■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■

とあるSSの禁書目録 PART9
1■■■■:2010/07/27(火) 19:45:50 ID:cEaZB7GQ
ここは「とある魔術の禁書目録」のSSを書いたり読んだり原作の予想外の展開にテンパってみたりするスレッドです。

【全般的な注意事項】
1.このスレはsage進行です。レスする際には必ずメール欄に半角で『sage』と入力しましょう。
2.ネタバレ注意。ネタバレは本スレ同様公式発売日の0時から。
3.基本マターリ進行で。特に作品及び職人への不当な文句と思われる発言は厳禁。
4.レスする際はスレの流れを確認してからにしましょう。

【投稿時の注意】
1.まずは原作を読み込む。最低でも登場人物の口調や性格は把握しておきましょう。
2.オリジナル設定や妄想はほどほどに。ここは『とある魔術の禁書目録』の二次創作を投稿する場です。
3.書いた作品はテキストファイル等で保存。投稿ミスによる文章消去を防ぎましょう。
4.投稿前に深呼吸して保存したテキストを読み返す。誤字脱字はありませんか?分量は十分ですか?
5.投稿時には作品タイトルを、投稿後には終了宣言を。共有の場なので始めと終わりは明確にしましょう。
6.特殊だったりや好みが分かれたりするシチュは投下前に警告しましょう(例 百合,BL,鬼畜,死にネタ等)。
7.18禁(と思われるもの含む)はスレ違い。

【前スレ】(Part8)
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/6947/1271505166/


※ 参 考 ※
禁書風味SSの書き方
ttp://www12.atwiki.jp/index-index/pages/1682.html

【次スレについて】
次スレは原則として>>980の人にお願いします。
立てる前には宣言を、立てられない場合は代わりの番号指定をお願いします。

【まとめ】
とある魔術の禁書目録 Index SS自作スレまとめ
ttp://www12.atwiki.jp/index-index/pages/284.html

2某カエル:2010/07/27(火) 21:04:01 ID:75xbWLzk
>>1
乙だね?

3■■■■:2010/07/27(火) 23:14:40 ID:v2MPd3rQ
>>1
乙なんだよ

4■■■■:2010/07/27(火) 23:32:20 ID:.XsgMJ3o
>>1
超乙です

5■■■■:2010/07/28(水) 11:25:27 ID:2VxaeKgw
「行くぞ、「魔女狩りの王(イノケンティウス)ーーー」
告げながら、魔術師はゆっくりと地面から起き上がる。
手をつき、足をつき、ふらふらとした動きで。
それでいて、決して体と心の軸は折れずに。
彼は天に向かって叫ぶ。
魔法名。
Fortis931。
彼が己の魂に焼印し、必死で組み上げた「魔女狩の王(イノケンティウス)」に望むものは、
「我が名が>>1乙である理由をここに証明しろ!!」

6■■■■:2010/07/29(木) 00:16:04 ID:LlL4CEWI
>>1 乙

 ここは鎌池和馬先生箸の「とある魔術の禁書目録」のSSを専門に扱うスレッドなんだぞー。
 SSを書いてみるもよし、読んでみるもよし、感想を書いたり、SSの書き方を研究したり。
 もしくは新刊のぶっ飛び具合に「なんじゃこりゃぁぁあああぁ」と叫んでみるのもよしだぞー。


 ↓はこのスレのローカルルールだ、キチンと守って楽しく禁書、これが一番かも知れないなー。
注1)ネタバレは本スレ同様公式発売日の0時から。
   早めに入手できたからってフライングするといろいろとまずいのだぞー。
注2)基本はマターリ進行でお願いするぞー。特に作品及び職人への不当な文句と思われる発言は厳禁になってるから注意なー。
注3)上は職人さんの希望によっては指摘及びアドバイスOKの場合もあるから、その時は臨機応変になー。
注3)SS職人さんは随時募集中だぞー。ジャンルは無制限だから、どんと来いだぞー。
   但し作品を投下したら、挫けずに完結目指して欲しいぞー。
   主なジャンルは以下の通り、これ以外も大丈夫だぞー。
   [オリジナルストーリー、嘘予告、IF、オリジナルキャラ、他作品クロスオーバー]などなどだなー。
注4)なかなか投下されなくても男の子はじっと我慢だぞー。
   とりあえず退屈を感じたときは
”一回原作を読み返してみる”
”過去ログを読む”
”辞典を眺める”
”スレで質問してみる”
”禁書板の考察スレを読む”
”感想を書き込んでみる”
”いっそ自分でも書いてみる”
”リクエストをしてみる”
   とかやってみるといいのかも知れないなー。意外に納得できたりできるのだぞー。
   SS作家の連中は割りと不定期更新だから、投下までに間が空いてもあまり責めないでやって欲しいぞー。

 あと最新のまとめページは以前とは違う場所に移っているからよーく注意なー。
 ttp://www21.atwiki.jp/index-ss/pages/16.html

以上、土御門舞夏からのお願いなんだぞー。

7牧田さん:2010/07/30(金) 12:44:09 ID:/M.Yhe2I
どーも、前スレでオルソラのSS書かせて貰った牧田さんですが。

次の短編書きあがったんですけど、投下して良い雰囲気ですかね?

8■■■■:2010/07/30(金) 16:14:12 ID:JhJ176Z2
>>7
是非お願いします
新スレの良いスタートを頼みます

9■■■■:2010/07/30(金) 16:57:08 ID:1DXLhSww
さーて、このスレで幸先いい
スタートを切ってくれるのは誰か。

10牧田さん:2010/07/30(金) 17:19:47 ID:/M.Yhe2I
えっと、じゃあ投下させて貰います。

たった4レスで先陣には相応しくないかもしませんが。
内容は思いっきり短編ですので、適当に読んでくださってかまいません。

タイトルは『祭りの前のとある風景』です。

11牧田さん:2010/07/30(金) 17:23:05 ID:/M.Yhe2I
九月十七日。その十二時を回った頃……

「……『一日百回噛むだけで、当社独自の特殊な成分により体全体が活性化する新感覚ガム』、か。本当の効果あるのかしら……?」
晴天の第七学区内。その歩道にて、吹寄制理は道端で配られていた奇々怪々な広告チラシを目にしながら歩を進めていた。

大覇星祭まであと二日と迫り、いい加減人手も足りなくなってきたので、吹寄の通う学校は、吹寄制理及び覇星祭実行委員自らが準備作業に必要な物を買出しに出なければ
間に合わないような状況に陥っている。そのため力仕事は完全に男共に任せて、買出しや細かい作業を女の子がヤリマショウという事になったのだ。
吹寄の手からは、ガムテープや水分補給用の清涼飲料などの購入し終えた物品の入った布袋がぶら下がっているが、もう片方の手にある紙切れ(チラシ)のせいで学校に戻
るのは遠くなると予想できる。

「……!!? 一箱(五個入り)四二〇円……、安い。このガムは『買い』に決定。でも、このチラシには問い合わせの電話番号書いてないのよね……」
当初の目的を忘れて、体が活性化するガムをどうやって手に入れるかで脳内葛藤する覇星祭実行委員。そのせいで学校とは反対方向に進んでいる事に気づいていない。

「検索すれば出てくるかしら? でも、TV通販じゃ無いし……」
悩み悩んでまだ結論が出ない吹寄の視界に、ふと知ってる顔が映った気がした。
(ん?)
あの中肉中背で、黒くてウニみたいなツンツン頭の少年は確か、
「……上条当麻?」
「ん……って、吹寄!!?」
吹寄の目に入った物は、クラスが一緒のツンツン少年と、それに寄り添う純白シスターの姿だった。

12牧田さん:2010/07/30(金) 17:26:29 ID:/M.Yhe2I

「……貴様、何してるの?」
吹寄の声は地響きのような重低音で、その目は完全に悪党を見る目だった。
「え、いやあの……」
「貴様は確か、「今日は大事は用事がある」とか言って大覇星祭準備をすっぽかしたはず。……まさか大事な用事っていうのは、そこのちっこい修道女と一日過ごすための口実でした、とか言わないわよね?」

何も言えず黙り込む上条。吹寄はとりあえず一発、鉄拳を叩き込む。かなり上手く入ったようで、上条はポップコーンのように弾け飛んで、三mほど浮遊したのち落下した。
吹寄は衝撃で指一本動かさない上条を無視して、その横に居た修道女に話掛ける。

「……で、あなたは何故こんな旗男と一緒に居るわけ?」
そう言われた素直な純白シスターは、その質問に正直に答えた。
「なんでって、わたしがとうまと一緒に住んでるからなんだよ」
一緒に住んでる? 何を言っているか解らない吹寄は思わず目を丸くする。
「……上条当麻の親戚とか?」
「ううん。赤の他人とは言えないけど、血の繋がりは無いかも」
ニコニコ笑顔のシスターさんの言葉を聞いた吹寄は、すぐさま倒れていた上条の頭を蹴り飛ばし、強制起床させてから少年の耳元で囁いた。

「(……ロリコン旗男)」
「なっ!? 違う!! これには訳が、訳が有るんだ!!」
「何をどうしたらこんな中学生ぐらいの銀髪碧眼外国人修道女と同居するようなイベントが発生するのか、詳しく聞かせてほしい者だけど。ちなみに誘拐は犯罪だと言っておく」

実際、どうやって知り合ったのか身に覚えの無い上条は再び黙り込む。その結果、本日二回目の正義(?)の鉄拳を喰らい、焼き栗のように弾け飛んで先程と同じ状態で地面に平伏せた。

「裏切り者には罰を。古来から伝わる伝統的な処罰法よ」
「俺が何を裏切ったと……、」
「学校に居るみんなが汗水垂らして覇星祭の準備をしているというのに、貴様だけが年下の女の子に現を抜かしている時点で、十分裏切り者。そこを認めないのなら、もう二,三発殴り飛ばすけれど」
言ってる間にいつの間にか立ち上がって、あちこち痛そうにしている頑丈少年上条当麻。やはり殴られる方が打たれ強いと殴る方も遠慮無く思いっきりイケるので、上条当麻を殴る者は決して容赦をしない。少なくとも吹寄は容赦して上条を殴る者は見たことが無い。

13牧田さん:2010/07/30(金) 17:31:07 ID:/M.Yhe2I

さてもう一回いくか、と吹寄が右手を構えたその時、今まで話にあまり入って来なくて、多少居辛そうにしていた純白シスターが不思議そうに言葉を放った。
「ねえ、あなたが誰なのかは知らないけど、今日とうまはわたしと遊びに行く約束があったんだよ。学校のみんなに迷惑かけたなら、それはわたしのせいかも。だからもう、とうまは学校に戻っていいよ。私が迷惑かけちゃ悪いし」

その文章を聞いた吹寄は凍りつく。上条当麻はこんなにも責任感が強くて利口な女の子を振り回して無理やり一緒に住まわしている(監禁疑い)というのかそれは酷くないか?上条当麻この野郎と、吹寄の脳内で上条を激しく批難する声が上がり、とりあえず殴っとけというダークサイド吹寄の考えも表に出始めた時、

「俺が悪かった!! だから何か手伝わせてくれないか?」
「は?」
「いや、だから、さぼったのは悪かったって。そのお詫びとしちゃ難だが、俺に何か手伝える事ってないかな?」
「え、ああ、だったら買出しの手伝いを……」
「よし、任しとけ!! なるべく安い物を、が上条さんのモットーなり!!」
予想外の対応にドギマギする吹寄。そういえばコイツ(上条)は基本お人好しという事を忘れていた。
そして、そのせいでいつも不幸な目に遭う事も。


吹寄は、買出しに出かけようとする上条を笑顔で見送るシスターを横目で見る。
この娘も上条当麻のお人好しにより、今ここに居るのだろう。
彼に頼んでも無いのに心配されて、人の話も聞かないで立ち向かって、最終的に救われた。
同じクラスメイトとして、いつも上条を見ていた吹寄は、恐らくそんな人間は吹寄の知るより沢山居るのだろうと考えた。

(無能力者(レベル0)でも雑踏に溶け込めるのは、そういう理由があったからなのかしらね……)

学校ではデルタフォースとか呼ばれる集団に入り込み、友達と馬鹿やってる問題児。
だが、それでも上条はクラスに無くてならない存在として皆との日々を過ごしている。
幸も不幸も、人に受け入れられる事には干渉できない。その証拠にこの世で一番不幸だとか自分で言ってる少年の周りには、いつも、どんな時でも沢山の人間が居て、少年はその全ての人を受け入れて、全ての人から受け入れられていた。


(なにが『不幸』よ。貴様が一番『幸福』じゃないの)

吹寄は改めて、上条を羨ましく思う。
少なくとも、そこらの高位能力者よりは。

14牧田さん:2010/07/30(金) 17:34:49 ID:/M.Yhe2I

かなり張り切って買出しに行こうとした上条の足は、何故か進む前に止まった。
「あ、吹寄。そういや俺、金持って無いんだけど」
「ん? ああ、それならクラスで出し合った資金があるわ。三千円くらい」
「ああ、さんきゅ……っと、うわっ!!!」
吹寄から資金を受け取ろうとした上条は、何も無い所で唐突にすっ転び、そのまま吹寄制理の大きな胸に思いっきりダイブした。
「……!!!!?」
「あ、っと!? ふ、ふふふ吹寄、わわ悪い!!」
慌てて体勢を立て直す上条だが、吹寄の眼は狩りを始める前のような凶悪な目にシフトチェンジしていて、手遅れな事がよく分かった。
「……上条当麻。貴様、昼間の歩道で堂々と強制猥褻とは良い度胸じゃないの」
「……とーまが、いつものとおりなんだよ……」
「ちょ、まて!! 悪かったって、悪かったから鉄拳制裁だけはマジで勘弁してくれっていうか、なんでインデックスまで入ってるんだ!!!? 二対一なんて卑怯だとは思いませんか!!?」
銀髪シスターは犬歯を剥き出しにして、大覇星祭実行委員は右手に力を込める。
上条はあわあわと口を小刻みに動かし続ける。だが、もう遅い。

「貴様と分かりあえる日は本っ当に来ないと思うわ」

何かを殴る音と、何かに噛み付く音と、誰かの悲鳴が、第七学区に鳴り響く。


大覇星祭まで、あと二日。

そんなある日の風景。


『祭りの前のとある風景』―――――終

15牧田さん:2010/07/30(金) 17:35:41 ID:/M.Yhe2I
と、いう訳で終わりです。

誤字脱字があれば言ってください。


先陣としては、どうだったでしょうか?

16■■■■:2010/07/30(金) 17:47:05 ID:JhJ176Z2
>>15
GJです。いいですね〜日常を描いた短編も。ほのぼのしてて。
吹寄のキャラがよく分かってらっしゃる。上条さんとの絡みがウマイです。
誤字脱字でしたら、所々「大」覇星祭が抜けてたくらいですかね。

短編も良いですが、牧田さんなら長編も出来そうじゃないですか? 気が向いたらどうぞ宜しくです。
新スレ一発目お疲れ様でした。GJ!!

17■■■■:2010/07/31(土) 21:30:38 ID:mgVdnxDk

>>15 GJ! 先陣乙

ていうかこのスレ、盛り上がらないなぁー。

18■■■■:2010/07/31(土) 21:50:28 ID:mgVdnxDk
age

19■■■■:2010/07/31(土) 21:51:30 ID:mgVdnxDk
↑ミスった。

age

20■■■■:2010/08/03(火) 01:46:09 ID:BluYgiPg
牧田さんGJです、個人的に小萌先生の小噺など期待したい。幼女幼女。

過疎過疎してますが気にせずいきます。
垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』投下します。
1、2は前スレ最後の方になります。
まだ残っているので、暇があったら探してみてください。
今回の注意点は、

相変わらずオリ妹。ただし今回は出てきません。
2巻の内容をかなり独自解釈しています。一応、本編矛盾はしないように追加解釈としていますが、違和感はかなりあると思います。
アウレオルスの○然が少なくなったり被ったりしてきています。語調難しい。こいつは一巻で退場して正解だった。
原作二巻に記述を頼っている部分があります。二巻の禁書とアウレオルスのカコバナ部分を追いかけておいてから読んでくださると分かりやすいと思います。

などです。
それでは投下します。

21垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』:2010/08/03(火) 01:47:07 ID:BluYgiPg
三沢塾。
そのビルの内部にある、校長室というプレートの下がった部屋。
豪華だが品のない内装をしたその部屋の奧には、校長が座るのだろう、黒壇と黒革の座席のセットが鎮座している。
その、黒壇の前に。
およそこの部屋の雰囲気にそぐわないものがあった。
丸テーブルと、向かい合って置かれた二つの腰掛け。
真っ白いそれらには、腕のある職人が彫ったのだろう、精密で美しい西洋風の模様が刻まれており、周囲の成金趣味丸出しの調度品とは一線を画している。
そして、カフェテリアから丸ごと抜き出してきたかのようなそのティーテーブルの一席に、
「…………………………」
垣根帝督は憮然とした表情をして座っていた。
「断然」
そんな垣根に、部屋の隅にて、薬缶の火加減を見ながら、アウレオルス=イザードが声をかける。
「我としては珈琲より紅茶の方が好みなのだが、貴様はどうだ? 珈琲を、というのならわざわざ入れてやらんこともないが、味は保証せん」
「……どっちも要らねぇよ」
「では紅茶だな」
「………………」
アウレオルスは、ティーテーブルと似た意匠のポットに茶葉を入れ、薬缶の湯を注ぐ。
しばらく蒸らしてから、ポットと同じ模様のティーカップを2つ用意し、それぞれにポットから香り高い紅茶を淹れると、そのうちの一つを垣根帝督の前に、もう一つを対面の席に、砂糖やミルクのセットを載せた盆をその中間に置いてから、自身は垣根の対面に設置された席に座る。
 そして―― 
「突然」
 湯気を立てる紅茶をストレートのまま一口飲み、
「まずは、何から話してもらうか」
 これから茶話でもしようかという口振りで、アウレオルスは垣根に問いかけた。


「武装解除せよ」
 垣根に剣を突きつけられた体勢のまま、アウレオルスが厳かに命令した。
「は?何言ってやがん……!?」
 あまりに場違いなその発言に、呆れた垣根が言葉を言い切る前に、変化は訪れた。
 垣根の身体が意志を離れて勝手に動き、自身の持っていた剣を手放し、さらに右手に装着していた籠手まで抜き取って地面に捨ててしまったのだ。
 ――アウレオルスの、言葉の通りに。
(なんだこりゃ!? 精神……いや、肉体を操作する能力か?)
 垣根が逡巡する間に、アウレオルスはスーツのポケットから太い鍼を一本取り出し、自身の頸に突き刺す。
「ハッ、動機付けってか? 不便だなぁオイ。能力は成る程トリッキーだが、そいつはまんま弱点だぜ!」
 相手の『言葉』に怯まず、新たな『未元物質』を作り出そうとする垣根。
 しかし――
「一切の攻撃行動を禁止」
 鍼を地面に放りながらアウレオルスが一言呟くと、
「んなっ……!?」
 垣根が頭の中で組んでいた『未元物質』の数式が、一瞬にして瓦解した。
(馬鹿な……精神にも干渉出来んのか?)
 何度組み直そうと、『未元物質』は数式の途中で崩壊する。
(だったら、直接殴りに行ってやろうじゃねぇかよ!)
 思い、足に力を入れる垣根だったが、
「くっそ……」
 まるで床に縫いつけられたかのように両足がその場から動かない。
(マジで攻撃が禁止されたってのか? ――野郎の言葉通りに)
 額から嫌な汗が一筋流れる。
 アウレオルスはそんな垣根の目の前に悠々と近づいてくる。
「当然。貴様を一度殺し、記憶を消去した上で結界の外へ捨て置く……ダミーが出来なかったそれを、我がすることは可能であるし、容易である。しかし、貴様のダミーを倒したその能力に興味が湧いた。断然。殺すよりは、茶でも沸かして語り合った方が面白そうである」
 自分のことを殺すと宣言した人間に対して、アウレオルスは突拍子もないことを告げる。
「はぁ? 誰がテメェなんぞと一緒に仲良くお茶しようって? フザケんじゃねぇぞ」
「全然。貴様の意見など聞いていない。――我について来い」
「っ!!」
 アウレオルスの言葉に素直に従い、歩き出す垣根の身体。
 それを疎ましく、気味悪く思いながらも、
(くそっ、訳がわかんねぇぞ!?)
 垣根に抵抗する術はなく、アウレオルスの後に続いて階上へ上っていったのだった。

22垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』:2010/08/03(火) 01:47:51 ID:BluYgiPg
「あぁ? テメェに話すことなんざ一つもねぇよ、アウレオルス=イザード」
 垣根は出された紅茶に手さえも触れず、アウレオルスの問いを乱暴に撥ね除ける。
「そうだな、まずはその特異な能力について教えてもらおう」
「だーかーらーよ―」
「何度も言おう。貴様の意見など聞いていない。――我の質問に対して、一切の虚偽なく返答せよ」
「『未元物質』。この世にもとより存在しない物質を生み出し、操作する能力だ………………っ!?」
 勝手にしゃべり始めた自分の口に驚愕する垣根に対して、アウレオルスは涼しい顔でその内容を吟味する。
「この世に存在しない、か。超能力とやらの仕組みは知らぬし、興味もないが……自然、そのような物質があるならば我の『リメン=マグナ』が破られることもあろう。だが、フン。その程度か。ならばいくらでも対処の仕様がある、つまらぬ能力だ。憮然。生かしてここに連れてくるだけの価値すらなかったやもしれぬな」
「テメ、言わせておけば……」
「まぁいい。次の質問だ。或いは、本来ならばこちらを先にすべきなのかもしれぬが……貴様、名は?」
「垣根帝督」
「所属」
「先進教育局、木原研究所」
 アウレオルスの問いにスムーズに答えていく自分の口に苛立ちを感じるも、垣根にはどうすることも出来ない。
「ならば、目的は?」
 ――どのような仕組みかはわからない。
 だが自分はアウレオルスの言葉の通り、彼の質問には正直に答えることしか許されていないらしい。
 故に垣根は、自らがここに来た『目的』を嘘偽りなく答えた。
「姫垣を――妹を守るためだ」
 これが垣根でなかったなら、雇われたから、金のため、異分子の排除――いくらでも他の答えが出てきただろう。
 しかし、垣根の、垣根帝督という人間の『目的』とは、ただひたすら垣根姫垣に集約される――それこそ、その他のあらゆることはそれに連なる『手段』でしかないように。
 だからこそ、垣根帝督はこれ以外に答えを持たない。
「……………………………ほぅ」
 垣根の答えを聞いた瞬間、アウレオルスの声音が変わった。
 『未元物質』に対する興味が失せた後、平坦になっていたそれが、最初以上の好奇心を窺わせる色に変わったのだ。
「妹を守る、か。――詳しく話せ」
 貴様の生に興味が湧いた。
 そう付け足すアウレオルスの表情に、垣根は先程までは見えなかった何かを垣間見た気がした。

 それはおそらく――人間らしさ、と呼ばれるものだったのだろう。

23垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』:2010/08/03(火) 01:48:02 ID:BluYgiPg

「足りんな」
 垣根から全てを聞いた後。
 アウレオルスの発した第一声はそれだった。
「…………テメェ、人にさんざしゃべらせといて、まだ聞き足りねぇってのか?」
 もう諦めた面もあるのだろう、垣根は自分の前に置かれているすっかり冷めた紅茶を一気に飲み干して、喉を潤してから言う。
「全然。そうではない。足りぬのは貴様の覚悟の方だ。貴様が真に妹の平穏を、救済を望むのであれば、貴様の覚悟はまるで足りん」
「……んだと? どういう意味だテメェ」
「敢然。垣根姫垣のために、それ以外の全てを利用し、切り捨て、敵に回すだけの覚悟。何もかもを――或いは自身の身さえも、彼女のための犠牲に強いる覚悟のことだ」
「ぁ? だから俺は――」
「ならば何故、貴様は姫神秋沙を差し出せという木原幻生の依頼を承諾しなかった?」
「――っ!」
「それで貴様の目的に少しでも近づくのならば、貴様はその依頼を断るべきではなかった」
「だが……」
「木原幻生に貢ぐような行為が嫌だった、そう言いたいのだろう。だが、否。真実は異なる。貴様は姫神秋沙を関係ない人間だからと同情し、守ろうとしたのだ。そしてその言い訳に木原幻生への嫌悪感を持ち出そうとしているに過ぎない」
「……………」
「歴然。図星だな。それが貴様の甘さだ。関係ないから何だと言うのだ。それが貴様の道を阻むのなら破壊しろ、完膚無きまでに叩き潰せ。利用できるなら利用し尽くせ、不要になったら切り捨てろ。どちらでもないなら無視しろ、貴様の行動の結果それが生きようが死のうが関心を持つな。――あれもこれも守ろうなどと、愚劣にも程がある」
「……テメェに言われる筋合いなんざねぇよ」
 絞り出すように呟く垣根。
 しかしそれは、アウレオルスの言葉に反論できないと言っているようなものだ。
「フン。昂然。ならば我も語ってやろう」
 まるで垣根のその言葉を待っていたとばかりに、アウレオルスは唇を歪める。
「我がここに来た理由、我の救出すべき女性(ひと)のことを」
「……秘密なんじゃなかったのかよ?」
 拗ねるような垣根の態度に、アウレオルスはやはり余裕を持って答える。
「言ったであろう。貴様のことが、少しばかり気に入ったのだよ」
 そして、アウレオルスは席を立ち、再び薬缶を沸かし始めた。
「少し長くなる、もう一度紅茶を入れよう」

24垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』:2010/08/03(火) 01:49:19 ID:BluYgiPg
「魔術、ね。どうやらカルト教団を乗っ取ったのは、テロ屋じゃなくまた別のオカルティズムだったらしい」
 アウレオルスの話を聞き終えた垣根は、もはや飲むことに抵抗のなくなった三杯目の紅茶に口をつけ、そんな感想を漏らす。
「当然。貴様の反応はもっともだ。純正な科学育ちの貴様に理解しろとは言わぬ。何より、魔術だ何だなぞは些細なことだ」
「魔道書とかいう核爆弾の設計図みてーなもんを十万飛んで三千冊も頭ん中に詰め込まれ、おまけに一年間の記憶しか持つことを許されていない、禁書目録……テメェはそいつのためだけに、テメェの属していたロシア成教を、そして世界中を敵に回した」
「純然。我は禁書目録のためにここまで至った。他のあらゆることを排除し、無視し、利用し、切り捨てて。この三沢塾も、ここに通う学生たちも――そして姫神秋沙も」
「俺とは違って、か?」
「当然」
「ちっ……」
舌打ちし、しかし垣根は今聞いた話を即座に頭の中で整理し、意趣返しとばかりに一つの事実をアウレオルスに突きつける。
「だが、一つ言っとくとよ、その魔道書を記憶しているせいで一年しか記憶が保たねぇってのはイギリス清教の方便だ。そっち方面にそこまで詳しい訳じゃねぇが、確か人間の記憶のキャパってのは140年生きてても埋まりゃしねぇらしいし、そもそも脳の中の情報を記憶する部位と思い出を記憶する部位とは全然別個らしいぜ?」
「顕然。そんなことはとっくに知っている」
「あ?」
 得意気に語った知識を簡単にあしらわれ、うっかり大口を開けて呆然としてしまう垣根。
「魔術師だから科学に疎いなどと思うな。何より我は錬金術師である。錬金術とは、科学と魔術の両面を持つものだ。我には化学をはじめ、自然科学の知識は十分にあるし、禁書目録を解放しようと、脳科学にも手を出した。直接最大主教の下についている必要悪の教会の魔術師どもはその言葉を疑わぬだろうが、我はもとよりあの女狐を信用していないからな。一年間しか保たない記憶など嘘であることは、とっくに気づいていた」
 アウレオルスは紅茶で喉を潤し、静かに続ける。
「そして、我はその記憶の絡繰りをすでに解き明かしている。禁書目録は、一年毎に記憶をリセットする霊装――『首輪』とでも呼ぶべきものをつけられているのだ。そして、その『首輪』を破壊すれば……」
「……禁書目録は解放される」
「そしてそのための力も手に入れた。『黄金錬成(アルス=マグナ)』。この術式さえあれば、どれほど強固な術式をも破ることが出来る」
「イメージ出来んのか? その強固な術式を壊すっつーよ」
 過去を話す中で語られた、アウレオルスの完成させたという術式の弱点を指摘する垣根だったが、
「明然。他の事物はいざ知らず、それが禁書目録のためであるのなら、我の思考に不可能はない」
 アウレオルスはそれにしっかりと答えを返す。
 その瞳は、全く揺るがない。
「成る程、な。だがそうすると一つわからねぇ。どうしてテメェは吸血鬼なんてもんを追い求める? 『首輪』を破壊すりゃいいなら、無限の記憶なんざ必要ねぇだろ」
「ならば、少し考えてみよ。例え『首輪』を破壊しても、禁書目録は依然として十万三千冊の魔道書を抱えていることに違いはない。それがある限り、禁書目録は魔道書の知識を求める輩によって危険にさらされ続けるであろう」
「確かにそうだが……いや、待てよ」
 得られた情報から、学園都市第二位の頭脳は一つの結論を導き出した。
「じゃあ……まさか、テメェの本当の目的は……十万三千冊の魔道書に関する全ての知識を吸血鬼の脳味噌に移し替えること、なのか?」
「ほぅ、快然」
 心なしか声を弾ませて言うアウレオルス。
「なかなか優秀だな。その通り、先程の説明は最大主教のそれと同じ方便。禁書目録を吸血鬼に噛ませる? 馬鹿を言うな。守るべきものを人外に変えるなど、出来ようはずがない。我は『首輪』を破壊した後、禁書目録から魔道書についての知識を抜き出し、吸血鬼に植え付け、それをイギリス正教に差し出すつもりだ」
「それは……」

25垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』:2010/08/03(火) 01:50:01 ID:BluYgiPg
 確かにそうすれば、魔術的観点から見て禁書目録に存在価値はなくなるだろう。
 禁書目録を、完全に救えるだろう。
 だが――
 
 その過程において、三沢塾の塾長らは殺された。
 学生たちは、死んでは生き返りの苦痛を繰り返すことを強制された。
 
 その結果において、禁書目録の身代わりとなった吸血鬼は、その自由を奪われることになる。
 それも、不死たる吸血鬼に、終焉が訪れることは決してない。
 永遠の生き地獄だ。
 
 そして、それは姫神秋沙と交わしたという協力関係に完全に違反することでもあるのだろう。
 姫神秋沙を裏切ることになるだろう。
 
 それでも、この男は――アウレオルス=イザードは、躊躇なくそれらを行うと言う。

 大衆は、おそらくそれを悪と、或いは非人間的と罵るだろう。
 どこかのツンツン頭の少年は、間違いなく右の拳をアウレオルスに向かって振り下ろすだろう。

 だが、垣根帝督は。
 そんなアウレオルス=イザードに全く異なる感想を抱いた。

「何だそりゃ――格好いいじゃねぇかよ」

 姫垣のために生きる自分と。
 禁書目録のために生きるアウレオルスと。
 そこには似通うところがあって、しかしアウレオルスの方がずっと高いところにいる。
 長い会話の末、そのことを悟った垣根は、アウレオルスに憧憬の念さえも抱いていたのだ。
「いいな。そういうの、本当に」
「現然。ようやく我が貴様を連れてきた理由を了解したか」
「あぁ……」
 垣根は椅子からゆっくりと立ち上がる。
「それが俺の道を阻むのなら破壊しろ、完膚無きまでに叩き潰せ。利用できるなら利用し尽くせ、不要になったら切り捨てろ。どちらでもないなら無視しろ、俺の行動の結果それが生きようが死のうが関心を持つな――その通りだ。全くもって俺は甘かった。こんなんでヒメを守ろうなんて、そのもの愚劣だった。だから……」

「だから――俺はテメェをぶっ殺すぜ」

26垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』:2010/08/03(火) 01:50:17 ID:BluYgiPg
「……ほう」
 アウレオルスの目が、細くなる。
「俺の仕事は三沢塾を奪い返すこと。そして今の三沢塾の支配者はテメェ。つまりテメェは俺の道のど真ん中に胡座かいて座ってやがるってことだ。だったら、俺はテメェをぶっ殺すべきだ――それしか道は、ねぇんだからな」
 テーブルから退き、いまだ座ったままのアウレオルスとの距離を測る垣根。
「俺にそのトンデモ能力……『アルス=マグナ』っつったか? その仕組みを教えちまったのは迂闊だったな。どんな能力だろうが、タネが分かっちまえばいくらでも対処のしようがあるんだよ」
 ハッタリでは、ない。
 本当に『アルス=マグナ』がアウレオルスの精神状態に由来するものであるのならば、相手の言葉の裏をつくこと、或いはそれこそハッタリを仕掛けることで、能力に穴を空けることは可能なはずだ。
「一応礼を言っておいてやる。説教じみててウザかったが、なかなか有意義な話だった。ありがとよ」
 言い、右手に『未元物質』の剣を出現させる垣根。
(やっぱりな。もう『攻撃禁止』の命令は解けてる。『アルス=マグナ』の根幹は言葉ではなく意識。アウレオルスが自分の下した命令を意識しなくなれば効果はなくなるってことだ)
 一方、アウレオルスは席から立ち上がらないまま、垣根を見据えて変わらぬ調子で言葉を紡ぐ。
「励然。礼を言うのはこちらだ。我も貴様のような、我と同じ行動原理を持つ人間に会い、話すことが出来たのは僥倖である」
「ハン、言ってろ。俺は俺の道を阻むテメェをぶっ殺す。姫神秋沙は幻生に差し出し、利用する。そしてその結果――テメェの大事な禁書目録がどうなろうが興味はねぇ」
 大きく跳び、ティーテーブルの上に土足で踏み乗る垣根。
「悦然。それで良い。それが正解だ。貴様が口先だけの男ではないと分かると喜ばしい。故に――サービスだ。貴様のことは見逃してやろう」
「それがテメェの言う甘さだろうが!」
(野郎は意志を言葉にすることで強固にする。つまり一度に行える命令は一つまで!)
 垣根はテーブルの上をアウレオルスの方へ向かって高速で駆ける。
「我の道はすでに終端に近いのでな。この程度の障害は誤差でしかないのだ」
「だったらその誤差にやられちまえ!」
(『武装解除』なら、素手で殴りに行く)
 垣根に踏み荒らされ、倒れ、砕けるティーセット。
(『攻撃禁止』なら、防御は可能なはず。とびきり固い『未元物質』を纏ってこのスピードのままぶつかれば、ダメージは与えられる)
 ついにアウレオルスの目前に迫り、垣根は西洋剣を高く振り上げる。
(さぁ、どう来るっ!)

27垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』:2010/08/03(火) 01:51:00 ID:BluYgiPg

















「忘れよ」

28垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』:2010/08/03(火) 01:51:37 ID:BluYgiPg
「ん?」
 垣根帝督はふと、寄りかかっていた愛用のバイクから身を起こす。
「寝ちまってたのか……?」
 軽く目を擦った垣根は、そこで空が僅かに赤色を帯びているのに気づいた。
「夕方かよ……おいおい、どんなけ寝てたんだ。つーか、ここどこだよ」
 辺りを見回し、自分が見覚えのない区画にいることを確認する垣根。
 後方の巨大なビルからは、学生らしい少年少女たちがたくさん吐き出されている。
 どうやら塾か何かのようだ。
 無論、垣根にはまるで縁のない場所である筈だが――
「こんなところに用事でもあったのか俺は? つーか何も思い出せねぇ。確か午前中は幻生んとこにいたんだよな。その後は……んー? 何なんだよ、ったく。酔っ払いじゃあるまいし」
 右手で頭をがしがしと掻く垣根だったが、当然そんなことで記憶が戻ったりはしない。
「あ、今日ってヒメ友達と遊びに行ってるんだよな。もうそろそろ帰ってくる時間か? やべ、買い出し行かなきゃならねぇ」
 結局、垣根は違和感を抱えつつも、それを無視してバイクを発進させ、タイムセールに間に合うようスーパーに急ぐことにした。
 
 ――それが貴様の道を阻むのなら破壊しろ、完膚無きまでに叩き潰せ。利用できるなら利用し尽くせ、不要になったら切り捨てろ。どちらでもないなら無視しろ、貴様の行動の結果それが生きようが死のうが関心を持つな。
 
 頭の隅にこびりついて離れない、誰とも知れない者の声を聞きながら。
 
 
 そして、
『……………………』
 走り去っていく垣根のバイクを、ビルの物陰から見つめる存在があった。
 それは――機械で出来た動物のような形の四足歩行型のロボットは、ゆっくりと物陰からその身を現すと、軽い身のこなしで、垣根が去っていったのとは反対方向へ駆けていった。


『記憶が消去された、のでしょうか。少なくとも、三沢塾内部で垣根帝督に何かしらの処理が行われたのは間違いありませんね。三沢塾がただのカルト教団に支配されているだけ、という確率は低いと思われます――博士』
 学園都市内にある、とあるオープンカフェにて。
 丸テーブルに向かい合って座る二人の男がいた。
 一人はダウンジャケットを着込んだ若い男。
 もう一人は白衣に眼鏡をかけた、眼光の鋭い老年の男。
 白衣の男は耳に携帯電話をあてており、そこからは先ほど男を『博士』と呼んだ少年のような声が響いている。
「フン、おおかた魔術なぞというものの仕業であろうよ。アレイスターに報告すれば、後はあの『人間』が勝手に処理を進める」
『では、そのように。木原幻生の監視の方はどうしますか? 今日は垣根帝督を追っていましたが、明日からはまた私が?』
「いや、お前はそのまま垣根帝督の監視に回ってくれ。最近お前の監視が木原幻生にバレ始めている、馬場」
『えぇ、そんな感じはしていましたが……』
 馬場と呼ばれた電話の向こうの声が、少し困惑した調子を見せる。
『そもそも監視していることは暗黙の了解となっていますし、今更隠すことではないのでは?』
「それはそうだが、こちらの真の目的は、監視という名目で木原幻生の研究を盗むことだ。奴に好き勝手に研究させていれば、またこちらを出し抜こうとするに決まっているからな。だが、監視されていると分かれば、下手に研究を晒さないように警戒されるかもしれん」
『それも……そうですね』
「そういうことだ。明日からは木原幻生の監視は私と査楽で行い、お前は幻生の研究対象である垣根帝督の監視に移れ」
『はい、了解です』
 通話が切られ、『博士』は携帯電話を白衣のポケットにしまう。
「アレイスターも、『停滞回線』の使用を許可してくれればいいものを」
 テーブルの対面に座るジャケットの男、査楽が『博士』に話しかける。
「あれは学園都市の技術の結晶だ。老いぼれ研究者の監視にはもったいなさ過ぎる」
「まぁ、ですね。そういえば今回は、『停滞回線』が侵入できない、という理由で三沢塾に垣根帝督を送り込んだんでしたっけ」
『もうその時点で、三沢塾が異界であることなんて、明白な気もしますけどね』
 突如、先程の馬場の声が近場から聞こえた。
 いつの間にか、四足歩行型のロボットが、『博士』の足元に陣取っている。
 それを確認すると、『博士』は席から立ち上がった。
 一呼吸遅れて、査楽とロボットがそれに続く。
 オープンカフェを後にしながら、『メンバー』のリーダー――『博士』は、誰にともなく呟いた。
「三沢塾の件も、数日中には解決するだろう。――この街には得体の知れない技術が溢れている。逃げ切る事など出来んさ」

29垣根帝督の十番勝負 第三戦『アウレオルス=イザード』:2010/08/03(火) 01:52:36 ID:BluYgiPg
 垣根帝督の十番勝負
 
 第二戦 『アウレオルス=イザード』
 
 対戦結果――不戦敗
 

 
 次戦
 
 対戦相手――『馬場芳郎』

30■■■■:2010/08/03(火) 02:11:36 ID:BluYgiPg
以上です。
最後の最後で間違えました…

 垣根帝督の十番勝負
 
 第『三』戦 『アウレオルス=イザード』
 
 対戦結果――不戦敗
 

でした。コピペェ…

アウレオルスの真の目的についてですが、もうただの妄想ですね、すいません。
ただ、二巻って初期ということもあって結構話に穴ぼこ開いていたりして、自分なりに納得できるように補完してみました。
あらゆる手を尽くしたアウレオルスがちょっと知識があれば分かる記憶の謎が分からないわけもないし、上でアウレオルスが言っているような禁書目録への危険は続いていくはずだし、など。
ただの妄想では終わらせず、この設定は今後の話にちゃんとつなげていくつもりです。

あと、垣根に洗いざらい吐かせたアルスマグナ、『我の質問に対して、一切の虚偽なく返答せよ』について。
アウレオルスには垣根のことは何も分からないので、どんな答えが返ってくるかはイメージできないのでは、と考えましたが――
原作で、上条とステイルが『忘れよ』で三沢塾に来た目的その他を忘れていますよね。
しかしアウレオルスは上条とステイルが三沢塾で何を見、何を聞いたかの具体的な内容は知らないはずなので、
質問についても、どんな答えが返ってくるかは分からなくても、真実を話す垣根の姿は想像できるはず、と考え、ああいう風にしました。
というかそうじゃないと話が進まない…

1、2、3通してですが、バトルらしいバトル――起死回生、一発逆転――はしていません。
全部じゃんけんゲームがごとく立ち合いの瞬間から勝負が決まっているようなものです。
これは、絹旗や佐天さんと違い、バトルメインで一戦、という訳ではなく、全部で10回もあり、冗長になるのもいかがなものかと思ったからです。
ただ長々と、戦いました、作戦立てました、勝ちました、を何回もやっても飽きてしまうでしょうし、ならばと思い切って会話がメインの話にしました。
タイトルが十番勝負、という突っ込みはなしです。
一応後半はきちんと戦うつもりなので、今しばらく地盤固めにご協力ください。

それでは、ご意見、ご感想など、よろしければお願いします。

31■■■■:2010/08/03(火) 10:43:29 ID:/66zcwh6
>>30
お帰りなさいませぇぇええええ!! GJ!!
新スレに移ってから先陣はあったものの、それ以降続いた静寂を吹き払ってくれるのがあなただったとは。
本当に違和感のない台詞運び、各キャラの思想に至るまで、これほど完成度が高い作品は久しぶりです。

今回は何時もと趣向を変えて、冒頭から会話ターンってのも新鮮で良かったです。「造物主の掟」に囚われたラカンさんを思い出しました。
アウレオルスとの対話が、延いては十番勝負そのものが、ていとくんの覚悟を研ぎ澄ませていくかのよう。それが本当にヒメの為になるのかは、やはり彼女にしかジャッジを下せない訳ですが。
自分の道に立ち塞がるなら、路傍の花でも容赦なく踏み躙る――この頃のていとくんがそこまで変わってしまった理由もまた、十番勝負を通して語られていくのでしょうか?

まだ暗部堕ち編もありますしね、じっくり追い掛けようと思います。
今回ミスは一ヶ所。アウレオルスが所属していたのは、ロシア成教ではなくローマ正教です。この程度なら、SSまとめの方で修正して貰えるでしょうから全然構いませんけど。
……まさか、ミスではなく何かの伏線!? と思わせて、それすらもブラフか!? 流石のあなたでも、それはない……ですよね?

相変わらず長々とした感想になってしまいましたが、とにかくGJ!! 第四戦も期待してます。
幼女好きかァ……お前とは良い缶コーヒーが呑めそうだぜェ。

垣根帝督の十番勝負
 
第三戦 『アウレオルス=イザード』
 
読了結果――卓然

32■■■■:2010/08/05(木) 03:20:36 ID:8yw0xjKw
>>31
感想、指摘ありがとうございます。
一対一でレスし合うのはこのスレの本義ではないと思いつつ、しかし返事なしも失礼と思い。

アウレオルスのロシア成教についてはご指摘の通り誤りです。気づきませんでした。
脳内で、サーシャと同類かな、みたいな先入観が。しゃべり方とか。

>自分の道に立ち塞がるなら、路傍の花でも容赦なく踏み躙る――この頃のていとくんがそこまで変わってしまった理由もまた、十番勝負を通して語られていくのでしょうか?

自分としては、このアウレオルスとの対話こそがターニングポイントである、というつもりで書きました。
初春など15巻の描写については、
利用できるフレンダを利用し、脅威でない浜面を無視し、利用できそうな初春を利用しようとして結果切り捨て、立ちはだかる一方通行を破壊しようとする……
というように、ていとくんはアウレオルス三原則(勝手に命名)に従った行動をとっていた、と妄想しております。
15巻時点でのていとくんの『道』がどうなっているかは後々ですが。

それでは、このスレが繁栄することを願いつつ。

33■■■■:2010/08/05(木) 16:42:18 ID:Ju/.YoHY
■どこよりも早い! 10月の新刊予定(2010年10月10日発売)■
└──―───────────────────────┘

◆とある魔術の禁書目録(インデックス)(22)
著/鎌池和馬 イラスト/灰村キヨタカ
右方のフィアンマが企てる『計画』が、ついに発動する。『ベツレヘムの星』。
十字教信者だけでなく、全世界の人間を「救う」と言われるその計画とは……!?

34■■■■:2010/08/07(土) 00:13:08 ID:lMbvX2eo
「ミサカ、巫女と美琴(みさかみことみこと)」第4話「ホワイトバニーの幻影」を2レス分投下します。

35■■■■:2010/08/07(土) 00:13:33 ID:lMbvX2eo
「ミサカ、巫女と美琴」(第4話その17)

 一方通行が左足を踏み出すと当然のように神裂火織との距離が一歩分縮まる。その当たり前の
ような光景に神裂火織は戦慄する。無限回廊を正面から突破した魔術師など一人も存在しない。

 無限回廊はその性質ゆえに敵の侵攻ルートが限定できる拠点防衛では絶大な効果を発揮する
ものの遊撃戦で使われることはなかった。魔術を知らない科学サイドが相手ならと考えていた神裂
火織も一方通行がカラクリに気付いてしまえば一旦後退してから回り込んでくるだろうとは想定して
いた。しかしまさか正面からこの術式を破ってくるとは夢にも思わなかった。

 無限回廊はハムスターが遊ぶホイールに例えることができる。ハムスターが1次元世界(ホイール
内壁)をどれだけ走ろうとも2次元世界において連結された世界(ホイール)からは決して抜け出せ
ない。無限回廊は3次元世界の特定の領域を7次元世界において連結させる術式である。

 もっとも無限回廊は囚えたモノの前進を阻むが後退を妨げるものではない。それは一本の紐で作
る蚊取り線香のような渦巻きを思い浮かべれば理解しやすいだろう。渦の内側に向かって進む限り
終端に辿り着いても1周前に通過した場所に落ちてしまうため渦を抜け出すことは永遠にできない
が、逆方向に進みさえすれば簡単に脱出できる。

 だが一方通行はあえて前進を続けた。その上湾曲させた3次元世界を連結する7次元世界から
の干渉をベクトル変換し閉ざされた世界の秩序(ルール)を強引に書き換えていく。魔術師である
神裂火織は自分の使う術式の科学的原理を理解している訳ではない。しかし展開した術式が一方
通行によって浸食され喰い荒らされていることは理解できた。

(まさかこの無限回廊を正面から突破してくるとは…………さすがは学園都市第一位。
 まさに化け物レベルですね)

 まるで散歩するかのように無限回廊を歩いて来る一方通行に神裂火織はもはや無意味となった
無限回廊を解く。同時に魔法陣を描いていた鋼糸が地面から飛び上がり一方通行の身体に絡み
つく。それら鋼糸の終端は周囲の木々に巻き付けられていた。

『馬鹿が!こンなもンで何秒俺を止められると夢見てンだァ!オマエ』

 一方通行が一歩進むたびに鋼糸が巻き付けられた周囲の木々がミシミシと音を立ててたわんで
いく。神裂火織の鋼糸は左文字の銘を継ぐ刀鍛冶が打ち上げた国宝級の一品である。それら異常
な程の頑強性を持つ鋼糸でさえもギリギリと悲鳴を上げ、一方通行があと3歩あるけば鋼糸の戒め
は限界を迎えるだろう。

『大見栄切って登場したくせにセコい手ばっか使いやがって!
 それがオマエの器の小ささを表していることに気付かねェのかよォ!』

一方通行の宣言に神裂火織は目をしばたたくと少し自虐的な笑みを浮かべる。

(フッ!…………その通りです。痛いところを突かれました。
 やはり相手を酸欠にして穏便に勝利しようなどという考えがそもそも甘かったようです。
 こちらも捨て身でいかなければなりません。…………ならば!)

唐突に一方通行に巻き付いていた鋼糸がシュルルッ!と解けると神裂火織の元に引き戻される。

『ン??』
「あなたの仰るとおりです。姑息な作戦は止めにしました。
 糸も戻しましたからどうぞ深呼吸なさって下さい」
『俺がそンな見え透いた手に引っ掛かる間抜けだと思ってるのか?それともしおらしくすれば俺が
 見逃してくれるとでも勘違いしてンのか?』
「いいえ、あなたが私の術を正面から破ったように私もあなたの能力を正面から打ち破りたくなった
 だけです。それにあなたが負けた理由を後で酸欠のせいにされても困りますから」
『ぬかしやがれ!』

 一方通行はそんな言葉を素直に信じるほど甘くはない。だが余裕の表情で隠してはいたがその
時点で一方通行に余裕がなかったのも事実だ。酸欠に加えてミサカネットワークへの過負荷(オー
バーロード)が問題だった。7次元世界から干渉する力の解析と演算式の書き換えが代理演算を
圧迫し3次元世界での有害な酸素分子の反射という本来なら戦闘の片手間にできたハズの演算式
の書き換えすらできなかったのだ。暫しの休戦状態を利用してあるサイズ以上の酸素クラスターが
反射フィルターをすり抜けないように演算式を組み直すと慎重に外気を吸い込んだ。

36■■■■:2010/08/07(土) 00:13:57 ID:lMbvX2eo
「ミサカ、巫女と美琴」(第4話その18)

(フ──ッ、本当にあの糸は引っ込めたみてェだな。しかしコイツは何を考えてやがる。
 攻撃の前にいちいち俺に予告したり対策を練る余裕を与えたりするのはなンでだ!?)

 一方、神裂火織は呼吸を浅く時に深く繰り返し魔力を極限まで練り上げる。そして己が身を『神を
殺す者』へと作り替えていく。血管筋肉神経内臓骨格、それら全てが『神を殺せるように』組み替え
られていく。

「やはりあなたには最初から私の魔法名を名乗るべきでした」

 神裂火織は七天七刀の柄に右手をかけると、己の身と心と魂に刻み付けたもう一つの名を告げる
のだった。

「──────救われぬ者に救いの手を(Salvere000)」

「準備はできましたか?今からお見せするのは対天使用の術式です」
「はあ?天使だあァ??オマエはこの状況でもまだふざけやンのかッ!?」
「いいえ、もし『天使』という単語が気に入らないのでしたら、そうですね…………
 そう。あえて科学サイド風に言うならば超高次元生命体といったところでしょうか?
 そういう存在に対抗するために天草式十字凄教が編み出した術式です」

(コイツ今…………超高次元生命体…………と言いやがったのか?
 コイツが狂人じゃないとすると次は高次元世界にまで干渉する攻撃を出すってことか!?
 ……………………フハハハッッ、おもしれェ!
 この攻撃が弾き返せりゃ俺は神だろォが天使だろォがぶちのめすことができるって訳だ!!
 きやがれ!その攻撃、弾き返してやるぜッッ!)
「では参ります!唯閃ッッッッッッッッ!!」

 斬(ざん)!っと。神裂火織と一方通行の間の空気が引き裂かれた。
 鯉口を切るという予備動作もなく神裂火織は2mもの大太刀『七天七刀』を一瞬で振り抜く。しかも
振り抜かれたはずの刀身は一瞬後には鞘の中に静かに収まっていた。僅か1000分の1秒単位で
繰りだされる超高速の抜刀術。その常識外れのスピードは鋼鉄をも易々と切り裂く切れ味と破壊力
を生む。しかしそんなものは唯閃の本質ではない。唯閃の本質は仏教・神道・十字教を融合させた
天草式十字凄教に根ざしている。すなわち、
十字術式にできないことは仏教術式で、
仏教術式にできないことは神道術式で、
神道術式にできないことは十字術式で、
それそれの宗教様式が持つ弱点を他の術式でカバーすることで、一般に神とも仏とも呼ばる存在
すなわち人間が認識することすらできない超高次元に君臨する存在達へも干渉できる対神格用の
術式、それが唯閃である。

ドバッ!!と。
原因不明の衝撃が一方通行の身体を袈裟懸けに突き抜ける。同時に足下のアスファルトが一方通
行を中心に水のように波打ち衝撃波によって地面から抉り取られ巻きあげられた大量の土砂が砂
の壁となって周囲へ襲いかかる。虹色に光りながら音速で駆け抜ける砂の壁に巻き込まれた街灯、
ガードレール、樹木は全てなぎ倒された。

 直径100mの更地に立っているのは一方通行と神裂火織だけである。だがその姿は対照的だ。
押し寄せる衝撃波を七天七刀の剣圧で吹き飛ばし先程と同じ姿勢で鞘に収めた七天七刀の柄に右手をかける神裂火織りに対して、唯閃を受けた一方通行は血まみれであった。

 一方通行は7次元世界にまで拡張した反射フィルターを展開していたにも係わらず、唯閃は一方
通行を激しく打ち付けた。唯閃を構成する一部の力(ベクトル)は反射することができた。だが唯閃
は多神教である神道に基づき、十字教の天使を傷付ける力(ベクトル)、八百万の神を傷付ける力
(ベクトル)などあらゆる神格に干渉できる無数の高次元ベクトルを叩き付ける術式である。いわば
垣根帝督の『未元物質』を数桁も強化し巨大化したものである。一方通行が処理しきれない無数の
ベクトルが次々と反射膜を突き抜け、ゴキバキガリ!!と鈍い音を立てて一方通行の体内で炸裂
する。そして一方通行の視界は歪む。視覚だけでなく聴覚も平衡感覚も嗅覚や触覚さえも異常を
伝達してくる。身体が引き裂かれる感覚に一方通行は咆吼を響かせた。

「ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 

 衝撃波が去った後、肩で息をする一方通行は傷だらけの身体を辛うじて支えている状態だった。
しかし血まみれの一方通行の顔にはなぜか笑みが浮かんでいた。

「ハハハ、イイねェ!イイぜ!オマエ、やればできるじゃねェかッ!!
 まさかそれで終わりって訳じゃねェよな!俺はまだくたばっちゃいねェぜ!
 まだまだ付き合って貰うぜ!!」

37■■■■:2010/08/07(土) 00:17:09 ID:lMbvX2eo
以上です。
>30
GJ
不戦敗とは意表を突かれました。
ていとくんの活躍を期待しています。でも最後は冷蔵庫なんですよね。はあーっ、いつか本編でも
ていとくんが復活することを期待してるんですけどさてどうなることやら。

>8-989
地の文の頭に全角で空白を入れてみました。
長すぎる三点リーダも極力避けるようにしました。
ただ、続いている文章の途中で改行をしないで欲しい。に関しましてはPART5でSSを投下した時にパソコン見る場合にブラウザの設定によっては改行が無いと一文がやたらと横長になり見にくいので止めて欲しいとの指摘があり、現在は一つの文の途中であっても左端がほぼ揃うように手頃な所で改行を入れるようにしています。ただ、携帯から見る場合は8-989氏の仰ると通り非常に読みにくくなるというのも確かなのでどうしようかと迷っています。

38■■■■:2010/08/09(月) 11:16:14 ID:a7S5iqLo
このスレ異常に盛り上がらないな

39■■■■:2010/08/09(月) 15:17:18 ID:e71aYj2I
新刊の時期だし、職人もピリピリしてるんじゃないのか?
未完結ラノベのSS職人にとって、新刊は新ネタの宝庫であると同時に自分のオリ設定を破綻させかねない諸刃の剣だからな

それはそうと、>>salvere000氏
先日SSまとめを見てて、「とある禁種な能力者」の解説欄に
>内容的には完結していないが、作者が他スレにて打ち切りを表明している模様。
とあるんですが、これってマジですか?何かの間違いなら、早めに訂正した方がいいと思いますよ

40■■■■:2010/08/09(月) 16:17:08 ID:kLcgjkM.
職人っていうか、読み手がいないんだろ。
ROMらず感想言ってってやれって話じゃね?

41■■■■:2010/08/10(火) 17:12:40 ID:x9CcjnhM
多少つまらなくとも暖かく見守ってやろうという事。
投稿した作品には良悪問わずに感想付けてやれって事だろう。

42■■■■:2010/08/10(火) 18:34:23 ID:uLz3.bsk
てか今連載してるのでどれ読んでる?

43■■■■:2010/08/10(火) 22:39:16 ID:x9CcjnhM
>>42

基本的に全部読んでるけど
その中で面白いと思う物は↓
ビリビリメルトダウナー
ミサカ、巫女と美琴
とある禁種な能力者
垣根帝督の十番勝負

続いてないけど牧田さんのSSも面白いと思う。

44■■■■:2010/08/10(火) 23:43:52 ID:uLz3.bsk
>>43

やっぱそこらへんか。
てかそれ以外ほとんど更新止まってるもんな・・・

一応このスレも見てる人間はちゃんといるのか?
でもあんまりレスつけないってのが現状なんかな。

灰姫みたいな大作は再来しないものか。

45■■■■:2010/08/10(火) 23:49:11 ID:khmFhzT.
個人的に香焼とフロリスのSSがツボだったんだけど、あれっきりなんだよな…

46■■■■:2010/08/11(水) 00:30:14 ID:UqvgbMGs
話を書くのはもちろん、掲示板の書き込みすら
初めてのガチの初心者です。
その初心者が調子こいてオリキャラありのけっこーな
長編考えてみました。

言った通り、全てにおいて初心者なんで
いろいろ指摘してもらえると助かります。
じゃ、ちょっと投下してみます。

47三日間〜Three Days〜 1st.1:2010/08/11(水) 00:31:15 ID:UqvgbMGs

 学園都市。

 超能力開発の研究を行う大規模な都市。その人口は二三〇万人弱でかつ、その八割は学生というまさに学生のための街。そのうちの1人である特性「不幸」の高校生、上条当麻はその日は朝食がないという不幸に襲われていた。
彼1人ならばこの不幸も少しの我慢で済んだのであろう。だがしかし、彼にはそれでは済まされない理由があった。
 その不幸の理由が台所の冷蔵庫の前に立つ彼の背後の机から声をあげる。
「と〜う〜ま〜。おなかがすいたんだよ。」
 そこには机の上に顔を預け、その両手に箸を一本ずつ握ってダンダンと音を鳴らして抗議をするなかなか愉快な格好の少女がいた。
彼女の名前はインデックス。
一〇万三〇〇〇冊の魔導書を記憶するその少女は上条家のエンゲル係数を急激に跳ね上げるその食欲が満たされないためにご機嫌斜めである。
「つっても、昨日寝る前にこっそり予備の分のパンを食べたのは誰だよインデックス?」
「むむむ・・・でもとうまがそもそも作ったばかりの朝ごはんを丸ごとひっくり返さなきゃこんなことにはならなかったんじゃないかな!?」
 そもそも、今日の彼の不幸の原因はこれである。
 じつは今日に限って目覚ましが鳴らず、時間ギリギリであろうともやはり朝メシ抜きなどこの腹ペコシスターさんが許すわけもなく、いつものように朝食をつくるために台所に立つ彼の足元に自分のご飯がこないことに痺れを切らし『まだー!?ごはんまだー!?』とでもいうかのごとく突撃してきた三毛猫を踏みそうになるのを避けようとした結果、上条が作った朝食は突撃兵の差し出されることになった。
 更には目の前の冷蔵庫の中身が空というコンボつきである。
 食卓にはテレビの音が流れる。どうやら最近学園都市で開発された最新の特殊素材についてのニュースなんかをしているらしい。
 そんなキャスターの声をバックミュージックに、空の冷蔵庫を閉めた上条は少し考えた後、仁王立ちで目の前の少女の前に立つ。
「はーっはっは!この毎日が絶賛不幸中の上条当麻さんがまさか毎日食事をひっくり返さずにいれるとでも?こんなことがあるから予備のパンを用意してたのにそれを考えずに食べてしまったインデックスさんがやっぱり悪いと思います。」
「・・・・・とーま、ひらきなおったところでとうまがご飯をひっくり返した事実は消えないんだよ?」
「うっ、やっぱだめか・・・でももう正直時間ねーんだ、わるいけど今日だけ朝飯は勘弁してもらえねーか?」
「お昼は?」
「あっ・・・」
 インデックスがゆらりと立ち上がる。
「ふーん・・・とうまはわたしお腹がすいて倒れてもいいっていうんだね?」
 純白シスターが半目でこちらを睨みながら話しかける。
「え」
「とうまは自分だけ学校でお昼食べようっていうんだね!?」
 その服にも負けない白い歯をむき出しにしてぐいぐいと上条に迫る。
「ちょ、ちょっとまて!落ち着けインデ」
「お腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いたぁぁぁっ!!」
 相手の言葉をさえぎって、インデックスが上条に飛び掛った。
「わかった!わかったから痛たたたたたたたたっ!?」
 当初の作戦に失敗した上条の頭にいつもどおりに銀髪シスターが噛りつく。あぁ、今日も不幸だと遠のきかけた意識の中で思った少年は、とりあえず近くのコンビ二まで走ることを決意した。

48三日間〜Three Days〜 1st.2:2010/08/11(水) 00:32:10 ID:UqvgbMGs
学園都市のある高校までの道を、やたら高そうな黒塗りの車が走る。内装にもやたら金が掛かっていそうなその車内には、学生服の少年と数名の黒スーツがやわらかそうなシートに腰掛けていた。
 その黒スーツの1人の初老の男が学生服に話しかける。
「しばらくはこれから向かう学校に通っていただくことになります。こちらの準備にはまだ時間が掛かります故、その間お待たせすることになりますから。あと補足事項についてなのですが」
「もういい。」
 少年が無造作に男の話をきった。
「なんど確認すれば気が済む。それにこんなものものしい送迎はいらん。帰りは来んな、一人でいい。」
 明らかに不機嫌な顔で少年は不満を目の前の初老の男に浴びせる。
「なりません。送迎はさせていただきます。必要なこと故。」
「ならリア、お前1人で来い。他はいい。」
 リア、と呼ばれた黒スーツの少女は自分に話しが回ってくると思っていなかったのかえぇっと声を漏らし、すぐに対応できずにいた。その横から初老の男が代わりに答える。
「わかりました、迎えにはリアをよこしましょう。では確認を続けさせてもらいます。この儀式を成立させるためにはどのような些細なことも見逃すわけにはいきません故。」
「・・・・・・・」
 これ以上いっても無駄だと悟ったのだろう、少年はしゃべることをやめた。横では男がそれを合図とし、また話し始める。
 いい加減聞き飽きた確認を黙って聞き流すことにした少年は窓から外の景色を眺める。そこには、大画面を持つ飛行船やおそらく研究機関であろう建物など学園都市ならではの独特な景色が広がっていた。それすらも見流しながらただ少年は思う。
(わかってんよ・・・)
 少年は無意識に顔を険しくさせる。もっとも、それに気付くものは少年を含め車内には誰もいないが。
(失敗するわけにはいかない)

49三日間〜Three Days〜 1st.3:2010/08/11(水) 00:33:16 ID:UqvgbMGs

「転校生?」
「そうなんよ。カミやんが遅刻してる間に、隣のクラスに来たんやで。」
 結局、あれから大急ぎで近くのコンビ二までひとっ走りしてきたあげく両手にパンを持って帰ってくると土御門の義理の妹がしっかりインデックスのご飯のお世話をしてくれており、そのことで肉体的にも精神的にも憔悴した上条が学校にたどり着いたのは3時間目の授業のはじめだった。
 遅刻してきたことに国語教師にねちねちと小言を聞かされ三重苦をしっかり味わった不幸の少年上条当麻に、彼のクラスメイトである青髪ピアスが答えた。その横の土御門元春も軽い調子で続ける。
「ちょっと童顔だけどまー美形で登校には高級車での送迎、おまけにうわさじゃレベル4の能力者だってウワサぜよ。なんつーかなんでこの学校にきたんだろーにゃー。」
 彼らの学校は別に常盤台のようにご立派な教育目的や長点上機学園のような優れた設備があるというわけでもないごく普通、あるいはやや下層レベルの高等学校である。
 そこにレベル4という学園都市におけるエリートが転校というのは、土御門でなくとも違和感を持つであろう。
 その違和感以上に朝っぱらから居候のシスターに噛みつかれた頭の傷を気にしつつ上条は、
「ウワサなんだろ。それより転校生が来るなんて話、言ってたっけ?」
「そこは小萌先生も知らなかったみたいだぜぃ。なんでも今朝の職員会議で急に聞かされたとか言ってたしにゃー。」
 ふ〜ん、そんなこともあるんだなと上条は適当にその話を流す。というより、家で今日使うはずの体力のほとんどを消費し、そのせいで頭を回転させる気が起こらないという方がしっくりくる。まぁ、それじゃあ普段は頭を回転させているかといわれれば何とも言えないところではあるのだが。
「・・・で、なんでお前は俺の腕をそんなに引っ張ってるんですか?」
「ノリが悪いなーカミやん、もちろんその転校生を見学にいくんやないですか。」
 上条はいつもと変わらぬテンションで腕を引っ張ってくる級友に対し、机に重力を完全に預けたまま、
「転校してきたばっかのやつを動物園のパンダみたいにみてやンなって、ほっといてやれよ。
 あと上条さんのことも今日はできればそっとしておいてくれ・・・」
「にゃー。ナニ年寄りくさいこと言ってんだカミやん。ウワサのエリートを確認しとかねーとにゃー。それに転校生なんてイベント、盛り上がらないでどーすんぜよ?」
 じゃあ姫神(あたし)のときは?と軽く思う上条と少し離れた席から聞こえた会話にかなりへこむ姫神。
 そんな2人を無視して、ほらいくぜぃとなかば強引に上条を引っ張って教室を出て行く土御門と青髪ピアス。
「あたしのときは・・・?」
 某国の黒服と手をつなぐ宇宙人の写真のような形のデルタフォースを尻目に、姫神秋沙は下を向きながら黒いオーラをかもし出していた。

50三日間〜Three Days〜 1st.4:2010/08/11(水) 00:34:47 ID:UqvgbMGs
ところ変わって隣のクラス。
 その前の廊下には別のクラスの人間が休日のデパートよろしく、男女問わず集まっていた。
「なんだこりゃ。休憩時間は二回もあったのになんでまだこんなに人が集まってんだよ?」
「それが若さってモンだにゃーカミやん。まーあれみりゃ納得できるか。」
 そう言って土御門は教室のうしろの人だかりの方に向かって指をさす。
 周りの野次馬が邪魔になって途切れ途切れにしか見えないが、なるほどそこには端正な顔つきの少年が自分の席に腰掛けていた。少し茶色がかった髪で見え隠れしている顔は、彼のあまり高くない身長も相まって少し幼くも見える。
「まーたしかに・・・。けどお前らが転校生に興味持つって珍しいな、相手が女子だったらわかるけど。」
 上条の言葉に金髪にサングラスの男は腕を組んで得意げに答える。
「いったろカミやん。学生がこーいうイベントでテンションあげねーでどーするんだって。」
 うさんくさい言葉だなと上条は思う。
 この目の前の男は、学生である以前に魔術師だ。イギリス清教”必要悪の協会”に属する彼にはこれまでなんども魔術サイドの事件に巻き込まれていた。さすがに今回が魔術サイド云々の話につながるとは思っていないが、こいつが自分を学生だと推すのがなんか信用できない。
 ふーんと適当に流すことにして上条はもう1人のクラスメイトのほうに顔を向ける。そこには、教室の窓から中をガン見して何かブツブツ言っている青髪ピアスがいた。
 なに言ってんだと近づきかけた上条はパッとその足を止める。ブツブツ言ってる口から
「ショタと定義するには少し遠い・・・でも角度を変えて見方によっては・・・」
とか聞こえてきたからだ。
(・・・まえ言ってたのは勢いじゃなかったのかよ。)
 半分引いて半分不憫な子を見るような、なんとも言えない表情で上条は青髪ピアスと距離をとる。そこへ
「なにやってるんですか〜3人とも。もう授業はじめますよ〜。」
と廊下の向こう側からパッと見小学生のような担任に声をかけられる。
 周りの生徒も気付けばおらず、3人だけが廊下で立っていた。
 と、いままでブツブツ言っていた青髪ピアスがくるっと声の方へ方向転換する。
「はーい。いやー、転校生に心揺さぶられもしたけどやっぱり小萌先生が一番やなぁ」
「当たり前だにゃー青髪ピアス。小萌先生もとい、ロリがたかだかすこし顔がいいくらいの転校生ふぜいに屈するわけがないんだにゃー。」
 自身の変態性を惜しげもなく発揮するクラスメイト2人のあとに続くかたちで上条は教室に戻っていく。
 なんか疲れが増した気がした上条は歩きながら決意する。
 よし、残りの授業は全部睡眠にあてようと。

51三日間〜Three Days〜 1st.5:2010/08/11(水) 00:36:37 ID:UqvgbMGs
 昼休み。
 転校生の少年は正直閉口していた。
 たしかに転校生というのは学生にとっては物珍しいのかもしれない。最初のうちは多少囲まれる事もあるだろうと覚悟もしていた。しかし3度の休憩時間を過ぎても周囲の人数が変わらない(いやむしろ若干増えている気もする。他のクラスの人間か?)のはどうだろうか。
「篠原くーん、食堂行こうよ。案内してあげる。」
 クラスメイトの女子の1人が転校生の少年に話しかける。
 篠原 圭。
 男にしては長めの少し茶色がかった髪をもち、高校生にしては若干幼いが整った顔をしている。あまり高くない身長も手伝って容姿は少年という表現がしっくりくる。
 その転校生の少年はクラスメイトの提案に対して鞄から取り出した箱を掲げる。
「ありがとう、でも今日は弁当持たされてるから」
「じゃあ一緒に食べよう。私も今日お弁当なんだ。」
 すべて言い切る前に、話しかけられた子とは他の女子から割り込まれる。さらにはこっちから何か言う前に自分の机に他の机が会議でもする様に合わせられていく。
「・・・うざ」
「えー、何か言ったー?」
 見ると、最初に食堂に誘ってきた女子までもがちゃっかり自分の机を合わせていた。
「いや、何も。」
(めんどくせーな、そろそろほっとけってんだ。いいかげん察しろよボケどもが。)
 嫌味なくらいの爽やかな笑顔を顔に貼り付けて、その笑顔には似つかわしくないドス黒い暴言を篠原は誰にも聞こえないような小声で呟いた。
 どっかでボロは出るんだろうがわざわざ転校初日に地を出してワル目立ちするのも面倒くさいなと考えていた篠原は、とりあえず当たり障りのない真面目な優等生を演じることで目立たないようにしている。
 結局その当初の目的は彼が登校するとき、やたら高そうな黒塗りの送迎車によって簡単にぶっ壊れてしまったのだが。
 予想はついていた。見るからに平均的なこんな学校でのまるで執事か何かのような黒スーツと高級車のコンボ。どー考えても目立つなというほうが無理である。
 だから送り迎えなんざいらなかったんだと篠原は更に毒づいた。とはいえその容姿も目立つのに少なからず一役買っていたのだが彼はそれには気付いていない。
 クラスメイトをかわすのを諦め、弁当箱の包みを解いていく。窓の外では、相変わらずディスプレイのついた飛行船が空を漂っていた。

52三日間〜Three Days〜 1st.6:2010/08/11(水) 00:37:16 ID:UqvgbMGs
 昼下がり。
 インデックスはベッドの上でごろごろと転がっていた。
 昼ご飯はまいかが朝ご飯と一緒に作っておいてくれたものがあった。足りなければとうまがコンビニで買ってきたパンが台所にしまってある。すこしスフィンクスと昼寝をした後、最近はまっている再放送のアニメも見終わった。
 要するに、彼女は暇を持て余していた。
「うー。暇なんだよ暇なんだよー。スフィンクスはかまってくれないし。」
 三毛猫は床の窓側で日向ぼっこを満悦している。んー、良かったら一緒にどうですかいとでも言うようにゴロゴロと喉を鳴らす。
 アニメの後でつけっぱなしになったテレビは学園都市のおでかけスポットを紹介する番組が流れていた。何気なくそちらに目を向けたインデックスの目がカッと見開かれる。
 それは最近人気のたこ焼き、それも中身が6種類の6色たこ焼きなるものであった。
 テレビのなかでややおおげさに紹介しているキャスターを見ながらその背後の景色をチェックしてインデックスはムクッと起き上がった。
 ・・・この景色は見覚えがある、たしかとうまの学校のすぐ近くにあったはずだ。
「とうまを迎えに行かなくちゃ。これは決して六色たこ焼きが美味しそうだとかちょっと行って食べてみたいだとかそういうことではなくて、あくまで朝疲れた顔で出ていったとうまをたまには労わってあげようという慈悲の心なんだよ。」
 誰に向けたわけでもない言い訳をすらすらと言いあげた後、シスターはスフィンクスをかかえて玄関に向かう。
 と、その途中でそういえばといった感じで振り返り、スフィンクスを一旦おいて机の上に放置されていた携帯電話を手に取った。
 出かけるときは持っておけと家主に渡されたものだが、当の渡された本人はこの文明機器の使い方がいまだに理解しきれていない。だがもしわからなくなったらその辺の誰かを捕まえて代わりに使ってもらえばいい。
 そんなことを考えながら足元の三毛猫を促して再び玄関に向かう。
 きらきらと表情を輝かせながら軽いスキップで歩く猫を抱えたシスターを横切る通りすがりの人が見たならば、おそらく遊園地にでも遊びに行く子供のように見えただろう。

53三日間〜Three Days〜 1st.7:2010/08/11(水) 00:39:33 ID:UqvgbMGs

 学校の終わる少し前を見計らってリアは学校へ向かっていた。
 用件は自分勝手な幼馴染の出迎えである。
 朝の送迎車のなかでそいつの直々のご指名によって、いやおうなしにこの仕事を任命されたからだ。
「なんでわたしが・・・。」
 ぶつぶつと小言を言いながら不機嫌そうな顔をした黒スーツの少女が道を行く。
 思えばこの幼馴染には昔から振り回されていた気がする。例えば、出会った5歳の春には引っ張られていった山の中にそのまま置いていかれた。(そのあと母親にこっぴどく叱られてはいたが)6歳の夏には近所の駅に連れてこられて線路に勝手に侵入し、その共犯として駅長らしき人に散々怒鳴られた。(あとで聞いた話では、その日のダイヤが1,2本ずれたとか)
 その後しばらくして引っ越していったのだが、半年ほど前に再会したときにはあの眼鏡の初老の男を先頭にぞろぞろと黒スーツを取り巻きに従えていた。それについて問いただしているうちに眼鏡になし崩し的に黒スーツの一員とされ、現在に至る。
 そして年月は無情に過ぎ去っていたようで、再会した少年は昔多少はあった愛嬌は消え失せ、周りを振り回す身勝手さは増していた。さらに無愛想にもなっていてかつて引っ越していった後の話を聞いても別にの一言で流される始末である。
 あのアグレッシブさはどこ行ったんだと思いきや、初対面の人間にとてもにこやかな好青年(少年?)を演じたり、他の黒スーツと陰でコソコソ何かやってたりという面を見せたりもする。
 そのくせこういった雑用にはしっかり自分を指名してくる辺り、昔よりタチ悪くなってんじゃねーかあの野郎といった感想を持たざるをえない。
 要するに、自分はあいつにぞんざいな扱いのおもちゃにされているのだ。
 ぐるぐると考えを巡らすうちそんな結論に行き着いたリアは沸々と怒りがこみ上げてくる。
 これを晴らすにはやはり当人にぶつけさせてもらうのが一番だろうとこぶしを握って物騒な決意で口元を不適に緩める。
 とそのとき、目の前を一匹の三毛猫が横切りかけて自分の足元に立ち止まる。なーと鳴いてこちらに首を擦り付けてくるこの猫には首輪がついていない。だが妙に懐っこいあたり飼い猫か、と適当に推測しつつそれを抱えあげる。
「スフィンクスー?どこ行ったのスフィンクスー」
 すぐにそんな声が聞こえて真っ白なものが猫が出てきた場所から飛び出してくる。
 シスターだ、とリアはすぐ理解した。彼女の出身であるイギリスではその国教の関係で街中のシスターは珍しいものではない。それは見覚えのあるつくりの服だった。だがよく見るとその格好はところどころ安全ピンで留めてあるのみというなかなかにパンクな格好である。
 そのシスターはふと立ち止まりこちらを、いや正確には腕の中の三毛猫の方を見ていた。
「スフィンクス」
「・・・あ、この子の飼い主さん?」
 スフィンクスという単語が猫の名前だと理解するのに少し時間を要した後、猫をシスターに差し出す。
「うん、スフィンクスっていうんだよ。」
 リアの推定を肯定しつつ、純白シスターはその猫を受け取る。
「そう。この辺りたまに車が通ってるから放さないよう気をつけてね」
 あまり広くない道路を見渡してリアは適当に会話を続ける。
「違うもん、スフィンクスが勝手に走ってっちゃっただけなんだよ。」
 そんな会話を続けながら、ふと違和感を覚える。
 学園都市のシスター。
 科学の最先端を行くこの街において宗教の必要性があるのかと疑問に思ってしまう。いや多少はそれを求めるものもいるのかもしれないが、それでもシスターがわざわざくるほどの人数がいるとも思えない。

54三日間〜Three Days〜 1st.8:2010/08/11(水) 00:40:14 ID:UqvgbMGs
 きょとんとしているシスターの横で、んーと軽く考え込んでる彼女の背後に一つの足音が止まる。
「うわ、なにしてんだお前。」
 背後からの聞き覚えのある声にリアは思考を中断する。
 振り返った先に立っているのはやはり見覚えのある顔だった。少し長めの茶色がかった髪をもつ童顔の少年。今朝、思いつきとわがままで彼女の手間を増やした張本人である。
 その当人のそれを忘れているかのような口調にスーツの少女は眉間にしわを寄せる。
「あーんーたーが今朝私に来いっつったからでしょうが!何なのまさかそれすら覚えてないほどあんたの頭はもうろくしちゃってる訳!?」
「癇癪起こすなってうっせーな。まさかホントに来るとは思ってなかったんだよ。」
 溜まったストレスを発散するかのように怒鳴り散らす目の前の幼馴染を篠原はあくびをしながら適当に話を受け流す。
「行かないとあのメガネに小言聞かされるのは私なの!大体何!?あんたまだ学校終わる時間じゃないでしょ。」
「あー、ふけた。」
 さも当然とでも言うような言い方にリアは逆にあっけにとられる。
「体調不良ってことで昼からサボったんだよ。で、保健室で寝てたけど暇だったんで帰ってきた。まー書置きしてきたし大丈夫だろ。」
 そしたらお前と出くわすしなーとボソッと付け加えた言葉をリアは聞き逃さない。
「あ、あんた私のことかわそうとしてたわね!」
 ぎゃーぎゃーと口喧嘩(片方は相手にしてないようだが)をする二人の横でポツンと置いてかれているシスター。
 その事にようやく気付いたリアが口撃を中断させて慌ててそっちに話しかける。
「あっ、ごめんなさい。見苦しいものを見せちゃって。」
 愛想笑いを必死で浮かべる彼女の横で見苦しいのはお前だけだけどなと少年は小声で付け加え、それを聞いた少女はまた彼を睨みつける。
「そういや誰だそいつ?お前学園都市に知り合いなんかいたのか?」
 話を変えた篠原の言葉にそういえば、と視線をシスターの方へと向ける。
 ようやく会話の輪の中に入れたシスターだが特に物怖じすることなく視線を返した。
「私はインデックスっていうんだよ。」
「インデックス・・・?」
 名前としてはまず出てこないような単語におもわず反復してしまったリアだったが、すぐにそれについて考えることをやめた。
 目の前の少女といいその猫といい、おそらく学園都市では名前についてこちらが理解できないルールでもあるのだろうとかなり投げやりな結論で自分の中で流すことにしたのだ。
 と、ふと気がつくとそこにいた篠原の姿がない。少し視線をずらすと少年はもう歩き始めていた。
「ちょっ、あんた自分から会話振っといて何勝手に先帰ってんのよ。第一、そっちは方向違うでしょ!」
 すたすたと先を行く身勝手な幼馴染に慌てて声をかける。その一方で、少年は見つかったこと
に若干肩をビクッとさせて
「腹減ったからこの先のたこ焼屋よって帰るわ。先帰ってサイモンには適当に言っといて。」
 リーダー格の初老のメガネを思い浮かべ、リアはうげぇと声をあげる。
「はぁ、何言ってんのよ、それであのおっさんが納得する訳ないでしょ。大体あんたは監視しとかないとすぐどっか行っちゃ」
 ふとスーツの裾が引っ張られていることに気付き、リアは言葉を途切れさせる。その裾の方へ振り返ると、変な名前のシスターが目をらんらんと輝かせてそこに立っていた。
「六色たこ焼きだね!あのたこ焼きのところへ行くんだね!」
 六色?と頭の上にはてなを浮かべるリアに変わって、少年がその会話に応答する。
「あーそれだそれ。さっきテレビでやってた。」
「・・・ちょっと、なんであんたはテレビなんか見れてんのよ?」
「ケータイだよ。保健室で暇だから見てた。」
 あんた実はそれが食べたくなったからサボったんじゃないのかと小声でつぶやく。その横にはその目を更に輝かせて、さっきよりも強く裾を引っ張るシスターがいる。
「私も行く!」
 もはやそれしか見えてないようなシスターの突然の提案に戸惑う黒スーツの少女。 
 そんなやりとりを背後に聞きながら、篠原は軽く振り返り純白シスターを確認する。
 なるほど、あれがサイモンの警戒する二人の片割れ、禁書目録か。

55三日間〜Three Days〜 1st.9:2010/08/11(水) 00:41:14 ID:UqvgbMGs

 放課後。
 多少の妨害を受けつつも、しっかり昼の授業で体力を回復した上条当麻は家路についていた。
 とりあえず家に帰ってかばんを置いて、近くのデパートで当面の食料の確保や足りなくなった日用品などの補充とこれからの計画を立てる。
 そして、それと同時にデパートに行くのにいかにインデックスを振り切るかを考える。むしろこっちをメインに考えているかもしれない。もしあのシスターさんを連れていったら、買い物かごに何を入れられるかわかったものではない。ならば直接買いに行けばよかったのではとも思うが、今日は買い込むものが多いため余分な荷物はできる限り持たずにおきたい。よって、一旦家に帰るしかないないという結論に至ったのである。
「ただいまー・・・」
 よその家にお邪魔する、というより泥棒に入るようなしぐさで我が家のドアを開ける上条。作戦は、留守番しているインデックスに気付かれる前にかばんだけ置いて外にダッシュである。
 だが、どうにも家の中は誰の気配も感じない。もしかして寝てんのかとおそるおそる上条は居間を覗いたがやはり誰もいなかった。
「ったく、インデックスのやつ、鍵もかけずに出て行きやがって。」
 警戒対象が家にいなかったことは好都合なのだが、居候の無用心さにいささかあきれる。
 ふと机をみると、いつも置いてある場所にシスター用の携帯がない。どうやらこれは忘れずに持って出歩いているようだった。もっとも、それを彼女が最低限正しく使いこなせるかどうかは疑問の残るところではあるが。
 とりあえず居場所ぐらいは確認しておくために上条は自分の携帯を手に取り、インデックスの番号を引っ張り出した。20コールいっぱいに使ってようやく出たことに上条は驚いた。ただ、彼が驚いたのはコール数ではなくその電話が出られたことであるが。
『え、えっともしもし』
 だがどうもおかしい。どうも電話の向こう側は上条の知るシスターではないらしい。おまけにこの通話相手は少しパニクっているような気がする。 
 なんとなく状況が予想できつつあるものの、一応問いかける。
「えーと・・・どちらさまでしょうか。」
『あ、私はリアっていいま(おーい、とうまー)』
 通話相手の声に混じって明らかにインデックスの声がする。状況を確信した上条は電話を続ける。
「もしかして、そこのシスターに携帯押し付けられて代わりに電話に出る羽目になったとか。」
『はい、大体そんな感じです。』
「・・・シスターに代わってもらっていいですか?」
 はい、と少しの間をおいて通話相手がシスターへとかわる。
『もしもしとうまー』
「お前なー、この間携帯の最低限の使い方は一通り言ったはずだと思うんだけど。」
『んー・・・、忘れちゃった。』
「嘘付け完全記憶能力者!お前実はあの時聞いてなかったんだろ!」
『だってわかんなかったんだもん。』
「ったく、まーそれはいいとしてお前さっきの人に迷惑かけてねーだろーなー。」
『うーん・・・たこ焼き奢ってもらったけど迷惑はかけてないよ。』
「おもいっきりかけてんじゃねーか!てゆーかお金持ってないだろお前は!」
 上条はインデックスにお金を持たせた覚えはない。そして、たこ焼き屋についたときお金がないことに気付いて意気消沈するシスターはその雰囲気で半ば強制的に奢らせている。
 このままインデックスを放置しておくと犠牲者が増えると上条は思う。
「はぁー、お前今どこにいるんだよ。」
『えーとね、今はゲームセンターにむかってる。』
 場所の詳細を少し苦労して聞きだした上条は携帯を閉じ、計画が最初から大きく逸れて落胆する。そういえば今日は朝からあのシスターに振り回されている(今に始まったことではないが)。
 とりあえず学生寮から出た上条はデパートとは逆の方向へと歩き始めた。

56三日間〜Three Days〜 1st.10:2010/08/11(水) 00:42:12 ID:UqvgbMGs

 上条当麻はゲームセンターの前に立っていた。
 店の周辺は放課後らしく学生達で賑わっている。その中に混じっておそらくパトロール中であろう見知った顔の腕章を付けた風紀委員を見つけて思わずうげ、と声を上げる。
 その声に反応したツインテールの風紀委員はこちらに向かってくる。
「あら、どこかで見た顔だと思えばお姉様にまとわりつくダニ虫ですの。」
「誰がまとわりついた誰が!あれは御坂の方が俺に突っかかってくるんだっての!」
「お、お姉様から迫られてるとでも言いたいんですのこの類人猿が!」
「誤解のある言い方すんなぁぁぁぁぁぁ!」
 だからこいつは嫌なのだ。このお姉様大好き少女、白井黒子はこれまでは御坂美琴といるときに限って姿を現しそのたびドロップキックを放ち、今ではもう先の通り「お姉様にたかる害虫」と見なされたらしく敵対の目を向けられている。
 以前御坂が学校での周りから自分への接し方に閉口しているとチラッと聞いたがその原因はほぼこいつではないのだろうか。
「ま、まぁいいですの。それよりあなた1人でここへ?」
 と、白井は視線を横のゲームセンターに向けてへっと嘲笑を浮かべる。その顔には、他にやることないのかとか一緒に来てくれる友達はいなかったのかとかいう嘲りが言葉なしで伝わってきた。
「知り合いを迎えに来ただけだよ。」
「ふーん、そうですの・・・。まぁできるだけ早く帰ってくださいませ。どうもあなたはトラブルに巻き込まれやすい質のようですから。」
 うっとどもる上条。おそらく彼女の知っている件の何倍ものトラブルを経験している以上否定はできない。もっとも、なかには少なからず自分からトラブルに飛び込んでいるものもあるのだが。
 ではこれで、と白井は上品なしぐさで踵を返す。その背中を見送りながら上条は深いため息をつく。そういや今日多いなため息などと思いながら、白井の忠告があったからではないが今日はできるだけ早く帰ろうと考えていた。

57三日間〜Three Days〜 1st.11:2010/08/11(水) 00:44:53 ID:UqvgbMGs
「はぁ・・・」
 ため息はゲームセンターの中からも発されていた。その主は黒スーツの少女、リア・ノールズ。原因は彼女の前で騒いでいる学生とシスターである。
「お菓子!お菓子が凄い大きくなってるんだよ!」
「くっそ今絶対コマンド入っただろくそもう一回っ」
 見方によっては久しぶりの外出にはしゃぐ子供とその母親に見えなくもない。もっとも、学生服と修道服とスーツの組み合わせではその表現にたどり着くのは限りなく難しいと思えるが。
 室内には、ゲームセンター独特のいくつもの音が重なって響いている。あまり騒がしいところを好まないリアはおそらく聞いていないであろうディスプレイの前でボタンをたたく少年に断って外へと出る(ちなみに返ってきたのはおーという生返事とディスプレイから聞こえるキャラが叫んだ技名だった)。
 横の路地裏近くに自動販売機を見つけたリアは、硬貨を入れて小さなサイズの缶コーヒーのボタンを押す。ガコンッという音を聞きながらふと横をみると小奇麗なベンチを見つけたため、とりあえずそこに座ることにした。
 しかし、あのシスターは何者なのだろうか。あの無邪気さや雰囲気、おまけに自分の分では飽き足らずリアの分までも一瞬で平らげる食欲、まず彼女の知っているシスター像に当てはまる要素はない。どうも話を聞くと保護者のような人がいるようで、今こっちに向かっているようだ。
「よお、ねーちゃん。ひとりかよ?」 
「何よそのスーツ、コスプレかぁ?」
 そして、少女の思考は無粋な声に中断された。顔を上げるといかにもチンピラといった風貌の男が3人自分の前に立っている。一瞬なにを言われているか理解できなかったが、ああもしかしてこれがナンパ?というやつかという考えにたどり着くまでに時間はそうかからなかった。その間にも目の前の男達はベンチの周りを囲んでこちらを威圧してくる。一応この男達3人を適当に撒けるぐらいの護身術の覚えはあるが、ゲームセンターのおっきい子供達をおいておくのも気が引ける。さて、どうしようかと考えていているとさらに彼女の幼馴染と同じ制服を着たツンツン頭の少年が少女と不良の間に割って入った。
「あ?なんだてめぇ。」
「ったく、大の男が寄ってたかって女の子に何しようとしてんだ。悪いこと言わねぇからやめとけって。」
「なに正義の味方きどってんだお前。許してやっから光速で消えろこのボケ。」
 いつのまにか絡まれていた少女をおいて、不良とツンツン頭の少年の言い争いになっている。見た感じ助けに入ってくれた少年はなんとか言葉で相手を受け流そうとしているように見える。もしかしたらあまり腕には自信がないのにもかかわらず、助けに入ってくれたのかもしれない。とはいえ、不良が彼に気をとられている今なら不意打ちで3人叩きのめすことは可能だ。
 その考えを実行しようと動こうとした瞬間、ツンツン頭の少年の後ろから不良たちの1人がその頭めがけて角材を振り上げた。
「あぶないっ!」

58三日間〜Three Days〜 1st.12:2010/08/11(水) 00:45:19 ID:UqvgbMGs
 少女は思わず声を上げ、慌てて少年を突き飛ばした。飛びついたために二人はもつれたままアスファルトに転がる。その一瞬後、さっきまで彼のいた場所に角材が空を切った。
 すぐに少女は顔を上げると、一気にかかってくるほかの不良が視界に入る。彼女も少年もバランスを崩したまますぐには体勢を直せない。2,3発もらうことを覚悟したとき、バリバリッという鋭い音と共に辺り一帯にやたら白っぽい電流が走り、不良たちは前のめりに倒れた。
「・・・何やってんだお前。」
 倒れた不良のその後ろにほんの2時間ほど前と同じような台詞と共に右手を前にかざしてため息でもつきそうな表情の篠原が姿を現す。彼はその視線を少しずらしてそのまま右手から電流を飛ばす。その先にいた角材を持った男は一瞬体をビクッと震わし、そのままうめき声を上げ他の不良たちと同様にアスファルトに転がった。
「電撃使い・・・?」 
 リアが横を見ると、ツンツン頭の少年が篠原の方を呆けたような顔で見つめていた。そしてその顔は徐々に青ざめていく。
「やばいな・・・おいあんた立てるか、逃げるぞ!」
 彼は慌てて立ち上がるとこちらに手を伸ばす。それに答えたのはきょとんとしたままの少女ではなく向かいに立っているもう1人の少年の方だった。
「おい、何言ってんだお前。とりあえずここは俺に礼を言うなりそこの自販機で奢るなり他にやることがあるだろーが。なんで絡んでくるやつもいなくなったのにわざわざここから逃げんだよ?」
 さっきまで立っていた不良と余り変わらないような物言いもさりげなく混じってはいるが、まあおおよその正論を篠原が言う。これについて少女は自分も同感だと思ったがそれに大して返ってきたのは慌てたままの少年の声だ。
「その絡んでくるやつがすぐにここに来るんだよ!」
 それも質の悪いのが!と実はだいぶ個人的な主張をしたあと、とりあえず急げと手を振って促す。正直、何がなんだかわからないままその少年の勢いに流されてその場を離れようとすると、ゲームセンターからとぼとぼと純白シスターが姿を現した。
「あれー、二人ともどこいったのかなー。あ、とうまだー。おーいとう」
 とうまと呼ばれたその少年は足を緩めずインデックスに端から見ればまるで腹にラリアットでも喰らわすかのように手を引っ掛けて走っていく。彼らがその場から完全に姿を消すまでにそう時間は掛からなかった。

「ジャッジメントですの!無駄な抵抗はやめておとなしく・・・?」
 騒ぎからものの1分もしないうちにゲームセンターの前には風紀委員の少女の声が響く。
 しかしこの風紀委員の少女、白井黒子が見たものは絶えず帯電し続けている景色とアスファルトに転がっているチンピラ風の男達であった。

59三日間〜Three Days〜 1st.13:2010/08/11(水) 00:46:27 ID:UqvgbMGs
第7学区某ファミリーレストランのチェーン店。
 騒ぎの後、お腹を鳴らしたインデックスの視線に耐えかねた上条たちはここにいた。
「で、なんで逃げてきたんだよ。」
 最初に声を上げたのは茶髪がかった少年、篠原だ。
「近くに風紀委員がいたんだよ。絡まれただけならまだしも、それに能力で反撃してしかも全員気絶となればただの被害者って話じゃすまないからな。」
 特に今日みたいな日にあいつともう一度顔を合わすのは避けたい、と覇気のない顔をして上条はブツブツとつぶやく。
「風紀委員?」
 きょとんとした顔で上条の対面の二人が聞き返した。また、インデックスは隣でメニューに夢中である。
「いや、風紀委員ぐらい知ってんだろ?学園都市の人間なら。」
「私達、3日前にこの街に来たばかりなんです。」
 余計なことを言うなと言いたいような顔をした篠原に上条は気付かない。よく考えれば外部の人間が3人の男を軽くいなすほどの能力を持っていること自体おかしいのだがそれにも彼が気付く様子はない。
「へぇ、そーなのか。そーいやお前たしかうちの転校生の・・・?」
「篠原だ、篠原圭。やっぱお前学校一緒なのか。」
「ああ、俺は上条当麻。学年も一緒だ。クラスは隣。で、そっちのあんたは?」
「私はリア・ノールズといいます。先ほどは助けに入ってくださってありがとうございます。」
「いや、俺は何もしてないけどな。で、風紀委員ってのは学生の自警団みたいなもんだよ。」
 そんな感じでかいつまんで上条は話していく。その話を聞きながら篠原は日ごろ口うるさい初老の男を思い出す。
(要は騒ぎの中心になる前にこいつに助けられたってとこか。揉め事起こしてと『儀式』に支障きたすのもだりーし、なにより絶対サイモンがうるせーからな。)
 彼がサイモンと呼ぶ初老の眼鏡男性は怒鳴ったりすることはない。ただねちねちひたすら説教を繰り返す。あの面倒臭い時間は正直何度体験しても閉口するばかりだ。
 そんなことを一通り考えた篠原は上条の方を見る。
「まぁ話を聞いた感じ、助けられたみたいだな。礼といっちゃなんだが、ここの払いは俺がもってやんよ。」
 思わぬ幸福な提案に逆に上条は身をすくめる。
「い、いーって。俺は何もしてないししかも最後助けたのはお前じゃねーか。」
「ふーん、まいーけど。でもいいのかそれ。」
 ん、と篠原が指差したその先を上条は見た。そこには店員に向かってメニューを指差し、なにやら話しかけているインデックスがいた。おまけにそれとは別の店員達がトレイに料理を載せて続々とやってきていた。
 それを見た上条は一瞬固まった後、さび付いた蛇口をひねるようにギシギシと首を篠原の方に振り向かせる。生気のなくなった顔をして上条はつぶやくように話しかけた。
「あの・・・やっぱりこいつの分半分出してもらってよろしいでしょうか。」

60三日間〜Three Days〜 1st.14:2010/08/11(水) 00:47:34 ID:UqvgbMGs
 ファミリーレストランの外の駐車場に、ツンツン頭の少年の声が響いていた。
「おーまーえーはー何勝手に注文してんだよっ!」
「うー、ごめんなひゃいー。」
 頬を上条に平手でつぶされたインデックスはうーうー言いながら謝っている。とりあえず彼女の頬から両手を離すと、そのままシスターは会話を続ける。
「だってお腹空いてたんだよ。だいいち、ちょっとここの料理は量が少ないと思うな。」
「ファミレスってのはそういうもんです!わかったんならほら回れ右っ!」
 そう言って少年はシスターの肩を持つとぐるんと回転させた。回されたシスターの視線の先には茶髪がかった少年と黒スーツの少女がいる。
「ありがとう。とても美味しかったんだよ。」
「気にしないで。なんだかんだで私も楽しかったし。」
「おい、なんでお前がまるで全部奢ったみたいに言ってんだよ。たこ焼きもここも出したのは俺だろーが。」
 そうして軽い言い争いが始まる。少ししか見ていないが、この二人はいつもこんな感じのようだ。なんだかんだで仲がいいのだろうと上条は思う。
「そーいやお前サイモンに電話しといたのか?」
「あぁっ!?やばい、忘れてたぁ!」
 慌てたリアは、懐から携帯を取り出して電話をかけ始める。それを横目で見たあと篠原は上条たちのほうに向いて話しかける。
「じゃー俺らはここらで帰るわ。」
「ん、そっか。ほんとありがとな、じゃーまた学校で。」
 片手を上げて踵を返す上条とそれにひょこひょことついていくインデックス。それを見送って篠原は携帯ごしに頭を下げるリアをおいて一人歩き始めた。
(あっちが幻想殺しか、まさか一気に両方に出くわすとはなぁ。まぁやつは『管理人』って話だし、二人揃うのは珍しくないか。しかしあいつら、サイモンがいうような脅威には見えねぇが・・・)
 後ろからは話を終えたスーツの少女が何か叫びながらついてくる。帰ればやはりサイモンの説教が待っているのだろうが、それはこの少女にまかせておけばいい。

61三日間〜Three Days〜 1st.15:2010/08/11(水) 00:49:24 ID:UqvgbMGs

「まったく、お姉様ったら少しは自粛していただきたいものですわ。」
「は?何の話よ黒子。」
 常盤台中学学生寮二〇八号室。
 帰ってくるなり訳のわからないことをルームメイトの後輩に言われて御坂美琴は顔をきょとんとさせる。
「今日も街のチンピラ相手に電撃ぶっ放しましたでしょ?いつも申しておりますがお姉さまはあくまで一般人ですの。だから今日みたいな行動はいいかげん」
「ちょっと待ちなさいよ。どれのこと言ってんのか知らないけど私じゃないわよ。」
 そう、彼女のはずがなかった。この日御坂は放課後、こっそりおまけのゲコ太目当てに某チェーン店のハンバーガーショップでセットを頼んだ後、少女趣味丸出しの(小学生の視点からみた場合の)可愛らしい服を見にショッピングモールに立ち寄っていた。さいわい今日は自分や他の誰かに絡んでくるバカを見なかったため、非常に有意義な一日を過ごせたのである。
「では今日お姉様は一体何をしていらしたので?」
 白井にぐっと迫られ、おもわず御坂は顔を少し赤らめる。
「別にいーでしょ、私が何してよーが。」
 それはゲコ太目当てで1人こっそり出歩いたことに対する気恥ずかしさからでたものであったが、白井はその反応から別の答えを導き出す。
「ま、まさかまたあの殿方と密会をっ!?許さんあの類人猿がぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「なんでそーなんのよっ!?だ、大体あたしとあいつは別にそういう関係じゃ・・・」
「わたくし、殿方と言っただけで誰とは言ってませんの。やはりお姉様はあの上条とかいう猿の事が・・・うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「あ、あんたねー!」
 部屋の中には黒いオーラを出しながらだめな方向にハイになるツインテールの少女と顔を赤くしながら実はまんざらでもないような表情をするショートカットの少女が二人。
 しばらくこの状況は続いたが、一人で息を上げていた白井が落ち着くように深呼吸を始めた。
「まぁ冗談はこのくらいにしておきまして・・・お姉様にレベル5の超電磁砲として聞きたいことがございますの。」
 一体どこからどこまでが冗談なんだというツッコミを入れたいところではあるがそんな隙すら与えずに白井は大型雑誌ぐらいの大きさの袋を取り出す。その中にはすっぽり収まった金属片が入っており、その表面にはバチバチッと音を立てながら白い光が走っていた。
「なによそれ?」
「さっき言いました不良連中が倒れていた現場にあった金属片の一部ですわ。見ての通り、帯電していてどうもこの状態から直る様子がありませんの。よく見るとお姉さまの発する電流より若干白っぽくも見られますし・・・。」
「ふーん、それでこの力の正体を私に見てほしいって訳ね。」
「そういうことですの。」
 御坂はその袋を白井から受け取ると無造作に中から金属片を引っ張り出した。

62三日間〜Three Days〜 1st.16:2010/08/11(水) 00:50:01 ID:UqvgbMGs
「お姉様!そんな無用心に」
「大丈夫だって、私を誰だと思ってんの。電気に関しちゃ痛っ!」
 余裕のある顔を一瞬で苦痛にゆがめる。
 みると指先にはさっきまで金属片に流れていた白い電流が御坂の指にまとわりついていた。
「お姉様っ!?」
(わたしが電流で痛みを感じてる・・・?)
 御坂は自分の手に移った白い電流を見据える。
 しばらくその状態を続けた後、後ろで心配そうに見ている白井を尻目にその白い電流を打ち消すように青白い電流を自分の手に流した。
「だ、大丈夫ですのお姉様!」
「ふぅ、大丈夫よちょっとびっくりしただけ。」
 駆け寄ってきた後輩を安心させるためにすこし微笑んだ後、視線を金属片に戻す。
「で、黒子。これなんだけど、まず電流じゃないわ。」
「!どういうことですのっ?」
「電流ってのは電子の流れのことってのは知ってるわよね。これは性質自体は電子によく似てるわ。でも似てるってだけでまったく別モノよ。おそらく何かを操ることで電流みたいに制御しているってとこね。」
「その何かっていうのは?」
「わからないわ。でもひとつ言えることはこれを使った能力者は私と同じ電撃使いって訳じゃなさそうよ。」
 そこまで言いきったあと、御坂は違和感を覚える。そもそも電子というのは原子よりも圧倒的に小さいものであり、物質ですらない。それによく似たものがたしかに存在し、なおかつ超電磁砲と呼ばれている自分がその正体をつかめない。科学では説明できない、あるいはこの世に存在しないとでもいうのだろうか。
 まるでオカルトね、と適当に考えをまとめた御坂はふと目の前でプルプルしている白井に気付く。もしかしたらこの電流によく似た何かの影響か、と一つの懸念が浮かんだ瞬間、
「お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 抱きついてきた。そのまま御坂を押し倒し胸の辺りに顔を埋めてぐりぐりと動かす。
「さっすがわたくしのお姉様!こんなにすぐにここまで答えを出していただけるなんて。お礼といっては何ですが、今日はたっぷりご奉仕させていただきますわ!ささ、まずはお背中お流しいたしますので、一緒にお風呂に・・・」
「前も言った気がするけどそれはあんたの願望でしょうがっ!」
 バリバリッと電流まがいではない電流が白井に向かって飛ばされるがそれでもなお彼女の恍惚とした表情は崩れない(むしろ若干増している)。
 ほぼいつもどおり常盤台学生寮二〇八号室の夜は更けていく。

63三日間〜Three Days〜 1st.17:2010/08/11(水) 00:50:41 ID:UqvgbMGs
 学園都市第7学区のとあるホテルの一室。
 中には黒スーツの集団がいた。
「サイモン様。」
 その中の1人の黒スーツは、手の中の携帯を閉じると集団の中心で腰掛ける眼鏡をかけた初老の男性の名を呼んだ。サイモンと呼ばれた同じく黒スーツを纏ったその男は眼鏡越しにじろっと話しかけられた方を見る。
「圭様は今までリアと一緒にいたようです、なんでも寄り道していたとか。これから帰るとのコトです。」
「ふん、迎えもろくにできんか。まぁいい。やつが現時点で何を使用が計画には支障はない故。」
 その男はすくっと立ち上がり脇の机の上にあるどこかの見取り図のようなものを手に取る。
「現地の状況は?」
「そちらの資料の印の部分が警備の配置図になります。これに出くわさないようにするには厳しいですが、彼らはあくまで能力を持たないただの警備員。遭遇しても撃破するのにさほどタイムロスはありません。」
「逃走ルートは?」
「問題ありません。乗り捨てれる車を3台リレー式に用意しました。能力者の追跡防止のための策も2,3用意してあります。」
「よろしい。」
 サイモンはいすに立てかけてあった剣のようなものを杖のように持つと一度カッと床に打つ。それに答えるかのように周りの黒スーツの集団は自分達の手首のリングに手を当てる。
「これから我らは下準備に入る。まずは『材料』の調達だ。」

 この夜、最近テレビで取り上げられたばかりの研究施設に爆破事件が起こった。

64■■■■:2010/08/11(水) 00:59:17 ID:UqvgbMGs
とりあえず以上で1st終わりです。
本当はDay 1st てしようと思ってたんですが
初心者以前の書き忘れというしょーもないミス
してました。

ちょっと読み返して見たんですがなんかすげー違和感です。
うん、やっぱところどころ雑な感じがしました。

こんなかんじで全体の1/3〜1/4ぐらいだと思います。
感想なり罵倒なり書き込んでくれるとありがたいです。
それでは失礼します。

65■■■■:2010/08/11(水) 10:15:31 ID:IMD6iyck
>>64
長編っぽいですね、GJです。
これで初めての投下とは恐れ入ります。これは期待のルーキー。
ミスを挙げるとしたら、基本的な事ですが会話文の最後に句点「。」は要りませんよ。
若干消沈気味なこのスレをどうか盛り上げてください。初投下乙です。


>>44
自分は『Liberta』、『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』 、『ビリビリメルトダウナー』、『垣根帝督の十番勝負』
あたりが面白いかな。ビリビリは今後どういう道を行くのか……パラレル系かな?

『灰姫』はもう別格すぎて比べられないような。あれを超える大作は、もう来ないんだろうなあ。
『並行世界』のtoto氏ってもう書いてないのかな。新作待ってるんだが……あと『とある暗部の未元物質』の続きはいつー?

66■■■■:2010/08/11(水) 11:06:00 ID:12sSAHXo
>>65
早速の感想ありがとうございます!
正直自信がなかったんでそういって
もらえるとうれしい限りです。

会話の最後の。は原作読み返すとたしかに
ありませんね・・・
ご指摘ありがとうございます!

67■■■■:2010/08/11(水) 12:09:32 ID:hPgmnA6Q
>>64GJ!今後に期待です

>>65灰姫は本当に傑作だし、自分にあのような作品が書けるとも
思いませんが・・・
ただ、そうやってこのスレの常連が何かの作品を神格化したり
比べられないって書くと後にすごく書きづらいっていうね

68タク:2010/08/11(水) 15:26:22 ID:Ko1mUr36
初心者さんとりあえずsageましょう

69■■■■:2010/08/11(水) 19:15:01 ID:hPgmnA6Q
>>64GJです。続きが楽しみです。

>>68作品に感想も言わないであげ足取りのような対応しかしないのもどうかと。
初心者の人が来にくい雰囲気作らないようにしましょう。

70■■■■:2010/08/11(水) 21:21:16 ID:12sSAHXo
>>68
すいません、注意書きのところ
スルー状態でした。
ご指摘ありがとうございます!
>>67 >>69
ありがとうございます!
続きがんばります!

とりあえずsage入れてみたんですが
こんな感じでよろしかったでしょうか。

あと、実はストックが全体の半分ぐらいまでは
ありまして、ある分はあげておいた方がいいのでしょうか?
なんか長文を続けてあげると読み手がしんどい気が
するんですが・・・
ちょい判断つきかねます。

71■■■■:2010/08/11(水) 23:30:09 ID:UmbdJDLI
64>GJ 物語のテンポも良く、これからの展開が楽しみなSSですね。
オリキャラも自然と物語にとけ込んでいる感じがします。初めての
投稿だということですが是非とも完結を目指して頑張ってください。
>70のレスのことですが、自分の好みでは今回の半分ぐらいの量で
定期的に投下される方が「大量投下+長いインターバル」より読み
やすいです。ただこれは自分の好みですから無理せずマイペースで
いくのが良いと思います。

72■■■■:2010/08/12(木) 00:08:50 ID:bazgpxnA
>>71
なるほど、たしかにその方が
いいような気がしてきました。
できてる分は見直してから
時期見て投稿しようと思います。
感想&ご指摘ありがとうございます!

73■■■■:2010/08/12(木) 00:27:06 ID:gVBQ54Zk
なんかスレの流れが急激に良くなったな。
ちゃんとスレや小説読んでる人がいたと分かってほっとした。
やっぱ感想言い合うのは大事だな。
一日張って全部に返してるる64のおかげもあるのかだが。

>>64
描写が詳しくて良。
ただ、緊迫した場面(リアが襲われる場面など)で改行、一行空けや、効果音などを試してみてはどうだろう。
淡々としていて、地の文と台本のト書きの中間みたいな感じに見えてしまうので。

内容的にはこれから、って感じなので大したことは言えないが、66に追加して書き方の補足を。

! や? の後は全角ひとつ空ける。
アラビア数字と漢数字を混合しない(漢数字統一が良)。

せっかく文頭一字空け、などの小説の書き方を試みている作品だったので。

74かぺら:2010/08/12(木) 00:34:53 ID:4ThSz2bc
こんばんは。
Libertaの7話置いていきます。

0:40より9レスほどお借りします。

75名前1:2010/08/12(木) 00:40:53 ID:4ThSz2bc
「この辺りで布教するのは困難を極めますから」
 街を歩く修道女が1人。元々美しかったであろう彼女の髪はあちこちが痛んでいる。
 擦り切れた修道服や格好を見るに、自分の見た目にまるで興味がないようだ。
 それでも、彼女は楽しそうに笑っていた。
 自分で語るほどの困難が眼の前にあるというのに、笑っているのだった。
(ですが、その困難を乗り越えてこそ、真の布教になりますので)
 身体をクネクネと踊らせ、一見不審者のようにも見える修道女、リドヴィア=ロレンツェッティはある街を目指していた。
 街と言ってもローマやヴェネツィアといった都市を指しているわけではない。
「ここからですので」
 そう呟いたリドヴィアが目をやる通路は、周りとは一線を画した場所であった。
 イタリア郊外にあるその街は、周りの雰囲気から一変した構造をしており、醤油の匂いが漂っているようにも感じる。
 日本人街。
 街と言うよりも集落という言葉が正しいそれは、特に日本的な地名があるわけではない。
 それどころか、日本人街ですよーという看板があるわけでもない。
 しかし、見る人が見れば100%日本っぽいと言えるような場所であった。
 『日本人同士集まった方が便利だし、住みやすいじゃん』というすこぶる人間的な理由で、集まって住んでいるだけの街。
 田舎に行くと同じ一族で固まって住んでいるのと同じようなものだ。
 そんな日本人街をリドヴィアは歩いている。
「ふふふ。余所者を見るような視線ですので」
 リドヴィアがちらりと目線を向けると、開いていたカーテンがシャッと閉まる。
 基本的に無宗教である日本人には、十字教のウケはそれほど良くはない。
 他に比べて排他的であるローマ正教であれば尚更、それは顕著となる。
「この不条理さこそが私の原動力となるのですから―――と、あれは?」
 リドヴィアは暗い場所を見るように目を細める。
 誰もいないと思っていた通路の影に、1人の少年が立っていた。
 見た目10歳くらいの少年の服は所々が破れており、元々クセのあるであろう茶色い髪はより一層ボサボサになっていた。
(最近増えてきたという、ストリートチルドレンですので?)
 リドヴィア=ロレンツェッティは目の前の少年の姿に困惑していた。
 それは『この場所』にとって、異様な光景だった。
 ボサボサした茶髪の少年は『興味深そうに』こちらを見ている。
「ねぇ。お姉さんは、十字教のひと?」
「そうですが。何……でしょうか?」
(物好きな子なので)
 慣れない好奇の目にあてられて困り顔を作りながら、リドヴィアは少年の目の前に腰をおろした。

76名前2:2010/08/12(木) 00:41:11 ID:4ThSz2bc
 興味深い目で見られる。
 ある人にとっては楽しく、またある人にとっては嫌になるような、そんな状況。
 だが、リドヴィアは純粋に驚いていた。
 この日本人街でこのような目で見られるのは珍しい事だった。
 それよりも何よりも『権力』で飾られてしまったローマ正教において、子供が修道士に声をかける事自体が異常だった。
「あなたは、何とも思わないのですか?」
「どういう、こと?」
 キョトンとする少年の肩に、リドヴィアが手を置く。
「名も知らぬ修道女を前にして、あなたは怖くないので?」
「怖くなんて、ないよ」
 少年の表情はどこまでも真っ直ぐだった。
(強がりとか、そういうものではないようですから)
「『何もできない』事に比べれば、怖いものなんてないよ」
「そうですか………」
 リドヴィアは顔を伏せる。
 たかが子供の言葉ではある。人によっては異教徒の妄言だと切って捨てるかもしれない。
「自由に暮らすにはどうすればいいの?」
「自由?」
 リドヴィアは軽く目を見開き、少年の目を真っすぐに見つめる。
 少年の目は真剣だった。
「自分や身の回りの人の自由くらい、守れる強さを手に入れるには、どうしたらいいの?」
「…………」
 リドヴィアは鞄に詰め込んでいた聖書を取り出す。丁寧に装丁されたものではない表紙が風でペラペラとめくれる。
「『そんなもの』じゃなくて」
 少年はバッサリと切り捨てる。
 一歩間違えれば異端者として抹殺されそうな勢いで。
 一瞬、リドヴィアの顔に複雑な感情が浮かぶ。
 それでも、少年の目は揺れない。
「覚悟はあるので?」
 リドヴィアは少年の目を見る。
 こくん、と頷く少年の目は、やはり揺れていなかった。
 ついてきなさい、とリドヴィアは踵を返す。
 少年は一瞬の躊躇いの後、日本人街を振り返る。
 そして小さく何かを呟くとリドヴィアに続いた。
「あなた、名は何というので?」
 とある教会に向かいながら、リドヴィアは後ろについている少年を見る。
 俯いていた少年が顔を上げ、ボサボサの髪が揺れる。
「てる………雨宮、照」
 とある少年の運命に、魔術が交差する。

77名前3:2010/08/12(木) 00:41:22 ID:4ThSz2bc
「お久しぶりですね」
 暗い部屋の中に、軽い声が響く。
 その声に反応するように、白い修道女が振り返る。
「あぁ、久しぶりなので。無事に魔術師となったと聞いたのですが?」
「ええ、お陰さまで、ですよ」
 カラカラと笑う雨宮に、リドヴィアは小さく溜息をついた。
 日本人街での邂逅から1年。魔術師としての訓練を受けていた雨宮は久々にリドヴィアに遭遇した。
「あなたのその真剣味に欠ける顔はどうにかならないので?」
「いやいやぁ、元々こんな顔なんですけど」
「はぁ………会った頃のあなたはもっと真面目でしたから」
 やれやれとでも言うかのように肩をすくめるリドヴィア。
 酷い、と涙目になりながら、雨宮は肩を落とす。
(相変わらず変わった子なので)
 リドヴィアはもう一度溜息をついた。
 この1年間で雨宮は大きく変わった。少なくともリドヴィアはそう感じていた。
(よく笑うようになりましたから)
 感情のない顔でいることが多かった雨宮も、最近はかなり笑うようになった。
 リドヴィア自身、そのことは良いことだとは思っている。
 例えそれが表面上の、空元気の様な笑みで会っても、終始無表情よりははるかにマシだ、と。
 人を一定以上近づけない事以外は―――。
 リドヴィアは少しだけ口元を緩めると、雨宮の顔を見る。
 相変わらず奥の見えない、そんな目をしていた。
「魔法名は、決まりましたか?」
「はい?」
 唐突に聞いたせいか、雨宮は一瞬だけキョトンとした顔を作ると、慌てたように手を振った。。
「あ、あぁ、ま、魔法名ですかっ? caelum237―――空に羽ばたく者、です」
「―――それが自由を求める為の名、と?」
 リドヴィアの言葉に、雨宮が笑う。
 いつもと同じで、いつもと違う顔。
 少しだけ真剣味を足した、そんな笑顔だった。
「いやいやぁ、求めるだけじゃ駄目なんです。この世界の全ての人が『自由』であるようにって」
「……………そうですか」
 リドヴィアは目を背ける。
(言うだけタダ、とは言いえて妙ですから)
 世界の全て、そう言うのは簡単なことだ。
 単純に『世界征服』を宣言するだけなら、七夕の短冊に書く程度の覚悟でもできる。
 だが、実際にそれを目標として、願いとしてそれを掲げるのは容易ではない。
 世界平和。
 その気にならなくても、世界の多く人が同じことを望むだろう。
 『争いのない、平和な世界でありますように』と。
 それでも―――
(十字教の闇は、あなたが思っているほど簡単に拭えるものではありませんので)
 リドヴィアは口に出さない。
 教え子の夢を削らない為ではなく。
 自身が信じたくないその『事実』を、口に出したくはなかった。

78名前4:2010/08/12(木) 00:41:38 ID:4ThSz2bc
「ま、まだまだ修行中の身なので、これから頑張るんですけどね」
「そうですか」
「目標は大きすぎて越えれそうにないような山ですが」
 雨宮はカラカラと笑う。
「その為なら、俺はなんだってやろうと思います」
(良い目をするようになりましたので)
 リドヴィアは思う。
 犯罪者であれ、異教徒であれ、自分の目指すものを語る時の目は良いものだと。
 そこに辿りつく為の手段を与えることで、自らの『布教』は完成すると。
「目の前の壁が高いほど、越えた時の喜びは増すものですから」
 『告解の火曜』と呼ばれる女の本質。
 雨宮は彼女の言葉に頷く。
「………そういえば、あなたに関して妙な情報を聞いているので」
「妙な情報、ですか?」
 話の流れを断ち切るように、リドヴィアはポンッと手を叩いた。
「なにやら『実験』をするとかいう………」
「―――ッ!?」
 その途端に、雨宮は隠し事がバレた時の様な苦笑いを浮かべる。
「あ、あははははは」
「人の手で『聖痕』を作りだすなんて、主の教えに反するあるまじき行為ですので」
 苦笑いを浮かべ誤魔化そうとする雨宮に、リドヴィアはピシャリと言い放つ。
「そもそも、そんな実験に参加する意義は何ですので?」
 ふんっ、と鼻を鳴らす勢いで怒るリドヴィアを宥めるように抑える。
「それほど科学がお嫌いですか?」
「嫌いではなく。単純に私の目的のために攻略する対象だとは思っている程度なので」
 雨宮は小さく溜息をつくと、踵を返した。
「この実験に協力すれば……俺と同じ境遇の人を助けてくれると、それがローマ正教の出してきた条件です」
「科学を否定しながら、科学に手を染めるので?」
「俺は否定してませんよ。科学も、ローマも、ロシアも、イギリスも。等しく自由であるべきものでしょう?」
 リドヴィアに背を向けたまま、雨宮は右手を握りしめた。
「理想論かもしれませんが、ローマ正教の方針とは異なるものですから」
「例え貴女と道を違えても、俺のやるべきことは1つです。この胸に刻んだ、魔法名にかけて」

79名前5:2010/08/12(木) 00:41:48 ID:4ThSz2bc
「うぐぉぉおおおおおおおおおおおおおぁァあああああぁぁあぁアァァァァッ!!」
 ゴバァァァァッ! という轟音が響き、ある教会の暗い部屋に爆発が起こる。
 爆心地となった手術室の様な部屋は勿論、それを内包していた教会ごと吹き飛ばすほどの爆発。
 ありとあらゆるモノが吹き飛び、爆風がガラスを粉砕し、中にいた人間を蹂躙する。
 いきなり超大型台風が直撃したような爪痕を残し、内側から吹き飛んだ教会は機能を停止したように静かになっていた。
「ッ、は………ば、カなッ……」
 火薬ではない、純粋なる魔力の暴発によって壊滅した瓦礫の中から、人が一人現れる。
 責任者として参加したこの実験は、最悪の事態を招いていた。
 科学者・パウラ=オルディーニは、所々が赤く染まった白衣を纏い、右手で顔を抑えてよろよろと千鳥足で動き回っている。
「そんな………ワタシの理論に、も、問題はナ、なかったはずッなのに」
 崩れ落ちた残骸を踏み散らし、よろよろと歩く白衣の女はその場に膝をついた。
 地面に落ちていたガラス片に顔が映る。
(んなっ!?)
 真っ赤に染まり、自分のものと思えないほど歪んでしまった自らの顔に驚愕する。
 ぶんぶんと首を振り、周りを見る。
 さっきまで同室で実験を行っていた技術者達の姿は見えない。
(生きてるのは、ワタシだけ、です、か?)
 じゃり、と踏みしめる音に気付き、パウラはそちらに目をやる。
「………ん、だよ………これ、は」
 立ちあがったそれは、先程まで自分が扱っていた実験体。
「うおぁぁああああああああああああああァァァァァァァァァァァッ!!」
 赤く血走った目をしたそれが大きく咆哮をあげる。
 周囲に強烈な魔力の奔流が起こり、形あるものが崩れさる。
(この力、コントロールはっ、できてない、のかッ………)
「たかが、実験体のクセにッ」
(実験は、成功、してるっ………力の制御さえ、でき、ればっ)
「たかが実験動物の分際で、調子に乗るなよぉぉぉ」
 白衣の女は吠える。凄惨な事件の中心に立っている怪物に向けて。
「こ、んの野郎がァァぁぁああぁぁッッ!!」
 満身創痍である事も忘れて、パウラは叫ぶ。近くに落ちていた金属のパイプを手に取り、暴走する実験体に投げつける。
 勢いよく放たれたパイプはヒュンヒュンと風切り音を立てて、直立不動の怪物へと向かう。
 
 ギロリ。

 ぬるりと動いた少年だったものの目が、投げられたパイプと、その先にいるパウラを捉える。
 焦点の合っていないような目が、少しだけ見開かれた瞬間、そよ風と呼ぶには強烈すぎる何かが、パウラの横を通り過ぎた。
(……な、)
 ぼとり。肉の塊をまな板に落とした時の様な鈍い音が、鼓膜を揺らす。
(にが―――!?)
 生温かい何かに気付き、パウラは自分の足元を見た。
 右腕。
 金属パイプを掴み、投げつけた腕が落ちていた。
 まるで捌きたての魚のように、ビクビクと脈打っている。
「あ、あああ。あぉぉおあおおぁぁぁ」
(そ、んな、ナ、なにが、起こっていると)
 パウラの視界ぐるりと回る。
 どちらが前で、どちらが右なのかも分からない。
(ワタシは、殺される、のですか?)
 前後左右どころか、上下も分からなり、身体がふらりと揺れる。
 瓦礫だらけの地面に倒れ伏せ、落ちていた教会の破片がパウラの身体に突き刺さる。
 痛覚さえ麻痺してしまった状態で、パウラは視界の端にそれを捉えた。
 青いゴルフウェアの様なものを纏った、屈強な何かを。
 パウラ=オルディーニの意識はそこで途絶えた。

80名前6:2010/08/12(木) 00:41:59 ID:4ThSz2bc
 ゆったりとした何かに寝ているのに気付き、雨宮は薄く目を開ける。
 白い天井が一面に広がっている。
「病院……じゃ、ない、か」
 軋む身体を無理矢理に起こし、辺りを見る。
 教会の一室だろうか、それなりに広いその空間には色々なものが置かれている。
 部屋を見ればその主の性格が分かるというが、この部屋は教会に住まうような十字教徒のそれとは少し異なっていた。
 質実剛健。その言葉が似合う部屋は必要なものしか置かれていないように見える。
 青を基調としたものが多い中で、茶色い高級感あふれる小瓶が並べられている。
「気付いたか」
 低い男の声が、入口の戸から聞こえてくる。
 青いゴルフウェアのような服を着た男がそこに立っていた。
「………貴方は?」
「アックア」
 『神の右席』である男は雨宮の顔をを一瞥だけすると、部屋の奥へと入り、古い椅子に腰をかける。
「何が、あったんですか?」
「覚えてないのであるか?」
「ええ、まったく」
 ふん、と鼻を鳴らし、アックアは棚に並んだ瓶に手を伸ばす。
 いちばん古そうな未開封の瓶に手を伸ばしたところで、アックアは一瞬ためらうとその隣にあったものを手に取った。
「聖人に近しい力を得た貴様は、その力を制御できずに魔力の爆発を招いたのである」
「……実験は、成功したってことですか?」
 雨宮は力の入らない身体をよろよろと動かし、ベッドに座り直す。
 アックアは瓶に口をつけ、琥珀色の液体を飲む。
「二十余名の犠牲者を出して成功と言えるのなら、な」
「っ………」
 アックアは感情の読みとれない顔で酒を飲んでいる。
「俺は……どうすればいいんですか?」
 雨宮は嗚咽の漏れそうな声で小さく漏らす。
 はからずも、自分が人の命を奪ってしまった事に。
「まずは自身の力の制御法を学ぶしかないのである」
 アックアは小瓶のふたを閉めると、部屋の奥に立てかけてあった長いものを手に取った。
 3メートルはありそうなそれは、古ぼけた布でぐるぐる巻きにされている。
「これを貴様に渡しておく」
「重っ!?」
 古ぼけた布をとると、そこに現れたのは巨大な鉄槍だった。
「聖人の力を制御するのに役立つであろう」
「……はぁ」
「明日から私が稽古をつけてやる」
 アックアは椅子に腰をかけると、再び酒を飲み始めた。
「今日は?」
「今日は飲みたい気分なのでな」
 アックアはちらりと雨宮を見ると、小さく息を吐いた。
「貴様も飲むか?」
「いえ、遠慮しておきます。っていうか、未成年です」
 ふん、とつまらなさそうに鼻を鳴らすアックアに、雨宮は苦笑いで応えた。
(結構、高級な酒が並んでるよなぁ……)
 雨宮は棚に並んでいる酒のラベルに目をやっていく。
 彼には知る由もないが、とある男との因縁めいたものも並んでいた。
「そういえば、貴方は……どうして、俺を助けてくれたんですか?」
 雨宮の言葉を聞いて、アックアは小瓶をテーブルの上に置き、ふぅと息を吐いた。
 緊張感のある思い空気が漂い始めたころ、おもむろにアックアが口を開いた。
「悲しみ涙を暖かいものに変える事。それが私の刻む名であるからな」

81名前7:2010/08/12(木) 00:42:23 ID:4ThSz2bc
 茶髪の少年が高校生になった秋の初め。
 ローマ正教は学園都市との抗争の準備に着手していた。
 学園都市、ひいては『幻想殺し』上条当麻を本格的に危険因子と認識したローマ正教上層部が裏で動き始めていた。
(目標近く…………警備は割と手薄、か)
 街が静まり返り、日本でいえば丑三つ時と呼ばれる頃、雨宮は暗闇に紛れていた。
 魔術的プロテクトの合間を縫い、とある施設に侵入する。
 牢獄。
 檻や拘束具の置かれた、いわゆる『魔術的牢獄』である
 物陰に隠れ、雨宮はちらりと施設の奥を見る。見回りをしているのは気だるそうな2人だけのようだ。
(頑張り過ぎると目立っちゃうけど……)
 ふぅ、と小さく息を吐くと、雨宮は物陰から飛び出し警備員に接近する。
「んなっ!? だ、誰―――」
 文字通り一瞬で警備員を昏倒させ、雨宮は目的の場所へと向かう。
「…………テメェ、何しに来やがった?」
 雨宮が訪れた場所。そこは、犯罪者を拘束する為の牢獄であった。
「騒ぎになるからいちいち声に出すなよ」
 雨宮は牢屋の中の異教徒たちを見る。
 特に魔術に携わっている人間ではない。
 もっといえば、犯罪者ですらない。
 女子供、なんでもない観光客までいる。
 『異教徒の改宗を促すから』と言われ、雨宮が連れてきた人間だった。
「理由あってお前をココから出す。バレないようにさっさと逃げてくれ」
 雨宮は警備員から奪った鍵を使い、牢の戸を開く。
「罠じゃねぇだろうな?」
「わざわざ侵入してまで罠にかけてどうすんだよ」
 警戒を抱いた目で睨む異教徒の人たちに、雨宮は溜息をついた。
「俺を捕まえたアンタが、どうして俺を逃がすんだよ?」
「俺だって、こんなとこに『捕まってる』とは思ってなかったよ」 
 警戒しながらも牢から出てきた男の言葉に、雨宮は口を閉じる。
「――――――あるんだよ」
「はぁ!?」
 聞こえねぇよ、と異教徒の男は続ける。不安からか、妙にイラついていた。
「世の中には、知らなくていい事もたくさんあるんだよ」
 雨宮はそれだけ言うと、異教徒の男に向けてしっしと手を振った。
「さっさと逃げろって。また捕まるぞ」
「……………」
 捕まっていた人たちは何かを言いたげな顔で立っていたが、暫くすると諦めたように走り去って行った。
「そう。暗部なんて、知らない方が良い世界もあるんだよ」

82名前8:2010/08/12(木) 00:42:34 ID:4ThSz2bc
 奪い取った鍵を警備員に返し、侵入の痕跡を消した後、雨宮は牢獄を後にした。
 月の光のない街は暗く、自分以外の人が歩いている気配はない。
(っと、あれ、は?)
 雨宮は暗がりに目を凝らす。地面の真ん中に何かが転がっていた。
 不自然に転がされたそれは、人の様なシルエットをかたどっており、大きさはちょうど『さっき逃がした男』くらいであった。
(この匂い………まさか)
 鉄の様な匂いを感じ、雨宮はそれに近付く。
 頭の中で警報機が鳴り響き、状況の異常さを警告している。
「おやおや。こんな所でお会いするとは、奇遇ですね―」
「―――ッ!?」
 倒れている何かの近くの路地から、唐突に声が飛ぶ。
 雨宮は殆ど反射的に、その声から逃げるように距離をとった。
「暇ではないので暇つぶしに、とはいきませんが。少しお話を窺わないといけませんねー」
 穏やかに笑いながら、緑色の男は右手を振った。
 白い粉の様なものにまみれたその右腕に誘導されるかのように、『白い刃』が雨宮を襲う。
「ぐぅっ!?」
 雨宮はその場から真横に飛ぶと、その勢いのまま地面を転がり体勢を立て直す。
「アンタが……異教徒殺しの黒幕か?」
「ふむふむ。そこまで調べているとは感心ですねー」
 緑色の男は飄々とした表情のままで頷いている。
 雨宮はギリッと歯噛みした。
「改宗を促し、救うために捕縛したはずだ! それを、どうして殺す?」
「おやおや。良い敵意ですねー。ヴェントがいればさぞ喜んでいたでしょう」
 緑の男は睨み付けている雨宮を無視するかのように微笑んでいた。
「異教徒の豚に情けなど必要ないのですし。私が救うのは同じローマ正教の者だけですから」
「アンタ、本当に人間か?」
 信じられないと言った表情で、雨宮は緑色の男を見る。
「今のところはそうですねー。我々はその上を目指しているのですがねー」
「な、何を言っている?」
 男の言葉の何一つ理解できない、といった表情で固まる。
(人間以上? セフィロトの樹の根底でも崩すつもりか?)
「おやおや。アックアからは何も聞いていないのですか?」
 男は心底意外そうな顔をすると、何が可笑しいのか、クックと笑いだした。
「私の名前は左方のテッラ、後方のアックアと同じく、『神の右席』の1人です」
「は?」
 雨宮はキョトンとした顔のまま、その場に立ち尽くす。
(神の右席? 後方のアックア?)
「聞いていないかもしれませんが、貴方はここで寝てもらいますよ」
 雨宮の前に、白い刃が舞う。
「優先する。―――小麦粉を上位に、人肉を下位に」
 赤い鮮血が、雨宮の視界を覆った。
「牢にでも入れておいてください。特別製のそれじゃないといけませんがねー」
 テッラは控えていた部下に指示すると、踵を返して路地の奥へと帰って行った。
「『光の処刑』の調整は完璧とは言えませんが、まぁいいでしょう」
 そういうと懐から蝋で閉じられた羊皮紙の様なものを取り出す。
「これがあれば、なんとかなるのですからねー」

83名前9:2010/08/12(木) 00:42:44 ID:4ThSz2bc
(くっそ……)
 雨宮は特別製の牢の中で歯噛みしていた。
 先日の行動により捕縛されてしまい、牢獄の最深部に幽閉されたのだった。
(また手の込んだ牢を用意してくれたもんだよなぁ)
 雨宮は自らを囲む牢の作りに目をやる。
 普通の、一般的のそれとは違い、あちこちに独特の意匠の装飾が施されている。
 それらが示す魔術的意味合いは『拘束と処刑』。
 対聖人用に特化した、特別製の牢であった。
(ローマ正教、か………)
 雨宮は力なく牢の地面を叩く。
 何が起こるわけでもないが、なんとなく、そうしたい気分だった。
 ローマ正教に入り、魔術師となり、人体実験を受け、さらに力を制御する為の訓練を受けて数年。
 自らを含めた、世界中の人に自由をもたらす為として生きてきたつもりだった。
(それが…………)
 改宗させる為に教会に連れて来た異教徒の人間は、あろうことか術式の的になっていた。
 恐らく、自分が実験を受ける対価として要求した子供たちも、秘密裏に消されているのだろう。
(まさか、こんな暗部があるなんてな)
 雨宮は自嘲する。
 何も知らない方が良かったのか、全てを知った方が良かったのか、それすら判断できない。
 下唇を噛んでみても、自分が間接的にでも虐殺に関わった事実は消えない。
「一体何が出来んだよ……」
 口から洩れる独白が、余計にその事実を突きつける。
 現状、世界的に巻き起こるデモを始めとした争いに身を焦がす人がいる。
 自らの故郷であった日本人街は、早々に片づけられてしまった。
「………相容れないってのかな。魔術と、科学と」
 溜息をつく。
(情けないな)
 雨宮は落胆する。
 何もできないどころか、間接的にでも人を殺してしまった自分に。
 日本人であって、ローマ正教である立場の自分に。
 魔術側でありながら、科学で染まった自分に。
「どう、するかな」
 このままローマ正教に居たとすれば、望まぬ争いに首を突っ込む事になるだろう。
 同じ日本人を。
 否、同じ人間を手にかける事もあるかもしれない。
 求めた自由は、死によってもたらされるものではないはずだった。
「学園都市、か」
 雨宮は弱々しくも立ち上がる。
 影から長い鉄槍を取り出し、構える。
 聖人の弱点を緩和する為に敢えて持っている弱点に、力を込める。
「お、おおおおぉおおおおおおおおおおおおおぁぁぁぁっ!!」
 牢を破り、施設から飛び出る。
 自由に羽ばたける世界に向けて。
 目指すは、科学の総本山。

84かぺら:2010/08/12(木) 00:44:50 ID:4ThSz2bc
以上です。
感想批評お待ちしてます。
今までは自分語り的になりそうなので、コメ返とかしてなかったのですが、
以後、少し気をつけます。

>>64
黒服さんが何をたくらんでいるのか、オリキャラがどう絡んでいくのか。
楽しみにしています。
一緒に頑張っていきましょう!

85■■■■:2010/08/12(木) 11:58:09 ID:1g6n/5pQ
>>84
かぺらさんGJ。PART9でもよろしくお願いします。
雨宮ストリートチルドレンだったのか……結構重い過去でしたね。
テッラが普通にテッラで安心しました。本当にテッラさんはローマ正教徒の鑑ですねーww
雨宮が求める「自由に羽ばたける世界」が学園都市にあるのかは、さてどうなんでしょうかねぇ
次から戦闘再開ですかね。上条さんの説教にも期待です。

連載頑張ってください。皆でこのスレを盛り上げていきましょう!

86■■■■:2010/08/12(木) 12:17:46 ID:HBSNwhH6
流れの便乗して投下させて貰います。

以前短編を一つだけ書かせて貰った者です。

長編は初めてなので期待はしないでください。

題名は『禁竜召式(パラディンノート)』です。

87■■■■:2010/08/12(木) 12:19:22 ID:HBSNwhH6
十月十四日 英国某所

薄暗い灰色の空の下、人通りの少ない旧歩道の街路樹の横。本格的に肌寒くなってきた季節感の中、郊外路に景色に合わない東洋系の少女が佇んでいた。
「はぁ……、超ついていませんね」
絹旗最愛は脱力して息を吐いていた。
太腿の露出度が半端じゃないウール地のワンピースが目を引く十二歳程度の少女。申し訳程度のポシェット以外は目に付く装備品は無く、とても海を渡ってきたようには見えない。
(まったく。学園都市も超信用できた物じゃありませんね)
彼女が学園都市を離れ『異国の地』を踏んでいる理由。それは絹旗が独立記念日に発生した事件の復帰後初仕事『星門計画とか言う計画の残党、及びその首謀者の抹殺』を命じられ、その首謀者たる男の隠居、つまり英国へ行ってこいと『上』に言われたために他人との会話すらままならない『異国の地』へと遠路遥々やって来た訳である。しかし、つい先程『仕事を終え』、指定された座標にて学園都市の迎えを待っていた絹旗だが幾ら待っても一向に迎えが来なかったため、安を辞して学園都市側へ連絡を取ってみると、
『ちょっとごたごたが起きてましてね。迎えは三日後ぐらいになりそうです』
案の定、こんな返事が返ってきた。そして現在に至る。
話を纏めると、要するに『英国で時間潰せ。迎えは三日後によこす』と言われた絹旗であった。
「能力者を『外』に三日間も超放置するなんて、一体どんな『ごたごた』なんでしょうか?」
絹旗は改めて溜息を吐き、とりあえず泊まれるホテルを捜すのが先決か、と今にも崩れそうな曇天を見上げ歩き出した。




同時刻、イギリス清教女子寮内

「ほんっと、ついてねえです」
アニェーゼ=サンクティスは脱力して息を吐いていた。
今、彼女の目の前にあるのは大量の洗濯物。しかも全て未洗状態。
本来この大量の洗物はアンジェレネが処理するはずだったのだが、どうゆう因果か彼女は朝から風邪を拗らせてとても動けるような身体状況では無く、「代わりに洗濯する人はくじ引きで決めましょう」という事になったのだが、
「それで二五〇人以上の可能性を潜り抜けて私に当たるなんて……だれか仕組んだじゃあないですかね?」
これまたどうゆう因果か、約二五〇分の一の当たりくじを彼女が引いてしまった訳であった。そして現在に至る。
「あー、めんどくさい。アンジェレネ叩き起こしてやらせちまった方が楽ですね。マジでそうして……いや、どうせアンジェレネの看病にルチアが就いてますし。実行は無理そうですね……」
割と本気でブツブツ言いながら水道の前で巨大な布塊を処理に取り掛かるアニェーゼ。そのほとんどは修道服で、水を吸うと異常に重くなるためアニェーゼの細腕では色々と限界がある。(洗濯機も有るには有るが、現在は故障の疑いがあるため放置)
「あー、ほんっとついてねえです」
じゃぶじゃぶとした水の音のみがその場に響いていく。

88■■■■:2010/08/12(木) 12:32:58 ID:HBSNwhH6
すいません。

まだまだ続きはあるんですけど次の投下スレがNGワードに引っ掛かってるみたいです。
どこが引っ掛かってるのか分からないのですが......

89■■■■:2010/08/12(木) 14:11:40 ID:1g6n/5pQ
>>88
ドンマイとしか言いようがないですね、南無南無。
折角、未来の良作の雰囲気が感じられたのに、残念です。
問題解決に役立つ情報は何一つ持ってませんが、復活をお祈りします。
ちなみに、以前投下した短編というのは? ちょっと気になったので、タイトルを教えて貰えないでしょうか

90助手席が気になる運転手 ◆Bqlg7BwZKs:2010/08/12(木) 14:42:24 ID:XLdOHgsM
何やらNGワードで一旦止まってるようなので場繋ぎにVIP用に書いてたネタでも
や、単にお盆の巻き添え規制で向こうに投下できなくなっただけなんですけどね……
なのでいわゆる小説ではなく会話だけで進む形式のSSになってます

91佐天「こ、こっから先は一方通行だァ!?」美琴「えぇー!?」:2010/08/12(木) 14:44:08 ID:XLdOHgsM

放課後、学校帰り
佐天「はぁ、来週は身体検査(システムスキャン)かぁ……」

佐天「どうせまたレベル0って判定されちゃうんだと思うと気が重いなぁ」トボトボ

黄泉川「んー? 憂鬱そうな学生が居ると思えばいつだかの講習生じゃん」

佐天「え?」

カクカクシカジカ
黄泉川「なるほど、事情は大体分かったじゃん」

黄泉川「何をクヨクヨしてるかと思えば……あの講習で少しはマシになったかと思ってたじゃんよ」

佐天「いや、別にまた後ろ向きになってるとかじゃないんですよ?」

佐天「ただ、こう、ハッキリと0って数字を見せられるとどうにもへこむというかなんというか」

黄泉川「まあ、一理有るのは認めるじゃんよ」

92■■■■:2010/08/12(木) 14:46:01 ID:XLdOHgsM

黄泉川(小萌先生ならこう言う時何か上手いアドバイスでも出来るんじゃんよ……)

黄泉川(けど生憎私は能力開発はそれほど詳しく無いじゃん)

佐天「え、えーと、だからその大丈夫なんで! そりゃ確かにちょっとテンション下がってましたけどほんと平気なんで……」

黄泉川(何か元気付けてやれるようなことがあれば……そうじゃん!)

佐天「……あの、聞いてますか?」

黄泉川「お前、佐天だったか? 明日暇じゃんよ?」

佐天「……はい?」


翌日、黄泉川のマンション前
佐天(で、何で私はここに居るんだろう……)

佐天(いや、あの後強引に明日うちに来いって押し切られたんだけどさぁ)

回想〜
黄泉川「うちに能力開発に詳しい居候がいるじゃんよ」

黄泉川「口も目付きも悪い奴だけど、あれでなかなか面倒見のいい所があったりするじゃんよ」

黄泉川「だから明日うちに来て相談してみるといいじゃんよ?」
〜回想終わり

佐天(まあ、ダメ元で相談するくらいなら、ね……?)

93■■■■:2010/08/12(木) 14:47:53 ID:XLdOHgsM

黄泉川の部屋
一方通行「で? 誰だオマエ」ギロ

佐天「ひぃ!?」ビクビク

黄泉川「一方通行、初対面の相手にそれは可哀想じゃんよ」

一方通行「あァ!? そもそも何で俺がこんなガキの相談相手なンざしなきゃならねェンだ」

黄泉川「だってお前霧ヶ丘付属に在籍してたぐらいの能力開発のスペシャリストじゃん?」

佐天(霧ヶ丘付属って常盤台とか長点上機とかと張り合えるぐらいのエリート校じゃ!?)

一方通行「オマエなァ……本人のレベルの高さと能力開発カリキュラムへの詳しさなンつゥもンは別もンだろうがよォ」

黄泉川「もうすぐ身体検査じゃん? この子、なかなかレベルが上がらなくて自信が無いんじゃんよ」

一方通行「人の話聞いてますかねェえ!?」

94■■■■:2010/08/12(木) 14:49:21 ID:XLdOHgsM

一方通行「チッ、おい」

佐天「は、はは、はい! 何ですか!?」オドオド

一方通行「オマエのレベルは? それと何の能力だ?」

佐天「う……その、」

一方通行「あン?」ギロ

佐天「ひっ、ぜ、0です! 私、無能力者(レベル0)ですぅ!」

一方通行「……はン、話にならねェな」

佐天「うぅ……やっぱり才能が無いんじゃどうしようもないですよね……」ショボーン

一方通行「ったく、0に何掛けても0だろうが。こんなんあのクソガキでも分かる簡単な計算だろうがよォ」

一方通行「黄泉川、一体何考えてこんな雑魚連れてきてンですかァ?」

佐天(ざ、雑魚って……何もそこまで言わなくても)ウルッ

黄泉川(いくらなんでも言い過ぎじゃんよ!?)ヒソヒソ

一方通行(何でこの俺がそこまで気をつかわなきゃならねェンだよ!?)ヒソヒソ

一方通行「……別に能力なンてあったからどうなるってもンでもねェだろ」

佐天「……ふぇ?」グス

一方通行「無能力者ってこたァ変なしがらみも責任も何も無ェって話だよ」

一方通行「下手なレベルの能力者よりよっぽど気楽だぜェ?」

佐天(……もしかして、フォローしようとしてしてくれてる?)

95■■■■:2010/08/12(木) 14:50:50 ID:XLdOHgsM

一方通行「そ、そォ、だからその……アレだ」

佐天(見た目は凄い怖い感じだけど……実は結構イイ人?)

一方通行「自分のペースでやるのがイインじゃねェの? ……多分」

佐天(そういえば黄泉川先生も実は面倒見のいい人だとか言ってたような……)

一方通行「あァー、なんだ、その……」

一方通行(なンだ? なンでこンなことになってンですかァ?)

佐天「そ、そうですよね、変に焦ったりするのはやっぱり良くないですよね」フフッ

一方通行「お、おォ」

佐天「あーあ、やっぱりダメだなぁ私。前にも色んな人に迷惑掛けて、心配掛けて……」

佐天「私、前に幻想御手(レベルアッパー)を使ったことがあるんです」

一方通行「……あン?」

96■■■■:2010/08/12(木) 14:52:06 ID:XLdOHgsM

佐天「能力が使えるようになったってことに舞い上がっちゃって」

佐天「初春……あ、その子は私の親友なんですけど、他にも御坂さんとか白井さんとかにまで迷惑掛けちゃって……っていきなりこんなこと言っても誰だか分からないか」

一方通行「おい、今なンつった?」

佐天「へ?」

一方通行「なンつったって聞いてンだろうがよォ!」

佐天(えぇー!? なんでいきなり怒ってんのー!?)

佐天「ごご、ごめんさない! すみませんすみません、本当に反省してるんです!」

一方通行「あァ? 何いきなり謝ってんだオマエ?」

佐天「……あれ? お、怒ってない……?」

一方通行「何に怒れってンだ? それとも単に怒られたいっていう変態さんですかァ?」

一方通行「いいからとっとと自分が言ったことをもう一度繰り返しやがれ」

佐天「え、えーと……御坂さんとか白井さんにまで迷惑を、」

一方通行「超電磁砲なンざどうでもいい、もっと前だ」

佐天「私の親友の初春?」

一方通行「もっとだ」

佐天「の、能力が使えるようになって舞い上がっちゃって?」

一方通行「それだ」

佐天(……ど、どれ?)

97■■■■:2010/08/12(木) 14:54:40 ID:XLdOHgsM

一方通行「ったく、それを早く言えってンだよ」

佐天「あ、あの? 話がよく……」

一方通行「さっき言ったばかりだろうが」

一方通行「0には何掛けても0なンだよ。才能が皆無だったら幻想御手でも能力は発現しねェ」

佐天「え、えーと?」

一方通行「0.5だか0.1だかしらねェが、オマエにはもうちゃンと能力があるっつゥことだ」


佐天「……え、えぇぇええーー!?」


一方通行「こォいう大事なことは先に言っとけ、黄泉川」

黄泉川「一方通行が勝手に話を進めたんじゃんよー」

佐天「わ、私にも能力がある……」

佐天「え、うそ、ほんとに……?」

一方通行「だからそォ言ってンだろうがよォ」

一方通行「おい、幻想御手で能力使ってた時のことは覚えてンのか?」

佐天「あ、た、多少は……」

一方通行(……自信さえ持てれば少しはマシになりそォだな、このガキ)

一方通行(問題はどォやって自信を付けさせるか。切欠なンざ何でもいいンだが……)

一方通行「黄泉川、あのパンまだあったよな?」

98■■■■:2010/08/12(木) 14:56:45 ID:XLdOHgsM

黄泉川「あのパンって、どのパンじゃん?」

一方通行「このあいだ打ち止めが面白半分で買ってきたあのパンだ」

黄泉川「あー、あのサプリがいろいろ入ったやつじゃん?」

黄泉川「何、お腹でも空いたじゃん?」

一方通行「なンで俺が食べンだよ。こいつが食うに決まってンじゃねェか」

佐天「はい?」

黄泉川「つうわけだから、はいこれ」

佐天「……脳を活性化させる十二の栄養素が入った能力上昇パン……?」

佐天(ええー……これ、効果あるの??)

黄泉川(つかあのパン効果あったんじゃん?)ヒソヒソ

一方通行(あァ? あるわけねェだろォがボケ。まあ見てろ)ヒソヒソ

佐天「あの、こんなパンで本当に効果が……?」

一方通行「ハッ、これだから無能力者は……」ヤレヤレ

佐天(そんなに大げさに呆れるほどなのー!?)

99■■■■:2010/08/12(木) 14:58:02 ID:XLdOHgsM

佐天(効果が無いことで有名なこのパンにまさかのレベルアップの秘密が……!?)

一方通行「能力の土台になるのは自分だけの現実(パーソナルリアリティ)だっつうことくらいは分かってンだよな?」

佐天「ど、どうにか……」コクコク

一方通行「じゃあ聞くがよォ、自分だけの現実てな一体何だ?」

佐天「……うぐ、や、その辺あんまりよくは……」

一方通行「チッ、まあそんなこったろォとは思ってたが……」

佐天(う、うぅ、何このプレッシャー)

一方通行「いいか、簡単に言うと信じることだ」

佐天「信じること……」

一方通行「思い込みなンて言い換えてもいい」

佐天(あ、なんか初春もそんなようなこと言ってたような……)

一方通行「自分は能力が使える、能力が使えて当たり前、そォいうのが最初の一歩なわけだ」

佐天「ふむふむ……」

100■■■■:2010/08/12(木) 14:59:47 ID:XLdOHgsM

一方通行「自分の能力を信じられねェ奴に能力は使えねェ」

一方通行「っつうわけでこのパンだ」

佐天(いや、だからどんなわけでこのパン!?)

一方通行「サービスだ、先に言っておいてやる。このパン、効果あンぞ」

佐天「マジですか!?」

一方通行「なァオイ、そこの黄泉川のこと、どの程度知ってンだ?」

佐天「えぇ? あー、いや、特別講習の時に少しお世話になったくらいで……」

一方通行「じゃあこいつは人を騙すような人間だと思うか?」

佐天「い、いえ。そんなことは無いんじゃないかなぁって」

一方通行「なら俺は?」

佐天「はいぃ? や、えーと、黄泉川先生が紹介してくれた人だし、その……」

佐天(え、何、何でいきなりこんな会話? さっきまでこのパンの話だったよね!?)

一方通行「十分だ」ニィ

101■■■■:2010/08/12(木) 15:01:25 ID:XLdOHgsM

一方通行「てめェが自分を信じられない、自信が持てないってンなら……」

一方通行「……この俺を信じろ」

佐天「あ……は、はい……」

一方通行「じゃあ食え」

佐天「へ? あ、ああはい、えと、いただきます……」モグモグ

一方通行「ついでに脳波計るからちょっと頭こっち貸せ」カチ

佐天「ふぁ、ふぁい」モグモグ

佐天(手をかざすだけで脳波が計れるなんてどういう能力なんだろ……)モグモグ

一方通行(さて、これで準備はいいな……)キィーン

佐天(……あ、でもなんか落ち着いてきたかも……このパン、実はすごかったりして)

一方通行「よし、それじゃ幻想御手使ってた時のことをよく思いだせ」

佐天「はい」

佐天「…………むむむ……」


フワッ


佐天「あ!?」

102■■■■:2010/08/12(木) 15:02:43 ID:XLdOHgsM

一方通行「やりゃァできンじゃねェか」ニヤ

佐天「うわ、うわ! え、うそ!? 本当に!?」

ソヨソヨ

一方通行「ま、その辺の扇風機のがなンぼかマシそうだけどなァ」

佐天「うぅ……た、確かに……パンの包装を吹き飛ばすので精一杯かも」

黄泉川「団扇にも負けるレベルじゃんな」

黄泉川「でも、使えてるじゃん? これならレベル1認定は確実じゃんよ」

佐天「はい! ありがとうございます!」

佐天「全然弱いけど、ちゃんと風が吹いてる……幻想御手も使ってないのに、能力が使えてる……!」ウルッ

佐天「本当になんてお礼を言ったらいいか……」グス

一方通行「ハッ、泣いてる暇があったらとっとと帰りやがれ」

一方通行「……でもって感触を忘れないうちに練習しておくんだな」

佐天「はい! 身体検査までに完璧に使えるようにしてみせます!」

103■■■■:2010/08/12(木) 15:04:27 ID:XLdOHgsM
※佐天帰った
黄泉川「で、一体どうやったんじゃん?」

一方通行「あン? 何の話だ?」

黄泉川「さっきあの子に能力を使ってたじゃんよ」

一方通行「別に、何もしちゃいねェよ」

一方通行「ちょいと脳内の分泌物の流れを操作して集中力を高めてやっただけだ」

黄泉川「うん? それだけじゃん?」

一方通行「幻想御手で能力が出たっつってたろォが」

一方通行「後は演算力を底上げすりゃ勝手に発現すンに決まってる」

黄泉川「でもそれじゃあすぐに元通りじゃん?」

一方通行「この俺を誰だと思ってやがる? だからあのパンなんだろうが」

黄泉川「でもあのパン、ただのパンなんじゃん?」

一方通行「俺らにとってはな」

黄泉川「?」

一方通行「プラセボ……プラシーボ効果っつったほォが通りがいいか?」

黄泉川「ああ、あのただの錠剤を風邪薬って言って飲ませると本当に風邪が治るってやつじゃん?」

一方通行「要はそれと同じことだ。あのガキが信じてる限りあのパンは集中力を高める効果を発揮するってわけだ」

一方通行「そのうち脳が能力の使い方を覚えちまえば、パンが無かろォがいつでも自由に能力が使えるようになってるってわけだ」

黄泉川「へぇ〜、さっすが学園都市の第一位じゃん? 十分能力開発に詳しいじゃんよ」

一方通行「おだてたってもう二度とやンねェからなこンなこと」

104■■■■:2010/08/12(木) 15:05:13 ID:XLdOHgsM

後日
佐天「うっい春〜〜!」ブワサッ

初春「ひゃあぁああ!?」

初春「だからスカートを捲らないでっていつも言ってるじゃないですか!」

佐天「そんなことよりこれ見てよこれ!」

初春「そ、そんなこと!? ……って、これ身体検査の結果じゃないですか」

佐天「じゃじゃーーん!」

初春「あ、ああぁぁーー!」

105■■■■:2010/08/12(木) 15:06:24 ID:XLdOHgsM

更に後日、ファミレス
美琴「佐天さんが能力者(レベル1)になったって本当なの!?」

佐天「ぬふふー、とうとう私も能力者の仲間入りですよ」

初春「団扇にも負けるくらいの微風を起す程度の能力ですけどねー」

佐天「こら初春、そんなこと言っちゃう子は……こうだぁ!」ブワサッ

初春「だから捲らないで下さいー//////」

黒子「なるほど……捲り上げる時に風を起すことでより勢いよく、かつふんわりとスカートを、というわけですのね」

佐天「まさに私と初春のためにあるような能力だよね!」

初春「何言っちゃってるんですか!?」

美琴「でも良かったじゃない」

初春「良くないですよ!」

美琴「あ、いやそうじゃなくてさ、佐天さんの努力がやっと実ったってことでしょ?」

初春「あー、まあそれに関しては……」

佐天「えへへ、なんか御坂さんにそう言われると照れちゃいますね///」テレテレ

黒子「誰が何と言おうと、佐天さん自身の能力なのですから、もっと胸を張りなさいませ」

美琴「や、別に胸は張らなくてもいいんじゃないかな」

106■■■■:2010/08/12(木) 15:07:54 ID:XLdOHgsM

初春「ほんと、身体検査の日からずっと浮かれっぱなしなんですから……」

初春「これで後は素敵な誰かさんに振り向いて貰えれば言うこと無しですかねー?」

佐天「ちょ、初春それは内緒って約束でしょ!?」

黒子「ほほう? これは何やら恋バナの予感ですの」

美琴「へぇー? 急な能力の成長の裏にそんな話がねぇ?」

佐天「や、だからそんなんじゃないですってば!///」

佐天(うぅ、『これ以上ガキの世話なんて御免だからな』って口止めされてるんだよね……)

美琴「ねえねえ、どんな人なの?」

佐天「ほ、ほんとにダメですって、内緒なんです」

初春「この調子で、肝心なところははぐらかすんですよー?」

黒子「あらあら、それは是非聞き出さないといけませんわねぇ?」

佐天(ま、まずい流れに……ど、どど、どうしよう……!?)

佐天「こ、こっから先は一方通行だァ!?」※テンパってます

美琴「えぇー!?」

107■■■■:2010/08/12(木) 15:09:38 ID:XLdOHgsM

黄泉川「ジャッジメントとかもいいけどカウンセラーとかも向いてるじゃん?」

一方通行「寝言は寝てから言うンだな。俺ァもう寝るぞ」

黄泉川「ところで、『俺を信じろ』のところでちょっと言い淀んでたじゃん?」

一方通行「……別に、何でもねェよ」

一方通行(思わず三下の言ってたようなことを口走りそうになったなンて言えるか!)

                                           おしまい

108助手席が気になる運転手 ◆Bqlg7BwZKs:2010/08/12(木) 15:11:51 ID:XLdOHgsM
お目汚し失礼しました
お盆投下用にちまちまネタ出してたら11日にいきなり規制とかねぇ、ほんと……
げふんげふん、箸休め程度ですが楽しめて頂ければ幸いです

109■■■■:2010/08/12(木) 15:14:29 ID:HBSNwhH6
えっと『禁竜召式(パラディンノート)』の者ですけど。

ちょっと引っ掛かりそうな単語抜いて再構成してみました。
たぶんだめですけど一応投下してみます。

110■■■■:2010/08/12(木) 15:21:21 ID:HBSNwhH6
すいません。

だめでした。どうしよう。

111■■■■:2010/08/12(木) 15:34:22 ID:HBSNwhH6
もう面倒くさいのでアップローダーにtxtでUPしました。

ttp://www1.axfc.net/uploader/File/so/49210

↑これが2スレ目です。

112■■■■:2010/08/12(木) 15:35:07 ID:HBSNwhH6
↑キーは『prdnnote』です

113■■■■:2010/08/12(木) 15:36:04 ID:HBSNwhH6
という訳で3個目から投下します。

114■■■■:2010/08/12(木) 15:36:59 ID:HBSNwhH6

「さて。洗濯物がだるくて抜け出したは良いものの、これからどうしましょうか?」
アニェーゼ=サンクティスは薄暗い旧歩道を修道服で闊歩していた。その手には蓮の杖が握られている。
例の洗濯物は「部隊長の命令です」とか適当な事言ってカテリナに丸投げしたので問題は無いだろう。そもそも、あんな殺人レベルの洗い物を任されては命が幾つ有っても足りた物では無い。「適当に歩いてりゃ、時間も潰せるでしょうね」と、呑気な事呟きながら蓮の杖(護身用)をくるくると回す。

「しっかしまぁ……この旧歩道。さっさと取り壊しちまえば楽でしょうに」
道幅が十m程の旧歩道にはアニェーゼ以外の人影は無く、ゴーストタウンの様な印象を受ける。ゴミこそ無い物の、お世辞にも綺麗とは言えない歩道を歩きながらアニェーゼは周りを見渡し、目を細める。
(酷い場所ですね。目に付く商店は八割がシャッターの下りきった閉店状態だし、歩道は全く整備されちゃいませんし、路地裏では女の子が絡まれてるし……え?)
その時アニェーゼ=サンクティスの目に入ったのは暗くて湿った路地裏に居る数個の人影。その殆どがスーツっぽい黒服の男で、それに囲まれる状態にある一人だけの少女がそれ等を獣のような目で睨みつけている。少し近づいてよく見てみると東洋系の少女のようだ。
なんと言うか穏やかな雰囲気では無い。パターンで言えば女の子大ピンチ。

(あっちゃー、あれはまずそうですね。警察でも呼んでどうにかして貰うか、それとも……)
アニェーゼは手にある『蓮の杖(ロータスワンド)』を見る。恐らくコレを地面に叩きつければ、あの少女に近づく男の頭は嫌な音を立てて流血を始める事だろう。『蓮の杖(ロータスワンド)』とはそういう物だ。
(しかし、へんな事にわざわざ首突っ込むのも面倒くせえですし……)
大変ですねーと呑気に呟くアニェーゼ。そうこうしている間に男は完全に女の子を襲っちゃいます的雰囲気を醸し出して、ゆっくりと少女へ近づいていく。

(さて、どうしましょうか………ん?)
アニェーゼはその時、その男の肩に『奇妙な形のシンボル』が貼り付けられている事に気づいた。十字に斜め線の一本入った黒色の紋章。彼女はそれに見覚えがある。
(……!! あの男!? ちっ、悩んでる暇は無さそうですね……)
決断したアニェーゼは路片に落ちていた石を拾い上げ、黒服男へと投げつけた。

115■■■■:2010/08/12(木) 15:39:21 ID:HBSNwhH6

バシッ! という音がして、絹旗に詰め寄る男の頭が若干横に振られた。
男はすぐさま衝撃の来た方向に憤怒の顔面を向ける。
「ったく。いい年して女の子なんか襲ってんじゃないですよロリコン野郎」
「……What?」
アニェーゼが石を投げたのは攻撃が目的ではなく、注意をこちらへ向けさせるための物だった。そして、計画通り男は修道姿の少女の方へと意識を向けた。
アニェーゼは限りなく声を低くして術式発動のための詠唱を始め、それに合わせて杖の先端がゆっくりと開き始める。

「Tutto paragone. Il quinto dei elementi. Ordina la canna che mostra pace ed ordina.Prima. Segua la legge di Dio ed una croce. Due Cose diverse sono connesse.」
(万物照応。五大の元素の元の第五。平和と秩序の象徴『司教杖』を展開。偶像の一。神の子と十字架の法則に従い、異なる物と異なる者を接続せよ)」

アニェーゼは詠唱が終わると同時に『蓮の杖』を地面へと力の限り叩きつける。
その衝撃は若干のタイムラグを持って男の頭へと伝達された。先程とは比べ物にならない轟音が鳴り響き、男は頭を抑えて腰を折った。
「貴様……!!」

「Era giapponese capace a discorso? Io sono tenero per essere capace adattarsi a quella ragazza. Io non ho niente per fare con me realmente.」
(なぁんだ、日本語喋れるじゃないですか。そっちの女の子に合わせるなんて案外優しいんですね。私には全く関係有りませんけど)

わざとイタリア語で返すアニェーゼ。案の定理解していない男は一瞬戸惑い、その隙にもう一発『蓮の杖』からの伝達攻撃を浴びせる。そして、今度こそ男は完全に動かなくなった。
何が起こっているのか分からない他の男達(+絹旗)。アニェーゼが鼻で笑ってもう二,三発同じを行動をし終えた頃には、絹旗の周りの黒服男達は全員地面に突っ張って、昇天していた。
「全く、この人数で女の子を襲うなんて大の大人のやる事じゃねえですよ。反省して平伏せててください」
少なくともアニェーゼが言える事では無いだろうが、それを指摘できる人間はこの場には居ない。

116■■■■:2010/08/12(木) 15:40:55 ID:HBSNwhH6

「え……っと、なんだか超解りませんが取りあえず御礼は超言っときましょうか」
絹旗は見舞い品のヌイグルミをしっかりと抱きかかえて頭を下げた。アニェーゼは顔を逸らして「別に構いませんよ」と澄ました声で言葉を返す。そして倒れている謎の男達を見ながら、眉を寄せて質問した。

「それより、あなたはなんでこんなゴツイ男たちに囲まれていやがったんです? もしかしてこの男達は『そっちの人達』だったりして、追い詰められてたとか?」
「そんな事、私にも超解りませんよ。そこの骨董屋でヌイグルミを買って出てきたらいきなり超囲まれて訳がわかりません……ていうか、貴方誰です?」
ここに来てその質問か、と珍しく息を吐くアニェーゼ。
「アニェーゼ=サンクティス。まぁ、あれです。見ての通り修道女やってます」
「……絹旗最愛。見てのとおり、超日本人です」
外国だと自己紹介されたら、自分も返すのだろうか? と適当に考えた絹旗は『学園都市の人間である事を隠して』よく分からない自己紹介を返した。
「で、『じゃっぽーね(日本)』の方が一体こんな所で何してやがるんです?」
「……ええ、実は……」
この人は修道女(つまり優しい)、という事を前提にして絹旗は事情を(嘘を交えて)話し出した。

=========================================================================================
その夜。
「……シスター・アニェーゼ。洗濯物を放っぽらかしてどこに行ったのかと思えば……その娘は一体何者なんです?」
「し、シスター・アニェーゼが例の少年みたいな行動を!!」
「人に洗濯物押し付けといて何やってるかと思えば……」
イギリス清教女子寮。その食堂の一角。場は騒然としていた。
ルチア、アンジェレネ、カテリナが代表で問い詰めるアニェーゼの横に居たのは、
「……始めまして。絹旗最愛と申します」
まさしく絹旗最愛その人だった。
ルチアはさらに声を鋭くする。
「……その娘の自己紹介はもう何回も聞きました。アニェーゼ、もう一度聞きますがどうゆう事ですか?」
「えっと……それはですね……(汗)」
「説明を。シスター・アニェーゼ」
泣き目の少女にはアニェーゼ部隊長だったころの面影など、もはや存在しない。

117■■■■:2010/08/12(木) 15:41:44 ID:HBSNwhH6

アニェーゼは絹旗と出会ってからの経緯を話した。
説明を聞く限り、「行き場の無い女の子なんですから泊めてあげましょう」との事だった。
ルチアは呆れて息を吐く。アンジェレネは驚の顔で固まっていて、カテリナは首をかしげている。ルチアは多少疲れた顔をして、ちょこんと座っている絹旗を横目で見た。
「シスター・アニェーゼ。そんな説明で納得するとでも思ったのですか?」
「まぁまぁ、良いじゃありませんか」
割り込んできたのはオルソラ。相変わらずのニコニコ笑顔で絹旗を見つめて、
「迷える羊を匿うのも聖職者の仕事。寮のお手伝いをする代わりに泊めて差し上げるというのはどうでしょうか?」
ルチアはそれを聞き、改めて絹旗を見る。別段怪しくは見えないがどうも信用できない。
「そ、そう言うことですよ、ルチア。それなら文句ねえでしょう?」
「……そうですね。そこの少女に関しては別に構わないとして、アニェーゼは『ちょっと話す事が有る』ので来てください」
びくっ! と、アニェーゼの肩が揺れる。他のシスター達は「あー説教だな」と適当に考えて、それぞれ部屋へと戻っていった。絹旗はオルソラに連れられてゲスト専用の宿泊部屋へ。シスター達が完全に消えた後、ルチアとアニェーゼは誰にも観見されぬように静かに食堂を後にした。

118■■■■:2010/08/12(木) 15:42:48 ID:HBSNwhH6

女子寮の構造は以外に広く、二五〇弱の修道女達が生活していても滅多に使われる事のない(もはや必要性を感じられない)部屋は幾つも有る。その中に一つ、『女子寮』には全く使う機会などない『相談室』、つまり『懺悔室』という物が存在する。本来『懺悔』は『寮』ではなく『清域(教会等)』で行われる事柄であるため『寮』にとっては、この部屋の存在価値は皆無に等しい。
そして、数年前に大掃除で入ったきりで埃だらけのこの『懺悔室』にてアニェーゼとルチアと対面していた。

「……で、ルチア、話っていうのは?」
アニェーゼの顔からは動揺の色は完全に消えて、代わりに冷たい眼が備わっている。
「……最初は叱る為にわざわざ薄暗いこの部屋に呼んだのですが……その表情からすると彼女(絹旗)に関しては少々事情があるようですね」
アニェーゼは鼻で笑った。そして、普段寮では絶対に見せない冷徹な笑みを溢す。
「まさか、この私があんな行き倒れに同情するとでも思ってねえですよね?」
ゾクリ、と。ルチアの背筋が寒気を帯びる。幾らこの女子寮に来て丸くなったとは言え、やはり『オルソラ=アクィナスの件』までのアニェーゼと、根本的な部分は変わっていない。

つまり、『異教徒の迫害』。

傘下に入っているイギリス清教やローマ正教として同盟を結んでいるロシア成教、そして『例の少年』のような例外を除けばアニェーゼは基本的に他教徒や無宗教を嫌う。見た瞬間に殴り掛かるような猟奇的位では無い物の、行き場を失った極東人の少女に手を差し伸べるような事をするとは思えない。もちろん、男達の囲まれていた東洋人の少女を助けるなどいう行為はルチアの知っているアニェーゼ=サンクティスという人物とは到底かけ離れた行動のはずだ。
「……では、何故あの少女を助けたのです? 日本人の少女に同情すべき所など、少なくとも貴方には無いはずですが」
「重要なのは襲われてた方じゃなくて、襲ってた方なんですよ」
「……?」
理解が及ばないルチアは少々首を傾げた。アニェーゼは見下した様に言葉を続ける。
「簡単な話ですよ。女を襲っていた男の肩に『黒十字に斜め線の一本入ったシンボル』が貼り付けてあったってだけですから」
「……!? それは……!?」
「まさか英国にも『あいつら』が居るとは思っても無かったですが」
ルチアは二の次を紡げない。黒十字に斜め線の一本入ったシンボル、というのは彼女にも見覚えがあったからだ。
「……『対十字教黒魔術(アンチゴットブラックアート)』………!!!」
アニェーゼ部隊の『ローマ正教に居たころ』の主な仕事は、大規模な戦闘や反対勢力の殲滅などの比較的規模の大きな役所であった。そして、その数有る『仕事』の中に、名指しで『対十字教黒魔術討伐』という項目が存在したのである。

「昔は奴らも可愛い物だったんですよ。個人で出来もしないクーデターを起そうとして、失敗しての繰り返し。私達も苦労しませんでしたね」
だが、最近になって『対十字教黒魔術』は『一つの組織』と化していて、その規模は世界にも及ぶ物に成っている。ヨーロッパ本土を拠点とし、ロシア、アフリカや米大陸などの『十字教の及ぶ場所』ならどこにでも出没する集団となっているのだ。
「最近では十字教所属の魔術師が襲撃されるなんてのもよく聞く話ですし。まぁ、英国にまで策的範囲が及んでいるとは予想外ですよ。本当に」

絹旗と自称する少女は『対十字教黒魔術』に襲われていた。しかも話を聞く限り、彼女は何の前触れも無く彼等に囲まれたという。つまり、それは彼女(絹旗)が『対十字教黒魔術』に糸的に狙われているという事。そして、その狙われた少女を『匿ったという事』は……、
「あの女を使って『下衆共(対十字教黒魔術)』を誘き出します。上手くいけば奴らの英国支部まで潰せるかも知れませんからね」

つまりはそうゆう魂胆が有ったのだ。

119■■■■:2010/08/12(木) 15:43:35 ID:HBSNwhH6

(なんか超上手くいきましたね……ラッキーです)
絹旗は修道女によって持て成されたゲストルームのベットの上で胡座をかいて放心していた。

絹旗が赤毛で三つ網なシスターに素直に(嘘を交えて)事情を話したのには理由と言うべき思い出があったからである。
とても小さい頃、まだ彼女が『外』に居た頃に、娘が学園都市の入るか入らないかで両親が大喧嘩した事がある。自分の目の前で両親がいがみ合いを繰り返す姿を見た絹旗はショックを受け、何も考えずに家を飛び出し、何時間か夜の町を歩き回った後教会に保護された経験があった。
その時、自分を泊めてくれたシスターが凄く優しかったのを覚えている。絹旗の中では『修道女=優しい』という方程式がその時から出来上がっていたのだ。

(まぁ、予想通り超すんなり泊めてくれましたけど……なんか超違和感がありますね)
裏の世界で数年を過ごした絹旗は『人を信じる事』より『人を疑う事』を優先する性格になっていて、どうも上手く行き過ぎな雰囲気に違和感を感じていた訳だが、
(別に『外』の人間如きに私の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』が敗れるなんて超ありえませんし、心配する必要は超無いと思いますが)
幾ら絹旗といえど深い睡眠に入ってしまえば『窒素装甲』を維持する事は難しい。ここは警戒して浅い睡眠を超キープしときましょうか、と適当に考えて、絹旗は宣言通り浅眠で夜を明かした。

120■■■■:2010/08/12(木) 15:45:11 ID:HBSNwhH6
やっと投下終了です。

正直2スレ目は読まなくても話自体に支障は無いかもしれませんが。

121■■■■:2010/08/12(木) 21:57:08 ID:wXFpvBu2
>>120
基本的に英語はNGに引っ掛かりやすいと思った方がいい。
今回のは「o_u_t a_n_d」の部分。
"t""a""n"を含む単語や部分は、NGワードらしい。

122■■■■:2010/08/13(金) 10:18:23 ID:zkl8H0PE
>>121

ご指摘ありがとうございます
これからはなるべく日本語だけで書いていきます。

123かぺら:2010/08/13(金) 19:56:31 ID:6/yAOb3w
>>85
遅くなりましたが、感想ありがとございます。
せっかくなのでテッラさんには頑張ってもらいました。
上条さんの説教は考えるの難しいですが頑張ってみようと思います。

では、もう少しお付き合いください

124■■■■:2010/08/14(土) 11:25:44 ID:sjV3SbAk

>>120

GJ!!
絹旗とアニェーゼっていうのは以外な展開ですね。少々アニェーゼが黒いのが気になりますが......
話の中に『対十字教黒魔術』を入れてくる職人さんはかなり少なかったので、次も期待です。
あとNGワードには気を付けてくださいね。

125■■■■:2010/08/14(土) 17:16:23 ID:4L7V7OM6
>>120
GJ!
共演して改めて感じたけど、アニェーゼと絹旗って似てるな。口調とか、丁寧なのに敬意が感じられないあたりとか。あと体型。
『対十字教黒魔術』を引っ張ってきたのは自分も吃驚。あれ原作では本当にちょろっとしか出てないはずだが……どう補完するのか期待。
続きが楽しみだ。

126■■■■:2010/08/16(月) 15:32:06 ID:qlwnKMoo
垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』投下します。
三は>>21です。
今回の注意点は、

ていとくんのオリ妹キャラ。
馬場のロボットにオリ設定。
ていとくんの能力も空想。

……なんだか、この話8割妄想設定で出来てる気がしてきました。
あと、さっき気づきましたが、今まで文頭全角じゃなくて半角スペース空けてましたね。
申し訳ありません。
今回から全角にしました。いろいろブレブレだ……

今回ちょっと妹出しすぎた感がありますので、しかもそのせいでかなり長くなったので、特にご注意を。
まぁあと一、二回いちゃいちゃしたらどうせ姫垣もry

では、投下します。

127垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:34:42 ID:qlwnKMoo
8月8日。
 その日、垣根帝督は久々のオフであった。
 実験も、仕事もない。
 そんな日は、友達と一緒にどこかへ遊びにいったりするのが一番だ。
 が、しかし。

 『未元物質』にそんな常識は通用しなかった。

 というか友達がいなかった。
「いや、そもそも仕事や実験がなくったって、やることは山積みなんだよ。ダチと遊んでる暇なんざねぇんだよ」
 負け惜しみにしか聞こえない言い訳を誰にともなく呟きつつも。
 仕事時に着る学校の制服のような服ではなく、今時の若者という言葉がしっくり来る雑誌モデルのような格好をして。
 言葉の通り、垣根帝督は貯まっていたいろいろな用事を一気に処理すべく、街へ乗り出すことにした。
 垣根帝督の休日、である。


(しっかし……)
 バイク置き場から愛用の大型バイクを出し、マンションから駆け出したところで、車上の垣根の顔が曇った。
(何なんだ? ずっと俺のことつけ回してんだよな、アレ)
 垣根は、前を向いて走りながらも、後方から自分をつけてきている『人間ではない何か』を感知していた。
 周囲に展開している極小の『未元物質』の粒子。
 それが、ここ数日自分の周囲をよく徘徊している存在があること、その存在はどうやら同一の物体であることを垣根に教えていた。
(遠すぎて、具体的にどんな形してるかまではわかんねぇが、この硬度と移動性は最近よく感じてるやつだ)
 追跡されているのを知りながらも、しかし垣根は何か策を講じるということはなかった。
(幻生の監視がこっちにも飛び火したって感じだろな。ま、実害がねぇなら放っといても問題ねぇだろ。俺やヒメにちょっかい出してきたら別だが――)

 ――それが貴様の道を阻むのなら破壊しろ、完膚無きまでに叩き潰せ。

(――――!?)
 頭の中に、誰とも知れない声が響いた。
(そういやこっちも最近よくあるんだよな……)
 思い、頭を左右に振る垣根。
(ただの幻聴だ。こっちも放置)
 心の中でそう呟くと、垣根は本日最初の用事を済ますため、駐車場にバイクを停めて学園都市内にあるとある書店に入店する。
(料理本のコーナーは、っと)
 垣根がこの書店に来た目的は、ズバリ料理本の立ち読みである。
 一冊一冊買っていたら馬鹿にならないくらい金がかかるが、店頭でパラ見する分には無料。
 そして、学園都市は第二位、垣根帝督の頭脳をもってすれば、小一時間立ち読みするだけでメニューの十や二十は完璧に覚えられる。
(そろそろレパートリー増やしたいしな。今度は中華とか挑戦してみるか)
 垣根は料理本のコーナーに移ると、棚から中華料理の本を適当に抜き取り、目を通し始める。
 すると、
「あのー」
 背中から声がかかった。
「あ?」
 人差し指をページに挟んで本を閉じ、後ろを振り返ると、そこには見知らぬ少年がいた。
 ツンツン頭を右手で掻きながら、少年は下手な態度で垣根に話しかける。
「参考書のコーナーってどこにあるのか知りません、かね?」
「あぁ、ちょっと見つけにくいところにありますからね。あの柱の裏ですよ」
 垣根は特に無視するでもなく、丁寧な対応で答える。

 ――どちらでもないなら無視しろ、貴様の行動の結果それが生きようが死のうが関心を持つな。

「ちっ……」
 途端に頭の中に響いた幻聴に、軽く舌打ちをする垣根。
「え?お、俺、何かお気に召しませぬことをやっちまいましたか?」
 垣根の舌打ちに、少年が畏縮した態度を取る。
「あ、いえ。何でもありませんよ。えっと、ここに来るのは初めてなんですか? 確かに参考書コーナーは入り口からは見えづらいところにありますけど、店内をぐるっと一周でもすれば、すぐに気づけますから」

128垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:35:14 ID:qlwnKMoo
 垣根は取り繕うように言葉を並べ立てる。
 ちなみに、垣根はこの店の常連である。
 但し、商品を買ったことは数えるほどしかないのだが。
 実は昨日までこの書店では参考書の半額セールを行っていたことも知っているが――それは知らない方が幸せだろうと思い、黙っておく。
「ん、えっと……初めてっつーか、何つーか……」
垣根の言葉に、少年は頭を掻きながら歯切れ悪く答える。
「? まぁ、ここは結構品揃え豊富で、駅も近いですから、利用しやすいと思いますよ」
 立ち読みとかに、とは言わない垣根である。
「そうか、じゃあこれからも使うことにするよ。まぁ……あんまり本屋とか来ないんだけどな。はは。それじゃ、ありがとうな」
 少年はそう言って笑うと、柱の裏にある参考書コーナーへ向かう。
「…………………」
 少年を見送ると、垣根は再び料理本に目線をやる。
 その頃には、垣根はもう少年のことを忘れていた。

 垣根帝督にとっては、そのツンツン頭の少年は、ただの一般人Aでしかなかったのだ。


「あとは何か要るもんは……」
 書店で一時間の立ち読みの後、続いて垣根は行きつけのバイク屋に顔を出す。
 そこで、メンテナンスのため、そこまで乗ってきたバイクを、
「丁寧に使ってくれていただいているみたいでありがたいです」
 と言う店員に受け渡す。
 実際はかなり荒っぽい使い方をしているのだが、そういう時には『未元物質』でバイクを丸ごと保護しているため、本体を傷めることはない。
 それでも、中身は普通のバイク。
 フレームを強化しようが、エンジンなど、内部の機構については他のバイクと同等の強度しかないし、そっちが壊れては元も子もないので、こうして定期的にメンテナンスに出しているのだ。
(今日は仕事も入ってねぇから使わねぇし)
 バイク屋を出ると、垣根は徒歩で歩き出す。
(ちっ……相変わらずついて来やがる。よく飽きねぇな)
 垣根が建物から出てくると、外で待っていたらしい『何か』が、追跡を再開してくる。
 それでも垣根は無視し続け、本日の最後の目的地である、自宅近くの大型デパートに足を向ける。
 そこでの目的は――

129垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:35:49 ID:qlwnKMoo
「あ、来た来た。てーとにぃ」
 デパートの入り口に、こちらに向かって手を振っている少女がいた。
「おぉ、ヒメ」
 垣根帝督のたった一人の妹、垣根姫垣である。
 肩の部分が紐状になっている白いシャツ、男の子が穿くような(実際垣根が穿いていたのだが)白っぽい短パンのセットに、ピンクのサンダルという如何にも真夏少女と言った風体の姫垣は、たったったっ、と軽快に駆けながら垣根に近づいてくると、
「に〜いぃ!」
 その左腕に自身の右腕を絡ませ――
「う、うぅ……高い」
 ――ようとして身長の違いに大きく阻まれた。
「……何やってんだ?」
「腕を、組んでるの……」
 自分の左腕に半ばぶら下がるようにしながら、必死でしがみつく妹の姿に、
「猿みてぇ」
 と垣根は正直な感想を漏らす。
「むぅ!」
 膨れる姫垣。
「てーとにぃがもっとちっちゃくなればいいんだよぉ!」
 と言いながら、腕組みを諦めて自然に手をつなぐ。
 ぴょこぴょこ、といつも以上に動き回る妹の姿を見ながら、垣根は少し意地悪そうに告げた。
「何だよ、あんなに要らないって言ってた癖に、全然テンション上げまくりじゃねーか。やっぱり欲しかったんだろ、水着」

 話は一日前に遡る。


 8月7日。
「ねぇ、てーとにぃ?」
 夕食後。
 本日の洗い物当番である姫垣が、キッチンの方から、リビングで何の気なしにテレビを眺めている垣根に向かって話しかける。
「学校のさ、水泳の用意ってどこにしまっちゃった?」
「んー、お前の部屋のクローゼット。上から二段目」
「りょうかーい」
「何だ? ガッコって夏休みもプールあんのか?」
 当然の疑問を放つ垣根に、
「ううん。明後日さ、友達と屋内プールに遊びに行くことになったんだ。あ、そういや言ってなかったっけ。明後日遊びに行ってもいい?」
 布巾で皿を拭きながら答える姫垣。
「はぁ、別にいいけど……ん?」
 少し首を捻ってから、垣根は続ける。
「お前って、水着持ってたっけ?」
 学園都市に来る前はプール施設になんて連れて行ってもらった記憶はないし、来てからも、今まで妹っが誰かとプールに遊びに行ったという話は聞いたことがない。
「うん。だから水泳の用意、探してるんじゃん」
 そこで、テレビに向いていた垣根の首がキッチンの方へと90度曲げられた。
「……いや、ちょっと待て。それは何だ? 屋内プール施設に遊びに行くのに、スクール水着を着ていこうと言うのか?」
「そうだけど……え、何かダメだった?」
「いや、ダメだろ……」
「何で? どこが?」
「いや、何でっつーか、どこかっつーか……」
「スクール水着で入っちゃいけないなんて決まり、無かったと思うんだけどなぁ」
「そうだろーよ、そうだろーけどさ、やっぱりさ……」
 幼女がスクール水着を着てそこらのプール施設に飛び込むことがどれほどの破壊力を秘めているのかについて、核兵器の威力と対比させて説明しようと思う垣根だったが、しかしそれではただの変態だということに気づき、自重する。
「……ヒメ、明日水着買いに行くぞ」
 危機回避の一策として、垣根は姫垣を真っ直ぐに見つめてそう言い放った。
「えー、要らないよぉ。スクール水着で充分だって」
 なおも遠慮してくる姫垣だったが、
「だからそれはダメなんだよ」
「だから何でなのー?」
「だから何でもなの。好きなの買ってやるから。明日昼にそこのデパートな。決定」
「むぅ。……わかったよ」
 垣根の言葉に、最終的に屈する形になったのだった。

130垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:36:38 ID:qlwnKMoo
 かくして垣根と姫垣は、デパート内にあるフードコートで昼食をとった後、早速水着売り場へやってきたのだが――
「嘘吐き! てーとにぃの嘘吐きぃぃぃぃ!!」
 女性用水着売り場の一角で、大声で叫んでいるのは垣根姫垣。
「好きなのって、何でも好きなのって言った癖に!」
「そりゃ言ったけどよ! でもダメだろ! それは例外だろ! ルールには須く例外ってもんがあるんだよ!」
 噛みつかれているのは当然その兄、垣根帝督だ。
 二人の争点となっているのは、姫垣がこれがいい、と言って選んだ水着である。
 それは――
「セパレートって! ビキニタイプって! 中一にゃ早すぎだろ! こっちのワンピースタイプにしとけよ!」
「そんなことないって! みんな持ってるって言ってたもん!」
 いつもならすぐに折れるのだが、言葉とは裏腹に新しい水着にかなり心躍らせていたのか、珍しく兄の言葉に反論する姫垣。
「んな馬鹿な話があるか! 中学生からこんなエロい水着着てるってのか? 有り得ねぇ!」
 一方の垣根は、エロのハードルが低いのか、変な幻想でも入ってるのか、必死に野暮ったいワンピースタイプの水着を勧める。
「エロい!? ただ上下分かれてるか分かれてないかだけの差じゃん! おへそが見えるか見えないかだけの差じゃん! それをエロいっていうにぃが変態さんなんだよ!」
「なっ! 実の兄を捕まえて変態呼ばわりだと!?」
「だってそうじゃん! 女の子の水着って言ったらセパレートの方が普通じゃん! 可愛いじゃん! それをエロいって何さ!」
 妹の攻撃に、追い詰められた垣根は。
「一般的にはそーかもな、そーかもしれんな! だがなヒメ、お前はまだブラジャーすら着けてねぇんだぞ! それなのにビキニっておかしいだろ!」
「…………!」
 言ってはならないことを口にした。
「てーとにぃの……」
 姫垣が右の拳を握り、
「バカぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 容赦なくアッパーカットを繰り出す。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
 そして、学園都市第二位、『未元物質』、垣根帝督は、中学一年生の少女に顎を撃ち抜かれてKOされたのだった。


「えへへ―」
 水着の入った紙袋を抱え、姫垣は頬を緩める。
 その横で、垣根は顎をさすりながら、やれやれ、と言った表情を浮かべる。
 結局、お互いの折衷案として、露出の低いビキニタイプの水着――アンダーまでしっかりと布で隠されている、それこそへそが出ているかいないかくらいしかワンピースタイプと違いがないものだ――を購入した。
 姫垣としては、取り敢えずセパレートなら満足、垣根としては、露出が少なければ了解、ということらしい。
(まぁ、もともと俺が言い出したことだし、あんまりガミガミ言うのも大人げねーし……)
 ちらり、と両手でしっかりと紙袋を握りしめながら、横を歩く妹の笑顔を盗み見て、思う。
(こいつが幸せそうなら、それでいいか。……あとは、っと)
 垣根は本日最後の用事を済ますため、再びデパートのフードコートにやって来た。
「ソフトクリーム、好きなの選んでいいぞ」
 アイスのチェーン店の前で、垣根は壁に飾られている色鮮やかなメニューを示す。
「え? いいよ、お腹空いてないし……」
 案の定、遠慮する姫垣だったが、
「ちょっと俺、服買ってきたいからよ。その間暇だろ。ソフト食って待っててくれ」
 垣根は姫垣の片手を掴み、強引に千円札を握らせた。
「じゃ、じゃあヒメも一緒に行くよぉ」
 ついてこようとする姫垣に、
「いいから待ってろ」
 ぴしゃり、と言い放って、垣根はフードコートから出、さっさとエスカレーターで上階に上がっていった。

131垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:37:29 ID:qlwnKMoo
 その言葉は嘘ではない。
 実際に垣根は服を買った。
 まず自分用のシャツ、ズボンなどを適当に見繕い、ポイポイとカゴに入れる。
 ものの数分でそれらをレジに通すと、しかし垣根は姫垣の待つフードコートへは戻らず、さらにエスカレーターを上る。
 そうして着いた先は、最近爆発事故が起こり、先日新装開店したばかりだという女性服売り場だ。
「はぁ、スカートですか」
「えぇ。出来れば、動きやすいのとかがいいんですけど」
 愛想笑いを浮かべながら、垣根はポカンとしている女性服売り場の女性店員に話しかける。
「えーっと……」
 どうやらどう見ても男である垣根がスカートを買いに来ているのが引っかかっているようだが――
「あ、あぁ!」
 すぐに胸の前で手をポン、と叩く店員。
 垣根がプレゼント用に――勿論妹にである――購入しようとしているということに思い至ったようだ。
「ご自分でお穿きになるんですねっ♪」
「どうしてそうなるっっっ!!!!!」
 思わず神速で突っ込みを入れてしまった垣根である。
「え、だって……」
 店員は垣根の全身を上から下まで確かめてから、
「似合うと思うんですけど……」
 と謎な発言を繰り返す。
「マジで締めるぞコラ……プレゼントだよ。妹に」
 店員の態度に、垣根は敬語を忘れて接する。
「あぁ、成る程。ちょっと残念です。妹さんはいくつですか?」
「…………中一」
 一言余計な店員は、しかしそこは仕事人らしく、店内を巡り、ハンガーに掛けられたホワイトのシンプルなミニスカートを持ち出してくる。
「これなんてどうでしょう。最近女の子の間で人気の商品ですよ。とても動きやすいですし」
「んー、でもシンプル過ぎやしねーか?」
 賛同しかねる様子でそれを見る垣根は、そばに置かれている別のスカートを手に取り、
「これとかどうなんだ?」
 と店員に問う。
「…………………おにーさん、メルヘンですね」
「はぁ!?」
「正直センスを疑います。そんなの貰って喜ぶ女子はいませんよ」
 自分の店に置いてある商品に対して、店員は暴言のようなセリフを吐く。
「いや、明らかにそっちの無地よりこれの方が華やかだろ」
「華やかすぎてどん引きですよ。おにーさん、女の子は……ってゆーか俺様の妹は可愛くあるべき、みたいな幻想入っちゃってません?」
「んなっ…………悪いかよ」
 結構図星だったらしく、しゅんとなる垣根。
「悪いですよ。全くこれだから男は……自分の考えを押し付けるばっかり。相手のこともちゃんと考えてあげないと。本当に相手を大切にするっていうのは、そういうことですからね」
「……いや、何で俺は初対面の店員に説教されてんだよ」
「兎に角、こっちの白いスカート渡せばまず失敗はないですから! 保証します! よってお買い上げ、オーケー?」
「ちっ、分かったよ……!」
 ふとそのスカートの値札を見ると、垣根が想定していた値段よりも0が一つ多かった。
 対して垣根が選んだスカートはセール品。
 まさか填められたんじゃないんだろうか、と思いつつも、安物を贈るよりはいいかと思い直し、店員の選択に任せることにした。
「あ、それではウエスト測りますね♪」
「だーから俺じゃねぇっつってんだろーがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

132垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:37:52 ID:qlwnKMoo
 紆余曲折の末買ったスカートを、自分の服を入れた紙袋の中に突っ込み、
「これでよし、っと」
 一人満足気に頷いた時、
「…………?」
 垣根は、ズボンのポケットで携帯電話が鳴っているのに気づいた。
 しかも、
(こりゃ幻生からのメールの着信音……。ちっ、今日はオフなんじゃなかったのかよ)
 心中で毒づきながら、垣根は携帯を開きメールを確認する。
 例の粘つくような口調で書かれているその文面を要約すると、
『緊急の仕事。垣根帝督を尾行している何『物』かの破壊。特別手当あり』
 ということらしい。
(アレのことか)
 ずっと自分を尾行していた存在のことをすぐに思い浮かべた垣根だったが、あまり気分は乗らなかった。
(緊急ねぇ。アレはすぐにこっちに危害を加えてくるような感じには思えねぇが。大体今はヒメと一緒だし、久々のオフだってのに、特別手当だか何だか知らねぇが、んな面倒臭ぇことするくらいだったら――)

 ――利用できるなら利用しつくせ、不要になったら切り捨てろ。

「――っ!」
 三度、頭の中に幻聴が走る。
「くそっ、何だってんだ畜生が」
 頭を掻きながら、口に出してそう毒づき紙袋を握り直すと、垣根は足早に階下へ降りていった。


「あ、てーとにぃおかえり……って、へ?」
 突然目の前に服の入った紙袋を差し出され、困惑する姫垣。
「悪い、用事出来た。これ持って先帰っててくれ」
「え? 用事って? 服を買ってたんじゃ……」
「それとは別、仕事」
「あ……うん」
 こくり、と頷くと、姫垣は垣根が差し出した紙袋を素直に受け取った。
 そして、
「じゃあ。……先、帰ってるね」
 とだけ言い置いてデパートを離れる。
 垣根の事情もろくに聞かずに、その言葉に従った姫垣。
 それは、垣根の様子が普段とどこか違うように見えてしまったから――その違和感のある垣根の言動に、つい、気圧されてしまったから。
 両手に紙袋を抱えて歩きながら、姫垣は違和感の正体を考察する。
 まるで、何かに急かされているみたいだった、と。

133垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:38:44 ID:qlwnKMoo
(妹の方だけ? 垣根帝督は一緒じゃないのか?)
 第二二学区。
 その地下数百メートルに存在する地下街に存在する、VIP用の核シェルター。
 俗に『避暑地』と呼ばれるその場所――ではなく、普通のアパートの一室で(『避暑地』には前から目をつけているのだが、まだプロテクトを解除できていない)馬場芳郎はコンピュータのディスプレイに映し出された映像に首を傾げる。
(待ち合わせしてたくらいだから、てっきり仲良しこよし、一緒に帰宅かと思ったんだが……)
 他の出入り口の監視カメラの映像を(勿論無断で)確認するが、いずれにも垣根帝督の姿は映っていない。
(まだ中にいる……別に買い物でもしてるのか)
 そう思い、何気なく四足歩行型ロボットのカメラで姫垣を追いかける馬場。
 やがて姫垣は、すぐ近くにある自宅マンションのエントランスに一人消えていく。
 それから十分な時間を置いて。
 垣根帝督がデパートの正面出入り口から出てきた。
(まだ中にいた、やっぱり買い物か……ん? でもそうすると、何で手ぶらなんだ?)
 馬場が疑問を感じたその瞬間。

 垣根帝督が、自宅と反対方向に全速力で駆け出した。

「――っ野郎! 尾行に気づいて……」
 慌ててコンピュータを操作し、ロボットに垣根を追いかけさせる。
(それで垣根姫垣を先に帰したのか!? 一緒にいてはこちらを振り切れないと踏んで……いや、だがここで一度こちらの追跡を逃れたところで意味はない。向こうの拠点は分かっているんだから、簡単に尾行は再開できる。それは垣根帝督も了解している筈だ。そもそも……)
 馬場がキーボードにあるコードを打ち込むと、ドッグレースの犬並みと言った感じだったロボットの速度が、一気に自動車のそれへと変速した。
(バイクもない今、垣根帝督は、こいつから――『俺』から逃げられやしない)
 瞬時に垣根との距離を詰めるロボット。
 だが、次の瞬間。

 垣根の身体が垂直に上方へ向けて飛び上がった。

「なっ!? まさか、強い弾力性のある『未元物質』で、ジャンプ力を強化したのか!?」
 トランポリンみたいなものか、と思いながら、ロボットのカメラを上に向けると、垣根は空中でひも状の『未元物質』を作り出し、それを立ち並ぶビルの屋上の柵に絡みつけていた。
 そしてひもを収縮させて身体を引き寄せると、ビルの屋上に見事に着地し、そのまま屋上を伝ってロボットの視界から消えてしまった。
「くそっ、どういうつもりなんだ……! 待てよ、まさか俺の監視から逃れている内に、何か木原幻生からの依頼を……ちっ、博士のジジイに連絡を」
 思い、携帯を取り出した時、馬場はディスプレイに表示されている監視カメラの一つに垣根の姿を認めた。
 その監視カメラは――
「くそっ、違う! 垣根帝督の狙いは……」
 ロボットが潜んでいる場所の、後方の路地を映していた。
「――ロボットの破壊か!」
 コンマで馬場がキーを叩くと、ロボットが脚を一瞬大きく曲げた後跳ね上がり、控えていた場所から高速で離脱する。
 そして、一瞬の間すら置かずに、その場所に『未元物質』の槍が何本も突き刺さった。
 馬場はその映像をまともに見ないままロボットを走らせ、一目散にその路地から離脱させようとする。
「『暗黙の了解』が仇になった……向こうがこっちを攻撃しても、『言ってくれなかったら監視だとは分からずに攻撃してしまいました』とでも言えば通っちまう! そして、逃げるんじゃなく、こっちを破壊してからなら、監視の束縛から解放される時間は格段に上がる! その隙に何かをやる気か!」
 コンピュータを片手で操作しながら、もう一方の手で携帯をダイヤルし、『メンバー』はリーダー、博士へと繋ぐ。
「博士! 緊急事態です! 垣根帝督が監視用ロボットに攻撃を仕掛けてきました……っ!」
 その短い間に、気がつくと垣根がロボットを高速で追いかけている。
 監視カメラの映像によると、どうやら今度は靴裏に仕込んだ限りなく摩擦が0に近い『未元物質』で、道路に敷いた同質の『未元物質』の上をさながらスキーかスケートのように滑って高速移動しているようだ。
 ロボットにジグザグに路地を移動させ、追跡を振り切ろうとするも、ギリギリのところでこちらの位置を把握し、しつこく付きまとってくる。
 追う側と追われる側が、完全に入れ替わってしまった。

134垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:39:13 ID:qlwnKMoo
『映像を見た』
 オンマイクにした携帯のスピーカーから、博士の声が流れてくる。
『こちらの監視をかいくぐり、垣根帝督が何かをするのか、それともこの混乱に乗じて木原幻生が極秘の実験を行うのか。両名を監視しておく必要があるが……お前のロボットは生物ではないし、垣根帝督は高速移動。これでは査楽の能力ではまるでついていけんな。仕方がない、私が応援に行く』
 電話の向こうで、博士が何かの準備をしているのだろう、雑音が響いている。
『査楽には木原幻生本人と研究施設を中心に監視を続行させる。お前は、私が着くまで何とか逃げ切れ。その後は『最終手段』を使っても構わん。むしろ監視から逃れられたと思わせるために敢えて使うのもアリだ』
「……了解」 
 馬場が何とかそれだけ返すと、向こうから通話が切られた。
 変わらずディスプレイに集中する馬場だったが、状況は改善されない。
 地面に物が放置されている狭い路地を――つまりは能力による加速を行いづらい地形を選んで走行しているのだが、それでも垣根は器用に小加速を繰り返し、つかず離れずの距離でロボットを追いかけている。
「くそ……バイクがなくても充分機動力があるじゃないかっ」
 後方から放たれた鏃を横にかわしながら、声に出して毒づく馬場。
 その足は、まるで上半身とは別の生き物であるかのように、床に置かれたビニール袋を少しづつ引き寄せている。
 足の指でその袋の中身をかき回しながら馬場は苦しげに呟いた。
「せめて……少しでいいから時間があれば…………っ!?」
 だが、少し集中を足の方に散らしてしまったその隙に。

 垣根帝督が、ロボットを追い越した。

「んなっ!? この野郎っ!」 
 垣根がとった行動は簡単。
 凸凹の地面にではなく、平坦な壁に『未元物質』のレールを敷き、そこに足裏を合わせて大加速をかけたのだ。
 ロボットの前方で、壁から足を剥がして着地する垣根は、自分の周囲に十数本もの『未元物質』の槍を出現させる。
 こう来ると、障害物の多い路地を選んだことが裏目に出てしまう。
「逃げ場が……」
 自ら袋小路に逃げ込んだようなものだ。
 至近距離から放たれる槍の初速を上回る速度が出せなければ、真っ直ぐな通路など行き止まりも同然である。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!!」
 それでも、せめてもの抵抗と逆方向にロボットを走らせる。
 しかし垣根は、そんなものには構わずに、槍の照準を一斉にロボットに定める。
 この距離では、万に一つも避けきれないだろう。
「これまでか……」
 馬場は、『最終手段』の起動キーに手をかける。
 その時――

135垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:39:59 ID:qlwnKMoo









そう思った瞬間、最大限に開かれた竜王の顎が錬金術師を頭から呑み込んだ。

136垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:41:28 ID:qlwnKMoo
「痛ぇっ!?」
 突然、垣根の頭を激しい痛みが襲った。
 不意のことに混乱し、思わず『未元物質』の演算を止めてしまう。
 途端に周囲に浮かせていた『未元物質』の槍は一本残らず消失するが、垣根は再度攻撃することもなく頭を抱えてその場にうずくまってしまった。


「……何だ? トラブルか?」
 必勝の場面で攻撃を止めた垣根に、馬場は首を傾げる。
 だが――
「これは、チャンスだ」
 馬場はロボットを適当に走らせて、小さな隙間に隠れさせると、キーボードから手を離した。
 そして、足元のビニール袋からあるものを取り出し、パソコンに接続する。
「見てろよ、これが俺の力だ……」
 馬場は、それ――馬場自身の手で改良を施した、パソコンゲーム用のジョイスティックを握りしめ、不敵な笑みを浮かべた。


「ぁー、何だったんだ……つーかまだ痛ぇし」
 垣根は頭を右手でマッサージしながら、忌々しげに呟く。
 突如自身を襲った頭痛だったが、もう最初ほどの痛みはない。
 それでも継続的な鈍痛が未だ頭に響いており、ただでさえ予定外の仕事ということで感じていたイライラ度が、さらに上がっていく。
「ちっ。んで、どこに行きやがった?」
 極小の『未元物質』の粒子を飛ばし、周囲を索敵する。
 まだそんなに時間は経っていない、すぐに捉えられる筈だ。
 そして、その通り。
 ソレはすぐに見つかった。
 しかも、視覚で得られる情報とほぼ同時に。
 つまりは垣根帝督のすぐ目の前に、ソレは存在していたのだ。
「んだぁ? 降参か、オイ」
 予想外の登場に垣根が言葉を吐いた、次の瞬間。
 ロボットの、鼻とも口とも言えない奇妙な部位が垣根の方へ向かって真っ直ぐに伸び、

 ドウッ、とそこから青白い光線が放たれた。

「んなっ――!」
 放たれて半秒としない内に、光線はドォン、と轟音を立てて、垣根と正面から衝突する。
「………………………っぶねぇ」
 だが、垣根は無傷だった。
 攻撃に対して自動で展開するように設定されている『未元物質』の壁の数式が発動、間一髪で垣根を光線から守ったのだ。
(んだよ、武装があったのか。だったら何でさっさと使わねぇ……!?)
 心中で呟く垣根の目の前。
 光線との衝突によって起こった土煙が晴れたその場所に、ロボットが再び『銃口』をこちらに向けて構えていた。


 馬場芳郎は、ディスプレイを見つめながら、目にも止まらぬ速さでボタンを押し、スティックを回す。
「キーボード操作は偵察用だから、その状態では火器類は使えない。でもこのジョイスティック操作はガチガチの戦闘用。さっきまでの『俺』と同じだと思うなよ?」
 唇の端を歪めながら、馬場は再び光線発射のコマンドを打ち込む。

137垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:41:49 ID:qlwnKMoo
「くっそ!」
 連続で放たれる光線。
 それらを垣根は『未元物質』の壁で全て防ぎきる。
「だぁー、ムカついた。何なんだ、オイ。今さら粋がっちゃってよ」
 イライラと呟きながら、垣根は防御の合間に『未元物質』の槍で本体を叩こうとする。
 しかし――
「? さっきまでと動きが……」
 こちらから逃げながら辛うじて回避が可能、という状態だったロボットが、今ではこちらの攻撃を避けつつも一歩も退かず、それどころか光線の追撃を放ってくるようになった。
(さっきまでの大振りな避け方じゃねぇ。STGのチョン避けみてぇに最小限の振りだけで避けてやがる。何が起きやがった?)
 かなり的を射た感想を抱きつつ、垣根は続けて攻撃を与える。
 それでもロボットはその悉くを避け、ロボット側からの追撃も増えていく。
 それに伴い、垣根の周囲に展開される『未元物質』の量も徐々に増えていく。
(ッ! めんどくせぇ。だがこんな程度の攻撃じゃ、通用しねぇぞ。第二位の演算能力を舐める……な……!?)
 突然、新たな『未元物質』を造ろうとした垣根の思考が停止した。
 その感覚を、垣根は知っている。
(演算能力の限界だと!? 有り得ねぇ! いつもならまだ全然余裕な筈……)
 そこで、垣根は先ほどから自分を襲っている頭痛のことに思い至った。
(まさか、この頭痛が俺の演算能力を削って……いや、俺の演算能力を使って何かが余計なことをしてやがって、その結果頭痛が起こってるって考えるべきか)
 しかし、原因が分かったところで、状況の解決には繋がらない。
 こちらの演算能力の限界に気づいたのだろう、ポリバケツの上に乗ったロボットが、絶対の間合いから光線を撃ち込む準備を終えていた。
「ん、な、ろォォォォォォォォ!!」
 身体を捻って避けようとするが、能力なしの人間と最先端科学の結晶であるロボットと、どちらが優勢かは言うまでもない。
 一瞬の間すら置かず、ロボットが攻撃を放ち、

 垣根は吐き出された煙幕弾を正面から受けて、完全に視界を奪われた。

「観察対象を怪我させる訳にはいかないからな」
 馬場は煙に紛れ、ロボットを現場から離脱させる。
 コントローラに持ち替えたその瞬間からこの煙幕弾を撃ち込むことは出来たし、垣根当人に当てずとも、適当な場所に撃てばそれで用は済んだであろう。
 それでも馬場が垣根に直接被弾させることにこだわったのは――
「これでどっちが上かは分かっただろ? 学園都市第二位」
 にやにやと笑いながら、馬場は勝利に打ち震えていた。

138垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:42:18 ID:qlwnKMoo
「だー、もうよ」
 煙が立ち込め、視界の利かなくなった路地で。
 垣根帝督は酷く低い声で唸る。
「今日は久しぶりのオフで。ヒメと買い物してて。そこにありもしない幻聴が聞こえて。そのせいで幻生の野郎の依頼に乗っちまって……」
 誰にともなく、ぶつぶつと、或いは、沸々と。
「突然頭痛がして対象を仕留め損ねて、返り討ちに遭って、かと思ったら実弾使わずに手加減されて……」
 煙が晴れると、そこにはこの上なくイラついている垣根の顔があった。
「ムカついた。あー、もうマジでムカついた。ムカついてムカついて仕方ねぇ」
 垣根はすぐにロボットの位置を探知した。
 向こうは、視界から逃れれば良いと考えているのだろう。
 超高速で逃げ回れば捕まらないと思っているのだろう。
 だが、それは余りにも舐めすぎだ。
 学園都市第二位、『未元物質』の垣根帝督を、余りにも舐めすぎだ。
「――ぜってぇぶっ壊す」
 呟いた次の瞬間には、垣根の姿はその場から消えていた。

 その日、学園都市は第七学区で、奇妙な現象が相次いで報告された。
 その例の一つ。
 柵川中学一年生の少女、初春飾利は、道を歩いていると、突然自分のスカートが上方へ思いっきりまくり上げられる感覚を覚えた。
「ひゃっ! さ、佐天さん! だから街中でスカートめくりするの止めて下さいって言ってるじゃないですか!」
 スカートを抑えながら、いつもギリギリな悪戯を仕掛けてくる級友、佐天涙子を咎めようとした初春だったが、
「あ、れれ?」
 初春の目の前で、その佐天もまた、スカートを目一杯、惜しげもなく、あっけからんと、オープンハートしてしまっていた。
「佐天さんじゃなかったんですか……? あれ、じゃあ、誰が……」
「……………だ」
 佐天は、トランプマークの散りばめられたら可愛いパンツを風にはためかせながら、今見た光景を言葉にする。
「雪駄ババァだっ!」
「せっ……へ?」
「都市伝説だよ初春! 凄い速さで走る雪駄履いたお婆さんの! 余りに速すぎて姿は確認できなかったけど……でもでも、あんな速度で走れるなんて、絶対雪駄ババァだよ! いやぁ、まさか実在したなんて!」
「あ、あのー佐天さん?」
 初春を置いてけぼりにして、佐天はなおもはしゃぎ続ける。
「うわー、すっごー! しかも、『二人』もいたしね!」

139垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:42:36 ID:qlwnKMoo
 街の中に、二陣の風が吹き荒れていた。
 一つは馬場芳郎の操るロボット。
 もう一つは垣根帝督それ自身。
 構図は簡単。
 逃げるロボットに、それを追いかける垣根、という形である。
 先ほどまでの垣根の速力では、コントローラでの精密操作に切り替わった馬場のロボットについて行くことは難しかっただろう。
 それが可能となっているのは――何と言うことはない、垣根の方もパワーアップしたというだけである。
「ムカついたムカついたムカついたムカついたムカついたムカついたムカついたムカついたオラァァァァァァァァァァァァ!!」
 怒声を上げながら、垣根は街中を『走る』。
 地面や、或いは路地の壁なんて、『行儀正しい』場所だけではない。
 街灯、信号、ビルの壁面、走行中の車の屋根、果ては空いている窓を通じてアパートや商店の内部まで。
 至る所に『未元物質』の道を引き、それでも足りなければ空中に即席の橋を架けて。
 摩擦が限りなく0に近い性質を持ち、超高速移動ができる『未元物質』、そして強い弾性を持ち、トランポリンのように跳躍できる『未元物質』。
 この二つを使って、或いはこの二つしか使わずに、垣根帝督は自由に街中を走り回る。
 縦横無尽という言葉が、これ以上ないくらいにしっくりくる光景だ。
 但し、それをきちんと視認できている者は少ない。
 そしてそれは、追いかけられている当人の馬場にも言えることだった。


「何で……何でなんだ畜生がァァ!!」
 人間の指の動きとは思えないような動作で、馬場の両手がコントローラを操作する。
 しかし、それでも垣根と距離を空けることは出来ない。
 一旦退いたと思ったら、規則正しく並ぶ街灯を足場に『跳び継いで』大回りし、ロボットの進路を前方から塞いでくる。
 細い路地に逃げ込めば、隣のビルの窓からその中に入り、別の窓から飛び出すのを繰り返し、ぴっちりと併走してくる。
 見えなくてもこちらの位置を知る術があるように――実際その通りなのだが――垣根はロボットを決して逃さない。
 それどころか、どんどんと――先程よりもロボットは高速で走ってるにも関わらず、先程追いつかれたのに要した時間よりもずっと早く――ロボットは垣根に追い詰められていく。
「あれで……本気じゃなかったってのか……これが……学園都市第二位……!?」
 その瞬間、ロボットの右足に『未元物質』の槍が突き刺さり、ロボットを地面に縫い付けた。
「そんな……」
 馬場は操作ミスを犯していない。
 正真正銘、実力で負けたのだ。
「クソッ……クソッ……クソッタレェェェェェェェ!!」
 叫ぶ間に他の三肢にも槍が刺さり、ロボットは完全に身動きが取れなくなる。
 と、そこで携帯電話が鳴った。
 自動で繋がった回線の向こうから、博士の声が聞こえる。
『配置についた。垣根帝督の監視を始めている。『最終手段』を使って構わん』
「…………………っ」
 馬場は、携帯と、ロボットのカメラが映し出す光景――垣根帝督がコツコツ、と靴音高らかにロボットに近づいてくる光景とを交互に何度か見――
「………………了解」
 苦虫を噛み潰したような表情でそう言うと、コントローラでとあるコマンドを打ち込んだ。
 そして――

 ドォン、という轟音を響かせて、馬場のロボットが木端微塵に弾け飛んだ。

140垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:42:52 ID:qlwnKMoo
「あーあ、自爆しやがった」
 爆風を『未元物質』の壁で遮りながら、垣根帝督は呆れ気味に声を出す。
「証拠の隠滅に技術の隠匿のためってところか? 構わねぇけどよ。自爆でも破壊のうちに入るだろ。任務完了だ」
 粉々になり、半端な技術では解析や再生が不可能になったロボットの破片を踏み砕きながら、垣根はその場を後にする。
「しっかし、何なんだこの頭痛は。あーもうムカついた。テメェの頭にムカついたぞコラ…………ん?」
 ガシガシと頭を掻いていた垣根だったが、突然、頭痛が治まり、頭が軽くなったような感覚を覚えた。
「……今さら治りやがった。マジで勘弁してくれよ、一回スキャンしといた方がいいか?」
〈スキャン……健康診断のようなものか。当然。自身の身は常に最高の状態に保っておくのは良いことだ。特に私の場合、肉体の健康状態も精神状態に影響しかねんしな〉
「テメェの意見なんざ聞いてね……ん、だ……」
 突如、垣根の思考回路の中に知らない声が割り込んできた。
 いや、違う。
 知らない声ではない。
 知らないのではなく――『忘れていた』。
「オイ……テメェ……」
〈また会えたな、垣根帝督。こちらとしては一刻も経っていないが……貴様の側からは、久しぶり、になるのか?〉
「どうしてテメェの声が俺の頭の中から響いてる……どうしてテメェが俺の頭の中にいるんだ? まさか、さっきまでの頭痛は……」
〈明然。『引っ越し』に際して、私が貴様の頭を少し整理していたからである。そのせいで貴様の戦いに支障をきたしてしまったようだが……許せ。他人の頭に潜るのは初めてだったのでな。色々と手間取ってしまったのだ。とまれ――〉
 好き勝手に喚く声。
 垣根は、頭の中に反響するそれの出所を追いかけるように、目を閉じて意識を集中させる。
〈垣根帝督、私は今日から貴様の頭の中に間借りさせてもらう〉
 垣根が再び目を開くと、そこはいつかの、豪華だが悪趣味な一室――『今の今まで忘れていた』、三沢塾の、校長室だった。
 別に設置されたらしいカフェテリアから丸ごと持ってきたかのようなティーテーブルまでそのままで、気がつくと垣根は二脚置かれた椅子の一つに座っている。
 そして、その対面には――
〈的然。貴様に拒否権はないがな〉
「アウレオルス=イザード!」
 5日前に会い、しかしそのことを垣根の頭からすっかり忘れさせていた張本人――いけ好かない緑髪白スーツの男、錬金術師・アウレオルス=イザードが、涼しい顔で座っていた。


「ええ。研究所にも、木原幻生本人にも怪しい動きはありませんでした。垣根帝督の方は?」
『これといった動きはない。ぶつぶつと独り言を呟いている以外はな』
「そうですか。まぁ、独り言なんて、言う人は物凄く言いますからね。特に今は、馬場に一度負かされたのが、頭にきてるんじゃないですか? まだまだ子供ですね」
 電話で『メンバー』のリーダーである博士と連絡を取りながら、査楽は博士から任された木原幻生の監視を続ける。
 どうやら木原幻生にも垣根帝督にも、こちらの監視を逃れて何かをやろう、という素振りは見えないようだが――
「そうすると、どうして垣根はあんなことをしたんですかね?」
『垣根帝督の独断だとすれば、自分と――そして妹をつけ回す虫を駆除しようとしただけかもしれん。木原幻生の指示だとすれば……フン。大方、茶目っ気と勘違いした、迷惑極まりないただのちょっかい出しなだけかもしれんな。あの古狸には、そういう厄介な面もある』
「なるほど。それでお気に入りのロボットを一台失っては、馬場も相当キていたでしょうね」
『あぁ。一台いくらすると思っている、と怒っていたな。スペアはあるようだから活動自体には支障はないが……馬場による垣根帝督の監視は制限されるだろうな』
「そろそろ本格的に『停滞回線』の使用許可が必要かもしれませんね」
『あぁ、癪な話だがな。上と掛け合ってみよう』
 それだけ言うと、向こうから通話が切られた。
 査楽は携帯を置いて、木原幻生の姿を映したモニターに目を向ける。
 すると、
「おや?」
 幻生が、小さく口を動かした。
 音も拾える監視装置に感知されないということは、発声している訳ではないのだろう。
「独り言……」
 先ほど自分で言った言葉を思い出し、査楽は構わず放っておくことにした。
 査楽に高度な読唇術の術があったなら、或いは幻生が心中でこう呟いているのが分かっただろう。

 『全く、とんだ間抜けだなぁ。君たちは』と。

 それと時を同じくして、木原研究所内にある、物置部屋のように扱われている場所に投げ込まれている、『本来はとっくに壊れて廃棄処分になっている筈のコンピュータ』が、何かのプログラムの実行が終了したことを告げていた。

141垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:45:59 ID:qlwnKMoo
 垣根帝督の十番勝負
 
 第四戦 『馬場芳郎』
 
 対戦結果――相手途中棄権による不戦勝
 

 
 次戦
 
 対戦相手――『姫神秋沙』

142垣根帝督の十番勝負 第四戦『馬場芳郎』:2010/08/16(月) 15:59:29 ID:qlwnKMoo
以上です。


最後の方、まぁ、つまりはひとつの体にふたつの人格というあれです。
禁書じゃそういうのないな、と思いまして。(妹達は体:意識=1:1)
遊戯にとってのもうひとりの僕のような。
ただし、アウレオルスは垣根のかわりにデュエルしたりできないので、ヒカ碁のサイのほうが近いかも。
詳しい解説は次戦でやるので、深くは突っ込まないでいただけるとありがたいです。
ただ、アウレオルスの一人称が今まで「我」だったことはだれか気づいてほしかったです……さっき2巻パラ見して愕然。
禁書目録indexとか見て、あ、我なんだそうなんだ、と思いそのまま書いてました。
今見たらちゃんとindexも私だったので、自分で勝手に勘違いしてたみたいです、恥ずかしい。


>>43>>65
このシリーズ読んでくださっているみたいで本当にありがとうございます。
絹旗の頃に比べると随分不定期ですが、どうかもうしばらく付き合ってくれたらと思います。

それでは、感想などありましたら、一言でもいいのでレスしてくださるとありがたいです。
間違いの指摘や疑問点なども、言ってくれて構いません。

では。



佐天さんが久しぶりに書けて満足。
今回エピソード的には一戦の次に必要ないのに一戦の次に長いと言う……

143神浄の討魔=美琴信者:2010/08/16(月) 23:07:06 ID:yJX9KNbI
ヒーローは遅れて登場する(殴蹴死
すみません冗談です……反乱因子作者です。どうも自重という言葉を知らなくて……(おい
そういうことで、遅れましたけど反乱因子あげさせてもらいます。
それと、コメ返の方を。少ないのは気にしたら負け(
858> ッてかここでリンクってどう貼るの……?
空白に関しては、仰るとおりただのミスですorz 今度気をつけます……
それで効果音なんですが……
あれは、一応「鋭さ」とかいう普通とは違う「音」を演出しようとしていたんですが……
まぁ、つけあがってました^^; 以後変えますw
連続ダッシュは自重します(汗

そういうことで、今からあげ〜。

144とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 三十三:2010/08/16(月) 23:15:55 ID:yJX9KNbI
11

 チックショウ、と聴覚潜り(ノイズキラー)が呻いた。
 なんで、と視覚潰し(ライトメーター)は思った。
 馬鹿な、と触覚壊し(センサーブレイク)は途方に暮れた。
 それでも、抵抗する、と精神操作(メンタルコントロール)は決意した。
 そして、

 今、彼ら(超能力者)本当の力が、解放された。


 
「…………ハッ」
 聴覚潜りは、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)の効力によりあらわになる。
『クッ、クフフッ、ハハァァァッ!!!!』
 だがそれにもかかわらず、聴覚潜りは歓喜の声を上げた。
 そして次の瞬間、
「がっ!?」
「く……」
「っ、ぅぁ……」
 上条と聴覚潜りを除いた、その場にいた全員が地面に崩れ落ちる。
「なっ……」
 その光景に上条は目の前に敵がいるのにも目を向けず、硬直してしまった。
 その上条に、
「へぇ〜、テメェガ幻想殺し……上条当麻カ」
 満足したような、歪んだ笑みを象った聴覚潜りがそう語りかけた。
 その言葉に上条は呪縛から解き放たれたかのように、反射的に振り返って聴覚潜りを殴り飛ばした。
 かのように思えた。
「ッ!?」
 上条の拳は、何故か空を切る。
 さっき聞こえた聴覚潜りの声は、確かに上条のすぐそばで聞こえていた。
 にもかかわらず、
 今聴覚潜りは、上条から10m程度距離を取った場所に悠然と立っている。
「ハハァ。テメェノことヲどう殺すか考えてたガ、どうやらこういうことで良いらしいナァ!」
 聴覚潜りはそう叫び、その細い身体で上条に突進してきた。
「くそっ」
 何が起こっているのかはほとんど理解できないが、とりあえずは聴覚潜りを撃退しようとする上条。
 聴覚潜りの突進の起動を先読みし、上条は2,3歩踏み出して拳を振るった。
 だが、
(また!?)
 やはり、聴覚潜りはそこにはいなかった。
 そこのほとんど反対の場所で、上条に接近している。
「オラッ!」
 拳を振り切って無防備な上条の顔面に、細い聴覚潜りの拳が突き刺さる。
「ぐっ!」
 その攻撃に、上条は後ろへ倒れこむ。
 だが、あまりダメージは蓄積されていない。やはり能力者は、拳で語り合うのは性分ではないのだ。
 が、だからと言って、
「ハァ〜ァ。いいなぁ、自分ノ手デ人間ヲ思う存分殴るっテのも」
 何発もその拳を喰らって、立っていられるわけはない。
 聴覚潜りは、手の関節をボキボキと鳴らしながら上条に近づいてくる。
 それを見て上条は、
(……なんだ、さっきのは…何が起こった?)
 さっきの現象を、何とか理解しようとしていた。
 上条の右手のことを考えれば、相手が能力や魔術を使っている、とは考えにくい。
 だったら、聴覚潜りはたいそうな身体能力の持ち主、だということだろうか?
 が、それも成り立たない。もしそうなら、上条を殴り飛ばした一撃で、上条の意識は吹っ飛んでいるはずだ。
 では、一体何が。
 そう考えていた上条の前に、聴覚潜りがたどり着く。
「……何やっテんだテメェ? 殺さレて欲しイのか」
 聴覚潜りは、そう言って上条へと拳を振り上げる。
 それに上条は、

145とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 三十四:2010/08/16(月) 23:16:45 ID:yJX9KNbI

 特に考えは浮かびはしなかったのだが、このまま殴られるわけにも行かないので、とりあえずカウンターを放つ。
 が、
(これも―――!!)
 やはり、上条の右手は、何もない虚空をきった。
 そして、その反対側から細い拳が飛んでくる。
 仕方がないので、そのダメージをうまく逃がそうと体を整えた上条だが、
 その拳が、上条に当たることはなかった。

 ガンッ!
 と、鈍い音を立てて、視覚潜り(ノイズキラー)の拳は、上条に当たる寸でのところで、何かに弾き返されたからだ。

「は?」
 それに驚いたのは、むしろ上条のほうだった。もちろん、視覚潜りも怪訝な顔をしているが。
 上条自身が、何かした覚えはない。そもそも、その右手のせいで上条は能力も魔術もクソもないのだ。
 が、視覚潜りの拳は何かに遮られた。
 それについて、上条が深く考え込もうとする。
 その時、

「悪いが、お前の相手は俺にさせてもらうぞ」

 上条の後方から、声が聞こえた。
 反射的に、上条は後ろを振り返る。
 そして見たのは、
「削、板……?」
 先ほど、わけの分からない視覚潜りの攻撃で倒れていたはずの軍覇が、悠然と立っていた。
 それを見た視覚潜りは、上条以上に『わけの分からない』という顔をして、
「ああ? テメェ、何デ立っテいらレる?」
 軍覇に、そう聞いた。
 だが、軍覇はそれを軽く受け流し、上条に言う。
「コイツは俺がどうにかする。お前はあいつらを連れて進め」
「………」
 ベタ過ぎて、もはやどこから突っ込んでいいのか分からなくなってしまっている上条。
 だが軍覇は、特に気にすることなく『さっさと行け』と顎でアックアたちを示していた。
(……そういや、アックアの奴も倒れたんだよな……? なんだよ、さっきの攻撃。そして削板は、何でそれで立っていられるんだ……?)
 また考え事に没頭しそうになる上条だが、いい加減頭を振ってその思考を止める。
 その上条に、視覚潜りは告げた。
「ああ、いいゼテメェハ行って。こいつノことヲサクっと殺しテ、お前ノこトも十分楽しンで殺してやっかラよぉ」
 ……とんでもないデジャヴを感じるんですが、と上条は背筋を凍らせつつアックアたちの元へ向かう。
 どうやら本当に、視覚潜りの相手は削板軍覇―――念動砲弾(アタッククラッシュ)が勤めるようだ。

146とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 三十四:2010/08/16(月) 23:18:15 ID:yJX9KNbI
12

 視覚潰し(ライトメーター)は、その一方通行(アクセラレーター)の華奢な、死が宿った腕を見て、

 ニヤリ、と禍々しく笑った。

 次の瞬間、
「ッ!?」
 珍しく、一方通行が動揺したような表情を浮かべる。
 それもそうだろう。
 目の前から、いきなり視覚潰しが消え去ったのだから。
(クソッ……これがやつの能力か?)
 辺りをすばやく見回す一方通行。
 だが、その目に映るのは、やはり同じように辺りを見回している仲間だけだ。
 チッ! と一方通行は大きく舌打ちし、大声で叫ぶ。
「全員俺から離れるなァ! 一旦こっちに来いッ!!」
 一方通行ならば、相手を確認できなくてもその能力があるため、怪我をすることはないだろう。
 だが、他のメンバーは別だ。相手を確認できなければ、やりたいようにやられてしまう。
 それは避けようとしたゆえの行動だったのだが、

 パァン!
 と、乾いた銃声が響いた。

 そして次に聞こえたのは、
「ぐぅっ!?」
 鏡子の、うめき声。
 一方通行がそちらに目を向けると、ちょうどわき腹あたりを抱えてうずくまっている、鏡子が写った。
 そのわき腹は、すでに大量の血で滲んでいる。
(マズ―――ッ、今ここであいつを失うわけにはッ!)
 足のベクトルを操作し、一瞬で鏡子の下へとたどり着く一方通行。
 だが、その一方通行たちに、声が響いた。
 不自然なほど、大きな声が。

「…いいんですか、他の仲間を見捨てたりして?」

 それは、視覚潰しのものだ。
 だがやはり、彼女の姿は確認できない。
 どこにいやがる、と一方通行が周囲に目をめぐらせると、
 今度は。
 パンパン!
 と連続した銃声が、辺り一帯に響く。



(……これで、残るはあと3人……)
 拳銃の残弾を気にしながら、そう考える視覚潰し。
(厄介なあの女は、もうすでに能力は使用できないはず……それ以外の者も、2名戦闘不可に追いやった。このまま、できれば一方通行も妥当したいところ――――)
 そう考えていた視覚潰しが、その倒れた2名を確認しようとその頭を回す。
 すると、その2名が確認できた。

 全く弾を貫かれたような様子は見せない、ピンピンした二人が。

「なっ!?」
 思わず声を上げてしまう視覚潰し。まぁ、聴覚潜り(ノイズキラー)の力があるから問題は発生しないはずだが。
(な、何故あの二人が……)
 確かに自分は、あの二人に照準を向け、発砲したはずだ。
 それなのに、あの二人は全く傷はついていない。
 何故、と考える視覚潰しの目に、

 キッ、と此方を睨んでいる、長谷田鏡子―――心理掌握(メンタルアウト)の姿が飛び込んできた。

147とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 三十六:2010/08/16(月) 23:19:33 ID:yJX9KNbI

 視覚潰し(ライトメーター)は、『何故彼女が私を「確認」できているのでしょうか?』と呟いたが、やはりあまり小さいことは気にしないらしい。小さいことなのかはそこはかとなく疑問だが。
 そして、鏡子のことを無視し、一体何がどうなってあの二人が無事なのかを考えようとする。
 が、

『……アンタの相手は私なのよ、このクッソババァ』

 明らかに精神操作(メンタルコントロール)のものではない、まざまざと敵対感を打ち付けてくる声が、視覚潰しの頭に叩き込まれた。
(……そうですか)
 そのことについては、早くも理解した視覚潰しが、鏡子のことを真正面から睨みつける。
(心理掌握(メンタルアウト)……そんなに死にたければ、あなたから先に殺して差し上げましょう)
 銃をしっかりと鏡子へと向け、視覚潰しは思った。



--------------------------------------------------------------------------------


「……テメェ」
「何、よ。アンタは大丈夫…なんだから、別にいいでしょう、が」
 今起こったことについて一方通行(アクセラレータ)が不満を漏らすと、明らかにまずい状態だと分かる、ぶつ切りの鏡子の声が一方通行に届いた。
 もう既に、一方通行の一声で彼の元に、グループB前メンバーが集っていた。かなり困惑はしているが。
 そして一番動揺していそうな、天草式の五和が鏡子に向けていった。
「あ、あのっ!? だ、大丈夫なんですか、その傷……どう見ても大丈夫そうではないですけど」
 あたふたと魔術の準備をし始める五和。他の天草式メンバーも、彼女の術式を手伝っている。
 だがしかし、鏡子はそれを一瞥し、冷たい声を彼女たちにかけただけだった。
「あなたたち…馬鹿? 今、相手は確認できないだけ、で……銃を構えているのよ? 他人を気遣って、いる暇があったら…自分のことを心配しなさいよ」
 声こそは強気なものの、表情と血が、鏡子の大事を周囲に伝えている。
 だからこそ五和は、その言葉を無視して術式を発動しようとしていたが、
 パッァン!
 と、またもや短く銃声が響く。
「きゃっ!?」
 術式に集中していたせいか、銃声にも慣れているはずの五和が悲鳴を上げた。
 だが、
 
 五和が瞬発的に予想した、撃たれた本人の悲鳴と、血飛沫は上がらなかった。

 ……なのだが、
「……何度やりゃァ気が済むンだァ、テメェよォ」
 殺気むんむんの、一方通行の声が代わりに聞こえた。
 その声に全く動じず、同超能力者(レベル5)の心理掌握がサラッと応えた。
「そりゃ、あんたらがさっさとここから消えるまでよ馬鹿」
 その最後の『馬鹿』には、普通女性のみが発する特有の『アレ』というものが全く感じられず、本当にただ単にそう思っている、としか感じさせなかった。本当にどうでもいいことだが。
 と、その能力者の頂点に立つ二人組みの会話についていけていない五和が、
「…え、え〜と……と、とりあえず状況説明を…」
 もはやその術式を完成させることを忘れ、困ったような表情で二人に聞いた。ちなみに牛深と香焼の男二人組みは、その手の話を理解するのは最初から諦めているようだった。

148とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 三十七:2010/08/16(月) 23:20:23 ID:yJX9KNbI

 という状況になったのだが。
「無理ね。あんたらに説明している時間はないわ。さっさとここから消えなさい。一方通行(アクセラレータ)にでも聞けばいいでしょ」
 思いっきり人任せな発言が、鏡子の口からされた。
 それに一方通行は、
「……テメェ」
 またその台詞をはいたが、今回はそれ以上言わない。おそらく、さすがに事情を飲み込んだのだろう。
 一方通行は、他のメンバーに向かって冷たく言う。
「……さっさと行くぞ。こンな馬鹿女と一緒に心中なンて、お前らだって御免だろォ?」
 そう言った一方通行だが、自分ひとりだけでその場を去るという真似はしなかった。
「え、で、でも……」
 案の定というか、五和は戸惑っている。
(……チッ。本当に、さっさと消えてくれないとこっちもキツいってのに……)
 だいぶ腹のほうは痛みが引いてきたところだが、もしかしたら神経が麻痺し始めたのかもしれない。それに、出血のほうもだいぶ馬鹿にならなくなってきている。
 そんな状況下に置かれていた鏡子―――心理掌握(メンタルアウト)だが、
(…いいんですか? お仲間さんを去らせなくて)
「チッ!!」
 確かに、そういう感情を受け取った鏡子は、能力使用の準備をする。
 そして、
 パァン! という音と、
 キィン! という音が、ほとんど同じタイミングで響いた。
 それに対し、一方通行は、

「……チッ。やっぱし『他の野郎が干渉』してくっと、うまく『反射も使えねェ』な」

 髪の毛を掻き毟りながら、そう言った。
「え……?」
 五和は、先ほど何が起きたのかを目の当たりにして、その場から動けないでいた。
(……ッ、本当に面倒な女ね……ッ! さっさと行きなさいってば!)
 さすがにこれ以上は無理がある、と悟った鏡子は、五和に対しそう『強く念じた』。
 すると、
 突然五和は、ペタリと座り込んでいたその身体を起こし、無表情でその場を立ち去ろうとする。
 さすがにそれには驚いた牛深たちが、五和に声をかける。
「ちょ……五和!?」
「ど、どうしたんすか、五和さん?」
 そう言い、やはり鏡子にも多少なりの引け目を感じているのか、彼女のほうをチラチラ見ながらも五和を追いかける男二人。
 それを見た一方通行が、
「……いいンだな?」
 確認をとるかのように、鏡子にそう言った。
 対し鏡子は、あっさりとこう言っただけ。
「何が?」
 ……、と黙り込んだ一方通行は、やはり他のメンバーと同じく、その場を立ち去る。
 死ぬンじゃねェぞ、と一言残して。
「……死ぬはずが、ないじゃない」
 それに鏡子は、少しの笑みを浮かべ、
「あんたらがいなくなれば……こっちは好き勝手にやらせてもらうわよ」
 今は姿を確認できていない、視覚潰し(ライトメーター)に対して、そう言った。

149とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 三十七:2010/08/16(月) 23:21:15 ID:yJX9KNbI

「だから、何があったんですか、って言ってるじゃないですか」
「だから、ンなこたァどォだっていいだろ、つってンだろォが」
 全然どうでもよくありません、とまだ食いついてくる五和を見て、ため息をつく一方通行(アクセラレータ)。


 場所は、鏡子から離れて100m程度の場所。
 状況は、今まで夢遊病者のように歩いていた五和が、突然目覚めたかのように意識を取り戻した、という感じ。
「……?」
 五和は、その歩いていた足を止め、寝ぼけたような目で前を見つめる。
 それを見た牛深が、ホッとしたように五和に言った。
「おっ、五和、気付いたか?」
「…牛深、さん……?」
 やはりまだ寝ぼけているような顔を、牛深に向ける五和。
「あれ……? 私、いつの間にここまで?」
「え……? 五和、覚えてないんすか?」
 少し表情が引き締まった五和が言った言葉に、香焼が驚きを表した。
「覚えてない、というか……意識を失っていた、みたいな?」
 首をかしげながらそう言う五和。
「いや、みたいな? と言われても……」
 自分の頭を乱雑に牛深は掻く。
「…え〜と、二人は何がどうなってるのか、分かってないんですか?」
 おそらく牛深たちに聞いてきた五和の問いに、香焼が『そうっすね』と簡潔に応えた。
 少し行動を止めていた五和だが、
 牛深たちに向けていた首を、ぐるんと前に回して言った。
「あなたは、何か分からないんですか?」
「お前らに教える義理もねェよ」
 一方通行にかけられた五和の声を、あっさりと一蹴する一方通行。
「ッてことは、何が起こったのか分かってるんですね?」
「だからなンだ」
 五和の問いを、一方通行は後ろを振り返りもせずに返す。
 その一方通行の肩を五和は掴み、無理矢理こちらに向かせて言った。
「何があったか、教えて下さい」
「アア? ンだその人様に物を頼む態度はァ?」
 傍から見れば、まるでキスの一歩手前のような状況だが、二人ともまったくそんなことは意識していない。
 五和は一方通行の肩から手を離したが、顔はまるでガン見するように一方通行に近づけてさらに言った。
「お願いですから、教えて下さい」
「……舐めてンのか、テメェ」
 なぜか、半分ケンカのような状況になりつつある二人の会話。
 牛深たちには、そのどちらも止めることは出来ない。ただ顔を青くして見守っているだけだ。彼らも一応一方通行の立場は理解している。
 そして、まだそんな馬鹿げた問答を続けていた一方通行たちだが、
 不意に一方通行が空を見上げ、そして、

「……ああ、このあたりなら大丈夫そうだな」

 面倒くさそうにその長い髪を掻き、そう言った。


(やっと……効果圏外に出たか)
 一方通行の反応がなくなったのを感じ取り、そう思う鏡子。
(てか、あいつらなんで歩くだけなのにこんなに時間かかってんのよ……)
 周囲をくまなく見回しながらも、鏡子はそんなことを考える。
 そして、
 パッァン!
 と、もはや何度目になるかも数えたくなくなるような銃声が響いた。
 それは、完璧に鏡子の死角から放たれたものだった。それに、鏡子は銃声を聞いてから回避行動を行えるようなスーパーウーマンでもない。
 だが、
 それは鏡子の身体スレスレを通り、アスファルトに当たっただけで沈黙する。
 その銃口は、しっかりと鏡子の頭蓋骨を狙っていたはずなのに。
(……よし、大体銃口をずらすのには慣れてきた)
 だが、鏡子はそれに驚きを見せることはなく、ただ確認を取るかのようにその弾痕を見つめただけであった。
 
 それくらいのことは、心理掌握(メンタルアウト)にとっては驚くべきことでもないから。

150とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 三十九:2010/08/16(月) 23:22:16 ID:yJX9KNbI


(あの女……)
 視覚潰し(ライトメーター)は、少し焦ってはいるが限界ではない、という表情をしている鏡子を睨みつける。
(……心理掌握《メンタルアウト》の持ち主。心理や精神に関しては無敵の能力)
 垣根聖督にインプットされた情報を、頭の中で整理していく。
(おそらく、先ほどの銃弾をかわしていたのは……その能力のせいですか)
 視覚潰しはそう考える。
 おそらく鏡子は、その能力で視覚潰しの頭脳に干渉していた。
 そして、視覚潰しの銃口を、無理矢理鏡子ではなく一方通行(アクセラレータ)に向けていたのだろう。
 その行為自体は、心理掌握では成し得ないことだ。
 だがしかし、『思わせる』ことは、その能力を使用すれば可能。
 つまり、

(……私はその銃口を心理掌握に『向けていたと思わされていた』というわけですわね)
 
 脳に能力を滑り込ませ、視覚や心理を左右されたのだろう。
 それにより、視覚潰しは鏡子に銃口を向けていたつもりになっていたが、実際のところその銃口は、あの一方通行に向けていたのだ。
 そのまま引き金を引けば、その銃口は戸惑いなく一方通行に突き刺さる。
 だが、もちろん一方通行はその能力により、傷一つつかない。
 といっても、流石にデフォルトだけではそれを正確に『反射』することはできなかったのだろう。相手が確認できない状況で、突然わけの分からないタイミングで攻撃されれば、それをどこかに跳ね飛ばすだけで精一杯のはずだ。
 それによって視覚潰しも傷はつかなかったが、代わりに一方通行たちも傷一つつかなかった。
 その銃口を牛深たちに向けていたときも、同じようなことをされてかわされたのだろう。
(……やってくれるじゃないですか、なかなかに……ッ!!)
 そんなことは、やはり並大抵のことではない。
 しかも鏡子は、それを実行する前に一度、視覚潰しに腹を打ち抜かれているのだ。
 その痛みも、その能力を使ってある程度削減してあっただろうが、その精神状態であそこまでする鏡子は、やはり『化け物』と表現するのが正しいことだろう。
(といっても……そいつと相対している私が言えた義理じゃ、ないですかね)
 視覚潰しは、ペタリと地面に座り込んでいる心理掌握を見て、ニヤリと笑う。
 そして、
『……さて、心理掌握さん……邪魔者もいなくなったところですし、「本気の」殺し合いと行きましょうか』
 その視覚潰しの声を、鏡子の脳に直接叩き込ませるように、彼女は言った。

151とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十:2010/08/16(月) 23:23:17 ID:yJX9KNbI
13


 最初に感じたのは、途方もない絶望。
 次に感じたのは、それによって生み出された恐怖。
 そして、最後に感じたのは、身体を駆け巡るような開放感。
 
 触覚壊し(センサーブレイク)は、その能力が完備されたのを、それで知った。

 だが、それと同時、不自然なことも分かった。
(……なんで)
 触覚壊しは、焦点の合わない目で遠くを見つめ、
(……なんで、私は生きている……?)
 そう思った。
 あの、途方もない絶望を与えた攻撃。
 あんなものは、触覚壊しではどうしようもなかった。仲間の力が働いていても、同様のことが言える。
 そして、あれがそのまま直撃していれば、柔らかい生肉など、ズタズタに切り裂いていたことだろう。
 だが、
 触覚壊しには、傷一つついていなかった。
(おかしい)
 冷静に、それを受け止める触覚壊し。
(あの攻撃が馬鹿げているとか、今はそんなことどうでもいい。問題は、何で私が生きていられるのか、ということ)
 少なくとも、あの女が手加減したわけではないだろう、と考える触覚壊し。死なない程度には手加減したかもしれないが、傷一つつけないのでは、そもそも攻撃の意味がない。
 それに、あの攻撃だったら、本人の意思が度であれ、確実に触覚壊しを殺していただろう。それを全力で防ごうとしたところで、触覚壊しはおろか、本人でもそれは免れられないはずだ。
 だったら、何故、と辺りを見回す触覚壊し。
 そして分かったのは、あの攻撃が防がれていたのは、ある一点を中心とした円状の範囲内だけ、ということ。
 その範囲に入らなかったアスファルトは、跡形もなく切り裂かれている。
(一体、何が――――――)
 そう考える触覚壊しの耳に、

「……ああ? ンだテメェ」

 男の声が入り込んだ。
 とっさに身構える触覚壊し。
 そしてその声の主を確認しようとした触覚壊しだが、
 確認しようとするまでもなかった。
 『それ』は、目の前にいたから。

「……いきなり、分けのわからねぇ攻撃されたと思ったら……今度はなんだよ。あー、さっきの攻撃は、お前目掛けて打たれたのか」

 ゆっくりと、『それ』は立ち上がる。
 と同時、『それ』から生えている、白い翼も持ち上がる。
 その翼は、本体が普通の人間程度しかないのにもかかわらず、片方だけで10mもあるように思われた。
 そして、

「んじゃ、感謝するんだな、運良くこの俺がここにいたことを。一生、『学園都市第2位様……』って言っててもバチは当たらないぜ」

 その『少年』はそう言って、
 突如、消え去った。

152とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十:2010/08/16(月) 23:24:21 ID:yJX9KNbI


 やはり神裂も、その『少年』の姿を見ていた。
 だが、それをすぐに信じることなどは、到底無理だった。
 海原さえも驚いたような表情を見せ、他の天草式のメンバーも、開いた口が塞がらない、とでも言いたげな顔をしている。
 当たり前だろう、さっきまでは確実に確認できていなかったその少年が、神裂の攻撃をいとも簡単そうに防いで見たのだから。
 いや、神裂たちには、もはや何が起こったのかは理解できていなかった。
 ただ、事実を事実として突きつけられているだけ。
 神裂の攻撃は、触覚壊し(センサーブレイク)には当たらなかった。
 その原因は、おそらくあの少年にある、ということ。
 そしてその少年は、あたかも天使のような翼で、神裂の七閃を防いだらしい、ということ。
 だがその少年は、先ほども言ったとおり、それまでは一切確認できていなかった、ということ。
 最後に、その少年は神裂の攻撃を防いだ後、何事もなかったかのように、その場を一瞬で消え去った、ということ。
「……何が」
 神裂は、戦闘態勢をとるのも忘れ、呟く。
「何が起こったんですか、一体」


「それはこっちの台詞だっての」
 大地を、まるで翼が生えている鳥のように駆け抜ける少年が言った。
「ッたく、わけわかんねぇ。突然攻撃されて、とっさに防ぐこっちの身にもなれってんだ」
 そう愚痴を吐きながらも、その足は止まらない。もはや足を使って移動しているのかも疑いたくなるような速度で移動しているのだが。
 そしてやはり、その少年は足を使って移動しているわけではないようだ。
 その背中に実際に生えている、禍々しいほど神々しい、天使が持っているかのような翼。
 それを少年は羽ばたかせて、低空飛行を行っているようだった。足は、せいぜい地面を蹴って反動をつける程度のものだろう。
 そんな、もうその姿を直視できさえすれば大問題に発展しかねない少年は、しかし誰にも目撃されることなく高速で移動していく。
 その原因としては、単純に目撃する人物がここにはいないから、というものもあるだろう。
 だが仮に、彼が人ごみの中に放り込まれても、それを確認できるものはいないはずだ。
 それどころか、彼が今のように移動をしていても、周囲の人間は何も感じないはずである。
 
 それがその少年―――学園都市第二位の能力者、未現物質(ダークマター)、垣根帝督に施された処置なのだから。

 それについて考えた帝督は、
「……チッ。それにしても、何考えてやがんだ、あいつらは」
 二人の男性を思い浮かべ、顔を歪めた。
 その内の一人は、この学園都市を収める統括理事会の長、アレイスター=クロウリー。
 そしてもう一人は、

「……まぁ、何でもいいか。俺は、あの野郎に言われたことを実行するしかねぇんだからな」

 垣根帝督の実の父親―――垣根聖督だった。

153とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十:2010/08/16(月) 23:25:15 ID:yJX9KNbI


「……まぁ、分からない事を延々と考えても無駄なだけですね」
 神裂は先の少年と、それが起こした現象を一切無視する事に決めた。今までも不可思議な現象などいくらでもあったのだ、いくらか耐性はついているのだろう。
 そして、
「さて、問題は」
 そう呟き、聖人の瞳で触覚壊し(センサーブレイク)を見つめようとする。
 が、
「……ふむ?」
 神裂が、その目をさらに細めながら、そう言った。
「……どっ、どうしましたか……女教皇(プリエステス)」
 その神裂に、少しはショックが和らいできた対馬が、途切れ途切れの言葉で聞いた。
 それに神裂は、
「いえ……」
 少し口ごもってから、告げた。
「見付からないんですよ、先ほどの女性が」
 見付からない? と海原も会話に混ざってきた。
「ええ。本当に、まるでどこにも存在しないように……あの者に、移動能力があるとは思えないのですが」
 神裂が、海原の言葉を受けてそう言う。
「それなのに、確認できない、か……」
 諫早が、しわがれた声で言う。もうショックからは回復しているようだ。
 ……、と沈黙が辺りを支配する。
 と、その時、

『んじゃぁ、作戦会議は終わったか?』

 どこからか、声が聞こえてきた。
 それが誰のものなのか、神裂たちには分からない。
 だが、この状況から鑑みれば、自然とその答えは出てくる。
「……超能力者(レベル5)、ですね」
 海原が、一人冷静に言った。やはり、学園都市に潜在している魔術師の方が、そういった判断は早い。
 といっても、これくらいなら誰にでも分かっただろうが。
『正解正解〜。でも、だからなんだよ?』
 心底どうでもいい、と言いたげなその声は、いちいち神裂たちの精神を揺さぶる。魔術以外でのこのようなことには、神裂たちは不慣れなのだろう。
 思わず身構える天草式を見据え、触覚壊しが嘲笑うように言った。
『身構えてどうする? お前らに、こっち(科学)が理解できんのかぁ?』
「……こっちの事を掴んでいますね。どうやって情報を入手したんだか」
 海原が、やはり冷静に分析する……のだが、確実に海原の顔にも冷や汗が浮かんでいる。
『テメェらもこっちのこと分かってんだろ? んじゃぁ、こっちもお前らのこと分かってなきゃ、不釣合いでしょ』
 男言葉と女言葉が混じった、妙な口調で触覚壊しが言う。
 その言葉に、
「……どっちの方が、この状況で有利だと考えますか」
 神裂が、虚勢を張って、確認もできない触覚壊しに対し脅しをかける。
 だが、それを触覚壊しは「ハッ」と一蹴し、応えた。
『そりゃぁ、お前らだろうなぁ。だけど、あんたらはこの状況で何が出来る。ただ黙っている事しかできないだろ?』
 触覚壊しの言うとおり、黙り込んでしまう神裂たち。
『確かに今はそっちの方が優勢だろう。けど、今後はどうなる? 私がお前らを攻撃しても、あんたらは反撃できない。そのうち、流石に耐えられなくなるでしょうね』
 クククッ、と笑みを漏らす触覚壊し。
 それに思わず神裂は抜刀しそうになるが、今ここでそんな事をやっても見方に被害が出るだけだ。神裂は、帯刀したままの状態を保つ。
 それを見た触覚壊しが、
『ハッ! だよなぁ、そうするしかできねぇよなぁッ!! お前らは黙ってヤラれてりゃいいんだよッ!!』
 そう高らかに叫び、そして、

154とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十三:2010/08/16(月) 23:26:13 ID:yJX9KNbI


 ギュゥォンッ!!!

 と、突然神裂たちの目の前に、青白い閃光が迸った。
 いや、迸る、と言う表現は性格ではないかもしれない。
 どちらかといえば、『在った』、というべきだろうか?
 それほどまでにそれは高速で、ただ顕現するべきものとして存在するだけのようなものだった。
 そして、どこからか、女の声がした。

「……なぁにでしゃばってんのよ、アンタ? ぽっと出の馬鹿女が、人様の上に立てるとでも思ってんのかぁ?」

 それは、まるで他者全てを見下しているような、絶対感を催す声で。
 それは、まるで自分の力を信じきり、それに勝るものはないと宣言しているような声で。
 それは、まるで――――――

「そういう台詞はね、学園都市第四位様……原子崩し(メルトダウナー)とかをぶっ飛ばしてから、言うべきだよなぁ? え?」
 
 ―――学園都市の最高レベル、原子崩しが放つような声だった。
 それに触覚壊し(センサーブレイク)は、
『……アア? んだてめぇ、勝手にこっちの会話に混ざりこんでくるんじゃないわよ』
 やはり男言葉と女言葉が混ざった奇妙な口調で、原子崩し……麦野沈利に問う。
 そして麦野は、
「そっちこそ、勝手に人んとこで暴れてんじゃないわよ。それになんだ、超能力者(レベル5)ぅ? ハッ、舐めてんな、こりゃ。ッてことで潰す。ただそれだけだ」
 随分と無理矢理な理論を唱え、それを触覚壊しに叩きつけた。
 とそこで、やっと神裂が、近づいてきた麦野に聞いた。
「……ええと、まず……あなたは何者ですか?」
 戸惑いながらの神裂の言葉に、麦野はただこう言うだけだ。
「気にしなくていいわよ。ただの通りすがりの女の子、ってとこ」
 神裂はその言葉にいろいろと突っ込みたかったのだが、そうしたらちょっと怖いことになりそうだったので、そこでとどまった。超能力者と聖人、どうやら勝ったのは超能力者のようである。非常にどうでもいい戦いだが。
 そして、その麦野が言った。
「いいから、あんたらはどっか行ってな。死にたいんだったら、ここに残ってもかまわないけど」
 その急展開すぎる麦野の言葉に、さすがに神裂たちはうろたえる。
 その様子を見た麦野がため息とともに、海原にこう言った。
「ちょっとアンタ。こいつら連れてさっさとどっか行きなさい」
「……何故にそうなりますかね?」
 その言葉に、海原は困ったような笑みを浮かべる。
 それに麦野は、
「アンタ、魔術師でしょう? それなのに、こっちの暗部やってるんだから、これくらいのことには対応できるでしょ?」
 その麦野の言葉に、海原は思わず絶句してしまった。
 それを無表情に見つめた麦野は、馬鹿か、と思いながらこう言った。
「グループ所属の野郎が、何考えてる? 他の組織を把握しとくなんて、定石ってレベルじゃないわよ」
 さらりと言われた、麦野のかなりの爆弾発言に、海原は冷や汗を掻く。
 それをやはり、馬鹿を見るような目で見つめた麦野は、
「いいから、ほらさっさと行く行く。死にたくなけりゃ、ね」
 それだけ言い、さっさとその場を去って行ってしまった。
 それに野母崎が、
「……今の、一体なんなんだ……?」
 その質問に、さぁ? と首をすくめることしかできない海原だった。

155とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十四:2010/08/16(月) 23:27:02 ID:yJX9KNbI
14


 と、その時、
(……きましたか)
 精神操作(メンタルコントロール)は何かを感じ取り、そして、

「全ての能力を、開放する」

 そう呟いた。
 それに、『あ?』と土御門は目を細めたが、
 次の瞬間、
 フッ、と、唐突に目の前にいた精神操作が、忽然と消え去った。
「ッ!? 構えろッ!!」
 その事態に対し、みなにそう叫ぶ土御門。もちろん周りは、すでに構えを取っている。
(……何が起こった) 
 土御門は、銃口を様々な方向へと向けながら考える。
 が、考えても分からない。
(やはり、能力か)
 仮定的に断定する土御門。
「……とりあえず、バラついているのはマズいな」
 そう呟き、そしてまた土御門が大声で叫ぶ。
「一度、全員一箇所に集まれ! 俺のところにこいっ!!」
 やはり個々がかなりの戦力を持っているため、お互いが離れている状況での土御門の言葉。
 それに全員が、周囲に気を配りながらジリジリと土御門の下に集い始める。
 と、その時、
 パァン!
 と、れっきとした銃声が響いた。
 それに全員が反応し、誰に向けて放たれたのか分からないので、各々回避行動をとる。
 が、
「ぐぁッ……」
 土御門の右腕の二の腕辺りに、ポッカリと円が空いていた。
 そして、その円から、次々と赤い液体が流れ始める。
 土御門はその打たれた部分を左手で押さえつけ、無理矢理に出血を少しでも止めようとする。
 と、その事態をきちんと目撃した建宮が、
「チッ! リーダーに死なれちゃ困るのよな!!」
 しっかりと注意を配りながら、土御門の下に駆け寄る。おそらく、魔術でその傷を防ごうとでも考えているのだろう。
 が、
「走るなっ! 自分を優先して考えろ。他人は二の次だ!」
 その光景を見た土御門が、建宮に対し一喝する。
 それに思わず建宮は立ち止まり、少し戸惑うように動かなくなる。
(バ、カ野郎ッ!!?)
 その建宮に対し、土御門は言葉を放とうとしたが、
 遅かった。
 またしても、銃声が響いた。
 今回の銃声の対象は、誰が考えても一人しか存在しないだろう。
 あの状態の建宮には、回避行動を行う術などない。
 ある程度の傷なら魔術でどうにかなるかもしれないが、即死だったら話にならない。
「た、て宮ぁッ!!」
 思わず叫んでしまう土御門。
 それに、

「……まるで死人を目撃したように叫ぶよな。こっちにとっちゃはた迷惑だぜ」

156とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十四:2010/08/16(月) 23:28:26 ID:yJX9KNbI

「あ?」
 思わず聞き返してしまう土御門。
 そして後ろを振り向くと、
「だから、俺は死んじゃいねぇのよ。ほら、この通り」
 まったくいつもどおりの(といっても、付き合いが短い仲だが)、建宮がそこに建っていた。
 ……、と思考が止まりかける土御門の下に、また一人その場に集う。
「感謝しなさいよ。さっきの空間移動(テレポート)も含め、今ので6万」
 それは、非常に元気……と言うか現金な声の、結漂淡希のものだった。
「……結漂、こういうときは、金のことは話題にするもんじゃないぜぃ……」
 その言葉に、なぜか肩を落とす土御門。
 と、その時、
「つっても、まだどこかしらに敵さんはいるんだろ? ちょっとは張り詰めようぜ」
 土御門たちをかばうようなポジションに立った、葛城妖夜が言った。
「ちょっとアンタ……的になってるわよ? 蜂の巣になりたい?」
 その妖夜に、結漂がやはり冷たい言葉をかける。土御門はこっそり、「……これにデレが入っても、ツンデレにはならない気がするにゃー」とか思ってたりする。
 その結漂の言葉に、妖夜が後ろを振り返って言う。
「ご心配ありがとうございますお嬢様……とでも言えばいいのか? ってか、俺が誰だか覚えてんのかテメェ」
 と、突然結漂に荒い言葉をかけた。
 当然結漂は、それに驚いたような顔になる。
 が、それも束の間。
「……ねぇ、知ってる? 座標移動(ムーブポイント)は、戦い方次第では、超能力者(レベル5)とも互角に殺りあえるらしいわよ?」
「へぇ……それは一度見てみたいな。結果が楽しみだ」
 それに思わず結漂が、本文本気で手近な石を妖夜の腕に空間移動させようとする。
 が、それは実行されない。
 またしても響いた、パンッ! という銃声に、結漂の精神が揺らいだからだ。
(なっ……まずッ!?)
 土御門が、とっさに身体を庇おうとする。誰が標的になっているのか分からないのは、今でも同じだ。
 そして今回は、土御門には当たらなかった。
 だが、今回は直撃した者がいた。
 
 格好の的と化していた、妖夜の頭脳に、しっかりと弾は着弾した。


(……まずは一人、殺りましたか)
 銃口から少しもずれなかった妖夜の頭を見つめ、精神操作(メンタルコントロール)は思った。
(それにしても、馬鹿なものですね。あれじゃ自分から『打ってください』と言っているようなものです)
 そして倒れ行く妖夜を、感情の篭っていない目で見つめる精神操作。
(この気に、一気に掃射が効率がよさそうですね……予備の拳銃は)
 そう考えた精神操作は、彼らのことを一度無視して防護服の中を漁る。
 そして、予備の拳銃を左手に構え、一気に乱射しようと彼らの方に向き直った。
 その彼女の目に映ったものは、

「なッ!!?」

 確実に着弾し、それを確認して倒れて行ったのにもかかわらず、寝起きのように後頭部をすさりながら立っている、葛城妖夜だった。

157とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十四:2010/08/16(月) 23:29:34 ID:yJX9KNbI

「っ痛ぇ〜な……今の、普通だったら死んでたぞ?」
 妖夜が、あからさまにボケた言葉を真面目な顔で言う。もちろん冗談だろうが。
 その妖夜を、土御門は顔面を蒼白にして見上げている。サングラスが少しずれ、意外に良い方の顔が合間見える。
 結漂の方は、チッ、と舌打ちしてからこう言った。
「だったら、今ので死んどきなさいよ」
「おいおい、それはひでぇな。だけど、俺は生憎死ぬのは嫌いでね」
 その冷たすぎる結漂の言葉に、妖夜は笑みをこぼしながら返す。
 そして建宮といえば、なぜか笑顔全開でぼけっと突っ立っているだけだった。おそらく、今起きた現象をはなから放棄し、それでも事実を理解しようとした結果だろう。
 そんな仲間……というべき存在を見回した妖夜は、はぁ、とため息をついてから、こう告げた。

「だから、テメェら俺が誰だか忘れてねぇか? 学園都市第6位、肉体変化(メタモルフォーゼ)の葛城妖夜だぞ?」

 ……、と口を閉ざす土御門と建宮。
 だが、結漂の口は達者なようで、
「へぇ〜。でも、いくら肉体を強化したところで、空間移動(テレポート)は避けられないわよね?」
「どうだろうな? やってみなきゃ分かんないぜ」
 ……いまだに、超能力者(レベル5)と口げんかをしているようだった。というか、このまま殺し合いに発展しそうな感じもする。
「……お前たちの所為でいちいち締まらないが、体勢を立て直すぞ」
 土御門はそれを傍観してから、よっこらしょ、と立ち上がった。
 そして、
「は?」
 思わず、彼はそう声をあげる。
「なによいきなり。まさか腕が一本取れてたとか?」
 結漂が、まったく土御門の方を見ずに、どーでもいい、と言いたげな口調でそう言う。
 それに土御門は、
「……いや、腕の傷が完璧に塞がってて」
 そう言いながら、土御門は自分の右腕を掲げる。
 その腕には、確かに銃で貫かれたような痕跡など、一つも存在しなかった。
 と、そこで建宮がやっとまともになり、土御門に言った。
「だから言っただろ、リーダーに死なれちゃ困るのよな。俺が治しといた」
 なんでもないことを言うように言われた、意外に結構爆弾な建宮の台詞。
「忘れたのよな? 俺は天草式・元教皇代理。天草式の魔術発動が、大それたものではないことくらい、あんたには分かってるだろ?」
 建宮が、呆れたように土御門を見ながらそう言った。
「……まぁ、考えてみればそうだな……悪い。手間かけさせたな」
 土御門がそう言って、建宮に謝罪する。
 実際のところ、確かに魔術発動自体は気付かれずに行うのが、天草式の実態なのだが……
 やはりその分、普通に行われる魔術よりは、威力や精度が落ちる。
 だが、それでも建宮は即効で魔術を発動させ、あの土御門の傷を完治させていた。
(……これくらいやってのける奴だとは思ってはいたが……実際に目の当たりにすると、やっぱり凄いな)
 かくいう土御門も、かなりの手慣れなのだが、もちろん本人は、そんなことは気にしていない。
「さて、まずは自分の安全の確保だ。相手はむやみやたらに突っ込んでくるタイプじゃない。俺たちが隙を見せなければ撃ちこんでは来ないだろうが、隙を見せたらその瞬間にでも殺されていそうだしな」
 その土御門の言葉に、さっきまでのあんたらに緊張感はあったの? と結漂が言ってくるが、誰もそんな言葉は気にしない。
 かくして、土御門と建宮は各々の魔術で安全を確保し、妖夜は肉体変化で身体を補強してあり、結漂は特にやることもなくただ突っ立っていた。


(……パッと見れば、緊張感などかけらもない)
 そんな光景を見つめ、精神操作(メンタルコントロール)は思う。
(だが、実際のところはそんなはずはない。おそらくあの場面で私が撃ちこんでも、かわされるのがオチだった)
 そう考える要素は、結漂淡希にある。
(彼女の座標移動……対象と接触していなくとも、空間移動することができるという高度な能力)
実際、結漂の座標移動は確かに高度だが、銃声が響いてからではもはや何の役にも立たない。
 だが、精神操作が建宮に撃ちこんだとき、結漂はその座標移動を使用して、建宮をその銃弾から守ってみせた。
(何らかの方法で、こちらの攻撃を察知している……そう考えるのが妥当ですね)
 精神操作はそう考え、次の行動に対して思考を張り巡らせる。
(では、このままダラダラとやっていても時間の無駄……どころか、学園都市からの応援が来て、こちらが不利になりかねない。さて、どうしたものでしょうか)
 そう考えた精神操作は、

「……結局は、能力者は能力を使って闘わなければならないのですね」

 そう言って、二丁の拳銃をほうり捨てた。

158とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十七:2010/08/16(月) 23:30:31 ID:yJX9KNbI
15

「ようやく状況が落ち着いてきたかも、ってミサカはミサカは、実は心細かったりするけど虚勢を張ってみる」
「その発言の意図が分かりかねます、とミサカは上位固体の発言に対し冷静な分析を行います」
 二人の少女の声が、その空間に木霊した。
 といっても、その部屋にいるのは二人だけではないのだが。
「むー……なんなの一体てれぽーとって? 学園都市は、転移魔法までもを模造してるっていうのかな?」
「模造じゃなく人為的に作成。それが学園都市」
 10万3000冊を脳内に納める少女と、順調に行けば第八の超能力者(レベル5)にもなれると言われていた少女だ。
 彼女たちは、今はとある事情のもと、どこかの部屋に監禁……もとい保護されている。
 どこかの部屋、という表現なのは、彼女たちは結漂淡希の座標移動(ムーブポイント)でこの部屋に飛ばされたからだ。一体ここがどこなのか、彼女たちには見当もつかない。
「もうほかのミサカたちはここの部屋の周りに配置されてたのね、ってミサカはミサカはあの人の周到さに少し驚いてみたり」
「大体のミサカの配置も完了してきたところですので、20001号もそろそろ準備を、とミサカは上司に指示を出します」
 彼女たちはミサカネットワークでの会話が可能なはずなのに、なぜか肉声で言葉のやり取りを行っている。まぁ、やはりそちらの方がやりやすいのだろう。
 とそこで、
「おーい滝壺、なんか状況うんぬんとか、今どうなってる?」
 ここ一帯の空間で唯一の男性が、滝壺にそう話しかける。
 それに滝壺は能力を張り巡らせて、
「……まだ、何もなし。心配しなくていいと思うよ、浜面」
 眠たそうな目を少し見開いて、そう言った。
 そしてこの場で唯一の魔術サイドである白銀のシスターが、落ち着きなく回りを見回しながら言う。
「結構ボロッちいところに移されたかも……こんなところで、その反乱因子とかいう人たちの襲撃を防げるの?」
 彼女たちが匿われているのは、べつに新しくも古くもない、それなりに広い空間を持つ一室だった。
 だがインデックスにとっては、古い部類に入るだろう。上条の学生寮は比較的新しいし,イギリス凄教の方だって、彼女が呼ばれるような所は綺麗なものだ。
 ……といっても、そもそもインデックスが日常的に生活している場所は考えられないほど限られているので、比べるべきものが少ないのでその意見はあまり力は成さないだろう。
 だが、
「確かにそうですね、とミサカは彼女の意見に賛同します」
「まぁ、超能力者とかの襲撃を防げる建物なんてほとんどないと思うんだけど、ってミサカはミサカは大人な視線で言ってみたり」
「それでも、ここよりはまともな施設なんて、どこにでもあると思う」
 そこに集う少女たちは、全面的にインデックスの意見に賛同らしい。一人は違うことを言ってはいるが。
 一人一人が各々の価値を分かっている分、やはりこの状況は疑問に思うのだろう。
 といっても、彼女たちだけでここから動くわけにもいかない。動いた先に敵がいたりなどしたら、滝壺がいても10秒と持たないであろう。
 と、そんな状況下のインデックスに、

『おいインデックス、俺の声が聞こえているか?』

 唐突に、声が落ちてきた。
 それは直接脳に響いてくるような声であり、日常では考えられない現象だ。
 だがインデックスは、それにまったく動じない。
 なぜならば、それは彼女が最も得意とする、魔術だったから。
『……確か、あなたは……』
 インデックスも同じように相手にそう伝え、自分の記憶を引っ張り出す。
 そして、彼女の完全な記憶から取り出された答えは、

『……陰陽道を究めた魔術師……土御門元春、だね』

 確定的なインデックスのその思想に、ふふっという声がインデックスに届いた。

159神浄の討魔=美琴信者:2010/08/16(月) 23:34:04 ID:yJX9KNbI
ってことで、毎回の如くタイトルの数字変えるの忘れてました(殴
まぁ、一番最後のをご参考にしてください……
で、今回は対超能力者戦。
次回はみんな大好き(違)某陰陽道を究めたらしい人がいろいろ暗躍します(笑)
そしてグロい表現が何故か異様に多くなったり……ご了承を。
あげられるのはいつでしょうね? 九月かもしれないですorz
それなりに濃い内容にしてきますので、見てくれてる方はお待ちください^^;
では!

160■■■■:2010/08/17(火) 12:18:58 ID:1USGgS2g
>>142
(……中の人的にネタに走っちまうのは、ロリコンなら誰でも通る道だ。何やら馬鹿馬鹿しい事になってやがるが、これについては下手に規制する必要は俺にはねェな。……イイぞォもっとやれ)

ヒメマジ健気。初春マジスゥ。佐天さんマジあむゥゥううううううううううう!!
ハッ……自分は今、何を? と、とにかくGJ!!
バッチリお兄ちゃんしてますねていとくん。若干変態(シスコン)暴走気味でしたけど。
自分もていとくんのエロのハードルは低いと思います……だってほら、一途ですし。
今回のバトル方面では、ていとくんはっちゃけてましたねー。まぁ、未だ『白い翼』には至っていないようですが……これについては、おあつらえ向きのイベントが控えている様子。……ヒメ……
時間の描写はなかったように思いますが、三沢塾の決戦と時間的にリンクしているなら、デパートで過ごしてる内に夜になってたんでしょうか。ちょっと気になったもので。
アウレオルスのお引っ越しについては色々と妄想が膨らみますけど、こればっかりは次回待ちですね。期待してまっす。
長文何卒ご容赦ください。次回の投下お待ちしております。もう。■■なんて。呼ばせない。

垣根帝督の十番勝負

第四戦 『馬場芳郎』
 
読了結果――ツンツン頭の少年さんマジ存在感パネェっす

161■■■■:2010/08/17(火) 15:20:05 ID:U/HbHWbA
 どーも、三日間の作者です。かなり遅れて
申し訳ないんですがとりあえずお返事を。
>>73
 すごい的確です。原作読み返して思わずお〜って声に出たぐらいです。
 早速見直してみました。ご指摘ありがとうございます!
>>84
 感想ありがとうございます!
 かぺらさんの今連載している分最初から読んでみました。
 雨宮格好いいです。彼の今後と上条さんの説教に期待です。
 ただ、自分の読み直すと転校生だったりゲーセンだったり
なんかパクっちゃってまして…なんとなくすいません。

感想多くなってしまいましたがとりあえず三日間の続き投下してみます。
…もうちょっと他にマシな題名なかったのか…

162三日間〜Three Days〜 2nd.0:2010/08/17(火) 15:21:32 ID:U/HbHWbA

 学園都市第九学区のある研究施設。
 いつもなら必要最低限の灯りのみを残し学生もほぼ見あたらないような状態となる時間なのだが、今ここは燃え続ける一部の機材とそれを見に集まってきた野次馬で騒々しい状態だった。
 正面では重装備の警備員が出入りし、その周辺は野次馬のそれ以上の侵入を許さないよう「KEEP OUT」と記されたテープで囲まれている。施設の各地ではいくらか消火されたものの、いまだに燃え続ける研究機材などがもうもうと煙を上げていた。
 警備員の一人である黄泉川愛穂は施設に到着すると、近くで野次馬を抑えるのに狼狽していた鉄装綴里を捕まえて施設の中へと進んでいく。
「で、状況は」
「は、はいっ! えっとですね、負傷者は研究員七人、警備員十二人の計十九名でいずれも軽傷です。それで情報をまとめると、何者かによる爆破事件ってことになってるみたいです」
 鉄装は重装備の警備員のジャケットから小型のデバイスを取り出しボタンをピコピコ押しながらデータを読み上げていく。
「何者か? テロリストってことじゃん?」
「いいえ、侵入者は爆破を起こしてすぐに現場から立ち去ってます」
「そうか、その侵入者ってのは?」
「人数は四,五人。その全員が黒いスーツ姿で発火、発電能力者、それを当時施設で巡回していた警備員の一人がその姿を目撃しています。爆破もおそらく能力によるものだそうです」
「ふーん、じゃあやっぱり『新素材』目的の強盗ってとこじゃん?」
 この研究施設では最近開発された素材が話題になっていた。
 CHB(硬度と柔軟性の両立)と呼ばれるこの素材は、柔軟性と硬度の従来の数値を大きく更新しさまざまな研究への応用を期待されている。もともと工芸品を作るうえで偶然発見されたものなのだが、その実用性からひとつの研究施設が専用に改築されるほどだ。
「はい、実際に研究室からCHBが数kgなくなっているようです。それと・・・」
「?」
 不意に言葉を止めた眼鏡をかけた警備員に黄泉川は立ち止まって振り返る。
「実験用耐衝人形も数体、現場から消えています」
「デコイ?」
(んなもん何のために・・・? 大体、CHBの製法は近々特許をとって大々的に発表されるはずじゃん。それをわざわざこの時期に強盗までして手に入れる? まさかデコイが目当てってわけでもないだろうし。)
 あーもうワケわからんじゃんと考えに行き詰った頭をに手をやっていると、あれあれっと言う声が横から聞こえてくる。見ると、焦った様子の鉄装の手元のデバイスからビービーと警告音が鳴っている。どうやら使い慣れないデバイスが何らかのエラーを出たらしい。はぁ、と自分でもよくわからないため息をついた後、身体をさっきまで進んでいた方向へ向けなおす。
 犯人の目的がどうにも見えないがここで考えても仕方ない。まず今は自分達にできることをするしかないのだから。

163三日間〜Three Days〜 2nd.1:2010/08/17(火) 15:22:23 ID:U/HbHWbA

 朝日が昇り、部活の朝練などで朝が早い学生や教員達はもう動き始めている時間。
 ホテルの部屋の前の廊下にはすでに学生服へ着替えた篠原が立っていた。
 そこに角からゆらっとひとつの影が現れる。
「遅かったな、サイモン」
 現れた影に向かって篠原は視線を向けないまま話しかける。
「ええ、昨夜は仕事がありました故」
「仕事ねぇ・・・」
 サイモンは大き目のトランクケースを引きずりながら学生服の少年の前を通り過ぎ、彼の立っている前の対面の部屋のドアに手をかける。
「これから作業に入ります。しばらく時間がかかります故、この部屋への出入りはご遠慮願います」
「なら先に言っとく。禁書目録と接触した」
「!!」
 眼鏡の黒スーツが今まで崩さなかった表情を明らかな驚愕に変えて振り返る。
「それだけじゃない。その管理人ともな」
「まさか幻想殺しとも接触を!?」
 更にかけられた言葉に振り向いた勢いのままサイモンは篠原の両肩を思いきり掴みかかった。それを少年は迷惑そうに払いのける。
「ああ。安心しろ、別に触れたわけじゃない」
 気の抜けた顔に変わったサイモンを見ながら篠原は廊下の奥のエレベーターに向かって歩き始めた。
「昨日のことだ。詳しく知りたいならリアに聞け」
 朝メシはどっかで食う、と少年は手をひらひら振りながら後ろを見ずに角を曲がっていく。
 それを呆然としばらく見送った後、サイモンは足早に早朝の廊下を歩き始めた。その方向には、未だぐっすりと眠り続けるリアのいる部屋がある。

164三日間〜Three Days〜 2nd.2:2010/08/17(火) 15:22:53 ID:U/HbHWbA

 まだ目の覚めきっていない学生もいるなか、一時間目を終えた上条当麻は廊下に出て大きく伸びをした。
 昨日はいろいろとドタバタしたが、帰りに寄ったデパートで食料を調達したおかげで今日はしっかり朝ご飯を食べることができた。もちろんインデックスのご機嫌を損なうこともなく、おかげで朝から絶好調である。何気に幸せを感じている上条だがいうまでもなくその要因が普通なことのあたり、彼の日頃の不幸具合がよくわかる。
「よーう、上やん。昨日と違って機嫌いいみたいだにゃー」
 昨日と、というよりいつもとまったく同じ感じで土御門は廊下の向こうから声をかけてきた。
「まーな、なんてったって今日は朝ご飯は抜かなかったからな」
 堂々と言い放つ上条にさすがの土御門も少し気の毒な顔で生返事をする。
「てゆーかお前今来たのか?」
「ちょっと昨日寝たのが遅くてにゃー。さっき起きたばっかぜよ」
 おいおいと上条は思うが昨日三時間目の最初にまでがっちり遅刻したヤツがとやかく言う権利はない。
 と、土御門が歩いてきた方とは逆から人だかりが歩いてくる。その先頭は昨日転校してきたばかりの茶髪がかった少年だ。上条にとって、昨日自分が先に助けに入ったとはいえその後しっかり不良たちを打ちのめし、しかもインデックスの食事代を半分出してくれた(ここが重要)恩人でもある。
「おーす、しのは」
「ああ、おはよう上条君。昨日は助かったよ」
 人の群れの中心に立つ篠原はものすごいさわやかな笑顔である。思ってもみなかった相手の反応に上条は思わずへっと声を出して少しフリーズした。
 目の前で取り巻きたちに昨日どうしてたのなどと聞かれ笑顔で答えるこの少年は、昨日のファミレスではどちらかと言うと昨日のチンピラによく似た雰囲気で、言葉遣いも今使われたものとはかなり遠いところにあるモノだった気がする。
 ようやくフリーズから抜け出し篠原に話しかけようとした時には篠原はこちらの近くにまで寄ってきた。
(よう、俺は学校ではとりあえずこのキャラで通してんだ。あんま余計なこと言うなよ)
 上条にしか聞こえないくらいの小声で茶髪がかった少年は釘を刺してきた。
(キャラって・・・なんでそんなことしてんだ?)
 反射的に上条も小声になる。外からみれば会話しているようには見えないが、見つめあっている形なので下手をすれば変な誤解の目で見られるかもしれない。
(別になんだっていいじゃねーか。昨日は出費少なくてよかっただろ?)
 うっ、とツンツン頭の少年が小声ではないうめき声をあげる。その正面では後ろからどうしたのというクラスメイトの問いかけにやはり笑顔で対応する茶髪がかった少年の姿があった。
 じゃ、またねと爽やかな笑顔を貼り付けて篠原はその場を後にする。それについていく取り巻き達を見送りながら、上条はあいつ昨日実はここまで考えて俺に奢ったんじゃねーだろうなとさっきまで感じていた感謝の気持ちを半分ぐらいにしていた。
「上やん、もうあの転校生と仲良くなってたんだにゃー」
 そこで、さっきから黙って廊下の外側に張り付いて腕を組んでいた土御門がようやく声を発した。その表情はサングラスで隠れてはいるが、何かを企んでいるようなそんな感じだ。
「ああ、昨日いろいろあってな」
 先ほど釘を刺された手前あまり彼のことをいろいろ聞かれては墓穴を掘りそうだと考えていた上条だったが、こちらが話を適当に変えてしまおうとする前に横から思わぬ横槍が入る。
「いろいろってなんなんやー上やん? 昨日何しとったんやー?」
 見ると、教室の横の窓から体を乗り出した青髪ピアスがいつもの調子で体をくねくねさせている。
 昨日隣のクラスの前で危ないことを呟いていたこの男に話すことはなおさら気が引けたが、かといってだんまりを決め込むと余計に突っ込まれることは目に見えている。周りには隠しているが実は上条は夏以前の記憶が一切なくなっているため、このクラスメイト達とは一ヶ月ほどの付き合いではあるがそれでもこのくらいのことを察するくらいには彼らの性格を掴めてきているのだ。
 当たり障りのない答えを考え、上条は結論を出す。
「たまたま会ってちょっと街案内して飯食っただけだ。インデックスとあっちの連れの女の子と一緒に」
 ナニッと案の定喰いついてくる青髪ピアス。土御門は喰いつくまでとはいかないがもともと転校生自体にはそもそも興味はさほどないのか、青髪ピアスにのっかっている。
 篠原には自分の性格をばらすなという風に言われているので、リアのことを話すのはさほど問題ではないだろうとやや強引に結論付ける。おかげで上条の目論見どおり話は上手く逸れてくれていた。
 ここ一ヶ月でこいつらの性格は掴めてきているのだ。

165三日間〜Three Days〜 2nd.3:2010/08/17(火) 15:23:24 ID:U/HbHWbA

 時刻は正午を少し過ぎた辺り。
 昼食をコンビニのおにぎりで軽く済ませたリアは、外に出たついでに周辺を軽く散歩していた。というより、もともと居心地の悪いホテルから抜け出してきたために時間を潰していたのだが。
 彼女が半年ほど前から行動を共にしているのは再会した幼馴染と十一人の仕事仲間だが、正直仕事に関しては何をしているのかいまいち理解できていない。他の十一人は裏で何かしているようだがそれが自分に回ってくることはない、それでも強いて仕事と言うなら篠原の我がままに振り回されることだろうか。
 ようするに、リアはこの組織内で孤立していたのだ。
「はぁ・・・」
 思わずため息が漏れる。やめようかとも思ったが、収入に関して文句はないし別の職を探すのも時間がかかる。それになにより、あの幼馴染からは目を離してはいけない。
 リアは孤児院の出身である。
 幼い頃篠原と出会い、その母親は自分にとてもよくしてくれた。きれいなロングの茶髪が似合う笑顔の絶えない人。やんちゃだった篠原圭をよく叱っていたがそのあと必ず抱きしめていたのをよく覚えている。
 そして自分の顔を見るたび言っていた「この子のコトよろしくね」という言葉。
 軽い感じで言ったのかも知れないが、当時のリアにとってその言葉はとても大切な約束として今も忘れることはない。
 そして十数年ぶりに再会した幼馴染は、両親から離れてよくわからない正体不明の黒スーツの集団と何かこそこそやっているのだ。彼の両親が今どうしているかと聞いても篠原は答えようとはしない、というより連絡を取り合っているとも思えない。そんな状態だからこそ、今の彼から離れることは約束を破ることになる。リアはそれだけはどうしても避けたかった。
「リア?」
 ふと自分の名前を呼ばれてそこで初めて少女は俯いていた顔を上げた。周りの景色はホテル周辺のそれではなく昨日通った学校までの道の途中のようで、どうやら気付かないうちに遠くまで歩いてきていたらしい。
 そして彼女の横では真っ白な修道服のシスターが猫を抱えてこちらを見ていた。

166三日間〜Three Days〜 2nd.4:2010/08/17(火) 15:23:50 ID:U/HbHWbA

「ふーん、よくわからないけど大変なんだね」
 通学路近くの公園に場所を移し、二人の少女はゆったりとしたベンチに腰掛けていた。手には近くで買ったたこ焼きの箱を持っている。
 リアはいつの間にか、会話の途中でこの銀髪シスターに懺悔ではなく愚痴を聞いてもらっていた。話しながら、昨日出会ったばかりのこの少女に何をいってるんだろうと自分でも内心呆れてはいたものの、それでも誰かに聞いてもらうことによってホテルを出てきたときよりは幾分落ち着いた気がする。
「でもリアがその人を心配してるってことはわかったかも」
 その言葉にリアは思わずゴホゴホッと咳き込んだ。
「な、なんで私があいつのコトなんか!仕事をやめないのはあいつの母親と約束してるから仕方なく・・・」
 そこまで言って、リアは言葉を止めた。
 本当にそれだけなのだろうか、と自問自答する。彼女との約束がなければ自分はここにいなかったのだろうか。
 横ではシスターはじっとこちらを見ていた。
「・・・ううん、やっぱり心配なのかも。なんだかんだ言ってもあいつとは古い仲だしね。」
 別にこれがあいつのことを異性として好きだとかそういう感情などとは思わないが、それでも無関心になることなど出来ない。もし自分に手のかかる弟でも居たのなら同じような気持ちになったのだろうか。
 シスターは特に何も言わずに待つ。それに苦笑いしながら
「せめて裏でコソコソせずに何してんのかくらい聞かせてくれれればいいんだけどね」
「そう! そーなんだよ!」
 突然会話に食いついてきたシスターに驚いたリアは思わず手の中のたこ焼きを落としそうになる。当のシスターはといえば、会話に熱くなった様子でありながらもたこ焼きを食べることはしっかり忘れない。
「とうまもさ、わたしの知らないところでいっつもいっつもいーーーっつも何かしてるんだよ。しかも帰ってきたときには大体怪我してて会うのは病院だし。もうちょっととうまには落ち着いてもらわないと困るかもぐもぐ」
 ヒートアップしつつも、インデックスは文句を全て言い終わる前に手に取ったたこ焼きを口に放り込み最後らへんはもごもごと喋っている。
 昨日から見てて尽きる気がまるでしないこのシスターの食欲に圧倒され、思わずリアは自分の手元のたこ焼きを食べる?と差し出しした。
 いいの? と一応言いながらも一切の躊躇なくそれを受け取り満足そうにシスターは食べ始める。それを見ながらリアはサイモンの言ったことを思い出した。
(禁書目録と幻想殺し・・・か)
 今朝、サイモンにたたき起こされ昨日のことを根掘り葉掘り聞き出されたときに出てきたキーワード。
『禁書目録と幻想殺しは危険だ、儀式を破壊される恐れがある』
 多分禁書目録というのはこのインデックスという少女のことだ。ということは、その管理者である幻想殺しというのはあの上条当麻という少年か、あるいはほかの誰かか。
 なんにせよ、この腹ペコシスターさんがサイモンのいうような危険な存在に思えない。ならばインデックスの何らかの能力、あるいは所有物かなにかがあの黒スーツ達が裏で進めている儀式とやらの妨害になっているのだろう。
 つまり、このシスターから上手く話を聞くことができれば何かわかることがあるかもしれない。
 そこまで考えて、リアはそれをやめた。半端に知ったところでそれを生かせるかもわからないし彼らの仕事に関われるとも思えない。そもそも、一体どう聞けば自分の望む情報が目の前の少女から得られるかも分からないのだ。

167三日間〜Three Days〜 2nd.5:2010/08/17(火) 15:24:26 ID:U/HbHWbA

 ふと横を見ると、ベンチの右側のシスターが自分の手の中のものを全て食べてしまっていた。そしてその視線はリアの右手首のリングに注がれている。
「えっと・・・どうしたの?」
「それ、霊装だね」
 霊装?とリアは聞きなれない言葉に思わずそれを反復する。
「まあ平たく言うと魔術的な効果をもつ道具のこと。・・・ルーンが刻んであるね、意味は創造。多分外側に光でルーンを浮かばせて、魔法陣をリングの中に作ってるんだと思う。ほかにも威力をあげるために武器って文字とあとⅩⅡってなんだろ・・・?」
「ちょっ、ちょっと待って?魔術?」
 突然理解のできない言葉を並べだしたシスターについていけなくなったリアは思わずインデックスの話を遮る。
「そうだよ。魔術」
 言葉としては聞いたことはある。たしか十字教の一部の人間が使えるという噂だがもちろん実際に見たわけでもなく、地元の夜中三時に出没するという時速二〇〇キロで走る老婆と同じぐらい信憑性は低い。
「魔術ってあのオカルトのよね?」
「たしかにオカルトだけど、実際に存在するし法則もある技術なんだよ」
 このシスターが嘘をついているようには思えない。かといってその全てを信じきるにはリアのこれまでの世界は余りに平穏に満ちていた。
(霊能者とかと似たようなものかしら・・・?)
 テレビなどでたまに見る心霊番組の類を一切信用していないこの黒スーツの少女は、インデックスのことをそれに出てくる自称霊能力者みたいなものと思うことにした。信じることはできないが別にその人の世界を否定しようとも思わない。ならば話を受け流せばいい。
 そこでリアはふと気付く。
「えっと・・・じゃあこのリングをくれた人も魔術と何か関係があるのかしら?他にもたくさん持っていたみたいだけど」
「ならその可能性は高いね。その人が作ったものかどこかから見つけてきたものかはわからないけど、このレベルの霊装が魔術師じゃない人にに複数渡るとは思えないかも」
 リアは知らなかったみたいだけどと付け加えるシスターに苦笑いしながらリアは考える。
 このリングはサイモンに、未だに何をしているのかわからないこの仕事に誘われたときスーツと一緒に渡されたもので他の皆も持っている。ということは彼はインデックスの言う魔術師なのだろう。
 ならば『儀式』と『魔術』、この二つが無関係だとは思えない。
 しかし、まさか裏でそんな得体の知れないことをやってきていたのかと思うとため息が出る。こんなことで時間をかけて振り回され、挙句国まで渡ってきたことが切なくなってきた。さすがにこれはサイモンか篠原に問いただしてやめさせるべきだろう。そんなオカルトに頼ったところで得られるものなどないのだから。
 そしてリアはその場に立ち上がるとシスターの方を向く。
「さて、そろそろ私は帰るね。ちょっと用事思い出しちゃった」
 軽く手を振ってもと来た道を歩いていく。
 予想外にシスターの方から自分の欲しかった情報が与えられた。篠原とサイモンたちが裏でしていることがオカルトならば拍子抜けではあるが、それでも犯罪とかそんなことを考えていたリアにとってはほっとするところもある。
 ホテルを出たときに比べて、少女の足取りは軽かった。

168■■■■:2010/08/17(火) 15:27:53 ID:U/HbHWbA
 とりあえず今回は以上です。次で2ndは終わって3rdです。
3rdはやたら長くなりそうな気がしたりしてなかったり…
ではまた、適当に期間見て次投下してみます。
感想罵倒受け付けております!

169■■■■:2010/08/17(火) 16:07:40 ID:eAQWq4kI
一個Ifっぽいものを投下します。ちょっと長いです。

注意点は特に無いですが、一通さんが原作より分かりやすくいい人です。
一巻片手に読んでもらえれば一層楽しんでもらえるかもしれない。

全体的に不慣れなのでなにか気になるとこがあったら言って貰えると嬉しいです。

タイトル『空から落ちてくる系の一方通行』

170空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:08:54 ID:eAQWq4kI
ごくごく普通の不幸な学生である上条当麻。
彼は夏休みの晴れやかな天気の朝に、現実逃避気味に布団を干そうとベランダに出た。
「空はこんなに青いのにお先は真っ暗♪」
てかいきなり夕立降ったりしねえだろうな、とそこはかとない嫌な予感を口に出した直後。
上条の視界に、干された白い布団が入ってきた。
「ん? なんだ?」
ここは上条の部屋である。よって彼以外に布団を干す人なんていないし、彼の布団だって今抱えているものしかないはずだ。
なので、よく見たら布団なんて干していなかった。

白熱し白濁し白狂した最強の超能力者。レベル5の第一位、一方通行。
それが、ベランダに干されていた。

上条は抱えていた布団がずり落ちていくことにも気づかず、その珍妙な光景を眺める。
浮かぶ言葉は一つ。不幸だ。
なんでよりによって、とりあえずこの状況をどうしてくれようかと上条が頭を抱えていると、不意に一方通行が頭を上げた。
目が合った。
冗談でなく死を覚悟した上条に向けて、一方通行が口を開く。
「……オイ、そこの三下」
「ハ、ハイ!? なんでございましょうか!?」
「なんか食いモン寄越せ」

171空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:11:45 ID:eAQWq4kI
お前は山賊かよというツッコミを飲み込む。
しかしながら、上条の部屋にはまともな食料は一切残っていない。
何故ならば、先日襲来した銀髪の腹ペコシスターが食料を食い荒らした挙句、TVから得たらしい中途半端な知識で「コンセントの刺しっ放しはエコじゃないんだよ」などと言いつつ冷蔵庫のコンセントをぶち抜いて帰っていったからだ。
因みにその蛮行が行われたのは上条が噛み砕かれてのびていた時であり、冷蔵庫の悲劇に気づいたのは今朝である。
結果、運よく彼女の魔手から逃れた食料も夏の熱さであらかたすっぱくなっていた。
思わずじりじりと後ずさる上条。
と、その足が何かグニャリとしたものを踏んだ。
見れば、それは朝食用に買っておいたものの例に漏れずすっぱくなっていた焼きそばパンである。
しばらく硬直した後、一か八か、それを摘まみ上げて一方通行の眼前に晒す。
「……こ、こんなもんでよかったら」
「……あァ、アリガトウイタダキマス!!」
勢いよく振り上げられた一方通行の手。
それが焼きそばパンに触れた瞬間、一方通行は能力を使った。今の己の名にもなっているその力は、ベクトル変換。
かくして強大なベクトルを手にしたすっぱい焼きそばパンは、繊細なベクトル操作で綺麗に包装のラップを剥がされた後、上条の顔面にべちゃりといういやな音と共に突き刺さった。

こうして、今日も上条の一日は悲鳴を伴う不幸で始まっていく。

172空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:15:13 ID:eAQWq4kI
一方通行がガツガツと食べているのはコンビニのシャケ弁当である。五百円也。
他人にあンなひでェモン食わせようとしたペナルティだとか言っていたけれど、朝っぱらからコンビニまで走らされた挙句料金もこちら持ちというのが上条は納得行かない。
「……あァン? 何か言いたそォな面だな」
「……イエ、なんでもないです」
怖くて文句は言えないが。
シャケ弁をたいらげ、缶コーヒーを飲む一方通行。
七人しかいないレベル5の1一人。レベル5は本来なら超能力開発の成果を示す広告塔として機能しそうなものだが、その人格などからあまり表に出せないようなヤツが大半らしい。
そしてこいつはその問題児達のトップ。正直関わり合いになりたくない種類の人間ではあるが、かといってこのままでは埒があかない。
「……えーっと、一方通行さん?」
「あァン? 何だ三下ァ」
「一体全体どういった事情で、上条さん家のベランダに干されていたんでせう?」
「干されてたわけじゃねェよ」
「じゃあ何ですか? 風に吹かれて引っかかってたとか?」
「…、まァ、似たようなもンかもな」
冗談のつもりで言った上条は、さ迷わせていた視線を一方通行に向ける。
「落っこちたンだよ、本当は屋上から屋上に飛び移るつもりだったンだがな」
屋上? と上条は天井を仰ぐ。
この辺りは安い学生寮が立ち並ぶ一角だ。八階建てくらいの似たような寮がずらっと並んでいて、ベランダを見れば分かる通り寮と寮の間隔は2m程度しかない。
確かに、走り幅跳びの要領で飛び移ることも可能ではあるが。

173空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:18:04 ID:eAQWq4kI
「でも、ここ八階だぜ? 一歩間違えれば地獄行きなんですが」
「地獄、ねェ。俺にはお似合いの場所だがな」一方通行は自虐的に笑って
「まァ仕方ねェだろ。あの時はそうする他逃げようが無かったからよ」
「逃げ、よう?」
 不穏な言葉に上条が眉をひそめると、一方通行は「あァ」と答え
「追われてたからなァ」
「……、」
 上条は思わず絶句する。
「俺の能力ならその程度のこと失敗するハズもねェンだが、飛ンでる最中に後ろから撃たれてちまってな」
 皮肉と自嘲を混ぜて、一方通行が笑う。飲み終えたコーヒーの空き缶を軽々と握りつぶしながら。
「回避に能力の大半を使っちまったから、勢いが足りなくて落ちちまったンだよ」
 追われて、撃たれた。
 そんな非日常の出来事を平然と語る一方通行。上条だってよくスキルアウトに追われたりするし、その中には物騒な武器を持っているやつも少なくない。
 だが、そんな彼でもそのような命の危機に直面することは殆ど無い。それはこの街の治安部隊、警備員や風紀委員のお陰でもあるし、上条が無能力者ながらもそれなりに場数を踏んでいるからでもある。
 だから或いは、学園都市の超能力者の頂点である彼にとっては、その程度の出来事は取るに足りないものなのかもしれないが。
 それでも。

174空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:22:49 ID:eAQWq4kI
「撃たれたって、誰に?」
「誰、ねェ……強いて言うなら10032号だろォが、別に今のやつらを一体一体識別することに大した意味はねェしなァ」
「10032号? やつら?」
 上条は神妙に聞く。つまり相手は集団で、何らかの組織なのだろうか。
 あァ、と追われる一方通行の方がかえって冷静な風に答える。
「妹達だ」
 ………………………………………………。

「はぁ、妹達!? なんですか妹達って!? 兄妹喧嘩!? それともなにかシスターって教会の方? まあ確かに最近のシスターさんはデンジャラスですがね!!」
「馬鹿にしてンのか?」
「いや、だって」
「馬鹿にしてンのか」
「ごめんなさい」
 この超能力者超怖い。
 一方通行は聞こえよがしに舌打ちをした後、振り返りもせずに潰した空き缶を台所に投げる。
 なんらかの能力でも使ったのか、吸い込まれるようにゴミ箱に入った。
「ええと、一方通行さん、それで結局妹達ってなんなんでせう? 女系家族なの?」
「俺に家族なンていると思ってンのか? 妹達ってのは学園都市第三位『超電磁砲』のDNA マップから作られた二万体のクローンの総称だ」
「二万体のクローン!? …………………………いや、それは無理だろ」
「何がだよ」
「いや、だって人間のクローンって確か国際条約で禁止されてるし」
 確かに、人間のクローンくらい学園都市の科学力ならいくらでも作れる。それどころか学園都市の外でだってそう難しい技術ではないだろう。クローン牛などは既に作られていたはずだ。
 しかし、いくら科学の頂点である学園都市といえど、国際条約を堂々と無視できるほどの力は無い。そんな餌をばらまこうものなら、学園都市を疎ましく思う他勢力がここぞとばかりに手を組んでこの街を潰しにかかるだろう。

175空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:27:48 ID:eAQWq4kI
「……まァ、そうだわな。普通に考えればその通りだ」
 けれど一方通行は皮肉げに笑う。まるで「普通」をあざ笑うかのように。「普通」ではない何かを知っているかのように。
「まあ確かにここは天下の学園都市だし、どっかの研究所がこっそりヒトクローンの研究してても不思議じゃあないけど……それでも二万体は無理だろ。どうやっても上に見つかっちまう」
 学園都市のセキュリティーは一級品だ。警備員や風紀委員、警備ロボットに町中に配置されている監視カメラ、更には学園都市が独自に打ち上げた人工衛星。これだけの目から隠れて二万体ものクローンを作れるわけがない。
 「普通」は。
「正確には残り9979体なンだがなァ。まァいい、お前が信じないなら話はここまでだ。別に誰彼構わず言いふらすよォな内容でもねェし」
 そして訪れる沈黙。
 上条は確かに二万体のクローンなんて信じていない。そんな性質の悪い物語のような空事は信じられない。
 けれど、学園都市最強の能力者である一方通行が「追われ」「逃走し」「撃たれ」「八階建てのビルから落下した」という現実。
 それらが本当であるという証拠はどこにもない。だが事実として一方通行は上条の部屋のベランダにぶら下がっていた。
 それだけのことで全てを信じるつもりにはなれない。けれど、せめて話を最後まで聞こうという気にはなっていた。
「……まあ、じゃあ仮にその二万体のクローンがいたとしてだ。何でお前はそいつらに追われてたんだ?」
「あァ? ……ってか何だ、よく考えたら何で俺はてめェみたいな三下にご丁寧に俺の状況を説明してンだ?」
「いや、何でって」
「そもそもお前みたいなヤツが知るよォな話じゃねェし、懇切丁寧に話すこたァねえンだよ。ったく、なにベラベラ喋ってやがるンだァ俺は?」
 やってらンねェという風に首を振る一方通行。
 まあ上条だって、二万人のクローンなんて本当にいたとしてもどうしようもない。
 彼は普通の高校生だ。『右手』に妙な力は宿ってはいるものの、それは万能の力でもなければ正直さして役に立つ能力でもない。
 そんな彼に何が出来るかって、せいぜいが風紀委員や警備員に通報する程度。そしてそんなことは一方通行含め誰でも出来ることで、上条が進んで関わっていくことの理由にはならないが。

176空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:31:08 ID:eAQWq4kI
「……確かに俺にはお前のことなんて関係ないさ。別にたまたま会っただけの赤の他人だしな」
「あン?」
「でもお前、撃たれたんだろ? それも後ろから。そんな物騒な話聞かされたら他人のことだから知りませんだなんて放っておけるわけねえだろ!」
「くっだらね。お前、お節介とかよく言われるだろ」
「うっ」
 図星である。
「だいたいお前は誰の心配をしてンだァ? 俺は学園都市の超能力者の頂点だぜ? たかが銃くらいでどうこうなるワケねェだろうが」
 確かに学園都市の頂点であるレベル5は、人知を超えた力をもっている。例えば第三位の超電磁砲とかいう発電能力者は、十億ボルトの電気を操るらしい。
 十億ボルトなんて正真正銘の天災レベルだ。それで三位。つまり一方通行は更にその上の化け物ということになる。
 それならば確かに、銃如きとは比べ物にならないほどの能力を持っていることは確かだろう。
「でも、寝込みを襲われたりしたらどうするんだよ? いくら凄い能力を持っててもひとたまりもねえだろ」
「ったく面倒くせェ。オイ三下、軽く俺の顔面殴ってみろ」
「は? なんで? ドM?」
「よほど愉快な死体になりてェらしいな?」
「ごめんなさい」
「能力使うに決まってンだろうがボケが。いいからさっさとやれ」
「……じゃあ、軽く」
 めっちゃ睨んでくる一方通行に怯えながら、上条はゆっくりと一方通行の頬を殴る。
 能力でバリアでも張るのだろうか、と想像して、思い出した。
 そういえばワタクシの右手、何か妙な力が宿ってませんでしたか?

 思い出したときにはもう遅く。
 バキンと何かを壊した音の後、ゴッと割と鈍い音と共に拳が頬を捉えた。
「痛ッ……!?」
 お父さんお母さん、なんで僕の右手にはこんな力が宿っているのでしょうか?
 そうやって今更な不幸をかみ締めながら、上条は死を覚悟する。目の前にいるのは殆ど逆ギレのレベル5。目玉がギョロリとこちらを向く。ああこれは死んだ。間違いなく死んだ。

 つまらないニアミスで、上条は本日二度目の断末魔を響かせる。

177空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:34:31 ID:eAQWq4kI
「つったく、何なンですかァお前の右手は?」
「…………」
 返事が無い ただの屍のようだ。
 しかし冗談でなく返事が無かったら屍に見えてもおかしくないくらいにボコボコにされた上条。右手のことを忘れていたのは確かに上条のミスだが、殴れといったのは一方通行なのでやっぱり何か釈然としない。これ以上ボコボコにされたくはないので口には出さないが。
「……で、結局何がしたかったんでせう?」
「むしろオマエの右手はなンなンだよ」
「いや、俺の右手は異能の力ならなんでも打ち消せるだけのチンケなレベル0ですが」
「……あァそういうの言いたくなるもンなンだってなァ。俺にはよくわからねェ感覚だが。で、本当は何の能力だ? 俺の反射の壁をすり抜けるなンてよっぽど妙な能力なンだろォなァ」
「いや、本当にそんな能力なんですが……ってか、反射の壁?」
「そォいうの何て言うンだったか、あァそうだ中二病だ」
「いや、たしかにけったいな能力だってのは認めますがね」
 システムスキャンではレベル0判定の癖に、その実は神様の奇跡すら打ち消してみせる右手。確かにそんなの胡散臭さの塊でしかないし、大して役に立たない上にむしろ不幸を呼んでくるいわく付きの一品だ。
 この間なんて魔術なんてものを大真面目に語る銀髪シスターの修道服をバラバラにしてしまった、しかも割と公衆の面前で。そのお陰で上条家の冷蔵庫の中身は定期的に一掃されることとなっている。
 そういえばアレは結局何に右手が反応したんだろうか、と上条は考える。まさか本当に魔術なんていう非科学の塊じゃあないだろうが。念動力で布をくっつけたりしていたんだろうか?

178空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:39:30 ID:eAQWq4kI

「まあ俺の話はおいといて、結局お前の能力ってなんなんだよ。反射の壁って、まさか受けた攻撃を全て反射するとか?」
「デフォルトのときはなァ。本質はベクトル操作。簡単に言うと寝てる間に核が落ちよォが傷一つ付きやしねェし、自転のベクトルを借りればどンな分厚い壁だろォが一撃でぶち破れる」
「……いや、お前の方が中二病じゃん。なにそれチート?」
「それを破っといてよくそンな口がきけたなァ?」
 確かに反則具合でいったらこの右手も中々のものだが、それにしたってその能力はあり得ないだろうと上条は思う。
 上条の力はあくまで「異能の力」にしか反応しない。つまり、それが異能なら一位の反射の壁であっても破れるが、普通の鉄の壁は破れない。しかも効果範囲は右手のみだ。
 しかし一方通行の能力は異能だろうがなんだろうが関係なく問答無用で支配下における。この世にベクトルを伴わないものなんて無いのだから。
 上条の右手なら打ち消すことも可能なようだが、我ながらこんなのはイレギュラー中のイレギュラーであると理解している。まず間違いなくこれと同じ能力を持つ者はいないだろう。
 つまり、一方通行はこの地球上において殆ど最強なのだ。
「……ん? ちょっと待てよ?」
「あ?」
「なあ、お前の能力ってほぼ最強だよな?」
「まあそォだろ」
「じゃあ何でその最強のお前が追われて、しかも逃げてたんだ? 反撃すればいいじゃん」
「……そォいうワケにはいかねェンだよ。色々あってな」
「色々って……さっきも聞いたけど、そもそもその妹達ってのは何でお前を追ってるんだ? お前を追っかけても勝ち目なんかないじゃんか」
「それは実験の……いや」
「実験?」
 何か考えるように少し黙って視線を落とす一方通行。
 一瞬目を瞑って、また開く。
 そのとき、上条はなにか言いようの無い違和感を感じた。例えるならば、まるで目の前に座る一方通行が別人とすり替わってしまったかのような。

179空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:41:39 ID:eAQWq4kI

「…………クローンは二万体作られたって言ったよなァ。そして残り9979体とも」
「ああ。それが?」
 上条の問いに一方通行は笑って答える。
 ただしその笑みは先ほどまでの自虐的なものでも、無論優しいものでも無い。
 悪魔の微笑み。裂けるように、これ以上ないほど邪悪に。
「それじゃあ、あとの10030体のクローンは一体どうなったンでしょォかァ?」
「………どう、って」
 上条は言葉を詰まらせる。
 何故なら、最悪のパターンを想像してしまったから。否、最悪のパターンしか想像できなかったから。
 裂けた口が再び開く。上条はそこから発せられる言葉と共に、なにかもっと恐ろしいものが噴出しているような錯覚にとらわれる。
「考えなくても分かるよなァ? 死んじまったンだよ、まあ正確には俺が殺したンだがなァ!!」
 先ほどとは質がまるで違う沈黙。
 絶句。上条は指先すら動かすことが出来ない。
 こいつは、誰だ?
 俺は一体、誰と会話していたんだ?
「……なんで?」
「なンで、だァ? 理由があれば納得すンのか、随分クローンの命ってのは軽いンだなァオイ!!」
「ッ、テメェ!!」
「なンですかァ? 正義のヒーロー気取って最強に歯向おォってのか? 面白いねェお前。その妙な右手といい、最ッ高に面白れェぞォ!!」
 吼える両名。
 しかし思わず立ち上がり拳を握った上条に対し、一方通行は構えすらしない。
 それは正しい反応だろう。いくら上条には奇異な右手があろうと、レベル0の一般人だ。そんな人間が、学園都市最強の能力者に勝てるはずはないのだから。

180空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:43:40 ID:eAQWq4kI
 
 それでも拳をほどかず、一方通行を睨みつける上条。しかし安易に学園都市最強に挑むわけにもいかず――そこで気付いた。

 何故、一方通行は攻撃してこない?

 確かに一方通行は最強の能力者だ。普通に考えれば、ただのレベル0なんて構える必要も無く瞬殺出来るだろう。
 ただし上条の右手は普通ではない。一方通行の反射の壁すら破る、イレギュラー中のイレギュラー。
 その右手が、すぐ目の前にあるのだ。ここまで接近してしまえば一方通行が能力を使う前に殴り飛ばすことも可能だし、そのまま頭でも掴んでしまえば一方通行は能力を一切使えない。
 その危険性は、先ほど身をもって知ったハズだ。
 それなのに一方通行は一切攻撃しない、距離をとることすらしない。唯一の天敵ともいえる上条の右手の前で、表情や台詞とは裏腹にその姿勢には殺意どころか敵意すら一切無い。
 これが10030人も殺した人間の姿なのか。殺しすぎてどこかのネジが外れてしまったのか、それとも。
「…お前、本当に10030人のクローンを殺したのか?」
「……ハァ? 何言ってンだオマエ。そンな嘘ついて俺に何のメリットがあるって言うンだ?」
「だけど、お前はそんなことをするようなヤツには見えない」
「馬鹿にしてやがンのかァ!? この俺ののどこをどォ見ればそんな善人に見えるってンだよ!! どう見てもゴミ以下のクソ野郎だろォが!!」
「…………」
 明確な理由なんてなかった。一方通行が攻撃行動に移らないのもレベル5の驕りと考えれば辻褄は合うし、敵意の有無なんて感覚でしかない。
 そもそも上条だって、一方通行が真っ白な善人だと思ったわけではない。
 ただ、真っ黒な悪人だとも思えなかっただけで。

181空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:45:51 ID:eAQWq4kI

「……チッ、くっだらねェ」
 心底忌々しそうに吐き捨てて、一方通行が立ち上がる。向かうのは玄関。
「おい、どこいくんだ?」
「出てくンだよ。邪魔したな」
「出てくって……」
「言っただろォが、追われてるって。それとも何か、お前は部屋に手榴弾投げ込まれてェのか?」
 サラリと答えた一方通行の言葉に上条は再び絶句する。
 そういってる間にさっさと玄関へ歩を進める一方通行。もう少し話を聞きたい上条はなんとか引きとめようとしてその後を追うが、慌てたせいでドア枠に小指が衝突した。
 あまりの激痛につんのめった後に奇声をあげながら片足で踊り狂う上条。そしてつんのめった拍子にポケットから滑り落ちた携帯を愉快に素敵に完膚無きまでに踏み砕いた。
「ふ、不幸だー!!」
「くっだらね」
 そしてその惨状を華麗にスルーする一方通行。なるほど同情してくれない辺り悪人である。
「テメェの右手は幸運でも打ち消してやがンのか」
「……それ前にも腹ペコシスターに言われた。でも上条さんはそんなオカルトあり得ないと信じたい」
 しかしそう言いつつも静電気から足がつるというコンボをくらう上条。なにかもう本格的にオカルトチックな大宇宙の悪意なんかを感じないでもない。
 不憫そうな視線をむける一方通行にかえって一層悲しくなるも、そこで上条は話がずれていることに気付く。
「そうじゃなくて、お前ここを出てどこか行くアテとかあるのかよ? 追われてるんだろ?」
「追われてるからだろォが。ここで大人しく囲まれンのを待ってろってか?」
「見つからないように大人しくしてればいいだけの話だろ」
「昨晩はこの近辺でドンパチやってたンだ。おおざっぱな場所が割れてる時点で、ジッとしてて9979体の妹達の目から逃れられるワケがねェ。その上この件には街の上層部も一枚噛ンでるからなァ、奴等監視カメラや人工衛星からも情報を得てやがる。この場所もすぐに割れるだろォよ」
「ちょっと待てよ、そんなにヤバイことになってるなら尚更放っておけねーだろ。正直妹達とか上層部とか半信半疑だけど、とにかく『誰か』に追われてるのにお前を放り出せるかよ」

182空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/17(火) 16:50:00 ID:eAQWq4kI

 一方通行は虚を突かれたようにぽかんとする。
 本当に、そんな表情は彼の言うような極悪人には見えなくて。

「じゃあついて来ンのか? 地獄の底まで」

 そしてそんな表情は一瞬で、どこか自虐めいた笑みに塗りつぶされて。上条はその一言で言葉の全てを失った。
 一方通行は暗にこう言っていた。
 こっちにくンな。
「心配すンな、俺だってアテもなく逃げ続けてるワケじゃねえ。ちゃンと解決策は用意してあるンだ」
「解決策ってどんな?」
「だからなンでテメェにご丁寧に説明しなけりゃならねェンだよ」
「う……それは…、ほら」
「それじゃあ、邪魔したな」
 上条が口ごもっている間にさっさと玄関を開き出て行ってしまう一方通行。慌ててその背中に向けて叫ぶ。
「おい! なんか困ったことあったら、いつでも尋ねてきていいからな!」
「あーハイハイ。気が向いたらなァ」
 こちらを振り返りもせず、なおざりに手だけひらひらさせて答える一方通行。
 そしてその姿も、やがてエレベーターホールへの角を曲がって見えなくなった。
 もう部屋の中に戻っても、聞こえるのはセミの鳴き声だけ。まるで最初からそんな人間はいなかったかのように、非日常は一瞬で日常へと姿を変えた。
 
 ただ一つ。
「あれ、なんだこれ……電極?」
 非日常の欠片を残して。

183■■■■:2010/08/17(火) 16:54:07 ID:eAQWq4kI
いったんおしまいです。まあこんな感じにインデックスの代わりに一通さんが降ってきましたな話を1巻に合わせて書いて行きたいなと。

一応一巻のラストにあたるとこまで書ければなーと思います。では。

184■■■■:2010/08/17(火) 23:28:22 ID:PWNk.pjs
今日はなんだか久々の投下ラッシュのようですね。自分も続かせて貰います。
>142 GJ
アウレオルス=イザードはていと君の頭にお引っ越ししていたのですね。次の対戦相手が
姫神秋沙なら、当然アウレオルス=イザードも参戦してくるのでしょうね。姫神ファンの
自分としては次戦が非常に楽しみです。
>159 GJ
わくわくする展開になってきましたね。次回グロい表現が多くなると言うことはいくつかの戦いに決
着がつくということでしょうか。反乱因子達とのバトルを楽しみにしています。
>168 GJ
次回が三日目ですか?これだけ複線を張られたこの物話が三日目でどう終わるのか、楽しみにし
ています。リアと篠原圭の関係が発展するのかも気になります。さすがに上条もリアにはフラグを
立てられそうにないですね。
>183
一方通行が落ちてくるとすると、追いかけているのは妹達だけなのか、それとも黒幕で木ィィィ原ク
ゥゥゥンなんかが出てきたりするのでしょうか?

「ミサカ、巫女と美琴(みさかみことみこと)」第4話「ホワイトバニーの幻影」の最後の5レスを投下
します。

185■■■■:2010/08/17(火) 23:29:06 ID:PWNk.pjs
「ミサカ、巫女と美琴」(第4話その19)

 神裂火織は臨戦態勢のまま注意深く一方通行のダメージを観察する。

(手応えありッ!!学園都市第一位といえども唯閃を受けて無傷で済むはずがありません!!
 …………否ッ!
 唯閃を受けてなおまだ立っているという事実にこそ驚愕すべきですね。
 先ほどの虹色に光る衝撃波…………あれはきっと反射された唯閃なのでしょう。
 身体に受けたダメージは大きいようですが目の輝きに一点の曇りも見えません。
 ならば私のすべきことはただ一つ!!)

 そして神裂火織は七天七刀に手をかけた右手に力を込め一方通行の言葉に応える。

「応(おう)ッッ!!唯閃ッッッッッッッッ!!」

 再び神裂火織と一方通行の間の空気が引き裂かれる。

 ズバァッ!!と。
 無数の未知なる力(ベクトル)が一方通行の身体に叩き付けられる。その瞬間、一方通行の身体
は地面に叩き付けられ2度、3度とバウンドしながら後方へ転がされていた。だが同時に反射した力
(ベクトル)が叩き付けられる力(ベクトル)と激突し稲妻のような閃光が迸る。そして轟く爆音を追い
抜き虹色の衝撃波が周辺を蹂躙する。しかし今回、その一部がまるで自らの意志を持つかのように
軌道を変え威力も性質も軌道もタイミングも異なる3721種類の力(ベクトル)となって神裂火織に襲
いかかる。

「──────は、ァアア!!」

 神裂火織は気を吐き迎撃に移る。『神を殺せるように』組み替えられた身体が振るう七天七刀は
僅か100分の1秒の間に次々と襲い来る数千もの力(ベクトル)を次々と撃ち落とす。しかし天草式
十字凄教の粋を集め一時的に人の領域を越えた存在となった身体にも限界はある。3694の力を
撃ち落としたものの27の力を撃ち漏らし、その内13の力が神裂火織の身体を直撃する。
 ドガガガガッ!!と神裂火織の周囲に落ちた力が轟音とともに土煙を大量に巻きあげる。

「く──ッッ!!」

 轟(ごう)ッッ!!と吹き荒れる土煙の中で神裂火織は苦悶の声を漏らす。
 もはや直撃は避けられないと判断した力に対しては回避を諦め己の強化された身体を信じ正面
から受け止めた。ズガガグギガギギッッ!!と13の衝撃が歯を食いしばる神裂火織の腕を、腰を、
肩を、そして頭を容赦なく叩く。

 ヌルッ!と汗が一筋額を流れ落ちる。
 いやそれは汗ではない。前髪を濡らし額をつたわる赤い滴りは右目の視界を徐々に塞ぎ始める。
 だが神裂火織は血を拭おうともせず唯閃を受けて地面に転がっている一方通行を凝視する。

 倒れたまま、地面を掴むように伸びていた指がピクリと動いた。そして地面を這わせる指が大地を
握りしめると一方通行は起き上がる。ボロボロになった身体に残ったわずかばかりの力を全て注ぎ
込み立ち上がる。血まみれの身体は右に傾き右手はダラリと力無く垂れ下がっているものの、神裂
火織を睨み付ける赤い瞳は光を失っていない。

「どォしたァ!?…………もうおしまいか!?
 さっきから俺ばっか愉しく踊ってるみてェだからよォ。
 今度はオマエを愉快に踊らせてやるよ。オマエの血の海でな!
 どうした!?掛かってきな!」

(唯閃を2度も受けたはずなのに、どうして立ち上がることができるのです!?
 私より遥かに大きなダメージを受けているはず…………なのに
 どうしても勝っている気がしません。これが学園都市第一位ッ!!)

 神裂火織は独特の呼吸法をもって再び魔力を極限まで練り上げる。たった1度受けただけで唯
閃に対応し始める高い適応能力を見せつけた一方通行に対し、このまま単発で唯閃を放っていて
はいずれ唯閃ですら弾き返されると判断した神裂火織は次の一撃に全てを託す。

(先程は唯閃の反射も不完全でした。ならば唯閃を反射した衝撃波を出すタイミングに合わせて
 唯閃を連続で叩き込むのみ。唯閃に対応しきる前に叩き伏せなければ私の負けです)

七天七刀に掛けた指先にまで気を充填させ神裂火織は決戦に備える。
体内にため込んだ気がまさに爆発寸前にまで高まった瞬間、建宮斎字の声が頭に響き渡った。

『プリエステス!!11時の方向。距離400メートルの鉄塔に狙撃手!』
「!」

186■■■■:2010/08/17(火) 23:29:53 ID:PWNk.pjs
「ミサカ、巫女と美琴」(第4話その20)

 霊装を通じて直接頭に鳴り響く建宮の警告に神裂火織は視線を僅かにずらし400メートル離れ
た鉄塔からこちらを狙う狙撃手を確認する。神裂火織の視力は人間の足首ぐらいの金属筒に鋼の
箱やケーブルをゴチャゴチャ取り付けた巨大過ぎる奇妙な銃の形状も狙撃手が引き金に掛けた指
の動きすら正確に捉えていた。

 同時にその銃口が自分を狙っていないことにも気付く。ならば標的は一つしかない。一触即発の
状況で敵から注意を逸らすことは敗北(死)に直結する。だが神裂火織はためらうことなく一方通行
を狙う狙撃手に向けて唯閃を放った。

 引き金が引かれるより早く狙撃手の足場となっている鉄塔の根元が真っ二つに切断される。異常
事態に慌てた狙撃手が退避動作に入る頃には既に神裂火織は七天七刀を鞘に収めて一方通行
に対峙し直していた。もし狙撃手がスコープを覗いていたなら困惑する神裂火織の表情を伺い見
ることができただろう。

(どうして?)

 目の前でカハッ!!っと胸を押さえて咳き込む一方通行の姿に神裂火織は困惑する。神裂火織
は狙撃を完全に防いだ訳ではなかった。狙撃手はもう一人いたのだ。彼らは学園都市統括理事の
一人トマス=プラチナバーグが雇った傭兵崩れの狙撃手だ。学園都市製の磁力狙撃砲MSR-001
と一方通行用に開発された特殊な成形炸薬弾を与えられた彼らは一方通行の頭と心臓をそれぞ
れが狙撃する計画だった。

 使用弾頭は対戦車榴弾(HEAT) として使われる成形炸薬弾を一方通行専用に改良したもので
ある。もともと対戦車榴弾はモンロー/ノイマン効果によって生じた超高速金属噴流(メタルジェット)
に戦車装甲を貫通させるものである。例え鋼鉄であろうとユゴニオ弾性限界を超える動的超高圧下
では塑性流動を引き起こすためセラミックを用いた複合装甲でなければ対戦車榴弾を防ぐことはで
きない。

 とはいえただの対戦車榴弾(HEAT)が一方通行に通用するはずはない。だが学園都市の科学者
達は一方通行の反射に引っ掛からないはずの酸素分子に目をつけた。そして弾頭内の金属板(ラ
イナー)を固体酸素に置き換え、炸薬の爆発で生じる爆轟波により秒速数千メートルという超高速
で酸素噴流を噴出させる新たな成形炸薬弾を開発した。ただし一方通行の反射により弾頭が弾き
返される瞬間に正確に炸薬を起爆させる信管技術、凝固点が−218℃の固体酸素を炸薬の起爆
まで融解させない断熱技術そして酸素分子に十分な貫通力を与える技術の開発に莫大な予算と
人員が費やされたことは言うまでもない。

 だが莫大な予算をかけて開発されたもののその有効範囲は着弾点から前方わずか5cmまでしか
伸びなかった。それでも科学者達は心臓あるいは頭部を正確に狙えば一方通行に致命傷を与え
ることは可能だというレポートを提出し、それを信じたトマス=プラチナバーグは一方通行の狙撃に
ゴーサインを出したのだ。

 一方通行以外に使い道が無い弾丸に莫大な私財をつぎ込んだことはトマス=プラチナバーグが
この時点でいかに9月30日の私怨に囚われ冷静な判断能力を失っていたかを示している。そうで
なければ後日ステファニー=ゴージャスパレスに無惨に殺されることもなかっただろう。

 法外な報酬と引き替えに狙撃を引き受けた二人の狙撃手の内、頭を狙った狙撃手は神裂火織に
阻止されたが、心臓を狙った狙撃手の磁力狙撃砲は特殊成形炸薬弾を秒速290メートルで射出し
た。放たれた成形炸薬弾は一方通行の反射膜に触れた瞬間その運動ベクトルを変換され狙撃手
へと正確に打ち返される。しかしその直前に信管は炸薬を起爆させ超高速酸素噴流を一方通行の
心臓に叩き込んでいた。

 トマス=プラチナバーグの執念の一撃は一方通行の反射を突き破ることに成功した。しかし唯一
のそれでいて致命的な誤算は直前に神裂火織の攻撃を受けた一方通行が反射の演算式を書き
換えていたことだろう。本来なら酸素噴流は体表から心臓まで直径1mmの穴を穿ち心臓を内部か
ら破裂させ一撃で致命傷を与えるはずが、直前に書き換えられた演算式のせいで噴射質量の内
の82%が反射フィルターに弾かれてしまった。だが残りの18%の高速酸素噴流は錐のように一方
通行の身体に喰い込みその牙は肺の一部を噛み千切り心臓にまで届く傷を与えた。

187■■■■:2010/08/17(火) 23:30:35 ID:PWNk.pjs
「ミサカ、巫女と美琴」(第4話その21)

 常人ならば即死する深手を負った一方通行は悲鳴を上げる心臓の鼓動をベクトル操作で強引に
整え、心臓の傷口から噴き出すハズの血流すら操作し全身を巡る血液の流れを確保する。また穴
が空き萎んでしまうはずの左肺も息の流れをコントロールし呼吸を確保する。だがそれは能力で最
低限の呼吸と血流を確保しただけであり、傷が治った訳でも痛みが治まった訳でもない。傷は未だ
致命傷のままであり能力を打ち切れば数十秒で一方通行は絶命するだろう。

 ようやく事態を悟った神裂火織は一方通行に慌てて駆け寄る。もう一人の狙撃手を見逃したこと
は神裂火織が狙撃手を一人倒したことにより生じた油断が原因だといえなくもない。だが一方通行
という強大な相手と対峙している最中に周囲に割ける注意力を考えれば神裂火織の油断であった
と責めることはできないだろう。しかし全てのものを救うと心に決めた神裂火織は自分の油断が許せ
なかった。

「大丈夫ですか?一方通行」
『うるせェ!決着はまだついてねェぞ!!』
「傷をお見せなさい。今すぐ治療します」
『ざけンな!』

 前方の空気を振るわせ声を作っていることからも心肺機能にどれほど大きなダメージを受けてい
るかが判る。神裂火織は急いで回復術式を組みあげ発動させる。すると一方通行を取り囲むように地面に緑色に輝く光の輪が現れゆっくりと上昇し始める。

 だがその途端、バチン!!と光の輪が一方通行の反射フィルターに弾かれ四散する。

「一方通行。今だけで良いですから私の回復術式を受け入れて下さい」
『こんなかすり傷に、オマエの助けなンかいらねェンだよ!』
「無茶です。一方通行!痛ッッ!」

 一方通行の肩に掛けようとした神裂火織の手はその運動量を反射され弾き飛ばされる。

『続きを始めッぞ!さっさと準備しやがれ!』

 そう言った途端ガクン!と一方通行の両足が力を失う。

(なンだ?一体…………くそっ、打ち止めのヤツが俺の能力をブロックしやがったのか!?)

 能力によって辛うじて身体を支えていた一方通行は地面に片膝を付く。同時に失血を防いでい
た能力も失い、途端に穴の空いた心臓は再び悲鳴を上げ、破れた肺は呼吸を拒み、体中の傷口
からは大量の血液が流れ出る。神裂火織は再び回復術式を組みあげると一方通行を囲むように
緑色に輝く光の輪が現れゆっくりと上昇する。

 意識を失う寸前だった一方通行は思わず目を瞬(しばたた)かせる。先ほどまでの激痛が嘘のように治まっていた。力を失ったはずの右手すら思い通りに動いてくれる。

(これが魔術…………なのか!?)

 身体のダメージをチェックしつつゆっくりと立ち上がる一方通行が顔を上げると目の前に神裂火
織と目が合ってしまった。柔和な表情を見せる神裂火織から目を逸らすと一方通行は右手で髪の
毛を掻きむしる。

「あ…………」

何かを言い掛けた一方通行の言葉はその腰に体当たりしてきた幼女によって断ち切られた。

「ゴメンナサイ!痛かったでしょ。でもあなたを助けるためにはあそこで能力をブロックするしか方法
 はなかったの、ってミサカはミサカはいつも無茶ばかりするあなたに涙目で訴えたり」

「どうします?一方通行。まだ続けますか?」
「こンな邪魔が入っちゃ、もォやる気なンて無くなっちまったぜ!
 まあ、どうしてもオマエが闘いたいって言うンなら付き合ってやってもイイぜ!」
「いいえ、遠慮します。あなたには何故か勝てる気がしませんでしたから」
「フン!謙遜しやがって。まあイイ。じゃあ俺は帰るからな」
「あっ、待って待って!ってミサカはミサカはあなたの腕にしがみついて久しぶりに一緒に帰りましょ
 って駄々をこねてみたり」

 腕にまとわりつく打ち止めを適当にあしらいながら一方通行は今日の戦闘を思い出していた。

(今まで雑魚ばかり相手していて気付かなかったが魔術っていうのもどうやら侮れねェみてェだ。
 しかし9次元での反射をデフォで展開しておくにはミサカネットワークへの負担が重すぎる。
 俺の頭が元通りなら問題ねェが、ミサカネットワークに頼るならもっと演算式をスリム化しねェと。
 仕方ねェ。経験を積む必要がありそうだからコイツらに少しぐらい付き合ってみるか?)

188■■■■:2010/08/17(火) 23:31:02 ID:PWNk.pjs
「ミサカ、巫女と美琴」(第4話その22)

 学園都市某ビル内の一室

「この映像は永久保存版としてミサカネットワークのアーカイブに保管する必要がありそうです
 とミサカはまるで傷口に塩を塗りつけるようなわざとらしい口調で呟きます」
「…………、ぷっ…………くっ、くくく、苦しい」
「御坂さん。肩が揺れてる。ほら。…………笑ったら失礼。…………ぷっ」

 ここは学園都市某ビル内の秘密戦隊RAILARの作戦司令室。
 RAILARのメンバー全員が揃うのは上条達が初めて招集された日以来である。
 上条達はその日と同じようにバトルスーツに身を包んでいた。只一人の例外を除いて。

「おい、クソチビ!オマエが死ぬ前に一つだけ聞いておきてェことがある」
「一つだけで良いの?ってミサカはミサカはあなたのコメカミに浮き出た青筋に身の危険を感じつ
 つ怒りの矛先を逸らそうととびっきりの営業スマイルで答えてみる」
「こいつァ何の真似だ?」
「だってあなたは昨夜の戦闘でキシサクマアの首領と互角に戦って撃退したでしょう!
 ってミサカはミサカは昨夜のあなたの凛々しい姿を脳内再生し改めてあなたに惚れ直してみたり」

 両手を頬に当て身体をくねらせながら打ち止めは答える。なおも青筋を立てたこめかみをヒクつ
かせながら一方通行は今にも爆発しそうな怒気を込めた声で打ち止めにもう一度問い直す。

「なら!!それがこれとなンの関係があンだ!?なンのバツゲームだ!こりァ!?」
「ぷっ、…………くっ、くふふっ、ふぁっははははははは──────!」

 御坂美琴は必死に堪えてきたがとうとう限界がきてしまった。溢れ出した笑い声はもはや止めるこ
とができない。腹を抱えてうずくまる御坂美琴をギロリ!!と睨み付けるが今の一方通行には御坂
美琴を黙らせる迫力が少しばかり欠けているようだ。それはひとえに一方通行の着ているスーツに
原因がある。

 そう。今一方通行が着ているスーツは紛れもなく、どこからどう見ても、誰がなんと言おうともセーラ
ー服以外の何ものでもなかった。おまけに頭には白い花の髪飾りまで着けている。

「RAILARで最も活躍した人はブラック(上条)と一日デートができるのよ、ってミサカはミサカはなに
 今さらご託を並べてんの?って感じでRAILAR結成当時に決まったルールを当然のように確認し
 てみる」
「あァ!?なンの話だ!そりゃァ!?」
「ほら、あの日あなたが怒って司令室から出てった後に決まったでしょ。憶えてない?
 ってミサカはミサカはふざけた素振りを微塵も見せずに質問に対して質問を返してみる」
「ッざけンな!つきあってらンねェ、俺は帰るぞッ!」
「でもスーツはバトルモードに戻さないと脱げないよ、ってミサカはミサカは親切にも忠告してみる」

 司令室の出口に向かっていた一方通行だが、後ろから掛けられた打ち止めの声に立ち止まると
ちっ!と舌打ちし面倒くさそうに言い放つ。

「チェンジ、バトルモード」
「あっ、言い忘れてたけど、今スーツ変形機能はこちらでブロックしているから叫んでも無駄かも
 って、ミサカはミサカはわざとらしく追加説明してみる」
「テメエ、そっちがそのつもりなら、こンなスーツ、俺の能力で引き裂いて…………」

 チョーカーに手を当て能力使用モードにスイッチを切り替えようとする一方通行にまたしても打ち
止めは涼しい顔で通告する。

「ちなみにあなたの能力もミサカネットワークの代理演算をブロックしているからスイッチを能力使用
 モードに入れ替えたって無駄かも、ってミサカはミサカは余裕の表情で宣言してみる」
「ふっ、ふざけやがって!なら、こンなスーツはナイフで切り裂いて…………」
「残念でした。学園都市製の防弾防刃防爆スーツはナイフや銃なんかで傷つくほど柔じゃないよ
 ってミサカはミサカは学園都市の技術水準の高さをことさら自慢してみたり」

 プルプルと全身を小刻みに震わせる一方通行に打ち止めはさらにたたみ掛ける。

189■■■■:2010/08/17(火) 23:31:35 ID:PWNk.pjs
「ミサカ、巫女と美琴」(第4話その23)

「無駄な抵抗はもう終わりかな、ってミサカはミサカは上から目線で宣言してみたり。
 でもね。そのスーツを脱ぐ方法がまだ一つ残ってるんだよって耳寄りな情報を打ち明けてみる」
「なンだ!それは!?」
「そのスーツって一つ一つに違った『破滅の言葉』がセットされていて装着者がそのキーワードを
 宣言するとスーツは5秒後に自壊する仕組みになってるの、ってミサカはミサカは衝撃の事実を
 あなたに伝えてみたり」
「ほ────ッ、でもその言葉は俺に教える気はねェンだろ!どォせ」

「そんなこと無いよ、あなたのスーツのキーワードは『ラストオーダー、愛してる』だよ。さあ大きな声
 で言ってみよう、ってミサカはミサカは喜色満面であなたにキーワードをせっついてみる」
「ッざけンな!誰がそンなこと言うかよ!」
「えっ、そうなの!あなたはそんなに、そんなにブラックとの一日デートが良いの!?
 ってミサカはミサカはあなたの意外な趣味にハンカチで涙を拭いながら嗚咽を漏らしてみる。
 ついでにもう観念してキーワードを言うしかないよねってさりげなくあなたに迫ってみたり」

「もうその辺で許してやれよ。司令官(ラストオーダー)」
「あァァァああ?許してやれだあ?なンで俺がこのクソチビに頭下げなきゃなンねェンだよ!?
 ほら、オマエはなにボサッとしてンだよ!さっさと支度しやがれ!」
「…………え?」
「えっ、じゃねェだろ!デートだよ。で・え・と!!」

「じょ、冗談言うんじゃねえよ!!一方通行(アクセラレータ)」
「馬鹿野郎!誰がアクセラレータだ!?百合子って呼びやがれ!!
 さっきからオマエも俺のことを散々笑ってくれたよな。
 こうなりゃ、オマエも道連れだ!今日は地獄の底まで付き合って貰うぜ」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って、心の準備が、まだ、きゃ──────────────ッッッ!」

 悲鳴を上げる上条を引きずるように一方通行は出口へと向かう。そして、

「不幸だああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 上条の絶叫を絶ち切るかのように無情にも司令室の扉が閉じられた。
 その日、不可思議なカップルが学園都市のあちこちで目撃されたという。
 そしてこの日を境に『一方通行=鈴科百合子ちゃん』伝説が都市伝説として学園都市内でまこと
しやかに囁かれることになったのだという。

「ミサカ、巫女と美琴」 おしまい

190■■■■:2010/08/17(火) 23:32:04 ID:PWNk.pjs
以上で「ミサカ、巫女と美琴」 完結です。番外編として「美琴エンド」と「姫神エンド」と「上条当麻の
不幸な(?)一週間」をその内投下すると思いますが、とりあえず本編はこれにて終了です。グダグ
ダと長く続けてしまいましたが、その間も暖かく見守って頂きありがとうございました。では。

191■■■■:2010/08/18(水) 01:02:00 ID:pet8sC/k
初めてのSS挑戦です。
なにとぞ暖かい目で見守ってくれるとウレシイです。
ハイ。てな訳で行きます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
プロローグ
 
とある朝いつもより早く目が冴えてしまった。というより、あまり眠れていないと言ったほうが近いのだろう。
 「あァ、こんなンでいいのかァ…」
 学園都市第一位『一方通行』は考える。
 自分が光を求め手にした今の生活しかし…
 今まで研究とはいえ散々な殺しを続けてきた自分が
 今更光を求めるなど…
 「本当に今が求めていた最高なンで「おっはよーうってミサカはミサフゲェェ」
 「うるせェーンだよ。部屋入る時は、ノックしろって言ってンだろうがァ」
 「ふぉめんなふぁいっふぇミふぁふぁふぁミふぁふぁふぁあやふぁってふぃふ」
 「なンなンですか?飯なンですか?ごはンなァーンですか?」
 「せいかーい!!ってミサカはミサカはテンション高めで言ってみたり!!ところで毎度毎度ノックするのはメンドーイって
  ミサカはミサカは抗議してみる。」
 「あン…それはだn「あぁそっか!男の子だもんね!朝はつらい時もあ、る、よね、って鬼の形相の、アナタを、みつ、めてみ、る…」
 「どォーこォーでェーそんな事をならったんですかァ?打ち止めちャァーン」
 「えと…テレビかな?ってミサカはミサカは逃げに転じて猛ダッシュ!!」
 「チッ、後でお仕置きだn!!」
 不意に口を閉じる。
 こんな悪党が日常でこんなにもナマ温くなってしまったのかと…
 「ハァ…コーヒー飲むかァ…」
 一方通行は思う。あの時にもし考え方を変えていられたらと。
 一方通行は嘆く。なぜあんなことをしたのかと。
 一方通行は考える。なにかあの時に戻れる。そんな方法はないのかと。

192■■■■:2010/08/18(水) 01:02:20 ID:pet8sC/k
初めてのSS挑戦です。
なにとぞ暖かい目で見守ってくれるとウレシイです。
ハイ。てな訳で行きます。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
プロローグ
 
とある朝いつもより早く目が冴えてしまった。というより、あまり眠れていないと言ったほうが近いのだろう。
 「あァ、こんなンでいいのかァ…」
 学園都市第一位『一方通行』は考える。
 自分が光を求め手にした今の生活しかし…
 今まで研究とはいえ散々な殺しを続けてきた自分が
 今更光を求めるなど…
 「本当に今が求めていた最高なンで「おっはよーうってミサカはミサフゲェェ」
 「うるせェーンだよ。部屋入る時は、ノックしろって言ってンだろうがァ」
 「ふぉめんなふぁいっふぇミふぁふぁふぁミふぁふぁふぁあやふぁってふぃふ」
 「なンなンですか?飯なンですか?ごはンなァーンですか?」
 「せいかーい!!ってミサカはミサカはテンション高めで言ってみたり!!ところで毎度毎度ノックするのはメンドーイって
  ミサカはミサカは抗議してみる。」
 「あン…それはだn「あぁそっか!男の子だもんね!朝はつらい時もあ、る、よね、って鬼の形相の、アナタを、みつ、めてみ、る…」
 「どォーこォーでェーそんな事をならったんですかァ?打ち止めちャァーン」
 「えと…テレビかな?ってミサカはミサカは逃げに転じて猛ダッシュ!!」
 「チッ、後でお仕置きだn!!」
 不意に口を閉じる。
 こんな悪党が日常でこんなにもナマ温くなってしまったのかと…
 「ハァ…コーヒー飲むかァ…」
 一方通行は思う。あの時にもし考え方を変えていられたらと。
 一方通行は嘆く。なぜあんなことをしたのかと。
 一方通行は考える。なにかあの時に戻れる。そんな方法はないのかと。

193D,D,D:2010/08/18(水) 02:05:26 ID:pet8sC/k
パート2
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「あるんだよ」
 「あァ?」 
 「だからあるんだよ」
 白い修道女『禁書目録』ことインデックスは言う。
         ・
         ・
         ・
 最近、一方通行はライバルであった『幻想殺し』を持つレベル0上条当麻と
 親しい(?)友好関係を築いていた。もちろん妹達の事も許していた。
 今は、互いの居候について話し合ったりしている。まるで公園で話し合う母親たちのようだ。
 しかし、今上条はいない。先程、学園都市第三位『超電磁砲』の御坂美琴に
 「勝負よ!!今日こそ勝つからね!!覚悟しなさい!!」ビリビリ
 「ゲッ、ビリビリ!えぇ…もう知りません…なんだかもう日常的になって不幸とも思えなくなってきましたよ」
 「じゃーいーじゃないの!勝負よ!勝負!!」
 「そもそもなんで上条さんにばっかつきまとうんだよ!!いくら上条さんが生死の堺をさまよったってラブコメに繋がらないの!
  あ〜泣けてきた…不幸だ…」
 「・・・・る・もし・・ない・・いじゃ・・いの」
 「なに?聞こえねぇよビリビリ?」
 「繋がるかもしれないじゃないのってぇいってんのぉぉぉ!!」
 「バカ!!超電磁砲乱発すんなぁぁぁ!!」
 「少しは、あたりなさいよぉぉ!」
 「あァーー平和ァですねェー平和ァ」
 「おぃぃぃ!!一方通行!!これを見て平和だっていうならお前の眼は節穴だぁぁぁ」
 「三下ァ、俺が超電磁砲に加勢しないだけありたがく思いやがれェ」
 「ふぅぅこぉぉうぅぅだぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜」 
 と言い人混みの中へ(というより人込みをかき分けて)進んでいった。
 今は、打ち止めもいない。
 お昼寝を寮でしている。決して口ぐせが面倒だから登場させないわけではない。
 従って今は、一方通行と白いシスターしかいない。
 「空気なんだよ」
 「おわァ!いたのかァ、まっシスター…」
 「むぅー、その名前にはあなたには言われたくなかったかも。そして絶対読者は、私がいなかったと思っているかも!!」
 「作者に言えェ…作者にィ・・・」
 しばし沈黙が生まれる。
 沈黙を破ったのはインデックスだった。
 「あくせられーたーは、変えたい過去ってある?」
 一方通行の体がビクンと跳ね上がった。一瞬このまっシスターが記憶操作系の超能力者と錯覚するくらいだった。
 「なンでだァ…」
 「神の声が聞こえた気がしたからだよ」
 「(やっぱタダもンじゃァねェのかァ?)そんな都合のいいもンねェだろ」
 「あるんだよ」 
 「あァ?」
 「だからあるんだよ」
 その言葉に一方通行は体を強張らせ、少しばかりの希望を抱いた。

194■■■■:2010/08/18(水) 10:16:30 ID:lC7dXoTE
>>193

終わり......ですか?
終わったのなら終了宣言を。

195■■■■:2010/08/18(水) 10:54:18 ID:qXz5fSXw
>184
 三日間作者です。感想ありがとうございます!
少し書き方おかしかったんですが次で2nd終了です。
今回は前編、みたいなかんじで。分かりにくくてすいません。
 「ミサカ、巫女と美琴」完結おめでとうございます!
自分は読んでないんですが今度じっくり読んでみようと思います。
本当にお疲れ様でした!

196D,D,D:2010/08/18(水) 11:10:34 ID:pet8sC/k
すいません。
終わってないですよ。
実はスレ自体への書き込みも初めてなもんでして…
もー少しつき合ってください。

197D,D,D:2010/08/18(水) 12:02:02 ID:pet8sC/k
イッキまーす!!
パート3
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「なンだァ!どォすンだァ!!どォやったいけるンだァ!!!」
 異常な食いつきにインデックスは寒気を覚える。
 「えっとぉ、イギリス時代に持ってきたと思われる書物なんだよ。まぁ要するに魔術なんだよ魔術」
 「…へ」
 一方通行にしては、かなり間抜けな返事だったと思う。
 「イヤァ…くかか魔術はナイナイナイナイ」
 「やっぱりとーまと同じでこの町の住人は、魔術を信じないんだね!!」
 「なんだァ?三下にも信じてもらえなかったのかァ?」
 「い、今は信じてるもん」
 「ほォ証明するもンはァ?」
 その言葉を聞いてインデックスは少し赤くなる。
 「どォーしたァ?」
 一方通行がSっ気満載の笑顔を浮かべる。
 「…うぅぅぅそのせいで素っ裸にされたんだよ!!」
 「ハァ〜〜〜?」
 そのままインデックスはカッチンカッチン歯を鳴らしながら近づいてくる。
 「秘密を知った者に死を、秘密を知った者に死を、秘密を知った者に死を………」
 「待てェ!!自分言ったんじゃァァァ!?キャラも違うしィィィ!!」
 
      ガブッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
      不幸だァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 「いってェ…クソっ…常時反射に戻りたい。てかこーゆンは三下のポジションだろうがァ」
 「スッキリしたんだよ」
 「クッ…まァ魔術でもスタンドでも認めるからよォどンなンだァ?その魔術の書物ってェのは?」
 「うーん大賢者ユグラによって授けられたとされる『回帰の書』なんだよ。これは、魔道書の原典じゃないから危険ではないんだけど…」
 「原典?魔道書?なんだァ?いかにもバリバリ都合のいい設定じゃねーかァ?」
 「だーかーら!!気づくんだよ!!作者がそこまでうまく持ってこれる力量がないってことを!!」
 「あァ…なんかァ…すンませン…」
 「分かればいいんだよ。でその回帰の書は、私がイギリスにいた時代の同僚が届けてけれたんだよ。」
 「やっぱァ…タイミンg「ガルルルルルルr「なンでもないですゥーー」
 「ふぅ、でも本当には過去には帰れないよ?」
 「なンですか?嘘なンですか?」
 「ううん…嘘じゃないよ。これは、過去の中に自分が入り自分がやってきたこと事を見つめ直すような魔道書だよ」
 「ハッ!バーチャル体験みたいなもンかァ」
 「ばーちゃる?なんだかわかんないけど本当に過去を変えるとしたら天使クラスの魔力でもわからないんだよ」
 「まァ時間もなァ…流れているベクトルが一定方向じゃァねーしよォ操作できねェからなァ」
 二人は会話を続けない。
 自分たちの会話を自分たちのサイドで解明しようとしているからだ。
 科学で魔術を解く、魔術で科学を解くそんなことをしているのだ。
 例え、学園都市第一位の頭脳でも歩く魔道図書館でも不可能であるわけだ。
 「(だーァ、わかんねェ…まァいいかァできるっていうなら)おい!まっシスター!どこにあるんだその回帰の書ってェのは?」
 「ふぇ!?あぁえーっとね…とーまのベットの下かも」
 「ンーなンかいやな予感だなァ…まァいい後でとりにいっからよォ」
 「わ、わかったんだよ。」
 「ンじゃァなァ」
 「えっ帰っちゃうの?おいてかないでよ。とーまいないんだよ」
 「あァン?ハイハイハイ連れてけばいいんですかァ?三下の家まで?」
 「分かればいいんだよ」

 そう言って二人は平和に上条当麻の寮へ向かっていった。
 ただ白いシスターが学園都市第一位の財布の中身を食べ物でスッカラカンにしたことを除いて…

198D,D,D:2010/08/18(水) 12:27:29 ID:pet8sC/k
パート4
やっぱ書きだめって必要なのかなぁ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「ふゥン…これがねェ…」
 回帰の書を受けっとった一方通行は疑惑の目しかむけられない。こんなものが本当に?と思うばっかりである。
 「それは、一種の過去旅行みたいなものだから楽しめるといいんだよ」
 「楽しめねェよ。あんな殺し合いパレードじゃァな」ボソッ
 「ん?なんか言った?」
 「なンでもねェよ…」
 一方通行が行こうとしてるのは、妹達の実験検体番号10032号との実験のときである。
 「ンじゃちょっとばっかし借りてくぜェ」
 そう言って回帰の書を開く。回帰が始まる。
 あの時の腐った自分に会いに行く。その過ちを少しでもいいから正すため。
 そして、妹達を助け出すため…

199■■■■:2010/08/18(水) 12:50:48 ID:pgSoNcAw
>>198

>>1を読むんだ
正直、ルール守ってないSSはどれだけ内容が素晴らしくても評価されないです。
それは色々と勿体ないので

200■■■■:2010/08/18(水) 13:04:52 ID:3/QKaX1.
>>198

即興やるんなら別でやってほしいって思う。
それに失敗の経験者から言わせてもらうと、即興はかなり終わらせるのつらいぞ

201■■■■:2010/08/18(水) 13:10:53 ID:UU19b0Lg
昨日から投下ラッシュですねぇ。どの作品もGJ〜

>>168
GJです。
日常パート上手いですねー。地の文が原作っぽくってGood。
指摘する点は三点リーダーです。「・・・」ではなく「…」で統一すると良いでしょう。原作風味なら「……」と二つ並べるのがベターです。
冒頭の研究所襲撃……奪われた「新素材」ってのが気になります。これから更に面白くなりそうだ。
次の投下も期待してます。

>>183
GJ! こういうの新しい……? 自分が知らないだけか? とにかく面白いです。
原作一巻片手に読み進めましたが、完全にトレースしてる訳ではなく所々に小ネタを挿んでるのがイイですね。
一巻と三巻を部分的に同時に進めるようなIFものって事でいいんでしょうか? もちろんそのままやったら矛盾生じまくりますけど。
昔原作の記述を完全コピペしてて(それが原因かは分かりませんが)打ち切りになってしまったSSがあったので少し心配でしたけど、この分なら良作になりそうな予感。
完結目指して頑張って下さい。    ……一方さんがヒロイン√まっしぐらww

>>190
GJ! そして完結おめでとうございます&お疲れ様でした。
とうとう、いや、堂々の完結ですね。過去ログを遡ることSSスレPART5から一年以上、本当に長い間良作をありがとうございました。
長編SSで一番多いパターンである二、三回の投下で投げ出してしまう三日職人が後を絶たない中、これだけの期間ひたすら完結に向けて突っ走った作品は「並行世界」以来の快挙ですよ。
まだまだ番外編を書く意欲も残っているみたいですし、本当に底なしですね。実はもう続編を考えてたりするのでしょうか? その時はまた、改めて拝見させて頂きます。
では最後になりますが、一年以上に渡る長編連載本当にお疲れ様でした。読み手の側からでも、一緒にこのスレを応援していきましょう。では。


>>198
初投下乙です。しかし194、199、200で指摘されたように、不備があるようなので重ねて指摘させて頂きます。

まず最初の2レス。落ち着きましょう、話はそれからで。
と、悪ノリはほどほどにして、次に投下について。192と193に空白の一時間がありますが、まさかその間193を書いてませんよね?
とりあえず初心者の方は>>1の【投稿時の注意】を読みましょう。今回は特に3・4・5の内容についてです。
1レス分書けたからそのつど投下、というのは他の職人の投下と被ったり投下そのものを牽制してしまったりと嫌われています。
ある程度まとまった分量をテキストファイル等に保存、誤字脱字がないか推敲、コピペして短時間でまとめて投下、という流れを心がけましょう。投下終了宣言については言わずもがな。

……ちょっとくどかったですかね。一介の読み手のくせに出過ぎた真似をしてしいる感じがそこはかとなく。要は皆でルールを守って楽しもう、ってだけの話なんですが。
まだ続いているようなので、感想は控えさせて頂きます。新しい職人が増えるのは嬉しいことなので、ささいなミスにめげずに完結を目指して下さい。

202D,D,D:2010/08/18(水) 13:28:45 ID:pet8sC/k
>>193,199,200,201
注意ありがとうございます。
やっぱ思いつきはだめですね。誤字、脱字すいませんです。
でも完結させないのそれはそれなので最後まで行きます。
が書きだめがつきました。
戦闘シーンがてずまりで…もう少しかかりそうです。すいません。

203D,D,D:2010/08/18(水) 13:48:36 ID:pet8sC/k
すいません
>>194さんでした

204D,D,D:2010/08/18(水) 14:52:56 ID:pet8sC/k
パート5
えと、ここからは、台詞の先頭に名前つけてきます。
最初からやっとくべきでした。すいません。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
             過去

 一方通行の能力は、ふれた物の向きを変えるというもの。
 運動量、熱量、電力量。
 それがどんな力であるか問わず、ただ向きがあるものならば
 全ての力を自在に操ることができる、ただそれだけの力。
 
 だが風。
大気に流れる風の向きを掴むことで巨大な風の動きを手中に収めることが可能!

一方(過)「くかきけこかかきくけききこかかきくここくけけけこきくかくけけこきくきき」
一方通行は風を操り幻想殺しの体をいともたやすく吹き飛ばした。
風、音、大気が死んだ世界が広がる。白い粉塵で視界が覆われる。
だがあまりに被害が少ない気がする。
その粉塵の中に立っている白い影は、二つ
…二つ?
??? 「なァーンだかなァ、この頃は、最強だと思ったンだけどなァ」
一方(過)「あァン?また邪魔かよォ。このつンつン頭も死ンじまったしィ、
自殺願望者が多いんですかァ?俺を楽しませないと泣いちゃいますよォオ・マ・エ・が」
??? 「心配すンな。テメェはこのつンつン頭の三下に負けンだよォ」
一方(過)「ハァッハァー!学園都市第一位がこんな三下にィ?落ちぶれたもんですねェ?」
??? 「この学園都市第一位が言うんだぜェ?嘘なわけねーだろォ」
一方(過)「第一位は オ・レ・サ・マだぜェ?」
??? 「奇遇ゥだなァ俺も第一位だ」
一方(過)「あはァ?」
一方(現)「俺は自分の過ちを正しに来たァ」

ここから一方通行vs一方通行
一位達の戦いが始まる。

205■■■■:2010/08/18(水) 17:23:34 ID:lC7dXoTE
>>204

ある程度書いてから纏めて投下しような。
その投下方法だと他の職人と被る恐れがあるから。

206■■■■:2010/08/18(水) 17:48:09 ID:lC7dXoTE
↑感想を言い忘れた。

>>202

話としてはよく出来てるし、面白いと思う。一方さんは話になるなぁ
投下ミスや投下のルールを守れば需要は後から付いてくると思う。

207D,D,D:2010/08/18(水) 20:12:25 ID:NJfhcLjM
パート6
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ここに姿形、能力ほぼ全く一緒の学園都市第一位が対立する。
 それぞれが放つ殺気は計り知れないものであろう。
 一人の第一位は、殺し、さらなる高みを目指す。
一人の第一位は、守り、自分自身にけじめをつけに。
 姿形が同じでも目的が違う一位同士は拳を交えない。
 だが見えないところで勝負は、始まっていた。心理戦や読み合い。
 一方(過)「(なんだァ?妹達を応用して統括理事会が俺のDNAマップで
       クローンを作ったってかァ?提供したかァ?ンな覚えはねェ
       まァ殺しちまえば一緒かァ。どォーすっかねェ?)」
 
一方(現)「(まァ流石の俺でもご本人とォーじょォーには少なからず揺さぶったはずだ
       問題は時間…仮にも最全期の俺だからなァ…
       無理な演算をせずバッテリー消費をできるだけ抑えてェ)」
 ここで一方通行(現)は、チョーカーに手を伸ばす。カチリという音と共に
 膨大な量のベクトル演算が可能となる。
 風を切っていきなり小石を音速で飛んでくる。当たれば体は一瞬で穴が開くだろう。
 というか小石は既に衝撃で崩れ空気衝撃だけ飛んできている。
 一方(過)「腕試しだァ?どォーする?」
 一方(現)「ハッ!どォーもしねェよ」
一方通行(現)は、その場を動かず反射をした。
一方(過)「おォ!この程度なら反射できる!ンじゃァ反射合戦かァ?クローン君?」
一方(現)「クローンじゃねェし、なめンなここにいるのは正真正銘一方通行ですよォ!」
片方が石を飛ばせばその衝撃を跳ね返し、
近接戦になれば反射し合いお互いダメージはゼロ。膠着状態となっていた。
最悪のパターンだと一方通行(現)は思う。制限時間のある者にとって、
持久戦とは、今にも落ちそうな崖を自ら削っているようなものだ。
一方(現)「チッ、なンかねェーのかァ?いっそ木原真拳でもやってみっかァ?」
一方(過)「おいおいィ!早漏れは相手を楽しませねェぞォ!!もっと粘って見せろォ!」
そこで一方通行(過)は風のベクトルを操り始めた。あの幻想殺し倒した風を。
一方(過)「かかきけけくききくかかけくきけかかけけかかかかかきいきくきうくくか」
一方通行(過)は更に風を集め一方通行(現)にも見覚えのある高電離気体へと
姿を変えていく。


一方(現)「クソッ!(風もベクトル操作でかき乱すことはできるが…あまりバッテリー       
           を使いたくねェ…消費がでかすぎる!)俺がやられた時はどォしたっけェ?」

そこで思い出す。妹達が発電機を回し風を阻害したことを。
一方(現)「超電磁砲!!いンだろォ!!」
  そこで唐突に甲高い女の声が響く。
美琴「なんなのよ!!何で二人も居んのよ!!ワケ分かんないわよ!!」
一方(現)「後で話す!だから妹達に言えェ!!発電機回してあいつの演算阻害しろォ!
      あれは風を操ってるからァ自然風じゃねェ風力発電機回しゃァ阻害できる」
  美琴「大体なんであんたの言うこと聞かなk「うっせェ!!妹達助けたいんだろ!」
  美琴「!!わかったわよ」タッタッタ
一方(現)「早くしろォ…」
  
裏路地?にて
美琴「アンタにやって欲しいことがあるの。ううん、
        アンタにしかできないことが事があるの!」
美琴「お願いだから、アンタの力でアイツらの夢を守ってあげて!」
  御坂妹「何故だか、その言葉はとても響きました、
                  とミサカは率直な感想を述べます」
  御坂妹「しかし…御坂は御坂は御坂はミサカはミサカはミサカは・・・・・・・・」
   美琴「ちょっと!!どうしたの!?」
  御坂妹「ミサカは上位個体の命令により偽一方通行の撃退を優先します。」
   美琴「!!…」

                          〜続く〜

208D,D,D:2010/08/18(水) 20:19:03 ID:NJfhcLjM
パート7
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  美琴「何でよ!!そんなのしたらあのバカもアンタ達も死んじゃうじゃないの!!」
 御坂妹「上位個体は絶対ですとミサカは意志を曲げません。」
  美琴「なによ!!アンタ達を殺さないためにあのバカも一方通行も必死なのに!
     …いいわアンタ達が刃向かうなら私も全力でアンタ達を止める!」
 
 戦場?にて
一方(過)「行くぜェェェェェもォ死んじまいなァァァァァァ!!」
一方(現)「間に合わねェェェ!クソッ!!」
高電離体が一方通行(過)の手を離れる摂氏一万度を超える塊が飛来する。
そこら中の物体を溶かしながら
一方(現)「(熱量を外側にベクトル変換変換変換
      イオンと電子のベクトルを変換変換変換よって結合ォォォ原子にィィィ
          クソッ演算が間に合わねェェェェ)」
 ズザッと大地を踏む音が聞こえた。
 ???「何で二人かわかんねぇけど…俺は…お前も御坂も妹達も俺は助ける…」
一方(過)(現)「!!??」
  上条「お前が御坂や妹達それにこの一方通行もくるしめんなら…
おまえを倒さなければならない…」

 高電離体の前に上条が立ち幻想殺しを構える。とびっきりの力を込めて
上条「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉおおおおおおおお!!」
 高電離体が…消えた…
一方(現)「乗れェ三下ァァァ!!」
   上条「おぁ!!」
そう言って上条を掴んだ一方通行(現)が一方通行(過)へ一気に間を詰める。
 一方(過)「チィ!!」
 一方(現)「遅ェェ!!いっけェェェ!!」
   上条「歯ぁ食いしばれよ、最強…俺の最弱は、ちっととばっか響くぞ」
瞬間。
上条当麻の拳が一方通行(過)が右頬に突き刺さる。
そして幻想殺しはまだ一方通行(過)を右頬を捉えている。
 一方(現)「テメェも守るもンを見つけろォ…そしてそいつの前では…  
            最強でいろォ!!」
一方通行(現)の拳が左頬に突き刺さる。
そして最強は、崩れた。

209D,D,D:2010/08/18(水) 20:21:03 ID:NJfhcLjM
エピローグ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

上条「本当に襲わないでせうか?」
一方「あァ…」
上条「でもでも上条さんもボロボロでして…本当に取って食ったりしないでせうか?」
一方「くわねェよ…」
上条「けどやっぱり上zy「うるせェーンだよ!!こっちもボロボロなんですゥ!!!」
上条「はぁ…不幸じゃない…」

奥から御坂達の声も聞こえる。
「そろそろ面倒だからなァ」と思いだまって出て行こうとする。
それを上条が引き止めた。そして言う。

上条「ありがとな!!お前がいなきゃ勝てなかった!!」
一方「勝ってんだよォおめェは…」ボソッ
上条「ん?どうした?」
一方「何でもねェよ…じゃァなァ三下ァ!!ストレス解消にはなったぜェ!!」
上条「はい?」

そう言って白い男は闇の中へ消えていった。
                 守るものを守って。


終わり

210D,D,D:2010/08/18(水) 20:30:17 ID:NJfhcLjM
終わりです。
途中でいろいろご指導ありがとうございました。
最初京都に行くような思いつきで書いてました。
甘く見すぎてました。
また書く機会があったらよろしくです。

211■■■■:2010/08/19(木) 07:07:35 ID:zu.jnw7w
>>210
初投稿乙です。次も期待しています

『禁竜召式(パラディンノート)』の者ですけど、投下させていただきます。
大体5レスぐらい

今回は完全に場繋ぎの回なので内容には期待しないでください。
でも、読まなきゃ次が分からないし......という我がままを聞いてくれたらと
思います。

では投下します。

212■■■■:2010/08/19(木) 07:08:28 ID:zu.jnw7w

十月十五日 午前六時頃……

郊外に位置する廃墟群は、行き場を失った者や行き場を作ろうとする者など『一般とは離れた世界』の住人が多く住まう地帯である。
昨日に引き続き、灰色で気持ちの悪い空を見上げて女は考えた。

(『素材』の回収は失敗……か。我ながら使えない部下を持った者だな)
女の手には一冊の本。表紙に『Prohibition』と書かれた古びた本を片手に女は静音に立ち上がる。廃墟ビルの屋上になど一時間居れば十分だろうと、女は手を二回程叩いた。すると、見えない位置に居たと思えわれる女の部下達が数人が現れ、腰を低くして女に近づく。
「……何か、御用でしょうか?」
「私はもう家に帰る。迎えの車を寄越せ」
「…畏まりました。すぐにお呼びいたします」
言うと部下の男達は姿を暗ました。相変わらず自我の欠片も無い連中だ。
「まったく。『対十字教黒魔術(アンチゴットブラックアート)』ともある者がアレじゃあなぁ……私も色々と大変だな」
従順すぎる部下達に不満を溢しつつ、女、クリスタル=アークライトはその場を後にする。
(部下で捕まえられない様なら、私が出るか……面倒臭い)
水晶の名を冠する女は部下の待つ場所へと歩を進めた。

213■■■■:2010/08/19(木) 07:09:50 ID:zu.jnw7w

同時刻、イギリス清教の女子寮にて。

「……で、超泊めてくれる代わりにやる仕事が……コレですか?」
「そうですよ。日本人なら出来るでしょう」
絹旗は洗濯機の前で立ち尽くしていた。隣のアニェーゼは不思議そうな顔で絹旗を見ている。
「? どうしたんですキヌハタ。早く始めないと朝食が出来ちまいますよ」
「……いくら私が超日本人でも、洗濯機を直せるとは普通超考えないと思いますが……」

絹旗最愛に任された仕事。それは女子寮きっての悲劇者、THE学園都市製ドラム型洗濯機の修理、修復であった。正直絹旗は最初、皿洗いとか掃除とかそんな事を考えていた訳だが……、
「まさか、超ただの女の子に機械の修理が超出来るとでも本気で考えていたんですか…?」
その言葉を聞いたアニェーゼは少女漫画みたいな劇画調で機能停止してしまった。
要するにアニェーゼは本気で絹旗が洗濯機を完修してくれると思っていた訳である。
「な、ニホン人は皆機械のえきすぱーとだと思っていたのに……期待ハズレでしたね」
勝手に期待されて勝手に失望された絹旗は溜息を吐く。ここが学園都市なら一発ぐらい殴っていたかも知れないが、自分はあくまで泊めてもらう身なので余計な行動な出来ない。

「はぁ、ならもういいです。さっさと朝食済ましちゃいましょう。午前中は付き合って貰う事柄があるので」
「―――? 超アニェーゼ。それはどうゆう……」
「その呼び方は止めてください。なんか私が無駄に凄い人みたいじゃねえですか」
絹旗の質問を一蹴して食堂へ踵を向けるアニェーゼ=サンクティス。絹旗は慌てて後を追う。どうやらこの女子寮では暗黙の了解でアニェーゼの立場の方が、絹旗よりかなり上に有るらしい。さすがの絹旗も恩人を棒に振るような事はしないのだ。

「今日の料理当番はオルソラなので、味に不満足する事は無いと思います。まぁ、パスタなんで日本人には食い慣れねえかも知れませんが」
「はぁ……、パスタなら日本でも超よく食べてますけど」
いつの間にイタリアの食文化を盗みやがったんです!? /そんな事超知りませんよ、と愉快な言い争いを繰り広げる内に、やがて二人は食堂に到着した。

214■■■■:2010/08/19(木) 07:11:21 ID:zu.jnw7w

朝食は七時から。どうやら少し早かった様だ。

「あら、お二人揃って登堂とは、仲が宜しいのですね」
食堂に入るとオルソラが真っ黒な修道服を着込んで朝食の用意に勤しんでいる所であった。
他にも数人のシスターがオルソラを手伝っていて、それ以外は適当に着席して大人しくしている。アニェーゼはど真ん中の席を選んで静かに座った。絹旗もそれを見習いアニェーゼの隣に遠慮気味に腰を降ろす。
朝食準備を手伝っていない人間はアニェーゼと絹旗に他に二人。背が高くて眼が鋭い感じの金髪シスターが一人と、それよりもさらに高身長であり、加えて腰の当たりの露出度が半端無い東洋人の黒髪女性が一人。かなり長いポニーテイルは、恐らく床に接触しているだろう。

なんだあれと、絹旗は気になってアニェーゼに尋ねてみた。
「……あちらの超露出狂な女の人は何者です? あの格好から察するに超『そっち』系の人だったりしますか?」
「その言葉を神裂さんの前で言うと抜刀される恐れが有るので、ツッコミは禁物です。……大きい声では言えませんが、まぁ要するに『そっち』の人なんでしょう」
「……抜刀?」
「何でもねえです。気にしたら負けなんですよ」

その時至極適当(事実では有る)な返事を返したアニェーゼは、食堂にばらばらと入って来た他のシスター達の怪しい視線に気づいた。何故かは知らないが、皆ニヤニヤした感じの不愉快な顔をしていて、満場一致でこちらへ視線を向けている。
「……なんです、あなた達」
シスター達は緩んだ顔を崩さずに視線を逸らして「何でも無い」と言うような態度で着席した。


「(……シスター・アニェーゼは上手くやってますかね)」
「(あれで奥手だからなぁ。友達にはまだまだ難しいんじゃ無いか?)」
「(いやいや、その奥手はアニェーゼにこそ、神秘の国日本という繋がりが必要な訳で)」
「(要するにあのキヌハタってのとアニェーゼは仲良しこ良しになる可能性があると!?)」
「「「(その通り!!!)」」」
「(まだ可能性の問題だけどねぇ)」


なにやら後ろでこそこそ聞こえる気がするが、気にせず出された食事に有り付くアニェーゼ。絹旗も後に続く。
相変わらず何も分かってないシスター達の暖かい視線を感じながら食事を終えるアニェーゼと絹旗。鬱陶しいと呟きながら部屋に戻るアニェーゼに絹旗は子鴨の様に付いていった。

215■■■■:2010/08/19(木) 07:13:08 ID:zu.jnw7w

「そういえば、さっき言い欠けた午前の用事の件ですけど」
「? なんです?」
朝食を終えて五分も経たない内にアニェーゼは今日の本題を切り出した。
「キヌハタにちょっと手伝って欲しい仕事が有るんです。聖書を近隣の教会とか清教施設なんかに配る仕事なんですけど……聖書って無駄に重い物でしてね。キヌハタにも配るのを手伝って欲しいんですよ」
やはり『外』では色々とやり難いなぁ、と適当な事を考えた絹旗は、仕事の承諾をアニェーゼに伝えた。アニェーゼは「じゃあ、こっちの分持ってください」と二〇冊近い聖書の山を絹旗に差し出して、自分も同じ分量を自前の台車に積み込む。こっちには台車はねえのかと心内で毒づいたが、この位の書物の束など絹旗は素手で持てるのでそこも黙って置く事にした。

(学園都市より超丸くなってますね私は……ほんと『外』って超怖いです)
恐らく学園都市でこの様な軽い仕事をヤレと言われれば怪しくて逆にやる気にならいだろうが、ここは『外』だ。そんな陰謀なんぞ無いのだろうと、心内で溜息を吐く。つまり今まで裏で綱渡りをして来た絹旗には『外』の雰囲気がどうも肌に合わないのだ。
「(ほんと……超ついてないですね……)」
聖書を風呂敷に包んで軽々と担いだ絹旗は、言われた事をやってとっとと帰ろうと誓った。



午前七時五〇分頃。英国某所の歩道にて。
「さて、次は清教施設の孤児院ですね。この施設へ行くにはこの裏路地を通って行った方が近いみてえです」
赤毛の少女がアパートと喫茶店の間に有る僅かな通りを指差して促す声が聞こえた。
聖書配りを始めて三〇分程経っている。アニェーゼと絹旗は次配場所への近道を示して、歩を進めていた。
「しっかし、キヌハタも見掛けに寄らず力持ちなんですね。二〇冊以上の聖書を風呂敷一つで持ち歩くなんて……、実はボディビルダー志望だったりしますか?」
相変わらずデリカシーの無い質問を受けて絹旗は溜息を吐いた。もちろん彼女が一人で二〇冊弱の聖書を正攻法で担げるはずは無く、『窒素装甲』を使用しているだけなのだが。
「そんな超愉快な夢は持ってませんよ。それより裏路地に行くんじゃないですか? 湿気も超多いみたいですし、その無駄に長いサンダルだと超転んでしまうと思うのですが……」
アニェーゼはうっさいです。おしゃれなんで(略)の言葉で一蹴して裏路地の通りに入る。さすがに暗く、ライトの一つでも持たないと三m先が見えない程の暗度であった。

「この先の二つ目の曲がり角を曲がれば大通りに出ます。そっからなら清教施設が見えると思います」
「ああ、そうですか。じゃあさっさと行きましょう」
「言われなくても。それよりキヌハタ。質問が有るのですが」
「? はい?」
「そのヌイグルミはなんです?」
そう言われた絹旗の手には骨董屋で手に入れた滝壷見舞いのウサギヌイグルミ。風呂敷と一緒に持っているためかなり苦しそうな体勢である。
「なんで、そんな邪魔な物持っているんです? 寮の貸部屋に置いてくれば良いものを」
「いえ、あの寮の他のシスターにこのヌイグルミを見せた時に、あの修道女達の目が超尋常じゃなく煌いていたので、念の為持ってきました」
要するに寮のシスター達に取られそうになった為に、自己防衛も兼ねて持ってきたらしい。
「全く……あのシスター共は……」
「あなたもシスターでしょう」
二人は暗い道を見た目仲良く早歩きで歩いていく。

216■■■■:2010/08/19(木) 07:14:03 ID:zu.jnw7w

(家に帰るとは言った者の……やっぱり回収を急ぐか)
クリスタル=アークライトは悪臭の酷い裏路地を闊歩しながら『獲物』を探していた。
(しっかし、広い英国で「ウサギのヌイグルミを持った東洋人を捜せ」なんて無茶な注文しやがって中央本部の野郎。東洋人だったら故郷に帰ってる可能性だって捨てきれないって言うのに……)

社長秘書の様な黒色のタイトスカートに紅いランニングに裾が付いた様なシャツ、その上から真っ黒のジャケットを羽織った女性だった。歳は二〇代後半程度。下辺でロール掛かった金髪は、彼女の大人としての魅力を一層に引き出している。
そして、その真っ黒なジャケットの右肩には黒十字に斜め線の一本入ったシンボルが刻まれていた。
(まぁ『素材』が無いと、あの術式は発動できないし……とっとと捜して休みを取るか)
クリスタルは早歩きで裏路地を突き進む。この道を抜ければ大通りに出られる。そうすれば探し出せる確立も少しは上がるだろうと、自然に足が速く動く。
「確か東洋人の特徴は「茶髪でショートカットの少女」……ってこれだけかよ。もうちょい情報寄越せっての」
その時、上司に文句を言いながら裏路地を角を曲がったクリスタルの動きは突然止まった。

(…あれって……?)
彼女の目に映ったのは二人の少女。一人は黒い修道帽を被ったシスター。押してる台車の荷物から見て恐らく聖書配りの途中なのだろう。問題はその横にいるもう一人の少女。大きな風呂敷を抱えたその茶髪の少女の手には、件のウサギのヌイグルミ。
つまりクリスタルの捜していた少女そのまんまだった。
(あれは……間違いないな。……まさかこんなに早く見つかるなんて、私の運も未だ尽きてないのかもね)
捜していた『獲物』を見つけたクリスタルは、口を僅かに吊り上げてから、懐の緑色のカードを一〇枚程取り出し、二人の少女の元へと勢い良く走り出す。

「みーつけた」

そう言うと、彼女は二人へ行き成り攻撃魔術を仕掛けた。

217■■■■:2010/08/19(木) 07:16:11 ID:zu.jnw7w
投下終了です。

全く展開が無いのは...見逃してください。次こそ『転』させますので。
誤字脱字があれば遠慮無く言って頂けると助かります。

218■■■■:2010/08/19(木) 11:05:36 ID:FYV1Ri7k
>>160

感想、ご意見ありがとうございます。
確かに、上条がアウレオルスに忘れろコールされて一度外に出た時点で最終下校(6:30)過ぎてました。
アウレオルス倒したのは完全に夜でした、こちらの確認が充分ではなかったためです。すいません。
本屋→バイク屋→デパート、で午前中の時間をつぶした気でいましたが、午後の方が潰すべき時間が長かったようです。
セブンスミスとでの買い物に4、5時間かかった・・・という感じですかね。ヒメが一時間ぐらい駄々をこねて・・・いえ、すいません。言い訳でした。
ていうか、時間が夜だったなら、

「疲れたー。あーあ、銭湯行って来たのに、どうして疲労が増加してるんだろ。あのいたずらっ子ども……」
「まぁまぁ、ちゃんと反省しているみたいでしたし、パンツも戻ってきたんですからいいじゃないですか」
「ま、そうだねー。これでこころおきなく初春のスカートめくりが出来るわけだ」
「へ?」

みたいな会話をういさてのところに挟めましたね、うがー。

>>184
感想ありがとうございます。そして完結おめでとうございます。
髪飾りセーラーの一方さんwとりあえず俺が持ち帰りさせていただきry

姫神さんが出てきますが、対アウレオルス=イザードの時のように、純粋なバトルではない、ということもあります。というかそうです。
5、6はギャグが主流になって、7、8はバトルしかしない、みたいな展開になります。
十個で一個(正確には八個で一段落するのですが)の話なので、一応毎戦その中での起承転結はつけてはいますが、戦ごとに大分風味が変わっています。
ていとくんテンション違うくない?となるかもしれませんが、十まで追いかけていただければ幸いです。
では。

219■■■■:2010/08/20(金) 00:30:27 ID:WRZ480tA
>217 GJ

「以前短編を一つだけ書かせて貰った者です」とのことでしたが、文章の書き方が何となく
「とある一位の三分料理(クッキング)」 の人に似ているなあ、と感じていました。
もし別人でしたら、217様、「とある一位の三分料理(クッキング)」の作者様、ごめんなさい。
しかし、物語の設定も展開そして文章も自分好みで非常に楽しみにしています。次回は
『アニェーゼ部隊』と『対十字教黒魔術』が激突するのでしょうか?それに絹旗最愛がどう絡
むのか?わくわくする展開になってきました。期待しています。

>210
初投稿お疲れ様です。意外な設定に意表を突かれました。ひょっとして単に3巻の上条と一方通行
(現)が入れ替わるだけなのかな?と心配していたのですが、御坂美琴とも協力して一方通行(過去)
と戦う展開はおもしろかったです。
ただ、誤字やわかり難い(話の飛び方に少し唐突感のある)話の流れが一方×一方のあたりから
少し目立ったのが気になりました。
その辺りは慣れの問題だと思います。次回作に期待しています。

220KGT:2010/08/21(土) 21:42:43 ID:Yv9qe2WU
香焼SSの作者です。いろいろとあってPCに向かう時間が少なくて、
しばらくSS書いてませんでした、需要があるようなら再開しますが、どうでしょうか…

221■■■■:2010/08/21(土) 22:38:58 ID:i9MIn/rw
戻ったか・・・
再開待ってました。始めちゃってください

222■■■■:2010/08/22(日) 07:30:46 ID:J2DD4xjw
戻ったか......

223美恵子:2010/08/22(日) 11:08:35 ID:511djJsw
2010春の夏新作の商品は販売します
ショッピングします
風格は多くて、品質は良くて、価格は低くて、実物の写真!
主要取扱商品 バッグ、財布、腕時計、ベルト、ライタ!
↓↓↓
2010新作入荷!注文割引開催中
★注文金額30000~50000円以上:3%OFF.
★注文金額50000~100000円以上:5%OFF.
★注文金額100000~200000円以上:10%OFF.
★注文金額200000円以上:10%OFF.
↓↓↓
会社www.bag19.com
www.abbbao.com
www.ggoff.com

224■■■■:2010/08/22(日) 21:10:08 ID:J2DD4xjw
どーも

『禁竜召式』の者ですが、投下させて貰います。

225■■■■:2010/08/22(日) 21:11:46 ID:J2DD4xjw

視界が一瞬だけ緑色になった気がする。
それに対して思考を巡らせる前に、爆音が鳴り響き、それが何の音なのか認識する暇など絹旗最愛には残されていなかった。
「あーあ。避けられたか。ここで一機に殺しとけば後が楽なんだけどなぁ」
女の声が聞こえる。
まず絹旗の眼の映ったのは黒焦げ抉られた通りと、うつ伏せの修道女。そして、それを見下ろす金髪の女性の姿。短い意識を繋いで状況を分析しようとするが、狭い裏通りでの一瞬の出来事は絹旗の理解が及ぶ範囲を軽く超越していた。
「細かい事は言わないからさ。そのヌイグルミ、お姉さんに渡してくれない? これ以上ドンパチする歳でも無いの私は」
倒れているアニェーゼには目も暮れず、真っ直ぐと此方を見ている黒いジャケットの女は温軽な雰囲気を全く纏っておらず、味方では無いというだけ一発で理解できた。

「……さっそく……お出ましって、訳です、か」
振り返れば謎の襲撃に直撃した修道女の口が僅かに動き、首が動く。その体はゆっくりと持ち上がっていき、アニェーゼ=サンクティスは立ち上がった。
「へぇ……私の魔術をモロに喰らって立ち上がるなんて、威勢の良い小娘じゃないの」
「……『対十字教黒魔術(アンチゴットブックアート)』……!!」

答える気がない女はジャケットの内入れに手を伸ばし、無数の緑色のカードを辺り一体にばら撒いた後、迎撃術式の発動呪文を早口で唱える。
「Cinco elemento de los components Viento Poder Viento Uso el poder Un amigo de Dios Doy el castigo(五大の元素の第一 風よ 力を解き放ち 神に属する愚か者を狩り尽くせ)」
「くっ、キヌハタ!! さっさと逃げてください!!」
「……え?」
絹旗が何かを思った瞬間、女の迎撃術式が発動し緑色を纏った真空刃が絹旗へと真っ直ぐ向かってきた。
「っ!?」
絹旗はとっさの防衛本能で一歩後ろに下がり、元居た場所に巨大な刃が直撃して再び爆音が裏路地全体を支配する。

「(なっ!? 能力者……!?)」
「キヌハタ!! 何してるんです、早くこの場から離れてくださ……」
アニェーゼの言葉はゴキンっという金属音に似た音で掻き消された。その音は女がアニェーゼの頭部に風の術式を軽く当てた音だった。威力こそあまり無い物の、攻撃魔術は何の防御も無しに二回も受ければ少女が気絶するには十分な破壊力を持っている。
死んでこそ居ないが、完全に動かなくなったアニェーゼを尻目に女は絹旗へと視線を向けた。
「だからさ。これ以上無駄に体力使うつもりは無いの。さっさとそのヌイグルミ、渡してくれない?」
「……あなた、ヌイグルミ抱いて寝るには超苦しい歳だと思いますよ。大体これは見舞い品ですから渡せませんと、前にも同じ事言ったと思うんですが。て、言うか……」
絹旗は一言置いてから、
「貴方誰ですか?」

226■■■■:2010/08/22(日) 21:13:26 ID:J2DD4xjw

「あー。そっかそっか。お姉さん自己紹介して無かったね。これは失礼な事を」
裏路地の一角で愉快に笑う声が聞こえる。女は笑いを収めてから、まだ緩んだ顔で口を開いた。

「『対十字教黒魔術』英国支部支部長及び北欧支部第一術式構成室室長クリスタル=アークライト。ま、気軽にクリスタルとでも呼べば良いわよ」
相変わらず何を言ってるか解らない絹旗最愛。基、当然の事では有るが。

(よく分かりませんけど……恐らくあの女は風力操作系の能力者か、その『原石』。狙いは解りませんが、このヌイグルミを超狙っているっぽいですね)
大体、大能力者(レベル4)ぐらいですか、と適当な推測を立てて臨戦体勢に入る絹旗。別に戦わなくてもヌイグルミを渡せば見逃してくれるかも知れないが、この様な条件をだす人間が約束を守らない事ぐらい裏稼業の経験測で理解している。
「あれ? 戦うって事は、あなたまさか魔術師だったりするの? 最近のガキは益せてるわね本当」
「……何を超ファンタジーな事言ってるのか分かりませんが、こっちは確り能力開発受けているんです。あなたみたいな齧りと一緒にしないでください」
ふぅん、と興味無さそうな反応を見せたクリスタルは再びカードを取り出して辺りにばら撒き、次の術式を起動させる。
(あのカード、さっきも使ってましたね……滝壷さんの『体晶』と同じ、能力のトリガーか何かでしょうか……?)
何はともあれ『窒素装甲』と言う体纏タイプの能力を持つ絹旗には「逃げる」か「戦う」かしか選択肢が無い。逃げようとすれば真空刃で追撃されるだろうし、何よりアニェーゼを置いていくのは気が引ける。アニェーゼを担いで逃げるにしても結果は同じだろう。
(ですが、叩くにしても……どうやって?)
裏路地という事もあって、『窒素装甲』で投げられる様な物体な無い。絹旗の能力は単体で打撃しても十分脅威となる威力を持つが、手の内も解らないような相手には迂闊に突撃も出来ない。

手詰まりだ、と心で呟く。手のヌイグルミを持つ力が少しだけ強くなる。
(黙っていても次撃が来るだけ……、なら迷っている暇なんて超ありませんね)
絹旗は決心を決めた。左手に見舞い品を握り締め、右手に力を固めて、常識を逸した速度で女へ不意打ちを仕掛ける。命中すれば致命傷は免れない窒素の拳を持って。
(この一発で、終わらせる……!!)

女の口が、少しだけ釣りあがったのが見えた。


そして、

227■■■■:2010/08/22(日) 21:13:56 ID:J2DD4xjw

アニェーゼ=サンクティスが目を覚ましたのは寮に造られた救命養護室だった。
体を起こして、周りを見渡す。そこで部屋の隅に見慣れたポニーテイルの女の姿があった。
「……神…裂さん?」
「あぁ、起きましたか。まだ完治はしていないので、無理せず寝ていて良いのですが……」
見るとアニェーゼの体のあちこちに包帯が巻かれていて、立ち上がるのも間々ならない状態であった。
(……何が…あったんでしたっけ?)
アニェーゼは一瞬だけ考えてから聖書配布時の出来事を思い出し、痛む体を無視して神裂に向かって激昂する。
「キヌハタは!? キヌハタは、何処に……!!!」
「オルソラの部屋で安静にしています。体中ボロボロでしたが、命に別状は無さそうです。さすがの能力者もプロの魔術師には敵わなかったようですね」
「………、能力者? 何を言ってるんですか?」
「それらについてはルチアが全て説明してくれます。彼女が来るまで安静にしていてください」
言うと神裂はさっさと部屋を出て行ってしまった。一人残されたアニェーゼは一回だけ息を吐いて、そのままベットに沈んでいった。

228■■■■:2010/08/22(日) 21:14:36 ID:J2DD4xjw

数十分後、アニェーゼはドアのノック音で眼を覚ました。
「様子はどうですか? シスター・アニェーゼ」
「……あぁ、ルチアですか。確か神裂さんがルチアが説明云々言っていたはずですが……」
説明はしますから起きずに聞いてください、と部屋隅の座イスを引き寄せてベットの横に静かに座ったルチアは相変わらず固い表情で口を開いた。
「まずは……そうですね、今の状況を説明しましょう。聖書配りが異様に長いと懸念した何人かのシスターが貴方方を捜しに行った結果、二人は傷だらけで倒れていました。犯人は『対十字教黒魔術』かと推測されますが……そうですよね? シスター・アニェーゼ」
「……ええ。奴の肩に『例のシンボル』が偉そうに飾ってありましたから」
「では、確定とします。二人を発見した際、貴方は完全に意識を失っていた様ですが、絹旗最愛は多少、意識が残っており大体の事は説明してくれました。……どうやら彼女は貴方の意識が飛んだ後に……、『一人で戦っていた』そうです」
「っ」
アニェーゼの言葉が詰まる。絹旗があの相手と戦えたのかとか、そのぐらいの力量は持っているのかとか、それ以前に『彼女が一人で戦っていた』という事実にアニェーゼは返す言葉が見つからない。
「彼女は隠していた様ですが、ついさっき最大司教から『今、貴方達が匿っているのは学園都市の人間だ』との通報が有りました。これが事実だとすると絹旗最愛も何らかの能力者なのでしょう。そうで無ければ今ごろ彼女は命を落していたと思いますし」
絹旗が学園都市の人間で超能力者、という事は今までの説明で大体想像はしていたため、あまり驚きは無かったが、アニェーゼはもっと別の所に疑問を抱く。

「……何が……言いたいんです?」
「貴方は彼女を使って『対十字教黒魔術』を誘き出す、と言いました」
ルチアの声が今までに無く鋭くなる。
「そして、貴方の思惑通り彼女を利用して『対十字教黒魔術』の誘連に成功しました。……が、結局それは、彼女だけで無く貴方までもが傷を負ったこの野暮な作戦は、成功と言えたのですか?」
思わず引鬱の表情に成り掛けたアニェーゼは、その質問に答える事が出来なかった。絹旗もアニェーゼもアニェーゼ自身の敵に対する過小評価で意識不明まで追い詰めてしまったと、ルチアは言っている訳だ。
「だから、ルチアは……結局、何が、言いたいんです、か?」
喋る事も苦しそうな少女に、ルチアは目を逸らさずに真っ直ぐと言い放った。

「結論を言います。今回の件は貴方の失態です。部隊長として責任を取れ、とまでは言いませんが、反省はしてください。『対十字教黒魔術』については私達でなんとかしますから貴方は安静にして……“もう、これ以上動かないでください。”……さて、説明は終わりました。私は一件の後片付けが有るので失礼します。お大事に、シスター・アニェーゼ」

言うだけ言うと、ルチアは部屋を出ていった。奥歯をかみ締める少女を残して。

229■■■■:2010/08/22(日) 21:16:26 ID:J2DD4xjw

(クリスタル……あーくらいと? でしたっけ、あの女の名前)
絹旗最愛もまた、オルソラの自室に有る療養ベットの上で眼を覚ましていた。周りを見渡せば、座席に寝込んだ真っ黒シスターが可愛らしい寝顔ですやすやと眠っているのが見える。と言うか、すぐ横に居た。状況から考えるに、恐らく絹旗を看病していて気が付いたら自分が寝ていたようなパターンだろう。
絹旗はそのシスターの肩をユサユサと揺さぶって起こそうとする。その度に大きな胸もユサユサと揺れて腹立だしい。やがて気づいたのか、シスターは眼を覚ました。
「あら、起きていたので御座いますか。あら? ……わ、わたくしはいつの間に寝てしまったのでございますね。こ、これはお恥ずかしい事を」
不安定な日本語で眠気を誤魔化すシスターに絹旗は呆れたように目を逸らす。下らない、と行動で示したつもりだったが、シスターはニコニコと聖人君子みたいな顔で絹旗を凝視していた。

「…..なんです?」
「いえいえ。あなた様が幾分元気そうなので安心したので御座います。でも、ふらふらに成りながら、シスター・アニェーゼを守ろうと戦って傷付いたのですから、名誉の負傷と言っても間違いでは無いと思いますよ」
「なっ!!」
絹旗は否定出来ない為に、思わず顔を真っ赤にして体を仰け反らした。飲み物を飲んでいれば絶対噴出していたと、断言できる程に。
「……冷やかしなら、超出てってください。私はヌイグルミを超奪われない為に戦っていたんです……」
「あらあら。この部屋はわたくしの部屋なのでございますよ?」
くそ、この女のペースは合わせ辛いなと、心で舌打ちする絹旗最愛は、そこで重要な事に気が付いた。

「あれ? ヌイグルミは……? 滝壷さんに超贈呈する予定の」
「あら。自室に置いて行かれたのでは無いのですか?」
あれ? どこ置いたっけ? と色々思い返していると、ある言葉が脳裏を過った。

『細かい事は言わないからさ。そのヌイグルミ、お姉さんに渡してくれない?』
………そういや、あの女がヌイグルミ欲しがってたなぁと、適当に考えてから、意識を失う前に有ったはずなのに、意識を取り戻した時にはヌイグルミが無いのはどうゆう事だろうか? と、少し考えてみる。

「……そこの超シスター。私の見舞い品は他のシスターが超持ってたりはしませんか?」
「それは無いと思います。あなた様をここまで運んできたのはわたくしですから。そもそも、裏路地に倒れていた貴方は、ヌイグルミなど持っていませんでしたよ?」
その説明から、絹旗は一つの結論に辿り着いた。


あの女……超殺す。

全財産を使い果たして手に入れた宝を奪われた絹旗最愛が、ベットから起き上がって「あの女超殺す!!!」と言いながら外に出ようとするのをシスター達が止めに入るのは、この数十秒後の事。

230■■■■:2010/08/22(日) 21:20:18 ID:J2DD4xjw

投下終了です。
地の文の始めを半角で空けるの忘れてました。御免なさい。
あと、進展が大してありませんでした。御免なさい。

>>219
感想有難う御座います。
残念ですが、自分は『とある一位の三分料理』は書いていません。ご期待に添えずスイマセン(汗

231■■■■:2010/08/22(日) 22:01:34 ID:/d5MceNc
>230 GJ
これから物語がさらに加速しそうな勢いですね。非常に楽しみにしています。
アニェーゼ物では最近期待していた『Forced・cohabitation』 と『剣闘士奴隷
(グラディエーター)』が相次いで更新停止中あるいは打ちきりになったもので是非とも
完結目指して頑張ってください。というかよろしくお願いします。
最後に、そして230氏ならびに『とある一位の三分料理』作者様、知ったかぶりしてすみ
ませんでした。(反省)

232■■■■:2010/08/22(日) 22:03:38 ID:/d5MceNc
↑(231)は219でした。

233KGT:2010/08/22(日) 23:44:01 ID:hZBsIMQ.
香焼SS投下しマース

だいぶ文章力が鈍っていると思いますがお許しください

234香焼の学園都市トラベル:2010/08/22(日) 23:45:05 ID:hZBsIMQ.

「シスター・アンジェレネ、あなたは何をやっているのですか?」
アンジェレネは背後から突然聞こえてきた声にビクッとしながら、後ろを振り向く。
「シ、シスター・ルチア…あ、あのーこれは…」

この二人のシスターが現在いるのは女子寮の厨房。
ルチアは昼飯前なのに何故か厨房のドアが半開きになっているのが見えたので、覗いてみると…
そこには、冷蔵庫(学園都市製)をゴソゴソと漁るアンジェレネの姿が!………
というのが、ことの成り行きである。
「シスター・アンジェレネ、もう一度聞きますが何をやっていたんですか?」
ルチアはそう言ってアンジェレネをキッと睨む。
「あ、あのあれですよ!今日の昼飯の下ごしらえをですね…」
あたふたしながらも、アンジェレネは言い訳を考えるも…
「シスター・アンジェレネ、口の横にチョコがついてますよ。」
「え?ああ、ありがとうございます。いやーチョココロネって食べるときチョコがでてきちゃいますよn…」
そこでアンジェレネは見た、怒りに震えルチアの鬼の形相を…
「シスター・アンジェレネ、私も鬼ではありません。素直に白状したら許してあげますよ…?」
ルチアはなんとか怒りを抑えながら、必死に笑顔を造る。
「え…あぁ…すいません、早食いしました…」

235香焼の学園都市トラベル:2010/08/22(日) 23:45:38 ID:hZBsIMQ.
アンジェレネがこうして罪を吐いたところで、ルチアの方からジャカッという音がする。
「え…?」
驚いたアンジェレネがルチアの方を見ると、そこには車輪をもち臨戦態勢のルチアがいた。
「シスター・アンジェレネ…あなたは一回ぐらい痛い目を見たほうがいいですね…」
そう言って、ルチアは世にも恐ろしい笑顔を浮かべる。
「ッ…、ギャーーーー!!鬼です!鬼がここにいますー!」
アンジェレネは叫びながら厨房の外へ飛び出す。
「待てェェェェェ!アンジェレネェェェェェ!」
性格が歪むほど怒り狂ったルチアがアンジェレネを追う。


「腹減ったすね…」
いろいろと頑張って腹が減った香焼は神裂の部屋を出た後、女子寮の食堂へと向かっていた。
ロンドンで十本の指に入る旨さだという噂もたつ、オルソラのご飯を食べてみようと思ったのだ。
「なんか、騒がしいっすね…」
なにやらドッタンバッタンと音が食堂のほうから聞こえる。
(まぁ、人数多いっすもんね、この寮は…)
勝手な解釈に自分で納得した香焼が食堂のドアを開けると…
「アンジェレネェェェェェェ!」
「ひー!許してください、許してください!神様ー!」
「普段教えに背く行為をしているような貴方に神のご加護があるわけ無いでしょうがぁぁ!」
「きゃー!」
そこでは、そのツンとした態度と整ったボディで天草の男衆からの人気の高い(「これぞ、イタリア式ツンデレ!」というのが建宮の評価)
ルチアが怒り狂いながら、腹ペコシスター2の異名をとるアンジェレネを追い掛け回していた。
(何やってんすか…この人たちは…ルチアさんなんてあまりの怒りでパンツ見えてるのに気がついてないっすよ…)
あまり見たことの無いシスターの姿に戸惑いながらも、香焼は声をかけてみた。
「あのー!ルチアさん!ルチアさん!」
香焼は大声をだすもルチアの反応は無い。しかし、アンジェレネは香焼の存在に気付いたようで、
「ひー!香焼さん!シスター・ルチアを止めてくださいー!」
そう言ってアンジェレネは香焼の影に隠れる。しかし怒りで何も見えていないルチアは止まる気配が無い。
「え?ちょっ!ルチアさん!」

236香焼の学園都市トラベル:2010/08/22(日) 23:46:58 ID:hZBsIMQ.
無反応…ルチアの足は止まらない。
(ちくしょう!何でこんな目に!)
そう思いながらも香焼は何か使えるものは無いかとポケットを漁る。
(…ッ!)
何かの感触を感じた香焼はその物体をポケットから引きずり出す。手に握られていたのは、先程フロリスがくれた、霊装・独鈷だった。
(これは…たしか、魔術的効果は”煩悩を消す”だったはずっす!)
「香焼さん!速くしないと、シスター・ルチアが!」
焦りと恐怖に震えるアンジェレネが香焼の後ろから情けない声を出す。
「任してくださいっす!これでなんとか…ッ!」
「アンジェレネェェェェ!」
香焼は独鈷を握り、突進してくるルチアに向かい手を突き出す。
(確か煩悩には「怒り」”忿・ふん”があったはずっす!)
独鈷がルチアの体に触れる。次の瞬間、ルチアの動きがフッと止まる。
「た、助かったー…」
アンジェレネは床にヘナヘナと座り込む。
「シスター・アンジェレネ、」
ニコニコとまんべんの笑みを浮かべたルチアがアンジェレネに呼びかける。
「は、はい!」
その声にビクッとしながらもアンジェレネは返事をする。
「お尻をだしなさい、シスター・アンジェレネ。」
「えっ?」
そう言って問答無用でルチアはアンジェレネの腰をつかみ、そしてパーンっと言う音とともに尻をたたき始める。
「あなたは、何度言ったら、わかるのですか!」
「ごめんなさいー!」
(独鈷だけじゃ、ルチアさんの怒りを消しきることはできなかったぽいっすね…)
「ごめんなさいー!」
食堂では昼食前までアンジェレネの悲鳴と尻をたたく音が響いていた。

237香焼の学園都市トラベル:2010/08/22(日) 23:47:24 ID:hZBsIMQ.

一騒動あった後無事にオルソラの昼飯をご馳走になった香焼は、女子寮から日本人街の自分の部屋に帰っていた。
「ふー、疲れたっすねー。」
そう言って部屋の床に寝転がる。
(ちなみに香焼に親はいない、彼は一人暮らしである。飯は五和の作るご飯をわざわざ食べにいったりしている)
ふと、香焼が顔をあげ机の上を見ると…そこには!
「えー何でこれが机の上にあるんすか!」
かれの机の上にあったのは通称”天草男衆パーフェクト・コレクション”(エロ本)であった。
この”天草男衆パーフェクト・コレクション”というのは男のロマン・夢が詰まったモノである。
しかし、これが女衆にばれると大変なことになるので、一番女が寄り付かないであろう香焼の部屋に隠してあったのだ。
「な、なぜ…これが…」
その”天草男衆パーフェクト・コレクション”(建宮命名)が堂々と机の上にあることは天草にとって大問題なのだ。
ふと気付くと、この”天草男衆パーフェクト・コレクション”のあいだに何か紙が挟まっている。
(最低ね!バッカじゃないの!? フロリス)
「あんの野郎…」
香焼は部屋をでて、管理人室へと駆け込んでいった。ちなみに香焼が住むアパートの管理人は対馬である。
「対馬さん!アンタ勝手に俺の部屋にフロリス入れたっすね!?」
香焼がかなりの勢いで対馬を問い詰める。
「あら、駄目だった?フロリスちゃんが掃除してくれるって言うんだもん。どうせアンタの部屋汚いと思ったし」
対馬はニヤニヤとしながら答える。
「なんか、赤い顔して走って帰っていったけどねー、なにがあったのかしら?」
対馬のニヤニヤがどんどんいやらしくなっていく。
「ちくしょぉぉぉぉぉ!」
フロリス同様顔を真っ赤にした香焼が対馬の下を走り去る。
「あ!そういえば、フロリスちゃんランベス宮に用事があるって言ってたわよー」
対馬は相変わらずのニヤケ顔であった。

238香焼の学園都市トラベル:2010/08/22(日) 23:47:50 ID:hZBsIMQ.

「ふむ、香焼が遠征メンバーに入りたいといいけりなの?」
そのころランベス宮では神裂・建宮・ローラの3人による会議が行われていた。
「まったく、女教皇様、香焼の意見なんてどうでもいいのよな。」
建宮は相変わらず香焼の遠征には反対であるようだ。
「しかし、彼には並ならぬ熱意がありましたし…ひき受けてしまったので。」
神裂は困ったような顔をしている。
「ふむ、やはり香焼とフロリスはできていたると思ふのだが。」
ここでローラの爆弾発言。
「「え!?」」
神裂と建宮は驚いて素っ頓狂な声を出す。
「何をいっているのですか?最大主教?」
あまり事を把握していない神裂が質問する。」
「いや実はな、王室派も今度の遠征に参加したりとの意見がありけってな、その王室派の護衛に"新たなる光”がつきしことになったのよな」
「「はぁ。」」
「それで、私が聞きし所によりけるとな、最近フロリスが香焼という天草の少年の話ばかりをしたるるというところにありけりなのよ」
「では香焼は、フロリスの為にこの遠征メンバーに応募したということですか?」
神裂は改めて、事実確認を行う。
(そういう理由でしたか…、私としてもその気持ちは分からなくもないのですが…)
「だめ!ダメなのよな!色恋沙汰で遠征についてきてもらっては困るのよな!」
建宮は相変わらず反対を表明している。
「いいではないでぬか、なんか面白きしにありけるし」
最大主教にあるまじき発言をするローラであるが
「ダメダメ!そんな恋にうつつ抜かしているヤツが…」
「あなたに何が分かるのですか!建宮!あなたに香焼の何が分かるんですか!」
恋する乙女である神裂は声を荒げて、建宮の発言を遮る。
「そうにありしよ、建宮。おぬし、自らが結婚適齢期を過ぎしにも縁が無いにけるといって僻みたりているのではないの?」
ここでローラの言葉が建宮の心へザクっと突き刺さる。
「う、うるさいのよな…」

会議の結果、多数決で香焼の遠征参加が可決された。精神的にフルボッコにされた建宮はしばらく落ち込んでいた。

239香焼の学園都市トラベル:2010/08/22(日) 23:48:10 ID:hZBsIMQ.
「フロリスゥゥゥゥゥ!」
ランベス宮近くで、フロリスを見つけた香焼は猛スピードで駆け寄った。
「な、何よ!」
若干顔の赤いフロリスが香焼を見る。彼女は先程この目の前の少年に関するビッグニュースをローラに聞いたばかりで
その興奮さめやらぬ中でのご対面だった。
「何よじゃないっすよ!何で人の部屋勝手に掃除してるんすか!」
しかしそんなフロリスの心の高ぶりにも気付かず、香焼は例の件でフロリスを問い詰める。
「い、いやだって、アンタの部屋汚いと思って…」
「掃除してくれるのはありがたいんすけどね!お母さんみたいなことしないでっていいたいんすよ!」
「は?何のこと?お母さん?」
フロリスはビッグニュースを聞いたお陰で”天草男衆パーフェクト・コレクション”のことを忘れていたようだ。
さらにイギリスのお母さん方はエロ本探しなるものをやっていない可能性があり、イギリスっ子のフロリスには伝わらなかったようである。
「だーかーらー、って覚えてないんすか?」
「いや、だから何のこと?」
フロリスは”天草男衆パーフェクト・コレクション”のことなど完璧に吹っ飛んでいるようだ。
「い、いや覚えてないならなんでもいいんす…」
香焼も若干顔を赤らめながら、答える。
「それよりさ!アンタ、ビッグニュース聞きたくない?2つあるんだけど!」
急な話題転換と共に、かなりハイテンションなフロリスが早口でまくし立てる。
「な、なんすか…?」
いきなりのフロリスのテンションについていけない香焼だが
「実はね?なんとこの私とアンタの学園都市遠征メンバー入りがきまったのよ!」
「えぇ!?マジッすか!?ヤッター!つかフロリス!?」
香焼に喜びとともに疑問が生まれる。
「な、何よ?私と一緒が嬉しくないって言うの!?」
「いや…そういうわけじゃ…」
「バッカじゃないの!?私だってそこまで嬉しくないし!じゃあね!」
喜怒哀楽様々な表情をうかべ、フロリスは走り去っていった。
「何すか…あいつ…」

240KGT:2010/08/22(日) 23:49:34 ID:hZBsIMQ.
以上投下終了です。結構雑になっていますすいません。
感想いただけたら幸いです

241■■■■:2010/08/23(月) 01:26:15 ID:emlHayWk
あんまりスポットが当たってない香焼とフロリスのSSなんて…
待ち続けて他界がありましたねGJ!

242■■■■:2010/08/23(月) 09:19:23 ID:UU/pN2ig
>>240
GJ!!
ひっさしぶりです!! フロリス// 
SSでローラの話し方に違和感が無いのは凄いです。文章力は鈍ってませんよ。
?、!の後には半角で一つ空けた方が良いと思います。

243■■■■:2010/08/23(月) 09:35:24 ID:UU/pN2ig
そういえば、『とある禁種な能力者』の人、打ち切りを正式に表明したらしいですよ。
wikiのSS纏めのページにも「打ち切り」の所に入っていたし。

244■■■■:2010/08/23(月) 11:55:08 ID:aZR4xyDk
>>230
GJです。クリスタルさんつえー
呪文はスペイン語?イタリア語?ラテン語? とにかく雰囲気が出ますよね外国語って
風属性は黄色のイメージなんですが、何か理由があっての緑なんですかね?属性の歪みはホントややこしい・・・
ここからが反撃の時、でしょうか。二人のリベンジに期待です。

245■■■■:2010/08/23(月) 16:40:11 ID:xyd3XBG6
>>201
 かなり遅れての返事すいません。
 なるほど、たしかに「……」ですね。
 確認できてませんでした
 感想&ご指摘ありがとうございます!

 言い忘れましたが三日間の作者です。
 5レスほど投下していきます。

246三日間〜Three Days〜 2nd.6:2010/08/23(月) 16:42:30 ID:xyd3XBG6

 学園都市第二三学区一学区はその土地全てを丸ごと航空・宇宙開発分野のために占有しているため、もちろんここには空港も存在する。そこに到着した国際便のひとつから降りてきた客の中に、頭ひとつ抜き出た男がいた。
 名をステイル=マグヌス。
 イギリス清教『必要悪の教会』の一員であり神父という立場ではあるが、その容姿は長身で赤い髪、右の頬にはバーコードのような刺青を入れあたりに香水の匂いを漂わせ、いたるところにシルバーのアクセサリーを纏っている。おまけに今の彼は誰の目から見ても機嫌が悪い。とても彼が十字教の神父(しかも14歳)であると気付けるものはいないだろう。
 このトンデモ神父がイライラの原因は様々なのだが、とりわけ今彼をイラつかせているのはここまで乗ってきた飛行機が禁煙であったことにある。あの例の超音速旅客機を使えれば良かったのだが学園都市で整備中であり、やむなく一般の禁煙国際便に乗ることになったのだ。
 ニコチンとタールのない世界を地獄、と称するほどのヘビースモーカーの神父はターミナルを抜けるとまず喫煙所を見つけて胸元のポケットから煙草を取り出す。
「よう、ステイル。十二時間の空の旅は満喫できたかにゃー」
 いやみたっぷりの声の主の方を見ると、金髪サングラスのにやけ顔の男がこちらに近づきながら手を振っていた。チッとステイルは舌打ちしながら、
「最悪だね」
 と一言返すと目の前の男にかまわずに喫煙所に入っていく。
 周りには空気のカベによって煙がその領域から出ることを防ぐ学園都市ならではの喫煙所もあったが、あえてステイルは誰もいないガラス張りの一室を選んだ。
「大体、僕はこの国ではろくな目にあってないんだ。さっさと用件を済ましてイギリスに戻りたいところなんだがね」
 自分のすぐ後についてきた男を横目に見ながら手元の煙草に火をつける。煙を肺いっぱいに取り込み、ようやく落ち着いたとでも言うようにステイルは眉間のしわを緩めた。
「そーか、けど学園都市には禁書目録もいるからいーんじゃねーか?」
「……彼女と僕の道が交わることはないよ。僕が今彼女にしてやれることも何もないしね。あと、君に彼女についてのことを気安く言われる筋合いはない」
 明らかに緩めたしわを深くして、目の前の男を睨みつける。それでもこの金髪サングラスの男―――土御門元春はそのにやけ顔をやめる様子はない。
「そりゃーわるかったにゃー。まーでもせっかく来たんだし、少しはゆっくりしていけって」
「聞こえなかったのかな、僕は早く帰りたいと言ったんだ。さっさと本題を話せ」
 早くも二本目の煙草に火をつけながらイラだった調子で返事を返してくるステイル。土御門はわがままな子供でも見るような顔をしたあと、軽く辺りを確認し誰もいないことを確かめる。
「人数はおそらく十人前後、詳しくはわかっていない。ただ、こいつらの中心人物2人と所在は確認できている。一人は俺の高校に昨日転校してきた学生、もう一人は眼鏡の五十歳前後の男だ。こいつらの目的に関しては今調べている」
 唐突に口調の変わった土御門だが、ステイルはそれについては特に疑問を持たない。
「五十歳前後の男か……。それはともかく、場所がわかっているならなぜ乗り込まない?」
「連中、どうも場所に関してはホテルを何部屋かとってそこを拠点としているみたいでな。隠す様子も見えないし、逆にうかつに近づけなくてな」
 だから今は様子見ってわけだ、と口調には似合わない相変わらずのにやけ顔で話を進める。
 ため息と共に煙をはいたあと、ステイルは煙草を吸殻入れに押し込み喫煙所の出口に向かう。
「できるだけ早く調べて連絡をくれ」
 それだけ言い残し、神父は喫煙所を後にする。
 それを見送った後、残された土御門はそこにあるベンチへと腰掛けた。
 さて、これからどうしようかなどと考えていると、背後にあるガラスの向こうからコンコンというノックのような音が聞こえてきた。
 振り返ると、警備員の男がこちらをムスッとした顔で睨みつけている。
 そこで土御門はようやく自分の格好に気付いた。
 学生服で喫煙所。
 学園都市と言えど、未成年の喫煙を許しているわけではないのである。

247三日間〜Three Days〜 2nd.7:2010/08/23(月) 16:43:38 ID:xyd3XBG6

 学校が終わり、上条当麻は家路についていた。いつもつるんでいる青髪ピアスはバイトといって真っ先に帰っていったし、土御門にいたっては遅刻したくせに小萌先生の授業が終わるとさっさと早退していった。
 そんなわけで上条は今1人である。
 昨日買い物も一通り済ましているため今日は特にどこかに寄る必要がなく、さっさと家に帰って掃除でもしよっかなーどと考えてながらツンツン頭の少年は学生でごった返す通りを行く。
 すると、やたら見覚えのあるお嬢様学校の制服を着た少女と鉢合わせた。
「「あっ」」
 この少女の名前は御坂美琴。
 常盤台中学二年生で学園都市第三位の超電磁砲、レベル5の超能力者だ。
「あんたこんなところでなにやってんのよ?」
 開口一番で一応の年長者に対する言葉じゃないなと少し思ったりもするがいつも彼女はまあ大体こんな感じだ。
「それはこっちの台詞だっての。ここらは常盤台の通学路じゃないだろ。ちなみに俺は家に帰るところだよ」
「ふーん、まあいーけど。あ、そーだあんた、昨日たしかゲーセン辺りにいたのよね。近くで能力者見なかった? 多分電撃使いなんだけど」
 その問いかけに覚えがありすぎる上条はぎくっとわかりやすく体をこわばらせた。直後にしまったと思い、全力で愛想笑いを顔に貼り付けながら平静を装うが表情はかたい。
 昨日の件は決してこちらに非があったわけではないが、御坂がそれを知っているということは情報源はあのツインテールの風紀委員に違いない。できればあの少女と関わるのは避けたいし、彼女が出てこなくても御坂が篠原に辿り着き勝負を吹っかけるという可能性もある。それは少し気の毒ではあるし、篠原に対して借りもある以上上条はここは知らぬ存ぜぬを貫き通すべきだと判断した。
「ど、どーして俺が居たこと知ってんだ」
「黒子に聞いたのよ。それよりあんた、今明らかに動揺しなった? もしかして何か知ってんじゃないでしょうね?」
「知らないってっ。大体、お前の方は何してんだよこんなとこで」
「昨日ゲーセン近くであった不良の喧嘩でさっき言った能力者が絡んでるみたいでね。それを黒子が調べてるみたいだから私もちょっと手伝ってやろっかなって思ってね。あと個人的にも興味あるし。てゆーかあんたやっぱ何か知ってんでしょ! 話変えようとしてんのが見え見えなのよ!」
 腰に手をあてこちらに向かって指を指し、まるでずばーんという効果音でもバックに背負って犯人を追い詰めた名探偵のような格好をする御坂。
 そして追い詰められた犯人の方はというと、この状況からの脱出法を頭をフル回転させて考えていた。1.シラを切り続ける。これはだめだ、流れからしてとても切り抜けられるとは思えない。最終的には電撃が飛んでくるだろう。2.諦めて正直に全部話す。しかし結局なんで隠してんのよあんたと電撃が飛んでくる可能性は高い。
 結局他に思いつかない上条は、3.この場からばっくれる。ことにした。逃げるときにも電撃をくらうかもしれないが、こっちから先手を打って逃げることができれば無傷で済むかもしれない。
 御坂から目を離さないまま逃げるタイミングをうかがう。目が合ったままの目の前の少女はなぜかだんだん顔が赤くなっているが今の上条にはそんなことに気付ける余裕はない(そもそも普段でも彼がそんな相手の表情の機微に気付けるとも思えないが)。
「ちょっ、何とか言いなさいよ!」
(今だ!)

248三日間〜Three Days〜 2nd.8:2010/08/23(月) 16:44:05 ID:xyd3XBG6
 そして相手の視線が逸れる一瞬の間に上条は振り返って駆け出そうとする。そこに
「とーうまー」
というやけに聞き覚えのある声がとび、少年は出足をくじかれた。
 声の方を見てみると、そこには真っ白な修道服を着たシスターがうれしそうにこちらに駆け寄ってきていた。
「おーいとうまーって、あああぁぁぁぁぁぁっ!? 短髪! なんでここにっ」
「な、なんでって、ちょっといろいろ調べてるだけよ」
 いきなりつっかかられてさすがの御坂も少し気おされるがそれでもかまわず言い返す。そしてそんな二人の間では上条が完全に逃げ道を失っていた。
「むー、なんでとうまはいっつも女の子と一緒にいるのかな。昨日は気付いたらリアとも一緒にいるし」
「昨日は篠原もお前も居ただろっ! そーゆう誤解をまねく言い方すんじゃねぇ! ・・・・・・て、なんでそんなにバチバチいわせてるんですか御坂さん?」
 そこには腕を組んで自分の周りに電流を走らせ、見下すようにこちらを見ている超能力者がいた。
「いつも女の子と一緒、ねぇ」
「そーだよ!あいさとかいつわとか。知らないうちに女の子にちょっかいかけてくるとうまの癖はあんまり感心できないかも」
「だから誤解のある言い方してんじゃねぇ! てゆーかちょっかいってなんだよ、俺はそんなもん姫神も五和も他の子達にも出した覚えはねー!」
「ほーう、じゃぁあんたにはちょっかいかけたって疑われるような女の子達がたくさんいるわけだ?」
 間髪いれずに御坂が揚げ足を取りに割り込んでくる。彼女の周りの電流は勢いをまし、そこから漏れ出た一部がインデックスの周辺にある地面をどがっと掘り起こした。それに驚いた三毛猫はシスターの腕を飛び出し、後ろの方へ逃げていく。
「い、いや、それはそういうわけじゃなくてだな」
「いいわよ別に。あんたがどこで、誰と、何をしてようが私には何の関係もないしね!」
 やたら要所要所でアクセントの強い御坂の口調に上条はまずいと思った。
 当初の予定通り話の方向は上手く逸れてはいるのだが今はそれどころではない。むしろ今の状況を脱するために篠原のことを全部話してしまおうかとさえ思う。
「そーいや最近うやむやになってたけど、私達の勝負まだ決着ついてなかったわよね。せっかくだし、今ここでケリ着けとこうかしら」
 物騒なことを言い始める目の前の少女に上条は本能的にこの場から無傷で帰ることが不可能になったことを悟る。
 インデックスは三毛猫を追いかけてすでにこの場からいなくなっていた。
「ちょ、ちょっと待」
「うっさい!! 覚悟しなさい!」
 上条の言葉をさえぎり、辺り一帯に電流がとびかう。
 学園都市の一画にゴガァッという凄まじい轟音と、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁという少年の叫び声が響いた。

249三日間〜Three Days〜 2nd.9:2010/08/23(月) 16:44:30 ID:xyd3XBG6

 自分に与えられたホテルの一室でリアはベッドに寝転がっていた。

 彼女はホテルに戻った際、その足でサイモンの部屋に向かった。用件はもちろんオカルトなんかに没頭することについての抗議である。
 当のサイモンはと言えば部屋で何かの作業をしていたらしく、それを邪魔されたことに対して目に見えていらいらしていた。だがそんなことはリアには関係ない、どうせそれもオカルト関連の何かに違いないのだから。
 今まで何をやっていたかは知らないけれど魔術なんていうオカルトのことならやめるべきだ、どうせ得るものなど何もないのだから。
 たしかそんなニュアンスのことを言ったと思う。果たして返ってくるのは怒号かそれとも的外れな意見に対する哀れみの目か。しかし、実際はそのどれでもなく静かな嘲笑だった。
「……禁書目録の入れ知恵か?」
 そののちにかけられた言葉にリアがうなづくと、なぜか最初のいらついた様子の消えたサイモンはそのまま作業に戻っていった。

 そして現在に至る。
 シラを切られれば徹底的に詰め寄ったし、否定の言葉に反論してきたなら多少の口論も覚悟の上だった。しかし結果は相手にもされなかった。
 ようやく掴んだ糸口をあろうことかスルーされ、リアは悲観的になっていた。
 インデックスから情報を得られたことによって少し浮かれたいたが冷静に考えると、そもそも自分が何かを言ったところで彼らのいう『儀式』が中断するわけがない。そんな当たり前のことに今更気付き、はあ、とここ半年で何百回目かわからないため息をつく。
(魔術、か……)
 なんとなしに浮かんだそのキーワードをぼんやりとしながら口の中で言ってみる。そして次の瞬間がばっとベッドから勢いよく体を起こした。
(たしかに一切相手にされなかったけど、魔術って言葉自体は否定されていない。それどころか会話にあの子が出てきたってことは魔術関連であることは間違いない・・・?)
 勝手に決め付けてはいたが、そもそも儀式が魔術関連だということは確証は何もなかった。しかし、サイモンとの会話でそれはおそらくほぼ間違いないはずだと推測できた。
 それはたいした前進ではないかもしれない、
 しかし、ここ半年何もできなかったことを考えるとやはり大きな進歩なのだ。
 現金にもすっかりもとのテンションを取り戻したリアはひとりで手を上げ、オーッと一人こっそり部屋の中で気合を入れる。
「……何やってんだお前?」
 そんな言葉と共に部屋の入り口にはノックもなしに入ってきた不躾な少年が立っていた。
 誰かに見られたくない状況とは、得てして見られてしまうものなのだ。

250三日間〜Three Days〜 2nd.10:2010/08/23(月) 16:45:44 ID:xyd3XBG6

「だからあれはちょっと気合入れただけで」
 ホテルの廊下で、リアは顔を赤くしながら前を行く幼馴染の少年に必死で弁解していた。
 大体ノックもなしにレディの部屋に入るとはどういうつもりだ、再会してから半年程度だが、この少年の自分に対する態度はレディどころかプライバシーのある一個の人間へのものとは思えない。考え始めると、少女の顔色は赤から元に戻っていく。だが決して感情が収まったわけではなく、怒りと言う別の方向に向いただけだ。
 だが篠原は後ろをまったく気にした様子もない。というより心ここにあらずといった感じか。歳相応とは余りいえない幼さの残る顔に少し影をさしてかつ表情は固い、だが感情の高ぶった黒スーツの少女がそれに気付く様子は一切なかった。
「……飯呼びに来ただけだろうが」
「だからノックをしなさいっていつも言ってんでしょ! 着替え覗いたのも一度や二度じゃないわよっ! 大体あんたは・・・」
 怒りと思い出した恥ずかしさにリアは感情を忙しくぐるんぐるんさせながら怒鳴っていたがホテル内のレストランにつくとそれは途絶えた。
 見ると、中には彼女を除いたほかの黒スーツのみで他には店員すら見当たらない。店員は今は裏に回っていると考えてもいつもなら今ぐらいの時間はいつも夕食に客が賑わっていたのにそれは1人としてこの空間には存在しなかった。
(……貸切っ!?)
 それぐらいしか考えられない。そんなことをするにはとてもお金が掛かるはずだ。自分への給料といい、オカルトなんかに力を入れながら一体どこからそんな資金が湧き出てくるのかと疑問に思う。
「……揃ったな。では、各自席へ」
 黒スーツの中心で、その中のリーダー格であるサイモンがその場の全員を促す。そこには、長めの机に向かい合わせなく十三の椅子が並べられていた。机の中央には、積まれたパンの入ったバスケットと赤い液体の入った瓶が置いてある。
 気付くと篠原を中心に皆席についており、リアは慌てて残りの席に着く。席の前にはスープを入れるためのような受け皿が二枚用意されていた。
 雰囲気的に仰々しい食事だなぁとぼんやり考えていると突如サイモンが前触れもなく立ち上がり中央の赤い液体の瓶を手に取った。蓋を空けたあと、バスケットを抱えて瓶の中身を端から順に各席の前の受け皿のひとつに注ぎ、パンをもう一つの皿に置いていく。
 普段雑用などしないサイモンが酌をして食事を配ることなど違和感だらけで仕方なかったが、それ以上に匂いから判断できる赤い液体の正体の方にリアは反応した。
 これは葡萄酒だ。
「あの……私も篠原も十六歳なんですけど」
「喋るな」
 その抗議は一蹴された。イギリスでは日本と違い飲酒は十八歳から許可されている。それでもその条件に達していない彼女の意見は至極当然ではあるのだが、篠原も含めほかにそれを咎める者もいない(実際は保護者同伴で十六歳からOKなのだが、アルコールにあまりいい印象を持たないリアがそれを知るはずもない)。
 気付けば全ての席に葡萄酒を注ぎ終えたようでサイモンは席に戻っていく。そして席に座ると今度は何かブツブツ言い始めた。
 周りの皆はというと誰もその眼鏡の黒スーツの方に向くこともなく姿勢を正しているだけだった。
 その中にはあの不躾な篠原までもが左右にならいおとなしくしている。
 何だこれは。
 なんともいえないこの異様な空間に少女はひるみつつも、やはりアルコールはだめだろうともう一度言葉を発しようとしたとき、それは起こった。

 皿に注がれた葡萄酒が、かっと白く光り始めたのだ。

251三日間〜Three Days〜 2nd.11:2010/08/23(月) 16:46:33 ID:xyd3XBG6

「なっ……」
 目の前の光景にリアは完全に思考を停止させる。
 光は机の上からここに居る者達の顔を照らし、電灯の下において一際強く輝いている。
 その光景をリア以外の黒スーツはさっきとまったく変わらない表情で見ながら、その横のパンを手に取り食べ始めた。
 その異常過ぎる空間に気圧されリアはもはや声すらろくに出せない。
 そんな少女を横目で見た篠原は、立ち上がり少女の正面へと近づいていく。

 彼女の皿からパンを取り、それをリアの目の前の光る液体に浸す。
 そしてそれをもとあった受け皿へとそっと置いた。
 
 ようやく思考が戻ってきたリアだったがそれでもぐちゃぐちゃになった考えが言葉になることはない。ぐるぐるまわる思考は篠原の取った行動すら疑問に思えないほどまとまらなかった。それでも、たった一つだけ、今日聞いたばかりの言葉が強く頭に浮かぶ。
(魔術っ!?)
 やがてその光は少しずつ輝きをなくしていく。
 その頃には黒スーツ達と篠原はパンを食べ終え、次々と席を立ちこの空間から出ていっていた。
 少し時間が過ぎると、まるで何事もなかったかのようにレストラン内は客や店員であふれ賑わい始める。
 席に座ったまま呆然としたリアの前には、葡萄酒とそれに浸されたパンのある二枚の皿のみが残されていた。

252三日間〜Three Days〜 2nd.12:2010/08/23(月) 16:47:06 ID:xyd3XBG6

「機密規定の晩餐において、彼の者は主より烙印を押された」
 ベッドの横のライト以外のスイッチを消した薄暗いホテルの一室。
 その光の届かない壁際にもたれ、サイモンは手元の本に目を向けている。その本はそれ自体が淡く光を放っており、それが彼の周りを照らしていた。
 ベッドにはライトによって体半分を照らされた篠原が座っており、壁際の男の方へ視線をやっている。その視線の先の淡い光はサイモンが本を閉じると同時にふっと消え、そこには黒いスーツが闇に溶けこみ上半身から上の一部が浮かんでいるように見える男の姿が残った。
「昨日入手した材料を使って儀式の鍵となる霊装も完成させました。最後の下準備もこれで終了、あとは明日の『儀式』のみです」
「ああ」
「まさかリアがもう一度禁書目録と接触していたとは。ですがそのおかげで彼女は魔術と言う言葉に辿り着き、我らの『妨害』をしてきた。『裏切り』の要素としては十分です。」
「……言いがかりだな」
「魔術に大事なのはその意味故」
「ふん」
 つまらなそうに篠原は会話を切る。サイモンは特に気にする様子もなく右手側のテレビやお茶請けを乗せた台に手の中の本を置いた。
「ともかく、思ったより早く彼女がⅩⅡの意味を果たしてくれました。予定よりは多少早まりはしましたが覚悟の方はできましたか」
「愚問だな。これに何年かけてきたと思っている」
「それは失礼。何しろ明日の儀式であなたは一度死ぬ。今一度覚悟の程を聞いておきたかった故」
 突然入り口の方からのガタッと言う音がこの室内に響き渡った。
 見るとそこには呆然と立ち尽くしている黒いスーツの少女の姿があった。
 その少女、リアはまるで幽霊でも見たような表情でこちらを見ている。
「……ノックねーぞ、お前も人のこと言えねーな」
「なに……いってんのよ……」
 よろよろとした足取りでリアは篠原に近づく。目の前に辿り着くと少女は溜まったものを放出するかのように叫び始めた。
「死ぬって何っ!? あんた一体何しようとしてるの! いきなりこの国にやってきて散々振り回したあげくワケわかんないオカルトに手出してて! 大体さっきのあれは何っ! いきなり光りだして魔術とかっ……あーもう!!」
 混乱しているのだろう、最後のほうは文脈が合わなくなっている。目の前で頭を抱え込むリアを篠原は何を言うわけでもなくただじっと見ていた。
「リア」
 ふと横からサイモンの声が割って入る。
「お前の役目は終わった。もう用済み故、イギリスにでも帰るがいい。金が足りないと言うならそこのケースに入っている。」
 淡々とした拍子で言葉をかけられ、リアはキッとそちらを睨みつける。そしてその方向へ向かっていった。
「ふざけないで! 役割!? 私の役割はこいつから目を離さないことよ! そうこいつの母親と約束してんの、あんたが勝手に決めたことなんか知らない! それにやっぱりあんたが裏で糸引いてるワケね、この際洗いざらい吐いてもらうわよ!」
 母親という言葉に顔を上げて反応した篠原を尻目に、リアは一気にまくし立てて息を荒げる。今まで言えなかった分も含めて彼女の感情は爆発していた。
 だがそれでもサイモンは彼女を相手にしようとはしない。その態度に更に激昂した少女はその胸倉に掴みかかる。
「ちょっと、何とか言いなさ」
 バチィッ、と言う音が鳴り全てを言い切る前に彼女は首筋に走った痛みでそれを強制的に中断させられた。
 リアが振り返ると、篠原が自分に向かって手をかざしている。そこには白っぽい電流が走っていた。
「しの……は……」
「わりーな、リア」
 痛みで意識が遠のきながら、それでもリアは倒れざまに自分にかざされた腕を掴みかけた。表情を歪めながら、篠原がそれをやんわりと払いのける。
 薄れていく景色の中でリアが最後に見た少年の顔は、幼い頃見た幼馴染の泣き顔とダブって見えた。

253■■■■:2010/08/23(月) 16:49:53 ID:xyd3XBG6
以上です。
思ったより1つ分が長かったのでレスが
増えててしまいました、すいません…。
今回で2ndは終了し、次から3rdです。
感想か罵倒か何か下さると嬉しいです!

254■■■■:2010/08/23(月) 22:07:27 ID:C2LP7eD6
>253 GJ
リアはイエスの12番目の使徒である『イスカリオテのユダ』としての役割を与えられたわけですね。
このユダは『ヨハネによる福音書』に記述されたユダのように、最後の晩餐でイエスに言われたと
される「しようとしていることを、今すぐ、しなさい」ということを行うのか?それともイエス
(篠原)を殺す役目を負わされるのか?あるいはイエス(篠原)の身代わりになるのか?いったい
リアがどう行動する(orさせられる)のか楽しみです。

255■■■■:2010/08/23(月) 22:33:57 ID:xyd3XBG6
>>254
 どっかで説明入れようとは思ってるんですがこういう解説してもらえて正直助かります!
3rdはかなり長くなりそうですが頑張りますので気長にお付き合い下さい。
感想ありがとうございました!

256from-ING:2010/08/24(火) 00:35:53 ID:56m3eVBY
………めっちゃお久しぶりです

『希望ト絶望ノ箱(オペレーションパンドラ)』の作者です

お、覚えていてくださってる人はいるのかな?(笑)

とりあえず、続きを更新します

注意点をいくつか

オリキャラが出ます。出来るだけ原作の雰囲気を壊さないように心がけていますが一応の注意を

あと、文才はやはり皆無です

では、問題なければ投下しますね

257『希望ト絶望の箱(オペレーションパンドラ)』:2010/08/24(火) 00:36:45 ID:56m3eVBY
………めっちゃお久しぶりです

『希望ト絶望ノ箱(オペレーションパンドラ)』の作者です

お、覚えていてくださってる人はいるのかな?(笑)

とりあえず、続きを更新します

注意点をいくつか

オリキャラが出ます。出来るだけ原作の雰囲気を壊さないように心がけていますが一応の注意を

あと、文才はやはり皆無です

では、問題なければ投下しますね

258『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/08/24(火) 00:38:50 ID:56m3eVBY
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]


<13:02 PM>


 上条当麻は、地面へと投げ出された身体を起こし、額に浮かぶ汗と血を拭った。
(い、今の声………どこかで)
 目の前の少女、御坂美琴の持つ小型の通信機から聞こえた声。
 どこかで聞いたことのあるような声だったが思い出せない。いや、勘違いだろうか。
 通信機から流れた声には大小のノイズが入っていたし、外の雨の音も入ってきていたようではっきりとしなかったあの状況では、聞き違えてもおかしはない。
 どちらにせよ、先ほどの男は佐天涙子を救ってくれたのだろう。それは美琴の態度が証明してくれた。
「ふ、……ふざんけんなよあのヤロォ……こんなことするやつは一人しか………クソが、一人の人間助けて自己満足とは、随分と丸くなったもんだなぁオイ…」
 強引に顔の表情を笑顔にかえて、美琴はぎりぎり、と手元の通信機を握りしめる。
 口端をヒクヒクと震えさせている少女の眼光は今までにないほどに殺意に溢れていた。
 今にも爆発しそうな爆弾のように、少女は肩を揺らす。
「………、」
 そんな彼女を見て、上条は自覚していた。
(あとは、俺が御坂を助けるだけ)
 しかし、そのための一手を上条はまだ持ってはいない。
 つまるところ、こちらの状況だけはまったく変わってはいなかった。
「ふ、ざけんじゃねえぞ…クソッたれぇえええええええええええええええええ!!!」
 己の能力で連絡の途切れた通信機を爆発させ、御坂美琴―――を操る何者かが吠えた。
 と、同時。
 ゴバァ!! と目を覆うほどの大量の電光が全方位へとまき散らされた。
「くっ……」
 反射的に目をつむる。
 ズバチィッ!! と何かを裂くような音を轟かせながら少年の右手に触れた電撃は左右にわかれて散り、辺りの物質をジュール熱で融解させていく。
 それは一瞬だった。
 光速の電流が巻き起こす攻撃はその一瞬だけだったが、その被害は爆弾などというものを使っても決して実現出来ないものへと変質している。
 三億ボルトの電流はかつて上条を襲ったアンペアが低いものではない。想像を絶するほどの最大値にまで膨れ上がり、膨大なワット量で圧倒的なジュール熱を生成する。
 全方位へとそれが放たれた結果は簡単。


 上条が居た三階部分のありとあらゆる物資が消滅した。


 学生塾跡の名残であった机や椅子、ドアや黒板などはすべて灰に変え、その灰さえも電撃が吹き飛ばすことでそこには物と呼べるものがなくなってしまっていた。
 上に繋がっていた水道管は焼き切れ、噴水のように辺りに水をまき散らし、四階へと続く階段は完全に消失しており、三階より上の階を孤立させている。
 上条の後ろの壁だけが不自然にその場に残り、上条達の居る廃屋の三階部分だけはまるで戦争の跡地のような場所になり果てていた。
 唯一あるとすれば、柱。三階のいたるところにある、建物を支える柱だけがそこに存在している。
 廃屋を倒壊させないようにそれだけを残したのだろう。
 そこまでを確認してから上条は、美琴の方へと視線を移す。

259『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/08/24(火) 00:39:28 ID:56m3eVBY
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]

「ほんっとに、運がいいね幻想殺し(イマジンブレイカ―)……ここまでキミの思い通りになるとこちらとしては不気味な限りだ」
 額に青筋を浮かべ、あからさまに表情を歪める御坂美琴。
 ニ度三度、前髪の前でバチンと火花を散らして、少女はポケットに手を入れる。
「もういいや。この身体の調整のためにアンタと遊んでいたけど、僕にだってやることがある」
 常盤台中学の制服のポケットから出てきたものを見て、上条は身体を強張らせる。
(………来たかッ!!)
 美琴はこれからが本番だと示すかのように、”それ”を指で弾いた。
 キィン、という小さな音。
 宙を舞う”それ”が少女の指に再び触れる前に、上条は大きく横に飛ぶ。
 そして、
「全力だ。そっちも本気でこないと命が一つや二つあっても足りやしないよ」
 直後。
 御坂美琴の指先から閃光が飛び出した。
 上条には視認すらできないその軌道。
 音は破壊の後に遅れてやってきた。
 ゴッガァァァァァァァァァァン!!! という轟音。
 上条の後ろに寂しく残されていた壁の一部は豆腐のように砕け散り、煽りを受けた建物はグラグラと揺れて今にも倒壊しそうにミシミシと嫌な音を立てる。
 破壊の嵐は真横に避けたはずの上条すらも巻き込み、床にヒビを入れ、天井に異様な圧迫を与える。
 壁を突き破り、さらに直進を続ける美琴の一撃は何もない空に一筋の光の道を作り出して燃え尽きた。
 目で始まりも終わりすらも知覚させない音速の三倍で打ち出される金属の一撃。
 あまりの速度に残像すら空間に焼き付ける。知らない者が見れば、それは一種の流れ星に見えたかもしれない。
 超電磁砲(レールガン)。
 御坂美琴を学園都市の第三位だと誰もが認める一つの証。
 赤子でもわかるその驚異的な破壊力は何ものも寄せ付けず、ただ破壊を辺りにまき散らしていく。
「立てよ幻想殺し(イマジンブレイカ―)。この女を助けるんだろ? アンタの大切な、護るって誓ったコイツを助けるんだろ!? ほらぁ、はやくしろよ!! お姫様(ヒロイン)を助ける王子様(ヒーロー)が無様に転がってっちゃザマァないな!」
 その一撃を人に向けて躊躇なく放った張本人は、上条を見て嘲るような笑い声を口から流す。
 苛立ちと怒りとを混ぜたような、そんな理不尽な笑いだった。
「これほど面白い『物語(シナリオ)』もないよね。操られる自分の大切な少女に、殺されそうになる少年が命を懸けて少女を助けようとする、なんてさ。はっ、滑稽だね。それにしても御坂美琴は”堕としやすかった”。アンタの姿の幻覚を見せて適当な言葉を重ねたら、僕のことを本人じゃないとわかっているくせに心に大きな揺らぎが出たよ。そこに浸けこんで彼女の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を侵せば、びっくりするほどに簡単に堕ちてくれたさ」
「…………な、に……?」
「仮にも学園都市の頂点がだよ。その程度の精神攻撃で沈むなんて思いもしなかったから拍子抜けしたさ。でも、彼女の能力を操作するには僕の演算能力じゃ足りなくてね。元々、僕の能力とは計算式が違うわけだから満足に出力できない。だから”身体を他の一人に、そして計算を僕が担ってるってわけ”。とは言っても僕が操ってるのはあくまでも彼女の精神だから演算は彼女に任せっきりだけどね。って言っても彼女の意識なんてものは奥の奥においやっちゃったから、死んだも同然なのかも。”言っただろ? あの地下駐車場で『御坂美琴は死んだ』って”」
「な、にを………言ってるんだ?」
「ん? 何をって……あぁ、そうか…アンタはあの地下駐車場での”出来事(幻覚)”は僕とは別の人物がやったことだと思ってたのか。あの魔術師がやったとでも、思っていたのかな? バカ言わないでくれよ。クエイリス=アーフェルンクスが何度キミの右手に触れたと思ってるんだ」
 違うよ、と美琴は小さく続けた。
 からかうような、バカにするような表情を顔に張り付け、少女は笑う。
「地下駐車場でクエイリス=アーフェルンクスを偽装(コーティング)した幻覚も、アンタが朝に見た夢も、御坂美琴を操っているのも、全て僕の能力『精神操作(メンタルオペレート)』だ」
 魔術師に、能力者。
 そう、美琴は言った。
「お前、『超能力者』なのか? 『魔術師』じゃ、ない………のか?」
「そうだよ」
 信じられないような口調で尋ねる上条の声に、美琴が疑問を切り捨てるように返事を返す。

260『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/08/24(火) 00:40:28 ID:56m3eVBY
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]

 上条は、しばし呆然とした。
(なんで…………魔術師じゃ、ない?)
 上条は今回の出来事を三沢塾のときのように『学園都市の施設が魔術師に乗っ取られた』といったものだと思っていた。
 土御門が、今回の敵は『組織』だと言っていたから。
(もしかして、地下駐車場の魔術師と、御坂を操るコイツは別の組織なのか………?)
 考えてそれはないと自分で思った。一週間前から行方不明となっている美琴を別の組織が同時に利用しようだなんて思わないだろうし、精神操作(メンタルオペレート)と名乗る誰かが魔術師の名前を―――ましてや存在を知っていることはおかしいのだから。
 そして少年の言葉が言外にそれを否定している。
 まさか、と上条の口から声が漏れた。
 そして、少年の予想通りの答えが見知った少女の口から告げられた。


「科学と魔術の混合組織。それが、それこそが〔パンドラ〕の実態だよ」


 ガギギギギ!! と建物が軋む音をあげた。
 上条はその音源を見ない。この音は先ほどから何度も聞いている。
「まあ、魔術との混合って言ってもこちらの魔術師は二人だけなんだけどね。ローマ正教、神の……なんつったかな?」
 建物の柱となる役割から外れ、いくつかの鉄筋が宙を飛ぶ。
 建物が倒壊しないように計算して選んだものなのだろう。数十もある内から五つの鉄筋が不自然に振動しながら美琴の周りを浮遊した。
「まあ、名前なんてどうでもいいんだけどソイツらがアンタを殺せってうるさいんだよね。自分達でやれって思ったりするわけだけど、一応は協力関係ってことになってるからさ」
 協力関係。その言葉を聞いて上条は〔パンドラ〕の目的を思い出した。
 ―――〔パンドラ〕の目的は学園都市を破壊すること。
「お前、超能力者なんだろ!? この学園都市で育ってるんだろ!!?? なんで学園都市を壊そうだなんて思っちまうんだよ!!!!」
「アンタには関係ないだろ」
 ピクリ、と眉を少し動かし美琴が上条の言葉を遮った。
「もし関係があったとしてもアンタには言わないよ。言っても無駄なもの。学園都市の『闇』を知らないヤツに僕らの正義はわからない」
「正義だ? お前は自分がやってることを正義だって言うのかよ。ざけんじゃねえぞ!! 俺ならともかく、魔術に何の関係もない御坂まで巻き込んでおいて……」
「確かに魔術には関係ないかもしれないけどさ、科学には関係してるだろ。『絶対能力者進化計画』の時のように御坂美琴は今までに何度も自分の認めないものを邪魔してる。僕らのやってることを知って、妨害してくるのは簡単に予想できたからね、先に手を打っておくのは当たり前のことだろ」
「何が当たり前だ? 何が正義だ!! テメェらがテメェらの都合を他人に押し付けてるだけじゃねえか!!」
 思わず上条は吠えていた。
 その言葉に美琴の表情が一変する。
「知ったような口聞いてんじゃねえぞ偽善者ぁ!! 自分の都合をいつも他人に押し付けてるのはテメェだろうが!!!!」
「ッ!!!?」
 美琴の怒りに呼応するように、五つの鉄筋が少女の前にバラバラに整列した。
 さながら女王を護る盾のように配置された鉄筋。その後ろで、学園都市最強の電撃姫は勢いよく床を踏みつけた。
 宙に浮いたのは半径三センチ程度の石ころだった。
 そのうちの一つに美琴は裏拳気味の平手打ちを振りぬく。
「―――なァ!?」
 ガァン!! と急激に鉄筋に激突した石ころが砕ける音と衝撃音が同時に鳴り響いた。
 磁力によって飛ばす限界速度を超えるためか、超簡易型の超電磁砲のようなもので鉄筋の身体を叩き、無理やりにそれを吹き飛ばしたのだ。
 竹トンボが縦回転したような形で一つの鉄筋が恐るべき速度で飛んでくる。
 咄嗟に、上条は真横に飛ぶように避けた。後のことを考えずに全力で飛んだからだろう、鉄筋の着弾場所から身体一つ分ほど離れてから上条が地面を転がる。
 しかし。
「ゴ、……」
 ガァン!! と鉄筋の側面に激突した石ころがその軌道を無理やり捻じ曲げた。
 鉄筋の真横で無防備に転がる、上条の脇腹へと直撃する軌道へと。

261『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/08/24(火) 00:41:03 ID:56m3eVBY
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]

 ゴドン!! と少年の身体に鋼鉄の塊が容赦なく激突した。
「アアアアアアァァァァァ!!??!?」
 上条の身体が宙を舞った。ノーバウンドで五メートルほど飛び、地面に激突してもなおその勢いは止まらず、一つの柱にぶつかってからようやくその動きを止める。
 それでも攻撃は止まらない。石ころに叩かれて変形し上条を叩いた鉄筋が宙に静止し、そのままゆっくりと再回転を始めた。
「アンタの頭ん中覗くのはかなり苦痛だったさ。いつでもいつでも自己犠牲と言う名の自己満足だ。テメェの右手のせいか深いところまでは潜り込めなかったけど、深層意識なんざ覗かずにアンタが何の躊躇いもなく他人を助けようと思ってることもわかる。それがもし相手の為にならないものだとしても助けるってこともなぁ!!」
 シュンシュンシュンシュン、と空気を裂く音が連続し美琴の周りに待機する鉄筋も身体を回転させる。
「目先の問題を解決するだけで満足してんなよ!! 見えないものを見ずに、見えているものだけ見て何が正義だ!! 本当の問題を見ようとしないのはただの偽善だろうがぁ!!」
 顔に一層の怒りを刻みながら美琴は帯電した拳を握りしめ、勢いよく床を踏みつけた。
 ゴッ、と音を立てて浮き上がる数十もの石ころ。それらすべての役割は火薬。鉄筋と言う名の弾を打ち出す銃は自分自身。
「自分が正義を名乗るなら、全部救えよ! 全部護れよ!! 僕らは救うよ、救ってみせる。大事なものはもう失ってしまったけど、これから先にあんな”悲劇”は絶対に起こさせるもんか!!」
「…………わかんねえよ」
 それらを前にして、上条は起き上がった。
 拳をかたく握り、額から血を流し、満身創痍のような身体でも足を力強く地につけて、起き上がる。
「俺は、どうして学園都市を壊そうとしてるのかって聞いたんだぜ。なのにどうして、そんな言い訳じみたことばかり言ってんだよ」
「言い訳? 違うだろ、事実だ。アンタが行ってることは正義なんかじゃない!」
「ああ、俺は自分のやってることに正義を感じたことなんて一度もねえよ」
 あっさりとした肯定の言葉に美琴が眉をひそめた。
「そんなことはどうでもいい。んなこたぁどうだっていいんだよ!! 俺はお前にどうして学園都市を壊そうとしてるのかって聞いてんだ!!」
「アンタには関係ないじゃ―――」


「細かいことぐちぐち言ってんじゃねえよ!!」


 びくり、と美琴の肩が震えた。
 上条はそんな少女は睨みつけ、続ける。
「お前は俺に、何を言いたいんだよ。何を伝えたいんだよ!! 話が一方通行すぎて俺にはまったくお前の動く理由がわからねえ。自分ひとりで納得して自分ひとりで思い悩んでんじゃねえよ!」
「お前に何がわかる!!」
「わからねえから教えろっつてんだろうが!!」
 叫びに叫びで返し、上条はさらに言葉で畳みかける。
「気のせいかもしれねえし、勘違いかもしれねえ。でもな、俺にはお前の話を聞いていて、まるで『助けてくれ』って言ってるように聞こえる。本当は嫌なんじゃないのか? 学園都市を壊すなんてこと、本当はしたくないんじゃねえのか!?」
「うるさい………っ」
「話せよ。自分が言いたいことを。自分で伝えたいことを。何もせずに相手が理解してくれるわけないだろうが!! つまらない意地張ってないで、誰かに助けを求めてみろよ!! 自分ひとりだけで―――自分達だけでやろうとせずに、誰かに助けてくれって言えばいいだけじゃねえかッ!!!!」
「うるさいっつってんだろうが、無能力者(レベル0)がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
 ガァァァァァァン!! と轟音が辺りに打ちつけられると同時、合計五つもの鉄筋コンクリートが弾きとんだ。
 少年に届く途中、衝撃だけを極限に高めた簡易型の超電磁砲の石ころが激突し、軌道を読めない鋼鉄の塊が五つ。
 それらは己の身体をあらんばかりに回転させ、少年の居る場所へと容赦なく突き刺さった。

262『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/08/24(火) 00:41:38 ID:56m3eVBY
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]

<13:06 PM>

 白井黒子が少年、一方通行(アクセラレータ)に向けた攻撃はいたって単純なものだった。
 自分の能力『空間移動(テレポート)』の限界である、総質量一三〇・七キログラムに届くほどの重さのものを一方通行の頭上に移動させる。
 見知らぬ少年の身体に直接空間移動(テレポート)させないのは、彼女に残る小さな良心ゆえだろう。
 そこらのゴミ箱や鉄パイプ、大きな木箱などを寄せて集めて作った一つの塊は正確に少年の頭上に移動して、その頭をカチ割る。
 はずだった。
「なっ!?」
 ゴッガァァァァン!! と盛大な音を轟かせて、少年の頭へと直撃したはずの大きな塊は、まるで見えない何かに弾かれたように方向を変えコンクリートの壁に激突する。
 白井が驚いたのは、少年に自分の攻撃を防がれたことにではない。
 自分の攻撃をどうやって防いだかを理解出来なかったから、である。
「ほォ……こりゃァ珍しい………空間移動(テレポート)かァ」
 一方通行はその場から一歩も動かず、興味深そうに白井を見る。
 真紅の瞳が宿すのは白井への興味のみ。相手を空間移動(テレポート)と分かってなお、警戒も身構えもしない少年を前に白井は言い表せない不安を感じる。
「そういや、テレポーターとやンのは初めてだなァ。反射が適応するのどうか前々から疑問に思っちゃいたンだ。来いよ。怪我しないように計算してやっから」
「―――ッ!!」
 少年の言葉を聞くや否や、白井はすぐに空間移動(テレポート)で己の身体を移動させた。
 無防備な姿で構えもしない一方通行の後ろに白井が出現する。
 流れるような動作で少年の肩を掴み、空間移動で(テレポート)でどこかに移動させてしまおうと思って―――
「えっ?」
 ヒュン、と聞きなれた風を切るような音が白井の鼓膜を震わせる。
 白井が空間移動(テレポート)を発動させると同時、少女は己の身体が宙に投げ出されたような感覚を感じた。
 いや、違う。
(こ、これはッ!?)
 自分の身体が空間移動(テレポート)している。
 地面からニメートルほど高い位置に移動していた白井は、地球の重力に引かれ地面へと叩きつけられた。
「が、ほっ……」
 突然のことに能力を発動させることも出来ず、受け身すらもとれなかった。
(け、計算ミス? バカな。そんなはずが……)
「ほォ。一一次元での自分の位置を計測してそこから移動”ベクトル”を演算してるのかァ? こいつァ空気のベクトルより面倒な式をおったてなくちゃなンねェ。もしかしたらこの複雑な演算がテレポーターの少なさの原因なのかもなァ。聞いた話によると、自分の身体を移動させれないやつはレベル3以下らしいし。ってこたァお前レベル4か?」
 独り言のようでいて、何かに語りかけるように一方通行は続ける。
「つっても常盤台とは言えこンなガキでも出来る演算だしィ。自分の能力を制御しきれないテレポーターってのはただのアホだな。身に余るチカラほど、滑稽なもンはねェ―――オラァ、いつまで寝てやがる」
 少年が何もない道を踏みつける。
 ゴウン!! と鉄筋ほどの大きさのコンクリートが地面からくり抜かれたように宙へと飛び出した。
 そのコンクリをまるで扉をノックするかのように一方通行は右手で叩く。
 突如、爆風でも受けたかのようにコンクリが白井のほうへと勢いよく吹き飛んだ。

263『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/08/24(火) 00:42:16 ID:56m3eVBY
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]

「―――っ!!」
 すぐさま白井は空間移動(テレポート)を実行。
 少年の死角へと移動し、大きく足を広げる。露わになる太ももには少女に似合わない革のベルト。それに差し込まれるいくつもの金属矢。
(仕方ありません。少し痛い思いをしてもらいますが、我慢していただきますわよ!!)
 金属矢の一本に手が触れると同時に能力を発動させた。
 空間移動(テレポート)によって移動させられたものは元あったものを押しのけて出現するため、それがなんであろうと貫く防御不可の一撃となる性質を持つ。
 そのため、普段は人の身体には転移しないように考えているのだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
 白井は、金属矢を少年の片足へと空間移動(テレポート)させた。
 金属矢は転移された場所にあるものを押しのけ、その場へと忽然と出現する。
 ドスッ、という音。
 空間移動(テレポート)された金属矢は白井の狙い通りに、か細い足を貫く。
「えっ?」
 そう、”白井黒子の右足をド真ん中から貫いた”。
 ガクンと崩れる右足。
 手で身体を支えることで辛うじて地面に倒れることはなかったが、白井はそのダメージよりも起こった出来事に疑問を感じざるを得なかった。
「…どう、して?」
「わりィな。もう”把握した”」
 白井の前に立つ白髪の少年、一方通行が疑問に簡潔に答えた。
「一一次元……ねェ。ぱっと見ならぬ考えでは難しそうに思えたもンだが、ここまですンなりといくとはなァ」
 がっかりだとでも言わんばかりに、肩をすくめる。
「登場がどっかの誰かさんにあまりにも似てたもンで思わず相手にしちまったが、こりゃ時間の無駄だったな。こうも短時間で把握できる計算なら事前に対策を練る必要性すら感じられねェ。格下がァ、自分の身の程をわきわえやがれってンだ」
 ガチャリ、と白井の頭に小ぶりの銃が突きつけられた。
「こンなもンかよ情けねェ。あれほどカッコよく場に乗り出してきたくせに出来たことは俺をガッカリさせることだけなンて、死んでも死にきれねェよなオイ」
 そんな中、白井は恐怖とは違う何かを感じていた。
 底が見えない。
 自分以上の能力を知ったときもこんな気持ちにはならなかった。
 能力に大きな差があった結標の時でもこんな気持ちにはならなかった。
 初めて美琴の超電磁砲(レールガン)を見たときでさえもこんな気持ちにはならなかった。
 敵わない? 違う。わからないのだ。次元が違う。能力者としての格が違う。この少年が誰かに負けるところなど想像もできなかった。
 それが例え、自らが絶対の信頼を置くお姉様でも。
 それは、超能力者(レベル5)の美琴の近くにいる白井だからこそ感じれたものなのかもしれない。
 ダメージは少ない。能力だってまだ使える。身体も動く。
 しかし、この少年には絶対に勝てない。
 それを自覚し、白井は思わず目を閉じた。
 あるのは後悔。御坂美琴、初春飾利、佐天涙子。この三人の誰も救えずに死ぬことへの後悔。
 それは白井黒子という人間らしからぬ後ろ向きな考えだった。
 普段の少女なら、こうは簡単に諦めはしなかったかもしれない。
 しかし、白井はこの五日間、御坂美琴を探すことに全力を費やしている。
 警備員(アンチスキル)からの暗号メールや、ツンツン頭の少年を見て希望を持った少女だったが自分が想像していた以上に精神はボロボロのようだった。
 そんな白井を見て、一方通行はわざとらしく舌打ちをする。突きつけた銃を下げ、白井に背を向けてから告げた。


「お前の友達…………殺せば何か変わンのか?」


「ッ!!??」
 直後、白井は目を見開いた。
 反射的に空間移動(テレポート)を発動させ、少年の顔面にドロップキックを思いきりぶつける。
 ドロップキックを受けた少年は、心なしか笑っているように見えた。

264『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/08/24(火) 00:43:36 ID:56m3eVBY
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]

 少年の皮膚に白井の足が当たるか当たらないかのところで、少女の身体が急激に回転した。
 視界がぶれるを超え、視界がかき混ぜられたような感覚を覚えたところで、白井は地面に激突する。
「あァ? まだやるのかよ。俺の足元にすら届きやしないテメェがいったいこれ以上何をしようってンだ」
 確かに、白井は少年には敵わないだろう。
 白井黒子の一番の武器たる空間移動(テレポート)を逆に利用され、物理攻撃は一切効かない相手になんてどうやったって勝てる要素が見つかりはしなかった。
 しかし、少女には絶対に譲れないものがある。
 絶対に譲れないものが、絶対に折ってはいけないものがある。
(今、わたくしが諦めてどうなると言うんですの? わたくし以外に佐天さんを救える人はいませんわよ)
 それが折れることは白井の今までの生き方を否定することになる。
 白井黒子という心の芯を根底から否定することになる。
(立ちなさい、白井黒子。あなたの目標とするお姉様は相手の力が大きいことを理由に諦めたりは絶対にしません。だから、わたくしは……)
 とある少女の隣で胸を張るために、ここで倒れるわけにはいかない!
「…………へェ」
 対し、目の前で立ちあがる白井黒子を見て、一方通行(アクセラレータ)は徐々に顔に笑みを広げながら小さく、呟くようにこう言った。
「良い根性してンじゃねェか。俺なンかよりよっぽど、な」

265from-ING:2010/08/24(火) 00:51:47 ID:56m3eVBY
ああ、最初のレス、ミスッタあああああああああああ

くっそぉ……俺もうダメだよホント

このバカさと遅筆さに自分で怒りがわいてきますぜ

今度は出来るだけもっと早く投下した(ry

>>65
覚えていていただきありがとうございました!

読んでいただき感激です!

では、感想・批判よろしくお願いします!!

266■■■■:2010/08/24(火) 01:49:46 ID:onPKETTw
GJ!

267■■■■:2010/08/24(火) 07:36:36 ID:XaFnwSPc
『とある禁種な能力者』の者ですけど。
打ち切り説については、本当です。ご迷惑お掛けしました。

今まで応援してくださった方々、読んでくれた方々には深くお詫び申し上げます。

268■■■■:2010/08/24(火) 11:07:32 ID:dEM6vvP2
>>253
遅ればせながらGJ!
ステイル緊急参戦ですね。かませにならない事を切に願います
三点リーダーの意見を取り入れて頂けて嬉しいです。まだ所々中黒のままの箇所があるので、そこを注意すれば完璧ですね
あともう一点。ミサカ家の人々は地の文では下の名前で書きましょう。今回だと「美琴」で統一(もう出番ないのかもしれませんが)
何が篠原を変えてしまったのか。リアの思いは彼に届くのか。サイモンの真の目的とは……
三日目にそれらが明らかになるのが、今から楽しみです

>>265
GJ! そしてお久し振りです
安心の高クオリティー……流石です。誤字脱字も見当たらないと思いますし、ド派手な効果音などの描写が実に禁書らしい
今回の分は相当苦労されたのではないでしょうか? 前半は上条節の利いた説教、後半は原作未描写の一方さんVS空間移動ですからね
それだけに投下が遅れたのも納得の質。バトル・心理描写共に臨場感溢れる仕上がり。ノーバウンドの汎用性ぱねぇ
だが相変わらず上条さん堅すぎだろうwwアンタはゾンビか。一方さんも冷静になった黒子に事情話せば戦闘終わるのに煽ってるし、不器y
オリキャラの能力者はまだ美琴の身体を操ってるだけで姿が判然としませんね。戦場近くにいるのでしょうか?
現段階で物語全体のどれくらい消化した感じですかね? まだまだ広がりそうな気が
どれだけ長くても最後まで追い掛けるつもりでいますので、ご自身のペースで完結を目指して下さい。長々とすいません

>>267
そうですか……気になっていた作品だけに、残念です
しかし何時の間にか失踪される職人が多い中、自ら打ち切り宣言をされる心意気は見上げたものだと思いますよ
もう、再び筆を執る事はないのでしょうか……氏の復活を待ち望む住人がきっと沢山いるはずです
気が向いた時に、また書いてみようかと思われた時に、小ネタでもいいので気軽に投下してください
これまでの投下乙でした。そしてGJ!! では、また

269■■■■:2010/08/24(火) 13:22:00 ID:w0i2L.DM
>>268
 ご指摘&感想ありがとうございます!
「…」はまだ見逃しがありました。
あと美琴は原作がたしかにそうですね、見直してみます。
これからの話ですが、美琴はまだ出るしステイルは
活躍してもらう予定です。よろしければ、最後までお付き合い下さい!

270■■■■:2010/08/24(火) 16:14:34 ID:VtY8Mbps
>>267
前スレのラストの辺りのレスを見て以後salvere000氏がどのよな形で登場されるのかと心配しておりましたが打ち切りですか……。
そこにどのようなお考えがあったのかは不明ですが残念です。
もしまた禁書に繋がるご縁がありましたらとお待ちしております。
こちらこそありがとうございました。

271■■■■:2010/08/24(火) 22:35:03 ID:D3.ftFYI
どうも。
『空から落ちてくる系の一方通行』の続きを投下します。

注意点は特に無し。というか本来書くつもり無かったとこです。ほぼギャグパート。
原作一巻片手に読んでもらえれば一層楽しんでもらえるかと。

では始めます。

272空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/24(火) 22:36:33 ID:D3.ftFYI
 
 見た目どう考えても非合法なロリ先生と見た目胡散臭さ100%の青髪ピアスな似非関西人らと一緒に夏休みの補習を受けていたら、もう完全下校時刻である。

「あー、不幸だ」

 夕焼けの日差しを受けた警備ロボットが上条を追い抜いていく。上に乗っていたメイドさんらしきものは隣人の義妹だろうか。
 車輪の上にドラム缶を載せたようなそれら(メイドさんではなく警備ロボット)は学園都市の最新技術の一つであり、監視カメラや警報などの基本的な機能を搭載している。
 上条の母親などはそのシンプルで差し当たりのないデザインに不満があるようだが、基本的に学園都市の技術はSF小説に出てくるようなハッタリのきいたものより、実用性重視で無駄の無いデザインのものが多い。現に上条の寮などにも配備されている清掃ロボットも、あの警備ロボットと見た目は殆ど変わらない。

(犬型とか凝った形してると、正直鬱陶しいんだよなー……)

「あ、いたっ! とうま! ちょっと待つんだよ!」

 警備ロボットを視界の端で見送った上条は、そういえば一方通行は結局何で逃げていたんだろうだとかあの電極はなんなんだろうかとか、つまりは今朝のことを考えていた。
 追いかければまだ追いつけたハズだ。逃げていたとはいえそんなに急いで移動していたわけでは無かったし、相手は相当悪目立ちする容姿なのだから。
 結局、繋がりが欲しかったんだと思う。あの電極が重要なものなのかは分からないが、これを手元に置いておけばいつかまた取りに来るかもしれないと。
 あの少年があんな風に笑うから。
 どこかに繋がりが残っていないと、そのままどこかへひっそりと消えてしまいそうで。
 怖かったんだと、思う。
 そして今は痛い、主に頭が。

273空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/24(火) 22:40:49 ID:D3.ftFYI

「がっふるるぅぅぅぅぅ!!」

「ぎゃああああ! ちょっと待ていきなりなんなんだ腹ペコシスター!!」

「腹ペコシスターじゃないんだよインデックスなんだよ! まったくとうまはさっきからいくら話しかけても反応しないしいつまで経っても名前で呼んでくれないしー!!」

「だからって噛み付くなぁぁぁぁ!! 頭が痛いし周りからの目線も痛いしー!!」

『上条の頭に食らい付いているのは、昨日上条宅の冷蔵庫を食い散らかした腹ペコシスターだ。上条がたった一度うっかり彼女の服を脱がしてしまったばかりに、その時から上条の部屋を幾度となく訪れては上条を討ち倒して食料を強奪している』

「って台詞が上条さんにはあだだだだだだだ!!」

「何訳分かんない事言ってるのかな!」

「こんな凶暴な彼女なんですが本当はとっても優しいイギリス清教のしゅうぎゃああああ!!」

 噛み砕かれた。
 初めて会ったときに、彼女は不良に絡まれていた――ように見えた。だから亀を助けた浦島太郎的な展開に持っていこうと思ったのだが、近づいて話を聞くにそれは逆だったらしい。
 つまり、適当にたむろしていた不良に問答無用で布教した挙げ句に食料を要求していた、と。とんだ亀である。
 そこでこれこれ亀や童子たちを困らせるのではありませんと何島太郎だかわからない展開になってしまい、とりあえず上条は『右手』を彼女の肩に置いてなだめようとしたらビリビリィ! なんて分かりやすい音がするでもなくパサリと亀さんの衣服が落ちた。
 そこでまあ亀改め全裸シスターの反応としては、突然の出来事に全力で恥ずかしがりながらも全力ですっぽんの如く噛みついてきたわけだ。亀だけに。すっぽんぽんだけに。
 その後なんやかんやで上条のシャツだけ羽織らせたりたまたま近かった上条家に招待して服を貸したり冷蔵庫が空にされたり、それからもその時のことを盾に冷蔵庫を荒らされまくったりで今に至る。

274空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/24(火) 22:43:27 ID:D3.ftFYI

「……ああ、お母さん。痛くて涙が出るよ。頭もだけど心も痛い。あと胃」

「なんで遠い目をしてるのかな」

「ああ不幸だ、こんなのと関わったばっかりに」

「こんなのじゃない! インデックス!」

「うっせえ腹ペコ! そもそも昨日てめえが冷蔵庫のコンセント抜いていきやがったからうちの冷蔵庫の中身全滅だぞ!! アレは一体何がしたかったんだよ嫌がらせか!!」

「お腹が減るから仕方ないんだよ」

「わけわかんねえ言い訳しやがって……!! そもそも不本意だけどあれらはテメェの食料でもあるんじゃねーのかよ!!」

 あの時――散々安売りで買い込んでいた上条宅の『冷蔵庫の中身』殆どを、インデックスはその身一つに受け入れた。それは冷蔵庫の中身だけでは無い。食べたら腹を壊しそうな古い野菜を寄せ集めた『野菜炒めのようなもの』に、内臓に深刻なダメージを与えそうなカップ麺各種、シメには夕飯用に買ってきて彼女に食べられないように隠しておいた中国産の『鰻』。
 でもまあ、それもどれもインデックスの障害では無い。
 それが『食べ物』であれば、インデックスはなんでも食べ尽くしてしまうのだから。

275空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/24(火) 22:45:55 ID:D3.ftFYI
「それはそもそもとうまの経済力のなさが問題かも。冷蔵庫の中身が駄目になったくらいでオーバーな、とうまの貧乏を私に押し付けないで欲しいんだよ!!」

「―ッ!!」上条はギチギチと歯を鳴らして、「言わせておけば好き放題言いやがって…!! 上条さんが貧乏なのは誰のせいだと思ってやがるッ!!」

「……はぁ。じゃあいいよ今日は。でも私に当たっても不幸は治らないよ?」

「な……ッ! ちょっとお前、シスターさんとしてその言い草はどうなんだ! もうすこし真面目に働け!!」

 地団駄を踏みながら叫ぶ上条に、インデックスは大げさにため息をついて、

「じゃあ、真面目に食べてもいいの?」

 だ……っ、と上条は言葉を詰まらせる。
 インデックスは口を軽く開いて、もう一度閉じる。ただそれだけの動作で、上条当麻の毛穴という毛穴からダラダラと嫌な汗が流れ出す。働く=食べるなのかこのシスターはと思っても、ただ一歩後退することすらできずにその場で硬直する。
 インデックスの食べた『質量』がどこへいったのか分からない上条としては、冷や汗一つ流さずに自宅の食料殆どを消し去ったインデックスはまさに『未知の恐怖』そのものだ。
 無理もない、インデックスは上条当麻宅の『食べ物』を二時間以上食べ続けて、ただ一つのゲップで済ませた女なのだ。『コレが本気を出したらどれだけ食べるんだろう?』と思うのも自然だ。
 ぷひゅう、とインデックスは吹き出して上条から視線を外す。
 拘束を解かれたように、上条は数歩よろめく。

276空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/24(火) 22:48:26 ID:D3.ftFYI

「ああ……なんか、不幸だ」

 こんなシスターさんにここまでビビらされたのがショックな上条だった。「ウチの家計は火の車だし、今朝はレベル5の一位に今は腹ペコシスターときたもんだ」

「レベル5の一位って誰? どんな人?」

「……、」少し考えた上条は、「……えっと、どんなヤツなんだろうか?」

 終始様子を見るようにびくびくしていた上条としては、どんな人間かと言われても怖かったくらいの感想しかない。
(……にしても、レベル5の第一位、か)
 上条は少し思い出す。あの白いレベル5がいた時はそこまで考えが及ばなかったが、少し時間を置いて考えてみればレベル0の上条からは随分縁遠い世界の住民だ。
 一方通行が居たときはなんでそう感じなかったのだろうだと思う。
 彼にそう思わせるだけの『何か』が無かったとでも言うのだろうか?

「……てか、今更何思い出してるんだか」

 居候先に帰るインデックス (彼女は上条のクラスメイトでもある姫神という少女の寮に寄生している)を見送りながら、上条は一人ごちる。
 一方通行との縁はあの時切れた。この広い世の中で何の因果も無く『偶々』再び出会うようなことはまず無い。レベル5がどうこうとか考えることには、最早何の益も無いのだ。
 それは正しいハズなのに、忘れようとは思えなかった。
 部屋のポツンと取り残された、何に使うのかも分からない電極。
 唯一切れなかった『繋がり』が、上条の心の端に引っかかってモヤモヤする。
 何故そんなことが引っかかっているのか、上条は自分のことなのに分からなかった。

 神様すら殺せる男のくせに。

277空から落ちてくる系の一方通行:2010/08/24(火) 23:01:21 ID:D3.ftFYI
以上です。……なんだこれ。
鉤括弧の上下に改行入れてますが、読みやすいかなと思って入れてみました。
でもそうでもなかったから次から戻します。行き当たりばったりですいません。

>>184
一応妹達+αではありますが、木原くンは出ません。
というか一通さんは基本的にヒロインポジションなのであまり戦いません。

>>201
感想ありがとうございます。
なんというか三巻の結末まで一巻の流れで進むみたいな感じです。
一巻の流れに沿うように書くというのがコンセプトに一つですが、コピペにはならないようにアレンジしていくつもりです。
完結目指して頑張ります。

次はバトルです。では。

278■■■■:2010/08/25(水) 00:36:52 ID:GVyHtLnk
>>277
GJ!! 素直に面白いですこのシリーズ。
今回も原作一巻片手に読み進めましたが、比べてみるとより楽しめますね。
原作の記述をそのままコピペするのではなく、類似した語句に置き換えるとは。日本語ってほんとボキャブラリーが豊富だなぁ、と改めて思います。
ご自身でギャグパートと言われるだけの事はあり、思わず吹き出してしまうような表現もちらほらと。同時に違和感。
原作における帰り道でのやりとりの立場が入れ換わっている。まるで禁書のキャラクターが禁書のお芝居を演じているみたいです。
美琴がまだ未登場なのが気になりますね。一方さんがインデックス役、インデックスが美琴役、……と来れば、美琴が演じるのは――
いやいや、それはまだまだお楽しみ。今は脳内で妄想を膨らませます。あ、強調したい台詞や地の文以外は、改行はしなくていいと思いますよ。
では、次の投下も楽しませていただきます。   ステイル役は一体ダレなのか?

279■■■■:2010/08/25(水) 09:46:46 ID:qtfWpj1c
インデックスひでえ

280from-ING:2010/08/25(水) 22:44:04 ID:JUlU5X5A
>>268
感想ありがとうございます

クオリティ高いだなんて……すっげぇ、涙出そう

現段階での構想では、この話を全四章構成にしようと思っているので

単純計算で、まだ半分もいってないんですよ

やっぱ、自分の遅筆さに嫌気がさしたりするんですが、追い続けてくれる皆様が居る限り、かならず完結させてみせます!

話には、あとでインデックスの方も登場させる予定ですし、ステイルや神裂も出します

オリキャラは暴走させないように気をつけるつもりですが……うまくいくものかなぁ(笑)

では、失礼しました

281禁書×仮面ライダーオーズ 嘘予告:2010/08/25(水) 23:08:34 ID:F3obg4j2
新平成ライダーオーズと禁書目録のクロス嘘予告風。本編未放映の為に設定を使用


――800年の眠りから目覚めた生物の王、グリード。その復活と時を同じくして学園都市にメダルが出没し始める。

「……なにこれ。見たことないメダルね」

 黄色のトラの模様が描かれたメダルを手にした『超電磁砲』御坂美琴

「ん? なんだこれ。自販機のお釣りが見たことないメダル……不幸過ぎる……」

 赤いタカのメダルを手にいれた『幻想殺し』上条当麻。

「なンで缶コーヒーの下にメダルが張り付いてンですかァ?」

 緑のバッタメダルを持つ『一方通行』

 異形の怪人と己の欲望が、学園都市に悲劇を呼ぶ!
 赤いタカのメダルを持つ上条の前に現れた自らを『アンク』と呼ぶ不完全な鳥の王は、戦火を前に立ち尽くす上条にオーズドライバーを渡し、御坂美琴、一方通行からメダルを受け取り、今、王の力を使い上条は仮面ライダーとなる。

「てめえらが欲望の為に人々を泣かすってなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す! だからッ!俺が変身する!」

\タカ!/\トラ!/\バッタァ!/
\タ・ト・バ!/
\タトバタットーバ!/

 とある魔術の禁書目録×仮面ライダー SS大戦2011

今秋毎週日曜日午後25時00分放送開始予定!

282■■■■:2010/08/26(木) 17:06:19 ID:6eJ2wckA
>>281
www久しぶりの嘘予告ご馳走様でした。


『禁竜召式(パラディンノート)』の者ですけど、続きを投下させて頂きます。
4レス分しか出来上がらなかったので、その程度貰います。

283■■■■:2010/08/26(木) 17:07:09 ID:6eJ2wckA

十月十五日 午後四時半ば。イギリス清教女子寮にて。
「あ、あの、シスター・ルチア」
「? なんですシスター・アンジェレネ。何時にもなくオロオロとしていますが」
この二人が今居るのは寮の一室。正確に言えばルチアの寝室である。アニェーゼ、絹旗に対する襲撃から七時間余りが経ち、ざわめいていた女子寮も少しずつ静けさを取り戻した状態で有ったが、アンジェレネには気がかりな事が一つ有った。
「えっと、さっきシスター・アニェーゼの居る療養室に様子を見に行ったんですけど……なんかすごく落ち込んでいたと言うか、その……」
「シスター・アンジェレネは、私が言いすぎたせいでシスター・アニェーゼが沈んでしまったのではないか? と言いたいのですね?」
「え、いや、あの……」
核心を突かれたアンジェレネは一歩引いてから、ルチアの目を見て反論を返した。
「わ、私が言うのもなんですけど、シスター・アニェーゼも女の子なんですから、もうちょっと言い方を考えて物を言ったほうが……」
真っ赤な顔で何やら叫んでいるアンジェレネに、ルチアは溜息を吐いて首を振った。
「あなたは何年間アニェーゼと一緒に居るのです? シスター・アニェーゼが落ち込んでいたなら、それで良いのですよ」
「は?」
「ですから、貴方はアニェーゼ=サンクティスという人物が『落ち込んだ後どの様な行動を取るか』憶えてないのですか? と聞いているんです」
アンジェレネは首を横に振る。これだけ言っても解らない少女に、割とお節介なルチアは自信を込めて言葉を発した。
「忘れたのですか? シスター・アニェーゼはこの世で一番負けず嫌いなんですよ」

284■■■■:2010/08/26(木) 17:08:28 ID:6eJ2wckA

「あの、絹旗さん、落ち着いて……」
「うるさいです。あの女を超ぶっ殺して滝壷さんのお土産を取り戻すんです……!!」
今にも窓を飛び出しそうな勢いの絹旗を多数のシスターが必死で止めに掛かる。女子寮の廊下は相変わらず騒がしいご様子だった。

「て、言うか絹旗さん。お土産って、あの口から髪の毛垂らしたシュールなウサギのヌイグルミですよね? あんな不気味な物、貰って嬉しい人居るんですか?」
「私の全財産を注ぎ込んだ超至高の一品にケチ付けるのは止めてください。大体、あのヌイグルミは骨董屋の店主の妻方が超手作りした物らしいですから、もう手に入れられないかも知れないんです。だから取り返します邪魔しないでください」
一向に引かない絹旗最愛に修道女達は呆れたような息を吐く。それを貰って喜ぶとされるタキツボさんとはどんな人物なのだろうと、全員が一瞬だけ考えた。

「とにかく、その傷も完全に治っていないのに魔術師に一人で向かって行くなんて不可能です。お土産なら他の物買えば良いでしょう。お金なら多少は出しますから」
「また、魔術師まじゅつしマジュツシって、一体何の事です? 大体、新しく買い直す事は超認められません。あのお土産なら滝壷さんは絶対に喜んでくれるんです。変な物買ってガッカリさせるリスクは超背負いたくありませんから」
それだけ言うと絹旗は『窒素装甲』を使用し、押さえつけていた多数のシスター達を投げ飛ばす……とまでは行かない物の、とにかく包囲網から脱出した。
(クリスタル……アークライト、でしたっけね。クソ野郎の名前は)

========================================

「ちょ、シスター・アニェーゼ!! 病室で安静にしてなきゃ駄目でしょう!!?」
「うっさいです。やる事があるんですよ。寝てなんか居られるかってんです」
アニェーゼ=サンクティスは堂々とベットから起きて、養護室のドアを開け放った。
他のシスターに止められたが、強引に養護室から抜け出したアニェーゼはその言葉に耳を傾けようともしない。ぎゃーぎゃー喚くシスターを尻目に、アニェーゼは手元の携帯電話を取り出し、電話調欄を検索し、電話を掛けた。その相手は女子寮きっての巨乳シスター。
「あー、オルソラですか? 私とキヌハタを襲ったクソ野郎の事、調べて貰いたいんですけど、頼めますね?」
『別に構いませんけれど……あなた様の傷は、もう大丈夫なのでございましょうか?』
「あんな物、傷の内に入りませんよ。『少年の拳』の方がまだ痛かったです」
適当に話を区切って通話を切ったアニェーゼは、取りあえず目的に向かって歩を進めた。

285■■■■:2010/08/26(木) 17:09:38 ID:6eJ2wckA

時計塔標準時刻午後六時頃……

(アークライト、アークライト。どこかで聞いたようなお名前ですね……?)
オルソラ=アクィナスは大英図書館にて同僚から頼まれた調べ物に没頭していた。彼女が主に調べているのは住民表や戸籍記録。一般では公開が禁止されているが、最大司教の働きかけで特別に観覧が許可されている。
調べ物を頼んできた同僚及びアニェーゼ=サンクティスには『ある人物』を探せ、と言われている。アニェーゼはその人物の名を言っていなかったが、絹旗最愛に聞く所に寄ると、『クリスタル=アークライト』なる名前の人物らしい。

(一般の住民表には載っていない……となると、貴族、王族か騎士の家系でしょうか?)
王族は例外に、貴族、騎士の家系図も「絶対に傷つけるな」の号令と共にオルソラは見る事が許されていた。無論、一般に対する口外厳禁で。
多少の緊張に押されながら、オルソラは奥側の棚から分厚い新書を取り出し、慎重に一枚一枚捲っていく。
「アークライト、アークライト……あ、これでしょうか?」
そして、目的の記載を見つけた。

=====================================================================

「オルソラ、もう見つけたんです? 随分早いですね」
『ええ。事情が事情なので、少し急がせて頂きました』
アニェーゼは自室にてオルソラと会話していた。付け足すと携帯電話で。
『どうやら、貴女方を襲撃した女性は騎士の家系のようでして、その血を色濃く受け継いだ、つまりアークライト家の直系の子孫……と言う事になります』
「アークライト家?」
『ええ。数百年以上続く伝統的な騎士派の一族、その姪を『アークライト』。八〇〇年程前まではあまり名の有る家系では無かったようですが、その頃の当主による功績によって王家直属の騎士一家に成り上がったとの話です』
「つまり、私達を襲った女は騎士家系の人物だと、そうゆう事ですか?」
『はい。現段階ではその様な結論に御座います』
その言葉にアニェーゼは首を傾げた。

286■■■■:2010/08/26(木) 17:13:25 ID:6eJ2wckA

「王家直属……」
王家直属の騎士派一族、と言う名誉ある勲章を貰い受けた一族など、英国には数える程しか存在しない。つまりそれほど憶えやすく有名な家系、と言う事になるが……、
「私はアークライト家とか言う一家が王家直属なんて話、聞いた事有りませんよ。それ程の栄誉を受けていれば、多少な耳に入るはずですけど……」
アニェーゼは『アークライト』と言う騎士一族は全く知らない。ローマ正教の修道女の身で英国王室の仕組みなどはよく解らないが、直属の騎士家系ぐらいは把握しているつもりだった。だが、アークライトと言う姪自体アニェーゼは聞いた事が無かった。
『あなた様が初耳なのも無理は有りません。アークライト家は三〇〇年程前に王家直属の任を解任されています。現代では知っている人間の方が圧倒的に少ないでしょう』
「解任された?」
『はい。その頃頻繁に行われていた『魔女狩り』の際、『魔女』の処刑を疎かにした、つまり『魔女狩り』を否定した罪で、当主は一時的に軟禁されました。裁判では王家に仕える一家として死刑にこそなりませんでしたが、罰として王家仕の解任を言い渡されたようです』
「要は一応騎士だけど無名です、ってとこですか」
『そうなりますね。次に、その直系の子孫である『クリスタル=アークライト』は、女性という事も有り騎士の職務は任されなかった様ですが、親や使用人から様々な魔術を習っていて、十五歳には一人前の魔術師と成っていた様です。残念ながらどのような魔術を使うとまでは分かりませんし、彼女の情報はこの程度しか発見できませんでした』
「なるほど……それだけ分かれば十分です。シスター・オルソラ、感謝します」
『あ、それともう一つお耳に入れて欲しい事があるのですが』
「? なんです?」
『アークライト家には代々伝わる家宝のような『術式』が存在するとの記述があるようです。詳細は解りませんが『何かを召喚する』術式だと』
アニェーゼが眉を潜める。
「……召喚術って事ですか」
『恐らくその類でしょう。その『何かを召喚』する術式は、詳しくは直系の者しか知らないらしいのですけれど、名前だけは載っていましたから報告をしておきます』
オルソラは一回息継ぎをしてから、『アークライト家の家宝』の名を告げた。

『『禁竜召式(パラディンノート)』。一族の中ではそのように呼ばれているらしいのです』

287■■■■:2010/08/26(木) 17:20:37 ID:6eJ2wckA
投下終了です。

大英図書館については実物を見たことも無いし、よく知らないのでツッコまないでください......

>>244
感想有難う御座います。
ルーンのカードについては作中で説明、と言うか誤魔化しが入ると思います。

>>231
同じく感想有難う御座います。
確かに次々とアニェーゼ物が打ち切りになっていきましたよね。
『剣闘士奴隷(グラディエーター)』は更新楽しみにしてたのに......

288■■■■:2010/08/27(金) 10:59:36 ID:rHy2mSA.
>>287
GJです!!
ここで『禁竜召式(パラディンノート)』来ましたね。クリスタルが騎士家庭か......以外だ
本作の題名が術式の名になっているのは......他にもあったか。すいまsん
『剣闘士奴隷』は僕も残念でした。完結目指してがんばってください。

289■■■■:2010/08/27(金) 23:40:51 ID:QjM5wgYM
>>287 GJ
『禁竜召式(パラディンノート)』が術式名ならひょっとして2巻
で上条さんの右手から出てきたドラゴンとも関係が出てくるので
しょうか?それともエイワス?あるいは御使堕し(エンゼルフォール)
クラスの大魔術?次回の展開が楽しみです。

290■■■■:2010/08/29(日) 20:11:01 ID:cYKIHrWo
 どーも、三日間作者です。
3rdをいくらか投下していきます。
うう、長くなりそう…。
とりあえず6,7レスほど

291三日間〜Three Days〜 3rd.0:2010/08/29(日) 20:11:33 ID:cYKIHrWo

 自分が周りとは違うと理解したのはたしか幼い頃引っ越してすぐだったと思う。

 母親に連れられていったデパートのくじなんかは決まって一等が当たるし、他の同年代の子よりも自分の運動神経は明らかに頭2つ3つは抜きん出ていた。
 引っ越す前までは近くの孤児院の少女ぐらいとしか遊ぶ相手はいなかったし自分のそれについてさほど疑問に思うことなどなかったのだが、比較対象が複数出てくると周りとの違いというものはが浮き彫りになるものだ。
 ただし、過ぎた力というものはいつの時代もどんな社会でも疎外されるものである。子供同士の社会でもそれに例外はなく、あの子と遊んでもつまんない、だからあの子と遊んじゃだめという暗黙のルールが自然と出来上がっていた。
 その頃にはレベルの低いやつらと遊んでも仕方ないなんて子供らしくない強がった考えを持ちながら、同時に仕方がないと心のどこかで思えるようになっていた。
 そんな子供の退屈しのぎのための興味は、果たして自分はどこまで特殊なんだろうということに行き着く。
 その特殊性の例として、まだ彼の周りに友達というものがいた頃のことだが、その中の1人がある日誤ってそこにある蜂の巣をつついた。逃げ惑う子供たちの中に彼も居たのだが、結局彼のみがただの一度も刺されることもなくことを終えたのだ。
 そんなこともこれまで何度かあり、その都度無傷でやり過ごしてきた彼はいつしか自分から意味もなく危険に向かう癖がついた。
 その全てをほぼ無傷でやり過ごしてきたために、いつしか彼の恐怖という意識は次第に薄れていく。そしてその日、彼は無防備に車の行きかう車道へと飛び出し目を瞑った。
 自分なら大丈夫だ、どうせたいした傷も負わない。
 そんな意識とは裏腹に次の瞬間にドン、と彼の体に衝撃が走った。
 ただし、車の前に真正面で立っていたにもかかわらずその衝撃は横からのものだった。
 結局その次の瞬間に前からも衝撃は来たのだが彼自身にたいした怪我はなかった。彼に絡み付いていた女が代わりに衝撃を受けたからである。
 その頭から血を流す女には見覚えがあった。
 子供ながらその長く茶色の髪がきれいだと思った人。
 自分が悪戯をしたとき、こっちが泣くまで叱ってくるくせにその後必ず抱きしめてくれる人。
 いつも自分のために料理を作ってくれる人。

 それは、自分の母親だった。

 篠原はガバッと勢いよく起き上がった。息は上がっており、汗で着ている寝巻きはぐっしょりと濡れている。
 しばらくその体勢のままでいたが、やがて落ち着き呼吸も整ってくる。その後髪を両手でかきあげ、ベッドから抜け出した。
「しばらくあの夢はみてなかったんだけどな……」
 それは彼にとってのトラウマであり悪夢、そして取り返すべき過去でもあった。
 今更夢を見たのはリアが母親のことを言い出したからかそれとも儀式の完成が近いからか。
 完全に目が冴えてしまった篠原はシャワーを浴びた後、早朝のホテルのホールへと足をやった。
 外は日が昇り始めたもののまだ若干薄暗い。ホールには受付が一人眠そうに立っているだけで他には誰もいる様子がなかった。
「お早いお目覚めですな。もうよろしいので?」
 突然背後から声がかけられる。その声の主、サイモンはいつの間にか音も気配もなくホールへ
と降りてきていた。その手には一冊の本が抱えられている。
「目が冴えちまったんでな、二度寝する気にもならん」
「そうですか。ならば圭様、これを」
 そう言って黒スーツの男は懐に手を入れる。そこから十字架(ロザリオ)を取り出し、それを篠原へと差し出した。
「昨日言った『鍵』の霊装です。それを身に着けておいてください。方向は覚えられていますか?」
「ああ」
 少年はそれを受け取ると十字架本体が背中の方にくるよう、逆向きに首に掛けた。
 それを見たサイモンは口元をにやっと歪ませると手の中の本を開く。次の瞬間、その本は淡い光に包まれた。

「主は、その背に十字を背負われた」

292三日間〜Three Days〜 3rd.1:2010/08/29(日) 20:12:12 ID:cYKIHrWo

 二時間目の授業を終えた後の休み時間、上条当麻は学内の自動販売機の前にいた。
 その横にはいつもの三馬鹿……ではなく青髪ピアスがいるのみである。
「ったく土御門のヤツ、また今日も遅刻か」
「まーあいつの遅刻早退無断欠席なんて今に始まったコトやないからね」
 ここにいない級友の愚痴をこぼしながら上条は取り出し口からパックのジュースを取り出す。
 まあ普段の土御門の学校への出席の悪さはあいつのこの学園都市で多重スパイとしての活動をしているということが関係しているのだろうとおおよその予想はつく。
 ということは、今も何かすらの事件で動いているのだろうか。その場合、上条当麻がそのうち現場に招待される可能性はなかなかに高い。
(うげ、いやなこと考えちまった)
 不吉な考えに行き着いて上条はその考えを強制的に中断した。考えただけでどうこうなるとは思わないが、それでもなんとなく気分のいいものではない。
「どーしたんやかみやん、そないいやそうな顔して」
 なんでもねーってと青髪ピアスからの言葉を上条はかわしてパックにストローを刺す。
 この二日でインデックスに振り回されたり美琴に因縁つけられたりと、最近ちょっとは収まってきたかなーなんて思っていたことが続けて起こっている。
(神様、できれば今日くらい平和に過ごさせて欲しかったりします)
 今まで一度も彼の味方をしてくれたためしのない神様に向かって心の中で頼んでみる上条。
 しかし、普段から信仰心などあるわけがないツンツン頭の少年にはやはり神様は味方してくれない。

 ドゴォっという遠くからでも聞こえたような爆発音のようなものとともに校舎が軽く揺れた。

「なっ、なんだっ!?」
 突然の轟音と振動に上条と青髪ピアスは思わず手の中のパックをこぼしてしまう。
 音の方向はちょうど上条の教室の窓側の向こう側にあり、この自動販売機はその逆に位置している。ここからでは音源あるいは震源を確認することができない。
 そう判断した上条は、落ちたパックに構わず自分の教室に向かって走っていった。その後ろを青髪ピアスが慌ててついていく。
 各教室には授業が始まる少し前とは思えぬほどの騒々しさで満ちており、そのほとんどの生徒が窓際へと張り付いていた。例外なく、上条たちのクラスも皆が騒いでいる。
 自分の教室の窓から身を乗り出して確認すると、はるか遠くの方でもうもうと煙が上がっているのが見える。
 時間的にはもう授業が始まっているはずなのだが、開始の鐘は続く轟音にさえぎられ、かつ教師も入ってこないためにそれに気付くものは誰もいない。
 そんな中、上条は突然横から誰かに胸倉を掴まれた。
「ちょっと貴様! あれは何なのか説明しなさい!」
 その少女、吹寄制理は上条を掴んでいる方と逆の手で煙の方へと指差し上条に突っかかる。
 えぇっ! と理不尽な言及に思わず上条は声を上げるが、そのかわいそうな光景も周りの者にとってはいつものコトなので外側への興味を逸らす対象にはならない。
「みなさーん、席について下さーい!」
 それらを遮ったのは教壇の横に立つ一見小学生にしか見えないこのクラスの担任、月詠小萌であった。
 吹寄は上条から手を離し、他の生徒も視線を窓の方へやりつつもぞろぞろと席についていく。
 全員が席についた後、小萌先生は少し緊張した様子で咳払いをした。
 普段ではまず見ないような表情をしたこの担任の様子に皆が何事かと顔を合わせあったりしてる。そして彼女の口から出た言葉は、この学園都市においてにわかには信じられないようなコトだった。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。今、学園都市第七学区は同時多発テロを受けています。安全を図るため、皆さんには今から避難所に移動してもらいます」

293三日間〜Three Days〜 3rd.2:2010/08/29(日) 20:12:45 ID:cYKIHrWo

「……んっ……」
 第七学区に響く爆発の轟音で黒いスーツの少女、リア・ノールズは目を覚ました。
 ゆっくりと意識が覚醒していく中で、彼女は自分の状態を確認していく。
 場所はホテルのような部屋。どうやら自分はベッドではなくその床に転がっているようだ。体はまだ起ききってはいないようで力が入らない。なぜこんな状況なのか。昨夜はたしか・・・
(篠原っ!?)
 全てを思い出し一気に起き上がろうと体を起こした瞬間、バチィッとリアの全身に白っぽい電流が走った。
「うあああああああっ!!」
 その痛みに強制的に力が抜け、体は重力に従い元通りドサッと床へと転がる。それと同時に体を走る電流はスッと消えていた。
(い……まのは……?)
 もう一度起き上がろうとしてゆっくり体を起こすと、その前にやはり電流が流れて今度は声もなく床へと転がった。そしてまたも電流は消えていく。
 リアはこれに見覚えがあった。篠原が扱っていた能力である。
 そもそも彼は原石と呼ばれる天然の能力者だと聞いていたのだが、彼女の知る限り、こんな風に動くものに反応する力は彼は持っていなかったはずである。
 篠原が言わなかっただけかもしれないが、リアはそれより高い可能性について考える。

 篠原圭は魔術師だ。

 魔術というものが具体的にどのような力を指すのか見当もつかないが、もはやリアにはもとある能力を何らかの魔術によってそう使えるようにしたのかそもそも能力自体が最初から魔術によるものなのか、なんにせよ魔術が絡んでいるとしか思えない。
 そして、彼はその得体の知れない力でリアをここに監禁しようとしている。儀式の邪魔になるのを防ぐためだろう。
 昨日の会話であいつは儀式によって死ぬと言っていた。冗談か何かと思いたいが、この状況でそう思えるほどリアは楽観的ではなかった。
(……っざけんなっ……!!)
 リアは心の中で叫ぶと歯を喰いしばりながら体を一気に起き上がらせる。
 当然、少女の全身には白い電流が流れた。それに表情を苦痛に歪め、声にならない声を押し殺し、それでも彼女は倒れない。

 約束したのだ、あいつの母親と。
 決めたのだ、あいつを見守り続けると。

 リアは昨日倒れ際に見た、表情を歪める幼馴染の顔を思い出した。
「……待って……なさいよ……」
 手をひざに置き、小刻みに震える足を必死で押さえつける。
 そして流れる電流を承知で前へ進み始めた。
 場所なんてわからない。だが進むしかない。
 何もわからないが、だからこそあいつを死なせるワケにはいかない。

294三日間〜Three Days〜 3rd.3:2010/08/29(日) 20:13:20 ID:cYKIHrWo

 校庭には避難のために全校生徒が各クラスごとに集められおり、既にまとまって校外に出ているクラスもいた。行き先は第七学区の総合体育館である。第七学区内が危険であることには変わりはないのだが、それでも一ヶ所に集まってくれた方が守りやすいためというのが警備員の考えだ。
「はーいみなさん、ちゃんと準備はできましたか?」
 そんな緊迫した状況のなか、まるで遠足の引率でもするような小萌先生の声が響いている。
 その前には彼女のクラスの生徒達がざわざわと騒ぎながらも、先生の横の吹寄が率先して仕切っているため何気に統制が取れていた。
 そのまとまった集団から一人がこっそり抜け出ようとしているのに気付き、小萌先生はリーダーを勝手に吹寄に任せて慌ててそっちに駆け寄っていく。
「ちょっ、上条ちゃん一体どこに行くつもりなんですか?」
 上条はこっちを向きやべっというような罰の悪い顔をして少し考えるそぶりをした後、諦めて小萌先生の方へと向かってきた。
「先生、俺インデックスを迎えに行ってくるよ。こんな危険な中にあいつを放っておけない」
 まっすぐな目をしたまま言い切る上条に対し、思わず担任教師は少し怯む。
「で、でも学校以外の寮や施設は警備員の方々が見てくださいますし、なにより危ないとわかっていて生徒がその中へ行くのを黙って見逃すわけにはいかないのです!」
「そうなんですか?でも警備員っていっても万能じゃない。やっぱりあいつのことわかってる俺が行くのが一番だと思うんです」
「むぅぅ……」
 彼の性格はわかっているつもりだ。誰かを助けるために危険に飛び込むことさえ顧みず、それを当たり前のことだと思っている。
 こんなときのこの少年が折れることは決してない。
 はあ、とため息を一つこぼし、観念したような小萌先生は上条に向かって苦笑いする。
「わかりました、こんなときの上条ちゃんには何を言っても無駄ですからね。ただし条件が一つ!」
 いきなり真剣な顔になった小萌先生に、思わず上条は緊張して姿勢を正す。
「ちゃんとあの子と二人、無事に帰ってくるんですよ」
 それと警備員の人に見つかったら事情を説明しておとなしく引き下がること、と何気なく二つ目の条件をつけて小学生にしか見えない教師はにこっと笑う。
「……ありがとう、小萌先生。絶対にあいつと戻ってくる」
 そう言って上条は踵を返し、校舎の裏口に向かって駆けていく。
 姿が見えなくなるまで見送った後、とりあえず小萌先生は吹寄がふざけている青髪ピアスへ制裁を加えているのを止めるため、自分のクラスの方へと向き直った。

295三日間〜Three Days〜 3rd.4:2010/08/29(日) 20:13:53 ID:cYKIHrWo

 とくに広くもない路地の途中にキャンピングカーが停車している。
 本来そこは駐車禁止のはずの場所だがそれを咎めるものも迷惑そうにするものもいない。
 というより、周りには人も車も存在しなかった。原因は今も鳴り響く爆発である。
 そんなわけでこの広い空間を貸切状態であるキャンピングカーの中では、机の上に広げられた第七学区の地図を挟むように二人の男が座っていた。
「ようするにやつらが二十分前に襲撃した場所はこの三つ、その五分後、十分後での場所はここだ、つまり……」
「なるほど、円を描くように移動していますね。目的は魔法陣の描画といったところでしょうか」
「恐らくな。それで中心のここにはやつらの親玉がいるってところだろ」
「ですね。ところで、敵は三、三、二と分かれているようですが事前に聞いていた人数だとあとの二人はどこに?」
「不慮に対する予備か他の目的があるか……。どっちにせよそっちの方はとりあえず周りを潰してから考えりゃいい」
 地図にペンで書き込みながら土御門元春は不適な笑みを浮かべる。その対面では一見好青年な身なりをした海原光貴が腕を組んで地図を眺めていた。
「ちょっとあんたたち、自分だけ勝手に納得してんのはいいけどいい加減説明してもらえるかしら」
 少し離れたところから声をかけたのはさらしのように桃色の布で胸を隠し、その上からブレザーを羽織った女子高生、結標淡希だ。
 壁にもたれるように深く腰掛けて楽な格好のまま、彼女は視線だけをこっちに向けている。
「そう難しいことじゃない、こいつらは街中を円を描くように移動している。もっともあと少しで円自体は完成するんで、次にこいつらがどう移動するかはわからないから先回りはできないが」
「ようは見つけ次第撃破ということですよ」
 結論を先に言われ、土御門は少し面白くない顔をする。いいところを奪った海原はといえば笑顔のポーカーフェイスを崩さない。
「おい、聞いてたか!」
 半分八つ当たりのような感じで金髪サングラスは簡易ベッドに転がる白っぽい塊に向かって叫ぶように声をかけた。
「うっせーな、聞こえてンよ」
 めんどくさそうに声を返した後、それはゆったりと体を起こす。
「街中でハシャいでるクソどもをブチのめしゃいーンだろ?」
 赤い瞳をじろっとこちらに向けて一方通行はそう答えた。それに対して土御門はにやりと笑う。
「そーいうことだ」

 土御門元春、一方通行、海原光貴、結標淡希。
 この四人は『グループ』と呼ばれる社会の裏で活動する小組織だ。

 上からの指示によって学園都市の闇に関わる事件を対処している。だからといって、『上』の忠実な番犬というには彼らはあまりにかけ離れてはいるが。
 やるべきことが決まり、あとは現場近くまで移動だというときにふと海原は疑問を投げつけた。
「そういえば周りを処理するのはいいんですが中心はどうするんですか?」
 その問いに対し、土御門は相変わらずの不敵な笑みを浮かべて答える。
「心配するな」
 そう言いながらポケットから携帯電話を取り出し目的の番号を開いた。
「当てはある」

296三日間〜Three Days〜 3rd.5:2010/08/29(日) 20:15:33 ID:cYKIHrWo

「わわっ」
 何度も爆音の鳴り響く学園都市の街中をインデックスという名の少女が振動に足元を取られながらも走っていた。
 彼女の名前の禁書目録とは、文字通り禁書など十万三〇〇〇冊の内容を全て知識として持っていることに由来する。彼女自身は魔術を使うことはできないが、それでも今も起こっている爆発が魔術によるものだとわかるくらいの察知能力はあった。
(一昨日ゲームセンターで感じた魔力の流れに似てる……)
 実は一昨日も魔術が近くで使われたことはわかっていたのだが、あまり大した力も使われていなかったのと近くに上条が居たために大丈夫だろうとたかをくくっていた。
 しかし今回は話が違う。
 なにしろ大きな爆発が、それも一度に違う場所で起こっているのだ。ならば、魔術の専門家である自分が解決しなければいけない。
 そう考えるインデックスは魔力の流れを追って走り続ける。
 ふと別の小さな魔力を感じ視線を横に逸らすと、道路の脇に見知った人間が倒れているのが見えた。黒いスーツを着ている昨日も一昨日も会った少女、リアだ。
「どっ、どーしたのリア!?」
 シスターはその少女へ近づくと、彼女の体に魔術がかかっているのがわかった。
 これは拘束、あるいは拷問などで使われる動作を禁止する類の魔術だ。あまり殺傷能力は高いものではないが、無理して動いていたのであろうこの黒スーツの少女は目に見えて衰弱しており、息も絶え絶えとなっている。
「ど、どーしよう。私じゃ解除用の魔術は使えないし、他にやってくれそうな人もこの辺にいないし……」
 やっぱりここは、とインデックスは使い慣れない携帯電話を取り出した。
 目的はこの携帯電話を与えてくれたツンツン頭の少年だ。彼なら解除用魔術うんぬん以前にその右手の力で全ての異能の障害を消し去ってくれる。
 だが、問題はこの携帯電話という文明機器だ。電話をかけたい相手の電話番号を電話帳から引っ張り出し、ボタンを押す。言葉はわかるがそもそもじゃあどこに電話帳なんてものが付いているのかがわからない。
「ううっ、こんなときにリアが元気ならリアからとうまに電話かけてもらえたのに」
 そもそもの前提条件を無視した矛盾を口にしながら、それでもその手の中の文明機器を必死にピコピコ動かす。
 そのとき突然、魔力を持った人間が近づいてくるのを感じてインデックスはそれをいじるのをやめた。そして目の前にはいつの間にか二人の黒いスーツを着た男がそこに立っている。
「禁書目録だな」
 そいつらの腕にはリアの腕についているものと同じリングが付いていた。リアのものと違うのはⅩⅡとは別の数字が付いていることと、爆発しているところから感じた魔力を帯びているというところだろうか。
「悪いが拘束させてもらう。逆らうようならば命の補償はしない」
「あなたたち、リアの仲間だね。なんでこんなことをしてるのかな。それにリアが今こんな状態なのはあなたたちがしたことなの」
 街中で暴れていることより友達を苦しめているかもしれないということに対する怒りを優先した感情で黒スーツに問いかけるインデックス。だがその問にはもう一人のへらへらした黒スーツがバカにしたように答えてきた。
「はっ、人の話聞いてたか? お前はやられる側なの、発言権なんざねーんだよ。大体なんでそいつはんなとこで転がってんだ、使い捨ててポイされたんじゃなかったっけ?」
 その言葉にインデックスは男二人を睨みつけ、リアから少し離れながら構える。
 魔術も使えず、勝ち目も少ないがそれでもこの男達は許せない。
 一方へらへらした黒スーツの片割れは、相手の反抗する姿勢を見てにやぁと邪悪に笑う。
「おい、勝手な行動は」
「いーじゃねーか、別に殺しちまってもいーんだろ? あっちはやる気まんまんだし危険分子の確保なんてつまんねー役もらってんだ、ちょっとくらい楽しんだっていーだろが!」
 そういってその黒スーツはリングを巻いた右手をこちらに向けてくる。
(ルーンを用いてリングの中に魔法陣を精製し、いろんな力を作り出す。爆発もそれによるものだろうけど、この魔力の感じなら使ってくるのは一昨日感じた力の・・・)
 リングの周りを複数の小さな光の玉が取り囲み、同時にリング自体も光りだした。
(電撃!)

297三日間〜Three Days〜 3rd.6:2010/08/29(日) 20:16:29 ID:cYKIHrWo

 インデックスはばっとリアのいる方とは逆へと飛ぶ。直後、インデックスの居た場所に白い電流が飛びドガァッとそこのアスファルトを掘り起こした。
 黒スーツは舌打ちして右手を逃したシスターの方へと向ける。そのシスターは、地面に向かって転がってた石で何かを書いているようだった。
「くそったれが!」
「CR(右方へと変更)!」
 癇癪を起こしたように電流を飛ばすが、インデックスが叫ぶと同時にそれは彼女の右側へと逸れる。そしてそのまま左側へと走ると同じようにアスファルトに何かを刻む。
「なに抵抗してんだウサギが! さっさとくたばれ!」
「加勢しよう」
 右手から電流を飛ばし続ける黒スーツに加え、後ろで傍観していた男までもがリングをつけた左手から大量の氷の塊を飛ばす。
「CR! C、きゃっ」
 相手の魔術に割り込み誤作動を引き起こす強制詠唱。それをもってしても逸らしきれなかったいくらかの氷弾がシスターを襲う。腕と足のところをかすり、多少の血が出るがそれでもインデックスは止まらずに足元に向かって石を動かし続ける。
 それを見た落ち着いた方の黒スーツはふうとため息を付いた後、左手をシスターから少し逸らして構えた。
 そして次の瞬間、ドゴォッという音と共にインデックスの横で爆発が起こる。強制詠唱によって多少逸らしても爆風から逃れることはできずにシスターは五メートルほど横へと転がった。
「手間取らせやがってガキが……」
 右手にリングを巻いた黒スーツが怒りに歪めた顔をへらへらしたものへと戻した。
 それでもシスターは地面に向かって何かを書くことをやめはしない。
 それに業を煮やした黒スーツはガッとその手を踏みつける。
「何してんだ、無駄なんだよ! 所詮お前は知識しかもたねぇただのガキだろうがっ!」
 その言葉に反応して睨むように上を向くシスター。その目は決して諦めたものではなかった。
「……もういーよお前。冷めたわ」
 完全に興味をなくした顔をして黒スーツは振り返る。そのまま離れていくのを見てこのままどこかへ行く気かと一瞬インデックスは思う、だがそうではなった。
 距離をとった黒スーツはこちらに向き直り、右手をかざす。
「吹っ飛んじまえ」
 顔を歪な笑い顔に変え、右手のリングが光りだす。その光と距離をとったことでシスターは悟った。
 相手は爆発の魔術を使う気だ。
 だが、絶望に染まるはずのシスターの顔はなぜかにやりと口元を吊り上げるのみだった。

「RCP、FPS(力を逆流、空間を固定)!」
 瞬間、さっきとは規模の違う爆発が起きる。その轟音ははるか遠くまで響き、地面は震えた。

 ただしインデックスは傷を負うことはなかった。
 爆発は黒スーツを中心に起こったからである。なおかつその爆発は自然のものとは違い、ある一定の円の中のみにしか被害が出なかった。その円周上にはインデックスによってルーンが刻んである。
(リングと同じルーンを刻んだ魔法陣を作ることで、強制詠唱による干渉の範囲を飛躍的に広げる。あとはその力を逆流させることで自爆させて、その範囲を限定すればいい)
 ところどころを黒く汚した修道服を着た少女がその場をのろのろと立ち上がる。その視線の先にはさっきまで優位に立っていた二人の男が倒れていた。
「……える」
 別の場所で未だやまない爆発に声を消され、もう一度インデックスはその声を上げる。
「私だって戦える」
 その言葉に答えるものはここには居ない。
 そしてシスターは友達の様子を見るべく爆心地に向かって背を向ける。
 戦闘中の爆発で彼女が無事かどうかわからなかったが、それでも目立った傷のようなものもないことが確認できてインデックスは安心する。その瞬間、

「禁書、目録……!!」
 後ろでガサッという音と共に声がした。振り返ると、左手にリングを付けた男がこちらに向かってその手を伸ばしている。
 リングは光っており、気付けばそこからは既に電撃が発射されていた。
(間に合わない!)
 強制詠唱を唱える時間すらなく、ただインデックスは呆然とそれを見ているしかなかった。
 だめ、直撃する。
 そう思って覚悟したインデックスが次の瞬間見たのは

 その電撃を右手を伸ばしてかき消す見覚えのある少年の後姿だった。

298三日間〜Three Days〜 3rd.6:2010/08/29(日) 20:18:37 ID:cYKIHrWo
 とりあえず今回は以上です。
文がまとまらず、当初の予定よりだいぶ長くなりそうな…
飽きずに根気よくお付き合いいただけたら幸いです。
感想と罵倒お待ちしてます。

299■■■■:2010/08/30(月) 01:05:42 ID:rYZ5s8hw
>>298 GJ
篠原圭は(神裂のような)聖人である魔術師のようですが、リアが篠原を原石(能力者)だと言って
いるのは単純に魔術のことを知らないリアが原石(能力者)と誤解しているだけなのでしょうね。
それとも本当に学園都市のカリキュラムを受けても平気な魔術師なのか?
これから篠原圭の死による大魔術が発動するようですが、ひょっとして篠原圭は一方通行をも凌ぐ
ほどの化物的強さなって復活するのか?これからの展開が楽しみです。

300三日間〜Three Days〜 3rd.6:2010/08/30(月) 14:13:30 ID:cTkFBEYQ
>>299
 感想ありがとうございます!
するどいですね。あるいは自分の発想が安易なのか…
とりあえず、最後まで頑張りますのでよろしければ
お付き合いお願いします!

301かぺら:2010/08/31(火) 19:55:40 ID:Xx79818Q
こんばんは。
もはや誰も待ってないであろうLibertaの続きを置いていきます。

20:00より10レス借ります。

302交戦1:2010/08/31(火) 20:00:41 ID:Xx79818Q
 雨宮が口を閉じるまで、他3人は誰1人として口を開くことはなかった。
「それで、学園都市に来て、お前は何をしようとしてんだよ?」
 上条は複雑な表情を浮かべて雨宮を見る。
「ローマ正教が気に食わないから、今度は学園都市につくってことか?」
「……………」
 雨宮は黙ったままだった。そんな彼の姿に、上条は歯噛みする。
「逃げてきただけだ」
「逃げた?」
「あぁ、そうだよ。ローマ正教に、付いていけなくなった。だから逃げた」
 雨宮は槍を影に戻してその場に立ちあがると、くるりと上条達に背を向けた。
「また逃げんのかよ、テメェッ!!」
「悪いかよ! 俺には何にも出来なかったんだ!」
 上条の叫びに呼応するように、雨宮の声に感情が混じる。
「こんな力があっても、何にも出来なかったんだ。人を殺す手段にしかならなかったんだよ」
 雨宮は上条に向き直る。
 悲しみと怒りを半々にしたような表情で、右手を握っていた。
「……その気持ちが、お前に分かるってのかよぉぉぉぉおぉッ!」
 雨宮が地面を蹴り、上条に向けて拳を突き出す。
「くっそぉっ」
 上条は横っ跳びにそれを回避すると、地面に転がる。
 刹那の後、上条の立っていた場所に雨宮の拳が突き刺さる。
 上条はよろよろと、その場に立ちあがる。そして真っ直ぐに、雨宮の目を見据える。
「分かんねぇよ」
「あぁ!?」
「テメェの気持ちなんて、分かんねぇっつってんだよ!」
 上条は叫ぶ。すぐ前にいる魔術師に向けて。
 目の前の、クラスメイトに対して、真っ直ぐに走りこむ。
 腰を捻り、振りかぶった拳で雨宮の顔を狙う。
 雨宮はそれを左手で受け止めると、上条の走りこむ勢いをそのまま利用して、彼の身体を投げ飛ばす。
「ッがぁ!!」
 背負い投げの要領で飛ばされた上条の身体が地面に叩きつけられる。
 肺の中の空気が吐きだされ、一瞬だけ、意識が飛ぶ
(負けて、らんねぇんだよ……)
 上条は動きの悪い身体を持ちあげ、立ちあがる。
(ここだけは、譲れねぇ)
 揺れる視界のまま、雨宮の顔を見据える。
 負けられない。
 そんな戦線を幾つか越えてきた。
 一万人の命や、学園都市の平穏を背負うような、今よりももっと重い戦いの場もあった。
 それでも―――
(こんな全てを諦めたようなやつに、負けるわけにはいかねぇ)
 上条当麻は譲らない。

303交戦2:2010/08/31(火) 20:00:51 ID:Xx79818Q
 立ち上がった上条と、雨宮が対峙する。
 一方はふらふらと足取りすら拙く、一方は真っ直ぐに地を踏む。
 それに反するように、上条の目は真っ直ぐに開かれ、雨宮の目は揺れていた。
 互いの目の色は、それぞれの心を映す鏡のようだった。
「当り前だろうが………」
 上条が口を開く。思いの丈を、吐き出すような声が響く。
「分かんねぇからこそ話をするんだろうが! テメェ1人だけで勝手に納得してんじゃねぇッ」
 一瞬、雨宮の目がポカンと見開かれた。
 『何を言いたいんだ』そんな表情を示した相手に、上条は続ける。
「何もできねぇってのは、出来る事全部やり終えた奴が言うことだ! テメェは今まで何もかもやって来たってのかよ」
「ッ―――」
 雨宮が顔をしかめるが、上条は続ける。言い訳の間すら与えずに、一気に吐き出す。
「一握りの不幸に酔って、テメェの人生がまるまる不幸だなんて勘違いしてんじゃねぇ」
 上条の言葉に、雨宮の動きが止まる。
「だったら、立ち向かえって言うのか? あのままローマ正教に挑んで、死ねって言うのかよ」
「違う! そうじゃねぇ。誰も逃げちゃダメだなんて言ってねぇよ」
 はっ、としたような顔で、雨宮は上条を見る。
「なんでも1人で背負うなよ。周りに助けを求めろよ。それでも駄目なら俺が一緒に逃げてやる」
「……………」
 上条はよろよろと雨宮に近付く。それ以外に、動く者はない。
「なんでだよ?」
 雨宮が叫ぶ。ゆっくりと迫る上条の目から逃れるように、目を伏せる。
「なんでそこまで出来んだよ? 俺に関わらなかったら、お前は不幸にならずにすむだろうが!」
「………俺は元々『不幸』だからな、これくらいなら不幸になんねぇよ。それに」
 上条はそこで言葉を切る。
「友達ってのは、悩みを打ち明けるもんだろ?」
 雨宮の目の前に立ち、上条は右手を握る。


「それでも、お前が何もせずに、誰も頼らずに1人で抱え込むってんなら―――」


 上条は握りしめた右手をゆっくりとあげ―――


「―――まずはその幻想をぶち殺す!」


 上条は右手を振り、雨宮の左頬に叩きこむ。
 防御も、避けることすら忘れた魔術師の身体が吹き飛ぶ。

304交戦3:2010/08/31(火) 20:01:11 ID:Xx79818Q
 人払いが解除された大通りには、すっかりと夜が訪れていた。
「協力は、してくれますね?」
 神裂の言葉に、雨宮は目を伏せた。
「出来得る限り、と言いたいところですが、少し考えさせて下さい」
 雨宮の呟きに、上条は少し笑うと、その肩に手をまわした。
「ちょっとくらい待ってやれって、な?」
 上条は神裂の顔色を窺うように覗きこむ。
 彼女はむむむ、と暫く悩んだ顔をすると、小さく溜息をついた。
「仕方がありません。明日、またお伺いするようにしましょう」
 神裂は五和に声をかけると、踵を返した。
「……ありがとう」
「そういうのは、全てが解決してからにしましょう」
 そう言った神裂の顔はどこか嬉しそうだった。
「上条も、ありがとう、な」
「ん? 上条さんは礼を言われるようなことは何もやってないですよ?」
 そう言って、上条はニヤリと笑ってみせる。
「俺のやりたい事をやっただけだからな」
 照れくさそうに笑う上条に、雨宮は一瞬だけ呆けると、思い出したように口元を緩めた。
「あはははは。やっぱ、お前、変わった奴だよ」
 雨宮はカラカラと笑う。その顔はどこかスッキリとしていた。
「なんか目が覚めたような気分だ」
「んー、そかそか」
 上条は照れたように鼻の下を擦る。
「また、明日な」
「お、おう」
 にっこりと微笑んで、雨宮は夜の帳の降りた街へと消えて行った。
「また、明日、か」
 上条は空を見上げる。
 学園都市の光が、空を照らしている。
(腹、減ったなぁ)
 緊張状態から解き放たれたせいか、一気に空腹感を感じる。
 ぽんぽんと自分の腹を叩く。ピリッとした痛みが駆け抜ける。
 そういえば、身体中ボロボロなんだっけか、と思い、首を回す。
 ボキボキと骨が鳴る。
(なんか、忘れてんだよな)
 課題でもねぇし、補習もちゃんと受けてきたし。
 指を折って1つずつ考えてみるも、なかなか思いつかなかった。
「あ―――」
 8つ目まで数えて、上条は目を見開く。
 脳裏によぎるは、白いシスターさんだった。

305交戦4:2010/08/31(火) 20:01:26 ID:Xx79818Q
「ねぇ、とうま」
「な、なんでしょうか、姫?」
 上条は冷や汗を流しながらインデックスの前に正座していた。
(な、なんだか凄く怒ってらっしゃる!? おかしい。五和にならって餌付けしたというのにッ!!)
 上条は目の前で怒りオーラを放っているインデックスを見据える。
 その雰囲気からは『もういつでも噛みつけます準備万端ですぜ』と言われているようだった。
「イ、インデックス、さん?」
「とうま。とうまは今日は真っ直ぐに家に帰ってくるはずだったよね?」
「は、はい。そうですね」
 上条は学校に向かう前に『真っ直ぐに帰ってくるから』と言い残していた事を思い出す。
 三バカの一翼を担う上条の頭でも『覚えている』のだから、目の前の少女が忘れているわけがない。
「じゃぁ、なんでこんなに遅くなったのかな?」
「いやいやいや、インデックスさん。ソレには深いわけがありまして、補習だったんですよ―?」
「『ほしゅー』をやってる日でもこんなに遅くはならないよね?」
「ううっ」
 ぐぅの音も出ない、とはこういうことを言うのだろうか。
 上条はインデックスからゆっくりと目線を背ける。
 背けた先ではスフィンクスが『毎度毎度飽きねーよな、こいつら』というような顔で毛づくろいをしている。
「あ、あのですね」
「言い訳は良いんだよ」
 インデックスは上条の言葉を遮ると、顔を俯ける。
「それに、なんだかボロボロだし」
「…………インデックス」
 上条が目線を戻すと、涙目のインデックスが鼻を赤くしていた。
「ねぇ、とうま。今度は誰のために戦ってきたの?」
「……なんていうか、自分の為だよ」
 上条はインデックスの頭に手を置き、わしゃわしゃと撫でた。

306交戦5:2010/08/31(火) 20:01:36 ID:Xx79818Q
 とある河川敷。
 上条と別れた雨宮は、川沿いの小道を歩いていた。
(ちょっと、頑張りすぎたかなぁ)
 動きの悪い身体に、雨宮は落胆を隠せないような顔で息を吐いた。
 『一握りの不幸に酔って、テメェの人生がまるまる不幸だなんて勘違いしてんじゃねぇ』
 『なんでも1人で背負うなよ。周りに助けを求めろよ。それでも駄目なら俺が一緒に逃げてやる』
(勝手なことばっかり言いやがって―――)
「お前が言う事かよ」
 言葉の内容とは裏腹に、口調は穏やかなものだった。
(にしても、あんな事言われたのは初め―――!?)
「ッ、ごほっ、こほッ」
 肺の奥から飛び出すような咳に、雨宮は慌てて口を押さえる。
 息と一緒にとびだした『それ』は、生温かい鮮血だった。
「………………」
 雨宮は顔をしかめると、口元を拭う。
 溜息をつく。
 何が変わるわけではない。それでも、自分の中に溜まる黒いものを吐き出す様に。
「あーまみーやさーん」
「ぅっ!?」
 声がひとつ。
 慌てて振り返った先には、黒髪の女の子が立っていた。
「さ、佐天サン!?」
「はーい、貴方のアイドル、佐天さんですよー」
 いえーい、と言わんばかりに、佐天はピースサインを見せる。
 その元気な視線から隠す様に、雨宮は血濡れた右手を自分の後ろに隠した。
「………あれだ、なんていうんだろ………殴っていいか?」
「えー、これでも女の子なんですよ」
 にこにこと笑う佐天を前にして、雨宮は大きく息を吐いた。
(無邪気と言うか、好奇心旺盛と言うか……)
 雨宮はニヤついている佐天の顔を気にしつつ、少しだけ懐古する。
(今まではなかなか無かったよなぁ、こんな顔を向けられるなんてさ)
 上条にしろ、佐天にしろ。喧嘩を吹っ掛けてきた美琴でさえ、雨宮にとっては好ましい態度だった。
 今まで、興味を向けられるような、気味悪がられるような、そんな視線ばかりを受けてきた。
 例えるならば、最新兵器の展示会の様な、そんな目線を。
(大切にすべきはこういうのなんだろうね)
 自然と、口元が緩む。
「なに考えてるんですか?」
「なんでもねーですよ」
「いやいや、何か黄昏れてたじゃないですか」
 不敵に笑い、下からのぞきこんでくる佐天にたじろぎながら、雨宮は左手でその頭を押し戻す。
「今日の晩御飯は何にしようかなー、って考えてたんですよ」
「あははっ………そういうことにしておきます」
 佐天はにんまりとしながら雨宮に背を向ける。
「少し、愚痴ってもいいですか?」
 振り向いた佐天の顔は、先程とは違う色だった。

307交戦6:2010/08/31(火) 20:01:46 ID:Xx79818Q
「あれから、1人で練習したりしたんですけど、全然上手く行きません」
「…………そう、なんだ」
「あのとき少しだけ出た能力も出なくなっちゃって―――」
 佐天はその場から2、3歩進み、空を見上げる。
 丸い月が学園都市を照らしていた。
「―――やっぱり、私には無理なのかなって」
「諦めちゃうの?」
 雨宮はいつもより小さく見える佐天の背中に向けて呟く。
「逃げるのはいつでも、誰でもできる。全部やってから、諦めろって―――」
(俺もさっき教えられたことだけど……)
 雨宮は自嘲気味にぼやく。
(テメェも出来てない事を……人に言えた身じゃないのにな)
「……レベル4の、大能力者のあなたには、やっぱり分からないですよ」
 消え入るような声だった。くぐもった声だった。
 それでも、感情のこもった、想いのこもった、そんな言葉だった。
「……………」
 雨宮には言い返せない。
 佐天の言葉を否定する事さえもできない。
 そんな資格がないと、そうも思っているが―――。
 そもそも、レベル4どころか超能力者ですらない。自分を偽っているのだから。
「俺は―――」
「あはははははははははッ!! なぁに人間染みた事やってるんですかぁ?」
 雨宮の言葉を遮るように、楽しげな女の声が響く。
 バッ、と音が鳴るような勢いで振り向いた先には、黒いコートに身を隠した女が一人立っていた。
「久しぶり、っていうのが一番合ってるかな? 雨宮くん」
「……な、んで」
 雨宮の顔が驚愕に歪み、佐天は理解できないような顔でキョロキョロしている。
 最大限に張り詰めた視線の先で、女の顔を隠していたフードが落ちる。
 顔の右半分に面をつけた女は相変わらず楽しげに笑っている。
「忘れた、とか哀しい事は言わないでくださいね、雨宮くん。いや―――」
 不敵に笑っていた女の表情が崩れ、敵意をむき出しにした顔が現れる。
「―――実験動物、って言った方が良かったですかね?」
「パウラ=オルディーニ……」
 雨宮が吐き捨てるように言うと、パウラは嬉しそうに口角を上げた。
「あはっ、はははははッ! バケモノでも覚えるくらいは出来るんですね」
 ニヤリと歪めた口元に、雨宮は恐怖を感じた。
 憎しみだけでない、様々な黒い感情が入り混じったようなその笑顔は、まるで地獄のようであった。
「ん、なっ……」
 がくり、と膝から落ちるように、佐天が崩れ落ちる。
 その顔には感情は浮かんでいなかった。
 『理解を超えた何か』を見た、そんな顔だった。
「おやぁ? その子はガールフレンドかなにかですか?」
「うぁっ!?」
 向けられた視線から逃れるように、佐天は足掻く。
 抜けた腰に力は入らず、じたばたと溺れたように手足が動くだけだった。
「やめろ……コイツは関係ないだろ」
 雨宮は2人の間に割って入るように立つ。その左手には鉄槍『ヴィグ』が握られていた。
「おっと、ワタシと戦えるんですか?」
「ちょっと教えられてね、逃げちゃダメな時もあるんだとさ」
 雨宮は眉を吊り上げ、パウラを睨む。緊張感のないパウラの顔は相変わらずニヤニヤしていた。
「ふんふん、敢えて、もう一度聞きましょうか。私と、戦えるんですかね?」
 パウラは自分の左手で右手を指差す。まるで『自分の右手を見てみろよ』と言わんばかりの動作に、雨宮の右手に視線が集まる。
「あ、あ、あああ、あまみ、や……さん?」
「………………」
 血に濡れた右手を隠そうと、雨宮は手を握る。
 その動作をどうとったのか、パウラはニヤリと笑う。
「そんな身体で、戦えるのかなぁ? あ・ま・み・や・くん?」
 ニタリと笑うパウラに、雨宮は地を踏みしめた。

308交戦7:2010/08/31(火) 20:01:57 ID:Xx79818Q
「逃げろ」
「え?」
 張り詰めた空気の中で、雨宮が呟く。言葉をかけられた佐天は、キョトンと固まるのみだった。
「いいから。ちゃんと立って、全力で走れ。振り返んな」
「な、何を言ってるんですか?」
 雨宮は佐天にに振り向くことなく、油断なく構えていた。
 その目は限界まで引き絞った弓のように張り詰めていた。
「な、何かの遊びですよね? あはは、ドッキリ、とかですか?」
 佐天は混乱した頭をなんとか引き締めようと無理矢理に笑う。
 余りにも現実離れした光景に、目が回りそうになる。
「説明は後だ。早く走れ」
 雨宮は笑わない。笑っているパウラの顔も、冗談だとは言っていなかった。
「な、なにが、?」
「あはははッ! いいですねぇ。随分と人間っぽくなったじゃないですか」
 パウラは大声で笑う。その声は心底楽しそうであり、心底残酷であった。
「殺してあげる」
 ニィッ、と笑ったパウラが右手を挙げた瞬間、光線にも似たものが走る。
「ッ!?」
 その光が見えたと同時に、雨宮は全力を持って宙を舞っていた。
「え、え、ええっ!?」
 その腕の中には小さく震える佐天がいる。
「口閉じてろ」
 舌噛むぞ、と続け、雨宮はパウラから50mほど離れた川沿いに降りた。
「とりあえず、どっかに隠れてて」
 雨宮はそう言い残し、思い切り地を蹴る。
 ドンッ、と大砲のような音が鳴り、まさしく撃ち出された砲弾のごとく雨宮の身体が駆ける。
「うおおぉぉぉぉァァァッ!!」
 全身の捻りを利かせてから打ち出した槍の一撃は、当たればトラックでさえ粉々にするような威力だった。
 霊装ヴィグの効力は1つ。致命傷になりうる攻撃を全てゼロまで軽減するというもの。
 直接打ち込めば何事もなかったように進むだけだった。
(だったら、目標をずらして、立ってる地面ごと吹き飛ばす!)
 雨宮の狙い通り、振るわれた一撃は確かにパウラの少し前に決まっていたはずだった。
「あははッ! 流石に、化け物じみた威力ですね」
「なっ!?」 
 槍の切っ先は地面に決まることなく、パウラの手に収まっていた。
「貴方の狙いは分かってますよ? だったら自分からぶつかりに行けばいいんじゃないですか」
 パウラは笑みを崩さない。絶対に負けはないと自負しているかのような目で、雨宮を見る。
「だって、当たってもダメージがないんでしょう?」
「くっ……んならァ」
 雨宮は右手を振るい、パウラの顔面を狙う。
 腰の捻りの利いた一撃が致命傷にならない程度で繰り出される。
「はああああぁぁぁぁぁっ!!」
「甘い、甘いよ、雨宮くん?」
 その一撃はパウラの小さな右手に収まっていた。
 致命傷にならない、と言っても、聖人級の能力を持って繰り出された拳がいとも簡単に受け止められていた。
「な、んで?」
「あはははははははッ! 仮にも貴方を『作った』のはワタシなんですよ?」
 パウラは笑みを絶やさない。そして、自信たっぷりの顔で続けた。
「対策してこないワケがないでしょうよ」
「ごはぁっ!?」
 パウラは左手を開く。それだけの行為で、雨宮の身体が数メートルも吹き飛んだ。

309交戦8:2010/08/31(火) 20:02:07 ID:Xx79818Q
(な、何が起きたんだ?)
 雨宮はふらふらと立ち上がり、ダメージを受けた部分を見る。
 小さな爆弾によって吹き飛ばされたような、そんな傷跡だった。
「お前、なにをした?」
「うんうん。そんなこと、知らなくてもいいんですよ」
 パウラは地を蹴る。
 ただの人間でしかないはずのパウラのそれは、明らかに常軌を逸していた。
「ッ!?」
「聖人相手にするんだ、能力強化の術式くらい、用意して来るに決まってるじゃないですか?」
 あっという間に距離を詰めたパウラは右手を振るう。
 見えない刃物で切りつけたように、雨宮の身体に傷が入る。
「能力、強化、だと?」
 雨宮は後ろに飛んで追撃を回避し、槍を構える。
(それにしちゃぁ、スムーズだな……)
 もし聖人級の能力強化が単体で行えるのなら、雨宮の様な実験は行われなかったはずだ。
 手軽に、かつ他者の補助がない状態での聖人の量産が目的だったのだから。
「………補助術式を受けてるってことか」
「おおう、御名答!」
 雨宮の言葉に、パウラは嬉しそうに答えた。
「科学者たるもの、自分の研究や成果を発表する時が一番楽しいんですけどね」
 くっくっく、と笑う彼女はそのまま続ける。
「今から死ぬ奴に説明しても仕方ないので、やめときます」
 パウラはちらりと雨宮から視線を外す。
「1人だと、寂しいかな?」
「え?」
 ゆらり、とパウラの身体が揺れたかと思うと、次の瞬間には佐天の前に立っていた。
 まるで姿を消して動いたかのような動きに、雨宮の身体が一瞬固まる。
「あ、れ?」
「すいません。貴方には関係ない事なのだけど」
 佐天は突然目の前に現れたパウラに驚きを隠せない。
 その身体は逃げるどころか、身を守る術すら持っていなかった。
(間に、あえッ)
 雨宮は手に持っていた槍を思い切り投げつける。
 佐天に向けて投げられたそれは直撃コースから逸れないまま、一直線に飛ぶ。
「な、なに!?」
 恐怖で佐天の顔が曇るが、身体は動かない。
 そのまま身体で槍を受ける。
 全てのダメージを軽減した霊装ヴィグは佐天の身体を護るように、2人の間に突き刺さっていた。
「あれ、あたし……生きて、る?」
 確かに貫かれた筈なのに、佐天はぐるぐると目が回るのを感じた。
「それ持ってろッ」
 雨宮の言葉が耳に入る。
 持ってろ、と。だが―――今の彼女には、その意味を理解できるほど落ち着いた理性を保てていなかった。
(ダメかっ)
 雨宮が駆けだそうとした、まさに瞬間だった。
「あははははははははッ!!」
「ッ!!」
 佐天の近くに居たはずのパウラの声が、すぐ後ろから聞こえた。
「楽しいもんですね。全てが上手くいくなんて」

310交戦9:2010/08/31(火) 20:02:19 ID:Xx79818Q
(な、に―――?)
 雨宮の目が驚愕で開かれる。
 何かがおかしい。
 それは分かっているというのに、何がおかしいかが分からなかった。
 手に持っている小さな槍の様な刃物もさっきまでは持っていなかった『はず』だった。
 まるで映像を捻じ曲げたような現象。
 雨宮がパウラの方に振り返った瞬間、稲妻のような閃光が煌めく。
「少しヒントをあげるなら、何のために『魔術御手』を撒いたか、ってことです」
 ズバァァンッ、という轟音が響き、雨宮の身体が河の水面を跳ねる。
 反対側の岸、草に埋もれて、雨宮の身体が止まった。
「『聖人崩し』ですか。急造にしてはいい効果です」
 パウラは持っていた小さな槍を投げ捨てると、一歩ずつ雨宮へと近づく。
 河の上を歩き、少しも濡れないまま、向こう岸へと足をつける。
「偏光、術式……か」
 雨宮はゆっくりと立ち上がる。
 口元からは血が垂れ、足はガクガクと震え、立っているのがやっとであるようだった。
「当たらずも遠からず、ってとこですね」
「そう、か」
 ごぼっ、という水の漏れるような音を立てて、雨宮の口から血が滴る。
「ワタシの魔法名は、覚えておいでで?」
 ニヤニヤと笑うパウラを前に、雨宮は意識が遠のくのを感じた。
 自分の内側から、何かが少しずつ壊れて行っている様な、そんな感覚が全身を襲う。
(魔法名………『unda447』……………示すものは―――)
 がくりと、膝をつく。雨宮にはもう、動く力は残されてはいなかった。
(そうか―――そういう、ことか)
 雨宮は難問を解き明かした時のように、微笑んだ。
 視界から消えたような不可解な動きも、見えなかった武器も。
 最初に現れたときは姿どころか、音さえも感じなかった。
(undaの指すものは―――)
 雨宮は意識を失う。その瞬間に、視界の端で黒髪がなびいた事も、気づけないままに。
「さて、今度こそ死んでくださいね」
「ま、待って!」
 パウラは手を振り上げたまま、声のした方向に顔を向ける。
「もう、止めてください」
「止めなかったら、どうするんです?」
 パウラの視界の先には、佐天涙子が立っていた。
 涙目で、震えた小さな手の中には先程投げ捨てられた小さな刃物が握られていた。
「それで、ワタシを殺しますか?」
「貴方が…止めて、くれないなら」
 震える手を抑えるように、佐天は力を込める。
「まず、届かないでしょうよ」
 ふっ、と鼻で笑う。佐天から興味を失くしたように、パウラは視線を雨宮に戻した。

311交戦10:2010/08/31(火) 20:02:30 ID:Xx79818Q
(確かに、届かない)
 佐天は槍を右手で握り、大きく振りかぶる。
(あたしの力じゃ、何処まで出来るか分かんないけど)
 思い切り投げる。力のない佐天では、河の中腹まで届けば良いくらいのものだった。
「ここでッ! 出さなきゃ、いつだすのよっ!!」
 奥歯を噛み、両手を突き出す。
 一瞬。
 ほんの一瞬だった。
 突風が巻き起こり、投げられた槍を運ぶ。
 ぐさり、と。届かなかったはずの刃は、パウラの背に突き刺さった。
「………あはは―――」
 パウラはゆっくりと振り返り、突き刺さった槍を抜く。
 致命傷にも至らない、大したダメージすら通らなかったであろうその刃も、たしかに『届いた』。
「あはははははははッ! いいでしょう、貴方から殺してあげますよ」
 パウラが笑う。ゆったりと地面を蹴り、佐天に近付く。
「あんな事しなきゃ、死なずに済んだんですけどね?」
「…………や………から」
「はい?」
 少しずつ近づいてくるパウラに、佐天は蚊の鳴くような声で話す。
「諦めるのは、出来る事全部やってからにしないと、いけないから」
 にこりと笑う。
 佐天自身も、何故笑ったのか分からなかった。
 そうしようと思ったのではなく、自然にそう動いた。
「さようなら」
 パウラは手に持った槍を佐天へと投げつける。
 高速で飛んだその槍は、真っ直ぐに佐天の喉元へと飛ぶ。
(もう、ダメッ……御坂さん、白井さん…ういはる……)
 ゴッ、という轟音が鳴り、佐天は身体が投げ出されたような浮遊感を感じた。
 何秒たったろうか、痛みすら襲ってこない状況を不思議に思い、佐天はゆっくりと目を開ける。
 目の前には横たわった雨宮がいた。
(あれ、死んだ世界ってこんな感じなのかな?)
 ふと、見てみると、何処かの屋上に寝かされているようだった。
「気付いたか?」
 佐天がキョトンとしていると、不意に声が飛んでくる。
 低い、質量のある声だった。
「歩けるなら医者を呼んで来い。ちょうど、ここは病院の屋上のはずである」
 青い服を纏った大男は、雨宮の近くに腰掛け何かを呟いていた。
 心なしか正規の戻ったような雨宮の顔に、佐天は少しだけ安堵する。
「早く行け」
「あ、はい!」
 急かされるようにして、佐天は駆ける。屋上からの非常階段を開けたところで、ふと立ち止まった。
「あ、あの……貴方は?」
「貴様が知る必要はない」
「…………………」
 バタン、と扉が閉まり、階段を駆け下りて行く音が響く。
 それ以外何の音もしない空間に、回復魔術の淡い光が灯る。
「ただのゴロツキに、語る名前などあるものか」
 男の独白は学園都市の闇に消えた。

312かぺら:2010/08/31(火) 20:03:42 ID:Xx79818Q
いじょう。
次で最後に…なるはず。
上条さーん、仕事ですよー!

ではでは

313■■■■:2010/09/01(水) 17:35:24 ID:qt26W2vo
>>312
GJです!!
その青い服を纏った人はもしかして......?
て、いうかどう考えてもあの人ですよね。あの人は口調には特徴が有り過ぎる。
次回完結ですか? 楽しみにしています!!


で、なんか最近夏休み云々で全然書けてなかった『禁竜召式(パラディンンート)』の者です。
今回はいつもより1レス多い5レスです!! っていっても自慢にならないよなぁ......

では次から5レス程お借りします。

314■■■■:2010/09/01(水) 17:36:49 ID:qt26W2vo

「もう少し……もう少しだけ、時が満ちるのを待てば良い………」
立て掛けた古い時計は午後七時を回り、この十月十五日に本格的な夜がやって来ようとしている。
そんな僅かに月明かりの差し込むデスクルームに一人の女が佇んでいた。
女の手には朱色のワイン。月光に照らされる黄金髪とその大人びた風貌には、むしろ似合いすぎると言っても良いぐらいその女は部屋の景色に溶け込んでいた。
(『素材』は回収した。しかし、あの小娘共は殺しておいた方が良かっただろうか? ……いや、無闇に殺せば警察や王室派が動く恐れが有る。東洋人の方には勢い余って自己紹介しちゃったけど、何も解って無いようだったし問題は無いか……)
女のすぐ隣には数時間前に『譲り受けた』ウサギのヌイグルミ。可愛い顔の口元から人のの髪らしき物が垂れ下がっているシュールな人形である。
(にしても、あの東洋人の小娘が魔術師だなんて報告は無かったけど、まさか高速でぶん殴ってくるとは思わなかった……でも、なんかあの術式違和感有ったわね。いや、むしろあれは魔術と言うより、もっと別の……?)

その時、後ろ手にある戸入り口からコンコンと言うノック音が聞こえた。鍵は入っていない、と言うとノックした男はゆっくり部屋へと足を踏み入れる。
「……アークライト室長。報告が、有ります」
「だから、ここでは『室長』じゃなくて『支部長』だって言ってるでしょ。北欧の馬鹿共と一緒にしないでくれる? 折角、目の届かない英国へ新しく支部を立ち上げたのに……」
クリスタル=アークライトは手中のワインを一気に飲み干し、部下の男へ本題の説明を促した。男は、はいと一回返事をしてから丁寧な口調で報告へ入る。
「実は、『儀式場』として的確な「場所」の候補が幾つか挙がりました。我々下っ端共では決める権利が御座いませんので、アークライト『支部長』に決定をお願いしようと……」
そう言って部下の男が差し出したのは数枚の資料。一枚一枚違う写真と違う文章が載せれられていたその紙をクリスタルは眉を寄せつつ慎重に窺う。
「随分早かったわね、ご苦労さん……で、候補に挙がったのが『大英図書館』『聖ジョージ大聖堂』『聖ジェームズパーク』『ハイドパーク中央広場』って訳ね……とりあえず最初の二つは除外だ。大英図書館は論外として、聖ジョージ大聖堂には『最大司教』も居るし、あんな所では『人払い』も通用しない」
「では、いかが致しましょう?」
「『聖ジェームズパーク』はイベントに加えて、散歩客、観光客、警察、魔術師まで色々な奴らがぞろぞろ居る場所だし、『人払い』も魔術的な策敵レーダーで感知されたらお終いだ」
「……と、言う事はハイドパークになさるので? あの場所はバッキンガム宮殿に隣接していますから、大規模な術式の発動には不向きかと思われますが」
「いいや。問題無い」
クリスタルは新たなワインの栓を引き抜きながら、弁解を一蹴した。
「バッキンガム宮殿は『それ自体』は強固な、それこそ国家規模の防御術式を張り巡らしてあるが、『その周り』は以外にそうでも無い。一般の魔術に比べれば強大かも知れないが、いつも様に『穴』を見つけて入り込めばこっちの物だ。宮殿の連中は強力な防御結界を張ってある事で多少だが気が緩んでいるから、さっさと忍び込んで『人払い』の改良式を発動してしまえば、忽ち誰も居なくなる。そうすれば安全に簡単に『あの術式』を発動できるって訳よ」
すらすらと原稿を読むように流説したクリスタルを見た部下の男は、一度だけ頷く。
「……なるほど。それでは発動時刻はいかがなさいましょう?」
「午前二時四三分三十六秒。ジャストに『発動』させろ。そうすれば『あの術式』は理論上成功するはずだ。いや……成功する」
「解りました。では、他の者に伝えて発動の準備に取り掛かります」
それだけ言うと、部下の男は静かに戸を閉めた。

再び一人になった女は窓外の月を見つめて誰にも聞こえない声で呟いた。
「(三百年も待った……成功させないで、何が残る?)」

315■■■■:2010/09/01(水) 17:38:25 ID:qt26W2vo

『『禁竜召式(パラディンノート)』については引き続き調べを続けます。……くれぐれも無茶を為さらぬように』
「分かってますよ。少なくとも『同じ失敗』は繰り返しませんから」
そう言うとアニェーゼは携帯電話の電源を切って、修道服の物入れへ入れた。
一瞬何かを考えて、やがて少女は立ち上がった。
「さて。とっとと二五〇人かき集めて仕事に入るとしますかね」

=======================================================================

十月十五日午後七時四五分。食堂。
「揃いましたね?」
食堂のど真ん中、一人だけイスの上に立っているアニェーゼは、周りを囲む二五〇人以上修道女を見わたした。
その多大なる人の中の一人、ルチアは俯き加減にアニェーゼ=サンクティスへ叫び気味に言葉を掛けた。
「いつ間にか立ち直っていたのですね、シスター・アニェーゼ。『いつもの通り』で安心しました」
「何を戯言を言いますか。私は一回も凹んだりしてねえってんです」
相も変わらず事柄を真向否定する少女にルチアは笑って首を振る。それに合わせて周りの何人かのシスターがクスクスと笑っているような気がした。
アニェーゼは下着が完全に見えてしまうほどに(イスの上に立っているので、すでに丸見えでは有るが)足を開いて、二五〇人に全員に聞こえる音量で声を張り上げる。
「部隊長として『お願い』します!! 私とキヌハタを襲いやがった野郎の討伐に協力してください。嫌だと思う奴は出て行ってくれて構いません。異教徒のキヌハタを『本当に嫌う』者も同様です。ですが……」
アニェーゼは小さな体では想像が着かない程の迫力ある豪声で、それこそ寮の外まで聞こえてもおかしく無い声で、『仲間にお願い』した。

「『隣人は愛すべき友』……聖書の教えを憶えている奴は全員付いてきてください!!!!」
修道女達は何も言わずに武器を取った。何かを言わなければ賛否を決められ無いような小さな人間は、アニェーゼ部隊には存在しない。

316■■■■:2010/09/01(水) 17:40:24 ID:qt26W2vo

(私は……なんだかんだ言って、キヌハタが嫌いじゃあ無かったんですね)
結局、アニェーゼが嫌っていたのは『異教徒』では無く、『異教の神』だったのではないか。いや、それすらも嘘なのかも知れない。
実際、信じていたローマ正教に裏切られ、大嫌いだと思っていた異教徒の少年にアニェーゼ=サンクティスは助けられた。それも改心と言う形で。
アニェーゼは女子寮に入ってから、一度だけ考えた事がある。何故自分は十字教に身を寄せているのか。
歩道で泥まみれになっているのを助けてくれたから? だとしたら他の宗教に助けられていれば、その教徒として一生を過ごし、前と同じようにその神に身を寄せていただろう。同じように異教徒を軽蔑の目で見ていたのだろう。
ならば、アニェーゼは結局どこでも良かったのではないか?
(情けねえ話ですよ。『十字教だから』じゃなくて『たまたま十字教だから』なんて)

小さな頃は親が神父の身としては珍しく無宗教で生活してきて、幼い頃に父を無くしたアニェーゼは、ローマ正教に拾われた。以来、神のためと『自分を偽りながら』数年を過ごしてきた。アニェーゼはどんなに尽くしていても神が見返りをくれる事など有り得ないと今でも思っている。だが、それでも神に仕える修道女として身を捧げているのには理由があった。

アニェーゼは心の奥底で、本当に見えないぐらいの奥底で、教祖を裏切れば『また同じような事が起きる』と思い込んでいただけだった。
(要するに怖かっただけなんですね。他の『友達』が傷付いていくのが)
神は居ると思う。だが、呼べばすぐ来てくれるような便利な存在では無い。むしろ、自分の努力の結果を「神のおかげ」だとか聞く方がイライラするし、結局、信仰される側の神は信仰する側の人間には大したお返しはしてくれない。
それでも、
(知った事かってんです。お返しが貰えないなら、貰わなくても済むように死に者狂いで努力すりゃあ良いだけですから)
迷っていた少女は終わらない目的へ向けて一歩踏み出す事にした。
何故オルソラの一件では気づけなかったのか、と心底悔いてから、気づかせてくれた少女へとお礼を言う事を心に誓って。

317■■■■:2010/09/01(水) 17:42:00 ID:qt26W2vo

「……素晴らしい演説でしたね。超感動してしまいました」
収束を終えたアニェーゼが食堂から出た直後に掛けられたのはそんな言葉だった。
「キヌハタ、居たんですか? シスター達の話だとあんまり暴れるんで部屋に閉じ込められていたそうですが」
「あんな細い縄で大能力者を縛り付けられたら、スキルアウトも苦労しませんよ」
もう隠す気は無いのか、と不思議な気分になるアニェーゼは、この少女について一つ気になる事を聞いてみた。
「キヌハタは、今、私が食堂で叫んでいた事、聞いていたんですよね?」
「ええ。超ドア越しですが、耳には入ってました」
「念のため聞きますが……キヌハタは、『クソ野郎討伐作戦』に参加しますか? この作戦は元々私達(シスター部隊)の基本職ですから、貴女が手伝う理由は……」
「超参加します」
即答だった。アニェーゼは思わず身を引く。
「そこまで言うなら……何か戦える『力』を持っているんですよね?」
「もちろんです。詳しくは言えませんが、超学園都市の人間なんですよこう見えて。超能力だってしっかり持ってますから」
……超能力。魔術とは違う異能の力。アニェーゼは学園都市の能力開発について僅かにしか知らない。それも『どんな異能の力も問答無用で打ち消す』と言うイレギュラーな方向でしか。

そんな事は知らない絹旗は学園都市では見せた事が無い緩みと笑顔が混じったような顔で言葉を発した。
「貴方方が、魔術マジュツまじゅつって五月蝿かったんですけど、どうやら『魔法』なんて超ファンタジーな物は有るみたいですね。まだ完全には信じられませんけど」
「? 何故、そう思うんです? 魔術は確かに有りますけど、私だって認識には時間が掛かりましたよ」
「いや、認識というよりは、シスター達は超『それっぽい事』して私を捕獲して部屋に縛り付けたんですから。超信じざるを得ないと言うか……あれはどう見ても『能力』じゃ無かったですし……」
キヌハタを捕まえるために魔術まで使ったのかよ、とそのシスター達への処罰を決定したアニェーゼ。幾ら異能の力を持っていようが、それが魔術を行使する理由には繋がらない。

頭を一回掻いてから、アニェーゼは本題の方へとトンボ返りする。
「とにかく。この『仕事』は、敵未知数、詳細未決定、生存保障無しのギャンブル作戦です。死の覚悟が出来ているのなら付いて来ても構いませんが、心の準備が出来ない場合は付いて来ない事をお勧めします。どうしますか?」
その言葉を聞いた絹旗は、学園都市での日常を少しだけ思い返してから返事を返す。
「……私の『普通』は死ぬ覚悟ぐらい超出来てないと一歩も動けないような『普通』ですから。仲間の数が多い分、こっちの方がまだマシです」
その言葉にどんな意味が含まれているのかアニェーゼには解らなかったが、深入りをして地雷を踏むような馬鹿な事をする彼女では無い。
「……分かりました。では、部隊長としてキヌハタを正式に作戦に招待します」
「光栄ですね。お土産一つの為にこんなに超人数が集まるなんて」

どうやら、そのお土産が危険らしいのですがね、という言葉を呑気に言うアニェーゼと、それを見て笑う絹旗はどうみても仲の良い友達にしか見えなかった。

318■■■■:2010/09/01(水) 17:45:09 ID:qt26W2vo

そんな二人を陰から眺める数人のシスター達が居た。
「(おお!? ついにキヌハタ、アニェーゼの友好条約が結ばれたか!?)」
「(いやあ、やっぱり事件の一つや二つ無いと、仲良しにはなれませんからねえ)」
「(その意味では『対十字教黒魔術』万歳ってとこ? これから戦いに行く相手に何だけど)」
「(まあ、二人が仲良くなったって事でOKでしょ?)」
「「「「(だね!!)」」」」
あっはっはっはと割と豪快に笑っているシスター達は、突如真後ろから強力な殺気を感じた。
ギギギ、と軋んだドアのような音を立てて、シスター達が振り返ればそこには、
「……貴女達は一体何をやっているのですか?(怒)」
「こ、これはこれはシスター・ルチアサマ(汗)。ごきげんよぶぐうっ!!」
振り返ったシスターの一人が言葉を言い切る前にその体がゲンコツ一つで吹っ飛んだ。
「……貴女達は戦いに行く直前だと言うのに、何を呑気に覗き見などとヤラシイ事をしているのですか?」
「い、いやあ、ちょっと二人の友情の進行状況を確認しようと……」
「そのためだけに覗きなどと言うふしだらな行為を行ったと言うなら、少しばかりお仕置きが必要ですね」
「え!? ちょ、ま、って!! ほ、ほら戦いに行く前だから怪我とかしたら大変じゃぎゃぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!!?」
何人かの悲鳴と共に夜の女子寮に割と痛そうな音が響いていく。

=========================================================================

所変わって大英図書館。
「……っ!!?」
オルソラ=アクィナスな絶句していた。
彼女は現在、アークライト家の家宝と言われる『禁竜召式』について追加調べを実行していた所だったのだが、「そう言えばアークライト家が王家直属になった際の『功績』とは何の事でございましょうか?」という素朴な疑問に基づき、アークライト家の先祖を当たっていった訳だが……、
(まさか……その過程でこのような記述に巡り合うとは……。わたくしも運が良いのか悪いのか判断が着かないのでございます……)
アークライト家の先祖となる『その人物』は、オルソラは愚か、魔術を知る者、知らない者までもが一度は名前を聞いたことがある。そんな『人物』を見つけてしまったのだ。
(これが、この記述が本当だとすると『禁竜召式(パラディンノート)』は……)

オルソラは考えてみた。禁竜召式。……そういえば『召式』と言うのは、『召喚術式』を略した言葉として使用できる気がする、と思いついてから、
(……禁竜……!!? これは、不味いのではございませんか!!!?)
最悪の解に辿り着いてしまったオルソラは急いで『シスター・アニェーゼ』の名で登録されている番号へと電話を掛けた。
(早く、でてくだ、さい。シスター・アニェーゼ!!!)
コールが六回、七回と続いていく。そして相手が出ないまま八回、九回と虚しく鳴り続ける。

(これは、このままでは貴女達に勝ち目など無いので御座いますよ……!!!!)

319■■■■:2010/09/01(水) 17:52:23 ID:qt26W2vo
投下終了です。

......今回は誤字脱字の点検を適当にやってしまった気がするので、あったら指摘をお願いします。
バトル始まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! というのは筆者の第一の心情なのでツッコまないで......

ではまた。

320■■■■:2010/09/03(金) 19:09:26 ID:wXGWFeJ6
何故GJコメントがないんだ!?
竜といえば聖ジョージのドラゴンかな?

321■■■■:2010/09/04(土) 09:20:17 ID:fq5FLYAI
そうだ!
何故、GJコメント」が無いのだ。
>>320個人的な予想だと、聖ジョージの竜で合っていると思うが、
それをどうやって召還? するのかが気になるな。
悪口じゃないんだが、全体を見れば単調な話が続いているようにしか見えないのに、
それを細かい所で文章カバーしているのは技術がいる。
前に長編を一つか二つ書いていたんじゃないかな?

322■■■■:2010/09/04(土) 16:16:28 ID:sbgw5kS.
遅ればせながら
>>312 GJです!!
 パメラ怖ぇ…。上条さんの活躍や雨宮と青服の大男がこれからどうでるのか、
パメラの魔法名は?最後までいろいろ楽しみです。

>>319 GJです!!
 次回でとうとう戦闘開始ですね。個人的には絹旗の活躍を見たいとこです!

皆盛り上がってきてるなと思いつつ、こっちはなんか話進まねえ…。
あ、三日間作者です、7〜8レスほどもらいます。

323■■■■:2010/09/04(土) 16:18:05 ID:sbgw5kS.

「うおおおおおおおおおっ!!」
 上条は目の前に立ったぼろぼろの男の顔めがけて右手を思い切りたたきつけた。
 見た目どおり、もともとギリギリで立っていたらしくその男は五、六メートルふっとんだ後起き上がってくるコトはなかった。
「大丈夫かっ、インデックス!」
 後ろにいる探していたシスターはぽかんとした様子でこちらを見ていた。ところどころぼろぼろで、もしかしたらこいつらから致命的な攻撃でも受けたのかと思った瞬間、はぁぁと深いため息と共にへなへなと座り込んだ。
「お、おいしっかりしろよインデックス! まさかあいつらにやばい攻撃でも受けたのか!?」
「……ううん、私は大丈夫。それよりとうま!」
 あっちが突然大きな声を出したので、上条は思わず反射的にはいっと姿勢を正す。
「リアが、リアが大変なんだよ」
「リア? 篠原と一緒に居たあの?」
 いいからこっちとシスターは慌ててこちらを促す。そして彼女についていった先には憔悴しきった黒いスーツの少女が倒れていた。
「なっ、どうしんたんだよ一体! 大丈夫かっおいっ!」
「とうま、説明は後だよ。早く右手で触れてあげて」
 右手? と上条は言葉を繰り返しつつ、ともかく右手で少女の額に手をやる。
 何かが砕けるような甲高い音が辺りに響き、横のシスターはほっと胸をなでおろした。
「なっ……!?」
 その一方で、上条は異能の力がこの少女に使われていたことに驚きを隠せない。そんな少年を尻目に、インデックスは倒れた少女の肩に手をやりゆらゆらと揺さぶった。
「リア? 大丈夫、リア?」
 心配そうに顔を覗き込みながら瞳を閉じた少女に何度も話しかける。やがてその声に反応するように少女の瞼が小刻みに揺れた。
「ん、んん……ここは……?」
「リア、気が付いた?」
「あなた……、ッ!! 急がなきゃ、早くあいつのところに!」
「リア、落ち着いて。あなたはさっきまで拘束魔術の影響で倒れてたんだよ!」
「あっ……、あれっ?」
 リアは自分の手を動かしながらそれを不思議そうに見ていた。
「大丈夫。もう魔術はとうまが消してくれたから」
「……あなたたち、一体……」
「それよりも、だ。なんでお前に魔術なんてもんが使われてんだよ? もしかしてお前……魔術師なのか?」
 しばらく呆けていた上条がその会話に割って入る。
「私は違うわ。でも他の仲間はそうかも。多分……篠原も」
 上条は何も言わずに顔をこわばらせる。よくよく考えればたしかにおかしい所はあった。学園都市にきて間もない少年がなぜ能力を使えるのか。それを教師側が疑問に思わなかったのは篠原達になんらかの思惑があって、履歴をごまかした結果ではないのか。
(ちくしょう、疑念の材料しか思い浮かばねぇ!)
「もう一つ聞かせて、リア。あの人たちは一体何をしようとしているの」
 シスターはそこに転がっているリアと同じ黒いスーツを着た男を指差す。黒スーツの少女は少し驚いたものの、少しして何があったのかをなんとなく理解した。

324三日間〜Three Days〜 3rd.8:2010/09/04(土) 16:19:05 ID:sbgw5kS.

「わからない、私は何も知らされてなかったから。ただ、中心にいたサイモンっていう男は『儀式』って言ってたわ」
「『儀式』……? そうだ、篠原は? もしかしてそれに篠原も関わっているのか!?」
「……ええ。っていうよりあいつも中心になってるみたい。それで……」
「?」
 震えながらリアは言いよどんでいたが、やがて内にある何かを押し切るように話し始める。
「この儀式であいつは死ぬって……」
「!!」
「お願い! あいつを、この『儀式』を止めて! よくわからないけど『禁書目録』と『幻想殺し』っていうのはあなた達でしょう? サイモンはあなた達二人のことを恐れてた、あの二人は危険だって。虫のいい話だってのはわかってる。でも私一人でどうすればいいかわからなくて・・・私でできることならなんだってする。だから」
「当たり前だ!!」
 強い言葉に遮られ、リアは思わず黙り込む。
「当たり前だ、俺だって友達をみすみす死なせるようなことはする気はない」
 上条はゆらっと立ち上がる。その目は何かを決意した目だ。
(ごめん先生、ちょっと帰るのが遅くなりそうだ)
 心の中でここまで見送ってくれた恩師に謝ると右手をぎゅっと握り締めた。
「リア、篠原がどこに行ったかわかるか?」
「ごめんなさい、気が付いたときにはもういなくなってて……」
 そうか、というと上条は考え込む。闇雲に走り回って見つかるとは思えない。ならやはり、今も暴れまわっている他のやつらを押さえて聞きだすしかないかなと思っていると突然ポケットの携帯電話が鳴った。こんなときにと思いながら上条はディスプレイもろくに見ずに通話ボタンを押す。
「はい、もしもし」
『よーかみやん、いまどこにいるんぜよ?』
 その声は今日学校に来ていなかった学園都市の多重スパイの声だった。
「っ! 土御門っ!? 何だよこのタイミング!! まさかお前今起こってる事件に絡んでるとか言うんじゃ……」
『そのまさかだにゃー。てかかみやんの方こそ、まさかもう巻き込まれてるんじゃねーのか』
「そのまさかだよ。それより土御門、何か情報を持ってるんなら聞かせてくれ。できればやつらの中心格の居場所が知りたい」
 そう言って上条は相手の返事を待つ。しかし言葉は返ってこず、よく聞こえるように携帯を耳に近く当てるとなにやらクククッと小さな笑い声が聞こえてきた。
「おい、もしもし? 土御門っ?」
『あーわるいわるい、まさかこう都合よくコトが進んでるとはさすがに思わなくてにゃー』
「都合?」
『いや、こっちの話ぜよ。それじゃあ、やつらの中心に篠原圭がいるってことも知ってるか?』
「……ああ、さっき聞いた」
『じゃあヤツが魔術師だっていうのは?』
「多分ってぐらいだけどな」
『そうか、まーそれはこっちも推測の域を出てないがな。じゃああとはヤツのいる場所ぐらいしか渡せる情報はないな』
「頼む、教えてくれ」
 上条がそういうと土御門は少しの沈黙の後、今度はこちらが聞き返す前に返事をした。
『学校だ』
「へ?」
『俺らが通う学校だよ。お前は今からこっちの用意した協力者と合流して目的地に向かえ』

325三日間〜Three Days〜 3rd.9:2010/09/04(土) 16:19:40 ID:sbgw5kS.

 そして上条は学校までの元来た道を逆走していた。
 なぜ篠原が学校で『儀式』を行おうとしているのか、土御門はどうやって場所を特定したのかわからないことはたくさんあるが他に情報を持たない上条はとりあえず走るしかない。
 インデックスは先に小萌先生達の待つ避難所へ帰るように言っておいた。それについてあのシスターはぎゃーぎゃーとやかましかったのだが、リアが衰弱しているために誰かが付き添うべきだという理屈を押し付けてさっさとこっちに来たから大丈夫だとは思う。
(しっかし、協力者って誰だ?土御門は木の葉通りを通って行けばわかるとしか言わなかったけど)
 木の葉通りというのは第七学区三九号線を指す。この場所はインデックス達のいる場所から学校までの道を少し遠回りして通ることができた。いつもは平日の午前中でさえ絶えず人々が行きかうこの道も今はまるで誰の気配もない。

 そう思った瞬間、道沿いのビルの陰から何か黒っぽいものが飛び出して並行して走ってきた。
「やはり君か。まったく、土御門ももう少しましな人選はできないものかね」

 開口一番失礼な物言いのその人物を上条は知っていた。赤く長めの髪に頬にバーコードのような刺青、二メートルほどある長身にくわえ煙草のその男を。
「ステイルっ!? まさか協力者っておまえのことじゃ……」
「協力者?土御門はそんなことをいっているのか」
 睨むような視線だけをこちらにやりながら、その黒い神父は走る速度をゆるめない
「まあいい。だが一つだけ言っておくぞ上条当麻。僕の邪魔にはなるな。足を引っ張るようならその右手以外を容赦なく焼き尽くす」
 まるで冗談のように淡々と言ってのける。だがその神父の言葉に上条はすこしゾッとした。こいつは例えでもなんでもなく本気でやるからだ。事実、初めて会ったときにも(本当は初めてではないが記憶が消えてしまったためそこは覚えてはいない)いきなり炎を投げつけられたし、三沢塾の件ではステイルに囮とし敵前に蹴りだされたりしている。
 かといって、上条もそこで怯んだままいるような性格でもなかった。
「お前こそ、俺の足を引っ張るんじゃねーぞ」
「ふん、相変わらず口が減らないヤツだ」
 その黒い神父とツンツン頭の少年はそんなやり取りをしながら木の葉通りをいく。
 目指すは上条が今朝までいた学校だ。

326三日間〜Three Days〜 3rd.10:2010/09/04(土) 16:20:08 ID:sbgw5kS.

「むうー」
 インデックスは不満そうな顔をしながら少年が駆けていった後の道を眺めていた。
 いつもそうなのだ、あの少年は。
 他人には危険なことをするなと言いながら率先して危険に飛び込んでいく。しかも今回の事件は魔術が絡んでいるため、これを解決するのは魔導書図書館である自分の役目であるはずであり、間違っても学園都市に住む一般人のツンツン頭の少年ではないのだ。
 とはいえリアをこのままにはしておけないしその点については少年は正しい。よってインデックスはこの場所から動けない状態であった。まあそれは気持ちの面であって、その本当の理由は
「とうま、小萌達がいる場所ぐらい教えていってほしかったかも」
ということである。
 実際は上条はメールで避難場所までの地図のリンクを貼り付けてインデックスの携帯に送っていたのだが、もちろんそれをこの機会音痴のシスターがどうこうできるわけもない。
 そんな感じでうーうー言っているシスターの横でガサッと何かが立ち上がる音がした。
「! だめだよリア、もう少し休んだほうがいいんだよ」
「ありがとう、でももう大丈夫。昔から頑丈なだけがとりえだしね」
 そう苦笑してリアは立ち上がる。もとが高そうな彼女の着ているスーツは何度も転んだのであろう、土の汚れと傷でいっぱいだった。
「それより、私も行かなくちゃ。人に頼りっきりじゃ、あの約束は守れないから」
 リアはそう言ってきょとんとするシスターを見た。それに苦笑するとそのまま走り出そうとする。場所は電話から漏れる音で聞いていた、篠原や上条が通っている高校だ。
「待って!」
「?」
「私も行く。魔術に関しちゃ私の方がとうまよりずっと頼りになるんだよ!」

327三日間〜Three Days〜 3rd.11:2010/09/04(土) 16:20:30 ID:sbgw5kS.

 御坂美琴は学校を抜け出していた。といっても、それは避難勧告が出されたあとのことである。
 正体不明の集団がこの第七学区内で無差別にテロを起こしているという報を受けた常盤台中学は、他の学校と同様に避難体制をとった。実際、この学校の生徒達は全てレベル3以上の集団であり、恐らく自分の身ぐらいは自分で守れたのであろう。だが警備員側からすれば避難所にも緊急の戦力が欲しかったため、避難という形で移動してもらっていた。もっとも、あくまでそれは両者共に暗黙の了解ではあるが。
 そんな中、風紀委員である生徒達は避難所ではなく自分達の所属する各支部へと召集されていた。その任務はテロリストの迎撃ではなく逃げ遅れた人々の確認および回収である。
 常盤台からも白井黒子をはじめとした生徒達が出動しており、美琴はそのどさくさにまぎれてこっそり出てきたのだった。
 理由は特にない。強いて言えば学園都市第三位を誇る超電磁砲が避難というのもおかしな話だと思ったからだ。あとは無差別テロなんかを起こしているやつらがなんとなく気に入らなかったからだろうか。
 ともかく今、美琴は避難所ではなく爆発の続く街中に立っている。そしてその前にはちょうどその気に入らない連中がいた。
「あんた達ね、この爆発の原因は」
 そういって美琴は黒いスーツを着た三人の男達を睨みつける。
「なんだ貴様は、逃げ遅れた学生か」
「さっさと消えろ、攻撃するつもりはない」
「ここにいるなら、身の保障はせんぞ」
 一人一人が順番に、まるで朗読でもしているように口調をそろえて喋りかけてくる。
 気味が悪いぐらいきれいなタイミングで間髪いれず話す三人の男達に美琴は心の中でうげぇ、と悪態をついた。
「そっちこそさっさとこの街から出て行きなさい。じゃないと、身の保障はしないわよ!」
 そう言って少女は額の辺りにバチッと電流を走らせる。
 それを見た黒スーツ達は一度互いに顔を見合わせるとこちらをあざける様に笑い始めた。
「能力者というやつか」
「その程度で我らに歯向かうか」
「少々痛い目をみんとわからんか」
 そして彼らは各自がリングのようなものを巻いた腕をこちらに向かって突き出してきた。
「!!」
 三つの手から妙な力を察知した美琴はその位置から飛ぶように後ろへと下がる。それから一秒もおかずにそこに光る何かが突き刺さり、ドガッという音を立ててアスファルトを掘り起こした。
(あれはっ……!?)
 彼らの使った力には見覚えがあった。それは一昨日にルームメイトが持ってきた金属片にまとわり付いていた白っぽい電流だ。実際は電流とは呼べない得体の知れない未知の力なのだが。
「ちょっとあんた達、一体何者? 見た目からして能力者じゃなさそうだけど」
 そもそも能力者とは学園都市において開発された学生のことであり、どう見ても最低三十歳以上に見える目の前の男達はそれにあてはまらない。
「能力などという科学ごときに作られたものと一緒にするな」
「使者の輪(トリガースフィア)はそのような枠に当てはまるものではない」
「その力を身をもって知るがよい」
 そう言いながらも黒スーツ達は電撃を飛ばす手を緩めない。それを美琴は最低限の体の動きのみで交わしている。
(わけのわからない力で学園都市で無差別テロ? 目的がまったく読めないわね、あいつらから聞き出そうとしてもなんか無駄っぽいし)
 あーもうっ! と頭をかきながら美琴は相手から少し大きめに距離をとった。そしてそのまま動こうとはしない少女に向かって、黒スーツはにじみよるように前に出る。
「観念したか」
「だがもう逃がさんぞ」
「せめて一瞬で終わらせてやる」
 そして黒スーツは一際強くリングを輝かせ、美琴の方へ一斉に電撃を発射した。

 そして、 バチンッ!! という何かを強烈な力ではじくような音が鳴り、その電撃は打ち消された。

 それは、少女の周辺から聞こえていた。正確には、少女の周辺に結界のように展開されている黒スーツ達の何十倍もの威力のありそうな電撃から。
「なっ……」
 黒スーツの一人から今までの口調の崩れた声が、思わずという風に漏れる。
「もういーわ」
 そんなことは気にせずにレベル5の超電磁砲は言う。
「めんどうなこと考えるのは黒子たちに任せて、とりあえずあんた達にはボコボコになってもらうから。一度身の保障はしないって言ったし、別にいいわよね?」

328三日間〜Three Days〜 3rd.12:2010/09/04(土) 16:22:09 ID:sbgw5kS.

 バチバチィィィィィッ!! とさっきまでとは比べ物にならない電撃がその場所で四方八方に飛ばされていた。その発信源は学園都市第三位、超電磁砲こと御坂美琴である。
 ほんの少し前まで彼女を追い詰めていたと思っていた黒スーツ達は完全に立場が逆転しており、今や彼らが逃げ回っていた。
「ちょっとあんた達逃げ回ってんじゃないわよっ!」
 無理だ、あれは自分達の扱っている力とはその強さの面で次元が違う。触れればやられる、防ぐことなど不可能だ、ならば後は逃げるしかない。
 黒スーツの三人の男達は意思疎通のみでそんな意見が一致し、飛んでくる電撃を避けることに必死になっていた。
 とはいえ美琴の狙いも徐々にシャープになっており、このままではいずれ誰かが捕まるのも時間の問題だ。そして一人がやられればその分攻撃が増えるため、結局全滅は免れない。
 黒スーツ達は覚悟を決めたような顔でお互いを見合わせ、三人全員が一箇所に集まった。それを見た美琴は電撃を飛ばすのをやめる。
「とうとう観念したの? でももう逃がす気はないわよ」
「……貴様の力は、よく、わかった」
「だが、逃げるつもりは、ない」
「我らの、真の力を、見せてくれる」
「あっそ、でもそんなに息が上がってるようじゃ説得力ないわね」
 その言葉に、黒スーツ達は美琴を睨みつけながらまたもリングを巻いた手をこちらに向けてくる。ただし、そこから感じられる力は強さは今までとは比較にならない。
 その力を感じ取った美琴は警戒しつつもニヤッと口元を緩める。
(へえ、まんざら負け惜しみってワケでもないわけね。面白いじゃない!)
 そしてスカートのポケットから一枚のメダルを取り出す。どこにでもあるゲームセンターのメダルゲーム用のものだ。
 レールガン。
 彼女の通り名でもあるローレンツ力で弾を発射するその技は、音速の三倍で撃ち出される。その威力はとても防ぎきれるものではない。
 美琴はメダルを指に挟み、相手に向かって弾くような格好をとる。
「いいわ、かかってきなさい! 真正面から叩き潰してやるわ!」
 その言葉を合図に、男達のリングが光りながらその周りに小さな光の玉が灯っていく。それらは彼らの前方へ移動すると、一つの大きな円を作った。
「「「喰らえっ!」」」
 ドゴォッ!! とまず最初に黒スーツと御坂の中心で爆発がおきる。ただしその余波の中には白っぽい電流が混ざっており、それを受けただけでも相当のダメージは必至だ。そしてその爆発はドドドドッ!! と途切れずに、まるで何者かが猛スピードで地雷原を駆けてくる様に連鎖して美琴の方へと向かってくる。
 少し遅れて御坂もメダルを指で弾き、そしてそこからは音速の三倍の閃光が走った。
 威力の差は歴然であり、彼女に迫る爆発はその余波と黒煙ごと一気になぎ払われ、彼女の横へ逸れて走っていった。もちろんそれはそのまま黒スーツ達に(正確にはその足元に)刺さるはずだ。
 だが、その肝心の男達の姿は晴れた黒煙の先にはなかった。
 逃げられた、と逸れた二つの爆煙の間で御坂が思った瞬間、彼女の周囲に張り巡らされた電磁波が爆煙とは違うまっすぐこっちに向かってくる何かを両側から感知する。それに対し、美琴はあえて避けることはせずに威力を抑えた雷撃の槍を感知した何かに向かって飛ばした。
 加減をしたにも関わらず、それは進行方向上にある白い電流をこともなげに周りの爆煙ごとかき消す。そしてその先に居た黒スーツの二人はほぼ同時にうめき声を上げて倒れた。
(二人撃破っ! 残りの一人はどこに……っ!?)
 美琴は電磁波で察知するよりも早く自分を覆う大きな影に反応し上を見上げた。そこには工事中であろうビルからそれに使う大きめの鉄骨が投げ出されていた。
 逃げるには微妙なところだ。ならば、電流で鉄骨を蹴散らすしかない。
 そう美琴は判断したが、少女が能力を使うことはなかった。
「っ!?」

329三日間〜Three Days〜 3rd.13:2010/09/04(土) 16:23:00 ID:sbgw5kS.

 その鉄骨が突然真っ二つになり、予測していた落下地点から大きく逸れていったからである。

その余りにも不自然な現象に、ドガァッ! と凄まじい音を立てて地面にたたきつけられた鉄骨にすら反応せず、少女はただ呆然と顔を上げているのみだ。
 美琴はしばらくしたあと、ハッとして慌てた様に周りを見渡した。それを能力によるものでならば近くにその能力者がいるはずだと思ったからである。だが少女の見える範囲には転がっている二人の黒スーツ以外誰もいない。あと一人がいないが、そいつは恐らく鉄骨を落としただけであって切断したヤツは別にいるはずだ。
 落ちた鉄骨を見ると、落下による衝撃で曲がったりしているものの切断面は異常なぐらいきれいなモノである。おそらくレベル4の風力使いの真空波なんかでもこうはいかないであろう。
「一体誰が……?」
 美琴のその疑問は誰も答えることなく、未だくすぶる爆煙の中に消えていった。

 息を荒げて路地裏を走る黒いスーツを着た男がいた。彼はついさっきまでこの学園都市のトンデモ中学生とやりあったばかりである。
 その結果として、彼は今敗走していた。ただし、黒スーツの顔に悲観の色はない。
 たしかにあんなヤツがいるとは思わなかった。二人の仲間を失ったことも痛いが、それでも自分は逃げ切れた。ならばもう一度体勢を立て直すか、他の仲間のところに合流すればいい。もうそうそうあんな化け物は出てこないはずだ。
 かなり楽観的な考えだが、まず助かったことの安堵があるため無理もない。
 彼は油断していた。
「まったく、あまり手間をかけさせないでほしいですね」
 そこにどこから聞こえてきたかもわからない声が聞こえて黒スーツの体は一気に緊張する。それは、ホラー映画などで一度安心したすぐ後の恐怖の心境に似ているかもしれない。
「ただでさえこちらは御坂さんに見つからないよう気を配っているというのに。まあ彼女から離れてくれたおかげでやりやすくはなりましたが」
 その声は続ける。黒スーツの方はすっかり錯乱状態に陥っていた。
「だ、誰だっ!?」
 それに反応してか、黒スーツの横の路地の暗闇からまるで湧き出るように男が姿を現した。
 その容姿はイメージに反して爽やかな好青年だ。ただし、そこから放たれるプレッシャーはこちらが油断することを許さない。
「海原光貴。……ああ、これは『仮』の名前ですので覚えてもらわなくても結構です」
 黒スーツはにこやかに自己紹介する目の前の男から目が離せないでいた。仮がどういう意味かなんて知らないが二つわかることがある。こいつは敵だ。そしてこいつと自分の力の差は圧倒的である。
「とりあえず、あなたには眠っていただきます。心配しないでください、殺しはしません。恐らくですが」

 数分後、そこには恐怖で顔を引きつらせた男と片手に携帯を持った海原が立っていた。
「少しやりすぎましたか。御坂さんがやられるとは毛ほども思ってませんでしたがやはり少し感情的になってしまいました」
 そう言って携帯のボタンを押し耳に当てる。その顔はニコニコと微笑んだまま、崩れる気配はない。
「……もしもし。はい、こっちは終わりましたんで車を回してください。あと、路地裏に一人転がっていますのでその回収も」
 はい、はいと二、三度相槌をうち電話を切る。そして海原はまた暗闇へと姿を消していった。

330■■■■:2010/09/04(土) 16:25:18 ID:sbgw5kS.
以上です。
…ミスったぁぁぁ…。最初の名無しのヤツは 3rd.7ですごめんなさい。
前も名前のとこミスってるし…。気をつけます。
ちなみに話の流れから、時系列的なものはSS1の後ぐらいかなとか思ってます。
でも実はそこら辺特に考えてなかったり…。
とりあえず今回はこれで失礼します。

331■■■■:2010/09/05(日) 20:39:02 ID:CrnAvsPM
>>330
GJです!!
関係無いかもしれませんが、SS纏めのほうでも編集を開始されてはどうでしょうか?
なんか誰もしてないのは寂しいし、かと言って自分はできないし......


と、言う訳で『禁竜召式(パラディンノート)』の者です。
書きあがったので投下します。
とりあえず7レスぐらい。

では投下します

332■■■■:2010/09/05(日) 20:39:52 ID:CrnAvsPM

その昔、英国には絶対的な力を振るう『悪竜』が存在した。
現在の英国国内でもポピュラーな童話、「聖ジョージの悪竜(ドラゴン)」の原型となった化け物である。
その異常な『力』に人々は恐れ戦き、やがて幾つかに分かれていた国々は一つに結束し、『悪竜殺し』を掲げ人々に希望を与えた。

だが、何万人もの人々の強い結束を持ってしても、『悪竜』には指一本届きはしなかった。
混乱する人々を一つに纏め上げた偉大なる青年は惨殺され、個々の部隊を纏めていた中心角の人物は、揃いに揃って塵に消える。
人々の恐怖は絶頂を迎え、やがて自らの命を守るために生贄を捧げ始めた。最初は家畜、狩った動物などを、足りなくなれば自らの子を、そして子を守るために自分を……。

ついに国民全てが子を捧げ尽き、終には国の王女を贄として捧げ、命を繋ごうと考え始める。
当然、王は反対した。だが、自分の子を捧げた人々はそれを許さなかった。
『悪竜殺し』に多大なる人員を裂いてしまった王政には、もはや民衆を止める力は残されていない。

やがて、『悪竜』の元へと王女が届けられる。竜は姫を喰らうべく巨大な顎を広げた。

その時、『彼』は現れた。
美麗なる馬に跨り、静観な表情で突然現れたその男。

一本の聖剣を携えたその男の名を、『聖ジョージ』と言う。


『童話』以外でこの事実を知る者は、世界にも数える程しか存在しない。

333■■■■:2010/09/05(日) 20:41:17 ID:CrnAvsPM

十月十五日午後一〇時半ば頃……
修道女達は『仕事』に向け、体を休めるために、睡眠を取ったり食事を取ったりと言った各々の時間が過ぎている。
そして、その二五〇弱の全てを纏め上げる少女、アニェーゼ=サンクティスは食堂の端にて絹旗最愛と並んで座椅子に座っていた。
「……『仕事』開始まで一時間二三分四十六秒……まだ寝てても大丈夫ですかね」
「はぁ……そんな超短時間じゃ寝た気にならないと思うんですが……」
「シスターにはそもそも寝る時自体少ないですから。寝れる時に寝ておかないと」
そう言ってアニェーゼは毛布に包まって座ったまま動かなくなった。どうやら本当に寝てしまった様だ。絹旗はそれを横目に天井を見上げて放心する。

(魔術……か)
今思えばたった二日間の間にとんでもない世界に足を突っ込んでしまった気がする。もしかするとただのカルト宗教かも知れないが、裏路地で突然でっかい刃を投げつけれて気絶までさせられたのだから、今は本物じゃないと言われる方が腹が立つ。と、言うか実際目の前で修道女が使っているのを何回か見ている絹旗最愛である。
(なんかもう考えるのが超面倒になってきましたね。あとは流れに任せて適当に戦って適当に切り上げますか)
アニェーゼと分かれるのはちょっと寂しいですね……と絹旗が柄にも無いこと考えていると、


バゴォォォォンっ!! という轟音と共に女子寮の壁が突き破られた。

凄まじい衝撃で爆風が食堂を支配する。座椅子やテーブルまでもが建物の中を飛び交い、絹旗は慌てて『窒素装甲』を起動させた。
(っ!!? ちょっと超行き成り過ぎるんじゃあ、ないですか!?)
絹旗の眼前に有るのは三つの人影。少し経ってそれが全員肩に見覚えのあるシンボルを付けたスーツ姿の男達だと言う事が解った。
「(……!! 超アニェーゼ、 起きてください!!)」
「とっくに起きてますよ。あとその呼び方やめてください」
「超アニェーゼ、あれは……」
「……もういいですその呼び方で。ええ、そうですよ。完全に「奴ら」ですね。まさか休眠中を襲ってくるなんて随分卑劣ですが」

周りを見渡せば今まで寝ていた修道女や自室で仮眠を取っていた修道女達までも、すで食堂に一五〇人程集まりきって臨戦体勢、という状態である。隣のアニェーゼは『蓮の杖』を構え、早口で『呪文』を唱えると、杖の先端がゆっくりと開いていき、やがて『蓮』を司る正しい形となってアニェーゼの手に収まった。
「……ったく壁を突き破ってご登場なんて、一体どうゆう常識持っているんですかそこの男共は。一五〇対三の集団プレイがお好みなら大歓迎ですけど」
男達は答えない。そして返答の代わりにアニェーゼへと思いっきり突進してきた。
「っ!!?」
アニェーゼは慌てて『蓮の杖』を振るう。何も無い場所から衝撃を受けた男は一度は床に平伏せたが、周りのシスター達の援護射撃を軽々と避けて立ち上がった。
「……どうやら本当に『あの女』の部下っぽい雰囲気ですね」
「……危険因子は、排除。危険因子は…排除……」

そう言いながら男達はゆっくりとアニェーゼ達に近づく。一度舌打ちをしたアニェーゼは大声で「号令」を放ち、それに合わせて一〇〇以上の遠距離攻撃が男達へと向かっていった。
様々な魔術が混ざり合った出鱈目な攻撃を受け、三人の男達の周りは灰粉と暴風が吹き荒れる。アニェーゼは『蓮の杖』を構え直し「敵」を見据えた。
「(……やりましたか?)」

334■■■■:2010/09/05(日) 20:42:05 ID:CrnAvsPM

灰粉を突き破って出て来たのは戦闘不能の男達では無く、傷一つ付いていない『敵』だった。
「(……っ! あー、もう!! 全っ然きいてませんね、畜生!!)」
全く攻撃が聞かない事に怯んだ修道女達が一歩後ろに下がり、アニェーゼと絹旗のみが一歩前にでた。

アニェーゼは全く怯む様子の無い絹旗を見て一瞬笑い、そして聞いた。
「……キヌハタ、念の為に聞いて置きますが、戦えるんですよね?」
「超当たり前です」
「そうですか。ちなみに接近戦と遠距離戦はどちらがお好みで?」
「もちろん、相手を超ぶん殴れる接近戦です」
「……では……『Un ordine. Una lotta corpo a corpo specialità carica(命令! 接近攻撃者はただちに迎撃を開始せよ!!)』」
アニェーゼが再び「号令」を下すと、文字通り接近戦専門の修道女(+絹旗)が敵等へと勢いよく突っ込んでいった。
槍やフライパンや車輪など多種多様な迎撃グッズを持ったシスター達が男達へと攻撃を仕掛け、男達は埋まるように見えなくなった。一歩遅れた絹旗がそれを壮観そうに見ていると、

突然修道女の山が吹っ飛び、中から鉤爪を付けた男が飛び出した。
(な……!? やっぱあの男共、超不死身じゃないですか!!)
散らばったシスター達には目もくれず、男の一人が絹旗の方をギロリと睨みつけた。そしてゆっくりとした挙動で鋭利な鉤爪を構える。絹旗少し目を細め、『窒素装甲』を見に纏い臨戦体勢に入った。
「……キヌハタ、挑発に乗っては、」
「っこんの!!」
アニェーゼの声を無視して、絹旗が最初に動いた。固めた窒素を床にぶつけ、衝撃を手に入れた彼女はその勢いで男へと突撃する。それに対し男は特に変わった動きはせず、ただ鉤爪を前に突き出して『相手が勝手に突き刺さってくれる』のを待つ。
不思議な音がして、二人が衝突した。その瞬間、修道女達は思わず目を瞑る。鉤爪に無防備で突っ込んだ少女の姿などまともに見れる物では無いと思ったからである。
一秒ほどして一緒に目を瞑ってしまったアニェーゼは不可解は光景を目にする。

「……は?」
彼女の目に映ったのは、鋭い鉤爪を前に突き出した男と『それを素手で受け止める』絹旗の姿であった。男の方はさすがに驚いて目を丸くしていたが、絹旗の表情は動かない。
シスター達が状況を理解する前に、絹旗は素早く鉤爪を捻って男を左方向へ吹っ飛ばす。ゴウンッという音が鳴って鉤爪の男は左向を白壁に勢い良く激突。そしてそのまま動かなくなった。

相も変わらず呆然としている修道女達を尻目に、絹旗は前方の『残党』を見据えて言った。
「……思ったより超弱いですね。失望しました」

335■■■■:2010/09/05(日) 20:42:37 ID:CrnAvsPM

(とりあえず一人はキヌハタが潰してくれましたけど……どうしましょうか?)
絹旗の思わぬ良攻に目を丸くする修道女達を見ながら、アニェーゼは『指揮者』として、状況の整理を優先した。

敵は三人。その内一人は絹旗が撃破。残り二人の敵の情報は無し。表情から推測して何か隠し玉のような物を持っている可能性が高く、警戒が必要かと思われる。何やらキヌハタが狙われているようだが、彼女も殺る気満々なので前線で戦わせてみる事にする。危なくなれば援護防術。恐らく敵も援護射撃を行うシスター共に馬鹿正直に突っ込んでいく事はしないと思うので、キヌハタとその他シスター約数人で前線を構えて……

(解析は終了。こんなもんですかね)
天才とも言われた統括、指揮能力を駆使してアニェーゼは部隊の配置を決定し、再び「号令」を食堂内に響かせた。
「『Un ordine. Disposizione [A-X3] Pratica(命令! 位置関係をA-X3に変更!!)』……キヌハタは前に出て前線で戦ってください。 解りましたね?」
「言われなくても超ぶっ飛ばしますから、安心してください」
絹旗が答えたころにはシスター達は動き出していた。援護部隊がギリギリまで後方に退置し、接近部隊は敵と五mほど離れて武器を構える。前方と後方の部隊の間には一〇mほどの距離があり、ちょうどその真ん中あたりにアニェーゼが、それを囲むように護衛のシスターが三人配置していた。
「配置完了。食堂なら広くて集団戦線がやり易いんですよ」

336■■■■:2010/09/05(日) 20:43:52 ID:CrnAvsPM

(へぇ……随分しっかりした集団部隊ですね。てか、超アニェーゼって統括者だったんですか)
『戦い』というもの自体は数え切れない程の経験がある絹旗だが、戦国時代の戦のような『集団での戦い』に関しては無知に等しい。そもそも学園都市の『裏』では、その名の通りなるべく目立たないように見た目穏便に済ますというのが基本のため、知っている方が珍しいのだが。

「超アニェーゼ、今、私の後ろに居るみたいですけど、聞こえてますか?」
「たった五m足らずです。聞こえているに決まってるじゃないですか」
「そうですか、なら聞きますけど……相手はたったの二人ですよ? こんな手の込んだ陣営組まなくても超瞬殺できるんじゃないですか?」
その後一秒ほど間が空いてから、アニェーゼは感慨深い物を語るような口調で答えた。
「……一回、あったんですよ。こちらのほうが数でも武力でも圧倒的に勝っていたはずの、もはや虐殺のレベルになるはずだった戦闘で一度だけ。それも何の武器も持たないただの高校生の握り拳で、打ち破られたことが」
「……なるほど。え……と、つまり?」
「大熊だって蜂に刺されれば動けなくなるかも知れませんし、ライオンの群れだって、猟銃一本で怯えて逃げ出すかも知れません。つまりは、どんなに『弱そうな敵』でも警戒は必要って事ですよ」
「はぁ……最初の一人は私一人でも超瞬殺出来ましたけど」
「それに関しては何か『理由』があると思います。私達の「魔術」は『まったく効かなかった』のに貴女の「超能力」だけが有効だった理由が」

単に私の方が超強いだけじゃないですかね、という言葉を飲み込んで、絹旗は再び『敵』を見る。……確かに奴等には慌てる様子が全くない。と言うか何も考えて無いようにも見える。
絹旗は一度肩を鳴らして溜息を吐いた。本当にもう訳が解らない事が有りすぎるが、要するにアイツ等をぶっ殺せば解決するのか、適当に決着を着けた絹旗は『窒素装甲』を身に纏い、『仕事』の眼に摩り替わった。

337■■■■:2010/09/05(日) 20:44:49 ID:CrnAvsPM

アニェーゼの「号令」を合図に三〇人程のシスターと絹旗が二人の男へと突撃する。両者が衝突する直前に退置していたシスター達の援護射撃が入ったが、例の如く男等には効果が無い。
まず、背の高いシスターが大きな車輪を粉々に吹き飛ばして破片で相手を攻撃した。それに合わせてフライパンで思い切りぶん殴るシスターも居れば、素早く後ろに回りこんで槍で突付くシスターも居る。
そして、約三〇通りの迎撃を直撃した男は、

「……俺達の邪魔はアークライト様の邪魔。アークライト様の邪魔をするのなら……容赦はせんぞ」
無傷で言葉を発して、腕を軽く振る。それだけで三〇人もの戦闘シスターを纏めて吹き飛ばした。それは爆発や豪風の類では無く、まるで糸で引っ張られたかのように、多数の修道女が規則正しく360°全方向へと散らばった。

ただ一人の少女を除いて。
「……相も変わらず超不死身な野郎ですね。やっぱり「マジュツ」は駄目みたいです本当」
これにはさすがに男も眉を潜めた。前線配置組の中で唯一何の被害も受けていない絹旗は、何かを言わせる前に男の顔面を『窒素装甲』で勢い良く殴り崩す。
「っな!!?」
驚愕の声を上げた男は、そのまま後方へと勢いを殺さず突き進み、やがて食堂の西側窓に激突し、ガシャァァン!! という盛大な音と共に外へと放り出された。

「……二人目、超完了。あと一人」
完全に『普段の絹旗』に戻った彼女は、またも呆然と眺める修道女達を気に留めず、『三人目の男』へと鋭く怖恐な視線を向けた。最後に残った男はさすがに恐怖の感情が有るようで、若干引き気味に絹旗を睨み返す。
絹旗は右手に最大限まで『窒素』を固め、次の迎撃へと体勢を移した。

338■■■■:2010/09/05(日) 20:45:32 ID:CrnAvsPM

と、そんな緊迫した戦闘シーンを少し離れた所でおろおろしながら見ている修道女が居た。背中あたりまで伸びた綺麗な金髪が特徴的な彼女は、恐る恐る隣に居るアニェーゼへと話掛ける。
「(ちょ、シスター・アニェーゼ!! キヌハタってあんなキャラでしたっけ!?)」
「(私に言われても解りませんよ。とりあえず戦闘経験は豊富みたいですね。心強くて何よりです)」
「(な、何を呑気な事言ってるんです!!? 大体、私達、戦闘部隊でも傷一つ付けられないような相手を数分で二人もダウンしてるんですよ!? こっちもいつ巻き込まれるかで不安がいっぱいですってば!!)」
「(……落ち着いてください、シスター・イラーリア。大体、あれは絹旗が強いんじゃなくて、あの男達に『魔術が効かない』だけですよ)」
イラーリアは可愛らしく(異性が見たら)首を傾げ目を丸くする。と言うか「は? 何言ってんのwww」と言う顔をしているので取りあえず一発ゲンコツを食らわす。
「(な、何するんですか!!)」
「(うっさいです。いいですか? あの連中は別に体が元々頑丈なんじゃなくて、『魔術に対してだけ一方的に強大な防御力を発揮する』術式を身体に施しているだけです。で、今ルチア達が吹っ飛ばされたのも『魔術を行使する者限定』で攻撃できる術式でしょうね。その証拠に今までの攻撃でもキヌハタは無傷ですし、キヌハタの攻撃のみが相手に有効打を与えていますから。どうやら『対十字教黒魔術』の連中は「魔術に対してだけ」しか対策をしてなかったみたいですね)」
「(そりゃあ、『超能力』なんてイレギュラーな能力にはお手上げでしょうけど……。えっと、じゃあこのままキヌハタに任せておけば解決ですか?)」
「(まぁ、さすがに奴等も死にはしないでしょうし、とっ捕まえて情報でも吐かせますかね)」
そう言うアニェーゼの顔は何時に無く輝いて見えた。なんと言うか、尋問を受けるであろう男達にはご冥福をお祈りすることにした。
アニェーゼは一回息を吐いて、イラーリアに顎で「絹旗の方見てろ」と指示して、満足気に口を開いた。

「ほら。そろそろ終わりますよ……、これは本当にキヌハタの言った通り、陣なんか作る必要有りませんでしたね」

ドゴォォォン!! という打音が鳴り響いて、食堂の戦いは呆気なく完結した。

339■■■■:2010/09/05(日) 20:50:59 ID:CrnAvsPM
投下終了です。
.........誤字脱字が酷いと思います。あと駄文でごめんなさい本当に......(涙
あと、なんかいざ投下すると読みにくいですね。文が左右に広がって。
かぺらさんみたいに一文を短くすれば.........もう遅いか。

>>320
>>321
>>322

感想有難う御座います!! 呼んでくれてる人が居るだけで嬉しいです本当に!
聖ジョージの竜に関しては......まぁ、とりあえず続きを見てください。大抵合ってますから。

ではまた。

340■■■■:2010/09/06(月) 05:00:16 ID:eQvx4qVU
>>312
GJ! もはや誰も待ってないだなんて……そんな悲しい事、言わないで……
雨宮の過去を知ってもなお、揺らぐ事のない上条さんの意志、譲れないもの。熱いですねぇイイですねえ!
後で雨宮も触れていましたが、それらの言葉は全て上条さん自身にも言える事なんですよね。
いつか上条さんもそれに気付いてほしいものです。仲間を危険に晒したくないと思っているのは、あなただけじゃないんですよ、と。(てか、つい昨晩美琴に言われたばっかじゃん!)

バトルでは遂にパウラさん出てきましたね。何らかの原因(不完全な力の行使による反動?)で万全ではなかったとはいえ、人工聖人の雨宮を終始圧倒とは、いかにもなラスボスっぷりです。
ローマ正教に属しながら、科学者でもある異端の女……何かカラクリがあるようですね。……、「unda」――W、おっとネタバレはダメ・ゼッタイ。
もー、ホントこのごろつきさんは毎度毎度オイシイところをかっさらって行くんだから。上条さんの活躍が食われちゃうじゃないですか! イギリス編がすぐ後に控えてるんだから、病み上がりは自重して下さいよマジで。

次で最後ですと!? こりゃこれまでで一番長い章になりそうですね。まだまだ未回収の伏線があったような……
別に急く必要はないと思いますし、最終決戦に相応しい「バトル回」と事件の顛末や日常への回帰で〆る「その後回」の二回に分けても自分は一向に構いませんけど。ハッピーエンドならいいなぁ……
でもまぁ、かぺらさんのやりたいようにやっちゃってください。ご自身で納得のいく、最高の完結を期待してます! あと一息、頑張ってください!!


>>287>>319>>339
随分遡りますが、これらすべてにGJ! 他の職人さんもですが、凄まじい投下ラッシュですね。ちょっと覗けてなかった間に、こんなに進んでいたとは。
無論、良い事ばかりでもありませんが。ご自身で気付かれていらっしゃるようですし、自分がわざわざ指摘するのも差し出がましいとは思いますが、やはり誤字脱字が気になります。送り仮名や助詞の洩れと、今回の投下に限っては
×見に纏い ○身に纏い  ×眉を潜めた ○眉を顰めた(こんな字書くんですね、初めて知りました。これならもうひらがなで良いや)  ?退置 ?怖恐な(一応調べてみたんですが、分かりませんでした。造語や専門用語だったらすみません)
誤字はこれくらいです。というか、散々生意気言った割にはこれだけしか指摘できません。多分「有る・無い」「〜と言う事」など漢字を多用するスタイルに違和感を覚えたんだと思います。
これはラノベ(更に言えば禁書)レベルの文章に慣れている自分に落ち度がありますし、もちろん書き手によって使い方は違いますから、何も悪い事じゃありません。ただ、それなら全文をその書き方で統一するべきではないかと。
言いたい放題ですよね……すみません。ただ少し丁寧に確かめれば気付くようなミスでしかないので、それを減らしていけば自ずと作品の完成度も更に高まるのでは、と思いまして。勿論今の時点でも十分秀逸です。駄文だなんて、とんでもない。

ではネガティブなのはここまでにして、本題のストーリーの感想の方に移ります。
うおお、投下直後の感想に立ち会えなかったのが悔やまれます! 『禁竜召式』……漢字四字は禁書っぽくてやはり燃えますね。「竜」なんてワードが入ってたら、尚更。
しかし、>>『召式』と言うのは、『召喚術式』を略した言葉として使用できる気がする、というのはオルソラが調べている書物が漢字を用いて記されているって事になりますよねww
禁書世界の言語は『歪み』の一つ(あくまで個人の勝手な解釈)ですから、言及しても仕方ない事ですけどね。
パラディンは恐らく「騎士」を意味する英語のpaladin。ノートは……発音が弱いので何とも……発動に魔道書等が必要なら、広く「書き留めるもの」を意味するnote、けど「零・無」を表すnaught, noughtの可能性もありますし、うむむむ。
イギリスを舞台としているだけに、実在する地名がたくさん見られるのも、何というか臨場感が出て良いですね。行った事もないのに妄想が膨らむ膨らむ。あれ? 冒頭の文、どこかで……
待望のバトルは絹旗の得意とする近接戦闘で、読んでて爽快でした。敵が使った術式は気になりますね……部隊長のアニェーゼでも未知の術式をただの戦闘員が使えるとは、これいかに!? 彼女には、是非じっくりねっとり尋問してほしい所。

……文が左右に広がってるどころか、自分の場合縦にも伸びてますね、毎度の事ながら。要領を得ないから……真の駄文とは、まさにこのレスそのものです。
GJ! これが言いたいだけなんですがね。では、続きをお待ちしております。

341■■■■:2010/09/06(月) 18:46:14 ID:oG63vidQ
>>340
感想有難う御座います!!
オルソラの件については、言語や発音の問題です。
......説明が面倒なので、誤文の類に入れて貰っていいです OTZ

眉を顰める、というのは初耳でした。ご指摘有難う御座います!
見に纏いは、単純なミスです。以後気をつけます。
ちなみに『パラディンノート』については深い事を考えなくとも結構です。単なるタイトルなので。
せっかく感想を頂いているのに所々で謝られても......読んで貰っているのはこちらなのに......

とにかく感想をくれるととても心強いです。以後よろしくおねがいします。

342■■■■:2010/09/06(月) 22:47:44 ID:/23wd/1w
どうもー。『空から落ちてくる系の一方通行』続き投下します。

若干妹達の性格が違います。あと途中で切ったけどクソ長いです。
原作一巻片手に見てもらえれば以下略。あと若干三巻も混じってます。

ではいきます。

343空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 22:50:58 ID:/23wd/1w

 そういえば今朝の出費で上条の所持金はほぼ0だった。
「………………不幸だ」
 一旦寮に荷物を置いてから、クラスメイトの青髪ピアスの居候先のパン屋でパンの耳でも貰うことにした上条。パンの耳なんて成長期の男子高校生にとっては『オヤツ』にすらならないのだが、無いものは無いのだから仕方ない。
 明日担任の小萌先生にお金を借りようと思いながら、寮のオートロックを抜ける。他の住人達は夏休み初日ということもあって、皆一様にどこかで夏を満喫しているようだ。
 夏休みであろうが無かろうが関係なく無人の管理人室を過ぎて、豚箱のような狭苦しいエレベーターに乗る。
 上条の部屋がある七階に着いて、ガコンというボロさを主張するかのような振動と共にエレベーターが止まった。
「ん?」
 と、上条はすぐに気付いた。エレベータホールから通路に出てその奥――自室の扉の正面で、清掃ロボが三台ほどたむろしている。清掃ロボットはこの寮には五台しか配備されていないはずなのに、なぜこんなに固まっているのか。
 故障しているわけではなさそうだ。むしろ職務を果たそうと頑固な汚れに挑んでいるように見える。
 ……なんか、すさまじい不幸の予感。
 そもそもあの手の清掃ロボはアスファルトにこびりついたガムだって瞬殺するのだ。それが三台も集まっているのに落ちない汚れとはいかなるものか。
 もしかしてチンピラみたいな格好をすればモテるなんていう幻想を未だに持ち続けている悪友であり隣人の土御門元春が、酔っ払って胃の中身を綺麗に曝け出したんじゃあなかろうかと上条は恐れ慄く。
「まさか、な……」
 何にしろ見ない方が身の為だとわかっているのだが、悲しきかな人間には怖いもの見たさという何の役に立つのか分からないものが巣食っている。
 そろりそろりと足を進めて、やっとそれが視界に入った。

 モヤシでチンピラな超能力少年一方通行がぶっ倒れていた。

344空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 22:52:44 ID:/23wd/1w

「…………………………、はー」
 ドラム缶三台がガコガコと体当たりを繰り返すも、一方通行は身じろぎ一つしない。そもそもああいうロボットは人間や障害物を避けて通るようになっているはずなのだが、自称ゴミ以下のクソ野郎は清掃ロボットにもゴミ以下のクソ扱いされているのだろうか?
「…。ちくしょう、不幸だ」
 そんなことを言いながらも、上条は無意識に笑っていた。
 やはり気になっていたのだ。『妹達』なんてトンデモ話は信じられないが、妙な研究所が妙な技術を使って彼を追い回している、とも考えられる。
 それが変わらない、前と同じ姿で見つけられたのが嬉しかった。
 そんな細かい理屈を取っ払っても、また出会えたことが無性にただ嬉しかった。
 何に使うのか分からない電極、ただ一つの忘れ物。それを上条は思い出す。それが、何故だかおまじないのように思えてくる。
「何やってるんだよお前、こんなところで!」
 走り寄りながら声をかける。それだけの動作で何故こんなに心が弾むのだろうと上条は思う。
 一方通行はまだ反応しない。
 なんとも唯我独尊な『一方通行らしい』反応に笑みを漏らして、


一方通行の体が血に染まっていることに、ようやく気付いた。

345空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 22:56:22 ID:/23wd/1w

「……、え……?」
 戦慄するより前に、困惑する。
 固まっている清掃ロボットに隠れて見えなかった。うつ伏せに倒れた一方通行の手が、額を押さえている。まるで頭痛でもするかのような仕草、しかしそこから止めどなく溢れる鮮血が、その前髪と服の白を鮮烈に塗り潰していく。
 その時上条は、それが『人の血』であることが理解出来なかった。
 たった今とついさっき。あまりに大きな落差を伴う現実が、頭の中をかき乱す。赤くて赤い真っ赤な……絵の具かなにかだろうか? あの一方通行が真っ白なキャンパスの前で筆を構えて、なんてなんとも似合わない図を妄想しても、上条は笑えない。
 笑わないでなく、笑えない。
 そんなこと、出来るはずもない。
 清掃ロボットが三台、床の汚れを拭っている。床を汚す赤を、一方通行の額から流れる赤を。
 くたびれた雑巾を絞るように、一方通行の体から血液を一滴残らず搾り出すように。
「……やめろ、くそっ! やめろ!!」
 やっと上条の認識が現実に追いつく。致命傷を受けている一方通行に体当たりを繰り返す清掃ロボットを、強引に引き剥がしにかかる。
 しかし馬力もさることながら、盗難対策の為に重量もある清掃ロボットはなかなか動かせない。
 無論清掃ロボットは一方通行の傷口を広げたいわけではなく、単純に『床を汚し続ける液体』を拭っているだけだ。それを理解していても上条には清掃ロボットが死肉に群がるハイエナのように思えた。
 そうまで感じているのに。ただの清掃ロボットを、上条は引き剥がすことすら出来ない。引き止められるのは一台が精一杯で、その間に残り二台が『液体』へ群がっていく。
 神様すら殺せる男のくせに。
 こんなガラクタに翻弄されてしまう。
 一方通行は身じろぎ一つしない。元から異常なまでに白かった肌は、最早死人のそれのように蒼白だった。
「ちくしょう、畜生!!」錯乱状態に近い上条は叫んでいた。「どうしたんだよ、何が起こったんだよこれは!? なめやがって、一体どこのどいつがこんなことしたんだよ!!」
「私達『妹達』ですが? と、ミサカは返答します」

346空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 22:59:44 ID:/23wd/1w

 そして当然、背後から降ってきた声は、一方通行のものではない。
 喰らい付かんばかりの勢いで上条は体ごと振り返る。エレベーターの音はしなかったから、その脇にある非常階段から少女はやってきたのだろう。
 その少女は上条より低い身長で、顔も上条より幼く見えた。
 歳は恐らく中学2、3年といったところか。肩程度の長さの茶髪に半袖の白いブラウスとサマーセーター、灰色のプリーツスカート。あれは確かこの街の中でも有数のお嬢様学校、常盤台中学のものだ。ただしコイツを『ただの女子中学生』と形容する人はこの世にいないだろう。
 まず真っ先に目に付くのがごつくて真っ黒のアサルトライフルだ。無骨というよりは機能美的で無機質な兵器。次に目に付くのが額にかけられた、ゴツい暗視ゴーグルのようなもの。
 そしてなにより、その目。焦点が酷く曖昧で何を見ているのか何も見ていないのか分からない、感情の無く暗い瞳。
 学生とも、ましてや軍人とも呼べない少女。
 上条は、通路に立つ少女を始点に周囲の空気が塗り潰されていくのを感じる。
 『日常』から『非日常』へ。
 『普通』から『異常』へ。
 その時上条は恐ろしく思ったし、それより強く怒ってもいた。
 だが、それ以上に。上条が感じたものは『戸惑い』だった。幼い頃から住んでいるこの街、学園都市。それが決して謳い文句通りの平和で美しいだけの街ではないことは知っていた。
 開発では得体の知れない薬物を投与されてきたし、路地裏のスキルアウトには数え切れないくらい追われてきた。
 だが、それでも上条は知らなかった。この街の『裏』の本当の顔を。
 彼女が、『妹達』。
 今この時、この街はそんなものを平気で作ってしまうような『裏の顔』を曝け出していた。

347空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 23:03:29 ID:/23wd/1w

「これはまた派手に決まってしまいましたね、とミサカは独り言に近い感想を述べます」
 妹達(一人称はミサカのようだがそれが名前なのだろうか)はその感情の無い瞳を一方通行に向ける。
「まだ息があるようなので能力が使えなかったわけではないのでしょうが……、途中の血の跡はその清掃ロボットが拭ってしまったのですね、とミサカは確認します」
 妹達は今も一方通行に集っている清掃ロボットに視線を向ける。
 『途中の』ということは一方通行はここでは無い場所で撃たれて、ここまでわざわざ戻ってきたのだ。
「でも、何で…?」
「一方通行がここまで戻ってきた理由ですか? とミサカは確認を取ります。私にも詳しい事情は分かりませんが、頭を撃ち抜かれた後にポケットなどを探って何かを探すようにしていたような、とミサカは思い出します。逃走に移ったのはその後だったので、何かこの辺りに忘れ物でもしたのではないですか? とミサカは推測を述べます」
 『忘れ物』。そんなもの一つしかない。
(あの、電極……?)
 一方通行が残していった唯一のもの。何に使うのかも分からない電極。
 だが、きっとそれは一方通行にとっては重要なものだったのだ。能力を使う為に必要なのか、能力を破られた時に必要なのか。
 推測しても答えはでない。が、分かっていることが一つ。
 一方通行がそんな大切なものを不用意に落とさなければ、きっとこんなことにはならなかったのだ。
「……とんだ馬鹿野郎じゃねえか」
 そして上条があの時、すぐに後を追って電極を渡していれば。
 上条が繋がりなんて求めなければ、きっとこんな最悪なことにはならなかったのだ。
「……とんだ大馬鹿野郎じゃねえかよ、俺は!!」
 思えば彼は最後、意図的に上条と距離をとろうとしていたような気がする。来るなとも言われた。
 それなのに上条が勝手にしがみ付いて足を引っ張って、結果がこれだ。
 上条は許せなかった。
 勝手に一人で戦って勝手に一人で血塗れになった一方通行が。そんな一方通行の額を撃ち抜いた妹達が。そして何より、人に不幸を押し付けた自分自身が。

348空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 23:07:11 ID:/23wd/1w

「そんなに睨まれても困るのですが、とミサカは困惑します」
 妹達はそういいながらも顔色一つ変えずに続ける。
「確かに一方通行を撃ったのは私ですが、まさかあんなに簡単に銃弾が当たるとは思ってもみませんでしたし、とミサカは当時の状況を振り返ります。一方通行の能力は絶対防御であり、本来はあれくらい『反射』出来るはずなのです、とミサカは説明します。核爆弾が落ちてきても傷一つつかないという謳い文句だったはずなのですが……とミサカは疑問を抱きます」
 半ば独り言のように、最後まで一切の感情を滲ませずに、妹達が淡々と述べる。
 それが一層、上条の感情を逆撫でする。
「なんなんだよ、何考えてるんだよ。俺はお前みたいなクローンのことなんかよく分からないし、お前がどんな世界に生きているのかも分かんねえよ。それでもお前等にだって心はあるんだろ? 痛みとか苦しみとか感じられるんだろ……?」
 そんなこと、上条が言えたことではないのは分かっていた。
 この惨状の原因の一端は、確実に上条にあるのだから。
 それでも、言わずにはいられない。
「こんな細っせえヤツを寄って集って追い回して、銃弾ぶち込んで!! こんな現実を前に、テメエは何も感じないのかよ!!」
「だから、そもそも銃弾が当たるとは思っていなかったのですが、とミサカは再度説明します」
 それでも、彼女は一言で返した。僅かにも微かにも、揺れていなかった。
「もっとも、彼がどうなろうが実験は続けられますが、とミサカは分かりきったことを告げます」
「じっ、けん?」
 意味が分からない。
「……念の為パスの確認を取ります、とミサカは有言実行します。ZXC741ASD852QWE964、とミサカはあなたを試します」
「パス? さっきから一体何を……」
「どうやらあなたは実験の関係者では無いようですね、とミサカは今更ながら確認します。一方通行と言葉を交わす人間なんて実験の関係者くらいだと思っていたのですが、とミサカは僅かに驚きます。一方通行とは個人的な知人か何かなのですか? とミサカは質問します」

349空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 23:09:04 ID:/23wd/1w

「そういえば一方通行もなんか言ってたな。実験ってなんなんだよ? お前等と一方通行と、どんな関係があるんだ?」
「お答えできません、とミサカは即答します。というかミサカの質問はスルーなのですね、とミサカは不満を滲ませます」
 上条は黙って妹達を睨む。『不満を滲ませる』などとのたまいながら、彼女の顔には一切の表情が無い。その様は機械よりも機械的で、その挙動はまるで操り人形のようで。
 上条は少し彼女のことを理解する。きっと彼女は、『正しさ』なんて考えていない。それを正しいと『信じる』人々からの命令に従っているだけで、それが間違っているか否かなんて判断はきっと無い。
「まあそれはいいでしょう、とミサカは閑話休題を宣言します。それよりもミサカは早く一方通行を回収したいのですが、とミサカは申し出ます」
「かい……、しゅう?」
 だからこそきっと彼女のその発言にも、特に意図はないのだろう。そういう表現をしただけだ。
「ええ、回収ですよ、とミサカは繰り返します。詳細は語れませんが、一方通行は実験に欠かせない個体なので、早急に回収してしかるべき処置を施さなくてはならないのです、とミサカは漠然とした情報を告げます」
 その発言にも、だ。きっと他意は無い。人を人とも思わないような、まるでその実験に支障がなければ一方通行がどうなろうと知った事ではないと告げるようなその内容にも。
 もう少し深く、上条は理解する。きっと彼女達だけではなく、その背後にある研究者たちも『正しさ』なんて考えていない。得体のしれない『実験』の為ならば一方通行だろうが妹達だろうが使い潰すような、人を道具としか考えていない意思が妹達の背後に透けて見える。
 上条は全身に鳥肌が立つのを感じる。皮膚の内側から蛆虫が沸いて出るような不快感が体中を駆け巡る。
 科学宗教、という言葉が脳裏に浮かぶ。
 道徳も人権も完全に無視したその考えに上条は強い拒否感を覚えた。

350空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 23:11:18 ID:/23wd/1w

「……やらせねえよ」
 言って、拳を固く握る。眼差しはまっすぐ妹達に向けて。
「それは、実験妨害の意思表示と取って間違いありませんか?とミサカは問います。第三者が実験の障害となる場合、ミサカはそれを迅速に排除する義務があります、とミサカは警告します」
「ああ。止めてやるよ。そんな胸糞悪い実験、この場で終わらせてやる!!」
 咆哮と同時に、爆ぜるように駆け出す。
 右の拳を更に強く、砕けんばかりに強く握り締める。
 上条の右手は不便だ。作用するのは異能の力だけで、銃なんかには全く歯が立たない。
 けれどそんな右手でも、ただの人間をブン殴ることには何の支障も無い。

「実験を妨害する意思を確認、これより検体番号10032号は対象の排除に移ります」
 それでも妹達――10032号は機械的に宣言する。
 そしてその間に上条は妹達との距離を半分に詰める。
「降伏の意思が認められるか、或いは行動不能に追い込むまで攻撃は継続しますので、速やかに降伏して頂ければ幸いです」
 そう上条に告げた10032号は、持っていたアサルトライフルをようやく構える。
 が、遅い。もう上条は彼女の眼前まで迫っている。
 銃なんてものは単純だ。銃口をこちらに向ける前に銃身を押さえてしまえば、もうそれはただの鉄の塊なのだから。
 10032号の言葉の一切を無視して駆けた上条は、右手を真っ直ぐ銃身に向かって伸ばす。
 10032号の指は引き金にかかっていたが、それが引かれるより早く上条の右手が銃身を捕らえた。
(捕った!!)
 アサルトライフルを掴んだままの右手を強く右に払う。銃を奪うことは出来なかったものの、銃口は上条から大きく逸れた。
 目の前には、それでも無表情な顔と、がら空きの腹。
 勝利を確信した上条が、左腕を振りかぶった瞬間。
 10032号の額から、凶悪な電撃が迸った。

351空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 23:14:46 ID:/23wd/1w

「なっ!?」
 とっさに後ろに仰け反りながら、右手で顔を庇う。
 運よく右手に触れた電撃が、バチバチと音を鳴らしながら四散した。
(こいつ、能力者なのか!?)
 怪訝な顔をしている10032号を尻目に、上条は思い出す。
 今朝、一方通行は妹達のことをなんと言っていたのかを。
『妹達ってのは学園都市第三位『超電磁砲』のDNA マップから作られた二万体のクローンの総称だ』
(そういえばこいつらは学園都市最強の電撃使いのクローンだった。待てよ、ということはまさか妹達って全員レベル5!?)
 上条の全身から気持ちの悪い汗が噴出した。無意識に一歩、二歩と後ずさる。
 いくら上条の右手が異能の力を打ち消せるといっても、レベル5級の相手にそう簡単に勝てるわけでは無い。上条の右手はあくまで異能の力にしか作用しないので、能力の余波で飛んでくる瓦礫などは防ぎようが無いのだ。
 それがただの能力者ならば痛いで済む。だが相手がレベル5となれば話は別だ。
 その能力が『災害級』と称されるならば、その余波もまた『災害級』なのだから。
「……? やはり電子線を追えない状態での能力の使用は安定しませんね、とミサカはゴーグルを装着します」
 上条が電撃を打ち消したことを理解しきれていないまま、額にかけていたゴーグルを下ろす10032号。そこでようやく上条は我に返る。
 銃口がこちらを向いていた。
 上条は先の電撃を『右手』で打ち消した。そうするしか無かったので仕方無いのだが、結果アサルトライフルは今いつでも撃てる状態にある。
(マズ……ッ!!)
 上条と10032号の距離はたったの数歩。だがその距離を詰めるより早く、引き金が引かれる。

 オモチャの拳銃のように安っぽい銃声が、本物の破壊の後を追った。

352空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 23:20:38 ID:/23wd/1w

 掃射が終わってみれば、辺りはもはや廃墟のようだった。床も壁も銃弾で容赦なく抉れ、通路奥にいた清掃ロボットにまで銃弾が数発めり込んでいた。
「やりすぎましたね、とミサカは前方を視認します」
 まるで銃を持ったテロリストが暴れまわったかのような(実際そんな感じなのだが)惨状を前に、10032号は相変わらず無表情で呟く。
 この寮、及び周囲に人がいないことは確認済みだ。夏休み初日なので住民は全員外出しているし、周囲にはそんな若者が集う場所は無い。
 だが、その全てが帰宅せずに徹夜もしくは泊まりで遊びほうけるということは無いだろう。
 実験は秘密裏に行わなければならない。なのでそれらが帰宅する前に、この惨状をどうにかしなくてはならないのだ。
「……まあなんとかなるでしょう、とミサカは無責任にため息をつきます。というか危うく一方通行にも当たるところでしたね、とミサカは自分の無計画さを反省します」
そもそも10032号も上条を必殺しようとしていたわけではなく、行動不能に陥らせようとしていただけだ。故に銃口は意図的にやや下に向けていたのだが、壁や床で跳弾したのだろうか。何にしろ、一方通行を回収するために一方通行を撃ち抜いてしまっては笑えもしない。
「まあもう撃ち抜いているのですけどね、とミサカは小粋なジョークを飛ばします。まあついでにもう片方にも釘を刺しておきましょうか、とミサカは手すりから身を乗り出します。」


「し、死ぬ! やばい! 本当に死ぬかとおもった!!」
 掃射が始まる寸前に七階の手すりを越えてノーロープバンジーに挑戦した上条は、六階の廊下で膝をついて荒い呼吸を繰り返す。心臓が左胸で暴れまわっているのを感じながら、とりあえず射程距離から外れて一息つこうとしていたのだが。
「はろー、とミサカは場違いな挨拶をします」

353空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 23:22:25 ID:/23wd/1w

 降ってきた声に慌てて上条が振り返ると、10032号が上の階の手すりから身を乗り出してこちらを見ていた。
 手には当然アサルトライフル。
「嘘だろ、なんでそんな不安定な姿勢で撃てるんだ!?」
 弾かれるように走り出す上条の後を銃弾が追う。床が爆ぜ、ドアに風穴が開き、消火器が弾けとんだ。
 先ほどとは違いまだ逃げようがあるものの、それでも一直線に逃げていたのではではいずれ捕まってしまう。
 咄嗟に上条は真横の非常階段への扉を蹴やぶって転がり込む。下へ下へと階段を降りながらも、背後から容赦なく安っぽい銃声が追ってくる。
(そもそもこっちは丸腰だってのに……ッ)
 卑怯だ、と思う。とはいえそんな言い分はこの場で通用するとも思えない。
 しかし実際問題、あんな物騒な銃を持った相手を素手で倒すことなんて出来るのだろうか? 先ほどのように至近距離からの不意打ちでも決まれば話は別だろうが、一度これだけ距離を離してしまってはそれも適わない。
 しかも相手は能力まで持っている。さっきのはレベル3程度の電撃だったが、最悪レベル5クラスであっても不思議ではない。
 だからといっていくら上条が頑張ったところで、ちゃちな拳銃一つだって手に入らないだろう。よしんば手に入ったとしても相手はアサルトライフルだ。勝ち目なんてあるはずも無い。
 そこまで考えて、上条の思考は強引に断ち切られた。
 何故なら、上条の向かう先――階段の踊り場に手榴弾が投げ込まれたからだ。

354空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 23:24:08 ID:/23wd/1w

「なっ……!? こんな物騒なものまで使うのかよ!!」
 爆発寸前の手榴弾を前に、上条がとった行動はシンプルだった。
 今まで下ってきた階段を引き返すのではなく、更に階段を下るのでもなく。
 そのまま加速して、手榴弾ごと踊り場の手すりを飛び越えた。
 背後で手榴弾が弾ける音を聞きながら、上条は着地地点を確認する。二階と三階を繋ぐ階段だったので死にはしないだろうと思って飛んだのだが、見れば下は自転車置き場だった。
「わっ、うわわわわああああ!」
 がしゃんごしゃんと自転車をなぎ倒しながらも、なんとか着地する。
 あちこち擦りむいたり切ったりしたが、大した怪我は無いようだった。
「って、安心してる場合じゃねえ!!」
 上条は慌てて頭上を仰ぐ。非常階段まで撃ってきたのだから、恐らくまだ10032号の射程範囲から外れてはいないだろうからだ。
 案の定、半ば手すりに腰掛けるようにしている10032号と目が合った。慌てて起き上がって逃げようとした上条だったが、10032号はしばらく上条の顔を見た後、手すりから降りて上条に背を向けた。

 どうやらもう追撃は無いらしい。
 それが分かった途端に、上条は脱力した。膝から崩れ落ちて尻餅をつき、深いため息をつく。

355空から落ちてくる系の一方通行:2010/09/06(月) 23:25:41 ID:/23wd/1w

 まだ完全に危機を脱したわけではない。依然として上条は10032号がその気になれば撃ち抜かれる位置にいるし、一方通行のことも片付いていない。
 だが逆に。上条がここからさっさと逃げ出して一方通行のことを忘れてしまえば、これ以上の危機は訪れないのだ。
 10032号が撃って来ないのもそういうことだろう。つまり、今朝の一方通行と同じことを言っているのだ。
 こっちへ来るな、と。
 倒すべき相手も、助けるべき対象も、両者とも一様に来るなと言っている。
 それらを無視してまでそこに命がけで赴く理由なんて、上条には無い気がした。
 ポケットを探る。とりあえず携帯で警備員に連絡しようと思ったのだが、思い出してみればそれは今朝踏み砕いていた。
 結局、ここにいても上条に出来ることなど何も無い。本当に彼を助けたいのなら、さっさと携帯を持っている人や公衆電話などを探して助けを呼ぶべきなのだろう。
 例えその間に一方通行が『回収』されても。
 そもそも、だ。

『じゃあついてくンのか? 地獄の底まで』

 学園都市で最も強い能力者すら抜け出せないような深く暗い地獄の底。
 そんなところから上条一人で彼を引きずり上げるなんて、無理に決まっているのだから。
 彼の言によれば彼は人殺しで、極悪人で。
 その血に塗れた手を掴む理由なんて、上条には無いのだから。

356■■■■:2010/09/06(月) 23:37:33 ID:/23wd/1w
>>278
感想ありがとうございます。
日本語さんには本当助けられています。日本語△
本当はそこ飛ばそうと思ったんです。別にインデックスは上条さんに勝負を挑んでいたわけじゃないし。
でも全く書かないのもアレかなと思って書いてみたら、なんか楽しくなっちゃってそんな感じに。
そしてそんなわけでステイル役は御坂妹でした。今一番頭を悩ませているのがこの呼び名をどうやって出すかです。
さて、じゃあ美琴の役は……?

>>279
インデックスさんは酷いのではないのです。
ただ、お腹がすいているだけなのです。

読んで下さってありがとうございました。ではまた。

357■■■■:2010/09/06(月) 23:38:29 ID:/23wd/1w
あ、書き忘れた。投下終了です。

見れば分かるか。

358■■■■:2010/09/07(火) 00:28:03 ID:dzRfGUf6
遅ればせながらSS職人の皆様GJです。
>>319,>>339
禁竜とは「聖ジョージの悪竜(ドラゴン)」でしたか。アニェーゼ達がドラゴン相手
にどんな戦いを繰り広げるか楽しみです。その中でも絹旗が重要な役割を果たしそう
ですね。絹旗ならアスカロンですら軽々振り回せそうなのでひょっとすると絹旗が伝
説の勇者になってしまうのでしょうか?
>>330
盛り上がってきましたね。土御門の意味ありげなセリフも気になります。まだ物語は
二転三転しそうですね。楽しみにしています。
>>357
こんな風に1巻と3巻を融合させていくとは。この展開は全く思いつきませんでした。
これなら一方さんに上条さんのフラグが立つのももうすぐですね。

359■■■■:2010/09/07(火) 10:33:19 ID:DlD2AhJ6
>>357
GJです、とミサカは惜しみない賛辞を呈します。
毎回原作一巻片手に以下略です。でも、今回はオリジナルの部分も多かったですね。
バトル回で違う対戦相手なのに、そのままの文章が成立するのはおかしいから、まあ当然と言えば。
それでも文章が禁書風なのがすごいです。原作をよく研究している証でしょうね。
ステイル役は順当に御坂妹ですか。正直上条さんにとって、いきなりの最強の相手ですよね相性的に。
改めて思ったんですが、これ完結まで相当かかりそうですね。何せ小説1巻(2巻)分書いてるのと同義ですから。
バトルは次で決着でしょうか。上条さんがどんな策を講じるのか、楽しみです。「油性ペンって知っているかな?」
では御坂妹の呼び名定着を応援しつつ、次の投下も楽しみにしています。

                                  幻想殺し「こいよ妹達! 銃なんか捨ててかかって来い!!」

360かぺら:2010/09/08(水) 00:16:07 ID:gaCw.wY.
>>340

ありがたいお言葉、ありがとうございます。
上条さんが揺らがないのは、上条さんだから、と思います。

>>てか、つい昨晩美琴に言われたばっかじゃん!
その通りでございます。
ただ、原作を読む感じ、美琴と会ったことが現実か否か分かってなかったような感じでしたので、あえて言わせました。
「自分は助けを求めない」とはいうものの、美琴の言葉が心のどこかに残ったことで、雨宮に対してあの言葉が出た、という感じで。

パウラさんは若干、インフレさせすぎた感はありますが、雨宮くんに活躍されると困るので(爆)
undaに関しては……調べたら一発なので、あれですが、それです。
雨宮が万全でなかったのは、その解釈でOKです。

ごろつきさんは…………まぁ、回復魔術のお礼、ということで。
ちょっと、いちゃSSの方で1、2本仕事してから完結させる予定なので、気長にお待ちください。
未回収の伏線、は………何が残ってたかな(焦)

長々と失礼しました。

361■■■■:2010/09/08(水) 02:00:51 ID:WcvWK.p2
気が付けば新しいssも大量投下されてますね。
レスが一〇番台の頃が嘘のよう。
皆さんGJです。

大分間が空いてしまいましたが、今から垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』を投下します。
前回は>>127です。

注意点としては

相変わらずのていとくんオリ妹キャラ。
アウレオルスおよびていとくんの大幅なキャラ崩壊。
脳科学とか全く分からないので、アウレオルスの寄生について知ったかぶりであることないこと書いてると思います。
寄生の仕組み自体はそれほど重要ではないので、そーなのかーと読み流していただければと思います。
いつになく長いです。何をバトってるわけでもないのに。最初はこれと次の章を一まとめにしようとしていたとは思えない長さです。
姫垣がでしゃばったこと以上に予想外にアウレオルスがおしゃべりでした。

などです。
それでは投下します。

362垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:01:29 ID:WcvWK.p2
 学園都市内にあるとある児童公園にて。
「――成敗」
巫女服を着た黒髪の少女――姫神秋沙が、手に持った魔法のステッキ、もといスタンガン内蔵警棒を勢いよく振り下ろす。
しかし、
「――!?」
 凶悪なまでの電流を垂れ流しにしているそれは、カンッ、という軽い音とともに姫神の手からすっぱ抜けて彼方へ飛んでいった。
「…………」
 姫神はそれを弾き飛ばした対象を――姫神が攻撃を仕掛け、しかしあっさりと阻まれた対象を見据える。

 垣根帝督。
 学園都市第二位。
 『未元物質』の超能力者が、そこにはいた。

「……。私を。どうするつもりなの?」
 武器を失い後ずさる姫神だったが、その背中はすぐに公園に設置された自販機に触れてしまう。
 そんな姫神を追い詰めるように垣根が近づき、

 ドンッ、
 
 と垣根の左手が姫神が背中を預けている自販機を叩いた。
「……黙れよ」
「…………」
 その言葉の通り、姫神は押し黙る。
 さらに自販機と、頭のすぐ横に伸びている垣根の左腕によって逃げ場を奪われてしまい、どうすることも出来ない。
 垣根は、自身の目線より低く、そして触れられるほどすぐ近くにいる姫神のことを数秒見下ろし――

 おもむろに、その胸元に向かって手を伸ばした。

363垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:03:11 ID:WcvWK.p2
 8月9日。
 早朝。
「財布持ったか?」
「うん、おっけー」
「水着、ゴーグル、バスタオル、水泳帽」
「ちゃんと入れたよ」
 学園都市にあるとあるマンションにて。
 垣根帝督と、その妹――垣根姫垣が、屋内プールへ行く姫垣の荷物確認を行っている。
 姫垣の方はすぐにでも飛び出したいようだが、垣根が荷物を一つ一つ出し入れさせ、忘れ物がないかを点検しているのだ。
「大体いいか。あとは、替えのした――」
「入れたって、もう……恥ずかしいなぁ」
 少し顔を赤らめながら、姫垣が垣根の言葉を遮る。
「……何か向こうで必要になったら、好きに買っていいからな」
 取りあえずその言葉で荷物確認は終わりにする垣根。
 続いて、
「プールサイドで走るなよ。お前絶対転ぶから」
 お兄さんからのプールにおける注意事項の確認である。
「分かってるって! ていうかヒメ転ばないよ!」
「いいや転ぶ。お前おっちょこちょいだもん。ほれ、公園でよ……」
「それこの前も聞いた!」
「む……じゃあ、あれだ。雨の日によ。傘さしてはしゃいでたら、足滑らせてすっころんだろ。しかも、そのまま土手を転げ落ちて増水中の川にダイブしたよな」
「そ、そんなこともあったけど、昔の話じゃん……」
 途端にしゅんとなる姫垣。
「いや、これは今年の梅雨ん時だから、最近だし。そもそも俺が能力使ってお前のこと川ん中から助け出したんだからよ。水面に浮いてきてくれたから何とかなったが……あん時は本当に肝が冷えたぞ」
「う、うぅ……」
 どうやら、かなり危険な事件だったらしく、垣根の声が段々とキツくなり、それに伴って姫垣の目が下を向いていく。
「そのせいで俺までビショビショになっちまったし」
「むぅ……って、あぁ! そうだ! あの後確か、帰ってきてお風呂に入ろうと私が脱衣所で裸になってた時に、てーとにぃ私のこと覗いたんだ!」
 突然、右手の人差し指をビシッ、と垣根に突き立てて、姫垣が大声で宣言する。
「んな! お前そんなこと覚えてんじゃねーよ! 大体、あれはお前の服が泥だらけになってて、早く洗わねーと汚れが取れないと思って、脱いだ服回収しようとしただけだ! お前が服脱ぐの遅かったのが悪いんだろ!」
「肌に張り付いて脱ぎにくかったの! ていうかにぃがノックすればいい話じゃん!」
「じゃあお前が鍵閉めろよ!」
 まさに兄妹喧嘩のテンプレートみたいな言い合いをする垣根と姫垣。
「どっちみち裸見たことには変わらないじゃん! にぃのエッチ!」
「お前、終わったことを掘り返して……てかエッチって……」
「結局、転がったせいか服も背中のところがすごい破れてて、着れなくなっちゃったし」
「だから、もとはと言えばお前がはしゃぎ回って川に落ちたりするから……」
「だ、だって! あの時は、久しぶりににぃと一緒に帰れたから!」
「なっ……」
「っ………」

364垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:03:27 ID:WcvWK.p2
 お互い固まってしまう垣根と姫垣。
 もしこの場に第三者がいたならば、まるで付き合い始めのカップルのようだと評することだろう。
〈呆然。付き合い始めのカップルのようだな〉
(………………………………)
 そう言えば、この場には第三者がいたのだった。
(うっせーな、テメェにゃ関係ねーだろ)
 頭の中に響く、無遠慮な間借り人――アウレオルス=イザードの声に、垣根は心の中で応える。
〈しかし、こんな調子ではいつまで経ってもプレゼントが渡せんぞ?〉
(わ、分かってんだよ! なんなら今すぐにでも……)
〈そう思い始めて一体どれだけ経った? 持ち物確認や諸注意ばかりで、なかなか本題に入ろうとしない驚くべきへたれ野郎はどこの誰か〉
(……こっちの考えが全部そっちに筒抜けってのはやっぱり反則だろ。だぁもう! 分かったよ!)
 心中での会話を終えて、垣根は目前の姫垣に向き直る。
「ヒメ」
「へ? な、何?」
 突然改まった垣根の態度に戸惑う姫垣。
 それに構わず、垣根は背中に隠し持っていた包みを取り出し、姫垣に差し出す。
「昨日、俺の服と一緒に買った。お前の服」
「えっ…………ふぇ…………?」
 混乱しながらも姫垣はその包みを受け取り、上目遣いにちらり、と垣根のことを見上げた後、丁寧にそれを開いていく。
 その中には――
「わっ、可愛い……」
 昨日垣根がデパートで購入した白いスカートが入っていた。
「こ、これ、てーとにぃが? ヒメに?」
「おお。……な、何か気に入らなかったか?」
 恐る恐る聞き返す垣根に対して、姫垣はふるふる、と首を振って答える。
「ううん。逆だよ。にぃはきっと、もっとフリフリのとかデコデコしたのとか選ぶと思ってたけど……これすごい可愛い! にぃセンスいいね!」
 瞳を輝かせながらの姫垣の言葉に、
「ア、アタリマエダローガ。ニーチャンハスゲーンダヨ」
 垣根は完全な棒読み声で答える。
「わー! ありがとうてーとにぃ! あ、えーと……その、さっきは意地悪なこと言ってごめんね」
 ヒートアップした頭が強制的にリセットされたことで冷静になったのか、先ほどまでの自分を反省する姫垣。
「いーよ。俺も大人げなかった。くどくど言い過ぎたな、ごめん」
 垣根はそんな妹の頭をぽんぽん、と叩き、優しげに返す。
 すると姫垣は、
「てーとにぃ! 大好きっ!」
 とスカートを抱えたまま思いっきり垣根の胸にダイビングしてきた。
「ばっ、止めろよ恥ずかしい。ほら、どうせだったら、今日それ着て行ってこいよ」
 赤面して、のしかかってくる姫垣を力なく押し返しながら垣根が言うと、姫垣は、うん、と嬉しそうな声で頷いた後、自室へ戻って行く。
 おそらくは今履いているジーパンと取り替えに行ったのだろう。
「ったく、しょうがねぇな……」
 と呟きつつも、もちろん口元は僅かににやにやとしている垣根帝督である。
〈………………唖然。売り場の店員に感謝することだな〉
(その、俺のメモリーから勝手に情報を引き出せる機能も止めろ)
 喜びを阻害する声に心の中で突っ込みを入れていると、すぐに姫垣が戻ってくる。
「ねっ、どう? どう?」
白いスカートをはき、くるりと垣根の前で一回転してみせる姫垣。
「おう、似合う似合う……!?」
満足げに頷いていた垣根の声が止まる。
「……お、お前。それ、下に何はいてやがんだ?」
 垣根が震える指で姫垣のはくスカートの下からはみ出しているそれを指摘すると、
「へ? スパッツだけど」
 姫垣は指でスカートを恥ずかしげもなくめくって、その下のスパッツを露わにした。
「……脱げ」
「へ? 何を?」
「スパッツだ! スカートの下にそんなもんはいて、恥ずかしいだろうが!」
「な、何で? へ? 逆じゃない? パンツが見えないように……」
「スカートの下からスパッツがはみ出してる方が恥ずかしいわ! いいから脱げ!」
 言いながら、垣根は姫垣の足元にダイブしてスパッツを脱がそうとする。
「え、ちょっと引っ張らな……きゃっ! やぁー! てーとにぃのエッチ! 変態!!」
「なっ、だから俺はお前が外で恥ずかしくないように……って痛っ! 蹴るなよ!」
 そうして、共に床に倒れ、過激なスキンシップ――もとい、じゃれ合っている兄妹を第三者視点で眺めながら、
〈……騒然。やれやれ、だ〉
 錬金術師・アウレオルス=イザードは、一人溜め息をついた。

365垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:04:04 ID:WcvWK.p2
 前日。
 8月8日、夜。
 馬場芳郎――正確には彼の操るロボットとの戦いを終え、帰宅の路についていた垣根帝督は、
(んで、テメェはどういう経緯で、ついでにどういうインチキ使って俺の頭ん中にワープしてきたんだ?)
 アウレオルスの、『言葉にして発声せずとも、思うだけで垣根の意志はアウレオルスに伝わる』という言葉を受けて、脳内で『会話』を行っていた。
〈8月3日。貴様と三沢塾で出会った日。私は貴様の記憶を奪うと同時に、ある仕掛けを貴様の頭に仕込んでおいた〉
(仕掛け?)
〈貴様の脳に、私の今までの――8月3日時点での記憶、記録、人格の全てを植え付けておいた。そして、私が死亡した時、或いはそれに等しいだけの精神的損傷を受けた時に、それらの情報を元に『私』を貴様の脳内に再構成する――『8月3日のアウレオルス=イザードが思考するであろうことを思考する人工知能プログラム』を作成する、という術式を施したのだよ。つまりは、直接アウレオルス=イザードが貴様に憑依した訳ではない。今の私は8月3日のアウレオルス=イザードの複製。アウレオルス=コピーとでも言うべき存在だ〉
「ばっ――」
 思わず声を上げそうになり、垣根は慌てて口を噤む。
(馬鹿か? んなこと出来る訳ねーだろ)
〈ふむ。私の『引っ越し』に際して8月3日の記憶は戻っている筈。魔術について再度説明する必要はないと思っていたが?〉
(あぁ、それに関しちゃ文句はねぇよ。AIは科学の分野だし、『アルス=マグナ』とあの三沢塾っつーフィールドがありゃ、そんくらいのビックリくらい起こせそうだ。だがよ、植え付けたってのはどーいうことだ? 確かに人間の脳にゃ140年分の『記憶』を保つだけのキャパはある。それでも、他人の脳味噌を『丸ごと一個』移すにはどう考えても足りねー筈だ)
〈憮然。話を聞いていたか? 私が移したのは、私の記憶、記録、人格のみに過ぎない〉
(あ? それで全部じゃねーのか?)
〈当然。例えば、『この』私には脳以外の器官が存在しない。考えてみろ。貴様の目は四つに増えたか?口は二つに増えたか?〉
(あー……成る程)
その言葉だけで、学園都市第二位の頭脳は自身の疑問を解き明かすことに成功した。
(感覚器の一切がないなら、本来それに連なって動いていた脳味噌の各部位も必要ねぇ。そうやってエコエコしていった結果、アウレオルス=コピーの持つ情報量は俺の脳の余ってる部分に収まるだけ小さくなったってことか)
〈明然。聡明なのは良いことだ〉
(ん? だがそうするとテメェには外界を認識することは出来てないってことか? てゆーかならそもそも、どうしてテメェは俺とは意志の疎通ができてるんだ?)
 家路をたどりながら、次々に思考を組み上げていく垣根。

366垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:04:23 ID:WcvWK.p2
〈雑然。一度にいくつも疑問をぶつけてくるな。順を追って話そう。私は今、貴様の記憶野に私用のスペースを設けて間借りさせてもらっている〉
(家賃払え畜生が。……あー、だがよ。人間の脳っつーのは色々分野毎に分かれてて、記憶野だけでお前の記憶、記録、人格をコンプリートするのは……)
〈脳とは所詮神経細胞の接続の連続に過ぎない。少し並びを組み替えれば、他の分野の仕事も賄えよう〉
(……その作業の結果があの頭痛ってことか)
 謎のロボットとの戦闘を思い出し、垣根はしかめっ面になる。
〈そして、同時に今私が間借りしている脳のスペースと、その他のスペースとを『仕切り』によって分断した。お互いの意識が混合するのを防ぐための措置だ。しかし、それだけでは私は貴様の頭の片隅で眠っていることだけしか出来ない。そこで、『仕切り』に小さな穴を開け、情報が行き来出来るような『糸』を通したのだ〉
(テメェ、人の脳味噌を好き勝手にリフォームしやがって……その『糸』が、疑問の答えってことか?)
〈判然。『糸』は貴様が五感で得た外界の情報をそのまま受信するためのものである。今の私には感覚器がない故にな、貴様の見、聞き、感じたものを私も同様に受容するようになっている。それとは別に、この『糸』は貴様の考えていること、貴様の今までの記憶と記録もまた受信することが出来る。『貴様の脳』に直結しているのだから、どちらも当然のことであるがな。あぁ、因みに貴様の考えは自動で私に流れてくるのでな。貴様は私に一切の虚偽は吐けぬし……エロいことなどを考えたらすぐにバレるので注意しておくのだな〉
(っ…………)
 悪戯っぽい響きを含んだアウレオルスの言葉にイラッとながらも、垣根は『会話』を続ける。
 すでに自宅のマンションがすぐそこにまで迫っていた。
(んでもって、その『糸』は受信するだけでなく、テメェの考えもこっちに伝えられる、その結果がこの声ってことか)
〈その通りだ〉
(こっちにはテメェの邪念みてぇのは送られてこねぇんだが……何だ? 『送信』に関してはファイアウォールを張れんのか? セッケーな)
〈当然。だがこれは良心だぞ? 私の思考がいちいち貴様に流出しては貴様も煩わしいだろう。基本的には貴様の思考に対する応答、貴様に伝えるべき事項の伝達、不甲斐ない貴様の思考や行動への突っ込みぐらいしかしないつもりだ〉
(最後のは余計だクソ野郎。……さて、まぁしかし、これで大体のことは理解した)
〈フン、優秀だな。学園都市第二位〉
(わかんねーのはあと一つ……)
 マンションの入り口の前で、垣根は立ち止まり後ろを振り返る。
 無論、そこには誰も立ってはいないが――脳内の『校長室』での垣根の視界は、眼前に直立するアウレオルスの姿をしっかりと捉えている。
(――テメェが一体どういう『目的』で俺の頭ん中に侵入したかってことだ)

367垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:04:46 ID:WcvWK.p2
〈目的、か。だが貴様はもうそれに思い至っている筈だ。少なくとも、『最終的』なところはな〉
 三沢塾の校長室で――正確にはそれを再現した精神世界で、アウレオルスは垣根帝督に告げる。
(……やっぱり、禁書目録関連か。俺ん中にコピーを作ることが、禁書目録の救済に繋がるってのか?)
〈否。私がここに来たということは、私は既に目的を達している筈である〉
(……?)
〈三沢塾には――私の結界には、一切の魔術攻撃、科学攻撃が通用しない。絶対であり、完全だ。そして、そこへ禁書目録を誘い出す策も何十も考えてあった。故に、私は一切の危険なく、禁書目録に術を施すことが出来たであろう〉
(なら……)
〈問題はその後だ。禁書目録の『首輪』を破壊する、あわよくば彼女の記憶の全てを吸血鬼に移す――それ程の大掛かりで特異な術式を、私は未だかつて行ったことがない。術自体が成功したとしても、何らかの後遺症や不測の事態が発生する可能性がある〉
(――術後の経過を見守るため、か。だがよ、だったらわざわざ俺の頭ん中に飛んでくるまでしなくても……)
垣根の意見にアウレオルスは、やれやれ、と目を閉じ、首を振りながら答える。
〈忘れたか? 私は世界中の魔術協会を敵に回している。三沢塾を出た次の瞬間、私は拘束されあらゆる拷問を受けて知識を吸い出された挙げ句、体のいい錬金術師の標本として扱われるだろう。それでは禁書目録のその後を見守ることなどできまい。かと言って三沢塾の中では術後の経過など見れる筈もない。あの場所では、禁書目録の身体もまた、私の思い通りに歪められてしまうだろうからな。それ故に私は、禁書目録を救済した後すぐ、自発的に貴様のところへやって来た筈だ〉
 アウレオルスは、一拍置いてからその切れ長の瞳を開き、垣根を見据えて告げた。

〈――自害して、な〉

(…………っ)
 成る程、確かに。
 アウレオルスが置かれた環境において――そしてそこから脱する為の策として――それはかなり有効な方法であっただろう。
 しかし、それは常人からすればどう考えても狂気の沙汰でしかない。
 何かが壊れた人間の選ぶ選択肢に違いない。
 そして、
(……テメェ、やっぱすげーな)
 垣根帝督もまた、そちら側の人間なのであった。
〈歴然。貴様の感情に直に触れている今なら解る。貴様は真実私の思考に恐怖していない、嫌悪していない。その羨望も尊敬も、本物であって混じり気がない。私が置かれたような状況下では、『自害することが当然であり最善である』ことを心の底から肯定している〉
(…………)
〈貴様を選んだ私の選択は正しかった。或いは貴様の意識を完全に支配するような術式を組み、この身体を私の思うままに動かすことも考えていたが――やはり必要なかったな。貴様は私と同類だ。私を真に理解している〉
(……ったく、その通りだよ)
 はぁ、と大きく溜め息を吐き、垣根は呟いた。
(俺はテメェのことをすげーって思っちまって、だから協力したいとも思っちまって、そしてテメェに付き合うことで――俺にも何かが見えるんじゃないかって、本気で思っちまってる)
 見事にテメェの掌の上だ。
 呆れたように、或いは観念したように、垣根が付け加える。
 それに満足げに頷くと、アウレオルスは早速第一の目的を告げる。
〈禁書目録より先に、先ずは『吸血殺し』姫神秋沙の様子を確認する。あれとは協力関係にあった。私がきちんとそれを果たしたのかを見に行こう〉

368垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:05:01 ID:WcvWK.p2
「いってきまーっす!」
「おぉ」
 乱闘の末、ついにスパッツを脱ぎ捨てた姫垣が玄関から出て行くのに、垣根は軽く手を振って応える。
 玄関の扉が緩やかに閉まり、軽い音を立てるのを聞いてから、垣根はアウレオルスに心の中で声をかける。
(さて。じゃあ、俺たちも行くぞ。テメェの目的を、果たすためにもよ)
〈その前に実験、だったか〉
(あぁ、幻生んとこでな。そっちは居候なんだから、こっちのスケジュールには合わせてもらうぜ)
〈当然〉
(それに、研究所には8月3日の時の資料――つまりは姫神秋沙についての資料もまだ残ってる筈だ。テメェのせいで『保留』になっちまったからな。まぁ、姫神のデータは大体頭の中に残ってるが、ちゃんとした資料で居場所を特定した方が確実だろう)
〈ふむ、これは存外早く済みそうだな〉
「つーかよ……」
 外出準備の手を止めて、垣根は声に出してアウレオルスに問う。
「何で先に禁書目録じゃねーんだ? 明らかに優先順位逆だろ」
〈っ、それは…………〉
 珍しく、慌てたような思考を飛ばしてくるアウレオルス。
 その様子に、垣根はすぐにピンと来てしまった。
(ははーん)
 何しろ、垣根とアウレオルスは同類である。
 アウレオルスの思考が垣根に直接伝わらなくとも、アウレオルスと自身とを重ね合わせることで、簡単にその思考を読むことが出来る。
(さてはテメェ、禁書目録に会うのが怖いんだろ。本当に自分が禁書目録を解放できたのか、不安なんだろ)
〈むっ、それは………………〉
(図星だな。まぁ、でもそう思うのも分かるぜ)
〈……………………〉
 完全に押し黙ってしまったアウレオルス。
 しかし、だからこそ垣根はアウレオルスに親近感を覚えた。
「ははっ。アウレオルス、テメェもまだまだ全然人間だな」
 脳内の居候に向かって茶化すようにそう告げて、垣根はマンションを後にした。

369垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:05:15 ID:WcvWK.p2
 本日の実験を終えた垣根帝督は、木原研究所内にある資料室を訪れていた。
「やっぱり、研究資料と一緒に依頼の資料も放っぽってやがる。シュレッダーにもかけてねぇし。相変わらず、研究以外はズボラな野郎だ」
 呟きつつ、垣根は姫神秋沙に関する資料を紙束の見つけ出す。
 ざっと目を通して確認した後、それを小さく折りたたんでジーンズのポケットに入れたところで、突然資料室の扉が開け放たれた。
「こんな所にいたのかい」
 言いながら入ってきたのは木原幻生その人。
「どうも、明日の依頼の資料を確認しようと思いまして」
 努めて冷静に言いながら、垣根は部屋の隅に無造作に置かれている、明日行う予定の依頼についての資料の束を手に取る。
「……ふふん。熱心でいいことだ。ところでね、帝督くん。今日の実験の結果が出たんだけどね、見てくれるかな」
 特に気にした様子もなく、垣根は資料室に設けられたら四角い机に数枚のコピー用紙を広げた。
「わかるよね」
「…………」
 資料を覗いた瞬間、幻生の言わんとしていることは分かっていたが、
「……何が、ですか?」
 垣根ははぐらかすような答えを返す。
「やれやれ、ここの数値だよ。一月に一回行っている検査実験。それの、ここ半年間の結果をグラフ化したものだ」
 幻生は白衣の胸ポケットからボールペンを取り出すと、わざとらしく六つの棒グラフの天辺を繋ながら言った。
「段々上昇率が下がってきている。そして先月と今月じゃ、もうほとんど横這いだ」
「…………」
「天井が見えてきてしまったのかな。天上に届く前に、ね」
 トントン、とボールペンの先で用紙を叩きながら、一体何がおもしろいのか、くつくつ、と声を押し殺して笑う幻生。
〈歴然。今のは『天井』と『天上』の音が同じことを利用した駄洒落と呼ばれる技法だ〉
(……いいからテメェは黙っててくれねぇか)
 頭の中に響く声に釘を刺し、垣根は幻生に向き直る。
「確かに実験の結果が著しく良くなっている訳ではありませんが、悪くなっている訳でもありません。『未元物質』の能力は衰えていない、だったらまだ研究価値はあるでしょう。あなた方は、未だに『未元物質』が何であるか、その取っ掛かりすら掴めてはいないんですから」
 文句を言うなら、まずは『未元物質』を解明してからにしろ。
 その言い分は、今まで『未元物質』を研究してきた研究者たちが、今回のように垣根を手放そうとする度、『次の雇い主』を探すため、或いは移転のための時間稼ぎに言ってきたことだ。
 こう言えば、その言葉を真に受けて――或いはその言葉が薄っぺらい自尊心に触れて、『未元物質』の研究を引き伸ばすことがあったのだ。
 だが、
「何度も言うようだけど、私の興味は絶対能力、ただそれのみ。だから君の『未元物質』という能力それ自体には何の興味もないし――突き詰めてしまえば君が絶対能力者にさえなってくれれば、『未元物質』の実態を解明できなくとも構わない」
 幻生が、気味の悪い笑みを浮かべる。
「そして今の君には、もう絶対能力者への進化の兆しが全く見られない。これは、新しい可能性に研究を移すべきかもしれないね」
「どういう……」
「新しい能力者を開発した方がいいかもしれないってことだよ。……あぁ、そういえば。姫垣くんは、能力開発していないんだっけ?」
「――――!」
 ドガンッ、と大きな音を立てて。
 机が真っ二つに弾けた。
「……それは、契約違反です。木原幻生さん」
 幻生を睨みつけて、一言一言区切るように垣根が告げる。
「分かっているよ。流石に全く未知の可能性と現超能力者とでは、後者の方に天秤が傾かざるを得ない。――現段階では、ね。君にはもうしばらく付き合ってもらうよ。垣根帝督くん」
 悪びれた様子もなく、飄々と言ってのける幻生に、
「…………失礼します」
 垣根はそれだけ答えると、幻生の横をすり抜けて部屋を出て行った。


〈そちらにも、困難はあるようだな〉
 木原研究所を出てしばらくしてから、頭の中からアウレオルスの声が響いてきた。
(テメェのに比べれば大したことじゃねぇ。禁書目録に例えるなら、まだヒメは『首輪』を嵌められる前の状態だ。何とでも、護り様がある)
 半ば自身に言い聞かせるような言葉。
 それすらもアウレオルスには伝わっているであろうことを知っていて、しかしだからこそ垣根はどこか安心した心地がした。
(俺の問題は俺が解決する。もとより超能力に関わりのねぇテメェには関係のない話だ。それより今はテメェの用件だろ)
 心中で語りかけながら、垣根は先ほど資料室から掠めてきた姫神秋沙の資料を広げる。
(取り敢えず、こいつが生活してる霧ヶ丘女学院の寮の部屋を訪ねてみる。上手くいけばいきなり会えるかもだ)

370垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:05:50 ID:WcvWK.p2
 しかし、物事はそうそう上手くは運ばない。
「た、退学したってどういうことだよ!?」
「今朝方、姫神秋沙の所持するレベル4『吸血殺し』の能力が失われたとの報告を本人から受けました。そのため、姫神秋沙を退学処分にし、本学の学生名簿より抹消、それに伴い寮も引き払って頂きました」
 一体どこに不明な点があるのか、とでも言うような事務員の視線にイライラとしながら、垣根はアウレオルスに問いかける。
(どういうことだ、オイ。能力がなくなったって……)
〈おそらく『私』が『歩く協会』の機構を応用して姫神秋沙の能力を封じたのであろう。禁書目録救出の暁にはそのように処置する契約になっていたからな。しかし、憮然。学園都市では能力を失っただけで退学処分になるのか?〉
(あぁ、クソ食らえなシステムだろ。もっとも、それもエリート校に限った話だがな)
「それで、姫神さんはその後どちらに?」
 心中の会話とは180度違う態度で事務員に質問する垣根。
「本日付けで園の方に転属になっています」
 そう言って、事務員は学園都市内にあるとある施設のパンフレットを提示した。
 所謂、置き去りと呼ばれる子供たちが集められた場所である。
(そういや姫神秋沙は孤児だったな……)
「分かりました、どうもありがとうございます」
 丁寧に礼をしてパンフレットを仕舞うと、垣根は即座に回れ右をして道を戻る。
(ま、これで次の手掛かりは掴めた。まだ糸は切れてねぇさ)


 ところが、悪いことと言うのは、なかなかどうして続けざまに訪れるものである。
「……まだ来ていない、と」
「えぇ、午前中には学院を出たらしいのですが……まだ……」
 困った顔で対応する施設の保育士に、垣根は張り付いていると言うより凍りついていると言った方が相応しいような笑顔を向けて言う。
「何か心当たりとか……」
「そう言われましても、こちらはまだ一度も直接顔を合わせたことすらありませんし……」
「……そうですか。ありがとうございました」
 踵を返し、施設を後にする垣根。
(どーすんだぁオイどーすんだよコルァ! 姫神秋沙はどこで油売ってんだ道草喰ってんだ!)
〈ふむ。おそらく学院を出たものの、施設に行くのが何となく嫌になってそのままそこらを放浪しているのだろう〉
 そういう癖のある女だった、とあっけからんと言うアウレオルスに頭を抱えつつ、現状を打開しようと質問を重ねる。
(姫神の行きそうなところに心当たりは……)
〈皆無だ〉
(……だろうな。っつか、じゃあそれこそ禁書目録の方なんてどうするつもりなんだ? 手がかりがないどころか、ひょっとするとイギリス清教に連れ帰られちまって、もう学園都市にはいねぇかもしれねぇぞ?)
 言い忘れてたが俺ら能力者はそう簡単に外には出られねぇんだよ、と言う垣根に、アウレオルスはやはり落ち着いた様子で返す。
〈それはないな。私が『どの段階まで』禁書目録を救出したにしろ……『首輪』が外れたこと、魔道書についての知識がなくなったことをイギリス清教が自ら公言することはないであろう。そしてそうである限り、禁書目録は他の魔術協会にとって忌避すべき脅威であり、かつ格好の獲物でもある。そんな風に危険がいくらでも寄ってくる禁書目録だ。イギリス清教は彼女を学園都市から出すまい。ここは、魔術サイドにとっての中立地帯であるからな〉
(……だが、どの道学園都市のどこにいるかは分からないんだろ。つーか、そもそも発信機とか付けてねぇのかよ)
〈発信機……そうか、そうだったな〉
 はっ、としたようにアウレオルスが声を上げる。
(? 何かあるのか?)
 期待を込めた垣根の声に、アウレオルスが自慢げに答える。
〈当然。私をあまり甘く見ないことだな。三沢塾へ行け。鍵はそこにある〉
(お、おぉ分かったぜ!)

371垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:06:02 ID:WcvWK.p2
 だがしかし、二度あることは三度あるとはよく言ったものである。
「……んで、これが何だってんだ?」
 垣根はアウレオルスに指示された三沢塾校長室(当然不法侵入した)に置かれた机のとある引き出しから、ビニルに入った二種類の髪の毛を取り出した。
 一方は黒、もう一方は銀色で、どちらも随分長い。
〈姫神秋沙と禁書目録の頭髪だ〉
(そういう趣味が……)
〈否。魔術とは便利なものでな。持ち物からその持ち主の居場所を特定する術式があるのだ。それを使えば、二人の位置などすぐに分かる。思い知ったか、これが錬金術師・アウレオルス=イザードだ〉
(…………あー)
 垣根は脳内で誇らしげに騒ぐアウレオルスに、ビニル袋を揺らしながら問う。
(――んで、誰がその魔術を使うんだ?)
〈? 明然。私に決まっているであろう〉
(ほぅ、俺の脳味噌に寄生してるテメェが、どうやって魔術を使うって?)
〈…………………………〉
(確か超能力者の脳味噌じゃ魔術は使えねぇんだよな。三沢塾の学生は再生出来たからいいが俺はそうはいかねぇし、俺の脳がダメージを受けた結果テメェが消滅するっていうシナリオも有り得るぜ?)
〈………………………呆然。そういえばそうだったな〉
 目を閉じれば、そこには脂汗を滝のように流しているアウレオルスの姿がありありと見えた。
〈だ、だが! そうだ! 禁書目録の『自動書記』なら、能力開発を受けていない人間に代わりに魔術を行わせることができ――〉
「だぁからその禁書目録を探してんだろうがこのスカシイケメンがぁぁぁぁぁ!!!!」
 声に出して叫びながら、垣根は脳内でアウレオルスに向かって右ストレートの突っ込みを思いっきりお見舞いした。

372垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:21:51 ID:WcvWK.p2
(あー、もう止めよっかなー! 手伝ってやるの止めよっかなー!)
〈やれやれ、最近の若者はすぐに飽きただの何だのと言って物事を放り出す。嘆かわしいことだ〉
(誰のせいだと思ってるんだ、アウレオルスさんじゅうはっさい?)
〈……貴様、今の思考を間違っても漢字変換するなよ〉
 垣根帝督は無駄足を踏んだとばかりにさっさと三沢塾を離れ、第七学区を放浪していた。
 しかし今回ばかりは手掛かりも何もなく、本当にあてもなく彷徨っているだけだ。
「こんなんじゃどう考えたって見つかりゃしねーもんな」
 姫神秋沙の資料を広げ、声に出して溜め息を吐く垣根。
 相変わらず頭の中には涼しい声が響いており、それが垣根のイライラを一層高めている。
 アウレオルスの思考は全て垣根に伝わる訳ではない、と言っていたが、垣根の思考に応えるだけにしてはどうにも言葉数が多すぎる。
 どうでもいいことでこちらのツッコミを誘う様子はまるで構ってちゃんそのものだ。

373垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:22:21 ID:WcvWK.p2
〈ふ……そこで突っ込んでしまう貴様にとやかく言われる筋合いはないがな〉
「カッコつけといて否定はしないんだな……」
 呆れながらもぼそり、と無意識に突っ込みを入れてしまう優しい垣根くん。
 すると、
「もぅ、痛いですよー」
 前方から突如声が聞こえてきた。
(痛い? しまった、今の声に出てたか? 白昼堂々大通りで独り言言ってる人間がいたら、確かに痛い!)
「え、えーと、いやこれは……」
 垣根はまだ見ぬ突っ込み主に弁明しようとするが、
「あれ、いない……?」

374垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:22:52 ID:WcvWK.p2
 目の前に人影はない。
「こっちですよー」
 再び聞こえてきた声の出ところを探って視線を下に下げると、そこにはピンク色の髪をした幼女が一人尻餅をついていた。
「まったく、先生にぶつかっておいて謝りもしないなんて、一体どこの学校の生徒ちゃんですかー?」
「先生……?」
 どうやら資料を見ながら歩いているうちに衝突してしまったようだ。
 幼女は、立ち上がりながらよく分からないことを愚痴ったかと思うと、ふと垣根の持っている資料に視線を寄越した。
「姫神……秋沙……?」
「! テメェ、こいつのこと知ってるのか!?」
 つい、語調を荒げてしまう垣根。
「むむぅ。度々先生に向かって失礼な子ですねー。でも、その様子だとやっぱりこの子を探しているんですねー。迷子ですか?それとも家出?」
 対して、幼女は慌てた様子もなく垣根の手から資料を引ったくる。
「……あー、まぁ家出みてぇなもんだ」

375垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:25:59 ID:WcvWK.p2
 正確には家を追い出された後、新しい家に行かずに放浪しているのだから、家出の真逆と言えなくもないが。
「で、テメェはこいつについて何か知ってんのか?」

376垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:30:05 ID:WcvWK.p2
「いいえ、この子のことは今はじめて知りましたが……先生、この子を捜すの、手伝えると思いますよー?」
 そう言って悪戯っぽく笑う幼女。
 この幼女こそ、四度目にしてようやく垣根の前に現れた救世主であったのだった。

377垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:31:29 ID:WcvWK.p2
「マジでか……」
〈恟然。マジ出島〉
 突如現れた幼女――その後の自己紹介で月詠小萌と名乗った幼女は、実は成人女性で、学園都市内のとある高校の教師であった。
 それも確かに驚きの内容だったが――
「えっへん。言ったとおり、ほら、もう姫神ちゃん見つけちゃったのですよー」
 無い胸を張って威張る月詠の指し示す先――人気のない児童公園のベンチに、大きな旅行用カバンを抱え、いつかと同じ巫女服を着た姫神秋沙の姿があった。
 心理学の応用で家出した子の行動パターンなどを読み、そういった子供達が溜まっていそうなところに赴き、これを保護する――そんなことを『趣味』と言ってのけた月詠に半ば押し切られる形で(どうあっても姫神の資料を放そうとしなかった)彼女を姫神探しの一行に加えることにした。
 大して期待はしていなかった垣根とアウレオルスであったが、姫神の資料を一読し、数分だけ考えた後月詠が提示した『候補地』。
 数あるそれらの始めの二カ所目を巡ったところで、垣根たちは早速姫神秋沙の姿を発見してしまったのだ。
「それで、どうして姫神ちゃんを探していたんですかー?」
 下手をすれば自身より年上に見えかねない少女をちゃん付けで呼び、月詠は垣根に問いかけてくる。
「ちょっとした野暮用だ」
「んー、不純なことじゃないですよねー?」
「全然、全く」
 食い下がる月詠を適当に切り捨て、垣根は姫神に近づいていく。
「……!あなたは。……。いえ。何でもない」
 垣根に気づいた姫神が、微妙な反応をする。
 垣根の顔には見覚えがあるが、垣根は姫神のことを覚えていない筈であるということに思い至ったのであろう。
「久しぶりだな。姫神秋沙」
 勿論実際は姫神のことを覚えている――思い出している垣根は、臆することなく少女に声をかける。
「!? あなたは。アウレオルスに。記憶を消去された筈」
「だったんだけどな。色々あったんだよ。今日はテメェに用事があって来たんだ……?」
 そこで、垣根はあることに気づいた。
(そういやアウレオルス。姫神のその後を見るって話だったが、俺は実際何をすればいいんだ?)
〈言っていなかったか。簡単。私が姫神秋沙の能力『吸血殺し』を封じたとすれば、『歩く教会』の機構を利用した何かしらの霊装を姫神に持たせている筈〉
(だが見た感じ何も持ち歩いちゃいねーみたいだぞ?)
〈手に持つような物ではあるまい。身体から離してしまった途端に能力が再発してしまうのだからな。おそらく服の内側に隠してあるか、服そのもの、あるいは装身具といったものであろうな。だが不都合は無い〉
(何か見抜く方法でもあるのか?)
〈当然。今から私が伝える通りのことを姫神秋沙に言えばよい〉
(了解)
 体感時間では数秒の遣り取りを脳内で済ませ、垣根は改めて姫神に向き直る。
「あー、用事ってのはだな……」
〈服を脱げ〉
「服を脱げ」
「…………………………」
「…………………………」
 女性二人、どん引きである。
(って、全然不純じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!! 何言わせんだコラァァァァ!!!)
〈明然。不純な意図などない。霊装であるか否かなど、直接見れば魔術を使わずともすぐに分かる。故に衣服や装身具の提供を訴えただけだが?〉
(言い方ってもんがあるだろうが! 横柄なんだよ! 言葉数少なすぎんだよ!)
〈それが私のスタンスだ〉
(知らねーよぉぉぉぉぉぉぉ!!)
 垣根が脳内で緊急会議を開いている間に。
「……垣根ちゃん……それは……何というか……余りにも露骨ですよ……」
 月詠は携帯電話に手が伸びるまで後少しと言った雰囲気。
「あの時の仕返し? だとしても。頷くわけにはいかない。女として」
 一方姫神はベンチから立ち上がると、どこからかスタンガンとしても使える学園都市製の特殊警棒を取り出し、垣根に向かって突き出してきた。
「あー、いや。ゴメン、今のは言い間違い。脱げじゃなくて、服を貸して欲しいというか……」
「私の服を。着たいと言うこと?」
「どうしてそうなるっ!?」
〈文脈的に正しい読みとり方だと思うが〉
(その一文目から間違ってんだよ! テメェのせいでな!)
 いちいちアウレオルスに付き合ってやる垣根も垣根だが、当然その議論は姫神には伝わらない。
「問答無用。女の敵は。魔法のステッキで。成敗」
 言い、姫神が魔法のステッキもとい警棒を振り上げる。
〈よし、向こうが先に手を出したぞ。正当防衛と称して適当に揉み合って服を脱がせ。後は私が何とかする〉
(何ともならねぇよ! 俺の人間としての尊厳が真っ逆様に焼却炉行きだよ!)
 思いながらも、垣根は左手に『未元物質』の籠手を出現させ、振り下ろされる警棒に向かって叩きつける。

378垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:31:47 ID:WcvWK.p2

「――!?」
 何の抵抗もなく姫神の手から弾き出される警棒。
 姫神は高圧電流が流れており、ちょっと触れるだけでも失神しかねないそれを弾かれたことに驚愕しているようだが、何のことはない、絶縁性の『未元物質』で籠手を形作っただけである。
「……。私を。どうするつもりなの」
 武器を失い、後ずさる姫神。
 だがその背中はすぐに、公園に設置された自販機に触れてしまった。
〈行け。今が好機だ〉
 尚も阿呆なことを叫ぶ脳内の声に、垣根は。
 ドンッ、と自販機を叩き、
「……黙れよ」
 声に出してアウレオルスを諫める。
「………………………」
 すると、何故か小さく抗議していた姫神の声がなくなった。
 それに気づいて垣根が視線を下げると、
(……おい、アウレオルス。もしかしてこれじゃないのか?)
 姫神の胸元に、ネックレスのようなものが架かっているのが見えた。
 垣根は空いている右手をネックレスの紐部分に伸ばし、それを引き上げる。
 すると、その先には十字架を模したアクセサリーのようなものが繋がっていた。
〈昭然。間違いない。これが姫神秋沙の『吸血殺し』を封じている霊装だ。確かに『歩く教会』の機構を利用している。だが私の作品ではないな。この手際は……禁書目録か? 彼女に製作を依頼したということなのか……〉
 ぶつぶつと呟くように思考するアウレオルス。
(ま、何にしろ姫神との契約は果たせてたってことだろ。しかも禁書目録がこいつを作ったってことは間違いなくテメェは禁書目録と会えてる。嫌な可能性は見えないぜ?)
〈……そうだな。私なら霊装の製作も自分でこなすと考えていたが……禁書目録の方から申し出たということもあるだろう。問題はない〉
 思うところがあったようだが自己完結したらしいアウレオルス。
 問題がないと言うなら、ひとまずこれで垣根の役目の第一段階は終了である。
「………………………」
「………………………」
〈この、あからさまに不審な目で貴様のことを見つめている姫神秋沙と、今にも携帯電話で人を呼びそうな月詠小萌をどうにかしたらな〉
(…………テメェが言うな)

379垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:32:06 ID:WcvWK.p2
 垣根はまず姫神に事情を話した。
 『脳に寄生するアウレオルス=イザード』という事象を説明して理解してもらえるか心配だったが、もともとアウレオルスの魔術に触れており、自らも『吸血殺し』という異能を持っているためか、
「そう」
 の一言で処理されてしまった。
 何にしろ、垣根の意図せんことはきちんと伝わったようで、携帯電話を握りしめてわなわなしている小萌には、姫神の方から適当に説明してもらった。
「知り合い。スキンシップ」
 ……それにしてもあんまりな説明ではあったが。
「もう、垣根ちゃん。紛らわしいことしないでくださいよー」
 ……信じる月詠も月詠であったが。
「まぁ、やっとゆっくり話が出来るようになったからいいか」
「元はと言えば。あなたのせい」
「俺って言うか、アウレオルスな。そこは譲れねぇ」
 的確な姫神の指摘をかわしつつ、垣根は姫神に言う。
「分かってもらえたと思うが、俺はアウレオルスのアフターサービスのためのただ働きのバイトだ。それでも頭の中からアウレオルスの五月蠅ぇ声を消去するためには仕方がねぇんで付き合ってやってる」
「えぇ。了解」
「そんじゃ、改めて聞くが……テメェのその十字架のペンダント。そいつはアウレオルスがテメェとの契約を果たすために、テメェに提供した『吸血殺し』封じのアイテムってことでオッケーなんだな?」
 最初からこうやって聞けばよかった、と阿呆なことを言ったアウレオルスを恨みつつ姫神の返答を待つが、
「……………………」
 姫神はこちらを見据えたままなかなか答えようとしない。
「どうした?」
「アウレオルスが。本当にあなたの脳内に住んでいるなら。自分のしたことくらい分かっている筈。どうして。そんなことを確認するの?」
「ん、あぁ」
 確かにそれは気になるところであろう、と垣根はアウレオルスからの受け売りの知識を伝える。
「どうにも俺の中にいるアウレオルスには、俺が三沢塾に殴りこみに行った日――つまりは8月3日時点でのアウレオルス=イザードの知識と経験しかないらしい。だから、野郎は目的が果たされたのかどうか、直接知ってる訳じゃねぇんだ。ま、その十字架を見た時のアウレオルスの反応から察するに、問題はなさそうだが」
「…………そう」
 何かを噛み締めるようにゆっくりと頷く姫神。
「……? もしかして、何か不具合でもあったのか?」
 その様子に引っかかるものを覚えた垣根が問うが――

「……何も」

 俯いたまま。
 ゆっくりと、しかししっかりと。
 姫神は告げる。

「全て。あなたの言うとおり。この十字架は。私のチカラを封じるために。アウレオルス=イザードが与えてくれたもの。私は。アウレオルスに救われた」

 言い終えてから、姫神は顔を上げて再度垣根を見る。
 その顔は――かつて見た無表情なそれと寸分違わないように見えた。
(……だってよ)
 自身と同じことを聞いていたであろう、脳内の三沢塾校長室のティーテーブルに座するアウレオルスに確認を取る垣根。
〈あぁ。了解した。協力に感謝する〉
 それに、先ほどまでの釈然としない表情から解放されたアウレオルスが頷き返す。
(まだ、もう一個残ってるだろうが。むしろそっちが本題だ)
〈的然。分かっている〉
(ま、ここでもまた新たな問題が浮上するんだがな……)
 思いながら、つい口に出して溜め息をつく垣根。
「ったく、禁書目録は一体どこにいるんだ?」
 すると、
「インデックス……?」
「インデックスちゃんがどうかしたんですかー?」
 その呟きに二通りの返答があった。
「なっ、テメェら禁書目録を知ってるのか!?」
 思わず問うた垣根に、
「ええ」
「知ってますよー」
 と当たり前だと言わんばかりに返答する姫神と月詠。
〈……楽あれば苦あり、苦あれば楽あり、か〉
 どうやら今度はそれほど苦労せずに済みそうだ。

380垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:32:21 ID:WcvWK.p2
「第七学区の病院……あぁ、そこなら分かる。って、禁書目録は今入院してるのか?」
 姫神と月詠から禁書目録の居場所を聞き出した垣根は、その予想外の答えについそう聞き返した。
「いいえ」
「入院してるのは上条ちゃんの方ですよ」
「上条?」
 横から月詠が垣根の知らない名前を出す。
 脳内のアウレオルスも、どうやらその名前には覚えがないようである。
 すると、無表情ながらどこか言いにくそうな様子で、姫神が口を開いた。
「……上条当麻は。インデックスの。今のパートナー」
「………………」
 チラリ、と脳内で対面の席に座っているアウレオルスの顔色を窺う。
 それに気づいたのか、アウレオルスは垣根の顔を真っ直ぐに見ると、相変わらずの涼しげな調子で話し出す。
〈当然。禁書目録にはその年ごとにそばに寄り添うパートナーが存在した。一年しか記憶の保たない禁書目録と、ずっと一緒にいられるだけ強い者などいなかったからな。今は、その上条という人間がその位置にいるだけだ。何も不思議はないし、不都合もない〉
(だがよ、テメェが『首輪』の破壊に成功していればもう禁書目録は記憶を失うことはない。つまりその上条って奴はこれからずっと……)
〈当然だと言ったであろう〉
 垣根の言葉を断ち切るように、アウレオルスが言う。
〈それで良い。例え禁書目録が私という存在の一切を忘れたままに救われようとも、私のことを思い出すことなく日々を過ごそうとも。彼女を助けることが出来れば、それだけで良い〉
(……とんだエゴイズムだな)
 吐き出すような垣根の言葉に、
〈否定はせん。私は、彼女を救うことで自身を救おうとしている。或いは、救おうとしていた、か。……だが、貴様にそんなことを言われるとはな〉
(…………何だよ)
〈言ったであろう、嘘は吐けないと。貴様は私と同類。私と同じ思考を持つ。そんな言葉を吐きつつも、真実貴様は私の思考に賛同している〉
(…………ちっ)
〈感謝する〉
(っ………………)
〈守るべきものを第一に考え、そのために自身の相手への想いさえ押し殺してしまう不幸。自身と相手との時間さえ犠牲にしてしまう不幸。私と同じ思考をつが故に、そのことを知っている貴様だからこそ――私に意見することで、慰めようとでもしてくれたのだろう〉
 ――貴様相手になら、吐き出しても良いのだと。
(……みなまで言うなよ、俺が凄い恥ずかしい奴みたいじゃねぇか。つーか、そう言えるってことは、テメェがトレースしたその俺の考えは丸ごと余計なお節介だったってことか)
〈覚悟していたことであるからな。それでも――嬉しくはあった。だから、感謝する〉
(…………禁書目録の居場所が分かったんだ。さっさと行って用事済ませて、テメェもどこへなりとも消えやがれ)
 アウレオルスの言葉には応えず、垣根はそう締めくくると精神世界から現実世界へ戻ってくる。
 目の前には、アウレオルスに代わって仏頂面の姫神秋沙が立っている。
 垣根の反応を窺っているのだろう。
「……そっか、了解。アウレオルスの用事は禁書目録に会うことだ。だれがパートナーだろうが関係ねぇよ。情報サンキューな」
 垣根は、姫神に一方的にそう言うと、返答を待たずに公園を出た。

 ――向かう先は、決まっている。

381垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:32:34 ID:WcvWK.p2
「………………」
 公園を後にする垣根帝督。
 その後ろ姿を、姫神秋沙は無言で見送っていた。
「どうして嘘吐いたんですか?」
 隣から(と言うには大分高さが足りないが)、月詠が声をかけてくる。
「……バレてた?」
「先生は先生ですからねー。嘘吐いたって簡単に分かっちゃうんですよー」
 相変わらずの無乳を強調するように胸を反らす月詠に、姫神は静かに語り出す。
「……あの人は。あの子を救いたかったんじゃなくて。本当は。あの子に救われたかった」
「………………」
 抽象的な姫神の語りを、月詠は一切口を挟まずに、しかし真摯に聞く。
 成る程確かに、その様は教師に相応しい。
「それでも。あの人はあの子を救うための努力をした。自分が救われるために努力をした。……対して私は。あの人に頼りきりで。あの子だけでなく私も救ってくれると言ったあの人に頼りきりで。私はあの人には何もしてあげられなかった。交換条件はあったけれど。それは私の努力によるものではないし。何よりその条件すら私は満たすことが出来なかった」
 一度区切って、姫神は噛み締めるように言う。
「だからせめて。例えあの人の残滓に過ぎないとしても。その心を救ってあげたかった。私を救おうとしてくれたあの人の心を。――嘘を吐いてでも」
 姫神が、無表情のまま涙を一筋流した。

 アウレオルスは、偽りの物語の中で消えていく。
 その筋書きが例えハッピーエンドだとしても。
 アウレオルスが思い残すことなく消えることが出来るとしても。
 おそらくアウレオルスはバッドエンドであれ真実を知りたかった筈であり。
 それを偽ったのは――紛れもなく姫神自身なのだ。

「…………姫神ちゃんは、優しい子ですね」
 月詠が、姫神を抱きしめる。
 ともすれば身長差から姫神の方が月詠に抱きついているようにも見えるが、月詠は構わず、静かに涙を流す姫神の背中を優しく叩く。
「今日は先生の家で一緒にご飯を食べましょう。行くところがないなら、行きたい所が見つかるまで、先生の家にいていいですから」
 慈しむような月詠の言葉。
 その母親のような優しさに触れて、
「…………ありがとう」
 姫神は、少しだけ表情を綻ばせたのだった。

382垣根帝督の十番勝負 第五戦『姫神秋沙』:2010/09/08(水) 02:35:17 ID:WcvWK.p2
 垣根帝督の十番勝負
 
 第五戦 『姫神秋沙』
 
 対戦結果――完勝(決まり手・ドンッ!「……黙れよ」)
 

 
 次戦
 
 対戦相手――『禁書目録』

383■■■■:2010/09/08(水) 02:40:56 ID:WcvWK.p2
以上です。

途中すごい細分化してありますね、すいません。
NGワードさがしていたもので。
まさか「いえでしょうじょ」が禁止とは。

とりあえず折り返しということで、伏線は全部張り切ったと思います。
後は伏線を引っ張り体に絡めつけながらまっさかさまに落ちていくだけですね。
かと言って楽そうではありませんが……何だか章を経るごとにどんどん長大化していきます。

感想くださった方々、ありがとうございます、
非常に遅いですが、これからも追いかけてくださるとうれしいです。
感想、ご意見など、よろしければお願いします。
それでは。

384■■■■:2010/09/08(水) 15:42:55 ID:LzK4dcuc
>>383
???<もっと腕にシルバー巻くとかさ!> ていとくん「誰だテメェは!?」

待ってましたお帰りなさい! そしてGJ!!
ていとくんのシスコンっぷりが止まる所を知らないですね。自重しろコラ。
冒頭のあれ完全にDQNじゃねーか、と思ったら姫神に言ったんじゃなかったんですね、やられました。
ダミーの次はコピーですか。てかマジで五月蠅いですねアウレオルス。改めて思う、遊戯って本当に凄かったんだなぁ……

おっと話が逸れました。今のアウレオルスは、上条さんに『殺された』アウレオルスではないんですか。
てっきり心だけていとくんの脳内に逃げてきたのかと思っていたんですが、これは益々おもしろい展開になりそうです。
彼は自分が禁書目録を救ったと思っているようですが、真実は……、まさに悪魔のシナリオです。大好物ですそういうの。
哀れ、愚かなる錬金術師は二度知り、二度死ぬ事になるのでしょうか……個人的には、ていとくんの最期まで彼の良きAIBOでいてほしい所ですが。

次の対戦相手はインデックスという事ですが、上条さんの病室を訪ねるのでしょうか? ていとくんは一度会っていますが、さて。
>>禁書目録は原作設定、超電磁砲はアニメ設定 という事でしたが、八月九日をどっちで解釈するかによって、邂逅かニアミスかが分かれそうです。
上条さんとのドリームマッチは、見たいような見たくないような。ていとくんが第一位以外に敗北するのは、何かフクザツな感じがして。
もう十番勝負の半分を消化したんですか、速いもんです。……そろそろていとくんの暗部落ち来るかな。

??<次回、第六戦『禁書目録』デュエルスタンバイ!> ていとくん「期待するしか道はねえな――って言わすな!!」


垣根帝督の十番勝負
 
第五戦 『姫神秋沙』
 
読了結果――小萌先生マジ聖母

385■■■■:2010/09/10(金) 21:18:09 ID:vAJ9uHQQ
>>331
 ご指摘ありがとうございます!
これは一回終わって落ち着いてからやってみよう……
なんて思ってたら誰かがやってくれたようでした。
誰かわからないけれどありがとうございます!

>>358
 感想ありがとうございます!
そうですね、ここからまだ二転三転すると思います。
もっとうまく盛り上げられるようがんばります!

さて、三日間作者です。6,7レスほどいただきます。

386三日間〜Three Days〜 3rd.14:2010/09/10(金) 21:20:19 ID:vAJ9uHQQ

「ステイル、そういやお前なんで学園都市にいるんだ?」
 学校までの道のりを走っていく中、上条はふと浮かんだ疑問を口にした。
「それを君に言う義務が僕にあるのかい? まあ一応、やることがあるとだけ言っておこうか」
 横を走る赤い髪の神父は面倒くさそうに答える。視線は前を向いたまま、横の質問した少年の方など気にする様子もない。
「へぇ、いいのか? そのやることっていうのを優先しなくて」
「チッ、いちいちうるさいヤツだな。大体僕は……!?」
 突然ステイルが言葉と動きを止めた。それにつられて上条も走ることを中断する。
「どうしたんだ? 学校まではあともうちょっとだぞ」
「黙っていろ。これは……結界か。人払いのルーンを応用しているな」
 そう言われて上条もはっとする。たしかにこの感じには覚えがある、かつて神裂やステイルが使用してきた外部からの人の侵入を遮断する魔術だ。
「なら、俺の右手で壊しちまえば」
「だから黙っていろ、これはルーン自体を壊さなければ意味はないんだ。まあ、君ならこの結界ごと無視して進むことができるがね」
 ステイルはそのまましゃがみこんだ。地面に手を当て、何かを調べるようなしぐさをとる。
「先に行け、上条当麻。僕はこの結界の穴を見つけてから行かせてもらう。」
「そんなもん見つけられるのか?」
「侮るなよ、ルーンは僕の専門だ。この程度のものならすぐ終わるさ。それとも、僕がついていかないと君は怖いのかい?」
 そう言いながら見下すような笑みを浮かべてこちらを見てくる。憎まれ口をたたく余裕すらあるのならここは大丈夫なのだろう。
「へっ、なら俺が先に全部終わらせといてやるよ」
「なら助かるよ、余計な仕事をしなくて済みそうだ」
 そう言って走り出す上条。
 目的の場所まではあと少しだ。


 辿り着いた校舎には人の気配はなかった。校庭はガラガラで、避難はすでに完了しているようだ。それに何より、人払いのルーンが刻んであるならそもそも人がいるわけがない。
 もしそれを仕掛けた側の人間じゃない限り。
 ならば、校庭から見た屋上にたたずむあの人影は。
「篠原っ!」
 上条は、屋上の扉を勢いよく開けながら叫ぶ。その声に反応したのは柵に手をかけていた茶色がかった髪の少し幼い雰囲気をもつ少年だった。
「……屋上なんて初めて入ったよ。結構景色もいいし、転校してからすぐに来とけばよかった」
「……」
「やっぱお前は来ちまったんだな。なんか、そんな予感はしてたわ」
 ぐるっとこちらを向いて、篠原は柵に体を預けるようにもたれかかった。その表情は喜怒哀楽と呼ばれる感情を突き放したような、達観したものだ。
「なんでだ」
 呟くように言いながら、上条は一歩前に歩み出る。
「お前は一体何をしようとしてるんだよ、篠原!!」
 その問いかけに答える代わりに篠原は手を前へと出す。
「!!」
 バチィッという音が響き、それよりも早く篠原の手が光る。それと上条が右手を前に出すのは同時だ。そして篠原の手から飛んだ電流は上条の右手に着地して消えた。
「それが『幻想殺し』か。なるほど、すげーな」
 さほど起伏のない声で呟くように篠原が言う。
「篠原……」
 上条は自分の右手とそこにいる少年の顔を順に見ながら口からこぼれるように声を出した。
「俺にはやるべきことがある。今更引くつもりも、傷ついた誰かに許しを請うつもりもない」
 そこではじめて篠原の言葉に力が入る。そう言いながら一歩前へ踏み出た篠原を見ると、その表情は強い意志を持った、覚悟を決めたものとなっていた。
「邪魔するのなら容赦しねえぞ? 上条」

387三日間〜Three Days〜 3rd.15:2010/09/10(金) 21:21:51 ID:vAJ9uHQQ
 人の気配が消え、車が一台も動いていない車道をツインテールの少女がテレポートで移動していた。その少女、白井黒子は道路の真ん中に立ち止まって小型の携帯電話を耳元にやる。
「初春、こっちはセブンスミスト周辺まで移動しましたわ。ここまでの逃げ遅れは0、どうやら皆無事避難できているようですわね」
『了解です。他の場所もほぼ確認できたみたいなので、白井さんは一度そのままこっちに戻ってきてください』
「……そういえば爆発の頻度が落ちているような気がするんですが、そちらに何か情報は入ってませんの?」
『いえ、警備員が一度返り討ちにあって以来逃げられたままで特に新しい情報はありませんけど』
 そうですの、と白井は一度会話を切る。
 頻度が下がっているということは敵が何かすらの目的を果たしつつあるか、あるいは捕まるなどによって行動不能に陥っているかだ。前者だ、と白井は思う。もし後者ならば警備員が相手を捕縛したという情報が回っているはずだ。最新の情報が入っていないということもあるが、初春飾利の情報収集能力を考えるとその可能性は低いだろう。もっとも、これはテロリスト達が目的なんてものを持っているならという話だが。
 もっと少ない可能性として一般人がそいつらをぶちのめしたとか、と考えているとほぼジャストミートでやりかねない人物が浮かび、白井の顔が青くなる。
(……いやいやお姉様は他の生徒と一緒に避難してるはずですの。まさかそんな)
 そんな風に白井は心の中で必死に否定の材料を探していく。手元にある携帯から『もしもーし、白井さーん?』なんて聞こえてくるがそんなものに構っている余裕はない。
 そのとき、ドガァッ!! という爆破音が響いた。その衝撃で白井はバランスを崩しつつも持ちこたえ、再び初春に話しかける。
「初春! 今の爆発がどこで起こったかそちらに詳細は出てます?」
『ちょっと待ってください。ええと……セブンスミストからだと大体北に一キロぐらいの場所ですね』
「テロリストの情報はそちらにありますの?」
『えーとですね、一部では黒いスーツを着た男達だとか発火、発電の能力者だとかいろいろ情報が回ってるみたいですが、ってもしかして白井さんっ!?』
「大丈夫ですの、少し様子を見てくるだけですわ。それにそっちに逃げ遅れた人がいたらいけないでしょう」
『だ、だめですってすぐに戻ってくださ』
 ブチッと。
 うるさい携帯を電源から切ってポケットの中にしまい込むと白井は北の方へと移動し始める。
 もしそこにお姉様が首をつっこんでいたならば、お上に睨まれる前にお姉様を連れて速攻でばっくれるために。

388三日間〜Three Days〜 3rd.16:2010/09/10(金) 21:22:22 ID:vAJ9uHQQ

 また、その爆発が起こった場所では二人の黒スーツと白井黒子ではない空間移動能力者が対峙していた。その表情には焦りと疲弊の色が浮かんでいる。
 彼らはこの手の能力者のことは知識としては知っていたが、所詮逃げしかできない能力者だと思っていた。だが実際にやりあってみるとどうだ、この少女は今立っている場所から一歩も動かず、ただ手の中の軍用懐中電灯を揺らすだけでこちらの攻撃をその辺の車などで全て遮り、そして同時にそれらを上から降らせてくる。
 こんな反則な能力に勝てるわけがない。
 その能力『座標移動』をもつ少女、結標淡希は余裕しゃくしゃくといった様子で手の中の懐中電灯をぶらぶらと遊ばせている。
「あら、もう終わりでいいの? ならさっさと自主的に手に縄でもくくってくれないかしら」
「くっ……」
 結標の言葉に黒スーツの一人が思わず声を漏らす。霊装を巻いた右手を前に出すがそこから行動に移れない。もし動けばそれは徒労に終わり、おまけに上から乗用車のサービス付きだ。
 そのとき、その場にうぉぉぉおおおおおおという声が響く。硬直した方の横にいた黒スーツのものだ。その男はそのまま髪を二つに分けた少女に突進していく。その形相は決死の覚悟をしたといっても過言ではないくらい余裕がなかった。
 少女はそれを哀れむような目で見ながら、さっきまでと同様軍用懐中電灯を少し揺らした。そしてさっきまでと同様車が彼女と黒スーツの間に現れる。
 ドッと鈍い音を立て、それによってやはり黒スーツの突進は遮られた。
 それだけではすまない。止まった車に自分からはねられに行ったその男が衝撃に身悶えていると、その上から握りこぶしぐらいのアスファルトのかけらが無数に降り注ぐ。ガガガッ! とたっぷり十秒は音を立て、それらは器用に男の頭部のみを避けて体を築いた石の山に埋め立てた。
「勇気と無謀ってのはぜんぜん違うわよ? さてと、そろそろ飽きてきたしあなたはどうする?」
 そう言って結標は残りの黒スーツに懐中電灯を向けた。彼は手を前にかざしたまま動けない。
 逃げるにしてもこのままじゃ無理だ。何かきっかけがないと。
 そう考えながら下唇を噛んで沈黙を守る。そしてそれを破ったのは黒スーツの男でも結標でもなかった。

「結標……淡希……!?」

 言葉の主は黒スーツの後ろの角から出てきたツインテールの中学生ぐらいの少女だ。彼女は固まったまま黒スーツには目もくれずにもう一人の少女の方へ視線を向け続ける。
「白井黒子!? 何でこんなところに……?」
 一方のさらしの上から制服を羽織っただけの少女の方も反応する。それはさっきまでの戦闘では見せなかった表情だ。
「それはこちらの台詞ですの。一体何をしてらっしゃるのかしら、まさか今回の件もあなたが関わっているとか言うんじゃ……」
「何で私が街を爆破させなきゃなんないのよ。私の能力のこと忘れたのかしら」
「能力じゃなくても爆発なんて爆弾使えばできますわ。第一、あなたには前科がありますでしょう」
「……面倒ね。もういい、とりあえず一人は潰したし帰らせてもらうわ」
 そう言って結標は白井に背中を向ける。
「ちょっと待ちなさい!まだあなたには聞くことが」
「私に構うのはいいけど肝心の犯人に逃げられてるわよ」
 ほらそこと結標の指差す方を見ると、黒いスーツの男がまさに全速力といった感じで逃げていた。今まで特に気に留めなかったが、たしかにあれは初春から聞いた犯人の情報と一致している。
「もう一人はそこの石山の中に埋まってるわ。ここらに居たのはそいつらだけね、じゃあ後始末任せたわよ」
「ちょっと待っ――」
 白井が制止の声を言い切る前に結標はふっと姿を消した。
 納得のいかない顔のまま、ツインテールの少女はテレポートで逃げる男を追いかける。
 そしてそのまま無言でなかば八つ当たり気味のドロップキックを喰らわせた挙句スカートの下に忍ばせた鉄矢をテレポートでスーツに突き刺し完全に拘束した。
 ヒィッと情けない声を出す男の横でふんぞりかえって白井は考える。
 なぜ結標淡希がここいたのか。
 なぜ彼女はテロリスト達と敵対していたのか。
 ほかにもいろいろと疑問は浮かぶが、ため息を一つ漏らすとひとまずそれは中断してさきほど一方的に切った携帯の電源を入れて目的の番号を見つけて通話ボタンを押す。
「初春、さっきの爆破地点でテロリストらしき男を二人拘束しましたわ。―――ええ、こちらに警備員を回すよう手配してくださいな」
 まずは仕事を果たす。自分は風紀委員の一員なのだから。

389三日間〜Three Days〜 3rd.17:2010/09/10(金) 21:22:59 ID:vAJ9uHQQ

 生徒達が避難した高校の屋上でバチバチッという音と電光が走る。
 それは歪な線を描きながら一瞬で現れては一瞬で消えることを繰り返していた。その両端にいるのはその学校の生徒である上条と篠原だ。
 上条は電流を避け、避けられない分は右手で打ち消し、前へ進もうとするという流れを繰り返す。だがどうしても電流を避けるために下がることを余儀なくされ、体力だけが削られている状態だ。おまけに一度電流が着地した場所は、それがそこから漏電しているかのようにまとわり着いていた。
 電流を飛ばしている方の篠原は、その場所から動かずにただ手を前にかざしているのみだ。
 その状況に、茶髪がかった少年は退屈そうに相手を挑発する。
「ほらどうした、逃げてるだけじゃぁ勝てねーぞ」
 その言葉を速度を緩めずに横側に前転しながら上条は聞く。その顔には焦りがにじんでいた。
(くそっ、たしかにあいつの言うとおり、このままじゃ勝てるどころか勝負にもなってねぇ。やっぱ一発覚悟で相討ち狙いしかないか)
 そう判断した上条は、立ち上がるとすぐに相手に突撃していく。篠原は今までと同様に電流を飛ばしただけだったが、相手が避ける動作すらせず突進してきたことに目の色を変えた。
 上条が避けると踏んであえて別の方向へ飛ばした電流は相手を貫くことなく見当違いのところへ着地する。それを気にも留めずに上条はその右手を相手に思い切り叩きつけた。
 だが、それはむなしく空を切る。その二、三歩先に篠原はおり、こちらが体勢を整える前に更に距離を置いていく。
「今のは焦った、まさか何も考えずに突進してくるとはな」
 その言葉通り、篠原の頬に冷や汗が一筋流れている。上条はこのやり方でいけると確信した。
今は避けられはしたが、何度も繰り返して次はまず相手を捕まえてしまえばいい。それができるまで何度かダメージは受けるかもしれないが、さっきまでの逃げの一手よりはましだ。
 足を半歩後ろにやり、上条は突っ込む体制をとる。だがそれは篠原の次の言葉で中断する。
「ちょっといろいろ理由があって、お前の右手には触れられたくねーんだ。だから、本気でいくぞ」
 そう言った篠原の全身から突然黒いもやのようなものがあふれ出す。それは見るだけで不快になるような雰囲気があり、上条は体の動作の全てが重くなるように感じた。

 そして次の瞬間、いくらかの黒いもやを残してそこから篠原の姿が消える。

「っ!?」
 正確には物凄いスピードで横に移動したのだが上条には一瞬横にぶれた篠原の姿しか映らない。そして見失った少年を見つけるために首から上を動かす前に、その首筋に強烈な衝撃が走った。
「がっ……!」
 思わず声を漏らし上条はその場に倒れる。その後ろには黒いもやに包まれた少年が立っていた。
「わるいがお前じゃ俺を止めることも、触れることすらできねーよ」
 そして篠原は倒れている上条から離れるように後ろに下がる。

「俺は『聖人』だ」

390三日間〜Three Days〜 3rd.18:2010/09/10(金) 21:23:31 ID:vAJ9uHQQ
「もっとも、こう呼ぶってこと知ったのはつい最近だけどな」
 聖人。
 世界におよそ二十人もいない神の子に似た身体的特徴や魔術的記号を持つ人間であり、『聖痕』を開放することで人を超越した力を使うことができる。
 上条はそんな知識的なことは知らないが、彼の知ってる中では神裂火織やあの後方のアックアがおりその力は計り知れない。
 篠原の言葉に上条は倒れたまま唖然とした顔で右手を握り締める。
(聖人っ!? どうする、もしあいつの言うことが本当ならまともにぶつかったところでこっちに勝ち目はねえぞっ)
 立ち上がりながら、それでも迂闊に前に出ることができない。体の方向を篠原に向けたまま上条は硬直した。
「……ああ、これが気になってんのか? 心配すんな、別に何か特殊な力ってわけじゃない。俺自身にかけられた『呪い』みたいなもんだ。普段は聖人の力と拮抗させて気配すら消えてんだけどな」
 黙ったままの上条に、勘違いした篠原は自分にまとわりつくスモッグのようなもやに片手を入れてそう言う。
 目に見える特殊が攻撃的なものでないという情報を得て上条は少しほっとする。だが状況が変わったわけではない、上条はすぐに気を引き締めた。
「……お前の力の電撃はやっぱり魔術なのか?」
「そうらしいな、俺も詳しいことはわかってねーけど」
 上条の問いかけは気にはなっていたが、それより会話の間に何か策を思いつけばと思って振ったものであった。しかし、予想もしていない答えが返ってきたことにより上条の思考はそちらへと向く。
「そうらしい? お前は魔術師じゃないのか?」
「魔術を使う人間を魔術師って言うならそれはYesだけど、それ以外に何か概念でもあるなら多分Noだ。俺は魔術の使い方を教えてもらっただけだしな」
「教えてもらった? サイモンってやつにか?」
「! どうしてお前がそんなこと知ってんだ?」
「リアに直接聞いたんだよ、そのこともお前らがしようとしている『儀式』ってののことも」
「リア……だと?」
 リアの名前が出てきたことに篠原は余裕のあった表情を一変させる。それは信じられないことでも聞いたようなものだ。
「なんでリアの名前が出んだよ、あいつはホテルの部屋で拘束魔術で動けないはずだろうがっ!?」
「まさかっ……あれはお前がやったのか!?」
 上条はインデックスが居た場所で倒れてた黒いスーツの少女を思い出した。結局あのシスターから聞くことは出来なかったが、目に見えて衰弱していた少女とインデックスや篠原の言った『拘束魔術』という言葉で彼女に使われた力についてのおおよその予想はつく。
「……ああ、そうだ。あれは俺がやった」
「リアはっ……お前らの仲間が爆破しまわってる街中で倒れてた」
「!!」
「お前がかけた拘束魔術ってやつに逆らってそこまできたんだろうな、かなり衰弱してたよ」
「……」
「それでもあいつは自分のことよりお前の心配をしてた!お前がその『儀式』で死ぬって、それを止めてってそれこそなりふり構わないくらいに!」
 表情を驚きと苦悶に歪ませ、篠原はもはやなにも言えずにただじっと上条の言葉を聴いている。
 ツンツン頭の少年はその右の拳を握り締めて目の前の少年を睨みつけた。
「もう一度言うぞ、篠原。『お前は一体何をしようとしてるんだよ!』」
 上条はその足を前へ進める。篠原は黙秘を貫いている。
「お前が命を賭けてまで何をしようとしてるのかなんてわからない」
 上条はその右手を一際強く握り締めた。もう相討ち覚悟でまず捕まえるなんてやめだ。その程度の策で聖人の力に及ぶとも思えないし、それ以上にまずこいつはぶん殴ってやらなけりゃ気が済まない。
「ただ、それがお前を心配してくれている女の子を突き放してまですがるような勝手な幻想なら」
 力の差とかそんなものは関係ない。上条は右手を無言の篠原に向かって突き出す。

「まずはその幻想をぶち壊す!」

391三日間〜Three Days〜 3rd.19:2010/09/10(金) 21:24:27 ID:vAJ9uHQQ

 人払いの魔術の穴を見つけたステイルは飛び交う電流やバチバチッという音を頼りに屋上の扉を開けた。そこには、先に行った上条当麻と少し幼さの残る茶髪がかった少年が向き合っている。
「……るせぇよ」
 茶髪がかった少年が搾り出すように言う。
「うるせぇっ!! お前に何がわかんだよ!」
 その少年が吠えた。そして次の瞬間にその姿が消え、ほぼ同時に上条が後ろへと吹っ飛ぶ。
 ドゴッと鈍い音を立て、上条の体が屋上の柵に叩きつけられた。声にならない空気を口から漏らして全身が逆に反れたが、それでも上条はすぐに前へと転がる。
 篠原が突っ込んできたからだ。的を外れた篠原の右手は柵へと突き刺さり、ガキイインッ!! と千切れるようにひしゃげた。
 そんな光景を見ながら、ステイルは屋上の隅へと移動し持っていた煙草に火をつける。
「勝手だってことぐらいわかってんだ! それでもやらなきゃなんねぇ!」
 立ち上がりつつも体勢を立て直せていない上条へ、篠原が一歩でそっちに近寄りそのままかかとで真横から頭へ蹴りつける。それをぎりぎりで頭を肩まで下げてガードするが、それでも衝撃を受けた上条の体は吹っ飛んで屋上を転がる。
「今も眠り続けている母さんのために! たとえ俺が死ぬことになろうともな!」
 篠原は続けて攻撃を加えるために一気に近寄るが、上条が右手を振り上げるのをみて少し大袈裟に距離をとる。どうやらよほどあの右手に触れたくはないらしい。
「……それがお前の理由か?」
 よろけながらも崩れた体勢を整えつつ上条は篠原を見据える。
「そうだ、母さんは車に撥ねられた。ガキの俺が、自分から向かっていった危険から庇ってな」
 攻撃に警戒しつつも、上条は黙って篠原のその言葉を聞いていた。
「何も知らない親父や周りは俺のせいじゃないって言ったよ。けどそうじゃない、聖人なんてい
 う力に溺れたガキがバカなことやった結果がこれだ。」
 下を向いてる上に黒いもやで表情のわからない篠原は言う。
「ガキだったからなんていう言い訳なんざ何の意味もねぇ! 罪を償うためには母さんの目を覚まさせる以外にはないんだ!」
「ふざんけんなっ、バカ野郎!!」
 そこで上条が声を上げる。それに反応して篠原とその周りのもやが少し揺れた。
「……んだと?」
「ふざけんなっつったんだ、償うとか何とか言いながら結局お前は逃げてるだけじゃねえか!」
 そう叫びながら上条は黒いもやに囲まれた少年へと突進していく。それを少しの間篠原は呆けたように見ていたが、その後慌てて上条から距離をとるために後ろへと下がった。しかしそんなことに構わずに上条は相手を追いかける。
「母親を言い訳にして、自分の辛い過去から、生きることから逃げてるだけだ!! 大体、お前が死んでそれで目を覚ました母親が喜ぶかよ! 自分よりも大事だって、そう思われて守られた命だろうが! お前が死ぬと目を覚ました母親も、それにきっとリアだってお前と同じになっちまう。それが嫌なら誰一人不幸にならずに済む方法を探して見せろよ、自分の命で全てを解決させようなんて安易な考えに甘えてんじゃねえぞ!!」
 そこまで言い切って思い切り振り回した上条の右拳はブンッと言う音を立てて空を切る。篠原は攻撃もせずにただ上条をかわしながらその少年の言葉を聞いていた。

392三日間〜Three Days〜 3rd.20:2010/09/10(金) 21:25:07 ID:vAJ9uHQQ

 はあはあと息を荒げながらふらつく体のバランスをとりつつ、上条は近くに居た赤髪の神父に向かって手を伸ばしながら声をかける。
「ステイル、こいつは俺がやる、手は出さないでくれ」
「僕に指図するな。まあたしかに、あの様子じゃ君だけでも十分な気はするがね」
 そう言いながら二本目の煙草に火をつけつつ、ステイルはその煙草で篠原の方を促した。それと同時にドサッという音が聞こえて上条は顔を篠原の方へと向ける。
 そこには、ぜえぜえと片膝をついてあきらかに上条以上に息を荒げる篠原の姿があった。
「なっ、しのは――」

「自重していただきたいものですな」

 篠原の方へと手を伸ばしかけた上条の声は突然割り込んできた別の声によって途切れる。
「あなたにかけたその『罪』は普段は聖人の力と拮抗させて無効化している。その支えをなくせばこうなることぐらいわかっていたことでしょう」
「……サイモン、か……」
 搾り出すような声で篠原がサイモンと呼んだ突然の声の主が開けっ放しの屋上の扉から現れる。
 黒いスーツで身を包み、眼鏡をかけた初老の男。その手には鞘つきの剣のような物と黒い大きめのトランクケースを引きずっている。
「儀式の前にあなたに倒れられては全て無駄になります故、それをお忘れなきよう」
「なら……早く、やれ……」
 よろよろと重心が不安定なまま立ち上がる篠原に向かってサイモンは無言のまま近づいていく。
 いつの間にかトランクケースを置き去りにし、その手には一冊の本が収まっていた。
 そして剣を鞘から抜き、鞘の方はカーンという乾いた音と共にそのままそこに捨てられた。
 突然の闖入者にしばらくの間ただ突っ立っていた上条ははっと何かに気付いたように篠原の方に向かって走り出した。

 リアが言っていた中心格のサイモン、その男が抜き身の剣を持って篠原へと近づいていく。
 『儀式』の中で死ぬといった篠原、よくわからないがもしそれがその儀式の中の段階の一つだとしたら。

「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 自分の嫌な予感にほぼ確信を持った上条は、その手を伸ばしながらダメージで上手く動かない足に鞭打って駆けていく。
 だが、それよりもサイモンが動く方が速い。

 淡く輝き始めた本が篠原の前方に舞い、その本もろとも篠原の体に抜き身の剣が突き刺さった。

393■■■■:2010/09/10(金) 21:31:50 ID:vAJ9uHQQ
以上です。
というわけで、話の流れでだいたいばらしてたことですが
篠原は聖人でした。
ここで、一般人から聖人が生まれるのかどうかと言うのは
スルーしていただけると幸いです。
後、前に篠原、かぺらさんの雨宮パクっちまってるというのは
このこともありました。イヤホンと重ね重ねすい(略)

正直、バトルのうまい書き方が今ひとつピンときません。
それでもお付き合いいただける方はホントありがとうございます。

長くなりましたが、今回はこれで失礼します。

394■■■■:2010/09/11(土) 06:12:03 ID:..3MG2Bk
後、前に篠原、かぺらさんの雨宮パクっちまってるというのは
このこともありました。イヤホンと重ね重ねすい(略)

>>393
いやいや、お気になさらず!

395■■■■:2010/09/11(土) 10:27:44 ID:KxZPEhak
>>395
わざわざお返事どうもです。
そう言ってもらえるとありがたいです。

396■■■■:2010/09/11(土) 13:18:08 ID:xNinNRV2
>>384
感想ありがとうございます。

アウレオルスさんが五月蝿いのは、理由がないこともないんですが、5、6は主にギャグパート・・・と言う名のアウレオルスパートなので、こんなことになりました。
7あたりから本編が始まる予定です。オリ設定が多いせいでたどり着くまでが遠いですね、すいません。

垣根帝督の十番勝負と銘打っておきながら、この話の裏メインはアウレオルスです。
ある程度描写のあるアウレオルスの人格に垣根の人格を似せて作ることで、垣根のキャラを固定させよう、それと同時に最強の魔術師のくせに2巻で敗北してしまった哀れなアウレオルス、学園都市第二位のくせに同時に登場した四位と大きく扱いに差を付けられた哀れな垣根、この両名を救済しようという試みがこのお話です。
その結果みなさんの思っている垣根やアウレオルスとかなり印象が変わってしまっているかもしれませんが・・・あくまでアウレオルスや垣根の可能性の一つ、として受け止めていただけたらと思います。


>上条さんとのドリームマッチは、見たいような見たくないような。
先に言ってしまうと、上条当麻とは戦いません。
彼にとって上条当麻は一般人Aに過ぎず、だからこそ彼は一方通行や浜面仕上とは別の道を辿ることになった、そういうシナリオです。
あの人が出てくると物事が解決してしまうし、逆に言うと物事を解決に導くからこその主人公・上条当麻なのだと思います。
自分の書いた話では、通して上条が物語の中心に来ないようにしています。他の人のこと食いますし。
上条が主人公の話ならそれでいいのですが、個人的に脇役大好きなんで。
原作で上条の活躍はいくらでも見られるので満足ですが、他のあまりにも沢山の素敵なキャラクターが脇役として捨て置かれていくのが残念で・・・

あ、決して上条さんが嫌いと言うわけではないので。むしろ大好きですよ。


電磁アニメ設定というのは、単にテレスを出すためのものです。
より正確に言うなら、電磁マンガ設定の幻想御手後の空白の間に乱雑開放があり、そのまま妹達に繋がる、と言うことです。
アニメで正確な日時は書かれていませんでしたが、9日の時点で乱雑開放は終わっており(10日から妹達始まりますし)、テレスティーナは逮捕されている、という認識でお願いします。
他にもドラマCDのネタとかも大分使ってますしね。
そう言うわけで、電磁マンガの話もクロスさせようと、9日ということでマネーカード捜している佐天さんでも出して、裏通りを闊歩する人間の人海戦術で姫神を捜す、というのも考えたのですが・・・時間食うのと原作の小萌が拾った描写を受けて上のようにしました。



それでは、あと半分もある上に、決してみなさんの望む結末にはならないと思いますが、どうかお付き合いくださるとありがたいです。

397■■■■:2010/09/11(土) 22:09:37 ID:W.Npsh3g
長い。
自分の作品(笑)を一生懸命解説して楽しそうだね、
カッコワルイ。

398神浄の討魔=美琴信者:2010/09/11(土) 22:32:09 ID:Gplpd4lw
こんばんわ。ずいぶんと遅れた投稿です(苦笑)
今回の話は、超能力者達の戦闘ですかね。あとは伏線が、最後のあたりに一気に放出されますw
それと先に言っときますが、グロ表現が結構多いかと。一応投稿時にも、注意書きを載せときます。
前の話は、144すれからスタートしてます。気になる方はそちらからw
では、投下させてもらいます。かなりスレ食うと思いますが(汗

399とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十八:2010/09/11(土) 22:36:10 ID:Gplpd4lw
16

 ズガガガァァァァッ!!!
 と、莫大な衝撃波が、その線上にあるアスファルトや建物を、全て薙ぎ払っていく。
(ニャロォ……でけぇ攻撃ヲバカスカバカスカ打ちやがって)
 聴覚潜り(ノイズキラー)はその攻撃を見つめて、そう思う。
 そして、その視線を、その衝撃波を生み出した人物へと向ける。
 それは、
「……また外したか」
 突き出した拳を引っ込め、指の関節をボキボキ鳴らしている、削板軍覇だった。
 どうやらこいつは超能力者(レベル5)の最低位の念動砲弾(アタッククラッシュ)というらしい。
(……これデ最低位かヨ。一方通行《アクセラレータ》とカいう奴とハ死んでモ戦いたくねぇナ)
 チッ、と聴覚潜りは小さく舌打ちする。
 と、そこで、
「……らぁぁっ!!!」
 気合を込めたような大声が響き、そして、
『ウザッてぇっつってンだよぉッ!!』
 その場から飛び退りながら、その言葉を放つ聴覚潜り。
 本来ならばその言葉だけで軍覇は倒れなければおかしいのだが、そんなことが起きる気配はない。
 それどころか、
 ッガガガァァァァァァッ!!
 と、またその拳から考えられないほどの衝撃波が生み出された。
 そのままその衝撃波は直進し、破壊の嵐を生み出す。
 聴覚潜りは二回ごろごろんと転がり、何とかその難から逃れた。
 その華奢な頬についた泥を手で拭いながら、
(……わっけ分からネェ。なんデあいつにハ、俺ノ居場所ガ曖昧にだガ分かル?)
 本来ならば、聴覚潜りの存在は誰にも確認できないはずなのだ。
 まぁ、上条はその右手(イマジンブレイカー)があるので例外とする。
 だが、
「……なんデテメェは、俺らノ能力ガ効かネェのかナァ!!」
 あまり能力が効いていないと思われる軍覇に、聴覚潜りは叫ぶ。
 その叫びは妙な封に木霊し、周囲一体に響き渡った。
 もしそれを誰かが聞いていれば、100%の確立で即死していただろう。そういう能力なのだ、聴覚潜りは。
 なのだが、
「…そこか」
 声の出所を聞いたのか、軍覇が今度はためを行わずに拳を突き出した。
 聴覚潜りに向けて。
(確かニ、アイツハ俺ノ声ヲ聞いテいる……のニ、何デ死なネェんだヨッ!!?)
 その事実をその頭で分析しつつ、やはりその拳の上から聴覚潜りは飛び去る。
 今度もやはり、かなりギリギリのところで避けられた。
 だが、ギリギリのところだ。
(……いつかハ当たっちマうな。んなことニなりやがったラ、もう負けダ)
 忌々しそうな表情を聴覚潜りは作り、そして目を閉じる。
(なんだ、何デ効かネェ。何デあいつにハ、俺ノ能力ガ効かナイ?)
 傍から見ればパニックに陥っていそうな思想だが、聴覚潜りは超能力を所持する頭脳で、それを冷静に考える。
 だが、その思考を遮り、
 ガァァァァァ!!
 と、またもや轟音が轟いた。
 が、しかし、聴覚潜りは目を閉じたまま、そちらを見ない。
 だが、聴覚潜りはその状態のまま、その攻撃を避けた。
 そんな、命を落としていたかもしれない回避行動の最中でも、聴覚潜りは考えていた。
(俺ノ能力。声。耳。脳。干渉。操作。影響)
 そこまで考えた聴覚潜りは、

『……おい精神操作(メンタルコントロール)、念動砲弾とカいう能力者ノ情報寄越せ』

 ある考えが浮かび、そして冷や汗も浮かんだ表情を浮かべながら、仲間にそう言った。

400とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 四十九:2010/09/11(土) 22:38:05 ID:Gplpd4lw

(……また、外したな)
 削板軍覇はそう考え、突き出した拳を己の下に引き寄せる。
(しかし、何故だ……? まずそもそも姿が見えないのも甚だ疑問だが)
 あの男―――オッレルスとの一戦以来、ガラリと変わったその心で軍覇は考える。
(念動砲弾《アタッククラッシュ》で作り出した壁であいつの居所が分かっても、すぐに回避行動に移られるから意味がない。それに、相手だっていつまでも避けているつもりはないだろう)
 そう思いながらも、視覚潜り(ノイズキラー)の居場所を探らないわけにはいかない軍覇は、自分の周りに念動力の壁を生み出し、それを『押し広げていく』。
 軍覇は、その広がっていく壁に当たる視覚潜りの感触に反応し、そこに向けて拳を放っているのだ。
 念動の壁の方は異様に弱い造りにしてあるので、触れられたくらいでは、人間にはそれを察知できない。
 なので視覚潜りは、その軍覇のサーチに気付く事ができなかった。
 と、また軍覇が、人肌の温度を感じ取った。
「ハッ!」
 やはり今回もためを行わず、予備動作なしで一気に拳を、その地点に向かって放つ。
 それにより、軍覇の前に構成されていた念動の壁が破壊され、その衝撃波が破壊を生み出していった。
 だが、
「くっそガ! なんなんだヨ、その能力ハよぉッ!!」
 やはり視覚潜りは、ダメージを感じさせない言葉を、軍覇に向かって吐いた。
 それに軍覇は、

 ビィィィィィィィィィィ………ン、
 と、『耳の方から来る振動』を感じ取る。

 そして軍覇は、
(……もう、あいつの能力は、聴覚系能力……みたいなもので決定だな)
 平然と、その声を聞いたのにもかかわらず、冷静にそう考えた。
(だが、とすれば……問題は、奴の居場所が確認できない、ということ)
 まぁ、肉眼に頼らない方法でならば確認できるのだが、さすがに何の能力もなしに姿を消す、なんていうのはありえないだろう。
 だが、そうなると、もっとありえないことが浮上してくる。
 それは、
(……まさか、多重能力者《デュアルスキル》……なのか?)
 ―――幻の存在と謳われた、今ではありえないといわれている現象。
 だが、そうでなければ、奴のことの説明がつかないしな……、と軍覇は呟く。
(……しかし、多重能力者のほうも……今まで学園都市の闇が、総力を挙げて『不可能』と導き出した結果であるのも事実……それを垣根聖督は、可能にしたというのか?)
 意外に結構裏の事情にも手を出していたりする学園都市第7位は、その情報を駆使して考えていく。
(あの一方通行《アクセラレータ》さえ扱った特例能力者多重調整技術研究所さえも、不可能と叩き出した『多重能力者』。対し、能力を使いもせず、人間の肉眼から逃れている『何らかの方法』。さて、どちらの方が考えられる?)
 軍覇はそう考え、そして、

 突然、華奢な腕が、軍覇の顔―――いや、耳を襲った。

401とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十:2010/09/11(土) 22:40:07 ID:Gplpd4lw

「なっ!?」
 唐突なその出来事に対し、軍覇はとっさに左手でその腕を払おうとする。
 だが、それが届くよりも早く、その華奢な腕は軍覇の耳を襲った。
 ギンッ!
 と甲高い音が、軍覇の耳から鳴る。
 それは同時に、

 軍覇の生命線が切れたことを意味していた。


(……おし。ヤったカ!!!)
 その細い指に伝わってきた感触を確認し、聴覚潜り(ノイズキラー)は思った。
 そして、つまりそれは軍覇の硬い装甲が破れたことを意味しているのも、聴覚潜りには分かっていた。
 次の瞬間、

『やぁっトテメェヲ殺せるようダぜぇ? 念動砲弾《アタッククラッシュ》さんよぉッ!!』

「ぐぁッ!!?」
 その声を直に聞いた軍覇は、耳ではなく頭を押さえた。
 頭が、ひどく痛い。
 いや……痛い、なんてレベルではない。もはや高温で脳が溶かされているかのような感覚が、軍覇の内を駆け巡っていた。
「がぁぁぁぁぁッ!!!?」
 さらに激しくなる痛みに、何も考えられずに地面をのた打ち回る軍覇。
 それを上から、満足そうな笑みを灯しながら見つめている聴覚潜り。
「クククッ! いやぁ、愉快愉快! 今まデ散々てこずらせテきタ敵ガ、こんな風ニのた打ち回っテるんダもんなぁッ!!」
 聴覚潜りは甲高く笑いながら、必殺の『声』ではなく、ただの武器の足や手で、さらに軍覇を痛みつける。
 それに軍覇は、脳内の焼けるような痛みと、身体を鈍く走る痛み、両方に絶叫していた。
「ギィャァッハハッアァァッ!!! いいねいいねぇ、こうやっテ自分ノ手デ傷つけルってのもさぁっ!!」
 裂けるような笑みをその顔に浮かばせながら、聴覚潜りの攻撃はさらに増していく。
 そんな攻撃に、軍覇はなすすべなくただ体を跳ね回すだけだ。
 数分間、軍覇の叫びと聴覚潜りの笑い声、そして鈍い音だけがその空間に響いていた。
「……ふぅ」
 一息つくように、聴覚潜りはその手を止めた。
 軍覇の方に目を向けてみると、もはや声を上げるほどの体力も残っていないようだった。
 その身体には、生々しい傷跡がいくつも残っている。特定の箇所に限っては、骨まで見えているようなところさえもあった。
 どかっ、とその場に胡坐をかいて座り、聴覚潜りは楽しそうにそれを見つめる。
「……トいっテも、流石ニ疲れテきタしなぁ……もう、これハやめダ」
 そう言い、聴覚潜りはその場に腕を投げ出した。
 そして、ガサゴソとその腕が動く。
 再びその腕が掲げられたとき、その中に握られていたものは―――
「これ、テメェガ勝手ニ作り出しタやつダよなぁ? ハハァッ! 無様ダなぁ、自分ノ能力ガ敵ニ使われルなんテよぉッ!!!」
 軍覇の念動砲弾の衝撃波で削られた、アスファルトでできた鋭利なナイフが、その華奢な手に握られていた。
 それを楽しそうに、聴覚潜りは手の中で弄ぶ。
「さぁってぇ……どこかラやっテやろうッカなぁっ!!?」
 狂気に満ちた笑みを浮かべ、そしてその凶器を高く振りかぶる。
 次の瞬間、

「よォ。なかなかに楽しそうなことやってンじゃねェかァ。俺も混ぜてくンねェかなァ?」

 ピタリ、とその腕が止まった。
 そして聴覚潜りは、
『ざぁっんねん。これさぁ、早い者勝ちノ先着お一人様まデなんだよッ!』
 正体不明の敵に向け、ためらわずに死を唱えた。
 軍覇にはいたぶれる程度に体力を残す声を放ったが、正体不明の敵には手加減無しだ。
 それを聞いたものは、一人の例外もなく、身体の内側から、内臓や骨、筋肉、脂肪などをぶちまけ、惨殺死体よりも酷い死に方を喫する。
 クククッ、と聴覚潜りは笑みを漏らす。
 が、
(……そういやぁ、それだっタらこの野郎モ死んじマうじゃねぇカヨ。チッ、また誰かヲ探スか)
 そう思い、軍覇の爆破に巻き込まれるのはごめんなので、聴覚潜りはその場から立ち去ろうとした。
 だが、
「ああ?」
 一向に、軍覇の身体がどうこうなる兆しはない。
 いや、それどころか、今ではもう、聴覚潜りの能力の影響が消えたかのように、ある程度息が整ってきていた。
(……なんだぁ?)
 聴覚潜りはそう思い、そして、
(……ま、て。そういや、まだ『アイツ』ノ叫び声ガ聞こえテねぇぞ……)
 恐る恐る、その首を後ろに向けた。
 そこにいたのは、

「なンだよ、今ので終いかァ? ッたく、人造超能力者(レベル5)ってのはここまで止まりかよ」

 正体不明の、敵だった。

402とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十一:2010/09/11(土) 22:41:38 ID:Gplpd4lw

 意識が朦朧とする中……というよりも、半分死にかけの中、軍覇は『それ』を見た。
 『それ』は、聴覚潜り(ノイズキラー)の必殺である声を全て無効にし、何事もなかったかのようにこちらに歩いてきている。
 『それ』は、聴覚潜りの必殺の声の影響によって壊れかかっている軍覇の精神を元通りにし、それでも、ただ禍々しく笑ってこちらに近づいてきている。
 『それ』は、

 ただ白く、地獄のように白く堕ちた、地獄の底に白く住まう……悪魔のような者だった。

 軍覇は、彼の名を知っている。
「……アクセラ……レー…タ」
 学園都市第1位の能力者の名を、もはや動きそうにもない口で呟く。
 彼は、ただ最強として君臨するだけであり、
 彼は、ただ悪魔として君臨するだけであり、
 彼は、

 ただ、軍覇を救うために君臨しているだけであった。

(……一方通行《アクセラレータ》……か)
 最後の意識の中、軍覇は曖昧な頭でそう思い、そして意識を閉ざした。


 そいつは、ただただこっちに近づいてきているだけだ。
 だが、それだけのはずなのに、たったそれだけのはずなのに。
 聴覚潜りの額から、汗が止まることはなかった。
(……な、んダヨ……コイツ。俺ノ能力ヲ、あっさり一蹴しやガっテ……しかも、そこニ転がっテいル奴ノことも……助けタ、ッぽイしナ)
 ジリジリ、と聴覚潜りは後ずさりする。
(とにかく、コイツハダメダ。洒落んなんネェ。馬鹿げテる。こんな奴相手ニしてタら、命ガいくつあっテも足りネェッてんダよッ!!)
 そう心の中で叫び、どうにかして逃走ルートを、頭の中で組み立てていく聴覚潜り。
 そう考えてしまうのも仕方ないだろう。彼の必殺であるはずの『声』が、まったく効かなかったのだから。
 しかも相手は、完璧にこちらの居場所が分かっている。なぜかは知らないが、あいつらの能力が効いていないようなのだ。
 そんな相手と戦えば、一瞬で地理になってしまうのがオチだろう。
 それに、どうやら軍覇はアイツの身内のようだ。あいつが軍覇を救ったらしいことから、それが伺える。
 ……身内をこんな風にされといて、黙っている奴が果たして何人いるだろうか?
(クッソ……なんなんダヨ、ッタクッ!!)
 一人で悪態をつき、一方通行から目を離さずに、聴覚潜りは機会を伺っている。
 と、そんな聴覚潜りに、一方通行が軽いノリで言った。
「ああ、そンなに気ィ張り詰めなくて良いぜェ? 確かにそいつは身内みてェなもンだが、俺はただの戦力としてしか見ちゃいねェ」
 もちろん聴覚潜りは、そんな言葉に耳を貸すことはない。
 それも気にせず、一方通行は続けた。
「だからさァ、別に俺は怒っても悲しンでも喜ンでもないわけよ。けどよ」
 一方通行はそこで一度言葉を切り、面倒そうに首の間接をゴキゴキ鳴らした。
 そして、

「ただ、ちょっとしたウゼェ奴から、テメェを殺せって言われちまってるもンでさァ。だから、悪ィが死ンでもらうぜ」

 次の瞬間、
 ドンッ!
 と、アスファルトが爆発するような音が、周囲に響いた。

403とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十二:2010/09/11(土) 22:42:57 ID:Gplpd4lw
※ グロテスクな表現が、多少なりあります。ご注意ください。

 溶ける。
 私の周りに存在している物、全てが。
 アスファルトも、石も、鉄も、金属も、建物も、地面も、空も、空気も。
 私も。
 私は、ろうそくが高熱で溶けていくような状態の腕を見つめる。
 それは、もはや腕と呼べるものじゃない。
 ドロドロに溶けたアメのようなものが、少しだけ残っている骨を通り、ドロドロ、と地面に流れていく。
 その地面も、もう溶け始めていて。
 その手で、地面を触ろうとする。
 だがもちろん、そんなことできるはずがない。どちらも溶けているのだから、まともな感触など伝わってこない。
 と、その時、
 ドロォッ、と、髪の毛がベッタリとこぶりついた頭の皮膚が、そのままの状態で溶けた。
 そしてそれは、私の目の前を通り過ぎて、地面へ落ちる。そして溶ける。
 地獄。
 これを形容するには、それがもっとも相応しいだろう。
 その状況に、私は、

「……全ッ然、甘いわね……こんなんで私の意識をぶっ飛ばすつもり?」

 そう呟いた。
 すると次の瞬間、
 周囲の光景が、ガラリと変わった。
 そこは、何も溶けてはいない、普通の光景。
 普通にアスファルトだってあるし、地面も溶けてなどいない。建物だって同じだ。
 もちろんのことだが、私も無事だ。
 それを確認し、私はニヤリと笑った。
「こっちは精神系能力の最高位よ? こんなもの、ただのグロ好きの変人でも耐えられる」
 先ほどの光景を、鼻で笑い飛ばす。
 そして、

『……ふむ。本当に、そのようですね……』

 頭の中に、直接声が叩き込まれる。
 それのメカニズムは理解できていないが、とりあえず害がないものだ、ってことは分かっている。もしそうなら、とっくに殺しているはずだ。
 なので私はそちらには精神を注がず、逆探に専念する。
 それに相手も、もちろんのことそれを防ごうとしてきた。
 唐突に、身体が破裂した。
 文字通り、私の身体が破裂した。身体の中心に仕込まれた爆弾が、爆発したかのように。
 それにより私の身体は飛び散り、顔のパーツ、足の爪、内臓の一片、脳の神経……身体を構成する全てに散り散りに分かれ、周囲に転がっていた。
 こんな情景、B級ホラー映画でも取り扱わないだろう。
 それをマジマジと見せ付けられた私は、
「だから、想像できる範囲のことだったら、なんでもないわけよ。ほら、逆探終わっちゃうわよ?」
 やはり嘲笑しながらそう言って、そして、

「いらっしゃい。想像もつかない、私が支配する世界へ」

404とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十三:2010/09/11(土) 22:44:14 ID:Gplpd4lw

※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

 べつにその場所は、特別おかしいというわけではない。
 ただ、二人の少女が対峙しているだけだ。
 一人のほうは、冷酷に整った端麗な顔。その細い口は皮肉気に歪み、黒い瞳は目の前の少女を睨みつけている。
 もう一人のほうは、全くといっていいほど、感情が捉えられない、無表情な顔。その口も軽く閉ざされていて、瞼も閉じていた。
 はたから見れば、少し興味をそそるくらいの空間でしかない。
 しかし、

 一度、その世界に入れば、ほとんどの者は発狂してしまうだろう。

 それが、彼女たちの創る世界だ。
 その世界は、地獄とは呼べないであろう。
 地獄などという表現では、生温すぎる。
 もっと、人間では想像もつかないほどの、何か。
 一番考えたくないからこそ、自分の内に隠しておきたい、何か。
 それが蠢いているのが、彼女たちの創る世界。


 がぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?
 という声が、その世界に響く。
 しかし、それに耳を傾けるものは、一人とていない。
 そんなことに耳を傾けていれば、この世界全てを気にしなければならないからだ。
 その声は、この世界を創っている『音』なのだ。
 叫び声ではなく、音。
 それを叫んでいるのは、顔面を恐怖で染め上げている、頬が痩せこけてほとんど皮と骨しかないような男。
 そんな男が象っているのは、音と、そしてもう一つある。
 地面、だ。
 その男たちが必死にもがいている『それ』が、その世界の地面と化している。
 顔が地面と化していたり、腕が地面と化していたり、腹が地面と化していたり……
 そんなこと、普通の人間ならばまずできないだろう。必死に助けを求めている者の上に乗れ、と言われているようなものだ。
 しかしその男たちは、そんな些細なことを気にしない二人の少女の靴に、顔面や腕を踏みつけられていた。
 さらに、
 カサカサカサッ、と何かが顔面の上を通り過ぎる感触が、その肌と呼べるのかすら分からない身体に伝わってくる。
 それの正体は、
 
 男たちと同じように痩せ細った男の、生首だった。
 
 それは、その切り口から大量の血液を噴射させながら、ある一点へと動いている。
 いや、正確には『動かされている』。
 その男の首の切り口の下に、何かがいる。
 それは、得体の知れない蟲のような生き物。
 それは、身体がどこにあるのかも分からず、ただ細い糸が何本も集まったような毛のような部分で男たちの首を持ち上げ、同じように糸のような、本来ならば下半身と呼ぶべきであろう場所で、男たちの顔面の上を移動している。
 そしてその下半身と呼ぶべき場所には、ある一つの大きな目玉が付いている。
 それは上から見ると全く分からないのだが、下から見上げる時のみ存在しうる。
 それが男の顔の上を通り過ぎるたび、まるで主婦のような目をしてその男たちを見るのだ。
 まるで、どれが一番いい食材か、品定めするかのような目で。

405とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十四:2010/09/11(土) 22:45:46 ID:Gplpd4lw

※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

 そうしながらワサワサと気味悪く蠢く蟲たちは、男の生首を抱えたままある一点へと集っていく。
 その一点にたつ者は、

 ゴリバリ、と男の生首を、あまり感情が宿っていない顔で食している、巨体を持つ男だった。

 その者の姿は、筋肉質であり巨大。
 身に纏っているのは、薄い布のような綿。
 そしてその顔の表情は、変化に欠ける憤怒の表情。
 さらに、その口から滴り落ちるのは、完璧な赤、というわけではなく、唾液、男の汗、脂肪、先程の蟲の毛のような部分、そして気持ちの悪い緑色の、ネットリとした液体……さまざまなものが含まれ、もはやネットリとした感触を伝えてくる、変色した、男たちの血。
 その憤怒の巨人は、何食わぬ顔で肉と、いくらか骨を食い潰した男の頭蓋骨をそこらに投げ捨てると、近くでまって蟲ごと男の生首を掴み、そしてそれを、やはり何食わぬ顔で、それを口へと運んだ。
 キーッ!? と甲高い泣き声が、男の口元からする。おそらく、一緒に口へと運ばれた蟲のものだろう。
 だがしかし、巨人はそれをまったく気にせず、躊躇することなく、蟲ごと男の生首に噛り付いた。
 その口から覗くのは、もはや鋭いナイフを無理矢理顎に突き刺したかのような、鋭利な犬歯。
 それを以ってして巨人は生首に噛り付き、そして勢いよく、それを噛み千切った。

 ブチブチッ! と、人間の細胞やら筋肉、繊維が切れる生々しい音が、その場に響いた。

 それにより、生首はさらに裂け、そして新たにできた切り口から、さらに大量の血が噴射する。
 そして男は、あろうことかその首の切り口を、大口を空けて構えている、自分の口へと向けた。
 ドバァァァーッ、と噴射されるその人間の本物の血を、まるで酒でも飲むかのように、快楽に染まった顔で巨人は飲む。
 そして巨人は、血があまり出てこなくなったのを見て、イラついた表情で、乱暴に生首を揺すった。
 しかしその度合いが激しすぎたのか、またもやブチリ、という音が、その生首から聞こえた。
 髪の毛を鷲掴みにしていた巨人の手から、男の生首が、ゴロンと転がり落ちる。
 巨人がそちらに目を向けると、髪の毛がほとんどついていなかった。
 そして、巨人は自分が手にしている物を見つめる。
 それは、別になんら不思議のない、普通の男の短い髪の毛だ。

 その先端にこぶりついている、人間の薄い頭皮を除きさえすれば。

 随分と皮膚がついてきたようで、ブヨブヨとした脂肪の塊が、その先端についているのが確認できる。
 それは淡いレモン色のような色を持っていて、しかしそれで、丸で警戒色のような感じを放っていた。
 それを見た巨人は、
 イラついた表情でその脂肪を髪の毛からむしりとり、それを口へと放り込んだ。
 男の口の中から、ぐっちゃぐっちゃ、と丸で巨大なガムを噛んでいるかのような音が聞こえる。
 しかし男は、すぐに顔を顰めて、やはりガムを吐くかのように、口の中にはいっていた『モノ』を吐き捨てた。
 それは、もはやなんと表現すればいいのか分からない、ただ無残に切り裂かれている『何か』としか表現できない物体だった。
 普通なら、そんなモノはどんな事があっても目にはしたくないだろう。
 だがしかし、巨人の近くで待機していた蟲たちは、男の生首をその場に捨て、キーッ! と甲高い音を鳴らしながらソレに群がる。
 その細い脚のようなイトを上手に使い、蟲たちは意外に綺麗にその何かを切断し、各々平等に行き渡るように分けていく。
 そしてすぐに、その瞳が裂け、獰猛な肉食獣のような口が現れ、それを貪り始めた。
 バリバリ、ぐちゃぐちゃ、キーキー、という気味の悪い音のみが、辺りを包みこむ。
 だがしかし、それも長くは続かない。
 
 まるでソレをもの欲しそうな目で眺めていた、やはり地面と化している男が、何とか腕を伸ばして、それを両手で確保したからだ。

406とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十五:2010/09/11(土) 22:46:54 ID:Gplpd4lw

※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

 キーッ!? と、蟲たちが甲高い声をあげる。
 だが男はそんなもの微塵も気にせず、その『何か』を掴んだ手を……

 あろうことか、口へと運んだ。

 ぐちゃぐちゃ、と鳴る気持ちの悪い音。
 まだその『何か』にくっついて離れなかった蟲たちが男の口の中で裂かれ、男の口の端からは、何かドロドロした緑色の液体が流れ出ている。
 が、やはり男はそんなことはまったく気に止めない。
 飢えているかのようにその『何か』と蟲を貪り、顔面に笑みを浮かべている。
 その光景を見ていたほかの男たちは、移動できもしない身体を必死に動かし、その男の口へと手を伸ばす。
 まさかと思うが、男の口を強引に開き、中のものを取り出そうとでも考えているのだろうか。
 しかし蟲たちはそれを許さない。
 いつもは下を向いている眼を大きく見開き、そして、

 シュプッ、
 と、軽快な音を立てて、男の首が、地面へと転がり落ちた。

 一瞬遅れて噴出す、切り口からの赤い液体。
 蟲たちはそれを盛大に浴びながらも、男の顔の解体作業に移る。
 先程、男の首を容易く切った『糸』を用い、男の口を開く。
 中には、もはや緑色のものと糸とが混合し、見るだけで吐き気を催すような物体が、唾液と混じって転がっている。
 蟲たちは、その男の口の中に侵入した。
 そして眼から口を大きく開き、それにまたがぶりつく。
 グジュグジュ、という音が響く。
 そのうち、男の頬が裂け始めた。おそらく蟲たちが、男の頬をも食しているのだろう。
 そして数秒後には、男は頬がなくなったわけの分からない何かへと変貌する。
 その光景を眺めていた巨人が、無造作に腕を振り上げた。
 そしてその丸太のような強靭な腕を、
 男の、もはや顔面とは呼べないような何かへと叩きつけた。
 一瞬にしてなくなる男の顔面。
 巨人が腕を挙げると、その腕には緑色の液体がべったりとこぶりついていた。
 そして巨人は、やはり何食わぬ顔でその液体を舐め取る。
 そして―――

「一言だけ感想。わけが分からないわ。ただそれだけ」

 その世界に、凛と澄んだ少女の声が響いた。

407とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十六:2010/09/11(土) 22:48:02 ID:Gplpd4lw

 まるで静まり返ったホールでの澄んだ一声のように、その少女の声は不自然に、その世界に響いた。
 だがしかし、巨人や男たち、蟲もその声に振り向きもしない。
 当たり前だろう、
 そんな機能は存在しないのだから。
「ダメね、こんなの。想像も絶する……確かに、こんなものは想像できなかった。けどね、本当に恐ろしいのは」
 学園都市第五位の能力を持つ少女は、ニヤリ……と口元を歪める。
 そして、

「日常的に身近に存在するもので、そして決して考えたくは無い、想像もできない事態。それを一番、人間は恐れているのよ?」

 瞬間、
 消え去った。何もかもが。
 地獄よりも酷いのではないか、と思えていたその光景は、ただの無に帰した。
「……では、あなたはどのようにしてそれを見せてくれるのでしょう?」
 その現象を当たり前のように受け入れている少女は、こちらは表情を変化させずに、無感情に言った。
 それに鏡子は、
「どうやっても何も。もう見せてるじゃない?」
「は?」
 思わず聞き返す精神操作(メンタルコントロール)。
 それを見た鏡子は、まるで嘲笑うかのように精神操作の足元を指差し、
「ほら。たとえばあなたの足元とか」
 その言葉に、精神操作は素直に足元に目を向けた。
 だがしかし、そこにあったのは、
「……あなたは、何が言いたいんですか?」
 精神操作は、その『無』から目を逸らしてそう言った。
 そう、精神操作の足元に存在しているのは、『無』。
 何もないそれが、その場に存在していた。
「ふぅん。あんたにはそれしか見れないんだ? そりゃ好都合ね」
 対し鏡子の方は、うまく罠に引っかかったウサギを見つめる猟師のような笑顔を浮かべ、

「それじゃ。堕としてやんなさい、『自分』を」

 ガッ、と精神操作の細い足首を掴む『何か』があった。
 思わず精神操作は、それを足を振り上げることで払おうとする。
 しかし、見てしまった。
 『それ』を。
「早く……早く……」
 そう呟いている、その少女は。

 どこからどう見ても、精神操作の顔、そのものだった。

 いや、顔に限ったわけではない。
 髪、体格、脂肪のつき具合、筋肉のつき具合、その仕草。
 それら全てが、まるで自分を鏡に映したかのようなものだった。
 だがしかし、決定的に違うものが一つだけ存在する。
 表情だ。
 彼女の表情は、まるで生まれて一度も光を浴びた時のない子供のようなものだった。
 彼女の表情は、まるで生まれてすぐに何らかの原因で死んでしまった子供のようだった。
 彼女の表情は、まるで―――

 精神操作を殺すためだけに生まれてきた、『自分』を憎んでいるような、禍々しい表情だった。

408とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十七:2010/09/11(土) 22:48:46 ID:Gplpd4lw

「なっ……」
 それにはさすがの精神操作(メンタルコントロール)も、その表情を歪めた。
 そして、何らかのアクションを起こそうとする
 その一瞬前。

「だから、堕ちろっつってんでしょうが」

 後ろから声が聞こえた。
 そして振り返ろうとする暇すら与えず、
 ドン。
 軽く突き飛ばされる。
 それだけで精神操作の身体は前のめりになり、
 『無』へと堕ちた。


「……さぁって」
 驚いたような表情をしたまま堕ちていく精神操作を確認した鏡子は、
「いつになったら、私の前に現れてくれるかしら……?」


 もはやそこは『無』などではなかった。
 先程自分が生み出していた『世界』より、もっと酷い。
 いや、そもそもが違うのか。
 それは、なんと比喩していいのかすら考えさせない、完璧なる『地獄』だった。
 そうとしか表現できない。
 そうとしか表現させない。
「やっと……堕ちて来た」
 自分と本当にまったく同じ少女が、しりもちをついている精神操作を見て嬉しそうにいう。
 が、しかしそれだけではない。
「貴方も、私たちと同じところに」
「チャンスができた」
「こんな世界から、逃げ出すための」
 ……ぁ、ぁ……、という精神操作のか細い声は、一体その少女たちに届いているのだろうか?

「造り物のくせして」
「造り物のくせして、自分だけがでしゃばって」
「造り物のくせして、貴方だけは違う世界にいて」
「造り物のくせして、私たちのことなんか一瞬も見向きもしないで」
「造り物のくせして、自分だけは有意義に世界で生きていて」

 聞きたくなかった。
 だがしかし、必死で耳を塞いでもその言葉は脳に直接叩き込まれるかのように聞こえてくる。

「造り物のくせして」
『造り物のくせして』
[造り物の
「造り
『造り物』
『造り物』 「造り物」
「造り物」 「造り物」 「造り物」 「造り物」 「造り物」 「造り物」 「造り物」 「造り物」 「造り物」 「造り物」 

 もはやその声がなんなのか、精神操作には考えられなかった。
「……ァ、あ……」
 ただ、その言葉が脳内を駆け巡る。
 造り物。
 造り物。造り物。造り物。
 造られたくせして。造られた命なのに。

 造られた命になんて、価値はないのに。

409とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十八:2010/09/11(土) 22:49:45 ID:Gplpd4lw

※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

 それくらい、分かっていた。
 『造られ』、そして垣根聖督に様々な感情などを『埋め込まれ』た時には、全てを理解していた。
 だがしかし、今までそれは考えないで生きてきたのだ。
 それを考えれば、どうなってしまうかくらい容易く想像できたから。
 だから、今まではそれを考えずに生きてきた。といっても僅か2,3日程度だが。
 それが、壊された。

 自分とまったく同じ顔、体格をした少女によって。

 人に言われるときとは違う、複雑な感情が湧き上がる。
 何せ、自分とまったく同じ顔をしたものに「あなたの価値はない」と宣告されているのだ。普通の表現では収まりきれない感情が生まれるだろう。
 そしてそれは、精神操作(メンタルコントロール)には押さえ切れなかった。
「…………ぁ」
 その感情と共に、一つの意味のない言葉が、その口から漏れる。
 依然として少女たちは精神操作と群がっているが、もはや彼女はそれを気にしていないようだった。
 ……いや、違う。
「……あ、あ、ぁぁぁ………」
 彼女の顔は、見る見るうちに恐怖から快楽へと変わる。
 それを訝しげに見つめる、まったく同じ少女たち。
 精神操作は彼女たちを、ちゃんと気にしている。
「……ああぁ。ぁ、っぁ、ッ………」
 そして精神操作の目が見開かれ、

「あ、あ、あ……ッァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアッハッハァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 叫んだ。
 次の瞬間、
 グシャッ、と精神操作の近くから音が鳴った。
 精神操作に釘付けにされている視線を、少女たちはそちらに向ける。
 すると、音の原因が分かった。

 潰れたのだ。
 精神操作とまったく同じ顔をした少女の、頭が。

 とっさに、自分の身を庇おうとする少女。
 だがそれよりも早いのは、精神操作だ。
 ニタリ、と無表情だったその顔を禍々しく歪め、手を振るう。
 次の瞬間、
 ドバッ、といって少女の胴が破裂した。
 ブチャッ、といって少女の腕が切り落とされた。
 ギチャァ…、といって少女の足が捥げた。
「ハ、ハハ、ハハハハハッ!!」
 それを見て、その顔を狂喜に満たして笑う精神操作。
 そして彼女と同じ顔をした一人の少女が、精神操作としての能力を使おうとした。
 だが、それは出来ない。
 自分の指が、弾け飛んだからだ。
 それにより自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を揺らされ、能力を使用できる状態ではなくしてしまう。
 そんな無防備な少女を、精神操作は躊躇いなく壊していく。

 頭が潰れ、首が千切れ飛び、胸が破れ、胴は破裂し、腕は切り落とされ、腰は砕け散り、足は捥ぎ落とされる。

「く、は、は、ハハッ! ァァハハはハハハハハッ!!!」

 そんな『地獄』を創り上げているのは、たった一人の、壊れた少女。

410とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 五十九:2010/09/11(土) 22:51:36 ID:Gplpd4lw

※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

「あらー。やっぱし壊れちゃった?」
 そんな精神操作(メンタルコントロール)を、無感情な瞳で見つめる少女。
「まっ、あそこでダメにならなかっただけまだいいほうか……」
 彼女にとっては、殺し合いをしている相手なのだからさっさと戦闘不能になってくれたほいがいいはずなのだが、なぜかそんなことを言う鏡子。
 そして、

『にゃー。悪いな、こっちの事情で面倒なことさせちまって。もう少しだから、頼むぜぃ』

 鏡子の脳に、直接声が落ちた。
 それに鏡子は、
「……ッたく。半分脅迫紛いなことしといて、どの口がそんなこと言うんだか」
 まぁまぁw と男の声が鏡子を宥めるが、別に鏡子はあまり気にしていないようだ。
「つっても、こっちにも利益はあるからいいけどね。死ぬのも癪だし」
『俺はお前を殺しはしないけどにゃー。まだまだ使える駒だ』
 その男の声に、鏡子は思わず黙り込む。
 まだまだ使える駒。
 つまり鏡子が使えなくなったら、彼女はどうなる?
 いや、そもそも学園都市第5位の心理掌握(メンタルアウト)が『使えない』状況などあるのだろうか?
 そしてもし、それがあるとしたら、
 彼は、その戦場に突っ込む気なのか?
「……勝手にしなさい」
 唐突な鏡子の言葉に男は「は?」と疑問を漏らしたが、応える気はないのか鏡子はさっさと精神操作に意識を集中し始めた。
 それをどうやってか感知したのか、男の声はそれで途切れた。
 そして、

「……魔術と科学を使う、ねぇ……」

 ポツリと、不思議そうな顔で呟いた。


 最後の一人。
「……ぅ、ぁ……」
 いつもは無表情なその顔を思いっきり歪め、彼女はしりもちをついた状態で『ソレ』から距離をとろうとしている。
 だがしかし、距離など関係無いのだ。
「く、アハハ、ハァッ!」
 『ソレ』が狂喜に満ちた顔でそう呟くと、次の瞬間。
 ブチャッ、という音が少女の身体から鳴った。
 それに少女は、痛覚がおかしくなったのかもはや何も痛みも感じない状況で、首を音が鳴ったほうに向ける。
 そしてその冷静な瞳に映ったモノは、

 膝の関節から下が綺麗に切れている、自分のふくらはぎだった。

「……?」
 はじめのうち、少女はそれを見ても何も感じていなかった。
 脳の許容量をオーバーしているのだ。
 といっても、人間の脳はそれをいつまでも放置しているほど、簡単な造りにはなっていない。
 だんだん彼女の脳が、その事態を受け止めつつある。
 そしてそれに伴い、彼女の表情も変わりつつある。
 彼女の脳が、その事態を受け止めた。
 その次の瞬間、

「………ぁッ、あぁぁッ……、ぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!??」

 か弱い少女の絶叫が、その世界に木霊した。

411とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十:2010/09/11(土) 22:54:23 ID:Gplpd4lw

※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

 そして、その叫びが精神操作(メンタルコントロール)に届いた瞬間、
 
 もうその少女の首は、その胴体には繋がっていなかった。

 あまりにもあっさり音もなくその少女の首は、地面なのかも分からない『世界』に転がっていた。
 その顔は、恐怖に彩られ今にも泣き出しそうなまま、固まっていた。
 それを見つめていた精神操作は、
「……ふふ、ハハハハ…………はは……」
 視線を、動かした。
 まるで、その少女の首(現実)から目を背けるかのごとく。
 だがしかし、
 見渡す限りの、死体。
 首が千切れとび、眼球がなくなっていたり神経が繋がったまま目から飛び出していたり、脳の半分が糸を引いたまま開かれていたり、腹を切り裂かれて臓器がグチャグチャになっていたり、どうやったのか足首の先が千切れとび、代わりに手首がくっついていたり……
 それ(死体)しかその世界には、存在していなかった。
 そしてその死体の全ては、自分とまったく同じ容姿をした少女で。
 そしてその中央に立っているのは、紛れもない―――
「……ぁ」
 ―――自分とまったく同じ少女を殺した、化け物(自分)で。
 瞬間、
 染まった。

 『世界』が、憎悪で。

 どんどん、その脳が澄み渡っていく。
 まるで、悟りを開いた釈迦のように。
(……確かに、この少女たちを殺したのは、間違いなく私)
 その澄み渡り、最高潮に達した脳は考える。
(だけど)
 その脳が捉えたその『世界』は、無残にもその真実を映し出していた。
(それを促したのは、誰だ?)
 世界が告げていた。
 壊せ。殺せ。穿て。消せ。崩せ。潰せ。弾け。千切れ。飛ばせ。
 全てを、思うが侭に。
(あの少女たちを、生み出したのは―――誰だ?)
 そう告げている世界から精神操作は視線を外し、上を仰ぐ。
 その目に映ったのは、

(―――全ては、アイツが悪い―――)
 にたぁ、と禍々しい笑みを浮かべながらその精神操作を見つめている、心理掌握(メンタルアウト)。

「……コロス」
 まるで人が変わったように邪に包まれた心情を吐き出した彼女は、
 世界に従った。
 次の瞬間、
 ズルリ、と。
 鏡子の首が、自然な動きで落ちた。
 何の抵抗もなく、まるで重力に従った結果がそれだ、と言わんべきほどの自然な動きで。
 だがしかし、

「あ〜あ。さっきあんなに『人を殺しちゃった』のに、まぁた殺した」

 ニヤニヤと笑を浮かべながら、その生首は喋った。
 そして、
 ドバン!
 と音を鳴らし、その生首は破裂した。
 いや、首だけではない。

 鏡子の存在、その全てが壊れた。

 血、脂肪、筋肉、骨、臓器、水分、組織液……
 人間の身体を構成する全てを世界に撒き散らしながら、鏡子の体は壊れていく。
 それでも、

「こぉ、ろすッ!!!」

 精神操作は止まらない。

412とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十一:2010/09/11(土) 22:56:14 ID:Gplpd4lw

※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

(あらららら。マジギレしちゃってるっぽい?)
 それを促した本人が、そ知らぬ顔でそんなことを考えている。
(全く、こっちから自爆してあげてダメージ与えたと思ったのに……まだやるしかないようね)
 ハァ、とため息をつく。といっても、今の彼女には「身体」という概念がないのでただため息をついているような感じがするだけだが。
 彼女は、内側から破裂し、内蔵や血液、死亡や筋肉の繊維など、さまざまなものを周囲に撒き散らしている「自分の身体」を見つめる。
 そして、

 グジュリ、
 と、精神操作(メンタルコントロール)は、その肉の塊に手を突っ込んだ。

 そのまま彼女は、考えられないほど憎悪に満ちた表情で腕を大きく振り回す。
 それにより、鏡子のただでさえ胴体と言えないような肉の塊は、さらに内臓などが飛び出て見るに耐えない物へと変貌した。
(うへぇ。よくもまぁそこまでできること)
 そんなことを考えている鏡子も、先ほどは精神操作の心にありえないほどのダメージを負わせている。どっちもどっちだろう。
 精神操作は、その肉塊から自分の腕を引き抜いた。
 グジャグジャになっている肉から引き抜かれた腕には、紫色の内臓、赤色の血液、黄色の脂肪、白の骨……様々な色の見るに耐えないものが、精神操作の腕を彩っていた。
 精神操作はそれを忌々しそうに腕を振るって払い、それでも取れなかった脂肪や血液は、なんと自分の手で取り払った。
 まともな精神状況ではないだろう。普通の人間なら、まずもってそんなことはできない。
 だがしかし、精神操作はそれを躊躇うことなくやってのける。
 自分をこんな風にした心理掌握(メンタルアウト)に、自分と同じ思いをさせるために。
「……、ぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
 精神操作はそう叫ぶ。
 一見ただの狂人の叫びのようにも見えるが、違う。

 『世界』が、歪んだ。
 彼女の叫びによって。

 ベコバキベゴン!
 と凄まじい音を立てて、『空間そのものが喰われている』。
 まるでペットボトル内の空気を抜いたときの気圧差によって起こる、ペットボトルがへこむときのように空間が喰われている。
 その部分の空間が歪んだことにより、その他の空間がその場所を占領しようと膨張する。
 そして、
 バゴォォンッ!
 その勢いにより、凄まじい爆風が生じた。
 その爆風は、軽々と精神操作の身体を吹き飛ばす。
 さらにその熱により、精神操作の喉は焼かれて使い物にならなくなった。
 だがしかし、
「ぎぃぁぁゃぅぁぁぁぁッ!!!!」
 そんな叫びを上げている精神操作の顔は、狂喜で満ちている。
 『世界』が見えている精神操作のことだ。おそらく鏡子が潜んでいる近くの空間を歪めたのだろう。
 数10m離れたところにいた精神操作でも、この結果だ。
 近くに存在していた鏡子など、跡形もなく吹き飛んで―――

「あっっっついじゃないの。死ぬかと思ったわよ」

 ―――いなかった。

413とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十二:2010/09/11(土) 22:57:23 ID:Gplpd4lw

 冷酷で端麗な顔をもち、冷めた表情をしている鏡子。
 その身体はいたって普通で、服の綻び一つさえ見つからない。
 普通ならそんなものを目撃すれば唖然とするのだろうが、精神操作(メンタルコントロール)は違う。
 その身は怒りによって冷静さを失い、憎悪だけで動いている。理性など働かない。
「ガァァァァァァッ!!」
 焼けた喉から獣のような叫びを上げ、再び手を振るう精神操作。
 それに伴い、またもや空間が喰われた。
 が、
「いちいちそんなに壊さないでって」
 鏡子が呆れたように言い、同じく手を振るう。
 それにより、
 空間の縮小、膨張は防がれた。
「!?」
 声にならない驚きをあげる精神操作。
 今精神操作の影響を受けた空間は、見事に『喰われて歪んだまま』の状態を保っていた。
 歪んでいるのにもかかわらず縮小しようともせず、それゆえに他の空間もそれを食い潰そうとはしない。
(なに、を―――ッ!?)
 精神操作は疑問を持ったが、それをいちいち確かめている暇はなかった。
 また、心理掌握(メンタルアウト)がその華奢な手を振るった。
 次の瞬間、

 ドバァッ!
 といって、空間そのものが裂けた。

 ポカン、と口を開けている精神操作。
 そんな彼女に、無慈悲に『空間そのもの』は襲い掛かる。
 鏡子によって切り裂かれた空間は陥落し、それらが自由落下によって精神操作の細い身体を潰そうとしているのだ。
「ッ!!?」
 精神操作はやっと我を取り戻し、何とかそれに対応しようとする。
 一つ、二つ目の空間の規模は小さかったので何とか回避することができた。
 だがしかし、三つ目の空間はまるで嫌味かのように彼女が移動した先の場所に降ってきている。
 忌々しそうに精神捜査はその空間を睨みつけ、手を―――
 ―――振るった。
 ニヤリと笑いながら、精神操作より先に鏡子が。
 刹那、

 ズパァンッ!!
 と凄まじい音を立てて、空間そのものが破裂した。

 まるでそれは、空間の内側に潜んでいた鎌鼬が暴れまわった結果のよう。
 一瞬にして空間はズタズタに切り裂かれ、その内側からいくつもの風の刃が飛び出した。
 それはもはや風と呼べるような代物ではなく、空気抵抗により炎を帯びていた。
 手を振るい切ったままの姿勢で固まっている精神操作。
 そして、

 一瞬にして、その風と炎の刃は彼女の腹に届き、容易くそれを切り裂いた。

414とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十三:2010/09/11(土) 22:59:07 ID:Gplpd4lw

 ドサッ、と上半身と下半身に分かれた精神操作(メンタルコントロール)の身体が、『世界』に横たわった。
 それでも彼女の顔は、まだ憎しみに彩られたまま。
「……ッたく。『世界』は見えてるのに、結局は何も分かってないのね……」
 そんな精神操作を見つめながら、鏡子は面白くなさそうに呟いた。
 とその時、

『はいは〜い。お疲れ様にゃ〜、学園都市第5位、心理掌握(メンタルアウト)様様』

 またもや先ほどの男の声が、鏡子の頭の中に潜り込んできた。
 それに不快な感情を隠すことなく表した鏡子は、
「で? もう私はやることないんでしょ」
『いや、一応やって欲しいことはあるぜぃ。出来ればそいつの頭を「覗きやすいように」して欲しい」
 変態ね、と鏡子は即答しておきながらも、実際にそのように能力を使う。

 まるでそこに横たわっている精神操作を気に留めず、『外の世界』に向けて。


(しっかし……恐ろしいもんだな)
 それを手駒にした俺が言えた義理じゃねぇが、と土御門元春は苦笑しながら付け加えた。
(学園都市の第5位に立つ、精神系能力者の最高位……心理掌握。学園都市に牙を向いた垣根聖督が造り出した、新たに現れた超能力《レベル5》の精神系能力者、精神操作。全く、こんな奴らの戦いには、いくら俺でも殴り込みには行きたくないぜよ)
 ッてか物理的な攻撃無理だし、とやはり苦笑。
 その土御門が眺めているのは、

 禍々しく笑ったまま微動だにしない長谷田鏡子と、
 『全くの無表情』な、胴体も切れてなどいない精神操作だった。

(アイツらがやったのは、確かこうだったはず……)
 土御門は頭の中で、鏡子に伝えられた事実を思い出していく。
 確か―――


「まずはどうにかして自分の能力を使って、相手の脳内に潜り込むのよ。これが第一段階」
 第一段階って……と、土御門が呆れたように呟く。
「それが終わったら、次はその脳の電波信号を操って、意識を外に向けさせないようにする。流石にこれは一気にできるはずもないから、少しずつやっていかなきゃ無理だけどね」
 やはり土御門は、「そんなもん、時間かけてでも出来る奴は馬鹿げてる」とか言っているが鏡子は全く気にしない。
「それが終わったら、次は自分だけの現実(パーソナルリアリティ)に、その意識を集中させる。もう外界には意識いってないから、これは案外早くに終わるもんよ」
 もはやコメントする気もなくした土御門。流石の陰陽道を究めた魔術師言えど、超能力者の前ではその手の話には屈服するしかないだろう。
「自分だけの現実に意識を行かせたら、自分の意識もそいつの自分だけの現実に潜り込ませる。あとはもう簡単。実際の世界とは物理法則とか何とか全然関係ない世界だから、ほとんどなんでもやりたい放題できるってわけ。でもまぁ、多少能力は関係するけどね」
 あぁ、確かにな、と土御門はそれには頷いた。
 自分だけの現実とは、能力者が能力を使用するのには絶対欠かせないものだ。その現実によって、発端する能力が人それぞれになるほどのものなのだから。
 そしてその現実では、いつも以上に能力がはっきりと現れる。何せここでイメージした能力が、神経などという「抵抗」を通って、現実という「発電機」にたどり着くのだから、もともとの「電源」の方が力は強いのは言うまでもない。
 そんな『世界』で繰り広げられていたのは、つまりは能力を酷使した生死には関わらない大決闘なのだ。
 たとえ脳をぐちゃぐちゃに踏み潰されても、身体が灰に還しても、それは自分だけの現実の世界の話。実際の世界の身体の方にはあまり影響はない。少なくとも傷がついたりすることはないのだ。
 が、一概にも全く影響がないとは言えない。
 なぜならば、自分だけの現実が崩れれば、その能力者は『崩壊』するのだから。
 当たり前の話だ。自分だけの現実で自身が戦い、ボロボロに負ければそれは崩れる。しかも今回のような、心に深い傷を負わせるような戦いでは特に。
 結果として考えられないほどの傷を負った精神操作は、自分だけの現実という「電源」から神経という「抵抗」を通り、脳や身体といった「発電機」に、凄まじい精神的ダメージを負わせてしまったのだ。それはもう、当分まともに動けないほどの。
 

 そして土御門は、そんな目も向けられないような状態の彼女の脳を、覗こうとしているのだ。
 勝利の為に。大切なものを失わないために。
 仲間の背中さえも刺すような人間が、敵に哀れみでも向けるというのか。
 そんな笑みを浮かべながら、土御門はピクリとも動かない精神操作に近づいていき―――
 そして、

415とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十四:2010/09/11(土) 23:02:20 ID:Gplpd4lw

 現状況。

 超能力者(レベル5)のリンク率。
 聴覚潜り(ノイズキラー)。精神状況不安定により、自身にしかその能力を適用できていない。
 視覚潰し(ライトメーター)。安定して能力をリンクさせている。
 触覚壊し(センサーブレイク)。同じく安定して能力をリンクさせている。
 精神操作(メンタルコントロール)。精神状況崩壊により、核たる彼女は崩壊状態。それにより、全体的なリンク率そのものが下がっている。
 
 各超能力者の戦闘状況。
 聴覚潜り。学園都市第7位を破り抹消しかけるまでに至ったが、謎の人物の介入により戦況は逆転。現状では勝利は絶望的と言える。
 視覚潰し。原因不明の瞬間的な空間の移動により、心理掌握(メンタルアウト)との戦いを離れて、肉体変化(メタモルフォーゼ)たちとの戦闘を展開する。状況は不明だが、五分五分だと思われる。
 触覚壊し。謎の衝撃を謎の少年の防御によって免れ,そして唐突に現れた学園都市第4位、原子崩し(メルトダウナー)と交戦状態にある。視覚潰しと自身の能力、そして銃を酷使して何とか現状を保っている。
 精神操作。肉体変化戦の最中、唐突な瞬間移動により心理掌握と交戦、敗れる。身体状況に異常はないが、精神状況が崩壊しており、能力の使用は当分不可能化と思われる。

 絶対能力者(レベル6)。
 否定事項(ノットアクション)が、現在クローン大能力者(レベル4)と模擬戦闘中。負傷する確立は限りなく0。
 希望現実(リアルホープ)。特にすることもないかのようにゴロゴロしているのみ。特に問題もないようだ。
 原子変換(ナノチェンジャー)。大能力者との交戦の支障も無く、通常通りの体勢を保っている。

 垣根聖督。
 超能力者たちの力を解放するも、それが元の超能力者たちには届かないことを悟り作戦を変更。精神操作を中核に添え、情報を様々なところから入手。絶対能力者で叩くつもりでいるらしい。

 敵勢力
 グループA。学園都市第3位の御坂美琴が原因不明の消失を遂げており、戦力は大幅に減る。が、謎の巨大な剣を持った大男の出現により、一気にそれを回復。学園都市第7位の戦力を失うものの、その他のメンバーで補っている模様。赤紙煙草の神父とも思えないような男は、一時は彼らと行動を共にするも現在は行方をくらましている。
 グループB。長谷田鏡子は無事精神操作との戦いに勝利し、一方通行(アクセラレータ)は「魔術サイド」と言われている者たちを置き去りにしてどこかへ向かう。負傷はないと予想される。
 グループC。考えられないほどの身体能力を持つ女と学園都市第4位の麦野沈理により負傷者は0。現在は触覚壊しとの戦いは原子崩しが引き受けているため、垣根聖督本拠地へと向かおうとしている。だがそこが分からず、グループDとコンタクトを取り、合流を図る。
 グループD。各々の圧倒的な戦闘力を機能し、精神操作の攻撃を土御門元春の腕一本のみの負傷で防ぐ。現在は肉体変化と視覚潰しが交戦中。その他の者はグループCとの合流を図るため移動中。
 
 「神」と名乗った存在
 どうやらこの状況を「面白い」と感じているようで、「現実殺し(リアルブレイカー)たちは泳がせる」という言葉を言い放っている。狂乱能力(バーサークスキル)に引っかかった者がいるらしいが、それについては聞かされていない。

416とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十五:2010/09/11(土) 23:04:13 ID:Gplpd4lw

「………………」
 その情報を得た土御門は、絶句した。
「……一体」
 サングラス越しでも分かる。彼が動揺しているのが。

「神……だ、と」

 そのままパタンと倒れそうな幹事で、土御門は呆然と呟いた。
(…………神)
  彼はその意味を考える。
(生命の起源、全ての始まり。創造主であり絶対主。幾人もの天使たちを従える、絶対的な力を所持する存在)
 彼が陰陽道を学ぶ上で得た知識が、その頭を駆け巡る。
(……確か、ローマ清教の再暗部、神の右席が目指している存在。だがしかし、そこに辿りついた者は一人として存在しない。あの右方のフィアンマさえも)
 その頬を、生温い汗が伝った。
(……そんな、本当にいるのかも分からない、確認もされてない存在が……この件に、関わっている?)
 ゾクッとした悪寒が、その背中を駆け巡る。
(……指先ひとつ動かすだけで世界を滅ぼすことの出来る、考えられないほどの力を所持した天使……だったら)
 考えたくもないが、考えなければならない。

(……それを絶対服従させる、神とは……一体なんだ?)

 得体の知れない感覚が、彼の身体を支配する。
(天使は、その指先で世界を滅ぼすことが出来る。全力を出せばどうなるかなんて、考えたくもない。だがしかし……ならば、神は……?)
 想像を絶する世界。
 そんな領域に、自分は足を踏み入れてしまったのだろうか。
 思わず土御門は、そう思ってしまう。
(……真偽はともかくとして、問題は『それ』を名乗っている奴が、この件に関わっているということ)
 考えても仕方がなかったのか。
 いや、考えたらもはや後戻りが出来ない、と感じてしまったのか。
 果たしてどちらなのかは分からないが、土御門は『それ』に関する思考を打ち切った。
(そして、そいつが発した言葉……現実殺し《リアルブレイカー》とは……何なんだ)
 だがしかし、結局『それ』が関わっていることのことは、土御門には全く分からなかった。
(……リアルブレイカー……? ……待て、なん……だ、と?)
 現実殺し。
 それを考えた土御門は、とある不幸な少年を思い浮かべた。
(……カミ、やん……?)
 幻想殺し(イマジンブレイカー)。
 正確には、彼に宿る不思議な能力を、だろうか。
(……ハッ。わっけ分かんねぇぜ)
 自嘲するかのように彼は笑い、そして、

(……どうやら、この土御門元春様も……本気出さなきゃならないらしいな)

 その自嘲気味な笑みは、確信的な笑みに変わる。
 そして彼は、
「神なんて大仰な存在、知ったこっちゃねぇ。どうせばかげてるチカラ持ってんだから、今更どう考えても無駄無駄。だったら、俺たちは俺たちの世界を生きるだけだ」
 まるで自分にそう言い聞かせるようにした土御門は、

「……我ラヲ繋ギシ運命ハ今此処ニ(バカどもをたすけてやる)。ソレヲ展開シ時、己ノ心ハ世界ヲ轟カセルッ!(だからテメェはだまってオレについてこい!)」
 
 次の瞬間、

417とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十六:2010/09/11(土) 23:05:44 ID:Gplpd4lw

『クッソがぁぁぁぁぁぁッ!!?』
 彼は叫ぶ。死の叫びを。
 本来ならば、たったそれだけで周囲の人間は死滅する。
 だがしかし、彼の言葉で死ぬ人間はいない。
 何故ならば、

「ンだァコラ。超能力者(レベル5)のネタってェのは、これだけなのかよォ?」

 その場に存在しているのは、人間などではないのだから。
 バケモノ。
 それが、その場に存在しているものだ。
 さっきから全く自分の能力を受け付けない、本物のバケモノが。
(なんだヨコイツッ!? なんでさっきかラ俺ノ能力ガ効かネぇッ!!?)
 聴覚潜り(ノイズキラー)は焦る。
 全くもって歯が立たない。
 彼の能力が効かないのだ。
 いや、能力だけではない。
 予備にとっておいた拳銃の弾を放っても、あのバケモノは傷一つつかずにニヤニヤ笑っていただけ。
 おかしい。確実におかしい。
 あんなもの、人間などでは―――
「ほォらほらほら! なンだよ、マジでネタ切れかァ!? ッたく、面白くねェなァ!」
 ―――人間などではッ!!

『―――ぁ、ぁぁぁぁぁ、アアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!』

 叫んだ。
 聴覚潜りのその叫びは、それだけで周囲の建物の崩壊を招いた。
 先ほどまで普通に建っていた建物が、何かの冗談かのようにズドンズドン! と一気に崩れていく。
 これが、超能力者の本気。全力。
 ただの叫びだけで、景色を一片させるほどの莫大なチカラ。
 そして、

「だァァ。クソったれが、いちいち物とか壊してンじゃねェぞコラ」

 その超能力者の本気の一撃を、何事もないかのように受け止めるバケモノ。
(――――――ッ!!?)
 自分の全力が全く効かないことを悟り、聴覚潜りはその場に崩れ落ちる。
 そしてその目が、巨大なアスファルトの塊がそのバケモノに落下していくのを捉えた。
 それにそのバケモノは、何もしない。微動だにしない。
 だがしかし、そのアスファルトは彼に触れた瞬間、バラバラに砕け散った。もちろんバケモノには傷一つついていない。
(……なんなんダヨ。なんなんダヨ、コイツ)
 もはや戦闘の気力を失った聴覚潜りは、思わず聞いた。
「……なんなんダ、テメェ」
 自分の気持ちを正確に表した言葉。
 それを聞いたバケモノは、

「なンでもねェよ。ただ壊すことしか出来ねェ馬鹿がそれに抗ってる、ッつーだけだ」

 そしてそのバケモノは、
 崩落していく景色の中、それを全く気にしない速度を持って、聴覚潜りに突撃した。
 それに聴覚潜りは、反応できていない。いや、反応していないのか。
 バケモノはそれを見て、笑った。
 そして、その腕を伸ばし―――

418とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十七:2010/09/11(土) 23:07:33 ID:Gplpd4lw

「ったァく。ヤワにも程があンだろ」
 気絶させた聴覚潜り(ノイズキラー)の服の襟首を掴み、それを摘み上げる。
(聴覚系の能力者、なンてのは珍しィがな。ただそれだけだ)
 そしてそれをそこら辺に投げ捨て、学園都市最強の能力者、一方通行(アクセラレータ)は思った。


 とりあえず、目の前に二人の超能力者(レベル5)を並べてみた一方通行。
「……だからなンだってンだ」
 むさ苦しい男と、ヒョロッちいキチガイを眺めていても面白くともなんともない。
(念動砲弾《アタッククラッシュ》の方は……休ンでりゃ大丈夫、ってとこか。……ンで)
 軍覇の厚い胸板が上下しているのを確認した一方通行は、次に細い聴覚潜りを見つめる。
(……コイツ、なンて名前なンだ? まァ、俺が言えた義理じゃねェが)
 とりあえずあの機械よろしく、反乱勢力一とでも名づけようかと思った一方通行だったが、

『ああ、そいつは聴覚潜り(ノイズキラー)って言うらしいぜぃ? の前に、反乱勢力一はないと思うがにゃー』

 苦笑混じりの猫撫で声ボイスが、一方通行の頭脳を駆け巡った。
 瞬間、
「土御門だァ? テメェ、何だこの通信手段はァ?」
 基本的に、頭脳や精神、五感に関することはすべて『反射』してある一方通行。もちろんスイッチを入れている時に限るが。
 それを聞いた、どうやってこの通信を行っているのか、一方通行には見当もつかない土御門がこう言った。
『俺のことを甘く見てもらっちゃ困るな。とりあえず分かりやすく言うと、俺は魔術サイドで言う大能力者(レベル4)、ってところだ』
 ……マジュツ、と一方通行が呟く。
 確かにあのウザッたらしい機械の説明時には、確か土御門はそんな感じで紹介されていた。あのロリコンなら魔術でも科学でもなんにでも手を出しそうだからスルーしていたが。
 だがしかし、今はそうともいかない。
「で? その大能力者が、どうやって俺にたてついてる」
『簡単な話だにゃ』
 そう言った土御門は、あからさまにニヤリと笑っていそうな声で、

『確かにお前、一方通行は科学の世界においては一位だ。が、それは魔術の世界にゃ通用しないんだよ』

 黙り込んだ一方通行。
『と言っても、お前が強力な存在なのは変わりがないけどにゃー。まぁなんだ、ようは「コイツ、A分野はありえねぇほど力を持ってるが、B分野はそこまでじゃねぇ。Bじゃ俺のほうが上だから付け込む隙があるぜ」ってところか?』
 ちょっとこっちの世界でも、そういうのは多いしな、と笑う土御門。
 正直一方通行には、その言葉はあまり噛み砕けなかったのだが、とりあえず無理やり納得してみることにしたらしい。
「ンじゃ次だ。コイツの名前は、ノイズキラーッてンのか?」
『ああ、そうらしい。そしてお前も分かっていることだろうが、聴覚系の能力者だな。学園都市第1位にはまったく届かなかったようだが』
 ッたりめェだ、と一方通行が吐き捨てた。

419とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十八:2010/09/11(土) 23:08:47 ID:Gplpd4lw

 簡単に聴覚潜り(ノイズキラー)の能力の説明をすると、こんな感じだ。
 まず一つ目の基本能力として、周囲の音―――と言っても、基本的には自分が発するもののみだが―――の振動を、自在に操ることができる。
 つまりは空気の振動を大きくさせたり、振動そのものを無くしたりすることができるのだ。やはり他人の音に干渉する場合には、それなりに労力が必要なのであまりやらないそうだが。
 だがしかし、自分が発する音ならば基本的に自在に操ることができる。声はもちろんのこと、足音や自分の行動によって起きた音さえも操れるのだ。
 といっても、この程度では超能力者(レベル5)には及ばない。大能力者(レベル4)程度のものだろう。
 彼の能力の真髄は、これだ。

 自分の放った『声』の振動に、脳に影響させる振動を加えることができる。

 どういうことだかあまり分からないだろうから、少し例を挙げよう。
 聴覚潜りが、自身の声を上げる。
 何もしなければそれはただの『音』だが、彼の能力を使うと様々なことを引き起こせる。
 たとえば、
 その声に体の動きを麻痺させる振動を加えるとか、
 たとえば、
 その声に体の一部を破裂させるような振動を加えるとか、
 たとえば、
 その声自体に、破壊能力を与えたりするとか。
 そして最終的なところに至れば、
 その声を、殺人兵器にすることも可能なのだ。
 もちろんそれは彼の声を聞いた者に限るが、それは彼の最初の能力を使えば問題ない。
 なぜ声に振動を加えるだけで、そんなことができるのか?
 簡単な話だ。
 音は人間の耳にまず伝わり、そして鼓膜まで届く。
 普通はそこで『どんな音か』を判断するのだが、聴覚潜りの能力を使えば、鼓膜のみではそれを判断できなくなる。振動が複雑すぎて、鼓膜などという部位では処理しきれなくなるのだ。
 結果として、その振動は脳にまで伝わる。
 そうなれば、聴覚潜りの作り出した『振動』が、その効果を発揮する。
 その振動は鼓膜で捉えるだけではなんでもないのだが、それが脳に届くと同時に複雑に、かつ激しく振動し始める特徴がある。
 それによって大脳や小脳、右脳左脳が揺さぶられ、様々な効果を及ぼすのだ。
 代表的な例としてはめまいや吐き気、神経の麻痺などが挙げられるが、超能力者はそこに留まらない。
 複雑に振動させることによって脳からの電気信号を特別に発生させ、血液を逆流させることだって可能になる。心臓も脳からの信号を受けて働いているのに過ぎないのだから。
 さらに、筋肉の動きを異様に発達させることで、身体を部分的に破壊することも可能だ。
 人間は通常、筋肉の30%程度しか使用できていない。限界まで使用してしまえば、身体のほうがその動きに応え切れずに破壊されてしまうからだ。
 だがしかし、脳からの信号によってその『ストッパー』が外れ、筋肉が100%の動きを見せれば、人間の柔らかい肉など簡単に引き千切れるものだ。
 もちろんそれは強大すぎる力なのだが、同じ超能力者ならば同じような強大な力を所持している。
 削板軍覇の場合は、常に念動砲弾(アタッククラッシュ)の念動壁を周囲に張り巡らせておいて特殊な振動を察知し、さらにそれによって強烈なめまいを感じた。そこから超能力者の頭脳を駆使し、相手が聴覚系の能力者だと判断したのだ。
 そこからは話は簡単。彼の耳の回りに、小さく念動壁を張り巡らせれば良いだけだ。小さくとも彼の能力を駆使すれば、それなりの強度を誇るようになる。それは聴覚潜りの、拡大された声を防げるほどに。
 一方通行(アクセラレータ)の場合は、もはや論じる必要もないだろう。先ほどまでの戦闘を観察し、やはり彼を聴覚系の能力者だと判断した彼は、鼓膜に反射を適用させただけだ。
 さらに彼のその反射は、特異な振動のみを受け付けないように設定してある。普通の声ならば、普通に彼には届くのだ。
 聴覚潜りはそうして彼らの前に屈服し、今一方通行の手によって行動不能とされている。

420とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 六十九:2010/09/11(土) 23:10:10 ID:Gplpd4lw

「ぶっちゃけ、俺は殺したいンだがなァ?」
『まぁまぁ。そこは抑えてくれ』
 一方通行(アクセラレータ)の発言に、土御門が漏らすのは苦笑。
『こっちもこっちで、いろいろと事情があるんだよ。それが終わったら、存分にやってもらって構わない』
 クソッたれだな、と一方通行が吐き捨てた。
「……で? なンだよ、その事情ってのは?」
『……まぁ、お前も協力者、だしなぁ……』
 一方通行の言葉に、土御門は少し唸ってから、こう言った。

『簡単な話だ。超能力者(レベル5)の全員の打倒、及びそれ以外の反乱勢力の情報収集。ただそれだけだ』


「逆算……か?」
 モニタを見つめ、垣根聖督がそう呟いた。
「逆算? なんでまた?」
 希望現実(リアルホープ)が、あまり興味のなさそうな瞳で聖督に言うが、彼はそれを無視する。
(……精神操作《メンタルコントロール》のAIM拡散力場が一気に弱まってから、彼女の脳に何者かが侵入している……? しかし、どうやって)
 自問自答気味に鳴っている彼に、今度は原子変換(ナノチェンジャー)が語りかけた。
「相手には、超能力者の第5位もいるという話だったが。その能力を使えば、脳の中を『見る』ことも可能なのではないか?」
 その前に、お前はどうやって私の思考を読み取った、と言いかけた聖督。
 だがしかし、彼女が絶対能力者(レベル6)であることを思い出した。
 そんな頭脳を持ってすれば、思考など読めなくともそれくらいは想像できるものなのだ。
「確かにそうだな。心理掌握(メンタルアウト)……と言ったか。精神操作に打ち勝った者ともなれば、それくらい造作もないことだろうな」
 ふぅ、と彼はため息をつく。

「ならば、これ以上の逆算は防がなければならないな……」


 ピクン、と彼女の指が動いた。
「は?」
 思わず長谷田鏡子は、それに驚いた表情を作ってしまう。
(もう、意識回復するっての? 速すぎるわよ、そんなの……たとえ超能力者の精神系能力者だとしても、自分だけの現実《パーソナルリアリティ》を崩されているのだから、関係ないはずなのに……)
 彼女の目に写るのは、全くの無表情な精神操作。
 『世界』とは全く関係のない彼女。
 だがしかし、『世界』で深刻なダメージを受けている彼女は、最低限の生命維持活動しか出来ない状態なのだ。
 それなのに、
 とその時、

「……ぅぁ……?」

 彼女の唇が、ほんの少しだが、確実に動いた。
「ちょっ……!?」
 今度の鏡子のリアクションはさらに激しくなり、思わず能力を使用してしまう。
(……彼女の脳は、依然変わらずに、最低限の活動しかしていない……なのに、何故……?)
 土御門も彼女の脳に入り込んでいるのだが、超能力者にはそんなことは関係ない。
 そして、
「……ま、さか……」
 その言葉を発したのは、鏡子ではない。
 精神操作だ。
「…………に、げ……」
 その現象を目の当たりにし、彼女はその顔面を蒼白に染めた。
「……言葉を、発している……?」
 おそらくそのワードは、
「……逃げて……?」
 鏡子がそう呟いたと同時、精神操作は目をカッ! と見開いた。
 次の瞬間、

 ドバンッ!
 と、まるで『世界』での出来事を現実に映し出したような音が響き、彼女が『破裂』した。

421とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 七十:2010/09/11(土) 23:11:48 ID:Gplpd4lw

「……クク」
 ……あァ? と一方通行(アクセラレータ)が、その赤い瞳を言葉を発した人物に向ける。
 彼の視線を受けているのは、
 一方通行の攻撃を受け、気絶しているはずの、聴覚潜り(ノイズキラー)。
「……ダメだナぁ」
 彼の身体を構成する各パーツは、その口しか動いてはいない。もはや心臓の動きも怪しいというのに。
「……なンの話だ」
「こっちノ話ダよ」
 相変わらず、目も開けないまま口のみを動かしている聴覚潜り。
「……流石ダ、っテな。俺モ随分トアレな思考ヲするようニプログラムされタようダが……アイツハ、素デそれヲ越してルらしいぜぇ?」
 と、今度は顔を嘲笑するかのように歪めた。
「だから、なンの話だっつってンだよ。殺されてェのか」
 少々聴覚潜りの態度にキレかけの、一方通行の言葉。
 だがしかし、彼はそれすらも笑って返した。
 何故ならば、

「殺されタい? ハハッ、今更命ガ一秒長引いタところデなんになル」

 今度は、一方通行の顔は怪訝そうに歪んだ。
 そしてさらに質問を追加しようとしたのだが、それは成し得なかった。
「じゃあな、最強。せいぜい俺ノ主ヲ殺せルようニ足掻け」
 聴覚潜りの目が開き、そしてその口がその言葉を発した。
 それに一方通行が何かを感じる暇もなく、

 グジュリ、
 と、聴覚潜りの身体が『潰れた』。


 ダァン!
 土御門の拳が、地面を殴りつける音だ。
「くそっ!」
 彼は俯き、その拳を見つめる。
(……まさか、超能力者《レベル5》をあっさり殺すとは思っていなかったが……チッ、相手に利用されるんならあっさり『破棄』かよッ!?)
 彼の中に渦巻いているのは、様々な激情。
 それは垣根聖督に向いているものであり、無力な彼自身にも向いているものだった。
(……また、俺のミスだ……)
 確かに、彼の行った行動は非道なものだった。
 造られたとはいえ、れっきとした『人間』の頭脳を、無断で覗き見るようなことをしたのだから。
 だがしかし、それはあくまで『仲間を傷つけたくない』という気持ちからきている行動。
 決して、自分のための行動ではない。
(……垣根聖督)
 しかし、
 彼の場合はどうなのであろうか?
(おそらく、あいつら《超能力者》の体内に何か埋め込んでいたのだろう……精神操作《メンタルコントロール》の頭脳を常に把握できるような科学者だったら、それを能動的に起動することなど造作もない)
 彼が精神操作の頭脳を垣間見たとき、何か不自然なものを発見したのだ。
 それは、小さな機械のような物。
 おそらくそれで脳の振動を読み取り、その振動の揺れから彼女の頭脳を解析しているのであろう。
 そんなことを出来る科学者が、自分が『造った人間』に爆弾やら何やらを埋め込むなど、様々な意味で可能だ。
(……良いだろう)
 そう考えた土御門は、地面から拳を浮かせる。
 そして、それを強く握り締めた。

(テメェのケリは、テメェでつける。このミスは、絶対に俺が取り返してやる)

422とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 七十一:2010/09/11(土) 23:12:52 ID:Gplpd4lw

 開放する。
 確かに現実殺し(リアルブレイカー)が、そう言った。
 そして、彼らはそれを聞き取った。
 次の瞬間、

「開放する」

 御坂旅掛の口が、その言葉を発音するために動いた。
 それに上条刀夜は、
(……現実殺し対、現実護手《リアルガードナー》、か……ふっ、本来ならば協力し合う立場の存在なのにな。しかも、幻想殺し《イマジンブレイカー》と現実殺し、幻想護手《イマジンガードナー》に現実護手が協力し合っている、と。……右方のフィアンマは、魔術の属性がズレているだの言っていたが……これはそんなレベルじゃないぞ)
 そう考え、そして、

「……さて。人間は、果たしてどこまで神の領域に足を踏み入れることができる存在なのかな……?」


「遅いぞ。あと一瞬遅れていれば、超電磁砲(レールガン)は……いや、御坂美琴は死んでいたが」
 現実殺しの力を押さえ込んでいる存在―――竜王封じ(ドラゴンセプト)は、呆れたかのようにため息を吐いた。もちろん、それに反応するものは皆無なのだが。
 それも気にせず、竜王封じは続ける。
「だがしかし、本来ならば現実殺しのほうが、圧倒的に現実護手よりも力を持っているのだが……今ではどうなのだろうな」
 彼が思い浮かべているのは、幻想殺しの少年。
 彼の抱える存在は莫大なものだが、彼自身はあくまで『普通の人間』のはずだ。
 だが、
(……その、普通の人間に……これだけの『力』が存在するとはな)
 ふふっ、とその口元を歪める竜王封じ。
(おそらくこれは、あいつの計画《プラン》の一つだろうが……ここまで彼の力が大きくなると、あいつらは想定できていたのだろうか)
 そう考えると、やはり自然と笑いがこみ上げてくる。
 人間とは。
 人間とは、ここまで『力』のある存在なのか、と。

「上条当麻、か。彼がその『可能性』だと言うのだな」


 死んでいなかった。
 確かに、目の前の女―――現実殺しから、今までとは比べ物にならないほどの力を感じたはずなのに。
 そして彼女は、反射的に閉じていた茶色の瞳を、うっすらと開ける。
 その瞳に映っていたのは、

 スラリと長身で、ある程度女性的なラインを持つ、何らかの存在と、
 こちらも同じく、一般的な成人男性よりも少し長身で、それなのに少し細い感じのする存在だった。

423とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 七十二:2010/09/11(土) 23:13:33 ID:Gplpd4lw

 ズギュォンッ!
 ドバァッ、ガゴォォォォッ!!
 パァン!
 ガシュッ。
「……ッたく。隠れて銃で狙い打ち、ってかぁ? ウザッてぇんだよッ!」
 ズ……
 ガ、ガガガガガガガガァァァァァァァァァァァァンッッ!!
「どこ狙ってんだよ。あんまり周り、破壊しちゃいけませんよぉ? クハハッ!」
 パパッ、パァンッ!
 ガガガ、グシャッ。
「ハッ! 最初と比べると、息が上がってるように思えるけど?」
「自分のこと言って、何が面白いんだぁ?」
 ズガッ、ゴガァァァァァァァッッッ!!
 ジャギッ、ジャガガッ!
 ドババババババッッッ!
 シュォン……ズバァァァァァッッ!
「おうおう。散弾型のマシンガンだぁ? 面白い武器持ってんじゃないの!」
「だったら、さっさと殺されろよこのメス豚ぁッ!」
 ズギャッ!
 ……タッ。
 ガシャ、ダダダダダダダッッッ!
 ギャンッ!
「当たんねぇ、つってんだろっ!」
「テメェの攻撃もなぁっ!」
 ズバンッ!
 ドッ、ガァァァァァッッッ!
「……ちぃっ……」
「ハッ。接近すりゃ能力の使い心地も悪くなるだろ、ってかぁ? ざぁんねんっ! バカはテメーでした、ってなぁっ!」
 ブォンッ!
 ドッ、ドドドドドドドドドッッッ!!
 ガァァァァァァァンッ!!
「つってもなぁ! テメェ自身の能力は、一回たりとも当たってないわけよっ!」
「アンタのもだよ! しかも、瓦礫にはしっかりとぶち当たりやがってッ! 逃げるんならうまく逃げなさいよッ!」
 カランカラン。
 ガッ、ドンッ!
 ドギャッ!
「……ウザッてぇの使うのねぇ……」
「ハ。防いどいて何言ってやがる。まぁ、爆風は逃れられなかったそうだけどぉ!?」
「ナメんじゃねぇぞぉっ!!」

 ズッ、ドガガガガガァァァァァァァァッッッッ!!
 ドバッ、シュバババババッ!
 キュオン、ズゥンッ!
 ダッ、ドバババババッッ!

424とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 七十三:2010/09/11(土) 23:14:16 ID:Gplpd4lw

 歯が立たない……わけではなかった。
 相手の攻撃は、やはり彼女の能力で当たることはない。
 しかし、だからと言って、彼女の攻撃も相手に当たるわけでは―――
 パァンッ! という鋭い音が、その場に響いた。
 そして―――
 しっかりと、対象の後頭部に着弾する。
 普通ならその次の瞬間、被弾者は死亡することだろう。何せ脳みそだ。即死しても全くおかしくない。
 だが、
 グジャッ、という音が鳴った。
 それは、潰れる音。

 対象者の頭に当たったのにも拘らず、全く傷をつけることもなく彼の手に収まり、そして潰された弾丸が出す音。

 普通なら、弾丸を右手一つで握りつぶすことなど出来ない。しかも今は、発砲直後なのだ。弾丸のほうも、かなりの熱を所持している。
 だがしかし、彼は笑いながらそれを握りつぶし、
 次の瞬間、
 ヒュンッ、という音が聞こえた。
 そして、
 ドガッ! という、アスファルトが炸裂する音が連続した。
 彼女がそちらに目を向けると、まるで何か丸いものに打ち抜かれたかのような状況になっている。
 そして、その窪みの奥に眠っているのは―――
 ―――グシャグシャになっている、弾丸。
 この状況で考えるとするならば、それは彼が放ったものだ、という結論に至るだろう。
 しかし、
 実際問題、ありえない現象だった。
 無傷で拳銃の弾を受け、そしてその弾丸を右手のみで軽々と握りつぶし、そしてそれを放っただけで、アスファルトを炸裂させる。
 到底、人間が成しえるようなものではない。
 だがしかし、それを行って見せたのは、特別筋肉が付いているようにも見えない、普通の人間。
 ……いや、違う。
 ありうる。
 彼なら、彼らの世界ならば……この程度、常識なのかもしれない。
 超能力者(レベル5)の世界では。
 化け物が蠢く世界では、その程度、当たり前の『現実』なのかもしれない。
 そして、

 同じく、その化け物たちの世界に住まう彼女は……その綺麗な口の端を、ニヤリと歪めていた。
 まるで、自分と釣り合う獲物を見つけた肉食獣のような……そんな、獰猛な笑みを。
 次の瞬間、
 二人は交錯した。

 学園都市第6位、肉体変化(メタモルフォーゼ)の葛城妖夜と、反乱勢力の一人、垣根聖督の駒、超能力者の視覚潰し(ライトメーター)が。

425とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 七十四:2010/09/11(土) 23:15:27 ID:Gplpd4lw

「で!? お前(アックア)がここに来た理由は、一体何なんだよっ!?」
 走りながら言った上条の言葉に、アックアはうるさそうに顔をしかめ、そしてこう言った。
「理由も何も。もはやここ(学園都市)に来なければ殺されそうな雰囲気だったから、ここに来ただけであるが?」
 ……はぁ? と上条は表情を歪める。といっても、その足は止まらないが。
「なんでだよ? お前、確かにこの前のフィアンマ戦で、かなりマズッたらしいけどさ……でも、普通の魔術師とは段違いなんだろ?」
 彼は第三次世界大戦において、大天使(ガブリエル)の力の2分の1を体内に吸収する、というとてつもなく馬鹿げたことをやってのけた。
 だがしかし、もちろんその反動はデカすぎる。
 神の右席としての力など、言語道断。
 聖人としての力はおろか、通常の人間としての力も多少失ってしまっていた。
 ……なのだが、
 どうやら彼は今までの経験により、その状態でも普通の魔術師とはレベルが違うようである。言ってみれば、ステイルレベルなのだろうか?
 そんな彼が、そう簡単に命の危険を感じることなどないはずなのだが……
 と、アックア―――いや、この場合はもはや、ウィリアム=オルウェルか―――が、その口を開く。
 そしてその口から聞かされたのは、

「いや。たとえ私が以前までの力を持っていたとしても、戦おうという気持ちすら持たないであろう」

 超爆弾発言。
 それに上条は、今度こそその足を止めてしまった。アニェーゼたちの方は黙々と走っていたのだが、やはりギョッとした顔つきでウィリアムを見つめている。
 それにウィリアムは、
「冗談などではないぞ。私がそんなことを言うように思えるか?」
 とそこで、ウィリアムの背からひょっこり出てきた顔が、
「まぁ、何かと『あの方たち』にも事情がおありでしたようなので……」
 本来なら豪奢なドレスを身に纏い、おしとやかな足取りで王宮を歩いているような女性。
 そんな、もはや絵本を3D化したら現れてしまいました、とでも言いたげな女性に向かって、上条はやはりげんなりした表情で言う。
「……んじゃ、アックアはいいとして……なんでヴィリアンまでもがここにいるわけ?」
 ヴィリアン。
 3国4派閥のイギリスの表向きのトップ、『王室派』の第3皇女、『人徳』に優れていると言われるお姫様だ。
 実際、彼女の姉たちは『頭脳』やら『軍事』やらといったヤッカイゴト向けな能力を所持しているのでヴィリアンはあまり重視されていないのだが、それでもひょいひょい学園都市にやってきて良いような人物ではない。
 そんな彼女は、ウィリアムの肩に顎を乗せ、
「う〜ん……何故か知りませんが、どなたかがこの用兵を狙っているようなので。そして『あの方たち』の助言でウィリアムはそのお方から逃げることにしたのですが、そうなると私を人質に取られる可能性がある、と指摘され、已む無く私も付いてきた……といったところでしょうか」
 本来ならば敵地であるはずの学園都市の中で、彼女はかなりのんびりとした口調で言った。というかこの二人はいつの間にこんな関係になっていたのだろう? と上条は疑問に思っている。
 だがしかし、そんな疑問をはるかに凌駕する疑問がある。
「で、逃げてきたのはいいとして……何故にまた学園都市なんかに?」
 魔術サイドの者ならば、不用意には近づきたくない場所であるはずだ。
 そんな学園都市に、わざわざ逃げてきた理由とは?
 それにウィリアムは、
「だからそれも、脅迫まがいに言われたから従ったまでである」
「だぁーっ! んじゃもういい、これも聞く。だからお前たちの言う『あの方たち』って誰のことだよっ!?」
 彼の返事に少し切れた上条は、一気に捲くし立てたのだが、
 次の瞬間、彼の頭脳は妙に冷たくなった。
 人間なら誰しも、自分の理解できないことを言われるとそうなるものである。
 つまり、

「えぇと。イギリス凄教のローラ=スチュアート様、ローマ正教のマタイ=リース様、ロシア成教のワシリーサ様たち、のことですよ」

 あまりにもあっさりと、ヴィリアンの口からそんな言葉が放たれたからだ。

426とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 七十五:2010/09/11(土) 23:16:17 ID:Gplpd4lw

「しかし、ウィリアム=オルウェルはともかく……第3皇女まで、本当に連れて行く必要性はあったのか?」
「大いにありけるわね。真実に気づいたフィアンマの奴なら、どんな手を使ってでもかの者を捕らえようとしたるわ。ヴェントやテッラはもう手の打ちようが無しにつきの時に、アックアまでもを奴の手に収められたりなどすれば……」
「まぁ、そうなるでしょうねー。潰すのもなかなか厄介になるわ」
「……ならば何故、お前たちはわざわざ学園都市などにあいつらを寄越したのだ?」
「簡単な話よ。今、我々が上条当麻を失いければ……」
「確実に、あいつらにこの世界を堕とされるでしょうね」
「……神、か」
「それに気づきしフィアンマもフィアンマだけど、それでも力には抗えはしないわね」
「そしてそうなれば、フィアンマは本気で動き出すでしょう。テッラを吸収し、ヴェントを利用し、アックアを手中に収め、最終的には―――」
「……上条当麻を、自身に取り込む、か」
「まっ、それもかなりの荒業になりけるのよ。神浄の討魔に、幻想殺し(イマジンブレイカー)。さらに竜王滅相(ドラゴンキラー)ともなれば、かのフィアンマ言えど抱擁しきれずに、爆発してしまうのもオチとして考えられるわ」
「そこら辺も考えてるようで、ナスカの地上絵を利用しようとしているのも見て取れるけどね」
「……つまりは、逃亡と護衛。この二つを成そうとしている、というわけか?」
「それは違いけるわ」
「今の学園都市に蠢いているのが、ローマ教皇様には正確に把握できているのかしら?」
「……学園都市の情報によれば、超能力者(レベル5)8人と絶対能力者(レベル6)3人が反乱を起こしている、とのことだったが」
「そんなものはブラフにすぎないのよ。かのような者、あやつらにかかれば瞬殺ね」
「全く。あんな小さな土地のみに、あそこまでの面子が揃うとは……流石にジョークじゃ通じないわよ?」
「……だから、その者たちとは一体なんなんだ?」
「はぁ。一から説明しなきゃ分からない、とでも言いけるの?」
「あなたもあなたで、この情報に辿り着くまで相当の時間を労したそうだけど?」
「……あらぁ? そう言うワシリーサは、ロシア成教のトップの座を捨てるなどという大博打に出た結果、命からがら手に入れた情報だと聞きたるわよ?」
「……いいから、私にその情報を教えてくれぬか……?」
「……集っている重要面子は、上条当麻、一方通行(アクセラレータ)、御坂美琴、そして統司者(ヴェーラー)。あとはその他の超能力者の面々ね」
「それと、遠距離ではあるけど、上条刀夜に御坂旅掛たちも関わってるそうよ」
「……確かに、恐ろしい面子ではあるが……それが、何故我々までもが危惧せねばいけない?」
「…………はぁ」
「…………馬鹿の極みね」
「貴様ら」
「じゃぁ、もう一気に言うからよく聞き漏らさないことね」
「そういうことよ」

『上条当麻は、幻想殺し、竜王滅相、神浄の討魔を所持。一方通行は真実を司りし者、御坂美琴は超電磁砲(レールガン)、竜王封じ(ドラゴンセプト)、そして現実殺し(リアルブレイカー)。統司者は『神』に抗うために、上条当麻を使用せずに、『司りし者』たちをさらに統べる者、『魔神』になるはずだった男―――オッレルスを使用し、一気に神に抗うつもりでいる。上条刀夜たちは、自分たちの子供のチカラを自分の内に抱擁し、全てを覆すつもりらしい。……今学園都市で起こっているのは、あくまでこれのオマケでしかないのよ』

427とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 七十六:2010/09/11(土) 23:17:15 ID:Gplpd4lw

※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

 ベチャッ、という音を立て、精神操作(メンタルコントロール)の脳みそがアスファルトにこぶりついた。
 そして噴出す、鮮血。
 垣根聖督とやらがどうしたのかは分からないが、なぜか彼女の首から下は全くの無傷だった。首から上のみが、綺麗にごっそり無くなっている。
 その首の切れ端から、大量の鮮血が勢いよく飛び散っていた。
 それは至近距離にいる鏡子にも容赦なく降りかかり、その端麗な顔が紅(あか)で染まる。
「…………」
 しばらく彼女は、ただその光景だけを見つめていた。
 そして鏡子は、彼女の頭を探す。
 といっても、そんなものは探すまでもないのだが。
 目の前に広がるのは、ただの惨劇。
 切れている脳みそが当たり一面に錯乱し、頭蓋骨さえもあっさりと砕かれて散り散りになっている。
 中には、頭蓋骨に脳みそが巻きついているものさえも存在した。
 そしてそれらに共通しているのは、凄まじい熱を所持している、ということ。
 精神操作の頭に埋め込まれた爆弾が起動し、彼女の頭は吹っ飛んだのだ。そのときの温度は、未だに保たれていて当たり前だろう。
 その温度を所持している脂肪や脳みそは、まるでバーベキューのような音を立てている。地面に付着しているので、そちらの方にも熱が伝わっているのでまさにその通りだった。
 とその時、
 ボトッ、
 と、何かが鏡子の首筋に落ちてきた。
 彼女はそれに感情を抱くでもなく、ある程度つまめるサイズだったので指でつまみ、自分の眼前にさらけ出す。
 それは、

 神経が複雑に絡み合い、一端が千切れている、無表情な眼球だった。

 流石に眼球ともなると、それまでの肉や骨などの『壁』で熱は所持していなかった。
 だがしかし、そのせいでどこかヌルヌルした感触を、鏡子の肌に伝えてくる。
 そのまま彼女がそれを握れば、あっさりと潰れてしまいそうな感覚。
 それは同時に、鏡子に人間一人の命の軽さを訴えているようなものだった。
 そして彼女は、

「………フン」

 特に考えるでもなく、それを横に投げ捨てた。
 ボトリ、とそれが髪の毛を纏っている頭蓋骨の上に落ちる。
 それはすぐに頭蓋骨からの熱により、ミイラのように干からびた。
 それを見つめた鏡子は、血にまみれた顔面を振るって、ある程度血液を飛ばす。
 そして、

「……悪いわね。もう私の心は、人の死、程度じゃどうにもならないのよ」

 だんだん血を噴出す勢いを弱めている精神操作に向かって、静かにそう告げた。
 彼女は少しの間『ソレ』を見つめ、クルリと踵を返す。
 その彼女の表情は、

(……でも、それを作った原因に対しては……まだ、感情を持てるようね)

 ただただ、憎悪に染まっていた。
 そんな彼女が向かうのは、どこにあるのかも分からない、今学園都市を脅かしている一人の男の下。

428とある都市の反乱因子(ハイレベルズ) Ⅳ章 七十七:2010/09/11(土) 23:18:15 ID:Gplpd4lw

※ グロテスクな表現が、多少あります。ご注意ください。

 その瞬間、一方通行(アクセラレータ)は反射的に目を閉じた。
 いくら彼が学園都市最強の能力者だからとはいえ、人間としての反射神経などはあるのだ。
 それに何より、彼は今戦闘は終わったものとみなし、節約のために電極のスイッチを切っていた。
 そして、

 ぴちゃぴちゃっ、と、彼の赤い瞳を覆う瞼に、紅い液体がかかった。

 それは彼に反射されることなく、ランダムな線を描いて彼の口元へとたれていく。
「…………」
 一方通行は、ゆっくりと手の甲でそれを拭う。
 そして、赤い瞳を少しずつ開いていく。
 その目に映ったのは、

 まるで何かに圧迫されたかのように潰れている、一人の能力者。

 聴覚潜り(ノイズキラー)の身体は、様々な方位から分厚い壁を思いっきり叩きつけたかのように、凄まじいものへと変貌していた。
 頭は首から千切れていて、すでに右側は存在していなかった。その頭蓋骨の切れ端から、何かニョロニョロした、ゴムのようなものが飛び出ているのが確認できる。眼球の方は、まるで圧迫から逃げたかのようにそこら辺に転がっていた。
 右腕は、もはや厚み数センチまでに圧迫されていた。もちろんその中にある血管は押し潰されていて、噴水を連想させる曲線を描きながら、彼の右腕から赤い血液が逃げ出している。
 左腕の方は、横方向には潰れていなかった。縦方向に、拳と肩をくっつけるレベルに圧迫されている。それはまるで、何かの障害を持って生まれ、肩から左拳が生えているかのようにも見えた。
 胴体の方は、全方位から押し潰されていた。それは綺麗すぎる圧迫ゆえか、まるで血液も内蔵も飛び出していない。服すらも千切れておらず、伸縮単位を極端に縮めた人間のように思える。
 対し足のほうは、真上からの圧迫を受けたのか上半身から離れていた。彼の腰に当たる部分からは、チョロチョロと血液が流れている。勢いが弱いのは、一瞬にして心臓も潰され、その働きを行っていないためであろう。
 そして肝心の足といえば、もはや二本ではなく一本へと結合していた。
 同時に左右からの圧迫を受けたのか、上半身から千切られた右足と左足は、内側を削り取るように結合していたのだ。それは不恰好なカカシのように。
 だがしかし、なぜか足首から下は無事なようで、互いに反対方向へと倒れていて直線を描いている。普通の人間なら何秒も続けられない体勢であろうが、おそらく骨が粉砕されているのだろう。
 そんな、聴覚潜りが受けたエネルギーの割には綺麗すぎる死体を見つめた一方通行は、

「……死体になンか、興味持つかよ」

 特に考えるでもなく、素の表情でそう言った。
 そしてつまらなさそうに舌打ちし、無傷のズボンのポケットから携帯を取り出す。
 登録アドレスを開き、土御門元春への番号を選択し、数回のコール音がなる。
 土御門にしては遅い対応で、二人の通話は繋がった。
『……どうした、一方通行』
 意気消沈したかのような、土御門の声。
 だがしかし、彼はそれを全く気に留めない。
 別に、どうでもいいと思っているわけではない。ただ、人の事情に自分が首を突っ込む意味を見出せないためであろう。
「死人が出た。それと、念動砲弾(アタッククラッシュ)の方も意識はねェから、お前が運べ」
 彼の能力を使えば、そんな重量などどうにでもできるだろう。
 だがしかし、一方通行はどうしても能力を使う気にはなれなかった。
 何故ならば、

(……いい加減に、面倒になってきた。悪ィが聖督さンとやらは、全力で殺らせてもらうぜ)

 これから起こるであろう激しい戦いに、一分一秒でも能力使用時間を延ばしたかったから。

429神浄の討魔=美琴信者:2010/09/11(土) 23:29:21 ID:Gplpd4lw
というわけで、以上で終了です。何でこんなに長くなったのかは不明で^^;
とりま一番重要なのは、あの魔術サイドトップ3の会話ですかね。思いっきり重要すぎる伏線です(笑)
そして、この話がいつ終わるのかは全く想定していません。もしかしたら、来年の夏あたりかも……(爆
さて、次回は超能力者戦が終了します。それにともない、第5章へと突入。
5章の方は……とうとう『神』本格参戦ですねw 絶対能力者たちは、かなり乙ります(苦笑)
そういうわけで、なにとぞこのバカ長くて無駄に複雑なハイレベルズを、よろしくお願いします〜!
では。

430■■■■:2010/09/15(水) 16:38:10 ID:69QuCEcE
『禁竜召式(パラディンノート)』の者です。
続きを投下させて頂きます。

空いてた割にはたったの4レス。
では。

431■■■■:2010/09/15(水) 16:39:09 ID:69QuCEcE

十月十五日午後十一時。

「で、結局、外に飛び出た野郎も回収したけど、何も吐く気配が無いと。……もうちょい過激な尋問が必要ですかね」
「いや、あの、シスター・アニェーゼ落ち着いて……」
女子寮の一角、厳密に言えば半壊した食堂の一角にて、手足を縛られた三人の男と、それを囲む数人の少女の姿が有った。その少女達の内、比較的中央に居座っている赤毛の少女、アニェーゼ=サンクティスは拗ねたように鼻を鳴らし、そっぽを向く。

「普通に聞いても口を動かす気配すら無いなら、無理矢理にでも聞き出すしか無いでしょう。さて、どれを使いますか? 縄か首輪か鞭か蝋燭か木馬か……」
「ちょ、シスター・アニェーゼ!! それは違いますから!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐイラーリアを鬱陶しそうに一瞥した後、アニェーゼは隣にちょこんと座っている絹旗を見て、強ち興味無さそうに聞いた。
「キヌハタはどうすればコイツ等が情報吐くと思います? ぼこぼこやっても何も吐きそうに無いんですけど」
「超残念ですけど、この手の戦闘員は、大抵どんな超拷問に遭っても何一つ吐こうとしないと思います。ていうか、むしろ『あまり情報を持っていない』可能性の方が超高いでしょうね。コイツ等の事はよく解りませんが多分『そのような要員で送られた』はずですから」
数分前に絹旗達を襲った男達は我口無と言わんばかりに、頑として言葉を発そうとはしない。というか、三人の内二人は絹旗の容赦無い打撃によって失神状態である。残った一人は拷問に強いと言うよりは、状況に怯えて何一つ言葉を口に出来ないと言った所だ。
そんな結構可愛そうな男達を見て、イラーリアは溜息を吐いた。
「どうせ『仕事』まで三〇分ぐらいしか無いんだし、見張り付けてこのまま放って置いてもいいんじゃないの? 適当に束縛術でも掛けてさ。例の魔術限定絶対防御は解かれてるみたいだし」
「しかし、私はこの男達に聞きたい事が山程……」
なんとなく携帯電話を弄りながら、言いかけたアニェーゼの言葉が突然止まった。

「……なんですかこれ」
そう言う彼女の持つ携帯電話の画面には不思議な羅列が並んでいる。

432■■■■:2010/09/15(水) 16:40:06 ID:69QuCEcE

『不在着信78件』
(相手は全員……オルソラ?)
番号から見て間違いは無いと思う。アニェーゼは得体の知れない嫌な予感がして、慌ててオルソラへと連絡を取る。コールが三回四回と鳴った所で、相手は通話に出た。

「……オルソラですよね? この馬鹿みたいな不在着信数」
『はぁ…..やっと、繋がったのでございます。何回掛けても録音した声しか聞こえなかった者ですから、心配致しました』
「で、何の用です? 出ないのを確認した後までも掛け続けたんですから、重要な情報と取っていいんですよね?」
オルソラは一度息を整えてから、
『はい。『残念ながら』そのような報告にございます』
ゆっくりとそう言った。アニェーゼが顔を顰める。
「……言ってみてください」
『……わたくしは先程までアークライト家の家系図を詮索していたのですが、その「過程」でとんでもない名前を見つけてしまったのでございます。偉人などを軽く超越したレベルでの名前を』
「名前……ですか」
『はい。アークライト家の八〇〇年前の「功績」を残した張本人であり、『歴代の人類の中でも桁違いな力を持っていた人物』でございます。『王家と世界』を守った偉大な騎士の名は、ゲオルギウス』
「ゲオル……ギウス?」
ええ、と一回頷いたオルソラは震える声で慎重に言葉を繋いでいく。
『ゲオルギウス=アークライト。当時の欧州の「人間」の中で最も強大な力を奮っていた『聖人』です。そして、……またの名を『聖ジョージ』』
「っ!? ………まさか」
『そのまさかです。古書記にもしっかりと記載されていますし、その「功績」ついても申し分なく残されています』
この時点でアニェーゼは、『ゲオルギウスという人物が何をしたのか』も予想は大方ついてしまっていた。
「……っと、言うことは、アークライト家が八〇〇年前に残した「功績」っていうのは……」
『……悪竜退治、ということになります。もちろん信憑性の面では『絶対』と言う訳では無いですが』

冗談じゃない、アニェーゼは奥歯を噛み締めた。そんな馬鹿な話を聞かされた後では『禁竜召式が何を表すか』も、予想の延長線上で理解してしまう。
(……たしかにこんな術式が存在すれば『対十字教黒魔術』も勢力拡大も頷けますね)
『対十字教黒魔術討伐』の任務が始まった当初から『奴等にはとてつもない隠し玉』がある、という事自体は見当がついていた。勢力が拡大したと言う事は人々が集まると言う事。人々が集まると言う事は『人々を引き連れられるだけの何か』があると言う事。
『その一部』がつまり『禁竜召式(パラディンノート)』なのである。
(こんな馬鹿みたいな物に釣られるなんて……アイツ等はとことん性根が腐ってますね)
「オルソラ、ありがとうございます。こっちも、もうそろそろ仕事が始まるので一旦切りますね」
『はい。……解っていると思いますが、絶対に帰ってください。こんな所で貴女に死なれては『あの少年』に会わせる顔がありませんから』
それを聞いてアニェーゼは一瞬思考が止まった。そして、もう一度お礼を言ってから、彼女は携帯電話の電源を唐突に落とした。

433■■■■:2010/09/15(水) 16:41:02 ID:69QuCEcE

十月十五日午後十一時半ば頃……

「全員揃いましたね?」
女子寮に隣接する形で造られたイギリス清教徒専用の教会。その内には二〇〇人以上の修道女がすし詰め状態で整列していた。その全てのシスターの手には車輪、杖、槍、トンファー、レイピアなど様々な『武器』が握られている。
そんな物騒な少女達を統括する赤毛の少女が、教会の『教卓』前から大声で指令を下した。
「これから『非公式任務』を実行と共に『対十字教黒魔術』の討伐作戦を開始します。基本的には数グループに分かれて行動。『人手』が必要な場合は通信霊装での打ち合わせを私を通してのみ許可する事にします」


今回の『仕事』についてはイギリス清教側には『シスター部隊における基本的な役割』として話を通してある。恐らくあの最大主教なら事の真理ぐらいは理解していると思うが、何も言われないという事は『上』も黙認済なのだろう。

「敵の情報源については『把握報網(MasterNet)』の使用許可がイギリス清教側から降りましたから、それに従っての行動を基準とします」
『把握報網』という単語を聞いて首を傾げる修道女が何人か見えた。その内の一人、アンジェレネは隣に佇む背の高いシスター、ルチアの服を引っ張って小さく聞いた。
「(……シスター・ルチア。『把握報網(MasterNet)』って何でしたっけ? こっち(英国)に来てから結構聞くんですけど)」
「(……確か英国に転勤になった際にシスター・アニェーゼから直々に説明を受けた筈ですけど……『把握報網』と言うのは『イギリス全体に設置された魔術的な監視カメラ』の事ですよ。通常は作動していませんが、最大主教の許可があった時のみ使用を許される一種の通信霊装です)」

英国の彼方此方には『ロンドン市内の監視カメラを軽く上回る数』の監視霊装が散りばめられている。元々は魔術の使用痕跡を調べる魔術探知機のような物だが、通常のカメラと同じく映像として英国全体の様子を観察する事が可能な代物である。
「(その数は何十万とも何千万とも言われていて、正確な数字はイギリス清教側でも把握できていないそうです。要するに英国には霊装カメラが沢山ある、と覚えておけば作戦参加に支障は無いと思いますよ、シスター・アンジェレネ)」
本来は『必要悪の教会』でも迂闊に使用できない巨大霊装を『他所から来た単なる修道女部隊』に使用を許可すると言う事は、イギリス清教も『禁竜召式』については一定以上の危機感を抱いているのだろう。近頃、勢力を飛躍的に拡大させている『対十字教黒魔術』の切り札的霊装ともなれば尚更。


「隊分けについては、通常通り『迎撃』『術発』『遠爆』『通信』『雑補』の五グループに分担します。私を含む『迎撃』が八人。大規模霊装の発動を担当する『術発』が七五人。遠距離からの迎撃支援側『遠爆』が八七人。『把握報網(MasterNet)』の解析とその報告を行う『通信』が三五人。あとは全員、寮に残り『予備』として待機する『雑補』。……まあ、大体はいつもの配置に着いてくれれば、問題はありません」
相変わらず馬鹿みたいな数設定だが、これがアニェーゼ率いるシスター部隊の強み、『数』である。一人が倒されれば、もう一人が向かっていって、それも倒されれば二人で向かう。そんな『足掻き』を百回以上繰り返せる彼女達には明確な『天敵』は居ないのかもしれない。

「『迎撃』の人員についてだけは私が決定します。まずは私。そしてルチア、アンジェレネ、カテリナ、アガター、ソフィア……あと、キヌハタとイラーリアです。以上で『説明』を終了。開始は翌日の午前0時。つまり三〇分後です。ですが『通信』だけは今の内に定位置に着いてください。では、解散します」
約四分間の独演説(説明)を終えたアニェーゼはズカズカと『教卓』前から自身を外し、二〇〇人程の修道女達は肩の力を抜いて、それぞれ束の間の休息へと戻っていった。

434■■■■:2010/09/15(水) 16:41:39 ID:69QuCEcE

「シスター・アニェーゼ!!」
「? なんです、イラーリア。鼻息荒くして」
なんか高そうなソファーの上でのんびり休息を取っているアニェーゼの元に、イラーリアが怒っているのか疲れているのかイマイチ判断のつかない顔で怒号をぶつけた。
「なんで私が『迎撃』に入っているんですか!? 私の霊装はボウガンなんですから近距離専門の『迎撃』には向いていませんよ!!」
「別にボウガンだって近距離で当てようとすれば当たるでしょう。と言うかそっちの方が威力は高いと思いますよ」
極めてのんびりした声で返されたイラーリアはここで引き下がる訳にはいかないと言わんばかりに言葉を紡ぐ。
「キヌハタは『唯一相手にダメージを与えられる存在』かもしれませんから納得はできます。でも私は、ダメージを与える所か攻撃を当てる事だって出来るか解りませんよ!? 近接戦闘は得意とかそれ以前に経験が有りませんし、ボウガン片手に相手に突っ込むなんて馬鹿みたいじゃないですか!!」
イラーリアの必死の弁解(?)。アニェーゼは興味有りません顔で小さく息を吐いた。それから『蓮の杖』を弄りながら軽い口調でこう返した。

「別に経験が無いなら経験して置くのも大切でしょう……というのは建前でしてね。実際は『罰則』の一種で貴方を『迎撃』に引き入れました。この二日間、私とキヌハタの後ろで「友達」とか「キヌハタ、アニェーゼ友好条約」とか鬱陶しくて意味不明なキーワードを呟いていたのは主に貴方(イラーリア)だったでしょう?」
ギクッという効果音が聞こえた気がした。つまりこの所、陰で展開されていた「キヌハタとアニェーゼを友達にしちゃおう作戦」の首謀者はイラーリアだった訳である。そのせいで先程はルチアに酷い目に合わされたが。
アニェーゼは冷や汗だらだらなイラーリアを見て、にっこりと凶悪的に笑って駄目押しの一言をぶつけた。
「別に貴方は元々遠距離専門ですし、ちょっと後ろに下がって援護射撃してくれれば文句は有りませんし、特に期待もしていません。ですが………足手纏いになるような無様な醜態は晒さないように気をつけてくださいよ(笑顔)」
理不尽だぁぁぁぁ!! という金髪少女の叫び声は、周囲三〇m範囲に居る修道女達を飛び上がらせる程の物だったと言う。

435■■■■:2010/09/15(水) 16:43:14 ID:69QuCEcE
投下終了です。

次はもうちょい長く書こうか......

436■■■■:2010/09/16(木) 17:01:51 ID:9Ii103U.
>>435
GJです。
アークライト家の功績はやはり「悪竜退治」ですか。盛り上がってきました。
シスター・イラーリア(とソフィア)ってオリキャラですよね。どんな活躍を見せてくれるのか楽しみです。


個人的には、多少間が空いてでももっとガッツリ読みたいですね。
一回の投下分の理想のレスってどれくらいなんでしょうかね。それこそ人によりますか…。

437■■■■:2010/09/16(木) 21:36:32 ID:KFTsOKhs
どーも、三日間作者です。
6、7レスほど投下させていただきます。

438三日間〜Three Days〜 3rd.21:2010/09/16(木) 21:37:27 ID:KFTsOKhs

 さっきまで晴れていた青空を灰色の雲が覆いつくし、太陽の光は姿を消した。
 薄暗くなった世界によって学校の屋上も例外なくその色に染められる。

 上条当麻は何か現実感のないもののように目の前の光景を見ていた。
 そこにはサイモンと呼ばれていた眼鏡で黒いスーツの男と腹部から剣を生やしてピクリとも動かずに倒れている篠原がいる。

「くくく……はーっはははははははははははははははは!!」

 サイモンが笑っている、その風貌に似合わぬほど狂ったように。それに反応するかのように、上条に体中の感覚がようやく戻ってくる。
「……てめぇぇええええええええええええええええええええっ!!」
 少年は一歩を踏み出すと、それを皮切りに叫びながら笑う男に駆け出した。痛覚がなくなるぐらいに固く握り締めた右手をそこで笑う男に叩きつけるために。
 だがそれが届くことはなかった。
 サイモンの腕から放たれた篠原のものよりも一際大きい白い電流がその進路を阻んだからである。
「私は今長年かけた儀式を完成したことで感慨にひたっている。それに水を差すのは無粋だと思わないかね、『幻想殺し』」
 電流は屋上のコンクリートの床へと突き刺さりそこをえぐった。それにより飛んできた校舎の破片により、上条は思わず数歩後ろへ下がる。
「そう、長かったよ、理論から考えるともう私の半生はかけてきている。まあその仕上げをまさかこの学園都市ですることになるとは思わなかったが、時期や素材の入手など必要事項が多かった故それもしかたがない。もっとも、ここなら儀式について感づいた魔術師どもが押し寄せることもない故都合がいいといえばいいのだが――」
「えらく饒舌じゃないか」
 そこに別の声が割って入った。その主は今まで動こうとしなかったステイルのものである。
 長身で赤い髪の神父はこちらへ歩いてきながら新しい煙草に火をつけた。

「渡された資料には寡黙な男と書いてあったんだけどね。『霊装職人』の魔術師、ウォーレス=マクレガー」

 その言葉にサイモンは今まで満足そうだった表情を一変させ、その目をステイルを睨むように細くする。だが赤髪神父はそんなことは気にも留めない。
「知ってるのか?」
「ああ、元はイギリス清教『必要悪の教会』に所属していた魔術師さ。もっとも、十年ほど前に突然失踪しているがね」
「貴様、やはり魔術師か。その名はとうの昔に捨てたもの故、今はサイモンと呼んでほしいのだがな」
「『サイモン』か。第一使徒ペテロの別称を名乗って一体何を企んでいるんだい、ウォーレス?」
 相手をからかうようにわざとらしいステイルの言葉にサイモンはよりいっそう目を細めた。そして懐から球状の何かを取り出す。
「……ふん、完全な儀式の完成までに危険因子を片付ける必要もあるか」
「やる気かい? まあこっちは君の回収が目的で学園都市にまで来たんだから、その方が話が早くていいんだけどね!」
 そう言ったステイルは、いつの間にか手の中に数枚のルーンを刻まれたカードを持っている。口から吹くように飛ばされた点けたばかりの煙草は一瞬で燃え上がり、地面には塵一つすら落ちない。
「魔術師同士の戦闘だ。名乗っておこうか、『Fortis931(我が名が最強であることをここに証明する)』!!」
 その手の中にあったカードは瞬時に炎の塊となり、ステイルは名乗ると同時にその炎をたたきつけるように黒いスーツの男に投げつけた。
 一方、炎の進む軌道上の先にいるサイモンは一瞬目を見開いた後口元を軽くゆがめる。
「くく…偶然とは面白いものだ」
 そう言って手を前へと突き出すと、その腕を三つの光る輪のようなものが囲んだ。
「いいだろう、後悔しても知らんぞ青二才が! 『Fortis476(全てを飲み込む強さを欲す)』!!」
 こちらも名乗ると同時に、これまでで一番大規模な白っぽい電流が炎に向かい放たれる。
 二つの強烈な力は二人の間で衝突し、ドガァァッ!! という音と共に周囲に衝撃を振りまいた。
 今、同じ魔法名をもつ二人の魔術師が激突する。

439三日間〜Three Days〜 3rd.21:2010/09/16(木) 21:38:51 ID:KFTsOKhs

「そういえばさっきから爆発音が聞こえなくなってる?」
「みたいだね、魔力の流れも急になくなってきてる。もしかしたらもう目的を果たしちゃってるのかも」
 すっかり人気のなくなった街中をそれぞれ白い修道服と黒いスーツを着た二人の少女が駆けていた。もっとも、二人ともその格好はぼろぼろで白は汚れで黒に、黒は破れて下地の白が見えているような状態である。それでもその足取りは力強く、強い意志が感じられる。
 ただ、インデックスの言葉でリアの方はいくらか表情に陰りが見えてしまう。
「でっ、でももしかしたらとうまが他の人たちも倒してくれちゃったのかもっ! それに魔力の流れ自体は感じるし、まだ時間はあるんだよっ!」
 それに気付いたシスターは(珍しくも)慌ててそのフォローをする。まあ、幼馴染が死ぬといっている儀式において、目的が果たされるというのは配慮の足りない受け答えであったが。
 横で慌てたままのシスターを見て、リアはクスッと苦笑した。
「大丈夫、悲観的になっても仕方ないしね。今はまず早くあいつのところに行かなきゃ」
 そう言ってリアは視線を前へと向ける。
 そうだ、うだうだ考えている暇はない。あの人やこの少女に頼りきっているわけにもいかない、ならば今は走るしかない。
「お前ごときが行ってどうする?」
 突然、どこから聞こえたかわからない声がその空間に響いた。
「!!」
 表情を一変させたインデックスが、横の少女に向かってほぼタックルを食らわせるような形で飛び込んでくる。
 そして二人の少女がアスファルトに転げた瞬間、ドガァンッ!! という音を立ててさっきまで彼女達が居た場所の前方が爆発した。
「きゃあっ!」
 致命傷は負わないまでも、その爆風でもつれ合ったまま少女二人がごろごろと転がる。固いアスファルトに引っかかれ、お互いに服と体に傷がついていく。
 爆煙の向こうでは、似たような大きさの影が三人分ゆらゆらと揺れていた。そしてすぐに爆煙は強烈な風によって吹き飛ばされ、三つの影がその姿を現す。
 それは、リアと同じ格好をした三人の男だった。
「サイモン様に言われなかったか? お前はもう用済みだ、これ以上深入りするなら容赦しない。」
 その中心の貫禄のある男がリアの方を見ながら前へ出る。たしか、サイモンを除いた黒スーツ達の中でリーダー格の、クリントという男だ。
 目は相手から背けずにリアはゆらゆらと立ち上がる。後ろではインデックスが同様に立ち上がる気配がした。
「ここまで来て……そう簡単に引き下がると思う?」
「ならば蹴散らすまでだ。そこの禁書目録もろともな」
 その言葉にリアは思わず振り返った。そこには砕けたアスファルトの欠片を握った少女が、いつでも走れるような体勢をとりながら相手を見据えている。
「別働隊には上手く対処できたようだが、私はやつらとは違う。例えば――」
 そう言ってクリントは地面を蹴り、こちらへと突進してくる。そのままリアの横を通り過ぎるとその後ろで驚いた顔をするシスターに向かって、ドッと鈍い音を立てて高価そうな靴のつま先を打ち込んだ。
 幸い斜め後ろへ飛ぶように移動したシスターは直撃を免れたが、それでも予定した着地地点から大幅に後ろへ転がるように吹っ飛ばされる。
「お前が相手の魔術を利用したことは知っている。どうやら知識はあっても魔術を使うことはできないようだな。ならば肉弾戦のみで攻めれば所詮お前らは非力な女子供に過ぎん。」
 貴様らに勝ち目はない、とその男は自分で吹っ飛ばしたシスターの方へと歩いていく。
 だめだ、いくら魔術の専門家でも大の男に腕力でかかられてはあの小さな少女ではひとたまりもない。
 反射的にリアはインデックスの方へ駆け出す。しかしそれは三歩ほどで後ろからの衝撃によって中断させられた。前転のように転がった後、振り返ると残る二人の男のうちの一人がこちらに上等な靴の底を見せている。
 三対二。
 それも屈強な男三人に対してこちらは非力な女が二人。
 まずい、とリアは思う。
 せめて逃げることができればいいが、それすらもこの状況では難しい。
 そう考えている間も男達はインデックスとリアに近づいていく。
 二人とも転がされてまだ立ち上がることすらできていない、このままでは一方的にやられるだけだ。
 かといって策も思いつかない。
 そして男達は二人の正面にまで近づいてくる。
 思い切り踏みつけようとして上げられた足を見て、リアは思わず目をつぶった。

440三日間〜Three Days〜 3rd.23:2010/09/16(木) 21:39:44 ID:KFTsOKhs

「ああ? ンだよ、仲間割れかァ?」

 そこに突然別の声が割って入る。そして次の瞬間ドガァッ!! という物凄い音とともに辺りが砂塵で右も左もわからない状態になった。
「!?」
 余りに突然の出来事にリアは呆気に取られていた。回りの気配も動く様子はなかったので、どうやら男達も同様らしい。
 そしてリアはハッと気付いたように砂塵の中をインデックスの居た方向へ走り出す。そのまま手探りで倒れた少女の小さな手を掴んで必死に足を動かした。
 何が起きたかはわからないが今のうちにここから離れるべきだ。上手くいけば逃げられるかもしれない。そう考えて少女はシスターの手を握ったまま駆け出した。多分この道はもと来た道になるが、それは仕方がない。


「な、待て!」
 インデックスの前に立っていたクリントは、突然のことに気をとられているうちに走り去った少女を捕まえようと手を伸ばした。しかし、それは横から物凄い勢いで飛んできた何かによって引っ込めさせられる。
「おいおい頼むぜ。こっちはオマエら探してそこら中杖つきながら歩き回ってンだ。やっと見つけたのに逃げようとしてんじゃねェって」
 言葉の主を確認するため、クリントは腕に巻かれたリングに力を入れて突風を作り出す。それによって晴れた砂塵の向こう側には白い髪の少年が現れた。
 首にチョーカーを巻いており、その手には機能性のよさそうな杖をついている。そしてなにより特徴的な赤い目がこちらをあざけるようにに見据えていた。
「……ふん、小賢しいことを。女を助けて善人きどりか?」
 その言葉を聞いた瞬間、少年の口元が引き裂くような笑みを作る。
 それは、向けられた相手に問答無用で背筋をゾクッとさせるような、そんな笑み。
 思わず黒スーツ達は警戒しながら、リングを巻かれた手をいつでも振りかざせるように構えた。
「ンな訳ねーだろ?」
 その少年、一方通行は嘲笑うその顔を崩さぬまま首もとのチョーカーに指で触れる。
「俺は悪党だ」

441三日間〜Three Days〜 3rd.24:2010/09/16(木) 21:40:40 ID:KFTsOKhs

 何だあれは何だあれは何だあれは。
 クリントは脇目も振らずに走り続けた。
 自分は仲間内では篠原やサイモンを除くと間違いなく最強だ。条件さえそろえば仲間内で奇怪な喋り方ではあるが、驚異的な攻撃力を誇るあの三人組とさえ渡り合える自信がある。
 だが、あの白い少年には一切の攻撃が通用しなかった。

 あの時、少年の姿を見失ったかと思えば一瞬で横に移動しており、そして同時に仲間の一人がはるか後方へと吹っ飛んでいた。
 ドゴォッ! とビルの一部が崩れる音を聞きながら、残る二人の黒スーツは驚きながらもその音の原因である凶悪な白い塊に向かってリングを巻いた手をかざす。少年を挟むようにおかれた手からはそれぞれ白っぽい電撃と竜巻のような真空波が撃ち出された。
 やったとクリントは思った。少年はすぐ動けるような体勢ではなかったし、逃げ道は自分の竜巻で塞いでおいた。反対からはもう一人が電撃を放っているし逃げ道などない。まず間違いなく仕留めたはずだ。
 だが、その思考は全て完了する前に少年の方向からの自分の竜巻によって中断させられる。
(なっ……!?)
 それはありえない現象だった。この力はサイモンによって与えられたこの霊装を使って、さらに自分が独学で編み出した力だ。似たようなものがあっても同じなどありえない。そしてその竜巻は直撃こそしなかったものの、それによる真空波が体中を無数の傷を与えていった。
 そしてすぐにまたドガァッ! という音を聞こえてくる。跳ね返ってきた自分の攻撃がやむと、そこには少年が何事もなかったかのようにこちらを向いていた。
「あァ、何だこりゃ? 『反射』が上手く働かねェ、オマエ一体何者だ?」
 その言葉にももはや反応できず、クリントは狂ったように前に出した腕から力を放出させた。
 電撃、雹弾、爆発、竜巻。
 爆発以外が全て放ったクリントの方へと跳ね返り、ただ傷だけを増やしていく。全ての攻撃は目の前に立つ白い少年に届かない。それを見て少年はその顔にあの口元を引き裂くような笑みを浮かべた。
「まァいい。ここでオマエが道路の汚ぇシミになることに変わりはねェんだからなァ!!」
 コロサレル。
 パニック状態になったクリントは狂ったように声を上げ、リングを巻いた腕を振り回しながら辺り構わず力を放出すた。それは本能的に跳ね返ってこなかった爆破の力に頼り、辺りは爆煙に包まれる。
 不透明な視界で敵は見えなくなるがそれでも少年が倒れるイメージがわかない。
 そして黒いスーツの男は少年の居た方の逆側へと駆け出した。

 道路の角を五回ほど曲がると後ろについてくるものは誰もいなかった。そこでようやくクリントは立ち止まり、全力疾走とパニック状態で荒くなった息を整える。
 どうやら撒けた様だ、爆煙が煙幕となったのがよかったのだろう。
 しかしこれからどうするか、少し前から他の隊と連絡がつかないのは恐らく全滅したのであろう。まさか学園都市がこんな戦力を有しているとは思わなかった。
(一旦サイモン様の所へと指示を仰ぎに行くべきか。だがこのような無様をさらして敗走など……)
 そんな風に幾分冷静になりながら考えるがそれは後ろからのドンッ! と何か重量のあるものが高いところから落ちたような音によって中断させられる。
 嫌な予感がした。
「逃げンなっつっただろ、つうか逃げ切れると思ってんじゃねェぞ。ビルの屋上から見渡せばオマエがいくら無様に逃げ回ろうがこっちは一瞬で把握できるンだっての」
 予想していたその声にクリントの全身に鳥肌が立つ。冷たい汗が一瞬で背中を濡らし、その顔からは血の気が引いた。
 昔から何でも人並み以上にこなしてきたクリントには今内に渦巻くこの感情は未知のものだ。だが彼はそれを本能的に悟る。
 これが絶望か。
 上手く動かない体を無理やり動かし振り返ろうとするが、その動作の途中で黒いスーツの男の体は吹っ飛び、そして彼の意識は途絶えた。
「つってもどっかに隠れられると面倒だしなァ、もう逃がす気はねェがな」

442三日間〜Three Days〜 3rd.25:2010/09/16(木) 21:41:23 ID:KFTsOKhs

「――これで全部かよ、くっだらねェ。俺は帰る、土御門には後はそっちで何とかしろって言っとけ」
 そう言って白髪の少年は手元の携帯を電源から切った。
 今、一方通行の目の前にはビルの瓦礫に埋まった黒いスーツの男がいる。さっきまで居た場所では似たようなのが二人転がっているはずだ。
 つまんねェ仕事だなオイと一方通行は思う。ベクトル演算が上手くできなかった力については少し気にかかるが、それでもこの程度ならレベル4が二、三人もいれば対処できるだろう。
(この程度で学園都市を襲うなんざコイツら一体何考えてンだ? 大体目的が読めねェ。そこらじゅう爆発させてなんか意味でもあンのか?)

「ああー! ってミサカはミサカは叫んでみたり」

 そこに、さっきまでの空気とは場違いな能天気な声が響き渡る。
 聞き覚えがありすぎるその声に一方通行はあからさまに嫌な顔をし、自分の体でさっき蹴散らした黒スーツが後ろに立っているであろう少女に見えないようにしながら振り返った。
「オマエッ、ンなとこで何やってやがンだ?」
 そこには予想通りの小柄な少女が立っていた。見た感じ一〇歳ぐらいのこの少女、打ち止めはぴょこぴょことこちらに近づいてくる。
「ええと、最初はヨミカワについていってたんだけどたくさん人がいるところにミサカをおいてどこかに行っちゃったんで、退屈だったから少し遊びに出てきた、ってミサカはミサカは行動経緯を説明しつつあなたが後ろに隠した何かを見ようと首をあちこちに動かしてみたり」
「避難場所に誘導されてンだろうがッ! ったく、オマエちっとは落ち着いて生活できねェのかよ」
「ミサカはいつでも全力で生きてるだけなの、ってミサカはミサカは自己の行動理由を正当化してみたり。それよりあなたこそこんなところで何してるの? ってミサカはミサカは自分にされた質問を逆に返してみる」
「……何もしてねェよ。それより、オマエは避難場所に戻れ。連れてってやっから」
 オラ来いっと引っ張る一方通行とええーまだ遊ぶーと引っ張られる打ち止め。
 二つの影は学園都市の片隅に消えていった。

443三日間〜Three Days〜 3rd.26:2010/09/16(木) 21:43:22 ID:KFTsOKhs
 屋上に走った強烈な衝撃に沿って二人の魔術師が距離をとる。そして互いに手の中にあったものを散りばめた。
 一方はルーンの刻まれたカードを、それらは屋上のいたるところに一斉に張り付く。
 一方は球状の物体を、それらは投げた本人を囲むように均一に展開する。
 そこまでの動きはほぼ同時だが、そこから先に動き出したのはステイルだ。その手に瞬時に炎の剣を作り出し投げつける。
 その剣の先にいるサイモンは微動だにしない。そして炎剣による爆発に包まれる。
「……この程度の力で私に勝てるつもりでいるのか?」
 しかしその中から聞こえてきた声は怒号でも悲鳴でもない、淡々とした涼しげな声だ。
 そして晴れた爆煙の中からはすす一つついていないサイモンが現れる。その頭上の周囲には球体が円状に展開しながら浮いていた。
「『光の境界』という。この霊装の結界は外力との『境界』を作り出す、生半可な攻撃が通るとは思わないことだ」
 そう言ったサイモンの周囲に、その力を誇示するかのように霊装からカーテンのような光が数回瞬いた。
 だがサイモンは違和感に気付く。
(……幻想殺しはどこだっ!?)
 そう、サイモン自身にも目くらましとなった爆煙が晴れたときには既にその視界には姿がなかった。それに気付くと同時、横から勢いよく近づいてくる人影に思わず大きく距離をとる。
 ブウンッと何かを振り回す音の主を確認すると、案の定そこには右手を空ぶった上条がいた。
 だが追撃はそれで終わらない。
「灰は灰に―――
 (AshToAsh)
  ―――塵は塵に―――
   (DustToDust)
  ―――吸血殺しの紅十字!!」
  (SqueamishBloody Rood)
 詠唱を唱え終えた赤い髪の神父からは先ほどの炎剣に青白い炎剣が追加された二本を飛ばされ、サイモンにもろに直撃した。それでもダメージは期待できないものの、凄まじい音と共にさっきよりも一層大きな爆煙に包まれる。
 上条は占めたと思った。
 たとえサイモンを倒せなくても、まずは篠原を見るのが先決だと判断したからである。そのために、サイモンを潜り抜ける必要があったのだ。
 殴りかかったその勢いのまま上条は倒れている篠原に向かって走る。
 だが、
「そう簡単に行かせると思うか?」
 という声と共に白い色の雷撃が飛んできた。それは上条自身ではなくその進路に着地し、やはりその行動を阻む。
 どうやら雷撃は一部とはいえその威力のみで爆煙を吹き飛ばしたらしい、中から再びサイモンが姿を現す。
「圭様はこの儀式における要である故、やすやすと貴様に触らせるようなことはしない。それに、貴様にとってもそれは望む結果ではないかもしれんぞ、幻想殺し?」
「? どういうことだっ!」
「率直に言おう。圭様は死なれたわけではない、言うなれば仮死状態だ」
「!!」
「ただ、貴様がその『幻想殺し』を使うならば儀式のバランスが崩れ、それにより恐らく圭様は即死する」
 もはや上条は唖然とするしかなかった。篠原が死んではいないのは良かったが、結局こちらにできることは何もないと言う事なのだから。
「おかしいな」
 そこにステイルの言葉が割って入る。
「『即死する』だと? 彼は聖人なんだろう、それが即死するなんていくら弱点である刺突でもありえないな。下手をすれば助かる可能性もある、いやその方が高い」
 そうなのか、と上条は思う。だがもしそれが本当なら希望が持てる。
「……あいつが聖人だってこと、気付いてたんだな」
「あれだけの動きで気付かない方がおかしいと思うが。もっとも、こんなところに聖人がいることは少々信じ難いけどね」
「たしかに――」
 そのとき、唐突にサイモンが喋り始めた。その表情は矛盾を指摘された割には余裕のあるものだ。
「単なる剣の刺突程度ならそうはならないだろう。だがしかし、あの剣は特殊な霊装なのでな。『刺突杭剣(スタブソード)』、といえばわかるか?」

444三日間〜Three Days〜 3rd.27:2010/09/16(木) 21:43:51 ID:KFTsOKhs
 それには聞き覚えがあった。
 かつて、学園都市にオリアナという魔術師が攻めてきたときに所持していた霊装だ。ただし、それは結局『使徒十字』という霊装の偽装として出てきた名前であり、実在しないと言っていたはずだ。
 その矛盾点を隣のステイルが髪を書き上げて失笑しながらつく。
「悪いな、その霊装が実在しないことを僕達は知っている。つくならもう少しマシな嘘をつくんだったな」
「ほう、それを知っていたか。だがあれは私が独自に創ったもの故、効果は本物だ」
 その言葉に、ステイルは顔に浮かべた失笑をピタッと止める。
「もっとも、完全に同じ効果には出来なかったがな。せいぜい二、三〇〇メートル以内の聖人の動きを制限するぐらいにしかならなかった。まあ、それはともかく――」
 そう言いながらサイモンは上条の方に向き直る。
「直接聖人が攻撃を受けたのならばひとたまりもない。ようは貴様が手を出せば圭様は助からないということだ。それでも貴様に儀式の邪魔ができるか、幻想殺し?」

「そもそも、その儀式自体が失敗しているっていうことは考えないのか?」

 だが上条を嘲るような問いかけに返したその声は、上条でもステイルでももちろんサイモンのものでもなかった。
 声の主は屋上の出入り口から現れる。その金髪にサングラスのその男を、上条はよく知っていた。
「土御門っ!?」
「おーうカミやん、なにそんなとこでボロボロになってんだにゃー」
 その多重スパイはさっきとは別の普段の軽い調子で、ただしその顔はサイモンに向けたままで上条に話しかける。当のサイモンはその新たな侵入者をじっと見ていた。
「儀式が失敗している、だと……?」
「ああ、まずお前の仲間は俺達が全員片付けた。ようするにお前たちが刻もうとしていた魔法陣は失敗に終わったってワケだ。次に――」
 そう言いながら土御門は上条の方に体を軽く向けなおす。
「万が一魔法陣が完成していたとしてもこの規模だからな、その中心にイレギュラーが入り込めばそれだけで魔法陣は崩壊する。そのイレギュラーが『幻想殺し』なんていう規格外のものならなおさらな。つまり、だ、お前が何を企んでいたのかはしらないが、『儀式』なんてものは既にぶっ壊れちまってるって訳だ。未だ発動されていない魔法陣がその証拠だ!」
 再び土御門はサイモンの方へと顔を向けた。儀式を画策した当の本人はと言うと、顔を伏せてその表情が読み取れない。
 言われてみれば、たしかに土御門の言うとおりだ。篠原が刺されてからかなり経つにもかかわらず、サイモンの言う『儀式』が発動する気配が一向にない。
 だが、そうなると篠原は一体どうなるのか。
(まさか、既に死……!?)
 最悪の場合を考えた上条の背筋にゾクッと悪寒が走った。
 それを確かめるべく篠原の方へ一歩踏み出した上条を止めたのは、黒スーツから聞こえてくるかすれたような声だった。
「……馬鹿が」
「何だと?」
 それに反応したのは土御門だ。
 そしてもう一度声を返す代わりにいくつもの雷撃が上条達に襲い掛かる。
 バヂバチバチィィィッと寒気のするような音がかろうじて三人を逸れて後方へ走っていった。
「儀式が失敗だと? 知った風な口を聞く前に魔法陣のほかの可能性についてよく考えることだな、若造が!! そもそも、この儀式は三日後に初めて発動するものだ!」
 喋りながらもサイモンはその攻撃の手を緩めない。屋上に何本もの白い線が走っては消えていく。
「貴様らが始末した他の者達の爆破など所詮ただの陽動、目くらましに過ぎん。本当の魔法陣は圭様の体に無数に刻んであるのだからな!」
 そして雷撃がやむ。
 気付けば上条たち三人は攻撃を避けながら、いつのまにかサイモンと篠原から離された状態になっていることに気付いた。
「何をしようとしているかと言っていたな、教えてやろう」
 さっきまでの攻撃が嘘のように淡々とした様子でサイモンが呟くように言う。

「『神の子』の復活だ」

445■■■■:2010/09/16(木) 21:49:36 ID:KFTsOKhs
以上です。
…またミスったぁぁぁ!
今回の二つ目の21は22ですごめんなさい。
とゆうわけで、今回は言うなれば伏線回収前編です。
次はこれ以上の伏線回収になると思います。
うーん、だんだん雑くなってきているような、やっぱバトルの表現は難しい…。
感想や罵倒や頂ければうれしいです!
では失礼します。

446■■■■:2010/09/16(木) 22:10:23 ID:LMGdf/S6
>>435
待ってましたGJです!!
たった4レスしか無いのは残念ですが。
イラーリアって割と画写してますけど、後半ではどのような役割を果たすのか楽しみです。
武器はボウガン・・・珍しい。『迎撃』に引き入れたのはアニェーゼなりのちゃんとした考えがあるんでしょうか?

前から思っていたのですが、『禁竜召式』はオリ設定が他に比べて多いですね。
『把握報網(Masternet)』とか。自分的には無問題ですが。

447■■■■:2010/09/23(木) 14:53:52 ID:P/NRQNIg
過疎りすぎだろ、このスレ。
なんだよ最終レスが一週間前って。

448■■■■:2010/09/23(木) 19:13:59 ID:1J52hpcc
そう思うならSSについて何か感想付ければいいじゃん。
と、一週間も感想を放置していた自分が言うのもどうかって話だけど。

>>445
随分遅くなりましたがGJです。
ちょっと投下ラッシュが続いてここまで追いつくのに時間がかかりましたが、内容はGJの一言。
3rdからはSSまとめで一気読みしましたが、人気キャラ総動員の群像劇で、息詰まる展開が続く良作だと思うんですが、
何故今まで感想が付いていなかったんでしょうかね?オリ設定嫌いな人が多いのかな。
『神の子』は処刑の三日後に復活する…それがサイモンの狙いですか。篠原は『神の子』になって、その奇跡で母親を目覚めさせたかった、
そこをサイモンに付け込まれた、といった感じでしょうか。その身に纏う『罪』は、聖人をより『神の子』に近づけるべく付与されたもの?
次で伏線が回収されるのを期待してます。お忙しいとは思いますが、投下頑張って下さい。

449■■■■:2010/09/26(日) 03:34:05 ID:YU22IYNk
2週間ほど禁書板をご無沙汰していたので遅ればせながらまとめてレスします。

>>383
GJ
姫神秋沙の第2期でのヒロインぶりを期待している自分としては
言葉数は少ないのに姫神秋沙の良さを押さえたssが読めて良かったです。

397みたいなコメントは今年になってからほとんど見かけなかったんですけどね。
こういう中傷コメントが出没するのも最近ここが賑わってきた証拠なのでしょうかね?
(ただ、ここ2週間ほどはまた過疎ってしまっていますが・・・)まあとにかく、
こんなコメントはあまり気にしないことです。これからも良い作品をお願いします。

>>393>>445
GJ
とうとう、儀式が完了してしまいましたね。
サイモンという人物はアウレオルス=イザードのような一本芯のある魔術師なのか
いわゆるマッドサイエンティストのような存在なのかそれとも単なる小悪党なのか?
篠原はどんな風に利用されてしまうのか?今後の展開を楽しみにしています。

>>492
な、長かった・・・、でもGJ
これでも、まだ前哨戦に過ぎないとは、対『絶対能力者』戦や対『「神」と名乗った
存在』戦はいったいどうなることやら。楽しみにしています。

>>435
GJ
アニェーゼとシスターイラーリアのやりとりはツボにはまりました。
次回を楽しみにしています。

450■■■■:2010/09/28(火) 13:16:13 ID:onEn7JB.
別作品とのクロスはおk?

451■■■■:2010/09/29(水) 00:39:42 ID:tPq2RNzE
クロスは久しぶりだな。個人的にはおk。てかとりあえず投下してみてくれ過疎ってるんだ
ただ匙加減が難しいってのはずっと前から言われてるかな
現に小ネタ以外で完結した長編・中編のクロス物とか見たことない
何とクロスさせるのかちょっと気になる

452from-ING:2010/10/01(金) 23:02:25 ID:W6eCZWq2


……これ投下していい雰囲気ですか?

453■■■■:2010/10/01(金) 23:35:15 ID:tgRV67Ww
普通にええで、と言うかお願いしますわ!

454■■■■:2010/10/02(土) 00:22:43 ID:iDLgEav.
>>452
お願いします。

455▲▼:2010/10/02(土) 01:57:49 ID:sc4xkNis
こんにちは、本日初めてこちらを拝見いたしました者です。

記念にSSとか書いてみようかなと思うのですが、今考えてるのが展開的に
アリなのかちょっと自信ないので、from-INGさんの次に冒頭部分だけでも
投下して、ご判断いただいてよろしいでしょうか?

456■■■■:2010/10/02(土) 08:34:58 ID:hKKUD3VI
つまんないのはもう勘弁

エロパロスレのほうが面白いなあ…
ここのってオリキャラばっかの
長ったらしいオナニー小説ばっかなんだもん

457▲▼:2010/10/02(土) 11:12:36 ID:sc4xkNis
>>456
なるほど。
「なるべく既存のキャラを活かした、短めかつ簡潔で他の方も
楽しめるようなSS」を書けば特に問題はないということですね。
ハードル高いけど、とりあえず試しにやってみますか。

458■■■■:2010/10/02(土) 16:29:50 ID:iDLgEav.
>>from-ING氏
>>▲▼氏

それで、どちらが先に投下してくれるんですか?
不特定多数のSSを貶すコメントなんて気にしないことです。
出来ているなら早く早く!読みたくて仕方ないですよ。

459■■■■:2010/10/02(土) 17:26:06 ID:8n0Fzwd.
『禁竜召式』の者ですけど、投下してよい雰囲気ですか?
from-ING氏
▲▼氏
のどちらかが投下するというなら保留の方向で考えるますけど。

460from-ING:2010/10/02(土) 21:44:46 ID:1YtHlISU
>>459
では、先に投下させてもらいます
>>456さんの言うようなオリキャラばっかの作品になりますが、それでも構わないという奇異な人は見てください

というか、『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』覚えてる人いるんですかね(笑)

ここで注意点をいくつか

・オリキャラ注意。
・文才皆無
・間隔空けたくせにマジ短い

では、それでもイイ人はお読みください

461『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/10/02(土) 21:46:40 ID:1YtHlISU
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]

<13:09 PM>


 ザァァァァ、と雨が降り荒れ雷が轟く。
 本格的に降り始めた豪雨に少しの反応を示すことなく少年と少女は視線をぶつけ合わせる。
 合図はなかった。
 しかし、白井黒子と一方通行(アクセラレータ)が動き始めるのはほぼ同時だった。
「!!」
「!!」
 少年は辺りに落ちていた瓦礫かなにかを吹き飛ばし、少女はそれを避けるように空間移動(テレポート)を発動させる。
 ガァン!! と辺りに響く音は一つだけ。
 瓦礫が地面に激突する音に空間移動(テレポート)の移動音がかき消された。
 同時、一方通行の真上に風に服をたなびかせる少女が出現する。
「はッ! 当たりませんわね。もっと良く狙われたほうがよろしくてよ」
「オイオイ、あンま調子のってっと怪我じゃすまねェぞ」
 ゴン!! と地面を踏み砕いてから一方通行が頭上に飛んだ少女へと飛翔した。
 上からは雨が降り続いているというのに、少年は決して眼をつむらない。紅く染まる瞳は白井の姿を映し出す。
「くぅ……」
 白井はそれをあえて空間移動(テレポート)をせずに避けた。
 相手の能力を把握するために一瞬の観察の間を手に入れるこの行動は一種の賭けだった。
 空中で身体を捻り、迫りくる一方通行の細い腕が白井の真横を通過する。
 風が生じた。
 轟ッ!!!! という炸裂音と共に少女の身体が勢いよく吹き飛ばされる。
(これ、は………何が起きてるのかまったくわかりませんの……ッ!!)
 くそっ、と少女は憎々しげに吐き捨てた。
 地面にぶつかる前に辛うじて真上へと空間移動(テレポート)し、空中で衝撃を殺す。
 くるくると回る視界に普通ならば眼が回るのだろうが、空間移動(テレポート)の使用に慣れている白井にそんな心配はいらない。
 勢い余って裏路地を飛び出しようやく少女は地面へと降り立った。
 緩やかな着地ではない。ざりざり、と地面が靴底を削る音が耳に届いた。
(しまった……あの男は)
 目から離した少年を、首を巡らし辿る。
 しかし、少女の考えに反するように少年は簡単に見つかった。


 ついさっきまで自分と少年が戦っていた場所の方向に目を向けると、その視線をさえぎるように一方通行(アクセラレータ)が目の前いっぱいに広がっていたのだから。


「ッ!!??」
 反応する暇はなかった。
 計算式を組み立てる余裕もなかった。
 ゴン!! と音を立てて少女は少年に首を絞められたまま壁へと叩きつけられた。
「オイオイ……どうしたってンだ。さっきまであンなに余裕ぶってたくせにこれはねェだろォがよ」
 顔を近づけ、不機嫌そうな声を出しながら一方通行は首を持ち上げる。
 ごっほっ、と絞り出すように息をする少女を見て彼は目を細めた。

462『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/10/02(土) 21:47:44 ID:1YtHlISU
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]


「こちとら急ぎの用なンだぜ? それを邪魔されて結構頭にキテるってのに、なンだそりゃ。お前でストレス発散するつもりだった俺は損しかねェぞ。つゥかガッカリを通り越して呆れ
ちまうっつの」
 そう言う一方通行だが、実のところ彼はこの状況を楽しんでいた。
 ぎりぎり、と首を絞められながらも少女の瞳には決して諦めの色は浮かんでいない。
 彼女は”勝つため”の計算を素早く組み立てていく。
(…アイツが言った言葉に一つだけ気になることがありますの)
 どっかの誰かさん。
 少年は己の警戒する人物として、そう一人の人間を挙げた。
(警戒するほどの人間がいる………つまり目の前のコイツの能力は『絶対』ではありません。何かの弱点が、どこかにあるはず……)
 御坂美琴で考えてみよう。
 彼女の能力は『電磁力に関するあらゆるものを制御する』というものだ。
 後ろからの襲撃にも常時発している電磁波で発見されることから、一見にしてスキの無いように見えるが案外簡単なところに弱点がある。
 それは、見えないところからの超遠距離射撃だ。
 能力者を捕まえる際の常套手段は『能力を使わせる前に捕縛すること』である。
 能力が強力すぎて太刀打ちできないのなら、能力を使わせずに勝てばよい。
 真正面からが無理ならば、後ろから。後ろからが無理なら真上から。真上から無理なら真下から。
 要するに、ものはやりようである。そのままで勝てないのなら、勝てる状況へと自分から持っていけばよいのだ。
 まあ正直な話、美琴なら狙撃されてもなんとかしてしまいそうな気がするが。
(問題は相手の能力がいまだにわからないことにありますわね。物質を弾いたり、空間移動(テレポート)を跳ね返したり出来る能力など聞いたこともありませんし、バリアか何かの応
用でしょうか?)
 念動力(テレキネシス)を応用すればそれらしいものを作れるかもしれない。
 先ほどの風もそれで充分に説明がつくだろう。
 しかし、もしバリアなのだとしても一一次元まで適応される最高度の盾のはずだ。
 自身が得意とする空間移動(テレポート)では、太刀打ちできない。
「…………、」
 そこまで考えて、白井は薄く笑みを浮かべた。
 それを見て少年が怪訝そうな表情をするが、気にしない。
 できるだけ挑戦的な口調で、目の前の男に吐き捨てる。


「あなたの負けですわ、殿方さん」


 突如、一方通行の手の中から常盤台の少女が消えた。
 おそらく空間移動(テレポート)で移動したのだろう。
 力を入れていた腕が空回りし、勢い余って壁に陥没させながら彼は楽しそうに口端を歪めた。
「俺の負け、ねェ」
 壁から腕を引き抜き、背後を振り返り、
「まさか、こンなもンで俺をやれるなンて思っちゃいねェよなァ」
 ゴッ!! と。
 彼の方へと飛んできたゴミ箱を片手で弾き飛ばした。
 いや、それだけではない。
 いくつもの物体が放物線を描くようにして少年の元へ殺到した。
 ズガガゴガガガ!!!! とまるで空爆のような弾幕が一方通行の身体を叩く。

463『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/10/02(土) 21:48:14 ID:1YtHlISU
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]


 しかし、彼には能力があった。
 触れたものすべてのベクトルを操作できる能力の一部である反射はどれほどの物質量でも例外なく弾き返す。
 反射された物体が壁を叩き、道を転がり、宙を舞う。
「めンどくせェ……」
 しかし、物体の弾幕攻撃は止まらない。どこからこんなにも見つけてきたんだろうかと思うほどの量の物体が空間移動(テレポート)し、少年の方へと飛んでくる。
「めンどくせェってのホントに」
 ゴァァァァァァァ!! と轟音が炸裂した。
 大気を操り、風速五〇メートルを超える突風が一方通行を中心として発生した。
 さながら竜巻のような風の動きに飛んでくる物体が空へと大きく巻き上げられる。
「なにがやりたいンですかァ? いくら量を変えようが、方向を変えようが、そンなもンが俺に届くわきゃねェだろ!!」
 左右の手を広げ、彼は笑いながら風の勢いを上げた。
 周りの廃墟の窓ガラスが割れ、少年の周りに降る雨粒が地面に着くことなく空へと舞い上がる。
 本来ならば、彼の通常の戦闘スタイルはチョーカーの電池消費を抑えるために細かく電源を切っては入れるを繰り返す。
 しかし、今は状況が状況だ。敵が空間移動(テレポート)というどこから飛んでくるかわからない攻撃に不用意にスキを見せるわけにはいかない。
 彼がこの状況を楽しんでいたということもあるだろう。
 久しぶりに見るヒーローというヤツに、少年は少なからず興奮していたのだ。
 そう、興奮していたからこそ、彼はいつもであれば気付くであろう相手の目的に気付くことができなかった。
「ハッ……おバカさんですわね。自分が術中にハマっていることにすら気付かないなんて」
 荒れる風の中で少女の凛とした声が混じった。
 その声はこの暴風の中では聞こえても居場所まではわからないだろう、と思っての言葉だったのだろう。
 バカはテメェだ、と一方通行は一つの廃ビルへと目線を向けた。
 彼の能力で引き起こした風だ。自分に届いた声の発生場所を逆算できない学園都市の一位ではない。
「さァて、かくれんぼは終わりだクソガキ!!」
 勢いよく、彼は地面を蹴った。その瞬間にベクトルを操作する。
 爆音が鳴った。
 ゴガン!! と炸裂する破壊音と共に地面がひび割れ彼の身体がミサイルのような推進力を得て廃ビルへと激突した。
 ロケットのように壁を突破し三階部分へと強引に特攻をかける。
 直後。
「あァクソ……」
 目の前に広がる光景に、彼は思わずといったふうに似合わない苦笑をこぼした。
「やってくれるじゃねェか、クソッたれ」


 ゴッガァァァァァン!! とそれを合図とするように廃ビルが倒壊した。


 からくりは簡単だ。
 一方通行が突撃してきた廃ビルの柱がすべて、空間移動(テレポート)による物質移動で破壊されていたのだ。
 柱を失い重みに耐えきれない廃ビルは当然長くはもたない。そのうちに本人は脱出し、それと入れ替わるようにして一方通行が侵入してきただけ。
 しかし、それは白井が一方通行を倒すための行動ではない。
 白井が一方通行から逃げるための行動だった。
 彼女の目的は少年を倒すことではない。あくまでも、佐天涙子を助け出すことが彼女の目的なのだから、無理に一方通行の相手をしなくても良いのだ。
 結果、一方通行はビルの倒壊で数秒とはいえ、白井を視界から消し、少女は得意の空間移動(テレポート)で佐天涙子を連れて逃亡。
 少女は恐らく一方通行が佐天涙子を殺すことを目的としていると勘違いしていたのであろう。
 だからこその『逃げるが勝ち』。
 皮肉なことに、一方通行が〔パンドラ〕の少年少女から逃げたときと同じようなやり方である。
 結果的な話、双方の痛み分けとしてこの戦いは決着した。

464『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/10/02(土) 21:49:49 ID:1YtHlISU
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]


<13:11 PM>


 一方通行(アクセラレータ)は、第一〇学区のとある廃屋の倒壊現場に居た。
 いや、居たというのは正しくはないだろう。正確には、彼は倒壊したビルの中に”埋まって”いるのだから。
「あァーアァー遊びすぎたァ」
 巻き上がった粉塵と周りの瓦礫を風で吹き飛ばし、彼は首筋のチョーカーのスイッチを通常モードへと戻した。
 フッ、と身体から力が抜ける。
 小さくして手に持っていた現代的な杖を元のサイズに戻し、そこに身体を預ける。
 瓦礫の散らばる場所での杖の移動は危なっかしく思えるだろうが、一方通行にとってその程度は問題にもならなかった。
「あの女、きちンとお友達は連れて帰ったンだろうなァ……」
 万が一にもそんなことはないと思うが、それだけが一方通行にとっての気がかりだった。
 彼は佐天涙子を助けた裏路地へと足を向けながら、ポケットの中からあるものを取りだす。
 先ほどの戦闘での戦利品。
 それは、細長い筒のような口紅のような携帯電話だ。
 一方通行は細かい理由があったとはいえ、ただ目的もなく戦闘を行ったわけではない。
 紛失した携帯電話の補充。
 あの白井とか言う少女の首をしめているときに拝借したそれこそが今回の一方通行の目的だった。
「………チッ」
 小さく舌打ちし、彼は片手で携帯を操作する。
 適当に準備を済ませてから、一方通行は携帯電話である番号をプッシュした。
 もちろん、人から奪ったものに彼の知り合いの番号はあるはずもなく、すべて彼の頭の中に入っている番号だ。
 元々、彼のアドレス帳に入っている数などたかが知れているし、少ない数字の羅列を覚えることなど、複雑な演算処理を行う一方通行には容易なことである。
「………、」
 電話が繋がる。
 『もしもし』という言葉に一方通行は簡潔に、短く述べた。
「超電磁砲(レールガン)」
『―――っ』
 電話の相手が息を呑むのが小さく聞こえた。
「この言葉だけで、テメェに何を言いたいかはわかってくれるよなァ」
『はて、なんのことでしょうか』
 電話の相手は平坦に言葉を返す。
 疑問も何も含まれていない、ただ返すためだけの言葉だった。
『というか、その声は一方通行さんでしょう。回りくどいやり方をせずとも、普通に電話してくださればいいのに』
 電話の相手―――海原光貴はいつもより少し声を低くして、一方通行へと言葉を返した。
 珍しく機嫌が悪いらしい。
 一方通行の持つ携帯の番号、すなわち知らない番号での着信ではおそらく出ないだろうと思って非通知にして電話をしたのだが、指令を出す『電話の男』と勘違いでもしたのだろう。
 それに対しての不満も多少はあるだろうが、それだけが不機嫌の理由になるとは思えなかった。
 そして、その不機嫌の理由も一方通行にはわかっていた。
「とぼけるンじゃねェよ。テメェが超電磁砲(レールガン)に特別な思い入れがあることくれェ『グループ』の全員が知ってるっての」
『はは。そうですか。で、”だから自分に何の用があるんです?”』
 トゲのある言い方に、一方通行はせせら笑いで返した。
「用件はわかってンだろォ。一週間前から御坂美琴が行方不明って話じゃねェか」
『ええ、知ってますよ。確かに御坂さんは一週間ほど前からこの学園都市から姿を消しています』
 まぁ、正確には約四〇分ほど前に第一〇学区で目撃証言が出てますけど、と海原は付け加えた。
『で、それがアナタにどんな関係があるというのですか? というより、どうしてアナタがその話を自分にしてきたかということがわかりませんね。”我々はお互いの為に情報を共有し
あうほど、仲良しではなかったはずでは?”』
 元々、土御門元春、一方通行、海原光貴、結標淡希の四人で構成される『グループ』の仲はそこまでいいものではない。
 利用できるから一緒に居るだけと言っても過言ではないだろう。それどころか、役に立たないのなら殺してやりたいくらいだ。
 お互いの利害関係が一致しない限り、協力などもっての他である。
 だからこそ、海原のその疑問は仕方のないものだった。
「俺だってオマエの手なンざ借りたかねェよ」
 しかし、今の状況で海原と一方通行はお互いの利害関係が一致している。

465『希望ト絶望ノ箱(オペレーション パンドラ)』:2010/10/02(土) 21:50:17 ID:1YtHlISU
第二章[奔走する主人公と暗躍する主人公 Hero_And_Hero]


「テメェの探す御坂美琴が居るであろう場所に、俺が探してるヤツがいる。だが、どうしてもその場所がわからねェ。俺一人には限界がある」
『……一人? アナタは学園都市の命令でこの件にあたっていると思っていましたが』
「俺の携帯が諸事情でぶっ壊れやがってなァ。こっちからは連絡を取ろうにも取れねェンだよ」
 一方通行の携帯から土御門にでも電話をかければ、もしかしたら繋がったりするかもしれないが、生憎とその携帯はすでにこの世にいない。
 ない物ねだりをしても事態は好転しないのだ。
『………つまり』
「あァ。”俺がオマエに情報を提供してやるから、オマエがその場所を割りだせ”」
『随分と上からのもの言いですね。自分がすでにその場所を知っている可能性は考えないのですか?』
「知ってたならテメェは大人しくしてねェだろうが。さっさと一人特攻しておっちンでるか、超電磁砲を助け出してるはずだァ」
 正直な話、一方通行にとって海原が場所を知っていようが知っていまいがどちらでもよかった。
 例え海原が場所を知っていたとしても、一方通行は無理やりにでも場所を吐かせていただろうし、知らなかったとしても今のように協力を促すだけなのだから。
 それを海原もわかっているのであろう。彼は、言外に場所を知らないことを示しながら、重くはっきりとした言葉で呟いた。
『………一つだけ条件があります』
「わかってる。超電磁砲をついでに助けてくれってンだろ? オマエ一人ではちと力不足だろうからァ」
 元から一方通行は御坂美琴も助けるつもりだった。理不尽に光の世界から闇の世界へと連れてこられた人間を見捨てていい理由などないのだから。
 それに、彼の予想では海原に学園都市からの指令、『グループ』の上司からの連絡はないはずである。
 『グループ』としての仕事ではなく超能力者(レベル5)第一位『一方通行(アクセラレータ)』としての仕事だと言ってきた電話の男。
 彼の口からは遊軍の話は一度も出てこなかった。
 おそらく、海原は何のサポートもなく一人で情報を集めていたのだろう。
 だからこそ、思うように情報を集まらずイライラしていたのだ。
『いいえ、違います』
 だが、一方通行の考えに反して、海原ははっきりとそう言った。
 思わず首を捻りそうになる少年は続く言葉にさらに首を捻ることとなった。


『アナタは”絶対に”御坂さんに手をださないでください』


「………はァ? オマエがやるっつうのか。バカかテメェ。片意地を張るような場面じゃねェだろうが」
『アナタには関係ありませんよ。自分には御坂さんを助けてくれる「ツテ」がありますから』
 ふざけるな、と一方通行は眉をひそめた。誰ともしれないヤツに任せて失敗しましたじゃ笑い話にもならない。
「オマエの言う『ツテ』ってもンは”この俺”よりも頼りになるってのかァ。学園都市の第一位であるこの俺よりもよォ」
『そうだ、と断言できないところがまた残念なんですがね……自分は信じてるんですよ。こんなクソみたいな世界に住んでて、ガラじゃないことは自覚してます』
 けど、と海原は小さく笑いながらこう言った。
『信じたく、なるじゃないですか。あの少年は必ず「約束」を果たしてくれると』

466from-ING:2010/10/02(土) 21:54:07 ID:1YtHlISU

投下終了です(短かッ)

一か月以上間隔を空けておいてこれはありませんよね、スイマセン

学校の文化祭が近くて色々と忙しかったという言い訳をさせていただきます

次でおそらく第二章はラスト

いつになるかわかりませんが、待っていただけると幸いです

では、感想・批判よろしくお願いします

467■■■■:2010/10/02(土) 22:11:18 ID:8n0Fzwd.
>>466
GJです!!
黒子は廃ビル倒壊のカラクリが好きなんでしょうか? 次回に期待です。


『禁竜召式(パラディンノート)』の続きを投下します。
次から7レスほど。

468■■■■:2010/10/02(土) 22:12:05 ID:8n0Fzwd.

十月十六日午前零時二十五分。

タッタッタと、出来うる限り音を殺した忍者のような足音がロンドン市内の薄暗い通りで小さく響いていた。
そこに人影は四人。内二人は鉄製の杖を携えた赤毛の少女とそれに寄り添う金髪の少女。その後ろに茶髪の東洋人の少女と目つきの鋭く背が高い少女が表情を崩さずに通りを走り抜けていた。
アニェーゼ、イラーリア、絹旗、ルチアの4人は『仕事』の遂行の為、バッキンガム宮殿へと静かに素早く歩を進める。

「『把握報網(MasterNet)』の情報によりますと、敵の術式パターンは或る程度決定されていて感知するのは容易いとの事ですから、探知に触れ次第連絡を寄越す、との事です」
アニェーゼが冷静に言うと、その横でビクビクと小動物のように震えているイラーリアがまたも鬱陶しく騒ぎ始めた。
「なんで八人しか居ない『迎撃』をさらに二つに分ける必要が有るんですか!? て言うか暗い!! この道暗いし何時敵来るか解んないし来ても近距離じゃ私の武器使えないし-------」
「うっさいですイラーリア。『迎撃』は八人しか居ないからこそ分担する必要があるんですよ。て言うか出発してから何回文句言ってんですか? そんなに心配ならさっさと寮に帰って例の襲撃者達と楽しく談笑してても私は何も言いませんが」
「同感です。シスター・アニェーゼの言う通り、貴方は少し騒ぎすぎでは無いですか? 仕事が嫌なら棄権しても良いとシスター・アニェーゼから説明が有ったではありませんか。そこまで拒否するのでしたらとっとと踵を返してください。ハッキリ言って邪魔です」
「うわぁ!! シスター・ルチアまで酷いじゃないですか!!? 私は遠距離専門だって何度も言……」
「「……もう黙っててください本当」」
今度こそ呆れて何も言わなくなったアニェーゼとルチアの冷徹な反応に涙目になって小刻みに震え出したイラーリア。それを見ていた絹旗は吐き出すように言葉を発する。
「なんですか、この超緊張感が無い感じは。もう少し警戒とかした方が無難だとは思うんですが……」
その言葉にアニェーゼとルチアは心の底から溜息を吐いて、イラーリアはもう何も言えなくなっていた。

「二班の方は大丈夫でしょうか? こちらがこの調子だとかなり不安になるのですが……」
ルチアの真っ当な心配にアニェーゼは少し考えてから軽い調子で答えた。
「まぁ、あっちの班長はソフィアですし。要らぬ心配はしないほうがいいでしょうね」

469■■■■:2010/10/02(土) 22:13:16 ID:8n0Fzwd.

そんな若干抜けた感じのアニェーゼ班から直線距離で八〇〇mほど東の小通りでは『迎撃』の第二班、つまりソフィア班でも同じようなやり取りが繰り返されていた。
この第二班はソフィア、アンジェレネ、アガター、カテリナの四人組で構成された班である。

「て、敵ってどんな感じなんでしょうか? やっぱり寮に侵入した人達みたいなゴッつい男の人ばっかり……? そ、そうしたら私の金貨袋なんて役に立たないじゃないですか……」
歩きながら泣き言ばかり溢すアンジェレネに、一応班長という立場であるソフィアが忌々しそうにアンジェレネを一瞥した。
「ったく何なんだよさっきから五月蝿いな。お前(アンジェレネ)がどうなろうと気には掛けねえけど、仕事中に後ろでギャーギャー騒がれると迷惑なんだよ。腕に自身が無いなら、さっさと寮に帰ってチョコレートでも貪ってろ」
聞いての通り乱暴な言い草が特徴的なソフィアは、右手に身長ほどある巨斧を抱え、左手には『通信』と繋がる通信霊装を握っている。短く切られた銀髪と引き締まったアスリートのような(しかし胸は以外に大きい)身体つきはトライアスロンぐらいなら余裕でこなしてしまいそうな印象を与えた。

「寮に侵入してきた奴等だろうが、それ以外だろうがやる事は同じだ。全員、斧打で叩き潰してひき肉にしてやる。そんでさっさと休みてえよ俺は」
ソフィアは巨斧を見つめて心底面倒臭そうに言った。
彼女が抱えている大きな斧は『バルディッシュ』と呼ばれる戦斧。十九世紀までの欧州で実際に戦場で使用されていた対人斧である。別名ハルベルトとも呼ばれ、その柄の長さと極端に大きい刃部から比較的大きな衝撃を与えられることで知られている。
そんな物騒な戦斧を携える本物の斧闘士を前に、少し怯みながらもアンジェレネは目を泳がせて言葉を繋ぐ。
「で、でもシスター・ソフィアもあの男達の耐久力見たでしょう? キヌハタさんが居なかったら傷一つ与えられなかったかも知れないってシスター・アニェーゼも言ってたじゃないですか。魔術に対してだけ特殊な防御を発動するとかも言ってましたし、幾らシスター・ソフィアでも苦しいかも……」
「んなこと闘ってみなきゃ分かんねえだろ。正直、相手が誰だろうと力比べで負ける気はしないけどな」
そう言うソフィアの表情には若干の余裕が垣間見られた。
その理由は至って単純。彼女は、単体の身体能力や攻撃力ではアニェーゼ部隊の中で圧倒的トップを陣取っているからである。
彼女は八〜九㎏程度の『バルディッシュ』を“右手一つで自由自在に振り回す“程の馬鹿力であり、とても巨斧を持って戦っているとは思えない素早い挙動で敵を迎え撃つことで有名である(斧を片手で振り回す少女の噂はイギリス清教のトップまで伝わっているらしい)。

「別に、敵がどんな反則業使って来ようと、俺はそれごとブチ壊すだけだ。魔法名に架けても、それだけは譲れない絶対事項なんだよ」
「……え、っと、とりあえずシスター・ソフィアは『一応女の子』なんですから、一人称は「俺」じゃ無い方が良いんじゃ……?」
不用意なアンジェレネの発言にソフィアがギロリと睨みつけた。小動物のように思わずビクッと跳ねてから畏まるアンジェレネ。修道女としての序列は同列とは言え、その威厳と迫力は他のシスターの比ではない。
舌打ちをして面倒臭そうに頭を掻いたソフィアは、再び歩を進めようと片足に力を入れた所で、
「……『通信』から連絡網か。『把握報網(MasterNet)』に何か掛かったみてえだな」
左手の通信霊装が淡く点滅しているのに気づいた。

470■■■■:2010/10/02(土) 22:13:43 ID:8n0Fzwd.

連絡網はアニェーゼの元にも同時に届いていた。
内容は通話という形でアニェーゼに伝達され、何回か頷いた後、アニェーゼは通信霊装の光を落す。
「……やはりバッキンガム宮殿付近です。どうやら宮殿敷地に隣接するハイドパーク内にて、寮に進入した奴等と同じ術式パターンが観測されたらしいですよ」
アニェーゼの慎重な言葉にルチアと絹旗が顔を顰める。イラーリアは相変わらず拗ねた子供のように涙目で何も言わない。

ルチアは携える巨大な車輪を構え直し、さらに厳格な表情に成る。隣の絹旗はむしろ嬉しそうに口を少し吊り上げた。
「……つまり『そこに敵が居る』と……、そういう訳ですか」
「相も変わらず超理解出来ませんけど、そこに行けば目的に会えるんですね?」
「……ええ。相手がどんな能力持っているかさえも全く解らねえ状態ですけど」
アニェーゼは適当に答えて、『蓮の杖』を持ち直す。真っ暗な裏路地の向う側を一瞥すると、イラーリアを引きずるような形で再び走り出した。光の見えない裏路地で、またも小さな足音が響いていく。

471■■■■:2010/10/02(土) 22:14:36 ID:8n0Fzwd.

学園都市から連絡が一切無い。現在、絹旗にとって一番不自然な現象である。
自分の身体内には極小の「ナノデバイス」と呼ばれる発信機のような物が打ち込まれたはずだ。学園都市側からも絹旗が英国にて別組織の運動に参加しているのは知られているはずなのだが。
(イギリス清教……って言ってましたっけ。あの修道女達は)
やはりそこが関係しているのか、と絹旗は悟った。
世界最大宗派とも呼ばれる『十字教』。その三本柱と言われているのが『ローマ正教』『ロシア成教』『イギリス清教』であるらしい。つまりアニェーゼ等、修道女が所属していると思われる『イギリス清教』は“それなり権力や勢力を持っている”と言うことになる。

加えて、学園都市にはこんな噂も存在した。
『学園都市統括理事長は、十字教の幹部と通じている』
もし、これが本当だとすると、もしかすると『絹旗は学園都市から許可を得たイギリス清教に使われている』かも知れない。それならば「ナノデバイス」に監視された自分が野放しにされているのには納得が行く。
(しかし、そこまで大きな組織と学園都市が通じているとなると……)
学園都市だって幾ら規模の大きな物とはいえ、ただの宗教団体と“能力者の使用を許す”ほどの関係を結ぶとは思えない。やはり、宗教以外でイギリス清教には学園都市側が親密な関係を持ちたいと思うような何かが有るのだろうか.


魔術、と言う単語が絹旗の脳裏を過った。

自分はそれを何回もこの目で見ている。暴れ回る絹旗を取り押さえようとした修道女達が使った『異能の力』もその類だろう。包帯や縄が意思を持って襲ってくる。お金の入った布袋が不自然な軌道を描いて自分へと向かってくる等。もしかすると静物にも使用できる『洗脳能力(マリオネッテ)』の一種かもしれないが、絹旗にはどうもあの不安定な力が超能力の分類に入るとは思えない。

(全く別の世界。RPGの中に超閉じ込められた気分ですね)
だが、絹旗は純粋にこの状況を楽しんでいた。自分の知らない、それでいて興味深いもう一つの法則は、彼女にとって“好奇心だけで危険に足を突っ込む”だけの価値がある物なっていたのだ。
そう、今現在、彼女の中で感情を圧倒的に支配しているのは『好奇心』。まるで新しいゲームを買って今まさに始めようとしているような錯覚。
学園都市の『裏』で行われる限られたカードの中での血生臭い殺し合いとは違う。ここでは麦野沈利のような仲間割れや裏切りといった類の事は起こらないのだろう。修道女という信頼を前提にした少女たちと共に協力して敵を倒す(絹旗はヌイグルミを取り返す)。本当にRPGのような光景である。現在の状況を客観的に見れば学園都市の『裏』と大した違いは無いかも知れないが、『外』という広い世界は、絹旗最愛にとってゲームや漫画を現実に引きずり出す巨大な娯楽施設にも見えた。

472■■■■:2010/10/02(土) 22:16:00 ID:8n0Fzwd.

〈行間〉

欧州のとある場所に純潔で聡明な少女が居たという。
彼女は誰にでも素直で優しく、それでいて定められたルールや規則は、和を平淡に保つ物として決して破る事は無かった。そして、そのルール自体が間違っていると思えば学校や親に直訴して止めさせる努力を惜しまない。市議会に乗り込んでいった時もあったと言う。
少女は皆に好かれ、皆を好き、気が付けば、その町の中でも別段名の知れた優等生となっていた。


だが、ただ一つだけ、彼女は不満に思っている事があった。

(私の周りの人間は、いやこの国の人間は、みんな頭が悪い。私がどれだけ注意しても同じ過ちを繰り返すし、どれだけ助けてもさらに助けを求めてそれから離れられなくなっていく。自分は努力を惜しまないとか言う人間に限って、それに夢中になり過ぎて周りが見えなくなっていく。馬鹿しか居ない。考えることが出来ない。私はどうしてあんな下等生物の中で生きなきゃならないのだろう)
頭が異常に優秀。それ故に起こる不満であった。それは彼女の頭が天才を遥かに超えるレベルで良かった事から生まれた不満なのか。それとも彼女の周りの人間の頭が馬鹿を遥かに下回るレベルで悪かったからなのかは判断は付かない。
だが、それでも彼女より強い頭と頭脳を持った人間はこの世に居ないのでは、と諭される程に、彼女は完璧な『天才』であった。
別に人間が嫌いな訳じゃ無い。ただ単にその頭の弱さに失望しているだけだ。何時しか彼女が他人を見る目は、ペット等に向けるそれと同様の物へと変わっていく。

結局、その町に飽きて、親と兄弟には何も言わずに夜中に家を抜け出した。その理由は自分より頭の強い人を探す為。周りが一つ下の生物にしか見えなくなった彼女は、夜逃げに躊躇う事が無かった。

(誰か。私より頭の強い、深い芯から動きを得る要領の良い『人間』である誰か。他のペット共とは違う誰か。……それが現れるまで歩みは止められない)

金色の髪の少女は進んだ。
『人間』を求めて。

473■■■■:2010/10/02(土) 22:16:51 ID:8n0Fzwd.

十月十六日午前零時五〇分、ハイドパーク内某所。

僅かな蛍光灯の光以外何も見えない林の中。沢山の木々が薙ぎ倒され、ドッガァァァァァン!! という爆音が辺りに撒き散らされた。
ソフィアが横薙ぎに振るった『バルディッシュ』による一撃のせいである。
攻撃を受けたのは二〇代前後の男。服装はやはり黒い喪服のようなスーツで、右肩に黒十字に斜め一本線の入ったシンボルを貼り付けている。

「……手応え抜群。寮の時より防御力劣ってねえか『対十字教黒魔術』」
ソフィアはそう言いながらも『バルディッシュ』を構えなおす。手応えはあった。だが、ゆっくりと起き上がったその男の服には傷一つ付いていない。
「……シスター・ソフィア。木とかあんまり吹き飛ばさない方が良いですよ。後で女子寮の方に損害賠償の届けが来るかもしれないし。ここはもうちょい穏便に行こうよ」
巨斧を構えるソフィアの隣で言葉を発したのはカテリナ。その手には刃渡り一五センチ程の短剣が握られていた。風の役を示す短剣がカテリナが主に使用する霊装なのである。
「うっせえな。穏便に話し合いが出来るような連中じゃ無えことぐらいお前だって解ってんだろ。……それにこっちの攻撃は大して効いてないみたいだしな。『どこまで相手が耐えられるか』、少し興味がある」
「……また力比べ? ちょっとは策とか練ったらどうなの?」
「必要ねえだろ」
ソフィアは言い捨てて、『バルディッシュ』を相手に向けた。敵である男は相変わらず表情に変化が見られない。まるで操り人形のような不気味な冷たさを感じる。
「とりあえず私達が後方から援護しますからシスター・ソフィアは遠慮無く魔法名名乗ってしまってください。そろそろ『遠爆』の増援も来る頃だと思うので」
アガターの促しにより、カテリナ、ソフィアが前線。アガター、アンジェレネが後方援護という形を取った。相手は一人だが、ソフィアの一撃で掠り傷一つ無いとなれば油断は出来ない。
『バルディッシュ』に力を込めるソフィアが口を吊り上げて獰猛に笑った。高まる高揚を抑えられずの居るのだ。それを見たカテリナは思わず溜息を吐く。

……またソフィアの悪い癖が出た。
(三度の飯より正面喧嘩……仮にも女の子がそんなんじゃ駄目でしょ普通)
カテリナの心内声は、当然ソフィアに伝わるはずも無く、アガターとアンジェレネの援護煙幕により視界を封じた瞬間には、ソフィアは敵へと一直線に飛んでいった。
男は何の霊装も持ってはいない。あるいは『持つ必要が無い』のかもしれない。それでも、ソフィアは自身の誓いを声の限りに叫んで相手へと投げつける。


「……『pugno cupiditas156(戦欲に狩られし者)』!!」

少女の魔法名が響きわたり、再び戦闘が始まった。

474■■■■:2010/10/02(土) 22:17:44 ID:8n0Fzwd.

同時刻、第二班より六〇〇m手前に位置する古舎付近。

ここでもアニェーゼ等と『対十字教黒魔術』の戦闘が繰り広げられた。
前方、背後。突然挟み撃ちに遭った彼女等は、すぐさま臨戦体勢に移行したため、不意打ちによる一撃はどうにか避けることに成功した。
現れたのは案の定、黒服の男。その数は寮の時と同じ三人。前回と唯一違っていたのは、その男達の霊装が鉤爪では無く中剣だったこと。
彼等が襲撃してきたのはソフィア等が『対十字教黒魔術』の男とハイドパークにて対峙したのとほぼ同時であった。


だが、
「……そんな超貧弱な業で私を倒そうなんて一万年早いですよ」
絹旗最愛の圧戦により、アニェーゼ班の戦いはすでに終結している。

シスター部隊側が最初に放った攻撃はアニェーゼ・サンクティスによる遠距離打撃。だが、例の如く男達には全く効果が無く、アニェーゼが「では、キヌハタで」と一応実験的に前線に投入してみれば、僅か三分余りで地面に大の大人が三人寝そべる形となったのだ。
そんな、快勝を超えて圧勝のレベルにまで達している戦闘を、修道女三人は頭を抱えて眺めていた。
「……やっぱりこの男達は“魔術に対してのみ”防御術式が適用するように準備しているみたいですね。幾ら何でも、これでは弱すぎる気がしますし」
「え、で、でももしかしたら、キヌハタがすんごい強いだけかも知れませんよ? 能力者の強さの基準なんて、私には判断出来ませんけど」
「いえ、彼女は弱くはありませんが、特別最強と言う訳でも無いでしょう。実際、暴れる彼女を、寮のシスター達は割と簡単に押さえつけたらしいですから」
アニェーゼ、イラーリア、ルチアが呑気順々に言葉を発する。当の絹旗はと言うと、手首をコキコキと鳴らして、なんとも退屈そうな雰囲気だった。
「別に強い相手を寄越せ、と言っている訳では有りませんけど……これじゃあ、幾ら何でも超時間の無駄でしょう。学園都市からの迎えは明日にまで超迫ってきてますし、私はさっさとヌイグルミ取返してぐっすり眠りたいですよ」
滝壷土産はヌイグルミ。これは彼女の中ではすでに決定事項のようだ。

数分後、色々と無駄にのんびりした戦場に『遠爆』の増援が四〇人ほど到着した。すでに終わってしまっている戦いに増援は皆一度眉を顰めたが、一瞬で戦闘が終わっている不自然さよりもアニェーゼ達が無事なことに気を掛けているようで、皆、それぞれ安堵している。
ふぅ、と雰囲気が緩んだことに気を降ろしたアニェーゼに、ルチアが小走りで近づいてきた。
「シスター・アニェーゼ。アガターより通信です。ソフィア等と『対十字教黒魔術』の戦闘は未だ続いているので、増援が欲しいと」
ルチアが業務的な声でアニェーゼ手渡したのは、筆入れほどの通信霊装。霊装の向こう側からは、確かに荒っぽい打撃音や爆発音が聞こえる。アニェーゼは『遠爆』を三〇人、次いでに『術発』を一五人程送り込むことをルチアに伝え、ルチアはそれを皆へと伝えた。

「さて、と。そろそろ私達もハイドパークへ向かいましょう。『禁竜召式』なんて訳の解らない術式、発動させる訳にはいきませんし、奴等は十字教の敵ですから。ついでにキヌハタのヌイグルミも取返してとっとと終わりにしちまいましょう」
アニェーゼの言葉に修道女達はしっかりと頷き、彼女等は再び動き始めた。


その安全な空気が何時までも続かないことを確りと理解した上で、不穏な刻へと自ら歩みを進めるように。

475■■■■:2010/10/02(土) 22:20:34 ID:8n0Fzwd.
投下終了です。

3レス目短か!!!!
誤字脱字は確認したつもりですが、多分幾つかあると思いますのでご指摘宜しくお願いします。
あと、オリキャラ暴れすぎました。御免なさい。


あーあ。テスト勉ダリぃなぁ......

476■■■■:2010/10/03(日) 00:51:41 ID:dYSonwLQ
>>466
GJ! 勿論覚えてましたとも。続きお待ちしてました。
決着は痛み分けですか……一方さんから逃げ切れたんならもう勝ちでいいでしょう。
海原(エツァリ)とのやりとりがかっこよかったです。『グループ』の信頼や絆などとは程遠い繋がりがきっちり再現されてますね。
『約束』……あれですよね。あのヒーローならきっと、それを果たしてくれるでしょうね。
お忙しい中の投下ありがとうございます。分量はお気になさらず、大事なのは質ですよ。
次回も良質なSSの投下を期待してます。   一方さんがはっちゃけ過ぎな気もするが、バッテリーの残量は大丈夫か?

>>475
GJです。ソフィアさんこえぇ
今回も絹旗の独壇場でしたね。若干バランスブレイカーじみてきた気も……
そろそろ「対魔術防御術式」を突破する方法を見つけないとシスター達が働けないという。
意味深な行間でしたね。金髪の少女……一体誰のことやら。
テスト頑張って下さい。そしてそれが片付き次第、次の投下お待ちしてます。

477■■■■:2010/10/03(日) 01:00:39 ID:LJcNItlg
>>475
GJ
アニェーゼ部隊の個々人の活躍は、本編ではアニェーゼ、ルチア、アンジェレネ以外
ほとんど活字にはなっていませんが、ひょっとすると本編でもこんな風なのかなと思
わせるノリの良さでした。

478▲▼:2010/10/03(日) 01:04:38 ID:vL31eD7Q
すみません、私は急な仕事が入ったため、明日の投下になります。

479とある右席の自由時間(フリータイム):2010/10/03(日) 21:49:06 ID:vL31eD7Q
少女はあてのない助けを求め、覚束ない足取りでただひたすら走っていた。

絶望は少女に泣くことすらも許さず、その事実が彼女の絶望をさらに深くする。
「……っ!?」
足がもつれ、日差しで熱せられたコンクリートの路面に倒れこみそうになるのを必死で踏みとどまる。
今倒れてしまったら、再び起き上がるだけの気力は既にない。

(もう、だめなのかな……)

少女の心に一瞬、諦めがよぎる。

(わたし、どうしてがんばっていたんだっけ?)

じりじりと肌を焼く日差しは、容赦なく彼女の思考能力を奪っていく。
「ごめんなさい……ごめん……なさ……」
謝ったのは、一体誰に対してだったのだろう。
彼女自身それを知るすべもない中、折れた心に従うように、彼女の膝がかくん、と折れた。
周囲から向けられる奇異の視線と嘲笑の中、彼女はゆっくりと意識を手放そうとして、

「…………え?」

困惑する。待ち受けていたはずの地面との衝突は、誰かの力強い手で正面から受け止められることで回避されていた。

「なぜ、泣いているのであるか」

少女は涙など流していない。にもかかわらず、男はそう言った。
口調にいたわりはなく、こちらを安心させるような笑みを浮かべているわけでもない。
にもかかわらず「信頼に足る人間だ」と思わせるのは、常に誰かのための戦いに身を置いてきた彼の生き様によるところか。
気が付くと、少女はぽつりぽつりと自分が置かれている状況を語り始めていた。
今まで決して流れることのなかった涙で頬を濡らしながら。

「事情は理解した。微力ではあるが、力になろう」
力強く頷くと、男は戦場に向かう決意をその目に湛え、こう口にした。

「心配しなくても良い。ゴルフは英国紳士の嗜みである」

480とある右席の自由時間(フリータイム):2010/10/03(日) 21:51:01 ID:vL31eD7Q
その少女――三戸浦祝(みとうら いわい)が語った話はこうだ。

一か月前、彼女の両親が原因不明の病で急逝した。
彼女の実家は郊外のカントリークラブを経営しており、今年で成人を迎えた彼女の兄、三戸浦時人(ときひと)もプロの若手ゴルファーとして
クラブに名を連ねていたため、他に身寄りのない兄妹でもなんとか生計を立てられていた。

……両親が残した借金の抵当に、カントリークラブが入っていることが発覚するまでは。

父の古い友人を名乗るその男は、両親の借金という寝耳に水の現実に困惑する兄妹にこう提案した。

「君たちに返済能力があることさえ証明できれば、差し押さえなくても特に問題はない。
どうだろう、ここはひとつ、君の力に賭けてみないか?」

要は「代表を一名ずつ出して勝負し、勝てれば差し押さえは取りやめる」ということだった。
胡散臭いと知りつつ乗らざるを得ない兄とは対照的に、祝は内心でひそかに安堵していた。
プロになってからというもの、兄が負けたところを見たことがない。両親の大事にしていたクラブは守られ、これからも大好きな兄と一緒に
暮らしていける。幼い祝がそんなふうに楽観的に考えたことを、一体誰が責められるだろう。

そして、試合前日の夜。彼女のそんな幻想は無残にもぶち壊されることとなった。
時人の緊急入院。それも両親と同じ原因不明の病状という最悪の形で。

481とある右席の自由時間(フリータイム):2010/10/03(日) 21:53:10 ID:vL31eD7Q
時間は午前9時。試合開始まであと4時間の余裕がある。
アックアは祝を伴い、意識不明の時人を見舞いに来ていた。

「お兄ちゃん、昨日の夜から目が覚めないの」
見ている方がつらくなるような、沈痛な面持ちで俯く祝。
「お父さんたちもそうだったの。時々苦しそうにして、それでも目が覚めなくて、一週間もしないうちに……っ」
泣きそうになる祝を励ますように、アックアの大きな手が彼女の頭にそっと置かれる。
「わからないではないが、気を強くもて。お前の兄も両親との思い出も、私が必ず取り戻す」
言って、懐から十字架を象った小さなネックレスを取り出し、彼女の手に握らせる。
「これをお前の兄にかけてやれ。必ず助けになる」
祝は小さくうなずくと、ぐしぐしと目元をこすり、兄の首にそっとネックレスをかけた。
そんな彼女に満足し、アックアはひとり思索する。

(さて……どうしたものであるか)

近いうちにヴェントが学園都市に侵攻すると聞き、標的となる上条当麻という少年を一目見ておくつもりで自ら
日本へ渡ったものの、学園都市に着く前にとんだ足止めを食ってしまった形になる。
(だが。私の魔法名にかけて、この事態を見過ごすことはできん)
これは彼の矜持。傭兵として剣を振るおうと、「右席」に名を連ねようと、それだけは変えようない彼の真実だった。

「……おじちゃん?」
そんな彼の真剣な表情に気付いた祝が、恐る恐る声をかけてくる。

「何でもない。それよりお前は昨晩眠っていないのだろう。まだ時間はある。ベッドを借りて少し休んでおけ」
助けを求めて一晩中走り回っていたのだろう。
彼女は潔く頷くと、病室の簡易ベッドに横になると、小さな寝息を立てはじめた。



試合開始まで、残り3時間。

482とある右席の自由時間(フリータイム):2010/10/03(日) 21:56:39 ID:vL31eD7Q
「あれ? 三戸浦プロじゃないんだね。なんだ、ちょっと楽しみにしてたのになぁ」
綿貫(わたぬき)と名乗った相手プレイヤーは、開口一番にそう言った。
「俺の雇い主も今日は急用で来れないから、謝っといてくれって言ってたけど。
さすがに選手がドタキャンってどうなんよ?」
「ご、ごめんなさい。お兄ちゃんは昨日から、その、病気で……」
次第に尻すぼみになっていく祝の弁解に、綿貫はつまらなそうにため息をつく。
「まあ、代理が出るってんならそれでもいいけどさ。この人、上手いのかい?
少なくとも、大会なんかでは見たことない顔だけど」
小馬鹿にするというよりは本気で疑問に思っているような顔で、アックアを眺め回す。

「プレイするのは初めてだが」

「ええーーーー!?」

驚愕の声は綿貫ではなく、祝のほうから上がった。
「さ、さささささっき『ゴルフは英国紳士の嗜み』とか言ってませんでした!?」
「私は紳士ではない。傭兵崩れのごろつきである」
「な、なんかものすごくだまされた気がしますが! いいんですか信じても!?」
「当然だ」
「今の会話の後でなんでそんなに自信満々なんですかこの人!」
一眠りして本来のテンションを取り戻したのか、意外と賑やかな祝を見てアックアはひそかに胸をなでおろした。
子どもというのは、やはりこのくらい元気な方がいい。
「それより、さっきから気になっているのだが。普段の恰好のまま来てしまったが、浮いてはいないだろうか」
「いやものすごく溶け込んでますから今更気にしなくていいですそんなの」
爽やかな青の長袖シャツの上に白の半袖を重ね、下は薄手のスラックス。
休日に郊外を歩いていたら、どこからどう見てもゴルフ好きの精悍なお父さんである。
「あー、まぁ、そんじゃそろそろお手並み拝見と行こうか。そっち先攻だなー」
なんだか早くも投げやりになりかけている綿貫に促され、アックアは気を取り直して
周囲を見渡した。
(……ふむ)
1番ホール、343ヤード。PAR4。
グリーンは右側から張り出した林の陰になっており、小さく刻むかフック気味の打球で迂回させなければならない。

「この距離なら、2番アイアンであるか」

呟くと同時、アックアの右手には5mを超す巨大なメイスががっしりと握られていた。
「「ちょっと待てぇぇぇぇぇっ!!!」」
綿貫と祝の声が重なった。
「ちょ、ちょっと何ですかそれ!? っていうか今どこから出しました!?」
「ゴルフクラブであるが」
「それをゴルフクラブって言い張るかお前!? つーかよく片手で持てるなそんなの!」
むう、と手元のゴルフクラブ(では決してありえないもの)に視線を落とし、呻くアックア。
「ほら、こっち使って下さい!」
祝が差し出してくる(正常な)2番アイアンを渋々受け取ると、軽く振ってみる。
戦場で慣れない得物を使うのは不安ではあるが、ルールだというなら無理も言えない。
「始めてよいか」
「あーはいはい。どうぞどうぞ」
既に投げやりを通り越して「帰っていいですか?」的なオーラを全身から発している
綿貫に頷き返すと、アックアはグリップを握る手に力を籠め、スイングを開始した。

483とある右席の自由時間(フリータイム):2010/10/03(日) 21:58:45 ID:vL31eD7Q
念の為に断っておくと、「後方のアックア」ことウィリアム=オルウェルは聖人である。
聖人の常人離れした視力は、林の中を突っ切ることが可能なラインを見つけ出し、
聖人の卓越した身体能力は、期待される結果に直結するスイングの最適解を実現し、
聖人の飛び抜けたバランス感覚は、一切のぶれなくスイングを支え切り、
聖人の途方もない動体視力は、ボールを真芯でとらえる瞬間を見極め、
聖人の非常識な……とにかく、ボールはこれ以上ない完璧なパフォーマンスで林を貫通した。

カァン!と音を立て、カップからピンが弾き飛ばされる。直撃されたらしい。
運動エネルギーを失ったボールはそのまま真下へ落下、コトン!と快音。
「あ、ああああああああ……!?」
「うそ……」
唖然とする二人をよそに、アックアは満足げに息をつくと、
「次は貴様の手番であるな」


……蹂躙が、始まった。

484とある右席の自由時間(フリータイム):2010/10/03(日) 22:01:31 ID:vL31eD7Q
「なんだよこれありえねーよふざけんじゃねーよどういうことだよ勝てるわけねーよ
チートだろチート何がゴルフ今日初めてだよ俺の20年を返せよ……」
何やらうつろな目でぶつぶつと呟き続ける綿貫を横目に、アックアの最後のパターがボールをカップに沈めた。
終わってみれば、アックアはマイナス13。綿貫は本来の調子とは程遠い(無理もないが)プラス27。
将来有望なプレイヤーに深刻なトラウマを残しつつ、試合はアックアの圧勝で終了した。
「良い戦いであった。感謝する」
差し出されたアックアの手に、応える綿貫の手には力がない。さすがのアックアもやりすぎたことに気付いたのか、若干バツが悪そうに表情を歪める。
「もし貴様が人生に救いを求めるのであれば、バチカンのリドヴィアという修道女を尋ねるがよい。信仰とは何か、三日三晩かけて語って……」
言いかけて、彼女はつい先日大暴走の末にイギリス清教の『必要悪の教会』に拘束されたことを思い出す。
(うまくいかぬものであるな……っ!?)
心の中で苦笑したその時、後ろから誰かに勢いよく飛びつかれた。祝だった。
「む……」
背中にしがみついたまま身を震わせる祝に、肩越しに目を遣る。
「ありがと……おじちゃ、ふええええええええ」
感極まったのかそのまま泣き出した祝に、珍しく表情を緩めるアックア。と、その顔つきが不意に真剣なものへと戻る。
「まだ終わっていない」
「え……?」
「事後処理が残っているのである」
急に歩き出した彼に、背中に寄り添っていた祝が支えを失いたたらを踏む。
「ちょ、ちょっと、おじちゃん!?」
「さらばだ。兄と仲良く暮らせ」
一瞥すらせず、唐突に立ち去ろうとするアックアに、祝は精一杯の感謝を込めて声をかけた。
「また、会えるよね」
「会わない方がいいだろう」
背を向けたまま答える。
「私の矜持を否定するようではあるが……冷たい涙など、本来流さぬに越したことはないのだから」
こうして、アックアは次の戦場へと向かう。
そして、最後の言葉通り、祝がアックアと会うことは二度となかった。

485とある右席の自由時間(フリータイム):2010/10/03(日) 22:04:56 ID:vL31eD7Q
翌日、とあるビルの一室。

薄暗く陰鬱な雰囲気のその部屋の片隅で、四十がらみの男が若い女を相手に激昂した声を上げていた。
「くそ、どういうことだ! 高い金を払ってあんたに依頼したってのに、結局負けたんじゃどうにもならんじゃないか!」
「いやぁ、そんなこと言われてもねぇ。代役が出てきたのは私のせいじゃないでしょお?」
男は数日前、「祝の父親の友人」を名乗った男である。対する女の方は落ち着いた口調で、
「それに、そんなまどろっこしい計画立てるから、ややこしいことになるんでしょお? 最初からアタシに倍額払って、
妹の方も呪っとけば今頃すんなり行ってたのにさあ」
女は言葉を切ると、にんまりと笑みを浮かべる。
「何なら今からでも妹の方、呪おうか? お兄ちゃんのほうはもうすぐ死ぬしさあ?」
ちろり、と舌なめずりをする女の手に、奇妙な紋様で装飾された小さな符が現れる。
まるで蛇がのたうつように、自らの長い髪を右腕に巻きつけたその和装の女は、日本国内では名を知られた屈指の術者である。
ただし、あくまで裏稼業の人間としての知名度であるが。
「……頼めるか」
あの土地が今月中に手に入るか否かで、転売額が大きく変わってくる。
男は不承不承といった感じではあるが、それでも兄妹の殺害を簡単に肯定した。
「ま、うまくすれば一週間くらいで片が付くでしょお。そしたらアタシものんびり、海外で羽でも伸ばそうかしらねえ」

「それは無理であるな」

声。一瞬遅れ、ビルの外壁が粉々に吹き飛んだ。

「第一に、あの兄妹を殺すことが不可能である。術者は今ここで私が斃す。第二に、貴様が行くのは外国ではなく地獄である」
威風堂々、彼が言うところの『2番アイアン』を携えたアックアが室内に足を踏み入れた。
「念のために聞いておくが。あの兄妹の両親を殺したのもお前であるな?」
原因不明の病。アックアは知る由もないが、かつて闇咲と上条当麻が協力して解決した事件と同質の、あるいは更に強化した呪い。
魔術特有の匂いを逆にたどっていけば、おのずと術者の下へ辿り着く。

「だからなあに? わた」

返事は最後まで言えなかった。
薙ぎ払われたメイスが、まるでハエ叩きを直撃されたハエのように、彼女を軽々と真横へ吹き飛ばしていたからだ。
「……くふ? くふふふふふ」
壁に直撃され、明らかな致命傷を受けながら、彼女は愉快そうに声をあげて笑う。
アックアは不審そうに眉を顰めると、手にしたメイスを構え直した。
「いやあ、すごいわあ。アナタ、噂の『聖人』ってやつね? ここまで爽快に瞬殺されると、なんかもう感動しかできないわあ」
心の底から愉快そうな笑み。それが一転、嗜虐に満ちた表情に変わる。
「でも、そんなアナタでもあの兄妹は助けられない。アタシを殺したところで、呪いは既にアタシの手を離れているから。
かなり繊細な術式だから、いまから解析してたら間に合わない。くふ、くふふふふははははあはははははははは!!!」
狂笑する女に、アックアは「何だそんなことか」とでも言わんばかりのつまらなそうな視線を向けると、
「そちらも何とかなっている頃であるな。さて、時間が惜しい。悪いが終わらせてもらう」
アックアは再びメイスを振り上げると、耳障りな笑い声の発生源に向かって勢いよく振り下ろした。

486とある右席の自由時間(フリータイム):2010/10/03(日) 22:07:03 ID:vL31eD7Q
同時刻、三戸浦時人の病室。

看護婦や他の患者に気付かれることもなく、時人を見下ろすひとつの影があった。
「まったく、アックアも人使いが荒いですねー。こんな極東の地に呼びつけるなんて、埋め合わせはきちんとしてもらわないと割に合いません」
言いながら、意識の戻らない時人の首筋にかけられたネックレスに視線を落とす。
「まあ、この国には珍しいローマ正教の信徒だってことですし。術式の『調整』にはこういう珍しい事例が非常に助かりますから、別にいいですけどね」
言うまでもなく、時人はローマ正教徒ではない。
だが、かつて学園都市で"運び屋"オリアナ=トムソンが誤って姫神(みんかんじん)を攻撃したように。
あるいは修道女オルソラ=アクィナスが「身元引受」の証として十字架を受け取ったように。
特定のアイテムさえあれば、立場を変える、あるいは誤認させることは比較的造作もない。
「さて、仕事も溜まっていますし、さっさと片付けてバチカンに戻りましょうか」
男は気だるげに呟くと、彼の得意かつ唯一の術式を起動させた。

「優先する。人体を上に、呪力を下に!」

487とある右席の自由時間(フリータイム):2010/10/03(日) 22:13:01 ID:vL31eD7Q
術者の部屋から逃げ出そうとしていた男も始末し、一息ついたアックアは周囲に人払いの結界を張ると、

「いるのだろう? 前方のヴェント」

周囲に響き渡る――実際は結界のおかげで聞こえても意識できないが――大声でその名を呼んだ。
「そんな大声出さなくても、ちゃんと聞こえてる」
呆れたような声とともに、物陰から全身黄色のワンピースに身を包んだ女が姿を現す。
前方のヴェント。アックアと同じく『神の右席』に属するローマ正教屈指の魔術師である。
「気づいてたみたいね。さすが聖人、ってところかしら」
茶化すように笑い、不意に表情を厳しいものに切り替えるヴェント。
「私はこれから学園都市を攻める」
「……そうか」
「上条当麻ってのブッ殺して、さっさとバチカンへ帰るよ。ここの食い物はどうも口に合わない」
イタリアなめてんのか、と毒づくヴェント。
「ひとつ聞きたいことがある」
「ん?」
「なぜ、手を貸した」
詰問とも取れるアックアの言葉に、ヴェントはとりあえずとぼけてみせる。
「何のこと?」
「ゴルフの件である。私が打ったボールが何度か、不自然な軌道を辿った。まるで"風に運ばれている"ように」
ヴェントの属性は『風』。空気の流れを操ることなど造作もないだろう。
「……ほんの気まぐれ、かしらね」
ぽつり、と彼女はこぼした。
「兄妹で幸せに暮らせるなら、と思っただけよ」
呟くと同時、背を向けてそのまま歩み去っていくヴェント。その心中はいかなるものだったろうか。
彼女の背を見送りながら、アックアは心のどこかでヴェントに敗北してほしいと願っている自分に気付いた。
後戻りできなくなる前に。誰かが引き戻せるうちに。
「幸せに……か」
そして願わくば、上条当麻も普通の生活に戻したい。
たとえ右腕を失うことになろうと、彼を大切に想う者たちが冷たい涙を流すことのないように。

「行くか、学園都市へ」

既に後ろ姿の見えなくなったヴェントの足跡をたどるように、彼もまた戦場へと歩を進めていく。
空はまるで水面のように曇りない青を湛えながらも、遠くから近づく雨雲の気配を匂わせていた。



                                               了

488▲▼:2010/10/03(日) 22:27:35 ID:vL31eD7Q
というわけで、書き始めたら気付いたらめちゃくちゃ長くなってましたが、
「とある右席の自由時間(フリータイム)」投下させていただきました。

コンセプトは「一話完結型の時代劇」です。なので、名前すらなかった敵術者のくだりは
「悪代官の屋敷に斬り込みに来る暴〇ん坊将軍」みたいな感じのテンプレに沿ってみました。

あとは、シリアスに書きたいのかギャグにしたいのか分かりにくかったと思いますが、
アックアは真面目な正確なままギャグに落とし込める貴重なキャラだと思ったので、気付いたら
こんな感じになっておりました。

大急ぎで書いたので口調とか間違ってたり、「アックアはこんなヤツじゃないやい!」という
お叱りも多々あるかとは存じますが、お楽しみいただけると幸いです。

489■■■■:2010/10/03(日) 23:37:30 ID:dYSonwLQ
>>488
GJ! これで初めて……だと……?
アックアさんは本当に動かしやすいキャラですね。ギャグでもシリアスでも無問題。
『2番アイアン』には思わず吹いちまいましたよw あとその根拠のない自信はどこから来るのかという。
テッラ様はローマ正教徒には慈悲深いよなぁ……あんな活躍をしてくれるとは予想外でした。
ヴェントのくだりは切なかったです。三戸浦兄妹の姿に自分達の過去を重ねてしまったのでしょうね。
なんだかんだ言っても、きっちり連携してますよね『神の右席』。ん? 誰か忘れてる気が――
とても初投下とは思えない良作に、乙&GJです。今後の投下も期待していいですよね? 楽しみにしてます。

490■■■■:2010/10/04(月) 23:50:42 ID:qisL/GwI
小ネタです。初めてでド下手です。不愉快に感じる人は飛ばしてください

「私と付き合ってください」
美琴は今日覚悟を決めて、夏休みの最後から抱き続けてた思いを愛する人にうちあけてみた。上条は優しいし、絶対成功するはずと美琴は思い込んでいた。
「ゴメン…俺にはお前を幸せにできない…お前ならもっと良い人と付き合えるよ」
だが現実はそう甘くなかった…上条はそう言ってたちさってしまった。上条は記憶喪失である…だから自分の気持ちはわからないし自分が一人の人に愛をそそぐのはいけないと思い込んでいた。それに美琴が本気で自分に恋心を抱いているなんて考えてなかった。それがどんな結果に陥るかもしらずに…
「うそよ…嘘嘘嘘嘘ウソうそ…あはっあはははっははははははははは」気がついたら美琴は奇声を発し上条をおいかけていった。
(しまったなあ。あんな断りかたしたら明日から合いにくいなあ…まあ大丈夫か…御坂は竹を割ったような性格だし)上条は少しさっき断ったときのことを思い出して後悔していた。ビリッバリバリその直後、激しい衝撃が上条の頭を襲った。
「な…まさか魔術師…インデックスが…いや電撃か……ミ…サ…カ…?」上条の意識は深いそこに沈んでいった。

同じ初めてだとはおもえねえよ>>488さんパネエ

491▲▼:2010/10/05(火) 00:23:28 ID:ABOrBuOM
おお、何だか予想外に好評で驚いてます……あ、あとすみません。
誤解させてしまったみたいで申し訳ないですが、「禁書目録」で
SSを書いたことはこれが初めてですが、他作品でも少しだけあります。
「禁書目録」にハマったのがつい最近なもので……

あとすみません、初心者で恐縮ですが、皆さんと同じように名前は
「■■■■」で揃えたほうがいいんでしょうか?

>>489さん
実は2番アイアンの台詞を言わせたかったがために、このSSを作りましたw
挿絵を見て、アックアさんゴルフウェアだよなぁと思ってたら、なにげに
初登場時に明記されてたんですね、ゴルフウェアw
あと、個人的には見た目含めてテッラ様大好きですねー。

>>490さん
GJです!
うわ、絶対上条さんはこう言って断るだろうなぁ。だって上条さんですし。
アレイスターさんも想定外の事態に「あー、えーと。どうするかなこれ……」
とか冷や汗かいてそうですw


好感触っぽいので調子に乗って、明日あたりワシリーサのSSとか書いてみて
投下してみますね。

492■■■■:2010/10/05(火) 01:01:58 ID:.NC4N8N.
>>491
こういう風に、気持ち悪い褒め合いをするから
人が寄り付かなくなることを覚えろ

493■■■■:2010/10/05(火) 02:17:06 ID:sb8c/fzo
>>492
別にここが過疎り始めたのはそんなことが原因ではないと思う。
上琴厨を毛嫌いする雰囲気を嫌って普通の上琴ファンまでいちゃスレに
移住した頃から過疎は始まっているし、逆にトゲのある中傷コメントが
減ったことは良いことかなと思ってみたりもする。まあ、最近の過疎り
っぷりは寂しいの一言に尽きるのは確かですけど。
過剰な褒め合いは確かに良くないかもしれませんが、中傷コメントとも
とられるようなアドバイスのないコメントもそれ以上にスレの雰囲気を
悪くし人を寄りつかせなくなると思う。

>>490
初投稿お疲れ様です。
今回の小ネタはこれでお終いでしょうか?
僭越ですが、少しばかりアドバイスというか感想を書かせて貰います。
話がこれで終わりだとすると少し尻切れトンボのような気がします。
この後上条さんと美琴の関係がどうなるのかといった読者にも先が読
めそうなところまで展開させてから話を終わらせて欲しかったです。
あと文章的には途中誰の心理描写なのか判り難い所がありました。
下記の「とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ 」の 禁書風味SSの
書き方例などを一度見てみるのも良いのではないでしょうか。
ttp://www21.atwiki.jp/index-ss/pages/99.html

4942:2010/10/05(火) 05:09:56 ID:6AJFwgAQ
ttp://draft-bbs.com/index.html

495■■■■:2010/10/05(火) 07:43:55 ID:OTrgI.RQ
>>491
超GJです!!めちゃめちゃ面白かったです!!
自分はアックアさんが禁書で一番好きなんでとても気に入りました。
真面目にギャグを担当できるカッコいいキャラっていいですよね。
自分も「この距離なら、2番アイアンであるか」には吹きましたww
でも一番印象的だったのは、左方の人の働きですね。
いままで噛ませ小物だと思っていたテッラが超カッコよく思えましたww
ひとつアドバイスみたいなものがあるとすると、
アックアさんの語尾の「である」が特に前半で少なかったように感じるので、
少しキャラの語尾に注意して書いてもらいたいです。
これからも投稿、お願いします!

496■■■■:2010/10/05(火) 16:59:09 ID:/vysRHuc
493さん アドバイスありがとうございます。
参考にさせてもらいます。

497■■■■:2010/10/05(火) 22:34:04 ID:8tFP1edg
おお、上琴でフラレネタは新鮮!!

498■■■■:2010/10/06(水) 02:09:31 ID:7ZW/HR9o
 かなり遅いレスになってすいません…。
>>448
 感想どうもです。
 まさか、そんな風に評価してくださる人がいらっしゃったとは…。
励みになりました、頑張ります!

>>449
 感想どうもです。
 はっきりしていないんですが、サイモンはイメージ的には449さんの3つの特徴全部足して3で割った感じです。
つってもあくまでイメージなんでこいつがどうなってくかは…?です。

 えっと三日間作者です。投稿に少し間開けてしまいました。
今回は伏線回収後編ってコトで…。6,7レスほどもらいます。

499三日間〜Three Days〜 3rd.28:2010/10/06(水) 02:11:51 ID:7ZW/HR9o

「神の子、だと?」
 土御門が一体何を言っているかわからないという風に聞き返す。その横のステイルも同じような表情だ。
「左様。かつて一二使徒を率いた十字教の開祖、正確には同等の力を彼に覚醒させるのだがな」
 そう言うサイモンの視線は身動き一つしない篠原に向いている。
 神の子。
 イギリス清教、ローマ正教、ロシア成教を束ねる十字教における最重要人物。その力の強大さは聖人の力がその一端を担ったものであることを考えると想像に難くない。
「はっ、何を言い出すかと思えば」
 そこで口を出したのはステイルだ。
「不可能だな。たかがいち魔術師にそんなたいそれたコトが出来ると思っているのか?」
「ああ、可能だ」
 一笑のもとに切り捨てたはずが、間髪いれずに返された言葉に神父は思わずつり上がっていた口元を元に戻す。
「理論は一五年以上前には完成していた。まあ一番の材料が見つからなかった故、当時は半分諦めていたのだがな。」
 そこまで聞いた土御門の表情が更に一変する。
「材料だと? まさかっ……!?」

「そう、聖人だ」

「まったく、彼を見つけたときには興奮で震えが止まらなかったよ、まさか十字教徒に発見されていない聖人が居たとは。なにせ私の理論では、神の子の身体的特徴をもつ聖人の身体が必要不可欠だったのだからな」
 サイモンは休むことなく軽快に口を動かせる。
「程なくして『必要悪の教会』を抜けた私は、時間をかけて彼に神の子の生涯になぞった魔法陣をかけていった。私の研究成果のひとつである、人体への魔法陣の描画を用いてな。そして今その仕上げが済んだというわけだ。まあ他の者達が刻もうとした魔法陣も補助ぐらいにはなるかと思っていたが、ないならないで別段問題はない」
「待てよ……」
 今まで黙っていた上条が、そこで初めて声を上げた。
「お前の理屈なんか知らない、聞いてわかるもんでもないしな。それより、何で篠原がそんなことに協力してるんだ? あいつの話じゃこれはあいつの寝たきりになった母親を救うための儀式のはずじゃねえのか?」
「無論、それも目的のうちだ」
 肯定はされたが、上条は逆にますますわからなくなる。
「聖母、といえばそこの魔術師達ならわかるだろう」
 その言葉にピクッと二人の魔術師が反応する。
「なんだ、どういうことなんだ?」
「……神の子と親子の関係にある聖母は、無論その身体的特徴が非常に似通っている『聖人』だ。要するに、篠原が神の子となればその母親は聖母としてやはり強大な力を得ることが出来るって言うわけだ、だが――」
 土御門はそこで一度はっきりと言い切らないような口ぶりの言葉を切った。
「ヤツの母親がどんな状態かは知らないが、力を得たところでそれが回復するとは思えないがな」
「そこはもちろん考えてある」
 そう言葉を返すサイモンに、土御門はその力を回復に向けるための術式の説明でもくるのかと思った。だが、歪んだ笑みを浮かべるサイモンから出てきた言葉はそれとは程遠いものだった。
「あらかじめ、彼女の身体に圭様と同じ『罪』を、人間の負の感情を凝縮させた呪いを刻んである。もともと放っておけば程なくして意識が目覚めそうだったのでな。そして圭様が『神の子』となられれば彼女は聖母となり、『聖母の慈悲』によって晴れて彼女は回復し、全ては解決する。きちんとドラマは用意しておいたよ、彼の望む結末と私の望む結果が一致するようにな!!」
 その言葉に上条は絶句する。
 篠原が必死に、それこそ自分の命を賭けてまで目的を果たそうとしていたのを見た。
 だがそれも全てこの目の前の黒いスーツの男によって騙された結果だったのだ。
 リアがぼろぼろになりながら泣きそうな顔で懇願してきたことも、篠原が今死の淵にいることも、全ては。

500三日間〜Three Days〜 3rd.29:2010/10/06(水) 02:12:37 ID:7ZW/HR9o

「……ふざけんなよ…・・・」
 絞り出すような声が無音の空間に響く。
「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 その声を一瞬で叫びに変えながら、上条は再び突進していく。
「別にふざけてなどいないが。ともかく、成すべきことは全て終えた。あとは――」
 そう言いながら眼鏡の男は黒いスーツに手を入れる。そこから出てきたのは五本の小さなナイフだ。
「あとは貴様ら不穏因子の排除というわけだ。」
 言うが早いか、その手の中のナイフが一斉に放たれる。
 雷撃ではない攻撃に少し意表はつかれたものの、それでもナイフがこちらに到着する前に上条はその軌道から外れるために横へと動く。ちらっと後方へ視線をやると、さっきまで居た二人がもう見えない。どうやら既に動き出していたらしい。
 そして目線を前に戻した上条は目を疑った。
 三本のナイフの軌道が上条の方へと変わっていたからである。
 慌てて頭を下に振ることで避けれたが、それで状況は終わらない。それらはUターンして再びこちらへと向かってきていた。
「偽小刺剣(リトルスタッブ)といってな。」
 そこでまたサイモンが口を開いた。それを他の二本をかわし続けるステイルが睨みつける。
「刺突杭剣を作る過程で出来た失敗作だが、それでも刺突に関してはかなりの威力を持つ。それこそ、貴様の炎では防げないほどにな。それが貴様らを追尾していく故、出来るのは逃げることだけ、ということだ」
「そうでもねえよ」
 ガキィィィィィッと、突然何かが砕けるような音が響く。
 その音源は右手を前へと突き出していた。手からは恐らく二本のナイフだったのであろうものの破片がばらばらと落ちていく。
「それが魔術の使われているものだってんなら、俺が右手で触れるとそれは簡単に壊せる。こんな風にな!」
 上条はそう言いながら右手を乱暴に振り回す。それと同時にまた固いものが砕ける音がして、上条の右手から逃れて再び襲い掛かってきた最後の一本が粉々に砕かれた。
「あとは横からの攻撃に弱いってところかな。正面からなら確かに驚異的な威力だが炎を回り込ませればどうにかできないこともない」
 そう言い切ったステイルの周辺にも残る二本のナイフが黒く焦げてからんっ、と屋上の床に転がる。
「……たしかに。それが霊装である以上貴様の幻想殺しに触れるだけで破壊される、側面が弱いことも事実だ。だが貴様ら、そうやって傷を負いながら全てを破壊するつもりか? 偽小刺剣はまだいくらでもあるのだぞ」
 そしてサイモンは今度はさっきの倍以上のナイフを取り出す。
 それを見て、上条はくッとうめき声を上げながらさっきできた左腕の傷を抱えて片膝をついた。
 この傷はとり損ねた一本が通過していってできた傷である
 たしかに、こうやってナイフを破壊していっても傷は増える一方だ。しかも今度は本数が増やされている。こんな調子で何本も投げつけられるとひとたまりもない。
 ステイルに関しても、ナイフ自体は打ち壊せてもその衝撃までも捌けるものではないらしい。黒尽くめの服はところどころ破け、そこからは赤いものがにじんでいた。

501三日間〜Three Days〜 3rd.30:2010/10/06(水) 02:14:05 ID:7ZW/HR9o

「なら、こっちはお前の弱点をつかせてもらおうか」
 傷を負った二人の逆側でナイフの射程から逃れていた土御門は、そう返しながら何かを取り出した。
 その黒光りする物体を見て上条は思わずぎょっとする。
「待てよ土御門! ……お前、何するつもりだ?」
 そう聞きながらも、上条は目の前のクラスメイトが取り出したものと言葉から感づいていた。
 あれは拳銃だ。
 無論そんなものでサイモンの霊装に勝てるわけがない。
 ならばすることは?
「決まってんだろ? 篠原圭を先に潰すのさ」
 そう言いながら土御門は拳銃を剣の生えた篠原へと向けた。
 それを見た上条は反射的に土御門に向かって駆け出す。
 だがそれよりも土御門の動く方が早い。その手からパンッと乾いた音が響き、銃弾が血を吹き出させる。
 ただし、その血は篠原圭のものではなく、上条当麻のものだった。
 その光景に、土御門が動く前に篠原の壁になるように立ったサイモンは少し目を見開く。
 とっさに転がったおかげでそれは肩を掠めた程度で済んだが上条の顔に安堵の色は浮かばない。
「……まあ、予想はしてたんだがな。こうなった以上優先順位は危険因子の排除、それはこの場ではあの得体の知れない魔術をかけられた篠原圭だ。」
 未だ硝煙が上る拳銃を上条に向けたまま土御門はサングラス越しに睨みつけている。
「だからもうここから消えろ、上条当麻。貴様にヤツを処分する意志があるとは思えないからな。もし邪魔するなら、容赦はしない」
 上条も土御門を睨みつけたままよろよろと立ち上がった。
「お前はっ……俺がはいそうですかって家に帰るとでも思ってんのかよ!」
「ならお前もヤツと同じように転がっててもらうだけだ」
 そこから両者は一歩も動かない。
 遠くから聞こえていた爆発音もなくなりそこは外とは思えないほど完全な沈黙に包まれる。
 それを破ったのは土御門に向かって飛んできた複数のナイフだった。
 それらをギリギリのところで避けた土御門は、再び襲ってくるであろうナイフから逃れるために駆け出す。
「まさかここで仲間割れとはな」
 ナイフを投げた片方の手をこちらに向けたまま、口元を上げたサイモンが続ける。
「くくく……分が悪そうだな幻想殺し。どうだ、加勢してやってもいいのだぞ?」
 それを聞いた上条が明らかに自分を逸れて傍を飛んでいくナイフの方に右手を振り回す。二本のナイフが砕ける音がしてばらばらになりながら床に転がった。
「ふざけんなっ! お前は俺の敵だ!」
 土御門は残るナイフを傷を作りながらもかわしつつ、それらに側面から銃弾を当てて一つずつ砕きながらサイモンを睨みつける上条の方をチラッと見る。
(ちっ。本当に甘いな、カミやんは)
「『敵の敵は味方』に非ず、か。まあそれもよかろう」
 そしてサイモンは手の中のナイフをしまい、近くにあった入ってきたときに放っていた大きめのトランクケースに手をやる。
「もう一つ、面白いものを見せてやろう」

502三日間〜Three Days〜 3rd.31:2010/10/06(水) 02:14:34 ID:7ZW/HR9o

 そこから上から吊り上げられるように出てきたのは人、いやそれぐらいの大きさの人形だった。

 それが不自然にかくかくと動きながらこちらに手をかざす。それと同時にそこから白い電流が走った。
「なっ!?」
 電流は完全に見当違いの方へと飛んでいき、出入り口付近の壁を砕く。
「ふむ、飛び道具に関してはまだ調整がいるか」
 サイモンがまた淡々とした調子で呟く。
 その一方で上条達は目の前の異様な光景に呆然としていた。
 土御門は目の前の人形に心当たりがあった。あれは実験などで使われる耐衝人形(デコイ)だ。そしてたしか最近それが紛失した事件があったコトを思い出す。
「まさか、一昨日に研究所を襲ったのは貴様らか!」
「ああ、『彼』は第一三使徒、マティアだ」
 かみ合わない返答をしながら黒スーツは続ける。
「まだ若干の調整は必要だが他の者たちよりはるかに優秀だ。まあいずれ、使徒は全て『彼』と同じものに替えるつもりだがな」
 使徒マティア。
 ユダの裏切りおよび死後、一二使徒という完全な形態を保つために新たに選出された事実上一三番目の使徒。
 それが、ギリギリと不快な音を立てながら不自然な歩き方でこちらに向かってきていた。
「『サイモン(ペトロ)』率いる一二使徒と神の子か。どういうつもりだウォーレス!」
 最初に問い詰めたのと似たような言葉で、ただし余裕のない口調でステイルが問いかけた。
「無論、神の子と共に世界を変えるまで」
 ウォーレスという言葉に次は一切の反応を示さず、サイモンは誇らしげに言い切る。
「この世界は社会も人も、十字教ですらもう汚れきっているのだ。ならば今こそ『神の子』が復活するべきだろう、そして私は彼と共に――」
「もういい、わかった」
 演説を途切らせられたことに多少イラついた様子を見せつつも、サイモンはそれを押さえ込み土御門の方を見る。
「ほう、理解したか」
「ああ、貴様がイカレた狂信者だってことがな」
 サイモンが一瞬その表情を明らかに怒りに歪め、そしてその手に再び何本ものナイフを握った。
 
「――行け」

 そのサイモンの言葉を合図となる。
 不自然な動きの人形が土御門に向かって物凄いスピードで突進していく。それを土御門は拳銃を構えながら後退しつつ迎え撃つ。
 残る二人はサイモンに向かって攻撃を仕掛けた。ステイルは炎の剣を、上条は右手を振りかざしながらそれぞれが突進していく。
 だがそれと同時に既に複数のナイフがこちらに向かって飛んでいた。その量はさっきとは比べ物にならない。
「くっ」
 反射的に二人はナイフの軌道から外れるために横に飛ぶがそれでも避け切れなかった幾本ものナイフが彼らの体の表面を削り取っていく。かつ避けた分が再びこちらに迫ってきていた。
 それだけでは終わらない。
 サイモンがまたもナイフを投げつつ、さらにバヂバヂッと雷撃までも放つ。それは彼らを狙い、また彼らの逃げ場を失くしていく。
(くそっ、このままじゃ……)
 上条は一方的なこの状況を打破しようと考えるが何も思いつかない。それどころかこの状況をしのぐことで手一杯だ。
 どうやらステイルや土御門も同じようで、攻撃を避けつつも確実に傷は増えていっている。それでも土御門は拳銃で、ステイルは炎剣でそれぞれサイモンに攻撃を放つが、それらは当たる寸前で全て光のカーテンに阻まれる。
(くそ!)
 上条は覚悟を決めて、右手を盾のようにかざしながらサイモンに向かって突進した。作戦は篠原のとき同様特攻だ。
 だが今は状況が違う。
 かわそうとしない上条を増え続けるナイフが一方的に刻んでいく。それでも上条は止まらない。
 そんな上条を見た土御門は目を見開いた。
「後ろだっ! カミやん!!」
 その声に反射的に振り向いた上条の目に映ったのは何本ものナイフの切っ先だった。それは距離的にももうかわしきれるものではない。
(くそっ!!)

503三日間〜Three Days〜 3rd.32:2010/10/06(水) 02:16:01 ID:7ZW/HR9o

「CR(右方へと変更)!」

 突然聞こえた声と共にナイフは全て上条を逸れていく。上条はその声と出入り口に立つ人影に覚えがあった。
「インデックス!?」
 白い修道服を着た居候の少女。その後ろには黒いスーツの少女の姿も見える。
 たしかこのシスターには後ろの少女の介抱と避難をするように言ったはずなのだが、やっぱりというか約束を守る気はなかったらしい。その表情は自分の非があるというような意識などこれっぽっちもないようだ。
「危なかったねとうま、助けに来たんだよ!」
「お前なんでっ! ……いや、ありがとう。助かった」
 言いつけを守らなかったシスターを一瞬怒ろうとしたが、上条はすぐにそれをやめ素直に感謝することにした。
 今のは多分インデックスが何かしたのだろう、じゃないと今頃自分は額にナイフを生やしていたところだ。
「嘘……篠原?」
 突然、シスターの横にいた少女が声を上げたことに上条はビクッと体を振るわせた。
 サイモンと同じ黒いスーツを着た少女、その目は半年前に再会したという幼馴染に向かっている。
 腹部から剣を生やし、ピクリとも動かない幼馴染を。
「篠原ぁぁあああああっ!?」
「落ち着けリア! 篠原はまだ生きてる!」
 上条は篠原に向かって駆け出しかけたリアにそう答えながらそれを手で制した。
 だが、本当にそう言いきれるのだろうか?
 たしかに篠原はまだ死んではいない。しかし今の仮死状態を崩せばそれだけで命を落とす。
 儀式が完全に成功すればたしかに篠原は復活するだろうが、果たしてそれを篠原といっていいのだろうか。
 『神の子』となった篠原は、本当に自分達の知っている篠原なのか。
 考えて上条は表情を曇らせる。
 それがもう戻らないかもしれない篠原を思ってのことなのか、リアとの必ず助けるといった約束を果たせなかったからのものなのかは上条自身にもわからない。
 と、その手を明らかにリアの方に向けて電流を放ちかけていたサイモンは、その手をすっと下げながらため息をついた。
「招かれざる客がぞろぞろと。人払いのルーンは刻んでおいたはずだがな」
「あの程度のルーンで僕達を欺けると思われているとはね。ましてや彼女は禁書目録だ、あんなものないに等しいよ」
「……ふん、さっきからうるさい小僧だ。まずは貴様から潰しておくか」
 そして眼鏡の黒スーツはその手を今度は赤髪の神父へと向ける。それに反応して上条や土御門の周辺を舞っていたナイフの幾らかが軌道を変えた。
 その軌道の延長線上にいるステイルはチィッと舌打ちしながらその手に炎の剣を出現させる。全てをかわしきることも壊すことも不可能だと分かりながら、それでも彼は身構える。
 だが、
「CU(上方へと変更)!」 
その言葉によって、やはりナイフは強引に吊り上げられたかのように軌道を変化させる。そしてそれらはあるものはそのまま飛んでいき、あるものは互いに正面衝突しあって砕け散った。
 目の前の光景に唖然としつつもステイルとサイモンは先の声の主視線をやる。その当の本人であるシスターはナイフの砕けたステイルの頭上辺りを見上げていた。
「『刺突』の宗教的意味を増幅させた霊装。その威力はたしかに凄いけどその分他の術式を施せなかったみたいだね、遠隔操作なら私の強制詠唱で割り込めるんだよ」
 そしてインデックスは更に口を動かして何かを唱える。
 それに反応するように逸れていった残りのナイフが軌道を変えてまだ動けないままのサイモンに襲い掛かり、サイモンの頭上の球体にぶつかり砕けた。
(クソッ、やはりダメか)
 土御門はあのナイフならばもしかしたら結界を突破できるかもしれないと思ったが、それが失敗に終わり心の中で気落ちする。
 それでも、何か策はないかと思考を切り替えた次の瞬間。
 球体にヒビが入り、そして砕け散った。と同時に、彼を囲む光のカーテンの範囲が狭まる。
「その霊装も境界っていう結界は凄い防御力を持ってるけど、それを作り出してる球体が弱点だね。そして数が少なくなると、必然的にその範囲は狭くなる」
 凄いな、と上条は思わず呟く。
 このシスターの日常を見ているとつい忘れがちになるのだが、彼女は紛れもなく一〇万三〇〇〇冊の魔道書の知識を持つ魔道図書館なのだと改めて思い知る。
 例え、いつもは人を振り回して家事ひとつ手伝おうともせず特技が大食い早食いの腹ペコシスターでも、だ。
 と、いきなりバヂバヂッと物凄い音がして上条は思わずそっちを見る。
 そこには、眉間に皺を寄せて怒りの表情でインデックスを睨みつけながら右手に異常なほど電流を走らせているサイモンの姿があった。
「禁書目録ぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
 叫びながら、サイモンはその手からとんでもない電撃をインデックスに向かい放った。

504三日間〜Three Days〜 3rd.33:2010/10/06(水) 02:16:42 ID:7ZW/HR9o

 それを見た上条とステイルの顔に焦燥の色が浮かぶ。
「インデックスッ!」
 上条はインデックスの前に立つようにその間に割って入り、そして右手を掲げる。固いものを砕いたような音が響き、走った電流は右手に着地して消滅した。
「やはり貴様も儀式の邪魔となるか幻想殺し! いいだろう、厄介な禁書目録もろとも潰してくれるわ!!」
 そう言い放った黒いスーツの男は、これまで抑えてきた感情を開放したかのような表情で懐から持てるだけのナイフを取り出す。それを握る手からは血が流れている、恐らく何本かは刀身を握っているのだろう。
(やばいっ!! あんな数一斉に投げられたらいくらインデックスだって……)
 対処できないかもしれない。
 そう思いかけた矢先、何かブツブツと呟く声が聞こえてくる。それはよく聞くと、何かの呪文のようだった。
「……それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり(IIMHAIIBOD)」
 それを唱えるのは下を向いている赤い髪の神父だ。
 ふと視線を戻すと、異変に気付いたサイモンもナイフを握ったままステイルを見ていた。

「その名は炎、その役は剣(IINFIIMS)
 顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ(ICRMMBGP)!!」

 詠唱が終わる。
 そしてそこに強大な炎の巨人が現れた。
 魔女狩りの王『イノケンティウス』。
 轟々と燃え盛るこの巨人を象った重油の人型はステイル=マグヌスの最大の魔術であり、その力は教皇クラスの威力を持つ。
「なっ……!?」
 サイモンの口から思わずといった風に声がこぼれた。それをステイルは睨みつけるように見つめる。
「僕の任務は君を回収してイギリスまで連れて帰ることだ。だからこの術は使わないようにしようと思ってたんだけどね」
 唸るような低い声で神父は言う。
 あいつ切れやがったな、と上条は思う。
 ステイルにとって一番重要なのはインデックスだ。そのインデックスに向かって電撃を放ち、潰すと言ったサイモンをまあステイルが許すことはないだろう。
 そして炎の巨人はその手を振り上げる。
「もういい、殺す」
 その言葉と同時に、イノケンティウスの振り上げた十字が思い切り叩きつけられた。
 それを目を見開いたサイモンは思わず手からナイフをこぼして手を上にかざす。その周辺に球体が集中し、結界は二重にも三重にも重なって三〇〇〇℃の炎を受け止めた。
 続く爆炎。
 ドゴオオオオオオッという凄まじい爆音と共にあたりが煙に包まれる。
「くっ……」
 煙の向こうからうめき声が聞こえる。
 そして少しづつ晴れていく煙の中からは、傷を負うことはなかったものの片膝を突いて憔悴したサイモンが現れた。それにステイルが冷ややかな目線をやる。
「しぶといヤツだな」
「……大した魔術だ。だがそれをもってしても私はまだ傷を負っていないぞ?」
「それだけ憔悴していてよくそんな大口が叩けるものだね。まあ、それなら何度でも叩くだけだ」
 そして巨人がまた手を振りかざす。

 そのとき、異様な気配を感じてその場の全ての人間は動きを止めた。

 それに真っ先に反応したのはサイモンが焦燥しながら振り返る。
「馬鹿なっ!? まだ儀式が発動するわけがっ!?」
 その言葉に、反射的に他の全員も首を動かす。
 それぞれの視線の先にいるのは、篠原だ。
 その体からは黒いもやが噴出し、彼の体を包み込んでいる。
 唖然としながらもはやその場に立ち尽くす六人。

 そして、キィィィィィィンという音と共に、彼に刺さっていた剣が宙高く舞い上がった。

505■■■■:2010/10/06(水) 02:20:52 ID:7ZW/HR9o
 以上です。
よく見るとそこまで伏線回収できてないような…。
そしてオリキャラサイモン暴走しすぎ。
やっといて自分でダメ出しです。
あと2,3回投下したら終わりそうなんで、最後までお付き合いいただけると幸いです。

506▲▼:2010/10/06(水) 02:52:33 ID:pNqkpRWA
>>505さん
お疲れ様ですー。
以前のも拝見しましたが、キャラが本当に躍動感ありますね。

そのあとに投下するのもちょっと怖いですが、私も行ってみます。

507しあわせをてにいれるほうほう:2010/10/06(水) 02:56:51 ID:pNqkpRWA
「だからねー、最近のイギリスは力つけすぎだと思うのよー」
蝋燭の明かりだけがぼんやりと周囲を照らす、薄暗い部屋。
その主である『殲滅白書』所属の魔術師であるワシリーサは、右耳につけたイヤリング型の霊装を通じて遥か遠方の
『交渉相手』と密談を交わしていた。
「暗号解読のエキスパートであるオルソラ=アクィナス、250人ものシスターを束ねるアニェーゼ=サンクティスの改宗。
天草式十字凄教の合流に、聖人・神裂火織の存在。更にはリドヴィアの身柄を押さえたことで、あのオリアナ=トムソン
さえいまやイギリス勢なのよねー。それに――」
彼女はそこで一旦言葉を切ると、
「つい先日は『神の右席』にして聖人たる、後方のアックアを撃破。その顛末を掴んでないとでも思ってるのかしらん?」
通信の向こうで苦笑する気配が伝わる。
「そんなわけで祖国思いの私としては、イギリスばっかりいい目見るのはずるーい、と思っちゃったりするんだけど。
ちょーっとひとつ頼まれてくれないかしら? 同志であるあなたに、ぜひとも手に入れてもらいたい品があるのよー」
めちゃくちゃな論理の飛躍……いや、論理にすらなっていない言い草に、しかし相手は気を悪くすることもない。
それは"相手がワシリーサの発言の意図を正確に理解している"ことを意味していた。
「やー、本当なら私が直接そっち行ければいいんだけどねー」
中間管理職はつらいのよホント、とため息をついた後、彼女はどこか楽しそうにこう言った。

「そういうわけだから、噂の『アレ』、あなた方の力で何とか手に入らないかしら?」

508しあわせをてにいれるほうほう:2010/10/06(水) 02:57:26 ID:pNqkpRWA
現象管理縮小施設。

既に「街」と呼ぶに相応しい広さを誇る「殲滅白書」の本部でも、際立って年代を感じさせる建造物の中を、
サーシャは周囲に殺意をまき散らしながら早足で歩いていた。
「ワシリーサ殺すワシリーサ殺すワシリーサ殺す」
呪詛のように呟きながら歩く姿に、すれ違う同僚たちはあからさまに視線を逸らす。

第一の質問ですが、彼女はなぜそんなにも怒り狂っているのですか。
第一の解答ですが、その問いに答えるには二時間ほど遡る必要があります。



『大事な手紙だから、中を見ちゃだめだからねー』
上司にそう厳命され、最寄りの街へ使いに出されてから一時間。
ようやく目当ての店に辿り着いたサーシャは、せっかくだし昼ごはんは外で食べて帰ろうか、などと考えながら
薄暗い店内へ足を踏み入れる。
「おお、サーシャちゃんか。今日はどうした?」
霊薬の材料を買いに行くうちにすっかり顔なじみになった、三十代後半の店主が相好を崩した。
体格がよく見た目も怖いが、意外と気前よく金額の端数をおまけしてくれたりするので、サーシャも含めて
客からの評判はそう悪くない。
「第一の解答ですが、これをお願いします」
言って、ワシリーサから預かってきた手紙を渡す。
店員はペーパーナイフでピッと封筒の端を切ると、便箋に目を落とし――その笑顔が固まった。
「あー、うん。そうだよな。サーシャちゃんも年頃だもんなぁ」
嬉しさと寂しさが絶妙のバランスでブレンドされた、何とも微妙な笑顔を浮かべる店主。
まるで可愛い一人娘のウェディングドレス姿を見た父親のような、といえばわかりやすいだろうか。
「……?」
その奇妙な反応に、サーシャは店員の手から素早く便箋をひったくると、文面に目を通す。
そこには上司の本来の筆跡とは似ても似つかない、可愛らしい丸文字でこう書かれていた。

『避妊具がほしいんです。色は可愛いピンクで、なるべく薄いのをください』

今すぐ帰って息の根を止めようと思った。

509しあわせをてにいれるほうほう:2010/10/06(水) 02:58:13 ID:pNqkpRWA
そんなわけで。

ノックの代わりにハンマーを振り上げ、まずは扉に怒りをぶつけようとした瞬間、
『噂の『アレ』、あなた方の力で何とか手に入らないかしら?』
ドアの向こうからそんな声が聞こえ、サーシャは怪訝な顔で動きを止めた。
『いやぁー、我ながら無理言ってるなーって自覚はあるんだけどねー。イギリス清教に対抗できる
レベルの品を、当のイギリス清教の魔術師に依頼するって、どう考えてもむちゃくちゃだし?』
この上司は何を言っている? それも各国の十字教が極めて微妙な関係にあるこんな時に、一体誰と話している?
『もちろん報酬は弾むわよー? 「殲滅白書」のまとめ役なんて立場にいると、なかなか他じゃ手に入らない
ものなんかも手に入っちゃったりするからねー』
内通。そんな言葉が頭の片隅をよぎり、思わず心臓が大きく跳ねた。
『やー、さすがにサーシャちゃんひとりでイギリス勢に勝てるとは思ってないけどねー。でも、やり方次第じゃ
ロシア成教内でトップくらいは狙えるんじゃないかなー?」
「………っ!」
上司の楽しげで無防備な声をそれ以上聞いていることができず、サーシャは部屋の前から走り去った。

510しあわせをてにいれるほうほう:2010/10/06(水) 02:58:39 ID:pNqkpRWA
その日の夜、サーシャはベッドの中で眠れない夜を過ごしていた。
気にかかっているのはもちろん、昼間に偶然聞いてしまった上司と『誰か』の会話だ。
(第一の質問ですが、ワシリーサはロシア成教を裏切るつもりなのでしょうか)
イギリス製の霊装の調達。ロシアの頂点を狙う。彼女は確かにそう言った。
そして、その計画の核になるのは他ならぬサーシャである、とも匂わせていた。
(第二の質問ですが、そうなったら私はどうするのでしょうか)
自分にとって、ワシリーサは必ずしも良い上司ではない。むしろ人として容赦なくダメな部類である。
適当な理由をでっち上げて、どう見ても上司の趣味でしかない拘束服を着させたり。
用事で街へ出た時、気付かないうちに背中に「見られると感じちゃうんです♪」と書いた紙を貼られたり。
自室の引き出しを開けたら下着が全部スケスケのものに替えられていたり。
盗撮された着替えシーンが、うっかりミスで危うくロシア成教の信徒全員に配信されかけたり。
今日だって、顔見知りの前で大恥をかかされたばかりだ。
(………見捨てよう)
半ば本気でそう思うが、実際そんなことはできないだろうという自覚もあった。
もしいまこの瞬間ワシリーサがロシアを敵に回したら、自分はきっと彼女の側につく。

「……違う」

がばっ、と勢いよくベッドから身を起こし、身支度を整える。

『もし君が世界の敵になっても、僕は君の味方だよ』という、使い古された言葉がある。
だが、手遅れになるまで何もできなかった者に、今更一体何ができるというのだろう?
本当に相手のことを大切に想うのならば、そうなる前に止めてやらなければ意味がないのだ。
そう、たとえ愛する相手をその手で傷つけることになったとしても。

サーシャは着慣れた拘束服――全力戦闘のための装束を身に纏うと、決意を胸に部屋を後にした。

511しあわせをてにいれるほうほう:2010/10/06(水) 02:59:15 ID:pNqkpRWA
ワシリーサの寝室の前。
「……まだ、起きているようですね」
彼女の部屋の扉、小さな鍵穴からはうっすらと明かりが漏れてきている。
小さくノックをしようと、右手を軽く持ち上げたところで、
「あれ? サーシャちゃぁん?」
中から声がかけられた。
「どうしたのー? はっ!? ま、まさか夜這い!? 夜這いなのねそうなのね――ッ!?」
「入ります」
戯言は無視して扉を開けると、鏡台の前で髪を梳いているワシリーサの姿が目に入る。
シャワーを浴びたばかりなのか、肌は軽く上気していた。
「冗談はともかく、こんな遅くにどうしたのかな? もうすぐ日付変わっちゃうよん?」
「第一の解答ですが、大切な話があります」
話を切り出したサーシャに、ワシリーサは何やらショックを受けた様子で、
「はっ!? ま、まさか愛の告白!? そしてめくるめく愛欲の宴!?」
「今すぐその口閉じないと縫い付けますが」
『サーシャちゃんつめたーい、だけどそこがいーい♪』などと呟く上司の口を一瞬本気で縫い付けようと
霊装に手を伸ばしかけ、深呼吸して気を取り直す。
「第一の質問ですが、昼間話していたことは本当ですか。イギリス清教の霊装の件です」
相手の虚をつく意味も含め、単刀直入に訊ねると、ワシリーサはあからさまにうろたえた反応を返した。
「な、なんのことかなー?」
「申し訳ありませんが、立ち聞きしてしまいました。もう一度第一の質問ですが、あれは本当ですか」
目線を逸らそうとするワシリーサだが、サーシャの真剣な視線がそれを許さない。
やがて、観念するように彼女はぽつりと呟いた。
「んー、聞いてたんならそれが真実だよ」
「第二の質問ですが、なぜですか」
「え?」
「今のロシア成教が、『殲滅白書』が、そんなに不満なのですか。本気で敵対したいと思うほど、
あなたは今ここでこうしているのが嫌なのですか!」
「サーシャちゃん……」
彼女には珍しい怒声に、ワシリーサは驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべる。
「わたっ、私は! 今の自分が、今ここでこうしていられることが何より幸せです…っ! 毎日毎日
馬鹿なことばっかりやってる上司がいて、ろくでもない目にばっかり遭わされて、でもそんな生活が
本当に心の底から楽しいと思えて……っ!
堰を切ったように溢れ出す想い。自分でも何を喋っているかわからず、それでも口をついて出る言葉は
止められない。
「あなたにとっては、そうでなかったというんですか!」
そんなサーシャの姿に、ワシリーサはわたわたと両手を振りながら弁解の言葉を紡ぐ。
「あ、ああああのね、サーシャちゃん。ひょっとして、何かとーんでもない勘違」

ぴんぽーん。

「「え?」」
慌てたワシリーサの声は、間の抜けたインターホンの電子音で中断された。

512しあわせをてにいれるほうほう:2010/10/06(水) 03:00:50 ID:pNqkpRWA
「……こんな時間に誰かしらん?」
「いや、そもそもこの部屋にインターホンなんてありませんが」
戦慄するサーシャをよそに、ワシリーサの耳元、イヤリング型の霊装が淡い光を放つ。
昼間と同じ、超長距離通信術式が起動した印だ。
『えーと、夜分遅くにすまんのよな。まだ起きてるのよな?』
霊装から響く申し訳なさそうな声は、若い男のものだった。
「お、おおおおお―――ッ! まさか、あなたから通信が入るってことは!」
『ご注文の品が手に入ったのよな。知り合いがロシアに行く用事があるっていうから、急ぎで持ってって
もらったわけなのよ。そろそろ着いてる頃じゃないのよな?」
こうしている間にも、謎の"ぴんぽーん"は鳴り続けている。
「んー、サーシャちゃん、悪いけど私いま寝間着だから代わりに出てくれる?」
「………」
心霊現象の解析と解決を目的とした部署にいるサーシャではあるが、不気味なものは不気味である。
恐る恐る扉を開けると、そこには夜中だというのにサングラスをかけた少年が立っていた。
「ちわーっ、お届け物だにゃー」
気のせいか、どこかで見たような顔だった。
「じゃ、これ。受け取りにサイン頼むにゃー」
「あ、え、ええと、サイン……って、何にサインさせるつもりですか」
「ちっ、もう少しだったのに」
舌打ちとともに『メイド誓約書』と書かれた書類を引っ込める少年をきっ!と睨み付け、ドアの外へ
追い出すと、サーシャは届いた荷物―― 一抱えもある細長いダンボール箱を持って部屋の中へ戻る。
「―――ッ!?」
まさか、これが。
「ありがとー、ちょっとごめんねー」
思った瞬間、横合いから伸ばされたワシリーサの手が、サーシャの手から箱をかっさらっていく。
「待っ――」
制止するも時すでに遅し。ワシリーサの手は瞬時に荷物を開封し、中から『それ』を取り出していた。
イヤリングからの声が、まさに見ているかのような絶妙のタイミングで周囲に響き渡る。

『じゃじゃーん! これがイギリスが誇る最高傑作のひとつ!『大天使ロリメイド』なのよな――っ!!』

「「…………………」」
何故か感極まったように涙するワシリーサと、驚きのあまりぱくぱくと口を開閉するだけで言葉の出ないサーシャ。
そんな二人に構わず、『声』は誇らしげに続ける。 
『いやー、これ手に入れるのなかなか苦労したのよな。まだ試作段階の品を土下座して譲ってもらって、
デザインを崩さないよう細心の注意を払いながら天草式の術式を織り込んだ、この世に一着だけの究極にして
至高の霊装なのよな! これなら起伏に乏しいサーシャちゃんでも存分に戦えるのよな……』
普段の彼女が聞いたらバールを持って襲い掛かるようなことを言われているが、幸か不幸か放心状態の彼女の
耳には全く入らない。入ってもそのまま素通りしている状態である。一方のワシリーサは我に返ったらしく、
「すっばらしい!! サーシャちゃんの魅力にこの霊装を上乗せすれば、あんな淫乱娘(スクーグズヌフラ)なんて
相手にもならない!」
ちなみにスクーグズヌフラは性魔術のエキスパートであり、エロい格好にも魔術的な意味があるが、サーシャのは
単なる上司の趣味であり何の意味もない。
「第三の、質問、ですが……造反する、とかじゃ、なかったんですか」
呆然と呟くサーシャに、ワシリーサは今まで見たことがないほど"本気で"慌てた様子で。
「え、えーと。ごめんねー? 別に脅かすつもりとか、いや全くなかったわけじゃないんだけどこういうんじゃなくて。
あの、ほら、サ、サプライズプレゼントー♪って感じで、ね?」
「第四の質問、ですが、」
俯いたサーシャの頬をつうっと一筋、涙が伝い、
「わあああああぁぁぁ――っ!」
すとん、とその場にへたり込み、彼女は声を上げて泣き出した。

513しあわせをてにいれるほうほう:2010/10/06(水) 03:01:09 ID:pNqkpRWA
『あーあ。泣ーかしたー』
「ちょっ!? え!? あ、あのね!? ど、どどどどうすればいいの!? と、とりあえず脱げばいいのかしらん!?」
動転するあまり意味不明な行動を出る上司。そんな中、部屋には呆れたような気の抜けた声が響く。
『えーと、お取込み中悪いのよな。それで、報酬の方はどうなるのよな?』
「空気読めよこの野郎」
『怖――っ!? 口調変わってるのよな!』
まあ、状況が状況とはいえ、今のは単なる八つ当たりである。尽力には感謝と対価をもって報いるべきなのは確かだ。
ワシリーサはこほん、とひとつ咳払いすると、泣いているサーシャをなだめるように、
「えーとね、すっごく言いづらいんだけど。これ送ってもらうお礼に、サーシャちゃんが着てるとこ写真に、その、ね?」
申し訳なさげに最低なことを口にした。そんな彼女の姿に、サーシャは涙とともに湧き上がるもう一つの感情を自覚する。
そして、その『感情』に従うまま、彼女は口にした。
「第一の解答ですが。着てもいいです」
ぴたり、とワシリーサが凍りついたように停止する。
「いま、何て?」
「繰り返しになりますが。着てもいいです」
小さく、しかしはっきりと答えるサーシャに、今度はワシリーサの目にうっすらと涙が浮かぶ。
「うわあああああん、私は嫌がるサーシャちゃんが見たくてこれ買ったのにぃぃぃぃ! やーだー!
いやがってくれなきゃやーだー!」
『うわぁ……』
駄々っ子のようにじたばたしながらマジ泣きする上司に、ドン引きする部下と通信相手。
「でっ、でも着てくれるっていうならそこは気が変わらないうちに甘えておくべきかしら!
さ、さあ、ずずずいっと着替えちゃって!」
気を取り直したのか、『大天使ロリメイド』を押し付け、ぐいぐいとサーシャをユニットバスへ押しやるワシリーサ。

やがて、着替えを終えたサーシャがカーテンの向こうから姿を現した。

514しあわせをてにいれるほうほう:2010/10/06(水) 03:03:34 ID:pNqkpRWA
「……ふ」
「ふ?」
「ふにゅぅ」
奇声とともにワシリーサが昏倒した。かと思うと、勢いよくがばっと起き上がり霊装に向かってまくし立てる。
「この度は素晴らしい品物をありがとうございました! 迅速かつ丁寧なご対応をいただき、大変気持ちの良い
お取引ができました! また機会があったらぜひお願いいたします!」
『あっはっは、ネットオークションの評価文みたいな感想、痛み入るのよな!』
「えーと、とりあえず、わかっていますよねー?」
『もちろんなのよ。これで俺らはお互い他人同士。次会ったときは初対面なのよな!』
大いに盛り上がる二人を前に、サーシャは愛用のバールをそっと手に取った。
「なるほど、これは確かに拘束服とは違います。着ているだけで魔力が増幅されていくのがよくわかります。
……殺せないまでも、あなたにダメージを通せるくらいには」
「え? えーと、サーシャちゃん? 目が怖いんだけどー」
冷や汗を浮かべる上司を前に、サーシャは心の中から湧き上がる感情――純粋な殺意に身を任せ、得物を振りかぶる。
「ぬぅおあああああっ!?」
間一髪回避したワシリーサの横を、霊装で威力を強化されたバールが通り抜けていく。
魔力の余波はそのまま向かいの壁を砕き、隣の部屋へ飛んで行った大きめの破片が、姿見の前でポーズをとっていた
スクーグズヌフラ(全裸)の頭にぶち当たり、そのまま昏倒させる。
「ちょっ、ちょっとサーシャちゃん!? それ当たったら本気で死んじゃう――ッ!?」
「ちょこまかとすばしっこいです。なおも逃げるというなら」
 びしっ!とサーシャは上司の膝にバールを向け、

「まずはその関節をぶち壊す」

「どこかで聞いたような台詞なのにめちゃくちゃ怖いぃぃぃ――ッ!?」
『あー、なんか写真どころじゃないみたいだし、俺はもう寝るのよな』
 ヴン、と小さな羽音のような音を立てて、通信が切断される。
「ちょっ、待って――」
壁際に追い詰められ、がたがたと震えるワシリーサのすぐ横に、投げつけられたバールが突き刺さる。
ひっ、と短く悲鳴を上げた彼女を見下ろして、サーシャはベルトからゆっくりとハンマーを引き抜いた。
「最後の質問ですが――」
一撃必殺の魔力が込められたハンマーが、ゆっくりと振りかぶられる。
「――言い残すことはありますか」

今夜もロシアの一角に、爆音と悲鳴が響き渡る。

                                  了

515▲▼:2010/10/06(水) 03:08:11 ID:pNqkpRWA
すみません、即興で書いて投下したものの、滅茶苦茶長かったです……
なお、お手数ですが文中の「ハンマー」は「金槌」に読み換えて下さるようお願いします。

516■■■■:2010/10/06(水) 13:07:05 ID:6HYRJYAg
>>505
GJ! 続き待ってました!!
サイモン強っ…上条さん、ステイル、土御門の三人を手玉に取ったのはオリアナくらいですからね。
でももっと驚いたのはインデックスの活躍。忘れがちですけど、対魔術師戦では最高のサポートキャラですよね。
506でもありましたが、キャラの躍動感が半端じゃないです。ラストに向けての盛り上がりも急加速で…スリリングな展開に、思わず引き込まれます。
まさかの『神の子』篠原圭覚醒!? どんな結末になるのか期待です。連載頑張ってください。

>>515
GJです! これで即興とか。
この質でこの文量を一日かそこらで書き上げたんですか? 素直に驚きです。
サーシャ可愛いですねえ。やはり彼女が大天使の器たる素養を持っていたのは必然だった。マジ大天使。
ワシリーサ良いキャラしてます。冒頭の若干不穏な会話も、正直全然黒くなかったです。ただの変態ですから、仕方ないね。
あと清教側の内通者とそのエージェント。こいつらはこの話題に関しては汎用性が高すぎるw
唯一ミスかな? と思ったのはアニェーゼ部隊の扱い。彼女達はイギリス側に改宗した訳ではなく…詳しくは原作12巻を。
続編とかってもう考えてるんでしょうか? ▲▼氏の書く長編も読んでみたいと思ってみたり。

517かぺら:2010/10/07(木) 00:41:07 ID:iyoTMkqs
投下しても良い雰囲気でしょうか?
Liberta最終話です。

問題なさそうなら、0:45くらいから10レスほどお借りします。

518終結1:2010/10/07(木) 00:48:22 ID:iyoTMkqs
「ってぇ、あの野郎……あちこち噛みやがって……」
 上条は全身に残っている歯形を擦り、夜の道を歩いていた。
 コンビニの袋を下げ、自分の寮の下まで辿りついた時、上条は妙な不安に襲われていた。
 首を捻りつつ、エレベータに乗り込み、ボタンを操作する。
 初めは無視していた根拠すらないその不安が一気に首をもたげたのは、ほど近い川沿いに雷光にも似た閃光を見たときであった。
「なんだ、ありゃぁ?」
 上条は廊下から身体を乗り出す様にして、その閃光の消えて行く様子を見た。
(どこかで………つい最近、どこかで見た気が………)
 上条は記憶を懐古する。
 脳細胞の、本当に端っこにあるような、何かが引っかかるような、その程度の記憶を。
(御坂の電撃じゃない………なにかの、魔術みてぇな)
 上条はそこまで思い出すと、寮の部屋に飛び込む。
「インデックスは……い、ない?」
 部屋の中に白いシスターの姿はない。
(小萌先生のところか? それとも―――)
 上条の脳裏に、最悪の事態が浮かぶ。
「インデックス!!」
 コンビニの袋を部屋に投げ捨て、上条は駆け出した。



 上条が部屋を飛び出した頃、インデックスは河川敷付近を走っていた。
「この辺だったと思うんだけど……」
 ちょうど上条がコンビニへと出かけたとき、インデックスは学園都市の異変を感じていた。
「魔力の流れが集まってる……見たことないものかも」
 インデックスはキョロキョロと辺りを見回し、魔力の根源を探る。
 学園都市中にやんわりと漂っている魔力に混じって、別の魔力の後も残っていた。
「誰か魔術師同士が戦ってたみたいなんだよ………」
「おや―――」
 後ろからの声に、インデックスは警戒心を抱きながらも振り返る。
 敵意のない声の主は、『妹達』と呼ばれるクローンのうちの一人だった。
「あなたはあの人と一緒にいるシスターではありませんか、とミサカは確認します」
「クールビューティーが何をしてるのかな?」
「いえ、ミサカ達はお世話になっている人の指示である物を回収しに来ただけです、とミサカは報告します」
 御坂妹は挙動不審なシスターに首を傾げつつ答える。
 インデックスは御坂妹の話をほとんど聞いていないようなくらい、周囲に気を回していた。
「どうかしたのですか?」
「ううん、なんでもない。束ねられた魔力の足跡は……向こうに行ってるのかな」
 そういうと白いフードをたなびかせ、インデックスは踵を返して駆けて行く。
「何だったのでしょうか?」
「そんなことよりも運ぶのを手伝ってください10032号、とミサカ19090号は荷物の重さに嘆息します」
 御坂妹は振り返り、自分と同じ姿をした少女に囲まれた物体に目をやる。
 白い布で覆われた細長く3メートル程の物体。
「丁重に扱ってください。ただの鉄槍ではないらしいので、とミサカは進言します」

519終結2:2010/10/07(木) 00:48:32 ID:iyoTMkqs
「この辺だとは、思うんだけどな」
 インデックスが御坂妹と遭遇していたころ、上条はそこから少し上流に登った所に辿りついていた。
「インデックスは………いねぇか」
 キョロキョロと辺りを見回し、人影を探す。
 探していたシスターさんどころか、魔術師と思しき姿すら見えない。
「ちくしょうっ!!」
 上条は川沿いに目をやりながら地を蹴る。
 どちらに走ればいいのかは分からなかったが、なんとなく、駆けださなければいけないような気がした。
「とりあえず、むこ―――っ!?」
 どんっ、と柔らかい何かに激突したような衝撃を受け、上条は体勢を崩す。
 ちょうど人とぶつかったような衝撃に、若干慌てながら、上条は顔の前で両手を合わせた。
「すいません、前見てなくて―――?」

 誰も、いない。

 上条はキョトン、とした顔で周りを見る。
 少なくとも周囲に誰かが居る気配はない。
「? おかしいな………」
 確実に『誰か』とぶつかったはずなのだが、上条は首を捻る。
 ぶつかった事もスルー出来るくらいに急いでいた人なのだろうか。
 人にぶつかるようなことがあれば、大概は不幸な目にあう上条にとって、何もないのは最高に幸せではある。
「なんだ? 気味わりぃな……」
 上条が何気なく右手を上げ、頭を描こうとしたとき。
 バギンッ! という何かが壊れるような音が周囲に響く。
「っ!?」
 上条の目が驚愕に見開かれる。
 慌てたように右手を振り抜く。何かの布のようなものに引っかかったような感触が上条の手に残る。
「あーあー、ニーベルンゲンに伝わる隠れ蓑だって聞いてたんですけど………偽物つかませれたかな?」
 楽しげな、それでいて背筋を凍らせるような女の声。
 殺気をはらんだようなその声の主は、ゆっくりと黒いコートだった物を捨てる。
「ふむふむ。なるほど、そういうことですか」
 冷たい視線が、上条へと向けられる。
「な、なんなんだよ………」
 彼女の目にあったのは、ただ単純なる興味だった。
 友達や、恋人や、憧れの人へ向けるような興味ではなく、もっと単純な。
 小さな子供が、与えられた新しい玩具に向けるような、興味に満ち溢れた視線。
「やぁやぁ、まさかこんなに簡単に遭えるとは思ってなかったですよ、『幻想殺し』。いや、上条くん?」
「て、テメェ………」
 上条は奥歯を噛みしめる。
 身体の中に危険度を指すメーターでもあれば、確実に振り切っていたであろう。
「魔術師か?」
「ふふふ―――」
 上条の問いに、パウラは嘲笑した。
 魔術師、という呼ばれ方に不満を抱くような、くすぐったがるような、そんな表情を浮かべている。
「個人的なこだわりなんですけどね―――」
 パウラは右面についた仮面に手を添える。
 暗い中に赤く光る目のような光点が、点であるにもかかわらずドロドロとした血の流れを感じさせる不気味なものだった。
「科学者、って呼んでくれた方がしっくりくるんですけどもね。あ、パウラでも良いですよ? 愛を込めてくれれば」
 そう言って、パウラはニヤリと口角をあげる。
 背筋が凍るような言葉に、上条は足が震えるのを感じた。
「科学者………パウラ………アンタ、もしかして」
「っと、もしかして、ということは……もうアレからお聞きになったみたいですね」
 それは好都合だ、と言わんばかりにパウラは懐から小さな槍を取り出す。
「その右腕、提供してもらえませんか?」
 ダンッ! という地面を蹴る音がしたかと思えば、パウラは2、3メートルあった距離を一瞬でゼロにすると、上条へと刃物を向ける。
「くそっ!!」
 連日の戦闘で動きの悪い身体を殆ど引きずるようにして、上条はその一撃を横っ飛びにかわす。
 対象のいなくなった刃物が空を切る――――――筈だった。

520終結3:2010/10/07(木) 00:48:45 ID:iyoTMkqs
「つっ!?」
 上条は自分の腹部にかすかながら痛みを感じる。
 バッサリと切られた服の奥に、赤黒い血がにじむのが見えた。
(傷が開いた!?)
 上条は一瞬、傷口へと気を取られた視線を、パウラへと戻す。 
 相変わらず笑っている彼女の手には、血で彩られた槍状の刃物が握られていた。
(かわしきれなかった?)
 自分の身体が100%思い通りに動いていないのは分かってはいたが、それでもさっきくらいの一撃なら問題はなかったはずだった。
 上条は思う。
 科学者と名乗るだけあって、戦闘には余りにも『緩慢にみえる』その一撃は、図らずも喧嘩慣れしている上条には余裕をもって回避できる攻撃であったはずだと。
 理解を超えた何か、が混在している。
 その事実に上条が気付いたとほぼ同時に、パウラは楽しげに口を開いた。
「私の姿がどう見えてますかね、上条くん」
 ゆらり、と、陽炎のようにパウラの姿が消える。
 声だけが聞こえる方には、何の影さえも見えない。
(何か、仕掛けが………霊装はどれだ?)
 幾つか心当たりはある。
 壊れたはずの黒いコート。血のような赤で光る目。そして、持っている小さな槍。
「見えてるものがすべてじゃない、なんて哲学的な事を言うつもりはないですがね」
「うあっ!?」
 『消えているように見えた』パウラは、上条のすぐ後ろに姿を現すと、持っている刃物を振るう。
「っ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 怯みかけた心を立て直し、上条は右手を握る。
 異能の力に対し、絶対の効果を発揮する『幻想殺し』を、パウラの持つ槍へと照準を合わせる。
 固く握られた右手は、槍を掠めるような軌跡を描き、拳を向けられた槍の切っ先は、上条の右頬を切る。
 赤い血が飛び散り、上条の右手と右頬に鋭利な切り傷が真っ直ぐな線となり現れる。
「狙いは良かったと思いますけどね? 残念、コレには魔術要素はないんです」
 してやったり、という満足げな表情で、パウラは上条を見下すように笑っている。
「異能の力以外は、打ち消せないんですよねぇ?」
「…………………………………」 
 上条は口をつぐんだまま自らの右手に、ちらりと視線を向ける。
 ポタポタと滴り落ちる血が、地面に染みを作っていく。
(傷は深くねぇみたいでよかった……)
 刃物に対し、掠めただけで済んだその傷は、上条にとって継承と呼べる程度のものであった。
 だが、『もし右手で、真正面から槍を受けていたら』―――――。
 今頃、右腕は血だらけになっていただろう。
(結果的にはいい結果、ってことなんだろうけどな………)
 上条は右手を握りしめ、また開く。
(まだアイツの魔術の正体は掴んでねぇ……けど、恐らくは何らかの方法で『光を捻じ曲げ』てる)
 上条はつい最近のありがたーい補習で聞いた、小さな先生の言葉を思い出す。

「いいですかー、上条ちゃん。五感を誤魔化す能力にも幾つかあります。気配を断つ『視覚阻害(ダミーチェック)』、光そのものを捻じ曲げてしまう『偏光能力(トリックアート)』、その他にも―――』

(『偏光能力』に似た効果の魔術だと思うんだが………くそっ)
 上条は奥歯を噛みしめる。
 今目の前に立っているように『みえる』パウラが、本物かどうかすら分からない。
 右手で触れることが出来れば、打開策は発見されるかもしれないものの、『見えない物と闘う』なんていうことはまさに雲をつかむような話だった。
 その実験がてら少しずらして攻撃してみたら、今回のパウラは見えるままが実像だった。
(いっそずっと使ってくれてた方が分かりやすくていいんだけどな)
 息を整え、唯一の対抗手段となりうる右手を握る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 上条は真っ直ぐに、パウラがいるように見える場所へと駆ける。
 勘でしかないその行為は、判断ミスであれば命取りではある。
 それでも、上条は動くしかなかった。
 ニタリと笑うパウラの手に握られた刃物が月光に煌めく。
 現か幻か。
 上条には分からない。
 上条の突き出した右手よりも早く、刃が振り下ろされる。

521終結4:2010/10/07(木) 00:49:01 ID:iyoTMkqs
「ここは………」
 無機質な白い天井が眼に入る。
 寝かされているベッドは移動可能なパイプ式で、どう考えても寮の一室にあるようなものではない。
 上半身を起こし、布団の中から腕を取り出す。
「っ! と……」
 その行為に妙な重さを感じ、雨宮は視線を向ける。
 月明かりに照らし出されたのは黒い髪と泣き腫らした痕の残る顔だった。
「気が付いたかい?」
 ふと、病室の扉が開き、低い声が響く。
 見舞いの女の子を起こさないよう程度に留められた声の主は、カエルのような顔の医師だった。
「術中からずっと心配してくれてたみたいだよ?」
「…………そうですか」
 雨宮は佐天の頭の上に手をそえる。
 寝息で軽く上下するその肩は、彼女が生きていることを実感させるものだった。
 数秒だけ、柔らかな目で彼女を見ていた雨宮は、病室に入ってきた医師に目を戻す。
「生きてるんですね、俺」
「どうやったかまでは知らないけどね。その子が言うには、青い服の外人に助けてもらったらしいね。いきなり屋上に患者が現れるなんて初めてだったね?」
 はて、とでもいうかのように、医師は手を顎に添える。
 深く考えているのかいないのかもわからない、読めない表情だった。
「さて、本題だけどね」
「なんですか?」
 佐天の頭から手を離し、雨宮はベッドから下りる。
 軽く体を動かしてみるも、動きに問題はなさそうだ。
「レベル4であるはずの君が、能力開発も受けていない体だったって言う事には触れないでおくよ?」
「沢山の妹さんを紹介して、案内までしてくれた貴方が知らなかったと」
「あの時は『まだ』患者さんじゃなかったからね? それより、話を進めるけどいいかな?」
 表情一つ変えないで、カエル顔の医師は続ける。
「IDを持たない人間がこの街の外を囲んで何やらお祭りをしているらしいんだね」
「なるほど。それに乗り込んで一緒に踊って来い、ってことですか」
 雨宮は着ていた手術衣を脱ぐと、隣に畳まれていた学生服に袖を通す。
「ちなみに、街の中の不審者にはあの少年と小さいシスターさんがお話してるみたいだよ?」
「上条とインデックスか………俺も、どうして貴方がそこまで知ってるのかは聞きませんよ」
 雨宮は着替え終わると、その場を病室の扉へと向かう。
「その子、疲れてると思うんで寝かせてあげて下さい。あと、起きたら『ありがとう』って伝えてもらえるとありがたいです」
「自分で言えば良いじゃないのかな?」
「そうですね。縁があれば、そうします」
 雨宮が扉を開いた先、廊下には白い布で覆われたものを持った妹達が控えていた。
「恩に着るよ」
「いえ、以前、最後までご案内出来なかったお詫びとでもとってください、とミサカは頭を下げます」
 雨宮はその布を投げ、その場から駆けだす。
 殺せない槍を手に、胸に刻んだ願いを行使する為に。

522終結5:2010/10/07(木) 00:49:58 ID:iyoTMkqs
「刃の軌道を上に! 斬撃を停止し、その正体を現せ!」
 上条の右の方から、透き通るような声が響く。
 その瞬間、刃を持つパウラの左腕が跳ね上がり、見えていた姿が蜃気楼のようにぶれる。
「なっ!?」
 新たに現れた『本当の』パウラの姿は、驚愕の表情で彩られていた。
 上条は思い切り腰を捻り直し、右腕を振るう。
「うおおおおおおおおおッ!!」
 渾身の力で振るわれた右腕は的確にパウラの左頬を射抜く。
「がぁっ!?」
 パウラの身体が宙を舞う。
 地面を転がり、2、3メートル先で横たわっている。動く気配はない。
「とうま!」
「やっぱり、さっきのはインデックスか………わりぃ、助かった」
 上条の元にインデックスがパタパタと駆け寄ってくる。
「とうま! また一人で無茶したんだね」
「はぁ、そう言うお前も一人で行こうとしてたんじゃねぇかよ」
「もうっ! 私はともかく、とうまは魔術とは無関係のはずなんだよ」
 インデックスが頬を膨らませ、上条の背をバシバシと叩く。
「いてぇよ!」
「ふふん。これに懲りたらもう部屋で大人しくしてると良いんだよ」
「つうか、テメェ一人じゃどうしようもなかったじゃねぇか!!」
 上条はポカポカと殴ってくるインデックスの両手を捉える。
「ふ、は、ははははははははははっ!!」
「ッ―――!!」
 2、3メートル先。
 横たわっていた筈のパウラが楽しそうに笑っている。
 その顔から白い面は取れ、血にような赤い義眼がおどろおどろしく光っている。
「戦闘中に、女の子と談笑? いやいや、緊張感が足りないんじゃないかな、上条くん」
「テメェ…………ノビてたんじゃねぇのかよ」
 上条は右手をさっと、インデックスの前に伸ばす。
 攻撃が飛んでくる気配はない。
「まぁさか、禁書目録がやってくるとは思いませんでしたけど。そういえば、貴方が管理者だったんですよね、迂闊でした」
「むぅ、なんだか馬鹿にされたような気はするけど。そんな事より、貴女は誰で何が目的なのかな?」
 相変わらず余裕を絶やさない笑みで笑うパウラは、ゆっくりと口を開く。
「そうですねぇ。そこの『幻想殺し』を解剖する、ですかね? なんなら、貴女もバラしましょうか?」
「そんな物騒なことを言って! この術式の匂いはローマ正教の魔術師だね」
「さすがは、イギリス清教が作った魔導書図書館ですか………まぁ、『そんなもの』を生み出す英国も他人のことは言えないでしょうよ」
 今にも飛び出していきそうなインデックスを抑え、上条はパウラの右目を見る。
 負の感情を全て混ぜ合わせたようなその色は、猟奇的であり、残虐的であり、絶望的であった。
「私の術式がバレても困るので、さっさと片づけちゃいましょうか」
 にやり、と笑ったパウラの声は、あろうことかすぐ後ろから聞こえた。

523終結6:2010/10/07(木) 00:50:47 ID:iyoTMkqs
 今までのような幻影を利用したようなものではなく、純粋な移動速度の速さ。
 それは聖人である神裂やアックアさえも彷彿とさせるような、おおよそ常人離れしたものだった。
「インデック―――!?」
 上条がそれに反応したときには、インデックスの身体は宙を舞い、上条の腹部に重い拳が入っていた。
「がっ、はぁ!?」
 女性の腕の力では考えられないほどの力だった。
「あはははは。いやいや、流石は学園都市、良いものがいっぱい落ちてましてね?」
 まるでプレゼンでもするかのように話す。
「『幻想御手』でしたっけ?」
「テメェ………まさか」
 地面に叩きつけられた上条は、その体勢のままパウラを見上げる。
「皮肉なもんですよねぇ、まさか『魔術御手』なんて名前にされるとは思いませんでしたけど」
 そう言って、ポケットから音楽用のデータスティックを取り出す。
「上条くんは確か錬金術師と面識があるはずですよね?」
「!?」
「アウレオルス=イザード………あの錬金術師が何か関係があるっていうの?」
 すぐ横からインデックスが噛みつく。
「さすがは禁書目録。この手の話は食い付きがいいですね」
 パウラは蔑むような目で、インデックスを見ている。
「『グレゴリオの聖歌隊』」
「!!」
 パウラの呟きに、インデックスが目を見開く。
(グレゴリオ……アウレオルス………)
 上条はその場に立ちあがり、記憶を遡る。
(ステイルにその効果の説明を聞いた気が………)
「確か、多数の祈りを集めることによる―――」
「そう、3333人の祈りを集めることによって発動させる大魔術。アウレオルスはそれを応用して、大勢の学生に詠唱させることで強大な防衛を張ってたんだよ」
「その通り。上条くんも覚えてるとは意外でしたけどね」
 パウラは右手で持っていたメモリースティックを握りつぶす。
 グシャリ、と音を立てて破壊されたそれは、小さな破片となって地面に落ちていく。
「学生に撒いたのは混乱を招く為ではなく、あくまで下準備ですね。もっとも、それ以外の純粋なる魔術師を使ってブーストもしていますが」
「その学生による詠唱で肉体強化の補助魔術を常時展開している、ってとこだね。周りから流れてくる魔力の流れはそのせいなんだよ」
「………って、ことはなんだ? 『魔術御手』を使ったやつは魔術を使わされてる、ってことかよ?」
「そう、なるね」
「ふざけんな―――」
 上条は歯噛みする。
 能力者は魔術を使えない。
 土御門元春がどうなった。『偽・聖歌隊』の学生がどうなった。
 上条の脳裏に、赤い血が蘇る。
「アイツらが何をしたってんだよ! 何にも関係ねぇだろうが!!」
 上条は咆哮する。
 目の前の理不尽さに愕然としながら、その右手を握りしめる。
「テメェの利益の為なら他人がどうなってもいいってのかよ! 傷ついた他人の上に立っておいて、それで信者を救えるって、胸を張れるのかよ!」
 上条は真っ直ぐに、パウラへと言葉をぶつける。
 彼女は表情を崩さない。
 あくまでそれが当然であるとでも言うかのように。
 悠然と笑っている。
「いいぜ………テメェがそんな考え方を曲げねぇってんなら、その幻想をぶち殺す!」
 上条は身をかがめ、地面を蹴る。

524終結7:2010/10/07(木) 00:51:24 ID:iyoTMkqs
「そんな身体で、ワタシに勝てるとでも?」
 上条の突き出した拳をなんなく受け止め、パウラは不敵に笑う。
 突っ込んできた上条の勢いをそのまま利用し、反対側へと投げ飛ばす。
「くっ!!」
 地面に叩きつけられ、上条は背中にビリビリとした痛みを感じる。刹那、顔をしかめている間もなく地面を横に転がる。
 上条がその場を離れた瞬間、パウラの足が地面へとめり込む。
「観念してください。命までとは言いませんよ。後方のアックアも言っていたでしょう?」
 パウラは上条に左手を向ける。
 カッ、といきなり照明用のライトでもぶち当てられたような閃光が上条の視界を覆う。
「ぐううぁぁっ!?」
 バギンッ!! と、反射的にかざした右手が何かを掻き消す。
「あはっ! いいね、便利な能力ですね」
「ごっはぁぁぁっ」
 パウラは上条の脇腹に蹴りを入れると、一足飛びでインデックスの元へと移動する。
「こうすれば、どうなるかな?」
「んにゃぁ!?」
 パウラはその右腕をインデックスの首に回し、左手で彼女の首元に刃物を向ける。
「インデックス!!」
「とうま! 私の事は大丈夫だから、こんな奴の言う事なんか聞いちゃいけないんだよ」
 パウラに抑えられたまま、インデックスが叫ぶ。
 上条はどうする事も出来ないまま、歯を食いしばる。
「まぁ、別に動くなとは言いませんよ?」
 悪戯っぽくパウラが微笑む。
 その表情には可愛気と言うものは存在しない、純粋なる悪意から来るものだった。
「私を人質にでもとったつもりかもしれないけど―――」
 インデックスは大きく息を吸い込むと、お腹の底から空気を吐き出すように叫ぶ。
「右腕の拘束を解除!」
 ――――――『強制詠唱』
 先程、上条への斬撃の軌道を捻じ曲げたインデックスの扱う技術は、不意を突きさえすれば、パウラ本人の意思に関わらずその行動を操作できるものだった。
 だが―――
「『強制詠唱』ねぇ………」
「な、なんで!?」
 相変わらず、しっかりとインデックスを拘束したまま、パウラは不敵に笑う。
「さて、『禁書目録』に問題です。ワタシは一体何の魔術を得意としているでしょうか?」
 左手に持った小さな刃物を器用に回し、パウラはインデックスから上条へと視線を移す。
「テメェ、インデックスを離しやがれ!」
「あっはっは。 ハイ、そうですね、って離す奴がいますか? 貴方はともかく、少なくとも『禁書目録』は貰って行きたいんですけども」
「がぁぁぁぁぁぁッ!!」
 パウラが視線を外した瞬間、インデックスはその大きな口を開けると、自らを拘束していた右腕にかぶりつく。
 ガギンッ! という甲高い音が聞こえ、インデックスの顔が苦痛に歪む。
「残念でした。生憎、ワタシの右腕は義手ですよ?」
 涙を浮かべたインデックスを蔑むような目で見る。
「で、答えは分かったかな? ヒントはワタシの魔法名、『unda447』。英語にするなら『Wave』というところですね」
「!!――――――波動か」
 捕らえられたインデックスに代わり、上条が答える。
「さっきの『強制詠唱』を無効化したのも音の波を捻じ曲げたからなんだね」
「その通り」
 術式の秘密を暴かれたというのに、どこか嬉しそうな顔でパウラは続ける。
「上条くんの思った通りだと思いますよ? ワタシの姿が見えたり見えなかったりしたのも、波を捻じ曲げただけです」
「いいのかよ……困るんじゃなかったのか?」 
「科学者たるもの、他人に自分の研究成果をプレゼン出来たときが華ですからね」
 パウラは表情を崩さない。
 上条との間合いを計りつつ、不敵に笑うだけだった。

525終結8:2010/10/07(木) 00:51:51 ID:iyoTMkqs
 誰もいない学園都市の闇を切り裂いて、科学と魔術に染まった人間が宙を舞う。
 ビルからビルへと飛び回り、一直線に学園都市の外を目指す。
(魔力の流れの中心部は……あっちか)
 感覚を研ぎ澄まし、流れている魔力の出所を探る。
(それにしても………『グレゴリオの聖歌隊』の紛い物まで持ち出してくるとは―――)
 雨宮は学園都市のあちこちから集約されている微小な魔力を感じつつ、下唇を噛む。
 少しだけ速度を速める。
 目指す先はローマ正教の魔術師の集まっているだろう地点。
(集約した術式を束ねてんのか………)
 あちこちに居る学生が詠唱した魔術を一旦集約し、そこからパウラの元へと送り届ける。
 ズレやラグを修正する変電所のような機関を担う部分がある。
(そこを叩けば―――)
「少なくとも、彼女の戦力は大きく削れますね」
「!!」
 不意に横から飛んできた声に、雨宮はゆらりと視線を向ける。
「神裂さんか」
 大きな日本刀を携えた神裂火織が雨宮に速度を合わせるように隣を駆ける。
「同じ方へ走っているところを見ると、貴方もあの術式の阻止に?」
「…………」
 雨宮は神裂を一瞥するだけで何も答えない。答える必要がない、とでもいうかのように視線を前方へと戻す。
「協力に感謝しますよ」
「別に協力するわけじゃないですよ。俺は俺のやりたい事をやるだけです」
 すぐ近くに見えてきた学園都市の防壁を確認する。
 警備が厳しくなっている様子はない。
「それより、神裂さん。インデックスの元へ行かなくていいんですか?」
「行きたくないと言えば嘘になりますが、先に片づけることもありますし―――」
 神裂は一瞬、躊躇うように言葉を飲み込む。
「あの少年を、上条当麻を信用していますから」
 柔らかく微笑む。
 その顔は子を慈しむ母のような、愛する人を見る少女のような顔だった。
(これが天草式の女教皇様、ね………)
 意外な一面もあるんだねー、と失礼極まりない感想を抱きつつ、最後にビルの端から学園都市の壁へと飛ぶ。
「貴方だって、同じでしょう?」
「なにがです?」
「貴方だって上条当麻を信頼しているからこそ、こっちに来たんじゃないですか?」
 警備ロボットの走るレールを踏みつぶし、学園都市の外部の空を二つの影が舞う。
「ええ―――」
 ズドォォンッ! と人間が落ちたにしては大きすぎる音を響かせ、敵の本丸へと突撃する。
 変電所を構築していた魔術師群が驚きの声をあげ、身を固める。
「友達、ですからね」
 殺せない槍を振るい、儀式場ごと群がっていた魔術師を薙ぎ倒す。
 二人の聖人による一方的な殲滅戦が始まった。

526終結9:2010/10/07(木) 00:52:57 ID:iyoTMkqs
「っ!!」
 その異変に初めに気付いたのはインデックスだった。
 パウラへと常に供給されていた魔力の流れがぷつり、と切れる。
 原因も、その意図さえも、インデックスには掴めない。
 それでも、この瞬間が『聖人級の戦力に対し自分たちが対抗できる瞬間』である事実には変わりない。
「ッ!?」
 パウラの顔に初めて驚愕の色が浮かぶ。
 自分の用意していた戦力の要が破られた事によるショックは思いの外大きかったようだ。
「そんな―――」
 パウラの手から刃物が零れ落ち、地面にぶつかる。
 その瞬間だった。
 物陰から飛び出してきた白い影がパウラの右腕を吹き飛ばし、捕らえられていたインデックスを解き放つ。
「やっと出てこれたのよな」
 クワガタみたいな黒い髪に、異常に長い靴紐。下げられた扇風機に、握られたフランベルジェ。
 なにからなにまで異常な格好をした男が上条の前に立っていた。
「お前………」
「覚えてくれてたんならそれでいいのよな。本当はもっと早く助太刀したかったんだけどよ。禁書目録が捕らえられてる上に、聖人級の戦力と来たもんだ」
 チャンスが来るまで待ってんってことよ、天草式の教皇代理・建宮斎字は弁明する。
 パウラから逃げてくるインデックスを庇うようにして、建宮はパウラへと剣を向ける。
「助かったんだよ」
「禁書目録の保護を最優先、ってのが女教皇からのご命令だったんでな。手荒になっちまったが勘忍してくれると嬉しいのよ」
 インデックスが無事であることに安堵しつつ、上条は建宮の隣に立つ。
「わりぃ、助かったよ」
「礼を言われるようなことじゃねぇのよな。むしろこっちが一般人を巻き込んだことに謝るってのが筋ってもんなのよ」
 驚愕のまま固まっていたパウラがよろよろとふらつく。
 信じられないような顔で建宮を見ていた。
「聖人一人なら返り討ちにできるくらいの戦力は置いておいたのですが………」
 神裂一人で殴りこんでも返り討ちにできるくらいの、対聖人用装備は整えておいた、その筈だった。
 魔力の中継点を狙われることは想定の範囲内であり、そこに襲撃を掛けるであろうイギリス清教の切り札となる神裂対策も万全。
 パウラの作戦は完璧である筈だった。
「二人、いたとしたら?」
 建宮は口を開く。
「まさか………あの、実験動物が」
 パウラは苦虫を噛み潰したような顔で奥歯を噛む。
「あの時殺し損ねたアイツがっ! またもワタシの邪魔をするってのかぁぁぁぁ!!」
 さっきまでの不気味なまでの冷静さをかなぐり捨て、パウラは激昂する。

527終結10:2010/10/07(木) 00:53:31 ID:iyoTMkqs
 人工聖人、雨宮照が生きているという事実は、パウラの計画にとって大きな誤算だった。
 自らの『作品』となるはずのそれは、結果として自らを滅ぼしかねない存在となり、二度も殺し損ねることになった。
 一度目は生み出した瞬間。
 二度目は復讐を遂げようとした瞬間。
 どちらも視界の端に飛び込んでくるのは、青い影。
「アックアァァァァァァァァァァァァ!!」
 地獄の底から湧きあがるかのような、恨みの込もった叫びが夜の街に響く。
「観念するのよな」
 建宮は真っ直ぐに、フランベルジェの切っ先をパウラへと向ける。
「……………」
 強化術式を失ったパウラに、勝てる手段は残されていない。
 時間をかければ二人の聖人はあっという間にこの場に辿り着くだろう。
 残された選択肢は、一つしかない。
「一旦、引かせていただきます」
「させると思ってんのか」
 建宮は一直線にパウラの懐へと飛び込むと振りかぶった剣を振るう。
 ガギィンッ! と金属同士がぶつかった音が響く。
 僅かに残された義手の部分で、フランベルジェの切っ先を受け止めたパウラは左手でポケットからパンパイプを取り出す。
「ワタシの勝ちとは言いませんが―――」
 パウラが口にあてたその笛からは何も聞こえない。
 透明な音色に合わせるかのように、彼女の姿が、音が、存在感までもが透けていく。
「―――負けることはしない主義ですから」
 怪しい声だけが響く。
 パウラの赤く光る義眼だけが宙に浮いている。
「そんなことで、許されるわけがねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 バギンッ!! 何かが破壊される音が鳴る。
 見えない何かが吹き飛び、街灯の柱へと激突する。
 複雑に組まれていたパンパイプがバラバラに弾け、消えかかっていたパウラが姿を現す。
 完全に気を失い、微動だにしない彼女に建宮が近づいていく。
 赤い義眼にが入り、バラバラと崩れ落ちていく。
「これで終わりよな」
 なにやら魔術を施したのだろうか。
 建宮が投げた紐でパウラの身体が拘束されていく。
「終わった、のか」
 上条は安堵のため息をつく。
 後ろから駆けよってきたインデックスの笑いかけたところで、上条の視界はブラックアウトした。

528終結11:2010/10/07(木) 00:53:59 ID:iyoTMkqs
 上条が目覚めたとき、既に変わらない日常が戻ってきていた。
 唯一いつもと違う点と言えば、自分の身体が寮のベッドの上にあることで、普段それを占拠しているシスターさんはベッドにもたれかかるように眠っていた。
「…………なんだったんだろうな」
 昨夜のことが夢であったかのような、はっきりしない頭に喝を入れようと洗面台へと赴く。
 何も変わらない、それでいて何処か腑抜けた自分の顔が鏡に映っていた。
 その日、社長出勤で三時限目からの登校を決めると、雨宮の姿は見あたらない。
 小萌先生曰く、急な引っ越しが決まったらしい。何処に行ったのかさえ分からないという。
 土御門によると、『魔術御手』の影響下にあった学生は散り散りに行動していた天草式の面々によって無事保護されていたらしい。
 『なんでお前が知っているんだ』というツッコミは胸にしまい、上条は溜息をつく。
「まったく、お前はまた裏で暗躍してたのか?」
「どうかにゃー? まぁ、色々とお仕事があったことは否定しないぜよ」
 威張るような顔を見せる土御門に一発くれてやろうと思い、右手を握ったところで上条は思いとどまる。
「そういえば、アイツは?」
「アイツじゃ分かんないぜよ」
「雨宮、あれは何処に行ったんだよ?」
 上条の疑問に、土御門は視線を逸らし、窓の外を見る。
 釣られるようにして、上条もその方向に目をやる。
 広がっている校庭には学生たちが歩いているだけだった。
「アイツは『一応』ローマ正教の人間だからにゃー。イギリス清教に属する土御門さんはあんまり詳しくなんです」
「思いっきり知ってます、って目してたぞ」
 上条は視線を土御門の緊張感のない顔に向ける。
 土御門はふざけた表情を崩さないまま、言葉を続ける。
「カミやんが心配するようなことじゃないんだぜい。縁があればまた会えるぜよ」
 学園都市の上は、今日も青空が広がっていた。

529かぺら:2010/10/07(木) 00:56:08 ID:iyoTMkqs
以上、完結です。
最後に文字制限に引っかかっちゃいました。11レスです。失礼しました
拙作に長々とお付き合いいただき、ありがとうございます。


最後に書いていて思ったことを。
読んで下さる方のレスは本当に支えになるものでした。
出来れば、これからも他の作家さんを含め、支えていただきたいと思います。
感想やGJをくれと言ってるのではありません。
批評や批判も含めて、の話です。
ただ、「つまんねぇ」や「GJ」だけでなく、もう一言、「○○がいい/悪い」と言ってくださるとうれしく思います。

また、他の作家さんへ。
嬉しい事も辛い事もあるとは思いますが、これからも頑張ってください。
ただ、コテハンで他作品についてあれこれ言うのは、(自分も含めてですが)極力避けた方がいいとは思います。
馴れ合いと取られかねないですし、現にそれを嫌がる人もいらっしゃいます。
そんな事で作品に対し不要なレッテルを貼られてしまうのはもったいないと思います。

最後に長々と、かつ偉そうに語ってしまいすいませんでした。
これからも禁書を愛でていきましょう。

ではでは。

530■■■■:2010/10/09(土) 03:03:34 ID:42vwPz26
『ミサカ、巫女と美琴』の美琴エンドを投下します。7レス使います。
本編を読んだという方はもうほとんどいないはずなので、本編を読ん
でいなくても分かるようにはしたのですが、本編での伏線をいくつか
回収する必要があったので、一部分からない表現が残っています。ご
容赦下さい。とりあえず学園都市の依頼で悪の秘密結社キシサクマア
を演じる天草式の面々と、アルバイトで秘密戦隊をしている上条、美
琴、姫神、ミサカ10032号、打ち止め、一方通行達が学園都市製
のバトルスーツに変身して戦うお話だと思って下さい。


>>505
相変わらずのGJ!
次回篠原圭がどんなイレギュラーな復活によってどんな『神の子』と
なるのか楽しみです。

>>515
サーシャとワシリーサが絡むこの手のSSは自分の大好きなジャンル
の一つです。楽しく読ませていただきました。

>>529 カペラ様
GJ!完結おめでとうございます。
雨宮と佐天や妹達とかいろんな後日談が起こりそうなエンディングで
したね。
あと些細なことですが読んでいていくつかの誤字脱字を見つけました
のでご連絡します。集結3で軽傷が軽症になってました。後2つほど
あったと思ったのですがどこか分からなくなりました。済みません。

531■■■■:2010/10/09(土) 03:04:14 ID:42vwPz26
「ミサカ、巫女と美琴(御坂END その1)」

土曜日15:45 学園都市某所

「あ、あッ、あんの女(あま)ぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」

 学園都市某所に五和の咆吼が響き渡る。
 その怒れる大魔神(五和)に引きつった愛想笑いを浮かべる男が恐る恐る声を掛ける。
もみ手でご機嫌をとろうとする男は天草式十字凄教教皇代理建宮斎字その人である。

「あのーっ、五和さん、一体どうなさったのです?」
「中学生だと思って油断した!!
 あんのエロ餓鬼!調子にのりやがってぇぇぇぇええええええ!」
「ちょ、ちょっと、五和さん。お言葉が非常に粗暴なのですが……」

 ブチ切れモードで怒髪天を突く五和とその怒りを収めようと必死に媚びを売る建宮斎字
を天草式のメンバーはヤレヤレって感じで眺めている。

「まったく建宮さんももう少し学習して貰いたいっすね」と香焼。
「まったくじゃ。今回も五和をちょいとばかり焚きつけようとしたんだろうが、よりにも
 よってあのお嬢ちゃんが上条殿の部屋で一夜を過ごしたなどと告げ口するとは馬鹿なこ
 とを言ったもんじゃ」と諫早。
「今回はもう石油化学コンビナートに大引火どころの話じゃなくなりましたね」と牛深。

 我が身に火の粉が飛んでくるのを恐れ、部屋の隅でヒソヒソと会話する天草式の男衆。
そこに五和が声高らかに宣言する声が響き渡る。

「これでようやく決心が付きました!私。あのエロ餓鬼と果たし合いをします!」
「いっ、五和さん。それは一体どういうことなのでしょうか?」
「いいですか!建宮さん。1時間以内に私の果たし状をあのエロ餓鬼に届けるんですよ!」
「そっ、そんな。いくらなんでも……唐突すぎるんじゃ……」
「わ・か・り・ま・し・た・ね」
「…………はい」

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

土曜日16:39 常盤台中学学生寮208号室

 陽も少し傾き始めた頃、ベッドで微睡んでいた美琴は気怠げに上体を起こす。そして
眠気を追い出すようにベッドに腰掛けた姿勢で大きく伸びをする。

(あーあ!今日もこれからRAILAR司令室に集合かあ?
 でもなんか面倒になってきちゃったし今日は休んじゃおうかな?…………でも
 私が居ないとその隙に秋沙や妹がアイツにちょっかい出しそうだし……どうしよう?)

 とはいえ既に答えは決まっている美琴は勢いよくベッドから立ち上がると両手で顔を
叩いて気合いを入れる。

「グダグダ言っても仕方ない。シャワーでも浴びてシャキッとしよっ!」

 クローゼットの前でブレザーのボタンを外し始めた美琴であったが3つめのボタンに手
をかけた時、僅かな違和感に指を止め室内をぐるりと見回した。

「今、誰かの視線を感じたような……黒子……かしら?」

 ルームメイト(黒子)なら美琴に気付かれずにベッドの下にだって潜り込むことができる。
目を爛々と輝かせ涎を垂らしながら美琴の生着替えを覗き見するルームメイトの姿を想像
するに至り念のため室内の死角をチェックする。黒子の不在を確認し一安心した美琴は脱
いだブレザーをクローゼットに掛け代わりにスーツを取り出すとユニットバスへと向かう。

 ザーザーとユニットバスにシャワーから流れ落ちる水音が響き渡る。
 美琴は降り注ぐシャワーを胸元に受け温水の心地よい感触に身を包んでいた。
 降り注ぐ温水は雫となって美琴の張りのある肌を滑らかに伝い落ちる。
 その雫を追うように美琴は掌を身体の上から下へとゆっくり這わせていく。
 だが、その掌が胸元に差し掛かったときふと手の動きが止まった。そして、
 降り注ぐシャワーの中で美琴の白い指だけが未発達な膨らみを包むように動いていた。
 そして美琴の薄く開いた唇から吐息とともに声にならない声がこぼれ落ちる。

「んっ。はあぁぁぁぁぁぁ」

532■■■■:2010/10/09(土) 03:05:43 ID:42vwPz26
「ミサカ、巫女と美琴(御坂END その2)」

 だがそれは官能的な嬌声ではなかった。

「はあぁぁぁ、やっぱり全然成長してない。
 なんでこんなに小っちゃいんだろ。私の胸。
 アイツ……アイツもやっぱり胸の大きな女の子が好き……なのかな?
 アイツの周りには私より胸の大きな女がいっぱい居るし…………
 私が勇気を出して声を掛けてんのにアイツったら何時だって私のことスルーするし、
 何かにつれ子供扱いするし、
 ひょっとして私の胸が小さいからかしら?
 どうして私の気持ちに気付かないのよ。アイツったら。
 あぁぁぁもう!アイツが悪い!アイツがああだからついこっちも電撃浴びせちゃうのよ。
 でも……もう少し私の胸が大きかったら……女としてみてくれたかな?
 はあぁ、早く大人になりたい」

 美琴はシャワーを止めると上気した肌を転がり落ちる雫をバスタオルで丁寧に拭き取る。
そして秘密戦隊RAILARのバトルスーツに手足を通しファスナー引き上げた時、鏡に映る
自分と目が合ってしまった。すると美琴は鏡に顔を近づけ目の前の御坂美琴に話しかける。

「こら!なんでアンタはアイツの前だと素直になれないのよ!」

 そう言われた鏡の中の御坂美琴は少し困ったような表情(かお)をしていた。
 そんな御坂美琴に美琴はたたみ掛けるように語りかける。

「グズグズしてると他の娘(こ)にアイツを盗られちゃうよ。判ってる!?
 だからそんな顔しないでシャキッとなさい!チェンジ!ノーマルモード」

 バトルスーツが変身時に発する眩い光がバスルームを一瞬満たすが、その光が治まると
鏡にはいつと同じ制服姿(ノーマルモード)の美琴が映っていた。

「そう、それで良いの!」

 鏡の中の自分にそう言い部屋に戻った美琴はそこで室内に生じた違和感の正体に気付く。

(あれ?机の上に封筒…………なんて在ったっけ?シャワーに行く前には無かったはず。
 ドアも窓も鍵はちゃんと掛かってるし……やっぱ、黒子だったのかな?
 ……って、果たし状?何なのこのアナクロな展開。どこのどいつよ?まったく!
 五和!…………ってことはあの巨乳女!?)

 取り出した果たし状に目を通すうち果たし状を持つ両手がワナワナと震え出す。

『果たし状
 そろそろ貴女との決着を付けたく、ここに果たし合いを申し込みます。
 本日17:30中央本線第3鉄橋の西側のたもとの河原にてお待ち致しております。
 ただし来るも来ないも貴女の自由です。
 怖じ気付いたのなら逃げても構いません。誰も責めたりしませんからご安心下さい。
 五和』

(なんですって……ふざけんな!なんでこの美琴さんが逃げなきゃなんないのよ。
 あの女とは一度話を付けないといけないと思ってたから好都合よ!)

 御坂美琴は果たし状をグシャリの握りつぶすと時計に目をやる。
 今から向かえば指定された時刻には間に合いそうだ。
 握りつぶした果たし状をゴミ箱に投げ捨てると御坂美琴は夕暮れに染まる部屋を飛び出した。


%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

土曜日16:48 第7学区とある学生寮の一室

「…………というわけで、変な誤解しちゃった五和ちゃんが常盤台のお嬢ちゃんにお茶目
 にも果たし状を出しちゃったのよ。多分、大丈夫だとは思うんだけど……万一、五和が
 暴走しちゃってお嬢ちゃんに怪我でもさせたら大変だから、是非とも上条殿に二人の仲
 裁に入って欲しいわけなのよ」
「はああぁぁぁぁぁ!お前ら、ホントに一体何やってんだよ!!
 今日もお前達キシサクマアのせいでこんな時刻にRAILARに招集されてタダでさえ気が
 重いって言うのに」

 ブツクサ文句を言う上条当麻だが、顔見知りである二人のことを放っておく訳にもいか
ずもう一度大きな溜息をつくとヤレヤレと重い腰をあげた。

%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

533■■■■:2010/10/09(土) 03:06:20 ID:42vwPz26
「ミサカ、巫女と美琴(御坂END その3)」

土曜日17:27 第7学区 中央本線第3鉄橋西の河原

指定された場所に到着した美琴は夕陽に赤く染まる河原を見渡し眉をひそめる。

「あれ?どこだろ…………って人っ子一人いないじゃん!
 人を呼び出しといてその本人がまだ来てないなんて一体どういうことよ!!」

不自然なほど人の気配がしない河原に一人待ち惚け喰らったようで美琴は悪態をつく。

「失礼な!ちゃんとここにいますよ!」
「ッ!!」

 突然背後から掛けられた声に美琴はビクリ!と肩を震わせる。振り返ると3メートル程
後に五和が立っていた。今日は秘密結社『キシサクマア』の女幹部『ブラックキャット』
のコスチュームではなく明るいトレーナーの上にタンクトップを重ね着し濃い色の細いパンツにサンダルという学園都市においてもごくありふれたファッションに身を包んでいる。
だからこそ右手に持つ3メートル超の海軍用船上槍(フリウリスピア)の異様さが際立つ。

「逃げずにここにやって来たことは素直に褒めて差し上げましょう」
「あんたこそ、この前小学生の目の前で無様に尻尾を巻いて逃げ出したのを憶えてないの」
「ご心配なく今日は私が貴女をギッタンギッタンに叩きのめして差し上げます。
 さあ、掛かってらっしゃい!」
「言われなくたって!!」

 美琴の前髪が青白く発光したかと思うと全身から這い出た数十匹の電気のヘビ達が牙を
剥き一気に五和に襲いかかる。

「甘い!」

 フリウリスピアの一閃で電気のヘビたちを霧散させると、反撃とばかりに海軍用船上槍
の穂先を美琴に向け雷光のような刺突を繰りだす。

「チェンジ!バトルモード!!」

 美琴のスーツから閃光が迸り莫大な光量が五和の視界を白く塗り潰す。スーツ変形時に
生じる閃光を利用して五和の目を眩ませた美琴は後方に飛び退きつつ再び雷撃の槍を五和
目掛けて撃ち放つ。そして閃光に白く塗り潰された河原の一角に激しい爆音が鳴り響き、
黒い爆煙が空高く舞い上がる。

 五和がこの程度で決着がつく相手ではないことを知っている美琴は5メートル後方に着
地しても気を緩めることなく爆煙に隠れた五和の気配を素早く探る。その時、目の前の爆
煙を突き抜け一本の氷の槍が美琴めがけて飛来する。

「フン!」

 反撃を予期していた美琴は風切り音を立てて飛来する氷の槍を左へのサイドステップで
難なく躱す。だがそれは囮であり本命は時間差を付けて美琴の予想着地点目掛けて放たれ
ていた。ヒュンヒュン!と黒い爆煙をちりぢりに切り裂いて無数の氷の槍が雨霰となって
美琴めがけて降り注ぐ。

「ちぃっ!!」

 そして美琴を取り巻く大気がフワリと揺らいだかと思うと地面に円を描くように黒い線
が現れる。その直径が2メートル程ある円周に沿って地面からブワッ!!と黒い影が吹き
上がると高速で旋回し始め美琴を取り囲むように黒い防御壁を構築する。降り注ぐ無数の
氷の槍は砂鉄の防壁に触れた瞬間その全てが粉々に砕け散っていった。そして砂鉄の防壁
を地上1メートルまで引き下げ美琴は薄くなった爆煙の向こうに立つ五和に話しかける。

「その程度の攻撃でお終いなの!?そんなんじゃ私に傷の一つだって付けらんないわよ」

 しかし不敵な笑みを浮かべる五和は唐突にドバン!とフリウリスピアの刺突を繰り出す。
雷光の速度で繰り出した海軍用船上槍が砂鉄の防壁に衝突した瞬間、五和はその刃先に込
めた術式を一気に開放する。

 ズバァッ!!と閃光が迸ると槍の穂先を起点として衝撃波が四方に奔り一瞬遅れて凄ま
じい爆風が河原を吹き荒れる。美琴を防御する砂鉄の防壁でさえ地面から削り取られた大
量の土砂と共に高く舞い上げられてしまった。だが五和は立ちこめる土煙の中で攻撃態勢
のまま舌打ちする。

「ちっ!私としたことが踏み込みが甘かったみたいです!」

 美琴は10メートルも後方に吹き飛ばされていたが無傷であった。正確には衝撃を和ら
げるためにあえて自ら後方に跳躍したのだ。美琴に反撃の機会を与えないように五和はす
ぐさま足下に水の魔術を施すと氷上を滑るような勢いで一気に間合いを詰め美琴目掛けて
フリウリスピアを繰りだす。

 ガキィィィィ!と夕暮れの河原に金斬り音が鳴り響く。

534■■■■:2010/10/09(土) 03:06:54 ID:42vwPz26
「ミサカ、巫女と美琴(御坂END その4)」

 五和のフリウリスピアの一撃を受け止めたのは美琴の砂鉄の剣である。高速で振動する
砂鉄をフリウリスピアの穂先が盛大な火花を上げている。一瞬の隙を突き美琴はその穂先
を巻き込むように砂鉄の剣を螺旋状に回してその穂先を跳ね上げると鋭い足捌きで五和の
懐に踏み込む。そして砂鉄の剣を横薙ぎに振り抜くが、この一撃はフリウリスピアの柄で
防がれてしまう。鍔迫り合いをする美琴と五和の互いの顔は50センチも離れていない。
そんな中、突然五和が美琴に問い掛けた。

「貴女に問います!覚悟はありますか!?」

 唐突な五和の問い掛けに美琴は素っ頓狂な声をあげてしまう。

「はあ?」
「当麻さんを狙う敵は貴方が想像もできないほど強大です。
 それでもあなたは当麻さんと一緒に闘う覚悟がありますか?」

 『闘う』。その単語に美琴の脳裏にあの時の上条の姿がフラッシュバックする。腕や頬に
付いた電極から伸び地面にまで垂れていたコード、体中に巻き付けられ所々に血が滲んだ
包帯、氷の海に浸かっていたかのように青ざめた顔、焦点の合っていない瞳。その姿を思
い出すだけで今でも美琴の胸は苦しいほど締め付けられる。

 手術衣を纏っただけのアイツはまともに歩けもしないのにボロボロの身体をひきずって、
それでも何かに立ち向かおうとしていた。それまでは気付かなかったアイツの闘い。それが生きるか死ぬかの瀬戸際で繰り広げられる闘いだったことに気付いたのがあの日だ。

 そして論理や理性や世間体や体裁すら粉々に打ち砕くほどのエネルギーが自分の内側に
眠っていて、超能力者(レベル5)としての『自分だけの現実(パーソナルリアリティー)』
でさえ易々と打ち砕くその圧倒的な感情の名前に気付いたのもあの日だ。

(もうあんな思いをするのは嫌ッ!)美琴は心の底からそう思う。
だからそんな当たり前のことを尋ねられたことが無性に腹が立つ。

「あるに決まってんでしょ!私の命に替えても当麻は護ってみせる!」

 だが、雄叫びのような美琴の返事を聞いた五和の目に嘲笑するような光が浮かぶ。

「では、なおさら貴女には任せられません!」
「なっ!?なに屁理屈言って……」
「軽々しく『命』なんて言わないで下さい!
 もし貴女の犠牲で当麻さんが助かったとして、それを当麻さんが喜ぶとでも思っている
 のですか?当麻さんがそんな自分を許せるとでも本気で思ってるんですか?貴女は!」
「うっ!」

 五和の指摘に美琴は言葉を詰まらせる。
 そう。上条はいつもそうだった。
 困ったときは相談しろって他人には言うくせに、それどころか頼んでもないのに勝手に
首突っ込んで来て死ぬしかなかった私と妹達を助けたくせに、自分の時は全てを自分一人
の中に背負い込んで、絶体絶命のピンチだろうが他人を巻き込まないよう助けを求めもし
ないし弱音すら吐きやしない。他人を助けたせいで自分が不幸になってもへらへら笑って
いるくせに、赤の他人だろうが目の前で人が不幸になるを見過ごすのが許せない。そう。
それが……私が大好きな上条当麻なのだ。

「もう一度尋ねます。
 貴女は最後まで戦い抜く覚悟がありますか?
 どんな困難に直面しようと決して諦めないと約束できますか!?
 必ず生き抜いて当麻さんに『お帰りなさい』って言ってあげると誓えますか?
 貴女にその覚悟がないなら、今すぐ当麻さんの前から消え去りなさい!」

五和の言葉が美琴の胸にグサリ!と刺さる。
そして五和という少女が本当に上条を愛しているのだということを美琴は痛感する。

でも…………、納得いかない。納得できる訳がない。
そう。たとえ目の前の少女が上条を心の底から愛しているとしても納得できる訳ない。
だからこそ砂鉄の剣を握る手に力がこもる。

「私だって。
 私だってあんた以上に『当麻を愛してる』んだからああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 もはや咆吼といってもよい叫び声をあげ美琴は鍔迫り合いする五和をはね飛ばし、全身
全霊を込めて砂鉄の剣を袈裟懸けに振り降ろし五和のフリウリスピアに叩き付ける。美琴
の渾身の一撃は後方のアックアが振るうメイスの一撃にも耐えたフリウリスピアを斬り裂
いた。穂先がゆっくりと落下していく様子を目を丸めて見つめる五和に美琴は勝利宣言の
ように言い放つ。

「どう!?これで…………」と美琴が言いかけた瞬間、河原に甲高い警報が鳴り響く。

535■■■■:2010/10/09(土) 03:07:38 ID:42vwPz26
「ミサカ、巫女と美琴(御坂END その5)」

(えっ、何?)と戸惑う美琴であったが直ぐにその音源が自分の間近であることに気付く。
それが自分のスーツから発せられる警告音だと認識した時スーツから電子音声が流れる。

「スーツ装着者『御坂美琴』による『破滅の言葉』コード入力を確認。
 機密保持規定3条2項に従い、本スーツは5秒後に自壊します。4……3……」
「ちょっ、ちょっと待って。違うの!今のはナシ!お願い、待って」

 『破滅の言葉』によりスーツが分子単位にまで分解されることを思い出した美琴はスーツに向かって必死に弁解するもののスーツが美琴の言い訳に耳を貸すはずも無い。

「2……1……ゼロ」

 無情にもカウントゼロで美琴のスーツから爆発的な閃光が迸る。瞼を閉じた五和ですら
網膜を焼かれそうな光量が周囲を白く塗り潰し、光の中でスーツが分子単位へと分解する。
閃光が収まり恐る恐る目を開けた五和の前にはなぜかタ○シ○ド仮面のコスプレをして
いる上条当麻が立っていた。

「み、御坂さん!?」

 素っ裸の美琴は上条のマントに正面から抱きかかえられるようにくるまれていたのだが、
予測不可能な事態の連続に正常な判断ができず、美琴は(なんでタ○シ○ド仮面?)など
とピント外れの思考に囚われていた。しかし美琴の顔から10センチも離れていないタ○
シ○ド仮面の素顔が上条のものだと気付いた途端美琴は顔を真っ赤に染め叫び声を上げた。

「きゃあぁぁっ!」 

 上条の胸板に両掌を押し当て上条を押し離そうと両腕に力を込める美琴であったが上条
の両腕がそれを許さない。上条に抱きしめられているという事実に軽いパニック上体に陥
った美琴は思い切り力を込め30センチほど上条から身体を引き離すと上条を睨み付け文
句を言い放つ。

「こら!なんで離さないのよ。あんたは!!」
「ちょっと待て!落ち着け!御坂。お前今自分がどんな格好なのか判ってるのか?」

 上条を睨み付けていた美琴はそう言われてようやく視線を下に向ける。視線が自分の両
腕を通過し上条との間に空いた30センチの隙間に落ちた時、視界の半分をスーツの赤色
ではなく肌色が占めていることに気付く。そして赤かった顔から一気に血の気が引いた。

 美琴の瞳には鴇色の先端をもつ自分の慎ましやかな胸の二つの膨らみと、その僅かばか
りの谷間の向こうにあるおへその窪みまで映っていた。そしてようやく気付く。スーツが
自壊し一糸纏わぬ姿となった自分を上条がマントで隠してくれていたことに。
 あわてて両腕を引き戻し両掌で胸の膨らみを隠した美琴がハッと視線を上げると自分の胸元を見下ろしている上条に気付き、真っ青になっていた顔が再び真っ赤に染まる。

「み、見た?」
「えっ?あーっ、そのーっ、ゴメン」

 美琴の瞳にジワッと涙が浮かぶと声をあげて泣き始めた。

「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁん!」
「スマン御坂、スマン。謝るから、だから、頼むから落ち着いてくれ!」
「うわあぁぁぁん!(こんな小っちゃいおっぱいを当麻に見られちゃった。もう死にたい)」
「スマン!つい見とれちまった。謝って済む問題じゃないけど、ゴメン。えーっと、何で
 もするから泣き止んでくれ」
「ひっ、ひっく(えっ?今見とれてって言った?)…………う……うん」 

 コクリと頷くと美琴は上条の肩口に顔を埋めるようにしなだれ掛かる。そして、上条の
背中に両手を回すとギュッと強く抱きしめる。今度は逆に美琴に抱き付かれた上条が狼狽
える番になった。

「み、……御坂!?」
「なによ!あんたが落ち付けって言うからこうしてんのよ!?」
「えっ!いや、俺達今抱き合っているんだけど大丈夫なのか!?」
「いいからこのまま…………もう少しだけ」

536■■■■:2010/10/09(土) 03:08:30 ID:42vwPz26
「ミサカ、巫女と美琴(御坂END その6)」

 上条の胸板に押しつけた小さな胸にスーツ一枚隔てた上条の鼓動が伝わってくる。

「どうだ。そろそろ落ち着いたか!?」
「うん」
「さっきは本当にゴメン」
「こっちこそゴメン!助けて貰ったのに泣いちゃったりして」
「いや、それでもやっぱり俺が悪い…………でも……
 なんで御坂のスーツは自壊したんだ?御坂の『破滅の言葉』って一体何だったんだ?」

 そう言われて美琴は僅かに顔を伏せ身を固くする。ギュッ!と唇を噛み締めると意を決
して顔を上げる。真っ直ぐ上条の顔を見つめたまま心に溜まった思いのたけをぶつける。

「それは……私のスーツの『破滅の言葉』は……『当麻を愛してる』なの!!
 それに本当に私は当麻が好き!今まで黙ってたけどずっと前から当麻が好きだった!」
「そっか。ありがとな。
 でもさ御坂は知ってるだろ。俺なんかと付き合ってるとろくなこと無いぞ」

「そんなことない。アンタがとっても危険なことに巻き込まれているのは判ってる。
 でもね。私だって戦える。私にあなたの背中を護らせて欲しいの!
 ううん、そんなことじゃないの。
 帰ってきた当麻に『お帰りなさい』をいうのは私でありたいの!
 誰がなんと言おうとそれだけは誰にも譲れない。譲りたくないの!」
「そうか『お帰りなさい』……っか、なんか嬉しいな。その言葉。ありがとう。御坂」
「私は最高の笑顔でお帰りなさいって言ってあげる。
 だから約束して、これからどんなことがあったって必ず私の所に帰ってくるって」
「ああ、約束だ」

 そして上条は美琴を強く抱きしめた。

「ところでアンタのスーツの『破滅の言葉』は一体なんなのよ?」
「それはさ、俺の今の気持ちを表す言葉だよ。
 まあ、ラストオーダーの奴もよく考えたもんだ。
 (『俺って幸せだな』なんて言葉は)普段の俺なら絶対口にしない言葉だからさ」
「???」
「それに今俺が『破滅の言葉』を言ったら二人揃って素っ裸で抱き合うことになるぞ。
 いや……それも一興かな?」
「なっ、なに馬鹿なこと言ってのよ!アンタは!」
「はははっ、冗談だよ。冗談」
「なにが可笑しいのよ。アン……コホン!とっ、と……当麻ったら……」 

 その呼び方にボッと頬を朱色に染める御坂美琴であるが上目づかいに見あげるその瞳は
真っ直ぐ上条の瞳を見つめていた。そして見つめ合う二人の顔を夕陽がさらに赤く赤く染
めあげていった。

537■■■■:2010/10/09(土) 03:09:15 ID:42vwPz26
「ミサカ、巫女と美琴(御坂END その7)」

「「でもこれからどうしよう?」」
「どうぞ!」

 どうしようかと顔を見合わせている二人に声をかけたのは五和であった。

「これは私の着替えです。癪だけど私からの御坂さんへのプレゼントです。使って下さい」
「えっ……あ、ありがとう。五和さん」

「良いんですよ。別に気になさらなくても。
 でも当麻さん。
 これからも私のこと……天草式十字凄教の一員としてよろしくお願いしますね」

 そして元気よくペコリとお辞儀するとクルリと当麻達に背を向けて歩き始めた。

「ありがとう。五和。それとゴメン!」

 上条の言葉に五和は振り返らずに右手を挙げて応えた。否。振り返りたくても五和は振
り返ることができなかった。なぜならその頬を止めどなく流れ落ちる涙を上条に見られた
くないから。

 堤防を登り切るとそこに一人の男が立っていた。夕陽を背にした男は少しだぶついた服
を着てクワガタのように黒光りするツンツンした髪をしていた。五和は慌てて涙を袖でゴ
シゴシ拭うと努めて明るくその人物の名前を口にした。

「建宮さん」
「ご苦労であった。五和」
「えへっ、私…………ふられちゃいました……………………」
「そうか…………」

 気丈に振る舞おうとしていた五和だったがそこが限界だった。堪えきれなくなった感情
が堰を切って溢れ出す。

「ふっ、ふっ、ふえぇぇぇ─────ん」

 五和は建宮に抱きつくと胸に顔を埋め大きな声を出して泣き続ける。
 そんな五和の肩に優しく手を乗せて建宮斎字は静かに話しかける。

「五和、今は心ゆくまで泣けばよい。
 でも心配するな。今のお前は正真正銘世界一良い女なのよ。
 こんな良い女を世の男どもが放っておくはずがないのよな」
「うわあぁぁぁ───────────────ん」

 夕陽が二人の姿を赤くそして優しく染め上げていた。


%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%

土曜日18:05 第7学区 中央本線第3鉄橋西の河原

「あ、あ、あんの女(あま)あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 河原に御坂美琴の咆吼が響き渡る。

「あのーっ、美琴さん、一体どうなさいました?」
「うっさい!アンタはあっち向いてなさい!」

 御坂美琴は五和から受け取った服に着替えていた。
 五和から渡された服はぴったり目のパンツと胸元が大きく開いたニット地の服である。
ただしその服は胸ものがダブついているというか、それよりは明らかに間違ったサイズを
無理して着ているという表現がよく似合う。

 きっとDカップ以上のバストを持つ女性ならば胸の谷間を強調するその服のデザインは
街の男達の視線を胸元に釘付けにしただろう。しかし悲しいかな、御坂美琴はAカップ。
ダブついた胸元はセクシーさどころか滑稽さを醸し出していた。しかもパンツのウエスト
が少しきつめだった事が御坂美琴に追い打ちをかける。

(あっ、あ、あの女、こんな服を使って私とのスペック(バスト)差を見せつけるなんて!)

「あのーっ、御坂さん!?」
「どうせ、私はAカップよ!
 でも2年後よ!2年後を見てなさい。あの女よりもっと良い女になってやるんだから!
 当麻が私を選んだことを後悔させないぐらい、すっごくいい女になってやるんだから。
 だから、アンタは期待して待ってなさい。イイ!」
「ああ。でもな、今でも美琴は俺には勿体ないぐらいのいい女だよ」
「とっ、当麻ァァ」
「でも、まあ。2年後に今よりもっといい女になるっていうなら期待して待ってるよ」


おしまい。

538■■■■:2010/10/09(土) 03:10:44 ID:42vwPz26
以上です。
後半がちょっと強引な展開だったかもしれません。
そういえばもうすぐ新刊発売&禁書目録二期放映開始ですね。どんな
風になっていくのかどちらも楽しみでなりません。

539■■■■:2010/10/09(土) 13:29:28 ID:rqcWlvqM
>>538 乙です!ずっと楽しみに待ってました。
    あと一つのENDもお待ちしてます!

540■■■■:2010/10/10(日) 06:55:57 ID:eDSwsJBQ
ああ、22間読んだ後に美琴エンドとか見ると虚しい。

原作じゃ、もう報われないんだろうなあ。
美琴はこれから、とか空元気出せる人がうらやましい。

54122巻まとめ:2010/10/11(月) 04:47:27 ID:c5Zl.y3Q

 苦痛を超え、少年が最期に得た物は、小さな少女の平穏だった。
 影を切り払ったその笑顔は、少年の世界を変えた。
 涙を流し、少年は、子供のころからあったもの、大人達の闇が覆い被して
しまった「もの」、母親達が守り通そうとした『もの』を思い出す。

 天空から舞い降りる破壊の聖光。
 最も大切な何かを取り戻した少年を突き動かすのは、慈愛と怒りだった。
 俺も、ずっと一緒にいたかった。
 邪悪から召喚された漆黒は、過去を脱却し、希望から誕生した純白と化す。
 一人の少女との別れは、世界を救う翼となるだろう。

 苦難に耐え、少年が最期に選んだ道は、過去の繋がりへの帰還だった。
 無量の殺意を打ち消した悲哀は、壊れた少女の世界を取り戻した。
 贖罪のために進軍し、少年は、闇の残骸すら、余裕を含んで嘲笑する。
 融解するしがらみは、電子の一閃によって、未来を切り開く。

 来訪者が解禁した残酷な現実。
 煉獄に勝る絶望に浸った少年の背を押したのは、一人の少女の悲憤だった。
 後悔はしていない。だから、良いんだ。
 義理の返還は、悪意の勝利を覆し、夢に至るために悪魔の仮面を被らせる。
 一人の少女に対する裏切りは、世界を救う炎となるだろう。

 激闘の果てに、少年が最期に殺した幻想は、一人の革命家の驕りだった。
 力を拒んだその右腕は、確かに世界の歪みを正した。
 轟音が鳴り響き、少年は、最も大切だった少女すら玩具にした憎き敵を砕く。
 それでも、少年の信念には何の澱みも無かった。

 崩壊する星海に浮かぶ孤島の崖。
 巨悪を撃破した少年を塞き止めたのは、二人の少女の声だった。
 まだ、やるべき事がある。
 世界と人々を守るため、その右腕を突き動かし、真実を伝え、約束を紡ぐ。
 二人の少女との別れは、世界を救う切札となるはずだった。

 天使の嘆きが、全てを狂わせる。
 押し寄せる濁流。巨岩が轟かす衝撃。
 幻想を殺す腕。数多の光を取り戻した一つの命。
 握りしめた拳と、懐かしい追憶と共に、


 少年は、今一度、果てる。


 杭と成りし少女は、呪縛を解いた鍵を探す。
 全てを知った戦士達は、ただただ、少女の純粋な呪詛の言葉を、心に刻んだ。

 雷を纏いし少女は、愛の鍵穴を埋める者を求めた。
 白く、か細い手は、運命にさえ阻まれなければ、届く筈だった。
 黄金が混ざった青海の狭間。機能を失った喉笛。
 同一の顔を秘めた妹。数少ない一生の共有。
 救われた世界と引き換えに、少年の未来と引き換えに、


 少女は、今一度、絶える。

542■■■■:2010/10/11(月) 12:10:48 ID:XjMXr6Mc
>>541
実に的確な厨二。GJ
何かの改変?じゃなかったら大したもんだ
多くの職人にとって、22巻は色んな意味で衝撃的だったな

543■■■■:2010/10/13(水) 00:09:20 ID:20PeaAe.
長編小説を執筆している間にふと書きたくなった小ネタを投稿したいと思います。
今書いてる長編は11月の頭ぐらいからUPできそうです。

544■■■■:2010/10/13(水) 00:12:53 ID:20PeaAe.


「幻想殺しのも・し・も」


もしも「上条さんの料理スキルがもっと上だったら」


「ふぅ〜、おいしかったあ♪ごちそうさまぁ!」
「はい、おそまつさまでした、と」
「ううん!手作りバケットにバターも、たこと水菜のマリネマスタードドレッシングも、鮭のムニエル有機野菜のタルタルソース添えも、ふわっふわパンケーキにヨーグルトセーキもみーんなおいしかった!とうまの作ってくれる料理はどれもおいしいんだよ!!」
「……あくまで趣味なんだけどなぁ、でもそう言ってもらえると上条さんとしても嬉しいですよ。っと、そろそろ学校行くか」
「あ、あのね、とうま」
「弁当はキッチン、おやつは冷蔵庫、お昼とおやつの時間にどうぞ。それ以外の時間に食べた場合、上条さんは貴方のお腹の音に責任を持ちません」
「そ、そうじゃなくて…………早く、帰ってきてね?」
「インデックス…………ああ、わかってる」
「とうま…………」



だって……


「夕飯作らないと噛み殺されるからな!」
「と、とうまー!!」
「はははっ!」
「もう…………とうま!いってらっしゃーい!!」


インデックスさんの餌付け(笑)に成功。上条さん、いい主夫になれるよ。この上条さんは料理以外の趣味(あくまで趣味)が無い設定なので、元から本とか洋服とかあまり買わず、料理の研究費に追加していたようです。
姫神や五和、オルソラとも仲良くなってるかもしれません。

545■■■■:2010/10/13(水) 00:14:45 ID:20PeaAe.


もしも「上条さんが執事の資格を持っていたら」


「あ〜もう!!何であんたには能力が効かないのよ!」
「すみません御坂お嬢様。私にもさっぱり……」
「そこ!もの悲しそうな目線で見ない!!負けた私が哀れに見えるでしょうがぁああああああ!!」
「いえいえ、そのような視線で見てはいません……ただ」
「ただ何よ?」
「学校帰りの高校生にあしらわれていた頃を思い出すと……(ククク)」
「……あ・ん・た・ねぇ…………!!」
「たった数ヶ月で随分ご立派になられたものだな、と思いまして」
「!?…………と、当然でしょ!私を誰だと思ってるのよ!?」
「それに今この場所には我々2人しかいないように見えますが……」
「!!?な、な、な、何言ってんのよアンタわ!?い、いや別におかしな事言ってる訳じゃないんだけど、(こ、このタイミングでそんな事言わなくても」
「?……あ、ちょうど今さっき入れたアールグレイが飲み頃ですね」
「!?ちょっ!ちょっとまっ」
「要りませんか?」
「…………もらう」
「はい」


この上条さんですが、舞夏に仕える者(メイドや執事)の心得を徹底的に叩き込まれていますので、仕事上では何があろうと常に丁寧語で喋ります。逆に言えば公私のけじめが付いているので、仕事をしているとき意外は口調や言動も元に戻ります。
そもそも上条さんにそういうバイトを紹介したのが舞夏らしいです。(個人的には上条さんは執事と言うよりボディーガードの方が似合ってる気がしますが)
ちなみにあくまでも「バイト」であり、仕える日時、するべき事、などは大体決まっている上「御坂美琴の執事」ではなく「常盤台中学のお手伝いさん」的なポジションであるため、競争率が物凄く高いです(笑)

546■■■■:2010/10/13(水) 00:18:07 ID:20PeaAe.


もしも「上条さんに青髪ピアスや土御門元春以上の萌えへの燃えがあったら」


「だ、か、ら!!何でわからんねんな!つっちー!」
「それはこっちの台詞だにゃー!青髪ピアス!!」
「たっく、なんなんだよ土御門も青髪も。せっかくの昼休みが無くなっちまうぞ?」
「いいや上やん!これは昼休みどころじゃなく丸1日話し合っても良いくらい重大なことなんや!!」
「と言うか良い所に来たぜよ、ぜひぜひ上やんの意見を聞かせてくれにゃ〜」
「……一応聞くけど何の話なんだ?」


「「小萌先生!!」」


「……は?」
「だから小萌先生やって!いま話し合ってたんやけどな、つっちーは「小萌先生がランドセルを背負って学校に来てくれたら最高だにゃー!」って言うねん!
分かってへんわぁ、小萌せんせの魅力は学校と家でのギャップやろ!!小さなアパートで大人が飲んだり吸ったりするビールやタバコを見た目子供の小萌先生が至高至極の表情でこう「ぷは〜……」ってなあ!最高やと思わへん!?」

「青ピ、あえて何で小萌先生の私生活を知っているのかについては触れとかないでやるぜよ。だが「小萌先生+ランドセル」の最強装備だけはゆずれんにゃ〜。
確かに青ピの意見は正しいしそれも大きな魅力の一つだぜい。でも想像してみろよ「もしこの学校が小学校で教師にランドセルをカバンにする義務が発生していたとしたら」って事を!生徒は100%教師だなんて思わないぜよ、それどころか教師だなんて分かったら思いっ切りからかわれるだろうにゃ〜。
だが涙ぐみながらも生徒の心を少しずつ掴み最後には学校のアイドル教師に!!だが見た目はやっぱりかわいい生徒……このロリ城壁が崩れる事は無いんだにゃー!!」

「んで、かみやん」
「どっちの方が……」
「……………………………………………………………………………………………………」
「か、上やん?どないしt」
「黙って聞いてりゃ馬鹿馬鹿しい自己偏見をペチャクチャペチャクチャ…………お前たち、本当に小萌先生の生徒なのかよ!?」
「な、なにを」

「学校と家でのギャップ?ランドセルでのロリ度上昇?ちげぇだろ、そんなんじゃねえ!俺たちに授業を教えてるのは誰だ?俺たちの為にプリントや教材を用意してくれるのは誰だ?そしてこのクラスで一番俺達の事を想ってくれてるのは誰だ!?他の誰でもねえ小萌先生なはずだ!!」
「「!!?」」

「お前ら小萌先生の生徒だろ!?だったらまず1番に「俺達のクラス担任「月詠小萌」」自体に萌を感じるべきだろうが!!子供っぽい見た目や言動、それに反するギャップはあくまでそれ単体の魅力、おまけでしかねぇ…………だけど「月詠小萌」は違うだろ!?俺たち生徒の事を想って、一生懸命仕事して…………学校の外だってそうだ!、生徒が困ってたり悩んでたりしたら手を優しく差し伸べてくれる、微笑んでくれる、助けてくれる、それにおまけが付くからより一層魅力が高まる!萌を感じるんだよ!!」
「あ、あああぁ…………」
「か、かみやん…………」
「それでもお前たちが小萌先生の小さい一片しか見ることが出来ない、ってんなら…………」



「まずはその妄想をぶち殺す!!」



「「か、上や〜ん!!俺(僕)たちが、俺たちが馬鹿だ(や)った〜〜〜〜〜(本気泣)」」
「別にいいって、それにシュチュエーションや服、他にも様々な要素があるけどさ、どれにどういった萌を感じるかは人それぞれだろ?お前たちはそれにとらわれ過ぎちまっただけだよ…………それに俺たちはデルタフォース(三馬鹿)だ、馬鹿なのは当然だろ?」
「「か、上やーん!!」」

上条当麻がデルタフォースのリーダーとなった瞬間である

「上条ちゃんが、上条ちゃん達がおかしくなってるです〜〜〜!!」


はい、「そもふ」がやりたかっただけですorz
某Kっぽくなってしまうかと思いきや意外と違和感がありませんでした。上条さんはシュチュエーションや女性に好み等はあるようですが、それを自分の知り合いの女性に押し付けようとは決してせず(妄想話)、むしろその人の良い所や魅力をキチンと見つける事が出来る(妄想話)……そんな人だと思います。

話の対象は姫神さんや吹寄さんでも良かったんですが、やはり小萌先生で語る展開が1番やりやすかったですし、上条さんが原作で唯一(?)先生、大人として頼ってる(助けてもらってる?)のは小萌先生だと思ったので(1巻、6巻、おまけで9巻)

547■■■■:2010/10/13(水) 00:22:52 ID:20PeaAe.
投稿終了しました。
いや〜長編を書いているとこういうパッ!と思いついたネタを書きたくなりますね。

お目汚し失礼しました、それでは。

548管理者:2010/10/13(水) 21:20:23 ID:3vZfEKLA
デルタフォーススレに投稿予定だった作品を、こちらに投稿する予定。
前フリについては、既にデルタフォーススレに出ているので省きます。

549Ψ:2010/10/13(水) 22:35:51 ID:sAImcF4.
お久しぶりです。Ψです。
『とある暗部の黙秘録』のプロローグを投下していて内容は進んでいたのですが、いろんな小説を書いているもんで素でこちらに投下するのを忘れてました。
という訳で、前スレの>>720のプロローグの続きから書きたいと思います。
40分になったら投下します。

550Ψ:2010/10/13(水) 22:40:04 ID:sAImcF4.
「当麻、ご飯できたわよ」

 ここは学舎の園の入り口の正面にある当麻、美琴の新居である。
 当麻、美琴はそこに住んでおり、美琴は最近、当麻を起こし朝食を作るのが日常にある。

「う〜ん…もう朝か」
「そうよ。だから早く顔を洗って朝食を食べましょ」

 当麻は美琴がそういうので顔を洗いに行った。
 顔を洗い終わると、リビングに行き、美琴と一緒に朝食をたべるのだ。

「お、今日の朝食は和食か」
「そうよ。冷めないうちに食べましょ」
「そうだな。じゃあ、」
「「いただきます」」

 当麻と美琴、略して上琴は朝食を食べ始めるのだった。

「ところで、今日は大丈夫なんだよな?」

 当麻が朝食を食べている時に、美琴に話しかけた。

「多分、今日は大丈夫だと思うわよ。今のところ何も入ってないから」

 美琴は今日は大丈夫だと言った。
 何が大丈夫なのかと言うと、今日、『スパーク』の仕事は無いのかって言う意味である。
 また、当麻は美琴が暗部の『スパーク』に入った事は知っていて、最初当麻は反対していたが美琴に負け、絶対に帰ってくることを約束してしたのだ。
 上琴が話していると突然、美琴の携帯が鳴った。

「ごめん、ちょっと待ってて」

 美琴はリビングを一度離れ、電話に出た。

「もしもし、飾利どうしたの?」
『一昨日の研究所で盗んだデータ何ですけど、情報が少し分かりましたので今から私が住んでいる寄宿舎に来てくれませんか?』
「…分かった。じゃあ今すぐ行くから」

 というと美琴は電話を切った。

「ごめん当麻、やっぱり今日も無理みたい」
「そうか。折角の日曜日で補習も無かったのに…」
「ほんっとうにごめん!!」
「別に良いよ。じゃあ行って来いよ」
「うん。っとその前に、」

 美琴は当麻に軽くキスをした。

「じゃあ、行ってくるね。」

 美琴はそういうと、家を出た。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「元春、起きろ」

 同時刻、月夜は土御門の家で土御門を起こしていた。

「にゃー、後十分」
「そんな事言ってないで起きようよ」
「月夜うるさいにゃー」
ムカッ、「起きろって言ってるんだよ!!」
「にゃー!!」

 月夜は土御門が起きなく、なおかつ土御門にうるさいと言われたので一瞬で凍らせた。

「もう、折角朝食作ったのに…」

 月夜はテーブルに置いた朝食を見た。

「はぁ、って電話だ」

 月夜は自分の携帯から電話を取り電話にでた。

「もしもし、初春ちゃん。朝から何のようなの?」
『一昨日盗んだデータの事で分かったことがありますので。ちょっと私の家まで来て下さい』
「分かったよ。今から行くね」

 月夜はそういうと電話を切った。

「さて、じゃあ元春行って来るね」

 月夜は土御門を凍らしたまま土御門の家から出て行った。

551とある暗部の黙秘録:2010/10/13(水) 22:41:11 ID:sAImcF4.
 同じく同時刻、真夜は二人の恋人、茜川赤音と姉の井ノ原真昼に朝食を作っていた。

「はぁ、最近、二人と一緒にいないな…」

 真夜は『スパーク』に入ってからというもの、全然赤音と真昼と一緒に居ないのだ。
 すると、真夜の携帯が鳴った。

「朝から一体誰ですか?」

 真夜はそう言いながらも電話に出た。

「もしもし、また後で掛け直してくれます?」
『あの〜真夜さん?朝からどうしたのですか?』
「なんだ初春さんですか。もしかして、一昨日盗んだデータが分かったとかですか?」
『そうですよ。だから今から私が住んでいる寄宿舎に来て下さい』
「分かった。今すぐ行きますよ」

 真夜はそういうと電話を切った。

「さて、二人を起こすのも何だから紙に書いておきますか」

 真夜は紙に『急に用事が入ったから朝食は置いておきます』って書いて、テーブルに置いて家を出た。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「これで、全員に連絡しましたね」

 初春は美琴、月夜、真夜の三人に連絡をし終わると、携帯を閉まった。

「飾利〜」
「ふぇ?ひゃぁ!!火織お姉ちゃん、いきなり抱きつかないでください!!」

 携帯を閉まったとたん聖人で初春にゾッコンである神裂火織が初春に抱きついたのだ。

「あー!!神裂、一人で飾利を抱きついているんじゃね!!」

 もう一人、初春にゾッコンで暗号解読のスペシャリストであるシェリー=クロムウェルも初春に抱きつこうとした。

「二人とも離してください!!この後、この部屋で重要な話がありますので部屋から出てってください!!」
「そうなのですか。じゃあ、その人たちが来るまで」
「それも駄目です!!良いから出てってください!!」

 神裂とシェリーは初春がそこまで言ったので、初春が居る部屋から出てった。

「やっと行きましたね。さて、皆さんが来るまでにやっておく事をやっておきますか」

 初春はそういうと、みんなが来るまで準備に掛かった。

552とある暗部の黙秘録:2010/10/13(水) 22:42:00 ID:sAImcF4.
 その頃、黄泉川の家で暮らしている一方通行はと言うと…

「はぁ、朝からうるせぇなァ」

 一方通行は朝から呆れていた。
 その理由は…

「だから、ミサカは今日の夜はハンバーグが良いのってミサカはミサカは駄々をこねたり」
「だから、今日はメニューが決まってるって言ってるじゃん」

 打ち止めと黄泉川がくだらないことで揉めていたのだ。

「くだらねェ」

 一方通行がそう思っていると、携帯が鳴った。

「あン?こんな早くから誰だよ」

 一方通行はそんな事を言いながら、電話に出た。
 数分後、一方通行は電話を切り外に出る準備をした。

「おい黄泉川、俺はちょっと外に出るから打ち止めを頼む」
「私も行くってミサカはミサカは言ってみたり」

 打ち止めは一方通行について行こうとしたが、

「駄目だ。俺には用事があるんだ。黄泉川と芳川と遊んでろ」

 一方通行はそういうと家を出て行った。

「とりあえず、全員集めるかァ」

 一方通行は携帯を取り出し、誰かに電話した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 一方、凍らせられた土御門は未だに抜け出せなかった。

(誰か溶かしてくれにゃー!!)

 土御門は誰も来ないのにそんな事を言っていた。
 凍らされて数分後、土御門の携帯が鳴った。

(月夜!!せめて溶かしてから家を出て欲しかったにゃー!!)

 土御門は月夜に凍らせたので電話に出れなかった。
 そこに、誰かが土御門の家に入ってきた。

「兄貴、ちょっと遊びに来たぞー、って何で凍っているの!?」

 土御門の義妹、土御門舞夏がやってきたのだ。

(舞夏〜良いところに来たぜよ。早く助けてくれにゃー)

 土御門は声には出せなかったが、そんな事を言っていた。

「どうせまた月夜を怒らせたのだろうなー」

 いや舞夏さん、今回は土御門が起きなかったから凍らせただけです。
 そんな事を言いながらも舞夏は氷を溶かし始めていた。
 そして数分後、舞夏は氷を溶かし終わった。

「舞夏〜助かったぜよ」
「いや〜朝から兄貴が凍ってたからビックリしたぞー。どうせ、兄貴が月夜を怒らせたりしたからだと思うけどなー」
「今回は違うにゃー!!俺がの寝起きが悪かったから凍らせられただけだにゃー!!」
「そうなのか?まぁ、どうでもいいけどなー」
「舞夏、どうでもいいってそれは酷いぜよ…」

 土御門は舞夏のどうでもいい発言に落ち込んだ。

「ところで、着信が一件きてるぞー」
「あ、そうだったぜよ。ちょっと待ってくれにゃー」
「いや、私はもう帰るぞー。ちょっと近くに来たから寄っただけだからなー。じゃあ兄貴、またな」

 舞夏はそういうと、土御門の家を出た。

「で、一体誰からなんだにゃー?」

 土御門は着信履歴を確認すると、電話してきたのは一方通行だった。
 土御門はすぐに一方通行に電話にした。

「アクセラ、一体何のようだぜよ?」
『土御門、何で電話したのにすぐにでねぇンだよ』
「いやそれは月夜に凍らされたからだぜよ」
『何だそンなことか』
「で、用事って何ぜよ?」
『仕事だよ。『グループ』の召集しているところだ』
「分かった。今すぐ行く」
『じゃあ俺は結標と海原にも電話するから切るぞ』

 一方通行はそういうと電話を切った。

「さて、着替えて行くか。」

 土御門は洋服に着替えてから家を出た。

553とある暗部の黙秘録:2010/10/13(水) 22:42:58 ID:sAImcF4.
 その頃、結標は小萌先生の家で朝食を作っていた。

「にしても結標ちゃん、料理が上達してきましたね」
「それは毎日私に朝食と夜食を作らせてるから上達するに決まっているじゃないかしら」
「そうですね。でもそれは、翔太ちゃんと結婚した時の為にもしっかりと作れないといけないから朝食を作らせているんです」
「け、結婚って…///」

 結標は顔を赤くしていた。
 また翔太とは小萌先生の甥っ子で小萌先生と同様、高校生でありながら背が小さく結標の彼氏でもある。

「結標ちゃん、よそみしていると焦げちゃいますよ」
「それは小萌先生がけ、結婚って言うからでしょ!!」

 と、結標はそう言うと料理を作る事に。
 すると、結標の携帯が鳴った。

「小萌先生、ちょっと見ていてくれますか?」
「ちょっと待ってください!!いきなり私に任せられても…。って離れないでください!!」

 結標は小萌先生の言葉を無視して電話に出た。
 そして数分後、電話を切って小萌先生の方を向いた。

「ごめん、ちょっと用事が入ったから出かけてくるわ」
「え!?朝食はどうするのですか!?」
「外で食べるから私の分は任せるわ。じゃあ私は行くから」

 結標はそういうと家を出た。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 その頃、海原の姿をしているエツァリはショチトルと一緒に朝から出かけてた。

「っていうか、なんで朝からショチトルの手伝いをしなければならないのですか」
「ずべこべ言ってないでさっさと来い」

 エツァリは朝っぱらからいきなりショチトルに呼び出され一緒にいるのだ。

「で、俺を連れてきて何をすれば良いんですか?」
「洋服を買うからちょっと付き合って欲しいだけだ」
「それだけで俺を呼んだのですか!!」
「そんなこととは無いだろうが!!」

 ショチトルはエツァリをぶん殴った。

「殴らなくても良いでしょうが!!」
「お前がああ言うからだ!!」

 エツァリとショチトルはくだらないことで口喧嘩を始めた。
 口喧嘩をしていると、エツァリの携帯が鳴った。
 エツァリはショチトルと一度、口喧嘩をやめて電話に出た。
 そして数分後、エツァリは電話をやめショチトルと話した。

「ごめん、用事が入ったようなので。」
「『グループ』の仕事か?」
「まぁそうですね。じゃあ僕は行きますね」

 というとエツァリはショチトルと離れて『グループ』のメンバーと集合するために移動した。

554とある暗部の黙秘録:2010/10/13(水) 22:45:56 ID:sAImcF4.
 午前9時、『スパーク』のメンバー、美琴、月夜、初春、真夜の四人は初春の暮らしている学園都市にある『必要悪の教会(ネセサリウス)』の寄宿舎に集まっていた。
 何故初春が『必要悪の教会』の寄宿舎に住んでいるかと言うと、初春は去年の大晦日あたりから学園都市と『必要悪の教会』の仲介役として働いており、魔術師に良く殺されかけるので柵川中学の学生寮から学園都市にある『必要悪の教会』の寄宿舎に住み移ったのだ。

「とりあえず全員集まりましたね」

 初春は今までパソコンの画面を見ていたが、三人が来ると椅子を180度回転させ三人の方を向いた。

「それで、何か分かったの?」

 初春が三人の方を向くと、美琴は一昨日研究所から盗んだデーターに何が入ってたか聞いた。

「はい、美琴お姉ちゃんの言うとおりでした。やはりアレの情報が入っていました」
「やっぱり、アレの情報が入っていたのか?」
「まぁ、そうなんですけど気になることが」
「気になることって?」
「はい、これなんですが…」

 初春はパソコンの画面を三人に見せた。

「…別にアレの情報しか書いてないような気がするけど?」
「いえ、この部分をよく見てください」

 初春は画面をズームした。

「なになに。このことは『スクール』に任せ、予定通りに実行する。って『スクール』ですって!!あそこは前に『グループ』によって壊滅したんじゃ」
「そうなのですよ。だから私も最初見たときは驚きましたし」
「で、どうするの?『スクール』にはレベル5第二位の垣根帝督が居るから私でも勝てないわよ」
「そうなんですよね。どうやってアレを手に入れますか…」

 美琴と初春はどうやってアレをどうやって手に入れるか考えていた。

「ねぇ、だったら『グループ』と組めば良いんじゃない?元春達も居ることだし」

 二人が考えていると、月夜が『グループ』と組めば良いんじゃないかと言った。

「そうなのだけど、私たち『スパーク』の情報はあまり知れわたってないのよ。だから、あまり私たち『スパーク』の存在を隠したいのよ。白雪さんが土御門さんに言ってなければの話だけど」
「大丈夫だよ。元春には何も言ってないから」
「そうですか。それと私も美琴お姉ちゃんの意見には賛成ですね。組もうとしても向こうが私たちと組むとは思わないですし」
「そうだったね」

 けど、美琴と初春は自分達『スパーク』の存在を余り知られていないので月夜の意見を却下したのだ。

555とある暗部の黙秘録:2010/10/13(水) 22:46:30 ID:sAImcF4.
「とりあえず、俺たちは上の命令でなんとしてもアレを手に入れなければならないんですよね?」
「そうね。特に私はアレを絶対に阻止しなければならない。『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』がまた打ち上げられてしまう前に。」

 そう。『スパーク』が手に入れようとしている物、それは新たに作られている『樹形図の設計者』の一部品なのだ。
 それを手に入れ、壊す為に『スパーク』は動き出しているのだ。
 特に美琴は絶対に阻止しようとしている。折角命を救った妹達(シスターズ)がまた命の危険にさらされるからだ。
 一方通行(アクセラレーター)がまたあの実験を拒むにしろ、次に目をつけるのはおそらく第二位の垣根帝督だろう。
 垣根なら、自分がレベル6になる為なら絶対に協力するはず。だからこそ『スクール』にアレを運ぶのを頼んだのだろう。
 そして、『樹形図の設計者』が無ければ妹達は救われるのだ。

「ねぇ、前から気になってたけど、何で美琴ちゃんはそこまでこの依頼に真剣なの?」
「確かにそうだ。何でそこまで真剣なんだ?」

 美琴がこんなにも真剣になることを知らない月夜と真夜が言った。
 ちなみに初春は学園都市と『心要悪の協会』の仲介役をしてから、暗部のことや妹達のことも前から知っているのだ。

「そういえば言ってなかったわね。私がそこまでこのことに真剣になるか」
「で、何でなの?」
「打ち止め(ラストオーダー)っているでしょ」
「ああ、アクセラの恋人だよな」
「そうよ。それで、打ち止めは私のクローンなのよ」
「「え、そうなの!?」」

 月夜と真夜は驚いた。

「そうよ。さらに言うと、打ち止め以外にも私のクローンはいるの。私はあいつらを守る為に絶対に阻止しなければならないの!!」
「どういうことですか?」
「打ち止め以外の私のクローン達は元々、レベル5第一位の一方通行を絶対能力レベル6にする為、殺される為に作られたのよ」
「そ、そんな為に作られたの!?」
「そう。それで、その演算をしたのが樹形図の設計者というわけよ。だからこそ、私は絶対に潰す!!」

 美琴は本気で潰すつもりでいた。
 三人は美琴の本気に驚いていた。

「ところで飾利、アレがどこにあるかは分かるわよね?」
「ええ、一応情報に書いてありましたので…」
「なら、場所を教えて」
「第十学区の研究所に置いてあるようです」
「分かった。じゃあ飾利はここで待機、白雪さんと真夜さんは私と第十学区の研究所に向かうわよ」

「「「了解」」」

 ということで、美琴、月夜、真夜は第十学区の研究所に向かった。

556とある暗部の黙秘録:2010/10/13(水) 22:55:22 ID:sAImcF4.
とりあえずここまで。
それと、書き始めに『第一章 スパークの仕事』を追加するのを忘れました。

後、俺はもう一つ禁書の二次創作を書いているのですがこちらには投下した方が良いですか?
ちなみに佐天さん主人公で、またもや暗部ものです。
内容は余り言いませんが、投下して欲しいのなら投下しますので。それではまた。

557■■■■:2010/10/15(金) 21:52:19 ID:qwf/RU0o
この人がなんでこんな態度でいられるのかわからないんだけど、とりあえず投下して「欲しくない」ので丁重にお断りしますね。
内容それほど面白くもありませんし…
文章も平坦で盛り上がりにかけていると思います。
少なくとも私は読みたいとは思いませんね。

もうここはダメっぽいですね…
以前はもう少し違った雰囲気だったんですけど、不愉快さが勝ってきた。
スレの垣根が一部だけ異常に低くなって、出張してくる人もいるし
むこうのワンダーランドっぷりが特殊であるということをわかっていない作者が多すぎます。
棲み分けくらいして欲しい。

558管理者:2010/10/15(金) 23:28:19 ID:v9rW/m96
せめてプロローグか予告見て言おうよ。

559■■■■:2010/10/16(土) 00:40:11 ID:y3A/NOs2
>>558
管理者氏へのレスじゃないと思うよ

とりあえず、デルタフォースから(オリ設定・オリキャラを引っ提げて)出張して来た人達には、まず>>1の【投稿時の注意】2を読んで欲しい。
あっちには疎いんだが、オリキャラ無双なのは何となく知ってる。ここで受け入れられる訳がないと思うんだが。
デルタフォース設定でシリアスを書きたいんなら、ここじゃなくて自分でスレ立てて連載すればいいんじゃね?ここは受け皿じゃないんだからさ

560Ψ:2010/10/16(土) 09:54:22 ID:Yza4GA.6
>>557
なんかすみませんでした!!変に態度が高くなってしまいまして。そんなつもりではなかったのですけど。
後、『とある暗部の黙秘録』は管理人氏がスレを立ててくれたのでそちらで書かせてもらうことにします。

それと>>556で言った二次創作なんですが、オリキャラが多すぎたのでこちらで投下はしない事にします。

561■■■■:2010/10/17(日) 23:22:05 ID:0lEimYGI
ども。『空から落ちてくる系の一方通行』続き投下します。このタイトルにしたことを若干後悔しています。

注意点は特に無し。強いて言うなら遅かったくせに進んでないくせに長いです。テンポ重視だったはずなのにどうしてこうなった。
原作一巻を片手に読んでもらっても結構違う上にあっちこっちいってるから難解です。大筋のストーリー覚えてれば必要無いかもしれない。

それでは始めます。

562空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/17(日) 23:28:11 ID:0lEimYGI

 階段の踊り場から飛び降りた上条が自転車をなぎ倒しながら着地するのを、10032号は半ば手すりに腰掛けるようにして見ていた。
 慌てて立ち上がりこちらを仰いだ上条と目が合う。その目に確かな怯えを見て取ったところで、10032号は手すりから降り、上条に背を向けた。
「どうやらこれ以上の追撃は必要無いようですね、とミサカは戦闘態勢を解除します」
 暗視ゴーグルを上げ、アサルトライフル――F2000R『オモチャの兵隊』に安全装置をかける。
 実験の障害は取り除いたのだから、それでよしとした。本来なら確実に始末したほうがいいのだろう。あの様子ならもう上条が直接妨害に来ることは無いだろうが、それでも警備員に通報くらいはするだろうから。
 だが10032号はそれをしようとは思えなかった。
 理由は単純、上条は自分達とは違うと思っていたからだ。
 いくらでも替えの効く自分達とは違って、彼は世界に一人きりしかいないのだから、と。
 単価十八万のクローン如きが人間を殺してしまうことに、最後の最後で躊躇してしまったのだ。
「……さて、それではこちらをどうにかしましょう、とミサカは雑念を振り払います」
 そういって10032号は一方通行に向き直る。清掃ロボットは跳弾を受けて停止しているので問題は無いが、依然として一方通行の額からは血が流れている。
 救急車を呼ぶという選択肢はない。そういった『表』の機関はそうそう利用できない。
 かといって彼女一人で一方通行にしかるべき処置をして研究所等に運ぶ――というのもいささか現実味がない。そもそもいくら細いといっても、人間一人を担ぐというのはなかなかの重労働である。
「一方通行に自分で歩いてもらうのが一番手っ取り早いのですがね、とミサカは一方通行を叩き起こすか思案してみます」

563空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/17(日) 23:33:01 ID:0lEimYGI

 言うだけ言ったものの、流石に実行に移そうとはしない10032号。
 仮に起こせたとしても、一方通行は10032号の眼前から『逃亡して』『ここで倒れていた』のだから、自身で研究所まで帰還させるというのは二つの意味で非現実的だった。
 そもそも重傷人にそこまで働かせるのも酷だろう。
「他の妹達が到着するまではまだ時間がかかりそうです、とミサカは推量します。まあそもそもそんなにゆっくりしている余裕もなさそうですしね、とミサカは一方通行の容態を確認します」
 一方通行は意識の無いまま横たわっている。呼吸も脈も問題は無いので今すぐどうこうということは無いだろうが、かといってこの出血はこのまま放置しておくには余りに危険だ。本来なら一刻も早く医療機関での処置を施すべきだろう。
「少々脳を損傷しているようですが被害の程度は判然としません、とミサカはネットワークを通じて報告します。銃弾も貫通していませんし、ここまで来る途中にも何度か能力を使用していたので能力の使用にはまだ不具合は出ていないようですが、とミサカは推測します。しかし今は一時的に脳の他の部分が欠損部分の機能を補っているだけで、後に何らかの障害が発生する危険も否めません、とミサカは楽観的な見解を否定します」
 ひとまず途中で手に入れてきた治療具で、簡単な応急処置を行う。傷が深いのでこの程度では完全な止血すらも出来ないが、無いよりはマシだろう。
 どうせ洗い流しても後から後から流れてくるのだと、血も洗い流さずに消毒の後にガーゼで圧迫してからきつく包帯を巻く。
 そしてその包帯も、即座に赤く赤く染まっていく。
 それが溢れ出しているのは額の傷で、その傷を作ったのは10032号で。

564空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/17(日) 23:36:56 ID:0lEimYGI

(そういえば誰かに怪我をさせたのはこれが初めてですね、とミサカは思い至ります)
 妹達は皆見た目と年齢にはかなりの開きがある。クローンとして生まれ、培養機で強引に肉体年齢を底上げされ、学習装置で強引に精神年齢を底上げされた。
 故に彼女達は『経験』というものが圧倒的に少ない。直接的な経験は『後片付け』ばかりで、間接的な経験は一万回を超える回数の『殺されること』だ。
 だからこそ彼女は『痛み』には慣れていた。直接痛覚情報を受け取ったわけでは無いにしろ、その経験は彼女の中に蓄積されているのだから。
 けれどそんな彼女も知らない『痛み』が、彼女の心を揺らしていた。
 しかし、彼女がその痛みの正体に気付こうとした時。
 寮内の火災報知機のベルが、けたたましく鳴り響いた。

「…………」
 10032号が頭上を仰ぐより早くスプリンクラーが作動する。豪雨のように大量の水が降り注ぎ、あっという間に10032号は濡れ鼠になった。
 報知器が作動した理由を10032号は考える。心当たりといえば先の手榴弾くらいだが、それにしては遅すぎる。そもそもあの手榴弾は破片を撒き散らすタイプのものなので、センサーに引っかかるとは思えない。
 ということは、あの少年が火災報知機のボタンを押したのだろう。最後に一矢報いたつもりだろうか。
「……まさかこの銃を無効化する為でしょうか、とミサカは馬鹿馬鹿しくて笑えもしません」
 『オモチャの兵隊』は勿論のこと、10032号の額にかかっている暗視ゴーグルも完全防水仕様である。学園都市製の軍需用品は防水加工されていないものの方が珍しい。
 そもそも学園都市製でない外の銃であっても、水に濡れたくらいで完全に機能を損なうものなどそうそう無いだろう。熱湯に浸せばまだ熱膨張などが期待できるかもしれないが――それすら現実的とはいえない。
 最もこの水が熱湯であったなら10032号はとっくに茹で上がっているだろうが。

565空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/17(日) 23:38:42 ID:0lEimYGI

 10032号は壁に張りついている赤い火災報知機を見る。能力を使って報知器を止めようかと思ったが止めた。今更止めたところでもう十分濡れてしまったし、消防にも連絡は行ってしまったはずだ。
 そもそもここら一体は水浸しだ。単純に能力での攻撃ならばむしろ都合がいいだろうが、電子機器に干渉するような精密作業を行うのは難しい。
 10032号は一瞬考えて、それからひとまず一方通行を回収することにした。消防隊に見つかっては厄介だし、一先ず人目のつかない場所に移動すべきだと判断したからだ。
「そういえばエレベーターは動いているのでしょうか、とミサカは懸念します」
 火災報知機と連動して機能を停止するエレベーターなんて珍しくもない。さすがにここのエレベーターがそうかなんてことまで下調べはしていないが、もしそうならば少々面倒だ。
 そんなことを考えていた10032号の背後で、エレベーターの到着を告げるキンコーンという音が響いた。
 どうやら動いているようだと彼女は一瞬安心するも、すぐそれは疑問に上塗りされる。
 この寮に住む学生は皆一様に遊びに出かけている。完全下校時刻にはまだ早いので学生ではないだろうし、学生以外にこんなところに出入りするものはいない。消防隊にしても早すぎる。
 ならば誰が? 誰がエレベーターを動かした?
 スプリンクラーで濡れた床が、カツンという音を鳴らす。誰かがこちらに歩いてきている音。
 10032号はゆっくりと振り返る。自分の体が僅かに震えていることにも気付かずに。

566空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/17(日) 23:41:51 ID:0lEimYGI

 上条当麻が、そこにいた。

「……まさかこのスプリンクラーでミサカを無力化したつもりですか、とミサカは問いかけます」
「たかが濡れた程度で壊れちまうほど学園都市製の銃は弱くないだろ。俺だってそこまで馬鹿じゃないさ」
 10032号の思考が空転する。見たところ新たに武器を持ってきたわけでもないようなのに、何故彼はこの場に戻ってきたのか。『オモチャの兵隊』であれだけ一方的に撃たれたというのに。
 あまりの恐怖で気が狂ったのかのかと思ったが、その足取りにも眼差しにも一切の揺らぎは無い。
 静かに、上条当麻はそこに立っていた。
 自然と。泰然と悠然と浩然とそして誰よりも毅然として――そこにいた。
「それならばこれはどういったつもりなのですか、とミサカは重ねて問います」
「ああ、火災報知機か。単に携帯が壊れてたからその代わりでもあるんだけど」
 言って、上条当麻は視線を下げて、10032号の腰辺りを見た。
「いやー実は上条さん濡れ透けを期待していたんですがね。上はセーターがあるから無理だろうけどスカートならあるいは、って具合に」
「……大したものですね、とミサカは呆れます。この状況でそんな下劣な言葉が飛び出すとは思ってもみませんでした、とミサカは軽蔑します」
「上条さんだって健全な男子高校生なんですよ? そういうものに興味を持つのは当たり前なんです」
 視線を下げたまま軽薄に語る上条当麻。まさかあれだけの目にあってそれだけの為に戻ってきたのかと、10032号は訝しがる。

567空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/17(日) 23:45:07 ID:0lEimYGI

 上条当麻は通路の中央に棒立ちしている。スプリンクラーで水浸しの通路は一直線で、距離は彼の歩幅で10歩分ほどか。
 今『オモチャの兵隊』を乱射すれば上条当麻は逃げようがない。
 また先程と同じように手すりを乗り越えれば急場は凌げるが――そうやってイタチごっこでもするつもりなのだろうか。それとも他に何か策があるのか。
「それで、来ないのですか? とミサカは軽く挑発します」
「あぁ、まあなー……そういえば、お前に一つ聞きたいことがあったんだ」
「先に言っておきますが、実験の機密に関わることはお話できませんよ、とミサカは先手をうちます」
「ああ違う、そういう話じゃないんだ。……あーでもまあ、やっぱり後でいいや」
 口の端で笑った上条当麻はそう言って視線を上げる。真っ直ぐに10032号を見据えて右の拳を握る。
 それを受けて10032号も暗視ゴーグルをかける。銃口はまだ下げたままだが、この距離ならばそう慌てる必要も無い。
「やはり実験妨害の意思は変わらないのですね、とミサカは確認をとります」
「ああ――さて、と」
 その上条の一言で、空気ががらりと変わった。
 たった一歩。上条の動きに、10032号は緊張を走らせる。
「一応急所は外しますが五体満足は保障しませんよ、とミサカは簡潔に警告します」
「そりゃどー、もッ!」
 上条当麻が銃弾の如く駆け出す。爆ぜるように足元の水が撥ねた。
 しかし10032号の元へ上条がたどり着くよりも早く、彼女は銃口を上げた。
 上げながら、引き金に指をかける。それを引いた瞬間に弾丸はばら撒かれて、先とは違い全力でこちらに駆けている上条当麻はもう絶対に避けることは出来ない。
 その事実にほんの僅かだけ躊躇い、引き金を引こうとした瞬間。

568空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/17(日) 23:48:11 ID:0lEimYGI

「――――やめ、ろ」
 不意に、10032号は大きく仰け反った。
 急停車した電車に乗っていたかのようにバランスを崩す。突然のことに10032号の頭は混乱するも、後ろを振り返らずとも誰がこれをやったのかは即座に理解出来た。
(一方通行!?)
 10032号は、自らの足に一方通行が触れているのを感じる。あれだけの重傷を負いながらも、彼女にかかる重力のベクトルを操作したのだ。
「撃、つな……ッ、10032号……!!」
 10032号は背後を振り返る。そこには確かに一方通行が倒れていて、その手は10032号の足に触れていた。
 けれど10032号は『彼』を一方通行だとは思えなかった。まるで悪鬼のような、狂気のみを宿した瞳。学園都市の闇に君臨する化け物、それが一方通行なのだ。
 だというのに。
 彼が一語一語搾り出す度に、その額から血が零れる。
 そんなことは一切気に留めずに上条当麻を助け、挙げ句には彼が伏せる理由を作った彼女すらも案ずるような気色を滲ませる。
 一方通行――正真正銘の化け物としての生き方しか選んでこなかった少年はそこにはいなかった。それに驚愕する10032号は、今も迫ってきている上条当麻のことすら忘れかけてしまう。そうさせるまでの『異常性』がそこにはあった。
 パシャっという水を踏む音で、10032号はようやく目の前の上条当麻に視線を戻す。
 とっさに天井に向いている『オモチャの兵隊』を引き下ろし、銃口を上条当麻に向けた。
 とっさだった為に、照準は正面。このまま引き金を引けば、確実に上条に致命傷を与えてしまう。
 そして、この期に及んで10032号は上条当麻を殺してしまうことに躊躇する。
(……先とは違いゴーグルも装着していますし、幸いにも周囲は水浸しです。今なら能力も外しようがありません、とミサカは能力での攻撃を実行します!)
 10032号は能力を発動する。彼女の能力は『欠陥電気』。第三位の『超電磁砲』には遠く及ばない電力でしかないが、それでも対人使用では十分な成果を発揮する。
 彼女から放たれた雷撃はスプリンクラーから撒かれる水と、それで濡れた壁と床を伝って大きく拡散しながら上条に向かう。

569空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/17(日) 23:52:30 ID:0lEimYGI

 一方通行は動いた。その事実が彼に力を与える。
 事前に計画していたわけでもなければ、何か合図を決めていたわけでもない。それでもただアイコンタクトを交わしただけで、彼は上条に応えた。
(そうだよな、当然じゃねえか)
 上条は一瞬でも一方通行を疑った自分を恥じた。
 そう、当たり前なのだ。一方通行が他人の命をゴミ同然に扱うような悪人ならば、そもそも妹達から逃げる必要は無いのだから。
 一方通行自身も10032号も言っていたではないか。彼の能力を以ってすれば銃器如き何の障害にもならないと。
 それだというのに一方通行は今血に塗れている。何故か。答えなど考えるべくも無い、彼が能力を使わなかったからだ。
 最初から不自然だったのだ。彼は『追われ』『逃走し』『撃たれ』『八階から落下した』と言っていた。
 だが、世界中を敵に回しても生き残れるような化け物が何故そんなことをする必要があるのだろうか。彼がその気になれば、彼に敵対する人間は即座に呼吸を止めることになるのに。
 今のこの状況だって、本来ならば上条の右手のようなイレギュラー中のイレギュラーでしか為し得ないことなのだ。
 だが実際に彼は逃げることを選び、血塗れになっても彼女を傷つけようとはしなかった。
 それどころかただ一度言葉をかわしただけの上条すら庇おうとしている。

570空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/17(日) 23:59:02 ID:0lEimYGI

 上条はこれまでの一方通行を知らない。何を考えて何を為してきたのかも。知っているのは彼自身が言っていた『一万を超える妹達を殺した』ということだけ。そしてそれすら本当なのか、上条には分からない。
 けれど、一方通行が本当に一万の妹達を殺したのだとしても。
 彼がそこからやり直そうとしているのならば、自ら地獄の底から這い上がろうとしているのならば。
 例えそれが血塗れであろうが、その手を掴まない理由など上条当麻の中には存在しない。
「邪魔だ!!」
 右の拳が、スプリンクラーの水ごと電撃を弾き飛ばす。
「!?」
 驚愕に染まる10032号の表情を尻目に、上条は彼女の眼前に迫る。
 スプリンクラーの意図は二つ。一つは一方通行を叩き起こすこと、そしてもう一つは電撃を使いやすい状況を作ること。
 幸運にも先の一回では上条の右手の力は悟られなかった。ならば先ほどのように至近距離で彼女に能力を使わせれば、それを破った一瞬に隙が生まれる。
 それを狙って、上条当麻は火災報知機を鳴らした。
 結果見事目論見通りに電撃を打ち消した上条は、その一瞬の虚を突いて10032号の眼前に迫る。
 そして立て続けに予想外の出来事が起こって混乱している10032号が我を取り戻すより早く、その握られた右拳が彼女の顔面に吸い込まれ――
 寸前で、止まる。

571空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/18(月) 00:09:24 ID:pAxkFqkM

「……さっきの質問、今してもいいか?」
「このタイミングで聞くべきことなのですか? とミサカは返答します」
 右の拳は10032号の眼前で止まっており、左の手は『オモチャの兵隊』を押さえている。10032号は完全に制されている状態だ。
 上条は顔を伏せているので、10032号から彼の表情は覗えない。
「『一方通行は私達とは違って実験に欠かせない個体』って言ったよな。それってお前らは代えがきくってことなのか」
「ええ。私達は単価十八万でいくらでも量産出来るクローンです、とミサカは回答します。あなたが私をどうするつもりかは知りませんが、私を殺してもいくらでも代わりはいますし、人質としての価値も皆無ですよ? とミサカは淡々と事実を述べます」
「…………」
「私達はあなたや一方通行とは違う何の価値もない『出来損ないの乱造品』です、とミサカはかつて浴びせられた罵声を引用します。詳細を語ることは出来ませんが、私達は本来の目的と用途に沿うことすら出来ずに使われ消費されていく運命です、とミサカは事実を事実のまま伝えます」
「ふざけんじゃねえぞ」
「……? 何を怒っているのですかと、ミサカは」
 上条当麻は右手で10032号の襟元を捻り上げる。
 彼が滲ませる感情は、紛れも無い怒りだった。
「ふざけんな! いくらでも代わりはいるだ? なめやがって、テメエは世界にたった一人しかいねえだろうが!!」

572空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/18(月) 00:14:45 ID:pAxkFqkM

 その時、これまで貼り付けたかのような無表情であった10032号の表情が、初めて揺らいだ。
 驚きと哀しみと喜びがない交ぜになったような、そんな表情。
 事実、彼女は自分の感情を理解出来なかった。
 自分はいくらでも替えの効くクローンだということも、彼らと自分達が根本的に違う存在であるというのも紛れもない事実だ。事実のはずだ。
 それなのに何故この少年は、こんなにも憤っているのか。彼女には理解出来ない。
 間違っているのはこの少年のはずなのに、なぜ自分はこんなに動揺しているのか。
 まだ彼女には、理解できない。
「今からコイツと一緒に、お前を救ってやる。それまでお前は大人しく見学でもしてろ」
 右手が襟元から離れ、左手も『オモチャの兵隊』を放した。
 上条当麻は10032号の脇を抜け、一方通行のそばに跪く。
 一言二言なにか言葉を交わしたのち、上条当麻は手負いの一方通行を抱えて非常階段へと消えた。

 それを10032号は、ただ見ていた。
 一方通行を回収するのが彼女の任務で、目撃者の口を封じるのも同様で。上条当麻は彼女を全く警戒しておらず、彼女がその気になればいつだって彼を倒せたのに。
 結局最後まで、彼女は何も出来なかった。

573空から落ちてくる系の一方通行:2010/10/18(月) 00:25:42 ID:pAxkFqkM
以上です。――長かった割には説教が薄すぎた。そして全然進んでねえ。

>>358
読んで下さってありがとうございます。
実はもうフラグは立って……る?

>>359
感想ありがとうございます。
今回もオリジナル部分多めです。最初御坂妹には馬鹿みたいな火炎放射器持たせようかとも思いましたが上条さんが消し炭になったから止めました。
オリジナル部分も禁書風にするようには心がけているんですが、ところどころ自分の文体がはみ出しているので精進したいところです。
そんなわけで御坂妹は不意打ちに不意打ちを重ねてみました。無理やりですごめんなさい。
呼び名をどうやって定着させるべきか熟考しながら、なるべくテンポを上げていきたいです。

574■■■■:2010/10/19(火) 01:37:58 ID:CSi/FzAA
>>573
GJ! 投下待ってました。
いやぁ本当に安心の禁書風味。文体に何ら違和感なく、すらすら読めました。
あと今更ですが、章タイトルなんかあると更に禁書っぽくなるんじゃないかと。一巻は語呂が統一されてますし。
スプリンクラーは御坂妹に敢えて超能力を使わせるための布石か……なるほど、なるほど。
一方さんがヒロインしてるww っていうか、この先どんな展開になるのかいよいよ分からなくなりました。
「三巻の結末まで一巻の流れで進む」というコンセプトでしたが、もし次に一方さんの回復に向かうのだとしたら、誰を頼ればいいのか。
実験に関わっていて、上条さんの刺客になりそうな強キャラも思い当たらないし……複数の妹達に取り囲まれたら終わりだしなあ。
小萌先生とねーちんポジションに誰が座るのかですね。候補は絞られているでしょうが……期待です。
テンポうpは嬉しい限りですが、余り無理せずこれまでの質を維持して下さい。次回も楽しみにしております。
――そして、美琴の役割とは

575■■■■:2010/10/23(土) 02:12:27 ID:hzkYbvZ6
垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』投下します。
大分間が空きました、すいません。五は>>362です。
今回の注意点も変わらずオリキャラ一名です。

感想など下さった方、ありがとうございました。
>>449
アニメⅡ一話から堂々の存在感を見せ。はいむら先生もピクシブでお描きになった姫神さんは。きっと素敵なヒロインとして。光臨すると思う。多分。




では、投下します。

576垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:13:10 ID:hzkYbvZ6
「……ここだな」
 8月9日。
 日も傾き、夏空が茜色に染まり始めた頃。
 第七学区にあるとある病院の入り口に、学園都市第二位、『未元物質』垣根帝督はいた。
(病院だしな。堂々入ったって文句は言われねぇだろ。上条とやらのお見舞いです、とでも言っときゃいいか)
 そう考え、躊躇なく病院の自動ドアを潜ろうとした垣根だったが、
〈間然。少し待て〉
 脳内から呼びかけられた声――垣根の脳に絶賛不法滞在中の錬金術師・アウレオルス=イザードの声に、出しかけた足を戻す。
(……何だよ)
〈いや、その、だな……そ、そうだ。姫神の時のようになっては困るだろう。禁書目録に会う前に、貴様のすべきことを伝えておこう〉
 慌てたような調子のアウレオルス。
 垣根はその態度に彼の心情を見抜き、
(要らねぇよ。脳内の会話なんて数秒で済むんだ。歩きながらで構わねぇだろ)
 まるで取り合わずに病院内に入っていく。
〈だが、しかし……〉
 尚も食い下がってくるアウレオルスに、垣根はズバリ指摘する。
(テメェ、今更怖くなって先延ばしにしようとするんじゃねぇよ。俺の頭にジャンプしてきてからもうすぐ一日経つだろ。いい加減腹決めろ)
〈う……〉
 言葉を詰まらせるアウレオルス。
(つーか今日一日ずっとテンション高かったのもそのせいだろ。分かりやす過ぎんだよ。三沢塾で会った時は掴み所のねぇやつだと思ったが、実際同居してみりゃ分かる。テメェはただメンタルが物凄ぇ弱いくて、それがバレねぇように演技してただけだってな)
 あの治療針もメンタルを高めるためのものだったんだろ、と言ってのける垣根に、
〈………………〉
 アウレオルスは完全に沈黙してしまった。
 それは図星を刺されて気まずいようにも、或いはどこか拗ねているようにも見える。
(ったく、別に悪いとは言ってねぇよ。確かにそいつは短所ではあるが……それ以上に、テメェの守るべきものを守るっつー信念はすげぇんだからよ。俺が手本にしたがるくらいにはな。――だから、今は俺がテメェの治療針の代わりになってやるよ。うじうじしてるテメェの背中を押してやる。ま、この身体が俺のものである以上、テメェに拒否権はねぇんだがな)
 いつかアウレオルスが言った台詞をなぞったその言葉に、
〈………………本音だと分かってしまうというのも、時には気恥ずかしいものだ。やはり貴様を選んでよかった。感謝する〉
 アウレオルスは素直にそう応える。
(どういたしまして、だ。んじゃ、行くぞ。禁書目録の所へ)
 アウレオルスに心中でそう返して、垣根は上条当麻の病室を聞こうと受付へ歩を進める。
 ――が、

「むぅ……マスクメロン味のポテトチップス……これは、新たな次元への挑戦かも……」

 そのすぐそばに設置された院内売店に。
 そこら中が安全ピンで補強されているおかしな白い修道服を着て。
 マスクメロン味と書かれた怪しいポテトチップスの袋を両手で握りながら。
〈………………………………唖然。見つけた〉
(な、あいつが!?)
 禁書目録がそこに居た。

577垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:13:28 ID:hzkYbvZ6
(何だ何だ。話が早ぇじゃねぇか。このまま突撃すりゃ任務完了だ)
 思いながら売店の禁書目録へ向かって歩きだそうとする垣根。
〈なっ、待て! 待て待てストップ!〉
(だーから今更怖じ気づいてんじゃねぇって……)
〈そうではない。否、それも少しはあるが、売店の隅を見ろ〉
 アウレオルスの言葉に、垣根は歩みを止めてそちらを見やる。
 するとそこには、
(……何だありゃ)
 黒い神父服の様な物を着た、明らかに場違いで、見るからに怪しい長身赤毛の男が、棚の陰から禁書目録の方に視線を遣っていた。
(って、あれ……さっきまであんなのいたか?)
 男がいる場所は、禁書目録を見つけた時からずっと視界の中にあった。
 あれほど目立つ格好をしていれば、自然と気づく筈である。
〈他人の意識から自身の存在を『外す』魔術だ。と言っても非常に弱く、暗示の延長のようなものだがな。それ故に禁書目録にも気付かれていない。一般人の目さえ眩ませれば充分ということだろう〉
(魔術ってことは、魔術師……イギリス清教か? つーか何でテメェには見破れたんだ? 今の魔術師テメェにゃ魔術師としてのスキルなんざ残ってねぇだろう)
〈雑然。一度に聞くなと言ったであろう。……まず、私には確かに魔術を扱う力も見破る力も残ってはいない。陣を見てそれがどんな魔術か、ということくらいは分かるが……それだけだ。知識しか扱えぬと言ってもいい。例えば私が貴様にこう陣を描けと命じたところで、魔術は発動しない。働くのは超能力者である貴様の身体と脳なのだからな。それと同様に、魔術にかかるのも貴様の身体と脳だ。当然、魔術に対して何のプロテクトも施されていないが故に、さっきの貴様のように奴の術に嵌ることになる〉
(じゃあ、何で俺は駄目でテメェは奴の隠れ身の術を見破れてるんだ? 俺の五感とテメェの疑似脳味噌は繋がってるんだろ?)
〈簡単。繋がっているからこそ、だ。私の今の状態は、貴様の五感を二股コードを使って私の方にも引っ張ってきているようなもの。つまり、私の感じる外界は、『貴様の脳で処理される前の世界』だ。一方、奴の魔術は『相手の脳に作用し、認識をブレさせる』ものである〉
(ん、あぁ。何か分かったぞ。テメェは俺の純粋な感覚器の情報だけを得るから、不純物である術に嵌った俺の視界の情報は届かない。そしてテメェの脳は本物の脳じゃねぇから、脳味噌の認識を書き換える信号を受け取ってもそれをその通りに実行出来ない。そういうことだろ)
〈正解だ。相変わらず聡明だな〉
(……んで、あいつは何者なんだ?)
〈――ステイル=マグヌス。イギリス清教、『必要悪の教会』の者だ。かつての禁書目録のパートナーでもある。もっとも、高々一年で彼女の救済を諦めた軟弱者であるがな。おそらく今は禁書目録の監視なり護衛なりをしているのだろう〉
(ボディーガード、ね。んじゃ、俺は禁書目録に不用意に近づけないんじゃ……?)
 垣根とアウレオルスが隠れて思考を交換し合っていると、ステイルが動いた。
 それも、禁書目録の方にではなく、上階へ上がる階段の方へ、だ。
(……監視なんじゃなかったのかよ)
 ジトリ、と脳内でアウレオルスを睨む垣根。
〈もともと中立地帯の学園都市、そしてここは病院。多少の油断もあるのだろうよ。大方上条とやらの所へ行ったのだろう〉
 想定通りだとでも言わんばかりに涼しげに答えるアウレオルス。
(……まぁ、いいけどよ。ステイル=マグヌスが帰ってくるまでが勝負ってことか。ま、別に禁書目録をどうこうしようって訳じゃねぇし、相対するのは魔術師のテメェじゃなく学園都市にはありふれている超能力者の俺。最悪見つかったらナンパにでも思わせておけばいい)
〈で、あるな〉
 二人は脳内でそう示し合わせると、垣根は禁書目録のいる売店へと足を進めた。

578垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:14:15 ID:hzkYbvZ6

「むー、どうして!? どうしてこのマスクメロン味ポテトチップスとアンコ梅アイスバーを買っちゃいけないのかな!?」
「だから、買っちゃいけないのではなくて。その……お金が足りないのよ」
 ステイルに気を取られているうちに状況は変化していたらしい。
 どうやら禁書目録の手持ちの金が菓子を買うのには足りていないらしく、売店のお姉さんが猛犬のように唸る禁書目録を困ったように宥めている。
「むぅ、じゃ、じゃあこのアイスバーだけでも……」
「えっと……それでもまだ50円足りなくて……」
 禁書目録の後ろに回ってカウンターを見てみると、そこには百円玉が一枚だけ置かれている。
(こういうとこの物品は割高がデフォだろうが。上条ってのはどんなけ貧乏なんだ)
〈断然。私ならイタリア料理フルコースを三人前ほど取ってやるのだが〉
(おいおい、んなもん一人で食える訳ねぇだろ)
〈………………〉
(な、何で黙るんだ?)
 アウレオルスの無反応に戸惑いつつも、垣根は財布から千円札を取り出し、禁書目録の頭越しにカウンターに置く。
「これでお願いします」
「へっ、あ、分かりました」
 店員は垣根の出した札を手に取ると、さっさと会計を済ませる。
 と、
「い、い…………」
 禁書目録が突然声を震わせ、
「いい人!!」
 キラキラとした瞳で垣根のことを射止めた。
〈ごふぁっっっ!!??〉
(おい、どうしたアウレオルス!? 魔術攻撃か!? そうなんだな!?)
 気の抜けた風船のようになってしまったアウレオルスの肩をイメージの中で前後に揺らす垣根。
(つーか何だかんだでまだこの後俺はどうすればいいのか聞いてないんだが! おい! 応答しろアウレオルス!)
〈……………………ふ〉
 ようやく自我を取り戻したのかアウレオルスが額の汗を拭いながら話し始める。
〈茫然。少し立ちくらみを〉
(今のテメェにゃ血液もなにもあったもんじゃねぇがな)
〈何をするか、だったな。まずは『首輪』の有無の確認だ〉
(まぁ、第一目標だしな。了解)
 会話を打ち切ると、垣根は禁書目録の首もとに手を伸ばそうとし、
〈否。首輪と呼称しているが首に填めている訳ではない。それではすぐに存在がバレるであろう〉
 アウレオルスの言葉に動きを止める。
(んじゃ、どこなんだよ)
 何とはなしに聞き返す垣根に、
〈喉の奥だ〉
(はぁっ!?)
 アウレオルスは、簡潔に、しかし衝撃的な答えを述べた。

579垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:14:27 ID:hzkYbvZ6
(おま、それどういう……つぅかどうやって……)
〈歴然。口の中に指を入れて確認すればいいだろう〉
「結局難易度激高じゃねぇかよぉぉぉ!!!」
「…………?」
 突然頭を抱えて声を上げる垣根を首を傾げながら見つめている禁書目録は、しかし大した興味もないのか、先ほど買ったアンコ梅アイスバーの包みを溶けないうちにと開け始める。
 食費の提供者よりも食料の方が優先順位が上であるらしい。
〈今が好機だ。氷菓子を食べようと口を開けたところに指を突っ込め〉
(簡単に言うよなぁ! テメェはホント簡単に言うよなぁ!)
 脳内で突っ込みを入れつつも、しかし実際喉にあるという『首輪』を確認するためには口内を覗くのが一番早い。
 まさか喉を切り裂くわけにもいかないのだから。
 そう思い、アイスバーの包みを解いて、今にもそれにかぶりつこうとしている禁書目録に、垣根は再び右手を伸ばす。
 そして、垣根は
「ちょっと失礼するぞ」
「……!?」
 禁書目録の開かれた口の中に指を突っ込むと、歯医者で治療の際に使う突っ張り器具のように右手の人差し指と中指とを広げて上下の顎を支える。
(……………っ)
 途端に禁書目録のふわふわとした唇が指の先に感じられ、僅かに湿ったその感触が、垣根に背徳的な感情を誘発させる。
(何だこれ。マシュマロみてぇ、柔らかい。うわっ、舌が指に触って……まるで……)
〈……………………………〉
(……………………………)
 脳内で(おかしな言い方だが)背中から鋭い視線が浴びせられている。
(ごほっ、ごほん! お、おい、見えてるか? アウレオルス)
 指先の感触を振り払いつつ、垣根はアウレオルスに問いかける。
〈十全。…………確かに『首輪』は消えている。どうやら第一目標は達成されているようだ〉
 心なし弾んでいるように聞こえる声で、アウレオルスが告げる。
(そっか、取り敢えずオッケーだな)
 垣根は指を突っ込んだまま安堵の溜め息を吐く。

 すると、次の瞬間。

〈あぁ、そうだ。指はさっさと抜いた方がいいそ。垣根帝督〉
 アウレオルスの言葉が終わるか終わらないかのうちに、
「ッッッッッッッッッ!? ィッテェェェェェェェェェ!!??」
 鋭い犬歯(ギロチン)が、垣根の右手を上下から物凄い力で挟み抜いた。

580垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:15:11 ID:hzkYbvZ6
「まったく、あむっ。食事は急に止められないんだよ。食事中の私の口に指を入れるなんて……というかそもそもれでぃの口の中に手を入れるなんて、一体どういう神経しているのかな……んー、すっぱあまい!」
 アイスバーを食しながら、垣根に向かって説教をする禁書目録。
 余りにも間の抜けた、とても説教とは言えないようなシチュエーションであったが――
「うぉぉぉぉぉ!!?? いてぇぇぇぇぇぇ!! 何だよこれ! 絶対女子の……つぅか人間の顎力じゃねぇだろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 一方の説教される側、右手の指を左手で抱えてあっちへこっちへぴょんぴょん飛び回っている垣根帝督もまた、学園都市第二位にあるまじき様相を見せていた。
「ゴリッていったからな! 骨がゴリッていったからなぁぁ!」
〈フン、折角警告してやったというのに〉
(遅すぎるんだっつーの! つぅか何だありゃ! 猛獣か!? あぁ!?)
〈否定はせん〉
(しねぇのか……)
〈とまれ、第二目標である〉
 何事もなかったかのように切り替えるアウレオルス。
(ん、あぁ……魔導書の記憶が消去されてるか、だったか。だがよ、どうやって調べるんだ? 何々の魔術について知ってますかなんて聞いたら、実際知ってようが忘れてようが、まず知らないと返ってくるだろうぜ?)
嘘吐き村の話じゃねぇけど、と付け加える垣根に、
〈任せておけ。貴様は私の言うとおりのことを禁書目録に伝えればよい〉
 アウレオルスは余裕の表情で答える。
(……さっきそれでものの見事に嵌った覚えがあるんだがな)
 ジトリとアウレオルスを睨みつけてから、
(まぁいいか。とっととやろうぜ)
 再び、アイスバーを食べ終えた禁書目録へと向き直った。

581垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:15:46 ID:hzkYbvZ6


〈名前は?〉
「っと、お前、名前は?」
「インデックスだよ」
〈性別は?〉
「……性別は?」
「むぅ、見て分からないのかな? れでぃに決まってるんだよ」
「……だよな」
(おい、この質問一体どういう……)
〈いいから続けろ〉
(…………りょーかい)
 どうにでもなれ、と思いながら、垣根はアウレオルスの言うとおりの他愛のない質問の数々――年齢、国籍、好きな食べ物、嫌いな食べ物――を禁書目録に問うていく。
 そんな一問一答が50程続いた頃だろうか。
 流石に向こうも飽きてきたのか、立ったままふらふらとし始めた。
 止めたいのはこっちだ、と思いながら、垣根はアウレオルスの出す次の質問を待ったが――
〈……『黄金錬成』とは?〉
 アウレオルスが、突然魔術についての質問を飛ばした。
(っ、おいおい大丈夫か?)
〈いいから聞け〉
「……『黄金錬成』とは?」
「世界の全てを呪文と化し、それを詠唱完了することで行使可能となる錬金術の究極到達点。神や悪魔を含む『世界の全て』を己の手足として使役する事が可能となる。世界の完全なるシミュレーションを頭の中に構築することで、逆に頭の中で思い描いたものを現実に引っ張り出す魔術であるが、唱え切るには数百年単位の時間を要する為、実現は不可能とされている」
「んなっ――」
 驚いたのは、垣根の方だった。
 自分から魔導書の知識について語り出す禁書目録。
 スムーズに紡がれるその声には、一切の迷いもない。
 それこそ催眠的に言葉を吐き続けている。
(催眠……そうか、誘導尋問みてぇなもんか)
 一問一答によって相手の意識レベルを低下させ、素直な反応を引き出そうとする。
(思いっきり科学の領域じゃねぇか……あぁ、だから『魔術側』の禁書目録に効いたのか。脳科学に手を出した時にでも覚えたのか?)
〈あぁ……〉
 感心したような垣根の問いに、しかし力なく応じるアウレオルス。
(……そうだったな。答えることができたってことは――つまりそういうことなんだよな)
〈……当然。予想はしていた。いかに『吸血殺し』がいようとも――存在すら定かではない吸血鬼など、伝説でしかなかったか。或いは、捕らえ損ねたか、永遠の記憶術などなかったか、そもそも『吸血殺し』が引き寄せるのは吸血鬼とは別の何者かであったか……否、いくら考えようとも詮ないことだ〉
 ――言わずもがな、アウレオルスの第二目標は、失敗に終わっていたのだ。
「……ん? あれ、私……あれ?」
 意識レベルが戻ったのか、キョトンとして周囲を見回す禁書目録。
 目の前で小動物のように動き回る無垢な少女を見ながら、垣根はアウレオルスに語りかける。
(……確かに、テメェの理想の完遂には至っちゃいねぇようだがよ。それでもテメェは、守るべき者をきちんと守れてると思うぞ)
 今の禁書目録にはステイルや上条がついていて、記憶のリセットもなくなって、安全地帯の学園都市で暮らしていて――。
(少なくとも、これまでの悲劇のヒロインではなくなった……救われたんだよ、テメェにな)
 踵を返し、禁書目録に背を向けて、垣根は階段とは反対方向にある病院の出入り口へ向かう。
〈そうならば……良いのだが〉
 小さく呟くアウレオルス。
 その背に、
「ありがとうなんだよ、おにーさん!」
 少女の明るい声が降り注ぐ。

〈………………〉
 それは勿論、垣根に対してのもので。
 菓子を奢ってあげたという、些細なことに対してのもので。
 そんなことは、当然分かっていたけれど。
「……………………」
 垣根は、返事をしなかった。
〈…………大したことでは、ない〉
アウレオルスは、しっかりとそう答えた。

 病院の自動扉をくぐる。
〈垣根帝督〉
(何だ?)
〈最後に、振り向いてくれないか?〉
(……了解)
 閉まりゆく自動扉。
 垣根はその向こうにいる禁書目録の姿を視界におさめる。
〈……あぁ〉
 その視覚情報を得て、アウレオルスはひとりごちた。
〈良かった。彼女は変わらず――笑っているのだな〉

 ――そしてもう、「失いたくない」と嘆かなくとも済むのだな。

582垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:16:23 ID:hzkYbvZ6
 学園都市内にあるとある廃工場。
「………………………」
 その、開かれることになくなった正面扉の前に、一つの人影があった。
 電子ゴーグルを装着した中学生くらいの出で立ちの少女。
「量産能力者計画」の遺子、そして「絶対能力進化計画」の駒――妹達の一人であった。
「……………………」
 御坂妹は動かない。
 まるで人形であるかのように、微動だにしない。
 だが、
「よォ」
 忽然と、新たな人影が工場に現れる。
 御坂妹はそれを認識すると、操り人形の糸が手繰られたかのように活動を開始する。
 手にした小銃を胸に抱え、一歩一歩新たな人影に近づいていく。
「挨拶もなしに始まりかァ? オイ。まァ、サッサと終わるンならそれに越したことは……?」
 御坂妹に向かってべらべらと話していた人影が――学園都市第一位、一方通行が言葉を止める。
 どうにも、この御坂妹の行動は他の妹達と違う。
 そう感じたのだ。
「問題が発生しました、と御坂は伝えるべき事項を簡潔に述べます」
「問題だァ?」
「ここでは『関係者以外』に実験の様子を見られる可能性があります、と御坂は与えられた伝言を再生します」
「あァ、そりゃ確かに気になッてたが……」
 一方通行は辺りに注意を払う。
 どうやら廃工場の周りを数人の、それも実験に関係のない者が彷徨いているようなのだ。
「先日から行われているマネーカードのばらまきによるものだと思われます、とミサカは可能性を提示します。そして、今後の計画への歪みを考慮すると、実験の中止、延長も許可出来ないため、早急に別ポイントへ移動し、その場所で実験を再開します、とミサカは代替案を提案します」
「ンなもんそっちの都合だろォが」
 文句を言いながらも、一方通行は歩き出した御坂妹の後について行く。
「つーかよォ」
 しかし、言葉は止まらない。
「テメェはそのポイントへ着いたらこのオレに殺されるンだぞ? だッてのに、随分まァ余裕綽々なことじゃねェか、あァ?」
 まるで弄るように、乱暴な言葉をぶつけていく。
「実験は上からの指示で、ミサカは実験のために用意された実験動物です。逆らう理由も権利もありません、とミサカは――」
「あァそーかよ」
 自分から話を振っておきながら、一方通行は会話を断ち切る。
 ――これ以上話しても意味はない。
 その返答はこれまで一万回聞いたそれと同様であったのだから。

583垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:16:37 ID:hzkYbvZ6
「毎度ありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」
「いえ、こちらこそどうも」
 学園都市内にあるバイク屋。
 社交的な笑顔を浮かべながら先日点検に出したバイクを受け取ると、垣根帝督は早速それに跨って走り出す。
 時刻は午後7時を過ぎ、日の長い夏と言えどももう夜の時間がそこまで迫っている頃合いだ。
(あー、晩飯何にするかなぁ)
〈今朝食した納豆というやつだけは勘弁してくれ。あれは流石に味覚を遮断せざるを得なかった〉
(朝も夜も納豆なんて侘びしい食生活を送るつもりはねぇよ。もうヒメ帰ってきてるよなぁ。待たせるのも悪いしどこかに食べに行くか………………つーかよ)
〈む?〉
(……………………何でテメェは消えねぇんだ?)
 帰路を急ぐ車上から見える風景とは別のもう一つの視界へと呆れたような眼差しを向けながら、垣根帝督は脳内の居候たるアウレオルスに疑問をぶつけた。
〈何、気にする程のことではない〉
(いやいや、テメェの面倒臭いお願いを叶えたら即テメェが成仏してゲームクリア、コングラッチレーションでハッピーエンドってそういう話だったろうがよ! つーかいつまでも居座られても邪魔なだけなんだよ!)
〈貴様の良き話し相手かつ突っ込み相手になれていると自負しているが? あぁ、もしかしてエロいことが出来ないのが不満なのか? 別段私は気にせんぞ〉
(だーっからっよぉぉぉぉ!!)
 叫ぶ垣根であったが、垣根自身はアウレオルスを追い出す方法を持っておらず、アウレオルスが自主的に退散してくれるのを願うしかない以上、何を言ったところで意味はない。
 まるで悪徳商法か何かのようである。
〈なに、貴様には感謝しているのだ。ただ消えるのではなく、礼の一つでもしてやろうかと、プレゼントを考案中なのだ〉
(テメェが消えてくれるのがサイッコーのプレゼントだよクソ野郎…………?)
 脳内で喚き散らしていると、いつの間にやら自宅マンションまで辿り着いていた。
 そして、その正面玄関の前に、
「あっ、てーとにぃ! 帰ってきた!」 
 垣根帝督の妹、垣根姫垣が立っていた。
「お前。どうしたんだよ、こんなとこで。それに、その格好……」
「えっへへー、一人で着れたんだよー」
 動揺する垣根の前でくるりと回ってみせる姫垣が着ているのは、夏祭りにでも着ていくような、花のデザインがあしらわれた紺色の浴衣。
 確か去年垣根が買い与えたものであり、短めの裾から覗く足首が一年の月日を感じさせる。
「どうしてそんなもん引っ張り出して……大体、今日は友達とプールに……」
「いいからいいから! 早くしないと始まっちゃうよ!」
 言いながら、姫垣はヘルメットを被ると垣根の後ろに回り、バイクに跨った。
「おいヒメ。だから、一体どこに……」
 状況を把握出来ていない垣根に、
「ほら、あれだよ! もう始まっちゃってる!」
 姫垣は空の一点を指差すことで答えた。

584垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:16:50 ID:hzkYbvZ6
 先行する御坂妹が立ち止まった。
「ここがポイントです、と御坂は周囲を指し示しながら目標地点に到達したことを報告します」
「ここかァ? 確かに人は少なねェが……」
 顔を上げる一方通行。
 その先には夜空に咲く幾輪もの花火があった。
「すぐそこで祭りやッてンだろ。逆に見つかるんじゃねェか?」
「いえ、みな花火に集中しているでしょうし、この先は先日の災害で壊れた高台。現在修復中で立ち入り禁止ですから、一般人のいる可能性は低い筈です、と御坂は上からの報告をそのまま伝言します」
「そうかよ」
 ドォン……と新たに花火が上がる。
 その光に、御坂妹の横顔が明るく照らされる。
 はたから見れば、或いはデートに来ている男女のカップルに見えたかもしれない。
 しかし。
 賑やかな祭りの開かれているそばで、そんな楽しげな雰囲気とは無縁な――むしろ正反対に陰鬱な気配を纏って、
「さァて、始めるか」
 白い悪魔が殺戮を開始する。

585垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:17:17 ID:hzkYbvZ6
 ドォン……ドォン……
 身体の芯にまで届くような重低音が、空から次々に降り注いでくる。
 しかしそれは副次的なものでしかなく、その音響を生み出すものの本質は、色とりどりの光の花。
「うっわー、キレイだねー花火!」
 大空に咲き乱れる大輪を停めたバイクに寄りかかって見上げながら、姫垣が感嘆の声を漏らす。
「……そっか、確かここの花火大会、この前の乱雑解放騒ぎのせいで途中で中止になっちまったんだったっけ」
 思い出した、とでも言う風に呟く垣根。
 確かその日は一日フルで仕事が入っていて、姫垣と一緒に参加することを諦めた記憶がある。
 結局姫垣も一人で参加したり、友達と行ったりということもなく、後で中止の噂を聞くに止まったのだが――
「うん、でもね。今日花火大会の仕切り直しをやるんだって、プールに一緒に行った友達が教えてくれたの」
「そういうことか……」
「はー、ギリギリてーとにぃが間に合って良かったぁ」
 花火を見上げながらほっとしたように呟く姫垣に、垣根は躊躇いがちに問いかける。
「……なぁ、別に俺を待ってなくても、昼に一緒にプールに行った友達と行けば良かったんじゃねぇか?」
 そもそもその友達だって、おそらくは姫垣を誘おうと考えて話したのだろう。
「……ううん、これでいいの」
 姫垣は、花火から垣根へと視線を移してから言った。
「ヒメは、てーとにぃと一緒に花火が見たかったから」
「………………そうか」
「夏休み、二人で夏って感じのイベント行ったりとかしてないしね。だから、花火の話聞いて、今日しかないと思って、浴衣引っ張り出して。あ、どう? この浴衣?」
「去年も見た。つぅか帯曲がってる」
「え? 本当!?」
「動くな、直してやるから」
 言い、垣根はバイクから身を起こして背中を向ける姫垣の浴衣の帯を結び直す。
「……ヒメは、俺と一緒にいて楽しいか?」
 少しの沈黙の後、垣根は姫垣にそんな質問をぶつける。
「へ?」
「俺はお前の友達と違って女子の趣味や流行りの話なんてわかんねぇし、全然遊びにも行けないし、行けても同じ視点で物事を経験出来るとは限らない」
「…………」
「そんな人間といるより、気の合う友達といた方が楽しいんじゃないか?」
 背中越しに言葉を吐き出す垣根に、
「……そんなこと、ないよ」
 姫垣がゆっくりと語り出す。
「てーとにぃといると楽しい……ううん、幸せに感じる。だって、てーとにぃは、ヒメのお兄ちゃんだもん。それだけで充分なんだよ」
 後ろを――垣根を振り返り、姫垣はえへへ、と気恥ずかしそうに笑ってみせる。
「……そっか。ごめんな、変なこと聞いて。お前、いつも遠慮ばっかして、滅多にこういう、どっか遊びに行こうとか言わないからさ。その、なんつーか……」
 ――俺といると楽しくないのかと、悪い勘ぐり方をしてしまった。
「…………ごめんなさい。そうだよね、お仕事で疲れてるのに、引っ張ってきたりしたら、迷惑だよね」
「なっ……」
 俯いて小さく呟く姫垣。
 どうやらまるで正反対の勘違いをしてしまっているらしい。
「違ぇよ。俺だって、お前といると楽しいから。だから遠慮しないで、言ってくれていいんだぞ」
「……ホント?」
「本当。ほれ、帯終わったぞ」
「…………うん、分かった。ありがとう、てーとにぃ」
 いつかもやったような遣り取り。
 それでも、ほのかに赤く染まっている姫垣の頬を見ると、少しくらいは変わったのではないかと思える。
「えへへ。あっ、にぃ! こっち来て! 友達に聞いたんだけどね、この上の高台、花火鑑賞の穴場スポットなんだって! この前の地震で壊れたらしいけど、修復されてるみたい!」
 楽しそうにはしゃぎながら、姫垣はすぐそばにあった階段を登り、張られた黄色いロープを潜り抜け、土手の上にある、所々鉄筋で支えられた高台へ進んでいく。
 その様子を見ながら、
(なぁ、アウレオルス)
 垣根は、脳内の同居人に語りかけた。
(俺って、駄目だな。全然、まだまだだ。俺は何よりも――ヒメといる時間よりも、ヒメを救うことを第一に考えなきゃいけねぇのに――ヒメともっと一緒にいたがってる)
〈判然。そうだな。現段階の私に比べれば、確かにその立ち位置は遥かに低位だ〉
 自分と同じ思考を持ち、それでいて自分より上位にある存在。
 アウレオルスに否定されることは、自分自身に、そしてその理想に否定されることに等しかった。

586垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:17:52 ID:hzkYbvZ6
〈――だが〉
 垣根自身の心をなぞるように、アウレオルスが言葉を続ける。
〈私とてかつてはそうだった。禁書目録を救うと『言い訳』して、彼女のそばに身を置くことで自身こそが救われていた〉
 懐かしむような声音で話すアウレオルス。
 それは、逆に言えば、その記憶を過去として切り離すことが出来るようになったということだ。
〈私が目的を達したことで、それを脳内で共有してしまったせいで、貴様は焦っているだけだ〉
(……あぁ、自分でも分かってる)
〈ならば悩むな垣根帝督。今持てる彼女との時間を精一杯享受しろ。救いたいという心は重要だ。だがそれと同じ程度には貴様も彼女に救われるべきだ――私と同じようにな〉
(救われる、か……そうだな)

 姫垣が産まれた時に、自分は彼女を守らなくては、と思った。
 それは、きっと姫垣という存在自体に垣根帝督が救われたから。
 彼女を幸せにすることで、自分を支えてくれる姫垣という存在に恩返しをしたかったから。
 だから、もう少しだけ――
 お前を本当に救済してやれるその時までは、
 俺のそばで、俺を救い続けていて欲しい。

(サンキュー、アウレオルス)
〈礼を言われる程のことではない。それより、彼女が待っているぞ〉
(あぁ……)
 実際の時間にして、ほんの数秒の遣り取り。
 それで垣根の心は決まった。
「待てよ、ヒメ! つぅかそこ立ち入り禁止だろーが」
 既に高台に着いている姫垣に向かって苦笑しながら叫び、垣根もまた階段へ向かう。

 先には不安もある。
 それでも、今はヒメとの時間を大切にしよう。
 一緒に花火を見て、その後は出店で好きなものを買ってやろう。
 金魚すくいや射的も一緒になって楽しもう。
 帰りはバイクをひいてゆっくり歩いて行こう。
 家に着いたら適当なテレビ番組でも一緒に見よう。
 滅多にやらないコンピュータゲームを引っ張り出したっていい。
 兎に角、今日はヒメと――

587垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:18:08 ID:hzkYbvZ6
「…………ぁ」
 ドサリ、と御坂妹が地面に倒れる。
 その手にあった小銃はとうに破壊され、彼女自身も身体中に傷を作っていた。
「ハッ! こンなもンかよ! あァ!?」
 言いながら、一方通行はゆっくりと御坂妹に近づいてくる。
 最早勝敗は決していた。
 それでも、『実験』はまだ終了していない。
 『最期の一打』を打ち込んで初めて、段階は完了する。
「次はもう少し楽しませてくれよォ? 妹達」
 言い、一方通行は右足を大きく振り上げる。
 一瞬の溜めの後、それを勢いよく地面に――地面に横たわる御坂妹の背中に振り下ろし、
 ドガンッ!!
 という大きな音と共に、ベクトルを操作された強烈な踏みつけが、御坂妹の身体ごと地面を大きく砕いた。

「――今日の実験、終了ッと。あァーあ、コーヒー買って帰るか」

588垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:18:23 ID:hzkYbvZ6
 その時。
 地面が、激しく揺れた。
「なっ――――?」
 思わず垣根は階段の手すりに掴まる。
(一体何が…………!?)
 状況を確認しようと上を見上げた垣根の目に飛び込んできたのは、
「えっ――――?」
 支えであった鉄筋が揺れで外れてしまい、崩れゆく高台と共に空中に投げ出される、
「ヒメェェェェッッッッッッッ!!」
 垣根姫垣の姿だった。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 高い声で叫びながら、鉄筋や土石と共に直下へ落ちていく姫垣。
「クッソォォォォォ!!!!」
 崩壊の原因は何か。
 そんなことを考える余裕などない。
 瞬間の内に、垣根は動いていた。
 能力を使い伸ばすのは『未元物質』で出来た伸縮性のロープ。
 数本の束にしたそれを、高台の下に植えられたら木の幹へ次々に巻き付けていき、瞬時に大きなネットを形成する。
(イケる、間に合う!)
 垣根の予測の通りに、『未元物質』のネットは姫垣が接地するより先に地面に程近いところへびっしりと張り巡らされる。
 だが――

 ネットが姫垣を受け止めることはなかった。

 かと言って、姫垣が地面に激突したという訳でもなかった。
 むしろ、その正反対。

 垣根姫垣は、ネットより少し高い位置で何の頼りもなく空中に静止していた。
 他に何の頼りもなく――彼女自身の背から浴衣の布地を破って出現している、水晶の様な透明の何かで構成された三対六枚の羽のみを用いて。

「あれ? 私……あれ?」
 現状を理解できていないのだろう、姫垣が翼と地面とを交互に見やって首を傾げている。
 対して、垣根帝督は。
「………何だよ……それ…………」
 それが何か理解していた。
 否、理解ではなく、知っていた。
 それが『何か』であることを。
 『理解できない何か』であることを。
 しかし、だからこそ認められない。
「嘘だ……そんなこと、有る筈がねぇ」
 否定する、その言葉を。
〈嘘を吐いているのは貴様の方だ、垣根帝督〉
 他者であり自身であるアウレオルスが更に否定する。
〈徴ならあった。貴様の記憶の中に、幾らでも〉

「あるって。ほら、いつだったか。公園でさ、茂みの向こうがちょっとした崖みたいになってるところ。遊んでるうちに、崖に気づかずに茂みの中にダイブしていって、2、3メートル落っこちたろ」
「そんなの学園都市に来る前の話だし。それに、あの時は怪我しなかったからいーじゃん」
 ――幼少期、垣根が落ちて怪我をする程の崖から落ちて、どうして姫垣は無傷でいられたのか。
  
 「む……じゃあ、あれだ。雨の日によ。傘さしてはしゃいでたら、足滑らせてすっころんだろ。しかも、そのまま土手を転げ落ちて増水中の川にダイブしたよな」
 「いや、これは今年の梅雨ん時だから、最近だし。そもそも俺が能力使ってお前のこと川ん中から助け出したんだからよ。水面に浮いてきてくれたから何とかなったが……あん時は本当に肝が冷えたぞ」
 ――今年の梅雨、増水した河川に流されながら、垣根が助けるまで、姫垣はどうやって沈まず水面に浮かび続けていたのか。

「結局、転がったせいか服も背中のところがすごい破れてて、着れなくなっちゃったし」
 ――ただ転んだだけでシャツの背中がああも大きく破けるものなのか。

「……まさか……そんな……」
 姫垣に能力開発を受けさせない。
 それで、彼女を『学園都市』というシステムの脅威からは遠ざけることが出来ると思っていた。
 ただの人間なら、凡庸な一般人なら、貪欲な科学者達の目標にならないと思っていた。
 ――だと、言うのに。
「有り得ねぇ……んなこと有り得る筈が……」
 地に膝をつく垣根。
〈認めよ〉
 その背中に剣を鋭利な突き刺すように、
〈認めよ、垣根帝督。現状を正確に理解せずに、どうして守るべきものを守り通すことが出来るというのだ〉
 アウレオルスは無情に答えを口にする。


〈垣根姫垣。あれは――『原石』だ〉

589垣根帝督の十番勝負 第六戦『禁書目録』:2010/10/23(土) 02:24:36 ID:hzkYbvZ6
 垣根帝督の十番勝負
 
 第六戦 『禁書目録』
 
 対戦結果――大敗(決まり手・噛み付き)
 

 
 次戦
 
 対戦相手――『木原数多』

590■■■■:2010/10/23(土) 02:28:20 ID:hzkYbvZ6
以上です。

一方さんについては、このことが私情に絡んだりすることはありません。
お互いに地震の犯人⇔地震の被害者という関係を知らないままです。
乱雑開放の後で震災術式の前の時系列なので、他に地震を起こす手段を思いつかなかったので。


それでは、感想、ご意見などありましたらどうぞよろしくお願いします。

591■■■■:2010/10/23(土) 19:40:52 ID:2U35ongw
原作では、外伝的だった2巻の内容がこういう
形で本編に絡んでくれるとなると、禁書世界に厚みが出ていいと思います。
アウレオルスが上条当麻とは対照的ともいえる「主人公になれなかった男」だったのと同じように、
垣根帝督もまた、一方通行とは逆の「大切なものを守れなかった男」と
いえそうです。
あくまで未完の作品に対する私見ですので、間違っていたらごめんなさい。

592■■■■:2010/10/23(土) 19:55:16 ID:2U35ongw
age

593■■■■:2010/10/25(月) 00:38:26 ID:l92/ZS6Q
>>590
GJ!! インデックスかわええ
ていとくんがまさかの大敗ww でも上条さんも一方さんも勝てなかったんだから、仕方ないね。
アウレオルスの結末は綺麗に纏めましたね。鬱展開を期待していたのでちょっぴり残念でしたが、知らない方が良い事もありますよね。
後半は打って変わってシリアス展開。ここで一方さんが絡んでくるとは、時系列を最大限活かす緻密なプロット構成に脱帽です。
ただ、「御坂妹」という呼称は10032号だけを指すと思うのですが……そこだけは「ん?」と思ってしまいました。
ヒメ覚醒――来ましたね、その時が。ていとくんの『道』が外れるきっかけとなった出来事が。

いよいよ悲劇の幕が開く。未元物質、錬金術師、木原一族……そして、『原石』。
学園都市の闇に魅入られたとある兄妹は、否応なく絶望の渦へと呑み込まれていく。
救いはない。もしそれがあるとしても、それはまた別の物語。
今はただ冷蔵庫の中で、静かにその時を待つ。

垣根帝督の十番勝負
 
第六戦 『禁書目録』
 
読了結果――ぎゃはは!! 木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥンに全部持ってかれちまったじゃねェかよ、オイ!!

594■■■■:2010/10/26(火) 01:14:58 ID://Tw7T9o
>>591
感想ありがとうございます。
もうまさに指摘の通りです。
最終的に垣根が「守れない」かは、後々ですが。
でも。ふふ。私の活躍した二巻は。外伝だったの。そう。

>>593
こちらも感想ありがとうございます。
御坂妹の呼称の指摘その通りです。
書いている途中に気づきましたが、具体的に何号と決めるのも憚られて。
なんと呼べばよかったんでしょうか…

595管理者:2010/10/26(火) 18:41:29 ID:uwVvD7zE
いや、外伝という言い方はまずかったかな。
正確に言うと、全体の流れの中でとっぱらっても不自然でない話です。
いや、記憶喪失の上条さんがステイルと初めて会ったのはこのときか
あとは、アレイスターや竜王の顎が登場したり、
「黄金練成」のことが時々上条さんの頭の中にでてきたりというところですか。

596■■■■:2010/10/27(水) 23:32:57 ID:GVXRhbnA
ちょっくらショートを投下します。
元々適当に書いて適当にブン投げてたものなんですが、22巻読んだらちゃんと書き直したくなったので。

全然禁書調の文章でもなければ半分くらい妄想です。死にネタ?になるんでしょうか。

では、6レスほどお借りして。

597『上条当麻』:2010/10/27(水) 23:35:03 ID:GVXRhbnA
 所詮、神様から見放された不幸少年上条当麻の最期なんてこんなものだ。


 俺の頭に羽が触れた瞬間、得体の知れない衝撃が頭の深奥まで貫いたのを感じた。
 薄れゆく意識の中で思う。ああこれは『死んだ』な、と。
 大切な『何か』が失われてしまったのが分かる。そしてそれが無くなるということは、『上条当麻』の死を表すということも。
 大して驚きはない、悲しくも苦しくもない。あの羽がヤバイというのは直感で分かっていたから、むしろ記憶だけで済むなんて僥倖だとすら思える。
 毎日が不幸まみれだった俺が死ぬ間際に浮かべた言葉が僥倖だなんて、なんていうか、皮肉というか滑稽というか。
 ああ、そうだ。本当に俺の日々は不幸だった。この間も家電はビリビリの雷で死んだし。携帯は踏み砕いたし。
 最近に限ったことじゃない。小さなことばかりでもない。そう、例えば――ああ、これは走馬灯ってやつなんだろうか。

598『上条当麻』:2010/10/27(水) 23:36:55 ID:GVXRhbnA

 最初に自分の『不幸』を自覚したのは、たしか幼稚園に通っていた頃だ。
 とは言ってもそれは俺の印象に深く残った、とびきりの不幸があったってわけじゃない。
 『疫病神』 そう呼ばれていたからだ。
 それがもう不幸だって? ……まあ、それもそうか。
 とにかくその頃から俺はとことん不幸だったらしく、級友とその親達は揃って俺を疫病神呼ばわりしていた。
 くだらない迷信だと父さんは憤っていたけれど、俺はそうだと言い切れなかった。実際に級友を何度か俺の不幸に巻き込んだこともあったから。
 そんなわけで、俺にはろくに友達もいなかった。幼稚園児に不幸なんてよく分からなかっただろうが、親の感情ってのは子にも伝染するものだ。実際に不幸に巻き込まれて体感した子は言うまでもない。
 級友達に石を投げられた。
 彼らはそれを見て笑った。大人達も笑った。
 笑わない大人だっていた。なにかとても汚いものを見るような目でこっちを見ていた。
 それが、覚えている中での最初の不幸。
 多額の借金を背負った男に刺されたこともある。もっとも、不幸中の幸いというべきか致命傷にはならなかったが。
 けれどその時のことはハッキリと覚えている。当たり前か。いじめなんて日常茶飯事だったけれど、そこには殺意なんて無かったんだから。ときには面白半分やストレス解消で殴られたりもしたけれど、その多くは大人も子供も見えない不幸を恐れて、それを呼ぶ俺を忌んでいただけだったんだから。
 「お前のせいだ」と言われた。
 幼稚園の近所に済む男だったらしい。借金を背負うことになった理由は知らないけれど、それは『不幸』な俺のせいにされた。勿論そんなのは責任転嫁も甚だしいことで俺の不幸とは一切関係ない話――のはず――だ。
 俺が直接的に不幸っていうのを体感したのは、それが最初だった。
 痛かった。恐かった。辛かった。何かとても悪いことをしてしまったような気がしてずっと泣いていた。

599『上条当麻』:2010/10/27(水) 23:38:03 ID:GVXRhbnA

 テレビが取材に来たこともある。
『疫病神』としてカメラに映された。もっと愉快な話題は無かったのかと思わないでもないが、多分他人の不幸は蜜の味ってやつだろう。結局その考え方は俺には最期までよく分からなかったけれど。
 その目を、今でも覚えている。そこに悪意は無かった。善意だって勿論。
 そこには純粋な好奇心しかなかった。『疫病神』という化け物か、珍獣か。そんな『もの』に向けた目だった。

 そんな日々を過ごしながらも、俺が曲がってしまわなかったのはひとえに両親のおかげだ。
 父さんも母さんも、決して俺を疫病神だとは呼ばなかった。きっと沢山迷惑をかけてきたはずだ。沢山不幸に巻き込んだはずだ。それでも俺を見捨てなかった。俺がいじめられれば憤ってくれた。俺が苦しかったら傍にいてくれた。不幸と相殺してもおつりがくるくらいに、俺をたくさん愛してくれた。

 それでも、俺への周囲の目が変わるわけじゃあなかった。
 だから、俺は学園都市に送られた。『不幸』なんて迷信を信じない、科学の街へ。

600『上条当麻』:2010/10/27(水) 23:39:56 ID:GVXRhbnA

 だが、この街でも俺は不幸だった。
 レベル0、それが俺に与えられた評価。
 それも並みのレベル0では無い。『0に等しい』でも『限りなく0』でもなく、『全くの0』。得体の知れない脳の開発を受けた結果が、『君には超能力は絶対に習得できません』だ。
 それでも、俺はそんなにそれを不幸だとは思わなかった。
 元から妙な力が宿っていたから? 違う。
 友達が出来たから。両親以外の、かけがえの無い存在が出来たからだ。
 住むことになった寮の隣人の、土御門元春。義妹ラブのなにやら胡散臭いヤツだが、この街で最初に出来た、気が置けない友人だ。
 青髪ピアス(名前なんだっけ)。こっちはロリ含む雑食らしい。会ったときからただの変態だった。
 こいつらと馬鹿話をしていると妙に疲れるが、そんなくだらない時間が楽しかった。学園都市に来る前には、決して過ごしたことの無い時間だった。
 吹寄制理を初めとするその他のクラスメイト達。俺は学園都市に来ても不幸だったけれども、彼らは俺を疫病神とは呼ばなかった。むしろ俺の不幸を逆手にとって、一部の連中は俺のことを不幸の避雷針代わりにしやがったりと、なんやかんやで俺を輪の中に受け入れてくれた。なんだか吹寄にはなんだか嫌われっぱなしだったけれど。
 小萌先生。初めて会った頃から、身長は俺の方が高かった。最初は何の冗談だと思っていたけど、いつも親身になって接してくれる、素敵な先生だった。
 ビリビリこと御坂美琴。彼女とは初めてあった頃から喧嘩ばかりしているけれど、そんな関係もどこか心地よかった。殺人級の電撃は勘弁して欲しいが。
 結局、彼女には最期まで嫌われっぱなしだった。もう少し違う出会い方をしていれば、きっといい友達になれたと思うのだけれど。

601『上条当麻』:2010/10/27(水) 23:42:23 ID:GVXRhbnA

 そして、『禁書目録』インデックス。
 彼女とは会って一週間しかたっていないけれど、それでもいつの間にか欠かせない存在になっていた。彼女が俺と同じように『不幸』だからだろうか。
 彼女が泣くのは悲しい。彼女には、いつも笑っていて欲しい。
 二人の魔術師、ステイル=マグヌスと神裂火織。友人というよりは敵だったけれど、最後には同じ志を持つ、戦友のようになれたんではないかと勝手に思っている。
 
 彼らに会ったのも、また不幸の一つなのだろうか。
 確かにこの一週間で三回は死に掛けたが(その最後の一回でこうして死んでいくわけだが)、あまりこれを不幸だとは思いたくない。
 俺が彼らと出会わなければ、彼らはきっとずっと死にも等しい苦しみを味わい続けたのだろうから。
 俺は死んでしまうけれど、その不幸の連鎖を断ち切れたのだから。
 最後の最期でこんな役立たずの右腕が役に立ったのだから。
 これはこれで良かったんじゃないかと思う。

602『上条当麻』:2010/10/27(水) 23:43:52 ID:GVXRhbnA

 明日か、明後日か、それよりもっと先の未来か。彼女が目覚めて、俺が目覚めて。
 俺の記憶が無いことを知ったら、彼女は泣いてしまうのだろうか。それとも無理矢理にでも笑おうとするのだろうか。
 どっちにしても、嫌だな、と思う。彼女には心から笑っていて欲しい。この感情がどこから沸いて来るのか分からないけれど、そう思わずにはいられない。
 この思いだけは、死んでほしくないと思ってしまう。
 理不尽な『不幸』が、俺の大切な思い出達を殺してしまうのだとしても。
 このちっぽけな幻想だけは殺さないで欲しいと、心の底から思う。
 こんなくそったれの右手で、初めて掴み取れた幻想なのだから。



粉雪が降り積もるように、何十という光の羽が上条の全身へと舞い降りた。

 (大切な思い出――なんだ、そうか)

上条当麻は、それでも笑っていた。
 
 (大切だったんだ。ずっと、全部)

笑いながら、その指先は二度と動かなかった。

 (ああ、ちくしょう)

この夜。

 (俺は、本当は幸せだったんじゃないか)

上条当麻は―――――

603■■■■:2010/10/27(水) 23:46:59 ID:GVXRhbnA
以上です。
本当、なんとなくこんなの書いたら最新巻であんなことになったので……。

23巻が待ち遠しいです。それでは。

604■■■■:2010/10/27(水) 23:58:18 ID:j5xlDAII
GJ
モノローグものは珍しいが、いい話じゃないか。
初代上条さんの遺志は、二代目にしっかり受け継がれていると思う。
だから、早く帰ってきてくれ上条さん。

605■■■■:2010/10/28(木) 00:01:27 ID:BKSkUT6I
上条さんって小学校から学園都市に来たんじゃなかったっけ?
二次創作読み過ぎると正式設定が分からなくなる……

606■■■■:2010/10/28(木) 01:48:59 ID:cV/D4BSk
毎度おっそいレスなんですが

>>515
GJ!&感想どうもです!
原作にそこまで出てないワシリーサですが違和感なく楽しめました。
これを一日でとか…脱帽です!また投下しちゃってください!

>>516
感想ありがとうございます!
躍動感ですか…▲▼さんからも頂いた言葉ですが、なんというか恐縮です。
続きを待っていていただけるとは、ホントにありがたいことです。
まさかの期待に答えられるように最後まで頑張ります!!

>>529
完結おめでとうございます!
何気にパメラのキャラが好きでした。
あと、530さんも言っておられますが後日談が読みたくなりますね。
本当に、お疲れ様でした!

>>530、538
感想どうも、そしてGJです!
この話、ホントに上条の周りの女キャラが異常に強いの再認識させられますね。
なんか羨んでいいのやらどうやら…
改めて、お疲れ様でした。

>>603
GJです!
上条さんよくひねくれなかったなと思います。
まあだからこその上条さんかというべきか…
自分も23巻が待ち遠しいです


ぐだぐだと書いてしまいましたが三日間作者です。
またも投稿に間を開けてしまって…待っていていただけた方は本当にすいません。
では6,7レスほど投下します。

607三日間〜Three Days〜 3rd.34:2010/10/28(木) 01:52:06 ID:cV/D4BSk
 『神の子』。
 十字教の開祖である彼はその教えを弟子達と共に各地に広めつつ様々な奇跡を起こす。
 だが、その圧倒的な影響力をよく思わない勢力によってその命すら危ぶまれる。
 そして、最後には弟子の一人であるユダの裏切りを受け入れて十字に架けられた。
 ユダは罪の意識と共に自らの命を絶つ。
 残された弟子達は彼の言葉を信じて待った。
「わたしは明日刑死するだろう。だが必ず再びあなた方の前に現れよう」
 そして――

 カランッと音を立て、剣が曇り空で薄暗くなった屋上の床に転がる。
 その頃には篠原の体は噴出し続ける黒いもやに包まれて見えなくなっていた。
「何故だっ、私の理論は完璧だったはずだ!? 『罪』と『鍵』を背負わせ、神の子の処刑と同じ条件を整えた!! 場も儀式的に一番適正のある場所を選んだ!! なのに……」
 黒スーツの男はそうわめきながら動揺する。
 そしてカァッ! というやけに乾いた炸裂音とともに黒いもやが一気に吹き飛び、同時に篠原の体が背中を反った状態で一メートルほど宙に浮かんだ。
 彼の体を浮かせているのはその背から噴出される光、正確には篠原が背中に回すようにつけた十字架(ロザリオ)から放たれる光だ。
 その光は徐々に広がりながら形を成していく。
 そしてそれが動きを止めると、彼の体がゆっくりと起き上がった。
 手を肩からだらんと下げ顔も俯いて表情は読み取れない。また足も床についておらず、まるで首を引っ張られて持ち上げられた猫のようだと上条は思う。
 だがそれを持ち上げているのは上条でもサイモンでもない、篠原の後ろで輝く光だ。
 気付けばその光は彼の身長をゆうに越す大きさの十字をかたどっていた。もしも彼の真後ろに誰かがいたならば、それが光のもとであるロザリオを模した形であることが分かっただろう。
「篠……原……?」
 リアがこぼすように彼の名前を口にする。
 それを聞いて上条ははっとする。
 そうだ、あれは篠原圭なのだ。
 余りに現実離れした光景に『彼』が篠原だということが頭からすっぽり抜け落ちていた。
 どうやらステイルや土御門も個々の心情は違えども同じような顔をしているようだ。
 だが、インデックスだけはその顔を少し青ざめさせている。そして唐突に彼女は叫んだ。
「みんな避けてっ!!」

 叫びと同時に篠原の顔が上がる。その表情は生気がなく目もうつろだったが問題はそこではない。
 彼の前に真っ白い光が精製され、そして放たれる。
 まるでレーザーのように文字通り光速で走ったその光は、土御門の近くのサイモンがマティアと呼んだ人形の上半身と屋上の柵の一部をついでに消滅させてはるか遠方へと消えていった。
 がた、と膝から崩れる人形の倒れる様を見ながら、その威力、その光景に上条はゾクッと背に悪寒が走ったのを感じる。
 上条には夏休み以前の記憶がない。それでも、これと似たような脅威をどこかで感じた気がする。そしてその答えを赤い髪の神父は知っていた。
(これは、インデックスの『自動書記』!?)
 インデックスのもつ一〇万三〇〇〇冊を守るために最大主教が施した自動セキュリティ、『自動書記』。
 かつてその魔術を発動させた彼女と対峙したときには『魔女狩りの王』を造作もなくかき消し、幻想殺しですら魔術の物量で押し切りかけたほどだ。
 うつろなその状態といい先ほどの力といい、それは余りにもあの姿に似ていた。
 篠原圭の変化はまだ終わらない。
 彼の前方斜め上三メートルほどに対象になるように二つの光が現れる。そしてそれらは瞬く間に形を成し、遂には二メートル近い『手』を模った。

608三日間〜Three Days〜 3rd.35:2010/10/28(木) 01:53:01 ID:cV/D4BSk

 背に光の十字を背負った『光の手』を持つ者。

 それが右手を振りかざしたとき、右側の手を模った光が同様にこちらに掌を見せた。
 そして軽くその手を振る。
 同時に、右手の光が『魔女狩りの王』へと襲い掛かった。
 叩き潰すような形で炎の巨人へと圧し掛かる光に対しステイルはそれを無視した。この巨人の強力さはその攻撃力もさることながら、何度やられてもルーンの刻印が破られない限り再生し続けるところにある。例え巨人がやられようがそれ自体に核はない。
 だがその光は巨人を壊すだけに終わらなかった。
 そのまま屋上の床を叩くように着地したと同時、そこから亀裂と一緒に衝撃が走っていく。それはこちらへの攻撃とはならなかったものの、屋上に張り巡らせたルーンのカードの大多数を吹き飛ばした。
「なっ、イノケンティウス!?」
 『魔女狩りの王』が消える。いや、実際には消えなかったもののその規模は明らかに縮小してしまっていた。
 そして土御門が何かを吠えながら手を床へとやる。
 その瞬間屋上全体が篠原の発するものとは違う別の光に包まれ、土御門が吐血した。
「土御門っ!? お前何やって」
 超能力者でありながら明らかに魔術を使ったクラスメイトに上条は慌てて近寄るが、土御門はそれを手で制する。
「俺のことはいい! それよりヤツに床を攻撃させるな、届かなくなるぞ!!」
 その言葉と周りの状況を見て上条は察した。
 今目の前にあるのはあの『手』が着地しただけでボロボロになった屋上と床から多少とはいえ浮いている篠原圭。
 もしこのまま屋上が崩れてしまえば間違いなく篠原以外のこの場の全員が落下を余儀なくされる。そうなれば篠原と絶対的な距離が開いてしまい、彼を止めるにせよなんにせよ対処は難しくなるだろう。
 まあそもそも、落ちて地上に叩きつけられるなんてコトはごめんだが。
「十分だ……」
 ぼそりと誰かが呟いた。それはさっきまで動揺しうろたえていた黒いスーツの男、サイモンだった。
「この力、佇まい、神々しい姿! 儀式は完全とはいかなかったがこの力を持ってすれば世界は変えるなど容易!!」
 手を顔に、目を血走らせて動揺を狂喜に変えた男が光の方を見ながら猛々しく笑う。
 それは最初の冷静さやステイルの資料にあった寡黙という情報からは余りにかけ離れている。しかし、その姿が上条には逆に違和感なく見えた。
 もしかしたらこれこそがこの『サイモン』という男の本質なのかもしれない。
「とはいえ――」
 そう言うと笑うことを止めたサイモンはゆっくりと振り返る。
「やり残しもあるにはある。『裏切り者』よ、儀式を更なる完成に近づけるためにここで死ね」
 そしてリングを巻いた腕に電流を走らせる。その手をかざした方向には呆然と立ち尽くしたままのリアがいた。
「リアッ!!」
 思わず叫んだインデックスに反応して、ようやくリアは我に返る。が、既に敵の準備は完了し、今まさに電流が放たれようとしていた。
(やばいっ!!)
 一足遅れた上条がその前に出ようとするが、それは誰の目から見ても遅すぎる。

 だが電流はリアを貫くことはなかった。

 リアが避けたわけでもインデックスが強制詠唱を使ったわけでも、上条の右手が間に合ったわけでもない。
 声ですらない咆哮を上げた篠原から放たれた光がサイモンを襲ったからだ。
 それはギリギリで反応できたサイモンが何重にも重ねた『光の境界』を紙くず同然にひしゃげさせ、そのまま上等な黒いスーツに突き刺さった。
「がっ……は……!?」
 まともに声すら上げることが出来ずにサイモンは十メートルほど後ろに吹っ飛びそのままピクリとも動かなくなる。
 光源は、未だ声なき咆哮を止めずにいた。

609三日間〜Three Days〜 3rd.36:2010/10/28(木) 01:53:37 ID:cV/D4BSk

 ウォーレス=マクレガーという青年がいた。
 敬謙な十字教徒であり、若くして魔術的な知識について非常に博学で特に霊装の製作に力を注いだ。
 その独自の観点や幅広い知識から作られる霊装は評判がよく、彼は『霊装職人』と呼ばれるに至る。
 それでも魔法名を名乗ることはなかった、まるで血生臭い『裏』との一線を画すかのように。
 彼には妻がいた。恋愛の末の学生結婚をした相手で、その仲つつまじさに周囲は彼らを理想の夫婦と口にした。
 そんな彼らに事件が起こる。
 どこにでもある一つの小さな『魔術結社』が彼の霊装に目をつけ、彼の妻を人質に取り要求を突きつけてきた。
 すぐさま彼は要求である霊装を作り上げる。
 だがそれが外部に渡ることを恐れた彼の直属の上司が彼を拘束した。
 結果、痺れを切らした『魔術結社』は人質を殺害。
 開放された彼がその現場に走ったとき、そこに残されていたのは薬指にリングをつけた左腕のみだった。
 このとき、彼の何かが壊れる。
 程なくして彼はイギリス清教『必要悪の教会』に所属することになる。
 魔法名は『Fortis476(全てを飲み込む強さを欲す)』。
 それからしばらくたち、一つの小さな『魔術結社』が壊滅した。そのアジトに大量の左腕のみを残して。また、その戦闘によって彼の直属の上司も命を落としている。
 後にウォーレス=マクレガーは『必要悪の教会』から姿を消し、その名を捨てて『サイモン』と名乗った。
 人には誰しも理由がある。
 だがその過去(わけ)をこの場で知る者は誰一人としていない。もしかしたら、倒れいくこの男でさえも。

610三日間〜Three Days〜 3rd.37:2010/10/28(木) 01:55:32 ID:cV/D4BSk

 自分達を通り過ぎてなお転がるサイモンを膝をついて見ながら土御門はこの状況に戦慄を覚えていた。
 禁書目録や『魔女狩りの王』によってようやく応戦できつつあった相手であるサイモン、だが今対処しなければならない相手はその黒スーツをこともなげに粉砕して見せた。
 そしてその顔が次はこちらへと向いている。
「来るぞっ!!」
 十字を背負う男が手を雑に動かす。それに対応して動く巨大な二つの光がこちらへと襲い掛かった。
 ステイルは魔女狩りの王と共に炎の剣をそれにぶつけてその手を受け止める。直後に広がる強烈な爆炎、だがそれでもその手は引くことなくむしろ少しづつ圧していく。
 もう一方では上条がすべての異能を消滅させるその右手を掲げて光を受け止めた。だが光はすぐには消えない。
「おおおおおおおおおおおおおっ!!」
 徐々に、徐々にその形を崩していくが即時に消滅することなく、最後まで右手ごと上条に圧力をかけてようやく光は消え去った。
 それに呼応するかのようにステイルを圧していた手も消える。
 肩で息をしつつ自分の右手を見ながら、上条は違和感を覚えた。
 『幻想殺し』と呼ばれるこの右手は全ての異能を『消滅』させる力を持つ、それがどんなに強大なものでも触れるだけで一瞬で消え去るはずだった。
 だが今、こともなげに元の位置で形を取り戻していくあの光はこの右手に耐えた。そんな力を彼は知らない、いや正確には忘れていた。
 『神の子』の攻撃は終わらない。
 最初の時と同様にその眼前に精製された光が瞬く間に放たれる、そしてその軌道上の先にいるのは上条当麻だ。
 反射的に右手を目の前にやるが突然のことに少しよろける。そんな上条をレーザーのようなこの光は勢いだけで体ごとその右手を圧していく。
「とうまっ!」
「あれはっ……『竜王の殺息』か!?」
 幻想殺しが魔術に圧されるといったその光景にインデックスとステイルが叫ぶ。
 そして白いシスターは心配そうなその表情を無理やり押さえつけるように自分の目に移るものを冷静に分析し始めた。
「……違う。性質、構成する一つ一つの粒子が違うところは似てるけど、あれはそもそも術式ですらない」
「……どういうことだい?」
「多分あの人は魔力そのものをただ放出してるだけなんだよ」
 問いかけに対し顔を分析対象に向けたまま動かすことなくシスターは答える。
 そしてステイルはその返答にゾクッとした。
 そもそも魔力とは人が生命力を使って精製するガソリンのようなものであり、その用途はもちろん魔術以外にありえない。だがあの男はそれを直接攻撃に用いている。言ってしまえばガソリンを火炎瓶などに入れて用いるのではなく、それを直接ぶつけるだけであれほどの力振るっているのだ。
「構成される粒子が違うのはあの人の体に膨大な量の魔法陣みたいなものがあるから、それらすべてが魔力を作り上げてあの力を生み出してる。でも……」
 そこから先を冷静の仮面が外れたかのようにインデックスは言いよどんだ。そしてチラッと側で立ち尽くすリアを見た後、恐る恐るという風に続ける。
「ほとんどの魔法陣が暴走してる。今は互いに牽制しあっててバランスが取れてるみたいだけど、はっきり言っていつ崩れるかわからない状態なんだよ」
 ステイルは絶句した。
 この場を片付ける一番の近道は上条当麻のあの右手だろう。だが彼はあの異常な魔力に圧されて完全に動きを止められている。
 土御門に至ってはそもそも魔術が使えない。満身創痍の体を引きずりながら、かろうじて光の手を回避しつつ何度も銃の引き金を引いてはいるものの効果はまるでなさそうだ。
 そしてステイル自身もあの光の手に対する手段が見つからない。
 そんな圧倒的に不利な条件下の中でどれくらいかもわからない制限時間までつけられたのだから、まず状況は最悪といっていいだろう。
「ねえ、それってどういうこと?」
 いつのまにか、立ち尽くしていた黒スーツの少女が白いシスターの横に立っている。その手はインデックスの肩へと置かれていた。
「バランスって? それが崩れるとどうなるの!?」
 揺さぶるようにリアは問いかける。だがインデックスはそれに答えられない、何かを認めたくないとでもいうような顔のリアを見て固まってしまっている。
「学園都市は消滅する、そこにいる全ての生物もろともな」

611三日間〜Three Days〜 3rd.38:2010/10/28(木) 01:56:03 ID:cV/D4BSk
 イライラした様子を隠そうともせず、ルーンを刻んだカードを片手にステイルがはき捨てる。
「わかりやすく言おうか、あれは限界まで膨らんだ風船みたいなものだ。外でも中でも刺激があればドカン、その余波で僕らは死ぬ。一人を除いてな」
「一人……?」
 現実味のない状況についていけずに、それでもステイルの最後の言葉にどうにかリアは反応する。
 一方黒服の神父はというと、繰り返された言葉に対しあごでその一人を指し示す。
「あそこでよろけている馬鹿のことさ、そしてこの状況の唯一の突破口でもある」
 言うが早いかステイルはその突破口、上条当麻の方に向かって駆け出していく。
 狙いはヤツが受け止めているレーザーのような光、不本意だがあれを上条の代わりに受けてその間にケリを付けさせる。かつてヤツが『自動書記』によって苦しめられたあの子を救ったときのように。
「原初の炎(TOFF)
 その意味は光(TMIL)
 優しき温もりを守り――!?」
 そこでステイルは詠唱を中断する。
 突撃していく自身のその先に土御門の方にあった光の手が襲い掛かってきたからだ。
(土御門はっ!?)
 反射的に首を動かすとすぐに見つかった、柵のギリギリのところにまで飛ばされて転がっている金髪の男の姿が。
「――厳しき裁きを与える剣を(PDAGGWATSTDASJTM)!!」
 思わず出そうになった舌打ちを詠唱を完成させることでどうにか押さえ込む。それと同時に剣の形をした炎がステイルの右手に出現した。
 無駄だと知りつつもそれを光に向かって叩きつけるように振り抜く。その結果、炎は爆音も立てずに光の中に飲み込まれていった。
「くっ、イノケンティウス!!」
 間髪いれずに叫ぶ。その瞬間そこに炎の巨人が現れ、光の手に十字を叩きつけた。ドゴォォォッと今度こそ広がる爆炎に飛ばされるようにステイルは転がる。
 光にさほどの速度がないことが幸いした。もしあれに速さまで備わっていたのなら今確実に自分はやられていただろう、土御門も手負いの状態であの両手の攻撃を避け続けることはできなかったはずだ。
 そこでステイルは気付く、土御門が対峙していた一対の手、片方は『魔女狩りの王』が受け止めている。
 ならばもう片方はどこだ?
「横だっ、上条当麻!!」
 目に入ったもう片方に思わず叫ぶ、だがそれが上条に聞こえたときには『右手』を模った光はもう上条の目と鼻の先だった。
 次の瞬間、その手は上条の左側からもろに直撃する。
「がっ!?」
「とうまっ!!」
 ドッという鈍い衝撃によって肺の空気を無理やり押し出されたようなうめき声と悲痛な叫びが響く。
 そして上条の体は衝撃を殺しきれずに転がり続け、壊れた柵のあった場所から外へと投げ出された。

612三日間〜Three Days〜 3rd.39:2010/10/28(木) 01:56:43 ID:cV/D4BSk

 上条は左半身から伝わる鈍い痛みと全身の感触の消失を感じていた。
 なんとか衝撃を殺そうとしたが間に合わず、ギリギリ屋上の縁に手の届かない場所まで空に投げ出されてしまっている。
 諦める気はない、それでもすぐに来るであろう落下感に対して覚悟した。
 だが、ようやく(少なくとも上条にとっては長く感じた)始まった落下は一瞬で終わる、代わりに右手を引っぱられる感触とそのすぐ後に真正面からコンクリートの壁に叩きつけられた痛みが上条の体を支配した。
 なんとか痛みを押さえ込んで顔を上へと向ける。
 そしてようやく上条は現状を理解した。
 自分の右手を掴んでいるのは土御門だ。その体を半分以上屋上から乗り出した状態でいる。
「早く上がってくんねーか、上やん」
 そう、自分は土御門に助けられたのだ。そして掴む手からは赤い液体がどくどくと流れ落ちてきている。
「おいっ、お前!?」
「……ああ、魔術の反動の上にあの手をモロに喰らって体中ボロボロぜよ。早く上がんねーと手、放し――グッ!?」
 言葉の途中で土御門が吐血する。
「土御門っ!?」
 掴む手が緩み、それでもなんとか左手で柵の出っ張りを掴んで上条は再び屋上へと這い上がろうとする。
 何とか顔が出たとき、そこに映ったのは土御門の傷んだ体とその下にある赤い水溜りだった。
 超能力者が魔術を使用するとその反動で体内のありとあらゆる器官がダメージを負い、即死することも珍しくない。
 そんな状態から更に攻撃を喰らい、その上で人間一人を支えれば傷口が開くのは必然だった。
 だが上条の目に飛び込んできたのはそれだけではなかった。
 自分達をここまで殴り飛ばした男が眼前に光を生み出している。その狙いが自分達であることを上条は察した。
(やばいっ!!)
 完全に這い上がってかつ吹き飛ばないよう体勢を整えてから右手で攻撃を抑える、そうするのがベストではあったがそんな猶予はどこにもない。
 そして、上条は本能的に這い上がりながら右手を前へと突き出す選択肢をとった。このままだとあの光の押し出されて今度こそ吹き飛ぶだろうが、それでもこれ以上土御門に負担を与えるわけにはいかない。
 這い上がるために左手に力を入れ、歯を喰いしばる。
「篠原ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 突然、少年を呼ぶ少女の声がその場に響き渡る。
 そのとき、上条は見た。
 黒いスーツの少女が自分達と篠原の間に割り込んでくるのを。
 思いつめたようなその表情が容易に想像できそうな両手を広げたその後姿を。
 別のところで何かを叫びながらそちらに行こうとする白いシスターとそれを止める黒い神父の姿を。
 また、顔を少し動かした篠原の姿を。
 続く閃光。
 それは目を見開いた黒スーツの少女の顔横数センチを通り過ぎ、彼女の髪先を刻み、文字通り光速で見えなくなっていった。

613三日間〜Three Days〜 3rd.40:2010/10/28(木) 01:57:34 ID:cV/D4BSk
「リアッ!!」
 インデックスのその言葉に反応するようにリアは膝から崩れるようにその場にしゃがみこむ。
 ステイルの手を振り切り、シスターはリアへと駆け寄った。
 そこでしゃがみ込んでいた少女は涙をためながら零すように呟いている。
「もう……何もわからないの? 私の声も、届いてないの?」
「リア……」
 インデックスは言葉に詰まる。
 わかるのは彼女の言う通り、篠原には何もわかってないだろうということ。
 体中に仕掛けられた暴走する魔法陣、そんなものが無数にあれば精神が崩壊していてもおかしくない。
 もし『幻想殺し』でコトが落ち着いたとしてもリアの知っている『篠原圭』は帰ってこないかもしれない、いやその可能性のほうが高い。
 考えつくのはネガティブなものばかりであり、インデックスはどうしてもかける言葉を見つけられなかった。

「いや、届いてるはずだ」

「とうま……?」
 その言葉にリアとインデックスはゆっくりと顔を後ろに向ける。そこにいた少年はふらふらとしながらもその目はしっかりと篠原の方を見据えていた。
「そうだろ? 聞こえてるよな、篠原!!」
 完全に這い上がった上条がゆっくりと歩きながら二人の少女を通り過ぎていく。
「じゃないと俺達を狙った光があんな風に逸れるなんて考えられないからな。それだけじゃない、サイモンがリアを狙った時だってお前はサイモンを攻撃することでリアを助けたんだ。しかもサイモンは死んでない、人形の上半身を消し去るような光を食らったにもかかわらず、な」
 上条の言葉にステイルとインデックスはハッとする。
 言われるとたしかに、あの光を喰らって吹き飛ぶ程度なんてことはありえない。
 例え瞬間的に防御が間に合っていたとしても一瞬で破られたあの様子だと大した障壁にならなかったはずだ。第一、それと同質の力であるはずの『手』による攻撃を喰らった土御門や上条が負ったダメージは衝撃によるもののみである。
 結論は一つ、篠原には何らかのストッパーがかかっているのだ。恐らく誰かを殺したくないといった、あるいは少女を守りたいといった『感情』という名のストッパーが。
「なあ、本当は迷ってたんじゃないのか?」
 上条は続ける。
 いつの間にか『光』による攻撃は止み、篠原はただ俯いて動く様子はなかった。
「こんなやり方、俺になんか言われなくたって誰かを傷つけるようなこんな『幻想』を望んでたわけじゃなかったんだろ? だから儀式は失敗したんじゃないのか」
 突然また篠原の後方と左右の『光』が強くなり、篠原は再び声のない咆哮を上げた。
 両手は開き、こちらに指先を向けて威嚇しているようにも見える。
 背負った十字架は更に輝きを増し、篠原の全身をくるむように透明な球状の障壁を作り出す。
「……もう自分じゃ止められねーんだな。なら――」
 上条は痛いぐらいにその右手を握り締め、それを前へと突き出す。
 今度こそ届かせると決意して。
「止めてやるよ、お前のその『幻想』を」

614■■■■:2010/10/28(木) 02:03:05 ID:cV/D4BSk
以上です。
正直魔力云々のところは書きながら「そんなんできんのか?」とか
思いましたが深く追求しないでいただけると助かります…
ていうか長いなホントこの話、予定の1.5倍はいってるような。
なんにせよ、次でようやくラストになりそうです。
最後までお付き合いいただけたらうれしい限りです!
では感想&罵倒お待ちしております!

615■■■■:2010/10/30(土) 03:33:13 ID:365OEkR2


616■■■■:2010/10/30(土) 03:34:27 ID:365OEkR2
あげちまった・・・スマソ

617■■■■:2010/10/31(日) 15:26:16 ID:R.qC2/io
どうも。
『禁竜召式(パラディンノート)』の者ですが投下させて貰います。
凄く長い間空けていましたが、たったの6レスですOTL

では

618■■■■:2010/10/31(日) 15:27:00 ID:R.qC2/io

十月十六日午前一時頃、ハイドパーク中央広場にて……

(…確か、西方に二二九七枚。東方に四〇〇五枚。南北に一二〇〇枚ずつ、だったか。力源は土。役は短剣。重ねて聖剣の役を複合、エーテルの素材を……えっと、どうするんだっけ? ………あーあ。こんな面倒臭い術式創らなきゃ良かった……)
時刻はすでに午前一時を回っていた。『実行』まで二時間を切り、クリスタル=アークライトは下準備の一環として人払いを刻んでいる。正直、真夜中の広場は人払いなどと言うややこしい術式を使わなくても人が寄ってくることは無いだろうが。
相も変わらずイギリス清教の修道女共(のはずだが、部下の報告ではローマ十字を首架けていたらしい)が自分の部下とドンパチやっているようだ。正直奴らがどんな事をしようと邪魔は出来ないだろうと彼女は確信しているが、それでも念には念を入れて、自身に配属された『人形』を全て足止めに回している。そのため、クリスタルはたった一人で術式の準備に取り掛かっている訳であった。

(実際、『禁竜召式』の××××で××××すれば人払い所じゃ無い大騒ぎになると思うけど、別に関係ないか。どうせ全部『終わる』んだし)
そうこう考えている内、広場に施した“魔術師ですら簡単には探知出来ない改良型”の人払いが完成、起動する。見た目には全く変化は無いが、これでこの広場に近づく者が激減、及び居なくなるだろう。使用したカードの枚数は合計で一万枚以上。ほとんどのカードが広場の外周に沿うようにばら撒かれている。
クリスタルは一息吐いて、再び懐から信じられない量のカードを取り出す。

「……さて、と。面倒な下準備も終了した所だし、そろそろ本題に入るとするか。いい加減『把握報網(MasterNet)』にも感づかれた頃だろうし」
彼女は首を振り、真っ黒に轟々とざわめく林へと目を向ける。
「……まずは障害を消す所から始めるかな」
そう言うとクリスタルは人払いを施した広場を人一人残さず離れて、派手な爆発音を散らす部下の元へと歩を進めた。

619■■■■:2010/10/31(日) 15:29:01 ID:R.qC2/io

日が出れば深緑となる林は僅かな星明りに照らされ、漆黒の数段上の不気味さを醸し出している。そして幾分かの人影が感じられるこの林では、
「……『斬』!!!」
ガッキィィィィィィン!! と言う甲高い音が鳴響いた。
ソフィアの持つ霊装と『対十字教黒魔術』の男の“腕“が激突した轟音である。
二回目の渾身の一撃すらもいとも簡単に止められて、ソフィアは後退しながら眉を顰めた。
男は無表情でこちらを見つめている。まるで完全に消えてしまったかのような風貌だが、その挙動には僅かばかりの余裕が感じられた。
「弱いな。邪魔をすると言うのなら、先ずその非力な玩具を如何にかすることだ」
男が初めてまともに言葉を発する。その声感には疲労と言う文字は全く噛み合わなかった。ソフィアは再び巨斧を構え直し、歯噛みする。

「……こっちの体力しか消耗してない……。まさか、対魔術絶対防御は事実だったってのか?」
「……まさかね。でも、ソフィアの断撃でノーダメージなんて尋常じゃないしなぁ。アガターはどう思う?」
カテリナに緊張感の無い口調で話を振られたアガターは表情を変えることなく平淡な声で質問に応えた。
「恐らくはその線で考えて間違いないと思います。防御術式や体硬術式にしては不自然すぎる防御力ですし、キヌハタの攻撃だけが通ったことを考えると、“魔術は”完全に無効化されてしまうようですね」
その発言に、男の眉がピクリと、ほんの少しだけ反応する。
そして、アガターのその意図の有る言葉に、あっ、と言うソフィアの声が鳴った。
それを見たカテリナはニヤリと笑い、企み声でソフィアに囁く。

「(魔術が完全に無効化されちゃうんだって。おっそろしいねぇ。“魔術が”全く効かないなんて)」
その言葉を聞いたソフィアは頷いたように身体を動かしてから、巨斧を構えなおして言葉を発する。
「……なるほどな。それはつまり、」

現在彼女が自身の霊装『バルディッシュ』に施しているのはギガンテスを原型とした一般的な武具強化術式である。霊装に直接魔力を練り込み、武器の強度、切度、軽量を限界まで高め、“やっとソフィアの身体能力に武器が付いて行けるようにしている”のだ。
そして、彼女はその武具を使用する近接戦闘に置いては、必要不可欠とされる基本的な強化術式を、


“解いた”。

術式を解いた際に『バルディッシュ』の纏っていた僅かな蒼光は蝋燭を吹き消すように消える。それを見た瞬間、男の表情に焦りと言う大きな変化が現れた。ソフィアは凶悪に微笑しながら、次言を紡いだ。
「つまり、魔術じゃなければ通じるって訳だな」

そしてそのまま、敵である男へと勢い良く突撃していく。巨斧を振り上げ、男を心底切断する気で殺しに掛る。そして、それに対して男は、
「ぐっ!!」
身体を捻り、振り上げられた『バルディッシュ』の斬撃を辛うじて避けきる。同時に“この男が初めて見せた回避行動”でもあった。
ザザザッ、と土を滑らせる音を立てながら、男は体勢を立て直したが、その額には気分を害した様な脂汗が滲んでいる。それを眺めながら、ソフィアはにやにやと奇妙な表情を浮かべながら、言い張るように叫んだ。
「なんだよ。お前、滅茶苦茶強いのかと思ってたのに、」
ソフィアは『バルディッシュ』を一直線に男へと向ける。「ここからだ」と言わんばかりに。


「喧嘩はすっげぇ弱いんだな」

620■■■■:2010/10/31(日) 15:29:54 ID:R.qC2/io

ターン、ターンと、地面を叩く音が、幾つかの灯火の浮ぶ通りに鳴り響く。
ソフィアが反撃(?)を開始した頃、絹旗を加えた約七十人程の修道女達がハイドパークへ向けて歩を進めている最中だった。いや、それは歩を進めるというよりは『跳躍で進む』と言った方が正しい表現かもしれない。実際、彼女達は其々バラバラに、もとい“出来る限り密集しないように”地面を蹴りながら跳躍移動を続けている。
アニェーゼも多少の身体強化魔術によってそれを行っている状態だ。右手にしっかりと『蓮の杖』を握りながら、彼女は隣接して並走するルチアへ言葉を投げかける。
「ルチア、神裂さんとは連絡の取れる状態ですか?」
「先程、日本より音速の数倍でイギリスへ向かっているとの通信が有りました。正直、その真意は判りかねますが」
報告、ご苦労様です。とアニェーゼがルチアから視線を外した。『神の右席』云々で日本に飛んでいた神裂火織は『例の少年』に襲い掛かる『神の右席』を退け(むしろ助けられたらしいが)、現地に滞在する天草式の面々の回復魔術ですぐさま傷を完治して英国へ向かっているらしい。ここで聖人の協力を仰げれば、と期待はしたがそれはもう少し時間が掛りそうだ。
アニェーゼは何となく前方へ目をやった。道は相変わらず暗い。アニェーゼ他シスター達の発光魔術で夜道はどうにかしている物の、ここで攻められたら多少の被害は覚悟しなければと意気込む程“隠れ場所の多い”裏通りであった。
(もう少し速度を上げたほうが良いですかね?)
思ったが、ここで無闇に体力を消耗する必要は無い。急がば回れ、という諺を日本語を勉強していた時に聞いた気がする。


そんな中、前線より一歩下がった位置で『一人だけ走移動をしている』絹旗が目の前の光景を凝視しながら、首を傾げて考えていた。
(……今更ですけど、超目立つ集団ですね。只でさえ大人数で目に付く集団なのに、それを更に超横広がりに移動しながら灯りまで灯すなんて……)
絹旗が疑問を持つのも無理は無い。今現在、ごく普通の一般人がこの光景を目撃すれば「薄暗い通りで無数の人影と幾つもの灯火が移動している」と言う、日本で言えば百鬼夜行並のシュールな場面である。冷静に考えれば、その正体不明の団体に自然と混じってしまっている自分は凄く恥ずかしいのでは、と不安も湧き出てくる。

(こうゆう所が『科学』と全く違う法則の超表す事なんでしょうかね……)
そもそも学園都市の『裏』では“六人以上の集団行動は死亡フラグ”とまで言われていた。学園都市自体が英国等に比べて面積が圧倒的に小さい事も有るのだが、物陰からの不意打ちは勿論、狭い町の割に射程の長い兵器や能力、挙句の果てには仲間に背中を刺される事もしばしばという学園都市と『外』とでは根本的な戦い方が違っているのだ。

(やっぱり、こっちの世界は超慣れる気がしませんね)
絹旗自身、そう簡単にこんなイレギュラーに慣れてしまうのもどうかとは思うが。

621■■■■:2010/10/31(日) 15:31:45 ID:R.qC2/io

英国図書館内、重要書庫。その一角にて。

ズルッ、ドテ。というコントみたいな音が聞こえた。
「……何してんだ、アンタ」
シェリー=クロムウェルは心底呆れた表情で、眼前にすっ転んだオルソラをジト目で見つめた。そして、その行き成り何も無い所で行き倒れたオルソラは、頭を抱えながら「?」と言う表情で身体を起こし、転倒した際に落下した書物の束をかき集め始めた。。
「はぁ…。疲れが溜まっているせいでしょうか。さっきから足元が覚束ないのでございます」

シェリーは小さく溜息を吐いた。オルソラから「手伝って欲しいことがあります」という簡潔なメールを置け取ったシェリーは「暇だから手伝ってやるか」ぐらいの軽い気持ちで英国図書館へやって来た筈だった。だが、現実は“いつもの如く”ボケボケしたほんわかシスターの付き添い(及びお守)を行っている状態である。くそ、来なけりゃ良かった。
確かにオルソラはかれこれ五時間以上も調べ物に没頭している為、疲れを見せてもおかしくは無いのだが、シェリーはそれよりも気に掛ることがある。
「アンタの心配は兎も角としてだ……アンタの持ってるそれ、貴族の家系図じゃねえのか? すっ転んで床にバラ撒いていい物じゃ無いと思うわよ」
シェリーの言葉に、割と散らばっている重要書類の数々を拾い集めるオルソラの手がピタリと止まる。シェリーは「ま、いいならいいわよ」と自身の持つ書物の束を抱えなおした。
オルソラは半分硬直したような顔で、ギギギ、という効果音が似合いそうな仕草でシェリー=クロムウェルへと振り返った。
「い、今のは不可抗力の一環でございますから、わたくしは悪くありませ……い、いえ別にわたくしが責任転嫁している訳ではなく、あくまで事故ですからわたくしに集中的なお咎めが来ることは……」
「誰に弁解してんのよ。別に、その家系書自体には目立った損傷は無いみたいだし、そのまま黙ってりゃ特に何も言われないんじゃねえのか?」
「は、はぁ……そうでしょう……か?」
ほんと馬鹿だな、という本音を飲み込んで、シェリーは近場の木机に書物を降ろして、その机へ向かうように椅子を引き、座る。

シェリーはパラパラと運んできた書を捲りながら、未だに床に落した本束の回収に勤しむオルソラへと何気無しに質問した。
「で、私をこんな陰気臭い書物庫に呼び出しといて、何を調べればいいのよ。これ、古の召喚術の目次みてえな物だし、私には何の事だかサッパリなんだけど」
「……わたくしが今現在欲しているのは何てことない単なる『魔術の情報』でございますよ」
「だから、それが何だって聞いてるのよ」
書物を拾う手を止め、オルソラは少し黙ってから、ゆっくりと質問に答えた。

「『特士召喚術』……と言えば解って頂けると思います。それも『土と風の混合』術でございますよ」
その言葉を聞いた瞬間、シェリー=クロムウェルは押し黙った。そして、観覧していた書物をゆっくりと閉じてから、オルソラ=アクィナスを睨みつける。
「……アンタ、正気か?」
その尖った声に対し、オルソラはどこか寂しそうに、いつものひょうきんな印象とは丸で別人のように、俯き加減で呟くように言った。
「別にわたくしが使用するという訳ではございません。ルーンなどは使用した経験すら皆無ですし、加えてわたくしは『必要悪の教会』の神父様のような天才的なセンスは持ち合わせておりませんから、無闇に発動させた所で自身にダメージがいってしまうだけでございます」
「……『必要悪の教会』の神父……か。『魔女狩りの王(イノケンティウス)』ね。ハッ、確かにアレは一環の魔術師が使用すれば身体に壊滅的なダメージが及ぶ物だしね」
「ええ、ですからわたくしはそんな馬鹿な行いをする積もりはございません」

シェリーは再び鼻で笑って、再び同じようにオルソラを睨みつける。
「……なるほど。じゃあ、なんで態々『土を風の混合特士召喚』なんて調べる必要があるのよ。そもそも、“特士召喚に混合魔術は存在しない筈だが”」
「……そうですね。あまり知られてはいないと思われますから」
オルソラは薄汚れた天井を見上げ、何かを悟るように呟いた。


「そう、誰も覚えてなどいないでしょう。クリスタルという一人の少女のことなど」


オルソラはアニェーゼへ言った言葉を思い出す。
『彼女の情報はこの程度しか発見できませんでした』と、そう言った気がする。
仲間に嘘を吐いた反動は思った以上に苦しいものですね、とオルソラは独り思った。

情報なんて、本当は腐るほど持っているのに。

622■■■■:2010/10/31(日) 15:33:43 ID:R.qC2/io

≪行間≫

母は優しかった。
父は厳しかった。
兄は面倒臭がりだった。
妹は明るい娘だった。
クリスタル=アークライトにとってその家族が人生の全てと言っても良かった。自分が騎士の家系だと言うことを踏まえても、だ。
八歳ぐらいの頃から、一家で一番才能の在った彼女は父や使用人から魔術を教わるようになった。その頃のクリスタルには原理や方程式も全く理解できない物ばかりだったが、教わった通りにやったら思った以上に簡単で出来た事を覚えている。
緑色のカードをばら撒いたら、土が盛り上がって巨人が生まれた。
黄色のカードをばら撒いたら、空気が圧縮されるように集まって見えない鳥が生まれた。
そしてその二つを同時にばら撒いたら……
彼女は沢山の魔術を習った。その主はルーンを使った召喚術や遠距離魔術だったが、それを教える度に父がこんな事を言っていた。

『魔術は人に向ける物では無い。向けられた人を庇う物だ』、と。

彼女はそれを忠実に守り通し、学校などの野外では一切、魔術の行使をしなかった。と言うよりは、学校では友達も少なくなかったし、特に危ない目に遭う事も無かった為、“使う機会が無い”と言ったほうが正しいかも知れないが。
とりあえず、彼女は幸せだった。もちろん嫌なことも有ったが、家族や友人のお陰でひねくれることも無く、彼女はあっという間に一五歳の誕生日を迎えた。
毎年のように行われるアークライト家伝統の盛大な誕生会。その楽しい時間はいつもの様に変わらず進んでいくと思っていたが、


その日、アークライト家は壊滅した。

それは騎士派の仕業だと後から聞いた。その昔、『魔女狩り』を否定したアークライト家の人間を発端に自分の家系が鬱陶しく思われているのは知っていたが、まさか誕生会の夜に奇襲を掛けてくるなど、当主である父でも予想は出来なかっただろう。
騎士派の連中は一家で一番才のあるクリスタルを狙っていたようだが、彼女が終始隠れていたこともあり、騎士達は勝手に逃亡したと勘違いして焼き払われた屋敷を後にして走り去っていった。

母は背中をメッタ刺しにされていた。
父は首を落とされていた。
兄は心の臓を貫かれていた。
妹は年齢のこともあり命は助かったようだが、その姿は無かった。
そして、自分はただ震えていた。
周囲から天才とまで言われ、実質的には父よりも魔術の腕では勝っていたと思う。それでも父は反撃して倒れ、自分は逃げ隠れて助かった。

家族がなんで殺されなければならないのかは知らない。解らない。でもどう見ても死んでいた。なんど見ても。
それをしっかりと目に焼き付けて確認してから彼女は汚く焼かれた屋敷の一角から上を向いた。光を失った目で、腹が立つ程綺麗な星空を見上げて、ただ呆然と呟いた。


『ナンデ ワタシダケ コンナ目ニ 遭ワナクチャ イケナイノ?』


その問いに応える人間など居るはずがない。
九月一三日、金曜日。彼女の人生を強引に捻じ曲げる出来事だった。

623■■■■:2010/10/31(日) 15:35:29 ID:R.qC2/io

〔十月十六日午前一時二四分現在。戦況報告。〕記入者=ルチア
 題;『対十字教黒魔術(アンチゴットブラックアート)』討伐任務。

目的(ターゲット);英国支部の首謀者と思われる女性。
        名;クリスタル=アークライト(真偽不明)
       重要度;SS

========================================

「戦況報告」

『迎撃』、第一班。アニェーゼ班は『能力者』絹旗最愛の援助により戦闘を終了。『遠爆』と合流、のちソフィア班とも合流予定。
『迎撃』、第二班。ソフィア班は現在『対十字教黒魔術』との戦闘を継続中。
『遠爆』、第一班。アニェーゼ班と合流。
『遠爆』、第二班。単独移動中。
『遠爆』、第三班。ソフィア班との合流を果たすため、現在移動中。
『術発』、第一班。ソフィア班との合流を果たすため、現在移動中。
『術発』、第二班。アニェーゼ班との合流を果たすため、現在移動中。
『術発』、第三班。単独移動中。
『通信』、第一班。『把握報網(MasterNet)』の管理及び監視継続中。
『通信』、第二班。『把握報網(MasterNet)』の管理及び監視継続中。
『雑補』、全班。待機中。

尚、上記の行動は外部諜報として協力を仰いだオルソラ=アクィナスによる英国図書館からの情報を元に行うものとする。

========================================

624■■■■:2010/10/31(日) 15:39:07 ID:R.qC2/io
以上、投下終了です。

誤字脱字はいつものごとく存在すると思いますのでご指摘よろしくお願いします。
特士召喚術については後で誰かが喋ってくれる......と思いますので。

オリ設定が大暴れで申し訳有りません。
感想、ご指摘がありましたら宜しくお願いします。

625■■■■:2010/11/01(月) 19:02:58 ID:bofRJjLo
>>624
GJです!!

オルソラがキーマン的役割を果たすことをほのめかす投下でしたね。
なんのというか、アニェーゼ達まで騙して、一体何になると言うのだ!! みたいなグレーなポジションにいる気がします。

あとオリキャラであるソフィアだが、何かあの人は死亡フラグのふの字も無いので、放っておいて大丈夫そうだww。
イラーリアは今回、全く出番が無かったですね。個人的にはイラーリアの場面が見たいので次回に期待。
今回の行間は......、

あれ?

前投下の行間とは違う人(クリスタル)を主役にしてたということは・・・・・・。
前投下の行間は誰の事だったんでしょうか?

かなり気になる所なので、次回投下お待ちしております!!

626■■■■:2010/11/07(日) 14:51:11 ID:SbeOzrdE
過疎過疎しとるなwww

別に投稿作品は詰まらなくないと思うんだが。
禁竜と3Dayは絶好調だと思うのは俺だけか?


ついでに感想言っとく。
>>624
GJ
とりあえず行間を前投下と違う内容にしたのはどのような意図があったのか気になるな。
てか、結局イラーリアって何者? なんか裏がありそうな感じなんだが。
カテリナって結構、飄々とした感じなのな。東方キャラによく見られるパターンだ。

次投下、お待ちしてます^^

627■■■■:2010/11/12(金) 23:55:09 ID:bFYvbLFk
過疎ェ……
誰か…だれか投下してください

>>624
GJ。アニェーゼ部隊は皆キャラが濃いですね
アニメのやられやくっぷりを吹き飛ばす活躍に期待
次も頑張ってください

628アスタル:2010/11/14(日) 09:55:41 ID:GnLPSjak

初めましてになります。

過疎ですね…

では、この流れを変えるべく。

上条さんサイドを中心にした中篇以上の長さのSSですが、投下させていただきます。

数名のオリキャラが登場しますので、嫌いな方はご注意ください。

それでは、3レス程使わせてもらいます。

629とある魔術と吸血目録 Blood_Note 1話 1/3:2010/11/14(日) 09:58:53 ID:GnLPSjak
二つの足音が、響く。

一方は赤髪に長身の神父、ステイル=マグヌス。

「何だい、神裂。日本から帰って来たと思えばこんな書棚に呼び出して……」

もう一方は、極東の聖人、神裂火織。

「すいません、ステイル。ですが、この事実をあまり広めたくはないのです……」

そしてここは、聖ジョージ大聖堂の地下の一角に広がる書庫。表の歴史を国が管理するように、“裏”の歴史を管理し、次代へつないでいく為の施設……なのだが、今現在は埃にまみれた本の巣窟と化しており、今はとあるシスターさんが管理を任されている次第だった。

人の気配を鋭敏に映すこの空間を神裂が選んだのは、それだけこの会話を内緒にしたいのだろう、と思うステイルに、神裂は語り出す。

「あなたは、『時越え』の術式を知っていますか?」

「『時越え』……ねぇ。机上の空論という意味でなら、吸血鬼よりも疑わしい存在であることは、心得ているよ。

十分です、と前に置くと、いきなり神裂は核心を突いた。

「その術式が、もしも机上の空論でないとしたら……?」

「!?」

「確かに、一部に伝わる『時越え』の術式は机上の空論です。人間には決して扱えない魔力量を必要とする、絶対的で決定的な不可能。ですが、それは人間に限った場合だとしたら?」

「ちょっと待ってくれ、意図が読めない。だから、人間にはそんな術式は使えないはずで―――」

瞬間、ステイルも自分の言葉に答えが眠っていることに気付いた。

それを見透かしたかのように、神裂は言う。

「そうです。永遠の寿命を持ち、それに応じるだけの魔力を有し、かつ扱える理性を持った存在………」

630とある魔術と吸血目録 Blood_Note 1話 2/3:2010/11/14(日) 10:00:51 ID:GnLPSjak



「うふふ、不幸だー……」

所変って学園都市。相も変らず不幸な少年、上条当麻は現在、クラスの3バカ(デルタフォース)の裏切り者2名+姫神+吹寄にたかられていた。

理由は、上条がつい3日前までイタリアに居たことにある。

「くそぅ、キオッジアの傷も治ったと思ったら土御門にイタリア旅行(という名の宗教戦争)をばらされるし、青髪以下男子におみやげをねだられるし、吹寄はクラスの分は何が良いか投票するし、姫神からは視線で責められるし、……不幸だー……」

そうこうするうちに話は進み、彼等クラス代表はここ、第14学区へと来ていた。海外からの留学生が集まるこの学区には、世界中の本物の料理、民族衣裳、家具などがそろっていて、おみやげの偽装にはぴったりという訳だ。街を行きかう人も国際色豊かで、半分は外国人ではないだろうかと思う程に多い。

(もっとも、本物な分値段も張るんだけどなー……)

重い溜息をはいた瞬間、金髪グラサンの土御門ががっしりと肩を掴んできた。

「何だか聞き捨てならないことを思っていないかにゃー、カミやん?」

「い、いえいえ!?」

あわてて表情を戻すのと同時、反対の肩に青髪が組み付く。

「カミやん、おみやげは期待してもええんですよね?イタリアのおみやげなんて何があるか知らへんけど、とりあえずむやみに高そうなチョコ辺りで妥協してやらんこともないでー?」

「テメェ……」

思わず殴りそうになっていた上条を制したのは、吹寄の良く通る声だった。

「下らないものに気を引かれている予算は無いわ。多数決による上条へのペナルティはもう決定しているのだから」

「う……それは本当に予算に収まるのでしょうか吹寄様……」

「当たり前でしょう。そもそも、貴様がちゃんとしたものを買ってくれば良かったのよ」

「さりげに論点がずれてる!?」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ4人に、ふと。

「そういえば」

後ろにいた姫神が頬に指を当てて視線を彷徨わせ、思い出したように問い掛けた。

「「「「………?」」」」

「あの抽選の景品は。2人1組の北イタリア旅行だったはず。……上条君は。誰と行ったの?」

「え……?それは……姫神さんの勘違いではありませんでせうか?」

「間違い無い。私は。この間まであの学校にいたから」

「……え……と…」

ずい、と至近距離に詰め寄られて言葉に困った所で、上条は気付く。

血の涙を流さんと構えている青髪ピアスと、手をボキボキと鳴らしている吹寄と、その背後で全てを知ってニヤついている土御門の存在に。

631とある魔術と吸血目録 Blood_Note 1話 3/3:2010/11/14(日) 10:02:51 ID:GnLPSjak

結局、おみやげ予算が1.5倍になりました。

(く……このままではインデックスの分の予算までも……!!)

結構深刻に食費の心配をする上条のことなど一切無視して、上条以外のメンバーによるおみやげ選びは進んでいく。

今彼等がいるのは、地中海風の白壁の建物に囲まれた地区。……といっても、学園都市の技術による精巧な模造品であり、白い壁は風雨に長年さらされたことでしか出せない筈の“砂っぽい白さ”を完全に再現していた。

「いやー、本場のはこんなに高いとは思わなかったにゃー」

「まぁ、予想の範囲内ではあるわね。あとは小萌先生の分を……」

「ちょっと皆。上条君が。暗いのだけれど」

「ええんですて姫やん。カミやんにはこれくらいの不幸は味わってもらわへんと」

「ステキな友情をありがとうよ、青髪ィ……!!」

再び乱闘に突入しようとしたところで、先を歩いていた吹寄の足が止まった。

その理由を上条が問いかけようとして、彼も理解した。



「貴方……誰なの?」



彼女の視線の先には、一人の少年がいて。

―――素直に、宝石のようだと思った。

日本人にはない、スラリと延びる足。制服の先から覗く、周囲の壁と融け合いそうに白い肌。それらを全て差し置いて、ルビーのように輝く髪が見る者の心をさらっていく。

ファッションにそこまでの知識が無い上条にも、染めていないと何故か分かってしまう、深い深い紅の髪。無造作にハネているはずのそれが、宝石のように美しいのだ。

そんな少年は、これまた爽やかな笑みを浮かべると、こちらの一団に歩み寄って来る。

そし