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TRICKのSSを書いてみました
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TRICK 第364364話 顔のない犯人
-序-
顔のない死体というジャンルの起源は古く、江戸川乱歩曰く、古代ギリシアの歴史家、ヘロドトスが紀元前5世紀ごろに記した「歴史」という本にはすでに記述がある。
このトリックは切断、焼却といった方法で死体を損壊することにより死因や身元の隠蔽を狙ったものだが、捜査手法の発達した今日においてはそれを成立させることはかなり困難なものとなっている。
一方フィクションにおいては扇情性の高さから採用されることも多かったものの、主に被害者を別人と誤認させる、特に犯人と被害者の入れ替わりという内容が極端に多いのが問題視されたこともある。
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-1-
某県の山の中にある寒村に、不釣り合いな洋館があった。
窓からは琴の音が聞こえ、書斎にある机ではひとりの男が目を閉じてそれを聞いていた。
「…………!」
男が胸を押さえ、もがきながらも机の中をまさぐり、粉薬が入った薬包を取り出すとむせながらも口に流し込む。そのあともしばらく白髪頭を掻きながら浅い呼吸を繰り返していたが、やがて大きく息を吐くと、椅子に体重を預け天井を仰いだ。
「もう少し頑張らないとなあ……」
男のつぶやきを聞いたものはいなかった。
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なんか始まってる!
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-2-
私、山田奈緒子は超売れっ子美人マジシャンである。偉大なマジシャンだった父はもうこの世にはいないが、私はその後を継ぎ、人気マジシャンとして日本中を飛び回っている。
(尼プラ)
(阿部間)
(降る)
(ネトフリじゃ見れない)
「文字には不思議な力があります。心を込めれば、願いは必ず叶います……さあ!どんどん書けー!」
そしてこれが我が母、山田里見。長野の実家で、子供達に書道を教えている。母の書く字には不思議な力があるらしく、近頃は政治家の先生方からも依頼を受けているようだ。
私は母とは異なる道を歩んだものの、彼女のように増長するようなことはなく、今もこうして小さな舞台でも手を抜かずに万雷の拍手で……拍手で──。
「クビだクビだクビだ!」
こうして今日も仕事をクビになり、ボロアパートに帰る。小さいながらもマジックに使う小道具があふれたそこは、さながら魔術師の工房か秘密基地のようだ。
「いつまで家賃滞納するの!私たちだってね、人生設計ってものがあんだから!」
「はい、なんとか……」
「今週中に払うもの払わないと、ここ出てってもらうからね!」
「はい、なんとか……」
「オネギ切レタヨー」
「はい、なんとか……」
……という風に、少々資金繰りに困っていた私
の思案をけたたましい電話の呼び鈴が遮った。
『なんだ、いたのか』
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骨太の予感
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いつもの始まりで草
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-3-
「というわけなんだが……」
「説明口調ですね」
とある場所に向かう途中、車の助手席で奈緒子が語った。後ろで話を聞いていた男に見覚えはないが、様子を見る限り上田になんらかの仕事を持ってきた依頼人のようだ。
相当額の研究費を融資されるのだろうか。ハンドルを握る男、上田は奈緒子とは対照的に上機嫌だった。
「いやあ、申し訳ない。本来ならもっと優秀な助手達を連れてくるはずでしたが、どうしてもコレみたいな810番助手しか都合がつかなかったもので……」
「野獣?美女だろ。で、どこに向かってるんだ?」
「……失礼」
奈緒子は後ろから差し出された紙を開いた。役場などに置いてある土地を紹介するたぐいのパンフレットだ。
「……つい、しろ、そん」
「追城村(おいきむら)と読みます。申し遅れました。私はその村にある平野という家に勤めています……」
渡された名刺には「小野」と書いてあった。
追城村の第一印象は、どことなく洒脱な雰囲気を醸し出す小野とは対照的だった。
関東の山奥にあるその村に、客が来ることなど滅多にない。自給自足を謳ってはいるが、入り組んだ地形では外との安定した交易などできるはずもないだろう。
「誰?」
「誰?」
未舗装の道ですれ違う人々は皆、何か獣の耳を模したような頭巾を被っている。
外から来た人間を極端に警戒するのも仕方のないことなのだ。上田はそう自分に言い聞かせた。
「猫かな……」
「外との交流がほぼない村なので、どうしても警戒心が強くて……」
古びた洋館、平野邸の廊下で小野が弁解する。殖産興業の時代にこの土地に流れつき、製紙工場の共同経営で財を成し、村一番の名士へと成り上がった平野の家は、良くも悪くも噂の的になりやすいのだという。
話をしながら通された先で上田(と奈緒子)を待っていたのは一組の男女だった。
「私がこの家の主人、平野源五郎。実は今……神の遣いに命を狙われている」
身なりの良い長身の男が、総白髪とは不釣り合いな若々しい顔に笑みを浮かべる。
その言葉を待っていたかのように、控えていた小野が古びた巻物を広げた。そこに描かれていたのは人を食う獣──猫だ。
「御猫様だ。追城村に伝わる人食いの神……村のやつらめ、私が御猫様に襲われるなどと言いおってけしからん」
「初めは私たちも信じてなどいませんでした。しかしこの数週間──」
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-4-
奈緒子と上田は先程聞いた話を反芻していた。
小野曰く、怪奇現象と戦う専門家である上田を招く決定的な原因となった出来事があったのは3日前のことらしい。
「先程通っていただいた窓の1枚からでした……」
それは、小野がちょうど毎日食材を仕入れに来る村人と応対している時のことだった。
『そしてこちらが当店自慢のぶどうでございます』
『非常に、good smellですね』
『でしたら……うん?』
何かに気づいた村人につられ、小野が彼の視線の先を見た。2階の窓からこちらを覗いていたのは──猫の仮面を被った男。
『誰だー!』
弾けるように屋内に飛び込んだ小野達が男の後を追う。しかし、猫男は一室に駆け込むと内側から鍵をかけてしまった。
『書斎……源五郎様!?』
今の時間、屋敷の主人、平野は書斎にいる可能性が高い。ならば彼は仮面の不審者と部屋に閉じ込められてしまったのだろうか。
その瞬間、屋敷中にガラスが割れる音が響いた。真っ青になった小野は、自分が任されている鍵束を取り出すと震える手で最大限急いで鍵を開けようとする。
『源五郎様!源五郎様ぁ!』
ドアを開き、書斎へと飛び込んだ彼らを迎え入れたのは頭から血を流して倒れた平野の姿だった。小野が駆け寄り様子を伺う。
『なんとか、生きて……気絶しているだけですね』
『……これ』
村人が破られた窓ガラスを覗き込んだ。猫の仮面の不審者は平野を襲い、そのまま窓を突き破って逃げたのだろう。
「──それがこの窓か。たしかに1枚だけ不自然にすりガラスになっている。とりあえずスペアの窓に付け替えたんだな」
「……で、上田さん。それなんなんです?」
「にゃん?」
奈緒子に指を刺された上田がポーズをとる。村人たちがつけていたものと同様の獣耳のついたフードを被ってるのだ。
「ああ、聞き込みをしている時に親切な村の方にもらったのさ。これを被っていれば御猫様は身内と認識して襲ってこないそうだ。さすがに盗聴器とかの心配の必要はない」
「……怖いのか」
「バカを言えYou、俺に怖いものなどない。俺はかつて恐怖に打ち克つ修行として天井から下げた縄に火縄銃をつけて……ヒッ!」
突然、上田が悲鳴をあげる。廊下から漏れ聞こえてきたおどろおどろしい人の声のような音のせいだ。ドアを開けて外をうかがった奈緒子は、ちょうど掃除に来ていた小野と目を合わせた。
「ああ、あれは源五郎様が追城村の姉妹都市、赤道スンガイ共和国メッサム・ラー村から取り寄せた琴、ONA琴をお嬢様が引いていらっしゃるんですよ」
「お嬢様……?」
奈緒子の脳裏に平野の隣にいた寡黙な女が過ぎる。
「ええ、源五郎様の亡くなられた弟の、ですが…………ホッ!?」
小野が奇妙な声をあげて静止した。慌てた奈緒子が視線の先を辿ると──。
「御猫様……?」
廊下の向こうには、話に聞いた通りの仮面の男がいた。
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-5-
「──この部屋です、ここ!……あっ、鍵」
謎の男が逃げ込んだ部屋の扉を開けようと、小野が震える手で鍵束を漁る。
「……上田!」
「ほあたぁ!!」
屋敷中にに響く轟音と共にドアを蹴破った一行。彼らを出迎えたのは、胸にナイフを突き立てられた平野の死体だった。
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-6-
「おお先生、なにしてたのこんなとこで」
「……矢部さん!」
小一時間後、駐在所からやってきたのは巡査だけではなかった。上田らと馴染みの刑事、矢部とその部下の秋葉である。聞けば先の御猫様出現の際に捜査の協力のために派遣されたらしい。
「犯行時刻にこの屋敷にいたっちゅうのが先生と山田と……」
「今日は私と……こちらのお嬢様です」
「…………」
小野に呼ばれた女は口を開こうとしない。
「申し訳ございません。お嬢様は他人と会話するのが余り得意ではなく……」
小野の補助を挟んだ取り調べの間、奈緒子は上田と共に村人に平野についての話を聞こうとしていた。
聞き込み自体は驚くほどスムーズに進んだ。外部の人間を警戒してはいるものの、彼らはかなり好奇心が強いのか、知っていることを話すどころか逆に質問責めにしてくるほどだった。
「ニャー!……ニャーッ!」
「……仕方がないだろう。閉鎖空間で育てば人の視野は狭まるようになるもんなんだ」
威嚇を止めようとしない奈緒子に、上田が諦めたように言った。村人との話では村の特産(ぶどう)や恋愛事情といった無駄なことはいくつもわかったが、肝心の御猫様については誰も彼もが迷信を信じきっているのだ。
「それでも……わかったことはあります」
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御猫様。
近くにあった国からの流刑者達によって作られたという追城村では、獰猛な山猫を恐れる心が御猫様信仰を作り出したという。
『嫁入り……?』
『あ〜、声低くして……』
検死のために運び込まれた平野の遺体が納められた棺桶の側、外部の者に漏らさないという禁を破って診療所の医者はひそひそと話し始めた。窓の外には物珍しさからふたりについてきている猫頭巾の子供たちが覗き込んでいるが、これなら会話の内容までは聞こえないだろう。
御猫様は人を食い殺す恐ろしい神だ。しかしそこには荒ぶる山の獣というだけではなく生贄を代価に豊穣をもたらす山の化身という側面も併せ持っている。ゆえにかつての村人達は適齢の女を花嫁と称して人柱がわりに捧げたと言うのだ。
『お手つき出ちゃった……』
『……お手つき?』
小太りの腹をかきながら医者は言った。その花嫁となる条件こそ──御猫様に親類を食われること。村の風習では今後花嫁候補は御猫様の迎えが来るまで神の婚約者として祀られるのだとか。
「一生を……神の巫女として捧げさせるのか」
上田が苦々しげにつぶやいた。
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記憶を呼び起こした奈緒子が、ゆっくりと目を開く。
「とにかく、そのお嬢様が狙われていることはわかったんです。私たちでしばらくは見張っていないと……」
「だがしばらくとはどれくらいだ?1週間、1ヶ月……もしくは10年先ということもある。いやいっそのこと神々のスケールなら100年や200年後だって……」
「お嬢様がそんな先まで元気なわけないでしょ」
上田の発言を奈緒子が遮る。
「それに、奇妙な出来事が起きているのはこの数週間、しかもはっきりと事件が動いたのは3日前からです。きっと犯人は、御猫様伝説をなぞってはいてもできるだけ時間をかけたくないんですよ──」
その瞬間だった。
「ウアー!」
屋敷中に響いた特徴的な叫びは間違いなく小野のものだ。
「……中庭!」
上田の叫びに奈緒子が窓に飛びつく。足を刃物で刺され、庭先でうずくまる小野を発見したのは、それからまもなくのことだった。
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「ほんのかすり傷です……それよりお嬢様を!」
小野が恐れていた事態と異なり、お嬢様の身に危害が及んではいなかった。しかし、これでお嬢様を守れるのは奈緒子と上田の2人だけだ。
「せめて村の者に手助けを求められれば……」
上田が苦々しげに俯いた。追城村の人間にとって御猫様の花嫁が現れるのは吉兆、ましてや元が流れ者から村を牛耳るようになった平野の家の人間を信仰に逆らってまで助ける気はないのだろう。
「そう村の方を悪く言わないでください」
足を負傷した小野が杖をつきながら言った。
「いつも屋敷を動かしているのは村出身の者たち……平野家だって村の一部なんです。だから村の者を責めても、我々もその中から外れられるわけではない……」
小野の表情は、名状しがたい苦悩に覆われていた。
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「そうは言われてもなぁ……」
「いえそこをなんとか……せめて1週間、いえ3日だけでも」
重苦しい空気の中、無理を承知で刑事たちにお嬢様の警護を頼む小野。しかし御猫様のために派遣されたとはいえ、たったふたりで24時間監視を続けるのは現実的に不可能だろう。
「明日にはもう普通のお手伝いさんが来るのならそっちに任せればええて……」
「猫かな?こんな田舎なのに結構リアル……痛っ!」
上司が会話していた間、手持ち無沙汰に窓の外を眺めていた刑事、秋葉が矢部に殴られた。
「人が話しとる最中やろうが……ホンマやデキがええな」
「今あの白い子右に行ったのに左から出てきましたよ!」
神妙な顔で立ち会っていた上田の横にいた奈緒子も気になって窓を覗き込む。
窓の外、屋敷の門からこちらを見ていたのはやはり先程からついてきている猫頭巾の子供たちだった。黒、三毛、キジトラといった猫を模した頭巾は、風習と深く結びついているだけはあり、大きさを除けば本物から切り取ってきたかのように精巧につくられている。大人ならまだしも子供たちは外の世界から来た人間についていくということ自体が娯楽のひとつであるらしく、実際には話など聴こえるはずもない距離で遊び始めていた。
秋葉が言ったのは白い頭巾の子供のことだった。他の子のように門の周りを跳ね回っているが、門の右側に消えていった子猫が──確かに門の左から出てきた。明らかにこの大きな屋敷を一周する時間などないにも関わらずだ。
「いえ、そうじゃなくて───」
説明しようと口を開きかけた奈緒子から表情が消える。黙り込んだ彼女を小野は心配そうに見つめた。
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その日は底冷えする夜だった。
物言わぬ体で帰宅した平野は館の一室に安置され、お嬢様は叔父との最後の時間を共に過ごしていた。
ふいに部屋を照らしていた蝋燭が揺らぐ。振り向いたお嬢様が仮面の男を認識するより先に、彼女の意識は暗転した。
お嬢様を担ぎ上げた男が音を立てずに裏口を通り抜け、裏門から脱出しようとしたその時───。
「警察だ!」
彼に矢部が持つライトの光が浴びせられた。思わずお嬢様を取り落とした御猫様が身をよじり、逃げ出そうとする。
「足、怪我してるんですよね。無理はしないほうがいいですよ……小野さん」
どこからか降り注いだ奈緒子の声に、男は思わず足を止めた。
確信を持って放った言葉だからだろうか、異様な魔力を孕んだ彼女の声に、御猫様──小野は被っていた仮面を外した。
「いえ、大丈夫。ご心配なく」
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いつも物静かだった洋館だが、棺桶を置かれたその部屋はさらに不気味なまでの静寂に支配されていた。
気絶したままのお嬢様は秋葉刑事と別室にいる。遅かれ早かれ真実を知ることになろうと、一度に多くのショックを受ける必要はないだろう。
駐在署から巡査がやってくるまであと少しだというのに、小野はおよそこれから逮捕される人間とは思えないほど穏やかな態度を崩さずにいた。
「落ち着きやがって……」
悪びれない態度に矢部が苛立ちをこぼしたとき、それまで下を向いていた奈緒子が立ち上がった。
その場にいた全員の視線が彼女に注がれ、一瞬空白の時間が流れる。
「お前のやったことは……全てお見通しだ!!」
奈緒子が指差したのは、棺の中に眠る平野だった。
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「つまり……小野さんと一緒にいた時に見た仮面の男は平野氏だった……?」
迷彩代わりに被っていた猫頭巾を脱ぎながら上田が聞いた。奈緒子は小さく頷いたが、視線を小野から離すことはない。
「はい。私たちはこの事件を御猫様伝説になぞらえた平野さん殺害事件だと思うように仕向けられていた。でも本当はそうじゃなくて、御猫様のせいに見せかけた平野さんの自殺と、真実を隠すための小野さんの隠蔽というふたつの事件だったんですよ」
小野の顔から余裕が失われる。
「何度かの御猫様の変装、これらは平野さんが狙われていることをアピールするのと同時に、小野さんと他の人間に同時に目撃させることで小野さんのアリバイを確認させるためのものでもあったんでしょう。平野さんを襲ったはずの御猫様が消えたのも……」
「そうか、窓ガラスが割れていれば普通犯人はそこから逃走したように思う。万が一室内に残ったと考えても探すのは人ひとりが入れそうな場所……衣装だけを隠せるスペースに意識は向かないのか」
納得したようにつぶやく上田とは違い、矢部は未だに解せぬ顔を続けていた。
「しっかしなぁ、御猫様のせいにして自殺なんかせんでも……」
「……小野さん、お医者様に聞きました」
自殺なんかしなくても。奈緒子より早く、上田がその言葉に反応する。
「平野さんは……重い病であと半年の命だったそうですね。教えていただけませんか?平野さんがわざわざ死を選び、貴方が仮面を被ったそのわけを──」
小野はしばし天を仰ぎ、やがて決心したかのように息を吐くと、重い口を開き話し始めた。
「私の部屋に遺されていた手紙を発見したのは、源五郎様が亡くなられてからでした。その中で源五郎様はことの全てを告白された……」
唐突に奈緒子は平野が殺され──もとい自殺した時のことを思い出した。あの時の小野の焦り方、あれは本心からだったのだろう。
「源五郎様が病気のことを知った時、気にされたのは、命を落としたあとのお嬢様のことだったそうです。平野の家の力が及ぶこの村の中で、婿を取らずにお嬢様が平野の当主として生きていくには、源五郎様に残された時間では、迷信深い村人たちの信じる御猫様の伝説を利用して、お嬢様を偽りの花嫁にするしかなかった……」
「婿を、取らずに?」
上田が引っかかりを口にした。平野は一瞬そちらに目をやったが、すぐに視線を地に落とす。
「結婚なんてできるわけないじゃないですか。お嬢様は───平野源葉様は、本当は男なんですから」
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-14-
「──いさぎよくいたせぇ……」
助手席で寝言をつぶやく奈緒子を座らせて帰ろうとする車中、上田は顛末を思い出して顔をしかめた。
『アハハ……でもこれでいいんです。村の人間さえ真実に気づかなければ言い伝えのままに御猫様はお嬢様を一生守り続けるんですから……』
平野と村の思惑の板挟みになった小野の表情が脳裏に焼き付いて離れない。
「そんなわけないじゃないか……」
「…………」
思わず吐き捨てられた言葉に、眠る奈緒子がうるさそうに眉をひそめた。
「製紙工場ができるまで生きるのがやっとだったこの村で定期的に人が消える……なんとか食い繋いでいる状況でそんな都合のいいことが何度もあるわけがない。若い女を外に売り飛ばすことを御猫様の花嫁にされたと言い張っていたんだ。村人たちは最初からわかっていたんだろう……」
境を越え、村の外に出る。視界の端に映るのは外の世界に帰るマレビトを見送りに来た村人達だ。
「…………」
彼らの好奇心と欲に溢れた目を見た時、上田は奈緒子が村人に常に威嚇していた理由がわかったような気がした。
-完-
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乙シャス!
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たまにNaNじぇいって野生の脚本家現れるよな
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小説版TRICK昔読んだこと思いだしました
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小ネタと救えないオチの原作再現が気持ちよかった(小並感)
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軽く珍妙な話に見せかけて絶妙に後味の悪い終わり方なところがまさしくTRICKですね
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NaNじぇい民は超人気ベストセラーにもなったこの本を持ってるよな?
https://imgur.com/S86gXdT
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>>24
どん超マジで本屋にあって読んだら字がでかすぎ、中身スカスカで草
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どん超はブックオフに売ってたんで買いましたけどなぜベスはまだ買えてませんね
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TRICKのSEと間を活かした演出を再現するのは難しかったと思います、読んでて面白かった
ノベライズ版を参考にされたんでしょうか
次回があることを楽しみにしてます
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>>27
ほんへを見直したり書いてて心が暗くなってきたからやるなら明るいの書いたあとですね…
劇場版1作くらいが1番すきです
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阿部寛好きなNaNじぇい民は多そう
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クソ田舎感が生々しいですね…
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TRICKのノベルもいいけどドラマの元ネタになってる横溝正史作品も見てみるといいですね
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ばんなそかな!
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まだスレ残ってたんですね
1レスがちょっと長くて読みにくそうなんで次はもう少し読みやすい暴れん坊将軍のにしようと思います
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