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ヒグマ・ロワイアル part2

1 : ◆bDQCUcB4p6 :2013/12/27(金) 01:59:49 BwlvzuuY0
【参加者】77/35

【ポケットモンスター】 〇デデンネ/●サトシ/●タケシ
【魔法少女まどか☆マギカ】 〇巴マミ/〇暁美ほむら/〇佐倉杏子
【彼岸島】 〇宮本明/●西山正一/●忍者
【とある科学の超電磁砲】 〇佐天涙子/〇初春飾利
【進撃の巨人】 〇ジャン・キルシュタイン/●エレン・イェーガー
【ジョジョの奇妙な冒険】 〇ウィルソン・フィリップス上院議員/●ストーンオーシャンのグリーンドルフィン刑務所で豚の反対は鮭だぜとイカしたことを言った黒人調理師のおばさん
【キルミーベイベー】 ●ソーニャ/ ●折部やすな
【艦隊これくしょん】 〇球磨 /〇天龍
【仮面ライダー龍騎】 〇浅倉威/ 〇北岡秀一
【ヒグマ・ロワイアル・オリジナル】 ●迷い込んだ突然変異の巨大ツキノワグマ /● 白人男性
【実写版デビルマン】 ●不動明
【ゆるきゃら】 ●ふなっしー
【怪物王女】 ●フランドル
【ウルトラマンタロウ】 〇暴君怪獣タイラント
【HELLSING】 ●アーカード
【ドキプリ】 ●円亜久里
【D−LIVE!!】 ●ベン
【ニンジャスレイヤー】 ●バンディット
【テイルズオブエターニア】 ●リッド・ハーシェル
【コロッケ!】 ●コロッケ
【平成ノブシコブシ】 ●吉村崇
【キン肉マン】 ●ウォーズマン
【スーパーロボット大戦K】 ●ミスト・レックス
【Fate/zero】 〇バーサーカー
【ラブライブ!】 〇星空凛
【東方project】 ●古明地さとり
【ドラえもん】 ●源静香
【グラップラー刃牙】 ●範馬勇次郎に勝利したハンター
【銀魂】 ●坂田銀時
【流れ星銀】 〇銀
【コピペ】 ●イチロー
【私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】 〇黒木智子
【キルラキル】 〇纏流子
【fateのどれか】 ●ギルガメッシュ
【仮面ライダー龍騎】 〇浅倉威
【ちびまる子ちゃん】 ●永沢君男
【ポケットモンスターSPECIAL】 ●カツラ
【るろうに剣心】 〇武田観柳
【からくりサーカス】 〇阿紫花英良
【SASUKE】 ●古館伊知郎
【ダブルブリッド】 〇高橋幸児
【フリーゲーム?】 ●なんか7が三つ並んでる名前の外人
【HUNTER×HUNTER】 ●一流のロッククライマー
【プーさんのホームランダービー】 〇クリストファー・ロビン
【テニスの王子様】 ●跡部景吾
【陳郡の袁さん@山月記】 ●陳郡の袁さん
【モンスターハンター】 〇ブラキディオス
【北斗の拳】 〇フォックス
【荒野に獣慟哭す】 〇アニラ(皇魁)
【遊☆戯☆王】 ●武藤遊戯
【スクライド】 〇カズマ
【魁!!男塾】 ●江田島平八
【仮面ライダー鎧武】 駆紋戒斗
【ブレイブルーシリーズ】 ☆ハザマ(ユウキ=テルミ)
【クッキークリッカー】 ●クッキーババア
【Yes!プリキュア5】 〇夢原のぞみ
【魔法少女おりこ☆マギカ】 〇呉キリカ
【シャドウゲイト】●しんのゆうしゃ
【最終痴漢電車3】 〇鷹取迅
【人造昆虫カブトボーグV×V】 ●天野河リュウセイ
【GetBackers-奪還屋-】 ●赤屍蔵人
【Dies irae】 ●ラインハルト・ハイドリヒ
【ビビッドレッド・オペレーション】〇黒騎れい
【ムダヅモ無き改革】●杉村タイゾー
【麻雀飛竜伝説天牌】●伊藤芳一
【咲-Saki-】●愛宕洋榎

【ヒグマ】????/????

〇キングヒグマ/〇穴持たず00(ヒグマドン)/ ●穴持たず0(回転怪獣ギロス) /〇穴持たず1/ ●穴持たず2(工藤健介)
〇穴持たず3(メロン熊)/〇穴持たず4/ 〇穴持たず5/〇 穴持たず6 /〇穴持たず7(ヒグマード)/ 穴持たず8(火グマ)
〇穴持たず9/ ●穴持たず10(ポーラマン)/ 〇穴持たず12/ 〇穴持たず13(ヒグマン子爵)/ 〇穴持たず14
〇穴持たず14(日本語ペラぺーラ→ストライカー・エウレカ)
●“羆”の独覚兵(樋熊貴人さん)/● ヒグマ(野生)/〇隻眼1/●ヒグマ・オブ・オーナー /●ヒグマ型巨人
●エニグマのヒグマ /●穴持たずポーク/〇 灰色熊 /〇デデンネと仲良くなったヒグマ/〇 隻眼2
●ヒリングマ/ ●ヒグマイッチ/ 〇クマー(アナログマ→ペドベアー)/ 〇穴持たずではないヒグマ(プニキ)/ 〇ミラーモンスターになったヒグマ
くまモン/ 〇究極生命体カーズ/ ●自動羆人形/〇HIGUMA/●空飛ぶクマ
●ドリーマー穴持たず /〇羅漢樋熊拳伝承獣ヒグマ/ ヒグマになった李徴子/ ●美来斗利偉・樋熊男/〇 孫悟空を瞬殺したヒグマ
〇リラックマ /〇穴持たずではないヒグマ/ 〇制裁ヒグマ /●リュウセイさんと赤屍さんと獣殿を倒したヒグマ

まとめwiki
ttp://www54.atwiki.jp/higumaroyale/


2 : ◆bDQCUcB4p6 :2013/12/27(金) 02:00:53 BwlvzuuY0

【基本ルール】
・崖に囲まれた孤島で全員に殺し合いをしてもらい、ヒグマを除いて最後まで生き残った一人が勝者となります
・全力で戦ってもらう為に参加者の得意武器+ランダム支給品0〜2+基本支給品が支給されます
・基本支給品は携帯食料、飲料水、地図、洗髪剤、石鹸、タオルです
・6時間毎に定期放送があり、ヒグマ以外の死亡者が発表されます
・会場は破壊不可能です
・書き手枠に制限はありません
・予約期間は一週間、+延長申請によりもう1週間
・予約が入っていなければゲリラ投下も可
・名簿外のキャラを予約してもOKです
・自己リレー推奨
・あまりにも放置されてるキャラはヒグマに捕食されるので注意してください
・ヒグマは一匹一匹が範馬勇次郎を凌ぐ力を持っています
・登場話でヒグマを倒すことは出来ません
・二話以上登場したキャラは新キャラの登場話でもヒグマを殺せます
・日本語以外で投下された場合、すべて夢オチとして処理されます

【作中での時間表記】

 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24

 ゲームは深夜0時からスタート

状態表
【エリア/時間帯】
【キャラクター名@出展作品】
状態:
装備:
道具:
基本思考:
1:
2:

地図

 ABCDEFGHI
1崖崖崖崖滝崖崖崖崖
2崖森森森温森森森崖
3崖森温森森街廃森崖
4崖街街街街街廃森崖
5滝温街温火街街温滝
6崖街街街街街温森崖
7崖草草草草廃森森崖
8崖森森森温森森森崖
9崖崖崖崖滝崖崖崖崖

草=草原 街=市街地 森=森林 廃=廃墟 温=温泉 火=火山


3 : ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/06(月) 00:18:36 EdDxiXXM0
投下します


4 : ラディカル・グッド・スピード ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/06(月) 00:19:37 EdDxiXXM0

「あははっ!私が一番!だって速いもん!」

ロワ会場の地下に出来たヒグマ帝国。素手で岸壁を砕いて敷地を拡張した影響で出来上がった地底湖
その静寂の中に、湖の水面をフィギュアスケートをするように駆けまわる一人の少女の姿があった
ウサミミのような大きいカチューシャ、へそだし袖なしセーラー服、短すぎる上に鼠蹊部丸出し
ローライズのプリーツスカートに見せTバック、赤白の縞ニーソにより作りだされた絶対領域
このあざといデザインの美少女はまさしく、島風型駆逐艦一番艦「島風」である
最新のタービンを搭載し、最高速度40ノット強というとんでもない速度を叩きだす最速の駆逐艦は
その速度を誇示すべく得意の駆けっこに勤しんでいた。その対戦相手は―――

「私のスピードについてこれますぅ?……え?」

島風はやや余裕を見せながら後ろを振り向くと、水中に潜った巨大な物体がこちらに迫ってくるのが見えた

「せ、潜水ぃ!?わぁあぁぁぁぁ!!!!」
「グオオオオオオオ!!!!」

飛沫を上げながらヒグマが弾丸のような速度で水中から飛び出し、島風を瞬く間に追い抜きながら
綺麗なフォームのバタフライで水面を激しく振動させた。その様子を呆然と見つめる島風

「ば、馬鹿な!私の方がスロゥリィ……!?」


その様子を遠くの水辺で見守る二匹のヒグマは沈黙を破って喋り始める

「穴持たずNo.678よ、なんだあの娘は?非常食?」
「見れば分かるだろう?艦むすだよ」
「やはりそうか。だが、何故ここに艦むすが居るのだ?」
「研究所に残っていたPC残っていたデータによると人間の社会では
 今、艦これというブラウザゲーが一大ブームメントらしくてな
 しかしヒグマ帝国はネット環境が整っていないからプレイ出来んのだ
 で、不満を抱いたヒグマの何匹かがクーデターを起こしそうになったので
 しょうがないからキングの依頼でクッキーババアの工場に資材を集めて
 さっき実際に艦むすを建造ったらあの娘が出来た」
「なるほど」
「というわけで私は今日から穴持たずNo.678改めヒグマ提督ね」
「それはいい、しかし、いくら最強クラスのレア駆逐艦でもヒグマには勝てんようだな」
「そう思うだろう?」

ヒグマ提督は白い帽子をかぶりながら島風を指さす


「私がスロウリィ……そんな……そんなリアル……私は認めない!!!」

島風は水上でクラウチングスタートの体勢を取る。
後ろから尻が丸見えのポーズをしながらタービンに限界まで負荷をかけ―――

「うおおおおおおおおおお!!!!!」

次の瞬間、島風の姿がその場から消滅した

「グォ?――――グオオオオオオ!?」

機体速度の限界を超え、次元の壁を突破した島風の幻体が競争相手のヒグマの肉体を
量子力学的にすり抜け、空間の狭間に触れた影響でヒグマの体は水上で爆発四散し砕け散った


5 : ラディカル・グッド・スピード ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/06(月) 00:19:55 EdDxiXXM0
「なにあれ?」
「建造した時クーデターを起こしたヒグマを20匹ほど解体して資材に使ったからな。
 パラメーターがあちこちバグっておかしい事になっている」
「ブラウザゲーでチート使うのはマジでヤバいぞ」
「うん、次から気をつけるよ。あ、帰ってきた」

「わーい!勝ったよ提督!試験は合格ですかぁ!?」
「うむ、ようやった。じゃあ早速任務を与えるぞ、せっかく造ったんだしちゃんと使わないとな」
「はい!」

ヒグマ提督は懐から地図を取り出し真ん中を指さした

「先ほど地上で噴火した火山だ。そろそろマグマが収まり始めたころだと思うから
 ちょっと様子を見てきてくれ。なんかここだけ時空が歪んでいるらしいんだ」
「了解です!」

ヒグマ提督が参加者に怪しまれないようにと用意した首輪とディバッグを装備した島風は
地上への階段へと向かう。深海凄艦と戦う訳じゃないようだが、ヒグマ住民は春になるまで地上には
出たくないらしいので頼りになるのは自分だけなのだ。時期的に熊は冬眠シーズンだもんね。仕方ないね

「じゃ、行くよ、連装砲ちゃん」

オンリーワンの駆逐艦は初任務を達成する為階段を駆け上がり、地上へと飛び出した

ウオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!!!!!

その様子を見ていたヒグマ住民達が歓声を上げながら見送る中、ヒグマ提督はふと気になることを聞く

「ところで、あの首輪って本物なのか?」
「あぁ、研究所に落ちてたやつだ。会場の外へ出たら爆発するぞ」
「会場の外って?」
「MAPの範囲外だから滝の向こうとか地下の主催本拠地とかじゃね?」
「なるほど………あっ!」

【島風@艦隊これくしょん 帰宅不可能】


◆  ◆  ◆


島の中央にそびえ立つ火山。先ほど赤石の影響で噴火したばかりであり、今はすっかり静まりかえっている。
大自然の驚異の代表格は、もはや無害な存在になってしまったのだろうか?

――――否!

その漆黒の火口から、二つの巨大な手が飛び出し、何者かがゆっくりと姿を現した。
スーツを着た白髪の老人の姿をしたその巨人(ギガンティス)は火口から顔を出すと、
開口一番にその名前を叫んだ。

「なんじゃここはぁぁぁぁぁ!?アカギはどこだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」

地獄から帰還した昭和の怪物、巨大化した鷲巣巌の怒声が放送間もない会場中に響き渡った

――――そして、本当の地獄はここから始まる



【会場の何処か/朝】

【島風@艦隊これくしょん】
状態:健康
装備:連装砲ちゃん×3、5連装魚雷発射管
道具:ランダム支給品×1〜2、基本支給品
基本思考:誰も追いつけないよ!
0:ヒグマ提督の指示に従う
1:火山へ向かう
[備考]
※ヒグマ帝国が建造した艦むすです
※生産資材にヒグマを使った為ステータスがバグっています

【E−5火山の火口/朝】

【鷲巣巌@アカギ】
状態:巨大化
装備:なし
道具:なし
基本思考:アカギと決着をつける
0:ここは何処だ!?
[備考]
※進撃の鷲巣編終了間際からの参戦です
※火山の入り口は魔界?と繋がっているようです


6 : 名無しさん :2014/01/06(月) 00:20:17 EdDxiXXM0
終了です


7 : 名無しさん :2014/01/06(月) 20:22:03 dQVWx.420
投下乙です
ワシズさま巨大化ってどういうこったw
赤石の力って事なのかなw


8 : 名無しさん :2014/01/06(月) 20:29:31 YzNZKurAO
これ程までに必要なのか?と思った名簿は始めてだ……
いや、生存者は必要なんだけど


9 : 名無しさん :2014/01/06(月) 20:47:42 BPyGkOzk0
何処かカットしてカットされたキャラがまた出てきても困るだろう
このスレにおけるテンプレ表は生存率を表すんじゃなくて
今までに出てきたキャラを羅列する意味が大きいと思う


10 : 名無しさん :2014/01/06(月) 23:49:55 8EtsPnHY0
ワシズ巨大化は原作再現だぞ


11 : 名無しさん :2014/01/07(火) 00:13:16 rwpbGdrc0
え?
麻雀漫画だよねあれ……











え?


12 : 名無しさん :2014/01/07(火) 00:56:06 Q5oZQckk0
ここ半年ほど麻雀牌すら登場せずに地獄で閻魔と戦ったり巨大化して富士山を破壊して自衛隊と戦ったりしてるのがアカギという麻雀漫画です


13 : ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/07(火) 01:12:45 EsTX8PpE0
◆wgC73NFT9I氏がヒグマロワのロゴを作って下さったのでwikiのトップに載せました。ありがとうございます。


14 : 名無しさん :2014/01/07(火) 08:07:47 .pyYf/iA0
>>12
知ってたけど改めて文章で見ると意味不明だな


15 : ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/08(水) 01:01:55 nRO70hPg0
クリストファー・ロビン、黒木智子、言峰綺麗、ウェイバー・ベルベット、
セイバー、ライダー、アーチャー、ランサー、キャスター、アサシン、ヒグマ
で予約


16 : 名無しさん :2014/01/08(水) 01:04:48 nRO70hPg0
間違えた 綺麗→綺礼


17 : 名無しさん :2014/01/08(水) 02:36:14 ZCLcL3I.0
聖杯戦争がおっ始まるのか?
たまげたなあ


18 : 名無しさん :2014/01/08(水) 06:04:38 Ges6.b1QO
バーサーカーがいないんですがこれはまさか……


19 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:06:36 z6RNd4G20
皆さんお疲れ様です。
呆然とせざるを得ない二人の乱入者……!

とりあえず私は、予約していた佐天涙子、初春飾利、アニラ(皇魁)を投下します。


20 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:07:15 z6RNd4G20
 じわじわと、焦げていくのは、何?

 森?
 三日月?
 それとも、私の体?

 体の中の水は、全部焦げて渇いて、涙さえ出ない。


 私は、人を殺した。
 初春を殺した。
 大切な友達を、殺してしまった。
 この手に残る私の能力で、燃やしてしまったんだ。

 森は一面、砂漠になったみたいに思えた。
 人も獣もヒグマも、水も緑も、私の周りで干からびて死に絶えた。


 サラサラになった広場の砂を掴んで立ち上がり、氷と焦げた跡が残る森へ、私は踏み出そうとする。
 せめて初春を、一目。
 彼女の姿を、もう一度でいいから、見たい。
 そうしたらもう、私はどうなったっていい。
 誰か私に眠りを。
 安らかな死を下さい。
 それで私の罪が償えるなら、それでいい。


 誰か私の体に蔓延る、歪んだ月を殺して下さい――。


 そうして願う瞳の先に、一人の死神が立っていた。
 音もなく森から歩んできた闇の色の鱗。

 そういえばさっき、綺麗な楽器のような声を聞いた。
 あまりに澄んでいて、怖くなってくるような、ガラスの笛のような呼び声。
 それはきっと、この死神の来訪を告げる音。
 心の中に眠る殺戮を呼び覚ます声なんだ。


 ねえ、死神さん。
 あんたを見るまでは、私は死んでいいと思っていたよ。
 それでも、あんたの声とあんたの姿に、私は二つ、訊きたいことができた。

 ねえ、なんで私は、あんたを見てこんなに歓んでいるのかな?
 体の中に蠢いているひびが、真っ白な歓声を上げてて、すごくうるさいんだ。
 顔だって、こんなに引きつって笑ってしまうくらい、嬉しくて、そして苦しい。
 ねえ、なんで――。

「……なんで、あんただけが生き残ってるのよ……、ドラゴン――!!」

 全身から湧き上がるような白い怒りに、にっこりと口角が引き裂かれる。
 たぶん、お寺に飾ってある十二神将だの不動明王だの、そんな笑顔になっていたと思う。
 そしてドラゴンの姿をした死神の彼も、同じようににっこりと笑っていた。

 剥き出しの牙を覆う唇などなく、二人の透き通った殺意だけが、心地よくこの広場に染み渡っていた。


    √√√√√√√√√√


21 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:08:33 z6RNd4G20

 初春を殺したのは、こいつだ。
 こいつはきっと、初春を盾にして、私の『第四波動』を防いだんだ。
 そして、森の陰で、喰った。
 焼け焦げた彼女の肉を。初春の体を。

 背の高い細身のドラゴンは、ただ迷彩柄の腰巻をベルトで身につけているのみで、デイパックも武器も持ってはいない。
 だが、その体は全身が凶器だ。
 硬く鋭い棘のような鱗、太い牙と爪、鞭のような尾、そして異様な巨大さを持つ脚の鉤爪。
 どれも一撃で、私のような人間の命を刈り取ってしまうだろう。
 何の感情も見えない、爬虫類のように冷たい赤い眼が、私をまっすぐに見つめてくる。
 ヒグマと同じように、獣の力に人間は勝つことができない。

 だが私は、人間も仏もヒグマも殺した。
 私は超越した。そしてこの力に至ったんだ。
 初春の仇。
 あんたの命を刈り取ってからでなくては、私は死んで詫びることもできない!

「消えろおぉおおぉ!!」

 叫びとともに、右腕を突き出す。空間から熱を奪い、あのドラゴンを氷漬けにするつもりだった。
 しかし、気がつけばドラゴンはそこにいなかった。
 左にいる。
 背筋に悪寒が走った。

「アギィィイィル!!」
「うわああぁぁあ!?」

 高速で走りこんでくる竜に、左手で氷を放つ。
 躱された。
 広場の外周約4分の1を回り込んで走ってきた彼は、私の攻撃の直前にさらに左へ跳ねていた。
 即座に、吸収した熱を使って右手から『第四波動』を放つ。
 今度は炎のギリギリを右側へ滑り込まれた。
 氷。
 炎。
 氷。
 炎。
 ことごとく避けられる。

 初春も支給品も抱えていないせいか、最初に『第四波動』を喰らわせた時とは速度が比較にならなかった。
 間断なく攻撃を放っていても、風のような速さで全てを避けられる。
 いや、掠めてはいる。
 少なくともその鱗や皮を炙り、凍らせてはいるのだ。
 私の攻撃は広範囲に及ぶし、この竜も完全に私の動きを先読みしているわけではない。
 だが、彼はひるまないのだ。

 一瞬も動揺しない。痛がらない。恐怖しない。激昂しない。
 人間でもヒグマでも生理的に持っているだろうその反応が、まったく見えない。
 死も、苦痛も、この竜は何も感じないかのようだ。

 ドラゴンは左右に予測不能のフットワークを踏みながら、徐々に私への距離を詰めてくる。
 両手から交互に攻撃を放ち、じりじりと広場の反対側へ退いていっても、その足音を耳元に聞くのは時間の問題に思えた。

 一気に接近してこないのは、この能力がカウンターで使われるのを警戒しているんだろう。
 ひたすら冷淡に、私の消耗を待っている。
 私が能力の連発に疲労し、この氷と炎が止むのを待っているんだ。
 まるで、サメか、ワニか、恐竜か――。
 目的を果たすためだけの、自身の機能を維持するだけの、無駄のない最低限の防御。
 残りの思考と行動の全てを、冷静なままで、私を殺す一撃のためだけに保持している。
 動物的でもない、人間的ともいえない、怖気のふるうような戦闘行動。

 ――あんたは一体、何なの。

 ――フーッ、――フーッ。

 細く、笛のような息遣いだけが迫ってくる。
 得体の知れない殺戮機械が、着実に私を死刑に執すべく、律動音を立てて近づいてきていた。


 私の攻撃範囲は、徐々に狭まってきている。
 腕が重い。
 気を抜いたらすぐにでも、この首は切り落とされる。そんな映像がありありと脳裏に浮かぶ。

 怖い。
 恐い。
 脚が震えている。

 どん。
 背中が、広場の端の幹に、当たっていた。


「ラヒィィイィル!!」


 澄んだ音階で、死神が鳴いた。


 出がらしのような細い火炎放射の脇をくぐり、低い体勢で弾丸のように竜が走り寄る。
 軽やかに彼は跳んだ。
 フィギュアスケートの金メダリストみたいな高いジャンプ。
 シングルアクセルとか言うんだろうか。
 私の炎を巻き込んで、スローリプレイのように映る彼の後ろ回し蹴り。
 その足先の刃、冷たい鉤爪の輝きを堪能するように、私の瞳はその動きに惹き付けられていた。


    √√√√√√√√√√


22 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:10:30 z6RNd4G20

 佐天さんが、泣いている気がした。

 涙が一粒、私の頬にこぼれ落ちてきたんだ。


 眼を開けると、私は森の地面に横たえられていた。
 顔の上には、佐天さんの泣き顔じゃなくて、お水のペットボトルが吊られていた。

 起き上がってよく見てみると、私の隣には、皇さんと私のデイパックがきちんと並べられていた。 間には皇さんの持っていた機関銃が挟まれ、木の幹に立てかけられて固定されている。
 お水のペットボトルは、器用にラベルの隙間が拡げられてその銃口に差し込まれており、僅かにゆるめられた蓋の隙間から、ほんの少しずつ水が流れ落ちてくるように設置されていた。

 ――私を起こすため?

 でもなんで、直接起こさずに、わざわざこんな仕掛けを作ったのだろう?

 そこまで考えた時、私の耳は、気を失う直前に聞いたのと同じ爆音を捉えていた。

「アギィィイィル!!」
「うわああぁぁあ!?」

 皇さんと佐天さんの絶叫もだ。
 林立する木の影を透かして見える先、広場で、佐天さんが氷と炎を滅茶苦茶に連射していた。
 その標的は、広場の向かって右の端にいる皇さん。
 速い。
 佐天さんが能力を行使する速度も相当だけれど、皇さんはその全てを紙一重で躱している。

 そうだ。
 私と皇さんは、佐天さんの能力で攻撃されて、吹き飛んだんだ。
 なんで佐天さんがそんなことをしたのか、なんであの炎に巻かれて無事だったのかはわからないけれど、多分皇さんは佐天さんを止めようとして闘っているんだ。

 ――でもなんで、皇さんは佐天さんに近づかないの?

 少なくとも皇さんは、佐天さんを殺そうとしているようには見えなかった。
 機関銃がここに置きっぱなしだし、彼の今の速度なら、ゆうに二歩で佐天さんの首に届くのに。
 取り押さえるだけが目的なのだとしても、わざわざ佐天さんに攻撃の機会を与えていること自体からしておかしかった。

 そして、彼は攻撃をわざと狭い範囲で避けようとしている。
 動こうと思えば、広場の周りを広く使って、火炎放射も氷もまったく当たることなしに動けるだろうに。
 それなのにまるで、この位置取りが最善であるかのように彼は一定範囲内でステップを踏んでいた。

 ――私を、守ってくれているの?

 彼がもし広場の手前側に動いてしまったら、炎の余波が私に届くかもしれない。
 それを慮ってくれているのかもしれない。
 だがそれにしたって、彼が時間稼ぎでもするかのように回避に徹している理由の説明にはならない。

 振り返れば、皇さんが作ったのであろう、私を起こすための装置が見える。
 あれにしたって、作った理由がわからない。
 佐天さんが暴れているから避難させておく、というわけでもない。それなら起こさなくていい。

 ――私がすぐには眼を覚まさず、それでもこの戦闘中には眼を覚ますであろうタイミングを、計りたかった?

 それならばつまり、皇さんがあの装置を作った理由は、『この戦いを止めて欲しくはないが、見ては欲しい』というメッセージになる。

 この仮定が正しければ、皇さんがこの位置取りを維持している理由は、私が最も見やすいポジションを保っている、ということになる。
 確かに、能力を撃ちながら後退する佐天さんは常に視界の左、皇さんは常に右にいて、間を飛び交う炎と氷は、その発射から消滅までの全てがしっかり見てとれる。

『――彼女の能力の謎を、解き明かして欲しい』

 たぶん皇さんは、そう言っているんだ。
 私が同じ能力者だから。
 私がそこまで思い至ることを見越していたのかもしれない。

 おかしくなってしまったのかもしれない佐天さんを、根本から助け出す方法。
 それを探すための時間を、作ってくれているんだ――。


    √√√√√√√√√√


23 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:12:16 z6RNd4G20

 佐天さんの能力を考えるにつけて、一つ重要なことを確認しなければならない。
 それは『多重能力者(デュアルスキル)』が存在可能か、という問題だ。

 学園都市で能力開発を受けた私たちが超能力を使える理屈は、『「自分だけの現実(パーソナルリアリティ)」を確立することでミクロレベルからその現象が起きる可能性を選択し、それによって超常現象を引き起こし自在に操作する』というもの。
 それを自分の脳で演算処理して実行するため、『多重能力者(デュアルスキル)』は脳の負荷が大きすぎて実現不可能だし、自分だけの現実である超能力も一人一種類しかない。

 佐天さんは今、氷と炎、二種類の能力を使い分けて攻撃をしているように見える。
 これは本来、ありえないはずのことだ。


『……面白いものを、見せてやろう』


 以前、そう言って、複数の能力を見せてくれた人がいる。
 度々お世話になったことのある、木山春生という先生だ。
 彼女の『多才能力(マルチスキル)』は、『風力使い』や『水流操作』を同時に使うことができた。

 でもそれは、『幻想御手(レベルアッパー)』というプログラムで一万人近くの人の脳をネットワーク化したために可能だった出来事。
 決して、超能力は一人に一つだけ、という法則が覆ったわけではない。

 ――そう。レベルアッパーだ。

 佐天さんは、前に一度、そのレベルアッパーを使用したことがある。
 脳で能力の演算ができずレベル0だった佐天さんも、その時は何らかの能力を発現させていたはずだ。
 その時の能力も、程度の差こそあれ、恐らく今使用している能力と同じものだったはず。
 今の佐天さんはそれを、どう見てもレベル4か、御坂さんと同じレベル5並の能力として行使している。

 ――どこかに、レベルアッパーと似たような理屈で作用しているものがある?

 一見して思い当たるのは、佐天さんの両腕に嵌っている奇妙な円筒だ。
 恐らくそれが、能力の増幅器。
 あれが破壊されれば、佐天さんが『自分の能力の演算方法を学んで』いたとしても、その出力はいくらか下がるはず。
 もしかすると、あれが佐天さんの暴走の原因だということさえも考えられる。
 そして佐天さんの能力は、『出力さえ上がれば、炎も氷も作り出せる能力』だ。

 ――でも、一体、それは何?

 恐らくそれは、私たちが佐天さんの能力を受けて無事だった理由にも繋がる。
 氷、炎、氷、炎。
 佐天さんが放つのは必ず交互だ。例外なく。
 本当に『多重能力者(デュアルスキル)』だったら、氷の次に氷、炎の次に炎で攻撃してもいいはずなのに。
 まるで温度を差し引きゼロにするかのように、交互に――。


「あ」


 そうなんだ。
 よくよく考えれば、すぐにわかったはずだ。見慣れた能力なのだから。
 でも、その発現が全く正反対で、極端な見え方だったから、わからなかっただけ。


 ――佐天さんは、私と、同じタイプの能力者だ。


 私なら、佐天さんを止められる。
 レベル1しかなくて、使い道もあまりなかった私の『定温保存(サーマルハンド)』。
 それは『熱の伝達を止めて温度を一定に保つ』能力だ。
 佐天さんの能力は恐らく、『熱を自分に吸収して再び放出する』もの。
 そうとしか思えない。

 私のこの手。
 この指の中に、佐天さんを助けるための力があふれている。
 いくら佐天さんが暴走したって、私なら、受け止めてあげられる。

 ――待ってて。
 この腕に力を込めて、今、その手をとりに、行くから――。


    √√√√√√√√√√


24 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:16:34 z6RNd4G20

 佐天さんは今や、じりじりと広場の端に追いやられ、炎と氷の噴出し方も弱くなってきていた。
 そして次の瞬間、彼女の背中が木の幹にぶつかる。
 ちょうど私が、佐天さんのもとへ駆け出そうとした時だった。


「ラヒィィイィル!!」
「……え?」


 ぞくりと背筋が粟立った。
 皇さんが、怖いほど綺麗な声で、叫ぶ。

 一瞬で彼は佐天さんに飛びかかっていた。
 動けない佐天さんに、明らかな殺意を持って。

 ――どうして? 私に、時間をくれたんじゃないの?
 ひたすら、避け続けてくれるんじゃ、ないの?
 それとも――。


『彼女の能力の謎を、解き明かして欲しい。
 しかし、どうしてもわからないのならば、彼女の暴走が手遅れになる前に、殺す』


 そういうことだったの?


 ――やめて。
 私は、解いたんだよ。
 佐天さんを、助けてあげられるんだよ。
 やめて――!!


 手を伸ばしても、届かない。
 息が声になる前に、二人は交錯してしまう。

 私の眼はしっかりとその瞬間を見つめていた。
 皇さんの鉤爪が迫る。
 佐天さんのある一点を目掛けて。


 佐天さんは――。
 佐天さんは。


 笑っていた。


「『ストリームディストーション』!!」


 辺りに突風が吹き抜けていた。
 飛びかかっていた皇さんの体は広場の反対側まで吹き飛ばされ、木立に叩きつけられる。
 激しい衝突音を立てて、彼は力なく地面に落下していた。

 ……熱を操作できるのならば、急激に空気を膨張・収縮させて風を起こすこともできる。
 佐天さんも当然、それくらいの秘策は用意していた。

 ――皇さんは、攻撃をやめなきゃ駄目だったんだ!

「あははははっ、はははははっ!!」

 佐天さんの甲高い笑い声が聞こえる。
 その笑顔は、獲物を前にした猛獣みたい。
 その殺気も、先程の皇さんのように一切の容赦もない、抜き身の刃物みたいに感じた。

 佐天さんの中から、もう一人、佐天さんが染み出している。
 明らかに皇さんを怖がっていながら同時に、狂ったような攻撃と冷静な作戦を組み立てている佐天さんがいる。
 佐天さんの奥底から、怒りや、愛しさや、悔しさや、言葉にできない感情が煮詰められて、溢れ出ているみたいだった。

「私に切り札が無いと思った……? わざと威力を落として熱を溜めておいたのよ!
 ……初春の仇。
 さあ、今度こそ、消えろ!!」

 佐天さんの周りの木々が、ものすごい勢いで凍り付いていく。
 隠れている私のところまで。
 地面は真っ白に。空気は吹雪のように。
 ほっぺたのうぶ毛に、霜が降りる。
 必死に自分の周りを手で掻き回して『定温保存』しなければ、私さえ氷漬けになってしまいそうだった。

 既に佐天さんは、両腕を、倒れ伏す皇さんの方に翳している。
 皇さんの黒い鱗はピクリともせず、気を失っているのかも知れなかった。


25 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:17:45 z6RNd4G20

 佐天さんの笑顔が、口を開こうとした。

「佐天さんっ!!」

 私は叫んでいた。
 走り出す。
 凍り始めた足元の地面を砕き、空をつかむ。

 透き通るダイヤモンドダストが、朝日に輝きを放っていた。
 風を掻いて、彼方の人を求めて、私はただ叫ぶ。


「佐天さぁーーーーんっ!!!!」


 氷った空を翔けるように、脚の底から頭を貫く、燃えるような息を吐いた。


    √√√√√√√√√√


 初春が、呼んでいる気がした。

 風が一筋、私の耳に梢を渡ってきたんだ。


 振り向けば、私のもとに駆け寄ってくる、女の子が一人。
 ずっと会いたかった、死んでしまったはずのあの子が。


「うい、は、る……?」
「佐天さんッ! 佐天さんっ!!」


 泣きじゃくりながら、両手を広げて、私の方へ。
 私を受け入れようと、愛してくれようと、走ってきていた。

 でも、私は、初春を抱きとめられない。
 この腕はもう――。


「来ちゃダメ初春!! 『第四波動』が、止められない!!」


 両腕のガントレットに目一杯溜め込んだ熱量が、行き場を失っていた。
 何度も連続して能力を使っているうちにわかった。
 左天というおじさんがつけていたこの腕輪は、この能力の増幅に欠かせないものだった。
 私の『第四波動』は、この金属の筒にエネルギーを溜められて初めて撃てる。
 自分の体に熱を吸収するだけでは、あれほどの炎や風を起こす熱は保持できないんだ。

 あのドラゴンに止めを刺すため、私は最大限の火炎を撃つつもりだった。
 使い方がわかったばかりの自分では、これだけ吸収しきった熱量を、長く抑えられない。
 でも、今これを解き放ってしまったら、確実に初春を炎に巻き込んでしまう。

 ――どうすればいいの……!?

 全身に散っていた白い三日月が、うぞうぞと皮膚を這いずって腕に集まっている。
 集まりすぎて溢れて、掌から、筒から、ぼうぼうと白く火を噴き始めていた。
 抑えられない『第四波動』が、暴れ馬のように手綱をちぎって燃えている。
 焦げる。
 じわじわと、焦げていくのは、私の体だ。
 熱くて、痛くて、渇いた体は叫ぶしかできない。
 もう、すぐに、私はこの月に身を任せてしまうだろう。


「来ないで!! 私は、初春を、殺してしまう!!」


26 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:19:16 z6RNd4G20

 それでも初春は、まっすぐに私だけを見つめて、走ってくる。
 こんなにも歪みきった自分に。
 自分の歪みも見つめられないで、なすがままに溢れさせていた自分に――!

 私は明ける空を振り仰いでいた。
 両手を天に伸ばして、だれかに助けを求めた。

 もう、私はどうなったっていい。
 初春さえ生きていてくれるなら。
 私の罪が償えるなら、死んでしまってもいい。


 誰か私の体に蔓延る、歪んだ月を殺して下さい――。


 そうして願う朝日の空に、一人の死神が舞っていた。
 音もなく大地から跳ね上がっていた闇の色の鱗。

 そういえばさっき、木々を渡るような風を聞いた。
 あまりに澄んでいて、自然に溶け込んでしまうような、鳥の羽ばたきのような風。
 それはきっと、この死神の来訪を告げる音。
 心の中に起きる殺戮を、眠らせてくれる死なんだ。


 ねえ、死神さん。
 あんたは、すごく綺麗だよ。気絶していたのは、ただのフリだったんだね。
 ずーっとずーっと冷静なままで、私を殺す一撃のためだけに待ってたんでしょう?

 ねえ、なんで私は、あんたを見てこんなに歓んでいるのかな?
 体の中に悶えている私が、あんたに恐れ慄いてて、すごく心地いいんだ。
 顔だって、こんなに晴れ晴れと笑えてしまうくらい、嬉しくて、そして爽やかだ。
 ねえ、言わせて――。

「……ごめんね。初春――」

 全身から湧き上がるような温もりに、にっこりと口角が上がっていく。
 ドラゴンの姿をした死神の彼も、同じようににっこりと笑っていた。

 悠然と空を舞う鷹のように、ドラゴンは翅を広げて私の上に飛ぶ。
 そしてふと体を畳み、滑空の揚力から落ちてくる。
 高飛び込みの選手みたいに、くるりと回るんだ。
 前宙返り・抱え型とか言うのかな。
 私の炎を切り裂いて、スローリプレイのように映る彼の踵落とし。
 その足先の朝日、暖かな鉤爪の輝きを見つめて、私の瞳はその動きに安らぎを感じていた。


    √√√√√√√√√√


27 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:20:56 z6RNd4G20

 澄んだ金属音が、朝日を受ける氷上に響く。

 アニラは、佐天涙子の目の前に、静かに佇んでいた。

「佐天さんッ!!」

 初春飾利は、そのアニラの胴体へ体当たりするようにして両腕を差し出し、佐天涙子の手を掴む。
 炎を上げて燃えていた佐天の手が、熱源から遮断され、徐々に鎮火していった。

「な……、んで……」

 呆然とした声で、佐天は呟いていた。
 二人に挟まれる形になったアニラは、彼女たちが指を組むその両手に、そっと掌を置いた。

 パカン。

 佐天の両腕に嵌っていた金属のガントレットが、深く刻まれた切込みから、二つに割れて地に落ちる。
 熱の行き場を奪われたその筒は、凍った地面を溶かしながら、静かに消え落ちていった。
 上空から高速落下と共に振り下ろされたアニラの両の鉤爪は、彼が狙った通りに、金属筒の中央部に割線を入れていたのだった。

 初春のすすり上げる声だけが、暫くその場に聞こえていた。
 佐天涙子は、震えた眼差しで、目の前に立つアニラを仰ぎ見る。

「なんで、私を、助けたの……?」

 そんな呟きが漏れていた。
 竜は、『言っている意味がわからない』とでもいうように、小首を傾げる。

 そして彼は、口を開いていた。


「――説明が、必要なことでありますか?」


 フルートのような、風の抜けるような声だった。
 初春飾利と佐天涙子は、驚きと共に彼を見つめていた。

「全ての生命はかけがえがない。自明の理であります。
 しかしながら、自分が守るべきは、自分の生命と生活圏のみであります……。
 貴女とて、それは同様と推察されます。
 生命を脅かす外敵を排斥し、自分を防衛せんとするのは互いに当然の行動。
 対偶として、相互が敵ではなくなるのならば、自分に貴女の生命を奪う合理的な理由はない。
 ――以上であります」

 抑揚も無くただ静かに、そよ風のように彼は語った。
 佐天は、憔悴した眼差しのままで、僅かに微笑む。


「……なんだ。普通に喋れるんじゃん、あんた……」


 能力者とはまた違う、人とは思えないような力を持っていた。けれど。
 人間だ。
 そう佐天涙子は思った。

 けだものには、言葉は無い。心も無い。時間と言う概念も無い。ただ、本能に従うだけ。
 このドラゴンは、死神でもけだものでもない。とても深い考えを持った、人間なんだ。
 初春を、私の敵意から守ってくれた。
 そして、私すらも、生かした。

「自分の発声は、口腔の変形により大変聞き苦しいものになっていると推察されますゆえ、発言は極力控えております。
 また加えて、自分は作戦行動中の私語を謹しんでおります」

 アニラは生真面目に答えてくる。
 気遣いの方向性がずれてるなぁ、と思って、佐天は苦笑した。

「バカ……。それでもまず始めに交渉くらいしなさいよ、敵でも……」
「互いに、その点は改善の必要があるものと見受けられます」

 佐天が笑うと、アニラも笑ったように見えた。
 彼の表情は、実際のところ全く動いていないにも関わらず、佐天にはそう見えた。

 ――ああ、単に私は、彼の顔に、私自身を見てただけなんだなぁ。

 佐天は、自分の歪みを映してくれていた鏡の存在に、ようやく気づく。


28 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:22:59 z6RNd4G20

 ――ありがとう。

 鏡に向かって今一度、でも、誰にも聞こえないように、口の中でだけ呟いた。
 その鏡の背中から、泣き声を押さえて初春が問うていた。

「皇さんも、私と同じこと、考えてくれてたんですね?」
「はい。初春女史ならば、かつ、それ以上の解法を見出すものと思考していた次第であります」

 佐天涙子の能力の要が、その腕の装置にあるだろうと考えていたのは、二人とも同様だった。
 そのためアニラは、その装置の破壊タイミングを見極めることにのみ集中していた。
 しかし肝心の能力の内実は不明である。そこを初春に解明してもらわねば、不測の事故が起こる可能性が高かった。
 アニラの回し蹴りが突風で跳ね返されたのはその事故の一例である。
 また最後に、佐天もアニラも焼死せずに済んだのは、確実に初春の能力と、その行動のお陰であった。

 アニラは、ふらつき始めた佐天の肩を少し押さえて、二人の手で作られた輪の下を、するりと潜り抜ける。
 そっと佐天の体を初春に預けて、彼は一言だけ付け加えた。

「佐天女史。一点だけ強調いたします。
 自分は『佐天女史の殺傷能力と凶暴性』を殺害いたしたのみであります。
 貴女を助けたのは、初春女史であり、また貴女自身でありますゆえ。
 ――その謝辞の対象は、お取り違えなさらぬように」

 そうしてアニラは、置いておいた支給品を取りに、静かに森の中に去っていった。

 すすり泣く初春と共にその後姿を見送って、佐天はまた自省する。


 ――そう。スメラギさんというらしい彼は、やろうと思えばいつだって私を、生命ごと殺せた。
 彼は粘って粘って、『私が自分の歪みに打ち勝てるのか』を、見極めていたんだ。
 もし私が狂ったまま、あの場で周囲を巻き込みながら『第四波動』を撃っていたら――。

 上空に跳んだスメラギさんは、全熱量を出し尽くした私の首を、きっと悲しみながら刎ねていたんだろう。

 そして、私を勝たせてくれたのは――。

「……初春」

 組んでいた互いの指を解いて、その体を抱きしめる。
 初春も、その手で、しっかりと私を包んでくれた。
 暖かかった。
 炎の熱さでも、氷の冷たさでもない。
 友人の、私の大切な親友の、その体温が全身に満ちていた。

「佐天さん……ッ」

 透き通るような暖かな水滴が、私のうなじに降っている。
 震える初春の体は、私が吹き飛ばしてしまった時にできたのだろう、擦り傷がいっぱいだった。
 ほっぺたなんか、うぶ毛が凍っててしょりしょりする。

「……ごめん。これじゃあ、『幻想御手(レベルアッパー)』の時と、一緒だよね……。
 無能力なら無能力で、内緒で、ズルして……。
 力を得たら得たで、勝手に歪んで、人を殺して、初春までこんな目に合わせて……。
 私、やっぱり欠陥品だ。
 もう少しで、能力なんかより、もっと大切なものを、無くすところだった……」


29 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:25:00 z6RNd4G20
 
 初春は私の耳元で、「大丈夫です!」と、強く言い放っていた。

「もし佐天さんが、私を殺しに来ても、私は佐天さんなんかに、簡単に殺されてあげません!
 佐天さんがどれだけ歪んでても、私は平気ですよ。
 それで佐天さんが苦しいなら、私が、全部受け止めます。
 きっと佐天さんも『参った降参だ〜』なんて言っちゃいますよ!
 それにほら、佐天さんは、こんなになってまで、私を守ってくれたんじゃないですか!」

 初春は、急に身を離して、私の腕を掴む。
 目の前に差し出された自分の両腕は、火傷で真っ赤になっていて、ところどころ水ぶくれができていた。
 今までまったく忘れていたけれど、見たら急にまた激しく痛んでくるみたい。

 ……腕輪に溜まった自分の歪みと、私は戦っていたんだ。
 私の腕は、ひどい有様になっちゃったし、すごく痛いけれど、もう、歪んでは見えなかった。

 その先に、まっすぐ見えるのは、涙を浮かべた強い眼差し。

「佐天さんは、いつだって私を引っ張ってくれたじゃないですか!
 力があってもなくても、佐天さんは佐天さんですっ!
 欠陥品なんかじゃない! 私の、親友なんだから……ッ!」

 なんでだろう。初春は、こんなにも私のために涙を零してくれる。
 私がカラカラに渇かしてしまった場所に、潤いを与えてくれる。

 初春の花飾りは、満開だった。

「だからっ、だからっ! もう、そんな、悲しいこと」
「……言わないよ――」

 再び強く、初春を抱きしめた。
 私の伏せたまつげの先に、雫が光っている。
 渇いて干からびてたと思ったけど、まだ私の眼にも、こんなに朝日は煌くんだ。

 ――ああもう。昔のやりとりそのまんまじゃん。
 私たち、全然変わっちゃいないんだね。
 私は私、初春は初春。
 ずーっと、親友のままだ。

「……迷惑ばっかりかけてごめん。これからもかけるかも知れないけど……、よろしくね」
「……ううぅ……。佐天さぁん……!」

 私の体の中で、たくさんの三日月が、くるくると回って歓んでいた。
 もうその縁は、欠けてとんがってはいない。
 初春が埋めてくれた。
 別に歪んでてもいい。丸くなれなくてもいい。
 私が人を殺してしまったのは確かだし、ここで自分の命と親友を守るには、ヒグマにしろ人にしろ、敵の命を奪っていかなくてはならないのは確実だ。

 私の歪んだ細い三日月でも、真ん中に友達を抱え込むくらいはできる。
 だからきっと、殺してしまった分だけ、守り抜くのが、私の贖罪だ。

 ――ありがとう。初春。

 暖かな日差しに頬を染めて、私は初春のみどりの髪に、そっと口付けした。


    √√√√√√√√√√


30 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:26:55 z6RNd4G20

『よう、嬢ちゃん。あのじゃじゃ馬は手懐けられたかい』

 ん!? 何?
 左天のおじさん? なんで頭の中に話しかけられんのよ。あんた。今折角いいところなのに。

『うんまあ、まだ俺は異空間にいるんだが、嬢ちゃんが“向こう側”の世界に繋がる時だけは話せるみたいだな』

 おじさんには感謝してるけど、今はやめてくれないかな。
 スメラギさんでさえ空気読んでくれたんだから、親友との余韻に浸らせなさいよ。

『話せる時間が少ないんだよ。嬢ちゃんが“向こう側”の能力で作った腕輪が、今消えて行ってる。
 嬢ちゃんの能力はまだ不安定だ。ヘンな仏像に煽られたくらいで心を乱してるようじゃこの先、生き残れないぜ?』

 悪かったわね。
 このテレパシーのエネルギー吸い取れたら増幅してあんたにぶつけてるとこなんだけど。

『責めてるんじゃねえ。
 俺がここから脱出できるかも、もう一度嬢ちゃんがあの時みたいに能力を使えるかに掛かってるんだ。
 幸い、あの竜人も嬢ちゃんの友達もいい使い手だ。
 そいつらからも、能力の使い方を学べ。俺も、機会があり次第教えるから』

 ……スメラギさんや初春が、私の能力の参考になるわけ?
 あの虹色の輝きを作った時のことなんか、よく覚えてないんだけど。

『少なくとも、腕輪のなくなった今、嬢ちゃんに「第四波動」の威力は出せねぇ。
 だが、その能力は、“四”では終わらねぇ。
 もしかすると、俺ですら知らない使い方があるかも知れんのだ』

 ……わかったわよ。とにかく、『早く帰りたいから強くなって助けてくれ』ってことね。

『そうそう。なるべく早くしてもらえると有難い。
 こっちにはなんだかさっきから、山ほどのクッキーだの、肩当と焼印のあるヒグマの死体だの、わけわからんものばっか来ているんだ。
 まあ食う分には困らんがな……』


 左天のおじさんの声はだんだん小さくなっていって、ついには聞こえなくなった。
 初春と抱き合いながら見回すと、腕輪の落ちたところには、氷の溶けた跡だけが残っていた。

「……能力の使い方ねぇ……」
「……? 佐天さん?」

 私の呟きに、泣き止んだ初春が顔を上げる。
 そうそう。思い出した。ようやく初春と会えたんだから、アレぐらい、しないとね。

「そうだよ。忘れてたぁ……。二人の再会祝いと、正気に戻った慰労を兼ねて……」

 うふふ。
 私は笑いながら、初春から離れる。
 きょとんとした初春をその場に残し、3歩ほど下がって私は両腕を構えた。
 たぶん、獲物を前にした猛獣みたいな、そんな笑顔になっていたと思う。
 そして大きく、両手を振り上げた。


「たっ、だいまーっ!!」


 ぶわっ。

 風が立つ。
 スカートが朝日にふわふわと舞い踊る。
 初春の白いふとももは、すべすべとして美しかった。

「……キャーッ!? 佐天さああん!?」
「ほほおー。今日は淡いピンクの水玉かぁー。
 戦場にあっても癒しを与えてくれるそのチョイスはありがたいねぇ〜」
「いきなり何するんですか能力まで使ってぇ!?」
「うん、名付けて『下着御手(スカートアッパー)』。
 お互いの恥ずかしい歪みまで共有できる親友には、うってつけの親睦手段だよね!」
「良いこと言ったフリして誤魔化さないで下さい!!」

 顔を真っ赤にして怒る初春は、やっぱり可愛らしかった。
 私は嬉しい。
 日常を思い出せた。
 そして確かに私は、『自分だけの現実』を、手に入れられたんだとわかった。

 スカートをはためかせるくらいで丁度いい。
 今の私には、それだけの力があれば、十分すぎるんだ――。


 初春が紡ぎ出してくれた涙も微笑みも、朝日を受けて、とても綺麗だった。


    √√√√√√√√√√


31 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:29:50 z6RNd4G20

 ――両女史が歓談できる精神状態となったのならば、良好な戦果であったと言えるだろう。

 アニラはてきぱきとした動作でペットボトルや機関銃をデイパックにまとめていた。
 そこから支給品のタオルを取り出して、佐天の能力で凍り付いた木々から氷を集め始める。

 ――しかしながら、現在は高揚していても、両女史ともに中学生。体力量は限られている。休息が不可欠だ。

 アニラが氷を集めている理由は、佐天の、両腕に負った火傷を治療するためだった。
 また、初春の体力損耗は軽度とはいえ、佐天はアニラとの戦いの前に少なくとももう一戦はおこなっていたと推測される。
 緊張が切れた瞬間に動けなくなってしまうくらい、疲労が溜まっているに違いない。
 作戦遂行効率の低下を鑑みるに、早急に休息と食事を摂り、機能を回復したかった。
 アニラ自身、脱皮をして熱傷を負った鱗を新陳代謝したいし、蓄積した乳酸も無視できない量になりつつある。

 ――主催者には、自分たちに休憩させる気など毛頭ないようだが。

 もう一度だけ、アニラは晴れた空の方へ眼を向ける。
 その巨大さを改めて確認すると、彼は二人の元へ急ぎ足に戻っていった。

 ――早急に女史らの意見を伺い、撤退の経路を模索すべきと判断する。


 ―――ブォオオオオオオオオオォォォォ!!!!!


 アニラが踵を返した森の向こうには、目を疑うような巨大なヒグマ――。
 『ヒグマドン』が、その巨体を唸らせて雄叫びを上げていた。


【B-3森/早朝】


【佐天涙子@とある科学の超電磁砲】
状態:疲労(大)、ダメージ(大)、両下腕に浅達性2度熱傷
装備:なし
道具:なし
基本思考:対ヒグマ、会場から脱出する
0:初春、スメラギさん、ありがとう。
1:人を殺してしまった罪、自分の歪みを償うためにも、生きて初春を守る。
2:もらい物の能力じゃなくて、きちんと自分自身の能力として『第四波動』を身に着ける。
3:その一環として自分の能力の名前を考える。
4:やっぱり『ストリームディストーション』より『スカートアッパー』の方が良い名前よね。
[備考]
※第四波動とかアルターとか取得しました。
※左天のガントレットをアルターとして再々構成する技術が掴めていないため、自分に吸収できる熱量上限が低下しています。
※異空間にエカテリーナ2世号改の上半身と左天@NEEDLESSが放置されています。


【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
状態:疲労(軽度)
装備:サバイバルナイフ(鞘付き)
道具:なし
基本思考:できる限り参加者を助けて、一緒に会場から脱出する
0:佐天さんに会えて嬉しいけど、スカートめくるのは止めてください!
1:佐天さん、元気になって良かった……。
2:佐天さんの辛さは、全部受け止めますから、一緒にいてください。
3:皇さんについていき、その姿勢を見習いたい。
4:最初から佐天さんの能力がわかってたら、私だけで戦って説得できたのになぁ……。


【アニラ(皇魁)@荒野に獣慟哭す】
状態:疲労(中等度)、全身の鱗に軽度の凍傷と熱傷
装備:MG34機関銃(ドラムマガジンに50/50発)
道具:基本支給品、予備弾薬の箱(50発×5)、タオルいっぱいの氷、基本支給品@初春、ランダム支給品×1〜2@初春
基本思考:会場を最も合理的な手段で脱出し、死者部隊と合流する
0:巨大なヒグマ(ヒグマドン)から早急に逃走し、休息をとる。
1:あれほどまでに巨大なヒグマは、万全の状態でも対処が困難であろう。撤退すべきだ。
2:両女史。親睦を深めている場合ではありません。
3:参加者同士の協力を取り付ける。
4:脱出の『指揮官』たりえる人物を見つける。
5:会場内のヒグマを倒す。
6:自分も人間を食べたい欲求はあるが、目的の遂行の方が優先。


32 : 風になれ〜みどりのために〜 ◆wgC73NFT9I :2014/01/09(木) 17:34:25 z6RNd4G20
以上で投下終了です。

続きまして、呆然としながら、鷲巣巌、島風、ヒグマドン、銀、天龍で予約したいと思います。


33 : 名無しさん :2014/01/09(木) 23:44:29 ALw8jnKY0
投下乙
誰が死んでもおかしく無かったが死者は出ず。ドラゴンさんイケメン過ぎるぜ…


34 : ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/13(月) 00:51:43 psbJ3iqU0
投下します


35 : アンリ・ヒグマ−この世すべての羆− ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/13(月) 00:52:21 psbJ3iqU0
「うぅ……熊肉なんて初めて調理しますよぉ……。」
「仕方ありません。我々は生まれたばかりで料理など素人同然なのですから。
 さあ、今は亡き有富氏が雇った伝説の料理人としての腕を見せて下さい!」
「わ、わかりました!やってみます!……はぅ……。」
「どうしましたか!?」
「刃が全然通りません……触れた部分からバキバキ折れます……。」
「これを使ってください!」
「こ、この包丁は!?ヒグマの爪や牙を圧縮して加工した包丁ぉ!?
 こんな凄いモノを私に……?分かりました!やってみます!
 ……ス、スゴイ!ヒグマの死体がバターの様にサクサク切れます!
 ふぅ……ヒグマの腑分け、完了しました!」

見事ヒグマの死体の解体に成功した遠月茶寮料理学園に所属する女子高生、田所恵は
水に日本酒とローリエやセージといった臭みを消す香辛料を混ぜて肉を煮込んで灰汁を抜き、
早速急ピッチで調理にかかる。普通に食べると獣臭くて喰えたものじゃない熊肉が、
田所さんの手によって見事な珍味へと生まれ変わった。

「出来ましたよ。さあ、召し上がってください!」
「モグ……おぉこれは……!一口食べただけで心の穢れが消えていく……!
 これがセラピー効果!我々に母は居ないがこれがおふくろの味というものですね!
 ありがとう、田所さん。」
「えへへ、どういたしまして。さぁ!早くお客さんに持って行ってあげて下さい!」
「はい!――――さぁ出来ましたよ二人とも!特製熊汁と麻婆熊汁でございます。」
「……あ、あぁ、ありがとう。」

屋台に座っている二匹のヒグマはグリズリーマザーが差し出したホカホカと湯気を立てる料理を
無言で見つめていた。沈黙を破り一匹がぼそりと隣に座るヒグマに話しかける。

「なんでコイツら共食いしてんすか言峰神父?」
「モグ……ふむ、この麻婆熊汁、いい感じの激辛だ。あの田所とかいう娘、只者ではないようだな。」
「いや、普通に喰ってんじゃないですよ!」
「まぁ、一応農耕もしているようだが、こんな地下じゃロクな食物も育たんだろう。
 彼らの飢えを満たしているのは地下に生息するキノコ類、工場で生産された合成食糧、
 そして、生まれた時に弱かった個体を選別して解体した熊肉、といったところか。」
「まさに弱肉強食……自然界の縮図そのままですね。」
「しかし、自然の生物は同種を喰ったりはしない。ここにいるヒグマ共はヒグマの形をした
 もっとおぞましい、なにかさ。」

ヒグマの恰好をしたウェイバー・ベルベッドは仕方なく差し出された熊汁を食することにする。
数分前、バーサーカーのマスター間桐雁夜と同じようにサーヴァントの燃料タンクとして主催陣営に
部屋の中で軟禁されていたウェイバーと言峰綺礼は、有富達が増えすぎたヒグマの制御が出来ず
ほぼ全員捕食されて壊滅した際の混乱に紛れて部屋を脱出し、廊下のロッカーに入っていた
ヒグマのオーバーボディを着ることでヒグマ帝国の住民に成りすますことに成功したのである。
他にも軟禁されているマスターがいるようだが、半身不随で動けないケイネス先生などは置いていくしか
なかったし何より自分たちもいつ気付かれるか判ったもんじゃない。

「ははっ、まさに四面楚歌ってやつですね神父。まさか聖杯戦争より恐ろしい環境があるなんて。」
「どのような地獄もなれれば天国になるさ。ここは大人しく機を待つものだ。」
「うぅ……なにやってんだよライダー!早く助けに来てくれー!」
「―――!?おい、やめろ!それは!!」




「―――――呼んだかマスター?」


36 : アンリ・ヒグマ−この世すべての羆− ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/13(月) 00:52:38 psbJ3iqU0
ウェイバーが叫んだと同時に、大戦略の限定Tシャツを着た髭面の大男が二人の真後ろに出現した。
彼こそが第四次聖杯戦争にてバーサーカーと同期で召喚されたライダーのサーヴァント。
人間の理想像であるアルトリアとも、人間を超越したギルガメッシュとも違う、人間のまま君臨者となった男。
かつて世界の半分を制覇したという伝説の征服王、イスカンダル(アレクサンドロス大王)である。
後ろを振り向き安堵と同時に驚愕の表情をオーバーボディの中で浮かべるウェイバー。

「全く、温泉くらいゆっくり入っててもいいではないか。」
「ライダー!なんでここに!?」

すかさず言峰が返答する。

「君が呼んだからだよウェイバー。令呪のことを忘れたか?」
「あ!そうか!……まあいいや!これで一安心だ!」
「ふむ、だが状況は思ったより不味いようだな。」

「グルルル〜〜〜。」

いつの間にか、突然現れた久々の人間=餌の臭いに釣れられたのか、
三人が居る屋台を囲むようにぞろぞろとヒグマ達が集まってきていた。
その表情は、まるで人間の様に暮らしていた先ほどまでとは打って変わった
理性を感じない野生そのものの姿である。

「野生と理性のスイッチの切り替え。喋るクマは弱いと聞いたが流石完成系HIGUMA。
 そのような欠点も克復しているか……やれやれ、だから慎重に行動しろと言ったのだ。」
「ど、どうしよう!?とにかく逃げないと!!」

「はっはっはっ!ずいぶん困っているようだな雑種共よ!」

三人が横を向くと、もう一匹のヒグマがいつの間にか屋台に座っていた。

「その声……まさか……!?」

そのヒグマが頭に被ったマスクを取ると、眩しい金髪を逆立てた高貴な男が出現した。
言峰綺礼のサーヴァント、アーチャーである。

「おお!アーチャー!お主も住人に紛れ込んでいたのか!?」
「ふん、癪だが状況的に仕方あるまい。」
「……アーチャー?あれ?たしか英雄王ギルガメッシュってさっき死んだって
 放送で名前呼ばれて……もがっ!」

言峰は無言でウェイバーの口の中に熊肉を突っ込み矛盾を指摘されるのを阻止する。

「さて英雄王ギル……アーチャーよ。一つ提案があるのだが。
 どうだ、お主が世界に修正される前にヒグマ相手に大暴れしてみる気はないか?」
「ほう、あの時の提案、あれをやるのか。はっはっは!そうだな、いずれ消えゆく運命、それも一興か!」
「な、なにを始めるんだ二人とも?」
「なぁに、マスターよ。どうやらここから逃げる予定の様だが。
 ――――――別にヒグマを倒してしまっても構わんのだろう?」
「え?」


ウェイバーが瞬きをした次の瞬間、目の前に広大な荒野が広がっていた。
荒れ果てた砂漠のような風景。地下帝国の姿は微塵もない。
遠くの方で数百〜数千匹のヒグマの群れが狼狽えているのが見える。
そして、ヒグマの群れと対峙するように進軍し、こちらに近づいてくる軍勢達。
軍神がいた。マハラジャがいた。以後に歴代を連ねる王朝の開祖がいた。
そこに集う英雄の数だけ伝説があり、その誰もが掛け値なしの英霊だった。

「これは……固有結界!?アイオニオン・ヘタイロイ(王の軍勢)を使ったのか、ライダー!?」

王の軍勢。征服王イスカンダルたるライダーの切り札である最強宝具。
イスカンダルが生前、世界征服の覇道の最中で戦いの末に友誼を結び共に轡を並べ戦った、
死後英霊に祀り上げられる程の英雄豪傑達からなる近衛兵団を、固有結界内で独立サーヴァントとして
連続召喚する究極の宝具の一つである。

「はっはっは!山狩りにこれほど適した宝具もあるまい!だがヒグマ共の戦闘力は未知数。
 いかに英霊とはいえあれだけの数を相手にするのは厳しかろう。そこで英雄王にひとつ頭を下げねばならん。」
「ふん、我が財を貸し出すのだ、なるべく頑張ってくれよ。こんな奴らに乖離剣を使うなど以ての外だからな。」

そう文句を垂れながらもアーチャーは空間から次々と宝具を召喚していく。
王の財宝。本人でもその全容を把握しきれない古今東西のありとあらゆる
宝具を納めた古代バビロニアの宝物庫から無尽蔵に宝具を取り出す鍵剣である。
本来矢のごとく射出するそれらを王の軍勢の元へと次々と降らせていく。
王の軍勢は宝具を召喚することはできない。だが、その欠点は今克服された。


37 : アンリ・ヒグマ−この世すべての羆− ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/13(月) 00:52:57 psbJ3iqU0
「す、すごい!評価規格外の超宝具同士の究極の合わせ技!これなら勝てる……ヒグマ帝国に!」
「ここか?祭りの場所は?」
「ふむ、機は熟しましたね。」
「せっかくだから便乗してもらいますよ。」

ウェイバーが横を向くと、人語を喋る四匹のヒグマが立っていた。
いや、もはや正体はわかっている。彼らは次々とオーバーボディを脱ぎ始める。

「アルトリアよ!まさか肩を並べて戦える日が来るとは思わなかったぞ!」
「同感ですよ英雄王ギル……アーチャー。」
「まあ、主君を救助せねばならぬからな。背に腹は代えられん。」

セイバーのサーヴァント、アルトリア(アーサー王)。
ランサーのサーヴァント、ディルムッド・オディナ。
キャスターのサーヴァント、ジル・ドレイ。
アサシンのサーヴァント、ハサン・サ・バーハ。

今ここにバーサーカーをのぞいた第四次聖杯戦争の全ての英霊が集結していた。

「おお!これは心強い!皆のもの!ヒグマを地上に出せば人類は滅亡することになるであろう!
 我らの死力を尽くしてここで食い止めようぞ!」

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!

「ははっ、もうこれなら楽勝なんじゃないかな?……ん?どうしたんだいランサー?」

先ほどからヒグマの群れを見ているディルムッドがなにやら顔色が優れない。

「……いや……なんか嫌な予感がするんだ……。」

生前、猪に殺害された彼は野生の恐ろしさを身に染みて感じている。
いつのまにか用意していた神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)に跨ったライダーが
号令をかけ始めた。

「ワシが先陣を切る!皆の者よ!我に続いて蹂躙せよ!!」
「ま、待てライダー!早まるな!」

「行くぞ!!ヴィア・エクスプグナティオ(遙かなる蹂躙制覇)!!!」

ディルムッドの制止を振り切りライダーが雷撃を放ちながら戦車型宝具による蹂躙走行を開始する。
あらゆる地形を高速で走覇する戦車の前にヒグマの群れは成すすべもな――――。

バシィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!

ヒグマの群れに戦車が突撃した瞬間、激しい衝突音と共に神威の車輪に乗っていたライダーの体が
空中へと投げ出された。放物線を描きながら弾き飛ばされたライダーは、錐揉み上に回転しながら
動きの止まった王の軍勢達のそばの地面に着地し、膝をついて息を切らす。


38 : アンリ・ヒグマ−この世すべての羆− ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/13(月) 00:53:11 psbJ3iqU0
「はぁ、はぁ。あ、危なかった……まったく、化け物どもめ!」
「だから早まるなと言っただろ。お前が死んだら結界が解けてしまうんだ、気をつけろ。」

戦車が突撃すると同時に、左右から牽引する飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)の首筋に噛みついて
一撃で二頭を絶命させたヒグマは牛の死体に群がり食事を開始する。
その様子を二本の槍を構えながら見守るディルムッド。

「北海道の地においてヒグマは古くからキムンカムイ(山の神)としてアイヌ達に祀られてきた存在だ。
 いわば天然のサーヴァント(英霊)。その神格やこの地における知名度補正は我々西洋の英雄の比では
 ないだろう。楽勝ではない、一人一殺。確実に仕留める必要があるぞ。」

そうしてクールダウンした王の軍勢は次々と地面に刺さった宝具を手に取り、構えを取っていった。

「だが心配はいらない。いくらやつらが規格外の怪物とはいえほぼ同じ個体にすぎない。
 戦闘パターンは単調。我々の技巧の全てをぶつければ敵ではない……んん!?」

ディルムッドはなにか狐につままれたような顔をしてヒグマの群れを見つめる。
ヒグマの群れはまるで王の軍勢の真似をするように次々と懐から棍棒や槍を取り出してきたのだ。
まるで人間の様に。

「どういうことだ?何故ヒグマが武器等使う必要がある?」
「あ!アレを見てください!」

ウェイバーが背中を向けたヒグマの一匹に指をさす。
その背面には、明らかにファスナーがついていた。

「背中にチャックがついているだと?」
「まさか……こいつら全員オーバーボディだったのか!?」

ウェイバーがそう指摘したと同時に、ヒグマの群れが次々とオーバーボディを脱ぎ始めた。
下品な笑みを浮かべながらモヒカンやスキンヘッドような髪型をした、アングロサクソン系の
人種だと思われる、何処かの世紀末救世主漫画に出てきそうな風貌の男たちの集団。

「な、なんだこのガラの悪い連中は?バンディッド(山賊)?バイキング(海賊)?―――え?セイバー?」

ウェイバーが振り向くと、彼らの集団を見たアルトリアがガタガタと体を震わせていた。
彼女の騎士王らしからぬ只ならぬ様子にウェイバーが驚愕すると同時に、
青ざめたアルトリアは瞳孔を限界まで開いて声の限りに絶叫した。


39 : アンリ・ヒグマ−この世すべての羆− ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/13(月) 00:53:28 psbJ3iqU0

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!BANZOKUだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?BANZOKUだとぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「何故だっっっっっっ!?何故北海道にBANZOKUが居るんだっっっっっっ!?」
「最悪だ……HIGUMAとBANZOKUが手を組むなんて……もう終わりだ……!!」

王の軍勢にアルトリアの恐怖が伝道し全体に動揺が走る。

「え?何!?なに!?なんでいきなり敗けムードになってんの!?」
「黙れ小僧っっっ!!!貴様はBANZOKUの恐ろしさを知らんからそんな悠長に構えていられるんだっっっ!!!」
「だからBANZOKUってなにぃっっっ!?」

突然の事態に混乱するウェイバーの肩にイスカンダルがポンと手を置いた。

「ナルホド、BANZOKUか。これはヒグマに一本取られたわ。今や戦況は最悪。
 だが、戦争というのは常に最悪から這い上がっていくものだ。」

イスカンダルが剣を掲げて軍勢に活を入れる。

「ペルシアとの戦争を思い出せい!!いまこそ再び奇跡を起こす時!!ゆくぞ!!」
「うおおおおおお!!!王に続けぇぇぇぇぇ!!!!!」

号令と共に瞬く間に士気を取り戻した軍勢が走り出す。

「すごい……これが征服王のカリスマ。一気に流れを取り戻した。……でもBANZOKUって何?」

「やれやれ、BANZOKUぐらいで動揺しすぎですよ。」

ウェイバーが振り向くと、そこには太陽の影を隠すように巨大な怪獣が出現していた。
キャスターのサーヴァント、青髭ジル・ドレイの切り札、大海魔である。

「面倒だからこれで一気に決めてしまいましょう。」
「おお!でかしたキャスター!」

かつてセイバー達が共闘して戦わざるを得なかった規格外の怪物が今味方として降臨している。
巨大な触手が振り回され、無尽蔵に蹂躙を開始し人をゴミの様に薙ぎ倒す――――近くにいた王の軍勢達を。

「なにしてんの!?」
「うーん、やはり制御できませんねぇ。」
「おい!奴から離れろ!」
「大変だ!混乱に乗じてBANZOKU達がこちらに突っ込んできたぞ!!」
「うわぁ!!アサシンがやられた!!」


――――――こうして第一次ヒグマ戦争はグダグダのまま幕を開けた。


◆  ◆  ◆


「麻婆熊汁出来ましたよ。さあ、召し上がってください!」
「あぁ。」

同時刻ヒグマ帝国の屋台。何か危険を察知したので大急ぎで離脱して固有結界の影響を
免れたヒグマに成りすます言峰綺礼は二杯目の麻婆熊汁に挑戦する。
ちらりと辺りを見回すと、建物のドアを開けたヒグマ達が誰も居なくなったと思われた広間へ
次々と姿を現していき、再び帝国は活気を取り戻していた。

「なるほど、不測の事態に備えて替え玉を用意していた、ということか。
 今何と闘っているのか知らんが、たとえライダーが生き延びたとしても
 もう一度固有結界を張る魔力は……残ってないだろうな。好機を逃したか。」

言峰綺礼は深く溜息をついた。

「もはや正攻法でのヒグマの殲滅は……不可能に近いな。大人しく脱出する方法を考えるか。」


「くそっ!ヒグマ共め!ボクに先駆けて国を作り上げるなんて!だが待っていろ!
 かならずやロビン王朝を建国して討ち滅ぼしてみせる!!」
「う、うん……やべぇ、着いていく相手を間違えたかなぁ。」

言峰の隣に二匹のピンク色のぬいぐるみのようなヒグマが座っていた。
マイケルとベルモンドのオーバーボディを着てなにやら怪しげな地下の階段を下りた
クリストファー・ロビンと黒木智子である。

「てか、ここ何処ぉぉぉぉ!?」

智子の叫びが、地下帝国に木霊した。


40 : アンリ・ヒグマ−この世すべての羆− ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/13(月) 00:53:42 psbJ3iqU0
【??? ヒグマ帝国/朝】

【黒木智子@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
[状態]:吐き気、膝に擦り傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品,石ころ×99@モンスターハンター
[思考・状況]
基本行動方針:死にたい
1:ロビンに同行
2:二人はどうなったんだろう……
3:ここは何処!?

【クリストファー・ロビン@プーさんのホームランダービー】
状態:右手に軽度の痺れ、全身打撲、悟り、《ユウジョウ》INPUT、魔球修得(まだ名付けていない)
装備:手榴弾×3、砲丸、野球ボール×1 ベア・クロー@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、ヒグマッキー(穴持たずドリーマー)
   マイケルのオーバーボディ@キン肉マンⅡ世
道具:基本支給品×2、不明支給品0〜1 、
基本思考:成長しプーや穴持たず9を打ち倒し、ロビン王朝を打ち立てる
1:投手はボールを投げて勝利を導く。
2:苦しんでいるクマさん達はこの魔球にて救済してやりたい
3:穴持たず9にリベンジする
4:その立会人として、智子さんを連れて行く
5:帝国を適当にぶらぶらしたら地上に戻って穴持たず9と決着を付けに行く
※プニキにホームランされた手榴弾がどっかに飛んでいきました
※プーさんのホームランダービーでプーさんに敗北した後からの出典であり、その敗北により原作の性格からやや捻じ曲がってしまいました
※ロビンの足もとに伊知郎のスマホ@現実が落ちており、ロワ外にいる最近解説に目覚めた川粼宗則@現実と通話が繋がっています。
※ロビンはまだ魔球を修得する可能性もあります
※オーバーボディを着てヒグマになれば首輪は作動しないようです
※マイケルのオーバーボディを脱がないと本来の力を発揮できません

【言峰綺礼@Fate/zero】
[状態]:健康
[装備]:ヒグマになれるパーカー
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:脱出する

※固有結界内で王の軍勢&サーヴァント連合が戦争中です
※ライダーが王の軍勢の結界内に引き摺りこんだのはヒグマではなくBANZOKUでした
※BANZOKUは一人一人が孫悟空に匹敵する力をもっています


41 : 名無しさん :2014/01/13(月) 00:54:09 psbJ3iqU0
終了です


42 : 名無しさん :2014/01/13(月) 00:58:36 Prb5bizw0
投下乙です!
いやヒグマロワでこの台詞を言うのは何度目かって話ですが、
なんだこれwwwww


43 : ◆7NiTLrWgSs :2014/01/13(月) 22:30:29 P2tKxGxw0
予約延長します


44 : ◆bDQCUcB4p6 :2014/01/14(火) 01:19:34 fcFAlIEw0
ガントレットつけた佐天さん描いてみました
ttp://dl1.getuploader.com/g/nolifeman00/47/40955255_m.jpg


45 : ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 01:55:22 kDpa722A0
投下と佐天さんお疲れ様です! 佐天さんカワイイ!

>アンリ・ヒグマ
なんだこれ、なんだこれ……。ロビンたちはどうやってはいったんだ……。
なんなんだBANZOKUって……。
でも考察しがいはありますよね!! とりあえず田所さんかわいいですね!!

というところで、自分も、予約していた鷲巣巌、島風、ヒグマドン、銀、天龍で投下します。


46 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 01:56:11 kDpa722A0
 一日など、無為に過ぎる86400秒の連続にすぎない。
 私にはもはや、この過ぎて行く時間に見出せる意味などない。
 定時に提供される食事。
 定時に実施されるサーベイランス。
 定時に訪れ帰る研究員。
 最早、私の能力を測定したところで何の意味もなかろうに。
 よくもまあ、漫然と続けられるものだ。

 檻がある。
 私を封じ込めるための檻だ。
 私の膂力ならば、こんなものは簡単に破壊できてしまうだろう。
 しかし。それに何の意味があるだろう。
 私は大きすぎる。
 強すぎる。
 考えすぎる。
 毎日私の元にやってくるヒトを、抱くことも、撫でることも、私にはできない。
 ここから逃げ出したところで何の意味もない。

 ――なぜ私は、生まれてきたのだろう。

 定時に提供される食事。
 定時に実施されるサーベイランス。
 定時に訪れ帰る、あの人間。
 86400秒の無意味な集合を、何度経験すればいいのか。

 私を兵器にしたいのならば、なぜ私を、こんなに考えられるように生んだのだ。
 せめて考えられなければ。
 暴力のままにこの持て余した力を揮えれば、こんなに、私は苦しまずとも済んだのに。

 ああ、また彼らが来る。
 定時に来る――。


「――今日は一段と、重い表情をしているな、00よ」


 彼が、檻の扉を器用にこじ開けて、私の元へ歩んできていた。
 そしてもう一人、その後ろから現れる男。

「いつも研究所のまずいメシばっか律儀に喰ってるからだろ。
 ほら、今日はジンギスカン持ってきたぜ。折角の研究所の立地なんだから活かさねえとな」
「焼くときは換気に注意してくれ。カードがすすで汚れては敵わんのでな」
「なぁに。ここの檻なんざいつだって吹きッさらしじゃねえか」

 うずくまっていた体を億劫に動かして、彼らを見た。
 4mはある大柄なヒグマと、人間にしてはやはり体格の大きい、偉丈夫。
 男の方は、鍋とコンロ、それに一抱えもあるビニール袋を担いでいて、中には薄切りの肉がみっしり詰まっていた。

「……デビル。そして、工藤健介……」
「今日こそは、私とデュエルをしてもらおうか。お前のことだからルールは十分理解したはずだ」
「ああ。うめえもん喰って、気晴らしするのが、あんたにゃ一番だ」

 彼らは私の返事も聞かず、私の檻で既に勝手に設営を始めていた。
 工藤健介が持ってきた鍋は、普通のものよりかなり大きいのだろうが、それでも私には小さい。
 デビルが広げているカードなど、私の指よりも小さい。
 私が前脚を伸ばしたら、どちらとも途端に壊れてしまうだろう。

「なあ……、お前たち。私にはそんな小さなものは持てない。何度言わせるのよ。
 遊戯王に興じることも、ジンギスカンをつつくこともできないわ」
「そう言うと思って、今日は布束にカード立てを買ってきてもらった。カード自体は私が動かそう。
 研究所での日は浅いが、彼女はかなり我々に理解のある研究員だ。
 せっかく定時に見回ってくれているのだから、お前も一度くらい話をしてみろ」
「羊肉の目利きもなかなかだったぜ。あの細身でこんだけ担いで来てくれたしな。
 ほら、焼けたらトングで喰わせてやるよ」

 ジュウウウウゥゥゥ……。

 脂のとろける甘い匂いが、檻の中に充満する。
 寒々しい空気を掻き分けながら、暖かな煙が立ち昇っていく。
 デビルは自分の毛皮の中からカードボックスを取り出し、工藤の鍋から離れながら私に中身を見せ始めた。

「うむ……。やはり換気をせねば充満するな。早くデッキにするカードを選んでくれ。さっさと一戦してしまおう」
「そう急くなよデビル。あんたも喰いながらやりゃあいいじゃねェか」
「スリーブに入れているとはいえ肉汁が跳んだらどうする。貴重なのだぞカードは」
「細けぇことは気にすんな、ほらよ!」
「ムグゥ!? 馬鹿者、肉を口に放り込むな!」


47 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 01:57:00 kDpa722A0

 なんとも、憂いを感じさせぬやりとりだ。
 デビルは勿論のこと、工藤健介も、今は実験動物であるヒグマの身なのに。
 まるっきり人間の友人同士かのように、じゃれあっているではないか。

 私を調査しに来る研究員のほとんどは、私を遠巻きにモニタリングするだけ。
 そしてひそひそと、人間同士で、私とは何の関係もない話題に興じるのだ。
 観察され、彼らの視線に嬲られるだけで、私はその輪に混ざることは決してできない。
 ――きっと、あの彼女とだって有冨とだって、私は話すことなどできない。

「……いいわね、お前たちは自由で。私も、せめてお前たちみたいに、生まれたかったわ」

 彼らのように、気兼ねなく研究所内で活動できたら、どんなにいいことか。
 所内では、私たちの後にも、どんどんと新しいヒグマが生まれていっているらしい。
 彼らは、私とは違うだろう。
 いくら実験動物として利用されたって、私よりも遥かに多くの行動を許されているはずだ。


 ……本当の意味で『HIGUMA』として作られ、搾取され利用されたのは、きっと私一人なんだ。


「……おい00。いかにも、俺やデビルが自由で羨ましいみたいな言い方をしてるが、それは違うぜ」

 工藤とデビルが、じっと私のことを見つめている。
 何か言い返そうとして口を開いたら、工藤に大量のジンギスカンを放り込まれ、即座に口を塞がれていた。
 デビルは前脚の爪を変形させて、鍵のような形にしてみせる。

「私が正規の檻の鍵を持っているように見えるか? この4mの図体で職員の間を闊歩しているとでも?
 私は布束や有冨が回ってこない時間帯を選んで、こっそりと檻を出てきているだけだぞ?」
「まああの嬢ちゃんは知ってて黙認してくれてる節はあるが。俺だってデビルに檻開けてもらってるしよ。
 要するに、全てはあんたが望むか望まないか、それだけの話だ」

 咀嚼する羊の肉は、とても温かかった。
 脂が舌に溶ける感覚も、肉の線維を気兼ねなく噛み切れる感覚も、ほとんど経験したことがなかった。
 食べる物と言えば、アミノ酸臭く、味も何もないふざけた栄養剤。
 噛む物と言えば、訓練・測定用の血の染みた咬合器。

 加熱調理されただけで、こんなにも肉は美味に感じるものなのだろうか。

 感慨と共に、私はゆっくりと口腔内の思いを嚥下した。

「……ああ、そうか。お前たちは、私の憂鬱を、解消してくれようとして毎日来ていたのね」
「……おい、この女は今ようやく気づいたらしいぞ俺たちの意図に」
「00の情報処理能力は私より上のはずなんだが……。なまっているのか?
 それならなおさらデュエルでリハビリをするべきだ」

 座り込んでいる二人は、高低差のある顔を、呆れたように見合わせていた。
 ……仕方がない。
 無意味な事柄でも、二人の好意には報いてやらなければ申し訳ないだろう。
 どうせこの程度のカード遊び、私の演算能力にかかればデビルなどすぐに倒してしまう。
 リハビリにも気晴らしにもならないが、付き合ってあげるよ。


 ……それじゃあ、私のカードは、これとこれとこれと――。


 デュエルが行なわれた。

「――……」

 そして数分後。
 カード立てに並べられた手札を見つめて、私は沈黙していた。
 そこに、デビルが山札から一枚引いて加えてくれる。
 場。墓地。除外カード。
 今一度見つめなおして、私は演算結果を出力した。
 胸元に押さえ込む前脚が、震えていた。

「……サレンダーよ。私はもうどの手札を使っても、この戦況をひっくり返すことができないわ」

 私はデビルに敗北していた。
 なぜだろう。
 常に私は思考しうる限りの最善手を選択していったはずなのに。
 デビルの行動は常にその最善手の先を封じ、包囲するような戦術で私を追い詰めていた。

 工藤は羊肉を頬に詰め込みながらくすくすと笑っている。

「……案外カワイイ攻め方するんだな00。真っ直ぐすぎるぜ。
 デッキに選んだカードからして、ヒグマのくせにカワイイものばっかじゃねえか」
「わ、私を、『ヒグマ』とっ……呼ぶなぁぁぁッ!!」

 その呼称と、嘲るような口ぶりへ、私は反射的に前脚を振り上げていた。
 しまった。
 工藤の笑顔から、すぐさま血の気が引く。
 彼自身、私を貶めるつもりではなかっただろうに。
 私は、工藤の体を、引き裂いてしまう――!
 勢いのついた前脚の重量は、もはや私自身にも止められなかった。


48 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 01:57:47 kDpa722A0

「……っとと。わりぃな、あんたが『そう』呼ばれるのが嫌いなこと、忘れてたぜ」
「……それにしても、嫌悪感を抱きすぎな気もするがな、00」

 彼の体は、吹き飛んではいなかった。
 工藤の回し受けで流された私の爪は、デビルの肩口から伸びる、悪魔の翼の如き皮膜に受け止められていた。
 私の頭脳も、私の筋力も、彼らを破壊してしまうことは、なかったのだ。
 狼狽しつつ、私は前脚をひっこめる。

「す、すまない。思わず……」
「ああいや、悪かったのは俺だ。気にすんな」

 工藤はなんでもないことのように手を振る。
 そしてデビルも、何事もなかったかのようにデュエルの総評をしていた。

「『アーマード・ホワイトベア』は確かに優秀なリクルーターだが、メインのアタッカーとして据えるには攻撃力が低い。
 もう少しコンボ先のモンスターか、アタッカーを充実させると、今の00の戦法でもそこそこ戦えただろうな。
 むしろ今のデッキ構成ならば、もっと伏せカードでの駆け引きを……」

 淡々と、そして手酷く、私の決闘方法に関して改善点をあげつらってくる。
 工藤に至っては、遊戯王のルールなど半分もわかっていないだろうに、さも納得顔でうなずいたりしている。
 お前たちに何がわかる。
 今までに経験したことの無いような、熱い感情が湧きあがってきて、顔から溢れてしまいそうだった。

 ドガァ……ン。

 コンクリートの床に、前脚を叩きつけていた。
 床がひび割れ、爪痕を残して陥没する。

「……お前たちに、何がわかるの!
 このカードでやりたかったのよ!
 あの戦法しか思いつかなかったのよ!
 今回はたまたまデビルの山札の並びが私の山札より最適化されていただけでしょう!
 単なる確率の問題よ! 私の負けじゃないわ!!」

 暫く、檻には私の唸り声だけが響いていた。
 そこへ、空気を割るような工藤の哄笑がかぶってくる。

「ふははははっ!! あんた悔しいのか、00!!
 まるっきり人間と同じじゃねえか。
 生後何年も経ってねぇだけあって、中身は思春期の嬢ちゃんと全然変わんねえや!」
「ち、違うわ……、悔しいとか……」
「うむ。人間といえば、00も私のようにあだ名でも持ったほうがいいな。
 いつまでも通し番号で呼ばれているから、呼称への嫌悪感が晴れんのだろう」
「いや、そういうことを望んでいるわけでも……」

 慌てて否定する私の言葉をよそに、二人は話をすすめていく。
 なぜか全身の血が逆流しているような感覚で、顔が上気してしょうがなかった。

「そりゃいいや。そのカード、クマの割りにカワイイしよ。
 そこから付ければ、00お嬢ちゃんにゃぴったりだ。
 少しはそれで話の輪にも加わりやすくなるんじゃねえの?」
「なるほど。『アーマード・ホワイトベア』が好みなら、それらしい名がいいだろうな。
 確かこれを使用しているキャラクターは……」
「やめてやめて!」

 必死にデビルを止めようと伸ばす手は、笑いっぱなしの工藤にことごとく回し受けされる。
 工藤はそのまま私の懐に入り込んできて、耳元で囁いた。

「恥ずかしがる必要はねえ。むしろ俺たちゃ、ようやくあんたのそういう面が見れたんで嬉しいんだよ。
 良いんだぜ? あんたがそういう夢を見ても。
 確かに『HIGUMA』は人間の輪に入れねェ。バットを噛み砕くことも、肩から翅を出すこともできねェ人間の輪にだ」

 ――だったら、どーするよ。

 その問いに、私の演算回路は、解答を見出せなかった。
 工藤は今一度ジンギスカンを口に含み、答えた。

「――なっちまえばいいじゃん。人間によォ!」

 私の体は、知らず知らずのうちに一歩後退していた。
 その衝撃的な解答を、理解することができなかった。

「……不可能だわ。私の構造と人間の構造がどれだけ違っているか、お前は良く知っているはず――」
「何言ってんだ、俺は『人間』であり『HIGUMA』だぜ?
 俺は、『羆になる』という夢を叶えた。
 あんたの夢だって、叶うはずだ。
 要するに、全てはあんたが望むか望まないか、それだけの話だ」

 なぜだろう。なぜ目頭が熱くなってくるのだろう。
 今までこんな感情は経験したことが無い。
 工藤の言葉は、理解しがたいのに。そんなこと、不可能だと思っているのに――。

 目を伏せて思案していたデビルは、その時、にこやかに顔を上げていた。

「ようやく思い出した。遊戯王のアニメでは、このカードを使う可愛らしい少女がいてな。
 彼女の名を、私が00に贈ろう。
 その名は――……」


49 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 01:58:45 kDpa722A0


 ――。
 ――……そう。これは記憶だ。
 私の、懐かしい記憶。
 この実験が開始される、ほんの数日前の記憶だったはずだ。
 なぜ、こんなにも遥か遠いことのように感じられるんだろう?

 ああ、海が見える。
 日は落ちて、私は浮く。
 波間に見える、あの深みから、私を呼ぶ声がする。

 そうか。私の過ぎた86400秒の集合は、全てその意味の元に、帰るのか。


    ∩∩∩∩∩∩∩∩∩∩


 朝日を浴びる街道を、軽やかに滑る少女が一人。
 あたかもスケートをするかのように、彼女は満足げな笑みを浮かべつつ街道の水面を走っている。
 火山灰の沈殿した水面がキラキラと陽光を照り返し、幻想的にも見える光景だった。

 ビルの立ち並ぶE−4地域は、何故かほとんどの街道が浅く冠水・または水没していた。
 その理由はこの艦娘、駆逐艦の島風にはわからないし、そして知ったことでもない。
 ただ単にこの環境は、彼女が誇っている己の速度を活かすのに最適であり、彼女はそれを気に入っていただけのことである。

 そしてふと、彼女は自分に与えられていた役目を思い出し、慌てて視線を南の方に向けた。

「そうそう! 滑ってないで早いところ提督に言われた『任務』ってのやらないと!
 ……まぁ、ここで滑ってても、私の任務遂行には誰も追いつけないけどねー!」

 顔の描かれた砲台のようなものを肩に乗せて、彼女はその場でくるくるとスピンした。
 短いスカートがまくれ上がり、面積の少ないTバックがあらわになった。
 そして背負っている艤装とデイパックを抱えなおし、彼女はまた走り始める。
 40ノット。時速にして毎時約70キロメートルを越える高速であった。

 その速度で、視線を南方に向けながら、E−4地区を東から西方向に向かって走行する。

「……あれぇ? 全然火山が見えないじゃん!」

 E−4地区は、火山の直近にある標高の高い場所であったが、林立するビル群のお蔭で見通しは悪かった。
 ビルの間の細い路地を掻き分ければ、彼女が目的とする火山の方向にも上れはするだろう。
 しかしその方向は冠水しておらず滑ることができないし、火山からの噴石で路面状況も悪くなっている。
 路地に入って速度が落ちるのは彼女にとって不快極まりないことであった。

「行ける道探そっと!」

 走りながら辺りを見回す彼女に、前方から声がかかった。

「おいお前! 島風じゃねえか! お前どうしてこっちに……!」
「あ、天龍だ」

 辛うじて目視の可能な距離に、眼帯をした一人の少女がいる。頭につけた角のような装備が目立つ。
 彼女も島風と同様に艤装を背負い、道の水面を滑っていた。
 遠目からでもすぐにわかる彼女は、島風と同じ艦娘、軽巡洋艦の天龍。
 互いに特徴的な様相をした二人の少女が、高速で走行しながら叫び合った。

「島風、こっちに来るな! 逃げろ!」
「天龍も私と駆けっこする気〜? でも残念! 天龍如きじゃ、私には追いつけないよ〜!!」

 叫ぶ天龍の脇を、島風は空気を切り裂くようにして滑りぬけていく。
 天龍が振り向くも、追いつける速度ではない。
 後方の天龍へ目を向けながら、島風は笑っていた。

「にひひっ!! 天龍おっそいよー! ほらほら来てみな……」
「何をやっているんですかあなたは!!」
「オゥッ!?」

 突如、島風の脇腹に何かが衝突した。
 天龍の後方から走り寄っていた一頭の犬が、彼女に頭突きを食らわせていたのだ。
 側方にきりもみして弾き飛ばされ、彼女は無様に水面に横倒しになる。
 ヒグマ提督のもとを離れる際に何か食べていたら、吐き戻してしまっていたかもしれない。
 突き上げるような痛みに耐えながら、島風は震える体を起き上がらせた。


50 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 01:59:50 kDpa722A0

「ば、ばかな……。前世じゃ雷撃にだって当たったことないのに……」
「あなたにはあれが見えないんですか!? 向こうに行ったら死んでしまいますよ!」
「島風、俺の言葉が聞こえなかったのか!? 次の放送で呼ばれたくなけりゃ、早いとこお前も逃げるぞ!」

 喋る秋田犬の銀と、引き返してきた天龍に両の肩口を掴まれて、島風は水面をずるずると曳航されていく。
 引きずられながら顔を上げてみると、遠くの方に、巨大な毛皮が見えた。

 ――なにあれ!?

 地下で見慣れた、ヒグマの背中であるはずだ。
 しかし、そのヒグマの体高はゆうに20メートルを越えており、E−4のビル群を上回って余りある威容を見せて暴れていた。
 更にそのヒグマは、刻一刻と巨大化していっているようにも見える。
 あんなものの爪や牙を受けてしまったら、いかな艦娘とて轟沈してしまうだろう。
 確かに島風にも、天龍や喋る犬があの大きなヒグマから逃げようとしている理由はわかった。
 しかし――。

「冗談じゃないわ!!」

 島風は自分を掴んでいた二者を振りほどき、水面に立ち上がった。
 困惑する彼らを両手で指差しながら、島風はまくし立てる。

「あの程度のことで、この私を止めさせたわね!! あんたたち恥ずかしくないの!?
 大は小を兼ねるの? 速さは質量に勝てないの? そんなことはないはずでしょう!!
 速さを一点に集中させて突破すればどんな分厚い装甲だろうと砕け散る!!
 私は提督からもらった任務を果たさなきゃならないのよ、あんなので止まっちゃいられないわ!!」

 息継ぎ無しで12秒。
 速さこそ突破力。速さこそ貫通力。誰もこの速さについてこれない。
 二人はそれを聞いて暫く、呆然とした顔を晒していた。
 島風にはその時間も無駄に感じられてしょうがない。

「……おい島風。お前いつからそんな特攻バカみたいな思考になったんだ……?」
「何にしても、その任務とはなんですか? あのヒグマに関係しているんですか!?」
「違うわ! 私はこれから、島の中央の火山について、調べに行くのよ!」

 島風は銀の問いに、胸を張って答える。
 銀と天龍は顔を見合わせ、言った。

「……じゃあわざわざ西の方行く必要ねぇじゃん!!」
「そうですよ! 火山は南ですよ!?」
「えぇー……。だって、路地が細くて走りづらいから大通りで速く行きたいしぃ〜」

 速く行くためにわざわざ道を迂回していたらしい。銀と天龍にはいよいよ理解不能だった。
 歯噛みをしつつ、銀が代替案を提示する。

「じゃあ、まずその道を見つけましょう。ね? ここの建物の屋上からなら周りを見渡せるでしょうから」
「あ、そっか。犬くん頭良いね」
「……私は銀といいます、島風さん」
「ああクソがッ……。まあ島風が轟沈するのを看取るよりかは、その任務とやらに付き合う方がマシだ。
 それならそうと、あの化けヒグマがこっち来る前にさっさと上登るぞ!!」


 彼ら二人と一匹が発見した一際高いビルでは、屋上からなぜか止め処なく水が流れ落ちてきていた。
 どうやら街道が冠水している理由は、マンホールや側溝が火山灰で目詰まりしたところにこの大量の水が流れ込んだためのようだ。

 彼らは浸水したビル内部を駆け上がって屋上に出る。
 そこで彼らが見たものは、ぐしゃぐしゃにひしゃげて水を噴出す給水塔と、もう一つ――。


「――なにあれ」


 島風の口から、そんな呟きが漏れていた。
 銀と天龍は、今まで信じられないような光景に幾度も出会ってきたにもかかわらず、声も出なかった。

 朝日を受ける火山の火口。
 そこから一人の老人の顔が。
 とてつもなく巨大な老人が、姿を現していた。


「なんじゃここはぁぁぁぁぁ!? アカギはどこだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!?」


 その叫びが、爆風のように三対の鼓膜を打っていた。


    ∩∩∩∩∩∩∩∩∩∩


51 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 02:00:56 kDpa722A0

 わしは、地獄を抜け出していたはずだ。
 巨大化し、閻魔大王をはたき、富士山を通って自分の屋敷に帰っていたはずだ。
 そして、死に瀕していた自分の体に戻り、アカギに。
 あのアカギに、もう一度対峙していたはずだ!

「それがどうして、わしはこんな場所におる!?」

 富士山を突き崩した時のように、山の火口をぶち破って地上に出る。
 火山はただの土くれと化した。

「……ふむ。少々肌寒いな。北国か?」

 頬を打つ風に目を細めながら、辺りを見回す。
 どうやら自分は非常にちっぽけな火山島の真ん中から出てきたようだ。
 わしがもう一度けったいな場所に出てきてしまった理由は、もはやどうでもいい。
 重要なのは、アカギの居る屋敷まで、ここからどう帰るかということだ。
 しかし、周りにあるものはあまりにも細(こま)すぎて、場所の見当をつけられそうなものが見つからない。

 その時、なにやら足元で動いている一匹の生き物が目に付いた。

「なんじゃこれは。ねずみくらいの大きさじゃが……。熊か?」

 指先でつまみあげると、その生き物は徐々に大きくなっていくようだった。
 暫くして詳細が窺えるほどになると、その正体がようやくわかる。

「おお、そうか! 羆じゃなこれは! つまりここは北海道か!
 それがわかれば、こんなところで戯れておる時間はないわ」

 これ以上大きくなられても面倒なので、その羆は頚を捻って殺し、海に向かって放り投げておく。
 オホーツク海の水面を二、三度跳ねて、その生き物は海に沈んでいった。

 ちょうど朝方であるらしく、東の海は橙色の陽光できらきらと輝いている。
 ――ってことは。
 水平線を眺めながら、自分の頭に日本の地図を思い浮かべた。

「うむ、あれじゃ。あれが北海道の本島だから……。つまり、その南側が本州……?」

 海上に、こちらの島よりわりと大き目の陸地が見える。
 何歩か歩けば簡単にたどり着くだろう。

「おお分かったぞ! あの棘みたいのが東京タワーじゃろ!
 何本か増えとるようじゃが、あそこで間違いないはずじゃ。
 わしの屋敷は東京武蔵野だから、津軽海峡を渡ってまっすぐ南下すればすぐじゃな!」

 幸い、自分の体もまだ地獄を出たときに近い巨大さを保っている。
 方角も、太陽が出ているので迷うことはない。
 巨大化が続いているうちに、早いところ屋敷に帰ろう。
 縮んでしまって拘束されてからでは、話は超面倒だ。

「待ってろよ! アカギ!」

 わしは大またで一歩踏み出し、島から跳びだした。
 ばしゃばしゃと海に足を濡らして、北海道の大地を走る。
 若いころの体力が戻ったわしには、駆け足に抜ける北国の風も心地よい。
 老いてなお、わしの心に燃える思いは火のようだった。

「わしはすぐに行くぞ、アカギィィィィィ!!!」


【鷲巣巌@アカギ(進撃の鷲巣編) 会場から脱出】

※E−4以外の、どこか1エリアが、鷲巣に踏み潰されて壊滅しました。
※鷲巣が周囲を見回しているうちにE−5の火山は、なだらかな丘に踏み固められました。


    ∩∩∩∩∩∩∩∩∩∩


52 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 02:02:26 kDpa722A0

 スーツを着込んだ巨大な老人は、なにやら叫びながら、暴れていたヒグマをくびり殺して放り投げ、海を渡ってどこぞに行ってしまった。
 火山を突き崩し、天に迫るようなあの姿を見ては、もう先ほどのヒグマを巨大という気も失せていた。
 一歩踏み込まれた島の一部では、きっとあらゆるものが潰されてしまったに違いない。

 どうも彼は北海道から津軽海峡を渡って東京までマラソンを試みるらしい。
 自衛隊ごときであの巨人を止められるのか。
 今生での分身とも言える三代目『てんりゅう』が海自にいる天龍としては、気が気ではなかった。
 『しまかぜ』などはミサイル巡洋艦なので、迎撃の矢面に立たされる可能性もあるのではないだろうか。
 まずヒグマと戦わねばならない自分達にはその顛末を知る由もないが、とにかく人々が無事であってほしい、と天龍は考える。

 天龍が横を見ると、島風はすっかり茫然自失のていだった。

「……天龍さん。あれは一体、なんだったんでしょうか……?」
「さあな……。あえて言うなら、災害か何かだろうな」

 熊犬の銀も、すっかり混乱しきった表情で問いかけてくる。
 暴れていたヒグマのいなくなった辺りは、とても静かだった。
 ただ水の、滔々と流れる音だけが聞こえている。
 災害は災害でもあの巨人は、1時間以上は逃げ回っていたあのヒグマの脅威を除去してくれた。
 意味は分からずとも、一定の感謝はするべきなのだろう。

 天龍は、ぼんやりとしたままの島風の肩を叩く。

「ほら、良かったじゃねぇか島風。これで心置きなく道が探せるぜ?」
「……任務が……」

 島風は、か細い声で呟いていた。
 震えながら、その指で前方をさす。

「できなくなっちゃった……」

 火山は、周囲を見回していた巨人に見る影もなく踏み固められ、ただ土色の丘陵と化していた。
 島風の眼から、涙が溢れていた。

「ごめんなさい提督……。もっと早くしなきゃ、ダメだったのに……」

 この世の終わりかのような言葉を吐いて、島風はその場に崩れ落ちる。
 ソックスやスカートが水面に濡れるのもかまわず、彼女は突っ伏して泣いた。

 天龍はまず、彼女がショックを受けていた理由が、死への恐怖ではなく任務の成否だったことに驚いた。
 そして銀とともに慌ててなだめようとするが、島風の耳には届いているのかいないのかよく分からない。

「島風さん! どういう内容を頼まれたのか分かりませんが、とにかく落ち着いて!
 まだ何かできるかも知れませんよ?」
「もうここじゃ40人以上殺されちまってんだ。俺は島風の沈むところなんざ見たくねえ!
 そんなことで騒いでちゃヒグマに喰われるぞ!? 平常心になれ平常心に!」
「そんなの知らないもん……! てーとく……、てーとくぅぅ……!!」

 だだをこねる赤ん坊のように泣き喚く島風を引きずって起こしながら、銀と天龍はとりあえず休息の取れる場所を探すことで合意する。
 銀は犬らしからぬ心遣いで島風の説得を続けていたが、島風はただただ提督を呼び続けるだけ。
 天龍の心に去来していた違和感が、そのさなかで徐々に形を持ち始めていった。


 ――ここにいる島風は、おかしい。


 自分の知る島風は、ここまで情緒不安定に、理不尽に速さや任務遂行だけを追い求めていただろうか?
 そして、ここには凶暴なヒグマが跋扈しており、死者も何十人となく放送されていたのに、それらによる危機感が彼女には全く見えない。
 轟沈の危険が見えれば、任務もへったくれもなく撤退するのが普通だというのに、彼女はそこに何の恐怖もない。
 それに、この島に何人艦娘が連れてこられているのか知らないが、少なくとも自分は提督の任務を受けて来たような覚えは欠片もない。
 
 ――こいつの言う提督ってのは、誰だ?

 鎮守府にいる自分の提督が、今『この会場の火山について調べる』というようなピンポイントな指令を出すことは、天地がひっくり返ってもありえないだろう。
 そもそも提督は自分がここにいることさえ知らないのではないだろうか。

 ――こいつ、ここで改めて建造(つく)られたってことはねぇだろうな?

 ありえないことではない。
 材料と工廠さえあれば、自分たち艦娘は建造されるはずだ。
 前世からの記憶を同じように持つ、自分の同形艦は存在しうる。

 ――何にせよ、こいつとは腰を据えて、話をしてやらなくちゃな。


53 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 02:04:05 kDpa722A0

 俺は昔っから、駆逐艦を束ねて水雷戦隊を率いてきた。
 今の『てんりゅう』だって、訓練支援艦として立派に後輩艦どもを指導しているはずだ。
 島風がどんな境遇だったとしても、助けてやるのが先輩としての役目だからな。
 命あるものを全て救う、なんて題目を掲げるなら、それくらい当然だろ?


 ぐずり続ける島風をあやしながら、天龍は今一度、託された思いを心に装填した。


【E−4:街(ハザマが給水塔を壊した一際高いビル)/朝】
※周辺の街道は浅く水没しています。


【島風@艦隊これくしょん】
状態:健康、パニック
装備:連装砲ちゃん×3、5連装魚雷発射管
道具:ランダム支給品×1〜2、基本支給品
基本思考:誰も追いつけないよ!
0:ヒグマ提督の指示に従う。
1:ごめんなさい提督ごめんなさい提督ごめんなさい提督ごめんなさい提督……。
2:火山がなくなっちゃった……。任務を果たさなきゃならないのに、どうすればいいの……?
[備考]
※ヒグマ帝国が建造した艦むすです
※生産資材にヒグマを使った為ステータスがバグっています


【銀@流れ星銀】
状態:健康
装備:無し
道具:基本支給品×2、ランダム支給品×1〜3、ランダム支給品×1〜3(@銀時)
基本思考:ヒグマ殺すべし、慈悲はない
0:島風さんを落ち着かせる。
1:天龍さんと島風さん、二人の少女を助ける。
2:休息の取れる場所を探す。


【天龍@艦隊これくしょん】
状態:小破
装備:主砲・魚雷ガール@ボーボボ、ほかランダム支給品1〜4
   副砲・マスターボール@ポケットモンスターSPECIAL
道具:基本支給品×2、(主砲に入らなかったランダム支給品)
基本思考:殺し合いを止め、命あるもの全てを救う。
0:島風を落ち着かせられるところに運ぶ。
1:島風の話を聴く。
2:銀の配慮がありがたい。やるなぁワン公。
3:世界水準軽く超えてる先輩としての姿、見せてやるよ。
4:モンスターボールではダメ。ではマスターボールではどうか?
[備考]
※艦娘なので地上だとさすがに機動力は落ちてるかも
※ヒグマードは死んだと思っています


    ∩∩∩∩∩∩∩∩∩∩


54 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 02:04:34 kDpa722A0

「――有冨春樹よ。おまえはわかっておるのか、自分の犯した罪状を」

 目を覚ました時、私は見知らぬ場所にいた。
 私の前には、髭の濃い、豪奢な衣装を身に纏った巨大な人間が一人。
 そしてその足元で地に伏している、ちっぽけな白衣の男が一人。
 見覚えがある。
 有冨春樹という、私を作り出した張本人だったはずだ。
 彼は土下座の体勢から視線だけを精一杯持ち上げて、髭の男に淡々と言い放つ。

「……犯罪者だからといって、無闇に力で従わせるというのは関心しないねぇ。
 この僕を処罰する方法なら、他にいくらでもあるはずだ。
 この先には鬼の詰所があるし、八大地獄もある。
 さらに君は、ここにいる人々の魂への裁きを遅らせていることを認識すべきだ。
 その『神通力』とかいう能力に自信を持っているようだが……、君は能力で人をいたぶるのを楽しんでいるだけだろう?」
「このッ! いつまでも減らず口ばかり叩きおって!」

 有冨の頭はそのまま髭の男の巨大な足に踏みつけられ、地面に押さえつけられた。
 髭の大男は怒り狂った表情で足に力を込め、苛立ちを叩きつけるように叫んでいる。

「ここまで不愉快な亡者に会ったのは50年程前の鷲巣巌以来じゃ!
 裁きが滞る原因を作ったのは誰だと思っている! おまえじゃ有冨春樹!
 お主が、『人間』とも『動物』ともつかぬ魂を大量に生み出したおかげで、仏陀様もわしも処遇に困り果てておるのだぞ!
 地獄はおろか天国をも巻き込んだこんな騒動、わしの任期中一度もなかった!!」
「閻魔大王様ー。また『HIGUMA』の魂が来ましたけどー。どうしとけばいいですか?」
「話をすれば次から次へと……。他の者とともにそこに待たせておけ!」

 HIGUMA。
 ヒグマ。
 その呼称に、私の胸は疼いた。

 私の両脇は、物語に聞く『鬼』という者に抱えられていた。
 胸の疼きが、口を通り、腕に満ち、そして爆発した。

「私をッ……! その名で呼ぶなぁああアアアッ!!!」
「うぎぃいぃ!?」

 私の脇は、私を抱える鬼の腕をへし折る。
 そのまま振り向いた勢いで、私の爪はその鬼の胸の肉を深く抉り取ってしまっていた。

「ぎゃああぁぁあぁあああああ!?」

 辺りに血飛沫と叫び声が飛び、私より何倍も大きな鬼が地面にのた打ち回る。
 ……なんということをしてしまったのだ。
 唐突に、私は知らない者を傷つけてしまった。

「いや、流石っす00の姉御! この俺の超人拳法でも鬼は振り払うのに3発かかりましたもん!」
「ボッフォボッフォ。いいものを見れた。俺も鬼が相手では『<完力>マッキンリー颪』を使わざるを得なかったからな」

 何故か拍手と共に声がかかる。
 研究所のどこかで見たことがあったような気がするヒグマが二人、土下座したまま私を賞賛していた。
 背後から、髭の大男が苦々しい声をあげる。

「……しかもこのザマよ。有冨!
 おまえの教育がなっておらんから奴らは一向に地獄のシステムを理解しておらん!
 本人たちに悪気があるわけでも無いゆえ一概に罪に問うわけにも行かぬし、なまじっか腕が立つものだから押さえつけて従わせるのも一苦労だ!」
「それは君の実力と監督能力が不足しているだけの話ではないのかな。
 加えて君は、押さえつける以外の団体指揮能力が著しく欠落しているようだね。
 ……だから組織が乱れるんだよ」
「このッ……。
 よしわかった。それならばもうおまえから解決策は訊かん!
 すぐに八大地獄にしょっぴかれ、悠久の責め苦を受けてくるが良い……!」

 髭の男は、有冨の反論を受けて鬼たちに指示を出そうとした。
 その時、上空から音がした。
 天空にあいた黒い穴。
 ぽっかりと空いたその空間から、巨石が落下していた。

「ぐがっ……!?」

 そしてそれは大男の脳天を直撃し、その意識を完全に粉砕していた。


55 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 02:06:56 kDpa722A0

「うわー!? 閻魔大王様が倒れた!?」
「おい、『地獄の太陽』が塞がっていくぞ!?」
「あ、あれ50年前大騒ぎになった鷲巣の野郎の靴じゃないか!? あいつが土をおっことしてきたんだ!!」
「え!? あいつ戻ってこねえと思ったら富士山の火口埋めてるわけ!?」
「知らん!! だが止めんとまずい!! 大王様の介抱と、現世から引きずり戻す方法を考えるぞ!」

 わらわらと鬼たちが右往左往し、広間には、私と有冨、そしてヒグマたちだけが取り残された。


 有冨はゆっくりと立ち上がり、白衣の埃を払って私の方に歩いてくる。
 定時にサーベイランスに来る時と同じ、あの眼鏡の上げ方をして、私を見た。

「……まさか君までがこんな早くに死んでしまうとは思わなかったよ。
 ダメだったのかい。君には最高の頭脳があったはずなのに」

 悲しげな目だった。
 心底、意外すぎる実験結果に、落胆しているという表情だった。
 
 私は掌を握りこんで震える。

 私に何が出来たというのだ。
 私は実験中も、力任せにこの爪を振るうことしかできなかった。
 その挙句、痴漢を名乗る男に陵辱され、矢を打ち込まれて狂うしかなくなった。
 結局、私の葛藤は破壊という形でしか発現し得なかった。

 有冨は暫く私を見つめて、得心したように頷いた。

「そうか、彼女にそういう方向で強化されてしまったんだな……。
 彼女にももう少し説明しておくべきだったかも知れないな。
 僕たち『スタディ』の原点は、僕たちの『頭脳』を見せつけることであったのにね……。
 そうだろう、穴持たず00……いや、『ルカ』?」

 有冨の口は、私をそう呼称した。
 私は、暫く呆然としていた。

「……なんで、あなたが、その名を」
「ようやく、僕に直接口をきいてくれたね、ルカ。
 デビルの方から、『貴様は自分の研究対象のことを把握していなさすぎだろう。しっかりしろ』って言われたこともあったんでね。
 僕なりに努力してみたつもりさ。
 ……遅すぎたけどね」

 その名前は、あの日デビルが私に、贈ってくれたものだった。
 私たち以外は、誰も知らないと思っていた。
 所詮、私は他者の輪に入れぬ逸脱者であり、そんなものはいらないと思っていた。
 そのはずなのに。
 今までに経験したことの無いような、熱い感情が湧きあがってきて、顔から溢れてしまいそうだった。

「――ほら、ルカお嬢ちゃんよ。相変わらず思春期だなぁ。
 父親に名前呼んでもらったくらいで泣くなよ」

 私の後ろには、大らかな笑みをたたえて、工藤健介が立っていた。
 ――泣いている?
 目元を拭った手の甲は、海のような深い温もりに濡れそぼっていた。

「結局、あんたが望むか望まないか、それだけの話だったのさ。
 ちょっと遅くなっちまったが、実際は簡単だろう?
 どんな夢だって、あんたは叶えられたのさ」
「僕も布束と一緒に、もっと君たちを見て回ってやれば良かったかも知れない。
 僕も、『ルカと同じく気づくのが遅れた人間』だ。
 もっと早く気づいていれば、この実験をヒグマたちに乗っ取られることもなく、僕も死んではいなかったかも知れない」

 工藤が抱いてくれる私の肩は、とても小さく感じられた。
 そう。私は死んだのだ。
 魂というものだけになった私は、もう『ヒグマ』と呼称されなくても、いいはずなんだ。


56 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 02:08:16 kDpa722A0

 有冨は、塞がりつつある天空の大穴に向けて、大声で叫んでいた。

「託したぞ!! ヒグマでも人間でも参加者でもいい!!
 気づいてくれ!!
 僕ら『スタディ』の目的を、達成してくれ!!」

 死んでしまった今、その声は誰にも届かないだろう。
 それでも、私が向き合うことのできなかった父親は、確かに、私を見ていてくれていたのだとわかった。

『何を泣いている』

 今なら、あの男の問いに答えることができるだろう。
 私は、嬉しいんだ。
 私が、私として認められたことが。
 どんな快感にも勝る。
 どんな狂気にも負けない。
 それがこの歓喜。
 逸脱者ではなく、輪に入ることができたことが、この上もなく嬉しいんだ。

 死んでしまった今、あの男にもデビルにも、この声は届かないだろう。
 それでも、私はここに、私として生きて、死んだ。
 『アーマード・ホワイトベア』は、クマなのにそんなに強くもない。
 自分の死によって、一人を生かす、それだけの者だ。
 『ルカ』という名前の私は、そんなクマに憧れていたんだ。

 あなたたちに、私も託したい。


「――もう二度と、私のような間違いは犯さないで下さい。
 願わくは、私のような者を、これ以上出させないで下さい。
 破壊にしか使うことのできなかった私たちの力を、どうか、輪に入れてあげて欲しい……」


 私が呟いた後、『地獄の太陽』の穴は塞がり、ただの天井となっていた。
 でも、それでもいい。

「ま、あとはデビルが来るまでゆっくり過ごそうや。
 ちらっと見てきたが等活地獄とか、いいトレーニングになりそうだぜ、ルカ。
 あいつに早々と味わわせるのは勿体ねえ。
 俺たち二人、いや、ここにいる連中とで、楽しもうぜ!」

 工藤の笑顔が眩しい。
 有冨も、他のヒグマたちも、私を受け入れてくれる。
 ちょっと遅かったけれど、でも、私は気づけた。


 そうだ。私の過ぎた86400秒の集合は、全てこの一瞬のために、あったんだ。


【穴持たず00(ルカ)・ヒグマドン 死亡】


57 : FGG ◆wgC73NFT9I :2014/01/16(木) 02:10:28 kDpa722A0
以上で投下終了です。

続きまして、
クリストファー・ロビン、黒木智子、言峰綺礼、ウェイバー・ベルベット、
セイバー、ライダー、アーチャー、ランサー、キャスター、アサシン、田所恵、
布束砥信@とある科学の超電磁砲、ヒグマ
で予約します。


58 : 名無しさん :2014/01/16(木) 06:23:33 2mEBZQZs0
投下乙!
ヒグマドン…あなもたず


59 : 名無しさん :2014/01/16(木) 06:29:25 2mEBZQZs0
投下乙!
ヒグマドン…穴持たず00の意外な最期。有冨とも邂逅して救われたなぁ。なんか感動しました
鷲巣が無事東京までたどり着けるのかはまた別の話…そしてどうやら生きてたらしい布束さんの存在がどう絡んでくるのか?期待大です


60 : ◆7NiTLrWgSs :2014/01/20(月) 23:22:38 65VN5C0E0
すいません纏流子を予約から外して投下します


61 : ◆7NiTLrWgSs :2014/01/20(月) 23:24:38 65VN5C0E0
この竜は自分と同じ、強さを求めて戦い続けた修羅なのだろう。
今まで戦ってきたヒグマとはまるで違う、獲物に飢えた目をしていた。
戦い方も全く違っていて、フットワークを活かして素早い攻撃からのバックステップ、距離を取るという一撃離脱の戦法を用いていた。
かといってそれだけという訳ではなく、二撃目が放たれたり、ジャンプしたり、緑色の粘液を地面に広げさせたりとパターンは豊富で不規則だった。
真正面から向かってくるヒグマとは違い、この不規則なパターンは非常に新鮮でまた、厄介だった。
だがこの竜と戦うことは、二度と無いだろう。
しかしお前は気高く、強い戦士だった。それは保障しよう。

ヒグマはそんな事を思いながら、物言わぬ竜の体を見つめていた。
遭遇してからどれくらい戦ったのだろうか。
竜も自分も疲弊し心身共に限界が来ていて、これが最後の一撃になるだろうという所まできていた。
そしてお互いに放った一撃。それはどちらにも命中した。
結果は竜が放った一撃は自分を倒すことはなく、自分の放った一撃で竜は倒れ、動くことはなかった。
爆発をまともに喰らったのでダメージは尋常ではないが、休めば何とかなる傷だ。
対決は自分の勝利。竜の力無い叫びを持って幕を閉じた。

しかし自分は忘れることはないだろう。
自分と互角に渡り合った竜の力を。
羅漢樋熊拳の奥義と互角の威力を持つ技を使用した竜の力を。
ヒグマと同等、いやそれ以上の力を持つであろう竜の姿を。


□□□


62 : ◆7NiTLrWgSs :2014/01/20(月) 23:26:37 65VN5C0E0


凶暴なオーラを放つヒグマがそこにいた。
ヒグマの横にはこれまた凶暴そうな見た目と、堅そうな皮膚をしている竜が地面に伏せている。
さてそれを眺めるヒグマはどこにいるのか。答えは木の上だ。
エサ探しをするなら、見晴らしの良い所から。そう考えたヒグマは木に向かってジャンプし飛び乗った!
何故ヒグマジャンプで飛び乗ったのか。それには理由がちゃんとある。
ジャンプという行為をせずとも、ヒグマには木登りという特技が存在していた。
だが見よこの木の細さを! ヒグマの図体と比べると何たる脆弱な事か!
これではヒグマが登りきる前に折れてしまうだろうし、仮に登れても枝に乗る事すらままならない。
ならばジャンプして、飛び乗るのが賢いヒグマのやり方なのだ。
前述した通り幹が細ければ枝も細く、当然ヒグマの体重には耐えられない。
しかし彼はヒグマでありニンジャなのだ。折れる前に別の木へと飛び乗っていく! ワザマエ!
その速さはバンデイットすら凌駕する! 別の木に乗ればよかったじゃないのか、とかは言ってはいけない!

「GRRRRR?」

やがて彼は辿り着いた。かつて死闘が繰り広げられていた、C-8のフィールドへと。
ヒグマは確かに見た。一匹のヒグマと、横に倒れ付す竜の姿を。
しかしヒグマアイが瞬間を捉えた! 倒れていた竜が突如として立ち上がったのだ!

「GRRRRR!!??」

目は赤く充血!
口から漏れ出す黒い煙!
紫がかった肌が妙に黒くなる!
叫び声を上げればその声は高かったり低かったり!
叫び声を上げた竜はヒグマに殴りかかる!
するとなんということだろうか! 殴られたヒグマが爆発したのだ!

「……!!」

これにはたまらない! ヒグマは一目散にその場を離れた!
見るからにヤバそうな竜に、同じヒグマでありながら底知れぬオーラを放つヒグマ。
二匹が戦えば、近くにいる自分はその巻き添えを喰らいかねない。いや喰らうであろう。
さっさと離れようそうしよう。こうしてヒグマは安静な時間を手に入れたのであった。

「GRRRRR!」

のだが、そう簡単にうまくいかないのが世の常である。

――アイエエエエ! トップウ!? トップウナンデ!?

突如として発生した突風がヒグマを襲った!
哀れヒグマの体は宙に舞い上がり、そのまま吹き飛ばされていく!
しかしここで焦ってはならない。焦って脱出しようとすれば、オダブツは免れない。
ならば、風に身を任せるのが賢いヒグマのやり方なのだ。
それにこの状況も、餌を探すには勝手がいい。

「GRRRRR!」

着地はどうしようか。

【???/空中/朝】

【ヒグマ7】

状態:ニンジャ、宙を舞う
装備:無し
道具:無し
基本思考:餌を探す
1:まだ足りない
2:突風に身を任せる
※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました。
ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です。


63 : ◆7NiTLrWgSs :2014/01/20(月) 23:27:27 65VN5C0E0


□□□


歓喜の感情が湧き上がるのを感じた。
二度と味わえない力と、再び合間見える事ができることにたまらなく喜びを感じた。

疑念の感情が湧き上がるのを感じた。
先程戦った時とはまるで違うオーラを放っていたからだ。

驚愕の感情が湧き上がってきた。
竜は強くなっていた。
殴られて吹き飛ばされた後に体勢を立て直し、攻撃へ転じようとしたときだ。
攻撃を喰らった。ガードをしようとしたが、間に合わずに直撃。再び吹き飛ぶ。
喰らった攻撃は戦った時に見た攻撃だったが、拳を振り下ろすスピードが速くなっていたのだ。
一定のスピードで放たれていた拳が突如とし変化してしまった為に、反応が間に合わなかったのだろう。
変化に対応すると、今度は途端に遅くなった拳が待っていた。
お陰でガードを緩めた直後に喰らい、また吹き飛ばされた。
そう、竜の攻撃に緩急がついたのだ。

それだけで複雑だったパターンがより複雑になり、攻めるに攻めきれない。
攻撃をしようとするならば、素早い動きと攻撃でカウンター。
防御をしようとするならば、遅い攻撃にタイミングを狂わされ直撃。
例え攻撃を与えることができても、非常に堅い皮膚が邪魔をする。

――それがひどく楽しくてたまらない

苦戦、というのはこのことを指すのだろうか。
体力なんてものは無いに等しいし、攻撃を当てることがほとんどできず、相手の攻撃を喰らってばかり。
これがただのヒグマであれば、立場は逆で、自分は優勢に立てる。
だがこれは劣勢と呼ぶべき状況だった。

――ここまで愉しい戦闘は初めてだ。

これほどまでに充実した戦闘は他に無いだろう。
だから目一杯楽しまなくてはいけない。
これほどまでに不利な戦闘などもう二度と経験しないだろう。
だから必死に頑張らなくてはならない。

カウンターを喰らうのならば、遠距離から攻撃を喰らわせればいい。
ヒグマは攻撃の手を止め、後ろへと後退し距離をとる。
すうっと息を吐き出すと、勢い良く空気を吸出し両腕を後ろへまわしていく。
すると両腕には気が溜まっていき、それを凄まじい速度で前へと突き出す。
羅漢樋熊拳奥義、風殺気孔拳。突風と気を相手へ向けて放つ技だ。
正面から攻撃を受ければ、気によって身は粉々に打ち砕かれる。
逆に避ければ強烈な突風に、体の自由を奪われ、死なずとも致命傷は避けられない。
どの選択を取ろうとも、これを出された時点で相手の負けは確定する――
だが竜はこの攻撃を一度防いだことがある。

――あの技を使えば多少は傷つくが防げるぞ? どうする、竜よ。


64 : ◆7NiTLrWgSs :2014/01/20(月) 23:28:43 65VN5C0E0

この攻撃を防がれた時は、爆発によるもので防がれた。
どうやら地面に頭を突っ込み、突っ込んだ直線上に爆発を起こすというとても奇怪な攻撃だった。
しかし威力は凄まじく、正面から挑み気の力に打ち勝ったのだ。
だが、次はそうはいかない。防がれた時よりも更なる力を加えた。
たとえ防がれようとも、相手もダメージは免れない。それを自分は狙う。
ダメージを受ければ、隙が生じる。そこを狙って渾身の一撃を顔面にぶちかましてやるのだ。


ヒグマの脳天へと拳が突き刺さる。


すぐさま爆発。ヒグマの顔面は地面へと、勢い良く突き刺さった。
ヒグマの思考は数秒停止。やがて、すぐに結論に達した。

――飛び越えたのか。あの巨大な気を

言葉にしてみれば簡単だ。だが、実際は違う。
自分の身長の倍はあろうかという大きさと、尚且つ竜の全長よりも長い気をいとも容易く乗り越えるなど……

――面白い

そんな馬鹿げたことが

――面白いぞ

ありえるなんて


――面白いぞ竜!


なんて素晴らしいのだろう。
こんなにも、こんなにも心が躍るなんて初めてだ。

地面から顔を上げたヒグマの顔は、ニヤリと笑みを浮かべていて、不気味だった。
立ち上がり、顔面へと右ストレート。
竜は後退するが、竜も負けずに拳を振り下ろす。
しかしヒグマは拳を避けようとせず、竜へと向かって走り出す。
直撃。爆発。しかしヒグマは止まらない。

――もうこれ以上は無いだろう。

その勢いのまま全身全霊の力を込めた一撃を、左拳に込めて竜へと放つ。
対する竜は黄色に染まった、頭部をヒグマに振り下ろした。

――この戦闘に勝る新しさなど、もう感じることができないだろう。

頭部はヒグマの頭頂部へとぶつかり、粘菌が凄まじい速度で体を包む。
それでも拳の勢いは止まらない。

――こんな楽しい戦闘を、一人で持ち帰るわけにはいかない。

拳が竜の顔面へと突き刺さる。

――相打ちという形で、幕を下ろそう。

同時に粘菌が勢い良く爆発した。



□□□


竜が放った一撃はヒグマの上半身を捉え、ヒグマの上半身を吹き飛ばした。
ヒグマが放った一撃は竜の顔面を捉え、竜の頭蓋骨と脳を粉砕した。

ヒグマはゆっくりと後ろに倒れる。
竜はゆっくりと前に倒れる。

両者共に動くことは無かった。

【ブラキディオス@モンスターハンター 死亡】
【羅漢樋熊拳伝承獣ヒグマ 死亡】


65 : ◆7NiTLrWgSs :2014/01/20(月) 23:29:26 65VN5C0E0
投下終了です


66 : ◆7NiTLrWgSs :2014/01/20(月) 23:33:54 65VN5C0E0
タイトルは打ち出す拳で


67 : 名無しさん :2014/01/20(月) 23:43:37 uPR88oaY0
投下乙!
ヒグマと互角の実力者ブラキディオスの決闘の末の壮絶な最期。双
方満足したんだな…そして何処へ行くヒグマスレイヤー


68 : ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:32:57 SOSvjI9c0
皆さんお疲れ様です!

>打ち出す拳
おお……基本的にみんなヒグマって騎士道精神に溢れた戦闘狂なのかなぁ。
白熱した面白い戦いでした! ブラキディオスに吹っ飛ばされたキャラ多いなぁ……。

では自分は、予約していた
クリストファー・ロビン、黒木智子、言峰綺礼、ウェイバー・ベルベット、
セイバー、ライダー、アーチャー、ランサー、キャスター、アサシン、田所恵、
布束砥信@とある科学の超電磁砲、ヒグマ
で投下いたします。


69 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:33:34 SOSvjI9c0
『参加者各位

 以下に 主催本拠地への経路を図示する

 なお首輪は オーバーボディやアルミフォイル等により 電波を遮断することで

 エリア外に移動した際の爆発を 一時的に防止することができる

 準備一切 整えて 来られたし』


    @@@@@@@@@@


「――こ、これ、本当かよ……」

 茶封筒に入っていた一通の便箋を読んで、黒木智子は呟いていた。
 クリストファー・ロビンの持つその紙面には、ゴシック体で印刷された機械的な文章。
 そしてその下部に、複雑な見取り図を貫いて一本の赤線が引かれている。

「……ボクは本当のことだと信じるよ。ボクは導かれているんだ。
 現にボクは今ヒグマのオーバーボディを持っている。
 これが『本拠地で主催者を討ち果たし、ロビン王朝を打ち立てよ』という啓示でなくてなんなんだ」

 道路に屈み込んでいたロビンは、自己暗示をかけるかのように語り始める。
 彼はデイパックから出したオーバーボディを着込み、便箋を封筒に戻して道路に置いた。

「ありえねぇだろ……トラップに決まってんじゃねぇかよこんなの……。
 夜中のうちにもう40人以上死んでんだ……、あの妖怪ビッチだって……。
 絶対降りたら首輪があべしだろ……」

 ロビンの様子を見つめながら、智子はぶるぶると首を振った。
 考えていることがそのまま口から出て来てしまう。
 身が竦んで一歩も動けない彼女へ、ロビンは振り向いて静かに言った。

「ならばまず、智子さんはそこで見ていて下さい。
 ボクが無事なことを見届けてから、あなたが来ればいい」
「ヘッ?」

 ロビンはデイパックを智子の足元に置いて踵を返す。
 仮に首輪が爆発しても、智子に支給品を託せるように。
 そしてもし無事ならば、智子にもオーバーボディを着て、来てもらいたいという、明確な意思表示だった。
 
 なんで私が裏切らないと思える?
 このままデイパックを持ち逃げしてしまうかもしれないのに。
 なんで恐れもなしに命をこんな紙っぺらに賭けられる?
 これが嘘だったら即死なんだぞ!?

 黒木智子は、クリストファー・ロビンから目を離すことができなかった。
 彼のデイパックを受け取って、智子の心臓はありえないほど早いリズムを刻んでいた。


 その間ロビンは、封筒がもともと置かれていた道路のある一部を探る。

「……確かに、普通なら誰も気づかないし、行こうとも考えないはず。完全に盲点だ」

 ロビンは、分厚い鉄の円盤となっているその蓋を外す。
 そこには黒く粘っこい空間が広がっていた。
 すえたような生温い空気が、そこから立ち上ってくる。
 薄汚れたコンクリートの円筒がその下方へと繋がり、錆びた梯子が彼らを闇へと誘っていた。
 
「上手く考えて建てたものだ。……まさか本拠地が、マンホールから繋がる地下にあるとはね」

 便箋の図面は、この島の街全体に繋がる、下水網の配管図であった。


    @@@@@@@@@@


70 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:35:26 SOSvjI9c0

 明かりを落とした研究所の一室で、ただ一台のモニターが青白く光を放っていた。
 せわしなくキーボードを叩く音が室内に響き、隣にある大型のマシンが駆動する。

「At last, 完成したわ……。これで参加者たちもヒグマに対抗できるはず……」

 コンピューターを操作していた白衣の少女は、そう呟いて椅子に腰を下ろす。
 マシンが次々とトレーに吐き出しているのは、絹糸のような細い針。

 彼女の次なる目的は、これを会場で目を覚ます参加者たちに届け、少しでも生き残る可能性を高めてもらおうということだった。
 白衣の裡には、この研究所への到達方法を印字した手紙もしっかりと封筒に入っている。

「マネーカードの時を思い出せばいい。脚には自信があるし、a piece of cake……」

 呟く少女の耳に、廊下を走り来るバタバタとした足音が届いた。
 眠たげな半眼だった瞳が見開かれる。
 完全に予想外の出来事だった。
 研究所の人員はみな実験の設営に回っているはずであり、この最奥部の部屋に来ることなどありえないはずだった。

 ――私がいないことを気づかれたの!?

 自動ドアが開き、眼鏡をかけた細面の青年が、肩で息をしながら入ってくる。

「……有冨春樹……」
「やあ、布束……。今回も色々と裏で仕込んでいたようだね……。ここにいると思ったよ」

 彼は荒い息をつきながら、閉まるドアを後にして、動揺する少女の元に一歩一歩近づいてくる。
 その歩みを止めるように、少女は鋭く言葉を投げていた。

「有冨、今更私を止めようとしても無駄よ!
 私がまたこんな実験に誘われて、裏切りを働かないとでも思っていたの?
 Besides that, もう二度とあなたに叩きのめされないよう、私はジャーニーたちと鍛えなおしてきたわ。
 参加者のためにも、ヒグマたちのためにも、私はこれで実験をご破算にする!」
「甘い、甘いよ布束……。それでは無理だね。
 ヒグマを制御するなら、殺す気でかからなくちゃな!」

 有冨春樹は、白衣の胸ポケットから、一本のマイクロチューブを取り出して投げた。
 少女の足元に転がったチューブの内には、透明な液体が僅かに封入されている。

「君のはどうせ麻酔か何かだろう? 僕のは『HIGUMA特異的な致死因子』さ。
 ごく少量でも細胞に吸収されれば、即座に全身にサイトカインが伝播し、アポトーシス経路が活性化されて死亡する。
 急なことでそのチューブの1mlしか持ち出せなかったから、大切に使ってくれよ」
「は……?」

 少女には理解ができなかった。

 この男は、自分の裏切りを止めに来たのではないのだろうか。
 なぜ主催者自らこんな、裏切りを支援するような行動をとるのだ?

 少女の心中に答えるように、有冨春樹は言葉を続ける。

「実はね……。ヒグマにクーデターを起こされたんだ。
 輸送の途中で研究員が襲われ、会場にも想定数以上のヒグマが出ていってしまった」
「え……!?」
「HIGUMAの培養液もいつの間にか一部盗難に遭っていた……。
 襲撃時、研究所のほうぼうの壁が破壊されたから、ヒグマたちがここの外部へ秘密裏に運び込み、反逆のための兵団を作っていたのかも知れない……」
「なによそれ……!?」
「もう小佐古も関村も桜井も斑目も……。
 『スタディ』の主要メンバーはみな殺されてしまった。
 じきにこの最奥の研究室にも来てしまうだろう。だが、布束を発見できて本当に良かった。
 僕が今回用意した最後の策は、君の頭脳なんだから」

 有冨は話しつつ拳銃を白衣から取り出し、再びドアの方へ向かって歩み始める。
 拾い上げたマイクロチューブが歪みそうになるほど手に力を込めて、少女は震えた。


71 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:37:33 SOSvjI9c0

 有冨は話しつつ拳銃を白衣から取り出し、再びドアの方へ向かって歩み始める。
 拾い上げたマイクロチューブが歪みそうになるほど手に力を込めて、少女は震えた。

「……だから何度も言っていたでしょう……。あなたたちの管理は杜撰すぎたのよ。
 なんで穴持たずの通し番号に重複と欠番ができるわけ!?
 研究所のキャパシティも省みずポコポコ作り出したり連れて来たり、全数把握すらできてなかったじゃない!!」
「すまないね。
 穴持たず1や君に言われた時点で体制を改めておくべきだったとは思うよ。
 わざわざ国外にいた君を呼んだ理由には、『学習装置(テスタメント)』の知識以外にも、君の行動がヒグマの反抗心を和らげると思っていた面があった。
 ……思えば、『ケミカロイド』の一件の時から、僕らは君に頼りすぎていたんだな」

 自動ドアのボタンに手をかけて、有冨は振り返る。

「まぁ、『超電磁砲(レールガン)』に言われたとおり、今回は死んで逃げようなんて楽はしないさ。
 あがけるだけあがいて、君も僕も脱出させる」
「……私に言えるのは、番号や通称でではなく、相手はきちんと名前で呼んであげろ、ってことだけよ」
「ははは……。今度彼らと話す機会があったら、覚えておくよ。布束砥信」


 ドアを開けて一歩、有冨はそう笑って、死んだ。


 ぞろぞろと唸り声を上げて、五頭ほどの巨大なヒグマが研究室の中に入り込んでくる。
 少女は後ろ手に、細い針の束を掴んだ。
 潤んだ半眼を強く瞑って、少女は呟く。

「本当……。最後まで『夏休みの工作』のつもり……?
 あなたたちは自分が有能なことを、どうしてこんな手段でしか自覚できなかったの……?
 後始末は、いつだって私に押し付けるんだから……」

 周りを完全にヒグマに囲まれた時、彼女はその目を開ける。
 極限まで見開かれたその眼球。
 瞳孔がまるで点に思えるほどの、感情の見えぬ爬虫類のような四白眼であった。

「Well, こうしましょう」

 一切の恐懼を飲み干すようなその瞳は、泰然として周囲の小動物どもを睥睨していた。


    @@@@@@@@@@


「……あの。お客さんがた……」

 私は、すぐ横から問いかけられていた声にはっとした。
 隣には、苦笑を浮かべた三つ編みの女が立っていた。
 洋風の割烹着を着ていて、中学の時のゆうちゃんに似ているが、この女は何者だろうか。

 私とロビンは、下水道の脇から続く階段を下りて、中がぼこぼこに荒らされた建物から続く空間にやってきていた。
 地下をヒグマたちが掘り抜いただけの、岩盤むき出しの壁が迫る空間だったが、やたら広い。
 電気も通っていた。
 畑もあった。
 なんだかよくわからん工場もあった。
 そして、どこもかしこも、てくてくと歩くヒグマだらけだった。
 歩くクマなんてくまモンとかだけで十分なのに。
 ヒグマ帝国なんてあるわけないじゃないですか。ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし。
 でも現に、ヒグマは屋台なんか経営しちゃってるわけで。
 ロビンと一緒に違和感なくテラス席に相席で座っちゃったわけで。
 私はしばらく呆然としていたわけだ。

「……ヒグマの格好してますけど、人間ですよね」

 私のいるテーブルで、二つの気配がびくっと身を震わせた。
 振り向けばそこにはクマが二匹。
 奥の方に座って麻婆熊汁とかいうものを喰っていたヒグマが、渋い声で訊ねていた。


72 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:39:01 SOSvjI9c0

「……娘さん。何故わかったのですか」
「ヒグマの殲滅とか、討ち滅ぼすとか、ここ何処とか……間違っても言うものじゃないですよ?
 それにあなたのお知り合いの人間は目の前でヒグマたちをどっかに連れてっちゃいましたし……。
 この屋台には今グリズリーマザーさんと私しかいないから良かったようなものの……。
 向こうのヒグマたちに聞かれたら、利用価値のない人間なんてすぐに食べられちゃいます」
「それにあんたのその声。あんたはアタシを召喚してくれたマスターだろう?
 アタシはもとより人間を襲う気なんてないけれど、アタシの旦那も含めて他のヒグマたちは別さ。
 今のうちに、こんなところからは逃げなさいよ!」

 女の隣にヒグマが一匹増えていた。さっき二杯目らしい麻婆熊汁を持ってきた青い毛のヒグマだ。
 よく見たら、見覚えがある。たった数時間で喋ったり表情豊かになった感があるけど……。

「あ……、グリズリーマザー……」
「ほらやっぱりマスターだわ!
 すみません田所さん。この子達を地上まで送っていくので、屋台を預かっていていただけませんか?」
「ちょっと待て! まだボクはこの帝国の中をほとんど見られていない。
 ボクはここにロビン王朝を打ち立てに来たんだ。帰るにしてもボクはまだここを観察していくぞ!」

 私とグリズリーマザーの会話に、私と同じピンク色のヒグマが割り込んできた。
 ロビンだ。
 せっかく貴重な会話のラリーが出来たのに、空気読めよ。

 ヒグマの格好と合わせて、ロビンは本当に噛み付くみたいに唸りをあげていた。
 田所とかいう、ゆうちゃん似の女はグリズリーマザーと顔を見合わせ、気まずそうにしている。
 ロビンの肩を、ダンディなおじさん声のヒグマが叩いていた。

「……少年。先程私の知り合いたちが、一帯のヒグマを巻き込んで別世界に隔絶させた。
 彼らは現在も、その結界の中でヒグマと思しきモノを掃討しているはずだ。
 しかし見ろ。奴らは何事もなかったかのようにそこにいる。何か仕掛けがあるのだ。
 その少女のサーヴァントのヒグマが言うように、脱出できるなら素直に脱出した方が良い」

 おじさんは、麻婆熊汁をかき込みながらロビンを諭す。
 食べ終わった匙を舐めて、屋台の外を指した。

「……さもなくば、あそこにいる女のように、襲われるぞ」

 私とロビンは、はっとして振り向く。
 白衣を着た、ウェーブのかかったショートヘアの女が一人、ポケットに手を突っ込んで屋台の前の通りを歩いていた。
 すぐに何匹かのヒグマが気づいて、彼女の前に立ち塞がる。
 私と同じ高校生くらいの、華奢な女だ。ヒグマに立ち向かえるわけがない。

「……あ、あの人は……」

 田所が、慌てたように息を呑む。
 恐怖に震えている声。
 当然だ。あんなちんちくりん、すぐに八つ裂きにされてしまう!

「おい人間、お前、非常食だろ? なんでこんなとこにいるんだよ」

 それなのに女は、眠そうなジト目のまま、ヒグマに向かって啖呵を切っていた。

「Surprisingly, 最近のヒグマは、馬鹿しか生まれないみたいね」


    @@@@@@@@@@


73 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:40:43 SOSvjI9c0

「はぁ? なんだこいつ。非常食のくせに勝手に出歩いてわめいてるぜ?」
「……状況の認識が甘い。自分たちを『最強の生物』と驕っている。
 まあこれは、デビルでさえそうだったからある程度仕方がないのかも知れないけれど……」

 少女は4頭のヒグマに行く手を阻まれてなお、ぶつぶつと呟きながらその歩みを止めなかった。
 その肩が、一頭のヒグマに前脚で差し止められる。

「おいおい人間よ。オレらが童謡に出てくる優しいクマさんだとでも思ってんのか? 喰うぞ?」

 ヒグマはその鼻を、少女の顔に触れてしまうほどに近づけて威圧した。
 少女の眠たげな目は、一度だけ瞬きをする。

 パァ……ン。

 小気味の良い破裂音がして、ヒグマの首は横に曲がっていた。

「……あなたたちは生後間もないヒグマ。私は高校生の人間。長幼の序は守りなさい。
 By the way, 『森のクマさん』をあなたたちにインプットしたのは桜井のセンスよ」

 頬をはたかれたヒグマは、そのままの体勢で暫く固まっていた。
 ぐりん。
 その眼は天を仰ぐように白目を剥く。
 地響きをたてて、ヒグマは大地に横倒しになっていた。

「オイ!? 穴持たずNo.748!!」
「な、何をしたんだキサマ!!」
「……こんな弱そうに見える人間がどうして平然とここを闊歩しているのか、きちんと考えるべきだったわね。
 私には『寿命中断(クリティカル)』という能力があるのよ」

 曰く。
 この能力は、自分が触れた者にしか発動しない。

「……However」

 一度触れてしまえば、何処へ逃げようとその命を絶つことができる。

「……手加減するのも骨が折れる、面倒な能力よ。能力演算を甘くして一度に全生命活動を停止させるのが、私には一番楽だわ。
 まあ、製造過程でAIM拡散力場を有しながら無能力者として生まれるあなたたちには、ピンと来ない感覚かもしれないけれど」

 訥々と説明をしながら歩み寄る少女に、残る3頭のヒグマは知らず知らずのうちに後ずさりをしていた。

「ハ、ハッタリに決まってるぜそんなもの!!」
「じゃ、じゃあなんで、748は倒れてんだよ……!?」
「要するに、触れられる前に殺せばいいんだろうがよ!!
 グオォォォォォオオ!!」

 スイッチが切り替わったかのように、ヒグマから殺気が迸った。
 風のように飛びかかる。
 少女の首筋を目掛けて爪が走る。
 しかしその姿は、一瞬のうちにヒグマの視界から消え去っていた。

「あ……?」

 空を切った爪に驚く間も無く、そのヒグマは脚を跳ねられ、突進の勢いのまま地面にもんどりうっていた。
 その背中が何者かに踏みつけられ、耳元が艶かしい指使いで撫でられる。

「……あなたたちの戦闘におけるプライマリルーチンを組んだのは小佐古よ。
 実際の羆のデータから取ったとはいえ学習以前の行動パターンは概ね同じ。体格差による死角の存在も、あと3秒の意識で学んでおきなさい」
「ひぃ……!? 嫌だ、死にたく、死にたくね……ぇ……」

 身を沈ませての後ろ脚払いから、流れるような動作でヒグマを押さえ込んだ少女の下で、そのヒグマは呻きと共に意識を落とした。

「うぉおおお!! 751ぃいいい!!」

 残る二頭に背を向けている形の少女へ、一頭が走りこんだ。

「ガァッ!!」

 フライングドロップキック。
 普通の羆ならば繰り出すことのない技である。
 砲弾のような勢いが、背後から少女の肉体を微塵に砕くかと見えた。


74 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:42:01 SOSvjI9c0

「……Hooey」

 少女は流し目をその腕に這わせ、回転しながら一歩だけ横に動いていた。
 通り過ぎていくヒグマの大腿が、白蛇のようなその手に撫でられる。
 瞠目するそのヒグマの眼には、その少女の靴底が映っていた。

「……奇襲するなら叫ばないこと」
「ゴアッ!?」

 ローリングソバット。
 鼻面を打ったその衝撃が勢いに加わり、ヒグマは地面をそのまま転がっていき、動かなくなった。
 白衣をはためかせて着地した少女は、そのまま彼方のヒグマに言葉を投げる。

「In addition, その技は工藤健介というヒグマがオリジナルだから。
 まだ私の声は聞こえてる? あなたはお兄さんにあたる先達へ、畏敬の念を抱いておくべきよ」

 そして、つっ、と、彼女の半眼は最後のヒグマの方へと滑った。

「……残るはあなた一人ね」
「お、思い出した……ッ! 確か研究所を制圧した時に、一人だけ食い殺せなかった研究員がいたって……」

 震えるヒグマの元に静かに歩み寄りながら、少女は目を瞑る。

「そいつはその場にいた、キング以外の全てのヒグマを触れただけで瀕死に陥れたって……。よ、与太話だとばっかり……」
「思考にバイアスがかかりすぎね。記憶の参照速度も遅いし。
 ……あなたたちの『学習装置(テスタメント)』も、そろそろメンテナンスが要るんじゃないかしら?」

 大蛇に睨まれた子ネズミのようなその頬を、少女の指先が舌のようになぞる。
 その瞳は見開かれ、爬虫類のように冷たい四白眼となっていた。

「これであなたも、私の能力の対象ね……」
「や、やめてくれぇ布束(ぬのたば)砥信(しのぶ)!!
 ……なんでもする! 謝るから! 助けてくれぇ!!」

 その名前に、遠巻きに様子を見ていた帝国のヒグマたちが一斉にざわめく。
 少女は彼らヒグマ全てを睥睨しながら、見せ付けるようにゆっくりと言葉を紡いだ。

「……私の言っていたこと、理解できなかったのかしら。
 長幼の序も守れないのね。
 In brief, 自分を創ってくれた者に対して敬語も使えないような子は、要らないわ。
 大丈夫。
 あなたの兄弟と同じように、痛みを感じる間も無く、一瞬で終わりにしてあげるから……」

 少女が言い終わる前に、ヒグマは自分の意識を手放していた。
 針穴のような少女の瞳孔に飲み込まれるように、ぶくぶくと泡を吹いて昏倒する。

「――能力を使うまでもなかったわ。手間が省けたわね」

 崩れ落ちるヒグマの脇を歩きながら、少女の目は再び眠そうな半眼に戻っていた。


    @@@@@@@@@@


75 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:43:22 SOSvjI9c0

 ――気づかれてはいけない。
 私の能力は、ほとんどが話術と演出によるまやかしだ。

 呼吸を乱すな。
 汗腺を動かすな。
 表情筋に恐怖をぶら下げるな。
 使い慣れた自己の身体機能を常に発揮できる状態で居よ。

 交錯する瞬間に、ヒグマたちの皮下に吸収性の麻酔針を留置することにより時間差で意識を落とす。

 それが今の私にできる最大限の自己防衛。
 留置本数を増やすか、有冨の作った溶液を塗布すればヒグマを死に至らしめられるだろう。
 しかし、実験開始時に作成した分しか麻酔針はない。

 今のような生まれたばかりの、高性能ロボットを赤子が操縦しているようなヒグマばかりだったら、私の戦術でもある程度は対処できる。
 だがそれにしたって、穴持たずの番号が2桁台前半までの、経験を積んだ者に通用するかはわからない。
 変異の標準偏差が大きすぎて、パターン化は困難だ。

 『HIGUMA』の恐るべきはその性能の高さにだけではなく、個体の形質の多様さにある。
 そして、『その多様な個体の大部分を制御して、秘密裏にクーデターを指揮した首領がいる』という点にもだ。

 有冨を殺害した『キング』という個体は、単に王座に祭り上げられているだけだろう。
 その背後で、秘密裏にHIGUMAの製造法を盗み、ここまで国と文明を築き、クーデターを指揮した『実効支配者』が、一体ないし複数存在しているはずだ。
 私や有冨、そして『デビル』までが、そのようなイレギュラーが起こり得ぬよう定期的に研究所を警邏していたというのに。
 『実効支配者』は、一朝一夕の画策ではなし得ないほど大規模なこの反乱計画を、私たちの目を欺き、掻い潜り続けて実行したほどの能力と知略を有しているのだ。

 気づかれてはいけない。
 私の次なる目的は、『盗難された培養槽を破壊してヒグマの増殖を止め、ヒグマにも人間にも平穏をもたらすこと』だ。
 このまま『実効支配者』に気づかれず『培養槽』を見つけ出すには、私は極力戦闘を避けねばならない――。


「――布束さん!!」

 前方のヒグマたちのどよめきを割いて、声をかけられていた。
 屋台からコックコートの少女が駆け寄ってくる。
 ……ようやく無事な知り合いの顔を見られた。
 研究所の部屋に残っていたのは気絶寸前の間桐さんくらいで、あとは肉片も残っていなかったから……。

「田所恵。良かった。あなたは生きていたのね」
「私は、役に立つ人間だったということで、なんとか見逃されて……。
 それにしても布束さん、そのヒグマたち、殺しちゃったんですか……!?」
「いいえ、私は長幼の序を守るわ。大人は子供を慈しむもの。
 どんなに能力の制御が面倒でも、極力殺しはしない……。全員気絶しているだけよ」
「良かった……。布束さんがキングの目の前で大立ち回りしたって報せを聞いて、ここらへんのヒグマと一緒に驚いてたんです。
 生きてて良かったというのと、なんだか人が変わってしまったんじゃないかと怖くて……」

 田所恵はほっと息をついていた。
 近づく彼女の手を取ろうとする。
 伸ばした私の腕に、彼女はびくりと身を竦ませた。
 そして私の瞬きに、彼女はもう一度身を竦ませる。

「……そうね。『寿命中断(クリティカル)』が能力の時点で、私の本質など知れたものだわ。
 ただあなたとは違って、私が『役に立つ人間』だと認めさせるには、私はまずそれを使わねばならなかったのよ。隠していてごめんなさい」
「……す、すみません。やだな、私なんて布束さんと何度も握手してるのに。今更『能力』とか関係ないですもんね……」


76 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:45:05 SOSvjI9c0

 彼女の笑みは、固かった。
 おずおずと手が差し出されるが、私の腕は、もう白衣のポケットに仕舞われて出てこなかった。

 ――ここで生き残る間は、『寿命中断(クリティカル)』に存在していてもらわなくてはならない。
 御坂美琴に見破られてしまうような演出では弱い。
 ……小さい時から『怖い』だの『不気味』だの言われてきたから、極力人前では四白眼にならないようにしてきたのだけれど。
 仕方がないじゃない。心理操作の道具の一つなんだから。
 もっと徹底して、私は能力者となる必要があるのよ、田所さん。

 田所恵は話題を変えようと、慌てて明るい声を上げた。

「あの、ところで! 今まで6時間くらい、何をなさっていたんですか?」
「キングに放送機器の扱いを教えたり、私が『客分』として認めてもらえるよう、その『大立ち回り』の情報を流してもらったりね……。
 After that、帰りに散策がてら歩いていたら、この有様よ。本当に次から次に、無知な新参が生まれてくるみたいね」
「そうみたいです。さっきもここで戦いみたいなものがあったんですけど、新しいヒグマがまた増えてほぼ元通りの様子に」

 田所恵に説明した内容は、少し事実を省いている。
 私はキングに自身の戦闘能力を見せつけ、その上でなお、ヒグマ帝国に知識を提供し協力する意思のあることを伝えた。
 そうして『客分』として帝国に認められることで、私はここにおける生命の保証を得た。
 その過程で私は、ヒグマたちが『艦隊これくしょん』なるゲームに嵌り、その艦娘を建造しようとしている無駄に熱いムーブメントがあることを知る。
 キング経由で建造工程のアドバイザーを務めてやり、そうしてできた『島風』をE−4地域から放たせることで、私はヒグマたちの分布を島の北に寄せた。
 その間ヒグマによる監視の目が薄くなった島の南方の下水道をたどり、私はここへの経路を記載した封筒を、街の何箇所かに設置してきたという訳だ。
 ……6時間も遅くなってしまったが、ようやく一部だけでも、私は目的を果たすことが出来た。

 そして早くも、その目的は結果に結びついたらしい。
 屋台の中にいる四匹のヒグマ。
 そのうちのピンク色の二匹に見覚えがある。あれは支給品に入れていたオーバーボディだ。

 ――参加者が、主催を、打ち倒しに来てくれたのだ。


    @@@@@@@@@@


77 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:46:08 SOSvjI9c0

「『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』!! 『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』!!」
「『天の鎖(エルキドゥ)』まで出して手繰っているのだからしっかり制御しろ、キャスター!!」
「ご協力感謝しますよ。お行きなさい、『大海魔』!!」
「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ッ!!」

 灼熱の砂漠の中、大量の軍隊をなぎ倒していく宝具の煌き。
 BANZOKUの出現や大海魔の暴走により、一時は敗色も濃厚かと思われたが、その心配はなさそうだ。

「どうだマスターよ。我が『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』と合わせ、圧倒的な勝利と言えるのではないかな?」

 僕の隣で、赤ら顔の偉丈夫が磊落に笑う。
 いつでも頼りになる、僕のサーヴァント、ライダーだ。

「そうだね……! 良かった。これで言峰神父たちと一緒に脱出できる……!」

 第四次聖杯戦争の英霊が集結し、力を合わせる。
 こんな夢のようなことがあるだろうか。
 実際、マスターたちのほとんどはあの研究所に集められていたみたいだけど、言峰神父が言うにはみな昏睡状態だったらしい。
 全員が起きて揃ったらしい今ならば、ヒグマ帝国だって破壊できるはずだ。

 手の甲に浮かぶ、翼のような、二つに裂かれた空のような令呪の文様を見る。

 まだ、強力な魔力源である令呪も聖杯戦争の時のまま残っている。何かまずいことがあってもこれを切り札にして――。

「……あれ?」

 おかしいな。
 何かがおかしい気がする。

 BANZOKUにはサーヴァントたちが全力で向かっていって、確かに勝とうとしている。
 ライダーの王の軍勢だって、まだまだ維持できる人数は残っている。
 なんでこんなに不安なんだ?

「どうしたマスター。なぜそんな顔をしている。安心して我らはここに居ればよい」
「う、うん……。そうだよねライダー。そうだよね……」

 ライダーの優しい声が、すごく遠くから聞こえるような気がする。

 戦闘の光景は確かに見える。
 皆の鬨の声も確かに聞こえる。
 乾いた砂や血しぶきの臭いも確かに感じる。
 暑い日差しや風の動きも、肌に触れる。
 空気の味も、戦いの腥さだった。

 でも、おかしい。

 そういえば、アサシンは、なんでここにいたんだろう。
 アサシンは、僕の目の前でライダーが葬り去っていたはずなのに。
 言峰神父はなんかアーチャーと再契約していたみたいだし、アサシンがいるはずはないよな……。
 それにキャスターって、セイバーが倒していたんじゃなかったっけ?
 そもそも、熊汁突っ込まれて言えなかったけど、アーチャーだって、ここで死んでるはずだよな?
 っていうか、本当にBANZOKUって何なんだよ。

 灼熱の固有結界に居るはずなのに、すごく寒いような気がした。
 すごく、寂しい気がした。
 周りにはサーヴァントたちがみんな居るのに。
 まるでぼく一人が、宙に浮かんでいるような……。

 ……そういえば僕、ヒグマの皮、着てたはずだよね。


    @@@@@@@@@@


78 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:47:24 SOSvjI9c0

 ――格好いい。
 まず始めに、私はそう思った。

 私と同じ高校生と言っていたのに、なんなんだあの格好いいビッチは。
 ハイスペックすぎる。
 研究員ってことは頭も良くて、その上ヒグマをあしらえるくらいに格闘ができて、かわいい。
 ジト目とギョロ目でクールで貧乳って、私と同じ属性持ちだろ?
 なんでそんなにモテそうなオーラまんまんなんだよありえねぇ……。


 黒木智子はそう思って頭を抱える。


 ――主催者も一枚岩ではなかったということか。
 周囲に目を走らせながら、僕は考えた。

 恐らく、僕らがここに来るよう仕向けたのは彼女だ。
 ヒグマの反乱を知ってか知らずか、彼女は主催者陣営の内側から、この殺し合いを止めさせようとしていたわけだ。
 僕の王朝設立に役立つなら、彼女の力も大いに利用させてもらうべきだな。
 まずは、ヒグマたちの目を盗んで彼女と接触を試みる……。


 クリストファー・ロビンはそう考えて席から立とうとする。


 ――いい功夫だった。
 そう私は、布束砥信の体術を思い返した。

 私の八極拳とは比べるべくもないが、彼女の積んだ研鑽は相当のものだろう。
 聴勁も化勁も発勁も、さらに伸びしろがある。
 黒鍵もない今の私には、彼女の心理操作術も脱出への参考となるはずだ。
 『直死の魔眼』めいた魔術を使えるというのにも驚いたが、総じて研究所での温和な姿からは想像もできん豹変ぶり。
 ただひたすら、面白いぞ……。


 言峰綺礼はそう笑って3杯目の麻婆熊汁を注文する。


「……何にしても、見世物はもう終わりよ。
 私に襲い掛からなかった賢明なあなたたちは、どこへなりと好きに行きなさい」

 田所恵との会話を切って、遠巻きに事態を見守っていたヒグマたちへ、布束砥信は言葉を投げた。
 息を詰めていた彼らから安堵の嘆息が漏れ、同時に屋台の中でも張り詰めていた緊張が解ける。
 グリズリーマザーの心配をよそに、少女の鮮やかな殺陣は三人の人間の危機感を払拭するには十分すぎた。

「はい、麻婆熊汁お待たせいたしました!
 それにしてもお客さん、やっぱりそれ食べ終わったら早いうちに逃げたほうが……」
「そう急くこともあるまい。あの研究員が生きていたのならば大きな戦力となる。
 それに、『王の軍勢』の中にはまだ知り合いがいるのでな。私は彼らが帰ってくるのを待つよ」
「はぁ……、来たばかりのアタシはあの人のこと知りませんけれどね。
 マスター、あんただけでも逃げたほうが……」
「ありえねぇマジありえねぇ私だってあれくらいできたっていいじゃねぇかよ不公平すぎるよ……」
「マスター……」

 グリズリーマザーが困惑する中、布束へ声をかけるタイミングを計っていたロビンの目に、あるものが映る。


 ヒグマだった。


 いつの間に現れたのか、屋台の目の前、道のど真ん中に、一頭のヒグマがたたずんでいた。
 布束が4頭のヒグマを蹴散らしている間、残りのヒグマは恐れでその場から離れており、先ほどまでそこには誰もいなかったはずであった。
 取り立てて強力な個体には見えない。
 むしろ細身で骨ばっており、筋力もなさそうな、弱弱しく見えるヒグマだった。
 そのヒグマは、両の前脚にそれぞれ何かを掴んでいる。

「……ッ!?」


79 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:49:01 SOSvjI9c0

 熊汁の器から顔を上げた言峰綺礼の表情に、隠しようのない動揺が浮かぶ。
 少し遅れて、野次馬のヒグマたち、布束、田所、グリズリーマザー、智子と、次々にそのヒグマの存在が気づかれる。
 そのヒグマが手に持っていたのは、ライダーと、ウェイバー・ベルベットの肉体であった。
 取り巻くヒグマたちはその姿に、布束の名を聞いたとき以上の畏怖を以って後ずさっていた。
 その数は、一瞬前に存在していたヒグマのほぼ倍。
 それだけの数が、一瞬にして現れる――『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』が解除されてしまったことを示していた。

 ヒグマは布束砥信を無表情な眼差しで見つめ、低く細い声で語りかける。
 虚ろで光のない、底なし沼のような瞳だった。

「……外の様子が窺えればよかったのですが、いらしていたのですね。
 ご挨拶が遅くなり申し訳ありません、布束特任部長。闖入者が奇妙な技を使ったため、同胞を保護しつつ始末するのに思いの他時間がかかりました。
 恐らく私をご覧になるのはお初かと思われます。
 ……穴持たずNo.47、番号をもじって『シーナー』と自称している者です」

 ヒグマの異様な佇まいに、誰も声を発することができなかった。
 布束の目が移った先は、彼の持つ二人の人間の肉体。
 二人ともまだ生きてはいるようだったが、その様子がおかしい。
 筋肉質の壮年男性、ライダーは、勝ち戦の陣頭指揮でも執るように高揚した様子で腕を振り、口の中でびたびたと舌を動かしている。
 優男のウェイバーは、焦点の合っていない目でしきりに周りを見ようとし、オーバーボディのはがれ掛けた腕で自分の周りを撫で回している。
 二人とも、自分たちがヒグマに掴まれて吊るし上げられていることなど、全く気づいていないようだった。

「あ、あの……、そのお客さんたちは、一体なにが……?」

 声を上げたのは田所恵だった。
 かちかちと歯を震わせながらの問いに、シーナーというヒグマは低く答える。

「……ご説明いたしましょうか。そこの4体の同胞を見るに、布束特任部長と類似した能力なのかと思われますが、生憎私には自身の能力を分類する知識がありません。
 私と同じ、『シーナー』という名の哲学者の著作からとって、私はこれを『治癒の書(キターブ・アッシファー)』と呼称しています。
 ……私は、私自身が知覚した方々の感覚を、随意に変化させることができるのです」

 曰く。
 この能力は常に自分の内から外に向けて放たれている。
 自分が視界に捉えた対象は、自分の望む幻視を目の当たりにすることになる。
 また自分がその声や心音を捉えた対象は、自分の望む幻聴を聞くことになる。
 同様にしてその体臭を嗅げば嗅覚が、接触すれば触覚や位置覚・痛覚が、舐めればその味覚が自分の意のままとなる。

「……そしてこの『治癒の書』には奇妙なところがありまして」

 一度自分の認識外に出てしまえば、その相手の感覚は元に戻る。
 しかし五感を同時に支配下に置くと、その相手は『空中人間』となってしまう。

「『空中人間』とは、感覚を遮断された意識だけの存在です。
 彼らの意識は私の内にある『治癒の書』に吸収され、そのうち消え去ります。
 普段は、同胞たちを治療する際の麻酔代わりにしているだけなのですが……。
 折角なのであなた方もごらんになりますか? 『治癒の書』の消化の様子を」

 言うや否や、シーナーの隣の空中に、立体映像のようなものが映し出された。
 灼熱の砂漠で、モヒカン頭の蛮族と鎧を着た軍隊が激しく戦っている映像だった。
 女剣士の振るう剣の光や、触手を持った巨大な怪物の攻撃があたりをなぎ払い、決戦は軍隊側の勝利で決着しそうだった。

 シーナーは、ばたばたと手足を動かしている壮年男性にかぶりつき、音を立ててその腕を食いちぎる。
 同じ人物が、映像の中で嬉しそうに勝ち鬨を上げていた。

『おおおおおっ!! 我が軍の、勝利なりぃいい!!』

 ぶきっ。ごきっ。

 ライダーは、腕を千切られ、血を噴出しながらも、全く意に介さないようだった。


80 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:51:10 SOSvjI9c0

「……こうして見るとなかなか滑稽でしょう。楽しそうな妄想を見ていますものね」
『ライダー、貴公のお陰だ。これでこの帝国から脱出することもできよう』

 ぐちゅ。めき。めき。

 今度は小腸が胸のど真ん中から引きずり出されたが、ライダーの表情は誇りに満ちていた。
 末梢の静脈から凍えていくかのような悪寒が、一帯の人々の背を這い登っていく。
 目を見開いたまま固まっている布束の隣で、田所恵が地に伏せて嘔吐した。

「私と彼らの認識が即席で作った幻覚なので、探せばアラは山のようにあると思うのですが、人間は物事を勝手にいい方へ解釈していくものなのですね」
『なんの! セイバー、アーチャー、アサシン、キャスター、ランサー、全員が力を合わせたが故の勝利よ!』

 ぞぶっ。ちゃぐ。ちゃぐ。

「……正規の参加者として登録されていた軟禁者以外は、既に私たちが食べていたんですがねぇ」
『本当に、勝ったんだね……。そうなんだよね? ライダー……』

 壮年男性の肉体を半分近く食べ進めながら、シーナーは言峰綺礼を近くに呼び寄せた。

「……そうそう、そこの屋台で麻婆を食べているお方。ちょっと来て下さい」
「……なんだ。私に用があるのか?」
「ええ。あなた先ほどこちらの、ヒグマの皮を着た人間と話していましたね?
 あなたも人間である可能性があります。疑いを払拭するためにこの方を食べてください」

 言峰綺礼は、できる限り慎重に、時間を稼ぐようにして立ち上がった。
 屋台の周囲を見回す。

 ――まずい。
 奴は、『固有結界』をその身に内包し、その一部を『魔眼』、いや『魔感覚』とでも言うべきものから放出しているのだ。
 既に私たちはこの時点で、視覚・聴覚・嗅覚を操作されていると見て間違いない。
 わざわざ奴が姿を見せているのは、私たちの反応から侵入者をあぶり出そうとしているからだ。
 存在を認められている布束・田所はともかく、ここにいる少年と少女と私は、危険だ。
 どうにか切り抜けなければ――!

 映像の中で、ウェイバー・ベルベットは、自分の腕を見つめていた。
 その体は、オーバーボディを着てはいない。右手の甲に刻印された、令呪の紋が露になっていた。

『――いや、そうか。だめだったんだ』
『何を言っているマスター。我が軍は勝利したではないか?』
『ううん、多分これは……夢? 僕がここで、自分の腕を見られるわけがないんだ……』
『ど、どういう……こ……だ……? マ……ス……』

 映像の中で、ライダーの姿は、飴細工のように溶けて流れてしまった。
 同じように、辺りにいた軍勢や蛮族の死体、海獣の姿なども、ぐにゃぐにゃと溶け落ちてしまう。
 重い足取りで道に出た言峰は、震えながらウェイバーの肉体を受け取る。

『この幻覚、誰かの魔術だよね……。僕、死んだかな……。
 すみません……言峰神父だけでも、できるだけ多くの人を助けて、脱出してください。
 ああ……でも届くかなぁ……。夢から呼んでも……届い……て……くだ……さ……』

 映像は、笑い泣くウェイバーの顔で締めくくられる。
 彼の顔がどろどろと溶けた後には、砂漠の姿が徐々に黒くくすんで、風に吹かれるように映像は消え去った。

「……ふふふ。ははははは、実に愉悦!!
 シーナー殿はなかなか面白い趣向を凝らしてくださる。
 これほど美味と感じる肉なら、是非また食べてみたいものだ!!」

 私は丁寧に丁寧に、ウェイバーの肉を噛みちぎった。
 高笑いしながら、彼の右腕を根元から切り離す。

 ――すまない。私が、判断を誤ったのだ。
 せめて脱出の際に、衛宮だけでも一緒に連れて来れていれば。
 若しくは、死んだはずのアーチャーの幻覚を見た際に、復活したものと都合よく解釈していなければ……。


81 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:55:15 SOSvjI9c0

 ――だが君の思いは、確かに活用させてもらうぞ、ウェイバー。

 ウェイバーの手の甲に残る令呪は2画。
 これが彼の体内の魔力回路から切り離されれば、その所有権は誰のものでもなくなる。
 ただの死斑と成り果ててしまう前にこれを私のものにすれば、父璃正から託された11画の予備令呪と合わせ、利用できる魔力が増えることになる。
 だが、そうでなくともかまわない。
 脱出の効率を優先するなら、この令呪は最も有効利用できる者の元へ委譲するべきだ。

 彼の手に描かれた二つの翼は、音もなく消え去る。

 バーサーカー以外のすべての第四次聖杯戦争のサーヴァントが消え去った今、この近隣でサーヴァントを持っているマスターはただ一人――。
 ウェイバーの遺志に載せて、私からも1画贈ってやる。
 お前こそが、このヒグマ戦争における、正式なマスターなのだろうからな。


    @@@@@@@@@@


 人が、殺されている。
 とても喜んだ表情で、はらわたを喰いちぎられている。
 気持ち悪いほっそりしたヒグマが、笑顔のマッチョをごりごりかじっている。
 隣で麻婆喰ってたおじさんが、今度はショタの腕に笑いながら喰いかかっている。
 見つめていたらゲシュタルト崩壊する。
 こんなもの見たくないはずなのに、目が離せない。
 腹の底できりきり、虫か獣が蠢いているみたいだった。

「う――、げっ……」
「いやぁー! 食欲が増す光景だねーっ!!」

 のどの奥から酸っぱい汁がこみ上げてきたとき、私の顔には突然麻婆熊汁がたたきつけられていた。

「おげぇっ!? ごぼっ! うろおろろろろろろ!!?」
「あー、急いで食べ過ぎちゃったかな? いくら目の前で美味しそうな食事風景見せつけられても、焦っちゃだめだよ。ほら奥で休もう?」
「マス……いやお客さん、そうした方がいいです! さあ早く屋台の裏に!!」

 ロビンが、おじさんのおいていった熊汁を口に無理矢理つっこんでいたのだ。
 激辛の汁が、胃からの酸味と奇跡的なマリアージュを起こし、私は口から赤茶色の噴水を吐くマーライオンと化した。
 ……なんだよこの仕打ち、いじめか!?
 逃げなきゃいけないのはわかってるけどさっ……!!
 折角強そうなビッチが来て、助かるかと思ったら、またチートじみたヒグマが望みを潰しにくる。
 死ねばいい。
 無計画に敵の本拠地に乗り込んで、JKに麻婆ぶっかけてくるガキとか死ねばいい。
 ダンディだと思ったおじさんは人喰い愉悦部員だったし死ねばいい。
 ……何よりこんな状況で、熊汁を吐いて搬送されることしかできない私が、死ねばいいのに。

 ――なんで私は、何もできないんだよ。

 グリズリーマザーとロビンに両脇を抱えられながら、ピンク色のクマは泣いた。
 どうしようもなく切なくなって、麻婆の汁と一緒に、ありったけの涙を吐き戻していた。


    @@@@@@@@@@


82 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 00:58:19 SOSvjI9c0

「――もう、やめなさいっ!!」

 言峰がウェイバーの腕を引きちぎった時、布束は空気を破裂させるように叫んでいた。
 瞬間、沈み込んだ彼女の体が疾駆し、シーナーの懐へ入り込む。
 ――ダンッ。
 八極拳で言うところの、進歩単陽砲。
 全体重を乗せた掌底が、ヒグマの顎から頭蓋を完全に打ち砕いていた。

「……なるほど、そろそろ見世物は終わりにしましょう。互いに、触れれば一巻の終わりの能力でしょうから。あなたの怒りを買う益はありません」

 確かに殺したように見えたヒグマの姿に手ごたえはなく、その像は霞のように消え去る。
 シーナーは布束の背後で、最後に残ったライダーの肉片を貪り喰っていた。

「そうそう、あなたには、インターネット環境を復旧していただきたく思っていたのです特任部長。
 ……まだまだ艦これ熱が冷めぬ同胞が居ましてね。ご面倒をお掛けいたしますが、協力して頂きたい。
 私もちょくちょく見学しに行くと思いますので、そのおつもりで」

 シーナーは、ウェイバーの死体に喰らいつく言峰と、騒がしくなっている屋台の方を一瞥する。
 ごぎん。
 笑顔のままのライダーの頭部を一口で飲み込み、彼は空気に溶けるようにその姿を消した。


 打ち抜いた右腕も降ろせぬまま、布束は震える息を必死に抑える。


 ――彼は、間違いなく『実効支配者』たちの一角だ。


 なぜ、穴持たずの通し番号に、重複や欠番が出来た?
 なぜ、研究員たちはヒグマの総数を把握できなかった?
 なぜ、研究員同士の認識に食い違いが生まれ、不用意にヒグマの数を増やすことになった?
 なぜ、少しも離れていない場所で地下が掘り進められているのに気がつかなかった?
 なぜ、培養液の盗難は実験開始後に発覚した?
 なぜ、通し番号をヒグマたち自身の方が把握している?
 なぜ、関村が隠れてやっていた『艦隊これくしょん』なるゲームが浸透しているのだ?

 2万体作られた『妹達(シスターズ)』にだって、そんな単純なミスは起こらなかったのに。
 今ならば、その全てに説明がつく。
 穴持たず47、『シーナー』。
 彼がその超能力で、私たちの認識をずっと歪ませていたのだ。

 どこに彼が潜んでいるのかわからない。
 どこまで行動を観察されているのかわからない。
 忍び寄られて触れられ、舐められるだけで、私たちの命は簡単に消え去る。

 ――まったく見事な心理操作よ。見習いたいものだわ。

 折角来てくれた参加者たちと、接触する機会が失われた。
 私は体のいい道具として使い潰されるだけの存在に成り果てた。
 秘密裏に培養槽を見つけ出して破壊するなど、不可能に近いだろう。

 ――でも、できるとか、できないとかじゃないのよね。

 えづいている田所恵の背中をそっとさすり、私は次なる希望を復旧させに、研究所跡へと足を向けていた。

 ――やってみせるわ。有冨、フェブリ、ジャーニー、御坂美琴、妹達。
 私は今度だって、正しい答えに、辿り着いてみせる。


    @@@@@@@@@@


 サーヴァントととは、使い魔としては他と一線を画す高位の存在であり、本来、召喚には複雑な儀式が必要となる。
 聖杯戦争においては、その儀式の代わりに『聖杯』が彼らを招くことによってサーヴァントが召喚される。
 召喚の実行が可能なのは、基本的に『令呪』が与えられているマスターのみ。
 ただし、その『システム』に介入できるほどの『知識』あるいは『実力』があれば、その限りではい。
 場合によっては魔法陣や詠唱、魔術回路の励起が無くとも召喚が為される場合もある。

 この地には、第四次聖杯戦争に参加したマスターのうち5人が、魔力の供給源として収集されていた。
 会場には蝦夷地の霊脈からの魔力が彼らを通して吸い上げられ、さらに、そこに新たな『システム』が、豊富な『知識』と『実力』を持つ3名の者の手によって持ち込まれていた。
 『キング・オブ・デュエリスト』。
 『熊界最強の決闘者』。
 そして、『クイーン』。

 継続的な強い想念は、擬似的な聖杯の力を持ったその魔力に、サーヴァントを召喚させ得た。


 涙と吐瀉物に塗れた一人のマスターの腕に、その本人にも気づかれぬままひっそりと、3画の紋様が描かれている。
 ピンク色のクマの毛皮の下でその『令呪』は、サーヴァントに支えられ今も静かに、彼女の命令を待っていた。


【ウェイバー・ベルベット@Fate/zero 死亡】
【ライダー(イスカンダル)@Fate/zero 死亡】


83 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 01:00:00 SOSvjI9c0

【??? ヒグマ帝国/朝】


【黒木智子@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
状態:嘔吐、自己嫌悪、膝に擦り傷
装備:ベルモンドのオーバーボディ@キン肉マンⅡ世、令呪(残り3画/ウェイバー、綺礼から委託)
道具:基本支給品、石ころ×99@モンスターハンター
[思考・状況]
基本思考:死にたい
0:ヒグマも、何もできない自分も、死ねばいいのに。
1:ロビンに同行。
2:ビッチ妖怪は死んだ。ヒグマはチートだった。おじさんは愉悦部員だった。最悪だ。
3:どうすればいいんだよヒグマ帝国とか!?


【グリズリーマザー@遊戯王】
状態:健康
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:旦那(灰色熊)や田所さんとの生活と、マスター(黒木智子)の事を守る
0:マスター! とりあえずシーナーさんの目の届かないところに逃げますよ!
1:旦那が仕入れから帰ってくる前に、マスターを地上に逃がす。
[備考]
※黒木智子の召喚により現界したサーヴァントです。


【クリストファー・ロビン@プーさんのホームランダービー】
状態:右手に軽度の痺れ、全身打撲、悟り、《ユウジョウ》INPUT、魔球修得(まだ名付けていない)
装備:手榴弾×3、砲丸、野球ボール×1 ベア・クロー@キン肉マン、ロビンマスクの鎧@キン肉マン、ヒグマッキー(穴持たずドリーマー)、 マイケルのオーバーボディ@キン肉マンⅡ世
道具:基本支給品×2、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本思考:成長しプーや穴持たず9を打ち倒し、ロビン王朝を打ち立てる
0:智子さんを奇怪なヒグマから避難させ、麻婆おじさんや女研究員と情報交換できる方法を探る。
1:投手はボールを投げて勝利を導く。
2:苦しんでいるクマさん達はこの魔球にて救済してやりたい
3:穴持たず9にリベンジする
4:その立会人として、智子さんを連れて行く
5:帝国を適当にぶらぶらしたら地上に戻って穴持たず9と決着を付けに行く
[備考]
※プニキにホームランされた手榴弾がどっかに飛んでいきました
※プーさんのホームランダービーでプーさんに敗北した後からの出典であり、その敗北により原作の性格からやや捻じ曲がってしまいました
※ロビンはまだ魔球を修得する可能性もあります
※マイケルのオーバーボディを脱がないと本来の力を発揮できません


【言峰綺礼@Fate/zero】
状態:健康
装備:ヒグマになれるパーカー、令呪(残り10画)
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:脱出する
0:安全だと分かるまで、ウェイバーの死体から愉悦を味わう。
1:布束と再び接触し、脱出の方法を探る。
2:ヒグマのマスターである少女およびあの血気盛んな少年と、協力体制を作りにいく。
3:『固有結界』を有するシーナーなるヒグマの存在には、万全の警戒をする。
4:あまりに都合の良い展開が出現した時は、真っ先に幻覚を疑う。
5:ヒグマ帝国の有する戦力を見極める。


【田所恵@食戟のソーマ】
状態:嘔吐、動揺
装備:ヒグマの爪牙包丁
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:料理人としてヒグマも人間も癒す。
0:目の前で、人間が歓喜の表情で食べられていく……。
1:研究所勤務時代から、ヒグマたちへのご飯は私にお任せです!
2:布束さんに、もう一度きちんと謝って、話をしよう。
3:立ち上げたばかりの屋台を、グリズリーマザーさんと灰色熊さんと一緒に、盛り立てていこう。


84 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 01:01:13 SOSvjI9c0

【布束砥信@とある科学の超電磁砲】
状態:健康
装備:HIGUMA特異的吸収性麻酔針(残り27本)
道具:HIGUMA特異的致死因子(残り1㍉㍑)、『寿命中断(クリティカル)のハッタリ』
[思考・状況]
基本思考:ヒグマの培養槽を発見・破壊し、ヒグマにも人間にも平穏をもたらす。
0:帝国・研究所のインターネット環境を復旧させ、会場の参加者とも連携を取れるようにする。
1:やってきた参加者達と接触を試みる。
2:帝国内での優位性を保つため、あくまで自分が超能力者であるとの演出を怠らぬようにする。
3:シーナーおよび、帝国の『実効支配者』たちに自分の目論見が露呈しないよう、細心の注意を払う。
4:ネット環境が復旧したところで艦これのサーバーは満員だと聞くけれど。やはり最近のヒグマは馬鹿しかいないのかしら? 『実効支配者』も大変ね……。
[備考]
※麻酔針と致死因子は、HIGUMAに経皮・経静脈的に吸収され、それぞれ昏睡状態・致死に陥れる。
※麻酔針のED50とLD50は一般的なヒグマ1体につきそれぞれ0.3本、および3本。
※致死因子は細胞表面の受容体に結合するサイトカインであり、連鎖的に細胞から致死因子を分泌させ、個体全体をアポトーシスさせる。


【穴持たず47(シーナー)】
状態:健康、対応五感で知覚不能
装備:『固有結界:治癒の書(キターブ・アッシファー)』
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため、危険分子を監視・排除する。
0:??????????
[備考]
※『治癒の書(キターブ・アッシファー)』とは、シーナーが体内に展開する固有結界。シーナーが五感を用いて認識した対象の、対応する五感を支配する。
※シーナーの五感の認識外に対象が出た場合、支配は解除される。しかし対象の五感全てを同時に支配した場合、対象は『空中人間』となりその魂をこの結界に捕食される。
※『空中人間』となった魂は結界の中で暫くは、シーナーの描いた幻を認識しつつ思考するが、次第にこの結界に消化されて、結界を維持するための魔力と化す。
※例えばシーナーが見た者は、シーナーの任意の幻視を目の当たりにすることになり、シーナーが触れた者は、位置覚や痛覚をも操られてしまうことになる。
※普段シーナーはこの能力を、隠密行動およびヒグマの治療・手術の際の麻酔として使用しています。


※ライダーが王の軍勢の結界内に引き摺りこんだBANZOKUやサーヴァントは幻覚でした。
※実際に引き摺り込まれたヒグマたちはシーナーが軍勢から隠蔽して避難させ、その間シーナーは軍勢全員を『治癒の書』で食い尽くしました。
※第一回放送と前後して、B-6、C-6、D-6、E-6、F-6のマンホールの上に1通ずつ、布束砥信が【封筒(研究所への経路を記載した便箋、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×3本が入っている)】を設置しました。
※ロビンと智子はB-6の封筒を手にしましたが、封筒は内容物そのままに放置されており、彼らは麻酔針の存在に気づきませんでした。


85 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 01:02:19 SOSvjI9c0
以上で投下終了です。


86 : 名無しさん :2014/01/23(木) 01:57:29 TAYw//Vs0
投下乙!
ついに現れた真の黒幕の一匹!ライダーをあっさり手玉に取る
この熊、今までのヒグマと違うヤヴァいオーラがプンプンするぜ……
布束さん格好良かったがロビカス達と一緒に行くことは出来ず、超頑張れ。
そしてそして踏んだり蹴ったりな智子についに転機が!?


87 : 気づかれてはいけない ◆wgC73NFT9I :2014/01/23(木) 23:37:03 SOSvjI9c0
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0282.png
長らくお待たせいたしました。現在状況を更新いたしました。

今回は
・ヒグマ帝国内の主要キャラ表示
・佐天さんのアルター化、童子切りによる更地化、噴火による降灰、ハザマが壊していった給水塔といった地形変化図示
を新たに行なっています。

続きまして、佐倉杏子、カズマ、黒騎れい、制裁ヒグマ、ヒグマン子爵、カーズで予約いたします。


88 : ◆uaLA8PgzdQ :2014/01/24(金) 01:27:00 SGrHuaBE0
◆bDQCUcB4p6です。諸事情よりトリップ変更します。


89 : 名無しさん :2014/01/24(金) 03:24:14 OVyrK5CI0
何かと思ったらミスって酉キー誤爆ったのか


90 : 名無しさん :2014/01/24(金) 08:15:38 J76454Pw0
ところで予約はするのでしょうか?
されるのであれば、こちらのスレにも書きこんだ方がよろしいかと。


91 : ◆Dme3n.ES16 :2014/01/25(土) 13:51:49 0vCbwV1I0
◆uaLA8PgzdQです。まーたトリップ割れてるし…ストーカーでもされているのか?
キリカ、のぞみ、浅倉、ぺらぺーら、タイラント、リラックマ、鷹取迅で予約


92 : ◆wz5FgAMm.A :2014/01/25(土) 20:14:29 ngu9fY5YO
既存キャラで巴マミ、デビルヒグマ
新規キャラで球磨川禊、狛枝凪斗、碇シンジ、それとヒグマを一匹予約します


93 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/01/25(土) 20:51:36 ngu9fY5YO
あ、すいません軽くググった感じ割れトリっぽいんで変更だけします


94 : ◆Dme3n.ES16 :2014/01/26(日) 16:25:49 EJCSA8yM0
予約を御坂美琴、相田マナ、山岡銀四郎、ヒグマ7、穴持たず14に変更します


95 : ◆eLW/XDs01s :2014/01/26(日) 18:38:45 1DRDCqX20
予約が変更されたようなので
夢原のぞみ、呉キリカ、リラックマ、浅倉威、日本語ペラぺーラ、暴君怪獣タイラントを予約します。


96 : ◆Dme3n.ES16 :2014/01/27(月) 02:18:00 BIJ6YBc.0
投下します


97 : ゼロ・グラビティ ◆Dme3n.ES16 :2014/01/27(月) 02:18:34 BIJ6YBc.0
「目標のポイントに到達いたしました。」

様々な人物がゲームの参加者として呼び出され、今も理不尽な強さをもつヒグマ達との
絶望的な戦いが繰り広げられている会場の上空。その殺戮遊戯の舞台に近づく一つの機影があった。

航空自衛隊が所有する大型輸送ヘリコプター、CH-47チヌークである。

配備開始から半世紀が経過した現在でも生産・運用をされ続け、日本国内においても
様々な大規模災害で活躍し、多数の人命を救助した名機がこの会場にやってきた理由は明白。

現在行われている巨大化した鷲頭の本州襲撃によっておぼろげながら見えてきた大量誘拐事件の全貌。
そして現在北海道の道民を恐怖のドン底に陥れている野生のヒグマの大量発生現象。
その異常事態の中心になっているポイントが政府によってようやく特定されたのだ。
目の前に広がる崖に囲まれた台地。この場所が混乱の元凶である可能性が高い。

「ふーん、北海道かー。初めて来たよ!」
「……やれやれ、なにが悲しくて俺がこんな小娘と組まなきゃならなぇんだか。」

CH-47の機内には、隊員の他に明らかに異質な二人の人物が座っていた。
一人は中学生位の赤髪の少女、もう一人は50代になりそうな初老の男。
会場で命賭けの殺し合いをしている参加者たちは知る由もないが、鷲頭の件を始め
既に会場の外にまでヒグマの被害が広がりつつある為、只ならぬことが起こっていることは
分かっていながらも、今回の調査では殆ど人を集めることは出来なかった。
そこでこう見えて政府の直属のエージェントである「彼女」と、
酒癖は悪いが地元に詳しい熊撃ちの名手である「彼」。
この二人に国が特別に依頼し、100人力の少数精鋭部隊が結成されたのである。
熊撃ちの名手である初老の男、山岡銀四郎は愛用の猟銃の手入れをしながら崖に囲まれた土地を窓から凝視する。

「なるほど、確かにうじゃうじゃ居やがるな。人を喰った悪神様がよぉ。」
「うーん。今回の事件にはヒグマが深く絡んでるらしいって聞いたけど、何があったのかな?」
「言っておくが、ヒグマには愛は通じねぇからな。エージェントだか何だか知らんが、死にたくなけりゃ見つけ次第殺せ。」
「はぁ……人工衛星とかなら遠慮なく壊せるんだけどヒグマは生き物だからなぁ……。」

「――――!?な、なんだ!?こちらに何かが近づいて……うわぁぁぁぁぁ!!!!!????」

突然、激しい衝撃音と共に機体が激しく揺れた。

「何が起こりやがった!?」
「様子を見に行きましょう―――――え!?」

慌てて席を立ち、音が聞こえた操縦席までやってきた二人は目を疑った。
大の字になったヒグマが操縦席のガラスを突き破り、パイロットを押し潰して倒れ込んでいたのだ。

「ヒグマだと!?馬鹿な!?上空何百メートルだと思ってやがる!?」
「えーと?空でも飛んでたのかな?……は、はじめまして、熊さん!大貝第一中学生徒会長、相田マナです!」

突然の襲撃に動揺する銀四郎と、とりあえず冷静になって挨拶するマナを見つめるヒグマは頭を垂らしながら喋り始めた。

「―――ドーモ、侵入者サン。ヒグマ7です。」

ニンジャソウルに目覚めたヒグマである彼はどんな時でも挨拶は欠かさない。

「ヒ、ヒグマが喋ったぁ!?」
「どうもご丁寧にヒグマ7さん。」
「デハ早速ですが、二人には私の餌になってもらいマス。」
「あははっ!流石ヒグマさんですね。でも、残念ですけど私は待っている人が沢山いるから、
 ここで死ぬわけにはいかないんですよ。」

宣言の後、ニンジャのごとき速度でヒグマ7がマナに襲い掛かったと同時に、彼女の体が
眩い光に包まれ、そこに先端をロールさせた独特な髪形をした金髪の少女が出現する。


98 : ゼロ・グラビティ ◆Dme3n.ES16 :2014/01/27(月) 02:18:50 BIJ6YBc.0
「みなぎる愛――――キュアハート!!」

史上最強にして史上初の日本国公認プリキュアは名乗りを上げながらヒグマの掌を拳で受け止める。
隣で見ていた銀四郎は呆然としながらも気を取り直して手に持った猟銃に弾を込め始める。
だが、突然機体が大きくバランスを崩し銀四郎は尻餅をついた。
ヒグマ7がぶつかった衝撃で操縦席が破壊され、パイロットも即死しているのだ。
戦っている場合ではない。このままでは墜落してしまう。

「くそっ!この機体はもう駄目だ!嬢ちゃん!早く飛び降りるぞ!」

「「うわあああああああ!!!!!!!もう一匹取りついたぁぁぁぁぁぁ!?」」

再び激しい衝撃が機体に襲い掛かる。今度は側面から何者かの襲撃を受けたのだ。
機体に空いた穴から内部に侵入し、二人の世話係の乗組員を瞬時に捕食したのはまたしてもヒグマ。
さとりを殺害し、先ほど飛行に目覚めた穴持たず14である。

「くそっ!最近のヒグマは一体どうなってやがんだ!?」
「熊さんの間では空を飛ぶのが流行ってるのかな?」

もはや立っていることも難しい状態になった機内で壁にもたれかかる銀四郎に穴持たず14は狙いを定める。
万事窮す――――そう思われた、その時だった。

「ああもう!うるさいわね!せっかく隠れてたのに台無しじゃないの!」

突然、荷台に積んである大荷物がはじけ飛び、一人の少女が全身をスパークさせながら飛び出してきたのだ。

「だ、誰だテメェ!?」
「あ、やっと出てきた。ねぇ君、なんで隠れてたの?」
「知ってたんかい!……いやぁ、政府の連中の頭が固くて正式な手続きが出来なくてね。
 でも、友達が攫われたってのに、じっとしてるなんて出来ないでしょ?」

先日から行方不明になっている佐天涙子と初春飾利を死に物狂いで捜索しているうちに今回の件に
辿り着き、こっそり荷台に隠れてついてきた学園都市最強のレベル5の一人、御坂美琴である。

「うん、わかるわかる。さて、これで丁度二対一かぁ。山岡銀四郎さん!
 私たちでこのヒグマさん達の相手をしますから先に地上へ降りて下さい!」

初老のマタギは足をふらつかせながら窓に近づき、既に装着しているパラシュートを確認しながら呟いた。

「やれやれ、最近の娘はやんちゃで困る。じゃあ、気ぃつけろよ二人とも!」

そう言って銀四郎は窓の外から飛び降りた。その後を追いかけようとする穴持たず14を電撃を放って遮る美琴。

「で、どうすんの?このままだとヘリが墜落しちゃうけど。」
「簡単だよ。もう一回上げちゃえばいいんだよ。」
「え?」

回転しながら徐々に高度を下げていくヘリの内部で立ち尽くす二人目掛けて二匹のヒグマが飛び掛かってくる。

「あぁもう!どうにでも!なれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

大きく体をのぞけ帰らせてヒグマの斬撃を躱した二人は、同時に強烈な蹴りをヒグマの腹部にお見舞いする。
そして、その衝撃で、二人と二匹を乗せた機体が音速を超えた速度で大きく上空へと吹き飛ばされた。


99 : ゼロ・グラビティ ◆Dme3n.ES16 :2014/01/27(月) 02:19:10 BIJ6YBc.0

大きく広がったパラシュートが樹に引っかかり、何とかベルトを外した山岡銀四郎は
息を切らせながらなんとか地上へ下り立つ。

「くそ!なんだこりゃ!これ絶対ぇマタギの仕事じゃねぇだろ!!政府の野郎ぉぉぉ!!」

ぶつぶつ文句を言いながら、足元にころがった血のへばり付いた猟銃に気が付く銀四郎。
その引き金には引きちぎられた腕が張り付いていた。

「ヒグマとやり合って喰われたのか?しかしこいつぁ……。」

激しい戦闘を物語るように血痕や内臓が周囲の樹や地面のあちこちに飛び散っている。
かつて袈裟がけという巨大なヒグマを仕留めた自分だが、この地には似たようなヒグマがわんさか居るのだろう。
そのハンターの猟銃を手にとり、銀四郎は獲物が居るであろう森の奥を凝視した。

「……まぁ、やるしかねぇか。」

【I-8 森/深夜】

【山岡銀四郎@羆嵐】
状態:疲労、乗り物酔い
装備:愛用の猟銃、勇次郎に勝利したハンターの猟銃
道具:予備弾薬
基本思考:ヒグマを狩る
1:さて、始めますか
※穴持たず4は既に目覚めて何処かへ移動したようです


時間的には今は朝。なのに周囲は薄暗く、寒い。
下を見れば途方もなく巨大で美しい青い球体が何処までも広がっていた。

「ウーム、少々息苦しいですなぁ、穴持たず14さん」
「なぁに、空気が薄いなんて北海道の山中ではよくあることじゃないか。……それよりも。」

完全にスクラップと化して宙を漂うCH-47の上に立ち尽くす二匹のヒグマは少し離れた場所で
分解したCH-47の残骸の上に立つ二人の少女を見つめる。

「どうもここにはあの二人の人間以外には餌が無いようです。早めに捕食して会場に戻りましょう。」
「ええ、そうですね。」

「地球は青いベールに包まれた花嫁のようだった。それにしても、ふっふっふ。宇宙かー。何気によく来るなぁ。」
「……すごいわね、私だってまだ二回目だってのに……うわっ!寒っ!」

会場の遥か上空の宇宙空間。この地球の重力から解放された場所ではあらゆる生物は生存を許されない。

 だ が こ こ に 例 外 も 存 在 す る !

極寒のデブリ地帯にて二匹のヒグマと対峙するのは
国防兵器プリキュアと学園都市最強のレベル5。

「てかこんな所で遊んでる場合じゃないし!とっととあいつら倒して地上に戻るよ!」

そう叫んだ美琴は両手を左右に広げて電磁力を集約させる。
すると、瞬く間に宇宙ゴミ―――衛星の残骸が彼女の手に集まってきた。

「弾が一杯あって最高ねこのステージ!!―――――行けぇぇぇぇぇ!!!!」

美琴はレールガンで衛星の残骸を次々とヒグマに向かって発射した。
無重力空間では速度が減速しないため無限に加速する弾丸が二匹に襲い掛かる。
慌ててジャンプして回避する二匹のヒグマ。元いた足場が粉砕される。

「やりますねぇ美琴サン。ではこちらも真似してみましょう。」

ニンジャソウルに目覚めたヒグマ7は手で掴んだ宙に浮いた鉄の残骸を両手で挟んで引き伸ばし、
スリケンにして美琴に投げつける。それを美琴はレールガンで迎撃した。

「グオオオオオオォォォ!!!」

穴持たず14は宇宙空間でも耐えられるその強靭な肉体でキュアハートに直接襲い掛かった。
キュアハートの足場が瞬時に破壊される。直前にジャンプして回避したキュアハートは宙を漂いながら
穴持たず14に語りかけた。

「ははっ!あなた達、人間の言葉が喋れるんだね!だったら私達はきっと分かり合えると思うよ!」
「……グルルルゥゥゥ!!!」


100 : ゼロ・グラビティ ◆Dme3n.ES16 :2014/01/27(月) 02:19:33 BIJ6YBc.0
逆さまになったキュアハートは両手でハートの形を作りながら不敵な笑みを浮かべた。

「どんな生き物にも愛はある!愛を無くした悲しい熊さん!このキュアハートがあなたの胸のドキドキ、取り戻して見せる!」


【???/宇宙/朝】

【相田マナ@ドキドキ!プリキュア】
状態:健康、変身(キュアハート)
装備:ラブリーコミューン
道具:不明
基本思考:任務を遂行する
1:ヒグマに愛を教える

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
状態:疲労、呼吸困難、帯電
装備:大量の宇宙ゴミ
道具:無し
基本思考:友達を救出する
1:なんで宇宙で戦ってるんだろう?

【ヒグマ7】
状態:ニンジャ、宇宙を舞う
装備:スリケン
道具:無し
基本思考:餌を探す
1:まだ足りない
※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました
※ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です

【穴持たず14】
[状態]:空腹、スイーッと宇宙を飛んでいる
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:飢えを満たす
1:おいしかったー
2:ものたりないなー
[備考]
※B-8にはさとりの支給品一式が落ちています
※智子と流子を追っていました


101 : 名無しさん :2014/01/27(月) 02:19:55 BIJ6YBc.0
終了です


102 : 名無しさん :2014/01/27(月) 18:52:39 qe/A//5o0

色々と全開になってきたな


103 : ◆xDsxCdlKmo :2014/01/27(月) 19:40:29 IsVO/zDc0
全員新規枠で劉鳳@スクライド、アルター結晶体@スクライド、白井黒子@とある科学の超電磁砲、クマ吉くん@ギャグマンガ日和 予約します


104 : 名無しさん :2014/01/27(月) 20:58:00 7oWUKddo0
投下おつです。
この後展開を精算するような書き手が現れたらまさに全開


105 : ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:02:18 lWSfWXLY0
投下乙です!
まさかマナがここで参戦とは! で、ヒグマに愛を教えようとするのが実にマナらしい!
そんな彼女の愛はヒグマに届くのか。あと、そんな彼女と一緒にいる美琴や銀四郎はどうなるのか?

そして自分も予約分の投下を開始します。


106 : 大沈没! ロワ会場最後の日 ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:04:01 lWSfWXLY0
 謎の少女によって日本語ぺらぺーらが奇妙なロボットになって、突然現れた暴君怪獣タイラントと戦い始めてから既に大分時間が経っている。放送を聞いている余裕すらなかった。
 本当ならリラックマとぺらぺーらを助けたいが、目の前にいる仮面ライダー王熊もとても強い。これまで戦ってきたナイトメアやエターナルの幹部達に匹敵する実力を誇っていた。
 夢原のぞみが変身したキュアドリームは、この地で出会った呉キリカという少女と力を合わせているが、それでも王熊に決定的なダメージを与えられていない。
「だああああああああっ!」
 全力で地面を蹴って、キュアドリームは王熊に向かって突貫して、瞬時に目前まで到達する。そこから身体を一回転させて蹴りを放つが、王熊の持つベアサーベルに受け止められてしまう。
 ギン、と耳を劈くような衝突音が響いた直後、キュアドリームは王熊の仮面を目がけてパンチを繰り出したが、頭を軽くずらしたことでその一撃は軽々と避けられてしまう。反対側の手で同じことを繰り返すが、結果は同じだった。
「まだまだっ!」
「オラアアァァッ!」
 一発、二発とキュアドリームは打撃を与えようとするが、その度に分厚い刃によって阻まれてしまう。
 握り拳は幾度もなく刃を叩いているが、一向に砕ける気配はない。大気が破裂するような轟音が鳴り響くだけで、王熊は微塵も体制を崩さなかった。
 時折、キュアドリームの攻撃の合間を縫って、王熊はベアサーベルを一閃する。だが、キュアドリームは真横に跳んで回避した。無論、王熊の斬撃はそれで終わることはないが、振われる刃を確実に見切っている。
「ハアッ!」
 王熊はベアサーベルで突きを繰り出すが、キュアドリームは右足を軸に身体を捻ることで避けて、流れるように腕を掴む。
 そこからキュアドリームは渾身の力を込めて一回転をして、勢いよく王熊を放り投げた。
「どりゃあああああああああああああああ!」
「なっ……!」
 キュアドリームの叫びと共に、王熊の巨体は吹き飛ばされていく。華奢な体からは想像できないほどの力を誇るプリキュアだからこそ、可能な芸当だった。
 数メートルも浮かび上がっていく王熊の元に飛び込んでいく人影が見える。それは左右の手に六つの爪を煌めかせている呉キリカだった。
「行くよ!」
 ロケットのような勢いで王熊の上まで跳躍した彼女は両腕を高く掲げて、そのまま勢いよく両手の爪を叩きつける。ガキン、と耳障りな音が炸裂して、王熊の巨体は地面に叩きつけられた。
 激突の衝撃によって粉塵がもくもくと舞い上がり、視界が遮られていく。
 王熊を落下させたキリカは地面に着地して、キュアドリームの横に立った。
「キリカちゃん、ナイス!」
「喜ぶのはまだ早いよ! あいつはこれくらいじゃやられたりなんかしない!」
「おっと、そうだった!」
 思わずサムズアップを向けそうになったが、キュアドリームはその衝動を抑える。
 まだ戦いは終わっていないのだし、これくらいの攻撃で王熊はそこまでダメージを負っていない。戦いの経験からキュアドリームはそれを察していた。
 直後、煙の中に人型のシルエットが浮かび上がり、キュアドリームとキリカは本能的に構える。王蛇が仕掛けてくる前にキュアドリームは飛び掛かろうとしたが……
『ADVENT』
 粉塵の中より電子音声が響き渡る。
 急に響いてきた新たなる声によってキュアドリームが面を食らってしまう。一体何だったのかと思った、その直後だった。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
「えっ!?」
 大気を震えあがらせるほどの咆哮が響き渡り、視界を遮っていた煙が吹き飛んでいく。
 その中から現れたのは王熊だけではない。王熊の隣には、ヒグマのような巨大な怪物が立っている。
 現れた怪物・ヒグマプレデターは勢いよく飛びかかってきたのだ。
「グアアアアアアアアアアアアアッ!」
「わあっ!?」
 ヒグマプレデターは3メートルに達しそうな巨体で突貫してくるが、キュアドリームとキリカはそれぞれ反対側の方向に跳んで一撃から逃れる。
 ズシン、という鈍い音と共に地面が揺れた。ヒグマプレデターによって押し潰された土は大きく凹んでいて、威力の凄まじさを物語っている。
 それに何らかの反応を示す暇もなく、ヒグマプレデターはキュアドリームに振り向いて、その口から緑色の濁った液体を放出した。


107 : 大沈没! ロワ会場最後の日 ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:04:45 lWSfWXLY0
 それを堪えようとした直後、炭酸水が流れるような音と共に地面がドロドロに溶けてしまった。
「えっ!?」
「地面が溶けてる……!?」
 キュアドリームだけではなく、キリカも目の前の光景に驚いていた。
 ヒグマプレデターの放った液体は、元々は王蛇の使役していたベノスネーカーが体内に貯め込んでいたものだった。
 王蛇と遭遇したあるヒグマは、ベノスネーカーを捕食したことでミラーモンスター・ヒグマプレデターとなっている。それに伴い、ベノスネーカーの持つ溶解液も習得したのだった。
 無論、それをキュアドリームとキリカが知る由はない。ただ、あの液体が危険なものであることを察することしかできなかった。
「グアアアアアアアアッ!」
 溶解液の威力に戦慄していたキュアドリームの鼓膜を刺激したのは、ヒグマプレデターの叫び。
 その巨体からは想像できないくらいのスピードで、ヒグマプレデターは再び突貫していた。暴走機関車のようにヒグマプレデターは突っ込んでくるが、キュアドリームはそれを受け止める。
 花火のような爆音が響き、凄まじい衝撃が両手から全身にピリピリと伝わってくるが、キュアドリームは吹き飛ばされないように耐えた。しかし、それでも数歩ほどの後退を余儀なくされてしまう。
「グルルルルルル……!」
 そんなキュアドリームを押し潰そうとヒグマプレデターは体重をかけてくる。だが、キュアドリームは対抗する為に力を込めた。
 両者の拮抗は始まる。策も技もない、単純な力比べだった。
「ウラアッ!」
「くっ!」
 ヒグマプレデターを押し返そうとしているキュアドリームの耳に、王熊とキリカの声が届く。そこから間髪入れず、今度は金属同士が激突する鋭い音が響き渡った。
 振り向くと、王熊とキリカが高速で駆け巡りながら戦っているのが見える。その勢いは二つの台風が衝突し合っているかのようだった。
「オラアッ!」
「ふん!」
 迫りくる王熊のベアサーベルを前に、キリカは漆黒の爪で防ぐ。そこからキリカは王熊の横に回り込んで、ガラ空きとなった脇腹に一撃を叩き込む。だが、王熊の鎧は傷一つ付かない。
 そんなキリカを払い除けるかのように王熊はベアサーベルを一閃する。しかしキリカは天に向かって跳躍しながら爪を振い、そのまま背後に回り込んだ。
 王熊が力で攻めるのに対して、キリカは小柄な体躯を活かしたスピードで勝負している。キリカは王熊の攻撃を確実に見切り、そして正確な一撃を与えていた。
「デアアアッ!」
「おっと!」
 苛立ちの声と共に王熊は蹴りを放つが、キリカはそれを避ける。
 反撃のようにキリカは鉤爪を叩きつけるが、やはり火花が飛び散るだけ。先程から、同じことの繰り返しだった。
 やがて幾度もの斬り合いが繰り広げられた後、王熊から距離を取ったキリカは溜息を吐く。
 それを絶好の機会と見たのか、王熊はキリカを目がけて突進しながらベアサーベルを振り上げる。王熊は獣のように叫んでいるが、キリカはそれに構わず止まったままだ。
「キリカちゃん!」
 キュアドリームはヒグマプレデターの鳩尾に蹴りを叩き込み、巨体を揺らす。
 そこからキュアドリームはヒグマプレデターを投げ飛ばし、キリカの元に駆け寄ろうとする。だが、その頃には王熊のベアサーベルが振り下ろされようとしていた。
 キュアドリームは反射的に腕を伸ばそうとした瞬間、キリカの姿が霧のように消えてしまった。
 無論、王熊の振るったベアサーベルは空を切るだけに終わってしまう。
「えっ!?」
 キュアドリームは驚いた。
 そこから瞬く間に、キリカは王熊の背後に現れる。まるで瞬間移動をしたかのようだった。
 現れたキリカの手には、いつの間にか巨大化していた鉤爪が備え付けられていた。
「ヴァンパイア・ファングッ!」
 そして、キリカは巨人のような爪を王熊の巨体を叩きつけ、そのまま吹き飛ばす。
 その小さな身体からは想像できないほどの威力を誇っていた。よく見ると、爪は鋸のような形になっていて、一太刀でも浴びたら無事では済まないような雰囲気を放っている。
 だけど、キュアドリームはそれを持つキリカに恐怖を抱かない。無事でいてくれたことの喜びだけが心の中に生まれていた。


108 : 大沈没! ロワ会場最後の日 ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:05:21 lWSfWXLY0
「……思いっきり叩き込んだけど、まだ立ち上がれるの? やれやれ」
 しかし当のキリカは呆れたような溜息を吐いている。
 キリカの一撃を浴びてしまった王熊は、幽鬼のように立ち上がっていた。その動きはどことなく鈍くなっているが、まだ戦えるということを証明している。
「ククク……楽しいな。ああ、やっぱり楽しいな……!」
「いい加減にしてよ。こっちはあんたに構っているほど、暇じゃないのに……」
「そうか……なら、俺が終わらせてやる!」
 身体に受けた傷のことなどまるで無かったかのように、王熊は高らかに笑う。
 そんな王熊に対してキリカは構えるのを見て、キュアドリームは隣に立つ。
 王熊は確かに強いけれど、力を合わせれば決して勝てない相手ではない。絶対に諦めなければ、どんなに強い相手だろうと負けないのだから。
 キュアドリームが自分にそう言い聞かせた。その時だった。
 突然、地面が大きな音を鳴らしながら強く振動する。それによって、キュアドリームはよろめいていしまった。
「な、何!? 地震!?」
「のぞみ! あれを見て!」
「えっ?」
 慌てふためくようなキリカの声につられて、キュアドリームは振り向く。
 その直後、彼女は目を大きく見開いた。遥か北の方から、凄まじい轟音を鳴らしながら巨大な水が流れ出てきたため。
 いや、それはもうただの水ではない。周囲の物を無差別に破壊する自然現象だった。
「「つ、津波だああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
 キュアドリームとキリカは大声で叫ぶ。
 そう。100キロメートルは誇るかもしれない大型の津波が、襲いかかろうとしているのだ。
「「わあああああああああああああああああああああああああああ!」」
 二人の悲鳴を発するが、それは一瞬で大津波に飲み込まれてしまった。





「な、何なんですか!? どうして、いきなり津波が起こっているのですか!?」
 暴君怪獣タイラントと戦っていたストレイカー・エウレカは動揺している。
 生まれ変わった彼でも、いきなり大津波が起こったら流石に驚きを隠すことができなかった。
 そんなストライカー・エウレカを嘲笑うかのように、タイラントの鼻から伸びた角は強く発光している。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 タイラントは咆哮する。
 それと同時に角から発せられる光は更に強くなり、津波の勢いは激しさを増した。


 暴君怪獣タイラントは怪獣・超獣・宇宙人達の怨念が集まった結果、誕生した最強ランクの怪獣だ。
 その中には、ウルトラマンジャックと戦った竜巻怪獣シーゴラスの怨念も含まれている。シーゴラスは大津波を起こす能力を持っていて、それによって日本が壊滅的な被害が受けそうになった。
 タイラントは、己の肉体を構成しているパーツとなった怪獣の能力や武器を扱うことができる。つまり、シーゴラスと同じように津波を起こせても何らおかしくない。
 その結果、MAPの外より大津波を呼び寄せることが出来たのだ。


 しかし、そんなことなどストライカー・エウレカは知らない。
 ただ、タイラントの起こした大津波に飲み込まれるしかなかった。


109 : 大沈没! ロワ会場最後の日 ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:06:01 lWSfWXLY0





「ハハハハハハハハハッ! こいつは愉快だ! ゾクゾクするぜ!」
 仮面ライダー王熊に変身した浅倉威は、怒涛の勢いで流れる大津波を見下ろしながら高笑いしている。
 眼下で流れる津波によってあらゆる物が破壊されていく。くま達も、津波を起こしたモンスターも、たった今まで戦っていたガキどもも、あれだけ生い茂っていた木々も……何一つとして例外はない。
 どうして津波が起こったかなんて王熊にとってはどうでもいい。ただ、津波による無差別な破壊が起こることが愉快で仕方がなかった。
 彼が津波に巻き込まれていない理由は一つ。ミラーモンスターであるエビルダイバーを咄嗟に召喚して、津波から逃れたのだ。空を飛ぶことができるエビルダイバーならば、造作もない。
 彼の支給品には王熊のカードデッキだけでなく、仮面ライダーライアや仮面ライダーガイに変身する為のカードデッキも含まれている。そして、夢原のぞみと呉キリカのデイバッグも確保して、その中に入っている複数のカードデッキも確保したのだ。
 それは浅倉威の生きる龍騎の世界とはまた違う、龍騎の世界に存在するカードデッキ達。ライダー裁判という制度に従って戦う仮面ライダー達のカードデッキと、仮面ライダーファムや仮面ライダーリュウガの存在する世界のカードデッキだった。
 もっとも、それはまだ王熊が知ることはない。また、例え知ったとしても使うことがあるかどうかはわからない。何故なら、彼はこの王熊を非常に使いこなしているのだから。





「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 竜巻怪獣シーゴラスの得意技である津波を起こした暴君怪獣タイラントは吠え続けている。
 津波によってヒグマや人間達が流されたが、タイラントは微塵も気にしていない。理性を持たない怨念の結晶体であるタイラントには、違う生命体のことを気遣う心すらなかった。
 ただ、宇宙のどこかにいるウルトラ兄弟を倒す。それだけがタイラントを満たす意志だった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 やがてタイラントは咆哮しながら遥か彼方の空に向かって飛び上がった。
 暴君怪獣タイラントがどこに向かうのか、それはタイラントにしかわからない……


【会場の何処か/朝】


【暴君怪獣タイラント@ウルトラマンタロウ】
状態:疲労(小)、ダメージ(小)、飛行中
装備:なし
道具:なし
基本思考:己の本能のまま暴れて、ウルトラ兄弟を倒す。
1:暴れる
[備考]
※タイラントの持っていた支給品は津波によってどこかに流されてしまいました。
※制限の影響なのかはわかりませんが、身長が縮んでいます。
※どこに飛んでいくのかは後続の書き手さんにお任せします。


【備考】
※タイラントが大津波を起こしました。
※それによって他のエリアにも何らかの影響が起こっているかもしれませんが、実際は不明です。


110 : 大沈没! ロワ会場最後の日 ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:07:14 lWSfWXLY0





 ストライカー・エウレカとリラックマは、津波に流されていても生きていた。
 ヒグマの強靭な生命力が、過酷な環境下での生存を可能としたのだ。
 しかしその代わりに、彼らは自分がどこにいるのかわかっていない。あの凄惨な状況下では、不可能な話だ。
 ただ、一つだけ確かなことがある。彼らのことを守る為に戦っていた夢原のぞみと呉キリカの二人が、この場にいないと言うことだ……
「二人はどこにいったのでしょうね?」
「さあ、わかりません……」
 二匹のヒグマはぼやきながら歩く。
 ここがどこだかはわからないが、歩いていればきっとまた会えるはず。そんな楽観的な思考の元で、あてもなく会場を彷徨っていた。
「でも、また会えますよ! さあ、朝日に向かってレッツゴーです!」
「おー ……って、あ」
「どうしましたか?」
「うしろにあのひとがいますよー」
「えっ?」
 リラックマの言葉を聞いたストライカー・エウレカは後ろを振り向く。
 そこにいるのは、キュアドリームや呉キリカと戦っていたはずの、仮面ライダー王熊だった。
「は……?」
 そこから先の言葉は続かない。
 彼が最後に見たのは、仮面ライダー王熊がベアサーベルを振り下ろして、そして周囲が血のような赤で染まっていく光景だけだった。





「ハハハッ……美味かったぜ、熊野郎ども」
 仮面ライダー王熊の変身を解除した浅倉威は、日本語ぺらぺーらとリラックマの遺体を捕食して、笑みを浮かべていた。
 エビルダイバーに乗って彷徨っていたら、あのクマどもを見つけたので殺した。戦いの邪魔をした奴を殺せたので、鬱憤を晴らすこともできたし一石二鳥だ。
 そして浅倉は二匹を食べた。ついでに、津波で流されていた回転怪獣ギロスの遺体も。
 味はそれなりだ。これなら、もっと食ってしまいたいと思う。
「クックックックック……!」
 ああ、食べてしまいたい。
 この会場にいるクマどもを。
 あのガキどものように戦える奴らを。
 因縁の相手である北岡の野郎も。
 みんな、食ってやる。
 食って食って食いまくってやる。
 さあ来い。
 俺はここにいるぞ。
 早く来い。
 来なければ、俺の方から来てやる。
 俺がみんな食ってやる!
「ハッハッハッハッハ……ハッハッハッハッハ!」
 浅倉は笑い続ける。
 すると、彼の身体はボコボコと音を立てながら変化していった。中肉中背の体躯はどんどん逞しくなっていき、そこから黒い剛毛が生えていく。
 蛇のように鋭かった目つきは、ヒグマのようにギラリと煌めいていった。


111 : 大沈没! ロワ会場最後の日 ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:08:03 lWSfWXLY0
「グハハハハハハハ、グハハハハハハハハハハハハ!」
 浅倉威の肉体はヒグマのようになってしまった。
 何故、彼はこうなってしまったのか? それは三匹のヒグマを直接食べてしまったからだ。
 ヒグマがベノスネーカーを食べたことでミラーモンスターになってしまったのと同じように、浅倉は三匹のヒグマを一気に食べてしまったことでヒグマになってしまった。
 本来なら、ヒグマを食べただけでヒグマになることはあり得ないかもしれない。現にヒグマ帝国では、ヒグマを調理した料理を食べても人間のままでいる者もいる。だが、それは『人間が食べてもヒグマにならない特別な調理法を施された』料理だった。だから、人間のままでいることができた。
 それに対して、浅倉は何の処置もしないでそのままヒグマ達を食べてしまった。その結果、ヒグマの体内に宿る無数の遺伝子も取り込むことになってしまう。無数のヒグマ遺伝子は浅倉の体内で暴れまわり、その身体をヒグマの物に変えてしまったのだ!
 究極生命体カーズは過酷な試練を乗り越えた末に“ヒグマ”の遺伝子を取り込んで、究極“羆”生命体(アルティミット・“ヒグマ”・シィング)に進化した! それと同じように、浅倉もヒグマに進化することを成功したのだ!
「グハハハハハハハハハハハ! グハハハハハハハハハハハハハハハ!」
 仮面ライダー王熊に変身する浅倉威はヒグマの怪物・ヒグマモンスターになってしまった。
 しかし彼はそれを悲観しない。むしろ、歓喜すらしていた。
 何故なら、浅倉威は元からヒグマのように過酷な生存競争を生き延びて、そして野生のような心を持ってしまったのだから……


【会場の何処か/朝】


【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
状態:仮面ライダー王熊に変身中、ダメージ(中)、ヒグマモンスター
装備:カードデッキ@仮面ライダー龍騎、ライアのカードデッキ@仮面ライダー龍騎、ガイのカードデッキ@仮面ライダー龍騎、カードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイド
道具:基本支給品×3
基本思考:本能を満たす
0:一つでも多くの獲物を食いまくる。
1:腹が減ってイライラするんだよ
2:北岡ぁ……
[備考]
※ヒグマはミラーモンスターになりました。
※ヒグマは過酷な生存競争の中を生きてきたため、常にサバイブ体です。
※一度にヒグマを三匹も食べてしまったので、ヒグマモンスターになってしまいました。
※体内でヒグマ遺伝子が暴れ回っています。
※ストライカー・エウレカにも変身できるかもしれませんが、実際になれるかどうかは後続の書き手さんにお任せします。
※全種類のカードデッキを所持しています。
※ゾルダのカードデッキはディケイド版の龍騎の世界から持ち出されたデッキです。


【リラックマ@リラックマ 死亡】
【日本語ぺらぺーら(穴持たず14) 死亡】
※リラックマと日本語ぺらぺーら(穴持たず14)の遺体はギロスと共に浅倉に食べられてしまいました。


112 : 大沈没! ロワ会場最後の日 ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:09:14 lWSfWXLY0





 気が付くと、津波はもう収まっている。
 一瞬、あの世にでも来てしまったのかと思っていたが、身体には感覚が残っている。だから、まだ生きている。
 呉キリカは生還を実感していたが、喜ぶことなどできなかった。
「うえっぷ……酷い目にあったよ」
 口から海水を吐き出しながら悪態をつく。
 塩辛い感覚が舌や喉に貼り付いていたので、無性に水が欲しくなった。
 その為にもデイバッグを捜したが、どこにもない。きっと、津波に流されてしまったのかもしれない。
 ソウルジェムが流されなかったのは不幸中の幸いかも知れなかった。
「……って、あれ?」
 しかしキリカは素直に喜ぶことができない。
 手元に見当たらない物が一つだけあった。キリカにとって、ある意味ではソウルジェム以上に大切な物が。
 それは、美国織莉子から貰ったあのぬいぐるみだった。あのぬいぐるみがどこにも見当たらなかったのだ。
「ない……ない……ない! どこ、どこに行ったの!? 私の命!」
「はい、キリカちゃん」
 パニックに陥りそうになった瞬間、キリカの目前に探し求めていたぬいぐるみが突き付けられる。
 それを持っているのは、夢原のぞみが変身したキュアドリームだった。
「キリカちゃん、ごめん……ぬいぐるみが濡れちゃった」
 津波によってずぶ濡れとなったキュアドリームは、しゅんと項垂れている。
 キリカが肌身離さず持っていたぬいぐるみも、あの津波のせいで濡れてしまっていた。しかし、濡れたことを除けば綺麗に保っている。
 どこも千切れなかっただけでも奇跡だった。
「ごめんなさい……キリカちゃんにとっては大切なものだったのに、守ることができなくて」
 しかしキュアドリームは謝っている。
 愛の証であるぬいぐるみをただ「大切なもの」と言われたら、いつものキリカだったら苛立ちを感じていた。だけど今は、それ以上にキュアドリームがぬいぐるみを持っていたことに対する驚きの方が強かった。
「のぞみ……君が持っていたのかい?」
 だから、そう問いかけることしかできない。
「うん……もしもこれがなくなったら、キリカちゃんはまた悲しむはずだから」
「……」
「あたしね、キリカちゃんが悲しむ顔は見たくないの。誰かが悲しんでいるのを見ると、あたしまで悲しくなっちゃうから」
「…………」
「でも、ぬいぐるみは濡れちゃった……ごめんね」
「えっ?」
「ごめんね、キリカちゃんのぬいぐるみを濡らしちゃって……本当に、ごめんね……!」
 キリカが呆気に取られた瞬間、キュアドリームの瞳が滲んでいく。
 それは海水ではなく、彼女自身の涙だった。
「ごめんね……本当に、ごめんね……!」
 先程、仮面ライダー王熊と戦っていた時に見せた凛々しさが嘘のように、キュアドリームは悲しそうに泣いていた。
 ぬいぐるみが濡れてしまったことはキリカにとっても悲しい。だが、それは突然起こってしまった津波が原因なので、キュアドリームが……のぞみが罪悪感を抱く必要などないはずだ。
 予想外の対応にキリカは戸惑ってしまう。
 キュアドリームが泣く必要など、どこにもないはずだった。
「のぞみ……泣くのはやめなよ」
 だからキリカはキュアドリームを励ます為に声をかける。
 すると、キュアドリームは顔を上げてくれた。


113 : 大沈没! ロワ会場最後の日 ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:09:45 lWSfWXLY0
「キミは私の為に力を尽くしてくれた。そして、私の愛を守ってくれた……それだけで充分さ」
「でも……!」
「のぞみは言ったよね。誰かが悲しむ顔はみたくないって……それは私も同じだよ。私も、できるなら恩人には笑顔でいて欲しいから」
 自分を助けてくれた相手に対しては必ず恩返しをすることがキリカの信条だ。
 のぞみがぬいぐるみを壊したりしたならともかく、むしろ守ってくれたのだから怒る道理なんてない。濡れてしまったのは残念だが、それなら乾かせばいいだけ。
 織莉子に謝るのはその後だ。
「だから、泣くのはもうやめようよ。ね?」
「キリカちゃん……うん!」
 キュアドリームは涙を拭って、あの眩い笑顔を取り戻した。
 そしてキリカはキュアドリームからぬいぐるみを受け取り、今度こそ離さないように握り締める。津波だろうと竜巻だろうと、それに隕石が襲いかかろうとも離したりなんかしない。
 その程度で愛を手放すなんてあってはいけないことだから。
「ありがとうキリカちゃん! あたしのことを励ましてくれて」
「私からすればこれでも足りないくらいだよ? キミは私の愛を一度だけじゃなく、二度も守ってくれたからさ」
「だって、これだけは守らないといけないって思ったから!」
「……そっか」
 キュアドリームの言葉にキリカは頷く。
 その直後、彼女はハッと気付いた。いつの間にか、周囲の光景が一気に変わっていたことを。
 不意に辺りを見渡すと、そこは先程までいたエリアではない。薄暗くて、壁と天井が灰色に染まった通路だった。
「そういえば、ここって一体どこなの?」
「あたしもわからない。何か、気が付いたらこんな所にいたから……って、そうだ! リラックマ達は!?」
「……どうやら、私達だけがいつの間にか違う所に飛ばされちゃったみたいだね。ちびクマ達も、あの怪物達もいないし」
「そんな!」
「落ち込むのは後だよ! そんな暇があるなら、ちびクマ達を捜す! いいよね?」
「う、うん!」
 キュアドリームとキリカは出口の見えない通路の中を走り始めた。
 しかし、ここはこれまで彼女達がいた殺し合いの会場ではない。彼女達が走っているのは、会場の地下にあるヒグマ帝国の一角だった。
 何故、彼女達がヒグマ帝国にいるのか? その理由は極めて単純。キリカの支給品であるどこでもドアを通じて、ヒグマ帝国まで来てしまったのだ。
 彼女達は仮面ライダー王熊との戦いに集中していたせいで気がつくことはできなかったが、デイバッグからどこでもドアが零れ落ちてしまっている。そこから、タイラントの起こした津波に巻き込まれてしまった彼女達は、偶然にもどこでもドアにまで流されてしまい、こうしてヒグマ帝国にまで来てしまった。
 本来ならどこでもドアさえあれば、殺し合いの会場から脱出できたかもしれない。しかし、主催者の制限によってヒグマ帝国と会場を行き来する効果しかなくなってしまったのだ。
 だが、そんなことなどここにいる二人は知らないし、どこでもドアも津波のせいで使い物にならなくなっている。もう一つ、守ろうとしていたリラックマ達はもうこの世にいないことも知らない。
 ただ、ヒグマ帝国に新たなる潜入者が現れたことが、確かな事実として残っていたのだった。


114 : 大沈没! ロワ会場最後の日 ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:10:37 lWSfWXLY0


【???/ヒグマ帝国のどこか/朝】



【夢原のぞみ@Yes! プリキュア5 GoGo!】
状態:ダメージ(中)、キュアドリームに変身中、ずぶ濡れ
装備:キュアモ@Yes! プリキュア5 GoGo!
道具:なし
基本思考:殺し合いを止めて元の世界に帰る。
0:ここってどこ?
1:今はキリカちゃんと一緒にリラックマ達を捜しに行く。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3 終了後からの参戦です。(New Stageシリーズの出来事も経験しているかもしれません)


【呉キリカ@魔法少女おりこ☆マギカ】
状態:健康、魔法少女に変身中、ずぶ濡れ
装備:ソウルジェム@魔法少女おりこ☆マギカ
道具:キリカのぬいぐるみ@魔法少女おりこ☆マギカ
基本思考:今は恩人である夢原のぞみに恩返しをする。
1:恩返しをする為にものぞみと一緒に戦い、ちびクマ達を捜す。
2:ただし、もしも織莉子がこの殺し合いの場にいたら織莉子の為だけに戦う。
[備考]
※参戦時期は不明です。


【備考】
※どこでもドアに流されてしまったので、二人はヒグマ帝国に辿り着いてしまいました。
※どこでもドアは既に壊れています。


115 : ◆eLW/XDs01s :2014/01/29(水) 00:11:01 lWSfWXLY0
以上で投下終了です。


116 : 名無しさん :2014/01/29(水) 02:04:11 gj/nP50U0
投下乙!
とうとうヒグマになってしまったか浅倉…そしてタイラント強い!
首輪対策なしでヒグマ帝国に来てしまった二人、電波が届きにくい場所に来たんだろうか?果たしてどうなる?


117 : 名無しさん :2014/01/29(水) 16:43:52 TjVB7FwoO
つくづく会場が破壊されるロワだなwww


118 : ◆wIEqTYjkiE :2014/01/29(水) 23:47:51 HNPMCHkY0
火山消失したと思ったら今度は津波だー!?(ガビーン)
もうこのロワ完結する頃には会場自体が消滅してるんじゃないだろうかw

乗るしかない、このビッグウェーブに(津波だけに)

総統、吉田君、レオナルド博士、菩薩峠君、フィリップ
Dr.ウルシェード、くまモン、クマー、ヒグマ
で予約します。


119 : ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:19:18 2u.kz8d60
投下お疲れ様です!

>ゼロ・グラビティ
政府の対応速度が有能すぎて笑えてくるww
ヒグマと誘拐と鷲巣様が関連付けされてしまうような状況なんですね、今の北海道!?
開始から6時間でどんだけ広がってんだ^^;
御坂さん、STUDY戦でも打ち上がったのは中間圏までですから宇宙はタイムリミットきつそう……。
そしてプリキュアの力がすごいというのが、もうここのヘリとヒグマの様子だけで描写されている!!
相対的に影が薄くなっちゃった山岡さんですが、これ、到着の時間、「深夜」→「朝」ですよね?


それでは自分も予約していた、黒騎れい、佐倉杏子、カズマ、ヒグマン子爵、
自分のことを究極生命体と呼称している半裸の男の人
で投下します。


120 : ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:27:23 2u.kz8d60
投下お疲れ様です!

>ゼロ・グラビティ
政府の対応速度有能すぎぃww!!
今の北海道、ヒグマと誘拐と鷲巣が関連付けられるような状況になってるんです!?
開始6時間でどれだけひろがってるんですかー!
御坂さんは、STUDY戦でも飛んだのは中間圏までですし、宇宙はリミットきつそうだ……。
プリキュアの力のすごさは、もうヘリとヒグマの様子だけで描写されちゃってますね!
影が薄くなっちゃった感のある山岡さんですが、彼の到着は「深夜」ではなく「朝」では……?

それでは自分は、予約していた、黒騎れい、佐倉杏子、カズマ、ヒグマン子爵、
自分のことを究極生命体と呼称している半裸の男
で投下します。


121 : ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:30:42 2u.kz8d60
あ、書き込めてた。そしてもう新たな作品が投下されていた……。


122 : ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:31:21 2u.kz8d60
 主はわたしの羊飼い。わたしには乏しいことがない。
 主はわたしを緑のまきばに伏させ、憩いのみぎわに伴われる。
 主はわたしの魂を生き返らせ、御名のためにわたしを義の道に導かれる。

 たとい『死の陰の谷』を歩むとも、わたしは災いを恐れない。

 あなたがわたしと共にいてくださる。
 あなたの鞭、あなたの杖、それがわたしを力づける。

 あなたはわたしの敵の前で、わたしの前に宴を設け、わたしのこうべに油をそそがれる。
 わたしの杯はあふれます。

 わたしの生きているかぎりは必ず、恵みといつくしみとが伴うでしょう。
 わたしはとこしえに、あなたの宮に住まいましょう。


 ――『旧約聖書』詩篇23篇より


    ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 黒騎れいは、明けてくる空にひと塊の夜闇を見た。

 あまりにも強化しすぎてしまったヒグマの暴挙を背後にし、私は振り向き振り向き、ワイヤーアンカーを伝ってビルの間を逃げていた。
 それは、目前のタワーの上方にわだかまっていた。
 行く手を阻むように佇む一頭のヒグマを前に、私は立ち止まる。
 影のように黒く、人間のように細いシルエットだった。
 私を見下ろしてくる鋭い双眸はゆで卵のように白濁しており、朝の日差しを歪に照り返している。
 タワーの鉄骨に片手と脚のみで掴まったまま身じろぎもせぬその口には、一振りの長い日本刀が銜えられていた。

 ――ヒグマン子爵……!!

 その独特の風貌に、有冨春樹から聞かされていた情報が思い起こされる。

 穴持たず13。別名ヒグマン子爵。
 関村研究員の持っていたあるゲームのキャラクターと、あまりに姿が似ていたからついた名だとか。
 姿だけでなく性能もそっくりだそうで、取り分け、ヒグマの膂力と防御力を維持しながら、その細身によって生み出される回避力と速度が、驚異的であると。

 そう、速度が――。

 私が瞬きをした時、そのヒグマは既にタワーから消え去っていた。
 空を砥ぐかのように襲い来る、黒い風。

「――っは」

 半分だけ漏れた私の吐息を裂いて、鋭い爪が頬を掠める。
 振り抜かれた腕の風圧が辺りを薙ぐ。
 コンクリートを蹴って、屋上の端まで私は転げていった。

「……グルルルル」

 ――危なかった。
 こいつは待ち伏せをしていたのだ。
 視界の良いところで、通りかかる獲物を、捕まえ易そうだと思った者から狩り、喰う。
 私がジョーカーだからといって、ヒグマの前では等しく餌に過ぎないのだ。
 こいつをどうにかして退けなければ、私だって死んでしまうぞ!?
 
 数百キロの体重を持つヒグマならば、100メートルを走るのには初動から数えて約6秒。
 ――私は今何秒意識を外した?
 あのタワーからこのビルまで、何十メートルも離れてはいないだろう。
 しかしそれにしても、その直線距離は空中だ。走れるわけがない。
 ヒグマン子爵は鉄骨を跳んだ後、あたかも空気を踏むかのようにして、私の前に『伸びて』きた。
 軽量ならではの身のこなしなのか。
 その速度が生み出す収束された破壊力が、私には想像できない。
 ――速すぎる。
 私が紙一重で初撃を躱せたのは、単に左右どちらに身じろぐかという二分の一の賭けに勝っただけに過ぎない。
 もう、次が来る。
 コンクリートに一歩、二歩――。
 音が急速に接近する。

「くあっ!!」

 眼を上げる余裕もなく、四肢をバネにして後方へ跳ぶ。
 屋上から身を空に躍らせて、手首のワイヤーを隣のビルへ。
 いつの間に私の肩から飛び去ったのか、目の前にカラスが飛んでいる。

「何をしているのです! れい、矢を撃つのです!!」

 言われなくとも――!
 振り向きざま手元に取り出す、烏羽の弓、光の矢。
 手首を支点に回旋する体を空中で制御し、脇の下からヒグマへ向けて直射――。

「――ギィ――ル」

 白濁した眼球が、私の鼻先にあった。
 口に銜える日本刀が朝日を照り返して、私の前に。
 ヒグマン子爵は私を追って、なおもまた空中に跳んでいたのだ。
 矢を番える暇もなかった。


123 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:32:01 2u.kz8d60

「ああああああぁぁぁっ!!」

 弓の胴から鳥打、姫反にかけて太刀筋を受け、烏の羽を撒き散らしつつ、突き放す。
 続け様に太刀の柄頭を顎ごと蹴り飛ばして、ヒグマン子爵の体を地面に叩き落とした。

「やった――っがはぁっ!?」

 私の体はしたたかにビルの壁面へ激突する。
 着地のタイミングを完全に逸していた。
 呻きながら、なんとかワイヤーを引っ張って屋上まで這い上がる。
 下を確認している時間はない。

「れい。あのヒグマはまだ生きていますよ! 早く撃ち込みなさい!!」

 ――ええ、そうでしょうとも。
 耳元でわめき散らすカラスを振り払いつつ、痛む右半身を庇いながら膝立ちの体勢を作る。

 ドシン。

 地響きを立てて、ヒグマの姿が空に舞い上がっていた。
 三階建てのビルを容易く上回る、信じがたい跳躍力。
 しかし、私の勝ちだ。
 自由落下とともに迫るそのシルエットに、私はしっかりと狙いをつけていた。

 ――この矢で思考を奪い、凶暴性を別の対象に振り向ける!!

 矢を放とうとした私の眼に、何か煌くものが映っていた。
 逆光でよく見えなかったが、それはくるくると回りながら光を反射して、私の方へ――。
 日本刀が、ヒグマン子爵の口から投擲されていたのだ。

「――痛ッ!?」

 弓矢はもろともに太刀の峰に弾き飛ばされ、痛みに瞬きした刹那、私の視界は大きな陰に覆われる。
 目を上へ、滑らせる。
 黒いヒグマの白い瞳が、私の首筋にその爪を――。
 風を裂くようにしてその五本の爪を、落下させていた。


    ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「――グルルルルル……」

 私は耳元に、心底不愉快そうな唸り声を聞く。
 ゆっくりと眼を開いた。
 目の前には、空手の寸止めのように打ち下ろす拳を留めている、ヒグマン子爵の姿があった。

 その白い瞳は、もはや私のことを見てはいなかった。
 ヒグマは下の通りの方へ目を向けた後、私をほうってビルの反対側へ走り去る。
 弾け飛んだ日本刀を銜えなおし、先程向いていた道から逃げるかのように、目にも留まらぬ速さで跳んで行ってしまった。

 暫く私は呆然として、動けなかった。
 死を覚悟したのに、なぜ、ヒグマン子爵は私を置いて去った?

「いい加減にしなさい、れい! ぼーっとしているから死に掛けるのですよ!」

 絞め殺してやろうかと思うようなカラスの叱責を聞き流して、私は通りの方を見やる。
 なるほど。
 視線の向こうには、私が巨大化させ凶暴化させた穴持たず00が暴れている。
 距離をとっていたつもりが、追いつかれてきてしまったようだ。
 ヒグマン子爵は彼女からの逃走を優先したのだろう。
 私も早いところ逃げよう――。


【E-6・街/朝】

【ヒグマン子爵(穴持たず13)】
状態:ダメージ小、それなりに満腹
装備:正宗@ファイナルファンタジーⅦ
道具:無し
基本:獲物を探す
0:『究極"羆"生命体』の殺気から逃走する。
1:『死』の気配の強いF-5を避け、別の場所に移動して獲物を待ち受ける。
※細身で白眼の凶暴なヒグマです


124 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:32:36 2u.kz8d60

 そう立ち上がった視界に、ふと一人の男が映りこんだ。
 筋肉質で長髪の、半裸の男だった。
 彼はあたかも散歩でもするかのように、通りの中央を平然と歩んでいる。
 穴持たず00の姿をビルの隙間より仰ぎ見て、その男は微笑んでいるようにすら見えた。

「何をしているのあなた!! そっちに行っては駄目よ!! 逃げなさい!!」

 屋上から身を乗り出して叫ぶ。
 四つ角になっている交差点で私の声に立ち止まった彼の元へ、横から制裁ヒグマがやってきていた。
 制裁ヒグマは途中で私が追い抜いてしまっていたから、逃げ遅れていたのだろう。
 男は制裁ヒグマの方を一瞥し、得心したように笑った。

「……なるほどなぁ。死を無視して通り過ぎることができると考えている時点で、敗者の思考だ」

 制裁ヒグマがその脇を通り過ぎる瞬間、男はゆっくりと髪をかき上げる。
 ウェーブのかかった黒髪が手櫛により朝日に舞い、見惚れそうな美しさを匂い立たせていた。
 髪をかき上げた男の肘からは、いつの間にか、鋭い刃物のようなものが飛び出している。

「うむ。切れ味が鈍っているわけではないな。ヤツを切り刻み損ねたのは単なる偶然だろう」

 制裁ヒグマは、男の脇を通り過ぎた後も走り続けていた。
 そして十数歩走った後、突如その体が横一文字に裂ける。
 肉体の上半分が、べしゃりと街道に落っこちていた。
 ほとんど手足しかついていない下半分は、そのままトコトコと歩み、暫くして力なく倒れて、動かなくなっていた。

「……白目のヒグマが私から逃げたのは賢明だっただろうなぁ。
 さあ、お前はどう反応する。死を目の前にして、逃げるのか? 見て見ぬフリをするのか?」
「――……ッ!?」


【制裁ヒグマ 死亡】


 絶句した。
 視線を合わせてようやく気づく、身を刺すような殺気。
 酷薄な笑みを浮かべるその男の美貌は、人間のものとは思えなかった。

 あのすれ違う一瞬で、この男はヒグマの肉体を容易く両断したというのか。
 参加者ではない。
 よく見れば、首輪も支給品も持ってはいない。
 ならばこいつは誰だ。
 あの肘のブレードは……。

「あ、あなた、もしかして穴持たず1の『デビル』なの!? 肉体操作能力って、そこまで……」

 私は、最後まで言葉を発することができなかった。
 質量を持って突き刺さってくるかのような殺気の津波に、言葉が飲み込まれていた。
 何故か、私の言葉は彼の逆鱗に触れたらしい。
 全身が彼の視線に射すくめられ、私は動くことができなかった。

「このカスが……。私と下等生物の見分けもつかんのか……。
 よかろう、貴様は死を目の当たりにして動けぬどころか、自ら招き寄せると。そういう訳だな」
「れい、動きなさい! 弓を! 弓矢を取るのです!!」

 カラスが、私の耳を思いっきり啄ばんでいた。

「うあああぁぁっ!!」
「『羽根の弾丸』!!」

 私が手元に弓矢を出現させるのと、彼の両腕が猛禽類のような翼に変化するのはほとんど同時だった。
 だが、間に合わない。
 弦を引き絞った時既に、私の腕には、ナイフのような鋭さの羽根が何本も突き刺さっていた。

「あ、あああぁぁっ!?」

 痛みにふらつき、屋上から落ちていた。
 右手首のワイヤーだけで、辛うじてビルに掴まる。
 弓矢は光になって消え、代わりに腕からは真っ赤な血が滴り落ちる。
 被弾数は羽根6本。
 左の肩に1。上腕に1、下腕に2。左頬に1、脇腹に1。
 再び応戦しようにも、左腕をここまで痛めて、果たして弓を持てるのか。

「終わりだな……早くも。ゆっくりと死を味わって逝くがいい」
「何を……っ」

 男は両の翼を腕に戻し、私に背を向けた。
 ――この男が何なのか知らないが、この程度で死んでたまるものか。
 ぎこちない動きで弓矢を再生成しようとした時、私は、腕に刺さった羽根が蠢いていることに気づいた。


125 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:33:15 2u.kz8d60

「え……? え……? きゃああああああっ!?」

 私に刺さった6本の羽根は、もぞもぞと変形して、小さなヒグマの形になっていた。
 それらが私の着る制服を喰い破り、肉を噛み千切っていく。
 靴下やホットパンツ、胸元の下着まで抉られ、血が噴出す。

「離れなさい小熊ども! れいを今、壊させはしません!!」

 カラスがそのうちの一体を相手取り攻撃を加えていくが、なんの助けにもならない。
 小さなヒグマは、カラスにつつかれたそばから再生して、私を食べるのをやめなかった。
 痛い。
 痛い。
 宙吊りにされたまま、肉と血の落ちる痛みだけが私を責める。
 嫌だ。
 こんなところで、死にたくない。
 私は、父さんを、母さんを、元いた世界を、取り戻すんだから……!!
 死にたくない。
 誰か、助けて……――ッ。


「――ったく。悪趣味なクマがいたもんだねぇ!」


 朦朧とする意識に、少女の声が届いた。
 赤い炎のような、どこかで見たことのあるような瞳が、私の視界に映っていた。

「てめえら纏めて、槍のサビにしてやるよ!!」

 細い槍が、矢のように私に向けて飛んでくる。
 6本の赤い槍が、過たず私を食んでいた小熊を射抜き、その先端に燈る炎で焼き尽くしていた。
 多節棍のように鎖で伸張されていたそれらの槍は素早く少女の手元に戻り、竹ささらのように纏められて一本の大槍に変化する。
 少女は大きなポニーテールを振り立たせて、私に叫んでいた。

「おい、ほむら似のあんた! あいつの相手はあたしとカズマが引き受ける! 早く行きなっ!!」
「……っく」

 お礼を言う体力は無い。
 腹筋と脚力を頼みに、息を荒げて屋上に這い登り、倒れ伏した。

「なんというザマですか、れい。その程度で元の世界が取り戻せると思っているのですか?」

 煽り立ててくるカラスに返事をしてやることもできない。
 マフラーを解いて肩口を縛り、これ以上出血しないように身を寄せて傷口を圧迫する。

「……なぁ、あの子を傷つけたのはてめぇの仕業か? 何とか言えよ。どうなんだ、てめぇ!!」
「決まってんじゃねえかカズマ。こいつはぶっ潰すぞ!!」

 地上から、さっきの少女たちの声がする。
 そうだ。
 彼女たちは、私が避難を促した二人組みだ。

 何をしているんだ、彼らは。
 私の有様を見ていたなら、その男に勝てるはずはないとわかるだろうに。
 こともあろうに、私を助けるため?
 ヒグマを強化してあなたたちを追い立てたのは、他でもない私なのよ?

「先程の男もヒグマなのでしょう。さぁ、矢を打ち込んで強化し、そこの男女を食い殺させるのです」

 カラスは冷ややかにそう促してくる。
 こいつはこいつで、私に命の恩人を間接的に殺害しろというのか。
 今までアローンを強化し、大島の町並みを破壊してきたように。

 あの街にだって、沢山の人が暮らしていたはずなのに。
 本当はもう、人の命が奪われるところなんて、見たくもないのに。
 肉の食われる痛みがこんなにも痛くて苦しいなんて、初めて知った。
 こんなに血が流れるところなんて、初めて見た。
 遠くから、安全な場所から、私はただ人殺しの幇助をしていただけなんだ。
 実際にその恐怖を受ける人のことなんて、全く考えていなかった。

 冷や汗、動悸、息苦しさ。
 手足の先が冷たくて、頭の中が痛みで塗りつぶされそう――。
 もう、嫌だ。
 私は死を目の前にして、立ち向かうことができなかった。
 今も、お父さんたちが亡くなったあの日も。
 動くことも、身じろぎ一つすることもできなかった。
 羽根ヒグマの男や、このカラスにされるがまま、身を任せてしまった。

 見上げる空は、抜けるような朝焼け。
 ヒグマン子爵のいたタワーが雲をついて、胸の奥に倒れこんでくるかのようだった。

 ほら。
 今も私は、カラスの叱咤を浴びながら、身を丸めて、すすり泣くことしかできない。


126 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:33:40 2u.kz8d60

【F-5・街/朝】

【黒騎れい@ビビッドレッド・オペレーション】
状態:全身に多数の咬傷、軽度の出血性ショック(止血を試行中)、気絶、制服がかなり破れている
装備:光の矢(6/8)、カラス@ビビッドレッド・オペレーション
道具:基本支給品、ワイヤーアンカー@ビビッドレッド・オペレーション、ランダム支給品0〜1
基本思考:ゲームを成立させて元の世界を取り戻す
0:他の人を犠牲にして、私一人が望みを叶えて、本当にいいの?
1:ヒグマを陰でサポートして、人を殺させて、いいの?
2:ジョーカーも何もない。私だって他の参加者と同じように、ヒグマには容易く食い殺されるのよ!?
[備考]
※アローンを強化する光の矢をヒグマに当てると野生化させたり魔改造したり出来るようです
※ジョーカーですが、有富が死んだことは知りません


    ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「……ふむ。暇つぶしをしていたらそちらの方から来てくれるとはな。手間が省けたぞ」

 目の前にいる半裸の男は、あたしとカズマの剣幕に、そんな飄々とした言葉で応じていた。
 なんなんだその余裕は。

 この男は、あたし達が巨大ヒグマから逃げてきた時、前を逃げていたはずの女の子を宙吊りにしていたぶっていた。
 腕の変形、そして撃ち出した羽根をヒグマにして襲い掛からせる謎の能力。
 もはやヒグマの定義がなんなのかすらわからないが、とにかくこいつが敵であることは確実だ。

 カズマの右腕に、虹色の光がわだかまる。辺りのビルの一角がごっそりと消失する。
 髪の毛は風になびかれたように総毛立ち、彼の右頬からこめかみまでを金属のたてがみが覆う。
 金色の装甲がカズマの右腕から出現し、肩先に巨大な一本の羽を持ったプロペラを形成した。
 カズマから聞かされた彼の『アルター能力』、『シェルブリット』だ。
 その威力は、あたしもこの目で確かめている。

「……杏子、ケンカだ。あいつはケンカを売ってきやがった……」
「そうだな……。よりにもよって、ヒトの命を『暇つぶし』だぁ?」
「だったらどうする。答えは一つだ。
 誘いに乗る。ケンカを買う。そして、あいつを叩き潰す!!」

 あたしとカズマの思いは同じだった。
 二人して目の前の男に飛び掛かろうとする寸前、その男は、私たちの後ろのビルの上を指差していた。
 そして、あたし達の怒りなど気にも留めず、世間話でもするかのように語りかけてくる。

「貴様らも見てみろ。あそこのヒグマの様子が、なかなか興味深い」

 つられて、振り向いていた。

 いよいよあたし達のところまで迫っていた巨大なヒグマが、動きを止めている。
 そして次の瞬間、空中に溶けるようにして消え去っていた。
 魔法か何かか!?
 瞬間移動とか、ワープとか、そういうものなのだろうか。

 その一部始終を目撃してから、男の方に振り向こうとした。
 体は、動かなかった。
 それでも視界は、くるりと背中の方に向いた。
 そこに、先程の半裸の男はいなかった。

 ――あれ?

 あたしの視界はぐるんと上下さかさまになって、真っ赤に染まっていった。


    ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


127 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:35:24 2u.kz8d60

「……つまんねぇもんに引っかかっちまった。おい、行くぞ杏子!!」
「……」

 ヒグマが消えようが暴れてようがどうだっていい。
 あの半裸男、そいつを二人で潰してやるんだ――。

 そう、カズマという青年は男の方に振り向いた。
 しかし、目的の人物はそこにいなかった。
 隣の少女からも返事がない。
 いぶかしんで、隣を見た。

 少女の体は、真っ赤な修道服のような衣装を着て、しっかりと槍を構えていた。
 その服は、どんどんと赤くなっていく。
 槍を構える腕にも、赤が流れ落ちてくる。
 視線を上げた。
 首元に、ルビーのような宝石が輝いている。
 そしてさらに上――。


 そこにあるはずの少女の頭は、どこにもなかった。


 切断された細い首から、泉のように血液が流れ落ちている。
 少女の体は暫くの間立っていたが、徐々に傾いて、真っ赤な水際に倒れ伏していた。

「――さぁ。この女は貴様のつがいか、友か? 『死』という暗黒の淵に、貴様はどう反応する?」

 佐倉杏子の倒れたその先。
 そこに、彼女の顔があった。
 何が起きたのかさっぱりわかっていないような、呆然とした表情だった。

「――杏子……?」

 杏子のポニーテールが半裸の男に掴まれ、晒し首のようにカズマの前に掲げられていた。
 カズマはその有様を見て、知らぬ間に、一歩、二歩と、後ろへ下がっていた。

 男はカズマの表情に陶酔したように目を細め、そのまま、倒れた杏子の脚を掴んで引き寄せる。
 その場に胡坐をかいて、思春期の少女の伸びやかな脚を、彼は根元まで顕わになるよう持ち上げた。

「ウィン。ウィンウィーン……。
 フフフフフ。
 ウィン。ウィンウィンウィーン……」

 あたかもギターか何かを弾いているかのように、男は口で効果音を発する。
 白く滑らかな少女の肌に、赤く血の運指が線を引いてゆく。
 カズマへ見せ付けるように、男はうつ伏せの少女のふとももから足首までを楽器にして、丹念に撫で回していた。
 一通り演奏した後、彼は佐倉杏子の生首を、彼女自身の靴底の上に載せ、バランスを取るようにして立てる。
 立てた下腿から生首が落ちそうになるのを数度調整して、彼はカズマにその作品を見せる。


「どうだ。これで下等生物も少しは趣ある姿になったと思わないか?」


 カズマの中で、何かが爆発したような音がした。


「うおおおおおおおおおおおおおおっ――!!」


 獣のような吼え声とともに、カズマは男へ向けて殴りかかっていた。
 男は杏子の髪を掴んで、闘牛師のようにカズマの攻撃を避ける。
 杏子の血液と赤い髪の毛が、緋色のマントのようにカズマを誘う。

 男はその口元に浮かんだ薄笑いを崩さぬまま、常人ではありえないような肉体の動きで、カズマの連続殴打をことごとく躱していた。

「テメエぇぇぇぇぇええええっ!! ブッ潰してやらあああああっ!!」

 カズマは右腕のアルターに力を集束させる。
 肩のプロペラが高速で回転する。
 杏子を殺し、あまつさえその体をこれ以上ないほど弄んだこの男を、許す訳にはいかなかった。
 ――人を見下したようなその余裕面を、このシェルブリットで消し飛ばしてやる!!

「ああ、それだ。その力を見たかったのだ。さあ、私にそれを見せてみろ」

 しら、と男の口元に端正な歯が覗く。
 余裕の表情は崩れない。
 むしろその顔は、探究心と好奇心に満ちた研究者のそれだった。


「輝け……、もっと。もっとだ!!
 もっと、輝けぇぇぇぇぇーッッ!!」


 右手の甲がその外殻を開き、シャッターの内側の孔に光の渦が吸収されていく。
 肩口のプロペラが高速回転し、カズマの体は上空に飛び上がる。
 中天の高みで方向転換した彼は、吹き出すアルター粒子の勢いと、プロペラの推進力との一切を、その右腕に預けていた。
 金色の装甲に覆われた右腕が、輝きを放つ。
 眼下に見える黒髪の男を目掛け、一直線に降下した。


128 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:36:05 2u.kz8d60

「喰らえぇぇぇーッ!!
 シェルブリッ――……」
「……遅いぞ」

 半裸の男の、呆れたような表情が見えた。
 垂直落下していたカズマの体は、突如バランスを崩して横に流れ、街道脇に立つビルの一つに激突していた。

「がっ!? ……がふっ」

 そのまま地面に叩きつけられたカズマは、立ち上がろうとして喀血した。
 よくよく自分の体を見れば、自分のアルターと右腕は、肩からごっそりとなくなっていた。
 切断面から血液があふれ、スポンジのような肺からぶくぶくと赤い泡が立っている。

「そんな予備動作の長い攻撃など、実戦で当たるわけがなかろう。
 所詮は下等生物か。期待はずれだったなぁ……。
 まあ、この右腕だけでも研究材料にさせてもらおうか」

 半裸の男は、その右腕をタコの触腕のように変形させていた。
 伸びた腕の先には鋭い刃が飛び出していて、同じくその先端にある男の手には、カズマのシェルブリットが、その腕ごと掴まえられている。
 左手に依然として持たれたままの佐倉杏子の生首とともに、男は戦利品を掲げる。
 くるくると回るプロペラの速度が徐々に遅くなり、止まっていた。
 カズマは、朦朧とする意識を無理矢理その脚に留めて立ち上がる。

「人を、勝手に、ランク付けすんじゃねぇ、ぞっ……」
「ほう。まだ立ち上がれるのか。だが半身と武器を失って、この究極生命体に立ち向かう手段など無かろう、下等生物」
「勝手に、人を、枠にはめやがって……。
 俺は、てめぇに見下されるようなヤツとは、違う! 違ってやる!!
 俺にボコされるのは、テメェの方だ!!」

 肩の切断面を左手で押さえながら、カズマの眼光は鋭かった。
 その傷口へ、虹色の粒子が集っていく。
 半裸の男が持っていた彼の腕が、粒子と化して消え去る。
 そして光の伴った気流が、カズマを包んだ。
 カズマの右肩の後ろには、赤い、焚き火の炎を描き出したような3枚のフィンが形成される。
 金色のリングが多数中空に出現する。
 存在しない腕をギリギリと締め付けるようにそれらが収束する。
 黄金の装甲に包まれた右腕が、再びそこに出現していた。
 男は感嘆する。

「面白いな。自分の肉体ごと再生できるのか」
「……意地があるんだよ。男の子にはな。
 てめぇを杏子の分までボコすまでは、オレは倒れねぇ!!」
「不幸なヤツよ。自分の『死』も女の『死』も、認められないとはな」
「他人がヒトのことを幸せとか不幸とか言うんじゃねぇよ!! 見下すなっ!!」

 左手に掴んだ杏子の首から滴り落ちる血液を、男は旨そうに啜る。
 カズマの怒りを煽りながら、彼は今度はその右腕を、猛禽の翼のように変化させた。

「弱い犬ほどよく吠えるらしいが、どうした? ならば撃ってみろ。攻撃が間に合うならなぁ!!」

 打ち振る羽根が弾丸となってカズマを襲う。
 素早く踏むサイドステップ。
 旋回してピボットを切る。
 次々と羽根を躱すカズマの足元に、今度は小さなヒグマが群がってくる。
 回避された羽根が例外なくヒグマの姿に変形して、カズマに襲い掛かるのだ。
 小さなヒグマたちに脚の動きを封じられ、カズマは徐々にその肉を食い尽くされていく。

「フゥ……まあこんなものか。あの腕だけは後で回収できるようにしておこう」

 ヒグマの毛皮に埋まっていく青年の体を見て、男は満足げに笑った。
 血臭に飲み込まれていくカズマは、それでも倒れずに、口を開く。

「……俺の目の前に分厚い壁があって、それを突破しなきゃいけねぇなら、俺は迷わねぇ。
 一度こうと決めたら、自分が選んだのなら、決して迷わず、進む。
 進む方法がないなら、見つけてやる。
 なくても見つけ出す……!
 俺は、どこまでも、進化してやる……!!」

 カズマを埋めていた小山のようなヒグマの塊は、突如虹色の光になって消え去る。
 小ヒグマを分解したアルター粒子は、カズマの五体と『シェルブリット』へ、虹色の渦を巻いて集う。

 半裸の男はその姿に、心底感嘆した表情を見せた。
 男は右腕を、今度はヒグマのもののように、太く鋭い爪と、強固な毛皮を持ったものへと変化させていく。
 コォォォォォォ……。
 渦巻く風のような音を立てて呼吸する彼の体は、太陽のような金色の光を帯びていた。
 酷薄な笑みを湛え、カズマを嘲笑う。

「活きがいい……。それでこそ、新たに手に入れた我が羆の力を試すにふさわしい実験動物だ!!」
「見下してんじゃねぇっ!!」


129 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:36:28 2u.kz8d60

 カズマは、地面にシェルブリットを叩きつけ、アスファルトを粉砕した。
 虹色のアルター粒子が、爆風のように一帯を吹き飛ばす。
 砕片を巻き上げながら反動で跳んだ彼は、飛翔しながら肩のフィンを3枚全て、一斉に分解する。
 緑色の光が奔流となってカズマから噴出し、彼の体に急激な加速を与えた。
 アルター能力の師であるストレイト・クーガーを彷彿させる、高速の一撃。
 回避も迎撃もできる速度ではない。
 カズマは男に向けて拳を振りかぶり、叫んでいた。

「『攻速の』――ッ!?」

 しかし、男の不敵な笑みは崩れなかった。

 カズマに向かって、赤い衣装が飛んでいた。
 カズマの目が驚愕に見開かれる。
 首のない佐倉杏子の肉体が、男に蹴り上げられ、カズマの行く手を阻むように向かっていたのだった。


 ――目の前の体はただの死体――。


 それでも、カズマはとっさに、構えていた腕を引いた。
 肩のアルター粒子を逆噴射させていた。
 急ブレーキをかけたカズマへ、杏子の体はしたたかに激突し、二人は抱き合うようにして地に落ちていた。

「この愚か者がぁ! 私がわざわざ面と向かって力比べをしてやると思ったか!
 女の死体にほだされているような下等生物が、究極生命体たる私に挑むことなど到底できぬわ!!
 つがいを揃えて死に送ってやることを、感謝するがいい!!」

 勝ち誇ったように笑い、男は掲げ上げた生首を見やる。
 カズマの精神へさらに追い討ちをかけるべく、目の前でその容(かんばせ)へ口を寄せ――。

 ぞぶり。

 辺りに、肉をえぐる咀嚼音が響いていた。


    ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


130 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:37:11 2u.kz8d60

「人間が進化によって生まれてきたとしたら、聖書の記述と食い違ってしまう……。
 そう、杏子は思ったというわけかな?」

 あの日、父さんはあたしの質問にそう笑って答えた。
 小学校で、生物の授業を受けた日のことだった。
 先生が教えてくれた『進化論』という考え方に、あたしは猛反発していた。

『初めに神が天体と地球を創造し、
 つぎに植物と動物を「その種類にしたがって」造り、
 最後に「人」を造って命の息(霊)を与えた』

 と聖書には書かれている。
 人間は神様の似姿として作られた特別な生物で、他の種の動物とは違う――。
 あたしはそう言って、教室で暴れた。
 連絡を受けた父さんは慌てて教会から飛んできて、職員室のあたしを平身低頭で引き取っていた。

 父さんは悪くないし、父さんの話す聖書だって、間違ってないはずなのに。
 私は、父さんが否定されたような気がして、本当に悔しかったんだ。

「杏子。必ずしもね、進化論と聖書は矛盾しないんだ。
 聖書には正しいことが書かれているけれど、『言葉』にしてしまった時点でその意味の解釈は分かれてしまう。
 私はね、杏子。神は人間を、『人間に進化できるように造った』のだと考えているんだよ」

 父さんは帰る道々、そうあたしを諭した。


 ――進化というのは、『希望』を自分の形に変えてゆくことなんだ。


 繋いだ父さんの手に、力がこもった。

「前に話したね、杏子。
 よい行いをしていれば神様が見ていてくれる。だから、どんな時も『希望』を失っちゃ駄目だ。と」

 父さんの腕の温もりが、力強く私に流れ込んでくるみたいだった。
 父さんの笑顔は、夕日の輝きに負けないくらい、眩しかった。

「神様は、最も気高い『希望』だ。
 杏子。人間には、杏子の笑顔のように、どんな時でも『希望』を抱く力が備わっている。
 笑顔を忘れたら、その先には『絶望』という神様の罰が待っているんだ。
 『絶望』こそが、『死』よりも深い、全てを破滅へと導く諸悪の根源だ。
 『希望』を失わなければ、どんなに辛い状況の中でも、『死の陰の谷』を行く時でも、正しい道を進むことができる。
 その手段こそ、『進化』だ。
 今日、杏子が学んだ新しい知識だって、杏子が『希望』さえ持っていれば、杏子の新しい力を『進化』させてくれ、より杏子を神様に近づけてくれたはずだ」
「……ごめんなさい」

 父さんは、言外に私の短慮を戒めていた。
 あたしが、もっと広い視野をもって物事を受け入れていれば、あたしは今日、笑顔を失わずに済んだはずだった。
 あたしの髪を、父さんは優しく撫でた。

「わかってくれればいいんだ、杏子。
 ――今の世の中には、『絶望』が溢れている。この時代の人々には、こうした新しい教えが必要なんだと私は思うのだ。
 しかし、それを私が説いても、杏子のように受け入れてもらえるとは限らない……。
 今の世の中を救いたいのだが……」
「あたし、父さんの言っていること、正しいと思う!
 あたしは、絶対に『希望』を忘れないよ!
 父さんと一緒に、あたしもみんなを救うよ! あたしも父さんも、『絶望』したりしない!」

 不意に寂しげな顔を見せた父さんに向かって、あたしはそう叫んでいた。
 だから、その時はまだ、父さんの『希望』は、眩しく輝いていた。


 ――父さんが新しい教えを説いて破門され、あたしが魔法少女となったのは、それからしばらく後のことだ。
 あたしの願いがバレて、父さんの気がふれちまったのは、それからさらに少し後。


『――みんなが、父さんの言うことを、真剣に聞いてくれますように』


 信者たちは、父さんの説く内容ではなく、あたしのそんな願いに集まってきた。
 最期まで、父さんは悔しがっていた。
 信者が、決して父さんの言う『希望』を信じて集ってくれていた訳ではないことに。
 自分の信じていた『希望』の道を、進めなくなってしまったことに。
 自分の言葉さえ見失って、家族をも巻き込んでしまったことに。
 あたしのことを魔女だと呪いながら、その実、自分自身を悪魔だと言って、一番呪っていた。


131 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:37:34 2u.kz8d60

 天は『自ら助くる者を助く』。
 そして、魔獣に取り憑かれようが憑かれまいが、死にたがるやつは死んじまうんだ。
 父さんは、『絶望』に留まってしまう前に、家族を連れて『死の陰の谷』へ行くことを選んだ。

 ああ、そうだ。
 全部あたしの魔法のせいだった。
 あたしはもう二度と、他人のために魔法を使うまいと思った。
 父さんが拒絶した『絶望』には行かない。
 でも、もうあたしの望んだ『希望』には進めない。
 あたしは、自分の『希望』である魔法を封じて戦い抜いた。

 地獄っていうものは、『死』なんてものの先にはない。
 生きている間にこそ地獄はある。
 でも、その地獄でもがくことこそ、あたしの贖罪だ。
 父さんの『希望』を貶めてしまった罪への罰。
 そう思っていた――。


『他人がヒトのことを幸せとか不幸とか言うんじゃねぇよ!! 見下すなっ!!』


 でも、なんだろう。目の前で叫んでいるあいつは。
 ボロボロじゃねーかよ。
 どんだけ無茶してんだよ。
 『てめぇを杏子の分までボコすまでは、オレは倒れねぇ』だって?
 他人のために能力使ってんじゃねぇよ。
 そういうの、見てらんないんだよ。さやかじゃねえんだから。

 ほら、ヒグマに取り付かれちまった。
 そのままだと喰われちまうぞ。
 どう考えても死んでるあたしのことなんか放っておいて、逃げなよ。
 勝ち目なんかねぇんだからよ。


『……俺の目の前に分厚い壁があって、それを突破しなきゃいけねぇなら、俺は迷わねぇ』

 その壁が『絶望』だったら、とてもじゃねえけど、突破できないよ。

『一度こうと決めたら、自分が選んだのなら、決して迷わず、進む』

 そりゃ『絶望』なんてなしに、『希望』の道を進み続けられるなら、進みたいさ。

『進む方法がないなら、見つけてやる』

 どういうことだよ、おい。

『なくても見つけ出す……!』

 他人のために力を使うことが、『希望』の道を進む方法だってのかよ!?

『俺は、どこまでも、「進化」してやる……!!』

 ……!!


 あたしは、半裸の男に吊り下げられた死にかけの頭で、ようやくカズマを理解できた気がした。
 思い出したニュアンスは、記憶の中の父さんと同じように、輝いていた。


 違うんだ。
 彼は、他人のために自分の力を使っているわけじゃない。
 カズマは、自分のために突き進む『希望』の道へ、すべからく他人の『希望』を導いていくんだ。
 自分のためにその力を使い切るその姿が、みんなの『希望』になっていくんだ。

 熱い。
 もう、あたしの首からは血もほとんど流れ出ちまったっていうのにさ。
 なんなんだよその熱い姿は。
 あたしの頭にそそがれるその言葉は。
 死人の心まで奮わせるその熱い言葉は、どっから出てくるんだよ。

 死んでられるか。
 『絶望』していられるか。
 そんな素晴らしい『希望』を、みんなに見聞きしてもらわないでどうする。

 聞き流させてたまるか。
 誰にだって真剣に聞かせてやる。
 あたしも、あたしのためにこの力を使う。
 一度は退化の方向に進んだこの力を、もう一度、あの日々以上の『希望』に、進化させてやる。

 まずはてめぇだ。
 あたしの首を切り落とした半裸の男。
 ――説法の時間くらい、静粛に聴きやがれ!!


    ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


132 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:38:24 2u.kz8d60

「はっ……がぁっ……!?」

 男の喉から、苦痛の呻きがあがる。
 杏子の体とともに男の攻撃から逃れようともがいていたカズマは、その様子に瞠目していた。

 ぞぶっ。がぎっ。がぎっ。

 筋肉質の男の喉笛には、あたかも狼の如く佐倉杏子の生首が噛みついていた。
 真っ赤な長髪が彼の腕と首筋に、大木を絞め殺す蔓草のように絡みついてゆく。
 男は突然の痛みと窒息と遮断された血流に苦しみながらも、必死に打開策を思考した。


 ――消化だ! 喉を喰いちぎられる前に、こやつを細胞レベルで取り込む!!


 男は右腕の変形も解いて、首筋にとりつく少女の首へ手を伸ばす。
 だがその腕は、別の白い指先に掴まれていた。

『――よくもあたしを殺してくれたじゃないか。
 あんた、人を殺すんなら、その罰を受ける覚悟も、できてんだよねぇ』

 アスファルトの道路から、真っ赤な衣装を着た佐倉杏子が、もう一人生えてきていたのだ。
 事態を理解できない男の体に、さらに何本もの少女の腕が這い上ってくる。
 男のすねに。
 肩に。
 口元に。
 横腹、二の腕、脇の下、太もも、髪の毛、首筋に。
 今や、男の体には総勢12人もの佐倉杏子が組み付き、完全にその体の自由を奪っていた。
 男は必死に彼女たちを消化しようと試みるが、むしろ少女たちの肉体は進んで内臓にまで入り込み、その腸や心臓を握りつぶそうとしてくる。
 力任せに振り払おうとしてもそれらの腕が離れることはなく、却って自分の動きで地に組み伏せられ、両膝を突かされてしまう。
 変形して逃れようとしても、佐倉杏子たちは男の肉体をもとの形に戻して動かさせなかった。

「な、なんなんだ、これは……」

 人知を逸したその光景に、カズマは上半身を起こしただけで呆然としていた。
 その時、彼の上に乗っていた首のない死体が、ぴくりと動く。
 切断された首の付け根から肉が盛り上がり、瞬く間に少女の頭部を形成していた。
 再生した佐倉杏子は、風呂上がりの犬のようにぶるぶると首を振り、息を吹き返した。

「あぁ……ったく。回復魔法は畑違いだってのにさ……。
 かなり魔力使っちまったよ」
「じ、自分の頭をアルター化して再々構成……?
 杏子、死んじまったんじゃなかったのかよ!?」
「……自分でも死んだと思ってたんだけどさぁ。
 カズマの声聞いたら、戻ってこなくちゃいけないと思ってね。
 あんな『希望』を耳にしたら、『絶望』なんてしてらんないよ」

 カズマは未だ、目の前で起こっていることを飲み込みきれなかった。
 隣で自分を助け起こしてくる佐倉杏子と、向こうで半裸の男を縛り付けている12人の佐倉杏子たちを見比べて、問う。

「あれは、杏子のアルターなのか……?」
「確かに……、あれは私の『進化(アルター)』の形さ。
 あたしの先輩が付けてくれた名は、『赤い幽霊(ロッソ・ファンタズマ)』。
 忘れてたけど、やっぱりあたしの進化の先は、『人に話を聞いてもらう』力なんだ。
 もう、あいつはカズマの話を聞き流したりできないはずさ。
 心おきなく、羽根ヒグマのタコ変態に説教をくれてやってくれ」


 佐倉杏子は、慈しむような目で自分の幻影の姿を見つめていた。
 槍を抱え、朝日に立つその姿は、絵画に描かれる戦乙女のように燃え立つ。
 12柱の女神に縛られて地に磔られた男は、血走った目で必死にもがいている。
 黒い蓬髪はみすぼらしく乱れ、呼吸の封じられた体には一切の輝きも美しさもない。
 そこにいたのは、処罰の時を待つばかりの、哀れな子羊にすぎなかった。

 カズマはそんな杏子の様子を見て、力が抜けたように笑った。

「ははっ……なんつぅか。ありがとよ、杏子。
 お前のお陰で、俺はきっと、もっともっと『進化』できる……」

 立ち上がるカズマの肩には、もうプロペラもフィンも存在しない。
 しかし彼は拳をまっすぐに天空へと突き上げ、叫んだ。

「さあ、行こーぜえっ!? 杏子ぉお!!」

 カズマの右腕が、丸ごと消失した。
 辺りに金色の光と不可解な衝撃波が発せられる。
 ビルが崩れ、道路がひび割れ、次々と物体が消失していく。


133 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:38:43 2u.kz8d60

 倒壊するビルの屋上から、気絶した黒騎れいが落下する。
 佐倉杏子がただちに気づいて受け止め、ともに距離をとってカズマの周りから避難した。

 失われた物質の分だけアルター粒子が舞い、光の渦がカズマの肉体に凝り固まっていく。
 “向こう側”の世界から高純度のアルターをそのまま引き出して、包むように全身を作り替えた。
 もはや手足だけではない。
 髪すら真っ赤にアルター化して、肩口から生える羽根は尻尾のように変形する。
 全身を流麗な金色の鎧で覆い、カズマは獅子のように立っていた。

 12人の佐倉杏子の幻影が、一斉にカズマを呼ぶ。

『そうだっ、叩き潰せ! カズマ!!』
「杏子っ! こいつは――この光は!
 俺と! お前の! 輝きだあああっ!!」

 男を縛り付けていた『赤い幽霊(ロッソ・ファンタズマ)』をもアルター化の渦に飲み込み、カズマは黄金の光を纏う。
 究極生命体であったはずの男はただ呆然と、その燦然と輝く光の獣を見つめていた。
 その輝きの美しさに、彼は動くことができなかった。

「……なぜだ……なぜ私が、下等生物などに……」
「テメエの尺度なんざ知らねぇ。テメェは俺や杏子より強く、全てを極めてんのかも知れねぇ。
 だが、テメェは俺を激しくムカつかせた!!
 そしてただ一つ! 一つだけ確実にテメエに勝ってるモンが俺にはある!
 さあ、見せてやる! これが、これだけが!」

 右背中から生えた尻尾で、カズマは荒れ果てた道路を弾き、飛ぶ。
 金色の光が、朝の太陽を背負い、天空から地上へと、天使の梯子のように差し入った。

「俺の! 自慢のぉッ! 拳だぁぁあああっ!!」


 金色の爆炎が辺りを包む。
 その炎と同じ色の光となって、男の体は砕け散っていた。


「……あんたがあたしと共にいてくれる。
 あんたの鞭、あんたの杖、それがあたしを力づける――」

 その光景を遠くで見守りながら、佐倉杏子は聖書の一節を口ずさむ。
 胸に抱いた傷だらけの少女に命の重みを感じながら、杏子は炎の前に微笑んでいた。
 あたかも浄罪の大炎のように、カズマの拳は、自分の罪をも『希望』へと連れて行ってくれた。

 佐倉杏子は、神の存在を確信した。
 この世界に満ち溢れる『希望』の道を、今一度歩んでいこうと、そう胸に刻んだ。


 アルターが新たな景色を作り出した市街に、防災無線の間延びした音響が、第一回の放送を流していた。


【F-5/市街地/朝】


【カズマ@スクライド】
状態:石と意思と杏子との共鳴による究極のアルター、疲労(大)、ダメージ(大)
装備:『シェルブリット』第四形態
道具:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、エイジャの赤石@ジョジョの奇妙な冒険
基本思考:主催者をボコって劉鳳と決着を。
1:『死』ぬのは怖くねぇ。だが、それが突破すべき壁なら、迷わず突き進む。
2:今度熊を見つけたら必ずボコす。
3:疲れた……。かなみの飯でいいから食えねぇかな……。
4:このムカつく変態ヒグマ男の名なんざ、刻む価値もねぇ。
[備考]
※参戦時期は最終回で夢を見ている時期


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:石と意思の共鳴による究極の魔法少女
装備:ソウルジェム(濁り中)
道具:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
基本思考:元の場所へ帰る――主催者をボコってから。
0:このほむら似の女の子を、回復させてやらないとね。
1:たとえ『死』の陰の谷を歩むとも、あたしは『絶望』を恐れない。
2:カズマと共に怪しい奴をボコす。
3:あたしは父さんのためにも、もう一度『希望』の道で『進化』していくよ。
[備考]
※参戦時期は本編世界改変後以降。もしかしたら叛逆の可能性も……?
※幻惑魔法の使用を解禁しました。
※この調子でもっと人数を増やせば、ロッソ・ファンタズマは無敵の魔法技になるわ!


    ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


134 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:39:25 2u.kz8d60

 倒壊し、アルターにより侵食されたビル群の中に、一つだけ異質な有機物が存在していた。
 猛禽類の羽根の一部のように見える、薄汚れた破片だった。
 それは、かつて究極生命体と呼ばれた男の、この世に残った最後の搾りかす。
 黒騎れいに向けて放った『羽根の弾丸』のうち、命中しなかったものの一本。
 アルター粒子の渦に飲まれきれなかった、ほんのちょっぴりの細胞とケラチンの残骸だ。
 それはもぞもぞと蠢き、不定形のちっぽけな細胞塊を形成する。

 ――そうだ。このまま細胞を再生させるのだ……。

 直射日光の差すこの場では、彼は急いで再生と移動を繰り返さなければ熱と乾燥で死ぬだろう。
 しかしそれでも、彼は必死に『生』にすがり付こうとしていた。
 その彼の上に、真っ黒な影が落ちる。

 それは救いの神でもあり、また絶望の神でもあった。

「――まったく、とんだ役立たずですね。あなたは。
 私の手駒をあそこまで傷つけておきながら、自分は容易く敗れるなんて」

 彼に語りかけたのは、一羽のカラスだった。
 赤い血のような眼光が、その薄汚い細胞塊を見つめている。
 究極生命体だった細胞は、ふとそのカラスの危険性を察知した。

 逃走を試みる。
 しかし、彼の動きは今や粘菌にも劣る遅鈍さだった。

「何が究極生命体ですか、笑わせますね。
 『始まりと終わりの狭間に存在するもの』の代弁者である私から見れば、この世界の生物など全て下等です」

 カラスは、必死に逃げようとする細胞を、げろりと飲み込んだ。
 喰われたことを認識する暇もないうちに、彼はカラスの中の、全ての次元の狭間のどこでもない場所に閉じ込められていた。
 カラスの低い呟きが、彼の感じた最後の音声だった。

「……まぁ、こんなヒグマたちが跋扈しているのならば、やはりこのヒグマたちの生産には示現エンジンが関わっているのでしょうね。
 間違いなく、それは破壊させていただきますよ……」

 消化酵素でもない、日光でもない、アルター粒子でもない、魔法でもない、いわんや友情でもない負のエネルギーの奔流に、彼の体は削られ続ける。
 彼の細胞は再生を続け、その途端にエネルギーを殺がれ消滅していく。
 死ぬこともできない。
 生きることもできない。
 これから先、彼はただ、無為な永劫の時間をもがき続けることになるだろう。
 地獄というものは、『死』などというものの先にはないのだ。


 彼は、終始勘違いをしていた。

 地球上のありとあらゆる生物の遺伝子を体内に持つことを『究極』の生命体とした場合、その『究極』は次の瞬間にはもはや『究極』ではなくなる。
 事実、彼は以前、ヒグマの遺伝子すらその身には内包していなかった。
 いくら最初から高みに至っていても、そこで停止しては、後から上ってくる者に如何様にも追い越される。

 生物は、一分一秒ごとに『進化』を続けている。
 遺伝子レベルですらなく、その転写過程、翻訳過程、蛋白質の修飾に至るまで、あらゆる特異点で個体は『進化』を続けられる。
 しかし彼は、もはや『希望』を抱いて進むには高みに至りすぎ、彼の願いは『死』の救いを拒絶していた。
 増上慢に至ってしまった彼は、そこにお仕着せの遺伝子を一つ積み、更なる増上慢を得ただけに過ぎなかった。
 彼は自分以外の一切を『下等生物』と貶めてしまったことで、自分をも単なる『下等生物の集合体』に貶めていた。

 彼の存在は、もう誰かの胸にその名を刻まれる価値もない。
 胸の友の名を『下等生物』として切り捨ててきた彼に、授かり受ける慈悲はない。


男は、二度とこの世へは戻れなかった。
 究極生命体と下等生物の中間のゴミクズとなり、永遠に『絶望』の地獄をたゆたうのだ。
 そして死にたいと思っても死ねないので、そのうち男は再び、考えるのをやめるだろう。


【究極生命体カーズ@ジョジョの奇妙な冒険(ヒグマ) 戦闘不能(リタイヤ)】


【F-5・街/朝】


【カラス@ビビッドレッド・オペレーション】
状態:正常
装備:なし
道具:なし
基本思考:示現エンジンを破壊する
1:れいにヒグマをサポートさせ、人間と示現エンジンを破壊させる。
[備考]
※黒騎れいの所有物です。


135 : 死のない男 ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 00:41:51 2u.kz8d60
以上で投下終了です。
キリカたちの戦闘もすごいことになってるみたいですね……あとで感想書きます。


136 : 名無しさん :2014/01/30(木) 01:25:27 hOEGmrKs0
投下乙!
ああ、カズマも杏子もどんどん進化していく…やはりヒグマを超えるにはヒグマ以上の生物になるしかないのか!?
カーズ様の無残な最期。そして暗躍するカラス。これからどうなっていくのか目が離せません。


137 : 名無しさん :2014/01/30(木) 07:10:31 4Ci4qBoE0
投下乙です!
おお、カーズ様がここでリタイアとは……殺すことができないからどうすればいいのかと思ったら、こんな結末があるとは。
そしてこれからも進化していくカズマ達のこれからも気になりますね!


138 : ◆wgC73NFT9I :2014/01/30(木) 10:19:11 LvOAQecc0
>大沈没!ロワ会場最後の日
本当に津波だったー!?
これは、元火山の丘とか、市街地のビルとかにいなければ巻き込まれるでしょうねぇ…。
少なくとも島の北側の平地はアウトくさいな…。
朝の時間帯の最後らへんっぽいし、皆さん察して逃げてくれてればいいんですけどね。
捕食してヒグマ化か…。むしろ遺伝子というより、プリオンとか、樋熊さんと同じく感染性のものかも。
キリカたちがまだ首輪爆破にあってないのは…、ははあ。あのせいかな?

それでは自分は、御坂美琴、相田マナ、ヒグマ7、穴持たず14、布束砥信、シーナー、呉キリカ、夢原のぞみ、ヒグマ
で予約します。
……収拾つくのかなこのロワ。


139 : 名無しさん :2014/01/30(木) 13:52:50 aKeiQVRA0
投下乙です
丁寧な文章に迫力のある戦闘描写
そして一転二転と覆される展開の連続
とても面白い作品でした

ですがカズマが杏子の死体で拳を止めてしまったのには少し違和感がありました
かなみを人質に取られようとも突っ込む男が死体ぐらいで止まるでしょうか
しかも君島やかなみならともかく出会って数時間の杏子にそれだけの影響があったのかは疑問なところです
細かい事ですがカオスではなくシリアスよりの話ですし
カズマというキャラにとって重要な箇所だと思うので恐縮ながら指摘させて頂きました


140 : 名無しさん :2014/01/30(木) 16:21:09 260rNhzM0
カズマにとって杏子ちゃんは訳わかんないヒグマの群れに囲まれた狂気の世界で出会った唯一のまともな人間なんだから少し躊躇する位許してやれよ…


141 : ◆xDsxCdlKmo :2014/01/30(木) 23:13:21 l82/.tt20
>ゼロ・グラビティ
安定の宇宙進出w
単独でラスボス撃破するほどのマナさんがいるが御坂は果たして

>大沈没! ロワ会場最後の日
ロワが沈没するなんて全開とカオスロワ以来だw
というか他の参加者大丈夫かw

>死のない男
カーズさまが落ちたか
やっぱカズマは格好良いなw

それと追加新規枠で杉下右京@相棒予約させて頂きます
予定では今週中に投下できそうなのですが念のために延長もさせて頂きます


142 : ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:51:15 8fm.pV4E0
投下します


143 : 特命 ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:52:17 8fm.pV4E0
「ここが北海道ですか」
「ロストグラウンド以外にも、このような未開の地があったとは」
「ああ、お姉さま。無事でいらして下さいですの!」

ヒグマたちがヘリコプターに気を取られているなか、奇妙な三人組が崖から会場に上がっていた。

「それにしても、我々以外はたったのヘリコプター一機だけとは。
 マナさんと山岡さんが役不足という訳ではありませんが、万全を期す為に最低でもプリキュアオールスター全員を呼ぶべきだと言ったんですがねぇ」

三人組の内の一人。壮年の紳士、杉下右京は呟く。

実はこれまでのあまりにも速い政府の対応。
本土の鷲頭襲来の際、右京がその天才的頭脳により一見何の関係性も無い鷲頭とヒグマとの関連を見抜き、それを政府に進言した事によりこれ程迅速に事が運んだのだ。
かわりに右京は政府直々の特命として、この地まで派遣される羽目になってしまったのだが。

「政府も、未だ重い腰を完全には上げていないという事でしょう」

白と青の制服を着た青年、劉鳳。
人類最後の秘境ロストグランドにて本土側に介入に抵抗していた際、本土側から介入を取り止めるとの条件で至急、警視庁陸の孤島こと特命係へと移籍。
期間限定の右京の相棒として、今回の騒動に関わる事となった。

「ところで白井さん、さっきお姉さまと言いましたが。あのヘリにはまさか御坂美琴さんが乗っているのですか?」
「そ、それは……」

白井と呼ばれたツインテールの少女、白井黒子。
学園都市から派遣されたレベル4の大能力者であり、御坂をヘリへと手引きした張本人である。

(言えませんわ。断りきれなくてお姉さまをヘリに乗せただなんて)

「よくありませんねぇ」
「二人とも静かに!」

その時、小さな人影が三人の前を過ぎった。

「あれは?
「おやおや」

最初は迷子かと思った。
体格だけで見れば、小学生かそこらの少年にしか見えなかったからだ。
この場に居る三人は立場は違えど常に世の平和を守る仕事をしており、その事による責任感と正義感は持ち合わせている。
ならば、目の前で迷子の少年が居れば声の一つは二つは掛けようというものだ。
黒子は空間移動で少年の前に立った時、異変に気付いた。
単刀直入に言えば、その少年は人間ではなく熊だったのだ。
二本足で立ち、服も着ていたので気付くのが遅れてしまったが紛れもなく熊だ。

「肉体変化の能力者でしょうか? 一体こんなところで何を……」

黒子の失態はただ一つ、目の前に熊をなんらかの能力者だと認識してしまったこと。
一般人であるなら警戒して近づかなかったかも分からないそれを、黒子は逆に異能に慣れた冷静な思考のせいで油断してしまった。
故にその失態はあまりにも致命的な命取りとなる。

「僕はね、変態という名の紳士なんだ」
「え? しま―――」

その熊は小柄ながらも、それを生かした速さで黒子の懐へと飛び込む。
瞬時にスカートを捲りパンツを脱がそうと手を伸ばし……突如横から割り込んできた青色の触鞭に捕らえられ拘束された。


144 : 特命 ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:52:48 8fm.pV4E0

「ふむ、食欲や戦闘ではなく性欲の為だけに動く熊か」
「熊にも色々居るようですねぇ。興味深い事ですよ」

触鞭の主、劉鳳の持つアルター絶影に絡め取られたクマ吉くんは必死に振りほどこうともがくが絶影はびくともしない。

「喋るクマとは面妖ですわね。どうなってますのこの島は」
「僕もこの目で見るまでは信じられませんでしたが、この場はやはり熊による熊の為の狩場のようですね
 少なくともこの場では人間が餌であり、それを屠り貪るのが熊という事なのでしょう」

事態はどうやら尋常ではなくなってきているらしい。
所詮、学園都市外の出来事と甘く見ていたが考えを改める必要がありそうだ。
何としてでも早急に初春、佐天と合流しなければなるまいと黒子は思った。

「一先ずこのクマは逮捕しましょう」
「止めてよ! 僕は人は殺してないんだ!!」

右京が懐から手錠を取り出しそのクマにはめた時。
同時に黒子の髪留めが消えた。

「?」

二つに分かれツインテールを作っていた髪は下り、分解された髪飾りは虹色の粒子に変わっていく。
この現象に劉鳳は見覚えがある。
アルター使いがアルターを出現させる際に見られる、物質の分解とその再構築である。
粒子は徐々に人型を形作り姿を見せていく。黒と灰色を基調とした稲妻を操るアルター。
近くに本体の姿は見られない。
劉鳳の脳裏をかつて倒した筈のあのアルターが過ぎった。

「貴様だというのか? 馬鹿な……!」

そのアルターに名は無い。強いて言うなら、アルターの結晶体ともいうべき存在。
時として万物を破壊し、時として新たな力を授け、進化を促す。
未だに謎の多い存在だが一つ分かっているのは、この結晶体は向こう側と呼ばれる世界に帰りたがっているということ。
人間の住むこの世界へと自主的にやってくる事は無い。つまり迷い込んできたのだ。

(何者かが、向こう側の世界の扉を開けたのか?)

心当たりはある。
この場に来る前にあった政府からの報告。
それは不自然な火山の噴火、更に北西では昔カズマがダース部隊を蹴散らした際に発動させたシェルブリット第二形態に似た輝きも見られたというものだ。
どれかが、向こう側に通じてもおかしくはない。


145 : 特命 ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:53:16 8fm.pV4E0

「劉鳳さん?」
「来るぞ、気をつけろ!
 杉下さんは安全な場所へ!!」
「分かりました!」

右京はクマを連れ、戦闘に巻き込まれないよう安全な場所へと駆け出す。
劉鳳は腕を手刀の形に構えそれを合図に自らのアルター絶影を出す。
見計らったかのように結晶体が手を翳し黒い球弾を放つ。
雷を纏い球弾自身もまた高エネルギーで出来ている為、食らえばただではすまない。
劉鳳は一撃目を絶影の触鞭で相殺し、二撃目を横に飛んでかわす。黒子もすかさず空間移動(テレポート)で回避。

「絶影!!」

触鞭を撓らせ結晶体へと近づく絶影。
結晶体は翳した手のひらを螺旋状へと変化させ向かえ撃つ。
拮抗する結晶体と絶影。
絶影は僅かに腰を落とし、結晶体の足元めがけ蹴りを放つ。

「柔らかなる拳・烈迅!!」 

拮抗は崩れ絶影の触鞭が結晶体を貫き引き裂く。
縦に二つに別れた結晶体の体は不安定ながらも直立し佇んでいる。
だが既に動きは無く、ただその場に居るだけ。

「帰れ、再び向こう側へ」

絶影が光に包まれ姿を変える。
拘束された両腕は開放され、地を踏みしめていた両足は龍の尾へと変形し空を舞う。
隠れていた片眼を開き絶影は真の姿を現す。

「剛なる右拳・伏龍、臥龍!!」

絶影の両脇にある二基のミサイルが射出される。
並みのアルターならば一撃で粉々に粉砕し、カズマのシェルブリットと同等威力を持つ伏龍、臥龍。
更に以前、結晶体と戦った時よりも、劉鳳は絶影は強くなり成長している。
如何に結晶体といえども無事で済む道理はない。

「―――なん……だと?」

結晶体へと一直線に進む伏龍、臥龍が分解された。
虹色の粒子へと変換し、結晶体へと集まる。
二つに裂けた結晶体は粒子を繋ぎとして再び元の姿を形成していく。
いや、正確には新たに別の姿へと再形成している。

「まさか、貴様も成長しているというのか……」

カズマ、劉鳳のアルターに幾つもの形態が存在するのならば、また結晶体にも同じく複数の姿があってもおかしくはない。
全身を茶色の体毛が包み、体毛の下には強靭な皮膚。
その姿は結晶体としての特徴を残しながらも野生的な爪、牙、耳を新たに増やす。

「熊……ですの?」

かつて結晶体はカズマとの戦闘の際、アルターの森で殺害した野生の熊をアルター化し吸収した事がある。
今までは眠れる野生の力を目覚めさせる事が無かった結晶体だが、この野生の世界において内に存在する熊の力が呼び起こされたのだ。
それこそがアルター結晶体第二形態。


146 : 特命 ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:53:44 8fm.pV4E0

「ならば―――!」

絶影が分解され劉鳳を包む。
全てを捨てただ勝利のみを望み、辿り着き手に入れた究極の極地。
絶影最終形態。
残像を残し劉鳳が絶影が消える。
かつては影すら追い付かぬとまで言われた絶影が、今や劉鳳と一体化する事でその何倍もの速度を誇る。
テレポーターの黒子ですら瞬間移動かと見紛うた程だ。

「速い……これなら」

だが、劉鳳が動きそのスピードで撹乱し攻撃を放つよりも速く、結晶体は劉鳳の背後へと周りその爪を振りかぶっていた。
瞬時に後ろを向き、振り向かいざまに身に着けた絶影の甲冑を剣と化させ結晶体へと叩き付ける。
爪と剣が鬩ぎ合う。
亀裂が走り罅割れていく爪と剣。
その度に新たに再構成し亀裂を埋めていく。辺り一面は虹色に包まれ存在する物質は生物を除き、全てアルター化されていく。

「ちっ」

最初に退いたのは劉鳳。
結晶体のパワーに耐え切れなくなり、溜まらず一歩退いたのだ。
その時、生まれた隙を結晶体は攻める。
今の劉鳳すら凌ぐスピードで牙を立て、噛み砕かんと迫る。
劉鳳は罅割れ碌に再構成しきれていない絶影の甲冑を構える。
正面からぶつかっても勝ち目は無いが、ここで臆せば待つのは死だ。
覚悟を決め最後の大勝負へと劉鳳は躍り出る。

「?」

無から現れた岩が結晶体の牙を遮り、劉鳳へ触れるまでのタイムラグを生む。
劉鳳の絶影にはこの様な能力は無く劉鳳が持つアルターは絶影一つ。
無論、結晶体がやった事でもない。
この岩を空間移動させたのは、他の誰でもない白井黒子だ。
近くにあった手頃な岩に触れ座標を計算し能力を発動。
結晶体の猛攻を止めるとまでは行かなくとも、それにより生じた僅かな時間を劉鳳は無駄にはしない。
身を屈め結晶体の牙を交わし胴へと甲冑の剣を振るう。
白銀の一閃が走り、結晶体を後方へと吹き飛ばす。

「テレポート……白井、お前の能力だったな」
「それよりも、来ますわよ」

劉鳳から受けた傷を再々構成により癒し、結晶体は立ち上がりこちらへ向かってくる。
黒子は劉鳳が回避運動を起こす前に劉鳳に触れ空間移動を発動する。
二人は消え結晶体の爪が空を切る。
すかさず劉鳳の甲冑が結晶体を貫く。
消えた劉鳳と黒子は空間移動により、結晶体の背後に回っていた。
結晶体は爪を螺旋状に回転させながら劉鳳を刺し殺さんとするが、再び劉鳳と黒子は消え今度は結晶体から数メートル離れた地点に現れた。

「速い、あの結晶体をも置き去りにする程なのか、テレポートとやらは」
「ええ、これならあの熊の速度に対抗できますわ」
「なるほどな。だが、これ以上は危険だお前も早く安全な場所へ」
「お断りしますわ。こんな場所で退いていては、友達を救う事など出来ませんもの」
「そこまでして貫きたい信念か……。良いだろう、行くぞ!」

結晶体から放たれる黒の球弾。
一発ではなく十、二十、いやそれ以上の弾幕が張られ劉鳳達を追い詰める。
だがそのどれも、たったの一撃すら掠ることなく無傷のまま劉鳳は結晶体を切り刻む。
ダメージを追いながらも結晶体も応戦するが、黒子の空間移動により全ては外れ指一本触れることすら出来ない。


147 : 特命 ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:54:26 8fm.pV4E0

「いけるぞ。これなら―――」

速さを黒子が補い、火力を劉鳳が補う。
足りない部分をカバーしあうコンビネーション。それは確実に結晶体を追い詰めている。
だが結晶体も、まだ全ての力を見せた訳ではない。
その内には、まだ見ぬ新たな力が隠されている。
結晶体を両腕を広げ、また物質を分解し始める。
虹色の輝きから生みだれる存在は熊。アルターにより、無数の熊を生成し始めたのだ。
一匹一匹が範馬勇次郎を凌駕し得る存在。

「この程度、切り開く!!」

無尽蔵に沸く熊を切り裂き突き進む劉鳳。
元よりこの熊たちは熊を模したアルターであり、正式なヒグマではない。
ようは模造品、信念無きたかが模造品如きがこの男を止められる道理など無い。
結晶体が天高く舞い上がる。劉鳳の接近を恐れ、上空へと逃げて行く。

「逃がしませんわ」

結晶体より更に上空へと移動する劉鳳と黒子。
蒼穹の一閃が迸り結晶体を切り裂く。
閃光が爆ぜ結晶体が粒子へと還る。
決着は着いた、勝敗は着いた。この戦い―――勝者は

「違う、こいつは!?」

ずぶりと生々しい気色の悪い音が耳を鳴らす。
鮮血が劉鳳を濡らし、生暖かい感触が皮膚を伝う。

「あっ……ぐ」

消え去った筈の結晶体が劉鳳につかっまっていた黒子を貫いている。
そして劉鳳が倒した筈の結晶体はみるみる虹色の粒子へと変わり空中分解していく。

「熊のアルターを変質させ身代わりにしたのか!」

結晶体を振り払い、黒子を抱きかかえ劉鳳は即座に高速移動。
自身の怪我ならば、アルターで強引に回復出来るが黒子はそうはいかない。
不本意ながらも、ここは人命を優先し撤退を選ぶしかない。
だが、黒子の空間移動無しの劉鳳の純粋なスピードでは到底、結晶体第二形態には及ばない

「今、貴様に構っている暇など……!?」

例えスピードが適わずとも、結晶体一体ならば強引に押し通る事も不可能ではなかった。
通ることだけを考え、多少のダメージを覚悟の上ならば。
そう『一体』ならば。
劉鳳の眼前に広がったのは、百を超える無数の結晶体が両手を翳し球弾を生み出している絶望的光景。
いくら絶影最終形態であろうとも、これだけの数は捌ききれない。
劉鳳は今まで勘違いをしていた。
『熊のアルターを変質させ身代わりにした』これは正確には『自らを更に無限に増殖させ身代わりにした』のが正しい。
つまり、今の結晶体は際限なく自分自身を増やすことが出来る。
恐らくは熊の繁殖能力を更に過大進化させた末に得た能力。
これぞ、野生の繁殖パワー。

「劉鳳さん……」
「安心しろ。俺の正義に掛け、能力者だろうが一般市民であるお前には、これ以上指一本触れさせはしない!」
「そう、なら安心ですわ、ね……」

劉鳳は拳を握り締め眼前を睨む。
何処か突破口を何か手立ては無いか……。

「だって、私はジャッジメントですもの。貴方に守ってもらう必要はありませんわね」

ふっと黒子は笑みを浮かべ

「御坂美琴、初春飾利、佐天涙子。私のお友達をお願いしますわ」
「まさか、止め―――」

劉鳳の視界は一瞬にして切り替わり。
腕の中で抱いていた温もりは一瞬の内に消えた。


148 : 特命 ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:55:04 8fm.pV4E0

まるで世界の終焉のような暗黒の閃光。
黒と雷が爆ぜ大地がを揺らし地盤を巻き上げる。
生きとし生ける者全てを滅するかのごとく、全ては無に消え塵一つ残らない。
ただ、一つだけ。風紀委員と書かれた腕章が一つ、その場にゆっくりと地へと向かって落ちていく。
それは白井黒子という、一つの生命の消滅を意味していた。

「……」

結晶体は対象物の消滅を確認し、―――一気に百対近くあった結晶体の半数が消滅した。
否、消滅したのではない。切り裂かれただの粒子へと還っていったのだ。
それを成した者は、その蒼穹の刃は絶対の正義と信念を持ち腕を振るう。
瞬間、物理法則をいや時間すら超越した超高速移動により、結晶体の群れを次々と蹴散らしていく。
その速度、結晶体の自身の精製すらも間に合わない。

「すまない……。また俺は命を、―――だが!」

その刃は、劉鳳は無意識の内に黒子のAIM拡散力場をアルター化させていた。
とはいえ『An_Involuntary_Movement』直訳して『無意識の動き』 と言われているように、精密機械がなければそれは本当に微弱なもの。
だが、アルターとはその名の通り進化の力。
そうかつては、佐天涙子が進化し第四波動を会得した時のように。カズマがエイジャパワーにより究極のアルター使いになった時のように。
また劉鳳も絶影の影すら追い付かぬその速度を、瞬間移動にまで昇華させた。
そして、何よりも。

「俺は引かん、背負ったものの為にも!!」

それは黒子に救われた命であり、託された三人の友人達であり。
何よりも、あの男との喧嘩の決着すらまだ着いていないのだ。

「―――!」

声にならない悲鳴を上げ残り一体となった結晶体が牙を立てる。
形振り構わず劉鳳を噛み砕く為に加速する。

「見せてやる。これが唯一無二の―――託された力!」

劉鳳が消え結晶体の懐へと姿を現す。
装備されている甲冑を刃へと変え結晶体へと振り上げる。

「絶影・断罪者(ジャッジメント)武装だ!!」





――――――――――――――



会場を浸す海水。
流れる建物に丸太。
その内の丸太の一つに劉鳳は立っていた。
流石、丸太だけあってどんな荒波だろうと軽々乗り越える。

「逃がしてしまったか」

結晶体に止めを刺す寸前、突如覆いかぶさる津波により結晶体と劉鳳は流されてしまった。
劉鳳は元より結晶体は生物でなく神出鬼没な存在でもある為、まだこの世界を彷徨っているはずだ。
次会った時こそは必ず倒し、向こう側へと送り返すと劉鳳は決意する。

「……妙だったな」

熊の力を得たこともさることながら、今回の結晶体の戦いにおいて劉鳳は結晶体から知能を感じたのだ。
策を練り、知恵を絞り、工夫して戦う存在。
まるで人間のような……熊だが。

「それにだ。今は熊は冬眠の時期の筈だ、何故こんなにも活動的になっている……。
 まさか、地球温暖化の影響だとでもいうのか!?」

確か、南極や北極の氷が溶け海のかさが増しているとも聞いたことがある。
とすれば、熊の異常発生やこの津波もそれが原因なのだろうか。
疑問は疑問を呼び劉鳳を困惑させていく。
だが思考を変え、すぐに辺りを見回す。
まず自分がやるべきことは、勇敢なる少女に託された三人の友人を見つけ保護すること。
そして悪は何であれ断罪する。

「御坂美琴、初春飾利、佐天涙子か……無事で居てくれ。 
 そして杉下さんとも早く合流しなければ」

近くの手ごろな別の丸太をうまい具合にアルターで精製オールにし、丸太に乗りながらそれを漕ぎ始めた。


149 : 特命 ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:55:34 8fm.pV4E0


【白井黒子@とある科学の超電磁砲】死亡
【アルター結晶体@スクライド】行方不明


【会場の何処か/朝】

【劉鳳@スクライド】
状態:疲労(大)、ダメージ(大)
装備:絶影
道具:丸太、丸太製オール
基本思考:この異常事態を解決し主催者を断罪する。
1:御坂美琴、初春飾利、佐天涙子を見つけ保護する。
2:結晶体を見つけ次第向こう側へ返す。
3:地球温暖化の影響がここまで……。
4:一体誰が向こう側を開いたんだ?
[備考]
※空間移動を会得しました
※ヒグマロワと津波を地球温暖化によるものだと思っています


【会場の何処か/朝】

【アルター結晶体@スクライド】
状態:熊化
装備:不明
道具:なし
基本思考:???


150 : 特命 ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:56:32 8fm.pV4E0









「流石は丸太製の筏ですね。劉鳳くんと白井さんも無事だと良いのですが」

津波に飲まれた会場にて水上に筏を浮かべ、右京とクマ吉くんは難を逃れていた。
津波に飲まれる寸前右京の咄嗟の判断で作ったので、あまり完成度の高いものとは言えないが、それでも水上を浮かぶくらいならばなんら問題は無い。

「確か貴方の名はクマ吉くんでしたね」
「それが、どうしたのさ?」
「ええ、貴方の罪状は強姦未遂という事でしたが」

クマ吉くんはそっぽを向きながら静かに頷く。

「いいさ。強姦未遂は慣れてるよ。
 罪を認める」
「いいえ。貴方は強姦未遂に、もう一つ罪状が付け加えられますよ?」
「え? 何、言ってるんだい!!」

予想外の返答にクマ吉くんそっぽを向いた顔を右京へと向ける。
一体、この男は何を言っているのだ。
自分は強姦未遂の容疑者として、取調べを受けるのではないのか。
だというのに、もう一つの罪状など想像もつかない。

「貴方を殺人の……いえ、殺獣の容疑で逮捕します」
「なん……だと?」

殺、獣……?
馬鹿な、有り得ない。
何で何を言おうとしてるんだこの男は……。
一体、何で!?

「貴方の服」

右京が指を刺しクマ吉くんの服を示す。
クマ吉くんは釣られて服の異常を探すが何も見つからない。
あるのは青い布地と自分の茶色い毛がいくつか着いている事くらいだ。

「な、なんだ……これが一体何だと言うんだ?」
「ではなく、その口」

だらりと猫の手がクマ吉くんの口から垂れ下がる。
ふっと観念したかのようにクマ吉くんは口の中に手を突っ込み、中から人型の猫を吐き出した。
中からドロドロの液体に包まれたニャン美ちゃんの遺体が姿を現した。

「……窒息死ですね」
「そうさ。ニャン美ちゃんを口の中に入れたいという衝動を僕は抑え切れなかったんだ……」
「やはり、僕の思ったとおりでしたか」

クマ吉くんは乾いた笑いを浮かべる。

「それだけではありません。恐らく貴方はもう一匹殺していますね?」
「まだ、僕に罪を着せる気かい?」
「貴方の口内が血に濡れていました。
 誰かを捕食したのでしょう。しかし、その口の中にはニャン美さんが居ます。
 更に貴方は食欲よりも性欲を優先する。故にその口を凶器として使うとすれば、何らかの止むを得ない場合」

ごくりとクマ吉くんは喉を鳴らした。
この全てを見透かされ晒されるような感触、とても不快だ。
曝け出すのは嫌いじゃないが、晒されるのはまた別だ。

「貴方はニャン美さんの殺害を何者かに知られたんですよ。
 その口封じの為に、貴方はその人物、いえ動物を殺した。
 ここの熊の中にもある程度の秩序があるのでしょう。ニャン美さんへの殺害動機が動機です。
 明るみに出ては熊の中で相当不利になる。違いますか?」
「……続けて」
「では。
 万が一の場合にそれが明るみに出る事を避けた貴方はある死体の隠し場所を思いついた。
 それが、捕食です……。
 貴方の歯に着いてる血から判断して、猫であるニャン美さんの物ともう一つ桃色掛かったこれはうさぎの―――」
「もう良い、もう良いよ!!」

クマ吉くんは我を忘れて叫んだ。

「流石だよ。
 ニャン美ちゃんの事に関しては既に一度看破されたんだけどね。
 この事実まで明かされるまで夢にも思わなかったよ。
 その調子じゃ僕がニャン美ちゃんを殺した事をうさ美ちゃんに暴かれて、それを隠すためにうさ美ちゃんを殺したって事まで分かってるんだろう?」
「はい」
「とんだ名探偵だね。ははっ……僕は何の為に彼女を……」

クマ吉くんは両手を突き崩れ落ちた。
右京は表情一つ崩さず静かに、だが力強くクマ吉くんを見る。


151 : 特命 ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:57:25 8fm.pV4E0

「何時だい? 何時気付いたんだい?」
「最初からですよ」
「!?」
「さっきも言った貴方の服、……女性もののスクール水着なんですよ」

盲点だった。
クマ吉くんは自身の服装を見て溜息を着く。

「うさ美さんを殺害した時に返り血を浴びすぎたのでしょう。
 服を処分したのは良いものの、下にスクール水着を着ていたのを忘れていた。
 それが貴方の犯した最大のミスですよ」

もう言い逃れは出来ない。
いや元よりもうする気は無い。
疲れた。もう終わりにしよう。

「素晴らしい名推理だった。
 でも、一つ杉下さんは見落としているよ」
「何でしょう?」
「僕もまたヒグマロワにおどらされただけの犠牲者の一人にすぎないってことさ」

右京は体を僅かに震わせながら強く言い放つ。

「確かに貴方は被害者なのでしょう。
 ですが、だからといって加害者になっていい理由など、何処にもありませんよ……!!」
「……行きましょうか、警察へ。
 まあここから脱出出来れば、だけどね」



【うさ美@ギャグマンガ日和】死亡
【ニャン美@ギャグマンガ日和】死亡


【会場の何処か/朝】

【杉下右京@相棒】
状態:健康
装備:筏 
道具:手錠×何個も
基本思考:この異常事態を解決し主催者を逮捕する。
1:クマ吉くんを署まで連れて行き法の裁きを受けさせる。

【クマ吉@ギャグマンガ日和(ヒグマ)】
状態:ダメージ(大)
装備:スク水、手錠(拘束)
道具:ニャン美ちゃんのパンツとか色々
基本思考:生きて帰れたら署まで行く。生きて帰れたなら。
1:……。


152 : ◆xDsxCdlKmo :2014/01/31(金) 03:57:52 8fm.pV4E0
投下終了です


153 : 名無しさん :2014/01/31(金) 15:09:36 PTsErtoo0
投下乙
オールスターズ呼ぶべきなのは一理ありまくる。美琴来ちゃったら黒子も来るよねと思ってたら退場か…
カズマに続いて劉鳳も進化とスクライド勢力が元気だな


154 : 名無しさん :2014/01/31(金) 18:57:08 fOrc9ogI0
投下乙


155 : 名無しさん :2014/01/31(金) 21:28:29 sfJthgZ60
投下乙です
相変わらずスクライド勢は熱血で安定してるな
そしてクマ吉はとうとう一線を越えてしまったか…


156 : ◆Dme3n.ES16 :2014/02/01(土) 00:55:02 sGng/OPo0
山岡銀次郎、隻眼2、穴持たずNo.46、穴持たずNo.48、司波達也で予約


157 : 名無しさん :2014/02/01(土) 01:02:30 nxaOfIJ20
シバさんキターーーーー!!!


158 : 名無しさん :2014/02/01(土) 07:07:56 90oJQJ1U0
遂にシバさんがロワに参加するのかw


159 : ◆xDsxCdlKmo :2014/02/01(土) 18:14:49 zRQvNSxU0
鷹取迅、タイラント、纏流子、ヴァン@ガン×ソード 予約します


160 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/02/01(土) 19:38:17 1oHZdYRsO
投下乙。
とある組一番目の脱落者は黒子か……。
右京さんが何処へ向かうのかも気になるが……。

申し訳ない、予約延長で。
放送跨ごうとすると長くなるな……。


161 : ◆xDsxCdlKmo :2014/02/02(日) 01:03:59 HqIi3/Q20
投下します


162 : 海上の戦い ◆xDsxCdlKmo :2014/02/02(日) 01:04:33 HqIi3/Q20
「じゃあ私は無意識の内に皆と逸れちまったってことか?」
(ああ、流子だけではなくあの喪女も。恐らくは何者かによる干渉を受けたのだろう。
 それが極制服によるものか、あるいはさとりの言っていた妖怪によるものかは分からないが、少なくとも影響を受けてないのは、そのさとりだけだろう)

鮮血の話を聞いた流子は舌打ちをした。
要約すると流子と智子は分断され。残ったさとりがその隙を狙われ殺害された。
放送でさとりの名が呼ばれた以上、間違いないだろう。
正直さとりには見透かされてる感じがして、気味が悪く関わった時間もそんなに無いが、それでも自分の近くで人が殺された事に怒りを覚える。
もし、その下手人……いや下手熊か? に会ったら敵ぐらいは取ってやろうと流子は思った。

「だとすれば、やばいな。智子の奴無事だと良いんだが」

極制服を持たず、妖怪という奴でもない智子は今完全に無防備だ。
マコのように修羅場慣れもしてないし悪運も強いか分からない。
早く探さないと熊の餌になってるかもしれない。

(落ち着け流子、今のところ名前は呼ばれていないのだから、最低限の身の安全は守れている環境に居る筈だ)
「それはそうだけど」
(勿論、早目に合流すべきなのは確かだが……その前に我々が死んでは元も子も無いぞ!)

鮮血の叱咤で流子は異変に気付く。
周りを見渡してみると、流子は熊の群れに囲まれていた。
それも空腹から餌を求め集まっただけの熊とは違う。
野生さはまったく感じられず、むしろフォーメンションまで組んでいる。

「なんだこいつら。この動き……本当に熊か?」
(多勢に無勢、撤退するべきだ流子)
「分かってる!」

左手のグローブの線を引き鮮血に血を吸わせる。
次の瞬間、鮮血が光り津波が押し寄せてくる。

「? おお、凄いな鮮血。とうとう津波まで……」
(違うぞ流子! これは私では―――)
「は?」

波は熊達もろとも流子と鮮血を飲み込み、全てを流し去っていった。



――――


163 : 海上の戦い ◆xDsxCdlKmo :2014/02/02(日) 01:05:33 HqIi3/Q20
帆船が一隻浮かんでいた。
津波の影響からか、未だ穏やかとはいえない海をその船は物ともしない。
船自体は古いもので、中世の時代に作られたかのようなデザインだが、ところどころに現代技術も顔負けなハイテク技術が施されており。
麦藁帽子を被った髑髏が書かれた巨大なマストと、百獣の王ライオンを模したがとても印象的だ。
船の名はサウザンドサニー号。かの有名マンガに登場する船だ。
といっても、これはお台場にあった物がたまたま津波の影響でヒグマロワの会場に流れてしまったものなのだが、その機能は本家に引けを取らない。
現に今、海に浮いてるのがその確固たる証拠になるだろう。

「何処だここ」

その船の上でヴァンは一人愚痴っていた。
つい先ほどまで宇宙で戦闘をしていたと思ったら意識が反転。気が付いたら、妙な船の上に居て津波に巻き込まれていた。
船が横転し、沈没しなかったのは不幸中の幸いだろう。

「こっちはカギ爪を殺さねえといけないってのに」

婚約者の敵を目前にしながら変な事に巻き込まれてしまうとは。
我ながら、自分の不運さを呪いたくなってくる。

「……船か」
「お、おいアンタ! 船に乗せてくれ!!」
「ん?」

腹も減ったので魚でも釣ろうかと思ったその時である。
でかい片方だけの鋏を持った女と、何処かただならぬ雰囲気を漂わせた男が泳いで船に近づいてきた。
無視しようかとも思ったが、ここが何処か聞くためにもヴァンは船に積んであったロープを二本持ち出し、二人の男女へ放り投げた。



――――




「ありがとう、助かったよ」
「……礼を言う」

ヴァンは改めて自分が吊り上げた二人の男女を見つめる。
女のほうはぶっきらぼうながらも礼儀正しくもあり、まあ普通だろう。
だが、もう一人の男の方はなんか魚を抱きしめながらさわさわしている。
何か魚も頬を赤らめてビクビクしてる気がするが、魚がビクビクするのは当然のことだろう多分。
後でこの魚は焼いて食おうとヴァンは思った。

「鷹取迅」
「ヴァン、今は夜明けのヴァンで通ってる」

その内魚を持った男が名乗りあげる。
すぐさまヴァンも同じように名乗り返す。
そんなやり取りをみた纏流子も、また名乗ろうと口を開いた時。

「ただの痴漢だ」
「……そうか、俺は童貞だ」

ん?
今、痴漢って言ったのは気のせいだろうか。
そうだ気のせいだろう。間違いない自己紹介で痴漢と名乗るなんてそんな……

「痴漢だ」

だが気のせいでは無かった。
かつて駆紋戒斗が困惑し、無理やりながらに仮説を立てたように流子もまた強引に仮説を立てる。
つまり、これは今巷で自己紹介で性的な事を言うのが流行っているのだと流子は納得した。


164 : 海上の戦い ◆xDsxCdlKmo :2014/02/02(日) 01:06:09 HqIi3/Q20

「わ、私は纏流子……。そ、その……しょ、処女だ!」
「やめろ、はしたない」

頬を赤らめ恥ずかしさに耐えながら、流行に乗ろうとしたら童貞にはしたないと言われる。
世は理不尽だと流子はしみじみ思った。

「ところでその魚、食っていいか?」
「ああ、犯(く)って良いぞ」

そんな乙女の恥じらいは露知らず、痴漢と童貞は噛み合ってるようで噛み合わないような会話を続けている。
この場に某インキュベーターが居れば、訳が分からないよと溜息を着いていただろう。
ヴァンが魚を手にし厨房に入り火を炊こうとしたその時。
船が大きく揺れた。また津波かと海を確認するが、相変わらず荒れているが津波のようなものは見られない。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

船を揺らした正体、暴君怪獣タイラントがサニー号へと体当たりし沈めようとしてきていた。

「なんだありゃ?」
(流子!)
「分かってる。見とれてる場合じゃないね!」

今度こそ津波など起こらずちゃんと鮮血を起動させた流子。
上半身はその豊満な胸をサスペンダーだけで隠し、スカートは中が見えるほど短く肝心のパンツは尻の谷間に食い込むというとても破廉恥な姿に変わったが。
これこそが、流子と鮮血の「人衣一体」神衣・鮮血!!
片太刀バサミを手に取り構えタイラントを睨む。

「下がってな」
「何?」

だがそんな流子を制しヴァンが一歩前へと踏み出す。
頭のテンガハットの鍔に付いた輪に指を引っ掛け、テンガハットを左から右へと回す。
腰に巻きつけてあった蛮刀を撓らせ、Vの字を描くように空を切る。
怪獣が相手ならばウルトラマン。ではそのウルトラマンが居なければどうする?
簡単だ。巨大ロボットを呼べばいい。
遥か彼方の宇宙より。大気圏を付き抜け、天を裂き、白銀の剣がロワ会場へと振ってくる。
それは人の形へと変形してゆき、胸部のコックピットを開け主を待つ。
ヴァンはそのコックピットへと乗り込もうとし―――

「あれ?」

否、乗り込めなかった。
理由は明白でヴァンが呼んだロボット―――正式な名称はヨロイだが―――ダン・オブ・サーズデイは縮んでいたのだ。
当然である。巨大ロボットや怪獣、というかタイラントだって縮んでいるのだから、新規枠も当然それに合わせなければならない。
縮んだと言っても、人間大のサイズになっただけであり、ちゃんと動くのでハンデは然程無いが。
―――乗れないのだ。乗れなければどんなロボットもガラクタ同然。

「これ玩具じゃ……」
「……どうなってんだ?」

さてどうしたものかとヴァンが首を傾げる。
流子は呆れ、片太刀バサミをしっかりと握りなおす。
その横で小さな数センチ程の二人組みが、ダンのコックピットへと乗り込んだ事に二人は気付かなかった。


165 : 海上の戦い ◆xDsxCdlKmo :2014/02/02(日) 01:06:43 HqIi3/Q20

「? ダンが動いた!?」
「は?」

流子がタイラントへと切りかかろうとした次の瞬間、ダンが動き出す。
一人と一匹の間に割って入り、装備していた刀の一閃をタイラントへとお見舞いしていた。

「親父! こいつは中々良いイェーガーだぜ!!」
「だな! これでストライカー・エウレカを食った熊野郎にも仕返しが出来るな!!」
「だがその前にKAIJU退治だぜ!! 行くぜ再戦(リターンマッチ)!!」

ダンのコックピットへと乗り込んだのは、数センチにまで縮んだあのハンセン親子である。
浅倉にストライカー・エウレカを食われた二人は即座に脱出。
小さい体ながらもこのロワを生き抜き、やっとの思いで新たなイェーガーことダンを見つけたのだ。

「ふざけんな! おい返せ! 俺のダンだ!!」

ヴァンが激怒しながらダンの中に居るハンセン親子へと叫ぶ。
しかし、ハンセン親子は一向にダンから降りようとしない。

「少し間こいつを貸してもらう。アンタじゃ乗れないし良いだろ?」
「馬鹿だろお前! 誰が貸すか! 良いから返せ!!」
「ヒャッホー!! こいつ思った通りに動くぜ!!」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「俺の話を聞けええええ!! てか何で乗れるんだお前!!!」

本来ならば適性のある者か、改造を施さなければ乗れないダンだが
制限によりサイズが合えば誰でも―――真に乗りこなせるかとともかく―――ダンに乗れるということをヴァンは知る由も無かった。
更に横方から謎のライフルが発射されダンを吹っ飛ばす。

「馬鹿、お前早く電磁シールドを張れ!!」
「え? 電磁? 何だ一体?」
「やっぱお前ら、早くそこから降りろ!!」

ダンを狙い打った遥か上空。
そこには青と白のあの機動戦士ガンダムがあった。

「グオ!」

ガンダムのコックピットに乗るのは勿論ヒグマ。
このガンダムはかつてはサニー号と同じくお台場にあったものだが、サニー号同様津波で流されてきた。
たまたま、それを見かけたヒグマがガンダムに搭乗し操縦をマスター。
制限によりガンダムは人間サイズに、ヒグマはそれに乗れる程度にまで収縮してしまったが、それでも尚この戦力を誇る辺りは流石ガンダムである。

「親父!! 見ろよガンダムだ!!」
「何故こんな場所に……だが今のあれはKAIJUと然して変わらん。
 イェーガー乗りとして必ず倒すぞ!!」
「OK親父!」
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ヒグマ、行きまーす!!」
「てめえこの野郎! ダンを返せ!! この!!!!」

こうして怪獣とロボット二対の乱闘が幕を開けた。


166 : 海上の戦い ◆xDsxCdlKmo :2014/02/02(日) 01:07:11 HqIi3/Q20



【会場内 お台場から流れてきたサウザンドサニー号/朝】


【暴君怪獣タイラント@ウルトラマンタロウ】
状態:疲労(小)、ダメージ(小)、飛行中
装備:なし
道具:なし
基本思考:己の本能のまま暴れて、ウルトラ兄弟を倒す。
1:暴れる
[備考]
※タイラントの持っていた支給品は津波によってどこかに流されてしまいました。
※制限の影響なのかはわかりませんが、身長が縮んでいます。

【ハーク・ハンセン@パシフィック・リム】
【チャック・ハンセン@パシフィック・リム】
状態:健康
装備:ダン・オブ・サーズデイ@ガン×ソード
道具:不明
基本思考:イェーガー乗りとしてKAIJUを倒す。
1:目の前の連中を倒す。
2:浅倉にいずれ借りは返す。
※制限で二人とも数センチ大です。
※今のところダンは動かせますが乗りこなせてはいません。

【ガンダムに乗ったヒグマ】
状態:健康
装備:お台場のガンダム@お台場
道具:不明
基本思考:ヒグマ、行きまーす。
1:目の前の連中を倒す
※制限でガンダムは人間サイズ、ヒグマはそれに乗れるほどのサイズになっています。

【ヴァン@ガン×ソード】
状態:健康
装備:蛮刀@ガン×ソード
道具:魚@現地調達
基本思考:帰ってカギ爪を殺す。
1:ダンを取り返して元の大きさに戻す。


167 : 海上の戦い ◆xDsxCdlKmo :2014/02/02(日) 01:07:48 HqIi3/Q20




目の前でミニチュアサイズの怪獣が現れたと思えば、空から更にミニチュアサイズのロボットが降ってきてガンダムまで乱入してきた。
なんかもう突っ込みどころがありすぎて逆に突っ込めない。
流子は一歩引いて、その戦いを観戦しながらそう思った。

「たくっ大丈夫かな智子の奴」

他もこの調子なら智子が巻き込まれた場合、考えたくはないが死んでしまう可能性は高い。
さっさと海上の有効な移動手段を見つけなければならない。
最悪飛べないことも無いが、目立つし空中で狙い打たれる可能性も高い。

「つってもあまり悠長な事も言ってられないな」

しばらくここで移動手段を探してそれでも何も無ければ飛んでいく。
そう考えた流子は船内へと探索しに入る。

「!?///」

その時、背後に気配を感じたかと思えば、胸を撫でられた。
ただでさえ、素肌を露出しているのだ。その感度は服の上のものとは比べ物にならない。
乳房を甘い感触が刺激する。

「こ、の!」

流子は片太刀ハサミを振って背後の痴漢を撃退しようとするが、そのあまりにも高度な痴漢テクニックにより走った感触に気を取られ、大きく空ぶってしまう。
撃退は諦め、脚力に全神系を傾け前方へと転がるようにして駆け出す。
痴漢の魔の手から流子は抜け出し、背後の痴漢へと片太刀ハサミを向けた。

「私に、手を出すなんてね!」

痴漢、鷹取迅は流子に睨まれながらも涼しい顔をしている。
相手は神衣により超人的な力を得て、真っ向から戦えば鷹取迅の敗北は必須だ。
それを理解できない鷹取迅でもない。だが、痴漢は静かにゆっくりと一歩ずつ流子へと歩んでいく。

「お前は俺と同じ逸脱者だ」
「え? 何言ってんだコイツ」

いきなり痴漢してきたと思ったら同類扱いされた。
怒りを通り越して呆れというか意味が分からない。

「その服装、求めているんだな。共に行こう、高みへ」

(何言ってんのこの人……)

やばい。
今まで様々なピンチや逆境を経験したが、これ程までに身の危険を感じたのは初めてだ。
痴漢に襲われて恐怖する感情とは、こういうものなのだろうと流子他人事のように思った。


168 : 海上の戦い ◆xDsxCdlKmo :2014/02/02(日) 01:12:04 HqIi3/Q20


(逃げろ。流子、この男は危険すぎる!!)

「分かって―――な?」
「遅い」

以前、穴持たず00に対して行ったのと同じように。
一瞬の内に懐へと入り込んだ鷹取迅。
突然の高速移動に流子は反応しきれず、ただ痴漢のデモンズハンドを受け入れるしかなかった。

「!?」

鷹取迅の手が流子に触れる瞬間、鮮血がその口を開け鷹取迅の手に噛み付こうとする。

(今だ、流子!)

「悪い、鮮血!」

咄嗟に手を引っ込めた隙に、流子は壁に片太刀ハサミを叩きつけ穴を空け鮮血の飛行形態「鮮血疾風」を使用。
穴からサニー号を脱出、鷹取迅から逃げ延びた。

「俺もヤキが回ったか」

鷹取迅は自嘲気味に呟く。
まさか狙った獲物に逃げられるとは。
もしや自分の目利きが鈍っていて、彼女は逸脱者とはまだ別の存在なのだろうかとすら思えてくる。

「どちらにしろ、次会った時にそれは分かるか」

鷹取はそのまま船内を進んでいく。
彼もこの場にずっと留まっているつもりはない。
この先に居る。まだ見ぬ、逸脱者達と出会わなければならないのだ。
大きい船だ、小船の一隻や二隻はあるだろう。

「纏流子、か……」




【会場内 お台場から流れてきたサウザンドサニー号内部/朝】

【鷹取迅@最終痴漢電車3】
状態:健康
装備:デモンズハンド(痴漢を極めた男の手の通称)
道具:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、「HIGUMA計画ファイル」
基本思考:己と共に高みへと上ることの出来る、社会、生物などの枠組みから外れた「逸脱者」を見つけ、そのものに痴漢を働く。
1:会場を自由に動ける小船を探す。
2:纏流子……次会った時は……



【会場内 上空/朝】

【纏流子@キルラキル】
[状態]:健康、鮮血疾風使用中
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル、鮮血@キルラキル
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに対する抵抗
1:智子を探す
2:痴漢(鷹取迅)を警戒


169 : ◆xDsxCdlKmo :2014/02/02(日) 01:12:25 HqIi3/Q20
投下終了です


170 : 名無しさん :2014/02/02(日) 01:19:36 swyr44hU0
投下乙!
そういえば死亡表記出ないなーと思ってたら生きてたのかハンセン親子wwww
そして新キャラが増える度にまた新たなヒグマが…!
痴漢が変身した流子にムラムラするのはよく分かる


171 : ◆Dme3n.ES16 :2014/02/03(月) 02:19:44 Vu.PwHiE0
投下します


172 : 不明領域 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/03(月) 02:20:35 Vu.PwHiE0
―――有富によってゲームの開始が告げられる約24時間程前―――

「……あった。」

破壊された複数のパワードスーツ型全自動警備ロボの残骸が転がる地下施設の倉庫の様な場所。
筋肉質な体つきを後裾の長いブレザー制服で隠した少年が鞄の中に仕舞われていた小銃を手に取る。
ゲームが始まったら自分に支給される予定だったと思われる魔法工学製品・攻撃特化型CAD(術式補助演算機)だ。

通学中にスタディのスタッフに誘拐された国立魔法大学付属第一高校に通う高校生、司馬達也は
移送されている最中に無意識で催眠方法を解析することで早期に回復し脱出、単独で施設の内部に潜入して
身を隠しながら現在誘拐犯グループへの反撃の機会を窺っている。

「しかし、この首輪爆弾付きか?これでは俺も、誘拐された被害者達も、逃げることができないな。」

そう呟きながら右手で首輪に触わった司馬達也は腕からサイオン(情報想子)で構築された
魔法陣のような光の文字列を発生させる。次の瞬間、首に巻かれた首輪がバラバラに分解され飛び散った。

「……これでよし。後は首謀者の居所を突き止めて叩き潰すだけだな。」

かつて「超能力」と呼ばれていた能力の使用法を「魔法式」として体系化し、幅広い汎用性を得た、
事象に付随するエイドス(個別情報体)を改変する力を行使する者、「魔法技能師」である彼は
その両目に宿るエレメンタル・サイト(精霊の眼)で首輪のイデア(情報体次元)にアクセスし
首輪を分析、構成している構造情報に干渉して自前の専用魔法で解体に成功したのである。

もはや行動を制限する要素の無くなった彼は、詳細は不明だが今から始まろうとしている
恐ろしい実験を阻止し、被害者を救助するべく倉庫の扉を開けて廊下に飛び出した。
そして駆け出そうとした彼は場違いな物目にする。

「なんだ、あれは?」

通路の奥から巨大な哺乳類が獣臭を放ちながら四足歩行でゆっくりこちらに向かっているのだ。

「ヒグマだと?確か日本では北海道にしか生息していない筈。
 ということは、ここは……しかし何故ヒグマが人間の建物の中に?
 それに、部屋を出る前に廊下のイデアの生物のエイドスを読み取って
 廊下には誰も居ないことを確認した筈だが。」

不可思議に思っていると、ヒグマが急に走り出してこちらに向かってきた。
あの只ならぬ様子からして相当餓えているのだろう。司馬達也は溜息をついた。

「……まいったな、銃器も持っていない野生動物か。こういう相手は深雪や千葉さんの方が得意なんだがな。」

司馬達也は魔法師ではあるが加速、放出などといったオーソドックスな系統魔法の行使を苦手としている。
魔法を発動させるための起動式と魔法式の構築に時間がかかり過ぎて普通の工程では使い物にならないのだ。
そのため魔法理論が学年一位にもかかわらず劣等生扱いの二期生に甘んじている。
では、この野生動物とどう戦うのか?

「まあ、仕方がない。」

司馬達也はまるで瞬間移動したかのような異常な速度でヒグマに突撃した。
忍術使い九重八雲の弟子でもある彼は加速魔法を使わずとも身体技術だけで
人間離れした動きが可能なのである。そしてヒグマの懐に飛び込んだ彼は
右腕に魔法式を出現させ、単純なサイオンの衝撃波を撃ち込む無系統魔法、
幻衝(ファントム・ブロウ)を発動させる。
彼が苦手なのはあくまでカリキュラム通りの工程。
六工程以上必要な複雑な術式でなければ瞬時に魔法式を構築できるのである。
ヒグマは体の構造上、腕を内側に曲げることが出来ない。離れているより密着する方が寧ろ安全なのだ。
だが、確実に鼻先に叩き込むはずのサイオンを込めた一撃が空を切った。

「何っ!?」

司馬達也の拳が当たる寸前に、突然ヒグマは後ろに大きく体をのぞけらせて回避したのだ。
そして、前足を地面に着くと同時に後ろ足を大きく振り上げ、ムーンサルトキックの様な
挙動で放たれたその足爪で司馬達也の肉を大きく抉り取った。

「―――がはっ!?」

体の前面を大きく傷付けられ血しぶきを上げながら吹き飛ばされる司馬達也。
これが野生の身体能力である。人は魔法をもってしても野生の力の前には無力なのか。
体勢を立て直したヒグマは致命傷を与えた筈の人間に止めを刺して捕食すべく
四つん這いになって前方を向き体勢を整える。


(―――自動修復術式オートスタート。コア・エイド・データバックアップよりリロード―――。)


173 : 不明領域 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/03(月) 02:21:01 Vu.PwHiE0
だが、そこには血まみれの司馬達也の姿がなかった。
ヒグマが不審に思っていると、背後から何者かの声が聞こえた。

「……正直侮っていたよ。これが野生の力か。」

ヒグマが振り向くと、そこには服すら損傷していない無傷の司馬達也が立っていた。
後ろ向きに飛び跳ね構えを取るヒグマに彼は無表情で語りかける。

「残念だがどんな手段を取ろうと、俺を最終的に傷付けることは不可能なんだ。」

彼が学校において劣等生である理由の魔法式構築速度の遅さ。
それは術式を使うときに使用する脳内の仮想魔法演算領域が
産まれつき備わっていた二つの高難度の魔法を使う為に占領されてしまっているからである。

その魔法の一つが「再生」。
エイドスの変更履歴を最大で24時間遡り、外的な要因により損傷を受ける前のエイドスを
フルコピーし、それを魔法式として現在のエイドスを上書きする魔法である。
いわば『ケガを治す』魔法ではなく、『過去の状態に戻す』魔法。
ヒグマの斬撃を受けた直後にイデアにアクセスした司馬達也は十秒前の自己の肉体の個人情報をコピーして
現在の自分に上書きし、肉体の損傷の事実を無かったことにしたのである。
そしてこの魔法は危機に陥った時に無意識で自動的に発動されるのだ。

怯まず再度攻撃を仕掛けようとするヒグマに司馬達也はCADの銃口を向け照準をつける。

「やめておけ、貴様のエイドスの分析は完了した。もう勝負はついている。これ以上は容赦できない。」

飢えたヒグマは聞く耳を持たずに大きく口を開けて司馬達也に飛び掛かった。

「―――雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)。」

その鋭い牙が司馬達也の頭に触れようとした瞬間、ヒグマの全身の細胞物質が瞬く間に分子単位で分解され、
恐るべき野生動物はその場から痕跡も残さずに消滅した。

もう一つの専用魔法、「分解」。
物質の構造情報に直接干渉することにより、物質を元素レベルの分子またはイオンに分解する最高難度の魔法の一つ。
首輪の解体時にも使った、決して学校の実技試験では使えないこの魔法がある以上、実際の戦闘において彼に敵はいない。

しかし静まり返った廊下に立ち尽くす司馬達也は、勝ったにも関わらず険しい顔つきをしていた。

「なんだこの生き物は?ヒグマというのはここまでしないと倒せないものなのか?」


174 : 不明領域 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/03(月) 02:21:56 Vu.PwHiE0
「……やれやれ、恐ろしい人間も居る者ですね。まさかゲームが始まる前に逃げ出してしまうとは。」

司馬達也が振り向き銃口を向けると、いつの間にか新たな二匹のヒグマが立っていた。
手足の長い細身な骨ばった個体と、先ほどのヒグマより二回りほど大きい白い体毛を持つ個体。

「最近のヒグマは喋れるのか?いや、ヒグマじゃないな…マレーグマと、ホッキョクグマか?」
「……まあ、種類はどうでもいいでしょう。少し大人しくしてもらえませんかね?
 今暴れられると私達の計画にも支障が出ます所以。」

虚ろな表情で喋るかける細身の熊の横で、白い熊がうなり声を上げている。

「……とはいえ、彼、穴持たずNo.46はあなたが大人しく逃げるのを許してくれないでしょうがね。
 やはり我が同胞の一体を殺した罪は貴方の命で清算していただくのが筋かと存じ上げます。」
「手を引くのはお前たちだ。さっきの戦闘を見ていなかったのか?俺には勝てない。」
「……ええ、たしかにあなたは恐ろしい。ですが、この世は数式だけで解析できるほど単純ではないのですよ。」
「何を言っている――――!?」

突然、白い熊―――ホッキョクグマが司馬達也の元へ突進してきた。
先ほどのヒグマと同じなら、油断も躊躇も出来ない。瞬時にホッキョクグマのイデアを解析し体組織の分解を。

「え?―――な、なんだ!こいつは―――!?」






グシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!





司馬達也が構造を解析する時間を遥かに凌駕する速度で超重量のホッキョクグマの拳が顔面に直撃し、
顔を無惨な形状に歪ませた彼は激しく縦に高速回転しながら廊下を直線に吹き飛ばされ、
壁にぶつかって大きくバウンドした後、口から大量の吐瀉物を撒き散らして地面に倒れ込んだ。

「……ふぅ、どうやら私が手伝うまでもなかったみたいですね。分かりますか?
 これが地球上で最強の動物であるヒグマを超える数少ない存在、野生のホッキョクグマの力ですよ。
 現実はフィクションとは違う。……本来の彼は範馬勇次郎やジャック・ハンマーごときに後れを取るような
 生物ではないのです。ブリザードを耐え切る強靭な肉体と体毛は目視での構造の分析を困難にし、
引っ掻くより抉ることに特化した雑菌だらけの爪の前では再生もままならない。」

手足を卍状に広げて床に突っ伏した瀕死の司馬達也は朦朧とする意識で
細身のヒグマ、穴持たずNo.47シーナーのセリフを聞きながら考える。

(……そんなわけ、ないだろ。)

先ほどイデアを読み取って解析しようと試みたがエレメンタル・サイトでは殆ど何も見えなかった。
つまりあの二体はこの世に存在しない物質で出来ている?そして、発動する筈の自動再生が何故か発動しない。
あのホッキョクグマはなんらかの理屈で自分の血肉と一緒に構成するエイドスやサイオンも抉り取っているのだ。
思考が追いつかないまま、ホッキョクグマが伸し掛かり内臓を引き摺り出して食べ始めた。

(なにが起こってるんだ?死ぬのか?俺が?)

考えたこともなかった。余りに意味が分からない。しかしこれだけの危機のも関わらず強い感情を引き出せない
司馬達也は冷静に今やるべきことは何かを考える。

(……深雪……。)

心に余裕がなくなった時、真っ先に思い浮かぶのはあの美しい妹のことだった。
どうなろうと、彼女だけは守らなくてはならない。司馬達也は静かに目を閉じた。

(このヒグマの姿をした得体のしれない生物はあまりにも危険すぎる。誘拐された者まで巻き込んでしまうが、
 連中を外に出すわけにはいかない。あれを使って、この施設もろとも全てを消し去る。)


175 : 不明領域 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/03(月) 02:22:26 Vu.PwHiE0
マテリアル・バースト(質量爆散)
アインシュタインが特殊相対性理論の帰結として発表したE=mc2の方程式に基づいて
質量を光速度の二乗の倍率でエネルギーに分解する究極の分解魔法。
分解する質量が大きければ地球ごと消滅させることが出来る禁断の戦略兵器。

(それしかない、命と引き換えに奴らを殲滅する。深雪の為にも―――。)

不意に、自分の死によって心を壊して放心する深雪の姿が目に浮かんだ。

(……あ……。)

(何を考えている……正しいのか?それが本当に、深雪の為になるのか?)

(……俺は俺と深雪の日常を守る為に生きているんじゃないのか?)

幼少時、先天的な要素で二つの魔法以外が使えない司馬達也に普通の魔法を使わせるため、
彼の脳に人工魔法演算領域を植え付ける手術が行われた。手術は成功したものの、
副作用によって強い情や欲求が失われた。どのようなことになっても怒りに我を忘れることも、
恨みを持って憎しみを持つことも、非難に暮れることも、異性に心を奪われることもない。
――――――だが、妹が絡めば話は別だ。

(……駄目だ、こんな所で俺は!死ぬ訳にはいかない……!)

「う……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

既に体を半分以上捕食されながらも、強い意志と共に両目を見開き司馬達也は咆哮した。
再生が出来ないなら別の方式で生き延びる。今、新しい魔法を生み出すのだ。
そうだ、分解できるなら、再構築も出来る筈だ。ホッキョクグマに削り取られて
不足したサイオンを何かで穴埋めする。今、魔法式を―――。

危険を感じたホッキョクグマが飛びのいた次の瞬間、司馬達也の体は分子レベルで分解されて消え去った。
その様子を呆然と見るシーナーとホッキョクグマ。

「……一体なんでしょう?自分を分解したのですか?自殺ですかね?……ん!?こ、これは……!?」

シーナーとホッキョクグマが気配を感じて顔を上げると、そこには――――。



◆  ◆  ◆


地下のヒグマ帝国ではなかなか体感することは難しいが、第一放送も過ぎて時間的には朝。
そこにある小さな喫茶店の中で、一匹のエプロンを身に付けてグラスを拭く白いホッキョクグマと、
カウンターに座る小柄な緑がかった背中にファスナーのついたヒグマが炭酸水を飲みながら静かに語りあっていた。

「地上で随分同胞がやられているようだな。」
「ええ、なんだか乱入者まで現れたそうですよ。」
「……そうか。」

シーナーと共にヒグマの帝国を作る計画に加担した実効支配者の一員である二匹は
仲間の危機に憂いを感じている。ふと、カウンターに座ったヒグマが炭酸水を見つめながら呟いた。

「炭酸の泡がまるで雪のようだな。これを見ると、あの美しい少女を思い出す。」
「ふむ、それ以外はなにか思い出せませんか?彼女の名前とか?」
「いや、何も。俺は人間からヒグマになったのかもしれないが。可憐で神秘的なあの娘の姿以外は。
 だが、この娘の為に、生きることを選択したような気がする。なら、やることはあるさ。」

ヒグマは感情を感じさせない瞳で遠くを見つめ、席を立った。

死の間際、自身の肉体を空中に霧散させた後、最初の戦闘で分解して空中を漂っていたヒグマの分子で
足りない部分を補い個別情報体をもとに肉体を再構成してヒグマと一体化したことで一命を取り留め、
人間だったころの自分を殆ど忘れた司馬達也は、店の外へ向かって歩き出した。


【??? ヒグマ帝国・喫茶店しろくまカフェ/朝】

【穴持たず48(シバ)】
状態:健康、記憶障害、ヒグマ化
装備:攻撃特化型CADシルバーホーン、ヒグマのオーバーボディ
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため、危険分子を監視・排除する
0:地上に出て増えすぎた参加者と侵入者を排除する
[備考]
※外装はオーバーボディで中に司馬達也が入っています
※司馬深雪の外見以外の生前の記憶が消えました
※ヒグマ化した影響で全ての能力制限が解除されています

【穴持たず46(シロクマさん)】
状態:健康
装備:不明
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため、危険分子を監視・排除する
0:頑張ってねー
[備考]
※突然変異で生まれたホッキョクグマです
※詳細は不明ですが孫悟空を瞬殺したヒグマ以上の力を持っているようです
※現在は暇なのでヒグマ帝国で喫茶店を経営しています


176 : 名無しさん :2014/02/03(月) 02:23:09 Vu.PwHiE0
終了。


177 : 名無しさん :2014/02/03(月) 04:22:00 kEXDBMSM0
投下乙
シバさんwwパロロワ初参加でヒグマ化っておまw


178 : 名無しさん :2014/02/03(月) 05:26:29 lmSr4s4w0
投下乙です
正直上条さんみたいにズガンされると思ったけどまさかヒグマ枠とはw
流石シバさん斜め上を行くな
ところで予約にあった山岡さんは何処へ?


179 : 名無しさん :2014/02/03(月) 09:47:51 BpD4SlbMO
投下乙
出落ちに見えて何気に伏線が撒かれたような気もする


180 : ◆Dme3n.ES16 :2014/02/05(水) 00:57:23 Q7f1tLEs0
感想ありがとうございます
>>178 予約から外すことを伝えてませんでした。今回はシバさんの話で手一杯。
>>119 すみません山岡さんは朝到着です、後で直します。

バーサーカー、高橋幸児、制裁ヒグマ<改>で予約


181 : ◆wIEqTYjkiE :2014/02/05(水) 02:02:07 B8qLVOVM0
投下します


182 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:03:50 B8qLVOVM0

巨大鷲頭による突然の本州襲撃。
暴君怪獣タイラントによる大規模な津波発生。


もはやヒグマと人間(一部人外含む)との血で血を洗う抗争を百歩ほど踏み越えたようにも思える現状。
そのカオスな戦場に、新たに足を踏み入れようとする者達がここにもいた。


場所は北海道にほど近い日本海の海中。
先程の大津波の影響か逃げ惑う魚達の中を雄大な姿で泳ぐ巨大な影があった。

絶滅した首長竜・プレシオサウルスを思わせるフォルムの紫色のその巨体。
長きに渡り地球の平和を守るスーパー戦隊の37代目『獣電戦隊キョウリュウジャー』の仲間。
海の獣電竜・プレズオンである。

彼の内部から複数の声が聞こえた。
だがそれはキョウリュウジャーの面々の物ではなかった。
むしろ彼らとは色々と真逆の方向に位置する、かといってデーボス軍のように残虐非道というわけでもない一団。
彼らの名は―――――



「総統、見えてきましたよ。あれが『ドキッ!ヒグマだらけのバトルロワイアル会場』になっている島です」
「いや吉田君、そんな一昔前の夏のバラエティー番組みたいな名前付けても危険なのには変わりないから!」
「もう、いつまでもビビってても仕方ありませんよ総統。別に怪獣退治しに行くわけじゃないんですから」
「いやだって……君もあの時見たじゃろ? ヒグマというのがわしらの知る『樋熊』とは何もかも違う生物兵器
 だとも説明されたし、何だか猛烈に悪い予感がするんじゃよ〜」
「大丈夫ですって。こっちには博士や菩薩峠もいますし、何よりヒグマが暴れるなんて島根ではよくある事ですよ」

などと漫才のような会話を繰り広げる赤いコスチュームに身を包んだ二人の人物。
世界征服を企む悪の貧乏秘密結社『鷹の爪団』。
その総統(本名:小泉鈍一郎)と戦闘主任兼怪人製造主任の吉田君(本名:吉田カツヲ)である。
二人の隣には額に『瓜』と書かれたマスクをした男、白衣を着た小柄なクマ、やたら不気味な形相で紫色の顔色を
した少年といった妙な一団も控えていた。

「まあまあ、総統っちが不安がるのも仕方あるまい。なんせわしらが今から向かうのは何が起こるかわからん
 恐るべき死地なんじゃからな」

そんな彼らの会話に加わったのは、恐竜を思わせる紫色のスーツに身を包んだ男だった。

「いえドクター、総統の気が小さいのは今に始まった事じゃありませんからあまり気にしないでください。
 この間だって、布団の中に博士に作ってもらったマウンテンゴリラの剥製を入れてみたら予想以上に
 ビビって慌てふためいていたくらいですし」
「コラー吉田君! あれ入れたのやっぱり君だったのかー!! 軽くトラウマになりそうじゃからやめなさい!」

「しかしお前さんとこの秘密結社は随分と賑やかじゃのう、レオナルドっち」
「まあな、こんなのはいつもの事だ」

ドクターと呼ばれた紫のスーツの男に話を振られ、白衣のクマも人語を介して答えた。
ちなみにこのクマは有富達に作られたヒグマではない。
鷹の爪団の外部契約社員である天才科学者・レオナルド博士である。
明らかにクマみたいな外見だが本人は人間と言い張っているので人間である。


183 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:04:54 B8qLVOVM0



さて、ここで何故彼らがヒグマひしめく北海道の一島に向かっているのか説明せねばなるまい。

―――話は1週間前に遡る。


東京都千代田区麹町にある鷹の爪団がアジトを構えるアパート(家賃月額10万円)。
そこにはその日、彼らが予想だにしなかった珍客が現れる事となった(まあ普段から珍客は多いが)。

「総統! 大変です総統!」
「何じゃね吉田君そんなに慌てて。またDXファイターが昼食でもたかりにきたのかね?」
「違います! 妙なアメフト部みたいなコスプレした二人組が、博士を出せと言って勝手に上り込んだんです!」
「何じゃと〜!?」

総統が驚くと同時に、吉田君が説明した通りのどこかのミステリアスパートナーみたいなアメフト風のスーツに
身を包んだ二人組がズカズカとアジトに上り込んできた。

「ここか、宝田明が足の指を深爪団とかいう連中のアジトは」
「いや、高潮注意報団じゃなかったか?」
「鷹の爪団じゃよ! 何じゃそのむやみに難しい言い間違いは!?」
「おおそれだそれだ。おい貴様、レオナルド博士というクマはここにいるな?」
「は、博士なら今わしらの世界征服の為の新たなマシンを開発するための材料を100円ショップに買いに
 いってるから留守じゃが……それよりお前達は一体何者なんじゃ? 博士の知り合いかね?」
「(チッ、入れ違いか。おいどうする?)」
「(焦って探し回るよりここで待った方がいいかもしれん。あやつの頭脳は我々の更なる『進化』の為にも
 見逃せない要素だ。しくじる訳にはいかん)」

総統からの質問を無視して、二人組はひそひそと会話を始めた。
その様子にさすがに総統もこのコンビを訝しんだ。

「おい、聞いておるのかね?」
「あぁ? ちょっと黙っててくれんか。こっちは今大事な話を――――!?」

呼びかける総統に乱暴に対応する二人の片割れだったが、次の瞬間目を丸くした。
何と自身の身を包むコスチュームがピキピキとひび割れはじめたのである。

「ゲェーッ!? 何故オーバーボディが!! ……ムゥッ!?」
「………」

ふと周りを見渡すと、何やら紫色の顔をした少年がこちらに両手を向けていた。
その少年が何か不可視の力を働かせている事を直感的に彼は感じ取りうろたえる。

彼の名は菩薩峠君。
鷹の爪団のお友達感覚の団員であり、その正体はその気になれば地球の自転を逆回転させ、北海道と九州の位置を
入れ替える事すら朝飯前という怪物クラスのエスパー少年なのである。

「ど、どうしたんじゃ菩薩峠君!」
「そ、総統、見てください!!」
「な、何じゃこれはーっ!?」

総統と吉田君は目の前の光景に目を疑った。
男の来ていたオーバーボディという名のコスチュームは完全に粉砕され、その中から出てきたのは人間―――
否、断じて否!
その巨体と毛に覆われた肉体、これはまさしく――――

「うわぁーーーーっ!! 熊じゃーーーっ!?」
「しかも博士みたいなビジュアルじゃありません! ガチのリアル熊ですよ!!」
「グムーッ、ば〜れ〜た〜か〜。まさかこうもあっさり正体を見破られるとは」
「仕方あるまい。見られたからには実力行使あるのみ!」

更にもう片方の男もオーバーボディを脱ぎ捨て真の姿を現した。

「ひぇ〜っ、こっちも熊じゃ〜! しかも2匹とも喋ってる〜!!」
「お前ら、本当に一体何者なんだ!?」
「それを貴様らが知る必要はない。何故なら貴様らは今ここで死nウボァァァァァァァァァ!?」
「あ、穴持たず58号ーーーーッ!?」

台詞をすべて言い終える前に、穴持たず58号と呼ばれた熊は悶絶した。
菩薩峠君名物、相手の背骨をご丁寧に二つ折りにする超能力を食らってしまったのである。
流石にヒグマと言えどこれには素で耐えられなかった。

「今じゃ吉田君、逃げるんじゃ!」
「言われなくてもスタコラサッサですよ!」

その隙に総統は吉田君達と共にアジトから一目散に逃げ出す。
ちなみに菩薩峠君と、ここまで台詞はないがさっきまで近くにいた戦闘員のフィリップも一緒である。

「だ、大丈夫か58号!? 傷は深いぞ、ガッカリしろーっ!!」
「ゴヘハッ……た、頼む59号……俺が死んだら俺の檻に置いてある蜂蜜壺を貰ってくれんか……あれはいいものだ……」
「馬鹿者! 無駄に死亡フラグ満載の台詞なんか吐くんじゃない!」
「な……何だか熱いなぁ……かき氷が喰いたいぜ……キンッキンに冷えたやつが……ガクッ」
「58号ーーーーーっ!?」


184 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:07:06 B8qLVOVM0
などと二匹がやり取りしている間に、鷹の爪団一同はとある路地裏へと避難していた。

「ここまで来ればなんとか大丈夫じゃろう。それにしても何だったんじゃあの熊は?」
「博士を探していたみたいですけど、あの空気は明らかに知り合いじゃありませんよきっと」
「とにかく今は博士と合流して事の真相を確かめねば……」
「俺がどうしたって?」
「あっ、博士!」

噂をすれば何とやら。
100円ショップの買い物袋片手に当のレオナルド博士が背後から姿を現してくれた。

「ちょうどいい所に来てくれたわい博士。実は今妙な二人、いや二匹組がアジトに来てな―――」
「わかってる、ヒグマ共が来やがったんだろ。そろそろ来るんじゃないかと思ってた所だ、オラッオラッ」
「ええっ? 博士、何で知ってるんじゃ!?」
「そいつは―――」


ドゴォォォォォォッ!!

博士が口を開きかけた瞬間、突如として総統達のいる地面からドリルのように回転する何かが飛び出してきた。
先ほど撒いてきたと思われたヒグマ、穴持たず59号である!

「見つけたぞ貴様ら―ッ! 58号の仇ーッ!」
「ひぇぇ〜っ、もう追ってきた〜!!」
「ていうか地面から回転して穴掘って出てくるとか、本当に熊なんですかこいつ!?」
「……遂に来やがったかヒグマ。いや『HIGUMA』と呼んだ方が正しいか?」
「……我々の正式な通称を知っているとは流石だな、レオナルド・デカ・ヴィンチ博士」
「お前達の目的はだいたい把握してる。悪いが俺はそんな馬鹿げた計画に付き合うほど暇じゃねえ。第一俺が
 協力した所で最終的にはどうなると思ってやがる? 終わりのない進化という名のジェノサイドを味わうのは
 お前らだぞ? それでもいいのか?」

慌てふためく総統達に対して、博士はつとめて冷静にヒグマに話しかけた。
内容からしてどうやらこのヒグマの目的を理解しているらしい事は伺えた。

「フッ、悪いがそいつは俺の一存では決められないんでな。俺があやつから受けた命令は貴様を拉致してくる事
 のみ。後の事は知らんわ」
「お前の親玉は今どこにいる?」
「答える義務はない。それと横の貴様ら、抵抗しても無駄だ。俺を58号のように始末した所で第2、第3の穴持たずが
 こいつを捕まえに来る事だろう。それも総力を挙げてな」
「ええーっ!? お前みたいなのがまだ何匹もおるのかー!?」
「さて、お喋りはここまでだ。おとなしく俺と共に来てもらおうか博士?」

穴持たず59号は最後にそう告げ、鋭い爪を光らせながら博士たちに近寄る。

「どうするんですか総統? こいつの言ってる事が本当なら、僕達猿の軍団ならぬ熊の軍団に目をつけられた事に
 なりますよ?」
「というか吉田君、何でわしの背中を押すんじゃ! むしろ身代わりにするならフィリップの方じゃろ!」
「あっ、それもそうですね。フィリップなら死んでも幽霊と人間をすぐに切り替えられますし」
「ええっ!?」

と、総統達が色々と酷い事をフィリップに言い放っていた、その時である。


185 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:07:33 B8qLVOVM0

「獣電ブレイブフィニッシュ!!」
『バモラムーチョ!』

「グロガァーッ!?」


後方から聞こえてきた声と電子音と共に、一条の光線が59号の背中に命中したのである。
これにはたまらず59号ももんどり打って地面に転がるしかなかった。

「な、何じゃ今のは!?」
「総統、あそこです!」
「……どうやら間に合ったようだな、ドクター」

見るとそこには、紫色のコスチュームに身を包んだ謎の人物が黄色い銃を手に佇んでいた。

「な、何者だ貴様は!?」

「地球の海は俺の海ッ! 宇宙の海も俺の海ッ! 海の勇者ッッ!
 キョォォォォォォウリュゥゥゥゥゥゥゥウ!! ヴァァァァァァァァァァァイオレットォォォォォォォォ!!」

59号に名を問われ、謎の男は高らかにそう名乗りを上げた。
そのあまりのテンションの高さに、周りにいた面々はただただ気圧されるばかりであった。

「キョウリュウバイオレットじゃと?」
「何なんですかね、あの千葉繁みたいな声のヒーローっぽい人は?」
「いや吉田君、あってるけどメタな事言うんじゃないよ!」
「待たせたのうレオナルドっち、こっちの準備は整った。急いで離脱するんじゃ!」
「ありがとよドクター。おいお前ら、急いであいつの後に続け! 早くしろ! オラッ!!」
「ムム〜ッ、何だかよくわからんが、ここは博士の言う通りにした方がよさそうじゃな……」
「そうですね、行きましょう総統!」

とにかく目の前のヒグマから逃げるため、総統達は急いで博士の後に続いてその場を離れる。
だがそれを黙って見逃すヒグマではない。

「待てぇーっ、逃がさんぞーっ!!」
「そうはいかん。悪いがお前さんはご退場願おうか。ブレイブイン!」
『ガブリンチョ! オビラップー! プ〜ン!!』

するとバイオレットはすかさず腰のバックルから取り出した電池を銃にセットし、銃後部をヒグマに向けた。
この電池の名は獣電池№17『オビラップー』。
オビラプトルの特性を持つガーディアンズ獣電池であり、その能力は強烈な催涙ガスを噴射して敵の戦意を喪失
させる事である。

「おわぁ〜〜〜〜〜っ、くっさ〜〜〜〜〜〜〜!!」

あまりの匂いに悶絶しながらのた打ち回る59号。
人間より数倍五感が発達したヒグマだけに感じる匂いも数倍なのだから仕方ない。
そして気付いた時には、その場には彼らの姿は完全に消え去っていたのだった。


186 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:08:41 B8qLVOVM0
HIGUMA計画じゃと? それが奴らの目的なんじゃな、Dr.ウルシェード?」
「やっぱり千葉繁じゃなかったんですね」
「よく似てると言われるわい。まあそれはさておき、奴らの計画はさっきも軽く説明した通りじゃ。
 スタディという組織が行っとるそのプロジェクトのせいで、今世界中から様々な人物が無作為に拉致され、
 奴らの生み出した『ヒグマ』という名の生物兵器の実験のモルモットにされようとしておる。わしは連中の
 計画を察知して密かに調査を進めておったんじゃが、その結果レオナルドっちも狙われている事を知って
 駆け付けたという訳じゃ」

鷹の爪団の面々に事のあらましを説明するのは、先ほどの戦士と同じ声の老人。
彼こそかつて獣電戦隊キョウリュウジャーの9人目、キョウリュウバイオレットを務めていた人物である科学者、
Dr.ウルシェードその人なのである。
現在は彼の孫娘である弥生ウルシェードに2代目バイオレットの役目を引き継ぎキョウリュウジャーの後方支援に
徹している彼だが、今回再び動かざるを得ない理由ができ、こうして活動している。
先日キョウリュウジャーの基地であるスピリットベースより、ガブリボルバー一丁と獣電竜アンキドンの獣電池が
紛失するという事件が突如発生したのだ。
デーボス軍の仕業ではない事が調べにより分かった後、ドクターは獣電池が紛失した期間と世界各地の拉致事件の
期間が一致する事に気が付き、歴代のスーパー戦隊のネットワークも駆使して今回の事件の黒幕に行きついたのである。

「奴らの目的からいって、レオナルドっちの『プロメテウスの宮殿』を狙ってくるのは必然じゃったからな。
 正直間に合って助かったわい」
「ところで博士、ドクターとは知り合いなのかね?」
「ああ。歌舞伎町の居酒屋で知り合ってからダチになってな。今回の事も既にドクターから連絡済だったぜ」


ここで補足しておこう。
レオナルド博士の持つ『プロメテウスの宮殿』とは、博士の頭脳に存在する『必要な時に必要な知識を与える』
という叡智の泉とも言うべき物であり、かつてはこれを狙って博士自身が狙われた事もある。
この宮殿の知識により、博士の実家であるヴィンチ家は自動車から携帯、布団圧縮袋の開発まで文明の発達に
代々寄与してきた。
博士自身もこれまでに、カレーライスからスクーターを、粗大ゴミから量産型ロボットを、100円ショップの
商品から宇宙船を、昨日のご飯の残り物から駆除不可能なPCウィルスを、ティッシュペーパーから原子炉を、
しまいには土星を材料に超弩級の大型ロボット(CV:大山のぶ代)を作り出すというもはや錬金術レベルの
チート染みた発明を生み出し続けている。
もっともこれだけの科学力を味方につけていながら、鷹の爪団は未だに世界征服できていないというおかしな
状態ではあるのだが……


「さて……鷹の爪団の諸君、わしから折り入って頼みたい。奴らのHIGUMA計画を破壊するため、どうか
 力を貸してはくれんか?」
「いや、事情は理解したんじゃが……ドクター、一応断っておくが、わしらは世界征服を企む悪の秘密結社なん
 じゃよ? ヒーローの側にいるあなたがわしらに協力を求めてもいいんですかな?」
「そうですよ。それにドクターの仲間のキョウリュウジャーには頼めないんですか?」

ドクターからのまさかの頼みを聞き、至極もっともな疑問を総統と吉田君はぶつけてみた。
当たり前である。
どこの世界に悪の秘密結社に堂々と協力を求めるヒーローがいるのか。

「何を言うとるか。鷹の爪団の事はレオナルドっちから隅々まで聞き及んどるわい。お前さん達が何のために
 世界征服をしようとしておるかも含めてな。それに今キョウリュウジャーもデーボス軍との戦いに手一杯で
 動けんから、こうしてわしが出張っておるんじゃ。それとわしがお前さん達、特にレオナルドっちに協力して
 ほしいのは……こいつを完成させる為じゃ」


187 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:09:20 B8qLVOVM0
そう言ってドクターが取り出したのは一枚のディスクだった。

「こいつはわしが開発したデーボス細胞破壊プログラムをアレンジするための基盤じゃ。こいつを基に今から
 『ヒグマ細胞破壊プログラム』を新たに作り出す!」
「ヒグマ細胞破壊プログラムじゃと? そんな物が作れるのか?」
「連中の細胞を構成する要素解析と、猛烈な進化スピードを更に上回る細胞破壊酵素のパワーさえ満たせれば理論上は
 十分可能じゃ。それにはまずヒグマの細胞が欠片でも必要なんじゃが……」
「それならもう既に手に入れてあるぜ」
「ええっ、一体いつ手に入れたんですか博士?」
「さっきヒグマが撃たれたドサクサに紛れて、奴の鼻毛を数本抜きとっておいたぜ! オラッ!」
「うわぁっ、しかも7本も抜いてある! 想像しただけで痛そう!」

ここまでのやりとりを見ていた総統は、おもむろにドクターに向き直った。

「ドクター、このプログラムが完成すれば、あのヒグマとやらを倒す事はできるんじゃな?」
「完全な補償はできんがな。もしヒグマの進化のスピードがプログラムを上回っておればその時は……」
「……わしは決めたぞ吉田君。これより鷹の爪団は、スタディのHIGUMA計画を阻止するためにドクターに
 全面協力するぞ!」
「ええっ、本気ですか総統!?」
「ドクターにはわしらを助けてもらった恩がある。何より連中の非道な計画を見過ごすわけにはいかん!
 それにわしらはこれより上の修羅場に何度となく首を突っ込んで、知らないうちにどうにかしてきたではないか。
 今回だってきっと何とかなるわい!」
「総統……」
「……そう言ってくれると思っておったわい。よろしく頼むぞ総統っち!」
「いやドクター、総統っちって……」
「何だかたまごっちのパチモノみたいですね」
「しかし……問題がまだ一つある」

そう呟き、ドクターは顎に手を当てて吉田君の方に顔を向けた。
問題はこのプログラムを完成させるまでの時間である。

「吉田っち、本当にここなら奴らに見つからないんじゃな?」
「任せてくださいドクター。この場所なら絶対に奴らにも気づかれませんよ」
「まあわしらもこれまで何度となくこの場所に潜伏した事がある、問題はあるまい」



島根県雲南市吉田村。
現在鷹の爪団が潜伏している、吉田君の故郷である。


総統達はヒグマからの追撃をかわした後、吉田君の提案でこの地へと隠れ潜んでいたのである。
ちなみにここまでの移動は以前博士が開発した、どこからでも一瞬で島根へと移動する事が可能なスマホアプリ
『ドコデモ島根』を利用して行ったためほぼ確実に足はついていない。


188 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:09:47 B8qLVOVM0

その頃、後にロワ会場となる島では。
穴持たず59号がスタディ研究員にしぶしぶ連絡を取っていたのだが。
「何ぃ〜? 奴らを見失っただと!?」
「穴持たず№59、貴様ちゃんと探したのか?」
『も、もちろん探した。しかしどこを探しても奴らは見当たらん、もしかしたら日本にはいないのかも……』
「この役立たずが! 後は我々が探す!レオナルド博士を見つけるまで貴様は帰ってこんでいい!」
『そ、そんな! 待ってくれ〜!!』

その後彼らの全力を持ってレオナルド博士達は捜索されたが……
ヒグマロワイアル開始までの間に遂に博士は発見できないままであった。


「まさか本当に見つからんとはのう……」
「当たり前ですよ。島根県と言えば『日本一どこにあるのか分からない県』として有名ですから」
「おかげでプログラムは完成したぜ、オラッオラッ」



そして1週間後、ヒグマロワイアルが開始して最初の朝を迎えた頃。
鷹の爪団とDr.ウルシェードを乗せた獣電竜プレズオンは、一路日本海から北海道を目指していた。
本来なら大気圏内外を飛行できるプレズオンなのだが、空中からの迎撃を視野に入れたドクターの提案により
海中から侵入する事となった。
元々プレズオンは海の獣電竜、むしろ本来の庭で活動するも同然なので、行動には一切支障はなかった。

「弥生からの連絡によると、どうやら日本政府もようやく重い腰をあげてエージェントを数名送り込んだらしい。
 キョウリュウジャーも目的の島から現れた謎の巨人と交戦中だそうじゃ」
「ドクターも言っておったが、本当に何が起こるかわからんぞ、この戦いは……」
「さっきも急に津波が起きたりして、危うく死ぬかと思いましたよ」

いい加減目的地も近づいてきた所なので、総統も腹をくくった様子で団員たちに向き直る。
恒例のアレをやるつもりなのだ。

「鷹の爪団の諸君! これよりわしらはヒグマ達の巣喰う島へと向かい、連れ去られた人々を救出し、ヒグマ達を
 退治に向かう! 何が起こるか本当にわからんから、気を引き締めて行くんじゃー!
 た〜〜か〜〜の〜〜つ〜〜め〜〜」
『た〜〜か〜〜の〜〜つ〜〜め〜〜(オラッオラッ、イシクラッ)』


189 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:10:13 B8qLVOVM0
幸い襲撃に会う事も無くプレズオンは島の西側の崖下に設置し、総統達は周囲をサーチした映像を見ながら
方針を練る事にした。

「見てください総統、さっきの津波のせいで島中が水没しちゃってますよ?」
「んん〜っ、何という事じゃ。これでは果たして何人生きているかもわからんぞ?」
「ついでにヒグマも溺れてくれれば助かるんですけどね」
「それはないじゃろう。普通の熊はカールルイスより速く走り、木登りを得意とし、さらには泳ぎも達者という
 万能選手。まかり間違ってもヒグマにそんな個体はそうおらんじゃろうな」

吉田君の淡い希望にそう付け加え、ドクターはサーチ結果を見ながら言葉を続けた。

「……どうやらこの島一帯に、巨大な物体を縮小させてしまう謎の干渉波が張り巡らされているらしい。これでは
プレズオンで内部に突入するという手は使えんな」

彼らは知らなかったが、これまでの戦いにおいて怪獣や巨大ロボットはすべからく人間大の大きさに縮められて
しまう制限をかけられていた。
迂闊に突っ込んでいたら、参加者であるイエーガーのパイロット達と同じような状況に陥ってしまう所だった。

「総統っち、すまんがわしはここでプレズオンと待機する事にする。島の中の事はお前さん達に任せたぞ」
「ええっ? 一緒に来てくれないんですか?」
「わしがここを離れたら、脱出の綱であるプレズオンに何か会った時対応できんじゃろ。わしも通信でできる限り
 サポートする。レオナルドっち、中の事は頼んだぞ?」
「任せておけ、ヒグマ細胞破壊プログラムはスマホから常にアップデートできるようにしてある。準備は
 万全だ!」

博士は腰に自分用のガブリボルバーをセットしてドクターにそう答える。
既に開発済みの破壊プログラムはプレズオンとリボルバーにそれぞれインプットしてあるため、大小いかなるヒグマにも
対応できるようにしてある。
後は自分達が内部で上手く立ち回れるかだが―――

「吉田君! ヒグマ対策用に用意しておいた蜂蜜が、なんで水飴になってるんじゃー!」
「すみません、あまりにもおいしそうだったんで、つい全部舐めてしまって、代わりに詰めときました!」
「あれほど『つまみ食いするな』と念を押しておいたのに、なんで食べちゃうんじゃ!」
「だって総統があんまり食べるな食べるなと念を押すもんだから、てっきり食べてほしいのかと思ったんですよ!」
「芸人の熱湯風呂の前フリじゃないんだから! ガチじゃよ!」

「(このバカ共じゃ期待できねぇな)」

こいつらは何をやらかすかわからない。
毎度の事ながら、そう思う博士であった。



【海上外・西側崖下/朝】
【Dr.ウルシェード@獣電戦隊キョウリュウジャー】
状態: 健康、キョウリュウバイオレットに変身中、プレズオンに搭乗中
装備:ガブリボルバー、ガブリカリバー
道具:獣電池(プレズオン)×3、ガーディアンズ獣電池×数本(内容は不明)
基本思考:殺し合いを止め、参加者を助け出す
1:外部から鷹の爪団をサポートする
2:謎の干渉波をどうにかせんとなぁ……
3:巨人と交戦中のキョウリュウジャーも心配
[備考]
※プレズオンが島の西側の崖に待機しています。
※プレズオンにはレオナルド博士とDr.ウルシェードの競作『ヒグマ細胞破壊プログラム』が搭載されています。

【ヒグマ細胞破壊プログラムについて】
・デーボス細胞破壊プログラムを基盤としてレオナルド博士が開発した対ヒグマ用プログラムです。
・ヒグマの進化スピードを超える数倍のスピードでヒグマ細胞を分解し、完全に生命活動を停止させるように
 作られていますが、プロトタイプの為場合によっては通用しないかもしれません。
 ただしレオナルド博士の持つスマホからのデータ更新により随時強化は可能です。


190 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:10:38 B8qLVOVM0
数分後。
Dr.と別れた鷹の爪団一行は、なんとか崖を登って会場内に潜入成功した。
だがあたりは見渡す限り水浸し。
とてもまともに行動できる状態ではなかった。

「どうします総統? これじゃ参加者を探すどころじゃありませんよ?」
「ムム〜ッ、博士、この水没した海上を移動するための船とか何かを作ってはくれんか?」
「そう言うだろうと思って、もう既に作ってあるぜ」
「流石博士、天才すぎー!」


ババーン!


「水上移動用小型船舶型メカ『鷹の丸』だ!!」
「って博士、これどう見てもただのイカ釣り漁船にしか見えんぞ!」
「そう見えるのは外見だけだ。船体は特殊合金で覆われ、迎撃用魚雷やヒグマ探知レーダーも搭載。さらに
 内部はリビング・キッチン・バス・トイレ完備、収納スペースは50か所以上の快適空間だ!」
「素敵!こんな船に住みたかった!」
「1週間前に買ってきた100円ショップの材料で作ったぜ!」
「よし、ならばこの船に乗って、生き残った人々を、助けに行くんじゃー!」

と、総統が号令をかけた時である。



たすけてくれ〜〜〜 たすけてくれ〜〜〜



どこからともなく、誰かの救いを求める声が聞こえてきたのだ。
まるで親友に顔面をぶち抜かれ、悪魔騎士に内部に侵入されたロボ超人のような声である。


「何じゃ、今の声は?」
「そ、総統、あそこを見てください!」
「ムゥッ、あれは!?」

吉田君の指差す方向を見た総統の視界に入った物は――――


大型の流木にまたがり枝をオール代わりにして漕いでいる黒い熊と。
同じく流木にしがみつき、なんか頭にアンテナが刺さり口に釣り針を引っ掛けて助けを求める熊だった。
どうやらこの2匹は、先ほどの津波から辛くも逃れて生き残っていたようだ。


「あ……あれは熊本県のゆるキャラ、くまモンではないか!」
「なんか後ろにAAみたいな変な熊も引き連れてますね」
「ま……まさかゆるキャラまで殺し合いに参加させられているとは……吉田君、とりあえずあのくまモンと
 接触してみるんじゃ!」
「どうする気ですか総統? まさかくまモンに島根県のゆるキャラとして鞍替えしろとか言いませんよね?
 駄目ですよ、島根には既にしまねっこ、い〜にゃん、活イカ活っちゃん、あしがる君といった人気者が
 いるんですから!」
「いやいやそういう事じゃないから! くまモンもきっと巻き込まれたうちの一人のはずじゃから助けて
 話を聞こうというんじゃよ!」

などと言いつつ、総統達は急いで鷹の丸に乗り込み、くまモンとの接触を試みようとエンジンを起動させた。


191 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:11:36 B8qLVOVM0
―――超展開ってレベルじゃないモン。
そう思いながらくまモンは懸命にオール代わりの枝で水面をかき分けた。
場所を移してクマーから話を聞こうと思い、移動していた矢先にとんでもない事態が起き続けた。
火山から巨大な人間が出てきたかと思ったら、今度は島中が突如津波に襲われるという未曽有の展開。
こんな状況では穴持たず達との戦いもへったくれもない。
あげくに後ろに控えている熊は偶然同じ流木にしがみついたものの「俺はハンマーなんだ〜!」と弱弱しい声で
ビビって助けを求める始末。
―――それを言うならカナヅチだモン。
そうツッコみつつ現在に至る。


そんな中、くまモンの視界に入る者が一つ。
何やら赤い服を着た中年の男の率いる一団が船に乗ってこっちに向かってきている。
彼らも参加者なのだろうか?
何やら白衣を着たクマも傍らに控えているが、彼も穴持たずなのだろうか?
疑問は尽きないが、この状況ではとにかく足がつく陸地を探すのが先決。
彼らが何者であれ、まずは対話をせねば話は始まらない。
後ろにいる奴の処遇は追々どうにかすればよいだろう。


そう思いつつ、くまモンは近づきつつある彼らに手を振ったのだった。


彼らとの出会いが果たしてどういった結果を生むのか――――



【B-7/朝】
【くまモン@ゆるキャラ、穴持たず】
状態:健康、ヒグマ、流木にまたがって移動中
装備:釣竿@現実
道具:基本支給品、ランダム支給品0〜1、スレッジハンマー@現実
基本思考:この会場にいる自分以外の全ての『ヒグマ』、特に『穴持たず』を全て殺す
1:あの一団(鷹の爪団)と接触してみる。
2:ニンゲンを殺している者は、とりあえず発見し次第殺す
3:会場のニンゲン、引いてはこの国に、生き残ってほしい。
4:なぜか自分にも参加者と同じく支給品が渡されたので、参加者に紛れてみる
5:ボクも結局『ヒグマ』ではあるんだモンなぁ……。どぎゃんしよう……。
6:メロン熊は、本当にゆるキャラを捨て去ってしまったのかモン?
7:とりあえず、別の場所に連れて行ってクマーの話を聞くモン
8:あの少女は無事かな……

※ヒグマです。

【クマー@穴持たず】
状態:健康、アンテナ、釣られ、ビビり
装備:無し
道具:無し
※鳴き声は「クマー」です
※見た目が面白いです(AA参照)
※頭に宝具が刺さりました。
※ペドベアーです
※実はカナヅチでした


192 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:11:59 B8qLVOVM0
【総統@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸に搭乗中
装備:なし
道具:なし
基本思考:参加者達を助け、殺し合いを止める
1:くまモンと接触するんじゃ!
2:他の参加者達を探し、救助する


【吉田君@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸に搭乗中
装備:なし
道具:水飴入り壺、リモコン(フィリップの人間と幽霊切り替え用)
基本思考:参加者達を助け、殺し合いを止める
1:とりあえずくまモンを助ける
2:でもやっぱりしまねっこの方が可愛いよな


【レオナルド博士@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸を操縦中
装備:博士用ガブリボルバー(ヒグマ細胞破壊プログラム内蔵)
道具:スマホ、工具一式
基本思考:殺し合いを粉砕し、ヒグマをぶっ潰す
1:くまモンを助けて話を聞く
2:ヒグマの戦闘力が気になる

※どう見ても見た目クマですが、ヒグマではありません。
※材料さえあればほぼ何でも作れますが、ヒグマを直接的に破壊する発明はデータを収集しないと作れません。


【菩薩峠君@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸に搭乗中
装備:なし
道具:なし
基本思考:総統達に着いていく
1:パパ……


【フィリップ@秘密結社鷹の爪】
状態:健康、鷹の丸に搭乗中
装備:マイク
道具:なし
基本思考:殺し合いを止め、参加者を助ける
1:くまモンを助けて話を聞く
2:何だか猛烈に嫌な予感がする



※水上移動用小型船舶型メカ『鷹の丸』について
・見た目はただのイカ釣り漁船です。
・船体は特殊合金で覆われ、迎撃用魚雷やヒグマ探知レーダーも搭載。さらに
 内部はリビング・キッチン・バス・トイレ完備、収納スペースは50か所以上です。
・他にも何か機能があるかもしれません。


193 : 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 :2014/02/05(水) 02:14:37 B8qLVOVM0
投下終了です。
ヒグマロワと聞いて博士を出さないわけにはいかなかったので出してしま
ったw
というか対主催勢に頭脳派があんまりいないのでw


194 : 名無しさん :2014/02/06(木) 00:10:49 HMFwYots0

既に会場の上の方は海洋ロマンになってるな、そういえば妄想ロワでカイオーガを仕止めたことがあったな穴持たず


195 : ◆Dme3n.ES16 :2014/02/06(木) 01:06:29 aNJN.2ZA0
予約にホオジロザメを10匹追加します


196 : 名無しさん :2014/02/06(木) 17:11:08 tNFvfq5I0
そういえば◆wgC73NFT9I氏の予約はどうなったのでしょう?
今日で一週間なので、もしも延長が必要なら申請した方がいいかと。


197 : ◆wgC73NFT9I :2014/02/07(金) 00:37:42 zUhnDn2A0
失礼、期限超過をしています。
申し訳ありませんが、予約を延長させていただきたく思います。
皆さんの投下への感想、また、拙作へのご意見へのお返事などもその後になってしまうかとおもわれます。
なにとぞご了承くださいませ。


198 : ◆xDsxCdlKmo :2014/02/07(金) 04:18:50 uL84DQKw0
総統、吉田君、レオナルド博士、菩薩峠君、フィリップ、くまモン、クマー、その他ヒグマ
自己リレーですが右京さん、クマ吉くん予約します


199 : ◆Dme3n.ES16 :2014/02/07(金) 23:49:58 Sy/vcCEU0
天龍、島風、銀、ヒグマに予約変更します


200 : 名無しさん :2014/02/08(土) 10:08:39 EGccVGMk0
ソチ五輪のマスコットのホッキョクグマ見るとシバさんが負けるのも頷ける


201 : 名無しさん :2014/02/08(土) 22:58:14 AK2t175c0
何人か殺した目をしてるもんなソチ五輪のホッキョクグマ


202 : 名無しさん :2014/02/08(土) 23:09:23 EQIrBIUk0
ソチ五輪って一体何なんだ……?


203 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/02/08(土) 23:13:23 znhoEa.2O
あー……申し訳ない。
今日が予約の期限ですが、まだSSが完成していないので予約を破棄します。
SSを書くのは続けるので、完成した際に予約がなければ投下させていただきます(その場合は遅くても月曜には仕上げたいです)。


204 : ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 13:45:52 Ee3abt2I0
ひとまず感想です。

>特命
 『現在の世界』から劉鳳さんが来ちゃったか……。つまり横浜近郊から首都圏はロストグラウンド化しちゃってるんですか……!?
 学園都市とか鷲巣様、大丈夫かしら……? というか、今、会場にいるカズマは『現在の世界』のカズマなの?
 改めて思うけれど、別世界とか違う時間軸から連れられてる人も多いと思うのでそこまで大問題になるほど人数さらわれてるのか……?
 杏子とか世界改変後らしいから明らかに別世界だし……。
 というか、今、冬!? 冬なの!? 夜間に凍死者出てもおかしくなかったぞそれだと!? 本当にそうなの!?
 地上の気温とか積雪とか氷混じりの津波の被害とか、凄まじいことになってる気がするんですけど大丈夫ですか劉鳳さん!?
 状況を鑑みるに、地球温暖化とか言ってる劉鳳さんがちょっとずれてるだけであってほしい!!
 クマ吉くんは、まあヒグマとしていたのは良いとしても……ニャン美ちゃんとうさ美ちゃん喰って、ずっとさまよってたのか……?
 よくまあぬけぬけと犠牲者面できるものだな。
 あと右京さん、今の日本で、クマって逮捕できるんでしょうか……。
 結晶体さんも、帰りたいなら早いところ帰ってくれれば良いのに……。
 そして黒子が登場話死亡……! 黒子を失ったことを知ったら、超電磁砲組はどんな反応になってしまうんだろうなぁ……。

>海上の戦い
 流子の見たフォーメーション組むヒグマは何気に気になるな……。
 で、なんでお台場から北海道まで船が流れてきてんですかー!?
 南過ぎでしょう!? 北からだけじゃないのね!? 全方位から島を目掛けて津波が来てんのね!? なんなんだ暴君怪獣!?
 で、ヴァンさんはどうしてそこにいるの!?
 うん、冬季だったら、泳いできた流子と迅さんの凍えようは相当なものだと思いますけれど……。どうなんだ……。
 そしてお台場ガンダムって性能はいかがなものなんだ? ミノフスキー粒子は? 縮小されているようでもあるし……。
 流子の突っ込めなさがよくわかりますね……。
 迅さんは安定のいつもどおりですね。そのまま健やかに過ごされてください。

>不明領域
 恐ろしい人間が恐ろしいヒグマになったんですね……。切なさも漂って、いいなぁこういうお話。
 シーナーさんとシロクマさんはいったい何で構成されていたんでしょうか……?
 シバさんたち実効支配者のこれからにとても期待が持てますね!!

>鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編
 穴持たず59頑張れ……。めっちゃ頑張れ……。
 うん、ヒグマ細胞破壊プログラムは、有冨さんの残したデータ復旧すれば、割とすぐに完成できそうですね。手に入れば。
 うん、そして西側も水没か!! 完全に全方位津波だな!! どうしろと!!
 だれか普通に溺死したり、普通に高台で生存した人はいないんですか!?
 なんで北海道の極寒の津波をナチュラルに泳いだり避け損ねたりしてるんだ参加者とヒグマ勢!?
 もうちょっとバトルロワイアルしようよみんな!?
 この接触が、いい方向に転がってくれることを切に願います!!


205 : ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:12:05 Ee3abt2I0
>>139
 ご指摘ありがとうございます。自分も、ここはカズマにとって重要な点であると思っていました。
 ご指摘の点は、カーズが蹴り上げた杏子の死体を、カズマが攻速のシェルブリットを停止させてまで受け止めたところ、ですよね?

 カズマは、原作アニメの描写を見るに、確かに対立浪戦でも対来夏月戦でも、人質を取られても戦っています。
 しかし彼は両方とも、あやせは君島の援護射撃で脱出した後に攻撃、かなみはキャッチして安全を確保と、人質の無事も加えて保障しています。
 さらに彼は、君島の遺品の車をHOLYから取り戻すためだけに凶行に及んだり、シェリスの死を悲しむ劉鳳によりそったりしています。
 決して、人質や死者、遺品をないがしろにするような人物ではないと思われます。

 今回の場合、カーズは、確かに今まで人質(杏子の首)をとっていました。
 そして、カズマは、杏子を傷つけないようにしてカーズに攻撃を加えています。
 しかし問題の瞬間は、カーズは杏子の肉体を、人質ではなく飛び道具兼盾としてカズマの突進ラインにぶつけてきています。
 カズマのシェルブリットはお世辞にも精密動作性は高くなさそうです。
 回避してカーズだけ叩くという芸当はカズマにはできないでしょうし、杏子の肉体(=遺品)を破壊し・威力減衰をさせてまでカーズを殴りにいく行動は取らないと。
 遺品を確保しつつ、まだまだある次の攻撃のチャンスを狙うのが、彼であると思いました。倒れても前のめりですから。
 瀕死のリサリサ先生の脚をリュートにしたり、ジョジョの苦痛の叫びに陶酔したりするようなゲスなお方とは違うと思った次第です。
 死体を弄んでしまったら、そのゲスなお方と同レベルの存在になりさがってしまいます。

 出会って何時間とか関係なく、他者の思いを尊重しつつ我を通す姿があるからこそ、カズマは憧れの対象になるのではないかと、私は思っています。

 重ね重ね、拙作に貴重なご意見をありがとうございました。また、何かありましたらよろしくお願いいたします。


予想外の津波の状況に、大幅に書き直しを行い遅れましたが、
今回の予約分を投下いたしたく思います。


206 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:18:32 Ee3abt2I0
「布束特任部長が、私の作業を生きて手伝って下さるなんて夢のようです。
 と、ヤイコは感動します」

 破壊し尽くされた研究所の一角で、一頭のヒグマと一人の少女が、幾本もの配線が通う、壁面の裏に頭をつっこんでいた。

「You think so? そう言ってもらえるなら、生き延びた価値もあるわね」
「反乱までは帝国内で隠れているしかなかったので、布束特任部長の人柄を聞き及んでもお会いできませんでしたから。
 やっとあなたに会えたのは僥倖です」

 顔を部屋に引き戻したヒグマは、子熊のように小さかった。隣の少女の肩くらいまでの背丈しかないだろう。
 見ようによれば、あたかもクマのぬいぐるみが喋っているかのようだった。
 少女は壁の穴の中で作業を続けながら話を振る。

「……穴持たず81だったかしら、あなた。なぜヤイコって言う名前をつけたの?」
「乾電池の発明者は、ヤイ・サキゾウという方らしいですね。
 ヤイコの能力とも繋がりがありましたので、名前をとらせていただきました。
 と、ヤイコは自己の起源を偉人に求めます」
「I see, 『欠陥電気(レディオノイズ)』ね……。
 あなたは、この技術で先立って生まれた、『妹達(シスターズ)』の特徴を色濃く受け継いだのかしら」
「ヤイコはシーナーさん方が作って下さった初期のヒグマですので、ホルモン調節が上手くいかず、この程度の体格で成長が止まってしまいました。
 しかし、むしろこの体格と能力のお陰で役割があるのです。
 と、ヤイコは制作された自身に誇りを持ちます」

 小さなヒグマは、自身の毛先からぱちぱちと電気の火花を散らし、配線の通電を確認していた。
 少女が内部でその様子を目視し、断線部分を引き出して繋げていく。

「……Excellent, これで復旧は完了。あなたのお陰でとても早く終わったわ。
 ……ヒグマみんなが、あなたくらい素直にヒトを歓迎してくれるとありがたいんだけれどね」
「あなたはこういった特別なことのできる人間ですので」

 ヤイコが自身の、『電気を操作する』能力で、研究所内のインターネット回線に走査をかける。
 工具一式を鞄に提げた布束砥信が、壁の中から這い出てきた。
 瞑目していたヒグマは、その彼女に向き直り目を開ける。

「……ここからのネット接続及びローカルイントラネットの配線は完璧なようですが、帝国内までここのネットを引くにはLANが足りません。
 と、ヤイコはスキャン結果を報告します」
「Then, 首輪に爆破信号を送る発信機を転用したら?」
「!?
 それはいくら布束特任部長でも、シーナーさん方の意向に反するのではないかと、ヤイコはその提案を棄却します」
「……Okay。言ってみただけよ」

 布束砥信は、髪のウェーブを軽く払って手を打ち振る。
 ヤイコの怪訝な視線をかわして、布束は思索するように眼を閉じた。


 幻覚を使うシーナーに、レベル3程度の『電撃使い(エレクトロマスター)』であるヤイコ。
 私を客分として扱っているとはいえ、完全に信用しているわけでも監視を手抜きするわけでもないようだ。
 まぁ、ただの料理人である田所恵にも、灰色熊と青毛のヒグマをつけている時点で、推して知るべきだろう。
 できうる限り、参加者の手助けになるような裏工作をしてやりたかったが、あらかじめ準備していたあの進入経路図の設置以上のことは、なかなか難しそうだ。


「……クルーザーに余裕があれば、布束特任部長に無線LANの親機を買い出していただきたいところでしたが、それも困難でしょう」
「Why? ここの研究所には、移動用のクルーザーがかなりあったはずよ。
 主要な研究員の分と予備だから、7隻だったかしら」

 船舶免許などどこ吹く風と、STUDYが北海道の本島との移動のために調達したクルーザーだった。
 疑似メルトダウナーなどの大型マシンを日頃から操縦しているSTUDYメンバーは、免許などなくとも船くらいは操舵できる。
 布束の計画としては、参加者が脱出する際にも使わせてもらう予定であった。

 ヤイコはそのつぶらな瞳を、後ろめたいものでもあるかのように逸らす。


207 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:21:04 Ee3abt2I0

「……もうクルーザーは、その予備の1隻しかありません」
「……は?」
「……反乱時に、一部のヒグマ達がクルーザーに分乗して本島へ渡っていたのです。と、ヤイコは失望的な同胞の蛮行をリークします」

 瞬間、少女は、ヒグマの首筋をひっつかんでいた。
 その毛皮を布束は襟のように握り込んで、がくがくとヤイコの頭を揺さぶる。
 睨みつける瞳は、蛇のような四白眼になっていた。

「なにやってるのあなたたちは!?
 バカじゃないの!?
 有冨たちですら、島外にヒグマを派遣する時は細心の注意を払っていたのよ!?
 そんな軽率なことをしたら、ヒグマの存在が国中に知れ渡って、あなたたち掃討されるわよ!?
 折角、帝国内のヒグマの繁栄にも協力していたところなのに!!」
「ヤイコに言われましても……。
 そこのシーナーさんにおっしゃっては……?」

 布束砥信は、その腕をぴたりと止める。
 そこの。
 ……『シーナー』?


 布束の耳元に、細い吐息が触れた。


「……私たちとしても、一部の同胞の心ない行いには頭を痛めているのです」

 身の凍るような囁き。
 少女は弾けるようにヤイコの体から離れ、一気に3歩分ほど跳びすさった。

 先程まで布束のいた場所のすぐ傍らに、気味の悪い痩せ方をしたヒグマの姿が見えてくる。
 周囲に撒かれていた幻覚の霞から現れるその佇まいは、山水画に描かれる枯骨の仙人のようだった。

「……布束特任部長の仰るとおり、ヒグマ帝国内で兵団としての統率と頭数を揃えてからでなくては、軽率な行為だったでしょう。
 いささか、北海道本島や日本国内に行動圏を広げるには時期尚早でした」
「……心臓に悪い登場の仕方は、ご遠慮願えないかしら」
「私は暫く前から、特任部長の隣におりましたが」

 穴持たず47、シーナーが、沼のような黒い眼差しで布束を見つめていた。
 体重を感じさせない骨の秀でた四肢で、そのヒグマは研究所の出口に向かって歩みを進める。

「……まぁ、時期が早まるなら早まるなりに、対策を取らせてもらうまでです。
 遅かれ早かれ将来的に、増える同胞たちを養うには、餌となる人間を大量に『飼う』必要が出てくるでしょうから」
「……つつましく、島内の自治国家で暮らそうという考えは無いの?」

 シーナーは、焦点のわからない虚ろな目で振り向く。
 震えながら睨み返す布束に、低い声で答えていた。

「それは、私がお伝えすべき事柄ではありません……。
 ですが、布束特任部長が、真摯にこの帝国とヒグマのことを考えて下さっていることは、今までの観察で十分理解できました。
 このまま私たちの同胞に貢献して下さるならば、遠からぬうちに、布束特任部長も『あのお方』と謁見できるでしょう……」

 彼は、意味深にそう仄めかすだけだった。
 そして、壁際で会話の動向を見守っていたヤイコへ向かい、シーナーは語りかける。

「ヤイコさん。無線LANが必要なのでしたら、特任部長とお二人でクルーザーを使っていただいて構いませんよ。
 あなたか特任部長のどちらかだけの買い出しでしたら不安のあるところでしたが、相互に監視していただければ」
「了解しました。と、ヤイコはシーナーさんのご好意を感謝と共に受領します」
「……どうやら島の火山が闖入者に踏み潰されてしまったようでして、私はまた様子見に行かねばならないでしょうから。
 何にせよ、電子機器の保守管理は改めてヤイコさんと特任部長にお任せいたします」

 言うや否や、骨ばった掌を振って、シーナーは下半身から溶けるように空中へ消え去っていた。
 その様子を見送る布束の耳に、かすかに響いてくる音がある。
 直接内耳に語りかけてくるような、低い囁きだった。


『特任部長。あなたがヤイコさんに触れた時、その「寿命中断(クリティカル)」を使用しなかったことに感謝いたします。
 そうでなければ私たちは、ヤイコさんと、あなたという、貴重な人材を2名も失ってしまうことになっていたでしょうから』


 その幻聴は明らかに、『下手な真似をしたらいつでも殺せる』のだという、脅しに他ならない。
 ただし裏を返せば、シーナーが自分にそれなりの信用をおいてくれたということでもあるので、一概に悪い言葉でもなかった。

 正直に言って、先程ヤイコに掴みかかったのは単なるものの弾みだったので、能力も何もない。
 私のハッタリでは、一度触れてしまえばどこへ逃げようと必ず命を絶てるので、シーナーの指摘は的外れにも思えるが……。


208 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:22:38 Ee3abt2I0

「……Why not? 行きましょうか」

 ヤイコの手を取り、歩き始めた。
 その体温が感じられる。
 ヒグマと連れ立って歩くことができるなど、夢のようだった。


 お互いに、いつでも相手を殺してしまえる距離で。
 いつまでも温もりを感じていられる距離に。
 掌と、肉球が重なりあっている。


 それは私が、ようやくヒグマと対等な地平に立つことができたという、証だったのだろうか。


 脳裏に、そうして触れることも、会話することもできなかったある女の子のことが浮かぶ。

「……ルカは今、どうしているのかしらね……」
「ルカ?」
「……ええ。あなたたちのお姉さんよ。
 こんな実験に巻き込まれることがなければ、あなたたちも平和に暮らせたでしょうに」

 人を喰らうことを覚える必要もなく、気は優しくて力持ちな、私たちの隣人として生きていけなかったのだろうか。
 各国の研究機関や学園都市の暗部がまた、利権を求めて集まってくるだろうが、ジャーニーや『妹達』のように保護してやることだって、可能なはずだ。

 小さなヒグマは、一度だけ瞬きをして布束に答えていた。

「ヤイコは、平和というものの価値がわかりません。
 その知識は、少なくともヤイコにはインプットされていません」

 布束の深い色をした瞳を見つめ返す眼差しは、微動だにしていなかった。
 二人は歩みを止める。
 布束砥信の呼吸が乱れたことに、ヤイコの聴覚は気付いた。
 彼女の顔面の末梢血管が開いて、眼球の周囲の体温が上がったことに、ヤイコの視覚は気付いた。

 布束はほんの少しだけ笑って、ヤイコの左前脚を握る、自分の右手を差し上げた。

「Sorry……。それを教えていなかったのも、私たちの責任なのね……。
 なら、今、少しだけでも、覚えてくれる?」

 彼女の閉じた瞼から熱い液体が零れ落ちたことを、ヤイコの視覚は捉えていた。
 布束と繋がる自身の腕に、その液体の温もりが伝わることを、ヤイコの触覚は感じていた。

「……あなたたちと、ずっとこうしていられることが、平和なのよ」


 あなたたちのその痛みに、気づけなかったのは私の責任だ。
 有冨や、『妹達』、フェブリたちから託された夢。
 私はあなたたちに切り裂かれても、何よりも伝えたいこの夢を、信じつづけるから――。
 

    ;;;;;;;;;;


209 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:23:23 Ee3abt2I0

「ここは、本当にどこなんだろうね……」

 呉キリカとキュアドリームは、岩ばかりの洞窟のような場所に出てきていた。
 薄暗い灰色の通路の先は、程なくして大きな観音開きの扉に突き当たっており、その向こうにこの洞窟が広がっていた。
 潮の香りがする。
 滑らかな岩壁を少し覗きこんでみると、そこからは光が射し込んでいた。

「キリカちゃん、外だよ!」
「……ああ。ここは、島の崖の下か?」

 キリカたちの目の前には、粒の粗い砂浜が広がっており、その先に北海道の海原が見えていた。
 上下左右は、島の崖の一部と思われる岩に囲まれていたが、海原の覗くその裂け目は、大型客船でも出入りできそうなほどの出入り口となっている。
 そして裂け目の先の海には、上から滝のように水が降り懸かる。
 光の射し方から推測して、ここは島の西の端、A-5の滝の真下なのではないかと思われた。
 よくよく見回してみれば、砂浜の端に、一艘のクルーザーが乗り上げられている。

「あれ、もしかすると脱出できるかもしれないな」
「キリカちゃん運転できるの?」

 思わぬ発見に駆け出そうとした二人の耳に、響いてくる音があった。

 ボーーーー――……ッ。

 船の霧笛のような、低く、長い音だった。
 どこから聞こえてくるのかとあたりを見回すが、それらしいものは見あたらない。

 ボーーーー――……ッ。

 数十秒かそれ以上の長い間隔を空けて、二回目の音。
 キュアドリームは、そこで気づいた。

「キリカちゃん……。この音、あたしたちの首輪から……」
「なっ……」

 二人の首に取り付けられた爆弾の首輪が、非常にゆっくりとした速度で点滅していた。
 嫌な汗が二人の背を覆う。

「ダメなのか!? 島内でも、地下は首輪が爆発するエリアなのか!?」
「そ、それより、なんでまだ爆発してないの!? キリカちゃん、いつ爆発するのこれ!?」

 呉キリカも、そこで気づいた。
 なぜ、禁止エリア内でここまで首輪が爆発まで持っていたのか。

「『指向性、速度低下』ッ!!」

 キリカは両手を、ただちに自分とキュアドリームの首筋に向けていた。
 その手の翳された空間に、光る魔法陣のような小さな紋が形作られる。

 仮面ライダー王熊との戦いから張り続けていた呉キリカの魔法、『速度低下』が持続していたのだった。

 首輪から鳴る音響は、より低く、より長いものとなる。
 魔法の影響範囲を狭め、効果を増すようにして重ねることで、彼女は自分たちの死刑執行までに保釈期間を作っていた。

「こ、こんなことができるんだ。すごいよキリカちゃん!」
「のぞみ、これはただの時間稼ぎだ。いくら遅くしてもそのうち爆発することには変わりない……!」

 一体この魔法でどの程度持つ?
 10分? 5分? それよりももっと短いか?
 その間にこの首輪を外す方法を見つけなければ、私とのぞみは死んでしまう!!
 私は最悪、ソウルジェムを遠くにぶん投げれば後で再生できる可能性があるかも知れないが、果たしてのぞみはできるのか。
 一体、どうすればいい――?


『違う自分に変わりたい』


 あの時、私はそう願った。
 もっと。
 もっと私に時間をくれ。
 少しの間でいいから、私を待ってくれ。
 そうすれば私は、きっとここから変わることができる。


 どうか、どうかこの状況から変われるまで、その時間を延ばしてくれ――!!


    ;;;;;;;;;;


210 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:25:02 Ee3abt2I0

 ……さっさと地上に戻らないと――。

 宇宙空間で戦闘を開始した御坂美琴の頭は、次の瞬間にはその考えに埋め尽くされていた。

 STUDYの有富春樹が発射した衛星ミサイルを迎撃するために、美琴は白井黒子とともに中間圏まで飛んだことがある。
 しかし、現在美琴がいる空間は、さらに地上から離れた位置にあった。
 すでに、地球の重力圏から離れてしまっている。
 空気は、ヘリの内部に取り残されていた分しか存在しない。
 そしてそれもまた、刻一刻と周囲の空間に拡散していってしまう。
 気圧による保護がなくなれば、自身の体も宇宙空間に曝され、血液が圧力の低下により沸騰。ただちに死に至るだろう。
 『超電磁砲(レールガン)』の威力向上を喜んでいる場合ではない。
 ヒグマや、もう一人の少女がまったくもって平気そうな顔をしているのは信じられないことだった。

 その敵、ヒグマ2体を観察する。
 現在スペースデブリを撃ち合っているニンジャのようなヒグマと、もう一人の少女と肉弾戦に興じようとしているヒグマ。

 振り向けば地球は、宇宙空間に飛び出した速度のままで、刻々と離れて行ってしまっている。

 ――ちまちま撃ってたら戻れなくなる――!!

 美琴は、ヒグマが投擲するスリケンめいた金属片を、その飛来に合わせ、超電磁砲として撃ち返した。

「グオッ!?」

 その反射先は、ニンジャのヒグマではなかった。
 超電磁砲は、キュアハートと戦おうとしていた穴持たず14の耳の端を、弾き飛ばしていたのだった。

「グルォォォオオ!!」

 視野外からの卑怯なアンブッシュに、穴持たず14は怒り狂った。
 目の前のキュアハートを無視し、宇宙ゴミを蹴り飛ばして御坂美琴に迫る。

 ――そうだ。来い、ヒグマ。

 美琴は両の腕を、胸の前に真っ直ぐ突き出した。
 その掌で形作る照門に捉えるのは、ニンジャのようなヒグマ、穴持たず7。
 正面の彼方にその姿を見据えながら、美琴はその身に数多のスペースデブリを磁力で抱えている。
 ヒグマのスリケンをも、そのデブリで緩衝しつつ受け止める。
 前方斜め左から、穴持たず14が迫ってくる。

 『自分だけの現実』に、彼女は二本のレールを敷いた。
 無限遠まで仮想される磁界の銃身上に、穴持たず14が乗る。
 その銃口は、一体のニンジャの心臓に突きつけて離さない。

 砲の口径は寸分狂わないヒグマの大きさ。
 撃ち出す弾体のサイズに隙間もなく等しく。
 加速するローレンツは胸の鉄を力に変えて。
 さあ、弾体が火口に向けて爪を振る。
 発射時間はその交錯の刹那。


 ――おいでま、せっ!!


 穴持たず14の爪が美琴に揮われようとした瞬間、帯電していた御坂美琴の腕から、すさまじい爆発のようなものが迸っていた。

「グボッ!?」

 ヒグマ7の肺から呻きが絞り出されたのは、彼が状況を認識する遙か前だった。
 その体には、超音速で射出された、穴持たず14の胴体が直撃していた。

「グアアアアァァアァ――……!!」

 二頭のヒグマは一塊となって、速度の減衰することのない宇宙空間を直進する。
 肺の奥から空気の一切を絞り出され、衝突する宇宙ゴミに肉体を削り飛ばされ、吹き付ける真空と極低温が彼らの細胞を微塵に砕いていった。


【ヒグマ7 死亡】
【穴持たず14 死亡】


「――お先ッ!!」


 御坂美琴は、死の彼方へと向かう彼らとは逆方向――地球に向かって吹き飛んでいく。
 彼女がたった今打ち出した『超電磁砲』は、普段使用しているレールガンとはいささか趣が異なっていた。

 磁性体でないヒグマを超電磁砲の弾丸として飛ばすために、彼女はプラズマを用いていた。
 仮想した磁界にスペースデブリを加速させ、目前に迫るヒグマとの摩擦でプラズマ化させる。
 激突したヒグマに、膨張するプラズマの速度を全面的に受けさせ、レールガンの弾として射出した。
 反対方向への膨張は美琴自身が、スペースデブリで防護しつつ受け止め、地上へ帰還する推進力とする――。

 その一瞬で美琴が演算した現象は、要約すると以上のようなものであった。


 ――さて、とりあえず地上には帰れるし、ヒグマたちも始末はできた。
 あの女の子は宇宙も平気そうだったから自力で何とかしてもらおう。
 当座のところはそれよりも――。


211 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:26:25 Ee3abt2I0

 超音速で地上へ戻る御坂美琴の体は、地球の引力に捕らえられた。
 彼女はさらに加速し、落ちる。
 そして彼女の体に纏わりついてくるのは。
 ――空気。

 宇宙空間ではあれほど恋しかった空気も、大気圏突入時にはただの摩擦熱発生源に他ならない。
 ヒグマに衝突したデブリのように、このままでは肉体が加熱して溶け落ちてしまう。


 減速減速減速減速減速減速減速減速減速減速――ッ!!


 身につけていた金属片を展開。
 自身を覆う防護膜としつつ、摩擦熱で溶融した外壁はそのまま地上へ向け放出し、僅かなりとも速度を相殺させる。

 御坂美琴はいまや、白熱する一個の流れ星として、朝の日本の上空を落下していた。


    ;;;;;;;;;;


「……お姉さん、というものに関して興味がある点は否定しません。
 と、ヤイコは自己の縁者をより深く知りたいと思考しています」
「ルカは、穴持たずの中でも一番最初に作られた子だそうよ。頭も良くて力も強くて。
 結構、みんなから慕われていたんだけれど、気づいていたのかしらね、彼女は……。
 あなたにはさらに、『オリジナル』とでもいうべきお姉さんがいるし……」
「放送に関しても、同胞の生死を知りたいという点には布束特任部長に全面同意します」
「そう思うわよね。地上で何が起こっているのか、ほとんど何もわからないもの……」

 布束とヤイコは、二人で手を繋いだまま、クルーザーの置いてある海食洞までの廊下を辿っていた。
 研究所の端であるこのエリアは、未だ電線が寸断されており、明かりの無い灰色の廊下はとても暗い。
 ヤイコは通過する間際、前方の蛍光灯へ電気を飛ばし、最小限の照明をその都度確保しながら二人は進んでいる。
 ふと、会話に興じていたヤイコの歩みが止まった。

「……布束特任部長、止まって下さい」
「どうしたの?」
「海水がしたたっています。そして、二人分の人間の匂いがします」

 明滅する蛍光灯の影の中に、布束は突然廊下に現れている水溜りを見た。
 そこから続く水滴はこの廊下の先に消えており、そちらは今、二人が向かっている海食洞の方向だ。

「……加えて、10ヘルツの極低音が2つ、1分間持続して断続しています。
 記憶内の音声データと照合するに、首輪爆破の際の警告音をほぼ60分の1倍速に落とすと同一の音となります。
 と、ヤイコは濃厚な侵入者の気配に警戒します」
「……!!」

 布束は、ヤイコの手を振り払って走り出していた。
 研究所の廊下に滴る海水を跳ねて、白衣に風を孕んで疾走する。
 すぐさま、隣に子熊が並走してきた。

「お待ち下さい布束特任部長。と、ヤイコは既に戦闘準備を整えながら随行します」
「……」
「外敵を即座に排除しようという意気込みは、ヤイコも布束特任部長と一緒です」
「……」

 的外れな言葉を送ってくる隣のヒグマには一瞥もくれず、布束は出口のドアまで一気に走りぬけた。
 開けっ放しだった扉から海食洞の岩盤に飛び出し、視界を遮る岩壁を回りこんで砂浜に出る。
 そこに、彼女は二人の人影を見た。


212 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:28:01 Ee3abt2I0

「キリカちゃん!! 頑張って!!」
「……私はいいから……。早く、解除方法を、探してくれ……」

 おろおろと辺りを見回す桃色の髪の少女の隣で、黒い衣装を纏った短髪の子が、砂浜に突っ伏している。
 砂浜には魔方陣のような光の紋様が浮かび上がっており、黒い少女はそこへ力のようなものを与え続けているようだった。
 布束が観止めた彼女たちの首筋には、点灯する首輪。
 ――参加者だ。

「Don't move, あなたたち! Freeze!!」

 布束は走りながら、持ちっぱなしだった肩掛け鞄の工具から精密ドライバー一式を取り出す。
 突然の声に驚く彼女たちの反応に潜り込み、長髪の少女の首筋にマイナスドライバーを差し込んでいた。
 十秒も経たないうちに首輪は解体される。
 続け様に黒髪の少女の首輪も取り外す。
 そして呆然とする彼女たちに、手短に状況を説明しようとした。

「私は布束砥信。ここの元研究員よ。あなたたちがどうやって首輪を持たせてたか知らないけれど、ここは今ヒグマに――」
「布束特任部長!!」

 その説明を、刺し貫いてくる声がある。
 布束の背後で、子供のようなサイズのヒグマが、彼女を見据えていた。

「何をやっているのですか。その者たちは侵入者です」
「……侵入者でも、彼女たちも私の『同胞』なのよ、ヤイコ。あなたと同じくね」

 肩越しに鋭い視線を返す布束の声に、ヤイコの総毛が逆立つ。
 透き通った殺意を眼球に帯電させつつ、ヤイコは呟いた。

「……非常に残念です、布束特任部長。とても貴重な出会いでしたのに」
「……すまないけれど、もしあなたが襲い掛かってくるつもりなら、私もあなたを殺すわよ」

 電気を帯びたヒグマの視線と、麻酔針の毒牙を持つ蛇の視線が膠着する。
 互いが間合いとタイミングを見計らう静寂。
 その中に、一際異質な嬌声が飛び込んできていた。

「きゃぁー!! かわいい!! 君、ヤイコちゃんっていうの?」
「!? 何ですかあなたは。やめて下さい!」

 ドレスのような衣装が、風のような速さでヤイコに抱きついていた。
 桃色の長髪の上を二つの輪に纏めている少女――キュアドリームは、帯電するヤイコをものともせず抱きしめている。
 ぬいぐるみのようなヒグマは嫌悪感を顕わにしてもがくも、プリキュアの膂力はそうやすやすと振りほどけない。

「ガァッ!!」
「きゃっ!?」

 電気で筋収縮を加速し、ヤイコが両腕を打ち振った。
 流石に少女はその一撃で吹き飛ばされたが、砂浜に転がって受身をとるのみで、大したダメージは受けていない。
 ぬいぐるみのようなヒグマは、その殺意を色濃くする。

「侵入者と馴れ合うつもりはありません。大人しく死んで下さい。
 と、ヤイコは恥辱を雪ぐために早急に排除を再開します」
「どうして!? クマさんたちだって、こんなことに巻き込まれてるだけでしょう!?」
「あー、calm down……。それについては私が説明したいのだけれど……」
「布束特任部長は黙っていて下さい。と、ヤイコは短かった同僚との仲を決別します」


213 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:29:52 Ee3abt2I0

 布束を置き去って、少女とヤイコが睨み合いを始めようとした時、またもその間に割って入る影があった。
 黒ずくめの衣装と、眼帯を身につけた短髪の少女。
 彼女は砂浜を歩みながら、子熊に向かってぼりぼりと頭を掻いてみせる。

「なぁ……、キミに私の恩人を殺されると、私はとても困るんだ。
 そこの布束さんとやらはともかく、のぞみは私の愛を守ってくれた恩人だからね」
「……愛などという知識は、少なくともヤイコにはインプットされていません」
「……愛はすべてだ。
 私の愛が、キミの薄い行動原理と同等とは思われたくないね!」

 黒髪の少女――呉キリカが叫んだ瞬間、ヤイコの体は一筋の雷と化していた。
 少なくとも、布束砥信とキュアドリームには、そうとしか見えなかった。
 一直線に跳んだヤイコの爪が、呉キリカの胴体を引き裂く。
 音は、その映像の後からやってきた。


「……ごはっ」


 血を吐く、湿った音。
 海食洞にそんな生々しい音が響いていた。
 崩れ落ち、ずるずると海に落ちていく肉体。


「……遅いよ」


 呉キリカは、依然として砂浜に立っていた。
 その位置は、一瞬前まで彼女が存在していた地点から優に数十メートルは前方。
 気を失い、洞窟の岸壁に激突していたのは、ヤイコであった。
 キリカにその突撃を回避され、カウンターを受けた彼女はそのまま壁面にぶつかってしまっていた。
 ヤイコの肩口から背中にかけて、大きく刻み付けられた一本の割創が、彼女の筋肉と肋骨を真っ赤な血で染め上げている。

 3重に掛けられていたキリカの速度低下魔法。
 それらは対象の首輪を破壊されたことで、残存効果を未だ周囲に残していた。
 加えてキリカは抜かりなく、歩み寄りながらヤイコに向け、幾重にも速度低下の陣を張っていた。

 如何に雷撃に見紛うほどの高速であっても、先ほどのキリカはその速度を十分に遅いものとして認識でき、躱し得た。
 速度低下中の人物からは、その姿は残像を置いて消えたようにしか見えなかっただろう。

 キリカが武器である鉤爪の生成に回せた魔力は僅か一本分。
 しかし、超高速同士のすれ違いざまに叩き付けたその爪は、ヒグマの毛皮を裂き、その肉を相手の意識ごと抉り取るには十分すぎた。


「完全に殺せはしなかったか……。
 うん、でも、ま、その、あれだ。ささいだ」

 キリカは呟きながら、洞窟の水面に沈んでいくヤイコの方へ振り向く。
 
「恩人を引っぱたいた分、今からゆっくりと切り刻んでやって――って!?」

 水辺に歩み寄ろうとしたキリカの眼に、走る布束砥信の姿が映る。
 彼女は白衣を脱ぎ捨てて紺色の制服姿になり、ヒグマの沈む水中に飛び込んでしまった。

「おい、何をやってるんだキミは!?
 そのクマを助ける気か!? そいつは私や恩人、そしてキミ自身をも殺そうとしたんだぞ!?」

 彼女はキリカの言うことに耳を貸さず、水中に潜ってしまう。
 浮上した布束はその手にヤイコの腕を掴んで抱え、蛇のような形相でキリカに振り向いていた。


214 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:31:13 Ee3abt2I0

「……あなた、『愛は全て』だと言ったわね。
 私は、『愛は伝わる』って事を、とある女の子から聞かされ、それを実感したことがある。
 大層なことを言っておきながら、その愛をヒグマにも演繹できないようなあなたは、愛の本質を知らないのではないかしら?」


 キリカはその言葉を耳にした瞬間、全身の血液が逆流したように感じた。
 鼓動に合わせて、咽喉の奥が揺れる。
 呆然と、ただ呆然とした意識の底から、どす黒い怒りが湧き起こってくるようだった。
 肝臓から立ち昇る憤怒と、頭頂から降りて来る冷めた意識が、咽喉を通って心臓を食む。

 ふらりと、一歩体が前に出る。
 残る魔力の、使い道は――。

「キリカちゃん!! 大変だよ、こっちにも津波が!!」

 布束に向かって踏み出していたキリカを、夢原のぞみの声が差し止める。
 キュアドリームが指す海食洞の入口に、大量の海水が押し迫ってきていた。

 島の最北部でキリカたちが飲まれた津波が、時間差を持ってこの西部にも押し寄せている。
 しかし、キリカはそちらを一瞥もしなかった。
 布束砥信と繋がった視線を固定したまま、左腕を振り上げる。

 彼女の口を裂いた哄笑が、迫り来る津波の音に反響していた。


「面白バカみたいっ……! なんだいキミのその理論は!!」
「――キリカちゃん!?」


 彼女が振り上げていた左腕の先で、津波が止まる。
 海面に浮く布束の頬に、波飛沫が一滴、ゆっくりと吹きかかっていく。
 呉キリカの横に浮く巨大な魔方陣が、津波の進行を圧しとどめていた。
 指向性の速度低下魔法を、彼女の使用しうる最大限度にまで強めて、放出させていた。

 キリカは今にも噛み付きそうな笑みを浮かべて、布束に言葉を吐きかける。


「……キミが本当の愛ってのを知ってるのか、こんな津波やヒグマに邪魔されないところで、ゆっくり聞き出してあげるよ。
 一応キミも、私とのぞみの命を救ってくれた恩人と言えるだろうからね。
 恩人の有限が無限でなかった時、恩人が故人となるのは愛の発散のその瞬間だと思え!!」
「……そうして貰えると助かるわ」

 キリカの言葉の意味を理解してかせずにか、布束は動きの遅い海面から、にっこりと笑みを返していた。


    ;;;;;;;;;;


「なんですか……。この気配は……?」

 地上に出たシーナーを待っていたのは、不自然なまでの静寂であった。
 踏みつぶされたらしい火山の確認のために、E-6エリアから出てきたものの、彼の耳には違和感がまとわりつく。

「鳥が、いませんね……」

 その原因に、直ちにシーナーは思い至る。
 地震など、大災害の時の前兆のように思えた。
 火山が噴火し潰されるだけでも十分大災害だが、それに留まらない違和感が、依然としてある。

 地に腹ばいとなり、シーナーはその触覚に大地の振動を触れる。

「北方から津波……? 島内で局地的に地震が発生したのですか……?」

 火山だった丘の向こう側が、現在進行形で海水に飲み込まれているという感覚が彼の脳に伝わる。
 しかし、振動覚が探知した事柄はそれだけではなかった。

 北方だけではない。
 多少の時間差はあれど、この島を取り囲むように全方位から津波が押し寄せてきていた。


215 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:33:11 Ee3abt2I0

「ぬうっ……!」

 シーナーは、その細い体をただちに引き起こし、島の南側へ視線を送る。
 白い泡を立てた波頭と、数多のものを飲み込んだ青黒い海水が、今にも路地を割ってこのエリアまでをも水没させようとしているところだった。
 シーナーはその津波にむかって、まるで獲物に飛びかかるかのようにゆっくりと身構える。

 虚ろなその眼球から、耳から、鼻から、口から、枯れ木のようなその体躯全てから、墨のように黒いものが迸った。
 何者にも見えず、あまつさえ聞こえないその黒色は、光速でシーナーの周囲に拡散する。
 液体でもあり気体でもあるかのような挙動で、黒色の霞が周く生物体の内部に浸透した。

 シーナーの視覚は、その津波の中に飲まれた魚介を見る。
 シーナーの聴覚は、それらが波にもがく水音を捉える。
 シーナーの触覚は、その脚にそれら一匹一匹の振動を触れた。
 『治癒の書』が、その内部にそれらの様相を克明に記す。

 魚類、海綿、甲殻類、扁形動物、プランクトン――。
 幾億幾兆にも及ぶ海中の生きとし生けるものを、シーナーはその書の中に書き記した。


 割れよ。
 汝らが今、見、聴き、触れるものは虚偽。
 割れよ。
 汝らの眼耳鼻舌身意(げんにびぜっしんに)。
 その眼を、耳を、身を、私に明け渡せ。
 始源の感覚でこの檄を聞け。

 汝らの前には今、巨岩がその道を塞いでいる。
 汝らが居るは津波ではない。
 その岩にせかるる穏やかな流れ。
 割れよ。
 その身を虚偽の孤立波と分かち、末に会わんと思え。
 その幻の海流を作るは、汝ら。
 現を幻とし、幻を現と見よ。
 粘性力と慣性力とをその身に引き連れ、私の語る幻を現とせよ。
 この場を領(うしは)くは、私の世界である――!


「……『治癒の書(キターブ・アッシファー)』!!」


 津波は、シーナーの目前まで迫っていた。
 シーナーの構えた腕を、その水が飲み込んでしまうかと見えた瞬間。
 津波が、割れた。

 波は、シーナーのいる場所の遥か向こうからばっくりと左右に分かれて流れ、後方に広がっていく。
 津波の内部にいる魚群が、その海水の断面から覗く。
 その魚たちは、皆一様に同じ方向を向き、本来の津波の流れを無視するかのように泳いでいた。
 常人の目には見えぬほど小さな貝や軟体動物の幼体、海中を埋めるプランクトンに至るまでが、津波を引き裂くように統一された方向に動いていく。
 津波を左右に分断し慣性に反する彼らが、海水の大部分を引き連れ、実際にあたかも大岩がその流れを堰き止めているかのようにその津波を割っていた。

 シーナーの足下には、わずかに爪先を濡らす程度の水が流れてくるのみであった。

「……水温が高いですね。かなり南方から流れてきたのでしょうか」

 しかし、島の振動から鑑みて、津波はやはり全方位から島をめがけて襲って来ている。
 恐らく参加者か闖入者の中に、こうした波浪を操作できる能力を持つ者がいるのだ。
 そしてその者は、ヒグマないしこの実験自体を壊滅させるべく、この大技を用いてきたと考えるのが自然だ。

 シーナーが一人ごちる中、分断された津波の中を、一人の人間が流されて行ってしまった。
 短めの茶髪に、中学校の制服を着た少女だった。
 必死に水中をもがき、血走った眼をひんむいていたが、あれでは溺れ死ぬのも時間の問題だろう。

「……哀れなものですね。あれが話に聞く土左衛門ですか。
 数メートル以上高さのある建物や木に登ればいいだけなのですから、こんな現象で死者が出て欲しくはないのですが……」

 少女の流れる先を横目で追った後、シーナーは溜め息をつく。


 問題点は、当座の津波の死者だけではない。
 押し寄せる海水が下水道から流れ込み、ヒグマ帝国内にまで進入してしまう可能性がある。
 E-6エリアは自分が守ったが、他のエリアまで『治癒の書』で助けに行くにはいささか後手に回りすぎた。
 加えて、島の西には海食洞がある。
 島の上からの浸水だけではなく、そちらから直接津波が流れ込んで、帝国が完全に水没してしまう危険性すらあった。
 布束特任部長とヤイコさんも、そこのクルーザーを利用しに向かっているはず。
 さらに、引き波で地上のヒグマや参加者たちが島外に散ってしまったら実験存続どころですらなくなる。
 早急な対応が必要であろう。


216 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:35:00 Ee3abt2I0

「……火山どころではありませんね。
 ヒグマ提督さんの作成した島風さんが機能してくれればいいのですが。
 どうするべきでしょうかねぇ。
 委任しきれるほど綿密に連携をとっていないでしょうし彼らは……」

 割れた津波の前に、シーナーは暫くの間、佇んでいた。
 そしてその体は、再び動き出す。

「キングさんやシバさん、シロクマさん方にも動いてもらう必要がありますかね……」


 閉ざせ。
 汝らが今、見、聴き、嗅げるものは虚偽。
 閉ざせ。
 汝らの眼耳鼻舌身意(げんにびぜっしんに)。
 その眼を、耳を、鼻を、私に明け渡せ。
 始源の感覚でこの檄を聞け――。


 シーナーの肉体は、その全身から溢れる黒いものに覆われた。
 何者にも見えざる色。聞こえぬ音。
 シーナーの存在は再び、影も残さずにあらゆる者の認識から消え去っていた。


【E-6:街/朝】


【穴持たず47(シーナー)】
状態:健康、対応五感で知覚不能
装備:『固有結界:治癒の書(キターブ・アッシファー)』
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため、危険分子を監視・排除する。
0:地下に戻って帝国の防衛に当たるか? それとも地上で会場内の収集に当たるか?
[備考]
※『治癒の書(キターブ・アッシファー)』とは、シーナーが体内に展開する固有結界。シーナーが五感を用いて認識した対象の、対応する五感を支配する。
※シーナーの五感の認識外に対象が出た場合、支配は解除される。しかし対象の五感全てを同時に支配した場合、対象は『空中人間』となりその魂をこの結界に捕食される。
※『空中人間』となった魂は結界の中で暫くは、シーナーの描いた幻を認識しつつ思考するが、次第にこの結界に消化されて、結界を維持するための魔力と化す。
※例えばシーナーが見た者は、シーナーの任意の幻視を目の当たりにすることになり、シーナーが触れた者は、位置覚や痛覚をも操られてしまうことになる。
※普段シーナーはこの能力を、隠密行動およびヒグマの治療・手術の際の麻酔として使用しています。


※E-6エリアの全体及びE-5エリアの南側は、シーナーの能力により、津波による影響を完全に免れました。


    ;;;;;;;;;;


217 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:36:45 Ee3abt2I0

 ――死んでたまるかっ!!


「おおうりゃあああああっ!!!」

 津波の中から、一筋の雷がさかしまに立ち昇った。
 水面を飛沫と裂き、その雷は間近いビルの壁面に直撃する。
 オフィスビル4階の窓枠に磁力で取り付いて、雷は肩で荒く呼吸した。

 常盤台のレベル5、『超電磁砲(レールガン)』。
 宇宙から帰還したばかりの『電撃使い(エレクトロマスター)』、御坂美琴その人だった。

 茶髪も制服も海水でずぶ濡れになり、その身に張り付いている。
 眼下で街道を埋め尽くしてゆく津波の流れを見ながら、彼女は溜め息をつく。
 恋しかった地球の空気を肺の奥に存分に吸い込み、美琴は窓ガラスを破ってビルの中に入り込んだ。


 宇宙空間から帰還した御坂美琴は、太平洋の日本近海に着水していた。
 そして、海底まで宇宙ゴミの即席ポッドとともに一挙に沈んだ美琴を襲ったのは、突然の津波。
 浮上していた美琴はそのまま津波に飲まれ、奇跡的に目的の島まで流されていた。

 瓦礫や海流にポッドを剥ぎ取られ、必死にもがく彼女が街に至らんとした時、突如その目の前には大岩が出現していた。
 周囲の魚たちと共に全身の力を出し尽くしてその岩を泳ぎ避け、残る演算能力を振り絞り、林立するビルに磁力を向けていたのだった。


「……大気圏突入のお出迎えが津波ねぇ……。
 もう、色々ふざけてるとしか言いようがないわ。
 佐天さんたち、流されてないわよね……。
 あとちょっとだけ、待っててね……」


 オフィスのデスクに突っ伏して、彼女はその天板に疲弊を流していた。


【D-6:街(とある一棟のオフィスビル内)/朝】


【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
状態:疲労(大)、ずぶ濡れ、能力低下
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:友達を救出する
0:佐天さんと初春さんは無事かな……?
1:なんで津波が島を襲ってるんだろう?
2:あの『何気に宇宙によく来る』らしい相田マナって子も、無事に戻って来てるといいけど。
3:今の私に残った体力で、このまま救出に動けるかしら……?
[備考]
※超出力のレールガン、大気圏突入、津波内での生存、そこからの脱出で、疲労により演算能力が大幅に低下しています。


    ;;;;;;;;;;


218 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:38:30 Ee3abt2I0

 回避された。
 あの一瞬の交錯で、それだけはわかりました。

 代りに受けた被害は、鉤爪による深い割創。
 左の肩口から、脇の下を抜け、背面に至る。
 折れた肋骨が胃に刺さり、肺の挫傷、動揺胸郭まで呈している。
 加えて、岩壁との衝突の衝撃により内臓が損傷している。
 とりわけ心臓の外傷が無視できない。
 心膜内に血液が漏出しており、心タンポナーデを引き起こしている。

 心駆出率が低下し、死に至るのにそれほど長い時間は掛からないでしょう。
 と、ヤイコは気絶した脳内の電気信号の残滓で、冷静に自己を分析します――。


 短い生存期間でした。
 体躯には恵まれないながらも、生まれ持った能力と、小さいがゆえにできる活動とで、ヤイコは自身の存在に自信を持っていました。
 しかし、この能力を用いても、侵入者1人に返り討ちにあってしまう程度ならば、多分、ヤイコには価値がなかったのでしょう。

 布束特任部長も、殺害できませんでした。
 ヤイコはヒグマ帝国のためを思うがゆえに、あなたを殺そうとしました。
 あなたはヒグマ帝国のためを思うがゆえに、ヤイコを殺そうとしました。
 どういうことなのでしょう。
 ヤイコの作成技術を造って下さった布束特任部長の方が正しいとすれば、ヤイコは間違っていたことになります。
 だとすれば、ヤイコはこのまま死んでしまったほうが、ヒグマ帝国のためになるということでしょうか?

 なるほど。
 生命の繋がりというものは、上手くプログラミングされているものです。
 生き残るべきものが生き、死ぬべきものは然るべき時に死ぬのですね。
 それならば、ヤイコは布束特任部長やシーナーさん方に謝罪の意を表明しつつ、静かに死のうと思います――。


『――死んでたまるかっ!!』


 その時。
 海中に沈むヤイコの意識に、確かに響いてくる声がありました。
 誰よりも近くにいた、ヤイコ自身のようなその声。
 自身の能力の放射を、そのまま外から浴びせられたような――。
 どこか、とても懐かしい気がする声でした。

 そしてまた、ヤイコを響かせる声が聞こえてきます。


「――戻ってきなさいッ! ヤイコ! 死んでは駄目! 帰ってきなさい!!」
「……ぐばっ……」


 痛いです。布束特任部長。
 そんなにヤイコの胸を断続的に圧迫しないで下さい。
 今、ヤイコの心臓には、血が――。
 あれ?


「……まったく、恩人の望みが、このヒグマの回復だなんて……。私やのぞみの命は、このヒグマと同等なのかい?」
「等しく尊いに決まってるわ!」


 自己の体内を走査するに、左半身の損傷の大半が、肉芽組織に覆われています。
 内臓損傷の大部分も吸収され、治癒しているようですね。
 不可解なことがあるものです。


「キリカちゃん、こっちは準備オッケーだよ!」
「やっとかい、のぞみ……。速度低下と治癒魔法の同時行使とか……魔力のバーゲンセールをする私の身にもなってくれよ」
「ごめんごめん! 行くよー……っ!!」


 頭の脇で、温かな力の奔流を感じます。
 力強い。
 温かな布束特任部長の腕が、ヤイコの胸にもその温もりを導いてくれるかのようです。


「『プリキュア・シューティング・スター』ッ!!!」


 ヤイコの眼は、胡蝶の様な暖かい光の束に、海食洞に迫る津波が、真っ二つに引き裂かれる光景を捉えていました。
 ヤイコの隣には、片目に眼帯をつけた、あの時の侵入者が立っています。
 彼女はヤイコと眼を合わせると、肩をすくめて立ち去ってしまいました。

 そして、ヤイコの顔には、暖かい水滴が滴り落ちてきます。
 横たわっているヤイコの上には、布束特任部長の顔がありました。
 御髪が濡れて、海草のようではありませんか。
 折角の整った表情もぐしゃぐしゃです。
 なぜ、あなたはそんなにも、眼球から雫を零しているのですか――?


219 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:41:32 Ee3abt2I0

「――わかる? ヤイコ? これがね、これが、愛ってものなのよ」


 あの時ヤイコの触覚に触れた、暖かな液体が降り注いでいます。
 涙というこの体液すら、力になっていく。
 悪い感覚ではありません。
 これが、愛というものですか。
 ヤイコの生命の意味は、その愛に見合うものなのですか?
 ヤイコには、まだそんな知識を教えてくださるほどの価値が、あるのですか?

 津波を引き裂き、傷を癒し、ヤイコにまで温もりを与えてくれるこれが、愛なら。
 きっと、その本質は、素晴らしいものなのでしょうね。


【A-5の地下:ヒグマ帝国(海食洞)/朝】


【夢原のぞみ@Yes! プリキュア5 GoGo!】
状態:ダメージ(中)、キュアドリームに変身中、ずぶ濡れ
装備:キュアモ@Yes! プリキュア5 GoGo!
道具:なし
基本思考:殺し合いを止めて元の世界に帰る。
0:キリカちゃんと一緒に津波も打ち消せたし、布束さんとヤイコちゃんとお話ししよう!
1:ここがどこかわかったら、キリカちゃんと一緒にリラックマ達を捜しに行きたい。
2:ヤイコちゃんかわいいなぁ。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3 終了後からの参戦です。(New Stageシリーズの出来事も経験しているかもしれません)


【呉キリカ@魔法少女おりこ☆マギカ】
状態:疲労(中)、魔法少女に変身中、ずぶ濡れ
装備:ソウルジェム(濁り中)@魔法少女おりこ☆マギカ
道具:キリカのぬいぐるみ@魔法少女おりこ☆マギカ
基本思考:今は恩人である夢原のぞみに恩返しをする。
0:布束砥信。キミの語る愛が無限に有限かどうか、確かめさせてもらうよ?
1:恩返しをする為にものぞみと一緒に戦い、ちびクマ達を捜す。
2:恩返しをする為にも布束には協力してやりたいが、何にせよ話を聞くところからだ。
3:ただし、もしも織莉子がこの殺し合いの場にいたら織莉子の為だけに戦う。
4:ヒグマにまで愛を向けるとか、正常な人間なのか布束は? のぞみも微妙だし……。
[備考]
※参戦時期は不明です。


【布束砥信@とある科学の超電磁砲】
状態:健康、制服がずぶ濡れ
装備:HIGUMA特異的吸収性麻酔針(残り27本)、工具入りの肩掛け鞄、買い物用のお金
道具:HIGUMA特異的致死因子(残り1㍉㍑)、『寿命中断(クリティカル)のハッタリ』、白衣
[思考・状況]
基本思考:ヒグマの培養槽を発見・破壊し、ヒグマにも人間にも平穏をもたらす。
0:ヤイコが助かって良かった……。
1:キリカ・のぞみの情報を聞き、ヤイコと和解させ、協力を仰ぐ。
2:帝国・研究所のインターネット環境を復旧させ、会場の参加者とも連携を取れるようにする。
3:やってきた参加者達と接触を試みる。
4:帝国内での優位性を保つため、あくまで自分が超能力者であるとの演出を怠らぬようにする。
5:ヤイコにはバレてしまいそうだが、帝国の『実効支配者』たちに自分の目論見が露呈しないよう、細心の注意を払いたい。
6:ネット環境が復旧したところで艦これのサーバーは満員だと聞くけれど。やはり最近のヒグマは馬鹿しかいないのかしら?
[備考]
※麻酔針と致死因子は、HIGUMAに経皮・経静脈的に吸収され、それぞれ昏睡状態・致死に陥れる。
※麻酔針のED50とLD50は一般的なヒグマ1体につきそれぞれ0.3本、および3本。
※致死因子は細胞表面の受容体に結合するサイトカインであり、連鎖的に細胞から致死因子を分泌させ、個体全体をアポトーシスさせる。


【穴持たず81(ヤイコ)】
状態:疲労(小)、ずぶ濡れ
装備:『電撃使い(エレクトロマスター)』レベル3
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため電子機器を管理し、危険分子がいれば排除する。
0:ヤイコにはまだ、生存の価値があるのでしょうか?
1:ヤイコがヒグマ帝国のためを思って判断した行動は、誤りだったのでしょうか?
2:無線LAN、買いに行けますでしょうか。


※島の西側の津波は、キリカの速度低下により、到達までのタイムラグが大きくなっているようです。
※A-5エリア及びB-5エリアの全体、およびC-5エリアの西側付近などは、のぞみの攻撃により、津波による影響を完全に免れました。


    ;;;;;;;;;;


220 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:44:22 Ee3abt2I0

「……あー……。いっちゃった……」

 宇宙空間に一人取り残されたキュアハートは、宇宙の彼方と地球を交互に見やり、溜め息をついた。
 折角分かり合えると思ったクマさんたちは、雷を操る『美琴サン』という女の子に吹っ飛ばされて、いなくなってしまった。

「ヒグマ7さー……ん!!」

 叫んでも届かない。
 彼らは超音速で飛んでいってしまったのだし、音を伝える空気すらここにはない。
 本当なら今からでも追いついて愛を説きに行きたいところだったが、それでは本来の任務を見失ってしまう。
 早く地上に戻って、会場のヒグマたちに愛を教えるべきなのだろうか。

 思い悩む相田マナの脳内に、響いてくる声があった。

『ドーモ、相田マナ=サン。ヒグマ7と穴持たず14です』
「あ、ヒグマ7さん!? 答えてくれたんですね!?」

 キュアハートは、その声をよく聞こうと、自分の頭を両手で抱える。
 死んだはずのヒグマ7の声がなぜ脳内から聞こえるのかという異常性には、彼女は思い至らなかった。

『マナ=サンの愛の思いが、私たちのソウルを繋げて、引き寄せてくれましタ。
 愛というものは、素晴らしいですネ』
「そうでしょう? やっぱりどんな生き物にも愛はあるのよ!
 あなたみたいに、みんなの胸のドキドキ、取り戻して見せるわ!」
『それは良いですネ。では、イタダキマス』


 ぞぶっ。


「は……?」


 相田マナは、自分の脳内に、奇怪な水音を聞いた。
 自分の肉が、内側から食われているかのような音だった。
 遅れて、自分の身体が流れ落ちてしまうような喪失感と、激しい痛みが彼女を襲う。

 ぞぶり。ぞぶり。

「あっ……あふぅうっ……!?」

 眼球がぐるりと白目を剥いた。
 体内で暴れまわる熱感と痛みに、マナの両手はがりがりと自分の頭皮を掻いた。
 血が溢れる。
 浅側頭動脈が抉れて大量の血が金髪を濡らすが、彼女の煩悶は続く。

 身をよじり、喘ぎ声を漏らし、精神の捕食者に抗おうとする。
 しかし彼女の魂は、自らが招き寄せた魂を拒みきることはできなかった。

「あッ……、あはぁっ……! う、くぅう――!!」

 白目を剥いた彼女の顔には、次第に歓喜の表情が浮かんでくる。
 吐息に混ざる熱は、その痛みに耐えかねて、感覚を反転させた。
 キュアハートは、自らが捕食され、全き愛と化すことを悦んだ。
 自身の内部に侵入した者と溶け合い、自分の中身が彼にぶち撒けられる有様に、狂おしいまでの喜悦を得ていた。

「あああっ……!! あああああああああああっ!!!」

 相田マナは7度、痙攣した。
 体内に蠢く余韻をびくびくと感じながら、彼女は肺の奥から熱い吐息を搾る。

「……アーイイ……」

 火照ったようなその表情には、蕩けるような笑みが浮かんでいた。
 ふっ、ふっ、とその体に宇宙を呼吸しながら、相田マナだった彼女は笑う。
 側頭から血液を溢れさせながら、恍惚の笑顔を、彼女は地球へと向ける。

「キュンキュンするよぉー……。
 やっぱり、ヒグマさんの笑顔を見ると、こっちも嬉しくなるなぁー……」


221 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:45:39 Ee3abt2I0

 キュアハートの指先は、宇宙空間にハートマークを描いた。
 溢れ出た自分の血液で描かれたその文様は、真っ赤な縁取りとして彼方の地球を包む。
 真の愛の前には、地球でさえちっぽけなものだ。

 彼女はそして、中空に浮く血のハートを、べろりと舐め取った。
 口中に広がる滋味深い味わいに、聖女のようなその笑顔は一段と笑みを濃くする。

「……おいしい〜……。
 ……みんなを食べて、食べられて、一つになれば、もう友達だよね。
 ヒグマ7さんの教えてくれた愛のカタチ、みんなにも教えてあげなくちゃー……」

 プリキュアたるもの、いつも前を向いて歩き続けること。
 それが彼女の心得である。
 例え、自分の魂が半分食い破られ、ニンジャとヒグマのソウルに侵食されたのだとしても、それは変わらない。
 彼女にとっては、その汚染物でさえも、愛を交し合った仲間であった。

 聖女は、その思考に雑音が入ろうとも、その意志を貫く。
 重ね合った、この想いは誰にも壊せないから……!


【???/宇宙/朝】


【相田マナ@ドキドキ!プリキュア、ヒグマ・ロワイアル、ニンジャスレイヤー】
状態:健康、変身(キュアハート)、ニンジャソウル・ヒグマの魂と融合
装備:ラブリーコミューン
道具:不明
[思考・状況]
基本思考:食べて一つになるという愛を、みんなに教える
0:そうか、ヒグマさんはもともと、愛の化身だったんだね!
1:任務の遂行も大事だけど、やっぱり愛だよね?
2:まずは『美琴サン』や山岡さんに、愛を教えてあげようかな?
[備考]
※バンディットのニンジャソウルを吸収したヒグマ7、及び穴持たず14の魂に侵食されました。
※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました。
※ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です。


222 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 14:50:01 Ee3abt2I0
以上で投下終了です。
続きまして、穴持たず9、ヒグマード、北岡秀一、ウィルソン・フィリップス上院議員、メロン熊、
初春飾利、アニラ、佐天涙子で予約します。


223 : 名無しさん :2014/02/09(日) 15:13:33 7tUllG5c0
投下乙


224 : 名無しさん :2014/02/09(日) 16:27:30 JRiAdDgM0
投下乙
ああマナさん…やはりヒグマ相手では無事では済まなかったか…宇宙で超ヤバい人が誕生してみんなピンチ
なんか凄いスペクタルを経てようやく会場に辿り着いた美琴。果たして佐天さん達を助けられるのか!?
布束さんとキリカ達が地下で活動を始めて果たしてどうなる?


225 : Sister's noise ◆wgC73NFT9I :2014/02/09(日) 19:14:23 Ee3abt2I0
早速の感想ありがとうございます。

>>207と、>>208との間に、文章の抜けがありましたので追加いたします。


「布束特任部長、そういう訳ですので、北海道の電気屋さんへ一緒に買い物に向かいましょう。
 と、ヤイコは正式に仕事の同僚となった御仁をお誘いします」

 大きめのテディベアのような彼女は、私に屈託無く呼びかけてくる。
 穴持たず81のヤイコは、まったくもって幼体の体つきをしていたが、差し出してくる前脚の爪は、鋭い。
 『電撃使い(エレクトロマスター)』ならではの高速の神経伝達は、ヒグマのポテンシャルと相まって相当な速度を打ち出すだろう。
 私が僅かでも殺気を放った瞬間には、脊髄反射を上回る落雷の反応速度で、リニアモーターカーのような一撃が私の胸を貫くのだ。

 私が本当に『寿命中断(クリティカル)』を演算できたとしても、相打ちになる。
 ……相互に監視、というのは、恐らくそういう意味なのだろう。
 シーナーが私の監視役に彼女をあてがった理由にも頷ける。


ここまで、追加していただけると幸いです。失礼いたしました。


226 : 名無しさん :2014/02/09(日) 20:14:10 zeoHIWQ20
投下乙です!
マナはヒグマにも愛を振りまこうとしたら……まさかこんなことになるなんて
彼女のこれからがとても不安です。シャルルが悲しむぞ!
地上に落ちた美琴も、ヒグマ帝国にいるメンバーも果たしてどうなるのか……
見応え抜群の作品、乙でした!


227 : ◆xDsxCdlKmo :2014/02/10(月) 15:16:48 qUcxMIRU0
投下乙です
いやー倫理的に戦術を組み立ててヒグマ2匹を蹴散らす様は爽快でした
それだけにマナの悪落ち展開は意外で良い意味で裏切られました
最早某カードゲームのキャラみたいな愛になってるw

それとすいません予約を破棄します
展開に強引さとあまりにも無茶苦茶な話になりそうだったので


228 : ◆Dme3n.ES16 :2014/02/11(火) 22:52:58 chx5x.1Q0
地下で布束さんがヒグマに愛を教え、宇宙で愛の化身のプリキュアが歪んだ愛に目覚めるとは何たる皮肉

予約にデデンネ、デデンネと仲良くなったヒグマ、パッチールを追加します


229 : ◆Dme3n.ES16 :2014/02/11(火) 22:53:37 chx5x.1Q0
投下します


230 : 水雷戦隊出撃 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/11(火) 22:54:13 chx5x.1Q0

全方位から会場に襲い掛かった津波により水没したビルが立ち並ぶとあるエリアの一区間。
その激流の中をまるでスケートリンクで滑るように軽快にホバー移動する二人の少女がいた。

「あははっ!天龍おっそーいー♪」
「こらー!島風!あんま先行すんな!迷子になっても知らねーぞ!」
「す、すみません天龍さん。私も泳げないことは無いのですが……。」
「気にすんな。アンタが強いのは知ってるけど、流石に海の上じゃあたしたちの方が速いよ。」

艦むすと呼ばれる少女型兵器、熊犬・銀を背負った天龍型1番艦「天龍」と
三体の連装砲ちゃんを肩に乗せた島風型駆逐艦一番艦「島風」である。
浅く水没した街道を移動していた彼女らは先ほど突然発生した津波に驚きつつも、
マップが水没したことで本来の機動性を存分に発揮できるようになったのだ。
このサプライズによりさっきから泣きながらごめんなさいと連呼して落ち込んでいた島風は
まるで遊園地に連れてこられた子供のように目を輝かせて、踊るように水面走行を満喫している。

「ったく、さっきまでわんわん泣いてたのに調子いい奴っ!」
「まあ元気になったから良かったではないですか。」
「そうだな……しっかし、アイツも昔と変わんねーよな。」
「そういえば、あなた達は同種族の様ですが顔見知りなのですか?」
「ああ、よく遠征で新入りの駆逐艦を引率して出撃してたからな。
 ただアイツは他の娘と比べてやたら高性能だからっていつも言うこと聞かなくてよ。
 まぁ、島風には雷達みてーに姉妹が居ないから人付き合いが苦手だったんだろうけどさ。
 ……ただ、今の島風が俺が知ってる島風と一緒なのかは分かんねーけど。」
「それは一体?同じ人間は一人しかいないのではないのですか?」
「あたし達は戦いに敗れて沈没しても新しく同系機が生産されたら魂が引き継がれるんだ。
 その時前世の記憶も同じように持ち越されるって話だ。まあ、とにかく津波のせいで予定が狂ったけど
 どっか休める場所をさがして島風と話しをなねーとな。」

当初の目的を思い出した天龍はタービンに負荷をかけ全速力で島風に追いつこうとする。
―――だが、忘れてはならない。海だろうが空だろうが、奴らはどこにでも出現するということを。

「天龍さん!何かがこちらに近づいてきます!」
「何っ!?な、なんだあいつは!」

荒ぶる波の上に乗って何者かが優雅に直進してくる。
巨大なボードを乗りこなす、サングラスをかけた毛むじゃくらの生物。

「あれは!ヒグマか!?」
「おおー!恰好いいー♪おはようございます!地上のヒグマさん!」

波を制覇し艦むすに匹敵する速度で自由自在に水の上を走り回るそのヒグマの名は穴持たずサーファー。
驚愕する天龍と銀をよそに島風はまるで仲間でも見つけたかのように近づいていく。

「おい待て島風!不用意に近づくな!危ねぇぞ!」
「えー?よく見なよ天龍!この熊さんウォータースポーツを満喫してるだけじゃない!」
「たしかに今はそう見えるけどよぉ……ん?なんだありゃ?」

徐々に至近距離まで迫ってきた穴持たずサーファーの乗っているボードの先端が突然せり上がり、中からマシンガンが飛び出してきた。

「なにぃ!?―――うわぁああ!?」

機関銃の銃口が火を拭き、自分たち目掛けてばら撒かれる弾丸を二人は慌てて高速旋回して回避する。
波に乗りながら二人のいた場所を通り過ぎる穴持たずサーファー。そのまま去っていくのかと思いきや、
今度はボードの両側面が展開し、弾頭にシャークの顔が書かれた二つの魚雷が後ろ向きに発射された。

「くそっ!ほら見ろ!やっぱあのヒグマ殺る気満々じゃねーか!」
「あははっ!過激な挨拶だねっ!」

ホーミング機能で二人の元へと迫ってくる魚雷を、天龍は肩に付いた14cm単装砲から砲弾を連射して
海の上から二つまとめてピンポイントに直撃させる。激しい水飛沫を上げて迎撃される魚雷。

「あー、危なかった……でもよー熊さん、海の上で艦むすと遣り合おうなんて流石に愚かじゃね?
 戦うつもりなら、見せてやるよ!世界水準軽く超えてる俺の実力を!」
「わーい!ヒグマさんすっごーい!ねーねー!私と競争しよっ!」
「あ、こらっ!島風っ!」


231 : 水雷戦隊出撃 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/11(火) 22:54:56 chx5x.1Q0
突如水面をダッシュした島風は旋回して再びこちらに迫ろうとしていた穴持たずサーファーを両腕を広げて追い抜いてしまう。
ターゲットが前方に現れたことで旋回をやめた穴持たずサーファーは島風目掛けてマシンガンを乱射しながら水面を移動する。

「あははっ!当ったらないよーだ!」

それを左右に高速移動したり水没したビルを盾にしながら可憐に回避する島風。

「だぁぁ!!遊んでるんじゃねーんだぞ!」
「しかし……不謹慎ですが本当に仲良く遊んでいるみたいにみえますね。」

今も全力で殺しにかかってくるヒグマを迎撃しようともせず楽しそうに戯れる島風を見守る二人。
恐らくあの娘にはヒグマに対する恐怖心や警戒心が無いのだろう。
ふいに天龍はカツラのことを思い出していた。ヒグマードに襲われ命を落としながらも
最後までヒグマを殺そうとせず保護しようとしていたこの会場に来て最初に出会った男の事を。

「共存共栄、か。できればそれが一番なんだろうけどな。」
「そのカツラという人の考えは分かりますが、ヒグマには私達の常識など通用しません。
 この会場にいるヒグマは特に。迷いは死につながりますよ天龍さん。」
「ああ、分かってるよ。」
「私は迷わな。ヒグマは一匹残らず駆逐します……んん!?」
「どうした銀?」
「なんということだ……ヒグマがもう一匹こちらに近づいてきます!」
「ええっ!?」

天龍が振り向くと、激しく水飛沫を上げながら二匹目のヒグマが迫ってきていた。
そのヒグマは左右の足を交互に素早く動かして水面を走っている。

……うん、前言撤回。なにがなんだか分からないがとりあえずこいつは倒さねば。

「おのれヒグマめ!遂に水面走行もマスターしたか!だがそれがどうした!!
 殺すべし!全ヒグマ殺すべしっ!慈悲はない!喰らえ!絶・天狼抜刀牙ぁぁぁ!!」

銀は天龍の背中を蹴って強烈に縦回転しながら水面を走るヒグマに向かって突撃した。

熊犬に先祖代々伝わるヒグマ殺しの奥義、抜刀牙。
その中でも究極と呼ばれる天狼抜刀牙はかつてウォーズマンをスクラップ寸前まで追い詰めた程の実力者、
完璧超人「完力」ポーラマンをも瞬殺した、ヒグマとの戦闘において絶大な威力を発揮する文字通りの必殺技である。

だが、銀がヒグマに当たった瞬間、突如回転力が弱まり、弾き返された。

「なっ!?弾かれただと!?―――がはぁ!!」

そのまま放物線を描いて水面に叩きつけられ大きくバウンドする銀。

「ワン公!?くそっ!!」

急いで銀を回収した天龍に接近したヒグマのクローが迫る。
姿勢を下げて紙一重で回避した天龍は腰に帯刀していた刀型武装を抜いて
すれ違いざまにヒグマを斬りつけた。ちなみにこの刀は支給品ではない。
なぜこの武器が没収されてないのか知らないが、恐らく実際の戦闘では
使ったことがないのでコスチュームの一部として判断されたのだろう。
大きく斬りつけられた腹から血を流しつつもヒグマは水面を走る速度を緩めず、こちらに向けて方向転換をする。
そして、何かが割れるような音と共に傷口から全身に向かってどんどんヒビ割れが広がっていった。

「……あー、このパターンは……。」

「―――軟弱なッッッ自ら出向かず犬を差し向けるとはッッッ!!!」


232 : 水雷戦隊出撃 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/11(火) 22:55:13 chx5x.1Q0
激しい爆発音と共にヒグマの体が粉々に砕け散り、中から辮髪で髪を纏めた褐色の男が出現した。

「貴様は中国武術を嘗めたッッッッッッ!!!」

中国拳法において最高峰の達人のみに贈られる海王の称号をもつ拳法家、烈海王が
ものすごい速度で両足を上下に動かして水面を走り、こちらに迫って来る。

「なるほど、最初からヒグマではなかったのですか。絶・天狼抜刀牙が効かなかった訳です。」

「ウンソウダネ―。く た ば れ !」

負傷した銀をおんぶしている天龍は無表情で主砲から魚雷ガールを烈海王(ヒグマ)目掛けて発射した。

「ふざけんじゃないわよぉぉぉぉぉ!!!!!!ゆるしまへんでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

存在自体がフザけている者を決して許さない魚雷ガールは激怒しながら烈海王に突撃する。
対峙する烈海王も水面を走りながら右手を前に突き出し迎撃の姿勢を取った。

「近代兵器対中国武術……中国武術の圧勝でしょうッッッ!!!!破ァァァッッッ!!!!」

烈海王は元々の力にヒグマの力を加えた究極の崩拳を繰り出し、突進する魚雷ガールを止めようとする。
だが、健闘虚しく右拳が当った瞬間、烈海王は大きく体を吹き飛ばされた。
ボーボボの仲間の中で最強の実力をもつ伝説のボケ殺し魚雷ガール。
あらゆる不条理を封殺する彼女の突撃の前では中国四千年も一溜まりもなかった。
だが、魚雷ガールも無事では済まず、顔を歪ませて放物線を描いて吹き飛ばされる。
大きな音を立てて水の中に叩きつけられる二人。

「走っていないと、流石に沈むな――――救命阿(ジュウミンヤ)!!!」
「がはぁ!効かないわ!そんな攻撃!何故なら私は魚雷だから!!―――――ゴバァッ!?」

全ての力を使い果たした烈海王と実は泳げない魚雷ガールはそのまま溺れながら海流に飲み込まれて沈んでいった。

「やりましたね。」
「くそぉっ!!虎の子の兵器が無くなっちまったっ!!」
「まあ勝ったからいいでしょう。やはりオーバーボディを脱ぐと弱体化するヒグマが多いようですね。」
「ああ、そうだな。……早く島風に追いつこうぜ。波乗りしてる奴も中に何が入ってるかわかんねーし……。」

規格外のヒグマであるヒグマドンから逃げ回っていた彼女らはもはや大抵の事態には驚かなくなっていた。
島風と穴持たずサーファーから大分離れてしまったが、まだ追いつけない距離ではない。

「出力最大で島風に追いつく。しっかり掴まってろよ!」
「ええ、わかりました……おや?」
「今度はなんだ?」
「島風さんが腰のポケットから何かを取り出しています。あ、どうやら携帯で誰かと電話をしているみたいですね。」
「……なにぃっ!?」


『もしもし!無事かい?ぜかましちゃん!?』
「ぐすっ…ごめんなさい、提督。任務が果たせなくなっちゃいましたぁ。」
『いや、それはもういいんだ。次元の歪みが無くなって脅威は去ったみたいだし、今シーナーさんが
 後始末に向かってくれているからね。我々も出撃させるのが遅すぎたんだ。許してくれ。』
「提督が謝る必要はありません!私が遅かったからいけないいんです!」
『ぜかましちゃんより速い者などこの世に存在しないさ。それよりも新しい任務だ!今、問題になっているのはこの津波だよ!
 このままではゲームに支障が出るからなんとか発生源を突き止めてほしいんだ。』
「はい!わかりました!」
『あ、あと今身に付けてる首輪の事なんだけど、そのままじゃ帝国に帰ってこれないから指定のポイントに向かってくれ。
 そこで首輪を外すことが出来る筈―――――』

電話の声の主、ヒグマ提督がそこまで喋り終えた直後、オーバーヒート寸前までエンジンを吹かした天龍が島風の手から携帯を取り上げた。

『どうしましたぜかましちゃん!?』
「……はぁ、はぁ、追いついたぜ……軽巡なめんな!」
「あっ!こらー!天龍!提督とお話し中だぞっ!」
『そ、その声はもしや!?軽巡洋艦、天龍殿ですか!?』

「―――おい、誰だ、お前?」

今、正式参戦者の艦むすが、ヒグマ帝国の提督と電話越しに接触を果たした。


【烈海王(水面を凄い速度で走っていたヒグマ)@グラップラー刃牙 死亡】
【魚雷ガール@ボーボボーボ・ボーボボ 死亡】


233 : 水雷戦隊出撃 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/11(火) 22:55:49 chx5x.1Q0
【E−4:水没した街/朝】

【島風@艦隊これくしょん】
状態:健康、テンション上昇中
装備:連装砲ちゃん×3、5連装魚雷発射管
道具:ランダム支給品×1〜2、基本支給品
基本思考:誰も追いつけないよ!
0:ヒグマ提督の指示に従う。
1:ごめんなさい提督、次は頑張るよ!
[備考]
※ヒグマ帝国が建造した艦むすです
※生産資材にヒグマを使った為ステータスがバグっています

【銀@流れ星銀】
状態:軽傷
装備:無し
道具:基本支給品×2、ランダム支給品×1〜3、ランダム支給品×1〜3(@銀時)
基本思考:ヒグマ殺すべし、慈悲はない
0:島風さんを落ち着かせる。
1:天龍さんと島風さん、二人の少女を助ける。
2:休息の取れる場所を探す。
3:さっきのヒグマはなんだったんだ……?

【天龍@艦隊これくしょん】
状態:小破
装備:日本刀型固定兵装
主砲・ランダム支給品1〜3
   副砲・マスターボール@ポケットモンスターSPECIAL
道具:基本支給品×2、(主砲に入らなかったランダム支給品)
基本思考:殺し合いを止め、命あるもの全てを救う。
0:島風を落ち着かせられるところに運ぶ……つもりだったんだけどな。
1:島風の話を聴くく。てか今から提督とかいう奴から話を聴く。
2:銀の配慮がありがたい。やるなぁワン公。
3:世界水準軽く超えてる先輩としての姿、見せてやるよ。
4:モンスターボールではダメ。ではマスターボールではどうか?
[備考]
※艦娘なので地上だとさすがに機動力は落ちてるかも
※ヒグマードは死んだと思っています
※水の上なので現在100%の性能を発揮しています

【穴持たずサーファー@穴持たず】
状態:健康
装備:スタディ産改造サーフボード(内臓:機関銃、対艦魚雷)
道具:無し
基本思考:目の前の餌を喰らう
0:荒ぶる波を制覇する
※天龍、島風、銀と交戦中です


234 : 水雷戦隊出撃 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/11(火) 22:56:27 chx5x.1Q0
一方その頃。
氾濫する水の流れを丘の上から呆然と見つめる一匹のヒグマと抱きかかえられた小さなネズミの様な生き物。
電気ポケモン・デデンネ(通称フェルナンデス)とその友達になったヒグマは高台に登って津波の影響をやり過ごしていた。

「デデンネ!?デデンネ!?」
「やれやれ、これではゲームにならんなフェルナンデスよ。
なぁ、いっそこのまま波に流されてこの会場から出てしまおうか?」
「デ!デデデンネ!??」
「あ、そうか。まずその首輪を外さないといけないのだったな。はっはっは。」

殺し合いやヒグマとの戦いなどどこ吹く風と楽しそうに戯れる二匹。
だが、幸せな時間はそう長くは続かなかった。

「……デデ?デデンネ?!」
「ん?なんだあいつは?隠れていろ!フェルナンデス!」

流れる水の中から何者かが二匹の居る丘の上に這い上がってきた。全身がずぶ濡れになりながら、
丸太のようなものを手に待つ異常に筋肉の隆起したボディビルダーのような風貌のそいつがゆっくりとこちらに近づいてくる。

「貴様!?一体何者だ!?」
(あの顔……見覚えがある!?ま、まさか!?)

その男は全身に斑模様があり、目はまるで薬でもやっているかのように常にぐるぐると渦巻いている。
地下の帝国から解き放たれたそれは人間ではなくポケモンだった。スタディが趣味でヒグマの他に一体だけ試作していた生物兵器。
ステロイドの投薬によって最高密度の筋肉を身に付けたパッチールがデデンネの元へと迫っていた。

――――第一放送を乗り切ったデデンネちゃんに今、最大の危機が訪れる!!


【H-3 森の中の高台になっている丘/朝】

【デデンネ@ポケットモンスター】
状態: 健康
装備:無し
道具:気合のタスキ、オボンの実、ランダム支給品0〜1
基本思考:デデンネ!!

【デデンネと仲良くなったヒグマ@穴持たず】
状態:健康
装備:無し
道具:無し
※デデンネの仲間になりました。
※デデンネと仲良くなったヒグマは人造ヒグマでした。

【パッチール@ポケットモンスター】
状態:健康、ステロイドによる筋肉増強
装備:丸太
道具:なし
基本思考:キングヒグマの命令により増えすぎた参加者や乱入者を始末する
0:とりあえずデデンネを殺す
[備考]
※投薬によって種族値合計が670を越えています


235 : 名無しさん :2014/02/11(火) 22:56:56 chx5x.1Q0
終了です


236 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/12(水) 02:42:33 UcvVcvoA0
デデンネ、デデンネと仲良くなったヒグマ、パッチールを予約致します


237 : 名無しさん :2014/02/12(水) 15:58:31 VraFbgls0
現在地まとめがほしいなあー


238 : ◆wgC73NFT9I :2014/02/13(木) 14:03:11 6qJ5vjIU0
海上で位置がよーわからん人が多過ぎて…。
暫定でよければ、自分の作品投下後に作成しますが…?


239 : 名無しさん :2014/02/13(木) 20:03:17 HaHI51Ys0
神がいた


240 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/02/13(木) 23:57:04 Wy4j8dhYO
月曜日……月曜日とは言ったが何時の月曜日とまでは指定していない……つまり(ry
……申し訳ありません。

今更になってしまいましたが、
巴マミ、穴持たず1、球磨川禊、狛枝凪斗、碇シンジ
で投下します。


241 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/02/14(金) 00:00:19 04nfrCX.O



つつまれている。
あたたかいものが流れ出し、冷えていくだった筈の体は、またぬくもりを与えられている。
朦朧とする意識の中、感じられるのはそれだけだった。


(……抱擁、というものがあるなら……このような感じなのだろうか……)


時たまうっすらと開く視界には、一人の女性が映っている。
彼女に包まれている事は、今の自分にもなんとなく理解できた。


(……おふくろ……)


彼の心の中に、浮かんでは消える存在。
それが何となく、彼女と重なった。







(……どうしよう……)


湯気の煙る温泉場。
巴マミは、目の前の血塗れのヒグマを見つめて思考を彷徨わせる。
今の彼女は、魔法少女としての服装に身を包んでいた――更に言えば、魔法を使っていた。


今ヒグマは、彼女の魔法によって生み出されたリボンに縛られている。
それは拘束の為ではなく、ヒグマの全身から流れ出る血を少しでも止める為だ。
ヒグマの体も、柵にのしかかった格好ではなく岩場まで移動させていた。


縛った程度で、本当に出血が止まるのかはわからない。
そもそも出血が止まったところで、このヒグマの命は長くないだろう。今までに流れ出た血は、あまりにも多すぎる。


(このままじゃ死んでしまうし、私の魔力だって……)


リボンの形成には魔力を使う。いやそもそも、魔法少女への変身だって魔力を消耗する。普通なら、このヒグマは見捨てるべきだ。
マミとこのヒグマには関係なんてない。
いや、そもそもヒグマは人類の敵。助ける理由などない筈だ。
二人とも万全な時に出会ったならば、殺し合いが始まっていたっておかしくはない。
……けれど、そうなるには二人とも傷つきすぎていた。
ヒグマにはマミを襲う力なんて残っていなかったし、マミはそんなヒグマに同じように傷ついた自分の姿を見てしまった。


(……この子を見捨てたら、私は自分の事も見捨てる事になってしまう)


マミは何故だか強く、そう確信していた。


けれども現実問題、マミにはヒグマを助ける手段がない。
ディパックも探ってみたが、ヒグマの怪我の手当てに使えるものは何もなかった。
このままの状態が続けば、マミもヒグマも、そう遠くない内に共倒れしてしまう。


(……誰か……)


何かを祈るように、マミが空を仰いだ時。
三人の人影が差した。


242 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:02:10 04nfrCX.O






『――ええ! それじゃあきみはツンデレハーフ強気ライバル美少女と無口素直クール美少女と眼鏡委員長美少女の三人に囲まれて巨大ロボットのパイロットをしているっていうのかい!』
「……そういう解釈をするなら、そういう事になるんじゃないかな」


森の中。
黒い学ランの青年と白いシャツの少年が肩を並べて喋りながら歩いていた。
白いシャツの少年は碇シンジ。第三新東京市でエヴァンゲリオンに搭乗するチルドレンである。
隣で歩調を合わせて、こちらの話題に茶々を入れて来る青年は球磨川禊と名乗った。
箱庭学園の副生徒会長を務める高校生、らしい。


突然このような事件に巻き込まれて、混乱していたシンジ。
彼に声をかけ、落ち着くきっかけを作ったのが球磨川だった。
少しの会話の後に自己紹介を経て、一緒に行動する事になっている。


(それにしても、よく喋る人だな……)


実際、球磨川禊はよく喋る男だった。彼が所属する生徒会の人達の事から(ついでに、会長と会計の胸が大きいという事まで)、趣味、好きな女の子について(裸エプロンだの手ブラジーンズだのと喋りまくるのは少し辟易したが)。
歩きながらも大げさな身ぶりを交えて喋る彼は、シンジの周囲にはかつていなかったタイプで少し面食らってしまう。
それが悪い訳ではない。ややもすればネガティブな想像に浸りかねない今のシンジには、喋っていてくれる球磨川の存在はありがたい。
ただシンジには、彼が喋る度に気にかかって仕方がない事があった。
それは彼から生じる気配のような嫌悪感と、


(……この人、なんだか僕と声が似てる……ような……)




「……おーい、聞こえる? 聞こえてるかな?」
「……うわっ!?」


考え込みかけた矢先に、こちらを呼び止める声がした。
慌てて立ち止まり、声の方向へと振り向いたシンジの視界には脇の茂みの中から出てくる一人の青年が入って来る。
年の頃は自分より上――やはり球磨川と同じくらい、だろうか。赤の模様が入った緑色のコートに、ゆらめく炎のような白い髪。


「……あ、驚かせちゃったかな。 ゴメンゴメン。 話し合いに集中してたから、これくらい大声じゃないと聞こえないかと思ってたんだ」


謝罪しながら、青年は茂みをかき分けこちらへ歩いて来る。
ヒグマの脅威があっても、今この島で行われているのは殺し合いだ。
突然現れた相手に警戒をしない訳にはいかない……が、人懐こそうな笑顔で無警戒に歩み寄って来る相手の姿にシンジは毒気を抜かれてしまっていた。


「突然こんな事に巻き込まれて、混乱してる人もいるかと思ったけど……やっぱりボクはツイてるみたいだね」


更にこちらへ歩み寄ってくる青年。
その手にはやはり凶器になりそうな物は入っておらず、シンジの警戒レベルは更に一段引き下げられる。


「ボクの名前は狛枝凪斗。 キミ達の名前も教えてくれるかな」


243 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:04:34 04nfrCX.O



あっさりと接触は終わった。
二人についていく事を狛枝は提案したし、二人にも拒む理由はない。
三人になった一行は、再び森の中を進んでいた。


狛枝凪斗は、私立希望ヶ峰学園に所属する高校生らしい。
希望ヶ峰学園とは、各分野における“超高校級”の才能の持ち主を集めたエリート中のエリート校……だそうだ。
卒業する事ができれば人生の成功は間違いない、『希望』の学園。


「ボクの才能は、“幸運”なんていうゴミクズみたいなものだけどね……」


そんな自嘲をする狛枝の台詞を聞きながら、シンジは一つの違和感を覚えた。


(……そんな学園なら、有名だろうし知っていてもよさそうなものだけど……)


『――へえ』『そいつはご立派な学園だね』
『立派すぎて反吐も出ないや』


球磨川も、反応を見る限り知っている訳ではないようだ。


(……というか、やけに反応がとげとげしいような……)


芳しくない二人の反応を気にもしない様子で、狛枝は話を続ける。


「……こんな状況だけど、ボクは別に絶望なんてしてないんだ。 だって、希望は前に進むんだから」
「……希望?」
「そう。 絶望的な状況だけど、そんな状況でこそ希望は輝く。 ……希望は絶望なんかに負けないんだ!」


口を挟んだシンジに狛枝は力説した。
『希望』を語る彼の顔は、ヒーローを応援する幼稚園児のように純粋に見える。


(本当に、希望ってやつを信じてるんだな……)


どこか抜けた印象はあるが、『ヒグマがうろつく会場での人間同士の殺し合い』などという常軌を逸した状況下でも希望を信じる狛枝。
どこか気持ちの悪い印象はあるが、最初に混乱していた自分に同行してくれている球磨川。
どちらも不安な所はあるが、悪い人ではない……と思う。


(……できるだけ、迷惑はかけないようにしないと)


そうシンジは内心の決意を固める。
それから少しもしない内に、狛枝がまた口を開いた。


「……あっ、そろそろ森の出口が見えてきたよ」


つられて彼の視線の先に目を合わせると、欝蒼とした森の先に切れ間が見える。
……切れ間からは仄明りが洩れていた。どうやら結構な時間森の中にいたらしい。
日がそろそろ登り始めてもおかしくはない時刻のようだ。


『ふむ』『どうやらあそこにあるのは温泉みたいだね 早速行ってみようじゃないか』
『ああ これは施設には他の人間がいるかもしれないという当然の論理であって 別にハプニングとかそういうのを期待している訳じゃないぜ?』


森を抜けた先は、草の生い茂る草原だった。その先には、球磨川の言う通り温泉らしき湯気が見える。
……欲望が隠れていない球磨川の言い分はともかく。他に見える物もない以上、わざわざ温泉に向かわない意味もない。
三人は温泉へと向かった。
――そこに何が待っているのかも知らずに。


244 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:07:34 04nfrCX.O




「お願いです、この子を助けてください!」


倒れた温泉の柵を踏み越えて現れた三人組にマミは懇願した。
白いシャツの少年。緑のコートの青年。学ランの青年。マミとヒグマの運命は、この三人に委ねられた事になる。
血塗れで倒れ伏すヒグマを指差して救助を願うマミに対して、三人の反応は様々だった。


「え、……え? あれ……って、ヒグマ……?」


白いシャツの少年はうろたえている。


「……本気で言ってるの?」


呆れたように言うのは緑のコートの青年だ。


『…………』


学ランの青年は、無言でこちらを伺っている。


おかしな事を言っている自覚はマミにもある。
ヒグマは参加者の敵だ。下手をすれば主催者側の人間と見られて攻撃される可能性だってある。
彼らがヒグマを癒す道具や力を持っているかもわからないし、そもそも助けてくれるのかも不明だ。
それでも、マミには彼らに縋るより他に方法が無かった。


(……私にもうちょっと、力があれば……!)


今のマミに、ヒグマの傷を癒す事はできない。


(……けれど、この子を助けて、って声を張り上げる事は、きっと私にしかできない……!)


そんなマミの悲壮な決意を、


『ああ』『そのヒグマの傷をなかった事にすればいいんだね?』


なんてこともなさげにそう言ったのは、学ランの青年だった。


「……本気なんですか、球磨川さん!?」
『本気も本気だよ? まあ見てなって』


詰問して来る白いシャツの少年を、学ランの青年はそう嘯いてかわす。


そのまま学ランの青年がマミとヒグマの方へと歩きだした瞬間。大きな破裂音のような音が、鼓膜を震わせる。
それは、マミには聞き慣れた音だった――銃声だ。







突然だが、二人の話をしよう。
狛枝凪斗と、球磨川禊の話だ。


自らに宿った『才能(こううん)』に振り回され、『才能(きぼう)』こそが世界の全てだと確信し盲信し邁進した狛枝凪斗。
自らに何の『才能(プラス)』も宿らなかったからこそ、『才能(エリート)』に反骨し反発し反逆した球磨川禊。


その性質の根底は、どちらも『才能』への『羨望』であり『劣等感』だ。この一点において、この二人はひどく似通っていた。


だから二人は、瞬時にお互いの事を理解した。
理解して――嫌悪した。
それはどうしようもなく同族嫌悪で、違いもあるけれど、だからこそ永遠に溝の埋まらない同族嫌悪だった。


本来であるならば、顔を合わせた瞬間に殺しあっていたっておかしくはない。
ただその場にいたシンジがその状況への緩衝材であったというだけで。何か他の衝撃があったなら、即座に衝突し得る――そんな均衡状態。
それが今だったというだけで――この状況自体は結局のところ、起こるべくして起こった出来事でしかない。


要するに――この二人は、お互いにお互いを殺す機会を伺っていたのだ。


245 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:14:29 04nfrCX.O



『がっ……ぁ……』
「……失敗したな。 今ならいけると思ったんだけど、反撃されちゃうなんてね……ボクなんかの考え、休むのと一緒って事かな?」


何が起こったか、シンジには即座に理解ができなかった。
耳をつんざく音。
次の瞬間には、球磨川は蹲り、腹からは赤いものが流れ出していた。そして、狛枝は右肩を抑えている。
その狛枝の右腕に握られたモノの名前を、シンジは知っている。第三新東京市――というよりネルフで――見た事もある。……拳銃だ。

「なっ……なに……を……してるんだよ……!」

その場に立ちすくみ、呻くように呟いたシンジの言葉に狛枝は当然のように吐き捨てる。
振り返った彼の目は……白と黒の混じり合った、濁った色をしていた。

「当然でしょ? ヒグマなんて絶望的な生き物……生かしておく訳にはいかないよね」
「それにしたって、球磨川さんを撃つ必要は……!」
「はぁ? 絶望を助けようなんて奴、生かしておく義理なんてないでしょ?」
「な、っ……!?」

絶句したシンジへ持ち替えた左手で銃を向けながら、狛枝は告げる。

「希望っていうのはね……才能ある人間しか、持つ事を許されていないんだよ。 平凡な、取るに足らない、みじめで、這いつくばるしか能の無い一般人には手が届かないモノなんだ」
「だって希望っていうのはさ……つまり成功する意思でしょ? それを“成功する才能”を持ってない人間が抱くなんて……おこがましいよ」
「小型犬がどんなに頑張ったところで、大型犬にはなれないし……ペンギンがどんなに頑張ったところで、空を飛べるようにはならない。 つまり、駄目な人間っていうのは……何をやっても駄目なんだよ」
「勿論、ボクも同じだよ……幸運なんて才能があったって、取るに足らない、ゴミみたいな人間なんだ……。 でも、それでもボクは希望を愛してるんだ。 希望の踏み台になれるのなら、ボクだって何か役に立った気持ちになれるじゃない?」
「だからさ……絶望は、消さなくちゃいけないよね」

狛枝の口から延々と吐き出される、狂気に満ちた言葉。それに知らず気押されたシンジは、いつしかへたり込んでいた。
そんなシンジを脅威にならないと判断した狛枝は、悠然とヒグマに止めを刺すべく歩き出す。

「ほら、さっさとどいたら? そこの子も、今そこをどいたら手出しは一応しないでおいてあげるよ」

狛枝は、マミへと拳銃を向ける。あからさまな脅し。
いや、マミが退かなければ。きっと先程のように、何の躊躇いもなく、感情もなく、狛枝は撃つだろう。
けれどマミは、

「……どかないわ。 この子は、私が守る」

一歩も譲らなかった。

「わかんないな……なんでヒグマを庇うの? そいつは人間の敵でしょ?」
「ヒグマは人類の敵かもしれない。 けれど、今ここにいるこの子は……親を探して、泣き叫んでる子供と同じなのよ!」
「ヒグマと人間を同一視するつもりかい? 理解できないな……ま、いいや。 希望の障害になるのなら……排除するよ」

本当に理解できない、という顔で。狛枝はマミを排除すべく、銃の引き金を――、

――引けなかった。




『おいおい凪斗ちゃん』『そんなに嫌がる事はないだろ?』
『もしかしたら君の大好きな希望って奴が』『絶望の中にあるかもしれないぜ?』

先ほどまで狛枝の握っていた拳銃は、頭上から投げ落とされた巨大な螺子に弾き落とされ岩場の地面に転がっている。

『――劣化大嘘憑き(マイナスオールフィクション)』
『僕が撃たれたのを』『なかった事にした』

その螺子を投擲したのは――狛枝の背後で立ち上がった、球磨川禊だった。

「……間違いなく腹を撃ったと思ったんだけど。 どんな手品を使ったの?」
『教えると思ってる?』『少年ジャンプの悪役みたいに』『自分の能力をべらべら喋ったりとかを期待してるのかな?』

腹を撃たれた筈の球磨川は、しかしそんなことは『なかったこと』のように無傷だ。
先程までの余裕の表情で、彼に向き直った狛枝と対峙している。

「絶望に希望なんてないんだよ……そんな妄想で希望の邪魔をするつもり?」

そんな球磨川を睨む狛枝の台詞に、彼は飄々と言葉を返す。

『まあ そんなところかな』
『ゼロだろうと マイナスだろうと』『もしかしたら 幸せ(プラス)になることだってできるのかもしれないぜ?』
『――何より その子のおっぱい大きいし』

……いいことを言ったように見えたが、最後の台詞で台無しだった。


246 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:16:24 04nfrCX.O



一方シンジは、地面にへたり込んだまま状況を窺う。

(……さっきの発言はともかく)
(ただ……球磨川さんとあの女の子が勝つ……んじゃないか……? 二対一だし……)

それは多分に希望的な観測ではあったが、シンジの予想は大体にして的を射ていた。
まず単純に数でマミと球磨川が勝っている。
狛枝の武器であった拳銃は地面に落ちているし、仮にディパックの中に他の武器が眠っていたとしてもそれを取り出すのは致命的な隙になる。
そもそも一対一で、狛枝の手に武器があったとしても勝てるかどうかは怪しい。
マミは魔法少女だし、球磨川だって過負荷の中の過負荷である(それが格につながるかは別として)。
対する狛枝は、ただの高校生に過ぎない。荒事には多少慣れているかもしれないが、それだけだ。
そう。『幸運』なだけの――ただの高校生である。


……その異常に、最初に気付けたのはシンジだった。

(蚊帳の外……か。 ……本当にいいんだろうか? これで……)

場の空気から置いて行かれている感のあるシンジだが、だからこそ状況を俯瞰していた。
狛枝を球磨川と挟み撃ちする形になっているマミの近く……温泉の中に、影を見つけられた。

(……なんだ、あの白黒なの。 ……温泉の中に、何かいる!?)
「……危ないっ!」
「――えっ?」

シンジが警告の声を上げたのと、マミは湯の中から奇襲されたのはほぼ同時だった。
ロケットのような勢いで飛び出してきた物体は、「爪」を用いてマミの胴体を薙ぎ払おうと襲いかかる。

「きゃ……っ!?」
「クマーッ!」

警告のおかげでかろうじて反応できたマミはそれをすれすれでかわす。突撃をかわされた襲撃者は、どことなく間抜けな声を上げながら岩場に着地した。
落ち着いて見れば、襲撃者の姿は意外に小さい。人間の腰までもないかもしれない。
半身を白に、もう半身を黒に染めた……

「……ぬいぐるみ?」
「失礼しちゃうなぁ! ボクはモノクマだよ! 学園長……じゃあないけどね! うぷぷぷぷ!」

大袈裟な、他人をおちょくっているかのような動作でモノクマと名乗った動くぬいぐるみは笑う。

「モノ……クマ……クマ……!?」
「そう! ボクはクマなのだー!」
「最初はもう少し見てるつもりだったんだけど、予想外に早く片付いて終わっちゃいそうだから慌てて出てきたんだよ! うぷぷ、狛枝クンったらかっこわるーい!」

漏らすようなシンジの呟きも聞き逃さずに、モノクマは喋り続けながら狛枝を指差して笑う。

『……へえ。』『凪斗ちゃんの知り合いかい?』
「一緒にしないでくれるかな……こんなヤツとさ」

狛枝に対して馴れ馴れしく、友人のように話しかけるモノクマ。
しかしモノクマを睨む狛枝の目に宿っているのは、真逆の感情――殺意だった。
けれどモノクマはその殺意を受け流し――爪を剥き出しにして、デビルヒグマを見据える。

「うぷぷぷ! こんな状況なのにボクを敵視しちゃうなんて、さっすが希望マニアの狛枝クン! でも……今日の獲物はキミじゃなくてそのヒグマなんだよね!」
「……なんでこの子を狙うの!? 同じクマじゃない!」
「これからの為にはさ……有富の影響が大きいナンバーの若い穴持たずは邪魔なんだよね! カーズ様にやられてればよかったのに、もう!」


247 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:18:18 04nfrCX.O



戦場は膠着状態に入った。
モノクマの乱入もあるが、それに皆が気を取られている間に狛枝が拳銃を拾ってしまっていたのだ。
下手に動けば、その隙にどちらか片方はヒグマを襲うだろう。
狛枝がモノクマに協力的ではない、というのも場を複雑にする要因であった。
何をするかわからない。モノクマを狙うのかもしれないし、デビルヒグマを狙ってくる可能性も否定はできない。

更に言えば、時間が無限にある訳でもない。
今もあのヒグマの血は失われ続けている。
このままではそう遠くない未来、失血死に至るだろう。

そんな状況下、ただ一人場の空気からは見逃されているシンジは思考する。

あのヒグマが失血で死ねば、狛枝もモノクマも戦う理由はなくなる。
和解はできないだろうが、見逃してくれる可能性はゼロではないだろう。
けれど――少女の台詞が、シンジの頭から離れない。

――ヒグマは人類の敵かもしれない。 けれど、今ここにいるこの子は……親を探して、泣き叫んでる子供と同じなのよ!

(……親……)

両親、というワードは、実のところシンジにとってもピンポイントな単語である。
母を失い、父の愛を受けずに育ったシンジは両親との関係が希薄だ。
切実に訴えたマミの様子と言葉は、シンジに奇妙な共感を呼んだ。

(あのヒグマも……僕と同じなのか?)


……やがてシンジは音を殺して球磨川に近寄ると、できる限り声を小さくして囁いた。

「球磨川さんは……あのヒグマを助けられるんですか?」
『うん』『実はなかったことにできることとできないことが今はあったりもするんだけど――』
『あのヒグマの傷はなかったことにできると思うよ』

「つまり……あの二人に隙を作れれば、どうにかなるんですね?」
『そうだね』


「……僕がやります」


248 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:22:00 04nfrCX.O


「……オオォォォォォ――ン…………!」

不意に。温泉場に、雄叫びがこだました。

「……!?」
「クマーッ!?」
「な、なに!?」

狛枝とモノクマだけでなく、マミまでもが咆哮に身を竦める。
そして反射的に振り向き――そこに見た。


……さて。ここで一つ思い出してほしいことがある。
このロワの基本ルールの一つだ。

・全力で戦ってもらう為に参加者の得意武器+ランダム支給品0〜2+基本支給品が支給されます

「エヴァンゲリオン初号機パイロット」である碇シンジの得意武器とはなにか?
……そう。


――エヴァンゲリオン初号機である。

当然他の参加者の操る機体と同じように、その全長は2m強まで縮んでしまっている。支給されたシンジ本人が搭乗する事は不可能。
だが――エヴァンゲリオンは、そのチルドレンがいなくても稼動する事ができる。

接続されたダミープラグと、初号機の中にあるシンジの母――碇ユイの魂。
その二つが、搭乗するチルドレンなしでも自律行動を可能にする。
本来ならば暴走状態でしか現れないこの二つだが――

「ガァァァアァァァァ――――!」
「あの白黒のクマを狙え! ……狙うんだ!」

これも制限の影響か、あるいは特殊な状況下での起動の為命令を聞く予知があったのか。
外部のシンジからの命令を聞き、制御された初号機がモノクマに襲いかかる。

「い、いやいやいやちょっと待って! なんだよ有富、こんなの支給するなんて馬鹿じゃないの!? 絶望的……ッ!」

流石のモノクマもこれには驚愕を隠せなかったのか、意味不明な事を口走りながら飛びずさる。
間髪入れずに初号機が突撃する。モノクマもひらりとかわすが、返す爪も初号機の装甲に浅い引っ掻き傷を作るだけで有効打を与えられない。
そして、その隙を突いて。


『――劣化大嘘憑き(マイナスオールフィクション)』
『ヒグマの傷をなかったことにした!』

――デビルヒグマが起き上った。

「あちゃ〜……瀕死の今なら、サクっとやれちゃうと思ったのに! こうも邪魔が入るなんてテンション下がるなぁ、もう!」
「その口ぶりでは、貴様も私を狙ってやって来たのか。 ……何故私を狙う? 貴様もヒグマだというならば、参加者を無視してまで私を襲う理由はないはずだろう!」
「大人の事情ってヤツだよ! 有富が消えた以上、有富の影響が強い前期ナンバーの穴持たずにも退場してもらわなきゃね!」

起き上がりざまに骨の刃を作り、モノクマへ向けるデビルヒグマ。
そんな彼に言葉を返すモノクマの「有富が消えた」という発言は、デビルヒグマを動揺させた。

「……有富が消えた!? どういう意味だ!?」
「おっと、失言失言! ま、穴持たず1も復活しちゃったし、そろそろ逃げちゃうとしましょうか! ほな、バイナラ〜!」
「おい、待て!」

背を向けたモノクマに飛びかかるデビルヒグマ。
確かにモノクマを捉えた筈の爪は、しかし空を切り――モノクマは、忽然と姿を消した。

「馬鹿な……逃がしただと!?」
『まあ待ちなよ』『折角あのモノクマの事を知ってそうな凪斗ちゃんがここにいるんだ』
『捕まえて拷問でもなんでもして吐かせれば――』

消えたモノクマを探し、駆け出そうとするデビルヒグマを球磨川が引き留める。
その球磨川に、エヴァ初号機をディパックへと戻しているシンジが告げた。

「あの……球磨川さん」
『なんだい?』
「……狛枝さんもいません」
『えっ』


249 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:22:12 04nfrCX.O





「……まさかあんな隠し玉があるなんてね」

エヴァ初号機が現れた時点で、狛枝はその場から逃げ出していた。
モノクマがまともに太刀打ちできない相手が現れた以上、無理に居残ってもヒグマを仕留められる可能性は低い。
やって来た森に再び隠れ、木々に紛れて逃げる以外の選択肢はないと判断した。

「でも、ボクは諦めないぞ。 希望は、前に進むんだ!」

それでも、狛枝の瞳から狂気の色は消えない。
彼の狂気とは、即ち希望なのだから。

「……まずは仲間を探すべきかもしれないね。 “ヒグマを連れた主催者の手下を倒す為の仲間を探してる”……っていうのが一番効果的かな」


【G7・森/朝】
【狛枝凪斗@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園】
[状態]:右肩に掠り傷、軽い疲労
[装備]:リボルバー拳銃(4/6)@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本行動方針:『希望』
0:ボクがこの手で絶望を排除した時……ボクも希望になれるのかな?
1:出会った人間にマミ達に関する悪評をばら撒き、打倒する為の協力者を作る。
2:球磨川は必ず殺す。
3:モノクマも必ず倒す。


250 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:25:42 04nfrCX.O


――それでは、引き続きヒグマとの素敵なサバイバルライフをお楽しみ下さい……」
――ピーンポーンパーンポーン♪


放送は、デビルヒグマから見ても何の問題もなく行われた。
もっとも、放送は死亡者の名前を入力すれば自動音声で行われる仕組みになっていた筈だ。
放送を行う人間(実のところ、この時放送を行っているのは人間ですらなかったのだが)が変わっていても、それに気付くことは不可能だった。


『……それで? どうするつもりなんだい』

デビルヒグマとマミ達は狛枝・モノクマとの戦いの後、温泉に留まって情報交換と休息を行っていた。
モノクマの言葉に動揺していたデビルヒグマがすぐにも飛び出そうとしたのを、マミ達に一旦押し止められた結果でもある。
……マミが変身を解く際に一悶着あったが、それは関係のない事だ。

「……今は貴様達と戦うつもりはない。 ヒグマの定めは参加者と戦う事だが、助けられた者に牙を向けるほど恥知らずではない」
『義理堅いねぇ』
「それに、あの白黒のヒグマが言っていた言葉も気になる……。 有富など心配ではないが、我々ヒグマを作り出した人間でもある。 奴に何かあったのならば、この戦いをする理由もなくなるかもしれんからな」
『今の台詞すごくツンデレっぽいね』
「黙れ。 ……貴様達はどうするのだ? 言っては悪いが、貴様達には関係のない事だと思うが」

茶化すような口調の球磨川にイライラとしながらも、デビルヒグマは今後の方針を話した。
本来ならば、人間とこのように話す理由などない。義理があると言えど、内情や今後の予定までペラペラと喋るのはおかしな事だ。

(……この少女のせいか? 俺の心の中の何かと、この少女が重なっているのか……?)

「当然ついて行くわ。 主催者の本拠地ってことは、このゲームを止める為の手段があるかもしれないんでしょう? 分の悪い賭けかもしれないけれど、行ってみる価値はあるわ」
「……僕も行きます」
「……勝手にするがいい。 首輪がある以上、ついて来られるかは知らんがな」

自らの中の謎の感情。
それに戸惑いながらも、デビルヒグマは人間との共同行動を承諾した。
本来ありえない筈の、ヒグマと人間の協力。それが何を起こすのか、今は誰も知らない。

「それと。 貴様達、じゃなくてちゃんと名前を呼んで欲しいわ。 私の名前は巴マミ。 ……よろしくね?」
「……了解した。 おふく…………マミ」
『小学生みたいな言い間違いだね』
「黙れ」


【G6・温泉/朝】

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:健康
装備:ソウルジェム(魔力消費)
道具:基本支給品(食料半分消費)、ランダム支給品0〜1(治療に使える類の支給品はなし)
基本思考:「生きること」
1:地下に向かうデビルヒグマについていって、脱出の糸口を探す。
2:誰かと繋がっていたい
3:ヒグマのお母さん……って、どうなのかしら?
※支給品の【キュウべえ@魔法少女まどか☆マギカ】はヒグマンに食われました。
※デビルヒグマを保護したことによって、一時的にソウルジェムの精神的な濁りは止まっています。


【穴持たず1】
状態:健康
装備:なし
道具:なし
基本思考:満足のいく戦いをしたい
1:至急地下に戻り、現在どうなっているかを確かめたい。
2:私は……マミと戦えるのか?
[備考]
※デビルヒグマの称号を手に入れました。
※キング・オブ・デュエリストの称号を手に入れました。
※武藤遊戯とのデュエルで使用したカード群は、体内のカードケースに入れて仕舞ってあります。
※脳裏の「おふくろ」を、マミと重ねています。


【球磨川禊@めだかボックス】
状態:疲労
装備:螺子
道具:基本支給品、ランダム支給品1〜2
基本思考:???
1:『そうだね』『今はみんなについてこうかな』『マミちゃんも巨乳だしね』
2:『凪斗ちゃんとは必ず決着を付けるよ』
※所持している過負荷は『劣化大嘘憑き』と『劣化却本作り』の二つです。どちらの使用にも疲労を伴う制限を受けています。


【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
状態:精神的疲労
装備:なし
道具:基本支給品、エヴァンゲリオン初号機、ランダム支給品1〜2
基本思考:生き残りたい
1:地下に向かうデビルヒグマについていって、脱出の糸口を探す。
2:……母さん……
3:ところで誰もヒグマが喋ってるのに突っ込んでないんだけど
※新劇場版、あるいはそれに類する時系列からの出典です。
※エヴァ初号機は制限により2m強に縮んでいます。基本的にシンジの命令を聞いて自律行動しますが、多大なダメージを受けると暴走状態に陥るかもしれません。


251 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:26:00 04nfrCX.O



島の地下にある巨大な空間。
そこには今は、ヒグマ帝国が築かれている。

「うぷぷぷ……計画通り、って奴かな!」

ヒグマによって築かれた市街の中心に位置する、ヒグマ公園。
その巨大な自然公園の、帝国を一望できる丘の上にモノクマはいた。

「ヒグマ帝国内部はシーナークンがうまくやってくれるだろうし……ボクは引き続き、外の不安分子を排除するといきますか!」

そして、現れた時と同じように――モノクマは消えた。

【島のどこか/朝】
【モノクマ@ダンガンロンパシリーズ】
[状態]:万全なクマ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:ヒグマ帝国の権力を万全なものにする為に、前期ナンバーの穴持たずを抹殺する。
※ヒグマ枠です。
※抹殺対象の前期ナンバーは穴持たず1〜14までです。
※原作通りロボットですが、自律行動しているのか、どこかに操作している者がいるのかは不明です。


252 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/02/14(金) 00:27:35 04nfrCX.O
投下終了。
キャラの長期間の拘束、深くお詫びいたします。
タイトルは「CVが同じなら仲良くできるという幻想」で。


253 : 名無しさん :2014/02/14(金) 00:52:13 p23KdusU0
投下乙!
球磨川はともかくシンジ君どうするんだろと思ったら普通にエヴァ初号機支給されてて吹いたw
一命を取り留めたデビルが主催打倒のカギになるのか、そしてダンロン勢の参戦の影響は果たして


254 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/02/14(金) 21:36:35 04nfrCX.O
今更気づきましたが、前半の改行が酷いことになってますね。申し訳ありません。

狛枝・球磨川・シンジの状態表にミスがあったのと、
モノクマの状態表にわかりにくい場所があったので訂正します。


【狛枝凪斗@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園】
[状態]:右肩に掠り傷、軽い疲労
[装備]:リボルバー拳銃(4/6)@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本行動方針:『希望』
0:ボクがこの手で絶望を排除した時……ボクも希望になれるのかな?
1:出会った人間にマミ達に関する悪評をばら撒き、打倒する為の協力者を作る。
2:球磨川は必ず殺す。
3:モノクマも必ず倒す。


【球磨川禊@めだかボックス】
状態:疲労
装備:螺子
道具:基本支給品、ランダム支給品0〜2
基本思考:???
1:『そうだね』『今はみんなについてこうかな』『マミちゃんも巨乳だしね』
2:『凪斗ちゃんとは必ず決着を付けるよ』
※所持している過負荷は『劣化大嘘憑き』と『劣化却本作り』の二つです。どちらの使用にも疲労を伴う制限を受けています。
※また、『劣化大嘘憑き』で死亡をなかった事にはできません。


【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
状態:精神的疲労
装備:なし
道具:基本支給品、エヴァンゲリオン初号機、ランダム支給品0〜2
基本思考:生き残りたい
1:地下に向かうデビルヒグマについていって、脱出の糸口を探す。
2:……母さん……
3:ところで誰もヒグマが喋ってるのに突っ込んでないんだけど
※新劇場版、あるいはそれに類する時系列からの出典です。
※エヴァ初号機は制限により2m強に縮んでいます。基本的にシンジの命令を聞いて自律行動しますが、多大なダメージを受けると暴走状態に陥るかもしれません。


【地下・ヒグマ帝国/朝】
【モノクマ@ダンガンロンパシリーズ】
[状態]:万全なクマ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:ヒグマ帝国の権力を万全なものにする為に、前期ナンバーの穴持たずを抹殺する。
※ヒグマ枠です。
※抹殺対象の前期ナンバーは穴持たず1〜14までです。
※原作通りロボットですが、自律行動しているのか、どこかに操作している者がいるのかは不明です。
※島の地下を伝って、島の何処へでも移動できます。


255 : ◆Dme3n.ES16 :2014/02/16(日) 22:40:13 YRhiU0.c0
山岡銀四郎、穴持たず4、相田マナで予約&投下します


256 : 老兵の挽歌 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/16(日) 22:41:13 YRhiU0.c0
三毛別羆事件。

約100年前の北海道の開拓村で発生し、約10名の死者を出した日本史上最大の獣害事件である。
村で殺戮を繰り返す全長3メートルを超える巨大な穴持たずが相手では地元の猟師達も全く歯が立たず、
ついに軍隊まで出動する事態に発展したこの事件を終結させたのは意外にも一人の老猟師であった。
鬼史家村に住むその男は腕ききのマタギであったが、素行が悪く深酒をしては喧嘩をして歩く
悪名高い人物でもあった。しかし事態の打開のため三毛別村の村長は独断で彼ににヒグマの討伐を
依頼していたのだ。単独行動をしていたその男は、気配を殺して至近距離までヒグマに近づいた後、
冷静に狙いを定めた二発の弾丸をヒグマの心臓と頭部に撃ち込み、遂にヒグマを死に追いやったのだ。
その老猟師の名は山本兵吉。この事件を元にしたドキュメント「羆嵐」では山岡銀四郎と名前を変えて伝えられている。



墜落するヘリから脱出した後、森の中を歩いていたマタギ、山岡銀四郎は森の茂みの中から
ゆっくりと姿を現した巨大なヒグマに左手に持った血の付いた猟銃を見せて喋りかけた。

「よぉおめぇか?この銃の主人を喰ったのは?」
「グオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

咆哮するヒグマ、眠りから覚めた穴持たず4を目前にして、銀四郎は彼が愛用する猟銃、
日露戦争でロシア兵から奪い取った単発ボルトアクションライフル、ロシア製ベルダンタイプⅡモデル1870を両手で構え、
狙いを定める。そして、突進してくる穴持たず4の額目掛けて冷静にスラッグ弾を発砲した。

寸分の狂いもない正確な射撃。だが、対峙するヒグマは唯のヒグマではない。HIGUMAなのだ。
鋼鉄の頭蓋がスラッグ弾を無慈悲に弾きとばした。
驚愕して膠着する銀四郎の頭部に噛みつかんと、至近距離まで接近した穴持たず4の大きく開いた口が迫る。
だが、銀四郎は咄嗟に懐から何かを取り出し、飛びかかってきたヒグマの首筋を斬りつけた。

「グオォ!?」

予想外の行動で軌道を逸らされた穴持たず4はそのまま銀四郎の真横を通り過ぎてしまう。
立ち止まった穴持たず4の首から血がどくどくと流れていた。

「なるほど、たしかに普通じゃねぇな。」

猟銃を手放した銀四郎は右手に何かを持っている。それは鯖裂き包丁であった。
彼はかつて鯖包丁1本で熊を仕留めたことから「宗谷のサバサキの兄ぃ」の名で呼ばれていた。

「グルル……」

首から血を流しながら穴持たず4は警戒しながらこの男と先ほど戦った凄腕のハンターの違いを考える。
彼は一つ勘違いをしていた。彼はハンターではなくマタギなのだ。
圧倒的な力をもつヒグマを仕留めることが目的であるマタギが己の銃と経験のみで戦う必要などどこにもない。
銃が効けば最低限の挙動で仕留め、銃が効かなければ別の手段を用いて最終的にヒグマを仕留める。
MATAGIとはそういうものなのだ。
そして、生涯において300頭のヒグマを仕留めた山本兵吉の力は既に人間の領域を超えていた。
振り向いた銀四郎は穴持たず4に向かって包丁を空中で素早く振り回した。
一瞬何をしているのか分からない穴持たず4の全身が突然切り刻まれ、血が飛び散る。

「グォ!?」


257 : 老兵の挽歌 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/16(日) 22:41:58 YRhiU0.c0
銀四郎が振り回す包丁の先端の速度が音速を超えている為ソニックブームが発生し、
視えない斬撃が穴持たず4に襲い掛かっているのだ。
たまらず隣の樹をなぎ倒して盾を作る穴持たず4。

「流石に包丁じゃあ牽制にしかならねぇな。じゃ、あれを使ってみるか。」

山本兵吉はそう言うと、突然後ろを向き、その場に仰向けに倒れこんで両手足を地面に付け、体を持ち上げブリッジの姿勢をとった。

「グオ?(一体何をしているんだ?更年期障害か?違う!?――――あれは、象形拳!?)」

その逆四つん這いの姿勢のまま大きく跳び上がった銀四郎は空中で浮遊した後、
超高速で回転し、空中で回る巨大な車輪と化して穴持たず4に突撃を仕掛けた。

(絶・天狼抜刀牙だと!?―――ウオオオオ!?)

あらゆる熊殺しの秘儀を身に付けた一流のマタギは猟犬の奥義すら自由自在に使いこなす。
リヴァイ兵士長のような高速回転体当たりは穴持たず4が盾にしている巨木を瞬時に砕き、穴持たず4を大きく吹き飛ばした。
地面に何度かバウンドした後よろける穴持たず4。地面に突っ伏す彼の額にライフルの銃口が押し付けられた。

「ゼロ距離だ。これなら一溜まりもあるめぇ。」
「グルルゥゥ(なんということだ……この男、ただのハンターではない。ヒグマと戦いなれている……!)」

これが敗北か。覚悟を決めた穴持たず4がゆっくりと目を閉じようとした、その時だった。

「……ん?なんだありゃ?隕石?うおおおおお!?」

突然、空から炎を纏って飛来してきた物体が森の中に直撃し、衝撃で周囲の木々ごと銀四郎と穴持たず4を吹き飛ばした。




「いてて……なんだ一体?」
「あ、山岡さん!久し振りですね!」

爆心地からよろめきながら立ち上がった銀四郎の元へ歩いてきたのは、先ほどヘリの中で別れたキュアハートであった。

「マナさんか?派手な登場だな?今までどこ行ってたんだ?」
「えへへ。ちょっと宇宙でヒグマさんと愛について語っていまして。」
「なんだそりゃ?まあいいや、それより気を付けろ、近くにヒグマが居るぞ。さっきまで戦っていた奴をを仕留め損ねたからな―――




ドゴォ!!



「……がっ!?」
「あはっ♪喧嘩とかしちゃ駄目だぞっ。」


258 : 老兵の挽歌 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/16(日) 22:42:17 YRhiU0.c0
突然、キュアハートが繰り出したハートブレイクショットが銀四郎の胸を貫き、心臓を掴み出された。

「マ……マナさん……?」
「山岡さんのハート、すごくドキドキしてるねっ。胸がキュンキュンしちゃうよぉ。」

腕を胴体から抜き取ったキュアハートは右手に持った心臓を口に持っていき、生のままむしゃむしゃと咀嚼し始めた。

「―――グオォォ!?」

すこし離れた位置でその様子を見ていた穴持たず4は、突然の来訪者に獲物を横取りされた事実に憤怒し、
我を忘れてキュアハートに向かって飛びかかりクローを叩き込もうとする。

「モグモグ……はぁ……やっぱ生で食べるのが一番だよねぇ。命の味がするよぉ。」
「グォ!?」

穴持たず4の全力のクローを、その方向を見ようともせずにキュアハートは片手で受け止めた。
飛びかかった姿勢のまま持ち上げられ、空中で制止する穴持たず4を、キュアハートはゆっくりと持ち上げる。

「後で遊んであげるからちょっと向こうで遊んできてね、ヒグマさんっ。」
「グォ?―――――グオオオオオオオオオオ!!!!???」

そのまま空に向かって投げ飛ばされ、穴持たず4は海上の何処かへと飛んで行った。

「あー、おいしかった。じゃあ、残りもいただきますね、山岡さん。」

うずくまる銀四郎は朦朧とする意識の中、本能で銃弾をライフルに装顛する。

「……なにがあったか知らねぇが……俺を喰うだと?神(カムイ)にでもなったつもりかい?
 人は神にはなれねぇぜ、嬢ちゃ―――

銃声が鳴り響くと同時に、高速で接近したキュアハートの右拳が山岡銀四郎の頭部を吹き飛ばした。

「人間じゃないよ、プリキュアだよ。」

左手から握りつぶしたスラッグ弾を地面に捨てたキュアハートは倒れた首の無い銀四郎に向けてそう呟き、
そのまま四つん這いになって食事を開始した。

アイヌ民族は、ヒグマを神が人間のために肉と毛皮を土産に持ち、この世に現れた姿と解釈していた。
猟で捕えた際は神が自分を選んでたずねてきたことを感謝して祈りを捧げて肉を捕食し頭骨を祀り、
ヒグマが人間を食い殺した時は悪神とみなして殺した後で放置し、腐り果てるにまかせたという。
狩りと食事は意思疎通のできないヒグマと人間の間に存在した一種のコミュニケーションの手段だったのかもしれない。


259 : 老兵の挽歌 ◆Dme3n.ES16 :2014/02/16(日) 22:42:49 YRhiU0.c0
【山岡銀四郎@羆嵐 死亡】


【I-8 森/朝】

【相田マナ@ドキドキ!プリキュア、ヒグマ・ロワイアル、ニンジャスレイヤー】
状態:健康、変身(キュアハート)、ニンジャソウル・ヒグマの魂と融合、山岡銀四郎を捕食中
装備:ラブリーコミューン
道具:不明
[思考・状況]
基本思考:食べて一つになるという愛を、みんなに教える
0:そうか、ヒグマさんはもともと、愛の化身だったんだね!
1:任務の遂行も大事だけど、やっぱり愛だよね?
2:次は『美琴サン』やに、愛を教えてあげようかな?
[備考]
※バンディットのニンジャソウルを吸収したヒグマ7、及び穴持たず14の魂に侵食されました。
※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました。
※ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です。

【???/空中/朝】

【穴持たず4】
状態:軽傷、疲労、放物線を描いて飛行中
装備:無し
道具:無し
[思考・状況]
基本思考:強者と闘う
0:なんだあの人間は!?


260 : 名無しさん :2014/02/16(日) 22:43:07 YRhiU0.c0
終了です


261 : ◆wgC73NFT9I :2014/02/16(日) 23:54:03 m6FiL4/Q0
皆さん投下お疲れ様です!
すごい作品が投下されてきてるなぁ……。
マナさんは早速これか!? 予想以上や……。

多忙だったため自分の予約はもう少し掛かりそうです。
すみませんが、予約を延長させていただきたく思います。
現在地ともども、今しばらくお待ち下さい。


262 : 名無しさん :2014/02/17(月) 19:07:59 HC6o5Nd20
投下乙
MATAGIもプリキュアには無力だったか…
心臓えぐり出されても「マナさん」呼びしたのはちょっと笑えた


263 : 名無しさん :2014/02/19(水) 01:47:50 ePnl73zc0
投下乙
やっぱマナさんといえばハートブレイクショットだよな


264 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/19(水) 14:56:59 uosFZ/ag0
予約を延長致します


265 : ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:40:59 1JieLy4k0
皆さん投下お疲れ様です!
まず感想をば。

>水雷船隊出撃
 烈さぁーん!? あなたそれでいいんですかそれで!?
 ウンソウダネー……天龍が胃痛になりそうダネー。まあ彼はおいといて。
 いた! 津波にも無事な人々が! 島風も元気になったようでなによりです。
 艦むすは流石の姿勢制御機構ですね。あの天龍ブレードも活躍の機会ができてアツイ展開だ。
 実際の軍用艦より性能良さそう。
 そして絶・天狼抜刀牙ってどういう仕組みになってるんだろう……。また新たな謎がでてきたのかこれは……?
 そして、ついにヒグマ提督と接触か……。
 天龍殿とか言っちゃうあたり、いろんな意味でヤバイ雰囲気がしますねこのヒグマ……。早くなんとかしないと。
 あと、有富さん、暇と予算を持て余しすぎじゃないですか……?
 サーファーは良いとしても、パッチールはどうする気だったんですかね……。ドーピングしただけじゃん。
 あれか? ポケモントレーナーに「厳選の必要がありませんよ」とか売りつけて小金稼ぐつもりだったのかな……。


>CVが同じなら仲良くできるという幻想
 おお! この面子をどう料理するのかと思いきや、こうなりましたか!
 想像以上のリレーをして下さって個人的にうれしい限りです。
 マミさんはソウルジェムも節約・維持できてていいですね。
 球磨川・シンジコンビはそれなりにうまくやっていけそうだけれど、狛枝くんはどうなるか……。
 後に津波が控えてる状況で、そしてそんな大層な自己矛盾を抱えた状態で、相手にしてもらえるといいけど……。
 そして、モノクマの立ち位置は気になるところですね。
 カーズ様のことを知っているヒグマってことは、もしかして、有富さんの企画段階から関わっていたのかな……?
 デビルヒグマ・マミ・シンジの美味しい絡みと、有富さんがいそいそと初号機をデイパックに詰めているイメージ映像で、大層もえさせていただきました。


>老兵の挽歌
 そしてこちらも想像以上のリレーですねぇ!!
 初っ端から早速こうなるとは思ってませんでした……。
 あれですか。信頼と伝統のハートブレイクショットなんですかたまげたなぁ。
 そしてそろそろ、絶・天狼抜刀牙がゲシュタルト崩壊してきそうですね。鯖裂き包丁もハンパじゃないけど。
 あれですか、絶・天狼抜刀牙はARMS殺しみたいなHIGUMA特異的ダメージソースとして、一子相伝ではなく、熊犬間で広く研究されていた技なんでしょうか(意味不明)。
 穴持たず4の知識にある技術ってことは、有富さんも相当重要視して入力していたんでしょうねぇ……。
 天龍あたり、銀から教わったらどうなんでしょうか。
 何にしても、マナさんのこれからに更なる愛のあらんことを!!


266 : ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:41:33 1JieLy4k0
そして、遅くなりましたが、予約していた分を投下します。


267 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:42:16 1JieLy4k0
 温泉の湯煙が朝靄となる。
 その霞を透かす向こうに、対峙する二人の人物と一頭のヒグマがいた。
 湯船の縁に、唸り声を上げるヒグマ――メロン熊。
 湯の中には、スーツを腰まで浸けて拳銃を取り出す男性――キョウリュウシアン。
 その後方の岩場で、ヒグマに狙いをつけるもう一人――仮面ライダーゾルダ。

 その二人の男は、全身をそれぞれ水色と緑のスーツに包み、異なった趣の仮面を付けている。
 緑の男、北岡秀一が持つ得物は、機召銃マグナバイザー。
 機械的な面頬の隙間から、彼は正面のヒグマの様子を窺う。


 ――頭部に巨大なメロンのような物体を据え付けた、異様な姿のヒグマだ。
 どのような行動、攻撃を行ってくるのか予測がつかない。
 しかし今そのヒグマは、飛びすさった湯船の縁に立ち、同じくこちらを見定めるように睨みつけている――。


 この膠着状態は、時間にすればほんの一瞬だっただろう。
 それは、キョウリュウシアンのスーツに身を包んだ男、ウィルソン・フィリップス上院議員がただちに動いていたからだった。


 ――このヒグマには、ガブリボルバーによる通常の銃撃、およびガブリカリバーによる斬撃はでは歯が立たなかった。
 ならば最初から、最大威力の攻撃でぶちのめす――!


「獣電、ブレイブフィニィィィッシュ!!」

 裂帛の叫びに、ヒグマの視線が彼の方へ動く。

 ――よし、やれっ!
 北岡は、水色の男の行動に合わせ、拳銃の照準をきっちりと定めた。


 雰囲気と気合いからして、まず水色スーツのおじさんが仕掛けるだろうことは予測通りだった。
 ヒグマの防御力・瞬発力は侮れない。
 自分のマグナバイザーではその身を貫けるのか、シュートベントでは命中させられるのか、微妙なところだった。
 おじさんの攻撃に気を取られた瞬間に、マグナバイザーの銃弾で回避先の位置を塞ぎ、シュートベントを召還・発砲する――。

 仮面ライダーゾルダの肉体は精密かつ機敏に動いていた。
 視線を外しているヒグマに向け、マグナバイザーを乱射。
 キョウリュウシアンの射線からも逃れられぬよう、メロン熊の動きを縫う。
 同時に左手でベルトのバックルから逆手にカードを取り出し、マグナバイザー下部のカードリーダーに挿入。

 ――シュートベント。

 瞬間、北岡秀一の肩には、二門の巨大な大砲が出現する。
 彼の所持する銃火器の一つ、ギガキャノンであった。
 ウィルソン・フィリップス上院議員が構えたガブリボルバーからその時、アンキロサウルスの頭部ような形状の光弾が射出される。
 メロン熊は、弾丸の雨に移動を封じられ、動くことができなかった。
 ヒグマはそのまま、あたかも恐竜に飲まれるようにキョウリュウシアンの砲撃を受けた。

 爆発。

 轟音と爆炎を上げて、その姿は湯船の縁から掻き消えていた。


268 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:42:48 1JieLy4k0

「ブレイブだぜぇッ!!」

 キョウリュウシアンが雄叫びを上げる。
 手に持ったガブリボルバーを天高く突き上げ、ウィルソン・フィリップス上院議員はマスクの下に勝利の笑みを浮かべていた。

「……おいおい、一撃なのか。ヒグマを」


 北岡秀一が援護する必要があったのかさえ疑問になってしまうほどの威力に見えた。
 目の前の男が討ち漏らした時の保険として出しておいたギガキャノンは、全くの無駄になってしまったと言えよう。
 浅倉と平気で打ち合っていたようなヒグマを、砲撃一発で消滅させてしまうとは、この男は相当の手練なのだろうか。
 単に利用させてもらおうとしていただけの考えを、改める必要があるかもしれない。
 水色のスーツの彼は、驚くばかりの北岡の方へ振り返り、握手を求めようとしてきた。


「……いやはや。キミの弾幕のお蔭できっちり仕留められたよ。ありがとう。
 わしはウィルソン・フィリップス。アメリカ合衆国の上院議員をしておる」
「あ、ああ……。俺は弁護士の北岡秀一……」


 湯船の中からざぶざぶと歩み寄ってくる上院議員に、北岡は手を差し伸べようとした。
 右手は互いに拳銃で塞がっていたので、左手だ。
 上院議員の左腕が伸び、ガブリボルバーを持つ右腕が後ろへ下がる。
 何の気なしにそのを様子を、北岡秀一は見つめていた。

 黄色と黒で塗装された、マグナバイザーと似た大型の拳銃だ。
 そこからあれほどの高火力の弾丸が出るわけか――。

 見つめるその銃の奥に、何か黒いものがあった。
 何か、黒っぽくて、毛皮のようなものに、牙のようなものが見え、舌のようなものが覗いている。
 つまり口のようなものが開いていた。
 それが、彼の銃と右腕を、包むように閉じる。

 目の前にまで差し伸べられていた、ウィルソン・フィリップス上院議員の左手が、彼ごといなくなっていた。

「おげぇぇぁぁぁ〜〜〜っ!!」
「なぁッ!?」


 メロン熊だった。


 先ほど爆発によって消え去っていたはずのメロン熊が、上院議員の右手に喰らいついて、彼を振り回していた。
 立ち尽くす北岡秀一の目の前で、数秒ばかりのカーニバルが開催される。


 温泉の水面がウィルソン・フィリップス上院議員の肉体で弾けた音響を奏でる。
 風を切るキョウリュウシアンの水色のスーツが、サンバのリズムで空中に踊る。
 その右手から、血が湧き、肉が踊る。
 水飛沫と血飛沫が、朝の光に煌びやかな舞台演出として降り注いでいた。
 そして骨が砕ける音。
 彼の体は手首からちぎれ飛び、空中をきりもみして、温泉の遥か向こうに水柱を上げていた。


 閉幕後の奏者は、口の中に残った演奏道具の残骸をバリバリと噛み砕いているのみだった。


269 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:43:19 1JieLy4k0

「うおぁあああああっ!!」


 北岡秀一は、恐懼とともに拳銃を構えていた。
 仮面ライダーゾルダの脳内で、みるみるうちに現状への認識が改訂されていく。


 ――こいつらが出現してきた時の状況から、推測しておくべきだったッ!

 このヒグマは、『ワープ』ができるのだ。
 恐らく鏡面から、ミラーワールドか何かを経由して別の場所に。
 こいつはヒグマであって、ミラーモンスターな訳ではないし、ウィルソンさんだって仮面ライダーな訳ではなさそうだった。
 単にミラーワールドから戻ってきたのではなく、れっきとした能力があったのだ。
 こいつは決してウィルソンさんの砲撃でやられた訳ではない。
 その爆発に紛れて、鏡面のような温泉水中にワープし、機を窺っていたのだ――。


 マグナバイザーを連射していた。
 動きを封じたところにギガキャノンを打ち込む――。
 その作戦が成功してくれと、北岡は切に願った。

 しかし、メロン熊の姿は、そもそもマグナバイザーの弾丸が着弾するより前にその場から消え去っていた。
 どこだ――。
 この場に存在する鏡面は温泉の水面のみ。
 また温泉内の別の場所に消えたのか?

 視線を走らせるゾルダの耳元に、風が走った。

「グォオオオオッ!!」
「だぁああっ!?」

 ガードベントを取り出す暇など無かった。
 咄嗟に反応して体を傾げたその時、庇うように向けていた肩のギガキャノンが片方吹っ飛ばされていた。
 メロン熊の爪が振りぬかれている。
 このヒグマは、一瞬にして北岡秀一の背後の空間に出現していたのだった。

 ――俺のギガキャノンの、金属光沢から出てきたのか!!

 地面に転がりながら、残る一門のギガキャノンをメロン熊に向ける。
 搦め手も牽制も意味なし。
 最早残された道は、この一撃をどうにかして命中させることのみだった。

 だが北岡の眼には、再び信じられない光景が映る。
 開かれたメロン熊の口に、先ほど見たばかりの、眩いエネルギーが収束していた。

 ――獣電ブレイブフィニッシュ。

「おあああああああっ!!」

 ギガキャノンが砲火を上げたのと、メロンのような形状をした光弾が射出されたのは同時だった。
 至近距離で衝突した火砲はまたもや大爆発を引き起こし、仮面ライダーゾルダの体を塵芥のように吹き飛ばしていた。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


270 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:44:05 1JieLy4k0

「ん〜♪ メロンが甘くておいしい〜♪
 やっぱり友達と食べるデザートは最高だわ〜」

 百貨店の6階。見晴らしのいい最上階のレストランに、女子の幸せそうな声が響いていた。
 大胆に半分に割っただけの冷えた果肉をスプーンで掬い、口内に運んでは蕩けた笑顔を見せる。
 そんな黒髪の女子を、愛おしそうに見つめる少女がもう一人。

「佐天さんの元気が戻ってきたのが何よりですよ……」

 ノートパソコンの画面越しに笑顔を向けて、少女も脇においたメロンを一口頬張った。
 佐天涙子と、初春飾利である。
 窓際のテーブルに座る彼女たちの間には、惣菜やご飯が盛られていたであろう皿が、綺麗に浚われて残っている。
 殺し合いの場とは到底思えない、瀟洒な雰囲気の食堂に、彼女たち二人は寛いでいた。

 かすかな振動と共に、窓の外から二人のもとに轟音が届いてくる。
 覗いてみれば、眼下の街道がまさに今、北方から押し寄せる津波に飲まれていくところだった。
 自分たちが仮に、その中に居たのだとしたら。と想像して、二人の背筋が寒くなる。

「皇さんのおっしゃるとおりでしたね……。本当に津波が来るなんて……」
「んー……。見た目怖いけど、あの人が居てくれて助かったわ……。
 傷の手当も食料調達も、デパ地下とか下の階が水没する前にできたわけだし……」


 彼女たち二人は、アニラの指示により、急いでB-3の森を脱出していた。
 超巨大なヒグマの進行方向を避け、C-4の市街地の家屋に避難する算段であった。
 しかし放送直後、件のヒグマは火山から出現した謎の巨人に捻り殺され海に投棄されてしまっていた。
 巨人も巨人で、大声で一人ごちたあと島外に去ってしまう。
 3人とも、この島で起きる出来事は、往々にして理解の範疇を超えるのだ、ということだけは理解した。

 佐天の火傷を氷で冷やしながら、アニラが次に向かうべく指示したのは高層のビル。
 彼の感覚は、遠方で発生する地震と津波を捉えていたらしい。
 百貨店で手分けしつつ食料や物資を調達し、最上階で一息入れたところで、即座に階下はこの様相であった。
 冷静にヒグマや環境の状態を見据え、判断できるアニラがいなければ、彼女たちはどうなっていたかわからない。


 当のアニラは、精肉売り場から持ち込んできた大量の生肉を抱えて、厨房の方に引っ込んでしまっている。
 自分の食事の光景は一般の方には見苦しいものですので。と、二人に配慮したものらしい。
 しかし、気を抜くと壁の向こうから、肉をちぎったり汁を啜ったりする音が聞こえるような気もして、考えようによっては却って怖い。


 聞こえている気がするその音を振り払うように、佐天は今一度メロンを口に運んだ。
 その両腕には包帯が巻かれており、全身の細かな傷にも手当てが施されている。
 初春とアニラが、調達した物品で応急処置をしていたのだ。
 食事と治療のお蔭で、疲労や痛みもある程度和らいだような気がした。


「……それにしても、あの皇さんって、何なのかしら。改めて思うけど、本当に自衛隊の人だった?」
「『独覚兵』っておっしゃってましたからね。“辰”の独覚兵、コードネームは『アニラ』だって……。
 インターネットに接続できれば、主催者のメインサーバにハッキングするついでに調べようと思ってましたが……」

 その竜のような外見を見れば当然浮かぶ佐天の疑問に、アニラはかいつまんで説明を与えていた。
 新種のウイルスが脳のグリア細胞に感染し、『アーヴァタール(変身)効果』という症状により肉体が変形してしまったのだと。
 アニラを含む12人がその、人間を兵器化する実験の被検体になっていたのだと。
 そして、身体能力の超人的な向上と引き換えに、食人・食脳欲求があるのだということも。

 パソコンを覗き込もうとする佐天に、初春は首を横に振る。

「そもそも接続ができませんでした。
 まぁ……、そんな実験をしていたら、自衛隊の名簿からは除籍、または死亡扱いにされているでしょうから、ほとんど意味はないでしょうけれど」
「ああ、そうよね……。そんな症状があっても正直に伝えて、私たちを助けてくれた、あの人を信じるしかないのかしら……?」


 その回答を聞いた時、佐天の心中には大きく後悔と劣等感とが去来していた。
 人を殺したことに悩み、目の前の親友までも手にかけそうになったことへ、今一度恥じ入るしかなかったのだ。
 佐天は、包帯の巻かれた自分の腕を見入る。


271 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:44:24 1JieLy4k0

 今の私には、人を殺せるほどの能力はないし、それに安心してもいる。
 でも彼は、人を殺せる能力と人を殺し・食べたい衝動を持っていながら、まるっきりそれを自分の精神の支配下に置いている。
 どこまでも冷静な価値判断の延長で、その衝動を道具として使いこなしているのだ。
 それに比べて、私はどうだろうか。
 私は左天おじさんと同じこの能力を得て、そんなに冷静にはなれなかった。
 道具として扱えない能力を、今度は手放して喜んでいるのか?
 そんなことで、初春を守れるのだろうか、私は……。


「佐天さん。大丈夫ですよ。能力があってもなくても、佐天さんは佐天さんです。
 無ければ助けますし、佐天さんの能力なんて、いくら強くても私はへっちゃらです」

 初春が、俯く私に笑いかける。
 森の中で抱き合った時の暖かな言葉を、もう一度掛けてくれる。
 私の脳内にはその時、ふと思い当たることがあった。

「……そう言えば、初春の能力って、『温度を一定に保つ』能力だったっけ。
 初春は能力を使う時、どういうイメージをしているの?」
「ええと……。たい焼きとかアイスクリームとかを保温するときは、『熱運動がどこにも伝わらないようにする』、って感じですね。
 でも、氷枕を長持ちさせる時とかパソコンのオーバーヒートを防ぐ時は、『熱が移動しても、触れたものの熱運動は元のままにする』って感じにもできます」

 初春の能力と、私の『熱を吸収し、増幅して放出する』能力は、まるで鏡映しだ。
 そして、レベル1と言いながら、初春の能力の使いこなし方は相当すごそうに聞こえる。
 便利さでは私の能力を遥かに上回っているんじゃないか?

『もし佐天さんが、私を殺しに来ても、私は佐天さんなんかに、簡単に殺されてあげません!』

 こう言っていたのは、初春の能力が私と正反対だったことを、あの時もう見抜いていたからだろう。
 『第四波動』を使っても、初春と皇さんが焼けなかったのは、その能力のお陰なのだ。
 ……左天おじさんの言うとおり、皇さんにも初春にも、私が見習わなくちゃいけない点は山ほどあるわ……。


 窓から見える晴れた空と津波の上に、佐天はその溜め息を深く流していた。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


272 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:45:05 1JieLy4k0

 北岡秀一は狼狽していた。
 今までの人生で最大の混乱だった。


 先の戦闘の後、メロン熊は吹き飛んだ北岡に止めを刺すことなく、忽然と姿を消していた。
 その理由は不明であったが、とりあえず命が助かった喜びを胸に、彼は温泉に浮かぶウィルソン・フィリップス上院議員を救出する。
 キョウリュウシアンに変身していたお陰か、あれだけメロン熊に振り回されていても上院議員に息はあった。
 しかし既にその変身は解けており、ベルトと刀だけを残した傷だらけの中年の裸体が、右手を失った痛みに悶え呻いているだけであった。

 なんとか上院議員を助け起こし、手当てのできる場所を探そうとしたが、彼の目の前には突如、数十メートルはありそうな巨大なヒグマが出現する。
 慌てて進路を南方にとって逃走し始めたところで、今度は火山から大男が現れ、そのヒグマを放り投げてしまった。
 幸い、その大男が踏み潰して去っていった方向とは異なった位置にいたため助かったが、彼にとっては訳の解らないことの連続でしかない。
 北岡が肩を貸している上院議員に至っては、

『そうか、わしが上院議員だからだッ! 上院議員にできないことはないからだッ! ワハハハハハハハーッ』

 などと叫びながら、全身の痛みと恐怖に、気が振れてしまったかのように白目を剥いていた。
 二人とも、放送も碌に聞ける精神状態ではなかった。
 しかし、その混迷ももうすぐ終わるはずだった。


 目の前に市街地が見える。
 住宅やビル群が立ち並び、商店もある。
 傷口をタオルで圧迫しているだけの上院議員にも、ようやくまともな手当てと衣服を提供できるだろう。
 北岡の肩に回す右腕から血を滴らせ、ウィルソン・フィリップス上院議員は先程からうわ言のように同じ言葉を繰り返していた。

「……これは夢だ……。この上院議員のわしが死ぬわけがないッ……。夢だ……夢だ……」
「ああ、ウィルソンさん。あんたは死なない。もう少しで手当てできるから……。
 こんなに訳の解らん殺し合いやヒグマからは一歩引いて、休めるからな……」

 仮面ライダーゾルダの変身を続けたまま、北岡秀一は周囲を見回しながら一歩一歩進んでいく。
 不安から解き放たれる瞬間は、もっとも油断を生みやすい時だ。
 隣の上院議員の体温は、気化熱による湯冷めだけでなく下がっていく。
 本当に助けるのなら、一刻の猶予もない。

 しかし、いつまたヒグマや、浅倉のような参加者に出会うとも限らない。
 その時には、ウィルソン上院議員には悪いが、盾になってもらうしかあるまい。
 だから何が迫ってきても対応できるように備えて――。

「……ん?」

 注意深く歩んでいた北岡の耳に響いてきたのは、低い水音だった。
 それは止むことなく、どんどん大きく、近くなっていく。
 振り向いた彼の眼に飛び込んできたのは、後方の細い木立をなぎ倒しながら視界いっぱいに進んでくる、津波だった。

「――なぁッ!?」
 

 狼狽。混乱。
 それで済めばどれだけ良かっただろうか。
 ウィルソン・フィリップス上院議員のように現実逃避できればどれだけ良かっただろうか。
 自分の抱える不治の病や、自分の弁護によって買った恨みから逃れられれば、どれだけ良かっただろうか――。


 流れる大量の水に飲まれ、川面に流される木の葉のようにたゆたいながら、北岡は思う。
 ――世界には、絶対英雄になれない条件が一つある。


273 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:45:24 1JieLy4k0

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉーーッ!!!」


 仮面ライダーゾルダの機械的な仮面から、血を吐くような叫びがほとばしっていた。
 津波の水面上に顔を出した彼は、すれ違っていく建物の外壁を必死で掴み取った。
 小さなビルの非常階段に体を持ち上げ、片手の力だけで自分を引き起こす。

「ウィルソンさん!! あんた生きてるかッ!?」
「ごぼっ……がぼっ……!! た、助け……」

 津波の冷えた水中に腰まで飲まれたまま、しかしそれでも、生を求めて喘ぐ男が、北岡には繋がっていた。
 北岡秀一の左手は、しっかりとウィルソン上院議員の手を掴んでいる。


 ――英雄というものは、英雄になろうとした瞬間に失格なのだ。


 華々しい伝説は、その華々しさを求めた行動の末にはない。
 カッコよくて、金になる、そんな弁護士の生活も、地道な作業を惜しんでいたら成り立たない。
 いくら泥臭くても、自分の命、一つの命を地道に救って行った末に伝説の道は開ける。
 どんな手段を使おうが、一つ一つの出来事と証拠を地道に拾っていくことで、黒を白に、白を黒に変えていく華々しい力は得られる。
 他の参加者の信頼を得るためには、一人の命くらい救っておかなくては格好がつかない。
 ウィルソンさん、あんたをどう利用させてもらうことになろうが、まだあんたにいなくなられちゃ困るんだよ――!


 中年男性からの返答に安堵しつつ、彼はウィルソン上院議員を階段の上に引き上げようとした。
 仮面ライダーの筋力なら余裕であろう。
 だが、北岡の腕に感じられていた重みは突然、上半身が水面に引き込まれそうになるほどに増加していた。

「うぎゃあああああっ!!」

 上院議員の咽喉から苦痛の叫びが上がる。
 北岡秀一は、その水中に、上院議員の脚を引く、何者かの影を見た。
 赤黒い影は、津波の急流からぬっと顔を上げ、長い犬歯をむき出しにして笑っていた。


『……どうした人間。津波程度で慌てるな。お前たちが倒すべき化物は、ここにいるぞ』


 その影は一頭のヒグマであった。
 血液のような赤黒い毛並みをおどろおどろしく水流に揺らし、上院議員の脚をがっしりと掴んでいる。
 その重量が、上院議員と北岡を再び津波の濁流に飲み込まんと彼らを引いていた。
 不可思議なことに、そのヒグマの前脚からは、赤黒い血管のような毛が伸びて、上院議員の脚に融合していくかのように絡み付いてきている。
 そして、そのヒグマはどうやら、そこからウィルソン上院議員の血液を吸い上げているようにすら見えた。
 津波の激流にも離れそうにはない。
 ウィルソン上院議員の関節が悲鳴を上げる。

「助け、助けてくれぇーッ!! いやぁだぁぁ〜ッ!!」
『どうした? まだ手首がもげ、全身打撲し、服を剥かれ冷水に浸かり脚をヒグマに掴まれただけだぞ。
 お前たちの力はそんなものか……?』
「ぐ、あ、ああああっ……!!」

 不気味な哄笑を漏らすヒグマ――ヒグマードに向け、北岡秀一は震える手でマグナバイザーを構える。
 脚だけで浸水する非常階段の上から滑り落ちぬよう体重を支えるのは困難を極めた。
 左腕は津波の中のヒグマと議員の重量を支えて、今にも抜け落ちそうだ。
 右手の拳銃を津波の中のヒグマに構えた時、ふと北岡秀一の頭上に影が差した。


 その毛皮から滴り落ちる海水が、仮面ライダーの緑のスーツを濡らす。
 顔を振り向けた北岡の視界には、もう一頭のヒグマが立ちはだかっていた。


「あ、ああ……!? うあああああぁぁぁっ!!」


 彼らと同様に津波で流され、そのヒグマ――穴持たず9は階段の踊り場にまで上ってきていたのだ。
 冷たい水飛沫を振り飛ばしながら、彼は手榴弾をも打ち返したその前脚の爪を、振りかぶっていた。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


274 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:46:41 1JieLy4k0

 レストランの中で、初春と佐天の二人はノートパソコンの画面を睨んでいた。
 コマンドプロンプトの黒い画面に数行の文字列が表示されるが、初春の表情は芳しくなかった。

「やっぱり、何度試してもネット接続ができませんね。
 ……ほんの一瞬だけ電波の発信がありましたが、基本的に今は主催者側のネットはオフラインみたいです。
 サーバが一度落ちてしまったのかも知れません」
「じゃあ、この殺し合いのデータとか脱出方法とか、わからないってこと?」
「残念ながら大部分は……。でも、一部ならわかりそうです」
「へぇ? そりゃまたどうして」
「このパソコン、研究所の職員のお古です」

 初春に支給されたノートパソコンは、中身のデータを全て、ゴミ箱に捨てて空にしたものであった。
 だが、インターネットに接続できなかったのは、決してそのパソコンの中からブラウザソフトが消去されていたからではない。
 データを復旧する作業など、初春にはメロンを食べる片手間にもできてしまったし、接続さえできればウェブページもブラウザ無しに閲覧できる方法は知っている。
 何か、主催者側にトラブルでもあったのだろうかと推測させる状況だった。

「……放送での死者は44名。相当な人数ですし、あと何人参加者が生存しているのか……」
「名前が『なんか7が三つ並んでる名前の外人』とか、有冨さんが本当に参加者を把握してるのかさえ疑問になってくるわね……」

 コマンドプロンプトを閉じて、まず初春が画面に開いたのは、放送された死者をメモしたテキスト。そして島の地図だった。
 放送が機械音声で行なわれたことも気になる。
 佐天や初春がかつてSTUDYと対峙した時には、有冨春樹は必ず放送で呼びかける時は肉声で、しかもご丁寧に顔までスクリーンに映し出したりしていた。
 基本的に、彼は自分の研究を認めてもらうがために事件を起こしていたきらいがあるので、当然、今回も目立ちたがろうとするのではないだろうか。
 機械音声で放送をするとしても、有冨なら、ヒグマの能力の自慢だの嫌味だのの一つでも入れ込んでくるのではないだろうかと二人には思えた。
 違和感は拭えない。


 復旧したデータと照らし合わせながら、初春が佐天に説明する。


「あと、この島は元々、学園都市肝煎りの保養地だったみたいですね」
「ああ、温泉が一杯あるものね」
「隔絶された生態系と温泉のお蔭で、研究者が好んで利用してたみたいで、地下には研究所、地上には商業施設・住居・事務所など、小さい島にしては大分完備してるみたいです」


 四方が崖に囲まれ、周囲と隔絶されたこの火山島に、百貨店やビル群など、こんなにも沢山の施設が並んでいたのには、そういう理由があったらしい。
 野生のヒグマを初め、特異な環境に興味を示す研究者は多く、地上に事務所を構え、年中温泉と職場を行き来する贅沢な生活設計をしていた者も多いようだ。
 しかし、どうやら人口の配分が研究者に偏りすぎたようで、最終的に、肝心の温泉の数が多すぎて管理運営が行き届かず、次第に廃れてきてしまっていたらしい。
 島外への移動手段は、島の西にある海食洞からのフェリー。
 または、直接ビルの上にヘリで来る者も多かったようだ。
 この海食洞は地下研究所に繋がっており、エリアで言えばE-5の火山の麓にある大エレベーターから地上に出れるようになっている。


「火山か……。さっきの巨人に踏み潰されて、このエレベーターっていうのは無くなってそうよね」
「この地下研究所が主催者の本拠地だとすれば、多分サブの連絡通路がどこかに用意されているはずです。
 問題は、地下もエリア外でしょうから、潜入するにはまずこの首輪をどうにかしなきゃいけないってとこですね……」

 初春は島の来歴をさらに手繰る。

「そして、最終的にこの島は、STUDYが堂々と学園都市から研究用に買い取ってたみたいですね」
「島一個って、いくら地価が下落していて、学園都市内部のやりとりでも相当な金額よね……。
 御坂さんに潰された後で、よくまあ有冨さんそんなお金あったわね」
「たぶん、スポンサーがいます。それも、相当な大企業かなにかがついてないと、こんなに大規模な実験はできませんよ」


275 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:48:18 1JieLy4k0


 そこで二人の脳裏には、アニラの語っていた『実験』に関しての情報がよぎった。

 アニラは、『独覚兵』と『ヒグマ』は似ている、という旨の発言をしていた。
 彼の場合は、独覚ウイルスの実験に、日本を代表する大企業『土方グループ』が出資していた。
 また、『ケルビム』という、アメリカの四大財閥協定機関もそこに参入してきていたらしい。
 兵器産業の一環としては、恐らくこのヒグマを用いた実験も垂涎の的なのだろう。

 初春の操るカーソルは続いて、復旧したファイルから「HIGUMA計画ファイル一般職員用抄本」というものを引き出してくる。


『Highly Intelligent and Genetically Uncategorized Mutant Animal(高知能遺伝子非分類突然変異種)』 通称【HIGUMA(ヒグマ)】
 遺伝子に人工的に細工を施された上で、到底ありえない進化をした生物兵器の総称。
 総称であるが故、それぞれの個体には共通点は少なく、ただ大枠として動物の「熊」に近い進化を遂げるものが多い。
 そのため「熊こそが進化の終着点である可能性」が検討されている。
 ヒグマのうち、一定の成果を記録した固体には『穴持たず』のコードネームが与えられる。
 これは『遺伝子レベルでの欠陥(あな)がない』という、パーフェクトソルジャーの称号であり、同時に『これより実地訓練へ移行する』という新兵の呼び名である――。


「……これを読む限り、有冨さんたちが用意したヒグマは優に50体は下らないみたいですね。
 原本があれば、もっと詳しく解るんでしょうけれど……」
「ご、50!?」
「参加者がそれより少ないということはないと思いたいので、多分私たち以外にも生き残っている参加者はいると思いますが、多いですよね……」


 『穴持たず』というナンバーは、一応製作されたヒグマたちの通し番号の役割も果たしていたようだ。
 しかし、STUDYの管理が杜撰だったのか、既に10番台から重複や欠番が発生しており、通し番号としては大分形骸化している。
 簡単に記された初期のヒグマたちの情報を流し見るに、佐天の目に留まるものがあった。
 穴持たず2、工藤健介である。


「……この人、本当にヒグマだったんだ……」


 ヒグマの皮を被り、『ヒグマになる』ことで羆に勝とうとした空手家。
 つい数時間前に佐天が争い、殺してしまった男だった。
 自衛官だった皇魁も、今や、『アニラ』というコードネームを与えられ、獣のような姿と化している。

 ――『独覚兵』と『ヒグマ』は似ている。

 元々人間だったと思われるヒグマは、工藤健介、樋熊貴人、烈海王と、少なくとも3人の名前が記載されていた。
 樋熊貴人という名を見た時、初春が珍しく醒めた表情をしていたが、その理由はわからない。

 彼らは、自分の意志で『ヒグマ』になることを望んだのだろうか?
 力を求め、人を殺し、人を食すことを望んだのだろうか?
 そして、私も。
 私は一体、この能力に、何を望んでしまったのだろうか――?


 顔を伏せてしまう佐天の腕を初春が掴む。

「仕方ないですよ佐天さん……。佐天さんが助かるためには、この人を倒さなきゃならなかったんですから。
 この津波でも――」

 窓に振り向ける初春の視線は、暗い。
 眼下に渦巻く津波の濁流を見て、噛み殺すように語った。

「『津波てんでんこ』っていう言葉があります。
 津波が来た時は、親子でも、友人でも、各自がそれぞれ自分の身だけ守って逃げなさいと――。
 他人のことを助けようとしたら、津波やヒグマに飲まれて皆が死んでしまうんです。
 だから、佐天さんや私たちが自分の身だけを守っても、誰も、責めませんから――」

 そう言いながら、初春は固く目を瞑っていた。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


276 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:48:42 1JieLy4k0

 佐天と初春の会話が、厨房の外から聞こえていた。
 あそこまで、深い調査と考察が彼女たちにできるのだとは、思っていなかった。
 佐天は体調の回復も良好なようだ。
 脱出のための部隊の編成には、着実に近づいてきている。

 しかし問題は、初春の言及にもあったように、残っている参加者の人数と存在しているヒグマの頭数である。
 6時間で死者44名。
 最低でも50頭以上。
 どちらも、かなりの多さだと言えよう。

 そして、火山の噴火と、そこから現れた巨人としか言いようのない生物。加えて、目下起こっている津波。
 立て続けに大規模な災害が起こっている。
 それら災害によっても何人が死亡するかわからない。
 早急に救助に向かわねば、部隊を作るための参加者がどれだけ残るかも怪しい。


 だから、この光景を彼女たちに見せるわけには行かない。


 今の自分は、鉤爪が使えない。
 十分な食肉により養分は摂取したものの、現在脱皮中にある身は、鱗による防護能力、爪による攻撃能力のいずれも大幅に低下している。
 ヒグマであれ何であれ、戦闘においては、一撃の致命傷を与えられるか否かで勝敗は決する。
 如何にすれば、現在の自分の状態で、対象に先んじて致命傷を与えることができるだろうか?
 救助に向かっても、助けられない公算が高い。

 佐天の能力と体力が万全ならば、助力を仰げただろう。
 初春に直接的戦闘能力があれば、助力を仰げただろう。
 しかし、彼女たちには休息していてもらわねばならない。


 だから、この光景を彼女たちに見せるわけには行かない。


 厨房裏の窓から眼下に望む津波には、2名の参加者がいた。
 水没しかけた小ビルの非常階段に上がり、津波の中に懸命に手を差し伸べている男。
 また、その津波に飲まれかけ、伸ばされた腕へ必死にしがみつくもう一人の男。

 そして、彼らを狙うヒグマが、2体。
 今にも、彼らを食さんと、急速に接近している。


『他人のことを助けようとしたら、津波やヒグマに飲まれて皆が死んでしまうんです――』


 2体のヒグマを倒し、彼らを救助できる能力が、自分たちにあるだろうか。
 

『だから、佐天さんや私たちが自分の身だけを守っても、誰も、責めませんから――』


 上官のいない今の自分に、描ける作戦行動は――。


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277 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:48:57 1JieLy4k0

 佐天は、テーブルを叩いていた。
 初春がその音にびくりと身をすくませて振り向く。
 きれいにくりぬかれたメロンの皮が床に落ちた。

「……初春。それ、本気で言ってる……?」

 佐天は、俯いた顔の下で唇を噛んでいる。

「初春だって皇さんだって、私を助けてくれたんじゃない……」
「……本気ではあります。逃げたって、誰も責めません」

 顔を上げた佐天を、同じく唇を噛んだまま、初春がまっすぐ見つめてくる。
 その眼には、涙がたまっていた。
 初春はポケットから腕章を取り出し、自分の肩口にしっかりと取り付けた。

「でもやっぱり、そう簡単に諦められません!!
 私は風紀委員(ジャッジメント)です! みんなを守るんです!
 自衛隊の人とか、警備員の人とか、弁護士、議員さん、そして他のどんな人も……。
 みんな絶対、人を助けたい、諦めたくないって気持ちは、持っているはずなんです!!」

 テーブルの上のパソコンが揺れるくらいの勢いで、初春は立ち上がっていた。
 荒い息をつきながらも、左袖の腕章を、しっかりと佐天に向けて見せる。

 佐天は、その初春の体を抱きしめていた。

「……そうだよね。私も、諦めたくない。
 助けを求めている人がいたら、今度は私だって、全力で助けるよ――」


 体の奥底に、白い炎が燃える。
 三日月のような歪んだ炎が、くるくると回りながら脊柱を駆け上る。


 殺してしまった工藤さんのためにも。
 親友の初春のためにも。
 助けてくれた皇さんのためにも。
 助けを待っている左天おじさんのためにも。
 帰りを待っているはずの学園都市のみんなのためにも――。


 私がこの能力に望むことは、決まった。
 もう、見誤らない。


 私は、この歪んだ能力を支配下において、人を助けるために、使いこなしてやる。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


278 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:49:19 1JieLy4k0

 万事休す――。
 確かにそう思った。

 マグナバイザーを振り向ける前に、俺を襲うヒグマの爪は振り下ろされる。
 爪から滴ってくる海水が、朝日に照ってはっきりと目に映る。
 晴れた空に、ひと塊の白い雲。
 そしてその空に一点、夜のような黒があった。


 流れ星のように動くその夜が、爪を振り下ろそうとしていたヒグマの肩に降り立っていた。


「グァァアアアァ!?」


 血がほとばしっている。
 しかしその血は、俺のでもなければウィルソンさんのものでもなかった。
 ヒグマの血だ。


 そのヒグマは、両の眼球を潰され、目と耳から血を噴き出していた。
 悶絶するヒグマの肩に乗っている何かが、白い牙を剥いた。

 竜だ。
 真っ黒な、夜のような色をしたドラゴン。
 それが、足の爪でしっかりとヒグマの肩口を抑え、両手の爪を眼球と耳の中に突き入れて、その頭蓋を抱えるように持っている。
 脱皮をしているかのようなふわふわした鱗のカスが、風に舞い飛んで行った。
 澄んだ剣の刃金の振動するような音が、その竜の咽喉から漏れる。


「アギイィィィィィィィィィィィィ――」


 ぶきぶきと、ヒグマの首が音を立てて伸びていく。
 苦悶するヒグマの顎から、血が溢れていく。
 首筋の毛皮が、筋肉が、血管がちぎれ、そのヒグマの頭が頸椎から折り取られる。
 撓めた全身の筋肉を背筋から引き延ばし、その竜は、弾けるように引き抜いたヒグマの頭部を頭上に掲げていた。

 竜はそのまま、跳んだ。
 撓めていた背筋が、今度は弓のように反り返る。
 逆Cの字を描く竜人のシルエットが、ヒグマの体から溢れる真っ赤な血に映えた。
 右手で掲げるヒグマの頭部が、あたかもボールのように肩の後ろに構えられる。
 空中を跳ぶその姿が、一瞬本当に静止するかのように宙に瞬く。


 ハンドボールのシュートとか、バレーボールのスパイクとかの、一流選手が繰り出すような美しい動作だった。


「――ィィィィィィィィィィィィィル!!」


 竜は、ヒグマの頭を津波の中に投げつけていた。
 先ほどまで哄笑していた赤黒いヒグマの顔が弾け飛び、大きな水柱が上がる。
 その竜人が狙っていたのは、ウィルソンさんの脚を掴んでいた、あのヒグマだった。

 階段の手すりに降り立った竜人は、素早くウィルソンさんの右腕を掴み、俺のマグナバイザーと津波の中を指さしてくる。

『ククククク……、人の姿を捨ててもなお心根を持ち動くか人間よ……。
 だが、私を倒すにはまだ足りんぞ……』
「ひぃいやぁぁ!?」

 津波の水柱が収まると、ウィルソンさんの脚に未だ掴まっているヒグマの胴体が見えた。
 そして、獣のような人間のような、得体の知れないざらついた哄笑。
 ウィルソンさんの脚に絡みついた血管のような毛が、その絡み方を一段と強めている。
 それどころかむしろ、その毛はウィルソンさんの体を更に這い登ってきているようにすら見えた。

 隣の竜が首を引きちぎったヒグマの死体から、ぼたぼたと水中に血が流れ出している。
 赤黒いヒグマは、あたかもその血液を吸い取って、ダメージを回復させているかのように見えた。

 頭が吹き飛んだはずの赤黒いヒグマの胴体から、ぶくぶくと血が噴出すように、再び頭部が生えてきていた。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


279 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:50:18 1JieLy4k0

 月に昇っていく透き通った剣のような声が、私の耳に届いていた。
 昔、確かに聞いたような、狩りの心を呼び起こすような歌。

「皇さんの声!?」
「え、何か聞こえましたか、佐天さん!?」

 隣の厨房からではない。
 外だ。
 窓を開けて、ごうごうと流れる津波の上に身を乗り出して見やる。

 視界の右の遥か端。
 ――いた。
 あの真っ黒なドラゴンのような姿、見間違うはずはない。
 はす向かいの、水没しかけた小さなビルの非常階段から水中へ、誰か緑のスーツに仮面をつけた人と共に、手を差し出している。
 階段の踊り場には、血を噴き出しているヒグマの死体。
 水面には、怪我をしているみたいなおじさん。
 そして、そのおじさんの脚に、禍々しい赤色をしたヒグマが、津波の中から掴まって来ているのが見えた。

「え……!? まさか、津波からヒグマに襲われている人が!?」

 遅れて、初春がその光景を目の当たりにして叫ぶ。
 振り向いた私と、初春の目が合った。

 皇さんは、きっと、私たちより遥か先にこの状況に気づいて、あのおじさんたちをこっそりと助けに行ったんだ。
 私たちを巻き込むまいと、一人で。
 私が、怪我と疲労ばかりの、碌な戦闘能力もない小娘だったから――。


「佐天さん……。どうするんですか……?」


 見開いた初春の瞳孔の奥。
 その黒い瞳には、白い炎が映って見えた。
 その袖には、緑色の腕章が留まっている。


「決まってるでしょう……!?」


 助けに行く。
 どんなに『津波てんでんこ』でも、諦められない。
 現に、あの自衛官は、先陣を切って津波の被害者を助けに行っているんだ。
 そのために、私はまた、この能力と衝動を、自分の奥底から呼び起こす――!


 ほほが吊り上がる。
 獲物を狙う獣のような酷薄な笑みが、私の貌に浮かぶ。
 全身の細胞から白い炎が巻き起こり、三日月の軌道のような歪んだ円周をなぞって回転する。


 その炎が、『自分だけの現実』に最適解を出力する。
 目の前にいる、私の鏡映しの瞳。
 私の掛け替えのない親友。
 『彼女だけの現実』が、私に重なれば。
 今の私でも、この歪んだ炎をきっと支配できる――!


 私は、初春の手を掴んでいた。


「皇さんたちを助けるわ初春。一緒に、来てちょうだい。
 『私の体温が、どれだけ熱を吸収しても一定になる』ように、協力して。
 きっと初春が一緒なら、私はこの能力を、もっと使いこなせる!」
「……はいッ!!」

 初春は、間髪入れずに頷いていた。
 私の言っている意味も、どれだけそれが不確かで危険な賭けなのか承知していながらも、初春は強く私を見つめていた。

 彼女の信頼をしっかりと背中におんぶして、私は窓枠を蹴る。
 地上6階の高みから、眼下に広がる津波の上へと、私たちは勢い良くジャンプしていた。
 私の手の周りから、空気が渦を巻く。
 私たちの服をはためかせ、助けを求める人々の元へ、一陣の風が吹いた。


「『下着御手(スカートアッパー)』ーッッ!!」
「その名前どうにかならないんですかぁーっ!?」


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


280 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:51:22 1JieLy4k0

 高校・大学と、成績は一番で卒業した。
 大学ではレスリング部のキャプテンを務め……。
 社会に出てからも、みんなから慕われ、尊敬されたからこそ政治家になれた……。
 ハワイに1000坪の別荘を持っている。
 25歳年下の美人モデルを妻にした。
 税金だって他人の50倍は払っている。
 どんな敵だろうとわしはぶちのめしてきた。
 いずれ大統領にだってなってみせる。


 見よ。
 そのわしは今や、ヒグマに腕を食われ、脚を掴まれ、ツナミの中で臆面もなく泣き叫んでいる。


 しかし、そのわしにも、未だに手を差し伸べてくれる市民が、人々がいる。
 二人の男が、勇敢にもヒグマに立ち向かい、わしを助けようとしているではないか。
 彼らの行いに応えずして、何の上院議員か。
 何のブレイブか。
 ああ、わしの背後にいるヒグマも、真理を語っている。
 変身が解けた程度で、武器を食われた程度で、全身に怪我を負った程度で、上院議員ブレイブが折れてなるものか。


 仮に例えば、本来ならば明日から行く予定だったエジプト視察の車中で、暴漢が運転手を殴りとばして乗り込んできたとしよう。
 その時、暴行を振るわれ、人々を轢き殺すことを強要されたからとて、その男に従うべきだろうか。

 言いなりにならなければ死ぬかもしれない。
 しかし、言いなりになったところで、その暴漢がわしを殺さないとは誰が言える。
 みんなに慕われてきたわしが、意味不明な殺し合いや、ヒグマや、暴行ごときでその想いを反故にしてしまえるか?
 ――いや、できない。

 自分の命かわいさに、そんなもので矜持を失ってしまう上院議員など死んでしまえ。
 今のわしは、同じく死ぬなら、少しでも皆の想いに応えて死ぬ!!
 きみたちや他の参加者を危険に晒すくらいなら、ここで、このヒグマを道連れにして死んでくれる!!
 身を捨ててこそ、浮かぶ瀬も、ある!!


 わしは。
 わしは。
 ウィルソン・フィリップス上院議員だぞーッ!!


「北岡くん! 撃てぇッ! わしの脚ごと、このヒグマを撃ってくれぇッ!!」


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


281 : 名無しさん :2014/02/19(水) 23:52:16 1JieLy4k0

 裸体の中年男性が、覚悟を決めた表情でそう叫んでいた。
 先ほどまで自己の命だけを求めていた低体温症の眼差しに、今は確かに熱い意志が伺える。
 他者の安全を守るために、その命を殉じると言うのか。

 そして、視界の端に見える、百貨店から跳び降りてくる佐天と初春の姿。
 気づいてしまったのか。
 この状況を見ても、自分たちの状況を鑑みても、それでもその安全地帯から、前線の部隊を助けに降りてくるというのか。


 無謀だ。
 あまりにも無謀だ。


 目前の標的たるヒグマは、想定以上の異常な回復能力を有していた。
 自分の立案した作戦では、確実に2体のヒグマを、一撃で無力化できるはずであったのに。
 だからこそ、自分は単身でこの場に乗り込んだのだ。
 意気だけでは、人命救助などできない。

 もはや、この場にいる人間全員は、自分も含めて、無謀で非合理的な雑兵の集団に過ぎない。
 これだけの。
 これだけの人員の意気を昇華させられる作戦を、この場で立案し、実行しなければ。
 ここに集った兵卒の意気は、全て灰燼に帰してしまう。

 ――応えなければならない。その無謀さに。

 自分の行動がそのまま、この男たちや女史たちへの嚆矢となるように。
 人々がその命を賭す、この作戦行動の成功率が、僅かでも上昇するように。
 自分も、かつて自衛官だった時分の過去を、培ってきた戦闘の経験を、次なる一撃に込める――。


 アニラは北岡の左腕から、ウィルソン上院議員の左手を掴み取っていた。
 津波の中に投げ出されそうになる体を、非常階段の手すりを片脚の爪で掴むことによって支える。
 その状態で、伸びきった体が独楽のように捻られる。
 その長い尾が、鱗の屑を振り払いながら、津波の海水面を深々と抉っていた。


 流体中を高速で移動する物体の表面上には、ベルヌーイの定理により圧力の低下が起こる。
 水中でその圧力が飽和水蒸気圧を下回ったとき、そこには沸騰した水からの微細な気泡が発生する。
 キャビテーションと呼ばれるその多数の気泡は、収縮と膨張を繰り返しながら中心に収束し、強い圧力波と共に消滅する。
 その爆縮の際、優に1万気圧ほどにもなる高圧のジェット流が、1ミクロンほどの細密な空間に連続的に殺到するのだ。
 船のスクリューを壊食させ、テッポウエビが獲物を捕獲する際に利用するこの衝撃力。
 名を、『気泡圧壊』。または『空洞現象』という。


 その一撃が着弾したのは、ヒグマードの胴体の直近の水面であった。
 アニラが水面下に切り込んだ尾の周囲に、まさしくそのキャビテーションが発生していた。
 破裂音と共に、津波に水柱が上がる。
 至近距離で爆撃を受けたに等しいその振動が、水中に漬かるヒグマの肉体を激しく震盪させていた。


 ヒグマードの意識が刈り取られたのは、ほんの数秒の間だけだっただろう。

 しかしアニラには、その数秒で十分であった。


「ラヒィィィィィィィィィィィィィィル!!」


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


282 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:52:44 1JieLy4k0

 裸体の中年男性が、覚悟を決めた表情でそう叫んでいた。
 先ほどまで自己の命だけを求めていた低体温症の眼差しに、今は確かに熱い意志が伺える。
 他者の安全を守るために、その命を殉じると言うのか。

 そして、視界の端に見える、百貨店から跳び降りてくる佐天と初春の姿。
 気づいてしまったのか。
 この状況を見ても、自分たちの状況を鑑みても、それでもその安全地帯から、前線の部隊を助けに降りてくるというのか。


 無謀だ。
 あまりにも無謀だ。


 目前の標的たるヒグマは、想定以上の異常な回復能力を有していた。
 自分の立案した作戦では、確実に2体のヒグマを、一撃で無力化できるはずであったのに。
 だからこそ、自分は単身でこの場に乗り込んだのだ。
 意気だけでは、人命救助などできない。

 もはや、この場にいる人間全員は、自分も含めて、無謀で非合理的な雑兵の集団に過ぎない。
 これだけの。
 これだけの人員の意気を昇華させられる作戦を、この場で立案し、実行しなければ。
 ここに集った兵卒の意気は、全て灰燼に帰してしまう。

 ――応えなければならない。その無謀さに。

 自分の行動がそのまま、この男たちや女史たちへの嚆矢となるように。
 人々がその命を賭す、この作戦行動の成功率が、僅かでも上昇するように。
 自分も、かつて自衛官だった時分の過去を、培ってきた戦闘の経験を、次なる一撃に込める――。


 アニラは北岡の左腕から、ウィルソン上院議員の左手を掴み取っていた。
 津波の中に投げ出されそうになる体を、非常階段の手すりを片脚の爪で掴むことによって支える。
 その状態で、伸びきった体が独楽のように捻られる。
 その長い尾が、鱗の屑を振り払いながら、津波の海水面を深々と抉っていた。


 流体中を高速で移動する物体の表面上には、ベルヌーイの定理により圧力の低下が起こる。
 水中でその圧力が飽和水蒸気圧を下回ったとき、そこには沸騰した水からの微細な気泡が発生する。
 キャビテーションと呼ばれるその多数の気泡は、収縮と膨張を繰り返しながら中心に収束し、強い圧力波と共に消滅する。
 その爆縮の際、優に1万気圧ほどにもなる高圧のジェット流が、1ミクロンほどの細密な空間に連続的に殺到するのだ。
 船のスクリューを壊食させ、テッポウエビが獲物を捕獲する際に利用するこの衝撃力。
 名を、『気泡圧壊』。または『空洞現象』という。


 その一撃が着弾したのは、ヒグマードの胴体の直近の水面であった。
 アニラが水面下に切り込んだ尾の周囲に、まさしくそのキャビテーションが発生していた。
 破裂音と共に、津波に水柱が上がる。
 至近距離で爆撃を受けたに等しいその振動が、水中に漬かるヒグマの肉体を激しく震盪させていた。


 ヒグマードの意識が刈り取られたのは、ほんの数秒の間だけだっただろう。

 しかしアニラには、その数秒で十分であった。


「ラヒィィィィィィィィィィィィィィル!!」


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


283 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:53:15 1JieLy4k0

 雄叫びを上げる竜が、水中から勢いよくウィルソンさんを引き上げてくる。

 その竜人はウィルソンさんの腕を両方とも引き取って、俺の体を完全にフリーにしていた。
 アクロバティックな動きで非常階段の手すりに脚で掴まり、彼は身を乗り出しながらその尾を海面に叩きつけた。
 ヒグマは、その衝撃に気絶したように見えた。
 竜はヒグマが脱力した瞬間にウィルソンさんを、その腹筋の力だけで非常階段の上に抱え上げてきて、空中にその脚を露出させる。
 赤黒い毛と前足は、ウィルソンさんの膝元まで侵食していた。


 ――撃て。
 と、爬虫類のような竜人の赤い瞳が、ウィルソンさんの力強い瞳が、俺に語っている。


 生き残るか、死ぬか。
 そんな極限の状況下で、この2人は、俺にその全ての決断を託そうとしている。
 自分が生き残るという欲を、結局は誰もが果たそうとするこの殺し合いの中で、よくもまあ、そんな簡単に人を信じられるものだ。

 そもそも、ウィルソンさんだって、赤の他人。
 この竜人に至っては、お前むしろヒグマの仲間なんじゃないのかとツッコミたくなる姿だ。
 それなのにこいつらは、無条件に俺を助けようとし、自分たちの生死を俺に放り投げてきている。
 白か黒か、全てを俺の弁護に投げた。


 北岡秀一は、仮面の下で笑う。


 ――でも結局、どう考えても俺の行動は1パターンしか、無いんだよね!!


「うらぁッ!!」


 両腕で精確に照準を定めたマグナバイザーを、ウィルソンさんの膝下に向けて掃射していた。
 声にならない呻き声を上げながらも、ウィルソンさんの体は黒い竜に確保され、階段の踊り場の上に共々転がり落ちる。
 続け様に、マグナバイザーのスロットに、片手でカードを挿入した。

 ――シュートベント。

 津波の上に響く音声と共に、俺の腕には巨大なランチャーが出現する。

『ぬ……うっ……!?』

 赤黒いヒグマが、銃弾の衝撃に意識を取り戻す。
 津波の激流に流されていくその肉体に、俺はしっかりとギガランチャーの狙いを定めていた。

「悪いけど、あんたみたいな凶悪そうなヒグマは、確実に殺させてもらうッ!!」


 この状況は、恐らく相当なチャンスだった。
 ウィルソンさんの肉体を取り込もうとし、竜人に頭部を潰されても再生する、妖怪じみたバケモノ。
 こんなヒグマを生かしておいたら、後々どうあっても、今より悪い状況で命の危険に晒される。
 仮にウィルソンさんや黒い竜を排除するとしても、真っ先にこいつだけは潰す!!


 ギガランチャーの砲弾が水面に着弾した。
 爆炎と共に、赤黒いヒグマの肉体も四散する。
 勝利を確信した。
 その俺の頭上から、哄笑が聞こえていた。


『いいぞ人間!! 楽しい!! こんなに楽しいのは久しぶりだ!!
 さあ、お楽しみはこれからだな!!』
「なっ……!?」


 空の高みに、爆炎で吹き飛んだ、ヒグマの首があった。
 赤黒いヒグマの胴体が、その笑う首から、勢い良く再生していた。
 血の雨を降らせながら、津波の圧力から開放された肉体で、そいつは俺に向かって、落ちてきていた。

 夜が来る。

 とてつもない迅さで、夜は俺の体を掠め取っていた。
 その夜は、上空からは来なかった。
 その夜は階段の踊り場から、ウィルソンさんを抱えたまま、降り注ぐ血の雨が津波に落ちるより速く、俺の体を隣のビルの屋上まで避難させていた。


 あの、黒い竜人が、俺とウィルソンさんを、両脇に抱えていた。


「――ご心配なく。我々が撤退しても、今の両女史ならば、かの対象を処理し得ます」


 笛のような声を紡ぐ、その竜人の視線の先。
 津波の水面を氷結させながら走る、二人の少女の姿があった。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


284 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:54:24 1JieLy4k0

「おおおおりゃあぁぁぁぁぁっ!!」
「頼みますよ佐天さぁぁぁぁん!!」

 6階から津波へ。
 風を纏いながら、私は『自分だけの現実』に三日月を回す。
 白い炎で出来たその三日月に、周囲の熱をことごとく巻き込んでいく。
 腕に。
 肩に。
 胸に。
 腰に。
 脚に。
 首に。
 瞳に。
 全身が焼け落ちるほどの高熱を、世界から奪い取っていく。

 着地する津波の海水面が、一瞬で氷結した。
 覆い被さってくる後方の波も、押し寄せる瞬間に凍り付いていく。

 おんぶした初春の手が、しっかりと私の肩に繋がっている。
 その掌から『彼女だけの現実』が、私にも流れ込んでくる。

 歪んだ三日月の炎が、その温もりに埋まる。
 回転する月の内側から、初春の思いが充填されていく。
 真球の月が回転する。
 脊柱を伝って、全身を真っ白な炎の輪が回っていく。

 会陰。
 脾臓。
 臍。
 心臓。
 咽喉。
 眉間。
 頭頂。

 炎が上がり、そして下がる。
 流れる炎が風を巻き起こし、体内の月の回転をどんどん早めていく。
 駆け出す一歩ごとに、水面は凍っていく。
 無量の炎が私の体内を駆け抜けて、『私達だけの現実』に燃え盛る。


 大砲の爆発と共に水上に吹っ飛んだ、赤黒いヒグマが見えた。
 遠くの皇さんが、一瞬だけ私と視線を交わして、その場にいた二人を連れて走り去る。
 上空から落下するヒグマは、そこで初めて私たちの存在に気づく。

 あたり一面にブリザードを吹きたてて、私は急停止しながら両腕を構えた。
 その背中を、しっかりと初春が支えてくれる。


「佐天さん、お願いしまぁす!!」
「オッケェェイ!! これが、私と初春のツープラトンッ……!!」


 皇さんたち三人が作ってくれたこのチャンス、逃すわけには行かない。
 左天おじさんが導き、初春が保ってくれた、この私の熱い思い。
 人を襲うあの赤黒い化物に、叩き込んでやるッ!!


『素晴らしい……。素晴らしい力だぞ人間ッ!!』
「『W(ダブル)第四波動』ーッッ!!!」


 両腕から迸る二本の火柱が、笑い声を上げる赤黒いヒグマを飲み込んでいた。
 斜めに上空へ向けて放たれた『第四波動』は、あたかも天を焦がす龍の咆哮のように燃えた。
 南の空を、白熱した満月の渦が焼く。
 跡形も無く、その赤黒いヒグマの体は燃え尽きていた。


 波動を放ち終えた私たちのいる氷上に、皇さんたちが降りて来る。
 皇さんは、その真っ黒な体に脱皮のカスをところどころ貼り付けたまま、私たちに向かって敬礼していた。

「――佐天女史と初春女史のご尽力に感謝いたします」
「……なに言ってんだか。私たちを見くびって、置いていったくせに」
「申し訳ありませんでした。次なる機会があれば、両女史にもご助力を仰ぐ所存であります」

 皇さんのすべすべした腹筋に、軽くパンチをお見舞いしてやる。
 脱皮していた途中なのか、皮はふにゃふにゃだった。
 一発でもヒグマの攻撃を受けていたら、危ないところだったのではないか?
 自分だって相当無理して救助に向かっていたのだろうに。
 私たちに、そんなに配慮はしてくれなくてもいいのに。

 自分にすら聞こえないくらいの小声で、私たちは呟いていた。


285 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:54:43 1JieLy4k0

「――もう仲間なんだから、もっと信頼してよ」
「――委細、承知いたしました」


 そこに遅れて、緑色のスーツに全身を包んだ男の人が、あの裸のおじさんを抱えてやってくる。
 初春がその二人へ、慌てて駆け寄っている。

「お二人とも、大丈夫でしたか!? ひどいケガじゃないですか!?」
「……フフ……。最近の若い者は、本当にブレイブなことだ……」
「ひとまず助かった。お礼やなんやかや言いたいが、話は後だ。
 俺は弁護士をしている北岡秀一という。とりあえず、手当てのできるところはないか!?」
「わかりました北岡さん。
 佐天さん! 急いで百貨店に戻りましょう!」

 意識の朦朧とした小太りのおじさんは、右手と左脚の下がちぎり落とされていて、全身が冷えと貧血で真っ白だった。
 一刻も早くどうにかしなければ、このおじさんは死んでしまうだろう。
 皇さんと目を見合わせて、私は北岡さんたちを案内しながら走った。

 
 私と初春が凍りつかせた津波は、朝日を受けてきらきらと輝いていた。
 もう、その氷河は、街のビル群に固定されて動かない。
 これ以上、この近くで津波に襲われる人はいなくなるだろう。


 満月を回すような、体がどこまでも広がっていくような感覚。
 どこまでも白い流れが、私の体を運んでくれるようだった。


 ――ねえ、左天のおじさん。
 私は、あなたを助けに行く道に、また一歩、近づけたかしら?


【C-4 街/朝】


【佐天涙子@とある科学の超電磁砲】
状態:疲労(小)、ダメージ(中)、両下腕に浅達性2度熱傷
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:対ヒグマ、会場から脱出する
0:とりあえず、北岡さんと、おじさんの手当てかな!
1:人を殺してしまった罪、自分の歪みを償うためにも、生きて初春を守り、人々を助ける。
2:もらい物の能力じゃなくて、きちんと自分自身の能力として『第四波動』を身に着ける。
3:その一環として自分の能力の名前を考える。
4:『スカートアッパー』って名前、ダメかしら……?
[備考]
※第四波動とかアルターとか取得しました。
※左天のガントレットをアルターとして再々構成する技術が掴めていないため、自分に吸収できる熱量上限が低下しています。
※異空間にエカテリーナ2世号改の上半身と左天@NEEDLESSが放置されています。
※初春と協力することで、本家・左天なみの第四波動を撃つことができるようになりました。


286 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:55:50 1JieLy4k0

【初春飾利@とある科学の超電磁砲】
状態:健康
装備:サバイバルナイフ(鞘付き)
道具:基本支給品、研究所職員のノートパソコン、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本思考:できる限り参加者を助けて、一緒に会場から脱出する
0:このおじさんを助けるには、どうすれば……?
1:佐天さん、元気になって良かった……。
2:佐天さんの辛さは、全部受け止めますから、一緒にいてください。
3:皇さんについていき、その姿勢を見習いたい。
4:一段落したら、あらためて有冨さんたちに対抗する算段を練ろう。
[備考]
※佐天に『定温保存(サーマルハンド)』を用いることで、佐天の熱量吸収上限を引き上げることができます。


【アニラ(皇魁)@荒野に獣慟哭す】
状態:健康、脱皮中
装備:MG34機関銃(ドラムマガジンに50/50発)
道具:基本支給品、予備弾薬の箱(50発×5)
[思考・状況]
基本思考:会場を最も合理的な手段で脱出し、死者部隊と合流する
0:中年男性の体温の低下と出血が深刻である。早急な止血・補水・復温が必要であろう。
1:北岡という人物は、二心のある体臭をしている。利害の一致でこのまま協力できれば良いのだが。
2:残りの参加者とヒグマは、一体どういった状況下にあるのだ……?
3:参加者同士の協力を取り付ける。
4:脱出の『指揮官』たりえる人物を見つける。
5:会場内のヒグマを倒す。
6:自分も人間を食べたい欲求はあるが、目的の遂行の方が優先。
[備考]
※脱皮の途中のため、鱗と爪の強度が低下しています。


【北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
状態:仮面ライダーゾルダ、全身打撲、変身解除するとスーツ腹部に血糊が染み付いている
装備:カードデッキ@仮面ライダー龍騎
道具:血糊(残り二袋)、ランダム支給品0〜1、基本支給品
[思考・状況]
基本思考:殺し合いから脱出する
0:ウィルソンさん助かるのかなこれ……?
1:人徳に篤い好人物は演出できただろうから、まあウィルソンさんは死んでくれてもいいんだけど……。
2:それにしても、この黒い竜人は本当に人間なんだろうか。
3:なんだか大層な能力を持つこのお嬢さんたちに協力するのは良いけど、どう振舞うのが生き残りに効率がいいかによるな。
[備考]
※参戦時期は浅倉がライダーになるより以前。
※鏡及び姿を写せるものがないと変身できない制限あり。


※C-4エリアの津波は凍結し、D-4・D-5などの一部のエリアは津波の被害が減免されました。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 そのオフィスビルの屋上には、一匹のメスが倒れていた。
 艶やかな金属光沢を見せる給水タンクの脇で、彼女は恍惚の表情を浮かべている。

 纏わりついてきた邪魔者どもは蹴散らしたし、遠くまでワープもしてきた。
 ようやっと落ち着いて、その身に刻まれた悦びに身を任せられるというものだ。


 火山から巨人が出てこようが、下が津波に飲まれようが、別にどうでもいい。
 たった今、上空を巨大な火柱が横切っていったが、自分には全く関係が無い。
 下の窓ガラスを割って、中に入り込んできた人間がいるようだが、このオタノシミの方が優先だ。


 メロン熊は、鷹取迅に開発されたその感覚に酔いしれて、独り艶かしい吐息を吹き出していた。


【D-6:街(とある一棟のオフィスビルの屋上)/朝】


【メロン熊】
状態:喜悦
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ただ獣性に従って生きる
1:悦びに身を任せる
[備考]
※鷹取迅に開発されたので、冷静になると牝としての悦びを思い出して無力化します。
※「メロン」「鎧」「ワープ」「獣電池」「ガブリボルバー」の性質を吸収している。
※何かを食べたり融合すると、その性質を吸収する。


※メロン熊がいるのは、御坂美琴が侵入したビルの屋上です。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


287 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:56:54 1JieLy4k0

 佐天たち5人が去った後、小さなビルの非常階段の踊り場に、首のないヒグマの死体が放置されていた。
 一帯の街道とその階段には、赤黒い雨の跡が点々と残っている。
 氷河と化してしまった津波の表面が、太陽熱で徐々に溶けてゆく。

 ヒグマの死体は、ひとりでにその濡れた階段の表面を滑り落ちてゆき、僅かに溶けた氷河の上をそのまま滑っていった。


 ぶくぶくと、その首の断面が泡立つ。
 赤黒い血の染みが、その肉体全体を覆い、静脈血のような色合いの毛並みとして広がってゆく。
 ヒグマの肉体は、路地の裏にひっそりと滑り込みながら、泡立ち続けた。


『――素敵だ、やはり人間は素晴らしい……』


 そして、その首から、新しい頭が生え出てくる。
 ヒグマ6と、そして今、穴持たず9の肉体と融合したアーカード――ヒグマードであった。


『こんなに殺されたのは久しぶりだぞ。記念日にしておこうかな……?』


 彼の肉体は、一度は佐天と初春の放った『W第四波動』によって消失していた。
 しかし、その直前の再生時に振り撒いた血の雨が、穴持たず9の死体に一滴だけ降りかかっていたのだ。


『そぉうか。お前も、人間に対峙していたのか……。氷を操る青年と、弾を投げる少年……。
 期待できそうな人間は山のようにいるなぁ……』


 穴持たず9の記憶をも吸収しながら、ヒグマードは思い返す。


 最期の最後に、自分の命をも顧みず、残る者どもに発破をかけた裸体の男。
 異形に身をやつしても人間の心を失わず、那由他の彼方の勝機に一撃を賭した竜の男。
 狼狽と打算と人情の狭間にあっても、その天秤を適切な判断で傾けた緑の男。
 その身に転輪する巨大すぎる力を、友との協力で利用してのけた黒髪の少女。
 裏方に徹し、ぬかりなく他者の漏失を補っていただろう怜悧な花飾りの少女。


 なんという者たちだ。
 まるで“あの男達”の様だった。
 100年前のあの日、私は全身全霊を以って闘い、そして完全に敗れた。
 惜しい。
 “あの男達”とのような闘いを、またやりたい。
 今回の私は再生途中で、なおかつ津波の中で身動きがほとんど取れなかった。
 また、再戦したい。
 夢の様だ、本当に人間とは夢の様だ!


 特に、あの裸体の男。
 彼がもし、肉体的にも精神的にも万全の状態だったら、どうだった?
 あの5人の中では、最も伸びしろがあったように思えるだろう?

 あの男が後生大事にベルトに佩いていた刀。
 私が彼の脚を離してしまう前に。
 そこに、私の血でメッセージを刻み付けておいた。


 『rave<レイブ>(狂喜を)』


 私との再戦時に、もっと私を楽しませてほしい。
 その願いを、あの男に捧げた。

 そして、そこに更に一文字。
 私に出会うまでの道中に、これを持って行け――。


 『Brave<ブレイブ>(勇気をッ!)』


 前へ、前へ、前へ、前へ、前へ、前へ、前へ、前へ!!


288 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/19(水) 23:58:58 1JieLy4k0

 敵が幾千ありとても突き破れ!!
 突き崩せ!!
 戦列を散らせて、命を散らせて、その後方へその後方へ、私の眼前に立ってみせろ!!
 “あの男の様に”!
 あの年老いた、ただの人間の“あの男の様に”!
 “あの男の様に”見事私の心の臓腑に、その刀を突き立ててみせろ――!!


 あの程度の身体欠損で死ぬな。
 必ずや、生きて帰って来い。
 あの叫びを、人間の意気が詰まったあの叫びを、もう一度私に聞かせてくれ――!!


 ヒグマードが心中で叫ぶその先。
 ウィルソン・フィリップス上院議員の腰に、メロン熊に喰い残された、ガブリカリバーが下がっている。
 その刀身には、どこか気高く、禍々しく、そして聖なる雰囲気さえ漂う、赤い5文字の英字が記されていた。

 拘束制御術式の開放により、刀身とその血液は完全に同化している。
 しかし、死と再生の間際に刻んだその僅かな血文字は、恐らく既に、ヒグマードの統御下を離れているだろう。
 ただそこには恋文にも似た、化物から人間への羨望が綴られているだけであった。


【C-4 街/朝】


【ヒグマード(ヒグマ6・穴持たず9)】
状態:化け物(吸血熊)、瀕死(再生中)
装備:跡部様の抱擁の名残
道具:手榴弾を打ち返したという手応え
0:また私を殺しに来てくれ! 人間たちよ!
1:求めているのは、保護などではない。
2:沢山殺されて、素晴らしい日だな今日は。
3:天龍たち、クリストファー・ロビン、ウィルソン上院議員たちを追う。
4:満たされん。
[備考]
※アーカードに融合されました。
 アーカードは基本ヒグマに主導権を譲っていますが、アーカードの意思が加わっている以上、本能を超えて人を殺すためだけに殺せる化け物です。
 他、どの程度までアーカードの特性が加わったのか、武器を扱えるかはお任せします。
※アーカードの支給品は津波で流されたか、ギガランチャーで爆発四散しました。


【ウィルソン・フィリップス上院議員@ジョジョの奇妙な冒険】
状態:大学時代の身体能力、全身打撲、右手首欠損(タオルで止血中)、左下腿切断、裸ベルト、低体温、大量出血
装備:raveとBraveのガブリカリバー
道具:アンキドンの獣電池(2本)
[思考・状況]
基本思考:生き延びて市民を導く、ブレイブに!
0:見所のある若者たちが多いな……。この島は。
1:折れかけた勇気を振り絞り、人々を助けていこう。
2:救ってもらったこの命、今度は生き残ることで、人々の思いに応えよう。
[備考]
※獣電池は使いすぎるとチャージに時間を要します。エンプティの際は変身不可です。チャージ時間は後続の方にお任せします。
※ガブリボルバーは他の獣電池が会場にあれば装填可能です。
※ヒグマードの血文字の刻まれたガブリカリバーに、なにかアーカードの特性が加わったのかは、後続の方にお任せします。


289 : Tide ◆wgC73NFT9I :2014/02/20(木) 00:04:29 zSktE1Vg0
以上で投下終了です。
続きまして、武田観柳、阿紫花英良、宮本明、キュゥべえ、ヒグマ5、
ジャック・ブローニンソン、操真晴人、隻眼2で予約します。
……今度は期限に間に合うよう尽力します。


290 : ◆wgC73NFT9I :2014/02/20(木) 01:14:18 zSktE1Vg0
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0300.png
お待たせいたしました。現在状況でございます。
乱入者と死体でどんどん見読性が落ちていくなぁ……。

意外と島外に出ていた人は少なかった印象ですね。
位置が不明な人は、ここらへんだろうと見当をつけた位置に置いた上で、
暫定的にカッコつきで表記しています。


291 : 名無しさん :2014/02/20(木) 02:22:23 JlZEqokI0
投下&地図作成乙!!
ついに佐天さんが本当の意味で覚醒しましたね。
スーパーハッカー初春の手によって明かされたヒグマと会場の秘密。
穴持たずってそういう意味だったのか…しかし烈さんはなんでヒグマに…?
そこまでしてピクルに喰われた足を治したかったというのか…?
相変わらず冷静な作戦行動が恰好いいアニラさん。流石プロの軍人だぜ。
北岡弁護、ヘタレを返上した上院議員と偶然集まった5人の人間の力でついに
不死身のヒグマードを撃退かと思いきや…結果的にロビカスとも因縁が出来て面白くなってきた。


292 : 名無しさん :2014/02/20(木) 14:21:15 QUI/YdrU0
投下乙
ヒグマード本当にしぶといな….


293 : 名無しさん :2014/02/22(土) 01:50:15 y5MzX6/w0
投下乙
無駄の無い動作で確実にヒグマを仕留めるアニラの戦闘に惚れ惚れする


294 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/25(火) 23:03:51 VZIErexI0
デデンネ、デデンネと仲良くなったヒグマ、パッチールを投下致します
タイトルは「強すぎる力の代償」です


295 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/25(火) 23:04:22 VZIErexI0
「ぱ〜……」

――己の無力さが憎いか?

「ぱ〜……」

――自分を捨てた者を見返したいか?

「ぱ……」

――さぁ、これを使ってみろ。そしてその力を試して見るがいい。



 ◆


説明しよう!

ヒグマの科学力を用いて作られた特製ステロイド。
従来のステロイド剤とは比にならない効果を持ち、摂取して筋トレに励めば貴方も範馬勇次郎!
……ただし、それと同時に肉体に与える負担も従来のものとは比にならない。
その副作用とは……常時ばかぢからが振るわれるために、ちょっとした動作でかなり疲弊してしまうのだ。

だが、そのために採用されたのがこのパッチール君。
彼は陸上生物において稀有な、"副作用をマイナスからプラスに変換出来る特性"を持っている!
ばかぢからが引き起こす副作用によって、逆に強化される。――なんと、最大で4倍ものパワーへと膨れ上がるぞ!

本来のパッチールの戦闘能力は、数値にしてたったの60……攻撃、防御、素早さ、体力、その全てが微妙。
だが特性ステロイドと筋トレの成果により、超えられないはずの"種族値"の壁を超えてみせたのだ!
今ではALL120――あの、神の名を持つポケモン、アルセウスに匹敵するチカラを手にしたのだ。

そうだ。ステロイダーパッチールは、神 と な っ た の だ!!

ヒグマを上回る強さを手に入れたパッチールは、このヒグマロワで、デウス・エクス・マキナっぽい役割を担うッ!!!


 ◆


「BAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


野獣の咆哮。
ムキムキに強化された肉体から放たれる雄叫びは、さながらハイパーボイスの如し。
デデンネとヒグマは必死に耳を塞ぐ。聴力に優れている分、ダメージは大きい。
咆哮一つでこれだけのパワーを見せるパッチールらしき生物。
二人はその、底知れぬ脅威を垣間見た。

……というかコレ本当にパッチールなのか、という疑念がヒグマの中に湧き上がる。
八頭身ボディに、ぶくぶくと異常に膨れ上がった筋肉。
いくら渦巻きの目と長い耳と、斑点模様があったとしてもアレはパッチールで合っているのか?

「パチィィィ……」

あぁ、でも鳴き声はパッチールっぽいわ。
俺の知ってるパッチールとは全く似てないが……もうパッチールでいいんじゃないか。
うん、間違いない。あの筋肉隆々の生物はパッt

「パァァァッチャラアアアァァァァッッ!!!」

とかあれこれ考えている間に、巨体が目の前まで迫ってきた。
軽々と片腕で振り回される丸太、それがデデンネを狙って思い切り叩きつけられる!

「ガアアアァァァッ!!」

デデンネと仲良くなったヒグマが打撃を庇った。
当然の事ながら、直径30㎝程度の丸太はへし折れる! 木くずが火花のように飛び散った。
そしてドサリ、と丸太の半分が地面に付き刺さる様子に、デデンネは恐れ慄いた。
デデンネの体など、掠っただけで水風船のように粉砕されるだろう。

「貴様……、まさかフェルナンデスが狙いなのか!?」
「その通りじゃあ!」
「あ、ヒグマ語通じるのか」

言うまでもなく、丸太ではヒグマを殺傷するには不足である。
パッチールが丸太を持っていた理由は、リーチを伸ばすためであり、参加者相手になら威力十分であるためだ。


296 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/25(火) 23:04:43 VZIErexI0
「少々この孤島には無駄な人間が増えすぎたのでな……。
 キングヒグマ様の命令により、ワシが間引いてやろうというのじゃあ……!」
「え、人間が増えた……? キングヒグマ……? え?」
「時に貴様、何故そのデデンネを庇う」
「……フェルナンデスは俺の仲間だ、手出しはさせんぞ!」

――戦う覚悟は出来ている。
フェルナンデスを守ろうと誓った時から、自分は他のヒグマを敵に回す事だとわかっていた。
この身を犠牲にしようとも、フェルナンデスだけは生きてもらわねば……。
……いいや、そんな弱気ではいけない。絶対に"二人で"生き延びるのだ!

両腕を広げ、目の前で放出される殺意の波動を一身に受ける。
さぁ、かかって来い!



「……ほほう、さては貴様。そやつの可愛らしき外見に魅了されたクチじゃな?」

パッチールは察した。デデンネを守る決意をしたヒグマの姿を見て。

「な、何を言い出すんだ!?」
「ああ、ワシにはわかる。デデンネは"かわいい"からなぁ。
 そんな姿で迫られれば、いくらヒグマと言えどメロメロじゃろうよ」
「違う! 俺は別に見た目だけで決意を抱いたわけでは無い!」
「のうデデンネよ。よく聞け」
「デデンネッ!?」
「"かわいい"だけで信頼を気付けるなど、思い上がりだ。
 相手の心変わり一つで、貴様の幸福、安心、そして信頼はすぐに失われる」
「デデデンネッ!?」

デデンネは知能が低いので、パッチールの言ってることがわからない。
抽象的に言うな、はっきり簡単に言え。ただ、なんか自分が非難された気がする。
怒るべきか、戒めるべきか……と思ったが、話の内容が伝わってないので驚愕のリアクションでやり過ごした。

なお、ヒグマの方は察しが早い。

「俺がフェルナンデスを裏切ると言うのか?
 フン、あり得るものか。仲間を見捨てる者などいるわけがないだろう」
「いるとも。仲間であろうと平気で切り捨てる者がな」
「馬鹿だなお前。それは相手が初めから"仲間だと思ってなかった"だけだ。
 互いに信頼し合っている関係に、裏切りなど存在するものか」

その言葉がパッチールの頭に血を上らせた。
というより、頭の血管が一本ブチ切れた。なんかグロテスクだ。

「馬鹿は貴様じゃあああぁぁぁ!!!」

怒号と共にヒグマへと飛びかかる。
押し倒されたヒグマのマウントを取り、頭を何度も殴りつける!
顔では無く、頭だ。噛み付いてカウンターも出来ない。
ヒグマはとにかく抜けだそうと暴れ、もがく。
だが、その前にパッチールはヒグマの頭を掴んで投げた。

「グガアアァァァッ!!」

地面に叩きつけられ、ピクピクとするヒグマに対し、パッチールは言葉を続けた。

「のうヒグマ。時に貴様、もしお前の兄弟とデデンネが同時に危機に立たされたとしよう」
「俺に兄弟は居ない」
「親は?」
「居ない。天涯孤独だ」
「チッ、じゃあ子供で。……貴様に子供がいたとして、デデンネと子供が同時に危機に立たされたとしよう。
 どちらも海で溺れかけていて、舟に乗っている貴様は、浮き輪をひとつだけ持っている。
 片方に浮き輪を与えれば、もう片方は溺れ死んでしまう。そんな時、貴様はどうする?」

究極の選択。
それをパッチールは問いかける。

「子供に浮き輪を与えて、デデンネを泳いで助けに行く」


297 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/25(火) 23:04:58 VZIErexI0
理想の解決策。
そう、ヒグマは泳げるじゃないか。

「……いや、そういう事では無く……。
 ならば浮き輪が無かったとして、貴様はどうする!?」
「というより、俺の子供なら泳げるんじゃないのか?」
「パチイイィィィィ!! ならばもうシチュエーション無しじゃあ!
 なんかあって、片方しか救えないなら、貴様はどちらを選ぶ!?」
「クッ……それは……」

ヒグマは究極の選択を問われ、言葉を詰まらせる。

「デネ〜……」
「……勿論俺はデデンネを助けに行くぞ」
「ほう、ならば子供を裏切るというのか?
 天涯孤独だった貴様に出来た、血の繋がった家族を捨てるというのか?」
「何が言いたい!?」

ヒグマは神経を逆撫でされた気がして、激高する。

「貴様の子供からすれば、その行動をどう思うだろうな。
 信頼している親から裏切られた、と思うんじゃないか?」
「何……」
「デデンネ、ワシは貴様に言いたいのだ。"図に乗るな"と。
 かわいいだけで全てが上手くいくと思い上がるな、と。
 このヒグマは今、すぐそばに貴様がいるから貴様を選んだんじゃ。
 だが、実際にその機会が訪れた時、貴様が捨てられない保証など無い!」
「デ、デネンネェ……!」

いきなり指さしでそう宣言され、デデンネは怯える。
何故こんなこと言われたのかよくわからないけど、どうも妬まれてる気がした。
震えるデデンネを、ヒグマは優しく撫でた。

「心配するなフェルナンデス。俺はお前の味方だ」
「デデンネ!」


 ◆


「安心してパッチール。私はあなたの友達だから!」
「ぱ〜!」


 ◆


「はは、このワシを前にして随分と幸せそうじゃのう貴様ら。
 だがな、そろそろワシも仕事を全うせねばならんからな……」

再度、殺意が周囲の空気を凍りつかせた。
腕にぶくぶくと付いた筋肉がぐっと引き締まり、ミミズの様な血管がいくつも浮き上がる。
ぐるぐると渦巻いた目が、隙を与えまいと獲物の動きに集中する。

「死ぬがよい」

大地を蹴りつけ、タックルを放つ。
ズン、と重い衝撃が空気を伝わる。
タックルを受け止めたヒグマは、咆哮を上げながら爪を突き刺す!

「パチュルゥイイィィィッ!!」
「グルル!?」

何故だ、深い損傷を与えるに至らない。
そのままパッチールの拳が、ヒグマの顎を打ちぬく。

「グガァ―――ッ!!」

数本の牙が吹き飛び、そのままヒグマはノックアウトされる。
それに伴って、パッチールに与えた傷がみるみるうちに塞がっていく。


298 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/25(火) 23:05:58 VZIErexI0
「今のはドレインパンチ……かつてマスターがワシに習得させた技じゃあ……。
 さらに常時ばかぢからがゆえに、その副作用でワシの耐久力も大きく上昇している。
 もはや生半可な攻撃では、傷を負わせるのは不可能じゃろうなぁ、はははは」

愉快そうに笑う。
事実、パッチールは愉悦に浸っていた。
かつての自分では到底敵わないような巨大な相手が、今や自分より小さく、そして自分より弱いのだ。

「これが、これこそが、ワシが求めていたチカラじゃあああぁぁぁ!!!
 フゥーハハハハハ!!!!」

けたたましく笑う。
隆起した上腕二頭筋を愛おしそうに撫でる。太い血管を撫でる。
下を見下ろせば、膨れ上がった胸筋によって、足元が全く見えない。
これが自分の体なのだ。夢のようだ。
なんという機動力、なんという溢れ出す活力。

もうローブシンにも負けない。ハッサムに負けない。カイリューに負けない。
そして、ゴロンダにも……。

「デデンネ!」

ふと、自分の体がゆらゆらと左右に揺れている事に気がついた。

「デデーンネ!!」
「貴様……その技は……!」
「デデンネー!!」

デデンネと共に華麗な決めポーズをするパッチール。かわいい。

「『仲間づくり』かッ!」
「デンデネデ!!」

それだけ言って、デデンネはそそくさとヒグマの後ろへと逃げ去った。
パッチールの特性が"あまのじゃく"から"ものひろい"へと変わる。

「ぬぐううぅぅ、若干だが力が入らなくなっていく……!」

特性が失われた今、ばかぢからが本来の副作用を引き起こす。
少しづつ、少しづつ、武器であり鎧である筋肉に疲労が溜まる。
まだ弱体化とは言えないものの、パワー全開で無くなったのは確かだ。

「フェルナンデス、ありがとう。これで奴を倒せる可能性が生まれた」

口から血をボタボタと零しながら、ヒグマが上体を起こす。
決して少ないダメージではない。
並みの人間の体力と換算しても、数週間の入院を要する重症に等しい。
だが、ヒグマ特有のワイルドハートと、守るべき者に対する決意が彼を立ち上がらせる。

子を守る時の動物は、とても強いのだから。

「パァァァッ、チョルォァァァアアアッ!!!」
「ガウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!」

またしても組み合い。
ヒグマの蹴りが、爪が、腕力が、パッチールに突き刺さる。
パッチールのヘッドバッドが、膝蹴りが、握力が、ヒグマに叩きつけられる。

命を掛けた死闘。
自然界における戦い。
狩る者と狩る者のぶつかり合い。
彼らが暴れることで大地に亀裂が走り、木々がなぎ倒され、巻き込まれた虫が死ぬ。

大きな力の衝突を、人間は戦争と呼ぶ。
戦争は多くの命を奪う。故にこの二体の争いは、一つの戦争であると言えよう。



「(このままではワシが劣勢となる……。仕方あるまい、気が進まないがあの技を……)」


299 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/25(火) 23:06:10 VZIErexI0
「今のはドレインパンチ……かつてマスターがワシに習得させた技じゃあ……。
 さらに常時ばかぢからがゆえに、その副作用でワシの耐久力も大きく上昇している。
 もはや生半可な攻撃では、傷を負わせるのは不可能じゃろうなぁ、はははは」

愉快そうに笑う。
事実、パッチールは愉悦に浸っていた。
かつての自分では到底敵わないような巨大な相手が、今や自分より小さく、そして自分より弱いのだ。

「これが、これこそが、ワシが求めていたチカラじゃあああぁぁぁ!!!
 フゥーハハハハハ!!!!」

けたたましく笑う。
隆起した上腕二頭筋を愛おしそうに撫でる。太い血管を撫でる。
下を見下ろせば、膨れ上がった胸筋によって、足元が全く見えない。
これが自分の体なのだ。夢のようだ。
なんという機動力、なんという溢れ出す活力。

もうローブシンにも負けない。ハッサムに負けない。カイリューに負けない。
そして、ゴロンダにも……。

「デデンネ!」

ふと、自分の体がゆらゆらと左右に揺れている事に気がついた。

「デデーンネ!!」
「貴様……その技は……!」
「デデンネー!!」

デデンネと共に華麗な決めポーズをするパッチール。かわいい。

「『仲間づくり』かッ!」
「デンデネデ!!」

それだけ言って、デデンネはそそくさとヒグマの後ろへと逃げ去った。
パッチールの特性が"あまのじゃく"から"ものひろい"へと変わる。

「ぬぐううぅぅ、若干だが力が入らなくなっていく……!」

特性が失われた今、ばかぢからが本来の副作用を引き起こす。
少しづつ、少しづつ、武器であり鎧である筋肉に疲労が溜まる。
まだ弱体化とは言えないものの、パワー全開で無くなったのは確かだ。

「フェルナンデス、ありがとう。これで奴を倒せる可能性が生まれた」

口から血をボタボタと零しながら、ヒグマが上体を起こす。
決して少ないダメージではない。
並みの人間の体力と換算しても、数週間の入院を要する重症に等しい。
だが、ヒグマ特有のワイルドハートと、守るべき者に対する決意が彼を立ち上がらせる。

子を守る時の動物は、とても強いのだから。

「パァァァッ、チョルォァァァアアアッ!!!」
「ガウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!」

またしても組み合い。
ヒグマの蹴りが、爪が、腕力が、パッチールに突き刺さる。
パッチールのヘッドバッドが、膝蹴りが、握力が、ヒグマに叩きつけられる。

命を掛けた死闘。
自然界における戦い。
狩る者と狩る者のぶつかり合い。
彼らが暴れることで大地に亀裂が走り、木々がなぎ倒され、巻き込まれた虫が死ぬ。

大きな力の衝突を、人間は戦争と呼ぶ。
戦争は多くの命を奪う。故にこの二体の争いは、一つの戦争であると言えよう。



「(このままではワシが劣勢となる……。仕方あるまい、気が進まないがあの技を……)」


300 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/25(火) 23:06:45 VZIErexI0
息を切らせながら、パッチールは奥の手を使う決意をする。
組み合いから唐突に腕を振り払って離れ、そしてポーズを決めて……。

「ぱっぱっぱ♪ ぱぱっちぱ♪」
「何だお前は!? 何だそれは!?」

両手を左右に揺り動かし、足を交互に上げながらリズミカルに踊る。
筋肉モリモリの男がこんな動きすると、当然非常に気持ち悪い。
唖然としていたヒグマだが、ふらりと立ちくらみの様な感覚に襲われた。

「隙あり、パーンチ!!」

拳がヒグマの腹部を捉え、その巨体を浮き上がらせた。
……視界の焦点がズレてぼやけ、くらくらと意識が混濁する。

「何をしやがった……!」

ヒグマはぼんやりと見えるパッチールめがけて、思い切り腕を振るった。
だが、その腕は届かず、代わりに自分の顔面に衝撃が走った。
ドサリ、と倒れこんだヒグマは、その姿勢のまま闇雲に蹴りを放つ。

「デデンネ――ッ!!!」
「はっ」

足に手応えを感じ、バキッ、と言う音が響き……。
そしてその悲鳴によってヒグマの混乱は解かれ、そして鮮明な視界が"正しい状況"を映しだした。

「な……」


 ◆


「もう少しくらい活躍出来ると思ったのに……強さは愛じゃ補えないものね」

長い髪の綺麗な女性が、眼鏡越しにボクを冷たい目で見下ろした。

「ぱ〜! ぱ〜!」
「すがってきても無駄。もう貴方の代わりは見つけたの。
 貴方より強くて、とっても逞しい子なのよ」

足にしがみつくボクの手を振り払い、マスターはモンスターボールを取り出し、投げた。
ズシン、と地響きと共に身の丈2メートルはある大きなポケモンが姿を現した。
その名もゴロンダ。
彼もボクの小柄で貧弱な体を見て、まるで子供でも見るかのような目をした。

「うっふふふふ〜♪ 強いしカッコイイしカワイイし、パンダだぁい好き〜!
 さぁ、さっさと帰りましょ! 乗せてね」
「んだ!」

マスターはゴロンダの肩に乗り、そのままボクに背を向けて歩き出す。

「ぱ〜っ! ぱ〜っ!!」
「あ、ついて来ないでね。野生に帰るの、いいね?」

すぐにその姿も見えなくなった。
森の中、一人置き去りにされたボクはただ、うずくまって泣いていた。



こんな小さな体では力が出せないし、早く走ることも出来ない。
進化したくても、いくら望んでもそう簡単に叶うものじゃない。

「ぱ〜……」

凄く悔しかった。
どれだけ鍛えても、ゴロンダのような巨体には敵わない。
仕方がない、それが超えられない壁、種族の差なのだから。


 ◆


パッチールは撤退を選んだ。
あのまま戦い続けている限り、特性は元に戻らない。
だから得意技であるフラフラダンスを使用し、混乱している隙に去った。


301 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/25(火) 23:07:22 VZIErexI0
「これだけの力を得て、どうして上手く行かない……?」

先ほどの戦いを思い返し、イライラする。
考えれば考えるほど、苛立つ。
パッチールは堪らず奇声を発しながら、近くの木を思い切り殴りつけた。
轟音と共に幹の根元から折れ曲がった。

特性は戻ったようだ。力が徐々に沸き上がってくる。

「BAAAAAAAAAAAA!!! 次じゃあ! 次こそ、参加者を確実に減らすッ!!」

不安と焦燥に駆られ、他の獲物を探しに向かう。
なお、この精神が不安定な状態はステロイドの副作用だ。
躁病や鬱病の両方の症状が出るらしいので、こればかりはあまのじゃくでも防げない。


 ◆


「フェルナンデス……違うんだ、今のは……」

砕かれた木の根本で、ガタガタと震えるデデンネの姿があった。
わけもわからず放った蹴りが、デデンネの真上を掠った。

もし、わずかにずれていたら血の塊に変貌しているところだった。
その余りにも圧倒的な破壊力の存在が、今目の前に居ることが怖い。

「デ、デデェ……」

怖い。
目の前にいる存在が怖い。
この強力な力に守られているのが心強い?
いいや、今のような何かの間違いが起きる事を想像すると、不安で仕方がない。
『なかよくなる』だけで保証された身の安全に、果たしてどれほどの信頼がおけるというのか。

自分の命を他人に委ねている限り、決して安息など訪れたりしない。
それが臆病者である場合は……。

「おいでフェルナンデス」

ヒグマは優しい声で呼びかける。
デデンネは明らかにビビりながら、恐る恐るヒグマの頭の上にのぼった。
生き残るために仕方なく、だ。
生きるためにデデンネはヒグマに頼らねばならない。

もしもヒグマが下手に撫でたりしようものなら、デデンネは悲鳴をあげるかもしれない。
この会場から抜けだした後は、デデンネはヒグマを捨てて逃げるかもしれない。



「俺は本当に、心から、お前を家族のように愛しているのに……」

フェルナンデスとの間に出来た壁を崩すために、俺はどうすれば良いのだろう。


【H-3 森の中の高台になっている丘/朝】

【デデンネ@ポケットモンスター】
状態:健康、ヒグマに恐怖
装備:無し
道具:気合のタスキ、オボンの実、ランダム支給品0〜1
基本思考:デデンネ!!
0:デデンネェ……

【デデンネと仲良くなったヒグマ@穴持たず】
状態:顔を重症(大)、悲しみ
装備:無し
道具:無し
基本思考:デデンネを保護する
※デデンネの仲間になりました。
※デデンネと仲良くなったヒグマは人造ヒグマでした。


【G-4 廃墟街/朝】

【パッチール@ポケットモンスター】
状態:健康、ステロイドによる筋肉増強
装備:なし
道具:なし
基本思考:キングヒグマの命令により増えすぎた参加者や乱入者を始末する
0:参加者を手当たり次第殺す
[備考]
※投薬によって種族値合計が670を越えています
※ばかぢから、ドレインパンチ、フラフラダンスを覚えています


302 : ◆m8iVFhkTec :2014/02/25(火) 23:09:19 VZIErexI0
以上で投下終了です
かわいいパッチールが書けて楽しかったです
あと、>>298>>299が多重になってしまい、すみません


303 : 名無しさん :2014/02/26(水) 00:28:50 ymGxWOOkO
投下乙
デデンネと隻眼は生き延びたか……
しかしパッチールは実力派のヒグマとして活躍できるのだろうか……


304 : 名無しさん :2014/02/26(水) 01:36:59 ywLSsJuY0
投下乙
種族地オール120ww最高密度の筋肉でもやっぱり必殺技はフラフラダンスww
そんなパッチールだが過去の事情が切なくてマジ泣けてきた


305 : 名無しさん :2014/02/27(木) 15:51:17 lJ0rIHUU0
投下乙
単なる傀儡に見えてキングヒグマも色々手を出して来てるんだな


306 : ◆wgC73NFT9I :2014/02/27(木) 23:22:13 zwL.xGJ20
投下乙です!!
そういうドラマがあったのか……。パッチールもキングもいいなぁ。
パッチールの鳴き声ってそんな感じなのか?感はあるけれど……。

自分の予約ですが、今しばらくお時間を頂きたく思います。
延長ばかりで本当にすみません……。


307 : 名無しさん :2014/03/06(木) 12:07:13 DrNU5po20
投下乙〜
おお、パッチールパートもだけど最後のででんねパートもいいな
今の関係を一番信じれてないのは技に頼って仲良くなったあいつ自身か


308 : 名無しさん :2014/03/06(木) 15:44:38 vQ4YDTYY0
◆wgC73NFT9I氏が諸事情で投下できないので、武田観柳、阿紫花英良、宮本明、キュゥべえ、ヒグマ5、
ジャック・ブローニンソン、操真晴人、隻眼2の予約分を代理投下をさせていただきます。


309 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:45:29 vQ4YDTYY0
 あるところにひとりの男がいました。
 男には女房がいて二人とも長年畑を耕し、牛を育ててまじめに暮らしてきましたが、なかなかお金も貯まらず、くらしはちっとも豊かになりませんでした。

 あるとき男が夕方門のところでじっと座り込んで行く先を考えていると、一人の老人が通りかかりました。

「なにをそんなに深く考え込んでいるんだね?」

 と老人がたずねてきたので、男は顔をあげ、見慣れぬ老人を眺めてさもなさけなさそうに答えました。

「おれはずいぶんとまじめに長い事働いてきたんだ。それなのに暮らしはちっとも楽にならない。
 一体なにをどうすればよくなるものかと、毎日仕事が終わるとこうして考えているんだよ」

 すると老人はにっこり笑っていいました。

「なんだい。そんなことならそれほど深く考え込むほどのことでもあるまい」

 といい、老人はおどろいている男をみて、

「それ、この道。この道を3日の間ずっとまっすぐに歩き続けると、道の真ん中におおきな木のあるところにたどり着く。
 そしたら斧でその木を切り倒すんだ。そうすればきっとお前さんの望みがかなうようになるだろう」

 と言いました。
 男は、いきなり立ち上がると斧をかついで、一散に道を歩き始めました。

 夜も昼も歩き続けて3日目。
 確かに道の真ん中に大きな木のあるところに行き着き、男は必死になって木を切り倒そうと一生懸命もってきた斧をふりました。
 しばらくして木は大きな音を立てて切り倒され、その拍子に木の上から男の足元に二つの卵が落ちてきました。
 卵はぱかんと割れ、その一つからは鳥が出てきました。鳥は見る見る大きな鷹となって男の頭の上を飛びながら言いました。

「おまえは俺を助けてくれた。もう一つの卵の中の金の指輪をおまえにやろう。
 この指輪はおまえの『願い』をきっとかなえてくれるだろう。


 ――だがそれは一生に一つだけだ。


 よく考えて、一番良い『願い』をするがいい」


 男は指輪を持って家を目指しました。
 途中宿を取って夜を過ごしましたが、そのとき宿の主人が男が身なりに似つかわしくない立派な指輪を持っているのを見て、一体それはどうしたのだと訊ねたので、男はこれまでのことを主人に話しました。
 すると勿論宿屋の主人はその指輪が欲しくてたまらなくなり、男が寝入ったそのすきに男の金の指輪とそっくりの指輪を交換し、そ知らぬ顔をして男を送り出しました。

 それから宿屋の主人は部屋に入ると、金の指輪に、


「金貨百万枚!」


 と叫びました。

 するといきなり上から金貨の雨が降り始め、主人が何かを叫んでいる声さえもかき消すほどの音と大変な重みとで、とうとう宿屋はゆかが抜け、ぺしゃんこにつぶれてしまいました。

 音を聞きつけ、また突然崩れた宿屋を見にたくさんの人が集まりましたが、みな大変な数の金貨を見て我先に金貨を集め始め大変な騒ぎになりました。


 そして、その騒ぎの治まった頃、抜けた床下から、宿屋の主人が死んでいるのがみつかりました。


 (童話『きんのゆびわ』より)


    ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


 ――北海道地方出張の際のある顧客との応対記録(抜粋)――


310 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:47:55 vQ4YDTYY0
   ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


 ――北海道地方出張の際のある顧客との応対記録(抜粋)――


Q:魔法少女となるための願いは、本当に何であってもいいのですか?
A:そうだね。魔法少女になる資質によって、叶えられる願いの大小は変わってくるけど、基本的に何でも叶えられると思ってくれて間違いない。

Q:魔法少女となった時に使える魔法は、どうやって決まるのですか?
A:それは、きみが望んだ願いに左右されるところが大きいね。
 例えば、他人の癒しを望めば回復魔法が、他者を惑わすことを望めば幻覚魔法が得意になったりする、という具合だ。

Q:魔法少女になるにあたっての危険性、もとい対価は、結局のところ、何になるのですか?
A:先ほども言ったとおり、魔女を討伐しなくてはいけなくなることかな。
 魔法少女の魔力は、普通にしていても精神の動揺などで徐々に低下していってしまうから、魔女からグリーフシードを入手して、魔力を回復させる必要がある。
 魔女の討伐は、人を助けながら、自分にも利益のある行為なんだよ。
 ちなみに魔女の魔力は、魔法少女になった際に得られる、ソウルジェムの反応で探知できるね。

Q:なるほど。わかりました。ですがその場合、こうまでしてその魔法少女を勧めてくれる、あなたの利益はどこに発生するのですか?
A:良い質問だね。
 ソウルジェムの濁りを吸収しきったグリーフシードからは、再び魔女が生まれてきてしまうんだが、それを魔女の発生前に食べて、エネルギーを回収するのが僕の役目なんだ。

Q:……あなたの発言した詳細は、全て『正しいこと』として認識して構いませんね?
A:もちろんだよ。僕は、『嘘はつかない』。


    ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


311 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:48:50 vQ4YDTYY0
鬱蒼とした森の茂みの中で、2名の商人が、1人の立会人を置いて商談を交わしていた。
 売り手は、白いウサギのような姿をした、インキュベーターと呼ばれる地球外生命体である。
 買い手は、約100年前の明治時代よりやってきた、麻薬を密売する青年実業家である。
 場所は、人喰いのヒグマがうろうろしている絶海の孤島である。
 そして少し離れた地点で今現在も、ヒグマと人間との戦闘が勃発している危険地帯でもある。

 その渦中であっても、彼らの商談は着々と進行していた。

『何か、まだ疑問が残っているのかい、カンリュウ?』
「……いえ。残っていると言えば、残っていますが……」

 インキュベーターは、自分の前で目を伏せている顧客に、そう問いを投げかけていた。


 ――武田観柳は、魔法少女に多大なる興味を抱いていた。
 彼の鋭い質問にも、重要な点はうまく『婉曲表現にして』伝えることができたはずだ。
 表層意識を読みとっても、彼からは未だに魔法少女になりたいという気持ちは薄れていないように感じられる。
 一体、これ以上彼に、何の疑問があるというのか――。


 しかし、宇宙から営業に来た一セールスマンに過ぎないインキュベーターは、明治の動乱期において一代で実業家として成功してきた顧客の金銭感覚を、甘く見過ぎていた。


 こと金銭・売買に関しては、武田観柳の才覚はこの殺し合いの会場に招かれた参加者の内で随一だっただろう。
 何もかもがヒグマな世界で、唯一信じれる、金。
 いくらインキュベーターが専門用語と話術を用いてその売買の主旨をはぐらかしていても、契約、そして商談という場は、武田観柳をして、水を得た魚と化させていた。


 ――『魔法少女』という経済構造を回している通貨は、『願い』、もしくは『希望』と呼ばれる力のようだ。
 この通貨は、『魔法・魔力』という物品と交換されるか、または所有者自身が『希望でない』精神状態に移行していくことにより消費される。
 この資産を使い尽くし、破産した状態を『絶望』と呼称するのだろう。

 私たち人間、特に思春期の女児が、特にその『希望』資産を多く保有している点に目を付けて、キュゥべえさんはこの交渉を持ちかけてきているのだ。
 通常の生活では『希望』により売買できる物品は存在しないため、この『魔法』という商品は至極魅力的だ。
 しかし、『魔法』を提供するだけの労力に見合う利益が、本当に『魔力を与え尽くしたグリーフシードの回収』だけで稼ぎ出せるのか?


 グリーフシードは、魔女から生産される。
 魔女は、人々の絶望から生産される。
 つまり、魔女は人々の『希望』資産を搾取し、グリーフシードという金庫に保管していることになる。
 ソウルジェムの魔力がグリーフシードで回復でき、ソウルジェムで、魔女、つまりグリーフシードの存在を探知できるところからも、この二つは本質的には同等のもののはずだ。


 今キュゥべえさんが耳に持つグリーフシード。
 ここから操真さんに魔力が提供された。
 これが濁りきった時に魔女が再び孵化するというのならば。
 蓄えられた『希望』資産が減価償却され、『魔法』という媒体を通した状態で資産価値のない『絶望』へと転移してしまうことが、魔女の発生条件であると考えられる。

 『魔力を与え尽くしたグリーフシード』とはその寸前。
 つまり、築数十年経過したボロ小屋とか、色褪せやほつれの激しい着物とかと同じ、ほとんど無価値に等しい物品のはずだ。
 そして、『魔力を使い尽くした魔法少女』も、同等の物品。


 キュゥべえさんの利益は、グリーフシードの収集だけでは絶対に回収しきれるわけがない。
 一般的な経営方式の企業を回していくには、売価の五割は利益率がなければならない。
 操真さんが使ったような『魔法』の価値に匹敵する力の差額は、一体どこからならば発生する――?


    ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


312 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:49:53 vQ4YDTYY0
「……キュゥべえさん。あなたは、『嘘をつかない』のだとしても、契約事項の一部を意図的に『隠蔽している』のではありませんか?」
『そう感じたのかい?
 それはすまなかったね。何か解りづらかったのならば、説明を加えるけれど?』

 はい、とも、いいえ、とも、キュゥべえは答えなかった。
 そしてその返答は、武田観柳の心中に去来していた疑念を、確信に至らせた。

「次の私の質問には、是か、非かで答えて下さい……」

 朝の森に、観柳は深く息を吸った。
 膝の上でキュゥべえを抱える腕に力が籠もる。
 操真晴人は、その様子をみじろぎもせず見つめていた。


「魔女およびグリーフシードは、魔法少女もといソウルジェムが、魔力を使い尽くし『絶望』に至ったときに、発生するのではありませんか?
 そして、あなた方が魔法を売った利益として本来回収するのは、その『希望』が『絶望』に変換された際の、魔力における資産価値の差額なのではありませんか?」


 先ほどまで膝の上でしっぽを振っていたキュゥべえの体が、硬直していた。
 その表情は、依然として動くことはなかったが、あまりにも長いその停止は、その思考の中に明らかな狼狽があることを容易に想像させた。
 そしてゆっくりと一回、彼はその白い尾を振った。

「……まさか、そこまで言い当てられるとは思っていなかった。
 『是』だ。
 キミの言っていることは大当たりだよ、カンリュウ」
「……やはり。そうでしょうねぇ」

 観柳は腑に落ちたように笑った。

 キュゥべえは、口調は変わらないながらも、取り繕うような饒舌さで次々と情報を喋っていく。
 魔法少女の実物を見たことすらない、数回の質疑応答を交わしただけの人間に、営々と築いてきたエネルギー搾取システムの全貌を理解されてしまうことは、インキュベーターにとって完全に想定外の事態だった。


「だが、この利益は僕たちインキュベーターだけでなく、キミたち人間にも還元されるんだよ。
 宇宙の熱的死を防ぐためには、熱量保存の法則に縛られないエネルギー、つまりキミたちの感情が必要なんだ。
 僕らは、『希望』と『絶望』の相転移の際に生じる膨大なエネルギーの大半を、この熱的死の防止に充てている。
 キミたちの子孫にも、豊かな宇宙を残せるんだよ。
 だから魔法少女たちの魔女化は、宇宙のためなのさ!」
「なるほど。でしたら良いことづくめじゃありませんか。
 それが最も効率の良い利益回収法でしょうしね」
「その通りだカンリュウ。解ってくれて嬉しいよ。
 そして魔法少女の命も、別に魔女となるだけの使い捨てなわけではない。
 魔女の使い魔に人間の希望を吸い取らせて、新たなグリーフシードを孕ませて魔女にさせ、エネルギーを収穫するという手もあるんだ」
「ああ、いい運用法ですねそれは。それなら魔法少女のまま長期的な利益を稼ぎ出す方針も立ってきます」


 落ち着いた様子の観柳とは逆に、今まで黙って会話を聞いていた晴人が、目を丸くしてキュゥべえに迫っていた。


313 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:50:31 vQ4YDTYY0
観柳との会話が正しいのだとすれば、キュゥべえは少女たちに『魔法』を売りつけ、一時の希望を与えた後に積極的に絶望へと突き落としていることになる。
 そして、魔法少女が狩るのは、『絶望』した魔法少女自身のなれの果てなのだ。
 人々が魔女に襲われるのを助ける――などと抜かしてはいるが、結局のところ、このキュゥべえが『魔法』を持ち込まなければそもそも魔女など存在しなかったはずだ。
 熱的死など、この生物が勝手に宣う欺瞞かもしれない。そんな得体の知れないものに、キュゥべえは人間の少女の命を使い潰しているというのだ。
 恐ろしいマッチポンプ式の経済構造であった。

「おい!? どういうことだキュゥべえさん!
 あんた、さっきは『絶望』を生まない魔法のシステムなんだって言ったばかりじゃないか……!」
『そりゃあ、“絶望”を生まない魔法のシステムが本当にあったら、キミたちの体感ではすごいことだろう。
 だから、そうだね。と返答したまでだよ』
「……まぁ、経済の原則として、利益だけ出て物品の授受や損失がどこにも生じないとは考えられませんから。
 至極当然の理屈です」

 瞑目して頷きながら、魔法少女のからくりを見抜いた当の観柳は、すんなりとその事実を受け入れたように見える。
 キュゥべえは、視線を目の前の観柳に戻しながら問いかけた。

『それにしてもカンリュウ。キミはこの仕組みを知っても、魔法少女への興味は残っているようだね。
 僕が今まで出会った少女たちは、なぜか皆一様に、このことを知ると怒るんだけれど』
「それはまぁ、世間を知らない青臭いおぼこたちは、なんやかんや言いがかりをつけるでしょうね。
 キュゥべえさんが良かれと思っている言い回しが、要らぬ誤解を生んでいる可能性もあります。
 私なんかは根が実業家ですから、こうしてしっかり裏の実状まで教えて下さった方が、却って安心できるんですよ」

 ――要するに、『絶望』に至ることなく、『希望』の利益を稼ぎ続ければいいんでしょう?

「私もキュゥべえさんのように『魔法』を売買できるのならば、是非商品として取り扱いたいものです。
 結局、消費者や一般人には、上手いこと表面上の納得を与えて金を落としてもらわなければ、私たち商人はあがったりですから。
 その点、右も左もわからぬガキどもなら言いくるめやすいですし、その上、持っている資産も多いとなればネギ背負ったカモ。
 猫が小判を抱えてうろうろしているに等しいですからねぇ」
「おい……! 観柳さん、あんたも大概にしろよ!
 キュゥべえさんの行いも含めて、そんなことをしたらただの悪人じゃないか!」

 淡々と感慨を述べる観柳に、晴人は噛みついていた。
 しかしその返事には、侮蔑のようにすらとれる怪訝な視線が返ってくる。

「あなたも魔法使いなのでしょう? 何を温いことをおっしゃっているのですか?
 悪人というのもお角違いです。私たちの行為は、両者の合意に基づく売買契約なのですから、私たちはただの悪徳商人です。

 あなた自身は、その魔法を得るために『絶望』という資産のない環境を乗り越え、『希望』を稼ぎだしたわらしべ長者です。
 その手腕と精神力は、並々ならぬものなのでしょう。

 ですが、キュゥべえさんの説明の仕方と事後管理にも少なからず穴はあったでしょうが、単に魔女化したガキは、口当たりの良い上辺の情報を鵜呑みにし、深く事実を探ろうともせず、資産を計画的に運用できなかった馬鹿なだけです」


 ――青臭い小僧や小娘が、何の苦労も危険も対価も無しに力を得て、英雄に変身して勧善懲悪を働く?
 ――打ち出の小槌じゃあるまいし、そんなご都合主義が通用するのは、おとぎ話の中だけですよ。


 観柳はそう言ってばっさりと切り捨てた。
 彼にとっては、少女の、そして自身の感情ですら、単なる商品に過ぎなかった。
 おにぎりや、麻薬や、ガトリングガンと同じものである。
 彼が忸怩たる思いを抱くのは、何故もっと早く、そんな価値ある商品の存在に気づくことができなかったのか、というただその一点だけであった。

 絶句する操真晴人をよそに、キュゥべえと観柳は楽しげに商談に興じている。
 ソウルジェムが、その人物の魂を抜き取って作られるのだという、一般的な魔法少女なら憤慨ものの真実も、観柳はむしろ清々しい微笑を浮かべて賞賛した。
 肉体を再生・管理のしやすいものに作り替え、戦闘においても守るべき急所を一点に集約するという行為はとても合理的であり、観柳にとっては何ら非の打ち所もない。


 商談の主導権は今や、泰然とした面もちを崩さない武田観柳の元に完全に移っていた。


314 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:51:40 vQ4YDTYY0
『……それでは、キミの興味はあくまでこのシステムにあるということかな?
 キミ自身は、魔法少女になる気はないのかい?』
「いいえ。然るべき状況になったならば、魔法少女になるのも悪くない投資だと思います。
 阿紫花さん方が危機に陥った際には、教えてくださるのでしょう?
 やはり、実在の貨幣では買いづらい『魔法』及び『願い』の実現、また魔法少女としての強化された肉体には、希少価値があります。
 かなりお金になると思いますから、私にも垂涎モノですよ」
『へぇ、それじゃあ、キミの望む願いは、“沢山のお金を得ること”かな?』
「あんた、そうまでして――、自分や他人の人生と命を食い物にしてまで、金を手に入れたいのか……?」

 武田観柳に向かって、キュゥべえと操真晴人が、揃って問いかけていた。
 観柳は呆然とした様子の晴人を一瞥して、ため息をつく。

「お二方とも何をおっしゃっているのか……。
 ま、わらしべ長者と小槌の化身には馬の耳に念仏か釈迦に説法か知りませんけれど……。

 私は決して、好き好んで人を食い物にしているわけではありません。
 それが今のところは最も効率よく、稼ぐという目的に至る手段だったからそうしているだけです。
 そして、私がそんな一時金に飛びつくなんてあるわけないでしょう。
 継続的に利益を生む構造を構築しなければ商売が成り立たないことくらい、お二方はご存じのはずです」
「だからと言って、それが許されると思っているのか……?
 あんたが食い物にしてきた人たちの分、あんたはそこで稼いだ金じゃ支払いきれないくらいの『絶望』を買い込んじまってるかもしれないんだぞ!?」
「そうかもしれませんねぇ……」


 観柳の脳裏に、緋村抜刀斎の顔が浮かんだ。
 一銭の得にもならない高荷恵の護衛を買って出て、のこのこと屋敷にまで乗り込んできたあの男。
 彼は私兵団200人分の給金にも靡かず、包み隠さぬ怒りを直にぶつけてきた。
 雇っていた御庭番衆の四乃森蒼紫も、雇い主はこちらだというのに、侮蔑に対して遠慮ない威圧をもって反逆してきた。

 彼らがなぜそのような行動に出たのか、その時はさっぱりわからなかった。
 しかし、阿紫花英良。
 彼の振る舞いは、抜刀斎や蒼紫とは異なっていた。

 彼は、前金も払っていない口約束の段階で、ヒグマ人形から身を挺して守ってくれた。
 道中でも、ずっと私を労い、握り飯を渡すなど、契約を度外視した付き合いを見せた。
 あの時の私なら、絶対にそんな真似はできなかった。
 契約不履行のまま命を捨てに行くなど、何の得にもならない契約外の振る舞いなど、できるわけがない。
 だが私は、その行為に突き動かされ、事実、その無謀に見える行為により、状況は大きく好転していた。

 今、キュゥべえさんとの商談で、ようやくこれらの理由が分かった。
 あの行為は、阿紫花さんからの投資であり、確かに通貨のやり取りと流通が、私との間に存在していたのだ。

 物質経済を回す通貨は、金以外にも存在している。
もちろん、それは金で兌換できる通貨であるが、その比率は人物ごとに大きく異なり、そもそも兌換する銀行が半ば閉鎖している人物もいる。
 私は今までその通貨を軽視して来たおかげで、知らず知らずのうちに不良債権を抱え込んでしまっていたのだろう。


315 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:52:25 vQ4YDTYY0
『実業家のあんたには理解できんだろうが、維新志士というのは、我々とは立場は違えど己の理想に殉じていった。
 そういう連中だった――』


 四乃森蒼紫も語ったその通貨が、『希望』だ。
 『人情』とも、『願い』とも、『義理』とも『理想』とも言い換えていいだろう。


 私はあの時、阿紫花英良が身を挺した『希望』に買収され、彼に操り指輪を投げ渡そうと走った。
 利息を付けて振り込んだ『希望』によって今度は、彼は自分たちの命を確保でき、握り飯と甲斐甲斐しい世話を、私は買い取ることができた。

 キュゥべえさんの言う『希望』という通貨から見れば、私の肉体も命も魂も、ちっぽけな一商品にすぎない。
 それを使って利益を生み出せるのならば、惜しみなく流通に載せて売り払ってしまって構わない物品だ。
 世界を支配するには、この新たな通貨をも回していく必要がある。
 今までなじみのない通貨だとしても、金と同じく通貨として通用するのならば、私は必ずや利益を稼ぎ出す。
 『希望』を金で買い、抜刀斎や蒼紫のような、『希望』で動く人間どもも支配してやる――。


「……ですが私は、その存在に気付いた以上、もう負債は抱え込みませんので。
 私は商人なのですから、金を稼ぐのは、あくまで私です――」


 私の願いは、この社会において最も当然の因果律であり、かつ、最も私の本懐に至るもの。
 この願いならば、私自身が『希望』を償却しきって『絶望』に至ることは、絶対にあり得ない――!


「『絶望』という不良債権を清算して有り余る『希望』を、私は稼ぎ出しますよ?
 奇跡も魔法も、ヒグマだって買い取って見せますから――」 


    ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


「……ジャックさん。あんた、さっき操真さんの銃が避けられることを予言してたよな。あれは、なんでだ?」

 宮本明は、自身のデイパックの中に潜む一人の男に、小声でそう問いかけていた。
 ジャック・ブローニンソンが、腹部の痛みを堪えながら答える。

「あのクマちゃんは、ずっと、音を聞いてる……。自分の唸り声の反射をネ……」
「唸り声……? そんなもの全く聞こえないぞ?」
「スゴク高い音……。アキラたちには聞こえないかも知れないけれど……」

 超音波。
 恐らく、ジャックはその野生動物じみた身体機能でそれを聞いているのだ。
 あのヒグマは超音波を発して、その反響を聞くことで物の動きを探知しているらしい。
 明は、隣の阿紫花英良にその驚愕の真実を伝えるべく、叫んでいた。

「やっぱおかしかったんだよ、英良さん! エコー検査ってあるだろ?
 あれだよ! 超音波使って心臓の動きを見るやつ!
 あのヒグマは、音でこちらの行動を把握していたんだ!」
「……わかりやしたから、足止めに参加する気がないなら叫んでないで下がってくだせぇ」
「よっしゃ! これで勝てるぞ!」

 阿紫花英良は片耳を塞ぎながら、大きく両腕を掲げたプルチネルラを、ゆっくりと前方に進めていた。
 棍棒を構えた宮本明が、反対にじりじりと後方へ下がっていく。

 前方の森に見えるは、一頭のヒグマ。
 それも、操真晴人の銃撃をすべて躱し、宮本明および、彼の切り札らしい『ジャック』という人物に多大なる危機感を抱かせているヒグマだ。


 このヒグマが、どんな理屈で攻撃を躱していたのか分かったのだとしても、別にそれで攻撃が当たるようになるわけではない。
 宮本明の指摘があろうがなかろうが、阿紫花の行おうとしていた行動は同じだった。


 ヒグマの動きを封じ、宮本明の切り札で仕留める――。
 そのためには、根本的にヒグマの理解の範疇外からの攻め手が必要になる。
 その作戦につけて、阿紫花英良の知識で最も参考になるのは、ダグダミィ使い・山仲の人形芸だった。

 ダグダミィは、5体1組の、小さな人形である。
 山仲はそれら5体に全く別の行動を同時に行わせ、操り糸で人形遣いや標的自身を縛り、その五肢を鋏で切り落とす。
 1体につき操作に充てられるのは、僅かに指2本。
 黒賀村の同期は舌を巻いたものだ。

 山仲の人形操りは、懸糸傀儡の特性を最大限に利用している。
 つまりそれは、特製の糸と、運指による操作。
 一般人は勿論、ヒグマの経験には絶対に存在しない概念である――。


316 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:53:07 vQ4YDTYY0
「……それじゃあ行きやすぜぇ、ヒグマさんよぉ!!」


 阿紫花は大仰な動きで、右腕を振り抜いていた。
 巨大な人形、プルチネルラが連動して動く。
 ヒグマはその動きに反応する。
 その右腕から放たれるであろうベアトラップの鎖を回避すべく、向かって左へと――。

 しかし、ステップを踏んだその前脚を、ベアトラップの歯が確かに掠めていた。

「グォオ!?」
「ちッ……浅い!」
「思惑通りだ! あのヒグマに一撃入れたぞ!」

 プルチネルラがその鎖を放ったのは、左腕からであった。
 阿紫花の外見上の動きと、操られるプルチネルラの動きは、連動しているようで、していない。
 ヒグマには理解不能な、運指と懸糸傀儡の間の連環機構を、フルに活用した戦術だった。
 
 宮本明は興奮気味に叫んでいるが、今の一発で、阿紫花は確実にヒグマの脚一本を絡めとるつもりでいた。
 流石にこのヒグマの反応速度は尋常ではない。

 続けざまに、阿紫花は自身の左手を振り上げていた。
 ヒグマは今度は、右腕からの鎖を警戒して、今一度左方向に回避する。

 だが、動いていたのは、放たれ地面に落ちた左の鎖だった。
 蛇のようにうねった鎖が、真上を跳ねていたヒグマの胴体に噛みつく。
 脇腹の毛皮に、鎖の先端の虎ばさみが、ぞぶりと喰い込んでいた。

「よし、今ですぜ! ……って!?」
「ゴォオオオッ!!」

 ヒグマは、ベアトラップの鎖を空中で手繰っていた。
 彼は阿紫花のその一撃を、敢えてその身に受けていたのだ。

 プルチネルラの左腕に一瞬着地しながら、軽やかな動きでヒグマの巨体が朝の森に旋回する。
 阿紫花の血液は、そのヒグマの意図を察し、一瞬にして冷え切った。


 ――まさか、こんな一瞬で、人形使いの弱点を見抜かれるなんて。


 プルチネルラの背面に落下しながら、ヒグマはその前脚を振り抜いていた。
 回旋しながら絡めとっていた細い糸が、その鋭い爪にまとめて切断される。
 阿紫花とプルチネルラを繋いでいた操り糸が、一本残らず分断されていた。


 ――猛獣使いと虎の子との符丁がわからなければ、指示を出す鞭を奪えば良い――。


 力が抜けたように停止したプルチネルラから鎖を剥ぎ取り、ヒグマはゆっくりと地面から立ち上がる。
 千切れた糸を手にわななく阿紫花を、ヒグマは上から静かに睥睨していた。

「そんな……! 英良さんが人形を使えなくなったら、一体どうやって俺たちはこのヒグマを止めればいいんだ!
 考えるんだ! 英良さん! そのままじゃあんた、死んじまうぞ!」

 遠方からかかる宮本明の声に言われるまでもなく、阿紫花はただちに、この死地からの脱出法を思案していた。
 そして彼は、ヒグマに向けて、走り出していた。

「うおああああぁぁぁあああ!!」

 気が振れたような叫びを上げて、大きく腕を広げながら、走っていた。
 ヒグマは、つまらなそうに、その爪を揮った。
 空に、血飛沫が飛ぶ。


317 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:53:52 vQ4YDTYY0
「……生身でも……ッ、曲芸が、できるもんですねぇ……!」


 阿紫花の声は、ヒグマの背後から響いていた。
 振り返るヒグマと、視線を移した宮本明の眼には、不敵に笑う阿紫花英良の姿が映る。

 プルチネルラの背中に捉まる阿紫花のコートの右腕は、あらぬ方向に曲がり、血塗れになっていた。
 右肩からずり落ちるデイパックも、半分ほど切り裂かれて、中身が覗いてしまっている。


 彼は、ヒグマの爪が振り抜かれる瞬間に、体を畳みながらその脇の下をくぐるように跳び込んでいた。
 その身を回転させながら、デイパックと右腕を犠牲にヒグマの攻撃をかろうじて受け流し、彼は火の輪くぐりの芸のように、その人形の元へ着地。
 左手で掴むのは、プルチネルラの背に積んでいた、紀元二五四〇年式村田銃である。
 熊撃ち銃として長年使われてきたその銃ならば、ヒグマにも深手を負わせられるはずだった。

「これがッ……阿紫花英良一世一代の、仕込み芸……」
「凄ェ! 英良さんが完全にヒグマの裏をかいた! いけるぞ!」

 痛みを堪えながら、必死に阿紫花は、その銃を左手で掴もうとしていた。
 興奮する明の表情が、すっと青ざめていく。

 ――まさか、利き手ではないから、撃てないのか?
 なぜ、英良さんはただ銃をいじり回しているだけで、構えない?
 人形から取ることもできないのか?
 もう、ヒグマは腕を振りかぶっているぞ!?
 危ない!!
 避けてくれ――ッ!!


「ご、はあぁ……――っ」


 宮本明の声にならない叫びを嘲笑うように、ヒグマの爪は阿紫花英良を右の肩口から袈裟懸けに切り裂いていた。
 村田銃も阿紫花の体も別々の方向に吹き飛び、完全に切り落とされた阿紫花の右腕から、地にずるりとデイパックが零れ落ちていた。


「英良さん!?」

 明が叫んだ先で、阿紫花の体は、かすかに動いていた。
 ヒグマから逃げようとしているのか、左腕だけで下草の上を這いずるように、少しずつその身を動かしていた。

「……やっぱり……。ダメでしたねぇ……。勝てるわけ、無かったんですよ……」

 朦朧とした口調で呟く彼は、暫く這いずった後に仰向けとなる。
 切り裂かれた腹部からは、腸がはみ出していた。
 肩口と腹からは、どくどくと真っ赤な血が溢れている。
 宮本明は、ついに彼の元へ駆け寄っていた。

「おい! 英良さん! 死ぬな! あのヒグマは、俺じゃあ止められないんだよ!」
「……ご覧なせぇ、明さん……。のんきに、ヒグマさんはアタシの飯、喰ってやがる……」

 涙を浮かべながら阿紫花の体を揺さぶっていた明は、笑みを浮かべる阿紫花の発言で、振り向いた。
 その視線の先では、ヒグマが阿紫花のデイパックの中に鼻を突っ込み、今まさに、『鮭』と書かれたおにぎりを取り出したところであった。


 阿紫花の左手に嵌る五つの指輪。
 そのうちの一つだけ、千切れたはずの糸が、ピンと張りつめているものがある。


「……明さん。切り札、きってくだせぇよ……」
「どういうことだ……!? おい、英良さん、しっかりしてくれ!!」
「結局、どんなに強かろうと目先のことしか見えてねえから……」


 ――ヒグマは、人間様の芸にゃ、勝てるわけねぇんですよ……。


 にやりと笑いながら阿紫花は、右肩を押さえていた左手の、中指を天へ突き立てていた。


 森の中に、サーカスの開演を告げるような、軽快な炸裂音が上がっていた。


    ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


318 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:54:57 vQ4YDTYY0
観客も、出演者も、その芸には皆一様に息をのんだ。

「あぁ……っ!?」

 宮本明も、予想だにしなかったその芸の成功に、ただ呆然としてヒグマを見やっていた。

「グルオォォォオオォオオオ!?」

 『鮭』のおにぎりをくわえていたヒグマは、苦悶の叫びを上げて地をのたうち回っている。
 その右脚にはいくつもの穴があき、もがくその度ごとに下草へ血を吹き出させていた。

 そこから数メートル離れた地面には、先ほど吹き飛んでいた村田銃が転がっている。
 銃口にくゆる硝煙。
 誰も握ってはいなかったはずの引き金。
 そこには、見えるか見えないかの、細い糸が結ばれている。
 阿紫花英良は、あたかも手足を延長したかのごとく銃を操り、その散弾をヒグマへと叩き込んでいたのだった。
 その命を賭して仕込んだ、一世一代の芸。


 阿紫花の指の動きは、ヒグマには常に読みとれていた。
 しかしその指使いが、ブラックボックスたる糸を通して何を引き起こすのか、ヒグマにはついに理解できなかったのだ。


「で……ッ」


 宮本明は、感動に震えるその口から、息を吹いた。
 片手でしっかりと棍棒を握り直し、もう片手をデイパックの口にかけていた。


「でかしたぁッ!! ブロニーさぁん!!」
「いぇあああああぁぁああああぁあん!!」


 地に転がるヒグマの顎を、明は棍棒で突き飛ばす。
 体勢を崩したヒグマの口から、おにぎりが零れる。
 そこへ間髪入れず飛びかかった、野猿のごとき人影。
 ジャック・ブローニンソンが、その下半身を剣のごとくそそり立たせて、ヒグマの上を跳んでいた。

 阿紫花英良も、宮本明も、その勝利を確信した。


 しかし、このヒグマ――穴持たず5もまた、己の芸を出し尽くしてはいなかった。


 おにぎりを取り落とした牙の隙間を、息が吹き抜ける。
 神聖なる食事の時間を邪魔された怒りが、その口腔を震わせる。
 今にもその首に飛びつかんとしていたジャック・ブローニンソンへ、このヒグマの憤怒は吐き出されていた。

 超音波。

 あたりに居た人間の内、ジャックの内耳だけがその攻撃を聞き取ってしまっていた。
 人間離れした身体機能を有していたが故に。
 鼓膜をつんざき、リンパ液を撹拌し、蝸牛管を破壊するかというほどの衝撃に彼は共鳴してしまった。

 至近距離からの振動に、ジャックの意識は体から弾き飛ばされていた。
 そして、そのまま彼の意識は、戻る肉体を失った。


「あ……、あ……!?」
「……マジ、ですかい……」


 空を裂いたヒグマの爪は、ジャック・ブローニンソンの胴体を両断していた。
 赤黒い飛沫をその軌跡に残して、彼の下半身は、上半身と別れ、恋しいヒグマとも一つになることなく、大地に落ちていた。


 そしてヒグマは、動くことのできない人間二人へ、ゆっくりと近づき始める。

 得体の知れない機構で脚を打ち抜いてきた人間。
 聖なる鮭おにぎりをわざわざ叩き落としてきた人間。

 初めは無視して構わないと考えていた。
 しかしこの二体の人間も、放っておけば、また何かしら邪魔をしてこないとも限らない。
 阿紫花英良も、宮本明も、今や彼の排除の対象だった。

「やめろぉ!! くるな……来るんじゃねえよぉ!!」

 瀕死の阿紫花を置き去って、穴持たず5は当座の危険性がより高い、宮本明の方へ歩み寄ってくる。
 明は、差し伸べた棍棒でヒグマとの距離を稼ぎながら、必死に後ずさりを試みていた。
 もし、恐怖に完全に折れてヘたり込むか、殴りかかろうとすれば、その瞬間に明の動きは聞き取られ、その命も両断されてしまうことだろう。

 阿紫花は、力の入らない手で、なんとか煙草を取り出して口にくわえていた。
 火をつけてふかそうと思ったが、あまりに眠くて億劫で、もう左手は動かなかった。


319 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:56:07 vQ4YDTYY0
「……アタシの、芸じゃ、足りませんでしたか……」


 腕の落ちた右肩も、モツがチラ見している腹も、痛くもなんともなかった。
 ただ、寒く、眠く、そして寂しさだけが残っていた。

 初めて里帰りした黒賀村で、白い眼で見られたあの若い日のような。
 初めて参加した人形相撲で、何もできることなく敗退してしまったあの幼い日のような。
 口惜しさと絶望に満ちた、泣きたくなるような感覚だった。


『コネクト・プリーズ』


 その時、阿紫花の耳元に、そんな囁きが聞こえていた。
 頭元に、誰かがやってきた気配がする。
 交わした約束は、忘れられてはいなかった。

『――願いが一つだけ叶うこと、覚えててくれたかな、エイリョウ』
「……ちょっと、遅かったんじゃねぇですかい……、キュゥべえさん……」

 目の前で尻尾を振る白い小動物。
 阿紫花は、煙草の端を噛んで、力なく微笑んだ。

「今更、どうにもなるもんじゃ、ありませんぜ……」
『魔法少女になりたくないのであれば、キミは無理にならなくてもいいよ。
 もう、あのヒグマを倒せる魔法少女は、誕生したからね』


 阿紫花の霞んだ視界の上に、その姿が見えていた。
 その存在を捉えた穴持たず5が、森の上空を見上げる。
 キュゥべえ、宮本明と仰ぐその空に、陽光を受けて金色に輝く人物が佇んでいた。
 彼は真っ白なシルクハットを取り、眼下の者たちに泰然と挨拶する。


「はろぉう。
 あんまりあなた方がグダグダ戦っているものですから、待ち切れなくて出てきてしまいましたよ」


    ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


 阿紫花英良は、吹き出すように笑った。
 腹圧で、傷口から小腸と血液が、更に少し漏れる。

「……ふ、ふ、はっ……。
 結構、似合ってんじゃないですか、観柳の兄さん……」

 森の上に浮遊している人物は、武田観柳その人だった。
 しかし、彼が着ているのは先ほどまでのぼろぼろのスーツではない。
 端々が金糸で縁取られた純白のジャケットに、金のリボンが裾を止めるシルクハット。
 胸元には紫のシャツが覗き、補色を締めるように金のスカーフが巻かれている。
 スカーフ止めのブローチは、一枚の金貨であった。
 腰から下には、上品な金色をベースにしたチェックのプリーツスカートと白いソックスに、革靴。
 英国の礼装である、キルトという服装に酷似していた。

 彼は、絨毯のように綴られた紙幣の上に乗っている。
 その紙幣――十円券の集合体が、彼を空中に浮かべているのだった。

 武田観柳は眼下の森の惨状を見やり、唇を噛む。
 上下半身を両断され絶命したジャック・ブローニンソン。
 右腕を失い、腹部を裂かれ、今にも失血死に至らんとしている阿紫花英良。
 棍棒分の距離を離して死を目前に控えた宮本明。


320 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:56:58 vQ4YDTYY0
「……よくもまあヒグマの分際で、高い給金を払って雇った私の私兵をズタボロにしてくれましたねぇ……」


 彼は静かに声を震わせながら、左手に持つシルクハットの内側を、下へ傾けていた。
 その中から、ジャラジャラと音を立てて、大量の金貨が零れ落ちてくる。
 一円金貨である。
 その純度の高い金は空中で溶融し、一つの巨大な銃火器を形成した。

 ――回転式機関砲(ガトリングガン)。

 身の丈ほどもある金色に輝く6つの砲門を構えて、観柳はその照準を眼下のヒグマに合わせていた。

「100年の時と、魔法が進歩させた最新式です……。明治の時のものなどとは比べ物にならない高性能。
 ――なんと金貨を一分間に6000発も発射するんですよ!!」

 穴持たず5の聴覚には、雨のように視界を覆う弾幕の軌跡が予測されていた。
 身の毛のそそけ立つような歪んだ笑みを浮かべて、白金の魔法少女が叫ぶ。


「レェ――ェェ……ッ、プレイッ!!」


 隙間なく、連打を打って落ちる金色の暴風雨が森を切り裂いていた。
 もはや猛獣の雄叫びの如き連続音にしか聞こえない銃撃が、穴持たず5の聴覚を埋める。
 宮本明から離れ、勢いよく跳び退っていたその体にも、容赦なく弾丸が突き刺さる。
 一発一発はその毛皮を貫くに至らないが、その衝撃は確実に体内に浸透し、皮下組織を痛めていく。
 森の木々を盾にするようにして、身を隠しながら逃走を試みるも、空飛ぶ紙幣の絨毯に乗る魔法少女の機動力は、その動きに上空から確実に追従して余りあるものだった。


「オラオラどうした!! ヒグマの力自慢腕自慢はどうしたァ!!」


 樹幹を縫いながら、長年扱い慣れた得物であるかのように、武田観柳はその巨大な機関砲を的確にヒグマの進路上へ差し向けていく。
 阿紫花が片脚を撃ち抜いていたことが、正確な弾道予測能力を持つ穴持たず5をして被弾を許させていた。
 防戦一方のヒグマは、着実に明たちのいた場所から離されていく。
 その隙に宮本明はまず絶命したジャックの元に駆け寄り、本当に息が無いことを確かめると、阿紫花の元に走ってきていた。
 明が裂けたコートの布地で阿紫花の肩を押さえようとするも、血は止まりそうにない。
 阿紫花は血の気のない真っ白な顔で、依然として笑っている。


「……あんな、強くなっちまって、観柳の兄さんは……」
「おい、英良さん、喋るな! 今、どうにか手当てしてみるから……!」
『無駄だよ。キミが願いを使って魔法少女となりでもしない限り、エイリョウは助からないだろうね』
「ふざけんじゃねェ!! 観柳さんだって、無限に弾撃てるわけじゃねぇんだろ!!
 やっぱり、魔法少女になったところでどっちにしろジリ貧じゃねぇか!!」


 宮本明がキュゥべえに詰め寄ったまさにその時、間断なく聞こえていた銃撃音が止んでいた。
 代わりに、唸り声を上げて空中に踊り上がる影が一つ。
 弾切れに陥った武田観柳の元へ、穴持たず5の爪が飛び掛かっていた。

 観柳は回転式機関砲を引いて、その身を翻した。


「贖いをせんか、無礼者めェッ!!」


 観柳の足元に浮遊していた十円券が巻き上がる。
 飛び上がっていた穴持たず5の視界を紙幣が埋め尽くし、観柳の蹴撃と共にその全身に張り付いていた。
 森の中にすっくと降り立つ武田観柳とは対照的に、全身の動きを封じられたヒグマは、したたかにその身を大地に打ち付けていた。

 宮本明たちが見守るその目の前で、魔法少女はそのヒグマに向けてとうとうと口上を述べる。


321 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:57:46 vQ4YDTYY0
「……あなたは、私の私兵たちを毀損した賠償として、私の武器の実験台にならなくてはいけませんでした。
 それが、よりにもよって私に歯向かってくるなど言語道断。
 試用期間は直ちに終了。
 投資資金は即座に回収。
 あなたの全生命で、償却していただきます」


 ヒグマは、その全身に絡みつく紙幣を取ることができず、苦悶に呻いていた。
 回転式機関砲を形成していた地金が、一瞬のうちに一円金貨に戻る。
 武田観柳は、その大量の金貨をヒグマに向けて投げつけていた。
 一円金貨は、一つ残らずヒグマの全身に張り付く。
 そしてそれに前後して、周囲の地面からも高速で次々と金貨がヒグマに向けて飛来してきていた。

「……お金には、力があります。そしてその力は、多ければ多いほど強くなる。
 多額の資金を投資すれば、その利潤も多額でやってくるのが世の常。
 資産家の下には、何をせずとも利を狙う太鼓持ちが寄ってくるのも世の常。
 つまり、金の間には、引き合う『力』が存在しているのです」

 武田観柳が、先ほどからガトリングガンの銃弾として撃っていたのは、やはり一円金貨であった。
 弾丸としての殺傷能力はかなり低くとも、その枚数、約5000枚。
 明治初期の初任給と比較して現代の貨幣価値に換算すると、その金額は優に1億円に迫る。
 ヒグマの肉体を包む200枚の十円券は、総額4000万円。
 回転式機関砲を形成していた大量の金貨に至っては、300億円近くに上る。
 一つの都市の年間予算にも等しい貨幣が、そのヒグマの体に殺到していた。

 一円金貨と十円券は、穴持たず5の中心へ向けて、その筋肉を潰し、骨を砕き、叫び声さえすり潰しながら集束していく。
 そして観柳は、腰元に提げていた、金の詰まったがま口のバッグをその手に掴んでいた。


 ――彼の、武田観柳の最も得意な武器って、なんだと思います?


 彼の得意武器として支給されていた品。
 それも中には、現代で実際に流通する多額のピン札が詰まった一品だ。


「あなた方ヒグマがその超常的な強さを得るために、どれ程の実験と代償が支払われたか――。
 それはそれは決して並大抵のものでは、なかったのでしょう。
 ですが、それを可能にしたのは、有富とかいう研究者がつぎ込んだ資金。
 金さえあれば、それ以上の力でさえ、たやすく手に入れられる!
 この通り、一瞬にして!!」


 金貨は穴持たず5の肉体を完全に挽き潰し、今やその肉体を金色の彫像のように固めてしまっていた。
 白金の魔法少女が、そのがま口を振りかぶる。


「私の願いは、『金で全てを支配すること』!!
 この確固たる因果律により手に入れた魔法が、『金の引力を操作する魔法』です!!」


 詰まった札束が、巨大な撃力を生む。
 金のヒグマ像を、がま口のバッグは真っ二つに一閃していた。
 弾けるように朝の森に、金貨と十円券とが舞い飛んでいく。

 金色の煌めきが埋める空へ、魔法少女がうやうやしくシルクハットを取り、お辞儀をする。


「……金。これこそが力の証なのです……」


 減価償却されきった穴持たず5は、命なき肉骨粉と化して森の中に散った。
 この後はただ窒素分に富んだ肥料となって、彼の存在は零れ落ちたおにぎりと共に、島の生命の環を流通していくことになるだろう。
 降り注ぐ貨幣の雨を、シルクハットの中に全て吸い込んで、武田観柳はにっこりと微笑んでいた。


【ヒグマ5 死亡】


    @@@@@@@@@


322 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 15:58:41 vQ4YDTYY0
瞳にはただ、きらきらと輝く光だけが、映っていた。
 どうしようもないこの眠気をも吹き飛ばしてくれるような、温もりさえ感じる輝きだった。

 首もとが、誰かに掴まれた。
 霞んでいた視界は、徐々に焦点が合ってくる。
 頭の中に、直接響いてくるような声があった。

『キミの魔法は金に関するものだからね。
 紙幣を詰めて止血し、回復魔法を行使したところで、医者を雇って治療に当たらせた程度の回復しか望めない。
 延命はできるだろうけど、瀕死のエイリョウを生き返らせるのは難しいんじゃないかな』
「……私に、買い取れないものなどありません。医院全てを本腰を入れて買収すれば、腹部裂傷と四肢切断くらい治療できるはずです。
 それよりもアシハナ。口ぐらい利けるでしょう。交わした契約、忘れたとは言わせませんよ!!」

 朦朧とした視界に見えてきたのは、怒ったような武田観柳の顔だった。
 襟元を掴み上げて、彼はいつにない真剣な表情で問いかけてきていた。

「私の持つ全ての金で、あなたはきっちり私を守るはずなのでしょう!
 生き残って、契約を果たす意思を見せなさい! これ以上私に、採算を度外視した魔力の浪費をさせるつもりなのですか!!
 損失が利益を上回って無駄になることが明らかになれば、その時点で私は延命を切ります!! 私は根が実業家なんですから!!」
「はは……、そんなに言えるくらい強くなっちまったんですから、もう、アタシの助けなんざ、いらないんじゃねぇですかい……?」

 観柳が、唇を噛むのが見えた。
 彼は乱暴に首筋を突き飛ばして、地面に落とす。
 痛みは感じなかった。
 そしてまた急速に、視界が霞んでくる。
 ぼんやりと、遠くから観柳の声が聞こえてくる。


「……ならば、私はここに、新たな契約を提示します。乗るか乗らないかは、あなた次第です――」


 決然と、その魔法少女は言い放っていた。


「――明治で成功した大商人である私を護衛できたことを、弟さんに自慢しなさい。
 この時代にまで、大商人武田観柳の名を、轟かせなさい!!」


 強い意志を秘めた、希望に満ちた声だった。

 ――難しいことを言いなさるねぇ、観柳の兄さんも。

 明らかにその契約は、両者が無事に会場を脱出して帰ることを前提にしている。
 それまでの過程をひっくるめて、実現させる『希望』を稼ぎ出すことを前提にした契約だ。
 眠気もだるさも吹き飛びそうな、笑ってしまうような契約だった。


「……で。お代はいかほど、いただけるんで……?」


 武田観柳は、その言葉を聞いて、胸の上に何かを乗せてきた。
 白い小動物の姿が、眼前に霞んでいる。


「……あなたの、言い値です」


 笑ってしまった。
 火のない煙草が、口から落ちていた。
 あまりに可笑しい。
 自分の人形芸なんかより、よっぽど当意即妙で面白い返しではないか。


 アタシの芸じゃ、平馬も笑わせられるか、わかんないですよねぇ……。
 ヒグマさんにも、足りなかった。
 人形相手になら、もっと足りないでしょう。
 スカートも似合って、口も達者で、観柳の兄さんの方がよっぽど芸事向きですわ。

 アタシもせめて人形使いとして、人形自身に満足してもらえるくらいの芸は、したかった。
 戦いのさなかでだって。
 笑う構造がなかったって。
 今にも死にそうな意識の中でだって。
 自分の機能も状況も忘れて、満面の笑みを浮かべてくれるように――。


「『もっと上手く、人形を操りたい』ですねぇ――」


 ……契約は成立だ。
 そう、目の前の仲介人が、白い顔で笑っていた。


    ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎


323 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 16:00:44 vQ4YDTYY0
 ジャック・ブローニンソンは、轟々と流れる水の音で目を覚ました。
 目の前に、煙草をくわえた目つきの鋭い男の顔がある。
 その隣から、心配そうに覗き込んでくる見慣れた顔の青年。

「アキラ……」
「ブロニーさん! 本当に息を吹き返したのか!!
 やっぱりあんた凄ェよ、英良さん!!」
「はぁ。ですが残念ながら、別に生き返った訳でもねぇんでさ。
 アタシの魔力で、操り人形――木偶(デク)にしたって言った方が正しいでしょうねぇ」

 ジャックが自分の腹部を見やると、そこには一度切断されてつなぎ合わされたかのように、皮膚に灰色の縫い跡が残っている。
 臍の周囲には、その透き通るような灰色の糸で、歯車の形が刺繍されていた。
 よく辺りを見てみれば、自分たちが乗っているのは、紙幣で編まれた巨大な絨毯の上である。
 その平面が、海水に飲み込まれた森の上に浮遊しているのだ。
 先ほどまでヒグマと戦っていたはずなのに、自分が意識を失っている間に何があったのだろうか。

「ブロニーさん、実はな……」

 宮本明が話してくれたところによれば、先のヒグマに、自分は殺害されていたらしい。
 魔法少女となった武田観柳がヒグマを討ち倒したものの、重傷を負った阿紫花英良も魔法少女にならざるを得なかった。
 魔法少女と言うものの実体とそのリスクは、想像していたよりも遙かにブラックなものだったが、背に腹は代えられなかったのだろう。

 阿紫花英良の魔法は、武器である糸を物体に繋げて操作するものらしい。
 また、その延長として、物体を糸で接合・修復することにも長けているようだ。
 破損していたグリモルディと言う人形や自分自身の肉体も、その魔法で復元することができたらしい。

「そうなんですが、ジャックさん。
 アタシの魔法は厳密には回復魔法なわけじゃないですし、あんたの場合は、死んじまってる体を繋げて、アタシ自身の肉体と同じく、ソウルジェムから魔力を入れて動かしてるだけなんでさ。
 アタシの魔力に余裕がなくなったらまた死体に逆もどりですし、アタシから100メートル以上離れても駄目ですからね」
「オールライト、エイリョウ。それでも十分だよ、サンキューね」

 中腰になって顔色を伺ってくる阿紫花は、森の中で見た衣服とは違う衣装を着ていた。
 コートは裾の短い真っ黒なトレンチコートになっており、ウエストがきっちりと絞られている。
 そのボタンは血のように赤く、首もとの赤いネクタイと共に、コートの黒さとコントラストを作っていた。
 両手にも黒い革手袋がはまっており、そこから透き通る灰色の糸がデイパックの中に続いている。人形に魔法の糸を掛けているのだろう。
 特に左の手袋の甲には、歯車の形をした灰色の宝石がついている。魔法少女の証したるソウルジェムというものが、それなのだ。
 腰から下を見やれば、コートの裾から、だぼだぼのワイシャツがフレアのように溢れている。
 阿紫花の下半身は、黒いタイツを履いている以外は、そのワイシャツの丈で隠れているのみのようだった。
 靴はそのタイツと一体になっており、先端が尖って反り返り、赤いアンクレットのついた、道化のもののようである。
 上下半身のアンバランスさ・シュールさも相まって、より一層その道化感は強いだろう。

 まじまじとその様相を見つめていた視線に、宮本明も反応する。

「……確かに、英良さんのこういう姿は、相当ニッチな人々にしか求められてなさそうだな」
「そういう言い方は止めてもらえませんかねぇ……。
 アタシだって、ヤクザもんだか兄貴のお下がりだかピエロだかわからない衣装なんざわざわざ着たくありやせん」

 振り返れば、絨毯の端で座っている武田観柳というのだろう人物は、キルト風の至極まともそうな衣装を着ている。
 しかしそれを言うなら、自分の裸体と獣との絡みだって、重度のケモナーにしか求められてはいないだろう。


324 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 16:02:53 vQ4YDTYY0
「ノープロブレムよ。オレもエイリョウと一緒だから」
「あんたと同レベルにされるとなおのこと辛いんですが……」

 とにかく、そうしてヒグマとの戦いが終わり、阿紫花英良がジャックの肉体の修復を試みようとしたとき、火山から巨大な老人が出現してきたらしい。
 第一回放送を考察するのもそこそこに、その威容に戦々恐々となっていたところ、さらに津波が島を襲っていた。

「ああ、別に私のお金で津波を堰き止めてもよかったんですが、そこまで大量の十円券を刷っても後々無駄になりそうだったので。
 ブローニンソンさんは驚かれたでしょうが、天の鳥船だと思ってご勘弁くださいね」

 武田観柳が、微笑みながらそう付け加える。
 彼の魔法によって生産された紙幣の絨毯が飛び立ったところで、ちょうど修復されたジャック自身も目覚めたものであったらしい。


 二人を魔法少女にした当のキュゥべえは、武田観柳の隣で操真晴人に吊し上げられている。
 ジャックにとっては、そのテレパシーは聞いていても、姿を見るのは初めてのことである。
 頬を両手で摘まれている、無表情なウサギのような姿は、蘇り立てのジャックをして、生き別れていた下半身の元気を取り戻させるには十分な愛くるしさだった。

「……それにしてもあんたにとっては万々歳なんだろうなキュゥべえさん。
 二人も魔法少女にして、早速魔力を使わせて、思惑通りってところか?」
『人聞きが悪いねハルト。そのお陰で君たちは全員助かったんじゃないか。
 契約としても、対等な関係で結んだものだし、非難される謂われはないよ』
「こいつっ……!」
「まぁまぁ操真さん。キュゥべえさんは私と同じ単なる商人ですから。
 何度も言うように、後は私たちの魔法の使いようです」

 武田観柳が、操真晴人の手からキュゥべえを取って立ち上がる。
 シルクハットの隙間から、なぜか数枚の金貨を周囲に浮遊させて、彼はジャックの元に歩み寄っていく。

 その時、キュゥべえの脳内にだけ、観柳からのテレパシーが響いていた。


『……キュゥべえさん。あなたは、アシハナたちの窮地を、わざと遅く伝えてきましたね?』


325 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 16:03:14 vQ4YDTYY0
 血の凍るような、冷えきった声だった。
 キュゥべえは驚愕に振り返るも、自分を抱えている観柳はとても朗らかな笑みを湛えている。

『な、何のことかな、カンリュウ……?』
『魔法少女になるのは私だけで済んだところを、あんな惨事になるまで情報を隠蔽して、自然に契約をもう一つ掠めるとは。考えましたねキュゥべえさん。
 なかなかどうして私好みのやりかたですよ』

 深い微笑みのまま、観柳はジャックの方に近づいてゆく。
 キュゥべえの胴体に、観柳の指が食い込んだ。
 インキュベーターの体構造は、その程度の損傷では問題にならなかったものの、彼はそのまま誰にも見えないように、キュゥべえの体内を指でかき回してゆく。
 呻くようなテレパシーを押しつぶすように、観柳の口調が変化していた。

『だがなぁ……!! 昔から私は、見下されるのが大大大嫌いなのだよ!!
 下手に出ているように見せかけてその実、えばりくさりのふんぞりまくり。
 利益を稼ぐ手段は、こすっからく他人を出し抜こうとする詐欺師まがいの話術ばかり。
 対等な駆け引きなど欠片もありはしない!
 愚昧なガキどもを操って悦に入っているだけならまだしも、この武田観柳様までも手玉に取ったように振る舞っていることが、気に食わないんだよ貴様は!!』
『た、助けて!! エイリョウ! アキラ!』

 キュゥべえは必死で、脳波の隙間からテレパシーを発しようと試みるも、周囲に漂う金貨にジャミングされているのか、その声は誰にも届かなかった。
 観柳は清々しいほどの微笑みを浮かべたまま、キュゥべえの体を、ジャック・ブローニンソンに手渡していた。

「はい、ブローニンソンさん、どうぞ受け取ってください。
 どうやらキュゥべえさんも、あなたを求めていたようです。
 聞きましたよ。ヒグマ相手に欲求を発散できず、さぞや溜まっているのでしょう?」
「本当かい!? はぁああぁ……。
 キューベーちゃんカワイイよぉお……」

 とろけたような表情のジャックから、キュゥべえは逃れようともがく。
 しかし、その体内には、先ほど観柳が撹拌していた指により、一枚の金貨が突き込まれていた。
 体の空間座標を魔法で固定され、ジャックのヒグマじみた怪力に押さえ込まれた彼は、手足一本すら自由にはならなかった。

『こ、こんなことをして何の得になるんだカンリュウ!!
 ぼくを殺したところで、代わりはいくらでも……!』
『役に立つうちは殺すわけないでしょう。
 しかぁし、私たちや人間を見下してきた分、あなたは一回、その片鱗だけでも恥辱を味わってみれば良いのです。
 貴様のような奴がいつまでも旨い汁を吸えると思うなよ。利益を取り立てるのは、貴様ではなく私だということを解らせてやる。
 おぼこばかりを食い物にしてきたクソ淫獣が』
「うはぁああぁぁああああああん!!
 キューベーちゃんの中、気持ちいぃよぉおおおお!!」
『わけがわからなアッー!?』


 尻尾の付け根からジャックに深々と掘り抜かれたキュゥべえは、次の瞬間、口から大量の白濁液を噴出していた。
 ジャックの股間の脈動に合わせて、赤べこのように首を振る彼のうめき声は、もう誰にも聞こえない。
 観柳は浮遊する金貨をそっとキュゥべえの周りに寄せて、そのテレパシーを完全に遮断させていた。


「良かったですねブローニンソンさん。キュゥべえさんも、暖かくて気持ちいいそうですよ」
「おうおう……、これはまたアタシ以上に需要の無さそうな絵面だことで……」
「まぁ、ブロニーさんの武器がまだ健在だったことは、喜ばしい限りだな」
「それはそうと、下に向けて抜こうなジャックさん。折角の魔法のお札にかかるから」
「ああ、血も体液も、回収時に浄化しますから、気の済むまでやっちゃって構いませんよ」
「あぁぁあああはああああぁああああん!!」


 その体内を汚辱に塗れさせながら、インキュベーターは、魔力係数が高いと見れば後先顧みずに飛びついてしまう自身の悪癖を、激しく後悔していただろう。
 しかし、強欲に溺れた挙句、金に圧し殺された愚者の叫びなど、周囲の人間には誰一人として届きはしないのだった。


326 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 16:04:44 vQ4YDTYY0
【G-8 森(観柳の十円券絨毯の上)/朝】


【宮本明@彼岸島】
状態:ハァハァ
装備:プルチネルラの棍棒@からくりサーカス
道具:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
基本思考:脱出する
0:お金の力って凄ェ!!
1:英良さんの人形芸も凄ェ!!
2:ブロニーさんの精力も凄ェ!!
3:やっぱり魔法とキュゥべえさんはクソ野郎じゃねえかよちくしょう!!
4:兄貴の面目にかけて、全力で生き残る!!
5:あ、操真さん、いたのか?


【ジャック・ブローニンソン@妄想オリロワ2(支給品)】
状態:木偶(デク)化、キュゥべえを掘っている。
装備:なし
道具:なし
基本思考:獣姦
0:キューベーちゃんの中気持ちいいよぉおおお!!
1:動物たちと愛し合いながら逝けるならもういつ死んでもいいよぉ!!
[備考]
※フランドルの支給品です。
※一度死んで、阿紫花英良の魔力で動いています。魔力の供給が途絶えた時点で死体に戻ります。


【阿紫花英良@からくりサーカス】
状態:魔法少女、ジャック・ブローニンソンに魔力供給中
装備:ソウルジェム(濁り小)、魔法少女衣装
道具:基本支給品、煙草およびライター(支給品ではない)、プルチネルラ@からくりサーカス、グリモルディ@からくりサーカス、余剰の食料(1人分程)
紀元二五四〇年式村田銃・散弾銃加工済み払い下げ品(0/1)、鎖付きベアトラップ×2
基本思考:お代を頂戴したので仕事をする
0:腰から下がスースーするんですがこの格好……。
1:手に入るもの全てをどうにか利用して生き残る
2:何が起きても驚かない心構えでいるのはかなり厳しそうだけど契約した手前がんばってみる
3:他の参加者を探して協力を取り付ける
4:人形自身をも満足させられるような芸を、してみたいですねぇ……。
5:魔法少女ってつまり、ピンチになった時には切り札っぽく魔女に変身しちまえば良いんですかね?
[備考]
※魔法少女になりました。
※固有魔法は『糸による物体の修復・操作』です。
※武器である操り糸を生成して、人形や無生物を操作したり、物品・人体などを縫い合わせて修復したりすることができます。
※死体に魔力を注入して木偶化し、魔法少女の肉体と同様に動かすこともできますが、その分の維持魔力は増えます。
※ソウルジェムは灰色の歯車型。左手の手袋の甲にあります。


【武田観柳@るろうに剣心】
状態:魔法少女、一円金貨約150万枚・十円券約1500枚を操作中
装備:ソウルジェム(濁り極小)、魔法少女衣装、金の詰まったバッグ@るろうに剣心特筆版
道具:基本支給品、防災救急セットバケツタイプ、鮭のおにぎり、キュゥべえから奪い返したグリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ
基本思考:『希望』すら稼ぎ出して、必ずや生きて帰る
0:つけあがりやがってクソ淫獣が。搾取するのは貴様ではなくこの私だ。
1:他の参加者をどうにか利用して生き残る
2:元の時代に生きて帰る方法を見つける
3:取り敢えず津波の収まるまでは様子見でしょうか。
4:おにぎりパックや魔法のように、まだまだ持ち帰って売れるものがあるかも……?
[備考]
※観柳の参戦時期は言うこと聞いてくれない蒼紫にキレてる辺りです。
※観柳は、原作漫画、アニメ、特筆版、映画と、金のことばかり考えて世界線を4つ経験しているため、因果・魔力が比較的高いようです。
※魔法少女になりました。
※固有魔法は『金の引力の操作』です。
※武器である貨幣を生成して、それらに物理的な引力を働かせたり、溶融して回転式機関砲を形成したりすることができます。
※貨幣の価値が大きいほどその力は強まりますが、『金を稼ぐのは商人である自身の手腕』であると自負しているため、今いる時間軸で一般的に流通している貨幣は生成できません(明治に帰ると一円金貨などは作れなくなる)。
※観柳は生成した貨幣を使用後に全て回収・再利用するため、魔力効率はかなり良いようです。
※ソウルジェムは金色のコイン型。スカーフ止めのブローチとなっていますが、表面に一円金貨を重ねて、破壊されないよう防護しています。
※グリーフシードが何の魔女のものなのかは、後続の方にお任せします。


327 : 金の指輪 :2014/03/06(木) 16:05:06 vQ4YDTYY0
【操真晴人@仮面ライダーウィザード(支給品)】
状態:健康
装備:普段着、コネクトウィザードリング、ウィザードライバー
道具:ウィザーソードガン、マシンウィンガー
基本思考:サバトのような悲劇を起こしたくはない
0:巨人に津波に魔法少女に……先行きはどうなるんだこれは。
1:今できることで、とりあえず身の回りの人の希望と……なれるのかこれは?
2:キュゥべえちゃんは、とりあえず軽蔑。
3:観柳さんは、希望を稼ぐというけれど、それに助力できるのなら、してみよう。
4:宮本さんの態度は、もうちょっとどうにかならないのか?
[備考]
※宮本明の支給品です。


【キュウべぇ@全開ロワ】
状態:ジャック・ブローニンソンに掘削されている。
装備:観柳に埋め込まれた一円金貨
道具:なし
基本思考:会場の魔法少女には生き残るか魔女になってもらう。
0:アッー!!!!!!!???????
1:ひどいよ……こんなのってないよ……こんなの絶対おかしいよ……。
2:人間はヒグマの餌になってくれてもいいけど、魔法少女に死んでもらうと困るな。もったいないじゃないか。
3:とりあえず分体の連絡が取れなくなった巴マミに、グリーフシードを届けたいんだけど、カンリュウ、頼むから話を聞いてくれ!!
4:道すがらで、魔法少女を増やしていこう。
[備考]
※範馬勇次郎に勝利したハンターの支給品でした。
※テレパシーで、周辺の者の表層思考を読んでいます。そのため、オープニング時からかなりの参加者の名前や情報を収集し、今現在もそれは続いています。


328 : 名無しさん :2014/03/06(木) 16:05:49 vQ4YDTYY0
代理投下終了いたします。


329 : 名無しさん :2014/03/07(金) 02:43:55 K.no8/VM0
投下乙!
なんだこの格好いい悪徳商人は…キュウべぇが手玉に取られ てやがる…
しかしこのゲーム、ヒグマになるかヒグマを超える人間にかるかの戦いでもあるんだな


330 : 名無しさん :2014/03/08(土) 05:22:18 qzKdiTJo0
投下乙&代理投下乙

Wikiも更新されてるな……お疲れ様です


331 : 名無しさん :2014/03/08(土) 08:19:27 zwUykizo0
投下乙
金!これこそ力の証!真の最強は私だぁ!死ねぇ!
原作のこの台詞見た時からいつかやれる子だと思っていたよ
マップの真横に居るキュアハートとか不安要素はあるけど頑張れ


332 : 名無しさん :2014/03/09(日) 13:51:20 tb1bxUzg0
投下乙!
なんか色々すごいことになったー!?
なるほど、QBがこれまで成功していたのは相手が子ども(少女)だったからというのには納得
大人がみんな読みがいいとは言わないけれどカンリュウみたいな交渉取引の場で生きた商人には子供だましは通用しないか
カンリュウがかっこいいんだけれど、単なる改心じゃないどこまでも商人としての進化という書かれ方で納得
そしてまさかのジャック落ちに吹いたw


333 : 名無しさん :2014/03/12(水) 00:38:17 hQoBEZ7Q0
再び◆wgC73NFT9I氏の代理投下をさせていただきます。
ジャン・キルシュタイン、暁美ほむら、球磨、星空凛、穴持たず12を予約なし投下という形で。


334 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:39:51 hQoBEZ7Q0
 停止した時間の中に、暁美ほむらは佇んでいた。
 見上げる森の樹冠の上に、標的の姿がある。
 立体機動装置をつけた、ジャン・キルシュタイン。


 正直、拍子抜けだった。


「――あなたの好きなように始めなさい」


 勝負を始めた時、私はそう言って、先手をジャン・キルシュタインに譲っていた。
 彼の得体の知れない大言壮語の根拠を目の当たりにしたかったのもあるし、そうでもしなければ、彼に勝ち目は無かったからだ。
 私の時間停止魔法を破るには、私の反応を超えるか、相当な意表を突くかした攻撃を当ててくるしかない。
 当然、私が親切に見せてやった時間停止を踏まえて、彼はその先手の一瞬に勝負を賭けてくるものと思っていた。


 ――それがどうだ。

 彼は後ろの木の上方にワイヤーを掛けた後、ただ上空に向けて飛び上がっていただけだった。
 距離を離して、空から狙撃でもしようと考えていたのだろうか。
 確かに、私には彼の使う立体機動装置ほどの空中機動力はない。
 しかし、彼は私が、空中を吹っ飛んだ状態から無事に着陸したことを知っているはずだ。
 私が飛行能力を有していることさえ見抜けなかったのだろうか。
 それにしたって、せめて瞬間移動することを踏まえた対策くらいはしてくるものと思ったのに。


 時間を止めたままゆるゆると上昇する。
 確かに、同じ距離を移動するにも地上での歩行より空中浮遊の方が労力も時間もかかるが、樹冠程度の高度まで追いつくのはたやすい。
 これ以上無駄に魔力を消費するのも嫌なので、最短距離でジャン・キルシュタインの前に浮上し、多用途銃剣を振りかぶった。
 彼の目は未だ、私がいた森の地面を見つめて固まっている。
 止まった時間の中で腕を動かしたり、眼で追ってきたりするような異常なこともない。
 このまま、時間停止解除と共に胸板あたりを切りつけて、勝負は終了だ。
 その程度の傷なら、放り出しても生き残る見込みはあるだろう。
 粗暴で協調性もなく期待はずれな変態には生温いくらいの処遇だが、まあ、球磨と星空凛の嘆願もあったことだし。


 ――さようなら、口ばかりのお馬鹿さん。


 左手の盾が、開いていた砂時計と歯車を閉じる。
 同時に、逆手の銃剣が空を切っていた。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


335 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:40:26 hQoBEZ7Q0
……ありのまま、今起こったことを話すわ。
 私が右手に持っている銃剣は、『空を切っていた』。
 文字通りによ。
 何を言っているかわからない?

 私は、『ジャン・キルシュタインの胸板を切りつけた』はずなのに、その銃剣は『空を切っていた』のよ!


「――!?」
「ッぶねっ!!」


 ジャン・キルシュタインの姿は、忽然と暁美ほむらの視界から消え失せていた。
 その声が、遙か下方から耳を打つ。
 驚愕と共に振り向けた眼は、彼が高速でワイヤーを引き戻し、森の木の葉の中に勢いよく潜るその瞬間を捉えていた。

「くっ!!」


 再び盾を傾け、即座に時間を停止。
 しかし、もう彼の姿は完全に繁茂する木立の中に隠れ、上空からではどこにいるのかまったくわからなかった。

 ――なんという瞬間加速力。

 最大限に引き延ばされたワイヤーリールは、その引き戻しの最初に最も強い力を発揮するのだ。
 自分もその性能は一度味わっていたというのに、虚を突かれ、全く反応することができなかった。
 私は、何も身を守るもののない上空に誘い出され、反対に彼は捕捉の困難な森の中に隠れた形になる。

 ――まさか、最初からこれを狙っていたというの!?

 彼は、私の時間停止が『触れた物体』には無効となることを見抜いていたのだろうか。
 私の時間停止中の攻撃は、必ず命中の寸前、銃火器なら発射の直後までしか動かない。
 それにしたって、私が時間を停止し、解除するタイミングはわかりようがないはず。
 どうやって、そこまで知り得た――?

 私が期待外れだと高を括ることも、魔力の浪費を嫌って馬鹿正直に正面から近づくことも、予見していたというのだろうか。
 一体、彼はどこまで私の魔法を把握し、どんな打破策を練っているというのだ――?


 冷や汗が吹き出る。
 今まで絶対の信頼を置いてきた自分の魔法に、敗北の可能性が生まれようとしている。
 久方ぶりに、恐怖というものに近い感情を感じていた。

 ――いや。
 思い返せば、私の時間停止は、どのループでも必ず敗北する相手がいる。


 ワルプルギスの夜の初撃だ。


 私が戦闘を行えば必ず、使い魔を掃討している意識の隙間を縫って襲う、彼女の恐ろしく高速で精密な攻撃を一発は貰ってしまう。
 時間を止めている間は無敵でも、その発動と解除の瞬間には私の反応が必須になる。

 所詮、魔法少女は人間のなれの果てなのだ。
 普段は今までの日常となんら変わることなく生活しているし、治るとはいえ怪我もする。
 いくら魔法を使ったところで、私の反応速度も跳躍伝導の領域を超えはしない。


 顔が、ひきつるように笑っていた。


 感謝すべきだろう。
 それを再認識させてくれたジャン・キルシュタインに。

 もはや、油断をしていい相手ではない。
 どこまで情報が把握されているのか、どんな戦術を取ってくるのかもわからない。
 大方の魔女のように愚鈍な相手ではない。
 大概の魔法少女のように浅慮な相手でもない。


 美国織莉子や巴マミと同格の相手と見てかかるべきだ。


336 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:40:53 hQoBEZ7Q0
眼下の森を見やる。
 ――時間停止を続けたまま潜行して、ジャン・キルシュタインを見つける?
 いや、それは下策だろう。

 既にかなりの時間を止めてしまっているし、森の中には姿を隠す陰は山のようにある。
 今判明している限りで彼の攻撃手段は、立体機動装置に付属のカッターナイフのような双剣による近接攻撃。
 加えて、ブラスターガンによる遠距離攻撃および狙撃がある。
 ワイヤーアンカーも、見切りづらい中距離攻撃手段として使用してくる可能性が高い。
 発見できずに後ろを晒すようなことがあれば、その瞬間に私は負ける。
 飛び道具を使わない以上、時間停止に必須な反応時間を稼ぐことが私には必要だった。
 つまり。
 私に許されている存在位置は、この見晴らしの良い森の上空のみ――。


「私はここよ、ジャン・キルシュタイン!!
 逃げてないで、攻めてきなさい!!」


 停止解除と共に、樹冠から十数メートル上空で、私はそう言い放っていた。
 そして、息を吸うのと共に、再び時間停止。
 その停止時間中に数メートルだけ、さらに上昇しておく。
 彼が森林中からの狙撃を考えているなら、この誘いでとる行動は一つ――。

 停止を解除した瞬間、目の前をブラスターガンの光線が掠めていた。
 森の中から、舌打ちと共に、木の葉を掻き分ける移動音。
 すぐさま再停止して、ブラスターガンが発射された地点を見やるが、ジャン・キルシュタインは既にそこから移動した後のようだった。

 ――これで、彼の森からの狙撃を封じるはずだった。


 暁美ほむらは、自分の狙撃を回避することができる。
 そして外せば、自分の位置が知られるのだと。


 しかし、このチャンスを活せなかったのは私にとってかなりの痛手だ。
 彼は外した際の対策まで最初から意識して射撃していたのだ。
 今の隙に完全に彼を発見・捕捉できなかったとなれば、これは膠着状態になる。
 むしろ、位置が解っても私が攻撃に転じられないとなれば、ジャン・キルシュタインは狙撃し放題だ。
 彼は的を絞らせないように間欠的にランダムな移動をしつつ、森の中から私を撃ちまくればいい。
 100発近いブラスターガンの残弾を、時間停止で避けられる自信はない。
 かくなる上は――!


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


337 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:41:35 hQoBEZ7Q0
 ブラスターガンの光線が命中し、小爆発が起こる。
 しかし、その衝撃が私の肉体に及ぶことはない。
 薄紫の魔法防壁が、私の周囲を球状に取り囲んでいた。

 ――時間停止を捨て、その分の魔力を全て防御に回す。

 ジャン・キルシュタインからの狙撃は、その一発のみで止まっていた。
 流石に、遠距離攻撃だけでこの防壁を貫けるとは、彼も思わなかったのだろう。
 木々の隙間からは、固唾を飲んで私たちの動向を見守る、球磨と星空凛の姿が見える。


「……さあ、いつまで潜っているつもり?
 守れるんでしょう? 脱出できるんでしょう?
 潜んでいたところで、ヒグマも私も、倒せないわよ」


 空を仰いで、そう呟いた。
 とても穏やかな気持ちだった。

 これが、合意に基づいた勝負で本当に良かったと思う。
 もうやり直すことのできないこの時間軸で、こんな貴重な戦術的経験ができて、それを次に活かすことができる。
 この時点で既に、この勝負をふっかけたモトは取れたに等しい。

 そして、次に彼がこの防壁に対してどういう手段で攻めてくるのか。
 それを見るのが、本当に楽しみだった。


 ワイヤーアンカー程度なら問題なく、ブラスターガンでも剣戟でも、一発ずつなら確実に私の防壁は防ぎきれるだろう。
 命中の瞬間に、球形に展開していた魔力を一点に収束させるのだ。
 彼の持つブラスターガンは見た限り、映画内で猛威を揮っていたDC-17へヴィブラスター程の火力も連射性もない。
 私の防壁を破るには、彼は接近し、連続攻撃をするしかない。
 千日手は彼とて望んではいないはずだ。
 この沈黙の間に、彼は私の予想もつかない攻め手を、今度もきっと考え出してくれるだろう。


 私は、イレギュラーが嫌いだった。
 繰り返しの時間の中で、私自身がキュゥべえからイレギュラーと扱われていたせいもあるかもしれない。
 美国織莉子など、思想の違いからして相性は最悪だ。
 だが今となっては、そのイレギュラーの存在が愛しい。

 何もかもが初めてのタイムラインでは、イレギュラーもレギュラーもその概念からして存在しない。
 知り得たことの数々は、戦いの跡の水溜まりに没する。
 全てのレギュラーを投げ捨てた空は晴れ晴れとして、私にはイレギュラーだけが唯一残る。

 数々の分岐で集めてきた、皆等しく違うイレギュラーたちが、私に最大限の好意を向けて襲いかかってくれる。
 レギュラーを逸脱したときに、どう対処すればどういう結果が開けていくのか。
 無くしたものと引き換えに、彼女たちの向けてくれた敵意だけが、去り際に私の背を押してくれる。


 ただまどかを救うためだけに、私は数え切れないほどのまどかを殺し、数え切れないほどのまどかを見捨ててきた。
 その絶望的な結末へと続く、同じようにしか見えないレギュラーの道の中で、そのイレギュラーたちだけが、私を異なる道へ導いてくれる可能性だったのだ。


 彼が。
 ジャン・キルシュタインが。
 進むしかないこのタイムラインで、私に未だイレギュラーとして立ち向かってきてくれるなら。
 この勝負の結末がどうなろうと、それはきっと正解にたどり着く道になり得る。


 ――期待できる。
 私たちが正しい道に進む一歩に、彼は確かな下地をきっと築いて行ける。


 目を瞑る私は、魔法防壁の殻を越えて、どこまでも広がっていくようだった。
 遠くから吹く、風のような息遣い。
 遠くから降る、雨のような駆動音。
 私の歩んできた螺旋の履歴を綴り変え、その真摯な殺意が私を背中から染めてゆく。
 丁寧に丁寧に、私の死角から。
 彼の素敵なイレギュラーが、私の迷宮に切り込んでくる。


 ガスの噴出音が、私の背後を吹き抜ける。
 彼の、息を吹くような気合が耳に届く。
 そして次の瞬間、私の壁を砕かんとする、力強い衝撃が空に走っていた。


「そこねっ!!」


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


338 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:42:09 hQoBEZ7Q0
 衝撃を受けた一点に、防壁の魔力を集束させて防ぎきる。
 一呼吸の間も開けない。
 西部劇の抜き打ち。
 時代劇の居合。
 私が可能な最大限の反応速度で、私は盾を傾ける。
 防壁の魔力が一転して、四方無辺に拡散していた。


 ――時間停止。


 勝った。
 ジャン・キルシュタインが二撃目の近接攻撃を入れる前に、私は時間を止めることができた。
 このまま、攻め込んできている彼に銃剣を突き付け、終わらせよう。


 ――よくやったわ。ジャン・キルシュタイン。

 安堵に胸を撫で下ろして、私は振り返る。

 ――私に敵わないまでも、ここまで私を追い詰めるなんて……。


 そこまで考えて見やった景色に、私は、ただ呆然と自失した。


 防壁のあった空中に突き刺さっていたのは、カッターナイフのような刃。
 ただ、それだけ。
 どこにも、ジャン・キルシュタインの姿はない。
 あの剣が刃先を飛ばすことができたことも驚愕すべき点なのではあるが、問題はそこではない。
 私は、確かに彼の気配を近くに感じていたのだ。
 如何に遠間から投擲したのだとしても、投擲には広い空間での腕の振りが必要な以上、彼はまだ空中にいるはずなのに。
 見上げる空に影はなく、森に沈んだ跡もない。

 10秒。
 20秒。

 いたずらに焦りと時間だけが過ぎていく。
 汗が、背筋から腰に落ちる。
 唾が、固くて飲み込めない。

 全く状況を理解できないまま瞠目していた私の眼はそこで、昇り来ている朝日の眩しさにふと気づいていた。


 時間停止の中でも変わらず捉えらえるその眩い光。
 東に見えるその威光の中に。
 私を導いてくれるその者が、いた。


 逆光だ。
 目を凝らさねば、その灼けつくような光の中は、伺えない。
 北海道の孤島の森の上。
 余りに澄んだその光の中に輪郭を溶かして、ジャン・キルシュタインが佇んでいる。


 右手でしっかりとブラスターガンの狙いをつけて。
 左手は投擲剣の替え刃を腰元で装填して。
 陽に溶ける細いワイヤーは眼下の森に突き立っている。


 その美しさに、私は息を飲んでいた。


 彼は刃先を投擲した後、逆光を計算に入れて、ガスの噴射による微調整でこの位置取りを狙っていたのだ。
 私は、確かに彼の二撃目の前に、時間を止めることができた。
 しかし、遠距離攻撃の二連撃を想定していなかった時点で、私は彼の策に完全に嵌ってしまっている。


 防壁から時間停止への切り替えが一瞬でも遅ければ、私はブラスターガンの餌食となっていた。
 そしてこのまま時間停止を解除しても同じことだ。
 移動して躱せば、彼はまたワイヤーを引き戻して森の中に潜るだろう。
 だが、それではまた同じことの繰り返しだ。
 むしろ、遠距離から二連撃以上の攻撃を受けるならば、私は今度こそ手詰まりとなる。
 彼が再び空中に出てきたこの瞬間に決着を着けねばならない。

 しかし、停止時間中に回り込んで銃剣を突き付けようにも、私はもう既に、相当の時間を彼の発見に費やしてしまった。
 私の魔力を、最大限に削ぐための朝日だったのだ。
 既に連続停止時間は、私の魔力運用上、危険域。
 なんと美しく、完成された私への対応策だろうか。


 潜水する海中から、酸素を求めて浮上するように、私は時間停止を解除するだろう。
 もはや、その瞬間に賭けるしかない。

 ブラスターガンの直撃を避け、身を躱しながら魔力の出力先を全て空中での推進に切り替える。
 ジャン・キルシュタイン。
 あなたを捕捉し、何としてもこの銃剣を突き立てて見せる――!


 その時の私は、多分満面の笑みを浮かべていたのだと思う。
 カリカリとかすかな音を立てていた歯車が、盾の中に閉じた。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


339 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:42:51 hQoBEZ7Q0
 ブラスターガンの爆発が、オレの眼に映っていた。
 アケミが被弾した――。
 半透明の魔法の壁みたいなものは、オレが投げた剣の刃を受けて、確かに消え去っていたはずだった。

 視界の先で、盾を嵌めたアケミの左腕が、森の中へちぎれ落ちていくのが見える。
 となれば、本当にオレは、アケミに命中させることができたのだ。
 作戦は成功した――。
 アケミの手加減が前提だったとはいえ、自分でも驚くほど、綺麗に作戦は決まっていた。

 『私を倒しなさい』という言葉を真に受けて、魔法少女だから大丈夫だとか、理由もよくわからないままに撃ってしまったが、本当に大丈夫だろうか。
 むしろ、殺す気で掛かっちゃって、本当に殺してないかさえ心配になる。
 仮に殺してたとしても、合意に基づく勝負だし、そもそもここは殺し合いの場所らしいし、平気か……?
 いやいや、平気ってなんだよ。オレはアケミたちと協力するんじゃなかったのか!?


 視線を泳がせたままオレの体が落下し始めたその時、爆風を切り裂いて、アケミのグレーの衣装が鳥のように飛来していた。
 肩口から左腕が吹き飛んだというのに、その鋭い目つきは射竦めるように俺を捉えている。
 逆手に持つ彼女のナイフが朝日に光る。


 ――信じられねぇ。


 オレの心配は、全く杞憂どころか、的外れにもすぎた。


 魔法少女っていうのは、痛みも怯みも感じないのか!?
 まるで、ヒグマのような、その生命力。
 まるで、魔女のような、その強靭さ。
 本当に殺しでもしない限り倒せないのか。
 オレが煽ってしまったお前の『守りたいもの』とは、そこまで大切なものなのか。


「うおおおおおおおおおッ!!」


 ワイヤーを引き抜き、ガスを最大出力で噴射していた。
 回旋する遠心力を乗せて、アケミの突撃に全力でぶつかりに行く。

 互いに、これが勝敗を決める最初で最後、最大のチャンスなのだ。


 応える。
 アケミの大切なものに。
 オレの明日の平穏に。
 立ちはだかる巨大な敵を駆逐するために磨いてきた互いの力と技に。


 オレの剣とアケミのナイフが交錯する。
 それが、決着の瞬間だった。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


 左手の剣での切り付け。
 反時計回りの高速回旋を加えた、巨人のうなじを削ぐ必殺の一撃。
 腕をうち開きながらの、今のオレにできる最大威力の斬撃だった。

 アケミのナイフが、その刃に当たっていた。
 ナイフの鍔に、オレの剣が受け止められる。
 オレの刃先の上を、そのナイフが流れた。
 逆手に持ったナイフを、腕のない左半身に向けて滑らせながら、アケミはオレの上腕を撫で上げるように、その身を寄せてきていたのだった。


 ――受け流し。


 鼻先が触れそうになるほどの近くに、アケミの笑顔があった。
 呼吸を忘れてしまいそうな、とても可憐で華やいだ微笑み。
 艶やかな唇から、暖かなアケミの息が、オレの頬に触れてくる。


「――感謝するわ。ジャン・キルシュタイン」


 その吐息を聞いた瞬間、オレの顎はしたたかに突き上げられていた。


 ――あ、肘鉄……。


 空中で入り身をしてきたアケミの速度は、見事にオレの回旋にカウンターとなる。
 逆手で受け流しをした彼女の、予想外の肘。
 ここに来て空中での白兵格闘が、このオレを襲う。
 アケミの右腕がそのままオレの腕を掴んで、肩と胸ごとオレを引き込んでゆく。
 脚が首筋に絡められ、オレの体は落下しながら見事に押さえ込まれる。


 ――エレンを馬鹿にしてねぇで、もう少し格闘訓練、やっておくべきだったかな……。


 かすかな意識でそう思ったものの。
 既に最初の肘鉄と微笑みで、オレは完全にノックアウトされていたのだった。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


340 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:44:33 hQoBEZ7Q0

「飛びつき腕ひしぎ逆十字固め、一本、そこまでクマ!! 二人とも! 大丈夫かクマー!?」

 高高度から落下してきた二人は、紫色の光に包まれ、一塊となって着地していた。
 走り寄る球磨と星空凛に、暁美ほむらはその無表情をすっくと起き上がらせて答える。

「ええ、落下はなんとか魔法で緩衝できたみたいだから、問題ないわ」
「ほむほむ、腕が吹き飛んでるにゃ!! 問題ありまくりにゃ!!」
「ジャンくんも、ものの見事に体捌きからの猿臂喰らってたクマ!!
 なんで魔法と立体機動の勝負が格闘で決着するクマ!!」
「それだけ、このジャン・キルシュタインが優秀だったということよ」

 焦げた左肩を払いながら、ほむらは感慨深げに言った。
 地面に伸びてしまった当のジャンが、うめき声を上げなから身を起こす。

「……ってぇ。……これは、オレの、負けか……」
「いいえ、先に被弾した私の負けよ。最後のは単に、魔法少女の実力を見せておきたかったのと、あなたに一言物申しておきたかっただけだから」
「いやいやいや!! 誰がどー見ても引き分けクマ!!」
「そうかしら」
「そうクマ!! ほむらの一存で球磨まで『好きに』されるのはご免だクマ!!」

 淡々と述べるほむらに、球磨は焦って捲し立てる。
 既に勝負がどうこうよりも、ほむらの興味は、ジャンがどのようにして時間停止への対策を練り得たのか、という問題に移っていた。
 ほむらの問いに、ジャンは外門頂肘を喰らった顎先をさすりながら答える。


「……いや、な。アケミは、オレの後ろに回り込んだ時の前に、オレたちが初めて会った時にも、魔法を使ってただろ?」

 確かに暁美ほむらは、ジャン・キルシュタインを詰問した際、盾から機関銃を取り出しながら時間停止を使用していた。
 裏に回り込むだけなら、瞬間移動の魔法というのが最も考えられたが、どうやらそうではないらしい、と、ジャンは考えていた。

「だから、オレはもっと広く、『一瞬のうちになんやかんや色々できる魔法』だと考えたわけさ。
 そんでもって、その魔法を使うのには、『盾を傾ける』という動作が必要になるっぽい。
 二回とも魔法を使う瞬間に、その共通点があったからな」
「その通りよ……。よく気がつけたものね」
「まぁ、オレは昔っから現実を見るのは得意だからな……」

 ほむらは、ほとんど無意識的に行なっているその動きに着目されたことに、心底驚いていた。
 それならば、ジャンが一番最初に空中での切り付けを躱し得たことにも納得ができる。
 彼はずっと、ほむらの盾の動きにだけ注目して、ワイヤーを戻すタイミングを計っていたというわけだ。


「で、『一瞬のうちになんやかんや色々できる魔法』だから、もしその『一瞬』でできることが無制限だったり、『なんやかんや』の間に殺されたりしたらどうしようもないんだけどよ。
 そこは勝負を持ち掛けてくれたくらいなんだから何かしら限度があるものと、アケミを信じた」


 そこで、彼は最初に空中へ飛んでいた。
 ほむらが空を飛ぶ力を持っていても、敢えて立体起動装置を確保しておこうとしたところから、その能力はジャンの飛行能力よりは低いことになる。
 魔法に限度があれば、当然、その限度が来る前にことを終わらせようという心理が働く。
 盾に着目して離脱のタイミングを見計らいつつ、接近には労力をかけさせることで、わざわざ裏に回ろうなどという気持ちを起こさせなくさせることが、ジャンの狙いであった。
 それ以降も、森林中からの射撃、逆光を利用した『一瞬』の浪費など、ジャンの思惑はことごとく的を射た作戦であったことになる。

 銃火器の使える万全な状態ならば当然、こんな作戦は成立しないところであったが、短時間でほむらをそこまで分析し、筋書きどおりに動かし得たことは、凛や球磨も含めて素直に感嘆できるものであった。


341 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:45:21 hQoBEZ7Q0
「粗方把握されてるようだからもう教えておくけれど、私の魔法は『時間停止』よ。
 あなたとの戦いで私の弱点を再認識できたことは、とても糧になったわ」
「それ以外にも防壁とか空中浮遊とか腕が千切れても平気とか、色々便利に魔法使ってた気もするが……。
 まぁ、オレは指揮官殿に認めてもらおうと思ってただけだから」
「そう認識してもらえたなら、これ以上のことはないわ」

 ほむらがそう言って差し伸べた手を掴んで、ジャンは立ち上がる。
 彼女は左肩から先が弾け飛んでいて非常に痛々しかったが、その傷口は既に塞がっており、痛みも感じてはいないようだった。

「それにしても、魔法少女ってのは本当にすごいな。オレがやったくせに言うのもあれだがよ、その腕は、大丈夫なのか?」
「ソウルジェムという、私の左手の甲にあった宝石が無事な限り、私たち魔法少女は魔力さえあれば再生できるのよ。
 左腕もすぐ繋げられるわ。
 星空凛、すまないけれど、あっちの木陰に私の腕が落ちているから、持ってきて貰える?」
「良かったぁ……そうだったんだほむほむ。でも本当、心配するからそういうことは早く言っておいて欲しいにゃ!」
「ジャン・キルシュタインも予想以上の心技体で『軍』に入ってくれたことだし、私と球磨が二人の支給品を見てあげるわ」
「本当か? 最初からそれを頼みたかったんだよマジで。協力する以上あんたらに使ってもらった方が絶対マシだしさ」
「わかったクマー。なんだかんだ勝負も恙なく終わったし、上々の門出になりそうクマねー」

 ジャンは眉を開いて、後ろにデイパックを降ろした。
 ほむらに手を振って、凛も支持された方向に走り出す。
 球磨も興味深げに、屈みこんでデイパックを広げるジャンの様子を、上から覗き込んでいた。


 ――本当に、恙なく終わった。
 備え付けの13号対空電探にも、近くにヒグマの影は終始映り込みはしなかった。
 ジャンくんが大破することもなく、自分が『好きに』されることもない行司もできた。
 腕の吹き飛んだほむらも、彼女の言う通りなら心配いらないだろう。
 何よりも、ほむらとジャンくんが何一つ憂いなく、互いを認め合えたことが素晴らしい。
 ジャンくんと凛ちゃんの支給品を見てあげたら、ほむらと一緒に今後の作戦を練ろう。
 協力できる参加者を早いうちに集めて、みんなで立ち向かおう。
 主催者を倒すための艦隊が、いよいよ進水の時を迎えるクマ――。


 球磨が感慨深くそう考えていたとき、遠くのスピーカーから、ちょうど町内放送のように大きく第一回放送の声が聞こえていた。
 ジャンとともに、そちらに意識を傾ける。
 間延びと音割れが酷くて聞き取れたものではないが、死者の数は相当に多いようだ。
 馬鹿みたいに参加者同士で殺し合った例は少ないだろうから、ざっと見積もっても数十体はヒグマが島内をうろついているだろう予測が立つ。
 眼を振り向ければ、ジャンがデイパックの上で顔を顰めている。


「……誰か、知ってる人でも、いたクマ?」
「ああ……。エレン・イェーガーって奴だ。あの死に急ぎ野郎……。本当に死に急いじまったのか……」

 ジャンは沈鬱さを振り払うように首を振り、立ち上がった。
 下を向いたまま、震えながら、叫ぶ。

「だがよぉ! オレたちはそんな死に急ぎはしないよな、アケミ!
 そのためのあんたとの勝負、そのための協力なんだ!! 絶対、生きて主催者をぶっ倒すぞ!!」
『それでは、引き続きヒグマとの素敵なサバイバルライフをお楽しみ下さい』


 ピーンポーンパーンポーン♪


 勢い良く暁美ほむらに声を飛ばし、ジャン・キルシュタインは振り向いていた。
 耳障りな音割れをしていた放送が、その時ちょうど、終わっていた。


 暁美ほむらは、その伝令に、応答しなかった。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


342 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:46:14 hQoBEZ7Q0
 暁美ほむらの顔は、さかさまになっていた。
 振り向いたジャンと球磨の視界で、驚きに見開いた目と、地面に向けて垂れる長い黒髪が、印象的に映った。


 首と彼女の体は、顔の隣にある。

 リズミカルに、赤い噴水が、その首の断面から噴き出していた。
 皮一枚で繋がった彼女の顔に、少しずつその赤い飛沫がかかっていく。
 彼女の体は、ゆっくりと倒れていった。
 首から背中にかけて、魔法少女衣装をぱっくりと裂いて広がる、三条の赤い爪痕。
 彼女の脚が、何者かに咥え上げられる。


 ヒグマだった。


 ほむらの踝を咥え上げ、ヒグマが立ち上がる。
 力なく垂れ下がるほむらの肉体は、ほっそりとした黒タイツの脚もその付け根まで露わとなり、まるでつまみのスルメのように、足先から喰われていく。


「おああああぁあああぁ!?」


 恐慌の声が上がる。
 ジャン・キルシュタインが、たたらを踏むように後退し、自らのデイパックに躓いて受け身も取れずに後ろへ転がっていた。
 球磨は、そのヒグマを前にしてただ声も出ずに震える。


 ――何故。
 何故だクマ。
 電探には、今でさえ、自分たちの他には何も映っていないクマ。
 音もなく、いつの間にやってきて、いつの間にほむらを殺したクマ!?


 放送である。
 このヒグマは大音声の音割れの中に自分の足音を含ませ、一撃のもとに、断末魔を出させることもなくほむらを仕留めていた。
 そして、電探に映らないこと。
 当然、球磨はこのヒグマを知っている。

 あまりに恙なく進んだ任務に、安堵して忘れていただけだ。
 ほむらと出会ったあの深夜の砲撃戦。
 夾叉に持ち込んだにも関わらず、直後忽然と電探上から姿を消したヒグマ。
 穴持たず12。


 ――あのヒグマだクマ!!


 戦慄と共に、球磨はその目の前に『山の神(キムンカムイ)』の姿を見た。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


343 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:46:56 hQoBEZ7Q0
 星空凛は、落下したはずの暁美ほむらの左腕を見つけ出せていなかった。
 指示されたところの地面を、下草をかき分けていくら探しても、さっぱり見当たらない。
 気が付けば放送が始まっていた。
 これは、ひと段落したところで本人に手伝ってもらうしかないだろう――。

 そう考えて、凛は来た道を引き返す。


「おああああぁあああぁ!?」


 その耳を、ジャン・キルシュタインの裏返った声が叩いていた。
 何事か。
 いったい何があったのかと、駆け出した凛の眼にも、その光景が見えていた。


 ――ヒグマが、ほむほむを逆さ吊りにして、食べている。


 喉が締まって、笛のような音が鳴った。
 息が吸えない。
 地面には、ほむらの首からびちゃびちゃと血が降っていく。
 ぐらぐらと振られるほむらの頭と共に、自分の立つ地面がシェイクされているようにさえ凛は感じた。


「――電波吸収。ステルスによるECMかしら。あの時の、球磨の電探を抜けたヒグマ」


 その揺れていた頭がふと、口を開いていた。
 唇を伝う血液に、そんな呟きが綴られていく。


「ぬかったわ。本当に、反応できないと駄目ね」


 暁美ほむらのさかさまな顔が、いつもの無表情を呈している。
 他人事のように呟きながら、右肩のデイパックを抱えなおしつつ、彼女の右手は、頭部を首の切断面に押さえつける。
 紫色の光が走り、切断されていた首は傷跡もなく接合されていた。
 肺と再交通したその喉に、ほむらが豁然と鬨の声を吹く。


「さあ、何をしているのあなたたち! 戦闘は始まっているのよ!!」


 長い黒髪が、風を孕んで靡いた。
 右手に握られた逆手の多用途銃剣が、高い風切音を鳴らして円弧を描く。
 暁美ほむらは、喰われている左脚を回転軸にして、そのヒグマの顔面へ、腹筋と背筋だけを用いて振りあがっていた。
 人体の可動域を逸脱した動きに、膝関節が抜ける。
 靭帯が引き千切れる痛みなど端から遮断して、ほむらはその銃剣をヒグマの左目に突き立てる。
 そして深々と眼球を抉りながら続けざまに、その顎へ魔力を帯びさせた強烈な右膝蹴りを見舞っていた。


「グルオォオオォオオオォオオオ!?」


 突然の餌の蘇生と反撃に、ヒグマは驚愕した。
 だが、口をこじ開けて逃れようとするその餌の動きまでは許さない。
 蹴り開けられた口へ、前脚を使って、その黒髪の人間を腰元まで押し込み返していた。


「がはあッ!?」


 ほむらの骨盤が砕かれる。
 両脚は完全にヒグマに飲み込まれ、破裂した腸骨動脈から大量の血液が溢れ出た。
 痛みの遮断が遅れ、銃剣から手を放しそうになる。
 しかし、これを放してしまえば最後。
 つっかえ棒として捕食を踏みとどめているこの右手だけは、放すわけにはいかなかった。


 ――時間停止は、使うことができない。


 砂時計のついた盾は、左腕と共に飛んで行ってしまった。
 私の時間停止中の世界では、『触れているものしか動くことができない』。
 その基準点となる盾さえあれば、自分の胴体を切断してでも時を止め、離脱することができるというのに。
 この状態で時間を止めても、肝心の私自身が止まってしまう。
 支給された武器も、いつもの癖でほとんどが盾の中だ。
 全く意味がない。

 本当にこのヒグマは、私たちがぬかりにぬかったタイミングを狙って、出現してきたのだ。
 恐らく私と球磨は、深夜からこのヒグマにずっと付け狙われていた。
 適度に弱り、隙が生まれたその瞬間を狙うように。虎視眈眈と。


 ――こいつは、必ずやここで仕留めておかなければならない。


 私は肉体が食べられたとしても、ソウルジェムだけでも無事ならば、最悪どうにかなる。
 それでも、こんな悪辣な能力と狡猾さを持ったヒグマを取り逃がせば、また何度、私や球磨たちが奇襲されるかわからない。


344 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:47:13 hQoBEZ7Q0
 もう、誰にも頼らないと、決めた。
 共に戦う友などいらないと。
 だが、私の能力が『穴だらけ』なのは、ジャンにもこのヒグマにも散々教えてもらった。

 『穴持たず』というのでしょう、あなたたちは。
 それは正解の道を求める私にはとても羨ましい響きを持つ言葉だけれど。
 『穴を開けられたときに埋める』方法は、知らないのではなくて?

 私には繰り返したループの中で、風穴を開けられた何人もの少女たちがいる。
 私には今進むこの時間の中で、胸を抉ってくれた何人もの協力者がいる。
 素性を明かさぬ私を、ありのままに受け入れてくれた者。
 距離を置いていた私を、一足飛びにあだ名で呼んでくれた者。
 高飛車に接した私を、真っ向から討ち果たしにきてくれた者。
 とうに忘れ去っていた、穴を埋める方法。
 それを思い出させてくれた、イレギュラーたちが私には、いる。

 イレギュラーたちが、私が穴だらけにしていたこの道を、舗装してくれる。
 一人で巡り巡っていたこのボロボロの迷宮を崩して、光を差し入れてくれる。
 道が見える。
 私は道になれる。
 目を閉じて歩いても、彼らが隣で、後ろで、前で、道々の穴を塞いでくれる。
 彼らとなら、私は安心して道を作っていける――。

 とくと見てみなさい、ヒグマ。
 烏合の衆ではない。
 友達の寄合でもない。
 確固たる道を邁進する、これが私の、『軍』よ!


「ジャン! 私が止めている間にこいつを切り刻みなさい! 絶対に逃がさないように!
 球磨! 全砲門発射用意! ジャンの援護と、ヒグマの進路を閉塞して!
 凛! 後はあなたにかかってるの! 盾と紫のソウルジェムよ! お願い、見つけて!!」


 ヒグマにその半身を捕食されながら、指揮官はその部下たちに燃えるような檄を飛ばしていた。
 口元から、プゥッと血の霧が舞う。
 恐懼におののくだけだった3人の部下は、その氷のように的確な指令に、我を取り戻した。

 ――自身がまさに死に瀕している最悪の状況下でも、その怜悧さを失わぬ指揮官。

 ジャン・キルシュタインには、調査兵団における伝説の『兵長』の姿が。
 球磨には、自身の艦長がいつも話してくれた『軍神』の姿が。
 星空凛には、どんなに苦しいライブにも皆を率いて突き進む『先輩』の姿が。

「おおっ!!」
「クマぁ!!」
「うんっ!!」

 その姿が、確かな道の先に、見えた。
 脳裏に浮かぶ絶対のビジョンが、本当に魔法でも使ったかのように、部下たちを震わせる恐怖を鎮めていた。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


345 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:47:37 hQoBEZ7Q0
 球磨が太平洋戦争の折、最後に乗せた艦長は、杉野修一という人物だ。
 彼は終戦時にあの戦艦『長門』を守り抜き、最終的に大佐にまで昇進した。

 彼が自身の父について語るとき、決まって話に上ったのが、その『軍神』。
 広瀬武夫である。
 『軍神』は、杉野が敢えて語らずとも、球磨がその伝説を知っているほどに名の知れ渡った人物だった。

 杉野修一の父は、杉野孫七といい、日露戦争において広瀬武夫の部下として旅順港閉塞作戦に従事した。
 その際、乗船していた福井丸を投錨自爆させる役目を、杉野孫七が担っていた。
 しかし、福井丸はまさにその点火の瞬間、敵の水雷に被弾し瞬時に轟沈した。

 広瀬は、乗組員全員をただちに端舟に移して脱出させた。
 その中で唯一、船倉へ爆薬の点火に向かった杉野孫七のみが、いなかった。

 広瀬は、彼を探した。
 浸水し沈没してゆく船の中を、三度。
 旅順港を囲む山々から大小の砲弾が辺りに炸裂し、探照灯が海面を掃く、この世のものとも思えないような光景のさなかをである。
 杉野の名を懸命に叫び、全員を以て生還させるべく、広瀬武夫はその声を発し続けた。
 このエピソードをもって、彼は『軍神』としてその名を歌に遺す。


 ――ほむらの姿は、まさにこの『軍神』クマ。


 大和魂というのすら生温い。
 仲間と部下の全てを率いて連れ行く、強い意志。
 そして、この人物についていけば大丈夫だと感じる、とてつもない安心感。
 希望。
 運命も何もかもを牽引する、力強い希望の化身である。

 大道廃れて仁義あり。
 道の道とすべきは常の道にあらず。

 自然の摂理と運命から逸脱しようとも、それを捻じ曲げて道を敷く力。
 すさまじいカリスマ性であった。


 ――今までのほむらとは、桁違いクマ――!!


 明らかにほむらの変化は、ジャン・キルシュタインとの勝負の前後に起きている。
 あれだけ秘匿しようとしていた自身の魔法を、自分たちに教えた。
 自身の肉体の破損よりも、自分たちとの話を優先した。
 凛ちゃんやジャンくんに対して、言葉の端々に、欠落していたはずの思いやりが明らかに付加されていた。
 家族愛にも似た、友情の結束。
 友達というのとも、戦友というのとも違う。


 彼女との結束には、『愛』が宿っていた。


 球磨のエンジンの奥底から、ぞくぞくと熱い感情が立ち上ってくる。
 興奮に口元が笑う。


 ――やってやるクマ。
 絶対に、ほむらを助けるクマ。
 ほむらの思いを、必ず叶えて見せるクマ。
 秘書艦として、球磨はほむらに、粉骨砕身するクマ!!


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


346 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:48:21 hQoBEZ7Q0
 穴持たず12は、口に咥えた餌が発した音声で、周囲に点在する3匹の人間の体臭が、明らかに変化したのを捉えていた。
 怯えしか無かったその体が、一瞬にして戦闘状態に。
 その異常性は、ヒグマの本能をして明確に逃走を促させるほどの危機感を抱かせた。


 ――早急にこの餌を噛み殺す。
 同時に全速で撤退し、深夜に砲撃を行なってきたあのアイヌ(人間)を狙う機会をもう一度伺う。


 瞬時に四足歩行となって、穴持たず12は風のような速さで森の木々に走ろうとする。
 しかしその動作に移ろうとした瞬間、彼は左前脚に灼けるような痛みを受けて停止していた。


「させるかヒグマ野郎ッ!! アケミは連れ去らせねぇッ!!」


 地面に転倒していたジャン・キルシュタインが、そのままの体勢からブラスターガンを発射していた。
 その小爆発は、ヒグマ型巨人と同様に明確なダメージにはならなかったものの、その毛皮を確かに焦がすには足りるものだった。
 ほむらが銃剣を突き立てる、ヒグマの左目側。
 かつ、意図せず低姿勢で死角に潜った最善の位置取りを、ジャンは最大限に利用していた。

「クマ! ブラスター! 頼む!」
「ようそろっ! ジャンくん頼んだクマ!!」

 隣の球磨にブラスターガンを投げ渡すと同時に、ジャンの体が跳ねた。
 腹筋で跳ね起きると共に、前方の木立に投射したアンカーのワイヤーを高速で引き戻す。
 穴持たず12の死角である左側を掠めるように、高速旋回するジャンの双剣が走っていた。
 濃い色の毛が空に撥ね飛ぶ。
 しかし、そのブレードが厚い皮の下に届くことはなかった。


 ――鎧の巨人のような硬質さとは多分違うが……、なんて『ねばり』だ、ヒグマの皮膚ッ!!


 木の幹に掴まって驚くジャンに、下から暁美ほむらの声がかかる。

「繊維の方向を見なさい!! 動物である以上、必ず皮にも刺入の容易な点があるはずよ!
 球磨、酸素魚雷は無駄撃ちせず! 単装砲とブラスターガンで、機動力から削いで!
 凛、ソウルジェムの座標は、地表より高い位置! 木にかかってるのかも知れないわ!!」
「クソッ……やってみるッ!!」
「了解クマ!!」
「ごめんね、ほむほむ!! 絶対見つけるから!!」

 ヒグマに右前脚で口へ押し込められながらも、ほむらは全身に紫色の魔力を纏ってその圧力に耐えている。
 脳髄まで抉らんとばかりに眼球に刺した銃剣をこじりながら、発せられるだけの指示を各人に振り絞っていた。
 しかし、どれだけ抵抗しても、一椎体ずつ、寸刻みにほむらの体はヒグマの牙に砕かれていく。


 100メートル以上逃走されても駄目だ。
 ただでさえソウルジェムとの距離が遠く魔力の伝達が悪いというのに。
 たったそれだけ離されるだけで、その瞬間に身体機能は全て停止する。
 指示も出せず、逃走に集中され、私たちはこのヒグマから完全に振り切られてしまうだろう。


 そのほむらの思考に呼応するように、球磨が森の地面を高速で滑り込んでいた。
 タービンを吹かし、全速力でヒグマの進路上に回り込む。
 竣工時の長門すら上回る9万馬力の高出力が、彼女のしなやかな脚を大地に走らせる。
 太平洋戦争の時と同じフル装備、7門の14cm単装砲に加え、両手でしっかりとブラスターガンをヒグマに向けながら、歴戦の巡洋艦が駆動する。


「取り舵一杯、目標9時、全門撃ち方始めクマぁ!!」


 振り向きざまに狙った一斉打方の砲弾が、旧日本海軍の世界最高水準の初弾命中率を以てヒグマの四肢を襲う。
 口元のほむらを完全に避けながらも、砲撃としてはほぼ接射に近い超至近弾がヒグマを叩く。
 左前脚の骨が粉砕され、右半身の肉が肩口から抉れる。
 たじろいだ穴持たず12は逃走経路を変更し、球磨を躱すように森の木々に飛び移り始めた。
 仰角30度を超すと、球磨の単装砲は狙いをつけることができない。

「ジャンくん、撃墜願うクマぁ!!」
「おおっ!!」

 次弾装填しつつ見上げる球磨の上を、ジャン・キルシュタインのワイヤーが伸びた。
 木々の梢を渡って逃走を図るヒグマに、樹冠の上から剣を振りかぶる。


 ――オレとの勝負に、律儀にハンデを抱えたまま最後まで付き合ったから、アケミは喰われてるんだ。
 どう転んでもオレの負けだったのに。オレの力を、今でだってフルに引き出そうとしてくれている。
 ここでアケミを救えなけりゃ、さっきの勝負や今までの訓練で勝ち得たことが、全て無意味になっちまう。
 削ぐ。
 削ぎ殺す。
 アケミに認めて貰い、訓練兵団でも上位に食い込んだこのオレが、ヒグマごとき駆逐できなくてどうする!!


347 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:48:52 hQoBEZ7Q0
「おおらぁああああっ!!」


 ヒグマのうなじの毛並み。
 繊維の走行を見極め、その隙間から抉りこむように剣先を喰い込ませる。
 上空に背部を晒す穴持たず12に、高速落下するジャンの全体重が超硬質ブレードの白刃で襲い掛かる。
 フィレナイフのような撓りを呈しながら、ジャンの双剣はヒグマの毛皮を縦割していた。


 肩甲骨から脊椎を撫で下ろすように筋繊維が分断され、椿の花弁の如く背の肉が彫り出される。


「グオォオオオオ!?」
「やった――! ごほぉ!?」
「ジャンくん!?」

 しかし落下しざま、穴持たず12はその背のジャンを、回転しながら木の幹に叩き付けていた。
 バキバキと、ジャンは自身の肋骨の折れる音を聞きながら地に落ちる。
 肺から空気が絞り出され、痛みと衝撃で身じろぎもできなかった。

 一方のヒグマは墜落から着地すると共に、開いてしまった口で、更に深く、口元の餌を噛み込んでいた。


「がッ……ぶッ……!?」
「ほむらっ!」


 球磨は、立て続けに起きた仲間の甚大な損傷に息を飲む。
 ほむらの口と鼻から、大量の血が噴き出していた。
 胃が食い破られたのだ。

 もう、横隔膜や肺、心臓まで喰いつかれるのにいくばくの猶予もない。
 循環血液も明らかに足りない。
 右腕に力が入らない。
 全身に回すにはもう魔力も限界だ。いったいどれだけソウルジェムは濁っていることか。
 痛覚遮断も解けてきている。
 魔法少女になって以来忘れていた、泣けてくるような痛みだ。
 ジャン・キルシュタインと単装砲でヒグマに致命傷を与えられないなら、覚悟を決めるしかない。
 球磨と、私でできる、最大限の攻撃。
 言葉を発せられるのも、何か行動できるのも、これがきっと、最後のチャンス――。


「球磨……、今から私がする、攻撃のあと、私ごとヒグマを、雷撃処分なさい。
 それで殺せるくらいには、弱らせられる、はずだから……」


 目に涙を湛えながら、口に血の泡を吐き、ほむらは球磨を見やっていた。
 その全身を覆っていた紫の光は、明らかに減弱し、消えかかっている。
 ヒグマは、多少ダメージにふらつきながらも、未だ逃走を続けようと立ち上がっていた。
 島の奥側に立ちはだかる球磨と、真正面から対峙している。


「できないクマ……、そんなの、駄目だクマ……」


 それでも穏やかな、ほむらの眼差しを受けて、球磨は大粒の涙を零しながら、首を振っていた。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


 『軍神』広瀬武夫のエピソードには、勿論続きがある。
 船内を三度、本当に足元が水に浸かるほどまで捜索を続けても、杉野孫七は発見できなかったのだ。
 機関士が、たまりかねて広瀬をボートに促した。
 広瀬はやむなく杉野をあきらめ、船の後部を爆破し、全員で端舟に移っていた。

 砲弾から小銃弾までが周囲に落下し、海は煮えるようであったそうだ。
 あとはボートを漕ぎ続けるのみ。
 しかし、その死地において、隊員は否応にも恐怖で体がかたくなる。

 広瀬はボートの右舷最後部にすわって、泰然とした笑みを湛え、みなを励まし続けた。


「みな、おれの顔をみておれ。見ながら漕ぐんだ」


 旅順港を舐める探照灯が、このボートをとらえつづける。
 そして空中を、巨砲の砲弾が、轟音と共に飛び抜けていた。
 もう少しで離脱できる、その間際。
 広瀬武夫の肉体は消えていた。
 一片の肉片だけをこの世に残り散らせて、彼はその砲弾に吹き飛ばされていたのだ。

 最期まで、仲間のことを思い続けて。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


348 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:49:56 hQoBEZ7Q0
 ――ほむら、やめるクマ。
 ――そんな、球磨みたいな真似を、しないでクマ!!


 全砲門をヒグマに向けたまま、球磨は泣いていた。


 1944年1月11日。
 前世で、球磨が轟沈した命日である。

 彼女は杉野修一艦長を乗せ、対潜戦演習のため、駆逐艦浦波とともにペナン沖にいた。
 そこを、英海軍ツタンカーメン級潜水艦タリー・ホーに発見された。
 タリー・ホーの発射した7発の魚雷のうち5発は回避したものの、右舷後部に2発の被弾を許し、球磨は炎上した。


 浦波とともに、逃げられるだけ逃げた。
 しかし、積んでいた魚雷に誘爆し、球磨はいよいよ沈んでいく。
 杉野は優秀な艦長だった。
 最後まで球磨を助けようとした。

 だが、球磨は、彼を浦波に託した。


 ――優秀だからこそ、球磨の道連れにするわけにはいかなかったクマ。


 ミッドウェイ海戦で空母『蒼龍』と命を共にした柳本柳作艦長。
 あるいは空母『飛龍』の艦橋で、共に沈んでいった加来止男艦長。
 優秀な艦長がその艦と命運を共にすることが、美談として語り継がれるような風潮だった。


 冗談ではない。と、球磨は思う。
 お国のために死んで、魂が靖国の社に行ったところで、どうなる。
 そんな素晴らしい魂ならば、生きられるだけ生きて、皆を助けなければならないはずなのに。
 そしてできるならば魂はずっと、仲間の傍に寄り添っていて欲しいのに――。


 今わの際の球磨の判断が、終戦を迎える時に、戦艦『長門』を生きながらえさせた。


 暁美ほむらの姿は、『軍神』だけでなく、その時の自分の姿に、そっくり重なっていた。
 自分の身を捨て去っても、後世により多くの希望を繋げようとするその姿。
 わかっているのに。
 それが最善の判断だとわかっているはずなのに。
 自分ではなく、仲間がそんな辛い判断をしなければならないのが、見ていられない。
 ほむらを、自分と同じ決断に追い込んでしまった無力さが、許せなかった。


 ほむらは、光の落ちた瞳で笑っていた。
 もう球磨の顔など見えていないだろうに、何もかも解っているような微笑みで。


「……球磨。もう私の体は、残したところで、役に立たないわ。意味がない。あなたたちに、託す」
「なんで、そうやって自分を犠牲にするクマ!!
 役に立たないとか、意味がないとか、勝手に自分を粗末にするなクマぁ!!
 やっと、やっと、こんな場所で提督と僚艦ができたところなのに! ほむらを大切に思う人のことも、考えてクマぁ!!」
「……そう言ってもらえるだけ、私は幸せよ」


349 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:50:22 hQoBEZ7Q0
 ――私自身が、まどかに言いそうなセリフね。


 ほむらは笑いながら、銃剣から手を離した。
 脱力する右腕から、デイパックが落ちてゆく。
 その中に差し入れた手に、過たず掴むものがある。

 暁美ほむらに支給された武器。

 小銃も手榴弾も、確かに自分の使ってきた武器だ。
 しかし、それが『得意武器』かと言われると、微妙なところである。
 自分の支給品は、あと一つだけあった。
 自分が得意武器だと言えるものは、きっと、これだ。
 でもそれは、武器と言うにはあまりに小恥ずかしく、使い道も思いつかなかったから、盾には仕舞わなかった。


 デイパックから、長い柄が滑り出る。
 魔力の切れかけた、貧弱な、少女の力でも、この武器は応えてくれる。
 私がこの迷宮に入る前、まどかが私と一緒に、初めて選んでくれた武器。
 私の持つ武器の中で、唯一、他人からの希望を託された武器だ。
 中古のリサイクルショップで、巴マミと3人で見繕った、思い出の詰まった武器だ――!


 ゴルフクラブ。
 ブリヂストン・オールターゲット11の1番ウッド。ドライバーだ。
 手元のしなりが感じやすく、シャフトの剛性が高く安定している。
 重量が軽いのに、重心位置やフェースの弾きが作りこまれていて非常に打ちやすい。
 心臓病から回復したての私でも、容易にヘッドスピードを出せた。


 薄まってしまった紫の光を、全てこのドライバーに集束させる。
 ヒグマが、抵抗力の抜けた私を口の中へ放り込む。
 その速度さえ加えて、私は残る全力を振り絞って、ある一点をめがけてドライバーをスイングしていた。


「……また会える時まで、指揮を、頼んだわ」


 球磨に向けて、最期の息を吐いた。

 自分の体を、捨てる。
 私はただ、魂に帰るだけ。
 私が皆に渡した希望の分だけ、私の前にどんどん道ができていくのがわかる。
 私の希望が練り上げた工程表に沿って、皆が道の穴を埋めて整備していってくれる。
 見上げた空は、晴れ渡っていて。
 そこから真っ直ぐに、私の元に道が今、ここへ。
 東に昇る暖かな光は、なんだかまどかのように、私を笑顔で包んでくれるように思えた。 


 ドライバーがインパクトした瞬間と、私の大脳が牙に砕かれた瞬間とは、全く同時だった。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


350 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:50:51 hQoBEZ7Q0
 暁美ほむらのドライバーが打ち抜いたのは、89式多用途銃剣の柄頭であった。
 ヒグマの左目に刺さるこの銃剣は、利便性を高めるために、刃渡りと全体長が以前のモデルに比べて短縮されている。
 ほむらがいくら奥まで刺し抜いても、ヒグマの眼窩を割って脳に突き入れることはできなかった。

 しかし今、ほむらはその柄から手を離し、その銃剣全体を穴持たず12の体内に打ち込んでいた。
 27cm。
 眼球の表面から内側へ向けて斜めに、その絶対的な長さが刺入される。
 一般的なヒグマの頭骨は、口端から計っても、その全長は30cm程度しかないのだ。

 篩骨、蝶形骨をぶち抜いて、眼窩が頭蓋内に吹き抜けた。
 頭蓋底に陥入する刃先が動脈輪を貫き、脳神経群を縦横に引き千切り、小脳に突き刺さって止まる。


 穴持たず12が暁美ほむらの体を食いちぎると同時に、その鼻からは勢い良く血が噴き出していた。
 ヒグマの口元から覗く、ほむらの白い右腕から、力なくゴルフクラブが滑り落ちた。


 ――倒れろ倒れろ倒れろ倒れろ――!!


 球磨は、動きを止めているヒグマに向けて、震えながら念じた。

 まだ、ほむらはヒグマの口の中で生きているかも知れない。
 まだ、彼女の体を、助けだせるかも知れない。
 ほむらの一撃で、沈め。
 倒れろ。
 頼むから、轟沈してくれ。
 球磨に、雷撃処分をさせないでクマ。
 自分の身ならいざしらず、球磨は仲間を、魚雷で撃ち殺したくなんてないクマ――!!


 ヒグマは、暫くの間停止していた。
 流れ落ちる鼻血が、口からはみ出るほむらの黒髪を伝って、地に落ちた。
 一歩、ヒグマが踏み出す。
 ごりん、と、ヒグマはほむらを咀嚼した。
 二歩で、ヒグマがほむらのデイパックを踏みつぶした。
 そのまま、穴持たず12は口端で揺れていたほむらの腕を飲み込む。

 ふらつきながらも、彼は四足になり、逃走を再開していた。


「ほむらああああぁあああ!!」


 泣き叫ぶ球磨の声を割るように、穴持たず12は彼女の上を飛び越していた。
 空中でバランスを崩し、肩から落ちたものの、彼は未だ、死には至っていなかった。
 千鳥足のような覚束ない足取りながらも、彼は走っていく。


「ア、アケミッ……!!」


 ジャンが苦痛に耐え起こした眼の先で、放心状態の球磨が見送っていくその先で、穴持たず12の姿は遠くなっていった。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


351 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:51:26 hQoBEZ7Q0
 ひたすら走った。
 ほむほむの鋭い声を聞いて、もう一度森の陰に。

 ――なんで凛は、あの時探すのをあきらめてしまったのにゃ!!

 自分で自分を、叱った。
 もっと早く自分が左腕を見つけていれば、ほむほむはきっとヒグマに食べられなかった。
 そして、今度こそ自分が探し出せなかった場合、ほむほむは死んでしまう。

「凛、ソウルジェムの座標は、地表より高い位置! 木にかかってるのかも知れないわ!!」
「ごめんね、ほむほむ!! 絶対見つけるから!!」

 凛の背中に、それでもほむほむはしっかりと声をかけてくれる。
 叫び返した時に、ほむほむの方は、振り向けなかった。

 ほむほむは、凛に、『役割』を与えてくれたのに。
 『自分のできることは早く見つけておきなさい』とまで言ってくれていたのに。
 凛は、それに応えられなかった。
 『これでいいだろう』と、妥協してしまった。


「全門撃ち方始めクマぁ!!」


 ここが殺し合いの場だとか。
 ヒグマがいるからとか、関係ない。
 中学の陸上部のときから。
 凛は、いつもそうだったにゃ。
 なんでも、できることが中途半端だから。
 真面目に最後までやって、負けるのが嫌だから。
 本気で勝負することから、常に、逃げていたにゃ――。


「おおらぁああああっ!!」


 言われた地点にたどり着いて、辺りを見回す。
 遠くで、ジャンさんやクマっちが叫んでいるのが聞こえる。
 ――あった。

 地面ばかり探していて気がつかなかった木の上。
 枝葉の中に、ほむほむの微かな紫の光が見える。
 ――高いにゃ。

 4〜5mはあるだろうか。
 そんなところの小枝に、ほむほむの左腕は引っかかっていた。
 
 木に登る。
 急がなきゃ。
 ほむほむは今だって、ヒグマに食べられている。
 ジャンさんやクマっち、ほむほむみたいに、凛は特別なことなんてできはしない。
 でも、μ’sのみんなだって、普通の高校生から、アイドルを目指していったんじゃないか。

 大丈夫。
 凛は、運動神経だけはあるんだから。
 ジャンさんだって、良い体だって言ってくれたじゃないか。
 このまま登るにゃ。
 早く、でも正確に、自分の体を持ち上げるにゃ。
 本気を。
 本気を出せば、すぐに届くはずにゃ!

 こんなところで諦めてちゃ、はなよちゃんやみんなに顔向けできない。
 勝負から逃げなかったジャンさんに。
 その勝負をしっかり見るよう言ってくれたクマっちに。
 なにより、こんな凛に命を預けてくれたほむほむに、申し訳も立たないにゃ!!

「……誰よりがんばっちゃえ、とにかく、情熱のままに……!!」

 凛に、力を下さい。
 いつもみんなで歌っていたこの歌で。

 
 ――目指すのは綺麗な風、吹く道。


 幹から太い枝へ。
 梢の先へ。
 ほむほむの腕を掴むように、手を伸ばす。
 枝が体重でたわむ。
 これ以上、進むのは無理だ。枝が折れてしまう。
 あと少しで届くのに――!

 
「羽のように、腕上げて……。
 まぶしい未来へ、と――飛ぶよぉ!!」


352 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:51:56 hQoBEZ7Q0
 跳ねた。
 全身の力を振り絞って、その紫の光の元へ。
 しっかりとその腕をとって、抱え込む。
 凛がどうなっても、絶対にほむほむは守る――。

 落ちながら、梢の先が肌を切っていく。
 見開く目に、急速に地面が近づく。
 足から着地して体勢を崩し、凛は背中から草の上を転がっていた。

「で、できたにゃ……」

 体のあちこちに擦り傷ができてる。
 脚もじんじんと痺れて、痛い。
 でも確かに、ほむほむの腕は、この胸に――。


「ほむらああああぁあああ!!」


 クマっちの、悲痛な叫びが、聞こえた。
 そして、起きあがった凛の目にも、見えてしまった。
 ほむほむを飲み込んだヒグマが、森の奥にふらふらと消えていくのが。

「う、そ……」

 胸に抱えたほむほむの腕。
 そこに宿っていた光は、消えていた。
 菱形をした紫の宝石は、もうほとんど真っ黒に。
 どす黒い墨汁のような濁りに染まってしまっていた。

「そんな……」

 間に合わなかった。
 凛のせいで。
 ほむほむは、食べられてしまった――。

 ぼろぼろと、眼から涙が零れ落ちていた。
 泣いてほむほむが帰ってくるなら、いくらでも泣くのに。
 もう、ほむほむは、いない。
 こんな冷たくなってしまった腕だけを残して――。


 眼を閉じて、現実を遮断した瞼の裏で、ほむほむの黒髪が、手の届かない遠くに靡いていた。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


353 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:52:25 hQoBEZ7Q0
『何を泣いているの、星空凛。
 あなたは立派に、私が願った役割を果たしてくれた。感謝するわ』

 ふと、脳裏に浮かんだほむほむの後ろ姿が、話しかけてきていた。
 瞼の裏の遙か遠くで、ほむほむが振り向く。
 彼女は、蓮の花みたいな可憐さで、笑っていた。


 ――なんで。ほむほむは、凛のせいで、食べられちゃったのに……。

『いいえ。私は、あなたの隣にいる。
 あなたが私に、本気で、真っ直ぐに向かってきてくれたお陰で、私は最後の魔法を、託せた』

 瞼の裏で、ほむほむが左手を差し出す。

『さあ、星空凛。もう一度私たちが会うときまでしっかりと、このタイムラインを歩んでいって。
 きっと勝ち鬨が聞こえる。その瞬間を、見させて――』

 すぐ近くに、ほむほむを感じて。
 眼を開けた。


 ――カリカリカリカリカリ……。


 一滴の雨粒ほどの宇宙。
 私の零した涙が、空中に止まっていた。
 その涙の中に、紫の光が映り込んでいる。

 ほむほむの腕が、凛の手を握っていた。
 その盾の中が開き、紫の砂を湛えた砂時計に、歯車が回っている。


 ――隣にキミがいて……(嬉しい景色)。
 ――隣はキミなんだ。


 星空凛は、暁美ほむらがこの世界に、無限に広がっているのを見た。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


「ジャ、ン、さ、ぁ、あ、あ、あ、あ、ん!!」


 森の木立を、凛の声が裂いていた。
 ジャンが、球磨が、その声に我を取り戻す。
 星空凛が、紫の光を纏って、瞬間移動を繰り返しながら高速で接近していた。

 ――アケミの時間停止。

 ジャンの腕が掴まれる。
 目の前には、燃え上がるような光を放つ、凛の瞳があった。

「ジャンさん、立体機動装置で、クマっちと一緒に飛ぶにゃ!!
 ほむほむが託してくれた思い、みんなで実現させるにゃ!!」
「リン……!」
「凛ちゃん……」

 あばらを押さえるジャンを右手で引っ張りながら、凛は膝崩れする球磨の元に歩み寄る。
 凛の左手を、暁美ほむらの白い左腕がそっと握っていた。
 球磨の左手に、凛はジャンの右腕を掴ませる。


 円の形をした盾が、高貴な色の威光を伴って、開いていた。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


354 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:52:53 hQoBEZ7Q0
 その時既に、穴持たず12の冑(よろい)たる体は、限界寸前であった。


 ――なぜだ。なぜ、キムンカムイ(山の神)たる私が、アイヌ(人間)如きに、ここまで……。

 左前脚を砕かれ、右半身を抉られ、背の肉を削がれた。
 視神経交叉を半切され、眼球から動脈輪を貫かれ、小脳を刺された。
 もはや、視界は暗黒に閉ざされている。
 ただその真っ暗な、死へと続くのみの道を、私はふらふらと逃走していた。

 その暗い、耳と耳の間の世界に、黒髪のメノコ(少女)が座っていた。
 先ほど自分が食い殺した餌であったはずだ。
 彼女の着ていたハヤクペ(冑=肉体)は、確かに私が砕いたはずなのに――。
 彼女は、魂だけでにっこりと笑っていた。
 私の耳と耳の間に突き込まれたマキリ(小刀)から、彼女は私に語り掛ける。


『どうだったかしら。まだまだ人数は少ないけれど、これが今の私の軍隊。
 立ちはだかるイレギュラーが何者であろうと、私たちは乗り越えて、道を進ませてもらうわ』


 その微笑みに、私は気づいた。


 ――ああ。私が戦っていたのは、『戦神』であったか。
 ――『アイヌラックル(人と変わらぬ神)』の化身に、私は無謀にも挑んでしまったのだ。


 アイヌラックルは、地上と人間の平和を守る神だ。
 かつて彼は、巨大な鹿が人間たちを襲い、さらには、夜中に魔女らしき者が現れるという噂を聞きつけていた。
 神々の助言により、アイヌラックルはこの一連の噂こそ、魔神たちが勢力を増す兆しだと知り、地上の平和を守る神として、魔神たちに戦いを挑む決心をした。
 アイヌラックルは大鹿と魔女の退治に出発し、途中、小川のほとりで美しい姫に出逢った。
 彼の妻となるべき、『レタッ・チリ(白鳥)姫』であった。
 アイヌラックルは姫に一礼し、道を急いだ。

 そして遂に大鹿が現れ、早速アイヌラックルに襲い掛かった。
 子供の頃によく鹿と相撲をとっていた彼も、通常の鹿の2倍はあろうかという巨体の前には、さすがに苦戦を強いられた。
 激しい死闘の末、遂にアイヌラックルは大鹿を倒した。

 アイヌラックルは、この鹿は到底野生の者ではなく、もうすぐ成人する自分の力を試すため、天上の神々が使わした者に違いないと悟った。
 アイヌラックルは大鹿を手厚く葬り、地上の神である自分は相手が何者であろうと戦わなければならないことを告げた。

 そしてアイヌラックルが真新しい矢を天上目掛けて射ると、大鹿の魂はその矢に乗り、天上へと帰って行ったという。


 ――それならば、私はカムイの一柱として、あなたの道に光あらんことを祈ろう。
 ――魔女と魔神を討ち果たし、愛する姫と結ばれるよう、あなたをカントモシリ(天上の国)から応援しよう。
 ――願わくは、ユーカラ(伝説)と同じく、私が天上に帰れるよう、手厚い葬送を――。

『ええ。四連装酸素魚雷で良ければ。今、私の仲間たちが、あなたの上に、撃ってくれたところよ』

 私の耳と耳の間に座るアイヌラックルの少女は、その腕の盾を閉じた。
 紫色の砂時計が、再び時を刻み始める。

 ――あなたのようなカムイと手合せできたことに、感謝する……。

『私も、感謝するわ。穴持たずのヒグマ』


 私の上で二人の伴を連れ矢を番える人間は、アイヌラックルを優しく、時に厳しく養育した『イレシュ・サポ(育ての姉)姫』であったようだ。
 ユーカラ通り、火を司る彼女までいるのであれば問題ないだろう。
 カントモシリに帰ったら、すぐさま彼女たちを全力で支援だ。
 アイヌラックルの少女が、白鳥姫と結ばれるのが今から楽しみである。


 そして、育ての姉姫が真新しい雷撃を私目掛けて射てくれたので、私の魂はその爆発に乗り、天上へと帰って行った。


    ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


355 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:53:32 hQoBEZ7Q0
 落ちていた打球棒を、そっと拾い上げた。
 今ではゴルフクラブと言うんだったっけ。
 敵性スポーツの孔球にご執心だったとは、ほむらも内向的に見えて大胆な奴クマ。


 球磨の後ろで、凛ちゃんとジャンくんが、声を潜めて泣いている。
 凛ちゃんは、血の気の失せたほむらの腕を抱えて。
 ジャンくんは凛ちゃんの背をさすってあげながら、ほむらのあげた立体起動装置を見つめて、鼻をすすってるクマ。
 やっぱり若い者は涙もろすぎていかんクマ。
 年とっても、涙腺が緩んできていかんクマ。


 ほむら、これで良かったクマね。
 命令通りヒグマはほむらごと、きちんと欠片も残さず雷撃処分したクマ。

 ……ただほむらを救うためだけに、球磨は今ほむらを殺し、ほむらを見捨ててしまったクマ。
 だから球磨は、ほむらがまたこの世に建造されてくるまで、提督不在中のこの艦隊を、旗艦としてしっかり引っ張るクマよ。
 球磨が教えるまでもなく、命令系統を最後に動かす絶対の信頼を学び取るなんて、ほむらは油断のならない子だクマ。
 本当、球磨のこんな性格まで計算に入れて命令してたんなら、やっぱり最初に思った通り、ほむらには完全に気を許せないクマ。

 そんな危険なほむらのゴルフクラブは、帰ってくるまで球磨がもらっちゃうクマ。もう離さないクマ。
 ふっふっふ〜、悔しいクマ? 形見になんてさせないクマよー。
 再着任したら、ほむらには経年劣化した球磨の涙腺もメンテナンスさせてやるクマ。
 球磨に艦隊ごと預けっぱなしで帰ってこないとか、絶対許さないクマ。クマクマッ!


「……ほむら、お疲れだクマ。偶にはゆっくり休むといいクマ」


 ……だから、しっかり目を閉じて立ち止まって。
 帰ってこれるようになるまでは、ゆっくり英気を養うといいクマ。
 二宮金次郎みたいに積みっぱなしの荷物も、その間にきっと降ろせるクマー……。


 ――ありがとう。そうさせてもらうわ。


 すぐ近くに、ほむらの声が舞ったような気がして。
 球磨は晴れ晴れとした空に、ほむらと一緒に広がった、唯一無辺を思い出した。


【F-8 森林/朝】


【穴持たず12 天上から『ほむまど』支援を予約しつつ死亡】


356 : Timelineの東 :2014/03/12(水) 00:54:06 hQoBEZ7Q0
【ジャン・キルシュタイン@進撃の巨人】
状態:右第5,6肋骨骨折
装備:ブラスターガン@スターウォーズ(94/100)、ほむらの立体機動装置(替え刃:3/4,4/4)
道具:基本支給品、ランダム支給品×2
基本思考:生きる
0:あぁ……クソが……最悪だチクショウ……アケミがいなくなるなんて……。
1:アケミを復活させられるよう、クマやリンと協力して生き抜く。
2:ヒグマ、絶対に駆逐してやる。今度は削ぎ殺す。アケミみたいに脳を抉ってでも。
3:アケミが戻ってくるまで、オレがしっかり状況を見て作戦を立ててやる。
4:リンもクマも、すごい奴らだよ。こいつらとなら、やれる。
[備考]
※ほむらの魔法を見て、殺し合いに乗るのは馬鹿の所業だろうと思いました。
※凛のことを男だと勘違いしています。
※残りのランダム支給品は、『進撃の巨人』内には存在しない物品です。


【星空凛@ラブライブ!】
状態:全身に擦り傷、発情?
装備:ほむらの左腕@魔法少女まどか☆マギカ
道具:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
基本思考:この試練から、高く飛び立つ
0:ほむほむのソウルジェムは、本気で、守り抜くから……!
1:自分がこの試練においてできることを見つける。
2:ほむほむやはなよちゃんに認めてもらえるような本気で、ヒグマへの試練にも立ち向かうにゃ!
3:ジャンさんに、凛が女の子なんだって認めてもらえるよう頑張るにゃ!
4:クマっちが言ってくれた伝令なら……、凛にもできるかにゃ?
[備考]
※ほむらより、魔法の発動権を半分委譲されています。
※盾の中の武器を取り出したり、魔力自体の操作もある程度可能でしょう。


【球磨@艦隊これくしょん】
状態:健康
装備:14cm単装砲、61cm四連装酸素魚雷、13号対空電探(備品)、双眼鏡(備品)
道具:基本支給品、ほむらのゴルフクラブ@魔法少女まどか☆マギカ
基本思考:ほむらを甦らせて、一緒に会場から脱出する
0:ほむらの願いを、絶対に叶えてあげるクマ。
1:ほむらが託してくれた『軍』を、きっちり導いて行くクマ。
2:ジャンくんも凛ちゃんも、本当に優秀な僚艦クマ……。
3:これ以上仲間に、球磨やほむらのような辛い決断をさせはしないクマ。
4:もう二度と、接近するヒグマを見落とすなんて油断はしないクマ。


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:左下腕のみ
装備:ソウルジェム(濁り:極大)
道具:89式5.56mm小銃(30/30、バイポッド付き)、MkII手榴弾×10
基本思考:他者を利用して速やかに会場からの脱出
0:本当に、あなたたちと出会えたことを、感謝するわ。
1:まどか……今度こそあなたを
2:脱出に向けて、統制の取れた軍隊を編成する。
3:もう身体再生に回せる魔力はない。回復できるまで、球磨たちに、託す。
4:私とあなたたちが作り上げた道よ。私が目を閉じても、歩きぬけると、信じているわ。
[備考]
※ほぼ、時間遡行を行なった直後の日時からの参戦です。
※まだ砂時計の砂が落ちきる日時ではないため、時間遡行魔法は使用できません。
※左腕と武器の盾しか残っていないため、ほとんど身動きができません。腕だけで何か行動したりテレパシーを送るにも魔力を消費します。
※時間停止にして連続30秒、分割して10秒×5回程度の魔力しか残っておらず、使い切ると魔女化します。


357 : 名無しさん :2014/03/12(水) 00:54:40 hQoBEZ7Q0
代理投下終了いたします。


358 : 名無しさん :2014/03/12(水) 02:33:30 Ye/vmJ8.0
投下乙
ジャンも球磨も凛も格好いい!
しかし凄まじい戦いだった…てかほむら不死身すぎる
こんな姿になってもリーダーの気質に溢れてて最高だぜ


359 : 名無しさん :2014/03/12(水) 23:54:08 6cPevxBo0
投下乙です
ほむらが段々喰われていくシーンでめっちゃ興奮した


360 : 名無しさん :2014/03/15(土) 23:52:42 9.48vxQsO
投下お疲れ様です

Wikiへの本編の収録と収録されたSSの記述を行っておきました
投下順は随分前から更新止まってたので時系列順のみです


361 : 名無しさん :2014/03/16(日) 02:46:43 5rmlQTCs0
投下&wiki更新乙です!
現在地確認したら美琴が結構ヤバい位置に居てワラタ
てか左下密集しすぎだよwさて次はどのキャラが動くのやら


362 : ◆/wOAw.sZ6U :2014/03/18(火) 03:19:32 AHNhpCx20
投下とwiki編集お疲れ様です〜。
浅倉威、駆紋戒斗を予約させていただきます。


363 : 名無しさん :2014/03/18(火) 20:24:05 YKBGy2OIO
Wikiの参加者名簿を編集しました。
外から来た人達と主催関係者は別枠に纏めました。
ヴァンさんは参加者なのか乱入者なのか微妙ですが。


364 : ◆Dme3n.ES16 :2014/03/19(水) 01:45:20 7S6nPzN20
高橋幸児、御坂美琴、メロン熊、くまモン、ペドベアー、
総統、吉田君、菩薩峠君、レオナルド博士、フィリップ、バーサーカー
で予約


365 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/03/19(水) 16:08:25 iChcXqhAO
カズマ、佐倉杏子、黒騎れい、狛枝凪斗で予約


366 : 名無しさん :2014/03/22(土) 23:17:47 kRiYxmBc0
◆wgC73NFT9I氏の代理投下でフォックス、ヒグマになった李徴子、隻眼2、ウェカピポの妹の夫投下致します。


367 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:20:47 kRiYxmBc0
 言葉にできないような美しさの、海。

 それでも。
 『海』という文字でしか海を知らなかったあいつと一緒に見た海は。
 もっと、息をするのさえ忘れるくらい、美しかった。


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


「文字ノ精ガ人間ノ眼ヲ喰イアラスコト、猶、蛆虫ガ胡桃ノ固キ殻ヲ穿チテ、中ノ実ヲ巧ニ喰イツクスガ如シ」

「文字ノ精ハ人間ノ鼻・咽喉・腹等ヲモ犯スモノノ如シ」

「文字ノ害タル、人間ノ頭脳ヲ犯シ、精神ヲ痲痺セシムルニ至ッテ、スナワチ極マル。」


 文字を覚える以前に比べて、職人は腕が鈍り、戦士は臆病になり、猟師は獅子を射損うことが多くなった。これは統計の明らかに示す所である。文字に親しむようになってから、女を抱いても一向楽しゅうなくなったという訴えもあった。
 もっとも、こう言出したのは、七十歳を越した老人であるから、これは文字のせいではないかも知れぬ。
 ナブ・アヘ・エリバはこう考えた。
 埃及人は、ある物の影を、その物の魂の一部と見做みなしているようだが、文字は、その影のようなものではないのか。


(中島敦『文字禍』より)


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


368 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:21:51 kRiYxmBc0
―――その時の様子を、ヒグマは後にこう語る―――


 ええ、僕は逃げてました。
 すいませんね逃げ腰で。でも、どう考えても逃げて正解でしたよ僕なんかじゃ。

 魔法少女っていうものの強さを、僕は初めて目の当たりにしました。
 真っ白な服と金色の硬貨を舞い散らせて、猟銃なんか足元にも及ばない乱射乱撃の銃弾の雨です。
 片脚が撃たれてたとは言え、逃げる穴持たず5さんに空中からピッタリ追いすがってましてね。
 もう僕はその時半分逃げてたんですが。

 決死のジャンプで、彼はその魔法少女を撃墜しようとしてましたが、今度は逆に大量の紙束みたいなものに絡めとられて、墜落です。
 その後は、今まで撃たれた硬貨が全部彼の体に殺到したんですよね。

 続き?
 無いですよ。

 だってあんな大量の金貨にすり潰されたら、死にますよ、誰だって!!


 兎に角、キュゥべえさんと魔法の恐ろしさは身に染みたので、島の中心に向けて急いで逃げていったわけです。
 そこでもまた激戦を目にしちゃいましてね。


 奇妙な装置を身に着けた人間の男の子と、黒髪の女の子――たぶんこの子も魔法少女だったんでしょうね。
 その二人が森の上空で凄まじい試合を繰り広げていました。

 瞬間移動する黒髪の魔法少女に、男の子はワイヤーを使った空間機動で巧みに対応し、光線銃や投擲剣なんかで的確に攻撃していたんです。
 最後は魔法少女の方も、投げ技で応戦するしかなかったみたいですね。
 これは純然たる試合か決闘だったようで、特に後腐れもなく終わっていました。


 で、まあ、夜中から戦いの現場にばかり出くわす僕ですが、ここでようやく隙を見て人間の一人くらい食べにいけるかなぁと思ったんです。
 ですが、先客がいまして。
 穴持たずの、12番の方だそうです。
 気配が全くというほど感じられないヒグマでした。
 ……隣で話しかけられるまで、僕ですら彼の存在には全く気づけませんでして。

『……あのアイヌ達は私の獲物だ。その冑(よろい)の耳と耳の間に座りたくなくば、キミは下がっていなさい』

 と、言われまして……。
 すっごく怖かったです。


369 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:22:23 kRiYxmBc0
 とりあえず後学のためと思って、遠間から彼の狩りを見学させてもらったんですが。
 彼は運が悪かったとしか言いようがありませんね。
 最初に、隙だらけで手傷も負っていた、例の黒髪の魔法少女を彼は襲いました。
 そして、彼は女の子を確かに仕留めたんですよ。首も折れて、足からむしゃむしゃ食べてましたし。

 でも、彼女は、神か悪魔か、とりあえずそんな生物の常識を逸脱した者の如く蘇りました。

 そして、喰われながら、その場にいた全員に恐ろしいほど冷静で的確な指示を飛ばしたんですよ!
 穴持たず12さんも僕も、その瞬間は驚きで動けませんでした。
 彼は必死に逃げながら、その女の子を食べつくしました。
 ですが、彼女は本当に、食い尽くされる最後の瞬間まで仲間への指示と戦闘行動を継続してまして。もうどっちが狩る側だか狩られる側だかわかりませんでしたよ。

 結局、穴持たず12さんは左眼を僕のように潰され、脳を抉られ、爆弾を落とされて死んじゃいました。
 もう僕は泣きたかったです。


 人間って、ヒグマより遥かに恐ろしい生き物なんじゃないかって。


 ヒグマが如何に強い力を持っていても。
 腕一本と信念だけで、力を受け止めた先に奇跡を起こす人間がいます。
 お金とかいうものの力だけで、完全にヒグマ一頭の力を凌駕してくる人間がいます。
 言葉と態度と自分の肉体だけで、仲間の力を見せつけてくる人間がいます。

 だから僕は思いました。

 この先、自分一頭だけじゃ絶対に生き残れない。
 ほとんど群れたこともないヒグマですが、僕も仲間を見つけて力を合わせない限り、こんな人間たちや他のヒグマには立ち向かえるわけがないと。


 ええ、そうして、更に走って走って、逃げている時でした。僕が彼と出会ったのは――。


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


370 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:23:49 kRiYxmBc0
「……もう、夜明けだな」


 オレは放送を聞いて、林立する建物を透かして見える海から目を逸らした。
 相当、人が死んだらしい。
 6時間の間ずっと、この建物の中で様子を伺っていたが、やはり外には人喰いのヒグマが相当数うろついているようだ。

 夜中に起きた火山の噴火。そして、朝方にこのE-6エリア一帯を一度は埋め尽くしたクッキーの嵐。
 珍妙な現象ばかり起きるので、命を守るためにはここに隠れておくのも良いかと思った。
 ハイソなことに、この建物には故郷で発明されたばかりのエスプレッソマシンが置いてあった。
 伝統あるコーヒー文化が時代に合わせ素直に進化したエスプレッソは、実に尊敬に値する飲み物だ。
 オレは謎のヒグマが空を飛びながらクッキーの嵐を食い尽くす前に、何枚か窓から確保しておいた紅茶ビスケットやチョコチップクッキーをつまみつつ、お湯多めのルンゴを淹れて時間を潰していた。

 だが、やはり性に合わない。
 いつまでも待ったり、こそこそと策を弄するのは、流儀に反する。オレの嫌いなことだ。
 クッキーの中に、コラトゥーラかブリストみたいな明らかにクッキーとしてはハズレな味と匂いのものが混ざっていたことも嫌気がさした原因の一つだ。
 何が嬉しくて血や臓物味のクッキーをヒグマみたいに喰わねばならんのだ。

 生きて帰るためには、こちらから積極的にヒグマを狩るしかない。
 それで生き残れればそれでいいし、ヒグマを狩ったことで助かる他の参加者が、オレの代わりに脱出法を見つけてくれるかも知れない。
 参加者さえオレを殺しにくるのなら、それもそれで、正当に決闘し、討ち果たせばいい。


 階段を降りる建物の内装は、オレのいたネアポリス王国とは大分異なっている。
 窓の外の景色を見ていても思ったことだが。
 恐らくこの建物と周辺の街並みは、事務作業を効率的にこなすために設計された建物たちだ。
 ヴェスヴィオ火山のような山(夜中に噴火したし、まずもって活火山だ)に隣接してるにしては新しいというか。
 金属的。機能的。
 それでいて長い間研究されてきた伝統と流儀を忠実に守っているが故の、噴火とクッキーの雨に負けない堅牢な高層建築だ。
 主催者の名前はアリトミといったか。
 多分、東洋。日本の名前だ。
 ここはその日本の、北国の島だ。

 美しい。
 敬意を払うべき、古き良き流儀が、ここには息づいている。
 殺し合いだのヒグマだの関係なしに、一度あいつと一緒に来てみたいとも思う。


 そのためには、オレは帰らなければならない。

 オレには、今日ヤるはずだった、決闘が控えている。
 奴を、待たせている。
 遅れずに来いと言ったのはオレの方なのにな。

 すまないが延期させることになっちまった。
 付き添い人を頼んだツェペリさんにも迷惑をかけちまう。
 その件で新たに決闘を申し込んでくれても、オレは文句は言わん。
 どれもこれも、オレを攫った主催者アリトミとやらの所為だ。
 血反吐を吐くまで殴りながら殺りまくってやらにゃあ気が済まねぇ。


371 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:25:14 kRiYxmBc0
 主催者どもがいる場所の見当はついている。
 地図を一目見た瞬間に、一発で分かった。
 オレの一番嫌いなやり方で、折角の建築の流儀を台無しにするような都市設計だったからな。
 爆弾つきの首輪が鬱陶しいが、どうしても解除の仕方がわかんねぇ時は、この『技術』で爆発位置を移動させて、命がちょっとでも残ってる間に殴ってやる。


 オレのこの『技術』は、奴より劣っているだろう。
 剣なら勝てるかも知れんが、奴の『技術』は仕事仲間の内でもピカイチの腕だからな。
 だがそれは、奴がキチンと祖先から受け継ぐ流儀に敬意を払っていたからだ。
 オレも、流儀には敬意を払う。
 親父は財務官だし、ちっちぇえ頃からそこら辺は厳しかった。
 勝てる見込みが薄くても、流儀に則った決闘を、オレはする。
 どうせ勝てても、奴を絶命させられるほどの威力は、オレには出せないだろう。
 だから、ネアポリスに戻って決闘した後は、奴は『消す』。
 死んだことにして、国外追放だ。
 オレの体面も、あいつとの生活も、奴の命も、祖先への敬意も、全部守れる素晴らしい方法だろう?


 オレが気に食わないのは、奴がこそこそ裏から根回しをした、そのこすっからい所業だ。
 あいつは、オレの歪みと鬱憤を、全部受け止めてくれた。
 何の取り得もねぇつまんねぇ女だったが、オレにとっては掛け替えのない女だ。
 奴と違って不器用だし、メシはオレの方が旨く作れるし、性格の尊大さだけは奴に似てるし。
 だが、殴りながらヤらせてくれて、それでもオレを受け入れてくれる女なんて、あいつだけだ。
 ツンツンしてた口ぶりが、ベッドの上でヤりまくる時だけは気弱になって、そん時のカワイイ表情が良いんだ、あいつは。
 例え義理の兄で仕事仲間だからって、神聖な夫婦の間のことに、そんな小賢しい裏工作で立ち入ろうなんざ許せねぇ。
 オレとあいつを別れさせたいなら、法王に直訴なんざしねぇで最初から決闘を申し込んで来いってんだ。
 あいつもあいつだ。オレのせいで片目が見えなくなってたなんて、なんで面と向かって言わなかった。
 おまえら兄妹揃いも揃って、大切なことは全部、流儀をかわして回りくどいやり方でしやがる。


 流儀を、わからせてやる。
 ヒグマにも。
 参加者にも。
 主催者にも。
 帰った後はおまえにもだ、ウェカピポ――。


 デイパックから二つの鉄球を腰のホルダーに提げ、携えた剣の重みを確かめて、オレは建物のドアを押し開けた。


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


372 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:25:55 kRiYxmBc0
 ちょうどオフィス街の一角。エリアE-6に南側から入った時でしたね。
 ここまでくればいいだろうと、逃げる速度を緩めて歩いていた時のことです。
 目の前の路地から、一人の人間の男が出てきていました。
 何でしょう、貴族風というか、いかにも上流階級の者だ、というような身のこなしでしたね。

 黒髪をポマードで固めて、紫のコートにスカーフ。
 腰には西洋剣を提げて、何か珠のようなものも持っています。
 肩のデイパックが酷く場違いに見えました。

 そして彼は、僕の姿を見ても特に慌てた様子もなく、ふと息を吐いて、その剣を鞘から抜いて僕に向けてきました。


「……早速ヒグマか。オレは日本のサムライの流儀には詳しくないんだが……。
 いや、それとも、マタギとかいう猟師の流儀に則るべきなのか? 仕留めた後は敬意を込めて心臓を開くんだったか?
 まぁ、もたもたする事もない……一瞬でカタをつけよう」


 信じられますか?
 ただの人間が、ヒグマにあえて向かってこようとしてるんですよ。
 何かの自信か根拠があるのか知りませんが、とにかくこの人間も今まで見てきたアブナイ連中の一人だと僕は思いましたね。

 武器は剣なのかと思って、僕は彼の走り来るであろう間合いから飛び退りました。
 ですが、飛んできたのは剣の突きではありませんでした。
 彼は、空いた左手で、あるものを投げてきたんです。

 皆さん知ってますよね、金平糖とかいう人間のお菓子。
 前ちょっと落ちているのを食べたことがあるんですが、あんなやつです。
 あれが人間の手のひらサイズにまで大きくなったやつ。


 そんな形をした、『鉄球』でした。


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


「ウオォオオオォオオ!?」


 当然、弾き飛ばしました。
 回転する鉄球の威力はかなり高く、受けた左前脚に内出血が起こるのがわかるほどでしたが、それでも僕だってヒグマの一頭ですから。流石にそれを弾く位の腕力はあります。
 しかし、攻撃はそれだけでは終わりませんでした。

 弾いた鉄球の表面から、更に小さな球体が飛び出し、僕目掛けて散弾のように襲い掛かってきたんです。
 右眼で瞬間的に把握したその数、実に14個。
 小さな鉄球とは言え、目や口の中に打ち込まれたらシャレにならない速度でした。

「ガアァアアァアアア!!」

 前脚で顔面をガードしながら耐えました。
 ですが流星の砕けていくような鉄球の攻勢が終わる時、その人間は僕に向け、こう言い放ったんです。


「『壊れゆく鉄球(レッキング・ボール)』。これがオレたち王族護衛官の受け継ぐ『技術』であり『流儀』だ。
 すまないがサムライの流儀にもマタギの流儀にも明るくないから、オレたちの流儀と戦法でやらせてもらう」


 それだけ言い残して、彼は僕の視界から、忽然と姿を消していました。
 どこに行ったんだか、さっぱり解りません。

 気が付けば、視界の左半分が、ごっそり欠落していました。
 もともと僕は左眼が潰れていますが、そのせいではありません。
 右眼で見えるはずの左側の半分も、消え失せてしまっているんです。
 視界だけではありません。
 音も、匂いも、触覚も、さっき鉄球を弾いた左前脚の痛みも、体半分がごっそり消えてしまったみたいに左の感覚が全くなくなっているんです。


373 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:26:59 kRiYxmBc0
 ――左半身失調。


 どういう理屈か知りませんが、先ほどの鉄球を受けたせいで、僕の右脳の機能が一時的に麻痺してしまったようなのです。
 パニックになる寸前でしたが、直感的に、なんとかギリギリのところで僕はこの現象を認識することができました。
 僕が隻眼であること。
 これが僕の命を救ったんです。
 左眼が潰されてしばらく経つので、僕の左側の認知機能の一部が、右脳だけでなく左脳でも処理されるようになっていたんでしょうね。

 僕は、感覚のない左側から迫る刃の閃きを、一瞬だけ感じ取ることができました。

「グロォオオオオオッ!?」
「む……、見られたのか?」

 男の剣が、僕の顔を切り裂いていました。
 左の瞼から、頬にかけて、皮一枚。
 一瞬でも身を躱すのが遅ければ、目から脳みそまで貫かれて抉られ、僕は殺されていたでしょう。


「元々眼が潰れていた分、いくばくか適応していたのかも知れないな。
 左側失調の範囲を見誤った。だが、次はない」


 彼の左手には、さっき投げたはずの鉄球が、小さな14個の弾も合わせて、過たず戻ってきていました。
 左半身失調は、十数秒すれば元に戻るようですが、その間に完全なる死角から襲われれば、何をすることもできません。
 万事窮す――。


 そして、彼が今一度鉄球を投げようとしたときでした。
 空がにわかに掻き曇って、暗くなっていました。
 男の人と僕は、揃って上を見上げていましたね。


「……これは。近くに落ちるな……」
「グルォオオ!?」


 上から、巨大な人間の靴底のようなものが降ってきていたんです。
 火山から、本当に巨大な人間が出現していたんですよ。あなたがたも見ましたよね?
 こんな考えと戦闘に夢中になっていたせいか。どうも感覚が鈍っていけません。
 少なくとも僕は、その巨人の存在にその時まで気づかなかったんです。

 もう、戦闘どころじゃなかったです。
 足の裏が落ちてくるまで数秒も残ってませんでしたが、僕らは逃げました。

 長径ゆうに数百メートルはあろうかという、巨大な靴底が、上空数千メートルから高速落下してくるんです。
 風圧に耐えようと、丸くなりました。
 男の人は投げようとしていた鉄球を、自分の体に押し当ててましたね。


 続き?
 無いですよ。

 ――この後は、ご説明することもないでしょう?


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


374 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:28:18 kRiYxmBc0
「あ、あぶねぇトコだったぜ……」

 髷を結った男が、ヒグマの背の上で瞑っていた眼を開いた。
 風圧を感じるほどの近くで、背後にあった平原は巨人の脚に踏みつぶされていた。
 自分が背につかまっていたヒグマ――李徴という人物が、その直前から気づいて全速力で草原を走り抜けていなければ、自分たちは二人とも確実にぺちゃんこのエビセンベイのようになってしまっていただろう。
 草原を踏みつぶした白髪の巨人は、『わしはすぐに行くぞ、アカギィィィィィ!!!』などとよくわからない言葉を叫びながら、地響きを立てて島から離れていった。
 オフィス街の中に、ヘッドスライディングのようにして滑り込んだ李徴の行動は、ヒグマの状態に『酔って』いるにしては冴えた判断だった。


「……作品だけは、私の作品だけは、潰させるわけには……」


 背の男――フォックスは、ヒグマの姿の李徴が、人語でそうぶつぶつと呟いていることに気がつく。

「おい、李徴さんよ、あんた、正気に戻ったのか?」
「ひゃい!?」
「おいおい何慌ててんだよ。今更ヒグマになんなくていいから。
 どうして人間の気持ちに戻ったんだあんた」

 腹ばいで倒れ込んでいた李徴は、その呼びかけに我を取り戻し、焦って起きあがる。
 フォックスはその狼狽を、ジョッキーのように手慣れた動きで宥め、彼の次の言葉を促した。
 震えながら視線を背中に送り、李徴はぼそぼそと言い訳がましく笑っていた。

「……今さっき、放送が流れただろう。死者44名。
 あれを聞いたら、どうしても考察したいという気持ちが心の奥から湧いてきて……。気づいたら人間に戻っていた。
 ……自分はやはりロワ書き手なのだ。その業からは逃れられないんだぁあ!!」
「落ち着けよ! いいじゃねぇか放送ごとに人間に戻れるんなら!!」
「あああ、紙と筆が欲しい! 書きたい!
 対主催になるにしてもマーダーになるにしても必須だぞ放送の考察は!!」

 狂乱したように腕を振り辺りを見回す李徴の眼は、そのときようやく、自分たちの様子を伺っている二対の視線に気がついていた。
 遅れて、肩越しに見やるフォックスもその眼に気づく。

 彼らと同様に風圧で吹っ飛ばされたらしい、一人の人間と、一頭のヒグマだった。
 人間の男は、掌で回転させていた鉄球を停止させる。
 樫の木のように硬く引き絞られていた皮膚が元に戻っていた。


「おまえら……一体何者だ? ここでは人間とヒグマが行動を共にするのが流儀なのか?」
「グルォ……、グルルルルウルルル……?」


 男と隻眼のヒグマが、揃って問いかける。
 李徴の耳には、そのヒグマの言葉が、『僕も……、そこが疑問なんですけど……?』という意味を伴って聞こえていた。


 李徴は悶絶した。


「あああ、ヒグマの言葉がわかってしまう!!
 駄目だ! 自分はやはりヒグマなのだ!! 今少し経たてば、俺の中の人間の心は、獣としての習慣の中にすっかり埋もれて消えてしまう!!」
「馬鹿ヤロッ!! だったら猶更今のうちに考えられるだけ考えとけよ!!
 すまねぇあんたたち、こいつを抑えるの手伝ってくれるか?」
「ヒグマと意志疎通するのが流儀なのか……。驚いたな。
 まぁ、『壊れゆく鉄球』は捕縛にも適しているし。敵対するつもりがないなら構わないが……」


 男は、暴れる李徴を抑えているフォックスを尻目に、隻眼のヒグマの方を見やっていた。
 伏し目がちに身を引きながら、ヒグマはか細い声で唸る。


『もう左半身失調はこりごりですので、僕が生き残れるんでしたらそれで構いませんけれど……』


 と、彼は言っていたのである。
 文字もなく言葉も通じない人間とヒグマであったが、李徴以外の人間にも、彼の様子から大体言わんとしている事柄は伝わっていた。


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


375 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:30:50 kRiYxmBc0
 金属的な建物の林立する交差点のど真ん中に、奇妙な生物の集団が形成されていた。
 ヒグマが二頭、人間が二人。
 そのヒグマのうち一頭は、李徴という人間だったらしい。
 人が殺し合う小説を書いていたら気が狂ってヒグマになり、当の殺し合いの会場に連れて来られていたというのだから、因果応報の伝統の恐ろしさを実感できる。
 隻眼のヒグマが語る唸り声を同時通訳しつつ、彼はその内容に逐一興奮気味に相槌を打っていた。
 その李徴の大きな背中の上には、剃り上げた髪を頭頂部で結い上げるという奇妙な髪形の男、フォックスが乗っている。日本の拳法家だそうなので、そのサムライのような髪型は恐らく彼の流派の流儀だ。
 革ベルトを基本にした鎧を着ていて、蛮人か何かのような人相の悪い顔をしているが、今現在彼は隻眼のヒグマの語るこの島で起きた戦いの内容を、慣れない手つきで必死に口述筆記していた。

 彼が打つのは、平たい板を二枚合わせたような形の、新型のタイプライターのようだ。
 キータッチは非常に軽そうで、文字の訂正もインクではなく電気で行なっているのか、非常に便利そうだ。
 100年以上の伝統を持って徐々に進化してきたタイプライターをここまで便利にさせたのなら、日本は敬ってしかるべき技術大国であるといえよう。

 人間のうちのもう一人は、オレだ。
 正直、ただの人喰いだと思っていたヒグマが元人間だったり、ここまで深い戦いの観察をしているものだとは思っていなかった。
 自然は、この世界の中で最も長く尊い伝統と流儀を有している存在だ。
 だからオレはその一部であるヒグマにも敬意は払う。
 堂々と流儀に則った戦いの上で殺害すべき存在だと、オレは思っていた。

 しかし、よくよく考えてみると、オレはネアポリスと王族護衛官の流儀は知っているが、やはりサムライや、ヒグマの流儀は知らない。
 ヒグマの流儀を知らずして、王族護衛官の流儀と戦法でヒグマに戦いを挑んでしまったのは、やはり大変失礼な行為に当たるだろう。
 郷に入れば郷に従え。
 ローマにありてはローマ人の如く生き、その他にありては彼の者の如く生きよ、だ。


 オレとの戦闘のくだりが終わって、李徴は隻眼のヒグマに、眼を輝かせながら語り掛けていた。


「……素晴らしい!! 何という緻密な観察か。貴公もロワ書き手になるべきだ!!
 まさしくロワイアルにおいて一隻眼を持っているぞ! 是非ともお名前をお聞かせ願いたい!!」
『へ……? 僕たち羆はほとんど名前を持ったりしませんけど……。僕、とか、あなた、とかで通じますし。
 僕も、集められたヒグマの中で2番目の片目のヒグマだったので、便宜上隻眼2と言っているだけです』
「ならば親愛を込めて、小隻(シャオジー:隻ちゃん)と呼んで構わないか!?
 貴公の語ってくれた内容はそのまま作品になりうる!! スレに投下したら大反響になるぞこれ!」
『は、はぁ……。人間の文化はよくわかりませんけれども……』


 以上の会話は、全部李徴が一人で同時翻訳しながら喋っている。
 流石に人間から気がフれてヒグマになっただけあって、テンションの切り替え速度がハンパではない。
 楽しめているうちは彼の正気が持ちそうなのは良いが、彼は周囲の全員にドン引きされていることを解っているのだろうか。よくわからない。
 その背中で「オレにも李徴の文化はわからねぇよ」と呟いているフォックスに合わせ、一人芝居を断ち切るようにして、オレは隻眼のヒグマに話しかけていた。


「……ところでシャオジーとやら。オレはおまえらヒグマの流儀について聞きたい。
 オレは先ほどおまえに、完全にオレたちの戦法を用いて全力で攻撃してしまった。これはヒグマの決闘における流儀としては正しいことだったか?」


 隻眼のヒグマ――シャオジーは、その驚くべき観察力で、既にヒトの言葉の意味を聞いて理解できる程度にまで覚えていたようだ。
 李徴が翻訳するまでもなく、その表情が変わる。


376 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:31:54 kRiYxmBc0
 フォックスと李徴とシャオジーは、揃って『何を言っているんだこいつは』というような視線をオレに向けてきたのだ。
 言葉や文字がなくとも通じる気持ちが、そこには確かにあった。


『ええと……。仰っていることがよく解りませんが。
 先ほどから語りましたように、穴持たずの方々は、自分の持っている能力を最大限に活用して戦いますし、参加者の方々もそうだったので、別に問題はないかと……。
 穴持たずの初期の方の中には、やたら決闘が好きな方も多いそうですが……』
「なるほど。つまり、初めにフォックスたちのように意思疎通を試みた後は、持てる技術を尽くして戦うのがヒグマの流儀というわけだな。
 そして決闘の文化はヒグマの中にも確かにあると。ならばオレの採った行為は流儀に反してはいなかったわけだ。安心した」


 おまえたちには大した問題ではないかもしれないが、オレにとっては流儀に則っているかどうかは最重要事項だ。
 温故知新。
 どうなるかを知りたければ、どうであったかを考えなければならない。
 現代の人間が小賢しい策を弄したところで、古くから脈々と続いてきた伝統に裏打ちされた流儀の前には敵うはずがないのだ。
 流儀を知らずに破ろうとする馬鹿は、オレの一番嫌いなもの。
 流儀を知って敬意を払いながら敢えてブッ潰しにいくようなウェカピポみたいな野郎は、オレの一番大っ嫌いなものだ。


「……オレの質問は終りだ。もたもたする事もないだろう。
 いつまでも憐憫の視線を向けてねぇで、放送の考察とやらをするんならしろよ!」


 だからおい、おまえらオレをそんな目で見てんじゃねぇ。
 オレは李徴と同レベルかよ。いい加減キレるぞ。


「すまねぇが……流儀流儀言われたところで正直意味がわからんのだ。名乗りもせず質問だけするのがあんたの流儀なのか?」

 オレの苛立ちを察してか、フォックスはかなり噛み砕いた言い方でオレに問うてきた。
 しまった。そう言われれば、オレだけ素性を明かしていない。

「これは失礼した。オレはイタリアのネアポリス王国で王族護衛官をしている者だ。名前は……」

 流儀に反してしまい、ウェカピポとの決闘の約束まですっぽかしてしまったオレに、自分の名を名乗る資格はない。
 情けない話だ。
 ヒグマを操る首魁を殴りながら殺りまくり、あいつのところに帰るまで、オレは、ただ単なる奴の妹の夫だ。

「……オレの名は、城壁の北西に置いてきた。ウェカピポの妹の夫と、ただそう呼んでくれればいい」
「何のこだわりがあるんだか……。とりあえず義弟さんってことでいいんだな?」
「妹夫(メイフゥ)か」
『名前って置いてこれるものなんですか。初めて知りました』
「……好きに呼んでくれ」


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


377 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:33:01 kRiYxmBc0
 あ、こいつは李徴と違って、少なくともオレたちがドン引いてることには気づいているんだな。
 とその時俺は思った。


 いけすかねぇ感じの、世紀末じゃ南斗六聖拳の伝承者くらいしか着てねぇんじゃねえかというほどの立派な服の優男だが、この島に来てようやく話の通じそうな人間に会えたということは有り難いと思っておこう(李徴はヒグマとして区分することにした)。
 シャオジーの体験談によれば、便利そうな技の伝承者らしいから、また例の如く李徴が暴走したり、シャオジーが襲い掛かってこようとしても十分対処してくれるだろう。
 とりあえず当座のところはお互いに情報交換するということで落ち着いているし、こいつも利用できるだけ利用させてもらおうか。


「まぁわかった。おい、李徴さんよ。メモなら俺がとるから、義弟さんの言う通り、気の済むまで考察してくれ」
「おお、その通りだ。小隻の話に夢中になっていたが、本来はそれをしたかったのだ。
 いやはや、俺と同じ身の上に成った者でなければ解らぬと思っていたこの気持ちに、理解者がこんなにもできたとは。この上なく嬉しいぞ自分は!」
『え……? うん、まあ、あの、そうですね。僕も嬉しいです』
「ああ……。それがロワ書き手とやらの流儀に則ってるなら、オレも嬉しいよ」
「ヒグマとなってもこのような崇高な思考を持つものがいると解れば、もう俺は恐れなくともよいのだ! おお、なんと素晴らしいことか!!」


 とりあえず、李徴が唯一この殺し合いに対しての知識がある人物だから、なんとか正気を保っているうちに、機嫌を損ねず情報を引き出すのが最善手だということは、全員が暗黙のうちに理解していたらしい。
 本当に、言葉が通じるってありがてぇ……。
 そんなこんなで、道路のど真ん中で、李徴先生の有り難いヒグマロワイアル考察が始まった。


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


 会場は北海道の火山島。
 恐らく主催者側が事前に購入し、『穴持たず』と名付けられた特殊なヒグマを中心とした『ジョーカー』役を多数配備していた。
 ジョーカーとは、ロワイアル内で、主催者側の介入を受け、積極的に人殺しをして回る人物のこと。
 そうでなく、生き残りを目指して人殺しに走る者は『マーダー』と呼ばれるらしい。
 だが、強大なヒグマが多数存在している中では、よっぽどの快楽殺人者か何かでもない限りマーダーには走るべきでないと誰もが思うことだろう。

 その場合参加者は、『対主催』と大まかに区分される、企画そのものの打倒を掲げて行動する団体になっていくだろう。
 参加者同士の協力を取り付け、互いの特技を活かして、主催者への対抗策を練っていくわけである。
 しかしこの時にも、『危険対主催』と呼ばれる、企画は打倒するがそのためには参加者殺しも厭わないという思想の持ち主や、『ステルスマーダー』と呼ばれる、対主催に紛れ込んで隙を見て弱った者の殺害を狙っていくスタンスの者も出るので、注意は欠かせないそうだ。


『そうですね。確かに僕も、食べれる機会があるなら弱った方は食べたいです』
「オレも、参加者が決闘を挑んでくるなら討ち果たすつもりではいるが」
「まぁ……。結局一時的な協力関係なんだしそんなすぐに信頼とかできねぇよな」
「なんだと!? ここのパーティーは危険対主催とステルスマーダーばかりか!?」

(おめぇがそれを言うのか、李徴……?)
(どう考えても気が狂う可能性のある李徴さんが一番危険ですよね)
(いかに理不尽でも、尋問の際は情報が出尽くすまでは聞くのが流儀だ……)

 李徴以外の三者は困惑しながらも、李徴の話に耳を傾けた。
 とにかく、対主催として行動する場合肝心なのは、戦力・人材の確保、首輪の解除、主催者戦力の特定・打倒方法、脱出手段の確保であるそうだ。


「対主催の優秀な戦力は我々の他に、小隻が伝えてくれた限りでもまだ島の南東部だけで10人以上が残っている。
 放送での死者は44名と確かに多いが、大体は第一回放送までが最も死者の出る時間であり、半分以上死んだとしても、生き残った参加者はまだ20〜30人程度はいるはずだ」


378 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:34:12 kRiYxmBc0
 次に首輪のことであるが、これは禁止エリア――地図の範囲外などに行った際に、数十秒から数分の警告の後に爆発し、参加者を殺すためのものである。
 脱出と対主催のための大きな枷であり、主催者側が盗聴器を仕込んで盗聴していることもあるという。

「え!? じゃあこんな会話してるのは不味いんじゃねぇのか!?」
「遠隔爆破されることもあるとはいえ、それはよっぽど主催者が不都合と思ったときのみだ。
 だがもしフォックスや妹夫の首輪が爆発したら、次の機会には話さないことにしよう」
「自分はヒグマ枠だからってひどくねぇかそれは!!」

 冗談はさておき、この首輪は、電気回路に詳しい者ならば割と簡単に構造を解析、分解できるものらしい。
 最悪首輪が解除できなくとも、こちらは隻眼2のように、殺し合いに乗らないヒグマを集めて主催者のところに乗り込むという手に訴えることもできる。
 ヒグマとの協力体制を作って挑めることは、李徴がいるゆえに可能な奇策だ(ただし気が狂っていない場合に限る)。
 残る問題は、肝心の主催者がどこにいるのかを特定し、島からの脱出手段を確保することのみであった。


「それが一番問題だよな。下手すると島の外って可能性もあるしよ……」
「小隻は、ロワイアル開始前の状況を覚えているか?」
『研究所のようなところで檻に閉じ込められていたのは確かですが、生憎移動中は眠らされてまして……』
「この隴西の李徴も、その時は酔わねばならぬ頃合いだったからな……。惜しまれる」
「……いや、オレは、主催者のいる位置の見当はついている」


 その時、ウェカピポの妹の夫のデイパックから地図が取り出され、地面に広げられていた。
 そして彼は、地図のど真ん中、火山の位置を差し、はっきりと言い切った。


「主催者が、ヒグマを多数収容できるような研究所にいるのならば、それはここしかない。
 高層の建物から見てもそれらしい建造物はなかったから、恐らく、地下だ」
「は……?」
「なんだと?」
『どうしてわかるんですか?』
「この島は、都市計画の流儀に反した、『スプロール現象』という名の発展過程を辿っているからな」


 全く理解のできない三者に向けて、義弟は滔々と説明した。

 島の中に都市が形成される場合、まず、港などの交通の要所から街並みが作られるのが一般的だ。
 しかし、この島は四方が高さ十数メートルの崖に囲まれ、全く周囲と隔絶されている。
 飛行機というものが開発されているという話は聞くので、空中からの輸送がメインとなっている可能性はあるが、その場合でもこの島は島外との交通の便が悪く、極力島内で自活できるように都市は発達していくだろう。
 大量のヒグマを飼うとなればなおさらだ。

 その場合、産業の拠点となる場所から都市は広がる。
 もし都市計画が整然となされた場合は、世界各国で見られる条坊制や都城制を基本とした発展をみせるのだ。
 しかし。


「……この地図を見ろ。街のある部分は火山からほぼ放射状に、かつ無秩序に入り組みながら広がっている。
 拠点となる街の中心から、住民のことも利便性も考えず手当たり次第に街を広げていったことを示している。折角の建築や温泉地が台無し。東部の端に廃墟があることはこの無計画性の裏付けだ」


 発展の中心となっているのは明らかに火山である。しかし夜間にも噴火した活火山の上に都市の中核を据えるとは考えづらく、実際に外にはなんの建造物もなかった。


「だから、地下だ。オレの故郷でも、ヴェスヴィオ火山の噴火で埋まったポンペイという街があるが、そこの建造物は埋没していても形を保っていた。
 現代まで続いてきた流儀ならば、噴火しようが巨人に潰されようが地下で耐えうる構造物があってもおかしくない。たぶん、その研究所と繋がる大型のリフトのようなものがE-5には隠されているはずだ」

 そして、都市の中核が地下にあるのならば、空からの交通手段は絶たれる。
 その場合やはりメインの輸送ルートは海からということになる。
 義弟の指は、地図を西側へたどった。

「……西側には、自然の温泉を巻き込むような無計画な街並みにも、廃墟がないだろう。
 そして唯一、町が崖の端まで続いている。交通拠点が、こちら寄りに存在していると考えられる。
 地図上で見えない港。恐らく、カプリ島の『青の洞窟』のような海食洞が、島の地下を西から火山の下まで繋いでおり、そこここで地上と行き来できる隠し通路があるのだと考えれば、全ての辻褄が合う」


 脱出手段となる港の存在。及び攻め込むべき主催陣営の存在位置を、ピタリと義弟は予測してのけた。
 フォックスは、自慢の策略が活かせるかと声を華やげる。


379 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:35:24 kRiYxmBc0
「おお、それがマジなら、爆弾なり毒ガスなり見つけて、火山から忍び込んで仕掛ければ主催は一網打尽にできるわけか!」
「……おい、何故堂々と殴り込みに行かない。お前も拳法家だろう。そんなウェカピポのような卑怯な手を使うな」
「あ……?」


 だが反対に、ウェカピポの妹の夫は眉を顰めていた。
 フォックスの価値観としては、手っとり早く確実に相手を仕留められるなら、使う手段には卑怯もクソもない。
 そもそも彼の拳法の流儀自体からして、卑怯すれすれの奇襲を旨としているのだ。
 彼は義弟をなだめようと、自分の所属軍団の首領、ジャッカルの例を出した。


「義弟さんよ。俺のいた軍団の首領はよ、南斗爆殺拳っていってダイナマイト投げつけて殺す拳法の使い手なんだ。
 だから別に、爆殺も毒殺も卑怯ってわけじゃ……」


 だが、それが逆に妹の夫の逆鱗に触れた!


「そんな言い訳が通ると思っているのか!
 それが事実なら、火薬に頼って何が拳法だ。おまえの首領は拳法の定義自体に恥をかかせてくれた」

 フォックスが言葉を言いきるのも許さず、殺気を纏った義弟の怒号が彼の声を寸断していた。
 ウェカピポの妹の夫は腰の剣を抜き放ち、李徴の背のフォックスに突きつける。

「いいか……おい。拳法の場合はなぁ……フォックス、自らの鍛えた肉体と技術で勝負するのが良いんだよ。
 じゃなきゃあちっともフェアじゃねーし……つまんねぇ名前負けになる」

 そして彼は李徴、隻眼2と剣の先で指し、最後に自分の腰元から金平糖のような形の鉄球を取り出して叫んだ。

「ヒグマならば自らの身体機能と能力!
 オレの場合は当然! 『鉄球』だッ!
 祖先から受け継ぐ『鉄球』ッ! それが流儀ィィッ!!」

(うっわ、こいつめんどくせぇ〜〜!!)
(確かに爆薬を使って拳法を名乗るのは烏滸がましいだろうが……)
(穴持たず12さんとか、自分の能力を活かしたら卑怯な奇襲しかできないんですが……)

 憤るウェカピポの妹の夫の様相に、三者はたじろぎながら身を引くしかなかった。
 義弟は三者を睨みつけながら剣と鉄球を納め、声の調子を落とす。

「……確かに、いつでも流儀に則った行動を心がけるのは、苦しく、難しいことかも知れない。行動を矯正すれば歪みも生まれる。
 オレだって、妻を殴りながらヤりまくらなきゃ日々の鬱憤は晴れなかった」

(李徴と同レベルのクソ野郎だこいつ)
(妻を放って置いた人間として身のつまされる思いがする)
(やっぱりアブナイ人間の一人だったんだこの人も)

 道路に広げられた地図を掴みあげ、義弟は三者に向かって更に言葉をつないだ。

「だがなぁ、そういう歪みは、公の場で出してはいけない!
 この島の都市計画のように、一つ一つの建物や住人に多大なる迷惑をかける!
 それに流儀に則って堂々と主催を倒せば、オレたちが集められて殺し合わされた鬱憤も、堂々と殴りまくって発散させられるだろうが!
 おまえたちが島全体を巻き込んで流儀に反するなら、今ここで命を差し出してもらう。『決闘』だ!」

 義弟の一連の発言には、確かに筋は通っていると言えなくもない。
 しかし結局は義弟が、自分の性癖どおり殴りまくりたいだけなのだろうということは薄々三者とも察していた。


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


380 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:36:24 kRiYxmBc0
 とにかく、誰もその程度のことで徒に命を失いたくはない。

「わかった! わかったから落ち着いてくれ!
 流儀に反さず主催者をぶっ倒せるよう努力するからよ!」
「ならばいいだろう」


 フォックスが悲痛な叫びを上げて、ウェカピポの妹の夫を押し留めていた。


 義弟は先ほどから突拍子もない言動ばかりしているように見えるが、その実、最初に会ったときから誰にも背中を晒していない。
 常に戦闘が行えるようにその神経を周囲に張り巡らせている。
 地図一枚で主催者の位置を特定した知識と推察能力も侮れない。
 彼の伝承する『壊れゆく鉄球』ならば、ここにいる李徴も隻眼2も、瞬時に殺害される可能性すら十分にあるとフォックスは見立てていた。

 隻眼2にしてもそうである。
 大人しく語り手に従事してはいたが、それはたまたま彼が自己保身を徹底しているからというだけだ。
 彼の観察眼の質と思考能力は、ヒグマどころかそこら辺の人間を遥かに凌駕している。既に彼は各人の弱点を見抜いているかもしれない。
 しかもヒグマの一頭ではあるわけなので、奇襲でもするつもりならば、李徴や義弟とも最低でも相打ち以上にはなるであろう。

 そして一番危険なのはやはり李徴だ。
 いつまたささいなきっかけでヒグマ状態に気がふれるかわかったものではない。
 そうなれば、制御の効かない無差別殺戮動物となることはほぼ確実なので、今のところは隻眼2や義弟とともに、ロワイアルのことでもなんでも考えさせて人間状態に保っておくのが肝心だった。

 今一番後ろ盾がないのは、フォックス自身だ。
 跳刀地背拳を活かせるような環境はここにはない。
 近接武器で、威力も足りないカマでは、この場の全員に対して相性は最悪。戦えば確実に殺される。
 確保している支給品は多いが、李徴の暴走に振り回されていて中身の確認もしていない。
 自分の持っているアドバンテージは、李徴の背中をとっているという、ただその一点だけであった。


 ――これ俺、こいつらをどうにか纏めて協力関係作らねぇと死ぬじゃねぇか!!


 非常に危なっかしいバランスの上に構築された関係を死守しなければならないことに、フォックスは背中でしっとりと冷や汗をかく。
 そんなフォックスの心中をよそに、三者をねめつけていた義弟は、改めて厳しい口調で語り掛けていた。


「……何にしてもだ。いくらロワイアルという小説が参考になっても、文字に書いたことと、現実に起こっていることとは違う。
 確かに文字は伝統ある流儀だが、それは現実を模写して抽出したコピーに過ぎない。
 風景画と実在の景色、エスプレッソとコーヒー豆くらいの違いがある」


 ――ほら、気づいているか、おまえたち。


 義弟は、十字路の両サイドに向けて、ゆっくりと両腕を広げていた。
 三者が道路の先に視線を走らせると、その先には大量の海水が、津波となって道を流れている様が映っていた。
 ウェカピポの妹の夫以外の誰も。
 フォックスは勿論、ヒグマの肉体を持つ李徴も、そもそもヒグマである隻眼2も、そのことを指摘されるまで、津波の到来を感じてはいなかった。
 いや、感じていたとしても、それ以外の膨大な思考に、その感覚情報は流されてしまっていたのである。


「折角のヒグマの五感も、人間の思考と文字で食い荒されていたら意味がない。
 オレたちが会話に夢中になっている間、津波が島を襲ったんだ。だが、なぜか海水はこのエリアを避けている。
 その幸運がなかったら、今頃おまえらは海の藻屑だぞ。
 本来は李徴かシャオジーが指摘してくれなきゃ困る。人間かヒグマかその他か、どの流儀を本懐として大切にすべきなのか、各人考えてくれ」


381 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:38:00 kRiYxmBc0
 三者は、薄ら寒い恐怖に包まれていた。
 放送の考察どころではない。本当ならば、すぐにでも避難していなければ、全員死んでいてもおかしくなかったのだ。
 凍り付いたような彼らの緊張を和らげるように、義弟は口調を和らげて踵を返す。


「まぁ避難を兼ねて、オレのいた建物にでも来ねぇか。
 そこで、次にE-5を覗いてみるのか、シャオジーの出会った参加者を訪ねてみるのかとかを決めればいい。
 少しは食材もあったから、カプチーノとローストビーフサンドイッチでも作ってやろう。たぶん人肉より旨いぞ」
「お、おう……。すまねぇ、そうさせてもらうぜ」
「三明治(サンミンジー)か……。有り難い。久々に人間の心で食事ができる」
『申し訳ありません、本当に、僕が気づくべきとこでしたのに……』
「いや、今度からどの流儀で行動するのか、はっきりさせればいいだけの話だ」


 当座の危険を逃れるために、四人はとりあえず議論を保留し、足早にその場を離れていく。
 その中で、ウェカピポの妹の夫は、隻眼2の傍らにさり気なくにじり寄っていた。
 そして、後方の李徴とフォックスには聞こえないように、彼に耳打ちする。


「……おい、シャオジー。肯定か否定かで良いから答えてくれ。
 『穴持たず』というヒグマの中には、『脳を操作する能力を持ったヒグマ』がいたりする可能性は、あるか?」
『……?』

 李徴の翻訳がないので、言葉で回答を伝えることはできない。
 しかし、隻眼2はしばし逡巡した後、肯定の証として首を頷かせていた。
 どういう意図で義弟がそんな質問をしたのか尋ねたかったが、もう彼は、先導するように前方へ離れて行ってしまった。


 ――『穴持たず』は、僕の知る限りで50体以上いる。


 僕のように、外から後々連れてこられたヒグマは、便宜的に60番台以降の番号をつけられたり、そもそも研究員自体が覚えていない程度の適当さで扱われていた。
 しかし、研究所で作られた『穴持たず』のヒグマの中には、恐ろしい能力を有したヒグマたちが沢山いる。
 僕の知る限りでも、穴持たず5の超感覚、穴持たず12のステルス・ジャミング能力、研究所内ではあまりにも有名だった穴持たず00の高速演算及び穴持たず1の肉体操作能力などがある。
 それを鑑みれば、穴持たずたちがどんな能力を持っていてどんな形態だったとしても別に驚くには値しない。
 たぶん李徴さんだって穴持たず七十何番とかそこらへんの番号がつけられていたりするのだ。元々人間だったのに。


 ――それにしても、なんでメイフゥさんはそんなことを聞いたのだろう。


 考えるに、今までの殺し合いの中で、そんな能力を想定したくなるような状況に出会い、疑問に思っていたのだろう。
 言葉が発せられれば、そうでなくとも文字が書ければ、もっと質疑応答を発展させられるだろうに。

 李徴さんを間に挟んでの会話は、奇妙ではあったが今まで味わったことのない充足感を得られるものだった。
 だから、急にその会話が欠落したことで、今までの状態に戻っただけなのにとてつもない断絶感だけが残ってしまう。


 ――人間の、流儀。


 メイフゥさんから聞かされた言葉を反芻しながら、後方の李徴さんを振り向く。
 ロワイアルの話ができ、サンドイッチを食べられるという高揚の奥に、自分がヒグマになったことへの恐怖と、ヒグマになるべくしてなった激情が、確かに潜んでいるように見える。
 その背中のフォックスさんは普通に振る舞っているように見えるけれど、明らかに李徴さんの気狂いや僕を警戒して、腕の届かない範囲に身を縮めている。


 僕が、ここまで考えられることは、異常だろうか?
 ほかのヒグマと深いコミュニケーションを取ったことはほとんどないので、それはわからない。
 しかし、彼らとなら、意思疎通ができた。
 一時的な関係とは言え、仲間と言えなくもない動物同士の関係だ。


 ――その関係が維持できるのなら、人間の流儀を、学んでみてもいいかもしれない。


382 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:38:56 kRiYxmBc0
 文字。
 李徴さんが書くという、ロワイアルという小説の中の文字。
 僕はそのロワ書き手になるべきだと言われた。
 文字を学べば、彼らとの関係は、維持できるかもしれない。
 李徴さんが完全にヒグマになっても、僕なら、彼を人間に、また繋げてあげることができるかもしれない。
 コピーされ、情報の欠落した、影の流儀であっても、それは確かに魂の一部を伝えうるものだろう。

 たぶん、僕はもう、ヒグマの流儀からは逸脱している。
 初めに穴持たず4とハンターの戦いを見た時から。

 ――僕はきっと、人間に、憧れていたんだ。


    ㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆㉆


 オレたち王族護衛官の手癖のようなものに、暇さえあれば鉄球の回転の練習をする、というものがある。
 それはもう無意識的に、腰のホルダーの中で『壊れゆく鉄球』を回したり、レストランでは料理が出てくるまでコーヒーカップを回したりしている。
 日々の鍛練こそ流儀。それが、いざという時の正確な回転につながる。
 まあオレの場合は、キレやすいし、そもそもの投球精度が低いって欠点を補うための意識もある。

 それとはまた別に、オレたち王族護衛官の使う『壊れゆく鉄球』は、鉄球本体での最大威力の攻撃を行う以外に、その表面の14個の『衛星』を拡散させ、その衝撃波で『対象の右脳の一部を麻痺させる』ことを戦法の一つとしている。
 訓練じゃあお互い、左半身の感覚はだいたい失調しっぱなし。
 その脳機能の落ちた中で、いかに自分の体を正しく動かし、相手の死角に潜り込み、仕留めていくかが大切になる。


 ――だから、自分の脳機能が変化した時の感覚は、わかる。


 今さっき、津波が押し寄せてくる前。
 ふと、いつもウェカピポにやられているような、綺麗に左側失調を決められた時に近い感覚が、オレを襲っていた。
 本当に一瞬の、かすかな感覚だったから、気のせいかとも思った。

 でもオレは、いつもの癖で、会話をしながらも鉄球を回していた。
 『自分の左半身が失調する』ような回転で。

 左側は見えなくなり、音も聞こえなきゃ、一切の感覚がなくなるはずだった。


 ――だが、視覚と聴覚と、振動覚だけは、失調しているはずなのに、残っているように感じられた。


 周囲と違和感なく繋がるようにして上書きされた感覚。
 『穴持たず』だ。
 オレらの『壊れゆく鉄球』と同じかその上をいく、『脳を操作する能力』を持ったヒグマがいるのだ。
 李徴やシャオジーが津波の到来に気付かなかったのは、そいつのせいもあるかもしれない。
 オレらとは違い、感覚を『消す』のではなく『上書き』する分、余計タチが悪い。
 そしてそいつは、自分の存在を感覚の死角に潜り込ませながらオレたちの傍を通り過ぎた。
 今鉄球を回しても、左半身は綺麗に失調している。もう、その『穴持たず』は近隣にいない。

 さらにそいつは恐らく、このエリアから津波を退けた張本人だ。
 あの余りに不自然な割れ方をしている津波。
 水中の生物の全ての感覚を操り、流体の進行方向を無理やり変えたとは考えられないか?


 だとすれば、この穴持たずというヒグマたちは、本当に常軌を逸した恐ろしい存在だ。
 俺が見た限りでも、砲撃を飲み込むヒグマ、クッキーの嵐を食い尽くしたヒグマがいたわけだし。
 人間の流儀でも、護衛官の流儀でも勝てるか、解らない。
 ヒグマの流儀を一から学ぶにしても、人間の体のオレが付け焼刃で挑んだところで敗北は目に見えている。
 彼ら穴持たずを上回って余りある流儀を。
 コピーでも影でもない流儀を、学ばねばならない。


 ――『自然』そのものの流儀だ。


 この世界の中で最も長く尊い伝統と流儀を有している存在の流儀。
 それに敬意を払い、学ばねばならないだろう。


 ネアポリスから、決闘の約束をすっぽかしてまで訪れてしまった極東の地だが。
 流儀を学ぶための留学と考えれば、実り多い旅にしようというモチベーションも、働く気がした。


383 : 文字禍 :2014/03/22(土) 23:39:25 kRiYxmBc0
【E-6・街/朝】


【ヒグマになった李徴子@山月記?】
状態:健康
装備:なし
道具:なし
基本思考:羆羆羆羆羆羆羆羆羆羆
0:こんな身でロワイアルの地にある今でも俺は、俺のSSが長安風流人士のモニターに映ることを願うのだ……。
1:小隻の才と作品を、もっと見たい。
2:フォックスには、まだまだ作品を記録していってもらいたい。
3:人間でありたい。
4:自分の流儀とは一体、何なのだ?
[備考]
※かつては人間で、今でも僅かな時間だけ人間の心が戻ります
※人間だった頃はロワ書き手で社畜でした


【フォックス@北斗の拳】
状態:健康
装備:カマ@北斗の拳
道具:基本支給品×2、袁さんのノートパソコン、ランダム支給品×0〜2(@しんのゆうしゃ) 、ランダム支給品×0〜2(@陳郡の袁さん)
基本思考:生き残り重視
0:メンバーがやばすぎる……。利用しつづけていけるか、俺……?
1:李徴は正気のほうが利用しやすいかも知れん。色々うざったいけど。
2:義弟は逆鱗に触れないようにすることだけ気を付けて、うまいことその能力を活用してやりたい。
3:シャオジーはいつ襲い掛かってきてもおかしくねぇから、背中を晒さねぇようにだけは気を付けよう。
[備考]
※勲章『ルーキーカウボーイ』を手に入れました。
※フォックスの支給品はC-8に放置されています。
※袁さんのノートパソコンには、ロワのプロットが30ほど、『地上最強の生物対ハンター』、『手品師の心臓』、『金の指輪』、『Timelineの東』の内容がテキストファイルで保存されています。


【隻眼2】
状態:左前脚に内出血、隻眼
装備:無し
道具:無し
基本思考:観察に徹し、生き残る
0:主催者に対抗することに、ヒグマはうまみがあるのかしら……?
1:とりあえず生き残りのための仲間は確保したい。
2:李徴さんたちとの仲間関係の維持のため、文字を学んでみたい。
3:凄い方とアブナイ方が多すぎる。用心しないと。
[備考]
※キュゥべえ、白金の魔法少女(武田観柳)、黒髪の魔法少女(暁美ほむら)、爆弾を投下する女の子(球磨)、李徴、ウェカピポの妹の夫が、用心相手に入っています。


【ウェカピポの妹の夫@スティール・ボール・ラン(ジョジョの奇妙な冒険)】
状態:健康
装備:『壊れゆく鉄球』×2@SBR、王族護衛官の剣@SBR
道具:基本支給品、食うに堪えなかった血と臓物味のクッキー
基本思考:流儀に則って主催者を殴りながら殺りまくって帰る
0:とりあえず今後の行動方針を決める。ウマが合わなければ単独行動も視野。
1:フォックスは拳法家の流儀通り行動すべきだ。
2:李徴はヒグマなのか人間なのか小説家なのかはっきりしろ。
3:シャオジーは無理して人間の流儀を学ぶ必要はないし、ヒグマでいてくれた方が有り難いんだが……。
4:『脳を操作する能力』のヒグマは、当座のところ最大の障害になりそうだな……。
5:『自然』の流儀を学ぶように心がけていこう。


384 : 名無しさん :2014/03/22(土) 23:40:09 kRiYxmBc0
代理投下終了いたします。


385 : 名無しさん :2014/03/23(日) 01:34:08 BdGTwKgg0
投下乙!
鉄球の技術を習得してるだけあって意外と頼もしいウェカピポの妹の夫
こいつも相当なゲス野郎だった気がするが相手がヒグマじゃしょうがない
果たして義弟はシーナーさんに対抗する技術を会得できるのか?


386 : 名無しさん :2014/03/23(日) 08:03:31 qhTkv70w0
投下乙
まさか名前も定かじゃない義弟が生き残るとは…
このメンツで飛躍的安定してる常識人がフォックスって言うのも面白い
今後が楽しみだな


387 : ◆Dme3n.ES16 :2014/03/24(月) 16:06:14 4a2Xpnjs0
予約にシバさんを追加します


388 : ◆/wOAw.sZ6U :2014/03/25(火) 05:49:29 bKKAmaLA0
駆紋戒斗、浅倉威投下致します。


389 : ◆/wOAw.sZ6U :2014/03/25(火) 05:49:51 bKKAmaLA0
圧倒的な自然が、津波が街を飲み込んでいく音が水を介して遠くから聞こえる。
べきり、べきり、ひしゃげていく人工の、自然ではない建物。
それは強い力で、いつか自分から全てを奪い去った力を思い出す。

掌を、たった一枚の力を握って。
圧倒的暴力を、人間が敵わない自然を。
人間の力で、討ち果たそうと。

「――変身ッ!!」






駆紋戒斗は苛立ちを顕に走っていた。
漸く出会った男、鷹取迅……痴漢を名乗る社会的にどうしょうもない男に遅れを取った。
それだけでも業腹だというのに、追いかけだせばその辺りには見当たらず。
勿論鷹取は痴漢で凄まじい、いわく言いがたいテクニックは持ち合わせているが生身の人間。
本来戒斗が追いかければすぐに捕まえ、フナッシー・アームズで泣くほどボコボコにするのだって造作も無い。

だのに見つからないのは、また彼が速すぎた所為だった。
普通の人間の速度なら多少ずれた道を追っても距離は離れないが、アーマードライダーの脚力はあっという間にずれた道を、より先に走らせた。
まるで彼の現状を例えるように、戒斗は自分だけの道を怒りながら突っ走っていたのである。

道中流れた放送の名前に知った名前は無く、また興味も存在しなかった。
淘汰された弱者など、彼に必要ない。
寧ろ鷹取の名前が無かったこと、生き残った強者のことが戒斗の関心を占める。

耳元では相変わらずインベスもどきが喚いていた。
一度返事をしたら虚言とも妄言ともつかぬ地方の宣伝文句を高音で聞かされて辟易したので無視を決め込んでいる。
戒斗が知らぬことであるがふなっしーの言葉の27.4%は嘘でできているらしい。

無意味な進軍とふなっしーの喧しさに辟易した戒斗は変身を解除した。
物言わぬロックシードに安堵する珍しい体験である。

足を止めて、空を仰ぐ。
朝が近い、これから日が昇る。
戒斗は意識を切り替える。
闇雲に動きまわることが果たして強者の振る舞いと言えるか?否だ。
市街地の、高台を目指そう、そしてそこから探す。
それは鷹取で、まだ見ぬ強者だ。

ある種目立つように高台に立てば強者を誘い込めるかもしれない。
状況認識も兼ねられる、そしてこれは後にも正解行動であったと戒斗は考える。

コンクリートの階段を駆け上がる。

およそ五階建ての廃ビル。研究施設か、単なる住居なのかは非常階段を駆け上がった戒斗に判断はつかず。
隣接するように建つ同じ作りのビルが2つ程見えた。
屋上階から見渡す景色は、廃墟らしくどこか寂れて、人の息吹を損ねている様子であった。

「鷹取は……ちっ、見当たらんな」

正体不明の不気味さが、ぞっと戒斗の背筋を舐めた。
警戒を強め、息を詰める。
どれだけ見つめようと、ゴーストタウンの様相は寂しく人を、熱を持っていない。
だが、そうじゃない、根本的に違う。
遠く引いていくような、生命と熱が引きずられて現在の位置に残っていないような、そんな感覚。
風が、潮を孕んだ風が戒斗の体を通り抜けた。

振り返ると、地鳴りに似た音が聞こえる。
地平の彼方から、生命を飲み込み同化する原初の母が這いずり迫っていた。

「津波……か」
高所にいることが、戒斗の精神を冷静にさせた。
少なくとも即時的な死は無い。
ただ足元のビルが津波の衝撃に耐えきるかと言う確信もまた等しく無く。
異常事態に飲まれきるなど、強者にとってあるべきではない。
まして挑戦者は、挑むこと無く負けていい訳がないのだ。

半ば、強がりのように戒斗は拳を握る。


390 : ◆/wOAw.sZ6U :2014/03/25(火) 05:50:22 bKKAmaLA0



浅倉威は過酷な環境で生きてきた。
彼は幼いころに自分の家を焼き払い、天涯孤独の身となって泥をすすって生きてきた。
彼の口には泥の味が残っている。
暴力はそんな浅倉の清涼剤であった。
殴り、殴られ、そうしている間だけ、彼の説明のできない苛立ちは収まる。
戦うことは楽しい。
獣の如き本能、蛇のような狡猾さ、そして苛々するという人間の欲求。

奇妙なバランスで成り立つ、浅倉威という男。
現在そのバランスの比重が狂い始めている。
王熊になった時からそれは進行していた。
苛々する以上に腹が減ってたまらない。
あれだけ食ったというのに、キリキリと腹が悲鳴をあげている。
気がついたら自分のライダーとしての召喚器である牙召杖ベノバイザーをぼりぼりと齧っていた。

流れていくビルの上でしっかり火を通して食した三体の怪物。
二体はヒグマで、一体は怪獣だったがこの際どうだっていい。
酷く、浅倉は愉快だった。
自然の摂理に組み込まれた、自然が呼ぶ破壊を喜ぶ獣。
食欲が、浅倉の獣の割合を広げていった。
口内に涎が満ち、息が荒くなる。

しかし、消えていない。
泥の味が、暴力を欲する心が。
視界に入った人間を見た瞬間、泥が胃から食道へ逆流する。
吐き出しそうな苛立ち、懐かしいくらいの歓喜。
それは人間の浅倉威が必要とする暴力への大事な引き金で。
同時に、ヒグマモンスターの食欲を満たす獲物の匂いでもあった。


未だ海水は途切れず、一歩間違えば体は水没する。
浅倉は危険など皆無とばかりに飛翔し男の前に立った。

「何者だ」
轟々と水がぶつかりあう音がうるさい。
凛として構える男、駆紋戒斗はヒグマモンスターに問う。
ただの人間の癖に、いっかな怯むこともなく。

「なんだっていい……戦え!!」
質問には答えない姿勢で、ヒグマモンスターは突進する。
戦え、捕食ではなく暴力を浅倉は優先した。

直情的なそれを横っ飛びに避け、戒斗は笑った。
獲物を見つけた、狩人の眼で。

「人か?インベスか?ヒグマか?いや……本当になんだっていいのかも知れないな」
ナシの形が刻まれた錠前を指にかけてくるりと回し握る。
彼の手癖であり、戦いの合図だ。

「変身!」
ガシャン、戦極ドライバーにはめ込まれたロックシードが両断される。
西洋風のファンファーレとともに、その姿は仮面ライダーバロンに変わった。
<<ナシ・アームズ! 梨汁ブッシャーーーー!!>>

奇天烈な鎧を纏ったライダーの登場に、浅倉も笑った。
獣の眼で、舌なめずりをするように。


391 : ◆/wOAw.sZ6U :2014/03/25(火) 05:51:32 bKKAmaLA0


ロックシードは鎧の力だけではなく武器をライダーに与える。
本来のバロンならばバナナ・ロックシードから生み出されるバナナスピアーが武器だ。

今バロンの手にあるのは見慣れぬ銃火器。
水色と黄色を主色にしたこれまた派手なカラーリングの砲身は太く、口径も末広がりで、ラッパの形に似ていた。
玩具かパーティグッズのようなクオリティだが、バズーカ、と呼んでいいのだろうか、これは。
そう戒斗が武器に戸惑っていると、甲高い不安を煽る声がご丁寧に解説をしてくれた。
《これは梨汁バズーカなっしー!!さああぶっ放すなっしーよ!!ヒャッハァー!!!!》

「名前までふざけてるな……」

片耳を無意味だろうが塞ぎながらひとりごちる。
その間もヒグマモンスターは攻撃を仕掛けていたが、予測のつかない次元法則を無視したバロンの動きに対応できずその手は空を切っていた。
だからといって、バロンの心には余裕も慢心も無かった。
今はまだ避けられる、しかしこれが一度直撃すれば……真空を生み出しそうな勢いの薙ぎにバロンの神経は冷える。

その一方で、高揚していた。
漸くまともな『強者』に巡り会えたと。
簒奪し、乗り越えるに値する『力』の持ち主と戦えたと。
鷹取は『技』に秀でた男であった。
だから彼を乗り越えた時に手に入るのは技。

それは確かに『強者』の一パターンではあるが、戒斗の本懐ではない。
奪い取り、踏みにじる……それが本当の勝利の形。
力とは、強さの証をたてるもの。
目の前で暴れる獣は、正しく戒斗の欲するものであった。


「苛々させる……ちょろちょろと逃げてばかりか」
唸り声を上げ、浅倉はカードを取り出す。
しかし召喚器であるベノバイザーは見当たらない。食べてしまった気がする。
ならば、そうかと、ヒグマモンスターはカードをその牙で貫いた。

――スイングベント

無機質な音声と共に、ヒグマモンスターの腕から長いエビルダイバーの尾を模したムチ、エビルウィップが現れる。
異様な光景であったが、ヒグマモンスターは気にも留めない。
戦いやすい体になったものだと、いっそ感心すらしていた。
勢い良く高圧電流が走るムチを振り回し、バロンの軌道を阻害する。

「容易い!」
激とともに空を蹴り、満月を描くようにバロンは翻る。
ムチを振り切ったヒグマモンスターに照準を合わせ、引き金に指をかけた。
扱い慣れぬ武器だからこそ慎重を期す立ち回りだったのだ。

狙うはカウンター、相手の大きな攻撃の隙。
規格外のふなっしーの動きと、バズーカの合わせ技。

《ヒャッハァァーーーー!!!!》
叫び声を上げながら梨の形状をした弾がヒグマモンスターに迫る。
ヒグマモンスターは伸びきった右腕をそのままに、にやりと、笑った。


392 : ◆/wOAw.sZ6U :2014/03/25(火) 05:52:03 bKKAmaLA0
――ストライクベント

左腕が、T字を頭につけた怪獣、回転怪獣ギロスの形に変容した。
ガントレット、と言うには些か異質であった。
腹話術の人形のように腕から生える姿は、後ろから見なければアドベントでモンスターを召喚したのかと見間違える。
取り込まれてなお、意思を持ってギロスは咆哮し、その名前通りの回転で弾を弾き返そうとする。

《梨汁ブッシャァーーー!!!》
跳ね返され、そのまま堕ちると思われた弾が静止し、奇声と爽やかな梨の果汁を撒き散らし炸裂した。
散弾となった梨の礫はギロスを、周囲を抉る。

余談だが梨の果汁のシミは酸化した血液の後に似ている。
食する際は白い衣服を着ないよう、もしくは汁をこぼさないよう注意したい。

自由気ままな弾道は正しくふなっしーの特性だ。
勿論ヒグマモンスターにもその弾は届く。
それどころか向かいの建物にもめり込んでいる。
大迷惑な武器である。
鈍い音を立てて梨が殺到していく様を眺め、戒斗は勝利を確信した。


ひゅっ、と音が遅れて聞こえた。
認識した瞬間、電撃がバロンの体を襲う。
「なぁあっ……!?」
ギロスの背後から伸びたエビルウィップが、バロンの足に絡みついていた。
ぐっしょりと、果汁まみれのムチ。
あれだけの集中砲火を食らってなおも衰えぬ腕力は礫を切り裂き僅かな隙を絡めとったのだ。

ヒグマモンスターは痛みでは怯まない、死の影も踏み倒す。
圧倒的自然を、遺伝子の暴走を支配下に入れた浅倉威は今や死ぬまで能力を落とさぬ
周囲を取り巻く津波のような『災害』であった。

人間は、自然に弱い。
津波でも、竜巻でも、ただの雨に、晴天にすら簡単に生命を奪われる。

高圧電流に悶え、バロンは地面に叩きつけられる。
ヒグマモンスターはけたたましい哄笑を伴い跳躍した。
見上げる、見上げさせられる空に映る『強者』の姿。

鈍い感覚の指でバズーカの引き金を引く。
一矢報いるのだ。

ぎりり、と食いしばった歯から漏れた音は、ビルの破壊音に紛れて戒斗の耳にしか届かなかった。




――あれは、怪物であるが、力を、自然を完全に制御していた。


冷たい水と闇の中で、戒斗は沈んでいた。
屋上の床ごと怪獣で殴られ、階下に落とされたのだ。
窓から侵入した海水がひたひたと溜り、戒斗を受け止める。
流されないのは、鎧が重量を持っているからだろうか。
それとも津波が緩やかになってきたのか。
いいや、そんなことより。

浮かび上がらなくては。
瞳をこじ開け、強く、強者にならなくては。


しかし、闇をむさぼるようにずぶずぶと沈んでいくのは、なぜだか心地よかった。
このまま、諦めてしまえば、楽になれると生命の母は戒斗に囁く。
十分強者であったと、挑戦者であったと。
そして死ねるのだ。
強い姿で死ねる。
あの怪物に死ぬ直前まで銃を構え、ぶつけたのだ。
それでいいではないか、有終の美というものだろう。
このまま浮かび上がっても、生き延びても、いるのは強者ではない。
ぼろぼろの弱者だ。


393 : ◆/wOAw.sZ6U :2014/03/25(火) 05:52:45 bKKAmaLA0
――違う!!

光が駆紋戒斗の両目に注ぎ込まれる。
水面に、朝日が届いていた。
屈折した光は揺らめき、戒斗を導く。

ごぼり、と空気が口端から漏れる。

強者のまま死ぬだと?ふざけるな。
生きてこそ、生きているからこそ、強者足りえるのだ。
死者は、こんなぼろぼろの自分にも劣る、弱者だ。

水中で覚醒した戒斗をあざ笑うかのように、変身が解けた。
ベルトが耐久の限界を迎えたらしく、ずるりと戒斗の腰を離れる。
それを捕まえ、ロックシードだけでも回収したが。

錠前を握って、浮上していく。
開くことの無い力、まるで今の戒斗のようで。
成長しない種、実を結ばない。

それでも太陽は降り注ぎ、夜を照らした。
たった一枚の『夜』を。

戒斗は手を伸ばす、一枚の生命に。

――戦え。

夜に指先が届くと、知らない声が戒斗の意識に唆す。

――言われなくとも!!

海の誘惑を振り払い、がっしりと、生命を戒斗は掴んだ。




ヒグマモンスターは悠々と階段を降り、バロンが浮上するのを待っていた。
死体であれば食うし、生きていれば戦う。
明瞭に分けられた思考だ。

ヒグマの本能が食しつつも保存しようと働きデイパックを携えていたが、先ほどの梨の礫の被害か穴が空いている。
左腕も負傷が酷く食い捨てた。召喚しなおせばいい話だ。
不機嫌だが、食事を控えているとなると獣の心は満たされていた。

ふ、と乳白色の霧が辺りに満ち始める。
水と、日差しのせいだろうか。
それにしても不自然だ。
浅倉は、本能的に苦い屈辱を思い出す。

吹き付けるような霧、相対したライダーの中でも上位の力を持つ仮面ライダーナイトのサバイブ形態を。

「……苛々する……苛々するぜ……だが……楽しいな」
食事が遠のいた苛立ち、屈辱を蒸し返された苛立ち。
それを全て上回る、戦いへの歓喜。

今しがた想起した相手が、目の前に立っている。
どうして居るのか、そんなことは浅倉にはどうでもよかった。
戦える、その一事に心が浮き立つのだ。



海水を吐きながら、戒斗は決して膝を折らなかった。
ここで折ってしまえば二度と立てない、そう確信したのだ。
水をしたたらせ握るカードデッキ。

キィンと耳鳴りがする。
この物体に宿る記憶が、断片的に戒斗に流れていた。
記憶と言っても、このカードデッキを持つもののルール程度だ。
生命を賭して、願いのために戦い続けるというそれだけ。

水面に戒斗が映る。
その表情は死人でも、弱者でもない。
明確な意思を持った、生きる『強者』だった。

「――変身ッ!!」

カードデッキは、使用者が望むカードを吐き出す。
駆紋戒斗は望む。
生きることを。


――サバイブ


朝日が差し込むビル内に、夜の騎士が降り立った。


394 : ◆/wOAw.sZ6U :2014/03/25(火) 05:53:07 bKKAmaLA0
【G-4:廃ビル内 朝】



【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
状態:仮面ライダー王熊に変身中、ダメージ(中)、ヒグマモンスター
装備:カードデッキ@仮面ライダー龍騎、ライアのカードデッキ@仮面ライダー龍騎、ガイのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
道具:基本支給品×3
基本思考:本能を満たす
0:一つでも多くの獲物を食いまくる。
1:腹が減ってイライラするんだよ
2:北岡ぁ……
3:目の前にいるナイトと戦い食う
[備考]
※ヒグマはミラーモンスターになりました。
※ヒグマは過酷な生存競争の中を生きてきたため、常にサバイブ体です。
※一度にヒグマを三匹も食べてしまったので、ヒグマモンスターになってしまいました。
※体内でヒグマ遺伝子が暴れ回っています。
※ストライカー・エウレカにも変身できるかもしれませんが、実際になれるかどうかは後続の書き手さんにお任せします。
※全種類のカードデッキを所持しています。
※ゾルダのカードデッキはディケイド版の龍騎の世界から持ち出されたデッキです。
※召喚器を食べてしまったので浅倉自体が召喚器になりました。カードを食べることで武器を召喚します。
※カードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイドはデイパックに穴が空いたために流れてしまいました。


【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
状態:仮面ライダーナイト・サバイブ、重症
装備:翼召剣ダークバイザーツバイ、仮面ライダーナイトのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
道具:基本支給品一式。ランダム支給品なし。ナシ(ふなっしー)ロックシード
基本思考:鷹取迅に復讐する。力なきものは退ける。
0:生きて勝つ
[備考]
※カードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイドの仮面ライダーナイトのカードデッキ@仮面ライダー龍騎により仮面ライダーナイトになりました。
※戦極ドライバーさえあれば再びバロンに変身することもできます。



※G-4周辺にカードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイドのナイトのカードデッキ以外が流れました。
 無事に流れているかもしれないし、壊れているかもしれません。


395 : ◆/wOAw.sZ6U :2014/03/25(火) 05:55:31 bKKAmaLA0
投下終了いたします。タイトルはSURVIVEでお願いします。


396 : 名無しさん :2014/03/26(水) 05:51:49 rJh3CQtgO
投下乙
本格的なライダーバトルが始まってしまった……!


397 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/03/26(水) 21:44:52 rJh3CQtgO
予約延長します。


398 : ◆Dme3n.ES16 :2014/03/28(金) 07:10:14 1e2eWHNY0
予約延長します


399 : ◆Dme3n.ES16 :2014/03/29(土) 01:27:14 zpCx54lc0
纏流子、相田マナ、穴持たず4、ヒグマン子爵を追加します


400 : ◆wgC73NFT9I :2014/03/30(日) 17:06:24 k7af9rOM0
投下お疲れ様です!
今までありがたくも代理投下ばかりしていただいておりましたが、ようやく書込みができます。
皆さんの予約分も気になるところです。

私は、
布束砥信、ヤイコ、呉キリカ、夢原のぞみ、Dr.ウルシェード、
劉鳳、杉下右京、クマ吉、アルター結晶体、ヴァン、
鷹取迅、ガンダムに乗ったヒグマ、ハーク・ハンセン、チャック・ハンセン、暴君怪獣タイラント、
シーナー、キングヒグマ、穴持たず59、穴持たず39
を予約します。


津波はいつまでも海面を上昇はさせません。


401 : ◆7NiTLrWgSs :2014/03/30(日) 18:11:30 IiwKp4bc0
銀、天龍、島風、サーファー、パッチールで予約します


402 : ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:15:57 lnG5xbko0
投下します


403 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:17:01 lnG5xbko0

水没した会場を流れる一本の丸太。その上に一匹のヒグマが跨っていた。

「たすけてくれ〜〜〜!!たすけてくれ〜〜〜!!」
「落ち着くんだモン、あの船に乗せてもらうモン。おーい!」

大型の流木にまたがり枝をオール代わりにして漕いでいる黒い熊、くまモンと
流木に捕まっているペドベアーは近づいてくる救助部隊と思われるイカ釣り漁船
に手を振った。彼らが何者か知らないが丸太に乗ってるよりマシだろう。

「まさかゆるキャラまで参戦してるとはのう。全く、節操のない運営じゃわい」
「早く乗せてあげましょう」

くまモンが目と鼻の先まで近づいたと思われた―――その時。
突然、水中から黒い影が飛び出し、船の甲板に張り付いた。

「なんじゃと!?」
「ヒグマか!?やっぱ水中でも元気一杯ってことなのかぁ!?」
「大丈夫ですぞぉ吉田君!今こそ研究の成果を見せる時だぜぇ!!」

熊そのものな外見のレオナルド博士は意気揚々と腰に装備したガブリボルバーを抜き、
襲ってきたヒグマに向けて光線銃を発射する。ヒグマ細胞破壊プログラムが容赦なく
ヒグマに襲い掛かった。

「ははははははははは!!!!死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

だが、黒いオーラを纏っているその細身のヒグマは光線を全く意に介さず
悠然と立ち上がり、腰に帯刀していた剣をゆっくりと引き抜いていく。

「おいレオナルドっち!なんか全然効いてねぇっぽいぞ!!」
「なんとっ!やはりデータが足りなかったですかぁっ!?」
「……いや、ていうかさぁー」

鷹の爪団は一つ大事なことを忘れていた。この会場で行われているゲームの本来の目的は
ヒグマと戦う事ではない。集めた参加者同士が殺し合うことなのだ。


「■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーッ!!!!!!」


「こいつヒグマじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!?」
「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

雄たけびを上げるその男は漆黒の鎧騎士。ヒグマドンという目標を見失い路頭に迷っている所を
津波に襲われ流されていた英霊バーサーカーであった。強者と戦いそびれてイライラするので
とりあえず近くにいたイカ釣り漁船を襲うことにしたのだ。

「■■■■■■■■■ーーーーッ!!」
「なんだこいつは!?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ヒグマ細胞破壊プログラム弾き飛ばしたバーサーカーは博士の隣にいた吉田君の傍へ
一瞬で近づき、手に持っていた木刀、アヤカシ殺しの妖刀童子切りを振り下ろして
脳天から真っ二つに切り裂き殺害した。

「よ、吉田くーーーーーーーん!!!!!」

絶叫する総帥を唖然としながら見るくまモンは全力でオールを漕いで漁船へ接近する。

「や、やめるモーーーーーン!待ってるモン!いま助けに行くモン!」


404 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:17:28 lnG5xbko0
◆  ◆  ◆


一方その頃。

「――――ごばぁぁぁぁ!?畜生っ!畜生ぉぉぉぉ!?なんなんだよこれはぁぁぁ!?」

放送が終わってしばらくした後、突如会場を襲い掛かった自然災害。
暴君怪獣タイラントによってもたらされた大津波に飲み込まれた
哀れな犠牲者の一人が濁流に流されながら必死にもがいていた。
アヤカシと呼ばれる特異生物と人間の混血児、ダブルブリッド・高橋幸児である。
宝具・羆殺しと名付けた強力な武器を手に入れ、有頂天になっていた彼だが
独覚兵になった樋熊さんを殺害した後は誰も見つけられずに一人街をうろついていた。
そこでこの津波である。いくら人間を遥かに凌ぐ身体能力を有しているとはいえ
都市を一つ消し去る天災が相手では一溜まりもなく、そのままなすすべもなく
瓦礫と共に流されてしまったのだ。必死にもがくが元々人体実験で肺を摘出された身。
間もなく酸欠で意識を失い命を落とすだろう。

(畜生ぉぉぉぉぉ!死ぬのか!こんな所で!なんでだよ!?なんで僕ばっかり!?)

『あなたはいつも文句ばっかり言ってるわね』

薄れゆく意識の中、幸児の脳裏で白髪の少女が自分を見下しながら語りかけてくる。

『アヤカシは最初から強いから努力や向上心を持っていない。
 あなたは人間とアヤカシの悪いところばかり見習おうとしてるわね。
 ――――現状に不満があるなら、努力すればいいじゃない?』

……うるせぇ。

意識を取り戻した幸児は筋力増幅(ブースト)によって四肢の自由を取り戻し、
まだ右手に持っていた刀を意識を朦朧とさせながら両手で握って円を描くように
振り回し、自分の周囲を360°を切り裂く。

「黙ってろ白髪犬ぁぁぁぁっっっ!!!!」

絶叫してしばらくした後、横薙ぎに切り裂いた空間が上下に割れ、
透明な羆の大口のような空間が出来上がった。






「……はぁ、疲れた……」

とあるビルの一室。オフィスのデスクに突っ伏して肩で息をする学園都市レベル5第三位、御坂美琴は
長旅の疲れを少しでも癒すために睡眠を取っている。まさか北海道へ行くつもりが宇宙まで飛び出して
しまうなんて。とんだ回り道だった。体力の消耗は著しく、いまの状態では能力も使い物にならないだろう。

「……なにやり切った気になってるのよ。しっかりしなさい美琴。まだ何もしてないじゃん」

そう、ようやく会場までたどり着いたばかりなのだ。一刻もはやく佐天さん達を助けてあげないと。
誰が犯人かは知らないが、恐らく想定外であろう大災害で会場全体が沈没してしまっている
今が救出のチャンスかもしれない。

「寝るのはあと5分、それで起きてここから出なきゃ」

『グォ!グオ!グォ〜!』

「……んん〜?」

天井から獣の声が聞こえる。そういえばここは最上階。屋上にヒグマでもいるのだろうか?
にしてもなんだこのリズムは?まるで雌が喘いでいるような……?

「何考えてるのよ、馬鹿」

ふいにツンツン頭の事を思い出してしまい、美琴が少し顔を赤くしたその時。
激しい振動と共に美琴が潜んでいるビルが斜めに傾き始めた。


405 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:17:52 lnG5xbko0
「なっ!何事っ!?」

慌てて跳ね起きた美琴はバランスを取りながら窓際まで地近づき、傾いたビルの下方向を視る。

「ちょっ!?なにあれ!?」

外界で巨大な渦潮が発生し、津波がどんどん吸い込まれているのだ。
その強烈な吸引力は周囲の瓦礫や建物までを巻き込み、すべてを飲み干そうとしていた

「ビ、ビルが津波ごと喰われている!?
 大変だ!急いで逃げなきゃ!」

窓から身を乗り出し、微量の電磁波を手足から放出してビルの壁際に張り付いた美琴は
出来るだけ高いところへ逃げようとする。だが脱出しようとする彼女を屋上から落ちてきた
巨大な物体が遮った!

「なにあれ!?きゃああああ!!」

屋上で自慰に浸っていたメロン熊が落下してきたのだ。咄嗟に電撃で応戦しようとするも
パワー不足で放出できず、そのまま衝突し無情にも巻き込まれて地上へ落下していく。

「痛っ!ちょっ!どいてどいて!死ぬ!死ぬからっ!わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ビルと共に渦潮に巻き込まれ装になった直後、投げ出された美琴とメロン熊の姿が
唐突に空中から消え失せた。メロン熊の固有能力のテレポートが発動したのである。


図らずも九死に一生を得たレールガンの次の戦場は何処なのか?





妖刀羆殺し。胃の中にかめはめ波すら吸い込む強力なブラックホールを内臓した
上位ヒグマ「悟空殺し」の能力を引き継いだ宝具の力で空間を切り裂いたことで
周囲のすべての海水を消し去り、廃墟と化した街の道路の真ん中に大の字になって倒れ込む
高橋幸児は何かをやりきったように高らかに笑っていた。

「あはっ!あははははは!!!!!見たか白髪犬!!!!
 もう自然の摂理もボクを止められない!!!これが自由だ!!!!」

人間社会を容赦なく滅亡に追い込む自然災害。その自然現象すら克服した彼は
もはや無敵の存在だった。もう捕らえられて管理される人生とはオサラバだ。
自分はここで完全な自由を手に入れるのだ。

「―――もしもし、ああ、どうやらこの周辺の津波は消え去ったらしい。手間が省けた」

廃墟と化した建物の物陰から、電話で喋っているような話声が聞こえてきた。

「あの刀は回収しなければならないが……なるべく我々は介入しない方がいい。
 しばらく彼を泳がしておくのが得策かと」

それを聞いた幸児はゆっくりと腰を上げ、建物の向こうに居る者を凝視する。
誰だか知らないが、また自分を監視して管理するつもりなのか?

「ああ、邪魔だよ。ここは僕の居場所なんだからさぁ。」

やや調子に乗った幸児はその場から跳ね起き、羆殺しを大きく上下に振り抜いた。
すると、幸児の体が一瞬で話し声が聞こえてきたコンクリート壁まで移動した。
空間を削り取ったことで自身を瞬間移動させたのである。そして続けざまに壁に
刀を叩きこみ、コンクリート壁を跡形もなく消滅させる。
右手に携帯電話をもった小柄なヒグマが慌てたように振り向いた。

「消えろぉぉぉ!ボクを縛る奴は人間だろうがヒグマだろうがみんな消えちまえぇぇぇぇ!!」

幸児は絶叫しながらヒグマに消滅の力をもつ妖刀を振り上げ、叩き込もうとする。
だが、突然、なんの前触れもなく空中を飛び上がっている幸児の全身に孔が空き、
至る所から血を吹き出して吹き飛ばされた。

「なに!?―――がはぁ!?」

幸児は何が起こったかも分からず刀を振り上げた体勢のまま地面に落下し、
そのまま激痛に悶えて地面を転がりまわった。


406 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:18:46 lnG5xbko0
「がごげぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
『どうしたのシバさん、なんか起こった?』
「参加者の一人に襲われたので正当防衛に移行した。細胞物質を分子レベルに分解して
 全身に孔を穿った。大丈夫だ。まだ死んではいない」
『少しは手加減しろ。大事な実験対象だぞ』

地上に出てきた穴持たず48シバさんは電話で喋りながら苦しむ幸児を悠然と見下ろす。

「もうこいつは使い物にならなそうだな。悪いが刀だけ回収させてもらおうか」

ゆっくりこちらに手を伸ばしてくる冷たい目をしたヒグマを幸児は睨み付ける。

「ざけんなよ。ここはボクの聖地なんだ。お前らは消えろ!消えてなくなれぇ!」

再び刀を強く握った幸児は人外の筋力で、羆殺しをヒグマに向けて投げつけた。
刀は突然の速度についていけず防御が遅れたシバさんの顔面に直撃し、頭を吹き飛ばしながら
羆殺しまるで自分の意思を持っているかのように空高く飛んで行った

「へへっ、どうだ白髪頭ぁ?少しは努力してやった、ぜぇ――――」

幸児が満足気に笑顔を浮かべた数秒後、彼の全身の細胞組織が分解され、
50.01%のダブルブリッドはこの世界から跡形もなく消滅した。

『シバさん!?大丈夫か!?』

地面に倒れ伏す首のないヒグマの肉体。その頭部の斬れ口から端正な顔つきの青年の頭が飛び出し、
無表情で地面に落ちた電話を手に取った。

「大丈夫だ、問題ない。やれやれ、オーバーボディを来てなかったら即死だったな。」

腰を上げたシバさんは壊れたヒグマの着ぐるみを脱ぎ捨て、一張羅のような白い制服を着た
本来の姿を露わにする。帝国住民に誤解されないように普段はヒグマの姿をしているが、
自分は工藤健介や烈海王のようなスタディの実験に志願して人間からヒグマになった者の一人らしい。
らしい、というのはどうも実験の副作用で記憶に障害ができていて自分が何者だったのかあやふやなせいだ。
とりあえず強力な能力を持っているので面倒を見てもらっている帝国に貢献する為働いている訳であるが。
シバさんが遠くの方を見ると、まだまだ大量の海水が会場を覆い隠しているようだった。

「羆殺しを回収しそびれた。仕方がないので津波対策は自前の能力で実行することにする。」
『なんだって!?――――ちょ、ちょっと待て!』

シバさんは腰から専用デバイス、シルバーホーンを抜き、海面に向けて引き金を引いた。

「マテリアル・バースト(質量爆散)」

質量をエネルギーに分解する究極の分解魔法が数キロ先の海面に襲い掛かり、
会場の南西部が戦略兵器級の凄まじい爆発に包み込まれた。


407 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:19:06 lnG5xbko0
「がごげぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
『どうしたのシバさん、なんか起こった?』
「参加者の一人に襲われたので正当防衛に移行した。細胞物質を分子レベルに分解して
 全身に孔を穿った。大丈夫だ。まだ死んではいない」
『少しは手加減しろ。大事な実験対象だぞ』

地上に出てきた穴持たず48シバさんは電話で喋りながら苦しむ幸児を悠然と見下ろす。

「もうこいつは使い物にならなそうだな。悪いが刀だけ回収させてもらおうか」

ゆっくりこちらに手を伸ばしてくる冷たい目をしたヒグマを幸児は睨み付ける。

「ざけんなよ。ここはボクの聖地なんだ。お前らは消えろ!消えてなくなれぇ!」

再び刀を強く握った幸児は人外の筋力で、羆殺しをヒグマに向けて投げつけた。
刀は突然の速度についていけず防御が遅れたシバさんの顔面に直撃し、頭を吹き飛ばしながら
羆殺しまるで自分の意思を持っているかのように空高く飛んで行った

「へへっ、どうだ白髪頭ぁ?少しは努力してやった、ぜぇ――――」

幸児が満足気に笑顔を浮かべた数秒後、彼の全身の細胞組織が分解され、
50.01%のダブルブリッドはこの世界から跡形もなく消滅した。

『シバさん!?大丈夫か!?』

地面に倒れ伏す首のないヒグマの肉体。その頭部の斬れ口から端正な顔つきの青年の頭が飛び出し、
無表情で地面に落ちた電話を手に取った。

「大丈夫だ、問題ない。やれやれ、オーバーボディを来てなかったら即死だったな。」

腰を上げたシバさんは壊れたヒグマの着ぐるみを脱ぎ捨て、一張羅のような白い制服を着た
本来の姿を露わにする。帝国住民に誤解されないように普段はヒグマの姿をしているが、
自分は工藤健介や烈海王のようなスタディの実験に志願して人間からヒグマになった者の一人らしい。
らしい、というのはどうも実験の副作用で記憶に障害ができていて自分が何者だったのかあやふやなせいだ。
とりあえず強力な能力を持っているので面倒を見てもらっている帝国に貢献する為働いている訳であるが。
シバさんが遠くの方を見ると、まだまだ大量の海水が会場を覆い隠しているようだった。

「羆殺しを回収しそびれた。仕方がないので津波対策は自前の能力で実行することにする。」
『なんだって!?――――ちょ、ちょっと待て!』

シバさんは腰から専用デバイス、シルバーホーンを抜き、海面に向けて引き金を引いた。

「マテリアル・バースト(質量爆散)」

質量をエネルギーに分解する究極の分解魔法が数キロ先の海面に襲い掛かり、
会場の南西部が戦略兵器級の凄まじい爆発に包み込まれた。


408 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:19:21 lnG5xbko0

◆  ◆  ◆



「フィリップくーーーーん!!!!!」

水上移動用小型船舶型メカ『鷹の丸』の船上で惨劇を繰り広げるバーサーカーは
吉田君に続いてフィリップ君の全身を瞬時に切り刻んで殺害した。

「い、今助けるモン!」
「え?―――ぬおおおおおっ!?」

その様子をみていてもたっても居られなくなったくまモンは釣り針に引っかかったペドベアーを
引っ張り上げ、モーニングスターの様にぶん廻して振り回して船の上のバーサーカーに向けて
投げつけた。バーサーカーは振り向くも対応できず、ペドベアーを側面に叩きつけられ吹き飛ばされた。

「■■■■■■■■■ーーーーッ!?」

その吹き飛ばされたバーサーカーの体が不可視の力で逆エビ反りに折り曲げられ、
船板にクレーターを作って叩きつけられた。抵抗しようとするも、その体勢のままピクリとも動けない。
鷹の爪団最強戦力の菩薩峠君のサイコキネシスである。見た目は大きな目をした紫色の気持ち悪い子供だが
地球の自転を反転させたり異星人の艦隊を蹴散らす程の強力な超能力を持つ彼の能力の前には
バーサーカーも一溜まりもなかったのだ。完全に動きを封じられ膠着する漆黒の騎士。

「もう大丈夫だよパパ」
「おお、よくやった!菩薩峠くん」
「もうちょっと早く使ってくださいよ。二人を蘇生させるの面倒ではないですか。」
「すごい!あの子供強いモン!」

甲板に引っかかり気絶するペドベアーに引っかかった釣り糸をよじ登ってようやく
くまモンが船の上に辿りついた。

「で、この騎士さんどうします?」
「ヒグマじゃないみたいだけど、危ないから殺しとこう」
「うん、わかったよパパ」

バーサーカーに止めを刺そうとする菩薩峠君。だが、不意に異変を感じ北の方角に振り向いた。

「え?」
「な、なんじゃありゃ!?」
「赤い津波!?」
「ち、違う!爆風だ!巻き込まれるぞぉぉぉぉ!!」

シバさんが先ほど放ったマテリアル・バーストによる質量爆発による熱風が、
海水ごと全てを無に帰そうとするように高速で船体に迫っていた。

「か、回避ぃぃぃぃ!!」
「間に合う訳ねぇだろっ!うわあああああああ!!!!!!」

破滅の光が鷹の丸を飲み込み、会場の南西部が灼熱の炎に包み込まれた。


409 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:19:45 lnG5xbko0


◆  ◆  ◆



仕事を終えたシバさんは無表情でシルバーホーンをホルスターに仕舞いこむ。
欠陥のない穴持たずが唯一持っていないのは、かめはめ波のような強力な遠隔攻撃手段だ。
その点においては自分は並のヒグマよりはるかに優れていると言えよう。
まあ彼らの筋力ならそこら辺の岩でも投げつければ小型ミサイル並の威力が出せると思うが。

「ミッションコンプリート」
『……じゃ、ねーよ!なにしてんのシバさん!今の絶対地上のヒグマも巻き込んじゃったでしょ!?』
「え?あの程度の攻撃じゃ死なないだろヒグマ?」
『いやいや!結構強さの個体差大きいから!あー、もういいよ。
 羆殺しと津波はこっちでなんとかするから本部に帰ってきて。』
「あ、ああ。了解した。すまない」

電話を切ったシバさんは深く溜息をついた。

「やはり駄目だな俺は……所詮は劣等生か」

強力な能力も有効に使いこなして成果を挙げねば意味がない。
そもそも人間を見るだけで一瞬で分解出来て何が嬉しいというのだ。
社会を動かすのは破壊ではなく生産である。屋台を経営し刀鍛冶としても才能を
発揮している灰色熊や艦むすの製造ラインを作りだしたヒグマ提督達の方がよほど自分より
帝国に貢献しているといえよう。役に立たない必要以上の力など宝の持ち腐れに過ぎないのだ。

「平和になったら布束さんに師事して技術部に回してもらうか。
 俺の演算能力も評価してもらいたいものだな」

そう思いながらシバさんは寂しそうに地下帝国に続くマンホールを目指して歩き出した。


【高橋幸児@ダブルブリッド 死亡】


【D-6 廃墟/昼】

【穴持たず48(シバ)@魔法科高校の劣等生】
状態:健康、記憶障害、ヒグマ化
装備:攻撃特化型CADシルバーホーン
道具:携帯用酸素ボンベ@現実、ランダム支給品1〜2(武器ではない)
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため、危険分子を監視・排除する
0:帝国へ帰還する
[備考]
※司馬深雪の外見以外の生前の記憶が消えました
※ヒグマ化した影響で全ての能力制限が解除されています

※シバさんのマテリアルバーストで島の南西部の島内の海面がすべて蒸発しました


410 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:20:05 lnG5xbko0

「……んん〜?」

激しい爆発に巻き込まれ一時的に気を失っていたくまモンはよろけながら体を起こす。
周囲を見回すと総帥とベルナルド博士も同じように起き上がろうとしていた。

「た、助かったのか?」
「そのようですな。おお!見てください!」

博士が指さした先には紫色の救世主が居た、宙に浮いた菩薩峠君が強力のバリアを張って
マテリアルバーストの破壊をシャットアウトしたのである。

「うおおおおおおお!!!でかしたぞ菩薩峠君〜〜!!!」

菩薩峠君は歓喜する総帥の方を振り向き、嬉しそうににっこりと笑った。
その次の瞬間、切断された菩薩峠君の頭部が笑った形のまま地面に落ちた。

「え?」
「ぼ……菩薩峠く〜〜〜〜〜〜〜ん!!!????」

地面に落ちた紫色の子供の頭部を踏みつぶしたのはバリアを張ったおかげで
サイコキネシスから解放されたバーサーカーである。

「■■■■■■■■■ーーーーッ!!」
「い、命の恩人になんてことするモン!もう許さないモーーーン!」

怒り狂ったくまモンは回転しながらバーサーカーに突撃してスレッジハンマーを叩き込んだ。
漆黒の甲冑騎士はそれを振り向きざまに童子斬りで受け流す。ぶつかり合う鈍器と鈍器の間に火花が飛び散った。

「■■■■■■■■■ーーーーッ!?」

だが均衡が崩れ徐々に押されていくバーサーカー。ゆるキャラでもヒグマ。
東京へ出てアッコさんに鍛えられたその力は並大抵のものではない。

「おお!いいぞくまモン!」
「モブォッ!?」
「あっ」

バーサーカーの強烈な回し蹴りがくまモンの腹部に叩き込まれた。
そのまま背後で気絶しているペドベアーを巻き込み、船を飛び出して遥か遠方の森の中へと吹き飛ばされていった

「……■■■■■■■■■……」

バーサーカーはくまモン達を追わずに立ち尽くす二人の男の方を向いている。
ベルナルド博士は総帥のパイプに火をつけた。一服する総帥。

「……すまんな、ベルナルドっち」
「私の研究はあのゆるキャラたちが引き継いでくれることを祈りましょうかね」

総帥はこちらに突っ込んでくるバーサーカーを見つめてニヤリと嗤った。

「せめてもの手向けじゃ、受け取れぃ!」

瞬時に二人の首を斬りおとすバーサーカー。崩れゆく総帥の手から四角い何かが落ちた。
髑髏マークの描かれたスイッチである。

「―――■■■■■■■■■ーーーーッ!?」

総帥が船の自爆スイッチを押したのだ。
質量爆破程ではないが、凄まじい爆発がバーサーカーに襲い掛かり、火柱が船体を覆い隠した。


411 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:20:37 lnG5xbko0


「――――あれ?あそこで気絶してるのは?」

海面が蒸発したことで再び地面が見えるようになった森の中。
テレポートで移動した背中に気絶した美琴を引っ掛けたメロン熊が
意外な知り合いを発見する。

「くまモンとアナログマじゃない!ひさしぶりね!」

くまモンを揺さぶって起こそうとするメロン熊。
その体からSF作品に出てくる光線銃のようなものがポロリと落ちた。


【総統@秘密結社鷹の爪 死亡】
【吉田君@秘密結社鷹の爪 死亡】
【レオナルド博士@秘密結社鷹の爪 死亡】
【菩薩峠君@秘密結社鷹の爪 死亡】
【フィリップ@秘密結社鷹の爪 死亡】


【C-7 森/昼】

【くまモン@ゆるキャラ、穴持たず】
状態:気絶
装備:釣竿@現実
道具:基本支給品、ランダム支給品0〜1、スレッジハンマー@現実
   博士用ガブリボルバー(ヒグマ細胞破壊プログラム内蔵)
基本思考:この会場にいる自分以外の全ての『ヒグマ』、特に『穴持たず』を全て殺す
1:あの一団(鷹の爪団)と接触してみる。
2:ニンゲンを殺している者は、とりあえず発見し次第殺す
3:会場のニンゲン、引いてはこの国に、生き残ってほしい。
4:なぜか自分にも参加者と同じく支給品が渡されたので、参加者に紛れてみる
5:ボクも結局『ヒグマ』ではあるんだモンなぁ……。どぎゃんしよう……。
6:メロン熊は、本当にゆるキャラを捨て去ってしまったのかモン?
7:とりあえず、別の場所に連れて行ってクマーの話を聞くモン
8:あの少女は無事かな……
9:バーサーカー許さないモン
[備考]
※ヒグマです。

【クマー@穴持たず】
状態:気絶、アンテナ、気絶
装備:無し
道具:無し
[備考]
※鳴き声は「クマー」です
※見た目が面白いです(AA参照)
※頭に宝具が刺さりました。
※ペドベアーです
※実はカナヅチでした

【メロン熊】
状態:喜悦
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ただ獣性に従って生きる
1:悦びに身を任せる
[備考]
※鷹取迅に開発されたので、冷静になると牝としての悦びを思い出して無力化します。
※「メロン」「鎧」「ワープ」「獣電池」「ガブリボルバー」の性質を吸収している。
※何かを食べたり融合すると、その性質を吸収する。
※御坂美琴が引っかかっていることに気づいていません。

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
状態:気絶、ずぶ濡れ、能力低下
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:友達を救出する
0:佐天さんと初春さんは無事かな……?
1:なんで津波が島を襲ってるんだろう?
2:あの『何気に宇宙によく来る』らしい相田マナって子も、無事に戻って来てるといいけど。
3:今の私に残った体力で、このまま救出に動けるかしら……?
[備考]
※超出力のレールガン、大気圏突入、津波内での生存、そこからの脱出で、疲労により演算能力が大幅に低下しています。


412 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:21:04 lnG5xbko0

地面に倒れ伏す騎士を起点に地面に根が張り巡らされている。
最強のアヤカシ、空木が己の半身を削って人間に与えた木刀童子斬りが
寄生主を生かすため地面から養分を吸い出しているのだ。
今の致命傷を負ったサーヴァントを回復させればマスターの雁夜は確実に命を落とすだろう。
だが植物と英霊のハイブリッドと化した今のバーサーカーにそのような心配はない。
植物の根は更なる栄養を求めて地下を深く深く潜り込み、やがて開けた空間に最高の栄養源を見つけ出した。

―――――とある世界で世界のエネルギー問題を解決へ導いたという究極の発電機関、示現エンジンである。


【B-7 更地/昼】

【バーサーカー@Fate/zero】
状態:瀕死、寄生進行中2/3、ヒグマ帝国の示現エンジンからマナを供給中
装備:無毀なる湖光、童子斬り
道具:基本支給品、ランダム支給品1〜2
基本思考:バケモノをころす
[備考]
G-5のヒグマドンに向かっています。
※ヒグマ・オブ・オーナーに関する記憶が無くなっています。
※バケモノが周囲にいない間は、バーサーカーとしての理性を保っています。
※バケモノが周囲にいる間は、理性が飛びます。
※童子斬りにより地中よりマナを供給しており、擬似的な単独行動スキルとなっています。
※マスターが死んでも現界し続けるでしょう。


◆  ◆  ◆


「うひょ〜〜〜!!向こうは派手にやってるな〜〜〜!!」
「ああ、向こう側に流されなくて良かったな、流子」

会場の上空。鮮血疾風で空を飛んでいる流子は南西部で立て続けに起こった大爆発を
高みから見物していた。あの攻撃の元凶はヒグマなのか参加者なのか?
いずれにせよとんでもない奴が会場に居ることは間違いないだろう。

「あたし達ももっとつよくならなきゃな!鮮血!」
「ああ流子!……ん?なんだあれは?」

鮮血が下を見ると、何かがこちらに高速で接近してくるのが見えた。

「いかん!よけろ流子!」
「え?がはぁっ!?」

反応が間に合わず飛来した物体にぶつかる流子。それは上空へ向かって投げ飛ばされた穴持たず4であった。
会場の外の海まで投げ飛ばされる筈だったそのヒグマは衝突により軌道を変え地面へ落ちていく。
少しよろめいたものの、なんとか空中で体勢を整え持ち直す流子。

「痛て……なんだったんだあのヒグマ?」
「わからん、だが空を飛ぶヒグマがいてもべつにおかしくないだろうな」
「ははっ確かに――――――――」

ドゴォッ!

「……え?」
「りゅ……流子ぉぉぉぉ!!??」

突然、背後から襲われた流子の胸から腕が貫通して飛び出し、心臓を掴み出された。

「あはっ!おお〜キミのハート、すっごく綺麗だねぇ〜キラキラしてるよぉ〜!」
「な、なんだコレ?誰だてめぇはぁ!?」

後ろを振り向くと、天使の翼を背中から生やした金髪の美少女が笑っていた。
生命繊維でできた心臓を掴み出してキュアハートは耳元で流子の囁く。

「あなたのプシュケー、宝石みたいだね。私に頂戴!」


413 : 羆帝国の劣等生 ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 20:21:44 lnG5xbko0

【I-7上空/昼】

【纏流子@キルラキル】
[状態]:健康、鮮血疾風使用中、心臓を掴み出されている
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル、鮮血@キルラキル
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに対する抵抗
1:智子を探す
2:痴漢(鷹取迅)を警戒
3:キュアハートから逃げる

【相田マナ@ドキドキ!プリキュア、ヒグマ・ロワイアル、ニンジャスレイヤー】
状態:健康、変身(キュアハートエンジェルモード)、ニンジャソウル・ヒグマの魂と融合、
   纏流子にハートブレイクショット
装備:ラブリーコミューン
道具:不明
[思考・状況]
基本思考:食べて一つになるという愛を、みんなに教える
0:そうか、ヒグマさんはもともと、愛の化身だったんだね!
1:任務の遂行も大事だけど、やっぱり愛だよね?
2:次は『美琴サン』に、愛を教えてあげようかな?
3:流子ちゃんに愛を教えてあげる
[備考]
※バンディットのニンジャソウルを吸収したヒグマ7、及び穴持たず14の魂に侵食されました。
※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました。
※ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です。
※山岡銀四郎を捕食しました

【穴持たず4】
状態:軽傷、疲労、地面に落下中
装備:無し
道具:無し
[思考・状況]
基本思考:強者と闘う
0:なんだあの人間は!?


「グルルルル〜〜〜」

南東部のとあるビルの屋上。SCP-777-J・ダークブレイドから奪い取った正宗で
爪を研ぎながらヒグマン子爵は先ほどの放送を思い出す。
呼ばれた名前が余りにも多すぎて聞き流してしまいそうになるが、
違和感を感じ、その正体を突き詰めることに成功した。

巴マミ。

確実に殺して捕食した筈の少女の名前が呼ばれていないのだ。
まさかあの状態から回復したというのだろうか?だとすれば深刻な問題である。
餌の喰い残しは我がポリシーに大きく反するのだ。

そう思っていると、空中から飛来した物体が甲高い音をあげながら屋上の床に突き刺さった。

「グルル?」

それは刀であった。遥か遠くから次の使い手を探すように飛んできた呪われし最強の宝具。
ヒグマン子爵はその刀を迷わず手に取り、床から抜き取った。
両手に二本の刀を装備するその姿はまるで剣豪、宮本武蔵のようである。

「グルルルルル!!!!」

もう一度巴マミを喰らう為、羆殺しを入手したヒグマン子爵は雄たけびを上げながらビルの上から飛び出した。


【E-6・街/昼】

【ヒグマン子爵(穴持たず13)】
状態:健康、それなりに満腹だがそろそろ喰いたくなってきた
装備:羆殺し、正宗@ファイナルファンタジーⅦ
道具:無し
基本:獲物を探す
0:巴マミを捜して喰らう
※細身で白眼の凶暴なヒグマです
※宝具「羆殺し」の切っ先は全てを喰らう


414 : 名無しさん :2014/03/30(日) 20:22:17 lnG5xbko0
終了です


415 : 名無しさん :2014/03/30(日) 21:29:27 ZFL0sGKA0
投下乙
ヒグマも人も圧倒する無差別マーダーのバーサーカーやマナさんの脅威
浅倉もまだ生きてるしはたしてこのマーダーと闘いながら
ヒグマと人類同士戦うことができるのだろうか


416 : ◆Dme3n.ES16 :2014/03/30(日) 23:34:31 lnG5xbko0
感想ありがとうございます。
時間帯を【昼→午前】に変更します。
あとベルナルド→レオナルド


417 : 名無しさん :2014/03/31(月) 19:29:08 ns0XjoNc0
投下乙です
展開については特に言うこともないのですが鷹の爪団に関しては口調、一人称、呼び名がほとんど間違っています

まず地の文の総統が全部総帥になっています

>>402
「おいレオナルドっち!なんか全然効いてねぇっぽいぞ!!」
「なんとっ!やはりデータが足りなかったですかぁっ!?」
「……いや、ていうかさぁー」

鷹の爪団の誰も博士をレオナルドっちとは呼びません。あと口調がメチャクチャなので誰が誰だか分かりません

>>408
「フィリップくーーーーん!!!!!」

「もう大丈夫だよパパ」
「おお、よくやった!菩薩峠くん」
「もうちょっと早く使ってくださいよ。二人を蘇生させるの面倒ではないですか。」
「すごい!あの子供強いモン!」

フィリップは全員から呼び捨て。菩薩峠くんは基本的に「パパ……」としか言いません
あと蘇生とありますがフィリップはともかく吉田くんはどうやって?

>>410
「……すまんな、ベルナルドっち」
「私の研究はあのゆるキャラたちが引き継いでくれることを祈りましょうかね」

博士の一人称は俺で口調はべらんめえ口調です

おそらく未把握で書いたのでしょうが口調や一人称などの最低限の再現はしてください


418 : 名無しさん :2014/04/01(火) 04:07:22 7IRbX25s0
投下乙
シバさん何やってんだよww


419 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/04/02(水) 23:53:36 yz7uFIXkO
申し訳ない、間に合いそうもないので予約破棄で
新たに予約が入らないなら一週間以内には投下します。


420 : ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:20:46 oSXcxb9g0
皆様お疲れ様です。


ライダーバトルは、二人とも真面目に白熱した戦闘を展開しており、今後が非常に楽しみです。
私は戒斗さんが津波を走って逃げ切った衝撃の事実に抱腹絶倒でした。
ちゃんと火を通して喰ってヒグマになったのなら、やはりきっと、浅倉さんはもともとヒグマの資質があったのかもしれませんね。


シバさんは色々な意味でいい仕事されてますね。よくない面の方が多いようですが。
高橋くんはもう少し早く頑張り方に気づいていれば……。
あと、くまモンは喋りません。
邂逅したゆるキャラ(?)3体と御坂さんの行方も気になるところ。
予想通りのバーサーカー無双でしたが、雁夜おじさんのご健康をお祈りいたします。
あと、くまモンは喋りません。
あと、くまモンは喋りません。


私は、予約していた
布束砥信、ヤイコ、呉キリカ、夢原のぞみ、Dr.ウルシェード、
劉鳳、杉下右京、クマ吉、アルター結晶体、ヴァン、
鷹取迅、ガンダムに乗ったヒグマ、ハーク・ハンセン、チャック・ハンセン、暴君怪獣タイラント、
シーナー、キングヒグマ、穴持たず59、穴持たず39
を投下いたします。


421 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:22:37 oSXcxb9g0
 ヒグマの繁殖期は6〜7月。
 繁殖可能年齢は、約4歳以降。
 一度に出産する子どもの数は、約1〜3匹程度。

 他の多産な哺乳類、況や大半の鳥類、爬虫類、両生類などと比較しても、ヒグマの繁殖速度は決して早くはない。

 彼らヒグマは、『質より量』ではなく『量より質』の繁殖戦略――『K戦略』をより強く採った種である。
 熊の繁殖能力とは、つまり、生んだ個体を、確実に生き残るような強力な子供として産み育てる能力である。
 シーナーたちが後に大量作成したヒグマたちも、それゆえに、生れてすぐに高度な自我を持ち、言語を操り、強靭な己の肉体を操作することができた。


 『野生の繁殖パワー』とくくることで、その戦略を、『質より量』の『r戦略』と混同することは、大きな誤りである。


 ――この誤りは、双方の戦略者の実力を、共に誤認することに繋がる。


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


 津波を切り裂く、桃色の光。
 押し寄せる潮位は島の崖をたやすく乗り越えるも、その光の背後にて落ちる滝の元には被らなかった。

「よーっし! これでキリカちゃんやヤイコちゃんは無事だよね」

 プリキュア・シューティングスター。
 海水をその突進力で裂ききったキュアドリームは、満足そうに後方を振り返る。
 既に津波はその勢いを潜め、島の外へと波を引き始めていた。
 水を裂く光を弱め、波の間に着水するも、水位は後方の海食洞を覗かせる程に落ち着いている。

 島の岸から1キロメートルばかりも直進してしまっただろうか。
 首輪を布束砥信に外してもらったとはいえ、流石に島から離れすぎた。
 戻ろうと波間からキュアドリームが飛び立とうとした時、彼女は足首に鋭い痛みを感じた。

「いヒぃッたーい!! なになになになに!? 何なの?」

 慌てて水中から浮かび上がり足下を見やる。
 左の足首に、長径30センチメートル程の、真っ黒い楕円形の塊が取り付いていた。
 力任せにはぎ取ると、それはふくらはぎの肉をぞっくりと抉り取りながら離れる。
 痛みを堪えながら、その物体を観察した。


 固い。
 まるで木か石のような手ごたえだが、黒い表皮は明らかにクマの毛皮のような細かい毛に覆われている。
 左右に、枯れた枝のようなものが4本ずつ飛び出しており、何かの種か木の根のようにも見えた。
 脚から離した裏側は、黒いヒダが横に並んでいて昆虫の腹部のようだが、そちらもやはり固く、洗濯板のようになっていた。

 左脚の肉を抉った部分は、よくわからない。
 もしかするとこれが生き物で、噛みちぎられたのかとも思ったが、血も海水で流れており、一見しただけではどこにも口のようなものは見あたらなかった。


「……なんだろうこれ……。ただの変な石?
 わたしの脚にぶつかってきただけなのかなぁ……」


 キュアドリームは、それを海に放り捨てようと、頭上に掲げる。
 その時、その物体が鳴いた。

「ちぃぃぃぃぃぃ……」
「ひえぇ!?」

 右手の先で、その物体は4対の枝のような脚を動かし、体の先端から、鋭い牙を覗かせていた。
 ほぼ真円形に開いた口が、手の肉を抉ろうと身を捩らせている。
 驚きで、夢原のぞみは反射的にその物体を投げ出した。

 手を離しざま、その物体は口のある方とは反対側の端から、濁った液体をのぞみに吹きかけてくる。
 プリキュアの衣装に、わずかだったがその褐色の汁が付着した。
 波間に沈む物体を見送りながら、夢原のぞみはその気色悪さに改めて戦慄した。

「うわぁ〜ばっちぃ……。本当に何なのあれ……。
 津波で変な生き物が来ちゃったのかなぁ……。布束さんって、ここの島の人だったみたいだから、後で訊いてみよう……」

 海水でその汁を洗い落とし、足首の傷を押さえながら、キュアドリームは島の西側へと飛び帰っていった。


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


422 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:24:00 oSXcxb9g0

 中島の中川堤の下に変なものが現れた。死んだ牛のように見えるのが、水面に背をさらして久しく動かないので、あるいは大木の朽ちたのだと言い、また苔むした石だなどと、人々は言い合った。
 水練の達人が近寄って撫で回したりしたが、なにしろ流れの激しい場所で、ゆっくり調べることができない。ただ『黒くて皮の手触りがある。頭もなく口もなく、左右に枝のごときものが二三本出ている。おそらく枯木の根ではないか』とのことだった。
 近くの山田村の牛かもしれないと、いちおう尋ねたけれども、やっぱり牛ではなさそうだった。鍬で叩いたり竹で突いたりしてみると、ただバンバンというばかりで鍬の刃も入らないながら、木石などではなく、何か知らないが生き物の皮だろうと思われた。

 その後、川水の少ない日に、地元の若者たちが黒皮のごときものの周りに寄り集まって、一鍬ずつ力いっぱい打ち込んでみるに、だれも刃が立たなかった。

「こいつ、絶対に生き物じゃないよ」

 そう言い合って、みな岸に腰かけて煙草を吸っていると、そこへ「椰子の実」という一抱えばかりの木の実が流れ下ってきた。これは白山の谷間に生ずるといわれ、表面は毛の生えた皮で、中に髑髏のような果肉があり、白い油が満ちている。油は甘くて美味なので、土地の者は実を拾って吸う。
 その椰子の実が黒い物の前へ流れてくるや、そいつは枝のような手を伸ばした。そして実を引き抱え、目も口もないところへ押し当てて、たちまち白い油を吸い尽くすと、殻を捨て流した。
 これを見て、百姓たちは驚き呆れた。

「生きているぞ。化け物だ。打ち殺せ」

 みな立ち騒いだが、鍬の刃も立たない、どうするか。だれかが思いついて、藁に火をつけ、黒い皮の上に置いた。他の者たちも次々に焼け草を投げかけ投げかけするうちに、シュウシュウと音がして油臭さが漂ってきた。

「それ、今だ」

 鍬を振り上げてしたたかに打つと、焼け爛れた跡だから、一寸ばかりも切り込み、黒い血も少し流れ出たように見えた。


 そのときだ。


 大地も覆るようなドウドウという水音が轟いて、今まで渇水していた川に、一丈あまりの水かさの大波が川上から押し寄せた。
 驚いた百姓たちが一目散に逃げたあと、黒い死牛のごときものは、水がかかると同時にコロコロ転がるように見え、するとたちまち幾重の堤防がいっせいに崩れ落ちた。逃げ延びたと思った百姓たちが振り返ると、水は彼らを追いかけるように、道なき田畑を走り流れて来た。

 それからというもの、方々で水が溢れ、周辺は長らく水害に苦しむこととなった。黒い獣が転がっていくと見えた場所は、たちまち淵となって、水難は止まない。獣は、中国の伝説の「天呉」とかいうものだろうか。『目鼻がなく、よく川の堤防を破る』などと聞いたことがある。
 とにかく人力の及ぶものではなく、仏の力にすがるしかないということになって、百日間、家ごとに毎朝、川に向かって観音経を唱えた。
 その効験か、または単に時節が来たからか、ある夜、闇の中に薄赤い光があって、黒い獣が川上へと向かうのが見えた。その後、水が引いて、今の土地の様子になったのである。


 俗説に『水熊が出た』というのは、この出来事をいう。


 (堀麦水『三州奇談』二ノ巻「水嶋水獣」より)


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


423 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:26:20 oSXcxb9g0

『【暁美ほむら 死亡】
 【クリストファー・ロビン 死亡】
 【黒木智子 死亡】
 【夢原のぞみ 死亡】
 【呉キリカ 死亡】
 【高橋幸児 死亡】』


 という文字列がモニターに映し出されている。

 火山より現れた巨人。
 島の全体を包むように襲った津波。
 参加者の仕業とも外部からの介入ともつかない事態の連続だった。


 しかし首輪は、滞りなくこの殺し合いが進行していることを伝えていた。
 研究所内の受信機は、首輪の盗聴器からの音声もしっかりと拾っている。


 クリストファー・ロビンと黒木智子は、何らかの手段で地下の研究所の存在に気づいたが、禁止エリアに入って爆死したものらしい。
 夢原のぞみと呉キリカは、帝国内に偶然侵入してしまったところを布束砥信がその能力で排除したようだ。
 高橋幸児は、無謀にも穴持たず48に襲い掛かり、正当防衛を受けて分解された。


 問題は暁美ほむらである。
 彼女は穴持たず12の捕食により死亡したと思われるが、どうやら近隣にいた参加者の会話を拾うに、信じられないことだが首輪の外れた肉片の状態でしぶとく生き残っている可能性がある。
 さらに、穴持たず1が『例の者』に接触したらしい。
 また、参加者たちにペラペラと余計な情報を喋っている、外部より連れてこられたヒグマが2名いる。
 声にならない声を発しながら人間を切り刻んでいたらしい参加者もいたようだが、それにしては死亡者のリストが増えていないことも気になる。
 これは看過してよい状況なのか否か――。


「――キングさん。状況は把握できましたか」


 背後から、何の前触れもなく声がかかる。
 荒れた研究所の一角に、骨と皮ばかりの影のようなヒグマが現れていた。
 穴持たず47、シーナーであった。
 呼びかけられたキングヒグマは、操作を覚えたての機械画面から目を離し、シーナーの虚ろな瞳に向けて唸り返す。


『ご苦労様ですシーナーさん。ようやく島内センサネットワークをリストアして被害状況が確認できたところです。
 ご指摘の通り、津波の到来と巨人の出現により、地上の損壊状況は激しい模様です。
 E−5およびD−7エリアは巨人が踏破。目立った建物がないことが幸いでした。
 その他、E−5以外のエリアは基本的に津波によって冠水。シーナーさんのいたE−6の他、A−5、B−5、C−4、D−4、D−5は比較的地上の損壊は軽微なようですが、今後の引き波によって被害は更に拡大するものと思われます』
「あと、A〜Dの6〜9あたりは、シバさんが盛大に爆破して下さったようですね」
『……聞いていらっしゃったんですか、今さっきの電話』
「はい。識(み)ました。建造物と参加者・ヒグマに影響がなければいいんですが……」
『センサが生きているので、爆心地付近はともかく、それほど会場の破壊に繋がってはいないかと……』


 高橋幸児の音声を拾ったことで、『羆殺し』なる宝具が出現したことは認知されていた。
 同胞のヒグマの一頭が武器と融合したものらしく、シーナーやキングヒグマにとっても気になる物品ではある。
 そしてシーナーが津波を確認した後の呼び掛けで、シバはそれを回収して津波の収拾に当てるという案を出していた。
 だが、当の本人が収拾案を盛大に反故にして会場を撹乱しているのだから世話はない。
 信頼に足りるかと言われれば、正直心もとない。

 一方でキングヒグマは、布束砥信とヤイコがある程度復旧させた研究所の機能を、当座のところ順調に使いこなしていた。
 操作中にクロスゲートを誤作動させてしまい、人間を一人、近海の海上に呼び出してしまったが、大きなミスはその程度だ。
 撹乱の多い会場の環境を少しでも把握すべく、彼は主催者然とした行動を着実に積み重ねている。


424 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:27:08 oSXcxb9g0

 シーナーの表情は渋い。

「……あなたも、パッチールの派遣および帝国の維持、ご苦労様です。あなたが君臨しているからこそ、我々が行動できるのですから」
『労いは有り難いのですが、何か、ご不満があるのでは』
「いえ……。ただ、これらの異変を原因から止めない限りは、再三再四、異変が起きる可能性がありましてね」


 既に、シーナーはヒグマ帝国内で、脱走した人間と、それに呼び出されたらしい闖入者を補食している。
 危惧すべきは、島外にクルーザーで出て行ってしまった同胞達から島の情報が漏れ、外部より干渉を受けることであった。
 火山に突如出現した巨人も不自然な挙動の津波も、もしかすると外界からの何らかの能力によるものとも考えられる。
 夜間の火山の噴火でさえ、下手をすれば参加者か部外者が引き起こしたものと考えられなくもない。

 今回の津波の収拾のように、何度も後手に回っていては取り返しがつかない。
 先手を打って、対策を取っておく必要があった。


『そう思いまして、メインサーバーの電源は落としたままにしています。こちらからもデータの閲覧はできませんが、今のところ外部より重要情報にアクセスされることはないかと』
「賢明な判断ですね。我々が研究所のデータを使うことは余り無いでしょうから。
 ――ですが、この島は、既に外部からの介入に晒されている可能性が高い……」


 ――“彼女”たちに動いてもらうしかありませんね。


 呟きながら、シーナーは部屋の隅の伝声管の蓋を開けた。
 キングヒグマは、驚愕に眼を見開く。


『No.39の御姉様にですか!? シーナーさんは、御姉様の行動方針を変更できるのですか!?』
「“彼女”も我々の同胞です。実験を滞りなく進めることが、我々の目的なのですから。
 有冨所長の意向とも、表向き食い違いはないはずです。やれるだけやってみますよ」


 シーナーの体から見えない霞が溢れ出し、伝声管を伝って、島の地下へと流れ落ちてゆく。
 その黒い流体が辿りつくのは、島の位置する海底の一端。

 シーナーの振動覚が、“彼女”の息遣いを捉える。
 シーナーの口から、有冨春樹の、鼻につくような笑い声が響いていた。


「やあ、調子はどうだい? 海上の異変を報告してくれ」


 伝声管の向こうから、ざわざわと昆虫の群れが蠢くような音で、返答が返ってくる。


 ――島外への脱出者1名を確認。捕食中。
 ――脱出ヒグマ43名とクルーザー6艘を確認。うち42名は死亡。5艘は轟沈。
 ――現在、直接の波浪による死者は確認されておりません。
 ――なお、波浪に乗り脱出しかけた人間1名の島内帰還を確認しています。
 ――海上より島内への侵入者6名を確認。看過。うち5名は島内の水上で死亡しています。
 ――周辺海上に7名の人間と2名のヒグマ、2名の名称不明の存在を確認。行動を保留しています。
 ――また空中より複数の飛来物の振動を確認しましたが詳細不明です。


 シーナーは伝声管から口を外し、キングヒグマに向けて、

『やはり既に侵入されていたようです。追々掃討に向かいます』

 と幻聴を投げた。


「なるほど。こちらでもゴタゴタがあってね。長い間連絡していなくてすまない。
 キミは今後、『周辺海上を通るヒグマと研究員以外の生命体は、全て捕食』してくれ。
 そしてキミの事を知らず、『攻撃を加えてくるようであれば、ヒグマのようであっても敵とみなせ』。
 あとはここに、ヒグマを一匹残しておくから、海食洞や津波の状況なども詳しく報告しておいてくれ。
 特に、海食洞には布束がいるんでね。津波が行ってないか、見に行ってやって欲しい」


 ――了解いたしました、有冨所長。


 シーナーは伝声管を閉じ、安堵の息をつく。

「なんとか、私が有冨所長であると信じて下さったようです。これで、“彼女”が外部介入の大半を処理してくれるでしょう。
 あなたは引き続き、島内の状況確認と、ヒグマたちの統制をお願い致します。
 ……灰色熊さんにも、引き続きご連絡を」


 有冨春樹が残していた、『先手を打った対策』。
 それを更に万全の状態に、張り直した。
 研究所育ちのヒグマならば皆知っている、信頼に足りるものだ。
 “彼女”の採る戦略は、この撹乱の多い状況の中で、最も真価を発揮する。
 事実、彼女は既に、第一の異変には適切な対応を採っていた。
 海上の侵入者たちを処理するのも、すぐだろう。


 しっかりと頷くキングヒグマを見やり、穴持たず47は再びその存在を虚空に掻き消した。


425 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:28:01 oSXcxb9g0

【ヒグマ帝国内:研究所跡/午前】


【穴持たず47(シーナー)】
状態:健康、対応五感で知覚不能
装備:『固有結界:治癒の書(キターブ・アッシファー)』
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため、危険分子を監視・排除する。
0:地上から帝国内への浸水は無かったため、会場内の収拾に当たる。
1:内部で生き残っているらしい、残り1人の侵入者の所在確認が先決か……?
2:暁美ほむらの安否確認や、李徴・隻眼2への戒めなども、いざとなったらする必要がありますかね……。
3:モノクマさん……ようやく姿を現しましたね?
4:デビルさんは、我々の目的を知ったとしても賛同して下さいますでしょうか……。
[備考]
※『治癒の書(キターブ・アッシファー)』とは、シーナーが体内に展開する固有結界。シーナーが五感を用いて認識した対象の、対応する五感を支配する。
※シーナーの五感の認識外に対象が出た場合、支配は解除される。しかし対象の五感全てを同時に支配した場合、対象は『空中人間』となりその魂をこの結界に捕食される。
※『空中人間』となった魂は結界の中で暫くは、シーナーの描いた幻を認識しつつ思考するが、次第にこの結界に消化されて、結界を維持するための魔力と化す。
※例えばシーナーが見た者は、シーナーの任意の幻視を目の当たりにすることになり、シーナーが触れた者は、位置覚や痛覚をも操られてしまうことになる。
※普段シーナーはこの能力を、隠密行動およびヒグマの治療・手術の際の麻酔として使用しています。


【穴持たず204(キングヒグマ)】
状態:健康
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:前主催の代わりに主催として振る舞う。
0:島内の情報収集
1:キングとしてヒグマの繁栄を目指す
2:穴持たず59に連絡して島へ呼び戻す
3:灰色熊に、現在の情報を伝達する


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


 穴持たず59は、頭を抱えていた。
 夜明けから意気消沈して、彼は携帯端末を前にして身じろぎもできていない。
 レオナルド博士を拉致するという特命を受けて派遣され、はや一週間も経とうか。
 相棒の穴持たず58を対象の一味に無惨に殺されて以降、日本中を探すも、拉致対象の動向はさっぱり掴めなくなっていた。

「……予定だと、今日ってもう実験の日だよなぁ……。
 先輩の穴持たず達はもう爽快な戦いを楽しんでる頃だろうに……。どうすりゃいいんだよオレ……」

 彼のいる場所は、東北地方の太平洋沿岸。
 研究所から再拝命を受けた後、彼は九州からここに至るまで虱潰しにレオナルド博士の行方を追っていた。
 先輩と違い、彼にはとりたてて便利な隠密能力などはない。
 人語を解し、喋れるというのは特技と言えなくもなかったが、穴持たずの半数近くは何をせずとも喋れたりしていたので、特に自慢できることでもない。
 海峡を泳ぐのも人目を避けて行動するのも、彼には細心の注意を払いながらの探索行だった。
 しかし、それも時間切れ。
 島の研究員からどんな怒りの文句と処罰が飛んでくるかビクビクしながら、彼は先程から海岸沿いの植え込みに身を潜めているのだ。

 そして、目の前に置いていた携帯端末が鳴る。
 穴持たず59は、諦観をその瞳に宿しながら端末を取った。

「――はい、穴持たず59です……。あの、すんません、まだ博士は――」
『――グルルルルルル……』


 ――ヒグマ語!?


426 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:28:43 oSXcxb9g0

 携帯の向こう側から聞こえてきたのは、研究員の罵声ではなく、ヒグマの唸り声であった。
 ヒグマは、穴持たずNo.204、『キング』という個体であると名乗っていた。
 つまり、地下研究所の放送席の前には、今、人間ではなくそのヒグマが座っていることになる。
 事態を理解しかねる穴持たず59をよそに、電話口の向こうで、ヒグマ語の唸りは更に続いていく。

『穴持たず59。至急、島への帰還を願う。キミの直近に、間もなく愚昧な同胞のクルーザーが着岸する。
 奪い返して戻りなさい。同胞が反抗するようなら殺害しても構わない』
「おいおいおいおい、ちょっと待て。あんたはまず誰だ!?
 204号なんて番号聞いたこともねぇぞ!? それになんだって研究員のクルーザーに乗ってヒグマがやって来るんだよ!?」
『我々ヒグマは研究所を制圧したのだ。しかし、想定外の異変が多発し、同胞の中からも無闇に島外へ脱出しようとした者たちがいる。
 まだ我々の存在は人間に知られるべきではない。事実、その一艘を残して同胞のクルーザーは海上自衛隊の艦船に悉く沈没せしめられた。
 早急に、ヒグマ内でも統制を取る必要があるのだ』

 想像を絶した答えに、穴持たず59は言葉を失った。
 キングヒグマは、彼を後押しするかのように、重々しく一言付け加える。

『大丈夫だ。我々は、“彼女”を――穴持たず39を統御下に置いた。
 闖入者及び異変の収拾にも、“彼女”が当たってくれている』
「“彼女”って……、まさか、“ミズクマの姐さん”?」


 その時、穴持たず59の前の海岸に、一隻のクルーザーが着岸していた。


『――では、頼んだぞ、穴持たず59』

 携帯電話の唸り声が切れるのとほぼ同時に、話の通りその船からは一頭のヒグマが降りてきていた。
 研究所から出てきてしまったヒグマであるらしい。

 身を震わせて伸びをしているそのヒグマに向かって、穴持たず59は慌てて走り寄っていた。

「おい、あんたマジで穴持たずなのか!? 今、島はどうなってるんだ!?」
「あ〜?」

 ヒグマは首の関節を鳴らし、穴持たず59に胡乱な眼差しを向けて立ち上がる。
 そして、彼をせせら笑うように前足の指を向けて、名乗りを上げた。

「誰かと思えば、人間のイヌの5み9ず(ゴミクズ)さんじゃねぇかよぉ。
 俺は穴持たずNo.427!! てめぇみたいなゴミクズヒグマとは違う、シーナー謹製のヒグマの一頭だ!!」
「427号!? 第2、第3の穴持たずとは言ったが、何頭まで増えてんだよ、馬鹿じゃねぇの!?」

 驚き呆れる穴持たず59に向けて、穴持たず427は、クルーザーの中を指して注目をさせる。
 クルーザーの船室や甲板には、6体のヒグマが惨殺され、喰い散らかされた状態で放置されていた。

「俺は同期のヒグマの中でも最強なんだよ……。だから、ムカつく奴らは全部喰ってやった。
 自由は俺一人のもの!! 日本中の人間を俺がシーナーたちに先駆けて支配してやるのよ!!」
「食事の後片付けもできんヤツがどうやって日本征服する気だ!?」

 期待とかみ合わない穴持たず59の返答に、穴持たず427は怒りを顕わにする。
 前脚の爪を研ぎ合わせ、戦闘の構えを取った。

「……てめぇ……。死にたいらしいな。俺の筋力なら、てめぇみたいなゴミクズ、一撃で殺せるんだぜ……?
 シーナーを下克上する前に、てめぇからブッ殺してやるぞ!?」
「貴様が、死亡フラグというものの何たるかを理解していない馬鹿者だということだけは良く分かった」

 一撃で相手を殺せる先輩方なんて山のようにいるし。
 と、穴持たず59は、かわいそうな者を見るような目を穴持たず427に向けていた。

 瞬間、穴持たず427は、風のように飛び掛る。


「死になぁ!! ゴミクズがぁぁぁぁあぁぁ!!」


427 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:29:21 oSXcxb9g0

 叫びながら、穴持たず59に向けて、その爪が振りぬかれた。
 だが、その爪は肉にも毛皮にも、触れることはなかった。

 穴持たず59は、低く身を屈めたまま前進する。
 脇の下に潜り込むような、ダッキング。
 その前脚は、ドリルか何かのように高速で回転していた。


「427(死にな)は、貴様だろがぁーッ!!」


 正確無比、機械のような、だが荒々しいショートアッパーがヒグマの下顎を捕らえる。
 その一撃は穴持たず427の下顎骨を砕き、舌を貫き、口蓋をぶち抜いて脳を破壊した。
 前腕の回転と共に飛び散った脳漿が、砂浜に雨のように舞い落ちていく。
 穴持たず59と交錯した後、絶命した穴持たず427の肉体は、ふらふらと砂浜に倒れ伏して、動かなくなった。

 前脚に付いた体液を舐め取り、穴持たず59は忌々しげな表情で同胞の死体を見やる。


「俺は腐っても、『量より質』を求めるHIGUMAの、最後の生まれなんだ。中途半端にネズミみてぇな『質より量』を求めた野郎どもに遅れをとるかよ。
 羆はもともと『K戦略』寄りの動物だ。『r戦略』をとるなら、“姐さん”くらい突きつめねぇと駄目だぜ」


 人間に発見されるのもまずいので、きちんと死体を海洋葬にすべく、穴持たず59はその死体を砂浜から海に放り捨てていく。
 クルーザーに放置されていた同胞の肉体も、丁寧に血肉を集めて海に流していった。


「……まったく。それにしても、最近のヒグマは布束さんから『奇襲する時は叫ばない』って注意すら受けてないのか?
 くまモンや烈海王とか、尊敬すべき先輩から技を教わったりもしてないのかねぇ……。
 せめて58号が檻の中を整理整頓してたみたいな心意気くらい、あって欲しいもんだ……」


 穴持たず59が、砂浜の血液を掃きながら、回想に鼻をすすり上げていた時。
 北方から地響きを立てて、巨大な人間が街道を走り寄ってきていた。

 巨大と言っても、身長10メートル程度、3階建てのビルくらいである。
 海岸沿いの道を南へ下りながら、その白髪頭の人間は、ふらふらとした足取りを必死で前に進めていた。


「……まずい……! 戦闘機も戦車も、前回より性能が上がっておった……。
 艦砲射撃を喰らったのも、いかん……。
 頭のおかしい恐竜が喰らいついてきたのも、いかん……。
 しかしそれよりもなによりも……」


 巨大な老人は、黒いスーツを、真っ赤な血に濡らしていた。
 一歩走るごとに、びちゃびちゃと大量の血液が街道に落ちてゆく。
 喘ぐように、虚ろな瞳を進めていくその歩みは、刻一刻と減速して行った。


「……この、得体の知れん、船虫どもよッ……!!」


 老人は、声を荒げながら、自分の黒いスーツを毟り取り、ちぎっていった。
 しかし、そのスーツはすぐに体内から再生するかのように、元通りになっていく。
 よくよく見れば、老人が投げ捨てるスーツの一部は、布などではなかった。


 その黒いスーツは、直径30センチほどの黒い楕円形の生物が、群がることで形成されていた。


428 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:29:49 oSXcxb9g0

 巨人が流す血液は、全てその生物に食い破られて流されたものであった。
 その生物の一群は既に巨人の体内に侵入しているらしく、時折、肩や腕の皮膚が炸裂して、大量の黒い生命体が溢れてくる。

 そして、巨人は時間が経つに連れ、どんどんと体が縮小していく。
 彼は顔に悔しげな表情を浮かべて、ついに道のど真ん中に倒れた。


「アカギ……! 赤木しげる……!
 お前と、もう一度……、会いたかった……!」


 最期の息をつくや否や、その頭部は内部から張り裂け、黒い昆虫のような生物群に食い破られる。
 少しの時間もなく、その肉体は骨も残さずに綺麗に捕食されていった。


【鷲巣巌@アカギ 会場外に脱出するも死亡】


 穴持たず59は、一連の光景を、戦慄しながら見つめていた。


「マジだ……。マジで“姐さん”が動いてやがる……。ってことは今のヤツは島から脱出してきた人間……?」


 足元を通って海に帰って行く、巨大なフナムシのようにも見える生物群に対して、穴持たず59は震えながらも深々と頭を下げていた。

「お勤めご苦労様です……、“姐さん”……」

 黒い革に覆われたその生物たちは、その辞儀に応えるように、ぞわ、と一斉に脚を打ち鳴らし、水面下に潜っていく。
 その黒い一群は北方に泳いでいきながら、先程穴持たず59が投棄した7体のヒグマの死体を瞬く間に喰い尽し、見えなくなった。

 穴持たず59は、ただちにクルーザーに飛び乗り、その生物群を追い始める。


「“姐さん”がここまで動いてるんなら、確かに島は大混乱になってそうだな……。
 今朝方、お台場の方から津波もあったみてぇだが、まさかそれが北海道の方まで行ってるとか……。
 とにかく無事であってくれ、研究所! 58号の蜂蜜壺を、もらってやらにゃあならないんでな!!」


【会場外 東北地方太平洋沿岸/午前】


【穴持たず59】
状態:健康
装備:クルーザー操舵中
道具:携帯端末
[思考・状況]
基本思考:仕事をして生きる
0:とりあえず島に戻るぞ!
1:一体、島はどうなってるんだ!? 研究所は!? 参加者は!? ヒグマは!?
2:58号の蜂蜜壺を、もらう。
3:シーナーって、一体何者だ?
[備考]
※体の様々な部分を高速回転させることができます。


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


429 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:30:17 oSXcxb9g0

「ふむ……どうやら島の外に流されていたようですねぇ」
「木も建物も見えないと思ったら単に海だったってだけか。納得だよ」

 会場の島を襲った津波は引き始めていた。
 筏に乗っていた杉下右京とクマ吉は、下がっていく海面の水位の下から、島の岸壁が現れていくのを見ていた。
 それに続けて、滝のように崖からは海水が流れ落ち、石礫や流木、ガレキが大量に二人の乗る筏の方へ流れてくる。

 咄嗟の判断で、右京は細めの丸太を拾い上げ、クマ吉とともに島へ向けて筏を漕ぎ始めた。

 流石、丸太製の筏と櫂なだけあって、津波の引き波にも転覆はしない。
 しかし、その勢いには到底勝てず、彼ら二人はどんどんと島から引き離されてゆく。

「ヒグマというのはもっと膂力に富んだ生命体ではないのですか。
 海上自衛隊からの報告では、単体でも相当な生命力と戦闘能力を持っていると聞いたのですが」
「僕は変態という名の紳士だよ!? 小学生の紳士に肉体労働を期待しないでほしいよ!!
 あ、そうだ! というか、むしろこのまま島外に脱出しちゃえばいいんじゃないかな!?」
「いけませんよ。我々は島の参加者を救出するのですから。主催者を逮捕し、脱出はその後です」
「救助手段も確保せずにかい!? お笑いだね!! 僕はもうこの機会に戻るよ!!」
「待ちなさいクマ吉さん! そちらに漕いではいけません!」

 ただでさえ推進力の少ない丸太のオールで、クマ吉は右京の漕ぐ方向と反対方向に漕ぎ始めた。
 そのため筏はぐるぐるとその場で回転を始め、全く推進力を得ることなく、島の岸からは瞬く間に離れていってしまう。

「駄目ですクマ吉さん! ここの主催者を捕まえないことには……!」
「主催の前に、ヒグマに人間の道理が通じると思っているのかい!? 杉下さんは頭が良いワリに馬鹿だね!!」


 二人が口論しながら流されていた時、ふと、筏の回転は止まっていた。


 それどころか、丸太製の筏はばらけて沈み始めていた。
 流石、丸太である。
 むしろ今まで津波の中で、急ごしらえのくせにその機能を保っていられたことの方が僥倖なのだ。
 そしてその櫂や丸太の間を伝って、体長30センチメートルほどの、真っ黒な船虫のような生物が何体もその上に這い登ってきていた。
 見れば水面下は、何千体いるかもわからないその黒い生物に埋め尽くされている。
 筏はその生物群に破壊されようとしているのだ。


「なんですかこの生物は。表皮の質感から見るに、これもヒグマの一種……? クマ吉さん、あなたはご存知ですか?」
「僕は、ヒグマロワに踊らされただけの被害者だよ?
 いくらヒグマ扱いで誘拐されたとはいえ、布束さんと桜井さんと田所さんのパンツしか見てなかった僕が知る訳ないじゃないかこんなキモイ生き物」
「……罪状追加ですね」

 右京の問い掛けに返答しながら、クマ吉は筏の上に這い上がってきたその平べったい虫のような生物を、櫂にしていた丸太で潰そうとする。
 バランスの悪い壊れかけの筏の上で、その生物の固い殻はなかなか潰せなかったが、渾身の力を込めて垂直に丸太を叩きつけた時、ついにその生物はぐちゃりと音を立てて黒い血を噴き出していた。

「やった! 流石、丸太だね! 僕でもこの通り潰せるよ!」

 クマ吉は朗らかに笑い、瞬間、筏の上に登っていた数十体のその生物に飛びかかられていた。
 なす術もなく、スクール水着を着た小学生のヒグマは、海中に引きずり込まれて跡形もなくその黒い生物群に捕食される。

 それを引き金にするかのように、丸太製の筏はそれらによって見る間に食い荒らされていった。
 流石、丸太である。
 右京が筏の端に逃れて十数秒の思索を巡らせるくらいの間は、その浮力を保っている。


「迂闊でした」


 ――僕とした事が、なぜ、このような事態を想定できなかった……!


430 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:30:49 oSXcxb9g0

 水中での行動に特化したり、多数で行動するヒグマがいてもおかしくない。
 穴持たず、ヒグマという存在の全貌がわからない以上、対策はどれだけ取っても取りすぎることはなかったというのに。
 それこそ、プリキュアオールスターを呼べるまで本州で粘るなり、先遣隊に任せて情報収集に徹するなりしておけば良かったのだ。
 義憤に駆られた。
 らしくないことだが、あまりに等閑な政府の対応に怒りを覚え、特命を受けるやすぐさま、相棒も道具もなく、飛び出してきてしまったのだ。
 拙速にすぎる。
 なぜヒグマの跋扈する島へ、手錠しか持ってこなかったのだ僕は。
 携帯すら置いて来ている。
 冷静さを欠いたにも程がある。
 僕が死んでしまったら、もう本州で、ヒグマの危険性を推察できる者はいなくなってしまうのに――!
 ……誰も、僕の浅はかな行動を、止めてくれる者はいなかった。


「本当に、必要なのは、相棒でした……」


 劉鳳さんとは、早々に離れてしまった上、僕はクマ吉さんを、相棒ではなく、ただの犯罪者としか見れなかった。
 むしろ、彼の謂いこそが、僕の思考の穴を埋めるものだったのかもしれないのに。
 もっと早く、彼と協力して、劉鳳さんを探すなり、島の内奥に向かうなり、一旦帰還するなりしておけば良かったのだ。

 残る望みは、劉鳳さんと、白井黒子さんに託すしかない。
 もはや連絡も言伝もできないが、彼らが『相棒』として、この事件を解決に導いてくれることを祈るほかない。

 アルター結晶体との戦いを、津波の中を、どうか、協力して、生き残っていて下さい。
 どちらも、僕たちの本来の目的とは関係ないことなのですから。
 付け加えて言うなら、クマ吉さんの取り調べも、二の次にするべきでした。
 細かいことを気にするのは、僕の悪い癖だ。
 あなた方は、その程度のことで、命を落とさないで下さい。


「お二人で、生き残って下さいね……。欠けを、穴を補って高め合える『相棒』がいなくなった時、僕たち人間は、『穴持たず』に対する、唯一の勝機を、失うのです……」


 杉下右京はそう呟いて、最後の一本となった丸太の上で目を閉じる。
 体は、船虫のような多数のヒグマの牙に食いちぎられていく。
 もう叶うことのない祈りを空に投げて、警視庁特命係係長は、静かに殉職した。


【クマ吉@ギャグマンガ日和 死亡】
【杉下右京@相棒 死亡】


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


431 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:31:41 oSXcxb9g0

「……しまった! 会場ではなく海上だったのかここは!」


 丸太の上にすっくと立ちながら、HOLY部隊の制服を着た男はそう叫んでいた。
 その男、劉鳳は、遥か遠くに島の高い崖が出現するのを目撃してしまったのだ。
 何の目印も解らぬ水上を、丸太のオールでひたすら漕ぎ出していったら、相当な遠くに出て行ってしまったらしい。

「しかも、これは、引き波か……! 急がねば更に島から離される……!」

 劉鳳は棹をさして丸太の向きを変え、流れに逆らうようにして力いっぱいオールを漕ぐ。
 しかし、丸太の上に立っていてはバランスが悪すぎる。荒波に揉まれ、既に脚先の筋肉は小刻みな体重移動でかなり疲労していた。
 片側だけしか一回の動きで漕げぬことも無駄が多すぎる。

 劉鳳はようやく、丸太に跨って、オールの両端で漕ぐことを思いつき、実行した。
 しかし、流体力学的に速度の出せぬ丸太を船にしていては、到底津波の引き波に敵う速度は出せない。


「うおおおおおおおおおおおおお!!! 絶影ぃぃぃいぃぃぃッ!!!」

 
 ついに劉鳳は、全身に自らのアルターを融合装着し、その速度を腕の回旋に充てて漕ぎ始めた。
 すると、徐々にではあるが、丸太は引き波に逆らって、島の方へと進み始めた。
 流石、丸太である。
 絶影の速度で振り回されても、数分はオールとしての機能を保ち続けられたのだから。

「よし、これで島に戻れる……!」

 そう劉鳳が安堵した時、ちょうど丸太製のオールは磨耗によりへし折れたところであった。
 そこで、劉鳳は気づく。


「……しまった! 絶影を身に纏うなら最初から飛べば良かったじゃないか!!」


 そもそも丸太になど跨らず、津波に飲まれた後も融合装着をして、丘や木々の上に逃れれば良かったのだ。
 融合装着でなくとも、わざわざ丸太を探して乗るより、真なる絶影に跨って飛んだ方がどれほど良かったか。
 会場にやってくる時も、杉下右京と白井黒子を一緒に絶影に乗せて飛行してきたのである。
 もし、白井黒子が生きていれば、この無駄な行為を指摘してくれただろうか。
 しかし、今となっては遅すぎる。

 とりあえず、遅々として進まない丸太の上から飛び立とうとした時、劉鳳は両の脚に激痛を感じていた。


「ぐうっ――!?」


 海面を見やれば、そこはいつの間にか真っ黒に染まっていた。
 その黒色の原因たる、体長30センチメートルほどの固い楕円形の生物が、丸太に跨った劉鳳の脚に噛み付いていたのだ。
 そして、劉鳳を更なる苦痛が襲う。


「うごぁあああぁああああぁ!?」


432 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:32:05 oSXcxb9g0

 両脚に、更に大量の生物が喰らいついてきたのだ。数百に及ぶかと思われるその重量たるや、半端ではない。
 流石、丸太である。
 最終形態のアルターを纏った劉鳳をして、丸太は彼の局部へ、木馬責めに等しいダメージを負わせていた。
 丸太は下から突き上げられ、脚は海中に引き込まれ、波の適度な振動が拷問としては理想的な状態を形成している。

 そして更に、涙の滲む劉鳳の視界には、見覚えのある影が一つ映りこんできた。
 右腕が黒く、左腕が白いアルター。

「――アルター結晶体ッ……!」

 劉鳳が再びアルターを形成したことを感じ取ったのだろうか。
 茶色の体毛を風にたなびかせて、それは海上を悠然と浮遊し、近寄ってくる。
 得体の知れない生物群に動きを封じられ、丸太に責め続けられた状態でその攻撃を受ければ、劉鳳とてひとたまりもないだろう。

 ――しかし。

「こんなところで……! 貴様らなぞに負けていられるかぁッ!!」

 かつて一度倒していたことで意識から外れていたが、このアルター結晶体は、自分の母親の仇なのである。
 母を殺し、愛犬を殺し、そして今となっては、協力者であった白井黒子をも殺害した張本人なのである。
 許すわけにはいかなかった。


「俺の中にある何かが、貴様を悪だと確信させる……。ああ、そうだ……貴様は、悪だッ!!」


 劉鳳の周囲を、緑色の閃光が覆った。
 それは直ちに極彩色の光の柱となって立ち上り、爆風を伴って海面を撫でた。
 劉鳳の股間を痛めつけていた丸太が分解され、黒い生物たちに捕食されていた脚部を補う。
 “向こう側”の力を引き出し、再構成されなおした絶影の甲冑が劉鳳の身を包んだ。

 ――絶影・断罪者(ジャッジメント)武装。


「悪は処断しなくてはならない! 罪は処断されなくてはならないッ!!」


 劉鳳の肉体は海面から消えていた。
 テレポートにより空中に浮かび上がった劉鳳は、そのまま、向かい来るアルター結晶体に対して全速で突撃する。


「絶影、刀龍断ッ!!」


 右手に構えた刃を、劉鳳は真一文字に振るう。
 超高速の一撃により、アルター結晶体は、上下半身を綺麗に両断されていた。

 鎧袖一触の交錯に、劉鳳は振り返る。
 しかしアルター結晶体は、劉鳳に分断された後も、それをまったく意に介さないように、海上を直進していた。
 そして先ほどまで劉鳳がいた位置に出現している光の柱の中に身を投じ、静かに消え去った。


【アルター結晶体@スクライド “向こう側”の世界に帰還】


「は――?」

 劉鳳は呆然とした。
 しばらく前の、激しい戦闘は何だったというのだ。
 それこそまた、アルターを身代わりにした分身などで猛反撃をしてくるものだと思っていたのに。


433 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:32:51 oSXcxb9g0


 ――あれはネイティブアルターなどではない。君も見た向こう側の世界、その領域の結晶体だ。
 ――六年前にこちら側に出てきた結晶体は、息苦しさに耐えかね、アルターを求めていた!


 脳裏に、HOLY部隊の隊長であったマーティン・ジグマールの言葉が蘇る。
 こちらの世界は、アルターにとっては、人間で言うならば酸素の薄い高山のような過酷な環境。
 そのため、アルター結晶体は常に高濃度のアルター粒子を、そして“向こう側”の世界への帰還を望んでいた。


「――つまり、ヤツは、俺にまた、“向こう側”へのゲートを、開いてもらいたがっていたのか?」


 劉鳳に対する飽和攻撃も、それに匹敵する力を劉鳳が引き出すことにより、濃いアルター粒子を得て、引いてはゲートを開いてもらう一助にするためであったと考えれば辻褄が合う。
 かつて劉鳳はアルター結晶体を倒し、一度、“向こう側”に帰したことがあった。
 アルター結晶体にとっては、迷子となりさまよっていたところを、お家へ連れ戻してくれた、優しいお兄さんに見えたことだろう。
 そのため、アルター結晶体は、再び迷い込んできてしまったこの世界で劉鳳に邂逅できたことに歓喜し、また連れ戻してもらえるよう、お願いを繰り返していただけだったのだ。
 その攻撃の意味するところを理解しようともせず、単純に相手を敵と見なして応戦し、周辺の被害を拡大させてしまったのは、ひとえに劉鳳の責任であった。

 息が荒くなる。
 脚部の痛みが、感覚として戻ってくる。
 瞳孔が震えて、焦点が定まらない。


「俺が最初から、“向こう側”を全力で開いていれば、白井黒子は、死なずに済んだのか――?」


 かつてアルター結晶体を倒した際、劉鳳は、絶影最終形態の一刀でそれを両断し、同時に出現したゲートの中にそっと押しやって帰していた。
 その時劉鳳は、アルター結晶体は両断して押せば帰ってくれるものと、今の今まで勘違いしていたのだ。
 そのため今回、彼はアルター結晶体を烈迅の触鞭で裂き、伏龍・臥龍で押し帰そうとした。
 そこに必要不可欠なものが足りていないのにである。
 ケアレスミスだの思い違いだのでは済まない。

 そもそも、アルター自身に、殺人罪の意識や善悪の概念などは存在しないだろう。
 そこに処断すべき悪はなく、断罪されるべき対象は存在しない。
 もし、先の戦いに、『悪』が存在したとするならば、それは――。


「それは、俺自身だ――」


 負傷した白井黒子が、最後のテレポートで俺をアルター結晶体たちの攻撃から避難させてくれた後、俺は一体何をした?
 白井を守ってやることもできずむざむざと見殺しにし、爆散した白井の遺品を集めようともせず、俺は絶影・断罪者(ジャッジメント)武装などと粋がって、ただの迷子だったアルター結晶体をひたすら消し飛ばそうとしていた。
 しかも、俺はその消し飛ばすことすら満足にできず、津波に飲まれた程度でその行動を中断してしまった。
 あとコンマ1秒もかからなかっただろうはずのトドメの一撃をだ。
 あの男なら、カズマなら。
 その程度で戦闘を中断するか!? ありえないだろう!!
 その程度で死者をないがしろにするか!? ありえないだろう!!
 津波に揉まれながら剣を突き立てるくらいの行為が、なぜできなかった!!
 そもそもなんで、押し寄せる津波にそこまで気づかないくらい俺の視野は狭かったのだ!!
 そんな所だけカズマに似ないでいい!!
 加えて俺は、甚だしい勘違いをしている――!


「『絶影』は漢語で、『ジャッジメント』は英語だ!!!」


434 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:33:19 oSXcxb9g0

 劉鳳はその身を、未だに付着している数匹の黒い生物に食まれながら、海上で悶絶した。


 普段の俺なら、いくら聞こえが良かろうと、こんなとっちらかった命名はしないはずだ。
 漢語なら漢語、英語なら英語、イタリア語ならイタリア語で名前は統一するだろう。
 どれだけ浮ついていたのだ、俺は。
 その上、俺は、一時的とはいえ同僚になったはずの杉下さんのことを、全く気遣っていなかったじゃないか!!
 安全な場所へ、とは言ったが、あのアルター結晶体の猛攻を受けて、あの近辺のどこに安全地帯があったというのだ。
 あの激しい雷とアルター粒子と津波と蔓延するヒグマの中で、杉下さんは一体どんな『安全な場所』に逃れていると言える?
 下手をすれば、あの無害そうに見えたクマ男に襲われて殺されている可能性だってあるというのに。
 まず、彼の安否を確認しなければならなかったのに、俺はなぜ、彼らの無事を前提に、アルター結晶体との決着や地球温暖化の心配ばかりに執心できたのだ――。


 力が抜けて、劉鳳は海面に落下してしまう。
 体に付着し続けていた黒い生物は依然として劉鳳の体を食い荒らし、さらに、海中からは数十匹の生物が飛びかかってくる。


「くそぉおおおおおおっ!! ふざけるなあああああっっ!!!」


 誰に向けてかもわからない罵声を宙に叫びながら、劉鳳は瞬間移動を繰り返す。
 絶影・断罪者(ジャッジメント)武装の速度で、この生物群を振り落とそうというのだ。

 しかし、テレポートというのは、無限大の速度による移動ではなく、11次元ベクトルを利用しての単なる座標移動である。
 時間経過なしに場所を変えられるとはいえ、そこに何らかの運動量の変化が起きるわけではない。
 加えて、体に触れているものは同時にテレポートしてきてしまう。
 テレポートを習得したばかりの劉鳳では、白井黒子にその能力が及ぶ道理もなく、移動距離は数メートル。精度もかなり低い。

 牛肉を食べたところで、人間は牛にはならない。牛肉は分解され、人間の肉体に再構成される。
 アルターも同様である。
 原料の性質に関わらず、それによって形成されたアルターは、みな一様にアルター使いのエゴの形を採る。
 テレポーターのAIM拡散力場を分解して再構成されたアルターがテレポートできるようになったのなら、それはたまたま、アルター使いのエゴがテレポーターとして収斂進化したに過ぎない。
 白井黒子の能力の影響はあったにせよ、それが引き継がれたわけではない。

 先の戦いでアルター結晶体たちを瞬時に切り裂いていったのも、テレポートによりアルター結晶体の内部座標に転移し、自分の体を喰い込ませて無理矢理結晶体を散らせるという、普通の空間移動能力者なら卒倒モノの行為を、アルターによるゴリ押しで成し遂げていただけである。
 黒い船虫様の生物たちが落ちるわけもなかった。


「俺は、俺はっ……! こんな訳のわからん生き物に、殺される訳にはいかないっ……!」


435 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:33:51 oSXcxb9g0

 一匹一匹、劉鳳はその生物を体から引き剥がしてゆく。
 泣きそうな表情で口をわななかせながら、速度も何もほとんど活かしようのないその殺戮作業に、彼は身を投じざるを得なかった。
 30センチメートル大のその生物は、絶影の握力を以ってすれば簡単に潰す事ができる。
 しかし、その数は、何千、何万いるともつかない。
 劉鳳の体に纏わりついているもの以外に、彼の肉体を海中に引きずり込もうとしているその叢は、水面下を黒色に染めつくしている。

 そして、劉鳳が、ようやく一番最初から脚に食らいついていた生物の一匹を握りつぶした時である。


「なにっ――!?」


 一回り他のものよりも膨れていたその生物が炸裂するや、内部から、数十匹の同形の生物が溢れ出してきたのだ。
 中で、子供が孵ったとでもというのだろうか。
 その小さな生物たちは劉鳳の腕に絡み付き、頭の上から降り注ぎ、さらに彼の体を食んで、成長していく。
 脚に食らいついている生物たちは、劉鳳の脚に尾部を差し込んで何かを注入してきたり、膨れ上がって破裂し、小さな生物たちを次々に放出したりしている。
 生物の死骸をアルター化して、自分の体を再構成しようとするも、劉鳳の分解よりも早く、彼ら自身がその死骸を捕食しきってしまうため、ダメージの回復は全く追いつかなかった。


「そんなっ――! そんなっ、馬鹿なっ!!」


 劉鳳の体は、ついに全身を黒い生物たちに覆われ、海中に引きずり込まれていってしまう。


「俺はっ、託されたものを――、背負った正義を、守らねば――」


 御坂美琴を、初春飾利を、佐天涙子を。
 彼女たちを、助け出さなければ――。

 しかし、海水に飲みこまれていく思考の中で、劉鳳は思い至る。


 ――俺は、彼女たちの、何を知っているというのだ?


 杉下右京とは出発前の緊急異動の際に顔合わせしたばかりであり、況や白井黒子とは派遣時に会っただけで、その友人たちのことはなおさら初耳である。流石に、常盤台の超電磁砲の噂くらいは聞いているが。
 そもそも、この会場に誘拐されている参加者の全容すら、自分たちは把握できていない。
 絶影で関東からカッ飛んでくる間の速度では、情報交換しようものなら舌がちぎれていたかもしれないのだ。
 俺は幾人か、誘拐されていると思われる人物の名前くらいは把握しているが、それだけ。
 主催者はSTUDYという組織だと目され、クマを用いて悪行を働いているらしいという程度の情報も特命係で耳にしていたが、こちらについてもそれだけだ。
 義憤に駆られた。
 らしくないことだが、あまりに卑劣なその犯罪に怒りを覚え、特命を受けるやすぐさま、下調べも準備もなく、飛び出してきてしまったのだ。
 拙速にすぎた。
 参加者うんぬんを言うならまず、杉下さんが無事かを確かめるのが最優先で、彼の情報をもらって今後の方針をすり合わせねばならなかったのに。
 最悪の場合、杉下さんの推理は空振りで、初春飾利と佐天涙子の誘拐は、こことは完全に別件であることすら考えられるのに。
 白井黒子を喪い、人員の増強も考慮しなければいけなかったかもしれないのに。
 なぜ人命救助に来て、食料品や救急道具の一つも持ってこなかったのだ俺は。
 主催者の処断しか考えていなかったことの表れだが、そもそも主催者がこの島にいる確証すらないじゃないか。
 人間とヒグマとの区別はつくが、その人間が参加者なのか主催者なのかもわからないじゃないか。
 このざまで一体どうやったら、知りもしない加害者たちを断罪し、知りもしない被害者たちを救い出すことができるというのだ。
 一体どうやったら、知りもしない人間の思いを託されることができるというのだ。


 ――そして、無用な戦いで、罪なき命を散らせてしまった俺に、どうしてその他の者を守れる道理がある?


 一人を救えなかった者が、どうやったら複数人を救い出せるというのだ。
 俺は白井黒子の遺品を回収したか?
 彼女を救えないまでも、せめて彼女に弔意を示すくらいの気概は見せたか?
 シェリスの髪飾りは、後生大事に確保していたというのに。
 ジグマール隊長には、絶影の覚醒した力を見せて報恩したというのに。
 人命を差別するというのか、この俺が。
 思いを託された気になって、その思いを実現させる手段すらわかっていないくせに。


 俺の掲げる正義は、その程度のものだったのだ。
 俺に、正義など、なかった。
 悪を、正義だと信じ込んでいた、だけだったんだ――。


【劉鳳@スクライド 死――


436 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:34:10 oSXcxb9g0

『――なんだなんだ。こじ開けてみりゃあ早速大ピンチの現場か』


 突如あたりに響き渡った声とともに、劉鳳の周囲の海水が凍結していた。
 分子一つ一つの熱エネルギーを直に奪い取るようなその冷え込みに、劉鳳の体を覆っていた生命体は悉く硬直する。


『おい兄ちゃん、流石にこれくらいは耐えられるよな――』
「なんだ、これは、一体……」


『――第四波動』


 声と同時に、劉鳳の肉体は一転して灼熱の業火に包まれていた。
 絶影・断罪者(ジャッジメント)武装の甲冑ごと熔融するほどの高温で、凍結した海水と、黒い生物たちが焼き焦がされていく。
 シュウシュウと音がして、油臭さが漂う中、劉鳳は再び海面に顔を上げることができた。

 見回せば、近くに、先ほど自分が開いた“向こう側”へのゲートが、わずかに虹色の光を放っている。
 半分閉じかけたその門から、腕輪を嵌めた筋肉質な男の腕が一本、覗いていた。
 声はそこから聞こえてくるようだった。


『あー駄目だ。これじゃあ弱すぎらァ。第六波動使うわけにもいかんし、この程度の繋がりじゃ戻って来れねぇな』

 腕は、門を広げて体を出そうとしているのか、暫く空中を掻いていたものの、諦めたようにその動きを止め、虹色の空間に引き戻されていく。

「なんなんだ……、お前は……?」
『ああ、俺は左天ってもんだ。兄ちゃん、もう一人のサテン……、佐天涙子って嬢ちゃんにもし会えたら、こいつの開け方、教えてやってくれや』


 ――まあ、生き残れたらでいいから。無理しなくていいよ。じゃあな。


 男の腕は、劉鳳に向けて軽く手を振ると、それだけ言い残してゲートの中に消え去った。
 虹色の光も、それとともに完全に消滅する。

 突然のことにさっぱり理解が追いつかなかったが、自分は、異空間から現れた謎の男に、命を救われたのだ。

 体に寄生虫のごとく纏わりついていた生物の一群は、燃え尽きた。
 しかし、絶影の武装もまた、完全に溶け落ちてしまった。
 一時的に難を逃れたとはいえ、海底からは、またぞくぞくとあの黒い生物たちが上がってきている。
 このままぼーっとしていれば、纏わりつかれるのは、すぐだ。


「俺は何をすればいい……。何もしてやれない……、何も……。
 俺は、俺の正義は、一体どこにあるんだ……」


【I−4 海上/午前】


【劉鳳@スクライド】
状態:疲労(極大)、ダメージ(極大)、ずぶ濡れ、全身にⅠ度熱傷、大量出血、会陰部裂傷、体内に何かを注入されている。
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:この異常事態を解決し主催者を断罪しようと思っていたが……そもそも主催者はどこにいるんだ?
0:この目の前の生物たちを倒すのは、果たして正義なのか? 俺は一体何をすればいいんだ?
1:御坂美琴、初春飾利、佐天涙子たちを見つけ保護したいのだが、彼女たちのひととなりも知らないぞ俺は!?
2:杉下さんの安否をほとんど考慮していなかったが、彼はそもそも本当に無事だったのか!?
3:この生物たちも、もしや地球温暖化に踊らされた被害者なのか?
4:一体誰が向こう側を開いたんだ?
[備考]
※空間移動を会得しました
※ヒグマロワと津波を地球温暖化によるものだと思っています
※黒い船虫のような生物群によって、体内に何かを注入されています。


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


437 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:34:45 oSXcxb9g0

「ふむ……これもヒグマというわけか」

 救命ボートをゴーイングメリー号の船尾から下ろそうとしてきたところで、鷹取迅はしばし立ち止っていた。
 ボートを投下しようとしていた海上に、真っ黒い毛皮に覆われた多数の生物が群がっていたのだ。
 そしてそれは既に、ゴーイングメリー号の船体を蚕食し始めている。
 鷹取迅の練磨した空間把握能力が確かなら、もう船底は浸水しきっており、倉庫や砲列甲板まで水が上がってきているものと思われた。

 デイパックから『HIGUMA計画ファイル』を取り出してめくるに、そこには海面に蠢く生物群に近い様相のヒグマを確認することができた。
 黒い毛皮に覆われた楕円形の体で、4対の脚を持ち、眼も鼻も見受けられないそのスケッチ上の生物。

「『ミズクマ』。この実験計画を島嶼において実行するに当たっての決め手となった穴持たずである。
 彼女の能力は、水上の拠点防衛において絶対の信頼性を持つ……」

 迅は、ファイルを仕舞い直して溜息をつく。

「……肝心の能力が書かれていないな。推測するに、ゲンゴロウのような水中での活動性と、分身能力というようなものか……?
 とりあえず、この牝たち全員を至らせてやらんことには、島へは戻れんな……」

 着込んだ救命胴衣を今一度チェックしながら、迅は後方を振り仰ぐ。


「親父!! なんか損傷部から青いものが流れてきたぜ!! 気持ち悪いな!!」
「おう! マジで気持ち悪いな!! 膿かもしれん!! 流せ流せ!!」
「馬鹿やろぉおおお!! それはG−ER流体だ!! それがないとダンは動かねぇンだよ!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「グルルルルル……!」


 海上では怪獣とロボットたちがしょうもない争いを繰り広げており、その様子を、ヴァンという黒ずくめの男がやきもきしながら甲板で見守っている。
 彼らの脚元にもこの黒いヒグマは泳ぎ寄っているというのに、ヴァンたちは気付く様子もない。
 恐らく暴君怪獣の叫びは、脚を喰われていることによる苦痛の叫びだ。それが対して普段の叫び声と変わらないので異常が伝わっていないだけである。
 ロボットの脚に痛覚はないし、ロボットの機能を全く把握していない乗り手が操っているようではなんの希望もない。

 鷹取迅は、船尾を這い上ってくる黒いヒグマたちに構えを取りながら、ヴァンに向かって叫んだ。


「おい! この船はヒグマに囲まれている! もう沈没するぞ! 命が惜しければさっさと脱出しろ!」

 叫ぶや否や、早くも鷹取迅は十体ばかりの黒い生物に接近されていた。
 いつまでも彼らのことを顧みている余裕はない。


 ヴァン及び、ダン・オブ・サーズデイに搭乗するハンセン親子は、その声でようやく海上の異変に気付いた。
 よくよく見れば、先程まで取っ組みあっていた暴君怪獣タイラントは、叫びながらどんどんと海面下に沈んでいく。
 もがくように口から爆炎を放射しているが、肝心の足元へ向けてはその口は動けず、30センチメートルほどの小さな生物に群がられ、見る間に食い散らかされていった。


【暴君怪獣タイラント@ウルトラマンタロウ 死亡】


438 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:35:09 oSXcxb9g0

「おい! 早く俺を乗っけて飛んでくれ!! もう戦ってる場合じゃない!!」
「あ、このイェーガーって脚なくても跳べるのか!? なら早く言ってくれよそういうことは!!」
「KAIJU自体は倒れたし、ここは一端退くのが吉ってもんだ!! 跳び方を教えてくれ!!」
「ジャンプじゃなくてフライの方だぞ!? わかってんのかお前ら!?」

 ダン・オブ・サーズデイの腰から下は完全に喰われて、なくなっていた。
 甲板に寄ってヴァンの身を確保し、ハンセン親子はダンを飛び立たせようとした。

 しかし、その身に、上から陰がかかる。

 ヒグマの搭乗したガンダムが、その肩に背負う剣の柄に手をかけて、上空から飛び降りてくるところだった。
 ハンセン親子は、驚愕に目を見開いた。


「「この世界のイェーガーは、空を飛ぶのか!!!」」
「避けてくれ馬鹿ぁあああああああっ!!!」
「墜ちろーー――ッッ!!!」


 ビームサーベルの一撃が、ダン・オブ・サーズデイを、その愚鈍な二人の搭乗者と、その不運な本来の搭乗者とともに、唐竹割りに両断していた。
 赤と青の体液を噴き出しながら海面に落ちた死体とスクラップは、群がる黒い生物たちによって、綺麗に食べられていった。


「グルルルルル……!」


 唸り声を上げる、ガンダムに乗ったヒグマに対して、海面の生物たちは、ざわざわと一斉に音をたてて何かを伝言する。
 ヒグマの乗ったガンダムは、それに応えるように海軍式の敬礼のポーズをとった。

「――ミズクマの御姉様より、穴持たず56、確かに作戦を伝令いただきました」

 ガンダムに乗ったヒグマ――穴持たず56は、一言そう応答して、どこへともなく飛び去って行った。


【ヴァン@ガン×ソード 死亡】
【ハーク・ハンセン@パシフィック・リム 死亡】
【チャック・ハンセン@パシフィック・リム 死亡】


【H−9 海上/午前】


【穴持たず56(ガンダムに乗ったヒグマ)】
状態:健康
装備:お台場のガンダム@お台場
道具:ビームサーベル、不明
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ、行きまーす。
0:当座のところ、ミズクマの御姉様からの伝令に従う。
1:海上をパトロールし、周辺の空中を通るヒグマと研究員以外の生命体は、全て殺滅する。
2:攻撃を加えてくるようであれば、ヒグマのようであっても敵とみなす。
3:たしか、崖周りのパトロールにはもう一体同胞があたってたよなー。
[備考]
※制限でガンダムは人間サイズ、ヒグマはそれに乗れるほどのサイズになっています。


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


439 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:35:39 oSXcxb9g0

「……『ライトニングチャージ』」


 電光のような速度で、男の指が空を走っていた。
 鷹取迅に飛びかかっていた十体の生物が、空中で身を捩り、地に落ちる。
 日々の痴漢で鍛え抜いた技術が、精密かつ瞬息の指づかいで、このヒグマたちを快感の渦に飲みこませ、無力化させたのだった。

「……これだけの数の女性を同時に相手するのは初めてだが。むしろ俺は幸運だ。
 上質の『逸脱者』たちとこんなにも高め合えるのだからな」

 向かい来る次なる生物群に構え直した鷹取迅だったが、その耳に、ポン、という軽い炸裂音が響いてくる。
 後ろを振り向いた迅の目に飛び込んで来たのは、先ほど無力化したはずのヒグマの肉体を食い破って出てくる、100体ほどの小さな同形の生物群であった。
 10体の生物から、それぞれ約100体ずつ生じてきたため、一気にその数は一千近くに上ったことになる。

「――なんだと!?」

 狼狽する鷹取迅の脳裏に、ある書物から得た知識が蘇ってくる。
 普段から痴漢に関しては入念な下調べを行う鷹取迅が、ふと、生物の生殖方法にまで立ち返って文献を漁っていた時に得た知識であった。


「分身ではない。処女生殖――、いや、ペドゲネシス。『幼生生殖』なんだな!? お前たちの能力は!!」
「ちぃぃぃぃぃぃ……」


 返答なのか威嚇なのか、細い声で、その生物たちは一斉に鳴いた。

 幼生生殖とは、一部のハエや寄生生物などの間で見られる、生殖戦略の一形態である。
 幼生生殖をする生物では、未熟な娘の体の中で、卵子が精子と結びつくことなく勝手に分裂を始め、新たな子供となる。
 その子供は、親となった処女の娘の体を喰い破り、新たな娘として世に生まれる。
 そしてこの新たな娘たちの中の卵子も、勝手に発生を始めて生まれてくるのだ。
 寄生虫がその宿主内で効率的に、素早く子孫を増やしていくことにおいては、ほとんど最高といっていいほどに適した生殖戦略の一つである。

 痴漢に例えるならば、電車で偶然会ったロリに痴漢を働いたら、瞬時にその子が妊娠・出産し、その子孫を末代に至るまで、性行為もしてないのに認知せざるを得なくなり、養育費をせがまれ続けるようなものである。
 鷹取迅は、これについて知った時、この生殖戦略を取る女性こそが、自分たち痴漢の天敵となりうる存在であると思っていた。


 ――生まれる子供は全部、処女にして妊婦! これほど理不尽なハーレムがあるだろうか!!


 1000匹を越す黒い生物が、沈み行く船尾の鷹取迅へ、容赦なく飛びかかってゆく。
 3P、4Pなどは世に多くあれど、1000Pの大乱交など、どんなAVの企画も実行しないだろう。
 そしてこれは、1000人を越す女性が一人の男を嬲る、逆レイプ(殺戮)なのである。

 ――そう。
 確かに相手がただの男であったならば、この光景はただのレイプ(殺戮)で終わっていただろう。
 しかし、ここにいる男は、『逸脱者』である。
 千万のヒグマに囲まれても、この男の『悪魔の手(デモンズハンド)』は、その指先にたおやかな嬌声を紡ぐ。


 ――この一場面は、間違いなく、痴漢(戦い)の現場である。


440 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:36:20 oSXcxb9g0

「肉欲の牢獄――、我が悪魔の迷宮に、きたれ、ヒグマ――!」


 両脚を海水に縛られながらも、鷹取迅の手は、雷光の如く空間を切り裂いていた。
 半径約1メートルの真球の空間が、その稲妻に満たされる。
 蓮の花の開くのにも似た、その両腕の閃きが、残像を伴ってヒグマたちを撫でる。

 欲界の十四有。
 色界の七有。
 無色界の四有。
 25の世界を一つの指先で救う。

 受蘊の感受。
 想蘊の表象。
 行蘊の意志。
 識蘊の認識。
 4つの精神の全てを色欲に堕とす。

 鷹取迅の10本の指先は、あたかも千の手を持つ神のように、十方世界に不空の快感を齎していた。


「――『ラビリンス』ッ!!」


 肩で息をしながら鷹取迅が、その腕を合掌手に打ち合わせた時、1000匹を越すその周囲のヒグマたちは、悉く水上に落下していた。

「ハァッ……。これほどの消耗は禰門との戦い以来か……。
 余裕があればまた相手してやりたいが、次は中折れ(力負け)しそうで怖いな……!」

 最早腰元まで海水に浸かりながら、鷹取迅が船外への脱出を続行しようとした時、彼の耳に再び、ポン、という軽い炸裂音が届く。


 ――10万匹を越す、小さな黒いヒグマたちが、鷹取迅に襲い掛かってきていた。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!?」


 鷹取迅の肉体は、その黒い毛皮の生物たちに飲まれて見えなくなり――そして、消えた。
 ゴーイングメリー号も、海中から登り来る黒い生物群に埋め尽くされ、轟音を立てて沈没していった。

 その十数メートル島側で、華麗な抜き手を切って泳いでいる一人の人影がある。
 救命胴衣をつけた男が、水上を全力のクロールで渡っているのだ。


「――『デッドマンズビジョン』!!」


 10万のヒグマに集られる刹那、その一瞬を極限まで引き伸ばし、対痴漢特殊鉄道警察隊「レイヴン」の手から逃れるが如く瞬間的に脱出を図った、鷹取迅であった。
 しかし、迅が顔をつけて確認する海中では、既に生物の一群が、鷹取迅の存在を捕捉して泳ぎ寄ってきている。
 水中での速度で、人間である鷹取迅が彼女たちに勝てる道理はない。
 数メートルのアドバンテージなど、すぐに詰め寄られてしまう。


 海は、地獄絵図と言っても良いような様相を呈していた。
 見える限りの海底で、ありとあらゆる魚介類が、黒い生物に集られ、食い荒らされてゆく。
 ホオジロザメなのではないかと思われる巨大な生物までもが、もがきながら食われているのだ。


 ――しかし、島まで。島までたどり着けさえすれば――!!


 デッドマンズビジョンを繰り返すことで距離を離し続け、島まで泳ぎ抜ければ、建物の上などに登って難を逃れることができるだろう。
 しかしそう思考する鷹取迅の前に、壁が立ちはだかる。


 崖。


 十数メートルの高さのある、島の崖が、迅の視線の遥か先に聳え立っていたのだ。
 既に、島を襲った津波は、引いていた。
 彼はゴーイングメリー号と共に、島からかなり離れた沖合いにまで、流されてきてしまっていたのだ。

 その距離、約1キロメートル。
 この『ミズクマ』というらしいヒグマたちから、迅の体力ではそんな長距離を着衣泳で逃げ続けることはできないだろう。
 その上、たどり着けたとしても、反り立つその壁面を遡れるようなクライミング技術は、迅にはない。
 頼みの綱とも言えないほどの頼りない希望だったロボットは背後で撃墜され、纏流子はもう島へと飛び去ってしまった。

「つッ……」

 既に迅の左脚には、一匹の黒い生物が食いついていた。
 それは迅の行動を学習していたのか、即座に尾部から迅の足先に何かを注入して離れる。
 鷹取迅は、瞬間的に危機感を抱いて、指先を自分の下腿に走らせていた。


「『デモンズハンド』ッ!!」


441 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:36:39 oSXcxb9g0

 指先が脚の皮膚を撫でた一瞬の後、そこからは数ミリ大の黒い生物が霰のように炸裂していた。
 肉の千切れる痛みに耐えながら、迅は歯噛みする。


「……やはり、寄生虫の生殖戦略らしく、発生中の卵子を動物の体内に生みつけることもできるのか!
 血流に乗らせ、子供に標的を体内から食い破らせると!」


 鷹取迅は、自分の肩にかけていたデイパックを、できるだけ島の方に近づくように、思い切り放り投げていた。
 そして彼は、島に向かって泳ぐのを止め、海上に自然体となって浮かぶ。
 周囲の水中を、黒い群れに取り囲ませるに任せ、彼はただ静かに、呼吸を整えていた。


「……『マインドバースト』!!」


 鷹取迅から立ち昇る気迫が、黒い生物たちをして、一瞬その身を退かさせる。
 彼は、覚悟を決めていた。


 ――俺の持つ『HIGUMA計画ファイル』は、恐らくかなり貴重な支給品だろう。
 今からの俺の痴漢(プレイ)に巻き込んでしまうよりは、少しでも島に近づけて、纏流子なり誰かなりが拾い上げてくれる、僅かな可能性にかける方が有意義だ。
 もう、逃げはしない。
 この牝たちは、これほどまでに俺との高め合いを求めているのだ。
 それに応えずして、何の痴漢(おとこ)だ。
 据え膳上等。誘い受け上等。
 俺も、このヒグマたちも、共に『逸脱者』なのだから。

 ああ、俺は果報者だ。

 生殖行動の最果て同士に逸脱した俺たちが巡り合えるなんて、なんという幸運なのだろう。
 決して交わりあうこともない両極の逸脱者が、高め合い、登りつめて至る、螺旋の歌。
 “彼女”となら、その頂に咲く大輪の痴漢(愛)を、掴み取ることができるかもしれない。

 40億年の旅を続けて、俺はもしかするとずっと、“彼女”と出会うことを求めていたのかもしれない。
 これは遥か昔、同一の起源から別れ、『逸脱』へと旅立った俺たちの、長い長い、進化の果ての再会なんだ。


「……さあ来い。この世界の痴漢(愛)のために、陵辱(希望)のために、俺はお前たちを受け止める」


 俺の腕には、虹色の粒子が渦巻いていた。
 久々に味わう感覚だ。
 誰かがどこかで、『彼方』へのゲートを開いてくれたのだろう。
 ……力がみなぎってくる。これならば、能力を遠慮無く発揮することができそうだ――!

 俺の指先には、本当に電光が通電する。
 神経を愛撫し、脳髄の天辺で快感をスパークさせる、『悪魔の手』。
 俺のエゴが具現化した、逸脱の形だ。


「『ヘヴンズドア』」


 神経節の一つ一つまで、蕩かしてやる。
 卵細胞の一つ一つまで、喘がせてやる。
 お前たちを、俺の存在で、満たしてやる。

 俺が犯(く)う。
 お前が喰(く)う。
 ――歓喜の高みへ、共に至ろう。


「……共に登ろう。ミズクマ。単為生殖(一人エッチ)ばかりでは、寂しいだろう?」


 鷹取迅は、海面を埋め尽くす黒い生物たちに向けて微笑んでいた。
 整った杏仁形の眼が、深い色合いを湛えて三千世界を見晴らす。
 輝く指先の金剛杵が、羂索のように彼女たちを惹きつけて止まない。

 鷹取迅は、その黒い生物群に、完全に飲み込まれていた。
 黒い宝珠のように集った数瞬ののち、曼荼羅のようにその生物たちが炸裂しては、またその娘たちが黒い珠となる。
 水底へと沈みながら、海砂利水魚の命たちと、鷹取迅は一つとなった。


 ……惜しむらくは、これが全部、『姉妹丼』だということだ。
 流石にもうそろそろ、幼女は犯(く)い飽きた。
 俺は変態ではなく、ただの痴漢だからな。
 家に帰ったら、『お母様』を紹介してくれ。ミズクマ。
 いるんだろう?
 『HIGUMA計画ファイル』にスケッチされていたのは、『幼生』ではなく、『成体』だったから。
 是非一度、お目にかかりたい――。


【鷹取迅@最終痴漢電車3 死亡】


※鷹取迅のデイパック(基本支給品、ランダム支給品×0〜1、「HIGUMA計画ファイル」)が、H−9の海上に浮遊しています。


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


442 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:37:58 oSXcxb9g0

「キリカちゃ〜ん! ただいま戻ったよー!」
「……おかえりのぞみ。ちょうど今さっき、そのヒグマも目を覚ましたところだ」

 キュアドリームが戻ってきた海食洞では、布束砥信が、ヤイコというヒグマを抱え起こして、その背中をさすっているところだった。
 呉キリカは憮然とした表情で腕を組みながら、その様子を見ている。
 数度咳き込んだ後に、大きめのテディベアのようなヒグマは辺りを見回して、溜息をつきながら呟いた。

「……意識消失寸前の記憶と現在の状況を鑑みるに、侵入者のくせになんでヤイコを助けやがったこのやろう。
 と、ヤイコは質問と共に暴言を吐かざるを得ません」
「あン!? 私の魔力を吸っておきながらなんだいその言い草は!! 恩人まで馬鹿にする気かキミは!! もう一度殺してやってもいいんだぞ!!」
「ま、まあまあキリカちゃん……」
「そちらの桃色の髪の方におかれましては、交通の要所である海食洞を守っていただいたことにつきまして、ヒグマ帝国を代表してヤイコは深く御礼を申し上げます」
「え? そうかな? ありがとうヤイコちゃん!」
「な、なんだこの扱いの差は……!」

 今にも飛び掛らんとしていた肩口をキュアドリームに押し止められて、やる瀬のない怒りを青筋に湛えながら呉キリカは唸った。
 布束砥信は、そんな様子の二人組へ、ヤイコに付け加えるようにして言葉を掛ける。

「……私は、二人共に感謝するわ。できれば腰を落ち着けて色々と話したいところだけれど……。
 Anyway, 夢原のぞみ、で合ってるわよね、あなた。その脚の傷は、大丈夫かしら?」


 つっと半眼の視線で指す先には、海食洞の浜の先から点々とキュアドリームの脚まで続く、血の跡があった。
 思い出したように傷へ目をやる夢原のぞみの前に、呉キリカが慌てて跪く。

「おいおい、いつの間に怪我したんだのぞみ! 待っててくれ、今治すから!」
「あ、ありがとうキリカちゃん。そうそう、ちょうど布束さんに聞きたかったんです。
 これ、なんか真っ黒で毛の生えた、これくらいの大きさの虫みたいな生き物に、津波の上で咬まれちゃって……。
 なんだか知ってますか?」


 夢原のぞみは両手を使って、空中に30センチメートル大の楕円形を描いて見せた。
 瞬間、布束とヤイコの目が驚愕に見開かれる。
 布束は慌てて立ち上がり、のぞみとキリカがひるむのも構わず、彼女に詰め寄っていた。

「『ミズクマ』に襲われたの!? Are you alright!? 『卵』を産み付けられたりしなかった!?」
「へ? へ? あの、なんか変な汁はかけられましたけど、お水で洗いましたよ?」
「……Okay。落としたなら平気よ。警告で済んだのね……」

 全く意味が分からず、困惑に固まる二人に向かって、布束は安堵に息をついた後、説明を始めた。

「あなたが会ったのは間違いなく、ミズクマというヒグマの『幼生』の一匹よ。
 有冨が、この島で実験を実施するにあたり入念に調整していたヒグマでね。彼女は『島の周囲1キロ以遠の海域に脱出する、研究員以外の人間を捕食せよ』という命令に忠実に従っているの」

 続けて、布束砥信は、そのヒグマの能力である、『幼生生殖』のことについても説明を加えた。
 水中に適応した活動能力に加え、その寄生虫じみた能力の不気味さに、二人は身の冷えるような思いでその言葉を聞く。


「で、でも、そいつらは洗い流したし、戻ってきたから、のぞみはもうそのクマに食われずに済むんだな!?」
「そう思ってもらって良いはずよ。島からの脱出に関しては、追々考えればいいだけの話だし……」
「……いえ。事態はそれほど良好な状態ではないと、ヤイコには想定されます」


 布束の説明の間ひたすらに黙考していたヤイコが、そこで口を開いていた。
 決して表情の豊かではないそのヒグマの貌が、傍から見ても解るほどに深刻な焦りに歪んでいる。

「……先程、こちらに津波が到達したのでしょう。島全体に被害が及ぶ規模の災害ですので、当然、シーナーさんがご心配なさって対策を打ってくるはずです。
 最も被害が懸念される海食洞には、水中での活動に適応している穴持たず39の御姉様を事態の収拾に派遣なさるのが、当然考えられる流れです」
「ミズクマが39番目なのかどうかは知らないけれど、そんなことが可能なの? 彼女の思考回路は有冨の命令しか受け付けないようにされてるのよ?」
「布束特任部長は、シーナーさんの能力をお忘れですか。有冨所長の声真似くらい、シーナーさんができないとでも」

 見落としていたことを指摘され、布束は雷に撃たれたように硬直した。
 足が震えて、隠しようもなく目が泳ぐ。


443 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:38:17 oSXcxb9g0

 ――まずい!
 ミズクマがシーナーと繋がったのなら、ここにミズクマが来た場合、折角救い出すことができた二人の参加者の存在を知られてしまう。
 首輪の盗聴すら考慮して立ち回っていたというのに、ここで裏切りが露見したら私の命はない。
 人間とヒグマのために積み上げてきた計画が、水泡に帰してしまう――!


 完全に話に置いていかれているキリカとのぞみをよそに、ヤイコは再び語り始めた。

「……今までの御姉様は、『来るものは拒まず』だったわけですが、今回の津波で、多くの外来物が漂着したことでしょう。引き波で、重要情報が流出してしまうことも考えられます。
 その処理を行なうため、『海上の全てを捕食せよ』などとシーナーさんが命令を加えていてもおかしくありません。
 何にしても御姉様がここにいらっしゃるのは、すぐでしょう。
 ……海食洞の潮位は、既に普段よりも低くなっています。波は、引き切りました」


 キリカは、ヤイコの首を掴んで詰め寄っていた。
 瞠目した眼が震えている。

「おい! つまり、もうすぐその、寄生虫じみた大量のヒグマがここに押し寄せて来るっていうのか!?
 どうすれば倒せるんだ!! 教えろ!!」
「御姉様を倒す方法など、ヤイコにわかるはずがありません。よしんば倒したところで、連絡の途絶を知ればシーナーさんが直々にいらっしゃいますよ。その場合、あなた方侵入者が生き残る確率は、却ってゼロになるでしょう」

 呉キリカの剣幕に、ヤイコは相変わらず淡々と言い返す。
 布束は歯噛みしながら、周囲に目を走らせていた。

「……ええ。私たちが生き残るには、あなたたち二人の存在を、どうにか隠さなければならないわ……」
「ヤイコにとっても、侵入者を排除し損ねたことは大きな瑕疵です。現在のヤイコの価値判断基準では、何がヒグマ帝国のためになることなのかわかりません。
 布束特任部長とのお話ができるまでは少なくとも、あなた方の生存を知られたくないことは確かです」

 脚の傷の癒えた夢原のぞみは、必死に海食洞の中を見回して、隠れられそうなところを探している。

「ね、ねえ、ヤイコちゃん! あの通路の方の柱の陰とかに隠れておけば良いかな!?」
「駄目です。御姉様もヒグマです。簡単に臭跡を追われ、却って不自然な挙動を怪しまれ、発見されるだけです」


 ヤイコは、諦観したように目を閉じて、首もとのキリカの手を振り払う。


「……それに。もう、いらっしゃいました」


 海食洞の入口を流れ落ちる大きな滝の向こうに、真っ黒い小山のような影が、差し入ってきたところであった。


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


444 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:39:02 oSXcxb9g0

「……ええい。どういうことじゃスタディの奴ら。WWWには接続せず、メインサーバーを落としておるのか?
 その上で島内実験の監視は全て、衛星などには頼らずローカルイントラネットで済ませておるわけか、考えおって……!」

 島の西側の海底で、獣電竜プレズオンの体内に待機しながら、Dr.ウルシェードは独りごちる。
 島根で運び込んでおいたソファーに座り、彼はキョウリュウバイオレットに変身したままパソコンの画面を睨んで唸っていた。

 主催者の研究所のネットワークに侵入し、データを引き出すことで、ヒグマ細胞破壊プログラムの完成と、会場の干渉波の解析を行なおうと、彼は目論んでいた。
 しかし、島からのデータ通信はほとんど確認できない。
 唯一、島の複数地点と行き来する単純な電気信号群は確認できたが、これは独立プログラムで動いているらしい、何らかの爆弾への信号であるようだ。
 これでは、実際に島の内部に突入して、イントラネットのノードを特定して有線接続しなければ進入は不可能だろう。
 外部からの介入を想定しての予防線だとすれば、不自然なほどに入念すぎる。サーバー内のデータ読み込みすら放棄していることになり、科学者として理解しがたい行為である。
 会場の干渉波についても、その正体は全く掴めない。科学的手段でわからないとすれば、魔術のようなものが働いているのだろうか。

「うーん……。準備期間中にもう少し用意をしとくべきだったかのぉ。マジレンジャーの連中に話を通しておけば解析にあたってくれたかもしれんし……。プレズオンの操縦席に椅子を据えておいても良かったかもしれん」

 Dr.ウルシェードは、現役の時ならばプレズオンの操舵も仁王立ちで軽々とこなせていたのだが、持病のぎっくり腰に悩まされている現在では、正直ここのソファーから立ってプレズオンの操縦にあたるのが億劫でしょうがない。
 ヒグマよりも通信よりも、腰に細心の注意を払わねばならないのは非常に悩ましいことであった。

 キョウリュウジャーの意匠が施されたその操縦エリアへソファーを引き摺っていこうかなどと考えていた時、突如彼のスマートフォンが、島外への電話を傍受していた。
 そこから聞こえてきたのは、人間の声でなく、ヒグマの唸り声であった。
 片方の人物は、日本語を話してはいるが、それにしたって、人間の口から漏れる言葉ではない。擦過音が多すぎる。


『――はい、穴持たず59です……。あの、すんません、まだ博士は――』

『おいおいおいおい、ちょっと待て。あんたはまず誰だ!?
 204号なんて番号聞いたこともねぇぞ!? それになんだって研究員のクルーザーに乗ってヒグマがやって来るんだよ!?』

『“彼女”って……、まさか、“ミズクマの姐さん”?』


 聞き取れた会話は、それだけであった。
 通話の向こうでの狼狽と絶句が、相当意外な事柄が発生したのだろうということを容易に想像させた。

「……この通話は、レオナルドっちを襲ったあのヒグマに向けてのものか……」

 推測するに、あの日以降、ご苦労なことにヒグマはレオナルド博士をずっと探していたものらしい。
 そして実験当日になって研究所からどんな叱責がくるかと構えていたところに、同胞であるヒグマからの電話がはいった。しかもその相手は、穴持たず204番というとんでもない通し番号の個体であったらしい。

「研究所生まれのヒグマ自体が、知らないほどにヒグマが増えておるということか……?
 そしてなぜ、研究所からの通信をヒグマが行なっておる。研究員は一体どうしたというんじゃ。ヒグマに通信を任せねばならんほど人材不足な団体ではなかろうスタディは。
 その上、研究員のクルーザーに乗って、ヒグマがやってくる? 『ミズクマのアネサン』とは、一体……?」


 しばし沈思した後、Dr.ウルシェードははっとして天井を仰いだ。
 紫色のスーツのバイザーに、思わず手をやる。


「――飼い熊に噛まれたかよ、有冨春樹!!」


 スタディは、ヒグマたちに反乱を起こされたのだ。
 当然考えられることだった。自分が出会った穴持たず59以上の知性をもつヒグマたちがごろごろ寄せ集められているのならば、自分たちの扱いに不服を覚えて、もしくはそんな細かい理由など関係もなく、更なる獣性の解放を求めて研究員たちを食い殺すことは想像に難くない。
 北海道の本島にはすでに多数のヒグマが押し寄せ、自衛隊による掃討作戦が実行されたことは聞き及んでいる。
 サーバーダウンは、意図的なものではなく、ヒグマが反乱を起こした際に同時に破壊されたものだと考えれば、辻褄が合った。


445 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:39:25 oSXcxb9g0

「だとすれば今、島の中は、数百体ものヒグマで溢れた無法地帯かァあ!? 津波の浸水は引き始めておるし、まずいぞ!?
 いくらレオナルドっちにプログラムを持たせたとはいえ、そんな数に囲まれては……!」

 焦りに彼が立ち上がった時、辺りにプレズオンの絶叫が響いていた。
 ただ事ではない苦悶の声とそれに伴う振動で、Dr.ウルシェードの腰椎に嫌な渋さが流れた。

「ぐおお!? プ、プレズオン!! どうした!! 何が起こったんじゃあ!!」

 腰を擁護しながら操縦エリアまでいくや、プレズオンの視界が、一面真っ黒な生物たちに埋め尽くされているのがわかる。
 ソナーには、全方位をくまなく埋め尽くす、幾万とも知れぬ赤い点が表示されていた。


「ヒ、ヒグマなのかこやつらも!! 寄生虫のようなナリをしとるくせして、動きが統制されすぎじゃろ……!」


 プレズオンは、自身の牙や尾部のジェット噴射により必死に生物群に対して応戦していた。
 プレズオンに組み込んだ『ヒグマ細胞破壊プログラム』により、その一撃ごとに確かに生物たちは死ぬ。
 しかしその生物たちは、一度その攻撃で仲間が殺滅されるや、首の根元や胴体部など、攻撃の死角となる場所を狙って殺到するようになっていく。


「くそっ、プレズオン!! わしに構わんで良い!! 浮上から、ブリーチングじゃあああっ!!!」
「グアアオオオオオオゥッ!!!」


 プレズオンはその長い首を上に振り向け、水深約30mの海底から、一気に空中へと急速浮上した。

「あがあああああっ!!」

 急加速と急減圧が、Dr.ウルシェードの腰部に深刻なダメージを蓄積させる。
 プレズオンは、上空の高みへ仰向けに飛び出し、高速旋回しながら、海面へその腹部を盛大に打ちつけた。


 ――スピンジャンプからの腹打ち型ブリーチング。


 クジラがその身から寄生虫を打ち落とす際に用いる、落下衝撃による体表の外敵撃砕法である。
 その衝撃は海上に巨大な水柱を打ち立たせ、腹部に取り付いていた生物群を悉く圧砕し、残る生物たちもその水流に乗せて吹き飛ばしていた。
 しかしながら、Dr.ウルシェードの腰に与えた衝撃も半端ではない。
 それでも彼は両手で腰を守りながら、必死に叫んでいた。


「い、今のうちじゃあ……! プレズオーに、ロケット変形ッ!!!」


 ズオーン……オンオンオンオー……ン――。


 プレズオンの体は、海上でパーツごとに分解され、その体を再構成することで、巨大なロボットに変形しようとしていた。
 戦闘形態になって応戦の構えを整えようというのである。
 しかし、その変形のさなか、接合する関節部が突如破裂し、内部からは大量の黒い生物群が溢れ出していた。


「なっ、なっなっ……!? なんじゃとぉぉおおお!? プレズオンの体内に産卵でもしとったというのかぁあ!?」
「クィイ……!? クアアオオオオオオォォオ!!!」


446 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:39:43 oSXcxb9g0

 プレズオンが切ない悲鳴を上げると共に、コクピットの隔壁を打ち破って、Dr.ウルシェードの周りにもその生物たちが押し寄せ始めた。
 変形の途中だったプレズオーはその力を失い海面に落ち、再び群がる黒い叢に埋められていく。

「ふざけるなよヒグマの卵とかぁあ!! せめて哺乳類であれよ!!
 ヒグマじゃなくて『HIGUMA』だぁ!? カモノハシかよ馬鹿ヤロォ!!」

 操縦エリアの前部からガブリカリバーを引き抜きつつ、襲い来る巨大な船虫のような生物たちに向けて乱射する。
 命中するごとにその一角の生物たちは確かに死滅したが、それらは後から後からひっきりなしに押し寄せる。
 コクピット隔壁も一箇所だけでなく打ち破られ、Dr.ウルシェードの背後からも生物が襲来し始めた。


「クルルィィイ……」
「くそぉおおおおおっ……! すまん、プレズオンッ……!!」


 プレズオンが最期の鳴き声を上げるとともに、キョウリュウバイオレットの姿はコクピットから消え去っていた。
 島の海上の空中に出現した彼は、沈み行くプレズオンに群がる黒色に向けて、そのガブリボルバーを構える。


「獣電ッ!! ブレイブフィニィィイィィィィィイッシュ!!!」


 竜の口の如き紫色の巨大なエネルギーが海面に突き刺さり、その生物たちを吹き散らす。
 Dr.ウルシェードはその砲撃を繰り返すことで、反動で島へと飛行していった。


 ――信じられない光景じゃった。
 空中から望めば、あの大量のヒグマらしい黒い生物たちが埋める海域は、ぱっきり島から約1キロメートルの領域で線を引いたようになっている。
 ヒグマたちがただ獣性のままに繁殖し食尽しようとしているのならば、こんなことはありえなかった。
 ヒグマたちは、統率されているのだ。
 反乱も、ただ単に暴れたヒグマが巻き起こしたものではない。その程度なら当然、スタディも想定していただろうし、ファイブオーバーシリーズに匹敵する性能を持つ擬似メルトダウナーの独占生産権を有するスタディコーポレーションがそれを鎮圧できないわけはないだろう。

 ――ヒグマたちは、反乱をした後も、粛々と実験を続けようとしているのだ。
 ヒグマと人間と、彼ら同士の血で血を洗う殺し合いを。
 プレズオンが喰われたのも、彼らにとっては単に、実験に邪魔な外的要因を排除したに過ぎない。実験をする科学者なら当然の行為だ。

 何故だ。

 彼らはもう十分に進化している。
 ここまで極端なr戦略の個体までいるのならば、彼ら『HIGUMA』という種は、もうどんな環境撹乱にも適応し、生存しうるだろう。

 生物の進化とは、環境への適応だ。
 我々キョウリュウジャーがその力を借りている恐竜が、なぜその強大な力を持ちながらゼツメイツごときに絶滅させられたか。
 それは、急激な環境の変化に適応し、進化することができなかったからだ。
 進化する時間を稼げるような戦略を採っていなかったからだ。

 人類の祖先たる哺乳類がその環境撹乱を生き残ることができたのは、そのr戦略と、温血の齎したその身に流れるブレイブのためだ。


447 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:40:14 oSXcxb9g0

 安定した環境ならば、強い力を持つK戦略の個体は絶対的に有利だ。
 しかし、不安定な環境下では、適応のための試行回数を稼げるr戦略は、その数が絶対的なアドバンテージとなる。
 何体殺されても、次は殺されない手段を採れば良い。
 無限の残機を有した死に覚えゲーを地でいくことができる。


 進化して、環境に適応できていないのは人間の方だ。
 そもそも単独の力が、K戦略としてHIGUMAに及ばない人間は、どうすればいい!?
 r戦略をとれる命のスペアもない人間は、どうすればいい!?


 有冨春樹が考えたこの実験開催理由が、今ならばわかる。
 彼は、人間に進化してほしかったのだ。
 ヒグマは、あくまで当て馬なのだ。
 実験資金を出したスポンサーは、ヒグマの戦術的価値を主眼にしていたかもしれないが、科学者にとってそんな上っ面の理由は比較的どうでもいいことに分類される。目的にしていたとしても、あくまで副次的なものだっただろう。
 彼は集められた参加者の数自体を、r戦略で消耗する命のスペアに当て、ヒグマに晒されるr選択の環境下で、確実に生き残れるほどのK戦略者を求めたのだ。
 最悪、ヒグマが勝ち残ってもそれはそれで、開発したスタディの力は認められるだろうが、それでは結局ヒグマの勝利だ。
 スタディが社訓のように掲げている『新たな時代を切り開くのは(超)能力ではなく、知性である』という言葉は、この実験の場合、『新たな時代を切り開くのは(ヒグマの)能力ではなく、(人間の)知性である』と言い換えられるだろう。


 知性とはなんだ。
 人間が発達させたコミニュケーション能力であり、人間が発達させた大脳のネットワークだろう。
 それこそ、極端なK戦略者である人類に唯一許されたr戦略を採る道。

 ――仲間との協力だ。


 協力をさせながら、一人を生き残らせるという行為は、矛盾を孕んでいるかも知れない。
 しかし、その矛盾の果てに得られるだろう強大な力を観測したいという欲求は、科学者ならば抱いておかしくない。
 人道的に許せずとも、同業者としては、有冨春樹の行為には理解の余地があった。


 ――しかしその場合、なぜヒグマたちは、実験を存続させようとしている?


 レオナルドっちならば、それもさらなる進化のためと言うだろう。
 しかし本当にそうだろうか。
 数百体ものK戦略者を有し、ここまで極端なr戦略者を持つHIGUMA種が、わざわざ人間ごときの撹乱を、それもここまで管理・制限された弱弱しい撹乱を進化のアテにするだろうか。
 しかも彼らは、むしろその外部からの撹乱を排除するように動いている。
 実験環境を依然として整えようとしているのだ。
 強力で多様な能力を持ち、今や人間に匹敵するほどの知能を持ち始めたこのHIGUMAたちは、一体何を求めているのだ――!?


「……ま、まさかッ……。そうか、そういうことじゃったのか!!」


 Dr.ウルシェードが呟いた時、彼は島の崖の端に辿りついていた。
 ガブリボルバーの射撃で空中の速度を減速し、なんとかその壁面にへばりつく。
 しかし、その衝突の衝撃は激しく、真隣で流れている滝の水流もあり、ずるずると彼は下へ滑り落ちていった。

「い、いかんいかん! 海食洞! 島の構造解析ではここに海食洞があるはずなんじゃ!
 そう! ここっ、ここっ! ここに避難……ヲウッ!?」

 滝の裏に、大きな洞窟の入口を発見し、彼はそこに必死でにじりよっていく。
 しかし、急激で無理な体勢の運動が祟った。
 ついに魔女の一撃が、Dr.ウルシェードの腰を、強かに打ち据えていたのだ。


 グキッ。


448 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:40:28 oSXcxb9g0

「こ、ここでっ……! ギッ、クリ、腰、とはああああ……!!」


 Dr.ウルシェードは、もはや一歩も動けなくなっていた。
 もう、頑張れば海食洞の中が覗けるほどであるというのに。

 海食洞の内部には、人がいた。
 しきりにあたりを見回している、ドレスを着たピンク色の髪の毛の少女。
 黒い燕尾服のような衣装を着て、テディベアのような熊に掴みかかっている黒髪の少女。
 そして、長点上機(ながてんじょうき)学園の紺色の制服を着た、ウェーブのかかった髪の少女。


「ぬ、布束、しのぶ博士じゃあないかっ……!!」


 生物学的精神医学の分野で幼少の頃から頭角を現し、学園都市第七薬学研究センターでの研究期間を挟んだ後、長点上機学園に復学。
 学習装置(テスタメント)の監修に携わり、学究会でも、スタディの有冨春樹らとともに、上位入賞の常連であった。
 量産型能力者計画を退いた後、スタディコーポレーションに在籍し、ケミカロイド計画の一端に携わったらしい。
 その後、頓挫した計画の後始末としてコーポレーションを脱退し、ジャーニー、フェブリという名の人工生命とともに渡米。
 四大財閥協定機関『ケルビム』出資の研究機関のもとで彼女たちの調整を行ないながら過ごしていたが、突如日本に帰国し、間髪入れずスタディコーポレーションに再在籍していた。
 ゴシックロリータ風の私服で有名な、若い秀才であった。


 ――彼女が生きているなら、ヒグマたちに立ち向かう算段もたつぞ!


 彼女の最近の不自然な挙動は、学会で面識のあったDr.ウルシェードが今回の事件の主催者を特定する一助になっていた。
 彼女の性格からして、この人道に反した実験を許すことは考えづらい。恐らく、元から研究員であった地位を利用して、内側から実験を中止しようという計画を練っているものと想像された。
 彼女がいれば、『ヒグマ細胞破壊プログラム』も完成するだろう。スマートフォンはプレズオンのもとに置いてきてしまったが、レオナルド博士ともう一度連絡できるアテもあるだろう。

 Dr.ウルシェードは、ガブリカリバーを持った右腕を大きく振って、叫んでいた。


「うおおおおーーい!!! 布束さぁあああん!!! お久しぶりじゃあー!!!」


 背後から大きな影が差していることに、彼は気づかなかった。
 聡明で声の大きな科学者は、最期までバイザーの下に満面の笑みを浮かべていた。


【Dr.ウルシェード@獣電戦隊キョウリュウジャー 死亡】


    仝仝仝仝仝仝仝仝仝


449 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:40:51 oSXcxb9g0

 聞き覚えのある、とんでもなくうるさい、名が体を現したあの科学者の声が聞こえたような気がした。
 海食洞の先の滝の向こうに、『彼女』の影があった。

「くはっ……」
「ガッ……」

 その時、ドクターウルシェードの叫び声に紛れて、ヤイコが周囲に電気を放出していた。
 そして、夢原のぞみと呉キリカの体が、地に倒れる。
 海水で濡れた浜を通して、ヤイコが彼女たちの体内を強かに電流で叩いたのだ。


「ヤイコッ……!? あなた……」
「生存したくば、この場はヤイコにお任せいただくことを要求します……」


 浜で痙攣する二人の参加者は、心室細動に陥っていると思われた。
 血流が途絶え、10秒で意識は落ち、すぐに彼女たちは死に至ってしまう。

 そう。
 ヤイコはヒグマなのだ。彼女にとって、侵入者である二人の存在は無価値に等しい。
 自分たち二人の生存を優先するのならば、侵入者を殺してしまうのが最も手っ取り早い手段である。
 しかし、ヤイコは、その決断をここまで延長させた。
 策があるのだ。
 それくらいは、私にも察することができた。


「穴持たず39『ミズクマ』の御姉様のご足労に感謝いたします。穴持たず81『ヤイコ』は、海食洞の無事と、侵入者の適切な排除をご報告いたします」

 ――通路内への浸水なし。
 ――人間2名の心停止を確認。
 ――布束特任部長とヒグマ1名の生存を確認しました。


 見上げるほどの、海抜3メートルの高さに、ミズクマの口があった。
 円形に開かれたその牙の間から、紫色のスーツの腕が覗いている。
 その手が握り締めていた黒と黄色の拳銃が、砂浜に落ちた。

 彼女の体は、巨大な湯たんぽかラグビーボールのような形の、真っ黒な毛皮の塊である。
 その左右に、ただ太い木の枝のような4対の脚が生え、上半身をもたげた空中でその2本が宙に蠢いている。
 目も耳も鼻もなく、ともすればその口までが毛皮の中に埋もれてしまう彼女は、それでもその嗅覚と振動覚で周囲の状況を克明に察知する。
 彼女の音声は、海面を埋め尽くす彼女の『娘』たちによって発せられていた。
 寸分の狂いもなく同期する『娘』たちの動きが、空気を言語として認識できる振動に震わせるのだ。
 彼女は『幼生生殖』し続ける自分の『娘』たちを、振動により完全に統率する。


 私はただ震えていた。
 海上から参加者を連れて脱出するに当たり、彼女への対処は不可欠なのだ。
 彼女が自身を地上に晒してくれている今ならば、彼女を打ち倒すことも不可能ではないだろう。
 腕一本犠牲にする覚悟があれば、彼女の口に、麻酔針を放り込むことができる。
 彼女の思考回路は、感情を孕んでいない。
 彼女の住処がこの海食洞の真下の海底であり、研究所に通じる伝声管の隣に待機しており、研究員とヒグマの依頼には比較的応じることを考慮すれば、呼び出して気絶してもらうことはそれほど難しくなかったのだ。
 統率を失った『娘』たちは、そうなればもう、増えるだけの死んだ牛も同然になる。
 しかし、今となっては、それはできない。
 すれば、シーナーが気づいてしまう。


「有冨所長へ、こちらに大事のないことをお伝え下さい」

 ――了解いたしました。


 ミズクマは、ヤイコの言葉を受けて、再び海面下に潜っていった。
 ドクターウルシェードの体を食い尽くして、彼女は何の感慨もなく淡々と、海上の防衛に戻るのだ。


450 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:41:15 oSXcxb9g0

「……侵入者の除細動を行います。布束特任部長、除細動が不完全だった際の心肺蘇生を願います」

 ミズクマの一群が水中に消え去った後、再びヤイコが電撃を迸らせた。
 夢原のぞみと呉キリカが、水揚げされたマグロのように砂浜を跳ねる。


「あはあっ……!! はあっ、はあっ……!!」
「がぶっ……!! げぇっ、げほっ……!!」


 二人は、一発で心室細動から蘇生した。咳き込み、流涎し、涙を滲ませながらも、彼女たちの身体に異状はないようだった。
 ヤイコは、端的なミズクマとのやりとりに一分もかけなかった。
 この迅速な決断と行動が、全員の命を救ったのだ。
 ヤイコは、二人の様子を一瞥した後に、私の方に向き直る。


「……危険は去りました。布束特任部長。さあ、今こそお話し下さい。あなたが本当は、何をお考えになって行動していらっしゃるのか。
 ヤイコが今後、如何なる基準に基づいて行動するべきなのか、その判断材料をお示し下さい」
「ええ……。そうするつもりよ……」


 私は、砂浜に落ちた、ドクターウルシェードの拳銃を手に取った。
 一瞬で特撮ヒーローのようなスーツに着替えられる銃で、ガブリボルバーと言ったか。
 彼は、島外に出たヒグマや、私の最近の履歴から、この島に至ったのだろうか。
 ほんの少ししかお会いしたことはないが、義に篤く、お調子者で、うるさい人だった。
 彼にミズクマについての知識があれば、そしてもう少しでもタイミングが違えば、生きて私たちは出会うことができたかもしれない。

 頭の中で、サンバの音楽が流れる。
 うるさい。
 どういう機能なのだ。
 『踊って銃を突き上げて“ファイアー”と叫べぇぇ!!』とか、ドクターウルシェードの声が頭に聞こえてくるのはどういうことなのだ。
 本当にうるさい。

 学会で彼に司会を頼んだのはどこの誰だったのだ。スピーカーがハウリングしまくって5分開始が遅れたのよ。
 どれだけ彼は学会に笑いの渦を巻き起こさせ、発表と質疑応答を朗らかに進行させたことか。

 こんな音楽を四六時中聞いて活動しているなら調子に乗るのも無理はない。
 学会を快活に進めることはできても、冷静さが求められる実験や行動には、このBGMはあまり適しているとはいえないだろう。
 私は白衣を拾い上げて、ポケットの中にその拳銃を押し込んだ。


 この島に、正義のためにやってきてくれたのだろう彼の勇気を無為にしないためにも。
 彼のあまりにもうるさく力強い声に応えるためにも。
 私は今後も冷静に行動する必要がある。

 息を整えて砂浜に起き上がり始めた呉キリカと夢原のぞみも、私を見上げている。
 三対の瞳を見返して、私は一度、瞬きをした。


「……ヤイコ、あなたも、ヒグマ帝国の面々が何を目的にして行動しているのか、教えて頂戴。
 私たち4人の身のこれからの振り方を、一度しっかり話し合いましょう」
「はい。ヤイコがお話しできる事柄であれば」


 昔の人々は、『水熊』が出た時、人力の及ぶものではなく、仏の力にすがるしかないと考え、百日間、家ごとに毎朝、川に向かって観音経を唱えたそうである。
 私たちは、百日間もかけてはいられない。
 ありもするかもわからない、仏の力などにはすがれない。
 観音経を唱える声があるのならば、その声で学会の司会を担うことを、私は選ぶわ。


【A−5の地下 ヒグマ帝国(海食洞)/午前】


【夢原のぞみ@Yes! プリキュア5 GoGo!】
状態:ダメージ(中)、キュアドリームに変身中、ずぶ濡れ、心停止から復帰直後
装備:キュアモ@Yes! プリキュア5 GoGo!
道具:なし
基本思考:殺し合いを止めて元の世界に帰る。
0:ようやく、布束さんとヤイコちゃんとお話しできるかな……?
1:ここがどこかわかったら、キリカちゃんと一緒にリラックマ達を捜しに行きたい。
2:ヤイコちゃんのおかげで助かったよ!
3:気絶する寸前に見た、あの黒いヒグマ、怖いなぁ……。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3 終了後からの参戦です。(New Stageシリーズの出来事も経験しているかもしれません)


451 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:41:39 oSXcxb9g0

【呉キリカ@魔法少女おりこ☆マギカ】
状態:疲労(中)、魔法少女に変身中、ずぶ濡れ、心停止から復帰直後
装備:ソウルジェム(濁り中)@魔法少女おりこ☆マギカ
道具:キリカのぬいぐるみ@魔法少女おりこ☆マギカ
基本思考:今は恩人である夢原のぞみに恩返しをする。
0:布束には協力してやりたいが、何にせよ話を聞くところからだ。
1:布束砥信。キミの語る愛が無限に有限かどうか、確かめさせてもらうよ?
2:恩返しをする為にものぞみと一緒に戦い、ちびクマ達を捜す。
3:ただし、もしも織莉子がこの殺し合いの場にいたら織莉子の為だけに戦う。
4:命を助けた私に向かってする対応じゃないだろこのクソチビヒグマぁ……。
5:あんな虫みたいな化物までヒグマなのか!?
[備考]
※参戦時期は不明です。


【布束砥信@とある科学の超電磁砲】
状態:健康、制服がずぶ濡れ
装備:HIGUMA特異的吸収性麻酔針(残り27本)、工具入りの肩掛け鞄、買い物用のお金
道具:HIGUMA特異的致死因子(残り1㍉㍑)、『寿命中断(クリティカル)のハッタリ』、白衣、Dr.ウルシェードのガブリボルバー、プレズオンの獣電池
[思考・状況]
基本思考:ヒグマの培養槽を発見・破壊し、ヒグマにも人間にも平穏をもたらす。
0:ミズクマを切り抜けられて良かった……。
1:キリカ・のぞみ・ヤイコの情報を聞き、和解させ、協力を仰ぐ。
2:帝国・研究所のインターネット環境を復旧させ、会場の参加者とも連携を取れるようにする。
3:やってきた参加者達と接触を試みる。
4:帝国内での優位性を保つため、あくまで自分が超能力者であるとの演出を怠らぬようにする。
5:ヤイコにはバレてしまいそうだが、帝国の『実効支配者』たちに自分の目論見が露呈しないよう、細心の注意を払いたい。
6:ネット環境が復旧したところで艦これのサーバーは満員だと聞くけれど。やはり最近のヒグマは馬鹿しかいないのかしら?
7:ミズクマが完全に海上を支配した以上、外部からの介入は今後期待できないわね……。
[備考]
※麻酔針と致死因子は、HIGUMAに経皮・経静脈的に吸収され、それぞれ昏睡状態・致死に陥れる。
※麻酔針のED50とLD50は一般的なヒグマ1体につきそれぞれ0.3本、および3本。
※致死因子は細胞表面の受容体に結合するサイトカインであり、連鎖的に細胞から致死因子を分泌させ、個体全体をアポトーシスさせる。


【穴持たず81(ヤイコ)】
状態:疲労(小)、ずぶ濡れ
装備:『電撃使い(エレクトロマスター)』レベル3
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため電子機器を管理し、危険分子がいれば排除する。
0:ヤイコにはまだ、生存の価値があるのでしょうか?
1:ヤイコがヒグマ帝国のためを思って判断した行動は、誤りだったのでしょうか?
2:無線LAN、買いに行けますでしょうか。
3:シーナーさんは一体どこまで対策を打っていらっしゃるのでしょうか。


【A−5 海底/午前】


【穴持たず39(ミズクマ)】
状態:健康、潜水、『娘』たちを統率中
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:有冨春樹の命令に従いながら、『娘』の個体数を維持する。
0:周辺海上を通るヒグマと研究員以外の生命体は、全て捕食する。
1:攻撃を加えてくるようであれば、ヒグマのようであっても敵とみなす。
2:島の周囲1キロ以遠の海域に脱出する、研究員以外の人間を捕食する。
[備考]
※『娘』たちは幼生生殖を行なうことができます。
※本体も『娘』も、動物の体内に単為生殖で産卵することができます。
※『娘』たちは、島の崖から約1キロメートルまでの海域にくまなく分布しています。


452 : 水嶋水獣 ◆wgC73NFT9I :2014/04/06(日) 19:41:58 oSXcxb9g0
投下終了です。


453 : 名無しさん :2014/04/06(日) 21:47:12 7wND9pLc0
投下乙
意外と格好いい穴持たず59と脱走ヒグマを殲滅した自衛隊の仕事ぶりに感心した後
圧倒的な強さとキモさを合わせもつ最恐ヒグマによって巻き起こった悲劇。
首チョンパであっさり死んだ鷹の爪団の人たちは今思えば幸せだったのかもしれない。
しかし無様過ぎるぞ劉邦…九死に一生を得たけど死んだ方がマシだったんじゃないかこれ…?
そんな中頑張りまくった痴漢王。てかこんなに強かったのか迅wwww惜しい漢を亡くした。
ヒグマロワ全体のテーマも見えてきた圧巻のモンスターパニックでした。


454 : 名無しさん :2014/04/06(日) 22:14:09 w5l8kmoo0
投下乙
絶影は漢語である以前に飼い犬の名前なんだから別に気にしなくてもいいんじゃ…と思ったけど
その路線で行くと絶影黒子にしないといけないか、名前って難しいな
K戦略のヒグマ最強クラスだろうルアを屠った痴漢王と巨大鷲巣をも超えるミズクマの脅威
はたして人類側に対抗策はあるのだろうか


455 : ◆7NiTLrWgSs :2014/04/06(日) 22:19:57 YNYTZ1UQ0
予約延長します


456 : 名無しさん :2014/04/07(月) 02:57:41 HLy9IWQ.0
このロワ、痴漢の天敵をなんでまじめに考察してるんだろ……w
しかしミズクマはまさに化物、クリーチャーだな
戦力以上に数、数以上に植え付けが怖い


457 : ◆wgC73NFT9I :2014/04/07(月) 22:42:40 Uc9b.x5E0
暁美ほむら、球磨、ジャン・キルシュタイン、星空凛、穴持たず51〜54、
巴マミ、碇シンジ、球磨川禊、穴持たず1、ヒグマン子爵
で予約します。


458 : 狛枝凪斗の幸福論 ◆Y8r6fKIiFI :2014/04/08(火) 00:53:47 tI9l/yngO
長期の遅刻申し訳ない。
投下します。


459 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/04/08(火) 00:54:19 tI9l/yngO
・協力者の一人の供述――記録者・有冨春樹

狛枝クン? 本当に彼を参加させるつもり?
ボクとしては「正気なの?」って聞きたいトコロだけど……まあキミに正気とか言っても仕方ないか。
先に言っておくけどね、ボクは絶対にお勧めしないよ。

違う違う、能力や人格なんて問題にしてないよ。
彼本人なんて雑魚も雑魚。 狂人ぶってるから大物に見えるけど、実際は小物だし雑魚キャラさ。
哀れで笑ってしまいそうになるくらいね。

ボクがお勧めしない理由はね、彼が「幸運」だからさ。 いや、「不運」だからって言い換えてもいいかもね。
……ん? その二つは普通両立しない概念だろう、って?
するんだよ、狛枝クンはね。

アイツの才能の事は話したっけ?
……うん、「超高校級の幸運」だよ。 だからどうしたって?
確かに普通にしててもアイツは幸運だよ。
リボルバーでロシアンルーレットをしたら六発中五発弾丸を詰めても当たらないし、くじ引きをすれば百発百中さ。
でもね、アイツの幸運はもっと特徴的な癖があるんだ。
アイツはね、「降りかかった不運を呼び水にして、その数倍の幸運を呼び込む」んだよ。

ちょっと実例を挙げて説明しようかな。
狛枝クンが子供の頃、両親と一緒に飛行機に乗った時の事さ。
彼の乗った飛行機はハイジャックされちゃったんだ。
身代金目的ってよりは、別の目的があったんだろうね! 他の乗客は皆殺しさ。
彼自身も殺される――、ってところで、何が起きたと思う?
隕石だよ隕石! 天文学的な確率で飛行機に隕石が直撃してね、散らばった隕石の欠片が当たって幸運にもハイジャック犯が死んじゃったのさ!
おかげで狛枝クンは助かって、おまけに両親の遺した遺産を手に入れる事ができたんだけどね。

ね、「不運」で「幸運」でしょ?
でもさ、この話で一番「不運」だったのは誰だと思う?
一緒に乗ってた乗客に決まってるじゃない! 殺されちゃったんだからさ!
おまけにもう少し隕石が降って来るのが早ければ、生き残れたかもしれないんだよ?
こりゃあもう不運も不運だよね!

もう一つ話をしようか。
両親の遺した遺産のおかげで、狛枝クンは幼くしてかなりの資産家になったんだ。
当然狙われちゃうよね。 小学五年生の時、狛枝クンは不幸にも誘拐されちゃったんだよ。
それでさ、誘拐犯は狛枝クンをゴミ袋の中に押し込んだんだよね。 犯人からしたら隠してるつもりだったのかな?
まあ、結局警察に捕まって無駄な努力に終わっちゃったんだけどね!
そういう訳で狛枝クンは救出されたんだけど、詰め込まれたゴミ袋の中ですごい物を見つけたんだよ。
なんだと思う?
宝くじの当たり券さ! それも、3億円!
すごい金額だよね! ま、ボクは100億円ポンと出せるけどね!
これで狛枝クンはまた莫大なお金を手に入れた訳だけど、この話で不幸だったのは誰だと思う?
誘拐された狛枝クン? 捕まった誘拐犯?
いやいや、そんなワケないよね! 「3億円の当たりくじを捨てちゃった人」だよ!
何が起こったのか知らないけど、当たりくじを捨てたりしなければ3億円はソイツの手に渡った筈なんだから!

ここまで言えばわかるよね?
狛枝クンの「超高校級の幸運」は――周囲を思い切り巻き込むのさ。
巻き込むだけ巻き込んで、幸運の恩恵を受けるのは彼一人だけ。
幸運っていうのは世界には限られてるんだってよくわかるよね!

それでさ、有富クン。 この話を聞いても狛枝クンを実験に参加させるつもり?
「不運」と「幸運」で周囲を巻き込む狛枝クン。
そんな彼を、「ヒグマの跋扈する島に放り込まれて殺し合いを強要される」なんて不運に巻き込んだら……。
揺り返しの幸運、そして彼自身の不運が……
この「実験」そのものを巻き込んでしまうかもしれないよ?


460 : 名無しさん :2014/04/08(火) 00:55:19 tI9l/yngO


「HIGUMA」の遺伝子を取り込み究極羆生命体と化した男、カーズ。
彼との戦いの直後。 カズマと杏子は、ビルの壁によりかかり一息を吐いていた。
如何にアルター使いとしての新たな段階への覚醒に至ったと言えど、カズマのダメージと疲労は軽視していいものではない。
休息が必要だ、という事実はカズマも杏子も理解している。

「……流石に疲れた。 おい杏子、ちょっと休まねぇか」
「あたしも賛成だ。 道のど真ん中に座り込む訳にもいかねーし、近くのビルで休もう。
 置いてきたほむらみてーな奴の様子も見ておかねーと……」
カズマの提案に杏子が賛成し、二人は道を引き返そうと踵を返す。

――タイミングが悪かった、と言う他ない。
カーズと戦っている最中ならば、戦闘に研ぎ澄まされた神経がそれを察知できた。
そうでなくても、戦いの余波がそれを寄せ付けなかった。
逆にもう少し後ならば、緩んだ神経を再度張り詰めさせることができていた。
戦闘が終わり、周囲の危険もなく、警戒の糸が丁度緩まり切った瞬間。

そんな最悪のタイミングで。

轟音と共に、カズマと杏子は蒼の波に飲まれた。




「……まさか津波とは。 誰かはわかりませんが、派手な事をやる物です。
 ですが、これは少々困りましたね」

カーズに襲われた黒騎れいが屋上へ逃げ込み、そのまま気を失ったビル。
彼女の倒れ込む屋上の床を見下ろすように、カラスは屋上の手摺に止まっていた。
眼下に見える街並みは、建造物を残して海の中へ沈んでしまっている。

カーズの肉片を体内へ呑み込み、屋上へ戻って来たカラスが見たのは完全に気を失っているれいの姿だった。
止血は見たところ終わらせてあったが、ヒグマや他の参加者が歩く場所で倒れているのは危険だし、何より彼女にはもっと働いてもらう必要がある。
声をかけるかつつくなりして起こそうと考えた次の瞬間、この津波が街を襲っていた。

「この分では、おそらく都市部だけではなく島全体が沈んでしまっているでしょう。
 れいを動かすのも難しいですね」
もちろん今までに見せたように、れいにはワイヤーを使っての立体的な移動ができる。
それを利用すればビルの屋上伝いに移動する事は不可能ではないが、逆に言えば市街地から出ていけないという事でもある。
そもそも思いっきり津波が流れてる状況でゲームが成立するかと言われると凄く怪しい。

「仕方ありませんね……れいはこのまま寝かせましょう。
 あの男女も流されたようですし、今はできる事もない」
起こしたところで出来る事がない以上、無理をさせるよりは多少休ませておいた方が今後には響かないだろう。
自分が他の場所の様子を見て来る事も考えたが、気絶したれいを放置するのは危険だと思い直す。
まさか島が沈んだままという事もないだろう、動くのは波が引いてからでもいい。
判断を決めたカラスは、周囲の様子に気を配りつつ、次の思考へ――

「……む?」
視界の中で何かが輝いた気がして、カラスは目を瞬かせた。
都市から流れ出した金属物の反射光……という訳ではない気がする。
もっと強い輝き――そう、先程究極生物を名乗った男と戦っていた男の放っていたような――

「……まさか」


461 : 名無しさん :2014/04/08(火) 00:56:22 tI9l/yngO


少し時間を戻す。

海へと沈んだ街並みの上を、モーターボートが走っていた。
操縦席に座っているのは、温泉で巴マミらから逃げだした狛枝凪斗である。

「いきなり津波に飲まれるなんてビックリだよ。 流石に人生でも初めての経験だね。
 ま、でも偶然水上に浮いてたモーターボートにしがみつけたのは助かったかな?」

津波に襲われるという『不幸』に襲われながらも、モーターボートを見つけるという『幸運』で難を逃れた狛枝。
津波に飲まれた為、体は上から下までずぶ濡れになっているが――彼の眼からは、焔は消えていなかった。
『希望』という名の焔。 彼はそれを信じ、そして新たな希望を探して海上をモーターボートで走る。

ちなみに今彼が乗っているモーターボートは、デビルヒグマに殺された不動明に支給されていた物がディパックから津波で零れ出した物である。
彼が殺そうとしたデビルヒグマが間接的に彼の命を救った事になる訳だが、そこは彼にとっては関係のない事だった。

(流石にこの有様じゃ人間どころかヒグマさえ影も形も見えないね。
 闇雲に海面を走るよりも、どこかで引き潮を待った方がいいかな。
 市街地のビルは沈んでないみたいだし、非常階段にでもボートを乗りつけて屋上で休憩しよう)
少しの間モーターボートを走らせたが、変わった物はほとんど見つからない。
焦れた狛枝が方針を切り替え、一旦津波をやり過ごそうとした時。
海面に、何かが浮かんでいるのが目に留まった。

(……封筒?)
ただのゴミ。 そう判断する事もできる筈だが、やけに気にかかる。
中身を確認しなければならない、という、確信にも似た直感。

(あるいは、これも幸運の内なのかな……?)
それに突き動かされた狛枝は、モーターボートを停めると水面に浮いている封筒を拾い上げる。
茶封筒の表面に書かれていたのは、『参加者各位』の文字。

(……)
濡れてくっついた紙に難儀しながら、半ば破るように封筒の口を開く。
中に入っていたのは――、一枚の便箋と、3つのアンプルだった。
躊躇無く便箋を開き、中身を確認する。 上から下まで目を通すと――狛枝は、確かな笑みを作った。


『参加者各位
 以下に 主催本拠地への経路を図示する
 なお首輪は オーバーボディやアルミフォイル等により 電波を遮断することで
 エリア外に移動した際の爆発を 一時的に防止することができる
 準備一切 整えて 来られたし』

「やっぱり、ボクはツイてるみたいだね……」
封筒に入っていた一枚の手紙。 それは(おそらく主催者に近しい人物からの)招待状であった。
一見罠の可能性が強い手紙。 けれど狛枝は、これを疑わない。

(主催者の目的がボク達にコロシアイをさせる事なら、こんな手紙をわざわざ書いて罠にかける意味はないし……。
 何より、これがボクの『幸運』の導きだって言うのなら乗るしかないよね)
自らの推測。
そして「自らの唯一の才能」である幸運を信じる彼にとって、この程度の賭けは賭けですらない。
もし賭けに負けたのならば、それは彼の才能がその程度だったという事。
それが、彼の有する「才能」を史上とする価値観だった。

(問題は、どうやってこの経路が示す場所……つまり地下に行くかかな。
 今のところ地上は完全に海に沈んでるし……引き潮が来るまで待つしかないかな?
 ……この津波、まさか引かないなんて言わないよね?)
手紙の内容は全面的に信用する事にした狛枝だが、今のところ本拠地への道であるマンホールは海に沈んでいた。
そもそも、狛枝一人で本拠地に行くのは幸運や不運を通り越して蛮勇だと思う。
となればやはり、どこかで津波が引くのを待つか、モーターボートを使って人を探すかのどちらかだが――。

(……ん?)
どちらを選ぶかを考えていた狛枝の目に、ある物が飛び込んで来た。

それは、地上にもう一つ太陽が現れたかを思わせる、光。


462 : 名無しさん :2014/04/08(火) 00:57:12 tI9l/yngO



「――もっとだッ! もっと輝けぇぇぇぇェッ!」
「……お、おい、カズマっ!」
「しっかり掴まってろ、杏子ッ! このままぶち抜くッ!」

カズマの腕に発現したアルター――シェルブリットが光る。
海を割り、海を食い、海を突き進む。

「無茶すんな! さっきから無理しっぱなしだろうが!」
「無茶も無理もねぇ! 俺の前に立ち塞がるなら――吹っ飛ばすッ!」
腰にしがみつく杏子の声を後ろに流し。
前へと。
前へと。
突き抜け。 切り開き。 突破する。
まるで海を割り新天地へ進んだ聖者のように。

そして――
コンクリートのビルへ激突した。


463 : 名無しさん :2014/04/08(火) 00:58:09 tI9l/yngO



「……っ!?」
ビルを揺るがす轟音に、黒騎れいは目を覚ました。
体を勢い良く起こしながら記憶を探る。 顔を巡らせ状況を確認。

(そう、だ……私はあの男に襲われて……)
ヒグマなのかさえも定かではない、肉体変化の能力を持つ男の姿は周囲にはない。
いやそれどころか。

(……街が沈んでる……!?)
見渡す限りの海。 そして波間から姿を見せるビル。
れいが意識を失う前からは変わり果てた光景。

「れい、落ち着きなさい。 先程下の階に参加者が突っ込みました。
 すぐに階段を登ってここまで来るでしょう。 対処を」
聞きなれたカラスの声が耳に飛び込む。

(そうだ……下手に参加者に接触する訳にはいかない。 他のビルにワイヤーで跳び移れば……)

――飛び移れば?
だからなんだ? 逃げる? 何故?
逃げてどうする?

(またゲームのジョーカーとしてヒグマを進化させて、参加者を殺す?)
自分にそんな資格があるのか? 誰かを蹴落として願いを叶える資格が?
自分の為に誰かを不幸にする資格が? そんなものはないのではないか?
ならば諦めるのか? 自分の世界を見捨てて?
彼女の思考はぐるぐると回り――答えを出す事ができなかった。
思考の袋小路を何度も行き来する。 その内に、

「おい、何やってんのアンタ」


464 : 名無しさん :2014/04/08(火) 01:00:36 tI9l/yngO


声と共に肩を掴まれ、れいは無理矢理振り向かされた。
視線の先に現れたのは、先程れいを助けた少女だ。

「大したことなさそうなのは良かったけどさ、そんな風に呆けてるのはよくないんじゃないの。
 また変なヒグマが出てくるかもしれないんだし」
心配するような――あるいは呆れたような視線を向けて来る少女の向こうには、あぐらを掻いて座る男性も見える。

(……さっきカラスが言っていた参加者ね。 失敗だったわ……。
 これからを考えるにしても、ここを離れてからでよかったのに)
そのカラスは近くにはいない。 怪しまれないように、どこかへ隠れているのかもしれないが――。
これからどうするべきか。 れいにはその答えが出せない。
答えが出せないから、参加者に対してどう接触すべきかも決めかねる。

(……どういう道をとるにしろ、無駄に不審がらせる事もない。
 接触してしまった以上、穏便に、経緯についてはある程度誤魔化すしかないわね)

「……おい? まさか口が聞けなくなったって訳じゃないんだろ?」
「……ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたから。 そうでなくても、いきなりこんな事が起きて混乱していたし」
続けて声をかけてくる少女に答えを返す。
上手く誤魔化せたかはわからないが、今はこれ以上追及される事はなさそうだ。

「さっきは助けてくれてありがとう。 ……私は黒騎れい。 あなた達は?」
「……あたしは佐倉杏子。 こっちはカ「カズマだ」 ……そう、カズマ。
 しかし、あんたも災難だね。 二度も訳わかんないのに遭遇してさ」
訳わかんないの、とは巨大化した穴持たず00と羽根男の事を言っているのだろうか。
片方はれいの行動によるものなのだが、まさかそれを言う訳にもいかないのでうなずいておく。

「……ま、あんたが参ってるのもわかるからさ。 考え事があるならしてて構わないよ。
 こっちも疲れてるし、一旦休みたいんだよね」
そう言うと、杏子はカズマと名乗った男性の方に近寄ってから座り込む。
様子からして、疲れているというのは本当らしい。

「……そう。 じゃあ、そうさせてもらう」
期せずしてまた考える時間を与えられてしまった。
どうしたものか。


465 : 名無しさん :2014/04/08(火) 01:00:59 tI9l/yngO
(……そもそも、この事態は一体どういう事なの?)
多すぎるヒグマ、謎の羽根男、そして津波。
現在この島で起きている事象は、当初有冨に話された『実験』の内容をはるかに逸脱している。
それについての有冨からの連絡もない。

(やはり、実験に何らかのトラブルが起きた……?)
数刻前にカラスに同じ疑問を聞いた時、「有冨にヒグマを制御する度量など無かったのだろう」と言っていた。
ヒグマ達が制御から外れ、脱走や暴走を始めているという可能性は低くない。
最悪の場合、有冨達の生存すら怪しいが――

(……でも、それだけでは説明できない事がある)
あの羽根男の事だ。
あの男は穴持たず1――デビルの事を下等生物と呼んだ。
デビルはその番号からもわかるように、ヒグマ達の中でもかなりの古株だ。
その改造の回数も他のヒグマ達とは一線を画すし、その分有冨達の技術の枠も惜しみなくつぎ込まれている。
何かに特化した能力こそ持っていないが、その知性、戦略眼、戦闘力全てが高レベルのヒグマである。
そのデビルを取るに足らない生物と呼んだというのは――いやそもそも、あの男の肉体変化能力はデビルの物よりも更に高レベルだった。
つまり――

(……デビルの肉体変化能力は、あの男を模倣して作られた……?)
だとすれば、あの男はデビルよりも古株――そもそも有冨達に作られたヒグマかも怪しい事になる。
更に大きな問題は、「私はそんな男の存在を知らされてはいない」という事だ。
そう――仮にも実験の協力者である私に、そんな重要な存在が、知らされていない。
ここから考えると、もう一つの「最悪の可能性」に行き着く。

(……私は、有冨に騙されているんじゃないの?)
考えられない可能性ではない。
所詮れいは異世界の人間だ。 彼等の身内ではないし、信用されていない可能性だってあった。
いつの間にか、彼等の実験の餌にされている可能性も――

(いや、そう考えてもおかしな点は残る……有冨は私に情報を与え過ぎている。
 信用させる為とは言っても、下手をすれば致命的になるはず……)
加えて考えれば、この異常がどう実験に役立つのかがわからない。
津波とかどんなデータを取る実験なんだ。

(……推論は幾つか建てられるけど、どれも推測の域を出ないわね。
 やっぱり、一度主催本拠に戻るしかないかしら……?)
それをするにしても、今度はカズマと杏子をどうするかという問題がある。
うまく撒ければそれでいいのだが――

「……なんか聞こえない?」
不意に聞こえた佐倉杏子の言葉に、れいの思考は現実へと戻った。
言われて周囲に耳を傾けてみれば、確かにモーター音らしき音が――

(……モーター音?)
弾かれたように立ち上がり、手摺まで駆け寄る。
目に映る海の上には、波紋を描きながら走るモーターボートの姿が確かにあった。

(……あんなのを支給された参加者もいたのね)
このような事態にならなかった場合どう使わせるつもりだったのか有冨に問い質したいが、それはそれとしてあれに乗っているのも参加者だろう。
ヒグマならばモーターボートなど使わずとも自力で泳げる筈だ、とれいは判断する。 
――同じ頃、サーフィンをするヒグマが現れていたのは彼女が知る由もない。

「……そこのモーターボート! ちょっと停まって、こちらの話を聞きなさい!」
モーター音にも負けない音量でれいが声をかける。
声が届いたのかモーターボートは一度停止し、操縦席に座っていた人間がこちらへ顔を向けた。

「良かった、こっちで合ってたみたいだね。 ……さっきの光って、キミが出したの?」


466 : 名無しさん :2014/04/08(火) 01:02:29 tI9l/yngO



「ボクは狛枝凪斗。 よろしくね」
ビルに空いた穴から内部に侵入し、階段を登って屋上までやって来た狛枝は、屋上にいた三人に自己紹介していた。
礼儀正しい挨拶に三人も自己紹介を返す。

「……さっきの光って、何の事かしら?」
情報交換もそこそこに、れいが狛枝に聞く。
自らの事情を聞かれたくないれいにとって話題を自分から逸らす目的もあるが、単純に気にもなっていた。
遠くからやって来た人間に見える程強烈な光ならば他の参加者やヒグマに気付かれる可能性もあるし、そもそもそのような光を出せる存在には注意を払わなければならない。

「……気付かなかったの? さっき突然強烈な光が、このビルに突っ込んだように見えたんだけど」

(……カラスが言っていた、『下の階に参加者が突っ込んだ』時の光? 
 私が起きた音もそれが原因かしら……つまり)

「……それをやったのはあたし達だよ。 っていうか、こっちのカズマ」
杏子が隣に座るカズマを指差す。
指された当の本人は、気にした様子もなく「大した事じゃねぇ」と返したのみだったが――

「素晴らしいよ! もしかしたら、君が希望なのかもしれないね!」
狛枝は目を輝かせてカズマを賞賛した。
その瞳は爛々と輝き、喜色を顔に浮かべている。

「希望ってのはどういう事だ。 オレはお前の希望になんてなった覚えはねーぞ」
「違う違う。 ボクだけじゃなくて、もっと絶対的な……そう、世界にとっての希望って言い換えてもいいかな」
「どっちにしろ同じだ。 そういうものを他人に頼るんじゃねーよ」
「頼るんでもないんだけどな……」
その狛枝を無碍にあしらうカズマだが、狛枝には改める様子もない。

(一般人さんとかなら、そーいうのを見た時にはしゃぐとか驚くとかしても無理はないけど。
 ……なんかコイツ、度を越してない?)

「おっと、ごめんごめん。 ちょっと熱が入っちゃったね。
 お詫びと言ってはなんだけど、ここに来る前にいいものを拾ったんだ。
 ちょっと見てみてよ」
そんな様子を怪訝に見つめる杏子に気がついたのか、狛枝は一旦姿勢を直すと自らのディパックに手をかけた。

「……!」
ディパックから取り出されたそれを目にしたれいが、その場にいた三人を手で制する。
そして自らのディパックから筆記用具を取り出すと、メモ用紙に急いで書いた内容を三人に見せた。

“首輪から盗聴されている可能性がある それについては筆談で話して”

「確かに面白いけれど、今役立ちそうには見えないわ。
 ……一応あなたが管理していて。 使う事もあるかもしれないし」
「そっか、残念だよ。 仕方ないから、これはしまっておくね」
続けてれいは『首輪の先にいるもの』を誤魔化す為の言葉を発する。
狛枝もその意を汲み取り、れいの発言に乗りながらディパックから筆記用具を取り出した。
欺瞞の為の雑談を続けながら、茶封筒の中身を確認する。

(……危ないわね)
――盗聴の可能性がある、とれいは表現したが、実際はれいは盗聴が行われている事は知っていた。
事前に有冨から首輪の構造を聞かされた際に覚えていたのが功を奏した。

(……でも、なんでこんな物が会場に落ちているの?
 まさか、本当にSTUDYに何かが起きた……?)
茶封筒に書かれている『参加者各位』の文字。 あれは布束博士の筆跡だ。
彼女がこの実験について否定的な意見を示していたのは知っているが、このような形で参加者に接触を取ろうとするというのは違和感を覚える。
STUDY内で何らかの事故が起きた可能性も、否定はできない。

“こいつはマジなのか?”
“本当だと思うよ。 こんな嘘を吐いて主催がボクらを騙す必要がない”
“私もそれには賛成するわ”
茶封筒の内容を確認した杏子が、筆談で質問する。
狛枝とれいは、それを肯定した。

“どっちにしろ、それを確認するのは波が引いてからになるだろうけどね。
 モーターボートも4人を乗せるには小さすぎるし、アルミホイルかオーバーボディを探さないといけないからさ”

筆談を終える。
狛枝の書いた通り、津波が引いた後に市街地でアルミホイルかオーバーボディを探すのが今後の行動方針だ。
現状の方針を決めかねていたれいとしても、布束博士に手紙の真意を聞いて現状を把握する必要があると考えた為同行する。
茶封筒に同封されていた麻酔針は、2本が狛枝、1本をれいが持つ事にした。


「……そうだ。 それと、もう一つ注意しておきたい事があるんだ」
それから少しした後。 またも狛枝が口火を切った。
“これは筆談する必要はないよ”と前置きして、

「津波の起きる前に、主催者側らしい集団を発見したんだよ」
そう言った。


467 : 名無しさん :2014/04/08(火) 01:03:12 tI9l/yngO


狛枝の説明は端的にはこういう事だった。

《ここから南の温泉地帯にある集団がいる。
その一団はヒグマを連れていて、拘束や戦闘もしていない。
ヒグマに命令できる主催者側の人間の可能性がある》

その内容に、明らかな矛盾点はない。
ないが――

「おい」
杏子が、狛枝を鋭く睨む。

「アンタ、嘘を吐いちゃいないだろうね?」
「ウソ? ……なんでボクが嘘なんて吐かなきゃいけないのさ」
「確かにそうだけどさ。 ……アンタの言ってる奴に、アタシは心当たりがあるんだよ。
 そいつがあたしの知ってる奴なら、アンタの言ってるように主催者の手先になんてなる訳がねー」
狛枝の言う“主催者側らしき人間”の一人に、杏子は心当たりがあった。
巴マミ。
杏子の先輩魔法少女であり――一時、杏子の「師匠」だった少女。
あの「甘ちゃん」が、こんな殺し合いに加担するような事がある訳が無い。

だから、こいつの発言には嘘がある。
そう杏子は思った。

(……主催者側の人間だからと言って、無条件にヒグマに言う事を聞かせられる?
 そんな事はない。 そもそも、STUDYにわざわざ外に出てくるような理由はない筈だし、出てこれるような人員もいない筈)
主催者側からのジョーカーであるれいは、ヒグマについてよく知っている。
彼らは誇り高い。
そりゃまあ研究員達に普通に従うヒグマもいるが、それでもその心の中には誇りを持っているヒグマが多数だ。
そもそも先刻自分を襲ったヒグマン子爵のように、研究員の言など聞かないヒグマもいる。
そのヒグマ達が、血沸き肉躍る殺し合いの会場で大人しく他人の命令に従うだろうか?
研究員達にしたって、研究所の中でデータ取りをやる人種であって、危険な会場に出てこれるような人間でもない。

だから、彼の発言には嘘がある可能性がある。
口に出せば身元を明かしてしまうようなものだから発言はできなかったが、そうれいは思った。

「……さっきから思ってたんだけどよ。 お前の発言は胡散臭ぇな」
カズマには杏子やれいのような知識はない。
だが、感覚的に狛枝を胡散臭いと思った。
それに根拠はない。 直感だ。
だが、彼にとっては直感は信じるに足るものだ。

だから、こいつは信用できねぇ。
そうカズマは確信する。

三者三様の理由で、彼らは狛枝凪斗を怪しむ。
けれど、狛枝凪斗も確信させるには至らせない。

「……その子が本当に佐倉さんの知り合いだって言うのなら、もしかしたら騙されてるのかもしれないよ?
 こんな状況だし、優しく接されたら騙されてしまう可能性もあるかもしれない」
「……それは、あるかもしれねーけど」
「それに、ボクがキミ達を騙して何の得があるんだい?
 同じ参加者同士だって言うのに……信用されるに足るものは、ちゃんと見せたつもりだけどな。
 ……ボクは、キミ達の希望が見たいだけなんだよ」
そう。 三人から見た、狛枝が三人を騙すメリットが見えない。
確かにこの会場で起きているのは、元々は参加者同士の殺し合いだった筈である。
ただ、ヒグマの脅威はそれを更に上回るし、何より狛枝が三人を騙すつもりなら例の茶封筒を見せる必要がない。

茶封筒を見せた事により、4人のこれからの行動は「地下の本拠地へ向かう」に一致している。
そこから『主催者側の集団』の話をしたところで、せいぜい『そんな風貌の連中に気を付ける』程度だ。
茶封筒も狛枝の罠、という可能性もなくはないが、それにしたってすぐにバレる嘘である。
(ついでに言えば、れいはこれは嘘ではないと知っている)

要するに、『狛枝の目的が掴めない』のだ。

更に言えば、れいと杏子の二人には疑念を確信できないだけの理由もある。

(……確かに、マミの性格だと騙されてる可能性も否定はできないけどさ)
杏子の知る巴マミは、戦闘センスや直感、戦闘力においては有能だったが、反面お人好しの平和ボケだった。
何か人情話を聞かされて騙されている可能性はなくはない。
ゆえに、確信まで至れない。

(……STUDYが私に何かを隠している可能性は、確かにある)
直前までれいが思考していた疑念。
それが、れいの思考を鈍らせる。
STUDYが教えたのは本当にヒグマや研究員の全てなのか?
騙され、利用されようとしているのではないのか?
ゆえに、確信までは至れない。

疑念と戸惑いの上に成り立つ、束の間の休息。

戸惑わず、疑惑というテーブルの上に残ったのは直感と己の信念に生きる一人の男だけだった。


468 : 名無しさん :2014/04/08(火) 01:06:31 tI9l/yngO
【F-5/市街地/午前】
※B-6、C-6、D-6、E-6、F-6のマンホールの上に設置されていた【封筒(研究所への経路を記載した便箋、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×3本が入っている)】は、津波によって流されました。

【カズマ@スクライド】
状態:石と意思と杏子との共鳴による究極のアルター、ダメージ(大)(簡易的な手当てはしてあります)
装備:なし
道具:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、エイジャの赤石@ジョジョの奇妙な冒険
基本思考:主催者をボコって劉鳳と決着を。
1:『死』ぬのは怖くねぇ。だが、それが突破すべき壁なら、迷わず突き進む。
2:今度熊を見つけたら必ずボコす。
3:波が引いたら、主催者共の本拠地に乗り込んでやる。
4:狛枝は信用できねえ。
[備考]
※参戦時期は最終回で夢を見ている時期


【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:石と意思の共鳴による究極の魔法少女
装備:ソウルジェム(濁り中)
道具:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
基本思考:元の場所へ帰る――主催者をボコってから。
1:たとえ『死』の陰の谷を歩むとも、あたしは『絶望』を恐れない。
2:カズマと共に怪しい奴をボコす。
3:あたしは父さんのためにも、もう一度『希望』の道で『進化』していくよ。
4:狛枝はあまり信用したくない。 けれど、否定する理由もない。
5:マミがこの島にいるのか? いるなら騙されてるのか?
[備考]
※参戦時期は本編世界改変後以降。もしかしたら叛逆の可能性も……?
※幻惑魔法の使用を解禁しました。
※この調子でもっと人数を増やせば、ロッソ・ファンタズマは無敵の魔法技になるわ!


【黒騎れい@ビビッドレッド・オペレーション】
状態:全身に多数の咬傷、軽度の出血性ショック(止血済)、制服がかなり破れている
装備:光の矢(6/8)、カラス@ビビッドレッド・オペレーション
道具:基本支給品、ワイヤーアンカー@ビビッドレッド・オペレーション、ランダム支給品0〜1 、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×1本
基本思考:ゲームを成立させて元の世界を取り戻す
0:他の人を犠牲にして、私一人が望みを叶えて、本当にいいの?
1:ヒグマを陰でサポートして、人を殺させて、いいの?
2:今は3人について、本拠地を目指す。 決めるのは、それから。
3:狛枝凪斗は信用していいの?
4:そもそも、有冨春樹を信用していいの?
5:流石にこのままじゃ恥ずかしいし、替えの服とかないかしら……
[備考]
※アローンを強化する光の矢をヒグマに当てると野生化させたり魔改造したり出来るようです
※ジョーカーですが、有富が死んだことは知りません
※カラスが現在何をしているかは後続に任せます。


【狛枝凪斗@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園】
[状態]:右肩に掠り傷
[装備]:リボルバー拳銃(4/6)@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、研究所への経路を記載した便箋、HIGUMA特異的吸収性麻酔針×2本
[思考・状況]
基本行動方針:『希望』
0:カズマクン……キミがこの島の希望なのかな?
1:津波が引いたら、アルミホイルかオーバーボディを探してから島の地下に降りる。
2:出会った人間にマミ達に関する悪評をばら撒き、打倒する為の協力者を作る。
3:球磨川は必ず殺す。
4:モノクマも必ず倒す。


469 : ◆Y8r6fKIiFI :2014/04/08(火) 01:07:21 tI9l/yngO
投下終了です


470 : 名無しさん :2014/04/11(金) 00:01:41 FFCGmwFQ0
投下乙
烈海王よりマシだがサーファーも充分変だったなそういや…
ヒグマン子爵に狙われてるしデビルはくまモンと敵対してるしマミさんチームは前途多難


471 : 名無しさん :2014/04/11(金) 07:01:52 1culEP0Y0
投下乙
まさかヒグマロワで普通のロワみたいな疑心暗鬼を見るとは
思ってなかった


472 : ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:43:48 q05hE3PY0
投下します


473 : 邂逅  ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:44:19 q05hE3PY0
「――おい、誰だ、お前?」

島風から取り上げた携帯から聞こえた声は、普段の提督とは全く違う声だった。
それに自分の事を天龍"殿"と呼んでいた。自分の提督が俺の事をそう呼ぶなんてのは、まずありえない。
となると島風はやはり自分の鎮守府以外の場所で建造されたということになる。
ならばこの電話の相手は、島風の言う"提督"である可能性が高い。

『そこのぜかましちゃんの提督。……ヒグマ提督と呼んでくれて構わないよ』
「なっ……!」

あまりにも衝撃的な言葉に、天龍は言葉を失った。
提督がまさかヒグマだとは思いもしなかったからだ。
人語を話すヒグマがいるのは分かっていたが、さすがに艦むすを建造できる程の知識は無いと思っていた。
ヒグマ提督の存在が事実ならば、彼等は艦むすを建造する為の資材と工廠を持っていることになる。

「どうやって、資材を調達した?」
『ヒグマを20体くらい解体してチョチョイっとね。運がよかったよ』

さらに衝撃的な言葉に、天龍は眩暈を起こしそうになる。
ヒグマを解体して資材にしただと? それで島風が建造されたというのか?
――馬鹿げている。そんな建造方法があってたまるか。
それではヒグマは艦むすを、簡単に量産できることになってしまう。
しかも資材にはヒグマだ。ステータスはきっと、ヒグマ並みに馬鹿げた数値になっているに違いない。
ヒグマ並みの能力を持った、ヒグマに仕える艦むす。間違いなく深海戦艦よりも脅威だ。

『さて、私に聞きたいことがあるんだろう? 天龍殿』
「……その前に天龍殿ってなんだよ」
『実験に立ち向かう艦むすに、敬意を表して!』
「どういう目的で島風をここに派遣した?」
『え? 華麗にスルー? ま、まあいいか』

電話越しから露骨に落ち込んだ声が聞こえる。
どうでもいいことを聞いたら、どうでもいい答えが返ってきただけなのでスルーしただけだけど。
ヒグマでも落ち込むことってあるんだなー、天龍は呑気にそう思っていた。
数秒後、考え事は打ち切られる。

「うおっ!?」
「きゃっ!?」

突如として放たれた弾丸に対して、天龍と島風はかろうじて回避する。
弾丸が放たれた方向を見ると、先ほど島風と仲良く遊んでいたヒグマのサーファーがそこにいた。
ヒグマサーファーは高速で動きながら、天龍達を蜂の巣にしようと虎視眈々と狙っている。

「すまん、島風。アイツと遊んでててくれ」
「ええー! 天龍がやってよー! 私は司令官と話さなきゃいけないのー!」
「あれにスピードで勝てるのは島風だけなんだよ。頼む、このままじゃ全員死ぬからさ」

そうこうしている内にヒグマサーファーは狙いが定まったのか、ボードの先端がせり上がり銃口を露出させる。
直後マシンガンが火を吹く。二人は高速旋回し、これを避けた。

「……ちゃんと返してよね」
「悪いな」

渋々といった様子か、島風は頬をぷくっと膨らませながらヒグマサーファーの元へ向かっていく。
悠々とヒグマサーファーを追い越し、ヒグマサーファーも島風のことを追いかける。
マシンガンを乱射し、魚雷も発射するが島風は軽々と避けていく。
そんな島風はさておき、天龍は電話に意識を傾ける。


474 : 邂逅  ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:44:51 q05hE3PY0

『どうしたの? 急に可愛らしい声をあげてさ』
「ヒグマに襲われたんだよ……それよりも、だ」
『なんだい?』
「島風の役目は何だ? 火山を調べさせようとしてたみたいだけどよ」

"火山を調べる"という任務を提督から貰っていたなら、自分の身を省みずに遂行する姿勢なのも納得がいく。
しかしなぜ、火山を調べようとしたのか。
それは火山の火口から現れた、巨大な老人に関係するのだろうか。

『ぜかましちゃんの役目は、イレギュラーの調査及び排除だよ』
「イレギュラー? 火山から現れた老人のことか?」
『本来は火山に出来た時空の歪みを調査してもらおうとしたんだけどね』
「じ、時空の歪み……か」

どうにも超常現象が起きすぎて感覚がマヒしているのか、あまり驚けず呆れてしまう。
会場にいるヒグマ達がそうだし、火山から現れた巨大な老人のインパクトがあまりにも大きすぎたからだ。
今更時空の歪みでは驚けない。

『時空の歪み、そして津波。これら殺し合いに支障が出そうな出来事の原因を調査し、可能ならば排除する。
 改めて言うけど、これがぜかましちゃんの役目だよ』
「成る程な。よく分かったよ」

ヒグマ達はなんとしても、この実験を成功させたいらしい。
偶発的に発生した出来事で決着するのではなく、あくまでもヒグマと戦わせて決着に導きたいわけだ。
だが原因を究明するだけならまだしも、時空の歪みや津波を島風が排除できるとは到底思えない。
可能ならば、と言っていたが円滑に進めるならば確実に排除しなければならないはずだ。

『もちろん、ぜかましちゃんだけじゃないよ。ぜかましちゃんだけじゃ対応できないからね』
「他には誰がいるんだ?」
『といっても一匹だけなんだけどね。穴持たず47ことシーナーさんが該当するよ』
「どんなヒグマだ?」
『津波を限定的に止めれるから、すんごい強いよ。見つけたら逃げるか逆らわないのが賢明かな』
「……だろうな」

今までに出会ったヒグマは化け物染みていたので、戦闘能力は想像はついた。
それどころか津波を止める力を持っているのだから、どう足掻いても自分では歯が立たないだろう。

『ああ、それと任務はもう二つ程』
「どんな任務だ?」
『一つは参加者が逃げないようにと、外部からの介入を絶つ為に海上をパトロールする事。これは穴持たず56、ガンダム君とミズクマに任せてある。
『そしてもう一つ、増えすぎた参加者の殺害。ちなみにそのどちらにもぜかましちゃんは関与しないよ』

管理は非常に徹底しているらしい。
というか"ガンダム君"とは一体なんだというのか。まさかとは思うがあの機動戦士なのだろうか。
それが海上をパトロールしているなら、こちらでも見えるだろうが生憎その姿を見かけてはいない。
もう一つの名前、ミズクマが気になるが、恐らく自分と同じ水上を走れるヒグマだろうと推測する。
パトロールにヒグマが二匹いれば、参加者が増えすぎる事はないと思うのだが、余程警備がガバガバなのだろう。
そこで天龍は、参加者の殺害を任せられているであろうヒグマの名前を聞いてなかったことに気付く。

『パッチール君に全部任せてるけどねぇ。何してるのかな』
「そのパッチールって――
「天龍! 後ろに何か来てる!」

俺が電話で対応している間、ずっと黙っていた銀は声を上げて警告した。
慌てて後ろを向く。

「パッチョアアアアアアアアアアアア!!!」


「――っ!!」
『お、パッチール君の声!』


475 : 邂逅  ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:45:40 q05hE3PY0

奇声をあげながら水面を走る、筋肉モリモリマッチョマンのヒグマではない何かがそこにいた。
肌色に所々のオレンジ色のぶちが多数存在していて、ぐるぐる眼に飛び出た耳は誰がどう見てもヒグマではない。
姿も尋常ではないが、顔も尋常ではない程鬼気迫っている。

「あ、あれがパッチール!? ヒグマじゃねーじゃん!」
『当然だよ。そこで捨てられていた所にステロイド投与したんだから』
「何してんだてめえら!? 動物実験まで行いやがって! それでもヒグマか!」
『私は関係してないからね!』
「掛け合いをしてる場合じゃありませんよ!」

冷静に銀が突っ込みを入れる傍ら、パッチールはもう直ぐそこまで迫ってきていた。
天龍達まであと数メートルという所で、パッチールは飛び上がる。

「銀、頼む!」
「分かりました! 絶・天狼抜刀牙ッ!」
『あっちょっ! やめなって!』

電話越しの静止も虚しく、銀は天龍の背中を蹴って自らに強烈な縦回転をかけながら、パッチールへ目掛けて突撃する。
対するパッチールは避けようともせず、むしろ迎え撃つ体勢に入っていた。
パッチールの頭上を行った銀は、牙をパッチールに叩きつけようとする。
対するパッチールは勢い良く、拳を振り上げた。

ごきゃっ

銀の顔が空を仰いだ。
銀の縦回転による強烈な一撃は、パッチールの技"ばかぢから"によって制された。
一撃よりも何十倍の威力を誇る攻撃は、犬の頭蓋を砕くのは容易いことである。
銀の体は引力に従って落下していき、水しぶきを上げて水面に激突した。
天龍は眼前で行われた一連の行為を、黙って見つめている事しか出来なかった。

「銀! 嘘だろ……」
『だから止めたのに。ヒグマ特性のステロイド投与したから、並みのヒグマより強いんだぜあれ』
「並みのヒグマより強い……!?」

ワンテンポ遅れてパッチールも落下し、銀と同じく水面に激突する。
しかし銀とは違って直ぐに浮上してくる。

「くそっ……! 逃げなきゃやべえじゃねえか!」
『おうおう、ちゃんと逃げてくれよ。ぜかましちゃんと通話したいんだから』

天龍は戦闘は危険と判断し、オーバーヒートを起こさない限界のスピードで逃げる。
対するパッチールは平泳ぎをしてコチラに迫ってくる。
そのスピードたるや、天龍のスピードに勝るとも劣らない。

「は、はやっ……!」

徐々に距離を詰められていく。
このままでは死んでしまう――天龍は脳味噌をフル回転させて打開策を考える。


476 : 邂逅  ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:46:52 q05hE3PY0
(どうする……! 迎え撃つか? 主砲に入っている武器だけで対応できるのか?)

主砲には詰めれるだけ詰めた武器が二つ。
一つは投げナイフ。人相手なら有効だが、ヒグマを相手にするには心許ない。
もう一つはつけもの。なぜこんなものを詰め込んでしまったのか理解に苦しむ。

(しゃーねー。つけもの撃っとくか)

百八十度回転して、パッチールに向けてつけものを放つ。
飛び出したのはつけもの……と呼ぶにはあまりにも大きく、手足が生えていて顔もある不気味なものだった。
くるくると回って上昇し続け、ある高さに到達した時、つけものは弾けた。

「ついにでば――
「パッチャ!」

セリフを言い終える前に、パッチールがジャンプしてつけものに蹴りを放つ。
哀れつけものは粉々に砕け散り、破片が湖にばら撒かれていった。

(よしっ! 時間は稼げた!)

パッチールが参加者の殺害を命じられているのならば、生きている者を見せれば迷わずに襲うだろう。
天龍の読みは見事当たり、パッチールはジャンプしてつけものに攻撃した。
パッチールが落下している間に、天龍は再び限界ギリギリの速度で逃げ出す。
後方からは水面に何かが激突した音と、それに伴い発生した水しぶきが跳ねる音が聞こえる。

(……だがあくまでも時間稼ぎだ。じきに追いつけれる)

パッチールの泳ぐ速度は、天龍が出せる限界ギリギリの速度に匹敵する。
追いつかれそうになって苦肉の策としてつけものを撃ったが、それでは何の解決にもならないだろう。
パッチールそのものを何とかしない限り、自分の命は確実に無くなる。

(でも武器が無い。主砲に入っている武器じゃ何もできないし。副砲は武器じゃ……)

言いかけて傍と、天龍は思い出す。

『ポケモンであろうとなかろうとおそらく捕獲できる』
『当てることさえできれば、対象はこのボールの中に入る……』

確固たる信念を持ってヒグマを救おうとし、ヒグマに殺された妙齢の男から託された物。
彼曰く、どんな生物であろうと"恐らく"捕獲できるという代物。
マスターボール、オッサンが残した希望。
そんな一つのボールが、天龍の副砲に詰められていた。

(これを使えば、パッチールを止められるかもしれない)

このボールを使えば、パッチールはボールの中へと入り保護が出来る。
しかしオッサンはヒグマを救う為に、保護をする為にこのボールを自分へと託したのだ。

(いや、ヒグマ提督が言ってただろ。そこで捨てられていた、って)

誰かに飼われていたらしいパッチールは、飼い主に捨てられた。
そこからどんな経緯があったのかは分からない。分かるのはそこからステロイドを投与され、参加者を殺すという業を背負わされたということだけだ。
自分からしてみれば、彼もまた被害者だ。
ならば。そうだろう。

(救わなきゃ……いけないだろうがッ!)

もう一度百八十度回転。
今度は確実に、狙って当てないといけない。
しかし外れた場合は、もれなくパッチールの拳が突き刺さり湖の底に沈んでしまうだろう。


477 : 邂逅  ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:47:22 q05hE3PY0

(確立は五分五分。外せば死は間違いない……フフ、怖いか?)

あの時と同じように、自問する。答えはあの時と同じで、身体が教えてくれた。
轟沈するかもしれない恐怖が眼前まで迫ってきており、確立も五分という博打に近い状況。
対応できうる武器が無い今、不利なのは天龍の方であった。

(ああ、怖いさ。でも目の前に救える命があるんだ……迷ってらんねえ!)

パッチールがジャンプする。
天龍は狙いを定める。

「天龍、水雷戦隊、目標を捕獲する!」

一縷の望みを乗せたボールが放たれる。
そのボールは。
パッチールへと吸い込まれるように向かっていって――

「PA!」

――しかし無常にも、ボールは繰り出された拳によって吹き飛ばされた。
天龍の頬をボールが掠め、後方へと吹き飛んでいった。

(……ハハッ、そんなのありかよ)

呆れるように、関心するように天龍は掠れた笑い声をあげる。
希望は、あっさりと壊された。

(すまんな島風。電話、返せそうにねえ……)

パッチールはなおも空中で落下し続け、顔には勝ち誇った笑みを浮かべていた。
体勢を立て直したパッチールは、自分の体に力を溜めていく。
4倍に膨れ上がっていったパワーがより一層膨れ上がっていき、十倍二十倍へと変化していく。
技の作用によるものか、パッチールの足元の水面は波を打っている。

「PAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

デデンネとヒグマによってボコボコにされた鬱憤を晴らすかの如く、威力はフルパワー。
攻撃は、天龍に振り下ろされる――


「天龍、危ない!」


□□□


478 : 邂逅  ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:49:07 q05hE3PY0


今、少女は音速を超えた!
今、少女は光速を越えた!
次元を超えた速度は、自信の体を量子化し亜空を走る!
空間を歪ませる威力は何にも耐え難し! 歪みに触れれば、体はもたず爆発四散!
例え四倍の硬度を以ってしても、致命傷は免れぬ! 骨を砕き、内臓を破壊す!
使用者である島風に外傷は無し! 致命の一撃は他者にのみ影響を残す!
連続では使用は不可だが、時間を置けば何度でも使用が可能!
その技はッ! ヒグマを資材に利用したからこそ、成せる技なのだ!
その技はッ! 速さの極みに到達したからこそ、成せる技なのだ!

「これが……極みなんだ……!」

到達せし者に無限の満足を!
到達せし者に無上の至福を!
到達せし者に栄光を!
その行為によって得られる物は計り知れないであろう!

「はあ……私が一番、早いんだ……!」


□□□


一部始終を見守っていた天龍の口は開いて塞がらず、唖然とするばかりだった。
突如としてパッチールの後ろへ現れた島風は何の傷も無かったが、パッチールには見たこともない傷が刻まれていたのだ。
島風は無事に水面に着地したが、パッチールは血を吐きながらゆらりと巨体を後ろに逸らし、水面に叩きつけられ沈んでいく。
そういえばヒグマ提督が、資材にはヒグマを使ったと言っていたことを思い出す。
今目の前で起こった現象こそが、ヒグマを資材にしたことによる影響なのだろう。

『天龍殿ー? 聞こえてるー?』
「……悪い、存在忘れてたわ。それで? なんだよ、ヒグマ提督」
『ぜかましちゃん、やっちゃった?』
「見事にやってくれたよ」

今まで手に持っていたのを忘れて、ヒグマ提督の声で天龍は思い出す。
その声音は天龍を心配するものではなく、島風を心配するものだった。
まあそうじゃなきゃおかしいのだが。


479 : 邂逅  ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:49:32 q05hE3PY0

『まあどうでもいいんだけどね』
「どうでもいいのかよ……」
『別にアレが死のうが私には関係ないしね』

心底パッチールの事がどうでもいいらしいのか、パッチールの話題はさっさと切り上げてしまった。
ぜかましちゃんに代わって、とヒグマ提督にお願いされたので島風の元に行く。
島風は未だに余韻に浸っているようで、顔は未だにニヤケ顔だ。

「おーい、島風ー」
「私は早いぃぃ……私はスピーディー……」
「島風!」
「オゥッ!? ……あ、天龍」
「ほれ」

島風を現実に戻した所で、携帯電話を島風に返す。
携帯電話を見ると、慌てて島風は携帯を引ったくり、俺から離れながら耳元に当てる。
しばらくは何か会話をしていて、自分はその間待たされることになった。
何十分か経過した後に、携帯電話をしまって俺の元へ戻ってくる。

「何の話だったんだ?」
「指令。首輪を解除できるポイントを教えてもらったよ。天龍も来ていいって」
「そうか……首輪を解除できるポイントを……、んなぁっ!?」

もう驚く事は無いであろうと思っていたが、さすがにこれは驚かざるを得ない。
会場から脱出しようと、首輪が爆発して死ぬので、首輪を何とかしない限り逃げることは不可能だ。
例え首輪を解除しようと、海上をパトロールするヒグマがいるから難しいだろうが。

「D-6に行けって。電波が妨害されてるから爆発しないし、解除する道具もあるらしいって」
「じゃあ善は急げだな! D-6に行くぞ!」
「あ、待って!」

早速D-6に行こうとすると、島風が止めた。
何だよと思って振り返ろうとすると、島風に手を掴まれる。
この時点でクエスチョンマークが頭に浮かんだが、疑問を口に出す前に島風は走り出した。
島風の速さは常軌を逸していて、身体が宙に浮いてしまう程に速い。
しかも妙に腕力も強い為、振りほどこうにも振りほどけないのだった。

「お、おい島風! どこに行くんだよ!」
「聞いてよ天龍! 私はヒグマと追いかけっこしてたじゃん?」
「あ、ああそうだな」
「それでさ! 後ろを見たらヒグマがいなくなってたんだよ! サーフボードはあるのに!」

まるで神隠しにでもあったかのような、そんな不可思議な現象を島風は体験していた。
更に詳しく話を聞くと、どうやら俺の後方で現象は発生したらしい。呆気に取られつつも、前を向いたら俺が危機に瀕していたので助太刀に入ったとか。
それなら別に手を引っ張る必要はないんじゃないのか、と思ったが執拗に速さに執着するこの島風のことだから、いの一番に見せたかったのだろう。
そんな事を考えていると、現場に到着した。案の定それなりに近い。

「ね? サーフボードにはこれしか残ってなかったの」
「……これって!」

サーフボードの上にあったのは――パッチールの攻撃で吹き飛んだ、マスターボールであった。
上半分が紫色でMのアルファベットが象られていて、間違えようがなかった。

「…………」

サーフボードに置いてあるマスターボールを手にする。
どうやら上半分は透けているらしく、中の様子が確認できた。
中に入っていたのはやはり見間違えようがない、俺達を襲ったヒグマのサーファーだった。

「は、ははっ……オッサン、恐らくなんかじゃなかったぜ」

オッサンが託した、ヒグマを保護できるかもしれないというボール。
ボールには見事にヒグマが入っており、役目は果たしたといえる。
まさか思いもよらない形で捕獲作戦は成功したが、結果オーライだ。

「後は、この殺し合いを止める。銀の為にも、な」
「サーフボードもーらおー♪」

無邪気に島風はサーフボードへ乗っかり、そのままD-6へと向かおうとする。

「あれ……動かない……」
「当然だろ。波がねえんだから」

しょんぼりとした様子で島風はサーフボードから降り、放置したままD-6に向かう。
仕方ないのでサーフボードを拾い、デイバッグにしまうと自分も歩き出す。

「――天龍、水雷戦隊、目標は殺し合いの打倒。出るぜ」

二度目、再びの決意。
島風の元へ、天龍は動き出した。


480 : 邂逅  ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:49:56 q05hE3PY0

【銀@流れ星銀 死亡】
【つけもの@ボボボーボ・ボーボボ 死亡】

【E−4:水没した街/午前】

【島風@艦隊これくしょん】
状態:健康
装備:連装砲ちゃん×3、5連装魚雷発射管
道具:ランダム支給品×1〜2、基本支給品
基本思考:誰も追いつけないよ!
0:ヒグマ提督の指示に従う。
1:首輪を解除する為にD-6に向かう。
[備考]
※ヒグマ帝国が建造した艦むすです
※生産資材にヒグマを使った為、基本性能の向上+次元を超える速度を手に入れました。

【天龍@艦隊これくしょん】
状態:小破
装備:日本刀型固定兵装
主砲・投げナイフ
道具:基本支給品×2、(主砲に入らなかったランダム支給品)、マスターボール(サーファーヒグマ入り)@ポケットモンスターSPECIAL
基本思考:殺し合いを止め、命あるもの全てを救う。
0:ヒグマを捕獲することには成功した。後は殺し合いを止めるだけだ。
1:島風とD-6に向かう。首輪を解除できるらしい。
2:ごめんな……銀……
[備考]
※艦娘なので地上だとさすがに機動力は落ちてるかも
※ヒグマードは死んだと思っています
※水の上なので現在100%の性能を発揮しています


□□□


水没した街といえど、それなりの高さがあるビルの最上階は、まだ水の中に沈んではいなかった。
命からがらにパッチールはビルに辿り着き、力を振り絞って水から上がると床に倒れた。
ステロイドによって強化された身体と、ばかぢからによる四倍のパワーが無ければ今頃は藻屑と化していたであろう。
それでも自身の身体はボロボロで、ここまで来るのもギリギリだったが。

「がはっ……、どうしてだ……何故……」

自分は力を、何者にも勝る力を手に入れた筈だ。
だが結果を見てみればどうか。散々たるものではないか。
一度目は優勢に立てていたというのに、技を使われて特性を変更されて、劣勢に立たされた。
結局参加者を減らすという目的は果たせず、フラフラダンスを用いて無様に逃げだした。

「力があるはずだ……! ワシには……っ」

二度目は確かに参加者を一人減らした。
それまでだった。
自身の攻撃と防御はヒグマに勝るとも劣らないというのに、上回る攻撃によって打ち砕いたのだ。
――それも長い髪の少女の手によって、だ。

「もっと、力が欲しい……」


481 : 邂逅  ◆7NiTLrWgSs :2014/04/12(土) 20:50:24 q05hE3PY0

力が欲しかった。
何者にも勝る力が。
見返す力が。
無力さを引っくり返す力が。
何よりも、欲しかった。

「力が欲しい……」

力を与えられた時は歓喜した。
誰にも負けない力が。
見返すことのできる力が。
強者をぶっ潰せる力が。
何よりも、歓喜した。

「力が――」

だが現実はどこまでも残酷であった。
力があれど特性を変えられては形無しだ。
力があれどそれを上回られてば台無しだ。
だからまだ欲しい。

「――欲しッ!?」

――このステロイドは、ヒグマの科学力を用いて