■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■
またまた暴れん坊将軍のSSを書きました
-
今回予告
暴れん坊将軍!
宙を舞う南佳也
同じ格好のもうひとり
「……ウッス」
町人にすごむヤクザ
「チッ……馬鹿じゃねえの?」
「「「ザッケンナコラー!」」」
「ゲイバー……?」
怪しげな忍者
「……その鍛え上げられた下半身!」
吉宗 初めてのゲイバー
どうぞお楽しみに
-
また始まってる!
-
暴れん坊将軍1919 第810話「吉宗 初めてのゲイバー」
暴れん坊将軍!
デデドーン デン デン デン デーン
(♪メロディ)
賑やかな江戸の町の中でも一際活気付く場所を聞けばそのひとつとして挙げられるのがここ、町火消しいろは四十八組がひとつ、め組の家だ。
若者らしく新しいもの好きの彼らは、今日もたった今見てきた近頃流行りの芝居の感想で盛り上がっていた。
「かっこよかったわねぇあの佳也さん!」
「ああ、しかもあのチャンバラの動き!狭い舞台で飛んだり跳ねたり、ありゃ芝居なんかより火消しの方がよっぽど向いてるぜ」
特に目を引いたのが一座の看板役者、南佳也である。
「バカだなぁお前、ああいうのは軽業専門のよく似た役者が変わってやってるんだよ。佳也があんなに腕太いわけないって」
「えっ、あれは絶対佳也さんだってぇ!」
「い〜や、南佳也にはまっったく似ていません!ね、新さん」
「えっ?……ああ、うん」
自分に飛び火してくるとは思っていなかった徳田新之助───身分を偽り8代将軍であることを隠している吉宗の返事はどこかうつろだった。
彼が気にかかったのは、佳也よりもその替え玉の方だ。確かに鮮やかな動きで舞台上を駆け回っていたが、問題はその代わり役が見せた最後の派手な跳躍。反転して足ではなく腕の力を使った飛翔──吉宗は、確かにどこかでそれを見たことがあった。
-
「なるほど……それは確かに忍びの技に似ていますな」
弓の鍛錬の間、江戸城の庭先で語った吉宗に、御側御用取次役、田之倉孫兵衛はそう応えた。
「思い出した。あれは雀風藩の忍び、鳴門衆が使っていたとされる技」
「ですが上様、鳴門衆は二十余年も前に召し放ちになっておりますぞ」
雀風藩。紀州に程近いところにある小藩だが、かつて近隣の国に密偵を送ったという疑惑を払うため、専属の忍びである鳴門衆は吉宗が幼少のみぎりには解散していた。あくまで吉宗が見たというのも御庭番、正確にはその前身となった紀州藩薬込役の者たちの真似事としてだ。
「忍びの間でも鳴門衆を雀風藩がまた使っているという話はありません」
「うむ……」
黙して聞いていた御庭番の言葉にも、吉宗は首を傾げる。放った矢が的の中央を射抜いても、吉宗の心に残ったしこりが消えるわけではなかった。
-
「「「ザッケンナコラー!」」」
往来の喧騒の中、異様な怒号が響いた。
声の正体は金貸しに雇われた地回り(ヤクザ者)達だ。彼らは芝居小屋に貸した金を返済させるべく、役者の仕事のみならず自分達が金を回しているいくつもの仕事場で役者達をタダ働きさせているのだ。
「役者を吉原で働かせるのだけは勘弁してください。オナシャス!」
「やだよ、おい……廓について来い」
「嫌です……」
「…………」
思わず一歩踏み出そうとした看板役者の佳也が、肩を掴まれ止められる。
彼を遮って代わりに前に出たのは、どこか佳也に似た雰囲気の大柄な役者だった。
「……おい拓也ァ、お前どうした?」
何も考えずつい出てきてしまったのだろうか。顔馴染みらしいならず者に拓也と呼ばれた役者だったが、ヤクザに胸ぐらを掴まれても、彼は目の前の男を見据えたまま何も言わなかった。
「おい、その辺にしておいてやらぬか」
剣呑な雰囲気を破ったのは、人混みから現れた旗本風の男だ。反射的に凄もうとしたヤクザ者だったが、その侍が発する有無を言わせぬ気迫に気圧されたのか、今度はヤクザの方が黙り込まされてしまった。
「チッ……」
「……ふぅ」
なんとか舌打ちを絞り出し、ヤクザ者が手下を連れて去ると、旗本風の男は小さく笑みをこぼした。
「すみませんお侍様!」
「ありがとナス!」
芝居小屋の者達が口々に礼を言うが、侍──徳田新之助は大したことでもないかのように悠々と去っていった。
-
「……と言うわけなのだが、拓也という男についてなにかわからぬか?」
『二合半』という暖簾が掲げられた飲み屋の中で、吉宗が友であり元直属の部下でもある男、山田朝右衛門に聞く。
吉宗が先ほどの騒ぎで注視したのは、軽業師の男拓也だった。体格からして先だって気に留めていた佳也の替え玉であることは間違いない。そしてなにより、地回りに胸ぐらを掴まれていた時にわずかに晒された鎖襦袢(一部の忍者が着ていたとされる鎖を編み込んだ肌着)が彼が只者ではないことを語っていた。
朝右衛門は、しばしなにかを考えると口を開いた。
「その男、おそらくは下卑場でも雇われている役者、拓也でしょうな」
「ゲイバー……?」
吉宗には聞きなれない響きの言葉だ。
「いわゆる蔭間茶屋のひとつです。外からそれとはわからなくなっており、そこがそういう店だと誰かしらに教わらなくては気付けますまい」
「随分と詳しいな」
当時から江戸には矢場や麦とろ屋に偽装し、春を売る者達が存在した。そしてそういった場合、えてしてその裏にはなんらかの力が関わっているものである。
「しかし、その下卑場は地回りの息がかかった場所。貴方ではなく私が潜り込んだほうが……」
「いや。あの拓也という男、只者ではない。俺はあの男が何者なのか見極めたいのだ」
「……はっ」
吉宗の顔に浮かんでいたのは警戒というより期待だ。そう悟った朝右衛門は信頼をもって頷いた。
「それにしても詳しいな」
-
〜薬○サンバのCM〜
-
「入って、どうぞ」
生暖かい風が吹く夜。裏路地に面した入り口をくぐると、そこは広めの賭場を思わせる空間だった。
薄暗い店の中では十数人の男たちが思い思いにくつろいでいた。客も店の男も黒い前垂れで顔の半分を隠し、己の正体を隠している。
(まずは情報を集めなければ……)
奥の間にいると思わしき拓也について知るため、吉宗はまず周りの人間に話しかけ始めた。
-
続きが気になるぜ
-
「おお、こっちじゃこっちじゃ」
「……ウッス」
拓也の顔にいつもの朗らかさはなかった。相手客は芝居小屋に融資している金貸しだが、実は拓也に対してはそれだけではない。
「…………」
拓也が襖を閉めた途端、それまで好々爺然としていた金貸しの表情が冷徹なものに変わった。
いや、よく見れば彼の肌つやは老人と呼ぶにはやけに血色がいい。壮年の男が老人に変装していたのだ。
「決心はついたか?」
「…………」
男が曲がっていたはずの背を起こし、再び笑みを浮かべる。しかし先ほどまでの柔和な老爺のそれではなく、まるで獲物を目の前にした巨躯の肉食獣のごとき、ギラついた活力が漏れ出していた。
「なに、お前は元々お館様の影武者として育てられた身。使われ方が多少変わったとはいえ、本来の役目を果たせて嬉しいだろう?」
「……ウッス」
お館様、現雀風藩主のことである。
拓也は幼い頃から忍びとして厳しく育てられた。未来のお館様の変わり身、肉の盾として仕込まれたが、現実にはそのようなことは起きなかった──藩主の父、すなわち前雀風藩主の時代に鳴門衆が解散したからだ。
「人生を捧げ、奴隷となって尽くしてきた俺たちを藩は見捨てた。お前がお館様になって俺たちを返り咲かせられたら、一座の借金はチャラだ。我々の中から新たな藩主を指名して自由になればいい」
「…………」
召し放ちの後、拓也は行くあてもなく彷徨った。そんな自分を拾ってくれた芝居一座に──佳也にやっと恩返しができるかもしれない。
「決行は明朝……オイわかったか?」
「……かしこまり」
-
「失礼しナス!」
拓也は、今聞いたお役目を反芻しながら広間になっている空間へと繋がる暖簾をくぐった。
(仕事中だってのにマジオレの労働意欲奪うなよな……)
確かにその恐ろしい策謀に乗れば借金を返す目処は立つ。だからといえ拓也はウリ(下卑場に奉公すること)の仕事に自分から手を抜けるほど要領のいい人間でもなかった。
「すごくステキ……」
「いいわ〜」
「おお」
広間に降りてきた拓也を招いたのは、いつもとはどこか違った空気だった。
「いと夜深く侍りける鳥の声……これはすなわち──」
その中心にいたのは、見覚えのあるお侍だ。
厚みのある体から発せられる艶のある声で随筆を読み解いて聞かせ、周りの男たちはみな彼の不思議な魅力に惹かれている。いつも琵琶を爪弾いているはずの男芸者は手を動かすのを忘れ、普段耳が聞こえないふりをしている男芸者はすっかり聞き入っていた。
「確か……そう、新さん」
やっと記憶が繋がった。この侍は先日助けてくれた徳田新之助だ。
「やあ」
侍は顔を上げ、拓也に朗らかに笑いかけた。
-
少し時間が経ったあと、吉宗と拓也は飲み屋を探して歩いていた。
ガラの悪いものの溜まり場なのだろう。この辺に吉宗の馴染みの店はない。しかしそんな猥雑だが気取らない喧騒もさっきまでの話、こんな時間では人もほぼいなかった。
「薩摩から来たんぜよ」
出身を聞かれた拓也は咄嗟にそう答えた。
嘘である。出身地雀風藩は現代で言うところの和歌山に程近い国だが、忍びとして生きてきた拓也は当たり前に故郷を偽るよう仕込まれているのだ。
「…………」
言葉には出さないが、新さん──吉宗は明らかに嘘に気づいている。そう判断した拓也の脳裏によぎったのは、目の前の男が密偵、しかも公儀隠密の類いではないかという可能性であった。
しがない芝居役者を気にかけ、居場所を調べて会いにくるというのはどう考えてもおかしい。しかも持って生まれた長身に加え、この太平の世の部屋住が服の上からでもわかるほど鍛え上げているものだろうか。
拓也は吉宗と会話しながらも錆びかけていた感覚を震い立たせ、周りを探った。
意識してみればさっきすれ違った女はきっと忍びだな。この走ってくるのも密偵だなとガタイで分析しながらも顔の方は吉宗との会話を続ける。
「…………?」
走ってくる?
拓也がそのおかしさに気づいた時、走ってきた男は口を開いた。
「芝居小屋に忍びの者が数名向かっております!」
「なにっ!?」
-
草木も眠る丑三つ時。先日追い返されたはずの地回りの谷岡は、なぜか役者達が住み込む家の目の前に来ていた。
今夜の彼のいでたちはヤクザ者のそれではない。暗い柿渋色の服は手練れの忍者が着用する装束だ。
目を凝らせば彼の他にも2、3人の忍びが闇に紛れ、息を潜めている。
「ふぅ……」
異様なまでに全く音を立てず、谷岡が忍者刀を抜いた。普段の粗暴な地回りとしての姿は偽り──元雀風藩隠密、鳴門衆の技に衰えはないということか。
『拓也に繋がる者、その全員を消すのじゃ』
脳裏によぎるのは頭領、平野の命令。拓也を藩主にすげ替え、役目を果たした後で名実ともに消すことで全てを闇から闇へ葬るというのが彼ら鳴門衆残党の計画なのだ。
扉を指をかけようとした谷岡が、逆に大きく身を引く。
次の瞬間、直前まで谷岡がいたはずの空間に一陣の黒い風が割り込んだ───拓也だ。
「おいなんなんだ……!」
状況が飲み込めない拓也に対し、谷岡は面倒ごとが増えたと言わんばかりに顔を歪める。
「チッ……馬鹿じゃねえの?口封じするに決まってるだろ」
谷岡に倣って仲間たちも構える。皆、元は共に過ごした同志。しかし役者仲間の、なにより佳也の命がかかった今、拓也は引くわけにはいかなかった。
「…………おう」
谷岡の合図で忍びが散る。車輪のように側転し、正面・右・左・上、相手の視野角の外からの挟撃は軽々と宙を舞う鳴門衆が得意とする技だ。
「オラァ‼︎」
「コ゜ッ!」
咄嗟に右に引いた拓也を捉えきれず、左の忍びは虚しく空を切った。
上空から飛来した忍びは拓也の皮膚をかすって回避された。
右の忍びは潜り込んできた拓也の剛拳を胴体にくらい、もんどりうって倒れた。
正面から斬り込んだ忍び谷岡の剣は───間一髪で割って入った吉宗の刀に受け止められた。
-
「その細い足で、よくこれほど速く駆けるのだな」
「新さん!」
鉄火場においてなお素直に疑問を口にする吉宗に、拓也は拍子抜けしてしまった。
その間にも吉宗と共に来たふたりの忍びが敵の忍びを追い詰めていく。
「中田この野郎……!」
谷岡が拓也に殴られ、悶絶して戦いに加勢できない忍びの首を掴み、持ち上げた。
「こっち来いよ!」
そのまま谷岡が中田と呼ばれた忍びを吉宗に投げ飛ばす。
斬るわけにもいかない吉宗は咄嗟に飛んできた忍びを抱き抱えた。
「…………!」
その瞬間、無防備になった吉宗に向けて谷岡が奥の手を構えた。
短筒(小型の火縄銃のようなもの)である。
しかし、吉宗を狙っていた弾が捕まえたのは彼ではなく、思わず飛び出した拓也だった。
「拓也……!」
御庭番に捕らえられる谷岡をよそに、吉宗は崩れ落ちた拓也へと駆け寄る。
抱き起こされた拓也の胸には、短筒から放たれた吹き矢のようなものが深く突き刺さっていた。
「私の経験からすると、この尖ったものは毒針にございます」
御庭番の見立て通り、針の正体は鳴門衆が使うもっとも強力な暗殺道具だ。カワチブシと呼ばれる植物から抽出したものを始めとする数十種の毒が急速に体内を侵し、確実に命を奪ってしまう。
しかし、それ毒針こそが鳴門衆が諸藩の要人を襲ったと責められ、召し放ちとなった原因でもあった。
「金貸しの、平野の屋敷に雀風のお館様が……」
毒が回っているのだろう。拓也の体にあの痙攣がやってくるにつれ、声から力が失われていく。
「佳也さんを……救って……」
「…………」
吉宗は、毒のせいか異臭を放つのも構わず拓也の口元に耳を寄せた。
「……海へ……」
拓也の最後の呟き、その意味を吉宗が聞くことは叶わなかった。
-
このシリーズすき
-
吉宗は、音もなく立ち上がると天を仰いだ。
後世に残る8代将軍徳川吉宗の政策の中でも質素倹約の令は有名だが、そのあおりを受けた者の中には芸能で糊口を凌ぐ役者達もいた。
もし、もしも芝居小屋に金を借りる必要がなかったのなら、拓也の命は───。
-
金貸し平野の屋敷は、まだ夜明け前でありながら異常な緊張と高揚感に包まれていた。
藩主を藩邸からお連れしたことを誤魔化せるのはほんのわずかな時間だ。すぐにお帰りいただく──偽物と入れ替わって。そして藩主とすり替えた拓也を使って鳴門衆を再興させるのだ。
「お館様、貴方が大人しく我々を召し抱えてくれれば拓也を探す必要もなかったんですよ」
「平野ォ……」
現雀風藩主に睨まれた鳴門衆頭領、平野源五郎はかつての主に刀を向けたまま、飄々とした態度で言い放った。
「鳴門衆は雀風藩なんて小さな国で終わるような器ではない。仕事を終わらせた拓也の口を封じた後、藩を手土産に尾張大納言様に我々の力を売り込むのだ。我らがどこまで昇り詰められるのか、オラワクワクすっぞ!ふふっ、フォォーッフォッフォ……!」
-
その時、平野邸に轟音と共に障子を突き破って巨大な物体が投げ込まれた。
「むぅ……うもぅ……」
「谷岡!」
皆の視線ががんじがらめに縛られたまま投げつけられた谷岡から庭先へと向かう。
そこにいたのは拓也の忍者装束を纏った男だった。
「……その鍛え上げられた下半身、お主拓也ではないな?」
平野の声に男が頭巾を脱ぐ。控えていた鳴門衆たちが取り囲むが、ただひとりを除いて彼らはその男に見覚えがなかった。
「……上様!」
「上様!?」
声を上げたのは雀風藩主、久保帯刀。彼のみが藩の役目として吉宗と面識があるのだ。
慌てて平野ら鳴門衆の忍びが平伏する。いかに汚い手を使って成り上がるとは言っても、将軍を目の前にしては流石に頭を下げる他なかった。
「平野源五郎。その方、召し放ちになった藩を逆恨みし、藩主を殺して雀風藩を乗っ取り、世を乱そうとしたその企み、断じて許すわけにはいかぬ。天下万民になりかわり、成敗致す!」
吉宗は将軍としてあくまで冷酷に告げた。しかし、拓也の頭巾を握る手には知らないうちに力がこもっていた。
「……フォォーッフォッフォフォッフォ!フォォーッフォッフォフォッフォ!」
しばしの間項垂れ、跪いていた平野が立ち上がる。ひとしきり声を上げた後のその目には、明らかに先ほどまでとは違う狂気の光が宿っていた。
「無駄だよ。いかに上様とてここで死ねばただの素浪人。上様にはこの屋敷から出ることなく消えてもらいます」
平野に呼応するように忍びたちが一斉に刀を抜く。御庭番が飛び込み、己とを守るように構えたのを確認すると、吉宗は抜いた刀を返した。
-
デーンデーンデーン!
デデデ デデデ デーンデーンデーン!
(♪BGM. 4-43)
四方八方から迫り来る逆徒の剣の間を縫って吉宗が駆ける。数も力も勝るはずの鳴門衆が攻めあぐねている理由は明白だった。
「お館様、翔べません……!」
困惑した忍びが弱音を吐く。
広い空間を立体的に活かし、多対一で確実に標的の息の根を止めるのが鳴門衆本来の仕留め方。しかし吉宗は柱や壁、天井を盾に使い、常に同時に相手する敵を抑えているのだ。
拓也が最期に見せた戦いが、吉宗に勝機を与えていた。
「ぐう……っ!」
一度は前線を離れたとはいえ、忍び達も素人ではない。だが将軍吉宗の剣はそれ以上だった。本来峰打ちは当てる瞬間に体を固め、殴りつけることで威力を伝えるものだ。しかし吉宗は硬直しない。その人並み外れた膂力が刀を振り抜き、即次の敵を相手取ることを可能としていた。
無力化されつつある鳴門の忍者が一人、また一人と御庭番に斬られていく。企てが崩れ、歯噛みするしかなかった平野の姿を歩み寄ってくる吉宗の目が射すくめた。
「……ボイ!」
平野が反射的に燭台に駆け寄り、蝋燭を投げつける。しかしそんな即席の手裏剣も吉宗が跳ね上げた畳を焦がすことしかできない。
無我夢中で庭先に飛び出した平野を待ち構えていたのは、つい先ほどまで彼が殺そうとしていたはずのかつての主、久保だった。
「──成敗!」
吉宗の命に久保の太刀が煌めく。平野の刀が虚しく空を切るのと同時に、久保の刃が平野の胴を袈裟斬りにした。
-
吉宗と拓也のしっとりとしていてべたつかない男同士の交わりが隆慶一郎っぽい
-
上る朝日が照らす中、吉宗はゆっくりと刀を納めた。
ハバキを鳴らすパチンという音で我に返ったのだろうか、その威光と平野を斬った後味に呆然としていた久保が慌ててひれ伏す。
「帯刀、お前を救ったのは余ではない──拓也だ」
この日の後、雀風藩主は毎年拓也の命日に彼の菩提を弔うようになったという。
時代に翻弄され、それでも恩人への義と愛に生きた男の、人懐っこい顔が目に浮かぶ吉宗であった。
-
「──それでそこにいた者達と語り合ったりしていたのだがな。下卑場……なかなか趣深い場所だったぞ」
「町民も面白いことを考えるものですなぁ。それにしても流石は山田朝右衛門殿、よもや世俗の風雅にも通じているとは……」
江戸城天守、吉宗と話す南町奉行大岡越前は無骨そうな朝右衛門の意外な一面に驚いていた。
「征夷大将軍ともあろうお方がそうやってまた勝手に江戸の町へと繰り出されては……!」
対照的に孫兵衛は吉宗の奔放さに困り果てている。
「いや、それよりも爺や忠相と共に見たい芝居がだな……」
「なりません!なりませんぞ上様!」
「いやしかし……」
「なりませんったらなりません!」
「しかし……」
「なりませんなりませんなりません!」
「いやあの……」
「ダメったらダメ!」
孫兵衛が声をかけている相手が、吉宗から越前に変わっていることに気づくのは、いつになることだろうか。
-完-
-
乙シャス!
面白かったです
-
これはいいSSだな…
-
雀風藩ってジャンプ藩でいいんですかね?
-
やはり時代劇を・・・最高やな!
-
>>25
ジャンプ藩なのでKBTITとNARUTOということになりますね
-
下卑場で草生えた
朝右衛門さんはなんでそんな場所に詳しいんですかね……
-
所々にある語録や淫夢キャラの設定がようしみる
-
「どうぞお楽しみに」があるのウレシイ…ウレシイ…
廓について来いで草生えました
-
>>30
前回読んでいただいた方の感想から今回は予告としっとり系で書いてみました
SSとしては長く短編小説としては短い中途半端な感じになったけどその辺を感じさせない面白い文章をかけるコツをどなたか知りませんかね…
-
>>1
玉も竿もでけぇなお前(褒めて伸ばす)
暴れん坊将軍は見た事無いけど毎回楽しみに読ませて貰ってます
-
ほんへ見たことあると、どのタイミングで回想が入ってるかとかがありありと浮かんできますねぇ
-
暴れん坊将軍に限らないけど語録を使う上で正確に真似しないとその人っぽくなくなっちゃう人とそうでない人がいるんですよね
拓也さんは比較的応用が効く
-
>>28
⚠️山田朝右衛門演じる栗塚旭さんにはまったく関係ありません!⚠️
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■