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ここだけ学園都市 inしたらば

1 : 高天原 いずも ◆Fff7L077io :2015/06/27(土) 15:49:23 cxZGH2SQ
もしパー速が落ちたり、置きレス形式でやりたい方はこちらでどうぞー


2 : 城ヶ崎 蔵人 ◆UZZXtTVUYY :2015/07/07(火) 22:45:17 bAeRaRlc
それは日が傾いて数刻、丁度西の空が仄かに茜色に染まらんとするが、未だ明るい折である。
高く騒がしいが、楽しげな声がきゃっきゃと混ざり合う。そして、足音混じりに小さな飛沫を打つ小さな水溜り。
いかにも、そこは幼子たちが仲睦まじく騒ぎ合う公園であった。
梅雨の折に僅かに覗く晴れ間、その隙を見ての事か、どうやら平素よりも興が入っているらしい。

「…………」

そんな微笑ましい光景をじっと無表情を以って眺めていたのは、ベンチに居座る一人の少年だった。
少年とはいえ眼前に戯れる幼子よりは遥かに年上だが、大人といった感もない。あるいは"青年"と形容するが正しいか。
その姿たるや自らの玉座と云わんばかりに両腕をベンチの背もたれに広げ、また足を組んでいた。
恰も自分にはその姿勢に見合うだけの威風があると云いたげだが、その服装も顔立ちも痩身の体躯も平均的男子高校生の域を出るものではなく、実情はお察しの通りである。

そんな時、公園に植えられた木の根本で忙しげに両手を、否、それどころか全身を必死に上空に伸ばす幼い男児の姿を、青年の細く狭められた眼は捉えた。
男児が見据える先には、木の梢――そして、そこに留まっている、細長い紐をひらひらと泳がせる赤い球状の物体。
――"ああ"、と青年は尊大な姿勢のまま大体の事情を察した。
そして徐にベンチから立ち上がり、視界の先に向かい駆け出すと、一瞬の"光"が青年を包み込み、幼児らの合間を縫う閃光と化し――――


「――――……ほらよ」

今にも泣き出してしまいそうな男児の目前に、今しがたまで梢に引っかかっていた赤い風船が差し出された。
その手の主はどうやら青年といった風の顔立ちで、白い髪が重力に逆らうように逆立ち、また確りとした立ち姿からは服の上からでも頼りがいのある体格を想像させる。
視線は中空に泳ぎ、男らしい表情はしかし笑み一つ浮かべないで、風船の紐を摘まむ手だけが差し出されたその恰好は如何にも無愛想であった。
が、綻びを取り戻した表情の男児は嬉しげに風船を受け取ると愛らしい声で青年に礼を述べて後、遊び場に戻っていった。

「――もう失くすんじゃねぇぞ。ふぅーー、……やれやれ――――」

溜息混じりに両手をパンパンと叩くと、青年の身体を再びの光が包み込む。
それが晴れた時には、果て扨て如何云う手品か、平均的長さの黒髪を垂らした痩身の、普通の男子高校生が、一転して其処に存在するのであった――――

相も変わらぬ無表情と、一見してニヒルな感じを湛えた瞳が中空を眺める。
もしこの一部始終を見る第三者がいたとしても、その存在は今は青年の意識の全くの外部でしかないだろう――――

//置きレス形式の絡み待ちです。どなたでもどうぞ!


3 : 白井沙羅 ◆KBsWpQQn4Y :2015/07/07(火) 23:23:15 Tgx1ihko
>>2
「――――うぉぉぉぉおおお!!!!!

公園にて幼子の手放した風船を格好良く回収し,少々キザを気取った感じの青年に向かって,上下作業服の女が猛ダッシュで迫ってくる.
おおよそ素肌と言えるものは帽子の下から技かに覗く頬や口程度であり,長袖長ズボンはもちろん,軍手を着用して髪も服の中にしまうという徹底っぷり.
そんな不審者感溢れる彼女の後方からは,いかにもやんちゃそうな金髪やらオールバックやらの青少年共が大層ご立腹な表情で追いかけてきている

 そこのあんた!!!!助けて!!!!なんとかして!!!!」

たまたま通りかかった公園で,いかにも強そうでいい人っぽい青年を発見,助けを求めるべく叫びながら走り寄っている,というわけだ.
接近に無事成功したならば,彼女は青年を盾とするように後ろへ回り込んで様子を伺おうとするだろう


4 : 城ヶ崎 蔵人 ◆UZZXtTVUYY :2015/07/08(水) 10:51:08 4ENJGNKI
そんな暫しの静寂を破るように、何やら"只事ならぬ"叫び声が聞こえてきた。
しかも聞いた感じではそこらで遊んでいる無邪気な幼子の声というわけでもない。
一体全体何事かと青年__蔵人は声の方向に視線をやれば、やはり“只者ならぬ”女が此方に迫ってくるのであった。

「__……は?」

心中の呟きなどではない。それは外界へとごく自然に発せられた、疑問、というよりは戸惑いの表明である。
いかにもクールぶった態度も台無しにその場に茫然と立ち尽くしていれば、忽ちに蔵人は女の盾か防壁のようにされてしまい、彼女を追いかけていた不良じみた者たちと対峙することとなったのであった。

「ちっ、やれやれ面倒な……」

そう冷ややかに漏らす蔵人の顔には、__背後の女からは見えないが__不服そうな表情が張り付いていた。
が、女__白井には見えるだろうか、一見悠然と不良に向き合う蔵人の足元は、実のところ僅かな震えを刻んでいるということを。

「(あ〜〜ヤベェヤベェ……どうすんだよ……いかにもヤンチャしてますって感じの連中だろこいつら……
逃げ出してぇ……けどここで逃げ出したら恰好つかねぇし……__ええいチクショー!!)」

如何にか平然とした表情を保つ蔵人。が、隠し切れぬ冷汗は容赦なく頬を這う。
不良達が彼の内面の狼狽に気付くのも時間の問題か。

「__ん……おい、一体何がどうなってるんだよ?まずは、冷静に話がしたい。」

練り上げた必死の言葉。それが不良達に通じる保証もないが、少なくとも現時点の蔵人には事を積極的に荒事に持って行くつもりはなかった。

自身も能力者故に、全くの無力ではない筈。が、彼はその中でも最弱の部類に入るLevel1の上に、この学園都市である、相手も能力者でないという保証などどこにもない。
__まして多人数相手となると……

蔵人の頬を、より冷たい汗が這った。
果たして、内面を取り繕った青年の、抵抗ならぬ抵抗は、万が一にも功を奏するのだろうか。
まずは、不良達の反応を待つこととした。


5 : 城ヶ崎 蔵人 ◆UZZXtTVUYY :2015/07/08(水) 10:52:19 4ENJGNKI
安価忘れ……
>>3宛です


6 : 白井沙羅 ◆KBsWpQQn4Y :2015/07/09(木) 01:12:59 .5zjn5aU
>>4
「すまん!!なんか追っかけられてさ!!」
「あんたも能力者だろ?あの変身みたいなの・・・」

青年の影に隠れ不良の方を不安な表情で伺う女は,どうやら先程の風船を取るくだりを見ていたらしい.
なんだか強そうで優しそうだから―――迷惑な話だが.彼女が彼に対応を丸投げしたのはそんな理由だ.

『おいおい兄ちゃん,その女を庇おうってのか?』
『まぁどうせだしテメェもしばいてやるよw』

対面する不良の数は,3人.
一人は金属バットを,もう一人はメリケンサックを装着しており,残りの一人は素手だ.
不良ら的には「殴ってもいい対象」が一人増えたといった感じであり,特に臆する様子もない.
手下らしき二人―――バットとメリケンがずかずかと大股歩きで青年に近づいていく
どうやら,話し合いは通じないらしい


7 : 城ヶ崎 蔵人 ◆UZZXtTVUYY :2015/07/09(木) 17:45:05 MPLSUWxc
>>6
「(あ〜〜、やっぱりそういうことかよ〜〜……)」

言葉を聞く限りでは、自分が幼児を助ける光景を白井が見ていたのは明白である。
意外と世話焼きな自分の性格、それ自体は悪いものではないのだから、隠すことはないと分かってはいても、いざ知られればやはり気恥ずかしいものだ。

——だが、そんな牧歌的な感情の台頭を許さぬような、剣呑な言葉が蔵人の耳に届けられた。

——『まぁどうせだしテメェもしばいてやるよw』——

「(——……え?)」

——『テメェもし ば い て や る よ』——


死の宣告、といえば大袈裟に過ぎるが、少なくとも、それは蔵人にとっては"身体の危殆"という恐怖を喚起するには十分だった。

冷汗が愈々極寒の域に達し、その冷たさは頬を通り越して首筋を伝い、遂には背筋全体を支配するかに思われた。
平然を取り繕った表情にもこわばりが表面化し、これは最早、彼の余裕のなさを敵に晒しているに等しいか。

「(——とはいえ、引くに引けねぇか……)」

不思議なものだ。自分ではどうしようもない恐怖や切迫した事態に陥れば、人はどこか“箍が外れる”——
今の自分が普段の気取った態度の自分とは180度違うのは、蔵人自身からしても明らかだった。

烏有に帰したプライド、それは裏を返せば、何も失うものはないということではないか。
——大いなる恐怖とは、実のところ恐怖の不在と同義であった——

「…………————」

眦を決した蔵人の双眸。そこには既に、変身後と同質の黄金色の光が淋漓と湛えられていた。

遅れ、蔵人の全身を黄金の燐光が包み込む。
程なくして光は落ち着き、そこには、程よい筋肉量の確固たる肉体と、天を衝くが如き白い怒髪、そして男らしくワイルドに構えた相好があった。

「——さぁ、やるならかかってこいよ……————」

挑発。薄い唇がやや三日月状に歪みつつ、蔵人の右手が手招きの動作を成した——


8 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/10(金) 16:07:16 H44Iw/os
学園校舎内、研究所付近。

茹だるような暑さの中、心地よい微風が頬を撫でては通り抜けていく昼下がり。
額に汗を浮かべながら部活動に興じる生徒達を、中庭から眺め紫煙を燻らす一人の女がいた。
暑い中、腕に学園のマークが入った白衣を着ているにも関わらず、汗一つ流さず、ゆったりと缶コーヒーを片手にベンチで足を組んで座っている。
銀縁メガネは陽射しを照り返し、ちらりちらりと揺れる。

「この辺り一面、いい研究対象の集まり、か……ふふ」

不敵なような、自嘲のような、複雑な笑みを零していると、ふと、一人の男子生徒に声をかけられる。

『先生っ、この間のテスト難し過ぎんよー……補修とかでさ、何とか赤点回避したいんだけど…』

顔をそちらへ向ければ、そこには女が受け持つ授業に出ていた生徒が。中肉中背、顔も普通。取り立てて特徴もない、いかにも健全で勉強よりも遊びを優先したい年頃の男子生徒。
女は暫く男子生徒の顔を座ったまま見上げた後、小さく苦笑して煙を吐き出す。

「君にために補修をするのは構わないが、テストというのは今まで私が教えた事以外一切出題していない……なら、わからない問題は出していないはずだが?」

『わっかんないですよ!あんなの!何ですかフィボナッチ数が用いられる代表的なものを挙げよ、とかいう問題!』

「なんでもあったろう、草花の花弁の数や、私が持っている煙草のボックスの対比だってそうだ、生活に関する殆どのものが当て嵌まる。サービス問題だろう……君が昼前に鞄から出した弁当よりも、私の話を聞いていてくれれば理解できたはずの問題だよ。」

『うっ…じ、じゃあ補修はしてくれないんですか…』

「……そんな事は言ってないさ、私の実験室に後で来るといい、みっちりと教え込んであげよう」

『み、みっちりですか……はぁ…』

「気落ちする事はない、さ、行った行った」

そうして、男子生徒を見送った後、女は煙草を携帯灰皿に押し込み、不穏な笑みを浮かべる。




「彼も能力者、だったなぁ……?」


その呟きは、風に流され、誰かの耳に ――――。



/絡みづらいかもですがよろしければ…!


9 : イリヤー・ミハイロヴィチ Level.4『стихия』 :2015/07/10(金) 19:03:55 HozF8xEA
>>8
「……レイカ・ウィルソン(先生)。ここにいたのですか」

先程の男子生徒とすれ違い、再び一人の生徒がやってきた。
黒髪で身体が大きく、ガッシリとした肉付きで、その緑色の目は、日本人とは異なる様相を見せる。
彼、イリヤー・ミハイロヴィチは、学園の生徒であり歴とした能力者だった。海外からの"留学生"のような立ち位置だが、外国人の能力者であり学園生は、未だ数えるほどしか居ないという。
彼は外国人でありながら、高いレベルの能力を持っている。『Стихия(スティヒヤ)』という名の、レベル4能力だ。学園に関係しているのなら、少しは話に聞いたことがあるかもしれない。

彼がフルネームで彼女を呼ぶのは、ロシアにおいてはそれが敬いの気持ちを表すからだ。日本で三年暮らしていても、そのあたりの所は、未だ風習が抜けていないらしい。
彼は続けて、不完全な敬語で彼女に話しかけた。

「先生、この間の定期テストですが。私は赤点では無かったですか?漢字が、いくつか読めなかったもので」

彼が解読できなかったのは、おそらくは"条件付き"の問題文だった。彼は問題に書いてある式をそのまま計算して解答したのだが、実際は何らかの改変が必要で、大幅に点を落としていないかかどうかが心配だった。

「日本語は難しいです。国語の点数も、あまり良く無かった」

彼はばつが悪そうに頭を掻きながら、レイカ・ウィルソンを見る。
彼は数学は得意だったので、数字だけを見て計算はできる。……「解く」だけの問題であれば。しかし時に問題文の中に、読めない漢字が登場する時もある。
それは何も複雑な漢字に限らない。組み合わせて特殊な読み方をする漢字など、それは彼が最も苦手とするものだった。
今回はそれが、たまたま多く含まれてしまっていた。だからこそ、わざわざ彼女に話しかけて来たのだ。
留学生がまだ少ない学園都市。彼らへの配慮が足りないのは、仕方のないことでもあった。


10 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/10(金) 19:56:03 MD0HWjJk
>>9
掛けられた声に反応し、またふと顔を上げる。
男子生徒の声だったのに対してか、女は苦笑を浮かべながら言葉を紡ぐ。

「なんだなんだ、私の受け持つ生徒は揃いも揃って赤点が好きなの……おや、これは…珍しい来客じゃあないか、イリヤー君」

言葉は途切れ、苦笑は柔和なものへ。
大柄な身体に似合わない不安そうな顔を引き下げてやってきたのは、これもまた女の受け持つ生徒一人。
詳しい情報は知らないものの、彼は学園内でもかなりの有名人で、その名前を知らない者は殆どいないと言っていい。
高レベルの能力保持者でありながら、懇切丁寧な対応に、真面目な人柄、それに加えて留学生ときたものだ、有名にならないはずもない。
女生徒からの人気も高く、密かにファンクラブも出来ているとかいないとか……。
閑話休題。彼から投げられた問いに対し、女は柔和な笑みを崩さないまま、彼に分かりやすく伝える。

「安心したまえ、君は合格点だよ。オールオッケーさ。問題もきちんとわかってるし、難しいところもしっかり読んで理解しようとした。その結果は明日配る予定だったんだが……まぁ、いいだろう」

微笑みながら白衣の懐から紙切れを取り出し、彼に差し出す。
それは赤い丸がたくさんついた、90点台の答案用紙だった。
点数の下にははなまるのマークまである。無論、女が描いたものなのだが。

「慣れない日本の学校でよく頑張ってるな、イリヤー君。この調子で頑張ってくれたまえ。」

そして、ふっと思いついたように彼に言う。

「……そういえば、噂話だがね、イリヤー君。
 この学園にどうも危ない人がちらほらいると職員会議で話題になっていてね……心当たりはないかい?」



「 ――――――――魔術師、とか」


新しい煙草を白衣から取り出し、それをくわえて火を灯す。
カキンッ、という甲高いライターの音を響かせ、紫煙を吐き出すと、彼の目をじっと見つめる。
それは生徒を心配する教師そのものだが……。



(彼ほどの能力者を実験台にデータを採取したいのは山々だが、ここでふん縛るなんて無理だろう……ここは、どうにか研究施設までおびき寄せて……)


11 : イリヤー・ミハイロヴィチ Level.4『стихия』 :2015/07/10(金) 21:36:41 7eU8Rq6M
>>10
「Да(ダー)、"取り越し苦労"、でしたか。良かった」

彼は差し出された答案を見て、覚えたての慣用句を使い、安心したような表情を見せる。
ただ、こう何度も同じような事があっては困るだろう。漢字の勉強を早くしようと、彼は心にそう思った。
ただでさえ平仮名さえ読めなかった頃のテストは、ひとケタまでザラにあったというのだ。

「あまり勉強も出来ないで、ここ(日本)に来ましたから。皆のおかげ、です。ここまで喋れるようになったのは。」

日本語も十分に話せない時に彼をサポートしてくれたのは、周りの生徒や先生達だった。
はじめこそメトヴェーチ(熊)のようだと揶揄され、距離を置かれもしたが。今では大切な恩人であり、友人だ。

しかしそれに対して自分からはなんのお返しもしようとしないので、そういった意味ではドライな人柄と言える。

「"危ない人"……魔術師?Волшебник(ヴォルシェヴニク)の事ですか」

彼は彼女の言葉に、キョトンとした様子で言葉を返す。

「……レイカ・ウィルソン、それは何の事ですか?」

不思議そうに、「わからない」と言った風に質問で返す。魔術師などという単語は、それこそ"ハリー・ポッター"や"ウィザードリィ"ぐらいでしか聞いた事がない彼にとって、この反応は至極当然だ。

加えて彼は時々、自分の能力をどこか魔法のようだと言われる事があった。
彼の『стихия』の意味はすなわち「自然」。基本四大元素の力を使い分け、操る姿は、どこか魔法を操るようにも見えるらしい。
それも踏まえて、もしかしたら自分の事をおちょくっているのではないか?とも思った彼は、彼女に質問仕返したのである。


12 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/11(土) 08:41:14 db/Sz.HQ
>>11
自ら動き恩を返そうとしない様は、正にドライといって差し支えないだろうが、彼には彼なりの考えと理念があり、きっとそれに基づいて行動しているのだろう。
それがなければ、本当に冷たい人だという一言で終わってしまう。そうならない現状は、彼自身が一番理解しているはずだ。

「そうだ、 Волшебникで意味は間違っちゃいないだろうな。君の力……イリヤー君とは少し違う方法で"普通ではない"力を使う者の事だよ。」

Wizard、魔法使い ――――魔術師。
それらは畏怖され、時には崇拝され、蔑まれ、それでも尚力を求める者達の総称と言ってもいい。
ふと彼を見上げ、足を組み替えながら言う。

「イリヤー君が使う力は決して Волшебникなんていう恐ろしい物じゃないさ、神に叛逆する者は得てして……美しいものじゃあない。君は違う。君の力は美しい ――――人々を助け手を取り合うことが出来る恩恵ともいえる能力だ」

女は思う。

(何故ここまで彼を擁護する必要がある?力を求める姿があまりにも浅ましいからか?それともまさか、本当に美しいと思っているのか私は…?)

(っは……馬鹿馬鹿しい。研究対象に持ってこいの人材を前に興奮しているだけだ。逃したくないと、そうだ、きっとな。)

言い聞かせるような逡巡の後、女は複雑な表情のままに眼鏡を押し上げ、深く煙を吐き出す。

「もし、もしだ……魔術師なんてものがいたなら、そいつはきっと弱い。 ――――ただ、生徒の事が心配のなっただけだ、気にしないでくれたまえ」

そう締め括ると、女はふと立ち上がり、彼の前へ一歩、二歩と近づく。
目の前までくれば、自分より幾分も高い彼を見上げながら、赤茶けた瞳でじっと緑眼を捉え、選ぶように言葉を紡ぎ、糸のように細いそれを届ける。

「君は……イリヤー君は、自らの力をどう思う?その力を手にして、良かったと思えるかね?それとも逆かい?」

「私は……君のような"力を持つ者"を、"世界の脅威"となるものを、見過ごせない。この能力者が溢れる学園都市であったとしても、君たちの様な"選ばれし子"達を研究し、出来る事ならば………幸せに過ごして欲しいと願うのだよ。一人の教師として、一人の研究者として」






「 一人の――――――――"力無き魔術師として"」


段々とか細くなった声音は、いつしか虚勢も虚偽も消え、どこか自分をさげすんだ様な、ただただ相手を羨望するような。
否、本当に相手を想う心が零れ落ちる。

(焼きが回った、かね……研究対象である生徒を心配するなどと……)

自らの立場を吐露してしまったにも関わらず、女は普段の飄々としたままの出で立ちで、掴み所のない煙のようなままだった。
バニラの甘い香りが鼻腔を擽る中に、彼ならば、女が魔術師であるということがわかっても大丈夫かもしれない、確信もできない一筋かも怪しい希望に縋るのだ。

緑眼の瞳は、何を思う。
緑眼の彼は、魔術師をどう捉える。

ただただ、女の胸中で何かが固まりそうだった。
研究者として、教師として ――――一人の魔術師として。


13 : イリヤー・ミハイロヴィチ Level.4『стихия』属性:無 :2015/07/11(土) 11:21:18 JDfXYBaU
>>12
「"恐ろしいもの"?」

彼は、彼女の言葉の中に含まれていた一言に対して、少しの疑問を覚えた。
仮に魔術師というものが存在し、普通ではない力を行使する者がいたとしよう。
「だから何だ?」彼はそう思った。

自分たちもこうして、能力として、普通ではない力を使っているではないか。
それとこれとはまったく"同じ"であるはずだ。何が恐ろしい事があるのだろうか?
彼女のまるで何か、魔術師について詳しく知っているかのような口振りにどこか引っかかりを覚えながらも、話を聞く。
魔術師についてまったく知らない彼と、魔術師についてあまりにもよく知っている彼女の、見解の相違から来る言葉のひずみが表れていた。

「美しい?……私の能力がそうかどうかは、わかりませんが……」
「"魔術師"が美しくないという事は、ないでしょう。私たちと同じ……えーと、能力者です。」

「……違いますか」

彼は、薄々疑問に思っていた事を口に出した。
能力と魔術、そのどこに違いがあるというのか?自分は何も知らないし、わからない。
……だが彼女の言葉は、明らかに、自分と同じように「何も知らない」風には思えなかった。
何か知っているのではないか?彼は疑惑する。それこそ"取り越し苦労"、ならば、それでいいのだが。

しかしその疑惑はすぐに、確信へと変わる事になる。
彼女はその後、自分から、自分の立場を明かしたのだ。秘匿されるべき立場を。
「何もわからない」者に、手っ取り早くわからせようとするのは、それが一番だろう。
実際、彼は今まで、これを他愛のない世間話程度に思っていたのだから。

「魔術師?あなたが?……レイカ・ウィルソン、からかっているのなら……」

そこまで口にしかけた時、彼は、彼女の何か並々ならぬ真剣な表情に気がついた。
その時点で、彼は察した。「自分は何か重大な事に触れてしまったのか」と。

「……わかりました。」

「……あなたが"魔術師"であるという事は、信用します。その上で、私はあなたの質問に答えます」

彼は彼女が魔術師である事は、ひとまず信用する事にした。
もとより、能力などという、既に人智を逸したものが存在しているのだ。
他にこんな力を使うものが居てもおかしくはない。いや、「居ないはずはない」。
妙にファンタジックな考えではあるが、至極当然の考え方だ。地球の外に生命体が存在すると誰もが一度は考えるのと同じように、当然の事だ。
いざそれが発見されたとあって、最初に皆が抱く発想は、「驚き」よりも「やっぱりな」という感想であろう。
しかしそれが目前にあったとして、彼はその危険性に気がついていないだけなのだ。彼はどちらかというと、動物園のオリの中にいるめずらしい動物を見るような気分だった。

「……自分の力を、どう思うか。ですか。どうでしょう、そんな事、考える間もなく、ここに来ましたから」

彼は本題に入る。「確かに」と言った表情でその場で考え込んだ。自分で強力な力だという事はわかる。
しかしだからといって、悩んだりした事はない。だが同時によいと思った事も、いまいち実感がなかった。
よって彼は、変に取り繕う事なく━━━取り繕うための語彙が足りなかったのかも知れないが━━━自分なりの答えを出した。

「私は、自分の能力を、嫌だとか、良いものだとか、思った事はありません。」
「……ですが、私が将来、何か不幸な事に遭いそうであれば、これを使って、抵抗するつもりです」

魔術師が忌むべきものだとは捉えていない。
将来立ちふさがるであろう壁に対して、抵抗しようとする。
自分の中の大きな力を、未だ何と感じてもいない。

彼は、本当に「何も知らない」。だからこそ、このような答えが出てくるのだ。
何も知らずに日本に送られ、何も知らずに勉強を続け、今、何も知らない魔術師と話をしている。そして将来は、何も知らぬまま、国家に利用されるのだ。
"無知"とは"偏見"を呼ばず、偏見がない事は人間関係のもつれを呼ばない。だが同時に、得てして本人を危険にさらす事もある。
彼は緑の瞳の中に、魔術師だと語る女を前にして、何の疑問も抱いていなかった。


14 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/11(土) 12:01:17 db/Sz.HQ
>>13
力を使い、抵抗する。
それは至極当然。真っ当過ぎる意見。だが、それは力を持つ者と持たない者とでは、まったく違ったものとなる。
力を持たない者が抗ったところで、それは情けないことか悪足掻きか遠吠えか、窮鼠猫を噛むとはよく言ったものだが、鼠一匹に噛まれた所で猫はその牙を下げても、爪がある。引き裂かれて終い。
だが、彼は違う。
強大すぎる能力を持つ者の抵抗は、即ち争い……戦争となる。

良くも悪くも、魔術師として、世界の果てとも呼べる場所に蚊帳の外の状態で世界を見つめてきた女には、それが手に取るようにわかった。
彼の能力が表沙汰になれば、それは利用価値の高いもの ――――国家を転覆せしめるに相応の力。
俗世的なものを嫌い、自らの信じるものだけを神聖視し、それらだけを求め作ろうとする政治家どもにはもってこいの材料となる。

(私は…… ――――それが気に入らん)

利用される。その単純な構造式に複雑に絡もうとする国家が、政治家が、人間が、疎ましい。
幸せと自由を手にする事が罪ならば、私はその罪を喜んで背負おう。
彼もまた……そう、思ってはくれないか。

「…好きなだけ抗うといい、好きなだけ、君の自由と幸福のために抗うといい。私はそれを肯定しよう。君が抗うのを阻むものが出たり、味方がいないと不安な時は、いつでも私の所へ来なさい。」

女は、大柄な彼の頭に手を伸ばし、ぽんぽん、と撫でるだろう。

「私の脆弱な力で良ければ、いつでも君の為に使おう。だから、一つだけ約束してくれ」

「自分を見失うんじゃない。君は君で、いつでも自由は君の手の内にある。幸福は、その自由が導いてくれるはずだ。人を、弱き者の希望となれ、君の名の如く。」

そこまで言うと、女は少し気恥ずかしそうにはにかみ、二歩下がってから椅子に腰を下ろす。
そうして、彼の顔をちらりと見てから、人差し指を立てて自らの口にあてがい、「レイカ先生はただの無能力者だ、いいね?」と微笑む。
彼ならきっと、大丈夫だと信じて。


それから、女はふと彼に言う。

「そうだ、イリヤー君、これは提案なんだが…」




「私の、助手にならないかね?」

魔術師は、常に人の予想の外にいる。


15 : イリヤー・ミハイロヴィチ Level4『стихия』 ◆3XNDKmtsbA :2015/07/11(土) 14:28:35 cEik9z5c
>>14
「……私は今のところ、問題はない、です。だが、いずれ何かあるだろう事は、わかります」

能力が発現した最初のうちは、地元の学校で見せびらかしたりもしていた。
しかし次第に噂が大きくなり、たった数ヶ月で、何故かロシア本国からの通達があった。"日本の学園都市へ行け"━━━
何故本国から通達が来たのか、何故学園都市なのか、深くは考えなかった。
だが、それが"国家戦力利用"を目的とした先進施設への"育成養殖"である事は、本人で薄々気が付いていたのだろう。
彼は決意のこもった目で、彼女の言葉に答える。

「心配しないでください、レイカ・ウィルソン、私はあなたの力をもらう必要はない。しかし、もし私が追い詰められたら……」
「その時は私を、救ってくださると約束してください。私の力は、少しコトが大きくなってしまった」

最初はLevel2ほどしかなかった。しかし今、自分の能力は4という、"最強"の一歩手前にまで上昇している。
彼はこれからも、方針を変えるつもりはない。まだまだ高みを目指すつもりだ。いずれは、Level5に辿り着くのかもしれない。
しかしその時起こるのは、もっと深刻な問題だろう。個人と国家間の"戦争"だ。
争いは避けられない。彼は静かに、自分の自由と意思のために、抗う闘志を燃やした。
つい最近まで、自分の母国は、「自由なき国家(ソヴィエト)」だったのだから。


彼は、彼女が人差し指を立てたのに気が付き、「これは秘密なのか」と察し、自分からも人差し指を立て返す。こうもあまりにもあっさりと明かされたのだから、クラス全員が知る事実とばかり思っていた。
そして、次に彼女の口から発せられた言葉に、彼は今度こそ驚愕することになる。

「Я ВАШ ПОМОЩ……あ。……私が、あなたのアシスタントに?」

あまりに唐突すぎる質問だったので、つい日本語が崩れてしまった。魔術師だと明かされた時よりも驚いているというのは、少しオーバーな気もするが。
問題は、問いかけの内容の方だ。彼女は教師であり、また研究員であるはずだ。勉強は教わった事しか出来ない。

……だが、彼女は"魔術師"だ。

「……なる事は、できます。それが出来るかは別ですが。」

彼は何を企んでいるのかわからない魔術師に、ただ疑問の目線を送るだけだった。


16 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/11(土) 15:05:04 db/Sz.HQ
>>15
「そんなに難しく考える事はないさ、なに、ちょっとした私の研究の手伝いを、とね……無論、助手は君だけではない。」

「私の助手はこの学園を守護する者と、風紀委員会の者の二人いる……もう、ここまで言えばわかるね?」

先ほどの教師然とした面持ちは徐々に揺らぎ、崩れ ――――研究者、ひいては魔術師本来の顔へ。
口角は妖しく釣り上がり、自らを弱いと理解しているからこそ、それらを尤もらしい大義名分とともに足掻く、浅ましく、美しい魔術師の表情。

私は強くなりたい。
何者にも屈することのない、孤高の強さと、神にも迫りうる叡智を我が手中に。
そしてそれを ――――思う存分、幸せという薄っぺらな言葉の為に使いたい。

「 ――――この学園を、大切な人を、守る手伝いだよ」


「どうだ、簡単だろう?」

こんな事、誰にでもできるじゃないか、そんな軽い口調で紡がれるのは途方もない野望。

「私はそのために強くなる必要がある。私の助手には、"能力のデータ採取"を手伝ってもらっているのさ。もちろん、君が嫌というなら私は無理強いなんてしないから安心したまえ」

女は己が住処である場所を指差す。
学園の講義棟などが群れを成す中に、一際目立つ巨大な研究施設。

「あそこで、君の能力を解析、研究し……私の力に変えるのさ」

掻い摘んで説明する内容は、とても簡単な事だった。
普段は生徒として。研究施設では助手として能力をある程度互いに出し合い、それを記録、データとして女が研究し、魔術へと変換させる。

「その代わり、と言っちゃあなんだが、学園で生徒として君が困窮した時、私は教師としての立場を利用して君を助けようじゃあないか。あらぬ噂話なんてたとうものなら、私が揉み消そう」

「あ、でも…テスト勉強は自分できちんとするんだぞ?」と妙な所で教師の顔を覗かせる。
それはさておき、この提案は、ある種のエゴ。
教師である以前に、女は魔術師である。
力を求めてやまない魔術師達を嘲笑う我如く、荒れ地に咲き始めた能力者達。
彼らは求めずとも、魔術師達が求め続けてきた力を持った。だからこそ、国家などという大逸れた者達が群がり、利用しようとする。

そんな事させるものか。

させてなるものか。

人々の不幸の為に、使わせてなるものか。

確固たる意思、それは人々の為を思うもの。



「どうだい、イリヤー君。ここはひとつ ――――神々も国家も敵に回そうじゃあないか。明日の美味しい食事のためにね」



だが、どうしてか、魔術師は天邪鬼で、少しだけつっけんどんな言い方しか出来ないのだ。


17 : イリヤー・ミハイロヴィチ level4『стихия』 ◆3XNDKmtsbA :2015/07/11(土) 16:07:07 cEik9z5c
>>16
「……私は、私の自由より先に、平和を望んでいます。守るというのは、すばらしい目的です。Группа-Линчеватель(自警団)……風紀委員?ですか?に入ろうとも思いましたが、書類に漢字が多くて」

平和というのはいい事だ。温厚な彼は、彼女の提案に賛同する様子を見せた。
しかし、その後の"能力の共有"という提案に対しては、どうにも割り切れないような、難しい顔を見せた。
"私的財産の共有"という考え方は、ロシア人からすると何処か引っかかるところがあるらしい。
そして、これは言わば財産が極まったもの。"力"そのものなのだ。本人を決定しかねないその要素を"共有"する事は、何か歯がゆい思いを感じずにはいられない。
彼は彼女の話を聞いている間、ずっと無言で考え込んでいた。

そして彼は彼女が話し終わってから少しして、静かに口を開いた。

「……レイカ・ウィルソン。Я(ヤー)……私は、だからといって、ロシアを敵にしたくはないのです」

彼は平和を愛していた。国を愛していた。
争いは確かに避けられないだろうが、だからといって敵を増やしたいわけではない。

「国が何を思っているか、私はわかりません。ですが……敵を作るというのは、それは「平和」ではない。でしょう?」

自分のためなら、彼は争うつもりだ。だが、実際は誰とも争いたくはない。平和に過ごせるなら、それが一番だ。
……強大な力を持つ以上、それは絶対に不可能であろうが。
彼は続けて口を開いた。

「そこで、レイカ・ウィルソン。私の力を使う事は、"利用"ですか?」

彼は問い返す。
本当に人々のためにそれがどうしても"必要"であるというのならば、彼は力を貸すつもりだ。
しかし、そこに"自分のため"という気持ちが少しでも入っているのなら、彼は即座に断るだろう。
もし自分を己がために利用しようというのなら、彼は彼女と争ってもいい覚悟だった。
彼は透き通るような、見定めるような碧眼で、彼女をジッと見つめた。


18 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/11(土) 17:06:32 db/Sz.HQ
>>17
「ふむ……そう、か」

「いやなに、君の考えに一理ある。こちらの考えに対して一概に協力は要請しないさ。君なら、別に能力者であっても、そうでなくとも、信念に基いて行動するだろう」

「ある意味、私よりもイリヤー君が正しい道なのかもしれないな……なに分、私はずるい女なものでね」

逡巡とも呼べない短い時間で、女は返答した。
文字通り、強要はしないつもりだったのだろう。

「イリヤー君の質問だがね……私は一つの物事には2つの意味が有ると考えている。陰と陽、月と太陽、白と黒、善と悪 ――――喜びと悲しみ、こんな具合にね」

「"利用する"のかと問われれば、私は間違いなく利用するよ、幸せ、平穏とかいう途方もない願いのために。これは私の願いだ、だからこそ、私のために利用すると言っても間違いじゃない」

「だが、間違っても"争いのために"利用するわけじゃあない。」

「……すまないね、君に嫌われるような事を言ってしまって」

少しだけ眉を顰めるが、いつもの困ったような、それでいて飄々とした笑みを見せる。
出来ることならと希望に縋った結果なだけだ、それを悲観したところで何かが変わるわけではない。
女の願望も変わらないままだ。
だからこそ、素直に答えた。

「平和とは、なんだろうな……これは、持ち帰って私の宿題としようじゃあないか」

小さく呟き、短くなった煙草を地面に押し付けて消すと白衣から携帯灰皿を取り出して押し込む。
そして、肺に溜め込んでいた煙を吐き出すと、切り替えるようにして彼に言う。




「そうだ、風紀委員会の書類審査が難しいだとか言っていたね?丁度いい、八橋という女子生徒を探すといい。私の助手だ。」

「彼女なら、風紀委員会の事について色々と答えてくれるだろう、君のような生徒なら、風紀委員会から欲しがってくれるさ」

にこりと笑いかけ、「レイカ先生に言われたと言えば何とかなるかもしれないぞ?」と付け加えておく。
能力者の彼を、自分の助手であるとはいえ、魔術師に会わせるのは些か不安がないわけではないが、彼ほどの能力であれば ――――問題ではないだろう。
何よりも彼は誠実だ、きっと大丈夫。

そんな思いを胸中に、女はかれを見上げる。


19 : イリヤー・ミハイロヴィチ level4『стихия』 ◆3XNDKmtsbA :2015/07/11(土) 18:21:52 cEik9z5c
>>18
「争いのためでは、ないのですね。……それを聞いて安心しました」
「……ですが、これは……これは、私の力です。私だけの力。そう考えています。……あなたの計画には、協力できない」

彼は、彼女が自分を一方的に利用する、という気がない事に対して安堵した。
彼女は本気で平和を考えている、という事だからだ。……だが、彼は彼女の提案、それ自体には難色を示す。
自分の能力も、"無償"で現れたものではない。目の前の魔術師のように、より強くなるために努力してきた結果が、今の彼なのだ。
しかし魔術師とは"年季"が違う。それこそ何百年もの歴史を誇る魔術に匹敵する能力がポンと現れたとあっては、不安になるものだ。
だからこそ自分の能力を利用、研究したい、と申し出てきたのだろう。だが、彼は他の誰かに、自分の力を共有させる事に対し、危機感を覚えたのだ。

何もレイカ・ウィルソンを信用していないというわけではない。だが、それが何か自分によくない結果をもたらしてしまうかも知れない、どこからともない不安感だった。
能力を貸し与えるという事を、彼はとても重大な問題だと捉えていたのだ。
だからこそ、彼はどこか後ろめたい思いを抱えながらも、彼女の要望をきっぱりと断った。

「……今は、あなたの期待に添うことができません。……ですが、もし本当に平和が乱れた時には……」
「……その時は私も、必ず、別の形で貸そうと思います。この力を……」

彼はそう言って、自らに"力"を適用させる。
それは雄大なる自然の力、摂理そのものの力。
薄いグリーンの右の瞳はКрасная(クラースナヤ)へと輝き、右手にも同じ真紅の光が、バチバチとした生気をもって表れていた。

彼はやがて力を解除し、彼女の言葉に耳を傾ける。

「Да……八橋、ですか。」

無表情のまま、頭を掻く。
また、人を探さなくてはならないのか。彼は内心で困り果てた。
ただでさえレイカ・ウィルソンを探し出すのに一時間弱を要したと言うのだから、知らない人物となれば一体どれほどかかるのだろう?
学年から所属クラス、一人で話し掛けられるタイミング、全て調べなくてはならない事を考えると、今から風紀委員に入る気が削がれるような気がした。

「……わかりました、「なんとか」探してみます。Спасибо(スパシーバー)」

もとより人付き合いがあまり得意でない彼は、彼女の好意に対して、本心からの感謝を述べた。


20 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/11(土) 19:45:17 db/Sz.HQ
>>19
彼の手が真紅の光を灯した時、女は瞳を輝かせ、息を呑んだ。
なんて、素晴らしい力なのか。
それ以上の言葉が出ないほどに魅入られてしまう。

そして、手から輝きが失せた後、はっと彼の言葉に顔を上げる。

――――なんだ、彼は人探しが苦手なのか、と。
海外から日本の学園にぽんときて、勉強で手一杯の彼においそれと言えたことではないが、コミュニケーションが苦手なのは致し方なし。
女は苦笑を浮かべて白衣のポケットに手を突っ込み、チャリン、と音が響く鍵をひょい、と彼の胸元へ投げる。

「私の研究施設の鍵だ、自由に出入りするといい。
八橋もそこでなら会えるかもしれないからな。
無論、私のベッドルームには違う鍵がついているがな?」

はにかんでそう言うと、女は改めて立ち上がり、部活の喧騒薄くなった校庭の方向を見つめながら、呟いた。

「能力者はどこへ向かい、何を見るんだろうな……」

「…魔術師として、私はそれを見守ることにしようじゃあないか」



その呟きの後、女は男に顔だけを向けてから、今度は教師としての、優しい笑顔を見せた。
落ちる寸前の夕日に眼鏡がちらりと光り、女の瞳が揺れるように見える。


「長々と立ち話をすまないね、イリヤー君。
実に有意義で、素晴らしい時間だった……花まる満点だ」

「明日の"国語"のテストは、赤点取らないようにな」


そう悪戯めいて言い残し、その場を後にしようとする。
左手で新しい煙草を取り出して、火をともし、煙と共に背を向けて、ひらひらと後ろ手に右手を振って。

彼の未来が、健やかで、幸せであるようにと祈りながら。


21 : イリヤー・ミハイロヴィチ level4『стихия』 ◆3XNDKmtsbA :2015/07/11(土) 20:35:17 cEik9z5c
>>20
どうしたものかと思い悩んでいると、突然、目の前に鍵が飛んできた。

「!」

彼は反応しきれず、咄嗟にその鍵を避けてしまう。その時、彼はまたしても、自分に「能力」を適用させた。

「"風(ВОЗДУХА)"」

彼の薄いグリーンの瞳の輝きが一層深いものへと変わり、右手からも同じ色の光が発せられる。瞬間、彼の横を通り過ぎた筈の鍵は、ピタリと空中で動きを止めた。
彼はそれを右手でキャッチし、能力を解除する。眼と手からは光が失われ、鍵は彼の手の中でチャリンと落ちた。

「……研究施設、ですか。良いのですか、こんなものを貰って」

自分が入ってもよいのかと聞こうとしたが、予備と信用があるからこそこれを自分に渡したのだろう。
彼はそれを、甘んじて受け取る事にした。
ベッドルームの冗談に対して完全にスルーを決め込みながら、感謝の言葉を述べる。彼は、真面目な時は一切笑わない性質だった。

「ありがとう、これで捗ります」

彼は鍵を財布の中にしまった。この時、彼はまだ気付いていなかった。八橋という生徒について知っているのは、名前だけだという事に。
挙句彼は研究所内部の構造をまるで知らない。おそらく、捜索は難航を極めるだろう。
そんな事など気付く様子もないうちに、彼は別れの言葉を告げる。

「こちらこそ。あなたが魔術師というのは驚きましたが、よい経験でした。Спасибо」

彼は「それでは」と言って、その場から立ち去ろうとする。途中で聞こえてきた「国語で赤点を取るなよ」という言葉に一瞬硬直してから、彼は、彼女の前から姿を消した。


そして彼は彼女から離れた後、校庭付近で立ち止まり、心を落ち着かせ、ひと呼吸する。そして、

「Я НЕНАВИЖУ ЯПОНСКИЙ(日本語なんざ大嫌いだ)!!!!!!!!!!」

という、野太い心の叫び声をこだまさせた。


/この辺で〆という事で……ありがとうございました!


22 : 黒繩 揚羽 :2015/07/15(水) 08:57:52 ucEy42gk
「ねーねー君達ィ、ちょっとお話しいいかな?」

朝の日差し眩しい通学路、男女学生が今日も学校へと向かう道の真ん中で、どうやら不穏な空気が漂い出していた。
二人連れで歩く女生徒の前を遮り話し掛けたのは、パーカーのフードを被った赤髪の少年、彼女達と同年代であろうに制服は来ておらず、学校にも向かっていない事を見ると明らかに不審だ。

「君達さー、第一学園の生徒だよね。ちょっと聞きたい事があるんだけどー…」

ニコニコとした仮面を貼り付けた表情と見た目の不均一さに女生徒は恐れ、少年を無視して歩き出そうとする。
だが、女生徒の一人が少年の横をすり抜けようとした瞬間、〝ドン!〟という音に阻まれた。

「…無視すんなよ?」
「学校じゃあ人の話を聞くなって教えられてんのか?あん?」

少年が壁に思い切り手をつく、遮断機のように腕に行き先を阻まれた女生徒は逃げ場を無くし、恐怖に顔を青ざめた。
少年の表情もまた、笑顔から鋭い表情へと変わり、顔を女生徒に寄せて睨み付けながら、ドスを効かせた声を出す。

「『聞きたい事がある』っつってんだろ?なあ?」
「『番長とか言ってるクソバカみてぇな女』と『ヒゲ面のだらしねぇ先公』だよ、知ってんだろ?」

白昼堂々、脅迫紛いの行為を始めた少年を止める生徒は周りにいない、或いは助けを呼びに行ったのかもしれないが。
恐怖に怯える女生徒が震える視線を送っても、帰ってくる言葉は無く、この蛮行に否を唱える者はいないのか。

/置きレス形式で絡み待ちしておりますー


23 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/15(水) 09:19:51 ooH2Ip.s
>>22

「あのぉ」

かつん。少し重量感のあるパンプスの音。もしゃもしゃ。咀嚼する音と共に現れる。
どっぷり太っている訳ではないが、やはりスリムではない体型。
日の光が逆行しているが、うっすら見える顔立ちは悪い方ではない。
そのツインテ、フリルのついたブラウスの出で立ちは。
まさしく、思春期の少女のものであった。

「そういうの、あんまりやっちゃいけないことだと思うんだけどなぁ」

彼女はジャンクフードたっぷりの紙袋を持ち、問いかける。
穏やかな青い瞳は、怒りの抑揚を感じさせないものであった。
むしろ声色すら穏やかであり、にこにこと、陽気な様子で声すらかけている。

「ね、ね。やめよぉ」

//すみません、置きます!


24 : 黒繩 揚羽 :2015/07/15(水) 12:43:26 4cZ4AOio
>>23
「あン?」

パンプスの音、掛けられる声、それと何か食べるような音、様々な音からなるハーモニーが背後から聞こえ、少年───黒繩 揚羽ひ不機嫌そうに振り向いた。
振り向いた先にいたのは、逆光を受けてお菓子を食らう少女、呑気そうな声色が何だか神経を逆撫でするようで、黒繩が少女を睨み付けた隙に女生徒は逃げ出した。
舌打ちを一つ、壁から手を離し少女に向き直った黒繩は、顔を寄せて至近距離でガンを飛ばして。

「ンだと?食いモン食いながら言われてもよく聞き取れねぇんだよデブ」
「ちょっと話を聞いてただけだろうが、なあ?」

不機嫌そうな低い声で凄み、威嚇する。女生徒を取り逃がしてしまったのが少女のせいだと言いたげに、眉を顰める。

「…まあいいや、おいデブ、テメェは第一学園の生徒か?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど、あの女の子の代わりにテメェが教えてくれねぇか?」


25 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/15(水) 17:03:20 ooH2Ip.s
>>24

「?」

顔を近付けた彼に対して、にっこりと笑いかける。
何も畏れていない、というよりもー恐らくマイペース過ぎるあまり、威圧の行為であることを知らないとでも言いそうな表情だった。
袋からクリームの挟まれたクッキーを取り出す。

「食べたいならあげるよぉ?」

目の前で見せたのち、ようやっと彼の言葉に対して返答を返した。
ー彼の黒々とした雰囲気と、あまりにも感覚がずれている。

「分かった。確かに食べながら話すのはよくないねぇ
ごめんね。言ってくれてありがとぉ

でーも、そういう話の聞き方、あんまりよくないって話よ
先生に怒られるぞ〜」

ありがとう、と言った瞬間は、普通に、あまりにも普通に笑った。
ぷん、と説教するかのように、あまりにもタイミングのずれた言葉を返す。
まるまるとまでは行かないが、ややぷにっとした顔を、ようやくむっとさせていた。
威圧はない。

「たしかに私は第一学園だけど、でも、どうしようかなぁ
女の子にデブって言う人、私嫌い

私のこと名前で呼んでくれたらいいなぁ
…飯山無二(いやま むに)」

私はぽっちゃり系なんだよぉ。と、デブ。

ぷん、と再びそっぽを向く形で煽るような態度を取る。
煽っている、というよりも恐らく素である。
一触即発の彼に、このような態度は、果たしてー。
彼がもし、実力行使を始めたとしても、抵抗出来ない距離ではあるのに。


26 : 黒繩 揚羽 :2015/07/15(水) 19:27:57 jEHu26lE
>>25
「いらねーよバカ!誰が『腹減った』なんか言った!?」

睨んでいるのに笑い返すわ、クッキーを渡そうとしてくるわ、何だか何処かズレている少女の反応に、少し面食らう。
丁重に断ると、顔を逸らして頭を抱えた。

「チッ、デブにデブっつって何が悪ぃんだよ?事実だろーが」
「テメェの不摂生がそーなった原因だっつーのにそれを棚に上げてブーブー文句垂れんじゃねぇよ、豚」

かなりイライラ来ているらしい、どうやら周りに生徒もいなくなってきた頃合いで、無視して他の生徒に行く、という事も出きなくなった。
日を改めようにも、この一件で警戒されてしまってはやり難くなる。つまり、今第一学園についての情報を得たいなら、飯山から聞くしかないという事だ。
だが、黒繩の頭には『こいつ話が通じるのか?』という不安もあった、どう見たって頭の中お花畑なこの少女に脅しなんて聞くだろうか。

(…背に腹は変えられねぇ、が…)
(クッソムカつくぜこの豚…ついでに捌いてやろうか…)

イライライライラ、面と向かって話しているだけでもムカついてくるのに、これから情報を引き出さなくてはならないと思うと尚更腹が立ってきた。
苛立ちを収める為に、ポケットからタバコを取り出すと手慣れた手つきで火を点け紫煙を吐く、悪そうな黒い巻紙からは、甘い香りの煙が漂い出した。
ちなみに黒繩の歳は飯山と変わらない、つまり未成年である。未成年の喫煙は法律で禁止されています。

「…よし、テメェちょっとこっち来い」

少し落ち着いた、決意を胸に、飯山から情報を引き出す事を選ぶ。
とは言っても、この表通りではいつものような『聞き込み』は出来ないから、まずは人通りの少ない所へと、飯山の手を無理矢理引いて路地裏に連れて行こうとした。


27 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/15(水) 21:02:37 ooH2Ip.s
>>26

「あっ、もうおこった
もうしらないカウンターいち〜」

ほのぼの。殴りたい。

「あー、またデブって言った
もうしらないカウンターにーね
お話やーめーたぁ」

普通の人ですらいらつきそうなそのお花畑っぷり。
ーむしろ彼もこの状況に耐えている事が凄い。
彼の怒りにも気付かず、ぷいっと顔を逸らした。

「?」

タバコを出した辺りで、あっ、とゆったりゆったり小さく声をあげた。

「いい匂いするけど、肺が汚れちゃうよぉ」

もはや突っ込みどころしか無い注意すら投げ掛けてくる。
だが黒繩の紫煙を吐くのを見るなり、瞳と眉をやや垂れ下げ眺めていた。
突き進む黒繩、恐らくそんじょそこらの短い期間でこの道を走っていないのかもしれない。

「だから、それ怖いってぇ」

言いつつも、あっけらとして引っ張られる。
怖いというより、迷惑そうな表情で連れて行かれるだろう。
眉をグルンとしかめ、モジャモジャでも頭からだしそうな。


28 : 黒繩 揚羽 :2015/07/15(水) 21:37:24 jEHu26lE
>>27
飯山の歩くペースなんて知らぬ存ぜぬ、あっちだってそうなのだからお互い様だ、と引っ張っていけば、路地裏の中に入って。
それなりに奥まった、人通りの無さそうな所まで連れて来ると、乱暴に飯山から手を離して向き直る。

「ここら辺でいいか…ったく、とんだ手間だぜ…」

気付けば大分時間が過ぎていた、もうこんな時間となっては遅刻は免れないだろう…学校に行っていない黒繩にとっては知ったこっちゃないが。
疲れたようにタバコをひと吸い、紫煙をタップリと吐き出して、吸い殻を落とし靴で踏み消す。

「さて、と…そんじゃ本題に入るぞ」
「テメェ、第一学園の生徒なんだろ?探してる奴がいるからそいつの情報を教えろ、『自分の事を番長だとか言ってる女』と、『ヒゲ面のだらしねぇ先公』だ」
「知らねぇっつってもいいし、言いたくないなら言わなくてもいいぜ、俺は優しいからな」

ここでようやく当初の目的に入る事が出来た、そう、黒繩は人を探していたのだ。自分を散々コケにした人間を、勿論復讐する為に。
とは言っても、尋ね人の名前も知らず、第一学園の人間かどうかも憶測であって。
だからだろうか、黒繩は質問の後に、ニッコリと穏やかな笑みを浮かべて、『別に答えなくても良い』と付け加えた。

    ・・・・・・・・・・・・・
「───言いたくなるようにしてやるからよ」

笑みを浮かべたままの黒繩の右手には、刃物が握られていた。ナイフのような、黒い黒い漆黒の短剣が。
いつの間にか握られていたそれは、持ち歩いていたものではなく、たった今生成されたもの、紛れもなく能力によって形作られたもので、それをこれ見よがしに見せて、脅しをかけているのだ。


29 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/15(水) 22:16:24 ooH2Ip.s
>>28

手を離された瞬間、なんて失礼なやつなんだと、場違いにぷんぷんしている。
彼が人通りの少ない場所まで連れてきたことに対する危機感など、いまのところ全く見せない。
ゆえに黒繩からの問いにもーそれこそ焦った態度も無く、平然とハテナマークで迎えた。

「番長とせんせい」

もちん、とまんじゅうに目がついたみたいな顔でかえした。
更に更にこの娘、第一学園に属しているが、そのような情報は聞いたことがあるくらいの認識であった。
そんなもの、恐らく黒繩にとって有益な情報とまではいかない。
だからこそ出てきた刃物にも、ー驚きはしたものの、性格もあってだが怯えずに答えたのだ。

「だめなんだぁ、そんな危ないものだして

私、友達にそういう子いないもん〜
私のクラスの友達はぁ、ゆかちゃんと、りゅーちゃんと

ーあ、りゅーちゃんはねぇ、こないだ徒競走一番になって、私クレープ奢ったのぉ」

ー嘘は言ってない。だが『追及した真実』でもない。
あっけらと再び笑って、刃物に対しても何も警戒を見せず。
突きつけられた黒いそれにも、恐怖すら示さない。
どうでもいい情報ばかりを流し、普通であれば、今すぐに攻撃されても仕方がないような煽り方である。
会話の内容は素でやってのけているのだが。
この少女は何かを、わずかばかりの真実を隠そうとしている。
そんな気配を汲み取るだろうか。

「それに、もしそのひとに会ったら、さっきと同じことするんでしょぉ

おんなのこには乱暴禁止ぃ
お年寄りにも優しくでしょぉ」

思ってた意見を伝える。
め!と怒る。その後笑う。場違いなほど。


30 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/15(水) 22:17:08 ooH2Ip.s
>>29
/お年寄りて、すみません
/先生にも優しくでしょ、に訂正です


31 : 黒繩 揚羽 :2015/07/15(水) 22:46:14 jEHu26lE
>>29
「───っあーハイハイハイ、わかった、わかったわかった、つまりアレか?テメェアレだろ?」
「…ひひ、ヒヒヒヒヒハハハ!!あーもう面白れーなーテメーはよォ!」

飯山から帰って来た答え、聞いた質問の答えには擦りすらしないどうでも良い話、そんな事を聞きたい訳ではないのは飯山だって知っている筈だ。
黒繩は笑う、空いている左手で目を覆い、なんと言うか笑うしかないといった風に、肩を震わせる。
───状況がわかっているのか?この刃は確かに『妄想の産物』だが、見えている筈だ、それは飯山の微かな反応からわかる。
なのにそれでも態度を全く崩さないのは徹底している演技か、元々なのか…いやきっと元々なのだろう、だからこそタチが悪いというべきか。

「…舐めた口利いてんじゃぁねぇぞ雌豚ァ…!」
「『人に優しく』だぁ?お前マジで脳みそお花畑だなオイ、視界までメルヘンか?今の状況見えてねぇのか?おい?」
「いつまでその態度でいられるか、試してやろうか!?えぇ!?」

嗚呼、故に尚更の事怒りを募らせ、これ以上無いまでに腸を煮え繰り返した黒繩は、我慢の限界とばかりに短剣を飯山へと投げつける。
的に向かうダーツのように鋭く飛んで行く短剣は、刺さったとしても飯山の体に傷を付ける事は無い、血は一滴も出ないし、服すら切れ無い。
だが、その刃が体を傷付けた時、その瞬間に生まれる痛みは激しく、痛覚をめちゃくちゃに掻き乱す。


32 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/16(木) 04:06:43 gFqMaM6s
>>31

さしもの無二も、投げつけられた短剣に驚くと、顔と胸の前を両腕で隠す。
確実な急所はかわそうとしたらしく、しかしナイフは腕で受け止めようとしていた。
もともと動きもにぶいほうだ。
だからこそ、ただの短剣であれば無二はそれを引き抜くなりすればいいと思っていた。

ーそう、ただの短剣であれば。

「いたっ」

血液が出ないことに驚いたのち、それは痛みを雷のように伝えた。
少女らしい悲鳴、少女らしい素直な感想を漏らす。
痛みが激し過ぎるあまり、眉をしかめ、踏ん張る足がややよろめいたほどだった。
涙は流さないものの、初めてその表情は、痛みによる悶えのものへ近付いた。

「めって、言ったでしょっ」

言ってない。

黒いそれを引き抜けるならば、急いで引き抜いたのち。
足をぐんと踏み込み、ちょっと前倒しの姿勢になると駆け出し、彼へと突進しようとする。

完全にただの的になってる無二だが、抱き付けたら引きずり倒す。


33 : 黒繩 揚羽 :2015/07/16(木) 10:32:40 wm2b/AZQ
>>32
「バカがッ!!」

黒繩が投げた短剣に対して飯山が取った行動は防御、しかも生身でだ。
この学園都市には異能力者が何人もいる、能力であれ魔術であれ、それなりの人数を相手取って来た黒繩は自分の能力にとっての相性の良い、悪いは良く分かっていた。
相性が良いのは肉体強化系能力だ、自分の体を過信して、『この程度なら』と攻撃を受ける奴に、格別な痛みを与えられるのが黒繩の能力《有害妄想》なのだから。
故に飯山が取った行動は黒繩にとってはど嵌りした物であって、見立てでは激痛に飯山が悶える───筈だった。

「…あ?」

…飯山の腕に突き刺さった短剣と、それに対する飯山の反応、それが余りに軽過ぎる事に、黒繩は面食らう。
いや、効いてはいる、効いてはいるのだ、しかしこの女、叫びもしなければ狼狽えもしない。

「…このデブ!脳味噌まで鈍って───うお!?」

逆に黒繩が狼狽える、そうさせたのは飯山のホンワカとした反応の為か、引き抜かれた短剣が地面に転がるのを見ながら、黒繩は悪態を吐いた。
その隙を突かれ、突進してきた飯山への反応が遅れる、迎撃の手が出ず、飯山の体がドシンと腹筋に伝わって、肺から多量の空気が押し出る。
必死に踏ん張って投げ返してやろうとするも、体重が余りに違い過ぎる、痩せっぽちの黒繩の体は飯山に引き倒されて、うつ伏せに倒れてしまった。


34 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/16(木) 11:59:34 gQS4EprQ
学園都市、とあるカフェテラス。
陽射しの差し込むカフェテラス、窓際の席で、普段とは違う出で立ちの女がアイスコーヒーを飲んでいる。
銀縁のメガネはそのままに、ジーンズにブーツ、ゆったりとしたワインレッドのノースリーブシャツ。外見から、学園の教員とは思えないほどだ。

しかし、表情はどこか浮かないもので、苛つきが感じられる。
携帯電話を耳に当て、暫く待つように黙り込むが、諦めたように電話を切り、テーブルへ乱暴に置く。

傍から見れば、恋人か友人に予定をすっぽかされたようにも見えるかもしれない。


「っち……いくら払ったと思ってるんだあいつは……電話にくらい出たらどうかね…まったく…」


どうやら、"ビジネスの話"であるようだが、それは定かではない。


「……何も、無ければいいんだが」

呟きを黒いコーヒーの中に落とすと、それを一口飲んでから ――――ため息を吐き出した。


/のんびり置きで誰でもどうぞっ


35 : ガイスト ◆sMIhmWAwY2 :2015/07/16(木) 17:23:46 lRRNHwi6
>>34

コツリ、コツリ。靴で地面を叩く音、即ち歩行音が僅かに響く。人の気配に周りの客が振り向けば、僅かな驚愕の後皆一様に視線を逸らし、それを見ないフリをする。
周りの線に僅かな嫌悪感を抱きながらも、既に生活の一部に組み込まねばならなくなったこともあり、甘んじて受け入れ、偶々〝見知った顔〟を見つけた。
僅かな笑み。知り合いにあったという喜びでは無い、単純にあの時の〝ギブ〟を思い出したからだ。テイクを貰うつもりはないが、〝言葉〟の意味を現実にするには丁度いい。

「相席、いいかな?」

「見知った顔を見つけて、少しばかり〝話〟をしようと思ってね」

そんな声が溜息をついたばかりの彼女に掛けられるだろう。声質としては低いが、存外な爽やかさを醸し出す程度には耳辺りがいい口調。
顔尾見上げれば外国人であることが良く分かる。恐らく彼女も東洋の人間ではないだろうが、彼も日本人では無い。
金髪をショートにし、僅かに睨みつけるような視線は今どこにもない。クリーニングに出してから少し経ったようなよれ方をしているスーツは、僅かな洗剤の香りがする。
内ポケットがある辺りの場所と、腰部に当たる場所が僅かに膨らんでいるが、魔術師である彼女にはその意味がすぐさま理解できるだろう。追及するもしないも構わないが、真面目に答えるかは別問題だ。
口元には柔和と言える程度には柔らかい笑みを浮かべ、長身も相まってさながら好青年のようにも見える。実際の彼を知る彼女であれば、その感想は微塵足りとも抱かないだろうが。

だが、その印象はただ一つの違和感に殺される。スーツの左側、彼女にとって右側に当たる部分が〝風に靡いて揺れている〟と言うのがその違和感。
よく見れば気付く、別に態々袖を通さずにスーツを着用しているのではなく袖を通す必要が無い。もっと言えば、通すための腕が無い。左肩から先が、欠片としても損座しない異形。
人間歳て必要である五体の内の一つ。若しくはその片割れが無い。この事と、以前は強気に出ていたはずの彼が彼女に〝話〟をしようと言い出したのには、関連性がある。のかもしれない。

無論、無視する事もできる。以前あれ程の緊張を強いた相手と会話しようと思う方が間違っている。そう考えるのも、人間としてまともな発想であるから。


36 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/16(木) 18:10:44 gQS4EprQ
>>35
聞いたことのある声音に、思わずぐっと息をつまらせる。
次いで迫るのは、妙な諦めと冷静さ。
何を諦めたか、なんていうのを自問するのは野暮というもの、静かに、正面にきた男に微笑み肯定を示してから、目線で座るのを促す。
相手が座ったならば、洗剤の香りに少し驚きながらも、少しばかりの嫌味を言う。
嫌味といえど、そこに嫌悪はなく、そこかジョークを飛ばすようなものだった。

「どうした、美人に手でも出して吹き飛ばされたか?」

「………話を聞こうじゃないか」

相手へそう言うと、通りすがった店員を呼び止め男に視線を向けずに「同じ物でいいだろう?ここは私が出そう」なんて言う。
テーブルへ乱雑に置いたままの携帯を取り、ポケットへ押し込むと、互いの真ん中へ灰皿を持ってくる。
煙草を取り出して火を灯せば、相手へ煙草を差し出しつつ吸うか?なんて。


学園都市にて対峙し合った同士と、誰が思おうか。
ゆったりと時間が流れる中で、女は紡がれるであろう言葉を待つ。


37 : ガイスト ◆sMIhmWAwY2 :2015/07/16(木) 18:28:38 lRRNHwi6
>>36

「そうだったら良かったけどな」
「生憎とそいつは〝人〟と言えるのかどうか」

僅かに想像の余地を与える様な言葉を醸しつつ、促されるままに席に着く。ジョークに付き合う様に、軽い言葉。
メニューについては頷かせてもらうが、タバコはやらない主義らしく、手を軽く上げるだけで要らないという意思を示した。
タバコに火をつける動作を確認した後、彼は僅かな静寂を破って口を開く。

「この有様を見ればわかる様に、手練れの魔術師に手酷くやられた。」
「俺は〝ギブ〟&〝テイク〟が信条でね、やられたからにはやり返さないと気が済まない」

「つまり、ソイツに対する忠告と現状の情報交換ってところか」

魔術師の派閥から一つ離れた場所に居る彼は、如何せん情報の会得が難しい。仮にできたとしても、既に過ぎた物事を掴まされていると言ったことも少なくない。
個人的なネットワークが無いわけでも無いが、それはあくまで保険であり、むやみに使用してばれるのは避けたいし。デメリットの面からも、使用しないに越したことはない
本来ならば多少の情報面の不備であればどうでもいいと斬って捨てることができるのだが、今回ばかりはそうもいかない。
不完全な状態であったにせよ、彼の虎の子とも言える悪魔喚起を一瞬で敗れるほどに強力な魔術を従える人間? が現れた。
それ即ち彼にとって生命を脅かす危機であり、その魔術師の良い分からして自身の派閥とは異なる魔術師を消そうとする様子も見られる。

だが、其の事に関する情報を仕入れようとするにせよ、彼には魔術師同士の繋がりが無かった。彼が今までほとんどそういう物を忌避していたのもあるが、先ほど言った通り彼が派閥に所属していないからでもある。
もうそんな事を言っていられない状態にまで陥っているという事は左腕を見てくれればわかるだろう。それが、彼女に声をかけた理由だ。

先日の様子から、どうやら彼女は研究気質な人間らしいという事までは予測がついている。(服装などからそう判断したに過ぎない)
加えて、出会った魔術師の中で比較的話が通じそう且つ頭もまわる(=ブラフを張れる)人間はごく一握り。知ら歯が立つのは当然だった。

「それに見たところ随分と〝暮らしやすそうな〟様子じゃあないか?」
「以前見た時より、余裕がある様にも見える。」

僅かな脅しをかけるのは、自らの保身。その一点だけ。


38 : ガイスト ◆sMIhmWAwY2 :2015/07/16(木) 18:32:01 lRRNHwi6
>>37
描写不足。

「つまり、ソイツに対する忠告と現状の情報交換ってところか」
のセリフの下に

〝そう言って左腕が存在しないという事をアピール〟する。
と言う風な描写をしてたって感じで脳内補完お願いします。


39 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/16(木) 18:49:56 gQS4EprQ
>>37
彼の脳裏に何が過ぎっているのかわからないものの、ただ事ではないことなんて言うのは容易に想像出来た。失われた左腕に、窶れた様子、それらはどんな言葉よりも信用に足る。
紫煙を燻らせながら、相手の話に耳を傾ければ、どうにも……きな臭い。
だからこそ、女は彼の言葉をのらりくらりと受け止め受け流し、至極当然の事をつらつらと立て並べる。

「忠告、ね……それは有り難いことだが、お前が私に忠告をしたところで、私から一体何が得られると思ったのかね?寧ろ、私はお前と殺し合う寸前までかち合ったんだ、こうやって話を聞いてやってるだけでも奇跡だと感謝して欲しいくらいだね」

言ってから、一息、コーヒーを飲んで続ける。

「あぁ、暮らしやすい環境を構築できる位には"ここ"が廻るのさ。よれたスーツを着ないくらいにはね………」

そこまで吐き出すと、女は眉を顰めてから片手を振り、小さく謝る。

「……すまない、別にこう言う事が言いたいわけでも話したいわけでもない……お前のような奴がやられる程だ、化物にでも魂を売ったようなやつだろう……」

逡巡するように、僅かな間。
女は失われた左腕と男の顔とを交互に見て、迷う様に口を開いては、閉じる。
落ち着くように煙草を一口…そして、漸くもって言葉にし、相手へと紡ぎ出す。

「……なぁ、ガイスト…お前は強い、私よりもずっと、ずっとな。だが、代償や対価にこだわり過ぎじゃあないか…?」

「私達(魔術師)は、好きなように、自由に生きたって構わないと思わないかね……まぁ、いいさ……なら、お前に恰好の情報屋として一つ、貸しを作る」




「私と一緒に住め。
今私が何処で研究し、どこで悠々自適に生活していると思う?





――――学園の中枢だよ」



この提案は、あまりにも突飛なものである。
だが、メリットが無いわけでもない。学園の中枢に居れば、それ相応の身分も安全も保証される何よりも、情報なんて集め放題だ。
危険な魔術師が攻め込んでくるなんていう可能性も極めて低い。
だが、何故女がこの男を誘い込むのか。
その理由はあまりにも、単純だった。


「それに、ボディーガードが居れば私も安心してブレックファストが取れるというものだ、そうだろう?」

魔術師らし過ぎる、掴み所のない女は未だ健在だった。
学園中枢で女を殺し暴れようものなら、学園中からも追われる身になるだろう、それを見越しての言葉。

どこまでも姑息で、卑怯で、狡賢い。


40 : ガイスト ◆sMIhmWAwY2 :2015/07/16(木) 19:17:01 lRRNHwi6
>>39

「実際に言葉から得られるとは思っていない」
「だが、その際の表情の動きや目の動き、体の動かし方から体内魔力の揺らぎ等々」
「推理を行う材料は幾らでもある。」

彼は〝魔術師〟である。それは職業として、自分自身の存在としての話しだ。
しかし、その魔術師であるからと言った理由で他人と敵対する理由も無い。ギブ&テイクさえ整えば、誰であろうと裏切りもできる。
中世の騎士の様な契約式の思考回路。其処に見知った顔に対しての上が無かったとは言い切れないが、此処で忠告しておくことで後々の〝テイク〟に繋がるかもしれない。そう彼は考えていた。
彼自体、魔術の心得以外はからっきしである事は自覚していることだ。多少の嘲りに眉を動かすほど子供でもなければ、それをフェイク――本質ではないという事を見抜けないわけでも無かった。


「――――――――なに?」

予想外の言葉に、その動かなかった表情が揺らぐ。僅かに口が開き、眼は開いて驚愕を示しす。言葉が漏れてしまった程度には、感情の抑制もできていない。
まさか、彼女が幾らか安定した生活をしていると推測をしていたものの、その次元が余りにも〝違う〟。彼の創造していたよりも数段階上からの提案だった。
この言葉自体がブラフだという可能性も高い。寧ろ、彼としては魔術師が学園都市の中枢に居るという言葉は通常の会話であればブラフだと断定できるだろう。
しかし、状況が状況だ。その気になればお互いが至近距離で魔術を発動できる距離で、そのような〝戯言〟を彼女が言う筈がない。
たった一度に満たない邂逅であれ、そのような愚策を行うような女では無い事は分かっている。だからこそ、此方から近づいたのであるから。

ただ、それをそのまま信じろと言うのも難しい話だ。風の噂だが、近頃魔術師の侵入に居づいた学園都市側が密かにその暗部を動かしているという話もある。
加えて、中枢に入り込んでいるという事は〝中枢に魔術師を入れられる人間〟との繋がりがあるという事にまで発展する。即ち、眼に見える危険は減るが、逆に目に見えない危険は増大する。
若しかすれば彼女はこのようにして魔術師を捉える〝壺〟の役割をしているかもしれないという線もある。
……駄目だ、材料が足りなさすぎる。

けれども、この提案が真実であった場合、この事に対するメリットは非常に大きい事も理解していた。
背中から流れ出した冷たい汗が流れ落ち、内部のシャツに僅かな染みを作る。額にある脂汗が髪を濡らし、体内の酸素が二酸化炭素に代わっていく。

言葉の意味は理解した。自分という〝武器〟を持つことで、他者に対する牽制と使用という事なのだろう。
其処までの技量を持つとは言えないが、自分の魔術は汎用性が凄まじく劣る代わりに殺人適性は群を抜いている。
戦闘要員として扱うのであれば十分な素材と言えるし、ギブ&テイクを身上とする彼にとっては作られた借りは返さなくてはならない。
其処を総て〝読み取った〟上での提案だと彼は考える。先ほどの彼の言葉から精神性を推測し、この事をリークされることに対するリスクを考え、それに見合うリターンを計算し提案する。
明らかに破格の条件。詳細な条件こそ提示されていないとしても、学園都市の中枢に存在できるという事は少なからず〝儀式〟の準備は格段にとりやすくなる。
朝食云々の話は彼女なりの冗談だろうが、自らを傍らに置くと言う意味での『首輪』を付けようとする魂胆もあるのだろう。
これを断るには材料が少なく、否定するにもしきれない。時間だけが少しずつ過ぎていき、思考の為につぶって居た目を開くのは数分と言う時間の後の事。

「中枢に居るというわりには、〝ボディーガード〟が欲しいだなんて言うんだな」
「まるで〝いつ襲われるかわからない〟と言っているようにも見えるが…………いや、其処は良い」
「面倒だから結論だけ言ってしまおう」



「――――俺を〝飼う〟のは、中々に酷だぞ?」


41 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/16(木) 19:41:05 gQS4EprQ
>>40
男が女を疑う材料は大量にあった、加えて女を信じる材料はあまりにも足りない。
だからこそ、男に対して女は安心させるどころか、信用に足る言葉を、今だ、というこのタイミングで切っていく。
さながら、ポーカーの切り札となるカードはすべて用意したんだ、と言わんばかりに。

「学園内部の動きは私が独自で調べ上げてある。仄暗い組織どもが私達(魔術師)を狙っているのも把握済みだ。それに、私達を捕まえてただ殺そうってわけでもない、完全な賛同が得られていないのが事実だ。」

「そこで、私は考えたのだよ、この局面を…私達を食い散らかそうとする奴らをどうやって止めるのか、とね……あぁ、考えた、考えたさ、考えすぎて偏頭痛にかかってしまうくらいにね」

「…だが、これに対する答えは、簡単だったよ」

「私達は、魔術師だ。
   私は、研究者であり、魔術師だ」





「なら、ここ(学園都市)を全部実験場にすれば、話は早いじゃあないか、とね」


そう言い切った女の顔は夜空に浮かぶ三日月のように笑い、酷く、美しかった。

「狂犬を飼うのが趣味でね…何頭いても飽きないよ、大歓迎さ」

ここまで言うと、女は残ったコーヒーを一気に飲み干し、かたん、とテーブルへ静かに置く。

「学園の暗部がどうしたっていうのかね……そこに私の手が届かないとでも?すでに"犬"はそこに入り込んでるさ、随分前にね」

「どうだ、私に飼われるのが楽しみになってきただろう?」

饒舌に話した後、男の顔をしっかりと見ながら、言う。

「存分に、私の元で暴れるといい」

ジーンズのポケットから取り出される鍵、それは女の住まう研究施設…学園の中枢へと繋がる鍵だ。


42 : ガイスト ◆sMIhmWAwY2 :2015/07/16(木) 20:03:14 lRRNHwi6
>>41

「学園全体を儀式場にする――――そういう事か」

学園都市自体を実験場。つまり魔術師風に言えば〝儀式場〟にする。そう彼女は言っていた。
妖艶な笑みを浮かべる彼女に、ぞくりとした悪寒が背中をよぎる。以前対峙した時には感じなかった、怖気を担う感覚。
まるで彼が彼女に〝恐怖〟しているかのような錯覚を感じるほどに、その表情は〝余裕〟を崩さない。
自らが疑問に感じた部分を塗りつぶしていくかのように、逃げ道を少しずつ塞がれている様な気さえ覚えた。

もし、此処で踏み込んでしまえばもう後戻りはできない。そう彼女は言外に語っている。
彼に対し、饒舌なのがその証拠。魔術師という者、転じて人間と言う生き物には情報が不可欠であり、与えられるリソースを奪い合う生き物だ。
そのリソースを彼の前に曝け出しているというのはつまり〝そういう事〟。彼と言う一人の魔術師を、家系から除外された魔術師を自らの首輪に繋ごうという気概。
少しだけ思考に隙が出てしまうのは、完全に〝割り切れて〟いないからだろう。僅かにチラつく妹の面影を、過去の記憶として振り払う。


「――――ふぅ」
「全ての話は了解した。」

「この〝代価〟が支払われている限り、俺は〝等価〟分の仕事はしよう」

「俺……いや、私の名はガイスト。」
「――――――名前は?」

カギに手を伸ばし、其の手が触れるか否かのところでぴたりと止まる。紡ぐ言葉には自身の名と、相手に対する名乗りの促し。
契約。その始まりであって、終わりの一つ。自らを代償にして安全を確保する――――等価交換。
それは彼の使用する魔術に、とてもよく似ている。


43 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/16(木) 20:20:04 zox9/ixU
>>42
鍵に手を伸ばし、受け取ろうとしたところで動きを止めた彼の手に、自らの手を重ねようとする女。重ねることができれば、背中を後押しするかのように、とん、と鍵を受け取らすだろう。

「私は、レイカ=ウィルソン……世界の真理と理を探求し続ける愚かな魔術師だ…今は、学園のしがない教員だがね。好きに呼ぶといい。」

そこから、女は学園に潜り込む新たなる狂犬へ、ひとつだけ忠告する。

「学園の中枢にいるということは、私達の存在が露見してはならないということだ。そこで、私はあらゆる組織へ犬を潜り込ませてある。無論、自分が犬である事を知らない者もいる……そこだけは、最新の注意を払ってほしい」

そう、学園の中枢から様々な場所へ糸を伸ばしているが故に、一度どこかから火がついてしまえば、すべてが燃え落ちてしまうということ。すべてが燃え落ちて被害を被るのは女だけではあるが、そこから大戦争に発展してしまえば、学園都市は容易に火の海……それだけ強大な力を持っている者達が集まっているのは、言わずもがな。

それに、彼は頭がいい。危険な事があれば回避行動を恙無くとることはできるだろうが、それにしても逃げられるかはわからない。
狂犬が故に、その動きは予測不可能。だからこそ、面白いのだが。

「情報も好きなだけ集めればいい、だが、普段は学園の人間であるということを忘れないでくれ。自分を、騙すんだ」

そこで、ふと胸中に引っかかる存在を思い出し、付け加えるように男へ言う。
その声音は、あまりにも切迫しており、女が危険視しているのは明白であることがわかるだろう。

「…リー、という教員がいる。情報を集めるなら、そいつには絶対に嗅ぎつけられるなよ。ペテン師の私が可愛くみえるくらいには、狡猾で何を考えているかわからない男だ」

人差し指を立てて、テーブルへとんとんとぶつける様は、女がかなりの警戒をしていることを伺わせる。
もしあの男と対峙することになれば、戦争どころか……いや、変なことを考えても仕方がない。
そう自分に言い聞かせ、女はテーブルに置かれたレシートを取り、立ち上がる。
おそらく、それを払ってから学園中枢まで案内する気だろう。

もし男がついてくるようであれば、学園の研究施設まで連れて行くつもりだ。

怪しまれない方法で連れ込むにはどうしたらよいか、と思案しながら。


44 : ガイスト ◆sMIhmWAwY2 :2015/07/16(木) 20:33:17 lRRNHwi6
>>43

重なった手の体温は、意外な程度には高い。そもそも、人に直接触れたこと自体が久しぶりかもしれない。
兎に角、カギは受け取った。ズボンの右ポケットにそれを落としこめば、しゃりんと言う音が鳴る。

「〝自分を騙せ〟か、其処は心配しなくていい」

魔術師。少なくとも彼は〝そうやって〟魔術を使う。そうでなければならないという法則に自らを当て嵌め、それに当てはまることで発動する魔術。
それが彼の使用する魔術であり、故に騙すことは慣れている。さもなければ此処まで自分を〝生かしてきた〟理由が無いからだ。
僅かな肯定を持って、視界を縦に振る。

「リー……」

言葉を反芻し、その危険性を認識する。彼女が〝危険だ〟と言うからには、彼の考えているそれより厄介であると考えたほうがいい。
学園内で動くのが窮屈になるな。と少し呟いてみたが、元から路地裏の隙間か宿でしか生活していない彼にとって、別段それは変わらない。
もし〝危険〟だと理解したなら、その時は〝始末〟することも頭の片隅に加えつつ。首の骨を軽く鳴らした。

さて、と。立ち上がる彼女に合わせて彼も椅子を引いて立ち上がる。別段行く場所も無いため、フットワーク自体は軽い。
左腕の無い生活にまだ慣れきっていないため少しだけ立ち上がる際にふら付いたが、其処まで心配する程でも無く、問題なく歩く事くらいは可能だろう。
研究施設と言うからには、彼としても〝試したい〟事はたくさんあった。それをいかにして試していくか、それが問題だと彼は思う……。


45 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/16(木) 21:42:23 4LNdpUuk
>>44
学園へ案内するまでの道中、女は男の左側を歩き、曲がり道では服の裾を指先で引いて、先導していく。

それは周りからどう見えるだろうか。
女は男が少しでもふらつけば、笑いながら支えるだろう。何を考えているかわからない微笑みで。

そして程なく ――――

【学園、研究施設】

――――女と男の眼前に広がるのは、馬鹿馬鹿しい程に広く巨大な研究施設。
この場所こそ、女が住まい身を隠す、隠れ蓑。
隠れ蓑にしてはおかしな規模ではあるが、これこそが女が学園に入り込み生活できる証拠でもあった。
ここまでド派手に教員、研究者として席を置かれては、疑うという選択肢は一切出てこないのだ。
無論、先刻伝えたリーという男を除いて、だが。

「さ、今日からここがガイストと私の家っていうわけだ、まあ、ここではなんだ、まずは入ってコーヒーでも淹れようじゃあないか」

男を招き入れるようにして研究施設へ入れば、そこには実験道具と思しき様々な器具や、未だ液体の入った試験官などが乱雑に並んでいる光景。
だが、女はその"先"に進んでいく。
もう一つの扉をくぐれば ――――そこは、異様な光景だろう。

「ここに招き入れたのは他でもない、ボディーガードなのだから、私の部屋の隅々まで守ってもらわなければなぁ?」

くつくつと愉快そうに笑う女。
壁一面には、女が調べ上げたであろう生徒達の写真や情報、学園都市の巨大な地図や、そこに書き込まれたりピンを止めたり。実に細やかなものだ。
その中心に、シングルベッドがひとつ。脱ぎ捨てられたいつものワイシャツとスーツ、それに白衣。
壁にかけられている予備であろう白衣を手に取ると、女はそれを男に投げてよこす。

「学園内ではそれを着て行動するんだ。生徒達には私の助手だと言えば問題無い。
…さて、ドリップコーヒーはどこやったかなぁ…」

棚を乱雑にごそごそと漁る姿は、男を油断させるためなのか、それとも素なのかは、女にしかわからない。



だが、今日からここで、男の奇妙な生活が始まることだけは、確かだった。


46 : ガイスト ◆sMIhmWAwY2 :2015/07/16(木) 22:05:13 lRRNHwi6
>>45

中枢に居を構えるとは聞いていたが、やはりこうも簡単に内側へと入り込めたとなると少々拍子抜けだ。
もう少し厳重な警備がるかと思えばそうでも無く、〝レイカ〟の犬とやらが何かしらの細工をしているに違いない。そう推測した。
正直な話、ふら付く体を支えて貰えたのはありがたかった。左腕を失ってからまだそこまでの月日が経っていないため、歩くのがようやく慣れた程度。
走るなんて到底できそうになく、その点は自らに合わせて歩いてくれた彼女に感謝するべきだろう。無論、ボディーガードなのだから近くに居ないと意味は無いのだが。

「――――頭が痛くなるな。」

此処まで露骨な研究所を構えられる資金と時間、そしてコネ。そのいずれかを欠如してもこのような建物は作れない。少なくとも、彼にはその全てが揃っていたとしても無理だと言えるだろう。
そもそも、其処までの度胸が無い。彼がこの学園都市に居るのは外の世界に居られなくなったからで、ただ自らの域場所を求めているに過ぎない。
そのような力があるのなら、もう少し他の場所に建てるなどを彼は行っただろう。当然、それは愚策であるだろうが。
ともかくとして、この巨大な研究所で生活し、護衛対象を守らなければならない。殺すのは得意だが、他者を守った経験は少ないので、場所の把握などを優先させるべきか。

乱雑ではあるがしっかりとした器具の揃った部屋を進み、そのさらに奥へ、奥へと進む。そして扉を開けた先にあるのは…………私室か?
彼女が調べたのであろう資料たちが散乱している。明らかな〝資料室〟とでも言っていい場所。乱雑であり、服が脱ぎ捨ててあったため、彼はここを〝私室〟と形容した。

「白衣の着方なんて分からないが……適当に着ればいいか」

(魔術的な位置取りとしては悪くない。)
(流れを利用し簡易的な儀式場に見立てることで結界を生成するか……いや、それでは感付かれてしまう可能性がある)

その場で面倒臭そうに白衣を着用し、これでは暑いなと僅かに顔を顰める。どうやら、少し服装を改善する必要がありそうだ。
彼女が棚を探っている間にざっと部屋の内部を見回し、ついでに腰部に取り付けている〝一本〟を使用して部屋の構造を把握。
儀礼用の結界を流用した防音処理や警報装置などを形成する結界の構築式を頭の中で描き上げながら、ただ彼女の動きを軽く目で追い続ける。

――――ここから、彼の〝生〟が始まるのかも、しれない。
常に死と隣り合わせの生活から、常に魔術師と隣り合わせの生活。

(なんだ。いつもと変わらないじゃないか)

僅かに見えた〝歪〟な資料に、僅かにその瞳を〝紅〟くさせながら…………。


47 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/16(木) 22:12:53 gFqMaM6s
>>33

不意を突かれるような、予想以上の痛みを体験した上での、走り出しの行動。
恐らく精神力は一般女子よりも上なのだろう、それでも人間である以上、痛覚には反応を示してしまうのだが。

「いたい」

飯山無二の普段と変わらない、一定のテンションの声。
しかし痛みはしっかりと響いているため、僅かばかりの震えというものは下に居て伝わっただろう。
しかし細身の彼には、数十キロは違う脂肪の重さ。
退くつもりもない、とでも言いたげなむんとした表情で見つめていた。
しかし刺さった場所の感覚にはー確かに反応しているのだ。

「あ、またデブって言ったぁ」

さきほど腕でかばった際に、ジャンクフードの紙袋は明後日へ投げ飛ばしている。
《有害妄想》の痛みに耐えるため眉を寄せ。
だが、あくまで調子は崩さずにーのんびりと、揚羽の腕を押さえ込もうとした。ー安易にも。


48 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/16(木) 22:24:35 4LNdpUuk
>>46
「あぁ、あったあった……っと、ガイスト、砂糖はどうする?」

アルコールランプを使ってフラスコで湯を沸かし、ドリッパーをビーカーにセットしながら、小さく呟く。

「これは、私の独り言だ、聞き流せ」

「私は魔術師としてとても脆弱でな……強さを求めて求めて止まないんだ…それは今も変わらない。ここで出会った者はすべて強かった…私の長年の研究など霞むほどに…」

ここまで言うと、独り言だから聞き流せと言ったにも関わらず、男に顔を向け、じっと瞳を覗き込みながら続ける。

「この街に来て初めて、私を殺しかけた人間だ……そのよしみで教えてやる」

「私は、惚れたんだよ、ガイストの割り切った生き方と、その強さに」

「だからこそ、招き入れたのさ、この情報が交錯し生と死がぶつかり合う最高の実験場に」

つつつ、と黒い液体がビーカーへ滴り落ちていく。
マグカップで出せばいいものを、ビーカーのまま、コーヒーを渡して、自分も同じように淹れ、それを冷ましながら一口飲む。

「天邪鬼が故に、私は敵を作りやすい……ガイスト、私はお前の腕となろう…だから、お前は私の心になってはくれないか」

「今でさえ、興味と探究心だけで仲間を増やし、敵を増やし続けている……もし、私が死ぬようなことがあれば……


………この施設を、私の情けない弱さの塊であるこの場所を、ぶち壊してくれ」





その呟きを最後に、女は口を閉ざし、ただ、コーヒーを飲み続けた。
メッシュ加工された椅子に両足を上げて座り込み、小さく、ただ小さく。

しばらくすれば、女がビーカーを持ったまま器用に寝息を立てているのに気づくだろうか。

仮にも自分を殺しにかかってきた相手とここまで話、自らの住処まで招き入れたのだ。
極度の緊張に耐えきれなくなったように、意識が途切れた、とでも言おうか。
無防備な寝顔を晒す魔術師は、ただ、静かに寝息を立て続ける。


こうして、魔術師と魔術師の奇妙な共同戦線がまたひとつ、出来上がったというわけだ。



/ここらへんで〆でしょうか…?
/随分と強引ではありますが、後はお任せしますっ…!!


49 : 黒繩 揚羽 :2015/07/16(木) 22:33:39 zRMZkguk
>>47
(クソ…クソッ!クソッ!)
(冗談だろ!?悪い夢だろこれは!?俺が…俺がこんなデブに!?)

平衡感覚を失い、倒れていく体。スローモーションに浮遊感を味わいながら、黒繩は焦燥に表情を染めていた。
頭に浮かぶのは『敗北』の文字、直近で3度目の敗北が、今まさに色濃く脳裏を過る。
何故だ、何故、能力が弱いなんて訳がないのに、どうして『こいつら』には勝てないのだ。
『井の中の蛙大海を知らず』───つまり、そういう事なのか?自分は己の核も知らずにいた、と?この世界では自分は弱い人間なのかと?

(───そんな、訳が…)

(俺は…こんな奴らよりずっと…ずっと…)

納得が行かない、納得出来る筈もない、黒繩にとって力は全てであって、何よりも信じられる物で、自分を表す唯一のものだから。
ずっとずっとこの痛みを感じて、共に生きてきた、その痛みが、こんな所で折れるなんて、まず黒繩自身が赦せなかった。

「……ナメんなよ雌豚がァァァァァァァァァァァァ!!!」

倒れた黒繩の腕を抑えつけようと迫る飯山の手、しかしそれをさせる前に黒繩は吼えた。
その瞬間、黒繩の背中から腕から、とにかく身体中から幾つもの黒い刀剣が突き出て来て、ヤマアラシが如く突き立ち、迫る飯山にカウンターを仕掛ける。
黒繩の身体中から突き出る刀剣の山、それは確かに黒繩の体内から生え出ていて、当然ながら黒繩にもその痛みは伝わっていた。
一つでも、体を貫く激痛は計り知れない物なのに、それが50は優に超える数を、内臓ごと───常人ならショック死してもおかしくない筈の痛みを受けて、しかし黒繩は意識をしっかりと保っている。


50 : ガイスト ◆sMIhmWAwY2 :2015/07/16(木) 22:49:47 lRRNHwi6
>>48

「あっても無くてもどちらでも構わない。特にこだわりは無いからな」

湯の煮沸音、静かな部屋に響き渡るポコポコとした音に続いて、呟くような独り言。
独り言だと言ってはいるが、事実それは彼の耳にも届いている。それはつまり、そういう事なのだろう。
魔術師とは言っても所詮は人間だ。悪魔に魂を売り渡そうが、命を代償にして悪魔と契約しようが、其処には人間という枠組みが確かに嵌められている。
目の前の彼女も、人間と言う脆弱な生物の、女性という種類に過ぎない。今までこのような〝荒事〟を一人で切り抜けていたとあっては、其の精神性は推して知れる。

自らのボディーガードとなる人間。且つて殺しかけ殺されかけた同士だからこそ、感じる物があるのかもしれない。
残念ながら彼はそれを完全には理解できないだろう。そういう風に育っていないのだから、物事の解釈の仕方は彼女と根本的に異なってくる。
しかし、それを口に出さず、静かに黙って〝聞き流す〟程度には常識があった。以前の記憶が、情景を思い出し、かすかに笑みを浮かべる。

「〝ギブ〟&〝テイク〟は、俺を俺として存在させ続けるために必要な考え方だ」

「お前が腕をくれるのならば、代償として心をやろう」

「世の中は代償と対価で出来ている。何かを選ぶためには、何かを捨てなければならない」
「その法則さえ理解できていれば、世界は存外優しいんだ。」


「確実に行えるとは言えないが、約束はしよう」
「――――安心しろ、俺は〝殺す事しか能がない〟」

あえて追求しない部分もある、わざと聞かなかったふりをした言葉もある。だが、それは全て記憶にまだ新しい。
何時かそれを超える様な出来事が起こるまで、刻まれる呪縛。他者とかかわることによって生まれた、呪い。
願いという名の呪い、祈りという名の呪い。魔術師として、彼はその呪いを受けるしかない。その契約を、たった今彼女と交わしたのだから。


「――――――。」


―――――

コーヒーに口を付け、内容物を位に流し込む。僅かな苦みを舌に感じた。彼女の横の壁に横に軽く、軽く体を預ける。
ドっと来た疲れと眠気に心地よい、本当に久しぶりの微睡みを感じながら、彼はコーヒーを総て飲み干した。

「なぁ、〝エリーゼ〟」

「お前も本当は、〝弱く〟在りたいんじゃなかったのか…………?」


寝顔を見ながら、そう呟いて。何れその景色は赤の色彩に包まれるだろう。
魔術師の世界とは、えてして〝そうでなくてはならない〟ために。


//絡みお疲れ様でした! 楽しかったです!


51 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/16(木) 23:14:52 gFqMaM6s
>>49

「え」

ヤマアラシのように、針のむしろとでも形容されそうな攻撃は飯山の隙を突いた。
身を引くにも、さきほどの痛覚の残留のせいでやや行動が遅れた。
全て突き立った。押し寄せる剣の海はそれは顔にすら刺さる。
痛みは、むしろ何かを超えた感覚は、およそ考える暇すら与えないようなショックとなって襲った。

「あ」

ぐるんと白目を向くと、ゆらゆらゆらと影のように動き、すぐに失神する。
一刺し、ならまだ耐えられた。ショック死レベルのものであれば、飯山の意識は完全に破壊させる。

ゆら、と酩酊する視界。
だめだ、意識を手放しては。このひとは何かするかもしれないのに。

必死に覚醒を試みるも、飯山は。


「あぶない、ぃ、よ


黒々とした赤い少年に、場違いな言葉をまた吐くと、横に倒れた。
すでに動かず、ぴくりぴくりと震えるのみである。
紛れもない黒繩の勝利。
その勝ち星を見届けることなく、呑気にすうすう寝息を立てる太った少女。
彼女は起こすような行動を行うまでは動かない。
ー彼の確たる意志での一撃に、完璧に油断した。


52 : 黒繩 揚羽 :2015/07/16(木) 23:33:22 zRMZkguk
>>51
〝痛い〟なんて物ではない、痛みすら超えて、灼熱の炎に焼かれているような感覚が、体を内から外から貫いていく。
それでも、プライドとでも言うべき感情が何とか意識を保たせて、そうしてこの捨て身の攻撃は完成した。

何となく、手応えでわかった、刀剣が飯山を貫いた事が。
すぐに刀剣は黒い霞となって消えて、痛みを残して黒繩の体から無くなっていく、すぐに、飯山が倒れた音が聞こえた。

「───ハァッ…!ハァッ…!ハァッ…!」

「…ひ、ひひ……ざまぁ…みやがれ……雌豚が…ッ!」
「俺は…おれ…は……弱く…ねぇ………弱く…ねぇんだ…ッ!」

意地の勝利、何としても負けたくないという意思が無理矢理に勝利を掴み取り、ギリギリと所で意識を掴んでいた。
痛みで震える声で、その喜びを罵声として吐き連ねる、地面に伏せる寸前で、何とか頭を上げながら。
───だが、それも長くは持たない、ガクリ、と頭を落とすと、そのまま地面にへばり付いて動けなくなる。

(…クソ……手前(てめえ)の能力だってのに耐えられねぇのかよ…世話ねぇな…)
(あの雌豚からじょう…ほう……を…───あのクソ共───応援を───俺は強い───他の奴に───)

(……何が『危ない』だ…クソが───)

「…………────────────」


そして、黒繩もまた、飯山に何も出来ずに気を失う。
先に起きるのは飯山か、黒繩か、それともその前に第三者が訪れるのか───何れにせよ、飯山が目を覚ました時には黒繩の姿はそこには居らず、つまりは飯山には何もせずその場を離れたのだろう。

/お疲れ様でしたー!


53 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/17(金) 07:34:47 23LSaycE
>>52

ー彼が立ち去った時間帯。

「う」

むくりと起き上がると、黒繩が去っていることを知る。
痛みの感覚を思い出し、覚醒してもなお、まだそこから動くことすら出来なかった。

「だめだよ、こんなことするのぉ」

まるで彼に、また伝えるかのように瞳を閉じてつぶやいた。
次は、ちゃんと『食べないと』なぁ。
感情のうちに過った言葉で、また眠りに着こうとする。

「そっちも、痛そうだったのに」


うつろにまた呟きを繰り返し、次に起きたときには、体が動くようになることを信じて。

/お疲れさまでした!!二日間拘束すみません、ありがとうございました!


54 : 黒繩 揚羽 :2015/07/21(火) 10:04:52 wvxE.9CU
「───あぁ、なんだようっせぇな…」

人気の無い夜の街、工事現場近くで携帯電話の呼び出し音が響き渡った。
コロコロと鳴る携帯の液晶をうざったそうに見つめて、悪態を吐いた少年が、その音を断ち切って耳に携帯を当てる。

「…俺だ、どうした?」
「…あーハイハイ、魔術師がまた見つかったか…ハイよ、探しとくわ」

業務連絡のような、短い会話を二言三言、話し終えると早々に通話を切ってポケットに携帯を捩込む。
そのまま其の手でタバコを取り出すと、安物のジッポで火を点けた。
甘い匂いを漂わせながら、ボンヤリとした様子で座り込む。

「チッ…イライラするぜ…全然おさまらねぇ」
「あのガキ、助けてやらねぇ方が良かったかな」

ふと呟いた言葉に、低い呻き声が重なる、少年が敷物にして居る、倒れた男が発したそれを無視して、不機嫌そうに呟いた。

/置き待ちです。


55 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/21(火) 12:22:56 yLRuNiLs
>>54
その工事現場の近くで、かちゃん、という金属音のような物音が聞こえる。
しばらくすれば、血塗れとなった男が煙草を吸いながら、その見た目と相反するような態度でのんびりと歩いてくるのが見えるだろう。

腰に真っ黒な鞘の刀を下げ、白いシャツは赤黒く染まり、元は緑色だったズボンも半分以上が血に染まっている。
何よりも異質なのは、軽やかに鼻歌を歌いながら、コンビニかどこかに寄って帰ったかのような軽さで、右手の何かをくるくると回している。
片耳にはイヤホンをしており、どうやら誰かと通話をしながら歩いているというのが伺える。

「やーれやれー……首が欲しいて何やねん、怖すぎやろ…しかも血抜きせぇ!とか意味わからんわ。え?黙ってやれ?もうやったわ!二つの意味でやったわ!どやおもろいやろ笑えや!おぉん!?」

回しているのは ――――死んだ人間の生首であった。
凄惨な殺され方をしたのがわかるほどに、苦痛に歪められた顔、口や鼻から流れる血。
振り回され続けていたのか、金髪に染められた髪の毛は所々千切れ、頭皮が露出してしまっている。
振り回している最中に何度か飛んでしまったのか、顔には擦り傷や汚れがついていた。

と、そこでようやく、工事現場から聞こえるうめき声に気づき、男は言う。

「あー、すんません、ちょっと帰り遅くなりますわ、多分。何か嫌な予感しますねん…あー……あーあーあーはいはいわかりましたすんませんねー電波悪いみたいですわー、えー?すみません聞こえないですー」

一方的にそう言って電話を切ると、ふっと、その声がした方向へ顔を向ける。
そうすれば、少年と、地面に伏した何者と対峙する格好となるだろう。

「……へ、へへ…こんばんわぁー…ええ天気ですねぇ?……ほな、さいなら…」

妙に気まずい顔をしてから、男は生首をそろっと自分の背へ隠し、数歩後ずさる。

少年は、どのような反応をするのか……?


56 : 畏能 知暁 ◆fEEVECiwnU :2015/07/21(火) 12:30:10 yLRuNiLs
>>55
/名前ミスです……


57 : 黒繩 揚羽 :2015/07/21(火) 12:59:03 X/hxYqk.
>>55
「───チッ、うっせーな…どこのチンピラだよ…」

一人でボンヤリと黄昏ていたのに、それをぶち壊す喧しい声に、苛立ち、一体誰だと顔を向けた。
その方を見て、黒繩は尖った眼を珍しくまん丸にして、咥えていた煙草を口から落とし。正に『眼を疑う』という表情で固まる。

「──────……」

あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!とでも言いそうな顔で、頭の中に入ってきた情報を脳細胞フル稼働で整理する。
一瞬見間違ったかと思ったが、そうではないと否定する、夜目が利く黒繩には確かに、その男が振り回している物が何なのかよく見えた。
見えたからと言って理解出来る訳ではない、一体何がどう言う理屈で、『生首』を買い物袋よろしく振り回して歩く奴がいるのか。

目が合った、きっと黒繩は自分が間抜け面をしている事を省みる間もないだろう。
男の気まずい表情に対して直ぐに表情を引き締めると、素早い動きで立ち上がる。
黒繩は確信した───『こいつはヤバい』と。

どうするべきか、ほんの一瞬の内に様々な事を考える。
兎に角相手がどんな人間かは知らないが、危険人物なのは間違いない、『学園都市の平和の為』だとかそういうポジティブな理由ではなく、野生動物的な『危険を排除しなくては』という考えが巡り巡って。

「…は?いや、テメェ、ちょっと待てや」

黒繩の両手に現れ、握られるのは二つの刀剣、闇を凝縮したような漆黒の日本刀が、左右それぞれの手に握られて。
後退りして逃げようとした男を呼び止める、一瞬にして殺気が溢れて、警戒を表した。


58 : 畏能 知暁 ◆fEEVECiwnU :2015/07/21(火) 13:19:59 yLRuNiLs
>>57
ちょっと待てと呼び止められたところで、男はやはりそうか、という顔で気まずそうに頭を下げる。
苦しい言い訳にもならない言葉をぽんぽんと吐き出しながら、その場で何度も頭を下げている様を見れば、完全に絡まれている一般人だ。
無論、その格好でなければ、だが。

「あー、すんません……今ほんま金とか持ってないんです…財布の中身小銭しか…いやほんまですよ?マジマジ、大マジです。コンビニ寄ってしもて、ほんま煙草とお菓子買うて銭なしで ――――」

そうこう言い訳しているうちに、少年の手に現れた漆黒の刀。それは男も見慣れた形状ではあるが、それを少年が持っているという異常な光景に、観念したかのように大きなため息を吐き出し、下を向く。

「…はぁ、アカンか……さよか…」

ふい、と顔を上げ、少年を見る。
その目は ――――完全に、光を失った深淵だった。
少年の手に握られた刀は偽物などには見えない。黒い刃は夜の闇を凝縮したようで、男の恐怖を煽るには十二分すぎる代物だった。

「……坊(ぼん)、あんたいくつや?
 こないな暗い場所で出歩いてたら危ないやろ。
…"それ"しまいーな。それで人切ったり指切ったりしたら痛いで?」

警告とも注意ともつかない、まだ人を心配するような口振りではあったが、煙草を燻らすのをやめて、地面に落として踏み消しているところを見ると、そうでもない様子にも取れる。

「まぁええわ……よっこら…しょいと」

その場に腰を降ろし、刀を腰から外して地面に置くと、少年をじっと見る。




「頼むから、殺さんといてや?」

荒み、澱みきった光のない目で、少年を見て困った顔をし、微笑んだ。


59 : 黒繩 揚羽 :2015/07/21(火) 17:57:40 g7/9.8UA
>>58
「偉そーに説教たれんじゃねーよ、どの口で言ってんだ?」
「テメェ、今の自分の状態わかってんのかよ?まるきり異常者だぜ」

『武器をしまえ』と言われて素直にしまう義理はない、そもそも目の前の人間が血塗れで生首を片手にぶら下げながらそれを言っているのだから尚更だ。
例え畏能が武器を置いたとしても、黒繩は警戒を納めない、寧ろわざわざ武器を置いてみせるという余裕が更に得体の知れなさを感じて。

「自分は殺してる癖に『殺さないで』っつーのはムシが良過ぎると思わねぇか?なあ?」
「ヘラヘラ笑いやがって気持ち悪ぃ、テメェは何者だ、能力者か?」

右手に持った刀を上げ、その切っ先を畏能に真っ直ぐ向けて、狂犬のような目付きで見つめ問い掛ける。
わざわざ能力者か否かを問うその問い掛けには、『こいつは魔術師なのではないか』という疑念があっての事だった。


60 : 畏能 知暁 ◆fEEVECiwnU :2015/07/21(火) 18:26:59 yLRuNiLs
>>59
まるっ切り異常者と断言され、男はたはは、と笑って頷いてみせる。

「確かに…確かにそやな、"こんなん"持ってたらそらそう見えるわ。っちゅうか完全にそうやしな!いやー、へへへ……んでも別に坊になんかしたろとか思ってないで?これホンマ。」

地面に置いた生首を逆さにし、コマのように回しながら話す。回転させ、摩擦で髪が絡まれば、それを解いたり、千切ったり。そして、手持ち無沙汰にまた回して弄ぶ。

「まぁ、坊も十分におかしいけどなぁ……その刀、焼入れして乾かしてもそんな黒ならへんわ……それに、それ……"いつのまに""どっから取り出した"んや?俺はそっちのが不思議やわぁ……」

もう問に返す魂も抜けてしまった生首にそう語り掛けながら、少年に返答する。


隠し立てすることなく、素直に、単純明快に。




「―――― 魔術師や。魔術師兼退魔師、畏能知暁…どうぞよろしゅう。」


胡座をかいたまま頭を下げる男。
ふっと顔を上げた時、淀んだ瞳に、恐怖を駆り立てるような人ならざる満面の笑みを浮かべていた。
まるで、恵比寿顔ともとれるほどの笑顔だ。


「兄ちゃん……今やったらただの友達でしまいやけど、どないする?」

男は地面に置いた刀を目の前に置き直し、その手前に生首をどんと置く。
かちゃりという金属音と、どちゃりという湿り気を帯びた音の相対を楽しむように見つめ、少年に視線を移す。

「"せっかく"やから、友達になろうや……なぁ?」

轟、と一陣の風が二人の間を通り抜けた瞬間、先程まで明るかった近場の建物という建物から電気がちらつきはじめる。どこからともなく聞こえ始めるのは、奇妙な呻き声と、地響きのような経。

相変わらず、男は満面の笑みで少年を見つめていた。


61 : 黒繩 揚羽 :2015/07/21(火) 19:20:35 FMCSw896
>>60
「……」

気味が悪い…いや、気持ちの悪い人間だ、自分も人の事を悪く言えない人間だと自覚はしているが、それとは別のベクトルに突き抜けている。
笑いながら人の生首を弄ぶ畏能の異常性だけが目に止まって、言葉の意味なんてまるで頭に入ってこない、だが、ある一言だけはしっかりと理解出来た。

───『魔術師』

「…友達、友達ねぇ……ヒヒ、ヒヒヒヒヒハハハハハ!!」

もうその言葉を聞いて仕舞えば、それ以降の言葉なんて一笑に付す以外の何物でもなく、これまでの畏能の態度でどのような対応をすべきかは一瞬で決まった。
点滅する光の下で笑い出す黒繩の姿は、何処からともなく聞こえてきた不気味な音を掻き消す程に狂気的で、一頻り笑った後でギロリと畏能を睨んだ黒繩は、ギザギザの歯並びを見せて笑いながら、宣告をした。

「ああそうだな…調度ぶっ殺したいと思い始めて来た所だ…いやマジでタイミングいいよテメェ、テメェが魔術師で良かったぜ」


「    死    ね    」

友好的に片付ける気はない───というのは、黒繩の発言、そして行動からすぐに判断出来るだろう。
魔術師であるなら排除する、それが黒繩 揚羽という少年に課せられた、暗部組織としての使命。その使命を盾にして、漸く畏能を襲う大義名分が出来たと、口角を上げて喜ぶ。
黒繩はすぐさま行動をした、まずは左手に持っていた刀を畏能に向けて投擲───放り投げられた刀は、くるくると回転しながら放物線を描いて落ち、畏能を頭上から襲う。
そして、そちらの方に意識を向けさせる事を意識して、同時に黒繩は畏能へと疾駆していた、右手に残った刀を両手に構え、躊躇無く一気に距離を詰めて行く。そして、接近出来たなら畏能の首を狙って横に斬り払おうとするだろう。

───だが、どちらにせよ、黒繩の生み出した黒い刀剣によって斬られた体には、傷は僅かにも生まれない、血は一滴も出ないし、皮膚の一片にすら傷はない。
しかし、痛みは別だ、この漆黒の刃に斬られた部分は、通常の刃ではあり得ないような、傷口に焼けた鉄を押し付けられるような激痛が残る。
傷を作らず、苦痛を与える、それが黒繩 揚羽の武器であり、能力であった。


62 : 畏能 知暁 ◆fEEVECiwnU :2015/07/21(火) 19:52:13 yLRuNiLs
>>61
「まぁ……そうなるわなぁ……」

狂気的に笑い始めた少年の狂気は、響き渡る経を劈き、夜風に乗って木霊する。
もし、男が異常でなければ、この風景は確実な死を連想させるものだった。
鋸の刃の様な歯を見せて笑う少年を見た男は、悟った。

これは、どちらかが地面に伏すまで永劫に続く悪夢になると。


刃が空を舞う。男は少年の思惑通りに反応してしまい、上空から脳天を射抜かんとする刃を ――――

「 ――――そないな簡単にやられるかい、アホ」

――――我が姉で受け止める。

座ったままに男が死の国から呼び戻したのは、自らの姉だった。
相当な速度で一連の出来事は起きたのだった。
男が刃に気づいた瞬間、地がどす黒く染まり、ぬるりと這い出てくる蛆塗れの着物を着た骸。骸の首根っこを掴むようにして思い切り引き寄せ、頭を下げて盾としたのだ。
どず、という鈍い音が男の耳に届く。
骸の申し訳程度に腐り残った声帯は痛みに絶叫し、さながら質の悪い和製ホラーの様相と化した。
だが、次いでくる刃に、反応出来るはずも無かった。


眼前に、少年が迫る。

スルリと刃が首を抜けていく。


脳内ではそれが見えるはずもないのに、動脈がプツリと押し切られ、声帯を押し切り、背骨を折るようにして神経までも千切り、最後には、対角の皮膚を果物の皮の如く抜けていく感覚。
明らかな死が訪れると思っていた。その証拠に男は無表情で首を押さえ、目は虚ろに、限界を超えた痛覚がただただ楽にしてやると脳内麻薬を吹き出す。
精神は乱され、骸は糸が切れたようにどさりと地面に落ちる。
耳に届くのは、骸が倒れる不快な音と、刺さった刃がぶつかる甲高い音だけ。
男はゆっくりと前のめりに倒れかけるが、反射的に左手で支え、押さえていた右手を見る。



――――そこに、血は一切なかった。

混乱が混濁を。
混濁が誤解を。
誤解が混乱を。
混乱が迷いを。


「な、んや……くそ、ったれ……お前、俺んこと、切った……ん…ちゃうんけ………ゴホッ、ォェ……」

あまりの混乱に咳き込むも、男は喉が両断されたものだと思い込んでおり、体も空気が出せないと誤認して吐瀉物を撒き散らす。
まともに食事を取っていなかったのだろうか、それは真っ黒なコーヒーだけで、それもまた、血に見えてしまって。


「あっけな、いなぁ………ここで、終わりかい、な……くそ……ゴポッ…ゲホッゲホッ……!」


両手をつき倒れ込みそうな格好のままに、静止。
そして、ばっと、と顔を上げる。
その目は焦点も合わず、乱された精神を現しているかのようだった。男が顔を上げた次に、つつ、と瞳から紅い雫が流れる。
その瞬間。


「『あ゛ぁ゛ぁぁあぁ゛ぁあ……怨め゛じい゛……』」


男の声と、人ならざる声が重なり、全ての建物から光が消える。


男は焦点合わない目のまま刀を抜き、地面へと突き刺す。
すると ――――ぐじり、と地面から手が出、刃を掴みて姿を表す。

それは、己が ――――母。
和装の骸は骸に見えず、能面のよう無表情で這い出て、刀を持って立ち上がる。
相対するは少年一人。
かちゃりと刀を構え、ただじっと少年を見つめた。

男は我を失ったようにあーあーと呻いて虚空を仰いでいる。その周りは、男を守るようにか…はたまた、引きずり込もうとしているようにか、無数の手が男を地面へと繋ぎ止めていた。


63 : 黒繩 揚羽 :2015/07/21(火) 20:17:55 FMCSw896
>>62
───何だ、これは。

いつの間にか眠っていたのだろうか、これは悪夢なのか、そう自分を疑いたくなるほど、この光景は悪夢じみている。
何をしたか、何が起きたか、目の前で起きた事象を整理する、すぐに諦めた、全く意味がわからないのだから。

けたたましい悲鳴をBGMに畏能の首を斬ってやったのまではよかった、その時はまだ、畏能が気持ちの悪い何かを呼び出したという風にしか思えなかったから。
痛みに悶える畏能と、崩れ落ちる骸を見た時からだ、己の中に湧き上がる感情に気が付いたのは。
そして、畏能が見上げた、血濡れた目と目が合った瞬間に、その感情は堰を切ったように表にどっと湧き出てきた。

「───う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォォォ!!!?」

再び現れた骸───いや、さっきのとは姿の違うそれを目の当たりにした瞬間、黒繩は叫び声を上げていた。
湧き上がってきた感情は、恐怖。恐怖に雄叫びを上げながら、黒繩は大きく飛び退いて骸から距離を離そうとする。
その行動の中にも、右手に握っていた刀を骸目掛けて投げておいたのは、無意識に強かさが出たからか。


64 : 畏能 知暁 ◆fEEVECiwnU :2015/07/21(火) 20:38:14 yLRuNiLs
>>63
「あ゛ー……ぁぁ゛ー……」

男は呻き続ける。
時折、ごほっ、と咳き込めば、吐瀉物が溢れ地に落ちる。
喉が胃液で傷んだか、それは赤を増してきているのが見える。

辺りに響く怨念の経と、幾百年、その積年の無情に対する憎悪が剥き出しになったかのような光景。
絶望の端に追い立てるような状況が、好転することは無い。
少年が叫び距離を取ろうと投げた漆黒は、闇に紛れて殆ど見えない状態だった。それを避けるほどに骸は夜目が効く訳にはあらず、鈍い音を立てながら腹部を捉えられる。

『……………』


腹部に刺さった刃を見て、骸は無表情のまま、引き抜く。
どろろと飛び出したのは黒く腐った血ではなく、不思議な事に鮮血であった。だが、その鮮血は宙を舞って地についた瞬間、半固形のようにべしゃりと音を立てて黒ずむ。
かららんと地面に黒刀を投げ捨てると、骸は離れた少年を見やり ――――疾走。
音も立てず、風のように少年へ疾走する様は、さながら掛け軸に画かれる幽鬼。
少年へ近付けば、骸は転ぶように体勢を低く低く落とし、一気に踏み込む。
疾走時の加速、倒れ込む重力による加速、それに対して相手へともう一歩踏み込んだ加速による三段構えの、一突き。仕返しと言わんばかりに少年の腹部の柔肌に迫るそれは、刺されば深いどころか、突き抜ける勢いだろう。切れ味の悪い刃毀れしたそれは、幻惑でなく、現実の痛みを齎すもの。

だが、動きこそ恐ろしい速さと威力だが、正に一閃一直線のそれは回避できないものではない。
少年のように戦闘慣れしていれば尚更だ。
だが、それもまた、一手。
骸は右手一本で"わざと長く"突き出そうとしているのだ。
本命とも呼べる"左手"は広げられ、掌と手首を利用した追撃を大腿部へ打ち下ろさんとしているのが見えるかもしれない。
もし打たれれば、激痛とともにバランスを崩し地面へと叩きつけられてしまうだろう。


65 : 黒繩 揚羽 :2015/07/21(火) 21:29:37 FMCSw896
>>64
「クソ……!なんだよこれ!?何なんだよテメェはァァァァァァァァッ!!!」

恐怖の余り叫ぶなんて、恥じるべきものであって、普段なら暴力によって支配して然るべきもの、黒繩にとって恐怖とはそういうものだった。
だが、今はどうだ、自分が恐怖に慄き、叫び声を上げている、怒号を張り上げたって、恐怖を隠そうとしているのは丸分かりだ。
そして、黒繩はもう一つ懸念すべきものがあった───あの骸、痛みを感じるのか?

黒繩の能力は先程説明した通り、相手を傷付けずに苦痛だけを与えるもの、つまり物を破壊する事や、それどころか防御に使用する事すら出来ないのだ。
実体の無い、妄想の刃。恐ろしい武器であるが、それ以上に脆い。

新しく、右手に短刀を作り出すも、これが効くかどうかの判断がし難いのが行動を躊躇わせる、その一瞬の躊躇いが隙を作った。
三段加速をかけた骸が、刀を突き出して迫って来る、とにかく躱す事だけを今は考えて、反撃など二の次にして、体を翻して刀の突きを躱す。
だが、その刀の恐ろしさばかりが目に入っていた為か、追撃を考えてはいなかった、かわした瞬間の不安定な脚に重い一撃が入り、押し付けられるように地面に倒れてしまった。


66 : 畏能 知暁 ◆fEEVECiwnU :2015/07/21(火) 21:50:48 yLRuNiLs
>>65
押し付けられるようにして地面に倒れ込んだ少年の上にのしかかる骸。さぁ、止めだ、そんな声が聴こえそうな程決定的な場面で、骸は気付く。
のしかかるような体勢を取ったからか、自らの身体と少年の身体とが視界に入る。

『……?……??』

そう、先程血が吹き出たはずの腹部に、傷が無いのだ。
否、正確には"刀で出来た切創"が一切ない。
あるのは ――――どんどんと爛れ落ちていく皮膚とその内部組織が進行形で壊死していく様。
吹き出た血は、よく見れば刀が刺さったであろ場所ではなく、そのもっと上の、胸元の真ん中。
心臓の位置だった。

『あゝ……』

骸は少年を下敷きにしたまま、ゆっくりと振り返る。
視線の先には、呻く男。
虚空を彷徨う視線は、心ここに非ず。
夢想の中か、あの世の向こうか。

「 ゴボッ……ガフッ…ェゥ…――――怨、め… ――――」

うわ言の様に怨念を撒き散らしながら、男の目はぐるりと白目を剥き、座り込んだ格好のままに後ろへ思い切り上体が反れ、ごん、と後頭部を打ち付ける。

刹那、骸の首がぐりんと少年を向き、手に持った刀を思い切り少年の胸元へ突き刺そうと打ち下ろされんとする ――――が、届かず。
切っ先だけが刺さるか刺さらないかの寸前でぴたりと止まり、かららん、と横へ落ちる。

すると、骸はゆっくりと立ち上がり、自分の胸から腹部へかけて撫でるように手を動かす。
パン…という一際大きな音が響いた時、あたり一面に朱色と黒色が混じった生臭い血が散らばる。
さながら水風船の様に姿を消した骸が有ったという証拠は、辺りに撒かれた血飛沫だけ。



この勝負、既に勝敗は決まっていたのだ。
男の首一閃の、あの瞬間。あの脊髄反射ともいえる刹那の時に、少年が勝利を手にしていたのだ。
混乱は、男にとって忌避せねばならないもの。それを一瞬にして与えたもうた少年の、紛れもない勝利。

言うなれば……怨みが悪足掻きの如く男を突き動かし、少年を恐怖へと追いやった。
ただ、それだけのこと。


工事現場は、全てが嘘だったと、唯の悪夢だったというように、水を打ったがように静寂に包まれた。

有るのは、地面に倒れ込んで吐瀉物に塗れ、血にまみれ、鞘を握りしめたままの男だけ。


今ならば、殺すこともできる。
全てを捨て、逃げ出すことも出来る。

「怨め………し……この、怨み………晴らさで、おく、べ、き……ゴボッ……」

何処かで聞いたような恨み節は、未だ続く。
細く、か細く、地獄に続く糸のように。


67 : 黒繩 揚羽 :2015/07/21(火) 22:31:16 FMCSw896
>>66
本当に恐怖した時は、声すら出ないとはよく言ったものだ、つまらないB級ホラー映画のような現象でも、すぐ目前にすると本当に声が出ない。
押さえ付けられて体が正に金縛りのように動かず、能面のような無表情を睨み返すのが精一杯だ。
『ここで死ぬのか…?』脳裏に浮かんだその言葉、これまで怖いもの無しでやってきた黒繩が、恐怖に屈しようとしていた。

突き出される瞬間の刀を見遣り、すぐにまた骸の顔を睨み返す、睨んで睨んで、怨みに怒りをぶつけ返す。
よくもやってくれたな、テメェなんかに、この骸の持つ怨みからすれば赤子のようなそれを真っ向からぶつけ返す、臆していないと言えば嘘になる、恐怖の中でも唯一持てる物が、この激しい怒りなのだ。
この状況になっても尚湧き上がる怒りは、恐ろしい物に対抗出来る感情、最後の一瞬まで喉元に噛み付く隙を狙う獣の如し。
刀が胸に突き刺さるその瞬間まで、目を離さず、目を逸らさず。

そして、その時は来た。
骸の手から刀が落ち、高い金属音が耳元で鳴る、その瞬間まで死を目の当たりにしていたせいで荒くなった息で、事の顛末を目の当たりにする。
何故かわからないが、破裂した骸が撒き散らした体液に濡れて、グロテスクな色に染まってしまったが、その後に何も起きないのを見るとようやく終息を理解する。

「───ペッ!ペッ!……クソ、クソ!クソ!クソがッ!!」
「俺が…ビビっちまっただと…!?」

口に入ってしまった体液を吐き出しながら立ち上がる、それでもまだ震えそうな体を、悪態を吐く事で誤魔化して。
譫言を呟き続ける畏能を見ると、フラつきながらも近寄って行って、胸倉をむんずと掴みかかる。

「…おい、オイ!起きろ魔術師ィ!!いつ迄夢見てやがんだゴラァ!!」

そうすると、怒鳴り声を上げながら畏能を揺すり起こそうとするだろう。


68 : 畏能 知暁 ◆fEEVECiwnU :2015/07/21(火) 22:43:02 yLRuNiLs
>>67
ぐらんぐらんと揺すられる感覚で、男の瞳が、焦点が戻ってくる。
相変わらず光の灯らない両目だが、しっかりと少年を見つめるに至る。

「お、ぁ……あぁ……また、"飲まれた"んかいな…俺……ははっ……い、生きてるわ……はぁぁぁぁぁぁ……おもっくそ死んだか思たわ……怖……げほっ…げほっ……!!」

何度も咳き込みながら、男はなんとかそう言うと、胸ぐらを掴む少年の手を力なくぺしぺしと叩きながら離してくれと意思表示をする。

「く、るしいわ……坊、ちょ、力強いて……」

もし離されたのならば、男は地面に倒れ込んで夜空を見上げた格好のまま、少年に言う。

「……殺さへんのかい」

「俺はお前を殺そうとしてんやぞ……もう立つのもダルいわ……今やったら、いけんで。ほれ…殺れや……」

両手を投げ出し、はーあ、とため息を吐き出し、気だるそうに右手を動かし、ポケットから煙草を取り出す。それをくわえて、ライターで火を灯そうとするも、するりとライターを手を抜け、地面にからんと落ちてしまう。
どうやら、随分と体中に力が入りっぱなしだったらしい。
一度脱力してしまうと、再度力を入れることは難しいようだ。

「……ちょ、坊、火ぃくれ…後生や、頼む」

くわえた煙草をぴこぴこと動かし、急かすように言う。


本当に無防備な男は、おそらく、少年に聞かれれば出来うることなら何でも応えるだろう。
何せ、もう"殺される"のだから。


69 : 黒繩 揚羽 :2015/07/21(火) 22:58:55 FMCSw896
>>68
「ハァ…ハァ…!」

畏能が目を覚まし、解放を要求しても、暫くは手が離れなかった、少し間を空けてようやく手を離すと、息を荒げて畏能を見つめる。
本当に覚醒しているのかどうか確かめる必要があった、もし、あの状態でいる事が骸を呼び出す条件なら…冗談ではない、あんな恐ろしい物を再び呼び出されてはたまった物ではない。

「ハァ…ハァ…クソッ!ぶっ殺してやりてぇのは山々だけどよ…!テメェ、〝アレ〟は一体何なんだよ!?趣味の悪いホラー映画みたいな奴出しやがって!」

恐怖を苛立ちに変えて畏能にぶつけながら煙草を口に咥え、火を点ける、畏能が煙草を咥えたのを見るとついでに火を点けてやった。
畏能の言う通り、今なら殺す事が出来るだろう、能力を使わずともできる、しかし畏れが黒繩の一歩を踏み出させない。
『この男を殺してしまうと、あの怪物のようになって出てくるかもしれない』という根拠の無い考えが躊躇を産む、それだけの恐怖を植え付けたのだ。

「クソッ!魔術師はぶっ殺してやるが、化物は管轄外だぜ…!」
「おい魔術師!テメェ…化けて出たりしねぇだろうな!?」

わざわざこうして毒づき、聞くという事は即ち恐れているという事は明白だ、あの骸を、畏能を恐れている。


70 : 畏能 知暁 ◆fEEVECiwnU :2015/07/21(火) 23:18:00 yLRuNiLs
>>69
肺に深く煙を招き入れ、肺胞をぶつぶつとたっぷり潰してから吐き出す。
相当体力を消耗したのだろう、男は少し頭をゆるゆる振り、ニコチンにやられたようにあー、と声を漏らす。

そして、少年の問いに対して、応える。
男が話すたびに煙はひらりひらりと舞う。

「趣味の悪いホラーて、はははっ……確かに、ホラーやろなぁ……"あいつら"は、間違いなく"人間"が生み出したもんやで……後は、隠し味に怨みをたっぷりな……あれは……」

「 ――――俺の…大事な、家族や」

盾にまでした骸達を、男は確かに"大事な家族"と、そう言い切った。

「もう、随分昔に死んだ、姉ちゃんと、オカンや……ふぅー……俺は、それをあの世とか地獄とか天国とか、どっこも行かせんと、怨みだけでこの世界に縛り付けて、何回でも生き返らせることができんねん……どや、めっちゃ怖いやろ…へへ、へへへっ……けほっけほっ……」

無理に笑ったせいで、少し咳き込みつつ。
最後の問いに、応える。

ぐい、と少年の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
そして、目の前ではっきりと。



「俺を殺したら、家族総出で化けて出てくんで……何回斬ろうが、何回潰そうが、何回燃やそうが、何回死んでも……地獄に引きずり込むまで生き返ったるわ……


ははっ……はははははっ……っへっっへっへっへっへっへ……くふふ……っ」



笑いながら、少年にそういった後、男は逆に問い返す。

「坊……魔術師なら、殺すって言うてたな………この街の能力者いうんは、全員魔術師が嫌いなんかい…えぇ…?」



「何回俺んとこ来ても無駄やぞぉ……俺は、お前らみたいな甘ちゃん見てたら、どうしても守りたくて、仕方ないねん………へへへっ………坊みたいなやんちゃな弟おったら、さすがに俺も骨折れるけどなぁ……」

うわ言のように話しながら、胸ぐらを掴んでいた手をふっと離し ――――少年の頭を、ぐしゃぐしゃ、と撫でようとする。払われたとしても、何も言わないだろう。

「……あー………俺も、兄弟が生きとったらなぁ………きっと、坊くらいのとしやわぁ…」


71 : 黒繩 揚羽 :2015/07/22(水) 00:32:34 Xn0k3uhg
>>70
「…『大事な家族』だぁ?…あんな使い方をしているくせに、そんな風に言うのかよ?」
「テメェ、トチ狂ってるぜ、イカれてるよ、とんでもなくな」

黒繩には、家族だのなんだのにいい思い出は無いし、いい家族とは何なのかは知らない、しかし世間一般的な常識に当てはめてみれば、ハッキリと、畏能の発言は矛盾しているといえる。
だからハッキリとそう答える、大事な家族なら盾にする物か、大事な家族なら縛り付けておくものかと。
畏能の来歴を知らないからそう言える、知っていたとしてもまた違う言葉で否定したかもしれないが、『知らない』という事を武器にして、言えた事では無い正論を言い殴った。

「───ッ……!」

その折、突然畏能に胸倉を掴まれ引き寄せられた先で、告げられた言葉に眉を顰め歯軋りをした。
下卑た笑い声を目の前で聞かされながら、ブン殴ってやろうか、とも考えたが、それを行動に起こす瞬間にまた突如として畏能が行動する。

「……さーな、知るかよ、少なくとも俺は魔術師だからって嫌いな訳じゃねぇ、頼まれてるからやってるだけだ」
「そもそもテメェらは余所者だろうが、『能力者を調査する』だの『能力者は危険だ』だの勝手に宣って土足で歩き回っておいて、『非難される謂れはない』なんて面の皮が厚いんだよ」
「学園都市(ここ)は能力者の街で、テメェら魔術師は外野の人間なんだよ、そこんところ弁えやがれ」

頭を撫でる手を振り払いながら、自分の考えではない、何処かで聞いた受け売りを語る。
個人的な理由で言えば、魔術師なんてどうでもよかった。ただ、たまたまいた暗部組織にそういう指令が下されていたから、そんな理由でしか魔術師を狙ってはいなかった。
特に仲良くしたいとも、嫌ってもいない、黒繩にとって魔術師はストレスをぶつける為のそこら辺の小石と同じで、実際はどうでもいい存在なのだ。
だから代わりに、自分が理由を語れない代わりに、昔誰かが言っていた言葉をそのまま話す、『勝手に入って来た余所者が非難されて文句を言うな』と。

「…チッ!気分悪いぜ、臭ぇしキモイし、最悪だ」
「おまけに殺したら呪わられると来やがる、それじゃ面倒だからテメェは後回しにしてやるよ、ホラー野郎」

「…テメェみたいなのが兄だったらゾッとしねぇぜ、俺の関係ない所で野垂れ死ね」

撫でられた頭を右手でガリガリ掻き毟ると、舌打ちと悪態を吐き捨てて畏能の脇をすり抜ける。
『殺すと呪われる』というのが効いたのか、情でも沸いたか、しかしそれでも口汚く罵りながら、畏能を殺す事は取り止めたらしい。
不機嫌そうな足取りで歩いて行くと、その姿はすぐに夜の闇へと消えた。

/度々お待たせして申し訳ありません、お疲れ様でした。


72 : 畏能 知暁 ◆fEEVECiwnU :2015/07/23(木) 09:30:21 UueYv6Uo
>>71
「野垂れ死ねて……いまそうなりそうやろ……へっへっへ……」

歩き去っていく少年の後ろ姿を眺めながら、男は考える。
確かに、自分のような魔術師はこの能力者の街で紛う事なき余所者であり、イレギュラー因子。
それが我が物顔で闊歩していれば、少年のような態度になったり対応をとったりしたとしても別段おかしくはない。過激、ではあるが。
それに加え、今回の遭遇はあまりにも異常過ぎて、もしかすると、普通に出会っていたら等と夢想する。

嗚呼、なんて愚かしい。
これこそが正に、無情と言われるのだろうか。
それもいい、それでもいい。
何故だろうか…男は、この街に好意が沸いていた。
寧ろ好意や興味という型枠をはみ出し、それは愛しさともよべるモノへと変貌を遂げようとしている。

「こらぁ……稼げそうやで……ゲホッゲホッ……」

咳き込みながら、笑い、嗤い、哂う。


能力者とは、悩ましい程に面白い。
狂おしい程に、壊し ――――。


そこで、男の意識はぱたりと途切れた。
陽の当たらない路地裏で、ひっそりと。

――――――――後日、それを見ていたとある無能力者の子どもが、事の顛末を友人に話し、それが輪となり噂となり、まことしやかに囁かれるようになった。

とある"能力者"の少年が、"魔術師"と名乗る男に勝利し、この街を守った、と。
だがその真相が綺麗なものでなく、どちらも血にまみれた理由であることは、誰も知らない。




――――――――数日後。

暁屋と呼ばれる雑居ビルの一室にて、ボロボロになったソファーに沈み座る。
タバコを吹かしながら、男は壁にかけられた刀を見つめる。

「………」

立ち上がり、歩み寄れば…刀を引っ掴み、乱暴に扉を開けて部屋を後に。



出ていく横顔は、満面の笑みで。




「逆らえんように両足落として……飼うのもアリやなぁ……」



そう、呟くのだった。



/返信遅れました……絡みありがとうございました!
/また是非ともお願い致します!!


73 : 飯山 無二 ◆Nh0l8MYZR2 :2015/07/23(木) 11:10:14 tPmDGBgA
「おこだよぉ」

ぷん、と怒った表情を浮かべていた。
淡い茶髪のツインテールに似合う容姿と雰囲気ではある、のだが、
いかんせん、その体型は(すごくデブというわけでも無いが)ふっくらとした
ふわふわパステルファッション少女は、かなり怒っていた。
本人としてはかなり怒ってるつもりなのだが、
正確には、かなりぽややーんとした怒ってる?表情を浮かべていた。

「おこだぁ」

何故怒っているかというと、
毎週、この曜日に公園に来るはずのクレープワゴン販売が、中々来ないからである。

「……」

ベンチに腰掛け、本来であればそこに車があるはずの場所を眺めている。
ふわふわした体の少女は、食欲にて怒りを左右されているらしかった

ちなみに、クレープワゴンは公園と隣接した広場で販売されている(場所移動しただけ)


74 : 高天原いずも ◆Fff7L077io :2015/07/23(木) 17:46:49 14RZmZB.
「──これって変装の意味あんの?てか顔隠してない分、変装って言えんの?」

茹だるような暑さが都市を襲う真昼間に路地裏の壁に寄りかかった”少女”が一人。…その少女の名は間違いなく「高天原いずも」なのであるが、今日は見た目から何処か根本的に違う。
一つ目に、彼女は彼女のアイデンティティとも表せる「学ラン」を身につけていない。
代わりにヘソ出しタンクトップにショートパンツと凄まじく清涼感漂う風貌であった。
二つ目に、彼女の髪はショートヘアから短いポニテへと変化。そしてその短いテールを造形するべくゴムのように扱われているのは彼女のシンボルでもある紅い鉢巻である。
───つまり、普段の”男らしい”格好ではなく、極めて”少女”の格好。

「…………いや、確かに動きやすいけどなぁ。
ま、いいや。……さてと、観察行きますか。」

そんな高天原いずも(特別版)の目的は都市情勢の傍観である。

様々なモノを”番長”として見て、介入して……それが彼女の生き様だった。
──然し、つい先日その素直すぎる生き方はドス黒い闇を前に立ち尽くすこととなった。
だから。少しだけ”番長”とは違う立場から都市を見てみよう、と今回の暴挙に至ったのである。
──だから、今日の彼女は高天原いずもであって高天原いずもではない。

彼女の心配とは裏腹に、今までのイメージが強烈であるお陰か今の彼女は別人レベルに変化している。一目見るだけでは誰?レベルに。
とある魔術師から助言を得てこうなった。

……そして、突如として彼女の前に現れた貴方は誰だろうか。彼女の知り合いか。それとも初対面か。

//本スレの流用です
匁さんお願いいたします!


75 : 芽取匁 ◆W5gVdFwf2A :2015/07/23(木) 18:12:16 1xinIFA.
>>74
/はい、どうぞよろしくお願いします

彼女の思惑とは違い、異変は後ろから聞こえてきた。

『ぎゃああぁぁ…』

彼女のいる路地裏の奥から不意に男の叫び声が上がる。街の中では人の声に消されるほどの声だが路地裏の壁に寄りかかっている彼女ならあるいは聞こえるだろう。

「おいおい、そんな情けない声出さないでくれよ。まるで僕がいじめてるみたいじゃないか」

路地裏の奥では血を出して気を失っている男とそれを踏みつけている男子生徒。
気を失っている男は出血量は大したことはないようで行きはあるようだ。

「だいたい先にカツアゲまがいなことをしてきたのは君じゃないか。文句はないだろう?ねぇ、天下の能力者様」

踏みつけている男子生徒は学生服を払い包帯の巻かれた左腕で灰色の髪をかきあげると反応のない男を見て表情を曇らせる。

「君から話しかけて来といて無視をするなよ…傷つくなぁ…傷ついたからあと三秒以内に返事をしないなら君の右腕を潰すよ」

踏みつけていた足を上げ右肩の方に持っていく。男子生徒の顔は満面の笑みで数を数え始める。

「い〜ち…にぃ〜い…さ〜…」

今にも足を落とさんとする男に声をかける、あるいは静止させる人間がいるのだろうか。


76 : 高天原いずも ◆Fff7L077io :2015/07/23(木) 18:33:54 14RZmZB.
>>75
「…………何だ?」

妙な声が彼女の鼓膜を震わせたのは、其れから間も無くの事であった。──苦痛に歪んだ悲鳴。
高天原出雲は怪訝そうな顔を浮かべ、その声のする方へと身体の向きを変えてみる。
────そんな彼女の瞳に映ったのは。

(ハハ…………おいおいおいおいおい!!
何でこんな日なのにこんな事起こってんだよクソ野郎…………!)

2人の男、だった。然し、その2人には圧倒的な戦力差があるという事が瞬時に見て取れる。
片方は気を失い血を流している。
そしてもう片方は、そんな男を見て愉悦に顔を歪ませ、何やら言葉を発していた。
──普段ならば間違いなく駆け出すところだ。其処にどんな障害があろうが、圧倒的な戦力差があろうが、迷いなくその脳筋は能力を行使した事だろう。

………………が、今日ばかりは。

(…………………ダメだ。)

介入は一切しないと決意した。──介入なんてしてしまえば何時もの自慢の学ランを脱ぎ捨てこんなに肌色を露出させた意味がねぇじゃねぇか……!
今にも駆け出しそうに震えている右脚を、自身の右拳で叩きつけて静止した。……まだだ……!まだ出るべきじゃあない……!!

…………………………………
…………………………
………………
……

──然し。彼女は番長である前に「悪事」を許せない「善人」だった。
故に、目の前の悪意ある行為を……見逃せはしない。

「……ふざけやがってェェェェ!!!もういい!どうにでもなれくそったれ!」

ヘソ出しタンクトップにショートパンツでポニテの高天原出雲が始動する──。
震えていた脚は意識によるリミッターが外れ、地面を力強く踏み締めて。──爆発的な初動を誕生させる。
ドゴン!!という音がしたかと思えば、高天原出雲はそのスピードを以ってして匁へと突撃する。
携えし武器は──拳のみ。


77 : 芽取匁 ◆W5gVdFwf2A :2015/07/23(木) 19:12:20 2Nc.DdE2
>>76

「…ん?」

突如聞こえた大声に踏みつけようとする足を止め声の方に振り返る。振り返って見えたのは自分の目の前の拳。

「あがっ!?」

凄まじくスピードの乗った拳は無能力者である彼にはどうすることもできなく、拳をもろに受け2、3メートルほどの転がっていく。倒れたままで顔を上げて拳の主を見上げる。

「かはっ…酷いなぁ、僕みたいな善良な一般市民に何てことをするんだい君は…で?誰だい?僕は君のこと知らないな。ひょっとしてそこに寝ている人の知り合いかい」

痛そうに殴られた頬を摩りながら体を起こしてその場に座り込む。自称一般市民な彼は直ぐに手を広げて訴え始める。

「知り合いならちょうどよかった。路地裏で倒れている人を見つけてね。今から風紀委員に連絡しようと思ってたんだけど手間が省けたよ」

何食わぬ顔で嘘をつき携帯を探すふりをしてポケットを探す。右ポケット、左ポケット、そして倒れている男の血がついた凶器のハサミが入っている胸ポケットに手を伸ばしていく


78 : 高天原いずも ◆Fff7L077io :2015/07/23(木) 19:46:06 14RZmZB.
>>77
「…知り合い!?んなわけねーだろが。
……つまんねー嘘吐いてんじゃねぇぞ馬鹿野郎。

何が倒れてるだ?少なくともオレの目に映ったお前は助けようとしているようには見えなかったぞ。」

……まるで其れが真実かのように平然と垂れ流される虚偽の事実。
善良な一般市民?そんな筈がない。先程彼女の瞳に反映された彼の姿は、明らかに歪んだ狂気を孕んでいた。
そんな相手を前に、高天原出雲という少女は鋭い眼光を飛ばした。素直過ぎる怒りを保ったまま、その視線は匁へと注がれる。

──そしてもう一つ挙げるべき点として、彼女は戦闘に”慣れて”きていた。それも、自らが扱う「能力」とはまた違う「魔術」との戦闘に。
……故に。現在の彼女は「魔術」との邂逅以前よりも確実に用心深くなっている。

平然と吐き出される嘘とともに自らの懐を弄び、何かを取り出そうとする匁。──”携帯”にしては何か楕円形の空間のようなものが浮き出ているが……。明らかに携帯ではない事は察せる。
……で、あれば。

(…………この馬鹿みたいな軽装でダイレクトにくらったらどうしようもねーぞ……。
出を伺うしか…ないか。)

瞬時に全神経を身体の防衛へとシフトする。
その少女は、相手が何をしてきても対応できる…否、するべく、地面を確りと踏みしめる。


79 : 芽取匁 ◆W5gVdFwf2A :2015/07/23(木) 20:31:35 dInBXujc
>>78

「あ、見てたんだ。じゃあしょうがないね。まぁ僕としてはどっちでも良いんだけどね」

嘘を見破られ睨まれるとため息をつきやれやれと胸ポケットに手を入れハサミを握る。
そのまま一気に取り出してハサミを出雲の方へ投擲する。何てことはないただのハサミを投げつけただけで異能は何も宿っていない。だが相手は警戒している。ならばそこをつくのが匁という人間である。


「ちなみに僕の能力は鉄分を操る能力。『鉄器千滅』《メタルシャウト》気をつけたほうがいいよ」

当然嘘。匁は学園都市ではLevel0。だがLevel0が故に誰も自分のことは知らない。目の前彼女の面識はない。だったら尚更でっち上げれる。

出雲がハサミに気をとられるならその隙に左手に巻かれている包帯の掌の部分だけ開いて流れるように配管の二箇所握る。触れた部分は脆くなり簡単に触れた場所から崩れて擬似鉄パイプとなる。

「女の子相手だけど流石に素手じゃあ心許ないからね。ほら、僕っていじめられっ子だからさ」

左手の包帯を戻して鉄パイプを右手に持ってカラカラと音を立てる


80 : 高天原いずも ◆Fff7L077io :2015/07/23(木) 22:25:54 14RZmZB.
>>79
(─────”鉄”を操る…………?)

次の瞬間、刃は確実にいずもの命を抉り取らんと、美しい直線を描いて襲いかかる。
──然し、それは能力で倍速がかかっているわけでもなく、硬質化した訳でも無い。
少々の痛みははしったが、その右腕をタイミング良く薙ぎ払うことで鋏を”跳ね飛ばした”。
そして同時に彼女を襲うのは”違和感”。
……鉄を操れる能力であるのに、普通に投擲という手段を選んだ、戦闘意識の謎。

だが匁は彼女の違和感を掻き消すように次の一手を打つ。流れるように、計画されたように吐かれる言葉の手駒達は少女を存分に迷わせた。

「……ははっ、そりゃあないぜ。
オレだって武器なんて持っちゃいないってのによ?」

軽く含み笑いを見せる高天原いずも。
然し、そんな笑いとは裏腹に彼女の目は確かに匁の左手を捕捉していた。
──”崩れた”?
確かに彼が手にしたのは鉄を含む物質ではあるが……”鉄分を操る”能力とはこういうものなのか?…鉄を操れるならば、そのまま造形出来るんじゃあないのか。……疑問が脳裏を過る。

「……うっわ……そりゃあ当たると痛そうだなぁ。
振り回しちゃう?こええこええ。」

現在の彼女は普段のように学ランを纏っていない。ただの学ランであるといえど、その学ランは自分の肌身が隠れているという安心感を与えていた。
……然し今は違う。その鉄パイプを見るや想像されるのはほんの少しの”恐怖”。
軽口を叩きながらその少女は、拳という武器を胸に、匁の動作を伺う。

//遅れてすみませんッ!!いつ返してくださっても構いませんのでッ!


81 : 芽取匁 ◆W5gVdFwf2A :2015/07/24(金) 05:04:55 P3d2doWc
>>80
「女の子にはれっきとした涙っていう標準武器があるじゃないか。どうだい?それを出されたら流石に僕もどうしようもないし使ってみたらさ。」

対峙する彼女に向かって言葉を返す。だがこの鉄パイプはあくまで意識をそらすためのもの。Level0ごとき彼の武器なんて物はこんなものだ。

「だいたいさ、君はあそこの彼と何も面識はないんだろ?じゃあ戦う義理もないだろう。正義を味方しなくてもいいご時世なんだから。
それでも僕をぶちのめしたいなら気をつけてね。刃物を素手で飛ばすんだもの、血とか出るんじゃないかな?そういえば僕の能力は『鉄分』を操るけど…血の主成分って血の主成分ってなんだったかなぁ?」

だから彼は嘘を嘘で武装する。実際血の主成分なんて物は知らない。他に何が混ざっているかとか何が多いかとかわからない。だが常識的に血には鉄分が入っているという事実があれば良い。もし血が出てるにしろ出てないにしろハサミが当たった部位に気をとられるならそれは隙だ。
いやらしい笑みを浮かべ言葉を投げかけたあと地面を踏み込み右手に持った鉄パイプを振り落とそうとする。流石に女の子をいたぶる趣味はないので頭に向かって一発で気絶できるように。しかし彼の言葉に反応しない、もしくはいち早く反応できれば能力もない、彼自身の身体能力も並なので十分反応もできるだろうし反撃も大いにできるだろう。

/いえいえ自分も不規則になるだろうと思います。おそらく夕方らへんには落ち着けると思いますが…。こちらも返事はお好きな時にでも


82 : 高天原いずも ◆Fff7L077io :2015/07/24(金) 06:24:45 qd9wLgVs
>>81
「……生憎、オレは涙なんて流しちゃいられない性分なんでねぇ。」

匁が握り締める鉄パイプを凝視する。相手が武器を所有していて、それを振り翳していたとしても、彼女は素手での戦闘には慣れている。
──然し。今回は心の防衛武装たる「学ラン」は存在しない。そこから生じるのは不安……アレで叩かれた時にどれだけの痛みがはしるかという……恐怖にも似た感情。
「番長」という立場を利用しなくなった途端、自らの弱さというものが垣間見えてきた。
だかそんなものを表に出す訳にはいかない。ほぼ完璧なポーカーフェースで意識を封殺した。

「なら逆に言わせてもらうが”戦わない”義理もないだろ?……割と意味わからんが戦う理由なんてもんはそんなもんでいいだろ。」

「能力」などの超常現象が当たり前の様になったこの世界だ。匁の言葉通り、”正義の味方”なんていう物は馬鹿馬鹿しい偶像崇拝に過ぎない……なんて考えの者も一定数いるだろう。
でも彼女はその一定数……以外の、そしてさらに正義という意識を精鋭していった成れの果ての一人だ。──今一度、拳を強く握り締める。

「悪ィが、オレに血液の主成分〜!だとかはわかんねぇぞ?……あとさっきは横から跳ね飛ばしたから……血なんて…ッ…!!??」



成績なんて下から数えたほうが早い彼女に、理屈とか硬いものは通用しない。……でも、彼の言葉に反応してしまったのは事実。嘘で塗り固められた言葉とともに行われる不意打ちは、彼女の意識の裏をついていた。
……全力で後方に体を倒しながら飛躍後退する。警戒が一瞬であるとも解けていた彼女に、鉄パイプを真剣白刃取り……なんてする余裕はない。
ただひたすらに攻撃を回避する意識を創生する。直撃は免れたが、右の頰に赤い直線が入った。

「…気をとられちまった……ッて……。

……でも。”これまで”だ、クソ野郎。
これは推測にはなるが、お前は「鉄分を操る」なんていう能力者じゃあないな?
…「鉄分」を操れるなら無理に危険背負ってオレに近づく必要もなく、そこらへんの鉄を操って遠距離攻撃すればいいはずだ。」

高天原いずもは、血が滴る右の頰を手で摩りながら”違和感”の正体に気づく。
──オレの武器は素手だと公表してる。鉄分を操れるなら無理に近づく必要はない。……まんま相手の攻撃の矛盾点を言葉で攻撃した。
まだ彼女は攻撃には出ない。理由は、彼女の攻撃は一撃一撃にかなりの隙を生むから。
とりあえずは匁の返答の答え合わせを待ってみる。


83 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/24(金) 06:43:16 7xrgokG2
学園前にある、とある公園。
中央にそびえる噴水は太陽を照り返し、綺麗な虹を作りあげている。それをベンチでぼうっと眺める一人の女。腕に学園のマークが入った白衣を着て、何も考えていないような、否、何も考えられない、といった風にぼんやりと、子どもたちが遊ぶ様子や親同士が談笑しあっている姿を眺め続けていた。

無論、本当に何も考えていない、というわけではないようで、考え込んでいるために、ぼうっとしているように見える、といったほうが正しいだろうか。
くわえた煙草には火もつけず、ただくわえているだけ。
右手に持った缶コーヒーは、開けてあるのに、まだ一口も口をつけていないようだった。

「……私は、これでいいのか…なぁ……"  "……」

最後の呟きは、夏の風に流され、噴水の中に消えていく。胸中で、何かに締め付けられるような感覚を覚えて、女は左手を額に当てて泣きそうなため息を吐き出した。

『オレは、"番長"だからな!』
         『俺はこの学園都市を護りたいだけだ!!』
   『先生は、この学園好き?私はね、大好きだよ!』

出会った人々の声が頭の中で反響し、また、女は頭をがりがりとかきむしるようにして、髪をかきあげた。

(……このままで、いいはずがないじゃないか……それは私が一番よくわかっているはずだろう…行動だけが、先走ってどうするんだ…)

それは何に対しての想いか、それを知る者はいま、この魔術師しかいない。


「……はぁ…くそっ……」

悩ましく吐き捨てられた言葉は、風に乗って、貴方の耳に届くだろう。
今日は、どんな出会いがあるのか…。


/誰でもどぞー


84 : 芽取匁 ◆W5gVdFwf2A :2015/07/24(金) 08:04:58 5Zn/EGfY
>>82
振り下ろした鉄パイプは完全に空を切ったわけではないがその勢いのままに地面に落ちて甲高い金属音が響く。
そしていずもに推測を突きつけられ、匁は一つのことを心に思った。

(全くもって、頭の悪いやつってのは良いやつよりよっぽど面倒くさい)

地面に落ちた鉄パイプを持ち上げ方に背負いいずもの方を見る。口を歪ませ弧を描くが目は笑ってない。
これからいくらでも嘘は重ねられる。単にLevelが低いからこれくらいしかできない、とか。まぁでもそれで『じゃあここで鉄を操ってみろよ』とか言われると何も言えない状況になる。それに彼女は理屈ではなく直感で動くタイプ。嘘をついてもいずれはその身で実証されるだろう。ここで嘘を重ねるのは滑稽でしかないだろう。

「…答えとしては大正解。『鉄器千滅』《メタルシャウト》なんて持ってないし存在すらしない。いやもしかしたらこの広い学園都市にいるのかもしれないね。ともかく僕はLevel0の無能力者だ。でも君も察している通り変なものはもっているんだ。ところで君は都市伝説とか信じるタイプ?」

だいたい鉄分を操るなんて便利な能力喉から手が出るくらい欲しいくらいだ。食器とか一つで足りそうな面も考えて利便性は高そうだし。そんな事を思いながら左腕の包帯を解いていく。むき出しになった左腕の辺りには異質な空気が蔓延る。そして何も纏っていない左手で鉄パイプの真ん中程を握る。

「失落怨《フォーリングダウン》。僕の能力、とはいいかねるんだけどね。触れたものを例外なく特例なく遍く万象全てを劣化させるんだ。」

そういった匁の左手の鉄パイプが握っている真ん中程からへし折れる。地面に叩きつけられても曲がりもしなかった鉄パイプがまるで発泡スチロールのように簡単に折れ、折れた半分は地面に落ちて甲高い音を鳴らし片手に持つ鉄パイプは半分ほどの長さになった。

「…僕もこれまでにしときたいんだけどね。ほら僕としては可愛らしい女の子に手を上げるのも心苦しいからさ。顔に傷なんかつけちゃって台無しじゃないか。それにほら、そこで寝ている彼から吹っかけてきたんだよ。カツアゲまがいな事してさ。そりゃ僕みたいな小心者は手が出ちゃうよ。

それだったら、ほら。この場には悪い僕と悪い彼しかいないじゃないか。『正義の味方』は『正義』の『味方』だけしとけばいいんだ。僕達に口を挟むのは御門違いだろ?」

依然として君の悪い笑いを続けながらいずもを揺さぶる。Level0なのにも関わらず異能を持ち、尚且つ都市伝説といえば思いつく要因は一つだろう。


85 : 八橋 馨 ◆435bdiv0ac :2015/07/24(金) 10:02:05 C0vthjTI
>>83
遠く、キャッキャと楽しそうに遊ぶ子供達の様子が、ほんの少しだけ変わる。「ふーきいいんのおねーさんだ!」という声の元に起こる歓声混じりの戯れつきに幾らか対応して、その"ふーきいいんのおねーさん"は離れたようで。
やや残念そうな子供達へと手を振って、若干熱を孕んだ風にふわりと靡く、長い黒髪。"あの時"のように一定のリズムで近付く足音。

「–


86 : 八橋 馨 ◆435bdiv0ac :2015/07/24(金) 10:02:59 C0vthjTI
>>85
//ミスです……書き直してきます!


87 : 八橋 馨 ◆435bdiv0ac :2015/07/24(金) 10:15:14 C0vthjTI
>>83
遠く、キャッキャと楽しそうに遊ぶ子供達の様子が、ほんの少しだけ変わる。「ふーきいいんのおねーさんだ!」という声の元に起こる歓声混じりの戯れつきに幾らか対応して、その"ふーきいいんのおねーさん"は離れたようで。
やや残念そうな子供達へと手を振って、若干熱を孕んだ風にふわりと靡く、長い黒髪。"あの時"のように一定のリズムで近付く足音。

「"随分と弱っているじゃあないか"」

そう笑い掛けるのは、八橋馨……レイカ・ウィルソンの飼い犬であり、病魔を自称する少女だった。
遠巻きながらも人目を気にしてか、その態度は通常よりも幾分か穏やかなものになっている。更に言えば、今は巡回中、何方かと言えば風紀委員の方にスイッチが入ってしまっていた。
普段のつんけんとした態度は何処へやら、言葉遣いこそ変わらぬものの、中に込められたものは嘲笑よりも心配の色が強いのだが。

「そんな風で大丈夫なのかい?……なぁ」

御主人様、と。甘く甘く囁く言葉は、しかし矢張り、魔術師のものなのだった。

手に持つ木刀を地面に突き立て、ぐいと強引に顔を覗き込もうとする。八橋の顔には惨忍で狡猾な狂犬の嗤いが見え隠れしていた。

//改めて、お願いします……!


88 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/24(金) 10:48:32 7xrgokG2
>>87
弱っている、という声に顔を上げた女の瞳は、いつもの冷徹、冷血そのものの切れ長は健在しているものの、底知れぬ黒は無かった。
あるとすれば、後悔の念のようなものか。
瞳に黒が宿っていないとしたら、今の女には何が宿っているのか。光か、闇か。

「八橋か……ふん、弱っているなど、何を巫山戯たことを…私は私さ、いつも通りじゃないかね」

心配しているような色が伺えたからか、女は気丈な表情でそう言って、火のついていない煙草にライターで火を灯す。
ポケットにライターをねじ込んでから、女は缶コーヒーを漸く一口だけ飲む。
いつもはブラックしか飲まない女には珍しく、甘いカフェオレであった。

「…ご主人様、か…馬鹿馬鹿しい……。
      八橋、捨てるのも勿体無い、飲め」

そう言って、カフェオレの缶を差し出す。
買ったのはいいが、最初から飲む気はあまりなかったのだろう。手持ち無沙汰を解消するためだけに購入したが、今は目の前に八橋が居る。手持ち無沙汰にも暇にもならないだろう。

「いやなに、私のような愚か者でも頭を悩ませることはある、ということだよ。お前ならわかるだろう、この愚かしい私の行き着く場所が。

…地獄以外に、考えられる場所はないがね」

自嘲気味に、自暴自棄になりかけているような吐き捨て方をすると、女は泣きそうな顔を誤魔化すようにして紫煙を吐き出す。
足を組んでぐっと胸をはっても、すぐに背は丸く、頭を抱え込むような形に。
そうとう、参っているらしい。


89 : 八橋 馨 ◆435bdiv0ac :2015/07/24(金) 11:31:57 C0vthjTI
>>88
(これは、相当……)

押し付けられたカフェオレ越しに目前の主人を見つめ、思わず苦笑を漏らす。少なくとも自分の知っているレイカ・ウィルソンとして"らしくもない"姿を、目前の彼女は曝け出していて。
言ってしまえば面白みも、弄りがいもないただのヘタレた魔術師が、勝手に悩んで勝手に自暴自棄に陥っているようにしか思えない。

それでは、詰まらないではないか。

「何を今更。僕を従えた時に言った言葉をもう忘れたか?世界に抗い、神に逆らうと言ったその瞬間から君は……いや、君に従う僕も地獄行きが決まっているだろうに」

八橋は苛ついていた。まさかこの魔術師がこんなにも甘ちゃんだったとは思わなかった。
一度堰が切れたにも関わらずこんな所でくよくよするなど、想定もしていない事だ。全くもって、あの時魅せられた"魔術師らしさ"は何処へ行ってしまったのやら。
だから、言葉の端々に棘が出る。苦笑はすぐに消え去り、顰められた眉と両眼は咎めるようにレイカを捉えて離さない。

「それとも君は、"あんな事をしておきながらまだ天国に縋りつこうとするのか"?それこそ本物の愚か者がする事だ」
「君は僕よりも、賢い選択をする人間じゃあなかったのかい?……、……甘いな」

言い切って、ぐいとカフェオレを呷る。気温で温くなったそれが諄い程に甘く感じ、八橋は顰め面と共に舌打ちを零した。


90 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/24(金) 12:02:44 7xrgokG2
>>89

「一度言ったことは実行するつもりだ、その言葉通り……これを見ろ」

白衣の中から、折りたたまれた資料のような紙束を出し、自分が座っているベンチの横へばさりと置く。
隣にでも座れ、ということだろう。

紙束を見れば、それが"学園の生徒"の詳細なプロフィールと行動履歴であることがわかるだろう。
事細か過ぎるその資料は、一枚で一日の動きが把握出来る程に綿密で、咳払いの数なんていうものも書き込まれている。

「……私には色々と無いものでね、根っから研究者、学者肌なのさ…お前のような素質や才能もなければ、実際、駆け引きが出来るわけでもない……謂わば、心理操作というところかね」

ため息混じりに話しながら、女は八橋の方へ顔を向けてから、どこか儚げな顔をしてしまう。

「…地獄へ落ちる覚悟は出来たが、天国を夢想するのは咎められる事でもないだろう…?」

女は、煙草を煙らせながら、ぎゅっと手のひらの中にある何かを握りしめる。

「神に逆らい世界をひっくり返すと決めたんだ、どうせだからお前にいい情報をやろう。



  ――――リーという教師を追え。」

女が出した名前は、おそらく八橋も聞いたことがあるであろう、とある男の名前だった。

「主人である私が直々に情報提供してやるんだ、尻尾振って"取ってこい"くらい、出来るだろう?」

資料をめくれば、大量の生徒の情報の中に、隠すようにして男の情報の記された資料があるだろう。
無論、同じ魔術師であるがゆえに、中々情報が集まっていないのが事実だが、学園内でのある程度の情報は記されている。
隠匿の魔術師、として。
その魔術師の情報を手に入れてきたのだから、相当の苦労があったのは言わずもがな。

最近は女の周りにおかしな噂も立ち始めた。
一般生徒のうわさ話など、取るに足らないものであると言ってしまえばそれまでなのだが、それでも、それが広がってしまうのも憚られる。

一部の生徒の間では、『あの先生は優しい顔をしているが、本当は世界を壊そうとしている』だなんていう的外れなような、そうじゃないような根も葉もないようなものまで。
閑話休題。

女は、風紀委員である少女に対して、言い放つ。

「その男は何をするかわからん。私の計画の邪魔をされても面倒だ。




――――消せ」


91 : 八橋 馨 ◆435bdiv0ac :2015/07/24(金) 13:00:06 C0vthjTI
>>90
無理矢理に飲み干した缶を放る。小気味のいいカランという音と共にゴミ箱へ収まったそれを一瞥し、八橋はふぅと溜息を吐く。
少しはマシになったかなと思いながら、乱雑に置かれた資料を拾い上げ、レイカの隣へと腰を下ろした。そしてそのまま、話半分にパラパラと資料を流し読んでいく。
その中の一枚、丁度、レイカの言うリーという男の資料を目にして、狂犬の動きがぴたりと止まる。

この人物は、まさか、あの時の―――


「――――――あぁ、分かった。この男に接触して、"消せば良いんだな"」

しかし、その言葉に躊躇いは無かった。否、躊躇う理由すら無かったのだ、八橋には。
"隠匿の魔術師、リー・ウェンを消せ"と主人が言うのならば、犬に躊躇う理由など有りはしない。……ただしその犬は、時に主人に牙を剥く狂犬なのだが。

「言う事を聞いてやるとも。君は僕の"大切な御主人様"だから、ね」

レイカの周囲とは打って変わって、八橋の周囲には不穏な噂のひとつも立っていない。裏の顔を知っている側から見れば、まるで誰かが火消しをしているような、そんな印象すら覚える程に。
受け取った情報の束に視線を落としてクツクツと笑う様は最早、風紀委員の面影を残さぬ唯の魔術師だった。


92 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/24(金) 13:59:22 7xrgokG2
>>91
「随分と余裕だな?まぁいい………お前なら、いや、"お前だからこそ"奴を消せそうだ……せいぜい私に撫でられる働きをしてもらおうじゃあないか」


「くれぐれも……私を失望させないでくれよ、私の可愛い飼い犬さん……?」

ゆったりとした動きで手を伸ばし、少女の頬を撫でようとする。
その顔は、複雑なものではあったが……瞳に宿るものは、紛う事なき闇だった。
全てを飲み込もうとする闇。
女は、この世界を分解し、解体し、分析し、解析し、丸ごと飲み込もうとしている。
諦めたわけではなく、ひとつ言えるのならば……。


「あぁ、もったいない……懐柔出来れば…私の良い実験道具になえそうだったんだがなぁ……そうだ、八橋。手足を失くした状態なら生きて連れて帰っても構わないぞ。口は潰しておけ。呪文を唱えられたらかなわんからな」


どんどんと浸食されていく表情、瞳、そして………



「さ、て………これを預けておく。交渉道具にでもなるだろう」

新しい煙草に火を灯したのち、ライターを少女へ渡す。
彼女ならば、ライター一つでなんでもでっちあげるだろう、と。
無論、自分以外が使えばただのライターだが、特徴的過ぎるそれは女を表すには十分な材料だ。


93 : 八橋 馨 ◆435bdiv0ac :2015/07/24(金) 15:18:30 C0vthjTI
>>92
これだ、と八橋は思う。自分が魅せられたのは何よりもその赤茶の瞳に宿る闇、それがなければとうの昔に、自らの牙で喉元を引き裂いているというのに。
主人の動作を受け容れて、恍惚の眼差し。半ばこれを見る為だけにこの偽りの関係を続けているのだから、"しっかりと魅せて貰わないと"。

「些か追加注文が多いようだが……まぁ、良い。これも貰った事だからな」

受け取ったライターを手の中でくるくると弄び、不敵に笑う。これを使えば、上手く行く可能性は随分と上がるのだ、使わない手は無い。
次はいつ噛み付いてやろうかなどと考えながら、思う。きっと隣のこの女は、自分が裏切れば容赦無く潰し、今のリーと同じ様に扱う事だろう。そして、その為の道具は恐らく既に、準備されている筈だ。

ならば、また、探らねばなるまい。自分と同じようにこの女の周囲を固める人間を。

「……漸く調子も戻ってきたようで何よりだ。ずっとあのままならば、遠慮なく喰い殺していた所だったが」

しかし、今はその時では無いのだ。もっと深く、懐へ忍び込まねばそれは難しい。
冗談のような言葉を、若干の殺気を帯びた視線で現実めいて思わせる。まだへこたれてくれるなよという言葉は、流石にこの女に向けるには優しすぎた。


94 : Reika=Wilson ◆fEEVECiwnU :2015/07/24(金) 15:48:39 7xrgokG2
>>93
「あぁ…」

女は何か合点がいった様に声を上げる。

「私が……この世界を覆し神に逆らうのをやめたのではないか、と?」

ふふ、と微笑む様は、休日にバルコニーから庭で遊ぶ子どもたちを眺める優しい母のような。
目を細めて、ふぅ、と紫煙を纏う。

「馬鹿な……私は諦めたのではないのだよ……ただ、少しベクトルを変えたい、とね。ただそれだけだ。あまりがっつくレディでは誰も手を取ってくれそうにない……なら、少しくらいはか弱くなくてはなあ?」

ふふ、と笑って人差し指を虚空へ差し出せば……そこに色鮮やかな紅い蝶が止まる。
風景だけは穏やかで、心が洗われるようなそれは、瞬時に崩れ去る。
指先に止まった蝶は一瞬のうちに燃え上がったのだ。
だが、それは死なず。炎を纏ったまま驚いたように飛び立っていく。
飛び立った蝶はそれでも死なず、炎はゆっくりと小さく小さく…最後には、消える。
何事もなかったように、それは終わった。


「ふふふっ……私はね、自分が"食べたい"ものは選別する質でね……お前も是非、美味しくなってもらいたいものだよ」


にっこりと、少女へ笑いかけてから、立ち上がる。

「さぁ、善は急げだ。さっさと仕事を終わらせてくれたまえ」

微笑む顔はそのままに、眼は相手を射殺すかの様に細められ。
女は少女を見送るように、送り出すように立ち上がり手を差し伸べる。
地獄の創造主たる、汚れきった手を。


95 : 八橋 馨 ◆435bdiv0ac :2015/07/24(金) 17:03:10 C0vthjTI
>>94
ボウと燃えて舞う蝶を見て、思う。きっとこれは自分に対しての牽制でもあるのだ。
こうやってお前を今"食べる"事も簡単に出来るのだという、飼い主からの威圧。

「さてね……僕とて君にむざむざと食べられる積りは無い。それに、僕は僕で、その喉元に喰らいつける日が堪らなく待ち遠しいのさ」

八橋は、その手を躊躇いなく掴むばかりか、優しい動作でするりとレイカの首元に触れようとする。
所詮は狂犬、飼い主の意のままに動く事の方が少ないのだから。仮初めの首輪を付けられながらも今か今かと牙を磨ぎ、待っているのだ。
―――彼女の柔肌に噛み付き、肢体を残さず貪り喰える、その瞬間を。

そうして、立ち上がってしまえば、魔術師の時間は終いだとばかりに、仄かな殺気も僅かな狂気もさっぱり隠しきる。これが出来るからこそこの少女は風紀委員にまで入り込めているのだろうと思わせる程に、上等な隠し方で。

「……では僕も、そろそろ仕事に戻ろう。あまり長居をし過ぎても良くない」

何が、とまでは言わないが。実際、魔術師同士の会話をするにはこの場所は人目につき過ぎる。
だからこそ風景に馴染む事も可能であるが、今回の会話は些か不用心過ぎる気がしないでもないのだ。
ライターは仕舞い込んで、レイカから受け取った資料はくるくると筒状に緩く巻き、もう片手には木刀を持ち直して。手際よく全てを纏めて、何事も無ければ少女はこのまま去っていく事だろう。

「……どうにも、我が御主人様には敵が多いらしいからな。僕以外の牙で倒れてしまわない事を祈るばかりだよ」

――――――くるりと途中振り返り見せた顔は、狂犬か、猟犬か。


96 : 高天原いずも ◆Fff7L077io :2015/07/24(金) 18:39:51 qd9wLgVs
>>84
(……………魔術、か。)

嘘に嘘を重ねていくその姿勢。そしてその中で唯一事実めいた単語が一つあった。
──”都市伝説”。学園都市には様々な都市伝説が 一人歩きしているものだが、昔から揺るがず存在する亡霊のような物が存在していて。
その内容は「”能力”とは別の異能が存在する」というものである。ある程度の興味は示すが、身近に「能力」というものがあるために、すぐに人々の意識の中から消え去る、その噂。
………然し、高天原いずもはここ最近何度も「魔術」に遭遇している。匁の思わせぶりな口調が、「魔術」を指しているという事に気づくのそう遅くは無かった。

「──よく言うよ。傷つけるまんまんだっただろうがよ。大嘘つきが……!」

ギリリ、と歯軋りをして不快感を露わにする。
──更に彼女の言葉は続いた。

「残念だがオレは”正義の味方”なんて大層見事な立場なんかじゃねぇからな。
──ただ傷つける人間の前に立ち塞がるだけの、”正義の味方”のお膳立てだ。

…まあ、ここにおいてはそういう存在が一番厄介なんだろ?……”魔術師”」


97 : 芽取匁 ◆W5gVdFwf2A :2015/07/24(金) 20:04:22 NoEpVJaQ
>>96
「いやいや本当だぜ。できるだけ穏便に済まそうと努力してるんだ。君みたいな可愛い女の子を傷物にしたいような男に見えるのかい?信じなよ。これでも僕ってば紳士なんだぜ。
あ、あと僕は別に魔術師じゃないよ。ただの学園都市の落ちこぼれのLevel0さ。これは単に拾っただけ。まぁ信じてくれるかは君次第だけどね。」

そのままカツカツと靴の音を鳴らしていずもの方に歩いて行く。両手を軽く広げて無抵抗を装うがごとく。

「確かに、君は確かに厄介だよ。自分で見たまま感じたままに行動する。君はなんて強くて素晴らしい人間なんだ。きっと君みたいな人間がこの学園都市の半分でもいれば争いはなくなるんだろうな。

…でも残念ながら人間の大多数は弱くて下らないんだ。僕の様にどうしようもなく救い難くてどうしようもなく落ちぶれる。君の戦っている理由は実に無意味だ。君が正義の味方のお膳立てならいつになったら正義の味方は来てくれるんだい。そいつはカツアゲされている僕を助けてくれるのかい。きっとしてくれないだろうね、物事を断片的に独善的に捉えて僕を倒して正義と吠えるだろうね。」

そのままいずもの至近距離にまで迫る。匁の近ずくたびに左手からいやな空気が流れてくる。あの能力の説明の後だ、左手に触れるのは躊躇うはず。そう思考し匁は右手に持つ半分の長さになった鉄パイプをいつでも振れるようにする。

「もう一度言ってあげようか、君が正義を味方なんてしなくてもいいんだ。だって最初から正義なんて……どこにもいないんだからさ!」

言葉の最後で覗き込むように彼女の顔を見る。この時匁には二つほど考えてる事があった。一つは左手に加え動揺させることで右手の鉄パイプから意識をそらすこと。二つ目はこれで堕ちてくれるならば攻撃しなくていいのだけれども。
実際あまり可愛い女の子には手を出したくはない。だがそれでなお攻撃するならば、或いは言葉に惑わされないならばこの至近距離だ、能力者である彼女の方が分はある。さらに匁は左手は絶対に避けてくると過信しているしいずもが動いてから行動するつもりなので動きは後手になってしまうだろう。


98 : 暁林 初流香 ◆0IaR9ouTpE :2015/07/24(金) 20:55:47 Ky56IKBc
昼間は様々な人間で賑わう公園も、こうして日が落ちれば人影は少なくなる。
だが全く誰もいないかと言われればそうでは無く、僅かながら誰かがいる事がままあり。
そして今日に限れば、その僅かに含まれたのは―――ベンチに座り一人缶入りの清涼飲料を飲む、とある少女だった。

「………ふう」

何やら興奮冷めやらぬといった表情で、それを押さえるかの様に冷えた水分を喉に流し込む。
その姿は、まだ幼さが残るにも関わらず何処か妖艶さを感じさせた。

「…ふふっ」

やがてその缶も中身が無くなり飲み『終わる』と、彼女は何処と無く興奮した様な笑いを漏らす。
その後、ベンチから立ち上がると周囲を見渡し、丁度近くにあったゴミ箱へと歩み寄った。
その途中にある電灯に照らされれば―――その服に僅かに付着した血液が、見えるかも知れない。
缶をゴミ箱に捨てれば、少女は立ち去ろうとする―――声をかけるならば、今が好機だろうか。

/何方かいらっしゃれば、よろしくお願いいたします


99 : 黒繩 揚羽 :2015/07/24(金) 21:46:27 TOqvfNCY
>>98
少女がゴミ箱に缶を捨て、立ち去ろうとしたその瞬間、少女のすぐ背後で物凄い爆音が鳴り響くだろう。
爆音と共に、飛び散る空き缶、吹き飛ぶゴミ箱、そのゴミ箱に頭から突き刺さった人間───そんな非日常な光景が、一瞬にして少女の背後に作られた。

ゴミ箱に頭から突っ込んだ何者かは、暫くもがいていたが、追い打ちに遠くから飛んで来た空き缶がぶつかると、ゴミ箱と共にその場に倒れ動かなくなった。
空き缶が、そしてその人間が吹っ飛んで来た方向、その方向には吹っ飛ばした本人がいる。ゆらゆらと体を揺らしながら、闇の中を歩いて来る。

「オーイオイ、テメェいくら自分がゴミだからって自分からゴミ箱に突っ込むこたぁねぇだろ?」
「なぁオイ、喧嘩売って来たのテメェだろ?…聞こえてねぇか」

赤い髪、黒い服、ギザギザの歯並び、どこを取っても凶暴そうな顔付きをした長身痩躯の少年が、ゴミ箱に突っ込んだ人間に罵詈雑言を浴びせ、蹴り、転がす。
どうやら少女の方には気付いていないようだが、話し掛けるか、見ているかすればすぐに少年も気付く、少女の方に顔を向けてこう言うだろう。

「…何見てんだテメェ」


100 : 暁林 初流香 ◆0IaR9ouTpE :2015/07/24(金) 22:27:59 Ky56IKBc
>>99

立ち去ろうとしたその瞬間、背後から轟音が響く。
驚いて振り向けば、そこにあるのはゴミ箱から脚が生えた謎の物体。
現代アートかな、なんて愚にもつかない想像をしていると、その更に後から現れた少年がそれを転がし始める。

「うわあ、すんごいですねー」

この状況に全くそぐわない緊張感の無い声を響かせる少女。
その存在に気付いた揚羽が振り向けば、少女は先程とは正反対の子供らしい快活な笑顔で話し掛けた。

「こんばんはー、お散歩ですか?」

十人中九人がそんな訳はないだろうと突っ込みそうな挨拶と共に、少女は改めて少年へと話し掛ける。
相手が人間一人を吹っ飛ばした事を気にも止めない様子で、笑いながら言葉を続けた。

「あ、私には構わず続けて下さって大丈夫ですよー。
でも、一つだけ」

そこで一旦言葉が途切れ、同時にその笑顔が変化する。
子供らしい笑顔から、妖艶な微笑みへと。

「『終わらせる』時だけ言ってくれれば、それでいいので」


101 : 高天原いずも ◆Fff7L077io :2015/07/24(金) 22:56:32 qd9wLgVs
>>97
「────”弱くて下らない”……だと……?」

その言葉を耳にした高天原いずもは、顔を顰めて明らかな憤怒を露わにする。握り締めた拳は小刻みに震え、その瞳は鋭さを増していた。
彼女は……様々な人間をその眼に映してきた。当然匁が口にした言葉も根本から否定できるとは言い難い、事実でもある。
……だが。”大多数の人間”が”弱くて下らない”だと?──それは違う。
能力なんて持たない無能力でも、必死に方法を模索して……実行して……努力して……。そんな人間を”弱くて下らない”と称するのは、完全な偏見による「冒涜」だ。

────────然し、何よりも。

「…………巫山戯るな…ッ!!
なんで自分を落ちぶれていると決めつけ……自分自身の限界を定めていやがる……!!

……今からお前の考えを根本的に改めてやる。
これは”正義”なんかじゃない。……オレ自身の独断と偏見による”偽善行為”の成れの果てだ……!!」

匁が自分自身を落ちぶれて救いようのない人間だと決めつけていたところだった。……何故落ちぶれていると理解して尚、這い上がってこようともしない……?
──少女は”爆発的な火力”を宿した右拳を、これ以上なく強く握り締める。

「……正義なんて便利なもんは振るわねぇ!!オレを成り立たせているのは!!醜くて汚い偽善の塊なんだからッ!!」

「──しなくてもしてもいいなら、オレはどんな時でもするを選んでやる!!」

事実、彼女自身が誰かを救う事で、言葉に表しづらい快感をその身に受けていたのは事実だ。番長を振るう上で、そんな事は嫌という程に堪能できる。
──故に、その行為の根底に存在する「醜さ」なんてのも良く理解できていた。

少女は迫りくる匁に対し、握り締めた右拳を真っ直ぐに振るう。爆発を伴いながら振るわれる拳は、正しく超火力─────。
今回は匁の思惑通りには行かず、むしろ正反対。彼女の意識は右、左、どちらにも注がれる事はなく、真っ直ぐに匁の顔面だけであった。
彼女の唯一の武器が匁に……襲いかかる……!!


102 : 黒繩 揚羽 :2015/07/24(金) 22:56:37 TOqvfNCY
>>100
「…………」

少女らしい可愛らしい笑み、呑気な言葉、とても愛くるしい仕草だが、しかし黒繩はそれを睨み付けるようにして黙っていた。
こんな暴力的光景を見ていても尚、そんな顔が出来る人間なんて、碌でもない奴しかいない事を黒繩は知っていた。それに、暁林の服の赤色が、すぐ目に留まったからだ。

「…ヒヒッ!『終わらせる』ねぇ…何だそりゃ」
「こっから先はR指定だぜ、ガキが変な興味持たねぇで、帰ってぬいぐるみでも抱っこして寝てな」

暁林の妖艶な笑みを見て、黒繩の疑念は更に強い物となった、少なくとも只者ではないと考えた黒繩は、まず暁林がどういう人間なのかを確かめんとする。
意地悪な笑みを浮かべ、バカにするような言葉を吐いて足元のゴミ箱を蹴り飛ばす、足の生えたゴミ箱は黒繩に蹴り飛ばされ、何処かへと転がっていった。

「…オイガキィ、誰に向かってそんなツラしてんだ?あぁ?」
「ニタニタ笑いやがって気味悪いんだよ」


103 : 暁林 初流香 ◆0IaR9ouTpE :2015/07/24(金) 23:32:18 Ky56IKBc
>>102

「誰…そういえば、貴方は何方でしょうか?
あ、私は暁林初流香です。もう中学生ですから、ぬいぐるみなんて卒業ですよーだ」

どう話を聞いていたのか、聞かれてもいない名前を答え始める初流香。
挙げ句に挑発するような仕草までしながら煽り始めた―――が、その直後。

「そりゃあ、これから人が『終わ』…ああ、ごめんなさい、分かりやすく言いますね」

何故笑っているのか―――それに真面目に答えようとする彼女の雰囲気には、先程の子供らしさが消えており。
そして、先程の言葉が上手く通じなかったからと、改めてその口から紡がれたのは。

「これから、人が死ぬかもしれないんでしょう?笑いたくもなりますよ」

少なくとも、暁林初流香という少女が異常である事が、いとも簡単に分かる一言だった。

「人を『終わらせる』なんて、あんまりやり過ぎると五月蝿い人が出てきますからねー。
他の人がやるのを見物するだけならタダなので、御世話になりたいところなんですけれど」

まるで先生を煙たがる様な彼女の言い方自体は年齢相応だが、そこに込められた感情は官能的なものすら感じる大人びたもので。
奇妙かつ異常な雰囲気を持つ彼女に、黒蠅は―――


104 : 黒繩 揚羽 :2015/07/25(土) 00:00:35 xYbQHUBc
>>103
「…黒繩 揚羽だ、よーく覚えとけクソガキ」

『俺を誰だと思っていやがる』なんて言って、本当に名前を聞かれるとは思いもよらず、しかも脅すつもりの言葉が効いておらず、不満そうに名前を言った。
『黒繩』とは、地獄の内の一つの名前、『揚羽』とは、鮮やかな翅を持つ蝶の名前。獄を舞う一つの蝶、それが彼の名前。

「成る程、そりゃあいい趣味してんなあテメェ」

暁林が笑う理由、人の死を見たいという感情、故にそれを楽しみだと笑ったのだと、知った黒繩は皮肉めいて笑う。
死を愉快だと思う気持ちは分からなくもない、命乞いをして、泣き喚いて、諦めて命を落としていくのを見るのは実に愉快だと思うのは同じだ。
黒繩はそんな少女を見て、『狂っている』とは思いはすれど、『何とかしなくては』なんて思える程出来た人間ではなかった。

「…でもよぉ、わかってんだろ、テメェもさ」
「見てるだけじゃ満足出来なくねぇか?なぁ?できる事ならその手でやりたいんだろ?」
「…ヤっちまえよ、我慢しねぇでさ、煩ぇ奴等が来たらそいつらも纏めてヤっちまえばいいだろうが」

「…ちょっと、付いて来いよ」

ニヤリ、ギザギザの歯並びを見せて、三日月のように曲がった口角で、悪魔のような言葉を紡ぐ。
『我慢する必要なんてない、好きな事をしろ』なんて言う言葉、優しい励ましのようで、堕落への誘いのようで。
そうして、黒繩は暁林に『付いて来い』と促すと、歩き出す。着いていったなら、向かう先は、さっき蹴り飛ばしたゴミ箱の方向へ。


105 : 芽取匁 ◆W5gVdFwf2A :2015/07/25(土) 00:21:07 2yakFrb2
>>101
……幼い頃、少年の周りはみんな能力者だった。
能力者社会であるこの歳では皆、少年より上で、優れていて、秀でていた。自分にもいつか特別なものが宿ると思っていた。…だが現実は非情だ。いつまでも少年には能力は宿らず周りから置いてかれた。だがそのおかげもあって能力者には見れないものも多く観れた。多くの苦悩、挫折、後悔、悪意、失意、……………

─────────────

「─────ガッ!」

右でも左でもなく彼女の心のように真っ直ぐに迫る拳をもろに顔面に受ける。当たった瞬間爆発的な威力が襲いそのまま数メートル後方へ吹っ飛ばされる。地面に体を打ち付けられ勢いよく地面を擦りながら暫くして匁は静かに動き出す。

「…けふっ…!かはっ…!…はぁはぁ…死ぬかと思った…おかげで嫌な走馬灯見ちゃったじゃないか…」

実際走馬灯と言っていいのかわからないような断片的な記憶。匁にとってはあまり気持ちいいものではない。過去の経験上攻撃を受けることは上手くなった彼だが顔をそらしてなんとか気絶しないようにするのが精一杯だったようで掌で口の横を拭って血を拭き取る。

彼女は強い。紛れもなく。能力者としてではなく人として。多分彼女みたいな人間が主役を演じて僕みたいな奴をやっつける物語が約束されるんだろう。自分の中で確固たる正義を持っていて、自分の意思で選択する勇気を持っていて、人の為に憤怒したり涙したりするんだろうな。自分も彼女の様に生きられたらいいとすら思う。
───でも…

「…強者のエゴを…げほっ…押し付けるなよ…!能力者…!」

だから匁は否定する。強さを。

「自分の強さを他人に強要するなよ。僕が限界を出したことがないように見えたかい?どうせ能力者になれないからって努力してないように見えたかい?驕るなよ強者風情がさ。上にいる人間はみんな弱者の死体の上にいるくせにそれ以上を望むなよ。君は何も理解してない。理解しようとしていないんだ。弱者を、堕落者を、敗北者を。」

地面に伏せながらいずもに言葉をかけていく。その異質な左手は依然として地面につけられていて動いていない。それでも手についた血を舐めとりニヤリと口を歪ませ笑う。

「あまり弱者を買い被るなよ。君みたいに強い人間は僕らを潰して昇ればいい。僕らは負けて無様に落ちるからさ。」

言葉を続ける。匁の言葉は時間稼ぎにも思えるが全ていずもを挑発しているようにも思える。


106 : 暁林 初流香 ◆0IaR9ouTpE :2015/07/25(土) 00:31:31 rx78SHrU
>>104

「え、もしかして譲ってくれるんですか?」

果たして初流香が返したのは、まるで玩具を譲り受けたかの様な喜び、そして待ち焦がれた愛情の様な恍惚を秘めた返事。
そして遠慮無く着いていった先には、先程のオブジェが未だに転がったまま残っていた。
中にいる男は気絶しているのか全く動かず、彼女は嬉々として取り掛かった。

「―――でも、黒繩さん。さっきの話ですが」

ふと。
男をゴミ箱から引き摺り出す途中、彼女は口を開いた。

「やっぱり一番いいのは、『やって五月蝿い人が来ない』ですよね」

話しながらにも関わらず、その間にも淀み無く初流香はてきぱきと手を動かす。
それは、手慣れた一連の動作の様な迷いのない動き。

「もし、そんな事が出来たら。人を死なないように殺せたら」

―――そう、手慣れているのだ。
口に猿轡を咬ませるのも、取り出した鋏を扱う様も。
まるで、これで初めてではない、と黒繩に告げるように。

「―――――――いつまでもいつまでも殺され続けて、それでもその人が死ななければ、問題はないと思いませんか?」

そして、公園の片隅で『殺す準備』が整えば、彼女は恍惚としてそう呟き。
―――その鋏で、「自らの左手ごと」男の心臓を貫こうとするだろう。


107 : 黒繩 揚羽 :2015/07/25(土) 01:07:53 xYbQHUBc
>>106
「話が早ぇじゃねぇか、いいぜ、譲ってやるよ」
「どうせ死んだって、悲しむより喜ぶ奴の方が多いような野郎だ、公園で変死体になったって二日三日ニュースで流れて終わりだ」

暁林を連れて行きながら、その途中で楽しそうにかたって、喉を鳴らして笑う。
『殺したいなら殺せばいい、それがお前のやりたい事なら我慢するな』、それが今の黒繩の考えで、見方を変えれば少女に道を示すような物。
しかしそれは単なる持論を相手にも教養するエゴでもあって、自分勝手の押し付けだ。

そうして、自分がやる前から手慣れた手つきで男を引き出し、声を抑え、殺す準備を着々と済ましていく暁林を眺めながら、黒繩はタバコに火を点けた。
黒い巻紙から甘ったるい紫煙を吐き出しながら、暁林の言葉に気だるそうに答える。

「そりゃそうだ、一番なのは煩ぇ野郎が来ない事に決まってんだろ」
「だけど来るからな、あいつら何処から嗅ぎ付けてるか知らねぇけど来るからな、仕方ねぇからそいつもぶっ殺すしかねぇし」

「───はぁ、テメェが何言ってるかは知らねぇけど、人は殺したら死んで、それで終わりだろ」
「いつまでも死に続けるなんてそんな訳わかんねー事がある訳…」

暁林が鋏を男の心臓に突き立てたなら、当然ながら男は死ぬ筈だ。死ぬ、筈である。
だが、きっとタダでは死なない、いや、ただ『死ぬ』なんて事はない、黒繩は頭のどこかでそう思っていた、暁林の不可解な言動や行動、それがそう思わせる。
不運な無能力者の男に抵抗する術はない、心臓に鋏を突きさせば死ぬし、能力を使ったとしても抵抗は無く───


108 : 高天原いずも ◆Fff7L077io :2015/07/25(土) 06:32:24 Ulqap9oU
>>105

──匁の言葉は嘘であるにしろ、時間稼ぎであるにしろ、この学園都市の哀しい実態でもあった。
能力にはその強度によってLevelという階級分けが為されているが、やはりその上のLevelの者達の一部が驕り高ぶっているのも事実。強いものが弱いものの上に立つという典型的な”弱肉強食”の思考が、この都市には存在する。
──だから、匁の言葉は少なからず正しさを孕んでいた。…完全な否定なんて事はできない。

「………確かに、オレ達のような大馬鹿はお前らの気持ちなんて何一つ理解できてなかったかも知れない。……すまん。」

恐らく嘘を塗り固めるような匁が最も驚くべき事は。高天原いずもが心底申し訳無さそうに、何処か同情するように謝罪を入れた事だろう。
そんな小さく頭を下げるが、少しの間の後直ぐに顔を上げる。
吹き飛ばされ、地面に突っ伏す匁の方へ、ゆっくりと近づいていく少女。


「────でもな、魔術師。」

「幾ら力がねぇからって、”強者”を偏った目で見るのはおかしいだろ。
…そもそも、弱い強いってなんだ?能力の強度か?能力の種類か?お前はそうだ、と答えるかも知れないから言うけど、それは違うんだよ。」
「……特に強い”能力”なんて必要無い。少なくともオレはこの都市で馬鹿みたいに強い奴を見てきたよ。……力なんて無くとも、尚、自分の限界を突き詰めてる”強者”を、よ。」

時間稼ぎのような言葉を吐く匁に対し、いずもは敵意ないゆったりとした足取りで歩き、匁の前で立ち止まる。
───彼女のような馬鹿正直な人間は。それがハッタリであってもダイレクトに心で受け止め、そしてその感情を露わにしてしまう。
先程まで憤怒の形相であった彼女は、いつの間にかなだめるように暖かい表情を浮かべていた。

───そして彼女はしゃがみこみ、自分の”右手”を匁の前へと差し出した。

「だから……やめにしようぜ?せめて、自分の事を弱者とか言うのは。」
「………自分が弱いって空想を肯定するばかりなんて、辛いし、悲しすぎるじゃねぇか……。」


109 : 暁林 初流香 ◆0IaR9ouTpE :2015/07/25(土) 08:22:14 rx78SHrU
>>107

鋏が降り下ろされたその瞬間、僅かにその左手から光が放たれる。
激しい痛みに意識を取り戻した男は、猿轡によって悲鳴を上げる事すら出来ず身を捩る。
そして少女は、そんなのたうち回る男を愛おしそうに眺め、再び鋏を降り下ろす。

「あは、はははぁ、あははははっはっはははははははははははは!」

最早黒繩の存在など忘れたかのように、彼女は何度も鋏を突き立て続ける。
その高笑いにはだんだんと嬌声が混ざり始め、蠱惑的なものを周囲に振り撒いていた。
―――やがて、少女が小さく身体を震わせると共に、その凄惨な情景は終わりを告げる。

「………はあ、はあ、あは、こんなものですかね」

紅潮した頬、上気した顔、そして満足げに笑う少女。
そして、その身に凶刃を浴び続けた筈の男は何故か「刺される前の健康体」のままで。
少女は男に二言三言耳打ちすると、漸く黒繩へと振り返る。

「あは、すごいでしょう。私の能力なんですよ?」

自慢するようなその言葉はやはり子供のようで、先程の艶かしさを振り撒いた人間と同一人物には見えないだろう。

/返事が遅れてしまい申し訳ありません
/また、午前中は返せない可能性が高いです。本当にすいません


110 : 芽取匁 ◆W5gVdFwf2A :2015/07/25(土) 08:25:00 ADkV3pQw
>>108

「…!?」

目を笑わせない笑いのまま匁は驚いた。てっきり「うるせぇ!」とか「そんなセリフ出てこないくらい殴って構成させてやる!」とかそんな言葉が出てくると思っていたのにあまつさえ謝罪が飛んでくるとは夢にも思わなかった。ゆっくりと近ずいてきた彼女優しくなだめるような声を聞き、手を差し伸べられ、匁は目を瞑った。

「…君みたいな人には産まれて初めてあったよ。君は本当の強さを持っていて、真っ直ぐ、正直に生きてるんだね。僕は今君に惚れてしまっても仕方ないとさえ思えるよ。辛いし悲しい、ね…確かにこの生き方は誰からも理解なんてされないし間違っているよね…」

そのままいずもの差し出している右手の方へ右手を上げていき。その右手の通り過ぎていき、手を大きく上げた状態から───────

─────右手に隠し持っていた鉄パイプを勢いよく地面に振り落とした─────

ついさっきまで長い状態の鉄パイプで叩きつけてもビクともしなかった地面が倒れている状態の一撃で周囲が粉砕され、濃い砂煙が上がる。割れた地面は所々ひび割れも起こしていて運が悪ければ足を取られるだろう。

「…でも僕は別に誰かに理解されたくて生きてるわけじゃないんだよね。君だってそうだろ?誰かに『その生き方は損だから止めなよ』って言われてはいそうですかとはならないだろ?」

土煙の煙幕の中、おぼつかない手足で立ち上がってその場を離れる。できるだけ遠くに、影が見えないところまでよろよろと歩いて行く

「強者を偏った目で見るな、だって?笑わせないでよ。実体験さ。きっと君より多くの強者に僕は蹴落とされてきたよ。『能力なんて必要ない』?それこそ驕りだ。君の必要ないと言ったものが欲しくて欲しくて、それでも手に入らない人だっているのに強者の君がそんな言葉をよく吐けるね。申し訳ないとは思わないのかな?自分の限界を突き詰めている強者?それは結構なことだ。だけどそいつは僕らじゃない。そいつの限界を僕らの限界だと思わないでよね。既に自分でもそこは見えてるんだ。それでも認めたくないから指先血だらけにしながら底を掘ってるのを君達は嘲笑ってもっと頑張れとか努力しろとかいいだすのかい?僕が弱いのは空想なんかじゃないよ。自分でもよく分かってる。弱くて脆くて狡くて悪い。結局僕はそんな程度の人間だよ。先ずはありのままの自分を認めてあげなきゃ。」

いずもの言ったことを独りよがりな解釈で全て否定していく。何をこんなに苛立っているのかは自分でもよくわからない。そして何故あの場でいずも本人に鉄パイプを叩きつけなかったのかもよくわからない。煙幕のなか、距離をとった匁は鉄パイプを地面に落とし壁伝いに歩いて行く。

「でも、なんだか君の事はちょっと興味があるからサービスとして二つ教えてやるぜ。一つは僕は本当に魔術師ではない。何回もいってるだろ?これは貰いもんだし能力なんて便利なものじゃない。二つ目は君に惚れてしまってもかまわないっていうのも本当だ。まぁでも手が出るのは少し、怖いけどね」

とどうでもいい事を言ってこの場を立ち去ろうとする。砂煙の中、匁を追えればよろよろと歩いている匁に追いつくこともできるだろう。だがひび割れに足を取られていたりして砂煙が止む頃には匁は表通りの中に紛れてしまってるだろう。


111 : 高天原いずも ◆Fff7L077io :2015/07/25(土) 09:14:44 Ulqap9oU
>>110


「……………っ…!」

言葉が……出なかった。高天原出雲という馬鹿単調な思考の持ち主からしても匁の言葉には「苛立ち」があって、
とにかく彼女の言葉を独自の理論を並べて無理矢理にでも「否定」したい、という事は理解できた。
それでも、こんなに「否定」されたなら。彼を納得させるような便利な言葉なんて存在しないように思えた。
……地面の振動と亀裂に脚のバランスを崩す。彼女が差し出した右手は、無念にもだらしなく下がり、力を失った。

「………巫山戯るなよ………。
……オレだって…………”私”だって……あんたの考えを何一つ変えられないほど……。こう振舞ってなきゃ崩れちまいそうな程に……弱いっつうのによ……!」

…然し、その声は匁の耳へは届かない。匁の姿は既に路地裏に籠る砂塵の向こう側。
ただただ彼女は自分の無力さを悔やみながら、人混みに姿を晦ませる匁を、呆然と見送る事しか出来なかった。


…………………………………………
………………………………
……………………
……


「…………オレもまだまだだなぁ……。てかアレだ、あんなに言葉並べられちゃあオレには対処しかねるっての。」

暫く時をおいて、高天原出雲はそんな言葉を吐き捨てながら路地裏から遠ざかっていく。
…今回の出逢いで改めて理解した自身の「無力さ」「未熟さ」「浅はかさ」。。
どうやって解決すれば良いのか、彼女の頭には案なんて浮かんでは来ない。ただ正義に似たものを振るう彼女には、”拳”という武器しかないのだから。

その路地裏には、明らかに争った痕跡と、その傍に横たわる不良男だけが残った。


//この辺りで〆ですかね?乙でした!


112 : 芽取匁 ◆W5gVdFwf2A :2015/07/25(土) 09:56:50 rBeH/bPE
>>111
──後日──

匁はとある病院の待合室にいた。なにぶんあの路地裏の一件で体が痛むと思ったら骨にひびが入ってるらしく他にも痛い場所があるので大事をとって検査をしてもらっていた。
週間漫画をペラペラと捲りながら暇をつぶしているとふとこの怪我の原因の事について思い出す。

(どうして僕はあの女の子にあんなにも苛立ったんだろうか…?)

これまで偽善を吠える人間は多くいたし自分を弱者じゃないとか言う奴もいた。更には無意味な誇大妄想を説く奴もいたがあの彼女に苛立ったほどではない。それにあんなに苛立っているのにあの時なんで彼女に攻撃しなかったんだろうか?そう思いながら漫画を捲るとラブコメ漫画に行き着き一つの仮説が浮かんだ。

「ん、ん〜…まさか優しくされ慣れてないだけとか?…なんてね。」

もしそうだとしたら自分は相当攻略難易度は低いな、などと思って漫画を見ていると病院の個室から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。返事を返してなお歯切れが悪いので読んでいたラブコメ漫画を最後のページまで見る。

「まぁ僕としては活発な元気っ娘よりちょっと内気な恥ずかしがり屋の方がヒロインとして魅力があると感じちゃうんだけどね。」

いずもに『惚れてしまってもかまわない』と言ったとは思えない言動をこぼして漫画を閉じてソファから立ち上がる所々が軋むように痛い。下手すると入院かな?など愚痴をこぼしながら長く感じる個室まで向かう。

(それにしてもあの女の子…どっかで見たような気がするんだけどなぁ…まぁ気がするだけなんだけど。あっちも僕の事知らないみたいだし気のせいか片思いのどっちかかな?)

あの女の子らしい彼女が同じ学校の一つ下の悪名高い番長とは夢にも思わずその疑問は直ぐに頭の中から捨てる。あっちとしても制服を着ていた匁だがまず名前どころか何学年かすら明かしてないしもし高等部三年にたどり着いても半不登校な彼に友達どころか知り合いは皆無で、教師に聞いたところで『あ、あぁいたねそんな奴』レベルなのでバレても名前くらいだろう。
だからせいぜい……

「…次もしもあった時には記憶の片隅にもいないくらい僕の事は忘れておくれよ。」

不敵にそういう彼だが廊下の壁伝いで息を切らしてらいた。

/お疲れ様です。三日間ありがとうございました!


113 : 黒繩 揚羽 :2015/07/25(土) 16:23:49 xYbQHUBc
>>109
「…………」

『異常』だ、紛う事なき異常、黒繩は自分をまともではないと自覚していたが、それでも彼女の事を見ると自分の考えを改めたくなってくる。
暁林の高笑いを聞きながら、空を見上げて紫煙を燻らす、辺りに人はおらず、ただ暁林の高い声だけが響いていた。

そして、暁林の行動が終わると共に、黒繩は足元の男に視線を戻す、まるで傷一つ無い形だが、彼が本当に『終わった』と感じるのは難しくは無かった。
黒繩自身このような屍体を作り出す事ができる能力を持つ、もし暁林がそのような能力者であるなら不思議では無い。

「慣れてんな、テメェ…これまで何人ヤった?」
「…いや、数えてる訳もねぇか、そうだよな、そうでなくちゃ面白くねぇ」

ふぅと一息紫煙を吐くと、吸殻を男に投げ捨て、その体と一緒に踏み付けて揉み消す、それから暁林に向かってしゃがみ込んだ。
しゃがむ事で暁林より遥かに高かった頭の位置は彼女より低く、跪くようになって、彼女の左手を取ろうとする。

「なぁ暁林、これだけじゃ足りなくねぇか?もっと『終わらせたい』だろ?なぁ?」

「───学園都市の『暗部』って知ってるか?この糞みてぇに平和な都市の、糞みてぇに汚い部分だ」
「来いよ、『こっち』に来りゃもっともっと終わらせられるぜ、ゴキブリを駆除するくらい簡単にな」

───『こいつは使える』 暁林の異常性を目の当たりにした黒繩は、そう考えた。
黒繩が籍を置く暗部組織、学園都市の闇に紛れ、過激な行動を許された始末人達、その中に入る資格は十分にあると。

/了解です、置きレスも出来るスレなんでのんびりとやりましょう


114 : 暁林 初流香 ◆0IaR9ouTpE :2015/07/25(土) 20:35:42 rx78SHrU
>>113

もっと終わらせられる。
それは彼女にとっては、単純に甘美な誘いとして届く。
目の前の手に自分の手を差し出せば、制限無き快楽に落ちる事が出来るという誘いに。

「―――取り合えず、保留させてください」

だが、彼女の口から出た返答は保留。
何故かとその顔をみれば、今度は初々しい少女の顔を赤らめて口を開く。

「これ、やりたい時にやるからすっごく気持ちいいんですもん。人にどうこうされたくは無いんですよねー」

彼女にとっては、この行為は性行為の様なもの。
つまりはそんなものを左右されたくはない、ということである。
それを恥じらうような彼女はやはり十三の少女であり、先程の妖艶な女と同一だとは思えないだろう。

「まあ、参加したくなったら言いますので、出来れば連絡先を教えて頂けるとー」

だが、やはり完全に無かった事にするのは惜しいのか、そう言ってねだるような目を向ける。
その目は再び強かな女の目に戻っていて―――移り変わり、翻弄するような彼女の態度に、黒繩はどう対応するか。

/すいません、ありがとうございます…!


115 : 黒繩 揚羽 :2015/07/25(土) 21:00:55 xYbQHUBc
>>114
「───ヒヒッ!そうか、そうだよな、自分のヤりたい事くらい自分で決めてぇよな」
「テメェがそうならそれで良いんだよ」

強要はしない、暴力的な行為を好み望む事は同意出来るもので、だからこそ暁林の考えを肯定出来る。こういう事は誰かに勧められてやる事では無いと。
フラれた黒繩はそれ以上何か言うでもなく、暁林の答えを聞くと立ち上がった。

「その気になったら何時でも言えや、テメェみたいな奴なら歓迎されると思うぜ」
「俺のID教えといてやるから、連絡しろよ……変なメッセージは送んなよ」

それでも、まだ迷っているというのならそれも良い、自分で道を選ぶ事こそが正しい事だと黒繩は思っているから。
ポケットからスマホを取り出すと、メッセージアプリの番号を暁林に教えた、組織の連絡用とかではなく黒繩の個人的なIDだ、勿論言い付けを聞いてイタズラしてもしなくてもいい。

「…慣れねぇ事して疲れたぜ、俺はもう帰るわ」
「血塗れで歩くと変な奴が寄って来るぜ、気を付けな…ヒヒッ」

『言いたい事は言った』とばかりに、首を鳴らして一言呟くと、暁林の元から離れようとする。
何か用がまだあるなら呼び止めるべきだ、そうでなければそのまま、暁林と『終わった男』を残して、どこかへ行ってしまうから。


116 : 暁林 初流香 ◆0IaR9ouTpE :2015/07/25(土) 21:24:54 rx78SHrU
>>115

「―――ありがとうございます」

連絡先を受け取った少女は、丁寧にその背中へ礼を言う。
その時にはもう彼女はただの中学生に戻っており、含むところのない純粋な感謝のみがそこにあった。
変なところで律儀な彼女は、言われた通りその時が来るまで連絡はしないだろう。
少なくとも、また別の形でこの町の闇に―――例えば"魔術師"だとかに―――触れない限りは。

「では、また」

もう夜も遅く、中学生というだけで気にされる時間だ。一人住む家までは、気をつけながら歩いていく事になるだろう―――もうとっくに慣れた、容易い道のりではあるが。
そして、少女もまた公園から立ち去ろうとする。
そうして片隅に一人、『終わった』男だけを取り残して―――ある一夜の出逢いが、終わった。
間違っても善だとは言えない二人のこの出逢いは、この学園都市にどんな波紋を生み出すのだろうか。

/これで〆でしょうか?
/ありがとうございました!


117 : 黒繩 揚羽 :2015/07/25(土) 21:29:50 xYbQHUBc
>>116
/お疲れ様でした!


119 : 鹿島 ◆6DCo2Q6QI. :2015/07/28(火) 10:07:11 n6hezvn2
/てすと


120 : 白井沙羅 ◆KBsWpQQn4Y :2015/08/06(木) 03:20:49 O74m3uTQ
深夜,学園都市のとある公園にて

「はぁ〜・・・あっつい」

錆色の髪をひとつ結びにした上下ジャージの女が,呼吸で肩を上下させながら歩いていた.
どうやらジョギングを終えたところのようで,顔には滴るほどの汗がうかがえる.
何より異色なのは彼女の周りに数個の鉄球が浮遊していることか.拳ほどの大きさの5つの鉄球は,彼女を主人として追従するように浮かんでいる.

「よーやく、少しは慣れてきたかな・・・」

どうやら自己流のトレーニングのようで,結果に満足した女のには嬉しそうな笑顔が刻まれていた.
汗をジャージの裾で拭いつつ,深呼吸.
普段は金属成分の付着してしまった肌を隠すために帽子やらマスクやらをして外出しているが,たまにはフリーな格好も悪くないなと考えつつ
近くにあったベンチに座り込む―――のではなく,それをベッド代わりに仰向けに倒れこんだ.

//のんびり返信になりそうですが宜しくお願いします


121 : 創ノ宮 つくり ◆BDEJby.ma2 :2015/08/06(木) 15:43:53 usvrZ2wU
>>120

「あれ?……もしかして白井さん……ですか?」

ベンチの上で仰向けにぐったりとした白井に、陽気な女性の声が掛けられたのは数分後の事である。
その声の方へ目を向けたのならば其処に居るのは、ヘソ出しタンクトップにオーバーオール作業着を着崩し、さらにゴーグルを頭に着用した金髪の少女である。
彼女の名は───、”創ノ宮つくり”。都市のはずれに存在する『創工房』という機械屋を若くして営む女店主だ。……大学一年生であるので白井の一個上の先輩にあたる。

「お久しぶりです…………ってかこれは……ランニング?」

……なぜ彼女が白井の名を知っているのか。
それは少し考えてみればわかる事である。白井は都市中の機械をメンテナンスと称して弄る、そしてつくりは実際に工房で修理を請け負ういわば機械オタ同士。
──であれば、巡り合うのは必然であって、出会ってからそれなりに会話はしている。……出会いの時の事は割愛とさせていただくが。
そんな彼女は仰向けに寝ころぶ白井の姿を見ながら、何気ない疑問を口にした。


//よければお願いします!
知り合い……というかんじのほうが展開作りやすいと感じたので勝手ながらさせていただきました!もし悪ければ書きなおす予定です!


122 : 白井沙羅 ◆KBsWpQQn4Y :2015/08/06(木) 17:04:43 O74m3uTQ
>>121
夏にしては風が気持ち良い.
ランニングによる肉体的疲労と能力行使の精神的磨耗からか,瞼が自然と落ちてくる―――

「―――ッッ!??」

ここで,突然に聞き覚えのある声がかけられた.
普段必要以上に髪や肌を隠しているせいか,反射的に跳ねるように起き上がって腕で顔を覆おうとする・・・が

「わっ、なんだ、つくりさんじゃん!」
「久しぶり〜」

一瞬警戒モードとなりトゲトゲしい形となった鉄球たちは,彼女の久しぶりの笑顔に伴ってもとの真球状へと戻り,ゆっくりと地面に落ちていき動かなくなった.
創ノ宮つくりは彼女の学園における片手で数え挙げるほどしかいない友人の一人で,尊敬する技師にして先輩だ.

「まー、そんなところかなぁ」
「最近、能力の強化に励んでて、その一環って感じで」

「そーゆーつくりさんは、こんな時間になにしてるの?」

つくりとの間に壁をつくりたくなかった白井は、先輩であるつくりに対して努めてタメ口を使っていた.
それに嫌悪感を抱かれればそれまでであるが,学園の先輩後輩ではなく機械いじりの仲間という関係が望ましかったからだ.
座りますか?とベンチの片方をあけつつ,質問を返した.

//全然大丈夫ですありがとうございます!!
//ここで外出しなければならないので次返せるのは日付変わってからになりそうです・・・


123 : 創ノ宮 つくり ◆BDEJby.ma2 :2015/08/06(木) 17:48:24 p5bjjkXY
>>122
瞬時に警戒モードとなったトゲトゲの鉄塊を前に、「わっ!?」と声を上げて驚くつくり。
まあ以前にも経験した事があるらしく、その後は別段それに触れはしなかったが。
その次に紡がれる白井の言葉に対して彼女は──


「あぁ……能力の、ね。
いぃーですねぇ、そういう奴!!秘密の特訓……的な!?」


と、特有の碧眼をキラキラと煌めかせながら言った。夜中であるというのに賑やかである。
因みにであるが、彼女はこう言っているものの”能力者”の一人だ。……それも現存する段階の中では最高に値するLevel4の『人工古典』という能力を有している。
その能力の特性上、それが能力であるとは気付きにくく、彼女も”気づいていない”ために自身は無能力者であると思い込んでいる。勿論、本人が知らないのだから他の人間も知らない事実である。
白井の好意に甘えて「どうも」といいつつ白井の隣へと腰掛けた。


「んー…ワタシですか?上手い言葉が浮かびませんが…………。

強いて言うなら気分転換、でしょうか。
学校終わって工房にずっと篭り続ける……ってのもアレですので、ちょっと、ね?」


”創ノ宮つくり”という人間の性質上、言葉遣いなどを特に咎めるような事はしなかった。寧ろ、彼女としてもタメ口で接してくれた方がやりやすい。
──の割に彼女は敬語。これについても女店主である”創ノ宮つくり”という人間の性質上、という事で片付けられるだろう。便利な性質である。


「……まあでも深夜徘徊、ってのも楽しいですよー。
こういう夜だと風紀委員ちゃん達はお休みなさってるんで、そこらへんの機械弄り放題なのです!」


白井さんもそういうの好きでしょ?と軽く笑って問いかける。
──と、同時に、右手に持っていたモンキーレンチを空に放り投げてキャッチ……という動作を二、三回程。このモンキーレンチは彼女の常備品であり、ゴーグルと同じように彼女を象徴する品でもある。

//りょーかいです!ゆったりといきましょう!


124 : 白井沙羅 ◆KBsWpQQn4Y :2015/08/07(金) 13:43:22 noudiFxM
>>123
「あーそうそうそんな感じ!」
「真昼間からやると,ちょっと人目が気になるからね」

これもあるしね、と右手で軽く髪を梳いてみせる.
赤茶けた色の髪はお世辞にも艶やかとは言えないもので,耳をすませば金属の擦過音が聞こえてきそうなほど.
目的は単純に「強くなるため」であるが,こんな物騒な話題をわざわざ作る必要はないだろう.そう考えて,目的は伏せておくことにした.

「あー・・・たしかに.」
「なんなら今度一緒にランニングでもしよーか?」

作業に没頭するとあっという間に時間が過ぎ去り,気がつけば日が暮れて体がカチコチに固まっているということもよくある.
白井はあまり学校へいかないのでなおさら,だ.

「そうそう、それに繁華街に行けばお掃除ロボットもけっこーうろついてるし」

微笑むつくりに対して,白井はふふふ・・・と不敵な笑みを浮かべていた.
学園が運営するお掃除ロボットシステムの妨害は罰則にあたるが,うまく能力を使えばそっと拉致することも難しくない.
新型を街中でテストするたびに数機行方不明になってしまうのが,運営者の悩みの種だとかそうでないとか.

「そーいえばつくりさん,能力わかったりした?」

確か以前にあったときは,彼女は無能力者だと言っていたはずだ.
検査が進めば何かわかったりするのかな,と考えて,問いかけるのだった

//昨日は帰宅即ばたんきゅうしてしまいました。。。お返ししておきます!


125 : 創ノ宮 つくり ◆BDEJby.ma2 :2015/08/07(金) 14:23:57 Z/mQ0J.g
>>124
「あー、白井さんってアレですか。
そういう人目とか気にしちゃうタイプ?……ってか気にしないのが可笑しいんですけどね、ハハッ」

「職業柄慣れちゃいました」と舌をペロリとちらつかせて笑いながら言う金髪。
その言葉はまるで創ノ宮つくりという人間を単純明快に表しているようにも思える。
彼女は、人目を全く気にしない……KYな人格の持ち主である。……大学の講義なんかにも気にせずに何時もの作業着のままで赴く程。
そんな女子力の欠片も無い金髪ゴーグル頭は、更に言葉を続けた。

「ランニング……もやってみたくはあるのですが、それならば学園都市中の機械を二人で解体して周りたいところですねー

……あ、能力については音沙汰無しです。なので、特に体を鍛えてもワタシとしては意味ナシ……なのかな?」

既に彼女の能力は発現しているのだが、勿論そんな事に彼女は気付いていない。
実のところ、彼女は自分に能力なんて発現はしないと見限って検査には行っていないのである。
検査に行ってそれに気付いたところで、その能力は潜在能力……に近いような物であるので、大した恩恵は得られないのだが。
彼女の肉体自体も、日頃の作業のおかげからなのか割とかなり綺麗に仕上がっている。作業着の上からでわかりにくいかもしれないが、腹部の引き締まり具合などを見ればわかるだろう。
──まあそんなことも、女子力の無さでかき消えてしまうのであるが。

「そうだ!今度ドライブでも行きます?
……ワタシの新型バイクちゃんをお披露目するのが主な目的ですがね!HAHAHA!!」

新型バイクちゃん…というのは彼女の愛用車である『ISKANDAR Mk.Ⅱ』という大型二輪の事である。──彼女の最大の武器にして、最高傑作。

まだ白井さんには見せてなかったですよね?と一言添える。
余談ではあるが最近、都市の中で大型二輪を乗り回す金髪の女性が噂となっている。察せる通り紛れもなくそれは”創ノ宮つくり”のこと。もしかしたら白井もその噂を耳にした事があるかもしれないが……果たして。


126 : 創ノ宮 つくり ◆BDEJby.ma2 :2015/08/07(金) 14:24:27 Z/mQ0J.g
//いえいえ!全然大丈夫ですよー


127 : 鹿島 ◆6DCo2Q6QI. :2015/08/27(木) 22:55:39 MZYpixZc
「なかなかに…暑いじゃないか」
「最近はただただジリジリとした暑さがずっと続いて、調べる気も起きないね」


第一学園内の学生棟、お昼時であったからか、人混みのせいで冷房の効いた部屋に入れず、仕方なく日陰のあるベンチへ座り込み、汗を拭いながら鞄に入れた「本」を開く。
その本は外国語で書かれた物であり、そして「魔術」に関する本である事は借りたその後に翻訳して何とかタイトル位は理解する事は出来た。
だが、「魔導書」という物は「魔術師」であるが故に理解出来るものであり、能力者である鹿島には理解出来るはずは無く、読めたとしてもその内容を科学的に見てしまうので分からなかった。


「しかし、読めば読むほど不可解でオカルトな内容だな…」
「だがこれが能力と結びつく事が出来るならば──とんでもない武器が出来てしまうな」


そう言いながらもまた一つ考え事をしてしまう。魔術師とは、能力者が生まれるよりも大分先に異能を得た人達である。もしかすると──いや、必ずいるであろうが、能力者に対して良い気持ちを持たぬ者がいるはずだ。つまり、能力者を攻撃しようとする魔術師も少なからずいるかもしれないという事である。


「俺は今までそんな魔術師という奴等の存在なんて知らなかったし、教わった事も無かった」
「でもこの本が街の中に存在するという事は、いるというのか……魔術師が?」
「もしそうだとするなら…今までの俺は相当視野が狭い人間なんだろうな」


汗を拭ったハンカチを握り締め、顔を顰める。能力者の頂点を掴むべく進んできたこれまでの人生はより強く、古い歴史を持つであろう者達の存在によってあっさりと崩された。
その事実だけが鹿島の心の底を突いたのか、憂さ晴らしに、と持っていた缶ジュースを握り潰し、中身を能力によって明後日の方向へ飛ばす。そこに誰かがいたとしても、周りが見えていない鹿島にはその事を理解する事は出来無かった。

//置きレス用です、遅れてしまい申し訳ありませんでした…


128 : いずも&つくり ◆BDEJby.ma2 :2015/08/28(金) 19:41:37 KGHnrmfQ
>>127
「あっつ…………」

学園都市に於いて最大の規模を誇るこの”学園都市第一学園”内にて、学ランを羽織った人物が広場を気怠そうな雰囲気を醸し出しつつ歩いていた。
高天原いずもは基本的にいつでも何処でも”黒”を纏う「暑さなんてへっちゃら系馬鹿」であるのだが、今日の熱気には堪え兼ねたらしく。
首筋には汗が滴る様子が垣間見え、その口からは小さくはあるが愚痴が溢れていた。
彼女が此処を訪れたのも既に冷房を空間を陣取られた”室内以外”で休息をとる為であり、

「…………お。」

と今しがた良さそうな場所を発見した次第である。ベンチの背後に木を構え、その下のベンチをオアシスとする素晴らしき憩いの場。
それを目にした瞬間、死んだ様な目をしていたいずもの目はぎらりと煌めいた。


───────

────────────

───────────────ばしゃんっ!!


高天原いずもがその身体を水浸しにしたのはそれから僅か数十秒後の事である。
目を煌めかせて一直線にベンチの方へと歩いていたいずも。ベンチは僅か2、3メートル程まで迫っていた。
一瞬、何かが頭上を飛んで行った様な気がしたが、休息に植えた獣はそんなものなど目に入らない。目に入っていたとしても「ただ葉っぱが舞ってただけ」だとかで適当に片付けているだろう。




──直後、「う、うわぁっ!?」と間抜けな声が響く。高天原いずもはその声と共に後ろの芝生へと盛大に倒れこんだ。

「……おいおい……どうすんだ……コレ……」

男装少女は文字通り降り注いだ液体を濡れた学ランで拭うだとか無意味な事をしつつ、困惑している。鹿島は……どんな反応を見せるだろうか。


//遅れながら……!


129 : 鹿島 ◆6DCo2Q6QI. :2015/08/28(金) 21:28:52 J.yHKdw.
>>128
唐突な悲鳴、それも女性の声。
喋れるような隙も与えぬ暑さの中、そのような悲鳴は流石の鹿島でも反応せざるを得ない。


「………ンぁ?」


その方向を向いたら、全身をびしょ濡れにした1人の女子……いや、第一学園なら知る人ぞ知るであろう「長ランの女子番長」こと高天原いずもが自分の座っていたベンチの前に立っていた。
そのまま何かあったのだろうかと探ろうとして自分の手の中がジュースで溢れていて、ジュース缶はあからさまに潰していたのを見た時、自分が何をしでかしたのか理解してしまった。


(ぬわァー……やっちまったぜ。 幾ら女子でもあのオラオラ女子にジュースをブチかます、とは……どう機嫌を取るべきか?)
「…………」


取り敢えずもう一度びしょ濡れたいずもの学ランを眺め、自分の潰したジュースを見る。確かにあのシミはこのジュースでなければつかないはずがない。要は現実逃避に近いものであったが、そのような勘違いはない。
仕方なく、ダメ元であるが話しかけて謝るしかあるまい。そう思い、もう一つの手に握り締めたハンカチを差し出した。


「……使うか、俺の汗を拭いた物だが」
「それと、立てるか? そのような学ランでは起き上がりにくいだろう?」

//はい、よろしくお願いします。


130 : いずも&つくり ◆BDEJby.ma2 :2015/08/28(金) 22:09:12 KGHnrmfQ
>>129
彼女の象徴たる学ランはジュースを盛大に被って大きな染みを成し、彼女の顔はジュースの雫が滴る。………ベタベタする。
特有の嫌〜な感触をその身に直に受ける高天原いずもは明らかに不快そうな表情を顔に浮かべた。
男性ともとられても仕方がない程に控えめな彼女の肉体をじんわりと蝕んでいく不快感だ。自身の体を手で扇ぐという無意味な動作を数回程繰り返した後、頭上から声があった。

「……ん……えっと……確か同じ学年の……」

……誰でしたっけ。確か…………!!
彼女の思考回路がフル回転する。魔術の仕組みだとか数学の計算……だと難しい事は一切脳に刻まない彼女ではあるが、人間に対しての”記憶力”は目を見張るものがある。

番長(笑)の立場を名乗る…とはそういう事だと彼女が勝手に定義付けているから。少なくとも彼女の中には膨大な数であろうと第一学園の同学年の名前と顔くらいはインプットされているのだ。
──故に、犯人かつ救助者の青年の名が彼女の口から発されるのにそう時間は要さなかった。

「鹿島、だっけ?……おっと……サンキュ」

オラオラ女子…という固定観念が鹿島には存在するようであるが、意外にも少女は怒りを露わにする事は無かった。
素直に差し出されたハンカチを受け取り、顔の雫を拭う──。


「おうさ、立てる……………あれ?」

顔の汚れを拭い終わりハンカチを返却して。少女は次の動作に移っていた。
”立ち上がる”という至極単純なる行為であるが、どうもそれが上手く遂行出来ない。どうやら先程の転倒で右足首を捻ったらしい。無理に動こうとするとズキリ……という生々しい激痛が彼女の足首を襲う。

「……………悪ィ。手でもいいからちょっと.頼む。」


131 : 鹿島 ◆6DCo2Q6QI. :2015/08/28(金) 22:35:43 J.yHKdw.
>>130
怒鳴られるかと多少ヒヤヒヤしていたが、意外な事にそんな事はなく、事の始末はなあなあと終えつつあった。だがここで問題が発生。
足をくじいてしまったのか、いずもはこちらに手を貸してくれと頼まれたので素直に手を差し伸べ、身体を起こさせる。


「……すまんな、つい、能力を暴発させてしまった」
「このやるせなさに俺は心底ガッカリしていたのさ」


返してもらったハンカチを早々に鞄に詰め、ベンチの横から足元へ鞄を移動させる。


「おおよそ、そのような足では今すぐ歩くのは良くない。 座るなら此処に」


そう言って鹿島は自分の横に空いたスペースをいずもに差し出す。そして思い出したかのように溜息────また自分の知らない力に少しばかりの不安と共に。
ふともう一つ、鹿島は思い出す。この女、高天原いずもの事である。
何でも、学園内の生徒の名前を殆ど覚えている……そのような噂を鹿島も聞いていた事を。実際、さっきの会話においても彼女は自分の事を「鹿島」と呼び、覚えているという風に見受けられた。


(───コイツは、多分記憶力が相当良いのか馬鹿正直に四苦八苦して覚えているのだろうか?)
(名前だけ、ならば意味はない…が、もしかしたらだ。 もしかしたら、知っているかもしれない)
(賭けてみるか、コイツが「これ」を知っているという事に)


「魔術」。異能であり、能力でない力。鹿島の持つ本があるというならば、この街…学園都市にも術師がいるのかもしれない。そしてこの高天原いずもが、この本に反応するかもしれない。
そんな希望論的な妄想を浮かばせながら、鹿島は鞄を開き、「本」を開く。そして───。


「確か…お前は高天原、いずもだったか」
「お前が記憶力が良いのかどうかは知らん。が、見て欲しい」
「コイツは外国語で書かれた本だが……見覚えはあるか?」


132 : いずも&つくり ◆BDEJby.ma2 :2015/08/29(土) 06:16:05 TXeB16Uc
>>131
「………気にすんな!誰にでもんなこたァ良くあるもんだよ。」

この女本来の性質であるのか、謝罪を受け、自らの現状を改めて思い知った後でも少女は鹿島を咎めるような事はしなかった。……というのも、こういった本来の人間性は、能力暴発を含む普段の行いで塗りつぶされているがために「意外」が生まれてしまうのだが、それはさておき。
介抱されつつベンチへと身体を預けて。どうすっかな〜〜などと軽い気持ちで痛めた足首を眺めていると、横から大きな溜息が聴こえてきた。
隣に座っていてかつ溜息をあげられたのだから、少女側としてはそれを気遣わない訳にはいかない。若干顔を鹿島の方へと傾けつつ、暫くは様子を伺うことにした。

(……………、………………なんか聞き辛ぇな。)

隣で心配する高天原いずもをよそに”魔術”について思考する鹿島。
その顔が割と深刻そうな為に、普段ならば陽気な声で声をかける彼女も、その声を発せずにいた。
ジィ──ッと見つめていると、鹿島が動き出し鞄から一冊の書物を取り出した。
突然の動きに少しだけ肩を震わせるが、彼女の注目は直ぐにその本へと移る。
────そして、その言葉はついに彼女へと向けられる。一冊の”魔術”の片鱗と共に。


─────────────
──────────
─────
──

鹿島の本を受け取って開き、目を通し始めて数分の事だ。
この距離ならば鹿島もわかるだろう、馬鹿にされながらも番長と名乗り呼ばれる彼女の身体が僅かに震えている事に。怒り……悲しみ……そのどちらでもなく明らかな「畏怖」が其処に含まれている事も、ある程度は察せるかもしれない。
───暫くした後に、少女は重い口を開いた。

「……鹿島。質問を質問で返す……って感じで悪ィんだけどさ、まずオレの質問に答えて貰えるか。」

非常に、弱々しい声だった。間違いなくこの少女はこの本の「本質」へと大凡の察しがついている。……だからこその震えだった。……だからこその畏怖だった。
──震える声で少女は続ける。

「…………これは……生半可な言葉で片付けられるようなもんじゃあないぞ。」


133 : 鹿島 ◆6DCo2Q6QI. :2015/08/29(土) 08:58:12 ZlXnPqac
>>132
思いの外、彼女は暴力的な反応を示さず、普通に許された事に少し驚きながらも今度は安心したという溜息が溢れてしまう。

────しかし、本を渡した時に感じたいずもの反応は、いかに鹿島が時たま周りが見えなくなるような性格であっても一瞬で理解してしまう。


「生半可…じゃない、成る程」


返された言葉にはあからさまな「畏怖」、いや恐怖といったところか。いずもの顔の筋肉の強張る様が鹿島にも理解する事ができたのは時間の掛からないものであった。
───しかし、故に。故にその反応は鹿島にさらなる興味を抱かせる原因となっていた。


「────そうか、知っているんだな」
「そうだ、魔術。 お前の知っている魔術だ」


さらにその魔術について聞きたいが為にいずもに詰め寄り、その目はまるで獲物を狙う肉食動物のようにいずもの目に向けられる。


「俺はこの非科学で不可解な力…コイツに今、酷く興味を持ちつつも恐怖さえ感じている」
「だが、それはこの書物から感じた事であり、実際に遭遇した、というわけではない」
「だからこそ……だからこそ、見極める必要がある」
「さあ教えろ、お前が知っているというならば魔術師の居場所の一つや二つ、覚えているのだろう?」


どんどん早口になりながらもその興味は隠しきれず、更に更に近づいていく。まるでいずもが魔術師であるように見えてきたとでも言うのだろうか。
そして何かに気づいたのか、少し遠のき、もう一度いずもを見つめる。


「いや、これは深入りし過ぎたか?」
「……質問を変えよう、この学園都市に魔術師は存在するのか?」
「俺ら以外の異能者から見れば、やはり異端として襲ってくるのか?」

「だとすれば、だ……俺は俺なりに自分のこれからの行動を改めていかないとならないな」


134 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/08/29(土) 17:44:35 TXeB16Uc
>>133
正直なところ、高天原いずもは”魔術”というものとは自分とは無縁な概念であると思っていた。そう感じるのも無理はなく、今現在も学園都市に於ける魔術という存在は”都市伝説”の様なもの。
──数回の魔術師との邂逅。”魔術”という”能力”とは似て非なる異能の特異性を、少女は少なからず理解していた。
畳み掛ける様にして投げかけられる鹿島の言葉。そしてその中に含まれる単語達。それらは全て”魔術”という概念に直結する。
この鹿島という生徒にその概念を教えても良いのか?来るかも知れない魔術との争いに巻き込んでしまっても良いのか?……同志が欲しいという意識とそれが齎す危険が葛藤している。

────────そして。
鹿島の全ての言葉が終わり、数秒後に漸く番長は口を開いた。

「……そうだな、オレの質問よりそれに答える方が重要だ。」

まず一つ目に。

「……”魔術”は間違いなく存在するよ。そしてそれを操る”魔術師”がこの学園都市に潜んでいる……ということも肯定するしかねぇ。」

「……現にオレにもそれを肯定できるだけの事実があるし、オレは”魔術”と交戦してる。」

周りに誰かいないか、誰からも見られていないか、盗聴なんて事はされていないか。警戒しつつ、少女は至って深刻そうな表情を保ちながら言葉を紡いでいく。

「……でも、そいつらが学園都市(オレたち)にとって敵なのか味方なのかは全く見当がつかないよ。
とある魔術師によれば魔術師側にも思考による区別なるものがあるらしい。」

「……でも一つだけ。お前が今危惧してるみたいに、オレも何か嫌な予感がしてる。
学園都市が創られて…だいぶ経つからなぁ……。」

「なあ鹿島、もし目の前にどうしても壊したいものがあるとき、創られたばっかりの脆い状態を叩いてさっさと壊してみよう……とは思わねぇか?」


135 : 鹿島 ◆6DCo2Q6QI. :2015/08/30(日) 17:01:44 TQ5o7eG2
>>134
鹿島衡湘はいわゆる野心家であり、傲慢する人物である。だがそれ以上に未知の敵に対してはいかなる警戒心を解く事はせず、様々な方法を駆使して勝とうとする人間でもあった。
いずもによって告げられた言葉の数々は魔術が如何に「未知」であり、そして恐怖心を煽るものであるかを知る分に充分すぎる物だった。


「……そうか、お前は実際に遭遇していたのか…」
「なあ、どうやって戦ったんだ? どのような戦法を相手が仕掛けたのか?」


つい気になってさらに疑問を投げかける。未知の異能とはどのような力を使い、そして能力者と戦っていたのか気になるのは誰しも当たり前の事であるように。

しかし彼女の表情は不気味な物を見たような顔ではなく、何かを心配しているような顔をしていた。問われた質問は鹿島にとって順当にマトモな答えを示し、魔術師と自分達能力者の立場を理解する事が容易かった。


「創られたばかりの脅威…か」
「もし、俺ならば……間違いなく先に叩く。 勝つ為にどんな計略も立てる俺なら尚更だ」
「つまり、危惧しているわけだな…向こうも、俺らの様に」


そう言った途端、思わず笑みを隠せず笑い声を上げてしまう。彼等魔術師ももしかしたら自分達に対して手付かずのまま学園都市に潜入しているのかもしれない。周りの国々よりも進歩した科学の都市を武器に戦えるのは間違いなく魔術師ではなく能力者である事は確かであるから。
そして鞄の中からメモ帳を取り出し、ペンをいずもに差し出す。


「考えてみればむしろビビっているのはあちらの方だ」
「少し頼みがあるが、お前が戦ったときの様子を詳しく教えてくれ……もしかしたら何かの法則性が魔術に存在しているのかもしれない」


136 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/08/30(日) 18:29:50 OTER2.WQ
>>135
「──そう、オレも同感だ。”脅威”が発展途上ならさっさとぶち壊しちまえばいい。」
「……どーも魔術ってのはこっち側の異能が出来る…もっともぉーっと昔から存在してるもんらしい。ぽっと出の”亜種”に”異能”としての座は渡したくないんだろうさ。」

高天原いずもは普段よりも随分と落ち着いた口調で言った。お調子者だとか騒がれる”番長”の面影は薄れ、迫りくる危険を案じている。
──”魔術”。実は彼女はその異能の本質を、能力者でありながら殆ど理解していた。
その知識は協力関係にある魔術師から授かった賜物であるが、現在はその魔術師とは会わないようにしている。──駒として扱われている危険性があるため、である。
どうやら彼女は目の前に座るこの男を自らの知識を曝け出すのに値する人間だと判断したらしい。ふぅーと大きく息を吸い呼吸を整え、開口した。

「……ビビっている、といってもオレ達が発展途上で魔術サイドが伝統的に大成されてきたってのは強ち間違いじゃあねぇ。」
「……どうせここまで話したんだ………鹿島、流石にここまできたらお前はオレを逃がさねぇよな?……っはは」

恐らく鹿島にも彼女が現在話しながら浮かべている笑みは”作り物”である事は察せるだろう。
整えたといえど、他人を自分から危険な道に誘い込むというのは勇気がいる。……否、それだけの責任を持つ必要がある。
そんな大きな重圧が、その少女へと重くズシリとのしかかっていた。───だが。

「……今から、オレが知ってる限りの”魔術”についての知識を話す。
多分、コイツを知ってしまうって事は危険な道に迷いこむってのと同じ事だと思う。
オレはまだそんな事実感しちゃあいないけど……そろそろ嫌な予感が……してるんだ。」

「────それでも、本当に構わないか?構わねぇんであればお前の疑問、できる限り答えさせてもらうよ。」

重要すぎる事項であるからこそ、彼女は過剰と言えるほどに確認を取る。
最終的に運命を定めるのはその本人──。強い意志が────必要だ。


137 : 鹿島 ◆6DCo2Q6QI. :2015/09/01(火) 12:41:05 fgwvEPuk
>>136
「ここまで焦らしておいて、今更確認を取るのか、お前は?」
「───まさか、俺が臆するとでも言うのか?」


飽くまでも自分は平然であるという態度を示し、いずもとの空気を和らげようとしたが、その言葉とは裏腹に顔は僅かに強張っていて少しばかりの憔悴感が滲み出ていた。
だが、自分以上にプレッシャーか掛かっているのはいずもの方であろう。見れば分かるほどの作り笑顔、時々震える唇は恐らく能力者の中の協力者が今までいなかったのか、それともこの危険性を教える事ができない状況だったのか。どちらにせよ、鹿島は一歩踏み出せば二度と逃れられないだろう闘いの手前に立たされている事は───確かだった。


「……いや、正直に言えば、少しばかり…ではなくかなりの勇気がいる事だろう」
「俺は能力者で一番になると決めた時を振り返れば魔術に触れる前に能力者の頂点に辿り着く事も出来るかもしれない」
「───だが、その頂は必ずしも真の意味を成さない、奴等の力がある限りどうにもならなくなるだろう」


鹿島の恐れていた事は、傲慢故の油断から生じる敗北…魔術を侮り自らを窮地へ落とし込んでしまう事である。魔術の存在、そしてその強さを少しずつ感じ始めていたが、未だ魔術を扱う者との邂逅すらしていない鹿島にとって激しく出遅れたという憔悴感が頭によぎっていた。


「魔術は既に学園都市の中で蔓延っているならばどうして俺は気付けなかったのだろう、此処まで自分を脅かすような存在が近くにあるというのだろうに……!」
「まずは、会わなくてはならない…そして確かめる───魔術師とはどのような奴等なのか」


座っていたベンチからゆっくりと立ち上がりそしていずもの方へ振り向く。その顔は何かに決意したかのような表情を浮かべていた。


「もう少し詳しく話をするならば……せめて、涼しい所へ行きたいが、どうだ?」


138 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/01(火) 23:22:45 rbOCtCGs
>>137
鹿島の答え───即ち、彼の意志を耳にして。
何時の間にか番長少女の口は心地の良い曲線を描いていた。彼女の顔に浮かぶその笑みは”不敵”という言葉が相応しいだろう。
現実的に、”魔術”についての話を語り始めた時から、このような事態に陥るという事は察しがついている。察しがついていても危険な道へと導くことになる彼女の身にのしかかっていたプレッシャーは相当な重みだった。

「…………っふふ」

───でも、それでもその少女は笑っていた。同志が出来たからの安堵だろうか……否、恐らく沸き起こる笑みの真相は鹿島の意志を素直に聞く事が出来た喜びだろう。
見た目に似合わず、”魔術”という未知との邂逅を恐れていた彼女から「怯え」が消失する。全身の震えが───止まる。
恐らく、今日初めての”番長”としての高天原いずもを、取り戻した瞬間だった。

「……っははは!!そうだよな!
てっぺんを目指してる奴に問うような問題じゃあねぇな!……上等だぜ、鹿島!!」

其処にあったのは普段通りの彼女の笑みだ。魔術を耳にして暗くなっていた瞳が……晴れる。


「…………そう、だな……!こんなあっちい場所で教えちまったらオレの脳までショートしちまう。……誰かに盗み聞きされる危険ってのも否めないしな。」

鹿島の提案を聞くと、その少女も立ち上がった。
そのまま歩き出し、その会話に相応しい場所を探し始める─────少し前。

「………あのー……早く行きてぇのも同じではあるんだが……………まずこの服から着替えても問題ねぇだろうか……着替えはある」


139 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/02(水) 16:55:29 nwUgZOso
>>138
訂正最後の台詞
「……あの……早く行きたいのは行きたいんだけどさ…………この服着替えてからでも問題ないか?……ベタベタでちょっとな…」


140 : 鹿島 ◆6DCo2Q6QI. :2015/09/13(日) 03:52:58 toHmuNl.
>>138-139
ようやく貴重な情報を提供してくれる者に出会えた喜びからか、自らの野望にまた一つ駒を進めた悦びからか、普段は無頓着であまり細かな表情を浮かべない鹿島は思わず頰が吊り上っていた。
いずもは自分しか知らないと感じていた「魔術」への危機感を同じ境遇の者に打ち明けられる事に安心感を募らせ、鹿島も未知なる存在に対する「恐怖心」から解放される事に安堵を浮かべた。

(いや…まだ、まだこれは「初歩の初歩」でしかない)

しかし、その安堵は束の間でしかない。答えは簡単である。まだ鹿島は実際に「邂逅していない」からである。いや、もしかしたら何処かでは遭遇していたのかもしれない。が、覚えが無ければその内に入る事はない。
そして鹿島にも魔術を扱う者は能力者同様多彩な種類があり……そう、いずもの情報だけで魔術に対抗出来ようとは思わなかったし思う事すら出来なかった。

「…………」
「……ああ、好きにしてくれ。その服を汚したのは俺の所為でもある」
「代わりの服があるなら良いが、あるのか?」

熟考した中で唐突に変わる話題。どうやら彼女はジュースとこの暑さでマシマシとなった服のベタベタ感に耐えられなかったのだろう。
何時ものような溌剌とした表情ではなく、少し不服そうに、気恥ずかしいように鹿島は感じた。よって、なるべく失礼のないような受け答えをするがその反応は如何に。
とは言うものの、鹿島自身もそろそろこの暑さに耐え難くなっていた頃であった為に、返答した側からそそくさと校舎の入り口へ移動し始める。
拭おうとしたハンカチは既にいずもに零してしまったジュースで湿っていてどうにも拭こうにも拭くことが出来ないのだ。

「──────嗚呼、暑い……暑い!!」
「お前の言う通りだ、こんなんじゃ俺の頭も暑さで爆発してしまうかもしれん…」

そして入り口付近にまで辿り着き、いずもが来ているかどうか確認する為に振り向き、そして次に集まる場所を提案する。

「なあ、いずも」
「今日もそうだが、次からは図書館……で魔術について話し合っておくことにしよう」
「こんな季節なのに未だに残暑が響くとは思わなかった…」

戦闘用に取っておいた水も既に鹿島の胃の中。相当暑さにしてやられたようだった。


//何日も遅れて申し訳ありませんでした…!


141 : いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/13(日) 08:07:58 N/iZ9Ork
>>140
「───ふっふっふ。番長たるこのオレを!舐めてもらっちゃあ困るぜぇ?」

高天原いずもは大前提として、”少女”である。
女を捨てることこそ男!だとか抜かしている割に、それなりの羞恥心というものはあるようで。──よって、着替えを申し出る時にはほんの僅かき頬を赤らめながら恥ずかしそうに伝えた彼女であった。
──然し、「着替えはあるのか」という鹿島の問いに対して、”準備している”が為にお調子者となる残念番長こと高天原いずもであった。

「……ま、察してくれてるかは知らねぇけど魔術の目をかいくぐるための……ちょっとした反抗さっ」

と、片手に持った鞄を鹿島に見せつけるようにして更にウインクまで追加した。
──彼女の言葉通り、彼女は魔術との複数回の邂逅がある為に全ての行動において危険が付き纏う。
更に彼女の独自見解ではあるが魔術師には”番長姿”としての高天原いずものイメージが強い。であれば……と、ここは着替えてから判明するので省略。

「……そうだな、それが得策だ。図書館ってのはガリ勉共が居座ってて割と護りがかてぇからな!!着替えもそこらのトイレででも利用すりゃいいや。」
「……ははっ、途中でアイスでも買うか?」

と残暑に文句を垂れる鹿島を隣に、笑顔を浮かべて言葉を紡ぐいずもであった。

「────んじゃ……行くとするかねっ」

こうして二人の”能力者”は学園都市の図書館へと歩み始めたのであった──。

//図書館までの道中を省略するかはそちらで判断お願いします!


142 : 獅々子虎子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/16(水) 01:32:49 4VuesQ/c
────がいた

白いノースリーブのドレスを曲線の無い肢体。齢……まだ子供程
鴉尾羽の様な艶やかな髪……長い髪を紐で束ね揺らす。
陽に焼けて居ない肌……傷一つない、目、丸く深い黒…細い鼻立ち

「いや全く、….…くふ、ふふ」

その瞳は天に浮かぶ三日月より冷ややかだ
その姿は天に沈む満月のように汚れなき白色だ

「脆いなぁ、柔らかい、実に容易い」

─────嗤う少女がそこに居た。

楽しげに、嬉しげに、快く、恋する乙女の様に
歌う、唄う、詠いあげる。己の気持ちを、己の思いを!
小鳥の様な鳴き声でカラカラカラカラ甘い声で撒き散らす

「セイギの前にアクなぞ砂の城よ。吹いては流れて崩れて溶けよう」

学園都市の隅っこの打ち捨てられた廃ビルで、積み上げられた肉舞台
不良も風紀も関係なしに彼女が積んだ特設ステージ

悪も正義も関係ない、彼女の道こそ正義だから!皆んな皆んな彼女の敵だ

「そう私こそ法、俺こそ王道、あたしこそ善!あぁ!あぁ!実に……実に」

瞬間。恍惚、絶頂、快楽に溺れた様に悶える、自身の言葉に感極まって震えて堪らない
ラクロスラケットを強く抱き締めて、足をきつく閉じさする、涙に緩みそうな瞳を閉じて
頬を赤くしてこみ上げた熱を荒い息で吐き出した、彼女が踏みつける肉の土台の頬が生緩い雫を感じ取り蠢いた。

「実に……よい、私こそ正義のみか……た。ふふ、ふふふ」

それをズシリと踏みつけて、その衝撃で少女はぺたりと座り混む、下の熱に小さく鳴けば、もじりと身体を震わせた
たえきれない己の快楽、沸き立つそれにくふりと悶える、荒い息はなお荒く、甘い香りを惑わせる

────少女がいたのだ。狂った少女がそこにいたのだ

/イベントの様なのでこちらで絡み待ちを


143 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/20(日) 18:16:03 GfwoQEeg
>>142

────バゴン!!
虎子が座する廃ビル。その廃ビルの壁面の一部分が凄まじい轟音と共に虎子の目の前で瓦解したのはそれから間もなくのことであった。
立ち込める砂煙───そしてその中から、日光に照らされ、黒の服を纏い、額に灼熱の意志を巻きつけた少女が一人。

「────ったく。何時もの様に馬鹿共が騒いでねぇから来てみりゃぁ……」

そしてその人物は後頭部を掻きつつ、然しそれでいて眼前の”正義”を睨み付ける。
──事の経緯はこうだ。いつもの様に学園都市を徘徊していた高天原いずもは、普段から不良で賑わう廃ビルの異変に気付く。逃げ出してきた不良が一人いたもので、それから話を聞いて駆けつけた……というシンプルなものである。

「……………こんなにして……何のつもりだ?
理由が無い殺戮ってなら、もれなくオレの逆鱗に触れる事になるんだけどよォ……?」

──だが、彼女にだって戦闘経験はある。未知なる魔術との対峙した経験だって存在する。
だから確信する──眼前の”正義”は決して侮れるものではない、と。
油断はしない。戦闘がいつ開始されても良い様に、彼女は唯一の決戦兵器たるその拳を堅く握り締めていた。

「─────────答えてもらおうか。」

冷静に放ちつつも、視線を真っ直ぐに放たれたその言葉は明らかな怒りを孕んでいて。
──自らの道を貫く”正義”と他人の道を護る”正義”。同じ正義でありながら絶対に相見える事のない二つの正義が今、───激突する。


144 : 獅々子虎子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/21(月) 18:15:47 kAiXRnnA
>>143
爆発音……”内向き”に壁は爆ぜて。微睡む様に目を伏せてた少女はすぅと瞼を開ける

光が薄暗い廃ビルの闇を食らう様に満ちていた。

「────」

粉塵渦巻き廃ビルに射し込む月明かり、パラパラと砕けた欠片が地面に落ちる。
揺蕩う薄膜の奥にある影は然りと重いその一歩、踏み出し幕を抜けるその姿は、嗚呼

「───嗚呼、そうだな」

美しい、張り詰めた弓の様に刺す様な緊張感と一の為に他を削ぎ落とした機能美の調和
見れば解る。見れば知れた。灼熱の篭る底無しの瞳と額に巻かれた赤銅色の意味合いを

故に獅子は敬意を示す。

「この意味とはなんぞや、と問うか」

視線に答え彼女は揺らりと立ち上がる。悪を積み上げた人の山、頂上の虎が身を揺らす。
同時に喚き鳴るのは組み込まれた部品達が一斉に染まる協奏曲であった。悲鳴と共に彼女は謳う。

「答えてやろう────
意味はある。この場にも、この俺にも意味はある」

「全ては”正義”の為に、だ」

「私はその一言の為に存在し、この場は僕がその一言を実行したからだ」

滑らかに紡ぐその詩に寸分の迷い無く、獅子の瞳は相手の瞳の熱と同様の色に染まり
連れ添う様だが実は逆、それならば互いが互いに悪である。正義は悪へ片手を伸ばす。
共感を求める、否、赦してやるとの傲慢さで、穢れ無い細い指先に歪んだ想いを込め

悪は正義に最後の問いを投げかける。

「悪は排除する。腐った蜜柑は磨り潰す。お前も正義なら理解出来るであろう」

「故に一度だけ無礼を赦す」

「愚か者の山を踏み越え、俺の手を取り、その場に膝を付きて許しを請え」

「さすれば、万全の正義を持って抱き締めてやろう」

その唇に、微笑みという歪みを湛えながら。

/気がつくのが遅れました。絡みありがとうございます!これからよろしくお願いします!


145 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/21(月) 18:59:34 2uXylNTs
>>144
「………………はっ……何を言いだすかと思えば……!…………くっだらねぇ!」

目の前の”正義”が微笑を浮かべて彼女に問い掛けると、もう一人の”正義”は其れを嘲った。
歪みきった三日月型の口を前に、高天原いずもという”正義”の端くれは再認識する。──こいつは倒さなければならない相手である、と。

「──ここにいる奴がどんな奴かは知らねぇがよ……!
少なくともオレの認識の中でこんなのはどう考えたって正義なんかじゃあねぇ。」

「そしてオレも”正義”なんて立派なもんじゃねぇ……────ただの、”番長”だ!」


堅い意思と勇気を持って、その少女は正義を偽る”悪”に向けて言葉を発していく。

「……おい、オレからも一つ言っといてやる。」

「──お前が”正義”とかいう馬鹿げたもんに巻き込んだそいつらの前に、膝を付いて許しを請え。」

この”正義”への固執性…異常性…もしかしたら目の前に居るあの”悪”は、魔術師なのかも知れない。
高天原いずもという少女はいつ魔術師に襲われてもおかしくない身であるが故、普段の彼女ならばそんな心配をこの相手に対して抱いていたはずだ。
──然し、今現在に至る彼女はそんな意識など吹っ飛んでいた。それを表現する言葉を選ぶとすれば、間違いなく単純な”憤怒”だろう。
能力者だろうが魔術師だろうが関係ない。
────間違いなくこいつは……

「……そうだな…………──まずは。」

「…………その”玉座”から引き摺り下ろしてやろうか……クソ野郎。」

───────”間違っている”。
しっかりと確固たる意思をその拳に内包し、高天原いずもは目の前の”悪”を睨み付ける。
─────激突は……直ぐそこに迫っている。


146 : 獅々子虎子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/21(月) 23:47:34 5wudCTuo
>>145

「……番長、といったか」

獅子は僅かにも落胆とした様子も無く、差し伸べていた手を揺るりと下ろした。
濡れた唇から溢れる吐息には熱が、落胆の様子が無いのであれば、吐息が染まるのは

欠片程の僅かな興奮か

「”よかろう”。正義を理解せぬ塵(ゴミ)の分際であったのは少々残念ではあるが…」

「塵が、塵め、その啖呵は心地が良い。心地が良い程の憎たらしい」

理解が出来ないと虎は額を抑えて頭を振った。闇に輝く少女の瞳は相手を捉えて
緋く三日月に裂けた唇は只々言葉を紡ぎ、相手とは逆の静かな音は重く空気を揺らし。

獅子が右足を前へ踏み出した。爪先は誰かの喉元を差し込まれ枝が折れる音がした。

「故に”俺から降りてやる”」

次は兇刃を振りかざす如く左足を、ずぶりと濡れた音が鳴れば柘榴が弾け白足を穢す。

「感謝するが良い……玉座とやらを踏み締めて降りてやる」

「積み上げた塵は何個だったか…さて十人は軽く超えていたがまぁ…関係は無い」

悪が玉座を降りる毎に悲鳴が空気を劈き、より大きく去れど静かになっていく。
誰かは爪先が抉り、誰かは踵が踏み砕く、誰かはラケットが破壊し、純白の獅子は緋に侵される
それでも歩みを止めず少女は降りる。恋と呼ぶ病に犯された女が男の元へ参るが如く

獅子を子供が無邪気に微笑む様な満面な笑みを浮かべていた。

「待っていろ、番長……今お前の元へお前が望む様に”降ってやる”」


147 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/22(火) 07:35:05 1uDDJIE.
>>146
「─────テ……メェ…………ッ!!」

狂った”正義”を前に塵と称され、無惨な玉座と化したソレは”正義”が歩みを進める度に悲痛の声をあげるのであった。
生々しく人の肉体が崩壊する音──。明らかに故意的に創作される嘲笑の旋律が彼女へと近づいていく。

「……………………………………。」

──不安定な階段。奴が其れを降りる度に呻き声がして……そしてその下の者は直ぐに迫る苦痛を予感して涙で髪を濡らす。
獅子の歩みが齎す苦痛は、最早血さえも生み。……そして皮肉にもその鮮血は、獅子の純白の身体に芸術となって刻まれ、独特の美しさを醸し出していた。
───だが。高天原いずもという”正義の端くれ”は其れを目にしていた。………素晴らしい程に単純な性質を持つ彼女には其れさえあればいい。
─────この血に濡れて狂い切った光景は、”彼女の逆鱗に触れるのに充分過ぎるほどだった”のだから。───そして、その”激突”はそれから間も無くの事だった。

「……──言ったろうが。オレはお前を”引き摺り降ろす”……ってよ。」

耳を覆いたくなる程の轟音が廃れた空間に反響すると、高天原いずもは凄まじい勢いで虎子の眼前へと迫っていた。──空を舞って。
爆発を付与した踏み込みで圧倒的初速度を得る……言うなれば「爆発駆動」。
眼前へと迫るいずもは虎子の腕へと手を伸ばしていた。もし掴まれる様であれば、それからは彼女の剛腕を以ってして玉座とは正反対の方向……つまり先程までいずもが立っていた場所に放り投げられるだろう。

(…………まずはこいつを”玉座”から遠ざけねぇと……。───オレがこいつらの前に立つ必要がある。)

──虎子の創り上げた”玉座”。恐らくこの空間においてそれは高天原いずもという”正義の端くれ”への切り札ともなり得る存在だ。
全員を救うという無理難題な幻想を抱く彼女は、この玉座と化した人達を更に傷つけるなんて事はもう許す事はできない。──故に、彼らが意識を取り戻し逃げない限りは彼女は大きなハンデを背負う。
……状況は圧倒的に不利。この状況において”他人を護る正義”の”自らの正義を貫く悪”への勝算は──ゼロ。


148 : 獅子・トラ子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/22(火) 17:27:40 PWGhZiac
>>147
悪(獅子)に対して正義が唸る。紅蓮の怒りを燃料へ少女の踵が床を砕く。ビルを揺らすは炸裂音
他を護る、甘い……甘いニトログリセリンの様な正義心。だがその心が爆発すれば少女は一つの弾丸となる。

  迫る                            
                   迫る
                                        ──迫る

額の朱を先を揺らめかせ黒衣の正義が悪へと挑む。大気を断ち切り風より速く。まさしく疾風迅雷の一言か
悪はその速度への驚きへ驚愕の色を瞳に映した。その時既に正義は悪の三歩手前に存在し、故に……獅子は

その場を動けず、ただ──逆に塩を送るが如く、その左手を緩慢に相手に向けて差し伸べた。

「───俺は」

その白く細い少女の腕を掴む手、二人の間は零に等しく熱と熱、互いの視線が貫きあい、獅子の唇が淫らに歪む。

瞬間、少女は”世界を操作する”。

「待っていろと言ったはずだが……」

高天原いずもは自ら透明な檻の中に飛び込む事となるだろう。彼女の動きを阻害する重力と呼ばれる不可視の枷
あらゆる物を地上へと叩き落す公平な力を操作する【重力制御】──獅子と獅子に触れた物を対象にしたその能力は
今条件を満たす事で正義の味方へ作用するだろう。──重さは精々全身に30kg程度の負荷では、あるが……だが

空を飛び抜ける最中の燕が、その負荷を受けたらどうなるか

「話を聞いていたか?                        塵が」


149 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/22(火) 19:41:27 1uDDJIE.
>>148
───間違いなく、手は奴に届いていた筈だ。
爆発という事象が引き起こした超速度に、目の前の”悪”は反撃する事すら敵わない。この馬鹿力を以ってすればどんな脅威だって制圧できる。
実際、この高天原いずもという少女は自身が振るう圧倒的な火力に過大な自信を持っていた。……でもそれ程に、彼女の能力「爆破剛掌」は強力なものだったろう。
────────なのに、何故。

(…………オレが下……に…………ッ?!)

──半身に冷たく、そして不快な感触が走った。
顔を其方へと向ければ赤黒い液体。
……眼前に積み重なった”玉座”が垂れ流すその液体は、彼女の頬…髪…服……と地面に触れた部位全てを不気味な血の色に染め上げたのだった。
正直、”その瞬間”は全く理解出来なかった。あの”悪”に接触した瞬間、恐ろしい程の不可抗力が落雷の様に空中の彼女の身体に打ち付ける。……──そして。今現在彼女は無様にもその”悪”の前に突っ伏していた。

(…………!………………そうか……これは……。)

自らの惨状を嘲笑うかの様に三日月を浮かばせるその”悪”を目に映し、全てを悟った。
──相手の”異能”が”魔術”でないと仮定するならば。
自信の身体を束縛する不可避な力は「幻覚系能力」か……あるいは…………、

「………じゅう………りょく………!!」

30kg程度であれば、まだなんとか身体の動作に自由は保障されている。
両腕に力を込め、ゆっくりと身体を起こしつつ、目の前の脅威を睨みつける。
─────然し、やはりその動作は遅い。そもそもの高天原いずもの弱点として、身体自体は「女性」のものであるというのが挙げられる。勿論、並の女性とは比べ物にならない程に鍛え上げられてはいるが、限界というものが存在するのも事実。
そして、何よりも彼女を苦しめるのは全身に重りがのしかかるという未経験の呪縛──。慣れないその感覚に、苦しめられていた。
そんな”正義”に、”悪”の次の手は───!!


150 : 獅々子虎子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/24(木) 07:21:45 p3iXuAy6
>>149

────正義は堕ちる。捉えるは無重の檻

「感謝しろ。これ本来は塵程度が背負えぬ正義の重さ」

ぬちゃり、忌音が悲鳴に掻き消え。悪は堕ち、呆気無く血生臭い汚泥の中に沈んだ。
その飛沫に白い頬を汚した正義の味方は、眉も潜めず更には片膝を付き、悪へ手を伸ばした。

「社会を守護する為、良き人々を救う為背負う使命の重さ」

人差し指から始まり手の甲へ、腕を通り肩を登る。赤い汚泥に穢れた少女を撫でる。
その行為に慈愛など無く、また愚か者への悲哀も無く、子供が玩具を弄ぶ様に、獅子は悪の足掻きを悦んでいた。

「……まぁ塵には耐えれぬ」

ぐちゃりと、”泥に綺麗な手を沈ませ”緩慢に起き上がる少女の顎に獅子は手を添え。
僅か指で顎を持ち上げ視線を合わせる。恥肉滴るその顔を見つめる正義は嗤った。

貴様にはその姿がお似合いだと嘲り、それ以上は無意味だと言葉も使わず押し付ける
守る者の恥肉に沈んだ正義の味方へ、純粋悪は何もせず。相手の精神を折る優雅さを耽美な笑顔に載せるのみ

「塵は塵へ……その姿こそ塵には相応しい───故に」

「このまま沈むが良い。塵の玉座とやらに───最後に止めを刺さぬのは」

「これもまた正義の味方の慈悲ゆえに」


《泥に落ちた者よ。赤に染まった者よ。悪の言葉に耳を傾けず、その怒りを燃え上がらせるのであれば
大地の束縛を強引に引き摺り、悪が添えた手を払う通い。花の茎を折るよりも容易に弾かれ、お前の束縛は溶けるであろう》

/体調を崩してしまって…遅れて申し訳ございません!


151 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/24(木) 19:29:35 DFzgRKQQ
>>150
「……………………………………。」

────打開策を明示した天からの御告げは、神を嘲る異能たる”能力”を有する彼女には届く事は無い。…そもそもそんな”御告げすら、今考えればそこに存在したかもわからぬ陽炎の様なものだったろう。
眼前に迫る”正義”を前に抗う”悪”の姿は実に惨めで。他人の血に濡れた瞼を見開き、愚か者のの双眸は確りと敵の姿を映している。
無様にも不可抗力の監獄に幽閉された”悪”。

───然し。その”悪”に存在する一つだけの違和感をあげるとすれば。
彼女の”瞳”は目の前の”正義”に対して、溢れんばかりの”怒り”に満ちていること、だろうか───。




「─────なあ、正義のヒーロー。」

───まずは第一関門。自らの顎に触れていた獅子の腕を、自らの腕で薙ぎ払う。

「……確かに、お前は強くて、正義、なんかもしれん。……オレはただの、塵、かも知れない。」

「───でも、お前は、知らないよな?」

────第二関門。地球が抑制する自らの身体を、無理矢理にでも起動させる。
ゆっくりと、途切れ途切れではあるが自らの考えを確りと”正義”に伝える。”正義”の冒頭と嘲られるかも知れないが、これは間違いなく必要な”過程”だ。

「…………行き場も見失った塵屑の雑魚野郎はなぁ!!自分を殺すことも厭わねェ──!!」

───威勢良く声を張り上げて。彼女は自らの両拳を力一杯突き合わせた。
彼女の能力名は「爆破剛掌」。名の通り、突き合わされたその拳の間からは”爆発”が生じる──!
……然し、この一撃程度で倒せるとは思ってはいない。……だから出力は小さめで、取り敢えず距離をとることを主目的としたものだ。
怒りを露わにした”悪”の捨て身の反撃。避けない限りは直撃であるが……果たして。


152 : 獅々子虎子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/24(木) 21:26:20 XwQqMEBU
>>151
正義が意思を世界に吠える。汚泥に塗れた両手は強欲な束縛を強引に引き摺り進む
傲慢に撫でた悪の手は気迫と共に振り払われれば、その刹那の時に悪は見る。

映画を見る第三者の様に

その手は力強く身体を押し上げた。
その足は負けまいと身体に加速をつけ
その身体は認めまい正義の味方に反逆する。

「…………」

互いが混じり合った一瞬の後、室内に生き物が焦げた吐き気がする異臭が広がった。
獅子の先程で滑らかに紡ぐ獅子は言葉を産むのを止めていた。唯、全身に感じるのは生暖かい

体温と、硬い骨の感触────突き抜けた衝撃の名残香、か
獅子は自らが積み上げた玉座に埋まる。白絹は裂け、肌蹴た胸は傷が刻まれた血が滴る

小さいながら爆音と共に正義に比べ小柄な身体が吹き飛ぶのは数メートル程で
突き出した少女の紅い両手に残るのは岩の如き重さと、その異常な硬さであった。

「────か……ふっ」

先程との悪とは真逆、埋もれた正義の目は虚ろ。光を失ったその瞳は鮮やかに写した。
牢獄を破り立ち上がる。正しい怒りを胸に抱いた”正義”の瞳が宿す黄金の輝きを
悪は朧に手を伸ばさんとする。されど僅かに足掻くように身を揺らすのみ

「…………ゴホッ」


ぐらり、と玉座がたわんだ


153 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/25(金) 19:09:44 eMTBRJUs
>>152
───それは、”悪”が明確な意志を宿した”正義”へと昇華した瞬間であった。
彼女が両拳での自爆めいた攻撃を披露する前に自身の能力を行使したのは二回。
最初は登場時に壁面を崩壊させた時、そして二回目は獅々子に迫る時にブーストとして使用した時……この二回である。
どちらに於いても獅々子からしては「爆発」という事象が引き起こされてるとは推測し辛いものだったろう。───運に救われた、か。

「…………ってて………………やっぱ慣れねぇ…けど………いや………!」

一見、彼女の能力行使は完璧かのように思えた。相手の油断の合間を縫って炸裂させた爆発。
そして彼女はその手に傷を負いつつも、爆発の爆風で後退して体制を立て直すという離れ業までやってのけた。…………が、しかし。「”完璧”と表すべきではない」と自らの身体が訴えかける。
───それは両手に微かに残る、違和感だった。

(……野郎…………、この奇襲にも”反応しやがった”。)

──そう、確かに目の前の”悪”は爆発の直前に高天原いずもへと抗っていたのである。
圧倒的な火力を前に掻き消えはしたものの、其処に彼女が感じ取ったのは狂気とも言えるほどの”正義”への執念だった。──当然、炸裂があった後もその「”悪”を倒した」という手応えは全くない。

「………………でも……こっからか。」

───”重力”からの脱獄。強引にも高火力の爆発でそれをやってのけはしたが、それもこれも相手の”慢心”が無ければ出来なかった。
今の一撃で敵が自分を「侮れない」と認識したのであれば、恐らく奴はすべての”油断”を消し去り、容赦なくその重力の束縛を振るうのだろう。当然先程のような「特攻」も、油断を捨てた相手には通じない。……おまけに、使い続ければこの身体は確実に崩壊を迎える。
……で、あれば。彼女は未だに相手への正攻法は見つけられていないのだった。
触れれば即座に閉じ込められる厄介な不可抗力。
少女は、焼けで蒸気を発する両拳を握り締め、その脅威の持ち主の様子を伺う。

//遅れて申し訳ありません!


154 : 獅々子虎子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/26(土) 21:17:37 uu1lK6Tg
>>153
追撃の機会を少女は敢えて見送り、改めて警戒の意思を見せる様に僅かに爛れる拳を握りしめる。
その選択は正しいのか…はまだ知れず。ただ獅子は僅か後に、その唇から深い息を吐く。

「────塵が、塵め」

獅子の気配が

歪んだ玉座から正義が強引に身を引き剥がせば、衝撃を受けたそれは、均等を損ない崩れ始めた。
背後でも飛び散らばる血と悲鳴と人、去れど損失する己の偉業に獅子は一欠片も意識を向けず

変わる

ただ渇いた目が相手を見ていた。質量を伴うと錯覚させる視線は、獅子の全てが悪に
否、正義に注がれている事を述べる。笑みは既に解かれれば浮かぶ色はただ無色

花の優雅さを捨て

その表情は無表情であった。獅子は一度己の身体を確認する様に首をごきりと鳴らした。
視線は一瞬でも途切れない。ただ写しながら必要最低の動作で悪はラケットを構える

刃の如き鋭さへ

「今何をした……今何を述べた────何故正義である虎子が、攻撃を受けた」

右足を一歩程の感覚で前に出し、猫足立ちをする様に踵をあげ爪先を軽く床に置く
半身を切る身体、大体の重心は左足に乗せる共もに膝を外側に曲げ、身体を支える
ホッケーラケットは槍の様に、ただ上段とも下段とも付かずに構えられていた。
後方の左手は獲物の尻を肩の高さまで持ち上げるが、右手はただ腹に添えるだけ
くの字に曲がった先端は床に軽く触れる。刺突に加え跳ね上げを意識した構えであった。

「なぜ────正義に刃向かった」

/気がつくのが遅れてしまいました….すいません!


155 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/26(土) 22:05:43 BMvUKHgY
高天原いずもが”追撃”を加える事をしなかったのは理由が存在する。
一つ目はその能力を行使した所でダメージこそ与える事が出来ても、その後に行動を束縛される可能性があるということ。
もう一つは双眸に映る”悪”が無害な人間───『玉座』を背にしているというところにある。彼女の能力はタイマン向けではあるものの、その爆発範囲に一般人が入ってしまえば”高天原いずもという意識の総体”は能力の行使を強制的に停止させるのだろう。……そう、巻き込む可能性があれば”爆破剛掌”は振るえない……!

────玉座に埋もれ、一時的にその塵にのまれた脅威が再起動する。
「油断」という概念で覆い隠していたすべての『狂気』が、到来する───。




「……………………ッ…!」

───何か行動は起こすべきだったか。狂った執着を見せる”悪”に対して、高天原いずもは冷や汗を首筋に垂らしつつ苦笑いするのだった。

稲妻の様に鋭い威圧は彼女の身体を焦がし、それに呼応する様に彼女の身体は小刻みに揺れていた。
────「怖くない。」といえば嘘になる。殺意とも取れる相手の威圧に、僅かではあるが確実に”気圧された”。……然し、今の彼女にできるのは


156 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/26(土) 22:06:23 BMvUKHgY
>>155
//途中送信ごめんなさい!
無視しちゃってください!


157 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/27(日) 06:34:33 TRDXywoI
>>154
高天原いずもが”追撃”を加える事をしなかったのは理由が存在する。
一つ目はその能力を行使した所でダメージこそ与える事が出来ても、その後に行動を束縛される可能性があるということ。
もう一つは双眸に映る”悪”が無害な人間───『玉座』を背にしているというところにある。彼女の能力はタイマン向けではあるものの、その爆発範囲に一般人が入ってしまえば”高天原いずもという意識の総体”は能力の行使を強制的に停止させるのだろう。……そう、巻き込む可能性があれば”爆破剛掌”は振るえない……!

────玉座に埋もれ、一時的にその塵にのまれた脅威が再起動する。
「油断」という概念で覆い隠していたすべての『狂気』が、到来する()───。




「……………………ッ…!」

───何か行動は起こすべきだったか。狂った執着を見せる”悪”に対して、高天原いずもは冷や汗を首筋に垂らしつつ苦笑いするのだった。

稲妻の様に鋭い威圧は彼女の身体を焦がし、それに呼応する様に彼女の身体は小刻みに揺れていた。
────「怖くない。」といえば嘘になる。殺意とも取れる相手の威圧に、僅かではあるが確実に”気圧された”。……然し、今の彼女にできるのはその恐怖に負けじと拳を握る事だけ。



「”正義”に刃向かったのが何故……?」

だがそんな彼女も、目の前の”悪”の質問に対しては僅かに口元を緩めた。確かに「畏怖」という情けない感情はあるが、目の前の敵に感情論でぶち当たるなどであれば容易い。

「────決まってんだろ?お前にとってオレはスーパー大悪人だったってことだ。」

「──んでもって、オレはそこに倒れてる奴らから見た”正義”でもある。
”番長”という枠組みがある以上、本当は”正義”みたいな傲慢な言葉は使いたくねぇんだけどよ。────お前が心酔する”正義”をぶち壊すには違う”正義”でかち合うしかねぇからな!」

と不敵に笑いつつ、虎子とは真逆の正義を有した少女はそう言い放った。
恐らく、こんなことは向こう側からすれば”悪がこちらに挑発してきている”だとか”愚か者に嘲られた”…とかいう感じなのだろう。
────これは”過程”。
……もしかしたら。もしかしたら、奴に別の”正義”を気づかせてやれるかも知れない。


───だが。


(…………………なんだ?あの構え。)

高天原いずもは戦闘能力は高いものの、其れに対する戦闘の知識がいまいち欠如している。
今までの戦闘で勝利出来ているのは、「わかりやすい構え」だとか「殴り合い」だとか”シンプルな動き”の戦闘が多かったから……というのも要因の一つに挙げられる。───で、あれば。
今現在の彼女にとって、未知の構えを使用する獅々子虎子は脅威以外の何者でもない。
そして今の彼女にできるのは、なるべくどんな動きが来ても対応できる様に、拳を前に構えていること……しかないのであった。


158 : 獅子・トラ子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/27(日) 19:22:12 q7sSwXfU
>>157

「────……」

朗々と述べられるもう一つの正義を獅子は言葉を挟む事も無くその身に受けた。
表情は変わらず人形の如き無表情、硝子玉の瞳は淡々と自体の流れを観測すれば、

たった一つの言葉も正義は返す事は無かった。──ただ

「        」

じゃりと、悪の左足が地面を擦り小石をすり潰す様な音が響いた。
全身の筋肉に緩慢だがしかりと力が込められ始める、獲物が握り直され先端が僅かに振るえた。

僅かに全身が下に沈む、相手が殺意と評した気配が相手の一点へ集中される。

                    」

バシリ、と床が踏み砕かる。これが合図となり

「         違                         う   」

その瞬間、獅子の身体は”射出される”

舞い散った塵が床に落ちると同時に一歩が踏み降ろされる。人の身「爆発駆動」には劣るが
獲物の距離に入る五歩の距離を、床を踏み砕き矢の如く突き進む。そして短く息を吐き繰り出すは

相手の顎を狙った。振り上げ。地面から登るくの字の先端が空気を裂く重い音を聞けば
この一撃は人の骨程度は安易に砕く、凶悪な一撃である事を想像するのは容易い

また

獅子は行動で意思を示した。言葉にもせぬが、それは相手への絶対的な否定の意。
踏込が、一撃が、その熾烈さでそんな物は存在せぬと言葉よりも解りやすく語りかけた。

──獅子は己の正義に狂っていた。己以外の正義の味方なぞ存在しない、
故にそんな物はあってならなぬ、破壊する消去する、俺が正義だ、全員悪だ


159 : メイ・フリーフライド ◆3XNDKmtsbA :2015/09/27(日) 20:31:12 L.9z3Bk2
>>158
それは学園都市の末端も末端で起きていた。
最早改築の計画すら立たぬ、言わば"裏"の廃ビル群。
専ら不良の溜まり場として利用されていたその地は、今や見るも無残な蹂躙の跡と化し。
そして、圧倒的なるふたつの正義の衝突の場となっていた。

今まさに、ひとつの正義がもうひとつの正義へ。
その存在そのものを否定した一撃を、浴びせ掛けようとしていた。

━━━━━━瞬間。
陽の光が照らし出す、廃ビルの外。倒れ伏す正義を挟んだ、ぽっかりと空いた大穴。
立ち、攻撃しようとした正義には、その眼前に三つの光が見えることだろう。
それは息つく間もなく目の前に近付き━━━━━その顔に突き立てんと走り抜ける、矢であると気づくだろう。

凄まじい速さで駆け抜けるそれは、流星のようにさえ思える。三本すべてが実に正確無比に、行動を起こそうとする正義の、その頭に向けて突き進んでいた。
地を踏み砕き突き進む正義に向けて今、新たなる叛逆の矛先が突き立てられようとしていた。

その白羽が当たろうが当たるまいが、歪んだ正義はそれを放った不逞者を見ようとするのだろう。
もう一方の正義もまた、頭上を駆け抜けた矢の主を垣間見ようとするだろうか。

人が立っていた。陽の光を逆光として、崩れた壁に佇む影が。
手に持ったゴツゴツとした弓は、一目で先程の閃光を放ったそれであると理解できる。姿形から見て、女性であるとも判断できるだろう。
やがて彼女は、建物内へと歩みを進める。風に靡く長髪は、暗いビル内に入った途端その動きを止め。
やがて、その全貌が露わになった。

「……こんにちは、番長さん。変な"臭い"がしたから、おかしいと思った」

その透き通るような声色は、倒れている方の"正義"には、聞き覚えのあるものであろう。
長い緑髪。学園指定制服に包まれた良好なスタイル。改造されたアーチェリーの弓矢が、手中に鈍く光っていた。

「……まさか、こんな事になってるなんてね。……ええ、おかしいと思った。だって普通、するはずないもの」

彼女は歩みを止め、正義たちの十歩ほど手前で立ち止まる。
そのグリーンの瞳ははっきりと分かるほどに、目の前の白き"正義"を睨んでいた。

「……こんなに濃い血の臭いなんて」

彼女は目にも留まらぬ速さで、弓に矢を番え、キリキリと引き絞る。少しも無駄のない挙動。非常に闘い慣れしたものだと見て取れる。
彼女が目の前の血だらけの人の山を見ても動じないのはそのためか。……だが、その眼には確かに、それをしたであろう白衣の少女へ向けられていた。
友人の危機に出くわした彼女には、正義といった明確な思考はなく。ただ義憤によって、その弓矢を向ける。
そして冷静な、氷のような声で、そのまま言い放った。

「あなた、私の後輩に何をしてるのかしら」


160 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/27(日) 20:42:39 TRDXywoI
>>158
(────────速い!)

眼前に迫り来る脅威を認識した時、その時点で既に遅し。───何かの構えであると警戒はしていたが、相手が繰り出した動きの速度は高天原いずもの想像を超越していた。
慌てて自らの足を後ろへと下げるが───間に合うか。


「…………ッ…ぐ…あああ…!!!」

答えは、何方とも取れない微妙な判定結果である。”悪”の第一目標たる顎に直撃はしなかった。
予想外の速さであるといえど、彼女も「爆発駆動」という技を得意とする能力者。一撃で戦闘不能……という事態は何としても避けねばならなかった。
───然し、そのくの字の先端は体制を崩した高天原いずもの右腕の骨を粉砕する。メキメキィ──ッ!と痛々しく鈍い音が響き、少女は悲痛の声を漏らした。

(────マズい!……右の感覚が……ねぇ……)

体制を崩しつつも、その後は両脚で大きく足踏みをする事で爆発を起こして一時後退した。その様は”見事”とはいえず、とりあえず爆発で自身の体を吹き飛ばして背後の壁で無理やり減速するという無茶苦茶なものだった。
──砂煙の中、壁の残骸の上に立つ彼女は自身の右腕の感覚が消失しているのに気がつく。
ズキズキと痛む右腕を見れば、それは力無くだらりと下がっていた。脳から信号を送っても全く反応は無い。

「───くっそッ!!…」

(………………如何すればいい!?……重力無しでコレって……バケモンか……よ…ッ…!)

その場凌ぎに彼女はとりあえずその辺に落ちていた壁の破片を蹴り飛ばして”悪”に向けて飛ばした。子供騙しの様な一撃、恐らく簡単に弾き飛ばされてしまうだろう。
彼女が抱いた感想通り、目の前の”悪”は凄まじい強さを有している。「重力操作」という、彼女の「爆破剛掌」を完封できる力を有した”能力”と、喧嘩慣れしている高天原いずもと同等かそれ以上の戦闘能力を使える”使い手自身”。

(……オレが触れれば”油断”が無い奴は完全にオレを殺してくる。
かといって逃げ続けても、右腕が壊れちまった以上、ぜってぇどっかでボロが出る……!)

ゲームの様に「にげる」なんて選択肢は存在しない。どこを見ても右に向いた黒三角のカーソルが示すのは「たたかう」ただ一つ。
────どうせ負けるのなら。オレは。
高天原いずもの全身はここで意思を統合させた。


「自分に出せる全てを………………。」

──次の激突が勝負の時だ、と彼女は目の前の”悪”を見据えた。
恐らく力の大部分を消費しつつあり、利き腕である右が使えない今、二つの力を激突させたところでこちらに勝ち目は無い。その後は朦朧とした意識の中、痛めつけられるのだろう。
……なのに。それでも彼女はその選択肢を迷う事なく選択するのであった。
────全ては自らの『番長』を一貫する為に。




◆◇◆◇◆◇◆◇

>>SOMEONE

─────同時刻。学園都市第10学区。
不良共の住処とされ、都市全体の風紀を司る”風紀委員”でさえも手を出しかねる学園都市の闇とも形容できる学区。
現代技術を結集した「学園都市」であるはずなのにその学区の姿はただ荒れ果てた殺風景な廃屋だとか廃ビル街が連なるのみ。

……だがどこか今日はおかしい。一定間隔で凄まじい爆発音が鳴り響いており、いつもいるはずの不良の姿が見えない。
……どうやら爆発音の音源は能力者であるらしく、音の響き方から察するに”廃ビル”の一つから響いてくる轟音の様だ。


────さあ、”気づけ”。これはたった一つの”正義”を守護する為だけの「戦争」だ。


161 : 獅子・トラ子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/27(日) 23:38:28 q7sSwXfU
>>159>>160
突きだした獲物の先端が、何かを容易く砕く感触を獅子に伝え、更に踏み込まんとするが
その足は直前で止まる。たたらを踏んだ相手の回避行動。一連の流れから予測されるは──爆発

スぅ、と獅子の目は細まれば顔を護る様に腕を交差させ地面を蹴り飛ばす。
背後への跳躍であった。同時、爆風が彼女の髪を揺らし飛び散った破片が頬を鋭く斬り裂いた。

「─────」 血が血に混じりてなお紅く、真っ赤な血化粧は正義の人形を艶やかに、踊る踊る木偶は踊る。

漂う砂塵の幕は分厚いがそんな事は知らぬと獅子は機械的に構え脚に力を込めた、されど
瞬きすらせぬ集中は、粉塵の幕より飛来した瓦礫の存在を逃さない。再び追撃と踏み込まんとした
その動き一瞬の間、止めれば、振るわれたラケットは円の軌道を描き、破片を打ち崩し──瞬間、

ラケットは円舞の如く振るわれた。打ち払われるのは弐本の殺意──渇いた音と共に転がったのは矢じりであった。

「────また」

”この場に弓を使う者はいなかった”成らば”誰がこれを飛ばした?”砂塵が渦巻くこの場に置いて”自ら正確に狙って”

円舞を逃れた一陣が肩に刻んだ傷を撫でながら獅子は殺意の方向をその瞳に収めた。朧な霧の奥底で佇む影
影の底でこちらを窺がう鋭利な視線、緑の髪は赤に染まる部隊では妙に目立つ、その手に弓を構える乱入者が一人
大気に粉塵が溶け込めば、その姿は女性であると知れた。その正体は正義が正すべき悪だと理解した。

「悪が一つ、塵(ゴミ)が一つ」 機械は認識し判断する。それならば問題は無い。ゴミ処理が増えるのみ

”呼び掛けには応じない” ”問いかけも無視する” そして”既に動き出す準備は整っている”ならば”問題は無い”
乱入者が弓を番えると同時に既に獅子は舞台に躍り出ていた。砕けた壁を更に踏み砕き、暴風の如く突き進む。
その視線の先は腕を砕いた少女が一人、苦痛を浮かべるその姿へ、先ほどと同じ動作(攻撃)を、手負いの塵を先に掃除せん。


……紅い地獄で獣が奔る。その姿に一切の躊躇も無く一切の慈悲も無く、ただ殺す為に獲物を構える。
正義(悪)は止まらない。その姿は一種の舞台装置の様か、さて嵐の如き悪を前に正義の二人はどう動くか?


162 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/09/28(月) 17:52:09 s3z8BaJs
>>159>>161
「────ぶち込む……!!」

相手の行動から「追撃」の意が感じ取れた瞬間、彼女は左手に全ての意識を集中させる。
彼女が発動する”爆発”は調整可能。時間をかければその分一箇所にその威力を集中することができる。……この激突で、決める。

「…………行く……ぞッ─────!!」

獅子がその強靭なる足で硬いコンクリートの床を踏み締めた瞬間、彼女も一歩前へ出る。
利き手の右手は使えず、右半身は鈍い痛みが蝕み、疲労からか意識は少し薄れている。──まさに捨て身の一撃。
然し、この一撃では奴は倒れない。それは彼女自身自覚していることだった。理由は上記の通り、「捨て身の一撃」でありながら、様々な要因が重なることで通常の技並みの威力へと下がっていること。
────でも、「番長」なのだからそれでいい。





────────────!!!


己の全てを賭けた高天原いずも最高火力が、今振るわれんとする───その一歩手前。
明らかに「阻害」の意思を有した矢が、目の前の脅威めがけて放たれるのを、彼女は目に映した。
自身の頭上から放たれたソレ、高天原いずもはその”使い手”を知るべく、振り返ってみる。
───そこにあったのは見知った顔だった。

「………………メイ先輩……?……」

数日前に出会ったその女性、メイ・フリーフライドである。……然し、高天原いずもは意外すぎる登場であるにもかかわらずニヤリと笑って言葉を続けた。

「…………っはは!オレより数億倍もカッコイイじゃねぇか畜生!」

───目の前の脅威から目を離しはしない。
先程と同じ「速さ」のを繰り出す予備動作、恐らく一瞬でも油断しようものなら次は確実に命ごと掻き消される。…………でも。

「────同じ手が通じる程”番長”ってのはボケじゃねぇんだ……よォッ!!」

突っ込んでくるのをギリギリまで引きつけ、寸前の所で足踏み─────「爆発」。
爆風で自らの身体を吹き飛ばし、右へと全力へ飛んでその一撃を回避した。
勿論、右腕の使えない不安定感からか、吹き飛ばした後は体制を崩すことにはなったが、すぐに立て直す。───そして。



「───────先輩!!
コイツの能力は多分!……重力操作ってヤツだと思う!!おまけに華奢な癖に割とタフだ!

……簡潔に言うと!遠距離から見てオレはどうするべきッ!?」

思考力が乏しい彼女は、遠距離攻撃を今現在担っている”先輩”の意見を仰ぐべく、声を大きく張り上げたのだった。


163 : メイ・フリーフライド ◆3XNDKmtsbA :2015/09/28(月) 19:18:39 eZmzbrIg
>>161>>162
颯爽と━━━━━少なくとも彼女からすれば颯爽とした登場であったはずなのだが、戦闘は御構い無しに進んで行く。
罵倒語を吐きつつ問答無用で手負いへと襲いかかる少女に、それをすんでのところで回避する知人。
彼女はその様子に、呆れたように口を開いた。

「……まるで子供じゃない。悪だのゴミだの言われても、生意気な悪口にしか聞こえないわ」

そんな事を口にするが、その口調と体幹はまるで平坦で、油断などは見えない。いずもの腕が既に一本折られているあたり、敵としてはっきり認識しているのだ。
そして彼女は、弓を引き絞った手を、少なくとも彼女が観察した以上、最高のタイミングで放す。
改造されたアーチェリーの弓、その剛弦と強化ゴムは射出する矢の威力を飛躍的に高める。現在使用しているのは"本番用"。すなわち、戦闘にさえ転用できる代物だ。

そしてその人体にさえ突き刺さる弓矢が放たれたのは、少女の突進、及びその攻撃行動が終了した瞬間である。
その一瞬の隙を狙い済ましたかのように、胸部へと正確無比なる射撃を行う。
……先ほど矢を叩き落とした化物に、その隙を突く動作が効果的か否かは些か疑問ではあったが。

直後に三本の矢を背中の筒から取り出し、瞬間的な動作で一気に番える。先ほどの奇襲の射撃は、この構えに依るものだ。
勿論、本来の弓の使い方ではない。これは彼女が、頻繁に巻き起こる戦いの場の中で身につけた特殊技術のひとつ。
そして彼女の能力と相乗させることで、それらは規格外なまでの精度で射出される。弓を引き絞ったまま、相手の出方を冷ややかな瞳で伺っている。
相手がこちらを倒すことだけを考えているのなら。……こちらも余計な会話や交渉、意見交換など必要ない。何故ならすべからく、そのような相手と対話が成立する"はずがない"のだから━━━━━━

彼女はいずもと目を合わせぬ会話を行う。

「……重力操作?だとしたら、あまり高レベルでは無さそうね」
「だって強ければ私の矢なんて、手も触れずに落とせるはずでしょう」

この距離から対象へ射出した矢の着弾時間は、少なくとも1秒未満だろう。後方支援とは言え、さして遠い訳でもない。
だが今自分が重力で攻撃されないという事は、敵の能力範囲の狭さをも示しているという事。
しかし今現在いずもが手負いであるという事は、他にも転用方法があるのだろう。先ほどの蹴りからしても、重さを強化したのだとしたら厄介だ。

「……うまく連携するしかないわね。二正面ならボロも出るでしょう?私の攻撃に合わせてね」
「どこの誰だか知らないけど……嫌いなのよ、あなたみたいなの」

彼女はそのまま、三連発を少女の右腕、胸、左胸にかけて。横倒しの弾幕状に射出した。
その後息つく間もなく、次の矢を弓に番えようとする。
少女が反撃しようとしたなら、すかさずいずもに攻撃行動を促すだろう。


164 : リー・ウェン ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/29(火) 22:14:05 381FF65E
>>162>>163
鋭く重い大蛇の如き一撃は予定調和の如く空気を切った、そう、機械の如き予定調和。

ラケットの先端が相手を追っている。飛び退いた際の爆風により生じた破片にその身を薄く裂かれながらも
獅子は相手は逃さんと更に一撃を、止めと鳴る凶撃を繰り出さんとした。相手と同じ”一度は見た”

ならば返そう”正義の味方に同じ行動は通用しない”地獄の歯車がくるくる回り悪の味方を追い詰める。
風圧に髪を揺らしながら更に刃の嵐の中で踏み込めば、未だ宙へ浮かぶ相手へ繰り出すのは横薙ぎの一撃

「─────」

切り刻まれた全身から血を流しながら無表情であった獅子はここでようやく歪んだ笑みを取り戻した。
相手を追う様に半身を切った身体、視線は既に相手を捕え、唇は音も無く勝利の言葉を紡ぎだした。そう、勝利

──”勝った”のである。空中の時点でこの攻撃は避けれまい。地面を砕く一撃は相手を容易く倒すだろう
天に聳える舞台装置が導き出した予定調和。正確無比な絶望機械の如く、その結末は決まって──否、この瞬間

ひゅん、と小石(希望)が歯車に投げ込まれた。

「───ッ!」

相手の脇腹を砕かんとした一撃は止まり、獅子は己の肩を見た。突き刺さるのは先程払った矢じりであった。
じわりと染み出した赤が、ぽたりと地面に粒と成り落ちる。獅子はぎりぃと犬歯を露わし、自身の苛立ちを表現した。
破れた衣から垣間見える”異常発達した筋肉”により浅い所で矢は止めれるが、既に”相手は態勢を立て直していた”

「正義に────逆らうな………沈め」

続けざまに放たれた三連は”既に避けられ”影を射殺す。矢が装填されるその瞬間には獅子は”矢じりも抜かず動き出し”
見開いた目は自らの獲物を逃さない。動きを止めた体を其の儘突き動かせば、一心不乱に追い迫り、行う正義の一撃は

先程放ち損ねた、右斜め下より繰り上がる様に放たれる、相手の脇腹を砕かんとする逆袈裟の一撃であった。

少女が右に逃げる癖が有るならば、右方向へ追い詰める。相手が意表を突き左へ逃げても回転を加え追い詰める
決して逃さぬ火炎の如き熱く、氷の如く冷静な一撃。されど不屈の意志で逃げ切れば、其処にがら明きの正面という隙が生れる。

「沈め──消えろ。俺の、私の、正義の名の元にッ!!」

──玉座は既に崩れ、切り札は唯の塵札と成り果てた。正義を背中を護る一撃は正確無比な鷹の一撃
悪に折れぬ黄金の意思は、閉ざされた可能性扉をこじ開け、悪が勝つはずだった未来は今ここに不確実なカオスとなった。
人を殺す正義が吠える、人を生かす正義が吠える。真逆の正義がどちらが勝つか、それは天の父のみが知っていた。

/遅れてしまい申し訳ございません…


165 : 獅子・トラ子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/09/29(火) 22:14:39 381FF65E
あ、ミス、こっちですこっち


166 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/10/01(木) 17:30:24 XBbvzWXE
>>163-164

「……………………。」

高天原いずもは、相手が再び追撃を仕上げるまでの僅かな間隙に自らの右腕へと視線を落としていた。
突如として衝突した反動で感覚が無くなっていたが、先程までの回避などの時間経過を経て徐々にその右腕が感覚を取り戻していくのに気がついた。
それから彼女は目の前の”少女”を目に映す。今にも此方へ迫らんとする純白な獅子を前にして、彼女は僅かに動かせる右手を左手で支えつつ持ち上げながらこう言った。

「………くっそ……オレ気に入られてんのかよ……!」

メイへと視線を映せば、次の矢を構える戦士の姿が其処にある。あの矢を最低、脚にでも命中させる事が出来れば獅子の進撃は抑制できるのではないか──?
───ここで高天原いずもはある判断を下す。

(………………右が微妙な以上、ここでぶつかってもオレが折れるのは確実…………)

(……油断も隙もねぇ………)


であるのならば───「オレが隙をこじ開ける」。
彼女は眼前に迫る獅子をそのままにして、獅子の後方に見えるメイへと声を張り上げるのであった。
番長の顔にあるのは、獅子からすれば実に不愉快であろう”弱者”の不敵な笑み。

────────
─────
──





「──────せぇぇんぱいッッ!!!
真ん中どストレート……頼むぜッ!!……」


声が響いた後、凶器が高天原いずもの脇腹へとメキメキ……と嫌な音を立てながらめり込んでいた。
声を上げる事すら敵わない激痛、やっとの思いで吐き出したのは赤黒い血の塊。
彼女が選んだ道は「右」でも「左」でも「正面」でもなく……自分を犠牲にして「託す」という道。少女の身体はその後、宙を舞って強く後方の壁へと打ち付けられた。


「………………、…………、…………、」

───意識があるのかすら認識できない。壁に打ち付けられた彼女が感じるのは脇腹に走る激痛と自らの身体を滴る自身の血のみ。

恐らく彼女がこの状態に至った時点で、彼女が「託した」攻撃が成功か否かは決している事であろう。
───”正義”を司る少女の犠牲がどう転ぶか。
それは全て、その”正義”を託されたメイ・フリーフライドの弓矢に委ねられた。


167 : メイ・フリーフライド ◆3XNDKmtsbA :2015/10/01(木) 18:18:31 1a4bjfx.
>>164>>166
「……随分、余裕があるのね」

自らの矢を意にも介さぬ様子でいずもばかりを狙う敵に対して、彼女は少しばかり舌を打つ。
元より彼女はメインの戦闘役ではない。そう考えれば、いずもを先に潰したいと考えるのは必然であるが。

「……!」

そして後追いの凶撃が、味方であるいずもの脇腹を、深く襲うのが見えた。
激しく軋む骨の音。それが聞こえた瞬間、彼女は何かに叩き起こされるかのような感覚を覚えた。
この感情は何であろうか?……ああ、らしくないではないか。
眼前で巻き起こる光景は今、彼女の"怒り"という感情を燃え盛らせるには、十分過ぎるものであった。

「……大きな借金ね」

犠牲となる直前。いずもの声は、はっきりと彼女に聞こえていた。
限界以上まで矢を引き絞る。能力を使うまでもない。"一発"で仕留めてやろう。
今、憎き対象の眼前には、鏃を向けて激しく睨む人影が、凛然と立っているだろう。
狙いは正面、敵の胸部。かける一切の容赦などない。何一つの加減もない。
あるのはただ、共に戦った戦士への義憤と、そして殺す事さえ厭わぬ、煮えたぎる勢い。
類稀なる覚悟でもって、彼女はその指を離した。

「返してもらうわ」

先ほどと同様に、矢が凄まじい速度で射出される。攻撃を終えた直後、胸部を露わとした敵のまっただなかへ。
怒りと憎しみ、決意と覚悟。すべての"正義"たらしめる心情は今、この一矢に込めて放たれた。


168 : 獅子・トラ子 ◆CmqzxPj4w6 :2015/10/03(土) 22:38:03 mWqlxyJo
>>166>>167
正義の味方は手に力を込め腕には更なる勢いを、獲物に乗せるのは絶対正義と名を持つ妄執と執念
ごう、と大気を斬り裂く轟音を振り抜かんと、残り僅かな領域を突き進み──僅か、数センチの所でそれを見る

「───」  自らが塵と下した相手の笑顔である。

死の直前に自信を諦め、未来を他へ託した死者の笑み。たった一人の塵が浮かべた弱弱しい弱者の笑みだ
刹那の間に混じり合った正義と悪、悪が浮かべる笑顔に対して正義は目を見開き僅かに振るえた、そう
獅子は”その笑顔に怯えたのであった”いや正確には”その笑顔が消える事に怯えたのであった”悪のただ一つの笑顔に

気が付いたら力を緩めていた、気が付いたら速度を落としてた。されど一撃必殺の一撃が一撃致命へ落ちた程度
笑顔を浮かべた悪は一撃を避ける事も無く受け止め、人形の様に吹き飛べば壁にぶつかり、壊れたのか動かなくなる。
少女が吐き出した血の塊を顔に受け、視界を赤く染めた獅子は、身の震えに耐えながら、唇で”なぜだ”と紡いだ。

なぜ、悪が

なぜ、塵が

なぜ、”俺が守るべき者達の笑みを浮かべた?”

正義の味方が己へ問う様に言葉を吐き出す。されど獅子に考える猶予など存在しない、瞬時に一陣の死が飛来する
獲物で弾く素振りすら見せず獅子は一陣の衝撃で後ろへよろめいた。その胸には矢が突き刺さり真の臓を貫いていた。

ごぼり、と数秒後獅子は血を吐き出した。

だが躰は倒れない。次第に力が抜け背中は曲がり肩は落ちる。怯える様に震え一歩二歩と足踏みするが
気迫を保ち未だ堕ちず。光を喪いつつある瞳は射った者、否、自身が殴り飛ばした正義の味方に注がれていた。

動かない、やはり動かない、弱者の笑みを浮かべた少女は動かない、またその周囲には”同じような無数の肉塊があった”

「……そうか」                                  ────そして獅子は嗚呼と嗤った。

ふらつきながら一歩を踏み出した、そして二歩目を踏み出した。何かを納得したように、そうか、そうか、と呟きながら
塵に止めを、ではなく。向かう先は崩れた血の玉座。肢体を死体へ変えながら、既に崩れたそれの中央に君臨する。

「───塵め、塵よ」

「力が足らん。熱が足らん。想いに時間の厚みが足らん」

「故に俺を直ぐに殺せんのだ」

数々の死体が転がる中心で、ふと、思い出した様に獅子は自らの身体を”殺した”相手へ微笑みながら言葉を紡ぐ
全身に残った力を巡らせ胸を張り、瞳に最後の光を灯す。自らを世界に刻み込む様に獅子は音色に張りを付ける。
歌う様であった、叫ぶ様でもあった。妄執と激情で残った火を強引に輝かせる歌姫のフィナーレの言葉を歌い上げた。

「だから────」                        

                       「悪に笑顔で死なれてしまうのだ」


169 : リー・ウェン ◆CmqzxPj4w6 :2015/10/03(土) 22:39:36 mWqlxyJo

そして燃え尽きたように悪は倒れた。

メイ・フリーフライドに肉体を
高天原いずもに精神を

破壊された獅子・トラ子は自ら積み上げた悪の華の中心で自ら下した塵達の一部となった。

眠る様に、そして納得した笑みを浮かべながら……               【獅子・トラ子】死亡


/以上です。風邪が酷く寝込んでしまい返信が遅れてしまい申し訳ありませんでした
長期間絡んでくださった高天原いずも様、乱入してくださったメイ・フリーフライド様、絡みありがとうございました。


170 : 高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/10/03(土) 23:14:14 mV0WHyII
>>168>>167
「─────く…………そ………」

彼女の死は”必然”だったのかも知れない。自己の欲求に蝕まれた”正義”…………否、”悪”は完全なる純真な”正義”に制裁されるべき存在だ。
血に淀む視界に”悪”の最期を見た。歪む意識の先に”悪”の笑みを見た。
──たった一人の”少女”の、死を見た。

だから彼女は薄れゆく意識の中、”番長”を成し遂げた満足感と対を成して急増する”罪悪感”に襲われた。
護る者を奢りながら、こんな解決の仕方でしか”少女”の正義の方向性を変えることが出来なかったのか?
護る者を名乗りながら、何故”殺す”道を選択した?
────しょうがなかったじゃあ済まされない。オレは番長を成したと同時に番長失格であった……と思い耽る彼女の体が右に揺れた。

「…………オ…………れ……は……っ……」

バタン!と音がして、血に濡れた彼女の身体が硬いコンクリートの床に接した。溢れる涙と、口からの血で思うように言葉が出ない。
──地球の”重力”が、普段よりも何倍も重く感じた。あの”重力の檻”にぶち込まれた時よりも、ずっとずーっと重く……深く……暗く。
ここで少女はある空論に辿り着いた。

────ヤツはこんなにも重い正義に閉じこめられていたのか。

ここで高天原いずもの意識は切れた。
目覚めた時は果たして───何処にいるのやら。


//お疲れ様でした!リアル事情もあって私も返すの遅れたりとご迷惑おかけしました!
かなりブラック面なロールでしたが楽しかったですしトラ子さんには考えさせられました!パートナー組んでくださったメイさんもありがとうございました!


171 : メイ・フリーフライド ◆3XNDKmtsbA :2015/10/04(日) 00:02:48 21KHI.Ps
>>168>>170
「……」

怒気を纏いて一矢を報う。"少女"を殺めたメイ・フリーフライドは、その散りざまをただ、物言わず静観するだけだった。
彼女は、ただの傍観者だった。少しだけ、その立場が正義に近かっただけの傍観者だった。
いずもと"少女"の間で交わされた肉体言語には、どれほどまでに深く、そして重い事実が潜んでいたのだろうか。
だが、彼女にそれは理解できない。

何故なら彼女は、そんな重く窮屈なものを背負うには、未だその器に達していなかったのだ━━━━━


彼女は何か、区切りを付けるかのように眼を閉じ……そして開く。
透き通るようなグリーンの瞳。並々と生気が灯る其処には、しかし何か、どうしようもなく寂しい"虚無"があった。
我々は勝利した。だが何であろうか、この歯切れの悪さは。
我々は生き残った。だが何故だろうか、こうも胸が締め付けられるのは。
ああ、何処までもらしくない。何故自分は、敵に情を感じているのか。

それが"少女"もまた、異なる正義の檻に囚われていたゆえである事━━━━━━未だ幼き緑髪の少女がそれを理解するにはあまりにも大きく、そして度し難いものであった。

だからこそ彼女は今"傍観者"として。しかし彼女らの生き様を胸に刻みつけた"体験者"として。
この場に存在し続ける事しかできなかった。

「……!番長さん……!」

やがて彼女は、何か眠りから目覚めたかのように、もうひとりの少女を思い出す。
その場に駆け寄って見れば……"善"たる正義の意志は、既に途切れていた。
その姿を見て、メイ・フリーフライドがまず感じた心情は、心配や焦りではなかった。

……何故、こんなにも悲しそうな顔をしているのだろう。
外には未だ、まばゆき陽光が降り注ぎ続ける。彼女は後にも先にも感じる事のない虚空の中、傷を負ったいずもと共に、廃墟を後にする。
彼女が感じていたのは、これ以上ない"寂しさ"であった。

/お疲れ様でした!乱入という事もあってあまり活躍出来ませんでしたが、非常に楽しいロールでした。
/お二方、長らくありがとうございました!


172 : いずも ◆BDEJby.ma2 :2015/10/05(月) 20:12:35 W.9xxbGA
◆◇◆◇◆◇



「………………………よお、クソ野郎。」

───学園都市第10学区、廃ビルの一角にて。
黒の学ランを羽織った赤鉢巻の少女の声が虚空に木霊した。右腕はギプスで固定され無様にも首から吊り上げられており、自由が利く左手には花束を携えている。
───特に誰に話し掛けた訳でもないし、話し掛けるべきその誰かはもう既に”此処”には居ない。
少女は真っ直ぐに歩みを進め、僅かに血痕らしき物が残っている地点で足を止めた。

その少女、高天原いずもは其処でキョロキョロと廃ビル内を見渡した。

「…………………汚ぇよなぁ、あんな事があったってのに見事に証拠隠滅されてやがる。」

あの日、獅子虎子という修羅が齎したのはこの第10学区で行われた惨劇であるといえど”学園都市”側からすれば軽視できる物ではない。
何十人もの人間が殺められた……この事が外界に露見されれば責任問題だとかで糾弾されるかも知れない。
──事実その証拠を抹消するためか、数日前の同じ地点とは思えない程に廃ビルは修繕されていた。

数分間そうした後、彼女は床にこびりついた血痕へと視線を落とす。
そしてその血痕の上に左手に携えていた花束を静かに置いた。

「……………………………ごめんな。」


少女がこの殺戮の跡地で”誰か”に向けて言った言葉は冒頭の言葉と、この言葉だけだった──。

────────────
─────────
─────
──

.




短い謝罪の言葉の後、少女は踵を返して帰路についた。────然し、此処で少女は忘れるはずもないある物品を目にする。

「ラクロス…………ラケット…………?」

彼女の脳裏に”あの日”がフラッシュバックする。そう言えばこの武器……あの少女が使ってたもんじゃなかったっけ………?
隅にポツンと放置されていたソレを高天原いずもは拾い上げる。

「…………………ふふ」

先程まで哀しげな表情だけであった彼女の顔が、それを目に映すと、僅かに明るさを取り戻した。
左手でその武器を弄びつつ、帰路につく彼女は、途中でそのラクロスラケットにふとこんな言葉を言うのであった。

───たったひとつの信じる正義をその胸に抱き。






「………これから…………よろしくな!」

───それは。決して交わる事の無い”正義”が同じ”正義”を歩み始めた瞬間だった。
”番長”という凄まじく不安定な要因が付き纏う事にはなるが。


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