]
※双葉杏を確認しました(電話番号交換済)。また、輿水幸子の名前を確認しました。ただ、偽名を疑っています。
※北上が参加者として参加している可能性も限りなく低いがあり得ると考えています。北上からと判断できるメールが来なければしばらくは払拭されるでしょう。
※『チェーンソー男』『火吹き男』『高校の殺人事件』『小学校の死亡事件』の噂を入手しました。
 また、高校の事件がらみで諸星きらりの人相・性格、『エノシマ』という少女が諸星きらりを探っていたことを教師経由で知りました。
※フェイト・テスタロッサの顔と名前を把握しました。


170 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:55:16 F0y6wfs60

   ☆

「はあ、疲れた」

  笑顔は疲れる。
  しかも営業スマイルならなおのことだ。
  双葉杏は引きつりそうな頬を撫でながら、朝来た道を今度は逆方向に歩いていた。

『一発でいい人に出会えたにゃー! オレっちも万引きなんかしなくて良かったニャン!』

  ランサーが本当に嬉しそうな声色で念話を飛ばす。
  実体化していたなら小躍りくらいはしていたかもしれない。
  少々頼りない自身のサーヴァントと、気を張り詰めていた気苦労からため息を一つこぼしそうになり、自分の置かれている状況を理解して飲み込んだ。

(ランサー)

『で、どうするニャン? 今から早速探してみちゃうのかニャ?』

(あれ嘘だよ、たぶん)

『……』

  うまく騙せているといいが、と思いながらぼちぼちと歩いて行く。

  杏はあの栗毛の少女に対する疑心を一切解いていない。
  怪しいと思った瞬間から、彼女は杏を罠にかけようとしているものだとして対応している。
  それでも、あの場で逃げ出さなかったのは、相手が戦争でいう敵だとするなら『何も言わずに逃げればサーヴァントを送ってくる可能性がある』と考えたからだ。
  そうなると困る。
  顔がばれてしまっている以上探されれば見つかるのは必至だし、そうなってしまえば先頭は避けられない。ランサーはイマイチあてにならないので出来ることなら戦闘は避けたい。
  それに、下手に動けば今度は杏のことが掲示板に書き込まれてきらりの二の舞いになってしまうかもしれない。
  それだけは避けなければならない。
  見ず知らずの誰かに付け狙われることになるなんて考えただけでも身震いする。ニートは安心と安全がないと生きていけないのだ。

  見つかってしまった以上なんとかして相手に怪しまれずに去らなければならない。
  相手の警戒を緩めて自由になるには、『相手の策にまんまとハマった』と見せるしかなかった。
  杏だってアイドルだ。その気になれば外面よく振る舞うことは出来る。
  普段の杏からは考えられないほどに感情豊かに振る舞ってみせると、栗毛の少女は特になにをするでもなく解放してくれた。
  だが、杏の側はまだ警戒をとかない。
  あの栗毛の少女のサーヴァントが見張っている可能性は十分にある。不審な動きは最小限に抑えていく。
  表情一つ、動作一つ、怪しまれないように考えながら。
  ため息一つ気楽につけない現状にため息をつきそうになったが、やっぱり飲み込んでおいた。

  ぼちぼち歩いていると高校前の並木道を抜け、道路に出た。
  タクシーは来た時に返してあるのでもう居ない。新しいのを捕まえるか、歩くか。
  そこは悩むまでもない。すぐに携帯端末を取り出して、朝電話を掛けたタクシー業者の番号を探す。
  視界に先ほど連絡を入れた栗毛の少女の電話番号が目に入る。その場で確認したから偽物ということはないだろう。
  電話番号を渡すことを「悩みはしなかった。
  電話番号程度なら掲示板で晒されても問題ない。電話番号を悪用しても痛くはないし、電話口で得られる情報なんて少ないし、マナーモードか電源をオフにしていれば音をたどって杏にたどり着くなんてこともできない。
  自由か、電話番号か、天秤にかければ自由のほうが大事。当たり前の話だ。


171 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:56:45 F0y6wfs60

  タクシー業者に電話をかけると、周回の車が一台近くにいるらしいとの返事がもらえた。
  このけだるい日光の下にいつまでも居なくていい、というのはありがたいことだ。
  木陰に入って座り込むと、泡を食ったようなランサーの声が聞こえてきた。

『て、て、てことは、つまり、オレっち、結局学校に侵入しなきゃなんないってことかニャン!?
 あんまりだにゃ〜!! そんなインポッシブルなミッションやらされるなんて聞いてないにゃ!』

(ああ、それももういいよ)

『ほ、ほんとかニャン!? あとで嘘っていっても……』

(いいよ。ランサーだって死にたくないでしょ)

『……オレっち、もう死んでるニャン……』

(そっか。そうだっけ。ごめんごめん)

  高校に侵入させて個人情報を得る、という考えはあの少女の登場で瓦解した。
  校内で情報を探るには時間の長短はあれど確実に実体化が必要になるだろう。
  だが高校で実体化すればあの少女、もしくは他の主従のサーヴァントに見つかる可能性が極めて高い。
  再三言っているが、ランサーはあんまり頼りにならない。
  戦場に巻き込まれて冷静な立ち回りが期待できるようなキャラをしていないし、三騎士で呼ばれているのに地力がそもそも低すぎる。
  あえて藪をつついて蛇を出すことはない。

  ただ、そうなると問題が一つ。

『じゃあどうするニャン? きらりって子の家の方向が嘘で、調べにいかなくていいってなると……』

(……そこだよなぁ)

  きらりの唯一の情報源である高校が使えない。
  そうなると、この状況で取れる方法はかなり限られてくる。
  あの少女のリークがこちらの信用を得るためにある程度真実を伝えているものだと仮定してこの近所を調べるか。
  それとも完全に振り出しに戻るか。
  あるいは。
  木陰に座ったまま視線を動かす。
  小中高等学校の密集したこの地域にはもう一つの重要な施設があった。
  詳しい道筋は思い出せないが、そこなら確実に諸星きらりの情報を持っている人物がいる。
  図書館。
  今朝確認した通達で、ルーラーが『フェイト・テスタロッサ』の受け渡し場所に選んだ施設。
  それだけ危険ではあろうが、ルーラーならば(通達をきらりに渡すという作業があるため)きらりに関する情報は確実にあると断言できる。
  まあ、きらりが参加者だったとするなら、だが。
  しかし裁定者であるルーラーが個人情報をそのまま渡してくれるとは思えない。突き返されるか、無理難題をふっかけられるか。
  他に楽な道があればいいのだが、悲しいことに今の杏には思い浮かばない。

  灰色と白のタクシーが近づいてきて、方向指示器を杏の方に向ける。
  音も立てずに止まった車は、また音も立てずに後部座席のドアを開けた。
  杏は、太陽の光で力を失ったゾンビのようにのろのろとした足取りでタクシーに乗り込み、クーラーが効いていて他者の目も届かない車内でようやく一息ついた。

「どちらまで?」

  扉が閉まり、タクシーが走りだす。
  どの道を選んでも、めんどくさいだろうなぁと思いながら杏はとりあえずの向かい先を告げた。


172 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:57:05 F0y6wfs60

【D-2/タクシー車内/1日目 午前】

【双葉杏@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、焦燥感
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]携帯ゲーム機×2、大井の電話番号
[所持金]高校生にしては大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:なるべく聖杯戦争とは関わりたくなかったが
0.諸星きらりに会う。
1.きらりの家はDラインの地区にあるらしいが……?
2.栗毛の少女(大井)を警戒。
3.Dラインの地区を探すか、無為に動くか、図書館か、他の何かか。どうするかなぁ……
[備考]
※大井と出会いました。大井を危険人物(≒きらりスレの>>1)ではないかと疑っています。
※大井からきらりの家の方角情報(偽)を受け取りました。こちらも疑っています。

【ランサー(ジバニャン)@妖怪ウォッチ】
[状態]健康
[装備]のろい札
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:なんとなく頑張る
1.双葉杏に付いて行く


173 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:57:31 F0y6wfs60

   ☆

  推定マスターとされている金髪の少女が門前から消えたのを確認する。
  千里眼のような視力補佐スキルを持っていないため、金髪の少女の行方をどこまでも追いかけることは不可能だ。
  だからただ、来客口前の並木道を通って乗ったタクシーの向かうだいたいの方向を確認するだけしかできない。
  それでいい。
  今はまだ、それで十分だ。
  アーチャー・我望光明は特に少女を警戒することなく、自身のマスターである少女・大井の方に意識をずらした。
  作戦にところどころ穴は見られるが、それでも『勝ち残ってやる』という強い意志を感じる。
  ひとえに彼女が出会いたいと言っていた少女『北上』のためだろうと思うと、アーチャーは苦笑した。
  大井自身に対人戦の経験や作戦の立案の経験がないのは確認済みだ。
  だというのに、最適とはいえないまでも、及第点が得られる程度の作戦を立案し、自ら実行し、不測の事態にも柔軟に対応している。
  一人の少女は、狂おしいほどの愛を抱いて戦況に一石を投じようとしている。
  そして、そのために知恵を振り絞り敵を誘い出し討とうとしている。
  『心』とは。
  『絆』とは。
  人をかくも狂わせ、さらなるステージへと導く。

  『絆』。
  下らない幻想だ。そう切り捨てていた。
  だが、それが時として強靭な力を生み出すことを、アーチャーは忘れてはいない。


―――だから今日……天高はアンタの支配から卒業する!!―――

―――青春銀河、大・大・大、ドリルキックだ!!――――

―――卒業生代表、仮面ライダーフォーゼ……如月弦太朗―――


  心と心の繋がりなんて曖昧なもので。
  少女は。
  少年は。
  若者たちは。
  自身の限界を軽く飛び越え、不可能を可能にする。
  超新星よりも強く激しい光を放ち、栄光の未来へ向かって一歩を踏み出し、彼らの銀河に足跡を残していく。

「素晴らしいじゃないか。私は少々、君を見誤っていたかもしれないよ」

  想像以上だ。
  呼び出した少女が戦闘能力を持たないと分かった時は、アーチャーの方から積極的に動かなければならないことを想定していた。
  だが、これならもう少しは大井に任せていてもいいかもしれない。
  大井が望めばその力を振るうし、大井の要請があれば多少の無理も通してみせよう。
  少なくとも、戦況が大井の手に負えなくなるまでは、彼女の良き臣下として働こう。

  そう。少なくとも、戦況が大井の手に負えなくなるまでは。


174 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:58:05 F0y6wfs60

「しかし、そう考えると、非常に残念だ。
 君に戦う心だけではなく、戦う力があれば……よりよい関係を築けたのだろうがね」

  もし、彼女が強い意志だけでなく、その意志を肯定するだけの力を持っていれば。
  戦闘能力でもいいし、優れた知力でもいい。潜在的な魔力でも、あっと言わせる奇術でも、なんでも構わない。戦況に一石を投じられる『戦う力』を持っていれば。
  アーチャーはもっと大井に歩み寄り、精力的に仕えただろう。
  だが、彼女にはそれがない。あるのは人一倍に強い自尊心と、狂気的な愛という名の『絆』だけだ。
  だから当然、アーチャーは大井に懐を見せない。

「……君は、どの程度持ってくれるのかな」

  大井が動けばそれだけ多くの参加者が動く。
  今の大井の作戦が彼女の目にはどう映っているかは分からないが、駆け引きに秀でた者や対人ゲリラ戦に慣れている者にはすぐに裏をかかれるだろう。
  そうなればいつかしっぺ返しが来る。
  しっぺ返しがアーチャーの手で握りつぶせる程度ならば問題ないが、それを超えれば一切の容赦はない。
  その時は大井を切り捨て、別のマスターを探す。
  彼女の忠実な臣下を演じながら、どこかの誰かのサーヴァントを殺し、ついでに大井も始末して別のマスターと再契約をする。
  別のマスターが手に負えない状態になれば、またいつか切り捨てて。
  仮にもし、戦う力を持つマスターが居れば、大井との関係はそれまでだ。
  確かにアーチャーは『絆』に負けた。だが、『絆』の強さが無敵だとは思わない。
  裸に『絆』で戦場を駆けるマスターよりは、武装し強い『意志』を持つマスターのほうがいいに決まっている。
  相棒は強いほうがいい。それも傍目でも分かるくらいに強いほうが。
  その時は、大井をそそのかしてでもそのマスターと交戦し、敵のサーヴァントを屠った上で大井も始末しよう。

  無論、再契約は両者の合意が必要なので『再契約が執り行えない』という危険が伴うのでおいそれとは行えない。
  願いを持つ者達の戦争なので夢半ばで倒れることを選ぶものは居ないとは思うが、最悪は想定しておくべきだ。
  マスターの乗り換えは、出来ることなら避けたい。
  大井がこの調子で聖杯戦争を最後の一人まで駆け抜けるというのならば、それが一番楽でいい。

「だから……今だけは、信じているよ。『絆』の強さというやつを」

  心にもない言葉で取り繕う。
  彼女がアーチャーとともに聖杯を掴む相棒なのか。それとも今一時限りの偽りの相棒なのか。
  今はアーチャー自身にも分からない。
  ただ、はっきりとしていることは一つ。
  アーチャー・我望光明。
  彼の赤い瞳が映すものは、いつだって宇宙の果てに輝く夢だけだった。


175 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:58:21 F0y6wfs60

【D-2/高等学校の屋上/1日目 午前】

【アーチャー(我望光明)@仮面ライダーフォーゼ】
[状態]実体化
[装備]サジタリウスのゾディアーツスイッチ
[道具]理事長時代のスーツ姿
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を得る
1.大井との距離を保ちつつ索敵。双葉杏の監視。
2.フェイト・テスタロッサが現れた場合、大井に連絡を入れる。
3.大井の代わりに集合場所に向かうNPCを調達。方法はスキル『催眠術』による一時催眠。
4.放課後、集合場所に現れる『輿水幸子』他参加者の偵察。必要とあればアーチャー直々に手を下す。
5.戦闘力に秀でたマスターが居れば大井を切り捨てることも思案。
[備考]
※双葉杏=マスターであるとしています。諸星きらりと江ノ島盾子は見てない可能性が高いです。
 双葉杏のタクシーの進行方向は知っていますが具体的にどこに向かったかまでは知りません。
※アサシン(クロメ)と近い位置に居ますが存在に気付いていません。(菓子の咀嚼音も距離のこともあり届いていません)
 ただ、アサシンが不用意に近づいたり、臨戦態勢に入ったりすれば気配遮断の効果が切れて気づきます。
※大井に対する意識は可寄りですが、彼女の戦闘能力には不満があります。
 もっと力の強い参加者が居、その参加者が望むのであれば大井を屠っての再契約も視野にいれてあります。


176 : 逢魔が時に逢いましょう  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/11(金) 08:59:24 F0y6wfs60
投下終了です
誤字修正、矛盾指摘他なにかあったらよろしくお願いします

ついでに

シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)

予約します


177 : 名無しさん :2015/09/11(金) 09:36:30 S.fJzeuE0
乙でござい
宇佐美ちゃんと狐塚くんの登場は流石に予想外だった


178 : 名無しさん :2015/09/11(金) 19:51:17 GzjWyz2M0
投下乙です
幸子は必死だなー
杏の方がそれなりにシビアに頭回して立ち回ってるのに比べるとやっぱり気持ちが先走ってる感じがある
偽エノシマこと大井の網にかかっちゃったけどどうなるやら
そしてその大井さんもこれは順調に慢心してますね…あんたなんだかんだ切り替えできてないやないかい
なまじ自分は狩る側だと思ってるからか思わぬところで足をすくわれそうってか理事長の腹の内も案の定だった、絆を認めながらも今は歪な絆を結ぶわけですな
しかしこういう、ラスボスキャラのifの戦いや心情描写が見れるのはなんかいいですね
弦太郎の台詞の回想とかぐっと来ました
杏ジバニャンは、今のところ完全にジバニャンが杏におんぶにだっこって感じだけど、ルーラーに接触すると杏でも手に負えなくなりそうでもありハラハラします


179 : ◆PatdvIjTFg :2015/09/12(土) 11:50:32 bxaofgnY0
予約破棄させていただきます、その間に予約が入らなければ感想と共に水曜日頃に投下させていただきます。


180 : 名無しさん :2015/09/12(土) 23:14:54 mv5MhAVU0
デレステでそれぞれ掘り下げも進んでて、ここ読み返したら色々刺さった


181 : いつか見たグラジオラス  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/18(金) 06:09:35 K1bJrdRs0
シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)

投下します


182 : いつか見たグラジオラス  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/18(金) 06:11:29 K1bJrdRs0



君が今見ているものが
君がもう見てきたものだとするなら
君が見てきたものは今どこに



配点(四月馬鹿達の物語)
―――――――――――


183 : いつか見たグラジオラス  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/18(金) 06:11:56 K1bJrdRs0
×

  星が流れていくのが見えた。
  森の中から、街の中へ。西から西へ。
  中途半端な流れ星だ。昼の空を流れるというのも奇妙極まる。
  そして何より、光の素が魔力だというのが、この舞台の上でNPCではない人物の―――参加者の目を引いた。

(マホウ……いや、もっと陳腐な、『魔法』かな)

  少女・シルクちゃんはその箒星の向かう先を見逃さないようにシルクハットのつばを持ち上げた。
  その軌道を見るに、移動魔法なのだろう。
  シルクちゃんの知っている世界にはそんな『マホウ』は存在しなかった。
  なにせ、彼女にとっての世界とは全て歩いていくことが出来る距離だったのだから。
  黄泉の国だって、冬の街だって、遺跡だって、月だって、世界の壁の向こう側だって、全部歩いていけるのが当然なのだ。
  一般的な世界と照らしあわせて便利な移動魔法など、必要が無いから存在しなかった。(例外的に『どこかにつながっているマンホール』や『入り込めるお菓子の家』はあったが)
  だからシルクちゃんはあえてその現象を彼女が知り、彼女も行使できるものとは全く別の『魔法』と称した。
  そして、その『魔法』を見てシルクちゃんは少しだけ考えて、シルクハットを再び目深にかぶり直した。

『見に行くのか?』

  頭のなかに、偉丈夫という単語に相応しい、年季の入った男の声が響く。
  少女のサーヴァントであるランサーが、彼女の意思を読むまでもなく、少女の仕草だけを見てその後の行動を判断した、ということだろう。

(ちょうどいい狼煙だ。行く宛もないし、ひとまずはあれを追おう)

『で、どっちから行く?』

  その問いかけでシルクちゃんはもう一度少しだけ考える。
  シルクちゃんはあれを単純な移動魔法だと考えたが、ランサーの一言でもう一つの可能性に気づく。
  どっち、というのはつまり箒星の始点か終点かという問いだ。
  つまり、誰かが何かに魔法をかけて、始点から終点に向けて飛ばしたという物質転移魔法の類の可能性もある、ということだ。
  もし移動魔法だったならば終点の方に参加者が居る。
  もし物質転送魔法だったならば始点の方に参加者が居る。
  仮に誰かが誰かを魔法の力で無茶苦茶にふっ飛ばしたならば、始点にも終点にも参加者が居ることになる。


184 : いつか見たグラジオラス  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/18(金) 06:13:38 K1bJrdRs0

  ここからでは始点も終点も曖昧な位置しか分からない。
  もし片方を重点的に探し、仮にそちらがハズレだった場合、魔法を発動した相手に逃げる機会を与えることになる。
  じゃあどう動けばいいかと考え、すぐに答えは出た。
  シルクちゃんは、この初日の段階では特に積極交戦を望んではいない。
  本来ならば戦争が進むに連れて脅威になるであろう『暗殺者』や『魔術師』のクラスを潰しに動くのが定石だろうが、ことシルクちゃんに限ってはそれを急くつもりはない。
  幸いなことに彼女のサーヴァントであるランサーは彼らに対して強い優位性を持っている。
  気配遮断をしていようが、大仰な陣地を構えていようが、その穂先に姿を捉えて名を結んだならば斬って捨てることが出来る。隠れていようが両断し、陣地だろうと割断する。
  彼らが脅威たりえないとするならば、シルクちゃんたちが心配すべきことは混戦に巻き込まれての負傷だろう。
  初日で負傷し、その怪我が後々まで祟り続けるなんていうのは避けなければならない。
  一対一、正面衝突なら受けて立つ。
  その場で倒せるならば倒すが深追いはしない。
  容姿や、技能や、スキル。真名を特定する材料が手に入れば御の字だ。

  だからシルクちゃんは、頭に響く声にこう答えた。

(どっちも一緒に見に行けばいい。丁度、通り道だ)

『探す方法は』

(近くまで行ってランサーが実体化すれば、暗殺者でもないかぎり分かるだろう。
 近くに居るようだったら会いに行って、戦えばいい)

『待ってる相手が暗殺者だったら? さすがの我でも気配遮断で近付かれたら反応が遅れるぞ』

(警戒を怠らなければいいだけの話だ。気配遮断ったって、いつまでだって消えていられるわけじゃない。
 ランサーが実体化して、私が臨戦態勢に入っていれば、一撃目だけなら避けられるだろう。
 それとも、もしかして、東国無双ってのは初撃以降も不意打ちを許すようなものなのかい)

  ランサーの笑い声が頭に響く。
  シルクちゃんの言い回しが馬鹿にしたものではなくある程度信頼した上でのものだとちゃんと伝わったのだろう。
  ランサーは興が乗ったように、一言返し、話を続けた。

『そこまで言われたなら、期待には答えてやんなきゃな。
 それで、もし、どっちにも居なけりゃどうする』

(その時は当初の予定通り街に行くさ。フェイトって子が居そうな場所がどこかは知らないから、また宛もない旅になるだろうけどね)

『Jud.それが一番わかりやすい』

  ランサーはその独特な切り返しで肯定の意を示す。
  嬉しそうな声だ。
  今度は声を上げて笑うようなことはないが、それでも調子が乗り、声が平生よりも少し上ずっている。
  あのランサーに対してはしれっと口の悪い宝具が居れば「いくつになっても年甲斐のない」とでも言われてしまいそうだ。

  シルクちゃんは箒星から頭のうちでやり取りをした男に意識を向ける。
  ただ、まあ、年甲斐がないにしろ。
  魔法に対しての着眼点もそうだし。やり取りで話題に上げる点についてもそうだし。
  落ち着きはないが、こと戦闘・戦場・戦況に関してはその全てを鋭敏に感じ取り深く考えている。
  これであとは、数値上は高位で表されている戦闘力の裏付けが取れれば、文句なしだ。
  その辺は蓋を開けてみるまで分からない。

  そうしてシルクちゃんはそのまま西の方へ、まずは箒星の始点である森林公園へと向かうことにした。


185 : いつか見たグラジオラス  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/18(金) 06:14:32 K1bJrdRs0

×

  道を歩いていると、いろいろな人とすれ違う。
  サラリーマンだったり、主婦だったり。昼間から出歩けるような人だったり、昼間でも出歩けるような人だったり、昼間しか出歩けないような人だったり。
  少なくともすれ違った中にマスターが居ないということを確認しながら進んでいくと、道端に小さな本屋を見つけた。
  森林公園へと向かっていた足が止まり、ふらりとつま先の向きがずれる。

  シルクちゃんの頭の中に、ずっとひっかかり続けているものがあった。
  『旅は続く 世界の謎その全てを解き明かすまで!』と書かれた本。
  あのあかがね色の、布張りの、見覚えがないはずなのに見覚えがあった本。
  シルクちゃんの失っていた記憶を呼び起こし、再び別離の悲しみを与えたあの本だ。
  あれは、物語だった。
  誰かの冒険の断章を、忘却されていくはずの夢を、永遠のものとしてまとめた物だった。
  そして、シルクちゃんは確かに、その物語に覚えがあった。
  自分が昔祖父から聞かされていた『マナみ』という少女の物語ではない。
  だが、確かに覚えがあった。
  シルクちゃんはいつか、どこかでこの物語を―――記憶を取り戻すよりもっと前に、読んだことがあるような気がしたのだ。

  本屋で様々な物語の背表紙を眺め、どれもがあかがね色の本とは違うことを確認して、またふらりと店を出る。
  歩く道すがら、財布に入れていた名刺を取り出し、眺めてみた。

  『余計なもの屋 マツリヤ』

  これがシルクちゃんのこの聖杯戦争におけるロールだった。
  この舞台ではこの肩書が正規の仕事として存在するのか、それともNPC時代から自称していただけのものなのかは分からない。
  ただ、この肩書は重要だ。
  『余計なもの屋』とは、マホウ使いだ。
  そうぞう力をその羽ペンの先に乗せることが出来る人間だ。世界を生み出し、新たなるマホウを生み出せる唯一の存在だ。
  この名刺はそのまま彼女がマホウ使いであるという証明である。

  名刺を眺め、再び例の本について考える。
  不思議な事に、例の本の中にもこの肩書は登場していたのだ。
  ほんのすこし、文章にすれば一文。一つのセリフだけ。
  主人公がふと目覚めた時、そばに居た少女がそう名乗った、そんな描写だけ。
  ただ、余計なもの屋なんてそうそうある名前じゃない、と思う。
  そして、なにより。
  あの三流探偵と、背丈の小さなマホウ使いと、ピー子の三人組。そして、姿も顔も描かれていないはずの『あなた』。
  その四人組と余計なもの屋を名乗る少女たちの物語に、シルクちゃんはなぜか既視感を覚えたのだ。

  五人の物語には続きがあるという。
  それを読めば、その物語についてまた思い出せるのではないかと思って、本屋によった。
  だが、どの本屋にも、あの本の続きは置いてない。

  本について思惑を巡らせながら歩き続け、気づけば、森林公園の前に辿り着いていた。
  いけないいけない、と頭を振る。
  油断は禁物だとランサーに大言を吐いたのはシルクちゃんの方だ。
  あの本については確かに気になるが、戦場でまで優先することではないはずだ。
  ふと『忘却』という、少女が世界で最も憎んでいる単語が思い浮かぶ。
  シルクちゃんは、話への既視感について心当たりを割り出せないことを『忘却』と関連付けているのかもしれない。
  下らない感情論だ。と切り捨てる。
  ルーラーと彼らの姿を重ねたように、行き過ぎた憎しみが虚像に向かって怒りを放っているだけにすぎない。
  確かに『忘却』は必ず打ち倒すべき敵ではあるが、どれもこれもが『忘却』のせいというわけではない。
  こじつけようと思えば、魔法少女同士の殺し合いだろうと、超高校級の学生同士の殺し合いだろうと、『忘却』とこじつけられる。
  言い出せばきりがないことだ。ひとまずは戦闘に集中し、本についてはまた後々。
  どうあれ19時には家に帰って来いと言われたので、家に帰ったあとにでも考えることにしよう。

  一歩踏み込む。
  わっとむせかえりそうになるほどの密度で森林の空気がシルクちゃんを包み込んだ。


186 : いつか見たグラジオラス  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/18(金) 06:15:22 K1bJrdRs0

【D-6/森林公園入り口/一日目 早朝】

【シルクちゃん@四月馬鹿達の宴】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]魔法の羽ペン
[道具]マツリヤの名刺
[所持金]一人暮らしに不自由しない程度にはある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、復讐する。
1.魔力の流れ星を追い、森林公園を通り抜けてD-5方向へ。
2.その場所に誰も居なければ街の方へ。
3.フェイト・テスタロッサに対しては――
4.ルーラーへの不信感。
5.時間があれば『本』について調べる。
[備考]
※フェイト・テスタロッサを助けるつもりはありません。ですが、彼女をルーラーに突き出すつもりもありません。
※令呪は×印の絆創膏のような形。額に浮き上がっているのをシルクハットで隠しています。
※出展時期は不明ですが、少なくも友達については覚えていません。
  例の本がどの程度本編を書いているのかは後の書き手さんにお任せします。

【ランサー(本多・忠勝)@境界線上のホライゾン】
[状態]平常
[装備]『蜻蛉切』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:主の命に従い、勝つ。
1.マスターと一緒に街へ出て一暴れする。
[備考]
※宝具『最早、分事無(もはや、わかたれることはなく)』である鹿角は、D-7の奉野宅に待機しています。


187 : いつか見たグラジオラス  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/18(金) 06:16:03 K1bJrdRs0
短いですが投下終了です。
誤字修正、矛盾指摘などありましたらよろしくお願いします。


188 : いつか見たグラジオラス  ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/18(金) 06:17:02 K1bJrdRs0
時間間違えてました

【D-6/森林公園入り口/一日目 早朝】

【D-6/森林公園入り口/一日目 午前】

ただしくはこうです


189 : 名無しさん :2015/09/18(金) 21:56:45 fYVIFBCg0
投下乙です
バシルーラに反応する参加者がさっそく。こういう、推測と行動パートも非常に面白い。
そればかりでなく、シルクちゃんの内面の掘り下げも成されてて未把握ながら惹かれるものがありました。
あかがね色の本というと、はてしない物語を思い出します。
シルクちゃんと忠勝は向かう先で魔王に出会うか、勇者と邂逅するか、どちらになるやら


190 : 名無しさん :2015/09/18(金) 22:11:04 WcYoC7AA0
四月馬鹿での表記は一応「魔法」だけど、さいはてと似たようなもんだから特異性を表すにはちょうどいいか


191 : 名無しさん :2015/09/21(月) 17:29:28 FWQt3b6I0



192 : 名無しさん :2015/09/21(月) 17:36:37 FWQt3b6I0
失礼、投下乙です
大井さん・理事長、杏・ジバニャン、そしてシルクちゃんに忠勝とそれぞれの主従の関係性が掘り下げられた感じですね!
「逢魔が時に逢いましょう」はジバニャンにかかってるのかな
有楽町で溶けましょう をちょっと思い出します
本編の方は大井さんのこう絶妙な迂闊さが面白いなと
理事長もさすがのラスボス、一筋縄でいかない思考してますね
でもやっぱフォーゼでも思ったけど悪辣な感じは薄いんだよなこの人
彼の野望をぶち抜いて超えていったフォーゼの回想の演出は熱いものがありました

「いつか見たグラジオラス」もタイトルがすごくいいですね、あいにく元ネタなどはわかりませんが…
こうやって言語化されると忠勝の宝具強いなぁ、かなり汎用性もありそうだし
シルクちゃんの心情描写がメインでしたが、一冊の本を中心に綴られる文は独立した短編のような趣がありました


193 : 名無しさん :2015/09/26(土) 13:52:12 mTNeOhhg0
理事長に征服王張りのホロスコープス召喚宝具とかあったら詰んでた気がする
リブラ校長とかレオとかチートが多いし、ダスタードを捨て駒にして他サーヴァントの斥候もできるし


194 : 名無しさん :2015/09/26(土) 23:10:28 FAWkYa3UO
理事長に絆はないからな


195 : 名無しさん :2015/10/07(水) 19:47:11 RWjM7AoQ0
理事長裏切られてばっかだし、自分も配下を駒としか見てなかったし……


196 : 名無しさん :2015/10/11(日) 01:59:58 r9kULiEs0
シルクちゃんは知っているか(或いは覚えているか)はわからんけど「勇者」とはちょっと因縁があるよね


197 : 名無しさん :2015/10/13(火) 16:29:26 dJguCbSw0
本編終盤やエンディングのことすっかり忘れてるって知ったら例え忘却王関係なくてもシルクちゃん激おこしそう


198 : ◆PatdvIjTFg :2015/10/30(金) 19:43:10 bSzfDCpg0
色々とおまたせしております。

キャスター(木原マサキ)
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
木之本桜&セイバー(沖田総司)
蜂屋あい&キャスター(アリス)
大道寺知世&アサシン(セリム・ブラッドレイ)
フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)

予約させていただきます


199 : 名無しさん :2015/10/30(金) 22:37:59 RbHvhDzA0
おお、予約が…


200 : 名無しさん :2015/10/31(土) 00:40:33 4yRqEl5k0
予約の時点でサボったなのはの代わりにマサキが小学校に行ってあげてる優しさが見えるな


201 : 名無しさん :2015/10/31(土) 20:31:58 l/mPVsCo0
おいおいマジか


202 : 名無しさん :2015/11/03(火) 23:13:09 VbGuvgrU0
すげえ予約だ


203 : ◆PatdvIjTFg :2015/11/06(金) 14:30:54 .6OZXAIo0
双葉杏&ランサー(ジバニャン)を追加で予約させていただきます


204 : ◆PatdvIjTFg :2015/11/06(金) 14:31:29 .6OZXAIo0
予約入ってましたね、すいません


205 : ◆PatdvIjTFg :2015/11/11(水) 21:39:04 eNrBU.fk0
すいません、期限から大分遅れていますが、
輿水幸子
大井&アーチャー(我望光明)を追加で予約させていただきます


206 : ◆PatdvIjTFg :2015/11/15(日) 14:21:53 RVZVBfVI0
ビリー・ザ・キッド


207 : ◆PatdvIjTFg :2015/11/15(日) 14:24:21 RVZVBfVI0
(*_ _)人


208 : 名無しさん :2015/11/16(月) 12:50:57 vuru7V7g0
安価ww


209 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:46:15 dPKkBso60
大変におまたせいたしました。
キャスター(木原マサキ)
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
木之本桜&セイバー(沖田総司)
蜂屋あい&キャスター(アリス)
大道寺知世&アサシン(セリム・ブラッドレイ)
フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)
輿水幸子

そして大井&アーチャー(我望光明)を予約から外し、
雪華綺晶を投下させていただきます。


210 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:47:02 dPKkBso60



こういう歪さは嫌いじゃない、と江ノ島盾子は心の中で独りごちる。
無機質な外見のマンションの一室――某号室、諸星きらりの家に入ってみれば、まるで女の子のおもちゃ箱のような、そんな素敵な光景が広がっている。
色々な種類のぬいぐるみ、ドールハウスの中にあるような家具、柔らかくて可愛くて素敵なもの、たくさん。
甘ったるさすら感じるような素敵な匂いはどこから来ているのだろう。
マンションという外枠の無機質さすら、中にある大切な宝物を守る宝箱のようにすら感じられる。
なんて素敵な部屋なんだろうと思う、お姫様の仮宿――そう呼んでも過言ではない。

(楽しい……楽しくない?ランサー)

ソファー代わりのきらりのベッドに腰掛けて、江ノ島盾子はランサーに念話で語りかける。
壁を背にして立ったままのランサーは言葉を返さない。
江ノ島盾子にとって、ランサーの何もかもが娯楽だ。
行動の針でランサーを突いては、迂闊にも漏れだしたその中身を啜り上げて、その味の感想を直接彼女に伝えるような、人格という存在に対する吸血鬼だ。
無反応すら、江ノ島盾子にとっては心地よい。

かつて、ランサーが戦った最凶の魔法少女――アレですら、まだ困り顔を浮かべるだけ可愛げがある。
江ノ島盾子はサディストでマゾヒストで、ある意味で超越者だ。
何かもを受け入れて、そして愉しもうとするから――非常に性質が悪い。

(守ってあげたくならない?可愛い物を部屋の中にいっぱい詰め込んで、でも自分の中身は空っぽ……
ううん、げろげろげろげろ、彼女が大切にしてたもの、いっぱい吐かされちゃったね。
そんな気もないのに、こんなカワイイ部屋に暮らしているんだから……私、同情しちゃうよ)

「こんなものしかないけど……」
きらりがおずおずと差し出した紅茶を、江ノ島盾子は受け取った。
ベッド脇に寄せられたテーブルの上には、お茶菓子のバタークッキーとチョコクッキーが小皿に盛られている。
紅茶を口元に近づけて軽く匂いを嗅ぐ、林檎の爽やかな匂いだ。

「こんなものだなんて……そんなことないよ!」
そう言って、江ノ島盾子は軽く紅茶を口に含んで、飲み干す。

「うん、とっても美味しい」
そう言って、江ノ島盾子はきらりに微笑みかける。
きらりも江ノ島盾子の微笑みに安堵したように笑い返す。

(ランサー、アタシ……心を読む魔法なんて使えない、つ・か・え・な・い、けっ……ど!
きらりちゃんの心の声が、バッチリ聞こえるよ。教えてあげようか、教えてあげる、あっ……教えてあげるぽん!)

(『本当に喜んでくれてるのかなぁ、気を使わせてるだけじゃないのかなぁ……』)

きらりから流れてくる心の声と寸分違わず、江ノ島盾子の発した言葉は一致していた。
傷つけられた心が、自分への自信を失わせ、他者とのかかわりに関する不安感を著しく増大させている。


211 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:47:31 dPKkBso60
「ラ、ランサーさんもどうぞ!」
「どうも」
きらりの差し出した紅茶をランサーも受け取る。
紅茶などテーブルの上に置けばいいものを、彼女は紅茶を直接渡す。
ただ、そうした方がいいのではないかという漠然とした不安感がある。
いじめによって破壊された対等の友人関係という概念は、今きらりの中で再構築の過程にある。
テーブルの上に置いておいて、相手に取らせるなど無礼ではないかという疑念が彼女の中にある。
自分がもてなさなければという圧迫感がある。

無意識の奥底にあって、きらり本人ですらしっかりと意識しているわけではない。
ただ、いじめによるトラウマが静かに根を張っていた。

「……ありがとう、きらりさん」
目の前にある状況を前にして、素直に笑えるわけがない。
だが、ランサーは精一杯きらりに微笑んでみせた。
変に自分がきらりを怯えさせて――そして、きらりが江ノ島盾子を慰める。
そして、きらりは知らず知らず、深く深く、江ノ島盾子に絡み取られる。

後手に回ってしまった時点で、自分が出来ることは少ない。
だからといって、この最悪の循環に協力してやるつもりはない。

一息に紅茶を飲み干す。
サーヴァントにも魔法少女にも、食事は必要ない。
けれど、きらりの入れた紅茶は温かく心地よかった。

(いい笑顔です、ランサーさん)

きらりも江ノ島盾子もランサーも、皆笑う。
笑うことしか出来ない。

「ところできらりちゃん、携帯電話持ってないかな?」
「にゅ?持ってるけど……」
「ちょっとだけ貸してくれないかな?今ちょうど壊れてて……でも、どうしても今、連絡したい人がいるんだ」
「うん!もちろんおっけー!」
「ありがとう!あっ……私のが直ったら、メールアドレスとか交換しようね!」

きらりの携帯電話を受け取って、江ノ島盾子は当然のように掲示板へのアクセスを開始する。

(きらりちゃん……いい子だし、ビビってるよね。
疑いなくケータイを貸したんじゃなくて、疑えずにケータイを貸したんだよ。
言う通りにしなかったら嫌われるかも、って考えちゃうんだよ。多分ね、多分。
ランサーさぁ、きらりちゃんをいじめたら……特にケータイ壊すとか、やっちゃダメだよぉ……?うぷぷ)

今となっては時代遅れの代物であるガラパゴスケータイのボタンを指で軽やかに押しながら、江ノ島盾子はランサーへの念話を欠かさない。

(いや、アタシはケータイ壊してもいいと思うよぉ?でもきらりちゃんはどう思うかなぁ?きらりちゃんのサーヴァントもどう思うかなぁ?
いやアタシはいいけどねぇ、ランサーが多分勝つと思うからぁ、アタシは別にいいけどねぇ)

言うまでもない牽制だ、江ノ島盾子の物ではなく、諸星きらりの携帯電話を破壊することの危険性などランサーはわかりきっている。
どう考えても長期的に考えれば、諸星きらりの携帯電話も破壊したほうが良い。
だが、きらりはともかく、きらりのサーヴァントから見れば――二度と解けない狂気の中にあるバーサーカーから見れば、ランサーは明確に彼女達の敵となる。
江ノ島盾子から携帯電話を取り上げても結果は同じだ。
きらりに返せば、きらりは再び江ノ島盾子に自分の携帯電話を渡す。
奪ったまま返さなければ、きらりは異変を悟り――バーサーカーが動き出す、かもしれない。
いっそ、江ノ島盾子の腕の方を刺すか。
いや、その場合でもバーサーカーはどう動くかわからない。
きらりはバーサーカーを制御出来てはいない、彼女が怯えるのに応じて――その原因を絶とうとするかもしれない。
つまりは、きらりと江ノ島盾子が会ってしまった時点で――そして、諸星きらりのサーヴァントがバーサーカーである時点で詰んでしまっていた。

江ノ島盾子が掲示板を開く。
彼女が輿水幸子を散々に煽った時よりも、スレは増えている。
その中で江ノ島盾子は『きらりさん、見てますか』というスレッドに着目する。


212 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:47:43 dPKkBso60
きらりさん、見てますか

名前:名無しメイデン[SUPER_Kitakami_sama@] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:OixKtkm0
ここで名前を明かすのは危険が伴うと思うので、私の名前は伏せさせてもらいます。
私は、きらりさんのことをよく知っています。
私はきらりさんが、心優しい貴女が、他のところで言われているようなことをする人だとは思えません。
何かの間違いだと信じています。
もしかして、きらりさんが本当に関わっているとしても、なにかの理由があったのだと思います。

もし、可能ならば、連絡をいただけませんか?
逢って、貴女がどんな状況なのか、聖杯戦争をどう思っているのかが聞きたいです。
ここには書けないこともあるだろうから、私の名前の隣に書かれているメールアドレスにメールをください。

私の情報がきらりさんにばれてしまいますが、私は、貴女だけは信頼しています。
だから平気です。
なのでお願いです。
私に、話を聞かせてください。


最後に。
私のメールアドレスにメールが来なければ。
貴女が聖杯戦争に巻き込まれていなければ。
それほど嬉しいことはありません。
心優しい貴女と戦いたくはありませんし、貴女にはこの戦いなど知らず笑っていて欲しいから。
この書き込みへの返信がないことを、心から祈っています。
大切な友人へ。
大切な友人より。
愛をこめて。

(いい話だね、ランサー……アタシ、きらりちゃんに友達がいて……本当に嬉しいよ、うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷ)
江ノ島盾子の背後に回ったランサーがスレッドの文面を覗き込む。
諸星きらりに友人がいるならば、諸星きらりを支えてくれる友人がいるのならば、優しくしてくれたクラスメイトが殺されても――優しく励ましてくれる友人がいるのならば、
ランサーの肩の荷は下りる。諸星きらりを壊すこと無く、江ノ島盾子を殺害できる。

(それが本当ならね)
それが本当ならば。

(具体性が一切無い、きらりちゃんに会ったこと無くても、この程度でいいなら、この程度ならアタシのソースだけで……いや、見なくても十分書ける。
これならまだ、『やめてください!怒りますよ!』って即レスした誰かの方がよっぽど信用できるね。まぁ、今のきらりちゃんなら間違いなく信じちゃうけどね)

『怖いの、江ノ島盾子?』
(なにが?)
諸星きらりの家に入り込んで初めて、ランサーが江ノ島盾子に念話を返した。

『本当に、諸星きらりには大切な友達がいるのかもしれない……その大切な友達は、自分の計画を破壊するかもしれない。
だから、些細なことを大げさに喚き立てて、そういう可能性を諦めさせようとしている』
(急に口数が多くなったね、姫河ちゃん……そういうところ、アタシ好きだよ。
特に、このスレッドのことを一ミリも信じてないのに、アタシに圧力を掛けるためだけに、きらりちゃんに大切な友達がいるってことを事実にしようとしているところ、それ大好き)
『真実を言えば、私にもどちらかはわからない。でも…………今はっきりと、私にはあなたの怯える心の声が聞こえている』
(……なんて言ってる?)
『どうか、このスレッドが嘘っぱちでありますように』
(……うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷぷぷ)

瞬間、江ノ島盾子がケータイのボタンをピアノを弾くように動かし始める。

きらりさん、見てますか

2 名前:諸星きらりの友人[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:mrbsKRL0

今からきらりちゃんと一緒に小学校に行きます。
信じてもらえないでしょうが、本当です。
校門で待ってます


軽やかに『きらりさん、見てますか』スレッドにレスを返すと、江ノ島盾子はスレッドの一覧を更新する。
特に新着スレッドは無い、レスも増えてはいない。
それを確認すると、ブラウザの履歴を消して江ノ島盾子はきらりに携帯電話を返した。

(うん、怖いよ。怖いから、はっきりさせようよ)

「きらりちゃん、小学校行かない?」
(もちろん、見え見えの罠っぽい誘いだから誰も来ないかもしれない……
でも、見え見えの罠にわざわざ突っ込んでくるような王子様がいたら……きらりちゃんも小雪ちゃんも……ハピハピできるに☆)


213 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:48:21 dPKkBso60


黒髪黒目顔の多いこの学校において、彼女の容姿が目を引くことはそれ程不自然なことではない。
まじまじと見られることも、先ほどの教室でたっぷりと――きっと、一生分味わった。
だが、今が聖杯戦争の最中で、己を見るその瞳の中に驚愕の念が篭っていたならば、それは、疑う材料として十分に値する。

大道寺知世はフェイト・テスタロッサを見た。
フェイト・テスタロッサは大道寺知世を見た。

「何、見てんだよ」
大道寺知世を詰問していた小学生達の注意がフェイト・テスタロッサに向く。

最悪だとも好機だとも考えるよりも先に――アサシンが霊体化を解いて、その姿を現す。
マスターの不興を買うことを覚悟で、この場の敵達を全員皆殺しにする。

自分【プライド】には、それが出来る。

「待って」

戦いを止めたものは、プライドの虐殺でも、フェイト・テスタロッサが咄嗟に構えたバルディッシュでも、未だ姿を見せぬフェイト・テスタロッサのサーヴァントでもない。
アリスの手により屍鬼として再誕した少年だったものが、その姿を変える。
少女がいる。幻想の中で語られるのが似合うような、少女の完全性がそこにいる。

青いワンピース。腹部を覆うほどに大きい、エプロンのような白いリボン。
頭にリボンを冠したさらさらと流れる金髪、触れれば破れてしまいそうな薄くて白い肌。
そして、金色の目。人間を惑い、滅びへと導く者の目。妖魔の目。

第三勢力であると、アサシンは感じた。
彼女がフェイト・テスタロッサのサーヴァントであるのならば、そもそもこの場所にフェイト・テスタロッサが姿を現す必要はない。無駄にリスクを増やすだけだ。
そして、フェイトも彼女を警戒している。

故に、アサシンもフェイトも動けない。

戦場に三勢力があって、完全なる一対一対一は難しい、そもそも――そうしてやる必要はない。
一対一を行えば、残りの勢力は勝利した方を潰すか、あるいはそもそも戦いに巻き込まれないように逃走する。
全員を巻き込めば、大抵は二対一だ。

この場にいる全員を敵に回して、アサシンは勝利できるか。
マスターの命を度外視すれば可能、とアサシンは心の中で結論付ける。
そして、アサシン【セリム・ブラッドレイ】がその選択肢を取ることはありえない。

「…………」
庇うようにしてアサシンは知世の前に移動する。
ちらりとアサシンは知世の方に振り返る。不安気な、しかし意思のある瞳だ。
彼女がこれから何をしようとするか、十分に予想出来る。

「フェイトさん、新しく現れた方、私、大道寺知世に戦うつもりはありません」
交渉だ。
少なくともこの状況下においては、戦闘を行わないというのは悪手ではない、もっとも最善手でもないが。
アサシンは、特にマスターを隠匿しなければならない。
本来の力を発揮出来るなら、あるいはマスターが並以上の魔術師ならば、プライドは他のサーヴァントに遅れを取ることはない。
だが、自分の力がアサシンという枠組みにある中で、そしてマスターが魔術師ですらない一般人である状況下で、正面から戦えば、敗北する可能性は高い。
故に、正体を隠さなければならない。常に自分が攻める側でなければならない。ガラスの剣は鋭くても、脆い。


214 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:48:31 dPKkBso60

「……」
アサシンから視線を逸らさぬままに、フェイトはバルディッシュを下ろす。
何も言わないが、交渉の卓に着くという意思表示だろう。
(ランサー、わたしたちが戦えば、勝てる?)
『ごめんなさい、諦めた方がいいわ』

答えはわかりきっていたが、念のためランサーに確認しておく。
ランサーの宝具は、この聖杯戦争において最強と言っても過言ではないだろう。
だが、強すぎる宝具に対してランサー自身は弱くはない、だが強くない。
二人のサーヴァントを相手に決して負けはしないだろう、だが、勝てない。
乱戦になってしまえば、ATフィールドという最硬の盾の中にフェイト・テスタロッサを隠すことは出来ない以上、
その内に、フェイトという剥き出しの心臓が狙われて、終わる。

先手を取って、大道寺知世を撃てていれば――と思わずにはいられない。
けれど、アサシンの顕現を許すほどに躊躇してしまった。

そうだ、躊躇した。
ほんの少しだけど、普通の女の子のように振る舞えた時間を壊すことに。
小学生という偽りの身分を放棄することに躊躇してしまった。

――ともだちに、なりたいんだ……

フェイトの脳裏になのはの言葉が過ぎる。
欲しいのはともだちじゃない、と何度も心の中で繰り返す。

「なっなっなっなっなっなっ、なにが起こってんだよ!!!」
四人の――いや、今となっては残り3人の小学生の一人、権田原ジェノサイド太郎が叫ぶ。
目の前の状況が何一つとして理解できないが、少なくとも大変なことになっているのは理解できる。
そして、この状況は死神様のような――教師では解決出来ないような問題であることも理解できる。
それだけだ。それ以外は何一つとして権田原ジェノサイド太郎も他の小学生も理解できない。

そんな彼らの様子を見て現れた少女が微笑みかける。
思わず赤面する。顔が――体全体が熱い。
頭がぼんやりとして上手く働かない。
視界が霞む、少女のことだけははっきりと見えている。少女以外見えない。

――マリンカリン。

魅了の呪文が、小学生達の心に刻み込まれた。
少女は今見たことを何もかも忘れて教室に帰るように命じた、小学生達は素直に従った。
愛する者に従う喜びを、小学生の時点で理解してしまった彼らのことは、もうどうでもよい。

「……これで、たっぷりランデヴーできるね」
少女が小学生を帰らせるのを見て、他の者も立ち位置のわからない彼女が交渉の卓に着いたことを理解した。

「はじめまして、ワタシはキャスター」
あるいは、彼女はこう呼ばれるべきであろう。

【怪異 死神様 が一体出た!】


215 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:49:12 dPKkBso60



  Now we dance looby, looby, looby.(さあ踊りましょう ルビルビルン)
  Now we dance looby, looby, light.(さあ踊りましょう ルビルビルン)
  Now we dance looby, looby, looby,(さあ踊りましょう ルビルビルン)
  Now we dance looby, looby, as yesternight.(さあ踊りましょう 昨日の晩と同じように)

くるくると踊っている。
少女が二人踊っている。
手を繋いでくるくると踊っている。

世界はひたすらに渺茫で、そして彼女達以外人間は存在しない。
そこは遊園地だった、表の世界に存在するものではない。
かの最果ての町と同じだ。

死神様はこの街の小学生に思い出させた、近代科学の光でも照らしきれぬ闇があることを。
一笑に付すような儀式で、友人は死んでしまうことを。
幼い激情は容易く人を殺す狂気に陥ることを。

死神様は実在する。
殺人に至る悪意も実在する。
ならば何故、他の怪談が実在しないと言える。
死神様以外の誰かがいるかもしれない、何かがあるかもしれない。

それは夜に歌う人体模型かもしれない。
それは車に轢かれて人間を憎んでいる化け猫かもしれない。
それは火を吹き踊るように跳びはねる怪人かもしれない。
それはチェーンソーを持った決して捕まることのない殺人鬼かもしれない。

もしかしたら、三階のトイレの三番目の個室を三回ノックしたら花子さんから返事が返ってくるかもしれない。
もしかしたら、学校のある階段を夜中に昇ると異次元に繋がっているのかもしれない。
もしかしたら、誰もいない音楽室からピアノが聞こえるかもしれない。
もしかしたら、美術室のモナリザは人間を食らうかもしれない。

4時44分に大鏡の前に立つと鏡の中に引き込まれるかもしれない。
最上階から、さらに上に繋がる階段があるかもしれない。
誰もいない空き教室を十三回ノックしてから開けると異世界に繋がるかもしれない。

だって死神様が実在するのだから。

だから、繋がった。
学校と『不思議の国のアリス』は繋がった。

本来ならば別の場所にあるはずの『不思議の国のアリス』の異世界への入口は、
死神様という噂と蘇った学校の怪談によって、学校へと移った。
『不思議の国のアリス』は学校と重なり合う。

長休みの時間、キャスターは未だ完成しない遊園地で踊っていた。

見えている。聞こえている。
キャスターは、新手のマスターとサーヴァント、そしてフェイト・テスタロッサを屍鬼だったアリスを通して認識している。
屍鬼とは――動く死人の形で再構成されたアリスだ。
魔力で以て構成されているアリスの感覚器官だ。

故に、その姿形は元の死体よりもむしろアリスが相応しいといえる。

本体よりも遥かに弱い、衝撃魔法の一撃で撃破されるような、しかし本物のアリスが――あるいは、アリスの分霊と呼ばれるべき存在が、
今、フェイト・テスタロッサ、大道寺知世、アサシンと対峙している。

「オトモダチ増えるといいな」
「オトモダチ増えるといいな」

「頑張ってあいちゃん」
「頑張ってあいちゃん」

二人のアリスはくるくると踊っている。


216 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:49:26 dPKkBso60


『さくら、サーヴァントが出現しました』
急激に燃え上がり鎮火した一瞬の殺気、それをセイバーは感じ取った。
どうやら戦いには至らなかったらしい、だが未だサーヴァントは顕現したままだろう。
既に校内に侵入している以上、先程の輩よりも危険だ。
もしも戦いが起これば、今度は確実に学徒に被害が生じる。
(場所は!?)
『上……この様子だと屋上です』

教室から飛び出して、木之本桜は一気に駆け出す。
この状況下で廊下を走ってはいけないというルールは守れなかった。
このまま自分が行くまで何も起こらないことを願わことしか出来ない。
誰かが傷つくかもしれない、自分にとって大切な誰かか、誰かにとって大切な誰かが。

屋上へと続く階段の前。
不意に温もりを感じた。
実体化していたセイバーが桜に手を重ねている。
桜はセイバーの手を握る。

『さくら、貴方はここまでです』
「えっ」
セイバーの言葉に、念話で返すことは出来なかった。

『はっきりと言います、私は貴方を守りながら戦えない』
「……っ」
どうしようもない事実である。
先程の戦いにおいて、桜がセイバーの弱点となっていたのは明らかだった。
最終的に彼女が敗れた原因となったのは、彼女自身の病である。
しかし、桜がいなければ――あるいは、病よりも疾く薔薇のアーチャーを撃てたかもしれない。

『だから、さくら……貴方は、あいを探しなさい』
(あいちゃん……?)

今、屋上にいるのはそのものずばり蜂屋あいとそのサーヴァントであるかもしれない。
というよりその可能性のほうが高いだろう。
だが、もしもそうでないのならば――桜は別行動で援軍を連れてくることが出来る。
あい自身が戦いに巻き込まることを望まないにしても、少なくとも桜を邪険に扱うことはない。

『私は貴方を守れない、しかし貴方がしなければならないこともある。
あいは今何が起こっているのかわからないのかもしれない、だから貴方が伝えなければならない……お願い出来ますね』
(……うん、任せて!)

『そして、もう一つ……私が斃れても貴方は貴方自身の力で、貴方の友達を守らなければならない、わかりますね』
(うん……)
結局これはただの方便かもしれない。
ただ、この戦場において――木之本桜はただの少女だった。
だから、十全の信頼を受けたような顔をして、自分が出来ることのために駆け出した。

振り返らず、セイバーは進む。
桜の思いと同じように、彼女もまた桜を守りたいと思っている。
だから、彼女一人でも戦う。

階段を昇る。





彼女は光を見た。


217 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:49:46 dPKkBso60


『きらりさん見てますか』スレッドの最新書き込み。
きらりと共に小学校へ向かうというレスを見て、双葉杏は大いに溜息をついた。
こんなもの誰が信じるというのだ。
正気の精神をしているのならば、こんなあからさまに怪しい書き込みを信じるはずがない。
まだオオアリクイに夫を殺された未亡人の存在のほうが信じることが出来る。

そして双葉杏は自分でも理解している。
今の自分は正気ではない。

絶対に絶対に絶対に嘘であると自分の理性が判断している。
それでも、と。
それでも、もしかしたら、と思わずにはいられない。
絶対に有り得ないことだとわかっていても、それでも――きらりのことなのだ。
刹那に近い可能性であっても、それでもきらりの事であるのならば、切り捨てることが出来ない。

だって、きらりが――あの優しい女の子が今、傷ついているのかもしれないのだから。

なんて面倒くさい状況に自分はいるのだろう。
このままお家に帰って、だらしょうがないのだだらしていたい。
ああ、そうしたい。
アイドルも辞めたい。
聖杯戦争も辞めたい。

ああ――でも、しょうがない。
自分は本当に、こういう状況で、
きらりのことだけは面倒くさがれない。

「やっぱ、小学校に――」
そう言おうとして、窓の外にあるものにきらりは気づく。
反対車線を挟んで歩道を歩く3人の少女、その中でどうしようもなく目立つ、身長の高い少女。よく知っている少女。アイドル。

「ここで降ろして!!」
叩きつけるように料金を放って、杏はタクシーから降りる。

「きらり!!」
向かい側を歩く諸星きらりに、杏は思いっきり叫ぶ。


「杏ちゃん!!」
この時間帯の交通量は少ない、いとも容易く彼女は道路を渡りきって、きらりは杏を抱きしめた。

「きらり……元気そうで良かった、本当に良かった……」
「杏ちゃん……良かった……良かったよぉ」

きらりは泣いた。
喜びに泣いた。
少しずつ取り戻されていく優しい世界の欠片に泣いた。
「きらり……そろそろ……離して……」

(ニェーーーーット!!きぃらり! 何故抱き合ってますか!? ここは路上です! ラブホの一室じゃないです! バカタレ!?)
その様子を見て、江ノ島盾子は姫河小雪に目の前の様子を揶揄するような念話を送る。
『……江ノ島盾子、あなたはもう用済みよ』
(用済み……?違うぽん、江ノ島盾子はここからが本番だぽん。だって……アタシ、これを待ってたんだから)
きらりと杏に心の底から優しげな微笑みを投げかけてやると、江ノ島盾子は再び言葉を発した。
(好きなんだよね、アタシ。友情とか愛情とか、そういうのをぶち壊しにしてやるの。
ねぇ、今のきらりちゃんいい表情してるよね。希望に溢れたいい……笑顔です。だから、絶望はより深くなる)

嗤っている。
今、姫河小雪と対峙する江ノ島盾子はどうしようもないほどに嘲笑っていた。

(超得意だよアタシ。友情破壊とか、そういうのね。
もちろん、あの小さい子を殺してアタシに縋り付くしか無い……ってところまで追い詰めてもいいけど。まぁ、そういうわけだから、小雪ちゃん。
こっからが本番だから、がんばれ?がんばれ?)

 ず り し ま じ ゅ ん こ


218 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:50:08 dPKkBso60


「やれやれ本当に何を考えているんでしょうね!こんな書き込みに騙されるわけないじゃないですか!」
輿水幸子もまた、その書き込みを見ていた。
一笑に付すべき内容である、信じられるはずがない。

きらりさん、見てますか
3 名前:名無しメイデン[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:ksmzsciO
証拠がない書き込みは信用できませんよ、いたずらはやめてください


正論を書き込んだ後で、幸子は猛烈な不安感に駆られた。
しかし、もしかしたら真実かもしれない。
杏は、これがきらりのことだから無視出来なかった。
だが、幸子は己の善性が故に、立ち返って不安感に襲われる。
もしかしたら本当にきらりさんの友達かもしれない、きらりさんと一緒に小学校に行くのかもしれない、
今、困っているきらりさんを一緒に助けたいのかもしれない。

名前を明かせないのは当然だ、今この場所で聖杯戦争の真っ最中だからだ。
メールアドレスだって、そうそう簡単に明かせるものじゃない。
いや、ただ打ち込み忘れただけなのかもしれない。

色々と否定的な感情を打ち消すような案を頭のなかに思い浮かべて、自分に言い訳を重ねる。
結局のところ、幸子は善人で――そして、誰かを信じたかった。

どう考えても、信じられないような書き込みも、本当はハッピーエンドにつながっていると信じたかった。
自分へのいじめやきらりへの攻撃で奪われたものを、本来なら世界に満ち溢れているべき優しさで取り戻したかった。

「……」
再度、携帯端末を取り出して、幸子は再びレスを書き込もうとして、指が止まる。
結局、自分が信じたいだけで、書き込み自体は間違っていない。
【でも、やっぱり信じます】と書き込めない。

ドッキリという笑って終えることが出来る嘘に巻き込まれることと、悪意ある嘘に巻き込まれることは違う。
騙されるのは辛い。
馬鹿を見ることが嫌なのではない、自分の心を踏み躙られるのがどうしようもなく辛い。

どうしようもないこんな書き込みを、どうしようもなく幸子は信じたい。
でも、信じられるわけがないと幸子は自分ではっきりとわかっている。

だから、幸子はどうしようもなくなって駆け出した。
結局、行けば分かる。
そう思って、幸子は小学校へと向かった。

輿水幸子はアイドルで、どうしようもなく普通の少女で、
だから、今まさに殺し合いに巻き込まれていることが、別の国の戦争のように、遠くに感じられている。


219 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:50:18 dPKkBso60


  The nightingale sings when we’re at rest;(ナイチンゲールが鳴きだせば)

  The nightingale sings when we’re at rest;(ナイチンゲールが鳴きだせば)

  The little bird climbs the tree for his nest,(小鳥たちが木の上の巣に上る)

  With a hop, step, and a jump.(ホップ ステップ ジャンプして)


「私の合図でさぁ、飛んで」

「ワタシの合図でさぁ、飛んで」


220 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:51:25 dPKkBso60


大道寺知世とアサシン、フェイト・テスタロッサ、アリスは小学校の屋上へと場所を移した。
人目を避けられるという単純な理由もあるが、出入り口が一箇所しかないために、単純に逃亡がし辛いのだ。
人目を避けるためという理由を付けて屋上に上がることを提案したアサシンは、最悪の場合には二人のサーヴァントを殺すつもりであった。

そして屋上に辿り着いた途端、フェイト・テスタロッサもまた、気づいてしまった。
この状況下にあれば、確実に他のサーヴァントを殺せる方法を。
そうなれば、もう二度と小学校にいることは出来ない。
だが、あり得るはずのない友情と平穏、良心の痛みとちっぽけな希望を対価に早期の内に二騎を潰せるのならば、
たったそれだけで、母の願いを叶える事ができるのならば、何を望むものか。

アリスは考えない。
キャスターの手駒――いや、捨て駒としての役割を果たすだけだ。
未来のヴィジョンは明確に見えている。
結局、どうなろうとも――おともだちは増える。

全員が卓の下に刃を隠していた。
つまるところ、言葉を刃として振るう方法は誰も知らなかった。

大道寺知世とアサシンは出口付近に、フェイト・テスタロッサは落下防止用のフェンス付近に、そしてアリスは屋上の真ん中に。
三組は三角形を作るような位置取りでそれぞれ立っていた。
知世が出口付近に――つまり、すぐに逃げ出せる位置にいることに、不思議と二人からの反発は無かった。
その反応からアサシンは用心を深める。

「まず、初めに言っておきます」
言葉を発しようとしていた知世を遮るようにして、アサシンが先手を取る。

「フェイト・テスタロッサ、君のサーヴァントをこの場所に呼び出して下さい。
姿が見えなければ、不意打ちに脅えながら、会話をするつもりはありませんからね」
「……そんなことするつもりはない」
「私達だって別にあるとは思っていませんよ、ただ……これは君のための提案でもあります。
全員がサーヴァントという剣を持ってこの場所にいます、そんな中ただ一人丸腰でいろというのはあまりにも残酷でしょう。少なくとも、見かけだけでも平等は守るべきでしょう」

「ふうん、じゃあワタシはマスターを呼んだ方がいいんじゃないかな?」
アサシンとフェイトの会話に割り込むようにして、アリスが声を掛ける。
「マスターは私達サーヴァントにとって、心臓のようなものです。
それを剥き出しにしろとは言えません、もちろん……今こうしてこの場所にいる以上、マスター、大道寺知世とフェイト・テスタロッサはこの場所にいてもらいますが」
勿論、アサシンとしては大道寺知世を逃したい意思はある。
だが、自分が大道寺知世を守りつつ戦うリスクと、未だ得体のしれぬ小学校にマスターを一人で解き放つリスクを天秤にかけ、どちらが重いとも判断しきれない。
だからこそ、表面上は交渉の場に居る方がマシだと思うしか無い。

「……ランサー」
「……」
フェイト・テスタロッサに寄り添うようにして、ランサーが顕現する。
柄が螺旋に捻れた二股の槍を構えた少女だ、身体能力が高そうには見えない。

だが、全員がわかっている。
アサシンが少年の容姿であるように、アリスが少女の容姿であるように、
サーヴァントとして呼ばれるような存在の実力を外見から判断するのは非常に難しい。

「さて、何度もくり返すことになりますが、マスターに戦闘の意思は無く、君……フェイト・テスタロッサを捕らえるつもりはない。マスター、そうですね」
「……はい、フェイトさんが何故、このような状況にあるのかはわかりません。ですが、私はフェイトさんが悪い人のように思えないんです。
ですから、フェイトさんが小学校にいることも誰にも言いません」

大道寺知世から見て、フェイト・テスタロッサは悪人であるようには思えなかった。
その理由を強いて上げるのならば、勘だ。
長く生きたわけではない、それでもわかる。
フェイト・テスタロッサの瞳の中には哀切がある。
そして、知世自身もまた――この世界の中で、相手が優しくあることを願っていた。


221 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:51:53 dPKkBso60

「私は聖杯が欲しいわけではありません、お願いごとがあるわけでもありません……ですから」
「知世ちゃん、聖杯いらないんだ……じゃあ、ワタシもいーらないっ!」

「聖杯がいらない……?」
聖杯のために争わなければならないというのならば、聖杯を諦めることでこの競争から脱落することは出来る。
それが真実であると知世本人以外には判断する手段はない、アリスの言葉も同じことだ。
だが、この言葉はこの交渉事においては鬼札だ。
フェイト・テスタロッサは殺さずして、二組の脱落を確定させたこととなる。

理性を超える物を除けば。
心の奥底より湧き出づる暗く熱い感情を除けば。

ああ、そうだ。
フェイト・テスタロッサには母の言葉が全てであり、この聖杯戦争に勝利し、聖杯を手に入れることが全てであり、
自分の望むものが無価値のように扱われれば。

「……私には聖杯がどうしても必要なの」

怒りもしない。
悲しみもしない。
ただ、羨ましい。

自分が血反吐を吐いて手に入れなければならないようなものを、きっと、もう持っている。

「条件があります」
アサシンはフェイト・テスタロッサの目を見た。人間の目を見た。嫉妬【エンヴィー】の目を見た。
何もかもを持っているように思わせてはいけない。

「死神様と呼ばれる存在が、この聖杯戦争にあります。多分サーヴァントでしょう。
それを捕らえることに協力すること、そして、マスターを無事に元の世界に戻すこと。
そうすれば……私は君……フェイト・テスタロッサが聖杯を取ることに協力しても良い」

故にアサシンは、感情が彼女を動かす前に、取引を彼女につきつけた。
無理やりにでも彼女の理性を働かせて、正しい選択を取らせてやるのだ。




「あら、ワタシと鬼ごっこがしたいのね」
けれど、駄目なのだ。
一瞬だけ、命と引き換えに、アリスは出来る。出来てしまう。




「はじめまして、死神様です」
ただの自己紹介で、全てをぶち壊しに出来てしまう。




世界が凍りついたその瞬間を見計らって、フェイト・テスタロッサは屋上から跳んだ。
アサシンはランサーと死神様、どちらを狙うよりも先に知世を庇った。
死神様は何もしない、ただ嗤っている。


222 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:52:03 dPKkBso60


フェイト・テスタロッサは飛んでいる。

つまり、フェイトの策略は実に単純だった。
屋上から飛行し、上空から――攻撃する。

槍のような魔力弾が降り注ぐ。
ランサーを巻き込むことも構わず、雨のように平等に――全員を撃つ。
魔力弾が着弾し、アリスが消滅する。
弱すぎるなどと言っている暇は無い。

「小人の影(ホムンクルスシャドウ)!!!」

アサシンの本体たる影が――刃の形状を取って、降り注ぐ魔力の槍を切り払う。
弱い――余りにも弱すぎる。
フェイト・テスタロッサの攻撃はただのめくらましに過ぎないのか?

全てをぶち壊しにしてまで、隙を突いてまでやりたかったことがこれなのか?
そして、ランサーは――魔槍の雨を避けること無く、ゆっくりとアサシンの元へと歩いている。

フェイト・テスタロッサとランサー以外の誰が知るものか、彼女の対魔力を超えし対魔力――心の壁、A.T.フィールド。
拒絶する。それはフェイト・テスタロッサの攻撃を拒絶する。
常人が駆ける程度の速さで、彼女はアサシンの元へと近づく。

つまるところ、身体能力は高くない。
ならば、一撃のもとに首を刎ねる。

影の刃が鎌の形状を取り、死をもたらさんとランサーの首元に迫る。
それと同時に、複数の影を束ねた刃が彼女の臓物を抉らんと、意趣返しのように槍の形状を取って、ランサーへと迫る。

つまるところ、A.T.フィールドに対し小人の影は勝利出来るか。
そういう勝負であると、アサシンは判断した。
そして、それは間違ってはいない。
彼女が殺すよりも先に、彼女を殺すことは、これ以上ないランサーの攻略法である。

A.T.フィールドを撃ち抜いて、アサシンの影が迫る。

「残酷な天使の運命(ロンギヌス・オリジナル)」
ランサーの槍が、救世主を穿つ者の名を冠する槍が、これ以上ない英雄殺しの槍が、影を穿つ。

屋上という狭い場所、フェイト・テスタロッサによる一方的な支援砲撃、
支援砲撃を受けながら一切意に介すことのないランサーの対魔力、マスターを守りながら戦わなければならないアサシン、
当たりさえすれば勝利する槍、全てがアサシンそのものである影の攻撃。

アサシンはどうしようもないほどに詰んでいた。
彼は、殺される前に殺しておくべきだった。
その影を用いて、フェイト・テスタロッサの首を刎ねておくべきだった。
冷血非道なホムンクルスならば容易く行えていたことを、なるべくならば、と大道寺知世の前で躊躇しようとしていた。
心優しい彼女のために、彼女の手助けを行おうとしてしまった。


故に、彼は。
冷血非道なホムンクルスにはなれなかった。
だが、心優しい少年でも無かった。

プライドでもセリム・ブラッドレイでもなく、
ただアサシンくんであろうとして、彼はこの聖杯戦争より脱落する。

【アサシン(プライドあるいはセリム・ブラッドレイ)@鋼の錬金術師 強制退場】

「アッ……」
何一つ、別れの言葉も言えぬままに――セリム・ブラッドレイは消えてしまった。
相も変わらず無表情の、ランサーと、天に座するフェイト・テスタロッサを前に、大道寺知世が出来ることは何もない。

ただ、明らかにフェイト・テスタロッサはその顔に疲労の色を浮かべていた。
ゆるゆると高度を下げ、再び屋上へと降り立つ。
弱威力とは言え、魔力を放出しながらの宝具の真名解放――普通の魔術師ならば耐えられるわけがない。

「……さよなら」
フェイトは、なるべく無感情であるように呟いた。
ランサーは霊体化し、その姿をもう見せてはいない。
大道寺知世を殺害するのならば、自分で行う必要がある。
銃口を向けるように、バルディッシュを知世へと向ける。

だが、知世に向けて再度魔力弾が放たれることはなかった。
新たに屋上へと現れた乱入者、セイバーへと魔槍は放たれる。

セイバーは魔力の光を見た。

対魔力が最低ランクとは言え、かすり傷程度で済んでいる。
だが、到着した時には、何もかもが遅かった。

フェイト・テスタロッサはランサーを連れて、既に屋上から飛んでいた。


223 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:52:26 dPKkBso60


「あいちゃん!」
「どうしたのさくらちゃん?」

教室を何部屋も巡って、ようやく桜は音楽室でピアノを弾く蜂屋あいの姿を発見した。

「キャスターさんはいる!?屋上にサーヴァントが出て、それで……助けてほしいの!」
「……もちろん」

助けてほしい、その言葉を聞いた途端、蜂屋あいは桜に駆け寄った。
「大丈夫、何が起こってるかわからないけど、私絶対さくらちゃんのこと助けるよ」

――"絶対"に、何が起ころうと、私"が"、さくらちゃん"を"、助ける。
蜂屋あいは絶対にそうするだろう、彼女が望むままに彼女を助けるだろう。

「とにかく……すぐに屋上に行こう?」

『……知世ちゃん、屋上の女の子はワタシが死神様だって知ってるわ……そして、とってもいい子よ。ねぇ、オトモダチにしていいでしょう?』
(どうしようかなぁ……?)
『もう、いじわる。そんなんじゃワタシ、あいちゃんのことキライになっちゃうよ?』
(……大丈夫、嘘だよ。知世ちゃんは新しいオトモダチにしてあげよう?)
『でも、驚いちゃったな……ワタシが死神様であることを明かしただけで、戦いになっちゃうなんて』
(ううん、アリスちゃんが死神様じゃなくても戦いは起こっていたわ……ただ、ちょっとした、些細な、ささやかなきっかけがあるだけで。
だって、わんこじゃないいじめられっ子は……まだ牙を持ってるんだよ?)

「あいちゃん!はやく!」
「ええ、すぐ行くわ!」

(だって、私も待ちきれないよ。
さくらちゃん……初めて、戦いに負けた女の子を見たらどう思うのか、早く知りたいもの)


224 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:52:37 dPKkBso60


「フェ、フェ、フェ……フェイト・テスタロッサ……さん……ですね」
校門前に降り立ったフェイト・テスタロッサを待ち受けていたのは、外ハネのカワイイ少女――つまりは輿水幸子であった。
どうしようもないほどに物事は動いている。

フェイト・テスタロッサの知らぬところで、蜂屋あいすら知らぬところで、
彼女は絶望という名の蜘蛛の巣に絡め取られんとしている。

フェイトがバルディッシュを輿水幸子に向けると、勢い良く幸子は両腕を上げた。ホールドアップだ。

「待ってください!ボクはその……つまり、カワイイので!ええ!カワイイんです、わかりましたか!?」
わからなかった。

「つまり、そのボクのカワイさでこの争いを止めたい……そうです、そういうことなのでまずはその斧を降ろし」
予想外のフェイト・テスタロッサを前に幸子は完全にテンパってしまっていた。
だが、それもそうだろう。
アイドルアニメが始まったと思ったら、何故かアイドルがロボットに乗っているような、それほどに幸子には予想外すぎる展開なのだ。
もちろん、きらりがいないことは予想していた。
だが、渦中の人であるフェイト・テスタロッサが――つまりは、ヤバ過ぎる人が来ることは流石に、幸子のカワイイ頭では予想出来てはいなかった。

「武器を降ろせ」
だが、そんな二人に割り込むようにして、新たな客人が現れる。
地に足を着けながら、二人の少女を天の高みから見下す者。
人類最高峰の天才、プレイヤーにしてゲームマスター、人の身でありながら冥府を統べんとする者。
キャスター、木原マサキ。

「フェイト・テスタロッサと……小蝿か、お前の方に用はない、向こうで勝手に死んでいろ」
高校に向かう途中、偶然にも――いや、屋上で打ち上がった魔力の花火は周囲からもよく見えていただろう。
なればこそ、木原マサキは進路を変えてやって、小学校へと赴いた。
小蝿扱いされた幸子の抗議を完全に無視して、木原マサキは言葉を続ける。


「聖杯が欲しいか、フェイト・テスタロッサ?」


225 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:52:48 dPKkBso60


大鏡から白い人形が現れる。
ああ、噂があった。
4時44分に大鏡の前に立つと鏡の中に引き込まれる。
彼女は執行人なのだ。
鏡の中に人間を引き摺り込むための執行人、ルールを破りし者への執行人。
罪の名は何だ。
敗北だ。

  All the birds of the air fell a-sighing and a-sobbing,(空からは大勢の鳥たちが 悲しみながら舞い下りてきました)

  When they heard the bell toll for poor Cock Robin.(あわれなコック・ロビンの 弔いの鐘の音を聞きつけて)

人形が唄う。
彼女のために唄う。
敗北者たる大道寺知世のために唄う。

皆が皆、歌い踊る。
もはやどうしようもない。


226 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:53:28 dPKkBso60
【D-2/小学校・屋上/1日目 午後】

【大道寺知世@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 健康
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] たくさん
[思考・状況]
基本行動方針: 街の人達を守る
1.アサシンくん……
[備考]
※死神様について調べていますが、あまり成果は出ていません
※サーヴァントを失ったため、ルーラー雪華綺晶に狙われています

【セイバー(沖田総司)@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚】
[状態] 疲労(中)、ダメージ(小)
[装備] 乞食清光
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: さくらのために
1. 状況を確認する
2. 余裕があれば鞘を取りに行く
[備考]
※使わない間は刀を消しておけるので、鞘がなくてもさほど困りません

【D-2/小学校・音楽室/1日目 午後】

【木之本桜@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 疲労(中)、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備] 封印の杖、
[道具] クロウカード
[所持金] お小遣いと5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針: わからない
1. 屋上へ向かう
[備考]
※ローラースケートは学校の裏に置きっぱなしです

【蜂屋あい@校舎のうらには天使が埋められている】
[状態] 疲労(極小)
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 小学生としてはかなり多めの金額
[思考・状況]
基本行動方針: 色を見る
1.屋上へ向かう
2.さくらの色をもっと見たい
3.江ノ島盾子に強い興味
[備考]

【キャスター(アリス)@デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(及び、アバドン王の一部)】
[状態] 健康、作っておいたトランプ兵は全滅
[装備] なし
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: オトモダチを探す
1. さくらに興味
2. サーヴァントのオトモダチが欲しい
[備考]
※学校には何人か、彼女と視界を共有できる屍鬼が存在します
※学校の至る所に『不思議の国のアリス』への入口が存在しています
※不思議の国のアリス内部では、二人のアリスが遊園地の完成を目指して働いています


227 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:53:41 dPKkBso60

【D-2/小学校・大鏡前/1日目 午後】

【ルーラー(雪華綺晶)@ローゼンメイデン】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.大道寺知世を――
[備考]
※アイドルの物真似が出来ます
※クリエイター(クリシュナ)の幻想世界(未完成)を確認しました。

【D-2/小学校・校門前/1日目 午後】

【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態] 疲労(中)、ストレス、魔力消費(極大)
[令呪]残り三画
[装備] 『バルディッシュ』
[道具]
[所持金]少額と5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1. 木原マサキに対応する
[備考]
※小学校に通うつもりでいます

【ランサー(綾波レイ)@新世紀エヴァンゲリオン(漫画)】
[状態] 健康
[装備] 『残酷な天使の運命』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う

【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、怒り、恐怖(微)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争をカワイイボク達で止めてみせる
1.ボクは小蝿じゃありません!
2.諸星きらりに会う。
3.商店街で起こった事件が気になる。
4.きらりの捜索+事件を見ていたというNPCの捜索を兼ねて別の地区へ。
5.何かあったら輝子の家に避難……?
6.放課後18:00に『エノシマ』と会う。場所はC-3もしくはD-4の予定。
[備考]
※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。
※小梅と輝子に電話を入れました。
※『エノシマ』(大井)とメールで会う約束をしました。
 また、小梅と輝子に「安否の確認」「今日は少し体調がすぐれないので学校を休む」「きらりを見かけたら教えて欲しい」というメールを送りました。

【キャスター(木原マサキ)@冥王計画ゼオライマー(OVA版)】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:冥王計画の遂行。その過程で聖杯の奪取。
1.フェイト・テスタロッサへの応対
2.高校へと向かう。
3.予備の『木原マサキ』を制作。そのためにも特殊な参加者の選別が必要。
4.特殊な参加者が居なかった・見つからないまま状況が動いた場合、天のレイジングハートを再エンチャント。『木原マサキ』の触媒とする。
5.ゼオライマー降臨のための準備を整える。
6.余裕があれば、固有結界らしき空間を調査したい。
7.なのはの前では最低限取り繕う。
[備考]
※フェイト・テスタロッサの顔と名前、レイジングハート内の戦闘記録を確認しました。バルディッシュも「レイジングハートと同系統のデバイス」であると確認しています。
※天のレイジングハートはまあまあ満足の行く出来です。呼べば次元連結システムのちょっとした応用で空間をワープして駆けつけます。
  あとは削りカスの人工知能を削除し、ゼオライマーとの連結が確認できれば当面は問題なし、という程度まで来ています。
※『魔力結晶体を存在の核とし、そこに対して次元連結システムの応用で介入が可能である存在』を探しています。
  見つけた場合天のレイジングハートを呼び寄せ、次元連結システムのちょっとした応用で木原マサキの全人格を投影。
  『今の』木原マサキの消滅を確認した際に、彼らが木原マサキとしての人格を取り戻し冥王計画を引き継ぐよう仕掛けます。
※上記参加者が見つからなかった場合はレイジングハートに人工知能とは全く別種の『木原マサキ』を植え付け冥王計画の遂行を図ります。
※ゼオライマーを呼び出すには現状以下の条件のクリアが必要と考えています。
裁定者からの干渉を阻害、もしくは裁定者による存在の容認(強制退場を行えない状況を作り出す)
高町なのはの無力化もしくは理解あるマスターとの再契約
次元連結システムのちょっとした応用による天のレイジングハートへのさらなるエンチャント(機体の召喚)
※街の裏に存在する固有結界(さいはて町)の存在を認知しました。
※アサシン(ウォルター)の外見を確認しました。が、『情報抹消』の効果により非常にぼんやりとしか覚えていません。


228 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:53:51 dPKkBso60

【D-3/道路/1日目 午後】

【双葉杏@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、安堵感
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]携帯ゲーム機×2
[所持金]高校生にしては大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:なるべく聖杯戦争とは関わりたくなかったが
1.諸星きらりとこれからどうするかを話し合う
2.江ノ島盾子に対してどうするべきか。
3.少女(大井)を警戒。どうするべきか。
[備考]
※大井と出会いました。大井を危険人物(≒きらりスレの>>1)ではないかと疑っています。

【ランサー(ジバニャン)@妖怪ウォッチ】
[状態]健康
[装備]のろい札
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:なんとなく頑張る
1.双葉杏に付いて行く

【諸星きらり@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ版)】
[状態]精神的疲労(軽)、魔力消費(中)、希望(大)、安堵感
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:バーサーカーを元に戻し、元の世界へと戻りたい
1.杏ちゃん……良かったぁ……
[備考]
※D-4に諸星きらりの家があります。
※江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。そして、江ノ島盾子を信用しています。
※三画以上の令呪による命令によって狂化を解除できる可能性を知りました(真実とは限りません)
※フェイト・テスタロッサの捕獲による聖杯戦争中断の可能性を知りました(真実とは限りません)
※ルーラーの姿を確認しました
※掲示板が自分の話題で賑わっていることは未だ知りません

【悠久山安慈@るろうに剣心(旧漫画版)】
[状態]霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
[備考]
※雪華綺晶の存在を確認しました、再会時には再び襲いに行く可能性があります。
※江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。
 スキル『こころやさしいひと』の効果できらりの精神の安定に江ノ島盾子&ランサーが役に立っていると察知しイレギュラーが発生。狂化中ですが敵意を向けられない限りこの二人を襲いません。


【江ノ島盾子@ダンガンロンパシリーズ】
[状態]健康、涙で化粧が流れてる、小雪ちゃん(魔法少女育成計画最序盤)の真似中
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大金+5000円分の電子マネー(電子マネーは携帯を取り戻すまで使用できません)
[思考・状況]
基本行動方針:絶望を振りまく
1.諸星きらりをプロデュース!
2.放課後になったら、蜂屋あいと会う
3.ケータイ欲しい……ケータイ欲しくない?
[備考]
※諸星きらりを確認しました。彼女の自宅の位置・電話番号・性格なども事前確認済みです。彼女が掲示板に目を通してないことも考察済みです。
※自身の最後の書き込み以降のスレは確認できません。
※数十分、もしくは数時間、あるいは数日、ひょっとしたら数年は同じキャラを演じ続けられるかもしれませんし、続けられないかもしれません。
※ランサーのスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対して順応しています。順応に気付いているかいないかは不明です。動揺しない限り尻尾を掴まれることはないかもしれません。あるかもしれません。

【ランサー(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]実体化中、健康、絶望(微)、ストレス
[装備]ルーラ
[道具]四次元袋
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り犠牲を出さずに聖杯戦争を終わらせる。
1.江ノ島盾子と蜂屋あいの再会時に蜂屋あいのサーヴァントを仕留める。
2.出来ることなら、諸星きらりに手を貸してあげたい。

[備考]
※江ノ島盾子がスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対応していることに気づきました。
※諸星きらりの声(『バーサーカーを助けたい』『元いた世界に帰りたい』)を聞きました。
 彼女が善人であることを確信しました。


229 : マッド・ティーパーティー ◆PatdvIjTFg :2015/11/27(金) 00:55:35 dPKkBso60
投下終了します。

>>217のがんばれの後に続く?ですが、
どうやらハートが文字化けしているようですのでwiki収録時に修正させていただきます。


230 : 名無しさん :2015/11/27(金) 10:06:51 /apxr3UU0

アイドルアニメかと思ったらアイドルがロボットに乗ってた幸子ワロタ
しかし綾波の服装はやはりランサー伝統の全身タイツなのだろうか


231 : 名無しさん :2015/11/27(金) 17:27:25 Knbm8Fp.0
乙です
勝っても負けても楽しめるやつっていうのはもうどうしてみようもないな


232 : ◆2lsK9hNTNE :2015/11/27(金) 19:14:39 yaZiwwFo0
投下乙です
セリムはここで落ちてしまいましたか。自分が書いたキャラだったのでやっぱり辛いですね
まあこういうあっさりした死に方は結構好きなんですが
きらりの過剰に相手に気を使ってるシーンも良かったです
そしてマサキはフェイトに何を言うつもりなのか、なのはの名前は出すのか、気になります
今回も素晴らしい作品でした

あと早速ですが
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
木之本桜&セイバー(沖田総司)
蜂屋あい&キャスター(アリス)
大道寺知世
山田なぎさ&アサシン(クロメ)
ルーラー
を予約します


233 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/11/27(金) 21:22:23 CwSgi7ak0
感想は投下の時に
ひとまず

大井&アーチャー(我望光明)
海野藻屑&アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
星輝子&ライダー(ばいきんまん)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)

自己リレー含みますが予約します


234 : ◆PatdvIjTFg :2015/11/28(土) 12:58:43 QSzgkccE0
アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)
玲&エンブリオ(ある少女)

予約します


235 : 名無しさん :2015/11/28(土) 13:40:34 g/OjzXGs0
例のアレ

予約済み
○12/4くらい
◆2lsK9hNTNE
木之本桜&セイバー(沖田総司)
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
蜂屋あい&キャスター(アリス)
大道寺知世
山田なぎさ&アサシン(クロメ)
諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
ルーラー(雪華綺晶)

◆EAUCq9p8Q.
大井&アーチャー(我望光明)
海野藻屑&アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
星輝子&ライダー(ばいきんまん)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)

○12/5くらい
◆PatdvIjTFg
アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)
玲&エンブリオ(ある少女)


[早朝]
【B-5】桂たま
【B-4-B-5】アサシン(ゾーマ)
【D-3】ララ

[午前]
【C-2】白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)
【C-4】クリエーター(クリシュナ)
【D-5】中原岬&セイバー(レイ/男勇者)
【D-6】シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)
【D-6】偽アサシン(宝具『まおうバラモス』)

[午後]
【D-2(小学)】フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)
         キャスター(木原マサキ)
         輿水幸子
【C-4】高町なのは


場所確認用のやつ
ttp://download1.getuploader.com/g/hougakurowa/4/%E5%B0%91%E5%A5%B3%E5%9C%B0%E5%9B%B3.png


236 : 名無しさん :2015/11/28(土) 15:17:23 7Z/RRqOM0
おお、投下乙でした
嗚呼セリムが…いや、全くこれは巡り合わせが悪かったと言うほかない
地の文にもある通り、冷酷なホムンクルスであればこの結末には至らなかったであろうこと、知世ちゃんの姿を見て彼女の力になろうとしたことが死を招いたことが切ない。
綾波の槍はやはり凄まじいですね。条件が揃った結果といえ、まさしく一触必殺。フェイトの援護GJと言わざるを得ない。そしてその引き金を引いたアリス怖い。「死神様」の名乗りの場面素晴らしいです。
桜セイバーは…ある意味間に合ったとも間に合わなかったとも言えそう。天使の笑みといい、さくらちゃんの知らないところで歯車がどんどん動いて行く。
さらにはアイドル組もこれまた不穏ですね……一応きらりにほんの少しの救いがもたらされたと言え、立場の上では完全にオモチャだこれ。
今回もギシギシと胃の腑を締め付けるような掛け合いを見せる盾子ちゃん&スノホワも素敵でした。
そして動き出すルーラー…鏡から現れる白い人形のくだり、歌詞の調子も併せ、少女聖杯の雰囲気はまさしくこれだと思わされます。


237 : 名無しさん :2015/11/29(日) 10:52:31 ICDBfU0.0
投下お疲れ様です
ところどころで挟まれる歌のパートがすごく雰囲気出てて好きです
セリムの最期は皮肉すぎて哀しい
知世は立ち直れるのか、と言うよりも雪華綺晶による誅殺の手が伸びてるしそれどころではないかもですが…
さくらに入れ込んでるあい&アリス組も怖い、スノーホワイトを腹の下でがんじがらめにする江ノ島さんも怖い、怖い少女ばかりだ
おまけに杏はきらりと再会できたはいいけど江ノ島さんの射程内だし幸子の前にはフェイトちゃんだけでなく木原も現れるしなんだか凄いことになってきた
続く皆様の予約も大変楽しみです!


238 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/04(金) 19:01:36 JHc3sAZ60
間に合いそうにないので予約を破棄します。すいません
明日には投下します


239 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/04(金) 20:07:07 aQB/vWk60
同じくちょっと遅れますが、本日中に投下します


240 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:46:29 ZfYpHQyg0
盛大に遅刻しました。

大井&アーチャー(我望光明)
海野藻屑&アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
星輝子&ライダー(ばいきんまん)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)

投下します。


241 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:48:22 ZfYpHQyg0

◆◆


  大井は激怒した。
  必ずや、この厚顔無恥な参加者を倒さねばならぬと。


◆◆

  大井がその書き込みに気づいたのは、本当に偶然だった。
  やることもないので携帯を開いてニュースサイトの巡回をしており、そしてふと、今朝方立てたスレのことが気になった。
  もしかしたら『輿水幸子』以外の誰かが引っかかっているのではないか。
  そう思い、何の気なしにスレを開いた。
  見れば、新着レスが一つ増えている。顔がほころぶ。やはり大井の計略は完璧だ。
  しかしそこで大井が見たものは、以下のレスだった。

―――

2 名前:諸星きらりの友人[] 投稿日:20XX/0X/XX(X) XX:XX:XX ID:mrbsKRL0

今からきらりちゃんと一緒に小学校に行きます。
信じてもらえないでしょうが、本当です。
校門で待ってます

―――

  あまりの衝撃に、言葉を失った。
  そして、理解が追いついて言葉を取り戻す頃には、憤怒が驚愕を乗り越えていた。

「な、なによ、これ……!!」

  思わず言葉が溢れる。
  なんだこれは。
  これでは大井の緻密な計画がパアではないか。
  大井の計略を逆に利用しようとしている人間が居る。それは想定内だ。
  だが、ここまで大っぴらに、大井自体の計略をぶち壊すような方法を取るのは想定外だ。
  大井は激怒した。
  そして当然、大井の計画をこんな形で壊そうとする輩を許しておけなかった。
  頭の中で色々と思考を巡らせ、今後の方針を切り替える。
  そして、方針が決まってすぐ、自身のサーヴァントへと念話を飛ばした。


242 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:49:13 ZfYpHQyg0


(聞こえますか、アーチャー)

『どうしたね』

(小学校方面に参加者が集合する可能性があります。取り急ぎ、潰してきてください)

  大井の言葉に、アーチャーは「ほう」と相槌を打ち。
  そして、少しだけ間を置いて、こう返してきた。

『それはまた……唐突だね。様子見はいいのかい』

(放っておくと私の計画に差し支えるので、早急にお願いします)

  どうやら大井は、大井自身が思っているよりも気が立っているらしい。
  意図せずに突っぱねるような言い方になってしまったのを少しだけ恥じていると、アーチャーは事も無げに言葉を返した。

『そうか……ならば仕様がない。向かってこよう。変身を行う。魔力を少し使うから、気をつけ給え』

(ええ、じゃあ、お願いします)

  念話はそこで終わった。
  少しした後に熱が退くような、疲れがたまるような感覚が身体に広がる。
  これが、魔力を使ったということだろうか。
  あまりいい感触ではないなと考えながらも、大井はわりと気を良くしていた。
  アーチャーは、やはり優秀と言っていいサーヴァントだ。
  大井の指示にきちんと従っている。この戦場でどう動くことが重要なのかをちゃんと理解している。
  その時思い浮かんだのは、大井の金言を意味なく切り捨てた長門の真面目を装った顔だった。
  そして、長門の指示の無知蒙昧さを理解せず二つ返事で従った数十人の艦娘たちの顔が頭をよぎる。
  馬鹿な奴らめ。今に見ていろ。
  お前らが数十人がかりでなんとか覆した運命を、私は一人で覆してみせる。
  愛の力で、この手の中に、北上を取り戻してみせる。

  令呪の刻まれた左手で、北上の温もりの残るお守りを握りしめる。
  そして、教室の向こう、窓の外、小学校を見据える。
  今からあの場所には、大井と北上の愛の御旗がそびえ立つ。
  せいぜい、つかの間の勝利に酔っていろ。『諸星きらりの友人』よ。


243 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:50:35 ZfYpHQyg0




  小学校の屋上に展開された光の槍。そしてマスターである大井からの連絡。
  二つが重なれば嫌でもわかる。
  大井の策略を利用する形で小学校に参加者が集い始めている。
  これからしばらくもしないうちに、戦闘が始まるだろう。

「そこに飛び込めというのだから、我がマスターながら、なかなかに無茶を言う」

  どう考えても危険だ。
  数もクラスもわからぬサーヴァントたちが集う戦場に赴くなんて、一歩間違えば消滅してしまう可能性もある。
  だが、これはアーチャーにとってもまたとないチャンスだった。
  参加者たちがあの光を求めて集まる。ならば当然、その参加者たちを狙った力を持つ者たちが集まる。
  その中にはきっと居るだろう。アーチャーの求める『戦う力』を有したマスターが。
  戦場に向かえば、彼らと会うことが出来る。
  そして、戦場ならば、アーチャー側の事も運びやすい。
  別のマスターとの再契約。
  乱戦地帯に突っ込んでくるような血気盛んなマスターを捕まえ、大井を切り捨てる。
  サーヴァントに不満を持っているマスターでもいいし、なんならアーチャーがサーヴァントを殺しても構わない。
  まだ付き合い始めて数日しか経っていない開始初日の段階ならば、サーヴァントに対して情が移っていることもないだろう。
  もし別のマスターとの再契約が駄目なら大井の元に帰り今までどおりの関係を続ける。それだけだ。

  アーチャーの離反計画と大井の激情が、歪んだ形で噛み合った。
  だからアーチャーは、この大井の一見無茶苦茶としか言えない指示を飲んだ。

「さて、では……そろそろ行こうか」

  取り出したのは、赤い柄に黒と白の文様、そして頂点には輝く恒星を模した装飾の施されたスイッチ。
  只の人間を、人ならざるものへ。人類を、人類を超えたものへ。
  超銀河の神秘によって単なる猿を宇宙の意思の元へと押し上げる、アーチャーの宝具。

  スイッチを押す。光が溢れ、『我望光明』が消える。
  12の星の輝きと宇宙空間にも似た暗黒が晴れた時、そこに立っていたのは怪物だった。
  『サジタリウス・ゾディアーツ』。黄道十二宮を統べる者。アーチャーのもう一つの姿。
  夜にはまだ早いその時間。D-2に射手座が輝いた。


244 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:51:17 ZfYpHQyg0


【D-2/高等学校/1日目 午後】

【大井@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]怒り、健康、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]北上の枕の蕎麦殻入りお守り
[道具]通学鞄、勉強道具、スマートフォン
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:北上さんへの愛を胸に戦う。
0.聖杯戦争に北上さんが居る可能性を潰す。
1.スレを利用した人間への怒り。
2.メールを送ってきた人物をC-3もしくはD-4に集める。そのためにアーチャーに集合場所に赴く偽大井を用意させる。
3.作戦開始直前になれば偽大井を使って2.の場所に少女(双葉杏)も上手いこと誘導する。
4.メールの件が片付いたらしばらくはNPCとして潜伏する。
[備考]
※双葉杏を確認しました(電話番号交換済)。また、輿水幸子の名前を確認しました。ただ、偽名を疑っています。
※北上が参加者として参加している可能性も限りなく低いがあり得ると考えています。北上からと判断できるメールが来なければしばらくは払拭されるでしょう。
※『チェーンソー男』『火吹き男』『高校の殺人事件』『小学校の死亡事件』の噂を入手しました。
 また、高校の事件がらみで諸星きらりの人相・性格、『エノシマ』という少女が諸星きらりを探っていたことを教師経由で知りました。
※フェイト・テスタロッサの顔と名前を把握しました。
※きらりスレの最新レスを確認しました。怒ってます。すごく怒ってます。


【アーチャー(我望光明)@仮面ライダーフォーゼ】
[状態]サジタリウス・ゾディアーツ形態
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を得る
1.小学校方面へ。『諸星きらりの友人』他を襲撃。その際に良さそうな敵マスターに目星をつける。
2.フェイト・テスタロッサが現れた場合、大井に連絡を入れる。
3.大井の代わりに集合場所に向かうNPCを調達。方法はスキル『催眠術』による一時催眠。
4.放課後、集合場所に現れる『輿水幸子』他参加者の偵察。必要とあればアーチャー直々に手を下す。
5.戦闘力に秀でたマスターが居れば大井を切り捨てることも思案。
[備考]
※双葉杏=マスターであるとしています。諸星きらりと江ノ島盾子は見てない可能性が高いです。
 双葉杏のタクシーの進行方向は知っていますが具体的にどこに向かったかまでは知りません。
※アサシン(クロメ)と近い位置に居ますが存在に気付いていません。(菓子の咀嚼音も距離のこともあり届いていません)
 ただ、アサシンが不用意に近づいたり、臨戦態勢に入ったりすれば気配遮断の効果が切れて気づきます。
※大井に対する意識は可寄りですが、彼女の戦闘能力には不満があります。
 もっと力の強い参加者が居、その参加者が望むのであれば大井を屠っての再契約も視野にいれてあります。
※降り注ぐ光の槍(フェイト)を確認しました。


245 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:51:47 ZfYpHQyg0


◇◆

  不意に、感覚に襲われた。
  この感覚は、間違いなく『あの』感覚だ。
  雪崎絵理が感じたのは、今までよりも格段に、途方も無く強い『予兆』。
  遅めの登校を終え、授業を受け、昼食を食べ、午後の授業も滞り無く受けた矢先にこれだ。

  現れる。
  あの男が、チェーンソー男が現れようとしている。
  時計を確認する。まだ夕方と呼ぶには早い、午後だというのに、確信にも似た感覚が『チェーンソー男』の襲来を告げる。
  まただ。
  絵理は頭を抱えそうになり、人前だということを思い出して持ち直した。
  しかし、最近はおかしなことばかり起きる。
  襲撃ペースが変わったこともそうだし、山本と会えなくなったこともそうだ。
  なんとなく、ぽっかりと大きな穴が開いているような気がする。
  絵理を置き去りに、世界だけがぐるぐると回っているような、そんな錯覚を覚える。
  今何が起こっているのかを、正確に把握できていないのは、なんだかとても気分が悪い。
  このもやもやにも、そのうち決着を付けたい。

  ただ、その前にやることがある。
  この『直感』に向き合う必要がある。
  この『直感』の先には、チェーンソー男が居る。
  今朝のように、誰かを巻き込んで、周囲を切り飛ばしながら、暴れまわる可能性がある。
  あいつが誰かを傷つけようとするならば、戦わなければならない。
  絵理にとってそれは、使命のようなものだから。

  人目を忍んで、高等学校を飛び出す。
  向かう先は直感の示す先、小学校方面。

  頭上で奇妙な光が輝いたのに、絵理が気づくことはなかった。


246 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:52:19 ZfYpHQyg0


【D-2/高等学校/一日目 午後】

【雪崎絵理@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]魔力消費(?)
[令呪]残り三画
[装備]宝具『死にたがりの青春』 、ナイフ
[道具]スマートフォン、制服
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:チェーンソー男を倒す。
1.チェーンソー男の気配のする方、小学校方面へ。
[備考]
※チェーンソー男の出現に関する変化に気づきました。ただし、条件などについては気づいていません。
※『死にたがりの青春』による運動能力向上には気づいていますが装備していることは知りません。また、この装備によって魔力探知能力が向上していることも知りません。
※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)を確認しました。真名も聞いています。
※記憶を取り戻しておらず、自身がマスターであることも気づいていません。
※もしかしたらルーラーも気づいてないかもしれません。
※聖杯戦争のことは簡単に小梅から聞きました。詳しいルールなどは聞いてません


【???/???/一日目 午後】

【チェーンソー男@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]復活可能
[装備]チェーンソー
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:雪崎絵理の殺害
[備考]
※雪崎絵理がマスターだとかそういうことは関係ありません。
※聖杯戦争中、チェーンソー男は夜以外にも絵理がサーヴァントの気配を感じた場合出現し、当然のように絵理を襲います。
 このことには絵理も気づいていません。
※致命傷を受けての撤退後、復活にはある程度の時間を要します。時間はニュアンスです。
※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)組を確認しました。


247 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:52:42 ZfYpHQyg0


◇◇

  輿水幸子と同じく白坂小梅も欠席だと知った。
  久々の、キノコと二人で食べる昼食は、とても寂しかった。

「……二人共、どうしたんだろうね……ダロウネー!……ふ、ふ」

  キノコを持ち上げて、幼い少女がぬいぐるみでそうするように、キノコに声を当ててみる。
  寂しさは少しだけ紛れたが、やっぱり、幸子や小梅と一緒のほうが良かった。

  午後の授業も平々凡々。座学で将来役に立つらしいことを一つまた一つと学んだ。
  授業が一段落すればまた一人ぼっちの時間がやってくる。
  再びなにもやることがなくなり、仕方なく携帯電話を開いた。
  幸子からのメールは来てない。
  また少しだけ鎌首をもたげ始めた寂しさを隠すように携帯電話を閉じようとして、あることを思いだした。
  通達の『掲示板』。
  ご自由にどうぞと書いてあったから暇な時に見ようと思っていたのだが、すっかり忘れていた。

「そういえば……あったな、そんなの……」

  ふ、ふふ、と鼻歌を口ずさみながら携帯電話をいじる。
  しばらくして、目的のページに辿り着いた。
  調子っぱずれな鼻歌が、だんだん小さくなり、次第には消えてしまう。

  輝子は、アイドル状態ではない彼女にしてはやや真剣な面持ちで、掲示板の中身を確認して、メールを打った。
  宛先は幸子。
  言葉を選び、内容を確認し、消して、打って、また消して。
  そしてそこで輝子の指は止まり、そのまま動かなくなった。
  輝子は何かを考えるようにじっと液晶を眺め続け、そしてそのまま、メールを閉じ、携帯の電源も落としてしまった。


248 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:53:12 ZfYpHQyg0


  携帯の電源を落としたあとで、考える。
  今の掲示板は聖杯戦争の参加者しか見ることが出来ない。
  きらりはまるで聖杯戦争の参加者であるかのように書かれていた。
  そして、丁寧に今から向かう場所まで書かれていた。
  それが意味するところはなにか。
  聖杯戦争の参加者がこれを見たら、小学校に集まってくる可能性がある。
  そうすると、もしかしたら、戦いが始まってしまうかもしれない。
  だとすると、危ない。
  ここに向かっていると書かれているきらりも。
  そして、きらりを探していた幸子も。
  輝子が幸子にメールを打たなかったのは、『もし幸子がただのNPCで、メールのせいで戦いに巻き込まれるようなことがないように』。
  しかしひょっとすると、幸子も聖杯戦争の参加者で、あのスレを見て今朝からずっときらりを探していたのかもしれない。
  だとすると、あのレスを見た幸子は、確実に小学校にやってくるだろう。
  知り合いのアイドル二人も参加者なんて、偶然に偶然が重ならなければこんなことは起こらない。
  でも、ないとは言い切れない。
  だとするとどうするべきだろうか。

  少し考えて、結論を出す。
  そして、教室を抜けだして朝のようにトイレに入り、自宅に電話をかけた。
  何度かのコール音。
  ぷつりという繋がった合図。
  受話器の向こうから、聞き慣れた声が聞こえてくる。

{もしもし}

「あ、もしもし……ライダー?」

{なんだ、なにかあったか}

「あのさ、今からさ……小学校まで、む、迎えに来て、くれない、かな……」


249 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:53:54 ZfYpHQyg0


{……で、なにがどうしてそうなったんだ}

「……理由……」

  なんというべきか。
  どこまで話すべきか。
  『掲示板で殺人犯扱いされていたきらりを助けるため』なんて言ったらライダーは絶対頷かないだろう。
  『幸子を拾う』と言ったら、幸子の居場所がわかった理由や現地できらりも連れて帰るときに理由も聞かれてしまうかもしれない。
  輝子はあまり嘘が得意じゃないので、ライダーをごまかしきれないと思う。
  だから輝子は、彼女にしては珍しく、言葉を濁した。

「……それは、まあ……後々話すよ、後々ね……」

{……}

  ライダーからの返答はない。
  胡散臭そうなライダーの顔が思い浮かぶようだった。
  もう一度頼むと、ライダーは大きな大きなため息をついた。 

「頼むよ」

{頼むって言うけどな、俺様だって、なんでもはいはい言うわけじゃないんだぞ! マスターってば、わがままばぁーっかり!}

  その、およそ悪役らしくない物言いにそれがなんだか面白くって少し笑うと、ライダーは電話越しにぷりぷり抗議の声を上げ始めた。
  でも、抗議は抗議で、本気で怒っているわけでも、深く追求するわけでもなさそうだ。
  少し悪い気がしてちくりと心が痛んだが、それでも、ライダーの声を聞いていると安心できた。
  彼と一緒ならば、きらりも、幸子も、救える気がする。
  万感とまでは行かないが、とても大きな感謝を込めて、輝子は初めて、ライダーをこの呼び方で呼んでみた。

「じゃ、頼んだよ、親友」

{なあにが親友だい! 調子のいいことばっかり言って!!}

  そう言って、電話はそれきり誰の声も届けなくなった。
  勢いに任せてライダーが電話を切ってしまったのだろう。
  輝子は知っている。口ではああ言ってるけど、ライダーはきっと来てくれるということを。
  じゃあ、今からどうしようか。
  少し考えて、輝子は歩き出した。
  危険かもしれないが、遠巻きに様子だけを確認しておこう。
  もし、幸子たちが居たら、早めに合流しておく必要がある。
  もし戦いが起こっているようなら、参加者だとバレないように、逃げてしまおう。

  輝子は一人、ふらふらと小学校の方へ向かった。
  近づき過ぎないように気をつけながら、それでも、もし知り合いが居れば見逃さないよう注意を払いつつ。


250 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:55:14 ZfYpHQyg0




「小学校、ねえ」

  ライダー・ばいきんまんは地団駄を踏んでひとしきりの不平不満を口にした後、一人顎に手をやり考えていた。
  輝子は同年代に比べて背丈こそ小さいが、立派な高校生だ。
  それが何故、小学校に向かえということになるのだろうか。
  もしかしたらなにか進展があったのかもしれない。
  輿水幸子、白坂小梅。その二人を守るという彼女だけの聖杯戦争に。

「なんにせよ、行かなきゃならないんだがなあ」

  呼ばれたのだから行く。そこは問題ない。
  ライダーは輝子の英霊なのだから、最大限便宜は図る。
  ただ、少し問題がある。
  今はまだ昼間だ。『ばいきんUFO』を飛ばすには日が高い。
  真昼の空をメタリックな円盤が飛んでいれば、必ず悪目立ちしてしまう。しかもライダーの場合、日本での知名度を考えるとその円盤の姿だけで真名がばれかねない。
  火急の用ならばこのままマンションから『ばいきんUFO』を飛ばすのだが、電話口の対応を聞くにそういうわけではないのだろう。
  こういう場合、本来ならば『もぐらん』で気配を隠しながら地中を進むのがいいのだろうが、困ったことにもぐらんは現在エンチャント中だ。
  途中で打ち切ってしまってもいいが、ライダーのエンチャントは『機械の改造』なので、エンチャントを打ち切ると一言で言っても追加したものを剥ぎとって元の形に戻す手間がいる。
  魔力的にも、時間的にも、ここでそのロストはキツい。

「俺様だけが霊体化していくってのはナシだし、どうしたもんか」

  ライダーが単体で行くというのも考えたが、それは危険が過ぎる。
  ライダーはそもそも身体能力が高くないので、身体を晒しているところを襲われたらおわりだ。
  更に、迎えに行く以上帰りの道中は安全に帰る必要がある。
  何かに乗って行くのは当然として。
  『だだんだん』はそもそも問題外。
  すぐに飛ばせる『ばいきんUFO』か、気配遮断の『もぐらん』か。

「ふうむむむ……」

  目をギュッと閉じて首をひねる。
  あまり長く待たせるわけには行かないので、長いこと考えこむ訳にはいかないが、機械の仕様が全く違うのでこの選択は大きい。
  失敗しないように、出来る限りの可能性を辿り、より状況に対応できる方を選んで乗って行く必要がある。

「かび」「かび」「かび」「かび」

  かびるんるんは、そんなライダーの心境はつゆ知らず、『もぐらん』のエンチャントを指示通りに続けていた。


251 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:55:41 ZfYpHQyg0


【D-2/中学校/1日目 午後】

【星輝子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]多機能携帯電話
[所持金]一人で暮らせる程度にはある
[思考・状況]
基本行動方針:幸子ちゃんと小梅ちゃんを守る。
1.学校で小梅ちゃんを待つ。
2.フェイト・テスタロッサが気になる。
3.緊急時にはライダーを令呪で呼ぶ。
4.きらりちゃんを探す。
[備考]
※掲示板を確認していません。
※念話は届きませんが何かあったら自宅に電話をかけます。



【C-2/マンション/一日目 午前】

【ライダー(ばいきんまん)@劇場版それいけ!アンパンマン】
[状態]魔力消費(小)、魔力回復(微)
[装備]宝具『俺様の円盤(バイキンUFO)』、『踏み砕くブリキの侵略者(だだんだん)』
[道具]宝具『地の底に潜む侵略者(もぐらん)』(エンチャント中)
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:宝具を改造して、準備を整えてから行動したい。
1.輝子を迎えに小学校へ向かう、が……
2.『地の底に潜む侵略者』をエンチャント中。加速機能と索敵レーダーを開発予定。
3.輝子緊急時には見られることを気にせず宝具で逃亡。
4.幸子が来たらどうするかな……
[備考]
※マンションの一室をエンチャント部屋として使用中(作中表記は『工房』ですが陣地ではありません)。
※原木にかびるんるんをとり付かせることで魔力回復(微)の効果を得ます。星家の原木がキノコパラダイスになれば効果がなくなります。
※現在の宝具エンチャント。
『俺様の円盤』……搭乗員数最大拡張、掃除機ノズルアーム、トリモチバズーカ
『地の底に潜む侵略者』……搭乗員数最大拡張、魔力レーダー(開発中)、加速装置(開発中)
『踏み砕くブリキの侵略者』……搭乗員数最大拡張
※輝子の素質上の問題で念話は届きませんが星家に電話がかかってくると応対を行います。


252 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:56:02 ZfYpHQyg0




  壁掛け時計の音で目を覚ます。
  見れば、もうお昼をとっくに超えていた。
  お腹は空いてない。
  特に動きもしなかったので、朝食べたものがまだお腹の中に残っている。
  この分なら、夜まで何も食べなくても持ちそうだ。
  それを確認して、海野藻屑は再びベッドの中で目を閉じた。
  深く大きい呼吸。規則的に、吐いて、吸ってを繰り返す。
  でも、眠れない。
  当然といえば当然だ。昨日から数えて、二十時間くらいは寝ているのだから。
  仕方なく体を起こす。体の節々が『汚染』で傷むのとはまた別に、寝すぎてこわばった関節が傷んだ。
  サイドボードに置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを取り、がぶりがぶりと飲む。少しだけ、乾きは取れた。

「ポチ、おはよう」

  藻屑のベッドの直ぐ側で寝ていたポチがぱたんと尻尾を振った。上等な羽箒みたいな、黒くて大きな尻尾が揺れる。
  藻屑が手を伸ばすと、ポチはむっくりと起き上がってその手に頭をすり寄せた。
  少し硬めの毛がこそばゆい。
  そのままベッドのヘッドボードにもたれかかり、置かれている状況を確認する。
  特に変わりはない。寝る前と同じ時間が、今もまだ続いていた。
  頭の中でアーチャーに声をかけるが届かない。アーチャーもまだ帰ってきてないらしい。

「色々やってるのかな」

  藻屑は何も知らない。今、街で起こっているほぼ全ての出来事を知らない。
  このままずっとぐうぐう寝続けて、気づいたら、聖杯戦争が終わっていたなんてことも、あるかもしれない。
  それは悲しいことじゃない。何もせずに願いが叶うんだから、きっと喜ぶべきことだ。
  窓の外を見る。日は高く、木々を照らしている。
  空にはまるで作り物のような、わざとらしいほどの青空と白い雲が貼り付けられている。
  でも、この街の誰かにとって、この戦争は、そんなに綺麗なものじゃない。
  今も何かに『汚染』されながら、必死に、誰かと戦っている。
  心のなかに、空風が吹いたような気がした。この街で、海野藻屑は、やっぱり一人だ。
  この広い街の中の、海に近い家の中で、一人ぼっちで泡を吐き出し続けている。

「なんだか、遠い国のことみたいだ」

  現実離れした戦争。
  たった一人でまどろむ人魚。
  小さな小さな水槽のようなこの家の天井に向けて、また一つ、泡が上がった。


253 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:57:38 ZfYpHQyg0


  手持ち無沙汰でスマートフォンをいじる。
  電話も、メールも来るわけない。ただ、一つだけ、見ることの出来るものを持っている。
  海野藻屑と聖杯戦争の数少ない接点。『掲示板』。今朝方確認した時から、死神様のことや、諸星きらりのことはなにか進展はあっただろうか。
  読み込みが終わってページが開かれる。諸星きらりスレの書き込みが増えていた。
  小学校に、諸星きらりとその友人が向かう、という書き込みだ。

「よくやるよね、本当」

  これもまた、罠だろう。
  誰かが小学校にわざと人を集めようとしているに違いない。
  不意にまた、アーチャーのことを思いだした。
  藻屑の意思に関係なく、アーチャーは戦いに向かい、勝利を上げてきている。
  戦うことはアーチャーの自由で、藻屑に止める権利はない。
  そんなアーチャーはこのことを知っているのだろうか。知ればどうするだろうか。
  彼女のことだ、フェイト・テスタロッサのように敵を釣るためのいい餌としてこれを利用するだろう。
  場所が明かされている分、こちらの方が使いやすい。
  この書き込みのことを知れば、きっと小学校に向かい、そして集まった主従と戦って……
  戦って、戦って……

「それでまた、誰かと戦うんだろうなあ。アーチャーは」

  アーチャーはきっと、このレスについて教えれば喜んで小学校に向かうだろう。
  藻屑としても、生き残れる確率が高くなるのは良いことだ。
  ただ、なんとなく、自身の英霊アーチャーには、このことを知らせないでおこうと思った。
  伝える手段がない。携帯端末のようなものを使えればいいのだろうけど、アーチャーはそんな便利なものを持ち歩いてない。
  なにかあったら令呪で呼べ、なんて言ったが、教えるだけで呼び戻してたら令呪がもったいない。
  様々理由をつけたあと、その書き込みを見なかったことにして、スマートフォンの電源を切って横になった。


254 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:58:26 ZfYpHQyg0


  手近においてあったリモコンを使ってテレビをつける。
  特別見たい番組があるわけじゃない。
  ただなんとなくそうした方が、この家の中に音が増えて、一人ぼっちの水槽が賑わうような気がした。それだけだ。

  画面の向こうからは情報番組の司会の楽しげな声が聞こえてくる。
  少しだけ音の増えた水槽の中で、小さな海の外を見ながら、少しだけ、考える。
  もしかしたら、藻屑は。あの書き込みが本物で、諸星きらりと誰かが出会えることを望んでいるのかもしれない。
  少女たちを殺しあわせて死体の山を築いたアーチャーに、その出会いを邪魔してほしくないだけなのかもしれない。
  そして、心の何処かで。この聖杯戦争の舞台の上で、まるで世間で愛されるハッピーな物語のように。
  奇跡的に巡り会える諸星きらりと友人に、誰かと誰かを重ねたいのかもしれない。

「はは、なんだよ。そんなの、柄にもない」

  やけにセンチメンタルになっているな、と思い、目を閉じる。
  父、海野雅愛が居ないことで、藻屑の精神が少々不安定になっているのかもしれない。
  現実に心を揺り動かされすぎている。海野藻屑の『現実』とは、こんなものではなかったはずだ。
  なんだか、苦しい気がする。気のせいかもしれない。きっと気のせいだ。
  先程まで陽気な声色で話していた司会は、打って変わって緊迫した様子でこう繰り返していた。
  『早朝の商店街を襲った謎の衝撃』『この後現場から生中継』と。
  誰かが戦ったニュースが流れる。
  そのニュースは、やはりどこか遠くのことのように、藻屑の耳をすり抜けていく。
  そうして藻屑はまた一つ泡をこぼした。

「遠いなあ。ぼくには、まだ」

  戦っても、戦っても、戦っても。
  海野藻屑がいくら必死に戦っても。
  水槽の中から見つめた外の世界は、まだずっと遠い。
  あの日、嵐の夜にはぐれてしまったきりの現実は、まだ、まだ、ずっとずっと遠い。


  砂糖菓子の弾丸は、水槽の中で、少しずつ、少しずつ、溶けていく。


255 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 02:59:58 ZfYpHQyg0




  当然、見逃すはずがなかった。
  高い空、魔法少女の視力で見えたやや遠い場所。
  建物の屋上に浮かんだ、昼目にもとても目立つ数十数百の光の槍たちを。
  誰かが戦っている。
  夜を待たず、建物の屋上なんていう目立つ場所で。
  その『招待状』を受け取ったアーチャー・森の音楽家クラムベリーは、当然のように進路をその光の方向へと切り替えた。

  本来英霊は日中派手に動きまわるのは得策ではない。
  英霊同士の戦いは、まさに小規模な戦争と呼ぶにふさわしい。
  技の応酬だけでもとても目立つし、近隣への被害だって尋常じゃない。
  最近はメディアツールの発達が著しい。目立った戦闘をすれば即座にネットワークに公開されてしまう。
  戦闘が報じられれば不利益が発生する。戦闘スタイルがばれる。宝具を見られる。姿形の情報が映像として残る。真名にたどり着かれやすくなる。
  だが、アーチャーはそんな不利益を気にする少女ではなかった。
  不利益が発生するというのは事実だ。だが、戦場で、殺し合いで、不利益に怯えてたたらを踏んでなにが始まる。
  それに、あの光を見ているだけで、居てもたっても居られなくなった。

  あの光を求めて、サーヴァントたちが集まってくる。
  光を放った誰かは、アーチャーと同じように、後に振りかかる不利益なんてものを蹴っ飛ばして戦いを求めている。
  アーチャーには、聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。
  時は今。場所は目と鼻の先。
  お前らの戦争の相手は、お前らの望む敵はここに居る。
  だから早く戦いに来いと言っている、まだ見ぬ英霊の声が。
  素晴らしい招待状だ。
  どうしてここで立ち止まれる。向かわずには居られない。

  屋上を蹴り、大きく飛び上がる。
  光を塗りつぶすような漆黒のコートがはためいた。
  あれから数分。もう、屋上を覆い尽くしていた光の槍は見えない。
  速く、少しでも速く。
  あの光を放った者と、あの光のもとに集まる者達に会いに。
  この甘ったるい戦場で、闘争を望む者達に会いに。
  気分が高揚し口元が緩みそうになるのを抑えながら、アーチャーは道無き道を全速力で駆け抜けた。


256 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 03:00:46 ZfYpHQyg0


【Bー1/海野邸/一日目 午後】

【海野藻屑@砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない】
[状態]健康(?)
[令呪]残り三画(内腿の青あざの中に)
[装備]なし
[道具]ミネラルウォーター入りペットボトル、おてがみ、スマートフォン
[所持金]クレジットカード(海野雅愛名義のゴールドカード)、5000円分のクオカード
[思考・状況]
基本行動方針:山田なぎさに会いたい
0.安心したい
1.アーチャーに全てを任せる。諸星きらりスレのことは知らない。
2.惰眠をむさぼる
[備考]
※家にはポチが居ます
※すぐに出前が届いて空腹ではなくなります。
※NPC海野雅愛が存在するかどうかは不明ですが、少なくとも海野邸には出入りしていません。
※掲示板を確認しました。少なくとも江ノ島のスレと大井のスレは確認しています。


【C-3/ビルの屋上/1日目 午後】

【アーチャー(森の音楽家クラムベリー)@魔法少女育成計画】
[状態] 健康、気分やや高揚
[装備] 黒い、フード付きコート
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: 強者との闘争を求める
1. 学校地区(D-2)へ。

[備考]
※フェイト・テスタロッサを見つけてもなのはに連絡するつもりはありません
※小学校屋上の光の槍(フェイト)を確認しました。


257 : シュガー・ラッシュ  ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/05(土) 03:01:07 ZfYpHQyg0
投下終了です。
時間がなかったので感想はまた後日書かせていただきます。


258 : 名無しさん :2015/12/05(土) 03:50:56 g3ejfugI0
おお、投下乙です
大井さん……本当にブレなさすぎて清々しいわ……
理事長はいよいよ変身ですか。サジタリウス・ゾディアーツの強さを見られるか。というかさっくりと再契約・大井切り捨てもさっそく視野に入れてるあたりが彼らしい。
絵理ちゃんにその敵たるチェーンソー男、さらにはクラムベリーも小学校に向かい、火が大きくなりますねこれは
輝子とばいきんまんのやり取りに癒される……味方のばいきんまんは本当、安心感があるなあ。
しかし今回は特に、藻屑の独白と彼女のささやかな願いの覗いた下りが印象的でした。


259 : きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの ◆PatdvIjTFg :2015/12/05(土) 12:32:35 r9B1QmLw0
投下させていただきます。
感想は2ls氏と合わせて後ほど


260 : きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの ◆PatdvIjTFg :2015/12/05(土) 12:33:17 r9B1QmLw0



「君、そうそこな君、すこし待ちなさい。そこは瘴気が充満している」

これからどうするか――つまるところ、このさいはて町から脱出するために、
チェーンソー殺人鬼と再遭遇するリスクを犯して、おそらく辿っていけば外に出られる可能性が高いであろう線路の跡へと行くか、
あるいは、リスクを抑えて今自分がいるまんなか区を探索することで脱出方法を探るか。
結局のところ、アサシン――ウォルターは後者の選択肢を選んだ。

つまり、チェーンソー殺人鬼との戦闘をなるべく回避するため、
そして、用意した以上は少なくともこの世界のサーヴァントは――あるいは、また別の何か、は
少なくとも、自分ごと町人を巻き込んで攻撃する可能性は低いだろうという判断のもと
(もちろん、聖杯戦争に勝利するためならば町人のことなぞ無視することが一番だが、無視するぐらいならば最初から呼び出さなければ良い)
町人に話を聞きながら、まんなか区を探索して回ることを決めた。

おそらく、この町で唯一の学校――ヒトモノ学園が、まず最初に探索を開始した場所だった。
小中高一貫であり、あるいはマスターにとっては最大のカモフラージュになるかもしれない場所。
だが、部外者の侵入に特に制限は無いし、特に授業が行われている様子もない。
しかし部活動は熱心に行われている様子であり、特に科学部に関しては人体模型が恐ろしいという噂を聴くことが出来た。物理的に。

また、視聴覚室前に『ブリッジ男』なる怪異が出現するようだが、話を聞くにただの変質者としか思えない。
一人で視聴覚室前を歩いているとブリッジのまま超高速で近づいてくるらしいが、
女子相手だと下半身を向けて近寄ってくる辺りまさしく変態のソレであろう。
聖杯戦争とは無関係の存在であると位置づける――聖杯戦争と関係ある存在であっても、少なくとも今、戦うつもりはないが。

次に赴いたのは銀貨橋、ヒトモノ学園由来の購買部や、その他商人が常駐している。
如何にも怪しげな商人の売っているミリタリーグッズの中に複合装甲が混ざっているのは悪い冗談としか思えないが、
実際マスター同士の戦いならばともかく、サーヴァント同士での戦いでは役には立たないし、
マスター同士の戦いにしても、複合装甲は防具としては過剰すぎるし、そもそも行動不能になるだろう。
実際に悪い冗談でしかないのだ。

「人体は瘴気に晒されることで次第に蝕まれていく、実際危険だからね、
どうしても行かなければならない場合があるかもしれないけど、気をつけたほうがいいよ」
そして、住宅地、神社と探索を重ね、
そして如何にも怪しげな場所に足を踏み入れんとしたウォルターは見ず知らずのおじさんに忠告を受けている。

(……親切な話だ)

礼を言って、先へと進む。
瘴気の言葉通り、この先から雰囲気は実に厄いものがある。
その場所だけが夜になったかのように、外からは様子を窺えない。
だが、だからこそ行かなければならないだろう。
町があり、町人があり、そして、その町人がいる町のど真ん中貫いて危険の存在する場所がある。
考えるべきは、何故、わざわざ町中に存在しなければならないかだ。
何度も言うが、町人の安全を度外視するのならばそもそも町人が存在する必要は存在しない。
そして、町人が勝手に召喚される場合でも、危険地帯で勝手に死なれるよりも、自分で殺して魂喰らいを行ったほうが良い。
よほどのサディストでもない限り、自分の預かり知らぬ場所で無為に殺す必要はないのだ。

もちろん、自動的に魔力に還元されるような設置罠の可能性もあるが、
だとしても、一般人にすら理解できるようなあからさまな罠に誰が引っかかるというのだ。

故に、ウォルターは判断する。
目の前の場所は町中に存在しなければならないのではなく、町中に存在してしまった場所ではないか。
つまり、この世界そのものに生じてしまった綻びではないかと。
この広大な固有結界を長時間維持し続けて、何の問題が出ないかと言えば――その可能性は十分に有り得る、
だがサーヴァントの枠組みの中にある英霊がそれを出来るかと言えば、可能性は低い。

もう一つの世界を展開できるのならば、表の街で主従が最後の一組になるまで引き篭もっていた方が勝算は高いだろう。
それが出来なかったとしたら、どうだ。
チェーンソー殺人鬼を押し付けてきたあのサーヴァントや、それを追ってこの町へと入り込んだ自分のように、
この世界には完全に閉じることの出来なかった綻びがあるとしたら、どうだ。

全ては仮定だが、危険性の高い既知よりは、可能性の高い未知の方が良い。

まんなか区:近付いてはいけない場所 へとウォルターは足を踏み入れた。


261 : きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの ◆PatdvIjTFg :2015/12/05(土) 12:33:27 r9B1QmLw0


「おっかしーなー」
玲が外出してから、エンブリオ――ある少女は、さいはての守護者の"そうぞう"を開始した。
先のチェーンソー殺人鬼のように、強力なものを創るのならば、それなりにそうぞう力を働かせなければならない。
しかし、ここで問題が発生する。
創造出来る者もいれば、創造出来ない者もいるのだ。

紳士の昼食会に関しては――誰一人として成功しなかった。
紳士の昼食会に所属しないマホウ使い、金に汚い天使に関しては成功した。
制限と言うには、チェーンソー殺人鬼も金に汚い天使も強すぎるということは無いが、少なくとも紳士の昼食会よりも制限されるべきだ。

「……うーむ、全然わからん」
「逆に考えてみるとか、どうですか?」
「逆?」
宝箱の側に立つ、如何にも天使然とした金に汚い天使が話しかける。

「ここから先はクリエイティブでハイパーメディアなオピニオンになりますので有料ですが」
「……」
「持ってるでしょ、おぜぜ」
宝箱の中から放り投げるようにして放った小銭を、金に汚い天使は餌に群がる鯉のように必死こいて拾い集めてみせた。
その姿はまさしく金に汚い天使であった、天使ではなかった。

「何故、紳士の昼食会はそうぞう出来なかったのではなく、何故、私をそうぞう出来たか、で考えるべきでしょう。
つまり、私が必要だった理由を考えてみるなど……もちろん、私はお金のある人の味方です、それなりに」
「うーーーむ」

何故、金に汚い天使を召喚できたのか。
ある少女には全くもって、如何ともし難い疑問であった。
そもそも、さいはての番人と言うのならば、紳士の昼食会の方が相応しいが、彼女はそういうわけではない。
付き合いがあるかと言えば、まぁ知っている程度であってそれほど深い付き合いがあるわけでもない。
かつてのさいはて町の最果てを守護していたが、だとしても紳士の昼食会でいけない理由はない。

「紳士の昼食会は既にこの町に存在している……?」
可能性は低いし、既に存在しているというのならば、それを把握できてもおかしくはないとは思うが、
それでも一応の道理は立つ――最も、既にあるものを再度創造できないかと言えば、
かつてのさいはて町に商店街の番人というあるマホウ使いのコピーがいたために、疑問が残る。

「そうぞうはいつだって、自分の枠組みから飛び立って行くものです」
「まぁ、そうだね……してやられたからね……うん……?自分の枠組み……?」

その時、ある少女に電撃が走った。
そもそもがおかしいのではないか、開拓者の権限が3分の1になるのはただのサーヴァント化による制限だと思っていた。

だが、それならば――さいはて町は存在しうるのだろうか?
私一人だけで、あるいは他の開拓者が一人だけの力でさいはて町をそうぞうできるのか?
三人の開拓者による共同のそうぞうであるのならば、そもそもいまこの町がさいはて町という形のままでいられるのか?

権限は委譲されてしかるべきではないか?


いや、全てが勘違いだとしたら?


この町がさいはてならば、
ありえないことはありえない。



「開拓者は……本当に私一人しかいないのか?」

【???/さいはて町/1日目 午前】

【エンブリオ(ある少女)@さいはてHOSPITAL】
[状態] 魔力消費(中)
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:引きこもりながら玲を見守る。
1.さいはて町の守護者を作り、さいはて町を破壊から守る。
2.玲が緊急事態に陥った場合はさいはて町から出るのもやぶさかではない。
[備考]
※『チェーンソー殺人鬼@さいはてHOSPITAL』を召喚しました。さいはて町内の人気のない場所に現れます。強さは平均的なサーヴァントには劣る程度です。
※『金に汚い天使@さいはてHOSPITAL』を召喚しました。現在、特に指示は出していません。強さはチェーンソー殺人鬼よりも弱いぐらいです。
※紳士の昼食会を召喚することは出来ませんでした、原因は不明です。


262 : きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの ◆PatdvIjTFg :2015/12/05(土) 12:33:41 r9B1QmLw0



さいはて町と表の街を繋ぐ門は至るところに存在する。
門に辿り着いてさえしまえば、認識阻害が簡素な事も相まって出入りは容易い。
ただし、出入り口を発見するにはちょっとしたコツが必要となる。
誰かの家の玄関口、寂れた市街地の裏通り、雑木林を抜けた先、門はどこにでも存在するが、それ故に法則性が存在しない。
だから、どこに門があって欲しいか、それを考える。
きっとここにあったら素敵だろうな、という場所に不思議と門は存在している。

玲はそうやって、さいはて町と表の街の出入りを繰り返している。

世界は素敵だ、と玲は思う。
伸ばした自分の両腕よりも、両方の『町/街』はずっと広い。

スカートをふうわりとはためかせて、くるりと一回り。
特に意味もなく走ってみたり、特に意味もなく跳んでみたりする。
体の調子はばっちりだ。

ヒトモノ学園の女子トイレの三番目の個室は門の一つだ。
さいはて町から出てすぐに高校ならば、遅刻することはない。
じゃあ、高校に繋がる門はどこにあるんだろう――きっと、ヒトモノ学園にある。

思った通り、高校に繋がる門はヒトモノ学園にあった。
唯一当てが外れたのは、今から高校に向かっても遅刻するということだけだ。
そして、実際――今日の玲は授業を受けるつもりはなかった。

授業そのものは受けたり、受けなかったりしている。
記憶を奪われた影響か、授業の難易度が凄まじいということもあるが、そもそも高校に通う必要性は存在しないのだ。
それでも、なんとなく教室に行くのは――やはり、好きだから、なのだろう。高校の雰囲気そのものが。
街をふらふらとしていても、昼食時には引き寄せられるように学食に寄ってしまう。

そして今日も、とりあえず高校に寄ってから――街の散歩を始めようと思う。
どうしても、なんとなく、好きなようで、高校に引き寄せられるのだ。

女子トイレの扉をノックする。返事はないだろうが、念のためだ。
コツン、コツン。案の定返事はない。
扉を軽く引く、音もなくゆるやかに開く。

「…………」

まっすぐと歩く、それだけで本来ならばトイレがあるべきこの小さな小部屋は――高校への通路となる。
途中にあるべき標識も、妖精も、玲は見なかった。
ただ、途中で蜘蛛の巣のようなものを見た気がした。

【D-2/高等学校/1日目 午前】

【玲@ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス】
[状態] 健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:街で日常生活を楽しむ。聖杯戦争を終わらせたくない。
1.街に出て散歩する。
[備考]
※聖杯戦争についてはある程度認識していますが、戦うつもりが殆どありません。というか、永遠に聖杯戦争が続いたまま生活が終わらなければいいとすら思っています。


263 : きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの ◆PatdvIjTFg :2015/12/05(土) 12:33:51 r9B1QmLw0


EXダンジョンLv1:不思議の国のアナタ
注:この場所には瘴気が充満しています

瘴気の渦巻く空間、そこにウォルターが足を踏み入れると、世界そのものががらりと姿を変えてしまった。
周囲に広がるのは、先程までの牧歌的な町の光景ではない。
バネ足ジャックより数十年後に描かれた児童小説――ふしぎの国のアリス。
その幻想的な世界が現実に再現されたかのように、
不思議な国の挿絵に登場する植物が、トランプが、あるいは――ふしぎの国のアリスという本そのものが、壁を作っている。
バネ足ジャックよりも高い壁だ――もちろん飛び越せぬことはないだろうが。

誰もが確信するであろう、これがさいはて町の出口であるはずがない。
あるいはキャスターの陣地のように、よりたちの悪いものである、と。

己の推測は間違っていたのだろうか、ウォルターはさいはて町へと引き返す。
何の障壁もなく、元のしらぬい通りへと戻る。

今のところは、危ない橋を渡るつもりはない。
だが、どうしても気になってしょうがない。

先程の場所は、どうしようもなく雰囲気が違う。
無くしたピースの代わりに、他の絵から持ってきて無理やりはめ込んで完成させたジグソーパズルのような、そんな違和感。

ただの勘だ。
そもそもこの空間に関しては何もわからない以上、推測にもほとんど意味は無い。
まだ、まんなか区の探索も途中だ。
出口を探し、この町からすぐに抜け出すべきだ。

ウォルターは跳ねるように移動を再開した。

【???/さいはて町・まんなか区/午前】

【アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)@黒博物館スプリンガルド】
[状態] 健康、スキル「阻まれた顔貌」発現中
[装備] バネ足ジャック(バラした状態でトランクに入っていますが、あくまで生前のイメージの具現であって、装着を念ずれば即座にバネ足ジャックに「戻れ」ます)
[道具] なし
[所持金]一般人として動き回るに不自由のない程度の金額
[思考・状況]
基本行動方針:マスター(ララ)のやりたいことに付き合う。
1. この陣地(さいはて町)から脱出する。
2. 街で情報収集をしながら、他の組の出方を見る。
3. 夜までには帰ってきて、ララの歌を聴く。
4. 『チェーンソー男』『包帯男』に興味。
[備考]
※「フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。
※「バーサーカー(チェーンソー男)」及び「バーサーカー(ジェノサイド)」の噂を聴取しました。サーヴァントに関連する何かであろうと見当をつけています。
※街の地理を、おおむね把握しました。
※劇場の関係者には、ララの「伯父」であると言ってあります。
※キャスター(木原マサキ)の外見を確認しました。
※さいはて町の存在を認知しました。
※さいはて町の番人、『チェーンソー殺人鬼』を確認しました。『チェーンソー男』との類似を考えていますが、違う点がある事もわかっています。
※さいはて町・まんなか区の中心部にEXダンジョンを確認しました。


264 : きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの ◆PatdvIjTFg :2015/12/05(土) 12:34:02 r9B1QmLw0
投下終了させていただきます


265 : 名無しさん :2015/12/05(土) 16:59:50 bCdQe2ag0
投下乙です
>シュガー・ラッシュ
思惑渦巻く小学校に続々と主従が集結…理事長の変身といい、チェーンソー男のフラグといい、これはひと悶着なしにはすまなそうですね。
きの子に呼ばれてぷんすかしながら手を考えるばいきんまんの妙な頼もしさよ。渦中のアイドルたちをこの主従は救えるのか。
そして渦ならぬ泡を吐きながら聖杯戦争を見つめる藻屑ちゃん。ふとよぎらせた思いとは裏腹に、音楽家はきっちり戦乱の臭いを嗅ぎ付けて向かってますがどうなることやら。

>きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの
不可思議な町を探索する怪人。アリスより幾ばくか古い時代を生きた彼の視点からの町の考察が興味深いです。ある少女はある少女で己の世界の再現制限について思いめぐらすか。玲はしばらくはこのまま過ごすのかな。


266 : ◆PatdvIjTFg :2015/12/05(土) 18:18:58 r9B1QmLw0
中原岬&セイバー(レイ/男勇者)予約します


267 : 名無しさん :2015/12/05(土) 20:42:44 fZBQh6no0
投下乙です

>特に科学部に関しては人体模型が恐ろしいという噂を聴くことが出来た。物理的に。
巨大化してビーム撃って成層圏まで飛ぶもんな、仁太くん

あと女子トイレ三番目の個室ってアレか
レジスタンス鎮圧戦で佐々原が使用をためらった橘専用個室か

そしてQがさいはてに混じるとは思いもよらなかった。FOEが闊歩するとんだ魔窟だぜ、どうする桃本

最後に、あの学校の名前は『ヒノモト』でっせ


268 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:35:48 OWLTgcAE0
お待たせしました
申し訳ありません。諸事情によりルーラーだけ破棄して投下させて頂きます


269 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:37:29 OWLTgcAE0
「知世……ちゃん?」

さくらは呆然と呟いた。
考えなかったわけじゃない。自分の知っている誰かがマスターなのではないかという思いはずっとあった。
そんなはずはないとずっと言い聞かせていた。こんな戦いに駆りだされているのは自分だけなのだと信じた。
でも、ならばどうして今このタイミングで知世は屋上にいるのか。

「さくらちゃん?」

今まで聞いたことのない弱々しい声。目元は涙で濡れていた。封印の杖を握りしめていた手に思わず力がこもる。
壊れたフェンスを見ていたあいが振り向いて言った。

「なにがあったのか聞かせてくれる?」

その言葉が知世に言ったものだったのか、セイバーに言ったものだったのかはわからなかった。
だがどちらに言ったとしても意味はなかった。なぜなら――

「逃げてください!」

セイバーば叫び、そこから先はなにが起きたのかわからない。
気がつけばセイバーが白い服を着たサーヴァントに吹き飛ばされていた。
サーヴァントはあいの目前まで迫り、その手に持った槍を振り下ろした。


270 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:38:22 OWLTgcAE0





腕の力が緩み、きらりが身体を離す。それでも両手を杏の肩に載せたままだ。
その顔は涙と鼻水に濡れていて、アイドルとしてはちょっとどうかと思うくらいにあれだった。

――やっぱり、全部が嘘ってわけじゃないんだね。

杏はできればあのスレッドに書かれていること全てが嘘であってほしいと願っていた。
きらりが人を殺したことはもちろん、サーヴァントを持っていることも、いじめられていることも、もっといえばこの街にいるということも。
でもやっぱりそう甘くはないらしい。きらりはこの街にいた。様子からして相当つらい目にあってきたのも間違いないようだ。
本当ならこんな状態のきらりにはなにもして欲しくない。二人で――たぶんランサーもいるけど――家に帰ってだらだらと過ごしたい。
だけどそういうわけにもいかない。今は聖杯戦争の真最中だ。
杏だけならともかくきらりも関わっているなら、だらだらする暇はない。

確認しなければいけない。きらりはマスターなのか。
それから奥にいる「よかったねえきらりちゃん」と言いながら涙ぐむギャルと、なにかのコスプレのような格好のサーヴァントはなんなのかも。
さっきから通行人がこっちを見ている。道の真ん中で少し目立ちすぎた。
杏は視界の端に捉えたオシャレな喫茶店を指差して言った。

「取りあえずあの店に入らない?」


271 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:39:19 OWLTgcAE0





「杏ちゃんも……マスターなの?」

オシャレなのは外観だけだった喫茶店の中、四人掛けのボックス席に座って杏は頷いた。
チラッと真横の様子を伺う。そこに座るコスプレランサーはなんの反応も示さない。正直ホッとした。
きらりが座ったあと即座に隣りを陣取ったギャルに「あなたマスターなんですよね? 私もそうなんです」と言われて、
きらりの手前、嘘をつくわけにもいかず、頷いたがこれでいきなり襲いかかられたりしたら、うちのランサーではどうしようもなかった。

きらりはショックを受けている――のだと思う。俯いている。
当たり前だ。誰だって友達に戦場にいてほしくはない。杏だってそうだし、優しいきらりは特にだろう。
なんとなくきらりの雰囲気に違和感を感じるが、たぶん気のせいだ。
そんなきらりの沈んでいるのを知ってか知らずか、ギャルが元気よく声を上げた。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。
私はきらりちゃんの同級生の江ノ島盾子っていいます。そっちの超絶かわいい子がサーヴァントのランサー。二人共きらりちゃんの友達です」

悪人ではなさそうだが、どうにも間が抜けている感じがする。
やっぱりこの少女が掲示板に『今からきらりちゃんと一緒に小学校に行きます』と書き込んだのだろうか。
最初に見たときも三人は小学校の方向に向かっていた。それならきらりの知り合いだった杏をマスターと判断したも納得がいく。

「初めまして」

優しげな笑みを浮かべるコスプレランサーはマスターに反して、只者ではないオーラがにじみ出ている。
「もう友達がいたなら焦って探す必要もなかったにゃー」とか念話で言っているうちのランサーとはえらい違いだ。

(まだあの二人が信用できるかわかんないよ)

杏も念話で自らのサーヴァントに釘を刺す。

(あの二人、嘘ついてるのかにゃ?)
(それがわかんないから、信用できるかわかんないって言ってんの)

印象でいえばどちらもいい人そうだが、人を見る目に自信があるわけでもない。

「初めまして。きらりと同じ事務所に所属してる杏だよ」
「事務所?」

杏が口にした単語に盾子が首を傾げた。
まるでそれを待っていたかのようにきらりが突然顔を上げた。

「そ、そうだにぃ。杏ちゃんときらりはぁ、同じ事務所に所属してるアイドルなんだにぃ☆」
「アイドル!? すごーい!」

盾子は無邪気に驚きながら拍手をしている。
きらりはいつもテンションが高いが今は少し無理に上げているような気がした。
そのままにしておくのも嫌だったので杏は先ほどの疑問を口にする。

「ところでさあ、あの掲示板に書き込みしたのって盾子ちゃん?」


272 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:39:43 OWLTgcAE0

盾子の表情が凍りついた。きらりはなんの話かわかっていないようだ。
こっちを向いて「杏ちゃん、掲示板ってなんのお話?」と聞いてきた。
盾子は人差し指を口に当てて、杏に所謂『しーっ』をした。それで彼女の表情が凍りついた理由がわかった。
きらりは掲示板のことをなにも知らないのだ。そして盾子も話していない。知ればきらりが傷つくと思って――少なくとも表向きの理由としては。

その予想は間違っていないだろう。だけど本当に隠しておくのがきらりのためになるんだろうか。杏は考えた。
どのみち聖杯戦争が続けばいずれ知ることだ。もしかしたらそれは致命的なタイミングで訪れるかもしれない。
今のうちに教えた方がきらりのためにはいいではないだろうか。
杏が話題にしたのは『きらりさん、見てますか』スレッドの方だ。
しかし説明するには『みんなのアイドル 諸星きらりだにぃ☆』の方も見せなければいけないだろう。
杏は悩んだ末、全てきらりに話すことにした。
自分のケータイで『みんなのアイドル 諸星きらりだにぃ☆』スレッドを開いた。

「このスレッドを立てたのが盾子ちゃんって言ってるわけじゃないけど」

と前置きしてきらりに渡す。
ディスプレイを見るきらりの顔がみるみるうちに青ざめていく。杏は胸がチクチク痛んだが、きらりのために必要なことだと自分に言い聞かせた。
そのとき、横からディスプレイを覗いていた盾子が呟いた。

「改めて見るとこれってきらりちゃんがアイドルって知ってる人が書いたみたい」

自然に口に出たといったふうな、特別な意図を感じさせない声だった。実際そうだったのだと思う。
スレッド内での使い方はどうあれ、きらりをアイドルと称しているのだから、知っているのは間違いないだろう。
しかしそんなことはきらりの知り合いやファンじゃなくても、テレビか何かできらりを見た人ならわかることだ。
だから杏は気にしていなかったし、盾子も気にして言ったわけではないと思う。
だが――

杏は確かに見た。その言葉を聞いた一瞬、きらりが怯えたような表情でこちらに目を向けたのを。

――ああ、そっか。

自分がマスターであることをきらりに告げたとき、なぜ違和感を感じたのか今わかった。
きらりは心のどこかで喜んでいたのだ。
傷ついてほしくない友達がいることに喜びを感じてしまいながら、その相手すら完全に信じることはできない。
それほどまできらりの心は擦り切れてしまったのだ。
杏にきらりを攻める気は毛頭ない。むしろきらりがそんな状態になるまでなにもしなかった自分が不甲斐なかった。
きらりがそんな状態になってしまった現状が悲しかった。


273 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:41:13 OWLTgcAE0





(ねえねえ、二人の友情が私に壊されないよう頑張るつもりだったんだよね?
私がなにかしでかさないか注意してたんだよね?
私はほとんどなにもしてないのに、早速亀裂が入っちゃったよ(笑)。ねえ今どんな気持ちどんな気持ち?)

表では心底きらりを心配するような素振りをしながら、江ノ島盾子が念話で言った。(笑)まで音にして。
心を読める魔法なんて持っていないはずなのに、まるできらりの考えていることが全てわかっているかのように。

(諸星きらりがアイドルだって知ってたの?)

無視して自分の疑問だけをぶつける。

(知ってたわけじゃないよ。予想しただけ。なんとなくそんな気がしたんだよねえ。
ほら私クラスメイトの一人がアイドルだし、超高校級のギャルとして知り合ったアイドルも多いし)

そんな情報は初めて聞いた。しかしそれだけで会ったこともない人間の職業を予想できるものだろうか。
できるかもしれない。江ノ島盾子なら。

ランサーには今もきらりの心の声が聞こえいる。
友達を疑ってしまったことへの罪悪感。そのせいで嫌われてしまうのではないかという怯え。そして疑いを捨てきれない恐怖。
きらりだってスレッドを立てたのが杏だと本気で思っているわけではないだろう。ただ信じきることができない。
信じられるはずの友達が相手であっても、もしかしたという思いが拭い切れないのだ。
不安を必死で隠そうとしているきらりの姿は痛々しくてたまらなかった。

(あ、先に言っとくけど、この件に関してアタシを恨むのは筋違いだから
きらりちゃんのメンタルボッコボコにしたのはアタシじゃなくて苛めっ子だから。恨むんならそっち恨んでね)

人から恨まれて嫌がるような性格でもないだろうに。
相手にするのも面倒でランサーは無視したが、江ノ島盾子は構わず続けた。

(ねえどう思ってんのランサー。アンタは当初きらりはクロだと判断して、アタシがスレッド立てんのを見逃した。
今はシロに鞍替えしたみたいだけど、もし本当にクロだったとしたらアンタはきらりを攻めんの? それだけの価値が苛めっ子の命にあったの?)
(……なにが言いたいの?)

ランサーは聞いたが今度は江ノ島盾子が無視した。


274 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:42:55 OWLTgcAE0

(苛めっ子だけじゃない。小学生の連中もそう。
アンタは蜂屋あいだけが悪いと思ってるみたいだけど、死神様を使ってんのも、使ったやつを処刑してんのも他の生徒だよ。誘導はあるにしろね)
(……まだ子供でしょ)
(だから更生の余地はあるって?
じゃあ蜂屋はどうなの?
アンタできるならアイツを殺したいって考えてるよね?
なんで蜂屋だけ例外なの?
放っておくて犠牲が増えるから?
犠牲を減らすためなら子供でも殺していいってこと?
まさかたった一度あっただけで更生の余地なしってわかったわけじゃないよね?
いやむしろそう思いたかったのかな?
そりゃそうだよね。ただでさえマスターなせいで私を殺せないのに、他の奴の面倒まで見る暇ないもんね。
でもそれって自分の都合で蜂屋あいの命を軽く見てるってことじゃない?)
(違う、私はっ……)
「なに……あれ」

江ノ島盾子の声。念話ではない。肉声だ。
窓の外を見ている。空高く、小学校の屋上の辺り。ランサーには見えた。誰かが宙に浮き、光る槍のようなものを屋上へ撃っている。

「あそこって小学校の辺りだよね? もしかしてなにかあったのかな?」

江ノ島盾子が心配そうに言った。

(噂をすればなんとやら。どうするランサー?
様子を見に行って私を野放しにする? それともどんな酷いことになってるかわからない小学校を放置して私を見張る?)

挑発的な言葉には惑わされない。
こういう場面での長考は手遅れな事態を招く。ランサーは二秒で結論を出した。

「私が様子を見てきます。あなたたちはここを動かないでください」

なにか言おうとした杏を待たず、直ちに霊体化する。壁をすり抜け宙を進み小学校を目指す。

(あの場所には留まるよう言っておいた。すぐに戻れば江ノ島盾子にも大したことはできないはずだ。……とか思ってる?)

相変わらず心を読んだかのような江ノ島盾子の念話が聞こえた。

(確かにアンタの思惑通り大したことにならずにすむかもしれない。
でも本当はこう考えたんじゃない?
小学校ではなにが起こっているかわからない。もしかした人が死ぬかもしれない。
だけどきらりちゃんは放っておいても、最悪メンタルがボロボロになるだけで済む、って。
さっきの話と同じ。なんかのために別のなんかの優先順位を低くしてる。
いや別にいいと思うよ? どのみち両方助けるなんてできるわけないし。蜂屋だって生きる価値ない屑だと思うし。
ウダウダ悩んでるよりキッパリどっちか捨てるほうが楽だもんねえ。でもさ、それって魔法少女としてはどうなわけ?)
――うるさい。

念話で言ったわけではない。心の中で思っただけだ。だがそれ以降江ノ島盾子からの念話はなくなった。


275 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:43:25 OWLTgcAE0





先ほど槍の影響か、屋上はあちこちが砕け、破片が飛び散っていた。フェンスも何箇所も壊れている。
事はすでにランサーが来る前に終わっていた。ここにいるのは戦いの心得はまったくなさそうな少女と戦う気がなさそうなサーヴァントだけ。
霊体なので心の声は聞こえないが、争いを起こす気配はない。
巻き込まれて怪我をした一般人もいないようだった。
少女が悲しそうにしているのが気がかりだが、ランサーが出張るような場面ではないだろう。

――長居は無用。急いで江ノ島盾子たちのところに。

そう考えたとき、、ギイィ、と扉の開く音がした。何気なく視線を向けて、ランサーの動きが止まった。
出てきたのは玩具の杖のような物を持った、見知らぬ少女。ともう一人。
蜂屋あい。

予測しておくべきだった。小学校で騒ぎが起きたのならその場に彼女がやってくることは考えて然るべきだった。
いやむしろ彼女が騒ぎの元凶という事態を想定してもいいくらいだ。
冷静さを失っていた。認めたくないが江ノ島盾子に心をかき乱されていた。しかしこの状況はチャンスでもある。

もとより蜂屋あいはどうにかするつもりだった。
江ノ島盾子との会合のときを予定していたが、江ノ島盾子の手に令呪がある以上、容易でないのは明らかだ。今ならそれはない。
いくら心の声が聞こえるかのようにこちらの考えを見透かすあいつでも、見えないところで、どの時間に、なにが起こっているかまではわからないはずだ。
危険は大きい。だがやる価値はある。

杖の少女と屋上にいた少女は互いの存在に驚いているようだった。
蜂屋あいはその二人に気を使っているかのように、屋上の変わりようを確認している。
今ならフェンスが敗れて空いた隙間の前に立っている。逃げ道もない。
やるならここしかない。

『自分の都合で蜂屋あいの命を軽く見てるってことじゃない?』

江ノ島盾子の言葉が頭に浮ぶ。違う。そんなつもりはない。
どんな悪人だろうと命は命だ。殺さなくて済むならその方がいい。
だけど世の中にはなにがあろうと絶対に変わらない悪というものがある。ランサーはそれを嫌になるほど見てきた。
蜂屋あいは間違いなくその手合だ。一度あっただけだがわかる。経験でわかる。
脳裏に占い師の姿をした魔法少女の姿が過る。

――生かしてもおいても犠牲が増えるだけだっ。


276 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:43:52 OWLTgcAE0

ランサーは実体化すると同時、蜂屋あい目掛けて駆けた。周りにいる者の心の声が聞こえる。
袴を着たサーヴァントが逃げろと叫んだ。ランサーの前方に立ち刀を抜く。彼女は自身よりもマスターである杖の少女が傷つくことを恐れている。
蜂屋あいのサーヴァントは現れない。なぜ? 今はどうでもいい。とにかく障害は袴のサーヴァントだけ。

ランサーは速度を緩めることなく、地面に散らばる破片の一つを杖の少女狙って――正確には僅か上を狙って――蹴った。
一瞬で正確な起動を見切ることはできない。袴のサーヴァントは杖の少女を守るために移動。
ランサーは視線を飛ばしながら空いた道を走る。
右手にルーラを出現させ、蜂屋あいを――

――いや。

想定よりもセイバーの動きが速い。破片を弾き終え、背後からこちらに来ているのが心の声でわかる。
ランサーは進行方向は変えずに振り向く。左手に四次元袋を持ち、袴のサーヴァントが攻撃しようしている場所――首に前に構える。
放たれたのは瞬速の突き。ランサーでも反応できるか怪しい凄まじい速度。だが来る場所がわかっていればどうということはない。
突きは四次元の中に吸い込まれる。ランサーは相手の腰にルーラの峰を掬い上げるようにぶつけた。
思ったよりも軽い。そのまま振りぬき屋上の外へと殴り飛ばす。

再び振り向いて蜂屋あいを視界に捉える。
ルーラの射程圏内。今更サーヴァントを出しても間に合わない。後ろには地面がない。
彼女にしてみれば絶体絶命の状況。なのに相変わらず心の声は聞こえない。
グリムハートのように何らかの能力を使っているのか、江ノ島盾子のように全てを受け入れているのか、あるいはよほど感情が希薄なのか。
いずれにせよ終わりだ。
蜂屋あいは、ここで死ぬ。
ランサーは両手でルーラを握り、振り下ろした。

――しかし、蜂屋あいは死ななかった。

特別なことが起きたわけではない。ただ蜂屋あいが一歩後ろに下がっただけだ。
当然の帰結して彼女はルーラに切り裂かれることを免れる。そして当然に帰結として屋上から後者の裏へと落下した。
予想外の事態にランサーの動きがほんの僅かに硬直する。その瞬間、一人の少女がランサーの横を駆け抜けた。

「あいちゃん!」

杖の少女が蜂屋あいの後を追って飛び降りる。ランサーは慌てて手を伸ばすが届かなかった。
少女は地面へと向かいながら高らかに叫んだ。

「翔(フライ)!」

少女の叫びに呼応するように杖から魔力が迸り、翼の形を成した。少女は杖の上に跨がり、急降下。
蜂屋あいに追いつき、彼女を抱きとめる。そして、翼をはためかせて宙を舞った。
光る翼に乗って空を飛び、消え行く命を助ける。その姿はランサーが昔みたアニメのキャラクターのようだった。
かわいくて、優しくて、強くて、勇気があって、絶対に諦めない少女。
姫川小雪が憧れ、目指し、実現させ、だけど遠い存在になってしまったもの。

「魔法少女……」

呟いた。
数秒。ランサーは、少女が地面に蜂屋あいを下ろすのを見て、自分が動きを止めていることに気づいた。

――なにをぼうっとしているの、私は。

屋上から飛び上空から蜂屋あいを強襲する。だがこちらを狙う声が聞こえた。
横から飛来物が来ていることに気づき、弾く。それは拷問や処刑などに使われる、持ち手が二つついたノコギリだ。
息をつく暇もなく次々と飛来する。金髪の少女が生み出し、袴のサーヴァントが投合している。
ランサーはノコギリを弾き続けなら着地。衝撃で蜂屋あいからは大分ずれた。
背後にアイアンメイデンが現れる。跳躍して後ろに回りこむ。
ルーラを使って二体のサーヴァントに向かって打った。軽々と避けられたが、もとから当たるとも思っていない。
攻撃が止んだ隙にランサーは霊体化して、この場を離れた。
相手はサーヴァント二人に魔術らしきものを使うマスター一人。最初の襲撃で倒せなかった以上、戦いを続けるのは分が悪い。


277 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:44:44 OWLTgcAE0





「さくらちゃん、また助けて……」
「ごめん、待って!」

襲ってきたサーヴァントが消えてすぐ、さくらは杖に乗って屋上へ向かった。
気がかりなのはたった一人の大切な親友。さくらは知世があんな風に泣くのを初めて見た。
本当は一秒だって放っておきたくなかった。どうして泣いているのかも、自分になにかできるのかもわからなかったが、何かしてあげたかった。

「知世ちゃん!」

さくらが屋上についたとき、そこには大道寺知世の姿はなかった。





セイバーには自分がこうして無事でいることが不思議だった。
屋上での戦い。渾身の突きがまるで予めわかっていたかのように完璧に防がれたとき、自分の命は終わると思った。
実際あのサーヴァントにはそれができたはずだ。だがしなかった。必殺の機会を得ながらセイバーを斬ることなく峰打ちに止めた。

思い返してみればあのサーヴァントは蜂屋あいだけを殺そうとしていた節がある。
さくらへ破片を蹴ったのも前に立ちはだかっていた自分を動かすためのものではなかったか?

あいは屋上へいったさくらの姿を眺めている。
なんとなく、本当になんとなくだが――不愉快そうに見えた。





(サーヴァントを失ったマスター、無事確保したよ)
(そう。ありがとう)

アサシンからの報告を聞いて、なぎさは教室でひとり息を吐いた。
小学校の屋上に光が見えてすぐなぎさはアサシンを向かわせていた。与えた指示は二つ。
チャンスがあればサーヴァントを殺すこと。サーヴァントを失ったマスターがいたら連れてくること。
どちらも自分の安全の最優先を前提としてだ。アサシンは後者に成功した。

聖杯戦争もまだ序盤。この段階でサーヴァントを失ったマスターなら令呪を持て余している可能性が高い。
それを貰うことができればフェイト・テスタロッサを捉えるよりも遥かに安全、かつより多くの令呪の手に入れることができる。
ただ、相手はまだ小学生だという。もし交渉しても渡してくれなかったとき、小さな子供相手に自分は強引な手段に出れるのだろうか?
いや、出なければならない。令呪は絶対命令権だけでなく、サーヴァントの力を高める効果も持っている。数が多ければあるだけ有利になる。
なぎさはどんなことをしても海野藻屑を生き返らせると決めた。素直に渡さなければ脅迫や拷問をしてでも奪うだけだ。

敵は甘くない。アサシンが見た白いサーヴァントなんて、気配を消しているアサシンの方を睨んで牽制したきたという。
情に流されている余裕なんてない。あの過ぎ去った日々を取り戻すために。





本当にこれでよかったのか。ランサーにはわからなかった。
屋上にいた少女のことだ。彼女を一人にすればアサシン――気配を消していたのだからおそらくそうだろう――に連れ去られることはわかっていた。
わかっていたのに放置した。

蜂屋あいのサーヴァントらしき金髪の少女は屋上の少女に興味を持っていた。
蜂屋あいや江ノ島盾子ほどではないが心が読みにくく、イマイチ要領を得なかったがそれは間違いない。屋上で姿を表さなかったのもその辺が関係しているのだろう。
二人を会わせないためにはアサシンに連れて行かせるしかなかった。だがそれが理由ではない。
それがわかったのは屋上を降りてからだ。

ランサーは蜂屋あいを殺すことを優先するために少女を見捨てた。
アサシンの目的が令呪だけだったから。大人しく渡さなかったらどうなるかわからないのに。
あの杖をもった少女は屋上の少女と親しいようだった。屋上から友達の姿がなくなっているのを見たらなんと思うだろう。

彼女は蜂屋あいが落ちたとき、救う方法を考えるよりも先に飛び降りた。計算や打算などなにもなくただ助けたい一心で。
今の自分にあれほどただ純粋に人を助けたいと思っているだろうか。
蜂屋あいを殺すのは正しいことだと思い、ランサーはそのために別のものを切り捨てた。
本当にそれだけだったか。あのとき蜂屋あいと他の誰かを重ねなかったか。
正しいからではなく、自分の中の怒りや憎しみをぶつけるために蜂屋あいを殺そうとしたのではないか。
ランサーはいま江ノ島盾子たちのところに戻ろうとしている。本当にそれでいいのだろうか。

『それって魔法少女としてはどうなわけ?』

江ノ島盾子の言葉が頭に響く。


278 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:45:06 OWLTgcAE0

【D-3/汚い喫茶店/1日目 午後】

【双葉杏@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]携帯ゲーム機×2
[所持金]高校生にしては大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:なるべく聖杯戦争とは関わりたくなかったが
1.諸星きらりたちとこれからどうするかを話し合う
2.江ノ島盾子とそのサーヴァントのことは信用していないが特別疑っているわけでもない
3.少女(大井)を警戒。どうするべきか。
[備考]
※大井と出会いました。大井を危険人物(≒きらりスレの>>1)ではないかと疑っています。
※『今からきらりちゃんと一緒に小学校に行きます』と書き込んだのは江ノ島盾子ではないかと考えています

【ランサー(ジバニャン)@妖怪ウォッチ】
[状態]健康
[装備]のろい札
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:なんとなく頑張る
1.双葉杏に付いて行く

【諸星きらり@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ版)】
[状態]精神的疲労(微)、魔力消費(中)
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:バーサーカーを元に戻し、元の世界へと戻りたい
[備考]
※D-4に諸星きらりの家があります。
※江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。そして、江ノ島盾子を信用しています。
※三画以上の令呪による命令によって狂化を解除できる可能性を知りました(真実とは限りません)
※フェイト・テスタロッサの捕獲による聖杯戦争中断の可能性を知りました(真実とは限りません)
※ルーラーの姿を確認しました
※掲示板が自分の話題で賑わっていることをしりました

【悠久山安慈@るろうに剣心(旧漫画版)】
[状態]霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
[備考]
※雪華綺晶の存在を確認しました、再会時には再び襲いに行く可能性があります。
※江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。
 スキル『こころやさしいひと』の効果できらりの精神の安定に江ノ島盾子&ランサーが役に立っていると察知しイレギュラーが発生。狂化中ですが敵意を向けられない限りこの二人を襲いません。

【江ノ島盾子@ダンガンロンパシリーズ】
[状態]健康、涙で化粧が流れてる、小雪ちゃん(魔法少女育成計画最序盤)の真似中
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大金+5000円分の電子マネー(電子マネーは携帯を取り戻すまで使用できません)
[思考・状況]
基本行動方針:絶望を振りまく
1.小雪ちゃんを待とっかどうしよっか
2.諸星きらりをプロデュース!
3.放課後になったら、蜂屋あいと会う
4.ケータイ欲しい……ケータイ欲しくない?
[備考]
※諸星きらりを確認しました。彼女の自宅の位置・電話番号・性格なども事前確認済みです。
※自身の最後の書き込み以降のスレは確認できません。
※数十分、もしくは数時間、あるいは数日、ひょっとしたら数年は同じキャラを演じ続けられるかもしれませんし、続けられないかもしれません。
※ランサーのスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対して順応しています。順応に気付いているかいないかは不明です。動揺しない限り尻尾を掴まれることはないかもしれません。あるかもしれません。


279 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:46:20 OWLTgcAE0
【D-2/小学校・校舎裏/1日目 午後】

【セイバー(沖田総司)@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚】
[状態] 疲労(中)、ダメージ(中)
[装備] 乞食清光
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: さくらのために
1.白いサーヴァントのことが気になる。
2.余裕があれば鞘を取りに行く
[備考]
※使わない間は刀を消しておけるので、鞘がなくてもさほど困りません

【木之本桜@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 疲労(中)、魔力消費(中)
[令呪]残り三画
[装備] 封印の杖、
[道具] クロウカード
[所持金] お小遣いと5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針: わからない
1.……知世ちゃん?
[備考]

【蜂屋あい@校舎のうらには天使が埋められている】
[状態] 疲労(小)
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 小学生としてはかなり多めの金額
[思考・状況]
基本行動方針: 色を見る
1.さくらの色をもっと見たい
2.江ノ島盾子に強い興味
[備考]

【キャスター(アリス)@デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(及び、アバドン王の一部)】
[状態] 魔力消費(小)、作っておいたトランプ兵は全滅
[装備] なし
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: オトモダチを探す
1.知世をオトモダチにしたい
2.さくらに興味
3.サーヴァントのオトモダチが欲しい
[備考]
※学校には何人か、彼女と視界を共有できる屍鬼が存在します
※学校の至る所に『不思議の国のアリス』への入口が存在しています
※不思議の国のアリス内部では、二人のアリスが遊園地の完成を目指して働いています


【D-2/小学校近く/1日目 午後】

【ランサー(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(小)、絶望(微)、ストレス
[装備]ルーラ
[道具]四次元袋
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り犠牲を出さずに聖杯戦争を終わらせる。
1.江ノ島盾子たちのところに戻るべきか否か
2.江ノ島盾子と蜂屋あいの再会時に蜂屋あいのサーヴァントを仕留める。
3.出来ることなら、諸星きらりに手を貸してあげたい。

[備考]
※江ノ島盾子がスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対応していることに気づきました。
※諸星きらりの声(『バーサーカーを助けたい』『元いた世界に帰りたい』)を聞きました。
 彼女が善人であることを確信しました。


280 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:46:50 OWLTgcAE0


【D-2/中学校・教室/一日目 午後】

【山田なぎさ@砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない】
[状態]健康、若干憂鬱(すぐに切り替え可能)
[令呪]残り三画
[装備]携帯電話、通学カバン
[道具]
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、海野藻屑に会う。
1.クロメが戻ってくるのを待つ
2.お人好しな主従と協調するふりをして、隙あらばクロメに襲わせる。
3.ただし油断せず、慎重に。手に負えないことに首を突っ込まないし、強敵ならば上手く利用して消耗させる。
[備考]
※掲示板を確認しましたが、過度な干渉はしないつもりです。


【D-2/小学校と中学校の間/一日目 午後】

【アサシン(クロメ)@アカメが斬る!】
[状態]実体化(気配遮断)中
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取る。
1.マスターのところに戻る
2.アサシンらしく暗殺といった搦手で攻める。その為にも、骸人形が欲しい。
3.とりあえずおとなしく索敵。使えそうな主従を探す。

【大道寺知世@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 気絶 アサシンに抱えられている
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] たくさん
[思考・状況]
基本行動方針: 街の人達を守る
[備考]
※死神様について調べていますが、あまり成果は出ていません
※サーヴァントを失ったため、ルーラー雪華綺晶に狙われています


281 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:47:56 OWLTgcAE0
投下終了です
期限超過と一部キャラの破棄、申し訳ありません


282 : ◆2lsK9hNTNE :2015/12/05(土) 23:48:33 OWLTgcAE0
忘れてました
タイトルは「過ぐる日の憧憬」です


283 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/06(日) 01:33:43 mase.obE0
感想は三作とも本日中に必ず

それより先に

木之本桜&セイバー(沖田総司)
大井&アーチャー(我望光明)
アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
ランサー(姫河小雪)
星輝子&ライダー(ばいきんまん)
蜂屋あい&キャスター(アリス)
大道寺知世
山田なぎさ&アサシン(クロメ)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)
ルーラー(雪華綺晶)
プレシア・テスタロッサ

日をおかずの即リレー・自己リレーを含みますが予約します


284 : 名無しさん :2015/12/06(日) 01:42:11 ZcdkXaQ60
うおおさらに投下が!乙です…!
これはまた濃い…何より盾子ちゃんが嫌らしすぎる…この人の会話芸というかをきっちり描けるのがすごい
小雪ちゃん、翻弄されてるなー…何というか、警戒怠ってないのにそれがために泥沼に嵌まりつつある感じが
さくらちゃんの姿に「魔法少女」を見るくだりが切ない…
そしてアサシンくんを失った知世ちゃんはクロメに…どうなってしまうんだ…


285 : 名無しさん :2015/12/06(日) 13:10:10 hxVCRCIc0
お二人共投下乙です

>シュガー・ラッシュ
あいも変わらず大井による清々しいくらいの長門ディスりっぷりがさすがです
しかし今回の彼女の手も理事長が言ってるけど結構悪手
しかも肝心の『諸星きらりの友人』は小学校に向かってないし
そして続々と小学校に向かう参加者たち。今の予約でどのような活躍をするのか非常に気になります。個人的には特にクラムベリーが
あとばいきんまんかわいい

>きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの
ウォルターによるさいはて町探索ですね。あるためて冷静に見られると突っ込みどころの多い街だ
まさか不思議の国のアナタまであるとは。F.O.Eや番人はいるのか、他のダンジョンがあるのかも気になります
そして紳士の昼食会の存在はどうなっているのか
さいはてHOSPITALで一番好きなキャラは樋口なので個人的には出てきて欲しいですが、あの人が登場すると聖杯戦争にガッツリ関わってきそう


286 : <削除> :<削除>
<削除>


287 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/12(土) 03:25:01 a5tSh6H60
書いていて間に合わないと判断したので期限まで一日ありますが予約を破棄させていただきます


288 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/21(月) 00:43:35 PAib5.eU0
大井&アーチャー(我望光明)
アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
ランサー(姫河小雪)
星輝子&ライダー(ばいきんまん)
大道寺知世
山田なぎさ&アサシン(クロメ)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)

ルーラー(雪華綺晶)
プレシア・テスタロッサ

予約します

予約とは別の話になりますが、ちょうど一週間後の12/28はパロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレで少女聖杯語りがあるそうです


289 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/26(土) 04:05:54 4Lo4.ES60
追加で
フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)
キャスター(木原マサキ)
輿水幸子
も予約させてもらいます


290 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/12/27(日) 23:35:22 oCFNf7Uw0
大井&アーチャー(我望光明)
アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
ランサー(姫河小雪)
フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)
星輝子&ライダー(ばいきんまん)
キャスター(木原マサキ)
大道寺知世
山田なぎさ&アサシン(クロメ)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)
輿水幸子
ルーラー(雪華綺晶)
プレシア・テスタロッサ

予約から玲を外し、途中までですが投下させてもらいます


291 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:35:45 oCFNf7Uw0

―――
――










   ―――世界のどこかで、誰かがつぶやいた。

      「嵐が来るよ」と。





            ― ALL HAZARD PARANOIA ―






――
―――


292 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:36:14 oCFNf7Uw0


☆フェイト・テスタロッサ


「聖杯が欲しいか」

  突如現れた男は、藪から棒にそう尋ねた。
  男の体にはサーヴァントとしての存在を示すクラス名が浮かび上がって見えている。
  魔術師のクラス。キャスター。だがおかしい、クラス名とともに見えているステータスは、与えられたクラスと矛盾している。
  ステータスに、魔術師としての基本能力である魔力が存在していない。
  先ほどの一言といい、このステータスといい。そして何が面白いのかにやけたままの顔といい。
  何から何まで胡散臭い、それがフェイト・テスタロッサの魔力なき魔術師への第一印象だった。

「バルディッシュ、サイズフォーム」『Scythe Form』

  構えていたバルディッシュを近接戦闘形態であるサイズフォームへと変更する。
  ステータスを見るに、魔術師のクラスにふさわしく、戦闘能力は皆無に近いらしい。
  ならば当然、ここで斬って捨てる。
  胡散臭いキャスターを切り捨てれば、それだけで脱落者が一人増えるのだ。
  魔力を大きく消費しているが、その程度ならば造作も無い。飛んで火に入る夏の虫、というやつだ。
  夕闇を切り裂くような眩い閃光で刃が作り上げられる。
  出来上がったのは、まるで死神が持っていそうな鎌。魔力で形作られたそれは、当たれば、さしものサーヴァントも痛いでは済まない。

「ま、待ってください! 武器なんて―――」

  無謀にも間に割り込もうとした外ハネの少女を超速ですり抜け、バルディッシュを振りかぶる。
  少女は後回しでいい。所詮サーヴァントではないならば対処の方法はいくつでもあるのだから。
  キャスターは動きについてこれていないのか、それとも単にバルディッシュを侮っているだけか、微動だにしていない。
  どちらにしろ、都合が良かった。
  一撃で首を跳ね飛ばし、また一歩、聖杯に近づく。愛しいあの人の夢へと―――

  振りかぶった鎌が、風を食い破りながらキャスターの首めがけて放たれる。
  その時、キャスターの口が、たしかにこう動いた。
  『プレシア・テスタロッサ』と。


293 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:36:32 oCFNf7Uw0

  バルディッシュを振りぬくことは、できなかった。
  フェイトはバルディッシュの光の刃を、彼の首筋すれすれで止めてしまった。
  キャスターはまるでそうなることを最初から知っていたかのように不敵に笑い、そして三度、同じセリフを繰り返した。

「何度も聞かせるな。お前は聖杯が欲しいか、と聞いている」

  どるん。
  三度目の問いの丁度その時だった。
  三人だけの校庭に、唸るようなエンジンの駆動音が響いたのは。

  どるん、どるん、どるん。
  念入りに、念入りに、スターターロープが引かれ続ける。
  乱入者の気配に、フェイトはバルディッシュをキャスターに突きつけたまま目をきった。
  視線の先に、先程まで居なかったはずの人物が立っていた。
  黒ずくめの格好に、目ぶかに被ったフード。そして手に携えているのは大きなチェーンソー。
  更にその姿に、幾つもの情報が重なって見える。
  クラス名はバーサーカー。狂戦士のサーヴァント。
  ステータスは……目の前の胡散臭いキャスターよりも、フェイトのサーヴァントであるランサーよりも高い。
  何者かは分からない。ただ、その人物の危険性は一発で理解できた。
  そこに来て、ようやく自身の短慮に気づき、歯噛みする。
  いくら勝つためとはいえ、あれだけ目立つ戦闘は迂闊だった。
  あれだけ目立てば、いわゆる『やる気』の主従を引き寄せてしまってもおかしくない。目の前のバーサーカーもその類なのだろう。
  短慮な自分が苛立たしい。そばで忠言をくれるアルフが居ないのが口惜しい。


  どぉるるるるるるるるるるるるる。
  バーサーカーの携えているチェーンソーにエンジンがかかりきる。
  胡散臭いキャスター程度ならばフェイト一人でも対処が可能だが、目の前のバーサーカーはフェイトのキャパシティを大きく超えている。
  自身のランサーを出すことを考えたが、ランサーを出したところで戦況は変わらないだろう。
  ランサーは近接戦闘には向いていない。
  先ほどのアサシンとの一戦だって、相手の行動に陰りがなければ宝具を放つことすらできずにランサーのほうが負けていた。
  宝具を使えば立ち向かうこともできるかもしれないが、宝具を使えるほど魔力が残っていない。
  バルディッシュでの戦闘はバルディッシュ側の魔力補佐があるからまだいいが、サーヴァントを用いた戦闘はそうはいかない。
  フェイトに全ての負荷がかかる。もし今また、『残酷な天使の運命』のような大技を繰り出せばフェイトが魔力を供給できずにそのまま倒れてしまうだろう。
  そんな無様を晒せば、いい的だ。
  少なくともこの周辺にはチェーンソーのバーサーカー、胡散臭いキャスター、小学校に潜んでいる『死神様』を名乗ったエプロンドレスの少女・キャスターが存在している。
  さらに、このバーサーカーのように先ほどのフェイトたちの戦闘を見てこの周辺によって来る主従もいるだろう。
  そこまで考えを巡らせれば、方針はすぐに定まった。


294 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:36:48 oCFNf7Uw0


  じゃりと音を立ててバーサーカーが一歩を踏み出す。
  「ひ」と、名も知らぬ少女が声を上げた。それが合図だった。

「バルディッシュ、デバイスフォーム!」『Device Form』

  キャスターに突きつけていたバルディッシュをサイズフォームからデバイスフォームに変換。
  チェーンソーを構えたバーサーカーに光弾を放つ。
  これで倒せるとは思っていない。しかし、目くらまし程度にはなる。
  万全ではないこの状況、バーサーカーとの戦闘は避けるしかない。
  校門前の舗装道路に光弾が着弾し、衝撃波を撒き散らし、瓦礫片と煙を巻き上げる。
  胡散臭いサーヴァントの方から舌打ちの音が聞こえた。
  逆の方からは甲高い声で「ひゃいっ!?」という、場違いな可愛らしい悲鳴が聞こえた。
  瞬時に左右を確認すれば胡散臭いキャスターは顔を守るように片腕を持ち上げてバーサーカーの方を睨みつけ、少女は座り込んで両腕で頭をかばっていた。
  どちらも即座に動き出す様子はない。
  光弾を放ったフェイトだけが、そのまま意識を集中して宙へと浮き上がろうとする。

  どぉるるるるるるるるるる――――――!!!

  煙幕の向こうから、斜めに構えたチェーンソーで二度、三度と舗装道路を削りながらバーサーカーが飛び出してきた。
  進行方向からして狙いはまっすぐにフェイト一人だ。


295 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:37:14 oCFNf7Uw0


  迫るバーサーカーを前に、空へと舞い上がる。
  チェーンソーはフェイトのバリアジャケットの裾を払い、大きく空を切った。
  バーサーカーの千載一遇のチャンスのように思えたが、飛び込まない。
  果たして、チェーンソー男は二拍も間をおかずにすぐに体勢を整えた。
  もし、無策に突っ込んでいたらきつい一太刀を浴びることになっていただろう。
  少しだけ冷静になれているのを確信しながら、さらに高くへと舞い上がる。

  空中を移動できるというのは戦闘においてそのままアドバンテージになる。それが自由移動が効くというならばなおさらだ。
  相手が空中に対する戦法を持たないかぎり逃げれば不可侵の領域となり、攻撃に転ずれば即座に不可視の堅牢な砦と化す。
  しかし、バーサーカーはそのアドバンテージすらも、狂化による身体能力の向上でやすやすと乗り越えた。
  チェーンソー男は、空を飛ぶでも、遠距離用の攻撃に切り替えるでもなく、ただ、跳び上がった。
  その跳躍は、やおら舞い上がったフェイトをゆうに超えるほど高い。もはや人が至った英霊と呼ぶよりは、その枠を超えた一個の怪物と呼ぶに相応しい。
  夕暮れで真っ赤に染まった小学校の校舎を背負い、バーサーカーが宙を舞う。
  そのチェーンソーの軌道の先には、当然フェイトの身体があった。
  フェイトは構えているバルディッシュを握りしめ、
  飛行が安定した速度を出せるようになるまではまだ数秒要する。その一撃は、なんとしても届かせてはならない。。

『Photon Lancer』

  フェイトはその数秒のために空に光球を展開し、槍のように尖らせて放った。数本の槍が跳び上がったバーサーカーの脚に、肩に、突き刺さる。
  しかし、バーサーカーは止まらない。
  身をよじることもなく真正面から光の槍を受けきって、唐竹割りの構えでチェーンソーを持ち上げている。

「バルディッシュ!!」『Yes Sir』

  間一髪サイズフォームに切り替えて、チェーンソーを受け止める。
  魔力の刃とチェーンソーの歯、二つが一瞬咬み合って耳障りな音をかき鳴らす。
  均衡は一秒も保たれない。フェイトが力負けし、バルディッシュが弾かれてしまう。
  空中で体勢がぐらついたフェイトの身体をチェーンソーが掠める。受け止めた分だけ歯がずれて、必殺の唐竹割りを往なしきったようだ。
  チェーンソーを避けた勢いそのままに、更に高みへと飛び上がろうとするフェイト。しかしバーサーカーはまたしても逃亡を許さない。

「なっ―――!?」

  バーサーカーは超人的な身のこなしで身体をねじり、腕を伸ばし、今にも飛たたんとするフェイトの脚をその豪腕で握りしめたのだ。
  フェイトの飛行は魔力による飛行なので地面に引きずり降ろされるようなことはない、だが、片足に大きく負荷がかかれば安定した姿勢を保つことは難しい。
  更に言えば、脚を捉え逃げ道を塞いだのが見敵必殺のバーサーカーである以上かかるのは負荷だけでは済まない。


296 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:37:31 oCFNf7Uw0


  どるるるるん。どるるるるん。
  フェイトが掴まれた右足を見れば、そこには、片手でチェーンソーを垂れているバーサーカーの姿が目に入った。
  ぶらり、ぶらり、チェーンソーが揺れる。それはまるで振り子のように。
  瞬間、『片手でチェーンソーを振り上げてフェイトを切断しようとしている』と察したフェイトは、すぐに次の行動に移った。

「こ、のっ!!!」

  フェイトの策は単純だった。
  飛行に回していた魔力を切り、逆に地面へと向かう推進力に変えたのだ。
  結果、バーサーカーはチェーンソーを跳ね上げるよりも早く、地面にたたきつけられる事となった。
  バーサーカーが地面を大きくバウンドし、ごろごろと転がっていく。
  フェイト自身も勢いがついているため、空中で急ブレーキをかけるも体勢維持ができずに地面に投げ出されそうになってしまう。
  しかし、そこを支える者があった。

「無茶ばかりするのね」

「……大丈夫」

  口数の少ない青髪の少女―――フェイトのサーヴァント、ランサーだった。
  すわ落下という瞬間に、ランサーが実体化して彼女を受け止めたのだ。
  ランサーの身体に衝突した衝撃と、現界に要した魔力と、蓄積された疲労とダメージで少し気を失いそうになって持ち直すまでに数秒。
  小学生であることを鑑みれば、それはかなり早い立て直しだっただろう。
  しかし、相手はそんなことを一切考慮していなかった。

  どるるるん、どるるん。
  見れば、もうすぐ近くまでバーサーカーが迫っていた。
  心なしか、寄ってくる速度は遅い。ひょっとするとランサーを警戒しているのかもしれない。
  ランサーがフェイトをかばうように立ち上がり、ロンギヌスの槍(真名を解放していないので魔力は極限まで抑えられている)を取り出した。
  ランサーの臨戦態勢を見て身震いしたのはフェイトだ。ランサーでは勝てる相手ではないというのは確定的に明らかであるし、宝具を放てばフェイトの魔力は尽き果ててしまう。

「駄目、ランサー!」

「知っているわ……マスター、令呪を」

  『令呪を』。続く言葉は想像がついた。
  おそらくは『令呪を用いて魔力ブーストをかけるよう命令をくだせ』ということだろう。
  そうすれば一時的にとは言え魔力に補佐を得て、もう一度くらいはあの超級の宝具を花てるかもしれない。
  令呪は有限。できれば無駄撃ちはしたくない。
  だが、ここで撃たねばまた襲いかかられてダメージを無駄に積み上げるだけだ。
  即時判断を終え、令呪に魔力を巡らせながら、命令を紡ぐ。

「……令呪を持って命じます! ランサー、目の前のバーサーカーを―――」

「伏せて!」

  魔法の呪文は、乱入者の叫びと降り注ぐ魔力の矢で遮られた。


297 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:37:52 oCFNf7Uw0


☆輿水幸子

  幸子は、もう何がなんだかわからなかった。
  掲示板の書き込みを見て、小学校の前まで来てみれば、武器を構えたフェイト・テスタロッサが居た。
  彼女と命がけの交渉を行おうとした矢先、変な男性(キャスターらしい)が邪魔をしてきた。
  しかもあろうことか、こんなにもカワイイ幸子を小蝿だなんて言い放って。
  それだけで幸子としては許せなかったのだが、抗議の声を上げることはできなかった。
  キャスターを見た瞬間、フェイトの眼の色が変わったのだ。
  そして、手に持っていた武器らしきものの形が変わった。
  まるで死神の鎌みたいだと思い、もしあれがあたってしまえばと想像すると、足が震えた。

  幸子を動かしたのは、彼女らしい『虚勢』だった。
  聖杯戦争を止めなければならないという正義と呼んでいいのかわからない心で奮い上がり、ヤケクソ気味に足を踏み出す。
  カワイイからってフェイトが止まってくれるかどうかは分からないが、それでも、フェイトはすぐには幸子を襲わなかったという事実がある。
  無差別に目についた人物を襲っているわけではない。
  ならば、話をする余地はあるということだと判断した。

「ま、待ってください! 武器なんて―――」

  一歩をヤケクソで踏み出し、続く足は勢いで駆け出し、フェイトとキャスターの間に立ち塞がる。
  しかし、フェイトは幸子をすり抜け、キャスターの方へと行ってしまった。
  止められない。止まらない。
  あのキャスターという男は、ここで死んでしまう。
  やはり聖杯戦争は止められないのだろうかという諦観にも似た絶望と。
  刃を持ったフェイトがすり抜けた瞬間、内心、自分は死なずにすんだとほっとしてしまったという当たり前の感情を抱いてしまった幸子の胸を締め付ける。

  二秒、三秒。聞こえるはずの斬撃の名残は、まだ幸子には届かない。
  おそるおそる振り返ってみると、フェイトの刃はキャスターすれすれで止まっていた。
  もしかして、声が届いたのか?
  幸子が尋ねるよりも早く、再び事態は急変した。


298 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:38:06 oCFNf7Uw0


  次いで現れたのは、黒いフードの、おそらく男性(バーサーカー、と見える)。
  物騒なことに、チェーンソーのエンジンを掛けながらこちらに歩いてきている。
  どるん。どるん。どるん。どぉるるるるるるるるるるるるる。
  チェーンソーが高速回転をし始めたのを見て、幸子は悲鳴を抑えきれなかった。

「ひ」

  フェイトの武器は、死神の鎌のようであると思ったが、現れ方から刃の色までほとんどすべてが現実離れしていて恐怖が薄かった。
  だが、あの男の持つチェーンソーは、いやらしいほどにリアリティに溢れていた。
  小梅と、輝子と、三人で見たパニックホラー映画を思い出す。
  映画の中の怪人は得てして、ああいう武器を振りかざして、無辜の人間を襲い、殺すのだ。

  バーサーカーは何も言わずに、ただチェーンソーの音だけを響かせながら歩き続ける。進行方向は、幸子たちの方だ。
  フェイトの前に飛び込むときには蛮勇に任せて動いた足も、今度はガクガク震えるばかり。
  真っ白になった頭でバーサーカーを見つめていると、やはり想定外の衝撃が走った。よくわからない光の弾が、バーサーカーに向かって放たれたのだ。

「ひゃいっ!?」

  反射的に頭をかばって座り込む。
  数秒経って、「この程度の自衛では意味が無いんじゃないか」と気付き飛び退った時には、また幸子を置き去りにして事態が動いていた。
  飛び退り、煙幕の中にバーサーカーの影を追うが、地上にはバーサーカーの姿も、フェイトの姿も見えない。
  エンジンの駆動音を頼りに空を見上げれば、二人は、空を飛んでいた。
  正確にはフェイトが宙に浮き、そのフェイトの足をバーサーカーが掴んでいる、というような状況だった。
  キャスターはそれを見上げて「ぶんぶん五月蝿い奴らだ」などとぼやいているが、どう考えてもそういう状況じゃないだろう。
  思わず突っ込みたくなるが、言葉が出てこない。
  ようやく出てきたのは、声にもならない程度の音量の声、言葉としての意味も曖昧な言葉だった。

「な、んですか、これ。なんなんですか、これ」

  幸子のカワイイ頭はすでにフットー寸前だ。
  しかし、幸子の頭に注ぎ込まれるガソリンは、まだまだ止まらない。


299 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:38:23 oCFNf7Uw0


「さ、幸子、ちゃん……!」

  一日ほどしか離れてないのに、懐かしく思えるその声に、振り向く。
  そこには、中学校の制服を着た、見知った少女が居た。

「輝子、さん……」

  名前が、自然と口から溢れる。
  どこかおぼつかないフォームで、マイペースな彼女には似合わない小走りで、幸子の方に駆け寄ってきている少女は。
  見間違うはずがない。カワイイ幸子の友達の、星輝子だった。
  煮えたぎっていた幸子の頭が、ぐるんと一回かき混ぜられる。
  輝子が何故ここにいるのか。自分の居場所を知っているのか。
  どうでもよかった。
  ただ、足が動いた。
  駆け寄ってくる輝子の手を掴み、そのまま明後日の方向へ駆け出そうとする。
  ここに居るのは危険だ。ここには、フェイトもいるし、バーサーカーも居る。
  フェイトとの交渉は後日に回さなければならなくなるが、交渉の機会と親友の命となんて、天秤にかけるまでもない。
  幸子に手を引かれたせいでバランスの崩れた輝子を支えようと、彼女の身体に手を回す。
  その時、空がひときわ眩しく光った気がした。

「伏せて!」

  放たれた声に、立ちすくみ、思わず言われたとおりに身を低くする。
  刹那、幸子の隣に何かが落ちてきて、地面に大穴を穿った。
  何かはかなりの量が空から落ちてきているらしく、あちこちから音が聞こえてくる。
  悲鳴を上げることもできない。もう死んだ、と本日三回目の走馬灯が頭をよぎる。
  幸子の頭上から音がする。
  突き刺さったわけではない。何かが、何かに弾かれた。そんな音だ。

  音が止み、地面の冷たさから生を実感して、音の正体を辿ってそろそろと顔を上げる。
  そこにはまた見知らぬ人物が立っていた。
  その人物が何者か、何故幸子を守ったのかに見当はつかない。
  ただ、その見知らぬ人物は、幸子と同じくらいに可愛らしく。
  真っ白なコスチュームも相まって、悪をくじく素晴らしい正義の味方のように、夕闇に映えていた。


300 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:38:37 oCFNf7Uw0


☆ランサー

  取り逃がした少女、ランサーのマスターである江ノ島盾子と同等の存在、鉢屋あい。そのサーヴァントであるエプロンドレスのサーヴァント。
  桜色のステッキを持った魔法少女。桜色の髪をしたセイバー。
  二組から大きく距離を取り、もう一度実体化して周囲の『心の声』に注意を払う。
  するとすぐに、いくつもの声が聞こえてきた。

(フェイト・テスタロッサを利用して聖杯戦争に付け入りたい)
(聖杯戦争を止めたい。クリエーターを見返すために仲間がほしい)
(これ以上戦えば消耗して敗北は免れない。逃げたい)
(雪崎絵理を殺したい)(邪魔者は殺さなければならない)

  ランサーの魔法は、昔から考えれば大きく変わってしまった。
  今ではもう、相手が困って居なくたって声を聴き、思考を先読みすることができる。
  それは願望であったり、無意識下での反射的判断であったり様々だが、『キックを避けられたくない』『本当のパスワードを知られたら困る』程度の心の声すら聞き逃さなくなった。
  そんな能力が、先ほどの四人(鉢屋あいの心の声は聞こえなかったので正確には三人、だが)以外の声をキャッチした。
  誰かがいる。聖杯戦争に関わっている誰かが四人、この近くに。
  それを裏付けるかのように電動鋸を回すようなけたたましい音と、何かが爆裂するような音が聞こえてきた。

  更に新たな声が二つ。その戦闘のすぐ近くに一つと、少し離れたところに一つ。
  近い方の声は、よほど困っていたのか、かなり鮮明に捉えることができた。

  (きらりさんと、幸子ちゃんが居たら困る)(二人が危ない目にあってたらいやだ)。

  その声に、ランサーの拳を握る力が強くなる。
  諸星きらりのことを真に願う参加者がここにも居る。双葉杏以外にも、確かに存在している。
  それはとても喜ばしい事実だ。
  だが、その事実を反芻するたびに、頭のなかにあの自信満々な絶望の塊のような少女の笑顔と笑い声がこだましてくる。

  そして、離れた場所から聞こえる、小さいが力強い、もう一つの声。

(マスターを変えたい)(参加者を減らしたい)。

  相反する二つの声が鳴らすのは、これ以上ないほどの『危険人物』の到来を示す警鐘だった。


301 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:38:59 oCFNf7Uw0


  危険人物の心の声が、(視界に捉えている五人に不意打ちに気づかれては困る)という声に変わる。
  聞こえた心の声の数は、その不意打ちを企む誰かを除いて五つ。
  ランサーが勘定に入れられていないのは、おそらく不意打ちをしようとしている人物の視界にランサーが入っていないからだろう。
  ランサーが見つかっていない以上、逃げるのは簡単だ。霊体化して霞のように消えてしまえばいい。
  だが、ランサーの心は、ランサーの正義はそれを良しとしなかった。
  もとより、『すべてを守る』という馬鹿げた願いを持って英霊にたどり着いた魔法少女だ。
  今まさに襲われようとしている人間を、しかも他者を思いやる心を持った人間を、見捨てることなんてできない。
  ルーラを取り出し、一気に駆け出す。
  そして攻撃が行われるよりも早く、声を上げる。

「伏せて!」

  飛び出した瞬間、ぱたぱたと不慣れそうに走っていた白髪の少女が何事かとこっちを向き、薄い髪色の少女は何も言うことなく素早く白髪の少女の体ごと地面に伏した。
  少女たち二人の方に駆け寄り、空から降り注ぐ魔力の矢を弾き飛ばす。
  少女たちの心の声が聞こえる。

(死にたくない)(聖杯戦争を止めたい)
(幸子ちゃんを守りたい)(きらりちゃんがいたら困る)

  その二人が、先に存在していた五人の中でも特に守らなければならないと思った二人だったことがわかり、ルーラを握る力が強くなる。
  降り注ぐ矢の軌道は心の声ではつかめていない。つまり『範囲内に無作為に矢をばらまく宝具』なのだろう。
  一本でも逃せば、この二人が死ぬ。
  ランサーは魔法少女の持てる超人的な集中力と反射速度を持って、すべての矢を叩き落とした。
  次の波が来ないことを確認し、一息をついて、他の声の方をちらりと確認する。
  金と黒の衣装を身に纏った少女(通達で見た、フェイト・テスタロッサだ)と槍を携えた少女は、辛くも全弾凌ぎ切ったという様子だ。
  両者ともに、身体の至る所に矢がかすめたであろう、生々しい傷が残っている。
  NPCと見間違えそうな男性は、ただ苛立たしそうな表情で、『危険人物』の心の声がした方向を眺めている。
  その体には一切傷がない、それどころか動いた様子すらない。矢に当たらないスキルを持っているのかもしれない。
  最後の一人、フードを被った大男は、体中に魔法の矢を突き刺したまま、『危険人物』の方へ駆け出していた。
  どるるるるる、どぅるるるるるる。
  チェーンソーの駆動音の合間に、しゅぱっという軽い音が響く。
  そして、フードの大男は、喉に大きな風穴を開けてそのまま地面に倒れてしまった。

『フェイト・テスタロッサのサーヴァントが一人と、もう一人、隠れていたか』

  ランサーの卓越した動体視力が捉えたのは、『矢』だった。矢があのフードの男の喉を貫き、一撃で倒してしまったのだ。
  そして、矢の放たれた方向は、先ほどの危険人物の方向であり、今、誰かが

『早速で悪いが、私は君たち全員を撃破しなければならない。それが、私のマスターの依頼でね』

  降り立ったのは、黒と金の身体に、頭頂には太陽を模したような冠を飾った、異形の存在。
  ローブのようにも見える黒に金のマントを棚引かせながら、怪物はゆっくりゆっくりと歩み寄ってきている。
  サーヴァントであるランサーにはその正体を見ることはできなかったが、それでもそのクラスだけは想定できた。
  放たれた矢の嵐。そしてフードのサーヴァントを撃ちぬいた一弓。
  アーチャーのサーヴァントに相違ないだろう。


302 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:39:15 oCFNf7Uw0


  アーチャーの左手左手についた弓のような篭手に魔力が集まる。
  次いで聞こえる心の声は(フェイト・テスタロッサに避けられると困る)というもの。
  それを矢を放つ予備動作だと察知したランサーの行動は早かった。
  一気に駆け出し、ルーラを振るう。
  しかし魔法の国製のルーラの一太刀はアーチャーの身体には届かない。
  アーチャーが脱ぎ捨てたマントを使ってルーラの軌道を逸らしたのだ。
  アーチャーの真の姿が衆目にさらされる。マントの内側に眠っていたのは、燃えるような赤。

『気忙しいねえ。後で相手をしてやるから、少しは静かにしていたまえ』

(腹への一撃を避けられたら困る)。

  ルーラを往なされてバランスを崩したこともあり、声を聞いてからの反応が追いつかない。
  拳がランサーの腹を叩いた。
  その一撃は、ランサーが今まで受けてきた中でも最上級の威力。
  崩れかけたところに、アーチャーの蹴りが突き刺さる。
  ランサーは、まるで戦闘に不慣れな魔法少女のように、ただ暴力に晒されて、威力に任せて舗装道路をごろごろと転がるしかなかった。

(目の前のサーヴァントに矢を避けられては困る)

  次に聞こえてきた心の声は、またしてもランサーを狙ったもの。
  転がる勢いで起き上がり、横に飛び退る。
  次の瞬間には、ランサーが横たわっていた場所に大穴が空いていた。

『ほう、勘がいい。では、これならどうかな』

  まるで必死で走り回る子どもをのんびり眺めているかのような抑揚での物言い。
  その物言いとは打って変わって、放たれるのは殺すための連撃。
  息つく暇もないほどの速度で矢が次々と放たれる。
  心の声による先読みで次々に避けるが、矢とランサーの距離は迫っていく。
  あわや着弾か、というところで、アーチャーの弓は突如その目標を変えた。
  放たれる矢。空中から聞こえる小さなうめき声。何かが落ちる音。
  誰かが逃げようとして撃たれた、ということだろう。


303 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:39:43 oCFNf7Uw0


『逃げられると思ったのなら、それは少し、私を見くびりすぎだ』

  余裕綽々という風貌そのままに、圧倒的な戦力で立ちはだかるアーチャーに、再び肉薄しようと体勢を立て直す。
  誰かが近接戦を挑んだならば、アーチャーは弓を撃つ隙がなくなる。
  まずは、この圧倒的な敵を退けるのではなく、他の者達の撤退の手助けを行う。
  心の声による先読みと、同等の反応速度を持つランサーならばそれが可能だ。
  しかし、ランサーが走りだすことはなかった。
  心の声が聞こえた。
  しかも、この状況で、また新たな心の声が。

(動き回られると困る、マスターとサチコを連れて帰れない)
(どっちがサチコだったっけか、分からない)

  誰かが、『マスター』と『サチコ』を連れて帰ろうとしている。
  この場にいるマスターはおそらく三人、白髪の少女、髪色の薄い少女、そしてフェイト・テスタロッサ。
  そして『サチコ』とは、白髪の少女の心の声にあった名前。
  導き出されたのは、その心の声の主が、先ほどランサーが守った二人を助けにきたという事実。

『えーい、面倒だ!! 二人まとめてまとめて連れて帰ればそれでいいだろ!!!』

  突如聞こえる大きな声。
  空を見上げれば、そこには、『何故か見覚えのある』謎の円盤が浮いていた。




『ハァッヒフゥッヘホォ―――――――――!!!!』




  いやに聞き慣れた雄叫びが、六人の頭上から放たれた。


304 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:39:58 oCFNf7Uw0


『な、に』

  一瞬、呆気にとられたのはアーチャーも同じだった。
  『信じられないものを見るような目』で、その円盤を眺めている。

『喰らえ、トリモチバズーカ!!』

  その一瞬の虚を突いて、円盤の下部からノズルが飛び出し、べっべっべっと三つの白い粘着質な何かを吐き出した。
  アーチャーの身体に一つが着弾する。
  アーチャーが余裕の態度を崩し、その姿のままで固まった。
  動きが鈍い。本当に『トリモチ』をぶつけられたかのようだ。

『掃除機ノズルアーム!』

  続いて円盤から、掃除機のノズルに似た長細いジャバラが伸びた。
  ノズルは『マスター』と『幸子』を吸い、ついでにランサーも吸い上げた。
  掃除機を吸い上げられるごみはこんな気分なんだろうか。なんて、くだらない考えが一瞬頭をよぎる。
  そして、一瞬の後には、ランサーは円盤の内側に居た。
  幾つかのボタンとレバーしかないそのコックピットは、やはり『なぜか見慣れた』ものだった。

「さっさと逃げるぞ!!」

「ライダー、あ、あの三人も……」

「定員オーバーだ!! 文句言うなよ!! マジックハンド!」

  声と同時に、ライダーと呼ばれた異形の英霊が円盤内のボタンをぽちりと押す。
  すると左右二本のマジックハンドが伸び、右手で地面に横たわっていたフェイトと彼女の英霊を、左手で男性を捕まえた。
  そして、彼らを宙に持ち上げて、円盤は速度を上げ始めた。


305 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:40:27 oCFNf7Uw0




  ランサーにとって、その光景は、魔法少女の存在以上に奇異なものだった。
  ランサーが魔法少女になるよりもずっと前、それこそ物心がつくよりもずっと前。
  およそ日本中の子どもが見ていたと思われるアニメを、ランサーも当然のように楽しんでいた。
  顔がアンパンの正義の味方と、バイキンがモチーフの悪役が、毎週毎週戦うアニメ。
  その中の登場人物、彼の乗り物である円盤。果たしてそれこそが既視感の正体だった。
  ランサーはアニメや歴史にそれほど詳しくはない。だが、その英霊の名前は、間違えようがなかった。

  ランサーの胸にあふれている謎の感動をよそに、ライダーと、彼のマスターは話を続ける。

「なんか似てたから二人とも回収したが……どっちかがサチコってやつでいいんだな」

「ふ、ふ、さすが、親友」

「なあにが『さすが親友』だい! 俺様があとちょーっとでも悩んでたら、お前ら全員穴だらけだったんだぞ!」

  白く長い髪の少女(ライダーのマスター)は、とても楽しそうにこの円盤の主であるライダーの肩をたたいた。
  ライダーは、ぷりぷり怒りながらもレバーの操作に余念がない。
  円盤での移動が目立つからか、一旦森の方へ進路をとっているようだ。
  コクピットのガラス越しに外の三人を見つめる。風の影響などは受けていなさそうだ。
  思い返せば、ランサーの知るライダーのUFOは、よくキャラクターを掴んで移動していたが、風圧などは一切無視できていた。その逸話が現れたのかもしれない。

「あ、あの」

  そこでようやく、『幸子』が声を上げる。
  その様子は、ネッシーやツチノコ以上に信じられないものを見た、というようで。

「貴方……ばいきんまん、ですよね? マスター、って、輝子さんの、サーヴァントなんですか?」

  しばしの沈黙。そして、ライダーの大きなため息。

「だーから、俺様嫌だったんだよ。一発でバレちゃうんだもの!」

  肯定。ついでに言えばランサーの予想も、あたっていた。
  いや、これだけわかりやすいフォルムの悪役を、見間違えるほうがおかしいのだが。
  画面の中だけの世界一有名な悪役が、同じ聖杯戦争に呼ばれている、なんて思ってもみなかった。
  ランサーは今一度、聖杯戦争と言うものへの認識を改め直した。


306 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:41:03 oCFNf7Uw0



「お前がサチコか?」

  ライダーが幸子に問いかける。幸子はまだ狐につままれたような顔をして、ただ二度ほど頷いた。
  それを確認すると、ライダーは次に、しらっとした眼でランサーの方を見つめてきた。
  そこまで来て、ようやく自分も助けられていたのだということを思い出したランサーは、姿勢を正して頭を下げた。

「あ、あの、ありがとう……」

「よせやい! お礼なんか言うな! 俺様、そういうのいっちばん苦手なんだ!!」

  しかし、謝辞の言葉はライダー本人の言葉でかき消されてしまう。
  そしてライダーは、少し不機嫌そうな声で続けた。

「それにお前、正義の味方だろ! くっそう、お前が幸子じゃないってわかってたら、置き去りにしてたのに!」

  言われてみれば、幸子と呼ばれた少女と、ランサーの髪色はよく似ていた。
  自分が助けられた理由が『幸子と似ていたから』というあまりにも偶発的すぎるものだということに、思わず身体の力が抜ける。
  しかし、ランサーの心の方は、脱力とは程遠い状態だった。
  正義の味方、という一言が、ちくりとランサーの心に突き刺さる。
  思い出すのは、またしても、自身のマスターの言葉と、自身のこれまでの振る舞い。
  苦しんだ心が絞られ、膿汁のように苦々しい言葉を一言だけこぼす。

「……私は、正義の味方なんかじゃ」

「いーや、俺様が言うんだから間違いない! お前は正義の味方だ!
 そんな見た目で、他のやつ助けるようないかにも〜なやつが、正義の味方じゃないわけないだろ!」

  しかし、ライダーはまたしても、ランサーの言葉を断ち切って、自身の意見を突きつけた。
  ランサーは、やはり、苦い思いしかできなかった。


307 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:41:30 oCFNf7Uw0


  しばらく、沈黙が流れる。
  輝子も、幸子も、ライダーも、何も喋らなかった。
  輝子はライダーの背中越しに、ガラスの向こう側に広がる景色を鼻歌交じりで楽しんでいる。
  幸子はそわそわしているように見える。ひょっとしたら、先ほどのランサーとライダーのやりとりで、萎縮させてしまったのかもしれない。
  少しばかりの沈黙に、心の膿の臭いが混ざる。
  ランサーは、居心地が悪くなり、つい口を開いてしまった。

「……あの、ばいきんまんさん」

「なんだぁ?」

「悪、って、なんなんですか」

  ランサーが一言喋ると、ライダーはすぐに簡素な返事を返した。
  昔見た彼はこんなに職人気質だっただろうか、と考えながら、ランサーは遠回しに、先ほどのばいきんまんの『正義の味方』という言葉について、問いなおす。

  ランサーは、時々正義と悪がわからなくなる。
  魔法の国から見れば、魔法少女狩りは正義であり、また同時に悪でもあった。
  彼女の心の中の正義に従っても、なじられこそすれ賞賛されることはない、不確かな正義の元で戦い続けていた。
  ここに来て、その不確かな正義は再び揺れることになった。
  自殺した少年を殺したのは誰か。
  鉢屋あいを殺すのは本当の正義か。
  善と悪は、しょせん人の目盛りにすぎない。命に貴賤をつけたのはランサーであり、正義ではない。という江ノ島盾子の言葉。
  ならば、ランサーの正義とは、なんなのか。

  自身の弱みを見せるようなことは、生前のランサーならばしなかった。
  しかし、ひょっとすると、目の前の『あく』の大御所ならば。
  世界一純粋な人間に向けた『あく』である彼ならば、ランサーの抱える自己矛盾について、何かの解決策をもたらしてくれるのではないだろうか。
  ライダーの性格をしっかり理解したうえで、そう判断した。
  それはもしかしたら、ランサーにすこしばかり残っていた『なにかへのあこがれ』と、一方的であるかもしれないが幼少期を一緒に過ごした相手への理屈を超えた信頼感がそうさせたのかもしれない。

「なんだあ、お前、そんな簡単なことも知らないで正義の味方やってるのか!」

  そんなランサーの心の中もつゆ知らず、ライダーはすぐに答えを出した。

「いいことするやつが正義! まじめとか、他の人のためとか、俺様そういうのぜえんぶ大っ嫌い!!
 その反対が悪! だから俺様は悪の味方なんだ! わかったか!」

  それは、とても単純な理屈だった。
  幼児に向けられた、包み隠さぬ本質的な『正義』と『悪』だった。


308 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:41:48 oCFNf7Uw0


  まるで赤鉄を槌で叩いたかのように。
  ランサーのなかに、単純な理屈が響く。
  事態が複雑になればこんな単純な理屈は通用しないというのは理解している。
  だが、それでも。その単純な理屈は、ランサーの心に折り重なっていた澱を雪いでくれるようだった。

「あの」

  続くランサーの一言に、ライダーが応えるよりも早く。
  円盤の外から爆音が響き、バイキンUFOの右のマジックハンドがちぎれ飛んだ。
  数秒後に、同じように左のマジックハンドも吹き飛んだ。
  一撃目の襲撃で気を取り戻したランサーの眼が、マジックハンドを吹き飛ばした『何か』を捉える。
  それは、先ほどのアーチャーの『矢』に相違なかった。

「ちっ、追ってきやがったか!!」

  ライダーは舌打ちをして、レバーをきつく握り直し、操作する。
  その操作に従って、UFOは不規則に進路や高度を変える。
  進路を変えるたびに、UFOの端から鈍い音が上がる。先ほどと同じように、矢を乱れ打っているのだろう。
  すれすれのところですべてが機体そのものに着弾しないのは、距離のためか、逃げ続けているためか、ライダーの腕前か。
  ががんと音を立ててUFOの円盤部の装甲が跳ね上がる。
  じわじわと、着弾箇所が中央へと寄ってきているのは、ランサーでなくとも気づけることだった。

「だ、だ、大丈夫なんですか!? これ、大丈夫なんですか!?」

「しるか!!」

  幸子の悲痛な叫びに応えるライダーの声にはもう余裕はない。
  ライダーがUFOの高度を大きく下げる。
  直後、今までで一番大きな爆音がUFO内を包み込んだ。


309 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:42:02 oCFNf7Uw0


☆アーチャー

  円盤の胴体を貫いたのを確認し、矢を撃つための安定した走りから追いつくための全力の走りに切り替える。
  現れたのが宇宙の象徴のような『未確認飛行物体』でなければ、隙を作ることもなかった。
  放たれたのが単なる攻撃ならば余裕を持って防げた。
  だが、あの瞬間のあの行動はアーチャーにとってはまさに最悪と言わざるをえない一手だった。
  とはいえ、十分に注意していれば対処することもできたはずだ。
  我ながら酷く油断したものだと思ったが、それもこの一撃で六割ほど取り戻せた。
  残りの四割は、撃ち落とした二つのマジックハンドとともに置いてきた。フェイト・テスタロッサを見失うのは痛手だが、倒せる人数は多い方がいい。
  令呪としての価値があるフェイトを捨てたとマスターが聞けばなじるかもしれないが、伝えなければいいだけだ。

  円盤がふらふらと高度を落としているところに、ダメ押しで矢を二発打ち込む。
  すると、円盤は面白いほどに大きな音を立てて爆発した。
  あれほどの爆発ならば中に乗り込んでいる四人は無事ではないかもしれない。
  だが、念には念を入れておく。
  生き残られてアーチャーについて触れ回られて、アーチャーの有利は揺るがないだろうが、聖杯戦争では何が起こるかわからない。
  殺せる時に殺しておくべきだ。
  ひょっとして、令呪を持ったままのマスターが一人でも生き残っていれば、フェイトの討伐令による令呪一個を上回る、令呪三個を得ることができる。

『そうすれば、あの気難し屋なマスターも、笑ってくれるかもしれない』

  忠誠心ではない。
  たんなるご機嫌取りだ。
  あと数十時間を円滑に過ごすための、処世術にすぎない。
  アーチャーにとって最も警戒しなければならないのは、、まずマスターの持つ絶対遵守の『令呪』。
  もし、対魔力の低い我望光明状態で令呪を使われれば、アーチャーは従うしかなくなる。
  行動に変な制限を加えられて、うっかり負けましたでは笑えない。
  そんな状況を作り出さないように先手を打っておくのは大事なことだ。


310 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:42:46 oCFNf7Uw0




  爆発の火花で、木が燃えている。
  周囲には、紫色のブリキとガラスの混ざった円盤の残骸が広がっている。
  そして、燃え盛る木の側に、彼はいた。
  深い紫色でで、三頭身の身体。頭には二本の触覚、背中には羽と尻尾。
  21世紀日本由来の英霊である以上、アーチャーも彼の真名を間違えるはずがなかった。

『嬉しいね、まさか、君と会うことができるなんて。
 光栄だよ、『日本一UFOに乗った英霊』……ばいきんまんくん』

「俺様はお前のことなんか知らないぞ。わかったらあっちいけ!
 くそ、あいつら、俺様一人置いて行きやがって!」

  クラス不明のサーヴァント・ばいきんまんは悔しそうに地団駄を踏んだ。
  その姿も、アーチャーの知っている彼に相違ない。

『残念だよ。君を殺さなければならないなんて』

「こいつめ、もう勝った気でいやがるな!」

『君程度には、私の夢は止められないよ』

「へーんだ! 俺様、日本一諦めの悪い悪役だもんね!!」

  ばいきんまんが天に向かって手を突き上げる。

「こぉい、『だだんだん』!!!」

  瞬間、空が光り、木々を超えるほどの背丈のロボットが現れた。
  鈍く輝くブリキのロボットは、やはりアーチャーもよく知る宝具。『だだんだん』。
  アーチャーは、アニメの中からまるでそのままなその英霊の振る舞いに笑ってしまった。
  アニメのままの英霊を、武力によって討伐する。
  聖杯戦争だとはいえ、これを笑わずにいられようか。

『素晴らしい……君は実に、「ばいきんまん」だ!!』

  アーチャーが飛び上がり、だだんだんの拳が唸る。


311 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:43:06 oCFNf7Uw0


  勝負は一方的だった。
  いや、もはや勝負と呼ぶのもおこがましいかもしれない。
  だだんだんは確かに大きい。大きければそれだけ重量があり、力も強い。
  しかしその分スピードが落ちている。
  身体の大きさも相まって、今のだだんだんはアーチャーにとってはいい的でしかないのだ。

『だだんパーンチ!!』

  だだんだんのマジックアームのような拳を避け、矢を放つ。
  だだんだんの胸が大きく爆ぜた。

『こんのお!!!』

  だだんだんが地団駄を踏むように足を持ち上げる。
  しかしそれも、アーチャーから見れば隙でしかない。
  天上に迫るだだんだんの足めがけて矢を放つ。矢が、だだんだんの足をぐちゃぐちゃに破壊した。

『……つまらない。所詮君はその程度ということか』

  ずだんと大きな音を立ててだだんだんが尻餅をつく。がが、と小さなノイズのような音が走る。
  すでに片足。満足な戦闘はできない。
  しかし、アーチャーは攻めの手を緩めず、天に向かって弓を引いた。
  これはアーチャーの宝具『アポストロスの矢』の対軍用のモーション。

『真名開放……「アポストロスの矢」』

  放たれた矢が、空中で無数の矢に分かれ、雨あられのように降り注ぐ。
  そして、そのすべてがだだんだんの身体に突き刺さった。


312 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:43:38 oCFNf7Uw0

  だだんだんが円盤と同じように大げさに爆発する。
  爆発する寸前、だだんだんの口からばいきんまんが吐き出されるのを、アーチャーは見逃さなかった。

『さあ、チェック・メイトだ』

「へえ……へえ……」

  ばいきんまんはすでに息も絶え絶えという様子で這いつくばっている。
  あとは頭目掛けて矢を放てば、それでこの一方的な戦闘は終わる。
  しかし、その時。

「へ、へへへ」

  ばいきんまんは、笑った。
  弓をひく指が止まる。が、がが、またノイズのような音が耳に飛び込む。
  ばいきんまんは寝返りをうち、うつ伏せになる。そして、また、息切れ気味な笑いを続けた。

『……笑う余裕があるのかい。君は、負けたというのに』

「お前、勘違いしてるな……俺様は、まだ負けてない!!!」

  ばいきんまんが背中の羽で飛び上がり、同時に大きな声で叫ぶ。

「やれ、『もぐらん』!!!」

  がが、がががが! どどどどどどど!!
  音を立てて、地面が隆起し、地中から鈍色に光るなにか飛び出す。
  アーチャーがそれを受け止めた瞬間、その正体を理解した。
  それは、地中を掘り進むための道具であり、アーチャーの弱点と行っても過言ではない武器。

「ぶちかませえ!!!」

  地中を穿って飛び出したドリルが、アーチャー向けて射出される。
  一切気配を感知できなかった不意打ちを、アーチャーは身体の中心で受け止めてしまった。


313 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:43:53 oCFNf7Uw0


『く、この……』

  螺旋の力で刃先を捩じ込まれ、持ち上げられる、気持ちの悪い浮遊感。
  忌まわしき記憶が蘇ってくる。


―――青春銀河、大・大・大、ドリルキックだ!!―――


  ドリルの衝撃を受け続けるのは、アーチャーの逸話的によろしくない。
  体を捻り、ドリルの軌道をずらし、二度と再利用ができないように矢で破壊しておく。
  空中に投げ出された勢いを殺すため、近場の木を足場にしようと幹を踏みしめる。

「今だ、かびるんるん!!!」

「「「「「かびかび!!!」」」」」

  ばいきんまんの声に応えるように、周囲から無数の掛け声が上がる。
  声と同時に、アーチャーが安定を狙って飛びついた足場が、まるで麩菓子に着地したかのように脆く崩れさる。
  何事かと木を見れば、無数の、色とりどりの小さな何かが木にたかっていた。
  そして、その小さな何かがたかっているところがすべて腐食している。

「かび!」「かびかび!!」「かびかびかぁび!!!」

『かびるんるん、だと……ばいきんまん、よくも……!!』

  ドリルに投げ出された勢いのまま放り出されたアーチャーは、無様に地べたに投げ出される。
  彼が顔を上げた時に見たのは、何故か新品同様の状態に蘇っている、確かにその手その矢で破壊したはずのばいきんまんの愛機だった。

『もっかいだ!! トリモチバズーカ!!!』

  べっべっべっと、小学校の校門での時と同じように、バイキンUFOがトリモチを放つ。
  今度は三発全部命中してしまった。逃れるのには手こずりそうだ。

『悪あがきか、見苦しいな』

  しかし、アーチャーの余裕が続いたのは、そこまでだった。
  トリモチに捕らわれて地べたにへばりつくアーチャー、UFOで中空に浮き上がっているばいきんまん
  二人を覆い隠す、大きな大きな影がある。
  影の正体を見上げれば、そこには、先程よりも数倍大きな『だだんだん』が立っていた。


314 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:44:33 oCFNf7Uw0


☆ライダー

  トリモチバズーカは足止めにしかならない。
  ただ、普通の英霊ならば足止めをして空中を逃げれば問題ない、そう考えていた。
  なにせ相手はマントを脱ぎ捨てたのだ。アンパンマンのようにマントで空を飛ぶならば、マントを脱ぎ捨てるはずがない。
  いくら足が速かろうと、空を飛べない相手ならばライダーたちに追いつくことはできない。

  だがライダーは、その考えの甘さをすぐに改めることになった。
  ただの矢程度なら当たらないし、当たってもたかが知れているとタカをくくっていた。
  それが、どうだ。
  見事に機体を撃ちぬかれ、墜落だ。

「やい正義の味方!!!」

「幸子さんですね。ライダーさんは輝子さんを」

  ライダーが言い切るよりも早く、正義の味方のランサーはライダーの提案を理解していた。
  まるで心が読めているようだ、などと思いながらコックピットの上部(半球体ガラス)を開き、輝子を抱えて外に飛び出す。
  そして、空中を力なくふよふよと漂い、UFOが墜落し終わったのを確認してから地上に降り立った。

「へひ、へひ、つ、疲れたぁ……」

「ば、ばいきんまんさんって、飛べるんですね」

  ランサーが、やや驚いた顔でライダーの方を見つめている。
  ライダーはあまり使うことはないが、彼の背中の羽は飾りではない。ちゃんと空を飛ぶ機能を有している。見くびってもらっては困る。


315 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:45:02 oCFNf7Uw0


「しかし、どうするかな」

  完全に見誤った。
  本当は森の上空を突き抜けることで追手を巻くはずが、逆に森のなかに落とされてしまった。
  あちらの方が機動力が上である以上、逃げようにもきっと魔力の反応を追われてすぐ追いつかれてしまう。
  魔力の反応を消すためにライダーやランサーが霊体化したとしても、これで完全に魔力の反応を消せるわけではない。
  それに、霊体化している間に輝子や幸子に向けて矢が放たれれば、それだけで二人は死んでしまうだろう。

  むむ、むむむ。顎に手をやり眉間にしわを寄せ、一生懸命考える。
  しかし、ライダーにはどうにもいい案が思い浮かばなかった。

「やい正義の味方」

「なんですか」

「お前、あいつに勝てるか」

  ランサーは、苦々しげな顔をした。
  聞くまでもないことだろう。ランサーは実際、この追跡者にやり込められていたのだ。
  それでなくても森の中は槍を振るうのに適してない。武器もなく、素の戦闘力でも劣っているならば、勝てる見込みなんてない。
  ならばとライダー自身の戦力を見る。
  バイキンUFOは破壊されてしまった以上もう一度使うには相応の魔力が必要だ。
  もぐらんは輝子の家で実体化させてあるので、呼び出せるのはだだんだんだけ。
  戦闘用バイキンメカのだだんだんならば、あの矢を相手にしても時間稼ぎくらいはできるかもしれない。

  大きくため息を付く。
  正義の味方を守るために戦うなんて、なんだか吐きそうだ。
  でも、輝子を守るためでもあるのだからしょうがない。
  だって輝子はライダーのマスターだし、友達の居ない彼を友達の更に上、『親友』と呼んでくれた人物なのだから。


316 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:45:47 oCFNf7Uw0


「マスター、あとサチコ。お前ら、そいつと一緒に先に帰れ」

  森のなかを忙しなく見回していた輝子と幸子が、いっぺんに振り向く。
  ランサーは、何かを悟ったような顔でライダーの方を見つめていた。

「し、親友は……」

「しょーがないから! 俺様があいつを、ぎったんぎったんの、めったんめったんに倒してきてやる!
 でも、お前らが居るとジャマだ! 先に帰れ!」

  突き放すように厳しい言葉を浴びせる。
  幸子はカチンと来たようで、「な!」と声を漏らした。
  ランサーは、何かを言おうとして、言うべきか言わないべきか、迷っているような顔だ。
  輝子は……輝子は、複雑な顔をしていた。
  『倒せる』なんて嘘をついてしまっているが、問題ない。ライダーは、嘘とか、卑怯とか、そういう言葉は大好きだ。

「……ライダーさん……」

「ああ、そうそう。家に帰ったら、令呪で俺様を呼べ。
 そうしたら、俺様も帰るから。じゃあな!」

  それ以上なにも言わず、くるりと背を向け、歩き出す。
  ライダーは、ひょっとすると、負けるかもしれない。
  ただ、幸子を救いたいという願いは叶えてやれるんだし、あの正義の味方がいれば、しばらくは安心だろう。
  それになにより、好き放題にやってくれたアーチャーへの仕返しもある。


317 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:46:58 oCFNf7Uw0


「……駄目、だ」

  しかし、彼の歩みを止める声が一つ。
  もう一度大きなため息を付いて振り返れば、そこにはすでに、声の主が居た。

「み、水臭いこと、いいっこなしだぞ、親友……」

「水臭いってなんだ! お前が居たってあいつに勝てないだろ!!」

「で、でも、親友一人でも、か、勝てない……でしょ?」

  どうも、嘘を見抜かれてしまったらしい。
  嘘は得意なはずなのに、なんで見ぬかれてしまったのか、ライダーにも心当たりがない。
  言い返そうとしたがうまい言葉が思いつかずに、顔をしかめると、代わりに輝子が右手を掲げながら言葉を続けた。

「それに、違う……」

「親友一人だと、だ、駄目かも……でも……
 ふ、ふ、ふたり、二人だったら、勝てるかも……親友と、私なら……ゆ、ゆゆ友情パワーで、ヒヒ、フ!」

  右手に刻まれた令呪。『二人なら』という言葉。
  言いたいことはわかる。
  輝子がいれば発動できる宝具が、確かにある。
  だが、あれは……最後の最後の秘密兵器だ。デカいし目立つし魔力消費が激しいので、使わずに隠しておくのが一番だ。

「つ、使おう。今……倒そう、あいつ。
 そ、そ、そうしないと、結局、幸子ちゃんたち、追いかけられ続けるだろうし……」

  しどろもどろになりながら輝子は説明を続け、最後に一言。彼女にしては珍しく、つっかからずにこう言い切った。

「守りたいんだ」

  言い返そうとしたが、やめにした。
  ライダーは知っている。星輝子ってやつは、どんな時でもマイペースを貫き続ける、意外に頑固な少女なのだ。
  このままだと、大事な令呪をもう一画無駄撃ちさせることになってしまうだけだ。
  代わりにまた、ため息を付いて、あとはもう、正義の味方たちに任せることにした。

「あいつらに言ってこい」

「う、うん……」

  輝子が、山の土をおぼつかない足取りで駆けていく。
  できれば、止めて欲しいのだが。幸子が輝子の人となりを知っているのなら、きっと無理だろう。


318 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:47:35 oCFNf7Uw0




  結局、輝子と二人で戦うことになり、山中でアーチャーを迎え撃つことになった。
  幸子とランサーを見送ったあと、山中二人で頭を突き合わせた。
  交戦前に少しでも作戦を立てておこうと思ったのだが、よくよく整理してみると作戦もクソもないことがわかった。

  ライダーたちの戦法はこうだ。
  ライダーがなんとか時間を稼ぐ。
  輝子はその間隠れており、隙を見て『だだんだん』を令呪の力でエンチャント。
  呼び出した『ジャイアントだだんだん』のケタ違いのパワーと耐久力に任せて相手を倒す。
  単純極まりない。わかりやすすぎる。
  だからこそ、発動できたなら強い。それだけで、勝ちが決まるようなものだ。
  問題は時間稼ぎにある。
  何とかして一秒でも長く時間を稼がなければならない。
  だだんだんをエンチャントするためには、だだんだんを輝子に預けなければならない。
  そして、ばいきんまんがだだんだんに乗り込まなければ時間稼ぎはできない。

  だが、その問題も、クリアできないわけじゃない。

「いいか、これを発動したら、もう戦うしかなくなるぞ!」

「う、うん……オッケー、だ、だ、だ、大丈夫……」

  輝子が右手を掲げる。

「れ、『令呪を持って命じる』」

  少女の右手になけなしの魔力が集中し、淡い光を放ちだす。

「『バイキン軍団、全軍、用意をすぐに整えて、しゅ、しゅ、出撃だ』ぁっ!! ヒャッハァ―――!!!」

  その命令は鬨の声。
  ライダーに魔力の補佐を与え、バイキンUFOの高速修復を可能にする。
  更に、遠く離れたかびるんるんたちにも、司令が伝わる。
  『魔力ブーストでもぐらんを即時完成させ、輝子のもとに集まれ』と。

「行くぞマスター!! トチるなよ!!」

「フ、フフヒ、フヒヒッハハハハハ!!! 明日も勝あつ!!! ゴウ・トゥ・ヘェェェル!!!!」

  なけなしの準備は終わった。
  あとは、ライダーには『できることならば、相手が善属性じゃありませんように』と願う他なかった。


319 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:47:52 oCFNf7Uw0



  ことはうまい具合に進んだ。
  わざとらしくだだんだんを破壊され乗り捨てることで、だだんだんから注意をそらすことに成功。
  もぐらんやかびるんるんでの奇襲で相手の注意を逸らし続け、その間に乗り捨てただだんだんに対して輝子が令呪を用いてエンチャントを発動。
  トリモチ三発で捉え、一時的にではあるが行動も阻害して優位に立てた。

  絶好のチャンスだ。
  これを逃していいわけがない。

  ガラスの向こうにそびえ立つ、巨大な影を見上げる。
  その姿は、『だだんだん』であり、『だだんだん』ではない。
  安っぽい灰色ではなく、重厚な黒鉄のボディ。
  金色の塗装が施され、胸には青い『こころ』が輝く。
  彼こそが、ライダーの最後の最後の奥の手にして、最も強いバイキンメカ、『ジャイアントだだんだん』。

「いけるか、マスター!!」

  はるか上空にある、『こころ』に向かって問いかける。

『いつでもいけるぜぇぇぇぇええええ!!!! デーストロォォオオオイだ!!!!』

  黄昏を切り裂くように、奇声が上がった。
  ジャイアントだだんだんの足が振り上げられる。その動作だけで、周囲の木々数十本がなぎ倒された。
  ライダーはその様子を、不快な脱力に襲われながら眺めていた。
  ジャイアントだだんだんもライダーの宝具の一つ。魔力消費はライダーと、輝子の負担になる。
  現在輝子はライダーの宝具の中に『こころ』として混じっているので、必然的に魔力の負担はすべてライダー任せになる。
  一撃だ。一撃で決めなければ、負担が大きすぎる。

『そんな奥の手があったとは……やはり油断ならないな……』

  しかし、ライダーの声なき焦りとは裏腹に、追い詰められているはずのアーチャーは冷静そのものだった。
  怖気が走る。不快感からではなく、恐怖によって。

『ならばこちらも、遠慮無く……奥の手で行かせてもらう』

  アーチャーはそういうと、トリモチで身動きの取れない身体をなんとか動かし、腕を突き上げた。
  そしてその腕で、円を書くように手のひらを回す。
  するとそこに、どこからか、見慣れぬ赤い光の球が現れた。

『「超新星」……』

  まるで太陽のように輝く赤い光の球が、アーチャーの身体に飲み込まれる。
  ジャイアントだだんだんの超弩級のキックが、トリモチまみれのアーチャーに向かって放たれる。


320 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:48:41 oCFNf7Uw0


「やったか!?」

  レバーにすがりつきながら、なんとか外を見る。
  トリモチのあった場所には、なにも残っていない。
  消滅させたのか、と思ったその刹那だった。

『早々にこの姿を使わせるとはね……敬意を表するよ』

  忌々しい声が聞こえた。
  場所は……ジャイアントだだんだんの足の更に向こう。
  そこに立っていたのは、先程までのアーチャーではなかった。
  赤い肌。白い腹。尖った角のようなオブジェクトに真っ黒な手足。
  アーチャーはまるでサナギを破った蝶のように、禍々しい姿から一転鮮やかな姿へと変身していた。

『だからこそ、一撃で決めさせてもらう。宝具開放―――「サジタリウスの矢」』

  赤く染まったアーチャーが地を駆け、空へと飛び上がる。
  遥か高みで見下ろすジャイアントだだんだんの顔めがけて。
  飛び上がったアーチャーは、魔力を纏う。魔力を纏ったその姿はあかあかと燃え上がっているようで、さながら地上に落とされた太陽。
  そして、瞬間。
  コロナのような軌跡を残しながら、急加速をし、ジャイアントだだんだんの顔に強烈無比な一撃を加えた。
  アーチャーの動きが止まって、そこでようやく、ライダーは、その攻撃が『飛び蹴り』だったのだと気づいた。
  それほどまでに、規格外の攻撃。規格外と規格外がぶつかり合い、静寂が訪れる。
  静寂を破ったのは―――アーチャーだった。

『私は、夢へと進み続ける、一本の矢だ』

  大きな音を立てて、ジャイアントだだんだんが崩れ落ちる。
  その首から上は、無残に砕け散っていた。

『何者にも、止めることはできない』

  数百本の木を巻き添えに、ジャイアントだだんだんは地に沈んだ。


321 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:49:40 oCFNf7Uw0


  ライダーは、信じられなかった。
  星の侵攻すらものともしなかったジャイアントだだんだんが、一撃で倒されてしまうなんて。

「……マスター」

  呼んでみてもあのやる気満々の奇声は、もう帰ってこない。
  ジャイアントだだんだんの顔は、見るも無残に砕け散っている。
  身体からどんどん力が抜けていく。
  気を抜けば、このまま魔力枯渇で気を失って消滅してしまいそうだ。
  それでも、なんとかこらえていたのは、『ジャイアントだだんだんがまだ消えていない』からだ。
  立ち上がることができれば、チャンスはある。
  一撃食らわせれば、ライダーたちだって勝てる。

『……大きさの分だけ頑丈らしいが、もう一度当てれば、こんどこそ終わりだ』

  しかし、変貌したアーチャーの侵攻はまだ終わっていない。

「かびるんるん!! 死ぬ気で止めろぉ!!!」

「「「「「かびかび!!!」」」」」

  なんとかして、輝子が持ち直すまで時間を稼がなければ。
  バイキン軍団の精鋭であるかびるんるんたちが次々にアーチャーへ向かう。
  ドリルを失ったもぐらんも、かびるんるんたちの操縦によってアーチャーを抑えこもうと動き出す。
  しかし、どれもこれも、足止めどころか、路傍の石程度の役にも立たない。
  アーチャーが軽く腕を震えば、周囲のかびるんるんはすべて消滅した。
  アーチャーが軽く殴れば、もぐらんはたちまちスクラップになった。

  圧倒的なまでの戦力差。
  それはまさに、太陽に、バイキンが挑むほどの、絶望的な状況。

『悪ならば、散り際は弁えるべきだ。ばいきんまん』

  アーチャーが再び、必殺の蹴りの体勢に入った。


322 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:51:05 oCFNf7Uw0



『だ』

  だが、そんな絶望的な状況の中で。

『だ、だん』

  一人……いや、一体だけは。

『だ、だん、だん』

  その絶望的な状況を、よしとしなかった。

『だだんだああああああああああああああああああん!!!!!』

『何っ!?』

  首から上のなくなったジャイアントだだんだんが、やたらめったらに拳を振るう。
  蹴りの体勢に入っていたアーチャーに、完全に沈黙したはずのジャイアントだだんだんの拳が突き刺さる。
  その速度、その威力、想定通りの規格外。
  防御が間に合わなかったアーチャーは、体全体で思い切り拳を受け止め、木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされた。

『だだんだああああああああああああああああああああん!!!』

  最初、ライダーには何が起こったのかが全く理解できなかった。
  だが、ライダーは知っていた。
  ライダー自身は見ていない話だが、彼に刻まれた『逸話』が知っていた。
  ジャイアントだだんだんには、『最終的に心を持ち、「こころ」の中に居た者を守った』逸話がある。
  その逸話が、消滅の際に瀕していたジャイアントだだんだんを動かした。
  誰の意思でもない。
  ジャイアントだだんだん本人の意志が、アーチャーの侵攻を防いだのだ。

『こ、の……!!』

  しかし、その意地の一撃も、アーチャーの超耐久を抜いて消滅に追い込むまでは至らない。
  意識のもうろうとしているライダーの目に映るのは、立ち上がろうとしているアーチャーの姿。
  残された時間はもう、ここしかない。
  ライダーに迷っている暇はなかった。


323 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:51:45 oCFNf7Uw0


  消えそうな力を振り絞り、UFOを全速力で飛ばす。
  そして、ジャイアントだだんだんの首の上までたどり着き、UFOを乗り捨てる。
  『だだんだん』はそもそも『バイキンUFO』からだって変形できる。
  ならば、『バイキンUFO』を『だだんだん』の頭にエンチャントし直すことだってできるはずだ。

  一切躊躇はしなかった。
  先ほどが勝機ならば、ここもまた大きな勝機だ。
  立ち止まれば、あのアーチャーを倒せず消えるだけだ。

  取り出したのは一本のトンカチ。
  数多のバイキンメカを作り上げてきた、ライダーの唯一の近接武器。
  何もない空間にバイキンUFOを当て、叩き、伸ばし、くっつけていく。

  速く、速く、まだ速く。
  叩く力に、メカの生みの親としての信念を込め、一発一発を叩き込む。

「だだんだん!」

  足が消えかけているが、もう問題ない。
  あとは一発。
  バイキンメカとしての心を打ち込むだけ。



「新しい、顔だあ!!」



  かあん。
  澄み渡るような槌の音が一つ。
  新しい顔に、魂が込められた。



,


324 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:52:04 oCFNf7Uw0


―――

―――


.


325 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:52:18 oCFNf7Uw0


☆星輝子

  輝子には、ここがどこかわからなかった。
  ふわふわと、無重力の中のように、輝子はどこかを漂っていた。

  目が開けられないことを知り、仕方がないから、自分の状況を整理した。
  そこでようやく、自分の状況を思い出した。

  輝子は、負けたんだ。
  ライダーの一番強い宝具、ジャイアントだだんだんを出したのに、負けてしまったんだ。
  ここはきっと、ジャイアントだだんだんの『こころ』の中なんだ。

  考えると、涙が出てきた。
  ライダーに悪いことをしてしまった。
  帰って一緒にごはんを食べようと約束した幸子も裏切ってしまった。
  そしてなにより、幸子を守りたくてあのアーチャーと戦う道を選んだのに、あのアーチャーに勝てなかった。
  不相応な願いだったのかもしれない。
  友達のできたことのない輝子が、友達を守るために戦お撃っだなんて。

  目は開けられないのに、涙は止まらなかった。
  声はあげられないのに、嗚咽はやまなかった。

  まるで行き場を失った迷子の子どものように泣きじゃくった。

     ―― 大丈夫? ――

  堪えられずに泣いていると、そのうち輝子しか居ないはずの『こころ』の中に、誰かがやってきた。


326 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:53:05 oCFNf7Uw0


     ―― どうして泣いてるの? ――

  友達を守りきれなかった。
  親友も、守りきれなかった。

     ―― 優しいんだね ――

  せめて、あのアーチャーを倒したかった。
  でも、届かなかった。
  輝子では勝てなかった。

     ―― 大丈夫 ――

  誰かは、輝子の口元に、何かを押し当てた。
  驚いて口を開き、それを食べてしまう。

  口に入れられたものは、アンパンで。
  それは、とてもとてもおいしいアンパンで。
  思わず目が覚めてしまうくらい美味しいアンパンで。

     ―― 元気が出たみたいだね ――

  目を開いた輝子の正面に居た顔の一部を失った『誰か』は、そのまま消えていった。
  それはきっと、『ライダーの宝具と混ざっている』という状況が生み出した、ライダーの逸話が見せたただの幻覚だったのだろう。
  だが、それでも。
  輝子の胸には、言い表せないほどの愛と勇気と、百倍の元気が湧いてきた。


327 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:53:23 oCFNf7Uw0


―――
―――


328 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:54:39 oCFNf7Uw0


  目を開く。
  立ち上がる。

『……この期に及んで、小賢しい真似を』

  アーチャーが悪態をつくが、もはや気にならない。

  輝子が思い描いたのは一つ。
  目の前のアーチャーを、幸子たちをお層であろう『悪者』を倒せる存在。
  それはきっと正義。
  それはきっと誠実。
  それはきっと愛。
  それはきっと、何者にも変えられぬ、光で出来た存在。
  そして当然辿り着く。
  はるか昔、輝子が生まれるずっと前からどんな巨悪にだって立ち向かってきた、日本一やさしい正義のヒーローの姿に。
  そして当然巡りあう。
  ばいきんまんの逸話の中に居る、切り離せないばいきんまんの『裏側』に。

  顔を取り戻し、心を取り戻し。
  万全とは行かないが。
  戦う力を取り戻したジャイアントだだんだんが、輝子の心に従ってエンチャントされていく。


  背中には空を飛ぶための茶色いマント。
  両手にはボクサーがつけているようなパンチンググローブ。
  胸には、さんさん輝く太陽のような笑顔のマーク。
  身体はアーチャーに負けないくらい真っ赤なスーツで。
  それでも、顔に笑顔は絶やさずに、困った人たちを笑顔に変えてくれる。

  誰かがその名を口にする時、彼は必ずやってくる。
  困った人を助けるため。
  わるいやつらを倒すため。
  希望の光を守るため。
  遠い空からやってくる。

  たとえそれが―――宿敵、ばいきんまんのピンチだろうと。
  彼は必ず駆けつけて、すべての人を守るために力を貸した。

  輝子の愛。
  ライダーの勇気。
  二つの心を体に宿し。
  今再び立ち上がる、『黒鉄の守護者』の名前は―――!


329 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:55:46 oCFNf7Uw0






『その姿……「アンパンマン」か……!!』

  アーチャーが憎々しげに吐き捨てる。

『いーや、違うね!!』
『こいつは』
『ジャイアントだだんだん改め……「バイキンアンパンだだんだん」!!』

  その姿こそ、正義の証。
  その姿こそ、輝子とライダーにとっての『破邪顕正』。
  目の前の『悪』を打ち倒し、友情を取り戻す正義の味方。

『フヒヒヒハハハハハハ!!!! ハァッヒフゥッヘホォォォオオオオオオオオオオウ!!!!!』

  黄昏を切り裂く、再びの奇声。
  森が騒ぎ、風が唸る。
  バイキンアンパンだだんだんが、拳を大きく振りかぶる。
  言うまでもない。
  そのメカがアンパンマンだというならば、この局面で出す技は『あれ』だけだ。

『ならばもう一度、その顔ごと吹き飛ばすまでだ』

  アーチャーは引かない。
  一度は沈めた相手。引く道理はない。

『宝具開放―――「サジタリウスの矢」』

  アーチャーが再び地上の太陽と化す。
  そして、先ほどとまるで同じように、超加速を伴い、彗星のごとく激烈な飛び蹴りを放った。
  だが、バイキンアンパンだだんだんも引かない。
  一度は負けた相手だが、その拳の一撃にすべてを乗せて迎え撃つ。

『スターライトォォォオオオオオオオオオ!!!!』

  優しい星の輝きが、バイキンアンパンだだんだんの拳を包み込む。
  その拳の一撃は、かつて『全てを滅ぼすおしまいの星(デビルスター)』すら退けた最高の一撃。
  ジャイアントだだんだんとアンパンマン、二者が揃うことで初めて打てるその正義の拳の名は『スターライトアンパンチ』。
  二者を同時にこなすことで、バイキンアンパンだだんだんは、その一撃を、この瞬間だけ、我が物にできた。

『はぁッ!!!』

『アンパアアアアアアアアアアアアアアアアアンチ!!!!』

  拳と蹴りが衝突し。
  一瞬の静寂が生まれ。
  一瞬の静寂の後、爆発的な衝撃波が周囲の木々をなぎ倒した。




―――
―――


330 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:56:30 oCFNf7Uw0



  ライダーの宝具である『ジャイアントだだんだん』は、特殊な宝具だ。
  対『星』宝具。
  地球全土に影響をおよぼすのではなく。
  侵略する『星』を押し返した逸話を持つ宝具。
  仮に、空から星が落ちてきたならば、確実にそれを退けることができる、という規格を表した宝具。
  黄金十二宮が一、射手座。その根源はすなわち星の力。
  星の力が衝突しようとするなら、押し返せる。
  そして、『星』を『破壊』する逸話を持っているスターライトアンパンチならば。
  星の力を宿したものならば、その右の拳で破砕できる。
  なぜなら、そういう逸話を持っているのだから。

  また、ばいきんまんはこの聖杯戦争唯一の『ライダー』であった。
  アーチャーに対してこれ以上ないほどの『優勢』を持てるクラスと言わざるをえない。

  簡単なじゃんけん。
  勝負は、もしかしたら、アーチャーがライダーと戦うと決めた時に、すでに決していたのかもしれない。
  アーチャーは終ぞ知ることはない。


331 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:57:18 oCFNf7Uw0

☆アーチャー

  裏山から吹き飛ばされ、もと居た小学校の校舎付近まで吹き飛ばされるほどの衝撃。
  アーチャーはその衝撃を耐えることができなかった。
  手放したサジタリウスのスイッチが破砕する。
  これではもう、変身することは出来ない。
  それ以前に、傷だって浅くはない。しばらくすれば、そのまま消えてしまうだろう。


「そうか、私は―――」


  脳裏によぎるのは、一度目の死。


  人間というものは、子どもというものは不思議なもので。
  友情、愛情、勇気、正義、そういった下らない精神の繋がりで、容易に過去の自分を乗り越える。
  限界なんて突破して、目の前に立ちはだかるものをぶち破る。
  そうだった。
  アーチャーの記憶の中の宿敵、『如月弦太朗』がそうだったように。
  星輝子も、ばいきんまんも、そうなのだ。

  あの時、星輝子とライダーは、同乗者二人を守るという『絆』を背負い、こちらに挑んできたのだ。
  その危険性を理解せずに、『手応えがない』などと思ってしまったのは、やはりアーチャーが、絆というものを、心の底で軽視していたから、なのだろう。
  何も成長していないアーチャー自身を理解し、苦々しげに笑う。



「―――また、絆に……負けた、のか……」



  だが、身体が溶けていく中。
  アーチャー・我望光明は、一度目の死同様に、不思議な心地よさに包まれていた。















  さくり。
  消滅しかけていた我望光明の胸に、日本刀が突き刺さる。

「『死者行軍八房』」

  我望光明が、我望光明としての意識の消えるその刹那に聞いた声の意味を知ることはない。


【アーチャー(我望光明) 躯人形化(実質的退場)】


332 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:57:56 oCFNf7Uw0




  裏山は、嵐が過ぎ去ったあとのようだった。
  木々がなぎ倒され、禿山と化してしまっている。
  山の麓の民家になぎ倒された木が飛んできたという報告もある。

  その時間、裏山を見ていた人々は、口をそろえてこう言った。
  『巨人が現れ、笑いながら消えていった』。

  だが、消防隊員がその場所を訪れた時には、そこには、巨人なんて居なかった。
  巨人どころか、人の姿も見つけられなかった。
  マイペースで口数の少ない少女も。
  口うるさいくて天邪鬼な反英霊も。
  そこには残っていなかった。


  単純な話だった。
  魔力が尽きた、それだけだ。
  もとより、一般人である輝子に呼び出されたライダーではジャイアントだだんだんを長時間行使できない。
  限界を超え、その結果、当たり前のようにライダーは消滅した。
  ただ、少女たちは、その消滅の間際に掴んだ勝利を見届けていたに違いない。
  なぜなら、裏山の巨人は、消える間際に笑っていたと言うのだから。


  調査を終えて帰る際、消防隊員は、ふと、禿山を振り返ってみた。
  綺麗に一部だけ禿げ上がったその山は、まるでそこに何かが眠ることを示す墓標のようにも見えた。






【星輝子 宝具内でライダーの消滅に巻き込まれ消滅】
【ライダー(ばいきんまん) 魔力枯渇による消滅】





[備考]
※D-1地区裏山にてジャイアントだだんだんの姿が確認されました。
 被害規模やその異形から、おそらくニュースになるでしょう。
 戦闘痕は遠くからでもはっきり見えます。


333 : 名無しさん :2015/12/27(日) 23:58:47 oCFNf7Uw0
一旦投下終了です。
だいたい半分位だと思います。
続きは近いうちに必ず持ってくるのでもう少しお待ち下さい。


334 : 名無しさん :2015/12/28(月) 10:53:10 DvJowySM0
馬鹿な……これで半分だと……?
投下乙ってもう言いたい
泣いてるんだが……


335 : 名無しさん :2015/12/28(月) 12:05:50 mq8JEbzk0
投下乙です!
凄い…ばいきんまんだ!子供のころに見たばいきんまんそのものだ!


336 : 名無しさん :2015/12/28(月) 13:23:26 CHNUCI220
投下乙っす
泣けた…ばいきんまんとジャイアントだだんだんの最期の戦いが熱すぎる
親友のために奮起した輝子とその前に現れたばいきんまんの永遠の宿敵、「新しい顔」とかもうね
そうだよな世界一優しいヒーローはばいきんまんのピンチにも駆けつけるような奴だよな…
そして何より我望のUFOとの遭遇から、星を砕くスターライトアンパンチに敗れるまでの圧倒的なアーチャーとしての強さ、再び弦太郎や子供たちの力を連想していく心情描写、それらがあって初めて成り立つ感動だったとも思います
スノーホワイトとばいきんまんの組み合わせにも癒された
自分をすり減らし続けてた小雪ちゃんにほんの少し救いをくれたのが彼だとは
クロメの暗躍、大井の行く末を初めまだまだ他の参加者たちの動きも気になるところですし、後半もとにかく楽しみにしております


337 : 名無しさん :2015/12/28(月) 20:05:23 VgLbexCYO
投下乙です

対星
ドリル
ライダー
これでもかと、我望に有利な属性持ちだったのねばいきんまん


338 : ◆PatdvIjTFg :2016/01/01(金) 00:26:31 wk1KW2ZE0
2016年も少女聖杯をよろしくお願いします

         , 、 __   ____
       , -i fjfiンl    ``lrf-} }_ヽ,                                  __     ∧/|   / ̄``丶、
      /  /-i-''      `=="i l .l                             '"r┐ r┐ /   `'¬゙         \
.     l l i  ll/ l  l  l .l .l. l  l l .!                         /  _∠⌒> {  ο  /⌒)(⌒)\   `、
     弋 '、 l l l l l li  /l __l l // //             ::.:.:.:.:.:.:.:.:. : .        /    〈フ'//  \__/〉弋 ㌻^', `.   `.
.        ヽ、.ヽ ,ィ竺ョ.  l:::::::i / ,i´               : :切れそう: : .      /  /⌒∨/∧     │   乂マニニアノ   |
       | i、 .,!些∥ 弋ツl / ,|             : ::.:.:.:.:.:.:.:.:. : :      /  /    ///\'. \  |><´ \`¨´ }   !
      /l  } /ゝ __ __ "ィll l、 !l                            {  {    {{{rf心,\l\|ん心、 \ /   `、
     //_/ ィ `!ri_/l_r、r`、`i、__`ー-、                        `:、   `トゝVリ,    V)ソ「¨Tア゙      \  `¨ア
    /ィ ィ´' 1 、 f`'-i )   > 1i`i`'i `i          ⌒ヽ、          \ \ │ {'''  r‐…ァ ''''/// │  \  '.`¨¨¨´
.  / ./ l   ''ーョ//  3γ-イ   l l y /                : \         `¨7 ! |ゝ .,,____「¨ア〔__{ !   /\ \
  /  .l  {.   7´ l  _〕 -{,   .l, !'_/   、              }  }      、____彡   、|  |>、/∧∠ニニ\ `、  {  `¨⌒
  .l  l_ 入  l   __f∫^、l  /ィ  |    \` ー─── =ミメ  ′        `¨¨¨¨}     厶[ 厶<7⌒〉/ ̄\\ 乂
   ` 、_`'' ー ュ| .r、f -'/    \ .i / ./       \       -=ミ  厶,_ _       _,ノ    /{>、∀/ \厶`>'゙ア゛ `¨⌒
      ヽ, /s-'l, 、」l_ f- r- l !/ /     <//>  ´  />       \   ⌒¨¨¨¨¨´ \[]二二二 {_)
   ., -ー'_/`´''' l lXl.l.l Xl l  .l 、, _\__     /⌒ア // / |   i       `く//////    ∧ニニニニ=-<\
  / / / l l li l.lXl.l.l.lXl.l  .l ! !`` ー、ヽ     / /イ  /| /|   | \   ヽ | ∨77∧      |/|.:.|.:.|.:.|.:.|:..\:..,>′
  ! l  l  l l l l llXl.l .Ⅷ ll  .l  l !   .} !    ∠/   | />x人  :|x<\ ハ! ∨//\     ∨/ニ7¨Tニ7´
  入弋 入_ヽヽ! l l.lXl.l .l.lX.ll  l  .l l  .∥       イ  |/  ◯三\| ◯ Y}ノ|ノ  }><,ハ      /.: x/  ,゙x :::}
    ``  `''' ` l l__l_l、l lX,l_i 、! ∥        レ八  j|   三三三三  |  |勹 /     |\    /.: x/  /x :::/
           \_/ ` 、__l            {  ハ八    △     |  |,ノ/}     :|     {__」 /.::::::/
                                                               ` ̄´


339 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:14:30 rojVlRp20
ようやく完成しました。
投下します。


340 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:15:44 rojVlRp20
☆ランサー


  ランサーは見たことがないが、きのこ栽培業者の作業場はこんな感じなのだろうか。
  湿度が高く、薄暗い。空気が閉じ込められたままで、いかにも健康に悪そうだ。
  家中にきのこの原木が追いてあり、どの原木にもきのこが山のように生えている。
  とても特徴的な家の壁際、部屋の主が使っていただろうベッドに、連れて帰ってきた少女を腰掛けさせる。

「かびかび?」

  部屋の主のサーヴァントの使い魔、赤錆色のかびるんるんは不思議そうな顔でこちらを見つめたが、ランサーの連れて帰ってきた少女を見ると何度か頷いて離れていった。
  おそらく、サーヴァント経由で友人として紹介されていたのだろう。
  部屋の主の友人である少女・輿水幸子の方を見る。
  少女は、とても切羽詰まった表情をしていた。
  無理も無いことだ。友人を一人、戦場においてきたのだから。

「き、きのこを!」

  幸子が振り返り、突然声を上げた。
  声もやはり、平静を保てていない。裏返ってしまっている。

「きのこを、採って、待ちましょう」

  何度かの深呼吸の後に、幸子はようやく、その短い一文を言い終わった。

「約束ですから……いつ帰ってきてもいいように、いっぱい、採っておきましょう」

  それは、場違いな提案などではなく。
  心の底から無事を祈るための願掛けや、自己暗示に近い一言だった。


341 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:17:22 rojVlRp20


  ライダーが残って戦うと宣言したあと、彼のマスターである少女・星輝子だけは憮然とした表情でライダーの方に歩み寄った。
  会話の内容は分からない。
  だが、ランサーの頭には心の声が届いてくる。

(ライダーを一人で置いていけない)

  ライダーは先程からずっと(輝子たちに残っていてもらっては困る)と考え続けている。
  それが本心なのかは分からないが、
  小声で二言三言交わすと、ライダーの心の声が切り替わった。
  (できればマスターを説得してほしいが)
  ランサーが事態について予測を立てるよりも早く、輝子が待ちぼうけていた二人のもとに帰ってきた。

「残るよ、私」

  まるで天から降ってきたような唐突な一言に、ランサーも幸子も、待っていた時とはまた別の意味で言葉を失った。
  輝子は詰まりながらも言葉を重ねていく。
  ライダー一人では足止めにも不安が残る。
  だが、マスターと一緒にいることで発動できるものすごく強い宝具がある。
  だから輝子も残ってアーチャーを倒す。
  その提案に異を唱えたのは、当然、輝子の友人である幸子だった。

「そんな、そんな、危なすぎます! 輝子さんが、そんなこと、しなくてもいいじゃないですか!!」

  気づかれないように声は抑えているが、それでも心の底から絞り出したことがわかる悲痛な叫びだった。
  ランサーの頭のなかで、心の声が反響しだす。
  (輝子さんをおいていけない)(幸子ちゃんに残られては困る)
  二つの声は、お互いに、お互いのことを思いながら、ランサーの頭のなかを満たしていった。


342 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:19:57 rojVlRp20


  ランサーは、どちらに声をかけることもできなかった。
  本来ならば、ライダーと幸子の意見を尊重し、輝子を連れて帰るべきなのだろう。
  だが、輝子の心の声は、目の前に居る彼女の姿からは想像できないほど強く大きい。それだけ、強く思っているのだ。
  ライダーの主として、幸子の友達として。二人の無事を心の底から祈っているのだ。
  その思いを蔑ろにする権利は、異物であるランサーには存在しない。
  だが、だからといって置いていっていいわけがない。それは理屈ではなく、ランサーの魔法少女の信念に基づく選択だ。
  ランサーは、ライダーに向かって自身の選択を掲げる。

「ライダーさん」

「なんだ」

「私も……残って戦います」

「はぁ? 駄目だ駄目だ!」

  その一言は、それまで聞いたライダーのどんなセリフよりも重かった。
  あからさまになセリフとはまた違う、ほんとうの意味で、突き放そうとしている言葉だ。
  ライダーはランサーの瞳から目をそらさずに、どこか怒気すら感じさせながら続ける。

「いいかよく聞け! お前は正義の味方で、残っていいことしたいかもしれないが、俺様にとっちゃあ、そんなの、余計なお世話なんだよ!
 お前が居ても何も変わらない! 邪魔なだけだい! だから、お前はできることだけやってりゃいいの!」

  一歩踏み出そうとしていた心を、頭から抑えこまれた気分だった。
  ランサーはずっと、後悔したくないから、自ら選び、戦って、戦って、戦い抜いてきた。
  だが、ライダーはそんなランサーに、戦うなと言ってくる。
  引きたくはなかった。ここで引けば、ランサーはきっと後悔するとわかっていたから。
  だが、ライダーの心の声が、しゃかりきに踏み出そうとしていたランサーの心をまた抑えこむ。

  (マスターの願いが果たせずに終わったら困る)
  (サチコを守れなかったらマスターが悲しむ。それもなんか困る)
  (ガンコなマスターは無理かもしれないが、ランサーがサチコを連れて帰ってくれなきゃ危ない。困る)
  (なんとかして、ランサーとサチコを一緒に逃さないと困る)

  『それでも残ります』と言おうとして開きかけた口は、ついに言葉を結ぶことはなかった。
  ライダーの心の声に、ランサーは、言い返すことができなかった。


343 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:20:25 rojVlRp20


  ライダーの声を聞き、遅まきながら、ようやくランサーも理解した。
  輝子も、ライダーも、別に死にに行きたいわけじゃない。ただ、選んだんだ。
  昔々に姫河小雪が後悔し誓ったように、彼らもまた、自分たちが後悔しない道を選ぼうとしていたのだ。
  このやり取りも、選んだ道にランサーたちが居ればきっと後悔することになると分かっているから、輝子もライダーもランサーたちを返そうとしているだけにすぎない。
  ランサーが残れば、きっと二人を後悔させることになる。
  ランサーが帰れば、きっとランサーは後悔する。
  どちらを選んでも誰かが後悔を背負うことになる。どちらもが後悔しない道は、もう残っていない。

「……私にできることって、なんなんですか」

  ただの一言でぐちゃぐちゃになってしまった頭の中から、どうしようもない問いが溢れる。
  ランサーの問いかけに、ライダーはしばし間を置き、こう答えた。

「俺様にはぜえんぜえん関係ないけど、マスターは、サチコを守りたいんだとさ」

  彼の口から出たのは、ライダーの思いではなく、ライダーのマスターである輝子の願い。

「正義の味方は、俺様じゃなくて、そういうことを手伝うもんだろ!」

  続いたのは、不器用な彼なりの依頼。そして、何度目かの『正義の味方』という呼び名。
  頭の中でひしめく泥の中に、正義の味方という肩書は、眩しすぎた。
  ライダーはぽん、とランサーの肩を叩く。

「心配するな! 俺様すーっごい強いから! ぜぇったい勝つ!
 UFOを壊したあいつを、空の星に変えてやる!」

  何も答えられずに黙りこむ。
  そして、魔法少女の思考能力でたっぷり数十秒をかけて、結論を出した。
  ランサーは結局、『他人のための』魔法少女だった。
  困った人に力を貸したい魔法少女だった。人々を幸せにしたい魔法少女だった。
  だから最後には、自分が後悔しないではなく他人に後悔させないが上回った。
  ランサーは、唇を噛み締め、拳を握りしめ、後悔するであろう道を選ぶことに決めた。
  叩かれた肩が、少し重く感じた。


344 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:20:49 rojVlRp20


「じゃ、じゃあ! ボクも残って―――!」

「それは……駄目」

  なぜだかいたたまれなくなり、幸子たちの方を向く。
  そこでは、丁度ランサーとライダーのやり取りと同じように、輝子がきっぱりと幸子の言葉を切り捨てていた。

「幸子ちゃんが居ても、危ないだけだ……わ、私と、ライダーは、大丈夫。
 だから……幸子ちゃんは、そ、そっちの人と、帰ってて」

「そうだそうだ! お前が居たら、踏み潰しちまうかもって、集中できなくなるんだよ!」

  輝子の言葉に乗るように、ライダーが手を払いながら突き放す言葉を加える。
  幸子の顔はもう真っ赤だった。
  言葉と感情がうまく組み合わさっていないように、口を開いて、言葉が出せずに止まってを繰り返している。
  そして、数秒後、撥ね付けるようにこう怒鳴った。

「……じゃあ、勝手にすればいいじゃないですか! もう、知りませんから!」

  幸子は踵を返した。傍目に見てもはっきりわかるくらいに、捨て鉢だ。
  輿水幸子という少女は、そういう少女なのだろう。
  輝子もそれを分かっているようで、ただ、力なく笑っていた。

「いいか、マスター」

「う、うん……」

  身を翻して、森の奥、アーチャーの追ってきている方へと歩を進め始める。

「……知りませんから。もう」

  幸子の言葉が嘘だなんて、心の声が読めなくてもわかった。


345 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:21:10 rojVlRp20


「あ、そうだ。ふたりとも」

  声に止められ、振り返る。
  振り返った先にあったのは一切陰りのない輝子の笑顔だった。

「キ、キノコがさ……」
「ライダーのおかげで、キノコが、いっぱいできたんだ……
 か、帰ったら……幸子ちゃんと、ランサーさんと、ライダーと、小梅ちゃんも呼んで、キノコづくしにしよう。
 きっと、いい思い出になるから……だから、先に帰って、き、キノコ、収穫……」

  その喋りは、追われている途中からずっと変わらない。平静そのものという語り口だった、
  幸子は何かを言おうと口を開き、そのまま口を一文字に結んで俯き。
  そして、静かに、答えをこぼした。

「や、約束ですよ……約束破ったら、タダじゃおきませんからね。すっごく、本当にすっごく怒りますからね」

「フ、ヒ……怖いのは、やだな……頑張ろ」

  幸子が顔を跳ね上げる。大粒の涙が宙に舞った。

「そうですよ! 頑張って下さいよ! 待ってますからね!」

「任せて。頑張るの、結構、得意……かも……フフ」

  輝子は、やはり笑っていた。
  困った人から聞こえる心の声は、ライダーからも、輝子からも、聞こえなかった。


346 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:21:27 rojVlRp20




  あれ以降、追跡の手はぱったりとやんだ。
  振り返って確認することはできなかったが、きっと輝子たち二人が足止めしてくれているのだろう。

「大丈夫ですよね」

  黙々とキノコをもいでいた幸子が口を開いた。

「か、勝つ方法があるって言ってましたもんね! 約束だって、しましたし……」

  別れる前にはあんなことを言ってしまったが、幸子も幸子でてるこの事を心の底から思っているのだ。
  そこはランサーにもちゃんと分かっている。
  それにランサーには、今も幸子の悲痛な叫びが聞こえていた。

  (早く会いたい)(無事に帰ってきて欲しい)

  一人だけでもランサーの頭を埋め尽くせるほどの心の声。
  もしかしたら、人間体であったとしても聞こえるかもしれないほどの思いの強さだ。
  気休め程度にしかならないだろうとはわかっていたが、ランサーも一言だけ、輝子の勇気に心を添えておいた。

「大丈夫ですよ。ライダーさんは、意外と強いから」

「……そう、ですよね」

  返答に元気はない。
  なにか別の言葉をかけるべきかと考えていると、ついにその時は来てしまった。

  きのこの原木を囲んでいたかびるんるんが、突然消えた。


347 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:21:47 rojVlRp20


  数十体居たかびるんるんたちが、全く同じ瞬間に消えてしまう。
  かびかびという小粋な鳴き声がやみ、突然の静寂が訪れる。

「あ、ああ……」

  幸子が、かびるんるんたちの居た場所にうずくまった。
  ランサーにも理解できた。
  たった今、かびるんるんたちの主であるライダーが消滅したのだ。
  それが意味することは、すなわち―――

「なんで、なんで……っ!」

  問いかけに続く言葉はない。
  きっと、様々な感情が渦巻いているのだろう。心の声は、嵐のように吹き荒れている。

  ランサーは鳴り止まない心の声たちを聞きながら、やはり、後悔していた。
  もっとなにか、方法があったのではないか。何かが違えば救えたのではないだろうか。
  選んで後悔するのは、何度目だろうか。分からない。
  ただ、後悔すると分かっていて選んだのは、きっと初めてだ。
  後悔はやはり深く、黒く、強い。
  ランサーの胸には、ライダーとのやり取りが今なお残っている。
  ライダーに言わせるなら、幸子を連れて帰った行いは『いいこと』だし『正義』なんだろう。
  でも、彼の純粋な善悪の価値観だけでは、ランサーの後悔は割り切ることができない。
  結局ランサーは輝子もライダーも守ることができなかった。それでもまだ、ランサーは『正義の味方』なんだろうか。
  ランサーにはわからなかった。

「思い出、一緒に作るって、言ったじゃないですか!」

  幸子が、震える声でようやく絞り出した言葉は。
  否定でもなく、怒りでもなく、届かず消えた希望の残滓。
  その一言を言い切ると、幸子は、堰を切ったように泣き出した。


348 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:22:17 rojVlRp20


【C-3/マンション・星輝子の部屋/1日目 夕方】

【ランサー(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(中)、絶望(微)、ストレス
[装備]
[道具]ルーラ、四次元袋、キノコ
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り犠牲を出さずに聖杯戦争を終わらせる。
0.―――
1.輿水幸子に対応
2.江ノ島盾子たちのところに戻るべきか否か
3.江ノ島盾子と蜂屋あいの再会時に蜂屋あいのサーヴァントを仕留める。
4.出来ることなら、諸星きらりに手を貸してあげたい。

[備考]
※木之本桜&セイバー(沖田総司)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、
 蜂屋あい&キャスター(アリス)、キャスター(木原マサキ)、バーサーカー(チェーンソー男)、輿水幸子を確認しました。ステータスは確認していません。
※江ノ島盾子がスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対応していることに気づきました。蜂屋あいの心の声が聞こえません。
※諸星きらりの声(『バーサーカーを助けたい』『元いた世界に帰りたい』)を聞きました。
 彼女が善人であることを確信しました。

【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、恐怖(微)、深い悲しみ
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]キノコ
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:―――
0.―――
[備考]
※ランサー(姫河小雪)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、
 キャスター(木原マサキ)、バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。ステータスは確認していません。
※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。
※小梅と輝子に電話を入れました。
※『エノシマ』(大井)とメールで会う約束をしました。
 また、小梅と輝子に「安否の確認」「今日は少し体調がすぐれないので学校を休む」「きらりを見かけたら教えて欲しい」というメールを送りました。


349 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:22:44 rojVlRp20


☆アサシン

  英霊に付き従う枷として『逸話』がある。
  英霊は、本人すら気づかぬうちに逸話に縛られ、聖杯に管理されている。
  アサシン・クロメも逸話に縛られた英霊の一人だ。
  しかし、彼女の場合は英霊として不完全だった。

  アサシンには決定的な逸話が足りていなかった。
  欠落した逸話は『帝具の再現』。
  例えば、ドラゴンの破壊光線は再現できる。例えば、超人的な身体能力は再現できる。
  しかし、武器についてはその限りではない。
  クロメと彼女の宝具である『死者行軍八房』は、生涯一度も同等の武器である『帝具』を再現しなかった。
  例えば、アサシンが姉のアカメを殺害していたとして、彼女の『一撃必殺村雨』は躯人形と化した姉の手に握られていたのか。
  もっと言えば、アサシンが化粧の暗殺者・チェルシーのとどめをナタラに預け、自分で刺さなかった理由はどこにあるのか。
  その答えは、聖杯にも残っていない。
  彼女の逸話に残っているのはナタラに帝具より遥かに劣る臣具をもたせていたという事実だけであり、それ以上については闇の中だ。

  逸話のブランクで生まれた謎は、彼女の顕現においてどう補完されたのか。
  聖杯は、その逸話の欠落を戦闘時に起こりうるブレの一部として、クロメとクロメの宝具の餌食となった英霊に預けた。
  すなわち、幸運値による判定だ。
  クロメが敵対した英霊と同じくらい、もしくは恒常的な状態で敵対した英霊よりも幸運であったならば、『八房』はたとえAランクの宝具だろうと再現が可能。
  しかし、クロメが彼らより不運だったとするならば。

「……失敗か」

  ため息を付いて手に入れた躯人形を眺める。
  その姿には確かに見覚えがある。高等学校の上に居たあの英霊だ。
  ただ、その人物に特殊能力が残っているようには思えない。
  目の前で弾けたスイッチのような何かこそが宝具だったのだろう。
  これではただの人間とほとんど変わりない。
  スキルがいくつかあるようだが、身体能力は人間並み。ハズレもいいとこだ。


350 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:23:01 rojVlRp20


「ハズレでも、ようやく手に入れた人形だ。大切に使ってあげないとね」

  ぱき。
  しゃく。
  ぽりぽり。
  お菓子を食べながら刀を仕舞う。サーヴァントだったモノは、なにも言わずに八房の中に消えた。

「さて、私はやることやってやったけど……あっちはどうかな」

  思うのは、自身のマスターである山田なぎさのこと。
  小学校の屋上の戦闘から、今後発生する乱戦の気配を察知して、横から掻っ攫った少女を渡してそのまま押取り刀で駆けつけた。
  あの脱落マスターの処遇にかんしてはマスターに一任してある。
  戦闘中の様子を確認する限りでは、身のこなし、反射速度、どれも歳相応の無力な少女だ。
  いくらなぎさが荒事に慣れていないとはいえ、体格で優っている相手に一方的にやり込められることはないだろう。
  心配はまったくない。
  だが、とても楽しみなことは一つある。

「ようやく、初めての覚悟の見せ所だ。どの程度なんだろうね、マスターの言う覚悟って」

  出会い頭の威勢のいい啖呵を思い出す。
  威勢だけは立派だったが、実際のところはどうなのか。
  クロメは、なぎさに特に期待していない。
  所詮昨日までなまっちょろい世界で生きてきた少女だ。
  口でなんと言っていようと、踏ん切りをつけられないことまで織り込み済みだ。
  もし宣言通りに『なんでも』して、令呪を奪っていたならば、それもよし。
  駄目だったなら発破かけのいい機会になる。


351 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:23:20 rojVlRp20


  覚悟とやらが上っ面だけでたたらを踏むようなら、なぎさの目の前であの少女を躯人形に変えてあげればいい。
  あの脱落マスターを躯人形にしたところでさしたる使い道はないだろうが、仲の良さそうだった少女のもとに武器を持たせて送り込めば、負傷の一つは稼げるだろう。
  人形二つ。まだまだ本調子とは行かないが、動きがやっとそれらしくなってきた。
  聖杯への期待か、久方ぶりの戦場の興奮か、やや上向きになった調子に乗せて、こうつぶやく。

「……言ったとおりだ。嵐が来るよ、マスター」

  なぎさの言葉を借り、戦場に添える。
  見上げた向こう、山の奥に見えた巨人の姿はもうない。
  どこぞの誰かが戦って、負けて死んだか、勝って引いたか。
  どちらにせよ、あの巨人と小学校での戦闘は、大きな波紋を起こすだろう。
  参加者たちは必ず何らかの反応を起こし、動き出す。
  参加者が動き出せば、ようやく、暗躍がしやすくなる。そこからが、アサシンの本領の見せ所だ。
  賽はようやく投げられた。
  まずはもう少し、周辺を見ておこう。
  戦闘の噂を聞いてようやく集まった主従が居れば、気配遮断を利用して顔を覚えるいい機会になる。
  ここからが、アサシンの聖杯戦争の幕開けだ。


352 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:23:37 rojVlRp20


☆大道寺知世

  夢を見ていた。
  いつものように木之本桜とともに、学校で過ごす夢だ。
  夢のなかの小学校は平和だった。
  死神様なんてものは、噂も残っていない。
  隣を向けば、シニカルな表情のサーヴァントが立っている。
  そんな、とっても寂しい夢だ。

  目を覚まして、泣いていたのに気づいた。
  そして、アサシンが消えてしまったことを思い出して、再び嗚咽がこぼれた。

「起きたの」

  唐突に声がかけられる。
  顔を上げれば、目の前には一人の少女が立っていた。
  そこで知世はようやく自分の置かれている状況に気づいた。
  手首足首を縄で縛られて、椅子に座らされている。身動きが一切取れない。
  先程まで屋上に居たところからの突然の状況の変化に頭が真っ白になってしまうが、それでも、頭のなかに張り付いたあの笑顔は忘れない。
  夢うつつの中においてしまいそうだった少女のことを思い出す。

  死神様。
  あのエプロンドレスのサーヴァントが、死神様だった。
  やはり死神様事件には黒幕が居た。サーヴァントが関わっていた。
  だが。
  ぽたりと一つ、大粒の涙がこぼれ落ち、小学校の制服を濡らす。
  死神様のせいで、知世のサーヴァント・アサシンは戦うことになり、結果として消滅してしまった。
  知世の指示に従い。
  知世を守るために。


353 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:24:32 rojVlRp20


「あ、の!」

  自分のせいでという深い後悔に苛まれながらも顔を上げる。
  そして、身動きがとれないままの身体で身を乗り出し、椅子ごと転けそうになりながらも少女に食らいつく勢いで話しかける。
  これではあまりにも、知世を手伝ってくれたアサシンが報われなさすぎる。
  せめて一矢だけでも、あの『死神様』に報いたい。
  悪びれもせず、ただ無邪気に災厄を振りまいた『死神様』に、目に物を見せてやりたい。
  でも、知世にはもうその力は残っていない。
  知世がアサシンの犠牲によってようやく手に入れたのは、死神様の姿とクラス名だけ。他にはもうなにもない。

「お願いします! 貴女が何方かは知りません! でも、でも、私を攫うということは、聖杯戦争の参加者の方だと思います!
 手伝ってください! 私、死神様を……あのサーヴァントを、どうしても倒したいんです!」

  知世はまた、泣いていた。だがその涙は、別離を悲しむ涙ではない。
  言うならば優しさの涙。失ったものを思い、守るべきものを思うからこそ流れる涙。
  名前も知らぬ少女(とは言っても、知世よりはずっと年上だ)は少し黙って見つめたあとで、ようやく口を開いた。

「話してみてよ、それから考えるから」

  死神様について、知っていることをすべて語った。
  小学校に蔓延している呪術の噂。
  魔女狩りのような一方的な私刑。
  その裏に居る一体のサーヴァント。
  屋上での戦闘についても、全て語った。
  フェイト・テスタロッサ。
  死神様のクラス名はキャスター。
  助けに来てくれた友人。
  暗転する意識。
  聖杯戦争に直面してから、ここに至るまでの全てを、少女の前にさらけ出した。

「……」

  少女は、少し黙って考えているようだった。
  知世はもう一度、ろくに身動きも取れない身体で頭を下げて頼み込む。
  お願いします、お願いしますと。
  そうして頼み込んでいると、少女はゆっくりと口を開いた。


354 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:24:57 rojVlRp20


「迂闊だね」

「えっ……」

「『誰かは知りません』って、それって、あたしがその『死神様』のマスターかもしれないってことでしょ」

  少女は、つらつらと語る。表情は全く変わっていない。
  その少女の一言に、知世は生き肝を抜かれるような気持ちだった。
  もし少女の言葉が正しいのならば、知世の運命は決したようなものだ。
  これからは、死神様事件の被害者のような結末を迎えるしかない。
  震える声で尋ねる。

「貴女が、そうなんですか」

  少女は、椅子に座らせられている知世と目を合わせるように、少しだけ身をかがめ。
  そして肯定でも否定でもない一言で答えた。

「もしあたしが死神様なら、正体を教えるような真似、するもんか。
 あんたはつくづく迂闊だ。だからいいようにしてやられるんだ」

  返す言葉がなかった。
  塩を塗るような一言が、じくりじくりと知世の心の傷に響く。
  知世が何も言えず俯いていると、その様子を見て、少女はまた一言続けた。

「まあいいよ。手伝ってあげるよ」

  それは、知世が一番望んでいた答え。
  だが、知世が顔を上げて礼を言うよりも早く、言葉が重ねられていく。

「ただし、条件がある」


355 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:25:19 rojVlRp20


「まず、令呪全部だ。令呪を全部くれたなら、手伝ってやる。
 それに、手伝うだけだ。勝てないと思ったら勝手に引き上げるし、勝てると思ったらあんたがどう言おうと勝手に戦わせてもらう。それでもいいなら……」

「構いません!」

  迷うことなんてなかった。
  もう失ってしまった権威など何の役にも立たないのだから、交渉の材料になるというのならば捨てる勢いで渡してみせる。
  倒すというのだって、構わない死神様はすでに無辜の児童を数多く屠っているのだ。今更申し開きの余地もない。
  少女はやや面食らったように言葉に詰まったが、返答を聞いて数秒待ち、そして知世を縛っていた縄を解いた。
  椅子に固定されていた身体が自由になる。
  そうして初めて、知世は生きた心地を取り戻した。

「あの、一ついいでしょうか」

  縛られて固くなってしまった身体をほぐしながら、少女の方を向く。
  少女は、ノスタルジーにひたるように空を見上げていたが、やや間を置いて振り向いた。

「お名前……伺ってもよろしいですか」

  突然の出会いで、お互い名前も知らない。
  連絡先も、できることなら交換しておきたい。
  それより、そもそも知世はどうするべきかを考えなければならない。
  少女の側でアシストできるようにしておいた方がいいのか。
  別行動で情報収集に勤めればいいのか。
  そういうことも、目の前の少女と決めておく必要がある。

「……『なぎさ』」

  つっけんどんな少女は一言だけ返した。
  苗字か、名前かはわからなかったが、深く追求することなく、頭を下げて挨拶を返す。

「大道寺知世です……その、よろしくお願いします。なぎささん」

  大道寺知世の聖杯戦争は、まだ終わらない。


356 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:25:35 rojVlRp20


☆山田なぎさ


  気分が悪い。
  頭に血がめぐっていない。貧血の時はこんな感じなんだろうな、と思う。
  躊躇は捨てた。そのはずだ。
  しかし、現実ってのは思った以上に厄介だった。
  少女の柔らかな睫毛は、涙に濡れていた。
  眠りながら泣いている。
  彼女に何が有ったのかはわからない。
  サーヴァントを失い脱落したとだけアサシンからは聞いている。
  そこに泣くほどの何かがあったかどうかまでは聞いていない。
  ただ、少女は。
  可愛らしい人形のように椅子の上で眠りながら、さめざめと涙を流し続けていた。
  その光景に、へばりついていた記憶の澱があたしの脳内を汚し始める。

  突き放されて、子どもみたいに泣きじゃくる少女の記憶。
  体中痣だらけで。
  歩くこともままならない。
  それは、誰かの暴力のせいで。

  なんでもすると誓った。そのはずだ。
  その誓いは、少なくともあたしの中ではとても大きなもので、何事にも変えられない信念だ。
  でも、その誓いに待ったをかける何かもまた、心の奥に存在していた。
  無抵抗の人間に暴力を振るうのか。
  自分の勝手で実の娘を、海野藻屑を虐げていたあの男と、海野雅愛と同じ存在になってしまうのか。


357 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:26:06 rojVlRp20


  あの男が今のなぎさと同じ状況に立ったなら、きっと悪びれもせずに、目をぎらつかせながらこう言ってのけるだろう。

『こいつは負けたんだ。負けた人間から何をもらおうと、僕の勝手だろう。
 誰にも口出しする権利はない。死んでないだけありがたく思うべきだ』

  それは実弾だ。
  この世界を生き抜くための力だ。
  反吐が出るほどに実弾で。
  この上なく無慈悲で。
  だけど、だからこそ、誰も選べない道。
  きっと、『なんでもする』とは、そういうことだ。
  自分の夢のために『なんでもする』とは、あの男のような判断をすることだ。

  あたしが選ぶのは、あの身の毛もよだつような精神異常者と同じ道、なのだろうか。
  フラッシュ・バックのように蘇る、居心地の悪い記憶たち。
  たまたますれ違ったアーケードで出会い、自分に正義があるように語る海野雅愛。
  それより昔の、海野雅愛に突き放されてらしくなくおいおい泣きじゃくる海野藻屑。
  それらが浮かぶたび、なんとも言えない気持ちになった。

  縄で縛り付けた人間を一方的に甚振ればもう戻れない。
  あたしは、海野雅愛の同類になってしまう。そんな気がした。
  だからあたしは、結局、なんでもはできなかった。

  少女は目を覚ますと、何故かあたしに協力を申し出てきた。
  死神様。
  小学校で流行っているおまじない。
  おまじない、なんてのは態勢を整えるための上っ面の名前。
  その正体は、自分の勝手な理屈と理想を押し付けて、他者を一方的に嬲り殺すための儀式。
  脳裏に浮かんだのは、血まみれの黒い毛と、汚らしい文字。
  どこまでも、忌々しい思い出だ。
  どれだけ捨てようと思っても、あたしの中につきまとい続けるつもりらしい。
  海野藻屑と別れて以来、不意に思い出すのはいつだってあいつら二人のこと。
  これじゃあ気持ちの悪いストーカーみたいだと自分のことながらあきれてしまう。
  本当に、嫌になる。


358 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:26:23 rojVlRp20

  死神様について、少女のサーヴァントが消滅した戦いについてを少女から聞く。
  有益な情報が多かった。
  朝方通達で確認したフェイト・テスタロッサが小学校にいるということ。
  小学校には『死神様』を含めてもう数人の主従が居るということ。

  そして、協力についても、なぎさは条件付きで承諾することに決めた。
  報酬は令呪三つ。フェイト・テスタロッサを探すよりも効率がいい。
  相手の姿と戦闘を一度見ている大道寺知世から情報を引き出せば、今後の立ち回りに役立つ。
  大道寺知世によれば、彼女の友人も聖杯戦争に関わっている可能性があると聞く。大道寺知世を利用して近づけば、不意を打ってサーヴァントを奪えるかもしれない。
  それに、これはあたしの方にだけ決定権のある一方的な協力だ。嫌ならすぐにやめられる。
  ただ奪うよりも実入りがいい。
  無体を行って得られるかどうかも分からない令呪よりも、この契約の方が有効に使えるはずだ。
  協力と呼ぶには一方的に有利すぎる条件を突きつけたが、少女は二つ返事でその条件を飲むことを誓った。

  少女の腕と足を固定していた縄を解きながら考える。
  もし、死神様ってやつを倒せたら、あたしはあの男の呪縛から逃れることができるのだろうか。
  全くもって非現実的かつ非効率的な発想に、頭が痛くなる。
  そんな空想的な考えは、らしくない。
  あたしが選んだのは、もっと実弾的な利益だ。
  でも、アサシンがあたしの決断をどんな風に受け取るのかは、考えたくなかった。

  強い風が吹く。
  飼育小屋の外の雲は、家に帰る人の波のように、急ぎ足で動いていた。




  実弾は、知らずのうちに、嵐の中へと放たれる。


359 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:29:21 rojVlRp20


【D-2/小学校/一日目 夕方】

【アサシン(クロメ)@アカメが斬る!】
[状態]実体化(気配遮断)中
[装備]『死者行軍八房』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取る。
1.戦闘の発生に注意しながら索敵。
2.機会を見てマスターのもとに帰る。その時のマスターの様子次第で知世を躯人形に。
3.アサシンらしく暗殺といった搦手で攻める。その為にも、骸人形が欲しい。
4.とりあえずおとなしく索敵。使えそうな主従を探す。
[備考]
※双葉杏をマスター(仮)として記憶しました。
 江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。ランサーはスノーホワイト状態だったため変身前の姿は知りません。
 側にサーヴァントの居なかった大井・星輝子はスルーしています。
※アーチャー(我望光明)を確認しています。戦力が不明なため、こちらから斬りかかることは今はまだありません。
※八房の骸人形のストックは一(我望光明)です。
※気配遮断が相まってかなり見つけられにくいです。同ランクより上の索敵持ちで発見の機会を得られます。
※英霊を躯人形にした際、武器系宝具の再現には幸運値判定が入ります。
 幸運値E以下の英霊ならば武器は再現可能、クロメの幸運値を令呪で一時的に上げて相手を殺せばそれ以上でも再現可能です。
 判定はあくまで『宝具クラスの武器が再現できるかどうか』であるため、呪文や体質、逸話昇華系宝具ならば幸運判定なしで再現することが可能です。


360 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:29:45 rojVlRp20


【D-2/中学校 飼育小屋/一日目 夕方】


【山田なぎさ@砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない】
[状態]健康、若干憂鬱(すぐに切り替え可能)
[令呪]残り三画
[装備]携帯電話、通学カバン
[道具]
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、海野藻屑に会う。
1.大道寺知世を手伝う……?
2.お人好しな主従と協調するふりをして、隙あらばクロメに襲わせる。
3.ただし油断せず、慎重に。手に負えないことに首を突っ込まないし、強敵ならば上手く利用して消耗させる。
[備考]
※掲示板を確認しましたが、過度な干渉はしないつもりです。
※暴力に深層心理レベルで忌避感があることに気づきました。
※令呪三画を報酬に大道寺知世に協力を約束しました。


【大道寺知世@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態]深い後悔、手首足首などに縛られた痕
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金] たくさん
[思考・状況]
基本行動方針: 街の人達を守る
1.アサシンくん……
2.『なぎさ』に『死神様』事件について協力してもらう。
[備考]
※死神様について
・小学校の生徒を自由に操れる『エプロンドレスのキャスター』が裏側に居ると知りました。
※サーヴァントを失ったため、ルーラー雪華綺晶に狙われています
※令呪三画を報酬に山田なぎさに協力を申し込みました。


361 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:30:02 rojVlRp20



☆フェイト・テスタロッサ

  まさに急展開に次ぐ急展開だ。
  何故か空に現れた円盤型の飛行物体に突如救われた。
  かと思えばフェイトを掴んでいた腕が破壊され、森に放り出され。
  どことも知れぬ森のなかに墜落し、気づけば遭難同然の状態だ。

  森に投げ出されて無傷で居られたのは、握りしめていた巨大な手のひらのおかげだった。
  かなりの耐久力を誇っているらしく、木々に衝突する衝撃からフェイトの身体を守りぬいてくれた。
  だが、気力体力ともに消耗が激しい。
  よろけて手を木につくと、小学校で受けた肩口の傷から閃光のように鮮烈な痛みが走る。
  深手もおってしまった。しばらくは、戦闘は無理そうだ。
  よろめきながらも歩いて森の外を目指していると、木立の奥から人影が飛び出した。
  一瞬アーチャーが迫ってきたのかと思い身構えたが、その姿はあの異形とは程遠い、貧相なものだった。

「サーヴァントを霊体化させて武装を解除しろ」

  その貧相な体つきの男こそ、あの時フェイトと同じように巨大な手のひらに掴まれていた胡散臭いキャスターだった。
  小学校で彼が口走った名前のこと。霊体化すれば即座に逃げきれるだろうに捕まったままで居たこと。
  また、開口一番のこの言葉も加えて、フェイトの中での彼への猜疑心はやはりとどまるところを知らない。
  聞く耳など一切持とうとせずに、バルディッシュを構えて、キャスターにつきつける。

「何を―――」

「あのアーチャーが円盤自体ではなく腕を狙った理由も分からないのか。奴の狙いはお前だ、フェイト・テスタロッサ」

  猜疑心に任せて声を荒げようとしたがぐ、と声を飲み込む。
  声を上げれば敵に見つかるという可能性に遅まきながら気づいた。
  傍にいたランサーを霊体化させ、言われたとおりにバリアジャケットも解除した。
  胡散臭いキャスターは武装を解除したフェイトを見て、鼻を一度鳴らし、悪態をついた。

「フン。最初からそうしていればいいんだ。行くぞ」

  キャスターはフェイトの手を取り、ずんずんと歩いて行く。
  木々を縫うように、UFOの進行方向とは全く別の方向へ。
  徒歩で逃げられるのかという心配も有ったが、宝具と思われるUFOが空を飛ぶ中で魔力反応を極限まで抑えれば、件のアーチャーが索敵能力を持っていないかぎり見つかることはないだろう。
  あまりに乱暴な扱いで、矢に貫かれた傷が痛むが、必死に声を抑える。
  あのアーチャーは、チェーンソーのバーサーカーすら超えた難敵だ。交戦に入れば一方的に蹂躙されるだけだ。


362 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:30:57 rojVlRp20


  いつまでたっても霊体化という安直な逃げ方を選ばない(やはり胡散臭い)キャスターに手をひかれ十数分。
  山林部を抜け、住宅街になんとかたどり着き、そこからは舗装された道路をしばらく走り。
  アーチャーが襲ってくる気配が全くないのを確認して、キャスターはようやく立ち止まった。

「どうやら撒いたようだな」

  キャスターが背後を振り返り、追手を確認する。
  音も姿もない。追手は完全にフェイトたち二人を見失ったようだ。
  フェイトもそれを確認し、無事が確保できたことを確信すると、キャスターの握っていた手を跳ね除けた。
  また、肩の傷がズキリと痛み、思わず顔を歪めてしまう。
  そんなフェイトの様子を見て、キャスターはとても面白そうに口角を釣り上げた。

「結局はこうなるんだよ、フェイト・テスタロッサ。俺を妨げられるものは居ないんだ」

  何を指しているのかが全くわからない一言。
  出会い頭から思っていたが、このサーヴァントは一方的なコミュニケーション以外行おうとしていない気がする。
  ならば相手の望む会話をすることはない、と。
  フェイトもまた、一方的に、キャスターに向かって問いを放った。

「一つ聞かせてください」

「なんだ」

「何を知っているんですか」

「何を?」

  沈黙が流れる。
  フェイトの視線は、まっすぐにキャスターの瞳をとらえたままだ。
  キャスターは目を細め、口を三日月に裂き、それはそれは楽しそうに言い放った。

「よく知っているよ。お前のことは。
 いつも一緒の犬ころはどうした? 主催者に刃向かって殺されたか?」

  あまりの言い草にかっと頭に血が登った。
  だが、この場に居ないアルフのことをズバリと言い当てたキャスターの『全てを把握している』という言葉に、登った血はたちまち引いていった。
  キャスターの『よく知っている』というのは、決してハッタリではない。
  プレシアについて。アルフについて。他の何かについて。キャスターはフェイトについてを把握している。


363 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:31:17 rojVlRp20


  キャスターはフェイトの混乱など気にしていないような様子で、言葉を続ける。

「これ以上下らない問答を続ける気はない。もう一度聞かせてもらう。
 聖杯が欲しいか、フェイト・テスタロッサ」

  繰り返される問いは、三度目の問い。
  小蝿も、バーサーカーもこの場には居ない。答えを遮るものは消えた。
  フェイトは息を呑み、そして答えを口にする。

「……欲しい」

  当然だ。
  母のため、聖杯を勝ち取ると誓ったのだから。
  この胡散臭いキャスターと出会う少し前、屋上でのエプロンドレスのキャスターや幼いアサシンとの問答の時から、その心は変わっていない。

「ならば俺に協力しろ。俺は聖杯を望んではいないが、やらねばならないことがある。そのためには、お前が居ると都合がいい。
 お前が俺に協力するというならば、俺もお前に協力しよう」

  フェイトの答えを聞くと、キャスターは待ちわびたと言わんばかりに、言葉を続けた。
  『協力』。
  それは何気ない、どんな時でも使われる単語。
  だが、キャスターの口からその単語が出た時、フェイトは思わず身震いをしてしまった。
  その身震いの感覚を、フェイトは知っている。
  それは、フェイトが時折母に覚えるものと同じだ。
  目の前のキャスターは何か、『大きなもの』を抱え込んでいる。そんな気がした。

「私に、何をしろって言うんですか」

  尋ねれば、キャスターはすぐに手の内の一部を晒してみせた。
  そんなところまで、母によく似ていた。

「簡単なことだ。俺は今から図書館へ向かう。お前はそれについてくるだけでいい。
 報酬の令呪は俺のマスターではなくお前に譲るよう掛けあってやる。協力の証としてな」

  それは、唯一与えられた『主催者』の手の内の情報。
  ルーラーから突如言い渡された討伐令に、自ら飛び込むという暴挙の誘い。

  風が吹いた。
  嵐の前触れのような、強い、強い、風が。
  フェイト・テスタロッサという少女の分岐点は、ひょっとするとここかもしれない。


364 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:31:33 rojVlRp20

【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態] 疲労(中)、ストレス、魔力消費(極大)、右肩負傷(中)
[令呪]残り三画
[装備] 『バルディッシュ』
[道具]
[所持金]少額と5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1. 木原マサキの提案に―――?
[備考]
※ランサー(姫河小雪)、キャスター(木原マサキ)、大道寺知世&アサシン(セリム)、バーサーカー(チェーンソー男)、輿水幸子を確認しました。
※木原マサキがプレシア・テスタロッサやアルフについて知っていることを知りました。
※小学校に通うつもりでいます

【ランサー(綾波レイ)@新世紀エヴァンゲリオン(漫画)】
[状態] 健康、霊体化中
[装備]
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う


365 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:31:45 rojVlRp20


【キャスター(木原マサキ)@冥王計画ゼオライマー(OVA版)】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:冥王計画の遂行。その過程で聖杯の奪取。
1.フェイト・テスタロッサをダシにして主催者に探りを入れる。
2.予備の『木原マサキ』を制作。そのためにも特殊な参加者の選別が必要。
3.特殊な参加者が居なかった・見つからないまま状況が動いた場合、天のレイジングハートを再エンチャント。『木原マサキ』の触媒とする。
4.ゼオライマー降臨のための準備を整える。
5.余裕があれば、固有結界らしき空間を調査したい。
6.なのはの前では最低限取り繕う。
[備考]
※フェイト・テスタロッサの顔と名前、レイジングハート内の戦闘記録を確認しました。バルディッシュも「レイジングハートと同系統のデバイス」であると確認しています。
※ランサー(姫河小雪)、バーサーカー(チェーンソー男)、輿水幸子を確認しました。
※天のレイジングハートはまあまあ満足の行く出来です。呼べば次元連結システムのちょっとした応用で空間をワープして駆けつけます。
  あとは削りカスの人工知能を削除し、ゼオライマーとの連結が確認できれば当面は問題なし、という程度まで来ています。
※『魔力結晶体を存在の核とし、そこに対して次元連結システムの応用で介入が可能である存在』を探しています。
  見つけた場合天のレイジングハートを呼び寄せ、次元連結システムのちょっとした応用で木原マサキの全人格を投影。
  『今の』木原マサキの消滅を確認した際に、彼らが木原マサキとしての人格を取り戻し冥王計画を引き継ぐよう仕掛けます。
※上記参加者が見つからなかった場合はレイジングハートに人工知能とは全く別種の『木原マサキ』を植え付け冥王計画の遂行を図ります。
※ゼオライマーを呼び出すには現状以下の条件のクリアが必要と考えています。
裁定者からの干渉を阻害、もしくは裁定者による存在の容認(強制退場を行えない状況を作り出す)
高町なのはの無力化もしくは理解あるマスターとの再契約
次元連結システムのちょっとした応用による天のレイジングハートへのさらなるエンチャント(機体の召喚)
※街の裏に存在する固有結界(さいはて町)の存在を認知しました。
※アサシン(ウォルター)の外見を確認しました。が、『情報抹消』の効果により非常にぼんやりとしか覚えていません。


366 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:32:03 rojVlRp20


☆アーチャー

  随分と出遅れてしまったようだ。
  遠くからも確認できていた戦闘の光は、聞こえてきていた戦闘の音は、すでに止んでしまっている。
  アーチャーが付く頃には、遠くに視認できた小学校での戦闘はもう一区切りしてしまっていることだろう。
  つまらない。
  こんなことならばあれこれ歩きまわらず、図書館の周辺を貼りこんでおけばよかった。
  後悔しながらビルの屋上に腰掛け、ため息をこぼす。
  アーチャーのため息が風に乗り、橙に染まり始めた街に溶ける時、そいつは現れた。

  どるん。
  聞き慣れない音。
  アーチャーが振り向けば、腰掛けたビルの屋上の入り口付近に、一人の大男が立っていた。
  異様な出で立ちだ。
  フードですっぽりと覆われて窺うことのできない顔。手に持ったのはおおぶりなチェーンソー。
  不思議な事に、その男の出現にアーチャーの類まれな聴力を持ってしても気づくことができなかった。
  導き出される答えは一つ。

「……ああ、良かった。ここまで来て何もなしだと、興が冷めてしまうので」

  どるん。
  男は答えない。
  ただチェーンソーに命を吹き込むように、何度も、何度も、エンジンを

  あそこまで露骨な殺意を見るのは、アーチャーとしては久しぶりだ。
  少しは楽しめるだろうか、と心を踊らせながら一歩を踏み出す。
  チェーンソー男も一歩を踏み出し、お互いがお互いのリーチに相手を捉えるまで歩み寄っていく。
  しかしそこで、問題が起こった。


367 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:32:23 rojVlRp20


  あれから数歩。アーチャーはすでに、チェーンソーの間合いギリギリまで接近している。
  だというのに、チェーンソー男は戦闘態勢に移ろうとしない。

「そうですか」

  アーチャーの類まれな経験と五感は、ただの一目で目の前のチェーンソー男の習性を見ぬいた。
  目の前のチェーンソー男には殺意はあるが戦意がない。
  何かによって戦うことを封じられているのか、あるいは別の何かか。何か理由があって、チェーンソー男は『戦いたいが戦えない状態にある』。
  そこに至ってのアーチャーの思考は、とても単純だった。
  ならばその殺意に火をつけて、チェーンソー同様、エンジンを掛けてやるだけだ。
  戦うきっかけを作れば、戦わざるを得なくなる。

「さあ、始めましょう」

  数歩分の間合いを、魔法少女の身体能力で一気に踏み込んで拳撃を放つ。
  チェーンソー男は、まだ黙って立っていた。
  男の顔面にアーチャーの拳は、当然のように鋭く突き刺さった。
  殴られた勢いで男が宙を舞う。
  フードの奥に隠された無貌と、アーチャーの視線が一瞬だけ交わり、そしてまたすれ違う。

  どる、る、る、る、る。
  空中を舞いながら、チェーンソーのエンジンが音を立てて回り出す。
  それがきっかけだった。
  瞬間、空気が塗り替わった。
  殺意の方向が、まっすぐにアーチャーへと向いた。ようやく敵意が現れた。
  チェーンソー男が空中で一回転を決め、階段へと続くドアを地面代わりに着地する。
  大柄な身体からは想像できない曲芸師のようなそのその身のこなしに、アーチャーが感嘆の声をあげようとした時には、すでに戦闘は始まっていた。


368 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:32:41 rojVlRp20


  構えたチェーンソーで屋上を削り、火花を散らしながらチェーンソー男が駆けてくる。
  魔法少女とはいえ今は英霊。なんてことはなさそうなあのチェーンソーでも今のアーチャーは容易に傷つけられてしまうだろう。
  倒すのは簡単だ。遠距離から破壊音波を打ち続ければいい。そうすれば、近接攻撃しかできなさそうなあの男を一方的に倒してしまえる。
  だが、それの何が面白い。
  アーチャーが望むのは、闘争だ。不完全燃焼な勝利ではない。
  チェーンソー男に向かってアーチャーも駆け出す。徒手空拳故、リーチはチェーンソー男に分があるが、そんなものでこの戦闘への高揚は止まらない。
  瞬きするよりも早く、お互いの射程距離が重なった。
  地面を跳ねていたチェーンソーが跳ね上がる。狙いはまっすぐに、走っているアーチャーの正面だ。
  振り上げられたチェーンソーを、飛び上がって回避。そのままチェーンソー男をも飛び越え、背後に回る。
  振り向きざまに拳を突き出す。先ほどのような戦闘を始めるための軽いジャブではない、殺すための一撃だ。
  しかし、想定していた場所にチェーンソー男の顔はない。
  彼もまた、アーチャーの回避を見たうえで攻撃を察知し、身を屈めていたのだ。

  どるるるるるるるるるるん。
  地鳴りのような音とともにしゃがんだままのチェーンソー男がぐるりと体を捻る。
  それに合わせて、チェーンソーが大回りでぐるりと回り、がら空きのアーチャーの腹部を横断しようと迫る。
  体勢の維持ができていないので単独での回避は不可能。
  ミリ秒にも満たぬ時間の中魔法少女の思考能力でそう判断したアーチャーは、突き出していた拳で、振り向こうとしているチェーンソー男の頭に突き出したままだった手を乗せた。
  そして、チェーンソー男の頭を支えに、大きく飛び上がる。

  ぢゅん、と響く切断音。
  魔法少女の可愛らしい靴の底が数ミリ吹き飛ばされた。
  そのチェーンソーの一撃がやはり魔法少女を傷つけられる一撃だということを再確認しながら、アーチャーは飛び上がった勢いで足を動かす。
  空中で振り上げた右足が、チェーンソー男の左肩を踏みしめる。
  足が乗ったのを確認したなら、今度は左足。
  右足と、その下にあるチェーンソー男の身体を支えに、チェーンソー男の頭に置いていた手を離し、軽業師のようにチェーンソー男の肩の上で立ち上がる。
  そしてそのまま、左足を、彼の顔めがけて振りぬいた。


369 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:32:51 rojVlRp20


  クリーンヒットとは行かない。
  攻撃を察知したチェーンソー男が、寸前で左肩を大きく落とし、アーチャーのバランスを大きく崩したからだ。
  しかし、多少軽減されたがその一撃の威力は完全に死んではいない。
  顎を蹴り飛ばされたチェーンソー男がよろける。

  先に体勢を整えたのはアーチャーだった。
  チェーンソーの重量に振り回され、二歩、三歩とよろけているチェーンソー男に、今度はアーチャーの方から距離を詰める。
  男が体勢を立て直すよりも早く、チェーンソーの間合いを駆け抜け、拳の間合いに入り込む。
  息を吐きながら拳を突き出す。
  助走の勢いの上乗せされた魔法少女の拳が、男の胸にめり込む。
  男は軽々と吹き飛んだ。

「あ」

  それは、アーチャーにしてはマヌケな声だった。
  チェーンソー男の身のこなしについつい楽しくなってしまい、勢い余って、場所のことを忘れて思い切り殴り飛ばしてしまった。
  宙を舞う。
  その形容がぴったりだった。
  チェーンソー男は屋上から放り出され、弧を描きながら飛んでいってしまった。

「ああ……なんてことを」

  少しだけの後悔。だが、切り替える。
  身のこなし。身体能力。反応速度。そして言葉をかわすことのできない特性。間違いなくバーサーカーだ。
  狂戦士の名を冠するクラスの英霊が、屋上から落ちたくらいで死ぬはずがない。
  魔法少女だって、殴られて屋上から落ちたくらいでは死なないのだから。

  屋上のへりに足をかけ、チェーンソー男の姿を探す。
  ついでに周囲を見回す。小学校方面に人が集まってきていた。
  決着を急いだほうがよさそうだ、と結論をつけて飛び上がる。


370 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:33:03 rojVlRp20




  吹き飛ばしてしまったチェーンソー男を追って、大通りに降り立つ。
  すると、そこではすでに元気を取り戻したチェーンソー男が暴れていた。
  電柱が切りつけられている。
  ガードレールが切り裂かれている。
  人が血の海の真ん中で倒れている。
  予想以上に大事になっている。すぐに人が集まってくるだろう。
  再び楽しむような時間はなさそうだ。

  靴音を鳴らしながら一歩を踏み出す。
  音に敏感に反応し、チェーンソー男は凶刃を振るうのをやめて振り返った。
  そして、今度は見つめ合いで過ごすこともなく、臨戦態勢に入る。

「ああ、覚えていてくれたんですね」

  少しだけ嬉しくなったのをおかしく思いながら、アーチャーもまた拳を構える。
  人に見つかるよりも早く、次の一撃で勝負を決するために。

  どぉるるるるるるるるるるるる――――――!!!

  チェーンソー男が、怒号の代わりにエンジン音をばら撒きながら駆けてくる。
  五メートル、四メートル、三メートル。
  チェーンソーが振り上げられ、間合いを詰める最後の一歩が踏み出される。
  凶刃がアーチャーのもうすぐそこまで迫り、ようやくアーチャーは動き出した。

  ぱちん。
  指を一度弾く。
  生まれた音が空中で衝撃波の壁になり、チェーンソーを弾きあげる。
  またもがら空きになったチェーンソー男のボディに拳を叩き込み、そして今度は、追撃も放つ。

「『内部破壊音(スフォルツァンド)』」

  そして、殴ったことでチェーンソー男の体内に発生した音を、一気に増幅させる。
  人間ならば瞬間でミンチになると断言できるほどの威力の音が、男の体の中で木霊した。


371 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:33:29 rojVlRp20


  倒れ伏すチェーンソー男。見下ろすアーチャー。
  勝敗は決した。だが、アーチャーの顔には高揚感よりも別の感情のほうが多く現れていた。
   予選でのサーヴァントとの戦闘で内部破壊音を使ったこともあった。その時の相手は食らった瞬間仁王立ちのまま消えていった。
  文字通り内部を侵食し霊核を破壊し尽くすほどの攻撃だが、チェーンソー男の身体に変化はない。
  フードをかぶり直し、観察を続ける。
  するとチェーンソー男はがばりと起き上がり、アーチャーには目もくれず飛び上がり、屋根を伝いながら走って行ってしまった。

「……『不死』ですか」

  その光景を見て、ようやくアーチャーには合点がいった。
  思い出すのは、アーチャーの知る魔法少女の一人。
  『ハードゴア・アリス』。アーチャー最後の試験の参加者。不死の魔法少女。たとえ致命傷だろうと即座に治癒し、復帰できる魔法を持っていた。
  彼女の魔法と同じような特性を、あのチェーンソー男は持っていたということだろう。
  倒れたままだったのは復活の時間稼ぎだったのかもしれない。

  だとすると、とアーチャーはその先のことを考える。
  不死の相手を殺すにはどうすればいいか。
  聖杯戦争のルールに則るならマスターを攻撃するのだが、それではあまりおもしろくない。
  できることなら正面から、不死をぶち抜いて殺したいが。
  再度の戦闘に備えて、自身の経験した闘争の中からあれこれと情報を整理する。
  あの男との戦闘は、もう少し楽しめそうだ。
  そんな、高揚感と寂しさが綯い交ぜになったアーチャーの視界に、一つの死体が飛び込んできた。


372 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:33:45 rojVlRp20


「おや」

  傷口は見えないが、あのチェーンソー男に襲われたのだろう。
  不用意なものだ。攻撃しなければ襲いかかって来ないのだから、おとなしくしていればよかったものを。
  ただ、彼女の命がけの足止めがチェーンソー男を引き止めてくれていたのかもしれない。
  そう思うと、少しだけ感謝の気持ちは湧いてきた。
  ただ、それだけだった。
  それ以上の感情はない。

「逃げられてしまった以上、次の戦闘まではもう少し間が空きそうですね」

  死体への興味はすぐに失せ、またチェーンソー男について考えだす。
  逃げたということは、もう今日は戦う気がないということ。
  追ったところでどこか遠くで霊体化して、アーチャーをやり過ごすことだろう。
  となると、アーチャーの方針はまた少し変わることになる。
  別の闘争を探さなければならない。

  図書館周辺はもう望み薄だ。
  小学校での戦闘、先ほどのチェーンソー男の暴れる音、この死体、すぐにNPCが押し寄せてくる。公の場所で戦闘は起こらない。
  ふと、視界の端に見慣れぬ何かが映る。
  何事だろうと見上げた先、小学校の向こうの裏山に、マントを靡かせる巨人が立っていた。
  その大きさは、エリアにして二つは離れている場所からでもはっきりと視認できるほど。
  いつかの試験の時、巨大化する魔法少女チェルナー・マウスが30mほどに巨大化したことがあるが、あれよりもさらに大きいかもしれない。

  また、熱が回りだす。
  飽くなき闘争への欲求が疼きだす。
  あんな大物が立ちまわっている。
  相手はどんな強敵だろう。
  どれほど強いのだろう。
  次は間に合えばいいのだけれど。
  影に隠れて大きく飛び上がり、屋根を伝って走りだす。チェーンソー男が逃げていったのとはまた別の、小学校の裏山の方へ。
  この舞台は、まだまだアーチャーを楽しませてくれそうだ。


373 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:34:19 rojVlRp20


【D-2/屋根の上/1日目 午後】

【アーチャー(森の音楽家クラムベリー)@魔法少女育成計画】
[状態] 健康、気分やや高揚
[装備] 黒いフード付きコート
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: 強者との闘争を求める
1. 裏山地区(D-1)へ。

[備考]
※木之本桜&セイバー(沖田総司)、蜂屋あい&キャスター(アリス)、高町なのは、バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。
※チェーンソー男のスキル:不死を確認しました。
※フェイト・テスタロッサを見つけてもなのはに連絡するつもりはありません
※小学校屋上の光の槍(フェイト)を確認しました。


374 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:34:33 rojVlRp20


☆大井

  緊急事態により少し早い放校となった。
  聞くところによれば、小学校の屋上で爆発事故が起こったらしい。
  教師の慌てふためいた様子を尻目に、心のなかで笑う。
  その爆発は、おそらく大井のサーヴァント・アーチャーのしわざだ。
  彼が敵を発見し、強襲したのだろう。
  素晴らしい速さだ。これこそ、重雷装重巡洋艦の戦争だ。
  相手が気づくよりも疾く仕掛け、相手が気づくよりも疾く仕掛ける。
  相手が気づいた頃には蹂躙を終え、意気揚々と帰路につく。
  戦争とはすなわち速さなのだ。先手を取る勝負なのだ。
  決して相手の出方を伺いながら後手後手で行うものではない。

  少し情報が伝わるのが早い気がするが、個人レベルでさえスマートフォンのような情報伝達機器があるのだから、学校間での情報交換はもっと迅速に行えるのかもしれない。
  成程、技術発達かくの如くか、と一人で頷きながら、NPCとしてのルーチンを乱さないように帰路につく。

  歩く途中で、ふと、小学校のほうが気になった。
  アーチャーが帰ってくる気配はない。
  なにか手こずっているのだろうか、と思うが不安はない。
  大井は、自身のサーヴァントのパラメーターの強さをしっかりと理解している。
  更に宝具の開放まで許可しているのだ。
  余程のことが起こらないかぎり、一方的に負けるようなことはないだろう。
  もし負けて帰ってくるようなことがあれば……その時はその時だ。
  作戦を練り直し、今度はこんな突発的なものではなく万全の状態を整えて挑めばいい。
  そうすれば、負けることなんてない。


375 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:34:50 rojVlRp20


  通い慣れた大通りを歩く。
  人影が見えない。
  遠くからがやがやと声が上がっているのを聞くに、皆、小学校方面に野次馬に行っているようだ。
  NPCに扮しているのだし、大井も野次馬に行くべきかと思ったが、やめておいた。
  近づいていいことなんてなにもない。戦闘に巻き込まれ、負傷でもしたら後悔してもしきれない。
  それに、教師の指示に従っているという形のほうが、よりNPC然として振る舞えている、といえるはずだ。
  大井はこの聖杯をめぐる戦争の大局を見て動いている。
  目先の情報に踊らされ、あわや敗北というところまで追い込まれるようなへっぽこ艦隊とは本質的に違うのだ。

  人目がないのをいいことに、左手を出し、お守りを握りしめる。
  愛が通い合う。北上を思えば、負ける気なんてしなかった。
  愛を語らうことはできないが、それもまたしばしのこと。
  すぐに取り戻すことを再びお守りに誓いながら道を歩いていると、突如空が陰った。
  見上げれば、大通り目掛けて空から何かが降ってきた。

  猛スピードで降ってきた何かは大井の目の前で大きく跳ねる。
  道路にたたきつけられたことで勢いが失せ、それでようやく、大井は落ちてきたものの正体がわかった。
  『バーサーカー』と書いてある。予選を勝ち残った参加者の英霊だ。
  ひょっとしたら、アーチャーが戦っている相手かも。
  そこまで考えて、大井の思考は急停止した。地面をバウンドしたバーサーカーが、大井に衝突したのだ。
  勢いはだいぶ死んでいたし、大井自身が艦むすとしての恵まれた耐久力を誇っていたことが幸いし、怪我を負うことはなかった。
  だが。

「な、ない!」

  弾き飛ばされて、何事かと起き上がってみれば、手に持っていたはずの北上のお守りがない。
  倒れていた周辺を見ても、落ちていない。
  気が動転しそうになる。
  ないわけがない。
  数秒間血眼で探し続け、そしてようやく見つけた。
  お守りは、大井と同じように投げ出されていたバーサーカーの左手の下に潰されていた。

  マグマもかくやという怒りが、髪の毛の一本一本まで巡る。
  そのお守りに触るな。
  そう叫びながら、駆け寄り、その大男の左手を弾き、お守りを広い上げる。

  ぐるんと、虚ろな顔が大井の方に向いた。


376 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:35:08 rojVlRp20












         ぎゃり


              ぎゃり


                   ぎゃり


                        ぎゃり









.


377 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:35:46 rojVlRp20





  足音が去っていっている。
  現れた誰かが、あの忌々しいバーサーカーを撃退したらしい。
  大井を助けないところを見ると、大井のアーチャーではなかったのだろう。

  身体から熱が抜けていく。
  大事な何かが、体中から抜けていく。
  熱を帯びていた傷口からはもう何も感じない。
  有無を言わさぬ理解が、頭のなかに訪れた。
  大井は、死ぬ。

  怒鳴る力もなかった。
  ほとほと、この世界に嫌気が差した。
  大井の胸を埋め尽くすほどの愛は、どの世界でも羽毛よりも軽い。
  どいつもこいつも、この一変の曇りもない愛を、軽んじている。
  ようやく理解した。
  世界は、愛を求めていないのだ。
  あの時の長門と一緒だ。下らぬ屁理屈を並べ、大井の愛を無下にしたいだけなのだ。

  力を振り絞り、左手を少しだけ浮かせる。
  これでお守りが血に濡れることはない。

  大井の心は決まった。
  世界すらも大井の愛を求めていない。
  愛に生きた北上を殺し、次は愛に生きる大井を殺しに来た。
  この世界というものに愛想が尽きた。
  ならば、望み通り、死んでやろうじゃないか。
  大井だって、そんな世界はお断りだ。
  北上という概念の存在しない退屈な世界に別れを告げる時が来た。
  大井は、世界の望むままに、愛という大海原に溺れて、死んでやる。


378 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:36:21 rojVlRp20


「がほ、ご、は……れ、れいじゅを……」

  だが、ただでは死んでやるもんか。
  愛を馬鹿にした代償をきっちり払わせる。
  全てを破壊し尽くす。
  この世界の全てをだ。

  この聖杯戦争の舞台も。
  大井と北上の幸せを奪った鎮守府も。
  大井の愛を利用し、踏みにじった聖杯も。
  できることならばこの地球すらも。
  大井の死とともに、消滅させてやる。

  大井には―――大井のサーヴァントにはその力がある。
  断りを入れる必要はない。
  アーチャーの願いはプレゼンターに出会うことなのだ。この宝具を発動して、喜びこそすれ、悲しむことなんてありえない。

「令呪を、持って、命じるわ……」

  脳裏に浮かぶのは様々な人の顔。一様に笑っている。北上を救えなかった大井を笑っている。
  駆逐艦共、軽巡洋艦共、重巡洋艦共、戦艦共、提督。
  双葉杏、コシミズサチコ、チェーンソーのバーサーカー。

  お前も。
  お前も。
  お前も。
  お前も。
  愛に溺れて死んでいけ。
  大井のために死んでいけ。

「アーチャー……ね、かは、ネビュラ、ゲートを」

  お守りを握りしめ、なけなしの力を振り絞って左手を更に振り上げる。
  あと六文字で世界が終わる。
  その瞬間、世界はようやく、大井の愛の深さを認めた。


379 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:37:00 rojVlRp20


「おおい―ち――――――大丈夫―――」

  大井の声を遮り、左手が誰かに握りしめられる。
  お守りよりもあったかい何かが、大井の心に流れてくる。

  倒れた大井に手を差し伸べた人物の姿は見えない。
  大井に見えているのは、先程から、時化の海のような灰色と燃えるような赤の混ざった地面だけだ。
  でも。
  懐かしい声。
  懐かしい響き。
  その笑顔はもう見えないけど。
  そこに居る、貴女のことを間違えるはずがない。

  続けるはずの六文字は、頭から消え去った。
  握られた左手のぬくもりで、世界への破壊衝動はすぐに霧散した。


―――ああ、北上さん。
     そこに居たんですね。
     危なかった。
     もう少しで、世界ごときのために、また貴女を死なせてしまうところでした。


380 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:37:53 rojVlRp20


「き、たか―――み、さ―――」

  胸は喜びでいっぱいなのに、言葉はうまく出てくれない。
  血が喉に絡んで、わけもないのにどもってしまう。

―――駄目ですよ。北上さん。
     私今、汚いから、汚れちゃいますよ。
     大変だわ。
     すぐにお風呂に入って、綺麗にならなくちゃ。

「大丈夫、大丈夫―――」

  最初に一度、そしてもう二度、大丈夫と繰り返される。
  やはり、北上は北上だ。大井に優しくて、大井を愛してくれている。
  それでいい。それだけでいい。
  世界程度が愛をどれだけ軽んじようと、大井には北上がいればそれでいい。

―――嬉しい。
     ようやく会えた。
     聖杯なんていらなかった。
     結局。
     私が望めば、それだけで。
     もう一度、会えたんですね。
     無事でよかったです。北上さん。
     さあ。
     ここは危ないですから。
     早く逃げましょう。
     今度は。
     二人で。
     手を離さずに。
     ちゃんと。



     ……
  

.


381 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:38:23 rojVlRp20


  ◇

「おーい、ちょっと、大丈夫!? 救急車呼ぶから、気をしっかり持って!!」

「き、たか―――み、さ―――」

  震える手。
  何かを求めて差し伸べられた手。

「大丈夫、大丈夫だから! すぐ救急車来るからね!」

  差し伸べた手を反射的に握り返す。
  そのことに、血まみれの少女は気づいただろうか。
  NPCの少女にそれを知る術はもうない。

  ◇

「……誠に残念です」

「……ごめんなさい、私がもう少し早く連絡してれば」

「いえ、怪我の大きさから言って、致命傷です。たとえ斬られた瞬間に通報していたとしても、死亡は免れたかったでしょう。気に病まないでください。
 傷跡を見るに、最近目撃情報が寄せられていたチェーンソー殺人鬼かと。物騒なので、気をつけてください」

「はい……」

  血まみれの少女の死体は、運ばれていき。
  NPCの少女は、手を合わせて拝んだあと、自身の務める店から花束を持ってきて、血だまりの側に添えた。

  これは、なんてことのないNPCの日常に起こった、奇妙な物語の一つ。
  誰にも語られず消えていく、なんてことない物語。
  ただひとつ。
  そんな物語に奇跡があったとするなら。
  大井に駆け寄ったNPCが、聖杯によって学生ではなく花屋の店員として再現されていた『北上』本人だったということだけだろう。


382 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:38:48 rojVlRp20


  それは、きっと意味のない奇跡だ。
  死力を尽くし戦い消えていったライダー、星輝子にとっても。
  戦い、再び戦場に消えていったアーチャー、バーサーカーにとっても。
  嵐に巻き込まれ、傷ついた多くの人びとにとっても。
  死んでいった大井にとっても。
  彼女の手をとったNPCにとっても。
  駆けつけた救急隊員にとっても。
  何の変化ももたらさず、何事も無く通り過ぎて行くだけの無意味な奇跡。

  でも。
  誰にとって意味がないものでも。
  誰にとっても意味がないからこそ。

  それはきっと、聖杯の起こす作られた奇跡ではなく。
  世界が大井を思い、大井に向けて放ち。
  大井の強い愛が掴んだ。
  大井だけの奇跡だったはずだ。






【大井 死亡】


383 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:39:48 rojVlRp20


☆雪崎絵理

  小学校側に出ていたチェーンソー男の反応は、絵理が到着するよりも早くに消えた。
  消えた頃に何事かと小学校の方を見れば、見上げれば遠い空にUFOが飛んでいた。
  もしかして、チェーンソー男はキャトルミューティレーションされてしまったのだろうか。
  意味がわからなかった。
  とりあえず、来た道をただ引き返すというのも癪に障ったので人垣越しに小学校を確認してみた。
  校門を過ぎた向こう側には、明らかにチェーンソー男と何かが戦った痕跡が残っていた。

  誰かが絵理よりも早くチェーンソー男を発見し、倒した、ということだろうか。
  今朝の事件を思い出す。
  金髪のアシメヘアの少女、白坂小梅が『バーサーカーさん』と呼んでいた男は、特に理由を説明するまでもなくチェーンソー男と戦い、彼を退けた。
  ひょっとすると、彼と彼女がこの周囲に偶然居て、もう一度チェーンソー男を倒してくれたのかもしれない。
  だとしたら、お礼を言わなければ。
  お礼とともに、正式に協力を依頼してみようかなんて考えていた時、不意にまた嫌な感覚が絵理の身体を包み込んだ。

  チェーンソー男の反応だ。
  場所は丁度来た道の方。まさかこんなに早く気た道を戻らなかったことを後悔するなんて思っても見なかった。
  駆け出し、胸騒ぎの向かう先を感じ取る。
  場所は近くのマンションの屋上のような気がした。
  どうやって移動したかは分からない。
  それに、再度出現する速度が早過ぎる。
  だが、疑問を胸に立ち止まっている暇はない。
  一歩でも早く辿り着いて、倒さなければ。


384 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:40:10 rojVlRp20


  マンションに向かって走っていると、急にチェーンソー男の反応が一気に近づいてきた。
  どうやら、屋上から飛び降りたようだ。
  周囲を確認する。
  人はまばらにしか居ない。いや、まばらに『いる』。
  暴れだせば、被害者が出るかもしれない。
  足に力を込めて走りだす。
  速く。
  速く。
  まだ速く。
  少しでも速く、奴のところへ。



  絵理が現場にたどり着いた時、全ては終わっていた。
  チェーンソー男の撤退。それは現場にたどり着く直前に絵理も感じていた。
  嫌な胸騒ぎが消えた。しばらくは出ない……はずだ。

  だが、絵理がその事実に喜ぶことはなかった。
  絵理が数十秒遅れて辿り着いた時、現場は無残な状態だった。
  壁が破壊され。
  電柱が切りつけられ。
  ガードレールが切り裂かれ。
  そして、道路に力なく横たわる『チェーンソー男の被害者』と、彼女の手を取る一人の少女が居た。

  詳しい経緯は分からない。
  横たわっている少女が誰かも知らない。
  だが、はっきりと刻み込まれた烙印が一つ。
  雪崎絵理は初めて、チェーンソー男に敗北し、世界にまた悲しみを刻ませてしまったのだ。


385 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:40:22 rojVlRp20

【雪崎絵理@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]魔力消費(?)、ショック(大)
[令呪]残り三画
[装備]宝具『死にたがりの青春』 、ナイフ
[道具]スマートフォン、制服
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:チェーンソー男を倒す。
0.―――
[備考]
※チェーンソー男の出現に関する変化に気づきました。ただし、条件などについては気づいていません。
※『死にたがりの青春』による運動能力向上には気づいていますが装備していることは知りません。また、この装備によって魔力探知能力が向上していることも知りません。
※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)を確認しました。真名も聞いています。
※記憶を取り戻しておらず、自身がマスターであることも気づいていません。
※もしかしたらルーラーも気づいてないかもしれません。
※聖杯戦争のことは簡単に小梅から聞きました。詳しいルールなどは聞いてません


386 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:40:37 rojVlRp20


☆バーサーカー

  足音が聞こえる。
  地獄へと続く黄泉路へ導く、荒くけたたましい足音が。

  どるるん。どるるん。どるるるん。
  足音は再びどこかに消えていく。この世界のどこかにある、この世界のどこにもないどこかへ。

  彼の正体を知るものは、世界のどこにもいやしない。
  因縁深い雪崎絵理だって、その正確な内容は理解していない。
  ただ、彼についての逸話だけは、聖杯に残されている。
  絶対に死なないということ。
  襲ってきた相手は襲い返すということ。
  そして、『雪﨑絵理が希望を抱けばその分弱くなり、絶望すればその分強くなる』ということ。

  消えぬ傷跡が刻まれた。
  次に出会うときは、もはや先刻の彼ではない。
  異界の底で、チェーンソー男は再び機会を待ち続ける。


【???/???/一日目 午後】

【チェーンソー男@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]復活まで時間が必要。
[装備]チェーンソー
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:雪崎絵理の殺害
[備考]
※雪崎絵理がマスターだとかそういうことは関係ありません。
※雪崎絵理の絶望に呼応して、戦闘能力が向上しました。
※聖杯戦争中、チェーンソー男は夜以外にも絵理がサーヴァントの気配を感じた場合出現し、当然のように絵理を襲います。
※致命傷を受けての撤退後、復活にはある程度の時間を要します。時間はニュアンスです。
※アーチャー(森の音楽家クラムベリー)、ランサー(姫河小雪)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、
 キャスター(木原マサキ)、白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)、輿水幸子を確認しました。


387 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:41:01 rojVlRp20





  日が傾き、少女たちの楽園が赤く染まる。
  儚くも美しい日常たちは、黄昏を纏い闇に落ちる。
  嵐の訪れを告げる鬨の声は上げられた。
  夜の闇が広がりだす舞台の上で、危険な妄執たちが蠢きだす。


     ALL HAZARD PARANOIA/オール・ハザード・パラノイア


388 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:41:13 rojVlRp20


―――

―――


389 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:41:24 rojVlRp20


―――

―――


390 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:42:04 rojVlRp20



   ☆★少女性・少女製・少女聖杯戦争とは?

   本邦初公開!
   これが、完璧な少女の作り方!

   材料
   ○砂糖
   ○スパイス
   ○素敵な何か


  「砂糖」
  「スパイス」
  「素敵な何か」
  全てを満たすとき、完璧な少女が生まれる。
  あの日から記せなかった未来の続きが再び刻まれ始める。
  空白を穿つことができず、忘却の彼方へと消えてしまった素敵な物語を、

  だから大人は用意することにした。
  「砂糖」
  「スパイス」
  「素敵な何か」
  それが何かはわからないけれど。
  少女の生まれるために必要な物を、彼女なりの方法で。

  これより先は、遥かに深い妄執の海。
  妄執を見つめるものの名は―――


391 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:42:20 rojVlRp20


○●


   追記。
   人工精霊は、かく語りき。


●○


392 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:42:55 rojVlRp20


☆人工精霊

  イレギュラーだ。
  その状況を理解した時、すぐにその判断に辿り着いた。
  大井のサーヴァントと星輝子のサーヴァントが戦った。これはいい。戦うのは非常にいいことだ。
  裏で糸を引くプレシアにとっても、ルーラーにとっても、そいつにとっても、万事オーケー問題なし。
  大井が死んだ。これもいい。戦いに死はつきものだ。
  輝かしい『少女聖杯』をつくり上げるためには、幾つもの犠牲が合ったほうがいい。絵的にも映える。

  しかし、星輝子の消滅。これだけはいただけない。
  マスターの魂の量は決まっている。
  大きいやつ、小さいやつ、多いやつ、少ないやつ、そんなものなく魂は魂。一人に一つだけ。輝く魂がいっこだけ。
  『少女聖杯』は少女たちの魂によって満ち、奇跡を宿すと聞いている。
  だが、星輝子は先ほど、『ばいきんまんの宝具の消滅に巻き込まれて消滅した』。
  すなわち、英霊側に無理やり引っ張り込まれたことにより、強制的に『こちらの世界の者ではなくなった』。
  英霊の持つ宝具の一部として英霊消滅とともに英霊の座に引きずり込まれ、そのまま抜け出せなくなったのだ。
  それが意味するのは一つ。
  魂が一つ減った。
  当初想定していたよりも一つ減ってしまった。
  死して少女聖杯を輝かせるはずだった魂が、ひとつ、この舞台から逃げてしまった。

  だから、そいつは。
  ルーラーの手の中のそいつは。
  ルーラーが握りしめている携帯端末は。
  小さな声でこう呟いた。

  「弱ったぽん」と。


393 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:43:09 rojVlRp20




  電子妖精・ファヴが選ばれたのは偶然だった。
  リップルに魔法の国の武器でマスター端末を破壊され、世界に対してちょっぴりも干渉できなくなった後。
  数時間か、数日か、数ヶ月か、数年か、数世紀か、世界からはじき出された彼には理解できない時間が流れ。
  そして、拾い上げられた。

  曰く、『管理者側に向いている』。
  曰く、『現代の魔法と科学に精通している』。
  曰く、『絶対に反旗を翻せない』。

  都合のいいマスコット。
  だからファヴは拾い上げられた。
  そして、ローゼンメイデン第七ドール・雪華綺晶の『人口精霊』として紐付けされ、この聖杯戦争の地に蘇った。
  プレシア・テスタロッサの計画の協力者としてこの地で再び殺し合いに関わることになった。

  仕事はいくつかある。
  掲示板の管理もファヴの仕事だし、電子メールでの通達もファヴの仕事だ。
  ルーラー・雪華綺晶はその可愛らしいビスクドールそのものな見た目の通り、近代機器に疎い。
  マスターであるプレシアも、魔術ならば常人離れした技量を持つが、単純な電子機器を使いこなすことはできない。
  だが、規格を運営する以上は情報端末による情報の錯綜も網羅して置かなければならない。
  そこで白羽の矢が立ったのが、ファヴらしい。


394 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:44:24 rojVlRp20


  図書館の運営に携わるクローンヤクザの統制もファヴの仕事だ。
  プレシア・テスタロッサは創りだしたゴーレムへの指揮能力を有さない。それはこの世界でも同じだ。
  ではなぜクローンヤクザは意思を持つように諸星きらりの案内ができたのか。
  理由は単純。ファヴがクローンヤクザに備え付けられたLANの統制役としてプレシアから紐づけされ、各個体に指令を出していたから。
  もちろん、クローンヤクザの大群を率いて反旗を翻すなんてことはできないように、ある種のリミッターは設けられているらしいが、それでも、彼ら全てを操る権利のほとんどをファヴは任せられていた。

  そして今。
  ルーラーが当然のように戦闘の跡地に来れたのも、ファヴのサポートだ。
  ルーラーは瞬時にどこにでも行ける宝具を有している代わりに啓示のような『正確な位置を知るスキル』を有していないと聞く。
  しかしファヴにはその能力がある。
  『魔法少女育成計画』。
  この聖杯戦争の舞台の上に存在する携帯端末全てに仕込まれているアプリだ。
  所有者の意思にかかわらず、『魔法少女育成計画』のマスコットキャラクターであるファヴはそのアプリを通して全ての情報端末に侵入することができる。
  侵入さえしてしまえば、それでもう場所の特定は完了だ。
  あとは、手近な鏡面からルーラーが赴く、という寸法になっている。
  今回もまたその手法で、消防隊員の携帯端末の反応を辿って場所を特定し、赴くことができた。

  懸念は有った。
  英霊として顕現した魔法少女狩りスノーホワイトにその存在を感づかれるのではないかとヒヤヒヤしたものだが、なんと彼女はマスターの携帯端末をへし折ったらしい。
  ファヴは電子妖精なので運なんていう曖昧なものを信じるつもりはなかったが、それでも、そのことを知った時には少しだけその運というやつに感謝した。


395 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:44:37 rojVlRp20


  今まではなんの問題もなく動いていた。
  一人脱落者が出たとルーラーが言ったので、戦闘の情報が情報端末間でやりとりされている小学校の大鏡まで移動した。そこまでは良かった。
  ただ、そこからはファヴも、ルーラーも、おそらくマスターすらも想定していない展開が巻き起こった。
  現場に行ってみても脱落者・大道寺知世の姿が見えない。
  もしやと思い場所を確認してみれば、小学校方面から中学校方面へとすごい速さで移動している。
  成程、どこかの主従が漁夫の利を得て大道寺知世を攫ったのだろうと気付き、そしてルーラーにそのことを伝える。
  他の参加者がいるところで魂を回収すれば、『主催者側に企みあり』とバレてしまいかねない。
  『nのフィールド』に連れ込むのはありかもしれないが、危険を犯して攫った獲物を取り上げられれば、参加者は不平を覚えるだろう。
  どうするべきかと考えていると再び戦闘がはじまり。
  それが思った以上の大規模戦闘になったため、
  そして、冒頭の独白へと繋がった。

「ルーラー」

「なぁに、ファヴ」

「魂って二十は確実に必要って話ぽん?」

  ルーラーは少し立ち止まり、小首を傾げる。
  ルーラーは掴みどころがなく、意思の疎通も難しい。だが、必要なことは喋る。
  ここで黙るということは、ルーラーも魂の量については知らないということだろう。
  ファヴは頭を捻って考える。
  そして、早々にこう結論づけた。


396 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:45:17 rojVlRp20


「なんにせよ、さっさと帰って話聞いといたほうがよさそうぽん。
 報告連絡相談を怠ったらあとでどやされるってのは、たぶん、魔法の国とおんなじぽん」

  ファヴとてもともとは公務員だ。上っ面だけだったとはいえ働き方のマナーは心得ている。
  やれやれとつけぬ溜息の代わりにリンプンを散らしながらルーラーの周囲を一度くるりと旋回して。
  ファヴの羽先を楽しそうに追っていたルーラーにあくまで提案という形で行動方針を告げた。

「ルーラー、一旦マスターのもとに帰りたいけど、大丈夫かぽん?」

「……負けた子をお迎えに行くのはどうしましょう」

「ああ、そういや大道寺知世の魂も回収しなきゃだった」

  ふと思い出すのは、ここに来た理由。
  目の前の大事に気を取られて本来の任務すら些事として片付けてしまっていた。

「……まあ、なんの変哲もない人間だから、野放しにしといても問題ないはずぽん。物事には優先順位ってもんがあるぽん」

  順位付けするのならば。
  まずは星輝子の魂。次に彼女と類似の案件が起こりうる主従。その後に大道寺知世だ。
  どうせ力のない少女一人。この街から出られないのだから魂を奪うのが遅いか早いかの違いだ。
  連れて帰った参加者が変な動きをしないかぎりは野放しでも十分だ。
  令呪を奪うなり、キメラに作り変えるなり、洗脳して爆弾を抱えさせて友達に会いに行かせるなり、なんでもすればいい。

「マスターが先ぽん」

「そうなのね。じゃあ、そうしましょう」

  ルーラーは両手を胸の前で合わせ、可愛らしく承諾する。
  数秒後。消防隊の放水で出来た水面が再び人形を飲み込んだ。


397 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:45:31 rojVlRp20





  大きな鏡が掛けられた壁だけが、異様な存在感を放っている。
  壁掛け鏡からルーラーが飛び出すのを確認して、ファヴもまた携帯端末から飛び出す。
  そして、この館の今の主の姿を探す。
  ほどなくして、主の姿は見つかった。
  主は、司書用の机に本を積み上げ、ゆっくりとページをめくっていた。

「マスター」

「あら」

  ファヴの声に、主が顔を上げる。
  その顔からは、およそ表情というものは伺い知れない。
  ルーラーともども能面貼っつけたような主従だ、と、ファヴは心の中で何度目かの悪態をついた。

「帰ってきていたの」

「ファヴたちの一存で決めることはできないくらいの緊急事態だから仕方ないぽん。
 それでも怒るってんなら、まあ、文句言わずに仕事に戻るけど」

「構わないわ」

  主は、席を立ち、ルーラーたちの方へと歩み寄る。
  その挙動は酷く緩慢だ。もしかしたら身体の何処かを患っているのかもしれない。

「話してもらえるかしら」

  少女たちの聖杯戦争には似つかわしくない、一人ぼっちの大人は、開いていた本を閉じてルーラーたちに向き直った。
  大人の名は、プレシア・テスタロッサ。


398 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:45:47 rojVlRp20




「まあ、つまりはそういうことぽん」

  口数の少ないルーラーに代わり、無駄口の多いファヴが説明する。
  ただ、報告の中身はとても簡素。要旨だけをかいつまんだ、本当になんともない『報告』だ。
  星輝子の魂が消滅したこととその経緯。
  ファヴの考えるイレギュラーの発展性について。
  プレシアは相槌も撃たずにただぼうっとその報告を聞くだけだった。

  ファヴの説明の後で、沈黙が流れる。
  ファヴはちらりとプレシアの顔を見てみた。
  何かを考えているという顔ではない。心ここにあらずというような顔だ。

「マスター。魂の数が減っちゃったぽん。なにか特別にやることはあるぽん?」

「……魂は、六つでいいの」

  ファヴの言葉に、今度は返事が帰ってくる。

「この舞台の上で争い、輝きを増した魂。
 ちょうど、彼女の器を満たせるような、『不完全な魂』が、六つ」

  その数は、ファヴが想定していたよりも遥かに少ない。
  ならばもう少し参加者を減らしたほうが効率が良かったんじゃないか、とファヴが考えていると。
  プレシアは、そんなファヴの心を見透かしたように、言葉を続けた。

「ただ、あまり減ってしまうのは良くないわ」
「聖杯戦争は、魂に輝きをつけるための儀式……争いの中で、少女たちの魂は、より完全なる不完全へと近づいていく……
 これがなりたたなくなってしまったら、この儀式自体の意味がなくなってしまうの」
「それにもし、六つより少なくなってしまったら……」

  その説明で、ファヴは無い首を使って頷くように上下に揺れた。
  つまり、魂にも、戦争にも、意味がある。
  魂が六つになるまで戦争を続けなければならず、魂同士の研鑽が発生しなければならないので魂も残しておく必要がある。
  そして、戦争の終盤で魂が消滅しては六つの魂が回収できなくなるかもしれない。
  そうすれば、ここまでの苦労は水の泡だ。
  そこまで理解し、ファヴはプレセアにこう返した。

「つまり、手は打っておくべきと?」

「そうね。任せるわ」


399 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:46:07 rojVlRp20


  事務報告を終え、再び出発するためにルーラーが鏡を異界につなぎ、鏡の中に消えていく。
  ファヴもその背を追い、鏡をくぐろうとする。
  その時。

「……ファヴ」

  珍しくプレシアが、ファヴに自分から話しかけてきた
  何か気に触るようなことをしただろうかと振り返る。
  プレシアは、いつもの様に胡乱な瞳でファヴを見つめていた。
  ファヴの回路に、小さなノイズが走る。

「なんだぽん」

「フェイト・テスタロッサは、居た?」

「ああ」

  フェイト・テスタロッサ。
  通達を送る際に目にした名前だ。
  通達に貼り付けた写真にも目を通してある。

「居たぽん。小学校で、顔写真通りの子が」

「そう」

  ありのままに答える。
  プレシアは、尋ねたにしてはそっけなく、相槌のように一言だけ答えるだけだった。
  その様子になんとなくヤキモキしたファヴは、開始以来、ずっと忍ばせていた問いを口にした。


400 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:46:25 rojVlRp20


「マスター。結局、そのフェイト・テスタロッサって、マスターのなんなんだぽん?」

  ファヴは、その少女については何も知らなかった。
  ただ、プレシアがとても気にしているということだけは知っていた。
  ファミリーネームが同じだから、ひょっとしたら家族なのではと推測を立てることはできたが、それ以上はなにも分からない。
  人を害した様子はないのに討伐令を敷かれるほどの存在。
  敵か、味方か、それとも別の何かか。ファヴにも知れぬ主催の裏側。
  その部分への興味から、ついつい疑問が口をついて出てしまった。
  その問を聞き届けると、プレシアは、ファヴに歩み寄ってきた。
  それは、電子の海から拾い上げられて以来、それなりに長い付き合いだがようやく二度目だ。

「ファヴ」

「なんだぽん」

「あなたは、聖杯戦争を滞りなく進ませてくれればいいの」

  ファヴの顎に当たるラインを、プレシアの、少し骨ばった指が、優しく撫でる。
  ファヴの中に再びノイズのような何かが走る。

「私からあなたに望むことは三つ」
「聖杯戦争を止めないこと」
「魂を極力減らさないこと」
「私の手を煩わせないこと」
「お願いできるかしら」

  それは、ルーラーの補佐をする人工精霊としての最低限の業務。
  ファヴが拾い上げられた時から何も変わっていない使命。
  続く言葉もよく覚えている。

「できなければ、あなたには、また元の世界に帰ってもらわなければならない。
 悲しいけれどそれが約束だから」

  プレシアの口調だけは柔らかいその言葉を聞けば、ファヴはもう肯定するしかなかった。

「……わかったぽん。フェイト・テスタロッサについては、気にしないことにするぽん」

「それでいいの」

  プレシアの胡乱な瞳に見つめられた瞬間、触れられた瞬間、感情なんてないはずのファヴの回路に嫌なノイズが走った。
  そのノイズは、人間に置き換えるならば、恐怖と呼ぶのかもしれない。


401 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:46:36 rojVlRp20




「ったく、ほんと自分勝手なマスターだぽん」

  nのフィールド。
  許可を得ぬ限り誰にも察することのできぬ世界で、鏡だらけの何もない世界で、一体と一個が話し合う。
  話し合うと言っても、声をかけ続けるのは片方だけだ。
  饒舌な方……ファヴは、まだ納得がいかないという声色でリンプンを撒き散らしていたが、数分もすれば冷却がすんだらしく、いつもどおりの電子の妖精然とした振る舞いに戻った。
  フェイトについて詮索するのはやめておいたほうがよさそうだ。
  背景がどうあれ、今のファヴの利益になるようなことはないだろう。

「さて、それじゃあルーラー。会いに行くべき子たちができたぽん」

  プレシアの態度は気に食わないが、逆らうのは悪手だ。
  彼女の気まぐれ一つでファヴはこのnのフィールドからどこともしれない電子の海の水底に贈り戻されることだってありえるのだから。
  ならば無茶ぶりや難題だろうとふたつ返事で了承し、その通りに動かなければならない。
  魂を消滅させるなと言われたならば、魂の消滅を防がなければならない止めなければならない。
  魂を閉じ込め、他者に委ねることの出来る宝具を持つ者。
  その魂の行き先を、有・無問わず変更できる者。
  この会場には、その性質を持つ宝具を有するサーヴァントがまだ二人もいる。
  その二人に会いに行くことこそ、プレシアの望むことであり、ファヴの長生きに必要な出会いの一つだ。

  ファヴの切り出しに、それまで静かにファヴを見つめていたルーラーは、まるでようやく電池が入ったかのように、ファヴの方に歩み寄り、声を上げて答えた。

「誰のお家に遊びに行くの?」

「桂たま」

  ひとつ目の宝具の名は『そして伝説へ』
  主従共に、その存在を『賢者の石』に変えて他者に譲渡出来る効果を持つ宝具。
  もし、賢者の石が破壊され消滅するようなことがあれば、桂たまの魂は永久に回収不可能となる。

「それと、山田なぎさぽん」

  もう一つの宝具の名は『死者行軍八房』。
  死者をそのまま手駒として操ることのできる宝具。
  こちらは、『魂の消滅』に関する宝具としては白よりのグレーだ。
  死者行軍八房はそもそも相手を殺し、魂が抜け殻になった死体を好き勝手操る帝具が宝具として再現されたもの。
  ファヴの知識に当てはまる魔法少女に置き換えるならば、人形遣い『リオネッタ』に近い。
  万が一魂が残ったままになるといけないので「マスターを躯人形にしないように」と釘を差しに行く必要はあるが、今はまだ後回しでいい。


402 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:46:52 rojVlRp20


  ちらりと寄ってきたルーラーの方を見る。
  ファヴとしては、プレシアもそうだが、ルーラーもかなり危険なものだ。
  もともとこのnのフィールドはルーラーの宝具。
  ないだろうが、彼女が癇癪を起こせば、ファヴはプレシアにも知られずに葬り去られることになる。
  これからまだまだ、しばらくは一緒に行動するのだ。いたわっておくくらいは必要だろう。
  好感度稼ぎがてらに、ルーラーに声をかける。

「ルーラーにはいろいろ迷惑かけちゃってるぽん。ごめんぽん」

「気にしないで」

  ファヴの上っ面な労りに、ルーラーは、笑顔と呼ぶにはぎこちない顔で答える。
  そして、ファヴを両手で優しく捕まえ、小さな小さな木製の胸に抱きしめながら、愛おしそうに続けた。

「貴方は、私の最初の一つ。絶対に離したりはしないわ、ファヴ」

「へえ、それは嬉しいぽん」

「私も嬉しいの。ずうっと一緒よ。ずうっと、ずうっと」

  見上げれば、ルーラーの表情は先程からまるで変わっていなかった。
  まるでそれ一つしか表情がない、本物の人形のように、ファヴの方を見下ろしていた。
  ファヴはルーラーの素性はさっぱり知らないが、ここまでベタベタされるのは、正直うざったいという感想しかない。
  だから、身をよじってルーラーの束縛から逃れると、また捕まえられないうちに音頭を取った。

「そうと決まれば、桂たまに会いに行くぽん」

「行きましょう」

  ファヴの提案にルーラーは二つ返事で了承する。
  そして、鏡の世界を歩き出した。
  ファヴは、その耳障りな電子音声で一つ、空間にノイズを走らせて。
  前を歩くルーラーの背を追って、nのフィールドを飛び出した。


403 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:47:52 rojVlRp20


【???/nのフィールド/一日目 夕方】

【ルーラー(雪華綺晶)@ローゼンメイデン】
[状態]健康
[思考・状況]
基本行動方針:少女たちの魂を集める
1.桂たまの家に遊びに行く
2.それが終われば山田なぎさのもとへ
3.???

[備考]
※ファヴにささやかな執着があります。が、ファヴに伝えてないこともかなりあります。


【人工精霊(ファヴ)@魔法少女育成計画】
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を恙なく進行して聖杯戦争終了後も消されず生き延びる。
1.他の参加者たちの魂は逃がしちゃ駄目ぽん
2.なんにせよ、さっさと聖杯戦争を終わらせて自由の身になるぽん

[備考]
※ルーラー(雪華綺晶)に与えられた人工精霊です。
※掲示板の管理・クローンヤクザの統制などの電子機器機能方面でのプレシアのバックアップを行っています。
 ただし、反乱などができないようにある種のストッパーは課せられています。
※情報端末を通して人物の位置の特定が可能です。他の機能もあるかもしれません。
※大道寺知世が山田なぎさと接触しているとは知りません。
 今後、二人の携帯端末の位置を確認すれば気づくかもしれません。
※フェイト・テスタロッサについては『プレシアが執着している』程度しか知りません。


404 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:48:05 rojVlRp20




  昔々、仲の良い親子が居た。
  というのが、この物語の始まりだ。

  母の名前はプレシア・テスタロッサ。
  娘の名前はアリシア・テスタロッサ。

  二人はとても仲の良い親子だった。
  永遠の別れが来るその日までは。

  アリシアは事故に巻き込まれて死んでしまった。
  プレシアはその事故の全責任を負わされて、世界からはじき出されてしまった。

  全てを失い、それでもアリシア取り戻したかったプレシアは、神にもすがる思いで魔術にすがった。
  時を遡る魔術を調べた。
  死者を蘇らせる魔術を調べた。
  因果を従わせる魔術を調べた。
  研究員としてのオファーも断り、ただひたすらに、そんな馬鹿げた魔術について調べ続けた。
  心の何処かでそんな都合のいい魔術なんて存在しないと理解しながら、来る日も来る日も、学術書から神話伝承まで紐解き続けた。

  当然、どんな文献にも残っていない。
  ただ、お伽話の中にだけ、そんな夢みたいな世界のことが書いてあった。

  その楽園の名は、『アルハザード』と言った。


405 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:48:56 rojVlRp20


  すがる思いでお伽話を読み込む。
  しかし、当然のようになんの成果も得られない。
  読み返した回数が二桁を超えた頃、プレシアはその童話に記された世界について既視感を覚えた。
  その世界と似た世界を描いた絵本があったはずだ。
  確か、アリシアの寝物語として一度読んだのだ。
  アリシアが、「夢に絵本のキャラが出てきたんだよ」とはしゃいでいたから、暫くの間はその本を読み続けていたはずだ。

  それは確か、異世界の童話だった。
  魔術師ではなくもっと可愛らしい存在を描いた話だった。
  その二つだけを手がかりに、図書館にこもり、アリシアに読み聞かせた本を1つずつ読み返し。
  そして、見つけた。
  それは遥か遠くの次元に伝わる、夢のなかに入り込む魔法少女『ねむりん』の物語。
  彼女の世界は、童話の中の理想郷と酷似していた。

  それから、プレシアは手をつくして似た世界がないのかを徹底的に調べあげ、そして一つの事実にたどり着いた。
  数多の時空に存在している数々の世界において、ほぼ同一の概念世界が確認されているという事実に。

  あるいは、妖魔蠢く世界の裏側、『異界』。
  あるいは、莫大な魔力の眠る海、『半物質世界』。
  あるいは、夢と現の狭間に住む鬼の懐、『鬼時間』。
  あるいは、禁忌を犯した者の至る場所、『真理の扉』。
  あるいは、誰かの記した物語の最果て、『曖昧な都』。
  あるいは、一人の少女が開いた理想郷、『ねむりんの世界』。
  あるいは、オヒガンにそびえる伏魔殿、『キンカク・テンプル』。

  『どこにでもあり』、『誰かには入ることができ』。
  『あらゆる異質が肯定され』『常識を超える奇跡が起こり』。
  そして、『どこにもない』、『誰にでもは到達できない』という矛盾した世界。

  きっと、プレシアの世界に伝わる伝承では、その世界のことをアルハザードと呼んでいたのだ。

  それは、世界を覆しかねない真理との邂逅。
  誰もが夢のうちに置いてきた理想郷の全貌。
  埃をかぶっていた童話の奥底に眠る真実に、光があたった瞬間だった。


406 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:49:06 rojVlRp20


  『アルハザード』への到達。童話にしか残らない世界への侵入。
  場所も、条件も分からない、
  だからプレシアは用意した。彼女なりの答えを。

  アルハザードに近づくために用意されたのは、『楽園のかけら』とでも呼ぶべき参加者たち。
  彼らの持つ楽園の記憶がこの舞台の上で失われ、魂として・英霊の魔力として、交わることのなかった異世界と混ざり合う。
  複数の楽園が一つに交じり合うことで、聖杯とともに、様々な異世界の繋がった仮想楽園『アルハザード』がこの聖杯戦争の地に現れる。


  扉を開けるための鍵は、彼女の知識に従うならば『ロストロギア』と呼ぶべき魔力たち。
  この地に呼び出された二十の英霊、イレギュラーである偽アサシンを含めれば二十一の英霊。
  そのうちの十四の魔力を用いることで、現れたアルハザードの扉を無理やり開く。
  選ばれたものでしか通れぬ門を、魔力と奇跡によってこじ開ける。
  残りの七つは対面を取り繕うために用意した『報酬』だ。従来の聖杯戦争通り、優勝者が好きに使えばいい。


  娘のために用意した器、『ローゼンメイデン』。
  この地に呼び出された少女たちの魂が極限まで輝いた時、その『少女の魂』は薔薇乙女の欠けている完璧な乙女の器を満たす生け贄となる。
  その魂を集め、完璧な乙女とし、異世界に眠るアリシアの魂をその乙女の中に蘇らせる。
  生存競争を生き残った『完璧な少女』はいらない。
  生き残ろうとして途中で夢やぶれた『不完全な少女』が必要なのだ。
  優勝者は、願いを持って、どこへなりとも行けばいい。


  そしてプレシアと選ばれた少女が天国へとたどり着くための地獄、『聖杯戦争』。
  少女たちの輝く素敵なものをより輝かせるための舞台。
  殺し合い、奪い合い、生き残りをかけて戦い合うことで、この地に集った魂はその輝きを増す。
  殺し合いが進むことで残された少女たちの魂は、磨き上げられ、歪な形のまま『完璧な少女』へと近づいていく。
  少女たちの夢は、アルハザードを引き寄せ。
  少女たちの絶望が、不完全な少女の器を完全へと押し上げる。


407 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:49:35 rojVlRp20


  邪魔させない準備も整えた。
  異世界の技術である街ひとつ分を多い、中の者を逃がさない球体結界。
  そこにプレシアの持つ全ての知識と技術を注ぎ込んで改良を施した。
  負担は大きいが、それでも誰かに気づかれることや、破られることはない。
  二十四時間という時間制限もプレシアが内部から魔力供給を続けることで克服した。
  この地、この聖杯戦争は、誰にも気づかれず、誰にも邪魔されない。



  集められた異世界の資料の中に、こんな歌があった。


―――女の子って何で出来ているの?
     女の子って何で出来ているの?
     砂糖とスパイス。
     それと素敵な何か。
     そういうものでできてるよ。


  少女を構成する砂糖は『魂』。
  少女を輝かせるスパイスは『戦争』で。
  少女に命を吹き込む素敵な何かは『楽園』だ。

  三つを揃え、少女を生み出す。
  もう一度、アリシアをこの世界に呼び戻す。

「もう少しよ」

「もう少しで、『約束の地』へたどり着く」

「だから」

  二度、咳をする。
  口に添えた手のひらは、赤く濡れていた。

「もう少しだけ……待っていてね、アリシア」


408 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:49:55 rojVlRp20




  無数の少女たちは、楽園を夢見た。
  一人ぼっちの大人は、楽園を目指した。

  この舞台に上げられた少女、英霊、有象無象の危険な妄執の根源は。
  少女たちが生まれるはるか昔、物語に空白を穿てなかった悲しい大人の、楽園への妄執。


     ALLHAZARD PARANOIA/アルハザード・パラノイア


409 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:50:10 rojVlRp20



[備考]
※プレシアは『プロジェクトF.A.T.E』に参加していない平行世界からの参戦です。
※『楽園』の逸話を持つ参加者が死ぬたびに、舞台の楽園濃度が上がっていきます。
※舞台を区切る壁として球体結界(@魔法少女育成計画)を改良したものが貼られています。
 魔力を持つものは出入りができず、触れれば魔力の量に応じて魔力を奪われ、無理に抜けようとすれば最悪死にます。
※何事もなければ優勝者は約束通り聖杯に願いを届けることができます。


410 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:50:43 rojVlRp20










―――





  胎児よ
  胎児よ
  なぜ踊る
  母親の心がわかって
  おそろしいのか


              夢野久作著「ドグラ・マグラ」、作中作「胎児の夢」巻頭歌より





―――











.


411 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:51:05 rojVlRp20



















  ―――どくん。



  胎児が胎を蹴ったように、楽園は一度、ぶるりと揺れた。














.


412 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/04(月) 19:51:49 rojVlRp20
あけましておめで投下終了です。(激ウマギャグ)
前後編申し訳ない。

タイトルの「アルハザード」の綴りですが、なのは作中では明かされていないようなのでテキトーに書きました。
本企画オリジナル英単語なのでうっかりテストで答えたりしないでください。
既存単語である「alhazred(ネクロノミコンの作者)」の方がいいならタイトル考え直しますのでご一報ください。


二つだけ。

○クロメの八房の制限について。
作中書いたとおりです。リレーにも関わるので確認お願いします。

○主催者側について。
「☆★少女〜」以降はなくても話が通じるようになっているので、もし主催陣営についてなにかあれば全部取り下げます。
書き手の方々は、面倒ならば感想は結構ですので、今後の展開も考慮の上で主催陣営についてだけでも何か一言お願いします。


長丁場お付き合いありがとうございました。
長回しなので至らぬ点が多々あると思います。
指摘等あればお願いします。
ただ、反応するのは少し遅れると思います。


413 : 名無しさん :2016/01/04(月) 20:23:03 djXdyAj.0
投下お疲れさまでした!
前半のばいきんまん対理事長のフォーゼ最終回の逸話ネタやだだんだんにライダー主従の勇姿、そして何よりも宿敵であっても誰かの危機に助けに来てくれる皆のヒーローの登場に心打たれました
そして後半戦の大井っち退場。いまわの際までアカンなこいつな思考してた彼女ですが、その執念とも言える一途な思いが呼び寄せた奇跡にえも言えぬ読後感がありました。
主催陣営も動きを見せはじめ、今後も何波乱もありそうで続きがますます気になります!


414 : 名無しさん :2016/01/04(月) 20:47:39 jd.//HQI0
投下おつー
後半では一気に主催側にメスが!
なるほど、そういう仕組みになってたのか
プレシアも、アリシア以外に興味ないのもあって一応優勝者の願い叶える気があるというのは参加者にとっては大きいな
大井はまさかの綺麗な退場


415 : 名無しさん :2016/01/04(月) 22:10:47 K/f20R9c0
投下お疲れさまでした!
前半の盛り上がり、理事長とばいきんまん&輝子の戦いの熱さは言うまでもなく、様々な参加者が行き交う後半も楽しませて頂きました
大井っちは変わらなかったけれども、最後に奇跡が彼女に触れたのはこの少女聖杯ならではの救いなのだろうか…
知世ちゃんの終わらない戦いとなぎさの葛藤、クラムベリーVSチェーンソー男、絵理ちゃんに刻まれた傷、接触するフェイトとマサキ等々、それぞれ見事な糸の繰り方でした
そしてついに踏み込まれた、きらきー、ファヴ、プレシア、主催たちの内幕
タイトルのミーニング、ドグラマグラの巻頭歌と繋げられたのには唸った、ゾクゾクしました


416 : 名無しさん :2016/01/05(火) 01:40:19 ThLuqBGoO
投下乙です

アルハザードはオール・ハザード
「プレシアの全て(命)」をかけた「プレシアの全て(娘)」の為の災害


417 : ◆2lsK9hNTNE :2016/01/06(水) 23:33:48 VDDkwTZU0

あけましておめで投下乙です
星輝子&ライダー、大井&アーチャーとここに来て一気に脱落しましたね。知世は大丈夫のようで安心しましたがまだまだ油断はできない状態
主催者側も話が動きましたね。個人的になるほどと思ったのが球体結界。確かにこれなら魔力を持っているマスターは出られず、一般人は自由に出入りできるのも納得です
未だに謎なのがルーラー。素直にマスターのためだけに動く性格でもないでしょうし、彼女の狙いはなんなのか

それから絵里ちゃん、今までもチェーンソー男を絶対的な悪とは思っていたものの、明確な犠牲者を目にするのはこれが初めて
犠牲者自身はちょっとアレな人ですが、そんなことを知らない彼女がどうするのか気になる所
主催陣営についても私はびつに問題ないと思います。設定面とそれからファヴの登場も
裏方作業の補強になったと思いますし。名無しメイデンとか考えたのもファヴなんだろうか

ただちょっと質問なんですが『半物質世界』がどの作品か教えてもらってもいいでしょうか?
これかな? と思うものはあるのですがイマイチ記憶が吟味ではっきりしないんです

それと細かい点で気になった所
『この地に呼び出された二十の英霊』とありますが、本編開始前に脱落した組もあるのでもっと多いはずでは?
イレギュラーであるはずのバラモスが最初から勘定に含まれてるのも違和感


418 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/07(木) 03:11:04 kud44aSM0
たくさんの感想ありがとうございます。
私もそろそろ書けていなかった感想を書きたいと思っています。本当です。
ひとまず◆2lsK9hNTNE氏の指摘に対して


①「反物質世界」
出典は「冥王計画ゼオライマー」、企画内でも散見される「次元連結システム」で接続する先の次元の名称だったはずです。


②サーヴァントの人数
「召喚された」ではなく「予選を通過した」とさせていただきます。
予選のサーヴァントでロストロギア枠を賄えないのかという指摘があるかもしれませんが、
前提として「予選」と「本戦」が分けられているので(予選後に予選の内容を持ち越さず本戦として仕切りなおしが必要であるものと捉え)、
本作では儀式に直接関係するのは本戦通過主従だけ、と判断し書かせていただいております。
予選時の英霊や魂に関してはたぶん球体結界の安定とか舞台の調整とかに使われたんじゃないかなあと思います。この辺は必要とあらば加筆します。


③偽アサシンの扱い
儀式用に21騎残るはずが、実際には19騎とゾーマ(宝具の偽アサシン含めて2騎換算)となった、という意味でのイレギュラー扱いです。
こちらは関連する記述をもっとわかりやすく変えさせていただきます。
主催側が偽アサシンについて知っているのは、作中でファヴ畜生がゾーマの宝具を把握している描写があるので問題ないと思います。


以上が補足説明となります。他にもなにかあればよろしくおねがいします。
今後、企画に参加している書き手様方から指摘などが来ず、企画主である◆PatdvIjTFg氏からOKが出れば本作をwikiに掲載させて頂きます。


あと、ところどころ『前夜祭』と食い違う部分があったので、その辺もこの話が採用となった場合wikiにて加筆及び修正を行います。
だいたい、
○アリシアの死体ときらきーについて(きらきーをアリシアの「魂の器」にし、アリシアの魂を器に投影したあとでアリシアの死体にアストラル体を憑依させて復活させる的な流れを想定)
○本作中で触れた「楽園」と『前夜祭』作中語句「少女聖杯」との結びつけ
○プレシアの背景(主に研究系統)について
になります。


419 : ◆PatdvIjTFg :2016/01/07(木) 22:26:44 X4wI06Ho0
投下お疲れ様でした、申し訳ありませんが感想に関しては月曜日に。
自分から指摘する点は特にありません、
完璧な形で主催陣営を書いて頂いたと思っています、本当にありがとうございました。


木之本桜&セイバー(沖田総司)
蜂屋あい&キャスター(アリス)
諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
江ノ島盾子
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
中原岬&セイバー(レイ)
玲&エンブリオ(ある少女)、
アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)

予約させていただきます。


420 : ◆PatdvIjTFg :2016/01/07(木) 22:28:23 X4wI06Ho0
追加で高町なのはを予約させていただきます


421 : 名無しさん :2016/01/08(金) 00:14:38 BVuOtmlg0
おおう、またも大規模予約!楽しみだ


422 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/09(土) 07:34:53 IYdmWTR60
>マッドティーパーティー
投下お疲れ様です。
ああ、セリム……落ちてしまったか……セリム脱落の遠因が知世ちゃんの方針っていうのが辛い。
小学校が異界と繋がるというのは、説明されてみれば成程通る道理で。
異界を繋ぐために死神様を撒き散らしていたのかとも考えたけどあの二人の性格的にそれはないよなぁ。
しかし、こういう交渉ありきのような場所だと方針なんてなくやりたいことをやるアリスが厄介で厄介で。
しかも狙いすましたようにまとまりかけてた縁談をご破産にする性能の高さ。
先にアリスの方にロンギヌス当てて消滅させていれば何人が救われたんですかね……(悲しみ)
既にリレー後なので触れさせてもらいますが、屋上抗争は他の組が非常に回しやすくなって助かりました。
目立つのは屋上抗争だけど小学校に登校してきたマサキやあんきら再会など他のところもいろいろ不穏で楽しめました。
ず  り  し  ま  じ  ゅ  ん  こ


>きっと世界は君のもの きっと世界は僕のもの
投下お疲れ様です。
>その姿はまさしく金に汚い天使であった、天使ではなかった。
この一文の「何言ってんだ……」と「まあ確かに」の混ざった感じがとても好き。
しかし、不思議の国のアナタがあるということは玲の精神世界と融合してるってことである少女的にも舵取りが効かなくなってしまうかもしれない。
原作通りだとするなら迷宮の奥なら大切なものが眠っているんだろうけど、ここではどうなっているのか。
今後筋肉モリモリマッチョマンの変態神輿が火を噴くウォルター卿に倍速で襲いかかる可能性が微粒子レベルで存在している……?
玲ちゃんは方針的にさいはてに居続ければ最後まで平穏無事なのかもしれないけど、誰かが入ってきてしまった時点で原作同様殻にひびが入ってしまったと言っても過言ではない。
高校周辺は戦闘多発地区だからひびがどんどん広がっていってしまいそう……
蜘蛛が不穏(総括)


>過ぐる日の憧憬
投下お疲れ様です。
超高校級の絶望と女王蜂のエンジョイによって少女たちが曇る曇る。
両方と関わってるスノーホワイトさんの曇り方が尋常じゃない、そろそろ前が見えなくなってしまう。
屋上抗争の延長戦ということでスノーホワイトさんやクロメを巻き込んでの二回戦。
恐ろしいのは、江ノ島盾子ちゃん同様スノーホワイトの魔法に対応しきってるし、局面を読みきってるあいちゃん。
原作でも躊躇せずに(あの時は二人で仲良く)飛び降りることはあったけど、この子の胆力は本当に小学生なんですかね……?
さくらちゃんが助けに来ることまで織り込み済みだったけどその後の「ごめん、待って!」にはご立腹な様子。心の炎見て我慢しようね……怒らないでね……
方針や腹の中は一切見せ合ってないけど再び即席でコンビネーションプレイする沖田アリス意外と好き、実はまほいく鯖2騎と連戦だし。
なんだかんだで、一番のバチを引いたのはスノーホワイトの魔法で気配遮断看破されてる事実を知らずに撤退して、しかもきらきーが遊びに来ることが確定したクロメなのでは?


>ALL HAZARD PARANOIA
自作です。
企画主さんの許可も得たし、指摘もないようなので、五分割か六分割かしてwikiに載せます。
あと、記載を忘れてますがマサキフェイトは【D-2/北部の道路/一日目 夕方】です。
そして修正ですが、星輝子のマンションはC-2なのでさちこゆき組はC-3ではなくそっちになります。
誤字脱字を除いた大きな修正などがあればまた追って連絡します。


423 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/09(土) 07:36:51 IYdmWTR60
感想ついでに

シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)
桂たま&アサシン(ゾーマ)&偽アサシン(まおうバラモス)
ルーラー(雪華綺晶)&人工精霊(ファヴ)

予約します。


424 : 名無しさん :2016/01/10(日) 17:40:58 VHY2S0zw0
投下お疲れ様です。
大井っちは積極的にならなければ長生きできたのに、仕方がないですね。
無駄にバイタリティ高くて、調子に乗りすぎちゃった結果がコレだよ!
調子に乗っちゃダメーを見事なまでに体現して、最後は北上さんに導かれて逝きましたね。
自分勝手に行動して自分勝手に満足して退場したのはまさしくアニメ版大井っち!
そして、主催者側の思惑が徐々に明らかに。願いを叶える結果よりも過程を重視するそのスタンスは少女は大人になる前が一番美味しいという暗示でしょうか。
乙女が成熟しないように、巧くコントロールするのは危ない香りがしますね。
けれど、あくまで必要なのは不完全な少女で、完璧なものはいらないという理屈には理由が付けられているのもまた然り。
最初から出来上がっているものよりも、パーツを手に入れてアリシアを復活させる方が都合がいい、実に狂気のマッドサイエンスお母さんですね。
そして、アルハザードの綴りには度肝を抜かれました。
楽園は何処にでも在り、何処にでもない。矛盾があるからこそ、齟齬が生まれ、誰しもが望みながらも辿りつけない。
大人の都合で生み出された世界で、少女達の華やぐ姿に可憐さと浅ましさを感じますね。
つまるところ、楽園の裏側には恐怖が埋められている。


425 : ◆2lsK9hNTNE :2016/01/11(月) 19:43:58 3KEIYUK60
輿水幸子、スノーホワイト、ララを予約します


426 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/01/15(金) 23:54:52 OIvl65Cg0
申し訳ありません、間に合いそうにないので現予約を破棄させていただきます
それと、月報です

26話(+ 5) 35/40 (- 5) 87.5


427 : ◆2lsK9hNTNE :2016/01/18(月) 19:36:59 mYqWdfoU0
すいません、予約した時間に間に合いそうにありません
今日中には投下します


428 : ◆2lsK9hNTNE :2016/01/19(火) 00:21:12 e41nKinw0
遅くなりました。投下します


429 : 尊いもの ◆2lsK9hNTNE :2016/01/19(火) 00:22:32 e41nKinw0
『お掛けになった番号は現在電源が入っていないか、電波が届かない場所にあります』

耳に当てたケータイから無機質な電子音声がして幸子は電話を切った。
もう一度同じ番号に掛け直す。『お掛けになった番号は現ざ』。切る。掛け直す。『お掛けに』。切る。掛け直す。
掛け直す。掛け直す。掛け直す。
何度でも何度でも。
輝子のベッドに座って彼女のケータイへ電話を掛ける。

幸子は輝子の最後をこの目で見たわけではない。
かびるんるんは消えたが、だからといってライダーがやられたとは限らない。ライダーがやられたからといって輝子が無事じゃないとは限らない。
幸子は電話を掛け続ける。胸が苦しい。この苦しみも輝子が電話に出ればすぐに終わる。

――だから早く出てくださいよ。

ケータイからは無機質な声だけが流れ続ける。幸子が求める輝子の声は聞こえてこない。
代わりにでもないだろうが、コトっというなにかを置いた音がした。
見るとベッドの横にある丸テーブルにランサーがチャーハンを置いていた。

「なんですか、それ」
「チャーハンです」

そんなことは見ればわかる。

「さっき取ったきのこを使って作りました」

幸子は頭が急激に沸騰するのを感じた。

「まだ輝子さんが戻ってきてませんよ!」

片手をベッドに叩きつけながら怒鳴った。そのままチャーハンには目をくれずケータイの操作に戻る。

「幸子さん、おそらく輝子さんはもう……」
「そんなことありません!」

そんなことはありえない。
だって変じゃないか。輝子はアイドルなのだ。綺麗な服を着て、歌って踊って、ファンを笑顔にして、テレビにも出て。
そういう人間なのだ。それがいきなり聖杯戦争なんて訳の分からないものに巻き込まれて、友達を守るため悪者と戦って死ぬなんておかしい。矛盾している。ルール違反だ。世界観が違う。
ありえない。認められない。だから幸子は電話を掛け続けた。
ランサーは悲しむような、憐れむような目を向けてくる。それがさらに幸子を苛つかせる。
幸子はただ輝子を心配して電話を掛けているだけだ。そんな目をされる謂われはない
ランサーは吐息を漏らし、ポツリと言った。

「私は……そろそろ行きます」
「そうですか」

幸子はそっけない返事を返す。ケータイからは変わらず電子音声。

「幸子さん、実はあなたに会うまえ私は……」

ランサーはそこで言葉を止める、「なんでもありません」と付け足すと姿が消した。霊体化したのだろう。構わず幸子は電話を掛け続ける。
輝子は無事に決まっている。電話が繋がらないのは……そう、きっとケータイが壊れてしまったのだろう。
考えてみれば当たり前の話だ。あの強そうなアーチャーと戦ったのだ。ケータイくらい壊れたって全然おかしくない。

――だったら、直接会いに行けばいいんですよ。

幸子はベッドから立ち上がった。窓の外に目を向けると少しだが雨が降っている。
輝子は傘がなくて困っているだろうか。ばいきんまんなら代わりになるものくらい用意できるかもしれない。でも念のため幸子は自分の分とあわせて二本の傘を持って玄関を出た。
ここはマンションの三階。エレベーターは六階に止まっていた。待つのが煩わしくて幸子は階段を降りた。
最初からこうしていればよかったのだ。戦いなんて、たぶんそう長引くものでもない。輝子の家にいってすぐあの山に引き返せばよかった。
そうしていればこっちに向かっている輝子とすぐに会えたはずだ。

一階、出入り口のドアから外に出る、傘を広げて歩き出す。
輝子と別れた小学校の裏山が見える。ここからでもはっきりとわかるほどに荒れ果てていた。
大丈夫。あれはばいきんまんが原因だ。輝子のマンションに向かう途中、彼のロボットが見えた。
だから不安に思う必要はない。そのはずなのに幸子の足は自然と速くなっていった。
山に残った傷跡がまるでなにかの墓標のように見えた。まだ輝子には会えない。


430 : 尊いもの ◆2lsK9hNTNE :2016/01/19(火) 00:23:42 e41nKinw0





麓までたどり着き、幸子は膝に手をついて呼吸を整える。
山の手前では立ち入り禁止のテープが張られ、大勢の野次馬が押し寄せていた。ニュースやドラマで――殺人事件が起きたときによく見る光景。
幸子は人混みの中をモミクチャになりながら突き進み、テープの手前ギリギリまでいって、大きく息を吸う。

「輝子さん! いるんでしょう! 返事してください! 輝子さん!」

力の限り叫んだ。野次馬たちが視線を浴びせてくるがどうでもいい。幸子は輝子の名を呼び続けた。
返事はない。山はなにも変わらず無言を貫き続けている。走ってきてすぐに大声を出したために息が苦しい。声が枯れる。もう一度叫ぼうとして咳が出た。
テープから若い消防隊員が一人出てくるのが見えて、幸子を群集を抜けて駆け寄った。
話しかけようと思って声が出ず、唾を飲んで喉を湿らせる。

「すみませんっ、山に、山に誰かいませんでしか!?」

消防隊員が疲れた様子で、鬱陶しそうに答えた。

「いや、探せるところは隈なく探したが誰もいなかったよ」
「そんなはずありません! もっとよく探してください!」
「大方、あの騒ぎで逃げ出したんだろう。だってもし山に残ってたら今頃……」

死んでいる。

先に続く言葉を想像し、気づいたら幸子はその場から走りだしていた。
もう一度輝子のケータイに電話する。繋がらなくて輝子の家に電話するが、誰も出ない。
息が上がる。胸が苦しい。足が痛い。喉が枯れる。痛い。苦しい。辛い。寒い。

踏み出した右足が濡れたコンクリートで滑った。倒れそうになり、閉じた方の傘で身体を支えようとして無理な重さが掛かり、音を立てて折れた。
うつ伏せに倒れこむ。背中を冷たい雨粒が打ち付けてくる。
頭では起き上がらなくてはと思ったが、身体がいうことを聞かなかった。
いや、起き上がろうとする身体に頭がついてこなかったのかもしれない。どっちでもよかった。

そもそもなぜ転んだら起きなくてはいけないのだろう。
人というものは得てして立っているよりも寝ている方が楽なものだ。転んだならそのまま横になっている方が快適なのではないか。
身体を濡らす雨もシャワーだと思えば気持ちがいい。このままここで横になっていよう。それがいい。なに考えず、なにもせず、ここでずっと寝ていよう。

「大丈夫?」

頭上から声がした。首を上げずに目だけ動かすと、横にあるアパート二階の窓から右目に包帯をした少女が顔を出していた。

「ここまで上がって来れる? そのままじゃ風邪引いちゃうよ」

風邪。そういえばもう随分と引いていない。アイドルになってから昔よりだいぶ健康に気を使うようになった。

――ああ、そういえばボクはアイドルなんでした。

なら確かに風邪を引くのはまずい。そんな理由で幸子は立ち上がった。


431 : 尊いもの ◆2lsK9hNTNE :2016/01/19(火) 00:27:12 e41nKinw0





「ごめんね。もっとちゃんとした服があればよかったんだけど」
「いいですよ、別に」

どうでもいいですから、とは口には出さなかった。まだ声が少し枯れている。
幸子が借りた服は、ただ布を服の形に縫い合わせただけといった体の代物だった。元々着ていた服はビニール袋に詰めてその辺に置いてある。
幸子は部屋の中を見渡す。一言で言えば質素だった。
目につく置物といえば鏡台と、棚。あとは幸子が座っているボロボロのソファーと眼の前にある丸机くらいだ。冷蔵庫すらない。
こんな部屋でまともに生活できるのか疑問だったが、それも幸子にとってどうでもいいことだった。

包帯の少女――ララというらしい――はコップに水道水を注いで机の上に置いた。枯れた声を聞いて、気を利かせたのだろう。
そういえば喉を痛めるのもアイドルにはよくない。幸子は「どうも」と言ってコップを握り、飲んだ。
ララが、幸子の隣りに腰掛ける。こちらの顔をじっと見つめながら言った。

「あなた輿水幸子だよね? アイドルの。一つ聞きたいことがあるんだけど」

――ああ、そういうことか。

どうして見ず知らずの人間が、外で倒れている幸子に声をかけてきたのか疑問だったが合点がいった。つまり彼女は幸子のファンなのだろう。
なら、質問にも答えなければいけない。ファンにサービスするのもアイドルの仕事だ。

「なんですか?」
「あなたはどうして自分とはなんの関係もない人たちのために歌うの?」

それはちょっと予想外の質問だった。なんの関係もない人だなんてファンの側がするとは思えない発言だ。

「別にボクはファンのために歌っているわけじゃないですよ。もちろん、ボクの歌を聞いて喜んでくれるのば嬉しいですけど」

本当ならファンにこんなことは聞かせられない。でも嘘の言葉を用意するのも面倒だった。

「ボクが歌うのはプロデューサーに聞いて欲しいからです。カワイイ衣装を着るのも、ステージで踊るのも、全部プロデューサーに見てほしいからです」
「じゃあ、あなたはプロデューサーのために歌ってるということ?」

幸子は頷いて、でも思い直して首を横に振った。

「ボクがプロデューサーに愛されたいからです」

それが幸子が歌う理由だ。
アイドルを始めたときから変わらない輿水幸子の根幹だ。
だが全てではなかった。

確かにそれは根幹だったけれど、幸子がアイドルになった理由だったけれど。
アイドルを続ける理由はそれだけじゃなかった。
上手く踊れなかった場所が必死に練習してできるようになるのが楽しかった。
新しく作られた曲に合わせて歌うのが楽しかった。
スタッフの皆に支えられてステージに上がるのが楽しかった。
ファンの皆を笑顔にするのは楽しかった。
輝子と小梅と同じユニットでいることが楽しかった。
輝子と小梅と一緒に練習するのが楽しかった。
輝子と小梅と一緒にステージに上がるのが楽しかった。
輝子と小梅と一緒に話すのが楽しかった。
輝子と小梅と一緒になにもしないでいるのが楽しかった。
三人でずっとアイドルを続けたいと思った。アイドルをやめても三人で一緒にいたいと思った。それはそんなに難しいことじゃないと思っていた。

――なのにっ!

本当はわかっているのだ。かびるんるんが消えたときから。輝子がもうこの世にいないって。
だけどとても辛くて、泣き叫ぶほど辛くて、逃げ出した。
電話に逃避して、心配してくれたランサーにも当たって、危険かもしれないのに山に戻って。
もしかしたら輝子のしてくれたことを台無しにしていたかもしれない。

膝を両手で抱えた。涙が零れそうになって顔を埋める。
だけど泣く資格なんてない。あのときランサーがあの場に残らなかったのは幸子を無事に帰すためだ。
幸子がいなければランサーも一緒に戦えた。そうすれば輝子が死ぬこともなかったかもしれない。

そのとき、歌が聞こえた。
ララが歌っていた。今まで一度も聞いたことがない。幸子の知らない歌。
悲しくて冷たい、けれどどこか優しい。冷えた身体をそっと抱きしめてくれるような――そんな歌。
気がつけば涙が出ていた。駄目だと思っても止められなかった。
幸子は無性に悔しくなった。泣いていることがなのか、それとも他のなにかなのか。
わからないけど悔しくて悔しくてたまらなかった。

「ちくしょう……ちくしょう……」

似合わない言葉を呟きながら、幸子はずっと泣き続けた。


432 : 尊いもの ◆2lsK9hNTNE :2016/01/19(火) 00:27:51 e41nKinw0





「色々とありがとうございました」

幸子は玄関に立ち、礼を言った。目が赤くなっているであろうことが鏡を見るまでもなく予想できた。

「気にしないで。さっきの質問をしたくて助けただけだから」
「でも助かりました」

本当に。
事態はなにも変わっていない。輝子を失った傷が癒えたわけでもない。でもすこしだけ前を向けた。

「あなたの歌、綺麗でした」
「ありがとう」

ララは心の底から嬉しそうに笑った。
幸子がドアに手をかける。だがそこで動きを止めた。振り返る。

「ボクからも一つ聞いていいですか?」
「どうぞ」
「例えばの話ですけど――大切な人が亡くなってしまったとして、他の誰かを犠牲にすることでその人を生き返らせることができるとしたら、それは正しいことだと思いますか?」

なるべく軽い感じに聞こえるように努めて言った。
わかっている。聞くまでもなくこれは間違った考えだ。
だけどどうしても思ってしまう。聖杯を手に入れれば輝子にもう一度会えるのではないかと。
だからこれは儀式のようなものだ。間違っていることを間違っていると言ってもらい、その道を諦める。
そのためのただの確認作業。そのつもりだった。

「正しいかどうかが重要なの?」

それは幸子が考えていなかった――あるいは考える事を避けていた答えだった。
ララは窓の外を指さし、続ける。

「私、あそこにある劇場で毎晩歌っているの。
お客さんは皆喜んでくれて、拍手もしてくれて、中には涙まで流す人もいて、とても嬉しかった。
もしあの人たちを犠牲にしなければいけないとしたら私はとても辛い」
「で、ですよ……」
「でも」

ララは幸子の言葉を遮った。

「……私の大切な人の最後はたぶん安らかで満たされたものだったと思う。
だから他の人を犠牲にすれば生き返らせられるって言われても、すぐにそうしようとは決められない。
だけどもしあの人の最後が理不尽で残酷で認めたくないようなものだったら……
私はきっと彼を生き返らせるためになんでもする。誰でも殺す。何人でも何百人でも殺す。
私にとって彼は正しさや世界なんかよりもずっと重い」

ララが真剣な表情でこちらを見た。幸子は思わず後ずさっていた。

「あなたはどうなの?」
「え?」
「あなたの例えに出てきた大切な人というのは、あなたにとってどれくらい重い存在なの?」

幸子はなにか言おうとしたけどなにも言葉が出てこなかった。
息が詰まって、胸を抑えた。


433 : 尊いもの ◆2lsK9hNTNE :2016/01/19(火) 00:29:39 e41nKinw0





ララは窓から、遠ざかっていく幸子の姿を眺めていた。
彼女は言った。自分が歌うのは愛されたいからだと。それはララが想像していたよりもずっと自分に近いものだった。
ララは漠然と、人間と人形は違うものであると思っていた。
アイドルたちが歌う理由も人形の自分とは全く違うなにかである思い、あるいはその違いから自分の中のなにかが見えるのではないかと考え、倒れていた彼女に声をかけた。
でもそこに大した違いはなかった。

愛されたいから。
突き詰めればララが歌う理由もずっとそれだったのだと思う。
人々に愛されたいから。グゾルに愛されたいから。
もちろんそれだけではなくて歌うことそのものも好きだったけれど、それも多分幸子と同じだ。

人間も人形も愛を根幹にして別の動機も持ちながら歌っている。
ならば人間と人形の違いとはどれほどのものなのだろうか。ララは自分というものがなんなのかますますわからなくなった。
そういう意味ではララが、幸子と話して得たものはなにもない。
だからといって彼女と話したことへの後悔はなかった。心残りがあるとすれば――彼女の問いへの答えだ。

あのあと彼女は、結局なにも言わずに出て行った。あの問いはおそらく比喩でも喩え話でもない。
聖杯を手にいれるために他のマスターを犠牲にしてもいいのかという話だ。
本当なら適当に嘘を言っておくべきだったのだとう思う。
ララは自分がどうするべきかまだ決めていない。でもどうするにしろ幸子が聖杯を求めるならいずれ敵対することになる。
「自分の身勝手な思いで誰かを犠牲にするのは間違っている」とでも言っておくのがお互いのためだったのだと思う。
でもどうしても嘘をつけなかった。適当な言葉で彼女を騙すことができなかった。それはたぶん、彼女がララの歌を綺麗だと言ってくれたからだ。




【C-2/1日目 夕方】

【ランサー(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(中)、絶望(微)、ストレス
[装備]
[道具]ルーラ、四次元袋
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り犠牲を出さずに聖杯戦争を終わらせる。
1.江ノ島盾子たちのところに戻る
2.江ノ島盾子と蜂屋あいの再会時に蜂屋あいのサーヴァントを仕留める。
3.出来ることなら、諸星きらりに手を貸してあげたい。
4.幸子はことはしばらくそっとしておく
[備考]
※木之本桜&セイバー(沖田総司)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、
 蜂屋あい&キャスター(アリス)、キャスター(木原マサキ)、バーサーカー(チェーンソー男)、輿水幸子を確認しました。ステータスは確認していません。
※江ノ島盾子がスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対応していることに気づきました。蜂屋あいの心の声が聞こえません。
※諸星きらりの声(『バーサーカーを助けたい』『元いた世界に帰りたい』)を聞きました。
 彼女が善人であることを確信しました。


【D-3/アパートメント近く/1日目 夕方】

【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康、
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:―――
0.―――
[備考]
※ランサー(姫河小雪)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、
 キャスター(木原マサキ)、バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。ステータスは確認していません。
※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。
※小梅と輝子に電話を入れました。
※『エノシマ』(大井)とメールで会う約束をしました。
 また、小梅と輝子に「安否の確認」「今日は少し体調がすぐれないので学校を休む」「きらりを見かけたら教えて欲しい」というメールを送りました。


【D-3/市民劇場裏、アパートメント/1日目 夕方】

【ララ@D.Gray-man】
[状態] 健康
[令呪]残り三画(イノセンスの埋め込まれた胸元に、十字架とその中心に飾られた花の形で)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 劇場での給金(ある程度のまとまった額。ほとんど手つかず)、QUOカード5,000円分
[思考・状況]
基本行動方針:やりたいことを見つける。グゾルにまた会いたい…?
1.アサシン(ウォルター)に歌を聴かせたい。
2.フェイト・テスタロッサが気になる。
[備考]
※「フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。
※「バーサーカー(チェーンソー男)」及び「バーサーカー(ジェノサイド)」の噂をアサシン経由で聴取しました。


434 : ◆2lsK9hNTNE :2016/01/19(火) 00:30:55 e41nKinw0
投下終了です。雨を降らせたこと、その他問題やミスがあったら言ってください


435 : 名無しさん :2016/01/19(火) 01:02:37 IZcXoT6U0
投下乙です!
幸子、辛いなあ…これは辛すぎる。
輝子のことについて幸子が考えること、取った行動の一つ一つが悲しくて空しい……。
小雪ちゃんも、今の幸子にできることはないよなぁ…ばいきんまんにもらった言葉を抱えて、どうして行けばいいのやら
そして倒れた幸子を助けたのがララでしたか。成程、「歌うもの」として興味を抱いたわけか。ララにとってそれは存在意義と等しいわけだし。
二人の問答、「大切な人」と「世界」の重さというのはDグレでもたびたび出てきていた命題ですが、今の幸子にとってはかなり食いこむ言葉でなかろうか。
幸子を見送るララの独白がいいですね。歌を綺麗だと言ってくれたから、嘘をつけなかった……というくだりが凄く好きです。


436 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/11(木) 04:00:24 yZzOQT9U0
かなり間が開いてしまいましたが投下乙です

輝子がどんな思いを胸に戦ってどんな結末を迎えたとしても、幸子にとっては喪失でしかない。
輝子を思って駆ける姿やアイドルとしての自分たちを振り返っての「そんなに難しいことじゃないと思っていた」の一文がもう切ない。
失って、傷ついて、完全に凹んでしまってカワイイボクを維持できない幸子が痛々しい……
そして誰かに愛されたくて、誰かのために歌い続けた少女たちの出会い。
世界で唯一受け入れてくれた人は当然、世界なんかよりも重い。ララの背景を考えれば頷くしかできないなんともララらしい論。
幸子に対して「嘘をつきたくなかった」と思ったというのも作中のつなぎを見ればとてもララらしい帰結で、ああ、凄いなあとしか言葉が出てこない。
しかしそのララの言葉を幸子がそれをどう受け取って、どう動くのか。
もしかしたら、ララは知らずのうちに凄い爆弾を仕掛けてしまったかもしれませんね。
というか幸子、相手の弱ったところを叩き潰すタイプの精神攻撃が大好きなクリシュナ(幸子のサーヴァント、普通は味方)とかきらきー(ルーラー、普通は味方)とかにこの状態で会っちまったらすげーことになるんじゃ……

序盤で幸子を思い距離をおいた小雪ちゃんは小雪ちゃんで心労ブーストかもしれん状況。
ただでさえ超高校級の絶望からちょっかいかけられてる上きらりと杏の安否もあり、そこに輝子と幸子が乗っかって夜になればあいちゃんと再会。
幸子にきらりんのことを伝えなかったことが、なんか巡り巡ってなんやかんやありそう……

改めて、投下乙でした。

感想ついでに
シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)
偽アサシン(まおうバラモス)
人数減らして再予約します。


437 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 03:24:50 .vLEgDTg0
遅れます
本日中には必ず


438 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:37:15 .vLEgDTg0
盛大に遅刻しました

シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)
偽アサシン(まおうバラモス)

投下します


439 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:38:13 .vLEgDTg0










まあ 座りなよ
えーっと……?


配点(かいしんのいちげき)
―――――――――――










.


440 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:39:52 .vLEgDTg0


×

(どうやら、二組居たらしい)

  先の真昼の流れ星について、森林公園の散策を初めて数分も経たないうちにシルクちゃんはそう結論づけた。
  根拠は一点。
  森林公園入り口から少し歩いたところにある開けた場所に残された、真新しい戦闘痕だ。
  美しく整えられていたであろう芝生は、無数に穿たれたクレーターによって見るも無残な有様になっている。
  離れたところからは、物の焦げたような臭いも漂ってきている。

『つまり……一人がもう一人を吹き飛ばしたってことか』

(そうだろう。そして……)

『そして、その吹き飛ばしたもう一人は、この近くに居る可能性がある……か?』

  現場の状況を霊体化したまま見ていたシルクちゃんのサーヴァント・ランサーが、そう念話で呟く。
  それもまた、シルクちゃんの結論と同じだった。
  見えた流れ星は一筋。何者かが『魔法もどき』を使い、もう一方を吹き飛ばしたという仮説。
  となると、残った一人は飛びもせず、流れもせず、えっちらおっちら歩いている可能性が高い。
  そこで推測を止め、一息つく。そして、ランサーに向かって、どうしようか、と短く尋ねた。

『どうするもなにも、やるんだろう?』

(やるね)

『だったら、身を晒す他ないだろうな』
『我が実体化してるのを見て寄ってきたなら、それこそマスターの望むところだろう。
 それに、身を潜めていて不覚を取りました、じゃあ笑えん』

  いくら東国無双を誇ったランサーといえど、今は英霊の身。
  霊体化している状態では近寄る者の気配すらロクに探ることができない。
  更に、相手から攻撃を受けた際にどれだけ素早く霊体化を解こうとも防御に移るのは遅れてしまう。
  シルクちゃんもまた、そのことを理解していた。

「じゃ、行こうか」

「Jud.」

  ランサーが霊体化を解除し、今度は二人で歩道を行く。
  クレーターまみれの地面を抜ければ、焦げ跡の残る木々があった。

「この先もこんな感じなんだろうか」

「どうだろうな」

  怪しくない程度に会話をしながら歩を進める。
  奥へ、更に奥へ。


441 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:40:42 .vLEgDTg0


×

  しばらく森林公園を歩き、そろそろ出口というところで不意に、シルクちゃんの足が止まる。
  最初、シルクちゃんには何故自分が立ち止まったのかが理解できなかった。
  だが、隣を歩くランサーもまた、同じ方向を見ていることに気づき、そしてようやく違和感を思い出した。
  何かを感じた。
  視界の端に何かが映った気がした。森の影に、その場に居るはずのない者が居た気がした。

(……ランサー)

『どうした』

  違和感に警戒し、あえて念話で声をかける。
  ランサーも察したらしく、念話で返答をする。

(君には何か見えたかな)

『何かっていうほどはっきりは見えてないが、『何かが居る』とは感じたな』

(同じだ。私も、何かが居るような気がした。丁度、そこの森の中に)

『とすると、実際に何か居るんだろうな』

  実体化したままのランサーが、足を肩幅に開く。土を踏みしめる音が、森に溶けていく。

(やる気だね)

『満々だ』

(それで、何をやる気なんだい)

『マスターが気付ける程度っていうんなら、そいつの隠れる能力はそれほど高くないってことだろう。
 だったら、引きずり出してやればいい』


442 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:41:36 .vLEgDTg0


(方法が?)

『そうだな。まあ、いくらか見やすくはできるだろうよ。
 宝具解放の魔力に釣られて出てきたなら、それもまた良しだ』

(だったら、やってみてくれ)

『Jud.。場合によっちゃあそのまま戦いになるかもしれん。
 マスターは、少し下がっててくれよ』

  応えて、ランサーが自身の象徴である武器を取り出す。
  偉丈夫であるランサーの身の丈を上回るほどの長さのそれは、彼の逸話に記された東国無双の振るった槍。
  ランサーに与えられた神格武装。穂先に止まった蜻蛉が二つに割れたことにより付けられた名は、『蜻蛉切』。

  蜻蛉切の穂先が移すのは、広大な森。
  シルクちゃんと、ランサーと、二人が『違和感』を感じた方向の木々の群れ。

「一振、運試しだ」

  その穂先に結ぶのは『名』。
  これから割断するものの名を宝具の真名に乗せる。
  結んだ名は『森』。
  目の前に広がる全ての木を寄せ集めた俗称。

「結べ―――『蜻蛉切』!」

  空を裂く音。光の尾。瞬きするよりも短い間で、槍は横一文字に振りぬかれ。
  不可視の斬撃が宙を走り、『森』を切り裂いた。


443 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:42:59 .vLEgDTg0


×


  事象を割断する槍・『蜻蛉切』は万能ではない。
  結んだ名が曖昧であれば、その真価を発揮することはできず、刻む傷は決して両断には至らない。
  更に、同一の物がその場に複数あったならば、これもまた両断には至らなくなる。

  だが、逆に言えば、結ぶ名が曖昧だったとしても、数が多かったとしても、威力の減衰を木にしなければ斬りつけることはできる。
  有象無象の木々の生い茂る『森』に向けた一閃は、その曖昧さと数の多さ故『森』を構成する木々の一つ一つを綺麗に両断するまでは至らない。
  だが、幹を傷つけ表皮を剥ぎ、野放図に生い茂る枝を切り飛ばし、葉を散らし、視界を開く程度には役に立つ。

  ランサーの目線より少し低い(シルクちゃんの目線よりやや高い)ところにあった枝葉が一斉に舞い上がる。
  ばさばさと音を立てて切り払われた枝葉が落ち、深緑に空白が生まれる。
  開けた視界に光が差し、闇に隠れていた何かを二人の眼前に晒す。

「何っ!?」

  果たしてそこには参加者が居た。
  木々の間に潜んでいたが、遮蔽物を切り取られ、身を隠すことが出来なくなったサーヴァント。
  まるでトカゲをそのまま人型にしたような『そいつ』は、しまったというように顔を歪めて、両手を広げた。
  ランサーが蜻蛉切を構え直すと同時に、『そいつ』が動く。

「『イオナズン』!!」

  声とともに放たれたのは無数の光球。
  だが、決してファンシーなイルミネーションマジックではないことは、ランサーからも一目瞭然だった。
  強力なエネルギーが集束している。もし着弾すれば、周囲を巻き込んで爆発を起こすだろう。
  そうすれば、丁度、先ほど二人で確認した戦闘痕のような無数のクレーターが生まれるはずだ。
  成程、これが西洋に伝わるという魔術か、とランサーは心のなかで頷き、同時に自身の状況を確認する。

  ランサーからそう遠くない位置には彼のマスターであるシルクちゃんが居る。当然この光球の範囲内だ。
  彼女は、多量の魔力と大事に抱えている魔法の羽ペン以外はそこらの少女となんら変わりない。
  この光球の一発でもくらえば、大怪我は免れないだろう。
  ならばどうするか。
  ふ、と短く息を吐き、構え直した槍に力が篭る。


444 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:44:18 .vLEgDTg0


  迫る光球に対し、ランサーは避けるともせず、かといってシルクちゃんをかばうでもなく。
  ただ、槍を返して再び穂先に名を結んだ。
  結ぶ名は『イオナズン』。ご丁寧にも相手が叫んだ魔術の名前。

「丁寧なのはいいことだが、そういうのは、相手を選ぶもんだぜ」

  穂先が、再び世界を睨む。
  次に割断するのは森ではなく、全てが同じ名を持つだろう魔術の光弾。
  ランサーとシルクちゃんに向かう光弾の数、視認範囲にておよそ十一。
  刃渡り数十センチの『有効範囲』に放たれた光球の全てを捉えた刹那を、ランサーは逃さなかった。

「結べ、蜻蛉切!」

  真名の解放、宝具が再び事象を割断する。
  かの敵の手から空中へと放たれた無数の光弾が、着弾することなく、その場で大きく爆ぜる。
  やたらめったらに発生した爆発が、周囲の木々を、土を舞い上げ、煙幕を成す。
  鉢金の尾が揺れ、白髪が波打つ。ランサーの身体にも、木切れや土塊がたたきつけられる。
  しかしそんな余波程度では、ランサーを妨げる障害には足らない。
  振りぬいた槍の頭を返し、土煙に飛び込む。
  名が分からず、視界が晴れていない以上、相手を倒すにはランサーの方から寄る必要があるからだ。

  『そいつ』はランサーが光弾を斬るまで徒手だった。そして光弾が炸裂し、ランサーが動き出すまで瞬き数度分も時間は経っていない。
  ランサーの睨み通り、敵は未だ諸手の平を晒したままランサーの方を睨んでいた。


445 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:45:31 .vLEgDTg0


  一振り、森の木々をすり抜けるような軌道で槍を薙ぐ。軌道の先に『そいつ』の首筋を捉えて。
  『そいつ』は、愚鈍そうな見た目に似合わぬ俊敏な動きで上手いこと穂先の刃をくぐり抜けて柄を腕で受け止めた。
  徒手と槍がぶつかり合い、硬いものが折れる鈍い音が響く。
  衝撃は相殺とはいかない。ランサーの方が押し勝った。『そいつ』の腕は、柄を受け止めたことによってなだらかなくの字に変わっていた。
  受け止めているのを理解し、蜻蛉切を縮小する。三メートルの大槍を、一メートルの近接槍へ。
  縮む過程で、受け止めていた『そいつ』の腕の骨の折れた部分の真上に、深い裂傷が刻まれる。
  絞りだすような『そいつ』の悲鳴。

  縮んだ槍を、今度は万全の力を込めて振るう。
  肉を裂く音。浅い手応え。見れば、『そいつ』は、手の傷をかばおうともせず、体勢を立て直し、距離を取り直していた。
  ならばと今度は刺突を放とうと槍を回す。
  しかし、突きを放つよりも速く、『そいつ』はかっと口を開き、悲鳴の代わりに激しい炎を吐き散らした。

「おっと!」

  ランサーが飛び退り、炎を避ける。
  そして飛び出せるように姿勢を低くしたまま、穂先を輝かせ、炎の奥の『そいつ』の次の一手を待つ。
  炎で来るならば『炎』を、イオナズンならば『イオナズン』を、他の魔術ならばまた他の魔術の名を結べるように。
  もしも猪突してきたのならば、返り討ちにできるように。
  逃げ出したならば、追い打ちをかけられるように。

  炎の幕が上がってみれば、『そいつ』は数メートル分距離を取り、片手をランサーに向けて突き出していた。

「『メラゾーマ』!!!」

  声とともに、先ほどの激しい炎を超える火炎が進路にある木々というを飲み込みながら、渦を巻いてランサーへと向かってくる。
  だが、その地獄から湧き出たような火炎を前にしても、東国無双は一歩も引かない。

「お構いなしってわけか! 結べ、蜻蛉切!」

  向かってきたならば割断するまで。
  叫ばれた『メラゾーマ』という名をそのまま結び、槍を振るう。
  その一撃は、炎の渦を見事割断した。


446 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:46:30 .vLEgDTg0


  炎が掻き毟ったように傷跡を残してかき消され、再び視界が明瞭になる。
  そして、開けた視界の先に、背を向けた『そいつ』の姿が飛び込む。
  考えるまでもなく、逃走だった。
  槍の穂先を翻しながら、ランサーは思考を逡巡させる。
  遮蔽物の多い中にまた逃げ込まれたならば再びあの『姿を隠す能力』によって姿を晦ませ、追撃も手こずることになるだろう。
  上位駆動で距離を詰めるには遮蔽物が多すぎる。
  かといって、ランサーが相手の逃走を追い、孤立したマスターを別の何者かに狙われるようなことがあれば恥もいいところだ。
  ならば取るべき戦法は一つ。なによりも、退却の脚を絶ち、その上で戦闘を続行できることが望ましい。
  ランサーは、一歩を踏み出しながら背後のシルクちゃんへと声をかけた。

「マスター!」

「『アサシン』だ!」

「Jud.!」

  余計な言葉を次ぐことなく、やり取りは終わった。
  名は既に結んである。
  『アサシン』。
  暗殺者のクラスとして呼び出されたサーヴァントの総称でしかない。真っ二つにはできないだろう。
  だがしかしその単語さえあれば、背を向けたあの英霊がその単語を背負っているのならば、足を斬る程度は造作も無い。
  大きく一歩を踏み出す。ゆらめく炎が、ランサーの足元で霧散する。
  踏み出し、詰めた二メートルにも満たぬ距離が、遮蔽の奥へと逃げる背を、三十メートルの射程に捉える。

「結べ、蜻蛉切!」

  蜻蛉切を薙ぎ、事象を割断する。

「何?」

  しかし、悲鳴も、血しぶきも、上がらない。
  轟と鳴いた風の声を背に、『そいつ』は木立の間に再び姿を溶けこませてしまった。


447 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:47:47 .vLEgDTg0


×


  ぱちり、ぱちりと爪で掻くようなくすぶる火の音。
  周囲に広がる、鼻につく焦げた木の臭い。
  うららかな日差しに包まれた森林公園に相応しくない環境の中。
  逃走されてから何十秒か経って、ようやく口を開いたのはシルクちゃんの方だった。

「……しくじっちゃった?」

「らしいな」

「おかしな話だ。私にはあいつのクラス名は、確かにアサシンと見えてたんだけどね」

  不思議そうにシルクちゃんが呟く。
  出会って以降、シルクちゃんの目には確かに『アサシン』というクラス名が見えていた。
  ランサーが戦闘中に名を呼んだ瞬間、場の状況と、彼の宝具の効果を理解して、その名を伝えた。その行動に間違いはなかった。
  対するランサーも、一切おかしなことはやっていない。
  当たり前のように名を結び、当たり前のように斬った。しかし『そいつ』を傷つけることはできなかった。
  二人にとっては完全に不測の事態。だが、どちらも取り乱さずに、ただ淡々と、二人で意見を交換する。

「となると……アサシンの振りをしているが、実際はアサシンのクラスじゃない、ってところか」

  ランサーが頬を掻きながら、シルクちゃんに言う。
  シルクちゃんは、シルクハットをかぶり直しながら、ランサーに答える。

「他のクラスがアサシンの名を騙っているのかな」

「さあな……案外、鹿角みたいに、宝具として呼び出されたやつかもしれん」

「偽物、か」

  考察が敵の正体の核心に至れているかどうかはシルクちゃんにもランサーにも分からない。
  だから、二人は早々に考察を切り上げ。

「追うか?」

「追うさ」

  三文字。返して三文字。それだけで、二人の方針は固まった。
  何者かを見つけ、戦い、ただ、勝つ。そして、消えゆくものたちを弔う。
  そのために今日もまた家を出たのだから、当然、それを成すチャンスを見逃さない。

  シルクちゃんとランサーは歩を進める。
  その方向は、アサシン……いや、偽アサシンの逃げていった、森林の奥。


448 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:48:40 .vLEgDTg0


×


  歩いてしばらくすれば、森林を抜け、住宅街に出た。
  あれ以降、シルクちゃんも、彼女に付き従うランサーも、森林公園内でのように違和感を覚えることはなかった。
  途中で進路を切り替えて森の奥深くに逃げたのか。それとも、シルクちゃんたちと同じように町に抜け別の場所に身を隠しているのか。
  前者ならばもう見つけ出すことは不可能に近いだろう。
  ならば後者に賭けて探してみるべきかと、住宅街を歩いてみれば。

「行き止まりです」

  入り組んだ路地でもない場所で、なぜか、行き止まりへとぶち当たった。

「行き止まり?」

  実体化したままのランサーが、発言の主に尋ねる。

「行き止まりの世界です。
 見えるでしょう? 進入禁止の標識。だからここは行き止まりなのです。
 行き止まりの世界なのです」

「行き止まり、ねえ。どうにもそうは見えないがなあ」

  こつん、こつん。標識を二度叩く。
  エクスクラメーションマークが書き込まれた標識が、弱々しく揺れる。
  どうやらランサーは、現状に何らかの違和感を覚えているらしい。
  シルクちゃんもまた、その状況に違和感を覚えていた。
  だが、ランサーとは違い、視線は一点……標識ではなく、その隣の、『行き止まりだ』と告げた生き物の方を向いている。

  温泉妖精ゆげ子によく似たその生き物が単なるNPCであるはずがない。
  NPCがこんな奇天烈な存在なワケがない。少なくとも、シルクちゃんの知識にはこんなNPCは記憶されていない。


449 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:49:37 .vLEgDTg0


「妖精だ」

「わーお」

  いきなり声を掛けられた妖精が、間の抜けた声を上げる。

「妖精が居るってことは、おそらくここは街じゃない。
 誰かの陣地か、別の何かか。ともかく、ここは行き止まりじゃない。街とどこか別の場所を繋ぐ、出入り口なんだろう」

  ぱきり。
  まるで、殻にヒビが入るような小さな音とともに、標識の先の世界が開く。
  まるで誘うように空いたドアの奥が、覗きこむ二人を行く先不明の暗闇で見つめ返していた。

「これは"その他の注意"。
 "この先さいはて"の標識です。お気を付けて」

「どうするよ」

「……例えば、これが固有結界だったとして、ランサーにはそれが斬れるかい」

「どうだろうなあ。宝具の名が分かれば出来んこともないだろうが、『固有結界』じゃヒビが精一杯だろうな」

「それを聞いて安心した。だったら進もう」

「……さてはマスター、我がなんと答えようが最初から入り込む気だったな」

「当然だ。もしもキャスターの『陣地』だったなら、さっさと叩き潰しておいたほうがいい」

「ははは。確かに。ここに陣地があるってことは、さっきの竜もどきみたいに逃げることもないだろうしな」

  片や帽子の位置を直しつつ、片や槍を携えた腕をぐるりと回しながら。
  軽口を叩きながら少女と老兵は戸をくぐる。
  手を振る妖精に見送られながら、街から、『さいはて』へ。


450 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:51:00 .vLEgDTg0


×


  踏み込んでみれば、そこは……確かに街中ではなかった。
  磨き上げられたリノリウムの床。謎のオブジェクト。
  飾られたテレビが放送しているのは、見たこともない場所の天気予報。
  この研究所めいた場所が『さいはて』なのかと歩きまわってみれば、なんとその建物から出ることもできた。
  先ほどの『行き止まり』に帰れることを確認したうえで、建物を出る。
  表に居た人物によれば、この施設の名前は『ハッピーエンド研究所』。
  そして、研究所を出た場所にあったのは。

「驚いた。街中に、『町』があるのか」

  ランサーが驚嘆の声を上げる。
  その言葉通り、研究所の外には、『町』があった。
  といっても、先程まで歩き回っていた街ではない。
  薄ぼんやりとした広域と、何かがありそうな予感のする場所が幾つか。
  街と呼ぶにはあまりに大雑把な、舞台設定が作りかけの物語のような『町』が。

「はは」

  シルクちゃんが、彼女にしては愉快げに声を上げて笑う。
  まるで当て付けじゃないか、と。

「なんだ、珍しい」

「……似ていたんだ、懐かしい場所に。全く別物なのにね、なんとなく、そう見えた」

  違うとは分かっている。
  でも、似ていた。『あの世界』のように、様々な地域が寄せ集められた『広域』は。
  妖精も、地域の区切り方も、NPCの人を喰ったような喋り方も、世界を取り巻く雰囲気も。
  どことなく彼女の知る世界に似ていた。
  この『町』を作っているのが誰なのかは分からないが、シルクちゃんに対してのあまりの粋な計らいに、苛立ちすら覚える。


451 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:52:08 .vLEgDTg0


「ランサー」

「どうした」

「少し、ここを見て回ってもいいかな」

「となると……飯時には遅れそうだな」

  おどけるようにそう言ったランサー。
  シルクちゃんは特に答えることなく、懐に入れていた『魔法の羽ペン』を取り出し、宙を走らせてみる。
  すると、ペン先からこぼれた魔力が薄暗い広域に一筋の流れ星のように尾を引いた。

「ほお、本当に使えるのか、それ」

「『誰かの創りだした世界』ならね」

  シルクちゃんの説明する気のない答えに、ランサーは少し笑う。

  はらはらと広域の闇に溶けていく魔力を見ながら、シルクちゃんはその羽ペンについてを思い返す。
  この『町』は、誰かの創りだした世界。
  シルクちゃんの愛した世界と同じ、誰かの愛した世界。
  ならば当然、現実世界ではペン以上の役には立たない羽ペンが、『誰かの創りだした世界』では力を取り戻す。
  ただのペンという忘却を脱ぎ捨て、『誰かの世界』に『そうぞう』を加える羽ペンとしての役割を思い出す。

「少し開けたところか……魔物の居そうなところでも目指そうか。これがどの程度使えるのかを試しておきたい」


×


  誰かが言った。
  開拓者は『自身の殻に篭る』者だけではなく、『他人の殻に篭る』者も居るんだと。

  そうして、誰も予期せぬ『開拓者』が、さいはて町へと踏み込んだ。


452 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:52:42 .vLEgDTg0


【???/さいはて町 広域 ハッピーエンドラボ前/一日目 午後】

【シルクちゃん@四月馬鹿達の宴】
[状態]魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[装備]魔法の羽ペン
[道具]マツリヤの名刺
[所持金]一人暮らしに不自由しない程度にはある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、復讐する。
1.さいはて町に興味。とりあえずは魔法の羽ペンを使ってみる。
2.さいはて町のサーヴァントを打倒?
3.探索が終われば……?
4.フェイト・テスタロッサに対しては――
5.ルーラーへの不信感。
6.時間があれば『本』について調べる。
[備考]
※偽アサシン(まおうバラモス)を確認しました。本物のアサシンではないことも気づいています。
※フェイト・テスタロッサを助けるつもりはありません。ですが、彼女をルーラーに突き出すつもりもありません。
※令呪は×印の絆創膏のような形。額に浮き上がっているのをシルクハットで隠しています。
※出展時期は不明ですが、少なくも友達については覚えていません。
  例の本がどの程度本編を書いているのかは後の書き手さんにお任せします。
※魔法の羽ペンは『誰かの創った世界』の中でのみそうぞう力を用いた武器として使用できます。それ以外ではただの羽ペンと変わりありません。


【ランサー(本多・忠勝)@境界線上のホライゾン】
[状態]平常
[装備]『蜻蛉切』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:主の命に従い、勝つ。
1.さいはて町散策。
2.鹿角に小言を言われちまうな、これは。
[備考]
※宝具『最早、分事無(もはや、わかたれることはなく)』である鹿角は、D-7の奉野宅に待機しています。


453 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:53:39 .vLEgDTg0


×

  二度目の敗走。魔王にあるまじきその姿。
  しかし、恥じる様子は一切ない。
  『そいつ』―――偽アサシンこと、まおうバラモスは知っていた。
  この地に呼ばれたサーヴァント、その中には偽アサシンでは到底勝てない者が居るということを。
  少し前に戦闘した勇者もそうだし、先ほど戦闘した槍使い(おそらくランサーだろう)もそうだ。
  偽アサシンからすれば、完全に分を超えた相手。

「忌々しいが……生き延びることこそ一先ずの使命だ」

  脱兎のごとく森を駆け抜け、森を抜ければそのまま遮蔽物に身を隠すため路地を走り、見かけた大きめの家の庭先に飛び込んだ。
  結果、運良く追跡は撒けたらしい。数分経っても追ってくる二人の足音一つ、気配の少しも感じることはなかった。

「しかし、完全に姿を隠せてなければ効果がないということか……」

  勇者との戦闘のあと、偽アサシンは遮蔽物の多い森の奥で傷を癒やし。
  身体がほぼ完治したのを確認してから、それでも前回のような失態を犯さないようにと森林公園の森に沿って移動をしていた。
  歩道からは数メートル、気配遮断があれば見つけられないと踏んでいた。
  だというのに、木立の間からでも姿を見られたらしく、距離のあった二人の参加者に存在を気取られ、戦闘に雪崩れ込むことになった。
  どれだけ劣っていれば気が済むのか、と聞きたくなるほどの性能に不平を口にしたくなる。
  だが、言ったところで何も変わらないのは十分理解している。

「いよいよ、当てにならなくなってきたな」

  自身の気配遮断の低さと発見される可能性を甘く見ていた。
  予選期間中には見つかるようなヘマを踏まなかったというのに、ここに来ての有様に、頭が痛くなる。

「警戒を怠らぬよう……此処から先は、森もないのだから」

  自戒するように呟く。
  勇者やランサーとは違い、彼の言葉に応えてくれる人物は居ない。


454 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:55:07 .vLEgDTg0


  邸宅の庭の外壁に背を預けて座り込み、ランサーの宝具を思い出す。
  森を切り開き、放ったイオナズンを全て同時に叩ききり、メラゾーマをかき消した槍。
  だが、姿を表した時も、逃げる時も、偽アサシン自体を攻撃することはなかった。
  それに、口から吐き出した『激しい炎』も割断することはなかった。
  最初から戦う気がなかったのかといえば、そうではない。
  戦う気がないというのならば、藪をつついて蛇を出す必要はなかっただろう。
  それがどうにも腑に落ちないでいた。

  腑に落ちないといえば背後で聞こえたやりとりもそう。
  「『アサシン』だ」という少女の声。何故あの瞬間に、偽アサシンのクラス名を看破し、伝える必要があったのか。

「……ううむ」

  頭を捻ってみても、答えに繋がるような良い知恵は出ない。
  所詮ここにいるのは本物の魔王バラモスの劣化品の劣化品、サーヴァントですらない宝具なのだから。

「ともあれ、宝具について知れたのは僥倖と言うべきだろうな。
 忘れぬように、大魔王に伝えなければ」

  勇者については情報が少なかったが、先の老齢の槍兵については戦闘中に『槍の伸縮』や『原理不明の斬撃』を目撃できた。
  それは十分大きな戦果と言える、はずだ。

  大きく息をつき右腕を見る。
  折れた骨は既に治り、傷口も塞がりかけていた。
  もう少し休めば、勇者から受けた傷も合わせて完治するだろう。

  偽アサシンが傷の具合を見ている丁度その頃、遠くの空に光の槍が降ったのだが、小学校の方に背を向け座り込んでいた偽アサシンがそのことに気づくことはなかった。


455 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:55:41 .vLEgDTg0


【D-5/大道寺邸 庭/一日目 午後】

【偽アサシン(宝具『まおうバラモス』)@ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ】
[状態]ダメージ(小)、疲労(小)、自動回復中
[思考・状況]
基本行動方針:大魔王城完成まで図書館には近寄らずに情報収集
0.早朝まで生きて残り、参加者の情報を大魔王ゾーマに伝える。
1.気配遮断スキルを過信せず、身を隠しながら街を歩き回る。
2.参加者を警戒しながら情報収集。全快まで戦いは避ける。
3.フェイト・テスタロッサを捜索。
[備考]
※中原岬&セイバー(レイ)、シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)を確認しました。セイバーが勇者であることも気付いています。
※遮蔽物がある場合気配遮断もあって発見しにくいですが、見つかるときは見つかります。
※宝具であるため念話・霊体化は使えません。魔力はアサシン(ゾーマ)のものを使用します。
 また、実際のバラモスとは違って状況によって思考判断を行い、分が悪ければ防御・撤退もします。
※彼の持つ気配遮断:Eは『NPCには見つからない』『参加者には隠れていれば見つからない』程度です。
 参加者に一人で歩いているところを見られれば見つかります。また、隠れていても直感持ちや敵発見の逸話持ちには気づかれやすいです。
※『NPCを極力殺さない』というゾーマの命令を守ります。ただし極力なので必要に応じて殺します。
※早朝、もしくは非常時と判断した場合にのみ廃教会に帰ってきます。
※フェイト・テスタロッサを見つけた場合、彼女の危険性を判断します。
 危険ではないと判断した場合、保護を申し出て教会まで連れ帰るつもりです。(ただし生存優先のため、危険であると判断した場合は交戦・逃走もやむなし)


456 : 三人目  ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/17(水) 23:56:00 .vLEgDTg0
投下終了です。
なにかあればお願いします。


457 : 名無しさん :2016/02/18(木) 00:46:28 gx39bEQQ0
投下おつー
蜻蛉切が色んな意味で大活躍してる!
なるほど、技名唱える系には滅法強いな、これ。
それでいて相手が偽アサシンだからこその割断ならずというのもまた面白い。
シルクちゃんは最果てに踏み入ったこともあって本領発揮期待できそうで楽しみだ。


458 : 名無しさん :2016/02/18(木) 02:47:44 MZl265Ho0

とうとう交差してしまったか、四月馬鹿とさいはてが


459 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/02/19(金) 05:37:51 l2f9RKUc0
感想ありがとうございます
自己リレーになりますが

海野藻屑

予約します


460 : 名無しさん :2016/02/19(金) 20:46:48 X15hBrtE0
乙っす
まぁ三人目はそうなるよね…さいはてやその外側に四月馬鹿の島の一部が出来上がってそうだ


461 : ◆PatdvIjTFg :2016/03/09(水) 14:59:05 FYF/gcnE0
木之本桜&セイバー(沖田総司)
蜂屋あい&キャスター(アリス)
諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
江ノ島盾子
双葉杏&ランサー(ジバニャン)

予約させていただきます


462 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/10(木) 13:11:28 c2/zO8WI0
自己リレーを含みますが、

雪﨑絵理
輿水幸子


予約します。
また、

海野藻屑

も同時に再予約させていただきます。


463 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/17(木) 13:40:07 7S0yK2zQ0
遅れます


464 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:04:57 KURayoKw0
盛大に遅刻しましたが

雪崎絵理
輿水幸子


投下します

藻屑ちゃんは再び予約を破棄させていただきます
何度も申し訳ありません


465 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:06:42 KURayoKw0


☆玲


「ええっ!? 小籠包がバクバク美味しくて今日は緊急回鍋肉!?」

「はは、また盛大に聞き違えたな」

  アルミ製のキッチンカウンター越しに、ふわふわとした少女と快活な女性が言葉を交わす。
  少女は、喋った内容のなにがそんなに恐ろしかったのか、口元に手を当ててわなないている。
  その様子を見ながら、女性は豪快に笑ったあと、少女の聞き間違いを訂正した。

「小学校が爆発事故で、今日は緊急放校。つまり、今日はもう終わりってこと」

「終わり?」

「ああ。学校も終わり。玲には悪いけど、食堂も終わり。危ないからさっさと帰れってよ」

  玲と呼ばれた少女は、説明でも事態を把握できなかったらしく、少しの間ぽかんと口を開けて止まった。
  玲は、この食堂が好きだった。
  料理は全部美味しいし、食堂の調理師である女性も接しやすくて大好きだった。
  時々高校に遊びに来るときは決まってこの食堂を利用していた。
  今日も学校の様子を見るついでにここで食事をしようと考えていたのだが。
  よく見れば、いつも元気よく立ち込めている煙もない。人も少ない。いい匂いもしない。
  つまり、本当の本当に、今日ここで料理は作られないのだろう。
  残酷な世界の真理に気づいてしまった玲は、がっくりと項垂れ、声にならない声を上げた。

「もうだめだあ〜……」

「まあ、気を落とすなよ。これ上げるからさ」

  落ち込んだ玲を見かねてか、調理師の女性はカウンター越しにタッパーを手渡した。
  >*肉じゃが を手に入れた。
  受け取った玲の手に、ぬくもりが伝わってくる。
  こっそりタッパーの蓋を開けてみると、とってもいい香りがあたり一面に広がった。

「今日の賄いの残り。俺が作ったのだから、金はいらねえよ。その代わり白ご飯はつかないけどな」

  玲が顔をあげると、女性はやはり笑っていた。でも、今度はとても優しい笑顔だった。
  玲もつられて笑い、大きくお辞儀をする。

「ありがとう、つばめさん!」

「じゃあな。変なもの食べて腹壊すなよ」

「うん! つばめさんも、おなか、気を付けてね!」

  つばめと呼ばれた女性は、手を振りながら食堂を後にする玲を見送った。


466 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:07:03 KURayoKw0





  食堂を出た後、玲はそのままふらふらと校舎のほうまで歩いてきていた。
  放校というのはどうやら本当らしく、校舎内はすでに人が居なかった。
  一人ぼっちで廊下を進んでいると、掃除道具の入っているロッカーがあった。
  こっそり隠れてみた。誰も通りかからないけど、なんだかすごくドキドキした。
  教室に忍び込んでみると、誰かが置いていった勉強道具があった。
  中身はちんぷんかんぷんだけど、椅子に座って机に教科書を広げて黒板を眺めていると、本当に高校生になれたような気がして、とても嬉しかった。
  思うままに、無人の高校を堪能していると、ふ、と遠くからかすかな人の声が聞こえてきた。
  声に導かれて窓際に寄り、校門に面した窓ガラスに触れる。
  心地いい冷たさが指先から伝わってくる。
  でも、目に入った光景は、全く心地良くなかった。
  皆、皆、家に帰っていた。
  皆が、高校に居る玲を置き去りにするみたいに、校舎から離れて行っていた。

「……」

  胸が苦しくなる。
  知らないはずの何かが、頭の奥で疼いている。
  振り返ると、さっきまではなんともなかった校舎の中がとても薄ら寒いものに思えた。
  二秒、三秒。少しだけ立ち止まり。

「……桃本、心配してるかな」

  誰にも聞こえないつぶやきが長い廊下で反響する。
  その反響すら、玲にはなんだか不気味に聞こえた。
  玲が立ち尽くしていると、無人の校舎にベルが鳴り響いた。

  その音を聞いた玲は、弾かれたように走りだした。
  何も居ないのに何かに追われるように。
  いや、『何も居ないこと』から逃げるように。
  来た道ではなく、皆が向かっている校門に向かって。


467 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:07:22 KURayoKw0


  しばらく、人の流れに乗って歩いてみた。
  耳をすませば爆発事故についても情報が聞こえてくる。
  『小学校の屋上が爆発した』。
  『小学校のグラウンドが爆発した』。
  少しすると『山の方でなにか大きなものが居た』なんてのも混ざり始めた。
  不思議な事もあるなあ、と思いながら、コンビニで買ったアメリカンドッグを食べながら道を歩く。
  別に行き先は考えていない。
  桃本の待つさいはて町への帰り道は、『ここにあるといいなあ』と思ったところにいつだってあった。
  だから、気が済むまで散歩して、その後で帰ろうと思った。
  あっちへぶらぶら歩き、そっちへふらふら歩き。
  時々コンビニで食べ物を買い食いしながら、街の中を文字通りぶらつく。
  数十分もそうしただろうか。
  もらった肉じゃがのタッパーがすっかり冷えきったことを知り、そろそろ帰るかと思って路地を曲がった時、玲はとても不思議な少女に出会った。

「どうしたの? お腹痛いの?」

  蹲っている少女に駆け寄り、声をかける。
  返事はない。
  大丈夫かと尋ねても、何かあったなら話を聞くと提案しても、少女は、ずっと蹲ったままだ。
  耳を澄ませば、くすんくすんとしゃくりあげるような嗚咽が聞こえる。
  よく見れば、小さな肩も震えている。
  そこでようやく、玲はその少女が、泣いているのだと気づけた。


468 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:07:40 KURayoKw0


  予想していなかった展開に、ややたじろぐ。
  道端で蹲って泣いている人を見るのは(少なくとも玲にとっては)生まれて初めての事だった。
  奇人四天王が居る、と桃本が言っていたが、彼女もまたその一人なのかもしれない。
  『土下座ウォーカー 立川』なんて名前ならば桃本にも負けない衝撃を与えられるだろう。

  そんなインパクト重点な出会いに少々面食らいながらも、やはり玲は少女に声をかけ続けた。
  玲が置いていけば、彼女はきっと、独りぼっちになってしまう。
  玲の中で、それは、なんとなく嫌な話だった。
  それに、一人ぼっちで泣くのはとても辛い。それだけは、なぜだかはっきりと分かった。
  できることはないかもしれないけど、側にいてあげたい。
  きっとそれは、見ず知らずの玲にだって出来ることのはずだから。
  声をかけてみた。背中をさすってみた。
  何をしても、少女はずっと泣いたままだった。

  どうしようもなくなって、少女の側に座り込む。
  体の動きに合わせて、玲のふわふわな髪が揺れる。蹲った少女の前でふわりと踊る。

「輝子さん―――?」

  その髪に、顔を上げるだけの何かを感じ取ったらしい。
  そこでようやく少女が顔を上げた。
  少女の顔は、涙で濡れていて、よく見れば土や砂利で汚れていて。
  でも、とても可愛らしい、地面に頭を突いて泣くのなんて似合わない、そんな顔だった。


469 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:08:38 KURayoKw0


  突然の展開に、お互い少し言葉を失う。
  数秒見つめ合い、先に口を開いたのは玲だった。

「……ごめんね、輝子ちゃんって子じゃないんだ」

「……すみません、友達に、似ている気がしたので。まったく、似てなんかないのに……」

  そう言って、少女は立ち上がり、服についた汚れを気にすることもなく、どこかに向かって歩き出した。
  玲は慌ててその少女を追い、追いながら、コンビニで買ったフライドチキンを差し出す。

「なんですか」

「美味しいよ」

「いりません」

「でも、美味しいよ」

「美味しかったら、なんなんですか」

「……美味しかったら、私は、嬉しい……かなあ」

「知りません。ついてこないでください」

  突き放すような言葉が、玲に向かって投げつけられる。
  言葉こそ穏やかなものだが、そこに込められている気持ちは、『拒絶』以外にない。
  それでも、玲は彼女の後を追い、彼女に対して食べ物を差し出し続けた。

「チキンが駄目なら、肉じゃがもあるよ。肉まん、フランクフルト、たこ焼き、唐揚げ、アメリカンドッグ……」

  玲はこういう時、なんと言えばいいのか知らなかった。
  人を励ます方法がわからなかった。

  頑張って、なんて無責任な言葉は言えない。少女はきっと、頑張って、頑張って、それでも駄目だったから泣いているのだから。
  元気を出して、なんて言えればいいんだけど、そんな言葉で本当に元気が出るなら彼女はこんなに傷ついていない。
  だからただ単純に自分がしたいこと、されたいこと、元気になれるだろうことをするしかなかった。
  そして、どんなことをやってでも、一人ぼっちの彼女を、一人ぼっちのままにはしたくなかった。


470 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:09:03 KURayoKw0


  少女を追い、数メートルもついて歩けば、ついに怒号が飛んできた。

「ついてこないでくださいって言ってるじゃないですか!」

「でも……」

「迷惑なんです! なんなんですか、さっきから!!」

  跳ね除けるように腕が振るわれ、差し出していたフライドポテトが道路に散らばる。
  少女はまた泣いていた。まだ泣いていた。
  可愛らしい顔を怒りで歪めて、真っ赤な目が玲を睨みつける。
  その気迫に、縮こまりそうになってしまうが、それでも、玲が引き下がることはなかった。

「でも……泣いてばっかりだと、悲しいよ」

「貴女には関係ないじゃないですか!」

  玲の反論とも言えない反論に、少女が声を荒げて食らいつく。
  そして、堰を切ったように少女の瞳から大粒の涙が溢れた。

「関係ないじゃないですか……なんで、一人にしてくれないんですか」

  ぼろぼろと音が立つくらい、真珠くらいに大きな涙が、少女の服に吸い込まれていく。
  ずっと涙を吸っていたであろう襟首は、すでにふやけてぐしゃぐしゃだ。
  大きな涙が頬をつたい、もう一粒、また一粒と襟首に落ちる。
  それを見るたび、なんだか、少女の心も涙を吸って、ふやけて崩れていくみたいで。
  玲は堪らなくなり、声を上げた。

「だって、だって! だって……関係ないなんて、ないよ」

  説明はできない。少女と玲にどんな関係があるかなんて、玲にも分からないのだから。
  それでも彼女を見過ごせない。
  心のどこかが、すっぽり抜け落ちている何かが、玲にとって大切な部分が、彼女を見捨てることを良しとしない。
  灰色の世界に囲まれて、一人で泣いている彼女を見捨てれば、玲はきっと後悔する。死にたくなるくらい後悔する。
  頭よりも心よりも深い場所が、玲にそう伝えていた。

  怒鳴る力をなくしてまた泣き出した少女の顔を、コンビニで貰った紙ナプキンで拭く。
  土汚れを丁寧に拭きとれば、やっぱり、少女は可愛かった。


471 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:09:48 KURayoKw0


  泣き崩れてしまった少女の涙を拭き、背を撫で、呼吸が整うまで側に寄っておく。
  すんすんと鼻をすする音だけが、ふたりきりの灰色の世界に水玉模様を飾っていった。
  だんだんと、音が消え、灰色の世界が帰ってくる。

「見苦しいところを見せちゃって、ごめんなさい」

「なにかあったの?」

「なんにもありません。貴女には関係のないことです」

  泣き終えた少女は、もう取り乱すようなことはなかったけれど、それでも可愛い顔には似合わない仏頂面のままだあった。
  なんにもなかったら泣かないよ、なんて切り出せる状況ではないというのは玲にもなんとなく理解できた。

「ボクは帰ります。よくわからないけど、ありがとうございました」

「あ、ま、待って!」

「……今度はなんですか」

「こ、こっち! こっちに来るといいことあるかもよ!」

「え、ちょっと……なにを」

  再び一人ぼっちになろうとした少女の手を強引に取り、歩き出す。
  玲ではあまり彼女の力になれなかったけど、桃本ならなにか力になってあげられるかもしれない。
  桃本のいる場所にたどり着くことを願いながら、近くの曲がり角を曲がる。
  曲がり角の先に願いどおりにあった標識を通り抜け、入り口をくぐる。
  入り口の先にあったのは、高校や路地よりも見慣れた景色。
  屋根の上に乗った人、河の中に住んでいる人、車もないのに交通整理している人、新作を推敲するアーティストたち。
  さいはて町、まんなか区の住宅街だ。


472 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:10:13 KURayoKw0


【???/さいはて町 住宅街/1日目 夕方】

【玲@ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:街で日常生活を楽しむ。聖杯戦争を終わらせたくない。
1.泣いている少女(幸子)をなんとかしたい。
2.とりあえず桃本に会いに行く。
[備考]
※聖杯戦争についてはある程度認識していますが、戦うつもりが殆どありません。というか、永遠に聖杯戦争が続いたまま生活が終わらなければいいとすら思っています。


【輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:―――
0.―――
[備考]
※ランサー(姫河小雪)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、
 キャスター(木原マサキ)、バーサーカー(チェーンソー男)を確認しました。ステータスは確認していません。
※商店街での戦闘痕を確認しました。戦闘を見ていたとされるNPCの人となりを聞きました。
※小梅と輝子に電話を入れました。
※『エノシマ』(大井)とメールで会う約束をしました。
 また、小梅と輝子に「安否の確認」「今日は少し体調がすぐれないので学校を休む」「きらりを見かけたら教えて欲しい」というメールを送りました。


473 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:10:33 KURayoKw0


☆雪崎絵理

  道路は血に濡れていた。
  周囲は傷跡でいっぱいだった。
  警察、救急、いろんな人が集まっていた。
  電信柱の側には小さな花束が添えられていた。
  呆然と立ち尽くしている間に、現場は、見違えるほど変わっていた。

  テレビ局の報道員が寄ってたかって現場を映し、カメラに向かってがなり立てる。
  『凶刃現る』。
  『夕闇を切り裂くチェーンソー』。
  『女学生を襲った悲劇』。
  文面こそ違えど、それぞれが誰かの死を、センセーショナルな言葉で飾ってはやし立てている。

  ここに何が居たのか、絵理も知っている。
  チェーンソー男が居た。
  そして、誰かを殺した。チェーンソー男が、誰かを。
  再び、世界に悲しみが刻まれてしまった。
  絵理はその予兆に気づいていながら、間に合うことができなかった。

「……」

  どん、と人の波に身体が押され、絵理はそこでようやく我を取り戻した。
  そして、自身の中に渦巻く感情をまとめ上げ、一つの決意に変える。

  もう、白坂小梅に頼ろうだなんて言っている場合ではない。
  聖杯戦争という催しについても、チェーンソー男の出現の変化についても関係ない。
  野放しには出来ない。これ以上被害者を出してはいけない。
  被害者が出てしまった以上、なんだかんだと言い逃れてはいられない。
  倒さなければならない。
  チェーンソー男を見つけることが出来るのは、絵理だけなのだから。


474 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:10:48 KURayoKw0





  いつもよりも早い帰宅を知らせる戸の音に答える人は誰もいない。
  家の中は、いつも通り空っぽだった。
  慣れてしまった閑散とした空気に少しだけ感傷を抱きそうになるが、頭を振って弱気な心をはじき出す。

  とりあえず、気を落ち着けるためにコーヒーメーカーのスイッチを入れて、コーヒーを沸かす間に準備を整える。
  ナイフの数を数え、刃の状態を確認し、ガーターに仕込む。
  ついでにタンスの奥にしまっておいた『あれ』を取り出す。

「使わせてもらうね、山本くん」

  ビニールに包まれたままの、冗談みたいな鎖帷子に袖を通す。
  なんだか重いし、脇が窮屈な感じだし、サイズは合ってない。
  歩けばかすかに音がなる。悪目立ちしそうだ。
  それに、相手の武器はぎゃんぎゃん唸りを上げて高速回転をするチェーンソーだ。
  もし真正面から切りつけられればこんなちゃちな市販の鎖帷子程度で防げるわけがないだろう。

  でも、いい。
  役に立たなくたっていい。
  重くたって、動きにくたって、構わない。
  こんな下らないものでも、大切な人がくれた宝物だ。
  あの日以来、他人がくれた唯一の誕生日プレゼント。絵理にとって、この世界に残された、唯一の形ある幸福だ。


475 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:11:07 KURayoKw0


  チェーンソー男と戦ってきてなんとなく分かっていたことがある。
  チェーンソー男は、絵理が落ち込めば落ち込むだけ強くなっていく。
  絵理のテストの成績が下がると強くなる。
  絵理に後ろめたいことがあると強くなる。
  そして、絵理が前向きになればなるだけ弱くなる。
  山本と一緒に居るようになってから……正確には、山本のことを絵理が意識するようになってから、チェーンソー男はその力を弱めていっていた。
  どういうわけかは知らないが、奴の強さは絵理の精神状態に左右されているらしい。
  それは、聖杯戦争やサーヴァントという白坂小梅が齎した情報よりも確かな、絵理自身がつかんだ情報だ。信憑性は高い。

  だったら新たに悲しみを刻ませてしまった今、チェーンソー男はどれくらい強くなっているだろうか。
  ひょっとしたら、絵理の身体能力では既に勝てないくらい強くなってしまっているかもしれない。
  チェーンソー男は強い。
  今までだって強くて、追い返すのが精一杯だった。
  その上さらに強くなった奴を倒すとなると、ただ戦うだけでは絶対に無理だろう。

  だから、身にまとう。
  絶望を押し隠すように。
  ちょっとの悲しみでは傷つかないように。
  そして、これ以上あいつに好き勝手させないように。
  雪崎絵理は、持ちうる限りの幸福で武装して、この世の果てで待ち受ける悲しみに立ち向かう。
  その幸福こそが、『鎖帷子』なのだ。冗談みたいな話だが。


476 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:11:18 KURayoKw0


  少し考え、制服の上に鎖帷子を着込み、その上からジャケットを羽織って見る。
  制服の下に着込もうかとも思ったが、鉄の輪が肌に当たる感覚がどうにも気持ち悪かったからやめにした。
  大切なのは着ているという事実だ。
  着たままの状態で少し体を動かしてみる。
  ちゃき、ちゃき、ちゃりん。
  動くたびに、鉄同士の擦れる音がする。なんだか本当に、馬鹿みたいだ。

  準備が終わってキッチンに戻れば、丁度コーヒーが出来上がっていた。
  コーヒーを飲み干し、マグカップを洗う。
  こんなこと、する意味があるかどうかはわからないけど。
  でも、もし帰ってこれなくなった時、最後に思い出すのが洗えていないマグカップのことだなんて結末は考えたくない。
  水を切り、食器用布巾で残った水を拭き取り、元あったように食器棚へと戻す。
  並んだマグカップはくすんで見えた。絵理を取り巻く世界は、あの日から止まったままだった。
  少しだけ弱ってしまった心に活を入れるように頬を叩き、心残りがないかを確認しなおし、大事なことをしていないと思いだした。
  靴を脱ぎ、ダイニングまで戻って手元にあった便箋に筆を走らせる。
  何を書こうか少しだけ迷ったけど、ありのままを書くことに決めた。

  突然の出来事で申し訳ないという謝罪から始まり。
  突然チェーンソー男のルーチンが切り替わったこと。そのせいで被害者が出てしまったということ。
  絵理はこれから、決着をつけるために戦いに行くということ。
  一緒に戦ってくれたのにそれなりに感謝していたということ。
  山本と一緒にすごした日々は、馬鹿らしくもあったけれどとても楽しかったということ。
  そして最後に、絵理の好きな相手についてで締め、筆を置く。


477 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:11:30 KURayoKw0


  手紙の内容を、会って話したり電話で伝えられたりしたらどれほど楽かはわからない。
  返事を聞ければ、チェーンソー男をもっと弱らせることだってできるかもしれない。
  でも、もし、絵理のありのままを伝え、山本にそのありのままを否定されてしまえば、絵理はそのまま悲しみに負けてしまうだろう。
  だから会わない。最後だからこそ、会わない。
  もし口で伝えたいなら、すべて終わった後でいい。

  靴を履き、家を出る。
  夜になれば山本が来るかもしれないから、鍵は閉めない。

「いってきます」

  空っぽの家に向けて声を掛け、背を向ける。
  以降、振り返ることはなかった。
  振り返ればきっと、幸せの中に別の感情が混ざってしまうから。
  家の中は、幸せなあの日の続きを待つように、あの日のままで。
  そして、ただひとつだけ、彼が読んでくれるかもしれない手紙を、あの日以降に積み上げられた恋という名の『幸福』を残して。

  絵理はまとわりつこうとする悲しみを振り払うように力を振り絞り。
  ただ、ただ、目的地に向けて駆けた。


478 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:12:16 KURayoKw0


  目的地はもう分かっている。
  今日何度も起こっているような突発的な出現とは違い、夜の日課の時のように。
  チェーンソー男が今夜現れる場所が、いつもどおり予め感覚でわかる。
  道なりに進んで。
  ふたつ目の信号を右。
  目についた路地に入って。
  真っ直ぐ進む。

「行き止まりです」

  程なく行き止まりに辿り着いた。
  しかし、絵理には分かる。
  チェーンソー男の現れる場所はこの『行き止まり』の先だ。
  直線で突っ切れればと思って最短コースで来たが、回り込む必要があるかもしれない。
  一応、側に居た不思議な生き物(工事現場のマスコットかなにかだろうか)に尋ねてみる。

「この先に、用があるんだけど」

「しょうがないにゃぁ……いいよ」

  標識のそばに浮いていたよくわからない生き物が道を譲れば、壁だったはずの場所はぽっかりと口を開けた。
  目の前には、変わらず商店街が広がっている。
  どういう原理かは分からない。
  でも、チェーンソー男なんてものが居るんだ。壁によく似た扉があってもおかしくない。

  扉を潜り抜けた先、血のように赤黒い夕焼けに染め上げられた商店街を駆け抜ける。
  向かう先は当然、奴が居ると感じている場所だ。
  夜の帳が降りれば、その場所にチェーンソー男は現れる。
  そして、その時、絵理はまた戦うのだ。
  悲しみを振りまくチェーンソー男と、青春を賭して。



  ちっぽけな幸福で着飾った死にたがりの青春が、決着に向けて走りだす。


479 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:12:39 KURayoKw0


【???/一日目 夕方/さいはて町 商店街】

【雪崎絵理@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ】
[状態]魔力消費(?)、ショック(大)、決意
[令呪]残り三画
[装備]宝具『死にたがりの青春』 、ナイフ、鎖帷子
[道具]スマートフォン
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:チェーンソー男を倒す。
1.チェーンソー男との決着を。
[備考]
※チェーンソー男の出現に関する変化に気づきました。ただし、条件などについては気づいていません。
※『死にたがりの青春』による運動能力向上には気づいていますが装備していることは知りません。また、この装備によって魔力探知能力が向上していることも知りません。
※白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)を確認しました。真名も聞いています。
※記憶を取り戻しておらず、自身がマスターであることも気づいていません。
※もしかしたらルーラーも気づいてないかもしれません。
※聖杯戦争のことは簡単に小梅から聞きました。詳しいルールなどは聞いてません。
※出典時期はチェーンソー男が弱体化したあと〜山本の転校を聞く前です。


480 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:13:13 KURayoKw0


☆★☆☆☆★


  目と耳を塞いで朝日から逃れ。
  射した西日をカーテンで遮り。
  膝を抱えて俯こう。
  壁に体を預けよう。
  うつ伏せになって息苦しさを覚えよう。
  世界の誰にも見えぬ傷口を治すために。
  世界に向かってもう一度踏み出せるようになるために。

  最果ては、いつかの昔に立ち止まってしまった人のためにある。
  チェーンソーの刃は怖いけれど。
  世間は金にうるさいけれど。
  それでも、見守ってくれるその世界は。
  傷を治せる唯一の病院で。
  傷を増やさない唯一の殻で。
  傷と向き合える唯一の町だ。

  目の前で大切な誰かを失った少女。
  遥か昔に大切な誰かを失った少女。
  どこかで誰かを失ったままの少女。

  少女たちは最果てへと至る。
  これから先、いつか傷を癒やすために。
  尊い人を思いながら、千年の喪に服すために。


☆★☆☆☆★

.


481 : 少女たちの青春診療録  ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/23(水) 03:13:39 KURayoKw0
投下終了です
なにかあればよろしくお願いします


482 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/24(木) 23:40:50 ujv.yJEM0
自己リレーになりますが

シルクちゃん&ランサー(本田・忠勝)
桂たま**&アサシン(ゾーマ)&偽アサシン(まおうバラモス)
アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)
ルーラー(雪華綺晶)

予約します
あと、参加者ではありませんが

さいはて町のチェーンソー男

も合わせて予約させてもらいます


483 : 名無しさん :2016/03/25(金) 06:20:45 vVhlmGL.0
投下乙です!
幸子、やっぱり傷が深い…どう接していいかわからない玲もどこか痛々しい。
そして悲しみの波及を知ってしまった絵理ちゃんのくだりが凄くいいな…でも山本への思いの吐露といい、清冽で悲痛なまでの覚悟。さいはてで何が待っているのやら。
次回の予約の面々も非常に楽しみです。


484 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/26(土) 22:12:53 tRoWooaM0
ついでに

金に汚い天使

も予約しておきます


485 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/03/31(木) 20:12:15 qoo/sJhc0
期限内の投下が不可能だと判断したので現予約を破棄させていただきます。
キャラの拘束申し訳ありません。


486 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:40:37 qTn6hKI20
エイプリルフールなので嘘SS投下します


487 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:40:49 qTn6hKI20








嘘って、愛情だよね。








.


488 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:41:22 qTn6hKI20


「宇宙へ行くんだってさ」
「宇宙……?」

「北海道に行くんだってさ」とか「アメリカに行くんだってさ」とか、
遠いけれど、想像できる地続きの場所を示しているかのように、クリシュナが言った。
だから、宇宙という言葉が幸子には素直に飲み込むことが出来なかったし、
宇宙という言葉を理解したのは、朝食のパンケーキを牛乳と一緒に飲み込んだタイミングと一緒だった。

「そんな……宇宙って、あの宇宙ですか!?」
「そうだよ、あの遠くて暗くて無闇矢鱈に広い宇宙」

さも宇宙に行ったことがあるような声色で、クリシュナが言う。
この奇妙な同居人なら「幸子、僕、昨日宇宙に行ってきたよ。はい、お土産のNASAまんじゅう」なんてことを言って、
お菓子と一緒に奇妙なみやげ話を聞かせてきてもおかしくないだろうと幸子は思った。

クリシュナが湯気を立てている紅茶を一口含み、トーストを一齧りした。
紅茶の水分にカリカリのトーストは負けないし、逆もまたしかり。固体と液体は奇妙な共存関係を口の中で築いていた。

「宇宙って言ったって……」
何があるわけでもないし、と、何しに行くんですか、のどっちの言葉を選ぶかほんの少しだけ悩んで、幸子は「何しに行くんですか、そんな遠い所」と言った。
サーヴァントというものがいて、聖杯戦争というものがあって、魔法だとかそういうものが実在しているなら、
きっと宇宙にも自分の知らない何かしらがあるのだろう、と幸子は思った。

「さぁね、僕が知るわけないだろうそんなこと。気になるなら、直接本人に聞いてみれば良いじゃないか」
「まぁ、それもそうですけど……」
クリエーターのクラスであるクリシュナは、時折、とんでもない無興味を全身で示すことがある。
創造主――神の位階は、あまりにも高すぎて、地上の蟻に似た人などという者は見えなくなってしまうのだろうか、と幸子は考えたことがある。
だが、実際のところ――目の前の少女は、やはり少女で、興味がないことには興味がないだけの神のような力を持っただけの年頃の女の子なのだ。

「僕はロケットを創る、桃本が科学部を呼ぶ、我望がそれに乗る。それだけだよ、それだけ。お肉屋さんだって、いちいち売った肉がどういう調理されるかなんて興味ないだろ?」
そう言って、幸子の牛乳を代わりに飲み干すと、
「それよりも……幸子お嬢様、今日はデートではございませんでしたかしら?」
と言って、スキルで創りだしたばかりの腕時計で時間を示して、笑った。

待ち合わせ時間に対して、今は余りにも無情だった。
とても辛く、とても悲しい現実が目の前にある。
要するに待ち合わせ時間の30分前であり、待ち合わせ場所は全力で走っても15分はかかり、
そして幸子は朝ごはんを食べたばかりで、パジャマを着たままの女の子で、寝癖が「俺だって生きているんだぜ」とばかりに酷く自己主張を行っていた。

「ギニャアアアアアアアア!!!」
年頃の女の子にもアイドルにも似合わない心の底からの奇声を幸子は上げた、一瞬色々なものを投げ捨ててしまうほどにピンチだった。
プロデューサーさんをうっかり待たせてしまうというのは一緒にいられる時間が少なくなるとは言え、相手に待たせるというのはカワイイ女の子の嗜みという奴だ。
だが、友達――言葉にすると、どことなく気恥ずかしくて、なんだか嬉しくなるような、そんな間柄の相手を待たせるのは、なんだかとても自分が許せなくなる。


489 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:41:33 qTn6hKI20


「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか!!!!」
「幸子のその顔が見たかったんだ」
慌てる幸子を尻目に、クリシュナはニヤニヤと心底楽しそうな笑みを浮かべている。
「まぁ、急いで着替えて寝癖を直してきなよ。そんな格好じゃ誰もアイドルだなんて信じてくれないよ?」
「誰のせいだと思ってるんですか!!やめて下さい!!怒りますよ!!」

どたばたと洗面所へと向かった幸子を見送って、クリシュナは軽く伸びをした。
戦車を作ろうか、どこでもトビラを作ろうか、いっそ白馬で送ってやるというのもいいかもしれない。
幸子は愚かで、カワイくて、愛おしい。
犬を撫ぜるようにして、整えたばかりの髪をくしゃくしゃに撫ぜ回してやりたいと思う。

愛すべき家族が準備を終えるのを待って、クリシュナはテレビの電源を入れた。
次元連結システムのちょっとした応用で、忙しい朝でも瞬時に朝食を用意できるという朝の番組の1コーナーが映っていたが、
そもそも我が家には次元連結システムが無かったし、次元連結システムがどこに売っているかも謎だった。
それよりは、どこまでも牧歌的な正義のヒーローの方が良いだろうと思い、チャンネルをアンパンマンに合わせた。

自分はアンパンマンを見ていたのか、アンパンマンの事が好きだったのか、何一つ記憶にはない。
だが、知らない人間は誰もいないし、自分が覚えていなくても、誰かが自分はアンパンマンのことを好きだったのだ、
と言ってくれるのならば、それはとても素敵なことのように思える。

アンパンチがばいきんまんに炸裂するよりも早く、幸子の準備は終わっていた。

「クリシュナさん!駅まで送って下さい!!」
「しょうがないなぁ」

そう言って、クリシュナは玄関の扉を駅へと繋げた。どこでもトビラ――瞬間移動の法である。
扉を開けば、目の前には朝の人混みが直接ある。
空間は捻じ曲がり、移動時間は極限まで短縮される。そういうことである。

幸子を送った後、クリシュナは腕時計の時間を一時間巻き戻し、
少々早く着きすぎてしまったカワイイ幸子のことを思って、笑った。


490 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:42:06 qTn6hKI20


冗談みたいに、空き地に置かれていたロケットを見て、藻屑となぎさは顔を見合わせた。
大きさは高層ビルよりも高く、色は白を基調にして、先端の尖った部分には冗談みたいにどこか愛嬌のある顔が描かれている。
そんな冗談みたいなロケットなのに、描かれた顔は宇宙に行くぞってやる気に満ち溢れていて、
転校生の人魚よりも、どこか真実味にあふれていた。

「なんでロケットなんて作るかな」
「宇宙に行きたいんでしょ」
「空なんて何もないよ」
「まぁ、海には色々あるよね」

山田なぎさの生活は少し前から冗談ばかりだった。
気づいたら、聖杯戦争とやらに巻き込まれていたし、己の使役するサーヴァントとやらは、男女のカップルで、
男――ウェイブの方は恥ずかしげもなく、アホみたいに愛の言葉を女――クロメに叫んでいた。
満更でもない表情のクロメに、やり遂げた顔のウェイブに居たたまれなくなって、転がり出るように家を出ると、海野藻屑がいた。

冗談みたいに、いた。
最初から死んでませんよ、みたいな顔をして、「山田なぎさがいる〜」だなんて、にへらにへらと近寄ってきて、
何を言いたかったのかわからなくて、涙を浮かべてみたりして、結局言葉は声にならなくて、
泣いたり、笑ったり、怒ったり、しながら、海野藻屑を抱きしめて、
いつの間にか、海野藻屑と抱き合っていた。

兄もお母さんも、海野雅愛もいない世界で、山田なぎさと海野藻屑は二人ぼっちで、それはそれでいい感じの世界だった。

「人魚は空が嫌いなんだよ」
「なんで」
「海はさ、手で掬えば柔らかい重みが一瞬だけあって、それで海に消えていくけど……山田なぎさは空をつかめる?」
「無理かなぁ」
「だから、人魚にとって空はなんだか気持ち悪いんだよ。青いのに」
「同じ青なのにねぇ」

空が好きで、海が嫌いな人に助走を付けて殴られそうな会話を繰り広げながら、
山田なぎさと海野藻屑はぼんやりとロケットを見ていた。
彼女たちはこの街の中学校には通っていない。
この世界は、永遠に続くようでお片付けの時間が来た子どもの玩具みたいに、ひょいと取り上げられてしまうかもしれない。
そして取り上げられてしまった時に、隣でにへらにへらと笑っている人魚がいるとは限らない。

だから、なんとなくどうすればいいのかわからないまま、なんとなくどうもならないまま、
けれどなんとなく一緒にいられるように、なんとなく過ごしている。中々、どうにもならない。

目的があっさりと――それこそ買う前の宝くじが当たってしまって、小銭を払うことすらなく大金を貰ったようなものなので、
じゃあ、後追いで聖杯戦争の優勝を目指して頑張りましょうという気にもならない。

海に行ったり、歩いたり、プリクラを撮ったり、のほほんと過ごしている。
この街は割と都会なので、遊ぶ場所には困らない。
そのくせバスの料金は後払いなので、山田なぎさには優しい(海野藻屑にとっては少々面倒かもしれない)

だから休日といっても、突如として現れたロケットを見るぐらいのことで、時間の過ごし方としては十分なのだ。

「魚は海で捕るけど、鶏肉は空で捕らない」
なんとなく思いついたことを山田なぎさは口に出してみた。
「鶏肉は大体地面で捕る」
海野藻屑がそう返して、顔を見合わせて二人で笑った。


491 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:42:16 qTn6hKI20

「空はずるい」
「うん、ずるいね」
なんとなく目一杯伸びをして、そこから更に手を伸ばして、山田なぎさは空を掴もうと試みた。
にへらにへらと笑って「空は掴めそう?」と聞く、海野藻屑に「もう少しかな」と返す。

届かないものになんとなく手を伸ばしてみる。

結構いい気分だった。

「やあ、君たち……そこで何を?」
しばらくそうしていた彼女たちに声を掛けたのは、老成した男で、高級そうなスーツを着ていた。
「空に手を伸ばして掴んでみようかと」
見られてしまったことを少々気恥ずかしく思いつつ、しかし見られたらもっと恥ずかしいことになるのではないか、
そんなことを思って、つま先立ちでゆらゆらと揺れながら、山田なぎさは挑戦を続けて、海野藻屑はそんな彼女を笑って見ていた。

「笑いますか?」と言った山田なぎさに「笑わないよ」と男は言った。
「私だって、何度も何度も星に手を伸ばしたことがある」
そう言って、男も大きく伸びをして、どこか狙いが定まっているかのように、空へと手を伸ばした。

「星は掴めましたか?」
「これから……行くところさ」

感慨深い様子で男はロケットを見上げた。
どうやら冗談みたいなロケットで、宇宙に行こうとするのはこの男らしい。
転校してきた人魚よりもありえないと思ったが、なんとなくいいな、と山田なぎさは思った。

「空は海と違って――」
なんとなく置いてけぼりにされたと感じたのか、海野藻屑が少し怒ったかのように、空には魚も惰眠も人魚もいないと言った。

「確かに、宇宙は重力すら無い。
月は結局、広大な荒野で――兎の一匹もいないし、数年では火星に人は住めそうもない」
そう言って、男は「案外、宇宙には夢も希望もないのかもしれないな」と言って笑った。

「けれど、約束があるからね」
「約束……?」

「夢や希望が無くても、約束や絆や友達は宇宙にもあるものさ。もちろん、地面にもあるし、海にだってある」
ちょうど君たちみたいにね、と言って男は――少年のように笑った。

「この冗談みたいで、そして友情に厚いロケットに乗って、友達に会いに行くんだ。
自分一人の力ではどうにもならなかっただろうが……協力者が出来たものでね」

「友達かぁ……」
「あたし達みたいな」
冗談めかして、なぎさが言う。


「そう、君たちみたいな友達にね」


492 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:42:30 qTn6hKI20


――思い出が欲しい。

そう思って、三人で遊園地に行くことにした。
待ち合わせ場所は駅前のデカラビア像、中央に一つだけ目がある巨大なヒトデのような芸術的な像である。
一説によると、待ち合わせ相手の死を知らず死ぬまで待ち合わせ場所で待ち続けたヒトデがモチーフであるらしい。
死ぬまで、待ち合わせ相手のエイを待ち続けた健気な水産物の死を悼んで作られたなぞと言われているが、
流石にわくわく水族ランドみたいな物語が事実であったわけではないだろうし、そんな逸話は幸子には全く関係無かった。

「フッ、フフーン……フーン……」

待ち合わせ場所には誰もいなかった。
当然である、彼女は一時間早く待ち合わせ場所に着いてしまっていたのだから。
しかし、そんなことに彼女は気づいていない。
待ち合わせ時間ギリギリに着いたというのに、誰もいない――完全に置いて行かれたと、そう思ってしまっていた。
自分が遅刻をしてしまったばっかりに、二人を怒らせてしまったと。

二人が遅刻をしたのだと、幸子は考えもしなかったし、それよりは自罰的な発想のほうが幸子には馴染んだ。
置いて行かれるわけがないと考えたかったが、それほどまでに怒らせてしまったのだと――幸子は考えてしまった。

だが帰るわけにもいかず、追って遊園地に行くのもなんだか怖くて、待ち合わせ場所でなんとなく呆けていた。

「おまたせ、幸子ちゃん……」
「早かったな……フフ」
白坂小梅と星輝子に背後から声をかけられて、置いて行かれていないことを知り思わず泣きそうになり

「フッ、フフーン……一時間も早く待ち合わせ場所に来ていたボク、カワイイ上に完璧ですね!」
後になって真実を知り、必死で笑うようにして涙を誤魔化した。
ハンカチが無かった場合のことは考えないほうが良いだろう。

三人で遊園地行きの切符を買った。
切符には、シンプルに遊園地行きとだけ書いてあった。
「ちゃんと遊園地の名前まで書けばいいのにね」と顔を見合わせて笑う。
駅は混雑していたけれど、電車は案外空いていて、特に問題なく三人並んで座ることが出来た。
向かい側の席には、二人の少年と二人の少女がそれぞれ並んで座っている。

セリム君と呼ばれた少年が、甲斐甲斐しく少女の世話を焼くもう一人の少女をどこか呆れたように――どこか満足気な微笑みを浮かべて眺めていた。
成りたい者に成った者の笑みだった。

途中の駅で病的なまでに色素の薄い少女が金髪でふわふわとした感じの少女とどこか獣じみた風貌の少年を連れ立って一緒に降りた。
駅の名前を――不思議と彼女たちは認識出来なかった。
ただ、降りたい駅で降りることが出来たのだと思った。

後から桃色の髪の少女と、どこか引きこもりのような風貌の少年も蹴り落とされるようにして電車から降ろされた。
不本意であるらしく、ぶうぶうと文句を言っていたが、電車の扉が閉まったせいでその声は聞こえなかった。

電車内でどんな会話をしたのか、いまいち覚えていない。
ただ、暇つぶしに行った山手線ゲームが――何故か印象に残った。

「山手線ゲーム」
「希望に溢れたもの」
「ボク」「友達」「幽霊」「ッヒ」「案外……楽しそうにしてるよ」「……いいな」
「女子高生」「なんで?」「カワイイボク達が女子高生になったら10倍カワイイですから!」
幸子の言葉に、三人で口にだして女子高生と言ってみた。
来年とか再来年とか、そんな遠くない日のことなのに、なんだか妙に遠いような――届かないもののように思えた。
「……何時か帰らないといけませんね」
「女子高生になりにな……フヒ」
「でも……なんだか、寂しくなるね」

「いつかお別れしないといけないんですね、サーヴァントとか、聖杯戦争とか、この街とか」
「私達は……また会えるのにね」



「うん、また会えるのにね」


493 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:42:42 qTn6hKI20


アイスクリームは目の覚めるような甘さで、
パフェの語源が完璧【パルフェ】というのは伊達ではないな、とプレシア・テスタロッサは思った。
二人の娘を連れて、彼女はファミリーレストランに来ていた。
何故、聖杯戦争を行おうとしていたのか――いまいち思い出せない。
けれど、目の前にある幸福の前では、些細なことなのだろう。
誰かが願いを叶えればいいと思う。どれだけ手を伸ばしても叶わない願いもある。
娘と幸福に暮らすという願いは、幸運なことに自分で掴める程のものだった。
二人の娘――アリシアとフェイトが、競うようにアイスクリームを掬ったスプーンを自分に差し出してくる。
自分で食べればいいのに、お母さんに食べて欲しくてたまらない――と考えてしまうのは親馬鹿だろうか。

「そんなんじゃ自分の分が無くなっちゃうわよ」と軽く娘達を窘めて、珈琲を口に運ぶ。
ミルクで牙を抜かれた苦味と酸味が口いっぱいに広がる。心地よい味だ。

「好き」「キス」「好き」「キス」「好き」「キス」
緑髪の青年が恋人と終わらないしりとりを繰り返していた。
好きとキスの間で、この一瞬を永遠に揺蕩っているのだろう。
そして、何時の日か――子どもを持つのだろうか、愛しあう今の二人で――そうして欲しいと思う。

「馬鹿!」
チェーンソーを持った男を従えた少女が叫ぶと、怒りを代弁するかのようにチェーンソーが唸り声を上げる。
「いや絵理ちゃん!そういうこともあるんだって、二度あることは三度あるって言うだろ?これはつまり二度目であって、でも三度目のしょ」

高校生だろうか――そのぐらいの若い年代のカップルが口喧嘩を繰り広げている。
聞いていると、どうやら少年の方が財布を忘れてしまったらしい。
素直に感情をぶつけあう若いカップルをプレシアは微笑ましく思った。

「大丈夫だって絵理ちゃん、ここでは絵理ちゃんに払ってもらうことになるかもしれないけど、絵理ちゃんの家族に格好悪いところは見せられな」

そんな調子で大丈夫なのかと、少々呆れつつも――心の底からプレシア・テスタロッサは若いカップルの幸福を願った。

「あっ!」
ガラスの向こうへと、フェイトが手を振る。
何事かと思えば、ファミリーレストランの外にはフェイトの友達であるなのはちゃんがいた。
無理に呼んでしまった立場とは言え、アリシアに比べて、どこか人見知りするフェイトに友達が出来て心の底から良かったと思う。

何か願いを叶えるのならば、彼女のような女の子に叶えてほしいなと、プレシア・テスタロッサは祈った。


494 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:42:53 qTn6hKI20


遊園地のベンチで、ねっとりとした劇場を繰り広げそうな少女がどこか人形っぽい少女の膝枕で愛を語らっていた。
北上さんと呼ばれていた少女の膝に頭を載せたもう一人の少女は今にも死にかねないほどの恍惚の表情を浮かべている。

人前では度が過ぎているのではないか、と思ったが、幸子は深く考えないことにした。

一緒に遊園地で降りた少女たちは、保護者であろう和装の少女に先導されて魔法少女ショーへと向かっている。
魔法少女ショーへと向かう人混みの中には、老人とシルクハットの少女があった。

今日の演目は復活した魔王ゾーマに対し、恐ろしき試練を乗り越えた16人の魔法少女達が挑むというものだ。
スノーホワイトの宿敵クラムベリーが、彼女と手を組むのはこのショーだけでしか見ることが出来ないだろう。

「わわっ、ごめんなさい!」
どこへ行くかも決めないまま、ウロウロと歩いているとうっかり人にぶつかってしまった。
遊園地のキャラクターかと見まごうほどの体躯、まるで明王のようであったが、その表情は菩薩のように穏やかであった。
ぶつかって倒れてしまいそうになった身体が、やはりその男によって支えられる。

「お気をつけて」
「あっ、はい」
男は、幸子が傷を負っていないことを確認すると、「和尚」と呼ぶ子どもたちの方へと向かっていった。
子どもたちに慕われているどこかの寺の住職が、子どもたちを遊園地に連れて来ているのだろう。

巨大な男が子どもたちの元へと帰るのを見送ると、どこかへと行っていたらしい輝子が戻ってきた。
「フヒ……幸子ちゃん、バンジージャンプの手続き、しておいたよ……」
「えっ」
「……あれ、バンジージャンプ好きじゃないの?」
「三人で飛ぶの……いいよね」
「えっ」

幸子達はとんだ。


495 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:43:03 qTn6hKI20


そのバーに客は二人だけしかいなかった。
どこか怪人染みた全身に包帯を巻いた男と、どこか貴族然とした妖しい男。
会話を交わすわけでもない、閑静なバーは酒を飲み干す音すらやけにうるさく聞こえた。

手持ち無沙汰になったのか、バーテンダーがラジオのスイッチを入れる。
少女の美しい――それでいて、何十年も歌ってきたかのようなそんな老獪さを窺わせる歌声が流れだす。

「いい歌だな」
同意を求めるでもなく、包帯の男がつぶやく。

「ああ、俺の姪が歌ってる」
「冗談だろ」
「あぁ、冗談だよ」

Lacrimosa dies illa
(涙の日 その日は)
qua resurget ex favilla
(罪ある者が裁き受けんがために)
judicandus homo reus
(灰の中からよみがえる日)
Huic ergo parce, Deus
(神よ どうかこの者をお許しください)
pie Jesu, Domine
(慈悲深き主 イエスよ)

店内いっぱいに少女の歌声が響く。

「なぁ、アンタ……子どもに遊ばれなくなった人形はどうなるんだろうな。捨てられなかったやつだ。」
「知らねぇよ、どうにでもなるだろ」
「どうにでもなるか」


「俺も、そう思うよ」


496 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:43:13 qTn6hKI20


ベリアルの二人の娘が、メリーゴーランドに乗っていた。
永遠の少女の魂を見ながら、ベリアルは何をするとも無く呆けていた。
嘘の魔王であるがゆえに、自身すら偽りであることに気づいている。
桂たまは――並行世界の娘であって、自身――アマラ宇宙におけるベリアルの娘ではないし、あどけない死の魔人であるアリスの魂は未だに集まってはいない。
如何なる娘もそうであるように、娘というのは父を裏切り勝手に女になってしまうものだ。
だから、永遠の少女も――きっとそうなのであろう。
大人になれないはずなのに、砕かれた魂は家出をするかのように世界を彷徨っている。

桂たまの周りでは誰も死なない。
アリスの周りでも誰も死んではいない。

この世界における、神聖なる四文字の神――あるいは少女。
目が覚めてしまえば、全て虚無と消えてしまう世界を支配する少女。

なにゆえ、彼女がこの世界に引きずり込んだのかはわからない。

わかる意味もないだろう。

愚かしいまでに平和な世界を、ただ享受するしかない。



「N・M・R・N」

意味もなく、世界の支配者の名を呟いた。


497 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:43:24 qTn6hKI20


ニャーKBのライブと諸星きらり、双葉杏、江ノ島盾子による凹レーションのライブが終わり、遊園地もそろそろ閉園時間が近付いていた。
ニャーKB命のハッピを着た化け猫が遊園地の外へと出る、人外の存在を誰も恐れはしない。この世界において全ては平等だった。
どうしようもなくネガティブな少女は、友達と高校に向かう。
武人は死んだ妻と遊園地の花火を見上げる。
ロケットは宇宙を目指して飛んだ。
押し付けがましいほどに、世界はどうしようもなく幸福だった。

けれど、全ては嘘だ。










「山手線ゲーム」「希望に溢れたもの」「ボク」「友達」「幽霊」「明日」「今日よりもきっと素敵な明日」「夢」「女子高生」
帰りの電車でもう一度、山手線ゲームをくり返し、もう一度同じお題を出し、
もう一度、女子高生と言って笑いあった。

どうしようもなく一緒にいる二人が好きだって、きっと他の二人もそう思っているのだと輿水幸子は信じたい。
「友情」「愛情」「アイドル」「告白」「大好き」「私も」「ボクも」

「大人」「大人は……希望に溢れてるのかな?」「フヒ……幸子ちゃん、プロデューサーのことが言いたいんだな」
「ボク、プロデューサーさんのことが大好きって言ったらどうします」「私も」「私も」
「結婚できる年齢」「やっぱり女子高生だね」「結婚したらアイドルやめないと駄目だよ」

「小梅ちゃん」
「……?」
「もしも……私が死んだら……絶対……幽霊になって会いに行くから…………絶対見つけてね……」
「やめてくださいよ、そんなこと言うの」
「フフ……大丈夫、幽霊は希望にあふれているらしいから」
「やめてくださいよ、怖いですから……そういうの」
「でも、約束するよ……輝子ちゃんが幽霊になったら絶対見つける」

「結婚」
「成功」
「カワイイボクと」「「142cm's」」

「ゾンビ」
「マタンゴ」
「なんでですか!?」

「……死なないから」
「……楽しそうだから」

「そうだ幽霊になっても幸子ちゃんには見えないし、もしも死んだらゾンビになって会いに行こう」
「……やめてくださいよ!怖いんですから!!」

「でも約束する……私が死んでも、絶対に幽霊かゾンビになって会いに行くよ……」
「……本当ですか」






嘘。


498 : ◆PatdvIjTFg :2016/04/01(金) 21:43:43 qTn6hKI20
終わりです。
夢オチです。


499 : 名無しさん :2016/04/01(金) 23:56:50 s2p5.iJQ0
うおおお、エイプリルフールの投下!
本編の少女たちがどうしようもなくもがいて戦っているからこそ、この優しい嘘の世界は突き刺さる…
やっぱりあの一大決戦があったから、テレビの中の何気ないヒーローと宿敵と、星空を見上げる理事長の穏やかな台詞と姿が一番キました…この二騎はもう舞台に居ないんだよね。「成りたいものになった」セリムの風景といい、切ない。
個人的には、バーの中で流れ出すララの歌を前に呟きあうジェノサイドとバネ足ジャック、二人の怪人の雰囲気が好きです。短いけれど暗示的で、どこか寂しげで
そして何より、少女たちの夢が、チェーンソー男で山本をどやす絵理ちゃん初め、戯画的に描かれているのが温かくも哀しいというか。
少女聖杯らしい、素敵な「嘘」SSの投下乙でした。


500 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:17:55 CMlzX.UA0
遅ればせながら投下乙です!
眠四文字の理想郷、なんとも優しくて悲しい嘘っぱちの世界。
理事長もあの独りよがりなねっとりしたのに呼び出されてなければ、絆の力で宇宙に向かえたのかもしれないし。
プレシアおばさんだってアリシアさえ生きていればもっとマシなことをやってくれてたかもしれない。
どこかで何かが違えば、皆で皆のために手を取り合える、嘘みたいに素敵な世界もあったのかもしれない。
手と手をとりあえず今日の献立をさっと一品作ってる奴もいるけど、まああいつはしょうがない。
でも、現実は何もいい方向に転ぶことはなく、眠四文字の理想郷も所詮夢物語でしかない。
なんとも悲しい物語でした。
あと、本文の感想とは別に、
>二人の娘
思わず手を打つほど驚きました。そうか、あの二人そういう関係あるんだ。
改めて投下乙でした。



感想ついでに、

桂たま&アサシン(ゾーマ)
ルーラー(雪華綺晶)&人工精霊(ファヴ)

特に再予約はしてませんが書けたので投下します。


501 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:18:54 CMlzX.UA0


  姿見の鏡面が揺らいだのを桂たまが見逃さなかったのは、きっと他にやることがなかったからだろう。

  聖杯戦争が始まってからこっちの桂たまの日常は、なんとも味気ないものだった。
  学校にも行かない(そもそも学生というロールが用意されていないため行きたくても行けない)。
  買い物や気晴らしの散歩についても、アサシンからの進言に従い数を減らしている。
  やることといえばお祈りと廃教会内の掃除と、元の持ち主の物らしい本を読むくらいしかない。

「元気ですか?」

  本戦が始まったという通達を受けた後アサシンがたまの肉壁として置いていったモンスターに話しかけてみたりもした。
  さすがにどう見ても化け物なミミックにはたまもビビったが、それでも、聖杯戦争始まって以来アサシンたちを除けば始めての仲間ということもあり、なんとか友好的に接することができた。
  だが、たまの期待も空しく語り返してくれるモンスターは居なかった。
  徘徊し、見回り、空に控える。
  アサシンの命令をひたすら忠実に守るように、ただそこにあり続ける。
  廃教会の中に残されていた本と同じように、持ち主の願いを抱いて帰りを待ち続けている。
  それがなんとも、まさに『ただの手駒』というように感じられて、とても複雑な気持ちになった。

  どうにも解れない、如何ともしがたい感情を抱えたまま、いつものように祈りを捧げ、教会内の掃除を行い、勉強の代わりに幾つかの本を読み。
  朝が終わり、昼が過ぎ、日が傾き。そろそろ夜を迎えようという時間になり、紅茶を淹れて夕食用の冷凍食品の解凍を行っていた時。
  突然、まるで石を打ちつけられた湖面のように、鏡の表面が揺れた。
  なんの変わり映えもなかったはずの室内の一部が突然変化する。たまの目は、その変化を見逃さなかった。
  伏目がちだった視線を持ち上げ、目を向ければ、鏡は見知らぬ世界を写していた。

「え……?」

  そして見知らぬ世界の向こうから、見知らぬ人物が歩いてくる。
  まるで西洋人形に魂だけが吹き込まれたような、菫色の薔薇の眼帯を付けた生気を感じさせない少女。
  重なって見えたのは『ルーラー』の文字。『眼』を開くまでもなく、その少女が異質な存在であると直感的に気づけた。


502 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:19:24 CMlzX.UA0


「ルーラー、さん……?」

「ごきげんよう、桂たま様」

  たまの声に導かれるように、ルーラーが鏡から飛び出す。
  可愛い靴が廃教会の木製の床を踏みしめ、軋んだ音が大きく響く。
  それが合図だった。

   ― スカラ ―

  教会内を徘徊していた十体のガニラスが集まって呪文を唱え、たまの傍に控えていた十体のキラーアーマーの防御をあげる。
  そしてキラーアーマーたちははがねのつるぎを構え、次々にルーラーに飛び掛った。

「あ、ま、待って!」

  たまが声をかけた時には、すでにキラーアーマーの第一陣は剣を薙ぎ、それをルーラーが軽やかにジャンプして回避していた。
  姿見鏡が打ち砕かれ、鏡の破片が宙を舞う。破片はきらきら光りながら、キラーアーマーの間にばら撒かれた。

「兵隊さんには用はありません。さようなら」

  ルーラーの一声とともに、ガラスの破片から無数の白い茨が飛び出し、その場に居たモンスターたちを縛り上げる。
  そして瞬くほどの間に、全てのキラーアーマーが廃教会内から鏡の破片に引きずり込まれて消えうせた。
  続いてガニラスが、侵入者の知らせを受けて駆けつけたミミックが、治療する相手を失って所在無さげに宙を泳いでいたベホマスライムが、キラーアーマーと同じように縛られ消えていく。
  たまが驚くほどの暇もなく勝負は決し。
  ルーラーはまるで何事もなかったかのように。
  それこそ壊れた人形のように、来たときと同じ顔、同じ格好、同じ調子でこう言った。

「ごきげんよう。桂たま様」


503 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:20:08 CMlzX.UA0


  たまにとってルーラーの登場は、まさに突然の出来事だった。
  アサシンからは何事かがあったならばモンスターたちに任せてごくらくちょうとともに逃げろと言われたが、これでは逃げることもできない。

「ご心配要りません。話の邪魔になりそうなので今は別の場所に移ってもらっているだけ。
 私が帰るときにはきっと戻します。どうか安心なさってください」

  ルーラーは恭しく礼をし、まるで当然のように教会の居住スペースに備え付けてあるダイニングセットの椅子に座ってたまの淹れた紅茶に口をつけた。
  そのずうずうしさすら感じるルーラーの振る舞いでようやくたまは我を取り戻した。

「えっと、ルーラーさんですか? 今朝手紙をくれた……」

「ええ」

  ルーラー、裁定者。朝の通達の送り主。聖杯戦争を司る者。アサシンとの話題にも上がった、たまにとって唯一既知の聖杯戦争の関係者。
  そこまで考えてたまは心当たりにたどり着き、何かあったときのためにと用意しておいたお金を入れた茶封筒をタンスから取り出してルーラーに差し出した。

「これは?」

  茶封筒の先のルーラーは、表情を変えず、ただ小首をかしげて疑問を表す。

「その……家賃です。足りないかもしれませんけど、今はこれで」

  実は今朝から気になっていたのが、『この家を勝手に使い続けていいのか』という問題だ。
  たまがもともと住んでいた教会は養父の神父さんのものだった。
  だが、聖杯戦争に呼び出されてから暮らしているこの廃教会は、たまとはなんの縁もゆかりもない場所。
  元の持ち主こそ居ないが、水道やガスや電気が通っている以上水道光熱費などはかかっているはずだ。
  たまにとって、ルーラーが自身のもとを訪れる心当たりはこれしかなかった。

「いただきません」

  だが、ルーラーはくすくす笑いながらその茶封筒を付き返した。

「これはたま様に与えられた『環境』です。他の参加者の方たちにも同じように『環境』が与えられています。
 あるいは家族、あるいは級友、あるいは仕事。それぞれが『環境』に縛られて、戦いに挑むのがこの聖杯戦争。
 『環境』への対価は不要です」

  ルーラーの返答は、たまにとってとてもありがたいものだった。
  正直、ここにきて『他人の家に住むのはルール違反だからこの場所から出て行け』なんていわれたらどうしようと少しだけどきどきしていた。
  変な諍いもなく今朝から続いていた心配がただのたまの杞憂で終わってくれた。胸をなでおろすような心地で、早鐘を打っていた心臓も少しだけ落ち着く。
  しかし喜びや安心の半面で新たな疑問も生まれる。

「でも……じゃあなんで、私のところに来たんですか?」

  ルーラーはまた一口紅茶を飲み、口元を緩く持ち上げながら、一言。

「アサシン様とお話がしたくて」


504 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:20:32 CMlzX.UA0




  色々と考えてみたが、アサシンを即座に呼び戻す方法は思い浮かばなかった。
  今朝アサシンが使った念話で呼び戻せればいいのだが、たまにはそんな心得はない。
  令呪を使えば瞬時に呼び出せるが、三画しかない令呪をこんなことで使うのはもったいない。
  生憎、アサシンは電話も持ち合わせていない。バラモスならばバシルーラでモンスターをアサシンの元に戻すことができたかもしれないが、それも今は不可能。
  なので結局、たまの逃走用のごくらくちょうのうち一羽の首に手紙を巻きつけて、アサシンの元まで飛ばすことにした。
  『ルーラーさんがアサシンさんに会いに来ました。帰ってきてください。 たま』
  内容は分かりやすくまとめてある。混乱させることはないだろう。

「じゃあ、お願いしますね」

  窓を開けて背を押せば、ごくらくちょうは赤く大きな羽を広げて空へと舞い上がった。
  高い、高い、吸い込まれるような空。赤と青の混ざった、紫色の空。
  見渡せば、夕日が海に沈みかけていた。あと数十分もしないうちに夜が来るのだろう。
  振り返れば、ルーラーもまた席を立ち、のんびりとごくらくちょうの向かう先を見つめていた。
  不意にルーラーと目が合う。だが、ルーラーは目が合ったことも気にせずにダイニングテーブルの方に戻り、先ほどと同じように椅子に腰掛けて紅茶を味わいだした。

「少し待たせていただきます。たま様もどうぞ」

  そして我が物顔で、たまの淹れたお茶を振舞いだした。
  あまりの自然な体運びに、たまも一瞬自身が招かれた身であるかのように振舞いそうになってしまう。


505 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:21:59 CMlzX.UA0


  シュガーポットに手をかけたところで、自分がもてなす側だということを思い出したたまは、やや思考を巡らせたあとでルーラーに対してこう尋ねた。

「そうだ、ルーラーさん。ケーキいかがですか」

「ケーキ、ですか?」

  サーヴァントが食事を必要としない、というのはたまも知っている。現にたまが目覚めてから数日、アサシンも偽アサシンも食料どころか水一滴口にしてはいない。
  だが、ルーラーはさも当然のように紅茶を飲んでいる。
  ひょっとしたら、ルーラーは他のサーヴァントと違って特別で、食事を行うこともできるかもしれない。
  ということまでを考えをめぐらせて……というわけではなく、単にお茶を飲むならお茶菓子があったほうがいいかなぁと思っての提案だった。

「私、最近調子がよくて、今回は上手くできる気がするんです。簡単なケーキならアサシンさんを待つ間にできると思うんですけど、いかがでしょう」

  たまはそもそも(生来の鈍さもさることながら)身に余る魔力のせいで失敗を繰り返していた。
  ちょっとしたきっかけで魔力を放出してしまい、その魔力によって不幸な出来事を起こし、その結果失敗を起こし、失敗をきっかけにまた魔力を放出するという負のスパイラルの中にいた。
  だが、現在はアサシンと偽アサシンの同時現界、さらにアサシンの陣地作成と偽アサシンの度重なる戦闘によって魔力を安定して排出し続けている。
  常人ならば昏倒必至の魔力消費だが、彼女にとっては毎分毎秒生まれ続ける魔力の適度なガス抜きとして作用した。
  更にたま自身も魔力の制御の方法を心得たことにより、桂たまは今、精神面はどうあれ魔力面では絶好調だった。それこそ、常日頃悩まされ続けた魔力によるファンブルが一切発生しないと言い切れるほどに。
  ケーキについてを考えると、賀茂とのことを思い出し胸が痛んだ。
  だが、それでも数日ぶりにまともな会話ができる他人を(しかも、アサシンのように精神的につらい話を投げかけてこない相手を)もてなしたいという思いもたまの心に強くある。
  桂たまとは、たまたま悪魔に生まれただけで、その本質はやはりどうあっても年相応な寂しがりやの女の子なのだ。

「……」

  しばしの間が空く。
  ルーラーは少したまの申し出に困惑しているようにも見えたが。

「ええ、それではお願いします」

  数秒もすればやはり微笑むような顔のまま。
  あるいは無表情なのかもしれないが、来たときから変わらぬ顔でたまの申し出にそう返すのだった。


506 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:23:09 CMlzX.UA0




  ケーキをオーブンレンジで焼き始めてからアサシンが来るまでの間、たまとルーラーは間に紅茶を挟んで、他愛もない話を続けた。
  篭城を続けているたまの境遇上しょうがないことなのだが話の内容も戦争とまったく関係のないものばかり。
  紅茶の味がどうだとか。いま焼いているケーキがどうだとか。庭に咲いている花の香りがどうだとか。飛んでいる鳥がどうだとか。そんな戦争とは程遠い、単なるお茶会のような話。
  食欲を喚起するケーキの香りが廃教会を満たし始めた時、少女たちのお茶会に地獄の底から響くようなおぞましい声が加わった。

「さいていしゃ みずから でむくとは」

  開け放っていた窓に、羽ばたきの音と爪の音が帰ってくる。
  たまが低い声のした方―――背後を振り向けば、そこには既に実体化したアサシンが立っていた。

「くすくす、お邪魔でした?」

「わしの ことは しっているのだろう。 わしは いまも じんちを つくっておる。
 ながいされれば ふりになる。 さいていしゃとは こうへいに あるべきだ」

「くすくす。そんなに邪険にしないでください。今回は一つ、お願いがあってきたんです。
 さあ、アサシン様。暗殺者などに押し込められた可哀想な大魔王様。貴方も腰掛けてください。お茶を飲みながらお話しましょう」

  譲り合うのは上っ面だけ。険のある言葉に、険のある言葉。
  アサシンはふんと鼻をならしただけで、当然ながら朗らかにイスに腰掛けて少女たちのお茶会に加わるようなことはない。
  ただ、遍く世界の大魔王がそうあるように、たまの背後に控え、腕を組み、威圧感を撒き散らしながら居丈高に話すのだ。

「はなし というのは フェイト・テスタロッサ の とうばつれい の ことか」

「いいえ。彼女のことは彼女のこと。このお茶会には関係ありませんわ。
 アサシン様とお話したいのは、アサシン様について。アサシン様がいつか辿ってしまうありきたりなおしまいについて」

  ルーラーの声をさえぎるように、オーブンレンジが焼成の完了を告げた。
  アサシンのおしまいというのはたまにとっても気になる話題だったが、せっかく焼いたケーキを焦がしてしまってはもったいない。
  たまは二人の会話に後ろ髪を引かれながら、できるだけ急いで帰ってこれるよう小走りでオーブンレンジへと向かうのだった。


507 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:23:53 CMlzX.UA0


  焼きあがったパウンドケーキは、市販品と見間違うほどに綺麗な状態だった。
  文句なし、たまがこれまで作ったケーキの中でも傑作といっていい出来だ。
  なんと珍しく焦げていないし、粉をふるいにかけるのを忘れなかったし、卵も綺麗に割れたからきっと殻もまったく混入していない。
  材料を床に落とすこともなかった。袋をひっくり返すこともなかった。こけなかったしやけどもしなかった。
  理解不能な原因で、食べられるはずのケーキが食べれない何物かにクラスチェンジすることもなかった。
  ここまできちんと作れたならばきっと美味しいはずだ。美味しいに違いない。美味しいと信じたい。
  まだ熱の残っているうちに切り分け、皿に乗せる。切った感じ生焼けでもないので食べても大丈夫だろう。

「アサシンさん、ルーラーさん、ケーキが……」

「ありがとうございます。桂たま様」

  ここでひっくり返したらすべてご破算と注意深く皿を運べば、アサシンとルーラーの会話は既に終わっていたらしく、ルーラーは既に椅子を離れて割れた姿見の前に立っていた。
  ルーラーが姿見の残骸に触れれば、彼女が来たときと同じように鏡面が波打ち教会とは別の世界を映し出す。

「話が終わったので、私は帰らせていただきます」

「あ、あの!」

  鏡に入り込もうとするルーラーを見てたまはあわてて切り分けたパウンドケーキを手近にあったバスケットに詰めて手渡す。
  せっかく焼いたのだし、二人分を想定した量のためたま一人では食べきれない。ルーラーは仕事で色々忙しそうだから、差し入れ程度にでも食べてほしい。
  そして、もし叶うならば。

「よければもう一度、お茶を飲みに来てください」

  この他愛もないお茶会をもう一度。
  戦争の最中、ほんの少しの息抜きを、もう一度。

「ええ、いずれ、きっと」

  社交辞令以上の心を込めて送ったバスケットと言葉を受け取り、ルーラーは短くそう答えた。
  その表情は、貼り付けたような微笑より、少しだけ柔和に見えた。


508 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:24:15 CMlzX.UA0




  ルーラーが消えた後。
  鏡の破片が飲み込んでいたモンスターたちを吐き出すのを見ながら何かを考え込むように顎に四本指の手を添えているアサシン。
  その顔は、いつもよりもやや険しいように見える。
  もしかしたら不機嫌なのかもしれないと察し、たまは少し気後れしながら話しかけた。

「ごめんなさい。忙しいのに呼び戻しちゃって」

「いい。 こんかいに かんしては、あやつは わしが こなければ かえらなかった だろう」

  しかし、たまの不安とは裏腹に、アサシンの言葉は彼にしては棘のないものだった。
  あまりの毒気なさにたまがやや拍子抜けしているとアサシンは言葉を続けた。

「しかしだ たまよ。もし わしの ふざいのおり あやつが ふたたび あらわれたなら、わしを よびもどす ひつようはない」

「でも、アサシンさんに会いたいって言われたら」

「そうちょうに かえる ことだけを つたえれば それでよい。
 われらも かつための じゅんびを ととのえる ひつようがある。 わけもなく なんども こられても めんどうじゃ」

  続いた言葉は、たまに何事かを問いかける時とは違う、単純な進言と思わしき言葉。
  言われてみれば、ルーラーが何度も訪れてアサシンが居城を離れれば、それだけたま達は戦闘に取り掛かる準備が遅れる。
  劣勢に立たされやすくなってしまうのは自明の理。アサシンはそれを避けたいのだろう。
  分かりましたと肯定すれば、アサシンは特にそれ以上何も言うことなく、たまに背を向けて歩き出した。


509 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:24:57 CMlzX.UA0


「わしは じんちの さくせいに もどる。 いぜん ちゅういは おこたるな」

「はい……あの、アサシンさん」

  たまの声に、教会から出ようとしていたアサシンが歩みを止めて振り返る。その顔は、やはり険しい。
  少々気圧されながらも、たまは疑問を口にした。

「アサシンさんのおしまいって、何の話だったんですか?」

  結局聞けなかったルーラーとアサシンとの会話の内容。忙しいであろうルーラーが自ら赴くほどの用事。
  そのことについて問われたアサシンは、彼にしては少々反応が悪く間を置いた後で。

「われらが まけたときの はなしじゃ。
 しょせん いまの われらには まだ ひつようのない はなしよ」

  とだけ答え、たまの答えを待たずして言葉を続ける。

「……ところで たまよ。おぬしには あいつは なににみえた」

「ルーラーさんですか? ……えっと、お人形さん、でしょうか? 小さくて、かわいらしくて」

「……そうか」

  それだけを聞くと、アサシンは教会を後にした。
  再び一人になったたまは、少し立ち止まってたまが居ない間の二人の会話について思考を巡らせてみたが、まったく想像の付かないものだったので、すぐに考えるのはやめにした。
  気が付けば、外は更に深い紫色に染まっている。いつの間にか夕方が終わって、夜が来ようとしていた。

「あ、やっちゃった」

  温めたまま放っておいた夕飯用の冷凍食品が目に入り、食べるタイミングを失っていたことを思い出す。
  触ってみると、すっかり冷めてしまっていた。
  ケーキを焼いた余熱のままのオーブンレンジは、しばらく冷めそうにない。冷凍食品を温めなおすにはまだまだ時間が要りそうだ。
  まだしばらく時間をつぶす必要があると判断したたまは、今朝よりも少し軽やかになった足音でダイニングから寝室に移動。
  そして、それなりに残されている教会の蔵書を紐解き始めた。
  いつかのお茶会に素敵なお菓子を添えられるように。

  一ページ、二ページ、お茶会にふさわしいお菓子について眺め、そこに来てようやくたまはおかしなことに気づいた。
  アサシンは最後までたまとルーラーの『お茶会』について口を挟まなかった。
  普段のアサシンならば戦争中は極力接触をするなと言いそうなものだが、ルーラーに関してはそういう言及が一切なかった。
  ルーラーが再度訪れた時についても『すぐに追い返せ』『話に耳を貸すな』などと言わなかったあたり、暗に認めているようにすら感じる。
  それは、アサシンと数日触れ合ったたまからすれば、少しだけ、違和感のある反応のような気がした。

「アサシンさんも本当は、一緒にお茶が飲みたかった、とか」

  絶対に的外れだと分かる予想を口にしながら、ページをめくる。
  本の中には、綺麗なものだけが詰まっていた。


510 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:25:28 CMlzX.UA0


【B-5/海辺の廃教会/一日目 夕方】

【桂たま@天国に涙はいらない】
[状態]健康、元気、魔力消費(微小)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]ルーラーからのおてがみ
[所持金]億単位(銀行に貯金してある)
[思考・状況]
基本行動方針:戦闘はアサシンに一任
0.教会からはあまり出ない。
1.大魔王城完成まで教会でひっそり暮らす。
2.モンスターさんたちを、犠牲に……?
3.ルーラー(雪華綺晶)さんともう一度お茶会をしたい。
[備考]
※ルーラー(雪華綺晶)を確認しました。nのフィールドを利用した移動も確認してあります。
※フェイト・テスタロッサの名前と顔を確認しました。
※廃教会内にキラーアーマー×10、ガニラス×10、ミミック×5、ベホマスライム×3が配置されています。
 さらにたまが逃げ出せるようにごくらくちょう×2が潜んでいます。
 彼らは勝手に増えませんが、今後アサシン(ゾーマ)の采配とたまの要請次第で増えることはあります。


511 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:26:18 CMlzX.UA0





「あなたの宝具、『そして伝説へ』。その効果の一つとして、賢者の石の作成があると聞きます」

  サーヴァントである以上飲む必要もないだろうに、律儀に紅茶を呷りながら、ルーラーはようやく本題を切り出した。

「それが どうした」

「もし、その宝具の効果により賢者の石を作ったならば、あなたたちの意向に関わらず、裁定者権限を持って回収させていただく、と言いにきたのです」

  それはまさに寝耳に水といえる、唐突な申し出だった。

「なぜだ」

「理由をお話しする必要はありません。あなたは参加者である以上、私には逆らえないのですから。
 愛しい愛しいカナリアの籠を、海に流されたくはないでしょう?」

  告げられたのは、およそ公平とは思えないルール。納得など得られるはずもない説明と、ただ頷けという強請りにも似た提案。
  ただ、アサシンが異論を申し出ることはなかった。
  ここでアサシンが逆らえば、ルーラーは言葉どおりたまの居場所を公然のものにするのだろう。
  そうなれば、アサシンたちは一気に苦境に立たされることになる。
  宝具である偽アサシンの生存中はアサシンは戦闘ができない。そして、偽アサシンと情報交換をする方法をアサシンもたまも有していない。
  もし居場所の情報を公開されがら空きの本陣に踏み込まれれば、たまは一方的になぶり殺しにされてしまうだろう。

「どういたします、大魔王様。お願いを聞いていただけますか」

  ルーラーは尋ねる。あくまでアサシンの判断を仰ぐように。

「……わしを みくびるか。ルーラーよ」

  そんな尊大なルーラーの言葉を受けたアサシンの態度は、やはり尊大だった。

「あんさつしゃの クラスに あまんじて いようと……おぬしの めのまえに たつ、われこそは だいまおう。
 まをすべる ものの しんそたる もの。しのきわに はなつ ほうぐなぞ つかうきかいも おとずれまい」

  その姿、その物言いは、まさしく大魔王。
  自身の存在に一切の不安を抱いていないと言いたげなまでの。

「素敵なお言葉。生前勇者に誅されていなければ、もっと素敵でしたのに」

  唐突に、紅茶に毒が添えられる。
  しかしアサシンは顔色を変えず、堂々と続けた。

「ならば つれてこい。わしをころす ものを。なみの えいゆうを しのぐ しんなる ゆうしゃを。
 そうすれば そのとき、ちかおうではないか。わがほうぐの こうかの せいげんを」

「では約束を。その時がくるまで、せめて道化となって愉快に踊ってくださいな。大魔王様」

  床に届かぬ足をぶらつかせながら涼やかに笑うルーラー。
  まるで玉座に控えるように威厳を放つアサシン。
  質素な木製のダイニング・テーブルと紅茶の湯気を挟んで行われる、不釣合いな者たちの会合はそこで幕を閉じる。
  全てを告げ終えた、と言うようにルーラーが椅子から飛び降り、破砕した姿見鏡の方へ歩き出す。
  切り分けたパウンドケーキを携えたたまが戻ってきたのは、丁度その時だった。


512 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:27:59 CMlzX.UA0





「……おかしな はなしだ」

  陣地の作成が続く孤島に戻ったアサシンは、誰にともなくそう呟く。
  不遜な態度こそあったが、それよりもアサシンの気を引いたのは、ルーラーの依頼内容だった。

「なぜ あえて 『けんじゃのいし』 なのだ」

  アサシンの宝具はどれも強力だ。『そして伝説へ』以外も反則級のものがそろっている。
  しかし、それらを差し置き、アサシンの存命中には効果を発揮しない『そして伝説へ』についての制限というちぐはぐな命令。
  更に『そして伝説へ』についても宝具の発動自体は阻害しないという口ぶりであったことを鑑みれば、宝具そのものが問題というわけではないのだろう。

「まりょく ではない。まりょく ならば たとえ いしになろうと かいしゅうできる はずじゃ」

  最初に考えたのは賢者の石化による英霊の座に戻る魔力の減少だが、ならば問題はない。
  賢者の石という過程を経ようとも、石の持ち主が打倒もしくは石が破壊されれば賢者の石になっていたアサシンの魔力は問題なく座に戻るはずだ。
  つまり問題はアサシンの魔力についてではない。
  そうなると残るものはなにか。

「……ならば たま そのものか」

  たどり着いた可能性は一つ。ルーラーが制限したいのはアサシンの進退ではなく、巻き込まれるように賢者の石と化すたまについてという可能性。
  裁定者側は、アサシンではなくたまの方に気を置いている。少なくとも『桂たま』が『賢者の石』になってはならない理由がある。
  肉体の保存か。魂の保存か。『桂たま』を『桂たま』のまま現世に残しておく必要があるということだろう。
  そこでアサシンが思考を巡らせたのは、同じくアサシンの中に残っている謎。

「あるいは、フェイト・テスタロッサも このきていに はんする ちからを もつのか」

  裁定者側が仮にマスターの存在をそのまま保っておきたいものだと仮定して。
  本戦開始とともに討伐令を下されるとすれば、裁定者たちの用意した最低条件である存在の保存そのものに干渉する力を持つという可能性が高い。
  だが、だとすればその能力についても公開し、注意を喚起するはずだ。
  捕獲という一文も加えれば、あるいはフェイト・テスタロッサは存在の復元能力を持ち、主催者側が回収すれば彼らの計画を大きく助けるということも考えられる。
  そもそも、フェイト・テスタロッサの討伐令と今回の勅命に関係があるのか。それともまったく別の要素が関わっているのか。

「たりんな」

  少し思考をしてみても、当然、明確な答えにはたどり着けない。
  情報は二つぽっち。手持ちのカードが少なすぎる。

「いまは ただ まつのみか。さいていしゃ たちが ふたたび ぼろをだす そのときを。
 いつでも おとずれるがいい。 たまと まじわることで わしの まえに きずぐちを さらけだせ」

  アサシンがたまとルーラーの『お茶会』について止めなかったのにはそういう理由もある。
  誰かと接触することで桂たまという悪魔はその破滅へ続く物語の中に何事かを得る、逆にルーラーは何事かを溢す。
  それがどんなことであれ、アサシンにとって不利はない。今はまだ、二人の接触を止めるべき時ではない。
  そしてもしいつか偶が満ちたならば、なんらかのきっかけからたまはルーラーを『視る』だろう。
  因果を遡り過去を見通すたまの『眼』ならば、裁定者の裏側を筒抜けにすることができるかもしれない。
  そうなれば下らぬ考察など積み重ねることなく、一気に相手の首に手をかけられる。


513 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:29:08 CMlzX.UA0


  外観の整った大魔王城の中に新たなモンスターが生まれ、城を徘徊し始める。
  その様子を見ながらアサシンは最後にもう一度、あの不遜なルーラーについてを考えた。
  たまは彼女を指して『人形』と言った。
  だが、アサシンの目に映ったのは。魔を統べる者を統べる者の目に映った人形の中身は。
  原初に悪と定義されていたであろう、『利己』の塊。
  我欲にまみれた者が『公平なる裁定者』などとは、笑わせるものである。

「あばき さらすのも おもしろかろう」

  たまの行く末とともに、楽しめそうなものが一つ増える。
  この舞台に漂う暗黒の根源。裁定者を従えた者。
  少女たちの願いの上に君臨している楽園の魔王。その『利己』の中核たる願い。

「すべてが ときあかせた ならば」

  自分勝手な裁定者。
  その裏に潜んでいるであろう『魔王』。
  彼らの願いをアサシンの足元に曝け出し、分不相応な身にて大魔王に首輪をつけた罪を願いの破壊という闇を持って償わせる。
  それもまた面白いかもしれない。

「もういちど たくを はさもう。いつわりの さいていしゃよ」

  大魔王は全盛の形を取り戻し始めた城の奥、出来上がったばかりの玉座に座り、闇が満ちる時を待つ。


514 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:29:55 CMlzX.UA0


【B-4-B-5/大魔王城/一日目 夕方】

【アサシン(ゾーマ)@ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ】
[状態]魔力消費(微小)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:たまの ゆくすえを みとどける
1.だいまおうじょうの かんせいを いそぐ
2.ひつようにおうじて モンスターを さくせい
3.フェイト・テスタロッサ に きょうみ。 さいていしゃ の ねらいは?
4.さいていしゃたちの ねらいを あばきたいが、はたして……
[備考]
※B-4-B-5の孤島に大魔王城を作成しています。同時にモンスターも生産し、城内を徘徊させています。
 準備期間中から作成を開始しており、現在内部に取り掛かっています。現在のペースで陣地作成を続ければ二日目早朝には大魔王城が完成します。
※通達における「フェイト・テスタロッサを『捕獲』」という一文に興味を持っています。
 もしかしたら彼女が裁定者側(聖杯戦争)についてなにか知っているのではないかとも考えています。
 彼女を保護することの危険性も知っていますが、わりと望むところです。
※裁定者側から『そして伝説へ』による賢者の石の生成に関する注意を受けました。
 これを受け、裁定者側がマスターの存在の保存を行おうとしている可能性を考察しました。
※たまの『眼』を用いれば裁定者側の事情が看破できるかもしれないと睨んでいます。
※孤島の周囲の海にだいおうイカ×1が居ます。陸地―孤島間の魔物運搬用で、積極戦闘は行いません。


515 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:32:41 CMlzX.UA0


☆人工精霊


「確かにファヴは桂たまに不信感をもたれないようにって言ったけど、さっきのはさすがに露骨すぎぽん」

「そうかしら」

「というより、それ、もらっちゃってよかったぽん?」

  ルーラー・雪華綺晶がnのフィールドに戻った直後、彼女の持つ携帯端末に隠れていた人工精霊・ファヴは飛び出して彼女に尋ねた。
  事前に『桂たまに不信感をもたれるな』と釘を刺しておいたからか、たまに対するルーラーの対応は気持ち悪いほどに懇切丁寧だった。
  ただ、たま自体はその丁寧さに違和感を覚えていなかったようだからこちらは無視しておいてもいい。
  だが別れ際にたまから受け取ったケーキは、賄賂のようなものと判断されてもおかしくない。
  これを誰かに見られれば、公平なルーラーというイメージが壊れてしまいかねない。
  そもそもプレシアもルーラーもファヴも公平なわけではないのだから主催者側からすればまったく問題はないのだが、それでも他の参加者から物言いが付いてしまうのは避けたい。
  できる限り波風を起こしたくないファヴとしては、あまり受け取りたくないものだった。

「不思議な味」

  だがルーラーは、たまからお土産にと渡されたパウンドケーキを食べながら、nのフィールドを歩く。
  ルーラーにファヴには理解できない部分があるのは分かっていたことだし、こういうところで大雑把なのも把握していた。
  そして、一度言い出したら聞かないということも知っている。故にファヴは、捨てるような提案はせずに、ただ妥協案だけを提示した。

「もらったもんはしょうがないけど、他の子に会う時は隠しとくべきぽん」

「……ええ、そうね。そうしましょう」

  ルーラーは、ちゃんと理解したのか、してないのか、ただぼんやりとした答えだけを返した。
  そして、話の流れにそぐわない、的外れなことを言い出した。

「ねえファヴ。お茶会は楽しいわね」

「……それはたぶんファヴにはわかんない楽しさぽん」

「きっといつか貴方にも分かるわ」

  ルーラーは最後の一口を放り込み、進路を変える。これから先、向かうべき元の方へ。
  そしてふと思い出したように立ち止まり、ファヴに向いて尋ねた。

「いつかまた会いに行きたいの。あの子に。いいかしら」

「んー、問題ないんじゃないかぽん。やることが終わってひと段落して、暇があったら、好きなだけ会いにいきゃあいいぽん」

  ファヴは単なるサポート役。ルーラーの行動を止める権利はない。
  欲を言えば、ファヴもファヴ個人として会いにいきたい参加者はいるが、一旦の協力関係であるルーラーにそこまで強制するつもりもない。

「いつかまた、ティー・パーティーをもう一度。楽しみにしています、桂たま様」

  鏡の中の世界に声は溶けていく。
  ファヴが見たルーラーの背中は、いつもより少しばか弾んでいるようにも見えた。


516 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:33:48 CMlzX.UA0


【???/nのフィールド/一日目 夕方】

【ルーラー(雪華綺晶)@ローゼンメイデン】
[状態]健康、少し楽しい、食あたり(微)
[道具]たまの手作りケーキ入りバスケット
[思考・状況]
基本行動方針:少女たちの魂を集める
1.山田なぎさのもとへ。
2.???
3.桂たまとまたお茶会を。

[備考]
※ファヴにささやかな執着があります。が、ファヴに伝えてないこともかなりあります。
※たまの手作りケーキには微量ながらたまの魔力がこもっています。悪魔以外が食べれば食べるだけ体に不調が起こります。



【人工精霊(ファヴ)@魔法少女育成計画】
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を恙なく進行して聖杯戦争終了後も消されず生き延びる。
1.他の参加者たちの魂は逃がしちゃ駄目ぽん
2.なんにせよ、さっさと聖杯戦争を終わらせて自由の身になるぽん

[備考]
※ルーラー(雪華綺晶)に与えられた人工精霊です。
※掲示板の管理・クローンヤクザの統制などの電子機器機能方面でのプレシアのバックアップを行っています。
 ただし、反乱などができないようにある種のストッパーは課せられています。
※情報端末を通して人物の位置の特定が可能です。他の機能もあるかもしれません。
※大道寺知世が山田なぎさと接触しているとは知りません。
 今後、二人の携帯端末の位置を確認すれば気づくかもしれません。
※フェイト・テスタロッサについては『プレシアが執着している』程度しか知りません。


517 : ティー・パーティーをもう一度  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/15(金) 02:34:12 CMlzX.UA0
投下終了です。
誤字脱字、修正点などありましたら指摘の方よろしくお願いします。


518 : 名無しさん :2016/04/15(金) 18:38:06 UhjgrbpMO
投下乙です

食中りw


519 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/17(日) 23:15:36 VKdfsUQ20
感想ありがとうございます
指摘もないようなのでそのうちwikiに収録しておきます。

シルクちゃん&ランサー(本田・忠勝)
アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)
エンブリオ(ある少女)

予約します


520 : 名無しさん :2016/04/18(月) 03:42:03 ICzv6cgA0
投下乙です!
大魔王と薔薇乙女と悪魔少女が同じテーブルを囲んでお茶をする
少女聖杯ならではのユニークな光景と、ゾーマの考察が面白かったです!


>ファヴが見たルーラーの背中は、いつもより少しばか弾んでいるようにも見えた。

「少しばかり」だと思います


521 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:02:52 XeY7GvjM0
>>520
脱字指摘ありがとうござます。
あとで修正しておきます。

シルクちゃん&ランサー(本田・忠勝)
アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)

エンブリオ(ある少女)は抜いて予約分投下します。


522 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:03:48 XeY7GvjM0


☆アサシン


  まんなか区は目立つ場所だけを凝縮したような簡素な作りいくつかの区域と、それを取り囲むしらぬい通りで構成されている。
  瘴気の漂う『近づいてはいけない場所』を離れた後しばらくまんなか区を歩き回ったアサシンだったが、結局は何の成果も得られなかった。
  区外の東西南北どの方角もある地点まで歩いていくとまるで『そこから先が作られていない』かのような場所(まんなか区の外側だから区外とでも呼ぶか)に出てしまうのだ。
  一歩を踏み出してみたが、問題なく歩けた。ということは、作られていないだけで実際には道があるということなのだろう。
  そこから、チェーンソー男に警戒しながら区外をぐるりと一周し、区外からでは脱出できないということと、まんなか区以外にもかなりの区域が存在することが分かった。
  とりあえずまんなか区の北に位置する区域に踏み込んでみれば、そこは『さかさま区』と呼ばれる、まんなか区とはまた別の町が存在していた。
  ざっと数えて十は超えていた区域、その一つ一つが小さな町だとするならば、これを全部探すとすればどれだけ時間がかかるか。サーヴァントなので気のせいだろうが、眩暈を覚えた。
  思った以上に厄介な場所に閉じ込められてしまったのではないかという焦燥に駆られるが、焦ったところで状況は変わらない。

  そこまで踏まえて、アサシンが立てた方針はこうだ。
  ・この固有結界には綻びが存在するというのは事前に立てた通りで、やはり脱出するには同じ綻びを見つけるしかない。
  ・アサシンが入ってこれたのだから、少なくともまんなか区には確実にその綻びは出現する。
  ・ただ、先に入ってきた綻びが見当たらない以上、その綻びができる時間できる場所は誰にも想像できない、いわば『ゆらぎ』のようなものがあるかもしれない。
  そう考えてアサシンは、もう一度だけまんなか区をくまなく歩き回ることにした。
  先に述べたとおり、少なくともまんなか区に出現することは確定している。
  それに、地理の分からぬ場所であのチェーンソーの殺人鬼に襲われるよりは、一度見回ったことがあるまんなか区の方が条件がいいと判断したからだ。


  しばらく歩き、一風変わった景色たちにもやや見慣れてきたところで、アサシンは少し歩みを止めて今までの探索を振り返った。
  探索を続け、このさいはて町内でアサシンの目を引いたものは二つ。
  一つはやはり『敵』だ。
  少し前に足を向けた『近づいてはいけない場所』、深く踏み込んだわけではないが、確かに敵が存在していた。
  居住区と同じように区切られているが、中に入ると瘴気が充満していて魔力のめぐりが悪くなる。
  さらに目に見える形で敵が徘徊している。仮面を付けた、なんとも町にはそぐわない敵たちが。
  そして、一歩でも踏み込もうものなら動き回る敵たちは寄ってきて、そのままダンジョンから抜ければ何事もなかったかのように遊歩を続ける。
  何度か試して分かったが、入るものは誰でも襲うというわけではなく、NPCを除く何者かが足を踏み込めば寄ってくるようになっているらしい。
  つまり自動でダンジョン内の索敵を行い侵入者に襲い掛かるように行動統制が取られているということだろう。
  ひょっとすると、ダンジョンの奥にはなにか……あるいは、このさいはて町において重要な意味を持つものや、さいはて町の創造主の根城なんかが隠されているのかもしれない。

(そして気になるのは……やっぱりあいつだ)

  数度の試行の結果分かったのは、敵も踏み込まなければ無差別に襲ってくるようなことはないということ。
  だが、しばらく前に遭遇したチェーンソーを扱う殺人鬼、彼だけは勝手が違っていた。
  サーヴァントと謙遜ない戦闘能力も有しており、出現場所も普通の敵とは違う。その存在は明らかにダンジョンに居る敵とは一線を画していた。

(ああいう手合いは敵のなかでも『特別な敵』と見て間違いないだろう。
 この固有結界にもともと配備されてるのが普通の敵なら、あいつは固有結界の主が呼び出した『番人』ってところか)

  とんとんとこめかみを指で叩きながら角を曲がる。
  市街地からしらぬい通りへ向かおうとしたアサシンの目に、もう一つの目を引くものが飛び込んできた。


523 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:04:07 XeY7GvjM0



「また、お前か」

  いつの間にかアサシンの目の前に飛び出していたピンク色の生き物。
  ウサギだ。
  いや、正しく言えばウサギではない。ウサギによく似た何かだ。
  その顔には目も耳も鼻も口も付いておらず、体中が鮮やかなピンク色で、全体的につるんとしている。
  どことなくバルーンアートを思わせるその作り物のウサギは、アサシンが立ち止まったのに合わせてきょろきょろ周囲を見回している。

  そのウサギはアサシンが『近づいてはいけない場所』に足を踏み入れてから町中を歩き回っていると、時々姿を現した。
  最初はその特異な見た目から仮面の敵や番人の類かと警戒した。
  しかしその実ウサギは一切攻撃行動はとらない。それどころか、アサシンが一歩でも近寄ればさっさと逃げてしまう。

  ただ逃げてしまうならそれでいい。再現されているNPC同様、そういう存在だと割り切ることが出来る。
  だが、数歩逃げるとウサギは決まって立ち止まり、まるで誘うようにアサシンの方を向くのだ。
  アサシンが距離を詰めればその分だけ走り、立ち止まり、振り返る。

「……」

  あのウサギがアサシンをどこに連れて行きたがっているのかは理解している。
  アサシンが最初に踏み込んだ、あの『近づいてはいけない場所』だ。
  追えば追うだけあの場所と近づき、場所に到達すればさも当たり前のように御伽噺の奥へと向かう。
  そして、再び待つのだ。
  何かを待ちわびるように、アサシンがその御伽噺の迷宮の奥に存在する『何か』にたどり着くことを望むように。

  ウサギに向けて、ため息を漏らす。
  異質であることには間違いない。少なくとも、あのチェーンソーの殺人鬼と同じくらいにこの町の基本から浮いている。
  そんなウサギが誘うというなら、間違いなく罠だ。
  つまり、この世界に入った者に余程あの迷宮に入ってほしいのだろう。

(ここまで露骨だと、逆効果だと気づかないわけがないが……)

  流石のアサシンも、勝手の分からぬ敵陣については断言できない。
  ここまで大規模な固有結界を出すほどの相手だ。
  余程の大人物で、このウサギで本当に誰かが引っかかると信じているのかもしれない。
  ちらりとウサギを一瞥する。
  ウサギはなにも答えない。
  ただ、アサシンが歩けばやはり背を向けてピョコピョコと跳ねていく。
  その様子を見届けて、アサシンはあえてウサギを無視するように角を曲がった。
  市街地から、わざとあのウサギの想定しているルートから離れるように、路地裏の方へ。


524 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:04:32 XeY7GvjM0


  路地裏ももう見慣れたものだった。
  行き交うための壁にはアンニュイな貴婦人の指名手配書がまるで誘導灯のように均等な距離・均等な高さで貼られ。
  奥には芥子で作られたパンを求める男性が居て、すぐ近くには誰かの戦闘痕が残されている。
  そして、路地裏をもう一度曲がれば『ジャンキー』と呼ばれるモルヒネ中毒者たちの巣窟に着く。

(あそこの奥も、探してみるか?)

  積極戦闘を避けるために一度目の探索の際にはこのジャンキーの溜まり場は中ほどまでで探索をやめていた。
  なにせ、途中まではジャンキー一人がふらふらとアサシンに寄ってきていたのに対し、途中踏み込んだ部屋には二十を越えるほどのジャンキーがたむろしていたのだ。
  さしもの英霊も、どことも分からぬ土地で身の危険を冒すつもりはない。
  しかし、出口を探すとなれば別。
  それによくよく思い出してみれば、あの溜まり場のジャンキーは全員目があらぬ方向を向いていて、心ここにあらず……仮に近づいても触れなければ素通りできるのではとも思えたからだ。

(そうと決まれば)

  路地裏の道を曲がろうとして、アサシンは、二人組に出くわした。
  一人はシルクハットの少女(と呼ぶには少し年齢が行き過ぎているようにも見える)。
  一人は和風な鎧に身を包んだ壮麗の男性だ。
  少し前に探索をした時には、こんな二人組は確実に居なかった。
  そもそもジャンキーの溜まり場どころか、裏路地に近づくまんなか区民は居ないと、市街地のNPCも言っていた。
  目の前の男のコンクリートを踏みしめる音が変わったのにアサシンが気づけたのは、そういった前知識があったからだろう。

  突如襲った悪寒に反射的に大きく身をかがめれば、頭上のすれすれを槍が通り抜けていた。
  斬り飛ばされた数本の髪がはらりはらりと落ち始める。
  次いでかがめた勢いを利用して後ろへ跳躍。飛び上がった瞬間に、コンクリートをかち割る音が響いた。
  丁度、身をかがめたアサシンの頭があった場所のコンクリートが、槍の穂先に叩き潰されていた。
  瞬間で『阻まれた顔貌』のスキルを解除。手元に携えていたトランクケースが消える。
  阻まれた顔貌に、不気味な噂と悪戯心と、ほんのちょっぴりの愛を重ね、英霊としての姿を取り戻す。
  振り返りざまに跳びあがり、相手の顔を再び確認。コンクリートをかち割った壮年の男性は不適に笑っていた。
  槍が跳ね上がり、アサシンへと突き出され。
  しかし突いた槍は空を切り。
  『ウォルター』と摩り替わるように現れた『怪人』は、踊るように、遊ぶように、路地裏の壁に着地した。


525 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:05:00 XeY7GvjM0


「ほお、今のを避けるのか」

  ぎりぎりぎり、とバネの軋む音。

「だがどうやら、大当たりだったらしいな」

  コンクリートを跳ね上げて、風を巻き込みながら槍が突き出される。
  その突きはまるで風のように速い。気を抜けば霊核すら一撃で吹き飛ばされてしまうだろう。
  アサシンはその槍を、バネの跳躍と身のこなしで軽々避ける。

  嫌な予感は的中した。間違いなく参加者だ。
  気がかりなのは、『気配遮断』や『阻まれた顔貌』が上手く作用しなかったことについてだが、考える暇はない。
  槍を持ったサーヴァント……おそらくランサーは、すでに臨戦態勢。ややもすればさらに激しい追撃に出るだろう。
  力の差は歴然だ。『ウォルター』も『バネ足ジャック』も決して戦上手なたちではない。
  『バネ足ジャック』は確かに鉤爪を持っているが、彼がこれを振るったのは、だいたいが衣服を裂くためで、戦場で生き抜くためじゃない。
  あんな、いかにも戦場から引っ張ってきましたという風体の男と戦えば数秒で切り伏せられてしまうのは目に見えている。

  だが、幸運はアサシンに味方した。
  都合数時間歩き回った結果、アサシンはまんなか区の地理について網羅していた。
  相手がどれだけ詳しいかは知らないが、それでも一通りの有効そうな知識も有している。
  そして。
  壁を蹴りながらちらりと目を切れば、あの忌々しいピンクのウサギが、やはりアサシンを少し離れた場所で待つようにたたずんでいた。
  世界が早く逃げろと言っている、そう感じるほどに状況が整っている。
  既にあっと驚く逃げ道は頭の中で組み立ててある。後は、相手が上手くハマってくれることを祈るのみだ。

(だったら、やるか)

  跳躍にあわせて宙返り、ぐるりと一回空を仰ぐ。
  空は既にその全てを赤から薄紫に明け渡していた。
  そして、いつからそこにあったのか、作り物のように真ん丸い月が、薄紫の空から見下ろしていた。
  夕日は沈んだ。月が出た。ならばさいはてには夜が来た。
  夜が来たならここから先は……怪人の時間だ。


526 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:05:53 XeY7GvjM0



「夜になったんなら、こんなところで手間取ってる時間はねえな」

  アサシンが蛇腹の両腕を広げる。
  波打つように金属質な螺旋の骨が唸る。
  ぎょおんと弛み、ぎょおんと縮み。
  ぎゃいんぎゃいんと飛び跳ねる。

「ひとっ跳びさ。そろそろ帰るぜ、お前のところまで」

  従者の晴れ舞台には間に合わなかったが、主の晴れ舞台には間に合ってみいせる。
  その約束が、彼の瞳に火を灯す。仮面の奥の双眸が、オレンジ色の発光よりも青々と燃え上がる。
  建物を足場に、跳ね、掴み、跳び上がり。跳ね、跳ね、跳ねて、跳ね上がる。
  ぎりぎりと唸る手足を用いて、路地裏の建物の頭を飛び越え。
  怪人の、彼だけの空域に至り、その場でサーヴァントとしての持ちうる力も解放する。

「―――『霧の都、月に跳ぶ怪人(ブラックミュージアム・スプリンガルド)』」

  その言葉は鍵。
  異界に異界を繋ぐ鍵。
  鐘が鳴る。
  存在しないはずの鐘が鳴る。
  ロンドンの象徴である時計塔・ビッグベンの鐘の音が、さいはて町に木霊する。
  飛び上がったバネ足の怪人の背に、上ったばかりの満月が笑う。
  月の光に重なるように、笑い声が木霊する。


         ―――――あきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!!!


  さいはて町で最も強力なのは、なんと開拓者の力ではない。
  『塗りつぶす力』だ。
  いくら丁寧に、緻密に、厳重にそうぞうしようとも、上から無理やり塗りつぶされたならばそのそうぞうは意味を持たない。
  開拓者の作り上げた常識も、『塗りつぶす力』には当然のように捻じ曲げられる。
  世界に対して心象風景を押し付ける宝具という名の『塗りつぶす力』は、簡単にさいはて町の摂理を狂わせる。
  塗りつぶされる。
  塗りつぶされる。
  さいはてが。
  一人の少女が作り上げた誰かのための病室たちが。
  どこか懐かしく、暖かさにあふれた町並みが。
  尖塔の屋敷へ。
  石畳の道へ。
  鉄の柵へ。
  煙を吐き出す煙突へ。
  さいはて町にはそぐわない無数の建物たちへ。
  射程距離内の全てが塗りつぶされ、次々に霧の都に上書きされていく。

  鐘が鳴る。
  弔いの鐘が鳴る。
  眠れる誰かを揺り起こす、最果てを揺るがす鐘が鳴る。
  夜の帳の落ちようとしていたさいはて町に、重苦しい霧と月の光が敷き詰められる。


527 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:08:36 XeY7GvjM0


☆シルクちゃん


  阻まれた顔貌、その能力は潜伏。
  ただしその潜伏は、『サーヴァントとして持つすべての特性を伏せたNPCへの潜伏』。
  魔力反応を最大限まで抑え、一般人と変わりない状態に擬態することが出来る。
  ただしそれは一般的な環境においての話。
  町という形をとっている固有結界であり、『魔力反応を発する民間人が一般的な場所』であるこのさいはてにおいて、ウォルターという男は、唯一『魔力反応のしない』一般人。
  阻まれ、誰にもたどり着かれなかったからこそ。
  その阻まれ続けた顔が『作り物』の裏側の、リアルな人間だからこそ。この『作り物たちの世界』ではあからさま過ぎるほどに特異な人物になってしまう。
  少なくとも、直感に長けたランサーと、『作り物』に執着を持つシルクちゃんを前にしては隠し通せないほどに。


  原理としては以上のようになるが、シルクちゃんたちがそのスキルについてをはっきりと解明したわけではない。
  ただ、地理の分からぬさいはてでハッピーエンドラボを出た二人はとりあえず目に付いたまんなか区に入り。
  まんなか区の中で唯一敵(ジャンキー)の現れる裏通りのモルヒネ精製現場を探索し、肩慣らしもそこそこに路地裏に帰ってきた丁度そのときに、目の前に違和感のある存在が居たのだ。
  ハッピーエンドラボにも、しらぬい通りにも、市街地にも居なかった『魔力反応のしない一般人』。特一級の特異人物。
  「ランサー」「Jud.」程度の短い念話を経て、当然斬りかかる。見敵必殺、その構えだ。
  初撃、二撃、三撃と、紙一重で全てをかわされ、その上瞬きするほどの間に怪人に変身した。
  疑うまでもなくサーヴァントである。様子見程度に仕掛けたランサーに続き、シルクちゃんもまた魔法の羽ペンを構える。

  バネ足のサーヴァントは路地裏の狭さを利用して踊るように壁を蹴り、ランサーの槍の追撃を縦横無尽に避けまわりながら跳び上がって行く。
  高く、高く、まだ高く。月に届くまで。

「あきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!!!」

  まるでガラスを掻き毟るような、戦慄を呼ぶ笑い声。
  心根の弱い女子供ならば聞いただけで悲鳴を上げて卒倒してしまいかねない、そんなおぞましい声。
  シルクちゃんが持ちこたえたのは、彼女が祖父の作り上げてきた世界の中でもっと恐ろしい怪物を目の当たりにしてきたからだろう。
  それでも、月を背負ったその怪人はやはり恐ろしく、物怖じしない彼女に一歩引かせるほどではあったのだが。

  笑い声を皮切りに、世界が塗り替えられていく。
  とぼけたような街並みから、霧の立ち込める中世ヨーロッパ風の街並みへ。

「……宝具か」

  ランサーの言葉とバネの軋む音が石畳に反響する。
  上から、右から、左から、霧に隠れてバネの音がシルクちゃんたちを閉じ込める。
  青白い霧の向こう側。変貌を遂げた敵は、ぎゃいんぎゃいんと音を立て飛び跳ねていた。


528 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:09:29 XeY7GvjM0


「お色直しにしちゃあ、色気がねえな」
「……『霧の都ロンドン』『夜の街』そして『絶叫』『バネの脚』と来たら、あれこそまさしく『バネ足ジャック』か」

「へえ、物知りだな、マスター」
「都市伝説さ。十九世紀のロンドンに現れた、とても愉快な狂人だ。
 夜の街をバネの足で跳ね回り、鉤爪で女性の服を切り裂いて悲鳴を聞いたら満足して消えるというかなりこじらせたセクハラを繰り返したらしい」

「たいそうな見た目の割にみみっちいな、やることが」
「いいじゃないか、馬鹿らしくて……もっとも、犯行はだんだんとエスカレートして、しまいには婦女を一人殺したそうだがね」

  シルクちゃんはそこまで魔術や英霊に詳しいわけではない。
  だが、あの有名な『切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)』の前進とも言える『バネ足ジャック(ジャック・ザ・スプリンガルド)』。
  しかも彼は十九世紀だけでなく、二十世紀にも活躍したという記録が残されている。
  切り裂きジャックには及ばないものの、それでもその異彩を放つ存在は、余計なものについて造詣の深い祖父を通してシルクちゃんも耳にしていた。
  どちらにしろ、先ほどの男がバネ足ジャックで間違いないだろう、とシルクちゃんが呟き。
  シルクちゃんから教わるまでもなくその存在について理解していたらしく、ランサーがバネの音に向けて槍を構えなおす。

「ということでたぶん真名は分かったけど、斬れるかい」
「遅ぇな。そういうのは、霧が出る前に言ってくれなきゃ」

「じゃあ霧からやろう」
「それも無理だな。こう多くちゃ斬り切れない」

  宝具『蜻蛉切』の真名解放には、対象物を穂先に写すというワンアクションが必要だ。
  笑い声とともに再現されたのは視界を埋め尽くす青白い霧。いかな名槍蜻蛉切といえど、この悪条件では敵を捉えることはできない。
  更に、名を結び割る蜻蛉切でも煙や水蒸気といった空間を満たすほどの大量の物は切り裂けない。霧に向かって名を結び槍を振ってもむなしく空を切るだけだろう。

「ぽんこつめ」
「味があるって言ってくれ」

  バネの足音が遠ざかっていく。
  霧の合間からかすかに覗くのは、闇夜によく目立つオレンジ色に発光した瞳と、煙草の煙のように口からこぼれる青白い炎のみ。
  シルクちゃんが魔法を使って霧を吹き飛ばしても、既にあの怪人は射程距離外だろう。

「追えるか、ランサー」
「そいつは聞かれるまでもなくだ!」


529 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:10:26 XeY7GvjM0


  濃霧の中の追撃は、シルクちゃん一人では多少てこずったことだろう。
  なにせ、シルクちゃんが濃霧の中敵を追って行くには『そうぞう力を駆使して暴風を起こし、近場の霧を吹き飛ばす』というワンアクションが必要だ。
  いくらシルクちゃんでもそんなことをしながらの行軍は多少魔力を消費する。
  だが、ランサーは違う。無理や無茶が横行した数多の戦場、そのすべてを無傷で走破したランサーにとって、この程度の濃霧、障害のうちにも数えられない。
  四方八方から聞こえるバネの足音の残響に惑わされることなく、ただ怪人の向かうほうへ、まるで見えているかのように駆けていく。

  音を追い、しばらく走れば、不意にバネの音がたたらを踏むように、ぎゃっぎゃっぎゃあんと不規則に鳴いた。
  その音を聞いた瞬間、ランサーが立ち止まる。
  その様子を見て、シルクちゃんも立ち止まる。
  ぎゃんとバネの音が唸り、霧の奥から影が飛び出してきた。
  数瞬送れて霧の向こうから、当たれば致命傷は免れないだろう鉤爪が飛んでくる。
  即座にランサーが槍を薙ぎ、穂先と鉤爪が絡み合う。
  青白い月光を帯びた霧に、赤黄色の火花が跳ね、消えていく。

「よう。おっかけっこは終わりかい、『バネ足ジャック』」
「そうだな、ここらで終わりにしよう」

  鉤爪の怪人――バネ足ジャック(シルクちゃんには『アサシン』と見えている)――が、ランサーの蜻蛉切の穂先を抑えながら答える。
  かなり接近を許したが、鉤爪が穂先を遮っているため蜻蛉切の真名の解放は出来ない。
  しかし、シルクちゃんの見立てでは、槍に乗せられている怪人の力はランサーよりもやや弱い。
  霧による視界制限はあるにせよ、この程度のハンデで負ける程東国無双はやわではない。
  そんなある種の『不利』の中にありながらも、バネ足ジャックはその眼を爛々と光らせながら、青白い炎をため息のように吐き出して答えた。

「先約があってな。お前たちと付き合ってるヒマァねえのさ」
「おいおい、逃がすと思うかよ」
「違うな。お前たちは、オレを追えなくなる」

  穂先が翻り、バネが軋む。
  ひょうと風がなき、ランサーの前に晒されていた怪人の体が軽やかに跳び上がる。
  まるで独楽のように、道路の上で大げさに転がる怪人。
  ランサーが一手遅れて槍を怪人のほうへ突き刺せば、ぎゃあと悲鳴が上がった。
  だが、その声は、先ほどまでのスカした怪人の声ではない。

「……兵隊?」

  突き出した槍に合わせて霧が裂ける。
  槍の先に居たのは、バネの手足の怪人ではなく。
  大きな、それこそ偉丈夫であるランサーより一回り以上は大きな、トランプに手足が生えたようなデザインの怪物だった。

「おっかけてきたってことは、それなりに腕に自信があるんだろ。
 だったら、思う存分戦えばいいさ。ただし、相手は……そいつらだ」

  再び怪人の声が聞こえる。しかもはるか上空、尖塔の屋根の上から。その姿は、月明かりに青白く照らされた霧に阻まれておぼろげにしか見えない。

「一足先に失礼するぜ。そいつらによろしくな」

  トランプの兵隊から槍を抜いてももう遅い。
  霧の向こうの怪人の影は遠ざかるバネの伸縮音とともに消え去り、見回せば、ランサーたちを取り囲むように仮面の怪物が蠢いていた。


530 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:12:43 XeY7GvjM0


  槍を一振り、二振り、トランプの兵隊を切り捨てる。

「こりゃあどうなってんだ。バネ足ジャックにこんな逸話はないだろ」
「おそらくだが、この敵はこの『町』の方のサーヴァントが出していた敵だろう」

「つまり、まんまとはめられたってわけか」
「相手方、思った以上にこの町を知り尽くしているな。
 ひょっとしたら、最初からこの町を作っているサーヴァントと手を組んでいたのかも知れない」

  過ぎたことを話しても変わらない。
  霧にまぎれて二人を狙う仮面の怪物を蹴散らしながら、槍を構えなおすランサー。
  シルクちゃんもまた羽ペンにそうぞう力を乗せ、風を巻き起こして周囲の霧を文字通り霧散させる。
  あらわになった月下のロンドンには、御伽噺から飛び出したような怪物たちが蔓延っていた。
  更に面倒なことに、どうやらあのバネ足のいけすかない怪人の置き土産は、その程度ではなかったらしい。

『お前達ねぇ……この世界を壊そうとしているのはァァ!!』

  風で押しのけられた霧の向こうから届いたヒステリックな女性の声がロンドンの夜を騒がせる。
  ずしん。ずしん。足音というよりは、地響きに近かった。
  響きだけではない。実際に地面が揺れている。シルクちゃんはハットを深く被りなおし、地響きの主の接近に備えた。
  ずしん。しん。地響きが止まり、トランプの兵隊たちが道をあける。

『こぉんな、汚い世界に、変えるなんてぇ……お前たち、神を、神を連れ出そうっていうの!?
 危険よ……危険を、危険を感じるゥゥ! 殻を叩く音!! 割ろうとしている!!!』
 
  ぼんぼりのような髪飾り、エリマキトカゲもかくやというピンクの派手な立て襟。同じくピンク色のドレスに、手には豪奢な金扇子。
  遠目に見れば、まるで童話の女王。だが近くから見上げればそれはまさに……

「おいおい、でけえな。今度のはまた」
「作り物の町に、バネ足ジャックに、これは……兵隊から察するに、不思議の国のアリスのハートの女王かな。
 我ながら、余計な物によく会うもんだ。それで、こいつをどうする、ランサー」

「隠れててもいいぞ。見た所、我一人でも余裕だ」
「それも楽でいいが……バネ足ジャックに逃げられっぱなしはなんとなく癪だ。二人でさっさと片付けよう」
「ははは、確かにそうだ!」

  トランプの兵隊たちの主と呼ぶに相応しい、小山ほどもありそうな大きさの『怪物の女王』だった。

『渡さないィィィ……例え神でもォォ!!! この世界は、壊させないィィィ!!!!』

「雑魚は私が一掃する、ランサーは女王を!」
「Jud.!!」

取り囲む無数の兵隊と、たった一人の女王様。羽ペンと白刃が踊り、遠くに聞こえるバネの音。
空に浮かぶ月だけが、まるで御伽噺のようなその光景を見つめていた。


531 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:13:27 XeY7GvjM0


【???/さいはて町 『不思議の国のアナタ』内部/一日目 夕方】

【シルクちゃん@四月馬鹿達の宴】
[状態]魔力消費(小)、『霧』の効果で魔力放出中、瘴気の効果で魔力回復なし
[令呪]残り三画
[装備]魔法の羽ペン
[道具]マツリヤの名刺
[所持金]一人暮らしに不自由しない程度にはある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、復讐する。
0.魔物たちを倒す。
1.さいはて町に興味。『バネ足ジャック』とさいはて町のサーヴァントを打倒?
2.探索が終われば、一旦帰還する。
4.フェイト・テスタロッサに対しては――
5.ルーラーへの不信感。
6.時間があれば『本』について調べる。
[備考]
※アサシン(ウォルター)を確認しました。ただしバネ足ジャックとしての姿しか覚えていません。
 また、真名を看破したためアサシンの宝具の霧の効果を最大限受けます。
※偽アサシン(まおうバラモス)を確認しました。本物のアサシンではないことも気づいています。
※フェイト・テスタロッサを助けるつもりはありません。ですが、彼女をルーラーに突き出すつもりもありません。
※令呪は×印の絆創膏のような形。額に浮き上がっているのをシルクハットで隠しています。
※出展時期は不明ですが、少なくも友達については覚えていません。
  例の本がどの程度本編を書いているのかは後の書き手さんにお任せします。
※魔法の羽ペンは『誰かの創った世界』の中でのみそうぞう力を用いた武器として使用できます。それ以外ではただの羽ペンと変わりありません。


【ランサー(本多・忠勝)@境界線上のホライゾン】
[状態]魔力消費(小)、『霧』の効果で魔力放出中、瘴気の効果で魔力回復なし
[装備]『蜻蛉切』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:主の命に従い、勝つ。
0.魔物たちを倒す。
1.さいはて町散策。
2.『バネ足ジャック』ともう一戦交えたいが。
3.鹿角に小言を言われちまうな、これは。
[備考]
※『バネ足ジャック』の真名を知りました。霧の効果を最大限受けます。
※宝具『最早、分事無(もはや、わかたれることはなく)』である鹿角は、D-7の奉野宅に待機しています。


532 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:13:59 XeY7GvjM0


☆アサシン


  霧の都を、バネ足の怪人が跳梁する。
  結論から言えば、アサシンの作戦はものの見事にはまった。
  彼の作戦は、ある意味では博打だった。
  自身の宝具で『近づいてはいけない場所』を侵食し、その入り口の境界をあいまいにする。
  そうすれば宝具で再現されたロンドンを『近づいてはいけない場所』の一部と勘違いした敵を誘い出し、追っ手にぶつけることができるのではないか、とそう考えたのだ。
  ロンドンの町の中でもあの『近づいてはいけない場所』を見失わなかったのは、敵でもNPCでもない、おそらく性質的には番人に近いだろう『ウサギ』を利用した。
  ウサギを追えば、迷わずたどり着く。そして、敵をアサシンが引き付けて誘導し、追っ手同士をかち合わせ、自分は離脱する。
  更に言えば、これは相手の見定めも兼ねていた。
  『近づいてはいけない場所』に近寄っているのに感づいて追跡をやめたならば、相手はその脅威を知っている人物と言える。
  ランサーのあの風体でこの町の創造主ではないだろうと目星はつけてあったので、

  もちろん、博打というだけあって失敗する可能性もあった。
  ひょっとしたら『さいはて町』の方が世界に干渉する力が強くて、宝具を解放しても望みどおりの状況は作り出せなかったかもしれない。
  『近づいてはいけない場所』がまるで無理やり押し込んだような見た目だったため、『さいはて町は事象の上書きに弱い』という推測を立ててはいたが、それが外れる可能性だってあった。
  だが、最悪霧さえ出せれば相手の行動を阻害できる。『跳梁する恐怖』も合わせれば、距離を取ることは十分可能と踏んでの作戦だった。

(いや、実際はそうでもなかったな……)

  アサシンは、髪を濡らし額を伝う冷や汗をぬぐった。
  ランサーは一切躊躇せずにアサシンの後を追っていた。あの前後も左右も分からなくなりそうな霧の中で。
  おそらく、直感やそれに類するスキルを持った、アサシンの宝具の天敵のようなサーヴァントだったのだろう。

  ロンドンの再現。
  霧の足止め。
  敵の誘導。
  どれかがならなければ、きっと屠られるまではいかずとも、逃走はもっと困難を極め、刃傷のひとつも受けていたことだろう。
  幸運が、少しだけアサシンに微笑んだ。
  あるいは、あのランサーとの同程度の幸運の掴み合い殴り合いでアサシンがうまく身を捩って命からがら逃げおおせられた。それだけかもしれない。

  今、アサシンはランサーたちを跳び越えて来た道を駆け戻っていた。
  理由は言うまでもない、あの裏路地のその奥を確認するためだ。

(ひょっとすると、まだあるかもしれない)

  まんなか区を隅々まで歩き回ったアサシンがあの瞬間まで出会わなかった少女主従。
  彼女らがどこにいたのか、アサシンが一番確率が高いと踏んだのが『表舞台』だった。
  つまり、あの少女たちは『路地裏の奥』からさいはて町へと侵入したのではないか、と踏んだのだ。
  そしてもしその入り口がその場に残っているならば、そこはアサシンにとっての活路でもある。

  バネ足ジャックとしての装備を解かずに中に飛び込む。もしジャンキーどもに袋叩きにされそうになっても相手どれるように。
  しかし、踏み込んだ先は以前とは違い、もぬけの殻だった。
  以前探索を諦めたジャンキーの溜まり場にも人っ子一人居ない。変わりに魔法でも撃ちまくったのか、壁や床、天井問わずつけられた傷跡だけが生々しく残されていた。
  あの少女たちがこれほどのことをやったのかと少々感嘆しながら最奥へと進み。
  そして―――


533 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:14:38 XeY7GvjM0





  時刻は午後七時を回っていた。
  空は暗みが強くなり、星の瞬きも見えるようになってきていた。

「こっちの賭けも、勝てたらしいな」

  大きく息を吐く。口からこぼれた青白い炎が天を焼こうと伸び上がる。
  推測が合っていたのか、それとも間違っていてたまたまなのか。
  必然か、偶然か。もしくは再び幸運によってか。
  アサシンは再び、聖杯戦争の表舞台に帰ってくることとなった。
  後ろを振り向く。

「なんですか」

  あの胡散臭い男が入り込んだときと同じように妖精と見慣れぬ交通標識看板が立っていた。

「なあ、おい」
「はいなんでしょう」

「この入り口、ずっとここにあったのか」
「どうでしょう。五分前までここにあったのは覚えてるけど、そこから先は神のみぞ知る世界」

  回答はどことなく真実味に欠ける。というより、テキトーでちゃらんぽらん。
  その掴み所のない回答を聞いて、アサシンは怪人としての仮面を脱いで『叔父の仮面』を被る。
  せめて、あの劇場に帰る時だけは、彼女の叔父で居てやろうと思った。というのは、少し洒落が過ぎるだろうか。
  実際は、『さいはて町の外では気づかれなかった』という今朝のあの男の例を知っているからこその行動だ。

「もう一度ここに来て、その時もう一度ここからさいはてに入れるか?」
「どうでしょう。明日は明日の風が吹くから鬼が笑うんじゃないです?」

  収穫はあった。
  固有結界と思わしきさいはて町内でも『いざとなれば宝具で地形を変えて逃げられる』ということが分かったのは、アサシンからすればとても大きな収穫だ。
  これで以降はまんなか区だけではなく別の場所も探索が出来る。
  『電車の跡』という場所がまんなか区になかった以上、他の場所にも
  たとえば、あの『近づいてはいけない場所』のような敵が徘徊している場所でも、いざとなれば逃げ出すことが出来るという大きな安全が確保できた。

「じゃあな」
「さよなら、さよなら、さよなら」

  一度『さいはての入り口』から離れて、戻って確認する。
  妖精は一息つこうとしていたらしくふらふらと地面に落ちようとしていたが、アサシンを認めると慌てて飛び上がり手を振り出した。
  数分程度では消滅しない。気休め程度だが覚えておけば役に立つかもしれない。

  路地を出れば、そこはやはり見慣れた都市だった。アサシンが諜報を続けていたあの街に相違なかった。
  地理も頭に詰めてあるので、帰り道を迷うことはない。
  約束にはなんとか間に合いそうだ、なんて考え、柄にもない律儀さを喉の奥で笑う。
  アサシンはやや脱力しながらも、決して警戒は解かず。あくまでNPCとして、帰路を急ぐのだった。


534 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:16:28 XeY7GvjM0


【C-4/歩道/一日目 夕方】

【アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)@黒博物館スプリンガルド】
[状態] 健康、スキル『阻まれた顔貌』発動中
[装備] バネ足ジャック(バラした状態でトランクに入っていますが、あくまで生前のイメージの具現であって、装着を念ずれば即座にバネ足ジャックに「戻れ」ます)
[道具] なし
[所持金]一般人として動き回るに不自由のない程度の金額
[思考・状況]
基本行動方針:マスター(ララ)のやりたいことに付き合う。
1.ララの元へ帰る。
2.街で情報収集をしながら、他の組の出方を見る。
3.夜までには帰ってきて、ララの歌を聴く。
4.歌を聴き終わったなら街の諜報か、それとも『町』にもう一度行くか……
5.『チェーンソー男』『包帯男』『さいはて町』に興味。
[備考]
※シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)を確認しました。
※「フェイト・テスタロッサ」の名前および顔、捕獲ミッションを確認しました。
※「バーサーカー(チェーンソー男)」及び「バーサーカー(ジェノサイド)」の噂を聴取しました。サーヴァントに関連する何かであろうと見当をつけています。
※劇場の関係者には、ララの「伯父」であると言ってあります。
※キャスター(木原マサキ)の外見を確認しました。
※さいはて町の存在を認知しました。町の地理、ダンジョンの位置も把握しました。
※さいはて町の番人、『チェーンソー殺人鬼』を確認しました。『チェーンソー男』との類似を考えていますが、違う点がある事もわかっています。
※さいはて町の入り口(D-3付近、C-4付近)を確認しました。もう一度行くと入り口があるかもしれませんし、ないかもしれません。
※『阻まれた顔貌』はさいはて町内、かつマスターもしくはサーヴァントの視認範囲に入ったときのみ逆効果に働きます。が、ある程度看破能力は必要かもしれません。





[地域備考]
※さいはて町 近づいてはいけない場所(現不思議の国のアナタ)周辺が『霧の都、月に跳ぶ怪人』の効果によって霧の都ロンドンになっています。
 周囲に霧の影響が出るかもしれません。アサシンの脱出成功時(19時)に射程距離の制約によって強制解除されています。


535 : さいはて町に鐘が鳴る  ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/25(月) 06:20:16 XeY7GvjM0
投下終了です。
ウォルター卿、不思議の国のアナタなどについて、修正箇所・指摘などありましたらよろしくお願いします。


536 : 名無しさん :2016/04/25(月) 23:01:21 3SPJfhis0
投下乙です

ウォルターの正体隠蔽と気配遮断にこんな意外な穴があったとは。造られた世界であるさいはての町ならではの出来事で、なるほどと唸ってしまった
バラモス戦でも思いましたが、シルクちゃんと忠勝のコンビは掛け合いも連携も手慣れた感じで、見ていて安心感があるなー。蜻蛉切も色々な場面で活かしがいのある魅力的な宝具だと改めて感じます

そして正体を暴かれたバネ足ジャック、宝具解放の流れが凄くかっこよくてシビれた!
さいはての町にあるはずのないビッグ・ベンの鐘の音が鳴り響き…からの、具象化するロンドンの風景が幻想的で素晴らしい。真正面からでは勝てない三騎士相手の戦法としても、歩き回った情報を生かして町を利用し翻弄する、バネ足の怪人らしいやり方だったと思います
これで最初の難所は越えたかな?ひとまず、早くララの歌を聴きに行ってあげてほしいものです


537 : 名無しさん :2016/04/26(火) 00:24:56 YKDiz.Ws0
僭越ながら、気付いた点の指摘です。
>>522
「まんなか区は目立つ場所だけを凝縮したような簡素な作りいくつかの区域と」
→「まんなか区は目立つ場所だけを凝縮したような簡素な作り「の」いくつかの区域と」ではないでしょうか。
>>527
「従者の晴れ舞台には間に合わなかったが、主の晴れ舞台には間に合ってみいせる」
→「みせる」ではないでしょうか。
>>532
「ランサーのあの風体でこの町の創造主ではないだろうと目星はつけてあったので、」の後にもしかして文章が少し抜けている?


538 : 名無しさん :2016/04/26(火) 00:44:44 YKDiz.Ws0

>ティー・パーティーをもう一度
 たまちゃんのお菓子作り、「失敗続き」に何とも胸を打つものがありますね。
 大魔王ときらきーの会見。きらきー、にこやかで穏やかなようで思いっきりずけずけ物言ってる…。
 賢者の石ちょーだい、とはこれまたストレートというか、ゾーマも薄々感じ取っているものはあるようですが。
 なんとなく、たまちゃんとの会話を見てたらゾーマ様が保護者枠なように一瞬錯覚しましたが、最後の独白を読んでやっぱゾーマ様だった、と思い直しました。
 勇者や武将から苛められっぱなしのカバさんの帰還も近いかな。

>さいはて町に鐘が鳴る
 タイトルが素敵。話のハイライトが、『霧の都、月に跳ぶ怪人』の時計台の鐘の音でもたらされることを見ても。
 トランプ兵たちに怪物の女王、飛び跳ねるバネの音につくりものじみたお月さまとメルヘンチックながら、忠勝との鍔迫り合いの火花や霧に灯る火とおぼろな影など、決まる所がきちっと決まっててカッコいいです。
 真名看破や境界を利用した逃走劇など、二組の参加者双方の思考の流れも面白かった。

投下お疲れさまでした!


539 : 名無しさん :2016/04/26(火) 02:19:42 8F/AWWJw0
乙です
ジャンキー密集地は所見びっくりするよね。BGM止まるし


540 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/27(水) 05:50:47 FAvQV8eM0
たくさんの感想ありがとうございます!

>>537
誤字脱字指摘ありがとうございます。
wiki収録と同時に訂正させていただきました。

あと、エイプリルフールSSの「嘘」についてはまだ収録していません。
今後機会を見て収録させていただきます。


541 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/27(水) 06:05:08 FAvQV8eM0
ついでに、情報整理も兼ねて久しぶりに例のアレも貼っておきます


[午前]
【C-2】白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)
【C-4】クリエーター(クリシュナ)
【D-5】中原岬&セイバー(レイ/男勇者)

[午後]
【Bー1】海野藻屑
【C-4】高町なのは
【D-5】偽アサシン(宝具『まおうバラモス』)
【???(さいはて町)】エンブリオ(ある少女)

[夕方]
【B-5】桂たま
【B-4-B-5】アサシン(ゾーマ)
【C-4】アサシン(ウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド)
【D-2(小学)】木之本桜&セイバー(沖田総司)
         蜂屋あい&キャスター(アリス)
【D-2(中学)】大道寺知世
         山田なぎさ&アサシン(クロメ)
【D-2】フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)
    キャスター(木原マサキ)
    アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
【D-3】江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
    双葉杏&ランサー(ジバニャン)
    諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
    ララ
【???(さいはて町)】シルクちゃん&ランサー(本多・忠勝)
            雪崎絵理
            輿水幸子
            玲
【???(居場所不明)】バーサーカー(チェーンソー男)
【???(nのフィールド)】ルーラー(雪華綺晶)&人工精霊(ファヴ)

場所確認用のやつ
ttp://download1.getuploader.com/g/hougakurowa/4/%E5%B0%91%E5%A5%B3%E5%9C%B0%E5%9B%B3.png


542 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/04/28(木) 01:37:10 mbanMJYI0
即リレーを含みますが

シルクちゃん&ランサー(本田・忠勝)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)
エンブリオ(ある少女)

それと参加者ではありませんが

チェーンソーの殺人鬼
金に汚い天使

を予約します


543 : 名無しさん :2016/04/29(金) 00:05:04 bQD.viRk0
おお、またさいはて町の予約が…
忠勝の宝具はチェーンソー男に通用するのだろうか
魔力を消耗させるバネ足ジャックの霧に巻かれた事が今後にどう響いてくるか


544 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/04(水) 21:34:03 UkyIOPdE0
遅れます
明日中に来なければ破棄したものとして扱ってください


545 : ◆PatdvIjTFg :2016/05/05(木) 17:33:55 A9.M9tS.0
木之本桜&セイバー(沖田総司)
蜂屋あい&キャスター(アリス)
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)

予約させていただきます


546 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:29:30 ERIMrPFA0
投下します。


547 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:30:49 ERIMrPFA0


姫河小雪が小学校へと向かい、残されたものは沈黙とやたらに甘ったるいシナモンティーの香りだけだった。
口から発する全てが偽りになるようで、何かを言おうとしても言葉が出ず、今だけは自分の不精に苛立ってしょうがない。
演技のレッスンを――もう少しだけ、ほんの少しだけでいいから、目の前の泣きそうな女の子と一緒に真剣にやっておけばよかったと双葉杏は思う。
紅茶だけが、早く飲み干せと主張するかのように湯気を立てていた。

「あの……」

江ノ島盾子がおずおずとした様子で口を開いた。
誰がどう見ようとも、彼女は子羊のようにしか見えない。
とても、掲示板に書き込むような人間には見えない。
けれど――信用出来ない。と杏は思う。
江ノ島盾子の行動が演技とは思えないけれど、江ノ島盾子を見せつけられているように思えてしょうがない。

「ふたりともアイドルなんですよね」
盾子は不安気に、しかし――この緊迫した雰囲気を打開せんと必死で口を開いたように見えた。
信用できないのは、江ノ島盾子か、それとも自分か。
杏にはわからない。

「CDとか出してるなら……二人の歌聞いてみたいなって」
敢えて明るい声を出して、そう言って盾子はシナモンティーを口に運んだ。
まだ熱かったのだろうか、少し口に入れただけで急ぐようにしてティーカップをソーサーへと戻す。
そして、おどけるようにして「アイスティーにしておけばよかったかも」と言った。

「し……CDはまだ、出してないんだにぃ」
諸星きらりは飛びついた。
江ノ島盾子の出した話題はまさしく蜘蛛の糸であった。
なんだって良かった――少しでも、悲しくない話がしたい。

「レッスンもまだまだで、きらり達はアイドルのたまごなんだよぉ☆
でも、これからがんばっていくから……よろしくね☆」
「そうだったんだ!もちろん応援するよきらりちゃん!!杏ちゃん!!」
「え……?」

きらりの言葉で雰囲気がにわかに明るくなったように見えた。
しかし、3人の中で唯一人――杏だけが違っていた。

「あっ……いや、そうだね」

杏もきらりもトップアイドルではないし、江ノ島盾子に自分たちの存在を知られていなかった。
だから、へりくだってアイドルのたまごと自分たちのことを言うだけならばまだわからないでもない。
けれど、CDを出していない――なんてことはありえない。

きらりの――あの時の表情を、双葉杏は覚えている。
印税目当ての自分とは違う、何をそこまで喜んでいるのか――けれど、自分も何だか微笑ましくなるようなあの喜び。
自分の歌が日本中に――もしかしたら世界中に届くかもしれないと知った時のあの喜び。

だから、冗談でも――CDを出していないなんてことはありえない。
そこまで追いつめられてしまったのか。
それとも忘れさせられてしまったのか。
あるいは――そもそも、目の前にいる諸星きらりは、彼女と同じ顔をして同じ喜びと悲しみを持った――他人なのか。

「印税で生活したいねぇ……」
「もう、杏ちゃんったら」

この違和感を嗅ぎとったのはきらりではなく盾子だった。
CDの話を出したのは決して世間話などではなく、売上などの二人の間に存在するであろう格差を意識させて、
ほんの少しだけでも、二人の関係に傷を付けられればいいと思っただけだ。
もっとも、もとから大して期待はしていなかった。
あるいは幸福だった日に思いの少しでも寄せてくれれば儲けものと思った程度だ。

だが、双葉杏の反応はおかしかった。
自分だけCDデビューが決まったから誤魔化した――などという態度ではない。
そもそもきらりが知っていなければおかしい何かがある――そのような様子であった。

「少し落ち着いたら……」
思案を巡らせる。
二人の関係性の中にある秘密とは一体何か。
どうすれば、最も絶望的な終わりへと導くことができるか。

「みんなでカラオケにでも行きましょうね」
江ノ島盾子は微笑んでそう言った。


548 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:31:11 ERIMrPFA0

疲弊した心は脆い。
だから、しなければならないとわかっていても――ストレスになる行動を取りたくない。
傷ついた少女【諸星きらり】は偽りでも歪んでいても、それでも平穏を求める。優しくて甘いものを。
だから、双葉杏は口に出来なかった。

江ノ島盾子が作った抜け穴――当り障りのない遅効性の毒に逃げてしまった。

今、会話の主導権は――江ノ島盾子に握られている。
優しく微笑んだ超高校級の絶望に、地獄へと先導されている。

「盾子ちゃん」
「どうしました……杏ちゃん?」
「ランサーのこと、心配じゃない?」
「不安です、でも……彼女ならきっとだいじょうぶ、私のサーヴァントですから」
江ノ島盾子は小学校へと向かったランサーのことを――それこそ大丈夫の一言も言わずに、世間話へと移行した。
自身のサーヴァント、小学校で起こっているナニカ、それよりも優先して――きらりを立てなおそうと。
善人にしか見えなかった。
けれど――善人というにはあまりにも肝が座りすぎているし、どう考えてもおかしい。
常識が抜けているからのような、あるいは何かを狙っているかのようなズレだった。

「私、何にもできないから信じることぐらいはしっかりしたいんです……」
「……偉いね、盾子ちゃん。私にはとても出来ないよ」
杏はそう言って「私のサーヴァントはあんまり頼りにならないからね」と溜息をついた。

(訂正するニャン!!)
(……ランサー、少し静かに)
(ニャ?)

念話にて不本意を訴えるランサーを、気にしてやる余裕は杏にはなかった。

「……ねえ、盾子ちゃん。怖くない?きらりはともかく、私は出会ったばっかりでしょ?
襲われるかもって思わない?サーヴァントいないんだよ?」
「だって……」
そう言って、江ノ島盾子は少し考えこむように俯いた。

「きらりちゃんの友だちなら大丈夫ですよね?」
そして江ノ島盾子が顔を上げた時、やはり口元には微笑みが浮かんでいた。

「盾子ちゃん、きらり」
そう言う江ノ島盾子に対し、杏は申し訳ない顔を浮かべてみせた。
「ごめんね、さっきは盾子ちゃんを疑うようなことを言って」
「ううん……私、気にしてないですから」
「……良かったぁ、みんなトモダチではぴはぴだにぃ☆」

和やかな空気が、喫茶店の中に広がっていく。
欺瞞だ、この中で杏は誰よりもそう思っている。

(オレっちが頼りにならないっていうのは不服だけど、まぁ……この場は丸く収まりそうで良かったニャン。
けど!もしも悪いやつが出てきたらオレっちのひゃくれつ肉球が火を)
(……もしも)
(ニャ?)
(もしも杏が合図したら、すぐロボニャンに変身した後私達を逃がして)
(何の問題もなかったんじゃないかニャ?)

(令呪があるからすぐサーヴァントを呼べるって言っても、この状況であの態度、江ノ島盾子は……多分、かなりヤバイ。
彼女の言ってることが全部本当でも……正直、きらりと近づけておきたくない。いくらなんでも肝が座りすぎてる)
(よくわからないけど、わかったニャ。でも……正直オレっちには悪いやつには見えないニャ)
(私にだって、とても悪い奴には見えないよ……けどね)

(きらりは優しいから……私が疑うしか無いんだよ)

杏はきらりが自分に無いものを持っていることを、きっと事務所のアイドルの誰よりも理解していると思っていた。
何故ならばそれは才能でも何でもない思いと呼ばれるようなものであるから。
杏はそれを持たずにアイドルになり、きらりはそれを携えてアイドルになった。

きらりと一緒に仕事をしている内に、杏はそれを飴と一緒に分けてもらっていた。
優しさ、ぬくもり、情熱、そしてはぴはぴな思い。

だから、そのせいで人一倍きらりが傷ついているのならば、杏がやると決めた。

怠惰な自分が曲がりなりにもやってこれたアイドルとしての才能を、全力で発揮してみせる。
きらりのために出来ないは言わない。演じきってみせる。

これが嘘であると言うならば、その嘘に付き合ってやる。
きらりのために優しい表情を浮かべて、誰にもきらりを傷つけさせはしない。

その結果、人を殺すかもしれないけれど。

強い決意を固めた杏に、江ノ島盾子は微笑んでみせた。
幸福そうに、絶望とは程遠い顔で。


549 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:31:21 ERIMrPFA0


(アタシを疑って……くれてたらいいなぁ。まぁ、そうじゃなかったら、タダの馬鹿だけどさ。
思いが通じないってさ……それこそ、絶望的に辛いんだよ。
貴方の為を思って、だなんて――結局はする側の言い訳、される側には何の関係もない。
三人で仲良しこよしがしたいわけじゃないから……杏ちゃん、頑張ってじゅんこをぉ……疑ってにぃ☆
そして――出来れば)

江ノ島盾子はただ望む。
この表面上友好的な取り澄まされた三角関係がぼろぼろに崩れ去ってくれることを――そして、諸星きらりの絶望を。
杏に自分を疑わせてしまえば――どういう形に成ろうとも、諸星きらりの絶望というゴールは目に見えている。

だから、自分の予想出来ないような最大最悪の絶望を。
目の前のアイドルにできるかどうかはわからない。
けれど――望むだけならタダであるし、期待を裏切られても全く損はない。

少女が少女を殺すこの世界では、誰がどう足掻いても決着は絶望以外にありえない。



「……」
皆が笑っているから――きらりにとってはそれが、苦しい。
杏ちゃんはどことなく気怠げないつもの杏ちゃんではないし、
盾子ちゃんはランサーが戦いに行ったというのに自分たちにばかり気を遣っている。
何も出来ていない――一番近くにいるバーサーカーにも、誰にも何も返せていない。

昔確かにあった日常に帰ってきたようで――嬉しくてしょうがなくて、けど、皆が無理をしているから辛い。
アイドルにはもっと温かいものがあるはずなのに。

(――■■■■)

バーサーカーがきらりの悲しみに呼応して、唸り声を上げた。

きらりは甘ったるいシナモンティーと一緒に、

痛みも。
苦しみも。
辛さも。
悲しみも。
絶望も。

勢い良く、飲み干して、笑顔を、作った。

(■■■■■■)

怒りは――バーサーカーが持っている。


550 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:31:50 ERIMrPFA0


輿水幸子の姿にランサーは、かつての自分を重ねていた。
姫河小雪が魔法少女狩りじゃなかった時代の――弱かった自分。

自分のために、誰かが死んで納得できるわけがないだなんて――そんなことは当たり前で、
何時だって忘れなかったし、忘れられるわけがなかった。

だけど、自分は何も出来ない。
困った女の子を前にして――心の声は聞こえるのに、魔法少女なのに。

何故なら、彼女は何をしても傷ついてしまうから。
姫河小雪も、そうだったから。

(急がなくちゃ……)
霊体化したランサーは、あらゆる障害を無視して風のように喫茶店へと向かう。
魔法少女は皆を救えるような存在じゃない、けれど何も救えないわけじゃない。

喫茶店の近くに到着し、付近のビルの陰で実体化する。
幸いにも、途中で邪魔が入ることはなかったから、考えうる限り最も早く辿り着くことが出来た。

ランサーは勢い良くドアを押し開けた。
「おかえり、ランサー……無事で良かった」
満面の笑みで、江ノ島盾子が出迎える。
大きく両腕を広げて、ランサーを抱きしめんとばかりに近付いた江ノ島盾子を無視して、椅子に座る。
テーブルの上にはケーキの皿が乗っている。
つまり、平然と営業ができる程度に――この地域には被害がなかったか、この店に影響はなかったということだ。

(こっちはだいぶ盛り上がったよ……ランサーも残ればよかったのに)
とぼとぼと自分の席に戻りながら、江ノ島盾子は嘲笑うように念話を送った。

そんなことは言われるまでもなく、わかる。
表面上は何の変哲もない日常会話だったのだろう、喫茶店は先ほどと変わらず平穏を保っている。
しかし、双葉杏と諸星きらりの心の声は聞けば――わかってしまう。

(それよりも……皆に説明してあげなよ、ランサーが自分で見た絶望を。始まっちゃったんでしょ、コロシアイ?)

煽り立てる江ノ島盾子にランサーは言葉を返さない。
時間の無駄だ。

「ねぇ、ランサー……何が起こったか教えてくれる?
皆が自分を守るためにも……大事なことだから」
表に裏にと忙しいことだ。
江ノ島盾子は何が何でも、自分の体験を――聖杯戦争を語らせるつもりだ。

「…………」
ランサーは諸星きらりを意識せざるを得なかった。
自分の体験した出来事は――現実的な聖杯戦争の話は、特に諸星きらりを傷つける。
それでも、情報の共有自体は間違ってはいない。
下手に何も言わないようにすれば、それは無為に敵意を抱かせることにも成り得ない。
これほどに時間を掛けて何もなかったは通じない。

(……ッ!?)

その時、ランサーは心の声を聞いた。
友達を探す声。
喫茶店の中の人は本当に自分たちを助けてくれるのか不安がる声。
喫茶店の中の人間が自分たちの敵だった場合を想定する声。

カラン。
コロン。

喫茶店の扉が開き、来客を告げるベルが鳴る。

「すみません……江ノ島盾子さんはいますか?」

小さい女の子。
天使のようにあどけない微笑み。
白を基調としたファッション。

「――蜂屋あい」


その後ろには、魔法少女と騎士のように付き添う和装の――数時間前に戦ったセイバーがいた。


551 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:32:00 ERIMrPFA0


件名:無題
送信者:【双葉杏のメールアドレス】

本文:江ノ島盾子です。
    【住所の記述】の喫茶店にいます。


552 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:32:10 ERIMrPFA0


紅茶のおかわりと一緒に、三皿のケーキが運ばれてきた。
ランサージバニャンも食べたいと駄々をこねるが、こんな場所で実体化させるわけにもいかない。
化け猫はコスプレなんて目じゃないぐらいに目立つ。

(我慢してよ、後でチョコボー買ってあげるから)
(目の前でケーキを食べられるなんて、生殺しだニャン!!)
(死んでるでしょ)
(ひどいニャ!!)

未だに江ノ島盾子のランサーが戻ってくる気配は見えず、迂闊に動くことも出来ない。
喫茶店に長居する覚悟を決めて、しかし――食べてる途中で戻ってくるかもしれないので、ランチではなくケーキを注文した。
杏はチョコレートケーキを、江ノ島盾子はブラウンバターケーキを、そしてきらりはショートケーキを。

「もし、良かったら……」
ブラウンバターケーキをハーフアンドハーフカットしたものを口に運んで、江ノ島盾子が言った。
「ケータイを貸してくれないかな、メールを送りたい相手がいるんだ」
「メール?」
ジバニャンを尻目にチョコレートケーキを一口、杏が聞き返す。
「ともだち?」
爆弾サイズの苺をきらりが一噛りする。
同じ事務所のよく食べるあの子ならホールサイズだってペロリと食べきってしまうかもしれないんじゃないかと思う。
「そう、ともだち……なのかな?この会場で知り合ったんだ。良かったらきらりちゃんたちにも紹介したくて」
「……盾子ちゃんは自分のケータイ持ってないの?」
「うん、ちょっと壊しちゃって」
「ふーん」
「どんな人なのかにぃ?」

「小学生の女の子だよ、結構頼りになりそうな」
「……不安じゃないの、小学校が危なそうなのにさ」
「こんな状況だからなるべく小学校に行かないようにしてるんだって。だから、多分大丈夫だと思う。
それに、何かあったらランサーが教えてくれるはずだから」

「……そうなんだ」

小学生かどうかは呼べばわかる話だ。
もっとも、杏みたいな小さい女の子がそうだったとして――真偽を確かめる術はない。
なんなら小学生かどうかはどうでもいい話だ。
呼ばれた子が危害を加えてくるかどうか――問題はそれだけだ。

出来れば、呼びたくはない。
けれど、きらりは――それを許すだろう。

江ノ島盾子を信じているから。

そして、これは何時か渡らなければならない危ない橋でもある。
杏とランサーときらり、そしてきらりのサーヴァントだけでこの世界を脱出出来るかと言えば多分、出来ない。
どこかで新しいマスターと接触しなければならない。
そして――掲示板の書き込みのせいできらりは疑われている可能性があるから、
潜在的な危険性を考えるならば、不意を打たれるよりは、未だ来るとわかっている方が良い。

もっとも、江ノ島盾子がケータイを持っていないと全面的に信じることも出来ない。
それよりは自分たちの内のどちらかのメールアドレスを利用したいだけかもしれない。

ただ、ケータイを借りなければ合図を出せないのならば――奇襲するにはあまりにも不安定だ。
江ノ島盾子の言っていることは真実かもしれない。

あるいは、ケータイに関する件自体がブラフで、そもそも――何らかの合図を出すことができているのかもしれない。
ただし、それならばケータイを貸してほしいなどと言う必要はない。


「いいよ」
杏は江ノ島盾子にケータイを手渡した。
「杏のケータイを使って」
「ありがとう!」

結局、きらりのケータイを使わせないようにすることしか出来ない。


「皆で力を合わせれば、きっと……終わらせられるよね」

色々と。


553 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:32:25 ERIMrPFA0


「……知世ちゃん」

さくらが屋上についたとき、そこには大道寺知世の姿はなかった。
戦いの跡は目を凝らしてもわからない。
けれど、たいせつなともだちは屋上で――消えてしまった。

喪失感で全身から力が抜けそうになって、しかしさくらは崩れ落ちるような真似はしなかった。
足に力を入れて、コンクリートの感触を強く意識する。
知世ちゃんを探しに行かなければならない。

死という言葉を否定することは出来ない、しかし、死を肯定する材料もまた無い。
さくらの諦めが知世の死に直結しているんじゃないか、そんなことすら思った。

だから、不安で、不安で、しょうがないけれど、
俯いて泣いてしまいたいけれど、

――絶対だいじょうぶだよ。

信じるための呪文を唱える。
知世ちゃんともう一度お話がしたい。
だから、誰よりもまず自分が――知世ちゃんを信じなければならない。

「……お願い!一緒に知世ちゃんを…………私の大切なともだちを探して!!」
屋上へと着いたセイバーと蜂屋あいに、さくらは頭を下げた。
この街は広く、知世を探すことは自分一人で出来ることではない。
それは積極的に聖杯戦争へとあいを巻き込んでいくことであるし、あるいはあいを深く傷つけることになるかもしれない。
自分が残酷なことを言っていることに気づいていた。
それでもエゴイスティックにならざるを得なかった。

助けて欲しかった、知世ちゃんを。

「……いいよ」

なんて色をしているのだろうと、あいは思った。
桜色の心は――決意と祈りで強く光り輝いていた。
誰かを思う心の――なんて美しいことだろう。
きっと、その光に手を伸ばせば骨まで溶けてしまいそうなそんな強い色。
そして、一筋の不安。
桜色の光の中に、時々走る黒い線。
桜の華を喰らう毛虫のような――そんな不安色の闇。


さくらちゃんが知世ちゃんに会えなくて本当に良かった。


「手伝うよ」
ふわりとあいがさくらに歩を進めた。
額と額が触れ合いそうな近い距離。
唇を交わしてしまいそうな程に近い距離。
愛/あいの距離。

桜と蜜の匂いが交差した。


その時、あいのケータイが鳴った。
小学校でのケータイの使用は禁止されているが、持ち込みは禁止されていない。
最も、屋上でそれを咎めることの出来る人間は今はいないが。

メールが一件。
知らないアドレス。
けれど、内容を見れば、すぐに誰から来たものかわかった。

彼女に会う利益は自分にはない。
ただし、さくらにはある――かもしれない。
少なくとも、あのサーヴァントはさくらに協力的であってくれるだろう。

自分は殺されるかもしれないし、
もしかしたら、さくらのセイバーも自分を殺すかもしれないけれど。

けれど、もっとさくらの色が見たい。


「……もっと、協力してくれる人を増やせるかもしれない」

あいは、喫茶店へ向かうことを提案し、さくらは頷いた。

セイバーは流れを感じてしまった。
マスターを言葉で止めることは、もう自分には出来ない。

仲間を思ってしまえば、利口にはなれない。
理屈で動くほどお利口であれば、自分は英霊としてこの場には立っていない――だから、わかる。

故に、マスターを止めることはしない。
その代わりに、とセイバーは言った。


「私を止めないでください」


554 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:32:56 ERIMrPFA0

【D-3/汚い喫茶店/1日目 夕方】

【双葉杏@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的疲労(微)
[令呪]残り三画
[装備]
[道具]携帯ゲーム機×2
[所持金]高校生にしては大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:なるべく聖杯戦争とは関わりたくなかったが
1.謎の来訪者(さくら達)への対処
2.ランサー(姫河小雪)の報告を聞く
3.江ノ島盾子とサーヴァントは決定的ではないが、疑わしい。
4.少女(大井)を警戒。どうするべきか。
5.CDに対する発言によるきらりへの複雑な感情

[備考]
※大井と出会いました。大井を危険人物(≒きらりスレの>>1)ではないかと疑っています。
※『今からきらりちゃんと一緒に小学校に行きます』と書き込んだのは江ノ島盾子ではないかと考えています

【ランサー(ジバニャン)@妖怪ウォッチ】
[状態]健康
[装備]のろい札
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:なんとなく頑張る
1.双葉杏に付いて行く

【諸星きらり@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ版)】
[状態]精神的疲労(微)、魔力消費(中)
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:バーサーカーを元に戻し、元の世界へと戻りたい
1.ランサー(姫河小雪)の報告を聞く
[備考]
※D-4に諸星きらりの家があります。
※江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。そして、江ノ島盾子を信用しています。
※三画以上の令呪による命令によって狂化を解除できる可能性を知りました(真実とは限りません)
※フェイト・テスタロッサの捕獲による聖杯戦争中断の可能性を知りました(真実とは限りません)
※ルーラーの姿を確認しました
※掲示板が自分の話題で賑わっていることをしりました

【悠久山安慈@るろうに剣心(旧漫画版)】
[状態]霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
[備考]
※雪華綺晶の存在を確認しました、再会時には再び襲いに行く可能性があります。
※江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)を確認しました。
 スキル『こころやさしいひと』の効果できらりの精神の安定に江ノ島盾子&ランサーが役に立っていると察知しイレギュラーが発生。
 狂化中ですが敵意を向けられない限りこの二人を襲いません。


555 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:33:11 ERIMrPFA0
【江ノ島盾子@ダンガンロンパシリーズ】
[状態]健康、涙で化粧が流れてる、小雪ちゃん(魔法少女育成計画最序盤)の真似中
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大金+5000円分の電子マネー(電子マネーは携帯を取り戻すまで使用できません)
[思考・状況]
基本行動方針:絶望を振りまく
1.あいちゃんおっすおっす
2.諸星きらりをプロデュース!
4.ケータイ欲しい……ケータイ欲しくない?
[備考]
※諸星きらりを確認しました。彼女の自宅の位置・電話番号・性格なども事前確認済みです。
※自身の最後の書き込み以降のスレは確認できません。
※数十分、もしくは数時間、あるいは数日、ひょっとしたら数年は同じキャラを演じ続けられるかもしれませんし、続けられないかもしれません。
※ランサーのスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対して順応しています。順応に気付いているかいないかは不明です。動揺しない限り尻尾を掴まれることはないかもしれません。あるかもしれません。

【ランサー(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(中)、絶望(微)、ストレス
[装備]
[道具]ルーラ、四次元袋
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り犠牲を出さずに聖杯戦争を終わらせる。
1.蜂屋あいへの対処
2.きらり達に報告を行う
2.出来ることなら、諸星きらりに手を貸してあげたい。
3.幸子はことはしばらくそっとしておく
[備考]
※木之本桜&セイバー(沖田総司)、フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)、
 蜂屋あい&キャスター(アリス)、キャスター(木原マサキ)、バーサーカー(チェーンソー男)、輿水幸子を確認しました。ステータスは確認していません。
※江ノ島盾子がスキル『困った人の声が聞こえるよ』に対応していることに気づきました。蜂屋あいの心の声が聞こえません。
※諸星きらりの声(『バーサーカーを助けたい』『元いた世界に帰りたい』)を聞きました。
 彼女が善人であることを確信しました。


【セイバー(沖田総司)@Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚】
[状態] 疲労(中)、ダメージ(中)
[装備] 乞食清光
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: さくらのために
1.白いサーヴァントへの対処
2.余裕があれば鞘を取りに行く
[備考]
※使わない間は刀を消しておけるので、鞘がなくてもさほど困りません

【木之本桜@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態] 疲労(中)、魔力消費(中)
[令呪]残り三画
[装備] 封印の杖、
[道具] クロウカード
[所持金] お小遣いと5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:知世ちゃんを探す

【蜂屋あい@校舎のうらには天使が埋められている】
[状態] 疲労(小)
[令呪]残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 小学生としてはかなり多めの金額
[思考・状況]
基本行動方針: 色を見る
1.さくらの色をもっと見たい
2.江ノ島盾子に強い興味
[備考]

【キャスター(アリス)@デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト(及び、アバドン王の一部)】
[状態] 魔力消費(小)、作っておいたトランプ兵は全滅
[装備] なし
[道具] なし
[思考・状況]
基本行動方針: オトモダチを探す
1.知世をオトモダチにしたい
2.さくらに興味
3.サーヴァントのオトモダチが欲しい
[備考]
※学校には何人か、彼女と視界を共有できる屍鬼が存在します
※学校の至る所に『不思議の国のアリス』への入口が存在しています
※不思議の国のアリス内部では、二人のアリスが遊園地の完成を目指して働いています


556 : 友情に火を点けて - Friendly Fire - ◆PatdvIjTFg :2016/05/06(金) 22:33:21 ERIMrPFA0
投下終了させていただきます


557 : ◆PatdvIjTFg :2016/05/08(日) 12:13:34 dTUjF09U0
中原岬&セイバー予約します


558 : 名無しさん :2016/05/08(日) 14:25:52 LkNGhskE0
投下乙です
きらりと杏の絡め取られっぷりがキツい…!
杏はさすがの鋭さで、江ノ島さんの危なさを嗅ぎ取ってるのに、それまでも予想した上で絶望を演出しようとするとは何たる厄介さ。
ジバニャン、マジでそろそろ呑気な事言ってる場合じゃないぞ…。
そこへさらに、知世ちゃんを見失ったさくらの炎があいちゃんを嬉しくさせてるし…スノーホワイト、おき田、何とかしてくれー!


559 : 名無しさん :2016/05/08(日) 22:50:13 JqCuNQ7Q0
投下乙です
目立った事件もなく会話が中心なのに面白い
氏の文章はいつも独特でありながら読みやすくてすごいです
毎回話の長さ以上に内容が詰まっているような気がします
今回の話も短い文章から各々の心情が伝わってきます
「皆で力を合わせれば、きっと……終わらせられるよね」からの
色々と。が好き


560 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:08:58 x77xuh3A0
投下乙です!
時間がないので感想は次の機会に書きます。

取り急ぎ


シルクちゃん&ランサー(本田・忠勝)
雪崎絵理&バーサーカー(チェーンソー男)
エンブリオ(ある少女)
チェーンソー殺人鬼、金に汚い天使


投下します


561 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:10:33 x77xuh3A0


  夕方だった商店街を抜ければ、外はもう、さっきまでの空色が嘘だったみたいに薄暗く紫がかっていた。
  古ぼけた街灯が、ちかりちかりと瞬きながら明かりを灯し始めている。
  夜がだんだんと近づいてきている。世界はずんと冷え込み始めて、絵理の体から熱を奪っていく。
  絵理はそんな思いのほかやさしくない世界の真ん中の、端っこのほうで、段差に座り込んで時が経つのを待っていた。
  理由は言うまでもない。チェーンソー男と決着をつけるためだ。

「ずっと外に?」

  声につられて絵理が顔を上げれば、ボンヤリとした街灯に照らされて鉢巻をつけた青年が立っていた。
  見覚えはない。どうやらこのあたりに住んでいる人らしい。

「もう月も昇ってしまいましたよ。それにホラ 最近物騒だし」

  青年の声と視線につられてつい、と目を動かせば、そこにはいつからあったのか、人型の白線と血の痕があった。

「チェーンソー殺人鬼。
 このあたりに出るかもしれませんよ。そのうち来るかも」
「……このあたりにも、出るの?」
「出るなんてもんじゃないよ。もう四人くらい殺されてる」

  それはとてもおかしな話だった。
  絵理は夕方のごたごたを除けばチェーンソー男の出てくる場所のすべてに到達している。
  そんな絵理が初めて訪れたこの地域では、チェーンソー男による被害がすでに四人も。
  また少しだけ、チェーンソー男についてのあれこれがあやふやになる。

「それでも変わらないわ。私は、ここで待たなきゃいけないの」
「なんか分からないけど、つらいことがあるなら相談に乗るぜ」
「そういうのはもう間に合ってます」

  おせっかいな人間は山本だけで十分だ。
  山本も山本でそんなに必要ではないが、彼は言っても勝手についてくるので仕方ない。
  鉢巻の男性は、少しだけ絵理と見つめ合うと、何かを理解したのか(それとも理解するのをあきらめたのか)そのまま立ち去ってしまった。
  絵理はまた一人になって、街灯に照らされながらぼんやりと考えはじめた。
  チェーンソー男について。
  そしてこの周辺に出るチェーンソー男(鉢巻の青年の言葉を借りるなら『チェーンソー殺人鬼』か)について。
  でも、結局思考はまとまらず、絵理の頭の中を表すように、周囲には青白い霧が立ち込め始めていた。


562 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:12:22 x77xuh3A0


  ―――どるん。

  不意に、霧の向こうから音がした。
  もううんざりするほど聞きなれた音だ。いつもどおり、変わらぬエンジン音だ。
  だが、違和感がある。
  確かに夜は訪れているが、時間はまだ六時を回ってしばらくといったところだ。奴が出るには早すぎる。

(とは言っても、今日に限って言えばそうでもないか)

  朝からずっと予想外の出現ばかり。その理由は今の絵理には見当もつかない。
  絵理の理解を乗り越えて、霧の向こうから一人の男が現れる。
  それは見慣れない、というより見たことのない男だった。だが、存外知らない相手というわけでもなかった。
  少なくとも絵理にとっては、因縁浅からぬ相手といって間違いなかった。

「……二人目、ね」

  それは鉢巻の男性の言葉の通りのチェーンソーを持った殺人鬼。
  絵理にとってのチェーンソー男とは、全身真っ黒で、黒いフードで頭をすっぽり覆って顔を隠した存在だ。
  だが、目の前の男は。
  上半身裸にカーキ色のズボン。顔は子供の落書きのようにも見えるし、変色した頭を合わせればチープなゾンビのようにも見える。
  携えているものは絵理の知るそれよりも幾段劣る、簡素なチェーンソー。
  だが、そのチェーンソーもいかにも何かありそうな雰囲気を醸し出している。
  その立ち姿を見ながら、白坂小梅の言葉を思い出す。
  彼女いわく、この場にいるチェーンソー男はいつの日か倒された未来からやってきたチェーンソー男かもしれないとのこと。
  ならば絵理にとってのチェーンソー男とは別に、過去か未来かに存在した、どこかの誰かにとってのチェーンソー男がこの場に呼ばれていたとしても、なんらおかしくはない。

  絵理がこの場所に来たことはない。つまり、絵理の知るチェーンソー男がこの場に来たこともない。
  ということはこれが、白線と血痕を生み出した犯人に違いないだろう。
  チェーンソー男とはまるで違うゆったりとした動きでチェーンソー殺人鬼が絵理との距離を詰め始める。
  ある意味想定内、ある意味想定外の敵と対面した絵理の方針はとても単純だった。

(二人居るなら、二人倒す―――!!)

  小梅と会った時の結論に代わりはない。
  低い姿勢のまま腿のガーターリングに仕込んでおいたナイフを三本抜き、構える。上着の下で、かすかに鎖帷子の揺れる音がする。
  そしてそのまま、チェーンソー殺人鬼のむき出しの上半身めがけて投擲した。


563 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:12:52 x77xuh3A0


  チェーンソー殺人鬼は一歩も動かない。チェーンソー男よりも頑丈さに自信があるのか、手に持ったチェーンソーで弾こうとも避けようともせずに、ただそのままナイフを受けた。
  とすんと三度、軽い音を立ててナイフが肉に突き刺さる。狙い通り、胸の左右に二本と額に一本。
  しかし苦痛の声もあげず、血の一滴も流れることがない。突き刺さる前と同じ速度でエンジンの音を従えて絵理の方へと歩みを進め続けている。
  いよいよもって、チェーンソー男と同じ『怪人』で間違いなさそうだ。
  襲い掛かってくるまでに時間があるのでチェーンソー男よりも戦いやすいだろうが、倒す方法が見えないというのはどうにもやりづらい。
  もう二本、ナイフを抜いて構える。
  既にチェーンソー殺人鬼との間合いは数メートル、といったところでようやくチェーンソー殺人鬼は動いた。
  やおらチェーンソーを振りかぶる。
  チェーンソーの射程距離まではまだ遠い。相手が距離を詰めようと動き出せばその動き出しを叩く。
  そう絵理が睨んだ瞬間、青白い霧の一点が真紅に染まった。
  寒気を覚えて一歩後退る。絵理の目の前を真紅の刃が通り過ぎたのはちょうどその瞬間だった。

「なっ―――!」

  その真紅の刃は、チェーンソーが纏う『オーラ』のようなものに見える。まるでありきたりな少年漫画の武器のような感じだ。
  それはとある世界で『マ剣』と呼ばれた魔法の刃。絵理が絶対に知らない殺人鬼の秘中の秘。
  殺人鬼は、後ろに退いた絵理に向けて、ただの剣からマ剣へと昇華したチェーンソーが襲い掛かる。
  不意打ちの一撃にはやや驚いたが、その一撃で把握した射程距離はもう忘れない。
  それどころか、この薄暗い夜の青白い霧の中でも煌々と光を放ってその存在を際立たせ、絵理にわかりやすくその存在を象徴し続けている。
  自由に伸び縮みでもしない限り、ちょっとやそっとで絵理の目算が狂うことはないだろう。
  だが、射程距離がはっきりわかったところで絵理の不利は変わらない。
  普通のチェーンソーよりも長い射程に、投げナイフ程度ではびくともしない耐久力。この深い霧もあいまって、攻めあぐねるのは当然だった。
  特に耐久力の方は致命的だ。倒す方法がわからないとなると、手の出しようがない。

  絵理は抜いたままだったナイフを二本とも投げる。狙いはチェーンソー殺人鬼の、どこを見つめているかわからない両目だ。
  流石に目を傷つけられると行動に差支えが出るという知識はあったのか、さしものチェーンソー殺人鬼も今度の二本はマ剣を用いて防御した。
  その隙を突いて駆け出す。
  逃げるのではない。チェーンソー殺人鬼が追ってくることを想定して、あの恐ろしいほどの耐久力を持ったチェーンソー殺人鬼を倒せるであろう可能性の方へ。
  振りぬかれたマ剣の横を抜けて、足音が追ってきていることを確認しながら全力で駆ける。向かう先はすぐに見えてきた。
  しらぬい通りを曲がり、石作りの階段を駆け上る。数十段の石段の先には神社があった。だが、神社自体に用はない。

  ナイフを急所に刺すでは傷つけることができず、今の絵理はナイフより強い武器は持ち合わせていない。
  そこで絵理が目をつけたのは待ち伏せ場所に来るまでに見つけた『数十段続く石段』だった。
  石段の最上部から突き落とす。ナイフでダメージを受けないとしても、普通の人間が何回か死ねるだけのダメージを与えればさすがにチェーンソー男同様に消滅してくれるだろう、という見立てだ。


564 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:13:08 x77xuh3A0


  神社を背負ってチェーンソー殺人鬼を待ち受ける。
  数十秒か、数分か。
  どるるるるる、るるるるるる。石段を踏みしめる靴の音の代わりに、聞きなれた足音が、だんだんと近づいてくる。
  姿は青白い霧にさえぎられてまだはっきりとは見えない。
  だが、霧の向こうで真紅の刃が揺れている。まるで血に濡れたギロチンのように、右へ、左へ、また右へ。

  揺れる光の高さが変わらなくなったのを認めた瞬間、絵理は背後にあった賽銭箱を引っつかみ、光めがけて放り投げた。
  年頃の少女が投げたとは思えない物凄い速さで、賽銭箱がチェーンソー殺人鬼めがけて飛んでいく。並みの人間ならばこれに当たっただけでも昏倒してしまうだろう。
  瞬間、赤い閃光が走り、逆三角形を描いた。
  絵理がそれを斬撃だと認識できたのは、賽銭箱がばらばらに切り開かれて、中に入っていた小銭の山を血反吐のようにぶちまけた後だった。
  想定していた以上に素早い反応に、ぎょっと目を剥く。切り裂かれた賽銭箱と霧の向こう側で、チェーンソー殺人鬼はやはり死人のような目で絵理の方を見つめている。
  そして、チェーンソー男のように駆けてくる……わけではなく、チェーンソーを担ぎ上げ、ただその場で構えたまま立ち止まった。
  ぐわんぐわんと大気がうねっている。チェーンソーを基点に霧が渦巻いている。何かを溜めている。何故かそう理解できた。
  何が来るかは分からないが、勝手にさせて絵理に有利になることはない。

  衝撃から立ち直り、当初の予定通りチェーンソーの殺人鬼を突き落とそうと駆け出す。
  しかし絵理がたどり着くより一手早く、チェーンソー殺人鬼はチェーンソーを右肩に構え、そして、絵理に向けて何かを放った。
  ぶわりと広がった風に乗って、絵理の頭にいくつものイメージが押し付けられる。
  事故の日に見送った両親と弟の顔。酒臭い運転手。
  傷ついてしまった山本。望むはずのないいつかの別れ。死んでしまった名も知らぬ少女。白線に血痕。
  絵理の中にどんと居座り続けているおびただしいほどの『絶望』たちが、突如湧き上がって絵理の頭を埋め尽くす。
  駆けていた足が恐怖に震え、腰が砕けてしまう。攻めようとしていた気持ちが一気に萎む。
  それでも倒さなければならないと無理やり足を動かして攻撃を仕掛けても、へっぴり腰な状態で繰り出す攻撃なんて物の数にも入らない。
  渾身の体当たりですら、彼のバランスを崩すには至らない。
  どころか、絵理はチェーンソー殺人鬼に完璧に受け止めきられ、腕を振り払う勢いで大きく跳ね飛ばされてしまった

  石畳の上を無様に転がり、切り裂かればら撒かれていた賽銭箱の残骸や小銭で体のあちこちが傷つく。
  その痛みでも、絶望は晴れない。
  頭の中ではぐるぐると、後ろ向きな思い出ばかりが走馬灯のように駆け巡っていた。
  それでも負けずに顔を上げた絵理の前にあったのは、そのカーキ色のズボンのしわが見える位置まで近づいて来ていたチェーンソー殺人鬼と、まるで血みたいに真っ赤なマ剣。
  更に顔を上げれば、うつろな瞳の殺人鬼が絵理を見下ろしていた。
  ゆっくりと、ゆっくりと、真紅のマ剣が振り上げられる。
  死が近づいてくる。逃げ場はない。  

  へっぴり腰の腰砕けのまま見上げた先。
  真紅のマ剣の向こうに広がる空に、絵理は不思議なものを見た。
  あたり一面を埋め尽くすほどの氷の結晶だ。


565 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:13:35 x77xuh3A0


   ――るる


  霧が、凍っている。
  空気中を漂っていた霧を構成する水の粒一つ一つが、氷の結晶に変わっている。
  それはまるで雪のように、白く、美しく輝いている。
  そして、その全てが、空に向かって登っていく。
  月に向かって飛んで行く。
  舞い上がる。
  舞い上がる。
  皆、皆。


   ――るるるるる


  幻想的な光景だった。
  目の前でチェーンソーを振り上げている殺人鬼すらも、その幻想的な空気と天上から近づいてくる足音に呑まれていた。
  振り上げられた真紅のマ剣の奥。空へと吸い込まれていく雪の行方を追い、見上げれば―――


   ―――どおるるるるるるるるる!!!


  月を背負ったバケモノが、空からまっすぐに降りてくる。
  振り上げられていた真紅のマ剣が、もう一本のチェーンソーによって割断される。
  絵理が後ろへ飛んだのはほぼ反射だった。そうしなければ死ぬと体が覚えていたから、考えるよりも先に体が動いた結果だった。
  飛び退った絵理の目の前を駆動する銀の鉤爪の群れが通り過ぎる。見慣れたチェーンソーだ。
  ぎゃんぎゃんばりばり、切り裂く音。黒いコートの切れ端が宙を舞う。
  音に釣られるように、チェーンソー男が振り返り、チェーンソー殺人鬼と顔を突き合わせる。
  絵理の目からは確認できないが、チェーンソー男の背後で振りぬかれている殺人鬼のチェーンソーから判断するに、男を殺人鬼が斬りつけたということだろう。
  つまり、チェーンソー男の標的が切り替わった。立ち上がれずにへたり込んでいる絵理から、絵理との闘争を邪魔する別人へ。


  どるるるるるるるるるる。
      どぅるるるるるるるるるるる。


  駆動するエンジンの音が、重なる。
  誰かの絶望が誰かの絶望と顔を突き合わせる。


566 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:13:48 x77xuh3A0




  まさに化け物同士の戦いだった。
  チェーンソーの殺人鬼がたたっ斬られた真紅のマ剣を再びチェーンソーに投影し、やたらめったらに斬りかかる。
  しかしチェーンソー男は化け物じみた身体能力でそれをすべて避けきり、逆に懐に潜り込んでチェーンソーで殺人鬼を傷つけていく。マ剣とチェーンソー、射程距離で大きく水を開けられているにもかかわらず、だ。
  チェーンソー男が殺人鬼を傷つけるたびに、空間にノイズが生まれていく。
  あれはきっと、チェーンソー殺人鬼にとっての『出血』を意味しているのだろう。
  マ剣や耐久力で感じていた化け物を敵に回しているという実感の裏づけとともに、もうひとつの実感を得る。
  ひょっとすれば、チェーンソー男ならばあの不倒の殺人鬼を正面から倒せるのかもしれない。

  無言で斬りあう二人の怪人。声よりも雄弁に、絡み合い弾き合う刃の音が語る。
  一進一退、弾きあげては弾き返し、押しては引いての斬り合いだ。
  殺人鬼は神社を―――この見慣れぬ町を背負って、侵入者である絵理たちを排除するように。
  チェーンソー男は絵理を背に、まるで殺人鬼の凶刃から絵理を守るように。

  自身のためにチェーンソー男が戦っている。絵理にはその光景は到底理解のできないものだった。
  確かに小梅から、サーヴァントとはマスターとともに戦うものだとは聞いていた。
  それでも絵理にとってのチェーンソー男とは倒すべき相手であって、ともに戦う理由なんてない。
  そんなことが出来るなら、こんなことにはなっていない。
  だが、それにしても。
  絵理に背を向けて絵理を殺そうとしていた何者かと戦うチェーンソー男の姿は、まるで―――

  殺人鬼が初めて間合いをはかり、チェーンソーにマ剣を灯したまま肩の高さまで持ち上げてチェーンソー男に向けて真っ直ぐに構えた。
  すっと空気が尖り、またしても大気がうねり出す。
  あの『絶望』が押し寄せてきた時よりも、構えている時間が長く、大気のうねりも大きい。
  何かが来る。しかもマ剣や『絶望』の波すら超える、強大な何かが。
  直感的にそれを悟った絵理は、すぐに行動に出た。
  チェーンソー男を助けるようで癪に障るが、それでもあの殺人鬼に太刀打ちできるのは現状チェーンソー男の攻撃だけだ。
  『絶望』を超える脅威が放たれたならば、絵理にきっと勝ちの目はない。
  『チェーンソー男ならば当然のように致命傷を与えることができる』という一点だけに、すべての希望を乗せる。


567 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:14:41 x77xuh3A0


  ガーターリングから新たに三本のナイフを取り出して投げる。
  放たれたナイフは夜霧を切り裂き、チェーンソー男の右肩、右胸、左わき腹へと迫る。
  チェーンソー男は当たり前のように振り返り、そのすべてを右上からの斬り下ろしで弾き落とした。
  チェーンソー男の体が、チェーンソーに引きずられるように少し沈む。その瞬間を絵理は待っていた。
  一気に駆け出し、チェーンソー男の頭を飛び越え、チェーンソー男と殺人鬼との間に割り込む。

  どるるるるるるるるるるるるるる!!!!

  聞きなれた音が背後から迫ってくるのを聞いて、絵理は地を蹴った。
  殺人鬼の横をすり抜けて背後に回りこみ、そのまま殺人鬼の背も強く蹴る。

  ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ!
  大量のノイズが空間に散らばる。
  蹴り足を地に付け構えを取る絵理の眼前に広がるのは、左肩にチェーンソーが深く食い込んだ殺人鬼の姿だった。
  体を一刀両断できずに胸の半ばほどで止まったチェーンソーの刃を、それでも無理やり押し進めるように、何度も、何度も、何度も力が込められる。
  その度に殺人鬼の体を切り開きながらチェーンソー男のチェーンソーが押し進む。
  それ以上進まなくなったチェーンソーを、チェーンソー男は力任せに抜き、抜いた勢いに任せて天を突くように高く振り上げる。
  まるで白い血飛沫のように、殺人鬼の体から飛び散ったノイズが宙を舞う。

「今!!」

  それにあわせて絵理も持てる力の全てを込めて、殺人鬼の体を強く蹴り上げた。
  絵理の渾身の蹴りの力で殺人鬼の体が浮き上がり、そこに合わせるように追撃のチェーンソーが振り下ろされる。
  怒声のようにチェーンソーが叫び。
  悲鳴のようにチェーンソーが鳴く。
  殺人鬼の手から離れたチェーンソーが暴れ、石畳をのた打ち回りあちこちを傷つける。
  途切れ途切れに響く、悲鳴のように甲高い石畳を削る音に、どさりという肉感的な音が加わる。
  見れば、左肩から腰のすぐそばまでを袈裟切りに切り落とされた殺人鬼の上半身が地面に落ちていた。
  殺人鬼の上半身は、血を流すことなく、そのままノイズになって消えていく。
  つられるように、切り伏せられる時に棒立ちの状態で固定された下半身も、さらさらとノイズとして溶けてなくなっていく。

  ノイズの晴れた跡には、持ち主を失って命を失ったようにおとなしくなったチェーンソーだけが残された。


【さいはて町のチェーンソー男 消滅】


568 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:15:04 x77xuh3A0


  重なっていたエンジンの音が消えた。
  残ったのは、いつもと同じ。生を実感させる絵理の鼓動と、重なるように脈打つエンジンの音。
  チェーンソーが空回り、重く空気を揺らし続ける。
  どっどっどっどっど。どっどっどっどっど。
  先ほどまでの共闘はまるでなかったことのように、絵理とチェーンソー男はいつものように睨み合っていた。
  絵理に関していえば、とてもいつものようにとはいかない精神状況だったが。

  空気が一段と冷えているのを感じながら、絵理の頭の中には先ほどまでの絶望的な走馬灯の代わりにいくつかの事実がぐるぐると回っていた。
  聖杯戦争という異常と、そこに呼び出された絵理とチェーンソー男。
  当然のように現れたチェーンソー男とは別のチェーンソーの殺人鬼。
  絵理の知らない場所で出つづけている被害者。殺人鬼に殺される寸前に押し付けられた絶望の数々。
  今日の間だけで連続して起こり続けたイレギュラーの数々。
  すべてをそれぞれ個別に『そんなこともある』で切ってしまえばそれで終わり。
  でも、それで終わりにはできない何かが、絵理の頭の中で組みあがろうとしていた。産声を上げていた。

  チェーンソー男は複数居た。
  つまり、絵理にとってのチェーンソー男が居るように、誰かにとってのチェーンソー男も居るのだ。
  例えば、先天的に見えてはいけないものが見え、両親からも忌まれた少女がその扱いに元凶が居ると思ったなら、その少女の前にもチェーンソー男は現れただろう。
  例えば、愛する娘のクローンの失敗作として母親に疎まれ、無残な扱いを受けていた少女が何かに原因を押し付けたなら、その少女の前にもチェーンソー男は現れただろう。
  例えば、最愛の少女を海の底に引きずりこまれ、世界中に絶望していた少女がその理由なき絶望に理由を求めたなら、その少女の前にもチェーンソー男は現れただろう。
  魔法の国の試験で手違いで悪魔と殺しあった少女にだって、その少女の手引きで殺し合いに巻き込まれた少女にだって、彼女たちにとってのチェーンソー男が現れる可能性はあったかもしれない。

  世界のつらいこと、苦しいこと、悲しいこと、酷いことの原因は全てあのチェーンソー男だ。
  でも、チェーンソー男は何人も居る。絵理の知っているものだけでなく、あのチェーンソー殺人鬼のように別の人物にとってのチェーンソー男も居る。
  殺人鬼のような別のチェーンソーを持った怪人が、夜な夜な人に絶望を押し付けながら殺していく。
  『世界に悲しみをもたらす黒幕である存在』が『複数存在する』。
  その答えはきっと、矛盾しているようで矛盾していない。
  チェーンソー男はきっと無数に存在するのだ。それこそ人間の数だけ。七十三億体くらい。
  聖杯戦争というやつでも絵理がチェーンソー男と離れられなかったのは、きっとこのチェーンソー男が、『絵理の抱えている』チェーンソー男だからなのだろう。

「……」

  そこまで巡り、絵理の頭にひとつの答えが浮かぶ。
  チェーンソー男が何者なのか。
  絵理がこれまで戦ってきた『世界に悲しみをもたらすもの』とは、結局なんなのか。
  有体に言い換えるならば、チェーンソー男の真名はなんなのか。
  数ヶ月の戦闘と積み上げられてきた雪崎絵理という個人の経験と、チェーンソー男が複数存在する事実と。
  出会ってきた要素たちが重なり合い、そしてようやく絵理はたどり着いた。あの日出会ってしまった存在の、その正体に。
  ああ。
  チェーンソー男とは。
  絵理の日常を狂わせた、世界に悲しみをもたらす悪の怪人の正体とは。
 
「あんたは―――」

  しんと静まった空気の中。
  絵理が口にした、『チェーンソー男』の正体。
  それは奇しくも、あの日―――この絵理の辿り着かなかった未来、絵理と山本がチェーンソー男との決着をつけた日、山本が口走った言葉によく似ていた。



  そうして、絵理はようやく顔を向けた。
  絵理の戦ってきた『チェーンソー男』……両親と弟を失った日、絵理が出会った『    』に。


569 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:15:20 x77xuh3A0





『そうだ』

  声の主は、チェーンソー男。
  無貌の奥の表情が、闇に浮かんだ三日月が、誰かの言葉を並べだす。

『お前だけじゃない。
 世界中の人間が、傷ついている。失う何かを諦めて、いつかの死を受け入れて、傷つきながら死んでいく。
 尊い戦いなんてない。名誉も、価値も、その場限り。いつか全てが無意味だと分かる。溶けて消えていく、この世のどこかに。
 全ての人間が、泣きながら、呻きながら、それでもどうしようもなく、失いながら、逃れられない死に向かって生きていく』

  チェーンソー男の言葉に、記憶の鍵がこじ開けられ、絵理の頭の中を常識で満たす。
  絵理だって本当は知っていた。
  心のどこかで気づいていた。
  両親と弟を奪ったのは交通事故だ。
  大事な人が死ぬのも、好きになった人が消えるのも、友達が遠くに行っちゃうのも、絵理に知ることができなくても必ず何か理由がある。
  悲しみは、誰かが、どこかで、何かをしただけなんだ。
  世界中の悲しみに黒幕なんか居ない。そんな都合のいい存在が居るはずがない。
  世界は誰かの都合の理不尽ばっかりだ。自分じゃどうにもできないやるせないことの連続だ。
  それでも、皆生きていくしかない。
  悲しくても辛くても理不尽でも生きていくしかない。誰かは死んでも、自分は生きているんだから。
  絵理がそこから目を背けただけで、世界はあいも変わらず回り続けて、皆が同じように誰かの間違いで傷つき続けているのだ。

『お前の戦いは、何も残さず消えていくだけの細雪。
 いつか無意味を噛みしめるために積み重ねられている細雪。
 全ての人間が積み重ねてきた、変哲もない、意味もない、無意味の積み重ね』

『お前は死ぬ。どれだけ何かを積み重ねても、最期には全てを失って悲しみ、苦しみ、孤独に死ぬ。
 お前は失いながら傷つくことしかできない。失うことと戦ったところで、勝利などそこにありはしない』

  チェーンソー男が言っている。
  いや、彼はずっと言っていたのかもしれない。
  受け入れろ、と。
  絶望を、理不尽を、不幸を、『チェーンソー男という存在を否定するもの』を、世界中の人々と同じように受け入れろ、と。
  そして『    』に向き合い、それと折り合いをつけて生きていけ、と。
  そうでなければ死ぬしかない。チェーンソー男に襲われて、永遠に治ることのない傷口から血を吐き出し続けて死ぬしかない、と。
  積み重ねられた過去の絶望に固執せずに、悲しみや苦しみや失うことをすべて受け入れて生きていけ、と。


570 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:16:01 x77xuh3A0


  もし、絵理がすべてを受け入れたならば、きっと絵理は楽になれる。
  チェーンソー男と戦うことはない。
  何時間も寒空の下で待つことはない。
  山本とだってもっと気を抜いて付き合うことが出来る。
  限られた時間の中で、くよくよせずに、出来る限りの幸せを謳歌できる。
  きっと賢い生き方だ。きっと今より胸を張れる生き方だ。
  遠い昔に置いてきた家族が見たら、きっと微笑んでくれる生き方だ。

『受け入れろ』

  今度ははっきりと、力強く。その一言が告げられる。
  すべてを受け入れる。チェーンソー男を生み出してしまうような『    』と向き合い、それを受け入れて生きていく。
  きっと大人なら。
  大人じゃなくても、頭のいい子なら。要領のいい子なら。物分りの良い子なら。
  なにかを失ってしまって悲しみや苦しみでその場ではわんわん泣いたって、そのうち心のぽっかり空いた部分に別の何かを埋めて。
  そして、いつかはそうやって受け入れることに慣れていって、大人になって、理不尽な世界と折り合いをつけて生きていくんだろう。

『受け入れろ』

  それは賢くて、胸を張れて、失った誰かも喜んでくれて。

「……嫌」

  でも、駄目だ。
  絵理には出来ない。
  絵理はまだ大人じゃない。
  絵理はまだまだ、大人未満の少女だ。
  あの日突然押し付けられた悲しみを、苦しみを、絶望を、理不尽を、不幸を、何もなしに受け入れるなんて出来はしない。

『受け入れろ』

「そんなの、嫌」

  声に出して否定する。
  涙に濡れて、後ろ向きになって、いつかの傷口を気にしながら傷を増やして生きていくなんて絶対に嫌だ。
  誰かがそんな絵理を許しても、絵理はきっとそんな自分は許せない。
  許せたならそもそもチェーンソー男になんて会っていないに決まっている。
  それでも、受け入れろというならば。  

「私はたぶん、なんて言われても絶対に受け入れられない……だから私は、あなたを倒す」

  結局、そこに帰結する。
  チェーンソー男との戦い。それが絵理の青春だ。
  ついでに言うなら山本と絵理の二人の青春だ。呆れるほどに死にたがりでも、それが絵理の青春だ。
  チェーンソー男と、あの日以来チェーンソー男という形で絵理に関わってきた『    』と戦う。
  たとえその結果体をばらばらに引き裂かれて死ぬかもしれないとしても、あの日出会ってしまった『    』に真っ向から食ってかかり、納得いくまで殴りあう。
  この判断を、きっと誰かは愚かだと笑うだろう。
  でも、誰かに納得されなくてもかまわない。他人の理解なんて必要ない。
  青春に意味なんてない。理屈なんてない。王道も、邪道もない。
  絵理が走ると決めたこの道が、絵理の青春だ。

「決着をつけにきたわ。これまでの決着を」

  『これ以上チェーンソー男の犠牲は出さない』という戦う理由は、いくつもの出会いのせいで少し変わってしまったが、それでももうこの足は止まらない。
  決着を付けに来た。
  チェーンソー男と『    』に打ち勝つことで、この戦いの幕を引く。
  死にたがりの青春が走り出す。
  眼が眩むほどの巨大で強固な絶望に向かって。


571 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:16:55 x77xuh3A0





  チェーンソーが再び唸り声を上げ、ぎゃんぎゃんぎゃりぎゃりと地を駆ける。
  軌道の見切りやすい、右下からの斬撃だ。
  もうへっぴり腰は治っている。絵理はまるで柔道の受身のように体を回してチェーンソーとは逆側へと避ける。
  体勢を立て直しながら太もものガーターリングに手を伸ばす。ナイフはもう一本しか残っていない。この一本は、確実なとどめの瞬間まで取っておく必要がある。
  目に付いた賽銭箱の残骸といくらかの小銭を拾い、がむしゃらにそれをチェーンソー男目掛けて投げた。
  プロ野球選手にも引け劣らない速度で放たれた小銭と木片がチェーンソー男にぶち当たる。
  だが、絵理だってその程度で彼を止められるとは思っていない。

  チェーンソー男が絵理の即席散弾攻撃に対応している間に少しだけ距離を取り、手水鉢に置いてあった柄杓を二本引っつかむ。
  振り返れば、もう目の前までチェーンソー男が迫っていた。
  手水鉢を足場にして、チェーンソー男の頭上目掛けて飛び上がる。と同時にチェーンソーが横一文字に振りぬかれ、絵理の真後ろにあった手水鉢を真っ二つにたたっ斬った。
  ぎゃんぎゃんぎゃりぎゃりという音とともに、手水鉢が上下で半分に切り分けられる光景は、おぞましくもあり、けれどもなんだか馬鹿らしくもあった。
  そのままくるんと空中で体を回し、姿勢を低くしたまま着地。と同時に、ナイフと同じ要領で柄杓を投げる。
  手水鉢を斬り終わって振り返ったチェーンソー男は、やはり当然のようにその二本の柄杓をチェーンソーで迎撃した。
  それがナイフなら、チェーンソー男の超人的な技量によってまったく同じ軌道で絵理の方に跳ね返されていたことだろう。
  だが、今回投げたのは竹製のかなり細身の柄杓だ。そんなものをチェーンソーで迎撃すれば当然切断してしまう。
  切断された柄杓が上空に放り出され、そのまま落下。かぽんかぽーんと小気味のよい音を立ててチェーンソー男の頭の上に降り注いだ。
  別にチェーンソー男を馬鹿にしたかったわけではない。時間を稼ぐために『迎撃』を誘い出したかっただけだ。
  チェーンソー男が迎撃していた間に、絵理はすでに目的を達成している。

  迎撃が行われる数秒の間に絵理が手に取ったのは、殺人鬼が残したまま消えてしまったチェーンソーだった。
  マ剣や『絶望』やそれ以上の力に期待したわけではないし、そもそも絵理はチェーンソーの使い方がわからない。
  だが、太ももに残ったナイフ以外で唯一の武器として使えそうな武器だ。倒したいならこれも使うしかない。

「こ、んのっ!!」

  ハンマー投げのようにぐるんと一回転して助走をつけ、チェーンソーを投擲する。
  チェーンソーはぐるぐると回転しながらチェーンソー男の胴体目掛けて飛んでいった。    
  勢いは十分。当たれば大事な骨の一本や二本はへし折ってしまいかねない攻撃。
  だが、チェーンソー男はやはりその超人的な身体能力で体をねじり、飛び上がり、走り高跳びのようにチェーンソーを飛び越え、そのまま石畳で削りながら走り出した。
  逃げなければ。
  そう思っても、咄嗟に体は動かない。体はチェーンソーを投げた際の遠心力に引っ張られたまま、バランスは即座には立て直せない。

  チェーンソーが下から上へ、絵理の体の真ん中を通るように振り上げられる。
  無理やり上半身をそらすが、チェーンソーの刃は無慈悲にも絵理の体に食い込んでいた。
  ぎゃんぎゃんばりばり音を立てて、絵理の体が、縦に半分、真っ二つに割られる。
  そして絵理はチェーンソーを降りぬかれた勢いで、上空に跳ね上げられてしまった。
  視界の端には、絵理の未来を示すように、真っ二つに切り開かれ端々が血に濡れた鎖帷子が映っていた。


572 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:17:14 x77xuh3A0


  やっぱり粗悪品じゃ駄目だ。
  それ見たことか。鎖と呼ぶには弱すぎる。
  一振り受ければ見てのとおり、真っ二つのバラバラだ。

「……まだ、まだ!」

  だが、立ち止まってはいられない。
  跳ね上げられた勢いそのままにくるりと宙で一回転し、着地をこなして前を向き、疲れ知らずの両足に力を込める。
  武器はないけど。
  勝ち目もないけど。
  どうすればいいかなんてわからないけど。
  それでも走るしかない。
  走り続けるしかない。
  血が流れても。
  傷が傷んでも。
  力が続くなら走るしかない。
  青春ってのはそんなもんだ。
  一山いくらの高校生、雪崎絵理の青春だって、結局、がむしゃらに走り続けるものなんだ。
  どこまで?
  無論死ぬまで。もしくは満足するまで。
  立ち止まってしまったあの日から、未来に辿り着けるまで。
  絶望を乗り越えると決めた青春が、輝き出すその日まで。
  走って、走って、走り続けて、ゴールテープを突っ切って。
  千年の冬を突き抜けて、あの日霧の向こうに消えた青い春が始まるまで。

  目の前に広がる海より広い絶望を、助走をつけて飛び越えろ。
  迫る鈍色の波音。エンジン駆動の潮騒。砕ける飛沫は鉄の爪。
  世間の荒波が、この世界を満たす大渦が、絵理を飲み込もうとしたって。
  怖気づいて、立ち止まったらそれで終わりだ。

  蹴りをつけろ。蹴りをつけろ。何度も何度も心が叫んでいる。
  心の叫びを受け止められなかった、耳をふさぎ続けた根性なしな絵理はもう居ない。


573 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:19:04 x77xuh3A0


『鎖帷子だ!!』

  直感が叫ぶ。

『脱ぐんだよ!! 脱いで捨てればいい!!』

  的外れな直感。
  びっくりするほど鈍感で周囲の見えていない、まるで山本のような直感だ。
  脱いでる隙に攻撃されたらどうするとか、脱いだあと何になるとか考えられてない。

  だが、あえて従うことにした。
  ロマンチストになったつもりはないが、それでも、その直感はチェーンソー男と戦ってきた絵理の直感でもある。
  信じる根拠なんて、その程度でかまわない。
  上段から唐竹割りに振り下ろされたチェーンソーを急ブレーキで避け、一歩バックステップして追撃もかわす。
  同時にジャケットごと鎖帷子を脱ぐ。多少上半身の動きは楽になったが、それで何が変わるというのか。

『持ってちゃ駄目だ、邪魔だから! 投げろ! 投げちゃって! ほら、ぽいって!』

  直感が叫ぶ。くだらない言葉を、まるで警鐘のように何度も何度も。
  言葉に導かれるように、体が動く。
  これまでの戦いで見せた力強い投げではなく、非力な女の子みたいな下投げで、チェーンソー目掛けて鎖帷子を放る。
  チェーンソー男は知ったことかといわんばかりに、鎖帷子ごと絵理を斬ろうとまたチェーンソーを振るった。
  横薙ぎの一線が鎖帷子を跳ね除ける。その勢いに、絵理も思わずバランスを崩し、こけてしまう。

  どるん、どるん、どるん。

  こけた衝撃から立ち直れば、絵理のちょうど真上に、チェーンソーが構えられていた。
  万策尽きた。最期の審判の時が来た。
  あとは、絵理に向かってあのチェーンソーが振り下ろされ、ぱかっと頭を割られれば、それでこのお話は終わりだ。

  ――がが、が

  だが、絵理の悲鳴よりもさきに、チェーンソーが異音をあげた。
  異音に不意を突かれ、絵理も、チェーンソー男も、揃って異音の元へと視線を注ぐ。
  見れば、鎖帷子の無数の鎖がうまいことチェーンソーの刃に引っかかってしまったらしく、鎖帷子がチェーンソーの露出していない部分に巻き込まれていた。

  どぅるん、どぅるん、ど、ど、ど―――が。

  切り崩せない量の鎖帷子を巻き込んで、チェーンソーの回転が止まる。
  途切れないと思った足音が、ついに止まる。
  いや、止めた。
  絵理があの日以降に手に入れたこれっぽっちの『幸福』が、痛みを伴う絶望の連鎖を止めたのだ。
  その程度の幸福でも、絶望の足音は、『世界に悲しみをもたらす悪の怪人』は止まるのだ。
  頭の中に響いていた山本によく似た短絡的な直感は、知ってか知らずか、絶望への特効薬を差し出していたのだ。


574 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:19:43 x77xuh3A0


  振り上げられた最後の審判は、振り下ろされない。
  理解したその一瞬。
  足は勝手に動いていた。
  絵理は絶望と向き合い、立ち上がり、歩き出していた。
  立ち上がった勢いでむき出しの心臓に向けて、太ももにつけたままだった最後のナイフを突き出す。

  一撃を繰り出すその刹那、フードの向こうの顔と目が合った。
  男なのか女なのか、妙齢なのか若年なのかも分からない顔。
  しかし、最後の瞬間だけは違っていた。見覚えのある顔をしていた。
  絵理の父の顔。
  絵理の母の顔。
  絵理の弟の顔。
  そして、泣き出してしまいそうなままの今より少し幼い絵理の顔。
  チェーンソー男は……あの日以来絵理の世界の真ん中だった存在は、あの日のままの『    』は、そんな顔をしていた。

  突き刺さる一撃。
  その一撃は決別ではない。
  その一撃は、踏破。遠いあの日を乗り越える一撃。
  ナイフ越しにチェーンソー男の心臓が、大きく脈打つ。


575 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:20:10 x77xuh3A0




  チェーンソー男の心臓が一度大きく跳ね、そして体を巻き込んで爆ぜた。
  同時にチェーンソーも爆発し、あたりに鎖帷子の破片がばら撒かれる。
  空中の何かが遊爆を起こし、強い力が渦巻く。
  青白かった夜の神社の真ん中に、眩い橙色の光が生まれ、天に昇っていく。
  まるで『憑き物が落ちた』ように、チェーンソー男の纏っていた強大な力が天に登っていく。

  絵理には到底理解できないその力。
  それはきっと、魔力と呼ばれていたもの。
  それはきっと、『チェーンソー男』を……絵理がずっと戦ってきた何かを聖杯戦争に繋ぎとめていた鎖。
  そしてそれはきっと、数ヶ月間絵理に生きる希望を与えてくれていた後ろ向きな幸せの鎖。
  前を向いて歩いていくと決めた絵理にはもう必要ない、絵理がばらばらになってしまわぬように絵理という形に保ってくれていた鎖。

  ぐらりとチェーンソー男の体が揺らぐ。
  眩暈でも起こしたように、頭を抱えて体を捩じらせ。
  そして、月に上っていった魔力を追うように、空へ向かって飛び上がっていった。
  絵理が見上げても、すでにそのありきたりなホラー映画の悪役みたいな姿はない。
  まるで夢か幻かのように、さっぱり消えてしまっていた。
  いつもとは違う、まるで本当に消滅してしまったかのような消え方。
  だが、絵理は知っている。
  不死の怪人は死なない。
  チェーンソー男が死ぬことはない。
  絵理があの日出会った『    』は、決して消えることはない。
  死んだように見せかけて、消え去ったように見せかけて、再びどこかに姿を隠すだけだ。
  そしていつまでもいつまでも、絵理を殺す機会を伺い続けるだろう。

  それでも、絵理にはわかっている。
  少なくともチェーンソー男がこの先現れることはきっとない。
  夜が来ようと、絵理が危ない目に会おうと、
  雪崎絵理が再び『この世には悲しみの原因たるチェーンソー男が居るのだ』なんて馬鹿なことを思わないかぎり、きっと。
  雪崎絵理が『    』に打ち勝って、後ろ向きな幸福に憧れず、前を向いて世界と戦い続けているかぎり、きっと。

「さよなら、チェーンソー男」

  言葉が夜の風に乗って消えていく。
  チェーンソー男が吸い込まれていった先。
  霧の晴れた夜空の向こうでは、今にも落ちてきそうな満月が駆け抜けた絵理の青春たちを見守っていた。

「さよなら、私の青春」

  絵理はもう一度だけ、夜空の向こうに消えてしまった死にたがりだった青春にさよならを告げて。
  そのまま天を仰ぐように仰向けに倒れた。


【チェーンソー男  打倒、もしくは踏破(実質的脱落)】


576 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:20:26 x77xuh3A0





「はは、痛いなあ、もう」

  縦に切り裂かれた傷口の傍を撫でる。血はもう止まっていた。
  真っ二つだったところが、鎖帷子のおかげで皮一枚からもう少し程度でチェーンソーの刃を防げたらしい。
  防御力1.65倍。成程、馬鹿には出来ない。
  それでも胸に縦真一文字の傷跡が出来てしまった。時が経てば目立たなくなるだろうが、お嫁には行きにくい身体になってしまった。

「でも、さ」

  体力はもうかけらも残っていない。
  人間離れした身体能力も、チェーンソー男とともに手放してしまったらしい。
  体がだるい。そして鉛のように重い。もうバク宙なんて絶対にできないだろう。
  でも、この地に足ついた体の重さは、絵理も嫌いじゃなかった。

「上出来、じゃないかしら」

  チェーンソーの炸裂に巻き込まれて破裂した鎖帷子の鎖を一つ拾い上げる。
  もし、チェーンソー男を倒したといえば、山本はなんというだろうか。
  「あれに勝てるのかよ」と驚くだろうか。「なんで置いてくんだ」と怒るだろうか。
  「どうやって倒したんだ」と聞くだろうか。「一人で行くなんて、危なすぎる」と呆れるだろうか。
  たぶん全部だ。
  驚いたり、怒ったり、呆れたりしながら、二人でずっと話すんだ。
  もう戦うこともないのに、二人で集まって、あの日は危なかったとか、あの日は死んだと思ったとか、話すんだ。
  冬の寒い日に、あの日以来のお鍋を食べながら。
  そしていつか。
  この一風変わった青春も、昔のことになるんだろう。
  二人揃っての命がけの日々も、笑い話になる日が来るんだろう。

「……会いたいなあ、山本くんに」

  口元が緩んでいるのが分かる。自然に笑みがこぼれていた。
  笑顔のおかげでようやく分かった。
  雪崎絵理は、きっと、乗り越えられた。
  あの日の『    』を泣きながら受け入れるのではなく、涙を拭いて乗り越えられたんだ。

  ちぎれた鎖を、指輪のように指に重ねてみた。
  空に透かせば、月の光が、指輪にあしらわれた宝石のように輝いていた。
  なんだか、ちょっとだけ大人になれた気がした。
  何者にも遮られない月明かり。歪に残った青春の欠片。
  死にたがりの青春を一歩踏み越えた絵理への、世界一の贈り物だ。


577 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:21:05 x77xuh3A0


☆シルクちゃん


「どう?」

「死んではいねえな。気を失ってるみたいだ」

  ハートの女王を倒し、いつの間にかロンドンの市街から元通りの様相へ戻っていたさいはて町を歩いていたシルクちゃんたちの耳に届いたのは戦闘を知らせる音だった。
  音を頼りに駆けつけてみれば、一人の少女がサーヴァント(バーサーカー)と争っていた。
  少女のほうはどうやら肉体強化系の魔術か宝具が付与されているらしく、まさに人間離れした大立ち回りを繰り広げ。
  そしてバーサーカーを倒したと同時に少女の身に影響を与えていた宝具も消え去り、後には気絶した少女だけが残った。

  少女が月にかざしていた手が力をなくして倒れたのを見計らい、シルクちゃんたちは彼女に近寄り、様子を確認する。
  少なくともランサーが近くに魔力の反応を感じていない以上、導き出せる結論は『彼女が自身のサーヴァントを自身のサーヴァントの宝具で倒した』ということくらいだ。

「にしても、おかしな話だな。ってことはつまり、自分のサーヴァントと戦ってたってことか?
 なんでそんな意味のないことをやってたんだ」

「誰かにとって意味が無いから、いいんじゃないか」

  彼女に何が起こっていたかはシルクちゃんにだってわからない。
  それでも、彼女にとっては意味があることで、達成感や満足感があることだったはずだ。
  横たわっている少女の笑顔が語っている。『何者にも理解できない、余計なものを手に入れた』と。

「無意味で無価値でくだらないけど最高のエンディングだよ、彼女にとっては。きっと、ね」

  散らばった鎖の欠片を一つ、預かっていく。決して今の彼女の笑顔を忘れないように。
  いつか。もし、シルクちゃんが復讐を遂げて……いつかの未来に忘却の彼方から『世界』を取り戻せたならば、彼女もその世界に残したい。純然たる『余計なもの』として。そう思ったからだ。

「じゃ、終わりだ」

  拾い上げた鎖の欠片をポケットに入れ、シルクハットを深くかぶり直す。

「感傷に浸るのは終わりだ。都合のいいことに、どっかの一組が勝手に脱落してくれた。
 彼女がどんなエンディングに辿り着いたとしても、私たちにとっては、それだけで十分だ。
 少なくともまだ二体居る。バネ足ジャックか、ここの主か。どっちか、倒しに行こう」

「そいつぁいい。丁度、消化不良だったんだ」

  階段を下りる前、シルクちゃんは後ろ髪を引かれるように、一度だけ、神社の方を振り返った。
  やはり心のどこかでは少しだけ、彼女をうらやましく思っているのかもしれない。
  シルクちゃんの戦いはまだ始まったばかりで、当分素敵な結末も見えそうにない。
  彼女のように笑える日が、いつかシルクちゃんにも来るのだろうか。

  そんな些末な思いを乗せながら眠っている少女の姿を一度だけ確認すると、シルクちゃんはまた何事もなかったかのように歩き出すのだった。


578 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:21:19 x77xuh3A0


【???/さいはて町 神社/一日目 夜】

【シルクちゃん@四月馬鹿達の宴】
[状態]魔力消費(大)、魔力回復中
[令呪]残り三画
[装備]魔法の羽ペン
[道具]マツリヤの名刺、古ぼけた絵本、ぬいぐるみ、鎖帷子の欠片
[所持金]一人暮らしに不自由しない程度にはある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、復讐する。
1.さいはて町に興味。『バネ足ジャック』とさいはて町のサーヴァントを打倒?
2.探索が終われば、一旦帰還する。
4.フェイト・テスタロッサに対しては――
5.ルーラーへの不信感。
6.時間があれば『本』について調べる。
[備考]
※アサシン(ウォルター)を確認しました。真名も特定しています。ただしバネ足ジャックとしての姿しか覚えていません。
※偽アサシン(まおうバラモス)を確認しました。本物のアサシンではないことも気づいています。
※フェイト・テスタロッサを助けるつもりはありません。ですが、彼女をルーラーに突き出すつもりもありません。
※令呪は×印の絆創膏のような形。額に浮き上がっているのをシルクハットで隠しています。
※出展時期は不明ですが、少なくも友達については覚えていません。
  例の本がどの程度本編を書いているのかは後の書き手さんにお任せします。
※魔法の羽ペンは『誰かの創った世界』の中でのみそうぞう力を用いた武器として使用できます。それ以外ではただの羽ペンと変わりありません。
※『ハートの女王様』を倒したので、古ぼけた絵本とぬいぐるみを手に入れました。


【ランサー(本多・忠勝)@境界線上のホライゾン】
[状態]魔力消費(中)
[装備]『蜻蛉切』
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:主の命に従い、勝つ。
1.さいはて町散策。
2.『バネ足ジャック』ともう一戦交えたいが。
3.鹿角に小言を言われちまうな、これは。
[備考]
※『バネ足ジャック』の真名を知りました。
※宝具『最早、分事無(もはや、わかたれることはなく)』である鹿角は、D-7の奉野宅に待機しています。


579 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:21:46 x77xuh3A0


☆エンブリオ


「やってくれるよ」

  その一言が、今のエンブリオの感情の大部分を表していた。
  彼女が見上げているのは、『近づいてはいけない場所』と呼ばれていた場所だ。
  ただし、もともとそこにあったはずの傾いた微笑みの像はどこにも見当たらない。
  その代わりに、代わりというには大きすぎる古めかしい時計塔が聳え立っていた。

「好き勝手に書き換えられてる。気分がいいもんじゃない」

  侵入者の宝具によって展開されたロンドンの街並み。
  それは侵入者が宝具の解放をやめれば自然と消えるはずだった。
  事実、立ち込めていた霧とほぼすべての建物は、さっさと消え去ってしまった。
  ただ一つ、時計塔だけを残して。

「やんなるなぁ、これ。景観ぶち壊しだよ」

  『近づいてはいけない場所』に聳え立つ時計塔。
  このさいはてで最も罪深い場所に現れた誰かのために鐘を鳴らす場所。
  その建物の持つ意味を、エンブリオはまだ知らない。

「で、君はこんなところでなにやってるの」

  時計塔の下、押しても引いても開くことのない入り口のすぐ横。
  どこから用意したのか屋台を引いてきていた番人・金に汚い天使に声をかける。
  金に汚い天使は細い目の端を下げてどこか誇らしげに笑いながらこう言い切った。

「折角ですしここを新名所にしようかと」
「別にいいけど、ここもともと『近づいてはいけない場所』だし今も瘴気出てるから観光客は来ないと思うよ」
「なんですと」


580 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:22:09 x77xuh3A0


  屋台に大量に詰まれた『さいはて銘菓 時計塔饅頭』を前に呆然と立ち尽くす金に汚い天使を見ながら考える。
  『やってくれる』と言ったのは時計塔についてだけではない。
  時計塔の出現と前後して、用意していた番人・チェーンソー殺人鬼の消滅を確認した。なんとなくそう感じた。
  それもまた侵入者の仕業だ。時計塔の宝具と同一人物かは分からないが、脅威がさいはてに残っていることに変わりはない。

「それで、チェーンソー殺人鬼が負けちゃったんだけど」
「ふふふ、チェーンソー殺人鬼がやられましたか……まあ、彼は番人の中では私より強力……
 あれ、もしかして私ヤバいんじゃないですか」
「そりゃあまあねえ」

  金に汚い天使はマホウこそ使えるが、全てのスペックでチェーンソー殺人鬼を下回っている。
  その殺人鬼が倒されたとなると、相手は金に汚い天使を遥かに凌ぐ力を持っているに決まっている。
  もし殺人鬼を倒した人物と金に汚い天使が出会って戦うことがあれば彼女も即座に倒されてしまうだろう。

「一日目からこれっていうのはちょっときついなあ」

  侵入者が現れることは想定内だ。だが、チェーンソー殺人鬼があっけなく倒されることまでは考えていなかった。
  正直、敵の力量を下に見ていたかもしれない。あるいはさいはての住民たちを高く買いすぎていたかもしれない。
  子供向けの戦隊物番組じゃないんだから、ご丁寧に番人を一体ずつ向かわせる必要はない。相手の力量に合わせて囲んで棒で叩くべきだったのではという後悔も、今となっては意味がない。
  そして追い討ちのように、チェーンソー殺人鬼が二度と出せないように彼の存在の上に何かが塗りつぶされている。
  単なるノイズならまだしも一度完全に倒された『特殊なキャラクター』は二度と現れない、さいはて町での自然の摂理だ。まあ金に汚い天使のように例外も居るが。

「どうするかなあ、本当」

  ヨウスケとトオルが出せないのはまあなんとなくわかっていたが、昼食会のメンバーすら出せないというのは完全に予想外だった。あれから数時間経つのにいまだにショックが抜け切れていない。
  とりあえず出しておく必要があるからいずれ追加はしておくが、開拓者と昼食会という選択肢無き今呼び出せる番人はかなり数が限られている。
  その上更に一度出した番人は二度と再利用することが出来ないとくると、今後は出す順番や出す人数など戦略を立てていく必要があるだろう。

「はあ、何の因果でサーヴァントになってまでこんなやりくりしなきゃならないのか」
「大変ですねえ。お饅頭食べます?」
「じゃあ一個もらおうかな」
「えっ、じゃあ3000Gです」
「……」

  生意気な番人をぽかしと叩き、顎に手をやり考える。
  侵入者は依然さいはて内をうろついているとみて違いない。きっとこれから先も町中で好き勝手に暴れていくだろう。
  タイミングの悪いことに玲もさいはてに帰ってきたらしい。
  町を守らなければならない。玲も守らなければならない。侵入者にはさっさと出て行ってもらって、いつかの未来が来る日まであの日のままのさいはてを営み続ける。
  やるべきことはいくつもある。
  しばらく休んだことで魔力が少しは回復したが、ここから先にはまだまだ困難が待ち受けていそうだ。
  エンブリオは、ひったくった饅頭を食べながら行動の優先順位を整理し始めた。


581 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:23:03 x77xuh3A0


【???/さいはて町 時計塔前/1日目 夜】

【エンブリオ(ある少女)@さいはてHOSPITAL】
[状態] 魔力消費(小)
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:引きこもりながら玲を見守る。
1.さいはて町の守護者を作り、さいはて町を破壊から守る。
2.玲が緊急事態に陥った場合はさいはて町から出るのもやぶさかではない。
[備考]
※『金に汚い天使@さいはてHOSPITAL』を召喚しました。現在、特に指示は出していません。強さはチェーンソー殺人鬼よりも弱いぐらいです。
※紳士の昼食会を召喚することは出来ませんでした、原因は不明です。
※一度倒された番人の再生産は出来ません。現在倒された番人は『チェーンソー殺人鬼』です。



[地域備考]
※さいはて町まんなか区近づいてはいけない場所にあったEX【不思議の国のアナタ】が消滅し???【時計塔】が現れました。
 現在は入ることはできません。いつか入ることができるようになるかもしれません。
 入り口付近で名物時計塔饅頭が売られていますが、外の包み以外は普通の饅頭です。
 騙されないように注意しましょう。ストップ詐欺被害。
※さいはて町しらぬい通りあたりに漂っていた霧が晴れました。


582 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:24:02 x77xuh3A0





  る、る―――

  歌が聞こえる。
  誕生を祝う歌が。
  退院を祝う歌が。
  再起を祝う歌が。

  り、ら、り―――
  らら、りら、り―――
  凍りついた霧の結晶が地面に落ちて溶けていく。
  溶けた雪が水になり、月の光を浴びて鏡のようにきらりと輝く。

  月下にふわりと人形が舞い降りた。鏡の世界の向こうから、宝物を探しに。

「素敵な笑顔」

  散らばった青春の残骸を踏みにじり、眠り続ける絵理に歩み寄っていく。

「そのまま、幸せな夢の中で眠り続けましょう」

  白い薔薇の茨が絵理の身体を包み込む。
  そして、霧の生み出した水滴の鏡面に、彼女を引きずり込んだ。

「おやすみなさい、いい夢を」

  りり、らら、り―――

  歌を聞き届けるのは魂を持たない二体の裁定者。二体は、再びどこかへ消えていく。
  駆け抜けた死にたがりの青春を踏みにじり、自分勝手な殻の中へ。

  る、らら、るるる。

  ついにずっと引きずっていた昨日を乗り越え、明日へと歩き出した少女。
  少女はこれから先、ずっと幸福な明日の夢を見続ける。
  チェーンソー男を倒してからの『めでたしめでたし』の先にある、そうなっていたかもしれない世界の夢を。
  目覚めることのない眠りの中で。
  いずれ肉体を失い、魂を失い、完璧な少女の血肉として世界から消えるその時まで。





―――「さようなら、私の青春」
     少女は青春を乗り越えて大人になる代わりに、少女ではいられなくなりました。
     そうしてかつて少女と呼ばれていた子は、少女たちだけの舞台の上には居られなくなったのでしたとさ。
     めでたしめでたし。


【雪崎絵理 脱落】


583 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:27:27 x77xuh3A0
投下終了です。
早速ですが修正です。

>>567
【さいはて町のチェーンソー男 消滅】

【チェーンソー殺人鬼 消滅】

となります、wikiで修正します。
他に誤字脱字、修正箇所などあれば指摘をお願いします。


あと、突然現れたきらきーに関しては予約時点での脱落バレを防ぐため今後予約したりしなかったりすると思います。
時間の矛盾や予約かぶりを起こすつもりはありませんが、何か問題があればよろしくお願いします。


584 : 青春にさようなら  ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/10(火) 02:29:45 x77xuh3A0
投下のついでに

アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
高町なのは
アサシン(クロメ)
白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)

予約します


585 : 名無しさん :2016/05/10(火) 17:49:24 kHYW0KKEO
投下乙です

サーヴァントを自分で倒しちゃった非少女は鏡の中にしまっちゃおうね〜


586 : 名無しさん :2016/05/10(火) 22:42:53 t5KuHJOs0
投下乙です
これはまたすごい話だ…絵理ちゃんが熱く、そして哀しい。山本に似た声を胸に響かせながら、最後まで戦い切ったんだなあ。
チェーンソー男の幻想的な登場、この世界で明かされた彼の「意味」、ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂの二次創作としてもすごく魅力的な話、否、主従でした。
「青春にさようなら」というタイトルがまた皮肉というか凄烈というか、死にたがりの青春を乗り越えて、明日へ向かって踏み出せたと同時に、昨日までの「少女」ではなくなってしまうのか…だからこそのこの結末。シルクちゃんがうらやましげに見やった姿が胸を打っただけになおのこと辛い。
さいはての町のチェーンソー殺人鬼初め、様々なギミックを用いて演出された一つの物語とその終わりの美しさに魅せられました。


587 : ◆PatdvIjTFg :2016/05/15(日) 21:41:35 YBxtWuJI0
現予約を破棄し、

諸星きらり&バーサーカー(悠久山安慈)
江ノ島盾子&ランサー(姫河小雪)
双葉杏&ランサー(ジバニャン)
木之本桜&セイバー(沖田総司)
蜂屋あい&キャスター(アリス)
中原岬&セイバー(レイ)

で再予約させていただきます。


588 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/05/16(月) 22:50:35 kgMovqKs0
期限内の投下が不可能と判断したので現予約を破棄させていただきます。


589 : ◆2lsK9hNTNE :2016/05/27(金) 01:05:48 Is4ny88w0
大道寺知世
山田なぎさ
予約します


590 : ◆2lsK9hNTNE :2016/06/03(金) 00:38:04 cnVL0Cpg0
期限に間に合わないので一旦予約を破棄します


591 : ◆2lsK9hNTNE :2016/06/09(木) 08:32:52 KnScXZJ20
大道寺知世
山田なぎさ
再予約します


592 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/09(木) 21:04:23 RIakiBlA0
アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
高町なのは
アサシン(クロメ)
白坂小梅&バーサーカー

再予約します
ついでに

フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)
キャスター(木原マサキ)
プレシア・テスタロッサ

も予約します


593 : ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:21:57 Z0PNq4F60
書きあがったので先に

フェイト・テスタロッサ&ランサー(綾波レイ)
キャスター(木原マサキ)
プレシア・テスタロッサ

投下します。


594 : もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:22:54 Z0PNq4F60


キャスターからの『協力』の要請にフェイトが言葉を濁したのは、なにより自身の置かれた境遇が関係していた。
フェイトは今、全参加者を対象にした捕獲令が敷かれている。
捕獲したフェイトの受け渡し場所が図書館ということは、図書館にはフェイトを待つなにかが潜んでいるのだ。
それはもしかしたら、あのルーラーかもしれないし、別の何者かかもしれない。
そして、その何者かはフェイトに対して会うべき理由を見出している。
フェイトも気づかないうちに、相手は勝手にフェイトと会わなければならないと決め、捕獲令まで持ち出した。
それが空恐ろしく、その先に何があるかもまた闇の中であるがゆえに、フェイトは言葉を濁すしかなかったのだ。

フェイトは戦い続けなければならない。最後の一人になり、聖杯を手に入れるその日まで。
だからこそ、不用意な行動を起こしてはならない。

(ランサー)
『何』

静かな声が、耳からではなく脳に直接届く。
確かな魔力の感触が、あの死体のように青白い英霊の少女が傍にいることを教えてくれる。

(私は、どうするべきだと思う?)

ついて出た問いは迷い。
不用意な行動を起こしてはならない、とわかっているが、それでもフェイトは迷っている。

『私には分からないわ。他の人ならきっと上手な答えを見つけられるんだろうけど』

ランサーは淡泊にそう答えた。
それは半ば予想通りの答えといってもいい。
結局、最後の判断を下すのはフェイトだ。フェイトが考え、答えを導かなければならないことだ。


595 : もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:24:36 Z0PNq4F60


ちらりと見上げた先にあるのはキャスターの背。
キャスターは何も言わず、ただ『当然そうなる』と確信しているように図書館へと向かっていた。
フェイトは黙ってその背を追っている。しかしなお、フェイトの方針は定まっていない。
いっそこの場でキャスターに闇討ちをかけ、そのまま逃げてしまおうかとも思った。
だがそれで事態がいくら好転するというのか。
しかしこのまま彼についていっていいのか。
ぐるぐるとまとまらない思考のまま、ただ足だけは休まず図書館へと向かっている。
まるで運命の糸が手繰り寄せられるように、星々が互いの引力で引き寄せられあうように。

『不安?』

再びランサーの声が脳内で反響する。
フェイトが答えあぐねていると、ランサーはもう一度同じ問いを口にする。

『不安なの?』
(……うん)

ランサーは少し黙した後で。

『不安なことから逃げていれば、いつかはその不安なことが消えるの?』

まるで子供が大人に問うように、ランサーはフェイトにそう問うた。
問いというより謎かけか。それとも単なる皮肉と呼ぶべきかか。
しかし、その一言がフェイトの心の整理にもたらした影響は大きい。

(……そうだね)

問題から逃げても問題は解決しない。当然といえば当然のことだ。
このままキャスターをやり過ごして図書館から退いたところでフェイトを取り巻く不安は消えない。
この問題は、いつかは決着をつけるべきことだ。
いつまでも捕獲令に怯えていても始まらない。それどころか、今回を逃せばまた何かフェイトに不利になる情報が撒かれる可能性もある。

(ランサー、行こう。戦うことになるかもしれないから、その時はお願い)

ならば捕獲令を下した相手と会い、捕獲令の真意を問いただすべきだ。
ようやく前を向く。既に図書館は目と鼻の先の距離まで来ていた。
フェイトの足はもう止まらなかった。

「フン、ようやく心が決まったか」

少し威勢良くなった足音を聞きわけてか、キャスターがフェイトの方を振り向いて笑う。
フェイトの迷いも、決断も、すべて見透かしたように笑っている。
つくづく気味の悪い奴だと思った。


596 : もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:25:09 Z0PNq4F60


図書館に踏み込む。
中身は本当に普通の図書館だった。
普通に本棚があり、普通にNPCたちが読書に勤しんでいる。
大きな施設内を満たすのは、数多の本とNPCと、ページをめくる音。そして少しのささやき声。
ただ、それだけに異様で恐ろしい、とフェイトは感じた。
この風景だけ見ればここが聖杯戦争における重要施設だなんて誰も思わないことだろう。
そして、一歩間違えばここが戦場になり、このNPC達が全員犠牲になる、ということなんて、フェイトたちと、ここで待つ人物以外は思ってもいないことだろう。

「あの、間違っていたら申し訳ないんですが、フェイト・テスタロッサさんと……お連れの方ですか?」

フェイトとキャスターが周囲の様子を伺っていると、貸出カウンターで作業をしていた少女が一人、ぱたぱたと駆け寄ってきた。

「お前は誰だ」
「私はここの職員です。図書館の営業時間中にあなたたちが訪れてきた場合、ご案内するようにと承っているだけです」

図書館の職員(どうやらNPCらしい)と名乗った眼鏡の少女はキャスターの問いにそう答え、説明を続ける。

「フェイトさんが来た場合、司書室に通すようにと言われているんですけど……」

眼鏡の少女はうかがうようにフェイトとキャスターを併せ見た。

「お願いします」
「はい。それでは、案内しますね。ついてきてください」

NPCの少女はそう言って頭を下げ、二人を先導して歩き始めた。
向かう先は、図書館の奥の、係員の控室のさらに奥。図書館にはやや場違いな、大きな門の前で職員が立ち止まる。
職員が門の横のスイッチを操作すると、すぐにその戸は開いた。

「地下の司書室まで連れてくるように、とのことなので」

職員の少女に促され、フェイトも、キャスターも、エレベーターに乗り込む。
二人が乗り込んだのを確認した後で、少女もエレベーターに乗り、そして階層を入力した。


597 : もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:25:32 Z0PNq4F60


がたん、と大きな音を立ててエレベーターが動き出す。
エレベーターはまるで地獄まで落ちていくように、下へ、下へと降りていく。
しばらくは階層を表していた簡素な電光掲示板は既に数字を表すのをやめてしまった。
下へ。
下へ。
まだ下へ。
地面の下のその下の、地球の真ん中まで下っていくんじゃないかというくらい、際限なく降りていく。

「司書室 ドスエ」

電子マイコの音声が、終着を告げる。
声に押し開けられるように、地獄の門にしてはやや質素なエレベーターの扉が開く。
目の前に広がっていたのは、図書館の大きさに比べればとても小さな部屋だった。
まるで誰かの研究室だ、と
壁の代わりに並べられた本棚には所狭しと本が並べられている。
部屋を照らすのは不気味な色のカンテラで、風もないのに揺らめいている。
フェイトが目を剥いたのは、その司書室の奥に控える巨大な円柱型の水槽のせいに他ならない。
司書室には似合わない、まるでどこかの研究室からそこだけ抜き取ってきたかのような、異質な水槽。
その水槽の中で眠っている少女は、見覚えがあるどころではない因縁深い少女だった。

「ご報告のあったフェイト・テスタロッサさんと、お連れの方を連れてきました」

職員の少女が部屋の奥にいる誰かに向けて声をかける。
その声に、静かな声が答えた。


598 : もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:26:43 Z0PNq4F60


「そう。来たのね」
「はい」
「ありがとう。下がっていいわ、大淀」

大淀、と呼ばれた少女はフェイトたちに一礼を残し、そのまままたエレベーターに乗って地上へと帰って行った。
しかしフェイトはそんな大淀に気を回すのも忘れ、必死に声の主を探す。
司書室の奥、世界すら反射しそうな大きな大きな鏡の傍。
本の山がうず高く積まれた木製のテーブルの向こう側に、その背中があった。
愛おしげに、薬液の中で眠る裸体の少女を眺めている女性。
いつか見た背中だった。
いつも見ていた背中だった。

「成程、お前が」

キャスターもまた、フェイトと同じように困惑していたのか、しばし言葉を失っていた。
ようやく口から出た言葉も、不敵で饒舌な彼からは程遠い、短い二言。
その二言が、フェイトとキャスターの受け取ったショックの全てを説明しつくしていた。

「初めまして、というのはちょっとおかしいかしら。
 あなたにとって、私は初対面というわけではないのでしょう」

女性が手に持っていた本を置き、振り返る。
その背中の向こうにあったのは、いつかに置いてきたはずのいとおしい姿。

「といっても、あなたが知っている私は……『巻かなかった世界』の私、とでも呼ぼうかしら。
 全くの同一人物で、全くの別人」

揺れる黒髪が。
愁いを帯びた瞳が。
柔らかな体のラインが。
抑揚の少ない声が。
いつか見せてくれたそのすべての愛が、フェイトという少女の全てだった。
その愛が枯れ果てたとしても、フェイトという少女にとっての全ては、その愛だけだった。

「それにしても、あなたを連れてきたのがそのキャスターというのも……つくづく」

運命とでも呼ぶべきかしらと、彼女は笑った。


599 : もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:30:15 Z0PNq4F60

まるで魂を吐き出しきってしまったような、輝きのない痩せた笑顔だった。
その痛々しい笑みを見て、ようやくフェイトは彼女の言葉を理解した。
ここにいるのは、母であって母ではない。
少なくともフェイトの知る母は、たとえ自嘲であろうとも、フェイトの前で口元をほころばせるようなことなんてなかったのだから。

同時に捕獲令の意味が今ようやく理解できた。
あれだけ疑っても疑いの尽きなかった謎が氷解した。
捕獲令を出した目の前の母―――プレシア・テスタロッサは、フェイトと出会った頃のプレシアだったのだ。
フェイトにアリシアを重ね、愛を込めて抱きしめていてくれた頃のプレシアだったのだ。
まだ、悲しいくらい分厚くて、どんなものでも破壊できないくらいの心の壁が生まれる前の。
今なおフェイトの心の中で微笑みを称えている、あの日のままのプレシアなのだ。
だからこそプレシアは、会いたいと願ったのだろう。
『別世界のプレシアの娘』であるフェイトに。
自身が出会わず、ともに過ごすことのなかったもう一人の娘に。
それが捕獲令の意味。フェイトを害したかったわけではなく、きっとただ単純に会いたいと願ったからの命令。

それを理解して。
それでもなお、フェイトは考える。
母の奥に控えた少女から、母の願いを考える。
母の願いは変わっていない。
きっと、目の前の母も、その願いは『アリシア・テスタロッサの復活』だ。
だとすると、目の前のプレシアは、フェイトと会って何をなすのか。
フェイトの想像は、まだそこまでは至らない。

「自己紹介の必要はないでしょうし、すぐに本題にはいりたいのだけど……
 どちらからがいいかしら」

やはりプレシアは、力なく微笑むのだ。
フェイトの知るプレシアがアリシアに向けていたように、この世界のプレシアはフェイトに向けても微笑むのだ。
フェイトを知らない、フェイトと出会うことなく一人で戦ってきた母がそこに居た。
フェイトの前で笑顔を浮かべられる、まだフェイトとの間に何物も置いていないプレシア・テスタロッサがそこに居た。
世界で唯一だと思っていた大切な人がもう一人、見送られた先の世界でこちらを見つめていた。
フェイトはしばし言葉を失い、見つめ返すことしかできなかった。


600 : もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:31:32 Z0PNq4F60


【D-2/図書館 地下司書室/一日目 夕方】

【フェイト・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
[状態] 疲労(中)、困惑、ストレス、魔力消費(極大)、右肩負傷(中)
[令呪]残り三画
[装備] 『バルディッシュ』
[道具]
[所持金]少額と5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1. 何故お母さんがここに……
[備考]
※ランサー(姫河小雪)、キャスター(木原マサキ)、大道寺知世&アサシン(セリム)、バーサーカー(チェーンソー男)、輿水幸子を確認しました。
※木原マサキがプレシア・テスタロッサやアルフについて知っていることを知りました。
※小学校に通うつもりでいます
※プレシア・テスタロッサの存在を知りました。

【ランサー(綾波レイ)@新世紀エヴァンゲリオン(漫画)】
[状態] 健康、霊体化中
[装備]
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う


601 : もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:31:48 Z0PNq4F60


【キャスター(木原マサキ)@冥王計画ゼオライマー(OVA版)】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:冥王計画の遂行。その過程で聖杯の奪取。
1.フェイト・テスタロッサをダシにして主催者に探りを入れる。
2.予備の『木原マサキ』を制作。そのためにも特殊な参加者の選別が必要。
3.特殊な参加者が居なかった・見つからないまま状況が動いた場合、天のレイジングハートを再エンチャント。『木原マサキ』の触媒とする。
4.ゼオライマー降臨のための準備を整える。
5.余裕があれば、固有結界らしき空間を調査したい。
6.なのはの前では最低限取り繕う。
[備考]
※フェイト・テスタロッサの顔と名前、レイジングハート内の戦闘記録を確認しました。バルディッシュも「レイジングハートと同系統のデバイス」であると確認しています。
※フェイト&ランサー(レイ)、ランサー(姫河小雪)、輿水幸子を確認しました。
※天のレイジングハートはまあまあ満足の行く出来です。呼べば次元連結システムのちょっとした応用で空間をワープして駆けつけます。
  あとは削りカスの人工知能を削除し、ゼオライマーとの連結が確認できれば当面は問題なし、という程度まで来ています。
※『魔力結晶体を存在の核とし、そこに対して次元連結システムの応用で介入が可能である存在』を探しています。
  見つけた場合天のレイジングハートを呼び寄せ、次元連結システムのちょっとした応用で木原マサキの全人格を投影。
  『今の』木原マサキの消滅を確認した際に、彼らが木原マサキとしての人格を取り戻し冥王計画を引き継ぐよう仕掛けます。
※上記参加者が見つからなかった場合はレイジングハートに人工知能とは全く別種の『木原マサキ』を植え付け冥王計画の遂行を図ります。
※ゼオライマーを呼び出すには現状以下の条件のクリアが必要と考えています。
裁定者からの干渉を阻害、もしくは裁定者による存在の容認(強制退場を行えない状況を作り出す)
高町なのはの無力化もしくは理解あるマスターとの再契約
次元連結システムのちょっとした応用による天のレイジングハートへのさらなるエンチャント(機体の召喚)
※街の裏に存在する固有結界(さいはて町)の存在を認知しました。
※アサシン(ウォルター)の外見を確認しました。が、『情報抹消』の効果により非常にぼんやりとしか覚えていません。
※プレシア・テスタロッサを確認しました。


602 : もう一度、星にひかれ  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/12(日) 08:32:02 Z0PNq4F60
投下終了です。
なにかありましたらよろしくお願いします。


603 : ◆2lsK9hNTNE :2016/06/16(木) 08:24:29 Yr9YqyaA0
すいません投下遅れます
今日中には投下します


604 : ◆2lsK9hNTNE :2016/06/16(木) 23:27:54 Yr9YqyaA0
遅くなりました。投下します


605 : ◆2lsK9hNTNE :2016/06/16(木) 23:29:38 Yr9YqyaA0
居間に案内して食卓の椅子を進めると大道寺知世は大人しく座った。
落ち着かない様子でキョロキョロと目を動かしている。
いや、状況を考えればむしろ落ち着いている方か。
サーヴァントを失ったとはいえ、他のマスターの家に連れてこられたのだからもっと怯えたり、緊張したりしても良さそうなものだが。
肝が座っているのか、感情を隠すのが上手いのか。まあ前者だろう。

「夕飯食べる? 作り置きのカレーならあるけど」

聞くと彼女は遠慮がちに頷いた。
なぎさは冷蔵庫からカレーを取り出す。料理に時間を取られないようまとめて作っておいたものだ。
自分の分も含めた二人分を皿に入れて電子レンジで温める。
待つ間、後目に知世を見やった。先程と変わらずあちこちに目を向けている。テーブルに置かれた腕には縄の跡が残っていた。
視線に気づいた知世が慌てた様子で腕を下ろす。なぎさは視線を電子レンジに戻した。
数秒して、知世が遠慮がちに言う。

「……あの」

なぎさは振り返らずに答える。

「なに?」
「家の方の姿が見えないのですが、どこかに出かけてらっしゃるんですか?」
「家族はいない」

知世が息を呑んだ気配がして、なぎさは紛らわしい言い方だったことに気づいた。

「母と兄と三人暮らしだったんだけどね、この町では遠くで仕事しながら仕送りしてるって設定になってる。
ほんとにそんなNPCがいるかは知らないけど」
「そうなのですか」

その言葉には安堵したような響きがあった。誘拐犯の家族なんてどうなってようが関係ないだろうに。
電子レンジが鳴って、カレーを取り出す。半分を別の皿に移して、両方にご飯をよそう。
スプーンを載せてテーブルに並べ、知世の正面の椅子に座った。
知世は少し躊躇したあと両手を出した。行儀よく手を合わせ、「いただきます」と言って、音も立てず上品にカレーを口に運ぶ。

妙に丁寧な言葉遣いから薄々感じていたが、彼女はどこかのお嬢様かなにかなのだろうか?
気になったが聞くのはやめておいた。ヘタに素性を聞いて情が移っても困る。重要なのはいかに彼女を使うかだ。
令呪の受け取りの際にどんな現象が起きるかわからない。
だから他人の目がある外で貰うわけにもいかず、家まで連れてきてしまったが、今後の処遇についてはなにも決めていない。
できればアサシンが戻ってくるまでに案を出したい。
具体的な策もないのに生かしておくと言ったらアサシンと揉めるかもしれない。

しかし知世を危険に晒すような策ではダメだ。それでは直接か間接か違いだけで結局は海野雅愛と変わらない。
だが彼女を危険に晒さず、かつアサシンが納得できるだけのメリットがある作戦なんてまったく思いつかなかった。
そもそも今までの人生、戦いなどと無縁に生きてきたのだ。考えたところでそう簡単に浮かぶはずもなかった。

「……なぎささん?」

呼ばれていることに気づいて顔を向けた。知世の不思議そうな表情を見るにどうやら何度も呼んだ後らしい。
彼女はいつの間にか食事も終えていた。
考えに浸りすぎていた。なぎさはカレーを口に入れながら目で返事を促す。知世が口を開いて、

「電話をお借りしてもよろしいでしょうか? 家族や友達が心配していると思うので」

ケータイで掛ければいいと言おうとして攫われてきたとき、彼女はなにも持っていなかったことを思い出した。
ケータイに限らず荷物は全部学校に置きっぱなしだろう。

「悪いけど許可できない。ここの番号を知られたくない」
「せめて家にだけでもお願いできませんか。家にはマスターの可能性がある歳の人はいません」
「いいじゃない心配させるくらい。
そりゃ一緒に暮らしてれば情も湧くだろうけど、所詮は偽物。聖杯戦争が終わるまでの付き合いでしょ」

わざとキツめに言っておく。
こうすれば意気消沈するか――でなければ怒って反論してくるだろうと思った。
しかし知世の反応はそのどちらでもなかった。

「……アサシンくんも同じようなことを言ってました」

アサシンという言葉に自分のサーヴァントの姿が浮かび、一瞬なにを言ってるのかわからなかった。
だがすぐにそれが彼女の消えたサーヴァントのことを指しているのだと察した。

「私が友達の誕生日プレゼントを作ってると、NPCにそこまでする必要ないって。
アサシンくんって結構言葉がきついんですよ。でも本当はとっても優しいんです。
そのときだって夜遅くまで作業してる私を心配してくれて。
アサシンというクラスが意味することはわかっています。
でも私にとっては頼りになるお友達で……」


606 : ◆2lsK9hNTNE :2016/06/16(木) 23:31:03 Yr9YqyaA0

楽しそうに語っていた口が不意に止まった。顔を歪ませ、震える声で言葉を続けた。

「私、アサシンくんの本当の名前も知らないんです。
私から漏れるかもしれないからって……教えてくれなくて」

知世はそう言って嗚咽を漏らした。それでも言葉を止めずサーヴァントのことを語り続ける。
好きな食べものや音楽といった好みから、彼女がサーヴァントとした何気ない会話まで。
どれも他愛のない話ばかりだ。あるいはそれくらいしか話せることがないのかもしれない。
それはほとんど独り言のようなもので、なぎさには適当に聞き流すことも、あるいは強引に話を遮ることもできた。
だがなぎさはなにもしなかった。黙ってずっと話を聞き続けた。食事が終わっても立ち上がらずにずっと。
やがて知世が語り終え、指で涙を拭った。まだ少し涙ぐんだ声で言う。

「すみません。みっともないところをお見せしました」
「誰かの死を悲しむのがみっともないってこともないでしょ」

言った後でクサすぎると思ったが、こんな言葉でも気が楽になったようで知世は少しだけ笑みを浮かべた。
それから顔を引き締めて、

「アサシンくんのことを話していて一つ思い出したことがあるんです。
なぎささんは聖杯戦争専用の掲示板にある『小学生の死亡事件について』というスレッドをご存知ですか?」
「まあ一応。レスもまったくついてなかったからあんまり気にしてなかったけど」
「あれはアサシンくんが立てたスレッドなんです」

意外な話ではなかった。彼女たちは小学生の事件のことをずっと気にしていたらしいし、掲示板で情報を集めるくらいはするだろう。
もっとも結局なんの情報も集まらなかったわけだが。

「あそこに一連の事件の首謀者として、死神様の絵を載せてもよろしいですか?」

絵なんて描けるの? という疑問が最初のに浮かんだが聞くのは辞めた。
描けないならこんな提案はしないだろうし聞くだけ無駄だ。それよりも問題は別にある。

「よろしいっていうか、意味あるの? 
誰が描いたかもわからない情報を鵜呑みにする人なんていないだろうし、死神様だって普段は霊体化してるでしょ。
むしろ絵を描いたのが誰かバレたときに余計な恨みを買うだけじゃない?」

知世は口元に手を当て、少し考えこんでから言った。

「だったら逆に誰が描いたか死神様に伝わるようにするというのはどうでしょう?」
「自分を囮にするってこと?」

自分の声が思いほか低くなっていてなぎさは少し驚いた。
それを表に出さないよう努めながら知世を睨む。彼女は狼狽える素振りもなく頷いた。

「私を狙ってきた死神様と戦う人が必要なので、なぎささんのサーヴァントが協力してくれるならですけど」
「あたしのサーヴァントをあんたに張り付けるってことか」

この提案はなぎさにとって悪いものではない。
死神様が知世を狙えばそれだけアサシンが隙を突く機会は増える。仕留めるには至らなくても、情報を得られればそれだけで収穫。
どこかの正義感の強い間抜けが掲示板の内容を鵜呑みにして、死神様と戦う可能性もゼロではない。

一番大きいのは、これが知世の方からの要望だということだ。
彼女がどんな目に会おうとも――それこそ死んだとしても――それは彼女自身の責任ということになる。
なぎさが罪悪感を抱く必要はまったくない。
だが、

――そんな理屈で人の死を割り切れるなら、そもそも友達を生き返らせようとなんてしてないか。

「わかった。ただどうせ張り付けるなら、あんたにはあたしのサーヴァントのマスターを演じてもらう」
「それは……他のマスターたちと戦えということですか?」
「そこまでは言わない。どの道最初は安全策でいくつもりだったし。
マスターはあんただと周りに印象付けて、あたしの存在を隠してくれればそれでいい」

知世は少し迷ったようだったがやがて頷いた。

「わかりました。やってみます」

この作戦ならアサシンも強く否定はしないだろう。それに知世が襲われたときにアサシンが守る理由にもなる。
だが念のためもう一つ理由を作っておく。

「それと令呪は一つはあんたが持ったままでいい。その方がマスターとしてリアリティが出る」
「よろしいんですか?」
「あくまで一時的にだよ。時がきたら渡してもらう」

令呪が残っていればアサシンも簡単に見捨てはしないだろう。
これで知世が生き残れる土壌は作った。これ以上の過保護はなぎさにとっても知世にとってもマイナスにしかならない。
なぎさは立ち上がった。「画材取ってくる」と言って居間を出ようとすると、背中に知世の声が掛かった。


607 : ◆2lsK9hNTNE :2016/06/16(木) 23:32:26 Yr9YqyaA0

「なぎささん」

振り返ると彼女も立ち上がっていた。こちらをまっすぐ見て、頭を下げた。

「ありがとうございます」
「別に。あんたのためやるわけじゃない」
「それでも私は助かりました」

そう言って顔を上げる。
綺麗な目をしていた。世界が優しさとか希望とか愛とか――そういう甘いもので出来ていると信じている目。
現実を知らない目。

「……お皿」
「え?」
「感謝してるんだったら洗っといて」

言い残して今度こそ居間を出た。彼女がちゃんと洗うかどうかはどうでもいい。十中八九洗うと思うが。
ふと思い出した。そういえばまだ彼女を家の件が解決していなかった。
大事になって警察に動かれたりしても困る。まあアサシンと一緒なら帰しても問題ないだろう。
伝えに戻ろうかと思ったがやめておいた。
そもそもアサシンが別行動していることを彼女には言っていない。
それにいま伝えれば彼女はまたお礼を言う。あの綺麗な目で。
それはなぎさにとってあまり気分のいい話ではない。



【D-5/山田なぎさの家/一日目 夜】


【山田なぎさ@砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない】
[状態]健康、若干憂鬱(すぐに切り替え可能)
[令呪]残り五画
[装備]携帯電話、通学カバン
[道具]
[所持金]中学生のお小遣い程度+5000円分の電子マネー
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れて、海野藻屑に会う。
1.大道寺知世を手伝う……?
2.お人好しな主従と協調するふりをして、隙あらばクロメに襲わせる。
3.ただし油断せず、慎重に。手に負えないことに首を突っ込まないし、強敵ならば上手く利用して消耗させる。
[備考]
※暴力に深層心理レベルで忌避感があることに気づきました。



【大道寺知世@カードキャプターさくら(漫画)】
[状態]健康、手首足首などに縛られた痕
[令呪]残り一画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金] たくさん
[思考・状況]
基本行動方針: 街の人達を守る
1.『なぎさ』に『死神様』事件について協力してもらう。
[備考]
※死神様について
小学校の生徒を自由に操れる『エプロンドレスのキャスター』が裏側に居ると知りました。
※サーヴァントを失ったため、ルーラー雪華綺晶に狙われています


小学生の死亡事件に関してのスレに下記の書き込みがされました。ageです。

小学生死亡事件を起こしているサーヴァントが判明しました。
絵を描いたのでここにお載せします。【URL】(誰かちゃんと判別できるくらいには似ている絵が載っています)
小学生の間で死神様という呼び名で噂されている存在です。
それからもし見ているのであれば死神様。鬼ごっこはまだ終わっていません。


608 : ◆2lsK9hNTNE :2016/06/16(木) 23:35:51 Yr9YqyaA0
投下終了です
タイトルは「宣戦布告」です
描写なしで令呪の移行を済ませたことや、その他に問題があればいってください
遅くなってしまい申し訳ありません


609 : 名無しさん :2016/06/18(土) 04:01:42 S5JupMeI0
投下乙です
>もう一度、星にひかれ
マサキはブレないな……安定の不敵不遜さ胡散臭さ。
そして綾波もまたある意味ブレない。マスターの不安や言葉をどう返すでもなく鏡のように映して見つめ返すだけと言うか。
意思疎通できるのにこれほど相談相手として不適なサーヴァントもいないのでは。フェイトちゃんの在り様と性格がことさらそうしているのかもしれないけど。
そしてとうとう「親子」対面か…二人の置かれた時間軸や何やを考えると感慨深い。どうなるやら。

>宣戦布告
知世ちゃんがセリム(プライド)のことを語ってるくだりが泣ける。そうだよなー、そう言えば名前すらってとこからだった。
短い付き合いだったけど、セリムの最期を考えても、そこには絆があったんだなあ……。
なぎさの心情描写というか、知世ちゃんに対するあれこれが、実に彼女らしいというか、この「当面の策」には唸った。落とし所が、クロメの性格を計算に入れた上で面白い。
ララと幸子の時もだけども、少女二人の会話感すごく好きです。


610 : ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/18(土) 07:39:34 PhpArkvE0
投下乙です!
感想はきっと今日中に書きます。

期限超過しましたが、書き上がったので

アーチャー(森の音楽家クラムベリー)
高町なのは
アサシン(クロメ)
白坂小梅&バーサーカー(ジェノサイド)

投下します。


611 : ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー  ◆EAUCq9p8Q. :2016/06/18(土) 07:40:00 PhpArkvE0


☆白坂小梅


  星輝子の声が聞こえた。
  いつものようなのんびりとした声ではなく、ライブの時と同じ、雲すら突き抜けるような笑い声が。
  少女・白坂小梅が裏山を目指した理由はそれだけだった。

  雪崎絵理と別れたあと、小梅は携帯端末用の携帯充電器をコンビニで購入し、充電をしながら方々を歩き回っていた。
  友人の輿水幸子についてもそうだし、諸星きらりについてもそう。
  出会わなければならない人物と、手がかりもないなか、手探りで出会わなければならなかった。
  最初は商店街に範囲を絞っていたが、それも商店街を調べ終わるまでのこと。
  商店街をくまなく探しても、カワイイ幸子のカの字も見つからなかった。
  商店街を少し離れても、大きなきらりの影も形も見つけることはできなかった。
  焦りとは裏腹に、事態はなにも好転してはくれない。
  広い街の中だ。近場を歩き回り、人に尋ねて回るだけでは何も進展しなかった。
  そんな行き詰まりの中で、まだ未練に引きずられるように商店街の付近を歩いていると、ちょうど森の方から輝子の声が聞こえた気がした。
  振り向いてみても、輝子が居るはずもない。
  ただ、つい先ほどまでは深々とした緑色だった山は、無残なまでに木々をへし折られ、一部が禿山のような様相へと変貌していた。

((……誰かが、戦ったのか))

  すぐそばにいるけれど見えないバーサーカーがぽつりとつぶやいた。
  戦いという言葉を聞いて、胸がきゅうと締め付けられる。
  今朝の、チェーンソー男との戦いのようなことがあそこでも起こっている、ということだろうか。
  丁度チェーンソーは木を切る道具だし、ひょっとしたらチェーンソー男があそこに現れたのかもしれない。
  ぼんやりと見つめた禿山に、先ほど耳に届いた聞こえるはずのない笑い声が重なる。
  そのことに小梅は、言葉にできない妙な胸騒ぎを覚えた。

「あの、バーサーカーさん」

((行くのか))

「駄目?」

  バーサーカーはしばし黙し、そのあとで一言「危険だぞ」と加えた。
  誰かが戦っている、ということはやはり危険と隣りあわせだろう。
  もしあのチェーンソー男のような、とても怖いサーヴァントが居たら小梅も困る。
  それでも、聞こえた声と嫌な胸騒ぎが、小梅の背を裏山へと押すのだ。
  輝子の声が聞こえた気がした。ひょっとしたら輝子が居るかもしれない。
  きらりは……きらりはきっと、一番あそこにいる可能性が高い。もし、あそこであったのが『聖杯戦争』だとするなら。きっと。
  幸子は商店街の事件について知っていた。商店街の時と同様、幸子が『何かの理由から』戦闘の有った場所に居ないとは限らない。
  もしかしたら幸子は、幸子も……
  脳裏をかすめた悪い予感を振り払い、バーサーカーにもう一度声をかける。

「少しだけそばに寄って見るだけ、だから」

((……))

  バーサーカーはもう何も言わなかった。
  小梅はその沈黙を同意ととらえ、ゆっくりと裏山へと進路を切り替えるのであった。


612 : ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー  ◆EAUCq9p8Q. :201