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「The School Festival -TOURNAMENT-」 @対戦会場1
イベント対戦会場です。
対戦の際にはステージを記載した冒頭文を投稿致します。
ステージ詳細
※大雑把に記載して、あくまで参考にしていただくための資料とお考えください。細かいところは表現の自由です。
・ジャングルステージ
様々な木が連なり、草花が生い茂るジャングル。ステージ中心部には大きな川が存在する(渡るための橋はきちんとあるが一本のみ。)
他ステージと違って唯一、生物が生息しているステージであり、また戦闘に使えそうな備品も無し。
・学園都市ステージ
全ステージ中最大級かつ最もシンプルな都市ステージ。
言わずと知れた学園都市を忠実に再現している。人は存在していないが乗り物は勝手に無人で動いており、そこらへんにある車やバイクなどは乗っても構わない。
・城ステージ
自分が何処にいるかも分からなくなりそうなほどに広い古城。
中に人は存在していないが、備え付けの武器(剣や銃など様々)や食料などは自由に活用可能。
□1F 大食堂 大広間
□2F 基本的に個人部屋中心 バスルーム等アリ
□3F 同じく個人部屋中心だが武器庫アリ。
・遊園地ステージ
無人で勝手に稼働する遊園地。
遊具などは乗れば勝手に動き出してくれる。また、売店などに行くとうさぎのマスコットキャラクターが店員として働いている。
・レジャープール施設ステージ
こちらもアホみたいに広い遊具の施設。プールばかりであり、水も考慮した戦闘が要される。
世界最大級の流れるプールに長いスライダーがある他、何故か水上オートバイまである。ブールサイドはとても滑りやすいので注意。
全ステージ中、最も隠れる場所がないステージと言える。
・研究施設ステージ
こちらは無人の研究施設がモチーフのステージ。監視室やら様々な部屋や実験器具、研究が外部に持ち出されるのを防ぐために様々なトラップを仕掛けられる部屋などがある。クレイジーな爆弾とかもあったりするので注意。
□1F 大規模実験室 所長室等
□2F 中実験室や武器庫(あるのは煙玉や閃光爆弾のみ)、監視室(監視カメラの映像を確認可能)
◇地下1F トラップ部屋(全ての部屋、通路の遮断等)、ゴミ処理場
此処は、ゲームの中の世界。
何処かの世界に存在する「学園都市」なんて物ではなく、そんな物が存在しない人間が「妄想」で創り上げた………”仮想空間”。
ゲーム内の、マイクを手にした中年のおっさんが、何やらシャウトしている。
実況『さあさあ!!始まって参りましたぁ!!
───”The School Festival TOURNAMENT”!!
「能力」……「魔術」……大きな2つの異能が交わって対戦するこのゲームソフト──The School Festivalの、記念すべき第一回大会ィィ!!
記念すべき第一回大会には!6名の参加者がエントリー!!……2人1組でチームを組み、合計3チームで優勝をガンガン狙ってもらうぜぇぇぇ!!!』
実況『それでは!!The School Festival TOURNAMENT!!ルール説明をぉ!──どぞ!!』
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《ルール説明》
・基本的に運営が定めた2人1組のチームで1チームvs1チームで戦闘を行っていただきます。
・ステージは運営側が決定致します。ステージ内に存在する備品は全て使用可能です。
・戦闘開始前に運営がステージについての説明を投下いたしますが、あまり参考にする必要はありません。細かい点は自由に描写してください。
・時間制限はなく、チーム構成員が全滅する、またはリタイヤを宣言する、の2つで勝敗が決定されます。
・この大会のロールは、スレ本編には一切関係しません。そのようなロールはしない様にお願い致します。
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実況『──てなわけでぇ!!!
細かい説明はこれで終わりだぁあ!!次のレスではいよいよお待ちかねのチームを発表するぜ!!』
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実況『さァァァてっ!!遂にお待ちかねのチームの発表だァァァっ!!!』
実況『先ずはっ!!Aチィィィム!!』
Aチーム
椋梨 仙 【象形意掌--LEVEL.4】
箕輪 宙 【暗黒エネルギーの生成--LEVEL.3】
実況『Aチームは”筋肉まみれのパントマイマー”&”ジト目のトリッキーお嬢ちゃーん”!のコンビ!
……………──さてさて次は!Bチーム!』
Bチーム
八橋 馨【刀模りて刀を成す-RANK.A】
鹿島 衡湘【流動操作--LEVEL.3】
実況『こちらは”ふーきいいんの僕っ娘おねーさんさん&”りきっどこんとろーらーおにーさん”の魔術と能力合同コンビだぁぁ!!
……──そしてェ!ラストォォォ!!!』
Cチーム
赤羽 卓【思考念動変容弾-LEVEL.4】
高天原 出雲【爆破剛掌-LEVEL.3】
実況『ラストは”平和を願う”2人のコンビ!!トリッキーな能力と単純な能力は噛み合うかぁぁ!?』
………………………………………………
………………………………
………………
……
実況『──以上、チーム発表は終了ッ!!
さぁて!さてさてさて!!お待ちかねのゲームタイムと行こうかぁぁぁぁぁぁぁ!!】
【チームまとめ】
Aチーム
椋梨 仙 【象形意掌--LEVEL.4】
箕輪 宙 【暗黒エネルギーの生成--LEVEL.3】
Bチーム
八橋 馨【刀模りて刀を成す-RANK.A】
鹿島 衡湘【流動操作--LEVEL.3】
Cチーム
赤羽 卓【思考念動変容弾-LEVEL.4】
高天原 出雲【爆破剛掌-LEVEL.3】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆1回戦◇◆◇◆◇◆◇◆◇
──────《STAGE:”城”》──────
Aチーム
椋梨 仙 【象形意掌--LEVEL.4】
箕輪 宙 【暗黒エネルギーの生成--LEVEL.3】
───────── V S ─────────
Bチーム
八橋 馨【刀模りて刀を成す-RANK.A】
鹿島 衡湘【流動操作--LEVEL.3】
STAGE:城
─────ゲームの舞台は途轍もなく広い”古城”。
所々に掲げられた壁画や銅像は如何にも”伝統”を連想させる。
現代の最先端技術よりも遥か昔へと遡った、この古城こそ今宵の戦乱の舞台に相応しい。
”古城 【全3階】”
□1F 大食堂 調理場 大広間
□2F 基本的に個人部屋中心 大浴場あり。
□3F 同じく個人部屋中心だが弓や剣、盾など中世の武器が中心の武器庫もあり。
【各チーム開始位置】
Aチーム→1F 大食堂
Bチーム→2F 大浴場
また、大食堂と大浴場は城のそれぞれ端の位置にあり、正反対の方角からのスタートになります。
その他の部屋については位置は詳しくは設けません。自由にしてもらって大丈夫です。
開始時はそこにいつの間にか転送されている、という形でお願いします。
己がこのソフトを知ったのは少し前。
話のネタになるならと――この歳でゲームは恥ずかしいという気持ちに蓋をして、気軽に名乗りを上げてみた。
しかし、いざスタートラインに立ってみると――――その作り込みには思わず息を呑む。
「科学の力って凄い、ね」
初めに目に飛び込んできたのは、先が見通せない広さに叱れたテーブルと椅子。
次に己の体を見下ろす。スーツにベストと普段の格好。白手袋を嵌めた手を握って開いて、感触を確かめる。
丘陵を描く胸元に光る風紀委員のバッジ、それを軽く留め直し石造りの床を革靴で叩いて出た感想。
「ほんとリアル。 」
貧弱な語意ではそれ以上言葉を紡ぐのは難しい。元々人と活発に喋るタイプでもないし。
と、そこでチーム戦という単語を思い出す。気付けばこの場に立っていたが、自分と同じ状況に居る人が他にも居たりするのではなかろうか。
指先がかり、警帽を掻いた頭で、机と椅子の波に視界を泳がせる。
「……誰か〜。」
/運営様、参加者様、よろしくお願いします
一応貼り忘れ
因みにですが本スレ本編の設定付き合いを引き継ぐのは可能ですが、こっちの対戦結果諸々を普段のロールに入れるのは禁止、ですのでお願いします。
【1F-大食堂】
男の視界が突如として切り替わる。
一瞬にして視界が開け、いくつも並ぶ大柄な男よりもさらに背の高い巨大な窓によって取り込まれた光が巨大なその部屋を隅々まで照らす。
窓から見える緑は木々の背の高さ、草垣の形状、終いには花の並びに至るまで、それはそれは細かく手が行き届いた『人工的な完璧さ』を醸し出していた。
部屋の中に目を向ければ所狭しと並ぶ巨大なテーブルと寄り添うように置かれた大量の椅子。
パイプ椅子であったりプラスチック製であったりすることは無くそのどれもが立派な木製。
しかも嫌味なのか椅子の座面にはクッションが、テーブルに至っては真っ白なテーブルクロスまでかけてある周到さだ。
「……」
して椋梨本人はと言えば、そんな椅子の内一つに座った姿勢のままこの空間へと送り込まれた。
右の手には先程まで何か行っていたのであろう、握られているそれからは黄色の何かが垂れ下がっているのが見て取れる。
しかも丁度事を起こしていた最中の様で、自身の喉元を超えた高さまでそれは持ち上げられていた。
「…………」
対し左手に握られている物は大きい、一般人と比較しても明らかに大きい彼の掌を持ってしてもそれを丸々覆い尽くす事は難しい代物だった。
中には何かが入っているのか、窓から射す光がキラキラと反射しているのが見て取れる。
「…………ズルズル」
(やっべ忘れてた……とりあえずラーメン食お)
内心この状況に焦りながらも行動自体は至って冷静に持ち上げていた麺を口元へと運んで吸い込んでゆく。
先程まで自分がいた手狭なラーメン店が消え去り、気が付けばここに居た。
此処で椋梨は先ほどまで自分が何をしていたかを思い出す。
この真夏の夕暮れ時、鍛錬を終えどうにも小腹が空いた椋梨仙が大通りを持ち前の大きな足で闊歩しながら帰宅する途中にある物が目に入った。
独特な黒塗りの外装、白い看板に荒々しく筆を叩きつけるような書体で描かれた店名、この近くに新しく出来たというラーメン屋である。
飲食店口コミサイトでは☆4を保持し、クラスでも少し話題になったこの店であったが
ランチタイムには明らかに遅く、しかしディナータイムの頭であるこの時間は客の入りもまだ少ないのだろう、空いているように見えた。
そうして思わず店内に入り、近頃のサービス業らしくしかしラーメン屋としてはらしく無い当たりの良い店員に席へと誘われ、注文しラーメンが届き二口目を食べようとしたところで……
(……なるほど)
一巡回想を巡らせた所で何事も無かったかのように口に含んだ麺を食す。
思考の次は視線を周囲に廻らせたが、装飾の豪華さや壁の造りから見て凡そどう言った場所であるかは察しは直についたし、どのような経緯で運ばれたかもまた直に分かった。
「……ズルズル」
事情は分かった、分かったがとりあえず今はラーメンだ、そう言わんばかりに手が空いた箸をカチカチと鳴らす。
そうして先程口内へ吸い込んだ麺を飲み込み、次いで第二波をスープの中から救い上げると小気味良い音を立てながら今一度口に含んだ。
【通達】
Bチーム
八橋 馨【刀模りて刀を成す-RANK.A】
鹿島 衡湘【流動操作--LEVEL.3】
↓
変更
↓
Bチーム
八橋 馨【刀模りて刀を成す-RANK.A】
高天原 出雲【爆破剛掌--LEVEL.3】
>>9
見回していた鼻先がふと、香しい匂いを捉える。普段の時間ならとうにお昼を終え、口が寂しくなる頃合いか。
無意識にベストのお腹を擦る宙の視界の端、机を5列挟んでヒグマのように大きな背中が見えた。
「いた。」
並べられた椅子の群れの一つに鎮座するのはスポーツ刈りのような頭の男性。
活動的な髪形のみならずその身体も服の上でも一目で分かる程良く発達している。
風貌がだけ見れば格闘技のチャンピオン、背中を向けているため表情が分からないのがその威風堂々たるに拍車をかけていた。
(――――ラスボスかな?)
浮かんだ疑問に首を振る。先程チーム戦と己で確認したばかりではないか。
取り敢えず正面に回ろうと、机の列を迂回して斜め後ろから接近。
革靴で足音を消すのは難しい。無論向こうも己の気配を存分に感じ取っているだろうが――
【再度通達】
先ほどの通達はキャンセルで、そのままのかたちでスタートいたします。
Bチーム
八橋 馨【刀模りて刀を成す-RANK.A】
鹿島 衡湘【流動操作-LEVEL.3】
スタート場所、大浴場
【城2F、大浴場】
「―――ふむ。どうやらここで戦うようだな」
目を開けば、視界に入るのは大きな浴場。湯船から立ち昇る水蒸気に優しく包まれて、服と髪は早くも湿り気を帯び始めていた。
どうやら窓らしい窓はないようだ。周囲を見回して漸く見つけたのは、壁の上方に申し訳程度に取り付けられている換気用のそれだけ。
湯けむりがそこに辿り着くのにはそれなりの時間が掛かる。よりにもよって明確な視界の確保が困難な場所からのスタートという不幸に、舌打ちをひとつ。
まずは、浴場から出よう。水気を帯びすぎては愛用の木刀も質が落ちてしまうものだ。
――――――ここに至るまでの過程を、振り返ってみよう。
八橋はまず、ゲームという所謂"幼稚"なものに興味を持つ事は無い。絶対に、と言い切っても良いほどだ。
今日この場に居るのは偏に八橋の友人の為す所なのであった。彼女が八橋に『馨にオススメしたいのがあるんだけどー」などと宣い、無理矢理に開始させなければ、このような場にくる事はなかったのだ。
しかし意外にも、八橋はそこまで不快ではなかった。ここのところずっと戦いの場に身を置いていないのだから、久しぶりにこういった事をするのも良いかな、と楽観視すらしていた。
それに何より、遠慮無しに己の力を使える機会が出来た事が嬉しかった。魔術師でありながら自身を能力者と詐る身だ、そう安直に開けっぴろげには出来ないのだから。
……そういえば、これは複数人でチームを組み戦うものらしい。自分とチームを組む人間が誰なのか、気になる所ではある。
「……さて、どんな人間が僕とチームを組むのかな?」
にやりと、笑う。まだ見ぬ一時の協力者を求めて、八橋馨は脱衣所へと繋がる扉を開けた。
>>11
「……ん?」
少女の影に気付いた男は軽く首を動かして振り返る。
男の口元からは丁度さっき含んだばかりの麺が箸で持ち上がりながらも垂れ下がっているのが見て取れた。
箕輪が足音を消しているのであれば他に誰も居ないこの場所では音が殆ど無いのは明白。
探り合うかのような緊張の間を奔るズルズルと言う麺を啜る音のみが食堂の中に木霊する。
そのシュールな空気に耐えかねたのか、男はそっと口を開いて―――――
ふがふが
などと言う意味不明なうめきが、その喉から発せられた。
男は何か言葉を口にしようとし口に含んだ麺が邪魔で喋れない……どころか一本飛び出そうになるのに気づいて急いで右手で抑えると
左のドンブリをアイロンがけされた直後の様なピッチリと整ったテーブルクロスの上に無造作に置き、急いで口内の麺を飲み込んで行く。
「ごくん……お前が俺の相棒ね。
俺椋梨仙、まあ宜しく宜しく。」
椋梨はその体躯に寄らず非常に軽い態度で、非常識にラーメンを食べていた事を無視して語る。
「あれ、お前風紀委員なの?
お前みたいな奴見た事無いんだが……気のせいか?」
少女が身に着けている黄金のそれに気が付いたのか、筋肉は首を傾げた。
見れば筋肉の服にも同様のバッチが付けられている事に気付くだろう、奇しくも風紀委員同士、と言う事になった訳だ。
「ま、揃ったならいいさ、延びる前に終わらせられたら戻ってくれば良いし、ダメだったらもっかい店に行けばいい。」
そう言うと椋梨は食べかけのラーメンと箸をテーブルに置いたまま立ち上がる。
軽く振り返る男の顔からは、早速敵を探しに行こうと言う気概がありありと見て取れた、即ち行動開始……である。
>>13
【城2F、脱衣所】
「…っと、何とか入り込めたようだな」
目の前に広がったのはまさにBIGと言わしめる広さを持った脱衣所であった。誰かが来ていたのだろうか、所々に湯気が籠っていて何とも言えず湿っぽいという風に感じた。
「バーチャル世界だとはいえ、こういう風な蒸気や湿気まで感じられるとは…科学って奴は常に成長しているってワケか」
「学園の催しだと聞いて滑り込みで入ってみたのは良いが、確かチーム戦だったような…」
鹿島は手に握られた対戦表を開き、自分と組む人物───八橋 馨という名を目にする。
鹿島にとって、自分より強い「能力者」であるならば、越えるべき相手である為にある程度は名前は覚えているように心掛けていたが、目にした人物は……聞いた事もない名前であった。
「……無能力者か?」
「こういうバトルって奴は能力者と能力者がぶつかるからこそ盛り上がるモノだが、運営は何を考えている?」
一方的に八橋 馨を無能力者だと決めつけ、バツの悪い顔をした鹿島は呆れたのか、対戦表を無造作にポケットに入れ、脱衣所の机にどかっと座り込む。
「ただでさえ直接的な攻撃手段が無いってのにこれじゃあよォー……むざむざやられに行くようなモンじゃないか」
相手はきっと能力者だろうなぁとボヤき、机の上で仰向けになって項垂れる。丁度その時、浴場のドアから何者かが現れたのだった。
//運営様、八橋様、相手のお二方様、よろしくお願いします。
>>15
浴場から湯煙と共に現れたのは、サラリと長いポニーテイルを湿気でしっとりとさせた女だった。
手には木刀、腰には何やら金属線。服を見れば、そこには風紀委員の証たる金色が確かに存在していた。戦えるのかどうかは兎も角、"こういった荒事"には慣れていそうな雰囲気はある。
その人物は、すいと辺りを見回した後で鹿島へと身体を向けた。
「……君が、僕と組む人間か。なんとも……、……か弱そうだが」
戦えるのか?と問いをぶつければ、じろじろとそちらの全身を眺め回す。言ってしまえば、失礼な人間である。
場所共々ハズレかなどとぶつぶつ呟きながらもう一度周囲へ、今度はじっくりと舐め回すように視線を巡らせる。
どうやら、戦闘に使えそうな物を探しているようだが……ここは脱衣所、マトモな物があるか、どうか。
「……まあ、良い。僕は八橋馨、君は?」
物資探しだけに時間を割く暇はない。今こうしている間にも"敵"が何をしているか分かったものでは無いのだから。
ずかずかと、あくまで自分のペースで八橋は会話を進めようとしていた。今の所彼女の行動は全て、まるでチームワークという言葉を理解していないようなものばかりなのだった。
>>14
歩き始めてそれ程立たないうちに視線と視線が交錯する。
やはり匂いの原点だけあって食事中だった様子。口からこんにちわしかけた一本には行儀よく目を逸らして事なきを得る。
「どうも、箕輪 宙(みのわ そら)です。」
「初対面なのは気のせいじゃないと思いますよ。 学区の違い、とかじゃないですか?」
眼鏡をくいと持ち上げ、自然と敬語になった口調で同意を計る。
風貌から見るに3〜4つは離れているだろうか、これで向こうが年上でなかったらそれはそれで怖い。
こんな大きな同僚が居れば噂になっていそうなものだが、事実今まで宙は知らなかった。これも学園都市の不思議であろうか。
「やる気十分ですね。 私も晩御飯までには帰りたいです」
この空間でお腹は空くのかという疑問はさて置き、立ち上がった男に付いて自身も賛同の意を示す。
頭一つ背の高い椋梨を見上げるのには見やすいよう帽子のつばを回さねばならない。
それよりも高い広間の天井を見上げ、改めて日常とはかけ離れた世界に降臨した事実を確認する。
「此処お城、ですよね。」
「ゲームだと天辺にボスが待ち構えているのが常套ですけど。 どうやって探します?」
マップなどの便利なグッズが配られた形跡はない。
この部屋も城内のほんの一部であろう、虱潰しに探すとなれば――と普段の2割増しに嫌そうな目で額に手を当てる。
>>16
ガラッと音を立てて入ってきた者は、長い髪をポニーテールとして纏めた、自分より気持ち一つ分程背が低い女性だった。
何だ、女か──っと、悪態付こうとしたが、その女の腰には学園都市にいる者ならば知らない者はいないと言われる風紀委員の証があった。
「ケッ、風紀委員サマかよ」
「こんなゲームにまで参加して、随分とお暇そうじゃないか」
流石に女だと言って馬鹿にするのは躊躇いがあったのか風紀委員であるという事をついて悪態付く。
その時に、八橋から自分の身体の事でどうのこうの言われた為に思わず身を起こして反論する。
「っと、言わせてもらうが身体だけを見て判断するなよ、俺は能力者なんだ」
「身体も鍛えていないわけではない、風紀委員としての目線で見られたらどいつもこいつも皆貧相な身体つきになってしまうさ」
そう言って、こちらに歩いてくる八橋の顔に向かって水の一滴を浮かべて飛ばす。
「俺の名前は鹿島 衡相。 Level3の液体を操る能力者」
「ご覧の通りサポート向きの能力なんでね、いつもツッパている風紀委員サマには前衛で頑張って欲しいんだが、良いよな?」
自分のペースで話せない事が気に入らないのか、若干挑発するような、いや挑発して自己紹介を済ます。昔ヤンチャしていた鹿島にとって、風紀委員とはあまり好感できるような関係ではなかったのだ。
>>17
大食堂から出て、長い長い廊下に足を踏み入れた2人。
先導するような形となった椋梨は散歩している、と言う表現以上の言葉が存在しない程にぶらぶらと、そして無警戒に歩を進めていく。
箕輪が語ったは学区の違いと言う言葉に対して疑問を感じては居なかった、と言うよりは興味が無かったと言うべきだろうか。
さらに言えば椋梨は箕輪以上にこの大会に対して勢威を感じられないだろう、ラーメンを持って現れる様な奴な事を考えれば甚だ当然の事ではある。
「窓から庭が見えたからここ一階だろ、とりあえず上行けばなんとかなるなる。」
外へ向けられた人差し指が窓を指すと、そこには緑で彩られた庭園が硝子越しに映り込む。
2階にも屋内庭園があるみたいな面倒くさい建物だった場合はお手上げだが、城と言っている以上そんな事は無いだろう。
となればここが1階であるという情報は凡そ正しい、そして……
「地下が無いなら上しか進む道ないし相手も一階なら階段で鉢合わせる確率も上がる。
そもそも上の階なら上に登らざるを得ない、まあ入れ違いになる可能性はあるが……どうせ何分の一かにかけるならこの方が効率的よ。」
そう言って廊下を曲がった先、右手に赤い絨毯が引かれた大きな階段が現れる。
当然それを通り過ぎて廊下はまだ続いているようだが……椋梨は階段を上り2階へと乗り込むつもりだ。
その時、大男は箕輪へと振り返り声をかけた。
「どうするよ、上るか?
それともこの場に“おびき寄せる”か、俺はどっちでもいいぞ。」
釣り上がった口角が三日月の様にニヤリと不穏な弧を描く。
昇るか昇らないか、それとも此処で別れるか……彼の言う通りおびき出すか、その選択が問われたのだ。
>>18
「暇なのは君も同じだろう?それに、風紀委員が暇ならば良い事じゃないか」
吐き捨てられる悪態をサラリと受け流して、女は笑う。悪態を吐く程威勢があるのは良い事だ、気弱な人間ならばどうしようかなどとも考えたが。
不意に、こちらへ飛ばされた水滴に対して、
「……分かった、任されよう。見ての通り、僕は前衛一辺倒なものでね」
ふぉん、と木刀を振るう。小気味の良い音と共に水滴は木刀に打たれ、更に小さな粒となって周囲に散る事だろう。
不敵な笑みと共に顔に浮かんでいるのは、己の腕に対する確かな自身だ。
「僕の力は–
>>19
食堂を辞して廊下を歩く二人。散歩のようなのんびり歩きとはいえ自分より歩幅の広い相手について行くのに気を遣いながら
椋梨に数歩遅れてを歩く道すがら、宙は形容しがたい感覚と戦っていた。
無理矢理言葉にするなら何かが足りないような、簡単に言えばちょっとしたイライラだ。人にあたる程でもない微細な其れはしかし確実にストレスとして精神に堆積する。
無意識に右手の人差し指と中指を弄びながら、椋梨の言葉につられ窓の外の緑に暫し気を向けた。
「結構考えてるんですねー……――わぁ、大きな階段。何階まであるんでしょう」
全く喜色の無い感想だが昇る事自体に反対はない。
ただ、上の階で敵と鉢合わせる前に確認しておきたい事実が一つ。
「私、どちらかといえば待ちの能力なんですよね。地味なので一発K.Oとかは期待しないでほしいです」
「なので今みたいに先輩が先導してくれるなら、喜んで上の階に上がりましょう」
両手を顔の横で軽くひらりと。見て分かるように武器らしい武器も持っていない。其れは目の前の相手も同じ事だが――――
先輩と言いながら男を肉壁にする気満々な言い草は眼鏡を上げるポーズと相まって結構な腹黒さを滲ませているかもしれない。そこで
ふと思い出したように胸ポケットから取り出したのはシガレットケース。「いいですか?」と目で問うのはこの場に於いてあまりに暢気が過ぎるようだったが
もし眼鏡の奥を見れば、案外その色は真剣そのもので。まさしくニコチン中毒者――或いはそれ以外の何かか。
仮想世界でありながらこういう感覚(ところ)は忠実に再現してあるのを癪に思いながら、思い出したように囁く。
「ちなみに……おびき寄せるを選択した場合は?」
>>18
//ごめんなさい、ミスなので>>20 の続きから
「僕の力は―――そうだな、見てもらった方が早い」
対象を探すように部屋中に視線を巡らせ、結局は自身の所に辿り着いて。見ろ、と目で促してから掲げるのは木刀。
それの"真剣ならば刃のある部分"に指をなぞらせると、面白いように"刃が現れる"。……しかしそれは、勿体振るようにすぐ様元の木刀に姿を戻してしまって。
「これが僕の力さ。……さて、早速だが動こうじゃないか」
敵は今こうしている間もこちらを探しているぞ?と笑い掛け、八橋は脱衣所の出口へと向かう。矢張りマイペース、しかし多少はチームという物を理解しているらしい。
扉の前でくるりと振り返れば、鹿島の行動を待つように……否、急かすように扉に手を掛け待つのだった。
>>21
「えぇ……先導ってまさか2対2でやんの?俺相手見つけたら1対1で別れるとばかり思ってたけど……」
箕輪の言葉に階段にかけられていた彼の足がピタリと止まる。
ギギギ、とオイルが切れたロボットの様に鈍い動きで振り返るその表情は先ほどとの落差が酷い。
とても嫌そうな嫌そうな、例えるなら見えてる地雷に踏み込む宿命を背負わされた時の様な……顔に「ヤダ」と文字が書かれている様な気がする程だ。
その理由も簡単に察することが出来るだろう、ズバリ「めんどくさい」の一言だ。
「今は良いけど戦闘中はやめてくれ、俺“鼻が良い”から。」
シガレットケースを取り出した箕輪を見て、それを咎める事も無く椋梨はそう言った。
凡そ解っていると思うがこの椋梨仙と言う男は風紀委員としては不良に位置する。
人の目があれば止めたかもしれないが今そんな物は無い、自分に不条理が降りかからなければ勝手にしろと言う回答と見て間違いない。
そうだけ言うと男は階段を昇りはじめ、二階の廊下へと片足を乗せた。
と同時に後ろから箕輪の声がかかる、その内容は選ばれなかった択にしていた場合何をしていたか。
それを聞いた男は振り返る事も無く考え込む事も無く、風で木の葉が舞うような水面が揺れる様な、余りにも自然に言葉は紡がれた。
「“吠えた”」
1F階段→2F廊下
>>20 >>22
ヒュオッと風を切る音を感じ、暫くしてそれが八橋の剣を振った音だという事に気づいた。
そう、飛ばした水を何事もなく木刀で振り落としたのだ。
「……マジかよ、流石は風紀委員?といったところなのか?」
唖然とした顔をしつつも、八橋は笑みを見せて自分の能力が何なのかを言った事に多少の違和感を感じる。
(刃を作る能力…か? しかし、あの刃はどこからやってきたんだ?)
(刃を作る為の鉄を作るとしても、あの木刀の中に鉄を仕込んでいる訳でも無いはずだ、刃は「何故」木刀から現れたんだ?)
生まれた時から科学の世界にいた鹿島にとって、初めての魔術の遭遇がこのゲームだとは夢にも思わなかったし、第一非科学的な存在を鹿島は見た事がなかった為に、このような違和感を感じている羽目になった。
そんな変な違和感に悶々としている内に、八橋はスタスタと出口の方まで歩いて早く来いと鹿島に急かしていた。
「ったく、良く分からん人間だ」
「少し待て、先に忠告しておきたいんでなァ」
机から飛び降り、八橋の側まで自分の戦い方を教える為に歩いて向かう。
「お前も知ってるように俺は液体を操る能力者だ。 故に、液体ならば何でも出来る」
「そこで、だ……俺がより良くサポートできるようならば、なるべく「液体」が多く存在する場所で戦う事をお勧めしよう」
「そうだな───液体の種類が多い場所の方が尚更戦術を編みやすい……狙いは、1Fの大食堂の方が良い、そっちの方がその長い木刀で暴れやすいだろうしな」
忠告した後、そのまま扉を開けて脱衣所を出る。
逆に早く来いと急かさんばかりに……。
>>23
「それだとチーム戦って言わないじゃないですか……まあそこまで嫌なら任せますけど」
露骨なまでの視線を受けて肩を竦める。宙にしても然程優れた連携が取れるとは思わない。
しかし、もし始めが一対一でも片方が負けた時は自然と二対一になると思うので、結果は同じだろう。
それだけこの先輩が腕に自信を持っていると考える事にして、椋梨に続き階段を上り始める。
煙草に付いては見咎められるかてっきり「一本くれ」とでも言われるかと身構えていたが、返ってきたのはそのどちらでもなく。
しかし表向きは了承を得たと、早速一本目に火を灯し煙を吐く。ごつい不良が煙を嫌い見た目警官の女が煙をくゆらす様子はかなりちぐはぐな雰囲気を否めない。
まあ身体を鍛えているならニコチンを嫌うのは当然か、と半分まで減った其れを口の端に転がした時、一拍置いて特大の煙が深々と吐かれる。
「……違うなら聞き流してもらって結構なんですが。 もしかして先輩って結構馬鹿なんですね」
階段を上り終えた眼前に広がるのは、一階に比べて扉の数が目立つ以外は然したる違いはないような廊下。
全貌を把握できていないが、最初の場所は食堂などの共同スペースとすればここは住居等の個人空間だろうか。
「どこかの部屋に隠れているとかは、なさそう……ですかね。 ここも一通り回ってみます?」
>>24
鹿島の言葉を受けて、八橋は
「――――――それならば。いや、そこまで言うならば」
自ら急かしたというのに、今度は逆に動こうとしなかった。どうやら考えついた事があるらしく、考え込むように顎に手を当て、やや俯いて。
不意に、くいと親指で後ろを示す。自分が最初にいた場所を思い出せ、あそこは、
「……先ほど言ったように、敵は既に動いている可能性が高い。そんな中で食堂に辿り着けるかは正直、運任せになるだろう……ならば、ここだ」
「ここならば、君のお得意な液体が幾らでもあるじゃあないか……食堂なんてめでもない、何せ常に"湯が保たれているのだから"」
あそこは、湯気のもうもうと立ち込めた浴場だ。つまりそれは、"温度を保つ為に常に温水が供給されている"という事でもある。
流石と言うべきか、風紀委員をやるだけの頭はあるようで。正当な意見を言っているように思えるが……しかし、些かどころではなく鹿島を苛つかせかねない言動でもあった。
「……僕の考えに乗るかどうかは任せよう。もし乗るのなら……そうだな、ずっと待つのも面倒だ、叫んで呼び寄せるのも一興かと思うが、どうだ?」
――――――もっとも、風呂場というのは同時に八橋の持つ木刀にとって最悪のコンディションでもあるのだが。
どうせ仮想空間だ、やってやろうじゃないか、と。考えを直ぐに転換させるのは、八橋の弱みでもあり、強みでもあるのだ。
>>26
八橋の引き止めに、若干の苛立ちを感じた鹿島であったが、その後のアドバイスによって、ハッと気づかされる。
「敵はもう動いている───か、そう考えない事も無い」
「では、俺らは大浴場で機を待つ…という事で結論といこう……で、よろしいか?」
思い立ったが吉日、鹿島は直ぐに脱衣所へ急ぎ、扉を閉めた。
そして適当なロッカーの中をガサガサと漁っていると海水パンツを発見する。
「ならば、申し分あるまい。 とっとと勝つ為に策を練る」
そう言って八橋から距離を置いて、男性用の海水パンツに着替える為に服を脱ぎだした。
「湯を利用、洗剤を利用すればある程度攻撃性のあるサポートが出来る……その為には普通の服では邪魔だ」
八橋をそっちのけにして早々と着替えを済ませた鹿島は浴場の扉を開く。そして八橋に振り向き、
「バーチャル世界か何なのか知らんが適当に漁れば動きやすい服装があるみたいだぜ、八橋、お前が勝つ為に戦いたいならば浴場だとその衣服は邪魔になるぞ」
勝つ為には手段を選ばず───。常に変わらぬモットーを掲げる鹿島は異性に着替えさせる、異性の前で着替えるという事に何の恥も感じずに浴場へ行ってしまった。
【通達:ただの連絡ですのでこのレスについては特にレスはしないでください。】
─CHALLENGER ─
──APPROACHING──
─────《挑戦者が現れました》─────
ウウーン!ウウーン!!とけたたましくサイレンの様な音が『The School Festival』世界内の”試合観戦場”へと鳴り響いた。同時に、観客の前のモニターには2人のシルエットのような画像が。
戦いを観ながら「早く攻めろー!!」だとか罵っていたキャラクター達が、一瞬にして静まり返った。
先程の中年のイカしたおっさんのキャラクターがマイクを徐に取り出す。まるでそれが予測出来ていたかの様に……平然と。
────────そして吠える。
実況『おおっとォ!?このサイレンはぁ!!
新たなるチームが挑戦状を突き付けてきたようだぁぁぁぁぁぁぁ!!』
おおおおおおおおおおおおおお──!!っと湧き上がる観客。実況はその様子を満足げに、満面の笑みを浮かべながら紹介をした。
黒きシルエットが晴れて2人の挑戦者が姿をあらわす。
実況『今回!!挑戦状を送ってきたクレイジーな”Dチーム”はこの2人!!』
Dチーム
黒繩 揚羽【有害妄想--LEVEL.3】
暁林 初流香【彼岸の囚人--LEVEL.3】
実況『トンデモねぇ苦痛を感じさせるクレイジー野郎に!状態を保存できる少女のコンビ!!
こりゃあトンデモねぇシナジー効果期待できるんじゃないかぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
実況『そんな2人vs 平和コンビことCチームの試合はトゥモロー!!兎に角今は!目の前の戦乱に目を向けようぜ!!
──じゃあ!しーゆーあげーん!』
>>25
2階廊下
「チーム戦するつもりなら最初に能力教えてるよ?」
そう、このチームは本来行うべきもっとも重要な段階を大きく跳ばしている。
即ち戦力の確認、互いの能力であったり互いのLevelであったり――――作戦を立てる上で最も重要なセオリーを完全に無視しているのだ。
知って居る事と言えばお互いの名前と所属が風紀委員であると言う事のみ、この男は最初からスタンドプレイをするつもりだったのである。
そして馬鹿と言う言葉に対してはスルーした、彼自身も己の能力を知らないのであればそう思われて然るべきだと理解しているからだ。
尤も知って居る者からしてみれば男の言葉は嘘でも冗談でもなく、恐らくこの建造物全域に、それこそ月下に響くほど高らかに吠える事も出来ることを理解できる。
「一通りねえ、じゃあ一通り“焼いていく”か。」
そう言って椋梨は近場のドアに手をかける、ゆったりと腰を落とし引いた右足と地に這うような左足。
力軽く開かれた両の掌、しかし指先は人の物とは思えない鋭さが垣間見える。
最早それは指ではなく、青竜刀を彷彿とさせる様な、仰々しい爪。
その瞬間椋梨に何かが重なる、大きく、恐ろしく、烈しい何か――――――
と同時に男は扉を勢いよく蹴破り、大きく吸い込んでいた息を部屋の中へと吹きかけた。
フィクションの中で息に色が付いた描写を見たことがあるだろう、爽やかさであったり臭いであったりを再現する為に。
それは正に仮想の世界の出来事だった、椋梨仙の吐いた息には明確に【赤】と言う色があり、同時にそれは目を細める程眩しく、夏の陽光等とは比較にもならない程の熱が在った。
それは一室の中に大きく広がると共にあらゆる物を侵略する。
侵略し、滅し、爛れさせる。
炎の吐息は正しく一室を焼き焦がし、清潔に整えられていた内装も豪華な装飾も全てを黒く塗りつぶした。
元は客間の1つであったであろうそこは最早見る影もない、影すらも昇る黒煙と焼け焦げた炭に紛れて消えてしまう。
「ハズレか……次の部屋行くぞ。」
何事も無かったかのように椋梨は次の部屋へと歩を向ける。
そこは丁度、大浴槽へと続く脱衣室への扉であった。
>>27
賛同し、そこらを漁りだした鹿島。何をしているのやらと暫く眺めてみれば何と海水パンツを取り出し、徐に服を脱ぎだすではないか。
「……あー、分かった。分かったとも」
片手で目を覆い、鹿島を見ないようにしてため息を吐く。最初に意見を出したのは自分だ、やってやろうじゃないかと思ったのも、自分だ。
つまり今この状況―――詳しく言えば、素肌を曝し己の肢体を異性に見せびらかすような格好をする破目になった事―――は、全て自分の責任か。
急いで着替えを探し、あくまで鹿島には見えない所に移動する。こんなような奴でも羞恥心は人並みにあるのだ。
服を全て脱ぎながら、もう一度ため息を。本当ならばこんな姿、赤の他人に見せたくなどないというのに。
「…………君のサポートに期待しておくよ、鹿島君」
後から、言葉少なに浴場へ現れた八橋は、簡単に言ってしまえば水着姿だった。
豊満ではないながらもきちんと主張のある胸、すらりと長く、それでいて最低限筋肉のついた腕と脚、引き締まった肢体の隠す必要がある部分だけを覆い隠すのは、水色の布。
普段しない格好に動揺でもしているのか、自ら提案した筈の"呼び寄せる"動作はせず。長い髪を揺らして、木刀と金属線を片手に纏めて持つ彼女は、隠れるように湯気の濃い場所へ歩を進める。
もう片手には、大きな白いバスタオルが。何を思ったかそれを湯船に浸して、流れないよう縁の方へ置いておく。
「僕の準備はこれで良い……後は、君の態勢が整うのを待つだけさ」
―――湯煙の中、八橋の両頬がほんのりと赤いのはきっと、気の所為ではない。
>>30
鹿島が浴場で「石鹸」と「湯」を使って液体を作っていた頃、八橋も着替えてきたのか、水着姿で風呂場に来た事を鹿島は目にした。
「やはり、女だな…流石に恥ずかしいか?」
「だが、戦うとならばそんな感情はかえって足を引っ張るだけだ……よし、出来た」
鹿島はニヤリと笑い、両脇に大きな風呂桶に「液体」を作り上げ、その片方を八橋の側に置いた。
「その桶には脱衣所に何故かあったローションを掻き集めておいた、相手の足場を殺す為に使ってくれ」
「俺用にももう作ってある。 タイミングを図って一気に滑らせてやれ…ククク」
自分の罠に引っかかった敵を見下すという鹿島にとって最高のシチュエーションを思い浮かべ、つい嗤いが止まらずに滲み出るように笑む。
「俺はシャボン液、ローション、熱湯を駆使して積極的に相手の足元、顔面を狙う」
「どうせ奴等は能力もしくは筋肉だけで襲うような能力者に決まってる、俺にできる事は兎に角そいつらの顔を驚かすだけだ」
また一つ、また一つ…と、ある時は風呂桶、ある時は浴槽まるまる一つと次々に罠を仕掛け回り、最後は鹿島自身が風呂の中に入る。
「俺は隠れながらにしてしっかりサポートするぜ、お前の戦いの邪魔にならんよう善処するのでな───最高の勝利を頼むぞ」
そう言って鹿島は風呂の中に潜ってしまった。
>>29
「――――――――確かに。」
言われて返す言葉が無いとはこの事である。思い返せば自分も相手も能力に付いては殆ど言及していない。
意図的に隠しているのかくらいにしか思っていなかったが、成程最初から個人プレーのスタンスを貫くつもりだったとは……
煙で曇った先行きに不安を覚えつつも、続く言葉を聞き返すより早く、宙は眼前の光景に目を疑う事となる。
「熱っ!」
先輩が謎の構えを取った瞬間、突然空気が“爆ぜた”。
灼熱の吐息が視界を照らし、火の粉がちらちらとイルミネーションのように光る。
瞬きを二回するうちに、豪奢だったインテリアは見る間に全て炭の山と化してぶすぶすと燻るばかり。
それを為したのは目の前の筋肉男に重なって見える――――
「……竜(ドラゴン)?」
姿が変化した訳ではない、一瞬膨れ上がったように思えたのも鍛えられた大胸筋の内側一杯に息を吸い込んだだけの事
にもかかわらずその背に垣間見えたのは絵本やSFでしか話に上がらないシルエット。古城という今宵のステージに於いてはある意味もっともふさわしい姿だろうか。
幻覚かと目を擦ったが、未だ肌に纏わりつく熱気はそれが脳を騙す程度の力でない事を如実に示している。もうこの人一人でいいんじゃないかなという感想を述べるより先に椋梨は次の扉へ。
「ここはお風呂場、ですか。 流石にこんな所に隠れる人はいないと思いますけど……まあガスに引火して自滅という終わりだけは避けてくださいね」
男が向かった先の扉をしげしげと、現代日本であれば暖簾が掛かっていて然るべき大きさの底は戦闘とは程遠いように思える。
ガスが通っているのかという問いはさて置き、その背に隠れながら口元の煙を吹かして、火を吐く事自体は止めようとはしない。
完全に人任せの体だがこれが常、楽観的な推測はあっても待ちの能力の言葉に偽りなく準備だけは抜かりない。
まさか眼前にまで敵が迫るとは思いもしないが――――
>>31
「…………せめて、僕の足を掬わないように気をつけてくれよ」
最早何も言うまい、と八橋は諦観と共に鹿島の言葉を聞く。きっとこういう男なのだ、自分のペースさえ掴めば途端に饒舌になり、楽しそうに笑うのだ。
足元に置かれた桶に視線を注ぎ、すぐに逸らす。……が、ふと思い立ったようにもう一度、視線を桶に落とす。
これはもしかすると使えるかもしれなかった。あくまで仮定の話だが……投擲するとしても、形は悪く無い。
「さて……では、待とうか。きっと直ぐに来る」
遠く、何かを―――いや、恐らくはドアを蹴破る音が聞こえたような気がする。探しているのだ、ならばいずれここにもたどり着く。
自分はここに何をしに来た?……戦う為では、なかったのか。羞恥心は振り払う。鹿島の言う通り、こんなものは邪魔だ、無用だ、足枷だ。
目を閉じ、精神統一をするように、深く深呼吸。落ち着いけ、気持ちの昂りは戦闘で存分に味わえばいいのだから。
――――――木刀を、構える。
まるで、鞘に入れた刀に手を掛けたような、そんな佇まいで八橋は静止する。呼吸さえもしてい無いのではないかと思わせる程にぴたりと、ブレる事なく。
瞳を開き、見つめる先は、浴場の出入り口ただひとつだった。
>>30 >>31 >>32
「ご慧眼。」
椋梨は箕輪の呟きに対し、童話に出演する悪戯猫の如きくぐもった笑いを漏らしながら扉の前に立つ。
その言葉は紛れもない肯定の意に他ならない。
「大浴場ねえ、となると広いだろうし思い切り吹いておいた方が良いかもな。」
先程と同じく椋梨は構えを取る、今度ははっきりと見えるだろう。
龍だ、伝承され、伝奇とされ、伝説と語られる生き物は確かにそこに存在した、椋梨仙と言う特異を媒体とし、この世に今権限したのだ。
ガス爆発と言う言葉に対し男はむしろ箕輪とは正反対、「それなら楽だ」と嬉々とした声を漏らした。
浴場という事は脱衣室と浴室の2部屋が繋がっている事になる、2部屋とも焼くのは環境的に不可能であろうが、それでも少しは向こうまで届くであろう。
男は胸と背を大きく逸らす、それこそ男の大胸筋が一回り大きくなったと思う程にその肺の中に空気を押し込める。
そして、扉をその爪でぶち破ると同時――――――。
突如浴室の扉が真っ赤に染まる、正確に言えばその向こう側が赤い輝きに飲み込まれる。
それを認識した瞬間に浴室の扉が内側へと大きく張り出し、そこから一呼吸もせずに。
それは弾けた。
同時に脱衣室からはみ出す様に炎が侵略してくる。
煙が上がる。
勢いに呑まれた木製の棚が真っ赤に爛れた黒炭となり浴室まで飛び散ってくる。
もうもうと黒煙を上げながら吹き抜けとなった脱衣室の向こう側、その扉の前に男は立っていた。
この地獄の業火――――いや、天の業火と言うべき所業をやってのけた元凶は確かにそこに立って、消し炭となった棚を、タオルを、服を踏み越えて浴室へと近づいてくる。
「ああ、居た居た―――――って八橋先輩かよ。」
見定めた敵の姿を見、椋梨は何とも嫌そうな表情を浮かべ、次いで首を傾けた。
なんで水着なんだ、と。
>>33
「やっとそれらしい顔付きになったじゃないか、そうじゃなければ風紀委員らしくない」
準備が整ってしまったので余裕があるのか、顔を出して八橋を冷やかす。……といっても簡単に茶化す程度であるが。
「念の為に既に浴場の出入り口の足場にはローションを塗りたくってやった。 奴等が滑ろうが滑らないだろうが其処に意識が向いてしまうのは明らかだ」
「其処を思いっきり鳩尾にでもついてやれ、男なら金的を狙っても大丈夫だろう」
勝つ為には手段を選ばず…っと言ったがここまで無慈悲に考えるのは捻くれた性格故か。自分自身がそうなっなら顔面蒼白ものな攻撃方法をいとも簡単にスラスラと八橋に伝える。
「何たってバーチャル世界だ、何したって後遺症が残らない……ならば派手にやってやるのも一興だとは思わんか?」
そう言う鹿島が潜んでいるのは自作した「シャボン液」の風呂。目に染みると激痛が起きるような液体を鹿島は今でもかと相手にぶつけようとばかり構えていた。
>>34
脱衣所の先で聞いた凄まじい轟音。
その直後、それが炎による爆発音だという事が分かった時には既に相手チームが浴場の入口に立っていた。
1人は小柄な女子、もう1人は対比したかのような大男。どちらも、「風紀委員」らしきマークをつけた服を着ていた。
(マジかよ……俺以外は全て風紀委員って奴か!?)
そして大柄な男───椋梨 仙という人間には鹿島は見覚えがあった。
(椋梨 仙、確か奴はLevel4、だった、ような…!?)
(Level4…乗り越えるべき相手、Level3であるならば、俺が俺であるならば!!)
その目で、その肌で感じた緊張感を一先ず振り解き、気持ちを切り替えて敢えてプレッシャーを感じていないような演技をする。
「おおっと、相手さんの御登場かい……まずは…此奴を喰らいな!」
鹿島は手に掬う程度のシャボン液を「シャボン玉」に変化させる。
「シャボン玉20発。 手に掬える80ml分……これならば器用にお前さん達のお目目にタッチできるぜ」
フワフワと鹿島の周りに浮かんだシャボン玉は隊列を揃えてジグザグと椋梨と箕輪の両目に向かって進んでいく。
「敵さんの足元は既にローション地獄だという事を知っててくるならそのまま来てくれよぉ?」
「───後は八橋、君の番だぜ」
自分の仕事は一先ず終わったと嗤い、また風呂の中に潜っていった。
>>33 >>34 >>36
「まあ詳しくは訊かないでおきますね、想像だけで」
自信に満ちた笑いに対し、生物の力を借りる/宿す能力だろうか、と考えるだけに留めておく。
てっきり肉体を駆使するパワーファイターとばかり思っていたが、状況に即した対応力で戦うタイプなのかもしれない。
やり方はまるきり脳筋なのになぁ……と、冷めた眼差しは変わらないが見た目と戦術のギャップに動揺を隠せない様子。
煙草の灰が唇に迫り、熱さで慌てて二本目に持ち替えた。
直後、一度目よりも大きな火柱が上がる。
流石に二度目となれば驚きは少ない。爆風で飛びかける帽子と焦げそうな前髪を押さえる。
もういいかと訊こうとした時、不意に椋梨が一度目とは違う行動に出た。焦げ付いた空気を踏み越えて、部屋――浴場の中に侵入していったのだ。
敵がいる。そう気付くのに一秒も要らず、続けざまに灰を踏んで中にいる人物を目に止める。
戦闘体勢に入る刹那聞こえてきたのは意外そうな声。「お知り合いですか」と声を出し掛けて――――それを呑み込んだ。
それよりも言いたい事があったが男の表情が目に入って、喉元まで出かかった其れも何とか呑み込んで、
見つめ合うであろう二人に憐みの成分を含んだ目線だけを送り、申し訳程度の会釈を送る。その顔に飛んでくるのは涼しげな雰囲気を纏う虹色の球体――当然見た目通りの優しい物体であろう筈もない。
「箕輪宙――自己紹介してる暇はなさそう、かな」
ふぅ、と吐いた溜息と煙が顔の前を覆う。と、直後それに触れたシャボンの弾は舵を切っててんでばらばらに方向性を失った。
得体のしれないものに触れる危険は冒せない。触れることなく、能力――斥力を司る暗黒エネルギーを纏わせた煙で目潰しを防いだのだ。
しかし、幾つかは防げたものの弾はまだ残っている。なにより前に立つ椋梨に向かったものまではカバーできるかどうか分からない。
先輩の心配を擦るべきか迷いつつ、湯船に潜った男の方へ足を踏み出そうとする。そこに滑路の罠があるとも知らずに――――
>>34-37
来る。そう思った次の瞬間には、八橋と鹿島がついさっきまで言葉を交わしていた脱衣所は鮮烈な赤に喰い尽くされてしまう。迫る熱風と足元に幾つか転がる黒炭に、この威力、並の相手では無いなと俄かに渋面。
しかし、そうでなければ面白く無いと言うものだ。弱い者を相手に力を振るうなど、詰まらないにも程がある。
「……先ほどの音といい、この威力といい、誰が相手かと思っていたが……よもや君とはね」
「それでは、側にいる彼女が君の相方と言う訳か」
予想外だよ、と笑う様子には、いまだ余裕がたっぷりと。服装について言及しないのは……まぁ、お察し下さい。
相手が椋梨ならば、この威力も納得というものである。けれど、それはそれでまた、厄介な事実でもある訳で………
「そういえば……仙、君には僕の力を見せた事が無かったな?良い機会だ、見せてやろうじゃないか――――」
鹿島が張った罠に、椋梨が掛かるか否かという瞬間、八橋は動く。素早い動作のひとつひとつに、明確な殺意を籠めて。
―――――― 一閃。
そこには、刃物など無かった筈だった。リーチの長く殴打が強烈な木刀しか、無かった筈だった。
しかし、八橋が瞬間振るったそれには、確かな刃の煌めきが認められた。
銀色の閃光が奔り、狙うのはただの一箇所
――――――椋梨仙の、首筋。
………近接戦において、体格と人数の差というものは大いに力を振るう代物なのだ。ましてやこの状況、力比べに持ち込まれでもしたら、勝敗は決してしまうといっても過言ではない。
それならば、初撃で狙うべくは椋梨ただ一人。彼の巨体さえ抑える事が出来れば、多少はこの戦いも楽になるというものなのだから。
>>36 >>37 >>38
八橋の本気を確かに椋梨仙は知らなかった、だがしかし八橋もまた彼の本気を知らない。
不意打ちじみた手腕で、そして何らかの手段を用いて放たれた一閃は高らかな音を立て、同時に煌びやかな火花を散らす。
椋梨仙はデタラメだ。
彼が拳法を学ぶ中で最も重視したことは構えの早さである、構えから構えへの移りの早さ――――これは中国拳法全体に於いても重要視される。
構えとは姿勢だ、姿勢とは【姿の勢い】即ち構えを素早く取るという事は素早く勢いを付ける事に直結する。
だがそれ以上に椋梨に関しては重要な要素でもあった、それは彼の能力の唯一の欠点……構えを取らねば能力を発動しきれないからだ。
瞬時に取ったその構えは状態をスウェーバックと言わんが如く逸らさせた。
大した反射神経、動物的感覚であると言い切れるが、無論それだけでは交わし切るには足りない。
首を狙った斬撃に対し、彼が瞬時に行った驚愕の行動はここから―――――――
火花が散るのは放たれた斬撃と彼の口元、その中にある隙間なく並びリンゴ等容易く噛み砕くであろう力強く真っ白な歯。
いや、それは最早人の歯ではない、その鋭さは恐らく水牛ですら容易く食いちぎり、その厚さは鋼鉄を砕くであろう。
何故なら斬撃を受け止めたそれは最早人ではない。
もうもうと上がる煙の中でも金色の毛が波となりざわつく、力強く地を踏みつけるその四肢と膂力は人を容易く捩じり殺す。
体躯は史上最大の虎とされる3mを上回るであろう、凡そ人がその生き物に対して想像できる最大に近い大きさ。
その勇猛さと孤高の姿は今尚人々を魅了する。
刃すら受け止める、巨大な『虎』の牙―――――虎形拳。
「『?――――――!!』」
人すら飲み込む苛烈な虎はその牙で捉えた何かを思い切り引き寄せんと大きく、そして床を踏み抜くほど力強く首を振り抜いた。
刹那、虎は霧散する。
シャボン玉が彼の目に入ったからだ、同時に彼の口が捉えていた刃もまた解放され――――。
>>37 >>38 >>39
(決まったか───ッ!)
最初の不意打ち目的として繰り出したシャボン玉は、箕輪には効かなかったが本命であった椋梨には命中し、逆に入口付近に仕掛けていたローションで滑る床は箕輪の方が引っかかろうとしていた。
あの八橋の鋭く速すぎる一撃は、椋梨の同様な一撃により食い止められたが何とかシャボン玉が功を奏したようだ。この十分すぎる結果をさらに完璧に、勝利に導くべく、鹿島は風呂の中から顔を出し、現状を再確認する。
「箕輪と名乗ったあの女から変な煙が見えていた…シャボン玉はアレで防がれた様だが、あの煙はおそらく奴の能力で生んだ煙、か?」
「椋梨は本来ならばこの手でやりたい…ものだが、まだ実力が違う…八橋、彼女ならばアイツとやりあえるだろうな……」
そうと考えれば、鹿島は上半身のみ乗り上げ、桶を掴む。そして桶にいっぱいのシャボン液を掬い出し、箕輪の方へ向く。
「そうならば、俺はメインとしてあの女に挑む必要がある……行くぞ!」
「シャボン玉で無理ならば、「シャボン液」で押し通す」
桶に向かい、浮かぶよう念じる。すると桶のシャボン液からフヨフヨと「300ml」分のシャボン液の球体が浮かび上がる。
「シャボン玉は即ち機雷、シャボン液なら敵を撃ち抜く徹甲弾といったところだな」
「煙ならば、速さを持つ液体には勝てまい!」
鹿島が構えると球体から「100ml」分の液体がまた分裂し、パンチするように腕を前に箕輪の方へ伸ばす。
その直後、分裂した球体は強い圧力を加えられたかの如きスピードで箕輪の顔面をスナイプするように飛び出していった。
「連撃したい所だが、確実に当てるならば最後まで念を込める必要が…あるのだよ」
残った2つの「100ml」分の球体は鹿島の両肩付近に浮かばせて、鹿島はシャボン液を入れた桶を持って風呂から出て箕輪に向かって再び構えた。
そして八橋の方を向いて、
「すまない、その様子ならばお前に椋梨を相手してもらっても構わないか!?」
「サポートが欲しいなら何時でも言っても構わない、でもあの女までメインに相手するのは難しいだろう!」
>>38-40
「格闘もあそこまで行くと人外の域ですね……」
能力と体術を高次元で組み合わせた結晶、その貴重なLevel4同士の一合目を目の当たりにして、湯気以外の汗が頬を伝う。
荒事に精通する風紀委員であるからして、宙も閣議はある程度嗜んでいるつもりではあったが。力の差の前に文字通り「つもり」でしかない事が証明された。
本意ではないが、今は敵の男の言葉通りの行動をとるしかないようだ。
「信じますよ先輩。 危ない時は手、貸してあげますか――、」
突如、刃と牙を噛みあわせる二人の上下がぐるり逆転する。
視界が傾いている――と、脳が認識した時には、言い終えないうち腰骨を強かに打っていた。
「ったあ……、」
湯気から来るべたつきが一気に増したように思える、持ち上げた手で顔を拭うと、シャツの袖にはべっとりと液体が滲んでいた。
水よりももっと粘度の高い何か。お世辞にも心地よいとは言えない感触に眉を顰める。
水分を含んで重くなったベストと、足場を悪条件にする靴を脱いで裸足に。立ち上がったが、転んだダメージと滑りの所為で足元はまだ覚束無い。
ふらりと入口に近い壁に手をついた。
「しゃあなしですが、サポート要員同士、泥仕合に持ち込ませてもらいますよ、っ」
左手で眼鏡を押し上げた瞬間、宙の体躯は発条のように飛び出していく。
(今の泡――先輩には直撃したけどダメージはあまり無さげ……わざわざ顔を狙うということは胴体に当たっても効果は低い筈!)
(ていうか、さっき本人が「シャボン液」って説明してくれてたっけ)
予備動作の無い急速な移動は足や筋肉の働きではない。壁に触れる際能力で自身を『弾く』事で、更には相手が撒いた液体の力も借り一直線に風呂の前に立つ男へ。
飛来する投射物も移動の僅かな隙に正体を見破り、顔のみを庇う事で防御も成り立たせる。
両腕で顔を庇い、腰を落として被弾覚悟での接近戦。ここまでの読みは完璧だった―――――――徹甲弾の威力を除いては。
「ぁぐッ!?」
たかが100mlといえど、液体が塊で高速で飛んでくれば、そればもうボール並みかそれ以上である。
泡の弾ける可愛らしい音ではなく、どぐっと肉を打つ重い音が鹿島の耳に届くだろう。
「まっずい……Level3以上かな」
只の液体をこの精度で操れるものはそう多くない。
シャボンで頭から胴の全面まで濡れ鼠、防いだ液も結局幾つかは腕をすり抜け目に掛かるという始末。
滑走の勢いは被弾の影響で減衰。風呂場まで半分の距離を残して無防備な状態で立っている。
レンズの奥の霞む視界は完全には閉じられていなかったが、距離感を失うには十分な量だった。
しけった煙草を口から溢し、危機が近付くのを肩を竦めて立ち尽くす。果たして次弾が訪れるのか、それとも――――
>>39-41
八橋がやってのけた芸当は、種を明かせば簡単なものだった。抜刀術の容量で己の指先を刀がなぞる鯉口に見立て、抜くと同時に刃で急襲するといった、至極単純なもの。
しかし、八橋は鹿島にしか種を明かしていない……否、鹿島にすら、明確な証拠となるものは明かしていなかった。
故に、この一撃で椋梨の無力化を図ったのだったが、
「チィッ!」
……それはどうも、失敗したらしい。甲高い金属音と共に刃が先へ進まなくなった……と、思うが早いか、現れた虎の雄々しいまでの力強さで、ぐいと簡単に引き寄せられてしまう。
近接で、更に力勝負では勝ち目などないと言うのに、この為体。しかしまだ負けが決まった訳ではない、足掻くだけ足掻くのだ、それが無駄かもしれないとしても。
引き寄せられる直前、新しい得物を求め掴んだのは、あの―――戦闘が始まる直前に、鹿島から託された、たったひとつ風呂桶。
どうやら少女の方は、鹿島が抑えてくれるようだ。まだ完全に不利に陥ってはいないのだ、ならば
鹿島には無言で視線だけを送る。"任せた"……長々と言葉を紡ぐ程の余裕は、今は残されていなかった。ほんの少しばかりの対話しかしていないとはいえ、"こんな所"に来ているのだから、最低限の力はあると信じるしかない。
己の精神の許容範囲をほぼ満たすまで闘争心を掻き立てて、八橋は引き寄せられる刹那、思考を巡らせる。
―――椋梨仙の能力を、以前少しばかり見る機会があった。同じ風紀委員の仲間として、共に仕事をする機会など幾らでもあったのだから、それはごく自然な事だと思える。
詳しくは知らない。ただ、"身体で表現することで本物と見紛う程の'それ'が現れる"のだと……それだけは理解していた。ならば
「―――ならばこれで、どうだ!!」
引き寄せられる勢いに任せ、前方へ投擲したのは鈍色鮮やかな日本刀紛いの木刀――――――ではなく、咄嗟に掴んだ新しい得物(?)である、風呂桶。
投げられた桶は、投擲による回転で中身をばしゃりと零す。虎という防御壁が消えた今、ぬめりけたっぷりのそれが、椋梨へと襲いかかる。
>>40 >>41 >>42
目潰し。
古く、それこそ原始人以前、それこそ人が生まれる以前の時代ですら扱われていたであろう生き残るための術。
多くの動物は視覚に依存している、無論大抵の動物はそれ以外の部位にも優れた能力を持っているが、それでも視覚による恩恵は大きい。
特に人間は飛び抜けて視覚に依存している、その依存率は一説には80%に及ぶとすら言われている程だ。
が、しかし
椋梨仙は、人間であって人間はない。
双眼にかけられた異物を擦り取り除こうと反射的に右前腕が両目を覆う、それと同時に彼は左腕を瞬時に持ち上げる。
それと重なるようなタイミングで八橋が投げつけた桶とその中身、恐らくはローションであろう高粘度の液体が降りかかる―――――。
「『――――――』」
瞬間に、彼の体が揺らいだ。
揺らいだ、と言うよりはひん曲がったと言う方が近いだろう、何せ人の動きとしてはありえないような、弓なりと捩じりを合わせたような。
ともかく、まるで骨を抜かれたか液体になったかと言うように、ぐにゃりと音すら聞こえてきそうな、怖気すら感じる動きで以って擦り抜けたのだ、この視界が塞がれた状況で。
そして椋梨仙は反す刃の如く踏み込んできた、暗黒の視界の中で既に八橋の姿を捉えていると言わんばかりに。
偶然であろうか、いや違う、既に彼は八橋を捉えて居た、だからこそ彼女の元へと踏み込む事ができたのだ。
しかし踏み込めば必然ローションによって滑る、滑る……滑らない。
その理由は直ぐに明かされる、椋梨が取った構え、それによって起こり得る結果。
肩まで持ち上げた左腕の肘を曲げてそこから持ち上げる前腕は獲物を捕らえゆらりゆらりと揺れる狩猟者の首。
寄り添うように当てられた右の腕はその身体がどれほど長く、どれほど太く、どれほどしなやかであるかの暗示。
それは滑るように進むと比喩され、その他に類を見ない動き故にそれを表す漢字まで作られるほど。
【這う】それがその存在を表す言葉、露に濡れ苔むした岩をそれは這い、構え、獲物を捕らえ喰らい殺す。
彼が踏み込んだローションに残された軌跡は決して人のものでは無く、それよりも巨大な何かが轢き抜けたような、掻き分けたような歪な跡が記される。
大男と重なる存在は身の丈よりも巨大な物を軽く丸呑みする大顎から血の如く赤い赤い長い舌を覗かせて、丸太の様に太く、雲の様にしなやかで、見上げる様な巨大な姿をしていた。
巨大な牙から伝うのは唾液か、それとも。
即ち、人食いの大蛇―――――蛇拳。
「『哈―――――――――!!』」
まるで全身が文字通りバネの様な、跳びかかると言うよりは跳ね上がるような動きを持って、その左腕は……牙は八橋へと迫った。
大顎は湯気も煙もその奥につながる暗闇の中へと消えて行き、鋭い牙はナイフを並べたよう。
何よりもこれが、こんな巨大な化物が事実蛇だとするならば、牙から滴る一滴一滴は恐らく―――――。
>>41-43
「初弾は見事に的中、だが目を殺すまでは至らなかったか」
「……しかし、期待はしていなかったがまさか八橋がローションまで使ってくれるとはな、作った人として嬉しいには嬉しいんだがな」
両肩付近に浮かべた2つの球体の一つを自身の身体の中心に動かしながら、現在の状況を把握する。
4人による乱戦になるかと思えば、見事に2対2で分かれ鹿島は箕輪と対決しているのだが……。
「均衡しているが、いや、まだ相手は実力を出し切れていない…風に見える」
「このまま押し通す、それで勝てば問題はないんだがなぁ…!」
次弾装填完了、と言うところなのだろうか、身体の中心に集まった球体は同じように箕輪の顔面を狙って突出していく。
無論、水量は100ml…決して多くはない量であるが、それが全て「目潰し」だけに使われるならば少ない量とは言えない量である。
「そして、勝つ為ならば…さらに足を殺す」
そう言って洗面所の桶に張ってあったローションを手に取り、箕輪の足元を狙ってブチまける。
いくら裸足といえども、風呂場のように湿った床に滑りやすい液体がブチまけられたら、立ってバランスを整える事は容易ではないだろう。
「とどめは既に考えている…後は其処までお前が来れば良い」
その目線は自分の後ろにある風呂。何を考えているかは教えないが、「液体」を使う方法である事は確実である。
それを使うまでには容易に動けなくする必要があるのである。
「さあ来い、その濡れた身体は衣服共々動きを鈍らせ、頭すら鈍らせてしまうがな」
>>42-44
(〜〜〜〜〜〜〜〜ッ、)
(目、沁みるっ!)
ごしごしと乱暴に擦っても目の痛みは全く消えない。
焦る心へ追い打ちをかけるように、男の勝ち誇った声が液の滴りの中届いてくる。
耳に聞こえる先と同じ飛来物。薄闇で聞くのは同じはずの音だが痺れた肌が威力を覚えているだけに、濡れた産毛がひやりと総毛立つ。
(二発目、来る――避けられない!)
(後ろの状況も分からないし全身ぬるぬるで力入らないしっ、全身……――)
ぱしんっ
「……あれ?」
闇雲に動かした腕は間の抜けた音で
あれだけ苦戦していた弾を、まるで蠅を払うように腕を振っただけで弾き飛ばした。
「そうか、私、今濡れてるから……」
自身の身体に力場を帯びる際は普段はごく一部に限られる技、だが今は掛けられた液体で体表を被われている。
その上にエネルギーを帯びさせることで薄いエネルギー膜となった力場がシャボン弾をあらぬ方向に飛ばしたのだ。
偶然ではあるからして狙いは付けられず何処に飛んだかも分からない、反撃ともいかない抵抗だったが、生み出したのはそれだけではない。
「いや、二度も転ばされて堪るもんか!」
つうー、と滑るように流れていた粘液は、その叫びに呼応するかの如く突如弾けて霧散する。
その中央には吐き捨てた吸殻。触れたものには力場が宿る。微弱な其れでも液体を跳ね返すには十分。
この溜めがあったが故に先の弾は直撃してしまった。が、距離はさっきより詰まっている。
「液体使い……お風呂があんたの土俵(テリトリー)でも、そこは私の領域(フィールド)だから!」
高らかに叫んで、ソラは低く飛んだ。
切れ始めたスタミナに鞭をうち、ローションの消えたタイルを踏み込み、残りの距離を一息に詰める。
相手の能力がある限り、次の着地が渇いた床である保証はない。迎撃されないよう床スレスレを一回転するように水面蹴りを放つ。
宙を浮く間はまだ溜め動作、しかし先の能力を見せている相手は警戒心が働くかもしれない。もし躱されたらその瞬間床を弾いてその方向に二撃目を放つつもりだった。
文字通り背後に奥の手が隠されているとは露知らず、湯気に向うの相手へ右の踵を突き出す。
>>43-45
対抗策すら簡単に封じられ、八橋はとうとう行き詰まる。ここからどうしろというのか、この大蛇を前にして、不利な環境下でどう立ち振舞えというのか。
初めて、思考が、止まる。かちりと何かが嵌る音がする。
「―――嗚呼」
あぁ、そうだ、これは全て"仮想空間の中で起こっている出来事"なのだから、それを躊躇う事などないのだ、恐れる事などないのだ。
……そうだと解ってしまえば、肉を切らせて骨を断つ事も―――例えそれが実際には骨を断たせて肉を切るような望みの薄さであったとしても―――、自分には躊躇いなく出来る。
「……鹿島、残念ながら僕はこの男を完全に止められない可能性が高い」
「先に言っておこう――――――止血は、頼むぞ」
最早、そちらの対戦相手にまで気を配る余裕など無く。
覚悟さえ決まれば、後は立つ鳥跡を濁さぬように、せめてもの言葉を残すだけ。鹿島に向けて放たれたのは、ある意味絶望のような言葉だろう。
前衛を任せていた相手が目前の大男を止められないと吐かすのだからそれもまた道理。しかし、その先に続く言葉には何やら意味がありそうな――――
椋梨に向き直り、未だ鈍色の残る木刀を構える。これから来る痛みなどは忘れてしまえばいい、これから来るかもしれない死も、忘れてしまえばいい。
乱雑な動きでやや乱れた髪を片手で先まで撫でつけて、八橋は意を決したように、表情を変える。
「……如何せん、僕は手数が少ないものでね。最後までこれで、粘らせて貰おうか」
――――――放つのは、突き。
此方に迫る、ぽかりと開いた大蛇の口腔目掛け、鋒を突き立てる。
大蛇の牙は確実に当たるだろう、しかしそれをまるで気にしていないような風に、八橋は刃を無理矢理に大蛇の中へ、中へと―――全ては、椋梨の腕を破壊せんが為に。
>>44 >>45 >>46
椋梨が何を持って八橋を捉えていたか何を持って八橋の一撃を避けたのか。
凡そ見当がついているであろうがそれは臭いだ、蛇は舌を用いて臭いを収集する生き物である。
もう一つ蛇は体温による感知も行えるが……何せここは浴室だ、余程接敵しなければ室内の温度が高すぎて感知等できる筈もない。
故にここまでの一連の流れの中で大蛇が頼ったのは己の嗅覚のみである。
だがここで疑問が生まれる。
《八橋の何の臭いを追っているのか》だ、何せ脱衣所は燃やされて焦げ臭い、近くで煙草が焚かれていた為その臭いもある。
そもそも水場であるこの場では大抵の臭いは水に吸収されてしまう、つまり《元々の八橋馨の臭い》は愚か《追い続けている臭い》以外は最初から感知できていないのだ。
仮に鹿島が割り込む様に攻撃したりすれば椋梨仙は簡単に無力化出来たし、臭いの元に気付きそれに水を付ければ彼は完全な盲目になって居ただろう。
では何を見ていたのか、何を嗅いでいたのか、何を追っていたのか、何の臭いの動きに合わせて避けたのか。
すっと鼻孔を通り抜けてくるような鰹節の風味。
食欲を誘う漁礁の香り。
芳ばしい豚脂の臭い。
それ
「『あんたの木刀から匂うんだよ!ラーメンの匂いがなあ!!』」
恐らく八橋は椋梨が何を言っているのか分かるまい、突然ラーメン等と言われて分かる訳もないであろう。
だがこの中で椋梨と箕輪だけが知っている、彼は戦闘が始まる直前まで拉麺を食べていた事、そしてその口で八橋が用いた木刀を受け止めたと言う事。
そう先程その牙で受け止めた木刀で攻撃したのが運の尽き、いくら煙草が臭かろうといくら水で本人の臭いが消えようとも。
ついさっき付いた、それもラーメンの様な肉と脂の独特な臭いをかぎ分けられないはずもない。
何せ臭いの元が、発信機自体が迫ってくるのだ、如何な盲目と言えども、それがどれだけ早かろうと――――。
【蛇】はするりと擦り抜ける、それは螺旋を描くように、月の如き弧を描くように、何処までも無常に。
臭い
その大蛇は止まらない、その毒牙は止まらない、ここまで接敵すれば木刀なぞ無くとも体温の感知だけで十二分に狙いを定められる。
止まらない、奪うまで、女の首元を食いちぎるまで――――――。
>>45-47
「……避けられた、のか?」
飛ばしたシャボン弾は何かのコーティングのせいで弾かれるように箕輪からずり落ちていく。
「避けられた、いや、もう「効かない」という事があり得るのか……!?」
唯一である攻撃手段を受け付けられなくなった今、自分が為せる手段は徒手空拳のみ。
そう決めて自ら動こうとした時は既に遅く。
迎撃は出来ず、咄嗟に腕でガードをせざるのみであった。
「─────ヌゥ!!」
鋭い踵が右腕を襲い、衝撃を感じながら吹き飛ばされる。
蒸気があったのか、はたまた相手が視界に難があったのか、単調な回し蹴りは何とか鹿島でも防ぐ事はできた。それでもそのダメージは軽いものではない。
「だが、近づいたからには……それ相応の報いを受ける!」
「よって、貴様の…呼吸器を殺す!」
左手に持ち替えた風呂桶を無造作に風呂に突っ込み引き上げる。
「これはただの熱湯、流石にシャボン液でそのままやるのは惨いと良心が言っているのでな」
「これを…そのまま、お前の口と、鼻に、ブン投げる!」
風呂桶にある熱湯を勢いよく箕輪の元に投げつける。その中の一塊が二つに分かれ、口、鼻の両穴に向かって突き進む。
「流れを操作する……ならば、流れを止める事だって出来る」
「呼吸を無理やり止める───擬似的な溺死を再現させる事もやろうと思えば!」
その間に、向こうの方の試合が八橋がかなり劣勢だという事に気づく。
(奴は目が効かないのに何故彼処まで追い詰める事が出来る…?)
(視界を敢えて知らずに…聴覚、または嗅覚か?)
考える時間も限られた中で、鹿島はどちらかが椋梨に味方しているとまでは分かったがそれ以上を見極める事は出来なかった。
(風呂場である此処では常に換気扇がつき、ビチャビチャと音を立ててるのは誰だって同じ───)
そう、あの2人が決着するまでは。
>>46-48
「浅いかっ、」
渾身の蹴りは然しモーションが大きくて易々とガードされてしまう。しかし動きは停めた
間髪入れず二撃目のモーションに移ろうとした時、宙の上に“奥の手”の影が落ちた。
(今更水球? こんなもの、簡単に弾き飛ばして……いや、無理!?)
反射的に力場を発生させようとして凍りつく。
今は手足が触れる間合い、この距離であれば下手に引き剥がそうものなら自分の顔ごと吹っ飛ばす事態になりかねない。
仮想空間であるという認識、Level以前に決意の甘さが裏目に出て、刹那の間自らの想像に怖気を震う。
無論それは致命的な隙であり、当然の帰結として水球を顔面で受け止める結果となる。
「むぐぅっ……!」
一度貼り付いた水は指で掻いてもぬるぬると熱さだけを残して手から逃れていく。
シャツからこぼれた肌を粘液よりもねばついた汗が流れる。身体が脳が空気を求めて悲鳴をあげる。
水を通して歪み、酸素不足で赤くなった視界に相手の顔が見え――――一
それは光と湯気の悪戯か、顔に付いた水とレンズの反射で一瞬、後ろの戦いが映り込んだ。
――――決着は近い。
「にゃふぁ……(なら……)」
鹿島には見えただろうか、溺れながらもその時、宙の眼に新たな覚悟の色が宿ったのを。
残るエネルギーを足に集め、三度相手へ飛び込む跳躍――――その弾頭は文字通り頭、正確には顔面。
狙いもまた相手の顔面、正確には鼻と口。そう、唇と唇が接触する程の勢いを以てして。ご丁寧に両手を伸ばして抱き付き(ホールド)というおまけ付き。
プライドとロマンスと作戦を擲って、捨て身の特攻で選んだのは相手の力を利用した相討ち。
水を固定するというなら同じ水で一緒に窒息してもらう、相手と自分どちらの息が長く続くかの瀬戸際に掛けた。
無論あらゆる面で自分が不利であるのは自明の理、避けられればそのまま湯船の水面へ落ちたが最後、上がって来れないのは明白であろう。
無様でも最後まで足掻くのはあの筋肉男の自信と勝利を信じたからだろうか。いや――――
>>47-49
どこから出てきた言葉やら、ラーメンという言葉に八橋の緊張の線が一瞬、緩む。
まさにその一瞬が命取り、である。そうしている間にも大蛇の口腔は目前に迫っているというのに……しかし
思い出して欲しい。八橋には"明かされていない種がまだ存在している"ことを。
思い出して欲しい、先ほど八橋がとった言動を、事細かに。
八橋は……魔術師 八橋馨は、何も"木刀を頼りに粘るとは一言も言っていないのだ"。
それの意味するところは
「成る程、つまり―――」
……毒牙が己の首筋に迫る今、漸く他人に判るのだ。
「―――これならば、どうだ?」
牙が届く正にその瞬間。片手で掴み、ぴんと張って、蛇へと振り下ろされたのは自慢出来るほどに長い――――――先程撫で付けた、ポニーテイル。
椋梨には見えないだろう、黒色だったはずの髪の毛の中、幾筋もの煌きが混じっている様が。そのひとつひとつが、先程つくられた"刀を模した刃だという事が"。
片手を犠牲にし、また更にもう片手まで犠牲にし……果てには髪と己の命さえ犠牲にして、八橋は椋梨の態勢を崩そうとする。
全ては仮想現実のなせる業である、本来ならばこうも簡単に命を投げ打つ事など出来ないのだから。
……勿論、触れたものが切れるのだから自分自身の掌や髪に触れた肩周りももすぱりと切り傷がはしる。おそらく自分はここで終わる、ならばせめて鹿島へとほんの少しの成果を残していきたい所だ。
そう、言わばこれは悪足掻き。今は敵わない強敵にせめて一矢報いてやろうと画策した、一人の魔術師の―――――
>>48 >>49 >>50
鈍い音が体内に響く。
空気振動に疎い蛇であったとしても己の肉を裂く音、骨を割る音、臓器を貫く音は体内振動となりその聴覚へと届く。
人ならば竦むだろう、切断の痛みに唸るだろう、その熱に怯むだろう。
「『だが――――――』」
何の為に鍛えた肉体であろうか、何の為に行って来た鍛錬であろうか、何の為に高めた功夫であろうか。
一動无有不動 一静无有不静
腕が動けば腰が、腰が動けば足が、足が動けば指が連なる様に動く。
一連の動きは止まる事が無く、宛ら流水の如く淀み無く動き続ける事――――即ち、武の極意。
そしてこうも語られている。
一腿千鈞力 一足定乾坤
これは非常に簡単な意味だ、闘争の一瞬に於いて勝利を生む最大の要因は「脚」である。
故に。
「『―――――――“獣”は止まらん!!』」
分厚い筋肉がいくら鎧となろうともこの袈裟斬り肺まで届くであろう、だが脚までは届かない。
その前に蛇の牙が届く、止まって欲しいなどと言う“人”の幻想は“獣”の前には通用しない。
この距離では最早交わす事も守る事も出来まい、正に防御などあり得ない超接近戦
蛇の牙はその白い喉を抉り飛ばすであろう、獣とは……首一つになっても襲い掛る物なのだ。
>>49
「……ヒットッ!」
奥の手は文字通り、箕輪の鼻と口の中に入り、能力を使って「止めた」。
だが、相手はまだその決意を諦めてはいなかった。そのままの「特攻」。勢いよく鹿島の顔面に向かい突っ込んでくる。
(まだ、まだ向かおうと、しているのか───!?)
鹿島はその強さに内心驚き、そして恐怖─────歓喜した。
「ク、ククク!クハハハハハハハ!!」
「その「覚悟」!それが無いと面白くもないしスリリングでもない! やはりこれが無ければ戦いなんてとてもじゃないが言えない!!」
鹿島の人生の目標はこの学園都市でのトップに立つ事。故に、それ故に、戦いの中での人の強さに打ち勝つ事に執着していた。
「本当……ならば、我慢勝負───したいところ、だが」
「今回はパートナーがいるのでな……! 助けると、言ったんだ」
「これは「賭け」だ。 お前が倒れるか、俺が踏ん張れるか……!」
鹿島は箕輪がこちらに飛びかかるタイミングを見計らって……水の流れを「解除」した。
そして同時に自らの「血流」を「促進」させ、いわゆる「咄嗟の」行動をとるべく真横に向かって飛び込もうと身体を傾ける。
水の流れが戻った事により箕輪が風呂に飛び込む前に回復して鹿島を捕まえるか、急激な血流操作による自分へのダメージと捕まってしまうリスクを一気に背負った鹿島が間一髪で避けられるのか───!
そして急激な血流操作によるのか、頭の回転も一時的に一層回ってきたのか……八橋の戦いを見て、閃く。
(聴覚ならば、水の音や換気扇があるのにも関わらずそうそう見分ける事は出来ないが───)
(嗅覚、嗅覚ならば、一面に広がる石鹸の香りの中で違う「臭い」を感じ取る事が出来るのか?)
そして前に聞こえた「ラーメンの匂い」の声。しかし、鹿島が「嗅覚」が奴に味方していると気づいた時には既に八橋はボロボロの状態。戦いながら気づく事は至極無理に近いものであるが、それを八橋に伝える事ができない事にむず痒さまで感じていた。
>>52
すかっ、と心地よい程の爽快な擬音が聞こえてきそうな。
実際はまさに紙一重、伸ばした指先が相手の服の袖に触れるか否かのラインで、宙の軌跡は放物線を描いて
何者にもぶつかることなく頂点から外れていく。
「あっ、この……!」
代わりにぱしゃと弾けて、喉が大きく鳴らし灰が解放されたと知る。
酸素の戻った眼で宙を舞う刹那、恨みを込めて睨んだが、――――その視線は交叉しない。
アドレナリンが減り、ふと冷静さと息苦しさが肌を粟立てる。
(間違いない……偶に動く視線が気になってたけど……)
自分が粘れた理由はこの違和感の正体を突き止めるため、だったのかもしれない。
最後の特攻を交わされて、疲労する頭で漸くのその理由に気付く。
(――――この人)
(私と戦いながら、先輩の戦いを分析してた、んだ)
連携や作戦、能力の強弱など関係ない。如何に仲間の事を考えるか。
その差で自分は致命的に負けていた。
自分を捨てる覚悟よりも他方を拾う覚悟が大事だと、すれ違う相手の顔を最後まで目に留めながら――――
「――、」
ざぶんと、一度だけ湯船が大きく飛沫を上げる。
衣服と力の抜けた手足をゆらゆらと埋没させていく少女。その四肢が浮き上がってくることはなかった――――
【――――[チームA] 箕輪 宙 “Lose”――――】
/こちらの戦闘はこれにて〆とさせて頂きます
/遅くまでお付き合いくださりありがとうございました、とても楽しかったです!
>>51-53
ぞぶり、と。鈍い音と共に首だけとなった大蛇の牙は深々と八橋の喉に突き立てられた。気管を、動脈を、切り裂くようにして刺さったそれに、八橋は苦笑をもらす。
「……さすが、に。強いな、仙」
ひょうひょうと空気の溢れる音が混じる。言葉を終えればすぐさまこぽりと口の端に血が湧き上がる――――これではまず、命は助からない。
どうやら八橋の刃は、辛うじて椋梨に届いたらしい。致命傷とまでは行かないまでも、その体躯には確りと赤い筋が刻まれていて。
一歩、また一歩。覚束ない足取りで後ろに下がれば、ふらふらと安定しない身体でくつくつと笑いをもらす。
楽しかった……そう、楽しかったのだ。互いに鬩ぎ合うこの戦いが、命を投げ打ってのやりとりが。
「はは、は、仕返しか?これは」
この短い間で、因果といえるかどうかは定かでは無いが。奇しくも最後の留めは、八橋が最初に椋梨を狙った首筋。柔らかな、そこだ。
果たしてどのような毒かは判らないが、もし本当に毒蛇だったならば、首筋に食い込んだ牙からじわりと毒は全身を巡る。詰まりは、これで終わりだった。
八橋は、そのうち立つ気力さえ失って、地面にどさりと倒れこむだろう。
その瞬間まで椋梨が立っていたのならば。それはつまり、椋梨の勝利を意味している。
――――――八橋馨、戦闘不能
//自分もこれで〆でしょうかね?皆様このような時間までお疲れ様でした、ありがとうございました!
>>52 >>53 >>54
だらりと肩ごと右腕が垂れ下がる。
心臓から直接流れ出しているであろう血は脈打つ度に止めど無く浴室のタイルを真っ赤に染めて行く。
大蛇の存在が揺らぐ、雄々しく擡げていた狩猟者の頭が地へと倒れ込んで行く。
その半身を抉られた獣は弱々しく、まるで操り糸が切れたかのように。
踊る事を止めた人形の力が抜けて行く様は喜劇か悲劇か、その幕引きの一秒は長い、長い――――……
……………
………
…
刹那
「『―――――――――――!!!!!!!』」
それは声にならぬ咆哮、倒れる勢いをローションと水に乗せ蛇は己の身体を鹿島へと放った、風に木の葉が舞う様に、月の女神が引き絞った弓の様に。
その血液によって作られた真っ赤な道こそ正しくこの大蛇の胴体に他ならない。
潰された目を無理やりに見開くその瞳は血よりも赤く、煉獄に燃ゆる炎よりも深い。
死を覚悟した獣は既に正気ではない。
身体を動かすものは狂気
瞳を走らせるものは狂気
顎を開かせるものは狂気
狂気
狂気
狂気
正に狂気の一撃、そこに策など無く、ただただ狂気にまみれた一撃、愚直に己の身体を真っ直ぐに放つだけの動き。
次など無い魔物が生け贄を求めもがき、そしてただ純粋な暴力となる瞬間。
これが最後いやもう最後は等に迎えていた。
何故動くのか、それを説明できる言葉があるとすればそう、獣は首一つになっても襲い掛るものなのだ―――――――――
【椋梨仙 ―RETIRE―】
//これが最後にやりたかっただけなので避けても潰してもかまいません、むしろ蛇だから頭潰してくれても大歓迎なのよ!
>>53-55
「グッ……ガッ、ゴホッ!!」
慣れない血流操作により、何とか箕輪の特攻から避ける事は出来た。しかし、それ相応のリスクは帰ってくる事に変わりはない。
一時的なゾーン状態を生み出すといえども、意図的に編み出した血の流れに身体は追い付く事は出来やしないのだ。
「ハァ……ハァ……!」
真横に飛び込んだまま、受身も取れずに一気に倒れこむ。お陰で肋が何本かヒビが入ったのだろうか。息が整い始めると同時に脇腹あたりからジワっと染みるような鈍痛が響き出す。
(クソッ……! まだ、まだ俺は血流操作にも慣れやしないのか…!)
よろよろと何とか態勢を整え立ち上がり、そして浴槽の中に沈み込んだ箕輪を見て、最後は何とか避けられたのだと確信する。
しかし、その一瞬─────あの「蛇」はこちらに向いて飛びかかる。
吠える、吼える、咆える。理性も何も失い、視界もない「蛇」はまるで一方通行に進む暴走列車のように鹿島に向かい、牙を広げて襲いかかる。
───だが、それは獲物を得る為ではなく、最後っ屁、悪足掻き。向かっていく狂気は勢いこそあれど、長続きするモノではなかった。
八橋の所にいた時ならまだしも、こちらの時に来た滑り襲いに来た時には、単なる流れる「ヘビ」に過ぎない。
「獣がッ……!」
「まだ、箕輪という女の方が、能力者だった……!」
最後の最後、力一杯握りしめた拳が「ヘビ」の頭を思いっきりブン殴る。しかし、殴られる前に事切れていたのか、何の反応もせずに「ヘビ」はそのまま拳に当たる事なく、水の流れに流されていった。
「俺はこの戦いで何も倒しちゃいない……罠しか張ってなかった───これが戦いだなんて、認めてたまるかよ」
鹿島は脇腹を押さえつつ、よろよろとした足取りで八橋の前まで行き、彼女を背負って浴場を後にした。朦朧とした意識の中、彼女が既に事切れている事も知らずに─────。
【勝利チーム Bチーム】
//御三方、お疲れ様でした!
//こんな時間までやり通すとは……やはり皆さん夜に強い…!
────────箕輪 宙、【戦闘不能】──
────────八橋 馨、【戦闘不能】──
────────椋梨 仙、【戦闘不能】──
……………………………………
…………………………
………………
……
実況『おおーーっとこれはぁぁぁぁぁ!?
どうやら予想外のお風呂場戦争に決着がついたようだぁぁぁぁぁぁぁ!!』
実況『カメラ!!プリーズッ!!』
観客の前に映し出されたモニターは煙が立ち込めていて、上手く状況が掴めない。
戦闘を見ていた観客も極一部を除き、何が起こっているのかすら把握できずにポカンと開いた口が塞がらない状態。
────────そして、そこに立っていた人物の姿とは。覆っていた煙が──晴れる。
《《俺はこの戦いで何も倒しちゃいない……罠しか張ってなかった───これが戦いだなんて、認めてたまるかよ》》
映し出されたのは、既に息のない八橋 馨を肩に携えた鹿島の姿。
オオオオオオオオォォォォォォォ───────ッ!!!観客の盛り上がりが最高潮に達した……ところで実況が口を挟む。
実況『皆さんも目にしているとーり!!
AチームVSBチーム!!予想外のお風呂場での戦闘の覇者となったのは────!!
Bチィィィィィンム!!!八橋 馨と鹿島 衡湘コンビだぉぁぁぁぁぁぁっ!!』
実況『AチームにBチーム!素晴らしい戦乱をご提供ありがとよ!!そしてBチームはおめっとさん!決勝進出だ!!
──途轍もない戦闘を繰り広げてくれた両チームに!あらんばかりの拍手喝采を──ッ!!!』
………………………………………
……………………………
……………………
………………
…………
……
…
.
実況『しかぁぁし!!まだまだ戦乱は序の口だ!
──お前ら!意識はあるか!眠たいはずがねェよなァ!!………ならッ!!次の第二戦を発表するぜ!!
モニター!!COME ON!!』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇第2回戦◇◆◇◆◇◆◇◆◇
────《STAGE:???》────
Cチーム
赤羽 卓【思考念動変容弾-LEVEL.4】
高天原 出雲【爆破剛掌-LEVEL.3】
─────────V S ──────────
Dチーム
黒繩 揚羽【有害妄想-LEVEL.3】
暁林 初流香【彼岸の囚人-LEVEL.3】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
実況『突如として挑戦状を叩きつけてきたDチーム!!そんなDが含まれる今回の戦い!!選ばれたステージはぁぁぁぁぁ!?』
【モニターに映し出された《STAGE:???》の部分が点滅を繰り返し始め、やがてその部分が露わになる。】
【──────映し出されたのは。】
《STAGE:遊園地》
実況『なぁぁんと!!遊園地だぁぁぁぁぁぁぁっ!!
明らかにッ!戦闘には似合わないこのステージで!!両チームはどんな死闘を繰り広げてくれるのかぁぁぁっ!!!』
実況『それでは早速!!試合の方へ移るとしよう!!
……Cチーム&Dチーム!!!??──COME ON!!』
深夜まで持ち込んだ長期の風呂場戦争から少し時間を空けた今。新たなるチームの戦乱が始まらんとしていた。
────今回の舞台は、ここ”遊園地”。
喧しい実況がシャウトしていた通り、戦乱の場になんて何処からどう見ても似合わない”平和な”ステージである。
”遊園地”
基本的に”遊園地にあるような”施設アトラクションは全てここに内包されている。特にややこしい構造などはしていないが3つだけポイントがある。
・遊具は乗ってしまえば即座に動く仕組みとなっている。
・係員である”ウサギのマスコットキャラクター”には原則として触れることすらかなわない。
・参加者とマスコットキャラクター以外は人がいない。
特に遊具の位置等は定めません。自由に描写してもらって大丈夫です。
開始時は直接、指定された場所(下記)にいつの間にか転送されていたという設定でお願いします。
スレ本編から関わりを持ってくるのはありですが、このイベントでのロールは日常ロールには反映できません(イベント終了後、補足説明)のでご注意ください。
【開始場所】
Aチーム→東ゲート
Bチーム→正面(北西)ゲート
>>59
//おうふ……訂正
Cチーム→東ゲート
Dチーム→正面(北西)ゲート
「久しぶりだなあ、遊園地なんて」
暁林初流香が目を覚ましたのは、遊園地の入口ゲートの正に目の前。
遊園地というそのゲートの文言に、まだ中学生の彼女は純粋に興奮していた。
戦いという事を忘れウキウキとスキップなんてしている姿は、やはり未熟な子供のそれである。
「…って、こんな事をしてる場合じゃなかったんだっけ?」
暫くして漸く本来の目的を思い出すと、周囲を見渡しながら辺りを彷徨き始める。
チーム戦と言うからにはまずその相方を確認した方がいいだろう、ということだ。
二人一組と言うからには、恐らく近くに一人いればそれが仲間。
どんな人間と組む事になるか、不安と期待が半々になりながら人影を探す。
「―――あ、その前にーっと」
だが、その途中でふと立ち止まると、徐に自分の胸と頭にそれぞれ手を当てる。
―――途端に、彼女の身体に鮮烈な激痛が走る。
その身体と側頭部に咲いた彼岸花。身体にはその生の状態を保存し、精神に呼び起こしたのはかつて受けた死の痛み。
「………っそう、これこれ…これが、無いとねっ」
先程とは正反対の欲望に満ち溢れた興奮、それに酔いしれて艶やかな恍惚の表情を浮かべながら、彼女はうわごとのようにそう呟く。
僅かにふらつく足取りで歩く彼女の前に、その相方はどのような形で姿を見せるのか。
……遊園地ステージ、東ゲートにて。
学ランを羽織り真紅の鉢巻を額にきっちりと巻きつけて靡かせる番長を模した風貌の少女が一人。
鉢巻で上手く纏めている為か、観る者の視界には彼女の髪はとても短く映り、ぱっと見”女性”であるとは気付かないだろう。
──────そしてそんな少女は、叫ぶ。
「うっひょー!!かがくのちからってすげー!!」
目の前に広がるのは現実世界の物とそっくりそのままの遊園地。これらは全て最先端の科学で創造された架空の空間──、
──『The School Festival』世界の仮想空間である。世界だけでなく、この身体も何もかも全て自らをそのまま模しただけのレプリカ。
でも意識はあるし、自分がこの世界に存在しているという感触もあった。
「……んで、ここは東口ゲート……と。
敵チームは……何処にとばされたんだろーなぁ」
ゲート壁面にある遊園地内の地図……番長はそれを腕を組み考え込むように凝視する。
──そう、この世界は”戦闘”の為に創作された仮想の空間。……やるからには、勝ちたい。
…然し、暫くして彼女は何かを思い出したように顔を上げる。
「あ!そーだ、チーム戦なんだから相方が出てくるんだよな……?とりあえず、その相方とやらを待ってみるか!」
ゲート壁面に寄りかかり、そんな独り言を口にしながら番長はもう1人のCチームを待つ。
──時間的にそろそろ、転送されてくる頃だろう。
>>61
遊園地なんて、初めて来たな───何て、感嘆に浸る暇もなさそうだ。
どいつが敵か、彼方此方を見回して、ピリピリとした空気を纏い歩く姿は全く遊園地を楽しむ風では無かった。
「…チッ!面倒な場所を選びやがる…これで糞みてぇな奴と組まされたらタダじゃおかねぇぞ…!」
舌打ちをして悪態をついて、赤い髪の少年が正面ゲート付近を歩く、猫背気味の長身痩躯で、イラついたように辺りを睨み付けながら。
チーム戦と言うのなら、まずは何より味方を見つけて作戦を立てなくてはなるまい、そんな理由でチームメイトを探していた。
そんな折、ゲート付近をふらつく足取りで歩く一人の少女が目に入る、恐らくあれが味方だろうと思いつつ、『あんな奴で大丈夫だろうか』という不安も抱き、溜息をついた黒繩は少女へと近寄って行った。
「おいテメェ、フラフラしてねぇで一つの所で待ってろよ、見つけ難いじゃねーか…」
「…って、テメェ暁林じゃねーか…」
待ち合わせをすっぽかされたみたいに不機嫌そうな表情で、少女に声をかける黒繩、声をかけてからようやく、その少女が以前に面識のある人間だとわかった。
人を『終わらせる』事に興奮を覚える異常な少女、暁林の事はよく覚えているが、同時にチームメイトとしての素質はどうか、言って仕舞えば『利用出来るか』と考え出す。
>>63
「…あれ、黒繩さんじゃないですか。こんにちは」
ふらふらと歩く少女に声を掛けたのは、先日出会った少年だった。
どうやら彼が味方のようだと分かり、初流香はいかにも嬉しそうな顔を見せる。
「よかったー、知ってる人で。安心、安心」
自分と似た危険な性格にフィーリングでも感じたのか、彼女は黒繩に対して結構な信頼をしているようで。
走って近寄ったかと思えば、いきなり抱き付くという少々過激なスキンシップに移行する。
―――因みに、かわすとそのままこける。
「黒繩さんの能力、そういえば見てませんでしたねー。私の能力も、細かい説明はしてませんでしたっけ?
―――私の能力は、状態とかを保存する能力ですね。『痛い』とかの精神的な状態から、『生きている』とかの物理的な状態まで何でも保存できちゃうんですよ」
その後、初流香が言い出すのはまず能力の情報について。
自分の能力の説明の後には、えっへん、とばかりに(無い)胸を張る。
今出てきた具体例が、この前の『終わらせる』時に使ったものなのは言うまでも無い。
「お互いの能力で、作戦も決まりますしね。
黒繩さんは、どんな能力なんですか?」
>>64
暁林の過激なスキンシップをかわす事なく、かと言って嫌がって引き剥がすような事もしないで、小さな舌打ちで済ませる。普通ではそうでもないかもしれないが、黒繩としてはかなり好感度の高い反応だ。
かと言って、暁林のように表情でそれを表したりはしないが。
「…俺の能力は───」
暁林の能力の概要を、そう言えば聞いた事は無かった。『物事の状態を保存する能力』と、使いようによっては強力な能力か。
だが、その発動条件が問題だ、恐らくは『対象に直接触れる事』が条件なら、おいそれと能力の発動は出来ないかもしれない、まだ見ぬ相手がどんなのかはわからないが、暁林を活かすには初手から戦況を有利に持ち込む必要がある、と考えて。
能力を見せてくれと言われた黒繩は、暁林の前に出した右手の中に漆黒の短刀を作り出す、闇が凝縮したような黒いそれを手の中で回してから、暁林に差し出した。
「《有害妄想》」
一言、能力名を告げてから、語り出す。
「コイツは俺の『妄想』だ、触れるが実際はそこには無い、斬ったって産毛すら斬れねぇよ」
「だが、クソ痛ぇ、普通のナイフや刀で斬るよりよっぽど痛えだろうよ、つまりまあ、そういう能力だ」
パラノイア
《有害妄想》───それが黒繩 揚羽の持つ能力、その場に実在しない刃を作り出し、傷付けずに苦痛だけを生み出す幻覚の能力。
暁林の能力との相性は、まあ悪くは無いのではないだろうか、黒繩が差し出した短刀を暁林が受け取れば、「持っとけ」と短く付け加える、もしもの時の切札だ。
「…作戦、作戦なあ…そもそも相手がどんな能力かもわからねぇから考えようもねぇか」
「───ああ、そうだ、作戦の前に一つ言っておくぜ」
「俺はテメェを味方だとは思ってるが、仲間だとは思ってねぇからな」
「なんなら『裏切ったって構わねえ』、纏めてブチ殺してやるからよ」
不穏な空気が流れ出す、ギラリとした歯並びを見せ、口角を上げた笑みを暁林に見せて、開始早々にコンビに亀裂を入れるような一言。
しかし、これは既に黒繩の作戦であった、わざわざこんな事を言うという事はすなわち、作戦の概要を端的に語っている。
『対象を生かしたまま保存する事も出来る』───そのような能力を聞いてすぐに作戦を思い付いた、が、それを詳しく口に出したりはしない。
何故なら、近くに敵がいるかもしれないから、所謂初見殺しに近いこの作戦は種が割れてはまるで意味が無くなってしまう、故にわざわざ分かりにくく語って、あとは暁林の判断力を信じるしかなかったのだ。
「…わかったら、さっさと相手を探すぞ。つっても何処にいるかわからねぇが…」
>>62
「……転送、完了っと。うわぁ、遊園地だ!しかもリアルすぎ!」
意識が覚醒すると、広がっていた光景はまさしく本物の遊園地のものだった。
もちろんこれは仮想空間。ヴァーチャルである。
しかし、足が地面に着いている感覚もちゃんとあるし、呼吸の感覚もきちんとある。意識もある。はっきりと、この空間自分が生きているという感覚を実感せずにはいられなかった。
そしてそれを再現する技術に、感嘆せざるを得なかった。
「それにしても、静かだな」
しかし、この場に自分たち以外の人間はいない。誰もいない遊園地は寂しいものだった。
潰れて寂れ、ただ、もう誰も乗らない遊具だけがそこに残っているようにも感じた。
「東口ゲート…と」
しかし、自分たちは遊びに来たわけではない。今から、この場は戦場となる。
仮想空間とはいえ、血みどろの殺し合いが始まるのだ。これは、そういうゲームである。
東口ゲートには、既に転送が終わっていた自分の相方がいた。
「君が僕の相方だね、よろしく」
赤羽はそう言っていずもの手を差し出す。応じれば、そのまま握手するという形になるだろう。
>>66
「───おおっと、来た来た。」
ゲート壁面に寄り掛かって待機していた彼女の目に映ったのは、何処からともなく目の前に生じ始めた青白き閃光。
次第にその青白い光は人の形を形成し始め、やがて人そのものとなった。其処に居たのは──1人の青年。
番長は風に学ランを靡かせ、ゆっくりと赤羽のもとへと歩みを進める。
「──そのとーり!!オレがお前の相方!アーンドお前がオレの相方ね!
──────……オレは高天原いずも!宜しくな!」
赤羽が差し出した手をがっしりと掴む。見た目が男……にしてはどこか丸みを帯びていてサラサラした肌。
そして顔を見れば其処にあるのは爽やかに笑ういずもの顔。
──高天原 出雲。彼女が口にしたのは、第一学園に所属する者ならば知っているかもしれない”残念番長”の名。赤羽は耳にした事があるだろうか。
「……ゆーえんち!って事で遊び狂いたいところではあるんだけどよ。
一応ここらで質問させて貰うぜ?」
赤羽の言葉を待つ事なく、高天原いずもはすぐに言葉を続けた。
「お前さんの能力はどんなもんだ?名前と一緒にごしょーかいたのむぜ!!」
親指を立てた右手をビシッ!と突き出す。──なんと元気で喧しい人間なのだろう……先程からの言葉全てに!マークが付くほどに喧しい。
”親指立て右手をビシッ”と同時に、笑顔を浮かべながら軽くウインクしてみせた。
──次は、赤羽の番だ。
>>67
「高天原……?あぁ、君があの"番長"か」
高天原いずもという名には聞き覚えがあった。
むしろ、第一学園に通う者で知らないものはいないようにも思えるが。
とにかく、名前だけは赤羽も知っていた。まさかここで出会うとは思ってもいなかったが。
せっかくの遊園地なのだしどうせなら女の子と一緒が良かった……などとは思っていない。決して。多分。
番長の呼び名とは裏腹に、女っぽい肌をしているなと握手しながら思う。だが男だ。
「僕は赤羽 卓。能力は、指から弾を撃ちだす遠距離タイプ。そっちの能力は?いずも君」
元気な人だなと思った。当然の事ながら、赤羽はいずもの事を男だと信じ切っている。
さて、こっちの能力は明かし終えたので次はいずもの番だ。作戦は、それから考えよう。
>>68
「おおー!遠距離タイプかよバネちゃん!!
オレは超至近距離タイプ。
……まあ、単純に表すなら”衝撃を与えると爆発を生じる”能力……かねぇ?至近距離馬鹿力タイプって思ってくれて構わんぜ!」
高天原出雲という人間は時々、出会った人に勝手に愛称をつけて勝手に呼ぶ癖がある。
てな訳で「赤羽 卓」という青年に付けられた愛称は、赤羽の”ばね”という部分を切り離して無理矢理使った「バネちゃん」である。
そして、赤羽が”君”を付けて自分の名を呼んだ事は、当の本人たる出雲も特に気にはしなかった。
理由は至極単純で──”慣れて”いるから。
そして赤羽の言葉を聞いた上で、高天原いずもは自分なりの意見を切り出した。
「──遠距離型と超至近距離型…………!
こっから想像できる戦闘スタイル、ってのはもう一つしか思い浮かばねぇな?」
少女は近くにあったベンチに腰を掛け、立っている赤羽を手で誘導する。──”こっちこい”と。
現在立って話をしていた所は陽射しが見事にダイレクトヒットする場所。……日陰にあるこの場所に来るように促す。
彼女が言葉にした「一つだけの戦闘スタイル」。
それは───「後方支援」と「特攻」と二つに分担した典型的な二人一組の戦闘スタイル。
馬鹿力だが隙が生まれやすい彼女の能力と、赤羽の遠距離型能力は頗る相性がいいことだろう。
勿論、彼女の脳が単調なだけで他の戦い方がない事は無いが、取り敢えず彼女はこの戦闘方法が最適であると断定した。
これに赤羽は───どう答えるか。
>>69
「バ、バネ、バネちゃん?」
能力より何より、「バネちゃん」という呼び方に困惑する。
赤羽にそんな呼び方をするのはいずもが初めてである。無理やり感が否めなかったが、まあ、いずもがそれで良いならそれで良いけども。新鮮といえば新鮮か。
さて、いずもの能力は超至近距離型との事。そして、自分は遠距離型。
そこから導き出される作戦は、一つしかない。奇しくも、その考えはいずもと見事に一致したようだ。
「うん、僕もそれしかないと思う。いずも君は敵を撹乱。そして僕は後方から援護して、仕留める…うん、これしかないね」
いずもの誘導に従い、彼女の隣に座りながら彼女の考えに同意する。
奇をてらう脳みそもないわけだし、王道でやるしかないと思った。
基本戦術は、これで決まった。だが、これだけでは足りない。勝つためには、まだ策が必要だ。
「あとは―――どうやって相手の不意を突くか。ここはたくさんの施設があるから、うまく利用すれば奇襲できるはずなんだけど…」
しかし考えている時間もない。既に相手チームも動き始めているかもしれないのだから、ここでモタモタしていてもやられるだけだ。
とにかくこの場を移動して使えそうなものを探すべきか、判断はいずもに委ねる事にした。
>>70
「……決定、だな!!」
赤羽が言葉を返すと、いずもは綺麗に連立した歯を見せてニカっと笑ってみせた。
本人に自覚というものは存在しないが、本質的にその笑顔は、焦りつつ戦術の考案に勤しむ赤羽を落ち着かせる意味合いがあるのだろう。
その”本質”……即ち”性格”であるが、それが彼女を喧しいほどに明るい”高天原いずも”に成り立たせている根本的な要因だ。
策を練る赤羽とは裏腹に、次の瞬間、いずもは思いもよらないであろう事を提案した。──それもほぼ、強制的に。
「──不意を付く?んなもん必要ねぇって!!
バネちゃんバネちゃん、何で戦うのにオレらがこんな遊園地ステージに飛ばされたかわかるか?
──オレにはわかる。……コレはな、このゲームの運営がオレたちに与えてくれたリフレッシュ休暇なんだよ。」
一番に困る点は、彼女が至って真剣な表情でこの言葉を口にしたという所である。
この言葉からも察す事が出来る通り、彼女の脳は途轍もなく”典型的”で……所謂「馬鹿」という概念。
初対面であるといえど幾らか彼女の名を耳にした事がある赤羽なら、そろそろ勘付いてくる頃だろう。
「──ってなワケで!!まずは遊び狂うぜバッキャロー!!」
高天原いずもは隣に腰掛けている赤羽の手を取り、半ば強引に引っ張って行こうとする。……勿論の事、振り払う事は可能だが。
「♪〜〜」
もしそのまま彼女に誘導されるのであれば、彼女は呑気な鼻歌と共に現在Dチームがいる正面(北西)ゲートの方へと向かって行くだろう。
そして目の前に見えるアトラクションは、何やら大きな器のような物がグルグルと規則正しい回転をする施設、────”コーヒーカップ”だ。
>>71
「えっ、いや、あの」
あっさりと奇襲作戦は考えるまでもなく却下された。
いずもの性格を、本質を失念していたのだ。こうして話した時点で、推測くらいできただろうに。
いずもは真っ向勝負するつもりだ――策などいらぬと相手を粉砕しに行くのだ。
ここまで来たら、もう自分が何を言ってもしょうがない。簡単に人間の本質を変える事などできやしないのだ――と半ば諦めの感情を抱く。
そして、そのいずもの本質は――所謂脳筋。もしくは、馬鹿。
「あ、遊ぶって正気!?いつ相手に遭遇するかわからないのに、ちょ、ちょっと!」
そうでもなければ、遊ぶなんて選択肢は思いつかないはずだ。為す術もなく、赤羽はいずもに引っ張られていく。
そのまま引っ張られて、目の前にあるのは正面ゲート付近のコーヒーカップだ。
こういった物は、普通恋人とかと一緒に乗るもののはずなのだが、男同士で乗って何が楽しいのかと、そうごねたところで変わらず。
結局は、もうどうにでもなれという投げやりな感情で、連れ込まれて行くのであった。
>>65
「ありがとうございます。大事にしますね」
黒い短刀を受け取り、彼女は
そして、次いで黒繩から出てくる言葉。
コンビという前提に穴を開ける様なそれに、初流香はただ笑顔の質を僅かに歪めた。
「まあ、そうですね。貴方を終わらせるのも楽しそうですし…
―――なら私は『逆に貴方が裏切らないように予防線でも張りましょうか』」
そう言いながら、抱き締めたままの黒繩に能力を使う。
『肉体的な生』を保存する彼岸花が、彼の胸に咲いた。
その花が散らぬ限りは、黒繩揚羽という人間に身体の死は有り得ぬものとなるだろう。
―――彼の作戦に心当たりはついた。だが、100%合っているとも言い切れない。
だからこれは、彼女はただ彼女の信じるままに、出来る事をしたに過ぎない。
「ええ、行きましょうか。
場所…多分私達と同じ入口ゲートか、目立つアトラクションの辺りじゃないですか?単純に会いやすそうな場所、という意味で」
無論隠れながらの戦いも有り得るが、これは能力を用いた戦いがメインであるゲームだ。
となれば、遭遇しやすくする為に簡単に想像がつく場所に相手が配置されているだろう―――そう思っての言葉だ。
「―――案外向こうも遊んでいるかもしれませんし、私達も遊びながら行くのはどうでしょうか?」
…その目から別の感情が感じられるのは、まあ、仕方がないかもしれないが。
>>72
「っはは!いけないなーバネちゃん!!
幾ら血みどろの戦闘といえど楽しさがねぇと勝てねぇんだよ!……であればぁ!ここは乗るしか………ないッ!!」
─────”疾走”。コーヒーカップという遊具目掛けて疾風の如く走り抜ける少女はまるで無邪気な子供の様で。
そう、彼女の意識の根底に存在するのは「遊び心」。……というか、彼女自身が喧しい人間であるが為に周りの情景も喧しくなければ!という謎の相乗効果による物であるが。
かくしてCチーム構成員赤羽 卓と高天原いずもはコーヒーカップへと到着する。
「いやぁ〜〜〜!懐かしいなコレ!!
……えっと……?……こいつ回せば回転するんだっけか。」
此処まで赤羽を引っ張ってきて、コーヒーカップを見るや否や我先にと搭乗した。自分が先乗りした癖して、取り残された赤羽に言葉をかける。
──本当に迷惑で明るい人間である。
「ほら!早く来いよバネちゃんよ!
ここ!ここ!」
と自分の隣をポンポンと手で叩いて示す。
既に彼女は回転を司るハンドルの様な円盤を手で鷲掴みにしており、準備万端。
このステージの特性上、このアトラクションは赤羽が搭乗すれば直ぐに動き出す事になっている。
>>74
「はぁ…まったく、本当に……」
緊張感の欠片もない。ただ、遊びたがっているだけの子供のようである。
いずもがどうしようもなく純粋で、無邪気に思えた。
そして、そんないずもの姿に憧れのような、不思議な感情を抱いた事に間違いはない。
少し、本当に一瞬だが、赤羽の表情に陰が差す。いずもは気付いても気付かなくとも、すぐに戻るが。
「もう、どうなっても知るものか!」
もう吹っ切れた。こうなったら精一杯楽しもうではないか。
いずもの隣に飛び乗り、座る。
「君には敵いそうにないよ、本当に」
このまま襲撃されたら一体どうなるのか。何とかなるさの精神で乗り切れれば良いのだが。
>>73
胸に咲いた彼岸花、まるで似合わないアクセサリーのようなそれを見て、暁林の能力が発動した事を悟る。
とはいえ、自分の何を『保存』したのかはわからないが、とにかく作戦は通じたのだろうと断定した。
「アホか、ガキみてぇに遊んでいられるかよ、大体こんな子供騙しで───ああ、テメェはまだガキか」
目立つアトラクション…と、言われてもピンと来ない、普通こういう所に来た人間はどんな乗り物に乗るのか、そもそもが遊園地初体験の黒繩には予想もつかないのだ。
大体、いつ敵が襲って来るかもわからないのに呑気に遊んでいるような奴がいるだろうか…いや、ここに一人いた、相手もそうであったなら、最早黒繩は呆れるしかなくなってしまうだろう。
「遊びてぇならまた今度連れてってやるよ、さっさと探して終わらせるぞ」
これは何ともノリの悪い奴である、折角男女で遊園地にいるというのに戦いを優先するとは。
遊び心の無い男は、気だるそうに歩き出して相手を探し始める、間抜けそうなマスコットの中に隠れているのかと思って、蹴り飛ばしてやろうかと思ったがそれは保留。キョロキョロと辺りを探しながら、コーヒーカップの辺りまで来た。
「…あんなグルグル回るだけのモンに乗って本当に楽しいのかよ、アホの考える事はわかんねーな」
「あんなモン乗ってもゲロぶちまかすだけだ───」
愚痴りながらふと目を向けたコーヒーカップ、愉快なBGMと共にグルグル回るアトラクションを見ていた黒繩の動体視力は、確かに彼らを捉えた。
コーヒーカップに乗っている、いずも(>>74 )と、赤羽(>>75 )である。まさか、相手のチームまで遊ぶ気であったとは、自分だけが戦闘の事を考えていたとは、予想外の光景に、黒繩は暫し固まった。
「…おい暁林…」
「 ブ チ 殺 し 開 始 だ 」
何だかよくわからないが、イラっときた、しかもよく見たら相手の内の一人は憎き番長ではないか、本気でイラついた。
ワナワナと震えながら、開戦の合図をパートナーに送ると、一足先に黒繩は飛び出し、コーヒーカップの中に乱入する。
いずもと赤羽が乗っているのとは違うコーヒーカップの上に軽やかに着地、ターンテーブルの上に立って、相手チームを睨み付ける。
「楽しい楽しいデートは終わりだぜゴラァ!!テメェらの死でな!!」
「会いたかったぜ番長サンよぉ…テメェは特に念入りに痛みつけてブチ殺す…!」
黒繩の両手には、それぞれ黒い刀が一振りずつ握られていて、戦闘準備は万全だ、相手に対して啖呵を切る様もいつものように。
…しかし、黒繩が立っているのは駆動するコーヒーカップの上、クルクルとメルヘンに回るコーヒーカップの上で一つの物を睨み続ける事は叶わず、途中でいずも達に背中を向けてしまった。締まらない。
>>74-76
「そんな、つれないですねー。モテませ…」
口を尖らせて不平を言いながら、しかし周囲への警戒は怠らず歩いていた暁林。
だが、その口から出た言葉に一瞬ピクリと反応したかと思えば、目を輝かせ黒繩を見る。
「また今度…言いましたね?
絶対連れてってもらいますからね?約束ですからねー?」
黒繩がつい口走った一言に異様に食い付き、ひたすら念を押す。
そんなこんなしながら歩いていると―――いつの間にか、楽しげなBGMが辺りに響いていた。
その発生源らしき回るコーヒーカップ、そしてその搭乗人を羨ましそうに見る。敵だというのは、素で分かっていない。
隣の少年から漂ってきた凄まじい殺気で、漸くそれが倒すべき相手だと認識したようで。
「了解でーす」
殺意に染まった黒繩のぶち殺し宣言に楽しげに同意すると、初流香は彼とは対照的にこっそりとコーヒーカップの裏へ回った。
二人の視線を一人で集めてくれている事に感謝しつつ、盤面に手を押し当てる。
彼岸花が動く床に張り巡らされ、動いている状態が保存された『止まらないコーヒーカップ』が出来上がったところで―――小さく、一言呟いた。
「それにしても、締まりませんねえ…黒繩さん」
>>75-77
「…………おいおい…早過ぎるだろうが……。」
──そしてそれは余りにも突然訪れる。
優雅に回転するコーヒーカップの上に座す、高天原いずもが回転の合間に目にしたのは。
………”凄まじい痛みを生じさせる”能力者と、”状態を保存する”能力者……”痛めつけること”を極端に精鋭化した2人で構成される……Dチーム。
少女は警戒してゆっくりとカップの回転を止めていく──が、>>77 が張り巡らせた彼岸花のお陰で何故か”止まらない”。恐らくあの花が影響している……と推測するが、明確な解明には至らなかった。
……こうして、其々のカップがアトラクション内を縦横無尽に動く複雑な戦場の完成だ。
「……っはは!まさかまさかでこんなところで再会とはなぁ?……黒繩。
…ってか割とまずいねぇこりゃあよ!」
……そんな明らかに”ヤバイ”状況であっても、高天原いずもは笑顔を崩すことは無かった。
寧ろ相手チームの1人を目にするや否や、不敵な笑みさえ浮かべてみせる。
──でも。幾ら表面上取り繕ったとしても。
この戦場ではCチームが”最も行うべき”戦術を行う事が出来ない。……つまるところ不利。
まさか遊び心の弱点がこんな所で表面化するとは……!高天原いずもは少しだけだが自らの行動を反省した。
高天原いずもは依然に現実の学園都市で黒繩の異能と対峙しているが為に、コーヒーカップの底の方へと隠れる。
そしてほぼ同時に「バネちゃん」と赤羽>>74 の脚を手で軽く叩いて、赤羽もいずもと同じ行動をするように促す。
赤羽が同じようにしたのならば、彼女は言葉を発し始めるだろう──。
「…………バネちゃん、あの幼女の方は知らんが、あっちのやたら叫んでる方ならオレは相手したことがある。
さっき、あいつが持っていた”やたら禍々しい”短剣があいつの武器だ。説明は省くけど……当たったらヤバイ。」
ぐるぐーる、と。彼女らの途轍もなく不利な状況を嘲るかのようにコーヒーカップは移ろい揺らぎ回転し。
戦闘を彩る何とも幼稚なBGMは明らかにCチームを煽っているように感じ取れた。……いずもの口調が、早くなる。
「んでもって、オレの能力をこんなとこで使っちまうとバネちゃんの生死に関わっちまう。
……だから、ここでオレは無力だ。」
底に固まっている……つまりほぼ密着状態。恐らく、男子のものとは思えないふんわりとした甘い香りが赤羽の鼻腔を襲うのだろうが───今は関係ない!!
高天原いずもは自分なりの意見を提示する。
「………でも、遠距離タイプの能力を使ってきたバネちゃんなら……多分この戦闘場所は間違いなくスターになれる場所だ……!
ちっこい方は未だによくわからんが黒繩は近接型に近かった……ような気がする。
──────だからバネちゃん、”ぶちかましてこい”。」
お前の独断場だぜ?と小さく笑って見せると、彼女はコーヒーカップの盾が存在しない場所……つまり戦乱が広がる空間を指差した。顔を覗かせればいつ何が飛んでくるかもわからない。
──然し、遠距離タイプの能力を長年扱ってきた赤羽になら……!勇気を与えるように言葉を投げかけ、送り出す───このチーム戦唯一のLEVEL4を。
//ほぼ行動が強制になってしまいがちで本当に申し訳ないです……
>>76-78
「……いや、これ、いきなりまずくない…?」
結局、楽しむ間もなくあっという間に相手チームが来てしまった。
一体何をしにここに来たのか、取るべき戦術も取れずに身動きのできない状況である。
やはり、あの時止めておけば良かったか。しかしここでいずもを責めても仕方がない。
更に、床全体に花が咲き、コーヒーカップの回転が止まらなくなった。常に動く戦場の完成である。
「と、とにかく隠れないと」
いずもに促されるがままに底に隠れる。
体が密着した状態になり、いずもから男とは思えないような、女のような甘い香りが赤羽の鼻孔を刺激するが、きっと何かの間違いだと気にしない事にする。そんな呑気な事を考えている場合ではない。
今はこの状況を脱す事が重要である。赤羽は黙っていずもの話を聞く。
「――――分かった。僕が囮になってあいつらをここから引き離すから、いずも君は隙を見て奇襲して」
こんなところでやられるわけにはいかないのだ、ここは腹を括ってやるしかない。赤羽は決心を固める。
立ち上がり、素早くコーヒーカップのない地面に飛ぶ。
「――――――こっちだ!!来るなら来い!!!」
指から5発、威力は銃弾と同じレベルに設定してまずは威嚇射撃。
男の方の注意を向けられればそれで十分だ。当たろうと当たらずとも、黒繩に真っすぐ5発の弾が向かう。
>>77-79
「…………」
折角啖呵を切ったのに、グルグル回るコーヒーカップのせいで全く締まらない、ポーズまで取っていた訳ではないが、最後の方には全く明後日の方向を向いて吠えていてしまっていた。
暁林の一言が聞こえ、青筋をピクピクと額に浮かべながらも、いずも達の方へ向き直り。
「……ブチ殺す!!」
小っ恥ずかしさを怒りに変え、相手チームに向けた。
とは言え黒繩としてもこの行動は迂闊、格好つかないとかそういう理由では無くて、足場が不安定な上に狙いが付けにくくては、近付くのも遠距離攻撃も難しいからだ。
視線を落としてみれば、辺り一面に咲く黒い彼岸花、これが暁林の能力であると知っているのは本人と黒繩だけか、これは相手にも黒繩にもプラスでありマイナスだ。
何せ、コーヒーカップの動きを止められないのだから、この足場で戦い続ける事を強いられる、どうやらいずもの方は無力化出来ているようだが、もう一人はどうか───。
(…チッ、暁林を狙われたら厄介だな)
Dチームにおいては、明確にサポートと戦闘要員が分かれている、つまり暁林が狙われてしまえばそれこそ黒繩は一人で二人を相手取る必要があり、それが非常に拙いことはわかる。
となればあの二人が暁林を狙わないようにヘイトを集めてこの場に縛り付けて、後は暁林が上手い事行動してくれるのを願う、それが最善手か。
そんな折に、赤羽がコーヒーカップから飛び降りて、回転しない地面に着地する、逃げたか、とも思ったがそうではないようだ。
黒繩は直ぐに分かった、『相手も同じ考えか』と、どうやらお互いに、重要なパートナーを潰されては困るようだ。
だとすれば───今主導権を握っているのはこちらだ、いくら遠距離攻撃があるとは言え───赤羽は『守るべきもの』から離れた。
「……ヒヒッ!来て欲しいなら来てやるよ…」
「『コイツ』を片付けてから、なァァァァァァァァ!!」
赤羽の指から複数の思念弾が放たれる、初めて見た赤羽の能力を、しかし黒繩は野性の勘じみたもので素早く反応した。
立っていたコーヒーカップの上から跳び上がり、すんでの所で思念弾を回避、そのまま向かう先は…赤羽ではなく、いずものいるコーヒーカップ。
空中で両手の刀を逆手に持ち替えた黒繩は、そのままいずものいるコーヒーカップに落下し、勢いを乗せて二つの刀をいずもに突き刺そうとする。それがどんな代物かは、いずもは良く知っているだろう。
「去ねやァァァァァァァァ!番長ォォォォォォォォ!!!」
だが、不安定なコーヒーカップから跳んだせいか狙いや体制は性格とは言い難く、オマケに空中強襲という性質上、迎撃は容易となる。
素早い反応が出来れば、迎撃は難しくはないだろう。
>>78-80
「出てくるなら、お相手任されたいところだねー」
カップから飛び出してきた赤羽へと駆け寄る初流香。
回転する床に掴まれば足を取られるのが同じである以上、攻めあぐねていた彼女にとっては有り難い話だった。
―――とはいっても、赤羽の武器は銃弾。初弾が黒繩に向けられたお陰である程度は近寄れたが、まだ距離がある。
(なら、隙を作ろうかな?)
そうして懐から取り出したのは、先程渡された短刀。彼女はそれを、思い切り赤羽へ投げつけた。
不意の奇襲への対応自体は十分に間に合う―――だが、例えば黒繩の攻撃に目を奪われ、赤羽がその後の切り換えに失敗すれば、初流香が接近する時間もまた十分となる。
また、彼女が投げた短刀には『投げられた』状態が保存され、弾かれても拾われることなくあらぬ方向へ飛ぶのみだ。
更に彼女は、もう一手を重ねる。
コーヒーカップに刻まれた彼岸花―――その刻印が外れ、アトラクションの速度が僅かに落ちる。
黒繩の一撃にしろ、いずも行うかもしれない反撃にしろ―――外れる可能性が大きく上がる。
ならば、その追撃を放ちやすいのは、速度が落ちた床の上を自由に動ける黒繩の筈だ。
>>79-81
「いや…………わざわざコーヒーカップ自体から出る事は………!────いや、オレが動けるという意味では十分か………!!」
そのコーヒーカップの中には1人、高天原いずもが攻撃を避けるように身を隠していた。
彼女の想像していた図ではコーヒーカップ上から射撃──!という感じではあったがどうやら少し別の伝達になってしまったようで。
──然し、高天原いずもはそれが割と良い手である事に気づく。
赤羽だけがここで射撃を繰り返し、彼女が無能と化すよりは……赤羽が陽動となり馬鹿力を携えた彼女が動くのが────!!
「………バネちゃん!!それでもここがオレたちに取って不利なのは変わりねえ!!
隙を見て逃げ出すからそれまで無事でいてくれよっ!!」
高天原いずもが持つ”爆破剛掌”を使うならば、永遠と的が回り続けるこのアトラクション内は不利。
──態勢を立て直す……否、作戦を少し練り直す必要がある。……時間稼ぎが出来る施設は……。
「ゴーカート………!…
バネちゃぁぁん!ゴーカートだ!なんとか逃げ出せたらあれに乗るぞ!!」
目に映った──。赤羽が能力を振るいつつ、かつ楽に話し合いを行う事が出来る移動アトラクション……!!
そうとわかれば行動に移すのは早急に。いずもがコーヒーカップ外に飛び出し、その剛腕を振おうとした…………その直前の出来事である。
──────苦痛を司る強戦士が現れたのは。
─────────────────!!
いずもは刀を携えたそれを目にするや否や、ターンテーブルの下へと咄嗟に避難する。
……危機一髪。黒繩の武器はいずもではなくそのターンテーブルへとグサリ!!と突き刺さった。貫通こそしたが、いずもの身体には辛うじて接触していない。……恐らく>>81 の彼岸花削除によるコーヒーカップの減速が無ければ彼女の身体にはヒットしていただろう──。
その刃との間隔………………僅か10センチ。
「あっぶねェェェェッ!!殺す気か!!」
なんてターンテーブルの上にいるであろう黒繩に叫びながら、直ぐに彼女は行動を……しなければならない。
この狭い空間で黒繩のリーチが長い武器を開いて取るのは明らかに……”不可能”。
──ヒョイッ!と高天原いずもは減速を始めた回転床の……上へと飛躍する。彼岸花がない事に僅かに疑問を抱くも、彼女にはそれをするしか道が残されていない。
「…………バネちゃん!!逃走準備!
───────────Are you ready??」
減速し始めて、落ち着き始めたコーヒーカップの床に右拳を思いっきり叩きつけんと───振り上げる。
ここでも意外にも>>81 の減速はCチーム側に良い効能を齎した。───ある程度足場が安定したお陰で……思いっきり能力を振るえるのだから。
「─────GO!!!!!!!」
合図と共に彼女の右拳と床が凄まじい速度で衝突した。そこから生じるのは──彼女の周囲のコーヒーカップ全体を襲う爆発の衝撃波。
高火力の一撃によって生まれた爆風は、幾つかのコーヒーカップを吹き飛ばした。
────赤羽はこれに耐えきることが出来ているだろうか。もし耐え切れているならば直ぐにゴーカートへと向かうこととなるだろう。
>>80-82
「な、しまった…!」
本来であれば、威嚇射撃の後に黒縄の注意がこちらに向き、赤羽の方を攻撃してくるはずだった。
しかし、実際は赤羽に攻撃が向かう事はなく、いずもの方に向かってしまった。
「させるものか…!くそっ、もう一人か!」
急いで黒縄を追おうとするが、投げられてきた短刀に気が付き、咄嗟に回避する。
初流香への対応に追われて黒縄を追う事ができない。反撃に、初流香へ3発弾を発射する。
このままでは、二人ともやられる。何とかして体勢を立て直さなければ。
「ゴーカート…あれか!」
いずもに言われたゴーカートを確認する。あれに乗って、ひとまず逃げるしかあるまい。
ところで、赤羽がいずもから離れた事は以外にも功を奏したらしい。いずもが思い切り能力を振るえるからだ。
「――――GO!!」
いずもの合図に合わせ、走る機を伺う――――拳が下ろされた刹那、全速力でゴーカートにダッシュ。
大爆発と衝撃。吹き飛ばされそうになるが、何とか崩れず走りきる。
ゴーカートにしがみつくようにして飛び乗り、いずもを待つ。
いずもがちゃんと辿りつけるように、10発黒縄と初流香に援護射撃を向ける。あとは、いずもが来れるかどうかだ。
>>83
補足
「よし!いくぜぇぇぇ!!」
赤羽が回転地獄より抜け出したのを見ると、自らも爆発的な駆動力を駆使して赤羽を追いかける。
赤羽が乗り込んだゴーカートは幸いにも二人乗り。──ほぼ座席に突っ込む形にはなるが見事に座席に着席して見せた。
Dチームが追いかけるか、または別の施設を利用するか、それは自由である。
>>81-83
「チィッ!」
寸前の所でコーヒーカップの動きが遅くなった、そのせいか狙いが逸れたようで、狙いのいずもを貫く事は叶わない。
黒繩は大きく舌打ちをして、味方である暁林に怒号を上げたくなったが、それよりも先に怒りを向けたい奴が目の前にいた。
「殺す気に決まってんだろうがバァァァァァァァカ!!」
「あん時ゃ見逃してやったが今回はそうはいかねぇ!全身滅多斬りだァ!!」
いずもの叫び声を掻き消すほどの大声を張り上げ、容赦の無い一言を浴びせる、一度敗れた相手を目の前にして完全に目が逝ってしまっている。
そのまま両手の刀を振るい、テーブルごといずもを斬り裂こうとしたものの、素早くいずもが引いた事でそれも失敗、忌々しげに姿を目で追う。
「クッソ…逃げてんじゃ───」
両手を開ける為に持っていた刀を捨て、コーヒーカップから飛び降りる黒繩、だが跳び上がった瞬間にいずもの思惑が脳裏を過ぎった。
───拙い、着地が間に合わない、爆破が、来る!
「グ…おおおおォォォォッ!!クソが…ッ!!」
吹き飛ぶコーヒーカップ、それに混じって黒繩の体、それでも叫び声を上げながら、爆発の衝撃波に飲み込まれた黒繩はコーヒーカップ外に転がった。
だが、体の痛みを我慢してすぐに立ち上がる、そしてまずはいずもと赤羽が向かう方向を見てから、暁林を探した。
「暁林ィ!!追うぞォ!逃すかよォ!!」
爆発に暁林が巻き込まれたにせよ無いにせよ、まだ生きているなら直ぐに暁林の元へ向かい、手を取って引っ張っていこうとするだろう。
向かう先は勿論ゴーカート、相手の向かった先だ。
だが、赤羽の援護射撃が中々辿り着かせてはくれない、回避に手間を掛けて、いずも達と同時にスタートとは行かないだろう。
掠った思念弾が皮膚にいくつも傷を作る、しかし黒繩は止まる事はなく、前へと進む。
暁林を引っ張っていたなら、既にその手は離れている筈だ、暁林の行動を制御する物は無く、思念弾の中を行動するか、黒繩を盾にしてやり過ごすかは彼女に任される。
>>82-84
減速はどうやら完全に裏目に出たようで、上手いこと利用されてしまっていた。
攻撃回避に利用され、敵の逃走条件まで整えてしまうという大失態である。
そして巻き起こる大爆発―――赤羽への合図を目処に防御をした彼女は、なんとか軽傷でやりすごす。だが、中学生の女子の軽い身体は、やはり簡単に吹き飛ばされる。
「………………ゴメンナサイ」
裏切っても一緒に殺すから大丈夫とか言ってたなそういえば、なんて思い冷や汗をダラダラと流しながら、大目玉であろう黒繩をチラリと見る。
しかし、それも一瞬。
すっぱりと割り切り、逃げる赤羽を追う事に集中する。
そんな彼女へと思念弾が連発されるが、それを無視して必死に走る初流香。
弾丸をその身体にまともに喰らうが、それ以上の痛みに慣れている彼女にとっては大した支障はなく、そしてその肉体も彼女に刻まれた彼岸花が消えぬ限り止まりはしない。
(そうでもしないと、怒られる…よね?うん、まず間違いなく遊園地はなくなる)
もっとも、半分黒繩が怖くて逃げているのだが。
かくして、そこまで赤羽に遅れずゴーカートに着くであろう初流香。全速力で走り始めてさえいなければ何とかしてその車体に触れようとするだろうが、走り去った後だとすれば彼女はすぐにカートに乗ろうとはせず、黒繩と合流を図るだろう。
>>83-86
──疾走するゴーカート。遊園地側が定めたコースをただ進んでいくアトラクション。
然し、この乗り物にDチームよりも”先に”乗ったという事はいずも達Cチームが多少なり有利である事を意味している。
……遠距離攻撃を司る赤羽 卓──《思考念動変容弾》を操るその能力者の狙撃能力が輝く筈だ。
今の所Dチーム側に遠距離攻撃らしい攻撃は見当たらない……であれば、コースの先を行く我々が有利である事は誰にでもわかる。
「運転は任せろバネちゃん───!!
なるべく相手の足止めをしてくれ……!考える時間が必要だ!!」
と、ゴーカートの操作を担い手を請け負う高天原いずも。不器用であれどコースが予め定められているのであれば脱線しようも無い。
……ガタガタと安定感は無いが、兎に角彼女の運転によってこちらが不利になるという可能性は無さそうである。──取り敢えず、少しだけ余裕ができた。
これは逆に相手にも余裕を与えているという事でもあるのだが。
運転をしながらいずもは赤羽へと問いかける。
「…………なあバネちゃん。
これからどうするべきだと思う……?残念ながらスタートは最悪だ……偶然が重なったお陰で助かったけど少しでもずれてればオレは戦闘不能だった…………!!」
「……このゴーカートは当然オレらには有利なんだろうが、すぐに向こうも対抗策を考えてくるだろう………銃弾だけで防げるほどやわな相手じゃあねぇ……!!」
──以前相手取った経験から其れは解っていた。
前回現実世界の路地裏で対峙した時も彼女は黒繩に戦闘不能の手前までに追い詰められている。
その際は路地裏という環境が味方して辛うじて撃破が出来たが……今回はそんな狭い場所は存在しない。
──彼女の発想は既に底をつきかけていた。
「……くそッ!!どうすりゃいい!?」
ゴーカートがコースを疾走する間、幾つものアトラクションが視界を通り過ぎた。
空中ブランコ、お化け屋敷、鏡張りの部屋、メリーゴーランド……舟がゆらゆらと前後に揺れるアレ…………そして遊園地の代表格ジェットコースター。
このアトラクションの中に、赤羽に齎す発想は──あるだろうか。
>>85-87
先にゴーカートに乗り、先手を取る事には成功した。
だがこれも所詮は時間稼ぎ。ここで策を練らねばすぐに追いつかれるだろう。
何か使える施設は?幾つも通り過ぎる中で使えるものを模索する。
(どうする…乗り物系のものはきっと駄目だ。さっきと同じような事になる。どうする…?)
乗り物系は間違いなく初流香の能力の格好の的になりそうだ。こちらが不利になる。
まずは互いの能力の性質を考えよう。いずもの能力は、近距離に特化した能力。故に、あまり広い場所での戦闘は好ましくないだろう。
対して赤羽の能力は遠距離に対応している。近距離でも遠距離でも何とか戦える。戦闘の場所はあまり選ばなくても何とかなりそうだ。
ならば、いずもに合わせた場所が良いか。問題は、そこをどうするかだが。
しばらく思考し、そしてようやく口を開く。
「―――お化け屋敷なら、そこはかなり入り組んでいて暗いはずだから、そこに隠れて待ち伏せをして、奇襲する。道具も、使えるだけ使おう。うまく敵を欺ければ、何とか…」
結論としては、お化け屋敷に隠れ潜み、奇襲するというシンプルなもの。
道具もうまく使って欺ければ、奇襲が成功する確率は高まるはずだ。他に道はない。
>>86-88
「チッ…あの馬鹿野朗が…!」
もう何度目だろうか、黒繩は舌打ちをして、思念弾が止んだ後を走り出す、向かう先は暁林。
思念弾をまともにくらいながらもゴーカートへと食らいつかんとしていた彼女の身を案じて…という事ではなさそうだ。
「アホかテメェ!テメェが死んだら作戦どころじゃなくなるだろうが!」
「取り敢えずこっち来い!あの馬鹿共をブチ殺すぞ!」
ゴーカートに乗って走り出したいずも達を見て、暁林と合流した黒繩もまたコースへと向かう、しかし同じくゴーカートに乗ってレースする気なんて甚だない。
コースのスタート地点に着いた黒繩は、スタート地点に並べてある他の空いたゴーカートを運転し、その場で逆向きにする、次々にそれを繰り返すと、スタート地点には逆向きに並んだゴーカートが幾つも並ぶ事になる。
「映画でよォ、あったんだよなあこういうの!やってみたかったんだよ!!」
走行順路とは逆向きに、つまりこのままスタートすれば『逆走』する事になるゴーカート達に、黒繩はまず細工を施した。
次々に漆黒の刀剣を作り出すと、タイヤや車体やシートに突き刺しまくり、見るからにグロテスクなトゲだらけの改造車を作り出す。勿論ゴーカート自体が傷付いているわけではないから走行は可能だ、それが残ったゴーカート全車分、総計5台のおぞましい改造車が完成する。
「暁林ィ…!テメェの出番だぜ」
「テメェの能力でこのゴーカートのアクセルぶっ飛ばしたまま『保存』してッ!奴らの正面からクラッシュさせるッ!!」
そして、ここからは暁林の能力の出番だ、こうして作った即席改造車のアクセルを掛けた状態を暁林が『保存』すれば、黒繩達が運転する事なくゴーカートが走り出す、という事。
「キレーな花火が上がるぜ!!ヒャーッハッハッハッハ!!!」
いずも達からすれば、漆黒の刀剣を全体から生やしたトゲだらけのゴーカートが逆走して来て真正面からめちゃくちゃなルートで突進してくる事になる、それが5台、コース側面やお互いがぶつかり合いながら、予測出来ないコース取りで襲い掛かる。
それをやり過ごせるドラテクがいずもにあるとは黒繩は思ってはいないし、そうでなくとも順路を巡っているならやがてスタートへ帰ってくる、どちらにせよ黒繩達はスタート地点で待つだけでいいという算段だ。
>>87-89
「あ、あいあいさー!」
黒繩の提案したゴーカート作戦にのっかり、次々とカートを逆走させる初流香。
それが一段落すれば、深呼吸をして改めて状況を認識する。
とりあえずは敵の能力についての把握が出来、またそれによって二人の役割も認識出来た。
爆発での近接戦闘、並びに思念弾での援護射撃。
至ってシンプルであるがこその強さを持ち、柔い罠ならば強引に突き破ってくるだろう。
更に、彼女が完全にサポートをメインとした能力であり、また特に鍛えてもない以上、戦闘ではどうしても1対2を強いられる事になる。自分が無理に援護に動けばどうなるかは、コーヒーカップで散々味わったのだから。
自分の不甲斐なさに歯痒さを感じつつも、打開策を必死に巡らせ―――。
「―――うん、これが一番いい気がしてきた」
思考は、一つの終着点に辿り着く。
これならば相手の不意を突けるだろうし、何より。
(―――何より、スッゴく気持ちイイだろうし)
その瞳は既に、妖しさを感じさせるものに変わっていた。
そして彼女は、黒繩に一つ質問する。
「ねえ、さっきの黒いやつ、妄想なんだったら―――作るのに、制限はないんだよね?」
>>88-90
「────────!!ちょッ……と……待て……!どういう事だ…………!?」
ふと背後を振り返ってみると、我らの機体を追っている筈のDチームの機体が…………無い。
──高天原いずもの全身の毛が総立ちする。これから何か不吉な事が起こるという……途轍もなく嫌な予感が襲う。
「……嘘…………だろ…………!?」
───そしてその恐怖は、直ぐに。Cチーム構成員の予想の真逆……真正面から狂気を孕んだゴーカートが猛スピードで此方へ向かってきている。
更にそのゴーカートは一台だけではなく、それぞれが接触しあい、まるで不協和音のような金属音を奏でながら此方に突っ込んでくるではないか。
対抗策───ナシ!!今直ぐこのゴーカートから飛び降りようとも、此方も猛スピードで激走しているが為にある程度の危険性が伴う。
戦術を考察している間に迫る狂気達……それらは直撃すれば間違いなくいずもと赤羽の命を刈り取るだろう。
───でも、こんな小細工でやられてたまるか。
「……お化け屋敷…………それがいいかどうかはオレにはわからねぇが……取り敢えずそこに向かえばいい……な?」
その番長少女は赤羽に運転の操作を任せ、ゴーカートの機体先頭部へと立つ。
黒きマントの様な学ランと彼女のシンボルたる真紅の鉢巻が、風をしっかりと受けて靡いている。
その少女は右拳を改めて握り締め、猛スピードで向こう側から迫り来る狂気の機体をその眼に見据える。……何処かその眼は覚悟を決めたような澄んだ色をしていて。──口を開く。
「……多分、あれを打ち飛ばすためにオレの右腕は使いもんにならなくなっちまう。
……ま、奇襲するってぐらいには使えるかも知れねぇけどな。」
決意をした……真っ直ぐな声。
───そしてその言葉は更に続く。
「………それと、もしオレが痛みに耐えきれなくなったら……いや、オレが使いものにならなくなっちまったら……
オレを……撃ってくれ。」
少女は眼前に迫る黒き刃の本質を理解していた。少し掠っただけでも涙が出そうになる程の痛感……。
──そして彼女はそれを全て右拳に、ダイレクトに受けるのだ。これ以上なく、強く拳が握り締められた。
───準備は出来ているか?その脅威は既に眼の前に迫っているぞ。
「───────ぶっ壊れろクッソ野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
そして、番長の高い声が遊園地内に木霊した。彼女らのゴーカートと狂気ゴーカート×5が凄まじい勢いで炸裂する。
衝突した途端、その間には眩い閃光と薙ぎ払われる様な爆風が生じた。
……ただではそのゴーカート達はふき飛ばない。高天原いずもの痛覚を想像を絶する程の強さで刺激し、彼女の精神を直接痛めつける。”痛み”しか生み出さない大量の負の刃が彼女の腕へと突き刺さっていく──。
「ッガァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁアァァァァァッッ!!」
それは、言葉にならない程の絶叫だった。身体は涙を流すことさえも忘れ、ただ単に彼女の痛みをダイレクトに受け止めることに集中している。
──それは”痛い”などという言葉で片付けられる問題では無い。……生きているままに自らの肉を無理やり食いちぎられる様な……そんな感覚。
──然し、痛みに耐えた甲斐もあってか五台のゴーカートは見事に近くの池の様な場所に吹き飛ばされて沈む。また、衝撃に耐えきれなかった我らのゴーカートは見事綺麗に静止することとなった。
「あ…ぁ………………っく…………そ……………ぁ……ぁあああああ、ああああああ、ああああっ!!!」
──代償は大きい。右手の幾つかの指はありえない方向に捻れ、右腕全体が黒く変色していた。
ゴーカートから降りた番長は、その痛みに耐えかねてその辺の木に身体を激しく打ち付ける。
そして後に、その場へドサリと倒れた。意識はある…が、問題は彼女の精神が持つかどうか。
──────────その鍵は赤羽にある。
「…………ぅう……………って…ぇ…………………ぅ…………っ………、、、」
幸いといってはなんだが、彼女が右手を犠牲にして衝突を正面突破したために、黒繩の元へゴーカートは帰還しなかった。
彼女たちの位置は黒繩達の元から見て大きな池を間に挟んだ向こう岸。……彼女を安定させるための時間は、まだある。
そして、すぐ近くにはお化け屋敷のアトラクションがある事を目に移せるだろう。
>>89-91
「追っ手は…!?」
さっきから後方を見張っているが、一向に追ってくる気配はない。
いずもの声を聞いて、その方向を見てみる。とてつもなく、嫌な予感がした。
「な……」
愕然とする。なぜなら、5台のゴーカートが連結し、逆走し、自分たちの正面から突っ込んでくるのだから。
こんな常軌を逸した作戦、まともな人間なら考え付かない。相手は勝利の為には本当に手段を選ばないらしい。
しかし、この状況はどうしようもない。チャージすれば吹き飛ばせない事もないが、衝突まで間に合わない。
詰みか―――と思っていたところ、いずもがあれを吹き飛ばすと言う。
「無茶を言うな!そんな、早まるな!!」
いくらなんでも無茶だ。そこまでして、あれを止めようというのか。
だが、止めても無駄だった。これ以外に対抗する術はない。赤羽は、黙ってそれを見ているしかなかった。
―――――――そして、響く轟音と絶叫。思わず目を閉じる。
「―――――と、止まった…?はっ、いずも君!」
助かった。目を開いたら、ゴーカートが吹き飛んでいた。
絶叫し倒れたいずもに駆け寄る。右腕は見るも無残な状態になっていた。その痛みは、想像を絶するだろう。
そんな痛みまでも再現してしまうとは、これは恐ろしいゲームであると感じた。決して遊び半分でやるものではない。
「大丈夫、これは現実じゃないから。大丈夫…!頑張れ…!くじけるな、番長だろ…!」
いずもの肩を支え、励ましながらお化け屋敷へと向かう。
ここで立ち止まっている時間はない。ゴーカートは止まってしまったから、歩いて行くしかない。幸い、すぐそこだ。
追いつかれる前に、いずもの精神を取り戻し、そして、奇襲を成功させて確実に仕留めなければならないのだ。
>>90-92
「ヒャハハハハハハ!!オラオラ逝けェ!!」
暁林が次々にゴーカートを発車させるのを見て高笑い、というか完全にキチ○イ、完全に目がヤバい人のそれだ。
それでも、まだ完全にぶっトンでいるという訳でも無いようで、暁林の呟きに反応してみせる。
「あァ?なんだよいきなり」
「…当然だ、俺の能力に限界は無ぇ」
黒繩の作り出す漆黒の刀剣、妄想によって生み出されるそれは、ただそこにあると『思い込ませている』だけで、実際に作り出しているわけではない、基本的には黒繩の能力は酷く広範囲な催眠であって、そのコストはかなり高いと言えよう。
黒繩は自信満々に『限界は無い』と言って残るが厳密にはそうではない、流石に限度はあるだろうが、それでも大抵の事は出来るはずだ、とんでもない無茶でもなければ。
「作戦でもあるのか?あのクソ共をさっさと捕まえるか、逃げる前にブチ殺せるんだったら何でもいいぜ」
「何より…テメェのその目は嫌いじゃねぇ、『殺ってくれる』って感じがあるからな」
「───ヒヒッ!いい叫び声だなァ番長さんよぉ!!よ〜く聞こえてくるぜぇ!!」
「いくぜ暁林、あの番長はもう虫の息だ、逃げるにしてもその内限界が来る、ゆっくりと追い詰めてやろうじゃねぇか」
コース内…いや、遊園地内全域に響き渡るようないずもの叫び、なんとも甘美な響きではないか、とうっとりとして黒繩は笑い、コースの中を歩き出す。
いずも達を追って、悠々とコースを横切りお化け屋敷へと歩く、この途中で暁林から作戦の説明があれば聞けるだろうし、『仕込み』が必要なら一旦立ち止まってもいい。
今、いずもに大きなダメージを与えた黒繩には余裕があった、自分がハンターにでもなったような気分で、ゆっくりと獲物を追い詰める気持ちでいた。
「オーイオイオイ!!どーしたガンマンさんよぉ!!自慢の指鉄砲は撃ってこねぇのかァ!?」
「…ああ、そんなモン抱えてりゃ狙いも付かねーか!!ヒャーハハハハハハ!!」
>>91-93
「――――っ」
―――とんでもない爆音と共に、改造ゴーカートが吹き飛ばされるのが目に入る。
全てを破壊された代わりに響き渡る絶叫は十分に彼女に『終わりへの近付き』を理解させ、抗いようもない興奮に包んだ。
そして、池の向こうで二人が向かおうとするのは―――
「お化け屋敷、ですか…」
若干の不安と喜びをない交ぜにした表情で呟く。
搦め手がこちらのメインである以上、その手を相手も使ってくるならば圧倒的な不利だと言える。
だが、あれだけの事をして負傷ゼロとはいかないだろう。拳で爆発を引き起こしていたことから鑑みるに、爆発使いが結構なダメージを負っている可能性は大きい。
道を突っ切って追おうとする黒繩に、彼女も続いた。
「作戦ですが、、『正面以外の私の回りを取り囲む様に』出せます?
こう、ハリネズミみたいなイメージで。
…もし作戦が成功しても、もしかしたら思念弾使いが生きてるかもしれませんけど―――」
彼の胸を、そこに刻まれた彼岸花を小さく叩く。
肉体的に死なないという力をもつ、そこに刻んだ刻印を。
「ジャストミート以外なら簡単には死なないので、頑張って下さい
―――私が死んでも能力が続けばの話ですが」
最後は茶化すように言いながら、彼女達はお化け屋敷へと足を踏み入れた。
>>92-94
「ぁ……ぃ…つの…煽り…には、、反応…すんじゃ…ね…ぇぞ……」
途切れ途切れの言葉で、その会話は創造されていく。痛みに身体を震わせる姿はなんとも惨いもので……。
「…………ぁあ…………オレだっ…て…負けてらんねーんだよ。」
────でも。
小刻みに震える身体を無理やりにでも駆動させ、お化け屋敷の方へと向かいながら、いずもは残った左手を学ランが焼け焦げて露出した右肩へと当てた。
───第1前提としてこの空間、そして自らのこの肉体は全て架空のデータであるという事実がある。
『The School Festival』での彼女らは正しく……本物に近い存在である。
でもその本質は所詮データ。この世界で自らの身に何が起きようが、この世界が破滅しようが、元の自分の身体には何一つ影響が無い。
……であれば。この行為に必要なのは、自らの身体を自らの手で壊すという勇気ただ一つ。
──そして赤羽は見事彼女に「勝つ」意欲を与えた。
少し離れててくれ……と赤羽に注意を促して。
「うおおオオオオオオオオォォォォォォォ!!!─────!!!」
バゴン!!ありえない筈の場所から凄まじい爆音が響いた。…………それは、彼女の右肩。
左手に触れられ、能力を行使されたその肩は余韻すらも残す事なく跡形もなく吹き飛んでいて。
──これが彼女の秘策。現実世界では絶対に行う事ができない……このバーチャル空間専用の応急処置である。
……痛みは……無い。痛覚を司る神経ごと強引に”消し飛ばしたのだから”。
尤も、黒繩の能力による痛みは脳を錯覚させるものであるから、 ある程度の痛みは残っているが。
だが、右腕を消し飛ばしてしまった以上、彼女の体が異常を示すのは時間の問題。
このお化け屋敷での奇襲で───決着をつける!!
「…………オレはとりあえず……ここでいいか。」
彼女が身を潜める場所に選んだのは井戸(っぽい仕掛け)の中である。隻腕となった彼女は残りの左手を握りしめて戦闘を待つ──。
>>93-95
「あいつは…!くそ…!」
背後から浴びる黒縄の煽り。人を人とも思わぬような残虐な、悪魔のような人間だと感じた。
これが現実でも、彼は同じような事を言っていたのだろうか。赤羽は、黒縄に憎悪を抱かずにはいられなかった。
だが、相手は確実に勝ったと確信しているだろう。つまりは、油断しているという事だ。その油断を命取りにしてやろう。
「いずも君…これで、終わらせよう」
右腕を消し飛ばし、更に痛々しい姿になったいずもの姿をこれ以上は見ていられなかった。
彼女の覚悟に応えて、この戦いを終わらせなければならない。もちろん、Cチームの勝利で。
お化け屋敷の中に入り、二手に分かれて隠れる事になった。
いずもは井戸の仕掛けの中へ。赤羽は、屋敷のどこかにある小さな空間へと。ここで、念入りに仕掛けを施しておく。準備は万端だ。
屋敷は全体を通して暗く、辛うじて目の前が見える程度だ。
また、入口からしばらく進むと道が二つに分かれている。右がいずもの潜む道、左が赤羽の潜む道である。
屋敷に入ったら、まずはチームを分断せざるを得なくなるだろう。
//おはようございます
二手に分かれたのでDチームの動向によりますが、とりあえず次くらいから2人と2人それぞれに分かれて戦闘……って感じですかね
>>94-96
「ヒヒッ!バカだなあいつら…!超絶にバカだぜ!」
「闇に紛れて不意打ちでもする気かぁ…?こちとら闇の中はホームなんだよ!」
お化け屋敷に入っていったDチームを追いながら、正に悪党の如き発言を連発、楽しい筈の遊園地は黒繩 揚羽という少年の存在でぶち壊される。
「…暁林ィ、テメェ、痛みには強いか?」
その途中で暁林から語られた『作戦』、その全容がどうかはわからないが、予想はついた。
黒繩は再び手の中に漆黒の短刀を作り出すと、暁林に差し出した、先程渡した物よりも何処か禍々しさを増したそれ。
「少し細工しておいた、こいつをテメェの体にぶっ刺せば、テメェの言った通り背中がハリネズミになるようにな…」
「死ぬ程痛いぜ、やるなら覚悟しておけ」
暁林に今手渡した短刀は、ただそのまま使う物にあらず、暁林が体に突き刺す事で体内で刃が分裂し、内臓や背中を貫きながら針山のように生えてくる、という物。
勿論肉体に直接的なダメージは無いが、ただしその痛みは想像を絶する物、内から外からハンドミキサーに掛けられるような地獄の痛みだ、黒繩自身同じ事を自分でしたから、よく知っている。
「『死ぬな』っつーのはこっちのセリフだ、テメェが死んだら作戦が…ああ、もう作戦もどーもこーもねぇか、とにかく死ぬな」
暁林の作戦の手筈を整えて、黒繩達はお化け屋敷に遅れて入場する、子供騙しのシチュエーションと人形が脅かしてくるも、黒繩は意に介さずに。
そして、辿り着いたのは件の分かれ道、そこで一旦黒繩は立ち止まる。
「…闇討ちする気ならどうするか…いや、片腕ブッとんだ奴を連れて歩き回れるか?普通」
「暁林、ここから二手に分かれるぞ、俺は左、テメェは右だ」
「先に片割れがいたら、闇に紛れてぶっ潰せ、闇の中はこっちの方が慣れてるって事を教えてやるぜ」
「それで、片付けたらすぐにもう一つの方に来い、それで合流だ、簡単だろ?」
ここで黒繩は、Cチームと同じく二手に分かれる事を提案した、暁林を単独行動させるのは気がひけるが、開けた場所では無いなら隠密行動で戦闘力のハンデは狭められるし、何よりその為に暁林に短刀を渡しておいたのだから。
すぐに黒繩は歩き出す、彼が向かう左の道は赤羽が待ち伏せるルートだ、暁林はいずものいるルート、勿論話を聞かずに黒繩について行ってもいい。
「…ああ、そうだ暁林、一つ『秘策』を授けておいてやるぜ」
「あいつらアホみてぇに正義感が強そうだからな、テメェは俺程メチャクチャやってねぇし、『俺に脅されて仕方なく従ってた』とか言えば油断してくれる…かもな」
分かれ道の先に進む途中、僅かに振り向いてそんな事を暁林に告げると、もうそれ以降振り向く事なく進んでいく。
後は、暁林の行動によって戦況は大きな変化を見せる筈だ。
>>95-98
立ち去る黒繩。
彼女はその背中を見送ると、小さく呟く。
「………嫌だなあ、無理ですよ」
その言葉は、何に向けたものだったか。
その言葉の直後―――――先程の短刀を、躊躇なく自らに突き刺す。
瞬時に身体中を巡るのは、生きたままその肉体を磨り潰されるような痛み。
一歩、それこそ何か間違えればその精神が焼き切れかねないそれを全身に叩き込まれる。
「死ぬ程には、―――ちょっと、足りないかも知れませんねぇ」
だが、彼女が求める『終わり』には僅かに届かない。
この程度で平静を崩す程、初流香は生半可に終わりへの快楽を見出だしてはいない。
ふと身体を見れば、黒繩に言われた通り、その身体の各所からハリネズミのように黒い棘が姿を見せていた。
「脅された、ですか。自分から言うつもりはありませんけど、これじゃそう見えなくも無いですね」
この暗闇の中で一見すれば、その肉体を刺され無理矢理従わされていると見えてもおかしくはない。
もっとも、その痛みを身を以て知っているいずもはそんな事も考えないかもしれないが。
「さあて、行きますか」
そうして彼女もまたその背を向けて、右側の道へと歩き出す。
作戦の都合上、この狭い空間で二人で戦うのは無理だ。
ゆっくりとその歩みを進め、やがてはいずもが潜む井戸の前にその姿を見せるだろう。
>>99
高天原いずもは────闇に潜んでいた。
正確には何処のお化け屋敷にもありそうな”井戸”の仕掛け。中から手が出て来たり……なんていう感じの類である。周りは提灯やらで固められており、”何か出て来そう”雰囲気を醸し出す。
他に待ち伏せに身を隠す為に使えそうな物はなく、丁度いい大きさであったために其処に隠れた訳だが……問題点があった。
(……この部屋に仕掛けらしい仕掛けはこの井戸だけ……。
────マズイな。……向こうが真っ先に警戒するなら……間違いなく”ここ”だ。)
……そう、彼女が身の隠し場所に選んだ井戸は、明らかに他人の注意を喚起する場所だ。
大抵の人間であれば、こんな不穏な空気が漂っている場所で”井戸”を見れば、間違いなく何かを”察する”。
暁林がその大抵に当てはまるかは不明だが、その井戸が潜み場として”わかりやすい”のは間違いないない。
──────足音が、近づいてくる。
(…………どうする……。
向こうが警戒してしまうんであれば、こんな場所に隠れているのは間違いなく悪手……!
……能力を使うにしてもあと一回が限界……。)
(……待てよ……。───なら、この”奇襲”は必要ないんじゃあないか??)
……左手を凝視してみる。右手ばかりで能力を行使していた為に傷はついていないが、彼女の身に宿る能力の限界は──────近い。
本来ならば存在しているはずの右腕の場所は虚空。
焼け焦げてボロ布になり、自らの大量の血で塗られた無惨な学ラン。能力の限界だけで無く、彼女の身体の耐久自体もかなり厳しい状況だ。
……で、あれば。わざわざ警戒を喚起するこの場に潜んで奇襲紛いの返り討ちを受けるよりは。
「…………………この一撃に全てを賭ける。」
──少女は井戸の上に立って、意を決した。
左拳をあらん限りの力で握り締め、右足で足場をしっかりと踏み締める。
こんな戦いになってしまったのなら、最後くらいは”小細工”が通用しない”正々堂々”の戦いを。
部屋に入る入り口を睨みつけるようにして凝視する。
そして、耳に伝わる────足音は、すぐ其処に。
黒い刃を纏った暁林が何もせずにその部屋に入って来たならば、”ボロ鉢巻にボロ学ランの隻腕番長”は暁林にこう話し掛けることだろう。
「───よぉ、はじめましてお嬢ちゃん。
オレの名前は高天原いずも。見ての通り、もう既に力も残ってない脳筋の馬鹿さ。
そいでもって、最終決戦の前にキミの名前をオレに教えてはくれねぇか?これ程までに追い詰められたのは……久しぶりだからよ。」
こんな窮地に叩き落とされても、そう問いかける番長の顔に浮かんでいたのは”不敵な笑み”、だった。
─────最終決戦が。
”精神的”と”物理的”の攻撃を限りなく精鋭化した2人の能力者の決戦が、今始まらんとしていた。
>>100
満身創痍。
その言葉が、井戸に仁王立ちするその姿を端的に言い表していた。
限界であろう身体から感じられる最後の力―――決死の意志に、初流香はその身体を疼かせる。
(ああ、これも―――終わる寸前の姿もいいものですね)
恍惚の表情を一瞬だけ見せ、彼女は改めてその姿を見据えた。
不意の奇襲を想定していたからこその黒い鎧であったが、触れれば激痛が襲う棘はこの正面からの立ち会いでは能力も相まって悪い武装ではない。
そして、奇襲でない事はこの作戦において彼女が生き残る目を僅かに上げていた。
無論ここで死ぬのは彼女にとっては満更ではない―――自分が終わる快感などそうそう得られぬであろうから。
(でも、まあ、だからといってって感じですよね)
だが、彼女に死ぬなとそう言ってくれた人間が、もう片方の道で待っている。
ならばなるだけ足掻いてみようと、少女はそう思いながら一礼する。
「暁林初流香です。よろしくお願いします」
決戦か。
だが、彼女から出来る攻撃はない。
故に彼女はただ両腕を大きく広げ、『待ち』の態勢でいずもを誘う。
「では、どっからでもかかってきて下さい…なんてね」
>>98
(来る…!どっちだ?)
暗闇の中に赤羽は潜んでいた。仕掛けは万全、後は待つだけである。
これが相手に効くかどうかは分からない。子供だましかもしれない。それでも、やるしかなかった。
着実にこちらに近づいてきている足音。もう少し、もう少しだ。
(ただの子供騙しかもしれないけど…)
まず、黒縄は少しだけ開いた空間に出るだろう。もちろん、そこも暗く、前がよく見えない。
そして黒縄が入って来たら、物音が聞こえる。ちなみにこれは、赤羽が弱い威力で発射する弾だ。
その方向に行けば、ちょうど人が一人入りそうなタンスが見えるはず。
しかし、例え怪しんでそのタンスを開けたとしても、そこに赤羽はいない。代わりに、入っているのは人を驚かせるためのおぞましい姿をした人形だ。
要するに、これはダミー作戦である。偽の人形に騙されている隙に、背後から撃ち抜く作戦だ。
(チャージ、開始…)
思念弾のチャージをこっそりと開始しておく。仕留め切れなくとも、できるだけダメージは与えておきたい。
息を殺して待つ。後は、黒縄次第。
>>101
「暁林 初流香…………ハルちゃん、ね。
……いい名前だ。」
……なんて既に余裕など無いのに漫画に出てくるような格好付けの言葉を吐いてみる。
未だにその満身創痍の風貌に似合わず、彼女の顔に浮かぶのは───不敵の笑み。
強引に右腕を吹き飛ばし、右手に一片に受けた”精神的苦痛”による精神崩壊の危機は脱した彼女だが、
黒繩の能力の本質は「苦痛の錯覚」。右腕が其処に存在していた時と比べれば軽減こそされているが、彼女の脳は苦痛に蝕まれている。
…でも、そんなものは笑みを浮かべることで表面には一切出さなかった。
──最終決戦には、最終決戦に値する決意の顔で。痛みに身を捩りながら戦うなんて、この場では考えられない。
そして。高天原いずもは動く。
「……オレの攻撃を真正面から受け止めに行く奴なんて初めて見たぜ?
…………オレも時間は残されてねぇ。……ったくなんだよそのトゲトゲ、反則レベルだろ。
じゃあハルちゃん……──────”本気で行くぞ”。」
”決戦開始の合図”の言葉は、それまでの彼女の巫山戯たような軽い口調のものとはまるで違った。
大袈裟に言うならば、人が、空気が、その言葉だけで一変するような感覚。お化け屋敷内の空気がピリリと緊張感を孕む。
「……受けとれDチームッ!!…コレがッ!!
オレにできる最後の”爆破剛掌”だァァァァァァァッ!!!!」
────井戸の上から飛躍する。彼女が行った行動は至ってシンプルなものであった。
”真正面突破”──『正々堂々』の体現。踏み締めた右足の裏の母指球に力を入れ、暁林目掛けて思い切り飛躍した。
彼女が携えし武器は依然として変わらず──拳。爆発を起こす事によって凄まじいスピードで高天原いずもの拳は暁林の眼前へと迫る。
──然し。その速度は恐ろしいものであるといえど彼女は攻撃を与えるための”構え”が成っていなかった。
恐らく其れは「右腕」を失った事による二次災害の様なものだ。しっかりとその眼に映すことができたなら、空中に飛躍した彼女の体のバランスが不安定な事はわかるだろう。
────つまるところ今の彼女は、”隙”だらけ。
>>102
赤羽のいるフロアへ辿り着いた黒繩、特に慌てて探している風でもなく、寧ろ余裕を感じさせるように堂々と。
暗がりのなかでもフラつかずに歩けるのは、元より闇の中にいる事が多く慣れているからだろう。そうして黒繩は開けた場所に来ると、一度立ち止まり辺りを見回す。
「───!」
小さな物音が鳴ったのを黒繩は聞き逃さなかった、しかし黒繩はそちらの方に自ら向かう事はない。
その行動は一瞬だった、闇の中でも尚黒い刀を右手に作り出すと、それを物音の方向にノールックで投げつける、タンスには深々と刀が突き刺さるが、何も反応が無いのを見るとブラフかと判断した。
「ヒヒッ…」
だが、こんなブラフを仕掛けている、という事はつまり、『ここにいる』という事だ、黒繩は笑い声を上げた。
「オイオイオイオイ!!いい加減鬼ごっこも飽きてこねぇかぁ!?」
「番長だかもう一人の方だか知らねぇけど、随分と逃げ腰だなぁオイ!!」
「俺はここだぜ!逃げも隠れもしねぇ!さっさと出て来いよ!ツラ合わせてやり合おうぜ!!」
「ああ…それともビビりまくって小便でもチビっちまったか?大丈夫大丈夫、言いふらしゃしねぇからよ!!」
───挑発、紛う事なき挑発だ、そろそろ我慢の限界に近い黒繩は、早い所勝負を決めたいと思っていて、わざわざ相手をこの中から探すのすら憚れる。
故の挑発だが、こんな分かりやすい挑発に引っかかる奴なんているだろうか、当然ながら乗ってやる義務は赤羽には無い。
「…ま、どっちにしろブッ殺すけどなぁ!」
そう言って、黒繩が新たに右手に作り出したのは、真っ黒な大剣だ、巨大で長大、黒繩自身の背丈ほども有る禍々しい大剣を、肩に担ぐ様にして作り出す。
その長さからくるリーチは半端ではなく、横に振るえばかなりの広範囲を薙ぎ払えるだろう───つまりは、挑発に乗らなければこれで辺りを闇雲にぶった斬るつもりだ。
とはいえ、赤羽の作戦通りに黒繩は背中を向けてないにしても、まだ相手を補足出来ていない黒繩は絶好の的、挑発に乗らず隠れたまま発泡してもいいだろう。
>>103
暁林初流香は、能力と性癖、そして痛みへの態勢以外は至って普通の少女だ。
だから、凄まじい勢いで迫るいずもを見ただけでは隙なんて判断出来ず、出来るのは拳が何処に迫っているかを確認する程度。
だから、最後の一撃に対し、初流香が採ったのは。
「う、ぐっ!」
―――――真っ向から「受け止める」事だった。
その掌に、その腕に、その足に彼岸花を宿し、「砕けていない」状態にした肉体で、絶大な衝撃を全て受けたのだ。
当然簡単に吹き飛ばされる―――が、同時に彼女はいずもの拳へと能力を注ぎ込む。
保存したのは、その「勢い」そのもの。
つまり、いずもの肉体は拳に引っ張られる形で止まらずに突き進む。
すると、どうなるか―――進み続ける二人の身体は、背面の壁へ叩き付けられる事となるだろう。
そして、壁に接触した彼女は、その壁にも能力を使い「壊れていない」状態を保存する。
つまり、彼女の身体は壁と拳にサンドイッチされた形となり。
壁といずもの拳の狭間で、彼女に刻まれた彼岸花が次々に崩れ、ゆっくりとその腕が、足が、崩れていく。
だが、その崩れるまでの時間に、彼女はいずもの隙を見つけ出すだろう。
そして、身体に渾身の力を込めて滑らせる事でその隙へ潜り込み、いずもへと「黒い棘が生えた背中を」押しあてようとする。
もしそれが到達すれば、その傷跡なき傷口には数々の彼岸花が咲き―――その短刀に宿された痛みを保存し、いずもを激痛の果てない地獄へと叩き落とす。
だが、能力を解こうと慣性で進み続ける拳がその胸を射抜くまでに終わる保証は何処にも無かった。
ただ、例えいかなる結果に終わろうと。
もし衝突の最中、いずもが暁林の顔を見る事があったならば。
(ああ…やっぱり、想像通りだ―――――
―――――最っ高に、気持ち、イイな―――――)
身体が次々と終わっていく感覚に、彼女の表情が恍惚に染まりきっている事だけは、確かだろう。
>>104
(来た……!)
声が聞こえてきた。どうやら黒縄は余裕の状態らしい。自分達を袋の鼠とでも思っているのだろうか。
チャージはまだ終わらない。タンスに何かが突き刺さる音がした。これは―――バレたか。
だが、まだ相手はこちらを捉えてはいない。あんな安っぽい挑発に乗ってやる事もない。何があろうと、ここで決着をつける。
(早く…!)
チャージ完了まであと少し。こちらも、黒縄の正確な位置までは分からない。だが、派手に音を立てているのである程度は分かる。
今こちらの位置を知られたら終わる。あと少し――――――――――
(―――――――――今だ!)
チャージが終わった。後は、これを黒縄にぶつけるだけだ。ゆっくりと、照準を黒縄が音を立てている方向に向ける。
そこは心臓ではないかもしれない、頭ではないかもしれない。だが、命中すればその部位が使い物にならなくなる程の威力はある。
集中する。そして―――――――――――放つ!!!
「吹っ飛べ、お前なんか吹っ飛べええええええええ!!!!!!」
蓄えられた力は10本の指に収束する。そして、一つの大きな閃光となって、今、黒縄へと向けられる。
それは、黒縄を飲み込まんと、一直線に放たれた―――――!
>>105
「…………押し…………切れェッ!!!」
拳を握り締め、暁林目掛けて突撃した時点で、実を言うならば”高天原出雲”としての意識はその身体にはもう存在していなかった。
痛みに蝕まれ、身体の一部を失い、自らの血を自らに浴びる……。
……現在の彼女は別に言葉で表現するならば「ただ能力を行使するガラクタ」だ。
全身を襲う苦痛を感じない為にも意識を”ただ能力を使う”という事だけにシフトする。
──故に、その拳を携えて暁林に突っ込む、という動作以外彼女は特に変わった行動を起こさない。意識なんて存在せず、爆破する事だけに特化した”機械”。
「──…………、………………、…………。」
そしてそんなたった一つの役目を終えた”機械”が行き着く先はただ一つ────”終焉”。
暁林が黒い棘を彼女の肉体に押し付けようが、否、もしその拳が暁林を貫いていようが、恐らくそれは必然だった。
凶器を搭載したゴーカートの軍団を吹き飛ばし、右腕が右腕としての機能を果たす事が出来なくなった時から、確定していた”運命”である。
暁林の能力《彼岸の囚人》によって「勢い」だけを固定された左腕だけが動く。
隻腕の少女の死体は、そんな左腕に情けなくズルズルと引きずられるだけだった。
……………………………………………………
────彼女の息が絶える直前。
その番長は確かに目に映した───。
…………暁林 初流香という少女が「終わる」という快感に溺れるような表情を浮かべているのを。
そして、それを目にした彼女の内には僅かな悔しさが残る。
……オレは、特に役に立つ事もなくこんな少女に「終わらせられる」のか、と。
……オレは、バネちゃんにとってただの足手まといにしかならなかったんじゃあないのか、と。
そして、その悔しさの最後には。
───バネちゃん、後はお前に任せた……!!
勝てなくてもいい、全力を尽くせ……!!
──懺悔の対象たる赤羽に向けての激励だけが残った。然しそれは、決して赤羽には伝わらない。
…………………………………………………………
────虚しくその腕に咲いた彼岸花。
自らの血を得て紅く輝くその数輪の花々は、高天原出雲という少女の”終焉”を静かに彩っていた。
【〔Cチーム〕高天原 出雲---戦闘不能---】
>>106
「──────あ?」
自分の物ではない叫び声、遂に姿を見せた赤羽の方を振り向いて、黒繩はニヤリと笑う。
───次の瞬間、暗闇だった視界を眩い光が包み込んだ。
『吹き飛べ』と、赤羽の想いと全身全霊をかけた一撃、閃光眩い奔流が黒繩の頭部を包み込み、文字通り『吹き飛んだ』。
皮膚は剥がれ、歯は抜けて、見るも無惨な顔になる、どう見たって即死級のダメージだ、最早黒繩の脱落は免れないだろう。
───と、なる筈だった。
「───ヒ、ヒヒ……ヒヒヒヒヒヒ!!ヒャーッハッハッハッハッハッハハッハッハッハッハッハ!!!」
赤羽の攻撃を受けた後で、ズタボロになった黒繩の頭から響くのは、笑い声。
聞き間違いやお化け屋敷の仕掛けではない、正真正銘黒繩が笑っている物で、その証拠に黒繩は笑う度に彼岸花の咲いた胸を揺らしている。
「ヒャハ、ヒャーッハッハッハッハ!!出てきたなぁガンマンさんよぉ!!」
「あーあ、番長の方にトドメをさせなくて残念だが、まあいいか!テメェなら一瞬で終わらせられそうだしなあ!!」
「なあ、そうだろガンマン、だってテメェ、あの番長に戦いを任せてテメェ自身は遠くから豆鉄砲撃ってただけだろ?」
「そんな、自分から攻める事もできねぇクソ雑魚にどうやって俺が負けるってんだよ!?なあオイ!!教えてくれよ!!」
「今のも惜しかったな〜!!もう少ししっかりと胸を狙ってりゃあ勝てたかもしんねーのに!!」
暗闇に響く下衆な声、赤羽に対してこれでもかと罵詈雑言を吐き付けて、黒繩は赤羽の方を見た。
まるでゾンビだ、この状況も、黒繩の顔面も、死んでいたっておかしく無いのに、黒繩はまだ生きている。
…いや、確かに黒繩は死んでいる筈なのだ、本来なら、そうだ。しかし今はそうではない、暁林の能力によって、胸に咲いた黒い彼岸花によって、『生きた状態が保存されている』。
つまり、致死量のダメージを受けても尚、胸の彼岸花が咲いている限りは生き続ける、それが今の黒繩がおかれている状況であった。
「ヒヒッ…!最高の気分だぜ、顔面は痛えし熱いし目ん玉の奥が抉られたみてぇだ、それに上手く喋らんねえが…悪くねえ」
「これでテメェらをブチ殺せるなら安いもんだ、最高だよ、ああ最高だ」
持っていた大剣を構え直す、この距離で、赤羽の居場所がわかっているなら、剣のリーチで外しようは無い、適当に薙ぎはらうだけで当たるだろう。
あとは、体を両断される痛みで赤羽が発狂してぶっ倒れればそれで終わり、いずもが残っていてもその後で殺してやればいい。
…黒繩は気付いていなかった、自分の胸の彼岸花が散りつつあるのを、動けたとしても、この攻撃が最後である事を。それを知らずに黒繩は、この状況を作り出してくれた味方に、最大限の感謝を送る、彼女がいなければここまで高揚した気分は得られなかった。
「───愛してるぜェェェェェェェェェ!!!暁林ィィィィィィィィィ!!!!」
そして黒繩は、無造作にも過ぎる動きで巨大過ぎる大剣を横に薙ぎはらう、お化け屋敷の仕掛けを全てすり抜けながら、傷や破壊を残さずに、巨大なギロチン刃のようなそれが赤羽の側面から襲い掛かった。
赤羽がその刃に体を通り抜けられようと、両断されるような事はない、血の一滴すら流れずに、異常過ぎる痛みだけを残していく。
その痛み、これだけ巨大な刃となれば、体を生きたまま真っ二つにされながら火に焼かれるような物で、この世の物とは思えない物。
だが、もし赤羽がこの痛みに耐えきる事が出来たなら、もしくは大剣そのものを回避出来たのなら、その瞬間に赤羽の勝利は確定する。
何故なら、大剣を振り終えた時、それと同時に黒繩に咲いていた彼岸花は全て散り、その瞬間に黒繩は事切れるから、唐突に、糸の切れた人形のように。
>>108
「やった……!」
勝った。倒せたと確信した。いや、普通はそうだ。あれがまともに命中したのを確認して、倒せたと思わないはずがない。
あのいけすかない、腸が煮えくり返る相手を倒した。あとは、いずもの救援へ行くだけ。
――――――――の、筈だったのに。
「え………?」
笑い声。馬鹿な、そんなはずはない。間違いなく命中した。倒したはずだ。
だけど聞こえてくるのは間違いなく黒縄の笑い声。そんな馬鹿な、それこそ幽霊の仕業ではないか。あり得ない。
「な、なん……で…」
罵倒雑言も耳に入っては来ない。これで黒縄が生きているという事実に、ただ恐怖を感じた。
まるでゾンビだ。お化け屋敷の住人だ。こいつこそが本物のお化けだ。
「ふ、ふざけるな……ふざけるなあああああああああああぁぁぁぁ!!!」
錯乱したかのように、赤羽は黒縄に向けて弾を乱射する。狙いなど滅茶苦茶、ただ恐怖から逃れるために打ちまくった。
「倒れろ、倒れろ、倒れろよおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」
その場から足を動かす事はできなかった。ただ、迫り来る黒縄に攻撃をし続けた。無意味だというのに。
「あ…………」
そして、何故か体が宙に浮いているような感覚がした。最期に見た光景は、上半身が下半身から離れ、地面に落ちる―――という幻覚だった。
「な、なん…で…」
もちろん現実でそんな事はない。赤羽が突然倒れたようにしか見えないだろう。
しかし赤羽本人はそれを認知する前に、意識を閉ざした。
敗因は、 初流香の能力の正体を察知できなかった事だろう。少しでも早く察知して、先に倒せていれば結果は違っていたのかもしれない―――――
/>>109 最期に追加で
【〔Cチーム〕赤羽 卓---戦闘不能---】
>>107
「――――――――」
いずもの一撃が初流香の肉体の各所に与えたダメージ。
それは、彼女の身体に刻まれた彼岸花を全て散らすには十分過ぎるもので、そして全て散るというその意味は。
例えばそれまでに致命傷があったならば、その傷口は容赦ない死を叩き込むということ。
そして、ゴーカートへ向かう時の無理な追跡の最中に彼女の身体を抉った思念弾は、本来命を奪うには十分だった。
―――そうで無くとも、両腕も両足も粉砕され、血を垂れ流すままの彼女が出来る事は既に無かったのだが。
(―――――――――ああ、本当に気持ちイイ)
そんな状態でいずもの隣に倒れ伏した初流香はただ、自らに訪れた死の快楽に酔っていた。
自分が、いかに仮想現実とは言えど『本当に終わる』感覚。
言い表せないような凄まじい快感の中で、彼女はゆっくりと意識を手放そうとして―――
「…………黒繩、さん」
―――ふと、耳に黒繩の絶叫が届く。
最期に耳に届いたその言葉に、一瞬だけ女の妖艶な笑顔が、少女の柔和なそれに変わった。
「―――遊園地で、デート…ですかね?」
そうして、彼女も静かに目を瞑る。
後はただ、自分が終わり行く感覚から来る絶頂と、小さく、新しく咲いた温かな蕾に堕ちていくだけだった。
暁林 初流香―――戦闘不能
>>109
破壊の後は、全くと言って良いほど無かった。
黒繩の能力は誰も何も傷付けずに終わる、血を流すのは自分だけ、その代わりに苦痛を手渡す、それが黒繩 揚羽の力。
勝利を確信する間も無く、余韻すら無く、タッチの差で黒繩は絶命する、無論死んだとは言ってもここは仮想空間の中、再起不能にまでは至らない。
ただ一つ言えるのは、この男は死すらも恐れず、その瞬間まで戦い続ける、というのが判明したという事で。
倒れたその顔は、最早何者であったかもわからない顔は、確かに嗤っていた。
【[Dチーム]黒繩 揚羽─戦闘不能─】
この戦いは、全ての者が最終的に倒れるという、凄惨な結果に終わった。
先に倒れるか後に倒れるか、それで勝敗は決まる、とはいえ、立つ者のいない勝利は果たして、褒められたものなのだろうか───?
/お疲れ様でした!
───────高天原 出雲【戦闘不能】
───────暁林 初流香【戦闘不能】
……………………………………
…………………………
………………
………
…
実況『まさかまさかでお化け屋敷での戦闘になっちまったこの第二試合!!
井戸部屋での戦闘は───相討ちィィッ!!両者ともに息絶える!」
観客の前のモニターに映し出されているのは、事切れた高天原と暁林の姿だ。
彼岸花で彩られた少女達の体はやがて、開始時と同じように青白い光に包まれる。そして次の瞬間──その光は霧散した。
───モニターの画面が切り替わる。対峙している二人の男はCチーム赤羽とDチーム黒蠅。
……決着はついているようであるが……?
実況『おおーっとこれはぁぁっ!?
二人とも倒れちゃってんなぁー!!…リプレイ画面を!どーぞ!!』
パチン!と指を鳴らすイカした中年男。モニターが切り替わり、先程までの赤羽と黒蠅の戦闘が再度映し出された。
僅かに赤羽の方が早く事切れた……その映像。
実況『…決まったぁぁぁぁあああ!!
皆様もご覧の通り!二試合目の勝者は、Dチィィィィンムッ!!!
苦痛を与える能力とそれを保存できるという素晴らしい組み合わせ!上手くマッチして勝利をもぎ取ったようだなぁ!!
──遊園地でエンジョイしながら死闘を繰り広げた両者にィィィィ……拍手喝采を!!』
「Dチーム WIN!!」という文字が大きくドン!とモニターに映し出された。その下にはDチーム構成員の黒蠅と暁林の顔写真。
実況『これで決勝戦の対戦カードが決まったぞぉぉぉ!!B&Dチームッ!COME ON!!』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇決勝戦◇◆◇◆◇◆◇◆◇
────《STAGE:???》────
Bチーム
八橋 馨【刀模りて刀を成す-RANK.A】
鹿島 衡湘【流動操作--LEVEL.3】
─────────V S ──────────
Dチーム
黒繩 揚羽【有害妄想-LEVEL.3】
暁林 初流香【彼岸の囚人-LEVEL.3】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
実況『対戦ステージはまた後で発表だ!!乞うご期待!!』
実況『さぁあ!!実に何日ぶりだ??運営の不都合で遅くなっちまって悪かったなぁ!!
──お前ら!決戦は目の前だ!気持ち整えろよっ!!
モニター!!COME ON!!』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇決勝戦◇◆◇◆◇◆◇◆◇
────《STAGE:???》────
Bチーム
八橋 馨【刀模りて刀を成す-RANK.A】
鹿島 衡湘【流動操作--LEVEL.3】
─────────V S ──────────
Dチーム
黒繩 揚羽【有害妄想-LEVEL.3】
暁林 初流香【彼岸の囚人-LEVEL.3】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
実況『一回戦、風呂場で凄まじい激闘を繰り広げたBチーム!そしてェ!!精神攻撃でCチームを思う存分に痛めつけたDチーム!!
彼らの戦うステージはぁぁぁぁ!!???』
【モニターに映し出された《STAGE:???》の部分が点滅を繰り返し始め、やがてその部分が露わになる。】
【──────映し出されたのは。】
《STAGE:レジャープール施設》
【えぇ……?とかいう観客のどよめき】
実況『HAHAHA!!……もしかして決戦だから学園都市なんだろ?とかテンプレ思考の奴はいねぇだろうなぁ!!──残念でした!はっずれぇ〜〜!!』
実況『水着なんて存在しねぇ!!
ドン!と敷き詰められたプールは最早、攻撃を邪魔する障害物!!…が!その移動を軽くすべく水上バイクが置いてあったりするぞぉ!!
中央にある流れるプールが主な舞台になりそうだな!』
実況『それでは早速!!お待ちかねの決戦の方へ移るとしよう!!
それぞれの能力が強力で水に強いBチームと
パートナーの能力同士で強烈なシナジー効果を生むDチームの戦いだぁ!!
……Bチーム&Dチーム?──COME ON!!』
STAGE:レジャープール施設
中央に循環型の大きな流れるプールを構えたレジャープール施設。
その他にも大型スライダーなどのギミックは存在するが、他ステージと比べて比較的索敵が行いやすい。
【各チーム開始位置】
Bチーム…東側
Dチーム…西側
中央に大きな流れるプールアリ
死んだ感覚が確かにある。
自分が終わるという実感や、死を目前とした時の
だが、今私は―――生きている。
もしかしたらこのゲームは、自分にとってとんでもなく素晴らしいものでは無いだろうか。
「………はまりそう」
艶かしい表情でそう呟き、彼女は回りを見渡す。
遊園地の次はプール。もしかしたらそんな娯楽施設ばかりなのか、それとも単なる偶然か。
兎に角、チームが変わっている可能性は無いだろうから、近くにまた黒繩がいる筈だ―――そこまで考えて、初流香の思考がフリーズする。
思い出すのは、直前の戦闘で最期に耳に届いた言葉。
黒繩が最期に叫んだ、愛してるというそれである。
(……………いや、あの人の性格だ。どうせマジでは言って、ない、よね)
顔を真っ赤にしながらもそう考えて首を振る。
異常な感性を持つとは言え、彼女もまだ女子中学生である。
思い切り愛を叫ばれれば、流石に動揺の一つや二つもするというものだ。
あの時はそこまで考える余裕が無かったが、今になりそれが押し寄せてきた初流香だった。
「と、とにかくさがそう、そうしよう」
微妙に落ち着きがないままに、彼女は黒繩を探し始めた。
幸い辺りには大した障害物もなく、目的の人物はすぐに見つかるだろう。
/よろしくお願いします!
>>116
「───ったく…ふざけてんのか?オイ」
気が付いた時には、景色は変わっていた。
遊園地のお化け屋敷から、プールへと。
自分の体さえ綺麗さっぱり元に戻っている、確かにあの時顔面を撃ち抜かれ、タイムラグを経て絶命した筈なのに、まるで夢だったかのように別の場所で立っていた。
掌の上で踊らされている感覚を覚えながら、早速苛立ち始めた黒繩は、とりあえず辺りを見回した。
これが『チーム戦の武闘大会』であるなら、おそらくは前の一戦と同じようにそれほど遠くない場所にいる筈だ、彼女が。
(………………)
そういえば、テンションが上がりすぎて何か叫んでいたような気がする…が、何を言ったか忘れた。
まあいいや、と黒繩は歩き出して、すぐ近くにいた少女の姿を見つけ、歩み寄っていった。
「オイ暁林ィ!!」
「さっきは良くやった、テメェも番長の野郎をぶっ倒してたみてぇだなァ」
「今回も期待してるぜ、どいつが来るか知らねぇがぶっ殺してやろうじゃねえか!」
何だか様子のおかしい暁林の事なんてつゆ知らず、荒っぽく声を掛けながら、ギザギザの歯並びを露出して、ニヤリとした表情をした。
/よろしくお願いします
命からがら、鹿島は八橋を背負い浴場のドアに手を掛ける。が、
───浴場から出たその先は今まで見ていたような城郭ではなく、風呂場よりも更に広く開放的な場所、レジャープール施設になっていた。
「……なんてこった」
「…アレ、奴は……何処に行っちまったんだ?」
同時に背中に背負っていた感覚は消え、身軽になった鹿島は消えた八橋が何処にいるか辺りを見渡すが、姿を捉える事が出来ない。
その姿はあの時と同じく水着……であるが、血濡れたままという何ともこのレジャープール施設に合わないようなものであった。
「肋骨が確か2、3本折れた筈…だが、治っているだと?」
「いや、「リセット」されたのか。 このバーチャル空間ならば問題はないというのか……趣味が悪いぜ」
「───ともかく、まずは八橋を探し出しておかなくてはならんな。 だが、この空間が次の試合の場所ならば、運営の奴らは俺の事を期待しているってワケだな…フフフ」
まるで「復元」されたかのように治った前試合に怪我した脇腹を摩りながら、鹿島は八橋の居場所を探しに歩き出す。
そしてこの場所を「生かし」てどう勝負を仕掛けるか考えながらほくそ笑むのであった。
//よろしくお願いします。
>>118
すぅ、と目蓋を持ち上げる、気がつけばここに居た。目の前に広がるのは大型のレジャープール施設、服装は前回の水着姿からすっかり元どおり、近くにそれらしい着替えも見つからない。
内心、ホッとする。意識が覚醒した直後から、もう一度あんなはしたない格好をさせられたらどうしようと若干の不安があったのだ。
「―――…………」
首筋へ手を伸ばし、撫でる。そこにぽっかりと開いた二つの大穴は、今は無いが。
未だに感覚が頭から離れない。深々と突き立てられた死の予告が、思い出そうと思えば直ぐに脳裏に蘇って。
ぞくぞくと身体の中心から全体を走るのは、嫌な感覚だけでは無く、僅かな高揚感が。それを分かると、口角は歪に上を向く。
「…………さて、今回の相手は誰だろうな」
視認はしていないが、先ほどから近づいてくる足音と呟きは再び相見える"相棒"だろう、いきなり敵が近くにいるとは考えにくい。そちらを向く事なく言葉を放つ。
ここに再び立っているという事は、あの時の戦いに勝ったのだ。それよりも先に意識を死へと渡してしまっていたから、確信とまでは至らなかったが、きっとそうだ。
ならば、実力は信頼できる。心からかと問われればそうではないが、それでもかなり大幅なそれは、寄せられる。
「ここはきっと、君の持ち味が一番活かせる場所だろう、鹿島。また期待させて貰うよ」
ふぉんと木刀を振るうのは、背筋をのぼる興奮を振るい落とす為だった。
//よろしくお願いします……!
>>117
キョロキョロと辺りを見回していた初流香は、黒繩を見つけるといきなり動きを止めた。
前回とはまるで違う反応をした彼女は、顔を真っ赤にしながらも一礼した。
「よ、よろしくお願いします」
顔を下げた事で表情を悟られないようにした彼女は、上目遣いで黒繩の様子を見た。
やたら上機嫌そうな彼の態度は、しかし彼の性格を考えれば単純に良いことがあっただけに見え。
まあ要するに、どうやら普通にテンションが高いだけのようで。
(…深い意味は、無いかな…)
それはそれでちょっぴり残念だ、なんて思いながら思考を切り換える。
―――プール。
水というのは様々な状態に変化するものであり、そして彼女はその状態を保存出来る以上、決して相性は悪くないステージだ。
「ええ、今度は―――相手が終わる様も、見てみたいですし」
うっとりとしてそう呟いた彼女は、彼女は、黒繩の胸と自らに再び彼岸花を刻もうとしながらふと表情を綻ばせる。
褒めてもらったのが嬉しかったのか―――上機嫌そうに微笑んだ彼女は、一つの約束を思い出して。
それを忘れぬように、記憶を保存しようと互いの頭にも手を伸ばした。
「これ終わったら、遊園地ですからね。頑張りましょう」
―――尤も、実際にはこれが終われば記憶は消えてしまう。
彼女の能力で保存したとしても、どうなるか―――
>>119
探し始めて数分、自分がいた場所の周辺の適当に歩いていた所、自分の探し人である八橋を見つけた。
その姿からは自分と同じように、前試合の怪我は見えず、戦う前の状態と変わらないものだった。
「おっ…ようやく見つけたぜ、八橋」
「まあ、あの時は援護に回れずすまなかったな…。 否、次こそは援護しよう」
そして八橋から目線を離し、何かを企むようにプールを睨みつけながら、
「ここで戦うならば、君の期待以上の活躍をしてみせる」
「俺が学園都市で一番になる為には、自力だけでなく地の利もなければ今は無理だからな」
睨みつけた先、何かを発見したのか、鹿島は早足でプールサイドまで急ぐ。
何があったのかというと、そう───水上バイクであった。
1人乗りにしては少し大きめ、いや2人程度なら楽々乗れるであろうこの乗り物を深々と見て、操縦席に座る。
「燃料は、あるようだ」
「───どうする? 今度はこちらから仕掛けてみるか?」
こちらから攻めるか、向こうから攻めるのを待つかはどちらでも構わないが、前回とは違う攻め方を考えたらしい鹿島は何かを催促するかのように八橋を見返した。
>>120
「?」
何だか、暁林の様子がおかしいように見える、それがまさか自分の発言のせいだとは思わず、疑問に思うがそれだけだ。
「…あー…そーいやそんな事言ったな、考えとくわ」
約束…かどうかはわからないが、その言葉は覚えている、あの時は暁林を戦いに集中させる為の方便のつもりだったが。
でもまあ、役に立っているし、それくらいならやってやってもいいだろう、と(余り乗り気ではないが)肯定する。
暁林の能力によって頭に咲いた彼岸花、宛らそれはお揃いのヘアアクセサリーのようになって、記憶を保存する───それがこの戦いの後も続くのかは期待出来ないが。
「さて、と…そんじゃ獲物を探しに行くか、暁林」
「わざわざ水に濡れてやるつもりもねぇ、遊園地みたいにゴチャゴチャしてねえし、適当に歩いてりゃ見付かるだろ」
兎にも角にも相手を探す、黒繩の頭の中はそれだけだ。
プールには水上バイクもあるが、相手がどんな手を使うかわからない以上水の上を行くのはリスキーだと考え、プールの縁を歩いて行く事にした。
暁林から提案がなければ、黒繩は歩き出すだろう。
>>122
「―――ありがとう、ございます。楽しみです」
まるで花が咲くように、初流香は笑った。
その笑顔は、まるで普通の中学生が浮かべるような純粋なもの。
彼女が浮かべるには何処か滑稽、だがそれでもその表情は輝かしいものだった。
―――そして、その笑顔が真剣な表情へと変わる。
或いは遊園地の為に、或いは彼女自身の快楽の為に、或いは―――単純に、負けたくないが為に。
暁林初流香もまた、この戦いに全ての思考を傾けた。
「そうですね、行きましょうか」
黒繩の思考に特に異論は無かった。
相手が水上バイクを使用してくるならば、足場は安定している方が好ましい。
まして、敵の能力が分からない現状では安全が重要。不安定な水上は危険だ。
「…でも、その前に」
そうして、黒繩の後ろを追うように彼女もまた歩き出す―――前に、彼女はバイクの現在の状態を保存した。
これで、万が一敵がバイクの燃料を欲しても刻印を消さなければ補充出来ず、勿論このバイク自体も使用出来ないということである。
そして、今度こそ彼女は、黒繩の後ろを歩き始めた。
鹿島と八橋の二人と遭遇するのは、果たして何時か―――
>>121
振り返る、そこにいるのは海パン姿の鹿島だ……思わず、微妙な顔になる。死ななければ、服装はそのままなのだろうか。
「……いや、良い。あの時は僕も君を助ける余裕が無かった、お互い様さ」
「僕も、今度こそ君の助けになれるよう尽力しよう」
動く鹿島を視線で置い、一足遅れ目に水上バイクが目にとまる。成る程、そういうつもりか。
目論見がある程度わかれば、躊躇う道理は無い。何故なら
「ここはどこに行っても地の利を取れるからな……待ち伏せる意味は無いに等しい」
「ならば仕掛けていこうじゃないか、元より前回もこちらから索敵するつもりだったからな」
さらりとそう言ってのけ、迷いなく歩み寄る。服が濡れて動きが阻害されかねないのは、些か不便そうだが。
それならば最低限不便でない程度にしてしまえば良いのだ、肢体の全てを晒さないのであれば、恥じらいも多少は薄れる。
鹿島の後ろに陣取れば、シャツをたくし上げてくびれの部分で結び、腹部を晒す形となる。元より足は丈の短いデニムだ、こちらはあまり心配ない。
あと不安があるとすれば、水を吸って肌に張り付いた袖が、得物を振るう腕に支障をきたす事だが……幸いにも長袖ではない、あまりきにしない方が吉だ。
「今回は暫く君に任せよう、僕は敵を探す事に専念するよ」
そう言って、鹿島にしがみつく形になる。それでも、周囲に走らせる視線には緊張感とまだ見ぬ相手への敵意が満ち満ちていた。
>>124
「メインはお前だ、敵を確実に撲殺出来るのは八橋、お前だけなんだぜ」
「ま、折角こんなに良い天気なんだ…前の試合の悔しさは流してとっとと切り替えていかないとな」
八橋が自分の後ろに座った事を確認して、水上バイクを走らせていく。
水上バイクが走るプールは、学校内にあるような小さめのプールではなく、やはりレジャープールと言ったところか、とても広く、大きなものである。
「バーチャル空間とはいえ、ここまで水の再現度が高いとは……流石最先端と言える」
「フフフ、なかなか楽しいじゃないか」
そう言うと鹿島は一気にアクセルを全開にし、猛スピードで海を駆ける。
これだけの暴音、水飛沫が上がれば敵のチームでも見つけられるだろうといえるスピードでやはり余所見は出来ないのか、前を向いたまま八橋に話しかける。
「いくらバーチャルとはいっても水上バイクが燃料切れするかもしれないからその時は何とかしてくれよ!」
「まずは敵さん方を見つける為にスピード全開にするが、このバーチャル空間を利用する」
鹿島は水上バイクをバーチャル空間の日光がより当たる水域まで移動する。
「例え相手が俺達を見つけたとしても、日光の反射のせいで眩しいと思える場所まで移動…そして、見つけた時に一気に再加速して急襲するぞ、いいな?」
「その為にはこちらも目をよく見張らないといけないけど、視力に自信はあるか?」
周りがチカチカする程の光に囲まれた場所でバイクを止め、後ろを振り向く。
どうやら鹿島にはこの反射光であまり前が見えないようであった。
>>125
エンジンの駆動音と水飛沫の散る音が周囲に散漫する。すぐに辿り着いたのは、光が散りばめられた水、強い光が目に優しくない波の上。
「さて、その時は泳ぐしかあるまい……一応、視力には自信はあるが。ここまで眩しいと流石に厳しいな」
だが努力はしよう、と。眉に沿って掌を額に当て、せめて頭上からの光を遮ろうとする。そうする事で多少は視界も確保できる、そうする事で多少は索敵能力も上がる。
サングラスでもあれば良かったのだが時既に遅し、だ。水上ではどんな物資も調達はできないだろう。
既に、巻き上げられた飛沫によってシャツもデニムも湿り気を帯び、じっとりと重くなっている。戦闘ならば身軽に越したことはないが、我儘は言えない。
じっくりと目を凝らす先に、相手の姿が見えるか、どうか。
>>123-125
暁林を連れて歩いていると、プールの方から爆音が聞こえ、水飛沫が上がっているのが見えた。
このエンジン音は恐らく水上バイクの物だろう…つまり、相手チームはそれに乗っている事が伺える。
思っていたよりもこのプールは広大で、水上バイクで沖に出られてしまえばこちらから手出しする方法は限られる、とはいえまずは相手がどんな奴か確かめる必要があった。
「───いやがったな…つーかオイ、何だあいつら?舐めてんのか?オイ?俺を舐めてんのか?」
「前のあいつらといいよォ!遊ばなきゃいけない決まりでもあんのかよ!?オォン!?」
水上バイクで移動する鹿島と八橋の姿を発見し、その格好を見て黒繩は吠える、水着の男と薄着の女、それが二人乗りでプールを駆けている、それを『遊んでいる』と捉えた黒繩は『またか』と怒鳴った。
前の遊園地でも、相手チームが遊んでいる所を発見した、黒繩はそもそもそういった事をしようとも思わない変なストイックさを持っていたが故だろう。
「チッ…ここからじゃ飛び道具使ってもかわされちまうか…」
「オイゴルァ!!遊んでんじゃねーぞゴルァ!!こっち来いやぁ!!」
水上バイクでプールの奥まで行った鹿島達に接敵するには、こちらも水上バイクに乗るか泳ぐ、もしくはあちらから近付いてくれるのを待つしかない。
とはいえ、鹿島達の姿が光の乱反射で見えにくい場所まで行ったこの時にノコノコ近付いていくのは危険だと悟った黒繩は、まだ戦いやすい地に足をつけて待ち伏せする事を決めた。
鹿島達を大声で呼び寄せるが、黒繩から近付く気はまだないようだ、ゆっくりと作戦を決める時間はあるだろう。
>>125-127
「…ううむ、遊んでいるならいいんですけど」
黒繩の言葉に微妙な表情をする初流香。バイクで爆走する二人の姿は、確かに見方によれば遊んでいるように見えるし、こちらの様子を伺っている様にも見える。
―――しかし、これは彼女が先手を取りづらい状況。
迂闊に近付けず、また光の反射が激しい。目を眩まされれば隙が出来てしまい、彼女の能力が活かせずに畳み掛けられていまう可能性もある。
「……ここは、プールから離れた方がいいかもしれませんね。
いきなり遠距離攻撃するならもうやってきそうなものですし、まずは能力が見たいです」
故に、提案するのはプールから離れるというもの。
長距離攻撃ならばこちらにはあまり手がないし、近距離ならば向こうから何らかの不意打ちや接近を仕掛けてくる筈だ。
どちらにしろ距離を取り、向こうの出方を伺って能力を見極めるのが現状で出来る事だろう。
「………一応、ナイフを頂いてよろしいですか?
普通のとハリネズミ、両方あれば嬉しいですけど」
だが、仮に近距離ならば彼女にも武器が欲しい。
少なくとも丸腰ではまずいだろう、と黒繩に要求するのは、先の戦闘で利用した二種。
ある程度勝手が分かっているからこそ、彼女はその二つを要求した。
>>125-8
「……いや、肉眼で探す必要は無い」
「既に敵は俺らに居場所を教えてくれたようだ、かなりの大声でな」
バイクのエンジンを止め、声のする方を訝しそうに睨む。
そこには黒繩と暁林がいるだろう。
「本当はこちらから奇襲したかった所だが、相手に見つかったとならばどうしようもない」
「少し待ってくれ八橋。 奴等はプールサイドにいる事は分かったが、どちらかに遠距離でも能力が使える奴がいるならばこちらも攻め方を考えなければならない」
「─────そこで、だ。 まずは小手調べをしようと思う」
鹿島が両手を広げ、周囲にある水面から「500ml」分の水の塊を引き寄せる。
「全く……俺らの意図も知らずになあなあと叫びやがって」
そして水の塊を鹿島から5m程離れた辺りでフヨフヨと浮かべた。
「あちらはこちらの姿を見えても正確には分かるまい。 なので本体が何処にいるのか隠す事にする」
水の塊に対して暫く念を送りこんでいると、まるで「両手に押し込まれている」かのように圧力を受けながら水の塊は縮小していく。
「俺の能力製「水鉄砲」だ。 声のする方に当てるから正確に当たるかどうかは分からんが……俺の攻め方を変えようとした憂さ晴らしだ、当たるとマジで痛いぜ!」
爆発力を高めた水の塊は鹿島の声と共に黒繩と暁林のいる方へ一気に飛んでいった。
当たればそれなりに怪我するであろうが、追尾も出来ないその水流をDチームはどう反応するか。
そんな事を考えつつ、再びアクセルを踏む。
「よし、仕方あるまい…八橋、お前が水着でないならばプールサイドでの戦闘は君に任せるぞ」
「俺は水辺の多い縁沿いで戦わなければ本領発揮出来ないんでな」
>>127-129
目を凝らした先に――――――居た。いや、声でも確認できたが、姿もなんとか確認できた。
鹿島が水鉄砲を飛ばす傍、短い間に最大限思考を巡らせる。地の利を活かせ、優位を上手く使え……そうだ。
「どうやら呼んでいるようだが」
「君の言う通り、二手に分かれよう。僕は陸、君は水中で、挟んでしまえば良い」
「……そこで相談なんだが、僕にこれを貰えないだろうか?」
これ、とは水上バイクだ。つまり運転をさせろ、自由にさせろと鹿島に訴えかける。
見た限りでは、相手は固まって動いている。恐らくは個人プレーでなくチーム戦になる、今度こそ本当に。
……しかし、固まっているのなら好都合だ。
「陸に上がるのなら向かう必要がある、君は途中で水に飛び込めば良い。僕はこれごと特攻しよう、幸い向こうには視認され辛い状態だ、多少は脅威を感じさせられる筈だ」
「運転に不安はあるが……なに、車とそう変わらないだろう。直進でスピードを緩めず突っ込めればそれで良い、受け身は多少の心得がある」
つまり、相手が固まっているところを水上バイクで轢いてしまおうという提案だ……それ以外にも、何かありそうだが。
ダメージを厭わぬ特攻は先の戦いで"死んでも平気だ"という意識が浸透した為でもある。しかしそれでも特攻で相手の命を奪おうとするのは、異常に思えるかもしれない。
何はともあれ、鹿島の承諾があれば八橋は主導権を譲り受け、鹿島を途中まで従えたままフルスロットルで水上を突き進む事になるだろう。
>>128-130
「…チッ、そうだな…いざとなりゃこっちから行ってやるしかねぇが…」
───余り乗り気はしない、というのが黒繩の本心であった、何故ならば、わざわざ相手があんな所にいるというのが理由。
光が差し込む水域で停まっているというのは明らかに何らかの意図がある、つまりはそれが既に作戦行動の可能性もあって、その中に突っ込んでいく程馬鹿ではない、と。
「ほらよ、使い間違えんじゃねーぞ」
手の中に二振りの短刀を作り出し、暁林に手渡す、夜の曇空のように真黒な、禍々しい短刀だ。
その内片方は普通のナイフと同じように使用するもの、もう一つは、先の戦いで暁林も使ったもの。
どちらもやはり、対象に傷一つ作らずに、その分だけ激しい痛みを齎す性質、自分に使うのを恐れないのは暁林くらいな物だろう。
───が、短刀を暁林に手渡した瞬間、黒繩は舌打ちと共に暁林を思い切り押し、突き飛ばす。
それは、暁林の提案に乗って一旦プールサイドから離れようとした瞬間だった、もし黒繩の行動が成功していれば、暁林と黒繩の間を分かつように、水流が抜けていくだろう。
「───水……だと……?」
回避した黒繩は、自分を狙ったそれが何であるか確かに見る、そして、想像通りであるなら自分達が圧倒的に不利である事も脳裏をよぎった。
水───水がまるで銃弾のように飛んで来たのだ、水鉄砲と言えば聞こえはいいが、その勢いは正しく拳銃、こんな事自然現象であり得ない。
つまりは能力による産物で、恐らくは水を操作する能力───となれば危険だ、何故なら水ならここにウンザリする程溜まっているから。
「…チィッ!厄介な奴がいるみてぇだな…!」
何はともあれ、黒繩は反撃に出る、この距離でいくら遠距離攻撃をしても命中率は高が知れているが、それでも牽制にはなる筈だと。
自分の目の前の虚空に大量の、漆黒の短刀を作り出す、それらは全て切っ先を前へと向けていて、黒繩が右手を振るうとそれらが全て発射された。
次々に弾幕の様に飛んで行く漆黒の短刀は、隙間が広く命中率が悪いとしても、完全に無視する事は出来ない筈だ、八橋がこちらへ向かっていたなら尚更の事。
黒繩の作り出す漆黒の刀剣は、何かを傷付ける事は無く、血の一滴すら流さない、しかし、その刃は斬りつけた相手に傷の代わりに苦痛を与える。
ただ斬りつけられたり、刺されたりするのよりも遥かな激痛、相手を苦しめる事だけを望むその能力こそが、黒繩の力であった。
>>129-131
ナイフを受け取り懐にしまうと、初流香は改めてバイクを見据えようとする。
バイクは先程から停止しており、向こうも何かを仕掛けて来る様子を見せていた。
「さて、どう来ます―――っとぉ!?」
だが振り向こうとした次の瞬間、その「何か」―――即ち鹿島の水流が飛来する。
黒繩の突飛ばしにより辛うじて難を逃れたが、彼女もまたその能力の正体に思いあたり、嫌な汗を浮かべた。
「水………一杯あるんですけどぉー…っ」
今の一撃―――偶然ならまだいいが、もしこちらをあの距離から正確に狙撃したならば、厄介この上ないだろう。
更に、何度でも原料を確保出来るならば、保存してその大本を断つことも難しい。
向こうが連発してこないのは、連発が出来ないか、はたまたまだ作戦が固まっていないからか。―――水が原料ならば、恐らくは後者。
だが、かといって簡単には攻め込めないのも事実だ。
「………単純な攻めとカウンターなら、どちらが好みです?」
やはり、彼女が取れるのは徹底した「攻め」か「待ち」。
「攻め」は勿論水を操る能力が相手である以上、ホームグラウンドに突っ込んでいく事になるが、大本を一気に叩く事が出来る。
一方の「待ち」はどうしても後手にはなるが、彼女の能力がある以上反撃自体の成功率ならば大きい。
「私はバイクとか無理なので、黒繩さんにお任せいたします」
>>130-2
「成る程、確かに地の利…いや、水の利とも言えるか。 俺は能力に集中するべきというわけだな?」
「OK、任された」
一旦バイクの運転を止め、運転席から移動し、八橋を運転席へ、鹿島はその八橋にしがみつくという形になる。
「まだ飛び込むには距離がある。 そこまでの運転は八橋、頼むぜ」
「……だがっ、その前に…! 来てるぜオイ!」
その時、プールサイドにいる2人から大量の「ナイフ」らしき黒々とした刃が迫り来るのを見て、騒然とする。
しかしその刃はこちらに「真っ直ぐ」進んでいると見て、しがみついた手を直接ハンドルに移してバイクを真横に進める。
「相手も、遠距離行動が可能と、言えるか!」
そしてハンドルを握った手を退け、八橋にしがみつきながら、
「八橋、特攻しても良いがあの刃は俺の水鉄砲と違って刃物だ」
「当たればそれなりに痛いと思うから警戒すべきだが…」
と、悪態を吐き捨てながら両手を左右に振りかざす。
「特攻するならば俺もそれなりに頑張らないとな…!」
今さっきやったように、今度は幾つかの水の塊を鹿島の周囲に浮かばせる。
「刃は切れても、俺の水程の威力は無いと見た」
「あの男がこちらに刃物を向けようとしない程に水塊で叩きのめすだけだ!」
浮かばせた水の塊達は「50ml」程の小さい塊にすぎないが、それらを鹿島は念を込めて、次々と黒繩と暁林に撃ち始める。
「生憎、こちらは周りが水だらけのお陰でリロードしまくりだ…何も心配する事はない」
「八橋、気分が変わった! 俺もカチこませてもらうぞ」
顔をグニャリと歪ませて嗤うと彼はさらに念を送りこめたのか、水の発射スピードをどんどん上げていく。そう、奴等には既に対抗手段は無いのだと「傲慢」したから故か。
>>131-133
承諾は得る事ができた、あとは特攻するのみ―――と、瞬間、大量のナイフが目前に迫る。
「….っ?!……すまない、助かった」
鹿島の咄嗟の判断でなんとか避ける事はできたものの、これは不味いなと渋い顔。物量戦にされると手数の少ない八橋はすぐに追い込まれてしまう。
スピードを更にあげる前、八橋は慈しむように優しく念入りに"水上バイクの前面を中心に撫でた"。それが意味するところは、一度共闘した鹿島ならば気付くかもしれないが。
カチこませて貰う、と聞こえた時、八橋は嗜めるように言葉を綴る。二手に分かれるのは地の利を生かす意外にも意味があるのだから、それを阻まれるのは困る。
「いや、やめてくれ!挟むことで相手のどちらかが必ず背を向けるようにするんだ、隙を作りやすくしたい」
それに―――挟んでいれば、相手が互いを認識する事を阻害しつつ、こちらは正面から味方の状態を確認できるのだ。
全ては言わない、相手に聞こえてしまうかもしれないから。
そろそろ頃合いだ。後ろを見る余裕は無いが、きっと言葉を受け入れて鹿島は水中に留まってくれる筈だ。……この信用が仇となる可能性が、あるかないか。
――――――そしてついに、前面に鈍色の筋を幾つも携えた水上バイクが黒繩と暁林に牙を剥いた。
>>132-134
飛び交う黒い刀剣と水の弾丸、黒繩は飛ばされる水弾を回避しながら攻撃を続けていた。
その内、水弾が幾つか回避しそこねて体を打っていくも、怯む事無く体にダメージを溜めながらも攻撃は続ける。
水弾と空中でぶつかった短刀は弾き落とされ、プールの中に落ちて行く、しかし、水弾が短刀に撃ち落とされる事はないのに鹿島達は気付くだろうか?
短刀を撃ち落とした水弾は須らくそのまま真っ直ぐ飛んで行くのに、短刀が水弾を貫いて飛んで行く事はない、そこに黒繩の能力の特性を見抜く鍵があった。
「チッ!あのクソ共突っ込んで来やがる!頭イっちまってんのか!!」
「だが…これでプールから引き剥がせる!暁林ィ!下がるぞ!奴らがプールから出た所をぶっ倒す!!」
水上バイクに乗ったままこっちに突っ込んでくる鹿島達を見て、その思惑に気付いた黒繩は、これは好機とばかりにニヤリと笑う。
プールサイドの自分達を狙って水上バイクでそのまま突っ込んでくるなら、何であれプールから出ざるを得ない筈、水を操る能力者がプールから出たならやりやすい。
黒繩は暁林に指示を出しながら後退りし、プールサイドとの距離を開いて内陸側へと移動していく、出来るだけ相手をプールから離す為に。
そして、遂にソレは来た、海から襲い掛かる巨大ザメがごとき鉄の塊が、プールから跳ねて襲ってくる。
「来たぞ暁林ィ!!死ぬんじゃねぇぞ!!」
目の前から突っ込んで来た水上バイクをギリギリまで引きつけて、側方に飛び込むように回避、タイミングと方向の判断が良かったのか、『直撃は』免れた。
そう、直撃は───恐らくは先の水弾により知らず識らず脚にダメージが溜まっていたのだろう、僅かに遅れた黒繩の右脚は八橋の能力に掛かった水上バイクに巻き込まれ、無惨な姿と成り果ててしまった。
更に、この回避はそれ以外にも最善とは言えない行動だった、暁林が回避した方向によっては、二人の距離が大きく離れてしまう事になる。
>>133-135
「この、程度なら。無視でいいですよね、黒繩さん」
水の弾丸の連打は、その身体に。
だが、単純な弾丸ならば、その胸を貫かない限り彼女の身体も精神も乱す事はない。
その胸も両手でカバーしつつ、彼女はチラリと此方に迫るバイクを見る。
「了解です…っ!兎に角こっちに………間に合い、ませんか!」
黒繩に返事を返し、そのまま彼女が駆け込んだのはビーチに設置された日焼け用ベッドの下。
勿論、このままならば簡単に轢き潰されて彼女は戦闘不能となる―――このままならば。
「―――『ベッドが壊れていない状態』を保存しました…」
だが、彼女の能力が、その運命を変える。
地面と接触している場所をバイクに向けて保存されたベッドは、バイクにとってはさながらジャンプ台となり。
途中で八橋がハンドルを切ったとしても、僅かな滞空は免れないだろう。
更に、もしハンドルを切ったならば、滞空の隙に彼女は一瞬だけバイクの側面に右手を叩きつける。
それは、落下状態の保存。
バイクは「落ちている状態」を保存され、地についているにも関わらずその車輪は空を切り続けることとなる。
真上をそのまま走り飛んだならばその直後、八橋がハンドルを切ったならば車体に触れた後―――初流香は黒繩へと走り寄ろうとする。
だが、そこには一瞬の隙が出来た―――ある程度の速度があれば、完全に不意を突ける。
>>134
「念入りになでる」。その意図を鹿島は知る事になった。
(撫でる……そうか、これは八橋の「能力」、なのか?)
前の試合もそうであった。八橋は撫でた部分を刃に変える能力者であったということを。
そして、八橋の諫言は「これで動けなくなった奴を狙え」という風に捉える形となった。
「……了解、八橋…今度こそはちゃんと援護をするからな!」
そう言って、水上バイクがプールサイドへ身を乗り上げようという瞬間、鹿島は後ろへバク宙する形でプールの中へ潜り込んでいく。
(まず相手がどんな能力か、詳しく把握しきれていない)
(そしてもう一人の女…彼奴はまだ手札を切ってないし、あのおちゃらけた男だってまだネタはあるはずだ)
「ならば、人類が最も生活に多用すると言われる「眼」を俺は殺さなくてはならないというわけか…!」
プールから、相手の2人…特に足を怪我した黒繩を狙い、手で拳銃のポーズを取ってその指先に「100ml」の水の塊を浮かばせる。
「眼、「両眼」だッ…! お前の刃は八橋の戦いの邪魔になる…!」
そう言って圧力をかけられた水は「黒繩の両眼を抉る」為に猛スピードで飛び出していく。スピードを掛け過ぎた故、誘導性には甘いだろうが、当たれば確実にダメージを与えるであろう。
>>135-137
どうやら一人、巻き込む事に成功したようだ。ダメージがどれほど通ったかは分からないが、与えられたという事実が一番重要で。
「……あとはっ!」
水上バイク全損の衝撃を受けないように飛び降り受け身を取るだけ――――だった、筈なのだが。
『……存しま…た……』と、進行方向下部に微かな少女の声。ちょうど良い、このまま轢いてしまおうと八橋は勢いを緩めないまま、意図せぬ"跳ね"を受ける羽目になった。
「な、これは……っ」
カラクリは分からないが相手の能力か、と考えるまでは良かった。問題はこのバイクから飛び降りなければならないという事実。
これは流石に勇気が要る、何せ勢いを保ったまま数mの高さから跳ばなければいけないのだ。それは、死ぬのとはまた別な恐怖である……しかし、迷う暇はない。
八橋は、跳ぶ。"落下し続ける水上バイク"に見切りを付けたかのように両脚で力強くそれを蹴り、宙を舞う。
バイクに掛けた魔術は見切りを付けた時点で即座に解く。自身の力量は己が一番理解しているつもりだ、もう要らない得物に割く魔力など、ありはしない。
(狙いは流石に定められないか……いや!)
反り返るようにして落下地点を確認しながら、自由落下の最中、次なる得物を早くも撫でつけ始めていた。矢張り手に馴染む得物が一番良い、コレが一番、"やりやすい"。
ニィと笑って、八橋は―――狂気を携えた刃は、獲物に狙いを定めた。
その瞳に捉えたのは、少女が負傷した相方へ駆け寄ろうとする姿。情け容赦のない命を奪うための刃が、そこに突き立てられんとする。
――――しかし、八橋は己の落下地点をコントロールするなどという高等技術は身につけていない。狙いが外れる可能性は充分にあるし、何よりその身体は空中にあり隙だらけ。
刃が届く前に彼女の相方によって何かをされるという可能性も、充分にあり得る事だった。
>>136-138
拙い───よりにもよって脚をやられた。
だくだくと鮮血が流れ、どの部分が痛いかもわからない程の激痛が走り回る、方向は正しく付いてはいるが、機動力はがっくりと落ちているのは明白だ。
歩くどころか立つ事すらままならない、床に臥せりながら黒繩は歯噛みした。
「クソ…脚が…ッ!」
「チッ…!ウザっ……てェンだよ海パン野郎!!」
弱った相手を狙うのは当然の戦法だ、黒繩自身それを理解していたから、自ずと狙われるのが自分だとわかった。
わかった所で、それは『自分が弱いと思われている』事になるから腹立たしく思う反面もあって、複雑な気持ちでもある。
鹿島の撃った水弾を、首を傾げて回避する、目を狙っていた水弾の狙いを逸らして、こめかみに掠らせる程度に済ます事が出来た。
回避出来たなら、次は反撃だ、黒繩は素早く右手に漆黒の短刀を作り出して、鹿島に投擲しようと───
「───ッ!!」
「暁林ィ!!ボサッとこっち来てんじゃねぇ!!」
黒繩の目に映ったのは、八橋が暁林の背後から攻撃しようとしている光景、こっちに駆け寄ってくる暁林は気付いていないか、気付いたとしても対応は間に合わないか。
黒繩は鹿島への反撃を取り止め、素早く上体を起こして左手を暁林へと伸ばす、とにかく腕でも服でもいいから暁林を掴む事が出来れば、左手を引いて暁林を引き倒そうとするだろう。
そうする事で暁林を八橋の攻撃から逃れさせようとしながら、まだ空中にいる八橋に向けて右手の短刀を投擲、突き刺されば盛大な激痛が襲う筈だ。
>>137-139
黒繩の叫びで、漸く初流香は背後の八橋に気付く。
「―――――っ」
必死に伸ばした手で黒繩に辛うじて掴まり、刃の着弾点がずれた。
―――左の太股に走る、鋭い痛み。
だが、刃が届くだけ距離が近いならば。
彼女でも手が届く、この距離は。
「うおおおおあああああ、ああっ!」
貫かれながらもその身体を無理矢理捻り、八橋の身体へと全力で手を伸ばす。
この至近距離であろうと、やはり小柄な彼女にリーチは無く、八橋が咄嗟に退避を選べばその手には触られないだろう。
だが、もし掴みかかる事に成功したならば、八橋の身体を引き寄せながら黒繩の特別製ナイフ―――より強力なそれ―――を突き刺そうとする。同時に能力も発動させ痛みを保存する為に、終わり無き地獄のような激痛が八橋を襲うだろう。
もし八橋が引けば、彼女は黒繩を自分の身体の影に隠しつつ、小さく彼に耳打ちする。
「―――私が盾になりながら、二人三脚みたいに走ったとして。あのバイクに辿り着ける算段はどんな感じでしょうか?」
目で示すのは、先程八橋が乗り捨てたバイク。
彼女の能力で使い物にならなくなったそれは、しかし能力を解けばすぐにでも使用可能な状態だ。
二人とも足にダメージがある現状、バイクという機動力はあるに越した事は無い。
八橋は引くか押すか、そして引いたならば、黒繩は提案にどう答えるか。
>>138-140
「また、あの刃を使うつもりか───!」
「そうはさせまい……水の塊で……!?」
敵の2人が持つのは黒繩が作り上げた黒い刃。その刃は八橋の元へ向かって突き刺そうとする。
その様子を見て、鹿島は再び水の弾を迎撃用にと撃ち出そうとするが、ここで何かの「違和感」を感じる。
「待て、あの刃は何かがおかしい───あの時もそうだ!」
思い出す、水上バイクで突っ込んだ時の刃を撃ち落とす時。
迎撃として撃った水の弾は「ナイフごと」弾き飛ばして黒繩達の元へ「真っ直ぐ」襲っていた事を。そう、あれが「本当の」刃ならば、質量からして水は当たれば自分の考える方向より逸れる、筈であるがあの時は───そう、まるで刃に当たっていないように感じた事をここで思い出す。
「あの黒い刃はただのデザインだと思ったが……いや、そうではない、のか?」
(だが八橋に向けているならば、その刃は少なからず何かの影響を与えるモノ───に違いない!)
鹿島は自分が狙われていない事を突き、より瞑想の奥深くまで意識を集中させていく。
「俺は視界に捉えた水を最大「500ml」操る能力。 ならば……こういう事も、出来ないはずではない!」
そう、それは八橋が乗り捨てた水上バイク。
ついさっきまで水上を駆け抜けたそのバイクの表面には少なからずの「水滴」が存在している。
燦々と照らす中でもタラリと流れるその水滴の数々を鹿島は「捉えた」。
「その流れを、バイクに向けた2人共の「目」に「向ける」……!」
そう念じた時、地面に落ちかけようとした水滴達は途端に方向を変え、先程の如きスピードで2人へ飛び出して行く。まるでバイクからマシンガンが放たれたかのように。
「クッ……ククク、グオオオオオオオオオオ!!」
その視界に捉えて放つ水の攻撃は鹿島の集中力を大いに使うものであり、身を守る事など鼻っから考えないようなものであり、現状無防備な状態だが、それによって得られた集中力は並々なる物ではなく、捉えた水の弾を一身に操り、黒繩と暁林に向かって襲いかかった。
>>139-141
――――――捉えた。得物越しに伝わる柔肌を切り裂く感覚は、確りと伝わった。これで相手は足を奪われたも同然、あとはどう着地しようかと今更な事を意識の端で考えながら。
しかし、現実はそう甘くない。手首を掴まれ、ただでさえ空中で支えのない体勢が崩れて―――いや、それだけでは無かった。
引き寄せられる腕から生えた、漆黒の短刀。意識した瞬間、遅れて脳に届けられる溢れんばかりの痛覚の信号。
「―――ああああああアアアアッ!!!!」
絶叫。今までに味わった事のない痛みが、脳内を焼き切らんばかりに暴れまわる。なんだこれは、なんだ。
痛みで木刀を握る腕に上手く力を込められない、上手く腕を操れない。痛覚以外が伝わらない右腕を左手で強く抑え、頭の中でのたうち回る烈しさを耐えようと歯を喰いしばる。
ここで落ちる訳にはいかない、足は奪ったが決定打には程遠いのだ。落ちるまでにせめて――――そこに届くのは、無常にも"折角奪った足を手に入れようとする"二人の会話。
「………そう、は、させるか………っ」
思考が纏まらない、考えろ、得意な事じゃないか、策を練れ、纏め上げろ。
カラリと木刀を地面に手放す。散漫な思考の中、慣れぬ痛みで素早く攻撃に移れない今、できる事は、なんだ。
左腕を動かす、手を伸ばすのは胸ポケット、其処にあるのは常に持ち歩いている一本のペン……それを手に取り、痛みで感覚のない右の指に"撫でさせる"。
右腕はマトモに動きそうにないが、左腕はまだ健在だ、ならば"大きな的の狙いを外す可能性は少ない"。勿論、痛みでしっかりと狙いを定める事はできないが、それでも。
得手不得手に拘る余裕など激痛でとうに吹き飛んだ、使えるものは使う、それが何であろうとも。精一杯の力を込めて、振りかぶり投げるのはダーツのように鋭く尖る元ボールペン。
――――――その先端に、鈍く光るは千枚通し。そして狙うは、恐らく二人が向かうだろう水上バイク。
どこか重要な部分に刺さってくれさえすれば……動かなくなりさえすれば良い。あわよくば爆発炎上でもしてくれれば楽なのだろうが、流石に今の状態でそこまで正確で力強い投擲は不可能だった。
>>140-142
拙い、この状況は全くもって芳しくない、黒繩だけならまだしも、暁林まで脚を奪われた。
傷の深さで言えばまだ暁林の方が浅手か、しかしチームの二人が両方片脚を負傷したとなると、大きく戦力は低下する。
それにしたって、相手チームの連携だ、前のチームと同じく後衛と前衛の分担をした戦闘向けの組み合わせだが、以前は早々に前衛の戦力を大きく削れたのが良かったのだと再認識した。
「チィ…ッ!」
(あの海パン野郎の能力が一番厄介だ!あの野郎触れなくても水を操りやがる!!)
暁林の言葉に応じて水上バイクを見た時、その瞬間にそこから水弾が飛んで来たのを黒繩は見た。
素早く身を起こし、暁林の盾となる、背中に暁林と自分の分、計四つもの水弾を受けた黒繩は呻きよりも先に舌打ちをして。
暁林の提案はもっともでもあった、機動力を奪われた今、それを大きく補う方法として水上バイクは必要だ、しかし…
次の瞬間には八橋の放ったボールペンが水上バイクへと襲い掛かっていて、黒繩にはそれを止める手立てが無かった、黒繩の刃には、物理的な干渉をする力は無い。
暁林にボールペンを止める事が出来なければ、ボールペンは水上バイクのエンジン付近に突き刺さる事になるだろう、爆発はしないものの、動くかどうか怪しい所だ。
だが、黒繩は立ち上がった、痛み崩れそうな右脚に鞭打って立ち上がり、暁林を立ち上がらせようとする。
「暁林ィ!テメェの作戦に乗ったぜ!走るぞ!!」
「木刀女は俺の刃が刺さってるし、海パン野郎の攻撃はある程度予測出来る!突っ走りゃ間に合う筈だ!!」
これは、暁林にも伝えていない即興のブラフであった、鹿島の攻撃を予測出来るというのは嘘であるし、八橋の迎撃も抑えられるとは思っていない、それに水上バイクに辿り着いたとしても動くかはわからない。
だが、あえてこうして声に行動を宣言して行く事で、相手も妨害をせざるを得ない筈だ、黒繩の狙いはそこにあった。
妨害しにきた八橋と鹿島に反撃をする…そこにこそ勝ち目があると黒繩は睨み、暁林に肩を貸す形で水上バイクへと向かおうとするだろう。
>>141-143
「黒繩さんっ!」
身体を押し退けられ、水の弾丸から庇われる。
今盾になると言ったばかりなのにこれは何だ―――そんな考えが頭を過るが、八橋が取り出したボールペンを見て瞬時に思考を取り戻す。
「まだ、まだぁっ!」
黒繩の身体の影から全力で飛び出し、ボールペンの軌道上に左腕を差し出す。
鮮血が吹き出すが、バイクへと突き刺さるのは何とか防いだ。
それと同時に、黒繩から新たな作戦が提示される。
「―――――了解、しましたぁ……っ!」
初流香は、それを単純に言葉通りに受け取った―――だが、それがブラフだろうがなんだろうが、今やる事は一つ、黒繩と共にバイクの元に向かう事。
肩を組んでバイクへと無理矢理足を向けて―――ふと、左腕からボールペンが落ちる。
「これ、でもっ!」
咄嗟にそれを八橋へと蹴り飛ばす。八橋が能力を解かなければ、それは鋭い凶器のまま―――更に、彼岸花が「蹴られた勢い」を保存したボールペンは、そのまま回収出来ずに何処かへと飛んでいくだろう。
そして、八橋や鹿島から黒繩を庇うような位置に立ちながら、初流香はバイクへと進み始める。
>>142-4
聞こえる八橋の絶叫、それに反応して鹿島は八橋を方へ振り向くが、ナイフが刺さったはずの腕は「何一つ」も傷ついていなかった。
「───やはり、それはただのナイフじゃあない!」
嫌な予感は概ね当たってはいた…が、それを防ぐ事に至らなかった自分を悔やむが時既に遅し。
だがこうしている間にもあの2人はどうにかして水上バイクを得ようと急ぎ出している。今は、時間が何よりも惜しい───!
「既に俺の水の弾は防がれ、八橋だって無事ではない……俺に攻撃手段は用いる事は……」
しかし、鹿島には現在把握できる「液体」を捉える事が出来なかった。今までの水の弾は全て目に狙ったモノであったが、何れも外している、追尾弾だとしてもそれでは「2人」同時に狙う事は恐らく無理であろう。そう感じて、思わず唇を噛み締める。
「俺には、何もする事が出来ない、というのか……!?」
そう口にして切れる唇。悔しさから流れた「血」を感じ、そして鹿島はある方法を閃く。
「知覚すれば、良い……確かに、人の血流なんざ、自分のことで精一杯だ。 とても操れるような代物じゃない」
「だが、相手が「傷」を、「血を流している」ならば、「知覚」し得る事は出来ない事ではない!」
しかし、この知覚はどちらか1人にしか出来ない事は確かであり、どちらかを「選択」しなければならない。
現在、黒繩と暁林……どちらがまだ「足」が動けるのかといえば暁林。黒繩も根性で踏ん張っているが、それは時間の問題であろう───そう判断し、「暁林」を狙う。
「───人間は自分の血液量の1/5を失い始めてから徐々に身体機能を奪われ、最悪失血死に繋がる…と俺は学校で習った事があるぜ」
「なら、その傷から血をどんどん流し出せば、お前も、止まる筈だよなぁ!!」
「「見える」血……ならば、「流れる」血、ならば!!」
「捉える」照準をバイクから暁林に切り替え、再び念じる。狙いは出血した暁林の左大腿部。その傷口から流れる「血」を捉え、暁林の体外にどんどん排出しようと鹿島は顔を顰め、念じる速度を速める。
とは言え、それは初の試みであり、必ずしもそれが最適格な方法ではないにしても、何としても奴等の行動を抑えたい鹿島はこの方法が精一杯であった。
>>143-145
息にぜいぜいと音が混じり、呼吸が乱れる。先程の叫びで喉を痛めたらしい、歯ぎしりながら敵意を剥き出しに相手を睨む姿は、さながら唸りをあげる獣のようで。
結局水上バイクを破壊はできなかったが、それでもさらなるダメージは与えられたらしい。高い悲鳴が耳に届き、舞い散る鮮やかな色彩が痛みで霞んだ視界に映る……背を向け逃げる獲物は、そこか。
次の手を考えろ。"異常なまでに強烈な痛み"も時間が経てば多少は堪えられる、今ならば、考えられる。
饒舌な相方の言葉が高々と聞こえてくる、どうやら血液も操れるようだ。決定打を持つ自分がこの為体を晒している今、それに頼らない手は、ない。
しかし、それは同時に鹿島の今の試みを妨げる事にもなってしまうが……迷う暇など、誰も与えてくれやしない。戦闘において要となるのは、全ての物事を即断即決する判断力だ。
「―――――鹿島!止血を頼みたい、良いか?!」
感覚の薄れた右手で、落とした木刀を無理やりに握り込む。隙を見せるのは好ましくないが、幸いにも相手はこちらに背を向けている、今しかない。
同時に、左手に絡めるのは腰に巻いていた真鍮線。指先を滑らせながらするりと長く取り出して、形振り構わず口まで使い、鬱血する程に強く右手を木刀ごと縛りあげた。
そして最後の仕上げに、余った部分を右肩にぐるりと巻き付け、深呼吸ののち引き絞る。その行動の意味なす所は、つまり。
…………相手からの妨害が無ければ、鈍い音を立てて、八橋の右腕は落ちる。
どくどくと脈打つ血液はきっと鹿島が止めてくれるだろうと"信じて"、左手で拾い上げるのは、木刀を握らされた己の――――――
>>144-146
急いでいる───しかし、それでも大分スピードは遅く、八橋や鹿島が走ったならばすぐにでも追付けるだろう。
だが、そうすることを予測して───ある程度は期待して、黒繩は後ろを振り向いたが、そこに黒繩達を追い縋る者はなく。
舌打ちを一つ、しかし同時にこれはチャンスでもあるのは明白だから、後はバイクへと向かって步を進めるだけだ。
「暁林ィ…今の内、俺の体を『保存』しとけ…」
「それと…俺より先に死ぬんじゃねえぞ…!」
密着した状態の暁林だけ聞こえるような声で、能力の補助を乞う、それは先の遊園地での戦いでもやった、『生の保存』だ。
それさえあれば、たとえ致命傷を食らおうと捨て身の攻撃を繰り出せる───暁林が能力を解除するか、死なない限りは。
故に暁林を生かそうとする発言であるし、今まで暁林を身を呈して守り続けるのも、黒繩にとっては暁林は貴重な存在であるから、便利な能力を先に失う訳にはいかないからという理由に他ならなかった。
バイクへとなんとか辿り着く、暁林の甲斐あって八橋のボールペンを食らわなかったそれは、まだ動く事は叶いそうだ。
黒繩は手早くバイクに跨る、後は暁林がバイクへの能力を解けば、そのままプールへと降りて発進する筈だ。
───だが、黒繩はその前にある細工をバイクに施していた。とは言っても、細工と言うには余りにもお粗末な物であるが。
八橋にも鹿島にも暁林にも、一目見た途端にその水上バイクが異常な形へと変わっているのが見て取れるだろう。
車体全体からは針山のように黒い刃が貫き、生え、真っ黒な刀剣を全体から生やした、正しく凶器と呼ぶ他ないフォルムへと水上バイクは変貌を遂げている。
それは他でもない黒繩の手によるもの、彼の作り出した刀剣をグサグサとめちゃくちゃに突き出して、苦痛の刃に囲まれた改造車へと変えてしまった。
こんなに刀剣を突き刺してもバイクには全く問題なく動く、当然だ、この刀剣は実際には存在なんてしていないのだから。
実際にはそこに無い凶器を作り出し、傷を作らず痛みを生み出す、それが黒繩 揚羽の能力《有害妄想》。その使い方にはこういう物もあるのだと、暁林は既に見た事がある筈だ。
>>145-147
「ええ、勿論です…!」
能力を使え、そして死ぬな。
その二つの要請に一つの答えを飛ばしながら、初流香は密着状態である黒繩の身体に能力を使う。
その胸には直ぐに彼岸花が咲き、黒繩が「生きている状態」を保存する。
その後も必死にバイクへと向かい、その車体へ何とか辿り着くと同時に能力を解除した。
―――途端、がくりと。
膝に力が入らなくなり、その身体が崩れ落ちた。
(―――な、に?)
原因を探して周囲を見回すと、自分達が歩いてきた道筋を辿る様に多量の血が流れ出していた。
―――――ある一点から、その量が明らかに増えている。
その理由に考えを巡らせ、―――やがて、道を遮る為に発射してくると考えていた水の弾丸が全く飛来しない事と結び付く。
(水の操作……『血液も水』ですか…!)
だが、それならば対策も出来る。
バイクに転がるように乗りながら、血液が流れ出ないように左の腕と足の傷口を手で押し潰すように塞いだ。
傷口に彼岸花が刻まれれば、塞がれて「血が流れていない」一瞬が保存され、出血が停止する。
「………あー、きっつい、ですね…」
だが、既に血液を失い過ぎた身体は、激しい運動を受け付けてはくれなくなっている。
バイクが発車すると同時にそれに気付いた初流香は、小さく舌打ちを漏らした。
>>148
「クソッ! やはり、血を流しても…あまり効果的ではない、か」
敵の2人はどうにかしてバイクに辿り着いたようだ。あの黒繩という男はバイクに張り付き、バイクから沢山の「刃」を生やし、暁林は自身の能力で何とか血を止めたようであった。
「最早奴等を止める術は無い、水中にいるならば…俺も危険、か」
「先程とは打って代わって逆の立場か…再び戦力を整えるには今はグッドタイミングだな」
「俺達もそうであるように向こうの戦力もかなり引き摺り下ろしてやった。 再度襲撃するなら俺がやるしかない、が…!」
発車して、プールへと移動する水上バイク。その周りを刃で囲んだバイクから逃れる為に一度鹿島はプールから這い出て、八橋の方へと急ぐ。
だが時既に遅し。八橋の右腕は鹿島が来た時には落ちていた。
「八橋、その右腕は───!?」
その前に止血を頼むと言われた事を思い出し、咄嗟に彼女の傷口に手を添え、静かに念じる。
(今さっきのやり方の応用だ、「捉える」事が出来る分の血液なら抑えられる筈だ)
暁林の攻撃が効いた事なのか、少し焦りから覚めた鹿島は八橋の止血を何とか無事に済ました。だがその間の相手の行方を見る事はできなかったが、精密な能力使用は多大な集中力を必要とする為致し方ないだろう。
「……どうにか、止血はしたが…大丈夫か?」
「相手がどう出てくるか俺には想像つかないが、奴等はどちらも無視できないダメージを負っている」
「この間に、先に戦力を整えるつもりだ」
そう言って鹿島が顎で示した先はレジャープール施設によくありがちな浮き輪やビート板などの貸し置き場。どうやらあの刃を防ぐ為にビート板などを用いようと考えているようだ。
「奴等は移動手段がある故に我々は不利だが、水上に奴等がいるならば俺達と同じように突撃しなければプールサイドに出る事もない」
「────少しだけの休戦だ、八橋の応急処置もままならない…まあ、心配しているのさ」
出来るだけプールから離れる事が今やるべき事だと口にして鹿島は歩き出す。
>>147-148
「有難う、助かる。この状況で失血死は御免だからな」
「あの刃物、かなり危険だ。君は出来る限り当たってくれるなよ」
遠く走る水上バイクを出来る限り目で追いながら、走り寄り処理を施してくれた鹿島に礼を述べる。
痛みがマシになった分、幾らか通常の余裕を取り戻す事が出来た。片腕を失ったのはいたいが、リーチが伸びたと思えば申し分ない。
迎撃態勢を整える鹿島の話を聞きながら、八橋は水上バイクへと目を凝らし続ける。今のこの二人で出来うる策は何か、思考を巡らせて。
「……心配は無用だ、僕は別に死を恐れてはいない。ただ……このままだと負けも有り得るだろう。長引かせるのは、良くない」
鹿島の言葉にかぶりを振る。相手は御丁寧な事にこちらの真似を……いや、それよりも凶悪なマネをしているのだ、ついさっき自分達がした事を踏襲しないとは思えなかった。
大きな痛手を負ったのは何方も同じだ、自分が思い浮かべた短期決戦の案を、向こうが採用する可能性もある。
鹿島に付き従うようにして後ろを歩きながら、目と耳だけは周囲に警戒をばら撒いて。思いついたのは、
「―――前の戦いで、相手を溺れさせていただろう。それは、今回でも出来るか?」
「出来るなら、いい案が有る……君の負担も、大きいかも知れないが」
それでも良いならばと前置きして、語られる。
まず、鹿島が"水鉄砲"などで敵の動きをある程度コントロールして、自分の場所まで誘導させる事。そこで自分があのバイクを正面から迎え撃つ事。
そして、"敢えて安全な場所に隠れておいた"鹿島が、隙の出来た二人の気道を塞ぎ、窒息死させる事。ビート板などは防御に使えば良い事。
――――――つまりは、時間が経てば戦力外になるだろう八橋を囮に使って賭けに出る、と。
勿論、失敗すれば確実に自分は死ぬだろうし負けもほぼ決まる。だが成功すれば、勝てる可能性はぐっと上がるのだ。
乗るか乗らないかは、鹿島次第。
>>148-150
暁林が乗った瞬間、バイクのアクセルを一気に開放しスピードを上げる、まずは鹿島達から距離を置く。
「…チッ…!あの海パン野郎が思った以上に厄介だ…!」
「嫌に頭が回る上に判断力が有りやがる、その上あのテンションが一番嫌いなタイプだぜ…!」
ある程度距離を置いてから、鹿島達を振り向いて黒繩は悪態をつく、こちらの消耗は激しいが、あちらの方にろくなダメージを与えられたのは八橋にだけ、鹿島には全くと言っていいほどダメージを与えられていない。
それだけ、このフィールドが鹿島に味方をしているという事なのだろう、忌々しげに舌打ちをして。
「くそ…やっぱり追ってはこねぇか…あいつら慣れてやがんな…」
「暁林!気をしっかり持ってろ!」
「…どうせここから長引かせてもジリ貧だ、だったら一気に決めてやるぜ…!」
バイクをUターンさせ、プールサイドにいる鹿島達へと照準をセット、暁林に声をかけると、大きく息を吸う。
黒繩は決断した、この戦いは長引かせるだけ自分達が不利になる、ならば一層の事一息に決めてしまおうと。
暁林から何か提案が無ければ、黒繩は鹿島達へとバイクを発進させるだろう、発進したとしても距離が大きく開いているために、鹿島達が作戦を話し合う時間は十分にあるだろうが。
>>149-151
「………同感です、私も多分もちません」
黒繩の傷口にも自分の左腕や足と同じように止血しながら、力無く呟く。
序盤戦での鹿島の攻撃も響いているのか、身体を僅かに動かしただけで大きく息を乱していた。
これ以上長引けば、恐らく初流香は全く活動出来ない状態にすらなりかねない。能力を維持する為に生き延びるにしても、動けなければ水に撃ち抜かれて終わりだ。
対して向こうは鹿島が無傷で残っている上、八橋もまだ動ける―――畳み掛けなければ、じり貧になるのは目に見えている。
「念のため、………もう一本『ハリネズミ』を。………万が一に、必要だと思うので」
突撃を仕掛けようとする黒繩に一つだけ、先程八橋に刺したナイフの補充を要求する。
もし彼女が倒れてもその身体自体を凶器とすれば逆転の目はあるし、相手に突き刺して痛みを保存するならばその痛みは激しければ激しい程に効果を増す。
また、走るバイクに能力を使用し、八橋の刃や鹿島の弾丸でその機能、車体に異常が出ないようにしておく。
―――そして、時間になればバイクは二人へと襲い掛かるだろう。
>>150-2
戦力を回復しようと思っていた鹿島にとって、八橋が出した提案は至極危険なモノであり、そしてリスクが高いモノでもあった。
1人───そう、鹿島1人だけで戦っていたなら絶対に選択しないであろうその提案に、鹿島は迷う。
(あの2人は放っておいても、あの状態なら必ず襲ってくるに違いない)
(そして、俺達もそれに合わせて逃げ回っていれば「普通」なら負ける事はない)
─────しかし、ここはバーチャルの世界。ただの見世物に過ぎないこの試合には、「死」への恐怖が全くと言っていいほど関係していない。
痛覚まで再現しているというのに。
つまり、死んでも失う事が無いという事は、あの2人は恐らく「死」んでも平気な策を用いて来るだろう……詰まる所、特攻というのが合っているか。
「……現実では。 現実であるならば、俺は「君」の意見には反対、いや、君が暴れていようと連れて逃げ回っていたな」
「だが、この世界ならばそんな「死」は関係ないのは俺にも分かる」
故に。故に、鹿島は敢えて八橋の「案」を受け入れる。そう、相手に「死」への恐怖が無いように、鹿島にもある筈が無いだろうし、同じく八橋にも無いのだろう。
「だが、これは「戦い」だ。 君が戦闘不能になって俺が勝っても、それはただの勝ちじゃない。 俺の求める、完璧な勝利じゃない」
「君を囮にするつもりはない。 「2人」で勝つ事がこの戦いで求められるはずだ」
そう言って、プールの向こう側にいる黒繩と暁林の方へ向き直す。片方の手にはビート板、もう片方の手のひらには浮かばせた水の塊。
そしてその水の塊を銃弾で撃ち抜かんとするように、ハンドルを切る黒繩のその両手を狙って撃ち出す。仮に避けたとしても、そのバイクは八橋の方へと向ける為に。
同時に鹿島はプールに向かって走り出す。次の狙いは両方の「気管」、肺を殺す為に再び水の塊を呼び出しビート板を構える。
「八橋、狙いはバイクではなく、2人……恐らく奴等があんなに血を流しても倒れないのは、どちらかが能力を使っているからだ」
「特に……あの女は一番重要なポジションにある、俺の血を流す攻撃も、彼女自身で防ぐ事ができている」
「攻撃するなら───あの女から殺れ!」
既に水を撃ち出す準備はできている、その「100」mlを今か今かと狙いを定めていた。
>>151-153
「現実ならば、こんな案など出しはしない……全ては仮想現実の成せる業さ、しかし、成る程」
「相方がそこまで言うのなら、従うほかあるまい……二人で勝とうじゃないか、鹿島」
そちらを見て、ニヤリと笑う。相手は手負いの獣……いや、牙を振りかざし突進する猪だ。ならば狙いを定める必要はない、正面から叩き切ってやればいい。
切り離した右腕を口で咥えて、左の指で幾筋もの刃を生やす。短期決戦だ、出し惜しむ必要は最早無い。
駄目押しとばかりに髪の毛まで撫でつけて、鈍色は数え切れない量になる。持って数十秒、だがそれで充分だ。
「何方かを狙うのは僕の技では難しいが……努力はしよう」
一番良いのは、両方共に戦闘不能に持ち込む事だが。そこまで高望みはしない、片方だけでも戦闘不能に持ち込めば、生き残った方へと水攻めが待っているのだ。
黒い狂気を生やした水上バイクはすぐ目前だ。このまま避けなければ、直撃――――――する、数瞬前。八橋は動く。
その動作は単純、ただ右に避けて左手を振るうというもの。そして、その動作を黒繩と暁林が妨害出来なければ。
水上バイクに跨る二人の目線の先にあるのは、ギラギラと光を反射する凶器を幾つも生やした、大太刀とも並ぶ長さの"右腕と木刀"。
そして、身体を振り抜いた勢いで宙に舞い上がった、刃の紛れ込んだ長髪だろう。
>>152-154
発進する前に、暁林に応じて漆黒の短刀を手渡す、その効果と使い方は最早言うまでもないだろう。
水飛沫が体にかかる、濡れた服が張り付くのを嫌ってか、黒繩はパーカーを半脱ぎにした。
そうしてから黒繩はバイクを発進させ、どんどんとスピードを乗せていく、水の上で跳ねる車体を抑えるのに怪我が足を引っ張るが、必死で抑えて。
「…グッ…!クソがァァァァ!!舐めんじゃねぇぞオラァァァァァァァ!!」
怒声を張り上げる事で苦痛を誤魔化しバイクを駆る、鹿島が撃ってきた水弾を車体を傾けて回避しながら、アクセルを回す手は緩める事なく。
鹿島達のような、『二人で勝とう』などという言葉は無い、ただ兎に角勝つだけ、ただそれだけを望む、言うまでもないという感情が、戦地へと体を動かせる。
そして遂にトップスピードへと達したバイクは、大きな水飛沫を上げながらプールサイドに乗り上げ、その衝撃を使って跳ね上がる。
まるで弾丸のようになって、黒い刀剣が生えまくったバイクは、立ち向かう八橋の元へと向かう。
それに対して八橋の取った行動は回避、そして反撃、刃と化した自らの体を使った一撃が、バイクを両断せしめんと振り抜かれる。
「───暁林ィィィ!!飛べええぇ!!」
跳ね上がったバイクは操縦不可能、目の前に迫る刃にハンドルを切って回避する事は叶わず、このままならば空中でバイクが両断され、二人の体は地面に打ち付けられる事となる。
その前に脱出しろと、黒繩は暁林に叫んだ、力の限りバイクから飛び降りなければ大怪我は不可避であると一瞬にして理解したからだ。
───だが、それを言った黒繩自身は、バイクから飛び降りる事はなかった。
慣性の法則に従って空中を滑る巨大な質量の上で、黒繩はまず体重を掛けて車体を縦に起こした、こうする事で一振りの『大太刀』に対して、自分の体を回避させる隙間を作る。
縦になったバイクの裏で下半身を地面と平行に、振り抜かれる腕を飛び越すような形で回避すると、続く乱れ髪の刃は残ったバイクを盾にする、いくら数が多くとも、斬れ味が良かろうとも、元が髪であるなら鉄の塊が押し負ける筈はない。
「テメェも……道連れだァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
細い刃をバイクの盾で防ぎながら、それでも物理法則に従いスピードを保って空中を滑るバイク、に引っ張られていく黒繩の体、このまま行けばプールサイドに無様に落下して全身を床のタイルに激しく擦り付けることは当然だろう。
彼自身もそれは覚悟していた、覚悟していたが故の行動だ、『せめて一人とは刺し違える』と。
黒繩は八橋とすれ違う直前に着ていたパーカーを脱ぎ、それを掴んだまま左腕を真横に伸ばし、濡れて重みを増したパーカーを八橋の顔面に引っ掛けようとする。
濡れた事で密着性を増したそれはロープと同じだ、もしパーカーを引っ掛けられてしまえば、八橋の体は黒繩の勢いに引っ張られて、彼と同じようにプールサイドの床に体を激しく擦り付ける事となる。
>>153-155
黒繩がバイクを盾に出来たのならば、つまりそれは絶対の防御を意味する。
何故なら初流香の能力によって、既にバイクはその形を歪める事は無いのだから。
そして、その初流香は―――黒繩に命令された通りに、跳ぼうとしていた。
だが、単に跳ぶにしてはその姿勢は些か奇妙。
両手には黒いナイフが握られ、その身体中にも同じような刃物が生えている。
「―――――――――――――――これで」
―――ただ跳ぶのでは、貧血になり力が思うように入らない彼女は逃げ切れない。
だからこそ、暁林初流香は待っていた。
やる事は単純。前回いずもにした加速の保存を、今回は自分に行うだけだ。
今彼女の身体に残った全ての力を以て、車体から跳ぶ勢いも。
空中で、尚も凄まじい馬力を放つバイクの勢いも。
盾となったならば、それに押し当たる、八橋の髪の勢いさえも。
全て、全てをただその身を弾丸に変える加速装置として利用する。
「―――――――――――――――――『終わり』だああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
―――――そして、彼女は"翔んだ"。
狙うのは勿論、後方で水を構える鹿島。
バイクの速度だけではない、今彼女が持ち得る全ての加速を用いた「最高速」だ。
その速度に対応が遅れ、僅かに掠りでもすれば、漆黒の刃は彼女の能力も相まって彼に無限地獄の激痛を叩き込む―――いや、下手な自動車より速度が乗った一撃だ、当たるだけで命に関わる可能性すらある。
だが、それは先程鹿島が言い表したように正しく『特攻』―――冷静に対応出来れば、その勢いで彼女は地面へと叩きつけられる。勿論能力は解くだろうが、構えられた両腕は見るも悲惨な状態だろうし、放っておいても直ぐに限界が来てその命は尽きるだろう。
>>154-6
「どちらも特攻と、いうわけか」
敵の2人は鹿島の予想通り、死をも恐れぬ突撃を行う。
1人は八橋に、もう1人は───自分に。
味方と共に勝利を分かち合う事こそがタッグバトルと信じる鹿島にとってこの試合だけは勝ち残りたくはないと感じていた。
「まさか、俺を狙って突撃するとは……な!」
本来ならば、敵の2人は共に八橋を狙いに行き、其処を自分が水を操って窒息死させるという流れにしようと考えていたが、暁林はこちらに跳んで襲いかかるという予想を超えた攻撃を仕掛けられてしまった。
(だが、俺と八橋はある程度離れている……が、それ以上に奴が俺の方へ止まる事を知らない!)
そしてその速度はあの水上バイクよりも速く、鋭いモノであり、その先で握られた「刃」は一刻も早く鹿島を殺さんとばかりギラギラと光を反射する。
「気休め程度かもしれない……が、持っておいて正解、だと思ったぜ……!」
だがこちらにも何とかして守れる手段が一つだけあった。とはいっても、彼女の勢いを止められるかどうかも分からない応急策である事に違いはないのだが。
「ビート板……で、奴の真正面に、垂直にぶつける!」
ビート板を自分の正面に投げ、そのまま浮かばせた水の塊を後ろから「押す」ように撃ち出す。暁林からなるべく自分の姿が見えないようビート板を平らにして。
(後は…前試合と同じ事をする…だけ!)
ビート板は水の勢いだけに任せ、自分の「血流」を操作する。「体内」の血流を操作できるのは自分自身のみであり、他人に行使する事は不可能であるが。血流を強制的に早め、一時的な興奮状態を作り出して、そのまま鹿島は真横へ跳んだ。
しかし、それは咄嗟にした事であり必ずしも当たらない、というわけではなく気休め程度の補助。
横に跳ぼうとも、足先にでも当たれば必ずダメージは入り、そのままショックで気を失うかもしれない。
そして血流を捉えたしまったので、彼には液体を用意出来ない為に次の攻撃を用意する事が出来なくなった。そんなデメリットを今更思い出しながら、八橋をサポートする事が出来ないと悔やみながら暁林の攻撃を無防備で見ざるを得なかった。
>>155-157
渾身の一撃は、バイクの車体で完全に防がれた。これは
(まずい――――――っ?!)
そう思った瞬間には既に、黒繩が伸ばしたパーカーが首にぎちりと引っかかって。巻き込まれた勢いそのままに、八橋の身体は引き倒される。
「が、…………ぐうぅっ」
瞬間的な窒息に脳へと巡る血流の圧迫、更には全身と後頭部を強かに打ちつけられて、呻く。視界が明滅を繰り返して、状況を把握出来ない。
ガンガンと脳内を暴れる痛みの中で、聞こえるのは遠く鹿島の声と、特攻する少女の叫び。そうだ、まだ終わっていない―――二人で勝とうと言葉を交わしたのだから、最後の最後まで、戦わねば。
まだ魔力が切れるまで十数秒ある、これが避けられれば自分はもう"戦う術を持たない生身の女"だ、無力なただの人間だ。そんな存在になど――――
「――――なって、たまるかああああああっ!」
最後の力を振り絞り、八橋は上体を無理矢理に起こして左腕を振るう。握られたままの"大太刀"も、一拍遅れでぶおんと鈍い音を立てて空宙を進む。
狙うのは黒繩。何処でもいい、当たって傷を負わせられればそれで良い。明瞭でない視界のまま、とろりと首筋を滴る生暖かさに気付かないフリをして。
――――――そこで、丁度、十数秒。
魔力が切れる、刃が全て消える、失血による眩みで糸が切れたかのようにどさりとその上体が地面に臥せる。
果たして、黒繩の身体に刃は届いたのだろうか。
>>156-158
「──────……」
砕け散る音、跳ねる体、世界が反転して流れて行く…そこまでは覚えていた。
気が付けば自分の体は横たわっていて、熱く燃えるような熱さと冷たい氷のような寒気が交互に襲い掛かってくるような、奇妙な感覚が身体中を襲っていた。
痛い、という感覚は不思議と感じなかった、ただ、体の重さは感じない、どうにも体は動かない。
それも当然の事だ、何故ならば、黒繩の体は胸から袈裟懸けに真っ二つに両断されていたから。
八橋の最後の足掻きが、勢いの乗った黒繩の体をズッパシと斬り裂いて、上下で離れた体が転がっている。それでもまだ生きているのは、暁林によって『生』を保存されているからか。
しかしそれも長くは続かない、体の切り口付近に数枚花弁を残すだけの彼岸花は今にもその全てが散りそうで、それは黒繩の『残り時間』を示している、そしてそれはもう数秒も無い。
黒繩はそれに気が付いた時、あと数秒で自分が何を出来るかを考え、それからふと思った。
───『頭の彼岸花が無事で良かった』と
(…何を考えてんだ俺は)
暁林によって咲いたもう一つの彼岸花、黒繩と暁林のお互いの頭部に咲いたそれは、この大会での『記憶』を保存しようとした暁林によるもので、これが例え残ってたとしても記憶が残るとも思えないが。
他人との思い出なんてどうでもいい、と切り捨てる事が出来た筈が、何故だかそんな事を一瞬脳裏によぎった。
「───ぁア……が…ィ……ィィ……!」
最後の力を振り絞り、死の寸前に黒繩が作り出したのは、一振りの刀、漆黒の日本刀だ。
それが、鹿島へと向かう暁林の目の前に作り出される、もし暁林がそれを掴む事が出来たなら、鹿島が躱した分のリーチを補える筈だ。
とは言っても、それによって鹿島を攻撃したとして、与えられるのは激しい苦痛くらいのもの、物理的なダメージを与える事は出来ず、満身創痍な暁林では、鹿島ぎ力尽きるまで持ちこたえられないかもしれないが。
それでも、意地があった、報いてやりたいという気持ちがあった。
前の戦いでは暁林のお陰で勝てたのだから、ならば今度はこちらの番だと───しかし、暁林の正否に拘わらず、黒繩は彼女よりも早く、息を引き取るだろう。
>>157-159
此方の特攻に対し、鹿島が選択したのはビート板による防御。
それと同時に、彼はかなりのスピードで横へと跳んで。
どうやら命中はしそうにない、そう理解した初流香の力は既に限界で、ゆっくりと全ての彼岸花が散っていく。
もし鹿島の身体の何処かに当たったとしても、感覚すら吹き飛びつつある彼女には理解出来ないだろう。従って、恐らくそれは当の鹿島にのみ分かる事となる。
―――だが、ただ一つ。
終わる筈だった彼女の運命は、鹿島が取ったその防御策により小さな変化を迎えた。
打ち出されたビート板越しの水に「押された」彼女の、既に保存が解けた勢いが僅かながらに減衰し、更に着弾点が柔らかい水とビート板になった事により―――
「―――ねえ、」
「最期のオマケなんて物は、お嫌いですか?」
―――黒繩が最期に残した黒の日本刀を、その手に握り締めるだけの時間を与えた。
ビート板からの反動を活かして身体を反発させ、改めて鹿島へと向き直る。
「わたしは、いまのいままできらいでしたけど」
「こくじょうさんがのこしてくれたこれのおかげで、」
「―――――すこしだけ、すきになれましたよ」
うわ言のように言葉を紡ぎながら、死力を振り絞ってそれを渾身の力で振り抜き―――彼女はそこで、遂に限界を迎える。
元から少なかった血が瞬く間に左腕の跡から流れ出し、その身体から体温が無くなっていく。
最期の最期、辛うじて残った意識で、彼女は黒繩と八橋の決着、そして鹿島の生死を確認しようと目を向けて―――――
>>158-160
(二の太刀……あの男が、仕掛けていた、というのか!?)
その衝撃はやはり想像したくないモノだった。
確かに初手の刃は避ける事が出来た……が、暁林はそれを踏まえて二の太刀を用意してあったのだろう。そう視覚出来た時は既に遅く。
「……ッ、ガァアアアアアアアアアア!!!???」
右肩から左の脇腹を切り裂く一閃の袈裟斬り、と覚えるような感覚。思わず咄嗟に切り裂かれた部分を触り、実際には斬られてない事にホッとする───が、故にその痛みのせいで現実に引き戻される。痛いものは痛い、これはバーチャル世界においても変わらないものだった。
「ガッ……ッ……グッ…………!!」
しかし、倒れる訳にはいかなかった。実際、この4人では一番ダメージ疲労が少なく、食らったダメージはこの一閃のみ。相方の八橋は右腕すら無くしているのにも関わらず、自分が倒れる訳にはいかないと頭の中に言い聞かす。
だが、血流操作のツケがここで回り始める。強制的に動かされた血の流れは元に戻そうとするべく鹿島の身体に鞭を打つ。外傷はないとて、体内のダメージは一気に身体を貪り尽くす。
思わず膝をついてしまう、うつ伏せに倒れんとフラフラながらも足腰に力を入れ踏ん張る。
そして隣にいるであろう、暁林から流れる血を塊にして浮かばせながら、八橋と黒繩の元へ歩き出す。
「俺は……戦っているか……八橋ィ…!」
「俺は、戦っているんだ…2人で戦っている筈なんだ───!!」
既に鹿島は暁林に目を向ける事をやめてしまっていた。もう其処まで考える事も出来ないからである。
何度も何度も視界がボゥとボヤけ、平衡感覚すら見出せなくなる程の痛みが身体中に走りながらも、鹿島の右手の人差し指に「50ml」程の血の塊を浮かばせて黒繩に狙いを定める。
「ク、クク、ククク……其処の男、随、分、と痛い目遭わせて、くれ、たな」
「フハハ、今度は相手は自滅しねぇ…この試合だけでも、この俺の手で倒す……!」
そして人差し指から放たれる血の一撃。狙いは───黒繩の眉間。相手に対する敬意かそれとも皮肉か、「暁林」の血で作り上げた血弾を「黒繩」に向けて撃ったその顔は度し難い程の醜い笑顔だった。
────その弾が当たろうと当たらなかろうと、既に余力はなく、鹿島はそのまま尻餅をつく。ただ、その血弾の行く末を見守る事しか出来なかった。
>>159-161
後頭部から流れ続ける血液と併せて漏れ出すようにボヤけていく意識、薄ぼんやりと聞こえてくるのは鹿島の叫び。
地面に小さな血だまりを描き、散漫として、纏まらず、流体のようにとろとろと回り続ける思考の中で、はたと気付く。
(――――――ああ、そうか、君は)
前衛一辺倒な自分に合わせ、後方支援に徹底してくれた相方を。自分が役立っているか明確に知る事が出来ない後衛を続けてくれた鹿島を、思う。
そう言えば、一言も"君は充分役立っている"などと言ったことは無かった。乱戦が始まると直ぐに仲間を気遣う余裕が無くなるのは、悪い癖だ。
くつくつと喉をならして、八橋は口を開く。そろそろ意識も危うくなってくる頃合いだ、気力が保つ内に、せめて伝えなければ。
「…………勿論だ、鹿島。君と組めて良かった」
最早、戦闘の結果がどうなったかを気にするまで思い至らない。ふわふわと漂うような感覚とともに、霞んだ視界に映る空を見る。
嗚呼、なんて綺麗な青空だろうか。現実では無いかと疑う程に深く澄んで、浮かぶ太陽が眩しくて――――――
――――――八橋馨、戦闘不能
>>160-162
(……ここで終わりか…まあ、本当に死ぬ訳じゃあねぇんだ…よくやった方か…)
(…なァ…暁林ィ……思い出したぜ、あの時言った事…)
(……出来りゃあその部分だけ忘れてえなあ───…)
薄れゆく意識の中、ぼんやりと思う事は、恨み言でも怒りでも感謝でもなく、今自分が置かれている状況をただ受け入れる。
黒繩 揚羽とはそういう男だった、結局の所怒りや怨みなんて『その時の気分』の一つであって、真に思うのは微睡む思考での現在この瞬間だけ。
怒りが芽生えたなら怒る、死を迎えるなら受け入れる、たったそれだけの刹那的な心に忠実に、ただそれだけで生きているだけだった。
故に悔しさも何もなく、何かを話しかけているように見える鹿島に返すのは、特に何か考えた訳でも無い言葉。
「…今更ヒール面…してんな……キャラがブレてんだよ…三下ァ…!」
───その最後の瞬間まで、人を蔑んだ煽り言葉を残して行くのは、流石と言うべきか。
───【[Dチーム]黒繩 揚羽─戦闘不能─】
>>161-163
見えたのは、自分と同じように倒れ伏す八橋と黒繩、そして倒れずに
(……しく………、じり。…ました、……か…)
どうやら、自分の攻撃では仕留めるには足りなかったらしい。
もっといい手はなかったか―――考えようとするが、既に思考も擦りきれつつあった彼女にはそれも無理な事だった。
その確認も済めば、元より限界だった五感もそこで途切れ―――それにより鹿島が黒繩を撃つ場面を目撃しなかったのは、ある意味幸運だったかもしれない―――意識が静かに消えていく。
(……黒繩さん、覚えてますよね)
―――だが、完全に消失するその前に。
唯一、彼女が命を落とさんとするこの瞬間にも、未だ輝く彼岸花に誓った約束を、心の中でなぞった。
恐らくはこの戦いが終わればその記憶は消えて、二人の間柄はただの顔見知りへとリセットされる。
そんな事を何となく察しながら、それでも彼女は最期の最期で―――――――――
(…………………ゆうえんち、たのしみに、してますから)
そんな小さな約束に心踊らせて、笑顔でいた。
暁林 初流香―――戦闘不能
>>162-4
血弾を狙った黒繩からの蔑んだ煽りは既に鹿島の耳には届かなかった。というより、最早聴けないほどに脳内が痛覚と焼け焦がすような熱い感覚のせいでまともに機能していないのだ。
「フゥーーーーーーーーー………………」
長い溜息の後、まだジリジリと続く痛みを落ち着かせんとばかりに再び深呼吸をする。とはいえ、もう「遅い」のだが。
その時、遠くからぼうっと聴こえる八橋の声。鹿島は聞こえずとも、何となくそれがどういう事なのかハッキリと察する事ができた。
「……良かった、俺は、役に立てた、のだな」
「俺は学園都市一番を狙っているのだ…この程度、こんな妄想な痛みが通用するとでも───」
痛みを堪えて八橋の方へ歩き出そうした直後、プチっという音が鹿島の脳内に響き渡る。
─────瞬間、鹿島の意識は一気に死の忘却へブチ込まれた。
この戦い、幾度となく…休む事なく能力を行使し続け、その上に自身の血流を操作、その後の能力行使が鹿島の脳にトドメを刺したのだ。
限界は既に振り切っていた。Level3の能力者の脳ではこれ以上の生命活動でさえ許されなかった。故に徐々に、聴覚、嗅覚、触覚、視覚、喉の奥から溢れる自分の血の味さえ───失われていく。
積み上げたジェンガが一番下から崩れるように、「鹿島 衡相」という身体が、脳が崩れていく。
「───────────────────」
声にならない声が、レジャープール施設に響き渡り、鹿島はうつ伏せに倒れ込む。だが、その声を聞き取る者は既にいない。
恐らくこの光景を知る者は「視聴者」のみである筈であろうと。
【Bチーム 鹿島 衡相 再起不能】
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
───決着の寸前。
観客席は綺麗に静まり返っていた。観客席の静寂とは反対に、確りと彼らの耳に告げられる戦闘の結末。
……直ぐには反応する事は出来なかった。それまでの戦闘が凄まじくて、正確には反応が”間に合わなかった”という表現が正しいのかも知れない。
モニターを見てみるとしよう。勝ち負けの判断ができる材料は……僅か一瞬。
……然し。最後に観客の眼に焼き付けられた男の名前は────────。
実況『……最後に……立っていたのは………!
──いや、個人だけを賞賛するべきじゃあない。……最終戦を制した組は───!!』
バン!とモニターに映し出されたのはレジャープール施設での戦闘を制した二人の覇者。
”刀の造形”と”液体の操作”を司る二人の学生の名だ。
そしてそれは直後に実況の口からも伝えられる。──本日最高とも言える程の大声でシャウトして。
実況『……優勝は。───Bチィィィィィィィィィム!!!
決着はほんの数秒の差!!然し確かに”息がある状態”で”誰よりも長く生存していた”のは鹿島だぁぁぁぁ!!』
オオオォォォォ────ッ!!!
実況の言葉の後、観客席は凄まじい歓声と惜しみない拍手に包まれた。
全員戦闘不能……という形に落ち着いた今回の決着であるが、観客の胸の内に滾る戦闘意欲を駆り立てた試合であるのには間違いない。そういう意味での……感動を与えてくれたという意味での……最高の賞賛。
実況『Bチームの二人!!!優勝おめでとう!!
………いや!優勝したのが彼らというだけで俺たちの心を滾らせてくれたのは全チーム!!
本当にありがとう……!!!』
この試合を目撃している誰もが彼らの戦いを賞賛していた。
──そして『The School Festival TOURNAMENT』第一回大会は、次の実況の言葉を以って終了とされる。
『観ていてくれたみんなもありがとう!!
君達もこの大会の影の立役者だ!!本当にありがとう!!
───そしてぇ!!
……さようならァァッ!!』
パチン!!と実況が指を鳴らすと、すべての観客の身体が青白い光に包まれ始める。
──実は、この観客達も知らずの内に招待された”学園都市”の誰かの”データ”に過ぎない。
……観客に向けて、実況の言葉は更に続いた。
実況『──これにてぇぇ!!
”The School Festival TOURNAMENT”第一回大会は終了とする!!
HAHAHA!!消えるのは当たり前だ!!君たちの身体も彼らと同じ!データなのだからな!!』
彼ら、という代名詞が示すのはその戦闘に参加した8人の学生の事である。
実況『彼らも同じくだが──!!
君達の記憶は”この大会を見ていない”という状態……つまり!!この戦乱の記憶は無くなる!!』
実況『だが!!君達がこんなデータの世界で戦闘意欲を駆り立てられたのは間違いない事実!!
……第一回大会!と銘打ってるからには第二回……と存在するわけだ!!多分ッ!』
実況『──ならば!!今回はあの場に立てなかった君達!!
次の大会までにその学園都市での生活を謳歌していたまえ!!
そうしていればその内にこの大会は”現れ”、君達はいつの間にかあの場に”呼ばれている”ことだろう!!』
──観客の意識が消えゆく中。
実況のイカしたおっさんは最後に、観客席にいる”あなた”に指をさして言葉を告げた。
実況『次の覇者は……………君だ!!』
第一回『The School Festival TOURNAMENT』は幕を閉じた。然しその意識は───。
……次の大会へと引き継がれる事となる。
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